司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論について~(続)民事信託業務の覚書~―「民事信託」―実務の諸問題(5)

「司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論について~(続)民事信託業務の覚書~―「民事信託」―実務の諸問題(5)」金森健一

弁護士金森健一先生の記事(駿河台法学第34巻第2号)を基に考えてみたいと思います。

https://surugadai.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=2275&item_no=1&page_id=13&block_id=21

また、本稿はいわゆる業際問題について検討することを目的とするものではなく、「民事信託」実務と司法書士法の関係について検討するものであることを念のため申し添える。

  私は2018年に、市民と法112,113号「チェック方式の遺言代用信託契約書」(民事法研究会)で示しました。令和2年(2020年)施行司法書士法改正を経た今も、考えに変わりはありません。

  司法書士が司法書士法3条1項2号及び司法書士会員が服する規律(「最決平成22年7月20日第一小法廷」『最高裁判所判例解説刑事編平成22年度』法曹会P155、最判昭和46年7月14日大法廷)に基づき、権利義務に関する法律文書(行政書士法1条の2について、地方自治制度研究会「詳細行政書士法」2016ぎょうせいP26~、最判平成22年12月20日第一小法廷など。)である民事信託契約書を、個別的具体的な依頼に対する受託の範囲内(昭和29年1月13日民事甲第2554号民事局長回答)において、法律事件に関する法律事務(法律事務の定義につき渋谷陽一郎「不動産登記代理委任と法令遵守各義認義務(8)」2012『市民と法』75P4を採る。)として作成する。

 上記をもって補うことの出来ない契約書の作成業務は、官公庁を間に交えた他士業間のガイドラインの作成、司法書士法、同施行令、施行規則、会則、報酬を含む執務基準、司法書士試験(渋谷陽一郎「民事信託支援業務に未来はあるか(2)」2017『市民と法』106P10~P19、住吉博『新しい日本の法律家』1988テイハンP259~P263)、事務所毎の基準の順に改正又は創設を必要とする。司法書士としての専門的知識を最大限に活かして市民の生活設計の一助となることを目的とし(松山地裁西条支判昭和52年1月18日、札幌地判昭和46年2月23日)、国語・金融教育の一環と位置付ける(新井紀子、尾崎幸謙「デジタライゼーション時代に求められる人材育成」2017国立情報学研究所)。

 金森健一先生は、(一社)民事信託推進センターの理事で、講師なども司法書士に対して行っていましたが、そこで問題提起されても良かったのかなと思います。私は除名されましたが、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、ファイナンシャルプランナーなど多職種が入会している法人だからこそ出来る議論ではないのかなと思います。

https://www.civiltrust.com/gaiyou/yakuinmeibo.html

また司法書士との共著もあるので、執筆段階で議論が出来たのではないかなと思います。

事例Ⅰ―Ⅰについて

「民事信託組成サポート」、「信託契約書作成」、「不動産登記申請代理(信託)」、「信託預金口座の開設」をA1から受任している。「不動産登記申請代理」以外の業務は、(Qの主観は別として)司法書士として受任したといえるか。

金額によると思います。

【事例Ⅱ―Ⅰ】のQは、A2保有のZ社株式が信託財産となることが明らかな「民事信託」に係る契約書の案の作成をA2から受任している。この作成業務は司法書士として行っているといえるか。また、Qは、当該業務が司法書士業務であることが前提となる統一1号様式又は2号様式を用いることが出来るか。

 司法書士法3条に該当する限り(例として、取締役の変更(重任)登記申請の代理・書類作成)、司法書士として行ったといえます。該当しない場合はいえません。原則として司法書士法3条に直接該当しない限り、統一1号号様式を用いることは出来ません。民事信託以外の成年後見業務、相続登記申請の代理・書類作成業務においても、「親族関係、推定相続人、遺留分権利者と遺留分の割合を把握する」目的で統一請求書(戸籍法施行規則11の2条4項)1号様式、2号様式を利用することは出来ません(日本司法書士会連合会司法書士執務調査室執務部会「司法書士のための戸籍謄本・住民票の写し等の交付請求の手引き第3版」平成31年3月P50など。)。

「規則31条=他の法律説」

規則は法律ではなく、省令なので仮に説を付けるなら、法令と呼んだ方が良いと思います。

(2)議論に対する疑問

―中略―司法書士法上のある規定が弁護士法72条ただし書きの「その他の法律」に該当するかどうかの問題は、これが積極と解されれば、問題とされている業務が「法律事務」(同法本文)であっても同法違反にならないという結論を導くための問題である。一方、司法書士がその業務を司法書士の資格に基づいて行うものであるかどうかの問題は、上記弁護士法72条とは独立した問題である。前者の問題、これを、司法書士法上の特定の規定が弁護士法72条が定める非弁行為禁止規定の適用を除外する規定かどうかの問題という意味で「除外規定」の問題というならば、後者の問題は、司法書士業務であることの根拠となる規定があるかどうかが問題なのであり、「根拠規定」の問題であるということができる。―中略―除外規定の存否を検討する前に、根拠規定の存否が確認されるべきであるのに、上記(1)の議論にはこの視点が欠けているのではないか。

 私には分かりませんでした。「除外規定」の問題について、p30「民事信託(設定)支援業務を法3条各号のいずれかに基づく業務として位置づけることで、前述のとおり弁護士法72条違反のおそれは、同条における事件性の要否の問題に左右されることなく、払拭することができる。」と主張している司法書士の記事を読んだことがないからです。司法書士法3条の業務として位置づけますが、イコール弁護士法72条違反のおそれが100パーセント払拭できるということにはならないと思います。個別具体的事件の業務の態様に拠るのだと思います。根拠規定については、司法書士法3条に求めます。

ⅰ信託契約書は登記申請のための道具なのか

―中略―登記の手続の代理という業務の中に、それに先立つ物権変動そのものである契約締結の補助(契約書の作成やその文案の作成)が含まれると解することはやや無理があると言わざるを得ない。民事信託利用者の現実のニーズや、民事信託設定支援業務の手順と比して、かなりのフィクションを設ける必要がある。

 すみません。ここもよく分かりませんでした。第三者のためにする契約(民法537条)による所有権移転登記申請の代理業務において、司法書士は売買契約書を作成することが出来ない。相続登記の代理申請のための遺産分割協議書を、司法書士は作成することが出来ない、ということではないと思います。それに比べて、民事信託利用者の現実のニーズや、民事信託設定支援業務の手順が複雑であり、司法書士法3条業務に位置付けるのは難しい、という意味だと思います。民事信託利用者の現実のニーズが何なのか具体的に記載してあれば、もう少し考えることが出来たかもしれません。民事信託設定支援業務の手順は、記事に記載の手順以外にはないのでしょうか。スキームの構築・提案から始まり、契約書案の起草、契約締結手続の補助の順序で、一つの事件ごとに1からこなすのでしょうか。同じスキームや契約条項を少し変えて使い回したりはしないのでしょうか。契約締結手続の補助は一つの事件ごとに全く異なるものなのでしょうか。ある程度類型化されているのではないかなと思います。

参考

三井住友信託銀行 民事信託サポート

https://www.smtb.jp/personal/entrustment/management/civil/

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この見解は、信託契約書という書面が、登記手続きにおいては登記原因証明情報となり手続書面としての機能を営むことと、信託法上の権利義務を発生させるという実体法上の効果を発生させる機能を営むことを並列的、平面的に捉えているが、そのような捉え方については信託契約書の作成を依頼する、信託の利用者の意向(信託をしたいのであって登記をしたいのではない)とは乖離がある(仮に、乖離しない意向が存在するとしたら、その意向は“とにかく名義を移せればよく、受益者と受託者の権利義務関係などには関心がない”といったおおよそ「民事信託」の利用を控えるべき者が抱きがちな意向である。

 不動産登記法61条の解釈の違いなのかなと思います。登記原因証明情報の目的は、登記記録の附属情報として登記所に一定期間保存され(不動産登記規則17条)、その閲覧・写しの交付(不動産登記法121条)を通じて、国民による権原調査のように供することが可能となっている。さらに、当事者に登記原因を確認する書面・電子的記録の作成を求めることで、原因関係の有効性をめぐる後日の紛争を未然に防止する機能も期待できる、というものです(「条解不動産登記法」2013弘文堂P392)。登記原因証明情報が、名義を変えるためだけにある、と考える場合は結果が異なるのは仕方がないと思います。

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令(平成二十年政令第二十号)(司法書士等の特定業務)

第八条 法別表第二条第二項第四十四号に掲げる者の項の中欄各号列記以外の部分に規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。

―略―

3 法別表第二条第二項第四十四号に掲げる者の項の中欄第二号に規定する会社以外の法人、組合又は信託であって政令で定めるものは、次に掲げるものとする。

一 投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第二条第十二項に規定する投資法人

二 特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人

三 資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)第二条第三項に規定する特定目的会社

四 一般社団法人又は一般財団法人

五 民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百六十七条に規定する組合契約によって成立する組合

六 商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条に規定する匿名組合契約によって成立する匿名組合

七 投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成十年法律第九十号)第二条第二項に規定する投資事業有限責任組合

八 有限責任事業組合契約に関する法律(平成十七年法律第四十号)第二条に規定する有限責任事業組合

九 信託法第二条第十二項に規定する限定責任信託

―略―

六 前項第九号に掲げる信託 次のいずれかの事項

イ 信託行為

ロ 信託の変更、併合又は分割

ハ 受託者の変更

 犯罪による収益の移転防止に関する法律については、私は無自覚でした。犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令、依頼者等の本人確認等に関する規程基準(平成28年1月7日最終改正)の改正は必要だと考えます。

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20220428追加

あの論文の執筆者の弁護士も、むしろ、議論をしてくれ、反論をしてくれという意向で書いているんですよね。司法書士業界ちゃんとしろ、と煽られてる感じです。(はい、僕たちがちゃんとしないといけないんですすいません。)

信託財産と受託者の固有財産を拠出することにより不動産を取得した場合の登記の申請について

登記研究[1]の記事について、考えてみたいと思います。「・・・・・」以降は私見です。

事実関係

1 受託者Aが、4000万円で土地をBから買い取り、代金を支払った。

2 売買代金の内訳は、信託財産から1000万円、Aの固有財産(信託法2条8項)から3000万円。

3 土地の所有権は、受託者Aに持分4分の1、個人A持分4分の3、それぞれ移転した。

4 受託者としてのAと個人A、売主のBは、所有権移転の登記申請を行い、受託者としてのAは、信託の登記申請を行った(信託法34条、不動産登記法98条1項、不動産登記令5条2項)。

登記申請時における登記事項(不動産登記法59条、不動産登記令3条)

登記記録・・・信託の登記の目的は、受託者A持分4分の1は信託財産の処分による信託(不動産登記令3条11号ホ)。登記の原因及び日付 ○○年○○月○○日売買。登記記録の権利部(甲区)の記録事項である、所有者に関する事項の所有権の登記名義人は、住所 持分4分の3A、住所 受託者A(受託者持分4分の1)となる。

登記識別情報・・・登記識別情報は、受託者Aに対して1通、個人Aに対して通知されない。

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登記申請情報など

所有権移転登記申請

登記の目的 所有権移転

原因 年月日売買

権利者 住所 持分4分の3 A(?)

    住所 持分4分の1 A(?)

(信託登記申請人) 住所 A

義務者 住所 売主B

登記記録

登記の目的・・・所有権移転

受付年月日・受付番号・・・年月日第○○号 

権利者その他の事項・・・原因 年月日売買

 共有者 住所        A (受託者持分4分の1) 

     住所 持分4分の3 A

 登記の目的・・・受託者A持分4分の1は信託財産の処分による信託

 受付年月日・受付番号・・・余白

 権利者その他の事項・・・信託目録第○○号

信託目録

 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所(不動産登記法97条1項1号)のうち、委託者は委託者の住所氏名、受益者は受益者の住所氏名。持分は記載されない。Aの住所氏名は、委託者欄と受託者欄どちらにも記録されない。

土地の売買契約を締結する前に、信託行為と信託の変更において必要な行為

 信託行為と信託の変更で、信託財産である金銭の管理方法について、土地の売買契約が禁止、限定されていないか。限定されている場合、基準をクリアしているか(信託法26条)。

登記原因証明情報に必要な記載

・売買契約の締結。

・所有権留保特約(売買代金を売主に支払った時に所有権が移転するという決め事)がある場合、売買代金を支払ったこと(により所有権が移転したこと。)。

・所有権の持分(不動産登記令3条9号)。税務上記載が必要な場合、売買代金の内訳。

・Aの住所氏名を記名押印(または電子署名。)。受託者Aの住所氏名を記名押印(または電子署名。)。

登記識別情報について

 受託者A・・・不動産の所有権登記名義人であり、登記申請人なので通知される。

 個人A・・・不動産の所有権登記名義人であり、登記申請人でもあるが、信託登記の申請人ではない。登記識別情報は通知されない。

個人Aに登記識別情報が通知されない理由について

 不動産登記令8条2項2号を類推適用しているのかなと思いました。登記識別情報通知に記録される登記の目的が、受託者A持分4分の1は信託財産の処分による信託(不動産登記令3条11号ホ)、とすることにより、持分4分の3は個人Aに売買により移転したことを証明出来るのではないかと考えます。そのため後続登記において、信託財産持分4分の1を売る場合とAの固有財産である持分4分の3を売る場合、どちらでも利用できるのではないかと考えます。Aの真意、受託者Aの真意に基づく申請であることを確認出来るからです。


[1] 879号令和3年5月P137、質疑応答8005

最近の民事信託・家族信託に関するあれこれ

・成年後見人は、本人の財産を・相続対策などのために運用する

家族のために本人の財産(預貯金、不動産)を使用する、家族(子、孫)などに贈与(お年玉、お小遣い)、住宅取得のための貸付けなどをすることは、原則として認められません(資産凍結)。財産管理を家族だけで行うことができず、家族以外の第三者が本人の通帳等の管理をする可能性がある。成年後見人の報酬は、裁判所が決定し、原則本人の能力が回復するまで又は亡くなるまで続くので、累計すると高額な報酬がかかる。

 「家族のために本人の財産(預貯金、不動産)を使用する、家族(子、孫)などに贈与(お年玉、お小遣い)、」は、それまでの生活状況と扶養義務(民法730条)によります。今まで本人の預貯金(収入)で生活していた場合、本人所有名義の不動産に居住していた場合、それまでの金額は認められる場合が高いと思われます。最後は家庭裁判所の決定になります。

「住宅取得のための貸付けなどをすることは、原則として認められません(資産凍結)。」成年後見人の住宅所得のために、本人のお金を成年後見人に貸付けることは、それを資産凍結と呼ぶかは措いて、原則として認められません。成年後見制度では、成年後見人と本人を、親族ではなく他人だと外から見られている、と考えてみてください。「成年後見人の報酬は、裁判所が決定し、原則本人の能力が回復するまで又は亡くなるまで続くので、累計すると高額な報酬がかかる。」は、裁判所は家庭裁判所、報酬については本人の財産以上の報酬はかかりません。

高額かの判断は、人によって違うと思います。 市民後見人、社会福祉士で成年後見人に就任している方にも聞いてみると参考になるかもしれません。

・任意後見制度を活用した場合は信頼できる人に任せることできる。しかし、第三者である任意後見監督人が就任し、後見業務は任意後見監督人に定期的にチェックが入る(資産凍結)。また、成年後見人と同様に任意後見監督人の報酬は、裁判所が決定することになる。

 「しかし、第三者である任意後見監督人が就任し、後見業務は任意後見監督人に定期的にチェックが入る(資産凍結)。」について、任意後見監督人による定期的なチェックが入ることを資産凍結と呼ぶ場合はそうなります。任意後見監督人の立場としては、家庭裁判所に不備を指摘されたくない、というのがあると思います。そうすると、理屈が通っていれば利益相反行為なども認められる可能性があります(任意後見契約に関する法律7条)。

・生前であれば遺言はいつでも撤回、書換えができます。そのため、元気なときに作成した遺言でも亡くなる直前に悪意ある親族によって遺言の書換えができてしまうといリスクもあり、後継者の立場からすると不安が残ります。

例えば、「親が施設に入ったら自宅が空き家になるので売りたい」という希望があった場合。施設に入るということは、通常、認知症などで判断力が低くなっていますから、自宅の売却の契約はできません。

成年後見制度をつけても、自宅の売却は制限されてしまいます。この場合遺言をつけても意味はありません。

しかし、家族信託を設定すると、受託者である子供に名義が移行していますので、

自宅の買い手が見つかれば売買契約書にサインをするのは子供(受託者)です。

その売却した自宅の売却代金は親のもの。そこから施設費用や入院費用を支払うことができます。銀行口座からお金を引き出すために成年後見制度を使う必要がないのです。家族信託は、このように資産を持っている本人の意思に基づいて、資産を管理することができる制度なのです。そして、親が亡くなった場合、信託された資産はどうなるのでしょうか。それも家族信託の中で決めることができます。「この財産を娘に渡して、この不動産は息子に…」というような形で契約をつくれば、それはその通り適用されます。

 「生前であれば遺言はいつでも撤回、書換えができます。そのため、元気なときに作成した遺言でも亡くなる直前に悪意ある親族によって遺言の書換えができてしまうといリスクもあり、後継者の立場からすると不安が残ります。」については、信託行為であっても同じではないかなと思います(信託法149条3項、4項)。

「しかし、家族信託を設定すると、受託者である子供に名義が移行していますので、自宅の買い手が見つかれば売買契約書にサインをするのは子供(受託者)です。その売却した自宅の売却代金は親のもの。」について、移行は移転を意味しているのだと思います。自宅の売却代金は親のもの、は信託行為の受益権で決定されていた場合、そうなるのだと思います。親が請求出来るもの、と言い換えても良いかもしれません。

・民法873条の2について

先日、「ドッヒャー」ということがありました。相続で。【人を大事にするシステム】の利用者さんからのメール『「相続の話をしよう」を読んでいて、・・(中略)・・とありました。』このメルマガでも、紹介した書籍です。限定承認のところですね。その部分をまだ読んでいなかったので(汗)さっそく読みました。そしたら、「ドッヒャー」(笑)限定承認と、税法の関係で、僕が知らない、恐ろしい規定が存在しました。それは、限定承認をすると、不動産には「譲渡所得税がかかる」というもの。もう一度言いますよ。遺産に不動産がある場合、限定承認をした時点で、その不動産に「譲渡所得税」が課税されます。(所得税法59条1項1号)売却していなくても。す、すいません。知りませんでした。え?みんな知ってる規定?

僕なんか、知らない債務を相続すると悪いから、事業をやっていた人の相続は、みんな限定承認をした方がいいと思っていたくらいです。(実務で限定承認をしたことがあるのは1回だけですが。)■■ どうゆうことか?父が死亡不動産を2つ所有自宅と収益不動産どんな借金(連帯保証)があるかわからない。だから、相続人は、限定承認

借金の額を確定させ、収益不動産を売却して借金も返済。もちろん、収益不動産は売却したので、譲渡所得税を納税するのはわかりますよね。そして、自宅は残ったので、めでたしめでたし。

■■ 数ヶ月後に起こること。

相続した自宅に、譲渡所得税が課税されます。「相続税」ではありません。「譲渡所得税」です。(所得税法59条1項1号)しかも相続人への譲渡ですので、居住用不動産の3000万円の控除も使えないとのこと。不動産をいくつか持っている人に限定承認を提案するときは、本当に注意しないとまずいですね。不用意な譲渡所得税が課税されるかもしれませんので。

■■ 僕が経験した事例

これは、幸いにも不動産はありませんでした。お父さんが借金を残して死亡。でも、ゆくゆく調べると、貸金業者に過払い金がありそう。もしかしたら、過払い金で借金を返済できるかもしれない。でも、過払い金はいくら戻ってくるかわからない。ということで、限定承認をしました。これで時間的にもゆとりができたので、しっかりと過払い金の請求をして、それで、返済を済ませることができました。少しお金が残ったので、それは相続人に。財産的には、とてもハッピーな展開だったと思います。ふー今更ながら、不動産がなくて良かったと、ホット胸をなで下ろしました。

■■ 限定承認をするときは相続人全員だが

そうなんですよね。限定承認をするときは相続人全員。でも、複数の人で限定承認をすると、その後の財産管理が大変。相続財産管理人の選任が必要になることも。そこで、限定承認と相続放棄を組み合わせることもできます。複数の相続人のうち、代表となる相続人(子供)を残して、他の人は全員相続放棄。

そうすると、相続人は、その子一人になります。そして、その子だけで、限定承認です。そうすると相続財産管理人が必要にならず、その子だけで、限定承認の手続きを進めることができます。もちろん、財産が残った場合の相続は、その子だけになるので、それでは不都合であればこの方法は使えないですが、通常、限定承認をする場合は、遺産がプラスになるかマイナスになるかわからない微妙なラインが多いでしょうから、案外この方法は使えるかもしれませんね。ということで、この本を読んでもう少し勉強しないとですね。「相続の話をしよう」(財経詳報社)https://amzn.to/3uR9hgI

税理士であり、弁護士である関根先生が書いた本です。

PS【人を大事にするシステム】の利用者さんからのメールは「このような知識を記録できる、備忘録なような機能はありませんか?」というもの。さっそく、その機能も追加しました。業務連絡!システムの利用者さんへ「自分専用メモ」が、今回付加した備忘録機能です。ご活用いただければと思います。

 税に関する事柄なので、最終判断は税理士に相談をお願いします。

国税庁 タックスアンサー 

No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm

引用です。

3 資産の「譲渡」とは

 譲渡とは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいいますので、通常の売買のほか、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれます。また、次の場合にも資産の譲渡があったものとされます。

(1) 法人に対して資産を贈与した場合や限定承認による相続などがあった場合

 次のイ又はロのような事由により資産の移転があった場合には、時価(通常売買される価額をいいます。以下同じ。)で資産の譲渡があったものとされます。

イ 法人に対する贈与や遺贈、時価の2分の1未満の価額による譲渡

ロ 限定承認の相続や限定承認の包括遺贈(個人に対するものに限られます。)

相続財産の範囲内で譲渡取得税が課税されるのは、とても不合理、とは言えない気もします。上の例では、自宅は残った、という部分があるので、譲渡取得税課税が不合理にみえてしまうのかなと思いました。

信託の共有持分に関する登記ほか

家族信託実務ガイド[1]を基に考えてみたいと思います。

渋谷陽一郎「共有持分の登記」

要するに、広義の意味での登記先例とは、登記官が登記処分の判断を行う際に、参考とすることができる公開の資料あるいは規律である、ということができると思います。前述の通り、公開されている資料であることが重要です。法務省内の登記に関する行政通達は、情報公開の重要性が叫ばれる以前から、登記専門誌群などを通じて、随時、自覚的に公表されてきました。

 今後、流れとしては法務省のwebサイトに行政通達が全て掲載されるということも考えられるのかなと感じました。現在は、専門誌のみですが、行政通達という性質上、オープンになるような気がします。専門誌に載るのは、通達に関する解説や論考が主になっていくのかもしれないと思いました。

登記官による登記処分の必要性は、全国津々浦々、日々大勢の国民の財産権にかかわるものとして、大量に発生しています。

 登記処分という言葉を初めて聞いたのですが、登記簿に登記事項を記録することを登記処分と記載しているのだと思います(不動産登記法9条)。

家族という言葉は、戦前の旧民法の親族法における中心的概念の一つであり、旧民法では家族とは何か、が定義されていました。

 法律用語でなくなったことは、夫婦別姓や事実婚などを認めるプラスの影響になっているのかなと感じます。良い悪いは措きます。すると、最初に家庭裁判所と名前を付けた人は、凄いなと個人的に思いました。

旧民法

第732条 戸主の親族にして其家に在る者及ひ其配偶者は之を家族とす

戸主の変更ありたる場合に於ては旧戸主及ひ其家族は新戸主の家族とす

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宮田浩志「信託内容の変更条項」からです。

信託契約書において、信託内容の変更条項が盛り込まれているケースは多いです。この場合、「受益者は、受託者との合意により、本件信託の内容を変更することができる。」という条項が一般的です。

 「「受益者は、受託者との合意により、本件信託の内容を変更することができる。」という条項が一般的です。」。そうなんでしょうか。知りませんでした。信託法149条を根拠としているように記載されていますが、委託者が抜けています。また契約条項の記載方法は、改善の余地がある様に思います。

信託内容の変更ができなくなるリスクと信託法149条2項2号の趣旨も踏まえ、例えば、受益者と受託者の合意による変更を原則としつつも、「受託者が本件信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかであると判断したときは、受託者は単独で本件信託の内容を変更することができる。」という条項を置くことも良策となり得るでしょう。

  私は考え方が逆ではないかなと思いました。信託法149条を原則として(条項としては、「その他信託法の定めによる、など。」。)、例外を信託法149条4項で追加したり削ったりして構成していくものだと考えます。「本件信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかであると判断したとき」には、客観的な基準が必要だと考えます。

受託者単独で変更できる条項のニーズ   信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかである場合の典型的なケースとしては、信託内融資をうける(受託者が信託財産の維持・形成のために、信託財産責任負担債務として金融機関等から借入れをする)場合が考えられます。

 文章の意味が分かりませんでした。どうして信託内融資を受けるケースが、信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかである場合と結びつくのでしょうか。題目の、受託者単独で変更できる条項のニーズも含めて読むということなんでしょうか。また、金融機関の求めに応じて信託の変更を公正証書化する場合に実務的には大きな意味がある、というようなことが記載されていますが、信託内融資を受けるケースは信託の目的に反しないことと、受益者の利益に適合することが明らかであると判断できるのが前提なのでしょうか。よく分かりませんでした。もし不動産の信託目録に記録している場合、登記原因証明情報にどのような記載をするのか気になります。

軽微な変更は受託者単独でできるような規定を置くこと、あるいは信託監督人を置くケースでは、受託者と信託監督人の合意で変更出来るようにしておくことも検討すべきといえます。ただし、受益者代理人を置く場合は、受益者代理人は受益者本人と同等の権利行使が可能なので、大原則である受託者と受益者の合意で変更できる旨があれば、リスクは回避できる、という結論になります。

 「あるいは、」、「ただし、」、「結論になります。」がどのように繋がっているのか、私だけかもしれませんが分かりませんでした。記事全体に関しては、「一般的です。」「実は、」「実務的には大きな意味を持っています。」、「後見人等に多数就任中」、「全国からの相談が後を絶たない。」、「先駆的な存在」、「日本屈指」などはどのように読めばいいのか分かりませんでした。

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成田一正「親亡き後信託の課税関係~障がいのある子の親なき後の支援のために利用する~」

・ここでは、自己信託において、受益者も委託者兼受託者で事例が紹介されており、可能なんだなと驚きでした。私は2回ほど公証人から駄目だと言われていたからです。次回から公証人に民事信託の打診をする場合は、本記事を参考情報として添付してみようと思います。

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斎藤竜「コロナ禍でオンライン集客を始めたい士業・専門家のWeb活用の基本」

自分が提供するサービスによって、どの客層(「今すぐ客」と「そのうち客」)が対象になるのかを考えておく必要があるのです。自分のサービスの利用者がどの状態の客層をターゲットとしているのかを理解していないと、無駄に広告費を投入する、ブログ、Twitter、Facebook、YouTubeなどのSNS対策へ費用と時間を奪われることになりますので、ご注意ください。

ここは、人によって変わるのではないかなと思います。自分自身が理解するために発信している場合もあるだろうし、費用をかけて広告として発信している場合もあると思います。

そして、連絡を取りたい相手についても、普段どんな投稿をしているのか、どんな人なのか(名前、写真、肩書)、プロフィールなど、SNSなどで事前に調査します。その上でそのアカウントに積極的に絡んでいきましょう。

特にいいです。

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語り手:プレデンシャル信託株式会社 代表取締役社長 川嶋悦子

聞き手:家族信託実務ガイド編集部

「生命保険信託の活用」

2020年末の累計で4,189件になります。

 2015年にスタートです。この件数が多いのか少ないのか、分からないのですが年々契約件数が増えているので、必要とされる方は確実にいるのだなと感じます。

当社では、プレデンシャル生命のライフプランナーによるコンサルティングから生命保険信託の契約締結まで、7~8営業日程度と迅速な対応ができています。―中略―この「申込内容設計シート」を埋めていただければ、Webで行う信託の申込みも簡単に行って頂けるようになっています。

 7~8営業日はかなり速いと感じます。遺留分を考えないことも、理由の1つになるのでしょうか。明確に保険金の給付方法が決まっている依頼者からすると、使いやすいんじゃないかなと思います。Webでの申込みが出来るのも魅力の1つだと感じます。

信託契約締結時にかかる費用は信託契約1件あたり5,500円です。―中略―また委託者がお亡くなりになった後にかかる費用は、受領保険金総額の2.2%(※)と毎年3月末に22,000円の管理報酬として、いずれも信託財産から収受させていただきます。※一括交付の場合は、信託契約1件あたり、一律110,000円となります。※家族年金は、金銭信託開始時点の年金原価を受領保険金額とします。

 費用の感じ方は人によって違うと思いますが、死亡保険金が3000万円以上の生命保険に契約締結が必要なのかなと感じます。

プルデンシャル信託株式会社 生命保険信託とは

https://www.pru-trust.co.jp/trust/cost/


[1] 2021年5月第21号日本法令

照会事例から見る信託の登記実務(11)

 登記情報[1]の記事、横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(11)」を基に考えてみたいと思います。

近時、信託目録不要論などの影響もあり

 私はこのような論考が最近影響力を持っているという記事を読んだことがないのですが、出典などを教えていただければ、少し考えてみたいと思います。

一方、9号に規定される「信託行為において定めた終了事由」については、信託契約当事者が定めた特約事項であり、これは、登記官を含む第三者との関係においては、登記がされない限り、一般にその存在を知り得ないものであり、後続の登記との関係において登記をする必要性が認められます。本来、不動産登記法97条1項10号が登記事項として想定してる信託の終了事由とは、この信託行為において定めた終了事由を指すものと考えます。

 9号とは、信託法163条1項9号のことです。他に信託法164条3項の規定も、不動産登記法97条1項10号が登記事項として想定してる信託の終了事由に含まれると考えられます。

登記されていない信託の終了事由に基づいて信託が終了する登記を認めることはできません。この場合には、信託の抹消の登記に先立ち、まず、「信託目録中の信託の終了事由」の更生する登記を申請する必要があります。

 信託の法定終了事由以外の場合で、信託行為によって任意法規の法定終了事由(信託法164条1項など)に変更がないときを想定しているのだと思います。その際、信託法163条9号による終了事由によって信託を終了する場合は、信託目録の更正登記を経て信託の抹消登記を行うべきであるというものです。

 私は、担保権の抹消登記などのように(昭和31年9月20日民甲2202局長通達、昭和32年6月28日民甲1249号回答、登記研究133号46頁など)、登記原因証明情報を提供すれば、更正登記は不要であると考えていましたが、登記実務は異なるようです。更正登記を経なければならない、としても理屈は通ると考えられます。

問題は、信託契約上、信託財産引継日が「信託終了日の翌日」と明定されており、このことが信託目録に登記されている場合において、現実にはこれと異なる日に信託財産の引継がされたときに、現実の信託財産の引継日を登記原因日として信託の登記を抹消して差し支えないかという点です。」

 私は、信託財産引継日が信託目録に記録されている場合、信託の抹消登記の登記原因及びその日付には関係がないと思います。信託法177条1項4号と登記原因が信託財産引継であることから、信託財産引継日に焦点があたっているのかもしれません。

 しかし通常、信託財産引継が登記原因となる信託の抹消の登記の法律行為は、清算受託者が受益者等から最終の計算を承認されることです(信託法184条)。よって、登記原因日付は受益者等が最終の計算を承認した日となります。

信託の本旨が信託行為をして受託者に制約を課すもの

 信託の本旨は、委託者から受託者に対して、財産の譲渡、担保権の設定その他の処分があり、受託者は一定の目的に従って他人の利益のために処分された財産を管理処分すること、だと思います(参考 別冊NBL編集部「信託法改正要綱試案と解説」商事法務 平成17年P21)。同じことを逆から言っているようにも思えますが、受託者に制約を課すのであれば、民法上の委任契約などでも、その目的は達成出来るのではないかと思います。

問5「信託法163条2号の規定にかかわらず、本信託契約は、受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年以上経過しても、終了しないものとする」旨の信託契約の条項は、登記することができますか(照会者E)

 司法書士、土地家屋調査士向けの雑誌である登記情報で記事になっているので、信じるしかありませんが、このような内容の照会を私達司法書士が行ったというのが少し気になります。

登記官としては、受託者がA信託不動産につき、受益権を固有財産で有する状態が1年以上経過していることが明らかになったことだけをもって信託法163条2号の規定により当該信託が終了していると判断することは出来ません。

根抵当権の元本の確定の登記申請(不動産登記法93条)に似ていると思いました。

通常、「相続」を原因とする所有権移転の登記であれば、登記原因証明情報として、相続人全員が作成した遺産分割協議書(印鑑証明書付き)を提供することになりますが、本問の場合には、「信託財産引継」を原因とする共同申請の形態をとるので、不動産登記法62条の規定は適用されず、同条を類推した厳格な情報を添付する必要はなく、例えば、報告的な登記原因証明情報の提供も考えられるところです。

 登記を申請する側と、審査する側の立場の違いのように思いました。申請する側としては、報告的な登記原因証明情報で登記が記録されると分かっていても、依頼者に対して必要な情報を求めると思います。法務局では不要だと言われている書類等を集めて下さい、と説明する際の言い方は少し考える必要があると思いました。


[1] 714号 2021年5月きんざいP33~

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