第112回国会 衆議院 法務委員会 第9号 昭和63年4月15日

  • 134 山田英介発言URLを表示○山田委員 我が国の公示制度の歴史は百年を超えております。特に今回の不動産登記法の改正につきましては、いわゆる薄冊中心のブックシステムの登記制度からブックレスシステム、すなわちコンピューターシステムへとこれが移行されていくという、またさせていこうという、その意味では我が国の公示制度の大きな変革期に入ってきた、このように認識をするわけでございます。そういうことをベースにして考えてみますと、大事なことは、やはりいかにシステムそのものがブックからコンピューターへと移行したとしても、現在我が国の公示制度が抱えているさまざまな問題点、これの解決への方向づけ、あるいはまた公示制度を取り巻く諸条件の整備というものを、この大きな変革への第一歩といいますか、第一次となります不登法改正のこの機会にやはり明確に方向づけをする、あるいは整備をしていくめどをつけていくという作業が極めて大事な問題である、かような認識をいたしております。  そこで、何点か以下お伺いをするわけでございますが、最初に確認をいたしておきたいと思います。特にこの不動産公示制度と極めて密接な関係で存在をいたしております司法書士制度、そしてその業務に関してでございますが、特に司法書士が不動産の登記申請書を作成をいたしまして代理する、その前提として実際に登記の前提となる契約の実体、あるいはその契約でも物権契約の実体をやはりしっかりと把握していかなければならないのだろうというふうに認識をいたしておりますが、この登記申請書を作成し、そして代理して申請をする以前に、司法書士に求められる業務上の責任というのは一体具体的にどういうものなのかを明らかにしていただきたいと思います。
  • 135 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士はまずその業務の第一号として、登記及び供託の手続について代理をすることというふうに定められております。この手続について代理をするに当たりましては、当事者間になされている物権変動の原因となっている契約を把握し、そして何よりもその両当事者がその物権について登記をする申請意思を持っているということが書面上確認できるような状態にあること、それをはっきりさせることが必要であろうと思っております。
  • 136 山田英介発言URLを表示○山田委員 今局長が答弁なされたこと以外にも、列挙すればいろいろあると私は思います。要するに、局長のおっしゃることは、登記官に与えられている権限は提出された書類、申請書とか添付書類あるいは登記済み証あるいは登記簿こういうものを書面上審査をして、それが一定の様式にかなっており整合性を保っておるということであれば登記を実行する。そういういわば書面形式審査権というものと対比をいたしまして、司法書士の場合にはただ頼まれたから、嘱託を受けたから書類をつくり、申請書をつくり、提出すればいいというものではないのだ。要するにその実体関係にまで立ち入って、その申請をしようとする者が本当にその当事者であるのかとか、あるいはまた本当に登記申請する意思があるのか、その前提としての実体面におけるその物権契約なりそういうものが本当に本人、当事者の意思に基づくものなのかというような、そういう実体にまで立ち入って実質的に審査をしなければならぬのだよ、こういうことでございますね。要するに、実質審査というものを司法書士はその職責上あるいは司法書士制度の目的からいって、これはしっかりやりなさい、こういうことでございますね。
  • 137 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 そのように理解いたしております。
  • 138 山田英介発言URLを表示○山田委員 申し上げました登記官の形式審査、それから司法書士の今局長がお認めになられました実質審査、この双方がよりよく機能し、相補い合い、そして初めて真正な登記というものが確保されるのである、また、そういう登記官の形式審査と司法書士の実質審査というものが補完し合って今日の我が国の公示制度というものが運営されてきた、また支えられてきたということは言えますか。
  • 139 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 登記が適正に、そしてまた迅速に行われるように司法書士がその役割を果たしてまいってきているというふうに思っております。
  • 140 山田英介発言URLを表示○山田委員 司法書士は実質審査という、こういう一つの職務上の責務、責任というものを果たすために、繰り返すようでありますが、当事者の真意を酌み取る、あるいはまた当事者の意思を申請書などに誤りなく正確に反映をさせる、そして司法書士法一条「目的」あるいは一条の二それから二条、これらの規定から見ましても、当事者の双方の利益のために公正な立場で業務を遂行する、こういう義務が課せられている、こう解釈してよろしゅうございますか。一条、一条の二、二条との関連でお伺いをしております。
  • 141 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士は、多くの場合登記権利者及び登記義務者双方から委任を受けて事務を行っているのが実態であるように承知いたしております。その委任の内容たるものは、その当事者間に行われました物権変動に基づきまして登記を適正にするということが委任の内容でございますので、その内容を誠実に実行するというのが司法書士の努めであると思っております。
  • 142 山田英介発言URLを表示○山田委員 これは「登記研究」という雑誌がございまして、その「登記簿」という欄に記載されているところでございますが、これは一応A、Bという形で対話形式でわかりやすくなさっていますけれども、法務省のしかるべきこの登記に責任を持つ方がわかりやすく、しかも非常に理路整然と司法書士制度とその業務というものを解説されておる、このように私は理解しておりますが、その中に、「実務の上で「他人の嘱託を受けて」という他人の意思及び確認には、司法書士法第一条にいう、業務の適正を図り、国民の権利の保全に寄与するために万全の措置をとらなければならないんですね。」こういう問いかけに対して、「そういうことだね。司法書士の業務は、やり直しのきかないものであり、他の職務とは異なる高度な社会的責任を負っていることがわかるだろう。」そこで、「不動産の商品化・流動化がますます進み、不動産取引も頻度を加え、その登記手続を担う司法書士の職責も一段と重要なものとなってきているんですね。」「そうだね。」こうなっているわけでございますね。これはそのとおりでございますか。
  • 143 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 その雑誌はまだ拝見いたしておりませんけれども、お読みになりました内容は、格別異存があるわけではございません。
  • 144 山田英介発言URLを表示○山田委員 格別異存があるわけではないということは、そういうことだとお認めになられている。司法書士の場合は嘱託人からその真意を把握をし、究極の嘱託人の趣旨あるいは目的に合致するようにその登記申請についての実体関係、実体面について法律的な判断を加えて、登記申請について完備した書類を作成するための意思の確認、当事者の申請の意思あるいは物権変動の意思、物権契約の意思、そういうものを確認をする、あるいはもっと基本的に本当の登記義務者であるのか、本当の登記権利者であるのか、本人そのものなのかというところもやはり実体に立ち入ってこれを確認をする、あるいは実質審査をする、そういう義務が課せられていると私は思いますが、重ねてこの点について御答弁をお願いしたいと思います。
  • 145 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 契約が真実になされているものであるか、また登記申請を求めている者がその本人であり、その人が真実の意思を持っているかということを確認しなければならないのはそのとおりでございます。ただ、その確認をする手段が何であるかということは、その具体的なケースによっていろいろであろうとは考えます。
  • 146 山田英介発言URLを表示○山田委員 昭和四十六年四月二十日最高裁第三小法廷判決、土地所有権移転登記抹消登記請求事件でございますが、この判決の趣旨に基づいてこのような判断がなされているわけでございますが、それについてお伺いをしたいと思います。要するに、司法書士が嘱託人のいうがままに書類を作成し、登記所に提出することは、今日の経済取引の複雑化、多様化からも許されないものと考えられる。
  •  すなわち、司法書士が公共的な性格をもつものであるから、司法書士がその職務の遂行に関し責任があることは、社会的に当然要求されているところであって、その社会的責任の重要性は一段と強く要請されつつあり、司法書士は、特に嘱託人から調査依頼がなくても当該事件の真偽を確認する注意義務はあるとされている、こうございますけれども、要するに、司法書士が嘱託人の言うがままに書類を作成する、登記所に提出するということは、今日の不動産の取引の複雑化、多様化ということから見てこれは許されない、こう考えてよろしいですね。
  • 147 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 そのように考えてよろしいと思います。
  • 148 山田英介発言URLを表示○山田委員 もう一つ、昭和四十七年十二月二十一日東京高裁第四民事部判決、損害賠償請求事件、これはこういうことでございます。   
  • 司法書士が登記義務者の代理人と称する者の依頼により本人のため登記関係書類を作成する場合において、依頼者の言動により代理権の存否に疑のあるような場合は、単に必要書類について形式的な審査をするに止まらず、本人について登記原因証書作成についての真意の有無及び登記申請についての代理権授与の事実を確かめ登記手続に過誤なからしめるよう万全の注意を払う義務があるものというべきであり、代理権の存在を確めないでした申請にもとづき行われた不実の登記を信頼した第三者に対する不法行為責任は免れない これが昭和四十七年十二月二十一日の東京高裁における判決でございます。  したがいまして、私がここで特に指摘しておきたいことは、このように司法書士は登記申請について手続の代理をする、そういう場合には大変厳格な注意義務を持ってこれを遂行しないときには、この登記を信頼した第三者に対する不法行為責任は免れないよというまで要するに職責というものは厳しいものが求められている、この点をこの判決では特に強調しておきたいと私は思います。  それからいま一つは、いわゆる我が国の不動産登記制度、公示制度というものの持つ大きな弱点の一つというのは、欠陥と言ってもよろしいと思いますけれども、登記の迅速性の要請が一方にあり、他方においてその登記が正確になされていなければならないという要請があります。この迅速性と正確性のバランスをいかにとっていくかというところに極めて重要なポイントがあるわけでございまして、登記官の形式審査権の範囲における審査だけでは物権の変動に見合った公示というものがなかなか確保されにくい。要するに書面でだけしか審査できないわけですから、したがって実はそこに不実の登記とかあるいはまた不正な登記というものがつけ入るすきができてきてしまうということは言えると思うわけでございます。そして、実質的な審査権を持つ立場にある司法書士の努力あるいはまたその存在というものが我が国の登記システムというものをしっかりと安定させる、そのために登記官ともども、あるいは関係者の皆さんとともどもにその大きな役割を果たしておる、このように言うことができるわけでございます。したがいまして、この形式審査主義の欠陥というものをカバーをして不実の登記を排除するということが司法書士の使命である、こういうふうに結論を導き出すことができると私は思います。
  •  もし司法書士も登記官と同様に形式的審査権の権限内で業務を果たしていれば、遂行していればいいのだということになれば、我が国の公示制度というものは、これはその根幹にかかわる、その発展もあるいはまた前進もあり得ない、望めないというふうに私は考えざるを得ないわけでございますが、これはどうでしょうか。林田大臣から一言いただいておきましょうか。要するに、登記官と同じように司法書士が形式審査というようなことで、ただ頼まれたのだから頼まれたままに書類をつくり申請すればいいのだというところに安住していれば、とどまっていれば、我が国の登記制度というものの健全な発展というものはあり得ないというふうに思うのですが、いかがでございましょうか。
  • 149 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 登記が真正な登記でありまするためには、登記官の方は形式上の審査を行えば足りるわけでありまするから、その前段階として代理人でありまする司法書士において十分審査をしていただいて、そして書類を登記官に提出していただくということが最も望ましいことであり、また、これからの登記制度におきましてもそうあらなければならぬことである、かように存じております。
  • 150 山田英介発言URLを表示○山田委員 それでは民事局長にお伺いしますけれども、国が司法書士法に基づきまして司法書士にその登記申請の書類の作成義務を独占的に行わせている、他の者にその業務の取り扱いを禁止している理由は那辺にあるのか、これをちょっと整理してお答えをいただきたい。要するに、国が司決書士法を定めてその法に基づいて登記申請書類の作成義務を独占的に司法書士に行わせている、そして資格のない者にその業務の取り扱いをしてはならないと禁止している理由についてお伺いをしたいと思います。
  • 151 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士法は、資格のない者が業として司法書士の業務を行うことを禁止いたしておりますが、これは司法書士のとり行います登記その他の代理に関する業務が国民一般の財産にかかわる非常に重要な利害関係を持つものでありますために、一定の資格を有する者にそれをとり行わせることが国民多数の幸福につながるという観点からこれをそのように制限をしているものであるというふうに考えております。     〔今枝委員長代理退席、井出委員長代理着席〕
  • 152 山田英介発言URLを表示○山田委員 もう一つだけ確認しておきますけれども、司法書士が申請書を作成し登記所に提出をするその前提として、最近は非常に登記済み証の偽造も多い、あるいはコピー技術の発達等を悪用して印鑑証明書の偽造、変造も多いというような、一つには病理現象、登記制度における病理現象というものが増加する傾向にあると憂える一人でありますけれども、司法書士が提出をする前提として、印鑑証明書とか権利証を厳格にチェックをする、現実にそういう機能を果たしているわけでございますけれども、実際に防止、あるいは見破るといいますか、そういう不実の登記をさせないようあらかじめそれを防ぐ、そういうことについて果たしている役割というものは私は大変多いものであると思っております。  
  • それで、例えば不鮮明な印影だとか印鑑が違っているのじゃないかというような疑いがあるときには、日常の登記事務を通じましてこれを直ちに拒否するとか、あるいはまた必要があれば関係市町村に印影、印鑑証明書について照会をするとか、あるいはまた取引が正しい当事者の合意のもとに行われているかどうかを確認したり、特に大事なことは、所有権を失う登記義務者の意思の確認というのが特に重要であるという認識のもとに、特にそこをまた入念に行う。あるいは印鑑証明書は本来は登記義務者、所有権を失う登記義務者が持ってくるのを常態とするわけですけれども、買い主が単独でやってきて印鑑証明を持ってきた、あるいは本人が病気で来られないというようなときに買い主だけが印鑑証明なんかを預かったという形で持ってくる、こういうときには、特に登記義務者が本当に所有権を失うのですよ、その登記申請をあなたはやろうとしているのですねという、この意思の確認というものを日常的な業務の中でやっているということを私は知っておるわけでございます。
  •  今、十点ばかりにわたりまして御確認をいただいたわけでございますが、私が申し上げたいことは、今の御答弁にもありましたように、例えば実体関係にまで入って調査をする義務がある。あるいはまた嘱託人の言いなりになって書類を作成した場合、仮にそれが不実な登記であったとすれば、その登記を信頼してその権利を取得をした第三者に対して不法行為責任は免れないというふうに判決でも言われている。あるいはまた登記官とは対置される形の実質審査権をしっかりと行使をして、そして真実の登記というものを担保するよう、確保するようその業務を行わなければならない。むしろそういう義務を負い、あるいは課せられている、そういう司法書士であります。  
  • 先ほど民事局長が御答弁になりましたように、結局は、国民の権利義務に重大な関係を有する書類を、一定の資格を有し相当の法律的素養のある者に国民が嘱託して作成してもらうということが、局長おっしゃるように国民の利益、公共の福祉に合致する、こう考えたから、国が司法書士法を定めて、そしてこの登記申請書類の作成権限を独占的に司法書士に与えたのだ、そしてその資格のない者にその業務の取り扱いを禁止したのだ、こういうことであるわけでございます。局長がお認めになったとおりでございます。したがいまして、私はこの登記代理権というものを考える場合に、この点をしっかりとベースに踏まえて議論をしなければ、あるいは方向づけをしていかなければ、これは大きな誤りを犯すことになりはしないかというふうに思うわけでございます。仮にそのような十分な注意義務を払わずに結果的に不実の登記というものをしてしまった場合には、第三者に対して不法行為責任を免れないぞというような、そういうような厳しい一つの使命あるいは役割、責任というものを与えられている司法書士が代理してなす登記の申請と登記の手続と、司法書士以外のそういう資格のない者がなす登記申請とその代理手続と、この不動産登記法上何ら区別がなされていない、これは常識的に考えていかがなものかと私は思うわけでありますけれども、局長、いかがでございますか。
  • 153 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士法では、業として登記事務を代理することは司法書士の専権といたしておりますが、一般の人が個別に代理をすること自体は別に禁止をいたしておりません。そういう意味では、司法書士が独占的に登記代理を行うという形にはなっていないわけでございます。 これは登記事務そのものが、登記の代理が、今まで先生がいろいろ御指摘になられましたように、いろいろ当事者の利害に深くかかわりを持つことはもちろんでございますけれども、登記の依頼人が特定の人を信頼して特定の人にその登記の代理をゆだねるということ自体までは禁止する必要がないというふうに考えているからでございます。これは何もひとり司法書士法に限りませんで、ほかのいろいろな士業種についてもおおむね共通して言えることでございまして、代理をするからには必ず司法書士でなければならないという制度を設けるかどうかは、単に今まで先生がお挙げになられましたような観点からだけで決するというわけにはまいらないのではないかというふうに思う次第でございます。
  • 154 山田英介発言URLを表示○山田委員 午前中の質疑応答を私も拝聴しておりましたので、要するに、民事訴訟法で簡易裁判所については許可を得て弁護士にあらざる者でも訴訟代理人になれるということを局長はおっしゃりたいわけでございます。ただ、司法書士の登記代理権というものを仮に法制化したとしても、実質的にどうなんですか。余り変わらないのじゃないですか。要するに本人が登記申請できるという道は開かれているわけですから、それまで否定せよということでは全くないわけでしょう。  
  • それから、訴訟の場合も、これは原則本人訴訟ですね。最高裁まで本人でできるのだ。訴訟をやっていいわけです。ただ、地裁以上は訴訟代理人を置く場合には弁護士強制主義だよ、簡裁の場合は許可を得てだよ、こういうことになっているわけです。しかし、実際には、民事訴訟法にそういう非弁護士でも簡においては訴訟代理人になれるという規定があるけれども、規定はそうなっていますけれども、実際の運用という面で考えたら、これはどういうことになっているのですか。実際には、運用面まで立ち入って分析してみれば、結局弁護士を訴訟代理人にするかあるいは本人訴訟でいくかの二つしかないのじゃないですか、実際問題としては。局長、これはどうですか。
  • 155 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 裁判所の実務の扱いについてまで私が申し上げるのは、いささか行き過ぎかと思います。登記の代理人につきましての実情を拝見しておりますところでは、恐らくもう九割以上の事件において司法書士が代理人として関与されているのが実態でございましょう。そういう意味では、格別法律の規定を設けることはなくても、事実上司法書士が登記代理を独占なさっているに近い状態にあるというふうに考えられます。また、登記所における行政運営の立場から申しましても、登記の専門家でございます司法書士が代理をなさることの方が行政効率を上げる上からでも極めて意味のあることでございます。  
  • ただ、問題は、司法書士以外の第三者は代理をなし得ないというふうに限定的な決め方をすることが果たしていかがなものであろうか。これは、一般国民の経済活動の自由を制約することにもなりますし、これを依頼するとなると必ず司法書士でなければならないということになりますと、昨今のようにいろいろ契約コストその他についての節減をいかなる企業においてもいかなる個人でも図っておる今日でございますから、そういった面からの反発もないわけではないと思います。また、隣接いたします領域において、弁護士でございますとかあるいは税理士でございますとか、こういった方々との間で業際問題にまで発展をするわけでございますので、そのような法律ではっきりとした決め方をするというのは必ずしも適当でないというふうに考えざるを得ないわけでございます。
  • 156 山田英介発言URLを表示○山田委員 何点か今の御答弁に対して指摘をしておきたいのです。  
  • 裁判所に関することを答弁する立場にないということでございますけれども、それでは申し上げますけれども、民事訴訟法の先ほどの規定についていえば、確かに非弁護士でも簡裁では許可を受ければ訴訟代理人になれるとなっています。しかし、現実には運用の問題ですから、そこまで見てかからないと真実はわからない。結果的にそれは弁護士が訴訟代理人として独占的に存在をする。それ以外では、結局は本人訴訟しかないのだ。実態はそうだということを私はまず指摘しておきます。  
  • 今僕の手元にあるのは、六十一年の司法統計年報、全簡易裁判所についての弁護士の選任状況別などという資料なんですけれども、この資料を見ても、要するに簡易裁判所における事件の総数が幾つあったか、そのうちに弁護士をつけたものが幾つあったか、それから当事者本人によるものが幾つあったか。したがいまして、いわゆるこの司法統計年報の中でも、弁護士以外に訴訟代理人となったそういう事件の数というものはもともととっていないのです。実態的には訴訟代理人は弁護士、そしてそのほかに訴訟の手続等がなされるものは本人訴訟である、実態はそういうことでございます。したがいまして、民訴法の同じ士法の横並びで見ると合理性がないとかあるいは納得が得られないということを余り強調されても、それはまさに余り説得力を持たないということはちょっと指摘をさせていただきます。
  •  それから、その後にまたお話がありまして、登記申請の代理権を有する者は司法書士だけだと限定することは国民の自由な活動を妨げることになるのじゃないか、あるいはまたお金をかけなければ登記申請ができないのじゃないかとおっしゃいましたが、それもよく伺っておりますとそういうことではないでしょう、局長。国民の活動の自由を何で妨げることになるのですか。それは本人の登記申請手続の道を閉ざそうというわけじゃないのですから。それじゃ司法書士に頼まなければならぬ、金がかかるじゃないかというけれども、御自分でその場合にはなさればいいわけです。あるいは親戚の者がいて、例えば登記官を定年退職されて余暇を楽しんでおられる、自由な時間がある、じゃそのおじさんのところへ行ってちょっとやってもらおう、やってあげよう、ただでいいよ、これはあり得ると思いますよ。思いますが、それでしたら何もおじさんにやらせなければ国民の自由な活動が妨げられるという理屈にはまたならないでしょう。それは、おじさんから本人が聞けばいいじゃないですか。いろいろと登記のやり方、こういうふうにやれば申請書はできるよ、それで本人申請でやりなさい。これだって国民の自由な活動の妨げにはならない。  私がなぜこの問題を今こうしてこういう角度から取り上げているかという本当の考え方というのは、我が国の百年の歴史を持つ不動産公示制度、それが登記官の形式審査主義、あるいはまた後に触れたいと思いますが、原因証書は必要的な義務づけられた添付書類、提出書類ではないというふうな、そういう中で弱点、もろさ、あるいはどうしても補っていかなければならない欠陥というものがあります。ブックレスシステムへ移行しようという百年の時代を画す登記システムの、公示システムの大変革の時代に来た。しかし、いかにコンピューターシステムに移行させたとしても、真実の権利変動に見合う公示というものがなされなければ、あるいはまた権利変動がないのに公示だけがなされるというような、制度の根幹から出てくるような問題をどうしたら一つ一つその芽をつぶしていくことができるか、克服していくことができるか、もって我が国の公示制度を一層発展なさしめなければならない、そのためにはどうしたらいいかという角度から、司法書士の登記代理権付与という問題も前向きに積極的に検討すべき一つの課題であるのですよということを私は申し上げているわけでございます。その点いかがですか。前向きに検討をなさるべきじゃないのですか。
  • 157 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 訴訟制度には訴訟制度としての長い歴史と伝統がございまして、その中での代理権というものも決められてまいったと思います。また、登記は登記として、もともとは裁判所における非訟手続として現在のような代理の形態がずっと続いてきたわけでございまして、私が申し上げたいのは、確かに不動産の所有が単に一部の資産家だけの事柄でなくて非常に国民的広がりを持ってきた、そしてまたこれが非常な資産価値を持ってきたということ、さらにそれをめぐりましていろいろな犯罪その他の問題も起こっているということはそのとおりでございますけれども、だから司法書士に独占的代理権を与えなければならないというような国民的合意が形成されるまでにはまだ至っていないのではなかろうか、そこまで法律が突出するのはいかがなものであろうかということを申し上げたかったわけでございます。  ただ、こういったような問題状況は、将来極めて長い長期的視野で見た場合に、いろいろ社会経済生活も変わってまいりますし、司法書士という制度もさらに発展することでもございましょうし、国民の意識もどのように変わってまいりますか、私どもちょっと予測しがたいものがございます。でありますから、そういった推移を慎重に見守りながら、制度全体の見直しとも関連づけて検討するような時期が来ないとも限らないと思っております。そういう意味合いにおきまして、この問題につきましてはかねてから日本司法書士会連合会の方からそのようなお話もございまして、私どもは今の時代ではこれはちょっと難しいことではないかというふうに申し上げておりますが、今後も協議は続けてまいりたいと思っております。
  • 158 山田英介発言URLを表示○山田委員 私は、今すぐやるべきだというふうに申し上げているわけではありません。不動産公示制度の持つ弱点、欠陥というものを少しでも是正をしていくことが、我が国の経済取引社会を支え、あるいは一層着実に発展をさせていくむしろベーシックなシステムである、登記制度である、極めて重要であるということを申し上げているわけでありまして、これを支え発展させていくために一歩でも二歩でも前進できる、そういう認識を持つことができるならばこれをむしろ積極的に今後の検討課題としてお取り上げいただきたい、あるいは位置づけていただきたいというふうに申し上げているわけでございます。今の時代ではなんでございますが、そういう時代が来ないとは限らないとは思いますがと、二重にも三重にもたがをはめられたようなそういうあれじゃなくて、私が今質問している本当の気持ちは、そういう大事な制度をより発展させるために今の弱点をどう克服するか、その方途について前向きに建設的にいろいろな可能性を積極的に検討するべきじゃないでしょうか、こう申し上げているわけで、局長、もう一回すっきりした答弁を。
  • 159 稲葉威雄発言URLを表示○稲葉政府委員 先生御指摘のように、登記における信頼の確保ということは非常に大切なことでございまして、それをどういうふうにして図るかというのは、いろいろな角度からいろいろな方策を私どもも検討してまいらなければならないと思います。その一環として、先生御提案の登記代理権制度というのも一つの考え方ではございますが、現在のところそれがそういう大目的のために最もふさわしい制度、あるいは国民にとって最も理解のいく制度であるかどうかということについてはまだ確信を持つ段階ではありませんので、そのほかのいろいろな制度との比較において検討してまいるということについてはやぶさかではないというふうに思います。
  • 160 山田英介発言URLを表示○山田委員 司法書士登記代理人の法制化の問題と裏腹なんですけれども、登記代理ということの概念が不明確であります、不登法上に何ら代理権に関する規定がないわけですから。したがって、実体法たる民法の代理権のところで処理せざるを得ないわけでございます。  これをどういうふうに思われますか。こういうことがありますよ。  甲が売り主、乙が買い主。甲乙間で不動産について所有権の移転がなされました。そして、契約に基づいて司法書士Aのところに登記手続の代理を委任してまいりました。それが本日、四月十五日だとします。そして、A司法書士がそれを当然実体審査をきちっとやった上で受けました。そしてその午後から夕方書類を調製をして、明日朝一番で出そう、こう決意をしていた。ところが十五日の深夜、この登記義務者の甲が何らかの事由によりまして亡くなってしまいました。こういう事例があり得ます。しかし司法書士はそれを知らされていなかったとすれば、当然先ほど事務所に来た人がその夜死んだなんということは夢想だにできないことですから、予定どおり朝登記所に所有権移転登記の申請書を提出をしました。  そうなった場合に、これは御案内のとおり民法百十一条の代理権の消滅事由、本人の死亡によって代理権はもう消滅しているわけですね。そこで、そのなされた登記については後にその相続人から訴えが起こされまして、代理権が消滅してなされた所有権移転登記というのは要するに無効である。私の父親は、被相続人は不利な取引条件のもとで乙との間に契約を結んだのだ。しかも登記申請の段階では本人はもう死んでいる、代理権はなくなっている、したがってこれは無効だという争いを起こした。しかし判決はその登記申請が実体にかなっていたということで、これは有効であるという判決が出されております。
  •  ところが、これはどういうことかといいますと、要するに登記代理についての概念が不明確だから、不登法上に代理権限に関する規定が何ら置かれていないものですから、こういう取引の混乱あるいはまた乙の、いわゆる権利者の権利が害されそうになる、あるいは害されるという事態を引き起こしてくるわけでございます。判決でそう出たからといって、同種の類似の事件が今後起きないとは限りません。起きたその都度、これは訴訟になるでしょう。その都度またこれは裁判関係の大きな負担にもなるし、そしてそうじゃなくても、司法試験の合格者数を基準を緩めて、もうちょっと大きくして検事、判事、弁護士の皆さんをふやそうというようなその一つの有力な根拠が、裁判事務あるいはこういう訴訟の滞留といいますか、なかなか迅速に処理できないというようなところにも置かれている。こういうことを考えてみますと、この事例はまさに登記代理人制度の法制化と裏腹の関係で、登記代理権が極めて概念が不明確なところからよって起こる一つの例でございます。  
  • もう一つあります。これは、現実に数年前に九州で起きた事件でございます。登記事件の場合にはよく住所とかあるいは姓名が婚姻等で変わったということで、名義変更というのが前提である場合が多いです。いわゆる現在の所有者の実態に合わせるという意味で、住所変更とか名称の変更とか。この名義変更登記、それから引き続いて抵当権等の抹消登記、その次に、きれいになったところで所有権の移転登記、それから所有権の移転を受けるために新たに銀行から借り入れを起こすことを原因として担保権の設定。したがって、名変、抹消、移転、設定、こういう連件事件というふうに言っておりますけれども、これを受ける場合があるのです。これがよくあるのです。  
  • それで、名義変更をする人が甲、したがってA銀行から金を借りていた、抵当権をつけていた。そのA銀行と甲の間で担保権の抹消登記。それからこの甲と今度は権利者、買い主の乙、甲と乙との所有権移転。そして乙はB銀行からかあるいはあわせてC公庫からお金を借りて、この所有権移転登記を受ける物件の代金の支払いに充てた。したがって、設定登記を銀行や公庫のためにしなければならないという義務が発生する。この一連の連件事件の中で、こういう事例が現実に起こりました。
  •  それは、この連件事件に関係する当事者は、甲、乙、A、B、C、この五者がそれぞれ司法書士にそれぞれの登記の委任をいたしました。それで、司法書士はその実体関係をよく把握をして、登記所に連件事件として提出をした。その後、A銀行に対しては抹消しなければならない甲が二百万円A銀行に支払って、そうして担保権を抹消してもらいたいと言った。ところが、実際に乙から入ったお金が百五十万で、五十万足りなかった。しかし、すぐお持ちしますからということで、実はA銀行の担当者は委任状を交付してしまった。ところが、すぐ五十万持っていきますと言ったのだけれども、その甲が来なかった。したがって、A銀行では待って、ある一定のタイミングで判断をして、これは我がA銀行の利益が害されるということで、甲を呼んで二人でもって登記所へ行った。そうして、我々はA司法書士にはもう委任の終了を告げてきた。したがって我々は当事者だ。A司法書士から提出された委任状に実印を押してあるけれども、A銀行は実印を持ってきた。その場合には実印は要らないかな、担保権の抹消だから要らないかもしれません。いずれにしても、A司法書士には委任の終了を告げてきた。したがって、我々はこの抹消登記については本人が二人で出頭したのだから取り下げてもらいたいと言った。登記所の判断では、それは取り下げたのです。
  •  そうなりますと、この取引というのは物すごく混乱します。特に、所有権移転を受けるべき買い主の乙は、担保権が抹消されたものを所有権移転を受けるというふうに当然理解していたものが、結果的に登記が済んでみて登記簿を確認してみたら、あるいは権利証の裏に担保権設定という印が押捺されていた。こういうことになると、特に乙の権利が害される。乙に金を出したB銀行、C公庫の権利も脅かされる。これはどこから来るかといえば、同じように不登法上登記代理権に関する規定が全く整備されてないものですから、結局民法百十一条の第二項、要するに法定代理人あるいはまた会社の代表取締役の代表権、いわゆるこういう代理権とは違って委任による代理権ですから、この場合でいえば甲とA銀行が司法書士に対して、委任による代理権だからもう委任による代理権はこれで終了しました、このように一方的に通告すれば、通告される方の司法書士は、いやそれは困る、委任はまだ終了していないことにしてくれとは言えない。これは要するに、そういうことから来る取引の混乱の典型的な事例です。それからもう一つは、これは権利者の権利が害されるという典型的な事例でございます。  私の承知しているのは九州の数年前の事件でございますけれども、全国的にはこういう事件が皆無だとは言い切れません。それはもっとあるかもしれません。民事局長さん、それから審議官、これも要するに登記代理権をいつまでも不明確なままに、ということはすなわち不動産登記法上にいつまでも登記代理権の明定をためらっていたり、それを避けようとしていたりすれば、これは年月がたてばたつほど、時代が進展すればするほど高度、複雑そして多岐にわたる不動産登記の実態になっていくわけですから、激増するわけですから、手おくれになりかねませんよ。あるいはまた、そういう経済取引社会の秩序というものを根底から脅かすことになるんじゃないでしょうか。  したがって、こういう観点からも、不動産登記法をブックレスシステムへ百年ぶりに大変革の時期を迎えて、移行させるためのいわば第一次の不登法の改正法案が今出されたのですから、この機会に登記代理権の明確化と、それからそれと密接に関係する、あるいは表裏の関係にある登記代理人の法制化ということも、余り等閑視するとは言いませんけれども、要するに我が国の不動産公示システムを主管をする、所管をする法務省、そして民事局という立場において、もうちょっと問題意識を厳しく持たれるべきではないのでしょうか。私は、このことを強く申し上げたいと思うわけでございます。したがいまして、局長から、そして審議官から先ほど御答弁をいただきましたけれども、私はこういう観点から我が国の公示制度というものを一層発展をさせ、充実させ、そして国民の皆さんから登記というものは、あるいは登記制度というものは本当に、それは確かに公信力は与えてないけれども、ただ単なる第三者対抗要件しか付与されていないけれども、登記をすれば安心なんだという国民の強い信頼感というものをこの我が国の公示制度がかち得ていかなければならないという観点から、私は林田大臣に、この登記代理権、司法書士、そしてまたこの登記代理概念の明確化というものを法務省の一つの重要な検討課題と位置づけられて前向きに御検討いただければ大変ありがたい、よいことではないだろうか、こう存じてお伺いするわけでございますが、ぜひ大臣から前向きな御答弁をいただければと存じます。
  • 161 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 ただいまの先生が挙げられました事柄は、登記の代理権を資格者に限定するかどうかという問題とはまた別の問題であろうかと思います。つまり、この場合における委任あるいは代理の終了事由がどうであるのか、あるいは委任の解除の自由があるのかどうか、こういう問題につながることではなかろうかというふうに考えるわけでございまして、個別の法律に特別の規定がなければ民法の規定が適用されるということになりますから、当事者が死亡すれば死亡により代理権は消滅する。しかし、結果なされた登記の効力をどう判定するかというのはまた別の問題であるということで、先ほどのような判決の結論に至るものではなかろうかというふうに考えます。また、委任の解除が自由であるのかどうか、民法の委任の規定がそっくりそのまま適用されるのかということになりますと、お話しのような売り主と買い主との利害が結びつき合って相互に関連をしているようなときにはこの解除の自由が制限されるという解釈が一般にとられておるようなことでございまして、そのような委任に関する民法の解釈がこの場合に適用されていくのではなかろうかというふうに思っております。
  • 162 山田英介発言URLを表示○山田委員 局長、僕はそういうことを伺っているのではないですよ。僕の言っていることを全然御理解いただいていないようなんですけれども、繰り返して言うことは避けますが、そういうことを私は御答弁いただきたいと思っているのではないのです。そうではなくて、もっと大方針にかかわる問題なんです。あなたのおっしゃっているのは枝葉末節のことなんです。もっと大きく、不動産登記システム、制度の意義というものをもうちょっと大きくとらえた上での御答弁をぜひお願いしたいと私は思います。結構です、局長さん。大臣ひとつ。
  • 163 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 登記というものが第三者に対する対抗要件、こういうことで位置づけられてきまして、今まで伝統的にそういうことになってきておるわけであります。しかしながら、時代が進んでまいりまして不動産の価値の重要性というものが非常に大きくなってきておりまして、登記によりまして不動産そのものを知りたい、あるいはまた商業登記は特にそうでありまするが、会社の実態を知りたいとかそういうことになり、登記というものが非常に重要になってきておると存じます。そういうときに当たりまして登記の持つ根本的な性格をどういうふうに考えていくかということが重要な問題であると存じまして、これからさらに検討を深めてまいりたいと存じます。
  • 164 山田英介発言URLを表示○山田委員 ですから、こういうふうに理解してよろしいのでしょうか。要するに、登記の真正確保ということは不動産公示制度の極めて根幹にかかわる大きな理想であり、理念であり、目的である。それを確保するためには、現在各制度が抱えているいろいろな弱点とか欠陥とかいうものをカバーしていく手段というものを考えなければいけない。それはきっと幾つかあるのだろう。その中の一つが登記代理の概念の明確化であり、その一つがまた登記代理人の方法である。それだけとは言わない。幾つかあるだろう。しかし、現時点でそれもその中の検討課題の一つであることはそのとおりだろう、こういうふうに理解してよろしいのでしょうか。一言、済みません。
  • 165 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 私の言わんとするところを先生が皆おっしゃっていただきました。まことにそのとおりだろうと思います。さらに検討してまいりたいと存じます。
  • 166 山田英介発言URLを表示○山田委員 さっき民事局長さんの御答弁の中で、弁護士会とあるいは業際問題にまで紛争が激しくなってしまうかもしれない、それがいわゆる司法書士に登記代理権を与えることのできない一つの理由として局長はおっしゃいました。  では、今例えば司法書士団体、日本司法書士会連合会と日弁連、弁護士の集団の執行部の皆さん、あるいは執行部だけとは限りませんが、いろいろなお話し合いがなされておる。お互いに法律事務あるいは法律関連事務、膨大な需要があるわけですから、それをひとり例えば弁護士の皆さんだけでとてもとてもすべてをカバーすることはできない。そこに登記事務を中心として司法書士の一つの法律事務あるいは法律関連事務の担当分野というものがある。その交流といいますか、いろいろな話し合い、研究、勉強会の中で、仮に登記の分野については、これは司法書士が専門的な知識を有し、歴史も持っておる、この分野については例えば不動産登記法上に登記は司法書士ならざれば代理人となることを得ず、あるいは加えて、ただし他の法律に別段の定めがある場合は除くというようなことで、仮にそこである程度理解ができたと仮定して、仮定の問題、そういう話し合いというものはものすごく大事でございますから積み上げていく、そこに信頼関係が出てくる、お互いがお互いをよく理解していくこともできてくるというその延長線上、その結果として局長のおっしゃる業際問題というものが激化するのじゃなくて、それが本当にお互いの理解の中で不登法の中に登記代理権という形であるいは代理人という形で司法書士が原則的に、基本的に規定されていくことは、まあそういうことだろうということになった場合には、これはどうなんですか。局長さんのところではそのときにはどういうふうにするのですか。
  • 167 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 業際問題は一つの理由として申し上げたわけでございますが、それでも弁護士団体と司法書士団体との間で話が仮についてそこが解決したとなりますと、それは一歩前進でございます。それ以外の団体あるいは国民の世論の動向を考える上での、一つの重要な材料にはなろうかと思います。
  • 168 山田英介発言URLを表示○山田委員 局長がおっしゃる国民のコンセンサスができていない。それができてくれば、裏にして読めば国民のコンセンサスができてくれば、司法書士登記代理人の法制化あるいは登記代理権の概念の明確化ということはできるわけですね。やろうというつもりである、裏返して読めばそういうことですから、国民のコンセンサスがないから現時点では無理ですとおっしゃるのですから、国民のコンセンサスができてくれば、不登法上に司法書士、登記代理人、あるいは登記代理権の概念の明確化ということはできるというふうに受け取らざるを得ないわけですが、その点ちょっと確認をさせていただきます。
  • 169 稲葉威雄発言URLを表示○稲葉政府委員 そういう独占性を与えるということになると、それは何らかの公益上の必要性が要るということになろうかと思います。そして、それは多分登記の信用を確保するということになるのだろうと思いますが、一方では、国民の間では、非常に登記権利者と登記義務者が知り合っている、そしてよくわかっていて、それが非常に私的な関係で信頼する第三者に登記の代理をさせるということを禁止する。先生は先ほど、そういうときには教えてもらえばいいじゃないかということをおっしゃいましたけれども、本人申請の形をとらなければならないのだ、そういう私的な場合において、当事者の信用は当事者間で考えてみれば全く害されるはずはない。確かに司法書士を登記代理人に選任すれば、それだけ当事者の権利は守られるというふうに私ども考えておりますし、そのことは望ましいことだというふうに思っておりますけれども、当事者がそういうシチュエーションにない場合にあえてそういうことをさせるということのコンセンサス、国民の理解が得られるかどうかということは、今後慎重に検討してまいらなければならないのではないかというふうに思っております。
  • 170 山田英介発言URLを表示○山田委員 今あなたがおっしゃったコンセンサスも含めて、コンセンサスが得られればやるということでしょうかと聞いているのですよ。そうとらざるを得ないでしょう。
  • 171 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 そのような意味での国民的合意が得られたならば、おっしゃるようになるであろうと思います。
  • 172 山田英介発言URLを表示○山田委員 今審議官が私のさっきの発言を引いて、それではそれは知識のある人に教えてもらえばいいじゃないか、頼まれた人の申請行為を締め出すということはよくない。それはそれなりの理屈はあると思います。ただ、皆さん弁護士法と横断的に論じられるのですから、僕も横断的に論じれば、例えばそれは登記所長の許可を得てやることができる、これは閉ざしていることにはなりません。それだってできるじゃないですか。
  • 173 稲葉威雄発言URLを表示○稲葉政府委員 もう一つの問題は、訴訟行為と登記申請行為と同視できるかどうかということでございまして、訴訟行為の場合には一つは連続的なかなり長期にわたる行為であるということと、それから裁判所が迷惑するということがあるわけでございます。裁判所が迷惑するということは、訴訟遅延を通じてほかの関係人が迷惑する、こういう論理構成で専門家に頼みなさいということをやっているのだろうと思いますが、それと同じことが登記申請の場合に完全に言い切れるかどうか。かなり一回的な行為であるということもございますし、専門性の程度というものあるいは登記所の迷惑の程度というものもいろいろ考え方があり得るだろう。そういう点が、先ほど先生がお引きになった登記代理権の終了事由と申しますか、そういうものの明確化について必ずしも訴訟法と同じようなやり方ができるかどうかということの判断にも結びつくわけでございまして、そういう問題があるということだけ申し上げておきたいと思います。
  • 174 山田英介発言URLを表示○山田委員 こう言えばこう言う、ああ言えばこう言うであれなんですけれども、結局、簡易裁判所において非弁護士でも訴訟代理人になれる。しかし、実際の運用では、極めて限られた例外を除いては本人申請あるいは結局弁護士を訴訟代理人に頼まなければならぬ。それは裁判所の運用なわけでしょう。要するに許可するかしないかですから、許可を得てだから、しなければ簡裁でも訴訟代理人になれないのです。実態は、要するに本人訴訟かあるいは弁護士に訴訟代理人になってもらうかしかない。実態はそうなっているということを僕は申し上げました。  
  • それでは、今度は訴訟の代理の場合と登記申請手続の代理の場合とは、いわゆる稽留するというのでしょうか、要するに事案がそこにとどまる期限が長いとか短いということを基準にして分けられましたけれども、長ければどうなのか。登記申請は確かに一般的に考えて訴訟事件と比べれば短く完了するでしょう。しかし、訴訟期間が長いからといってそれはできるだけ弁護士に、こっちは短いからといってそれは別に構わないじゃないか、一般の国民で頼まれた者がやるということを許しておいても構わないじゃないか、そうはならないでしょう。そういう理屈だけでは私はよく理解できないわけでございまして、そうではなくて、不動産登記というのは確かに申請手続そのものは一定の様式に従ってやれば済むことですよ。しかし、その実体関係というものに目を転じてみたら、これは実に莫大ないわゆる経済的な価値、価額というものが移動するわけです。それほど国民の基本的な財産権というものを動かすわけです。 ただ単にAからBに初めて何千万円でこの土地を売ったという登記だけじゃないわけでしょう。そういう登記の申請書の作成とかいうことは、なるほど審議官おっしゃるように一定の知識があればできることでしょう。しかし、それでもって非司法書士でもどうしてもやらせる道をあけておかなければならぬとするには、余りにもそれは我が国不動産取引の世界における実態に目をつぶった、そして実体関係を間違いないものに調査をして登記簿に反映させるという観点からしたら、それは非常に目をつぶられた、そういう立場における御答弁に思えてなりません。したがって、登記代理権というものの概念の明確化、これは取引の混乱を防止する、権利者の権利を守るという要請からして必要である。  それから、冒頭私が十問ぐらいのやりとりの中で確認をさせていただいたように、国が司法書士法を制定してそしてその登記申請手続を司法書士に代理をさせるということ、さっき独占的にと申し上げましたが、業としては独占的に司法書士に取り扱わせることにしたのは、まさに国が、この不動産の取引については相当の法律的な素養を持ち、あるいはまた能力を持つそういう有資格者に扱わせることがかえって国民の利益となり、あるいは権利保全のためによろしいことなのだという発想のもとで司法書士法というものを置かれたということからしても、この制度の発展あるいは制度の改善、補強というような立場からこの問題を考えたときには、それは実際に法律を変えるなどということはいろいろ難しいことはあるのでしょう。これは大変な作業であり、そしてまた一つ一つに大変難しいことであるということは、私もまだ三期しか当選したことはありませんけれども、それはここに身を置いて活動していてよくわかります。  ただ、私が心から申し上げたいことは、大変だ、あるいはいやそれはということで、できないできないできない、これが問題だ問題だ問題だだけを幾ら指摘をしても、実際にこの我が国の不動産公示制度は一歩も前へ出ないということになります。したがって、できないできない、難しい難しい、こうだからああだからだめなんだという、そういうことではなく、それは私の言っていることも随分乱暴なこともあるのかもしれません。私は、でも自分で勉強してみてこういうことなんだなと思うから申し上げているわけですが、皆さんが聞いていて、それは乱暴だよ、無理だよというのがあるのかもしれませんよ、それは。けれども、それだけを指摘するにとどまっていたら、我が国の不動産公示制度というものが前進するのですか。それだったら、もしそうおっしゃるのであれば、私は民事局長さんにも、それから稲葉審議官にも、我が民事局は不動産公示制度をより一層前進させるためにこういうプランを持っておりますということを私の前で国民の前に提示してもらわなきゃならない。それすら出ていないじゃないですか、具体的に。そして私が申し上げていることを一つ一つ、これは難しい、これはこうだ、こっちの角度から見ればこうだ、それでは私はいかがなものかな。  残り時間あと三分ですけれども、もしあるのだったらおっしゃってください。なければ結構です。今言えないというのだったら結構です。ただしかし、私は少なくとも我が国の公示制度を本当に中身のある、権利変動の真実を反映した登記というものを実現するために、ひいては国民の信頼というものを一層登記制度にかち得ていく、そういう目標のもとに少なくとも今登記代理人制度というものを考えなきゃならぬのじゃないですか、あるいは代理権限の概念を明確化しなければならないんじゃないですかと私は具体的に申し上げている。  
  • きょうは時間がありませんから、私また次の定例日の審議のときにあと質問をさせていただけると部会長から伺っておりますので、またそのときに伺いたいと思いますけれども、ひとつ公示制度を充実させ、前進させるために法務省がこれとこれとこれをやりたいというものがあったら、ぜひ示していただきたい。なければ私どもの言うこともやはりそれなりの立場で、それなりの姿勢でお受けとめいただかなければ困るのじゃないか、私はそのように思うわけでございます。私は、実はそういうことで質問を二日に分けてさせていただく機会をいただいておりますから、きょうはこの登記代理権とそれから代理権限の明確化というテーマが一本、それからそれに関連をしますけれども、我が国の登記制度の本当に根幹として要求されている登記の真正確保のためにはどうしたらいいかという、この部分についてもう一本やろうと思いましたけれども、前者の一本だけで大体時間でございますので、次の審議のときにぜひ残余の質問はさせていただきたいと思っております。  
  • 私の質問を終わるに当たりまして、大臣に今までの民事局長さんあるいは稲葉審議官さんとのいろいろなやりとりをお聞きいただいていて、大臣からひとつ我が国登記制度発展のための御決意と、それからまたその最も内側にいてこの制度を登記官とともに支えている、一方の当事者となっている司法書士の将来について、法務大臣ひとつさらにこの司法書士職能団体をぜひ見守っていただきたいし、いろいろとまた御指導もいただかなければならぬでしょう。そしてまた、いろいろと将来この不動産登記制度というものを前進させるためにともどもにやっていかなければならない部分も当然あるわけでございますので、そういうような観点も含めて御決意並びに御所見をお伺いいたしまして、私の質問を終わりたいと思います。大臣、一言どうぞお願いします。     〔井出委員長代理退席、今枝委員長代理着席〕
  • 175 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 登記制度が不動産の価値の表示、またいろいろな契約の上におきましても極めて重要なものであるということを、さらに認識を深めたのでございます。先生方の今朝来のいろいろな議論によりまして、司法書士の制度につきましても、これまた登記を行うに当たりまして登記が真正な登記として行われまするために極めて重要な制度であるということも認識をした次第でございまして、司法書士法におきましては、ほかの法律で規定してある場合は別といたしまして、司法書士でなければ登記の代理を業務として行うことはできない、かように書いてあるわけでありまして、司法書士は極めて重要な仕事を行っていただいておるということであろうと存じます。さらにこれから登記につきまして研究を深めてまいりまして、その際におきまする登記の代理制度につきましても検討を深めてまいりたいと存じます。
  • 176 山田英介発言URLを表示○山田委員 終わります。どうもありがとうございました。

6月相談会のご案内ー家族信託の相談会その44ー

お気軽にどうぞ。

2022年6月24日(木)14時~17時
□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円
場所
司法書士宮城事務所(西原町)

要予約
司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

沖縄県内の民事信託の現状・展望・課題修正1

那覇支部 宮城直

民事信託[1]に関する委員会や、民間団体の役職などに所属していない一司法書士の私見です。

1 現状

(1)金融機関

信託法34条の分別管理義務として信託財産に属する金銭の管理に必要な、信託口口座[2]の開設に関係する、金融機関の現状について私が把握している情報です。

(株)琉球銀行について、2017年に信託口口座の開設を確認しています。2018年に(株)沖縄銀行、(株)沖縄海邦銀行に関して開設を確認しています。コザ信用金庫、沖縄県農業協同組合その他の金融機関に関しては把握していません。会員の方で情報を持っている方がいらっしゃれば指摘願います。なお、2018年に(株)琉球銀行は、当会会員である司法書士法人みつ葉グループと民事信託分野にて業務提携[3]、(株)沖縄銀行については県内司法書士と業務提携[4]を行っているようです。

(2)公証センター(公証人役場)

現在の実務の現状として、金融機関において信託口口座を開設するためには、信託行為を公正証書にする必要があります。沖縄県内で、信託行為が年間どのくらい公正証書にされているのか、件数を把握していません。

全国的な統計[5]として、2018(平成30)年2,223件、2019(平成31)年2,974件、2020年2,924件という数字があります。ただ、この数字を人口割合や世帯割合で割れば、沖縄県に当てはめられるかというと、私には分かりません。他に(株)三井住友信託銀行[6]、(一社)家族信託普及協会[7]などが公表している数字がありますが、現在の沖縄県にそのまま当てはめるのは難しい[8]のではないかと思います。

公証実務は、元公証人の遠藤英嗣弁護士の書籍、研修の考えが中心になっていると思われますが、全てについて正しいのかというと、私には分かりません。

(3)判決

信託法(平成十八年法律第百八号)施行後の主な判決です。

・令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件

・令和2年12月24日東京地方裁判所判決

・令和2年10月30日札幌地方裁判所判決平成30(ワ)1940詐害信託取消等請求事件

・平成31年1月25日東京地方裁判所判決平成29年(ワ)第32855 号信託契約有効確認請求事件

・平成30年9月12日東京地方裁判所判決平成27年(ワ)第24934号信託契約有効確認請求事件

・平成28年10月19日東京高等裁判所判決

・平成25年4月3日名古屋高等裁判所判決平成20年(行ウ)第114号 贈与税決定処分取消等請求事件

(4)実例・経験談

私のみの経験ですが、目的としては認知症対策が大部分を占めます。信託財産に属する財産は、金銭、委託者が経営する法人の株式等、自宅や収益不動産、区画整理予定の土地を含む不動産が主です。数として少ないのが受益権の売買・贈与です。目的として認知症対策が多い反面、認知症等のために信託公正証書の作成が間に合わなかった事例が同じ位の件数あります。

2 展望

私見です。沖縄県は、2018年までならば、実務、理論ともに全国で1番になる可能性があったと思います。2022年現在ではありません。2015年から県内金融機関を回り、2018年に沖縄県で(一社)家族信託普及協会から、専門家向け講座開催、(株)琉球銀行・(株)沖縄銀行を繋げて市民向け講座を開催するまでは出来ました。そのあと私から、講座に参加していた司法書士をはじめとする各専門家や金融機関関係者に対して、(一社)司法協会の研究助成に採択されたので、業界関係なく共同研究の形にして一緒にやらないか、参加の声掛けをしましたが、参加される方はいませんでした。2018年、沖縄県で業界や学会の垣根を超えた民事信託の研究・実践団体、勉強会が結成されていた場合、現在、(一社)民事信託推進センターが行っていることなどは、自前で可能だったと考えます。この時点で、それぞれ事務所、会社、金融機関の利益のために動くことになりました。

現状、例えば金融機関提携の専門家の下で家族信託・民事信託が設定された場合、利益の一部は東京都などの専門家(団体)に流れていきます。この流れが止まることは、ないと思います。現在、士業間ビジネスが活発です[9][10]。毎月3,000円~数万円の年会費、月会費を支払う固定費型のシステムのため、この流れも少なくとも数年は止まらないのではないかと思います。その他の民事信託を専門としている士業のホームページを覗いてみると、信託契約書のチェックなどで数万円というのは珍しくないと思います。故石川義博司法書士を知っている身としては、寂しい状態ですがそういう時代だと諦めます。

各司法書士会員の皆様には、業務の選択肢の1つとして考えていただければ良いのではないかなと思います。第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年3月25日閣議決定)、民法(相続関係)改正その他の関連する新法施行[11]など、利用を検討する場面は多くなるのかもしれません。

民事信託・家族信託の書籍を開くと、奥が深い、日々変わっていく、失敗事例の指摘など、今までの法律書にはないような言葉が並びますが、成年後見関連業務をはじめ不動産・商業法人登記についても、司法書士業務で簡単な業務はないと思います。

3 課題

個人的に課題は一点であり、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の改正[12]です。法令改正が可能になるまでは、日本司法書士会連合会における本人確認規定の改正、それが出来なければ県司法書士会における本人確認規定の改正による対応です。

沖縄県司法書士会についてもう少し踏み込んで書くとすれば、私がこのような記事を書いている現状だと思います。本来であれば、より多くの情報や経験を持っていると考えられる民事信託委員会の会員、金融機関や不動産事業者と提携している司法書士会員が書くような記事だと考えます。

今後の沖縄県の司法書士業界における民事信託への取組み、関わり方については、私は金融機関への提案や共同研究の呼びかけなど、出来ることはやったので、思い浮かびません。また、現在何かしらの人脈や肩書を持っている立場にもなく、個人としての力もありません。社会のニーズは、高齢化社会において、一定数はあるのではないかと思います[13](あえて挙げるとすれば自己信託。)。研鑽等は、他の法改正の度に行っている方法で足りると思います。  

成年後見制度が始まった際、当初は手探り状態から経験を積んで始まり、今も進行中だと思います。そのような意味では、(公社)成年後見センター・リーガルサポート沖縄支部の取組みは参考になるのではないでしょうか。個人としては、共同研究したいという方がいらっしゃれば、司法書士であるか否かを問わず、出来る範囲で行っていきたいと思います。

 


[1] 大垣尚司、新井誠『民事信託の理論と実務』平成28年日本加除出版P2「委託者以外の物が尾受託者となる信託行為(他社信託)のうち、信託(受託者)の引受けが営業としてなされる結果商行為となる信託行為(協議の商事信託または営業信託【商法502条1項13号】)以外のもの(民事他者信託)と委託者が受託者となる信託行為(自己信託)のうち、信託業法に基づく登録(信託業法50の2条)が不要なもの(民事自己信託)、ならびに、営業として信託の引受けにあたるが、信託業法に基づく免許・登録(信託業法3条、同法7条)が不要なもの(適用除外信託、信託業法2項1項括弧書、信託業法施行令1の2条)の3つの信託の思総称。

[2] 『家庭の法と裁判』35号、2021年2月日本加除出版P141、P142「【1】受託者を預金者とし、【2】外観上、当該受託者個人の名義と区別できる表示が付され、【3】当該金融機関において、内部システム上、当該受託者の個人名義の預金口座(固有財産に属する預金口座に係るCIF(Customer Information File。顧客ファイル)コードとは別異のCIFコードが備えられる、内部手続上、当該預金口座とは異なる取扱いがされる旨の規定が設けられるなど、当該預金口座から分離独立した取扱いがされる預金口座)。」

[3] 司法書士法人みつ葉グループHP2019.07.31「お知らせ琉球銀行と業務提携へ」https://minjishintaku-kazokushintaku.com/news/669

2022年4月22日閲覧

[4] 『家族信託実務ガイド』第25号2022年5月、日本法令、司法書士・家族信託専門士宮城拓「私はこうして家族信託に取り組んだ」

[5] 『家庭の法と裁判』35号、2021年2月日本加除出版、藤沢公証役場公証人金子順一「公証役場からみた民事信託」

[6] 『ジュリスト』2018年6月(株)有斐閣、八谷博喜「家族を受託者とする信託」

[7] 『家族信託実務ガイド』第25号2022年5月、日本法令、(一社)家族信託普及協会事務局「実態調査家族信託最新情報~一般社団法人家族信託普及協会『Fact Book2021』より」

[8] (株)三井住友信託銀行については沖縄県内に実店舗を開設していないため、(一社)家族信託普及協会については、自己申告のため。

[9] 信託の学校、月3,500円(税抜)相談は別途費用が発生。https://schooloftrust.com/ 2022年4月23日閲覧

[10] (一社)家族信託普及協会専門士サポートサービス月11,000円

[11] 民法等一部改正法令和5年4月1日、相続土地国庫帰属法令和5年4月27日、相続登記義務化関係の改正について令和6年4月1日

[12] 駿河台法学第34巻第2号金森健一弁護士「司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論について~(続)民事信託業務の覚書~―「民事信託」―実務の諸問題(5)」、平成29年(2017年)6月日弁連信託センター設置、2020年(令和2年)9月10日信託口口座開設等に関するガイドライン制定、https://www.nichibenren.or.jp/activity/civil/trust_center.html

2022年4月23日閲覧、(株)三井住友信託銀行「弁護士紹介制度」https://www.smtb.jp/personal/entrustment/introduction/lawyer

2022年4月23日閲覧

[13] 『市民と法121号 2020年』「民事信託に関するアンケート調査」(株)民事法研究会

民事信託の登記の諸問題(9)

 登記研究(891号、令和4年5月、(株)テイハン、P31~ の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(9)」)について、考えてみたいと思います。

所有権に関する信託登記における信託目録の内容の法的性格については、三つの考え方がありうる。一つ目は、処分制限の登記の一種であるという考え方(処分制限登記説)、二つ目は、賃貸借の登記などと同様、債権の登記の一種であるという考え方(債権登記説)、三つめは、処分制限の登記、債権の登記、所有権の特約の登記の性格その他がその他が混在しているとする考え方(多元的登記説)である。―中略―第三の多元的登記説をもって正当としよう。



 処分制限登記説、債権登記説、多元的登記説の説は、今までも使われていて、今後も使われていくのでしょうか。私は初めて知りました。
多元的登記であるということについて、同意です。

事業用定期借地権の例

目的 借地借家法第23条第1項建物所有

特約 譲渡・転貸ができる

   借地借家法第23条第1項の特約


 登記原因で認められない譲渡、については売買契約でも贈与契約でも、名義が変わる、という意味で使われているのかなと思いました。

また、法令上、内容が具体化・特定された特約は、法令名(条文番号)の公示で足りるとしている登記先例の趣旨も参考となる。上記を参考とすれば、例えば、次のような信託目録の要約例(あくまで参考例の一つ)がありうる。

4 信託の条項
2.信託財産の管理方法
(1)受託者の権限
信託不動産の管理及び処分
信託不動産のための借入
信託財産責任負担債務のための抵当権の設定
信託法26条のただし書きの特約
抵当権の設定には受益者の承諾を要する

 条文番号が変更になった場合、効力は改正法令の附則、変更登記義務については通達に委ねられることになるのかなと思いました。
信託不動産のための借入、というのは、信託財産に属する不動産の修繕などのための借入れという意味なのか、よく分かりませんでした。
また借入れは、信託財産に属する金銭の管理方法であり、信託財産に属する不動産の信託目録に記録する事項なのか、分かりませんでした。借入れる際は、信託行為の記録を金融機関に審査してもらえば足りるのではないかと思います。

加工複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00307.html

共有私道の保存・管理等に関する事例研究会第3回

2 配付資料

 資料1-(1) 共有私道ガイドライン改訂案(総論部分)

 資料1-(2) 共有私道ガイドライン改訂案(ケーススタディ1~10)

 資料1-(3) 共有私道ガイドライン改訂案(ケーススタディ11~27)

 資料1-(4) 共有私道ガイドライン改訂案(ケーススタディ28以降)

 資料1-(5) 共有私道ガイドライン改訂案(ライフライン追加事例)

(第2版)

令和4年●月

共有私道の保存・管理等に関する事例研究会

初版

はじめに

 近年、所有者を特定したり、その所在を把握したりすることが困難な、いわゆる所有者不明土地への対応は、公共事業の用地取得や、農地の集約化、森林の適正な管理を始め、様々な分野で問題となっている。

 市街地においてしばしば見られる、複数の者が共有する私道(共有私道)についても、補修工事等を行う場合に、民法の共有物の保存・管理等の解釈が必ずしも明確ではないため、事実上、共有者全員の同意を得る運用がされており、その結果、共有者の所在を把握することが困難な事案において、必要な補修工事等の実施に支障が生じているとの指摘がされている。

 「経済財政運営と改革の基本方針2017」(平成29年6月9日閣議決定)等においても、所有者を特定することが困難な土地の適切な利用や管理が図られるよう、共有地の管理に係る同意要件の明確化等について、関係省庁が一体となって検討を行うこととされたところである。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2017/decision0609.html

 本研究会は、こうした動きを踏まえ、平成29年8月から、複数の者が共有する私道の工事の同意の取付け等に関して、共有者の所在が不明であるために支障が生じている具体的な事例を、自治体やライフライン事業者からのヒアリング等を通じて収集・整理するとともに、民法や各種法令において同意を得ることが求められる者の範囲を明確化するための検討を進めてきた。

 その結果、共有私道の工事を行う際に、共有者の一部の所在を把握することが困難な事案において、工事の可否が判断できないために、他の共有者に支障が生じるだけでなく、私道が、一般の通行の用に供されたり、各種ライフラインを設置されたりする公共的な性質を有しているため、自治体やライフライン事業者にとっても、補助金の支給や工事の実施において支障となっていることが明らかになった。また、こうした支障は、私道が、民法上の共有(共同所有)関係にある場合だけでなく、近隣の宅地所有者が、単独で所有する土地を相互に提供し合う場合も、同様に発生し得ることが判明した。

 もとより、民法等の民事基本法の解釈適用は、個別具体的な事案の内容に応じて裁判所において適切に判断されるべきものであるが、私道の共有者又は所有者の一部が所在不明である場合に、工事を実施するかどうかについては、緊急性が低い間は、全員同意が得られないために放置され、緊急性が高まった段階では、法的手続をとる暇もなく工事を断行せざるを得ないという傾向があるため、必ずしも裁判手続が用いられず、裁判例の集積がされにくいと考えられる。

 このような共有私道に特有の性質に鑑みると、工事の可否の判断にとって最も有用なものは、発生する頻度の高い支障事例についてのケーススタディであろう。

 そこで、本研究会は、ヒアリング調査の結果を踏まえ、発生する頻度が比較的高かった支障事例を中心として、合計4回にわたって研究会で集中的に議論を行った。このガイドラインは、そうした議論の結果を踏まえて、厳選された35件のケーススタディを通じ、共有者又は私道の所有者の一部が所在不明な場合に、工事の可否を判断する指針を示そうとするものである。

このガイドラインが、私道を複数名で共有する方々をはじめ、行政、司法、ライフライン事業等の関係者に広く参照されることを期待している。

共有私道の保存・管理等に関する事例研究会座長松尾弘

★目次は、内容が確定した後に更新予定

目次

第1章共有私道とその実態………..5

1共有私道の意義…………………..5

⑴私道とは…………………………5

⑵共有私道の意義…………………..5

2実態調査(平成29年度)…………………6

⑴地方公共団体へのアンケート調査……………6

⑵ライフライン事業者からのヒアリング………….6

⑶具体的支障について………………………..8

⑷不動産登記簿における相続登記未了土地調査について……………8

第2章共有私道の諸形態と民事法制……………………..11

1民法上の共有関係にある私道(共同所有型私道)…………….11

⑴私道の所有形態………………………..11

⑵共有者間内部の法律関係……………………11

⑶共同所有型私道の使用・管理に関するルール……………….12

ア使用……………………………..12

⑷所在等不明共有者がいる場合における共同所有型私道の変更・管理……14

⑸賛否不明共有者がいる場合における共同所有型私道の管理…………17

⑹私道が遺産共有されている場合について………………….19

2民法上の共有関係にはない私道(相互持合型私道)……………20

⑴私道の所有形態…………………………………20

⑵法律関係……………………………………..21

⑶通行地役権の内容及び効力……………………………..22

3団地の法律関係…………………………………………..22

⑴共同所有型私道と団地……………………………………22

⑵団地における法律関係と共同所有型私道の工事への活用………24

⑶団地管理組合の集会の手続(【図3】参照)…………………..25

4財産管理制度等……………………………………..29

⑴不在者財産管理制度……………………….29

⑵相続財産管理(清算)制度………………….33

⑶会社法等に基づく清算制度…………………..41

⑷所有者不明土地管理制度……………………….41

コラム:改正民法④…………………………………………..48

コラム:改正民法⑤………………49

凡例

法令名の記載については、以下の例による。

改正法民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)
民法改正法による改正のない民法(明治29年法律第89号)の規定及び、改正に関係なく規定を示す場合
改正前民法改正法による改正前の民法
改正民法改正法による改正後の民法
非訟事件手続法改正法による改正のない非訟事件手続法(平成23年法律第51号)の規定及び、改正に関係なく規定を示す場合
改正前非訟事件手続法改正法による改正前の非訟事件手続法
改正非訟事件手続法改正法による改正後の非訟事件手続法
特措法所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号)
特措法改正法所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和4年法律第○号)
改正後特措法所有者不明土地特措法改正法による改正後の所有者不明土地特措法

1共有私道の意義2

⑴私道とは

 私道については、法律上明確な定義がないが、大別すると、①公道の対立概念としての私道という意義と、②私人が所有する道路という意義とがある。①については、道路法上の道路を公道とすれば、高速自動車国道、一般国道、都道府県道及び市町村道以外の道が私道となり、国や地方公共団体が所有する道路法上の道路以外の道も私道に含まれることになる。また、②については、私人が所有しているが、道路法等の法令に基づいて国や地方公共団体により管理されている道も私道に含まれることになる。

 このように、①②のいずれの定義をとるにせよ、私道が、国や地方公共団体の管理に服する場合があり得るが、こうした公的な管理がされる場合には、民法等の解釈を待つまでもなく、補修工事等が可能であり、問題は少ないといえる。

 また、宅地の敷地内にある通路も、私道の一種ととらえることが可能であるが、一般の用に供されていない通路の管理は、宅地そのものの管理の問題といえる。これに対し、一般の用に供されている通路の管理については、その公共性に鑑み、地方公共団体が助成制度を設けるなどしていることとの関係で、特有の複雑な問題を生じさせるといえる。

 そこで、本研究においては、主として「国や地方公共団体以外の者が所有する、一般の用に供されている通路であって、法令上、国や地方公共団体が管理することとされていないもの」を対象として調査研究を行った。

⑵共有私道の意義

 市街地における私道の実際を見ると、複数の者が私道を所有する場合には、 ①私道全体を複数の者が所有し、民法第249条以下の共有(共同所有)の規定が適用されるものと、②私道が複数の筆から成っており、隣接宅地の所有者等が、私道の各筆をそれぞれ所有し、相互に利用させ合うものがある。

地方公共団体やライフライン事業者からのヒアリング調査結果によれば、私道の管理に当たっては、これらのいずれについても、民法等の解釈が問題となり得る。

そこで、以下では、上記①を「共同所有型私道」と、上記②を「相互持合型私道」と呼んで区別し、これらを併せて「共有私道」と呼んで検討を行うこととする。

2実態調査(平成29年度)

⑴地方公共団体へのアンケート調査

所有者不明土地問題は、東日本大震災の復興の過程で顕在化し、対策が進められてきたが、特に市街地においては、共有私道の工事に当たり、所在不明などの理由で共有者全員からの工事の承諾を得られず、私道の補修工事を実施できないなどの支障が生じていると指摘されている。

もっとも、私道については、建築基準法における接道義務に関連して一定の法律上の規律がされているものの、断片的なものにとどまり、その実態は必ずしも明らかでない。

そこで、共有私道の実態を把握するため、関係機関の協力を得て、地方公共団体に対し、私道所有者の一部が所在不明であることに起因する共有私道の管理等に係る支障事例につきアンケート調査を実施することとした。

アンケート結果は、後記【表1】のとおりであり、舗装新設、老朽舗装、景観舗装、階段、側溝、ゴミ集積所、水道管、下水管の整備等につき支障事例があることが判明した。とりわけ、舗装新設、老朽舗装、側溝、水道管、下水道管の各類型の支障事例が多数存在することも明らかになった。

このアンケート調査の回答を踏まえて、地方公共団体から追加でヒアリングを行い、具体的事情の把握に努めた。

⑵ライフライン事業者からのヒアリング

また、共有私道には電気事業者の電柱やガス事業者のガス管等のライフラ20 イン設備が設置されており、これらの設置及びメンテナンスの際に、共有者 の一部が所在不明である私道につき工事の支障が生じている可能性があることから、電気、ガスの事業者等からヒアリングを実施し、具体的な支障事例を収集した。

【表1】共有私道の管理等に係る支障事例の調査について

○ 127の自治体(東京都特別区(23)、政令指定都市(20)、その他の市(84))を対象に共有私道の管理等に係る支障事例のアンケート調査を実施。

○ 各自治体は,私道整備等のための助成制度を運用するに当たり、共有私道の所有者からの同意が得られず,助成実施に支障が生じた事例や住民から相談等を受けた事例があれば,下記①~⑨の各区分ごとに,「○」(該当事例あり)ないし「◎」(該当事例多数あり)で回答。

⑶具体的支障について

以上の結果、次のような支障が生じていることが判明した。

ア多くの地方公共団体が私道整備に助成金を支出しているところ、民法の共有の規律が具体的にどのように適用されるかが必ずしも明らかでないこともあり、助成の条件として、原則、私道所有者全員の工事の同意を要求していることが多い。

そのため、私道共有者の一部の所在が不明である場合には、私道整備助成の申請を却下せざるを得ない。ところが、助成金なしでは、私道所有者の費用負担が重く、必要な工事を実施するのが困難となる場合が多い。

イ 私道は、道路として一般の交通の用に供され、公共性を有していることから、路面が陥没するなど通行に著しい支障が生じた場合には、私道所有者全員の同意が得られないときであっても、私道の安全確保のため、地方公共団体の負担で簡易な工事を実施したり、陥没部分に鉄板を乗せたりするなどの応急補修を行うこともある。しかし、私道は所有者が管理すべき土地であり、どのような場合に応急補修を行ってもよいか、判断に躊躇を覚える。

ウ ライフライン事業者は、共有私道に設備を設置したり、私道内の設備を補修したりする場合には、共有私道の工事が民法上の共有物の保存、管理に関する事項、変更ないし処分のいずれに該当するかが必ずしも判然としないこともあり、私道所有者全員からの同意がなければ工事を実施しないのが原則である。そのため、私道所有者の一部が所在不明であれば、設備維持のために必要な工事を実施できず、住民の安全性の観点から望ましくない状態が生じている場合がある。

エ 地方公共団体が私道を工事するに当たり、私道所有者の一部が所在不明である場合に、地方公共団体の職員が本来業務の合間に所在不明者を探索25 しなければならず、探索に伴う多大な金銭的・人的・時間的コストが生じている場合がある。

⑷不動産登記簿における相続登記未了土地調査について不動産登記簿における相続登記未了土地に関する調査の結果は、後記【表29 2】のとおりである。

法務省においては、平成29年6月、全国10か所の地区(調査対象数約1031 万筆)で相続登記が未了となっているおそれのある土地の調査を実施し、その結果を公表している。これによると、大都市においては、①最後の登記から90年以上経過しているものが0.4%、②最後の登記から70年以上経過しているものが1.1%、③最後の登記から50年以上経過しているものが6.6%であった。また、中小都市・中山間地域においては、①最後の登記から90 年以上経過しているものが7.0%、②最後の登記から70年以上経過しているものが12.0%、③最後の登記から50年以上経過しているものが26.6%であった。

今般、本研究会の実施に当たり、上記調査の対象土地のうち、地目が道路であるものを改めて集計したところ、大都市においては、①最後の登記から90年以上経過しているものが0.8%、②最後の登記から70年以上経過しているものが2.1%、③最後の登記から50年以上経過しているものが5.5%であった。これに対し、中小都市・中山間地域における道路については、①最後の登記から90年以上経過しているものが9.8%、②最後の登記から70年以上経過しているものが15.7%、③最後の登記から50年以上経過しているものが31.2%であった。

以上によると、特に、中小都市・中山間地域の私道においては、相続登記が未了となっているおそれのある土地の割合が高く、遺産共有状態となっている場合も多いものと推測できる。

こうした私道について、工事等を実施する際には、共有物の保存・管理等に関する解釈を明確化することが極めて重要であることが明らかになった。

【表2】2

不動産登記簿における相続登記未了土地調査について

第2章共有私道の諸形態と民事法制

1民法上の共有関係にある私道(共同所有型私道)

⑴私道の所有形態

共同所有型私道の具体的な例としては、下記のような形で複数の者が私道を共有するものがある。(例)私道の沿道の宅地の所有者(①~④)が通路として利用するために私道を共同所有する場合(※沿道の宅地所有者以外の者が私道の共有者となっている場合もある

⑵共有者間内部の法律関係

共同所有型私道が生ずる原因については、様々なものが考えられるが、当初から複数人の共有に属していた土地が分筆され、そのうちの一部が共同所有型私道として開設されるような場合には、共有者間で私道の修繕やその費用負担の割合などの管理方法等について取決めがされていることもある。このような場合には、私道の工事は取決めに基づいて実施される。

他方、デベロッパーが宅地を開発・分譲する際、通路を開設し、宅地の買受人に通路部分の共有持分を併せて売却することにより、宅地の所有者が私道を共有するに至る場合も多いようである。このような場合には、私道の管理方法等について、明示的な取決めがないことも多く、後に一部の共有者が私道について工事を実施する際に、他の共有者の同意の要否が問題となることがある。長年、私道を共同で使用する中で、黙示的な合意が形成されることも少なくなく、私道について工事を実施するに当たっては、まずはこうした取決めに従うことになるが、共有物の使用・管理方法等について取決めがされていない場合には、民法の共有に関する規定(民法第249条以下)により対応することとなる。

⑶共同所有型私道の使用・変更・管理に関するルール

ア使用

各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができることとされている(改正前民法第249条、改正民法第249条第14 項)。私道の共有者は、持分を有しているため、私道の全体について、その持分の範囲で使用が可能である。私道の共有者は、この権限に基づき、私道を通行したり、その地下を利用したりすることができる。

改正民法では、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除 き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うとされている(改正民法第249条第2項)が、共有者がそれぞれ私道を使用している場合に、「自己の持分を超える使用」をしていると評価されるケースは多くないと考えられる。

イ変更

改正前民法では、共有物に変更を加える行為は、その変更の程度にかかわらず、共有者全員の同意が必要とされ(改正前民法第251条)、共同所有型私道の形状を変更するに当たっては、私道共有者全員の同意が必要と解されていた。

しかし、共有者に与える影響が小さな変更を加える場合であっても、少数でも反対者や所在等不明者がいればこれを行うことができないため、共1有物の円滑な利用や適正な管理が妨げられていた。

そこで、改正民法では、変更を加える行為であっても、その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(以下「軽微変更」という。)については、 共有者全員の同意を要する変更から除外し、各共有者の持分の過半数で決することができることとされている(改正民法第251条第1項、第252条24 第1項)。軽微変更の意義については、後記ウ参照。

ウ管理に関する事項

共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の過半数で決することとされている(民法第252条第1項本文)。管理に関する事項とは、共有物の29 利用・改良行為をいう。

一般に、私道の状態をより良好な状態とするような改良工事や、私道の利用方法の協議等は、管理に関する事項に該当し、各共有者の持分の過半数で決することになる。

また、前記のとおり、改正民法では、変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないものについては、各共有者の持分の過半数で決することとされた。「形状の変更」とは、その外観・構造等を変更することをいい、「効用の変更」とは、その機能や用途を変更することをいうが、共有物に変更を加えることが軽微変更に当たるかどうかは、個別の事案ごとに、変更を加える箇所及び範囲、変更行為の態様及び程度等を総合して判断される。一般論としては、例えば、砂利道をアスファルト舗装する行為は、軽微変更に該当すると考えられる。

なお、工事が管理に関する事項に当たり、各共有者の持分の過半数で決する場合であっても、少数者との協議の機会を設けることが望ましい。

また、改正民法では、管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を得なければならないとされた(改正民法第252条第3項)。こ こでの「特別の影響」とは、対象となる共有物の性質に応じて、決定を変更する必要性と、その変更によって共有物を使用する共有者に生ずる不利益とを比較して、共有物を使用する共有者に受忍すべき程度を超えて不利益を生じさせることをいう。

特別の影響の有無は、事案に応じて個別に判断されるが、例えば、共有者間の決定に基づいて特定の共有者が共同所有型私道の特定の場所に給水管を設置して水道水の供給を受けている場合において、他の共有者が、持分の過半数の決定でその給水管の設置場所を変更することとされ、相当期間水道水の供給が止められることとなってしまうケースでは、特別の影響を及ぼすべきときに当たり得ると考えられる。

エ 保存

共有物の現状を維持する行為は、保存行為として各共有者が単独で行うことができる(改正前民法第252条ただし書、改正民法第252条第5項)。

一般に、損傷した私道の補修を行う場合のように、私道の現状を維持する行為は保存行為に当たる。

オ 共有物に関する負担

各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関26 する負担を負う(民法第253条第1項)。「管理の費用」とは、共有物の維持、改良等のための必要費・有益費をいう。私道の共有者は、共有私道の補修等の管理のための必要費・有益費について、その持分に応じて支払う義務を負う。

カ 変更、管理に関する事項、保存の区別

具体的な事案において、共有者の共有物に対する工事の実施が、共有物の変更、管理に関する事項又は保存のいずれに当たるかは、個別事情によるところがあり、必ずしも明確に判断することができるわけではないが、一般論として言えば、共有物の形状・性質、共有物の従前の利用方法、工事による改変の程度その他の諸般の事情を考慮して決せられるものと考えられる。工事費用など共有者の負担の程度は、それ自体が直ちにこれらの区別の要素となるものではないが、工事費用の多寡は、当該工事が効用の著しい変更を伴う変更に当たるかどうかの判断に当たって考慮され得る。

なお、共同所有型私道において、工事を実施する際に、共有者中に明確に反対するものがいる場合には、当該工事が変更に当たるか管理に関する事項に当たるかについて深刻な紛争が生ずることがある。本研究会においては、基本的には、所有者又はその所在を把握することが困難な土地に焦点を当てて、ケーススタディを行っているが、反対者がいるケースについても、必要な限度で取り上げている。

⑷所在等不明共有者がいる場合における共同所有型私道の変更・管理

ア新制度の概要(【図1】参照)

前記のとおり、共有者は、他の共有者全員の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができないため(改正前民法第251条)、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、その同意を得ることができず、共有物に変更を加えることができなくなる。また、管理に関する事項は共有者の持分の過半数で決定することとされているため(改正前民法第252条)、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、その共有者の持分の割合によっては、管理に関する事項を決定することができない事態が生ずる。

そこで、改正民法では、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所の決定により、①所在等不明共有者(共有者において知ることができず、又はその所在を知ることができない他の共有者をいう。以下同じ。)以外の共有者全員の同意により共有物に変更を加えることができることとされるとともに、②所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項を決することができることとされている(改正民法第251条第2項及び第252条第2項第1号)

イ 要件等

所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判の要件は、「共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」である。

共有者が他の共有者を知ることができないときとは、共有者において、他の共有者の氏名・名称などが不明であり、特定することができないことを意味する。

他方、共有者が他の共有者の所在を知ることができないときについては、「他の共有者」がどのような者であるかによって次のように分けられる。

(a)自然人

「他の共有」が自然人である場合には、共有者において、他の共有者の住所・居所を知ることができないときを意味する。

なお、自然人である共有者が死亡しているが、その相続人の存在が不明であるケースでは、相続財産管理人等がいない限り、「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない」に該当する。

(b)法人

「他の共有者」が法人である場合には、共有者において、①他の共有者の事務所の所在地を知ることができず、かつ、②他の共有者の代表者の氏名等を知ることができないとき(他の共有者の代表者がいない場合を含む。)又はその代表者の所在を知ることができないときを意味する。代表者がおり、その所在を知ることができるのであれば、代 表者との間で協議等をすることができるため、法人である共有者の所在を知ることができないと評価することはできない。

なお、いわゆる権利能力なき社団についても、基本的には、法人と同じ基準により判断されることになる。

いずれのケースにおいても、要件の充足が認められるためには、共有者において私道(土地)の不動産登記簿や住民票等の公的記録の調査など必要な調査をしても、他の共有者を特定することができない、又はその所在を知ることができないことが必要となる。そのほか、事案にもよるが、当該私道の利用状況を確認したり、他に連絡等をとることができる共有者がいればその者に確認したりするなどの調査も必要となると解される。

ウ手続の流れ

共有者は、共同所有型私道に変更行為や管理に関する事項に当たる工事を行おうとする場合において、他の共有者の所在等が不明であるときは、私道の所在地の地方裁判所に、所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判を申し立てることになる。その際には、変更行為や管理に関する事項に当たる工事の概要を特定して申し立てる必要がある。

要件の充足が認められ、裁判所における公告及び1か月以上の異議届出期間を経てもなお所在等不明共有者とされている者から異議の届出がされないときは、所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判がされ、申立人に告知がされる(非訟事件手続法第56条第1項、改正非訟事件30 手続法第85条第6項)。  

所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判をする前に所在等不明共有者とされている者から異議の届出がされた場合には、その共有者は特定され、その所在も明らかになるため、実体法上の要件を欠き、その裁判をすることはできない。

所在等不明共有者以外の共有者による変更の裁判がされた場合には、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により共有物に変更を加えることができるようになる。また、所在等不明共有者以外の共有者による管理の裁判がされた場合には、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項を決することができるようになる。

これらの裁判は、上記の効力を有するにとどまり、実際に共有物に変更を加えるには、別途、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得る必要がある。また、管理に関する事項については、別途、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により決定する必要がある。

例えば、A、B、C、D、Eが5分の1ずつの割合で共有するコンクリート舗装された坂道につき、A・B・Cがその全体にコンクリートの階段を設置する場合において、D・Eの所在が不明であるときには、A・B・Cは、所在等不明共有者以外の共有者による変更の裁判を得た上で、A・B・Cの全員が同意することにより、その工事をすることができる(後記12 事例●参照)。

また、A、B、C、D、Eが5分の1ずつの割合で共有する砂利道につき、A・Bがアスファルト舗装する(軽微変更。前記(3)ウ参照)場合において、Cが反対し、D・Eの所在が不明であるときには、A・Bは、所在等不明共有者以外の共有者による管理の裁判を得た上で、A、B、Cの合計持分の過半数(3分の2)の決定で、その工事をすることができる(後18 記事例●参照)。

⑸賛否不明共有者がいる場合における共同所有型私道の管理

ア新制度の概要(【図2】参照)

民法は、共有物の管理に関する事項は、共有者の持分の過半数で決定することとし(改正前民法第252条)、その実施を共有者間の協議・決定に委ねている。

もっとも、社会経済情勢の変化に伴って、共有者が共有物から遠く離れて居住・活動していることや、共有者間の人的関係が希薄化していることも多くなり、共有物の管理に関心を持たず、連絡等をとっても明確な返答をしない共有者がいるため、共有者間で決定を得ることが容易でなくなっている。

そこで、改正民法では、相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告しても、相当の期間内に賛否を明らかにしない共有者がある場合には、裁判所の決定を得て、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数の決定により管理に関する事項を決することができることとされている(改正民法第252条第2項第2 )。

なお、この仕組みは、管理に関する事項(軽微変更を含む。)に限ってその対象とするものであり、共有物に形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為を対象とするものではない。

イ要件等

賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判の要件は、①共有者が、他の共有者に対し、相当の期間を定めて、共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告したこと、②催告を受けた他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないことである。

  • の「相当の期間」は、催告を受けた共有者が賛否の判断の検討のために要する期間を指すが、事案ごとの判断ではあるものの、通常、催告を受けた日から2週間程度が必要になると解される。催告をする際には、その相手方が賛否を明らかにすることができるように、決定することを希望する事項を具体的に特定しなければならない。催告の方法について法律上の制限はないが、後の裁判において催告の事実を立証するために、書面等で行うことが想定される。

ウ手続の流れ

共有者は、共同所有型私道に管理に関する事項に当たる工事を行おうとする場合において、事前に他の共有者に対して相当の期間を定めて当該工事をすることについて賛否を明らかにすべき旨を催告したがその期間内に1賛否が明らかにされなかったときは、私道の所在地の地方裁判所に、賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を申し立てることになる。その際には、管理に関する事項に当たる工事の概要を特定して申し立てる必要がある。

要件の充足が認められ、裁判所からの通知及び1か月以上の賛否明示期間を経てもなお賛否が明らかにされないときは、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数の決定により管理に関する事項を決することができる旨の裁判がされ、賛否不明共有者に告知がされる(非訟事件手続法第56条、改正非訟事件手続法第85条第2項・第3項)。賛否明示期間内に賛否を明らかにした共有者については、裁判所は、その共有者については上記の裁判をすることができない(改正非訟事件手続法第85条第4項)。

賛否不明共有者が告知を受けた日から2週間の不変期間内に即時抗告をしないことなどによりこの裁判が確定すると(非訟事件手続法第56条第4項、第67条)、裁判の効力が生じ、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項に当たる工事の実施を決定することができるようになる(改正非訟事件手続法第85条第5項)。

この裁判は、上記の効力を有するにとどまり、実際に工事を実施するには、別途、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数により決定する必要がある。

例えば、A、B、C、D、Eが5分の1ずつの割合で共有する砂利道につき、A・Bがアスファルト舗装をすること(軽微変更。前記(3)ウ参照)について他の共有者に事前催告をしたが、D・Eは賛否を明らかにせず、Cが反対した場合には、A・Bは、賛否不明共有者以外の共有者による管1 理の裁判を得た上で、A、B、Cの合計持分の過半数(3分の2)の決定で、その工事をすることができる(後記事例●参照)。

【図2】

⑹遺産共有の場合について

相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属することとされ(改正前民法第898条)、相続人は、相続財産に属する個々の財産について共有持分を有する(以下相続財産の共有を「遺産共有」という。)。遺産共有は、民法第249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されており(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)、民法第249条以下の共有に関する規定は、基本的に、遺産共有にも適用される。

そのため、上記(3)~(5)の各ルールは、私道が遺産共有されている場合にも、適用されるものである。

また、改正民法では、相続財産について共有に関する規定を適用するときは、法定相続分(相続分の指定がある場合には、指定相続分)を基準とすることを明記している(改正民法第898条第2項)ため、管理に関する事項は、法定相続分又は指定相続分を基準とした共有持分の過半数をもって決せられることになる(民法第252条第1項本文)。

2民法上の共有関係にはない私道(相互持合型私道

⑴私道の所有形態

相互持合型私道は、典型的には、私道付近の宅地を所有する複数の者が、それぞれの所有する土地を通路として提供し、私道がこうした数筆の土地により形成されているものである。

相互持合型私道は、デベロッパーが一団の土地を数個の宅地に分譲する際、分譲地取得者のために通路を開設し、その通路の敷地(以下「通路敷」という。)に当たる部分も各宅地の譲受人の所有となるように分筆した上で、宅地と分筆された通路敷を併せて譲渡することにより生じることが多い。

具体的な持合形態としては、例①のように、通路敷を縦に細長く切り分けて宅地の所有者に分属させる形で開設するパターンがある。また、例②のように、通路敷を横に切り分けて宅地の所有者に分属させる形で開設するパターンもある。この場合、宅地とそれに接する通路敷の土地とが同一の所有者に属さないように、分属させることもある。

⑵ 法律関係

相互持合型私道における各土地の所有者は 、互いに各自の所有宅地の便益のために、通行等を目的とする地役権(民法第280 条本文。以下「通行地役権」という。)を設定していると考えられる。地役権とは 、他人の土地( 以下「承役地」という。)を自己の土地( 以下「要役地」という。)の便益に供する権利の便益に供することをいい、相互持合型私道を所有者間で合意して開設する場には 、通行地役権の設定が明示的にされることが多いものと考えられる。

また 、デベロッパーが一団の土地を分譲して売り渡す際に相互持合型私道を開設する場合は、分譲地の購入者は、それぞれ、公道から自己の宅地に至るまでは宅地の購入者が所有する通路敷を通行しなければならず、また、他の宅地の購入者が公道から当該宅地に至るまでは、自己の所有する通路敷を通行しなければならないことを認識して取得しているのであり、相互に譲り受けた土地について 黙示の地役権設定がされていることが通常である。

裁判例においても、複数名が特定部分の土地を提供し合って開設されている私道については明示の合意がなくとも黙示の通行地役権設定がされたものと認められるとされた事例 や、分譲者が私道を開設し通路敷を分割して各分譲地買受人に対して売り渡した場合、割合に応じて各分譲地買受人にて黙示の通行地役権が設定されているとした事例がある。

このとは 、前記 ⑴の例 ①、②のいずれにおいても同様であると考えられる。

なお 、通行地役権は、他人の土地を通行等の目的ために使用することのできる用益物権 であり、他の物権と同様、設定行為とは別に、時効により取得することも可能である(民法第 283 条)。

⑶ 通行地役権の内容及び効力

ア 地役権の内容及び効力は 、設定行為により定められる。承役地所有者が、設定行為又は後の契約によって、自己の費用で通行地役権行使のため、自己の費用で通行地役権使のために工作物を設け、又はその修繕する義務を負担したときは、これに従って工作物の設置・修繕をしなければならない(民法第 286 条参照 )。

相互持合型私道に設定される通行地役権においては、私道となっている通路敷全体が通行地役権の目的として提供されているところ、デベロッパーが分譲の際に相互持合型私道を開設する場合は、当該私道は、公道に至るまでの通行経路としてだけはなく、宅地に居住する者の生活に必要なライフラインの設置経路として設計されることが多い。

このような場合には、分譲時点で、上水道や下水道の導管が私有地中に設置され電柱が地上に設置されていることになる。

このような相互持合型私道においては、地役権の内容は通行のみならず、ライフラインの設置・利用を含むことになるが通常である。

イ 要役地所有者は、一般に、地役権に基づき、設定行為により定められた目的の達成ために必要な限度で、承役地を使用することを所有者に受忍させることができる。

例えば、相互持合型私道における承役地の損傷が生じ、通行に支障を来した場合には 、要役地所有者は、通行の目的を果たすため、道路補修工事を実施することができると考えられる。

また 、このような場合には 、要役地所有者は、承役地所有者に対して当該承役地の修繕を求めることもでき考えられる。

3 団地の法律関係

  •  共同所有型 私道 と団地

共同所有型私道においては、前記1⑵ のとおり、分譲の際に私道が設けられ、これに接する各宅地所有者が共有持分を取得ことが多く、私道とこれと接する各宅地は、一団の 土地を形成していると見ることが可能である。このような各宅地と共同所有型私道に関しては、民法の特別法である建物の区分所有等に関する法律(昭和 37 年法律第 69 号。以下「区分所有法」という。) 第2章 の「団地」に関する規定が適用されることがあると考えられるため、これについて解説しておく。

区分所有法の団地に関する規定が適用されるためは、①一団地内に数棟、②その団地内(これに関する権利を含む。) に関する権利を含む。) 等が① の建物所有者の共有に属するという関係があることが必要である(同法第65条)。)。

ここでいう「一団地」とは、客観的に一区画をなしていると見られ土地の区域であるとされているところ、共同所有型私道とこれに接する各宅地共同所有型私道とは、客観的に一区画をなしていると認められ場合がある。

区分所有建物であっても、それ以外の戸建て建物であって、それ以外の建物が混在して構成さる場合もあるとされているところ、団地内の私道がそれらの建物所有者(専有部分ある それらの建物所有者(専有部分があるそれらの建物所有者の共に属する区分所有者))の共に属する共同所有型私道の場合には、区分所有法が適用されることになる。

なお 、建物の区分所有関係と異なり、特に戸建て建物が介在する団地関係においては 、関係者が団地にあることを認識していないことも少なからずあると考えられる。団地内で規約を定めるなどの特段の措置を講じていない限りは、民法の共有に関する規律 (改正民法で創設されたものを含む。)の適用が排除されるものではないと考えられる。

上記①及び②の要件をみたすものとして、次のようなものが考えられる。

⑵団地における法律関係と共同所有型私道の工事への活用

区分所有法上の団地に該当する場合には、団地内建物の所有者(区分所有者を含む。以下「団地建物所有者」という。)は、法律上当然に、全員で、その団地内の共有土地等の管理を行うための団体(いわゆる団地管理組合)を構成する。そして、団地管理組合においては、区分所有法の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、管理者を置くことができることとされている(区分所有法第65条)。

その趣旨は、マンションなどの区分所有建物における管理組合と同様、団地建物所有者は、団地内の土地等を共有し、共同使用するものであるから、共有する土地等を管理するに当たっては、団体的拘束に服させることが相当と考えられることにある。

そして、共同所有型私道とこれに接する宅地が一団地をなす場合には、私道の工事につき、集会を開いて決議をする制度を活用することで、円滑な工事の実施につなげることができる。

すなわち、民法によれば、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為は、共有者の全員の同意によることが必要となる(改正民法第251条第1項)。

これに対し、団地管理組合関係のもとでは、土地の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為であっても、団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決することができる(区分所有法第66条において準用する同法第17条、第18条)。

したがって、共同所有型私道とこれに接する宅地が客観的に見て一団地を構成する場合には、私道の工事が民法上は上記の共有物の変更に当たるときであっても、所定の手続を経れば、一定の多数決で施工することが可能となり、私道共有者の一部が所在等不明であるケースや工事に賛成しないケースにも対応することができると考えられる。

なお、改正民法第251条第2項に基づく裁判の内容は、「当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判」であることから、団地内の私道共有者の一部が所在等不明であるケースにおいても、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意を得る必要がある。このケースで、区分所有法第66条において準用される同法第17条第1項を適用して、所在等不明共有者以外の団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議でこれを決することはできないものと解される(所在等不明共有者を含め、団地建物所有者及び議決権の全てを母数として、その各4分の3以上の多数による集会の決議で決する必要がある。)。

⑶団地管理組合の集会の手続(【図4】参照)

共同所有型私道を含む団地関係においては、規約が定められていたり、管理者が置かれたりすることはまれであると考えられる。

そこで、以下では、規約も管理者もない団地において、共同所有型私道の共有者の一部が所在等不明であるために、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴う変更工事につき、共有者全員の承諾が得られない場合の集会の手続について概説する(以下で引用した区分所有法の規定は、同法第66条において準用されているものである。)。

ア集会の招集

団地建物所有者の5分の1以上で議決権(=私道の持分割合)の5分の1以上を有するものは、集会を招集することができる(第34条第5項)。

集会の招集通知は、会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項を示して、各団地建物所有者に発しなければならず(第35条第1項)、会議の目的たる事項が、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴うものであるときは、その議案の要領をも通知しなければならない(同条第5項)。

なお、招集通知は、団地建物所有者の所有する建物が所在する場所に宛ててすれば足り、招集通知は、通常それが到達すべき時に到達したものとみなされる(同条第3項)。

イ集会の決議

(ア)集会においては、集会を招集した団地建物所有者の一人が議長となる(第41条)。

(イ)集会においては、招集通知によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議することができる(第37条第1項)。

(ウ)共同所有型私道の軽微変更は、土地の管理に関する事項(第18条第1項)とされ、これに関する集会の議事は、団地建物所有者及び議決権(=私道の持分割合)の各過半数で決する(第39条第1項)。すなわち、団地建物所有者の頭数の過半数と共有物である私道の持分割合の過半数の両方を満たす必要があり、例えば、団地建物所有者がA、B、C、Dの4名である場合に、私道の持分割合がA、B、Cが各12分の1、Dが4分の3であるときには、A、B及びCの賛成があるだけでは、団地建物所有者の頭数において過半数であるにとどまり、議決権の過半数が得られていないため、決議は成立しない。

他方、共同所有型私道の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為については、団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数により、集会の決議で決する(第17条第1項)。1

これらの場合において、土地の管理・変更が建物の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その建物の所有者の承諾を得なければならない(同条第2項、第18条第3項)。

(エ)また、団地内にある建物が複数人の共有となっている場合には、共有者のうち一名を議決権を行使する者として定めなければならない。招集通知は、当該議決権行使者に対してすれば足り、議決権行使者が選定されていない場合には、共有者の一人に対してすれば足りる(第35条第2項)。

なお、議決権の行使は、書面又は代理人によることが可能であり、遠方に居住する団地建物所有者は、書面により議題に対する意思表示をすることができ、また、代理人を選任し、代理人による議決権の行使が可能である(第39条第2項)。

(オ) 上記のとおり、区分所有法上、団地内の共有土地の変更が、その形状又は効用の著しい変更を伴うものかどうかで決議の要件が異なるが、実務上、共有私道に加える行為が、著しい変更を加えるものかどうかの判断がつきにくいことも少なくない。そこで、所在等不明者の持分割合が比較的小さく、他の共有者の賛成で4分の3以上の同意を得られることが確実であれば、上記アで説明したとおり、招集通知に議案の要領(共有私道に著しい変更を加えるその内容)を通知し、上記の多数決による決議を行うことも考えられる。

ウ議事録の作成・保管・閲覧

集会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により、議事録を作成しなければならず(第42条第1項)、議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載・記録しなければならない(同条第2項)。議事録が書面で作成されているときは、議長及び集会に参加した団地建物所有者の二人が署名しなければならない(同条第3項)。そして、①作成された議事録は、集会の決議で定められた団地建物所有者が保管しなければならず(同条第5項、8 第33条第1項)、その保管をする者は、利害関係人(団地建物所有者等)からの請求があったときは、正当な理由がない限り、議事録の閲覧を拒むことはできない(第42条第5項、第33条第2項)。

4財産管理制度等

私道の工事を行おうとする際に、所有者(共有者)の全員の同意を要する場合や共有者の持分の過半数の同意を要する場合がある。このような場合において、同意を得る必要がある所有者(共有者)の一部の所在が不明であったり、所有者(共有者)の一部が死亡し、その者に相続人のあることが明らかでないために、必要な同意を得ることが困難であったりするときには、財産管理制度を利用し、家庭裁判所により選任される財産管理人から私道の工事等に関する同意を得ることが考えられる。

財産管理制度には、①不在者財産管理制度、②相続財産管理(清算)制度があ るほか、残余財産の清算の必要な法人については、③会社法等に基づく清算人の選任が可能とされている。加えて、改正民法では、所有者不明土地の管理に特化した財産管理制度として、④所有者不明土地管理制度が新たに設けられた。

以下では、各財産管理制度の概要及び手続について紹介する。

国土交通省・所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策に関する検討会「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン(第3版)」42頁以下に、財産管理制度の利用に当たっての詳細な情報が掲載されているので、あわせて参照されたい。

⑴不在者財産管理制度

ア制度の概要

不在者財産管理制度は、住所や居所を去って容易に戻る見込みのない者(不在者)がいる場合に、利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所が財産管理人の選任等財産の管理について必要な処分をして、不在者の財産の管理を行う制度である(民法第25条以下)。

イ要件等

私道の所有者(共有者)の一部について、不在者財産管理制度を利用するためには、その者が「住所や居所を去って容易に戻る見込みのない者」である必要がある。

不在者は、生死不明であるか否かを問わない。生死不明の者であっても、死亡が証明されるか、失踪宣告(民法第30条)を受けるまでは、不在者に当たる。

不在者財産管理人の選任を請求することができるのは、利害関係人又は検察官である(民法第25条第1項)。利害関係人とは、法律上の利害関係を有する者であり、不在者の財産が法律上管理されることにつき実益を有する者であれば、法律上の利害関係があるといえる。利害関係があるか否かについては、最終的には家庭裁判所により判断されることとなるが、共同所有型私道の工事を 行う際に管理に関する事項を定めたり、変更行為を行ったりする場合や、相互 持合型私道について工事を行う場合において、同意を得ることが必要な所有者(共有者)が不在者であるときは、一般に、工事の実施を希望する他の所有者(共有者)は、利害関係人に該当するものと考えられる。

また、特措法第38条第1項(改正後特措法第42条第1項)は、不在者財産管理人の選任請求権者に関する民法の特則規定を設けており、国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、所有者不明土地につき、その適切な管理のため特に必要があると認められる場合には、利害関係の有無を問わず、不在者財産管理人の選任請求をすることができることとされている。ここでいう「所有者不明土地」とは、「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地」をいうとされている(同法第2条第1項)。また、例えば、一般の通行の用に供されている所有者不明の私道が老朽化して通行人の生命身体に危険が生ずるおそれがあるため、私道を補修する必要がある場合は、「その適切な管理のため特に必要があると認めるとき」に当たるとされている(国土交通省不動産・建設経済局「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法Q&A」(令和3年4月))。

ウ手続の流れ

不在者財産管理事件の手続の流れは、【図5】のとおりである。

(ア)不在者財産管理人の選任申立て

不在者財産管理人の選任の申立ては、不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う必要がある(家事事件手続法第145条)。従来の住所地及び居所地がいずれも不明である場合には、財産の所在地を管轄する家庭裁判所又は東京家庭裁判所が管轄裁判所となる(家事事件手続法25第7条、家事事件手続規則第6条)。

不在者財産管理人の選任を申し立てる際には、不在者が不在となった経緯や帰来の可能性、申立人の利害関係の内容等を記載した申立書を提出する。

申立添付資料として、一般には、不在者の戸籍謄本、不在者の戸籍附票写し、 不在の事実を証する資料(宛所に尋ね当たらないとの理由で返戻された不在者宛ての手紙、警察署長の発行する行方不明者届受理証明書等)、不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書等)、申立人の利害関係を証する資料(共有私道の不動産登記事項証明書等)等の提出が求められる。

なお、申立ての際に、管理人の報酬を含む財産の管理に要する費用の予納を不在者の財産から賄うことができないことが見込まれる場合には、家庭裁判所の判断により、管理費用の予納を命じられる。

(イ)不在者財産管理人による私道の管理

家庭裁判所により不在者財産管理人が選任された場合、不在者財産管理人が不在者の財産の管理を行うこととなるため、私道の工事等を行う場合において、不在者である所有者(共有者)の同意を得る必要があるときには、不在者財産管理人による同意を得ることにより、工事等を行うことができるようになる。

もっとも、不在者財産管理人の権限は、原則として、保存行為及び目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為に限定されている(民法第28条、第103条)。不在者財産管理人が、このような権限を超える行為を行う必要がある場合には、家庭裁判所の許可(民法第28条前段)を得る必要がある。したがって、私道について所有者(共有者)全員の同意が必要となるような工事を行う際には、一般には、不在者財産管理人は家庭裁判所の許可を得る必要がある。権限外行為に当たるか否かについて疑義がある場合には、家庭裁判所に許可を受ける必要があるか否か相談することが望ましい。

(ウ)不在者財産管理人による管理の終了

家庭裁判所は、①不在者が財産を管理することができるようになったとき、②管理すべき財産がなくなったとき、③その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、不在者、不在者財産管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、不在者財産管理人の選任その他の不在者の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならないこととされている(家事事件手続法第147条)。③の「財産の管理を継続することが相当でなくなったとき」とは、不在者の死亡が明らかになった場合や、不在者の財産の管理の必要性や財産の価値に比して管理の費用が不相当に高額になるような場合等をいうものとされている。

ア制度の概要

相続財産管理制度は、相続人のあることが明らかでないときに、利害関係人又 は検察官の請求により、家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、相続人を捜索しつつ相続財産を管理・清算し、最終的には残余財産を国庫に帰属させる制度である(民法第952条以下)。

なお、改正前民法においては、この制度により選任される者は「相続財産の管理人」と呼称されているが、改正民法では、その職務の内容に照らして、「相続財産の清算人」に名称が改められた。

イ要件等

相続財産管理制度(相続財産清算制度)を利用するためには、私道の所有者(共有者)の一部が死亡した場合において、その者に「相続人のあることが明らかでないとき」に該当する必要がある(民法第951条、第952条第1項)。

「相続人のあることが明らかでないとき」の例としては、戸籍上法定相続人が いない場合や、法定相続人の全員が相続の放棄をしている場合等が挙げられる。

相続財産管理人(相続財産清算人)の選任を請求することができるのは、利害関係人又は検察官である(民法第952条第1項)。利害関係人とは、相続財産について法律上の利害関係を有する者である。利害関係があるか否かについては、最終的には家庭裁判所により判断されることとなるが、共同所有型私道の工事を行う際に管理に関する事項を定めたり、変更行為を行ったりする場合や、相互持合型私道について工事を行う場合において、同意を得ることが必要な所有者(共有者)が死亡し、その相続人のあることが明らかでないときには、一般に、工事の実施を希望する他の所有者(共有者)は、利害関係人に該当するものと考えられる。

また、特措法第38条第1項(改正後特措法第42条第1項)は、相続財産管理人(相続財産清算人)の選任請求権者に関する民法の特則規定を設けており、国 の行政機関の長又は地方公共団体の長は、所有者不明土地につき、その適切な管理のため特に必要があると認められる場合には、利害関係の有無を問わず、その選任請求をすることができることとされている。「所有者不明土地」、「その適切な管理のため特に必要があると認められる場合」の意味については、前記(1)イ30 参照。

ウ手続の流れ

改正前民法における相続財産管理事件の手続の流れは【図6-1】のとおりであり、改正民法における相続財産清算事件の手続の流れは【図6-2】のとおりである。

(ア)相続財産管理人(相続財産清算人)の選任申立て

相続財産管理人(相続財産清算人)の選任の申立ては、相続が開始した地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所に行う必要がある(家事事件手続法第203条第1号)。

相続財産管理人(相続財産清算人)の選任を申し立てる際には、「相続人のあることが明らかでないこと」や利害関係の内容等を記載した申立書を提出する。申立添付資料として、一般には、相続人が存在しないことを証するための資料(被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、被相続人の父母の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、被相続人の子〔及びその代襲者〕で死亡している者がある場合、その子〔及びその代襲者〕の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、被相続人直系尊属の死亡の記載のある戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、被相続人の兄弟姉妹で死亡している者がある場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、相続人が相続放棄をしている場合には相続放棄の申述が受理されたことを証する資料)、被相続人の財産に関する資料(不動産登記事項証明書等)、申立人の利害関係を証する資料等の提出が求められる。

なお、申立ての際に、相続財産管理人(相続財産清算人)の報酬を含む財産の管理・清算に要する費用を相続財産から賄うことができないことが見込まれる場合には、家庭裁判所の判断により、費用の予納を命じられる。

(イ)相続財産管理人(相続財産清算人)による私道の管理

家庭裁判所により相続財産管理人(相続財産清算人)が選任された場合、相続財産管理人(相続財産清算人)が相続財産の管理・清算を行うこととなるめ、私道の工事等を行う場合において、同意を得る必要がある者が死亡し、その相続人のあることが明らかでないときには、相続財産管理人(相続財産清算人)の同意を得ることにより、工事を行うことができるようになる。

もっとも、相続財産管理人(相続財産清算人)の権限は、原則として、保存行為及び目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為に限定されている(民法第953条、第28条、第103条)。相続財産管理人(相続財産清算人)が、このような権限を超える行為を行う必要がある場合には、家庭裁判所の許可(民法第28条前段)を得る必要がある。したがって、私道について所有者(共有者)全員の同意が必要となるような工事を行う際には、一般には、相続財産管理人(相続財産清算人)は家庭裁判所の許可を得る必要がある。権限外行為に当たるか否かについて疑義がある場合には、家庭裁判所に許可を受ける必要があるか否か相談することが望ましい。

(ウ)清算手続

相続財産管理制度(相続財産清算制度)は、不在者財産管理制度とは異なり、相続財産を清算する手続であるため、相続財産管理人(相続財産清算人)が選任された後、清算のための手続が行われる。

改正前民法と改正民法とで手続が異なることから、以下では、それぞれについて説明する。

・改正前民法

改正前民法においては、①家庭裁判所が相続財産管理人を選任した旨を公告した後、2か月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、 ②相続財産管理人は、相続債権者及び受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて、その期間内に請求の申出をすべき旨を公告する(改正前民法第957条第1項)。この公告期間の満了後、なお相続人のいることが明らかでない場合には、③家庭裁判所が、6か月以上の期間を定めて相続人があるならばその期間内にその権利を主張すべき旨を公告する(改正前民法第958条)。

相続財産管理人は、相続財産を調査し、相続債権者等に対して弁済をする等の清算手続を行った後、特別縁故者からの相続財産分与の申立てがあれば、分与について判断した上で、残余財産があった場合には、残余財産を国庫に帰属させることになる(民法第959条)。

また、共有物については、共有者の一人が死亡して相続人の不存在が確定し、特別縁故者に対する財産分与もされないときは、その持分は、他の共有者に帰属する(民法第255条、最判平成元年11月24日民集43巻10号122024頁)。

このように、改正前民法においては、趣旨の重複する公告手続を3回に分けて順次行わなければならず、権利関係の確定に最低でも10か月を要することとされている。

・改正民法

改正民法においては、清算手続を合理化する観点から、公告手続の見直しを行っている。

すなわち、①家庭裁判所が、6か月以上の期間を定めて、相続財産清算人を選任した旨及び相続人があるならばその期間内にその権利を主張すべき旨を公告した後、②相続財産清算人は、相続債権者及び受遺者に対し、2か月以上の期間(①で相続人が権利を主張すべき期間として公告した期間内に満了するの)を定めて、その期間内に請求の申出をすべき旨を公告する(改正民法第957条第1項)。これと並行して相続財産清算人は、相続財産を調査し、相続債権者等に対して弁済をする等の清算手続を行う。

①の期間内に相続人のあることが明らかにならなかった場合において、特別縁故者からの相続財産分与の申立てがあれば、家庭裁判所は分与について判断する。その上で、残余財産があった場合には、残余財産を国庫に帰属させるか、共有持分が他の共有者に帰属することになる(民法第959条、第255条)。

このように、改正民法においては、公告手続は2回に限られ、権利関係の確定に必要な期間が合計6か月へと短縮されている。

(エ)相続財産管理人(相続財産清算人)による管理・清算の終了

相続財産の管理・清算手続の終了については、①相続人が財産を管理することができるようになったとき、②管理すべき財産がなくなったとき、③その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、相続財産管理人(相続財産清算人)若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、財産の管理者の選任その他の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならないこととされている(家事事件手続法第208条、第125条第7項)。

コラム:改正民法① ○相続人が判明しているかどうかを問わず利用が可能な相続財産の保存のための相続財産管理制度 改正前民法は、相続財産が相続人によって管理されないケースに対応するために、相続の承認又は放棄がされるまでなど、相続の段階ごとに、家庭裁判所が相続財産管理人を選任するなどの相続財産の保存に必要な処分をすることができる仕組みを設けている(改正前民法第918条第2項、第926条第2項、第940条第2項)。 もっとも、共同相続人が相続の単純承認をしたが遺産分割が未了である場合については、相続財産はなお暫定的な遺産共有状態にあり、相続財産の保存が引き続き問題となり得るにもかかわらず、相続財産の管理のための規定が設けられていないなどの課題があった。 改正民法では、相続が開始すれば、相続の段階にかかわらず、いつでも、家庭裁判所は、相続財産管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分をすることができるとの包括的な規定を設けている(改正民法第897条の2第1項)。 これにより、これまで規定がなかった、共同相続人が相続の単純承認をしたが遺産分割が未了である場合において、相続財産の管理を行う者がいないケースについても、相続財産の保存に必要な処分をすることが可能となる。例えば、相続財産に属する私道について相続人が保存行為をしないケースにおいては、必要があると認められれば、相続財産の保存のための相続財産管理人を選任し、保存行為をさせることが可能となると考えられる。     ○相続の放棄をした者による相続財産の管理 改正前民法においては、相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされている(改正前民法第940条第1項)。 もっとも、法定相続人の全員が相続の放棄をし、次順位の相続人が存在しない場合に、誰が管理継続義務を負うかは、必ずしも明らかではない。また、相続の放棄をした者が相続財産を現に占有していない場合にまで管理継続義務を負うかどうかや、その義務の内容及び終期も明らかではないため、相続の放棄をしたにもかからず、過剰な負担を強いられるケースがあるとの指摘があった。 改正民法第940条第1項は、相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は改正民法第952条第1項の相続

財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるとの同一の注意をもって、その財産を保存しなければならないものとした。

これにより、①相続の放棄をした者が同項の義務を負うのは、放棄の申述時に相続財産に属する財産を現に占有している場合に限られ、被相続人の占有を観念的にのみ承継している場合には、同項の義務を負わないこと、②同項の義務の内容は、現に占有している財産の保存にとどまり、それを超えた管理義務を負うわけではないこと、③同項の義務は、相続人や改正民法第952条第1項の相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すことによって終了することが明確にされた。

例えば、子Aが、親であるBの所有に係る建物にBと共に居住し、Bの共有に係る私道を使用していた場合において、Bが死亡し、Aが相続の放棄をしたケースでは、Aが放棄時にその建物や私道を現に占有していたと評価されるときは、改正民法第940条第1項の義務を負うものと考えられる。

他方で、相続の放棄をした者が、被相続人の生前から遠方に居住しており、被相続人が所有していた建物や私道を放棄時に現に占有していたと評価されないときは、同項の義務を負わないものと考えられる。


⑶会社法等に基づく清算制度

私道の工事を行うために同意を得る必要がある所有者(共有者)が解散した法2 人であり、清算人となる者がいないため、必要な同意を得ることが困難な場合には、私道の工事を行おうとする者は、利害関係人の申立てに基づいて裁判所が選任した清算人から、私道の工事に関する同意を得ることが考えられる。

法人には、株式会社、一般社団・財団法人等があり、これらの法人が解散した場合には、原則として、各法人について規定された法律に基づき、清算手続が開始されることとなる(会社法第475条第1項等)。

法律上定められた清算人となる者(株式会社の場合には、取締役、定款で定め る者、株主総会の決議によって選任された者)がいない場合には、利害関係人の申立てにより、裁判所が清算人を選任する(会社法第478条第2項)。

清算人が選任されると、清算人の申請に基づき、法人の登記簿に清算人の登記 がされる。清算人は、原則として、清算法人を代表するため(会社法第483条第1項等)、私道の工事を行おうとする者は、清算人の同意を得て工事を行うことができる。清算人が清算に関する業務を行い、清算法人について、清算の事務が終了して清算が結了すると、清算人の申請に基づき清算結了の登記が行われ、これにより、当該法人の登記記録は、閉鎖される。なお、清算結了の登記がされた法人であっても、当該法人名義の土地が存在するなど残余財産があることが判明した場合には、残余財産の分配等の清算手続を行うため、裁判所に清算人の選任の申立てを行うことが可能であると解されている。

⑷所有者不明土地管理制度

ア制度の概要(図7-1及び図7-2参照)

前記のとおり、現行法の下では、所有者不明土地を管理するために、不在者財産管理制度や相続財産管理制度等が利用されていたが、これらの制度に対しては、問題となっている土地だけでなく、不在者の他の財産や他の相続財産全般を管理することになり、必要な予納金の額がより高額になるなど、費用対効果の観点からは合理性に乏しいとの指摘があった。

そこで、改正民法では、所有者不明土地の適正かつ円滑な管理を実現するため、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない個々の土地について、裁判所が、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分をすることを可能とする所有者不明土地管理制度が創設された(改正民法第264条の2~第264条の7)。

所有者不明土地管理制度は、所在等不明となっている所有者が自然人である場合のみならず、法人である場合であっても、利用することが可能である。

イ要件等

共同所有型私道について、所有者不明土地管理制度を利用するためには、その私道について「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分」がある必要があり、相互持合型私道について、所有者不明土地管理制度を利用するためには、その私道が「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地」である必要がある(改正民法第264条の2第1項)。また、いずれの場合においても、所有者不明土地管理命令の発令には、所有者不明土地を管理人に管理させる必要性が認められなければならない。

所有者(共有者)の所在を知ることができないときの意味については、所有者 (共有者)がどのような者であるか(自然人であるか、法人であるか等)によって分けられるが、その内容については、前記1(4)イ参照。

いずれのケースにおいても、この要件の充足が認められるためには、私道(土 地)の不動産登記簿や住民票等の公的記録の調査など、必要な調査をしても、所有者(共有者)を特定することができない、又は知ることができないことが必要となる。そのほか、事案にもよるが、当該私道の利用状況を確認したり、他に連絡等をとることができる者がいればその者に確認したりするなどの調査も必要とされる場合があると解される。

所有者不明土地管理命令を請求することができるのは、利害関係人であり( 正民法第264条の2第1項)、ここでいう利害関係人とは、対象とされている土地の管理についての利害関係を有する者である。

利害関係があるか否かについては、最終的には裁判所により判断されることとなるが、共同所有型私道の工事を行う際に管理に関する事項を定めたり、変更行為を行ったりする場合や、相互持合型私道について工事を行う場合において、同24 意を得ることが必要な所有者(共有者)が所在等不明であるときは、一般に、工25 事の実施を希望する他の所有者(共有者)は、利害関係人に該当するものと考えられる。

また、特措法第38条第2項(改正後特措法第42条第2項)は、所有者不明土28 地管理命令の請求権者に関する民法の特則規定を設けており、国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、所有者不明土地につき、その適切な管理のため特に必要があると認められる場合には、利害関係の有無を問わず、その請求をすることができることとされている。「所有者不明土地」、「その適切な管理のため特に必要があると認められる場合」の意味については、前記4(1)イ参照。

 なお、改正後特措法第42条第2項については、改正法により、所有者不明土地管理命令の請求権者に関する民法の特則規定が第38条第2項として設けられた後、特措法改正法の一部を改正する法律により、同条が第42条に改められた。

ウ手続の流れ35

(ア)所有者不明土地管理命令の請求

所有者不明土地管理命令の請求は、私道の所在地を管轄する地方裁判所に行う必要がある(非訟事件手続法第90条第1項)。

所有者不明土地管理命令の請求をする際には、「申立ての趣旨及び原因」並びに「申立てを理由づける事実」等を記載した申立書を提出する。

申立添付資料として、所有者不明土地管理命令の対象となるべき土地の所有者(共有者)が所在等不明であることを証するための資料等が必要となる。

なお、請求の際には、管理人の報酬を含む管理に要する費用の確保のために、裁判所の判断により、管理費用の予納を命じられる。

(イ)所有者不明土地管理人による私道の管理

裁判所により選任された所有者不明土地管理人は、所在等不明の所有者(共有者)に代わって私道の管理を行うこととなるため、私道の工事等を行う場合において、所在等不明の所有者(共有者)の同意を得る必要があるときには、所有者不明土地管理人の同意を得ることにより、工事等を行うことができるようになる。

もっとも、所有者不明土地管理人の権限は、原則として、保存行為及び所14 有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的15 とする行為に限定されている(改正民法第264条の3第2項)。所有者不明16 土地管理人が、このような権限を超える行為を行う必要がある場合には、裁17 判所の許可を得る必要がある。私道について所有者(共有者)全員の同意が18 必要となるような工事を行う際には、一般的には、所有者不明土地管理人は19 裁判所の許可を得る必要がある。【P】

(ウ)所有者不明土地管理人による管理の終了

裁判所は、管理すべき財産がなくなったときその他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならないこととされている(非訟事件手続法第90条第10項)。「財産の管理を 継続することが相当でなくなったとき」とは、土地の管理の必要性がなくなった場合や、管理に要する費用を支弁するのが困難である場合等をいうものと解されている。

また、所有者不明土地等の所有者が自己に所有権が帰属することを証明したときは、当該所有者の申立てにより、裁判所は、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならないとされている(同条第11項)。



コラム:改正民法② ○不在者財産管理制度・相続財産清算(管理)制度と所有者不明土地管理制度との適用関係 不在者財産管理制度や相続人不分明の場合の相続財産清算(管理)制度といった既存の財産管理制度と、新たに設けられた所有者不明土地管理制度とは、要件や効果が異なるため、ある財産管理制度の要件を満たす場合に、他の制度の適用を排除することとはされていない。例えば、土地の所有者の所在が不明であり、不在者財産管理制度と所有者不明土地管理制度の要件をいずれも満たすときは、利害関係人としては、いずれの財産管理制度も利用することができる。実際にどの財産管理制度を利用するかは、手続の目的、対象となる財産の状況や、管理人の権限等の違いを踏まえ、個別具体的なケースに応じて、適切な制度を申立人自身が適宜選択することが想定される。   また、ある土地の所有者について不在者財産管理人等が選任されている場合において、当該土地について所有者不明土地管理命令の請求がされることもあり得る。もっとも、土地の所有者について不在者財産管理人又は相続財産管理人が既に選任されている場合には、その土地を含む当該所有者の財産全般の管理がその管理人に委ねられることになるから、それとは別に、所有者不明土地管理命令を発する必要は基本的にないものと考えられる。そのため、そのような場合において、当該土地について所有者不明土地管理命令の請求がされたときは、通常は却下されるものと考えられる。   他方で、ある土地について所有者不明土地管理人が既に選任されている場合であっても、その土地を含む当該所有者の財産全般を管理するために、不在者財産管理人又は相続財産清算人の選任が必要となることもあり得る。そのような場合には、当該土地の所有者について不在者財産管理人等の選任の申立てがされたときは、不在者財産管理人等の選任が認められることもあるものと考えられる。不在者財産管理人等が選任された場合には、所有者不明土地管理人による管理を継続する必要はないため、基本的には、所有者不明土地管理命令を取り消すことになると考えられる。
コラム:改正民法③ ○ライフラインの設備設置権・設備使用権の創設 現行法では、他人の土地や導管等の設備を使用しなければ電気、水道、ガスなどのライフラインを引き込むことができない土地の所有者は、民法の相隣関係規定や下水道法第11条等の類推適用により、他の土地への設備の設置や他人の設備の使用が可能と解されているが、類推適用される規定は必ずしも定まっていない。   そのため、私道の隣接地を所有する者が自己の土地にライフラインを引き込むために当該私道に設備を設置し、又は当該私道内の設備を使用する必要がある場合において、私道又は設備の所有者・共有者の一部が所在等不明であるケースや設備の設置・使用を拒むケース等では、設備の設置・使用をすることが実際上困難であり、対応に苦慮する事態が生じていた(私道の所有者等から不当な承諾料を求められることもあるといわれている。)。   そこで、改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができないときは、継続的給付を受けるために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する権利(設備設置権)又は他人が所有する設備を使用する権利(設備使用権)を有することが明記された。 あわせて、他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者の権利に配慮し、設備の設置・使用の方法、事前の通知や償金の支払などに関するルールが設けられるなどの改正が行われた(改正民法第213条の2、第213条の3)。
コラム:改正民法④ ○設備設置権・設備使用権と共同所有型共有私道 共同所有型私道の隣地を所有する者が、当該私道に継続的給付を受けるための設備を設置し、又は当該私道の共有者が共有する設備を使用しようとする場合に、当該私道の共有者の一部が所在等不明であったり、設備の設置・使用に反対していたりするケースがある。 このようなケースで、私道の共有者が設備の設置や使用を認めることは、共有物の管理に関する事項(改正前民法第252条本文、改正民法第252条第1項)に該当すると考えられるため、当該私道の共有者の持分の過半数の同意が得られれば、隣地所有者は、当該私道に設備を設置し、又は私道共有者が共有する設備を使用することが可能である(改正民法においては、所在等不明共有者以外の共有者による管理の裁判や、賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を活用することも可能であることにつき、前記1(4)及び(5)参照)。 また、改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ継続的給付を受けることができないときは、当該他の土地等の所有者に対する通知を行った上で、継続的給付を受けるために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる旨が明確化された(民法第213条の2第1項。前記コラム〔48ページ〕参照)。 そのため、隣地所有者は、設備の設置等について私道の共有者の過半数の同意が得られなくとも、上記の設備設置権・設備使用権に基づいて、当該私道に設備を設置し、又は私道共有者が共有する設備を使用することができる。私道の共有者の一部が所在等不明である場合には、隣地所有者は、公示による意思表示によって事前通知を行った上で、当該私道において設備の設置・使用をすることができる。 なお、私道を使用する私道共有者が、隣地所有者による設備の設置・使用に反対している場合には、一般に自力執行は禁じられていることから、隣地所有者は、妨害禁止の判決を得た上で、設備を設置・使用することとなる。 
コラム:改正民法⑤ ○隣地使用権及び越境した枝葉の切取り (1)隣地使用権 私道において導管等の工作物の設置工事等を行おうとする場合に、隣地を使用する必要があるケースがある。 現行法では、土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するために必要な範囲内で、他人の所有する隣地の使用を請求することができるとされている(改正前民法第209条第1項本文)。 しかし、「隣地の使用を請求することができる」の解釈については争いがあり、例えば、隣地の所有者等の所在等が不明である場合に隣地を使用することができるか否かは必ずしも明確でなく、また、障壁・建物の築造・修繕以外の目的のために隣地を使用することができるか否かが不明確であるとの指摘があった。 こうした指摘を踏まえ、改正民法においては、①境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去若しくは修繕、②境界標の調査又は境界に関する測量又は③改正民法第233条第3項の規定による越境した枝の切取りの目的のため必要な範囲内で、隣地の所有者等の承諾がなくとも、その使用する権利を有することが明らかにされるとともに(改正民法第209条第1項)、隣地所有者及び隣地使用者の利益を保護するために、その使用方法の限定や事前通知などの規律が新たに設けられた(同条第2項~第4項)。 (2)越境した竹木の枝の切取り 私道の管理の一環として、隣地から越境した竹木の枝の切取りが必要となるケースがある。 現行法では、土地所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、竹木の所有者に対して枝を切除させることができるとされている(改正前民法第233条第1項)。もっとも、土地の所有者が自ら枝を切り取ることを認めていないため、竹木の所有者が切除に応じない場合には、土地の所有者は、訴えを提起し、その所有者に枝の切除を命ずる判決を得て、強制執行の手続をとるほかない。また、竹木が共有物である場合には、竹木の各共有者は、他の共有者全員の同意を得なければ、請求に応じて枝の切取りをすることができないと解されている。そのため、これらの枝の切取りに関する規律は、煩雑であり、合理的でない等の指摘がされていた。 こうした指摘を踏まえ、改正民法においては、土地の所有者は、①竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき、②竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき、又は③急迫の事情があるときのいずれかの要件を充たした場合には、越境した枝を自ら切り取ることができるとされた(改正民法第233条第3項)。また、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができるとされた(同条第2項)。

参考

月刊登記情報2022年9月号(730号)きんざい

法務省大臣官房参事官大谷太、法務省民事局付宮﨑文康、法務省民事局付谷矢愛、法務省民事局付山根龍之介「所有者不明私道への対応ガイドライン(第2版)について」

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