受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定

民事信託研究会(主宰・谷口毅司法書士)のメールマガジンです。実例を踏まえながらの記事は、いつも勉強になることが多いです。

今回の記事を引用します。

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受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定

大阪の司法書士岡根昇です。

今回も司法書士谷口毅先生のブログとメルマガに投稿させて頂くことになりました。ご迷惑とならないよう気を付けなければ…

さて、本日は、受託者の利益相反行為について考えてみましょう。

相談事例を挙げて考えてみます。

お父さんからの相談です。

自分が認知症になった後でも、資産管理会社(長男が代表者)の債務を担保するために担保権を設定できるようにしておきたい。

そのために、長男を受託者として、不動産を信託しておきたい。

このような相談を受けた場合に、次のようなスキームをイメージするのではないでしょうか?

委託者兼受益者:お父さん

受託者:長男

信託の目的:不動産の管理処分を通じて、お父さんの生活の安定と福祉の確保をすること

受託者の権限:受託者は、信託財産に属する不動産につき、受益者、受託者又は第三者を債務者とする担保権を設定することができる。

イメージした後、きっと疑問が湧いてくるはずです。

信託は、受益者のための財産管理制度。。。

受益者であるお父さんの債務ではなく、第三者の債務のために信託財産を担保に供することは、果たして受益者のためになるのでしょうか?

そうなんです。

信託には、受託者は、もっぱら受益者の利益を図らなければならず、自分や第三者の利益を図ってはいけないという大原則があります。これを忠実義務といいます。

この忠実義務の具体的な現れの一つとして、信託法31条の利益相反行為の禁止規定があります。

条文を見てみますと、信託法31条1項4号では、受託者個人の債務を担保するために信託財産に担保権を設定するという行為を典型的な利益相反行為の例としてあげて、これを禁止しています。

そして、「第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの」一般を禁止しています。

つまり、第三者の債務のために信託財産を担保に供することは、この禁止規定に抵触することになります。

そして、さらに詳しく条文を見ますと、この例外規定があります。

信託法31条2項では、信託契約書に利益相反行為を許容する定めがあるとき、受託者が重要な事実を開示して受益者の承認を得たときなど、受託者の利益相反行為が許される事由が規定されています。

そうすると、最初にイメージしたスキームのように「受託者は、信託法31条の規定に関わらず、信託財産に属する不動産につき、第三者を債務者とする担保権を設定することができる。」と規定しておけば、利益相反行為の許容の定めがあるものとして、お父さんの希望(資産管理会社を債務者とする担保権の設定)を叶えることができそうに見えますが、果たしてどうでしょうか?

この点については、更に考えないといけないことがありますが、今日はこの辺りにして、次回以降で触れたいと思います。

本日の内容と関連する信託法の条文は、30条、31条です。受託者の利益相反行為の制限に関する一般的なお話でした。

興味がある方は、また一度読んでおいてくださいね。

受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定 その2

本日の担当は、大阪の司法書士の岡根昇です。

前回、私が書いた記事の続きを書きますね。

さて、改めまして、前回の続きです。

前回の記事は、下記のページにありますので、目を通してください。

本日は、登記の側面から、受益者以外の第三者を債務者とする担保権の設定について考えてみたいと思います。

さて、なんといっても、司法書士は登記の専門家。司法書士にとって、登記先例は重要ですね。

というわけで、受益者以外の第三者を債務者とする担保権の設定に関する登記先例は、あるのでしょうか?

探してみますと・・・、あるんです。

昭和40年12月9日付登発第418号山口法務局長照会

昭和41年5月16日付民事甲第1179号民事局長回答【要旨】

受託者が第三者の債務の担保として信託財産に抵当権を設定しその登記の申請があった場合、委託者及び受益者の承諾があるときでもその申請は受理すべきでない。

これは、第三者の債務の担保のためにする抵当権設定は、これによって受益者が受ける利益は何もないことを理由としているようです。

この先例の解説をよく読みますと、「受益者及び委託者の承諾があった場合は信託財産を第三者の債務の担保に供しうると解することは、立法論としてはともかく、現行法の解釈としては疑問があることから、本回答がなされたものと考える。」とあります。

つまり、この先例は、旧信託法の解釈によるものなんです。

旧信託法では、利益相反行為は、例外なく許容されませんでした。

なので、このような先例が出たのも納得できます。

でも、今は、新信託法をベースに考えないといけません。

新信託法では、31条2項で、信託契約書に利益相反行為を許容する定めがあるときや、受託者が重要な事実を開示して受益者の承認を得たときなどには、利益相反行為は許容されることになっています。

司法書士にとって、登記先例は重要ですが、古い先例の存在に惑わされてはダメです。

新信託法では、重要な事実を開示して受益者の承諾を得たことは、受託者の利益相反行為の例外と定められているのですから、この先例のようなケースの登記申請は、受理されるべきだと思います。

もちろん、登記官への事前相談は必須です!!

OKと明示した先例は、まだ発出されていないからです!!

さて、前回の事例に戻りますね。

信託契約書に「受託者は、信託法31条の規定に関わらず、信託財産に属する不動産につき、第三者を債務者とする担保権を設定することができる。」と規定しておけば、登記の局面においても問題なさそうです。

それでは、登記面の他に、どのようなことに配慮をする必要があるでしょうか。

続きます。

受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定 その3

本日の記事は、大阪の司法書士の岡根昇が担当いたします。

今まで、2回ほど、担保権の設定が利益相反行為にあたる場合について書かせていただいているので、その続きを書きますね。

さて、今までの復習です。

受託者個人の債務のために、受託者が信託財産に属する不動産に担保を設定することは、利益相反行為と呼ばれ、禁止されています。

しかし、信託契約書の中に、利益相反行為を許容する、という定めを置けば、利益相反行為をしても許される、ということになります。

このようなことが、信託法31条に書いてあるのでした。

しかし…気になりますね。

利益相反行為を許容すると契約書に書くといっても、どこまで許されるのでしょうか?

例えば、「10億円の価値がある信託不動産を、受託者自身が100万円で買ってもいい!」という定めをおいた場合は、どうでしょうか。

感覚的には、絶対にアウトですよね。

受益者の利益がないがしろにされている、という印象を持ってしまいます。

しかし、信託法31条だけを読んでいると、これも問題ないのでは?という気もします。

なので、ここから先は、信託法31条そのものよりも、学者や立法担当者の議論などを参考にしないといけません。

みな、利益相反行為を許容する場合に、受益者の利益をどうやったら守れるのか?ということに気を配って議論をしています。

また、受託者の行為は、信託の目的の達成のためにありますので、利益相反行為を行うことが、信託の目的の達成のために必要でなくてはなりません。

つまり、考慮すべき要素は2つ。

受益者の利益を守る

信託の目的の達成に必要である

ということになります。

では、このように、「受益者の利益を守る」「信託の目的の達成に必要である」利益相反行為とは、どのようなものでしょうか。

次のような例が典型的でしょう。

お父さんは、自身を受益者、長男を受託者として、自宅不動産を信託した。

長男は、お父さんの施設入所費用に充てるため、自宅不動産を売却しようとしている。

しかし、自宅は再建築不可の土地上にあるため、なかなか売れない。

長男は、この自宅不動産を適正な価格で買い取ってもよいと考えている。

このような場合に、長男が信託不動産を適正な価格で買い取ることは、まさに、信託の目的の達成のために必要で、かつ、受益者の利益は守られている、ということになります。

このように気を配ると、適正な信託の運用の手助けができそうですね。

受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定 その4

おはようございます。民事信託実務講座のメルマガです。

暑さもだいぶ和らぎましたね。

朝、家を出る時の日差しが優しく感じられるようになりました。

さて、今日は大阪の岡根昇司法書士の記事になります。

担保設定と利益相反について、今回が最終回ですよ。

それでは、始まります。

大阪の司法書士の岡根昇です。

今まで3回にわたって、担保権設定と利益相反の関係についてみてきました。

今回は、そのまとめ。最終回です。

さて、第1回目の事例に戻りましょう。

このような事例でしたね。

事例

お父さんからの相談です。

自分が認知症になった後でも、資産管理会社(長男が代表者)の債務を担保するために担保権を設定できるようにしておきたい。

そのために、長男を受託者として、不動産を信託しておきたい。

委託者兼受益者:お父さん

受託者:長男

信託の目的:不動産の管理処分を通じて、お父さんの生活の安定と福祉の確保をすること

受託者の権限:受託者は、信託財産に属する不動産につき、受益者、受託者又は第三者を債務者とする担保権を設定することができる。

さて、この事例。

受託者は、資産管理会社を債務者として担保設定ができるのでしょうか?

しかも、受託者自身が代表者を務める会社に…

ここまで3回を読まれた方なら、考え方は分かりますね。

1.信託法31条2項の条文上だけを見れば、利益相反行為の許容の定めを契約書に書くことで可能になる。

2.登記も、利益相反行為の許容の定めを置けば、可能と思われる。しかし、旧信託法の時代の登記先例ではダメであり、新信託法になってからの先例は発出されていない。

3.学者や立法担当者の議論では、信託法31条2項の条文を見るだけではダメで、受益者の利益に適合しないといけないという意見が多い。

4.当然、信託の目的に適合しないといけない。

ということです。

これを、事例に当てはめてみると、1はクリアしていることが分かります。

しかし、3がクリアできているかどうかは、よく分かりません。受益者の利益に適合させるための方法を、もうひと捻り、考えた方がよいと思われます。

また、4はクリアできていませんね。「お父さんの生活の安定と福祉の確保」という信託の目的は、あまりに抽象的で中身がありません。具体的な、受託者の行動の判断基準とはなりえません。

従って、この事例を見ると、このような担保設定は避けるべき、という結論になると考えられます。

気軽に担保設定をやってしまって、後々に受託者の行動が忠実義務違反だと責任を追及される可能性もあります。

また、最初から、受益者以外の者の利益を図るために信託を設定したのだということになれば、信託自体が無効になってしまう、という考え方もあります。

信託設定の当初から、忠実義務をないがしろにするつもりであった、と判断されてしまう危険性は避けるべきでしょう。

資産管理会社と受益者の関係。

具体的に受益者にもたらされる利益。

信託の目的の定め方。

などなど、ケースごとに、総合的な判断が必要になると考えています。

私が取り組んだ実際の内容は、ここで挙げませんが、大変に気を遣った案件でした。

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以上が引用でした。

色々と考えるところがある記事です。実際同じケースにあたるかもしれません。

一点だけ気になるところを挙げます。

「これを、事例に当てはめてみると、1はクリアしていることが分かります。

しかし、3がクリアできているかどうかは、よく分かりません。受益者の利益に適合させるための方法を、もうひと捻り、考えた方がよいと思われます。

また、4はクリアできていませんね。「お父さんの生活の安定と福祉の確保」という信託の目的は、あまりに抽象的で中身がありません。具体的な、受託者の行動の判断基準とはなりえません。従って、この事例を見ると、このような担保設定は避けるべき、という結論になると考えられます。」

この部分について考えてみたいと思います。

「これを、事例に当てはめてみると、1はクリアしていることが分かります。」

この部分だけを読むと条文通りなので可能だと思います。気になるのは、考え方の順番です。許容の定めを置くことを先に考えてしまうと、結論ありきになってしまわないか、担保設定するためにはどうすれば良いか、ということになってしまいそうです。

この部分は条文通りでもあるので最後に考えるか、少し触れるだけで良いのかなと思います。

「3がクリアできているかどうかは、よく分かりません。受益者の利益に適合させるための方法を、もうひと捻り、考えた方がよいと思われます。」

「よく分かりません」、と、「もうひと捻り」は、読者に対して言っているようです(記事を書いた岡根先生は体験済みということなので)。

受益権の内容で、担保設定の条件(例・債務者所有の財産で、担保設定可能な財産がない)と設定後の給付の内容(例・担保設定後は、返済額の残額のうち、何%を受益者に給付する、など)を定めることで可能と考えられます。

「4はクリアできていませんね。「お父さんの生活の安定と福祉の確保」という信託の目的は、あまりに抽象的で中身がありません。具体的な、受託者の行動の判断基準とはなりえません。従って、この事例を見ると、このような担保設定は避けるべき、という結論になると考えられます。」

この部分については、私の結論は反対で、4はクリアできるとなります。信託の目的+受託者の信託財産の管理方法+受益権の内容の主に3つの総合的判断です。信託の目的はあえて抽象的にしておいて(信託の終了事由にもなり得るので)、受託者の権限を細かくする、信託監督人を置く、任意後見人を置く、受益権の内容を強くする、などの対応が現時点で私はベターだと考えています。

受託者の無限責任の記事について

民事信託実務研究会(谷口毅司法書士主宰)のメールマガジン(2019年7月16日)の記事です。

東京大学出身で日本司法書士会の民事信託に関するチーム、民事信託推進センターで講師などを務めています。

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なぜ、受託者は無限責任を負うのか?

本日は、鳥取の司法書士・行政書士の谷口毅が担当します。

これを書いている今は、ちょうど3連休の最後の夜。

一日中、何百通もの戸籍と格闘していたところです。

さて、簡単なクイズです。

受託者が信託事務を遂行する際に、債務を負った。

受託者はこの債務につき、無限責任を負わなくてはならない。〇か×か。

ちょっと勉強された方なら分かるでしょう。

正解は〇ですね。

ところで、読者のみなさんの中で、受託者が無限責任を負うという根拠の条文を、見つけた方はいらっしゃいますでしょうか?

実は…

信託法の中で…

受託者が無限責任を負うことは、どこにも明記されていません!

いや、敢えて言えば21条2項の反対解釈、とはいえますが、ストレートには書いていません。

一方、合名会社の場合はどうか?

会社法580条などで、「持分会社の債務を弁済する責任を負う」と明記されていますね。

なぜ、持分会社では無限責任を明記されているのに、信託では無限責任が明記されていないのでしょうか?

これ、要するに、「信託には人格がない」ということが影響しています。

合名会社は、会社と社員が別人格です。

会社と社員は同じではないので、会社の責任を社員に負わせるためには、法律に明記する必要があります。

でも、信託には人格がありません。

だから、法律に明記しないでも、無限責任を負うのは当たり前のことなのです。

例えば、受託者が、信託財産に属する家を修理するために工事を発注しました。

しかし、修理業者からすると、信託事務のために修理を発注されているのか、それとも、個人的な都合のために発注されているのかなんて、見分けがつくはずがありません。

受託者が「信託のためにする意思」をもって発注しているのかどうかなど、修理業者の目からは容易には見分けがつかないからです。

また、信託財産も固有財産も、いずれも受託者の所有物なので、所有権は1つしかありません。

これを区別するのは、「分別管理義務」という、信託の内部的な義務に過ぎないため、対外的に主張できるものでもありません。

そうすると、修理業者からみれば、「あなたが発注したんでしょ!?信託だとかなんとか、そんなこと知ったことではないので、あなたの所有する全財産で払ってください!」と言えるのが当然のことになります。

なので、法律の原則から言えば、固有財産と信託財産の区別に関係なく、自分が発注したものは、自分の所有する物で責任を負う、ということになります。

ただ、これを徹底すると、受託者が自分のために負った債務でも、信託財産に強制執行をかけることができてしまいます。

そこで、信託法は、受託者が自分のために負った債務で強制執行や相殺はできない、という特別の定めをおいて、信託財産の保護を図っているのですね。

これが倒産隔離機能です。

まとめると、

合名会社では、法人と社員が別人格であるから、「社員が無限責任である」と書く必要がある。

信託では、信託財産と固有財産が同一人物の所有に属するから、「無限責任である」と書かないでも全部に強制執行できて当然。

ただ、信託財産を守るために、「信託財産への強制執行や相殺は禁止する」という規定を置いている。

ということになります。

ちょっと難しかったでしょうか?

この辺をちゃんと解説している本があまりないので、ちょっと書いてみようと思ったところです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上引用。下線は私です。

下線部分について考えてみたいと思います。

受託者はこの債務につき、無限責任を負わなくてはならない。

私なら、「受託者は第三者に対する債務につき、信託財産で足りない場合、原則として個人の財産で支払う義務を負う、とします。

無限責任という用語を使いません。根拠は信託法2条、21条、216条。破産法10章の2信託財産の破産です。ストレートに明記されていないから根拠法令ではない、というような考え方は難しいと思います。

「原則として」という用語は、法制審議会で受託者と受益者の無限責任を議論する際に出てきます(法制審議会信託法部会第1回など)。

倒産隔離機能

「倒産隔離」については、大垣尚司ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版P255の見解を採って、私は利用に慎重になります。

合名会社では、法人と社員が別人格であるから、「社員が無限責任である」と書く必要がある。

信託では、信託財産と固有財産が同一人物の所有に属するから、「無限責任である」と書かないでも全部に強制執行できて当然。

この部分については、信託法177条に信う託債権と受益債権の優劣の記載があります。また会社法580条は、「持分会社の債務を弁済する責任を負う」と記載がありますが、その前に「次に掲げる場合には、連帯して、」とあります。条件がついており、持分会社と連帯債務者となる、ということが抜けているのではないかと思われます。

そのように考えると、合名会社の社員も当然に無限責任を負ってはいないということが出来ます。

まとめ

記事では、法人格に焦点が当てられ、合名会社の社員との比較を通じて信託受託者が無限責任であることは、信託法上に明記されない理由がまとめられている。

私は、信託の受託者が(当然に)無限責任を負う、とは考えない。根拠法令も信託法、破産法にある、と考える。

という違いになります。

公益信託法の見直しに関する 中間試案の補足説明

公益信託法の見直しに関する 中間試案の補足説明

平成29年12月 法務省民事局参事官室 目 次

はじめに ……………………………………………………….. 1

第1 新公益信託法の目的………………………………………….. 4

第2 公益信託の定義等……………………………………………. 5 1 公益信託の定義 …………………………………………….. 5 2 公益信託事務の定義………………………………………….. 9 3 現行公益信託法第2条第1項の削除…………………………….. 11

第3 公益信託の効力の発生……………………………………….. 11 1 公益信託の成立の認可……………………………………….. 11 2 不認可処分を受けた信託の効力………………………………… 12

第4 公益信託の受託者…………………………………………… 15 1 公益信託の受託者の資格……………………………………… 15 2 公益信託の受託者の権限,義務及び責任…………………………. 20

第5 公益信託の信託管理人……………………………………….. 21 1 公益信託における信託管理人の必置…………………………….. 21 2 公益信託の信託管理人の資格………………………………….. 22 3 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任……………………… 24

第6 公益信託の委託者…………………………………………… 25 1 公益信託の委託者の権限……………………………………… 25 2 公益信託の委託者の相続人……………………………………. 26

第7 行政庁 …………………………………………………… 27 1 公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁……………………….. 27 2 行政庁の区分 ……………………………………………… 28

第8 公益信託の成立の認可の申請………………………………….. 29 1 公益信託の成立の認可の申請主体………………………………. 29 2 公益信託の成立の認可の申請手続………………………………. 29

第9 公益信託の成立の認可基準……………………………………. 31 1 公益信託の目的に関する基準………………………………….. 31 2 公益信託の受託者の行う信託事務に関する基準……………………. 32 3 公益信託の信託財産に関する基準………………………………. 35 4 公益信託の信託行為の定めに関する基準…………………………. 39

第10 公益信託の名称…………………………………………… 45

第11 公益信託の情報公開……………………………………….. 47 1 公益信託の情報公開の対象及び方法…………………………….. 47 2 公益信託の公示 ……………………………………………. 48

第12 公益信託の監督…………………………………………… 49 1 行政庁の権限 ……………………………………………… 49 2 裁判所の権限 ……………………………………………… 51

第13 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任………………… 52 1 公益信託の受託者の辞任……………………………………… 52 2 公益信託の受託者の解任……………………………………… 54 3 公益信託の新受託者の選任……………………………………. 57

第14 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任…………. 59 第15 公益信託の変更,併合及び分割………………………………. 61 1 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更…………….. 61 2 公益信託の目的の変更……………………………………….. 67 3 公益信託の併合・分割……………………………………….. 70

第16 公益信託の終了…………………………………………… 72 1 公益信託の終了事由…………………………………………. 72 2 公益信託の存続期間…………………………………………. 73 3 委託者,受託者及び信託管理人の合意による終了………………….. 74 4 公益信託の終了命令…………………………………………. 77 5 公益信託の成立の認可の取消しによる終了……………………….. 78

第17 公益信託の終了時の残余財産の処理…………………………… 80 1 残余財産の帰属権利者の指定………………………………….. 80 2 最終的な残余財産の帰属……………………………………… 82

第18 公益信託と受益者の定めのある信託等の相互変更等………………. 83 1 公益先行信託 ……………………………………………… 83 2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更……………………. 84 3 残余公益信託 ……………………………………………… 84 4 受益者の定めのある信託から公益信託への変更……………………. 85

第19 その他 …………………………………………………. 87 1 信託法第3条第3号に規定する方法による公益信託………………… 87 2 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い…………….. 88 3 罰則 …………………………………………………….. 90 4 その他 …………………………………………………… 91 1

はじめに 法制審議会信託法部会(部会長:中田裕康早稲田大学大学院教授)(以下「部会」 という。)は,平成29年12月12日,「公益信託法の見直しに関する中間試案」 (以下「試案」という。)を取りまとめた。 旧信託法(大正11年法律第62号)は大正11年の制定以来大きな見直しがされ てこなかったが,わが国の社会経済活動の発展・多様化や海外における法整備の動き に対応した抜本的な見直しの必要性が認識されるようになったことから,平成16年 9月8日,法制審議会第143回総会において,法務大臣から旧信託法を全面的に見 直してその現代化を図ることを目的とする諮問第70号がされた。法制審議会に対す る諮問事項は,「現代社会に広く定着しつつある信託について,社会・経済情勢の変 化に的確に対応する観点から,受託者の負う忠実義務等の内容を適切な要件の下で緩 和し,受益者が多数に上る信託に対応した意思決定のルール等を定め,受益権の有価 証券化を認めるなど,信託法の現代化を図る必要があると思われるので,その要綱を 示されたい。」というものである。 これを受け,専門部会として設置された信託法部会では,平成16年10月から平 成18年1月まで30回にわたり審議が行われ(その間,平成17年7月15日に信 託法改正要綱試案が決定され,補足説明とともにパブリックコメントに付されている。), 平成18年1月20日に信託法改正要綱案が決定された。そして,同年2月8日,法 制審議会第148回総会において信託法改正要綱が決定され,「諮問第70号につい ては,現在,信託法部会において審議中であるが,私益信託に関する制度の部分につ き,別紙(信託法改正要綱)のとおり答申する。」と法務大臣に答申された。 このように,平成18年の信託法改正要綱が「私益信託に関する制度の部分につき」 答申された理由は,その当時,民間の資金を利用して公益活動を行うという点で公益 信託と社会的に同様な機能を営む公益法人制度の全面的な見直し作業が並行して進ん でいたことによる。公益法人制度に関しては,平成18年5月,第164回国会(通 常国会)において公益法人制度改革3法(平成18年法律第48号,同第49号,同 50号)が成立し,公益法人の主務官庁による許可・監督制は廃止された。 そして,平成18年の第165回国会(臨時国会)において新信託法(平成18年 法律第108号。以下「信託法」という。)が成立した。もっとも,旧信託法のうち 公益信託に関する部分については,上記のような経緯から実質的な改正が行われず, 旧信託法の法律番号を付けたまま,その法律名を「公益信託ニ関スル法律」(以下「現 行公益信託法」という。)と改正した上で,旧信託法第66条以下の規定の内容を基 本的に維持し,新信託法との調整を図る観点から若干の改正が行われたにとどまった。 そのため,信託法制定時の衆・参両院の附帯決議において「公益信託制度については, 公益法人と社会的に同様の機能を営むものであることに鑑み,先行して行われた公益 2 法人制度改革の趣旨を踏まえつつ,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点か ら,遅滞なく,所要の見直しを行うこと」とされた。このように,平成18年の時点 において,現行公益信託法については,公益法人制度改革の趣旨を踏まえつつ,信託 制度と法人制度との差異を適切に考慮し,公益法人と公益信託の間で整合性のとれた 制度設計をするための将来的な見直しが予定されていた。 その後,平成20年12月から,旧民法下において設立された公益法人について, 新たな公益法人制度の下での公益社団法人・公益財団法人への移行が行われていたが, 平成25年11月に5年間の移行期間が満了した。 これを受け,法務省は,現行公益信託法の見直しの検討を開始し,長らく休会中と なっていた部会を平成28年6月の第31回会議から再開した。部会ではこれまでに 計17回の審議が行われており,平成29年12月の第47回会議で試案が取りまと められるとともに,事務当局においてこれを公表し,意見照会の手続を行うことが了 承された。 試案の要点,ポイントは3点ある。 1点目は,公益信託の信託事務及び信託財産の拡大である。現行公益信託法の下で は,主務官庁による許可の指針となっている「公益信託の引受け許可審査基準等につ いて」(平成6年9月13日公益法人等指導監督連絡会議決定。以下「許可審査基準」 という。)の存在等により,公益信託の利用は,委託者が金銭を信託財産として受託 者である信託銀行(「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律により同法第1条第 1項(兼営の認可)に規定する信託業務を営む同項に規定する金融機関」のことを指 す。以下本試案において同じ。)に拠出し,信託銀行がそれを用いて不特定多数の学 生に対する奨学金の支給や研究者等に対する研究費の助成を行うものに事実上限定さ れている。これを見直し,公益信託の信託財産として,金銭以外の財産,例えば不動 産や有価証券も許容し,公益信託の受託者が,奨学金の支給や研究費の助成等に加え, 美術館や学生寮の運営等の公益信託事務を行うことを許容することが提案されている (試案の第9の2及び第9の3(1))。 2点目は,公益信託の受託者の拡大である。これまでの公益信託の受託者はほぼ信 託銀行に限られてきたが,上記のように公益信託の信託事務や信託財産を拡大する場 合には,それを遂行する能力を有する多様な受託者を確保するため,受託者の担い手 を信託銀行以外の法人や企業にも拡大する必要があることについては部会で異論がな い。他方で,公益信託事務が適正かつ安定的に実施されることも重要であり,公益信 託事務の担い手としての受託者の範囲をどのように画するべきか,法人に加えて自然 人を受託者とすることを認めるかが論点となっている(試案の第4の1(1))。 3点目は,主務官庁による許可・監督制の廃止である。現行公益信託法の下では奨 学金支給なら主に文部科学省,自然環境の保全なら主に環境省というようにそれぞれ 3 所管の主務官庁が公益信託を許可・監督する仕組みが採られてきた。しかし,平成1 8年の法改正の際に主務官庁制を廃止した公益法人と整合性を図り,主務官庁制を廃 止することには部会で異論がなく,新たな公益信託の成立の認可・監督は,民間の有 識者から構成される委員会の意見に基づいて,特定の行政庁が行うものとすることが 提案されている。それに伴い,新たな公益信託においては信託管理人を必置とし,信 託内部の自律的ガバナンスを行政庁が補完する仕組みとすることが想定されている(試 案の第2の3,第5の1,第7)。 以上のポイントとなる点のほか,試案においては,新たな公益信託がより利用者に とって使いやすい仕組みとなることを重視する観点から,税法や信託業法等の関連法 令も視野に入れつつ,新たな公益信託の成立の認可や,監督・ガバナンスの具体的な 仕組み,公益信託の変更及び併合・分割,終了等の幅広い事項について現時点におけ る部会の議論を集約した案が提示されている。 また,現行公益信託法の法律名,条文が大正時代の片仮名文語体のままとなってい ることも改善する必要があり,これらを現代語化することについても部会で異論のな い方針となっている。 今後,部会においては,試案に対して寄せられた意見等を踏まえ,引き続き審議を 行うことが予定されている。 なお,この補足説明は,試案を公表するに当たり,その内容の理解に資するため, 試案に掲げられた各項目について,その趣旨等を補足的に説明するものであり,事務 当局である法務省民事局参事官室の責任において作成したものである。 4 第1 新公益信託法の目的 新公益信託法は,公益信託の成立の認可を行う制度を設けるとともに, 受託者による公益信託事務の適正な処理を確保するための措置等を定める ことにより,民間による公益活動の健全な発展を促進し,もって公益の増 進及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とするものとする。 (補足説明) 現行公益信託法には,その法律の目的を表す規定はない。 しかし,公益信託は,民間の資金を活用して公益活動を行うための制度であるとこ ろ,同様の社会的機能を有する公益法人について定めた公益社団法人及び公益財団法 人の認定等に関する法律(以下「公益法人認定法」という。)や,社会貢献活動を行う 特定非営利活動法人について定めた特定非営利活動促進法(以下「NPO法」という。) においては,いずれもその第1条に法律の目的が規定されており,これらの法律が公 益の増進に資する(公益法人認定法)又は寄与する(NPO法)ことを目的とするこ とがうたわれている。 そして,これらの法律との整合性を図る観点に加え,少子高齢化が進む我が国の将 来を見据えたときに,活力ある社会を実現するために民間が自発的に行う公益活動の 充実がより期待されることに鑑みると,新たな公益信託法の目的を法律の冒頭で明示 することには意義があると考えられることから,試案の第1では,新公益信託法の冒 頭に目的規定を置くことを提案している。 なお,公益信託を設定する委託者及び公益信託への寄附者にとって,自らの財産を 拠出する際に税法上の優遇措置があることは公益信託を利用する理由の一つとなって いるが,現行制度の下では,主務官庁による公益信託の引受け許可の際に用いられる 許可審査基準と税法上の区分である「特定公益信託」及び「認定特定公益信託」とし て優遇措置の適用を受けるための基準が異なるものとなっており,主務官庁による公 益信託の引受け許可を一段階とすれば,いわば二段階(特定公益信託),三段階(認定 特定公益信託)の手続が必要な仕組みとなっている。他方,公益法人制度においては, 公益法人の認定を行う行政庁から公益法人として認定を受けることにより,税法上の 優遇措置の対象となる仕組みとなっている。 税法上の優遇措置の基準については公益信託法の見直しの直接の検討対象ではない が,公益信託法の見直しに際しては,公益法人の活動を促進しつつ適正な課税の確保 を図るために税制上の措置を講ずるものとされている公益法人制度(公益法人認定法 第58条)と平仄を合わせ,行政庁から認可された公益信託が税法上の優遇措置を受 けることが可能な制度となることも視野に入れながら,新たな公益信託の成立の認可 基準や,その監督・ガバナンスに関する規律を検討する必要があるものと考えられる。 5 第2 公益信託の定義等 1 公益信託の定義 公益信託は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とする 受益者の定めのない信託として,行政庁から公益信託の成立の認可を受け たものとする。 (補足説明) 1 公益を目的とする受益者の定めのない信託 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第1条は,公益信託は,信託法第258条第1項に規定する受 益者の定めのない信託のうち学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的と するものにして主務官庁の許可を受けたものであると定義している。 これは,平成18年に制定された新信託法において,公益信託のほかにペット の世話を目的とするものや資産の流動化を目的とするものも受益者の定めのない 信託として効力を認める柔軟な制度設計を採用したことに対応し,公益信託が「祭 祀,宗教,慈善,学術,技芸其ノ他公益ヲ目的トスル信託」と定められていた旧 信託法第66条の定義から,信託法第258条第1項に受益者の定めのない信託 が規定されたことに合わせた定義の変更がされたものである。 ⑵ 「受益者の定めのない信託」と「目的信託」の関係 上記⑴のとおり「受益者の定めのない信託」は法令上の用語であるが,法令上 の用語でない「目的信託」と表現されることがある。もっとも,「受益者の定め のない信託」と「目的信託」との関係を明確にし,かつ,現行法制の関係を整理 した上でないと,「目的信託」の用語を使うことは混乱を招くおそれがある。 現時点,「受益者の定めのない信託」と「目的信託」の関係については,複数 の理解が存在する。まず,①「受益者の定めのない信託」と「目的信託」は同義 であり,その中に公益目的でないものと公益信託があるという理解がある。この ような理解からは「目的信託」について,「受益者の定めのない信託(いわゆる 目的信託)」という使い方がされることが多い。次に,②「受益者の定めのない 信託」の中に公益信託とそれ以外の信託があり,「公益信託以外の受益者の定め のない信託」を「目的信託」と定義付ける理解がある。さらに,③「受益者の定 めのない信託」と「目的信託」は同義であり,その外側に公益信託があるという 理解がある。 現行法制との関係を見るに,現行公益信託法第1条は,公益信託を信託法第2 58条第1項の受益者の定めのない信託の下位概念としており,信託法附則第3 項も含めて,受益者の定めのない信託に公益目的のものが含まれるという前提に 立っているから,上記③の理解は現行法制の整理に適合しない。一方,上記①又 6 は②の理解であれば現行法制の整理と適合するから,①又は②のいずれの理解を 採ることも可能である。 その上で,新たな公益信託の規律を検討するに当たっては,上記①の「目的信 託」の中に公益信託が存在する理解を前提とするよりも,上記②の公益信託とそ れ以外の「目的信託」を対置する理解を前提として,それぞれの規律を比較する 方が分かりやすいと考えられる。 そこで,本補足説明では,上記②の理解に沿い,受益者の定めのない信託のう ち現行公益信託及び新たな公益信託を除いたものを「目的信託」と定義している。 ⑶ 公益信託と目的信託の異同 公益信託の制度は,平成18年の新信託法制定時に導入され同法第11章にお いて特例が設けられた目的信託の制度よりも先に旧信託法の時代から存在してい たものであり,公益信託と目的信託の共通点は,受益者の定めがないという点程 度である。目的信託は,委託者及び受託者の合意によってその効力を生じ,信託 法第259条で20年の期間制限が課され,同法第260条により委託者の権限 が強化された上で行政庁の認可や監督を受けないものとされている一方で,現時 点で想定される新たな公益信託は,委託者及び受託者の合意に加えて「公益を目 的とする」ことなどの認可基準を満たすことが行政庁から認められるものである ことを前提として,同法第259条の20年の期間制限などの規定が適用されず, 公益信託に付す名称が保護される等の公的な保護を受けられる地位を設定するも のであり,成立後も行政庁の監督を受け,委託者が公益信託に過度に関与するよ うな事態を回避することが予定されているものである。このように,目的信託と 公益信託は,重要な部分で相違点があり,性質上大きく異なるものと言える。 ⑷ 「公益を目的とする」と「受益者の定めのない信託」の順序 公益信託について信託法上の規律と別の規律を定めることの意義は,上記⑶の とおり行政庁による審査を経て「公益を目的とする」ことなどの要件を満たすこ とが公に認められるものであることを前提として,当該信託に公的な保護を受け られる地位を設定することにあると考えられる。また,旧信託法第66条が公益 信託を「公益ヲ目的トスル信託」として定義していたことを踏まえると,新たな 公益信託は「「公益を目的とする」「受益者の定めのない信託」として行政庁から 公益信託の成立の認可を受けたもの」であると定義することが相当であると考え られる。 ⑸ 新公益信託法と信託法の関係 その上で,新公益信託法は新たな公益信託について目的信託と異なる信託法の 特則を定める信託法の特別法であると位置付けられるから,新たな公益信託につ いては信託法第1章から第10章まで,第12章及び第13章の規定を適用する が,同法第11章(同法第258条から第261条まで)の規定は適用しないも 7 のとし,公益信託について信託法第1章から第10章まで,第12章及び第13 章の規定とは異なる特例を設ける場合には,新公益信託法の中に信託法第11章 (同法第258条から第261条まで)とは別の特例を設けることが相当である と考えられる。その際には,目的信託の受託者要件(信託法施行令第3条)の適 用範囲について「受益者の定めのない信託(学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その 他公益を目的とするものを除く。)」と定める信託法附則第3項も改正する必要が あるものと考えられる。 なお,公益信託は「公益を目的とする」ことに加え,「不特定かつ多数」の者の 利益の増進に寄与する,すなわち,公益信託事務による財・サービスの提供を直 接的に受ける者が特定の者に限られず,かつ,その数が多いことを原則として必 要とするものである。「不特定かつ多数」の文言は後記第2の2の公益信託事務の 定義で用いることとしている。 2 公益の例示 現行公益信託法第1条では「学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他」という順序 で公益が例示されている。これは,旧信託法第66条における公益の例示が,民法 旧第34条の公益法人における公益の例示と同様に「祭祀,宗教,慈善,学術,技 芸」とされていたものが,平成16年に現代語化された民法の旧規定における公益 の例示の順序が「学術,技芸,慈善,祭祀,宗教」に変更されたことに対応し,平 成18年の現行公益信託法制定時に上記民法の旧規定における公益の例示の順に合 わせたものである。 他方,公益法人認定法第2条第4号では,公益の例示として,「学術,技芸,慈善」 が挙げられているが,「祭祀,宗教」は挙げられていない。その理由は,民法施行法 旧第28条に「民法中法人ニ関スル規定ハ当分ノ内神社,寺院祠宇及ヒ仏堂ニハ之 ヲ適用セス」と規定され,民法の施行当初から,信教の自由の確保の観点上,民法 旧第34条の法人に関する規定は神社,寺院等には直ちに適用されないこととされ ており,その後,特別法である宗教法人法が制定されたために,宗教団体は同法に よって法人格を取得することが一般的となり,民法施行以来公益法人認定法の制定 に至るまで,実質的に宗教団体は民法旧第34条の適用範囲とされてこなかったこ とに基づくものであると考えられる。 もっとも,民法の特別法として宗教法人法が存在するのに対し,信託法の分野で はそれに相当する特別法が存在しないことに鑑みると,現時点において,特に現行 公益信託法第1条の表現を変更するまでの必要性は見当たらないことから,試案の 第2の1では,公益の例示を「学術,技芸,慈善,祭祀,宗教」の順序とする現行 公益信託法第1条と同様の表現としている。 8 3 公益信託の成立の認可 現行公益信託法第2条は,公益信託は主務官庁の「許可」を受けなければその効 力を生じない旨を規定している。 しかし,以前同様に主務官庁による設立の許可制が採られていた公益法人につい ては,主務官庁による裁量の幅が大きく,事業分野毎の主務官庁による指導監督が 縦割りで煩雑であり,法人設立が簡便でない等の問題点があり,公益法人制度改革 の結果,主務官庁による許可制は廃止され,民間の有識者から構成される合議制の 第三者機関を諮問機関として特定の行政庁が公益認定を行う仕組みが採用された。 一方,現在も主務官庁による引受けの許可制が採られている公益信託の審査実務 に対しては,①主務官庁ごとに許可基準が異なる場合がある,②公益信託の申請件 数が少ない主務官庁では担当者の公益信託の知識が十分でないために許可までの手 続に時間がかかる場合がある,③複数の主務官庁の所管にまたがる目的の公益信託 の場合にいずれの官庁が担当するか決まらずに時間を要する場合がある等,旧公益 法人と同様の主務官庁による許可制に対する問題点が指摘されている。 このように,主務官庁による公益信託の引受けの許可制(以下「主務官庁による 許可制」という。)についても,公益法人と同様の弊害が指摘されていることから すると,仮に新たな公益信託制度において主務官庁による許可制を維持するのであ れば,公益法人制度改革における政策決定が公益信託制度には妥当しないとの積極 的な理由付け・論証がされる必要があるが,そのような積極的な理由付けは見当た らない。そして,上記の問題点を解消するとともに,公益信託と類似の社会的機能 を有する公益法人制度との整合性を図る観点からは,現行公益信託法第2条第1項 を削除し,主務官庁による許可制を廃止する(試案の第2の3)ことが相当である と考えられる。 その上で,主務官庁に代わる行政庁が新たな公益信託の成立時に行う行政処分の 法文上の表現を検討するに,まず,「認定」とは,既に私法上の効果を有している 行為に対し,行政庁の行政処分によって一定の追加的効果を与える意味で使われる ことが多く,具体的な例としては,一般法人が行政庁による公益認定を受けて公益 法人としての地位を認められることになる公益法人制度が挙げられる。ただし,新 公益信託法の下では,公益信託として新たに信託を成立させる場合,未だ信託契約 の効力が生じていない段階で行政庁に対する認可の申請が行われることも想定され るため,必ずしも目的信託の前置を必要としない(なお,目的信託から信託の変更 をして公益信託の成立の認可を受けることも可能である。)仕組みが想定されてい ることからすると,新たな公益信託の成立時の行政処分を公益法人制度と同一の「認 定」と表現することは相当でないと言える。 また,「許可」は,行政庁による行政処分を受けなければ禁止されている行為に ついて,一定の要件を満たす場合に行政庁の行政処分により禁止を解除し,私人が 9 適法に当該行為を行うことを可能とする,行為規制効を有する行政処分の意味で使 われることが多い。そして,試案の第2の3では,行政庁の認可を受けていない公 益を目的とする受益者の定めのない信託であっても,当該信託の設定を禁止するこ とはせず,当該信託を受益者の定めのない信託として有効とすることを可能とする 旨の提案をしていることからすると,新たな公益信託の成立時の行政処分を「許可」 と表現することは相当でないと言える。 さらに,「認可」は,一定の要件を満たす場合に行政庁の行政処分により法的主 体に対し一定の権利を認めると同時に義務を課す,地位設定効を有する行政処分の 意味で使われることが多い。そして,新たな公益信託の成立時に行政庁が行う行政 処分の効力は,公益信託に対し20年の期間制限などの目的信託の規定が適用され ず,名称の保護が受けられるなどの効力を付与するものであることからすると,こ れを「認可」と表現することが最もその行政処分の性質を適切に表現するものであ ると言うことができる。 そこで,試案の第2の1では,公益信託の定義を,公益信託は公益を目的とする 受益者の定めのない信託として行政庁から成立の「認可」を受けたものとすること を提案している。 2 公益信託事務の定義 公益信託事務は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益に関する 具体的な種類の信託事務であって,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄 与するものとする。 (補足説明) 1 公益信託事務の定義の必要性とその種類 現行公益信託法第4条では,「公益信託事務」という用語が使われているが,これ を定義した規定はない。 一方,公益法人認定法第2条第4号は,「公益目的事業」を「学術,技芸,慈善そ の他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって,不特定かつ多数の者の 利益の増進に寄与するもの」として定義しており,公益法人認定法との平仄を合わ せる観点からは,公益法人の公益目的事業と同様に,公益信託事務も法律の中で定 義することが利用者にとって分かりやすいと考えられる。その上で,公益の増進に 寄与する信託事務又は事業の種類は,その活動を営む形式が信託であるか法人であ るかにより異なるものではないから,公益信託の公益信託事務として想定される具 体的な種類の信託事務としては,公益法人の公益目的事業と同様のものが想定され る。そこで,試案の第2の2では,公益信託事務を,公益法人認定法第2条第4号 の公益目的事業の定義と同様の形で定義することを提案している。新公益信託法の 10 別表各号には,公益法人認定法第2条第4号の公益目的事業に関する別表と同様の 種類の信託事務を掲げることを想定している。 なお,公益法人認定法第2条は,公益法人は行政庁の認定を受けた一般法人であ る旨定義し,同法第5条第1号は,公益目的事業を行うことを主たる目的とするも のであることを公益認定の基準としていることから,公益性については認定基準の みに規定し,その認定を受けた一般法人を公益法人と定義することで,公益法人が 公益性を有することが明らかになっている。一方,試案においては,公益信託は公 益を目的とする受益者の定めのない信託として行政庁から公益信託の成立の認可を 受けたものであると定義し(試案の第2の1),公益信託は公益信託事務を行うこと のみを目的とすることを認可基準としている(試案の第9の1)。このように,試案 では,公益信託の定義を具体化したものを公益信託の成立の認可基準としているた めに,上記公益法人認定法の規定とは異なり,公益性を公益信託の定義及び認可基 準において二重に規定しているようにも見えることから,公益信託の定義について は認可基準との関係を踏まえて整理する必要があるという指摘もある。 2 不特定かつ多数の者の利益の増進 「不特定かつ多数」の文言は公益信託と類似の社会的機能を有する公益法人認定 法第2条第4号のほかにNPO法第2条第1項でも用いられており,公益性を表現 する文言として定着しているものと考えられる。そこで,試案の第2の2では,公 益信託事務の定義において,公益法人認定法第2条第4号の公益目的事業と同様に, 「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」という文言を使用している。 なお,公益法人認定法第2条第4号において,法人が行う事業が「不特定かつ多 数」の者の利益の増進に寄与するものと言い得るのは,原則として,その事業によ り提供される財・サービスの直接的な受益者が特定の者に限られず,かつ,その数 が多い場合を指すと解されている。また,公益法人の認定における「不特定かつ多 数」の具体的な判断は,国又は都道府県の合議制の機関が個別に行うこととなるが, 受益者等が特定の範囲の者に限られる場合であっても,その受益の効果が広く社会 全体や十分広い範囲に及ぶことを積極的に意図して事業を行い,その事業を介して 社会全体あるいは十分に広い範囲に利益が及ぶ場合や,現時点では受益者等が少数 であっても,その事業の趣旨,性質から利益の及ぶ範囲を踏まえると,実質的に多 数の者が受益の対象となる場合等についても,「不特定かつ多数」の者の利益の増進 に寄与するものと判断されることがあり得るものと考えられている(新公益法人制 度研究会編著「一問一答公益法人関連三法」(以下「一問一答公益法人関連三法」と いう。)194頁参照)。このような民間非営利部門による公益的活動を促進すると いう公益法人制度改革の趣旨に基づく「不特定かつ多数」の考え方は,新たな公益 信託の成立の認可の場面における「不特定かつ多数」の判断にも妥当し,「不特定か 11 つ多数」の要件を形式的に判断することは適当でなく,実質的かつ柔軟に行われる ことが望ましいと考えられる。 3 現行公益信託法第2条第1項の削除 現行公益信託法第2条第1項を削除するものとする。 (補足説明) 現行公益信託法第2条第1項は,公益信託は「受託者ニ於テ主務官庁ノ許可ヲ受ク ルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ」と規定している。 しかし,試案の第2の1の補足説明に記載したとおり,現在の主務官庁による許可 制は廃止することが相当である。また,現行公益信託法第2条第1項の文言からは, 主務官庁による許可を受けていない公益を目的とする受益者の定めのない信託は無効 であるという解釈があり得るが,民間の自立的な公益活動を促進する観点からは,主 務官庁による許可や行政庁の認可を受けていない公益を目的とする受益者の定めのな い信託であっても,当該信託を有効とすることが適切であると考えられる。そこで, 試案の第2の3では,現行公益信託法第2条第1項を削除する提案をしている。 第3 公益信託の効力の発生 1 公益信託の成立の認可 公益信託は,当事者が信託行為をし,かつ,行政庁による公益信託の成 立の認可を受けることによってその効力を生ずるものとする。 (補足説明) 1 公益信託の効力の発生 現行公益信託法第2条第1項は,公益信託は,「受託者ニ於テ主務官庁ノ許可ヲ 受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ」と規定し,信託の効力の発生について定める 信託法第4条の特則を定めている。 しかし,試案の第2の1及び3の補足説明に記載したとおり,新公益信託法では 主務官庁による許可制を廃止して行政庁による成立の認可の制度を採用した上で, 行政庁の認可を受けない公益を目的とする受益者の定めのない信託を有効とするこ とが相当であるから,公益信託の効力の発生についての信託法第4条の新たな特則 を定める必要がある。そこで,試案の第3の1では,公益信託は当事者が信託行為 をし,かつ,行政庁による公益信託の成立の認可を受けることによりその効力を生 じるものとすることを提案している。 公益信託としての地位設定効すなわち公益信託に付された名称の保護や行政庁の 12 監督が及ぶ等の公益信託の効力は,委託者及び受託者が信託行為をすること及び行 政庁による公益信託の成立の認可を受けることの両方の要素を備えることにより発 生する。 2 新たに公益信託を設定する場合 当事者が新たに公益信託を設定する場合,すなわち,当事者が当初から公益信託 の成立の認可申請を予定している場合における認可前の当事者間の法的関係は,通 常は公益信託として名称の保護や行政庁の監督が及ぶ等の効力が生じる前の,いわ ば公益信託の準備状態にあり,目的信託が成立していないものと捉えられることか ら,信託行為と公益信託の成立の認可の前後関係を問わず,公益信託の効力が生ず るまでの法律関係については信託法第259条の20年の期間制限は適用されず, 信託法附則第3項の受託者の資格制限等も適用されないことになる。 3 既存の目的信託から公益信託に変更する場合 一方,当事者が目的信託として設定し既に有効に成立している目的信託を公益信 託に変更する場合も想定される。その場合における認可前の当事者間の法的関係は, 目的信託が成立しているものと捉えられ,その後当事者が目的信託から公益信託へ の信託の変更を行い,かつ,行政庁による公益信託の成立の認可を受けたときに公 益信託としての効力を生じることから,信託の変更と公益信託の成立の認可の前後 関係を問わず,公益信託の効力が生ずるまでの法律関係については信託法第259 条の20年の期間制限及び信託法附則第3項の受託者の資格制限等が適用されるこ とになる。 2 不認可処分を受けた信託の効力 公益信託として新たに信託を成立させる場合に行政庁から不認可処分を 受けても当該信託を受益者の定めのない信託として有効に成立させる旨の 信託行為の定めがあるときは,当該信託は不認可処分を受けた時から受益 者の定めのない信託としてその効力を生ずるものとし(注1),当該信託 については信託法第11章の規定を適用するものとする(注2)。 (注1)上記のような規律については,新公益信託法の中に規定を設けるのではなく, 解釈に委ねるべきであるという考え方がある。 (注2)行政庁から不認可処分を受けた受益者の定めのない信託について,信託法 第11章の規定を適用するが,一定の事項につき信託法第11章の特則を設けるべき であるという考え方がある。 13 (補足説明) 1 不認可処分を受けた信託の効力 現行公益信託法第2条第1項は,公益信託は「主務官庁ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ 其ノ効力ヲ生ゼズ」と規定している。そのため,主務官庁から許可を受けていない公 益を目的とする受益者の定めのない信託は無効であるという解釈が存在していた。 しかし,試案の第2の3の補足説明に記載したとおり,行政庁から不認可処分を受 けた受益者の定めのない信託であってもこれを一律に無効とすることは公益の増進へ の寄与を目的とする民間の公益活動に対する過度な制約であると考えられる。また, 目的信託は,地域住民が金銭を拠出して信託を設定し,当該地域社会における老人の 介護,子育ての支援,地域のパトロール等の非営利活動に充てるなどの共益的な活用 が予定されていたものであり(寺本昌広「逐条解説新しい信託法〔補訂版〕」(以下「寺 本逐条解説」という。)448頁参照),それらの目的と公益目的との間には截然と区 別できない面があることからすると,上記のような共益的な目的を有する目的信託を 有効とする一方で,行政庁から公益信託の成立の認可が受けられなかったという理由 のみにより公益を目的とする受益者の定めのない信託を無効とすることは均衡を欠く。 一方,既に有効に成立している目的信託を公益信託に変更しようとし,行政庁に公 益信託の成立の認可の申請をしたが,不認可処分を受けた場合については,当該目的 信託の効力は不認可処分の前後で変わるものではなく,同一の目的信託が不認可処分 の前後で連続しているものと考えられる。 そこで,試案の第3の2では,公益信託として新たに信託を成立させる場合に行政 庁から不認可処分を受けても当該信託を受益者の定めのない信託として有効に成立さ せる旨の信託行為の定めがあるときは,当該信託は不認可処分を受けた時から受益者 の定めのない信託として効力を有するものとし,当該信託については信託法第11章 の規定を適用することを提案している。 2 試案の第3の2の(注1)について 試案の第3の2の提案に対しては,行政庁から不認可処分を受けた信託に信託法第 11章の規定を適用するのであれば,当該信託が不認可処分を受けた時から効力を有 することについては,新公益信託法の中に規定を設けるのではなく,現行公益信託法 第2条第1項の削除を前提とした上で,試案の第3の1の規定及び信託法第4条の解 釈に委ねれば足りるという考え方があることから,その考え方を試案の第3の2の(注 1)に示している。 (注1)の考え方を敷衍すると,以下のとおりとなる。すなわち,当事者が新たに 公益信託を設定する場合であるか,当事者が目的信託を設定する場合であるかは,信 託行為の解釈に委ねられるほかない問題であるように考えられる。そして,例えば, 信託契約書の中に,受託者となろうとする者が「公益信託の成立の認可の申請を行う 14 ものとする」かつ「不認可処分を受けた場合は,目的信託として成立するものとする」 等の記載があるものは,新たに公益信託を設定する場合であると解釈されることが多 いと考えられるが,このような信託契約書の記載からは,当事者が目的信託を行政庁 の不認可を停止条件として設定したと解釈することもでき,試案の第3の2のような 規律を新公益信託法の中に設ける必要はないということになる。もっとも,試案の第 3の2の提案には,公益を目的とするが行政庁の認可を受けない受益者の定めのない 信託を一律に無効とはしないという部会での一致した意見を明らかにする意味があり, そのことを踏まえて引き続き検討を要する。 3 試案の第3の2の(注2)について 試案の第3の2の提案に対しては,公益信託として新たに信託を成立させる場合に 行政庁から不認可の処分を受けても当該信託を有効とする旨の信託行為の定めがある ときに成立する受益者の定めのない信託については信託法第11章の規定を適用する が,一定の事項につき信託法第11章の特則を設けるべきであるという考え方もある ことから,その考え方を試案の第3の2の(注2)に示している。 (注2)に示す特則の例としては,目的信託の受託者の資格に関する信託法附則第 3項の受託者要件を適用しないこと,目的信託の存続に関する同法第259条の規定 を適用しないこと,目的信託の委託者の権限に関する同法第260条の規定を適用し ないこと等要件を緩和する規定のほか,信託管理人を必置とする規定を設けること, 試案の第4の1のように受託者の適格性を要求すること等内部ガバナンスの厳格化に 関する規定が考えられる。 もっとも,行政庁から不認可処分を受けた受益者の定めのない信託について上記受 託者要件の不適用等の追加的な効果を発生させるということは,当該信託の受託者に よる公益信託の成立の認可の申請により,当該信託が認可要件を満たしていなくても 本来は目的信託に付与されていない効果を発生させることを意味するものであり,そ のような取扱いには合理性に疑いがあると考えられるため,不認可処分を受けた受益 者の定めのない信託について一定の事項につき信託法第11章の特則を設けることに ついては慎重な検討を要する。なお,試案の第3の2の(注2)の考え方が採られる 場合には,当該信託の効力は,行政庁から不認可処分を受けた時から生じるものと考 えられる。 15 第4 公益信託の受託者 1 公益信託の受託者の資格 公益信託の受託者は,次の資格を満たさなければならないものとする。 ⑴ 公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有すること(注1) 【甲案】公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する法人である こと 【乙案】公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する者(法人又 は自然人)であること(注2) (注1)受託者がその信託財産の処分を行う場合には,当該公益信託の目的に関 し学識経験を有する者又は組織(運営委員等又は運営委員会等)の意見を聴く ことを必要とすべきであるとの考え方がある。 (注2)受託者の資格として,自然人が公益信託の受託者となる場合には,公益 信託の信託財産の適切な管理・運用をなし得る能力を有する法人と共同で受託 者となることを必要とし,その法人と共同で公益信託事務の適正な処理をなし 得る能力を有することを必要とするとの考え方がある。 ⑵ 受託者が自然人である場合(⑴で乙案を採用する場合) ア 信託法第7条に掲げる者に該当しないこと イ 禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行を終わり,又は刑の執行を 受けることがなくなった日から5年を経過しない者に該当しないこと ウ 信託法その他の法律の規定に違反したことにより,罰金の刑に処せ られ,その執行を終わり又は執行を受けることがなくなった日から5 年を経過しない者に該当しないこと エ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規 定する暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者 に該当しないこと オ 公益信託の成立の認可を取り消されたことに責任を負う公益信託の 受託者又は信託管理人でその取消しの日から5年を経過しない者に該 当しないこと ⑶ 受託者が法人である場合 業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しく はその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,上記⑵ア ないしオのいずれかに該当する者がないこと (補足説明) 1 公益信託の受託者の資格に関する規律の必要性 現行公益信託法には,公益信託の受託者となり得る者の資格に関する規定は存在 16 しない。ただし,未成年者又は成年被後見人若しくは被保佐人を受託者の欠格事由 とする現在の信託法第7条の規定は公益信託にも適用される。そして,信託の成立 時に受託者が信託法第7条の欠格事由に該当する場合には当該信託は無効であり, 成立後に受託者が欠格事由に該当した場合には当該受託者の任務終了事由になると 解されている(村松秀樹ほか「概説新信託法」(以下「村松ほか概説」という。)1 9頁参照)。また,税法においては,受託者が信託会社(金融機関の信託業務の兼営 等に関する法律により同法第1条第1項(兼営の認可)に規定する信託業務を営む 同項に規定する金融機関を含む。)であることが特定公益信託の要件とされている。 なお,信託業法第3条は,信託業は,内閣総理大臣の免許を受けた株式会社でなけ れば営むことができないと規定している。 そして,公益信託事務の適正な処理を確保するという観点からすると,受益者が 存在せず,受益者による受託者の監督を期待することができない公益信託について は,その受託者自身に一定の適格性を要求することが望ましい。 また,許可審査基準「6.機関⑵ア」は,公益信託の受託者は,適切な管理運営 をなし得る能力を有するもので,社会的な信用を有し,かつ,知識及び経験が豊富 であることを公益信託の許可の要件としているが,成立の認可基準のような重要な 事項についてはできる限り法律に明示すべきであると考えられる。 そこで,試案の第4の1では,公益信託の受託者が一定の資格を有することを認 可基準とする旨の提案をしている。試案の第4の1に掲げた資格を受託者が満たさ ない場合には,公益信託の成立の認可を受けられず(仮に事後的に資格を満たさな いことが判明した場合には当該信託は無効又は公益信託の成立の認可の必要的取消 事由に該当すると考えられる。),公益信託の成立後に資格を満たさなくなった場合 には受託者の任務終了事由となることが想定される。また,公益信託の受託者が公 益信託事務の適正な処理をなし得る能力を喪失した場合には,公益信託の成立の認 可の任意的取消事由となる可能性がある。 2 公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有すること ⑴ 公益信託事務の適正な処理能力 試案の第4の1⑴では,公益信託の成立の認可を受けるために,受託者が公益 信託事務の適正な処理をなし得る能力を有することを必要としている。ここで, 公益信託事務の適正な処理とは,信託財産の管理処分や運用等の信託事務が適 正に行われることを意味するものであり,公益信託の受託者は,当該公益信託 の目的に照らし公益信託事務を適正に処理する責任を負う。したがって,公益 信託の受託者は,当該公益信託の目的に照らし公益信託事務の適正な処理能力 を自ら備えるか,その能力が不十分な場合には,当該受託者において公益信託 事務の適正な処理能力を補う仕組みを整える必要があると考えられる。その上 17 で,現在の500件弱存在する公益信託のうちのほとんどの受託者は信託銀行 であるが,公益信託事務として奨学金支給などを行う助成型の公益信託であれ ば,信託銀行以外にもそれを行う能力を有する者は存在するし,事業型の公益 信託には信託銀行以外の受託者がその信託事務の適正な遂行能力を有している ことも期待できるから,公益信託の受託者はこれまでよりも広がりをもって検 討することが相当であると言える。 ⑵ 試案の第4の1⑴の甲案について 試案の第4の1⑴の甲案は,公益信託の受託者が公益信託事務の適正な処理を なし得る能力を有する法人であることを必要とするものである。 甲案の理由としては,①美術館や学生寮の運営のほか,経済的な問題などによ り家庭で十分な食事を取ることが困難な子ども等に対し地域住民が無料で食事 を提供する子ども食堂の運営のような事業型の公益信託を想定するのであれば, 元々それに類似する事業を行っている法人の方が受託者として想定しやすいこ と,②公益信託を簡易に設定し,安定的・継続的に遂行するためには受託者に おいてそれなりの人員,組織及び資力を有していることが前提となること,③ 死亡,病気や老衰などのリスクが存在する自然人受託者と異なり,十分な人員, 組織及び資力を有する法人が受託者となる場合は,それらのリスクが小さいこ とが挙げられる。 甲案に対しては,公益信託には多様な活用法が想定され,その中には自然人 の受託者において信託財産の管理処分を含む公益信託事務の適正な処理を行う ことが可能なものもあり得るのであって,一律に自然人を受託者から排除する のは相当でないという問題点の指摘がある。 ⑶ 試案の第4の1⑴の乙案について 試案の第4の1⑴の乙案は,公益信託の受託者が,公益信託事務の適正な処 理をなし得る能力を有することを必要とすることについては,試案の第4の1 の甲案と同様であるが,甲案の法人受託者に加え,公益信託事務の適正な処理 をなし得る能力を有する自然人受託者も許容するものである。 乙案の理由としては,①公益信託の受託者として重要なのは,公益信託事務 の適正な処理をなし得る能力であり,その能力を有する者であれば,法人であ っても自然人であっても差し支えないこと,②法人にも破産や解散などにより 受託者としての能力を失う場面があり得ること,③現在の信託法は,旧信託法 における受託者の自己執行義務を改めて受託者から第三者への事務処理の委託 を広く認めており,自然人受託者が一定の範囲の信託事務を第三者に委託して 公益信託事務を行うことは可能であることが挙げられる。 乙案に対しては,法人と違い内部のガバナンスを備えていない自然人につい ては信託財産の管理処分を含む公益信託事務の適正な処理を確保する仕組みが十 18 分でないとの指摘がある。また,資本金の額や貸借対照表,組織構成等の客観 的な要件に基づいて適格性を判断できる法人と異なり,自然人受託者の適格性 の要件を明確に定めることには困難を伴い,客観的な要件が規定されなければ, 新たな公益信託における行政庁が,それぞれの自然人受託者の適格性を判断す ることは難しくなってしまう等の問題点の指摘がある。 ⑷ 試案の第4の1⑴の(注1)について 試案の第4の1⑴の(注1)は,受託者が,公益信託の目的に照らし,公益 信託事務の適正な処理を行うために運営委員会を必置としている許可審査基準 と同様の規定を新公益信託法の中に設けるべきであるとする考え方であり,試 案の第9と関連する。もっとも,許可審査基準は公益信託事務が原則として奨 学金の支給や研究費の助成等であることを前提として運営委員会を必置として いるものである一方で,新たな公益信託においては,試案の第9の2及び第9 の3⑴の提案のとおり,美術館や学生寮の運営を目的とする事業型も許容する が,こうした事業型の公益信託では信託財産の処分について当該公益信託の目 的に関し助言を行う運営委員会を必ずしも必要としないと考えられる。そのた め,助成型の公益信託のみならず事業型の公益信託も許容する新たな公益信託 において運営委員会を法律上必置とする取扱いには合理性に疑いがあり,その 規律を新公益信託法の中に設けることには慎重な検討が必要であると考えられ る。なお,新たな公益信託の信託行為において,受託者が助成型の公益信託に 対応した従前の運営委員会等と同様の機能を有する機関を任意的に設けること や,事業型の公益信託に対応して公益信託事務の適正な処理を確保するために 受託者に対し助言,勧告等を行う機関を任意的に設けることが否定されるもの ではない。 ⑸ 試案の第4の1⑴の(注2)について 試案の第4の1⑴の(注2)は,法人との共同受託であれば自然人を公益信 託の受託者とすることを許容する考え方である。この考え方は試案の第4の1 ⑴の甲案と乙案の折衷的な考え方であるが,共同受託者は相互にその業務執行 を監視する義務を原則として負うことからすると,仮に自然人受託者の能力が 十分でない場合には信託財産の適切な管理運用をなし得る能力を有する法人受 託者の負担のみが増える可能性があること等の問題点の指摘がある。 3 公益信託の受託者の欠格事由 ⑴ 公益信託の受託者が自然人である場合 試案の第4の1⑵アは,公益信託の受託者が自然人である場合に,信託法第7 条の欠格事由が適用され,未成年者又は成年被後見人若しくは被保佐人を受託者 とすることはできないことを示すものである。 19 試案の第4の1⑵イからオまでは,公益信託の受託者が自然人である場合に, 公益法人認定法第6条所定の公益法人の役員に関する欠格事由や信託法施行令 第3条第2号の目的信託の受託者である法人の役員に関する欠格事由を参考と して,公益信託の自然人受託者の欠格事由を新公益信託法の中に定めることを 提案するものである。 試案の第4の1⑵オの「公益信託の成立の認可を取り消されたことに責任を 負う公益信託の受託者」としては,公益信託の受託者が行政庁の勧告・命令等 に正当な理由なく従わず,試案の第12の1⑷に該当するとして公益信託の成 立の認可が必要的に取り消されたような場合を想定しているが,公益信託の成 立の認可が取り消される場合としてはその他の必要的取消事由又は任意的取消 事由に該当する場合も想定されることから,試案の第4の1⑵オの表現につい ては引き続き検討を要する。 なお,公益法人認定法第6条は,公益法人の理事に,公益認定を取り消され た公益法人の業務を行う理事であった者でその取消しの日から5年を経過しな い者がいる場合,当該法人は公益認定を受けることができないと規定している が,その取消しは同法第29条第1項第4号により公益法人が公益認定の取消 しを申請して公益認定が必要的に取り消された場合を含むものとされている。 一方,試案の第16の3の甲案において公益信託の終了を,委託者,受託者及 び信託管理人の合意に加え行政庁による公益信託の成立の認可の取消処分がさ れたときに可能とするのであれば,その後5年間当該受託者が別の公益信託の 受託者となることを妨げる必要はないと考えられる。ただし,行政庁から認可 基準を満たさないことを理由に認可取消しの処分を受ける前に合意に基づく認 可の取消しを申請するようなケースも想定されることから,その点も含め引き 続き検討が必要である。 ⑵ 公益信託の受託者が法人である場合 試案の第4の1⑶は,公益信託の受託者が法人である場合に,その業務を執 行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しくはその職務を行う べき社員又は監事若しくは監査役,すなわち,いかなる名称を有する者である かを問わず,当該法人に対し役員と同等以上の支配力を有する者と認められる者 のうちに,上記試案の第4の1⑵アないしオのいずれかに該当する者がいるこ とを欠格事由とすることを提案するものである。上記「業務を執行する」は社 員のみを修飾する。また,上記「その職務を行うべき社員」の「その職務」と は,会計参与が行う職務を指すものである。 試案の第4の1⑶の欠格事由について,法人受託者が信託銀行等であり,そ の取締役の一人が犯罪を行ったとしても,法人受託者としての適格性が失われ るわけではないから,公益信託の成立の認可の取消事由とすることや,受託者 20 の任務終了事由とすることは適当でないとの考え方もある。たしかに,そのよ うな場合に法人受託者を交代させるのは合理的でない面があるが,法人受託者 の取締役等を含む欠格事由について実質的判断基準を採用することには困難な 面があり,引き続き検討を要する。 2 公益信託の受託者の権限,義務及び責任 ⑴ 公益信託の受託者の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある信託 の受託者の権限,義務及び責任と同様であるものとする。 ⑵ 受託者の善管注意義務は,軽減することはできないものとする。 (補足説明) 1 公益信託の受託者の権限,義務及び責任 現行公益信託法に公益信託の受託者の権限,義務及び責任について信託法の特則 を定めた規定はなく,現行公益信託法の規律を除き目的信託に関する信託法第11 章の規定が適用されることになる。 しかし,公益信託は,目的信託とは性質上大きく異なるものであることからす れば,目的信託についての特則を定めた信託法第11章の規定をそのまま新たな 公益信託に適用する必要性は低いと言える。そこで,試案の第4の2⑴では,公 益信託の受託者の権限,義務及び責任を,受益者の定めのある信託の受託者の権 限(信託法第26条から第28条まで),義務及び責任(同法第29条から46条 まで)と同様とする旨の提案をしている。 具体的には,上記信託法第26条から第46条までの規定の中には,同法第2 6条のように受益者の定めのある信託の規定を新たな公益信託にもそのまま適用 することが相当である規定もあれば,同法第30条のように「受益者のため」を 「信託の目的の達成のため」と読み替えて新たな公益信託に適用することが相当 である規定もあると考えられる。上記のような読替えを行うためには,新公益信 託法の中に読替え規定(信託法第261条の別表に類似するが,新たな公益信託 では信託管理人が必置とされるので「信託管理人が現に存する場合にあっては」 等の文言は不要となるものと考えられる。)を置くことが想定されるところ,上記 読替え規定の内容については,引き続き検討を要する。 2 受託者の善管注意義務の軽減の禁止 新たな公益信託に受益者の定めのある信託の受託者についての規定を適用する ことにした場合,公益信託の受託者も信託法第29条第2項の善管注意義務を負 うことになるが,同項ただし書では信託行為による受託者の善管注意義務の軽減 が可能とされている。 21 しかし,受益者の定めのある信託については受託者の善管注意義務の軽減が適 切である場面が想定されているのとは異なり,公益目的のために拠出された公益 信託の信託財産の管理処分を行う受託者については,一定の資格が要求された上 でより信託財産の管理に重きが置かれるべきである。そこで,試案の第4の2⑵ では,公益信託の受託者の善管注意義務を軽減することはできないとする強行規 定を新公益信託法の中に設ける旨の提案をしている。 なお,公益信託の受託者が負う信託法第29条第2項の善管注意義務以外の義 務については,同法第31条2項及び同法第32条2項等を参考に新公益信託法 においても任意規定として信託行為で別段の定めを置くことはできるものとする ことを想定している。 第5 公益信託の信託管理人 1 公益信託における信託管理人の必置 公益信託の信託行為には,信託管理人を指定する旨の定めを設けなけれ ばならないものとする。 (注)美術館や学生寮の運営等を公益信託事務としている公益信託においては,会社法 がその規模等に応じて監査役,会計参与,会計監査人等を置かなければならない会社 を定めていることを参考にして,公益信託事務の規模等に応じて,公益信託の信託行 為に,事務処理及び会計の監査権限を有する者を指定する旨の定めも設けなければな らないとする考え方がある。 (補足説明) 1 公益信託における信託管理人の必置 現行公益信託法は,公益信託を設定するときに,信託管理人を指定する定めを設 けることを義務付けていない。一方,信託法第258条第4項により遺言により目的 信託を設定するときには信託管理人を指定する定めを設けなければならないとされて いる。また,許可審査基準では,設定の方法が遺言であるか信託契約であるかを問わ ず信託管理人は必置とされており,税法でも信託管理人を置くことが税制優遇を受け るための要件とされている。 しかし,主務官庁による許可・監督制を廃止し,委託者,受託者及び信託管理人 による自律的な監督・ガバナンスによって公益信託の運営の適正性を確保しようとす る新たな公益信託においては,信託管理人に期待される役割は従前よりも大きくなる。 また,公益信託の委託者の権限は,目的信託の委託者の権限よりも狭め,受益者の定 めのある信託の委託者の権限と同様のものとすること(試案の第6の1)からしても, 公益信託の目的の達成のために受託者を監督する信託管理人の役割は重要であると言 22 える。 そこで,試案の第5の1では,公益信託の信託行為には,信託契約による設定又 は遺言による設定のいずれの場合においても,信託管理人を指定する旨の定めを設け なければならないものとすることを提案している。 2 試案の第5の1の(注)について 試案の第5の1に加え,受益者不在の公益信託内部のガバナンスをより充実させる ために,委託者及び信託管理人とは異なる観点から受託者の監督を行う機関を設ける べきであり,特に美術館や学生寮の運営等を公益信託事務としている公益信託におい ては,会社法がその規模等に応じて監査役,会計参与,会計監査人等を置かなければ ならない会社を定めていることを参考にして,公益信託事務の規模等に応じて,公益 信託の信託行為に,事務処理及び会計の監査権限を有する者を指定する旨の定めも設 けなければならないとする考え方がある。そこで,そのような考え方を試案の第5の 1の(注)において示している。 2 公益信託の信託管理人の資格 公益信託の信託管理人は,次の資格を満たさなければならないものとす る。 ⑴ア 受託者又はその親族,使用人その他受託者と特別の関係を有する者 に該当しないこと イ 委託者又はその親族,使用人その他委託者と特別の関係を有する者 に該当しないこと ⑵ 信託法第124条に掲げる者に該当しないこと ⑶ 信託管理人が自然人である場合 前記第4の1⑵に掲げる者に該当しないこと ⑷ 信託管理人が法人である場合 業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しく はその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,前記第4 の1⑵に掲げる者に該当する者がないこと (注)上記⑴から⑷までに加え,当該公益信託の目的に照らしてふさわしい学識,経 験及び信用を有する者(公益信託事務の適正な処理の監督をなし得る能力を有する 者)であることを必要とする考え方がある。 (補足説明) 1 公益信託の信託管理人の資格に関する規律の必要性 現行公益信託法には,公益信託の信託管理人となり得る者の資格に関する規定は 23 存在しない。ただし,信託管理人の欠格事由として,未成年者又は成年被後見人若 しくは被保佐人であること,当該信託の受託者であることを規定する信託法第12 4条の規定は公益信託にも適用される。また,許可審査基準「6.機関⑵イ」は, 公益信託の信託管理人が,①当該公益信託の目的に照らして,これにふさわしい学 識,経験及び信用を有するものであること,②当該信託の委託者又は受託者並びに これらの者と親族,使用人等特別の関係を有するものでないこと,③原則として個 人であることを公益信託の許可の要件としている。 公益信託事務の適正な処理を確保するという観点からすると,公益信託において は,受益者が存在せず,受益者による受託者の監督を期待することはできないため, 公益信託の信託管理人にも一定の適格性を要求することが望ましい。また,成立の 認可基準のような重要な事項についてはできる限り法律に明示すべきであると考え られる。そこで,試案の第5の2では,公益信託の信託管理人が一定の資格を有す ることを認可基準とする旨の提案をしている。 2 公益信託の信託管理人の欠格事由 試案の第5の2⑴ア及びイでは,公益信託の信託管理人に①受託者,②受託者の 関係者,③委託者,④委託者の関係者が就任できないとする提案をしている。 このうち,①受託者,②受託者の関係者及び③委託者が信託管理人になることを 認めないものとすることは当然であるが,④委託者の関係者が信託管理人となるこ との可否についてはその必要性の有無を含め引き続き検討を要する。 試案の第5の2⑵では,新たな公益信託にも信託法第124条の規定が適用され, 未成年者又は成年被後見人若しくは被保佐人(同条第1号),当該信託の受託者であ る者(同条第2号)は公益信託の信託管理人に就任できないとする提案をしている。 なお,新たな公益信託にも信託法第124条第2号の規定は適用され,公益信託の 受託者が当該信託の信託管理人に就任することは認められないから,試案の第5の 2⑵は,第5の2⑴アと重複する面がある。 試案の第5の2⑶では,公益信託の信託管理人が自然人である場合に公益信託の 受託者が自然人である場合の欠格事由と同様の欠格事由とする提案をしている。 試案の第5の2⑷では,公益信託の信託管理人が法人である場合に業務を執行す る社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しくはその職務を行うべき社員 又は監事若しくは監査役のうちに,試案の第5の2⑶のいずれかに該当する者がな いことを欠格事由とする提案をしている。 なお,許可審査基準は,信託管理人は原則として個人であることを公益信託の許 可の要件としており,現在の公益信託の実務ではもっぱら個人が信託管理人に就任 している。しかし,受託者の監督を十分に果たし得る者であれば個人でも法人でも 信託管理人に就任することを妨げる必要性は認められない一方,個人と異なり死亡 24 することがなく業務執行の過程で複層的なチェックが行われる法人が信託管理人に 就任することにより効果的な監督・ガバナンスが実現される可能性もある。そこで, 試案の第5の2では,新たな公益信託では法人の信託管理人が選任される場合があ り得ることを前提として,公益信託の信託管理人の資格を提案している。 3 試案の第5の2の(注)について 試案の第5の2の(注)は,信託管理人の資格として,公益信託の目的に照らし てふさわしい学識,経験及び信用を有する者(公益信託事務の適正な処理の監督を なし得る者)であることを必要とする考え方である。この考え方には,許可審査基 準との連続性が保たれるという利点があるが,主務官庁による許可制廃止後に公益 信託の成立の認可を一元的に行う行政庁が,個別分野の信託管理人の学識,経験及 び信用等の有無を判断することは困難であり,仮にそれを可能とするにしても相当 のコストが予想されるという問題点もある。 3 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任 ⑴ 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある 信託の信託管理人の権限,義務及び責任と同様であるものとする。 ⑵ 信託管理人の権限は,信託行為の定めによって制限することは原則と してできないものとし,信託管理人の義務及び責任は,信託行為の定め によって制限することはできないものとする。 (補足説明) 1 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任 現行公益信託法第7条の存在により,公益信託の信託管理人は,受託者の辞任の 同意権を有しないと解される。一方,目的信託の信託管理人については信託法第2 61条別表による読替え後の信託管理人の権限(同法第125条),義務及び責任(同 法第126条から第130条まで)の規定が適用される。なお,信託法第125条 第1項ただし書は,信託行為に別段の定めがあるときは,信託管理人の権限を制限 することができる旨規定しているが,同法第260条第2項は,遺言により設定さ れた目的信託の信託管理人の有する受託者の行為の差止請求権などを信託の変更に より制限することができない旨規定している。 しかし,公益信託は,目的信託とは性質上大きく異なるものであることからす れば,目的信託についての特則を定めた信託法第11章の規定をそのまま公益信 託に適用する必要性は低いと言える。そこで,試案の第5の3⑴では,公益信託 の信託管理人の権限,義務及び責任については,受益者の定めのある信託の信託 管理人の権限(信託法第125条),義務及び責任(同法第126条から第130 25 条まで)と同様のものとすることを提案している。 2 信託行為による別段の定めの可否 受益者が存在しない公益信託において信託管理人が果たすべき役割の重要性から すると,公益信託の信託管理人の権限の信託行為による制限は原則として認めるべ きでない。もっとも,別表1のとおり,公益信託の受託者の辞任,解任等の同意権 や信託財産の状況に関する書類の内容についての報告受領権等については,委託者, 受託者及び信託管理人による私的自治を尊重し,信託行為による信託管理人の権限 の制限を認めることも考えられる。 一方,信託法第126条第1項は受託者の善管注意義務について定める同法第2 9条第2項と異なり信託行為の定めによる信託管理人の善管注意義務の軽減を定め ていないことに加え,信託内部のガバナンスにおける信託管理人の役割の重要性か らすれば,信託法第126条第1項の信託管理人の善管注意義務を信託行為の定め によって制限することはできないものと解することが相当であると考えられる。 そこで,試案の第5の3⑵では,公益信託の信託管理人の権限を信託行為の定め によって原則として制限することはできないものとし,信託管理人の義務及び責任 は信託行為の定めによって制限することはできないものとする提案をしている。 第6 公益信託の委託者 1 公益信託の委託者の権限 公益信託の委託者の権限は,受益者の定めのある信託の委託者が有する 権限と同様とした上で,信託行為により制限できるものとする。 (補足説明) 現行公益信託法第7条の存在により,公益信託の委託者は受託者の辞任の同意権を 有しないと解されるが,それ以外の受益者の定めのある信託の委託者の受託者に対す る信託事務の処理の状況等に関する報告請求権(信託法第36条)等の信託法上の権 限については,公益信託の委託者も有する。なお,目的信託の委託者は,受託者の行 為の差止請求権等を有するものとみなされ,それを変更することはできない(同法第 260条第1項)。 新たな公益信託において公益性を確保する観点や税制優遇を受けることを視野に入 れる観点からは,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだ け回避することが望ましいから,目的信託の委託者の権限を公益信託の委託者に付与 すること,すなわち,信託法第260条に規定する同法第145条第2項各号(第6 号を除く)に掲げる権利を全て公益信託の委託者に付与することは相当でない。一方, 26 公益信託の委託者も信託財産を拠出した者として,受託者が任務を懈怠して信託財産 が損傷されることを防ぐために一定の監督権限が行使できるようにすることはむしろ 望ましいと言える。しかし,自然人の委託者は信託設定後に死亡する可能性があるか ら,過度な期待のもとに委託者に公益信託設定後の受託者の監督の役割を負わせるこ とは妥当でないと考えられる。そこで,試案の第6の1では,公益信託の委託者の行 使できる権限は,受益者の定めのある信託の委託者が有する権限と同様とした上で, 委託者の権限は信託行為により制限できるものとすることを提案している。 なお,公益信託の委託者が信託行為に別段の定めをしなくても原則として有する各 権限を委託者としての権限と利害関係人としての権限に分けて別表2に記載した。そ の上で,信託行為による制限を可能とすべきであるとの提案をしている,裁判所に対 する受託者及び信託管理人の解任申立権等の権限(試案の第13の2及び第14)に ついては別表2の「信託行為による制限を可能とすべきか」の欄に○を付し,信託行 為による制限を可能とすべきか引き続き検討する必要がある権限については同欄に△ を付している。 2 公益信託の委託者の相続人 公益信託の委託者の相続人は,委託者の地位を相続により承継しない ものとする(注)。 (注)信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによるとする考え方が ある。 (補足説明) 1 委託者の相続人 現行公益信託法には委託者の相続人に関する規定はないが,信託法第146条及 び同法第147条並びにその読替え規定である同法第261条により,契約により 目的信託を設定した場合には,委託者の相続人は委託者が有していた信託法上の権 利義務を原則として相続により承継し,遺言により目的信託を設定した場合には, 委託者の相続人は委託者が有していた信託法上の権利義務を原則として相続により 承継しないが,いずれの場合にも信託行為で別段の定めをすることができるとされ ている。 しかし,公益信託については,委託者が設定した公益目的と委託者の相続人との 間では利害が対立する面があることから,設定の方法が契約か遺言かを問わず委託 者の地位の相続を禁止することが相当であると考えられる。そこで,試案の第6の 2では,公益信託の委託者の相続人は,委託者の地位を相続により承継しないもの とするとの提案をしている。試案の第6の2の提案によれば,委託者の地位の相続 を許容する別段の定めを信託行為に置くことも認められないことになる。 27 2 試案の第6の2の(注)について 試案の第6の2の提案に対しては,信託行為に別段の定めがあるときは,委託者 の地位の相続による承継を認めるべきとする考え方があることから,その考え方を 試案の第6の2の(注)に示している。(注)の考え方には,委託者の多様な意思を 反映することができる利点があるが,委託者の相続発生後の法律関係が複雑になる という問題点がある。 第7 行政庁 1 公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁 現行公益信託法第2条第1項及び第3条の規律を廃止し,公益信託の成 立の認可・監督は,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて, 特定の行政庁が行うものとする。 (補足説明) 現行公益信託法第2条第1項及び第3条により,公益信託については,主務官庁に よる許可・監督制が採用されており,主務官庁による許可判断の具体的な要件及び手 続は,許可審査基準及び主務官庁毎に定める公益信託の引受けの許可及び監督に関す る府省令(以下「公益信託の引受けの許可及び監督に関する府省令」という。)におい て規定されている。 しかし,新たな公益信託制度においては,試案の第2の3のとおり,現行公益信託 法第2条第1項を削除し,主務官庁による許可制は廃止することが前提とされるべき である。そして,公益信託よりも先に制度改革が行われた公益法人制度においては, 旧民法下における主務官庁による公益法人の許可制の問題点を踏まえ,民間の有識者 から構成される合議制の第三者機関を諮問機関として,特定の行政庁(内閣総理大臣 又は都道府県知事)が公益法人の公益性の有無を判断する仕組みを採用していること からすると,公益信託においても,特定の行政庁が一元的に公益信託の成立の認可を 行うこととした上で,不当な裁量権の行使を防止し,その判断の客観性や透明性を確 保するために,民間の有識者から構成される合議制の第三者機関を行政庁の諮問機関 とすることが相当であると考えられる。そこで,試案の第7の1では,現行公益信託 法第2条第1項及び第3条の規律を廃止し,公益信託の成立の認可・監督は,民間の 有識者から構成される合議制の第三者委員会の意見に基づいて,特定の行政庁が行う ものとする提案をしている。 28 2 行政庁の区分 現行公益信託法第10条及び第11条の規律を改め,公益信託事務が行 われる範囲が1の都道府県の区域内に限られる公益信託の成立の認可・監 督を行う行政庁は都道府県知事とし,公益信託事務が行われる範囲が2以 上の都道府県の区域内である公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁は 国の行政庁とするものとする。 (補足説明) 現行法の下では,公益信託の受益の範囲が2つ以上の都道府県の区域内に及ぶので あれば国の主務官庁が公益信託の許可及び監督を行っているが,公益信託の受益の範 囲が1の都道府県の区域内に限られる公益信託については,主務官庁の権限に属する 事務を都道府県知事又は都道府県の教育委員会が行っている(現行公益信託法第11 条,公益信託に係る主務官庁の権限に属する事務の処理等に関する政令第1条)。 このように,公益信託の受益の範囲,すなわち,公益信託事務が行われる範囲が全 国や複数の都道府県にまたがる場合には,都道府県より国の方が効果的に監督するこ とが可能であると言える。また,公益法人制度においては,①2つ以上の都道府県の 区域内に事務所を設置するもの(公益法人認定法第3条第1号イ),②公益目的事業を 2つ以上の都道府県の区域内において行う旨を定款に定めているもの(同号ロ),③国 の事務又は事業と密接な関連を有する公益目的事業であって政令で定めるもの(同号 ハ)は内閣総理大臣が認定し,それら以外のものはその事務所が所在する都道府県知 事が認定することとされている(同条第2号)。これに平仄を合わせる観点からも,公 益信託の成立の認可及び監督に関する国と都道府県の役割分担については,基本的に 従前の仕組みを維持すべきであると考えられる。 もっとも,旧民法下では主務官庁の一つであった都道府県の教育委員会が公益法人 制度改革においては公益法人の認定機関から外れ,都道府県知事に一元化されている ことからすれば,公益信託においても同様の仕組みを採用することが自然であるし, 教育分野のみを認可基準を専門化させる必要性は乏しいことからすると,都道府県の 教育委員会を公益信託の成立の認可主体とする必要はないと考えられる。 そこで,試案の第7の2では,現行公益信託法第10条及び第11条の規律を改め, 公益信託事務が行われる範囲が1の都道府県の区域内に限られる公益信託の成立の認 可・監督を行う行政庁は都道府県知事とし,公益信託事務が行われる範囲が2以上の 都道府県の区域内である公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁は国の行政庁とす る提案をしている。 29 第8 公益信託の成立の認可の申請 1 公益信託の成立の認可の申請主体 公益信託の受託者になろうとする者は,当該信託について行政庁による 公益信託の成立の認可の申請をすることができるものとする。 (補足説明) 現行公益信託法第2条第1項は,公益信託について,受託者が主務官庁の許可を受 けることにより効力を生ずる旨定めているが,主務官庁による許可判断の具体的な要 件及び手続の内容は,法律の中に規定されておらず,許可審査基準及び公益信託の引 受けの許可及び監督に関する府省令において規定されている。 しかし,私人間の信託行為に一定の公的な地位を設定する公益信託の成立の認可を 受けるための手続の骨格については,法律に明示して規定されることが望ましいと考 えられる。そこで,試案の第8の1では,公益信託の受託者になろうとする者は,当 該信託について行政庁による成立の認可の申請をすることができるものとする規定を 新公益信託法の中に置くことを提案している。 なお,新たな公益信託制度においては,既存の目的信託が公益信託の成立の認可を 受けることを許容している(試案の第3の1の補足説明3参照)ことから,試案の第 8の1の「公益信託の受託者になろうとする者」には,既存の目的信託の受託者も含 まれる。 2 公益信託の成立の認可の申請手続 公益信託の成立の認可の申請は,必要事項を記載した申請書等を行政庁 に提出してしなければならないものとする。 (補足説明) 試案の第8の1と同様に,私人間の信託行為に一定の公的な地位を設定する公益信 託の成立の認可を受けるための手続の骨格については,法律に明示して規定されるこ とが望ましいと考えられる。そこで,試案の第8の2では,公益信託の成立の認可申 請は,必要事項を記載した申請書等を行政庁に提出してしなければならないものとす る規定を新公益信託法の中に設けることを提案している。 上記申請書以外に必要となる具体的な書類については,公益信託の引受けの許可及 び監督に関する府省令及び公益法人認定法第7条に掲げられている書類等を参考にし て下記のような書類を規定することが考えられる。 ア 信託設立趣意書 イ 信託行為の内容を示す書類 30 ウ 信託財産に属する財産となるべきものの種類及び総額を記載した書類並びにそ の財産の権利及び価格を証する書類 エ 委託者となるべき者及び受託者となるべき者の氏名及び住所等を記載した書類 (委託者となるべき者又は受託者となるべき者が法人である場合にあっては,そ の名称,代表者の氏名及び主たる事務所の所在地を記載した書類並びに定款又は 寄附行為) オ 信託管理人となるべき者の氏名及び住所等を記載した書類(信託管理人となる べき者が法人である場合にあっては,その名称,代表者の氏名及び主たる事務所 の所在地を記載した書類並びに定款又は寄附行為)及び就任承諾書 カ 公益信託を適正に運営するために必要な機関を置く場合には,その名称,構成 員の数並びに構成員となるべき者の住所及び氏名等を記載した書類及び就任承諾 書 キ 当初の信託事務年度及び翌信託事務年度の事業計画書及び収支予算書 ク 公益信託事務を行うに当たり,法令上行政機関の許認可等を必要とする場合に おいては,当該許認可等があったこと又はこれを受けることができることを証す る書類 ケ 前各号に掲げるもののほか,行政庁が特に必要と認める書類 なお,現行の公益信託の引受けの許可及び監督に関する府省令は,委託者となるべ き者の履歴書,信託管理人となるべき者の履歴書,運営委員会その他の当該公益信託 を適正に運営するために必要な機関の構成員となるべき者の履歴書の提出を求めてい る。しかし,第5の2の(注)のように公益信託の成立の認可基準として信託管理人 に学識,経験及び信用を有する者(公益信託事務の適正な処理の監督をなし得る能力 を有する者)であることを必要とする考え方を採らないのであれば,信託管理人の履 歴書を敢えて求めなくても足りると言える。また,公益法人認定法第7条及び同法施 行規則第5条において理事及び監事等の履歴書は公益認定申請時の必要書類とされて いないことからすると,委託者,信託管理人及び運営委員会等の構成員となるべき者 の履歴書の提出は不要であると考えられることから,上記エ,オ及びカの書類に履歴 書は含めないこととしている。 また,現行の公益信託の引受けの許可及び監督に関する府省令では「信託管理人を 置く場合に」信託管理人に関係する書類の提出が義務付けられているが,第5の1の 提案のとおり,新たな公益信託制度においては信託管理人の必置が前提となることか ら,上記オの書類は必ず提出すべきものとなる。 さらに,新たな公益信託の受託者が公益信託事務として美術館や学生寮の運営等を 行ういわゆる事業型の公益信託を認める場合にはその事業の遂行のために行政機関の 許認可等を必要とするときがあると考えられるから,公益法人認定法第7条第2項第 31 3号の規定を参考に,上記クの当該許認可等があったこと又はこれを受けることがで きることを証する書類の提出を必要としている。 第9 公益信託の成立の認可基準 (前注)本項1から4までの成立の認可基準の他に,次に掲げるものを認可基準 とするものとする。 ・公益信託の受託者の資格(前記第4の1) ・公益信託の信託管理人の資格(前記第5の2) ・公益信託終了時の残余財産の帰属権利者を信託行為で定めていること(後記 第17の1) 行政庁は,公益信託の成立の認可の申請がされた信託が次に掲げる基準に適 合すると認めるときは,当該信託について公益信託の成立の認可をするものと する。 1 公益信託の目的に関する基準 公益信託事務を行うことのみを目的とするものであること (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法には,公益信託の目的に関する許可基準は設けられていないが, 許可審査基準「1.目的」において,公益信託は,公益の実現すなわち積極的に不 特定多数の者の利益の実現を目的とするものでなければならないと定められており, 同窓会,同好会や特定団体,特定個人の支援等を目的とするものは,引受けを許可 しない旨定められている。 また,許可審査基準「2.授益行為」において,①当該公益信託の目的に照らし, 適切な内容であること,②授益行為の内容は,原則として,助成金,奨学金,奨励 金,寄附金等の支給若しくは物品の配布のような資金又は物品の給付であること, ③授益行為が信託行為上具体的に明確にされていること,④営利事業として行うこ とが適当と認められる性格及び内容のものでないことが公益信託の引受けの許可の 要件とされている。 なお,所得税法施行令第217条の2等には,税制優遇が認められるための要件 として,公益信託事務が研究者に対する助成金や学生に対する学資の支給であるこ とが挙げられている。 32 2 新たな公益信託の目的に関する基準 新たな公益信託においても,助成金,奨学金,奨励金,寄附金等の支給若しくは 物品の配布のような資金又は物品の給付を目的とすることが許容されることは当然 である。その上で,公益信託の目的をこれら金銭の助成等に限定しなければならな い理由は見当たらないから,公益信託の目的を不特定多数の者が利用する美術館や 留学生向け学生寮の運営とすることも許容されるようにすべきであると考えられる。 そして,その場合に,公益信託事務の遂行に伴い生じる美術館の入場料や学生寮の 寮費を公益信託の受託者が徴収することは許容されるようにすべきであると考えら れる。 一方,公益信託と類似の社会的機能を有する公益法人においては,公益目的事業 以外の収益事業を行うことが可能とされていることから,公益信託の受託者が公益 信託事務とは別に,公益信託の目的達成のための必要性を欠く収益事業を行うこと を許容すべきであるという考え方もある。しかし,公益信託の受託者が上記の収益 事業を行うことを許容する場合には,受託者に対し公益法人並びの非常に複雑な会 計処理を義務付けなければならなくなり,公益法人よりも利用者にとって負担の少 ない方法で設定し運営することができるという公益信託のメリットが損なわれるお それがある。また,公益信託の受託者が公益信託事務とは別に,上記の収益事業を 行うことを許容した場合には,公益信託の信託行為において定められた目的からか け離れた信託事務を受託者が行う可能性が高くなることも懸念される。 そこで,試案の第9の1では,公益信託は公益信託事務を行うことのみを目的と するものであることを公益信託の成立の認可基準とすることを提案している。 2 公益信託の受託者の行う信託事務に関する基準 公益信託の受託者が行う信託事務が,当該公益信託の目的の達成のため に必要な信託事務であること なお,当該信託事務が収益を伴うことは許容されるものとする。 (補足説明) 前記のとおり,試案の第9の1の提案は,公益信託は公益信託事務を行うことのみ を目的とすることを認可基準とするものであるが,それだけでは,公益信託の信託行 為に記載された信託事務が収益を伴うものであっても,当該公益信託の目的の達成の ために必要な範囲の信託事務であれば認可基準を満たすが,その範囲を超える信託事 務であれば認可基準を満たさないことが明確にならず,行政庁の認可の判断に支障を 来す可能性がある。 公益信託の受託者が行う信託事務としては,下記表のとおり,①当該公益信託の目 的達成のために直接必要な信託事務,②当該公益信託の目的達成のために間接的に必 33 要な信託事務が想定される。そして,試案の第9の1の補足説明2のように公益信託 の成立の認可基準として公益信託事務を行うことのみを目的とするものであることを 必要とした場合には,それと併せて,公益信託の受託者が行うことが可能な信託事務 を上記①及び②に限定し,③当該公益信託の目的達成のための必要性を欠く信託事務 を許容しないようにするための認可基準を設けることが相当であると考えられる。そ こで,試案の第9の2では,公益信託の受託者が行う信託事務に関する基準として, 「公益信託の受託者が行う信託事務が,当該公益信託の目的の達成のために必要な信 託事務であること なお,当該信託事務が収益を伴うことは許容されるものとする」 との提案をしている。その趣旨は,公益信託の成立の認可申請の際に行政庁に対し提 出される当該公益信託の信託行為や事業計画書等に記載された信託事務が収益を伴う ものであっても,当該公益信託の目的の達成のために必要な範囲の信託事務であれば 認可基準を満たすが,その範囲を超える信託事務であれば認可基準を満たさないこと を示すことにある。 収益を伴う信託事務が上記②として許容されるか,上記③として許容されないかは, 行政庁が,公益信託の成立の認可の時点で,当該信託の信託行為や事業計画書等に基 づいて判断し,成立の認可後も当該公益信託の目的の達成のための必要性を欠く収益 を伴う信託事務を受託者が行うことがないように行政庁が監督することを想定してい る。 34 想定される信託事務の例 具体例(当初 信託財産) 信託事務の 分類 医学研究者向け 助成金の支給 (信託設定当初の 信託財産は金銭) 美術館の運営 (信託設定当初の 信託財産は美術品 及び金銭) 留学生向け 学生寮の運営 (信託設定当初の 信託財産は既存の 土地建物及び金銭) 公益信託の目的 医学の基礎研究者に 対する助成金の支給 により,医学の進歩 に寄与する。 価値の高い美術品の 展示により,文化芸 術の普及向上に寄与 する。 留学生の受入れによ り,国際的な人材育 成と国際交流の促進 に寄与する。 ①当該公益信託 の目的達成の ために直接必 要な信託事務 ・信託財産である金 銭の取崩しによる医 学研究者への助成金 支給 ・信託財産である金 銭の投資運用 ・美術品の公開・保存 ・美術館の敷地の購 入・保存,美術館建 物の建築・保存 ・展示品入替えのた めの美術品の売却・ 購入,一時的な金銭 の借入れ ・留学生への居室・ 食事の提供 ・学生寮建物の保存 ・老朽化した学生寮 建物の改築費用に充 てるための敷地の一 部売却,金銭の借入 ②当該公益信託 の目的達成の ために間接的 に必要な信託 事務 ・美術館内でのミュ ージアムショップ, カフェの営業 ・寮生を訪問するた めに訪れた海外から の宿泊客に対する学 生寮の部屋の賃貸 ③当該公益信託 の目的達成の ための必要性 を欠く信託事 務 ・美術と関係の無い ゲームや遊具の販売 ・留学生と関係の無 い一般の宿泊客を対 象とした宿泊業の経 営 35 3 公益信託の信託財産に関する基準 ⑴ 公益信託の信託財産は,金銭に限定しないものとする。 ⑵ 公益信託設定当初の信託財産に加え,信託設定後の信託財産の運用や, 委託者又は第三者からの拠出による事後的な信託財産の増加等の計画の 内容に照らし,当該公益信託の存続期間を通じて,公益信託事務を遂行 することができる見込みがあること ⑶ 信託財産に,他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財 産が原則として含まれないことを必要とし,例外として,当該株式等の 財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがな い場合は当該株式等の財産が含まれることを許容する(注)。 (注)公益信託の信託財産に他の団体の意思決定に関与することができる株式等の 財産が含まれるか否かを公益信託の成立の認可基準としないという考え方がある。 (補足説明) 1 金銭以外の信託財産の許容 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法には,公益信託の信託財産の範囲を限定する規律は存在しない が,許可審査基準「2.授益行為」は,授益行為の内容を原則として金銭の助成 等に限定し,同基準「4.信託財産」のイは,価値の不安定な財産,客観的な評 価が困難な財産又は過大な負担付財産が,引受け当初の信託財産の中の相当部分 を占めていないことを公益信託の許可基準としている。また,税法は,認定特定 公益信託及び特定公益信託の要件として,当該公益信託の受託者がその信託財産 として受け入れる資産は,金銭に限られるものであること(所得税法施行令第2 17条の2第1項第3号等)を必要とし,信託財産の運用も預貯金,国債,地方 債,特別の法律により法人の発行する債券又は貸付信託の受益権の取得等に限定 されている(所得税法施行令第217条の2第1項第4号等)。 ⑵ 金銭以外の信託財産の許容 上記⑴のとおり,現行制度の下で,公益信託の引受け当初の信託財産が価値の 安定的な財産,特に金銭に限定されている趣旨は,信託財産に価値の不安定な財 産が入ることにより公益信託の継続的な運営に支障が生ずることを防止すること にあると考えられる。 しかし,例えば,美術品や歴史的建造物を信託財産とし,それらの公開や保存 を信託事務とする公益信託において,評価が容易でない美術品や歴史的建造物が 信託財産になったからといって,直ちに公益信託の継続的な運営が妨げられると は考え難い。また,現行公益信託法上も,公益信託の信託財産の元本を取り崩し, 信託財産がなくなれば終了するという形態の公益信託は認められているのである 36 から,公益信託の継続的な運営の確保という点を過度に重視して,信託財産の範 囲を限定する合理性は乏しいと考えられる。さらに,公益信託の委託者となろう とする者が,自らの保有する著作権や不動産等の財産を拠出することを希望して も,それらを一度金銭に換価してからでなければ公益信託の信託財産としての拠 出を認めないという取扱いは,利用者に無用な負担を強いるものであり,公益信 託の積極的な利用を妨げているものと言える。そこで,試案の第9の3⑴では, 公益信託の信託財産は,金銭に限定しないものとすることを提案している。 ⑶ 公益信託の信託財産の投資運用について 上記⑴のとおり,現行法の下では,公益信託の信託財産の投資運用について, 預金又は貯金,国債,地方債,特別の法律により法人の発行する債券の取得,合 同運用信託の信託に限られるものとする旨の定めが信託行為に存在することが税 制優遇の要件とされていることから,この要件を公益信託の成立の認可基準とす ることも検討された。 しかし,公益信託の信託財産の投資運用については受託者がその信託の目的に 応じた客観的な善管注意義務を負うものであり,試案の第4の2⑵の提案のとお り公益信託の受託者の善管注意義務を信託行為の定めにより軽減することはでき ないものとするならば,公益信託の受託者による適切な投資運用が確保されると 考えられる。一方,信託行為に現在の税法の基準に掲げられているような預貯金 や国債等での投資運用を行う旨の定めが置かれた場合に,当該信託行為の定めに 沿った投資運用を受託者が行うことが善管注意義務に違反しないことは明らかで あると言える。また,信託財産の投資運用についての信託行為による別段の定め の内容が適当なものであるか否かについて,金融取引の知見を有しない行政庁が 判断することは困難であるとも考えられる。そこで,試案の第9の3では,公益 信託の信託財産の投資運用方法に関する認可基準を設けないものとすることを前 提としている。 2 公益信託事務を遂行することが可能な信託財産を保有していること ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法は,公益信託事務を遂行することができる見込みがあることを 公益信託の許可の要件としていないが,許可審査基準「4.信託財産」は,「公益 信託は,その目的を達成するため,授益行為を継続するのに必要な確固とした財 産的基礎を有していなければならないとし,引受け当初の信託財産の運用によっ て生ずる収入により,その目的の達成に必要な授益行為が遂行できる見込みがあ ること。ただし,信託財産の取崩しを内容とする公益信託にあっては,信託財産 により,その目的の達成に必要な授益行為が存続期間を通して遂行できる見込み であること。」を公益信託の許可の要件としている。また,税法においても,公益 37 信託の目的に関し相当と認められる業績が持続できることについて主務大臣の認 定を受けたものであることが,認定特定公益信託の要件とされている(所得税法 施行令第217条の2第3項,法人税法施行令第77条の4第3項)。 ⑵ 公益信託事務を遂行することが可能な信託財産の保有 しかし,公益信託の成立の認可の明確化,客観化の観点からは,新たな公益信 託の成立の認可基準は,新公益信託法の中に規律すべきであると考えられる。 その内容について検討するに,公益信託を運営する上では,信託設定後に委託 者又は第三者から寄附を受けることも想定されるところ,許可審査基準の「引受 け当初の信託財産の運用によって生ずる収入により」という部分は,「公益信託設 定当初の信託財産に加え,信託設定後の信託財産の運用や,委託者又は第三者か らの拠出による事後的な信託財産の増加等の計画の内容に照らし」という表現に 変更することが相当であると考えられる。また,許可審査基準の「(信託財産の取 崩しを内容とする場合にはその存続期間を通じて当該公益信託事務を遂行するこ とができる見込みがあること)」という部分はその前の部分と重複するし,新たな 公益信託が助成型に限られないことを前提とするならば,当該部分は削除した上 で,新たな公益信託の成立の認可基準とすることが相当であると考えられる。 そこで,試案の第9の3⑵では,公益信託設定当初の信託財産に加え,信託設 定後の信託財産の運用や,委託者又は第三者からの拠出による事後的な信託財産 の増加等の計画の内容に照らし,当該公益信託の存続期間を通じて,公益信託事 務を遂行することができる見込みがあることを認可基準とすることを提案してい る。この認可基準は,公益信託の受託者が信託設定当初の信託財産を売却して公 益信託事務を遂行することも想定しているものである。 3 他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財産の保有禁止 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法には,公益信託の信託財産に他の団体の意思決定に関与するこ とができる株式等の財産が含まれることを制限する規定は存在しない。 一方,公益信託と類似の社会的機能を有する公益法人について,公益法人認定 法第5条第15号本文は,原則として,公益法人が他の団体の意思決定に関与す ることができる株式その他の内閣府令で定める財産(以下「株式等の財産」とい う。)を保有していないものであることを公益法人の認定基準と定めている。同号 の趣旨は,公益法人が株式等の財産の保有を通じて他の営利法人等の事業を実質 的に支配することを認めれば,営利法人の経営に対する実質的な影響力の行使を 通じて,実態は営利法人としての活動が行われることにつながるが,このような 行為は,一定の条件の下で認められている収益事業が無制限に拡大することを許 容し,公益認定の基準及び遵守事項の潜脱につながるものであることから,他の 38 団体の意思決定に関与することができる株式等の財産の保有を禁止することにあ る(一問一答公益法人関連三法209頁参照)。もっとも,その例外として,同号 ただし書及び同法施行令第7条は,株式等の財産を保有する場合であっても,株 主総会その他の団体の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関における議決 権の過半数を有していない場合には,他の団体の事業活動を実質的に支配するお それがないとして,例外的な場合を定めている。 ⑵ 株式等の財産の保有制限 試案の第9の1及び2の補足説明に記載したとおり,公益信託の受託者が,公 益信託の目的達成のための必要性を欠く収益事業を行うことは許容されない。そ して,公益信託の受託者が,信託財産に含まれる株式等の保有を通じて営利法人 等の事業を実質的に支配することを認めれば,公益信託の受託者が信託財産を用 いて実質的に営利事業を行うことにつながりかねないため,そのような事態を防 止する必要があると考えられる。さらに,公益信託の受託者が株式等の財産を保 有することを全て禁止すべきとの考え方もあり得るが,公益信託の受託者は善管 注意義務を負い,その信託財産について適切な分散投資を行うことが求められる ことから,公益信託の受託者が株式等の財産を一切保有してはならないとするこ とは適切でないと考えられる。 そこで,試案の第9の3⑶では,信託財産に,他の団体の意思決定に関与する ことができる株式等の財産が原則として含まれないことを必要とし,例外として, 当該株式等の財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれ がない場合は当該株式等の財産が含まれることを許容することを提案している。 ⑶ 実質支配の具体的基準 株式等による実質支配の基準については,公益法人では法人単位で判断する仕 組みとなっているが,新たな公益信託において,公益信託単位で判断することと すると,同一の受託者が複数の公益信託を合わせて50パーセントを超える株式 を保有することを防ぐことができない。そうすると,公益信託では受託者単位で 判断する仕組みを採用することも考えられる。その場合,公益信託の受託者が公 益信託の信託財産としてではなく自らの固有財産として保有する株式の存在を認 可の際どのように評価するか等が問題となり得る。また,株主の議決権は公益信 託事務の遂行に充てられる株式配当を受けるような局面で行使されるものでもあ るから,これを公益信託の受託者が行使することを画一的に否定することも相当 でないと考えられる。特に,美術品などを管理する資産管理会社が存在し,委託 者が当該資産管理会社の株式の全てを信託財産として拠出して,公益信託を設定 する場合には,試案の第9の3⑶の基準を公益法人と同様に50パーセントを超 えないこととすると形式的には基準に違反してしまう。しかし,当該資産管理会 社が収益事業を行っておらず,当該信託の受託者が美術品の保管のみを公益信託 39 事務として行っているような場合には,基準の趣旨に照らし実質的には問題がな いとの考え方もあり得る。このように,株式の保有制限の認可基準の内容につい ては,法人と信託の異同も踏まえつつ,引き続き検討を要する。 ⑷ 試案の第9の3⑶の(注)について 上記⑴の公益法人認定法における株式等の保有制限の趣旨は公益信託に直ちに 当てはまるものではないし,受託者が信託財産の管理運用を適正に行いその財産 を増加させることは望ましいものであって,その投資運用対象には当然株式等の 有価証券も想定される。そこで,公益信託の信託財産に他の団体の意思決定に関 与することができる株式等の財産が含まれるか否かを公益信託の成立の認可基準 としないとする考え方があることから,その考え方を試案の第9の3⑶の(注) に示している。上記(注)の考え方には,公益信託が株式会社その他の営利事業 を営む者等を支配するために使われないことを防止するための対応が別途必要と なるという問題点がある。 4 公益信託の信託行為の定めに関する基準 ⑴ 信託行為の定めの内容が,次に掲げる事項に適合することとする。 ア 委託者,受託者若しくは信託管理人又はこれらの関係者に対して特 別の利益を供与するものでないこと イ 特定の個人又は団体に対して寄附その他の特別の利益を供与するも のでないこと ウ 受託者及び信託管理人の報酬について,不当に高額にならない範囲 の額又は算定方法が定められていること エ 公益信託の会計について (ア) 公益信託事務に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額 を超えないと見込まれるものであること (イ) 遊休財産額が一定の制限を超えないと見込まれるものであること (ウ) 公益信託に係る費用のうち当該公益信託の運営に必要な経常的経 費の額が一定の割合以下となると見込まれるものであること(注) (注)エ(ウ)の基準は不要であるとする考え方がある。 ⑵ 公益信託事務が金銭の助成等に限定されている公益信託について,上 記⑴エの基準は適用しないものとする。 (補足説明) 1 関係者,特定の個人又は団体等に対する特別の利益の供与禁止 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法は,当該公益信託の受託者等の関係者に対する特別の利益の供 40 与禁止や営利事業を営む者等に対する特別の利益の供与禁止は公益信託の明示的 な要件としておらず,これらは税法上の特定公益信託及び認定特定公益信託の要 件ともされていない。 一方,公益信託類似の制度である公益法人制度については,公益法人認定法第 5条第3号は,公益認定の申請をした一般社団法人又は一般財団法人がその事業 を行うに当たり,その社員,評議員,理事,監事,使用人その他の政令で定める 当該法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであることを認定基準として おり,同法施行令第1条は,同法第5条第3号の政令で定める法人の関係者とし て,当該法人の理事等の配偶者又は三親等内の親族等を掲げている。また,公益 法人認定法第5条第4号は,公益認定の申請をした一般社団法人又は一般財団法 人が,その事業を行うに当たり,「株式会社その他の営利事業を営む者又は特定 の個人若しくは団体の利益を図る活動を行うものとして政令で定める者に対し寄 附その他の特別の利益を与える行為を行わないものであること」を認定基準とし た上で,他の公益法人に対し,当該法人が行う公益目的事業のために寄附その他 の特別の利益を与える行為を行う場合は,この認定基準に反しないものとしてい る。また,同法施行令第2条は,同法第5条第4号の政令で定めるものとして, ①株式会社その他の営利事業を営む者に対して寄附その他の特別の利益を与える 活動を行う個人又は団体(同法施行令第2条第1号),②社員その他の構成員又 は会員等の相互の支援,交流,連絡その他の社員等に共通する利益を図る活動を 行うことを主たる目的とする団体(同条第2号)を掲げている。公益法人認定法 第5条第3号の趣旨は,公益法人の社員,理事等は,その法人における地位を利 用して,自ら又は自らの親族等に対して利益を誘導し得ることから,これらの者 を法人の関係者として位置付け,特別な利益の供与を禁止すべき対象として特に 考慮したものである(一問一答公益法人関連三法201頁参照)。また,同条第 4号の趣旨は,公益法人への寄附が営利法人の株主等に分配され,又は特定の者 のために利用される事態となれば,公益法人に対する不信感を寄附者が抱くこと になり,寄附金の停滞を招いて公益目的事業の実施に支障をもたらすおそれが生 じるとともに,公益法人一般の姿勢についても疑義が呈せられることを防止しよ うとするものである(一問一答公益法人関連三法202頁参照)。 ⑵ 特別の利益供与禁止 新たな公益信託においても,上記の公益法人認定法第5条第3号及び第4号の 趣旨は同様に妥当すると考えられる。そこで,試案の第9の4⑴アでは,公益信 託の信託行為の定めの内容が委託者,受託者若しくは信託管理人又はこれらの関 係者に対して特別の利益を供与するものでないことを認可基準とし,試案の第9 の4⑴イでは,公益信託の信託行為の定めの内容が,特定の個人又は団体に対し て寄附その他の特別の利益を供与するものでないことを公益信託の成立の認可基 41 準とすることを提案している。 なお,公益法人認定法第5条第3号は,その趣旨に照らし,法人の関係者が, 他の不特定かつ多数の受益者と同等の利益を受けることまでも禁止しているもの ではないから(一問一答公益法人関連三法202頁参照),例えば,一定の公益 性が認められるような適正な選考をした上で,公益信託の受託者が,当該公益信 託の関係者に助成する場合は,この認定基準には反しないものと考えられる。 2 受託者及び信託管理人の報酬 ⑴ 現行法の定め 信託法第54条は,受託者の信託報酬について規定しているが,現行公益信託 法には,受託者の信託報酬についての規定はない。ただし,許可審査基準「5. 信託報酬」は,公益信託の引受けに係る受託者への報酬については,信託行為に 明確に定めるものとし,その額は信託事務の処理に要する人件費その他必要な費 用を超えないものであることを公益信託の許可基準としている。 また,税法においても,特定公益信託及び認定特定公益信託の要件として,公 益信託の受託者がその信託財産から受ける報酬の額は,当該公益信託の信託事務 の処理に要する経費として通常必要な額を超えないことが必要とされている(所 得税法施行令第217条の2第1項第8号,法人税法施行令第77条の4第1項 第8号)。 一方,公益法人認定法第5条第13号は,公益法人の理事,監事及び評議員に 対する報酬等(報酬,賞与その他の職務遂行の対価として受ける財産上の利益及 び退職手当をいう。)について,民間事業者の役員の報酬等及び従業員の給与,当 該法人の経理の状況その他の事情を考慮して,不当に高額なものとならないよう な支給の基準を定めることを公益法人の認定基準としている。同号の趣旨は,法 人の非営利性を潜脱することを防止し,理事等に対する報酬等の適正な水準を確 保することにある(一問一答公益法人関連三法208頁参照)。 ⑵ 受託者及び信託管理人の報酬が不当に高額にならないこと 上記⑴の許可審査基準「5.信託報酬」に対しては,①主務官庁及びその担当 者によって適用の基準が異なる,②信託事務の難易度や事務負荷等が勘案されな い,③人件費以外の物件費等が認められず採算確保が極めて困難である等の問題 が指摘されている。そして,公益信託の受託者に対して正当な報酬額を支給する ことは,公益信託の担い手となる受託者にインセンティブを与えることとなり, 受託者の確保,ひいては民間による公益活動の促進につながるものと考えられる。 他方で,公益信託の受託者に対する信託報酬の適正な水準を確保することも引き 続き必要であると考えられる。 そこで,試案の第9の4⑴ウでは,受託者及び信託管理人の報酬について,不 42 当に高額にならない範囲の額又は算定方法が定められていることを認可基準とす ることを提案している。 なお,不当に高額なものか否かについては,信託事務の内容や信託財産の状況 などの考慮要素を踏まえて総合的に判断されることを想定している。例えば,当 該公益信託の信託財産の状況のみを考慮すると,金銭助成を公益信託事務とする 公益信託においては,年々信託財産が減少していくので信託財産から毎年一定額 (例:100万円)の信託報酬を受託者が取得することは許容すべきではなく, 信託財産の額の減少に応じて信託報酬も減額するような算定方法(例:残存する 信託財産の何%)とすべきであると判断される可能性がある。しかし,当該信託 事務の内容とそれに伴う受託者の事務負担を考慮して,信託財産から毎年一定額 の信託報酬を受託者が取得することも許容される場合もあると考えられる。 3 公益信託の会計に関する認可基準 ⑴ 収支相償 現行公益信託法上,収支相償は公益信託についての許可基準とされておらず, 税法上の特定公益信託及び認定特定公益信託の要件ともされていない。 一方,公益法人認定法第5条第6号及び第14条は,公益認定の申請をした 一般社団法人又は一般財団法人が,その行う公益目的事業について,当該公益 目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込 まれること(収支相償)を公益法人の認定基準としている。その趣旨は,公益 法人の公益目的事業は不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与すべきものであ り,その遂行に当たっては動員可能な資源を最大限に活用し,無償又は低廉な 対価を設定することなどにより,利益を享受する者の範囲を可能な限り拡大す ることが求められることにある(一問一答公益法人関連三法204頁参照)。 新たな公益信託では,公益信託事務を金銭の助成等に限定せず,いわゆる事業 型の公益信託を行うことも許容することを想定していることから,公益法人にお ける収支相償の趣旨は,新たな公益信託にも妥当すると考えられる。そこで, 試案の第9の4⑴エ(ア)では,公益信託事務に係る収入がその実施に要する適正な 費用を償う額を超えないと見込まれるものであることを提案している。 ⑵ 遊休財産の保有制限 現行公益信託法には,公益信託の受託者が遊休財産を一定の額を超えて保有し ないことを公益信託の許可基準とする規定は存在しない。また,税法上も,遊休 財産の保有制限は,特定公益信託及び認定特定公益信託の要件とされていない。 他方,公益法人認定法第5条第9号及び第16条は,公益法人の事業活動を行 うに当たり,公益目的事業又は公益目的事業に必要なその他の活動に使うことが 具体的に定まっていない遊休財産の額が,一年分の公益目的事業費相当額を超え 43 ないと見込まれるものであることを公益法人の認定要件としている。その趣旨は, 公益目的事業が実施されることを期待した国民からの寄附等により取得,形成さ れた公益法人の保有する財産が,公益目的事業の実施とは関係なく法人内部に過 大に蓄積された場合,本来公益目的事業に使用されるべき財産の死蔵につながり, 寄附者等の資金拠出者の意思にも反することから,公益法人が保有する財産が公 益目的事業のために速やかに使用されることを確保することにある(一問一答公 益法人関連三法206頁参照)。 公益法人制度における遊休財産額は,その法人の純資産額(資産の額-負債の 額)から控除対象財産(使途の定めがある財産として公益法人認定法施行規則第 22条第3項に列挙されている財産。ただし,対応する負債の額を除く。)を差し 引いた残額として算定される。なお,控除対象財産は,①公益目的保有財産(同 項第1号),②公益目的事業を行うために必要な収益事業等その他の業務又は活動 の用に供する財産(同項第2号),③上記①及び②に掲げる特定の財産の取得又は 改良に充てるための保有資金(同項第3号),④特定費用準備資金(同項第4号), ⑤寄附その他これに類する行為によって受け入れた財産(当該財産を処分するこ とによって取得した財産を含む。)であって,当該財産を交付した者の定めた使途 に従って使用・保有しているものや,当該使途に充てるための保有資金(同項第 5号,第6号)とされている。 新たな公益信託では,公益信託事務を金銭の助成等に限定せず,いわゆる事業 型の公益信託を行うことも許容することを想定していることから,公益法人にお ける遊休財産の保有制限の趣旨は,新たな公益信託にも妥当すると考えられる。 すなわち,公益信託の受託者が,公益信託の設定当初や公益信託が運営されてい る途中で委託者から受領した信託財産や第三者から寄附等により受領した信託財 産等を,自らのもとで蓄積し,長期にわたり公益目的の信託事務の遂行に使用し ない場合には,本来公益目的に使用されるべき財産の死蔵につながり,資金拠出 者の意思にも反すると考えられる。 そこで,試案の第9の4⑴エ(イ)では,公益目的の信託事務のために現に使用さ れておらず,かつ,そのために使用される見込みのない遊休財産の額が一定の額 を上回るものでないことを新たな公益信託の成立の認可基準とすることを提案し ている。 ⑶ 経常的経費の額 公益信託について,その信託事務を遂行するための経常的経費の額に関する 事項は,許可審査基準や税法上の特定公益信託及び認定特定公益信託の要件と はされていない。 一方,公益法人認定法第5条第8号及び第15条は,公益認定の申請をした 一般社団法人又は一般財団法人がその事業活動を行うに当たり,公益目的事業 44 の実施に係る費用の額の比率が100分の50以上となると見込まれるもので あることを認定基準としている。その趣旨は,公益法人は,公益目的事業を行 うことを主たる目的とし,また公益法人の名の下に,国民からの寄附等を受け つつ事業活動を行うものであることから,公益法人が行う全ての活動(公益目 的事業,収益事業等及び法人の運営のための活動)の規模に占める公益目的事 業の規模の割合が,少なくともその半分を占めていることが必要であるため,(公 益目的事業の実施に係る費用)/{(公益目的事業の実施に係る費用)+(収益 事業等の実施に係る費用)+(公益法人の運営に必要な経常的経費)}を公益目 的事業比率として定義し,この値が100分の50以上となることを認定基準 として設けることとしたものである(一問一答公益法人関連三法205頁参照)。 試案の第9の1のとおり,新たな公益信託は公益信託事務を行うことのみを 目的とするものであるから,公益信託の受託者が公益信託事務以外の信託事務 を行うことはなく,公益法人が公益目的事業に加えて収益事業等も行うことを 前提として定められている公益目的事業比率の趣旨は,公益信託には当然には 妥当しない。しかし,公益信託事務を遂行するためには一定の経常的経費が発 生するところ,公益信託の信託財産は,可能な限り公益信託事務を実施するた めの費用として用いられるべきであり,当該公益信託の運営に必要な経常的経 費のために過大に使用されることは望ましくないと考えられる。 そこで,試案の第9の4⑴エ(ウ)では,公益信託において支出される経費のう ち当該公益信託の運営に必要な経常的経費の占める比率が公益法人認定法第1 5条の公益目的事業費率の50%よりも低い一定割合を定め,その割合を下回 ると見込まれることを認可基準とすること等を想定した提案をしている。 ⑷ 試案の第9の4⑴エ(ウ)の(注)について 試案の第9の4⑴エ(ウ)の提案に対しては,公益信託の運営に必要な経常的経 費の大部分を占めると考えられる受託者等に対する報酬は,試案の第9の4⑴ ウのように公益信託の受託者及び信託管理人の報酬の額又は算定方法が定められ ていることを認可基準とすることにより不当に高額にならないことが担保されて いること,その他の経常的経費として想定される運営委員会の開催運営費,公 告関連費等が高額となる事態は想定し難いことなどを理由に,経常的経費に関 する認可基準を設ける必要はないという考え方がある。そこで,そのような考 え方を試案の第9の4⑴エ(ウ)の(注)に示している。 ⑸ 助成型の公益信託への会計に関する認可基準の不適用 公益信託の受託者が行う信託事務が金銭の助成等に限定されている公益信託に ついては,基本的に当該信託事務の対価としての収入を得ることなく,信託財産 を取り崩しながら奨学金の支給等の公益信託事務を遂行するものであることから, 収支相償や遊休財産の保有制限が問題となる可能性は極めて低い。また,収支相 45 償や遊休財産の保有制限が許可審査基準並びに税法上の特定公益信託及び認定特 定公益信託の要件とされていない理由は,公益信託の行う受託者の信託事務が事 実上助成事務に限定されてきたこと等によるものであると考えられる。そうする と,上記会計に関する認可基準は,美術館や学生寮の運営を目的とする事業型の 公益信託についてのみ適用するのが相当であると考えられる。 そこで,試案の第9の4⑵では,公益信託事務が金銭の助成等に限定されてい る公益信託については,収支相償,遊休財産の保有制限及び経常的経費等の会計 に関する認可基準は適用しないものとすることを提案している。 ただし,収支相償の認可基準については,公益信託事務を金銭の助成等に限定 している場合でも,新たな公益信託の信託財産の投資運用の対象が拡大されたと きには,それにより多額の運用益が信託財産に帰属することも想定されることか ら助成型の認可基準としても必要となるとの考え方もあり得る。また,実際の運 用に際しては,学生寮を有償で学生に提供しその寮生に奨学金を支給するような 事業型と助成型の両方を行う公益信託や,学生寮を無償で学生に提供するような 事業型であるが無償で事業を実施する公益信託の存在も想定されることから,そ れらの取扱いも含めて引き続き検討を要する。 第10 公益信託の名称 公益信託の名称に関して,以下のような規律を設けるものとする。 1 公益信託には,その名称中に公益信託という文字を用いなければなら ない。 2 何人も,公益信託でないものについて,その名称又は商号中に,公益 信託であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。 3 何人も,不正の目的をもって,他の公益信託であると誤認されるおそれ のある名称又は商号を使用してはならない。 4 3に違反する名称又は商号の使用によって事業に係る利益を侵害され, 又は侵害されるおそれがある公益信託の受託者は,その利益を侵害する 者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求 することができる。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法は,公益信託の名称の保護に関する規定を設けていない。また, 信託法においても,限定責任信託に関する規定(信託法第216条第2項第2号, 第218条等)を除いて,信託の名称に関する規定は存在しない。もっとも,許可 46 審査基準「3.名称」は,公益信託に名称が付されることを前提に,その目的及び 実態を適切に表現した社会通念上妥当なものでなければならないとし,①国又は地 方公共団体の機関等と誤認されるおそれのある名称,②既存の法人又は公益信託と 誤認させるおそれのある名称及び③当該公益信託の授益行為の範囲とかけ離れた名 称は適切ではないとしている。 一方,公益社団法人又は公益財団法人は,その種類に従い名称中に公益社団法人 又は公益財団法人という文字を用いることが義務付けられている(公益法人認定法 第9条第3項)。また,公益社団法人又は公益財団法人ではない者は,その名称又は 商号中に公益社団法人又は公益財団法人であると誤認されるおそれのある文字を用 いてはならず(同条第4項),何人も不正の目的をもって他の公益社団法人又は公益 財団法人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない(同 条第5項)。同条第4項及び第5項に違反した場合には,同法第63条により50万 円以下の罰金が科せられる。 2 公益信託の名称保護の必要性 公益信託に対する信頼を確保するためには,その活動の透明性を確保することが 重要であり,行政庁から公益信託の成立の認可を受けた公益信託であることを明確 にするために,公益信託の名称を付すことは有用であると言える。また,公益信託 の受託者が寄附金の募集を行うに当たって公益信託の名称を表示することにより, その寄附が公益信託事務に充てられることが明確となり,寄附金を集めやすくなる といったメリットも想定される。さらに,公益信託事務の状況の報告等の様々な公 示の場面でも公益信託という文字を付した名称を用いるのが公益信託に関係する者 の便宜にかなうものと考えられる。 そこで,試案の第10の1では,受託者による名称の使用につき,公益信託には, その名称中に公益信託という文字を用いなければならないものとすることを提案し ている。なお,その公益信託が限定責任信託の場合には,「限定責任公益信託」とい う文字を用いなければならないとの規律を設けることが相当であると考えられる。 また,公益信託以外の信託について,その名称又は商号中に公益信託又はそれと 誤認される名称を付すことを許容した場合には,事業者等により公益信託の名称を 利用した悪質な活動が行われる可能性もあり得ることから,公益信託についても, 公益法人認定法第9条の規定等を参考に,その名称を保護して社会的信用を保つ必 要がある。 そこで,試案の第10の2では,受託者以外の第三者による名称の使用につき, 何人も,公益信託でないものについて,その名称又は商号中に,公益信託であると 誤認されるおそれのある文字を用いてはならないこと,試案の第10の3では,何 人も,不正の目的をもって,他の公益信託であると誤認されるおそれのある名称又 47 は商号を使用してはならないこと,試案の第10の4では,第10の3の規定に違 反する名称又は商号の使用によって事業に係る利益を侵害され,又は侵害されるお それがある公益信託の受託者は,その利益を侵害する者又は侵害するおそれがある 者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができるとの提案をしている。 第11 公益信託の情報公開 1 公益信託の情報公開の対象及び方法 現行公益信託法第4条第2項を廃止又は改正し,新たな公益信託の情報 公開の対象,方法については,公益財団法人と同等の仕組みとするものと する。 (補足説明) 1 現行法の定め 信託法第37条は,受託者は,信託事務に属する財産及び信託財産責任負担債務 の状況を明らかにするため,法務省令で定めるところにより,信託財産に係る帳簿 その他の書類又は電磁的記録を作成しなければならない(同条第1項),受託者は, 毎年1回,一定の時期に,法務省令で定めるところにより,貸借対照表,損益計算 書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録を作成しなければならない(同条 第2項)と規定している。また,信託法第38条は,受益者は,受託者が保存義務 を負う全ての書類等のいずれをも閲覧請求できる一方,受益者以外の利害関係人は, 貸借対照表及び損益計算書等のみを閲覧請求できる旨規定している。その上で,現 行公益信託法第4条第2項は,公益信託の受託者は,毎年1回一定の時期に信託事務 及び信託財産の状況を公告しなければならない旨規定している。 一方,公益財団法人は,財産目録,定款,社員名簿等一定の情報を備え置き,閲 覧に供することのほか,同様の資料を毎事業年度行政庁に提出し,それらの資料は 閲覧,謄写に供されるものとされている(なお,個人情報保護や濫用防止の観点か ら,社員名簿等における個人の住所の開示については法人の判断に委ねられている ほか,正当な理由がある場合には閲覧を拒否することができる。)。その趣旨は,公 益財団法人が不特定かつ多数の者の利益のために活動することから,国民に対し広 く情報公開を行い,透明性の高い事業運営を行うことが望ましく,同時に情報開示 により,国民の公益法人に対する理解が深まり,当該公益財団法人への支援が促進 される効果が期待できると考えられることにある(一問一答公益法人関連三法21 9頁参照)。 48 2 新たな公益信託の情報公開の対象及び方法 新たな公益信託においても,上記1の信託法の各規定が受益者に関するものを除 き適用されるものと考えられる。その上で,上記1の公益法人の情報公開の趣旨は 新たな公益信託にも同様に妥当することに加え,公益信託の成立の認可を受けた信 託が税法上の優遇措置を受けられるようにすることを視野に入れた場合には,公益 信託の情報を受託者及び公益信託の成立の認可を行う行政庁等において広く公開す ることが適切であると考えられる。 そこで,試案の第11の1では,現行公益信託法第4条第2項を廃止又は改正し, 新たな公益信託の情報公開の対象,方法については,公益財団法人と同等の仕組みと するものとすることを提案している。公開の対象は,信託関係人の住所氏名のよう な個人情報を除く内容を想定しているが,実務上支障を来さないように引き続き検 討する必要がある。 2 公益信託の公示 行政庁は,公益信託の成立の認可やその取消し,公益信託の変更,併合・ 分割の認可をしたときは,その旨を公示しなければならないものとする。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法には,行政庁による公益信託の引受け許可等の公示に関する規定は 存在しない。他方,公益法人認定法においては,行政庁が公益認定をしたとき(同法 第10条),変更の認定をしたとき(同法第11条第4項),名称又は代表者の変更の 届出があったとき(同法第13条第2項),合併の届出があったとき(同法第24条第 2項),解散の届出があったとき(同法第26条第4項),公益認定を取り消したとき (同法第29条第4項)等には,行政庁はその旨を公示しなければならない旨定めら れている。 2 新たな公益信託の公示 新たな公益信託について,上記公益法人における公示事項と同様の事項を一般国民 に向けて行政庁が公示することは,公益信託に対する信頼を高める上で有用であると 考えられる。 そこで,試案の第11の2では,行政庁は,公益信託の成立の認可やその取消し, 公益信託の変更,併合・分割の認可をしたときは,その旨を公示しなければならない ものとすることを提案している。 なお,公益法人認定法第11条第4項は,行政庁が公益目的事業の種類又は内容の 変更の認定をしたときは,その旨を公示しなければならない旨規定し,同法第13条 49 第1項第1号は,公益法人の「名称又は代表者の氏名の変更」の届出があったときは, その旨を公示しなければならない旨規定しているが,同項第2号の「内閣府令で定め る軽微な変更」の届出があったときは,公示の対象としていない。それに合わせ,試 案の第11の2でも信託の変更のうち軽微なものについては公示の対象としないこと を想定している。 第12 公益信託の監督 1 行政庁の権限 現行公益信託法第4条第1項の規律を改め,行政庁は,次の権限を行使 するものとする。 ⑴ 行政庁は,公益信託事務の適正な処理を確保するために必要な限度 において,受託者に対し,その公益信託事務及び信託財産の状況につ いて必要な報告を求め,又は,その職員に,当該受託者の事務所に立 ち入り,その公益信託事務及び信託財産の状況若しくは帳簿,書類そ の他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができる。 ⑵ 行政庁は,公益信託が成立の認可基準のいずれかに適合しなくなっ たとき等に該当すると疑うに足りる相当な理由がある場合には,受託 者に対し,期限を定めて,必要な措置をとるべき旨の勧告をすること ができる。 ⑶ 行政庁は,上記⑵の勧告を受けた受託者が,正当な理由がなく,そ の勧告に係る措置をとらなかったときは,当該受託者に対し,その勧 告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。 ⑷ 行政庁は,上記⑶の命令を受けた受託者が,正当な理由がなく,そ の命令に従わなかったときは,当該公益信託の成立の認可を取り消さ なければならない。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法第3条は,公益信託は,主務官庁の監督に属するとし,同法第4 条は,主務官庁は,公益信託事務の処理について検査する権限を有するほか,財産 供託命令等の権限を有するものとしている。 2 行政庁の報告徴求,検査,勧告及び命令権限 しかし,新たな公益信託制度では,現行公益信託法第2条を廃止して,主務官庁 による許可制を廃止することが前提となっており(前記第2の3,第5の1,第7), 50 それに伴い主務官庁による包括的な監督権限について定めた現行公益信託法第3条 も廃止することが相当であると考えられる。 その上で,新たな公益信託の監督を行う行政庁は,従前の主務官庁のように後見 的な観点から受託者の行為を包括的に監督するのではなく,公益信託の成立の認可 基準を満たしていることを確保するために必要な範囲で公益信託の受託者に対する 検査等の監督権限を行使することが相当であるものと考えられる。また,公益信託 事務の効果を維持・保全するという財産供託命令の趣旨は,新たな公益信託の受託 者の資格として公益信託事務を適正に処理する能力を要求し,それが満たされない 場合には行政庁が公益信託の成立の認可を取り消すなどの方法により達成できるか ら,財産供託命令の制度は廃止することが相当であると考えられる。 そこで,試案の第12の1⑴から⑷においては,現行公益信託法第4条第1項の 規律を改め,行政庁の監督権限を,受託者が公益信託の成立の認可基準に違反する 行為や,法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反する行為を行っていることを 把握した場合において,その是正を求め,その勧告・命令等に従わない場合には最 終的に当該公益信託の成立の認可を取り消す等の権限とすることを提案している。 なお,試案の第12の1では,公益法人と同様に,公益信託の受託者が行政庁に 対し毎年度の事業計画書及び事業報告書等を提出することを前提としている。 3 行政庁による公益信託の成立の認可の取消し 行政庁が公益信託の成立の認可を取り消す場合としては,公益法人認定法第29 条第1項及び第2項を参考に,必要的取消事由を①受託者又は信託管理人が欠格事 由に該当する場合,②受託者が偽りその他不正の手段により公益信託の成立の認可 等を受けた場合,③受託者が行政庁の命令に正当な理由なく従わない場合,④公益 信託の受託者から認可取消しの申請があった場合とし,任意的取消事由を①公益信 託の成立の認可基準のいずれかに適合しなくなった場合,②財産目録等の定期的な 報告書類を期限内に提出しなかった場合,③法令又は法令に基づく行政機関の処分 に違反した場合等とすることが考えられる。このうち,行政庁は,公益信託が成立 の認可基準のいずれかに適合しなくなったときには,公益信託の成立の認可を取り 消すことができるものとすることに部会において異論はなかった。 試案の第12の1⑷以外の取消事由については,信託と法人との異同を踏まえた 検討が必要である。特に,公益信託の受託者が公益信託の成立後に適正に公益信託 事務を行う能力を喪失したり,欠格事由に該当したときに行政庁が公益信託の成立 の認可を必要的又は任意的に取り消すまでの必要はなく,当該受託者を解任するよ うな仕組みとすべきであるとの考え方がある(信託管理人についても同様に考えら れる。)ほか,公益信託の終了事由との関係で公益信託の受託者から認可取消しの申 請があった場合を任意的取消事由とする考え方もあることから,公益信託の継続性 51 の確保の観点を考慮しつつ,引き続き検討を要する。 2 裁判所の権限 裁判所は,信託法が裁判所の権限としている権限を原則として有するも のとすることに加え,現行公益信託法第8条が裁判所の権限としている権 限を有するものとする。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法第8条は,公益信託について,信託法第258条第1項に規定す る受益者の定めのない信託に関する裁判所の権限は,同法第150条第1項の信託 の変更命令などの裁判を除き,同法第46条の検査役の選任権も含めて原則として 主務官庁に属するとし,裁判所の権限を主務官庁に移行させた上で,同法第58条 第4項の受託者の解任権等は主務官庁が職権で行使できると規定している。 2 新たな公益信託における裁判所の権限 しかし,新たな公益信託において,主務官庁による後見的な許可・監督制を廃止 し,公益信託内部の自主的な運営を重視する立場からは,新たに公益信託の成立の 認可・監督を行う行政庁の権限は公益信託の成立の認可基準を満たしていることを 確保するために必要な範囲で行使することが相当であり,職権による権限行使は否 定する方向性が志向されるべきであると考えられる。また,信託法上,信託の当事 者及び利害関係人の保護や利害調整を通じて信託目的の達成を図るための権限は裁 判所が有するものとされており,公益信託においても,認可基準の充足性の判断と は異なる上記の権限を裁判所が行使することは可能であると言える。さらに,検査 役の選任権限は会社法第358条や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第 86条においても裁判所の権限とされていることからすると,行政庁に付与すべき 権限とは言い難い。そこで,試案の第12の2では,新たな公益信託において,裁 判所は,信託法が裁判所の権限としている権限(検査役の選任権限を含む。)と同様 の権限を原則として有するものとすることに加え,現行公益信託法第8条が裁判所 の権限としている権限を有するものとする提案をしている。 新たな公益信託の監督における裁判所と行政庁の権限分配については,別表3の とおりとすることを想定している。 52 第13 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任 1 公益信託の受託者の辞任 現行公益信託法第7条の規律を改め,受託者は,委託者及び信託管理人 の同意を得て辞任することができるほか,[やむを得ない事由/正当な理由] があるときは裁判所の許可を得て辞任することができるものとする。 (補足説明) 1 委託者及び信託管理人の同意を得た受託者の辞任 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第7条は,公益信託の受託者は,やむを得ない事由がある場合 に限り,主務官庁の許可を得て辞任することができる旨定めている。同条の存在 により,公益信託に信託法第57条は適用されないものと解されており,公益信 託の受託者が委託者及び信託管理人の同意を得て辞任することは認められない。 ⑵ 委託者及び信託管理人の同意 しかし,新たな公益信託において,主務官庁による許可・監督制を廃止した上 で,公益信託内部の自主的な運営を重視する立場からは,行政庁の権限は,公益 信託の成立の認可基準を満たしていることを確保するために必要な範囲で認めら れるべきであると考えられる。また,公益信託の成立の認可を行う行政庁等が受 託者の資格要件該当性を含めて公益信託の成立の認可を行う趣旨は,公益信託事 務の運営主体として適格性を欠く受託者を出現させないことにあるとするならば, 新受託者の選任には公益信託の成立の認可を行う行政庁の関与が必要であるが, 受託者の辞任には行政庁が関与せずとも差し支えないと言える。そこで,試案の 第13の1では,信託法第57条第1項を公益信託にも適用し,公益信託の受託 者が委託者及び信託管理人の同意を得て辞任することを可能とする旨の提案をし ている。 ⑶ 委託者不在の場合 試案の第13の1は信託法第57条第6項の規定を公益信託に適用することを 前提としており,同項により委託者が現に存しない場合には同条第1項本文の規 定は適用されないから,公益信託の委託者が死亡するなど委託者が不在の場合に 受託者が信託管理人の同意を得て辞任することは同項ただし書の信託行為の別段 の定めがない限り認められないことになる。 2 裁判所の許可による受託者の辞任 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第7条は,信託法第57条第2項の特則として,公益信託の受 託者は,やむを得ない事由があるときは主務官庁の許可を得て辞任できる旨定め 53 ている。現行公益信託法第7条あるいは信託法第57条第2項にいう「やむを得 ない事由」の具体的な例としては,受託者が天災,病気,高齢等のために信託事 務を処理するに足りる能力がなくなったとき(受託者が法人である場合は別途考 慮する必要がある。)など,任務の終了を認める客観的な必要性があり,かつ,受 託者に特段の帰責性が存しないことを要するものと考えられている(四宮和夫「信 託法〔新版〕」(以下「四宮」という。)264頁,村松ほか概説180頁参照)。 ⑵ 裁判所による辞任許可 しかし,新たな公益信託の成立の認可及び監督を行う行政庁の権限に関する規 定は,主務官庁による許可制の下における現行公益信託法第3条のように包括的 な権限を行政庁に与える規定とするのではなく,公益信託がその成立の認可基準 を満たしていることを継続的に確保するために必要な範囲で個別に規定を設ける ことが望ましい。したがって,同法第7条のような規定を設けることは相当でな いと考えられる。 また,公益信託の成立の認可を行う行政庁が受託者の資格要件該当性の判断を 行う趣旨は,公益信託事務の運営主体として適格性を欠く受託者を出現させない ことにあるとするならば,新受託者の選任には行政庁の関与が必須であるが,受 託者の辞任には行政庁が関与せずとも差し支えないし,公益信託の受託者の辞任 にやむを得ない事由があるか否かは認可基準充足性に関わるものではなく,裁判 所が判断することも可能であると考えられる。そこで,試案の第13の1では, 信託法第57条第2項と同様に,公益信託の受託者が裁判所の許可を得て辞任す ることを可能としている。 ⑶ 裁判所の判断事項 裁判所が判断する受託者の辞任事由としては,信託法第57条第2項と同じく 「やむを得ない事由」とすべきであるという考え方がある。この考え方に対して は,公益信託の受託者が公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を失ったとま では言えないが後任の新受託者として適格性を有する者が予定されているような 場合に,上記のとおり信託法第57条第2項のやむを得ない事由の解釈では受託 者の辞任は困難であるとすると,かえって公益信託事務の遂行が滞る可能性があ るという問題点の指摘がある。 一方,裁判所が判断する受託者の辞任事由としては,信託法第57条第2項と 異なり,新受託者候補者の存在を考慮しやすくなることが想定される「正当な理 由」とすべきであるという考え方がある。この考え方に対しては,受託者の辞任 の可否について新受託者候補者の存在を考慮するか否かは受益者の定めのある信 託でも同様に問題となるものであり,現行公益信託法第7条及び信託法第57条 第2項と敢えて異なる辞任事由を公益信託に新設することには,立法事実や必要 性・相当性について慎重な検討が必要であるし,その検討との関係で正当な理由 54 の概念の内容を更に明確にすべきであることや,認可基準に照らした新受託者の 適格性の判断を行政庁が行う(試案の第13の3)ことと整合性を欠くという問 題点の指摘がある。 そこで,試案の第13の1では,上記2つの考え方に角括弧を付し,公益信託 の受託者は,[やむを得ない事由/正当な理由]があるときは裁判所の許可を得て 辞任することができるものとしている。 なお,信託法第57条第2項のやむを得ない事由に新受託者候補者の存在が含 まれるか否かは解釈論であるとも言え,仮にそれを積極に解するのであれば,信 託法第57条第2項で一般的に規定されているやむを得ない事由を公益信託につ いてのみ変更する必要はないと考えられることも踏まえ,裁判所が判断する受託 者の辞任事由については引き続き検討を要する。 2 公益信託の受託者の解任 ⑴ 委託者及び信託管理人の合意による解任について 委託者及び信託管理人は,[受託者がその任務に違反して信託財産に 著しい損害を与えたことその他重要な事由があるとき/正当な理由があ るとき]は,その合意により受託者を解任することができるものとする。 ⑵ 委託者及び信託管理人の合意がない場合において,受託者がその任 務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があ るときは,裁判所は,委託者又は信託管理人の申立てにより,受託者を 解任することができるものとする。 委託者については信託行為において受託者の解任の申立権を有しない 旨を定めることができるものとする。 (補足説明) 1 委託者及び信託管理人の合意による受託者の解任 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第8条は,信託法第58条第4項の裁判所による受託者の解任 権限を主務官庁に与え,かつ,主務官庁の職権行使を可能としている。現行公益 信託法第8条の存在により,公益信託の受託者を委託者及び信託管理人の合意に より解任することはできないものと解される。また,信託法第58条第4項の解 任事由には,受託者が任務に背いたように見える行為であってもささいなミスや 怠慢や不正確な行為は当たらない(四宮264頁,寺本逐条解説202頁参照) と解釈されている。 ⑵ 委託者及び信託管理人の合意 しかし,新たな公益信託においては,主務官庁による許可制の下における現行 55 公益信託法第3条のように包括的に行政庁に権限を与える規定とするのではなく, 公益信託がその成立の認可基準を満たしていることを継続的に確保するために必 要な範囲で個別に規定を設けることが望ましいし,信託内部のガバナンスを充実 させる観点からは不適格な受託者が生じた場合にそれを内部的に解任する仕組み があることが必要であると言える。したがって,同法第8条のような規定を設け ることは相当でないと考えられる。 また,公益信託の成立の認可を行う行政庁が受託者の資格要件該当性の判断を 行う趣旨は,公益信託事務の運営主体として適格性を欠く受託者を出現させない ことにあるとするならば,新受託者の選任には行政庁の関与が必須であるが,受 託者の解任には行政庁が関与せずとも差し支えないと考えられる。そうすると, 公益信託の委託者及び信託管理人の合意により受託者を解任することができるよ うにすることが相当であると考えられる。 ⑶ 受託者の解任事由 新たな公益信託における委託者及び信託管理人の合意による受託者の解任事由 としては,信託法第58条第1項のように限定しないことも考えられるが,公益 信託の受託者の意思に反して解任がされる場合には公益信託事務の継続性や公益 性を確保する観点から受益者の定めのある信託や目的信託の受託者の解任よりも 慎重さが必要であるから,同項とは取扱いを別にし,一定の解任事由を設けるこ とが相当であると考えられる。 その上で,委託者及び信託管理人の合意による受託者の解任事由は,信託法第 58条第4項と同一の「受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与 えたことその他重要な事由があるとき」とすべきであるとの考え方がある。この 考え方に対しては,公益信託の受託者の能力に不足が見られ,かつ,よりふさわ しい新受託者候補が存在するような場合であっても,上記「重要な事由があると き」に該当しないと判断されることが多いと考えられることからすると,上記「重 要な事由があるとき」を解任事由とすることは限定的に過ぎ,公益信託事務を停 滞させるおそれがあるとの問題点の指摘がある。 一方,委託者及び信託管理人の合意による公益信託の受託者の解任事由は,職 務上の義務違反や任務懈怠等のほか,新受託者候補者の存在を考慮しやすくなる ことが想定される「正当な理由」とすべきであるとの考え方がある。この考え方 に対しては,職務上の義務違反や任務懈怠等は別として受託者の解任の可否につ いて新受託者候補者の存在を考慮することが「正当な理由」という文言によって 確実に表現できるとまでは言い難いし,そのような考慮要素を「正当な理由」に 入れ込むことは新受託者の適格性の判断は行政庁が行う(試案の第13の3)こ とと整合性を欠くという問題点の指摘がある。 そこで,試案の第13の2⑴では,上記2つの考え方に角括弧を付し,委託者 56 及び信託管理人は,[受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えた ことその他重要な事由があるとき/正当な理由]があるときは,その合意により受 託者を解任することができるとの提案をしている。 ⑷ 委託者不在の場合 試案の第13の2⑴は,信託法第58条第2項,第3項及び第8項の規定を公 益信託にも適用することを前提としている。同条第8項の適用により,委託者が 現に存しない場合には,同条第1項の規定は適用されないから,例えば公益信託 の委託者が死亡するなど委託者が不在の場合に受託者を信託管理人の単独の意思 表示により解任することは同条第3項の信託行為の別段の定めがない限り認めら れないことになる。 2 裁判所による受託者の解任 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第8条により,公益信託の受託者は,その任務に違反して信託 財産に著しい損害を与えたこと等の重要な事由があるときは,委託者又は信託管 理人による主務官庁に対する受託者解任の申立てを受けて主務官庁により解任さ れるほか,主務官庁の職権により受託者を解任することも可能とされている。 ⑵ 裁判所による解任 しかし,公益信託の成立の認可を行う行政庁が受託者の資格要件該当性の判断 を行う趣旨は,公益信託事務の運営主体として適格性を欠く受託者を出現させな いことにあるとするならば,新受託者の選任には行政庁の関与が必須であるが, 受託者の解任には行政庁が関与せずとも差し支えないと考えられる(なお,受託 者の解任の事実の行政庁への届出等の手続については別途検討する必要がある。)。 そこで,試案の第13の2⑵は,信託法第58条第4項の規定と同様に,裁判所 が公益信託の受託者を解任することができるものとする提案をしている。これは, 同条第5項から第7項までの規定を公益信託にも適用することを前提とするもの である。 ⑶ 裁判所に対する解任の申立権者 信託法第58条第4項,同法第125条において,裁判所に受託者の解任を申 し立てる権限を有する者は委託者又は信託管理人とされていることから,公益信 託の受託者についても,裁判所に受託者の解任を申し立てる権限を有する者は, 委託者又は信託管理人とすることが相当であると考えられる。その場合に,試案 の第5の3⑵で新たな公益信託の信託管理人の権限は,原則として制限できない ものとしていることから,信託管理人の裁判所に対する受託者の解任申立権を信 託行為で制限することはできないものと考えられる。一方,委託者については, 委託者がその権利を放棄することを望む場合にはこれを禁止する必要はないと考 57 えられる。そこで,試案の第13の2⑵では,委託者については信託行為におい て裁判所に対する受託者の解任申立権を有しない旨を定めることができるものと する提案をしている。 3 公益信託の新受託者の選任 ⑴ 委託者及び信託管理人は,信託行為に新受託者に関する定めがある場 合は,当該定めに従い,信託行為に新受託者に関する定めがない場合は, 信託法第62条第1項の方法により新受託者を選任することができるも のとした上で,新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認 可を受けるものとする。 ⑵ 信託法第62条第1項の場合において,同項の合意に係る協議の状況 その他の事情に照らして必要があると認めるときは,裁判所は,利害関 係人の申立てにより,新受託者を選任することができるものとした上で, 新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるもの とする(注)。 (注)行政庁による認可を必要とせず,裁判所が新受託者を選任する前に,行政庁に 意見を聴くものとする考え方がある。 (補足説明) 1 委託者及び信託管理人の合意による新受託者の選任 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第8条は,信託法第62条第4項の裁判所による新受託者の選 任権限を主務官庁に与え,かつ,主務官庁の職権行使を可能としている。現行公 益信託法第8条の存在により,公益信託の新受託者を委託者及び信託管理人の合 意のみにより選任することはできないものと解されている。 ⑵ 委託者及び信託管理人の合意 新たな公益信託制度において,主務官庁による許可・監督制を廃止し,信託関 係人による内部ガバナンスを充実させる観点からすれば,委託者と信託管理人の 合意による新受託者の選任を否定することは望ましくないと言える。他方で,公 益信託の成立の認可基準を充足せず,適格性を欠く受託者が公益信託事務を行う 事態を避けるためには,公益信託の新受託者が選任される際に,その認可基準充 足性が行政庁により審査されるべきであると考えられる。そこで,試案の第13 の3⑴では,委託者及び信託管理人は,信託行為に新受託者に関する定めがある 場合は当該定めに従い,信託行為に新受託者に関する定めがない場合は,信託法 第62条第1項の方法により新受託者を選任することができるものとした上で, 新受託者となろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるものとするこ 58 とを提案している。 ⑶ 委託者不在の場合 試案の第13の3⑴は信託法第62条第2項,第3項及び第8項の規定を公益 信託にも適用することを前提としている。現在の公益信託には,信託法第261 条第1項による読替え後の同法第62条第8項の適用がされていることと同様に, 公益信託の委託者が死亡するなど現に存しない場合には同項の適用により信託管 理人の単独の意思表示に加え行政庁による認可があるときに新受託者の選任が可 能となるものと考えられる。 2 裁判所による新受託者の選任 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第8条により,公益信託の新受託者は,委託者又は信託管理人 による主務官庁に対する新受託者の選任の申立てを受けて主務官庁により選任さ れるほか,主務官庁の職権により新受託者を選任することも可能とされている。 ⑵ 裁判所による新受託者の選任 しかし,新たな公益信託においては主務官庁による許可・監督制は廃止され, 試案の第12の1の補足説明のとおり,新たな行政庁の権限は公益性の確保に必 要な範囲とされるべきであり,信託法が裁判所の権限としている権限は公益信託 においても裁判所の権限とするのが相当であると考えられる。また,信託法第6 2条第4項の(委託者及び信託管理人の)合意に係る協議の状況その他の事情に 照らして必要があると認めるときに該当するか否かの判断は,公益性の確保や認 可基準充足性を判断するものではなく,公益信託においても裁判所が判断するこ とは可能であると言える。その上で,行政庁が公益信託の新受託者の選任に関与 しない場合には,当初の公益信託の成立の認可の際に行政庁が受託者の資格要件 該当性を判断することの意義が失われるから,公益信託の新受託者の選任又は新 受託者が公益信託事務を開始するに際して行政庁による認可を必要とすることが 相当であると考えられる。 そこで,試案の第13の3⑵は,信託法第62条第4項と同様に,同条第1項 の場合において,同項の合意に係る協議の状況その他の事情に照らして必要があ ると認めるときは,裁判所は,利害関係人の申立てにより,新受託者を選任する ことができるものとした上で,新受託者になろうとする者は,行政庁による選任 の認可を受けるものとしている。この案は,信託法第62条第5項から第7項ま での規定を公益信託にも適用することを前提としている。 ⑶ 試案の第13の3⑵の(注)について 試案の第13の3⑵の提案に対し,行政庁による新受託者選任の認可を必要と するのではなく,裁判所の判断と行政庁の判断の調整を図るため,裁判所が新受 59 託者を選任する前に,当該新受託者になろうとする者が公益信託の成立の認可基 準を充足するか否かについて行政庁に意見を聴くべきであるとの考え方があるこ とから,その考え方を試案の第13の3⑵の(注)に示している。 上記(注)の考え方には,新受託者の選任をしようとする当事者が裁判所と行 政庁の両方に行く手間を省けるという利点がある。もっとも,裁判所による新受 託者選任の要件は,行政庁が判断する認可基準とは異なるものであるから,これ らの要件や基準の有無の判断を一つの手続内で行うことについては,不服申立手 続における判断事項等との関係も含めて理論的な整理が必要であるという問題点 の指摘がある。また,現在の公益法人の認定実務においては行政庁と一般法人と の間で直接的な情報のやりとりがされるようであり,裁判所から提供される書面 等の情報のみでは,意見聴取を求められた行政庁が新受託者の認可基準充足性に ついて判断することができない旨の回答がされる可能性がある。そうすると,裁 判所による新受託者選任の判断が困難となる場合も想定され,裁判所において新 受託者の選任を行政庁の意見を踏まえて一元的に行わせることにより,かえって 信託の当事者に過度な負担を強いるおそれがある上,新受託者の選任が遅延する ことにより,公益信託事務が停滞してしまう可能性もあることに留意する必要が あると考えられる。 第14 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律は, 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任と同様の規律とするも のとする。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法第8条は,信託に関する裁判所の権限は原則として主務官庁に属 する旨定めている。そして,受託者の辞任及び解任に関する信託法第57条及び第 58条の規定は同法第128条第2項により信託管理人の辞任及び解任に準用され, 新受託者の選任に関する同法第62条の規定は同法第129条により新信託管理人 の選任に準用されていることから,公益信託の受託者の辞任・解任及び新受託者の 選任と同様に,公益信託の信託管理人の辞任・解任及び新信託管理人の選任には主 務官庁の許可等が必要とされるものと解されている(公益信託の引受けの許可及び 監督に関する府省令参照)。 60 2 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律 しかし,新たな公益信託においては主務官庁による許可・監督制は廃止され,試 案の第12の1の補足説明のとおり,主務官庁の権限は公益性の確保に必要な範囲 とされるべきであると考えられる。また,新たな公益信託における信託管理人の役 割の重要性に鑑みると,敢えて公益信託について受託者と異なる規律を設ける必要 性は認められないものと考えられる。さらに,信託法第128条第2項は,受託者 の辞任に関する同法第57条の規定を信託管理人の辞任に,受託者の辞任に関する 同法第58条の規定を信託管理人の解任に,それぞれ準用することを規定している。 また,同法第129条は,新受託者の選任に関する同法第62条の規定を新信託管 理人の選任について準用することを規定している。そこで,試案の第14では,公 益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律は,公益信託の受託 者の辞任・解任,新受託者の選任と同様の規律とすることを提案している。 3 委託者不在の場合 試案の第13と同様に,試案の第14も,信託法第57条第2項から第6項まで の規定,同法第58条第2項から第8項までの規定,同法第62条第2項から第8 項までの規定を信託管理人に準用するものとしている同法第128条及び第129 条の規定が公益信託にも適用されることを前提としている。 その結果,公益信託の信託管理人の辞任は,委託者が現に存しない場合には,信 託法第57条第1項ただし書の信託行為の別段の定めがないときは同条第2項の裁 判所の許可を得ない限り認められないことになる。また,公益信託の信託管理人の 解任は,委託者が現に存しない場合には,同法第58条第3項の信託行為の別段の 定めがないときは同条第4項の裁判所による解任以外に認められないことになる。 さらに,公益信託の新信託管理人の選任は,委託者が現に存しない場合には,信託 法第62条第4項の裁判所による選任以外に認められないことになり,公益信託の 信託管理人の解任を裁判所に申し立てる権利は,複数の信託管理人が選任されてい る場合の他の信託管理人が有することになるものと考えられる。 その上で,公益信託において委託者及び他の信託管理人が存在しない場合に裁判 所に信託管理人の解任を申し立てる者が問題となるが,1人の信託管理人がその役 割を果たすことができないまま存在するのでは公益信託事務の適正な監督に支障を 生ずることに加え,信託管理人の解任に裁判所を関与させるのであれば受託者から の信託管理人の解任申立てを認めても不当な結果を生ずる可能性は低いと言えるこ とから,公益信託の信託管理人の解任申立権を公益信託の受託者に付与することが 相当であると考えられる。一方,信託管理人の解任申立権を信託管理人により監督 される立場の受託者に与えることは矛盾するとの考え方もあるし,そもそも委託者 不在の場合の取扱いについては信託法の解釈に委ねられていると考えられることも 61 踏まえ,引き続き検討を要する。 第15 公益信託の変更,併合及び分割 (前注)行政庁に対する変更,併合及び分割の認可の申請は,いずれも受託者が行 うことを前提としている。 1 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更 ⑴ 現行公益信託法第5条及び第6条を廃止又は改正し, ア 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更は,委託者, 受託者及び信託管理人の合意等がある場合には,行政庁による変更の 認可を受けることによってすることができるものとする。 イ 裁判所は,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情 により,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目 的及び信託財産の状況その他の事情に照らして公益信託の目的の達成 に支障になるに至ったときは,委託者,受託者又は信託管理人の申立 てにより,信託の変更を命ずることができるものとする。 委託者については信託行為において変更命令の申立権を有しない旨 を定めることができるものとする。 ウ 受託者は,上記イの変更命令の後,行政庁による変更の認可を受け るものとする(注)。 (注)行政庁による変更の認可を必要とせず,裁判所が信託の変更を命ずる前に, 変更後の信託が公益信託の成立の認可基準を充足するか否かについて,行政庁に 意見を聴くものとする考え方がある。 ⑵ 上記⑴アの例外として,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の 定めの軽微な変更をするときは,受託者は,その旨を行政庁に届け出る とともに,当該変更について委託者及び信託管理人の同意を得ていない 場合には,遅滞なく,委託者及び信託管理人に対し,変更後の信託行為 の定めの内容を通知しなければならないものとする。 (補足説明) 1 委託者,受託者及び信託管理人の合意等並びに行政庁の認可による変更 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第6条は,公益信託について信託の変更(同法第5条の規定に よるものを除く。)を行うには,主務官庁の許可を受けることが必要である旨規定 しており,これにより,公益信託の変更は,信託法第149条の当事者の合意等 に加え主務官庁の許可があった時点でその効力を生じる。 62 ⑵ 信託法第149条の適用 新たな公益信託においても,当事者の信託に関する意思決定を重視する観点に 照らすと,当事者の合意等による信託行為の定めの変更の手続を定めている信託 法第149条を公益信託にも適用することが相当であると考えられる。 ⑶ 「委託者,受託者及び信託管理人の合意等」の意味 公益信託には受益者は存在しないが,新たな公益信託では信託管理人が必置と される(試案の第5の1)ことから,信託法第149条第1項から第5項までの 「受益者」は「信託管理人」と読み替えられる。 そして,上記の読替えを経ると,公益信託に信託法第149条を適用した場合 に必要とされる当事者の合意等は,①委託者,受託者及び信託管理人の3者合意 (同条第1項参照),②信託の目的に反しないことが明らかであるときの受託者及 び信託管理人の2者合意(同条第2項第1号参照),③信託の目的の達成のために 必要であることが明らかであるときの受託者が書面又は電磁的記録によってする 単独の意思表示(同条第2項第2号参照。この場合,受託者は委託者及び信託管 理人に対し変更後の信託行為の内容等を遅滞なく通知しなければならない。),④ 受託者の利益を害しないことが明らかであるときの委託者及び信託管理人の2者 の受託者に対する意思表示(同条第3項第1号参照),⑤信託の目的に反しないこ と及び受託者の利益を害しないことが明らかであるときの信託管理人単独の受託 者に対する意思表示(同条第3項第2号参照)を意味することになる。なお,新 たな公益信託では委託者の権限は受益者の定めのある信託の委託者が有する権限 と同様とする(試案の第6の1)立場からすると,新たな公益信託の変更につい ては目的信託の変更と異なり信託法第261条第3項を適用する必要はないもの と考えられる。 そこで,試案の第15の1⑴アの提案では,上記①から⑤の場合をまとめて, 「委託者,受託者及び信託管理人の合意等」と表現している。 ⑷ 行政庁の認可 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更について,委託者,受 託者及び信託管理人の合意等がある場合であっても,その変更後の信託行為の内 容によっては,新たな公益信託の成立の認可基準の充足性に問題が生じる可能性 がある。また,行政庁が公益信託の成立の認可の取消権限を有することを前提と しても,その権限行使は事後的なものにとどまるから,公益信託の信託行為の定 めの変更によって公益信託の成立の認可基準を満たさなくなる事態の発生を防止 するためには,信託行為の定めの変更の前に行政庁がその当否を審査することが 有効であるものと考えられる。この場合の行政庁の不認可処分に対する当事者の 不服申立手続は,行政不服審査又は行政処分の取消訴訟によることが想定される。 63 ⑸ 委託者不在の場合 試案の第15の1⑴アは,信託法第149条第5項の規定を公益信託に適用す ることを前提としており,同項により委託者が現に存しない場合には同条第1項 及び同条第3項第1号の規定は適用されないから,公益信託の委託者が死亡する など委託者が不在の場合に例えば受託者が信託管理人との合意により信託の変更 をすることは,同条第1項から第3項までの規定にかかわらず信託行為に別段の 定めがあるときはその定めによると規定している同条第4項の信託行為の別段の 定めがない限り認められないことになる。なお,同項の別段の定めにより行政庁 の認可を不要とすることはできないものと考えられる。 ⑹ 小括 以上の検討を踏まえ,試案の第15の1⑴アでは,現行公益信託法第6条を廃 止又は改正し,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更は,委託 者,受託者及び信託管理人の合意等がある場合には,行政庁による変更の認可を 受けることによってすることができるものとする提案をしている。 2 裁判所による変更 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第5条第1項は,公益信託について信託行為の当時予見するこ とのできなかった特別の事情が生じたときは,主務官庁は,信託の本旨に反しな い限り職権でも信託の変更を命じることができる旨規定し,同条第2項は,信託 法第150条の公益信託への適用を除外している。 ⑵ 信託法第150条の適用 しかし,新たな公益信託においては主務官庁による後見的見地からの包括的な 監督を定めた現行公益信託法第3条は廃止され,行政庁は公益信託の成立の認可 基準を満たしていることを確保するために必要な範囲で監督権限を行使すること が想定されている(試案の第12の1の補足説明参照)ことからすると,裁判所 による変更命令を排除し,主務官庁による職権での変更命令を許容する現行公益 信託法第5条第1項を維持することは相当でないと考えられる。 その上で,信託法第150条第1項は,信託行為の定めの変更は,信託関係者 等の意思によって行うのが原則ではあるものの,信託関係者の人数が少なくない 場合などにおいては,実際上,合意を行うことが困難な場合もある(村松ほか概 説285頁)ことから設けられたものであり,例えば,受託者の信託事務処理を 第三者に委託してはならない旨の定めがあるときに,信託行為の当時には予想で きなかった技術変化により,受託者自身による管理が不適切になり,受益者の利 益に適合しなくなった場合などが例として考えられる。裁判所による変更を通じ て受益者の利益が保護されるべきか否かは,信託目的との関係で判断されるから, 64 同項に基づく信託目的自体の変更はできないと解されている(道垣内弘人「信託 法」395頁,新井誠監修「コンメンタール信託法」407頁も同旨)。 このような信託法第150条の趣旨は,公益信託事務の処理の方法に係る信託 行為の定めの変更について,試案の第15の1⑴アの委託者,受託者及び信託管 理人の合意等がない場合にも妥当するものと言える。 したがって,裁判所に対する申立てによる信託行為の定めの変更の手続を定め ている信託法第150条を公益信託にも適用することが相当であると考えられる。 ⑶ 裁判所に対する変更命令の申立権者 裁判所による変更命令の申立権者について,信託法第150条第1項は,「委託 者,受託者又は受益者」と規定している。そして,同法第125条第1項は,信 託管理人は,受益者のために自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判 上又は裁判外の行為をする権限を有すると規定しているため,信託管理人は,特 に読替え規定を置かなくとも単独受益者権を行使することができる(村松ほか概 説382頁参照)と解されていることに鑑みると,公益信託の変更命令の申立権 者は,「委託者,受託者又は信託管理人」となるものと考えられる。 なお,上記のうち受託者及び信託管理人の申立権を信託行為の定めにより制限 することはできないものと考えられる。一方,委託者については,信託法第15 0条第1項に基づく裁判所に対する信託の変更の申立権は,委託者が信託行為に 別段の定めをしなくても原則として有する権利として位置付けられているものの, 委託者がその権利を放棄することを望む場合にはこれを禁止する必要はなく,同 法第145条第1項に基づき権利を有しない旨を定めることは可能であると解さ れている(寺本逐条解説328頁参照)。また,委託者が当然に有すると整理され る権利の中には,裁判所に対する各種の申立権も含まれるが,これらの申立権を 放棄する旨の定めについても,その効力を認めることができるほか,委託者の権 利放棄の位置付けは,同法第145条第1項の規定によるものであるが,同時に, 同法第149条第4項,第151条第3項等の規定との関係では,それぞれにつ いて「別段の定め」がされたというべきであると解されている(村松ほか概説2 70頁)。したがって,委託者については信託行為により変更命令の申立権を有し ない旨を定めることができるものとすることが相当であると考えられる。 ⑷ 裁判所の判断事項 信託法第150条第2項により,変更命令の申立てを行う者は,裁判所に対し て当該申立てに係る変更後の信託行為の定めを明らかにしなければならないとさ れているから,裁判所はその申立ての可否の判断のみを行うことで足りる。この 場合の不服申立手続は,同条第5項に基づく即時抗告によることとなる。 ⑸ 行政庁による変更の認可 信託法第150条に基づく裁判所の変更命令は,委託者,受託者及び信託管理 65 人の合意等が整わない場合に当該合意等の代替となるものであり,変更後の信託 行為の定めの内容が公益信託の成立の認可基準を充足するか否かの判断を予定し ているものではないから,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変 更を行う場合には,行政庁による変更の認可を受けることを必要とすることが相 当であると考えられる。 ⑹ 小括 以上の検討を踏まえ,試案の第15の1⑴イ及びウでは,現行公益信託法第5 条を廃止又は改正し,裁判所は,信託行為の当時予見することのできなかった特 別の事情により,公益信託事務の処理の方法にかかる信託行為の定めが信託の目 的及び信託財産の状況その他の事情に照らして公益信託の目的の達成に支障にな るに至ったときは,委託者,受託者又は信託管理人の申立てにより,信託の変更 を命ずることができる(委託者については変更命令の申立権を有しない旨の信託 行為の定めを置くことができる)ものとした上で,受託者は裁判所の変更命令の 後,行政庁による変更の認可を受けるものとするとの提案をしている。 ⑺ 試案の第15の1⑴ウの(注)について 試案の第15の⑴ウは,裁判所の変更命令の後,行政庁による変更の認可を必 要とするものであるが,これに対し,行政庁による変更の認可を必要とするので はなく,裁判所の判断と行政庁の判断の調整を図るため,裁判所が信託の変更を 命ずる前に,変更後の信託が公益信託の成立の認可基準を充足するか否かについ て行政庁に意見を聴けば足りるとの考え方があることから,その考え方を試案の 第15の1⑴ウの(注)に示している。(注)の考え方には,信託の変更をしよう とする当事者が裁判所と行政庁の両方に行く手間を省けるという利点がある。も っとも,裁判所による変更命令の要件は,行政庁が判断する認可基準とは異なる ものであるから,これらの要件や基準の有無の判断を一つの手続内で行うことに ついては,不服申立手続における判断事項等との関係も含めて理論的な整理が必 要であるという問題点の指摘がある。また,現在の公益法人の認定実務において は行政庁と一般法人との間で直接的な情報のやりとりがされるようであり,裁判 所から提供される書面等の情報のみでは,意見聴取を求められた行政庁が変更後 の信託行為の認可基準充足性について判断することができない旨の回答がされる 可能性がある。そうすると,裁判所による変更命令の判断が困難となる場合も想 定され,裁判所において公益信託の変更命令を行政庁の意見を踏まえて一元的に 行わせることにより,かえって信託の当事者に過度な負担を強いるおそれがある 上,公益信託の変更が遅延する可能性もあることに留意する必要があると考えら れる。 66 3 信託行為の定めの軽微な変更 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第6条は,信託行為の定めの軽微な変更か否かを問わず,一律 に行政庁の許可を必要としている。 ⑵ 軽微な変更についての届出と関係者への通知 しかし,信託行為の定めの軽微な変更も含めて全ての公益信託の信託行為の定 めの変更について行政庁の変更の認可を得なければならないとした場合には,そ れに要する受託者の事務手続の負担が過大なものとなるおそれがあり,主務官庁 による許可制を廃止した後の,新たな行政庁による関与として過剰であると評価 される可能性もあるから,新たな公益信託において信託行為の軽微な変更をする 場合には,受託者が行政庁に対する届出をすることで足りるものとすることが相 当であると考えられる。 その上で,信託行為の定めの軽微な変更を行う場合に,委託者及び信託管理人 の同意があるときは委託者及び信託管理人に対し変更内容を通知する必要はない が,受託者が当該変更について委託者及び信託管理人の同意を得ていないときは, 信託法第149条第2項第2号を参考にして,受託者は,変更後の信託行為の定 めの内容を委託者及び信託管理人に対して遅滞なく通知しなければならないとす ることが相当であると考えられる。 そこで,試案の第15の1⑵では,試案の第15の1⑴アの例外として,公益 信託の信託行為の定めの軽微な変更をするときは,受託者は,その旨を行政庁に 届け出るとともに,当該変更について委託者及び信託管理人の同意を得ていない 場合には,遅滞なく,委託者及び信託管理人に対し,変更後の信託行為の定めの 内容を通知しなければならないものとすることを提案している。 ⑶ 軽微な変更の具体例 公益信託の信託行為の定めの軽微な変更の具体例としては,公益法人認定法施 行規則第7条を参考に,①受託者が公益信託事務を行う都道府県の区域を変更す るが,当該変更後の公益信託事務を行う区域が2以上の都道府県の区域内である ことから,行政庁が国の行政庁であることで変わらないもの,②公益信託事務の 内容の一部を変更するが,公益信託の成立の認可を受けた申請書の記載事項の変 更を伴わないものとすることなどが想定される。なお,公益信託の受託者の名称 の変更や,受託者が法人である場合の代表者の変更などは,そもそも,信託行為 の定めの変更に当たらないと考えられるが,これらの事象が生じた場合に,受託 者が事後的に行政庁にその名称の変更等の届出を行う仕組みを設けることも考え られる。 67 2 公益信託の目的の変更 ⑴ 現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,公益信託の目的の変更は, 委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,行政庁による変 更の認可を受けることによってすることができるものとする。 ⑵ 現行公益信託法第9条を改正し,公益信託の目的を達成したとき又は その目的を達成することができなくなったときは, ア 委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,公益信託の 目的を他の公益目的に変更し,行政庁による変更の認可を受けること によって公益信託を継続できるものとする。 イ 委託者が現に存しない場合には,受託者及び信託管理人は,その合 意により,公益信託の目的を類似の目的に変更し,行政庁による変更 の認可を受けることによって公益信託を継続できるものとする。 (補足説明) 1 公益信託の終了原因が生ずる前の公益信託の目的の変更 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第6条は,公益信託について信託の変更(同法第5条の規定に よるものを除く。)を行うには,主務官庁の許可を受けることが必要である旨規定 しており,これにより,公益信託の変更は,信託法第149条の当事者の合意等 に加え主務官庁の許可があった時点でその効力を生じる。 ⑵ 信託法第149条第1項の適用 新たな公益信託においても,当事者による信託に関する意思決定を重視する観 点に照らすと,当事者の合意等による信託の目的の変更の手続を定めている信託 法第149条第1項を公益信託にも適用することが相当であると考えられる。 ⑶ 「委託者,受託者及び信託管理人の合意」の意味 もっとも,公益信託の目的の変更をする場合には,「信託の目的に反しないこと が明らかである」等の信託法第149条第2項及び第3項の要件を満たすことは 想定し難く,公益信託の目的の変更は,委託者,受託者及び信託管理人の合意が ある場合にのみ行われると考えられる。そのため,試案の第15の2の提案では, 試案の第15の1⑴アのように「委託者,受託者及び信託管理人の合意等」と表 現するのではなく,「委託者,受託者及び信託管理人の合意」と表現することとし ている。なお,同条第4項の規定により,例えば委託者及び受託者の合意に加え て行政庁による変更の認可を受けることにより信託の目的を変更できる旨の信託 行為の定めを置くことは可能であると考えられる。 68 ⑷ 行政庁の認可 公益信託の目的は,当該信託を設定した委託者の意思の表れであり,尊重され るべきであると考えられる。また,公益信託の目的の変更を認めると,特定の公 益目的のために設定された信託であることを前提として当該信託に寄附をした者 の期待が害されるおそれもあることからすると,公益信託の目的の変更を委託者, 受託者及び信託管理人の合意のみによって行うことができるようにすることは望 ましくない。さらに,公益信託の変更後の目的によっては公益信託の成立の認可 基準を満たさなくなる事態が生じる可能性があり,行政庁が公益信託の成立の認 可の取消権限を有することを前提としてもその権限行使は事後的なものにとどま るから,そのような事態を防止するためには,信託の目的の変更の前に,行政庁 がその当否を審査し,認可を与えるものとすることが必要であるものと考えられ る。なお,上記のとおり,公益信託の目的の変更を行う場合には,特定の公益目 的のために財産を寄附した者の期待が害されるおそれがあることからすると,試 案の第15の2⑴の場面においても,試案の第15の⑵イの場面と同じく類似の 目的にのみ変更を可能とする考え方もあり得るため,引き続き検討を要する。 ⑸ 委託者不在の場合 試案の第15の2⑴の提案は,信託法第149条第5項の規定を公益信託に適 用することを前提としており,同項により委託者が現に存しない場合には同条第 1項及び同条第3項第1号の規定は適用されないから,公益信託の委託者が死亡 するなど委託者が不在の場合に例えば受託者が信託管理人との合意により信託の 変更をすることは同条第4項の信託行為の別段の定めがない限り認められないこ とになるものと考えられる。なお,同項の別段の定めにより行政庁の認可を不要 とすることはできないものと考えられる。 ⑹ 小括 以上の検討を踏まえ,試案の第15の2⑴では,現行公益信託法第6条を廃止 又は改正し,公益信託の目的の変更は,委託者,受託者及び信託管理人の合意が ある場合には,行政庁による変更の認可を受けることによってすることができる ものとするとの提案をしている。 2 公益信託の目的を達成したとき又はその目的を達成することができなくなったと きの信託の目的の変更 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第9条は,「公益信託ノ終了ノ場合ニ於テ帰属権利者ノ指定ニ関 スル定ナキトキ又ハ帰属権利者ガ其ノ権利ヲ放棄シタルトキハ主務官庁ハ其ノ信 託ノ本旨ニ従ヒ類似ノ目的ノ為ニ信託ヲ継続セシムルコトヲ得」と規定している。 同条は,公益信託が終了した場合にこれを清算せずに類似の目的の公益信託とし 69 て継続させる方が,公益目的のために信託を設定した委託者の意思にも社会の要 求にも合致することから設けられているものであり,英米法におけるシ・プレ原 則を参照したものであると解されている。 ⑵ 委託者,受託者及び信託管理人の合意並びに行政庁の認可による変更 しかし,新たな公益信託においては主務官庁による許可・監督制は廃止される ことが前提となっているから,現行公益信託法第9条をそのまま維持することは できない。また,試案の第17の1の提案のとおり全ての公益信託の信託行為に 帰属権利者の定めが置かれることを前提とすると,新たな公益信託において,帰 属権利者が定まらないという事態は想定しにくい。そして,信託財産をできるだ け民間による公益活動のために活用しようという観点からは,仮に公益目的の達 成又は不達成の場合に公益信託の残余財産の帰属権利者として定められた国,地 方公共団体等がその権利を放棄していないときであっても,清算結了までの間, 委託者,受託者及び信託管理人の合意によりその目的を変更することは可能とす ることが相当であると考えられる。そして,その場合の変更の範囲については, 公益目的の達成又は不達成の前の時点では「類似の」目的への変更という制約が 課されていないこととの均衡を考慮すると,公益目的と評価できるものであれば 当初の目的と類似していない他の公益目的への変更も認められることになると考 えられる。 そこで,試案の第15の2⑵アでは,現行公益信託法第9条を改正し,公益信 託の目的を達成したとき又はその目的を達成することができなくなったときは, 委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,公益信託の目的を他の公 益目的に変更し,行政庁による変更の認可を受けることによって公益信託を継続 できるものとする提案をしている。 なお,試案の第15の2⑵アの提案に対しては,公益信託の信託行為において 公益信託の終了命令の申立権を委託者が有しない旨を定めることが可能とされて いること(試案の第16の4)との関係を踏まえ,信託法第149条第4項を適 用して終了命令の申立権を有しない委託者を信託行為の定めにより変更の合意の 当事者から外し,公益信託の目的達成又は不達成後に受託者及び信託管理人の合 意で信託の目的の変更を可能とする考え方もあることから,引き続き検討を要す る。 ⑶ 委託者不在の場合 試案の第15の2⑵アと異なり,委託者が現に存しない場合は,当初の公益目 的のために信託財産を拠出した委託者の意思を尊重する必要があることから,類 似の目的の公益信託への変更のみを許容することが相当であると考えられる。そ こで,試案の第15の2⑵イでは,委託者が現に存しない場合には,受託者及び 信託管理人は,その合意により,公益信託の目的を類似の目的に変更し,行政庁 70 による変更の認可を受けることによって公益信託を継続できるものとすることを 提案している。 3 公益信託の併合・分割 現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,公益信託の併合・分割は,委 託者,受託者及び信託管理人の合意等がある場合には,行政庁による併合・ 分割の認可を受けることによってすることができるものとする(注)。 (注)裁判所は,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託 行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして公益信託の目的 の達成に支障になるに至ったときは,委託者,受託者又は信託管理人の申立てにより, 信託の併合・分割を命ずることができる旨の規律を設けるものとする考え方がある。 (補足説明) 1 委託者,受託者及び信託管理人の合意並びに行政庁の認可による併合・分割 ⑴ 現行法の定め 現行公益信託法第6条は,公益信託について信託の併合又は分割を行うには, 主務官庁の許可を受けることが必要である旨規定しており,これにより,公益信 託の併合又は分割は,信託法第151条,第155条及び第159条の当事者の 合意等に加え主務官庁の許可があった時点でその効力を生じる。 ⑵ 信託法第151条,第155条及び第159条の適用 新たな公益信託においても,当事者による信託に関する意思決定を重視する観 点に照らすと,当事者の合意等による信託の併合・分割の手続を定めている信託 法第151条,第155条及び第159条を新たな公益信託にも適用することが 相当であると考えられる。 ⑶ 「委託者,受託者及び信託管理人の合意等」の意味 公益信託には受益者は存在しないが,新たな公益信託では信託管理人が必置と されることが前提とされること(試案の第5の1)から,信託法第151条第1 項及び第2項,第155条第1項及び第2項,第159条第1項及び第2項の「受 益者」はいずれも「信託管理人」と読み替えられる。 そして,上記の読替えを経ると,公益信託に信託法第151条,第155条及 び第159条を適用した場合に必要とされる当事者の合意は,①委託者,受託者 及び信託管理人の3者合意(信託法第151条第1項,第155条第1項及び第 159条第1項),②信託の目的に反しないことが明らかであるときの委託者及び 信託管理人の2者合意(同法第151条第2項第1号,第155条第2項第1号 及び第159条第2項第1号),③信託の目的の達成のために必要であることが明 らかであるときの受託者が書面又は電磁的記録によってする単独の意思表示(同 71 法第151条第2項第2号,第155条第2項第2号及び第159条第2項第2 号。この場合,受託者は委託者及び信託管理人に対し併合・分割後の信託行為の 内容等を遅滞なく通知しなければならない。)を意味することになる。なお,新た な公益信託では委託者の権限は受益者の定めのある信託の委託者が有する権限と 同様とする(試案の第6の1)立場からすると,新たな公益信託の併合・分割に ついては目的信託の変更と異なり信託法第261条第4項及び第5項を適用する 必要はないものと考えられる。そこで,試案の第16の3の提案では,上記①, ②及び③の場合をまとめて「委託者,受託者及び信託管理人の合意等」と表現し ている。 なお,信託行為に別段の定めを置くことを認める信託法第151条第3項,第 155条第3項及び第159条第3項の規定により,受託者が単独で併合・分割 を行う旨の信託行為の定めを置くことも可能であると考えられる。 ⑷ 行政庁の認可 委託者,受託者及び信託管理人の合意等がある場合にも,併合・分割後の信託 行為の定めの内容によっては,公益信託の成立の認可基準の充足性に問題が生じ る可能性がある。また,仮に目的を異にする2つの公益信託を併合する場合には, いずれかの目的の変更を伴うことになる。そして,公益信託の併合・分割後の信 託の内容によっては公益信託の成立の認可基準を満たさなくなる事態が生じる可 能性があるところ,行政庁が公益信託の成立の認可の取消権限を有することを前 提としても,その権限行使は事後的なものにとどまるから,上記のような事態の 発生を防止するためには,信託行為の併合・分割の前に行政庁がその当否を審査 し,認可をすることが有効であるものと考えられる。 ⑸ 委託者不在の場合 試案の第15の3は,信託法第151条第4項,第155条第4項及び第15 9条第4項の規定を公益信託に適用することを前提としている。これら各項によ り委託者が現に存しない場合には信託法第151条第1項,第155条第1項, 及び第159条第1項の規定は適用されないから,公益信託の委託者が死亡する など委託者が不在の場合に受託者が信託管理人との合意により信託の併合・分割 をすることは,信託法第151条第3項,第155条第3項及び第159条第3 項の信託行為の別段の定めがない限り認められないことになる。なお,上記各項 の別段の定めにより行政庁の認可を不要とすることはできないものと考えられる。 ⑹ 小括 以上の検討を踏まえ,試案の第15の3では,現行公益信託法第6条を廃止又 は改正し,公益信託の併合・分割は,委託者,受託者及び信託管理人の合意等が ある場合には,行政庁による併合・分割の認可を受けることによってすることが できるものとするという提案をしている。この場合の不服申立手続は,行政不服 72 審査又は行政処分の取消訴訟によることが想定される。 ⑺ 試案の第15の3の(注)について 試案の第15の3の提案に対しては,裁判所は,信託行為の当時予見すること のできなかった特別の事情により,信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の 状況その他の事情に照らして公益信託の目的の達成に支障になるに至ったときは, 委託者,受託者又は信託管理人の申立てにより,信託の併合・分割を命ずること ができる旨の規律を設けるものとする考え方があることから,その考え方を試案 の第15の3の(注)に示している。 上記(注)の考え方には,信託の変更と同じく信託関係人の合意が整わない場 合にも裁判所という第三者のチェックを経て信託の併合・分割を可能となるとい う利点があるが,信託の併合・分割はいわゆる会社の組織変更に類似するもので あると言え,当該信託の関係者に対し信託目的の変更よりも重大な影響をもたら す可能性がある。また,裁判所が信託の併合・分割を命令できるということにな ると,当該信託の関係者の意思に反して組織変更を命令することとなり私的自治 への介入の程度が大きいと言えるという問題点の指摘がある。 第16 公益信託の終了 1 公益信託の終了事由 公益信託は,次に掲げる場合に終了するものとする。 ⑴ 信託の目的を達成したとき,又は信託の目的を達成することができ なくなったとき。 ⑵ 受託者又は信託管理人が欠けた場合であって,新受託者又は新信託 管理人が就任しない状態が1年間継続したとき。 ⑶ 受託者が信託法第52条(第53条第2項及び第54条第4項にお いて準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。 ⑷ 信託の併合がされたとき。 ⑸ 信託法第165条又は第166条の規定により信託の終了を命ずる 裁判があったとき。 ⑹ 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。 ⑺ 委託者が破産手続開始の決定, 再生手続開始の決定又は更生手続開 始の決定を受けた場合において,破産法第53条第1項,民事再生法 第49条第1項又は会社更生法第61条第1項(金融機関等の更生手 続の特例等に関する法律第41条第1項及び第206条第1項におい て準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。 ⑻ 信託行為において定めた事由が生じたとき。 73 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法には,公益信託の終了事由について定めた規定はない。そのため, 信託の終了事由を掲げる信託法第163条の規定は,公益信託についても原則とし て適用されるが,同条第2号の「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が 1年間継続したとき」の事由については,公益信託の場合には受託者が「受益権」 の全部を固有財産で有する状態が想定し得ないことから,公益信託の終了事由には なり得ないと解されている。 2 信託法第163条の適用 試案の第16の1では,信託法第163条第2号を除く同条各号の終了事由が公 益信託にも適用されるものとする提案をしている。そのうち,第16の1⑵では, 新たな公益信託における信託管理人の役割の重要性に鑑み,同法第258条8項の 規定を参考として,信託管理人が欠けた場合であって,新信託管理人が就任しない 状態が1年間継続した場合についても新たな公益信託の終了事由とする旨の提案を している。なお,公益信託について信託法第163条第1号及び第3号から第9号 までが適用され,同条第2号が適用されないことは,信託法の解釈に委ねるべき性 質のものであり,新公益信託法の中に規律を設ける必要はないものと考えられる。 3 信託管理人の1年間の不在の場合の取扱い 試案の第16の1⑵の提案に対し,部会では,信託管理人の1年間の不在を公益 信託の終了事由とするのではなく,行政庁による公益信託の成立の認可の任意的取 消事由とすべきである旨の考え方も示された。たしかに,公益信託の継続性を重視 する観点からはその考え方にも一定の合理性がある。もっとも,その考え方に関し ては新たな公益信託における内部ガバナンスの中核を担う信託管理人が1年間不在 であるような場合にはその適正な運営に疑義が生じるという問題点の指摘がある。 2 公益信託の存続期間 公益信託の存続期間については,制限を設けないものとする。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法第2条第2項は,公益信託については,目的信託の存続期間は2 0年を超えることができないと定める信託法第259条を適用しない旨規定してい る。なお,同条が目的信託の存続期間を制限している趣旨は,目的信託においては, 74 公序良俗に反することになるような目的(民法第90条)を除き,信託の目的に特 段の制限は存しないため,信託財産に属する財産の管理・処分が信託行為で定めら れた信託目的に長期間拘束されることになると,場合により,物資の流通や合理的 な利用が妨げられ,国民経済上の利益に反することになるおそれがあり得ることか ら,これを防止する点にあるとされている(寺本逐条解説452頁,村松ほか概説 379頁参照)。 一方,受益者の定めのある信託の場合は,信託財産から給付等を受ける受益者が 存在するため,財産の流通が阻害されるおそれは少なく,民法上の委任や寄託など には存続期間の制限に関する規定が存在しないことからも,信託法上信託期間の制 限は設けられていない。ただし,信託期間があまりに長期にわたるときは,例外的 に公序良俗に反すると評価される場合があり得るものと解されている(佐藤哲治編 著「Q&A信託法」293頁参照)。 2 20年の期間制限の要否 旧信託法以来,永久に信託財産の処分を禁止してその収益だけを受益者に与える 信託(永久管理信託)は,物資の融通を害し国民経済上の利益に反することを理由 に,相当期間を超える禁止の部分については民法第90条により無効になり得るが, 公益信託は,公共の利益に仕えるものであるから,そのために長期にわたって物資 が拘束されることも許されると解されている(四宮152頁参照)。そして,現在の 公益信託についてこのような解釈を変更するまでの必要性は見当たらず,目的信託 の存続期間を20年間に制限する信託法第259条の趣旨は,公益信託には妥当し ないものと言うことができる。 そこで,試案の第16の2では,公益信託の存続期間については,期間制限を設 けないものとする提案をしている。 3 委託者,受託者及び信託管理人の合意による終了 【甲案】公益信託の終了は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある 場合には,行政庁による公益信託の[終了の認可/成立の認可の取消 し]を受けることによってすることができるものとする。 【乙案】公益信託の終了は,委託者,受託者及び信託管理人の合意のみに よりすることができるものとする。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法には,委託者及び信託管理人の合意による公益信託の終了につい て定めた規定はない。他方,信託法第164条第1項は,委託者及び受益者は,い 75 つでも,その合意により,信託を終了することができると規定し,同条第2項は委 託者及び受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは受託者の損害を賠償 しなければならない旨規定している。また,同条第3項は,信託行為に別段の定め があるときは,その定めによる旨規定している。 さらに,信託法第163条第9号は信託行為において定めた事由が生じたときを 信託の終了事由としており,同号に基づき,信託行為において,委託者又は受益者 以外の第三者(受託者を含む。)に信託を終了させる権限を付与することができると 解されている(村松ほか概説306頁参照)。 なお,税法上は,特定公益信託及び認定特定公益信託として税制優遇を受けるた めには,当該公益信託が合意により終了することのできないものであることが必要 とされている(所得税法第78条第3項,同法施行令第217条の2第1項第2号, 法人税法第37条第6項,同法施行令第77条の4第1項第2号等)。これは,公益 信託の信託財産として出資された金銭を税法上の寄附金として取り扱うためには, 当該信託財産が実質的に委託者の手を離れたものであることが前提とされることの ほか,公益信託の運営の公正性及び確実性等を担保するために必要な要件であると 考えられており,実務上は,信託行為に「当該公益信託が合意による終了ができな いものであること」を明記する例が多いようである。 2 委託者,受託者及び信託管理人の合意による終了 ⑴ 当事者の合意による終了の必要性 公益信託の終了事由は,試案の第16の1に掲げたとおりであるが,公益信託 の支出が収入を大幅に上回る状況が続くような場合において,受託者が信託の目 的達成又は不達成の要件(信託法第163条第1号)に該当するとして信託を終 了させようとしてもその判断に困難を伴う可能性があるし,信託の終了命令(同 法第165条第1項)を利用しようとしても,信託行為の当時予見することので きなかった特別の事情の要件を満たさないことも想定される。したがって,試案 の第16の1の終了事由のほか,公益信託の当事者の合意による終了を認める必 要があるものと考えられる。なお,新たな公益信託にも信託法第166条は適用 されることを前提としている。 ⑵ 試案の第16の3の甲案について いったん設定された公益信託は公益すなわち不特定多数人の利益に寄与するも のであり,その継続性の確保が重要であるほか,公益信託の終了が不正に行われ ることを防止する観点からすると,公益信託においては,委託者,受託者及び信 託管理人の合意がある場合でも,行政庁の処分を経なければ公益信託を終了する ことはできないとすることが相当であるという考え方があることから,その考え 方を試案の第16の3の甲案として示している。 76 上記行政庁の処分については,行政庁による公益信託の「終了の認可」とする 考え方がある一方,公益法人認定法第29条第1項第4号が公益法人から公益認 定の取消しの申請があったときには行政庁は公益認定を取り消さなければならな い旨定めていることを参考として公益信託の「成立の認可の取消し」とする考え 方もある。そこで,試案の第16の3の甲案では,上記2つの考え方の部分に角 括弧を付し,公益信託の終了は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場 合には,行政庁による公益信託の[終了の認可/成立の認可の取消し]を受けるこ とによってすることができるものとする提案をしている。 仮に試案の第16の3の甲案を採用する場合には,行政庁の判断する終了事由 をどのように定めるかという点について,引き続き検討を要する。 ⑶ 試案の第16の3の乙案について 公益信託の終了後,その清算の段階における残余財産の適切な分配が担保され ているのであれば,公益信託の委託者又はその関係者に信託財産が帰属すること はないと考えられるし,信託の終了の後も行政庁の監督は信託財産の清算が結了 するまで継続し,監督権限の行使が可能であることからすると,信託財産の清算 処理に行政庁の監督が必要であることを理由として信託の終了に行政庁が関与す ることが必要であるとは言い難い。また,信託目的の達成又は不達成による終了 のような場合には行政庁の認可は不要とされており,行政庁が公益信託の成立の 認可基準充足性以外に,公益信託の終了に信託の終了事由以外の正当な理由があ るか否かを判断することは私的自治への過剰な介入となる可能性がある。さらに, 公益法人認定法第26条第1項は,公益法人は合併以外の理由により解散をした 場合には,その清算人等が解散の日から1箇月以内にその旨を行政庁に届け出な ければならないと定めており,公益法人の解散に行政庁の許可は必要とされてい ない(なお,同法第30条第1項において,公益認定取消後の法人は,1箇月以 内に公益目的取得財産残額の贈与契約を締結し,その後行政庁に対し報告するこ ととされている。)。そうすると,公益信託の終了は,委託者,受託者及び信託管 理人の合意のみによりすることができるものとすることが相当であるという考え 方があることから,その考え方を試案の第16の3の乙案として示している。 試案の第16の3の乙案は,公益信託の継続性にも配慮して信託法第164条 第1項及び第2項のように受託者の損害を賠償することを前提に委託者及び受益 者の合意により信託を終了させることを可能とするものではなく,委託者,受託 者及び信託管理人の合意を必要としているものであるが,委託者及び信託管理人 の合意による公益信託の終了を可能とした上で受託者に損害が生じる場合にはそ の損害を賠償するという同条第1項及び第2項の規律を公益信託にも適用する考 え方もあり得ることから,そのような考え方を含め引き続き検討を要する。 77 ⑷ 委託者不在の場合 試案の第16の3の甲案及び乙案は,信託法第164条第4項の規定を公益信 託に適用することを前提としており,同項により委託者が現に存しない場合には 同条第1項及び第2項の規定は適用されないから,公益信託の委託者が死亡する など委託者が不在の場合に受託者が信託管理人との合意により公益信託を終了す ることは同条第3項の信託行為の別段の定めがない限り認められないことになる。 一方,委託者が存在しなくても受託者及び信託管理人の合意に加え行政庁の認可 があるときは公益信託の終了を可能とすべきであるという考え方もあり得ること から,そのような考え方を含め引き続き検討を要する。 4 公益信託の終了命令 信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,公益信 託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らし て相当になるに至ったことが明らかであるときは,裁判所は,委託者,受 託者又は信託管理人の申立てにより,信託の終了を命ずることができるも のとする。 委託者については信託行為において公益信託の終了命令の申立権を有し ない旨を定めることができるものとする。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法第8条本文により,公益信託については,信託法第165条に基 づく裁判所による終了命令の権限は,主務官庁に属するものとされている。これは, 特別の事情により公益信託を終了することが信託の目的等に照らして相当であるか 否かは,公益信託を許可・監督する主務官庁の判断に委ねるべきであると考えられ ることによるものである。 2 信託法第165条の適用 しかし,現行公益信託法第8条は,主務官庁による許可制を前提とするものであ り,主務官庁による許可制の廃止を前提とする新たな公益信託に直ちに適合するも のではないと考えられる。 また,試案の第16の3の論点で当事者の合意による公益信託の終了を認めるの であれば,特別の事情による信託の終了を命ずる裁判は,信託行為の当時予見する ことのできなかった特別の事情の有無を踏まえた上で,終了について意見対立があ る当事者の利害を考慮して行われることになることから,終了命令の主体は裁判所 の方がより適切である。さらに,試案の第15の1⑴イでは公益信託の変更命令の 78 主体を裁判所としており,終了命令の主体と変更命令の主体は同一とすることが望 ましいと考えられる。 そこで,試案の第16の4では,公益信託にも信託法第165条第1項を適用し, 信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,公益信託を終了す ることが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当になるに至っ たことが明らかであるときは,裁判所は,委託者,受託者又は信託管理人の申立て により,信託の終了を命ずることができるものとする提案をしている。試案の第1 6の4は同条第2項から第5項までの規定も公益信託に適用されることを前提とす るものである。 3 裁判所に対する終了命令の申立権者 信託法第165条第1項は,信託の終了命令の申立権者を委託者,受託者及び受 益者としており,受益者の存在しない公益信託では,受益者は信託管理人と読み替 えられる。そして,上記のうち受託者及び信託管理人の終了命令の申立権を信託行 為の定めにより制限することは相当でないと考えられる。一方,委託者については, その意思により公益信託を支配することは許されるべきではないが,その終了時に 委託者及びその関係者に信託財産が帰属することが禁止されていることが確保され ている(試案の第17)のであれば,終了命令の申立権者に委託者が原則として入 っていることが不適切であるとは言い難い。そこで試案の第16の4では,委託者 については信託行為で終了命令の申立権を有しない旨を定めることを可能とする旨 の提案をしている。 5 公益信託の成立の認可の取消しによる終了 公益信託の成立の認可を取り消された公益信託は,終了するものとする (注)。 (注)原則として当該信託は終了するが,信託行為に公益信託の成立の認可の取消後 は受益者の定めのない信託として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は受 益者の定めのない信託として存続するものとするという考え方がある。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法には,公益信託の許可の取消しに関する規定が存在しない。その ため,学説上は,主務官庁による許可の取消しを肯定する見解と否定する見解があ る。これに対し,公益法人認定法は,公益法人に取消事由がある場合は,国又は都 道府県の合議制の機関への諮問を経て,行政庁により公益認定が取り消されるもの とし,公益認定の取消処分を受けた公益法人は,その名称中の公益社団法人又は公 79 益財団法人という文字をそれぞれ一般社団法人又は一般財団法人と変更する定款の 変更をしたものとみなすと規定している(公益法人認定法第29条,第43条第1 項第2号等)。 2 公益信託の成立の認可の取消しの効果 新たな公益信託においては,公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁に包括的 な監督権限を与えることは否定すべきであるが,公益信託の適正性を確保するため には,事後的に成立の認可基準を満たさなくなった公益信託の成立の認可の取消権 限を行政庁に付与する必要があると考えられる。 公益信託の設定前における目的信託の設定を必須とせず(試案の第3の1の補足 説明参照),公益信託の当事者に原則として受益者の定めのある信託の規定を適用す る(試案の第4から第6まで)立場から公益信託と目的信託は並列的な関係にある と整理すると,公益信託がその成立の認可を取り消された場合に目的信託として存 続させるのではなく,当該信託は終了するものとすることが制度の簡明さの点で優 れていると言える。また,公益信託の成立の認可が取り消されるような場合には, 委託者及び受託者の通常の意思は,その時点で信託を終了させることになるものと 考えられる。そこで,試案の第16の5では,公益信託の成立の認可を取り消され た公益信託は,終了するものとする提案をしている。 3 試案の第16の5の(注)について 試案の第16の5に対しては,公益信託の成立を取り消された信託は原則として 終了するが,信託行為に公益信託の成立の認可の取消後は受益者の定めのない信託 として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は受益者の定めのない信託とし て存続するものとするという考え方があることから,試案の第16の5の(注)に 示している。(注)の考え方には,委託者の意思を尊重することができるという利点 があるが,仮に公益信託の成立の認可を取り消された信託が目的信託として存続す ることを許容した場合,公益法人における公益目的取得財産残額に相当する財産の 価額の算定等の複雑な会計の仕組みを導入しなければならず,公益信託の軽量・軽 装備のメリットを害するおそれがあるという問題点の指摘がある。 80 第17 公益信託の終了時の残余財産の処理 1 残余財産の帰属権利者の指定 ⑴ 公益信託の信託行為には,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利 者」という。)の指定に関する定めを置かなければならないものとする。 ⑵ 上記⑴の定めの内容は,信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託 と類似の目的を有する他の公益信託若しくは類似の目的を有する公益法 人等(公益法人認定法第5条第17号イないしトに掲げる法人を含む。) 又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければ ならないものとする(注)。 (注)公益信託の成立後の寄附等により信託財産に加わった財産の帰属権利者につ いては上記⑵に掲げた者を指定するものでなければならないとした上で,公益信 託の成立時に拠出された信託財産の帰属権利者については委託者等の私人を指定 することを許容する考え方がある。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法第9条は,公益信託が終了した場合における「帰属権利者ノ指定 ニ関スル定」を信託行為に置くことができることを前提としているが,帰属権利者 の範囲を限定する規定を置いていない。そのため,公益信託の信託行為において帰 属権利者を誰にするかは,公益信託の委託者等の判断に委ねられているが,実務上, 主務官庁は,私人を公益信託の帰属権利者とする定めがある場合には公益信託の許 可をしていないようである。 なお,税法上,特定公益信託又は認定特定公益信託の要件として,当該公益信託 の終了の場合において,その信託財産が国若しくは地方公共団体に帰属し,又は当 該公益信託が類似の目的のための公益信託として継続するものであることが信託行 為で明らかになっていることが求められている(所得税法第78条第3項,所得税 法施行令第217条の2第1項第1号,法人税法第37条第6項,法人税法施行令 第77条の4第1項第1号等)。 2 帰属権利者を指定する定めの必置 しかし,公益信託が終了した場合にその残余財産が誰に帰属するかは,信託財産 を出捐する委託者や,公益活動に使われることを期待して公益信託に寄附する者に とってその意思を担保するために重要な事項である。また,残余財産の帰属権利者 の指定をどのような範囲で認めるかは,税の優遇措置を受けられるか否かといった 点でも重要な事項と言える。そこで,試案の第17の1⑴では,公益信託の信託行 為には,帰属権利者の指定に関する定めを置かなければならないとする提案をして 81 いる。 3 帰属権利者の指定に関する信託行為の定めの内容 ⑴ 帰属権利者の指定の範囲 終了した公益信託の残余財産の帰属権利者として,当該公益信託と類似の目的 を有する他の公益信託又は国若しくは地方公共団体を信託行為で指定することに ついては部会では異論がなかった。その定め方としては,信託契約書に「国若し くは地方公共団体又は類似の目的を有する他の公益信託に寄附するものとする」 と記載するのが現在の実務の取扱いであるが,個別具体的な公益信託の名称を挙 げることも否定されないものと考えられる。一方で,公益信託が委託者以外から 寄附を受ける可能性も踏まえると,残余財産の帰属先から私人が除かれることに よりその信頼性が確保されることの効果を重視すべきであるとも考えられる。 その上で,受託者が残余財産を国又は地方公共団体に寄附する場合は別として, 現在の公益信託は500件弱の件数しかないことからすると,類似の目的の公益 信託に寄附するとした場合には抽象的な定めが許容されることを前提としても残 余財産の寄附先の選択肢が限定されてしまうことになる。そして,公益的な活動 を行い,法人内部で残余財産を分配しないことなどが制度的に担保されているも のとして,類似の事業を営む公益法人や学校法人,社会福祉法人,更生保護法人, 独立行政法人,国立大学法人,大学共同利用機関法人,地方独立行政法人等の法 人が公益法人の残余財産の帰属先として適格性を有するとされていることからす ると,これらの法人を公益信託の残余財産の帰属権利者として認めることも,信 託財産を公益目的のために使用するという観点から許容されて良いと考えられる。 そこで,試案の第17の1⑵では,当該公益信託と類似の目的を有する他の公 益信託又は国若しくは地方公共団体に加えて,類似の目的を有する公益法人等(公 益法人認定法第5条第17号イないしトに掲げる法人を含む。)を残余財産の帰属 先とすることを定めたものでなければならないとする提案をしている。 なお,残余財産の帰属権利者の信託行為の定めが正当であることは,公益信託 の成立の認可(試案の第9の前注)及び変更の認可(試案の第15の1)により担 保される。公益信託の清算段階において,残余財産が信託行為で定められた帰属 権利者に移転することを確保するための方法としては,公益法人認定法施行規則 第51条が公益認定を取り消された法人に対して残余財産の贈与に関する報告書 の作成・提出義務を義務付けていることなどを参考に,公益信託の清算受託者に 行政庁に対し残余財産の贈与等に関する報告書の作成・提出義務を課すことが考 えられる。 ⑵ 試案の第17の1⑵の(注)について 試案の第17の1⑵の提案に対しては,公益信託の成立後の寄附等により信託 82 財産に加わった財産の帰属権利者については試案の第17の1⑵で掲げた者を指 定するものでなければならないとした上で,公益信託の成立時に拠出された信託 財産の帰属権利者については委託者等の私人を指定することを許容する考え方が あることから,その考え方を第17の1⑵の(注)に示している。 上記(注)の考え方は,公益信託終了時の帰属権利者として委託者の関係者等 の私人を許容することによって公益信託の柔軟な利用を可能とする意図があり, その意図には合理性が認められる。もっとも,このような考え方を採用した場合 には,公益信託の成立の認可が税制優遇を伴うことは困難となるおそれがある。 また,受託者において公益信託の終了時に公益法人と同じような計算処理を行う 負担を課すことになるほか,残余財産の私人帰属を認めることによって,公益信 託の内部ガバナンスをより複雑なものとすることが求められ,行政庁による監督 がより強められる可能性があるという問題点の指摘がある。 2 最終的な残余財産の帰属 帰属権利者の指定に関する信託行為の定めに掲げられた者の全てがその 権利を放棄した場合の残余財産は,国庫に帰属するものとする。 (補足説明) 現行公益信託法には,信託法第182条第2項の規定によっても残余財産の帰属が 定まらないときは,残余財産は清算受託者に帰属すると規定する同条第3項の適用を 除外する規定はない。 しかし,信託法第182条第3項を新たな公益信託にも適用すると,帰属権利者の 指定に関する信託行為の定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄した場合の残余 財産は清算受託者に帰属することとなるが,公益目的のために出捐された財産を清算 受託者に帰属させることは清算受託者に不当な利益を与える可能性がある上,逆に引 き取り手のない信託財産を清算受託者に帰属させることは酷であるとも考えられる。 そこで,試案の第17の2では,公益信託には同項を適用せず,帰属権利者の指定に 関する信託行為の定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄した場合の残余財産は 国庫に帰属するものとする提案をしている。 もっとも,土壌汚染された土地などの引き取り手を見出し難いような負担の多い残 余財産までも含めて,公益性を理由として国庫に帰属させることが相当かどうかにつ いては引き続き検討を要する。また,部会では,新たな公益信託の成立の認可を行う 行政庁として国及び都道府県が想定されることを前提として,国のほかに地方公共団 体を最終的な残余財産の帰属先に含めるべきであるとする旨の意見も出されており, 公益認定の取消等に伴う財産の贈与先として国又は地方公共団体を定める公益法人認 定法第30条第1項や,民法第239条第2項との整合性の観点も含めて引き続き検 83 討が必要であると考えられる。 第18 公益信託と受益者の定めのある信託等の相互変更等 1 公益先行信託 公益先行信託(信託設定当初の一定期間は信託財産の一部を公益目的の ために供するが,一定期間経過後は,残りの信託財産を私益目的のために 供する信託)について行政庁が成立の認可を行う制度は設けないものとす る。 (補足説明) 現行公益信託法に,公益先行信託に関する規定はない。 公益先行信託とは,信託設定当初の一定期間は信託財産の一部を公益目的のために 供するが,一定期間経過後は,残りの信託財産を私益目的のために供する信託をいう。 具体例としては,委託者が10億円を信託財産とする信託を設定し,信託設定から1 0年間は7億円を特定の病気の治療研究に対する助成金として支出するが,残りの3 億円は委託者の子である受益者に対する生活費等として支出する信託が挙げられる。 民間による公益活動を促進するための方法の多様化という観点からは,公益先行信 託に関する新たな制度を設けることも検討に値する。 しかし,現在の法制度の下でも受益者の定めのある信託の仕組みを使って当初の一 定期間は公益のために信託財産を用い,一定期間経過後は,残りの信託財産を私益の ために用いることは可能である。また,公益先行信託という形で目的の変更後も変更 前と同一性を保ったまま信託が継続することを可能とするためには,公益先行信託の 成立の認可に関する規定や,目的の変更後の当該信託に対するコントロールのために 信託財産の処理を行政庁が監督する規定,公益先行信託の成立の認可を受けることに より社会的な信用や税の優遇措置を得て私財の蓄積がされるなどの濫用的な使われ方 を防ぐための規定を,信託法の中に新たに設ける又は「公益先行信託法」のような新 法の中に設ける等の対応が必要となると考えられる。 そして,上記のとおり,行政庁が公益先行信託の成立の認可を行い,その監督を行 うためには相当の社会的コストが必要となるが,「公益先行信託」の名称のもとに委託 者以外の第三者からの寄附が集まるとは想定し難いし,当面そのコストに見合った利 用がされるかには疑問を呈せざるを得ない。 そこで,試案の第18の1では,公益先行信託について行政庁が成立の認可を行う 制度は設けないものとする旨の提案をしている。 84 2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更 公益信託について,信託の変更によって受益者の定めを設け,受益者の 定めのある信託とすることはできないものとする。 (補足説明) 現行公益信託法に,公益信託から受益者の定めのある信託への変更について定めた 規定はない。なお,信託法第258条第2項は,目的信託については,信託の変更に よって受益者の定めを設けることはできない旨規定しているが,その趣旨は,通常の 信託と目的信託とでは規範が大きく異なるため,法律関係の錯綜を防止する観点から, 信託の変更によって両者の転換を認めることは相当ではないと考えられたことにある (村松ほか概説379頁参照)。 公益信託の委託者は,特定の公益目的に財産を拠出するという意図でその財産を信 託する事例が大半であることに加え,事後的な信託の変更により受益者の定めを設け ることを許容すると,その信託の変更前に公益活動に使われることを期待して自らの 財産を拠出した寄附者等の意思に反することになる。また,公益性を理由に税制優遇 を受けていた公益信託を変更し受益者の定めのある信託にすることはその委託者又は 変更後の受益者等の関係者に不当な利益を与える可能性があるから,公益法人認定法 第30条等を参考にして,受益者の定めのある信託への変更時に公益信託の信託財産 を適切な帰属権利者に移転させるための規定を信託法の中に新たに設ける等の対応が 必要となるが,そのような規定を設けるまでの必要性は見出せない。 そこで,試案の第18の2では,公益信託について,信託の変更によって受益者の 定めを設け,受益者の定めのある信託とすることはできないものとする提案をしてい る。 3 残余公益信託 残余公益信託(信託設定当初の一定期間は信託財産の一部を私益目的の ために供するが,一定期間経過後は,残りの信託財産を公益目的のために 供する信託)について行政庁が成立の認可を行う制度は設けないものとす る。 (補足説明) 現行公益信託法に,残余公益信託に関する規定はない。残余公益信託とは,信託設 定当初の一定期間は信託財産の一部を私益目的のために供するが,一定期間経過後は, 残りの信託財産を公益目的のために供する信託をいう。具体例としては,例えば,委 託者が受託者との間で1億円を信託財産とする信託を設定し,信託設定から委託者兼 受益者の死亡までの間は毎月一定の金額を委託者兼受益者の生活費等として支出する 85 が,委託者兼受益者の死亡後は,残りの金額を特定の病気の治療研究に対する助成金 として支出する信託が挙げられる。 しかし,上記の例で言えば,信託設定から委託者兼受益者の死亡までに支出される 金額の総額が不確定であることから,後続の公益目的の信託開始時に存在する残りの 信託財産の金額も不確定となり,残余公益信託の成立時点において行政庁がその成立 の認可基準を満たしているかの判断をすることは困難であるし,残りの信託財産が私 益に用いられる期間中の監督の仕組みも複雑になることが想定される。また,委託者 又はその指定した親族等を残余財産受益者又は帰属権利者とする受益者の定めのある 信託を設定し,その際,特定の時点において受託者が当該受益者も定めのある信託を 終了させ,その後に公益信託を行政庁から成立の認可を受けて設定することを委託者, 信託管理人等に義務付け,その義務を履行した場合に委託者又はその指定した親族等 が残余財産を取得できるようにする等の方法によって,残余公益信託の実質を既存の 仕組みを用いて実現することも可能であると考えられるが,その履行を確保する方法 は委託者不在である場合も含め引き続き検討する必要がある。 そこで,試案の第18の3では,残余公益信託について行政庁が成立の認可を行う 制度は設けないものとする提案をしている。 4 受益者の定めのある信託から公益信託への変更 【甲案】受益者の定めのある信託について,信託の変更によって受益者の 定めを廃止して公益信託とすることはできないものとする。 【乙案】受益者の定めのある信託について,信託の変更によって受益者の 定めを廃止して公益信託とすることができるものとする。 (補足説明) 1 現行公益信託法には,受益者の定めのある信託から公益信託への変更に関する規 定はない。なお,信託法第258条第3項は,受益者の定めのある信託においては, 信託の変更によって受益者の定めを廃止することはできないと規定しているが,そ の趣旨は,受益者の定めのある信託と,受益者の定めのない信託とでは,特定の受 益者の利益を図るか,特定の受益者の利益を離れた特定の目的の達成を図るかとい う点で,信託の目的が異なることはもちろん,信託法第11章(同法第258条か ら第261条まで)の規定するとおり,信託設定の方法,存続期間の限定の有無, 関係当事者の権利の内容など基本的な点において大きく異なっており,信託の変更 によってこの両者の間をいわば跨ぐようにすることは相当ではないと考えられるこ とにあるものと説明されている(寺本逐条解説451頁参照)。 86 2 試案の第18の4の甲案について 受益者の定めのある信託と公益信託との変更についても法律関係の錯綜を避ける 必要があるとして,受益者の定めのある信託について信託の変更によって受益者の 定めを廃止して公益信託とすることは可能とすべきでないという考え方があること から,その考え方を試案の第18の4の甲案として示している。 甲案には,現行法制との連続性が保たれるという利点があるが,受益者の定めの ある信託から目的信託への変更を禁止するとしても,受益者の定めのある信託から 公益信託への変更は政策的な観点から別途認める余地があるという指摘がある。 3 試案の第18の4の乙案について 公益を目的とする受益者の定めのある信託は,民間の公益活動の一つのスキーム として積極的に評価することが可能であり,歴史的建造物の保存のような公益を目 的として,当該建造物を信託財産とし,委託者を受益者とする受益者の定めのある 信託を設定することも想定される。そして,そのような受益者の定めのある信託を, 不特定多数の観光客への歴史的建造物の公開を目的とする公益信託に変更する場合 や,委託者の一人の子が難病を有しており,その治療のためにその子を受益者とす る受益者の定めのある信託を設定していたが,その子が健康を回復したことから不 特定多数の患者の治療のための公益信託に変更する場合に,いったん受益者の定め のある信託を終了させ,改めて公益信託として設定することを強いる必要はないも のと考えられる。また,受益者の定めのある信託から公益信託への変更には税制上 の問題が生ずる可能性は低いと言える。そこで,受益者の定めのある信託について, 信託行為の定めの変更により受益者の定めを廃止して公益信託とすることを可能と すべきであるという考え方があることから,その考え方を試案の第18の4の乙案 として示している。 乙案に対しては,受益者の定めのある信託から公益信託への変更は会社の組織再 編に相当する可能性があるとして,信託法第258条第3項の規律の例外を設ける だけでなく,当該受益者の定めのある信託の利害関係人の利害を調整するための規 定を整備する必要がある旨の指摘がある。 87 第19 その他 1 信託法第3条第3号に規定する方法による公益信託 【甲案】信託法第3条第3号に規定する方法により公益信託をすることは できないものとする。 【乙案】信託法第3条第3号に規定する方法により公益信託をすることは できるものとする。 (補足説明) 1 現行法の定め 信託法は,①信託契約を締結する方法(信託法第3条第1号),②遺言をする方法 (同条第2号)及び③自己信託の方法(同条第3号)により信託をすることを認め ているが,信託法第258条第1項は,自己信託の方法により目的信託をすること を認めていない。また,現行公益信託法には,信託法第3条第3号に規定する方法 による公益信託に関する規定はない。 自己信託の方法により受益者の定めのない信託を設定することができないとされ ている趣旨は,受益者の定めのある信託であれば受益者が有する受託者に対する監 督権限を委託者に付与することによって,受託者による信託事務の処理が適正にさ れることを確保しようとしているが,自己信託においては委託者と受託者が同一人 であるため,受益者の定めのない信託の受託者に対する監督が適切に行われない危 険があるからであると説明されている(寺本逐条解説451頁参照)。 2 試案の第19の1の甲案について 試案の第19の1の甲案は,信託法第3条第3号に規定する方法により公益信託 をすることはできないものとする提案である。 甲案の理由としては,①仮に公益信託を自己信託の方法により設定することを可 能とした場合には信託法上自己信託については公正証書による設定,詐害信託の取 消し等の手当てがされていることを前提としても,不正な公益信託が設定されるお それが完全には否定できないこと,②公益信託の信託財産について委託者からの分 離が確保されていないとして税制優遇を受けられないことが懸念されること,③公 益信託の委託者が,敢えて自らを受託者として公益信託を運営するニーズは多くな いと考えられることが挙げられる。 3 試案の第19の1の乙案について 試案の第19の1の乙案は,信託法第3条第3号による規定する方法により公益 信託をすることはできるものとする提案である。 乙案の理由としては,①例えば公益信託事務を適正に遂行できる十分な能力を有 88 する企業が自己信託の方法により公益信託を設定する場合にはその信頼性はむしろ 高いとも言え,民間による公益活動の促進という観点からは,公益信託の設定方法 について多様なメニューを用意することが望ましいと考えられること,②新たな公 益信託では信託管理人を必置とするなど信託管理人による監督の充実が図られる(試 案の第5)ほか,公益信託の委託者の権限は目的信託の委託者の権限よりも限定さ れる(試案の第6)ことからすると,新たな公益信託には上記1の信託法第258 条第1項の趣旨は必ずしも妥当しないこと,③自己信託の信託財産を委託者の所有 と同視することはできないことが挙げられる。 2 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い ⑴ 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託は,新公益信託法の適 用を受ける公益信託への移行について,行政庁による移行の認可を受け ることを必要とするものとする(注)。 (注)一定の要件を満たしている既存の公益信託については,届出等の簡易な移行手 続を許容するとの考え方がある。 ⑵ 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託について,移行の認可 を受ける前は,現行公益信託法が適用されるものとし,移行の認可を受 けた後は,新公益信託法が適用されるものとする。 ⑶ 移行の認可は,新公益信託法の施行日から一定の期間内に受けること を必要とし,移行の認可を受けなかった信託は,上記の期間経過後に終 了するものとする。 (補足説明) 1 旧法信託から新法信託への移行の認可 ⑴ 公益法人制度改革の際の特例民法法人という制度は,旧法の公益法人が新制度 の法人に移行するまでの間の一時的な存在として設けられたものであり,その趣 旨は,特例民法法人である間(移行の認定または認可を受け,移行の登記をする までの間)は,実質的には民法法人(公益法人)であったときと同じ扱いをしよ うとするもの(一問一答公益法人関連三法261頁参照)であった。したがって, 移行の認定(又は認可)を受けることで,旧法から新法への適用関係の切り替え が行われていたと考えられる。 新たな公益信託においては,現在の公益信託に比して,主務官庁による許可制 を廃止し,信託管理人を必置とする等,公益信託の内部ガバナンスを厳格なもの とすることが想定されること等から,現行公益信託法から新公益信託法への適用 関係の切り替えについて,公益法人制度改革当時と同様の明確化の要請があるも のと考えられる。そこで,試案の第19の2⑴では,新公益信託法施行時に存在 89 する既存の公益信託は,新公益信託法の適用を受ける公益信託への移行について, 行政庁による移行の認可を受けることを必要とする旨の提案をしている。 ⑵ 試案の第19の2⑴の(注)について 試案の第19の2⑴の提案に対しては,公益法人制度改革前の公益法人と異な り,現在の公益信託は信託銀行により適切に運用されているものがほとんどであ ることに照らし,一定の要件を満たしている既存の公益信託については届出制等 の簡易な移行手続とすべきであるとの考え方があることから,その考え方を試案 の第19の2⑴の(注)に示している。上記(注)の考え方には,移行手続によ る事務負担の増加による既存の公益信託の信託財産の減少を避けられるという利 点があるが,既存の公益信託の受託者から行政庁に対する届出等がされた後に行 政庁が行うべき作業の内容をどのようにするか等の問題点がある。移行手続につ いては,試案の第9で提案している新たな公益信託の成立の認可基準の内容が固 まってから検討すべき面があり,それと現在の許可審査基準との差分はどの程度 となるのかという観点も踏まえ,会社法の特例有限会社の制度も参考にしつつ引 き続き検討を要する。 2 旧法と新法の適用関係 特例民法法人(旧民法法人)という制度が,旧公益法人が新制度の法人に移行す るまでの間の一時的な存在として設けられた趣旨は,特例民法法人である間は,実 質的には民法法人(公益法人)であったときと同じ扱いをしようとするものであり, 特例民法法人である間は,旧主務官庁が引き続き指導・監督を行うこととされてい た(一問一答公益法人関連三法261頁参照)ものである。そして,公益信託につ いても一定の期間は旧主務官庁が引き続き指導・監督を行うことが相当であるが, 新公益信託法の施行日後に長期にわたり旧法が適用される公益信託と新法が適用さ れる公益信託が併存する事態は避けるべきであると考えられる。そこで,試案の第 19の2⑵では,新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託について,新公益 信託法の施行日以降も移行の認可を受ける前は現行公益信託法が適用されるものと し,移行の認可を受けた後は新公益信託法が適用されるものとする旨の提案をして いる。 3 移行期間経過後の処理 試案の第19の2⑴の行政庁による移行の認可を受けない公益信託については, 当該信託は終了するものとするほかに,目的信託として存続するものとすることも 考えられる。 しかし,公益信託の信託財産を使途が公益目的に限定されていない,目的信託の 信託財産とすることは必ずしも適切とは言えないし,仮に移行の認可を受けない公 90 益信託が,目的信託として存続することを許容した場合には,公益法人における公 益目的取得財産残額に相当する財産の価額の算定等,非常に複雑な会計の仕組みを 導入しなければならないことが想定される。また,移行の認可を受けない意思を有 する公益信託の当事者に,当該公益信託を目的信託として存続させることのニーズ も見出し難い。そこで,試案の第19の2⑶では,一定の期間内に行政庁から移行 の認可を受けなかった公益信託は終了するものとする旨の提案をしている。 3 罰則 現行公益信託法第12条の規律を改め,罰則について所要の措置を講ず るものとする。 (補足説明) 1 現行法の定め 現行公益信託法第12条は,「公益信託ノ受託者,信託財産管理者,民事保全法(平 成元年法律第91号)第56条ニ規定スル仮処分命令ニ依リ選任セラレタル受託者 ノ職務ヲ代行スル者,信託財産法人管理人,信託管理人又ハ検査役ハ次ニ掲グル場 合ニ於テハ百万円以下ノ過料ニ処ス」と規定し,その場合を「第4条第2項ノ規定 ニ依ル公告ヲ為スコトヲ怠リ又ハ不正ノ公告ヲ為シタルトキ」(同条第1号),「第6 条又ハ第7条ノ規定ニ違反シタルトキ」(同条第2号),「本法ノ規定ニ依ル主務官庁 ノ命令又ハ処分ニ違反シタルトキ」(同条第3号)と規定している。 旧信託法においては,受託者等に関する過料の規定は存在しなかった。しかし, 新信託法では,受託者の義務を適切な要件の下で合理化するなど,当事者の私的自 治の働く範囲を拡大し,また,受益証券発行信託や限定責任信託等の新たな類型の 信託制度を導入していることから,制度の実効性及び信頼性を確保し,受益者をは じめとする信託関係者の利益を保護するためには,信託法上の民事的な措置のほか, 一定の作為・不作為については過料を課すことによる手当てをすることが相当であ ると考えられたことから(寺本逐条解説473頁参照),信託法第270条及び第2 71条において過料の規定が設けられた。そして,現行公益信託法についても,新 信託法と平仄を合わせる観点から,受託者等に関する過料の規定が新設されたもの である。 2 罰則規定の改正,新設 現行公益信託法第4条第2項,第6条及び第7条等は廃止又は改正が検討されて いることを踏まえると,公益信託に係る過料について定めている同法第12条も改 正する必要があるものと考えられる。そして,新たな公益信託において,仮に受託 者による公告を不要とするのであれば同条第1号の規定は不要となるが,同条第2 91 号及び第3号の規定については,これと同趣旨の罰則が必要になると考えられる。 また,公益法人認定法第62条から第66条までの規定を参考として,偽りその他 不正の手段により公益信託の成立の認可を受けた受託者に対する罰則等を新設する ことが考えられる。そこで,試案の第19の3では,現行公益信託法第12条の規 律を改め,罰則について所要の措置を講ずるものとすることを提案している。 なお,上記1に記載のとおり,現行公益信託法第12条は平成18年の新信託法 制定の際に新設された規定であり,公益法人認定法の罰則規定も平成18年に新設 されたものであって,その後約10年が経過した現時点において物価や貨幣価値の 変動は大きなものではないことからすると,罰金及び過料の金額は,現状の金額を 維持することが相当であると考えられる。 4 その他 その他所要の規定を整備するものとする。 以上 別表1【公益信託の信託管理人の権限】 権利の内容 信託法上の根拠規定 裁判所に対する申立権(検査役の選任申立権,受託者の解任申立 権等) 第92条第1号 ○ × 遺言信託における受託者の信託の引受けの催告権 第92条第2号 ○ × 信託財産への強制執行等に対する異議申立権等 第92条第3号,第4号 ○ × 受託者等の権限違反行為の取消権 第92条第5号 ○ × 受託者の利益相反行為に関する取消権 第92条第6号 ○ × 信託事務の処理の状況についての報告請求権 第92条第7号 ○ × 帳簿,信託事務の処理に関する書類又は信託財産の状況に関する 書類の閲覧等請求権 第92条第8号 ○ × 受託者の任務違反行為等に対する損失てん補等請求権 第92条第9号,第10号 ○ × 受託者の信託違反行為の差止請求権等 第92条第11号,第12号 ○ × 前受託者等の任務違反行為の差止請求権等 第92条第13号から第15 号まで ○ × 新受託者への就任の承諾の催告権 第92条第16号 ○ × 受益権を放棄する権利 第92条第17号 受益権取得請求権 第92条第18号 信託監督人又は受益者代理人への就任承諾の催告権 第92条第19号,第20号 受益証券発行信託における受益権原簿記載事項を記載した書面の 交付等請求権 第92条第21号 受益証券発行信託における受益権原簿の閲覧等請求権 第92条第22号 受益証券発行信託における受益権原簿記載事項の記載等請求権 第92条第23号 限定責任信託における金銭のてん補等請求権 第92条第24号,第25号 ○ × 会計監査人設置信託における損失てん補請求権 第92条第26号 ○ × 利益相反行為又は競合行為についての重要な事実の通知受領権 第31条第3項,第32条第 3項 ○ △ 信託財産の状況に関する書類の内容についての報告受領権 第37条第3項 ○ △ 他の受益者の氏名等の開示請求権 第39条第1項,第3項 受託者が信託財産から費用の前払を受ける場合の通知受領権 第48条第3項 ○ △ 受託者の任務終了の事実の通知受領権 第59条第1項,第60条第 1項 ○ △ 受益権の取得の事実の通知受領権 第88条第2項 信託の変更・併合・分割による一定の事項の通知受領権 第149条第2項・第4項, 第151条第2項・第3項, 第155条第2項・第3項, 第159条第2項・第3項 ○ △ 公益信託の信 託管理人の権 限とすべきか 受益者の定めのある信託における信託管理人の権限 信託行為に権限 を有しない旨の 定めを置くこと を許容するか 受 託 者 の 監 督 に 係 る 権 限 別表1【公益信託の信託管理人の権限】 権利の内容 信託法上の根拠規定 公益信託の信 託管理人の権 限とすべきか 受益者の定めのある信託における信託管理人の権限 信託行為に権限 を有しない旨の 定めを置くこと を許容するか 信託財産と固有財産等とに属する共有物の分割に係る協議 第19条第1項第2号及び第 3項第2号 ○ × 受託者の利益相反行為又は競合行為についての事前の承認 第31条第2項第2号及び第 32条第2項第2号 ○ × 受託者の利益相反行為に対する追認 第31条第5項 ○ × 受託者の競合行為について信託財産のためにされたものとみなす 権利の行使 第32条第4項 ○ × 受託者の損失てん補責任等を免除する権利 第42条 ○ × 受託者の辞任の同意 第57条第1項 ○ × 受託者の解任の合意 第58条第1項 ○ × 新受託者の選任の合意 第62条第1項 ○ × 前受託者,前受託者の相続人等又は破産管財人が新受託者への信託 事務の引継ぎの際に行う信託事務に関する計算に対する承認 第77条,第78条 ○ × 信託監督人及び受益者代理人に関する辞任の同意,解任の合意,新 信託監督人又は新受益者代理人の選任,信託監督人又は受益者代理 人による事務の終了に対する同意 第134条第2項及び第14 1条第2項,第135条第1 項及び第142条第1項,第 136条第1項第1号及び第 143条第1項第1号 信託の変更の合意等 第149条第1項,第2項第 1号及び第3項 ○ × 信託の併合の合意 第151条第1項及び第2項 第1号 ○ × 信託の分割の合意 第155条第1項及び第2項 第1号,第159条第1項及 び第2項第1号 ○ × 信託の終了の合意 第164条第1項 ○ × 清算受託者がその職務の終了の際に行う信託事務に関する最終の 計算に対する承認 第184条 ○ × 信 託 に 関 す る 意 思 決 定 に 係 る 権 限 別表2【公益信託の委託者の権限】 権利の内容 信託法上の根拠規定 信託事務の処理の状況等に関する報告請求権 第36条 △ 受託者の辞任に対する同意権 第57条第1項 △ 信託管理人との合意による受託者の解任権 第58条第1項 △ 裁判所に対する受託者の解任申立権 第58条第4項 ○ 信託管理人との合意による新受託者の選任権 第62条第1項 △ 裁判所に対する信託財産管理者の解任申立権 第70条(第58条第4項準用) △ 裁判所に対する信託財産法人管理人の解任申立権 第74条第6項(第70条準用) △ 信託管理人の辞任に対する同意権 第128条第2項(第57条第1項準用) △ 信託管理人との合意による他の信託管理人の解任権 第128条第2項(第58条第1項準用) △ 裁判所に対する信託管理人の解任申立権 第128条第2項(第58条第4項準用) ○ 信託管理人との合意による新信託管理人の選任権 第129条第1項(第62条第1項準用) △ 信託の変更の合意又は受託者に対する意思表示 第149条第1項及び第3項第1号 △ 裁判所に対する信託の変更の申立権 第150条第1項 ○ 信託の併合の合意 第151条第1項 △ 吸収信託分割の合意 第155条第1項 △ 新規信託分割の合意 第159条第1項 △ 信託管理人との合意による信託終了権 第164条第1項,第261条 △ 裁判所に対する信託の終了の申立権 第165条第1項 ○ 裁判所に対する公益確保のための信託終了申立権等 第166条第1項,第169条第1項,第 173条第1項 △ 信託の終了時の法定帰属権利者 第182条第2項 △ 遺言信託における信託の引受けの有無の催告権 第5条第1項 △ 遺言信託における裁判所に対する新受託者の選任申立 権 第6条第1項 △ 財産目録(貸借対照表等)の閲覧等請求権 第38条第6項 △ 新受託者に対する就任の承諾の有無の催告権 第62条第2項 △ 裁判所に対する新受託者の選任申立権 第62条第4項 △ 裁判所に対する信託財産管理命令の申立権 第63条第1項 △ 裁判所に対する信託財産法人管理命令の申立権 第74条第2項 △ 信託管理人に対する就任の承諾の有無の催告権 第123条第2項 △ 裁判所に対する信託管理人の選任申立権 第123条第4項 △ 新信託管理人に対する就任の承諾の有無の催告権 第129条第1項(第62条第2項準用) △ 裁判所に対する新信託管理人の選任申立権 第129条第1項(第62条第4項準用) △ 信託財産の保全処分に関する資料の閲覧等請求権 第172条第1項ないし第3項 △ 利 害 関 係 人 と し て の 権 限 新たな公益信託において,委託者が信託行為に別段の定めをしなくても原則として有する権限 信託行為による制限を 可能とすべきか 委 託 者 と し て の 権 限 別表3【新たな公益信託の監督における裁判所と行政庁との権限分配】 信託の監督に関する権限(受益者又は受益権の存在を前 提とするものを除く。) 根拠条文 権限を有 する機関 職権 行使 行政庁の関与の有無 (現時点の整理) 1 遺言信託における受託者の選任 第6条第1項 裁判所 × 裁判所による受託者の選任後, その認可を行う。 2 検査役の選任 第46条第2項 裁判所 × 裁判所による検査役の選任後, その通知を受ける。 3 検査役の報酬額の決定 第46条第5項 裁判所 × 関与無し 4 検査役に対する追加報告徴求 第47条第3項 裁判所 × 関与無し 5 受託者に対する周知措置の命令 第47条第6項 裁判所 × 関与無し 6 受託者の辞任の許可 第57条第2項 裁判所 × 関与無し 7 受託者の解任 第58条第4項 裁判所 × 関与無し 8 新受託者の選任 第62条第4項 裁判所 × 裁判所による新受託者の選任後, その認可を行う。 9 信託財産管理命令 第63条第1項 裁判所 × 関与無し 10 信託財産管理命令の変更・取消 第63条第3項 裁判所 × 関与無し 11 信託財産管理者の選任 第64条第1項 裁判所 × 裁判所による信託財産管理者の 選任後,その認可を行う。 12 複数の信託財産管理者の職務分掌等の許可 第66条第2項 裁判所 × 関与無し 13 信託財産管理者の権限外行為の許可 第66条第4項 裁判所 × 関与無し 14 信託財産管理者の辞任 第70条,第57条 第2項 裁判所 × 関与無し 15 信託財産管理者の解任 第70条,第58条 第4項 裁判所 × 関与無し 16 信託財産管理者に対する費用・報酬額の決定 第71条第1項 裁判所 × 関与無し 17 信託財産法人管理命令 第74条第2項 裁判所 × 関与無し 18 信託財産法人管理命令の変更・取消 第74条第3項,第 63条第3項 裁判所 × 関与無し 19 信託財産法人管理人の選任 第74条第6項,第 64条第1項 裁判所 × 関与無し 20 複数の信託財産法人管理人の職務分掌等の許可 第74条第6項,第 66条第2項 裁判所 × 関与無し 21 信託財産法人管理人の権限外行為の許可 第74条第6項,第 66条第4項 裁判所 × 関与無し 22 信託財産法人管理人の辞任 第74条第6項,第 70条,第57条第 2項 裁判所 × 関与無し 23 信託財産法人管理人の解任 第74条第6項,第 70条,第58条第 4項 裁判所 × 関与無し 24 信託財産法人管理人に対する費用・報酬額の決定 第74条第6項,第 71条第1項 裁判所 × 関与無し 別表3【新たな公益信託の監督における裁判所と行政庁との権限分配】 信託の監督に関する権限(受益者又は受益権の存在を前 提とするものを除く。) 根拠条文 権限を有 する機関 職権 行使 行政庁の関与の有無 (現時点の整理) 25 信託管理人の選任 第123条第4項 裁判所 × 裁判所による信託管理人の選任 後,その認可を行う。 26 信託管理人の報酬の決定 第127条第6項 裁判所 × 関与無し 27 信託管理人の辞任の許可 第128条第2項, 第57条第2項 裁判所 × 関与無し 28 信託管理人の解任 第128条第2項, 第58条第4項 裁判所 × 関与無し 29 新信託管理人の選任 第129条第1項, 第62条第4項 裁判所 × 裁判所による新信託管理人の 選任後,その認可を行う。 30 特別の事情による信託の変更の命令 第150条第1項 裁判所 × 裁判所による変更命令後,信託の 変更の認可を行う。 31 特別の事情による信託の終了の命令 第165条第1項 裁判所 × 関与無し 32 公益の確保のための信託の終了の命令 第166条第1項 裁判所 × 関与無し 33 公益の確保のための信託の終了の命令の申立てに伴う 担保命令 第166条第6項 裁判所 × 関与無し 34 信託財産の保全処分 第169条第1項 裁判所 × 関与無し 35 信託財産の保全処分の変更・取消 第169条第2項 裁判所 × 関与無し 36 信託財産管理命令における信託財産管理人の選任 第170条第1項 裁判所 × 関与無し 37 信託財産管理人の監督 第170条第2項 裁判所 × 関与無し 38 信託財産管理人に対する報告徴求等 第170条第3項 裁判所 × 関与無し 39 複数の信託財産管理人の職務分掌等の許可 第170条第4項, 第66条第2項 裁判所 × 関与無し 40 信託財産管理人の権限外行為の許可 第170条第4項, 第66条第4項 裁判所 × 関与無し 41 信託財産管理人の辞任 第170条第4項, 第70条,第57条 第2項 裁判所 × 関与無し 42 信託財産管理人の解任 第170条第4項, 第70条,第58条 第4項 裁判所 × 関与無し 43 信託財産管理人に対する費用・報酬額の決定 第170条第4項, 第71条第1項 裁判所 × 関与無し 44 公益の確保のための信託の終了の命令の場合における 新受託者の選任 第173条第1項 裁判所 × 裁判所による新受託者の選任後, その認可を行う。 45 新受託者の費用・報酬額の決定 第173条第4項 裁判所 × 関与無し 46 条件付債権等に関する鑑定人の選任 第180条第1項 裁判所 × 関与無し 47 限定責任信託に係る訴訟における提出命令 第223条 裁判所 × 関与無し 48 清算受託者による弁済の許可 第230条第2項 裁判所 × 関与無し

公益信託法の見直しに関する中間試案

公益信託法の見直しに関する中間試案

目 次

第1 新公益信託法の目的………………………………………….. 1

第2 公益信託の定義等……………………………………………. 1 1 公益信託の定義 …………………………………………….. 1 2 公益信託事務の定義………………………………………….. 1 3 現行公益信託法第2条第1項の削除……………………………… 1

第3 公益信託の効力の発生………………………………………… 1 1 公益信託の成立の認可………………………………………… 1 2 不認可処分を受けた信託の効力…………………………………. 1

第4 公益信託の受託者……………………………………………. 2 1 公益信託の受託者の資格………………………………………. 2 2 公益信託の受託者の権限,義務及び責任………………………….. 3

第5 公益信託の信託管理人………………………………………… 3 1 公益信託における信託管理人の必置……………………………… 3 2 公益信託の信託管理人の資格…………………………………… 3 3 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任………………………. 4

第6 公益信託の委託者……………………………………………. 4 1 公益信託の委託者の権限………………………………………. 4 2 公益信託の委託者の相続人…………………………………….. 4

第7 行政庁 ……………………………………………………. 4 1 公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁………………………… 4 2 行政庁の区分 ………………………………………………. 4

第8 公益信託の成立の認可の申請…………………………………… 5 1 公益信託の成立の認可の申請主体……………………………….. 5 2 公益信託の成立の認可の申請手続……………………………….. 5

第9 公益信託の成立の認可基準…………………………………….. 5 1 公益信託の目的に関する基準…………………………………… 5 2 公益信託の受託者の行う信託事務に関する基準…………………….. 5 3 公益信託の信託財産に関する基準……………………………….. 5 4 公益信託の信託行為の定めに関する基準………………………….. 6

第10 公益信託の名称……………………………………………. 6

第11 公益信託の情報公開………………………………………… 7 1 公益信託の情報公開の対象及び方法……………………………… 7 2 公益信託の公示 …………………………………………….. 7

第12 公益信託の監督……………………………………………. 7 1 行政庁の権限 ………………………………………………. 7 2 裁判所の権限 ………………………………………………. 8

第13 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任…………………. 8 1 公益信託の受託者の辞任………………………………………. 8 2 公益信託の受託者の解任………………………………………. 8 3 公益信託の新受託者の選任…………………………………….. 8

第14 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任………….. 9 第15 公益信託の変更,併合及び分割……………………………….. 9 1 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更……………… 9 2 公益信託の目的の変更……………………………………….. 10 3 公益信託の併合・分割……………………………………….. 10

第16 公益信託の終了…………………………………………… 10 1 公益信託の終了事由…………………………………………. 10 2 公益信託の存続期間…………………………………………. 11 3 委託者,受託者及び信託管理人の合意による終了………………….. 11 4 公益信託の終了命令…………………………………………. 11 5 公益信託の成立の認可の取消しによる終了……………………….. 11

第17 公益信託の終了時の残余財産の処理…………………………… 12 1 残余財産の帰属権利者の指定………………………………….. 12 2 最終的な残余財産の帰属……………………………………… 12

第18 公益信託と受益者の定めのある信託等の相互変更等………………. 12 1 公益先行信託 ……………………………………………… 12 2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更……………………. 12 3 残余公益信託 ……………………………………………… 12 4 受益者の定めのある信託から公益信託への変更……………………. 13

第19 その他 …………………………………………………. 13 1 信託法第3条第3号に規定する方法による公益信託………………… 13 2 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い…………….. 13 3 罰則 …………………………………………………….. 13 4 その他 …………………………………………………… 13 1

 

第1 新公益信託法の目的 新公益信託法は,公益信託の成立の認可を行う制度を設けるとともに, 受託者による公益信託事務の適正な処理を確保するための措置等を定める ことにより,民間による公益活動の健全な発展を促進し,もって公益の増 進及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とするものとする。 第2 公益信託の定義等 1 公益信託の定義 公益信託は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とする 受益者の定めのない信託として,行政庁から公益信託の成立の認可を受け たものとする。 2 公益信託事務の定義 公益信託事務は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益に関する 具体的な種類の信託事務であって,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄 与するものとする。 3 現行公益信託法第2条第1項の削除 現行公益信託法第2条第1項を削除するものとする。 第3 公益信託の効力の発生 1 公益信託の成立の認可 公益信託は,当事者が信託行為をし,かつ,行政庁による公益信託の成 立の認可を受けることによってその効力を生ずるものとする。 2 不認可処分を受けた信託の効力 公益信託として新たに信託を成立させる場合に行政庁から不認可処分を 受けても当該信託を受益者の定めのない信託として有効に成立させる旨の 信託行為の定めがあるときは,当該信託は不認可処分を受けた時から受益 者の定めのない信託としてその効力を生ずるものとし(注1),当該信託 については信託法第11章の規定を適用するものとする(注2)。 (注1)上記のような規律については,新公益信託法の中に規定を設けるのではなく, 解釈に委ねるべきであるという考え方がある。 2 (注2)行政庁から不認可処分を受けた受益者の定めのない信託について,信託法 第11章の規定を適用するが,一定の事項につき信託法第11章の特則を設けるべき であるという考え方がある。 第4 公益信託の受託者 1 公益信託の受託者の資格 公益信託の受託者は,次の資格を満たさなければならないものとする。 ⑴ 公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有すること(注1) 【甲案】公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する法人である こと 【乙案】公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する者(法人又 は自然人)であること(注2) (注1)受託者がその信託財産の処分を行う場合には,当該公益信託の目的に関 し学識経験を有する者又は組織(運営委員等又は運営委員会等)の意見を聴く ことを必要とすべきであるとの考え方がある。 (注2)受託者の資格として,自然人が公益信託の受託者となる場合には,公益信 託の信託財産の適切な管理・運用をなし得る能力を有する法人と共同で受託者と なることを必要とし,その法人と共同で公益信託事務の適正な処理をなし得る能 力を有することを必要とするとの考え方がある。 ⑵ 受託者が自然人である場合(⑴で乙案を採用する場合) ア 信託法第7条に掲げる者に該当しないこと イ 禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行を終わり,又は刑の執行を 受けることがなくなった日から5年を経過しない者に該当しないこと ウ 信託法その他の法律の規定に違反したことにより,罰金の刑に処せ られ,その執行を終わり又は執行を受けることがなくなった日から5 年を経過しない者に該当しないこと エ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規 定する暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者 に該当しないこと オ 公益信託の成立の認可を取り消されたことに責任を負う公益信託の 受託者又は信託管理人でその取消しの日から5年を経過しない者に該 当しないこと ⑶ 受託者が法人である場合 業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しく はその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,上記⑵ア ないしオのいずれかに該当する者がないこと 3 2 公益信託の受託者の権限,義務及び責任 ⑴ 公益信託の受託者の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある信託 の受託者の権限,義務及び責任と同様であるものとする。 ⑵ 受託者の善管注意義務は,軽減することはできないものとする。 第5 公益信託の信託管理人 1 公益信託における信託管理人の必置 公益信託の信託行為には,信託管理人を指定する旨の定めを設けなけれ ばならないものとする。 (注)美術館や学生寮の運営等を公益信託事務としている公益信託においては,会社法 がその規模等に応じて監査役,会計参与,会計監査人等を置かなければならない会社 を定めていることを参考にして,公益信託事務の規模等に応じて,公益信託の信託行 為に,事務処理及び会計の監査権限を有する者を指定する旨の定めも設けなければな らないとする考え方がある。 2 公益信託の信託管理人の資格 公益信託の信託管理人は,次の資格を満たさなければならないものとす る。 ⑴ア 受託者又はその親族,使用人その他受託者と特別の関係を有する者 に該当しないこと イ 委託者又はその親族,使用人その他委託者と特別の関係を有する者 に該当しないこと ⑵ 信託法第124条に掲げる者に該当しないこと ⑶ 信託管理人が自然人である場合 前記第4の1⑵に掲げる者に該当しないこと ⑷ 信託管理人が法人である場合 業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しく はその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,前記第4 の1⑵に掲げる者に該当する者がないこと (注)上記⑴から⑷までに加え,当該公益信託の目的に照らしてふさわしい学識,経 験及び信用を有する者(公益信託事務の適正な処理の監督をなし得る能力を有する 者)であることを必要とする考え方がある。 4 3 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任 ⑴ 公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある 信託の信託管理人の権限,義務及び責任と同様であるものとする。 ⑵ 信託管理人の権限は,信託行為の定めによって制限することは原則と してできないものとし,信託管理人の義務及び責任は,信託行為の定め によって制限することはできないものとする。 第6 公益信託の委託者 1 公益信託の委託者の権限 公益信託の委託者の権限は,受益者の定めのある信託の委託者が有する 権限と同様とした上で,信託行為により制限できるものとする。 2 公益信託の委託者の相続人 公益信託の委託者の相続人は,委託者の地位を相続により承継しない ものとする(注)。 (注)信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによるとする考え方が ある。 第7 行政庁 1 公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁 現行公益信託法第2条第1項及び第3条の規律を廃止し,公益信託の成 立の認可・監督は,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて, 特定の行政庁が行うものとする。 2 行政庁の区分 現行公益信託法第10条及び第11条の規律を改め,公益信託事務が行 われる範囲が1の都道府県の区域内に限られる公益信託の成立の認可・監 督を行う行政庁は都道府県知事とし,公益信託事務が行われる範囲が2以 上の都道府県の区域内である公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁は 国の行政庁とするものとする。 5 第8 公益信託の成立の認可の申請 1 公益信託の成立の認可の申請主体 公益信託の受託者になろうとする者は,当該信託について行政庁による 公益信託の成立の認可の申請をすることができるものとする。 2 公益信託の成立の認可の申請手続 公益信託の成立の認可の申請は,必要事項を記載した申請書等を行政庁 に提出してしなければならないものとする。 第9 公益信託の成立の認可基準 (前注)本項1から4までの成立の認可基準の他に,次に掲げるものを認可基準 とするものとする。 ・公益信託の受託者の資格(前記第4の1) ・公益信託の信託管理人の資格(前記第5の2) ・公益信託終了時の残余財産の帰属権利者を信託行為で定めていること(後記 第17の1) 行政庁は,公益信託の成立の認可の申請がされた信託が次に掲げる基準に適 合すると認めるときは,当該信託について公益信託の成立の認可をするものと する。 1 公益信託の目的に関する基準 公益信託事務を行うことのみを目的とするものであること 2 公益信託の受託者の行う信託事務に関する基準 公益信託の受託者が行う信託事務が,当該公益信託の目的の達成のため に必要な信託事務であること なお,当該信託事務が収益を伴うことは許容されるものとする。 3 公益信託の信託財産に関する基準 ⑴ 公益信託の信託財産は,金銭に限定しないものとする。 ⑵ 公益信託設定当初の信託財産に加え,信託設定後の信託財産の運用や, 委託者又は第三者からの拠出による事後的な信託財産の増加等の計画の 内容に照らし,当該公益信託の存続期間を通じて,公益信託事務を遂行 することができる見込みがあること 6 ⑶ 信託財産に,他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財 産が原則として含まれないことを必要とし,例外として,当該株式等の 財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがな い場合は当該株式等の財産が含まれることを許容する(注)。 (注)公益信託の信託財産に他の団体の意思決定に関与することができる株式等の 財産が含まれるか否かを公益信託の成立の認可基準としないという考え方がある。 4 公益信託の信託行為の定めに関する基準 ⑴ 信託行為の定めの内容が,次に掲げる事項に適合することとする。 ア 委託者,受託者若しくは信託管理人又はこれらの関係者に対して特 別の利益を供与するものでないこと イ 特定の個人又は団体に対して寄附その他の特別の利益を供与するも のでないこと ウ 受託者及び信託管理人の報酬について,不当に高額にならない範囲 の額又は算定方法が定められていること エ 公益信託の会計について (ア) 公益信託事務に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額 を超えないと見込まれるものであること (イ) 遊休財産額が一定の制限を超えないと見込まれるものであること (ウ) 公益信託に係る費用のうち当該公益信託の運営に必要な経常的経 費の額が一定の割合以下となると見込まれるものであること(注) (注)エ(ウ)の基準は不要であるとする考え方がある。 ⑵ 公益信託事務が金銭の助成等に限定されている公益信託について,上 記⑴エの基準は適用しないものとする。 第10 公益信託の名称 公益信託の名称に関して,以下のような規律を設けるものとする。 1 公益信託には,その名称中に公益信託という文字を用いなければなら ない。 2 何人も,公益信託でないものについて,その名称又は商号中に,公益 信託であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。 3 何人も,不正の目的をもって,他の公益信託であると誤認されるおそれ のある名称又は商号を使用してはならない。 4 3に違反する名称又は商号の使用によって事業に係る利益を侵害され, 又は侵害されるおそれがある公益信託の受託者は,その利益を侵害する 7 者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求 することができる。 第11 公益信託の情報公開 1 公益信託の情報公開の対象及び方法 現行公益信託法第4条第2項を廃止又は改正し,新たな公益信託の情報 公開の対象,方法については,公益財団法人と同等の仕組みとするものと する。 2 公益信託の公示 行政庁は,公益信託の成立の認可やその取消し,公益信託の変更,併合・ 分割の認可をしたときは,その旨を公示しなければならないものとする。 第12 公益信託の監督 1 行政庁の権限 現行公益信託法第4条第1項の規律を改め,行政庁は,次の権限を行使 するものとする。 ⑴ 行政庁は,公益信託事務の適正な処理を確保するために必要な限度 において,受託者に対し,その公益信託事務及び信託財産の状況につ いて必要な報告を求め,又は,その職員に,当該受託者の事務所に立 ち入り,その公益信託事務及び信託財産の状況若しくは帳簿,書類そ の他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができる。 ⑵ 行政庁は,公益信託が成立の認可基準のいずれかに適合しなくなっ たとき等に該当すると疑うに足りる相当な理由がある場合には,受託 者に対し,期限を定めて,必要な措置をとるべき旨の勧告をすること ができる。 ⑶ 行政庁は,上記⑵の勧告を受けた受託者が,正当な理由がなく,そ の勧告に係る措置をとらなかったときは,当該受託者に対し,その勧 告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。 ⑷ 行政庁は,上記⑶の命令を受けた受託者が,正当な理由がなく,そ の命令に従わなかったときは,当該公益信託の成立の認可を取り消さ なければならない。 8 2 裁判所の権限 裁判所は,信託法が裁判所の権限としている権限を原則として有するも のとすることに加え,現行公益信託法第8条が裁判所の権限としている権 限を有するものとする。 第13 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任 1 公益信託の受託者の辞任 現行公益信託法第7条の規律を改め,受託者は,委託者及び信託管理人 の同意を得て辞任することができるほか,[やむを得ない事由/正当な理由] があるときは裁判所の許可を得て辞任することができるものとする。 2 公益信託の受託者の解任 ⑴ 委託者及び信託管理人の合意による解任について 委託者及び信託管理人は,[受託者がその任務に違反して信託財産に 著しい損害を与えたことその他重要な事由があるとき/正当な理由があ るとき]は,その合意により受託者を解任することができるものとする。 ⑵ 委託者及び信託管理人の合意がない場合において,受託者がその任 務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があ るときは,裁判所は,委託者又は信託管理人の申立てにより,受託者を 解任することができるものとする。 委託者については信託行為において受託者の解任の申立権を有しない 旨を定めることができるものとする。 3 公益信託の新受託者の選任 ⑴ 委託者及び信託管理人は,信託行為に新受託者に関する定めがある場 合は,当該定めに従い,信託行為に新受託者に関する定めがない場合は, 信託法第62条第1項の方法により新受託者を選任することができるも のとした上で,新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認 可を受けるものとする。 ⑵ 信託法第62条第1項の場合において,同項の合意に係る協議の状況 その他の事情に照らして必要があると認めるときは,裁判所は,利害関 係人の申立てにより,新受託者を選任することができるものとした上で, 新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるもの とする(注)。 9 (注)行政庁による認可を必要とせず,裁判所が新受託者を選任する前に,行政庁に 意見を聴くものとする考え方がある。 第14 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律は, 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任と同様の規律とするも のとする。 第15 公益信託の変更,併合及び分割 (前注)行政庁に対する変更,併合及び分割の認可の申請は,いずれも受託者が行 うことを前提としている。 1 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更 ⑴ 現行公益信託法第5条及び第6条を廃止又は改正し, ア 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更は,委託者, 受託者及び信託管理人の合意等がある場合には,行政庁による変更の 認可を受けることによってすることができるものとする。 イ 裁判所は,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情 により,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目 的及び信託財産の状況その他の事情に照らして公益信託の目的の達成 に支障になるに至ったときは,委託者,受託者又は信託管理人の申立 てにより,信託の変更を命ずることができるものとする。 委託者については信託行為において変更命令の申立権を有しない旨 を定めることができるものとする。 ウ 受託者は,上記イの変更命令の後,行政庁による変更の認可を受け るものとする(注)。 (注)行政庁による変更の認可を必要とせず,裁判所が信託の変更を命ずる前に, 変更後の信託が公益信託の成立の認可基準を充足するか否かについて,行政庁に 意見を聴くものとする考え方がある。 ⑵ 上記⑴アの例外として,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の 定めの軽微な変更をするときは,受託者は,その旨を行政庁に届け出る とともに,当該変更について委託者及び信託管理人の同意を得ていない 場合には,遅滞なく,委託者及び信託管理人に対し,変更後の信託行為 の定めの内容を通知しなければならないものとする。 10 2 公益信託の目的の変更 ⑴ 現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,公益信託の目的の変更は, 委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,行政庁による変 更の認可を受けることによってすることができるものとする。 ⑵ 現行公益信託法第9条を改正し,公益信託の目的を達成したとき又は その目的を達成することができなくなったときは, ア 委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,公益信託の 目的を他の公益目的に変更し,行政庁による変更の認可を受けること によって公益信託を継続できるものとする。 イ 委託者が現に存しない場合には,受託者及び信託管理人は,その合 意により,公益信託の目的を類似の目的に変更し,行政庁による変更 の認可を受けることによって公益信託を継続できるものとする。 3 公益信託の併合・分割 現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,公益信託の併合・分割は,委 託者,受託者及び信託管理人の合意等がある場合には,行政庁による併合・ 分割の認可を受けることによってすることができるものとする(注)。 (注)裁判所は,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託 行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして公益信託の目的 の達成に支障になるに至ったときは,委託者,受託者又は信託管理人の申立てにより, 信託の併合・分割を命ずることができる旨の規律を設けるものとする考え方がある。 第16 公益信託の終了 1 公益信託の終了事由 公益信託は,次に掲げる場合に終了するものとする。 ⑴ 信託の目的を達成したとき,又は信託の目的を達成することができ なくなったとき。 ⑵ 受託者又は信託管理人が欠けた場合であって,新受託者又は新信託 管理人が就任しない状態が1年間継続したとき。 ⑶ 受託者が信託法第52条(第53条第2項及び第54条第4項にお いて準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。 ⑷ 信託の併合がされたとき。 ⑸ 信託法第165条又は第166条の規定により信託の終了を命ずる 裁判があったとき。 ⑹ 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。 11 ⑺ 委託者が破産手続開始の決定, 再生手続開始の決定又は更生手続開 始の決定を受けた場合において,破産法第53条第1項,民事再生法 第49条第1項又は会社更生法第61条第1項(金融機関等の更生手 続の特例等に関する法律第41条第1項及び第206条第1項におい て準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。 ⑻ 信託行為において定めた事由が生じたとき。 2 公益信託の存続期間 公益信託の存続期間については,制限を設けないものとする。 3 委託者,受託者及び信託管理人の合意による終了 【甲案】公益信託の終了は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある 場合には,行政庁による公益信託の[終了の認可/成立の認可の取消 し]を受けることによってすることができるものとする。 【乙案】公益信託の終了は,委託者,受託者及び信託管理人の合意のみに よりすることができるものとする。 4 公益信託の終了命令 信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,公益信 託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らし て相当になるに至ったことが明らかであるときは,裁判所は,委託者,受 託者又は信託管理人の申立てにより,信託の終了を命ずることができるも のとする。 委託者については信託行為において公益信託の終了命令の申立権を有し ない旨を定めることができるものとする。 5 公益信託の成立の認可の取消しによる終了 公益信託の成立の認可を取り消された公益信託は,終了するものとする (注)。 (注)原則として当該信託は終了するが,信託行為に公益信託の成立の認可の取消後 は受益者の定めのない信託として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は受 益者の定めのない信託として存続するものとするという考え方がある。 12 第17 公益信託の終了時の残余財産の処理 1 残余財産の帰属権利者の指定 ⑴ 公益信託の信託行為には,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利 者」という。)の指定に関する定めを置かなければならないものとする。 ⑵ 上記⑴の定めの内容は,信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託 と類似の目的を有する他の公益信託若しくは類似の目的を有する公益法 人等(公益法人認定法第5条第17号イないしトに掲げる法人を含む。) 又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければ ならないものとする(注)。 (注)公益信託の成立後の寄附等により信託財産に加わった財産の帰属権利者につ いては上記⑵に掲げた者を指定するものでなければならないとした上で,公益信 託の成立時に拠出された信託財産の帰属権利者については委託者等の私人を指定 することを許容する考え方がある。 2 最終的な残余財産の帰属 帰属権利者の指定に関する信託行為の定めに掲げられた者の全てがその 権利を放棄した場合の残余財産は,国庫に帰属するものとする。 第18 公益信託と受益者の定めのある信託等の相互変更等 1 公益先行信託 公益先行信託(信託設定当初の一定期間は信託財産の一部を公益目的の ために供するが,一定期間経過後は,残りの信託財産を私益目的のために 供する信託)について行政庁が成立の認可を行う制度は設けないものとす る。 2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更 公益信託について,信託の変更によって受益者の定めを設け,受益者の 定めのある信託とすることはできないものとする。 3 残余公益信託 残余公益信託(信託設定当初の一定期間は信託財産の一部を私益目的の ために供するが,一定期間経過後は,残りの信託財産を公益目的のために 供する信託)について行政庁が成立の認可を行う制度は設けないものとす る。 13 4 受益者の定めのある信託から公益信託への変更 【甲案】受益者の定めのある信託について,信託の変更によって受益者の 定めを廃止して公益信託とすることはできないものとする。 【乙案】受益者の定めのある信託について,信託の変更によって受益者の 定めを廃止して公益信託とすることができるものとする。 第19 その他 1 信託法第3条第3号に規定する方法による公益信託 【甲案】信託法第3条第3号に規定する方法により公益信託をすることは できないものとする。 【乙案】信託法第3条第3号に規定する方法により公益信託をすることは できるものとする。 2 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い ⑴ 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託は,新公益信託法の適 用を受ける公益信託への移行について,行政庁による移行の認可を受け ることを必要とするものとする(注)。 (注)一定の要件を満たしている既存の公益信託については,届出等の簡易な移行手 続を許容するとの考え方がある。 ⑵ 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託について,移行の認可 を受ける前は,現行公益信託法が適用されるものとし,移行の認可を受 けた後は,新公益信託法が適用されるものとする。 ⑶ 移行の認可は,新公益信託法の施行日から一定の期間内に受けること を必要とし,移行の認可を受けなかった信託は,上記の期間経過後に終 了するものとする。 3 罰則 現行公益信託法第12条の規律を改め,罰則について所要の措置を講ず るものとする。 4 その他 その他所要の規定を整備するものとする。 以上

法制審議会信託法部会 第47回会議 議事録





第1 日 時  平成29年12月12日(火)   自 午後1時30分
                         至 午後3時44分

第2 場 所  法務省第一会議室

第3 議 題 公益信託法の見直しに関する中間試案の取りまとめ

第4 議 事 (次のとおり)

議        事
○中田部会長 予定した時刻がまいりましたので,法制審議会信託法部会の第47回会議を開会いたします。
  本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
  本日は,神田委員,筒井委員,山本委員,岡田幹事,堂園幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席です。
  本日の会議資料の確認等を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。
  事前に,部会資料45「公益信託法の見直しに関する中間試案(案)」及び参考資料6「公益信託法の見直しに関する中間試案(案)の説明資料」を送付いたしました。また,本日は,内閣府の明渡関係官から,公益法人制度における残余財産の処分について御説明を頂けるということで,その資料を当日配布資料としております。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたら,お申し付けください。よろしいでしょうか。
○中田部会長 本日は,部会資料45「公益信託法の見直しに関する中間試案(案)」について御審議いただきます。部会資料45は,部会資料44の「中間試案のたたき台(2)」について,前回の部会での審議を受けて,事務当局の方で修正されたものだということです。本日は,中間試案の取りまとめにまで至ることを予定しておりますので,何とぞよろしく御協力のほどをお願いいたします。
  このほか,参考資料6「公益信託法の見直しに関する中間試案(案)の説明資料」も配布されています。中間試案などをパブリックコメントの手続に付すに当たっては,民事局参事官室において補足説明を付すことが多いようです。この補足説明は,従来から,民事局参事官室の責任で作成するものとされており,今回も部会での審議対象ではありません。しかし,事務当局におかれましては,これまでの審議の経緯を踏まえて,より丁寧に部会での意見を中間試案の補足説明に反映したいというお考えから,本日,この説明資料を参考資料として用意されたと伺っています。
  このように,本日の審議の対象は,飽くまでも部会資料45でありますので,まずはそのゴシック部分について,中間試案としてパブリックコメントに付すことが適切かという観点から御審議いただければと思います。そして,ゴシック部分について,部会としての意見の集約がおおむねできたところで,参考資料6について,御意見や御指摘を頂くことを考えております。その上で,最終的に,部会資料45について,御確認,御決定を頂くというように進めたいと思っております。
  なお,途中の午後3時頃,切りのいいところで休憩を挟むことを考えております。こういった進め方でよろしいでしょうか。
  ありがとうございます。
  それでは,本日の審議に入りたいと思いますが,事務当局から御紹介のありましたように,前回の終わりに少し話が出ました公益法人制度における残余財産の処分につきまして,内閣府の明渡関係官から御説明いただけると伺っています。公益法人認定法第5条17号の規定の読み方についてということです。
  明渡関係官,お願いいたします。
○明渡関係官 1枚お配りしております「公益法人制度における残余財産の処分について」というペーパーに基づいて御説明いたします。
  「法律の規定」と,そのペーパーの冒頭に書いておりますけれども,今部会長がおっしゃった第5条第17号でございます。下の方ですけれども,「類似の事業を目的とする他の公益法人若しくは次に掲げる法人又は国若しくは地方公共団体」というような規定がございます。この「類似の事業を目的とする」というのが,どこまで掛かるのかというふうなことが,前回の議論の中で出てきたものということだと承知しております。
  その下に,「修飾語句のかかり方のモデル」というのを書いておりまして,こういう場で申し上げるのも恐縮ではありますけれども,四つのものの選択的接続の場合,四つにかかる場合,一番冒頭のもののみにかける場合,最初の二つにかける場合,三つにかける場合とありまして,この条文で用いている「若しくは」「又は」「若しくは」とつながるのは,この三つ目,「A及びBにかける場合」というふうな形となっております。したがいまして,「類似の事業を目的とする」というのは,「他の公益法人」と「次に掲げる法人」にかかるものであり,「次に掲げる法人」というのは,学校法人,社会福祉法人等々が,この後規定されているというものでございます。
  念のため,裏面を御覧いただきますと,このときの法律に至るまでの議論の経緯等を付けております。平成16年11月の有識者会議の報告書,ここを御覧いただきますと,アンダーラインを引いているところでございますが,「帰属者となり得る者を他の類似目的の公益性を有する法人」というような形で書いております。その後の閣議決定たる行革の方針におきましても,下線部分,「他の類似の公益目的の法人」という形で書いております。「法人」となっておりますので,全てに掛かっておりますけれども,法律の規定においては,公益法人とそれ以外の法人を具体的に規定するために,現在の条文になったものと思っております。
  なお,同じような議論については,公益認定委員会でもございまして,そのときも,前2者に掛かるというふうなことを説明しているというのが,③の議事録の抜粋でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。引き続いての審議の参考にしていただければと存じます。
  ただいまの御説明につきまして,御質問などございますでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,先に進めさせていただきます。
  それでは,部会資料45についての審議をお願いします。事務当局から説明してもらいます。
○舘野関係官 それでは,御説明申し上げます。
  今回も前回同様,前回の部会資料である部会資料44の本文の提案から変更している箇所についてのみ,その変更の理由等も含めて御説明させていただきます。
  まず,第1,第2,第3の1,こちらは変更はございません。
  第3の2,「不認可処分を受けた信託の効力」について変更がございますので,御説明いたします。
  第46回会議では,部会資料44の第3の2の提案に対し,既に受益者の定めのない信託が有効に成立しており,その信託が公益信託の成立の認可申請をして不認可になった場合には,当該信託は不認可処分を受けたときよりも前に効力を生じていることから,提案の表現を工夫すべき旨の指摘がありました。その指摘を踏まえ,本部会資料の第3の2の提案では,冒頭に「公益信託として新たに信託を成立させる場合に」という文言を追加する旨の変更をして,第3の2の規律が適用される場面を限定し,既に受益者の定めのない信託として存在している信託が公益信託の成立の認可を受ける場面では該当しないことを明らかにしています。
  また,部会資料44の第3の2の提案では,「信託法第258条第1項の受益者の定めのない信託に関する信託法第11章の規定」と記載しておりましたが,「信託法第258条第1項の受益者の定めのない信託に関する」という部分は,あえて記載するまでの必要性に乏しいことから,「信託法第11章の規定」という記載に変更しております。
  次に,第4,第5の1,こちらは変更はございません。
  第5の2,「公益信託の信託管理人の資格」について御説明いたします。
  第46回会議では,部会資料44の第5の2(1)ア及びイの提案に対し,「受託者(委託者)又はその親族,使用人等の」と,その直後の「受託者(委託者)と特別の関係を有する者」で,文章を区切って読まれる可能性があり,分かりにくい旨の指摘がありました。その指摘を踏まえ,本部会資料の第5の2(1)ア及びイでは,上記部分の表現を「受託者(委託者)又はその親族,使用人その他」に変更しております。
  また,第46回会議では,部会資料44の第5の2の(注)に対し,公益信託の受託者の資格が「公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有すること」とされていることに合わせ,「公益信託事務の適正な処理の監督をなし得る能力を有する者」という表現の方が分かりやすいとの意見がありましたので,本部会資料第5の2(注)では,その旨の表現を括弧書きの中に追加する表現の変更をしております。
  また,本部会資料の第6の1及び2の提案については,部会資料44の第6の1及び2の提案から,実質的な変更点はございませんが,第46回会議における指摘を踏まえ,文章を簡潔にするために表現を変更しております。
  次に,第7,第8は変更はございません。
  それから,第9に入りまして,第9の1,3,4,こちらは変更はございません。
  第9の2,公益信託の受託者の行う信託事務に関する基準について御説明いたします。
  第46回会議では,部会資料44の第9の2の提案に対し,信託行為や事業計画書に記載されている信託事務の内容が公益信託の目的達成のために必要性を欠く信託事務を行うものになっていないかということを行政庁が認可の際に判断するという趣旨を表現すべきである旨の意見,それから,公益信託の受託者が公益信託の目的の達成のために必要な収益を伴う信託事務を行うことを妨げないことを分かりやすく表現すべきである旨の意見等が出されました。
  これらの意見を踏まえ,本部会資料の第9の2の提案では,公益信託の受託者が行う信託事務が収益を伴うものであっても,それが当該公益信託の目的の達成のために必要な範囲であれば許容されることが端的に明らかになるように,「公益信託の受託者が行う信託事務が,当該公益信託の目的の達成のために必要な信託事務であること。なお,当該信託事務が収益を伴うことは許容されるものとする。」との表現に変更しております。
  なお,本部会資料の第9の3(2)及び(3)について,部会資料44の第9の3(2)及び(3)から実質的な変更点はございませんが,部会資料44では,項目名と本文の内容が重複し,読みにくい面があったことから,項目名を削除しております。
  次に,第10,第11,第12,第13,第14までについては変更はございません。
  第15に入りまして,第15の1,「公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更」及び第15の2,「公益信託の目的の変更」について御説明いたします。
  第45回会議では,部会資料42のように,第15の1の項目名を「公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更」,第15の2の項目名を「公益信託の目的の変更」とすると,第15の1の変更には委託者,受託者及び信託管理人の合意等が必要であり,第15の2の変更には委託者,受託者及び信託管理人の合意が必要であるという整理が可能であるが,部会資料43及び44のように,第15の1の項目名を「公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更」とし,第15の2の項目名を「公益信託事務の処理の方法以外の信託行為の定めの変更」とすると,そのような整理が不可能になる旨の指摘がありました。
  また,部会資料44の第15の2の提案では,公益信託事務の処理の方法以外の信託行為の定めの変更(公益信託の目的の変更及び公益信託事務の範囲の変更を含む)は,委託者,受託者及び信託管理人の合意によりできるものとしておりましたが,公益信託事務の範囲の変更であっても,それが公益信託の目的に影響を与えるものでなければ,例えば信託法第149条第2項第2号の受託者による単独の意思表示等の方法を含む委託者,受託者及び信託管理人の合意等での変更を許容することも考えられることから,部会資料44の表現は,いささか不正確な面がありました。
  それらの指摘等を踏まえ,本部会資料の第15の2(2)の提案では,項目名を「公益信託事務の処理の方法以外の信託行為の定めの変更」から「公益信託の目的の変更」に変更するとともに,本文中の「公益信託事務の範囲の変更」を削除しています。公益信託事務の範囲の変更については,本部会資料の第15の1又は2のいずれかが適用されることを想定しております。
  次に,第16,「公益信託の終了」について御説明いたします。
  部会資料44の第16の(前注)には,「信託法第163条(同条第2号を除く)の規定が原則として適用される」と記載しておりましたが,第45回会議において,公益信託の終了事由を広く取り上げた方が分かりやすい旨の指摘等があったことを踏まえ,本部会資料の第16の1の提案では,信託法第163条第1号及び第3号から第9号までの事由に該当する場合に公益信託が終了することを,具体的な終了事由とともに示す旨の変更をしております。
  なお,本部会資料の第16の1(2)の提案のうち,信託管理人の1年の不在を終了事由とすることについては,部会で別の考え方が示されていることから,パブリックコメントに付すに際しては,その旨が明らかになるように努めたいと存じます。
  また,本部会資料第16の3の乙案については,部会資料44の第16の2の乙案から実質的な変更はございませんが,乙案の趣旨は,行政庁の関与なく,当事者の合意のみによる公益信託の終了を可能とすることにあることをより分かりやすく表すために,委託者,受託者及び信託管理人の合意のみにより終了できるという表現の変更をしております。
  次に,第17,「公益信託の終了時の残余財産の処理」についてですが,第46回会議では,部会資料44の第17の1(2)の甲案及び第17の2の甲案を積極的に支持する意見はなく,第17の1(2)及び第17の2の論点は,それぞれ乙案を本文の提案にすべきであるとする意見に特段の異論はありませんでした。これを踏まえ,本部会資料の第17の1(2)及び第17の2の提案では,部会資料44の第17の1(2)及び第17の2のいずれからも甲案を削除し,乙案を本文の提案としております。
  なお,部会資料44の第17の1(2)の(注)に掲げていた公益信託の成立時に拠出された信託財産の一部を私人に帰属させることを許容するものとする考え方は,本部会資料の第17の1(2)の(注)に掲げており,この点は変更はございません。
  次に,第18,これは変更はございません。
  最後に,第19,「その他」の論点についてですが,第46回会議において,部会資料44の第19の2(1)の(注)について,簡易な手続の具体例を示すべきである旨の意見等があったことを踏まえ,本部会資料の第19の2(1)の(注)では,簡易な移行手続の例として,届出を例示しております。
  また,本部会資料の第19の2(3)では,部会資料44の第19の2(3)の「上記(1)の」という部分を削除する旨の表現の変更をしております。
○中田部会長 ありがとうございました。
  それでは,部会資料45についての意見交換に入ります。
  全体を三つに区切りまして,御審議いただこうと思います。すなわち,第1から第7,第8から第14,そして,第15から第19までの三つです。
  まず,第1から第7までにつきまして,どこからでも結構ですので,御自由に御発言をお願いいたします。
○平川委員 第4の1なんですけれども,受託者の資格要件で,受託者が公序良俗に反する事業を営んでいないことを要件にすべきなのではないかということを従前申し上げたのですけれども,その資格要件から外されている点について意見を申したいと思います。
  公益法人認定法5条5号では,公益法人の認定要件の一つとしているのに,受託者の認可要件で,資格要件ではないという理由があるのか,今一度御確認いただきたいし,また,あえて外す理由をお聞かせ願いたいということです。
  認可のときにチェックするからよいということなのか,また,結果としては,認可を受けた後に風俗営業を営み出したときに,受託者の資格がないとは言えなくなるわけですけれども,ほかに差し障りのあることが具体的に発生して,かかる事象が解任の事由に該当すれば,解任はあるけれども,そうではない限り問題なしとなるということになるかと思います。そうすると,公益の信託事務を滞りなくやる能力はあるけれども,風俗営業の商売も幅広くやっているというような受託者だけれども,公益信託事務に差し障りがないから,そういう受託者は許容するということに,結果としてなると思います。
  公益法人認定法では,5条第5号に,公益認定の基準の一つとして,公益法人の社会的信用を維持する上でふさわしくない事業として,政令3条の指定により,投機的な取引を行う事業,また,利息制限法に定める利息制限を超える貸金を行う事業,いわゆる高利貸し,そして,風俗営業規制法に規定する性風俗関連特殊営業を指定し,これらの事業や,またその他,公序良俗を害するおそれのある事業を行わない者であることとしています。公益信託の受託者が,かかる事業を行っていないことを要件とすることは,公益性のある信託の信用性を維持するためにも必要な要件ではないかと考えます。
  例えば,固有の事業として,家出してきた女性を使って風俗営業規制法に規定する性風俗関連特殊営業を営んでいる者が,一方ではドメスティック・バイオレンスのシェルターを運営する公益信託の受託者になるというようなことは,違和感があるという以上に,許容すべきではないと考えます。
  したがいまして,公益法人認定法5条5号は,公益信託においても当然引き継がれるべきだと考えておりますが,これを外す積極的な理由というのを,今一度御審議願いたいと思います。
○中田部会長 この点は,ここでも既に御審議いただいたことではありますが,更に重ねてということかと存じます。
  ほかに,この第4の1に関しまして,関連する御意見などございますでしょうか。
  それでは,事務当局の方からお願いします。
○中辻幹事 この公序良俗要件について,平川委員から今のような御意見を頂いていたことは重々承知しておりますし,以前は川島委員からも同様の意見を頂いておりました。一方で,能見委員や小幡委員,小野委員,道垣内委員,林幹事などからは反対の御意見を頂いていたところです。
  そこで,少し前の資料ですけれども,部会資料43「中間試案のたたき台(1)」の16ページになりますが,公序良俗要件について改めて検討いたしました。そこで論じていることの繰り返しになってしまいますけれども,確かに公益信託の受託者として,しっかりした方を確保するということは重要です。しかし,このような要件を法律上設けなくても,委託者において適切な受託者を選定し,信託管理人や行政庁の方できちんと受託者を監督していくことは可能であると考えています。
  また,公益法人との違いとして,公益信託は,公益信託事務を行うことのみを目的とするものに限り認可されるということが大きいと思います。公益法人については,公益目的事業以外の収益事業を幅広く行うものであっても認定を受けられるので,収益事業の関係で規制をかけなくてはいけない面があるのですけれども,公益信託については,そのような必要性は低いということを踏まえまして,中間試案のたたき台の段階から,この要件は外しているということでございます。そして,第44回会議では,川島委員からも外すことに異存がないという御発言を頂き,部会の御意見の大勢はこれを受託者の要件としないということであると私どもとしては認識しておりました。
○平川委員 そうしますと,要するに,信託事務の遂行能力とか,そちらの方の信託事務の方の善管注意義務とか,そういうものを確実にやっている者であれば,ほかの素行といいますか,営業について,性風俗関連特殊営業を営んでいるかどうかとか,そういうことは考慮に値しないということになるわけですか。
○中辻幹事 全く値しないとまで言い切るつもりはありません。けれども,逆に,法律に従った適法な営業として認められている者を一律に受託者から排除するということの方が,過剰な規制となる可能性があってむしろ問題が大きいのではないかと考えています。
  もう一つ,これも以前に申し上げたことですけれども,公益法人の認定では一般法人から公益認定を受けようとするその法人自体の公益性を見るわけですね。でも,公益信託の認可においては,受託者が誰であるかも重要ですが,その信託が行う公益信託事務の公益性について着目する方がむしろ重要であると考えておりまして,そのような観点からも,法人と信託で差別化を図れるのではないかと考えているところでございます。
○平川委員 はい。
○中田部会長 ほかに,これに関して,あるいは,それ以外についてでも結構でございますが,御意見ございますでしょうか。もしないようでしたら,先に進んでもよろしいでしょうか。
  それでは,次に,第8から第14までに進みます。これも,どこからでも結構ですので,御自由に御発言をお願いいたします。
  前回の審議を受けて,若干の修正箇所がございますけれども,特に改めて御意見はございませんでしょうか。先に進んでもよろしいでしょうか。
  それでは,後でまた戻っていただいても結構ですが,次に進みます。第15から第19までのうち,御意見をお願いいたします。
○深山委員 意見というよりは,確認ないし質問に近いかと思います。
  第15のところです。先ほど関係官から説明を頂いたところではあるのですけれども,整理の仕方を少し部会資料44から変えて,公益信託事務の処理の方法に関する変更と,目的の変更というふうに,大きく分けて規律を設けているということですが,その中で,公益信託事務の範囲の変更についてはゴシックからは落としましたという説明があって,そこについて,補足説明では,15の1の(1)又は2の(1)のいずれかが適用されることが想定されるという説明があります。
  これは,先ほどの関係官の説明ですと,ケース・バイ・ケースで,信託事務の範囲の変更が1の(1)に当たる場合もあれば,2の(1)に当たる場合もあるという意味で,いずれかが適用されるということだという説明のように聞こえました。そのようなケース・バイ・ケースで適用が分かれるという趣旨なのか,あるいは,そこは明示をしないで,解釈に委ねるような趣旨で書かれているのか。ちょっとその趣旨が分からなかったので,確認をさせていただければと思います。
  従前,範囲の変更というのが,目的の変更に近い,あるいは目的の変更を具体化したものというような位置付けで,一つ前の資料では,目的の方に寄せていたようなイメージを持っていたのですが,今回あえてそれを外したということは,そうではなくて,合意等でもいけるということを含意しているのかなと思ったり,ちょっとその辺が気になったので,もう少し御説明いただければと思います。
○中田部会長 関連する御意見,御質問はございますでしょうか。
  それでは,お願いします。
○中辻幹事 では,深山委員からの御質問についてお答えいたしますと,公益信託事務の範囲の変更については,深山委員の御理解のとおり,目的の変更に近いというかそちらに寄せていける場合が多いと考えていることは部会資料44から変わっておりません。公益信託事務の範囲の変更といってもその変更の程度には大小があって,例えば,公益法人認定法の別表1号の学術及び科学技術の振興を目的とする事業に相当する公益信託事務を行っていた信託から,別表2号の文化及び芸術の振興を目的とする事業に相当する公益信託事務を行う信託に変更するようなものは,まさに目的の変更に当たり,15の2の規律が適用されることになるのだろうと思います。
  ただ,例えば,別表1号の学術及び科学技術の振興を目的とする事業であることには変更はないけれども,大学院生向けの奨学金の対象に大学生も加えるようなものについては,グラデーションがあって,必ずしも目的の変更に当たるとは言えない場合もあるのではないかと考えました。そのために,今回の資料では,公益信託事務の範囲の変更について,15の1(1)の規律が適用される場合もありますし,15の2(1)の規律が適用される場合もあるという説明をしております。
  いずれにせよ,信託法149条が公益信託にも適用されることを中間試案では前提としておりますので,どちらの場合でも,委託者,受託者及び信託管理人の合意があれば公益信託事務の範囲の変更はできるということになります。そうすると,通常はこれら3者の合意で変更することになり,15の1(1)に該当するのか,15の2(1)に該当するのかは,実際上は余り変わらないとも言えるのですが,15の1は「合意等」となっていて信託法149条2項及び3項の適用があり受託者単独の意思表示による変更が可能なのに対し,15の2は「合意」となっていて基本的には3者合意が必要という違いが出てきます。また,信託法150条の変更命令によっては信託の目的を変更することはできないという解釈がありまして,そこは解釈に委ねるのですけれども,仮に15の2の目的の変更を伴う公益信託事務の範囲の変更に当たるのであれば,信託法150条の方法での変更はできなくなるという整理をしております。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○深山委員 はい。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
  今の部分以外,全体を通じてでも結構でございます。部会資料45について。
○林幹事 第16の1の終了事由のところで,(2)の,特に信託管理人が欠けた場合について,欠けた状態が1年継続したときを終了事由とされています。この整理について,説明資料の方には,1年間欠けたときを終了事由とせずに取消事由とするという考えがある趣旨を書いていただいているところなのですが,個人的な意見としては,改めてこういうふうに終了事由を中間試案に掲げるなら,この点を少なくとも(注)などに書いていただけると有り難かったという印象を持っています。取りあえず,その旨を議事録にとどめていただく趣旨で発言しています。最終的には,整理についてはお任せするほかない部分もあるのですが,意見としては,せめて(注)にしていただいたら有り難かったというところです。
○中田部会長 今の点につきまして,関連する御意見等ございますでしょうか。
  事務当局の方からございますでしょうか。
○中辻幹事 事務局への配慮を含む御意見をありがとうございます。
  正直に言えばできるだけゴシックは変えたくないのですけれども,もちろん委員,幹事の皆様から,(注)にという御意見が多いようであれば,修正させて頂きたいと思います。
○中田部会長 いかがでしょうか。
  1年不在の場合について,(注)で,このような考え方もあるというような記述をするということについて,林幹事から御提案があり,中辻幹事からも,もし部会での御意見が多いようであれば,それも可能であるというような御対応が示されておりますけれども,いかがでしょうか。特になければ,議事録に御発言を残すということで対応するということでよろしいでしょうか。
  それでは,ほかに御発言ございませんようですので,今のような取扱いにさせていただきたいと存じます。
  ほかに,全体を通じてで結構ですけれども,お気付きの点はございますか。
○新井委員 申し訳ありません。前の方に戻りますけれども,第3の2です。「不認可処分を受けた信託の効力」についての(注2)というのが,3ページの一番最後にあります。「(注2)行政庁から不認可処分を受けた受益者の定めのない信託について,信託法第11章の規定を適用する」のところは,私はよく理解できるのですが,その後の「一定の事項につき信託法第11章の特則を設けるべきであるという考え方がある。」ということなのですが,これはこのまま存置しておくということでよろしいでしょうか。というのは,この特則の例として挙がっているのは,信託法附則第3項の受託者要件であるからです。
  もしこれが認められると,こういうことを考える人がいるのではないかと思うのです。例えば,初めから認可を受けることを予定せず,不認可処分があったことを前提として,信託法の規定している目的信託の内容を少し変えてしまうことができるのではないでしょうか。具体的に言うと,受託者要件を適用しない目的信託を創設することを目的にして,あえて認可を申請して,不認可処分になって,予定どおり,受託者要件のない目的信託を創設するということが考えられるのですね。ですから,一種の脱法的な目的信託の創設に道を開くように思うのですが,これが入れられた趣旨というのはどういうことだったのでしょうか。そこのところを今一度確認させていただければと思います。
○中田部会長 ありがとうございます。
  前回,これについて御審議いただきまして,確か深山委員の御発言と道垣内委員の御発言などがあって,それを踏まえて,今このような形になっているのだと思いますけれども,関連する御意見,御質問等ございましたら,お出しいただけますでしょうか。
○深山委員 今,部会長御説明のとおり,前回私の発言と,それを受けて道垣内委員の発言があったわけですが,そこでは,専ら新井委員御指摘の受託者要件のところをめぐっての議論でした。ただ,ここでは,受託者要件だけが特則として想定されているわけではないということは御案内のとおりです。
  まず,受託者要件に関していえば,今の附則3項がそのまま維持されるかどうか。公益信託について,5,000万円等の要件がそのまま適用されるのか,されないのかということも,一つの議論としてはあると思います。補足説明の中でも,附則の書きぶりが変わるというようなことも書かれておりますので,そういう意味では,いろいろと,そこはまだ議論が残っているのではないかなというふうに感じているところです。
  また,受託者要件の問題だけではなくて,例えば,20年という目的信託の期間が,公益を目的とする目的信託の場合に必要かどうかであるとか,あるいは,信託管理人を,契約で信託設定した場合でも必置とするかどうかとか,ほかの要件のところも,一般の目的信託とは違う規律を設けるべきではないかということも,この場で議論が出たと思います。そういう意味では,いろいろな観点で,目的信託の中で,公益を目的とするということに着目した特則を設けるということは,あり得るのだろうと思います。
  ただ,全く別の3類型的なものまでを考えるという意見は多分なかったので,あくまで目的信託の特則というぐらいの位置付けでしょうけれども,しかし,それを設ける余地というのはあっていいと思います。もちろん,新井委員御懸念のように,脱法的なものにならないようにという配慮も必要ですけれども,そういうことも配慮しながら特則を設けるという議論はなお残っているというふうに私は理解しております。
○中田部会長 ほかに関連する御意見はございますか。
○沖野幹事 内容を確認させていただきたいのですけれども,認可との関係では,また後ほどある話かもしれませんが,説明資料に言及してもよろしいですか。
○中田部会長 はい,ゴシックについて御審議いただく上での御言及ということですね。
○沖野幹事 はい,その関係で。
  参考資料6の13ページの「もっとも」という6行目ですね。この提案には,「公益を目的とするが行政庁の認可を受けない受益者の定めのない信託を一律に無効とはしない」という点を明らかにする意味があるとされております。したがいまして,行政庁の認可を受けずに,第11章の規定を使って公益目的の信託を行うということは可能であろう。少なくとも直ちに無効にはならない。そうしたときに,不認可処分を受けた信託について,(注2)の考え方により,第11章の規定の適用のある信託だけれども,公益の場合は幾つかの特則が働く,受託者要件ですとか存続期間ですとかといったときに,それはやはり公益で用いるからということだとしますと,認可の手続をとらなくとも,公益目的で使う場合には,同様にその特則が働くと考えるのが素直なようにも思われます。
  一方,新井委員のお考えは,この特則が妥当するのは,飽くまで認可の申請を経たものなので,そういう一段階を採らないものは認めない,逆に言うと,本当は認可を受けるつもりはないけれども,そのルートを形式的にだけ採ることで潜脱するというお考えだと思うのですけれども,その点が,特則を設けるというときの射程の問題としてあるようにも思われまして,認可処分,認可について,不認可処分を受けたものについてだけの特則なのか,それとも,公益目的で用いる場合には妥当し得るということなのか。その点も明らかにしていただくと,お考えの違いが鮮明になるのではないかと思っております。
  私個人は,趣旨は公益目的だからというところにあって,一旦認可の手続を経たから,しかし不認可だったということが根拠ではないように思われまして,そうすると,最初から認可の手続を経ないというような場合にも,その特則は妥当するのかなというふうに考えていたものですから,そうでないということであれば,それはそれで明らかにしていただくと有用かと思います。
○中田部会長 この点は,何度か議論していただきまして,それで,公益信託としての認可を受けない目的信託であっても,公益を目的とする事務を行うことはできる,しかし,それについて,新たなカテゴリーというか類型を設けるということにまでは,一致した御意見にはなっていなかったのではないかと思います。それを前提とした上で,深山委員から,認可を受けられなかった場合について,何らかの特則を置いてはどうかという,限定的にされた上での御意見があり,それに対して道垣内委員から反論がありというのが,これまでの議論の経過だったと思いますけれども,沖野幹事としては,三つ目の類型を設けるべきだという御意見でしょうか。
○沖野幹事 いえ。三つ目の類型をわざわざ,特別目的信託ですとか,そういうふうに設けて,全てを作り出すということは適切ではないというふうに考えており,私自身は,特則自体も余り適切ではないのではないかというふうに,基本的には考えているわけなのですが,ただ,若干の特則を設けるというものは,第3カテゴリーを作るというタイプとは違うのかなというふうに考えていたものですから,何らかの特則を設ける,ここに掲げられているのは1,2,3ですから,三つぐらいでしょうか。私自身は消極的ではありますが,第3カテゴリーを設けるまでのことはしないことから,特則を幾つかは置くという考え方を当然に排除するわけではないと考えていたものですから。
  しかし,今の御説明ですと,飽くまで認可,不認可処分を受けたものについてのみ妥当する特則だという前提であるということが確認できれば,それはそれで結構です。
○中田部会長 これまでの様々な御議論を集約した結果,今,このような形になっているということだと思います。それに対して,更にまた戻って,認可を受けられなかったことを要件としないで特則を設けるということですと,これまた新たな御提案になろうかと思うのですけれども。
○沖野幹事 そのつもりはありません。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○沖野幹事 はい。
○中田部会長 それでは,関連する御意見が更にございましたら,頂きたいと思います。
○平川委員 私は,この(注2)というのは不要であるというふうに,むしろ考える方なのですけれども,設けるべきであるという考え方があるという程度にとどめて,それが実現されることがないことを強く願うものでありまして,やはり公益認可を受けられなかったような,何といいますか,準公益と称して,それを公益を標榜して,むしろ詐欺の温床になるというふうに考えますので,そのような制度は絶対に設けるべきではないと考えます。
○道垣内委員 中間試案としての内容としては,これで私は異存はありませんが,沖野幹事のお話に関連して,不認可だけれども公益目的であるという場合を特別扱いするためには,不認可に理由を付けなければいけないのですよね。公益目的であることは認められるが,ほかの要件がないから,というようなかたちの不認可処分を前提にしなければいけないことになりますね。そうしないと公益目的であると言って認可申請をして,それが不認可になったときも,でも公益目的であることはたしかなのだというのは,本人が言っているだけかもしれない。この点は指摘しておきたいと思います。
○中田部会長 ほかに,いかがでしょうか。
○深山委員 触発されて,少し言いたくなってしまったのですけれども,不認可というのにも,いろいろな場合があると思います。この間,これだけ議論して,いろいろな基準を設けてきたわけですが,それを全部クリアすれば,認可が受けられますよという仕組みですから,やろうとしている目的は非常に,公益というにふさわしい立派な目的だという場合であっても,例えば,担い手である受託者が何らかの要件を欠くとか,あるいは財産が乏しいとか,やろうとしていることは立派であっても,あるいは公益というにふさわしくても,別な要件で切れるということは,少なくとも論理的にはあるし,現実的にもあり得るのだと思うのです。
  ですから,平川委員が言うように,そんなものは世の中にあってはいけないというようなものも,それはあるかもしれませんけれども,不認可になったものが,すべてそういう評価を受けるものでは決してないだろうというふうに思うのですね。
  そういう意味で,そもそも公益性自体に問題があれば,それは公益と勝手に称しているだけだということにすぎず,おっしゃるとおりだと思いますけれども,そうではなく,結果として不認可になった信託というようなものもあるのではないかと思いますし,そうだとしたら,それを目的信託として活かす道というのは,あっていいのではないかなというふうに考えております。
○中田部会長 ほかに,よろしいでしょうか。
○明渡関係官 今の関係でございますけれども,公益法人の認定の場合,不認定とする場合には,不認定理由は記載します。ただし,それ以外の要件を全て満たしているかというと,そうとまでは言い切れない。よく分からない部分が残っていたとしても,明らかにこの要件を満たさないというようなことがあれば,それを理由として不認定とすることがあります。したがいまして,認定書,答申書,若しくは最後の結論だけを見た場合に,そこの公益性があるかどうかというの,それは書いていない,表に出ていないというようなことは多々あります。
  そういった意味で,道垣内委員がおっしゃったように,公益性があるというのは自分が思っているだけというような事態が生じることは,十分考えられるというふうなことに思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  では,この辺りで,事務当局の方からお願いします。
○中辻幹事 もう既に沖野幹事とのやりとりの間に部会長の方でまとめていただいたとおりなのですけれども,元々,深山委員,それから,小野委員からも御支持のあった(注2)ですので,今の時点でゴシックから落とすのはよろしくなかろうというように感じます。
  一つ付け加えますと,私どもは目的信託を悪者とは全く思っていなくて,目的信託の制度を使って当事者が公益でも共益でも私益でも自由に活動するというのは,あってしかるべきだと思っています。
  ただ,公益と共益ないしは私益の間にどのように境目を作るかというのは非常に難しくて,やはり目的が公益であることを明確化する手立ては行政庁の認可しかなかろうというのが,今の部会の到達点なのだろうと思います。そうしますと,目的信託の中で公益を目的とするが行政庁の認可を受けていないもの一般について,存続期間とか,委託者の関与の度合いとか,受託者要件もそうですけれども,私益目的や共益目的の目的信託と別の規律を設けるのはなかなか難しいということになろうかと考えます。「たたき台(1)」の時点では,行政庁に公益信託の認可を申請することが予定されている場合と,認可の申請を予定していない場合に分けて考えてみたわけですけれども,それも,以前道垣内委員から御指摘ありましたような問題があり難しい。神田委員もその二分法には疑義があるとおっしゃっておられました。ただ,不認可の場面に限定してではありますが,公益信託の認可を受けられなくても目的信託として有効にやっていきたいという真摯な思いを持つ方がいらっしゃったような場合にまで,一律に無効とするのは不合理だと考えていて,その部分は深山委員のお考えと一致するように感じます。実をいえば,そこは(注1)のような解釈論でおそらく対処できると思っているのですけれども,今はそうではないという,現行公益信託法2条の解釈として,行政庁の許可がなければ公益を目的とする目的信託は無効であるという解釈がございますので,そうではなくなりますよ,公益目的で目的信託を使うことはできますし不認可処分を受けた場合でもその信託を生かすことは可能であるということを明らかにしておいた方が良い,そのためにゴシック本文に掲げておこうというのが,今回の資料の考え方でございます。
○中田部会長 当初,新井委員が問題提起をされまして,また議論が根本に戻って,様々な御意見を頂きましたけれども,御発言がありました深山委員,あるいはお名前が出ました小野委員は,やはりこの(注2)は,このような形で維持すべきであろうという御意見かと存じます。また,(注2)の特則の内容については,様々あり得ることですので,今の段階では,広く意見を聴くという趣旨で残すということかなと思っておりますが,新井委員,そういうことでよろしいでしょうか。
○新井委員 はい,それで結構です。私としては内容をきちんと確認をしたかったのですが,十分確認できましたので,パブリックコメントに付す内容としてはこれで結構だと思います。
○中田部会長 ありがとうございます。
  ほかに,この点に関して御意見がないようでしたら。小幡委員,お願いします。
○小幡委員 このゴシック全体で,意見というわけではないのですが,1点確認ですが,今も(注)のことがありましたが,裁判所と行政庁との関係として,裁判所が決めてから更に行政庁の認可を得るか,それとも,裁判所が結論を出す前に行政庁に聞くことにするかということについて,2か所ぐらいでしたか,第15の1のウの(注),それと,第13の3の(注)ですかね。その(注)の意味合いですが,これでパブリックコメントに掛けるので,一応もう一つの考え方もあり得るので付記しておいて,広く皆さんの意見を聞くという趣旨であって,これに対して,甲案,乙案となっているのは両論併記という意味で異なる,(注)は,一応これで提案するが,こういう考え方もある,そういうふうに理解すればよいかという確認です。
  その趣旨は,説明資料のところを読めば,結構書いてあると思ったのですが,念のための確認です。
○中田部会長 いかがでしょうか。
○中辻幹事 小幡委員の御理解のとおりです。甲案,乙案は,重要な論点でそれぞれの案を支持する複数の委員幹事の意見が部会で示されていることから両論併記としております。甲案は乙案に比べて許可審査基準を含む現行制度に近いというだけで甲案乙案に優劣はありません。一方,(注)は,ゴシックの本文を支持する意見がこの部会では比較的多数なのだけれども,少数とはいえ委員幹事の一部の方からご提案された,ゴシック本文に反対する考え方や別の視点からの考え方を示しているものでございます。
  この中間試案では,角括弧を使っているところもございます。例えば受託者の辞任の論点で,その辞任の要件をやむを得ない事由とするか正当な理由とするかについてそれぞれ支持する意見があるのですが,そのような論点については,ゴチックで甲案乙案を両論併記するほど重要な論点ではないけれども,両案併記という意味で角括弧を使っているということでございます。
  事務局としては,中間試案をパブコメに付すに際してできるだけ国民がその内容を容易に理解でき意見を述べやすいようにしたいと考えまして,少数意見の委員幹事には申し訳ない思いも持ちつつも,甲乙の両論併記や角括弧の部分はたたき台の時からできるだけ減らすように努力してきました。そして,前回の最後にも,甲乙の分布を見た場合に,比較的分布が多かった案への一本化について御意見をいただきまして,今回の17の1(2),17の2ではゴチック本文の提案を一つにしております。しかし,本文の提案とは反対の考え方や別の視点からの考え方も提示して広く国民の意見を求めることも重要ですし,飽くまで中間試案の段階ですので,その趣旨で(注)に色々な考え方を示しているということになります。なお,18の4,受益者の定めのある信託から公益信託への変更につきましては,事務局としては,部会では乙案支持の方が多かったと認識しているのですけれども,前回吉谷委員から乙案は制度を複雑化するだけで効率化などのメリットもなく反対だが,甲乙両案併記についてまでは反対しないという御意見があり,部会長のまとめで甲乙両案併記を維持しているのですが,受託者の範囲や自己信託の方法による公益信託の設定の可否のような論点とは少し色合いが違うかもしれません。
○中田部会長 小幡委員,よろしいでしょうか。
○小幡委員 はい。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 (注)が甲案乙案として提案されたが,少数な意見だった場合が多いというのは,そのとおりかと思いますのですけれども,第19の2の既存の公益信託の取扱いのところの(注)は,確かに案にはなりませんでしたけれども,補足説明にあるとおり,どのようなやり方がいいのかというのを引き続き検討を要するという事項であるというふうな位置付けで,(注)になっているということだと思いますので,両論併記とならなかった(注)とは,ちょっと違うのではないかというふうに考えております。
○中田部会長 ありがとうございました。
○長谷川幹事 今の点に関連しまして,20ページの同じく第19の2の(1)の(注)のところで,「届出等」ということで,簡易な移行手続について御説明を加えていただき,どうもありがとうございました。
  その上で,2点質問がございます。前回の議論では,旧法適用をそのまま残す考え方を何らかの形で残すべきとの意見が,私も含め,複数の方から出されたかと思いますけれども,これを落とされています。残していただきたいというのが私の意見ではありますが,この段階でございますし,中間試案でもございますので,そこまで強く申しあげることはいたしませんけれども,落としておられる理由を教えていただきたいというのが1点目でございます。
  もう1点は,関連いたしますけれども,補足説明の87ページの(2)の一番最後から2行目において,前回私も言及させていただきまして,「会社法の特例有限会社の制度も参考にしつつ」と書いていただいています。この「参考にしつつ」の意味合いを,もしあれば教えていただければと存じます。
  以上2点,質問でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  補足説明につきましては,後ほどまた時間を設けて,御意見を頂戴しようと思いますので,今の第1点について,現時点ではお答えいただきたいと思います。
○中辻幹事 第19の2の,いわゆる経過措置的な部分についてのゴシックなのですけれども,これも前回,確か道垣内委員がおっしゃいましたとおり,まずは新たな制度の枠組みを固めるのが先決で,それを踏まえて経過措置は考えられるべきものでして,ただ,この部会では当初から今動いている公益信託は改正の際にどうなるのだろうという関心が強かったところなので,当初から論点として挙げておりましたし,中間試案でも掲げております。
  その上で,長谷川幹事から前回御意見をいただきましたように,平成18年の新信託法制定のときには新法信託と旧法信託が併存する形がとられていたわけですけれども,旧法信託的に,旧制度の公益信託を主務官庁制のまま残す,あるいは,みなしというのでしょうか,新たな制度下における公益信託として残すということについては,林幹事や山田委員,新井委員から反対する意見があり,私の把握が間違っていたら申し訳ないのですが,現在の公益信託をそのまま何の手続も経ずに残すことは部会の大勢としてはなっていなかったのではなかろうかと。
  そこで,飽くまで現時点の暫定的な案ではありますし,既存の公益信託についても新たな公益信託法の適用対象とした上で,移行の認可よりも(注)で書きました届出制にする方が支持が多いのかもしれませんけれども,それらの手続を経ることにより新法が適用される公益信託になるという提案をさせていただいているということでございます。
○中田部会長 これまでの検討の結果が,(注)も含めて,こういう形になっているかと存じます。パブリックコメントに付する際に,このような表現でやろうというのが原案だと思いますが,よろしいでしょうか。
  ありがとうございます。
  ほかに,全体を通じて御意見ございませんでしょうか。
○樋口委員 また例によって,あえて一言ということなのですけれども,これでパブリックコメントに出されますね。これを読んで分かるかというと,一番肝心なことが分からない。
  日本では,総論とか各論という区別がきちんとあるわけだから,そういうの大好きですよね。だから,総論として,今回の改正は何を,目的は書いてあるのですけれども,従前の公益信託はこういうもので,それに対して,こういうことを狙って,正に狙いというのですかね。それで,こういうところが変更されているのですという,何か総論的なまとめが1ページあれば,その上で,具体的にはこういうことが提案されていますというような形で提案してくださる方が,ずっと分かりやすいと思うのですけれども,そういうことというのは今までも,こういう法制審議会ではやったことがないものなのでしょうか。
○中辻幹事 私もそれほど法制審のベテランではないので,過去の例をすべて知っているわけではありませんけれども,樋口委員がおっしゃったことはよく分かりますし重要な御指摘であると思います。最近,中間試案がそろそろまとまるということでマスコミの取材を受けるのですね。そのときに,中間試案の総論的な要点,ポイントとして説明している点が3点あり,それらの点については。役所用語でいわゆるポンチ絵みたいのがあると良いと思いまして,今説明のために作っているのです。
  そのポイントの3点をご紹介しますと,一つ目は,公益信託の信託事務及び信託財産の拡大です。現在は許可審査基準等により信託事務は助成型に制限され,信託財産は金銭に限定されているわけですが,不動産や美術品を信託財産として美術品の展示や学生寮の運営などを可能にして,もっと公益信託を広く使えるようにしましょうと。
  二つ目は,受託者の拡大です。現在は,これも事実上信託銀行に限定されているわけですが,信託事務及び信託財産の拡大に合わせた形で,公益の増進のために活動する受託者の担い手を拡大する必要がありますねと。
  三つ目は,主務官庁制の廃止です。もう10年も前に,公益法人の世界では主務官庁制が廃止されており,統一的な認定行政庁が存在しているということなので,公益信託も主務官庁による許可や監督を廃止し,公益信託内部のガバナンスを充実させた上で行政庁の関与はそれを補充するような仕組みにすると。
  ということで,中間試案の補足説明の冒頭にはこれら3点のポイントを記載することを予定しておりますし,国民の皆様に試案のポイントが分かっていただけるような広報活動をしたいと考えております。
○中田部会長 中間試案自体としては,この中身を提示し,説明資料の中で若干,今の改正の趣旨のようなことも入っているかと思いますけれども,しかし,それでもなお分かりにくいかもしれないから,更に今,中辻幹事からおっしゃっていただいたような,分かりやすく制度改正の趣旨を明らかにする広報活動をしていただくということかと存じます。
  樋口委員,そういうことでよろしいでしょうか。
○樋口委員 はい。
○中田部会長 ありがとうございます。
  ほかに,全体を通じて,ございますでしょうか。もしないようでしたら,様々な御意見を頂戴しましたけれども,ゴシック自体については,この原案でパブリックコメントの手続に付すということでよろしかろうというのが,現時点での部会の皆様の御意見と存じます。ただ,本日は,更に時間がございますので,この後,参考資料6についても,御意見や御指摘を頂きたいと存じます。
  そこで,参考資料6についての意見交換の中で,やはりこれは中間試案のゴシックの部分を手直しした方がいいという部分がもしも見付かれば,またそれは必要に応じて検討するということにする,その余地を残しておきたいと存じますので,最終的な御決定は後ほどにしたいと思います。
  ということで,現時点では取りあえず,この形でということで御了解いただけたものと承りました。
  それでは,参考資料6につきまして,事務当局からの説明を伺うというところまでを休憩の前にしたいと思います。
○福崎関係官 それでは,御説明申し上げます。
  参考資料6のタイトルは,「中間試案(案)の説明資料」としておりますが,この部会で決定いただくことになる中間試案を公表し,パブリックコメントに付すに当たり,中間試案とともに公表される補足説明の内容も意識して,事務局で作成したものでございます。
  参考資料6の内容については,これまでの部会の審議において,委員,幹事の皆様から頂戴いたしました御意見や御指摘等を踏まえ,中間試案の提案及び(注)とした考え方の理由や問題点につき,公平に記載することを心掛けております。
  本部会の冒頭でも御説明させていただきましたが,中間試案の補足説明は,民事局参事官室の責任において作成するものでございまして,参考資料6は,その暫定版という位置付けになりますが,委員,幹事の皆様から,もし本日御意見等を頂くことができましたら,それを補足説明にも反映させたいと考え,提示させていただきました。
  なお,参考資料6は非常に大部なものとなっておりますので,事務当局からの説明は,部会資料45の中で,本文の提案とはしないものの,広く国民の意見を公平に聞く観点から,パブリックコメントに付すに際して,その理由及び問題点が明らかになるように努めたいとしていた箇所を中心にさせていただきます。
  まず,参考資料6の第3の2,不認可処分を受けた信託の効力の補足説明でございます。
  部会において,公益信託としての不認可処分を受けた信託について,その信託行為に当該信託を有効とする旨の信託行為の定めがあるときに成立する受益者の定めのない信託については,信託法第11章を適用するものの,一定の事項につき,信託法第11章の特則を設けるべきである旨の御意見がございまして,その中間試案では,(注)の考え方として示していることを踏まえ,その特則の具体例等を示しつつ,問題点についての説明をしております。
  次に,第9の2,「公益信託の受託者の行う信託事務に関する基準」の補足説明でございます。
  部会において,受託者が行う信託事務が当該公益信託の目的の達成のために必要な信託事務であることを認可基準とした上で,その信託事務が収益を伴うことは許容されるという中間試案第9の2の提案の内容をより明らかにすべきである旨の指摘がありましたことを踏まえ,部会資料38でも御提示いたしました,想定される公益信託事務の例の表に記載した美術館の運営や学生寮の運営の具体例を用いて,公益信託の目的の達成のために直接又は間接的に必要な信託事務であれば許容され,公益信託の目的の達成のために必要性を欠く信託事務は許容されないことを分かりやすく説明しようとしております。
  次に,第13,「公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任」の補足説明では,部会において,受託者の辞任・解任に行政庁の認可を必要とする旨の代案の理由として挙げられていた事項を踏まえ,受託者の解任を,受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたこと,その他重要な事由があるときに該当するとして,裁判所の命令がされた場合に限定するのでは,受託者の能力に不足が見られ,かつ,よりふさわしい新受託者候補が存在するような場合においても,裁判所が受託者を解任することはないであろうから,公益信託事務を停滞させるおそれがあるとの問題点の指摘があることの説明をしております。
  次に,第14,「公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」の補足説明でございます。
  新たな公益信託における信託管理人の役割の重要性に触れた上で,部会において,受託者と信託管理人の位置付けの違いや,信託管理人の解任の申立権を受託者に与える考え方があることも明らかにすべきである旨の指摘がされていたことを踏まえまして,受託者に信託管理人の解任申立権を付与することが相当であるとの考え方を示しつつ,信託管理人の申立権を監督される立場の受託者に与えることは矛盾するとの考え方もあることなどから,引き続き検討を要するという説明をしております。
  次に,第15,「公益信託の変更,併合及び分割」でございます。
  まず,第15の1(1)ウの(注)の補足説明では,部会において,行政庁による変更の認可を必要とせず,裁判所が変更を命ずる前に,変更後の信託が公益信託の成立の認可基準を充足するか否かについて,行政庁に意見を聴く仕組みを採用すべきであるとの意見がございまして,それを中間試案では(注)の考え方として示していることを踏まえ,その考え方には,当事者が行政庁と裁判所の両方に行く手間を省けるという利点がある一方で,裁判所の変更命令の判断が困難となる可能性があることなどから,かえって当事者に過度な負担を強いるおそれや,公益信託の変更が遅延するなどの問題点について説明しております。
  また,第15の3の(注)の補足説明では,部会において,裁判所による公益信託の併合・分割命令を認めるべきであるという意見があり,それを中間試案では(注)の考え方として示していることを踏まえ,その考え方には,信託の変更と同じく,信託関係人の合意が調わない場合にも,裁判所という第三者のチェックを経て,信託の併合・分割をすることが可能となるという利点がある一方で,裁判所の私的自治への介入の程度が大きいなどの問題について説明しております。
  次に,第16,「公益信託の終了」です。
  第16の5,「公益信託の成立の認可の取消しによる終了」の(注)の補足説明では,部会において,公益信託の成立の認可を取り消された信託は原則として終了するが,信託行為に認可の取消し後は受益者の定めのない信託として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は受益者の定めのない信託として存続できるものとするという意見があり,それを中間試案では(注)の考え方として示していることを踏まえ,その考え方には委託者の意思を尊重することができるという利点がある一方で,公益信託の軽量・軽装備のメリットを害するおそれがあるなどの問題点について説明しております。
  最後に,第17,「公益信託の終了時の残余財産の処理」です。
  第17の1(2)の(注)の補足説明では,部会において,公益信託の成立後の寄附等により信託財産に加わった信託財産の帰属権利者については,中間試案の本文に掲げたものを指定するものでなければならないとした上で,公益信託の成立時に拠出された信託財産の帰属権利者については,委託者等の私人を指定することを許容する旨の意見がございまして,それを中間試案では(注)の考え方としていることを踏まえ,その考え方の意図には合理性が認められる一方で,税制優遇を伴うことが困難となるおそれがあることなどの問題点について説明しております。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ただいま,部分的にではありますけれども,パブリックコメントに付するに際して,丁寧に説明するという内容について御説明を頂きました。
  この後,この全体について,皆様から御意見,御質問等を頂戴したいと思いますが,ちょっと中途半端な時間になりますので,少し早いですけれども,ここで休憩を15分間入れさせていただきます。3時5分から再開したいと思います。

          (休     憩)

○中田部会長 時間が来ましたので再開します。
  参考資料につきまして,先ほど事務当局から説明をしていただきましたが,これにつきましても,全体を三つに区切って御意見を頂くことにしたいと思います。先ほどと同じように,第1から第7,第8から第14,第15から第19までの区分といたします。
  まず,第1から第7までにつきまして,御意見を頂きたいと思います。
  なお,御意見を頂きますときに,第幾つの何,というのに加えまして,もしできましたら,何ページということまでおっしゃっていただくと参照しやすいかと思いますので,よろしくお願いいたします。
○道垣内委員 16ページの(2)の4行目の「子ども食堂」というのには,何らかの説明が必要なのではないかという気がします。おもちゃの「子ども銀行」というのとは違いますよね。それだけです。
○中田部会長 ありがとうございます。
○神作幹事 11ページの第3の2の(注2)で,(注2)を含めパブリックコメントに付することについては,私も異存ございません。実際に活発に議論され,先ほども議論の対象になっていたところでございます。けれども,説明の方で,具体的には13ページの3の2段落目ですが,特則の例として挙がっているものは,どちらかといえば規制を,今の規律よりも緩和する方向のものだけが挙げられているように思うのです。規律を強化するといったら変ですけれども,例えば,受託者の資格を緩和した場合には,公益財団法人においても一定のガバナンスの仕組みが用意されていることとの均衡からしても,信託は,もしそのようなことがないとすると,受益者も存在しない中,ガバナンスの確保が十分なのかという疑問が生じ得ると思います。目的信託にかかる規律の一部がもし緩和されるということになると,何かそれを補うガバナンスの強化にかかる規律を考えるということが当然出てくるべきだと思いますので,13ページの説明の例を挙げるのであれば,ガバナンスの確保を担保する規律について考える方向の例も挙げていただいた方がよろしいように思いました。
○中田部会長 ただいまのは,13ページの3の第2パラグラフについての御意見でございますね。
○神作幹事 はい。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
  ほかにございますでしょうか。
○新井委員 第4,「公益信託の受託者」のところで,ページでいうと17ページ,(注1)と(注2)について発言したいと思います。
  (注1)については,17ページの(4)のところに説明がなされています。ここの説明の最後から2行目ですけれども,「受託者が従前の運営委員会等と同様の機能を有する機関を任意的に設けることが否定されるものではない。」については,私も全面的に賛成で,法律上,運営委員会等を必置とはしないけれども,任意に設けることはできるという規定については大変結構だと思います。ただ,この書き方,つまり「受託者が従前の運営委員会等と同様の機能を有する機関」ということの意味について質問があります。
  というのは,どういうことかというと,従前の運営委員会についての説明は,その上にありまして,「信託財産の処分について当該公益信託の目的に関し助言を行う」ということになっています。しかし,ここの例にもありますように,美術館とか学生寮の運営を目的とする事業型も許容するということになると,運営委員会の在り方も,もう少し広くなることがあると思います。現に私の経験でも,運営委員会というのは,信託財産の処分よりも,もう少し広い助言をしていることがあります。
  ですから,任意的に運営委員会等を設置するということはそのままにした上で,従前の運営委員会と同様の機能を有する機関というのは,少し狭過ぎるのではないかという印象を持ちます。したがって,少しここのところの文章を修正していただいた方がよろしいのかなというのが,まず第1点目の意見です。
  2点目が,今度は(注2)で,その下,やはり17ページになります。ここでは,「共同受託者は相互にその業務執行を監視する義務を負う」となっているのですが,監視する義務を負うというのは,ちょっと私は強過ぎるように思います。それはどうしてかというと,信託法79条は,共同受託の場合,信託財産は合有であると規定しておりますけれども,旧信託法と異なって,受託者には相互的監視義務というのは負わせていないと私は理解しているからです。ですから,義務というのは,少し強過ぎるように思いますので,ここは,もう少し柔らかい表現にしていただいた方が適切ではないかなと思います。
  以上2点です。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ただいま,3人の委員,幹事から御指摘いただきましたが,これらについて,もし何かありましたらお願いします。
○中辻幹事 子ども食堂は,説明を少し加えさせていただければと思います。
  次に,神作幹事から御指摘がございました(注2)の特則の例示なのですけれども,おっしゃるとおり,今の案に書かれているのは緩める方向の特則しかないのですが,以前,深山委員からも御指摘頂いていたように,信託管理人の必置とか,ガバナンスを強める方向の特則も考えられますので,特則の例を加えさせて頂こうと思います。
  それから,新井委員より御指摘ございました運営委員会につきましては,新井委員の御指摘のとおり,従前の助成型の公益信託であれば,従前の運営委員会で良いのだろうと思います。けれども,今回は新たに事業型というのも想定していることから,その場合には,運営委員会のやることについても少し変わってくる余地があると私も思いますので,表現を修正することも含めて考えたいと思います。
  そして,(注2)の方ですね。信託法セミナーという本でも共同受託者の問題が取り上げられていて,職務分掌の定めがあるような場合を除き共同受託の場合には基本的に相互監視義務があるように思うのですけれども,旧信託法にあった共同受託者の合手的行動義務が新信託法ではなくなったということを踏まえての新井委員の御発言だったと思いますので,少しこちらの方でも考えさせていただきます。
○中田部会長 ほかに,第1から第7につきまして,御意見を頂きたいと思います。
  それでは,取りあえず先に進ませていただきます。
  第8から第14までの間で,御意見,御質問等ございましたら,お出しいただきたいと思います。大部のものですので,なかなか出にくいかもしれませんが,先に進んだ上で,またお気付きの点をと思いますが。
○神作幹事 31ページの第9について申し上げます。「一方」と始まる段落でございますけれども,その5行目辺りなのですけれども,「しかし,公益信託の受託者が収益事業を行うことを許容する場合には,受託者がその収益事業を遂行するために金銭の借入れや売買等の取引を恒常的に行うことから」,会計が非常に複雑になり,そうすると公益信託のメリットが損なわれるという趣旨の記述がございます。他方,17ページのところでは,例えば美術館や学生寮の運営を目的とする事業型も許容するということになっておりまして,本来の公益目的の事業であれば複雑なことはできるけれども,収益事業としてだと複雑なことはできないというのは,説明が必要なのではないかと思いました。
  それから,ついでにもう1点よろしいでしょうか。33ページの表でございますけれども,32ページの文章の説明と併せて読みますと,収益を伴う信託事務が上記②,すなわち,目的達成のために間接的に必要な信託事務として許容されるのか,それとも,目的達成のための必要性を欠く信託事務として許容されないかは,行政庁が公益信託の成立の認可の時点で,計画書等に基づいて判断すると,記載されております。
  ちょっと細かな御質問になりますけれども,例えば②で,美術館内でミュージアムショップやカフェを営業することは,間接的に必要な信託事務だとされています。では,例えば,そこで売っている商品をインターネットで販売することなどは,一体どのように考えるのしょうか。例をお示しいただいているのは,イメージしやすく大変結構なことであると思います。しかし,先ほどのような例で,インターネットで販売することはいいですよということになると,ではなぜ,ほかのお店で売ることはできるのか,依然として限界が不明確であるように思います。
  ②と③について,もう少し詳しく説明をしないと,一体どこまでが許容されて,②と③の境界でございますけれども,なかなかちょっと分かりづらいという面が依然として残るように思います。特に32ページで,行政庁が一体何を基準に,例えば今申し上げたような,インターネットで販売するというような例について,どのように判断することになるのか,教えていただければ幸いでございます。
○中田部会長 ただいまの御質問について,いかがでしょうか。
○中辻幹事 具体例を挙げていただいて大変有り難かったですけれども,インターネットでミュージアムショップにおいて売られるような美術品の販売をすることは,表の②と③,どちらに入るのかという御質問については,今の事務局の整理でお答えしますと,公益,すなわち不特定多数人の利益の増進に寄与するものであるならば,公益信託の目的達成のために直接的又は間接的に必要な信託事務ということになりますので,インターネットでの美術品の販売により美術の普及啓発という公益目的に資するのであれば,②の方に寄せて考えることができるように思います。ただ,逆に,何でも②に寄せてしまうというのもいかがなものかと,それが公益目的に資するとは言えないという事例も,個別の申請では出てくるような気が致しました。
  ついでに申し上げますと,以前,神作幹事や神田委員から御指摘を受けた点を踏まえて,今回の表では,助成型の①の枠に,信託財産である金銭の投資運用を入れたほか,事業型の①の枠に,展示品入替えのための美術品の売却や購入,一時的な金銭の借入れ,いわゆるファイナンスも当該信託の目的の達成のために直接必要な信託事務として入れているのですけれども,これらが直接必要なのか間接的に必要なのかは,截然と分けられない面もございまして,何でも①の枠に入れれば良いのかといえば,そうでもなかろうと,個別具体の事案に応じて,③の枠に入れるべき例もあるように考えています。
○中田部会長 個別的な判断というのは,恐らく行政庁において,具体的な詰めをしていくことになるのだろうと思います。公益法人のときも,一定のガイドラインのようなものが出て,その上で,更に個別については,各委員会や審議会で判断していって,積み重ねがあるのだろうと思いますが,ここで挙げる例として,どのようなものが適切かという観点から,今の神作幹事の御指摘も踏まえて,説明を追加するかどうかということを含めて御検討いただくことになろうと思います。
  神作幹事の第1点の御質問ですけれども,つまり,31ページには,関連しない収益事業を否定する理由として複雑化すると書いてあるのに対して,17ページで,本体の側においては事業型のものも可能であるということで,必ずしも両者の平仄が合っていないのではないか,説明をもう少し付加すべきではないかというのが第1点だったと思いますが,その点についてはいかがでしょうか。
○中辻幹事 失礼いたしました。
  神作幹事の御指摘のとおり,確かに現在の資料では若干,両者で平仄が合っていないところがございます。公益法人と公益信託を全く同じような制度とする必要はないという共通の認識のもとで,この部会は進んできたと理解しておりますが,公益法人では,公益目的事業も収益事業もでき、その行う事業を公益目的事業と収益事業のいずれに位置付けて行政庁に申請するかは,法人の側で選ぶことができます。そして,公益信託でも公益法人で言うところの収益事業を行えるようにするならば,公益法人並びの複雑な制度が必要であるということになるのだけれども,公益信託では公益法人で言うところの公益目的事業,こちらでいえば公益信託事務を行えるようにすれば足りるのであって,収益事業を行えるようにする必要はないと事務局としては考えているところです。
  ただ,そうであるからといって逆に公益信託事務を現在のまま助成型に限定してしまうことも将来的な利用の拡大のためには適切でなく,公益信託事務がある程度収益を伴うことも許容した方が良いと考えていて,そこを手当てするためには,公益法人の仕組みと同じように,事業型には第9の会計的な認可基準,収支相償や遊休財産の基準を必要な範囲で取り入れるけれども,それを超えた複雑な制度にする必要はないし,むしろ相当でないという考え方を取っているのですが,今のような考え方がきちんと伝わるように補足説明の表現を工夫したいと思います。
○中田部会長 今の御説明でよろしいでしょうか。
○神作幹事 はい。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小幡委員 今の関連ですが,例えば33ページの表で,③の「寮生と関係のない一般の宿泊客に対する学生寮の部屋の賃貸」ですが,例えば,たまたまちょっと寮生が入らなくて,空いているので,空いているのは無駄なので,一時的に貸すということはできるのではないかとも思うのですが,今,公益認定との関係,公益認定法人の収益事業と公益事業との関係の説明がありましたが,あちらは結局,公益認定の法人は,そもそも収益事業ができるので,ただ,それを公益事業として申請するか,収益事業として申請するか,いずれにしても,どのような収益事業でもできるので,公序良俗に反するようなのは駄目ですが,収益で儲けてよいという考え方で作っているのですが,今度のこれは,目的達成のために間接的にせよ,少し資すればよいということで,やってよいか,いけないかという,非常に,シビアに決まってくるわけです。公益認定法人の場合は,いずれにしてもできるので,どちらかというと,事業の区分けだけの問題なのですが,こちらはそもそもやっていけないということになると,かなり厳しいことになるので,今まで公益認定法人で考えていた収益事業とか,そういう分類で判断すると,やや狭くなりすぎるのではないかという感じがしているのです。
  ですから,この③のところのも,必ずしも必要性を欠くことにならないかもしれないとも思うので,ここに入れてしまうと,どうですかね,少し狭いような感じが私自身はしていますが。
○中田部会長 そうしますと,具体例について,特に留学生向けの学生寮の運営についての③は,若干異論があり得るだろうということでしょうか。
○小幡委員 初めから,ここを別枠にして,ほかの貸出し方をするというのは駄目なのですが。余りいろいろ書き過ぎると複雑になりますが,おそらく,今年は寮生が半年間は入らないだろうという可能性はあると思うのです。運用を柔軟にすることを認めればよいと思うのですけれども。
○中田部会長 具体的な運用をどのようにするかという問題と,パブリックコメントに付するに当たって,イメージを分かりやすく抱いていただくというのと,若干ずれるところがあるかもしれませんけれども,今の御指摘を受けて,更に御検討いただくということになろうかと思いますが,いかがでしょうか。
○中辻幹事 貴重な御指摘をありがとうございます。
  今の学生寮の空き部屋の話でいえば,ここの③でイメージしているのは,別に空いている,空いていないに関係なく,その学生寮の1階部分を恒常的に寮生とは関係ない人たちに貸し出すような事例を想定していたものでして,小幡委員が言われたような,たまたま出た空き部屋を貸すような事例であれば,③の枠に入らない場合もあるように思います。
  ここでは,例えば,寮生の親御さんとか友達が遠方から訪れてきた。その場合に,その人たちを泊めて良いのかと聞かれれば,それは泊めて良いということを表現したかったものでして,どこまでこの表に書き込むかは難しいのですけれども,小幡委員御指摘のとおり,そもそも収益事業を行うことが認められていて,公益目的事業と収益事業の区別がそれほど問題にならない公益法人とは違いまして,公益信託事務についてはそれが収益を伴うものであっても膨らみを持って行政庁に審査していただくことが肝要だと考えていますので,それがより明確に伝わるような補足説明の表現にできないか検討してみたいと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○小幡委員 もう1点,第15からのところと,少し重なるのですが,先ほど私が(注)のところで申し上げたところで,裁判所と行政庁の役割分担のところですが,57ページから58ページのところと,それから,第15に入ってしまいますが,64ページのところなのですが,裁判所が全部引き受けてしまって,裁判所から行政庁に意見を聞けば足りるという,その(注)のところで利点があるとありますが,確かに,当事者が裁判所だけに出せばよいという利点があって,「もっとも」というところなのですが,「不服申立てとの関係も含めて理論的な整理が必要であるという問題点の指摘」,これは多分,整理というよりは,裁判所がやることになってしまいますので,行政庁が直接出てこないから,そこは整理も何もなくて,直接行政庁に不服申立てはできないということに決まってくると思うのですが,ただ,それを裁判所に対してやるのがおかしいと,そういう意味なのでしょうか。
  それで,もちろんそちらの責任の文書ですから,このまま残してもよろしいとは思いますが,もう一つ,ここでは書きにくいと思うのですが,行政庁に後で行く場合には,行政庁に行政手続法の適用があるので,標準処理期間とか,いつまでに答えなければいけないとか,そういう縛りで行きますが,こういうふうに,裁判所から行政庁に聞くというと,なかなか行政庁から返事が来なかったりすると,ずるずる長くなったりしますよね。こういうシステムは,少しそういうリスクがあるので,もし行政庁に直接行けば,それはそれで,余り遅かったら,なぜ返事が来ないのかとか,直接私人から不服を言いやすいので,そのような切り離したメリットというのもあるとは思うのですね。
  ただ,これは,こういう文書では書きにくい話,実態の話なので,つまり,かえって遅くなるというリスクはあるかもしれない。裁判所にお願いして,裁判所から行政庁に問い合わせたけれども,行政庁のほうからなかなか返事が来ないという,そういう感じですよね。
  そういうことが,実際上の運用ではあるかもしれないので,(注)ではない方がよいのかと思ってはいるのですが,そこまで書くと,行政がサボるということを前提にしているようになるので,書きにくいですが,そういうリスクもありうるかと思っています。
○中田部会長 ありがとうございました。
  57ページから58ページにかけてと64ページにかけて,共通する問題を御指摘いただいたわけですが,どこまで書けるかという問題があるかもしれませんけれども,今の御意見について,いかがでしょうか。
○中辻幹事 小幡委員がおっしゃったとおり,裁判所が一元的に行政庁の意見を聞いて判断するということであれば,それは行政処分ではないので,取消訴訟を提起することは考えられなくて,裁判所の処分に対する不服申立てということになると思います。
○小幡委員 理論的な整理というと,何を言っているのかがちょっと……
○中辻幹事 はい。そこで,では,その裁判所の処分に対する不服申立の手続の中で,なぜ裁判所が判断したことではない,行政庁が判断したことの当否を審査することができるのだろうか,その理由がよく分からないという意味で,理論的な問題点と書かせていただいているのですが,御指摘を踏まえてもう少し敷衍して書いてみます。
  あと,行政の方に裁判所が意見を求めることによって,かえって手続が遅れるという懸念も確かにあるように思いつつ,標準審査期間のように,裁判所が行政庁に対し期限までの回答を確保するための方法はあり得るように感じました。
○中田部会長 ありがとうございました。
  既に15以降にも入っておりますので,それも含めて御意見を頂ければと存じます。
○沖野幹事 長谷川委員からの保留になっていた質問事項があったのではないでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございます。長谷川委員からの御質問で,先ほど保留になっていた,87ページのところですが,念のためにもう一度,長谷川幹事からお出しくださいますか。
○長谷川幹事 87ページの一番下のパラグラフの2の前の行でございますが,「会社法の特例有限会社の制度も参考にしつつ引き続き検討」としていただいております。この,「参考にしつつ」という意味合いを教えていただきたいという質問でございました。
○中辻幹事 これは,前回でしたか,長谷川幹事の方から御指摘があった特例有限会社の制度を,確かに参考になると思いまして掲げさせて頂いたものでございます。
  会社法は,平成17年に商法から独立する大きな改正がされたのですが,そのときに,有限会社法も,会社法に統合されました。その際に,従前わが国で株式会社に次ぐ位置付けを占めていた有限会社をできるだけ生かしていこうという趣旨で特例有限会社の制度が設けられ,特例有限会社については公益法人のように5年の移行期間の実現が設けられているわけではなく,これからも続いていく,ある意味,旧法信託に近い仕組みがございます。
  このような先例も参考とした上で,どのような経過措置がより良いものなのか,引き続き検討していくという意味で挙げさせていただいております。
○中田部会長 今の御説明でよろしいでしょうか。
○長谷川幹事 はい。
○中田部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。第15以降だけでなく,全体を通じてでも結構でございますので,お気付きの点などありましたら,御指摘いただければと存じます。
○林幹事 先ほどの33ページの図について,修正というか,コメントさせていただけたらと思います。下の③に書かれているものについては,私も個人的には,②より上にあたる場合があり得て,この整理が本当にいいのかという問題がありうることは,従前から申し上げていたところです。一方,この資料を作られるにあたって,整理に御苦労されていて,こうなっているという部分もあるので,それも踏まえると,非常に悩ましいとは思っています。
  ただ,先ほど中辻幹事が言われたとおり,必要な範囲で収益事業ができて,それは個別具体的な事案において判断するというところが重要なところだと思います。ですから,②か③かは,事案に応じて変わってくるし,あるいは解釈や状況によって区分が違ってくる可能性があるものだと思います。そういう理解の下に,補足説明のためにこの図が作られている,そういうふうにこの図を読むべきだということを申し上げたいと思います。だから,そういう意味で,この図は暫定的に説明のために書いていただいているのであって,将来的には,これに拘束されるのではなくて,先ほど言われた個別事案に応じて,必要性の中で判断していくから,状況に応じて変化していく可能性のあるものだと,その前提で作られるのだということを申し上げたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  先ほどの小幡委員の御発言とも共通すると思いますけれども,ここに挙げている例というのは,これが絶対的に固定のものではなくて,個別具体的な判断を要するけれども,差し当たって挙げるとすればこういうものだというような,何か留保というか,説明のようなものがあればという御趣旨かと思います。そういったことを工夫していただくということでよろしいでしょうか。
  では,そのように御意見を反映していただくということにしたいと思います。
  ほかに,全体を通じて,ございませんでしょうか。もしないようでしたら,参考資料6についての御意見を頂くというテーマは,この程度にしたいと思います。
  そこで,部会資料45「公益信託法に関する見直しの中間試案(案)」に戻りたいと思います。
  先ほど暫定的に,ゴシック部分について,御了解を頂いたところでございますけれども,ただいまの参考資料6に関する意見交換の結果として,現段階で,ゴシックの部分に何か修正をすべき点がありますでしょうか。特にないということでよろしいでしょうか。
  それでは,ないようですので,部会資料45につきまして,皆様から御了解を頂けたものと承りました。今後,事務当局において,本日の審議の結果を踏まえまして,更に確認等の作業を進めていただくことになります。作業に当たりましては,字句の用法など内容にわたらない細部の修正もあるかもしれませんけれども,それにつきましては,部会長と事務当局に御一任を頂くということで,本日の会議をもちまして,この部会として,中間試案の取りまとめを行ったという取扱いにさせていただければと存じますが,よろしいでしょうか。
○一同 異議なし。
○中田部会長 ありがとうございます。
  それでは,本日の審議をもちまして,公益信託法の見直しに関する中間試案の取りまとめが行われたということにさせていただきます。
  次に,参考資料6ですが,本日様々な御意見をお出しいただきました。それらを踏まえて,事務当局において,中間試案に付する補足説明を作成されることになります。これは事務当局として,その責任で作成されるものですけれども,お出しいただきました様々な御意見が補足説明に適切に反映されるように,事務当局に対して,私からもお願いを申し上げておきたいと思います。このような取扱いでよろしいでしょうか。
  ありがとうございました。
  最後に,次回の日程等について,事務当局から説明をしてもらいます。
○中辻幹事 今後につきましては,皆様から頂いた御指摘を踏まえて,本日取りまとめていただきました中間試案を完成した上で,事務局の方で作成する補足説明とともに,中間試案をパブリックコメントの手続に付すことを予定しております。
  中間試案のパブリックコメントの期間ですけれども,現在のところ,平成30年の年明け1月9日から2月19日までの期間を予定しております。そこでお寄せいただきました一般からの御意見も踏まえまして,3月から,また信託法部会の会議を開催させていただければと思っております。
  次回の日程は,平成30年3月20日火曜日の午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省ですが,まだ部屋は決まっておりませんので,決まり次第御連絡いたします。
  3月以降の部会では,中間試案のパブリックコメントの結果を踏まえて公益信託法の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた御審議をいただくことを予定しております。また,2月中旬には法制審議会の総会が開催されることになっており,その場で,信託法部会の審議状況の報告として,中間試案について中田部会長から総会に報告していただくことを予定しております。
  法制審議会の総会で,この案件について御指摘がありますれば,それも踏まえつつ,来年3月以降の御審議に向けた準備を進めてまいります。
○中田部会長 ほかに何かございますでしょうか。
  それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。
-了-

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