横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(3)」

登記情報[1]の記事から、気になった部分です。タイトルからも分かる通り、この連載記事は(法務局または横山亘登記官への)照会事例に対する回答、照会と回答のやり取りの分析という形を採っています[2]。この記事が不動産登記申請の実務に対して、どのような位置付けで、影響はあるのかがよく分かりません。ただ、登記官が持ち出してくる根拠とする書籍が「元登記官が~」のタイトルであることが時々あります。通達と同程度に扱うことは出来ないと思いますが、実務がこの記事に一定程度従うのかなと少し気になります。

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受益権は債権であり、受益権の譲渡の対抗要件は、民法上の指名債権譲渡の場合と同様、受益権譲渡人が受託者に通知すること、又は受託者が承諾すること(信託法94条1項)、-以下略-

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受益権は受益債権及び信託法2条7項で定める権利です。

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受益者の変更の登記は、あくまでも受益者の住所及び氏名を公示することが目的であって、受益権の譲渡の変動過程を公示することを目的とするものではありません。

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受益者の変更の過程は、公示することが必要であり(不動産登記法103条、記事でも後述されています。)、不動産登記法が目的とするところでもあると思います。

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信託目録に記録されるのは、受益者の氏名住所であり、信託受益権者の氏名住所ではありません。―中略― 筆者は、これを「信託目録の信託受益権登記簿化」と呼んでおり、不動産登記制度の趣旨を逸脱した運用であるとの認識を持っています。

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受益者と信託受益権者が区別されているのですが、信託受益権者がどのような者を指しているのか、よく分かりませんでした。登記簿は登記記録のことだと思います。本記事では、受益権の持分を、信託目録の受益者に関する事項等に記録することについての是非が記載されています。個人的には、持分は記録するのであれば信託目録の信託条項に記録すれば良いと思います。また、私は民事信託にの受益権については、持分を用いるのではなく、信託行為で個数に分割しておくことにしています。

追記:

今日は研修があるのですが、主催者から下のメールをいただきました。

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なお、当日の動画及び資料掲載情報については、無断転載転用の無いようお願いいた します。

また、質問等はQ&Aではなく、当日のご発言にてお願いいたします。当会は約2時間 の中で議論をすることにより理解を深めるための勉強会です。講演会ではありませ ん。(このような趣旨から、当日の議論の動画はHP掲載をせず、公開することもあり ません。)

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「なお、当日の動画及び資料掲載情報については、無断転載転用の無いようお願いいた します。」は、私に向けてかもしれません。引用のつもりですが、無断転載と捉えるなら指摘して欲しいと思います。

「質問等はQ&Aではなく、当日のご発言にてお願いいたします。当会は約2時間の中で議論をすることにより理解を深めるための勉強会です。」には賛成です。ただ、資料共有やチャットで聴講者同士が議論することは勧められても良いのではないかと感じます。何故かというと、2時間の中で全員が発言して議論を深めることは、難しいと感じるからです。テキストによる議論の方が有効である場合があります。参加者が聴講のみの方を含めて50名以上います。画面上の発言+使える機能は全て使って2時間を有意義に過ごす方が良いのかなと感じます。参加される方も、チャットへ質問を書き込んで、講師(テーマ設定の方)の返答を待っている方がいるのですが、他の会員の意見を聞いて返信する姿勢もあると、横の繋がりも出来るし、もう少し活性化するのではないかなと感じます。

 でも、コロナ禍がなければこのようなライブ配信によるオンライン研修が開催されることはありませんでした。動画も公開されず、資料も公開されたりされなかったりが、2019年までの状況です。オンラインのライブ配信研修は、財政的に可能です。


[1] 706号 2020年9月 きんざいP9~

[2] 登記情報704号、2020年7月きんざいP25

渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執務指針案100条(3)」

「市民と法」[1]の記事から、気になる部分です。

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第55条 受託者と任意後見人の兼務 解説部分

―略―しかし、昨今、受託者と任意後見人は、受益者保護という同じ方向を向いているのだから兼任可能であるという意見が主に弁護士側からいわれるようになっている。この点、どちらの見解が正しいか否か、という問題以上に認識すべき重要なことは、民事信託分野では、議論が対立するうえ、意見のトレンドが数年ごとに推移する論点も少なくない。論者の価値観にもかかわる。かような見解の多様性は、信託契約書の起案内容にも直接的に関係し、現段階では標準形が存在し得ないゆえんである。

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 多数意見が数年で変わる、というのはあるなと感じます。平成23年(2011年)の(一社)民事信託推進センターの実務入門講座では、受託者を一般社団法人にする場合、理事の1人に司法書士が就任するという事例が紹介されています。他にも、遺言信託の事例を紹介しつつ、成年後見制度に触れていない資料もあります。その当時、私も違和感を感じなかったのだと思います。今年2020年の実務入門講座では、任意後見人の代理権から受託者の任務を外す、というような考えも出てきました。信託契約書の受託者の任務を、詳細にするか限定するかになると思いますが、そのような考えもあるのだなと感じました。

指針案の

・正当事由の有無

・牽制構造の有無

・予防策の有無

・情報提供

は、個別具体的に、定期的にチェックする必要があると感じます。やっていると難しいですが、最初の任意後見契約の締結部分と、相談から信託期中、信託終了までの情報提供は出来るように努めたいと思います。

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第56条 「信託口」口座 解説部分

―略―信託の独立性や倒産隔離等の信託の効果は、受託者が受益者が訴訟で主張すればよいという助言は、支援者が、訴訟で現に支援できることが前提の助言である。実際に訴訟を提起せざるを得ない状況となった場合、司法書士は、どのようにして、認知症が進行した受益者を支援できるのだろうか。

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 私の個人的な予想ですが、受託者名義の預貯金口座で良いと断言する専門家の中では、受益者の支援という観点はなく、受託者が第三者異議などを申し立てることを前提にしているのだと思います。

 ただ、受託者が申し立てることのみを考えると、信託財産に(仮)差押え申立てをされる受託者って大丈夫なのかな、受託者の固有財産に対して(仮)差押えの申立てをされる受託者って大丈夫なのかなと感じます。税金をうっかり払い忘れていた場合でも、大丈夫かなと感じてしまいます。また、事例によりますが、信託財産に(仮)差押えの申立てを受けた受託者が第三者異議などの申立てを行うよりも、受託者を交代してから申し立てる方が良いと思います。その際、受託者を交代する権限を持つのは誰にするのか、考えてみる必要がありそうです。

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第59条 公正証書化の助言 解説部分

―略―最近は、信託に詳しい公証人も増えつつあり、信託の有効な成立や信託内容の適法性の確認を協働しうるとともに、司法書士と公証人という専門家間の連携と牽制という側面も重要である。

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 一度だけあったのですが、ある事例で公証人と何度かやり取りさせていただき、結果として私の案が修正されることになりました。その時、「もう少し時代が進めば理論的には出来るから、もう少し待ってて。」というようなことを言われたことがありました。個人的に、頭ごなしに否定するのではなく、牽制しつつも連携できる、このような話が出来る公証人が増えて欲しいと思います。


[1] №125号2020年10月号 民事法研究会P3~

リーガルテックNews Pickup 10月2日版


・株式会社サピエンス
金融庁パブコメの全文・横断検索サービスを「LION BOLT」で提供開始
https://lp.sapiens-inc.jp/finance_compliance_riskmanagement


月10万円~

・株式会社クラウドサイン
“印鑑不要”の電子契約サービス 提供企業に相談相次ぐ
4月は6500社と契約。これまでは紙を使うことが多い金融機関や不動産業との契約が多かったということですが、最近はユーチューバーなどとの契約も増えてきている、とのこと。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200927/k10012636441000.html
クラウド型の電子署名サービス。民間企業なので、保険などをかけているのか気になります。
メールの送受信が当事者に残っていれば、契約などが無効になることは少ないのかなと感じます。

・NTTデータ、「サイバー攻撃の痕跡」をアナリストが調べる新サービス
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2009/28/news148.html
「情報処理安全確保支援士」という国家資格を初めて知りました。
これからのニーズはあるように感じます。

・「禊」のツールとなった「第三者委員会」再考
報告書の格付け委員会設置
https://news.nifty.com/article/economy/economyall/12280-808481/
「第三者」だと何が良いのか、考えるきっかけになるのかなと感じます。

・テレワークに伴う個人情報漏えい事案と対策を紹介(個人情報保護委員会)
https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/telework/・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以前も紹介しましたが。
https://politylink.jp/about
内容としては、「金融庁パブコメの全文・横断検索サービスを「LION BOLT」で提供開始」に近いと思います。

「受託者の任務終了事由と予備的受託者」

「家族信託実務ガイド」の記事[1]から、気になった部分です。

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「受託者の判断能力が低下したとき」「受託者が認知症と診断されたとき」というような受託者の任務終了事由もみかけることがあります。(略)受託者の意思表示を待たずに自動的に任務を終了させたい意図は理解できますが、信託不動産の実務については、後継受託者の名前を登記簿に記載する手続きに際して、旧受託者と新受託者が協力して登記手続きを行う必要があるので、旧受託者が自主的に「辞任」することと手続き上何ら変わりはないものと考えます。

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現在「登記簿」はないというところは措きます。

「受託者の判断能力が低下したとき」「受託者が認知症と診断されたとき」という条項を私は置かないのですが、判断能力の低下は徐々に進み、認知症も軽いうちに診断されるという理解です。その際に不動産登記申請の意思表示が出来なくなるかというと、信託行為に記載していることと照らして、当然出来ないという判断は出来ないと思いました。信託行為の当事者ではない第2次、第3次受託者に関しても、信託行為に同意の上で就任してもらうので、この考え方は変わりません。

不動産登記の申請手続きについて、受託者の辞任と解任では、手続き上変わりがあると思いました(信託法57条1項、58条1項)。

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また、予備的受託者の有無に左右されないように、受託者が単独の判断で辞任できるような条項を置くことも検討に値するでしょう。

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このような場合に不動産登記申請手続き上、どのようになるのかなと感じました。

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予備的受託者として指定されたとしても、その方に順番が回ってくるまでは、

何らの責任も義務も生じませんし、嫌ならその時点で就任を拒絶することも可能ですので、信託契約書で指定されること自体にリスクは全く生じません。

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法律上は妥当なのかなと思いますが、社会生活上、心理的な圧迫を受ける可能性があると思います。

受託者の固有財産が少ない信託が効力を発生した後、信託財産責任負担債務が増加した場合で受託者の任務が終了したとき、就任承諾前でも信託債権の債権者や受益者は、予備的受託者に指定されている人に請求するか、債務引受を求めるか、信託財産管理命令を申し立てるかを行うと思います。リスクは全く生じない、ということはないのではないかと感じます。

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家族信託の組成にかかわった法律専門職を信託契約書の中で予備的な清算受託者として指定していくことが現実的でしょう。

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ここは私も分かりませんが、清算受託者に法律専門職が就任することが出来る根拠条文を示した方が良いのではないかと思いました。

会社の清算人に司法書士が就任出来ること(会社法478条)と比較して、信託の場合、信託財産に不動産があると登記記録上、受託者として法律専門職の住所氏名が記録されることになります。清算の文字は付かないので、信託業法2条違反ではないことの根拠が必要ではないかと感じます。信託財産である預貯金口座についても、受託者〔司法書士氏名〕になると思うのですが、一旦自身の氏名に変更するのか気になります。


[1] 2020年11月第19号、P60~

PolityLink/Social Hack Day Online ver. #19

PolityLink?。初めて知りました。使ってみると、軽い、分かりやすい。

https://github.com/politylink

https://politylink.jp/

Social Hack Day Online?。初めて参加しました。午後からだろうと思っていたら、午前中からやっていたようです。スケジュール管理ミス。でも試しにzoomに入ってみると、色々なプロジェクトを案内してくれました。

https://hackday.code4japan.org/

その中で、偶然入ったお部屋がPolityLinkのプロジェクト部屋。今回は、2020年通常国会で提出された法案について、通称を付けてGoogleスプレッドシートに記載していきました。

法律の名前と一般の人が使う用語が違っている場合に、検索で辿り着きやすいように(例えば、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律は、電話リレーサービス法)。

参加して感じたこと

・最初に参加したところがここで良かったなと感じました。それは仕事と繋がりのある法律関係だから、ではなくて人が良かったからです。githubからの反映など仕事も速かったですが、どんな初心者的な質問でも聴いてくれました。

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