家族信託の相談会その57

お気軽にどうぞ。

2023年7月28日(金)14時~17時

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円

場所

司法書士宮城事務所(西原町)

要予約

司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

加工「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題」(2023年6月)

加工「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題」(2023年6月)

金融庁

https://www.fsa.go.jp/news/r4/20230630/20230630.html

2「実行を容易にするツールを根絶する」ための対策

(4) 預貯金口座の不正利用防止対策の強化

 不正に譲渡された預貯金口座等が、犯罪者グループ等内での金銭の授受等に用いられている実態がみられるところ、預貯金口座に係る顧客管理の強化を図り犯罪への悪用を防止するべく、業界団体等を交えた検討を行いつつ、犯罪収益移転防止法により求められている預貯金口座利用時の取引時確認や金融機関による顧客等への声掛け・注意喚起を徹底・強化するなどの対策を推進する。

 また、犯罪収益移転防止法等で定められている本人確認の実効性の確保のため、制度改正を含め、非対面の本人確認においてマイナンバーカードの公的個人認証機能の積極的な活用を推進する。

(2) デジタル技術を活用した取引時確認手法(e-KYC)におけるリスク

 e-KYC(electronic Know Your Customer)とは、オンラインで完結する本人特定事項の確認方法の通称であり、2018年11月の犯罪収益移転防止法施行規則の改正・施行により、同規則第6条第1項第1号ホからトなどの方式が新たに認められた。近年、金融機関では、顧客から写真付き本人確認書類の画像と本人の容貌の画像の送信を受ける方法(同号ホ)が多く用いられている。なお、金融機関が、e-KYCを実施するに当たっては、申し込みのあった顧客について本人であることの確認や本人確認書類の精査等の本人確認手続の一部を、1件当たり数百円などの単価で他の企業に委託していることが一般的である。

 しかしながら、金融機関が、当該e-KYC業務の委託先に対して、適切な研修や指導を実施しなかった場合や、本人確認手続の一部を受託した事業者が適切な確認作業を実施していない場合、委託先におけるe-KYC業務が適切に実施されず、適切な取引時確認がなされないリスクがある。

 また実際に、金融機関の顧客が、e-KYCにおいて偽造した運転免許証等を用いて口座を開設しようとした事例も発生している。偽造した本人確認書類等で作成された口座は、特殊詐欺の犯行グループ等により、マネロン等に悪用されるおそれがある。

 このような点を踏まえ、金融機関においては、e-KYCを他の企業に委託している場合には、e-KYCが法令等に基づき適切に実施されることを確保するため、委託先の定期的なモニタリングや最近の検証実績の確認、e-KYCの悪用事例を踏まえた検証態勢の高度化の検討等の措置を講じることが重要である。

 また、e-KYCを利用するに当たっては、偽造本人確認書類を検知できるよう適切な検証機能を整備し、不正な口座開設申請を検知した場合には、警察庁への通報や疑わしい取引の届出を行うことが必要である。利用するe-KYCの手法についても、利用者の真正性がより確認しやすいマイナンバーカード等に搭載されている公的個人認証機能による本人確認方法(犯罪収益移転防止法施行規則第6条第1項第1号ワ)等を検討することも考えられる。

 いずれにしても、各金融機関においては、e-KYC等が悪用され、自社の金融サービスを不正利用されない為の対策を講じることが重要である。

イ 地域金融機関の現状と課題

(イ) 継続的な顧客管理

 継続的な顧客管理の実施に当たっては、自らが抱える全顧客のリスク評価に応じた中長期的な行動計画を策定した上で、その進捗を管理しながら着実かつ丁寧に対応を進めていくことが重要となる。しかし、以下のとおり、一部の金融機関においては取組状況に遅れが認められた。金融庁としては、2022年3月公表の改訂FAQにおいて、改めてSDDの考え方について留意点を明確化する改訂を行っており、引き続き、検査・監督のほか様々な意見交換会や研修・勉強会といったアウトリーチ(金融機関に対し、対策の必要性とあり方について働きかけを行う取組)を通じて、顧客情報の更新を含む継続的な顧客管理に関する態勢整備を促している。

【取組に遅れが認められる事例】

・ リスクに応じて提供できない商品や確認すべき事項を定めた顧客受入方針を策定していない。

・ 犯罪収益移転防止法施行規則第7条に定める本人確認書類に加え、顧客及びその実質的支配者について調査する事項及びリスクに応じ、具体的にどのような公的な書類(経歴や資産・収入等を証明するための書類等)をいかなる場合に「信頼に足る証跡」として顧客に求めるかを検討していない。

・ 顧客の本人確認事項、取引目的等や、実質的支配者の本人確認事項について、いかなる場合にどのような情報を調査するのか、犯罪収益移転防止法に定められている内容にとどまり、リスクベースの対応が規程等に定められていない。

・ 制裁対象者リストの照合手順は定まっているものの、該当候補者がヒットした場合の判断手順が具体的に定められていない。

・ 具体的な高リスク顧客の範囲を明確に定めておらず、的確に検知する仕組みが出来ていない。

・ 高リスク先と判断された顧客以外の顧客について、高リスク先と判断された顧客と類似又は共通する項目等がないかを確認していない。

・ 過去に疑わしい取引を届け出た対象顧客を高リスク顧客として管理していない。

・ 生活口座(給与振込口座、住宅ローン返済口座、公共料金等の振替口座)については、一律SDD対象としている。

・ 顧客リスク評価に影響を与える事象が発生した場合に顧客リスク評価の見直しが行われていない。

・ 国籍や業種等一つの要素のみを理由として、特定の国籍・業種の顧客に対して一律に謝絶することとしている。

【取組が進んでいる事例】

継続的顧客管理(DM送付)への対応について、県内の金融機関はもとより、隣接県内の金融機関、行政機関、銀行協会及びマスコミ等と連携した上、マネロン対策会議を開催し、共通チラシの活用等を通じて県民への理解・浸透を図ることにより回答率の向上を目指している。

・ 自社におけるリスクの特定・評価の結果を踏まえ、取引開始時及び継続的取引における「顧客受入に関する方針」を策定し、取引類型・顧客属性ごとのリスクに応じた対応方針を定めている。

店舗の所在地との地縁の有無等を法人顧客の口座開設における判断基準の一つとしている。

・ 犯罪収益移転防止法施行規則第7条に定める本人確認書類に加え、顧客及びその実質的支配者について調査する事項、及びリスクに応じ具体的にどのような公的な書類(経歴や資産・収入等を証明するための書類等)をいかなる場合に「信頼に足る証跡」として顧客に求めるかを検討の上、一覧表に取りまとめ、実施手順等を規程等に定めている。

→規定について、起業する者がどの位の期間で口座開設出来るのか、分かる範囲で公開する必要があると考えます。

・ 注意コードを設定することなどにより高リスク顧客であることが営業店の端末でも把握できるようにされており、必要なEDDを漏れなく実施することができる仕組みを構築している。

・ 全ての顧客に対して顧客リスク評価を付与し、顧客リスク評価に応じて情報更新の頻度や取引モニタリングのシナリオ・敷居値を変更するだけでなく、顧客の事業内容等を踏まえ、実態に即して、追加的なリスク低減措置を講じている。

・ 規程等により頻度を定めた上で、高リスク顧客の属性や取引形態等を分析し、共通点がみられる項目については高リスク要素として顧客リスク評価ロジックや取引モニタリングルール等に機動的に反映している。

・ 過去に疑わしい取引を届け出た対象顧客について、届出内容に応じ、高リスク先と特定・評価し、システム上でフラグが立つ等の情報共有態勢を構築している。

・ SDD対象とした顧客についても、取引振りや高リスク顧客との関係性等を考慮して必要に応じてSDD対象外としている。

・ 顧客リスク評価を、リスクに応じた頻度で定期的に見直すだけでなく、顧客において、経営戦略の見直し、新規事業の開始、合併・買収、実質的支配者の変更、資金移動のパターンの顕著な変化、ネガティブ・ニュースが報道された等、顧客リスク評価に影響を及ぼすような事象が発生した場合には、直ちに、実態把握を行い顧客リスク評価の見直しを行うこととしている。また、リスク評価に影響を及ぼす事象の検知方法、判断基準、手続等を事前に文書化し、第1線を含む関係部署に周知徹底している。

・ 顧客に提供している商品・サービス、顧客属性等も踏まえつつ、リスクに応じて、複数のリスク遮断の方法を検討している。

4.マネロン対策等に係る業務の共同化

 法律・会計等専門家が行う取引時確認事項については、司法書士等、行政書士等、公認会計士等及び税理士等に対して、顧客に本人特定事項を確認する義務のみが課されていたが、これを改正し、取引を行う目的、職業・事業の内容、法人の場合にはその実質的支配者の確認を求めることとした。また、改正前は、法律・会計等専門家には、疑わしい取引の届出義務は課せられていなかったが、行政書士等、公認会計士等及び税理士等においては、守秘義務に係る法律の規定によって漏らしてはならない事項が含まれる場合を除き、疑わしい取引の届出が義務付けられたほか(司法書士等については、会則で代替措置が設けられる予定。)、リスクの高い取引については、疑わしい取引の届出判断として、資産・収入の状況を確認する義務が課された。

(3) 実質的支配者リスト制度に係る連携

 マネロン対策等においては、法人の悪用防止のため、実質的支配者(Beneficial Owners:以下、「BO」という。)の確認が重要とされており、犯罪収益移転防止法においても、法人顧客の実質的支配者の確認が義務付けられている。

 2022年1月31日より、法務省により実質的支配者リスト制度(以下、「BOリスト制度」という。)が開始された。これは、全国の商業登記所が、株式会社等(利用者)が提出した自社の実質的支配者に関する情報が記載された書面(実質的支配者リスト。以下、「BOリスト」という。)を確認した上で、その写しを交付する制度である。BOリストの写しを活用することで、確認手続の円滑化が期待されるものであり、金融庁においても、法務省と連携し、所管業界への周知や制度の活用を呼び掛けている。

 BOリストの写しについては、一部の地方銀行においては、法人(非上場株式会社)の新規口座開設の際に、口座開設を希望する顧客に依頼して、法務局での取得と銀行への提出を依頼しているなど、積極的に活用されている事例もある。BOリストの写しは、法人顧客の実質的支配者について確認を行ったことの証跡として使えるものであり、より多くの金融機関において活用されることを期待したい。

 また、BOリスト制度については、一般社団法人金融財政事情研究会により「商業登記所における実質的支配者リスト制度の利便性向上に関する研究会」59が立ち上げられ、2023年5月から議論が開始されている。全国銀行協会及び全国地方銀行協会などがメンバーとして議論に参加しているほか、法務省、財務省及び金融庁もオブザーバーとして参加し、制度の更なる活用に向けた利便性向上策について検討を行っている。

信託契約書の条項への指摘と回答

・公証センター等に信託契約書案を送信した場合に、第1条に契約の趣旨規定を追加される場合がある。第2条を目的規定とする場合の整合性について。第1条で受託者の義務は,「信託財産の適正な管理、処分を行う」となっているが,第2条の信託目的には,管理、処分に加え「運用」もあるので、本項にも「運用」を加えるのが相当。

・・・よく分かりませんでした。

・追加信託は、信託設定及び信託の併合の手続きに従って行うことになる(弁護士ひまわり信託研究会伊庭潔編著『信託法からみた民事信託の手引き』日本加除出版株式会社、P68。)。信託法上、追加信託に関する規定はなく、一般的にはその法的性質を新たな信託設定と信託の併合を同時に行うものであり、追加信託は信託設定及び信託の併合の手続きに従って行うことになる(弁護士ひまわり信託研究会伊庭潔編著『信託法からみた民事信託の手引き』日本加除出版株式会社、P68。)。よって、信託契約における追加信託としての新たな信託の設定は、契約行為である以上、受益者が行うのではなく、委託者と受託者の合意が必要になるので修正が必要。

・・・信託契約書中、委託者の地位の条項において、委託者の地位のうち、追加信託する地位について、受益者に移転しています(信託法146条、道垣内弘人『信託法〔第2版〕現代民法別巻 (現代民法 別巻)』、2022、有斐閣、P410~)。なお、金銭の追加信託は可能ですが、不動産登記はその申請構造上、受益者のみで追加信託の登記申請を行うことは不可能です(不動産登記法60条。)。

当初受託者乙の住所や氏名は、本旨外要件に記載されるので単に乙でよい。

・・・公正証書として読み上げるときに、委託者、受託者、受益者その他の関係者に、甲、乙、丙などと記載されると、各当事者が分からなくなってしまうことが多いです。信託契約書の条項数が、遺言公正証書などと比べて長いこともあります。依頼者との読み合わせは、公証人から返信が来た場合の甲や乙などは、全て氏名に読み替えます。

・受託者の任務終了事由として、受託者が唯一の受益者となったとき。ただし、1年以内にその状態を変更したときを除く。について。

不要。条項の趣旨は、信託目的にそぐわない、受託者が唯一の受益者として受益権を享受する状態が1年間継続した場合に受託者の任務を終了させようとするものと考えられる。そのような状態が1年間継続した場合は、受託者の任務だけでなく、本信託自体の終了事由(信託法第163条第2号)になる。本号のような記載では、受託者の任務が終了するのが、唯一の受益者となったときなのか、その後1年経過後かが不明確。つまり、上記1年間の任務は、当初受託者が担うのか、それとも第2次受託者などの後継受託者が担うのか不明。

→条項の趣旨は、信託目的にそぐわない、受託者が唯一の受益者として受益権を享受する状態が1年間継続した場合に受託者の任務を終了させようとするものと考えられる。について・・・その通りです(信託法8条)。

そのような状態が1年間継続した場合は、受託者の任務だけでなく、本信託自体の終了事由(信託法第163条第2号)になる。について・・・その通りです。

本号のような記載では、受託者の任務が終了するのが、唯一の受益者となったときなのか、その後1年経過後かが不明確。つまり、上記1年間の任務は、当初受託者が担うのか、それとも第2次受託者などの後継受託者が担うのか不明。について・・・受託者の任務が終了するのは、唯一の受益者となり、1年以内にその状態を変更しなかった場合であり、明確です。当初受託者とも第2次受託者とも特定していないので、どちらにも適用され、不明とはならないと考えられます。

・任務終了した受託者の義務についての条項における、任務が終了した受託者(その相続人のほか、信託財産を管理すべき者を含む。)は、後任の受託者が信託事務の処理を行うことができるようになるまで、受益者への通知、信託財産の保管その他の必要な事務を行う。について

 必要性が不明。信託法第59条及び第60条記載の前受託者等の義務を記載したものと思われるが、以下のような疑義がある。受託者以外に信託財産を管理する者とはだれを指すのか(すなわち、信託法第63条、第64条による裁判所の選任による信託財産管理者を指すのであれば、受託者や相続人の職務遂行を認めるべきではないし(信託法第66条第1項)、それ以外の存在を想定しているのであれば、信託法第2条第1項の「信託」や同条第5項の「受託者」の定義に反すると考える。

・・・受託者以外に信託財産を管理する者とは、相続人、任意後見人、法定の成年後見人、保佐人、破産管財人、信託財産管理者を指します(信託法60条2項、4項、63条から72条まで。)。全てを記載する修正が必要だと考えられます。

受託者の任務終了事由(ただし,死亡及び後見又は保佐開始の審判のみ)を知っている相続人の通知義務違反については、過料の制裁(信託法第270条第1項第1号)があるところ、本項の記載では上記事由を知らない相続人にもそのような義務を課するもので相当ではない上、上記死亡等以外の事由による任務終了の場合の受託者との間で競合が生じてしまうことは相当とは考えられないこと。信託法によればよく、削除か、記載するのであれば,法令に準じた記載にするのが相当、について

・・・別の条項で、次順位の受託者が、死亡、後見開始、保佐開始により任務が終了した場合の受託者の相続人へ通知する義務を定めています(信託法60条1項の変更。)。相続人は通知により知り得るので、義務を課すのが相当ではない、とはいえないのではないかと思われます。

・受託者の任務終了により、受託者に指定された者が、本信託の利害関係人による催告から1か月以内に受託者に就任しない場合は、受益者は新たな受託者を定める。について。

  削除相当。本項は受益者に新たな受託者の指定権を認めた規定と解されますが、同指定権については、同条第3項に記載されており、本項の規定は、それと矛盾する。本信託は自益信託なので、本項の記載がなくても、本項第3号の信託法の規定、具体的には同法第62条第1項により、委託者兼受益者たる甲が新受託者を選定できることは明らかだからです。

・・・催告から1か月以内という期間については、信託法62条1項に記載はないので、必要な条項だと考えられます。

・後任受託者は、前任の受託者から受託者としての権利義務を承継し、次の各号に記載する必要な事務を行う。

(2)前受託者の任務終了が辞任による場合を除いて、必要な場合の債務引受け。について。

必要性に疑問。特に第2号については、信託法第76条第2項によれば、新受託者が履行義務を負うのは、「信託財産に属する財産のみ」であって、固有財産によって履行義務を負うのは、前受託者(同法第1項)だから。本項も、信託法第75条以下の規定によればよく、記載するのであれば、法令に準じた記載にするのが相当。

・・・金融機関から信託借入れを行い、受託者が債務者となっている場合を想定しているので、必要だと考えられます。

・本信託の第1順位の受益者は、次の者とする。

2 各受益者の死亡により受益権が消滅した場合、受益権を原始取得する者として次の者を指定する。について、

本信託では、第1受益者が2名いるところ、本項により、第2受益権を取得するのは、上記両名が死亡したときに全ての受益権を取得する趣旨なのか、それとも1名が死亡したときにそれぞれの受益債権を原資取得する趣旨なのかを明確にしてください。また、○○の死亡は、信託の終了事由となっているのに、信託契約の継続を前提とする本規定が存するのか意味不明。

→各受益者、との記載があり、1名が死亡したときに受益権を原始取得するのは明確だと考えられます。甲の死亡は信託の終了事由となっています。残余財産の帰属権利者の条項と、受益者の記載を一致させるために第2順位の受益者を定めているので、信託契約の継続を前提とはしていませんし、意味はあります。

・受益者に関する条項

3 次の順位の者が既に亡くなっていたときは、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。

4 受益権を原始取得した者は、委託者から移転を受けた権利義務について同意することができる。

5 受益者に指定された者又は受益権を原始取得した者が受益権を放棄した場合には、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。

6 受益者に指定された者が、指定を知ったとき又は受託者が通知を発してから1年以内に受益権を放棄しない場合には、受益権を原始取得したとみなす。について。

意味不明。

・・・信託法29条、31条、90条1項1号、91条、99条。民法986条、987条。信託法91条の読み方として、道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P385、道垣内弘人『条解信託法』2017弘文堂P476、477、法制執務委員会『ワークブック法制執務』2007ぎょうせいP642。西村志乃「民事信託と裁判上のリスク」『信託フォーラムvol.6』2016日本加除出版P33~は、利益相反状況と表現する。

・受益者代理人に関する条項

受益者代理人及び信託監督人の変更に伴う権利義務の承継等は、その職務に抵触しない限り、本信託の受託者と同様とする。

意味不明。受益者代理人等に、受託者のような債務の弁済、引受、費用の清算。信託財産の引継等信託事務の引継があるのか不明な上,これらの者の事務引継ぎは,信託法上の定め(第135条第2項,第142条第2項)によるべきと考える。について。

・・・その職務に抵触しない限り、との文言が入っています。

・委託者は、次の各号の権利義務を受益者に移転する。

(1)信託目的の達成のために追加信託をする権利義務   

(2)受益権の放棄があった場合に、次の順位の受益者又は残余財産の帰属権利者がいないとき、新たな受益者を指定することができる権利。について

委託者と受益者は異なる概念(信託法第2条第4項,同法第6条)であることから、権利義務は当然異なるはずなのに、その移転を認めていること、本信託における第一受益者は2名いるにもかかわらず、それらの者たちの関係が不明であることなどからすると,違法ないしは必要性に疑問があります。

・・・信託法146条。道垣内弘人『信託法〔第2版〕現代民法別巻 (現代民法 別巻)』、2022、有斐閣、P410~は移転を認めています。受益者と記載していますので、受益者2名となります。関係が不明と考えることは出来ません。よって、違法と考えることは難しいと思われます。

・受託者は、信託金銭について、次の信託事務を行う。

(1)受託者固有の財産と分別して管理。について

本条項は、信託財産の管理方法を定めた規定であることからすると、信託金銭の分別管理方法(通常は、信託口口座の設定)をも定めるべき。

・・・信託口口座を開設出来ない金融機関用です。

・受託者は、信託目的の達成のために必要があるときは、受託者は受益者甲の承諾を得て金銭を借入れることができる。について

  本項の趣旨は、借入債務を信託財産責任負担債務とする趣旨と解されますが、疑問。まず、前段については、受託者の借入を想定した規定と解されますが、その場合には受託者は、その固有財産によっても履行義務を負う(信託法第21条第2項の反対解釈)のですから、受益者の承諾を要件とする必要はない。受託者は、信託目的を達成するためならば、信託財産の売買等の処分をもできるはずなのに、なぜ担保権の設定等に受益者の承諾が必要なのか不明です。本項の記載は、権限濫用防止のための縛りと思われますが、それは〇条第〇項と同様「信託の目的を達成するため」によって図るべき。

・・・受託者がその固有財産によっても履行義務を負うとしても、信託財産も履行義務を負うのであり、受益者の承諾が不要となる理由にはならないと考えらえます。受益者が借入れをして得た金銭は、当然には信託財産とはならないので、信託財産とする、という記載を入れています。

 受託者は、信託目的を達成するためならば、信託財産の売買等の処分をもできるはずなのに、なぜ担保権の設定等に受益者の承諾が必要なのかというと、売買については売却代金が信託財産となって入ってきますが、担保設定については支払いが滞った場合に信託不動産が強制執行にかけられるリスクがあるからです。

(信託事務に必要な費用)

・信託事務処理に必要な費用は次のとおりとし、受益者の負担により信託金銭から支払う。信託金銭で不足する場合には、受託者と受益者甲との個別合意により、その都度、又はあらかじめ受益者に請求することができる。について。

 信託金銭(信託財産)は、本来、受託者に属する財産(信託法第2条第3項)ですから、「受益者の負担」とすることはできないはずです。

・・・信託法48条1項、2項により可能です。

・(信託の終了)

本信託は、次に掲げる各号のいずれかの場合に終了する。

信託財産責任負担債務につき、期限の利益を喪失したとき。について

 必要性について疑問。すなわち、例え受託者の任務懈怠等によって期限の利益を喪失したとしても信託財産が十分残っている場合には、受託者を解任(信託法第58条)し、新たな受託者(原案第4条第3項以下)によって信託事務を処理させるのが受益者の利益になると考える。他方、期限の利益の喪失によって信託財産がなくなるか、わずかしか残っていない場合には、本項第8号又は信託法第163条第1号(信託の目的を達成することができなくなった)によって終了させることができるからです。

・・・信託法163条9号により可能です。必要性については、金融機関から借り入れている場合に期限の利益喪失したとき、強制執行などがなされるため信託を継続することが出来ないからです。信託法163条1項では、曖昧性が残ります。

・(信託の終了)

本信託は、次に掲げる各号のいずれかの場合に終了する。

受益者が、破産手続開始の決定を受けたとき。について

  必要性について疑問。すなわち,本信託の目的の一つには「受益者の安定した生活と福祉を確保」にあるところ、受益者に本号のような生活困窮状態が発生した場合にこそ上記目的の趣旨に沿うと考える(信託の重要な機能である倒産隔離効の具体的発生場面と考えられる)。信託法上は、破産開始決定等による信託の終了事由は、委託者(受益者ではない)である上、倒産管財人等による委託者の倒産手続における未履行双務契約の解除権が行使された場合に限っている(同法第163条第8号)。

・・・信託法163条9号により可能です。本信託の目的の一つである、受益者の安定した生活と福祉を確保は、信託財産で受益者を支えることができないような受益者が破産手続開始の決定を受けたときは達成することが出来ません。よって、受益者が破産手続開始の決定を受けたときに、信託が終了するという条項は必要性があると考えられます。

・(信託の終了)

本信託は、次に掲げる各号のいずれかの場合に終了する。

受益者と受託者が、沖縄県弁護士会の裁判外紛争解決機関を利用したにも関わらず、和解不成立となったとき。ただし、当事者に法定代理人、保佐人、補助人又は任意後見人がある場合で、その者が話し合いのあっせんに応じなかった場合を除く。について

  内容が極めて具体的ですが、何か事情があるのか。本号は、受益者と委託者の信頼関係が破壊されたときの信託の終了を認めた規定と解されますが、信託を存続させる必要がある場合には、新たな受託者を選任すればよいので、それでは信託の目的が達成できない場合のみ終了させることでよいと考える。

・・・信託を存続させるか終了させるか、裁判所での手続き(信託法165条)の前に当事者間で話し合いの場を設ける目的がある条項です。

・(信託終了後の残余財産)

本信託の終了に伴う残余財産の帰属権利者は、次の順位により指定する。

第1順位

○○

第2順位

○○

次の順位の者が既に亡くなっていたときは、更に次の順位の者を残余財産の帰属権利者とする。

について。

第2順位とは何を意味するのか不明です。仮に死亡や放棄等を想定しているのであれば、そのことを記載すべきです。次の順位の者の意味が不明です。

・・・死亡や放棄などを想定しているので、次項に記載しています。次の順位の者は、第2順位の者です。

・(信託終了後の残余財産)

清算結了時に信託財産責任負担債務が存する場合で金融機関が求めるときは、合意により残余財産の帰属権利者は、当該債務を引き受ける。について。

  本項の趣旨は、債務弁済前における残余財産の給付制限(信託法第181条)の例外として帰属権利者による債務引受けを認めた規定と解されますが、法令上の根拠なく、契約主体ではない帰属権利者に義務を負わせることはできない。仮に上記趣旨であるとすれば、「清算決了時に信託財産責任負担債務が存する場合において、金融機関の求めに応じて帰属権利者が、当該債務を引き受けた場合には、清算受託者は、信託財産に属する財産を帰属権利者に給付することができる」などとすべきと考えます。なお、債務引受けはあくまでも帰属権利者の任意ですので、仮に帰属権利者が拒否した場合には、信託財産によって弁済(余裕がある場合)するか、倒産手続き等に移行(余力がない場合)すべきと考えます。

・・・債務弁済前における残余財産の給付制限(信託法第181条)の例外として、帰属権利者による債務引受けを認めた規定ではありません。

 信託契約に記載のない特別の支出を受益者の承諾によって受託者による支出を認める法令上の根拠はなく、したがって、受益者代理人にもそのような承諾権はないと考えます。

・・・本信託契約に受益者の承諾(信託法48条2項ただし書き)の条項があり、受益者代理人にも承諾権があると考えられます(信託法139条)。

投資事業有限責任組合契約の登記「商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(通達)」(令和5年6月12日付け法務省民商第113号法務省民事局長通達)

投資事業有限責任組合契約の登記「商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(通達)」(令和5年6月12日付け法務省民商第113号法務省民事局長通達)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html#02

○ 投資事業有限責任組合契約の登記

 改正省令施行後において、有限責任事業組合を無限責任組合員とする投資事業有限責任組合契約の効力発生の登記の申請は、投資事業有限責任組合契約書に当該有限責任事業組合を当該無限責任組合員として記載している場合に限り、受理して差し支えない。また、無限責任組合員が清算人となる場合において、有限責任事業組合を清算人とする投資事業有限責任組合の清算人の登記の申請も、受理して差し支えない。

 なお、有限責任事業組合の組合員が無限責任組合員として登記されている投資事業有限責任組合が、当該有限責任事業組合を無限責任組合員として記載している投資事業有限責任組合契約書を添付して、当該有限責任事業組合を無限責任組合員とする登記の更正の申請があったときは、登記に錯誤があるときに当たるとして、受理して差し支えない。この場合において、当該投資事業有限責任組合契約書が申請した登記所に保存されているときは、更正の申請書には、その旨を記載することにより、当該書面を添付することを要しない(投登規第8条が準用する商登規第98条)。

・有限責任事業組合を無限責任組合員とする投資事業有限責任組合契約の効力発生の登記の申請は、投資事業有限責任組合契約書に当該有限責任事業組合を当該無限責任組合員として記載している場合に限り、受理して差し支えない。

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html#6-27

「組合の名称」投資事業有限責任組合○○

「組合の主たる事務所」○県○市○町○丁目○番○号

「組合契約の効力が発生する年月日」令和○○年○○月○○日

「組合の事業」

1 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有

2 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有

3指定有価証券の取得及び保有

「無限責任組合員・清算人に関する事項」

「資格」無限責任組合員

「住所」○県○市○町○丁目○番○号

「氏名」有限責任事業組合○○

「組合の存続期間」令和○○年○○月○○日まで

「解散の事由」

(1)無限責任組合員が、総有限責任組合員の出資口数の合計の3分の2以上に相当する出資口数を有する有限責任組合員の同意を得た上、本組合が本組合の事業の目的を達成し又は達成することが不能に至ったと決定したこと

(2)有限責任組合員の全員一致により本組合の解散が決定されたこと

「登記記録に関する事項」組合契約の効力発生

投資事業有限責任組合○○組合契約書

第1条本組合の名称は、投資事業有限責任組合○○と称する。

第2条本組合の主たる事務所は、○県○市○町○丁目○番○号とする。

第3条本組合員は、本組合の事業として、共同で次に掲げる事業を行うことを約する。

1 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有

2 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有

3指定有価証券の取得及び保有 

第4条出資一口の金額は、金○円とする。

第5条組合員の資格、氏名及び出資口数

1 無限責任組合員 有限責任事業組合○○

 ○県○市○町○丁目○番○号 ○口出資

2 無限責任組合員 ○○○○

○県○市○町○丁目○番○号 ○口出資

3 有限責任組合員○○○○

○県○市○町○丁目○番○号 ○口出資

第6条組合契約の効力の発生は、令和○年○月○日とする。

第7条本組合の存続期間は、令和○年○月○日までとする。

第8条解散の事由は本法に定めるものの他、総組合員の同意によって解散する。

第9条本組合の事業年度は毎年4月1日に始まり、翌年3月末日までとする。

第10条本契約に定めのない事項は、本法の定めるところによる。

以上、本契約書の真正を担保するために組合員全員が署名押印する。

令和○年○月○日

無限責任組合員○県○市○町○丁目○番○号 有限責任事業組合○○ ㊞

無限責任組合員○県○市○町○丁目○番○号○○○○ ㊞

有限責任組合員○県○市○町○丁目○番○号○○○○ ㊞

・有限責任事業組合の組合員が無限責任組合員として登記されている投資事業有限責任組合が、当該有限責任事業組合を無限責任組合員として記載している投資事業有限責任組合契約書を添付して、当該有限責任事業組合を無限責任組合員とする登記の更正の申請があったときは、登記に錯誤があるときに当たるとして、受理して差し支えない。この場合において、当該投資事業有限責任組合契約書が申請した登記所に保存されているときは、更正の申請書には、その旨を記載することにより、当該書面を添付することを要しない(投登規第8条が準用する商登規第98条)。

投資事業有限責任組合更正登記申請書

登記の事由 錯誤による更正

登記すべき事項 

無限責任組合員・清算人に関する事項について、「住所」○県○市○町○丁目○番○号、「氏名」有限責任事業組合○○と更生

その他記載すべき事項

投資事業有限責任組合契約書が申請した登記所に保存されている。

投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約登記規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=410M50000010047

(商業登記規則の準用)

第八条 商業登記規則第一条の二第一項及び第二項、第二条から第六条まで、第九条第三項、第四項、第六項、第七項、第九項、第十二項及び第十三項、第九条の二、第九条の三、第九条の四(第一項後段及び第二項を除く。)、第九条の五(第四項を除く。)、第九条の六から第十一条まで、第十三条から第十八条まで、第十九条(第四号及び第五号を除く。)、第二十条、第二十一条(第三項第二号を除く。)、第二十二条第一項前段及び第二項、第二十七条から第二十九条まで、第三十条(第一項第四号を除く。)、第三十一条から第三十六条まで、第三十六条の三から第四十五条まで、第四十八条から第五十条まで、第六十五条第一項及び第三項、第八十条から第八十一条の二まで、第八十四条、第八十七条、第九十八条から第百四条まで、第百五条の二から第百九条まで並びに第百十八条の規定は、組合契約の登記について準用する。この場合において、同規則第一条の二第一項中「登記所及び次の各号に掲げる区分」とあるのは「登記所」と、同規則第九条第六項及び第七項、第九条の五第三項、第二十二条第一項、第三十二条の二、第三十三条の五並びに第三十三条の六第二項中「被証明事項」とあるのは「投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約登記規則(平成十年法務省令第四十七号)第三条第一項各号に掲げる事項(同条第二項に規定する場合にあっては、同条第一項第四号に掲げる事項を除き、同条第二項各号に定める事項を含む。)」と、同規則第九条第九項中「後見人」とあるのは「投資事業有限責任組合の無限責任組合員又は清算人」と、同規則第三十三条の三第三号中「管財人等の職務を行うべき者として指名された者」とあるのは「投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約登記規則第三条第二項第一号及び第二号に掲げる者」と、同規則第五十条第一項中「商号」とあるのは「組合の名称」と、同規則第百一条第二項中「後見人である法人の代表者(当該代表者が法人である場合にあっては、当該代表者の職務を行うべき者)又は管財人等の職務を行うべき者として指名された者」とあるのは「投資事業有限責任組合の無限責任組合員若しくは清算人である法人の代表者(当該代表者が法人である場合にあっては、当該代表者の職務を行うべき者)又は有限責任事業組合の組合員若しくは清算人(当該組合員又は清算人が法人である場合にあっては、当該組合員又は清算人の職務を行うべき者)」と読み替えるものとする。

商業登記規則

(更正の申請書の添付書面)

第九十八条 登記に錯誤又は遺漏があることがその登記の申請書又は添付書類により明らかであるときは、更正の申請書には、錯誤又は遺漏があることを証する書面を添付することを要しない。この場合には、更正の申請書にその旨を記載しなければならない。

参考

酒井恒雄司法書士、野入美和子司法書士「 知識から実務へ「そこから先」を知るための定款対談―一般社団法人編 ― 第7回・完ファンド組成型のベース定款」登記情報 680号  2018年7月、金融財政事情研究会、P71~

 平成20年12月19日 法務省民商第3279号 民事局長通達 〔五七五三〕有限責任事業組合契約の組合員が取締役会設置会社(委員会設置会社を除く。)である場合における当該組合員の職務を行うべき者の選任に関する書面について〔解説付〕登記研究 733号、金融財政事情研究会、P147~

経済産業省

投資事業有限責任組合(LPS)制度について

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/kumiaihou.html

民事信託の登記の諸問題(21)

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(21)」からです。

引き続き、昭和41年5月16日付け民甲1179号民事局長通達の考察です。

委託者と受益者(委託者兼受益者の場合は単独)が承認さえすれば、受託者は何でもできるのか、という問題もある。一体、どこまでが、信託の枠組みとして有効なのだろうか。受益者の承認と信託の変更は何が違うのか(信託目的等の変更を要しないのか)。包括的かつ一般的な事前の承認は、承認といえるのか。

委託者と受益者(委託者兼受益者の場合は単独)が承認さえすれば、受託者は何でもできるのか。

・・・信託法その他の法令に反しない限り、委託者が判断能力があるうちに行う信託行為による定めなので、可能と考えられます。

受益者の承認と信託の変更は何が違うのか。

・・・信託の変更は別段の定め(信託法163条3項)など複数の方法があるので、ここでは、信託の変更の構造と、受益者による受託者に対する事前の承認の構造について、何が異なるのか、という問いだと仮定します。

信託の変更は、信託行為について事後的に変更を行うこと[2]とされています。信託の変更を行う主体、一般的規定、形態は、信託法149条から162条までに定められています。受益者保護の規定として、信託法103条に、受益権取得請求が定められています。

 受益者による受託者に対する事前の承認は、受託者が信託事務を行う場合に、必要とされることがあります。信託法31条2項2号の利益相反行為の制限にかかる承認のほか、信託法149条4項によって、受益者による受託者に対する事前の承認を定めることも可能です。受益者は自ら承認するので、信託法103条のような受益権取得請求権は認められていません。

信託財産の管理方法

受託者の権限

受託者は、委託者兼受益者が創業したXX会社(代表取締役は受託者)が負担する債務を被担保債権(債権額金××万円まで)として、抵当権を設定することができる。

 このような規定をおいた場合、受託者のみで担保設定を行うことができることになります。株主などが【氏名】である限り、などの制限も付けない限り、信託法8条(受託者の利益享受の禁止)により可能なのか分かりませんでした。可能であるとした場合、被担保債権額の上限は具体的金額ではなく、信託不動産の査定額の何パーセントなどの方がよいと考えます。信託財産は時間の経過とともに変化していくからです。

信託の目的

 高齢者の認知症対策と生活支援

信託財産の管理方法

受託者の権限

信託監督人の同意をもって、受託者は、受益者以外の第三者が負担する債務を被担保債権として、抵当権を設定することができる。

 記事では、第三者である士業者による信託監督人が望ましい、との記載があります。仮に私が信託監督人として同意を行う場合、委託者(兼受益者)の推定相続人全員から承諾をもらってからの判断を行うと思います。

信託法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(受託者の利益享受の禁止)

第八条 受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない。

(利益相反行為の制限)

第三十一条 受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

一 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。

二 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。

三 第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの

四 信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

2 前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第二号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

一 信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。

二 受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

三 相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。

四 受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。

3 受託者は、第一項各号に掲げる行為をしたときは、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4 第一項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされた場合には、これらの行為は、無効とする。

5 前項の行為は、受益者の追認により、当該行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

6 第四項に規定する場合において、受託者が第三者との間において第一項第一号又は第二号の財産について処分その他の行為をしたときは、当該第三者が同項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされたことを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該処分その他の行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

7 第一項及び第二項の規定に違反して第一項第三号又は第四号に掲げる行為がされた場合には、当該第三者がこれを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。


[1] 904号、令和5年6月、テイハン、P45

[2] 寺本昌広『逐条解説新しい信託法補訂版』2008、商事法務、P339

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