法制審議会信託法部会第32回会議 議事録

 
 
 
 
 
 
第1 日 時  平成28年7月5日(火)   自 午後1時29分
                       至 午後5時27分
 
第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室
 
第3 議 題  公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第32回会議を開会いたします。本日は御多忙の中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  初めに,前回の会議から本会議までの間に委員等の交代がありましたので御紹介いたします。まず,総務省の河合前幹事に代わりまして総務省の稲垣幹事が,次に金融庁の佐藤前幹事に代わりまして金融庁の島村幹事が,それぞれ今回から御出席されることになりました。簡単な自己紹介をその場でお願いいたします。お名前と御所属をおっしゃっていただけますでしょうか。
○稲垣幹事 先月17日付で総務省大臣官房総務課管理室長を拝命いたしました稲垣と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○島村幹事 7月1日付で総務企画局企画課信用機構企画室長を拝命いたしました島村でございます。よろしくお願いいたします。
○中田部会長 どうぞよろしくお願いします。
  本日は,小川委員,小幡委員,岡田幹事が御欠席です。また,若干,遅れて見える方がいらっしゃるようです。
  それでは,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。事前に,部会資料32「公益信託法の見直しに関する論点の検討(1)」を送付させていただきました。また,当日配布資料として,吉谷委員から提供いただいた「信託主要法令資料」という緑色の冊子に加え,「公益信託受託状況(主務官庁別)」,「公益信託当初信託財産規模別状況」という受託状況の統計データを机上に置かせていただいております。統計データにつきましては,前回,参考人として御出席された信託協会の方々に対し委員・幹事の皆様から御質問があった事項について,信託協会の統計を資料化していただいたというものです。これらの資料がお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  本日は部会資料32について御審議いただく予定です。具体的には,途中休憩の前までに部会資料32のうち,「第1 公益信託法の見直しの基本的な方向性」と「第2 信託事務及び信託財産の範囲」を御審議いただきまして,3時半頃をめどにして休憩を入れることを予定しております。その後,「第3 公益信託の受託者の範囲」について御審議いただきたいと思います。
  なお,前回,再開後の信託法部会での審議の対象が話題になりましたが,それについて事務当局の方から補充の説明があるということです。
○中辻幹事 前回,小野委員,道垣内委員及び深山委員から御指摘のありました再開後の信託法部会で御審議いただく事項の範囲について,若干,手続的な面を補足いたします。
  法制審議会では,審議会令の解釈として審議会で一度議決した事項については,それを再度取り上げて審議し,議決してはならないという一事不再議の原則があると考えられております。この原則によれば,旧信託法のうち私益信託に関する部分について議決された信託法改正要綱と同じ事項については,原則的にこの部会で再度取り上げて審議することはできないということになります。
  もっとも,一事不再議の原則は例外的に事情の変更等により,再度議決する必要のある場合に再議することまでも否定するものではないと考えられております。したがって,前回の部会で中田部会長におまとめいただいたとおり,今後の信託法部会で御審議いただく事項は,飽くまで公益信託が中心ではありますが,余り形式的,固定的に考えて現行信託法の規定に関する御審議が一切排除されるということはなく,公益信託制度の改正に必要な範囲で現行信託法の規定の改正の要否についても御審議いただけるということなのだろうと思います。もっとも,それが余りに広がりましては,この部会における御審議の対象が拡散してしまいますし,前回申し上げましたように,公益信託について特則を設けることは可能であることからすれば,現行信託法の規定の改正にまで立ち入らなければならない場面が多数生じることにはならないようにも思います。
  以上,前回私から申し上げましたことの手続面での補足ということになります。
○中田部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。まず,前回のフリートーキングとやや重複しますけれども,「第1 公益信託法の見直しの基本的な方向性」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明していただきます。
○木村関係官 それでは,私,木村の方から資料について説明させていただきます。最初にまず,公益信託法の見直しの基本的な方向性について御説明いたします。
  本文では,公益信託法の見直しを検討するに際しては,公益財団法人,公益信託以外の目的信託等の公益信託と類似の制度との相違,すみ分けに留意しつつ,税法も視野に入れながら,その適正な利用を促進していくために必要十分な仕組みを整えることを基本的な方向性とすることでどうかという提案をしております。
  この提案について補足して説明いたしますと,まず,補足説明の1で記載しているとおり,公益信託制度は個人の篤志家などが自らの財産を公益的な活動に供するための仕組みとして,現在は専ら奨学金の支給や研究助成活動のために用いられております。もっとも,その受託件数及び受託財産額は漸減傾向にあるところです。
  公益信託制度につきましては,平成18年の信託法制定の際,衆参両院の附帯決議で,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点から見直しを行うこととされています。ここで,公益法人制度に関する過去の政策決定について見てみますと,公益法人制度については平成14年及び平成15年の二度にわたる閣議決定において,民間非営利活動を社会経済システムの中に積極的に位置付け,その活用を促進するという方向性が打ち出されているところです。こうした政策決定を踏まえるのであれば,民間の非営利活動である公益信託制度につきましても,その適正な利用を促進するという観点からの検討が必要であると考えているところです。
  続きまして,補足説明の2の公益財団法人との関係について御説明いたします。公益信託と公益財団法人とは類似の社会的機能を果たすものとされており,先ほど触れた国会の附帯決議におきましても,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点からの見直しが必要とされています。もっとも,両制度を比較してみますと,公益財団法人は多様な財産を活用して多様な公益活動に用いることが可能である反面,一から法人組織を立ち上げる必要があるという点で設定コストが高いということができます。一方の公益信託は,信託事務や信託財産の範囲が限定されていますが,受託者の人的,物的資源を利用することで,簡易かつ低コストで設定することが可能であるという軽量・軽装備の制度であるということができます。
  公益信託制度の見直しを行うに当たりましては,以上のような軽量・軽装備という利点を維持するという観点に配慮しながら,両制度間の相違点や適切な活用場面という点を意識して,公益財団法人と整合性のある制度とすることが必要であると考えております。
  補足説明の3の目的信託との関係についてですが,現行の公益信託法は,公益信託を目的信託の一類型と位置付けた上で,目的信託のうち,公益を目的とするものにつきましては,「主務官庁ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ」と規定しております。こうした規定の解釈として,主務官庁の許可を受けていない公益目的の目的信託は無効であるという考え方も存在するところです。また,現行の信託法附則第3項は,公益信託以外の目的信託について,その受託者を一定の法人に限定しています。公益信託制度の見直しを行うに当たりましては,以上のような公益信託と目的信託との関係,特に公益信託としての認定,ここでは仮に認定という言葉を使わせていただいておりますけれども,認定を受けていない信託の効力をどのように考えるのかといった点についての検討が必要になると思われます。公益信託と目的信託との関係については,様々な考え方があり得るところだとは思いますが,両者の適切なすみ分けを図るという観点が必要であると考えております。
  最後に,補足説明の4として税法との関係がございます。現行の税法では,特定公益信託及び認定特定公益信託という二つの概念が存在しておりまして,一般の公益信託の要件に加え,これらの要件を満たした場合に初めて寄附金控除等の税法上の優遇措置を受けることができる制度となっております。これに対して,公益法人制度では公益認定を受けた法人は基本的に全て税法上の優遇措置を受けることができます。こうした税法の在り方につきましては,本部会の直接の検討対象ではございませんが,税法上の優遇措置があることは,公益信託の利用者にとって大きなメリットになっていることを考えますと,新たな公益信託制度を検討するに当たっては,税法上の優遇措置を受け得るような認定基準,監督・ガバナンスに関する規律とする必要があると考えられます。
  以上のような観点から本文の提案をしておりますが,こうした公益信託制度の見直しの基本的な方向性について御審議いただければと思います。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。どうぞ,御自由に御発言をお願いいたします。
○小野委員 前回も発言したところなんですが,もちろん,全体として賛同いたしますが,非営利性の一般財団法人との比較も,特に目的信託,税法との関係で是非お願いしたいと思います。税法上の優遇措置とは別ですけれども,公益財団法人だけでなく非営利性の一般財団法人についても同じ扱いがされているところが結構ありますので,そういう観点からの検討も特に一般財団法人の設立は準則主義ということも含めましてお願いしたいと思います。
○能見委員 目的信託との関係のところの問題なんですが,もう少しはっきり言えば,許可を受けない目的信託で公益活動していいのかという問題についてです。そちらで提示されたのと言い方は違うかもしれませんが,この問題について,今,すみ分けという観点から御説明があったわけですけれども,そのような観点からの検討は当然必要なんでしょうけれども,もう一つ注意すべき観点は,公益活動を行うことができるのは,事実上の公益活動も含めてですが,どういう団体,あるいは個人なのかという視点です。このような観点から考えた場合に,私益信託でもって実際上の公益活動をすることは,恐らく皆さん,問題はないという前提でお考えなんだと思います。それならば,目的信託であったら,それはどうなのか,という形で問題となります。こういう観点も是非併せて検討する必要があるだろうと思います。
○新井委員 見直しの基本的な方向性については賛成いたします。その上で,目的信託と公益信託の両者については類似性ではなくて,相違点に,より留意すべきであると考えます。目的信託と公益信託に共通するメルクマールというのは,受益者の定めがないという点のみでありまして,公益信託には公益要件というより上位のメルクマールが存在しているように思われます。信託の構造自体が目的信託のそれとは異なります。公益信託においては,受益者の定めがないという要件は,公益性を判断する要素の一つにすぎないように思われます。目的信託の受託者要件,つまり,信託法附則3項と同法施行令3条ですが,この受託者要件については存置すべきだと考えます。つまり,目的信託の濫用的な利用を防止するという趣旨を変更する積極的な立法事実はないと考えます。民事信託,とりわけ,家族信託あるいは自己信託の濫用的な利用が懸念されている状況にあるのではないかと考えます。その一部については既に訴訟も提起されていますので,目的信託の受託者要件は存置でよろしいのではないかと思います。
  それで,部会資料の4ページの4行目ですけれども,「しかし」以下の文章,これについては賛成いたします。「しかし,少なくとも立法論としては,主務官庁又はこれに代わる主体による許可又は認定が認められなくても,信託法附則第3項及び同法施行令第3条の受託者要件を満たす場合には,公益を目的とする一般の目的信託として有効とすべきであるとする考え方が十分あり得る。」,これに基本的に賛成した上で,公益を目的とする一般の目的信託として有効だというのは分かりにくい。特にこれからの立法というのは,一般市民にも分かるようにしないといけないと思うのです。
  それで,他方で公益信託というのがあって,他方では公益を目的とする一般の目的信託がある。この両者の関係については,学術的には非常に興味があるわけですけれども,利用者である国民にとって,両者の理解というのは非常に難しいと思うのです。したがって,私としては「公益信託を目的」とするという部分は削除していいのではないか,つまり,一般の目的信託として有効であると考えればいいのではないかと思います。それともう1点,最初の「少なくとも立法論としては」,これについては解釈論としても可能ではないかと考えますが,より明確にする趣旨で立法論的に解決するのがよりベターだと思います。
○吉谷委員 公益を目的とするものを除くという要件を,目的信託の要件から外してもいいのではないかと考えておるのでございますけど。現在,信託銀行は目的信託の受託者になることができますが,実務での目的信託の利用というのはないという状況になっています。それはなぜかというのを考えますと,残余財産受益者というものを設定することにより,一般の信託で目的信託と類似した経済的な仕組みというのを作ることができるということなんだろうと考えております。実際に利用されているケースもありまして,公益的な目的の信託を設定する場合でも,委託者などを残余財産の受益者と決めて信託期間中は,学術振興事業の目的で信託財産を処分するというような利用がされております。特定寄附信託という制度がありますけれども,これは公益法人などに寄附をする目的の信託が委託者を受益者とする形で利用されています。
  公益信託の場合は,税制上の優遇が得られるということとセットであるべきと考えておるのですけれども,委託者や受給権者から利益を切り離された仕組みとするためには,受益者を定めないということに積極的な意味があるのではないかと考えておるのですが,それ以外の目的信託を無制限に認めるということの意義があるのかというと,そういう意義は実務家の私どもの立場からは提言することは特にないのかなと考えております。
○小野委員 目的信託の議論になったので何点か発言させていただきます。
  まず,新井委員から現在の附則3項は濫用防止のために存続すべきであるという御意見がございましたけれども,法人であることと個人であることが濫用の有無に関わるかというと,どう理屈で考えても要するに信託契約,受託者としての履行能力こそが重要であって,それは法人,個人における差はないと思います。また,恐らく継続性とか永続性で人はいつか亡くなるという観点かもしれませんけれども,受託者の変更,交代手続をとればいいだけでして,あと,もう一つ,言わずもがなですけれども,5,000万円という基準,それが濫用防止につながるかというと,5,000万円を持っていない方や法人は受託者になりませんけれども,理屈上,考えてもつながらないと思います。
  目的信託の事例がほとんどないというお話ですけれども,それもこの要件に関わるところだと思います。より目的信託を積極的に公益法人改革の趣旨にのっとって,社会の国民のために利用できるような制度にすることで,仮に濫用が考えられれば,濫用に対応した適切な措置をとることが重要であり,それが法人である要件,5,000万円の資産要件ということにはロジカルにもつながらないと思います。
  それから,吉谷委員がお話しされた委託者が受益者になる場合,そういうケースもあるかもしれませんけれども,委託者に受益者としての強い権利を与えることが必ずしも適切ではないような状況も恐らくいろいろあるかと思います。前回,新井委員が京町屋とか,トラストの話をしましたけれども,環境とか自然とかいうときに,そこで委託者たる元の所有者を観念して,その方が受益者として強い権限を持つということが適切ではない状況というのも,それなりにあると思います。いろいろなメニューを国民に提示することが,信託制度が有効に活用されるためには必要なことだと思うので,あまり制限的に目的信託を制度設計するという方向での議論は賛成しかねます。
○中田部会長 何人かの方から,公益信託以外の信託における公益目的の活動の在り方について御発言を頂きました。これを否定するという方向の御発言では恐らくなくて,何らかの形でそれを許容する,かつ,そのことをこの部会においても考慮しながら,公益信託制度を設計していくというような御発言かと承りました。更にその先に行って,附則3項についてどう考えるかとか,あるいは公益信託と目的信託との関係をどう考えるのか。これは今後,また,改めて本格的に御議論いただく機会があろうかと存じます。また,冒頭に小野委員から御発言のありましたのは,公益法人法制の改正に伴って,新しくできた一般法人,更にその中の非営利型法人というのでしょうか,一定の範囲で税の手当を受けているというようなものも視野に収めて検討すべきであると,こういう御発言であったかと思います。これらについて何かありますでしょうか。
○中辻幹事 法人税法上,一般社団法人や一般財団法人のうち非営利型法人の要件を満たすものについては,公益社団法人や公益財団法人と完全に同じではないにせよ,それに近い法人税法上の優遇を受けていると存じております。したがって,今回の部会資料では,公益法人との対比を中心に記載しておりますが,小野委員御指摘のとおり,一般社団法人や一般財団法人との対比も考えながら議論していくことが有益ではないかと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 法務省案の公益信託法見直しの基本的な方向性について賛成いたします。が,この検討をずっとしている中で,基本的な考え方としておいた方がいいと思うのは,民間活動をいかに促進していくかという,そういう目的を実行するためにやりやすい制度を作るのだという観点から,今後の全体的な見直しというものの根底にある哲学として,民間公益活動の促進ということを根底に置いていただくようなメッセージもあると,より良いのかなと思った点と,それと,公益信託制度の認定と税制との関係というのは,税制メリットを得られるようなしっかりしたガバナンスを持った信託の仕組みというものを念頭に置いて検討していっていただきたいと。それは税法も視野に入れながらというところに読み込めるんだと理解しております。
  それと,目的信託と公益信託の認定の関係なんですけれども,目的信託というものがあって,その認定を受けると公益信託というものになるんだというような今の一般財団法人法と公益法人法との関係というのではなくて,目的信託があって公益信託というものがあるというのではなくて,公益信託を認定したら公益信託になると,そして,それが認定を受けなかったらば,また,目的信託というもの,私益信託になるというのではなくて,それはそれで終わりということなのではないかなと思うんですけれども,最初の出だしのところは認定を受けなければ,私益信託として存続してもいいのではないかというのは分かるんですけれども,例えば公益信託として認定を受けていたのに,後で要件が不足しているということで認定取消しになったような場合のことを考えると,取消しになったらば普通の目的信託,私益信託として存続するのかというのは,公益信託として認められないような要件を欠くようなものが信託として存続するというのは,何か解せない気がいたします。認定を取り消されたら公益信託は終了して,残余財産が公益に帰属するような形で終わりと。目的信託として更に存続するというのはぴんとこないように思いまして,ですから,公益信託でなければ信託としては終了というような考え方の方が,すっきりするのではないかなと思いました。
○道垣内委員 平川委員のおっしゃったことに関しまして,二つを区別して考えなければならないと思います。つまり,受益者の定めのない信託というのを設定したところ,その目的を見るとどう考えても公益であるのだが,しかしながら,本人は公益信託の認定申請をしないで,そのまましているというとき,その信託が無効であるか,それとも,目的信託として有効であるかという問題と,公益認定を受ける公益信託として設定しようと思ったのに,公益認定が受けられなかったという場合です。この二つは違う話であり,後者の問題については平川委員のおっしゃるとおり,本人の信託設定の意思の問題として,公益信託として存続させる,設定するということを望んだわけですから,それが達成できないときには,それは信託の成立というものが失敗に終わるというのはよく分かります。それに対して,受益者の定めのない信託であるというときに,この目的は公益ではないか,公益だったら無効ですとなるのはおかしくて,それはそのまま,目的信託として存続し得るということは十分にあり得ると思います。場面を二つに分けて考える必要があるのではないかと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。先ほど能見委員などからおっしゃっていただいたのは,道垣内委員のおっしゃる第1の問題であり,今,平川委員から御指摘いただいた公益の認定の取消しの場合と,道垣内委員が御指摘になられた認定を受けられなかった場合,これらを合わせて第2グループの問題とし,そこでは本人の意思を尊重しながら,更に考えていくという御指摘を頂いたのだろうと思います。二つの問題があるということがかなりはっきりしてきたと思います。
○林幹事 第1の基本的な方向性については,私も賛成するものですが,簡単に何点か申し上げます。公益信託については,設定コストが低廉で小回りが利く,軽量・軽装なものだという御指摘もあって,そのとおりだと思います。本日,配布いただいた当初信託財産の資料がございまして,これを拝見しますと,今の公益信託でも半分以上が当初財産5,000万円以下ということになっていますので,議論するについてはむしろこういう当初財産の比較的少ないものをイメージしながら議論すべきと思います。それが1点です。
  それから,目的信託については先生方と基本的には同じなのですが,附則3項の規定を所与のものとして議論すべきではないと考えます。それはないものとして議論した上で,最終的にそれは残すべきだとなるのだったら,それも一つなんでしょうけれども,附則3項の規定は所与のものとして議論すべきではないと考えますので,申し上げます。
○山田委員 道垣内委員がおっしゃったことについて,私の意見を追加させていただきたいと思います。多分,道垣内委員の御意見と少し違う意見になるのではないかと思います。二つに分けるというところは,前提として私も分けたらいいのだろうと思うのですが,そのうえで,二つ目の方について,申し上げます。公益という言葉を先に使ってしまうと議論が制約されますので,例えば財産を持っている人が信託という形を使って奨学金の給付に使ってほしいと,こういう希望を持っていたとします。そのときに,公益信託をこれから考えていくわけですが,この要件を満たすならば税法上の優遇を受けられるという場合です。しかし,それは容易でないと思われ,その結果,その要件を満たすことが難しいならば余り無理せずに受益者の定めのない信託として,税法上の優遇を受けずに,この信託を成立させたいと委託者が考えている場合です。そして,受託者もそのことをオーケーしているという場合です。
  こういうときには当初からこのような場合にどうかということもありますが,それとは別に,公益信託として認可なり認定を受けて,ある程度の期間,例えば,5年やっていて,そこまでは税法上の優遇が受けられたところ,しかし,5年たったところで様々な経済状況あるいは信託の状況から見て,要件を満たすのは難しくなったということもあろうかと思います。では,そのときに信託を終了させますかというと,それよりは,委託者の意思から考えて,それは受益者の定めのない信託として,税法上の優遇はそれから将来に向けては受けられなくなります,また,あるいは既に受けていた税法上の優遇のある種の清算は必要かもしれない,しかし,そういった手当てをすることによってさらに何年間か,奨学金を給付するということを信託事務として行う受益者の定めのない信託として効力を持ち続けるということも,あってよいのではないかなと思います。
  ただ,今,私が申し上げた最初の5年間,税法上の優遇を受けていて,それによって得られたプラスの部分というのでしょうか,それを清算するというのが果たして実効性ある制度として付随的な制度として作れるのかどうかという辺りも問題になりまして,それが実際上,困難であるということであれば,私の今の意見は難しいということで,できないということでいいと思います。しかし,基本はできてよいのではないかと思います。そういう委託者の意思で始まった信託についてはできていいのではないかというのが,私の意見です。
  もちろん,最初から税法上の優遇を受けることができるということをある種の条件にして信託を設定した場合には,税法上の優遇が途中でできなくなったということに基づいて終了するという仕組みが働くということは,それはそれでいいのだろうと思います。多分,違う意見だろうと思いますので申し上げた次第です。
○中田部会長 違うかどうかも含めて,どうぞ,道垣内委員。
○道垣内委員 山田委員のおっしゃるところに異存ありません。
○松元関係官 今の点につきまして私も山田委員の御発言に完全に賛成なんですけれども,今回,公益法人あるいは一般法人というのと比較して検討するということで,もちろん,全く同じにする必要はないわけでございますけれども,一般法人で公益認定を受けていた公益法人について,公益認定が取り消された場合にどうなるかというと,それで解散になるというのではなくて,一般法人としてそのまま存続すると,ただ,公益認定を受けていた期間に受けた財産については何からの形で確か清算するというような規定があったように思いますので,それをある意味,パラレルに考えるということも可能なのではないかと考えています。
○中田部会長 ありがとうございました。
  公益信託と目的信託との関係という問題と,委託者の意思をどのように考慮するかという問題と,両方が重なっているところだろうと思います。第1の公益信託と目的信託との関係,あるいは先ほど来,出ております附則3項との関係については,今後,本日,受託者の要件のところでも関連する議論を頂けるかと存じますし,また,後日,公益信託と目的信託との関係についてのまとまった御議論を頂く機会もあろうかと存じます。
○新井委員 目的信託の受託者要件,附則3項と施行令3条については,私は存置という意見ですが,最終的にはこちらの部会で決めていただければいいことであり,結論には私も従います。それで,まず,決める前提として私が前回に申し上げましたように,日本の目的信託は非常に幅の広いもので,比較法的にもこれほど柔軟なものはないのです。一方で,これを導入しながら,他方で,こういう要件で非常にきつく縛った,その辺りについて,一体,前回の信託法部会でどういう議論があったのかという点を私としては明確にしていただいた上で,立法事実があるのか,ないのかというところの議論が必要だと思いますので,しかるべきときに,そんな資料を是非,開示していただいた上で,議論して決着を付ければよいのではないかと考えます。
○中辻幹事 附則3項については,信託法部会の中で議論されたというよりは,むしろ,信託法案の国会提出や国会審議の過程において後から付け加わったという面がございます。なぜこのような規定になったのか,濫用的な目的信託の利用を防止するためと理解しておりますが,もう少し補充して調べてみることも考えられるのではないかという新井委員の御指摘と受けとめましたので,その点についても留意しながら進めていこうと思います。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
○渕幹事 第1の4の税法との関係のところについて,若干細かいのですが,一つだけ発言させてください。第1の4の第2段落「他方,公益法人制度においては」というところの次の段落,「公益信託の利用者にとって,自らの財産を拠出する際に税法上の優遇措置を受けられることは,公益信託を利用する大きな理由となっていると」と書いてあるのですが,ここの記述は若干強いような気がするので,もう少し弱められないでしょうか。
  その理由は,一つには前回もこの会議で指摘がありましたが,実際に設定されている公益信託のうちに特定公益信託でないという意味での一般の公益信託が3分の2ぐらいを占めているというデータが前回,出てまいりました。ということで,ここで言われている優遇措置を実際に利用しているものは3分の1程度であるということです。もう一つは,そもそも,民間の篤志家等によって公益信託が設定される理由は,学術とか技芸とかいった,そういった公益を増進するという目的が第一にあるはずであって,税法上の優遇措置を利用できること,ないしより一般に節税となるということが大きな理由ということであるべきではないということです。
  仮にそういうことがあるとすれば,それは税法上の優遇措置が理由となって,本来,別に適切な投資先がある資金を公益増進のための信託に回しているということで,税制が効率的な市場の形成を阻害しているというようなことになり,否定的に評価されるべきことになりかねません。そこで,税制優遇は,理由の一つであるというぐらいの評価にしていただいた方が無難かなと思う次第です。なお,全体的な方向性,すなわち,税法も視野に入れて検討するということについては大いに賛成でございます。
○中田部会長 関連ですか。
○吉谷委員 今の渕幹事の御意見に反対するものではないのですけれども,前回の信託協会の説明の中で,一般の公益信託がある程度あるという御説明をさせていただいて,そこでは一つには,昔は一般の公益信託しかなかったですというのが半分の説明で,後段の説明の方が今でも実際には一般の公益信託で特定や認定特定の基準を満たしていながらも,そこまで含めて認定を受けようと思うと時間が掛かってしまいますと,であるので,あえて税法上の優遇措置が受けられるのに,それを諦めて一般の公益信託にしてしまっているという例があるのだというのが前回の説明の趣旨です。なので,私の方からは,制度としては一括して公益の認定と税制の認定というのが一本で受けられるようになっていて,それが合わせて迅速に行われるというような制度になるのが望ましいのだろうなと思っているということで,補足をさせていただきます。
○渕幹事 今,おっしゃったことは要件を満たしていても,正に認定を受けないということで,税法上の優遇が理由ではないということをむしろ根拠付けてしまうと思います。これ以上申し上げませんが,おっしゃるように優遇すべきであるということと,実際に今,優遇が目的で人が動いているということは区別すべきであると思います。
  それとあともう1点,最初の方で小野委員が御指摘くださったように,公益法人制度の方でも公益法人制度と別に税法上の非営利型法人というのがありますので,そういう意味でも,公益信託の認定基準を公益法人とそろえるべきであるという御主張と,税法優遇の基準とそもそもの公益信託の認定の基準は一致すべきだという御主張,そこもつながらないのではないかと思う次第です。
○平川委員 税法上の優遇を受けるということが,民間の公益活動をより促進するという意味で,非常に連関させるべきなのではないかと思います。
○中辻幹事 税制の関係について1点,補足しておきますと,研究会の段階でも意外に特定や認定特定を取っていない一般の公益信託の件数は多いではないかという御指摘がありました。それに対する信託銀行の方の御説明では,基本的に個人の委託者が公益信託を設定する場合には,追加の寄附を予定しておらず,自分の死亡時に相続税の負担がなければそれで良いという方が多いということでした。部会資料32の5ページに相続税法基本通達9の2-6という規定が出てきますが,この規定により,一般の公益信託であっても,相続発生時に特定公益信託の所得税法施行令第217条の2第1項各号の要件を満たしてさえいれば,主務大臣の証明が無くても相続税の評価額はゼロになります。手続きが煩瑣になるのを避ける意味もあり,敢えて主務大臣の証明を受けずに一般の公益信託で設定するものも存在するということです。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
  そうしますと,第1の基本的な方向性については大筋はこれでよかろうと。ただ,例えばすみ分けに留意しといっても,それによって他の制度を制約するような方向ではなくて,むしろ,その両方を考えていくことが必要ではないかとか,あるいは税法も視野に入れながらというのが,一方で税の優遇によって民間の公益活動の促進という,これは全体の政策決定とも合致しているわけですけれども,他方で,何か節税のツールとしてのみ使われるというようなことがあってはいけないというような御指摘も頂いたかと思います。ほかに目的信託との関係についていうと,特に附則3項をどうするのか。これは先ほど申し上げましたが,受託者要件をどう捉えるのか,あるいは公益信託と目的信託との関係をどう捉えるのかというようなことを今度,更に御議論いただくということになろうかと思います。ということで,基本的な方向性については,大体,こういうことで先に進めさせていただきたいと思います。ありがとうございます。
  それでは,次に「第2 信託事務及び信託財産の範囲」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○木村関係官 それでは,御説明させていただきます。
  まず,第2の1の「助成事務以外の信託事務の許容」について御説明いたします。ここでは,公益信託の受託者が助成事務に加え,助成事務以外の信託事務を行うことを許容するという提案をしております。現在の公益信託制度では,許可審査基準等により,公益信託の授益行為の内容は,資金又は物品の給付といった助成事務に限定されております。もっとも,民間の公益活動を促進するという観点からしますと,助成事務以外の信託事務,例えば美術館の運営ですとか,歴史的建造物の保存といったものが考えられますが,こういった信託事務を受託者が自ら行うという仕組みがあることが望ましいと考えております。こうした考え方について御審議いただければと思います。
  続きまして第2の2の「許容される信託事務の範囲」について御説明いたします。本文では,公益信託の受託者が行うことができる信託実務は,公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務を行うことはできないとするという提案をさせていただいております。少し長い注書きが付いておりますけれども,ここでは本文の公益目的の信託事務について,公益目的の達成のために必要な行為をいうと定義した上で,公益目的の達成のために直接必要な行為のほか,間接的に必要な行為も含まれるとしております。そして,その該当性の判断については公益信託の認定を行う外部の第三者機関が行うことを想定しております。また,この該当性の判断におきましては,信託事務を行う際に収入が生じるかどうかを問わないこととしております。
  以上の提案につきまして補足して説明しますと,まず,8ページの表を御覧ください。ここでは,美術館の運営を行う公益信託と,留学生向けの学生寮の運営を行う公益信託という2種類の公益信託を想定しております。このような信託の受託者が行う信託事務としましては,①の欄に記載した美術品の公開ですとか,留学生への居室の提供といった典型的なもの以外にも,例えば敷地を購入して美術館の建物を建築したり,展示品の入替えのために美術品を売買する,老朽化した学生寮を改築する,そのために敷地の一部を売却するといったものが考えられるところです。これらは,公益目的を達成するために必然的に生じてくるものということができます。
  続きまして,②欄に記載しているとおり,①のような信託事務以外にも美術館の中でミュージアムショップやカフェを営業したり,学生寮でバザーを開催するといった信託事務が想定されますが,これらは,①と比較すると,公益目的の達成のために必ずしも必要ではないものの,公益目的の達成に資するものということができます。
  更に③の欄に記載しているとおり,受託者が公益目的と関連しない書籍の出版をしたり,結婚式の式場として建物を提供したりといったものも想定されるところです。
  以上のように,公益信託の受託者が行う信託事務としましては,大きく分けると①の公益目的の達成のために直接必要である信託事務,②の公益目的の達成のために間接的に必要である信託事務,③の公益目的の達成とは関連しない信託事務という三つの類型があると考えております。本文の提案は,公益信託の受託者が①と②の信託事務を行うことは許容しますが,③の信託事務については許容しないという提案になっております。こうした区別に際しましては,信託事務を行うに当たって収入があるかどうかを考慮しませんが,当該信託事務自体が公益目的の達成に資することが必要であると考えております。例えばですけれども,公益的な活動の資金に充てる目的であったとしても,公益目的と関連なく不動産の賃貸を行うといった信託事務を行う場合には,そういった信託事務は除かれるということになります。
  こうした実質的な考え方を踏まえた上で,①及び②の信託事務と③の信託事務とをどのように区別するのかという点につきましては,例えば付随事務といった中間的な概念を設けるのではなく,①及び②の信託事務を合わせて公益目的の信託事務とした上で,公益信託の認定を行う機関が公益目的の信託事務と認定したものを行うことができるとする一方で,それ以外の信託事務を行うことはできないという仕組みとすることを考えております。以上の点について御審議いただければと思います。
  続きまして,第2の3の「信託財産の範囲」について御説明いたします。本文では,公益信託の信託財産の範囲について,金銭に限定しないとすることでどうかという提案をしております。公益信託法上は,公益信託の信託財産の範囲についての限定はありませんが,許可審査基準及び税法では公益信託の引受け当初の信託財産は金銭に限定され,運用も国債等の安定的なものに限定されております。もっとも,先ほど御説明した助成事務以外の信託事務を許容する場合には,美術品等の動産や歴史的建造物等の不動産を信託財産にすることが想定されることから,これらを許容するのが適当ではないかと考えているところです。
  なお,このように金銭以外の財産を信託財産とすることを認めたとしても,「その他の課題」として,公益目的と関連しない信託財産を認めるのか否かですとか,みなし譲渡課税との関係をどのように考えるか,信託財産の運用をどの範囲に認めるのかといった点も問題になってきます。以上の点について御審議いただければと思います。
  最後に,第2の4の「公益信託の類型に応じて複数の規律を設けることの要否」について御説明いたします。本文では,信託事務の内容,信託財産の種類・規模等に応じて,公益信託の認定基準や監督等の規律を分けないとするという提案をしております。現在の公益信託制度は,先ほども御説明しましたとおり,軽量・軽装備というところに利点があると指摘されていますが,公益信託の信託事務の範囲を広げたり,信託財産の範囲を広げたという場合には,それに伴って認定基準や監督・ガバナンスに関する規律を厳格にせざるを得ないのではないか,そういった懸念が生じるところでございます。
  こうした懸念に対応するために,現在の公益信託のように金銭を信託財産とし,助成事務のみを行うものにつきましては軽い基準とし,それ以外については厳格な基準にするという考え方もあり得るところではございますけれども,類型化が難しいことや,制度が全体として複雑になってしまうという懸念があることから,本文では規律を分けないという提案をしております。以上の点について御審議いただければと思います。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして,御審議いただきたいと思います。大まかに分けまして,1と2の信託事務の範囲,3の信託財産,4の類型別の規律の当否という順に進めていきたいと思います。ただ,相互に関連することでもありますので,厳密な区分というわけではございません。自由に御発言いただければと思います。ということで,まず,信託事務の範囲を中心に御審議いただきたいのですが,いかがでしょうか。
○道垣内委員 質問なのですが,言葉の定義の問題として,信託財産の運用という言葉と信託事務という言葉が出てきているのですけれども,信託財産の運用は信託事務に入らないという整理でこの資料は作られているのでしょうか。
○中辻幹事 この部会資料の作りとして,完全にそこが整理しきれているわけではありません。部会資料32の8ページの表でいえば,①の欄の美術館の建築・保存とか,留学生に対する居室・食事の提供などは,事業型の信託事務として想定しやすい具体例として挙げているものですが,その下の③の欄の最後では,投資用不動産の購入・賃貸等というものも信託事務の例として挙げています。投資用不動産の購入・賃貸等については,信託事務に入らない信託財産の運用であると整理する考え方もあると思いますが,信託事務の範囲の論点と信託財産の運用がどこまで認められるかという論点はなかなか分けにくいところがあって,当初の信託財産を用いた受託者による投資用不動産の購入・賃貸等の可否を信託財産の運用の方で考えるとしても,公益信託の受託者が行う信託事務の範囲の論点の中で御議論していただくことも可能なように思いましたことから,このような資料の作りにしております。
○道垣内委員 ということは,③の例として投資用不動産の購入・賃貸というものが書かれているのは,①との若干の類似性があるので,一つの例として書かれているというだけであって,③は信託事務として認めないということになったとしても,例えば12ページに書いてあるような預貯金,国債,地方債……取得によって信託財産を運用することは当然に認められると考えてよいということでしょうか。
○中辻幹事 そのようにお考えいただいて結構です。
○能見委員 実質に入る前に議論の前提といいますか,前提問題のところで明らかにしておきたい点があります。ここで事務の範囲とか,あるいは信託財産の制限とかいうある種の規制が考えられるわけですが,その法的な性質についての問題です。今,ここで考えているのは,受託者の権限としては及んでいるけれども,行政的な規制といいますか,あるいは公益信託法制の中での行政的な規制として,こうした制限を考えるということなのか,それともこの問題は公益信託の目的からくる受託者の権限の範囲の問題にも影響してくるのか,そこが気になっています。私としては権限の問題は後で検討した方がいいと思いますけれども,ここでの議論が権限の範囲を制約するようなことに繋がることがあるのかもしれないとも思っています。しかし,両者は別の問題として区別した上で議論した方がいいと思います。もし,この資料を準備されたときに,以上の点について検討された点があるようでしたら教えてください。ここで出てくる制限の法的な性質は何かということを御説明いただければと思います。
○中辻幹事 今回の部会資料を作成しているときに考えておりましたのは,8頁の表で挙げている信託事務を公益信託の認定申請書に記載した場合に,それが公益信託の認定を受けられるかどうかということでした。公益信託の認定を受けられるかどうか,そして認定を受けた公益信託に行政的な監督等の規制が及ぶかという問題と,公益信託の受託者の権限が私法上どのような範囲で認められるかという問題とは,若干ずれがあり得るところだと考えておりまして,その点については意識して今後検討していきたいと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほどから議論されていますように,考え方の基準として公益財団法人,もちろん,非営利型の一般財団法人も含めての議論ということで,単純に単に公益財団法人と言わせていただきますけれども,公益財団法人ができることは公益信託でも十分できるという制度である必要があります。先ほどから公益信託について軽便な制度である必要があると,というのも現状公益信託の受託財産は5,000万円以下が結構多いという話がありましたが,公益財団法人を作るということ自体の重たさからすると,公益財団法人ができることを公益信託を利用してできるというような仕組みを提供することが必要と思います。したがって個々の論点においても公益財団法人ができるか,できないかという観点から考えるべきだと思いますし,そうすると,かなり広がりがあると思います。いろいろな観点から②,③というのは関連していると思いますけれども,さらにこうした観点からも広がりをもって検討すべきかと思います。
  それと関連する論点として,運用のところですが,給付型で金銭を預かる場合には,恐らく何らかの形で厳格な運用というものも必要かと思います。不動産を,美術品でも構いませんけれども,公益信託に付そうとしたときに,一切の金銭の扱いは別ですということになりますと,非常に使い勝手の悪いものになりますし,先ほどの公益財団法人とパラレルに考えるという観点からも不適切といいますか,使い勝手が悪いものになってしまうかと思います。
  ですから,給付型で何か金銭を受託するというものと,美術館の運営とか,弁護士会では子ども食堂というような議論がありましたけれども,いろいろな形で弱者向けに何か不動産を利用して,また,不動産以外のものを利用して,そのときに金銭も一緒に受託者に信託として預ける,受託者は信託目的に沿ってその金銭で場合によっては不動産を購入するとか,子ども食堂であれば,その運営費の足りないところを補充するとか,そういうことも当然といいますか,認めてしかるべきだと思うので,金銭の運用という議論とかなり違う観点の議論も必要かと思います。金銭だから,危険だから制限が掛かるということになると,使い勝手が悪くなってしまうということです。
○松元関係官 すみません,もう1点だけ,先ほどの能見委員のお話との関係で御発言をさせていただきたいんですけれども,能見委員の御指摘はもっともおっしゃるとおりだと私も賛成しておりまして,その関係から③のところに美術館の運営費用捻出のための美術品の売却・購入というのが入っているのは,趣旨が余り定かではないんですけれども,展示するべき美術品を売ってしまうというのは,どちらかというといわゆる目的の範囲外と,受託者の権限の範囲外のウルトラバイリースのような話に近いのではないかというような感じがしておりまして,そうだとすると,ここにこの例がくるのは必ずしも適切なのかということと,もし,ここで言っているのが完全な投資目的で美術品を安く買って高く売るというようなことを想定して,ここに書かれているのだとすると,先ほど道垣内委員がおっしゃったのと全く同じような整理が必要になるのかなという感じがいたしました。
○新井委員 まず,1の「助成事務以外の信託事務の許容」についてです。これについては助成事務に限定する必要はなくて,助成事務以外の信託事務を行うことも認めるということで私は賛成したいと思います。ただ,そのときに公益信託は軽量・軽装備というメリットがあるということに留意する必要があると思います。というのは,受託者が自己執行しないという可能性も考える必要があるからです。それはどういうことかというと,旧信託法では代人使用というのは原則禁止されていたわけですが,現行信託法では原則許容ということで,再委託というのが非常に拡大されました。そうすると,助成事務及び助成事務以外の信託事務を行うということにしておきながら,実は全部,再委託するというようなこともあり得るので,ここの点は監督なり,ガバナンスにおいて少しチェックする必要があるのではないかと思います。
  先ほどの能見委員の観点とは違うのですが,どうして助成事務とか,助成事務以外の信託事務を受託者が行うかといえば,公益という重要な信託目的は,受託者が自ら執行せよという趣旨だと思いますので,自己執行義務と再委託の問題,これも一つの論点としてあっていいと思います。
  それから,2の「許容される信託事務の範囲」についてです。これは部会資料12ページの一番冒頭ですけれども,ここに書いてあることに私は賛成いたします。ここでの表現によると,①と②は一括して理解して③は除外するという理解でよろしいのかと思います。というのは,ここには出ていませんけれども,新しい公益信託の形としては福祉型信託,未成年後見の信託,小野委員のおっしゃった子ども食堂の信託ですか,こういうものがあると思うのです。
  例えば福祉型信託でいうと,ただ単に金銭を助成するだけではなくて,助成した金銭で例えば一定の機能付の車椅子を買うとか,あるいは施設に入居するという判断あるいはそのコーディネート,それが非常に重要です。ですから,助成の部分とそれ以外のところは密接不可分であり,なかなか分けることができないと思います。それから,未成年後見にしても金銭を給付するということと,給付した金銭でその後,どういう未成年の養育をするということは分けられないところがあると思いますので,ここは①と②は一体にして,③は切り分けるという整理でよろしいかなと思って賛成します。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山本委員 第2の2の「許容される信託事務の範囲」について意見を述べさせていただきます。正に今,新井委員のおっしゃった点に関わる点です。特に2の点です。部会資料の7ページ以下によりますと,公益信託の受託者が行うことができる信託事務は,公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務を行うことはできないとすることでどうかとされています。これによりますと,公益信託の認定を行う外部の第三者機関は,③の公益目的の達成と関係しない信託事務が少しでも入っていれば認定はできない。認定してほしければ,公益目的の達成と関連しない信託事務は,全て除外して申請しなさいということになるだろうと予想されます。
  この場合に,疑わしきは公益目的の信託事務と見るという実務が定着すればよいのかもしれませんけれども,恐らくはそうではなく,むしろ,逆に疑わしきは除外しなさいということになっていくのではないかと予想します。しかし,そうしますと,実際の公益信託の活動は,かなり縛りの強いものになるのではないかと思います。部会資料の例でいいますと,留学生向けの学生寮の運営によって国際相互理解の促進等を目的とする公益信託で学生寮の建物が信託財産とされた場合に,「運用」がどこまで含むかという問題はあるかもしれませんが,建物を使って一定の収益事業を一部行って得られた収益を利用して,学生寮の賃料を安く抑えるというような工夫をしようとしても,それは③の公益目的達成と関連しない信託事務なので,してはいけないということになりそうです。
  公益目的の事業を継続しようとしますと,現実には様々な工夫が必要になってくるだろうと予想はするのですけれども,このような形で一律に③はいけないという制約を課しますと,なかなかうまくいかなくなるのではないかと思います。確かに軽量・軽装備という公益信託のメリットは維持する必要があることはよく理解することができるのですけれども,例えば公益法人制度のように,公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがない限り,公益目的以外の事業も行うことができるというような何らかの手当をしておく必要があるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
○深山委員 今の山本委員の御発言の趣旨と重なるかもしれませんけれども,私もゴシックで書かれている抽象的な規律としては御提案のとおりでよろしいと思います。すなわち,公益目的の信託事務に限定し,それ以外の事務はできないという,抽象レベルの議論としてはそれでよろしいと思います。しかし,それを具体化したときに,正に補足説明の中で言えば,②と③の限界線がどこにあるのかということだろうと思います。ここで山本委員も御指摘になったように,少しでも運営費用を賄うような目的が入っていれば駄目だということになると,これは非常に難しいだろうと思います。
  例えば美術品を入れ替えるために売ったり,買ったりすることは,①のところで直接関わるという分類になっております。他方で,③の方では運営費用捻出のための美術品の売買は③で駄目だと。例えば時価3,000万円の美術品を売却して,2,000万円の別の美術品を購入し,入れ替えて,差額の1,000万円は運営費用に充てるというようなことがあってまずいのだろうかというと,それを禁止する必要はないと思います。
  残りの1,000万円も,別の1,000万円のものを買わなければいけないということでもないでしょうし,他方,運営費用捻出というのは,正に運営できなくなってしまえば,公益目的そのものが達成できなくなってしまうわけですから,どこかで工夫をして費用を捻出しながら運営していかないと,そもそもの公益目的を達成すること自体が難しくなる。ということを考えると,余り近視眼的にといいますか,スポットで見て,この部分は収益的な事務だからいけないということではなくて,全体として見て,そういう収益的な活動も含めて,公益目的を達成するために行われているものという評価ができるのであれば,それは認めるべきであるし,むしろそういうことを当然に予定していかないと,かなり窮屈な制度になってしまうというのは私も同じ意見であります。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 私も先ほどの山本委員なりの意見と基本的には同じですが,弁護士会の議論の中では,①,②とも基本的には賛成で,助成事務以外の信託事務を行うことができることであるとか,あとは信託事務の範囲を御提案のとおり,公益目的で限定していくというようなことについては基本的には賛成でした。ただ,公益目的の判断が難しい場面があるであろうと思われますし,あとは表の②と③の区別もなかなか曖昧で,この表のとおりの指摘が必ずしも正しいとは思えなくて,③の中でも②に入れてもいいと考えられるものが幾つかあると思いました。
  例えば,不動産なりの信託事務をしているけれども,常時利用しているわけではなくて,例えば,子ども食堂のような,夜は使っているけれども,昼は空いているというような場面において,昼に何らか有効活用しようというのは,当然あってしかるべきなのではないのかと思います。結局,それをどのように限定していくかということではあるのですが,後の運用の観点もそうでしょうが,公益目的や当初の信託目的によって,限定されると思います。
  事業とか運用といったときに,根幹的な公益信託の目的となる事務からすごくかけ離れたものが事業なり,③のカテゴリーで認められるということは基本的にないのでしょうから,根幹的な公益信託の目的となる事務にそれなりに近いものでなければ,③に近いものといっても認められないだろうと思います。ですから,それは当初の信託目的なり,公益目的なり,そういうところから,限定されていくというのが一つの考えだと思います。
○沖野幹事 同じ点です。部会資料8ページの表の②と③の切り分け,①と②をセットにした上で③と切り分けるという点ですけれども,②と③の切り分けは山本委員がおっしゃいましたように,疑わしきはどちらにいくかというときには,どちらかというと,①,②の方は比較的広げるというか,緩やかに判断するというような考え方の方がよろしいのではないかと思っております。正に③で一般的な表現としては,公益目的の達成と関連しない信託事務という関連性がないということで切られております。その中に活動維持のために必要性,相当性といった点を加味して考えていき,もう少し緩やかに②と③の切り分けを考えた方がいいのではないかと思っております。
  そうしたときに,ここに挙げられている例として先ほど来,幾つかの御指摘があります美術館の運営費用捻出のための美術品の売却・購入というのは,これだけを見ますと様々な場面があり得るわけで,当初予定したよりもうまくいかないので,少し縮小してというようなときだと,運営費捻出のために売却すると,そして,作品を切り替えていくというようなことも出てくるわけで,そういったものはむしろ①に入ると思います。そうだとすると,美術館としての維持や運営にかかわらず,投資的にやるというような,あるいはブローカー的に行うというようなことはできないということで,その切り分けとして非常に抽象的ではありますけれども,相当性と必要性,関連性といったところから,個別具体的な事業ないしは申請に対して判断していくというのが,適切ではないのかなと思っております。
  それと,もう1点ですけれども,道垣内委員,小野委員がお聞きになったことなのかと思うのですけれども,よく分からなかった点がありますので,改めて質問したいという趣旨です。それは美術館の建築・運営というときに,美術品とともに,しかし,運営資金が必要なので金融商品も託し,その金融商品を運用することで,美術館の運営資金を賄っていくというような計画を立てたときの金融商品の運用というものは,②に入るという理解でよろしいんでしょうか,という質問です。
○中辻幹事 今,沖野幹事が例として挙げられた美術館の運営のために信託財産の金融商品が運用されるケースについては,表の②の欄の信託事務の中に入るかどうかというよりは,公益信託の信託財産の運用として認められるかどうかという面から検討することを予定しておりました。そこで,その金融商品が現在のように国債や預金等の非常に安全な運用を行うものであれば,当然認められることになるでしょうが,新たな公益信託制度では,今のような固い安定的な運用よりはある程度ゆるやかに利ざやの大きい運用を許容することもあり得ると考えておりまして,その論点についてはむしろ信託財産の運用の面から議論していただければと存じます。
○中田部会長 沖野幹事,よろしいでしょうか。
○沖野幹事 ありがとうございます。
○神田委員 既に御議論があった点と重なりますし,今の最後の点とも重なるのですけれども,3点,確認の意味も含めて感想的な意見というか,質問めいたこともあるのですけれども,申し上げます。
  まず,第1点目は,最初,能見委員からの御発言から始まった点なのですけれども,今,ここで議論しているのは認定の基準であって,受託者の権限とか,行為能力ではないと理解しました。その意味は例えば部会資料8ページの表でいうと,①と②はできるけれども,③はできませんというのはあくまで認定の基準であって,もし③がされた場合には,特に対外的な行為の場合には,その効力は有効であると,仮に相手が悪意であってもと,そういうところまで意味しているのか。そういった問題は受託者の権限として後でもう一度議論しますということなのかというのが質問です。確認的な質問です。
  それから,2点目は,①,②にどういう行為が入るかということで,二つ,是非,御検討いただきたいと思うことがあります。一つは新井委員がおっしゃったことなのですけれども,アウトソースというか,委託することができるかということです。確かに原則は,自己執行義務という言葉を使うとすれば,そういうことの方が公益信託には望ましいと思いますけれども,よく挙げられる例で例えば仮に運用として国債を保有することができる,今でもそうだと思いますけれども,そうすると,国債は自分で保有することはできませんで,制度的に金融機関あるいは振替機関である日本銀行を通じてしか保有することはできません。
  こういうものを委託と整理するかどうか自体に争いがあり得るところですけれども,伝統的な一般的な整理は,振替証券と呼んでおきますけれども,振替証券の振替制度を通じての保有は委託だという整理が少なくとも伝統的にはされてきていまして,私は個人的には若干疑問があるのですが,それはともかくとして,もしそうだとしますと,こういう例外的な場合には委託が認められてしかるべきとなるのではないか。今,たまたま,国債の例を挙げましたけれども,より一般的に例外的な場合があるかどうかということになります。
  それから,もう一つは今,最後に御議論があったところなんですけれども,一般には資金が必要になってまずやることは借入れになります。そこで借入れができるのか。もちろん,一般的な長期の借入れというよりも一時的な借入れ,仮に①,②で処分できるとして,ここに書いてある例でいいますと,展示品入替えのための売却とかがありますけれども,なかなか売れないというときに一時的に借入れをしていいか。今あった御質問は金融商品を運用して資金を捻出していいかという御質問だったので,より一般的にいうと,①,②をするために必要な資金をファイナンスしていいかということになると思います。伝統的な言葉でいうと,一番簡単な一時的な借入れをしていいかどうかということを御議論へ加えていただければと思います。
  3点目は道垣内委員が最初におっしゃったことに結局,関連するのですが,信託事務という概念と運用という概念でして,本来,運用のところで申し上げるべきであったことかとは思うのですけれども,仮に例外的な場合に委託,あるいは仮に一時的な借入れとかができるとなると,それは信託事務ですかという問いが概念的には生じるので,運用は信託事務ですかという御質問とかぶってくると思うのです。ですから,概念整理だけの問題だと思うのですけれども,公益信託において受託者ができることは何で,できないことは何か,このできる,できないは,権限ではなくて認定基準の問題として議論しますと,こういう整理なら,そういう整理をしていただきたいと思います。
  そうなると,後で申し上げることかもしれませんが,運用についても運用は当然できますという話ではなくて,今の委託とか,一時的な借入れと同じだと思うのです。原則は例えば100というお金を受け入れて,全部,100を運用していますというのは考えにくいので,すぐに美術品を買おうと思っても,最初に買うのに6か月,1年,かかりますと。これを待機資金と一般には言っているのですけれども,その間,放っておいていいかというと,国債とか預貯金にする,あるいはそれ以外でもいいですかという話。
  あとは与信と言って,100のもので美術館とか美術品を買おうと思ったけれども,80で20が余っているので,次のことをやる間,この例ですと,与信と言っていいのか,それも広い意味での待機資金なのですけれども,それは放っておいたらゼロで,今運用したらマイナスかもしれません,いずれにしても,運用というのも,そういう待機資金とか,与信についてこういうことができますということだと思いますので,委託にせよ,ファイナンス,一時的な借入れにせよ,運用にせよ,そういうことだと思います。それは信託事務の中に概念整理するか,外に概念整理するかはともかくとして,大きな枠組みとして,できること,できないことということで整理していただければ有り難く思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 ただいまの神田委員がまとめられたのとかなり重なるのですけれども,私が最初に申し上げましたように,ここで議論するべきことは認定基準の問題であるという形で,問題が立てられてはいるのですが,実際には公益信託が動き出して運用の段階となったときの,受託者は何ができるのか,できないかという問題にも関連はしています。しかし,両者が混じってしまうと議論の混乱が生じるので,まず,それをきちんと分ける必要があるだろうということで,この点,神田委員が指摘されたとおりであります。
  その区別をした上で,認定の段階の問題として,どういう一般的な原則を立てて,先ほどの①,②,③についてもどんな形のルールにしておくのかという点なんですが,公益認定の基準としては,抽象的な言い方ですが,当該信託が公益目的事業を行う,あるいは公益目的事業に反することはできないという程度の一般的な基準でよいという感じがしました。それを更に具体的な基準にしようとして,①,②,③のような具体的な書きぶりをしたときに,うまくいくのか。特に②,③を区別するような基準がうまく書けるのか,公益性認定の基準として書けるのかというと,なかなか,難しいのかなという感想であります。
  この問題は,受託者が公益信託の引き受け許可を求めるときに,その申請をするときにどこまで詳しく書かなければいけないのかという問題とも関係すると思います。公益信託の許可申請をする段階でも,②とか③のような事業については,②辺りは実際に公益信託が動き出す前に,事前に書けなくはないと思うのですが,②の事業でも後でだんだん拡張するような場合もあるでしょうし,全てが公益性の認定ないし許可を求める段階で書けるとは限らないと思うのです。それから,③は書けない。これはむしろ駄目だという例ですから,一般には,公益信託の引き受け許可申請の段階ではもちろん書かない。いずれにせよ,②や③に関連することを,申請者はどこまで公益性認定のところで書くのかという問題があるような気がいたします。
  認定の段階ではそういう問題があるということですが,②,③の区別が実際上問題となるのは,公益信託が設立された後の実際の運用の段階なのだろうと思います。たとえば,③にあるようなことが実際に行われたけれども,しかし,そこで上がった収益は公益活動の資金として100%使うのだということになると,その場合の③は駄目なのかと言われると,ケース・バイ・ケースであるように思います。要するに,③は,基本的に運用の段階の問題として,ケース・バイ・ケースに判断して処理すればいいのではないかという感じがいたしました。これがまた受託者の権限の範囲内か否か,権限外行為ということで無効になるのか否か,という問題は,後で受託者の権限のところで議論したいと思います。
○道垣内委員 最初に申し上げたことの若干,繰り返しになるのですけれども,少なくとも現行信託法は,信託財産の投資も含めて信託事務という言葉を使っています。だからこそ,信託事務について善管注意義務が掛かるとか,忠実義務が掛かるとかというときには,もちろん,信託財産を運用するということについても,そういう善管注意義務や忠実義務が掛かってくるというわけです。
  しかるに,今回,公益信託の議論をするときに,最終的に条文に落とすときにどうなるかという問題はさておき,信託事務という考え方と信託財産の運用という概念を一応,異なるものとして議論をしていくというわけですが,恐らくそれがこれまでの公益信託法における議論で可能だったのは,信託財産が金銭に限られていたからなのだと思うのです。したがって,金銭の運用方法について国債,地方債,預貯金にしなさいと書いておけば,当該信託財産の運用における権限というのは極めて明確になって,それ以上の議論をする必要はなかった。
  しかるに,仮にこれが今,議論の範囲に入っているかどうかは覚えていないんですが,部会資料の12ページ以下のところにありますように,公益信託の信託財産について金銭に限定しないということになりますと,正に事務局で気付いていらっしゃるように,14ページの3の(1)のところにあるわけですけれども,金銭に限定されない信託財産を使った運用というものが出てきます。遡って投資用不動産をそもそも信託財産とすることを許容しないという考え方もあり得るとも書いてあり,それはそうなのですが,仮に信託財産の範囲を金銭に限定しないということを前提とするならば,受託者が助成事務以外の信託事務を行うが公益目的の信託事務に限定するという言い方の整理に,若干の無理が出てくるのではないかなという気がいたします。
○中田部会長 既に3の「信託財産の範囲」にも入っておりますので,その点も含めて御議論いただければと思います。
○小野委員 運用という言葉の使い方について,昨日の弁護士会のバックアップチームで議論したことをお話しさせていただきますと,信託業法上,管理型と運用型に分かれていて,運用という言葉の使い方によっては信託業法の適用のあるような信託と,場合によっては見られてしまうかもしれませんけれども,今までの議論でもそういう金銭の信託を伴うものであっても,給付型で安全資産において運用といいますか,管理するものばかりではなくて,信託目的,また,信託契約に沿った形で委託された金銭を使用することができるようにする必要があり,それが信託業法の運用型に該当するような議論とならないようにしていただきたく,用語の使い方,言葉だけの問題かもしれませんけれども,今後信託業法の議論というのもあり得ることと思うので,是非,留意していただけると有り難いと思います。
  特に現在の信託財産の運用のところの記述というのは,ざっと見るところ,いわゆる金銭給付型の信託財産の運用又はしばらく金銭として扱っていたときの運用という観点のようですけれども,私の発言でも,また,多くの委員の方々の発言においても,信託された金銭をどう利用するか,公益目的でどう利用するかということだったと思うので,いわゆる運用型の運用とは法律用語として違うのではないかという点でございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 今,議論されております三つの課題があると思うんですけれども,公益法人協会で前回の公益信託法改正研究会報告書に関するアンケート調査というのを行いまして,200人余りの個人の有識者に質問を求め,56名の回答を得ております。ほぼ法務省案に賛成という結果でございますが,最初の助成事務以外の信託事務の許容については,56名中52人が賛成,反対が4ございます。収益事務等を除外するという点については,39名が賛成で17名が反対なんですけれども,助成事務以外の信託事務を許容することに反対という理由は,積極的に反対というよりはガバナンスがかなり難しくなっていくのではないかと,そちらの規制の方ががんじがらめになるぐらいであれば,特に非常に収益事業をやるべきということではないというような感じでございました。三つ目の金銭以外のものについては,全員が金銭以外の財産を信託財産とするということに賛成という結果を得ております。
  許容される信託事務の範囲なんですけれども,先ほど道垣内委員がおっしゃったように,公益目的の信託事務という広いくくりで見て,一見,賃貸して収益事業を行うから公益には反するということではなく,それが真に公益目的かどうかというところで見ることができるのではないかと思うんです。それで,例えば一棟建てのマンションを持っているおばあさんが,これでもって助成事業をしたいということで,マンションを信託にして,その収益でもって学生に奨学金を与えるとか,そういうような公益信託があってもいいのではないかなと。そうすると,賃貸収入なのだから公益ではないということにはならないのではないかと思うんです。
  あと,新井委員がおっしゃったように,信託財産の範囲を金銭以外のものも含めるということになると,信託事務の委託というところで,かなりガバナンス的に難しい問題もあるのかとは思うんですけれども,そのことはさておき,信託財産としては金銭以外にも広めるべきであるし,後に出てくる問題の受託者の資格という意味で,委託をする場合には,それを監督することができるような見識や経験のあるというような要件が必要になってくるとか,そういうところにつながってくるんだと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○明渡関係官 公益法人の実務をやっている観点から若干,補足をしておきたいと思います。部会資料の8ページから9ページにかけまして,①,②,③というふうな形で3種類の信託事務の分類が挙げられております。そこで,9ページの(2)一番最後のなお書きには注意深く書いていただいておりますけれども,「ミュージアムショップやカフェの営業が,公益法人の行う公益目的事業の一部として許容される例が存在している」というような形でお書きいただいております。
  常にミュージアムショップやカフェの営業というようなものが公益目的事業となっているわけではございません。収益事業として立てられている例というようなものも多数あります。単にミュージアムショップ,カフェというようなことだけで見ていくのではなくて,恐らく個別の事情の中で判断しているんだろうと思います。そういった意味では,②と③の区別というようなものもなかなかグレーゾーンがあるかと思いますけれども,②で例が挙がっているからといって,全て同じような形で,現在の公益法人の実務においてとられているかというと,その辺りも個別事情を見ながら判断しているというような実態があるというふうなことを誤解なきよう,お伝えしておきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。今のお話は認定の基準という趣旨でございますね。
○明渡関係官 認定のときもそうですし,その後の監督もそれに従ってという形になります。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○吉谷委員 まず,信託事務の拡大によりまして,監督・ガバナンスの強化が必要になって,その結果,軽装備を旨とする公益信託の特質が失われないようにすべきであるということを改めて強調しておきたいと思います。それを前提といたしまして,公益目的の達成のために直接,間接に必要である信託事務であれば,それに伴い,一定の収入が発生することも許容されてしかるべきであろうという考え方には賛成いたします。ただ,ここの例で挙がっている美術館の運営などというのは,非常に私などから見ると難易度の高い事例でありまして,恐らく具体例に挙がっているものよりももっと単純で,実現可能性の高いものはいろいろあるのかもしれないなと思っております。
  信託事務でとても複雑な事業をするということがよいのだろうかという論点はあるのかなと思っております。現行の実務よりも受託者の裁量を極端に拡大することを認めることで,ガバナンスに関する規律が拡大されると,現在,行われている助成型のような簡単にできるものについても支障が出るというのでは困りますので,もし,そういうことになるのであれば反対したいと思います。そういう意味で,受託者の裁量を限定するという方法はいろいろあると思っておりまして,例えば運用の観点とも若干関わるのですけれども,事業を継続するために必要な資金の調達というのがあって,そのために計画的に信託財産を売却するというようなことは,公益目的の信託事務に含めていいのではないかと考えております。
  ただ,美術品の売却は,個別のケース・バイ・ケースの是非になるかとは思うのですが,より単純な具体的なニーズということでは,不動産や有価証券等というものを当初の信託財産にしますと,その売却資金を公益目的に使用するということは,十分に考えられるだろうと思っております。そのような事業計画をきちんと立てて,受託者の裁量を適切に限定するということも可能なのではないかなと思います。
  もし,そういうことを認めた場合は,投資用不動産を当初の信託財産とする,例えばマンションであるとか,そういったものを1棟でも1戸でも信託財産として,そうすると売却までの短期間の収益というのは必然的に発生するわけでありますので,そのようなものは許容されていいのではないかと。受託者に別に不動産事業を継続しようという意図があるわけでもありませんので,10ページの第1パラグラフには,悪影響の懸念ということが書かれているんですけれども,そういうものを考えれば悪影響の懸念というのはないのかなと思っているところです。
  あと,公益目的の信託事務という法律の概念を規定して,該当する事務の範囲を公益信託の認定を行う外部の第三者機関の判断に委ねる方法というのに賛成でございます。ただ,部会資料上,気になることが一つございました。11ページの(3)のところの下の方に「もっとも」という箇所がありまして,その下で個別具体的な信託事務の内容を公益信託の申請段階で記載することを要求することは,申請者の負担を増大させることになると,審査も長期化して軽量・軽装備という公益信託のメリットを維持しようとする観点との調整が必要と書かれています。
  考えますところでは,信託は法人組織ではありませんので,受託者の信託事務の範囲というのを信託契約や申請書である程度,具体的に記載して狭めておいた方がやりやすいのではないかなと思うのです。信託で行う事業が複雑なものであればあるほど,審査が長期化することはやむを得ないと思えますので,助成型のような事業についての記載は簡易であってよく,美術館を建築して運営するようなものについては,詳細な運営が求められるということは慎重に審査する必要もあるでしょうから,やむを得ないのではないかと考えます。そういうふうにきっちりとした審査計画書面というものを作ることによって,監督の仕組みを軽装備にすることができるのであれば,そのようにした方がいいと考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  吉谷委員の今の御発言は,①と②と③について軽量・軽装備が担保されるということを条件にといいますか,それを前提に,方向としてはこれでいいと承ってよろしいでしょうか。分かりました。
○樋口委員 2点だけ。1点は感想で,もう1点はコメントです。
  今,ずっと御議論を伺って,なかなか,本当に難しいなと思っております。いろいろ,勉強になることばかりだと思っておりますけれども,感想の第1は結局,2ページ目の基本的な方向性というのがこの文章を読んでも私だけでなくて,多分,ここの会議にいる人以外は何を言っているか分からない,結局,一番大事な言葉は(公益法人と公益信託の)「すみ分け」というのがどうもあるらしいというのと,「適正な利用を促進する」という言葉です。しかし,これほど曖昧な言葉はなくて,何を言っているか分からないので,結局,信託事務の範囲とか,それもつまり一番初めのところの大元がはっきり決まっていれば,信託事務の範囲も広げていこうとか,そうではなくて限定しておかないといけないとか,何か方向性が決まるはずなんだけれども,基本的な方向性と書いてあるんだけれども,決まらないから,こういう議論になっているんだなというのが感想です。
  それで,すみ分けに関係して私自身が面白いなと思ったんですけれども,10ページ目の「小括」のところで,つまり,公益法人との比較みたいな話を教えていただいて,本当に有り難いことだと思っているんですが,真ん中辺から「小括」の2段目ですが,なお,公益法人制度では公益目的の達成と関連しない信託事務に相当する収益事業等を公益法人が行うことが許容されているが,しかし,他方では公益信託制度と比較すると認定基準がそもそも厳格なんだということです。そういうことを考えると,最後に,このことからも信託の方はつまり厳格な認定基準ということにきっとならないので,逆に公益目的の③の類型については,許容すべきでないと考えられるかどうかと,こういう形でつまりバランスをとろうとしているんです。
  これは何か理屈が合っているようで,理屈が合っていないような,公益法人の収益事業許容と認定の厳しさでバランスを取っているから,公益信託の方は逆に収益事業は許されない,この議論は極めて説得力があるようで,私にはものすごく疑問符が感じられるような,とにかくバランスをとればいいというだけにしか読めなかったんです。この二つが論理的にすぐ結びつくかは何ともいえないからです。これも感想で余計なことを言ってしまったかもしれませんけれども。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかには。
○渕幹事 部会資料12ページの「信託財産の範囲」のところについて少しコメントというか,感想がございます。今のところ,金銭に事実上,限定されているということが議論の出発点になっているのだと思うのですが,本当にそうなのかということについて少し伺いたいのです。というのは,先ほど「みなし譲渡課税」のところで追加して説明してくださったところとも関わるのですけれども,特定公益信託ではない一般の公益信託というのが,実際には余りそれは実務上重要ではないのだとおっしゃる方もいらっしゃるのですが,仮にある程度,使われているとして,その課税関係についてはどうなるかということなのですが,先ほど御説明がありましたとおり,委託者がそのまま財産を持っているとみなして,それで課税するのであるというふうな仕組みになるのかと思います。ということは,仮に金銭以外のキャピタルゲインがあるような財産を信託財産として,公益信託を設定したということがあったとしても,そこでみなし譲渡課税は行われないと思われるわけです。
  問題は,今申し上げたようにキャピタルゲインがある財産を信託財産として,公益信託を設定するという人がいるのかということです。今回の資料では,そういうものはほとんどないのではないかということが暗黙のうちに想定されているのですが,インターネットで調べましたところ,国税庁のホームページに質疑応答事例というのがございます。
  それを見ますと,その中に公益信託の信託財産とするために上場株式を提供した場合というような質問が出ていて,これは要するに公益信託の基本財産として,相続によって取得した上場株式を出捐したいというわけです。その場合にみなし譲渡課税があるのか,ないのかという質問なのですが,これについて国税庁の回答は,法人税法附則19条の2の2項というのがあるので,公益信託は法人課税信託ではないということで,引き続き委託者が信託財産を持っていると税法上はみなされるということで,みなし譲渡課税はないと答えられています。ということで,こういうふうに国税庁が質疑応答を出している以上,もしかしたら使われている例はあるのかもしれないと思われるのです。
  そのことと離れて理屈の上で考えてみますと,みなし譲渡課税がなくて,それで公益信託の信託財産となるとどうなるかというと,所得税法11条の2項でしたか,非課税の扱いになるということで,例えば配当とかを受け取っても非課税というメリットがあるわけです。というようなことで,もしかしたら,そもそも一般の公益信託というものがこういう形で,例えば上場株式などを信託財産とする形で既に使われているという可能性があるのかもしれない。これは分かりませんが,そういう可能性は国税庁が出しているものからするとあるなと思った次第で,そのことがもしかすると,ここでの議論というか,説明の書き方に多少,影響を及ぼす可能性があるかもしれないと思って発言しました。
  それから,長くなってしまって恐縮ですが,もう1点ございます。14ページの(2)のところで,みなし譲渡課税との関係という論点が出てまいります。ここで公益信託の場合は,租税特別措置法40条というのが適用されるということが説明されております。これはここに説明がございますとおり,本来,課税の対象となるべき過去に生じているキャピタルゲイン課税について,課税しないということだと理解しております。
  これについて,公益信託についても同等の扱いをしたらどうかというような考えもあり得ると書いてあって,もちろん,公益法人との関係では同じ扱いをすべきだという意味では,非常にそういう考え方にも説得力があるのかもしれないのです。しかし,この制度では結局,実際に公益目的に使うべしということで出捐した財産の額と課税を免れるといいますか,非課税になる額というのが余り連動しないわけです。たまたま,キャピタルゲインが多い財産を出せば課税が減免されると。しかし,含み益がない,キャピタルゲインがないような財産を出した場合は,そういう便益は及ばないということなので,白地から制度を設計すれば,こういうふうにキャピタルゲインを減免する,課税を減免するというよりは,例えば公益目的に出捐した額の何%の額を一律に税額控除するというような仕組みにした方が,課税の公平という面では賢明かもしれないと,そういう考え方もあり得ると思う次第です。
○中田部会長 今の点について今の段階でよろしいですか。
○中辻幹事 渕幹事が指摘されました,国税庁のホームページの情報を私は存じておりませんでした。ご教示いただき,ありがとうございます。私どもとしては,公益信託で株式も含めて金銭以外の財産を信託財産とした場合には,主務官庁の許可がおりず,財務省の了解も得られないということで,株式が公益信託の信託財産とされている事例は稀なのではないかと考えておりましたが,実際にこのようなホームページがあることからすると,株式が信託財産とされている実例もそれなりにあるのかもしれません。
  もし信託実務の観点から,吉谷委員の方で教えていただけることがあればよろしくお願いいたします。
○吉谷委員 はっきりとした数字ではないんですけれども,私が存じている限りでは,恐らく業界でも10とか20とかぐらいはあるのではないかと思います。ただ,最近,そういうのを受けたかどうかということについては余りよく分からないですね。恐らく助成型しかやっていませんので,株式を当初信託財産にして,その配当を助成に使いますという考え方はあり得るんだと思います。ただ,一方で取り崩していくようなパターンだと,金額が小さくて配当が少ないので,徐々に売却していかないといけませんというようなケースですと,その売却に対してどの程度,課税がされるかということも,信託を設定する上での考慮材料になるのではないかと思われますので,今は期中の売却については普通に委託者に課税されるのではないかと思いますので,そういうところの御配慮が新しい制度であると,当初信託財産として有価証券などを使うという方向性は,考えられるのではないかなと思っております。
○渕幹事 では,株式を売却したりする場合については,今は,所得税法11条2項は適用されていないということですか。
○吉谷委員 売却時にも非課税メリットがあるということですか。
○中田部会長 専門的な話になってしまって難しいんですが,平成19年の税法改正で新しく入ったということとの関係もあるんでしょうか。
○渕幹事 私も余り分かりません,すみません。
○中田部会長 今,吉谷委員がおっしゃいました,期中で売却したときにどうなるかということと,それから,当初にキャピタルゲイン課税が生じるかどうかということと,二つの問題があるのだろうと思います。これは今,中辻幹事からもありましたように,こちらは十分,まだ,よく勉強していないところでしたので,是非,渕幹事にもお教えいただければと思います。とりわけ,平成19年改正で一般の公益信託と特定公益信託との間に違いが出ている,それがなぜなのか。特定の方は金銭だけを念頭に置いているから対象とする必要がなかったにすぎないのか,それとも,もっと大きな何らかの政策的判断があったのか等も含めて,引き続き渕幹事からお教えいただきながら,詰めていければと思います。今日は問題の提起ということでよろしいでしょうか。
○渕幹事 ありがとうございます。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
○神作幹事 先生方からいろいろ御議論いただいて,しかし,まだ少し分からないところがあるので御質問させていただければと思いますけれども,8ページの表の読み方なのですが,信託事務の分類というので①から③までございます。ここでの分類というのは,一応,公益目的の達成のために直接必要か,間接的に必要か,達成と関連ないと分かれておりますけれども,先ほどの神田委員の御発言にも関連するかとは思うのですが,例えば③で挙がっている例のうち,美術館の運営費用捻出のためというのがたまたま美術品の売却・購入だけに係っていて,これは確かに目的そのものに反する可能性があると沖野幹事から御指摘があったとおりかと思いますが,例えば美術館の運営費用捻出のため,美術館の建物の結婚式やビジネス会議等への賃貸というも,当然,公益目的の達成のために間接的に必要ではないという整理なのか,つまり,③に挙げられている行為というのは,場合によっては公益目的のための正にファンドレイジングだという,そういう可能性もあると思うのですけれども,ここで書いてあるのはむしろ何をするかというのを単に客観的に並べているだけであって,真の目的とは無関係だという理解でよろしいのかというところであります。
  それと同じことは多分,神田委員が先ほど借入れについて書いていないではないかということなのですけれども,これも借入れというのはそれ自体,非常に抽象的,一般的な行為で,恐らく①から③のどれにも入り得ると思うのですけれども,この表の見方がむしろ本当の機能に着目して分類しているのか,それとも,外形に着目して分類しているのかという,そこのところが少し分かりづらかったので,もし御説明いただければというのが第1点です。
  それから,第2点は少し意見になりますけれども,もし外形的に書いてあるんだということだとすると,一つの説明というのは外形的に例えば③のように活動範囲が広がれば,例え目的はファンドレイジングであっても,ガバナンスが大変になるでしょう。これは一つの説明かと思いますけれども,もう一つ,あり得る視点かなと思いましたのは,税法も視野に入れるということになりますと,例えば③のような活動を営利法人がやっているという場合の課税の関係と,そうではなく,これはもちろん公益信託における課税の在り方と連動してくるわけですけれども,課税の在り方によっては非営利の場合,公益の場合とそれ以外の場合との競争上のイコールフッティングというような観点というのも,もしかしたら問題になり得るのかなと思いました。
  すみません,前半の方のご質問についてもし教えていただければ大変有り難いと思います。
○中辻幹事 神作幹事の御質問に対してですけれども,部会資料32の8頁の表に挙げました各種の信託事務が①から③の欄のいずれに位置付けられるかは,外形のみによって判断できず,「公益目的」よりも下のレベルの目的も含めて判断することが必要となる場合がございます。例えば,③の「美術館の運営費用捻出のため」の美術品の売却・購入は,外形的に見れば①の「美術品入替えのため」の美術品の売却・購入と区別できないものがあり,そこは「文化及び芸術の振興」という「公益目的」よりも下のレベルの目的で区別するほかありません。
  なお,私どもとしては,公益法人の世界では,公益目的事業の運営を永続的,継続的にやっていくための費用を捻出することは認められるべきであるという発想から公益法人が収益事業を行うことが認められ,収益事業によって上げられた収益が公益目的事業の運営の方に投入されていくという仕組みがとられていると理解しています。
  しかし,そのような仕組みをとったがゆえに,公益法人については公益目的事業比率などの厳しい認定基準が加わっており,公益法人の現場の方からは批判もあるということも側聞するところです。
  そこで,すみ分けという表現にしておりますけれども,平たく言えば,公益法人でできることの全てを公益信託でもできるようにすべきであるとは考えておりません。投資用不動産を例とするなら,都内の物件であれば高い収益が上がり,それを公益信託事務の運営費用に充てていくのは結構なことではないかという考え方はもちろんあり得ると思います。しかし,それを一旦認めてしまうと,公益目的の信託事務の方に投入されるべき人やお金が収益を上げるための信託事務の方に流れてしまう,あるいは収益事務の運営に失敗し信託財産を毀損するおそれがあることから,それを防ぐために公益法人で不人気の認定基準等の仕組みを公益信託にも持ち込まざるを得ない事態になることも懸念されます。吉谷委員がご指摘されたように,公益信託の受託者が時限的に収益不動産や株式を保有することはあり得るのかもしれませんが,それらを永続的に信託財産として保有するということになってしまうと,かえって望ましくない結果をもたらす可能性があるように考えております。
○中田部会長 神作幹事,よろしいでしょうか。
○神作幹事 1点だけ,そうすると例えば美術館の建物の結婚式とかビジネス会議等への賃貸の前に,美術館の運営費用の捻出のためという言葉が付くと②になるのでしょうか。それとも,それがついても③。
○中辻幹事 運営費用の捻出のためということですか。それが付いてしまうと③の方に入るのかなと思います。
○神作幹事 そうすると,③はこういった事業をする真の目的が①のためであっても,外形的にこのような行為をしたときには,公益目的の達成とは関連しないと見ると,客観的行為から。
○中辻幹事 美術館の建物の結婚式やビジネス会議等への賃貸は,美術館における美術品の展示等の信託事務と比べると「文化芸術活動の振興」という公益目的からは非常に遠い位置付けにあるものと考えておりました。美術館の建物を美術品の公開のために使っていないときには,別の用途に使っても良いではないかという発想があり得ることを否定するものではありません。けれども,そのような発想を認めてしまうと,今の段階でもなかなか②と③の切り分けは難しいと思っていまして,それが更に不分明になってしまうのではないかという懸念もございます。そうすると,美術館の建物の結婚式やビジネス会議等への賃貸は,それらが運営費用の捻出のためにされるのであれば「文化芸術活動の振興」という公益目的の達成のために直接又は間接的に必要な信託事務とはなりませんし,そもそも外形的に「文化芸術活動の振興」と関連しない範ちゅうの信託事務であると判断することが可能であり,公益信託事務としては許容されないという整理をすべきではないかと考えております。
○中田部会長 資料を御準備された方の理解はそういうことであり,それとは別の基準もあるのではないかという御指摘を頂いたのだろうと思います。
  更に御意見を頂戴いたしますけれども,できましたら3番目のところで,一旦,区切りを入れて,四つ目の項目については休憩後にしたいと思います。そこで,3番目の「信託財産の範囲」のところまで休憩前に御議論いただければと思います。
○吉谷委員 「信託財産の範囲」のところでございますけれども,今のお話でも収益を上げるための財産というのは,恐らく公益目的の信託事務と関連しない信託財産となるかどうかというところが,論点になってくるのではないかとは思いました。ここに書いてある公益目的の信託事務と関連しない信託財産は,公益信託の信託財産として許容しないとすることということについては,この基本的な考え方は賛成いたしますが,(3)の「信託財産の運用について」に関して,特にお話ししたいと思います。
  運用を認めるかどうかということについては二つほどありまして,まずは有価証券の運用で資産の組替えを伴うものであるとか,投資用不動産によって運用するということはリスクが高いわけでありまして,専門家でない人が運用することが妥当なのかということがあると思います。専門家にそれを任せるのかということになると,それを委託するとなると,委託した人をまた監督するのかというような話もありまして,軽量・軽装備を維持できるのかというような点でも問題になると思います。
  ですので,もし有価証券とか不動産であるとか,そういったものでの運用を認めるのであれば,公益認定の審査において,受託者であるとか運用の委託先について,運用の能力であるとか,信託財産が運用報酬を負担してまでリスク資産で運用を行うということが妥当なのかというようなこと,あるいは運用手法とか費用などとかを運用計画できちんと説明できるのかということを,公益事業の必要性との関係で慎重に見極めるべきではないかと思う次第です。
  ただ,今述べたような観点では,受託者の裁量を限定した計画であれば,軽量・軽装備を維持できるのではないかと考えているというわけです。一つは,先ほど申し上げましたけれども,有価証券や不動産を当初信託財産とした上で,計画的に売却するというような場合です。もう一つは,株式などの有価証券を当初信託財産として設定して,配当を公益事業の原資とするというような場合です。このような管理と計画的な処分に限定することによって,受託者の裁量が低くなりまして,それ以外の複雑な運用事務を行う場合よりも,当然,費用,報酬的なものも低くなり,適切性の判断というのも容易にできるのではないかなと思っています。
  例えば不動産を継続保有するなどということについても,私ども信託銀行はそれを業としてやっておりますので,もちろんできるわけですけれども,事業リスクというものが伴います。ですので,そういったものをできるかどうかというところの見極めが,受託者の範囲にも関わってくるのかもしれないのですけれども,なかなか,難しいところであるかなと考えております。
○中田部会長 ほかに,ここまでのところで御意見はございますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  それでは,ここで一旦,休憩を挟みたいと思います。15分程度と考えておりますので,あちらの時計で3時55分まで休憩にいたします。
 
          (休     憩)
○中田部会長 それでは,再開いたします。
  部会資料32の第2の4,「公益信託の類型に応じて複数の規律を設けることの要否」について御意見を頂きたいと思います。
○川島委員 1点,意見を申し上げます。この表題にありますとおり,類型に応じて公益信託の認定基準や監督等の規律を分けないというのがここでの提示であります。このことについては分かりやすさ,使い勝手のよさという点で優れているということは理解ができます。ただ,補足説明の一番最後のところに,「実際の公益信託の認定の実務において,それぞれの公益信託の特性に応じた審査が行われることを否定する趣旨ではない」とございまして,仮に実際の認定段階において,それぞれの特性を見るということであれば,その際の基準などを法令などに明記した方がかえって分かりやすいという,あるいは予見可能性という点で優れているという考えもあるのではないかと感じました。そうした両面で御検討いただけたらと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 基本的には提案に賛成いたします。初めから類型を意識して複数の規律を考えるというのは,複雑になったり,手続が重たくなるという懸念がありますので,基本的にはシンプルな基準を一つ立てるということを基本にしたらいいと思います。ただ,今の御発言とも重なるかもしれませんけれども,今後,いろいろ細かい各論の議論をしていく中で,基本的な規律を定めた上で,ただ,例外的に一定の場合にはもうちょっと簡略化できるというような,その限度での例外則を設ける余地はあってもいいのかなと。今,必ずここはこう軽くしろと考えているわけではないんですが,考え方として軽量・軽装備という公益信託の一つの特徴に着目するのであれば,基本的な規律を定めつつも,一定のより簡略化した例外措置というのを,今の段階で一切認めないと決めてしまうのもどうかなということです。
  例えば今後,規律として提案されるかどうか分かりませんけれども,情報公開などの規律をウェブで設けるというときに,全て一律のレベルの公開を求めるかどうかというようなことなどを考えたときに,一定の規模なり一定の要件に該当するものは,より簡略化した公開で足りるということがあるいはあるかもしれない。これも例えばという例で申し上げているので,それに特にこだわるものではないんですが,いずれにしても,全く一切,一律ということにしてしまうのも,この段階ではやや早いのではないかという意見でございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 私も基本的に提案に賛成ではありますが,軽量・軽装備というものを前提とした上での賛成とさせていただきます。ですので,現在行われているような助成型の公益信託を信託銀行がやっているようなものについて,ガバナンスについて加重されて,よりコストが掛かるということは,余り望ましくないのではないかと考えておりまして,もしスタンダードがより重装備なものになるのであれば,現在のような助成型のパターンのものは切り分けるということもあってもいいのかなとは思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 確認とコメント,同じような趣旨なんですけれども,16ページの補足説明の4行目ぐらいですかね,現在の,途中を飛ばして,受託者の監督・ガバナンスと記載されておりますけれども,これは実際として,また,税法上の基準として,今,信託銀行が行っている,信託会社が行う,信託銀行が実際と思いますけれども,そうすると,信託業法,信託銀行ですと兼営法の下で行っている金融庁における監督ということが実際ではありますけれども,ここで記載されている現在の受託者の監督というのは,そういう趣旨ではないという理解でないと,今後の議論が発展しなくなってしまうので,もちろん程度とか,質の議論は別かもしれませんが,そういう点を確認したく,また,そうあってほしいというコメントでございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 私も信託事務の内容とか,信託財産の種類,規模に応じて監督とか規律を分けないということに賛成します。ただ,繰り返し出ていますように,公益信託というのは軽量・軽装備ですので,理念形としては助成型が基本ではないかと思います。例えば先ほど議論がありました美術館とか,学生寮の運営ですけれども,ここで議論しているのは美術館とか,それから,学生寮自体の名義を信託財産に移した上で公益信託を運営するということを考えているわけですけれども,これも助成型でもできるわけです。特定の美術館に金銭給付をする,特定の寮に公益信託から助成することも可能です。国際的な交流の場としてある寮に私の大学の学生がたくさん入っていますので,そこに金銭給付するということがありますので,学生寮の名義を信託財産に移すという類型に反対するものではないのですけれども,理念形としては助成型とした上で規律は分けない,そういう含みを残した上で賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○明渡関係官 公益法人の実務の方から少し現状を申し上げたいと思います。公益法人は非常に多様な業務を行っているというようなことでございまして,認定の基準としては公益認定法5条ということで十数項目が挙がっておりまして,法令上はそちらの方で規定されているということではございます。一方で,実際に審査をする場合ですと,行っている事業,例えば講座とかセミナーをやっている場合とか,調査的な業務をやっている場合,その他,キャンペーンであったりとか,技術開発であったりと様々なものがございます。それぞれのやっている事業に応じて,それが公益性に当たるのかどうかを見ていくというようなことを実態としての審査業務としては行っております。したがいまして,同じようなことを考えるとすると,公益信託としてどのようなことまでできるのかというようなことによって,その辺りの認定若しくは許可になるのか,その辺りの判断基準というふうなものは,事業によって変わってくるということがあり得べしというようなことではないかと思います。
○中田部会長 そうしますと,規律を分けないということはいいけれども,認定において特性に応じた審査が行われるという(注)のような書き方を重視すべきだということでございましょうか。
○明渡関係官 必要となってくるというふうなことだろうと思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○山田委員 細かなことで恐縮ですが,第2の4について,この考え方で私はよいと思いますが,少し注意をとどめておいていただければと思います。それはどういうことかというと,例えば公益社団法人・公益財団法人の認定等に関する法律では会計監査人を置くことが,法人ですので機関設計としてまずデフォルトとして要求されて,ただ,例外で外すというような仕組みがあります。
  それはここで言っている,まず,二つ以上のタイプに分けて,類型に分けてということとは違うのかもしれませんが,規模とかに応じて,法人ではありませんので機関とは言わないのかもしれませんが,ここに書いてある受託者の監督・ガバナンス等,ここに関わるルールが変わることはあってよいと,個別に今後,各論を検討していくときに,今ここで類型を分けないとしたから全部一律で,一律の基準として何がいいかという議論に終始するのではなく,ここはこういうふうに区分して,原則としてはある方法だけれども,例外を満たすときには別のルールというのは,一般的な法制度の作り方であり得るわけですから,それを排除はしないという点は注意しておくのがいいのではないかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。それでは,「第2 信託事務及び信託財産の範囲」については,おおむね御意見を頂戴したということでよろしいでしょうか。
  そうしますと,御議論としては,ここではまず認定基準の問題が検討されているということを確認した上で,具体的にどのような基準を設定することができるのか,基準を設定したとして,その具体的な判定を誰がどのようにしてするのかという問題がある,更にその規準に違反した場合の効果というんでしょうか,これは認定との関係と,私法上の効果と両方があり得ると思われますが,そういったことを更に考えていく必要があるだろうという御指摘を頂いたと思います。更に認定基準以外の問題,例えば受託者の権限との関係ですとか,信託財産の運用と信託事務の執行との関係,更には運用の概念・内容,あるいは委託との関係等々についても,更に検討すべきであるという御指摘を頂きました。
  その上で,全体として第2についてはまず1から3のそれぞれのゴシックで書かれている部分についてですが,1は大体,これでいいだろうという御意見が一般的であったと存じます。2についても,これでいいという御意見を多く頂いたと思いますが,しかし,何ができないと考えるべきなのか,あるいはできることとできないこととの線引きをどのようにするかについては,更に検討すべきではないかという御意見が多かったかと思います。それから,3については金銭に限定しないということで,これは特に御異論はなかったように承りました。
  その上で,全体として軽量・軽装備ということの特性をいかすというのも大方の御意見であったかと思いますが,そもそも,どこまで民間による公益活動というのを広げていくべきなのかについて,更に検討すべきであるという御指摘も頂きましたし,あるいは税との関係についても視野に入れてということですが,更に詰めて検討する必要があるだろうという御指摘も頂きました。
  そして,4については,基本的にはこれでよいという御意見でありましたが,幾つかの御注意も頂きました。4でいいという方の中でも,そのイメージとして,どの辺りを基準にするのかについては若干,それぞれ,ニュアンスの違いがあったのかもしれませんが,これは更に具体的な議論を通じて,だんだん固めていくということになろうかと存じます。
  ということで,第2についてはこの程度にいたしまして,続きまして「第3 公益信託の受託者の範囲」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明していただきます。
○木村関係官 それでは,第3の「公益信託の受託者の範囲」について御説明いたします。
  まず,本文で甲案から丁2案まで全部で五つの考え方を示しております。これらは,いずれも公益信託の受託者の範囲を限定する提案となっておりますが,まず,そもそもの問題として,公益信託法には受託者の範囲を制限する規定が存在しないにもかかわらず,受託者の範囲を制限するということ自体の要否も検討する必要があるところだと思います。もっとも,事務当局としては,公益信託の適正な運用を確保しつつ,軽量・軽装備というメリットを維持するという観点からしますと,受託者を一定の範囲に限定する必要があるという前提で考えているところです。
  その上で,まず,甲案ですが,甲案は受託者について信託会社であることを必要とするという考え方になります。この考え方は現行の実務運用ですとか,税法上の要件と親和性を有する考え方ということができます。
  続きまして乙案ですが,これは信託法附則第3項等を参考に,受託者は目的信託の受託者となり得る法人でなければならないとする考え方になります。信託法附則第3項及び信託法施行令第3条は,目的信託が脱税などの不法の目的に濫用されることを防止するために,純資産が5,000万円以上であることや,法人の役員に犯罪歴のある者や暴力団関係者がいないことなどを要求しております。乙案は,これを公益信託についても導入するという考え方になります。
  丙案は,公益法人認定法を参考に,受託者は公益目的の信託事務を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有する法人であることを必要とするという考え方になります。公益法人認定法は,公益認定を受ける一般法人に対して,安定的かつ継続的に公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を要求しておりますが,丙案はこれと同様の要件を受託者に要求するという考え方になります。
  ここまでの提案は,全て受託者が法人であることを前提とするものになりますが,丁1案及び丁2案は,自然人が受託者となることを許容するという考え方になります。丁1案は,許可審査基準を参考に,受託者について公益信託の適切な管理運営をなし得る能力を有する者で,社会的な信用を有し,かつ知識及び経験が豊富であることを要件とする考え方になります。一方,丁2案は,自然人が公益信託の受託者となる場合には,一定の法人と共同受託することを必要とする考え方になります。
  丁1案及び丁2案は,いずれも自然人が受託者となることを許容する考え方ですが,丁1案は受託者個人の能力を重視する考え方であるのに対し,丁2案は共同受託によって受託者個人の能力を補うという考え方になります。丁2案を採用する場合には,共同受託さえすれば,どのような自然人や個人であってもよいのかや,共同受託の在り方,相互の監視の在り方といった点について更に検討が必要になると考えられます。
  以上のほか,21ページでは国又は地方公共団体が受託者となることの可否についても検討を加えております。以上の点について御審議いただければと思います。
○中田部会長 それでは,ただいま説明のありました公益信託の受託者の範囲について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。
○吉谷委員 私どもといたしましては,どの案に賛成であるということは特に言い難いのでありますけれども,受託者の監督であるとかガバナンスであるとか,そういったものを余り現在よりも厳格にする必要がない範囲で,受託者の範囲というのを決めていただくのがいいのではないかと考えております。公益信託のガバナンス構造については,今後,議論されるところではあると思いますけれども,従来のように信託管理人を中心としたチェック体制というもので適正性が確保できないような人を受託者にするというのは,そもそも,公益信託の制度としてはいかがなものかと考えるところです。
  それで,個別の案につきまして,丁2案なんですけれども,恐らく丁1案と丁2案は両立しなくて,丁2案というのは丁1案は認めるべきではない,でも,丁2案はいいのではないかということではないかと思います。そういう場合に,やり方としては丁2案でなくても,法人を受託者とするのであれば,受託者から何らかの事務を自然人に委託するというようなやり方でもできるのではないかなと考えました。
  それで,あと,この中で検討するに当たって参考になるのは,丙案ではないかとも考えております。公益財団法人等は,ここの辺の趣旨が異なると御説明されていらっしゃると思うんですけれども,受託者の信用力というものを検証するには,一定の効果があるだろうと考えております。にわか勉強で恐縮なんですけれども,まず,経理的基礎というのは解説書によると財産基盤と経理処理・財産管理能力,外部監査のこの三つになるというわけです。
  最初の財産基盤というのは,受託者に一定の固有財産があることを要件とするかどうかという考え方であろうと思いましたし,権限の濫用であるとか,そういったものに対する事後的な措置などを考えると,あった方が望ましいのだろうなとは思うところです。二つ目の経理能力や財産管理能力があるということは,もちろん,必要なことであろうと思われますし,三つ目の外部監査などを受けているかということは,固有の業務についての監査を受けている方が望ましいのだろうなとは思います。ただ,少なくとも信託事務を行うための内部的な統制というのが,受託者の中になければならないのではないかなと思うところです。
  もう一つの技術的能力というものについては,公益事務を行うことができる能力があるかということですので,これは当然,なくてはならない基準であると思いますが,現行でも運営委員会などを更に受託者の外部機関として設けたりしておりまして,その他の信託事務についても外部委託を含めた形で,能力の証明ができなくてはいけないのではないかなと考えているところです。
○中田部会長 ありがとうございます。そうしますと,丁1案と丁2案については懸念があると,丙案は検討の余地があると,甲案,乙案も検討の余地があると,そういうことでしょうか。
○吉谷委員 丁1案は抽象的なので,参考になるのは,甲,乙,丙で比べれば丙の方が丁よりは参考になるかなと思った次第です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○深山委員 結論的に言うと,この中では丁1案を中心に考えるべきだろうと考えております。言うまでもないことですけれども,甲,乙,丙と丁1,2との違いは,自然人が受託者となることを認めるかどうかということで大きく分かれているわけですが,自然人を形式的に除く合理性はないだろうと思います。
  先ほど前半で議論したように,今後は信託財産についても金銭以外のものも入ってくる,それから,信託事務としても助成事務以外のものも入ってくるわけです。いろいろな多様な公益信託のメニューを作ろうとしているときに,当該公益信託にふさわしい受託者がどういう立場の存在であるのかということを考えると,もちろん,事案によってはきちっとした組織体制を備えた法人が望ましい信託もあるでしょうが,必ずしもそのような必要がない,むしろ,個人的な知識,経験を信頼して委ねるというパターンの信託があってもおかしくはないと思います。要は,個々の公益信託にふさわしい受託者を選ぶという観点からすると,自然人であるということで当然になれないというのは,合理性がないだろうと思います。そういう意味で丁1案というのは,更にまたその要件といいますか,その定め方について検討の余地はあるかもしれませんけれども,自然人を当然には排除しないという意味で支持したいと考えます。
○能見委員 原案を前提にしての議論ではないのですけれども,まずは法人が受託者になる場合の要件というのでしょうか,それを議論して,その上で個人についても認めるかどうか,それぞれについて要件のすり合わせをするという議論の仕方の方が私には分かりやすかったので,そういう観点から議論させていただきたいと思います。
  そうして,法人についての受託者の範囲,あるいはそのための要件についてはどんな考え方があるかということで,甲,乙,丙の3案があるわけですが,ただ,私のような見方をすると丁1案のところに書いてある要件,これは自然人と法人の両方に関わっていますけれども,ここに書いてある法人の要件というのもまた微妙に丙案とは違うので,法人については,結局,四つの考え方があり得るのかなという感じがいたしました。
  それでは,法人についてどの案がいいのかということですが,信託会社に限定するというのは,これからいろいろ行われるであろう事業型といいますか,助成以外のいろいろな事業を行う場合であるとか,あるいは今まで余り議論はされていませんでしたけれども,いわゆるナショナルトラストとか,財産をただ管理保管するというようなタイプの信託を考えると,信託銀行は,信託会社も含めてですが,必ずしも向いていない。そこで,もう少し広い範囲の法人が受託者になれる可能性があった方がいいのではないかと思います。
  乙案と丙案は似ているようですけれども,乙案は一定の財産規模ということを,目的信託に対する懐疑的な立場に基づいて要求していると思いますので,これは公益信託を考える際にはどうも適当ではないのではないかと思います。公益信託の場合にはまた第三者機関による監督というのもありますし,このようなことを考えると,乙案というのは適当でない。そこで,ここに出ている案としては,甲,乙,丙の中では丙案が一番よいと思います。もっとも,丙案も,経理的な基礎というので一定の財産的な規模などを要求するのであれば,丙案にも,乙案に対するコメントとして先ほど私が述べましたのと同じことが当てはまりますので,余り適当でない,少し強すぎる制約ではないかと思います。そういう意味では,丁1案のところに書いてあるようなことが法人である受託者の要件として考えるのがいいのかなという感じがいたします。一番中心になる資格は,公益信託を適切に管理運営し得る能力という部分なのだろうと思います。
  ただ,丁1案のところにも,社会的な信用を有すること,これはある意味で当然のことではありますが,ただ,これを法律的な要件として書くとなると,なかなかこれは微妙な問題があるように思います。たとえば,社会的な信用の意味を一定の実績がなくてはいけないという意味で理解したり,その外にも,その要件がいろいろな変な形で使われる可能性もあるので,そのことを考えると,丁1案についても微調整,もう少し修正の余地があるのだろうという感じがいたしました。ということで,結論的には丙案と丁1案ぐらいを基礎にするのがよいと思うのですが,その立場についても,若干の修正が必要であるという感想であります。
  自然人については,私は基本的には公益信託の受託者になることを認めていいんだろうと思いますけれども,どういう要件で認めるべきかについては,もう少し検討したいので,今は結論を留保させていただきたいと思います。
○林幹事 弁護士会内の議論というか,結論としてはもちろん丁1案でございます。それで,丁1案の基準が若干抽象的ではということもあるのですけれども,弁護士としての結論としては弁護士だけには限りませんけれども,財産管理業務などをしている専門家士業もありますので,そういう者がこれには該当するであろうとは理解します。そういう給源もあるわけですから,そういうものをある程度頭に置きながら,丁1案というのを検討していただきたいと思っています。
  私は弁護士ですので,それしか話せませんからという意味においてですけれども,弁護士のことを専ら話しますが,それ以外の専門家を排除する趣旨では議論しませんので,前提としてはそのように御理解いただいてお聞きください。自然人や個人が受託者となる必要性があるというところがまず理解の大前提ですが,先ほどから御議論いただいているように小規模で軽量化,低コストであるものを公益信託として考えるときには,もちろん,規模が小さいものもあるのでしょうから,例えば資産規模2,000万円で5年でなくなるというようなものを考えたときに,受託者が必ず法人でないといけないのかと,むしろ個人の方が使いやすいのではないのかと思います。
  それから,これは一般的な民事信託のレベルの議論でもありますが,信託会社自体はそれ自体にコストが掛かってしまうので,小規模なものは受けられないというような状況に現にあると思いますから,そういうことを考えたときに,比較的費用の面でも低コストに受託できるものとして,自然人なり,個人というのもメニューの一つとして用意しておく必要性はあると思います。
  特に目的信託の附則3項の規定で,法人に限定していることの根拠としては,詐害的なもの,濫用的なものを防止するためということですが,公益信託では,後でも議論がありますけれども,第三者機関であるとか,信託管理人というのを想定していますので,ある程度,濫用的なものが出る可能性は低く,それを防止する余地もあると考えられますから,先ほど来の御発言と同じく,そういう前提において実体法として自然人ではなくて法人に限定することには合理性がないと考えます。
  あとは,乙案でも丙案でも丁案でもですけれども,受託者となる場合は1件だけやるというのは想定はしていないと思いますので,複数件を受託するとなると,業法との関係ももちろん問題になりますから,それに対する手当も考えるべきこととは思います。
  そういう前提の下に考えたときに,弁護士として我々は財産管理業務をやっていますし,もちろん,弁護士会内の監督も既にあるところですので,要件として抽象的ではありますけれども,要件に該当する給源というのは社会にはあるとは思います。確かに,要件の表現が抽象的だから認定のときにきちんと判断できるかどうか微妙だと言われるのはそのとおりなのですが,そこはいろいろな工夫の仕方があるかと思います。もっと具体化するという方法もあれば,それこそ政令とかそういうところに落として工夫をしていく方法もあると思いますから,そういうことを考えたらいいのではないかと思います。
○平川委員 乙案の場合では,目的信託の受託者となり得る法人というのに地方公共団体,国が入ってくるんですけれども,公益信託制度は,一番最初の公益信託法の見直しの根底にある哲学的なところでも申し上げたんですけれども,民間の公益活動を促進するというところに意味があるので,民の担い手を広げようという制度なので,公益法人,公法人が受託者になって入ってくるというのは,趣旨としておかしいのではないかと思うので,乙案というのはどうかと思いました。そして,丙案の場合でも法人とありますけれども,公法人は除外されるべきであると思います。丁1案においても同じです。
  あと,信託事務を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力と丙案にあり,また,丁1案でも公益信託の適切な管理運営をなし得る能力とあるんですけれども,ここの二つの解釈なんですけれども,要するに信託事務を適切に行える能力があるかということになると思うんですが,この信託事務の意味には二とおりの意味があって,公益目的を追求するのに能力があるかということと,預かった財産を管理することができるかという二つの能力があると思うんです。
  例えば難民救済の公益目的信託において,先ほどの有価証券を預かったとか,商標権を預かったとか,不動産を預かったという場合に公益目的である難民救済,どこの難民が今,ここにあって,どう救済すべきなのかということにたけているようなところが受託者になるのがよいと。例えば難民救済をやっているNPO法人とか,ただ,そのNPO法人が預かった財産をきちんと管理する能力があるかというところでまた試されるので,そういうNPO法人が経理的基礎や,また,第三者に管理を委託するにしても,丸投げにしないで管理監督ができるような人材が備わっているかという二つの視点での経理的基礎,技術的能力というものが必要になるんだと思います。
  そうすると,法人であればいろいろな能力のある人がいるので,そういう組合せで信託事務を行う能力があるというのはあるのかなと思うんですが,個人でそういう二つの能力が備わっている人というのはいるかもしれないけれども,なかなか希有で誰でもなれるというものではないなと思います。だから,個人を別に否定するわけではないんですけれども,信託事務を行うのに必要な経理的基礎,技術的能力又は公益信託の適切な管理をなし得る能力という中には,そういう二つの意味合いのハードルを越えなければならないということを忘れてはならないと思います。
○中田部会長 そうしますと,平川委員としては丙案か丁1案を主として法人について認めるということになりましょうか。
○平川委員 そういう意味では,丙案で言い表されていると思います。
○中田部会長 そうですか。分かりました。
○平川委員 公法人を除くということです。
○中田部会長 それは最初におっしゃった点ですね。分かりました。ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 質問です。弁護士会の方で丁1案を支持するということですので,それについての質問ですが,丁1案の自然人のところで弁護士を読み込むということです。その場合の前提は,全ての弁護士は自動的にここに書いてある能力,信用,それから,知識,経験を有するということが前提でしょうか。それがまず第1点です。それから,弁護士法人では駄目なのでしょうか。そして,弁護士さんでも財産管理のNPOを作っているところもあるので,そういう弁護士さんの作っているNPO,法人ですけれども,そういうのがより適切なような気もしますが,その点はいかがでしょうか。そして,更に信託業法の関係をどう考えるかということです。個々の弁護士さんが受託者要件に該当するとした場合の解釈はどうなのか,そして,弁護士さんがもし自然人として受託者になったときの監督はどう考えるのか,お考えをお聞かせいただければ有り難いです。
○林幹事 新井委員の御質問はごもっともだと思っていますし,それについては専ら私の個人的な意見になるかもしれませんが,可能性を申し上げたいと思います。NPO法人があるとおっしゃられた件につきましては,それはそれとしてあってもいいとは考えます。弁護士が作ろうが,誰が作ろうがという意味においてです。丁1案であっても丙案自体を否定するものではないと思いますので,それはそれとして認められていいと思います。
  自然人の場合は,平たく言うと,受託者が亡くなったらどうなるのかという問題があろうかと思いますが,例えば信託の設定の際に第一受託者だけではなくて,第二,第三の受託者をあらかじめ設定しておくという方法もあります。また,継続性というものを具体的にどれぐらいの年度でイメージしているかという問題でもあり,10年は10年で長いんでしょうけれども,もちろん5年だってあり得るのだと思います。要するに半永久的なものを常に想定して議論しているのかというと,必ずしもそうではないと考えますので,第二,第三の受託者をあらかじめ決めておくか,それもなければ,裁判所に決めてもらうという方法が信託法上はあるわけですから,それは十分考えられると思います。
  もう1点は,弁護士であれば誰でもいいのかに関しては,立場上はそう言いたいところなのですけれども,信託事務に全ての弁護士が精通しているかというと,事実上は違うかもしれません。それは弁護士に限らず,どの業界も同じかもしれません。ですから,何らかの研修やスクーリング等を経た者がなるべきだということはそうかもしれません。
  先ほど来,技術的能力であるとか,適切な管理運営ができるかということに関していいますと,本来的には弁護士はそういうものを適切に執行していくという能力があるとは考えますが,新井委員のような御指摘に対しては,もちろん,しかるべく研修等するべきだというのは,そのとおりだと思います。弁護士会の監督はどうかというのは非常に悩ましくて,今は事後監督はありますけれども,それだけでいいのかという問題提起は当然あるのだろうなと思います。
  それで,個人的には弁護士会としても信託業務について何らかの監督はすべきだと思っています。現に弁護士会もいろいろな分野でそれに類することをやっていますから,信託業務においても,そういうものが内部で構築できてもいいとは個人的には思いますが,今の時点としてはここではその程度のことを申し上げるほかはないところと思います。
  あとは,それが仮にできたとして,どう立法に組み込んでいくかという問題があると思いまして,それこそ,それを具体的に実体法に書くのかというのもなかなか厳しいんでしょうけれども,それなりに政令等に上手に取り込むということを工夫してもいいのではないのかなとは思っています。
○中田部会長 あと,弁護士法人に限ってはどうかということと,それから,信託業法との関係についてはいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士法人に関しましては,確かに法人のほうがいいというのもありますが,法人の規模は様々ですから,一人法人というのもあるわけですので,それは横に置いておいて自然人たる弁護士というのを専ら議論した方が建設的ではないかというのが私の意見です。
  それから,業法に関しましては先ほども申し上げましたが,丁案に限らず,乙案であっても丙案であっても議論する以上は,業法との抵触というのは当然出てくるものですので,ここでそれを許容するということは業法に対する一定の手当というか,業法には抵触しないものだという前提で議論するか,そうなるような何らかの手当をすると,それは必ず付いて回ってくるのかなと思います。
○深山委員 今の林幹事の発言に少し補足したいと思います。まず,前提として弁護士はどうなんだという新井委員の問題提起はごもっともだと思うんですが,必ずしも自然人について典型的なものとして弁護士を想定しているわけでは私自身は少なくともなくて,もうちょっと広い意味で,正に文字どおり自然人を排除すべきではないという意見を先ほど申し上げました。
  それを一応お断りした上で,例えば弁護士はどうなのかといったときに,もちろん,弁護士の資格があるというだけでふさわしいということにならないのは当然といえば当然です。それはある意味,法人でもどの法人でもいいわけではないというのと同じようなレベルで,弁護士という資格だけでその能力を満たすということにはならないとは思います。それゆえ,ここに書いてある社会的信用だとか,知識・経験が豊富という言葉で表現し尽くされているかどうかについては,十分,検討の余地はあると思いますが,一定の絞りを掛けた上で,それに該当する法人ないし自然人ということを受託者の要件にすればいいと考えます。
  いずれにしろ,制度として信託管理人等のガバナンスがそこにかぶってくるということもありますし,他方で,それとは別に,信託法とは別に,例えば弁護士であれば弁護士会の事後的といえども監視があるというのも,一つの考慮要素にはなり得るのだろうと思います。しかし,それがあるから絶対に大丈夫とまで別に言う気もありません。そういう意味では,総合的に考えて,この信託において,この自然人であればよかろうという場合を形式的に排除する必要はないという限度で御理解いただければと思います。
  最後に,業法との関係なんですが,私は公益信託は文字どおり公益を目的として,営利性はそこでは基本的にはない業務といいますか事務ですので,本来,信託業法が規制しようとしているところが当然にかぶってくるものではないのだろうなと思います。業という定義については,反復継続してというような定義に形式的に当てはめると,複数回やれば当たるということになるのかもしれませんが,公益信託という業務ないし事務に照らして,ここは信託業法の適用除外の分野なんだろうと思います。また,そうでなければいけないのだろうと思います。
  その上で,ただ,そのことを法制度として,明文上,明らかにしておく必要はあるのかなと思いますので,それは信託業法になるのか,公益信託法になるのかという問題はありますが,そこは適用除外になるということはどこかで手当をすべきだろうと思っております。
○中田部会長 ありがとうございます。今の適用除外というのは自然人に限らず,法人であっても適用除外になるという御趣旨でしょうか。
○深山委員 はい。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○樋口委員 二つです。一つはお願いと謝辞ですが,今日のここだけでもないんですけれども,ずっと話を聞いていて,先回,実はお願いしたことなんですけれども,日本に独特の公益信託法を作るんだというのも,それはそれなりの考え方としてあってもいいのかもしれないんだけれども,公益信託なるものはほかの国でも相当の国で存在していて,それがどう機能しているかということを申し訳ないけれども,調べていただいて,この後は謝辞になりますが,21ページのところには,ここにIRSのアメリカのお話が今回は出ているわけですよね。
  ここの使い方は,アメリカの一般ルールはこういう受託者について何の規制もないけれども,実態のところではIRSだって,法人の方をきちんと信用して,免税の利益を与えるような判断には使っていますよということでアメリカの事例を利用しているんですけれども,これに限らず,もう少しつまりほかのところで,こういう公益信託の受託者についてどうなっているんだろうかというようなことを,つまり諸外国の事情の調査報告のようなことを,どこかでやってくださるというきっと予定が入っているんだと思うんですけれども,参考にしながら,それがあって,やや日本はいろいろな事情がありますからという話で,こういう甲案から丁2案ですか,こうやっていろいろ,この中のどれにするかという段階に入るのは何だか早いような気がするんです。2年を掛けてこの検討を行うというのでしたら,もう少し私はお願いでほかの国ではどうなっているんだと,そういうことも参考にはしていますよということを見せてくださると有り難い。
  二つ目です。二つ目もそうなんですけれども,今日,私が理解したのはキーワードは「公益信託の軽量・軽装備」という言葉です。軽量・軽装備という言葉が,例えば17ページなんかでも受託者については軽量・軽装備なんだから,限定しないといけないよという話になるし,戻って恐縮ですが,信託財産の範囲についても金銭には限定しないけれども,どんどん拡大するという話には絶対にいかないよという話と,それから,信託事務の範囲もこういう形で限定せざるを得ないよという,結果的にそういうネガティブな働かせ方をしているんです。公益信託を公益財団法人と比べることによってこういう特色がある,だからという,このレトリックが本当に正しいものなのか,それで,今日の一番初めのところで平川委員もおっしゃってくださったと思いますが,基本的な方向性としてもう少し何か前向きの「民間非営利活動,社会経済システムの中で積極的に位置付ける」と,一番初めにうたっているものと抵触しないのかどうかを考えざるを得ないと感じました。これは感想です。
○中田部会長 ありがとうございました。
  他の国の調査というのは。
○中辻幹事 引き続き,調査していきたいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 林幹事,深山委員が述べたこととほぼ同じ考えで,そこをまず確認させていただきます。さらに重複しない形で1点だけ追加させていただきますと,法人であっても,もちろん,私は自然人,弁護士というものが受託者として能力がある場合には当然になってしかるべきと思いますけれども,必ず公益信託の内容,立て付けにもよりますけれども,第三者委託ということが当然,必要になってくることと思います。
  信託銀行においてもカストディアン信託銀行を設けていて,再信託の形で実質,第三者委託しておりますし,例えば不動産管理信託で多くの義務が第三者委託されておりますから,そういう全体の枠組みの中で受託者の能力というものは,判断されてしかるべきだと思いますし,そのときに受託者がしっかりとした第三者委託先を管理する,監督する能力があるかどうかというと,その辺は法的な力,法的な素養とか,裁判制度に依拠し,利用するとか,そういう意味においては法律が絡むところが多く,弁護士としての能力というものは決して弁護士だからということではなくて,法律専門家として当然尊重されてしかるべきではないかと思います。それは一般人又はNPO法人であっても,そういう能力がある又は第三者委託したときの監督能力があるということであれば,それはそれで認めてしかるべきだと思います。
  また,日本の法制度においては,弁護士というのは御存じのように弁護士会に登録して,それゆえに弁護士として業務ができるわけですが,公益財団法人の場合は認定機関がモニタリング,監督をしていくという立て付けではないかと理解しておりますけれども,そういう監督機関がやるような業務を,受託者が弁護士であれば弁護士会に委任をするとか,民間に依拠しつつガバナンスをいろいろな形で強化していくなど適切な形をとることにより公益信託の利用を図ることができていくのではないかと思います。公益信託がだんだん,民事信託の議論へ広がっていくときに,先ほど新井委員が恐らくそういう趣旨も含めてのコメントだったと思いますが信託業法をどうするんだということに関しては,ここでまず公益信託としての個人の受託者の適正というものをよく検討し,また,それを実際にうまく執行して,その中で更に公益信託の外縁にあるようなもの,更にその外縁にあるようなものに対しても,個人,弁護士でもいいですし,場合によってはほかの業種でも構いませんけれども,適切に運用していくことによって,先ほど樋口委員が述べられたように,元々の公益法人改革,公益信託も含めた上での公益法人改革の趣旨というものにのっとった形での発展ができるのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 受託者の範囲そのものではないのですが,丁2案に関連して考えたことがありますので申し上げたいと思います。法人でも当てはまるかもしれませんが,個人に受託者を広げた場合に特に問題になるだろうと思われるのですが,公益信託の受託者としてどういう人たちがそれを担うのが望ましいだろうかと考えると,信託という仕組みをよく理解していて,それを適切に使える人,これは法人でもいいのですけれども,個人に広げるならば個人とともに公益法人だと公益事業ですが,信託ですので公益目的信託事務ですか,それを適切に執行することができる能力というのがあるといいだろうと思います。そして,今日も何度か,いろいろな局面で話題になりましたが,助成事業というのは余り後者の方は特別な能力は要らないかなと思うのですが,部会資料にあるような美術館の運営とか,留学生向けの学生寮の運営とか,こういうものですと,公益目的のその信託事務について適切にできる力というのが望ましいと思うのです。
  そうすると,受託者が二人いて,あるいは二人に限らないのですが,複数いるというケースを個人が受託者になる場合には容易に想定できるだろう,あるいはそうするとうまくいくだろうと考えられます。そのときに,最後,受託者の範囲に戻りますと,ここに要求されているのをその二人について,どちらについてもそれを要求するとなると,今申し上げた信託について詳しいという人と,美術館運営について詳しいという人がタッグを組んでも,あなたは美術館運営については詳しいが信託について詳しくないではないですかとして,受託者としての要件を欠いてしまうということにならないように,受託者が複数いるときには受託者のチームで,ここに求められている受託者の要件を満たすように,そういうふうな考え方ができるようになると,適正な形で公益信託を広く使えるようになるだろうと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。丁2案は一定の法人と自然人が共同受託するというのが原案ですけれども,今のお話ですと,個人が二人でもよいということになるのでしょうか。
○山田委員 丁2案に限ってということではなくて,別の考慮から一人は法人でなくてはいけないという考え方を採るのであれば,それに強く反対するものではないのですが,複数の受託者がいたときには複数の受託者を合計してこの要件を考えて,一人一人についてここで要求している要件をそれぞれが満たさなければいけないという考え方を採らないことができれば,それが望ましいと思うということです。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○明渡関係官 また,行政実務の観点からということでありますけれども,今の公益法人の公益認定に当たっては,個人,自然人については理事・監事とありますけれども,これがむしろ欠格条項に当てはまるかどうかというような形でネガの方だけを見ております。ポジとして能力がある,ないというような形の評価というのは,公益認定の中では出てまいりません。ここの20ページの上の方でお書きいただいているんですけれども,公益信託の認定を行う外部の第三者機関が実質的に認定することといった場合に,個人が能力があるというようなことをその行政手続の中で判定することというふうなことは,かなり具体的な要件というふうなものを定めておかないと,なかなか,実務的には難しいというふうな面が出てくるのではないかとは思います。
  とりわけ,ここでは外部の第三者機関と書いていますけれども,これは必ずしも国だけではなくて,今の実態においても各都道府県がそれぞれ許可していますと。それで,都道府県においては今まで1件もないところもあったんだろうと思います。そういったところが,個人の能力というところをどのように判断できるのかというような実務的な観点というのが,制約要件となってくるのではないかと考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○沖野幹事 これも念のために確認させていただきたいという趣旨ですが,第3の受託者の範囲というのも認定の基準としての受託者ということであって,公益信託の受託者たる資格ではないという理解でよろしいでしょうか。その資格を欠くということになると,無効になるというような話が出てくるように思われますし,それから,認定ですと,山田委員がおっしゃったようなトータルで受託者が備えているかという判断はなじむと思うのですが,資格というと両者でというのはなかなか判断がしにくいと思いますので,認定の基準と理解しておりますが,それでよろしいのかということが1点目です。
  もう一つは,付随的な公法人の問題なのですけれども,積極的に排除するまでの必要性はないという考え方が資料にも書かれておりまして,私自身も公法人が公益信託であえて認定を受けて,公益信託をするというようなことがあるのだろうかというのがよくは分からないところです。せいぜい,目的信託としてできれば十分ではないかという気もいたします。
  もっとも,目的信託として公益の信託ができるかというのは,最初の方で現行法上は問題があるということですから,その障害が排除されるならば,それで十分かなという気もしておるのですけれども,しかし,一方で受託者になるという点が当初の受託者という場合と,途中のといいますか,暫定的なといいますか,そういう途中から受託者になるという可能性もあるように思われます。そうすると,必ずしも認定という点とは掛かってこないのかもしれませんが,追加の認定を受けるのかもしれませんけれども,例えば公益信託で,しかし,受託者の変更が必要となったようなときに暫定的に受けるとか,そういうようなことがあるのかどうかということも気になっておりまして,そうしたときに,余り考えられないけれども,あえて積極的に排除するという必要性まであるのだろうかという点がなお気になっております。
○中田部会長 第1点についてはいかがですか。
○中辻幹事 沖野幹事の御理解のとおり,部会資料の第3で記載した公益信託の受託者の範囲は,このような認定基準を設けるべきか否かという意味で挙げているものです。認定基準を満たさなかった公益信託の効力について解釈に委ねるのか,あるいは法律上明確にしておくべきなのかは,別途考え込む必要があると思います。
  それから,公法人,国とか地方公共団体の話ですけれども,公益信託法改正研究会でも少し議論になったところですが,国や地方公共団体が永続的に公益信託の受託者になるというのは余り想定し難いのかなと。ただ,まちづくりを目的とする公益信託で,国又は地方公共団体が,当初あるいは途中の受託者として土地を集めて,それを民間に引き渡すようなつなぎの役割を果たす可能性もあり,そういう需要が考えられるのであれば,あえて公法人を公益信託の受託者として否定する必要もないとも考えまして論点として挙げさせていただいているところです。
○中田部会長 よろしいでしょうか。もし追加がございましたら。
○沖野幹事 では,これも念のための確認ですが,受託者の変更があるような場合には,改めてその段階で追加に認定というか,新規の認定というかを受けるということになるのでしょうか。
○中辻幹事 そのとおりでして,公益信託の認定の際に受託者としての適格性を審査されていない方が変更により途中で受託者として入ってくるということになれば,そのときは追加の認定が必要になってくるのだろうと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○神田委員 公益信託の場合と,それから,公益信託でない目的信託の場合,一般の民事信託の場合という辺りはバランスをとる必要があると思いますし,他方,業法との関係も考え方を整理する必要があると思うのですけれども,うまく言えないのですけれども,もし自然人が単独でなることはできないというか,そういう方向になっていくのだったら,丁2案というか,そういう人であっても,ありていに言えば,信託銀行と一緒にならいいでしょうという方向はあるように思います。
  なぜなら,信託銀行なのか,信託会社なのかはありますけれども,分かりやすくいえば,信託銀行は今,単独で受託できているわけですから,それに加えて自然人がもう一人加わるということで,共同というか,複数受託というか,言葉の問題はともかくとしまして,財産の管理ですとか,濫用の防止というところは信託銀行が担うわけで,もし,そういうスタイルであれば全く自然人を排除するということは言わなくていいので,セットで認定しますということはあっていい方向だと思います。もちろん,自然人が単独で可能だということでいく場合は,また,話が変わってくると思いますが。それは難しいという線で先に進むのであれば,一緒ならいいのではないでしょうかということは,あっていいという感じを持ちます。
  業法についても1点だけ,この部会の対象ではないと思いますけれども,業法は難しいのでよく整理しないといけないとは思いますけれども,私の無知かもしれませんが,現在,信託銀行がしておられる各種業務のうちの公益信託という業務について,業法の監督の適用除外になっていることはないですよね。ですから,バランスの問題があるので,おそらくどちらへそろえるということでもいいかとは思うのですけれども,一つの考え方としてイメージだけを申し上げますと,例えば自然人が信託銀行と一緒にやる場合には,その自然人について業法上の特別扱いを認めるとか,そういう方向も考えられると思います。単独でできるという方向で進む場合には,余り私が今,言ったようなことを考える必要はないということにはなると思いますけれども,難しいという方向で進む場合に,自然人でニーズがあるということであれば,それは信託銀行と一緒にどうでしょうかという方向は,十分,あり得る考え方だと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。丁2案の場合には,法人については甲案から丁1案までの幾つかの可能性があるということですが,もし,これがよかろうという御意見があればお出しいただければと思います。あるいは留保ということでも結構でございますが。
○神田委員 では,一言だけ。私の個人的な感触としては,例えば数年間やってみて様子を見たらどうでしょうかというかという感じがあります。つまり,自然人は駄目だというのは,これも公益信託の場合がどうかというと,先ほどの軽量・何とかというのから必要はないのかもしれませんけれども,そういうニーズがあるとすれば,現在はできないわけですから,できるとするときに,当面,信託銀行と一緒にやるということでどうですかということだとすれば,今の丁2案というのも最初は信託兼営金融機関と限定してでもいいと思います。だんだん,広げていってもいいし,様子を見ながら試行錯誤でやれるという,そういう法制度が作れれば個人的には理想だと思っています。そういういいかげんな法制度は作れませんということだと,どこかに決めるということで,比較的,慎重なところでやるというのが現実的かなと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  そのほか,いかがでしょうか。
○新井委員 五つの案が出ていまして,私は個人的には丙案がいいとは思うのですけれども,公益信託の受託者の範囲を論ずる本当の意義としては,公益信託をこれからどう普及させていくかが重要です。それを考えると,従来の金銭給付型ではなくて,新しい公益信託の展開というのを目指さなければいけないと思います。だから,福祉型の公益信託であるとか,後見型公益信託あるいは子ども食堂型公益信託ですか,そういうものを目指さなければいけないと考えると,少し範囲を広げてもいいのかなと思います。
  そうすると,丁1案は法人又は自然人で,丁2案の方は自然人と共同受託を法人ができるということなので,先ほど中辻幹事の方から,これは認定基準だというお話がありましたので,認定基準ということであれば,こういう多様な可能性を残すことも一つ可能ではないでしょうか。自然人の方でどこまで信託の内容をきちんと作り上げて,認定を求めてくるかということで,その法的効果はどうかという問題はあるにしても,そういうことで公益信託普及のインセンティブを与えるというのも,一つの政策的判断なのかなという気もしております。ですから,丙案と丁1案と丁2案,これをミックスすることはできないでしょうか。選択肢として丁2案の共同受託,これも選択肢として入れるということで,丙案と丁1案,2案の合体案,その二つぐらいを残して,更に検討していただくのはどうでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 1点だけ,丁2案に関連するんですが,共同受託者という言葉が受託者の責任という,先ほど神田委員から信託銀行と一緒にという話がありましたけれども,信託銀行は能力が不確かなある自然人と共同受託者になって,その責任を共同で負うというのは,恐らく金融機関としての立場からはなかなか採り難いと思うところもあるのではないかと思います。ですから,共同受託という意味は,もちろん,共同であってもいいですし,私が先ほど述べましたように,特定の業務ということで第三者委託ということでもいいというような丁2の何とか案というんでしょうか,丁2案のままでは共同という言葉が強すぎるのかなと思います。もちろん,山田委員がおっしゃられたように,自然人の場合には恐らく何人かで共同で受託するのがふさわしいのでしょうけれども,その自然人が専門家たるどこかの法人とか機関に頼むというときは,共同ではなくて第三者委託という選択もあるのではないかと思います。丁2案というものを余り硬直的に考えない考え方もあり得るのではないかというような考え方です。
○中田部会長 第三者委託については,吉谷委員から丙案と組み合わせる形の第三者委託という御意見を頂いたんですが,小野委員はむしろ丁1案と組み合わせるということになるんですか。
○小野委員 多様な公益信託がある中で,金額が小規模で別にいろいろな方が関与することによって,いろいろなコストが掛かるかもしれませんから,必ずそうしなければいけないというわけではないという意味においては,丁1案と必ず組み合わせるというわけではありませんけれども,状況によっては丁1案と組み合わせる,状況によっては丙案と組み合わせる。ただし,丙案を採ったとしても別に丁案を排斥する趣旨ではないので,そういう意味においては,丁1案と組み合わせることが適切な状況もあるかもしれないという趣旨です。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 先ほど個人の場合については,意見を留保していたのですけれども,その部分について意見を述べたいと思っています。結論を躊躇していたことについては,いろいろな理由があるのですけれども,本来は,個人について受託者となれるように,受託者の資格要件を広げるのが,望ましいのだろうなと思っております。アメリカのようなやり方というのが望ましいと思っています。しかし,個人について,その者がそれぞれの公益信託の受託者としてふさわしいかどうかの判断基準は,なかなか設けにくい。そこで基準を設けずに,第三者機関が受託者の適否を判断するということになるのも適当でない。基準がないところで第三者機関の裁量的な判断に任せるというのも適当ではない。しかし,客観的な基準が書けるかというと,これもなかなか書きにくい。それから,先ほど委員のどなたかから御意見がありましたように,弁護士などの資格を有することから,公益信託を管理運営する能力がある,という判断の仕方もあるかもしれません。しかし,これも簡単ではない。弁護士はよいとしたら,司法書士はどうなるか税理士はどうか。いろいろな問題が次から次へと出てくる気がしますし,なかなか,意見を決めかねているところであります。
  しかし,現在直ちには難しくても,将来的には自然人についても公益信託の受託者となれるように公益信託の受託者の資格要件を広げるのが望ましいと思っていまして,その観点からすると,先ほど神田委員が言われたように丁2案というのを併用してというのでしょうか,私の場合は法人については一定の基準を設けるわけですが,丁2案というのを併用することで,自然人が受託者となる道を開けておくというのはどうかと考えます。
  丁2案の場合に,この案自体もそうなっていると思いますが,そこでは自然人について何か積極的に管理運営能力であるとか,何か一定の基準を満たすということを積極的に要件として書くのではなくて,欠格事由という形で対応するということでいいのではないかと思います。また,信託銀行と組むということについてですが,これはなかなか難しい点もあると思いますが,別に信託銀行ではなくて構わないわけで,たとえば丙案の下で基準を満たしている法人と自然人が一緒に受託者になるというようなことが可能になる,そういう道を開くのはいいことだと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○長谷川幹事 自然人と法人を分けて議論することには余り意味がないような気がしています。その上で,甲,乙,丙,丁の各案について,期待される能力といった場合に,適切に信託を管理できるスキルとかという話と,財務能力みたいな話があるのではないかなと思われます。財務能力については,多分,第三者に対する責任とか,そういうのを念頭に置くということなのではないかと思います。甲,乙,丙については,それぞれ,信託を管理できるスキルだけではなく,財務能力というようなものもみている気がするのですが,丁案についてだけは財務能力の要件がない感じがしています。純資産をいくら持っていますとか,あるいは財務能力を開示していますとか,そういう能力が仮に信託受託者に必要ということであれば,丁案についても財務能力の要件が必要なのではないかという気がいたしました。
  甲,乙,丙のいずれの案が良いかというよりも,能力に着目してこのスキルがあるかどうかとか,例えば財務能力があるかどうかというのを見るのがいいと思っているわけですけれども,そのうえで,先ほど能見委員とか,あるいは実務に携わっておられる明渡関係官がおっしゃられたような認定の際に簡単に判断できるかどうかという視点,あと,ガバナンスが簡素なものとなるかどうかという視点が重要になるのではないかなと思います。
○林幹事 繰り返しにはなりますけれども,神田委員もおっしゃられていたところと思いますが,まず,前提として丁1案で制度として耐えうるものができるか,それをまずしっかり検討していただきたいというのが1点です。ですから,丁1案ですと公益法人等,そういう法人も排除しないところですが,丙案は,法人に限るというのが反対するところであって,ただ,法人にせよ,自然人にせよ,何から制限するときに丙案のような制限を入れるのか,丁案のような制限を入れるのかというようなことかと思います。弁護士会の議論でも,自然人なんだけれども,丙案のように公益目的の信託事務を行うのに必要な経理的基礎とか,技術能力を有することという要件を立てるという意見もありましたので,それは一つの考え方かなと思います。
  いずれにせよ,信託事務を適切に行っていく資質なり能力なり,あるいは経済的な規模かもしれませんけれども,そういうのが必要だというのはそのとおりなので,あとは条文の書き方なのだと思います。丁案は抽象的だと言われますが,丙案も十分に抽象的なのではないかなという気がします。ただ,公益法人において今,現にそれをやっているからできるんだと言われるのかもしれませんが,それは要するにやり方をいかに工夫するか,工夫次第で可能であるという問題と思います。
  あとは,先ほど個人では財産的基盤はどうかという御指摘がありましたが,一面は不祥事問題とか,いろいろ,心配するところはありますけれども,それは自然人なりの在り方にもよるかもしれません。それこそ,複数件を受託するから業法的な手当もするような前提であれば,適切な保険を工夫するとか,やり方はあると思うので,そういうことも頭に入れながら議論していただきたいと思います。
○稲垣幹事 総務省でございます。公益信託の関係で極めて例外的な事例ですけれども,外務省所管の公益法人で受託者が個人となっているものが1件ほどございます。詳細は資料がございませんので,詳しくは申し上げられませんけれども,昭和53年に許可されたものでございます。また,その事業の内容が実は助成事務ではございませんでして,外国との高校生の交換留学事業を行っております。これ1件だけでございますけれども,そういう事例もございますので,一応,御参考までに御紹介させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。今のは外務省所管の公益信託の例でございますね。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○中辻幹事 今,総務省さんの方から御紹介のあった外国の高校生との交流を深める目的の公益信託について,確かに個人を受託者としてはおりますが,実際には一人の個人のみで交換留学事業を運営しているわけではなく,昔でいう権利能力なき社団ではないですけれども,ある程度の規模を持つ運営団体があって,その代表者である個人が名義上公益信託の受託者として設定されているものと記憶しておりますが,そのような理解でよろしかったでしょうか。
○稲垣幹事 その点はご指摘のとおりです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 先ほど丁2案のことについては触れなかったんですが,共同して受託するということも,もちろん,それ自体はあり得ると思います。排除する必要は全くないと思うんですが,丁2案は必ず共同でということで,なおかつ,パートナーが甲,乙,丙ないし丁1案の要件を満たす法人ということなので,そこまで必須の要件としてしまうと,制度として先ほど来,出ております軽量・軽装備という趣旨からは離れてしまって,使いにくくなるのではないかと思います。そういうことがふさわしい事例もあるとは思いますが,必須の要件にするということについては反対したいと思います。
  そういう意味で,例えば先ほど来,出ている美術館の例をとれば,美術品に対する知識であるとか,美術品の保管等に関する知識というものがないときちんとした運営はできないでしょう。そういう人を委託者がこの人なら信用して任せたいという人がいれば,自然人であるからという理由でそれを排除する必要はない。もちろん,第三者委託でも似たようなことはできるのかもしれませんが,そうすると,それはそれで必ず第三者委託とセットとした仕組みになってしまって,より端的にこの人ならという人がいる場合に,あえてそういう構造にする必要はないだろうと思います。
  それは別に美術館の例に限らず助成型の信託であっても,例えば一定の研究助成であっても,どの研究機関でどういう助成をするかについては,恐らく今は運営委員会の意見を踏まえて運用されているんだと思いますし,信託銀行自身は,それは判断できませんということだと思います。しかし,運営委員会という制度を作るのも,私は今後,議論になれば反対したいと思いますし,それを少なくとも必置の機関とすることについては反対したいと思いますが,そういうことを必ずしなければならないとなると,装備としては重くなる。小規模なものでも低コストでできるということからは反していくということです。一定の助成をする先を判断する能力のある人がいるのであれば,その人が受託者になればいいのだろうと思います。第三者委託するまでもなく,受託者本人ができればいいのではないかと。
  要はそういう場合もあるのだろうから,それを排除する必要はないということであって,いろいろなケースがあるし,メニューとしてはいろいろ豊富にそろえたらいいと思うんですが,必ずこうしなければならないということにはすべきではないという意味で,自然人を是非入れるべきだという意見でございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 現行の実務の話をさせていただくと,この人ならという方がいらっしゃる場合に,今は,その方に運営委員になっていただいていると。運営委員というのも一つの組織として作られていて,運営委員の方ができなくなりましたというような場合には,運営委員会の規則というのもお作りいただいて,後任について決める手順とかもしっかりと決めていくということで,運営委員会であったとしても,そういうガバナンス的な要素というのは非常に重要で,そういうことをあらかじめ信託契約なのか,計画なのかというところできっちりと決めていくというようなことを今でもさせていただいているという意味で,受託者でなければいけないのかというところも反面の議論ではないかなとは思われます。そして,受託者に技術的な能力が必要ですという点もあるのかもしれないのですけれども,反面で,信託は財産管理の仕組みでありますので,財産管理の能力は少なくとも受託者にはなければならないということも言えると思います。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
  この第3については,なかなか,本日の段階では御意見は集約するところまではきておりませんけれども,様々な論点があるという御指摘いただきました。例えば能力といっても2種類あるんだということは,平川委員,山田委員,長谷川幹事から御指摘のあったことですし,認定基準やガバナンスとの関係,その判定の方法という視点が必要ではないかとか,あるいは受託者となる以外の個人の関与の仕方があるのかどうか,あるとしてそれに限るのかどうか,こんな御議論があったと思います。あとは業法との関係や,国や公共団体についてどうするのかについても御議論いただいたと思います。この点については,本日の御議論を踏まえて事務当局の方で更に検討の上,また,次の機会に御提案させていただくということになろうかと思います。
  全体に大体よろしいでしょうか。
○道垣内委員 後で申し上げてもいいんですが,忘れがちなタイプなものですから,一言,言わせてください。12ページの「3 信託財産の範囲」というところがあるのですが,これは当初の信託財産の範囲ですよね。というのは,設定された後に国債に変われば,それは信託財産ですから現在でも金銭に限定されていないわけですね。ゴシックの部分はそう書いた方がいいのではないかと思います。
  補足説明の中の3行目の引受け当初というのが,何か信託銀行が主体になっている言葉なので私は嫌です。設定当初と書くべきではないかなと思います。当初受託財産という言い方も自分勝手な言い方で,あれは当初信託財産というべきだと思っています。
○中田部会長 御指摘をありがとうございました。
  ほかはよろしいでしょうか。
○沖野幹事 公益信託で規律自体は一律だといっても,一方で多様な公益信託ということが言われ,様々なものが例として挙げられているかと思います。そして,今回の資料におきましては従来型の助成型というものと,言わばフルタイプの事業の美術館経営,建物を建てるというところから開始するタイプのもの,それとあと,学生寮の話が事務のところで出てきました。それから,余り具体例は挙げられておりませんけれども,歴史的な建造物の保存・維持というのがありました。
  一方,議論の中では能見委員から出されたナショナルトラスト型の緑地保全とか環境保全とか,そういうものというのは恐らくただ粛々と土地をそれがほかのものに使われないように保存するとか,維持するとか,比較的,事務処理としては薄目の事務処理といいますか,そういうタイプのものが一つ考えられるのではないかと思いますので,事例とか例を出されるときに,一つのタイプとしてナショナルトラスト型,緑地・環境保全型の不動産を保持するというようなタイプのものも,一つ入れておいた方がいいのではないかなと考えております。今後の規律などを考えるに当たって有用かと思いましたので,一言,申し上げたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかはよろしいでしょうか。
  それでは,最後に次回の議事・日程等について事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回からはいわゆる各論として,公益信託の定義や具体的な認定基準の内容についての御審議に入っていただくことを予定しております。そのため,次回の部会資料では,公益信託の定義と具体的な認定基準の半分くらいまで論点として取り上げます。次回の日程は,平成28年9月6日(火曜日)午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省で開催します。具体的な部屋につきましては,事務当局で確保でき次第皆様にお伝えいたします。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会第31回会議 議事録

法制審議会信託法部会
第31回会議 議事録
 
 
 
 
 
 
 
第1 日 時  平成28年6月7日(火)   自 午後1時30分
                       至 午後4時58分
 
第2 場 所  法務省第1会議室
 
第3 議 題  1 信託法部会再開の趣旨等について
 
         2 公益信託法の見直しにおける主な検討課題について
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○能見部会長 それでは,予定した時間になりましたので,法制審議会の信託法部会第31回会議を開会したいと思います。
  本日はお忙しいところお集まりいただきまして大変ありがとうございます。
  この信託法部会は実は前回というのが,第30回ということですけれども,もう約10年前ということになります。それ以来公益信託の問題がまだ片付いていなかったのでいずれ再開する予定だったわけですけれども,今日に至ってしまったわけであります。
  いずれにつきましてもこの部会を再開するに当たりまして,その再開の趣旨につきまして事務当局から説明を申し上げます。
○中辻幹事 私は法務省民事局で参事官をしております中辻と申します。
  今回新たに信託法部会の委員・幹事に任命された方も多うございますので,本日の議事に入ります前に,法制審議会及び部会について若干御説明申し上げます。
  法制審議会は法務大臣の諮問機関でございます。その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会に部会を置くことができるとなっております。信託法部会は平成16年9月8日に開催されました法制審議会総会第143回会議におきまして法務大臣から信託法の見直しに関する諮問第70号がされ,これを受けましてその調査の審議のために設置することが決定されたものでございます。
  法制審議会に諮問された事項は,「現代社会に広く定着しつつある信託について,社会・経済情勢の変化に的確に対応する観点から,受託者の負う忠実義務等の内容を適切な要件の下で緩和し,受益者が多数に上る信託に対応した意思決定のルール等を定め,受益権の有価証券化を認めるなど,信託法の現代化を図る必要があると思われるのでその要綱を示されたい。」というものであります。
  これを受け,信託法部会は平成16年10月1日の第1回会議から平成18年1月20日の第30回会議まで約1年4か月にわたる御議論を経て「信託法改正要綱案」を取りまとめ,それが平成18年2月8日に開催された法制審議会総会第148回会議において,「諮問第70号については,現在,信託法部会において審議中であるが,私益信託に関する制度の部分につき,信託法改正要綱のとおり答申する。」として,法務大臣に答申されました。これを受け,信託法案が国会に提出され,平成18年12月8日に新信託法が成立しています。
  ところが,その際,旧信託法第66条以下に規定のあった公益信託に関する制度の部分については実質的な見直しが行われず,新信託法の整備法において旧信託法の題名を「公益信託ニ関スル法律」と改正した上で,旧信託法第66条以下の規定の内容を基本的に維持し,新信託法との調整を図る観点から若干の改正が行われるにとどまりました。
  そのため,通常ですと改正要綱決定の時点で法制審の部会は終了ということになるわけですが,将来の公益信託の見直しに備えて信託法部会は休止という取扱いが例外的にされていたものです。
  このような経緯を踏まえますと,旧信託法のうち私益信託の部分に関する部分は10年前に改正要綱ができておりますが,平成16年の諮問事項は旧信託法のうち公益信託の部分に関する改正も念頭に置いていたものであり,諮問事項の文章の前後に「社会・経済情勢の変化に的確に対応する観点から」,「信託法の現代化を図る必要がある」という文言があることからしても,この度公益信託法制の見直しを行うために信託法部会を再開するに当たって当時の諮問事項はそのまま維持されるものと考えております。
  それでは,本日からの審議に先立ちまして,まず委員の小川民事局長から御挨拶申し上げます
○小川委員 民事局長の小川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
  信託法部会の第31回会議の開催に当たりまして一言御挨拶を申し上げたいと思います。
  皆様には御多用の中,この度再開されました信託法部会の委員・幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。
  御承知のとおり,公益信託は,個人の篤志家や企業などの委託者がその保有する財産を学術,技芸,慈善等の公益目的のため受託者に信託し,受託者が信託財産を管理,運用して公益目的の信託事務を遂行するものであり,大正11年に制定されました旧信託法にも当初から公益信託に関する条文が設けられておりました。
  そして,平成16年,旧信託法の見直しについて法制審議会への諮問がされました当時におきましては,私益信託の部分のみならず公益信託の部分も含めて旧信託法の全ての現代化が予定されておりましたが,その当時公益信託と社会的に同様な機能を営む公益法人制度について全面的な見直しが進められていたことから,公益法人制度改革の趣旨を踏まえつつ,公益法人と公益信託の間で整合性のとれた制度設計をするために,旧信託法のうち公益信託に関する部分については実質的な改正が行われず,結果として「公益信託ニ関スル法律」として片仮名文語体のまま残された状態にございます。
  このように,公益信託法制については,平成18年の新信託法制定のときから将来の見直しが予定されておりました。その後,法務省といたしましても平成20年12月からスタートした新たな公益法人制度の下での公益社団法人,公益財団法人への移行状況を見守ってまいりましたが,新制度への移行期間が平成25年11月に満了したことも受けて,この度信託法部会を再開させていただいたと,こういう経緯でございます。
  公益信託法制の見直しに当たりましては,先ほど申し上げましたとおり,公益法人制度との整合性に留意するほか,他方では,法人と信託の違いを踏まえた上で,公益信託の適正な利用を促進するための新たな認定,監督の仕組みを構築していく必要があると考えられます。また,公益信託が受益者の存在する一般の信託と異なる類型であることから,一般の信託における私法上の法理を公益信託にどこまで適用すべきかという観点も重要になると考えられます。
  そこで,これらの点を中心とし,法制審議会で御検討いただくべく,この度新たなメンバーを含めて皆様に御参集していただくに至った次第でございます。
  私どもといたしましては,新信託法制定の際に宿題として残された課題であります公益信託制度の見直しの審議が充実したものになるよう最大限の努力を致す所存でございますので,委員・幹事の皆様にはより望ましい公益信託法制の構築のために御協力を賜りますよう何とぞよろしくお願い申し上げます。
  私からの挨拶は以上でございます。
○中辻幹事 本日は平成16年10月1日の第1回から通算して第31回目の信託法部会となりますが,再開後第1回目となる会議であり,10年前の会議体と比較して一部の委員・幹事に入れ替わりがあり,関係官は全て新任となっております。そのため,委員・幹事及び関係官の方々には簡単な自己紹介をお願いしたいと存じます。
  あわせて,この機会に関係官について補足して説明しておきますと,法制審議会議事規則により,審議会においてはその調査審議に関係があると認めた者につき,これを関係官として参加させることができる旨定められております。
  それでは,皆様,所属と氏名等の自己紹介をお願いいたします。研究者の委員・幹事の方々には専攻の研究分野もごく簡単に御紹介していただければ幸いです。順序は,能見部会長から順次右回りで着席順にお願いいたします。
○能見部会長 能見でございます。学習院の法科大学院で民法を教えています。それから信託は現在法科大学院では授業を開いておりませんけれども,研究の対象にしております。どうかよろしくお願いいたします。
○小川委員 それでは,改めまして,民事局長の小川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○金子委員 民事局担当の審議官をしております金子でございます。よろしくお願いいたします。
○筒井幹事 民事法制管理官の筒井でございます。どうぞよろしくお願いします。
○松元関係官 民事局で調査員をしております松元と申します。よろしくお願いいたします。
○高橋会長 法制審議会の会長をしております高橋宏志でございます。民事訴訟法を専門にしております。
○新井委員 中央大学の新井です。大学では民法と信託法を教えております。よろしくお願いします。
○小野委員 弁護士の小野です。よろしくお願いいたします。
○小幡委員 上智大学の小幡と申します。私専攻は行政法でございまして,今回初めて参加させていただいております。東京都の公益法人等審議会の会長を今はしております。よろしくお願いいたします。
○川島委員 労働組合連合の川島と申します。よろしくお願いします。
○神田委員 学習院大学の神田と申します。商法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○道垣内委員 東京大学の道垣内と申します。民法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○中田委員 東京大学の中田と申します。民法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○岡田幹事 内閣法制局の岡田でございます。よろしくお願いいたします。
○沖野幹事 東京大学の沖野でございます。民法を専攻しております。どうかよろしくお願いいたします。
○河合幹事 総務省で管理室長をしております河合と申します。よろしくお願いします。
○神作幹事 東京大学の神作と申します。商法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○佐藤幹事 金融庁総務企画局信用制度参事官の佐藤と申します。銀行法ですとか信託業法などの法制度を担当しております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
○棚橋幹事 最高裁判所民事局局付の棚橋と申します。よろしくお願いいたします。
○長谷川幹事 経団連の長谷川と申します。よろしくお願いいたします。
○林幹事 大阪弁護士会の弁護士の林邦彦でございます。よろしくお願いいたします。
○渕幹事 神戸大学の渕圭吾と申します。租税法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○松下幹事 東京大学の松下淳一です。民事手続法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○樋口委員 東京大学の樋口と申します。私は英米法や医事法を教えております。よろしくお願いいたします。
○深山委員 弁護士の深山と申します。今回から参加させていただきます。よろしくお願いします。
○山田委員 神戸大学の山田誠一と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○山本委員 京都大学の山本敬三と申します。民法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○吉谷委員 三菱UFJ信託銀行の吉谷と申します。よろしくお願いいたします。
○明渡関係官 内閣府の公益法人行政担当室で参事官をしております明渡と申します。よろしくお願いいたします。
○佐藤関係官 法務省民事局の局付の佐藤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○木村関係官 法務省民事局で局付をしております木村と申します。よろしくお願いいたします。
○立川関係官 同じく局付をしております立川と申します。よろしくお願いします。
○中辻幹事 改めまして,民事局参事官の中辻でございます。どうぞよろしくお願いいたします。それでは,皆様,自己紹介をどうもありがとうございました。
  本日は委員・幹事の皆様御出席の予定ですけれども,平川委員が遅参される旨伺っております。また,小幡委員,沖野幹事,神作幹事は所用により途中退出される旨伺っております。
  さて,法制審議会令によりますと,部会長は,当該部会に属する委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。本日の部会は,平成16年10月1日の第1回信託法部会で指名され,30回にわたる御審議を経て私益信託の部分につき信託法改正要綱案を取りまとめられた能見部会長の下に開かれておりますが,能見部会長から,冒頭委員・幹事の皆様に御提案したいことがある旨伺っております。
○能見部会長 ただいま中辻参事官からお話ありましたように,今回の信託法部会はいろいろな争点も相当あり,私としては少し自分,こういうことは余り言いすぎてはいけないのですが,少し自由な立場で発言したいということもありまして,今回は会長を辞して一般の委員として皆さんと一緒に議論に参加させていただければと思います。
  前回の信託法の私法的な部分についてはいろいろな論点,それも相当な争点がありましたけれども,今回は公益性というある意味で一層広く難しい領域の中でどういう活動を公益信託が担うべきかという点が中心的な問題を占めることになるのではないかと思いまして,この問題に関しては私としては個人的な意見を述べたいというふうに思っている次第でございます。そこで部会長としてではなく,一委員として議論に参加させていただきたいということでございます。
  そうしますと,次の部会長を選任していただくことになるわけですけれども,私といたしましては,次の部会長として中田委員を御推薦申し上げたいというふうに考えております。中田委員は,前回の信託法部会の際も,実は私の部会長代理を務めていただきました。それから,御承知の方も多いと思いますけれども,東京都の公益認定等審議会の会長をされておられたこともありますし,今回商事法務研究会でいろいろと公益信託の準備的な研究をしたときもその座長を務めていただきました。そういう意味でも,また,民法や信託法の分野におけるこれまでの業績からしても,最適な方であると思います。かつ,今申し上げましたようにいろいろ争点がある中でこの問題を公平に扱っていただける方だと思いますので,是非中田委員に次の部会長をお願いできればというふうに考える次第であります。
  ということで,皆様の御意見いかがでございましょうか。
○神田委員 新しい部会長に中田委員が適任であるとの能見委員の御意見に賛同いたします。
○能見部会長 ほかの御意見よろしいでしょうか。
○中辻幹事 どうもありがとうございました。
  ただいま能見部会長から信託法部会の部会長をこの度辞され一委員として参加されたい旨のお話があり,誠に残念ですが,次の部会長としては中田委員を推薦するとの御発言がございました。また,神田委員から同様の御発言を頂いております。
  それでは,ほかに御意見がないようですので,新たな部会長には中田委員が互選されたものと認めます。
  その上で,本日は法制審議会の高橋会長に御出席いただいておりますが,高橋会長におかれてはいかがでございましょうか。
○高橋会長 民法や信託法の分野におきまして中田教授の業績が顕著であるという皆様の御認識,私も同様でございます。
  さて,そこで法制審議会会長といたしまして,皆様の互選の結果に基づき,中田委員を新たな部会長に指名したいと思っております。
○中辻幹事 ありがとうございます。
  ただいま,高橋会長から中田委員を新たな部会長に御指名いただきましたので,能見委員と中田委員にはお席を交代していただき,以後,中田部会長に進行をお願いしたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。
○中田部会長 ただいま新たな部会長に指名されました中田でございます。私としましては能見委員に引き続き部会長をお務めいただければと思っておりますが,先ほどのお考えを承り,また皆様から互選いただきましたので,力不足ではございますが,部会長の職責を果たしたいと存じます。議事が公平,かつ円滑に進みますよう,誠心誠意部会を運営してまいりますので,皆様方の御協力のほど何とぞよろしくお願い申し上げます。
  なお,法制審議会令によりますと,部会長に事故があるときにその職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされております。そこで,万一の事態に備えましてこの指名を行っておきたいと思います。
  ここには信託法や公益法人法などの分野における優れた御業績,御経歴をお持ちの方が大勢おいでですが,そのお一人でいらっしゃいます道垣内委員を部会長代理に指名したいと思います。
  道垣内委員,よろしいでしょうか。
○道垣内委員 指名ですので,お引き受けします。
○中田部会長 ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
○中辻幹事 ここで高橋会長は所用のため退席させていただきます。どうもありがとうございました。
○高橋会長 失礼します。
○中田部会長 それでは,まず配布されている資料について事務当局から説明をしていただきます。
○中辻幹事 御説明いたします。
  再開前からの連番で部会資料の番号を付けておりますが,部会資料31を皆様に事前に送付させていただきました。また,参考資料1「公益信託法改正研究会報告書」,参考資料2「公益信託法の見直しの検討状況について」,参考資料3「公益信託に関する従前の部会での議論の経緯」,参考資料4「公益信託の引受け許可審査基準等について」も事前にお届けしております。
  さらに,当日配布資料として,平川委員及び本日参考人としての招致を予定しております一般社団法人信託協会の方々から提供いただいた資料等を配布させていただいております。
  もし本日お手元にないということでございましたら多少の予部は用意しておりますので,お申し付けください。大丈夫でしょうか。
  では,まず部会資料31は「公益信託法の見直しにおける主な検討課題の例」という題名のもので,事務当局において作成したものでございます。今回から信託法部会に参加された方は31という番号を見て少し驚かれたかもしれませんが,10年前の信託法部会では部会資料30として「信託法改正要綱案」が配布された段階で休会となっておりますところ,区切りのよい番号でもありますので,その次の31から今回部会資料の番号を付けさせていただいたということになります。この資料の内容につきましては後ほど説明させていただきます。
  次に,参考資料の説明に移ります。参考資料1は,昨年の平成27年4月から12月まで,公益社団法人商事法務研究会において開催された公益信託法改正研究会の報告書です。
  参考資料2は,研究会報告書が大部にわたるものであることから,その要点を適宜まとめて一般の方々にできるだけ内容を分かりやすく説明しようとしたものです。
  参考資料3は,信託法部会第1回から第30回までの間に公益信託の部分について議論された際の部会資料や議事録を時系列順にまとめて抜粋し資料化したものです。10年前の部会での議論は私益信託に関する部分が中心でしたし,第1回から第30回までの全部の資料を新たな委員・幹事の方々にお渡しするのはかえって御負担になるかと思い,このような取扱いをしております。
  なお,第30回までの議事録を細々見ていきますと,例えば第30回の部会の最後に公益信託の部分については事務当局の側から将来の見直しを予定しているので,その際には御協力をお願いしたい旨の発言があるほか,部会資料2「信託法制研究会報告書」のうちの公益信託に関する部分には,部会資料16のもととなっている文章が記載されていたり,平成17年7月に作成された信託法改正の要綱試案においては,公益信託について主務官庁制を廃止するものとするかどうかについては,公益法人法制の改正の動向を踏まえてなお検討するものとすると記載されていたりするのですが,最終的な要綱に至るまでの議論の経緯をおおむねお分かりいただければ足りると考えたことから,完全に網羅的なものとはしておりません。
  参考資料4は,「公益信託の引受け許可審査基準等について」と題する行政文書であり,現在の各主務官庁における事実上の許可基準となっているものです。
  さらに,委員・幹事・参考人からの提出資料ですが,まず平川委員から「公益法人・一般法人関係法令集」という書籍を御提供いただいております。また,参考人招致を予定しております一般社団法人信託協会の岩田業務部長から,公益信託のパンフレットやアンケート調査結果など,本日の御説明に関連する資料一式を提出していただいております。
  進みまして,これらの資料の公開の関係について御説明いたします。現在法務省ホームページには法制審議会及びその部会の審議の状況等を公開するページがあり,それを見ていただくと分かるのですが,10年前の信託法部会については各回の議事概要が掲載されるとともに議事録が非顕名で掲載されている一方,各回の部会資料は掲載されておりません。だからといって部会資料が非公開だったというわけではなく,当時から部会資料も公文書公開の対象となっていたのですが,信託法部会が休止になった後開催された平成18年11月20日の法制審議会総会第151回会議より以降,会議用資料,すなわち資料番号を付してある審議資料及び審議に直接関係する参考資料は原則として議事録とともに法務省ホームページに記載することとされており,例外として当該資料が配布された会議の会長又は部会長の判断により,その全部又は一部を掲載しないことができるという決定がなされております。
  その時点で,法制審議会総会第151回会議以前の部会資料及び参考資料はホームページでの公開対象外とされていることから,遡及して掲載することにはなりませんが,これから再開する信託法部会については,総会の決定に従い,部会資料及び審議に直接関係するものとして法務省から配布する参考資料はホームページに掲載することを考えております。
  また,部会資料及び参考資料以外の会議用資料の取扱いについては,中田部会長と御相談しつつ決めさせていただきたいと存じますが,各委員・幹事や参考人から御提供いただきました資料については,部会で配布した後,法務省のホームページに部会資料,参考資料及び議事録と併せて公開する可能性があるということになろうかと存じます。
  配布資料の説明は以上でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  配布資料について御不明な点などございませんでしょうか。
  それでは,これから審議に入りますが,その前に再開後の当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについてお諮りしたいと存じます。
  まず,現在の法制審議会での議事録の作成方法について,事務当局から説明をお願いします。
○中辻幹事 それでは,法制審議会の部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについて御説明いたします。
  先ほど御説明したとおり,10年前の信託法部会につきましては議事録は非顕名の上で公開されております。その後,平成20年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして次のような決定がされています。すなわち,「それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とする。」というものです。
  したがいまして,再開後の当部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとすることでよいかどうかを御検討いただく必要があるものと存じます。
  なお,御参考までに,先ほど申し上げた総会の決定後に設置された部会のうち,民事法の分野に関するものは,いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成するものとされております。
○中田部会長 ただいまの事務当局からの御説明につきまして御意見等がございましたら御発言をお願いいたします。
○山本委員 今事務当局から御説明がありましたように,平成20年の法制審議会総会の決定から後,民事法の分野では発言者名を明らかにする議事録が作成されるようになりまして,審議の過程が外からも非常によく分かるようになりましたし,後から議論の流れを検証することも容易になりました。これは,立法に向けてコンセンサスを形成する上でも大変有益であると思います。私自身も,これまでこの発言者名を明らかにする議事録の作成を審議会で経験してきましたが,名前が開示されるからといって発言が妨げられたと感じたことはありませんでした。したがいまして,今回も議事録の作成に当たっては発言者名を明らかにすることが適当だと考えられます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  ただいま山本委員から議事録の作成に当たっては発言者名を明らかにすることが望ましいという御意見がありました。部会長の私といたしましても,当部会につきまして審議事項の内容等に鑑みて,発言者名を明らかにした議事録を作成することがよいと思います。
  そのようにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。
  それでは,再開後の当部会につきましては発言者名を明らかにした議事録を作成することといたします。
  それでは,本日の審議に入ります。
  まず,事務当局から今回の部会における検討の対象,審議スケジュール等について説明をしていただきます。
○中辻幹事 それでは,御説明させていただきます。
  今回再開後の信託法部会における検討の対象は,平成18年の信託法改正の際に積み残しの課題とされてしまった公益信託に関する部分であり,私益信託に関する部分は基本的には対象から外れます。したがって,今回の部会では公益信託法に規定されている公益信託の認定や監督に関する信託法の特則の規律の見直しを中心に議論していただくことになると思います。もっとも,新信託法で導入された目的信託の部分など,公益信託に関連する部分につきましては議論の対象となると考えております。
  そして,従前の信託法部会における議論の体制として,主務官庁による許可制は廃止する方向性が示されていたことを踏まえますと,仮に主務官庁制を廃止した場合における新たな公益信託の認定機関についての規律についても検討する必要があると考えられます。
  ただし,法人と信託の制度的な相違や公益財団法人に比べて簡易に設定できるという公益信託のメリットを維持する必要性についても配慮しなければならないことから,新たな公益法人において採用された認定基準や監督の仕組みを単純に公益信託に持ち込めばよいというのではなく,公益信託の特性に応じた仕組みを構築する必要がございます。
  また,公益法人法制など他の類似の制度との整合性も重要ですが,主務官庁制の廃止イコール特定の行政庁が認定監督機関となることが導き出せるわけではありません。そのため,まずは新たな公益信託の認定基準,監督の仕組みをしっかりと部会で御議論いただいた上で,公益信託の認定,監督を行う機関に関する規律については考えていく必要がございます。
  公益信託法の見直しに当たっては,以上申し上げたような留意すべき点を踏まえつつ,実質的な見直しを行うことになろうかと思います。また,現在の公益信託法は題名及び条文が片仮名文語体であることから,現代語化も併せて行うことが適切ではないかと考えております。
  次に,日程等の進行について御説明いたします。私どもとしましては余り先の日程までは見通すことができない一方で,お忙しい皆様にはできる限り先の時期の予定までお分かりになった方が便宜ではないかと考え,具体的な日程として,平成28年度いっぱい,すなわち来年3月までの間の具体的な日時を確保させていただいております。
  会議の場所はこの法務省20階第1会議室で原則として行いたいと考えておりますが,他の会議のために予約されているなど差し支えの場合には法務省内の他の会議室を使用いたします。
  今後の審議の見通しですが,この部会では月1回のペースで御審議いただき,平成29年1月ころにはいわゆる一読を終え,その後議論の分かれた論点につき二読,三読という作業に入っていくことになろうかと思います。その先については現時点で確たる見通しを示すことは困難ですが,この部会での御議論を集約した形で公益信託法改正の中間試案的なものを作成し,それをパブリックコメントに付していくことになろうかと存じます。
  次に,信託というと勢い難しい学説や議論が頭をよぎりますが,私どもとしましては公益信託の実務,実態に即した国民にとって分かりやすい議論が必要であると考えております。そこで,本日は現在の公益信託の受託者の大部分を占める信託銀行が加入する信託協会業務部の岩田部長,同協会の今年度の幹事行である三菱UFJ信託銀行リテール受託業務部の藤原次長及び堤調査役から,参考人という立場で公益信託の現状や課題について御説明いただき,委員・幹事の皆様に公益信託の現状や問題点について共通の認識を持っていただくことを考えております。
  また,税制の知見も重要であることから,本年秋頃に公益信託税制等について所管の財務省主税局の方から参考人として説明していただくことも検討しているところでございます。
  私ども事務当局が現時点で考えております審議の対象や部会の進行はおおむね以上のとおりであり,今後も中田部会長の御指示を仰ぎながら円滑な運営に努めてまいりたいと存じます。
  なお,部会における実質審議は,次回以降に行うこととし,本日はフリートーキングの回として自由な意見交換をお願いしたいと考えております。
○中田部会長 ありがとうございました。
  途中ですけれども,平川委員がお見えになりましたので,御所属,お名前等だけで結構でございますので,自己紹介をお願いいたします。
○平川委員 遅くなりまして申し訳ございません。公益法人協会監事を務めております弁護士の平川純子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○中田部会長 よろしくお願いいたします。
  ただいま中辻幹事から部会における検討の対象範囲,参考人の招致,審議スケジュール等の御説明を頂きました。ただいまの説明や提案について御質問や御意見などございますでしょうか,お出しください。
○小野委員 フリートーキングということもあって今のお話の関連で口火を切らせていただきます。
  私益信託と公益信託という分類ですけれども,純粋に私益,純粋に公益であれば分かりやすいかもしれませんが,実際には両者間のボーダーは明確ではなくグラデーションの掛かった分野があると思います。
  また,目的信託についての議論は当然されるわけですけれども,目的信託は民事信託の中に位置付けられるので,そうすると公益信託の議論が中心であるとしても,民事信託の議論にもある程度及ばざるを得ないと思います。また,ちょうど今回の信託法学会でも信託法施行から10年ということで,現在の信託法は機能していますが,それでも少し手直しした方がいいところという観点から恐らく学会で発表があるのかと思います。従いまして,必要な限度において信託法自体の見直しの議論も,せっかくの重要な機会なのでしてもよろしいのではないかと思います。もちろん公益信託が中心であるということは分かっていますが,日弁連としても弁護士がどういう形で活躍できるかということ,もちろんそれは弁護士のための話ではなくて国民のためということですけれども,民事信託全体についての考え方も検討したいと昨日の日弁連でのバックアップ会議でも議論させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございます。中身につきましてはまた後ほど御議論いただくことがあろうかと思いますが,今その全体の枠組みについて広い観点から検討すべきであるという御意見を頂戴いたしました。
  ほかにございますでしょうか。
○道垣内委員 小野委員がおっしゃったことに理念的に反対するものではないのですけれども,手続的に可能かどうかということをお教えいただければと思います。と申しますのは,本部会は今回31回目で,公益信託以外の部分について既に要綱案を出したわけですね。それに基づいて制定された法律の改正を,今回のこの部会で要綱案として出すというのは自らの出した要綱案の修正を自らが後発的に行うということになるわけですが,そのようなことが可能なのでしょうか。それとも今回は前回の要綱及び要綱を基にしてなされた法律というものは固定されているものとして考えることになるのか。システムの問題としてどうなのかということを確認できればと思います。
○中田部会長 いかがでしょうか。
○中辻幹事 基本的には私益信託の部分につきましては道垣内委員御指摘のとおり10年前に要綱を頂いておりますので,今回の議論の対象にはならないということでございます。一方で,小野委員が言われましたように,公益信託と私益信託の分類には若干不分明な点もございます。また,目的信託は,新信託法上「受益者の定めのない信託」と定義されておりまして,受益者の定めのない信託の中に公益信託が位置付けられるという構造になっております。
  そうしますと,公益信託と目的信託との関係についてはこの場で議論していただくことになるのだろうと思います。また,飽くまで公益信託が中心ですけれども,私益信託のうち,民事信託の中には例えばいわゆる福祉型信託もあるところ,そのような信託と公益信託との関係性等についても御議論いただけるのではないかと考えております。
○能見委員 既に前の答申で決められたことを言わば覆すような修正するような形の議論をここでしてよいのかどうかは,そのことの是非を議論して,この部会としてのスタンスを決めないとできない感じがします。ただ,前回の信託法の審議の際に議論が不十分であったという点はいろいろあるのだろうと思うのですね。どこが不十分であったか自体も議論しなければなりませんが,例えば,信託管理人などというのは,これから公益信託に関しても議論されると思いますが,私益信託における信託管理人の規定が公益信託のことを考えると,場合によっては修正が必要になるかもしれない。そういう問題は出てくることがあり得るので,最終的にどのような形で対処するかはともかく,そういう意味ではある程度オープンに議論されるというのがよろしいのではないかという感じがいたします。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  飽くまでも公益信託が中心である。それから,既に答申を出しているという枠組みもある。しかし,だからといって非常に固定的に考えるのではなくて,公益信託という観点から更に柔軟に考えていく,という辺りが皆様の大体のお考えかと承りました。
  今の点,あるいはほかの点でも結構ですが,更にございますでしょうか。
○深山委員 今,部会長がまとめていただいたので,それで理解したつもりではあるのですが,若干確認させていただくと,私益信託を視野に入れて議論をするというのは単に議論するということにとどまるのか,その結論として現行の信託法の規律に何らかの修正なり追加なりが立法として可能なのか。もちろん何らかの規律を作るときにどの法律に置くのかというのは技術的な問題もあるのだろうと思うのですが,既に前回の答申に従った信託法というのはもう成立している法律で現行法になっているわけですので,私の理解としては,そこに対する修正なり規律を加えるような規律であっても,そしてそれが現信託法の修正というか一部改正という形であっても,この部会でそういうことを内容とする答申をすることは許されるのではないかという気がいたします。しつこいようですけれども,単なる議論だけではなくて,結論として現行信託法にも手を加えるような答申も可能なのかどうかという辺りについてもう少しお聞かせいただければと思うのですが。
○中辻幹事 繰り返しになりますが,基本的には私益信託の部分については10年前に要綱が出ていますので,それを尊重することになるのだろうと考えます。ただ,時間軸として10年という時間がたっていることも踏まえますと,公益信託の部分の見直しに当たって必要となる限度においては私益信託の部分についても御審議の対象になるのではないかと思います。
  ただし,公益信託については,私益信託に関する現行信託法の規定に関する特則を設ければ,その規定の公益信託への適用はなくなるわけで,それができずに私益信託に関する現行信託法の規定を変えなければならないような事態というのはなかなか考えられないようにも思います。
○中田部会長 深山委員,よろしいでしょうか。
  ほかによろしいでしょうか。
  それでは,ここでの審議対象については今御意見いただいたようなことになろうかと思います。
  さらに,審議スケジュールでございますけれども,事務当局から提案していただきましたように,いわゆる一読として各論点についての議論を一通り行う目標を平成29年1月頃とするということにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。
  それでは,そのようにさせていただきます。
  次に,事務当局から提案がありました参考人の招致につきましては特段の御異論がなかったように思います。そこで,御提案のとおり,まず本日の部会に参考人として信託協会業務部の岩田部長,三菱UFJ信託銀行リテール受託業務部の藤原次長及び堤調査役をお招きすることを決定してよろしいでしょうか。
  それでは,そのように決定させていただきます。
  では,早速ですけれども,参考人の方々から公益信託の現状等について御説明を頂き,その後若干の質疑応答の時間を設けたいと存じます。3人の参考人から続けてお話を伺った後,質疑応答に移ります。参考人の岩田部長,藤原次長,堤調査役,どうぞよろしくお願いいたします。
○岩田参考人 信託協会業務部長をさせていただいております岩田でございます。よろしくお願いいたします。
  それでは,公益信託制度の概要について御報告申し上げたいと思います。お手元に資料として4種類お配りさせていただいております。一つ目は,パンフレット「公益信託-その制度とあらまし-」という冊子です。二つ目ですが,薄い冊子ですが,「あなたの思いが社会に活きる公益信託」というリーフレットをお配りしております。三つ目ですが,ニュースリリース「公益信託の受託状況」,平成28年3月末現在ということでお配りさせていただいております。四つ目ですが,「公益信託事務に関するアンケート調査結果について」,こちら昨年3月に実施させていただいたものですが,こちらをお配りさせていただいております。今後の信託法部会の議論の御参考に御利用いただければと考えております。
  既に御承知の方も多く心苦しいところではございますが,公益信託制度の特徴等につきまして御説明申し上げたいと思います。
  こちらの「公益信託-その制度とあらまし-」を御覧いただければと思います。2ページを御覧いただければと思います。2ページ目,はじめにというところで,1行目にありますとおり,公益信託につきましては委託者である個人,法人が財産を一定の公益目的のために受託者に信託し,受託者がその財産を管理・運用して公益目的を実現するように任務を遂行するものでございます。
  公益法人同様,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的とする民間の資金を活用して,公益活動を行う制度として昭和52年の第1号受託以降御利用いただいているところでございます。
  公益信託の特徴ということで,2ページ目から3ページにかけて公益信託の特色を書いておりますが,1.の「設定の手続の煩わしさがありません」,2.の「設定後の運営も受託者が行います」,3.の「運営が効率的,弾力的に行えます」というようなことを記載させていただいておりますけれども,これは公益信託が公益財団法人に比べまして設立コストが低廉にとどまるとの軽量・軽装備の特徴を有している旨の記載でございまして,この特徴につきましては今後維持される方向で審議いただけるようにお願いしたく存じておるところでございます。
  次に,1枚めくっていただきまして4ページ,公益信託の仕組み図を御覧いただければと思います。まず,①コンサルテーションという上の所に記載がありますが,委託者,受託者の間で公益目的の選定,目的達成の方法,公益信託契約書の内容につき打合せがまず行われるところでございます。
  左手を見ていただきますと,②で受託者が公益信託の引受けの許可につきまして主務官庁に申請を行います。③ですが,主務官庁はこれを審査し許可をするということになっております。許可を受けた後,④ですが,委託者と受託者の間で公益信託契約の締結がなされるところでございます。
  ⑤ですが,監督等とございますが,主務官庁は公益信託の事務処理につきまして検査をしたり受託者に対して必要な処分を命ずることができるものとされているところでございます。
  ⑥ですが,信託管理人の所ですが,受託者の職務のうち重要な事項について承認を与えるということとしております。
  右下の⑦ですけれども,運営委員会等ですが,公益目的の円滑な遂行のため受託者の諮問により,助成先の推薦及び公益信託の事業の遂行について助言,勧告を行うということでございます。つまり,助言機関として機能していると認識しております。
  ⑧ですが,受託者運営委員会等の助言,勧告に基づきまして,その公益信託の目的に沿った助成先への助成金の交付を行うところでございます。⑨ですが,受託者は年1回一定の時期に信託財産の状況を信託管理人に報告し,⑩ですが,事業年度終了後3か月以内に事業状況報告書等を主務官庁に提出することにしております。つまり受託者は信託管理人や主務官庁のモニターを受けているというこういう仕組みになっております。
  5ページ目,「公益信託の取扱要項」とございますが,4ページの仕組みの説明で触れなかった点につき若干御説明申し上げます。3.受託者の所ですが,財産管理面での知識と経験を有している信託銀行等が受託者となるという記載がございます。信託銀行等以外の者も受託者とすべきかどうか論点として存在するかと思われますが,ここで列挙しております公益信託独自の事務を受託者が行っているという点についても御認識いただければと考えております。
  4.受給者ですが,通常私益信託では委託者,受託者,受益者の三つの当事者がいると説明がなされているわけですが,公益信託の場合,私益信託の受益者と同じ法的地位を有する者はいないという整理から「受給者」という用語が使われているところでございます。
  5ページ目から6ページにかけまして,5.事業内容について記載がございます。こちらでは助成事業以外の事業を行うことも許容するかどうかということはここでの議論になるかと思われますが,現状では基本的に助成事業のみが行われているというところでございます。
  6.の信託財産の種類ですが,公益信託法などではこの制限に係る規定はございませんが,税制上,金銭による引受けが原則ということになっております。
  次に,ニュースリリースを御覧いただければと思います。こちらのニュースリリースですが,6月6日,昨日公表いたしました本年3月末時点の公益信託のケースに係る資料でございます。3枚目を御覧いただければと思います。こちらにグラフがございますが,横長の所を御覧いただければと思います。平成14年頃ですが,御覧いただきますと約571件,733億円の件数残高であったわけですけれども,その後は徐々に減少し,本年3月末で信託銀行等を受託者とする公益信託の件数は479件,信託財産は624億円となっております。
  続きまして,1枚めくっていただきまして4ページを御覧いただければと思います。昭和52年以降,本年3月末までの累計の助成先数を示させていただいております。約19万件,給付額は799億円というところでございます。
  次に,5ページを御覧いただければと思いますが,信託目的別の件数,残高のリストを掲載しております。件数,残高とも奨学金支給が最も多く,次いで自然科学研究助成が多くなっております。次に件数では教育振興,残高では都市環境の整備・保全が多いということが示されております。
  ニュースリリースにつきましては以上でございます。
  続きまして,四つ目の資料,「公益信託事務に関するアンケート調査結果について」を御覧いただければと思います。当協会では公益信託事務で直面している問題点,つまりどのような要因で事務に手間が掛かっているのか,相談があっても受託に至らないケースとしてどのような要因があるのかということで,信託金融機関各社の公益信託事務担当者を対象に,昨年3月にアンケートを実施いたしました。本資料はその結果をまとめたものでございまして,公益信託研究会報告書にも収録されているものでございますが,改めてポイントを御紹介申し上げます。
  1ページ目,2.ですが,引受申請許可に要する期間でございます。委託者が設定に係る相談をされてから実際に引受許可に至るまでの期間別の件数についてお聞きしております。把握できる件数のうちDの6か月超~1年というところが最も多く,次いでEの1年超~が多いというような現状でございます。
  続きまして,2ページを御覧ください。(2)引受申請許可までの期間が6か月以上掛かる大きな要因についてお聞きしているところでございます。その回答としましては,Aの委託者からの御相談を頂いてから基金の制度骨子を固めるまでの委託者との調整に時間が掛かるというところが最も多く,次いでCの主務官庁とのやり取り関係の回答が多くなっております。
  続きまして,4ページを御覧いただければと思います。基金設定に至らなかったケースとして,相談の段階で公益性の観点から問題ありと判断された具体的なケースを回答いただいております。回答は5類型に分けられると認識しております。①,②ですけれども,受益範囲の問題があったケースが①,②でございます。それから,③ですが,金銭以外の財産拠出を希望されたようなケース。④として,当初財産規模の問題があったケース。⑤がその他のケースとなっております。
  5ページ目の所ですけれども,基金設定に至らなかったケースとして,(3)は主務官庁に事前相談して許可困難とされたケース,(4),(5)につきましては税制上の要件関連で問題になったケースの回答を記載させていただいております。
  6ページを御覧ください。4.公益信託の利用が低調であることの要因について各社担当者はどのように考えているかということを回答いただいております。最も多い回答はAの引受申請手続に時間,費用が掛かっている点。次いで多かった回答としましては,Fの公益信託が一般に知られていないという点が挙げられております。
  最後に,8ページ目を御覧いただければと思います。5.ですが,受託事務に関して制度改善が望まれることについて各社担当者にお聞きしております。回答としましては,税制関連の回答,信託報酬等に関する回答,引受許可申請事務に関する回答の3種類に分類できるかと思われます。引受許可申請事務の関係で指摘があるのは,例えば③の1ポツ目にあるように,主務官庁によって届出事項や様式がまちまちであるというような点。明文の規定はありませんが,主務官庁から10年の事業継続ができるレベルでの基金設定を求められるということがあるようなことが挙げられております。引受許可基準で信託報酬につきましては「人件費その他必要な費用を超えない」という規定がなされていることから,事務コストに見合う水準とすることについて各社担当者苦労されているというようなことも挙げられております。
  以上,公益信託の仕組み,最近の統計,実務者アンケートにつき御紹介申し上げました。今後の議論の参考としていただければ幸いでございます。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
  あとのお二方の参考人,今の段階ではよろしいでしょうか。
  それでは,ただいまの御説明につきまして御質問などございましたらお出しくださいますようお願いいたします。
○能見委員 資料に書いてないことを伺って申し訳ないのですけれども,どういうところが主務官庁となるのが多いのか,主務官庁が都道府県である場合と国の諸官庁である場合とがあると思いますけれども,都道府県と国との割合とか,都道府県の中ではどういうところが多いとかいうものの状況が分かると,公益信託と主務官庁の関係についてのイメージが湧きやすいので,わかるようでしたら教えていただきたい。ただ,直ちに議論に何か反映するという問題ではないので,別に今回でなくても結構です。別の機会でも結構です。教えていただければと思います。
  このニュースリリースの5ページ目の所に公益信託受託状況というのがありますが,これの資料からどこが主務官庁であるとか,都道府県は別として,どこが国の場合には主務官庁かというのは大体のことはお分かりになるのだろうと思いますけれども。
○岩田参考人 御指摘のとおり,奨学金支給が全体の件数の3割,4割というところで多くなっておりまして,各地の教育委員会等が主務官庁ではかなり多くなっているということで認識しております。
○能見委員 単なる個人的な関心ですが,ここにある動植物の保護などというのは主務官庁はどこなのですか。あるいは都道府県なのかもしれませんが。
○岩田参考人 ここは少ないので,環境省とかになるのかもしれません,ちょっとそこは分かりません。
○中田部会長 能見委員,よろしいでしょうか。
○能見委員 はい。
○林幹事 能見委員の御質問に関わるところですが,信託協会さんのホームページでは公益信託のデータベースを拝見できますよね。幾らか拝見したら教育委員会とかもありますし,対象について市とか区とかそれなりに限定された地域の方々を対象としたものもあるようです。受託額については,本日の参考資料では1億円とかそういう数字も出ていたと思いますけれども,3,000万円とか4,000万円とか比較的小さなものもデータベースにはあったと思います。その辺りについてもう少し詳しく資料を拝見できたら有り難いです。例えば,どういう地域のどういう規模のどういうものの公益信託が現にあるのか,あとは受託額です。本日の参考資料では総額は書いてあって受託額の大小というのは出ていなかったと思いますので,そういうものも拝見できれば参考になると思いました。
○岩田参考人 御意見としては承りました。ホームページなかなか見づらいという御指摘も受けているところでございまして,ホームページの見直しの中で見やすくする工夫も今後検討させていただきたいと思います。御意見ありがとうございます。
○中田部会長 ほかに。
○小野委員 資料を見て大変関心をもった点として,普通考えると特定,また認定特定公益信託が多いのではと思っていたのですが,一般公益信託の受託もそれなりにあるようで,その場合の税務はどのように扱われているのでしょうか。目的信託としての扱いではないと思うのですけれども,その辺りについて教えていただきたい。
  また,初めから特定を取らないで不動産とか美術品とかそういうものについて一般公益信託としたいとの委託者からの要請があることもあるかと思うのですが,その辺の状況,実態とか,信託銀行としての取組などについてもお知らせいただければと思います。
○堤参考人 三菱UFJ信託の堤です。小野委員の方の御質問にお答えいたします。
  特定認定ではない一般の公益信託,これが件数的には一番多いことになっているかと思います。この一つの要因は,まず過去の古い公益信託につきましては特定認定というものは余り取られていなかったというのが事実かと思っています。最近の公益信託につきましては基本的にほとんど認定特定は取っている,若しくはその要件は全部満たしていますので,ある程度税制上の要件は満たすということでクリアかなりの部分はされているというふうに考えております。
  2点目の不動産とかを信託したいというようなお話があるかという御質問かと思いますけれども,そういった相談ゼロではございませんけれども,基本的にかなり少ないレアなケースですので,御相談が来た時点で難しいと,公益信託では難しいという取扱いになっております。
○小野委員 確認ですが,不動産ですと税務上特定が取れないのではないかと思うのですけれども,それでも一般公益信託を希望するということもあるのではないかと思いますが,そういう場合はいかがでしょうか。
○藤原参考人 三菱UFJ信託の藤原でございます。
  ほかの信託銀行さん,同業他社さんがどういう状況なのかは私も直接存じ上げないのですけれども,少なくとも当社に関しては当初から不動産でというような御要望を承った事例というのは私の知る限りではございません。
○岩田参考人 お聞きする範囲でございますけれども,一般公益信託でも相続税の関係で少なくとも特定の要件は満たすような形でお願いしているというケースはやはり大多数だということでお聞きしております。
○中田部会長 小野委員,よろしいですか。
  ほかに。
○沖野幹事 個別案件で恐縮なのですけれども,こちらのアンケート調査結果の5ページの所です。5ページの一番最初の所に主務官庁に事前相談したところ許可困難との反応があったものに該当した案件についての具体的な内容とあり,東日本大震災の遺児について震災時小中学生を対象としたというものについて相談したところ,未就学児も含むように求められたとあります。これは具体的には認可基準のどれが問題だということなのでしょうか。不特定多数の要件を満たさないということなのでしょうか。助成対象地域が限定されていたというのは地域の限定いかんによってはそうかなというふうにも思うのですけれども,未就学児の方はこれでやはり不特定多数は無理なのかという感じもするものですから,どういうところが問題であったのかということをお聴かせ願えればと思います。
  そして,その後の処理ですが,こういうことがあった場合には求めに応じて拡大してそして信託が設定されてはいるのか,それともそれは委託者の趣旨に沿わないということで断念されるということになったのか,それはお分かりになりますでしょうか。
○岩田参考人 前者の困難という指摘を受けた点なのですけれども,ここは残念ながらヒアリングできてなかったということなのですが,恐らく許可基準の,御指摘のとおり,「積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的とするものでなければならない」というところだったのではないかとは想像されます。
  それで,このてん末ですけれども,ちょっとここは分かりません,寄附だけにしたのか断念されたのかというところは,すみません,ちょっとそこは把握できなかったところでございます。
○中田部会長 ほかに。
○小幡委員 私も今の件に関連してでございますが。アンケートのところで受益範囲の問題があると思われたケース,4ページにたくさんございまして。これは感想ですが,公益法人などの方が,例えば特定の大学等についても,大学に入るのは全員に開かれているからというようなことで割と公益性が緩い場合もありますので,それに比べるとかなりきついのかなと。ただ,地域の範囲ぐらいですと普通は大丈夫なのですかね。どこまで求められるのかなという,先ほどのとも関連しますが。
  それからもう1点は,報酬の基準について制度改善が望まれることという8ページの所でかなりいろいろ報酬についての記述がございますが。例えば認定特定の場合には事務量が非常に増えるけれども,それが反映されないというような話,これはただ認定になるから幾らというのはなかなか難しいのかと思うのですが。いずれにしてもこの基準については,一番最初に決めたのが変えられないとかいうのもございますが,この基準について,私分からないので質問ですが,非常に厳しく決められていて,もう契約後は動かせないというような状況になっているのかというのをお伺いできればと思います。
○中田部会長 今の2点についていかがでしょうか。
○堤参考人 それでは,三菱UFJ信託の堤から御回答いたします。
  まず1点目の受益の範囲の件なのですけれども,確かにおっしゃるとおり地域の限定につきましてはある程度認められていると思っております。私どもが回答したアンケートの回答ではない部分ですが,他社さんがそういうふうに思われているということかと思います。
  2点目の報酬につきましては,一般的に公益信託の場合は一応弊社の中では1,000分の15の報酬以内という形でやらせていただいています。ただ,そうは言っても,ここはまたいろいろと内部の規定等ございまして,それ以下のかなり低いレートで実際は引き受けていたというのが事実でございます。そういう状況の中で昨今は弊社だけでなく他社さんにつきましても1,000分の15になるべく近い報酬を頂くということで個別に委託者とあと主務官庁さんと交渉して,できるだけ事務負担のコストに見合う分ということで頂こうと努力はしているのですが,先ほどの引受事務の所にある人件費その他の必要な費用を超えないというここがどうしてもなかなかクリアできなくて,従来の1,000分の15以内というところ,以上はどこの他社さんも頂いていないかと思っています。
  あと,報酬が途中で変えられないかというところにつきましては,これは御存じのとおり昨今の金利の状況が昔と大きく違っておりますので,そこの運用の状況とか,あと助成をしていきますと財産の減り方も変わってきますし,一部の基金につきましては寄附とか委託者からの追加信託があったりして資金の増減がございますので,そういったところの資金の増減と,あと実際の応募件数が急に増えたり急に減ったりというところもございますので,そういったところを反映して運営委員の方々とか信託管理人の意見を聞いて,ちょっと上げることがあったかどうかは知りませんけれども,上がったり下がったりということは絶対できないということではございません。
○中田部会長 ありがとうございました。
  大体よろしいでしょうか。
○山田委員 既に御発言出たところにも重なるのですが,公益信託の件数というのを今日お配りいただいた資料を通して見ながら質問したいのですが。
  一つは,最近増加傾向にあるのか減少傾向にあるのかということです。この公益信託,その制度のあらましというところの一番後ろの方,43ページを見ますと,資料2の公益信託目的別受託状況というのがありまして,平成26年9月末現在で498件となっています。ニュースリリースが今年の6月6日発行で,そして今年の3月末現在では1ページ目の二つ目の○ですが,479件とありますので,1年半で約20件減少していると。新規に設定されたものもあろうかと思いますが,差引きで少し減っていると,そういう現状かどうかということが一つ目の質問です。
  それから,二つ目の質問は,一番近いところで言うと479ですが,これの内訳なのですが。一般公益信託と特定公益信託と認定特定公益信託と税制上の扱いで3分類されると思うのですが,それがアンケート調査結果についてというのをお配りいただいて,この1ページ目の2の表,AからEまでの合計が出ていないのですが,これ縦に手で足していきますと,一般公益信託が320件程度,特定公益信託が110件程度,認定特定公益信託が40件程度になるのですが。大体そんな数字で,要するに現状の税制上の取扱いの区別で言うと3分類分かれるというのでいいのか。これが二つ目。
  それから,三つ目ですが,ちょっとまたすみません,その制度のあらましに戻りますが,どこかに日本地図が載っているページがあったのではないかと思いますが。別ですかね,日本地図が載っているのは。ニュースリリースですか。失礼しました。ニュースリリースの6ページですね。6ページの上の方に見出しがあって,その下に○全国ベース,○都道府県ベースとありますが,このベースというのが許可をしたのが中央官庁なのか都道府県,知事部局と教育委員会を含むのでしょうか,ということを指していて,そうだとすると中央官庁許可件数が158件で,都道府県が321と。これを足すと479になりますので,ちょうど1ページ目の直近の479にも合うのですが。そういう数字として見てよいのかどうか。
  ちょっと三つ申し上げましたが,お教えいただけると幸いです。
○岩田参考人 まず,日本地図にある全国ベース,都道府県ベース,おっしゃるとおり主務官庁でございまして,9省庁,45都道府県ということで,3分の1が全国ベースで,3分の2が都道府県,地方の主務官庁ということで御理解いただければと思います。
  二つ目の税制上の区分ですが,アンケート調査結果の1ページ目の2.にあるとおり,一般公益信託がやはり多いと。その次に特定,認定に続くということで,税制上の区分の比率は今回3月末の区分をとってはおりませんけれども,大体この比率と同等と見てよろしいかと思います。
  三つ目の減少傾向があるという内容なのですけれども,新規の設定ですが,ここ5年ほどで新規設定については3,4件というのが大体アベレージでございまして,それを上回るペースでの減少というか基金の終了があるということが減少傾向の主因ということで捉えてよろしいかと思います。
○山田委員 ありがとうございます。よく分かりました。
○中田部会長 大体よろしいでしょうか。
  それでは,3人の参考人の皆様には貴重なお話を頂きまして,大変ありがとうございました。
  続きまして,部会資料31を御参考にしていただいた上での意見交換に移りたいと思います。部会資料31について,事務当局から御説明を頂きまして,その後意見交換に入りますが,その途中で一旦休憩を挟む予定でおります。それでは,御説明をお願いします。
○中辻幹事 それでは,部会資料31の内容について御説明いたします。
  本日は公益信託法の見直しについてフリーディスカッションをしていただくという位置付けの会です。そこで,皆様には個々の細かい論点ではなく,全体的な大きな視点から忌憚のない御意見を頂ければ有り難いと考えておりまして,その材料という趣旨で部会資料31は作成しております。
  資料の標題に「主な検討課題の例」とありますとおり,この部会資料に載っている課題は私どもが主な課題と考えているもので,この資料に載っていない課題は今後取り上げないという趣旨ではございません。また,この資料の最後にその他という項目を挙げておりますが,主な検討課題としてこの部会で重点的に取り上げるべき論点とお考えのものがありましたら適宜御教示いただければと存じます。
  今回の資料の構成ですが,まず第1「総論的な事項」で見直しの基本的な方向性等の課題を記載し,その後第2「公益信託の認定に関する事項」,第3「公益信託の監督・ガバナンスに関する事項」,第4「公益信託の終了事由等に関する事項」の各項目で,公益信託の設定から終了までの段階ごとの課題を記載し,最後に第5「その他の事項」として公益信託の名称等の課題を記載しております。
  それらについて一つずつ簡単に触れておきますと,まず第1の1「見直しの基本的な方向性」は,公益信託の見直しに当たっては,公益財団法人と比較してコストが低廉で小回りが利くという公益信託のメリットや,利用者の関心が大きい税制上の優遇措置を視野に入れつつその適正な利用を促進するために必要十分な仕組みを整えることを基本的な方向性とすることが相当ではないかと私どもは考えておりますが,その是非について御意見を頂きたいということです。
  次に,第1の2「信託事務及び信託財産の範囲」は,現在の実務では参考資料4の許可審査基準及び税法の存在により,公益信託の信託事務は奨学金や研究費の支給等の助成事務に限られ,信託財産も金銭に限定されているところ,例えば委託者が土地建物や美術品を信託財産として拠出し,受託者が美術館の運営等の助成事務以外の信託事務ができるようにすることによって利用者の多様なニーズにこたえられるようにすべきであるとの指摘がございます。
  もっとも,公益信託で公益法人と全く同じことができるようにした場合には,軽量・軽装備という公益信託のメリットが失われる可能性があることから,公益信託の受託者が行う事務は公益目的の信託事務及びそれに付随する信託事務に限定すべきであるという御指摘もございまして,これらの点が課題になるということです。
  第1の3「公益信託の受託者の範囲」は,現在は公益信託の受託者が信託会社である場合を除き税制優遇を受けられないことから,公益信託の受託者のほとんどは信託銀行となっておりますが,将来の公益信託の在り方を見据えた場合に,受託者としてどのような範囲のものを認めるかが課題になるということです。
  これら第1で総論的な事項として挙げさせていただいた課題は,公益信託の設定から終了に至るまでの個別の論点を検討するに当たってのバックボーンとなる事項であり,恐らく継続的に考えていくべきものですが,本日御議論していただくテーマとして特にふさわしいのではないかと思います。
  第2から各論的な課題に入ります。第2の1「主務官庁による許可制の廃止」は,現行公益信託法が昔の民法の公益法人と同じく主務官庁による許可制を採用していることの是非について以前の部会での議論をまとめました参考資料3の後ろの方に記載されておりますとおり,10年前の信託法部会ではこの主務官庁制を廃止する意見が多数を占めておりましたが,この度信託法部会の委員・幹事等の一部の交代もありましたので,改めて課題として挙げたということです。
  第2の2「公益信託の認定基準」は,現在の行政実務では法律や政令ではない許可審査基準が許可基準とされているわけですが,行政手続の透明化の要請からは認定の基準は法令上明確化した方がよいのではないか,そしてその際に新たな公益法人の公益認定基準も参考としつつ,公益信託についてどのような認定基準を定めるのかが課題になるということです。
  もっとも,公益信託の認定基準として検討する必要があるものは多数あると考えておりまして,その個別の基準の要否について踏み込んだ議論をするためにはある程度まとまった時間を要します。次回以降にその時間は設けることを予定しておりますので,皆様が特に重要であると考えておられる基準についてこの時点で御意見を述べていただくことは一向に差し支えありませんが,それを深める議論は次回以降に行っていただければと思います。
  第2の3「公益信託の認定の主体」は,仮に主務官庁による引受けの許可制を廃止した場合に新たな認定の主体としてどのような機関が考えられるかが課題になるということです。
  第2の4「公益信託と目的信託の関係」は,新信託法において公益信託は受益者の定めのない信託,すなわち目的信託の一類型として概念的に整理されているわけですが,その関係性等について再度確認しておく必要があるのではないかと考え課題としているものです。
  第3の1「監督・ガバナンスの全体像」ですが,現行公益信託法は公益信託を主務官庁の包括的な監督の下に置いており,言わば受託者の箸の上げ下げまで主務官庁が面倒を見るという構造になっております。けれども,民間を主体とする自律的な公益活動として公益信託をとらえるならば,まずは公益信託内部のガバナンスを充実させ,足りない部分を外部の第三者機関が補うという発想があり得るところ,そのような全体像のとらえ方が課題になるということです。
  第3の2「公益信託の信託管理人」ですが,公益信託事務を行うのは受託者であり,信託法上はそれを監督する主体としてまずは受益者が出てくるのですが,公益信託は受益者の定めのない信託として位置付けられています。そうすると,受益者に代わる公益信託の監督の主体としては,信託法上の信託管理人が中心となるのではないかと考えられるところであり,公益信託を設定する場合に信託管理人を必置とすべきか,またその資格要件や権限の内容が課題になるということです。
  第3の3「公益信託の委託者」ですが,公益信託の適正な運営の確保という観点からは,一旦公益信託を設定した後は委託者がそれに関与することはできるだけ少なくなるよう権限を限定すべきという御指摘がございます。もっとも,新信託法では旧法より委託者のデフォルトの権限を縮小した上で,当事者の合意によりそれを拡大又は縮小することを可能としているところ,信託法第260条により,受益者の定めのない目的信託では受益者の代役として委託者の権限が強化されているということもあり,それらの権限のうち公益信託の性質に適合するものを委託者が行使できるようにすべきであるという指摘もございまして,公益信託の委託者の権限の範囲等をどのように考えるべきかが課題になるということです。
  第3の4「運営委員会等」ですが,これは許可審査基準に定められており,現行実務で奨学金の給付先等を決定することを主な機能としている運営委員会等を新たな公益信託法にどのように位置付けるべきかが課題になるということです。
  第3の5「外部の第三者機関」ですが,仮に公益信託内部の自律的な監督・ガバナンスを充実させることを前提とした場合,外部の第三者機関の監督権限は公益信託の認定基準への適合性を確保するために必要な限度とすべきであるという指摘があることを踏まえて,その監督権限をどのような範囲とすべきかが課題になるということです。
  第3の6「情報公開」ですが,現在は年1回官報に公告されている程度の公益信託の情報公開を,信託と法人との制度の相違により導入できないものは除いて,公益財団法人のように公開度を高めていくことが課題になるということです。
  第4の1「公益信託の終了事由」ですが,四宮教授,能見委員の信託法の教科書にもありますが,旧信託法の当時から公益のために財産を拠出する公益信託では,一般の私益信託とは異なり,当事者の合意による信託の終了は認められないと解釈されてきたところ,そのような特則を含めて公益信託の終了事由をどのようなものとするかが課題になるということです。
  第4の2「公益信託の終了時における信託財産の帰趨」ですが,現行公益信託法第9条は,できるだけ公益目的のための信託は継続させた方がよいという発想の英米法上のシプレ原則を採っているわけですが,これを維持するか否か,またその周辺の話として公益信託終了時の信託財産の帰属先が課題になるということです。
  第4の3「公益信託と私益信託の相互転換の可否」ですが,現在はそのような相互転換は認められていないところ,利用者の便宜の観点からは転換を認めるのが相当であるという御指摘もあり,その是非が課題になるということです。
  第5の1「公益信託の名称」ですが,公益信託法に公益信託という名称を付することを義務付けるべきか否か,また公益法人と同様に公益信託の名称を保護するべきかが課題となるということです。
  第5の2「公益信託法の現代語化」ですが,今回の改正により,現在片仮名文語体の公益信託の規定は全て現代語化することを予定しておりますので,その際特に留意すべき点がないかが課題になるということです。
  第5の3「移行措置等」ですが,現在500件弱の公益信託が信託銀行を受託者とするものを中心に現に運営されているところ,それらを新たな制度の下に移行させる際に,どのような移行措置を採るべきかが課題になるということです。
  第5の4「その他」は,今回再開しました信託法部会において主に検討すべき事項として更に取り上げるべき課題がありましたら御教示願いたいというものです。
  私からの御説明は以上です。
○中田部会長 ありがとうございました。
  それでは,ただいまの御説明を踏まえまして意見交換に移りたいと思います。ただいま中辻幹事からお話がありましたとおり,本日は細かい論点について踏み込んだ検討をするというのではなく,それはむしろ次回以降に行っていただくということを前提にいたしまして,大きな視点からの御意見,特に重要と考えられる点についての御指摘等々を頂ければと存じます。
  幾つかに分けて御審議いただきますが,休憩前にまずは第1の総論的な事項について御検討いただければと存じます。
○樋口委員 大きな話からというので,これは,また前置きが長くて能見委員に怒られそうですが。本当はあなたがきちんと調べるべきだと言われそうな話なのですけれども。結局これチャリタブルトラストという公益信託というのは一応英米に,イギリスに源を発していてということで,特に信託を公益のために使うという伝統のある国々があるわけですよね。それから,別に英米に限らなくていいと思うのですけれども,やはり私財を公のために,みんなのために使ってもらいたいという立派な心懸けの人はどこの世界にもいて,それを制度の中に組み入れて何とかしているというのはどこの国でもあるはずなんですね,信託だけではなくて。
  そういう中で,日本で行われている公益財団法人と公益信託というまず規模が問題ですよね。どの程度のものなのだろうかと,ほかの国と比べて。先ほど件数の増加とか減少という話もありましたけれども,特に日本の場合公益信託というのは一番初めの説明にもあったように,実際には制度は法律上はずっとあったのですけれども,昭和52年まで使われないという状況でした。その後も細々ととはいえないかもしれない,600億円あるのだから私なんかにはとても言えませんけれども。やはり信託財産の総額から見ればそれほど大きな割合を占めていないように見える。だから,ほかの国々でどういう形にどの程度の規模になっているのかという話を,何らかの形で比較法的な見地から調べて資料としてきっと出してくださるのではないかなと思って期待しているということが第1点です。
  例えば私の感じで言うと,例えばイギリス法以来公益とは何かというのがずっと昔から向こうの国でも議論していて今日先ほど議論もありましたけれども,やはり日本では非常に狭いような感じがするのですよね。不特定多数の利益という定式の「多数」がものすごく多数でないといけないというような感じがする。だから使いにくくしているのだと思いますけれども。
  そういう中で,例えば公益の第1番目にくるのは,これは順不同だと思いますけれども,やはり貧民救済なのですね。歴史的には。だから,最近の子供食堂みたいな話がありますよね,ああいうのは,本当は信託の形でやれるのですね,やろうと思えば。だから,そういうものとか。これはちょっと裏をとっていないので研究者としてはいかんのですけれども,シドニーのオペラハウスに遊びに行ったときにいろいろ案内してくれる案内人の人がいて雑談をしていたのですけれども,一体これらはどういう人たちが運営しているのだ,と尋ねると,これがチャリタブルトラストだと言うのです。だから,ああ,こういうものも信託という形で運営していてやっているのかというようなことも感じましたので。
  ちょっと繰り返しになって恐縮ですけれども,日本とオーストラリアだけでなくていいのですけれども,それ以外の国で私的な財産を公益のところへつなげる仕組みというのがどういう,日本人はなかなかそういうことが国民性でできないのだとは私は思いたくなくて,やはり制度的なものがあって広まっていないということがあれば,それはまさにここで考えるべき問題になるだろうというお話が一つ。
  もう1点だけですけれども。もう一つの興味は,日本では公益財団法人あるいは公益法人というのがずっと根付いているわけで,それに加えてこうやって公益信託というのが並行してあるという面白い状況になっているのですね。そうすると,今日も幾つかの場面では出てきましたけれども,公益財団法人という制度ができて動いているわけですから,それとの関係でまず入り口の公益の認定のところで今度の公益信託というのは全く同じにしていいのだろうかという話があります。マネジメントであれ,何らかの違いがあるか否か。さらに,実際には公益信託は助成事業しかやっていないという,やらないと言うのですかね,そういうようなことをどう考えるか。それは役割分担でほかのところは公益財団法人でやるのですよということなのでしょうか,それが日本のやり方ですという話であればまたそれはそれなりに理解もできますけれども。
  それから,受託者の方も,先ほど聞けばよかったのですけれども,やはり信託銀行でなければいけないのだろうかというのが最大の問題になると思うのですね。多分社会貢献だと思ってやっておられるのでしょうけれども,やはりそれ自体は収益事業では多分ない,報酬も1,000分の15よりもずっと下でやっていますというお話もありましたので,そうするとどういう人たちを受託者として想定して考えるかが重要な課題となります。それでないとこれ結局受託者がいなければ信託はできないので。だから,そういうことが重要になる。
  そのときに,それは受託者というのは公益信託で出てくるので,公益財団法人のガバナンスと比べてどういうことがやはり違いとしてあって,しかも違いとしてあっていいのだという話がどのぐらい出てくるのかということを,私も少し勉強するという約束はしますけれども,議論の中で出てくると有り難いかなと思っております。
○中田部会長 ありがとうございました。各論的な点につきましてはまさにこの審議会でこれから御検討いただくことになろうかと存じます。
  公益財団法人と公益信託との関係についての比較法的な調査というのも,できる範囲でこちらでもしていただくことになると思いますし,また樋口委員その他の皆様からも是非いろいろお教えいただければと存じます。
○吉谷委員 今樋口委員から資産規模はどのぐらいだろうというお話もございましたけれども,先ほどの御説明の中では余り出てこなかったかもしれませんが,私がお聞きしている範囲では1億から,20億とかいうのはそれほどまずなくて10億を超えるような分はまず少ないというふうに聞いています。せいぜい1,2億程度のものがあって,個人の方か企業の方かというのでまた規模も少々変わってくるかとは思いますけれども。やはり余り,ちょっと私は公益法人の方の規模は余り存じておりませんけれども,余り大きな金額のものは実績としてはないということであろうと思います。それが10年とかの間で徐々になくなっていくというようなイメージかと思います。
  私の方からは,この総論的な事項の中では見直しの基本的な方向性の点につきまして2点発言したいというふうに思っております。
  一つ目は,税制上の優遇措置というものであります。これはやはり公益信託を行う委託者にとりましては税制上の優遇措置があるということが公益信託を検討するに際しては前提になっているというふうに考えます。この優遇措置がなければ法改正をしても公益信託の利用促進に資するかどうかというのはちょっと疑問であると思います。利用者の利便性の観点から申し上げますと,公益認定されれば優遇措置が適用されると,このようなセットの仕組みになっていることが望ましいというふうに思われます。ですので,この点を意識した議論が必要ではないかというふうに考える次第です。
  2点目でございますが,これは簡素な仕組みということでございます。公益信託は簡素な仕組みであるということが重要であると考えます。公益法人に比べると軽装備であるということでございまして,今までにつきましては受託者である信託銀行の組織と事務所,従業員によって運営することで低コストなオペレーションというのを行ってきたわけでございます。先ほど御説明にもありましたように,現在はどちらかというとコスト以下の報酬しか得ることができないという実情がありまして,それはともかくとしまして,このような専門の法人組織や専任の人員を持たずに運営できるという特徴があると思います。それがゆえに独立した公益目的のための事業を財産規模が1億円程度でも始められているのだということかと思います。このような特徴を維持することが今回の法改正においても常に意識していただきたいと思います。
  信託の実務では,公益信託に限ったことではありませんけれども,信託契約におきまして信託目的の達成に必要な限度で信託事務処理の範囲というのを限定しております。つまり,受託者の裁量を上手に限定するということによりまして,簡素なガバナンス構造というのを成り立たせていると思います。ですので,公益信託においてもこのような信託の特徴をいかした法制度にするということが望ましいというふうに考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 公益信託と目的信託ですけれども,ここで発言した方がよろしいですか。
○中田部会長 目的信託と公益信託の関係については各論の第2の4でございますので,そちらでお願いできますでしょうか。
○松下幹事 先ほど資料31の説明で,第1の2で,信託事務及び信託財産の範囲が現在の許可審査基準で限定されているという御説明がありましたが,信託事務がその資金又は物品の給付等を行う助成事務に限定され,信託財産が金銭に限定された趣旨というのが一体何だったのかということを,不勉強で承知していないので教えていただければと思います。
  更に言えば,その下の段落の2行目,美術館の運営のような例ですね,こういうものを積極的に排除する趣旨があったかどうか,もし分かれば教えていただければと思います。
○中辻幹事 恐らく,公益法人との対比で公益信託はその実用化の段階から金銭等の助成型が想定されており,また,公益信託の仕組みを使って悪用がされないようにするためには簡素で安定的な仕組みが望ましいという考え方から,許可審査基準において,公益信託の信託事務は,原則として,金銭の給付等を行う助成事務に限定されてきたのではないかと考えています。「原則として」なので,美術館の運営のような例を積極的に排除するまでには至らないものの,事業型の想定はほとんどされておらず実務では認められてこなかったということになろうかと思います。
  なお,税法につきましては審議の冒頭で触れましたとおり,財務省の方から一度御説明の機会を頂くことを検討していますので,その機会に伺えればと思います。
○中田部会長 最後におっしゃった税法との関係で,金銭に限定されていることの趣旨については,専門家の方から更に詳しく御説明いただくということになろうかと存じます。
○平川委員 議論の範囲なのですけれども,信託事務及び信託財産の範囲というのを検討する中で,受託者の自己執行責任という観点から,信託事務の委託ができる範囲とか委託先についての縛り,利益相反とかいろいろ公益信託を使って悪事を働こうというような観点からは,例えば非常にファミリーの企業に丸投げして信託事務をして報酬でガッポリ抜くとか,いろいろな利益相反。また,専門性,今の普通の信託業法における信託でも委託先について専門性とか経験というのを要件にしていると思うのですけれども,委託先についての縛りということも一緒に議論していただければと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。それは各論のところで受託者の義務あるいは公益信託の監督・ガバナンスという辺りで出てくるかと存じます。
○小野委員 見直しの基本的な方向性というところの議論ですが,普通の発想からしますと公益信託と公益財団法人とを比較し整合性を検討するというのが最初にくるというのはもちろん理解するところではありますけれども,財団法人制度に関しては一般財団法人というのももちろんございまして,このうち税務上の扱いで公益財団と重要な点では変わらない非営利型の一般財団法人と公益信託あるいは営利を目的としない,公益的,共益的活動を目的とする目的信託と比べる視点も必要と思います。公益信託なのだけれども許可が取れない,あるいはそもそも取らないというものを考えたときに,こうした一般財団法人との比較において果たして整合性がとれた制度なのかどうか,財団という形で大規模に美術館を運営するということがあるかもしれませんけれども,もうちょっと小規模なコレクターがいたときに公益信託を利用するという選択肢があってよいところ,公益性の有無の判断で不特定多数という要件を満たしていないとか,また税法上の細かい要件を満たしていないということで公益信託としての許認可がとれない,税務上の特定をとれないものでも,誰が見ても公益的なことは疑いようもない例もあると思います。
  言い方を変えると,財団法人においては,社団法人もそうですが,収益事業と非収益事業とを分けて収益事業に課税されているのは御存じのとおりと思うのですけれども,そのときに非収益が全部純粋に公益かというと中間的なものもあるかと思います。先ほど申し上げた公益と私益の境界の話でもあります。
  ということで,公益財団法人との比較というのは当然ですけれども,制度間の整合性を考えるときには非営利型の一般財団法人とか,組合など他の事業体との比較ということも重要かと思います。税法が非常に重要という吉谷委員がおっしゃるとおりですし誰もが認識するところですけれども,一方この場は税法の議論は特にはする場ではないということも認識しておりますけれども,他制度と整合的な議論をすれば税法もついてくるところもあるのではないかと思います。
  あともう一つは,受託者のところですけれども,何か利害関係のある議論ではなくて,公益信託の担い手としてはどういう方が適切かという議論と思います。それが多額の金銭を預かるとかいうことになればそれなりに危険性とかいうことも加味しなければいけませんし,それが美術品とか私の想像力を超えるような公益目的の財産ということであれば,それにふさわしい適格性,またリーガルという観点ですれば,手前みそですけれども弁護士がふさわしく,それぞれ観点が全く違うかと思います。ですから,公益信託の信託財産の種類や信託の目的というところから受託者の適格性についても考えていくことが必要と思います。
  そうすると,その一つの方向性としては,では今の信託業法の建付けである金融庁が監督するということが適切なのかどうかということにもつながると思うのです。
○中田部会長 ありがとうございます。第1点につきましては先ほど新井委員からも御発言していただきかけたところですけれども,また各論の公益信託と目的信託との関係という辺りで更に御議論いただけるかと存じます。
  第2点につきましては,第1の3の受託者の範囲というところについて基本的な考えを示していただいたと存じます。また具体的に受託者の範囲について詳しく御議論いただくことになると存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○小幡委員 今日はフリートーキングということでございますので。先ほどからも御意見も出ておりますが,やはり今回の見直し作業というのは公益財団法人という制度,公益法人制度がいまのように法律が変わりまして,その中で位置付けられている。実は私は中田部会長の後,東京都の方の公益法人等審議会の会長をさせていただいておりますが,奨学金であるとか各種助成金であるとか似たようなものというのは公益財団法人でもたくさん出てまいっております。そういう制度が一方である。そこは法律で決まっておりますので,立入り検査などをしながら今は必死に監督をしている状況でございまして,逆に信託銀行さんのような金銭的な経理管理が完全にできるところとはいえないところでもやっているところも若干ありますので,そういうことも含めて監督しています。ただ,それだけではなくて,いろいろなほかの仕事,業務もやりながら収益事業も含めて活動して,そこで収益を出してそれをまた公益事業に還元すると,そういう少し大きな枠でできているのが公益法人ではないかと思っております。
  その上で,今回もう既に公益信託もそれなりに根付いていて,今先ほど御説明ありましたようにかなりの件数があると。多分今回それを更にできるだけ発展させた方がよいということでの議論なのだろうなと思うのですが,他方で公益法人制度はあり,その上で公益信託を位置付けるときに,もっと活動の範囲を広くしてアクティブに働かせようというために,例えばより監督がきつくなったりとか,そういうことで今までのやり方が逆にやりにくくなるとか,簡素な制度であるということがメリットだったとしたら,それが逆になってしまうというのはこれはまずいのかなと思います。ですから,公益信託なりのよさということをできるだけいかしながら,今先ほどもございましたように,ただ引受け手の信託銀行さんがほぼ全くコスト割れみたいなことでやってくださっているということをそのまま続けていてよいのかということはあろうかと思いますし。そういう手直しをしつつ,金銭だけ,財産もということなのか,ということです。ただ,恐らく収益事業までさせるということになるとこれは大変かと思いますので,これは各論に関わることかと思いますが。そういった観点から簡素さというメリットをいかしながら,多少今までの不具合を直しながら現代の要請に合わせていくという改正の方向ではないかと思っております。
  その中でやはり税法は後でついてくるという話もありましたが,そこら辺は非常に難しいのですが,税法のメリットがないとやはり制度が成り立たないということもございますので,税法の優遇が得られるということを見据えた中での制度設計をしていく必要があるのではないかと思っております。
  ただ,公益の範囲については,先ほどから公益とは何かという話がございましたが,公益法人の方がある程度,「公益」が広がっているという現状がありますので,公益信託の方が今は狭いということがありまして,これを税法上の優遇を取る上でもう少し逆に広げても公益法人がありますので可能かもしれないと思いますので,少しそこは広げる可能性はあると思っております。
○山本委員 2点申し上げたいことがあります。
  1点目は,先ほどから公益信託についての現状について様々な御紹介があり,それはよく分かったのですけれども,例えば公益信託の対象が現状では金銭に限定されているのをそれ以外のものに広げるというようなお話もありましたが,そういったことについての実際のニーズがどれほどあるのかという点については,はっきりとしたデータがあるわけではなく,難しいのですけれども,何らかの調査ができないものかと思いました。ただ,これは非常に難しいことでして,このような制度があれば使いますかといった調査は簡単ではありません。むしろ現状では公益財団法人があるわけですので,あるいは公益財団法人で公益認定を受ける際に様々な障害,支障あるいは問題点等があった,そこからすると,例えば公益信託制度がこういう形であれば魅力があると感じるというようなつながりになるのかもしれません。そういったニーズに当たるような調査がもしできれば,立法を考えるに当たって参考になるのではないかと思います。しかし,これは,問題提起ということにとどめさせていただきます。
  もう1点は,第1の2にある「信託事務及び信託財産の範囲」についてです。ただ,細かい点は次回以降に検討するということですので,その際に御検討いただければということを一つだけ申し上げておきます。第2段落で,考えられる指摘としては,公益信託の受託者が行う信託事務を公益目的の信託事務及びそれに付随する信託事務に限定して,それら以外の信託事務,収益事務等は除外すべきであるという提案があるわけなのですが,これは,それぞれの概念の意味をもう少し明確にしていただけないかと思いました。例えば,参考資料を見ますと,美術館の例を挙げて,公益目的の信託事務とそれに付随する信託事務の中で,例えば美術品のグッズを売ったり,喫茶店を経営したりというものが挙げられていましたけれども,これらと収益事務等との関係がもう少し明確にされる必要があるだろうと思いました。また,例えば留学生向けの学生寮を運営する場合には,公益目的の信託事務と収益事務等が切り分けられるのかというような問題もありそうです。
  その辺りの整理がされないと検討が難しいように思いますので,次回以降に詰めをお願いできればと思います。
○中田部会長 第2点につきましては今の御指摘のとおり,具体的に検討する際に御指摘を踏まえてその概念の明確化を事務当局というよりもここで詰めていくことになろうかと思いますけれども,事務当局の方でも御検討いただくことになろうかと思います。
  第1点につきましては調査といってもなかなか難しいかもしれませんけれども,今日の参考人のお話もその一環かと存じますが,できるだけ資料が集まりやすいようにしていただければと存じます。
○平川委員 またちょっと周辺のことで申し訳ないのですけれども,これ受託者の範囲と関係すると思うのですけれども,受託者の範囲が信託銀行とか信託会社などそういう監督されているところだけではなくてもっと一般に広がるとした場合には必ずしも信託契約に精通した人が受託者になるわけではないので,信託契約締結代理媒介業みたいなことを業にする人が出てくると思うのです。今民事信託の代理媒介については割とガバナンスとかがどこにも属さないのでちょっと野放図な感じになってしまっていると思うのですけれども,この公益信託契約代理媒介業みたいなものについて何かガバナンスを効かせるような規定を入れる必要があるのかないのかとか,そういうことも併せて検討していただければと思います。
○中田部会長 それでは,今の点,今後各論を検討する際に留意して必要に応じて資料なども集めて,あるいは平川委員がもし御存知でしたらいろいろお教えいただければと存じます。
  ほかにございますでしょうか。
○渕幹事 第1の見直しの基本的な方向性についてですが,委員,幹事の方々からの御発言でも度々ございますとおり,税法上の優遇措置が重要であって,かつそのことについてしっかり検討することが必要ということは確かだと思います。
  それに加えて,税法上の優遇措置を利用していない公益信託も実際にあるようですが,第2のところで信託財産の範囲がこの提案どおりいきますと広がるということになりますが,もし信託財産の範囲が広がるということになると,現在あるような意味での税法上の優遇措置以外の税法上のメリットが当然に出てくる可能性があると考えます。
  例えばですが,税法上の優遇措置ということで,基本的には所得課税の世界でいろいろなことをこれまで考えてきて去年の研究会報告書もそういうことについて非常に多く言及されているわけでございますが,税法には所得課税以外にも資産課税ということで相続税もございます。その相続税法上のメリットというか,例えば公益信託に家族が経営している会社の株を持たせて,何代も相続を繰り返すというようなことがうまくできますと,本来何回も掛かるべき相続税が余り掛からないで済むということがもしかしたらあるかもしれません。
  ということで,税法上の優遇措置のみならず,税法全般の公益信託についてどこを変えるとどういう税法上のメリットというか節税に使える可能性が出てきて,ともすれば財務省の方でどういう措置というか規定を適用するということになるのかと。それが翻って我々がここで考えている公益信託について幅広く利用してほしいという方向性について阻害要因にならないかというようなことまで含めてこの部会で検討していただければと思っております。
○中田部会長 ありがとうございました。是非,渕幹事におかれましては広い観点から税についてお教えいただければと思います。
○吉谷委員 私からは先ほど山本委員がおっしゃった2点目と同じような趣旨でございますけれども,公益事業と収益事業で分けるというふうに考えた場合に,その定義あるいは境界を明確にすることがやはり実務上は非常に必要であるというふうに考えております。
  今おっしゃられたところとの関係で言うと,例えば今は金銭を当初信託財産としておるのですけれども,その運用としては預金であるとか国債等の安定的な資産だけに信託銀行は運用しているというのが現状でございます。これは先ほどおっしゃられたような株式であるとか債権であるとか,あるいは組合出資であるとか信託受益権であるとかそういったものにどんどん広げてできるというふうにしてしまいますと収益事業との区分が非常に曖昧になってくるというふうに思われますので,そういうことも検討の視点としては必要なのではないかなと思っております。
  また,先ほどの不動産につきましても,直接公益事業に使わないような不動産を仮に信託できるのだとした場合には,それを売却して金銭化するか,あるいは賃貸借で収益を得て金銭化するかということが考えられるわけではありますけれども,それは一体どこまでなら認められるのか,あるいは認められないのかといったことがはっきりしていないとなかなか受託をする際に考えることができないということでして,後からその認定基準に違反するとか受託者の義務違反になるとかいうことになるのでは困ってしまうというふうに考えているわけであります。例えば不動産は売却はできるけれども,賃貸はできないよとしたときに,賃貸物件を最初信託したというような場合には当面は賃貸収入があってそのうち売却に至るというようなことにもなりますので,そういった具体的なイメージを持って基準というものが作られることが必要なのではないかなというふうに考える次第です。
○中田部会長 ほかに。
○道垣内委員 私も,私有財産がもっと公益のために用いられて,よりよい社会が実現するということになるととてもよいことだろうというふうに思いますが,意見のバランス上一言だけ申し上げておきたいと思います。
  仮に例えば公益法人に関する現在の法制度のもとでここが使いにくいということがあったとしても,そのことに合理性があるのならば,変える必要はないのだろうと思うのですね。使いやすくするというのがそれ自体でアプリオリに価値があるわけではなく,当然によいことであるということにはならないわけであって,適正な規律というものが必要なのだろうと思うのです。
  したがって,公益信託がより使われるようにしようというふうに部会の目的を措定するということには私は必ずしも賛成できません。また,部会の議論において,これは公益信託ではなくて公益法人に係る法制度をこのように変えるということによってこそ対応すべきであって,公益信託にその部分を任せるべきではないという判断が下されるならば,それは一つの判断だろうと思うのですね。
  民法債権法改正に関する法制審の部会において,2,3回出た発言で私が非常に気になっていることがあります。それは何かというと,仮登記担保法は失敗だった,なぜならば,仮登記担保法を作ったことによって仮登記担保は使われなくなったからだ,というものです。私は,その理解は根本的におかしいと思うのです。あの法律は仮登記担保を適正に規律しようとするものであり,そうなるとうまみがなくなったため,仮登記担保が使われなくなったというのは,大変望ましい結果が出たものだろうと思います。
  仮登記担保法を作るとしても,そのことが仮登記担保がよりたくさん利用されるようにしようということとは当然には結び付かないわけであって,公益信託についても私はしかりだろうと思います。公益信託を使いやすくするということ自体に反対しているわけではないのですけれども,アプリオリに,公益信託がより使いやすくなるように,より使われるようにすべきだと考える必要はないのだろうと思います。
○新井委員 事業執行型の公益信託を認めるかどうかというのは一つ論点だと思います。それで,今まで事業執行型公益信託というと,不動産と絵画などを信託して美術館を経営するという例を出すことが非常に多かったのです。これは山本委員,小野委員の発言に触発されたのですけれども,大々的な調査というのは難しいとしても,既存で行われている類似のものを調査してみることぐらいはやってもいいのではないか。例えば京都の京町屋の信託的保存です。あるいは和歌山県の天神岬のナショナル・トラスト,あるいは斜里町であるとか,柿田川湧水もそうです。これは多分信託ではなくて一般財団法人形式だと思いますけれども,それがどうして信託にいけないのかという辺りぐらいの調査であれば割に簡易にできるので,それぐらいのことは調査した方がいいのではないでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 今後議論していく中では,この部会では税法の問題などは少なくとも直接にはそれを念頭に置かないで,信託としては,あるいは公益信託としては,どういうものが望ましいかということをまず議論した上で,公益信託としての姿が固まったら,必要な要望などを税務当局等に出していくという形になるのだと思います。
  信託業法との関係についても似たような問題があります。公益信託の受託者を議論するところで,信託業法との関係が問題となってきます。公益信託と信託業法の問題はまだ決着はついていないのだと思いますが,商事法務研究会で行われた公益信託の研究会の中では信託業法は受益者保護を主たる目的とするものなので,受益者のいない公益信託については信託業法は関わらないという考え方もあり得るという議論がありましたが,恐らくそう簡単ではないでしょうね。かなり議論しなければいけないのだろうと思います。
  しかし,いずれにせよ公益信託の受託者の範囲をどうするかというところで,公益信託の受託者も信託業法の適用を受ける可能性があるのだとすると,信託業法に対する要望というのをまとめると言いますか,考えなければいけないので,それはそれで一つ大きなテーマだと思います。
○小幡委員 先ほどの道垣内委員の御発言に関連して,実は私も公益法人の制度が既にあるので,今回公益信託を考えるに当たって同じようなものを作るという意味はないのではないかと思っております。ただ,今回この公益信託法見直しの検討課題というところで,恐らく目的はより発展させるというところにあるのかなと思って推測して先ほど発言したまででございまして,必ずしもその必要はないということであればできるだけ現状公益信託という形でやるのによりふさわしいものという形にフィックスした上で,それに今の現行制度のまずいところを直していくという作業でもよいのかなと思っております。
○林幹事 先ほどの道垣内委員と小幡委員の御発言にも関わるのですが,確かに適正な法律を検討すべきだというのはもちろんその通りなのですが,お話を伺っていて,適正な法律にすることと事業の範囲を拡大する等ということは,必ずしも矛盾していませんので,ここで出ている論点においてそういう方向に向かって議論できればいいと思いました。
  それから,そういう意味において公益信託の有用性というか公益法人なりとの違いについては,この「公益信託のあらまし」というパンフレットの3ページを見ますと,独自の事務所とか専任の職員を置く必要がないというようなことも書かれていまして,そういう意味のコストも掛からないものとのことです。正にそういうことにおいて軽装備で小規模でできるものであるというところと思います。もちろん,制度として小規模なものに十分耐えられる制度にしながら,結果として大規模な公益信託が利用されることも全く問題ないしウェルカムなわけであって,そういうことを考えながら議論すべきと思います。
  そういう視点をもってすれば,恐らく,受託者がどういうもので在るべきかというのは,規模が小さいもの,法人とかでなくても個人でいいのではないかという発想も出てくると思います。先ほど吉谷さんの御指摘もありましたが,デフォルトとして小規模としてイメージすべき資産の規模はどれぐらいかという問題はあるのかもしれません。1億円とおっしゃったのですけれども,現には数千万円のものもあるので,むしろ小規模と考えるのであれば数千万円のものをデフォルトとして考えた方がよいと思います。信託銀行さんが商品として行うものと,それとは違う担い手が行うものとでは,規模もコストも違うから,そういう観点をもって担い手を広げていくことも十分考えられると思いました。
  ただ,担い手に関しては,担い手に関する監督等,担い手がきちんとしてくれるようにする制度をどう作るかという点もあって,それも議論の対象ですし,だからこそ業法に対してどういう手当をするのか,あるいは何らか立法を考えるのか,そういうことがここで議論されることと思っています。
○深山委員 皆さん方の意見を聞きながら感じているところなのですが,やはり公益信託をどのように制度として作っていくかというときに,当然のことながら適正な制度として設計をするわけで,常に濫用のおそれというのは意識はしつつも,まずは健全な使われ方としてどういうものが望ましいか,あるいは在るべきかというところからスタートするというのは,言わずもがなかもしれませんが,そういうことだと思います。
  日常的に弁護士業務の中でも,一定の資産,ものすごく大きな資産でなくてもお持ちの方で,あまり身近な相続人もいらっしゃらない方が,あまり縁のない方が相続するよりは何か一定の公益的なものに供したいというようなお考えをお持ちの方などがおられます。公益財団を設立するような遺言を作成した経験もありますが,やはり実際やってみると公益財団を作るというのはそれなりに手間ひま掛かります。いろいろな意味で一定の体制を作らなければならない。
  そういう意味で言うと,公益信託の典型的な姿としては,公益財団よりはもっとコストの掛からない簡便な形で財産をそのまま公益に活かせるようなもの,あるいは全くそのままでないにしてもそれほど大きく手を加えなくて活かせるような制度として,それなりにニーズはあるのではないかというふうに感覚的には感じているところです。
  道垣内委員おっしゃるように,ただ数を増やせばいいとは私ももちろん思いませんが,適正な使われ方を増やしていくことは,恐らくここにいらっしゃる方の余り異存もないところだと思いますので,そういう意味で先ほど来いろいろなニーズの調査の話も出ておりますが,そういうこともしていきながら,社会のニーズとしてどういうところにそのニーズがあるのかということを把握し,低コストで小回りが利くということが資料にも書かれていますが,そういう特徴をうまく活かす,適切に活かす部分というのをまずイメージして,ではそのためにはどういう規律を作ったらいいのかとか,信託事務の中身をどこまで認めたらいいのかとか,更にはガバナンスをどうつけたらいいのかということを考えていくということで,まずは在るべき姿,理想的な典型的な姿をイメージしてそこから制度を作っていくことだろうと思います。
  税法の問題も話に出ていますが,これももちろん大事なのですけれども,私に言わせると,税務上のメリットは決してこの制度を使う目的ではなくて,あえて言えば手段。それも積極的な手段というよりは公益に供しようというその活動を阻害しないと言いますか,税金を課すことによってそれを邪魔しないという意味で,税務上のメリットというのは大事だと思うのです。そういう意味では本来の目的を実現するためのそれを邪魔しないものとして位置付けると理解すべきで,税務上のメリットがあるからこういう信託を出すという,もちろんそう考える人も世の中にはいるのかもしれませんが,本来はそうではないのだろうと思います。せっかく公に使おうとしている財産なので,そこから一般の財産と同じような課税をして,それを阻害するようなことはやめましょうと,こういう発想で考えられるべきものだろうと思いますので,税法との関係もそのような理解をして一番望ましい使われ方をイメージして制度設計したらよろしいのではないかと思います。
  今日は総論的なことなのでこの程度の発言にしたいと思いますが,また各論でいろいろ議論したいと思います。
○中田部会長 総論についてまだ御議論おありかと思いますが,そろそろ休憩を一旦挟んで。
○小野委員 ほぼ繰り返しの議論なのですが,一言申し上げたいと思います。
  所有権を公益的目的から制約する制度というものが必要だということについてはそれほど大きな異論はないのではないかと思います。それをまた公益財団制度と比較するというのはもちろん重要ですが,場合によっては公益財団法人が収益事業を活発にやっている場合,その収益事業によって重要な財産が棄損しないように,そこで公益信託を設定するということも選択肢としてはあり得る話ではないかと思います。言い換えると,公益財団制度が先行したから公益信託制度というのは控える必要があるかもしれないというのはちょっと議論としては違うのではないかと思います。
○中田部会長 それでは,総論についての御議論がまだ続くかもしれませんが,一旦ここで休憩を挟ませていただきます。あの時計で4時4分まで休憩といたします。
 
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,再開いたします。
  総論についての御意見まだまだおありかと存じますが,この先各論に移りまして,その各論の中でまた総論的なことについても適宜お出しいただければと存じます。
  各論は,部会資料31の第2,公益信託の認定に関する事項から,第5その他の事項まで,一括して検討したいと思います。どの点からでも結構でございますので,御意見をお出しください。
○長谷川幹事 総論的なところですが,先ほど言いそびれたので発言させていただきたいと思います。
  既に多くの方が御指摘されたことと同様で,3点が重要だということでございます。
  一つは,税制上の優遇措置というのは必ず必要だろうということでございまして,それを視野に入れた検討をしていただければということでございます。
  2点目として,簡素と言いますか軽装備の仕組みが重要であるということもそのとおりだと思っております。これに関連して,公益性を担保しながらどのようにこのメリットを制度設計の中で検討していくかということが極めて重要だと思っておりまして,是非皆さんで知恵を出していただければというふうに思っているということでございます。
  3点目ですが,道垣内委員から御指摘のあった適正な規律というのは当然必要でありまして,全くそのとおりだろうというふうに思っております。ただ,これに関して2点申しあげたいと思います。
  おそらく適正な規律を考えるにあたっては幾つか留意点があるのだろうと思っています。なかでも,公益信託は長い積み重ねがそれなりにあるわけでございますが,それを踏まえて濫用の事実というのがそれほどないのではないかというふうに思っておりまして,その事実は重いだろうというふうに思っております。
  あと,濫用がないことが適正な制度設計なのかというのは検討の余地があると思っております。つまり,要件がきつすぎて濫用が起こっていないだけかもしれないので,それについても慎重な検討が必要であろうというふうに思っているということでございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 では,ここで公益信託と目的信託について私の考えていることを少し発言させていただきたいと思います。ちょっとまとまった話をさせていただくのは,以後もう述べないようにしますので,少し時間を頂ければと思います。
  一つの前提から出発していると思うのです。それは公益信託と目的信託というものを同一のレベルに位置付ける,つまり公益信託を目的信託の中に位置づけているという前提があると思います。その理由は,公益信託にも目的信託にも受益者は存在しない,ですから両者は共通するということでそういう位置付けになっているかと思いますが,私はこれに疑問を持っております。
  まず,目的信託の位置づけですけれども,日本の目的信託というのは私益,共益,公益,全てカバーするのですね。それで比較法的に見てこれだけ広範囲の領域をカバーする目的信託というのは日本だけにしかありません。例えばオフショアのケイマンですら目的信託は私益のみ,つまりプライベート・パーパス・トラストのみです。目的信託には自益的な側面があって,委託者が引き続き監督権を行使するということになるので,いわゆる財産のたまりを作ることになるということで,脱税の懸念から信託財産課税にされている。そんなこともあって,信託法施行以来1件の受託例もないというのが実際かと思います。そして,オフショアと競合関係にある香港とシンガポールにおいてすら目的信託というのは導入されませんでした。昨今「パナマ文書」が問題視されておりますが,そういう中で不透明な資産運用が懸念される状況の下で目的信託というのは果たして維持すべきなのかどうかという考えを私としては持っているわけです。
  前回の信託法部会では全会一致で目的信託の導入が決定されているわけですけれども,その根拠を今一度私としては明らかにしていただきたいと思うわけです。前回の信託法部会の委員も多数ここに参加しているということから是非お願いしたいと思っています。
  私の見るところ,やはり証券化,流動化を促進したいという背景の下に資産流動化法の特定目的信託の要件が厳格すぎるので,もっと簡易に目的信託を設定したいという意図があったのではないかと思われるわけですけれども,それはただ信託法の枠を超えた過剰な対応ではなかったかなと考えております。
  公益信託におけるいわゆる受益者ですけれども,前提として,目的信託にも公益信託にも受益者は存在しないので公益信託は目的信託の一類型である,これが通説であるわけですけれども,これは四宮教授のテキストに端的に出ているわけです。紹介します。「信託の利益の享受主体は公益信託の反射的効果として利益を享有するにすぎず,権利として利益を享有するのではない。公益信託で私益信託の受益者に当たるのは正確にはむしろ一般社会と言うべきである。だが,一般社会は権利の主体たり得ないから,結局私益信託の受益者と同じ法律的地位を有する者,すなわち受益権者は公益信託には原則として存在しないことになる。」。以上が日本の通説,定説でして,異論を述べているのは私だけで,誰にも支持されていない一つの説があるだけで,圧倒的にこれが支持されているわけです。
  ところで,この研究会の前に行われた公益信託法改正研究会報告書というのがありまして,その67ページにこういう記述があります。「助成先として指定された受給権者が公益信託の受託者に対して信託財産に係る給付を請求する債権を有することは当然であり,公益信託の受託者がその債務を履行しない場合には受益権者は受託者に債務不履行責任を追及すれば足りる」という記述がありまして,これは私は非常にリーズナブルな考え方だと思います。しかし,これは四宮説とは大いに異なっているわけですね。例えば信託財産に係る給付を請求する権利というのは,これは正に今度の信託法で言っている受益債権そのものではないかと思うわけです。受益者だから受益者として受益債権を享受する,受給者とすると別の説明が必要です。例えば現に実務家の中には贈与契約として説明する見解もあるわけです。
  それから,もう一つ注目すべきは,受託者に債務不履行責任を追及する,つまり履行強制可能性を認めているということです。エンフォーサブルというわけです。英米における公益信託の受益者には履行可能性がない。つまり,エンフォーサブル・ベネフィシャリーは存在しない。エンフォーサブルではないから受益者ではないというわけです。ところが,これに対して日本における受給権者には受益債権も履行強制可能性も承認されていると解する余地があると私は考えておりまして,それは正に受益者そのものではないかと思うわけです。
  デイビッド・ヘイトンというイギリスの信託法学者は次のように言っています。「受益者の地位は受益権の内容によって極めて強いものからごく弱いものまで様々である。」。共益権の内容・強弱がいろいろなバラエティとして存在するというわけです。
  それから,日本の事例で言いますと御存じのように,投資信託受益権の性質が最近の裁判の争点の一つになっています。受益者にとって投資信託受益権は金銭債権に非常に近く,共益権としての性質は相対的に弱い。しかし,最高裁などはそれでもなお信託受益権の性質を強調しているわけです。
  それから,樋口委員のテキストによりますと,アメリカでは実際に利益を得る集団の中の受益者があらかじめ明確に特定されている場合であっても公益信託としては有効である,と指摘されています。問題は受給者の特定性ではなく,公益性の判断が重要であると述べられています。公益性が強調された信託の一つとしての類型として把握すればよいのであって,目的信託として位置付ける必要はないように私には思われるわけです。
  私は目的信託の規定を全て削除するということを主張するものではなくて,それはそのままで結構なのですけれども,公益信託をあえて目的信託の中に位置づける必要はないのではないかと考える主張です。
  信託法部会では全会一致が原則だということですので私も多数の意見には従いたいとは思っておりますけれども,私のような意見も包摂された新しい判断を示されることを私としては期待しております。
○中田部会長 ありがとうございました。ただいまの点につきましてでも結構ですし,その他の点でも結構ですが,いかがでしょうか。
○小野委員 私は前の部会からの委員ですし,流動化という観点からも今の新井委員のご批判の対象なのかもしれませんので,まずこの観点からのコメントをさせていただきます。
  日本の信託法の公益信託そのものが許可が必要というところで,海外とは違う立て付けと思います。前回の信託法改正の際に目的信託を導入した理由が新井委員によれば流動化のための利用とのご指摘ですが,もちろんそういう利用ができればいろいろな利用方法のメニューの1つとしてふさわしいとは思うのですけれども,本来は許可を取らない,あるいは認可を取ろうとしても取れない公益性の外縁のような信託のため,先ほど地域を限定すると公益ではないとか,未就学児童も含めないと公益ではないという事例の紹介がありましたけれども,そういうものも包摂するような制度として目的信託が導入されたという理解でございます。
  委託者による監督という点で,流動化での利用が難しいのはいろいろ議論されているとおり明らかです。また,実際の例がないではないかというご指摘に対しては課税上法人課税信託になり,なおかつ受託者が法人で確か資産規模5,000万と非常に使いにくい制度として誕生したことによるものです。この点は,批判も多い中,当時の議論としてはまず生むことが大事だということであったと思います。その後に使い勝手を考えて制度の見直しをしていこうみたいな議論もあったかと記憶します。
  ですから,目的信託の導入自体はある意味では公益信託の外縁をとらえるような大きい制度として考えていきましょうということではなかったかと私は理解しています。だからといって,新井委員がおっしゃるように公益信託のデフォルトルールが必ず目的信託になるというように考えるかどうかというのは,まだ十分考えが固まっていませんけれども,別の議論と考えることも可能と思います。一方,だからと言って,目的信託そのものが不適切な欠陥のある制度だということはちょっと違うのではないかと思います。
  不特定多数又は公益という観点からはいろいろ考え方が分かれる事例であっても,先ほども申し上げましたけれども,所有権に一定の縛りを入れるような制度があってもよいのではないか,新井委員もおっしゃったように京都の町屋とかナショナルトラストとかいろいろ考えれば美術館以外にもあるかと思います。そういうものの中で公益信託の外縁として目的信託をとらえていくということは必要だと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 今の小野委員の言われたことと基本的には同じなのですけれども。目的信託自体を見直すということになると,これまたそれ自体相当なエネルギーのいる別な作業になりますので,新井委員の御趣旨は,結局公益信託をどう位置付けて議論するのか,あるいは受益者というものを公益信託にも認めるべきだという観点から議論したいということだと思いますので,そういう意味では目的信託そのものとは一応切り離して公益信託の問題として議論するのがよいのではないかと思います。最終的に公益信託と目的信託との関係,その整理は必要になるとは思いますけれども,目的信託そのものは当面議論の中心にはしないで進めていくということがいいのではないかと思います。
○中田部会長 今御指摘のありましたように,具体的な制度の中で,例えば受給権者の位置付けですとか,あるいは公益法人のように1階建て2階建てとするような仕組みをこちらに持ってくるかというようなときに,多分,具体論として出てくると思います。抽象的に最初にどう考えるのか,今発言されたように二度と発言しないとそうおっしゃらずに,更に具体的な制度の中で御検討いただくのが生産的ではないかなと思います。
  今の点も含めましていかがでしょうか。
○林幹事 感覚的にではあるのですが,公益信託を議論するときに,公益信託というのは目的信託の一類型であるということがデフォルトとしてあるかのように議論してしまうのは,この法制審での議論としてはよくないと思います。そこも含めて今回改めて議論して決めていただいたらというふうに思います。そこにおいて公益性というのが何かについてや,公益性というものから限定していくというのは,考えられる議論であると思っています。
  目的信託に関しましては,結局2階建てかどうかとか,あるいは公益性が認定されなかったりあるいは公益認定を取り消されたときどうなるかという問題があるので,そこにおいて目的信託というものをどういうふうに位置付けるのか,現行法のままであれば現行の目的信託の要件に合わなかったら,それこそ信託たりえないということであって,それでいいのかという観点は必ず必要なのだろうと思います。
  御承知かと思いますけれども,信託法の附則の3項で経過措置として,まず別に法律で定める日まで目的信託の受託者は法人に限定するということがあって,それをうけて更に施行令で法人は5,000万円の資産規模がないといけないということが書かれているのですけれども,附則の4項では別に法律で定める日は公益信託に関する見直しの状況等を踏まえて検討することとなっていますので,こうした要件も公益信託法の議論のときに検討しましょうという趣旨になっていると思います。まさにそれがこの法制審だと思いますから,目的信託を法人に限定していいのかとか,5,000万円の資産の規模というのを限定に加えていることがいいのかというのを改めて検討しなければならないのではないかと思っております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 一応そういうことで,先ほど部会長がまとめられたように,公益信託のところの具体的な問題として新井委員の御主張なども議論の対象になるということでいいのだと思います。もっとも,最初から,公益信託であれば必要な許可を求めないで,目的信託を使って公益目的を掲げて活動することができるかという論点は,これは公益信託のところだけ議論していても恐らく出てこない問題かもしれませんので,目的信託そのものの問題としてどこかで整理した上で議論した方がいいかもしれないと思いました。
○中田部会長 それは先ほどの附則との関係ということですか。
○能見委員 そうです。
○中田部会長 ありがとうございます。
○小野委員 今の点ですけれども,もちろん目的信託を公益的目的で利用しようと思えば利用できるようにすると議論する際に問題となるのが税の点です。税法の議論ゆえに不正確なところがあるかもしれませんが,法人課税信託として,資産を譲り受ける側においてその資産を贈与されたということで課税の問題が生じてしまうと思います。これがもし非営利型の一般財団法人であれば違う扱いになるわけでして,その辺も先ほども申しましたけれども,非営利型の一般財団法人とのイコールフッティングというところで,目的信託が,税の議論をする場ではないと思いますけれども,非常に利用しにくいところです。
  他方において,目的信託の法人課税信託自体が税制上大きく変わるということを動かすこと自体がこの場のテーマでもないし,またそれを動かすのは難しいという別の観点からすると,公益信託の幅を広げていくという視点も,ちょっとテクニカルな議論になってしまって恐縮ですけれども,あるのではないかと思います。
○吉谷委員 公益信託と目的信託の関係の所のその他の議論あるいは続きの議論ですけれども,部会資料に書いてあることとの関連でお話をしますと,公益信託の認定の前に目的信託を設定することは不要であるという指摘があると,これについては我々はそうであろうというふうに考えるところであります。一方で,公益信託として認定を受けることができなかったと,でも公益っぽいものについて目的信託として設定したいということはあり得るのかなというふうには思います。
  ただ,私どもで気になるところとしては,では公益信託と目的信託というのは,公益信託だったものが目的信託になったり,目的信託だったものが公益信託になったりということが出てくるのだろうかというのが少し気になるところです。制度としてはかなり複雑になってしまうのでそういうニーズが本当にあるのだろうかというのは疑問なところでありまして,余りそういう複雑な制度というのを設ける必要については余り感じていないというところでございます。
  そこに関連したところですけれども,先ほど公益認定を満たさなくなったような場合にどうなるのかというお話がございまして,目的信託になるのだろうかということのお話がございました。ただ,考え方が三つぐらいあるのですね。公益認定の基準を満たさない事象が起きましたと,取消しになりましたというときに目的信託になるという考え方と,信託が終了するという考え方があるというふうに思うわけです。一方で,公益認定基準を満たさなくなったのだけれども,仮にそれが受託者に原因があるようなものなのだとしたら,受託者を交替させれば済むというようなことも出てくると思います。ここが法人であるところと信託であるというところの仕組みの違いかなというふうには思います。
  今まで公益認定の取消しというようなことが実際に問題になってこなかったので,実務上これはどういうふうに扱われるのだろうかということについてそもそも余り検討したこともないのですけれども,そういったことを念頭に置いて制度設計というのを考えるのがいいのではないかなというふうに思う次第です。
○中田部会長 ありがとうございました。公益信託と目的信託との関係について様々な御意見を頂いておりますが,この点も含めてですけれども,ほかの論点はいかがでしょうか。
○渕幹事 この部会では公益信託をどう見直すかということが課題ですが,私は租税法を専攻しており,一応公法学者のはしくれでありまして,その観点からすると,次のような見方もこの問題に対するアプローチとして可能なのではないかと思うのです。それは,一定の公益的な政策目的,すなわち学術振興あるいは自然保護などのいろいろな政策目的を達成するためにどういう仕組みが適正なのかという視点です。
  例えば,同じ学術振興でも科研費みたいな感じで中央集権的に進めるという方向性もありますし,知的財産権のようなものを信託財産に設定して政策目的を達成するという方向性もあり,今回の公益信託というのは,ある程度プライベートな主体にこういう活動を担わせるということだと思います。そのようなアプローチを採ったから何か結論が出てくるということはもちろんないのですけれども,あくまで公益を達成するための手段として信託という器を使っているのだという発想も今回の議論の中で役に立つことがあるかなと考えております。
○中田部会長 広い意味での公私共働の在り方の中で,公益信託がどのような役割を担うべきか,担い得るかと,こういう御指摘かと存じます。ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 別の論点で,終了時における信託財産の帰趨の関係でございます。日弁連のバックアップ会議での議論では,委託者が支出した限度で委託者に戻るということが場合によってはあってもいいのではないのか,それも議論の対象とすべきではないか,そういうものがあれば利用も進むのではないかという意見がありました。
  今回の部会資料31の方には書かれていないのですけれども,参考資料2の46ページの右の端には,残余財産を公益信託の認定の前後に取得・形成した財産に分けて,認定前の財産については帰属先を限定しないが,認定後の財産には帰属先を限定する,ということも書かれています。これも論点の範囲かとは思いますが,そういう意見があったことを申し上げたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。ただいまのお話,部会資料31の第4の終了の中の2がそれに関連することでございましょうか。その際に今のような御指摘も踏まえて更に検討するということでよろしいでしょうか。
○林幹事 よろしくお願いします。
○山田委員 部会資料31の第2を中心に少し意見を申し上げたいと思います。
  1についてですが,公益信託について主務官庁制による弊害というのは,申し訳ありません,私の勉強不足が大きな原因だろうと思いますが,余りはっきり私は認識しておりません。ただ,それは恐らく絶対的な件数が少ないがゆえに,あるいはハードルが高くてある意味ではそれが顕在化しなかったという推論も成り立つかなと思います。ただ,一般的,抽象的に考えますと,公益法人改革のときに議論されていたことになるのですが,この部会資料31の2ページにも書かれているのですけれども,複数の主務官庁の所管にまたがる場合の面倒さ,それから消極的な抵触が一見生じて,最終的にはどこかに引っ掛かるのかもしれませんが,どこが主務官庁かが容易には分からないがために公益法人であるところの財団法人,社団法人の設立が困難であったということは,公益法人改革のときにはそうだろうという認識を私は持っておりました。
  そうするとそのことは信託であるがゆえに今申し上げた問題,複数主務官庁の所管にまたがる,あるいは消極的な抵触でどこの所管が分からないというのが信託であるがゆえに起きないということはないだろうと思いますので。主務官庁による許可制の廃止というのは望ましい方向だろうと思います。
  実際上重要なのはその次の2に公益信託の認定基準かもしれませんが,ここについては申し訳ありません,必ずしもはっきりした意見を持っていませんので飛ばしまして。
  3です,公益信託の認定の主体。これはまさにこの部会で議論していくところかと思いますが,単一の主体で行うのがいいだろうと。今申し上げたところから導かれるのだろうと思います。所管というものが複数あって,それのどれに当てはまるかという作業をせずに,公益信託というものを設定と言ったらいいのでしょうかね,設立しようというふうに考えたときには地方と中央というものはあり得るとしても,その含みは持った上での単一の主体ということが望ましいだろうと思います。
  その上で,今中央と各都道府県にある公益認定等委員会に認定作業をお願いするのがいいのか,それとも別のものがいいのか,ちょっとそこは余りはっきりとした意見は持っておりません。
  その上で,今の1と3については,これを議論してくださいというよりももう私の意見をざっくりとですが申し上げたところなのですが。それを前提にしますと,4の問題ということについて次のような見方が成り立つのではないかなと思います。単一の主体である認定庁,庁とは限らないか,認定機関が認定しなかった場合,あるいは一旦認定したけれども,具体的な認定基準が前提になりますが,その認定基準を事後的に充足しなくなった場合,多分将来に向けて認定の取消しということが生じ得るのだろうと思います。そのときに,信託を終了させるのか,先ほどちょっとお話がありまして二つぐらい考え方がある,あるいは三つとかいう話がありましたが,そこをなぞることになりますが。信託を終了させるのか,それとも公益でない信託,信託としては民事法上と言うのでしょうか,同一性を維持したまま,そうすると信託財産とか信託財産責任負担債務とか等々の信託法上の様々な法律関係が維持されて,あるいは受託者とかについてもその認定基準が受託者の資格問題でなければ維持されたまま公益信託でない信託になるということが考え得るのだと思うのですね。
  認定を受けようと思ったけれども認定が受けられなかった,あるいは一旦認定を受けたけれども,将来に向けて認定が取り消された場合,その信託を信託として維持するのが望ましいか,ここでは望ましいかどうかを議論していただきたい。そして,そのためにどういう方策が可能かということを議論していただくことが望ましいのではないかなと思います。
  そのときに,それが公益信託でない目的信託になるのか,それとも目的信託と公益信託を切り離して考えるとすると,信託として同一性を維持して残すとしても,それはちょっと今我々が知らないものになるのかというような話が出てくるのかなと思います。
  そのことは5ページの第4の3に公益信託と私益信託の相互転換の可否というところで上がっている問題と一部重なるのですが,必ずしも重ならないのかな。私益信託は受益者の定めのある信託と,目的信託,そして公益信託,その関係をおっしゃっていますが,必ずしも受益者の定めのある信託を念頭に置かずに,受益者の定めのない信託のまましかし公益信託でなくなると。そうすると目的信託ではないかということになるのかもしれませんが,目的信託だという今の公益信託法の作りを必ずしも前提にしないならば,そこも議論の中でベストなものを考えていこうとするならばその問題が今のところに関わってくるのではないかなと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。主務官庁制をどうするかという問題で,その延長線上で公益信託と目的信託の関係,更に私益信託との相互転換にまで及ぶという御指摘を頂きました。
  前半の部分,主務官庁制については再開前の信託法部会で一定の方向性が出ていたわけですが,その後10年たち,公益法人制度改革が行われたわけですけれども,そういう現在に至ってもやはりこの廃止という方向が望ましいという御意見だったかと存じます。
  この点についていかがでしょうか。
○小野委員 当然ではありますが同意見でございます。ところで,公益の認定の議論の他,その後の監督という議論もあるかと思います。認定する機関が引き続きそれなりの監督をするという立て付けもあるかもしれませんけれども,公益信託を広い意味での民事信託の一環としてとらえたとき,どこかが監督をする必要があるという観点では民事法に絡むという意味においては法務省による監督というのもさらにどうロジカルに結び付けるのか検討する必要がありますが,信託会社や信託銀行が公益信託の受託でない場合には金融庁による監督ともロジカルには結び付かないと思うので,そういう考え方もあるかと思います。認定と監督を同じ機関が担うのか,認定だけを担当し,監督はガバナンスに委ねるのか,また別の機関が担うのかなどの議論とも関係する論点であります。
  平川委員が先ほどおっしゃったように,濫用とかそういう議論が必ず出てくるときに,誰か第三者の目が,信託管理人なのか運営委員なのかそれは仲間ではないかとかそういう議論に対して,何らかの形で,裁判所の関与というのも考え方としてはあると思うのですけれども,裁判所に対してそこまでの後見的機能は期待しない制度にしたいという前提に立つと,法務省という観点もあるのではないかと思います。
  先ほどの山田委員の意見に関連してでありますが,公益信託が目的信託に変わるということは課税関係は全く違うものになってしまい,一体どう考えるのか大混乱になるのではないか,また多額な課税関係が生じるのではないか。そういう観点からすると,やはり公益信託が公益信託ではなくなる,要するに認可が取れない,認可はいらないというときには普通の信託に戻るという観点もあると思います。私益信託への転換というタイトルで述べられていますけれども,非認可,認可を得ない公益目的の普通の信託への切替えという考えです。
  そこで受益者を観念しないと信託に対して贈与したことになるではないかという議論に関しては,先ほど林幹事が述べたように,信託終了時の信託財産は委託者に帰属するような考え方をすることが考えられます。恐らく税の考え方というのは,最終的に委託者に帰属するような考え方をすることによって信託法上の受益者という考えとはまた別に受益者的な地位にある人がいるというような考え方をするのではないかと思われるからです。それを更に制度的に受益者とみなすとしてもよいと思います。
  税に引きずられた議論は好ましくはないとは思うのですけれども,今の目的信託は課税関係が明確になっていますから,目的信託に切り替えるというデフォルトルールを作ってしまうと,吉谷委員が述べられたように大変な混乱になるということ,また,あるべき公益信託制度の議論をしている場でもありますから,認可を取らない公益信託というのも観念できないことはないと思うので,そのときに混乱を来す制度としなくてもよいのではないかと考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 主務官庁の認可については新しい制度としてはここに書いてあるとおりだと思います。私どもが実務上気になるところは,仮にそうなったところ,これはこれ以外の論点全てに共通でございますけれども,第5の3の移行措置の所がどうなるのかということでございます。ここでは移行措置として設ける規律の留意点ということで,移行するということが前提であるかのように書かれているわけですけれども,移行しなければならないのかというところも含めて考えるということもあるかなと思います。
  そして,なぜこんなことを申し上げているのかというふうに申し上げますと,先ほど件数の話が出ましたけれども,結局信託銀行数行で四百何件やっていると,当社だけでも130件以上の公益信託を受託しているわけでありまして,金額も様々ですね,古いものについては少額になったりしているということでございます。何らかの移行措置による手続というのが存在するとすれば,それが私ども既存の受託者にとっては百何十倍の負担になるんだということについては御理解いただけないかと思います。それを念頭に置いた上で,移行についてお考えいただけないかと思います。
  今回の法改正につきましては現在運営されている公益信託に問題があるのだということではないというふうにまず理解しておりますので,それが新制度への移行の手間とかコストとかそういう負担によって終了してしまったりとか国庫に帰属するとかそういうことになってしまうと本末転倒ではないかなと思います。
  信託の報酬についてはちょっと今は低すぎるので上げていただけないかという話もあるのですけれども,仮に移行の報酬が頂けるとしても,移行自体に人手が掛かるということになってしまうと,私ども旧来の担い手が新規の公益信託をやるということに対して力を注ぐ余力というのもなくなってしまいますので,そのようなことも御配慮いただきたいというふうに考えている次第です。
○長谷川幹事 2点申し上げたいと思います。
  移行措置については,私どもの会員企業でもまさに公益の目的のために公益信託を利用しているところもございまして,そういった既存の公益信託に過度な負担にならないように是非御配慮をお願いしたいというのが1点でございます。
  2点目は,許認可うんぬんの話なのですけれども,どういった形にしていただいてもいいとは思うのですけれども,検討にあたって一点申しあげたいことがございます。私は公益法人改革のときに,今の部署とは違う業務で公益法人絡みの公益目的支出計画の認定を受けていたことがございまして,そのとき申請数の規模がすごく大量だったということもあり,よく御存じの方もたくさんおられると思いますけれども,内閣府でたくさん司法書士さんなどを雇われて認定するという実務が行われたというふうに理解しております。一元的な判断がなされるという意味ではいいのですけれども,そういう外の人材をたくさん活用されてということなので,比較的一律な判断,柔軟性に欠くような判断がなされたような記憶があります。例えば私が携わっていたケースですと,定款が標準定款に一字一句同じであることを求められ,少しでも違っていたら全部直されるというような,そうしないと認可しないというような運用がなされたことがございました。このことから,制度論とは別にリソースがきちんとあるかどうかとか,そういったソフトの面の観点も重要なのではないかというふうに思った次第でございます。
○中田部会長 移行に関しましてお二方から具体的にあり得る問題の御指摘を頂きました。また移行措置について検討する際に,御意見を踏まえて更に深めていただきたいと思います。
  ほかの点,いかがでしょうか。あるいは今までに出た点でも結構でございますが。
○能見委員 これは言わずもがなですけれども,ここにまとめられている主務官庁制による許可制の廃止とそれから基準等ですけれども。主として1の所は,どちらに重点があるのかな,主務官庁が多くの役所に分かれているところに問題があるというようなニュアンスで書かれていますけれども,恐らく公益法人等で議論されていたのはその問題もありますが,そのほかにも許可制であるということがあったと思います。その許可制というのが主務官庁の裁量を前提としての許可制であるというところが問題として議論されたのだと思います。この部会では,主務官庁制を廃止する方向で議論することになるので,別に私はこの点に異論を唱えているわけではないのですけれども,主務官庁制を見直すのは,裁量性のある許可制ではなくて,きちんと基準を作ってそれを満たせば公益信託として許可するという考え方であるということは,一応強調しておいた方がいいだろうと思います。
○道垣内委員 細かな議論になるので後に譲るべきなのかもしれませんが,山田委員からも小野委員からも,例えば,公益認定受けられなかったときについて,「認可されない公益信託」という概念というものを認める可能性と,目的信託,つまり現在の信託法第258条以下にある「受益者の定めのない信託」とは少し別個のものの概念の存立可能性というものが語られたと思うのです。しかし,そのような概念を入れると,実は公益信託について認可を判断するときに,三つのどれに当たるのかというのを判断しなければならないことになりそうです。すなわち,公益目的ではないから駄目というのと,公益目的なのだけれどもこの要件は充足していないから駄目というのと,公益信託として認可するというのとですね。しかし,審査の仕方として,公益信託としては認定できないけれども,目的は公益であることを認める,という審査手続を観念するというのは,かなり難しいのではないかという気がします。
  そういうことも問題になり得るということだけを述べておきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございます。
○能見委員 別に道垣内委員に反対しているわけではないのですけれども,恐らく公益性を認定して公益信託を認可するという制度を作ると,公益性を認定をする場合にだけ積極的な意味で公益であるということを認めるのであって,認可しない場合には,どこが欠けているというのを説明してくれれば制度として丁寧なのかもしれませんけれども,それ以上に積極的に公益性については判断しないという制度になるのだろうと思います。
  それから,それと裏腹と言いますか,先ほどからちょっと出ていた議論との関係ですけれども,認可されないとどうなるか,公益申請をしたけれども,認可されないとその信託はどうなるかという問題の言わばもう一つ前提には,そもそも認可を受けないけれども,公益活動をするという信託があっていいと考えるかどうかという問題があります。この方がむしろある意味で大きな問題です。この点については,賛成,反対いろいろな意見があるのだと思いますけれども,私は,公益活動をするのは別に個人であってもいいし,それから認可を受けないような団体,あるいは私益信託であってもかまわないと考えています。ただ,法の定める基準を満たして認可がされれば,その公益信託に税の優遇措置が付くというだけの話である。公益活動をしたいという者からすれば,どのような団体,仕組みであっても,本来自由に作れて,公益活動の器とすることができる。それによって詐欺だとかが行われる場合にはまた別な対応をすべきだと思いますけれども,そのような心配から公益信託についての規制を考える必要はないのだろうと思います。
○道垣内委員 能見委員がおっしゃるのは,現在の信託法の附則における「受益者の定めない信託に関する経過措置」のところで,「受益者の定めのない信託(学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的とするものを除く。)」となっているときに,例えば学術を目的とする信託であるのだけれども,認可を受けないというふうな場合を考えると,それは信託法上の目的信託の方にも該当しないし,公益信託としての認可がされないので公益信託でもなく,存立のしようがないという立て付けになってしまっているというわけですよね。その読み方は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とするが,認可はされていないというものを観念するということにほかならないと思うのですけれども,それは仕組みの作りとしてそうではないのではないでしょうか。
  さらに言えば,今日の参考資料として配られている研究会報告書にも,公益信託の定義というのがあるのですが,この定義が本当にこれでいいのかという問題にもつながってくるところがあります。つまり,定義を置くと,この定義には合致するのだけれども認可されていない状態というのを観念するということが可能になるわけですけれども,個人的には,認可されることによって初めて定義に合致することであるとし,定義に合致するかどうかが認可にあたって判断されるのだとは考えない方が,作りとしてはうまくいくのではないかなと思っております。しかし,これはおいおい後に議論をしていくべき点だと思いますので,私は別の考え方もあり得るというつもりのために申し上げただけです。
○中田部会長 公益信託の制度設計をする際に公益信託だけを考えるのではなく,その周辺にある部分をどのように位置付けるのかという問題があるのだということが,いろいろな形で浮かび上がっているのだろうと思います。
  今日は大きな視点でというように申し上げましたので,各論的なことについてはむしろ次回以降にと考えられた方が多いのかもしれません。まだ時間が少し前ではございますけれども,おおむね論点について御検討いただけたかと存じますので,この辺りでこのテーマについては終わりにしたいと思います。よろしいでしょうか。
  それでは,次回以降の部会の進行について,事務当局から説明をお願いします。
○中辻幹事 次回からは早速具体的な審議に入ってまいりたいと思いますが,本日の意見交換の結果を踏まえますと,先ほどまでの議論と若干重複する面はありますけれども,まずは総論という形で新たな公益信託の全体像を検討するに当たりキーポイントとなる公益信託の信託事務及び信託財産の範囲や,公益信託の担い手となる受託者の範囲について御審議いただくのがよろしいかと存じます。
  その準備として,できるだけ皆様に部会資料について検討の時間を取っていただけるよう今回と同様に部会の1週間前に文章を郵送する少し前,具体的には部会が開催される週の2週間前の金曜日にはメールで部会資料と参考資料を皆様の下に送付できるように努めてまいりたいと思います。
  なお,本日もありましたけれども,各委員・幹事から資料を提供していただいた場合,公表の有無を含め,その取扱いについては中田部会長と相談の上,対応させていただきますが,ここでの席上配布の可能性があることを考えますと,いかに遅くとも会議前日の17時,午後5時までには事務当局に御提出いただきたいと存じます。
  それから,万が一会議を御欠席される場合にはメールなどの方法で事務当局まで御意見を頂くことも可能です。部会資料等について御意見がある場合,部会当日に御発言いただけるのは当然ですが,事務当局まで事前にお寄せいただくことも可能です。
○中田部会長 ただいまの説明につきまして御質問などございますでしょうか。
  それでは,最後に事務当局から次回の日程等について説明をしていただきます。
○中辻幹事 次回は,平成28年7月5日火曜日の午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省15階,検察ゾーンの第1531会議室という所になります。次回はこの部屋でなく検察ゾーンにある会議室となりますので,お間違えのないよう御注意ください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  それでは,本日の審議はこれで終了させていただきます。
  本日は熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。
-了-


 
 
 
 

メールマガジン2019年07月23日号

家族信託専門コンサルタント、川嵜一夫司法書士のメールマガジンです。

川嵜先生とは、小冊子の件でお世話になっています。

以下全文引用です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

信託の遺留分のお話し

おはようございます。

家族信託専門コンサルタントで司法書士の川嵜です。

このメルマガは、家族信託の実務家向けです。

一般の人はちょっと難しいかも。

「このメルマガいらないな」、と思ったら、以下から。

面倒な操作は不要で、2,3回クリックするだけで解除できます。

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先週のメルマガはお休みさせていただきました。

m(_ _)m

ちょっと最近、忙しすぎて、休みが必要だなと思いましたので。

すいません。

自主休刊でした。

先週は、

火曜に新潟大学で講義。

水、木は神奈川に出張。

金は事務所で仕事。(週に1日だけ)

土曜は宮城県司法書士会で研修会。

こんな感じで、大変なんです。(汗)

ご容赦ください。

新潟大学のテーマは民事信託。学生にとって身近な話題でお話しさせていただきました。

親や祖父母が認知症になったらどうなるか。

宮城県司法書士会さんでは、民事信託を使った事業承継をテーマに研修会をさせていただきました。

上層部の人もこのメルマガを読んでいるとのこと。

恐縮してしまいました。(汗)

どちらも、100名を超える参加者で、熱気ムンムン。

私もパワー全開でお話しさせていただきました。

今日も新潟大学で講義なので、頑張ってきます!

■■ 今回は遺留分のお話し

最近のメルマガは、信託の終了シリーズ

受益者連続の信託の終了のタイミング

信託の清算と結了

帰属権利者

今回は終了シリーズの4回目です。

内容は遺留分。特に受益者連続の。

まだ判決等で確定していませんが、主流な考え方をお伝えしますね。

■■ 家族構成

父、母、長男、二男

の4人家族

お父さんが、自分の資産の多くを長男に信託

委託者:父

受託者:長男

受益者:父 ⇒ 母 ⇒ 長男(帰属権利者)

何ももらえなかった二男は、遺留分の請求をできるかという問題です。

■■ お父さん死亡時

受益権が

父 ⇒ 母

に移ります。

このとき、二男は、お母さんに遺留分の請求ができます。

7月以降は、民法が変わるので、金銭請求になるのだと思います。

■■ お母さん死亡時

受益権が

母 ⇒ 長男

に移ります。

このとき、二男は、長男に遺留分の請求ができません。

え?!

もう一度言いますよ。

このとき、二男は、長男に遺留分の請求ができません。

これ、通説的な考えです。

なぜか?

実は、信託で後継ぎ遺贈型の受益者連続が認められた理由と深く結びついています。

■■ 遺言では後継ぎ遺贈型は無効

このような遺言ね。

*************

私の財産は、妻に相続させる。

妻が私から相続した財産は、妻が亡くなったら、長男に相続させる。

*************

これは、最高裁判決で明確に無効とされています。

しかし、これが信託なら可能になる。

遺言で無効な内容が、信託では有効。

どう理論づけたらいいのか?

立法担当者たちは、頭をひねったと思います。

(と、勝手に想像(汗))

■■ ポイントは、長男は受益権をだれから取得するのか?

後継ぎ遺贈型の【遺言】では、

母の財産を、

母 ⇒ 息子

とする内容。これを「父」が遺言で、書く。

自分の財産でないものを遺言ではかけないですよね。

信託ではどうか?

受益者が

父 ⇒ 母 ⇒ 長男

と動く。

ポイントは受益権の「期限」

●母が取得する受益権

母が取得する受益権は

母が死亡するまでの不確定な「終期」つきの受益権。

これを「父」から取得します。

当然ですね。

ですから遺留分の対象になる。

●息子が取得する受益権

息子が取得する受益権は、

母が死亡してから始まる不確定な「始期」つきの受益権。

これを「父」から取得するんです。

もう一度言います。

母が死亡してから始まる不確定な「始期」つきの受益権を

「父」から取得するんです。

息子は受益権を「父」から取得するんです。

ですから、何ももらえなかった二男は、

「父」が死亡したときに、長男にも遺留分の請求をすることになります。

つまり、二男は

父死亡時

母と長男に遺留分の請求(その割合は不明)

母死亡時

遺留分の請求はできない

もちろん最高裁判決はありませんが、通説的な説です。

■■ 実は、お母さんは遺贈の意思表示をしていない

別な見方です。

遺留分の請求は遺贈や贈与に対してできますよね。意思表示がともなっています。

「お父さん、私に何も渡さない遺言書くなんて、ちょっと不公平。

だから、私にも少しちょうだい」

っていうのが遺留分の請求。

お父さんは、信託という形で意思表示していますよね。

でも、お母さんは、何も意思表示していない。

「お母さん、私に何も渡さない信託で、ちょっと不公平。

だから、私にも少しちょうだい。

って、その信託、お父さんが書いたんだっけ」

というものです。お母さん、意思表示(遺贈や信託)していないんです。

ですから、お母さんが亡くなったときに、遺留分の請求というのもちょっと違和感があります。

■■ 参考書籍

ちなみにこの考え方(終期つき、始期付きの受益権を父から取得)ですが、

信託法改正の立法担当官だった寺本昌広先生の

「逐条解説 新しい信託法」に、詳しく記載されています。

残念ながらこの本は廃版です。

アマゾンで、目玉が飛び出るような価格で中古本が取引されていますが。

でも、新井誠教授や、道垣内弘人教授などの書籍でも、同じような内容で解説されていますよ。

「条解信託法」 道垣内 弘人

https://amzn.to/30YzE5B

「信託法 第4版」 新井 誠

https://amzn.to/30NDzSv

僕もこの2冊は時々目を通しています。

特に道垣内先生の本は、逐条解説ですから、おすすめです。(ちょっと高いけど)

*************************

最後までお読みいただきありがとうございました。

バックナンバーはこちらです。

http://abaql.biz/brd/archives/yuzzvu.html

家族信託コンサルタント

 司法書士 川嵜 一夫 (かわさき かずお)

このメール配信を解除したい場合は

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「つまり、二男は

父死亡時

母と長男に遺留分の請求(その割合は不明)」

「その割合は不明」、の部分について考えてみたいと思います。

前提

  • 仮に父死亡時の受益権は3000万円

考え方

父死亡時に母に移転する受益権は3000万円、長男に移転する受益権は0円

よって弟は3000万円の8分の1(4分の1法定相続分×2分の1遺留分割合)の金銭債権を母に請求。

となります。

相続に関する法律改正(主に遺言と遺言執行者について)

相続に関する法律改正のお話(主に遺言と遺言執行者について)

民法(相続関係)改正の概要

(1)施行日

2019年1月13日、2019年7月1日、2020年4月1日[1]。この日付の共通点は、何でしょうか?

答えは、民法のうち、相続に関係する部分の法律改正の効力発生日です。

2019年1月13日は、自筆証書遺言の方式緩和に関する法律の改正日です。ひとつ飛ばして、2020年4月1日は配偶者(夫または妻)の居住の権利に関する法律の改正日です。そして3つ目の2020年7月1日が、遺留分など、その他の相続に関する法律の改正日です。

今回は、少し施行日にこだわります。理由を説明します。

例えば、同じ内容、方法で自筆証書遺言を書いたとします。2019年1月12日に書いた遺言は無効で、2019年1月13日に書いた遺言は有効になる、という可能性もあるのです。

図 1相続に関する法律改正の効力発生日

(1)自筆証書遺言の方式緩和
2019年 1月13日
2019年 7月1日
(1)、(2)以外の相続に関する 法律の改正
2020年 4月1日
(2)配偶者(夫または妻)の居住の権利に関する法律の改正

(2)民法(相続関係)の改正項目

次にどのような項目が改正されたのか、全体を少し見てみます。主に6つの項目に分けられます。改正理由としては、社会情勢や家族の在り方の変化が挙げられています。

図 2民法(相続関係)の改正項目[2]

配偶者の住む権利を保護するための制度の新設
遺産分割などに関する見直し
遺言制度に関する見直し 今回
相続の効力等に関する見直し
相続人以外の者の貢献を考慮するための制度の新設
  • 自筆証書遺言作成の現状

今回は、遺言をゆいごん、と読みます。法律上の呼び名は「いごん」ですが、ゆいごんでも間違いではありません[3]

平成29年度、自筆証書遺言の検認数は、1万7,394件[4]となっています。検認とは、自筆証書遺言を書いた方が亡くなった後、子どもなどが家庭裁判所に遺言を持っていって有効な遺言であることを確かめることをいいます[5]。作成された件数とは一致するとは限りませんが、大まかな数を掴むには適している資料だと考えます。

図 3自筆証書遺言の検認申立件数の推移[6]

  • 遺言と遺言執行者に関する改正点

ア 遺言編

Q.自筆証書遺言の方式は、どのように緩和されましたか。

A 自筆証書に財産の目録を添付する場合には,その目録については自分で書く必要はないことされました。

財産の目録として,登記事項証明書や預金通帳のコピーを一緒に綴ったり、パソコン等で作成したりする等の方法を採ることができるようになりました。

※注意

自分で書かない財産目録を作成する場合には、その目録の各ページに署名と契印が必要です(新法968条2項)

Q 遺言書の本文が記載された同じページに、財産目録を印刷することはできますか。

A 自書による本文とは、別の用紙で財産目録を作成する必要があります。

Q 財産目録にする署名と押印は,印刷面ではなく白紙の裏面にすることもできますか。

A 財産目録の用紙の印刷面・裏面のどちらかに署名と押印すれば有効です。

イ 遺言執行者編

 遺言執行者は、遺言の内容を実現するために働く人です。

Q 遺言執行者の職務上の重要な変更点は何ですか。

A 相続人に遺言内容を通知する義務が課された点と、相続人に「相続させる」と記載された遺言がされた場合に,遺言執行者が相続登記など必要な行為をする権利が与えられた点です(新法1014条2項)。

Q 預貯金について遺言がされた場合、遺言執行者は預貯金の払戻しや解約ができますか。

A 改正により、預貯金(特定された口座の全額)を相続させる遺言がされた場合には、遺言執行者は預貯金の払戻しや解約をする権限があることが明確にされました(新法1014条3項)。

Q 遺言執行者になった場合、相続人に行う通知の内容はどのようなものですか。

A(1)遺言執行者になったこと

(2)遺言の内容

の2点を通知する必要があります(新法1007条2項)

・今後について

おさらいをしてみます。

  • 今年から来年4月にかけて、民法の相続関係について改正の効力が発生するので、施行日について注意
  • 自筆証書遺言については、今まで全文を自署する必要があったのが、財産(どの不動産、どの預貯金)などは、ワープロで作成したりする方法が可能になった。
  • 遺言執行者になった方は、他の相続人に通知をする義務がある。預貯金は原則として一人で解約して遺言の内容通りに配分することが出来る。

3つの点を押さえておきたいと思います。

なお、2020年7月10日から、法務局が自筆証書遺言をチェック・保管してくれる法務局における遺言書の保管等に関する法律が導入されます[7]。こちらも自筆証書遺言を検討する場合は要チェックの法律です。

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・法務省HP法制審議会-民法(相続関係)部会http://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_00294.html

・関根稔「相続法改正対応!! 税理士のための相続をめぐる民法と税法の理解」2018年ぎょうせい

・堂薗幹一郎, 野口宣大「一問一答 新しい相続法――平成30年民法等(相続法)改正、遺言書保管法の解説」2019年商事法務

・東京司法書士会民法改正対策委員会「Q&Aでマスターする相続法改正と司法書士実務―重要条文ポイント解説162問―」2018年日本加除出版

・最高裁判所司法統計HP

平成29年度家事審判・調停事件の事件別新受件数(家庭裁判所別)

http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/list?filter%5Btype%5D=1&filter%5ByYear%5D=&filter%5ByCategory%5D=3&filter%5BmYear%5D=&filter%5BmMonth%5D=&filter%5BmCategory%5D=


[1] 「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成30年政令第316号)」

[2] 東京司法書士会民法改正対策委員会「Q&Aでマスターする相続法改正と司法書士実務―重要条文ポイント解説162問―」2018年日本加除出版を基に筆者作成

[3] 『法律用語辞典』P1120、2012年 有斐閣

[4] 最高裁判所司法統計 平成29年度家事審判・調停事件の事件別新受件数(家庭裁判所別)http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/list?filter%5Btype%5D=1&filter%5ByYear%5D=&filter%5ByCategory%5D=3&filter%5BmYear%5D=&filter%5BmMonth%5D=&filter%5BmCategory%5D=

[5] 『法律用語辞典』P315、2012年 有斐閣

[6] 最高裁判所司法統計を基に筆者作成。

[7] 「法務局における遺言書の保管等に関する法律の施行期日を定める政令」(平成30年政令第317号)

谷口毅司法書士主宰 民事信託実務研究会メールマガジン201年8月9日号

いつも勉強になっています。

信託登記と信託目録についての記事でした。

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本日の担当は、東京の司法書士の池田弘子です。

今日は、前回の私の記事続きで、信託の登記に関するお話です。

本題のテーマは、「信託目録を信用してはいけない?」です。

その前に、不動産を信託するとどのように登記されるのか、簡単に整理しましょう。

●前回の復習

信託契約が開始したら、受託者は、信託の登記をしなければなりません。これは、受益者や第三者を守るためでしたね。

前回の私の記事は、下記のリンクにあります。

http://www.tsubasa-trust.net/2019/07/blog-post_26.html

●信託設定時の登記

たとえば、お父さん(A)が、賃貸アパートを長男(B)に信託したときには、AとBは、

「BがAから賃貸アパートの所有権を取得したこと=所有権移転登記」、

「Bが取得した所有権が信託財産であること=信託の登記」を登記することになります。

そして、この2個の登記は、別々の登記としてではなく、併せて1個の登記として登記記録の所有権を登記する場所(権利部の甲区)に登記されます。

これによって、所有権が移転したことと、信託の内容が公示されることになります。

●信託の登記の登記事項

信託の登記の登記事項は、不動産登記法97条1項と2項に規定されていています。

第三者は、信託の登記をみて、信託契約等の概要を知ることができます。

登記事項の主なものとしては、

・委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所

・受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め

・信託の目的

・信託財産の管理方法

・信託の終了の事由

・その他の信託の条項

などがあります。

そして、信託の登記の登記事項は、権利部(先程の事例であれば甲区)とは別に作成された信託目録に登記されます。

この信託目録ですが、不動産ごとに作成されます。

したがって、例えば、

同一の信託契約で土地5筆が信託されると、内容が全く同じ信託目録が土地ごとに1つずつ作成されて、土地ごとにそれぞれ異なる目録番号が記録されることになります。

ちなみに、信託の登記には、共同担保目録のような共同信託目録なるものは存在しません。

ですので、信託契約書を見なければ、どの不動産が同一の信託契約の信託財産に属しているかはわからないということになります。

●信託目録の作成

では、この信託目録、だれが作成しているのでしょう?

登記官? 司法書士?長くなってしまったので、今日はこの辺にして、続きは次回。

次回の私の担当まで、皆さんも、答えを考えておいてくださいね。

関連する条文は、

・不動産登記法97条3項、

・不動産登記規則176条1項、

・不動産登記令7条1項6号、別表65項添付情報欄ハ、です。次回は、「信託目録を信用してはいけない?」の本題に入ります。

一歩間違えば、司法書士としてアウト!になるかもしれない、私がゾッとした、信託目録のお話をしたいと思っています。

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という記事でした。

少し引っかかって、次のメールをしましたが、返信は来なかったので私が間違っていたか、考えが違うのもしれません。

いつも勉強させていただいています。

誤っていたらすみません。

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「同一の信託契約で土地5筆が信託されると、内容が全く同じ信託目録が土地ごとに1つずつ作成されて、土地ごとにそれぞれ異なる目録番号が記録されることになります。」

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この文章ですが、「1度の申請で」をどこかに追記する必要があるのではないでしょうか。

管轄違いなどで申請を別々に行う場合や当事者の意向など、内容が全く同じ信託目録を作成しないことも出来ます。

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