法制審議会信託法部会第11回~15回

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第11回会議 議事録

第1 日 時  平成17年3月11日(金)  自 午後1時04分
                       至 午後5時13分

第2 場 所 法務省第1会議室

第3 議 題
信託法の見直しに関する検討課題(8)について(続)
   信託法の見直しに関する検討課題(9)について

第4 議 事 (次のとおり)

議    事

● それでは,今日の部会の審議を始めたいと思います。
  最初に,意見書というものが出ておりますので,これは○○委員から御提出のものですが,これの御説明をいただいた後,また適宜議題を区切って審議していきたいと思います。


● まず,○○委員の方から,このペーパーの趣旨を簡単に御説明お願いいたします。


● 本日,配布資料としてお配りさせていただいた資料ですけれども,これは流動化・証券化協議会準備会合・信託法制及び流動化ビークルワーキンググループによる,信託法の改正に関する意見を取りまとめたものです。内容はかなり多岐にわたっておりますし,ページ数も多いのですけれども,是非御一読いただければと思います。


  多数の論点及び要望事項を挙げておりますが,信託法の改正による対応が望まれる部分については,おおむね前半に記載しております。

また,後半部分に挙げています論点の一部は,法改正ではなくて,解釈,運用ですとか,解釈上の指針の明確化といったことで対応されるべき問題かもしれません。


  また,このワーキンググループですけれども,昨年の7月から何度か会合を持って,こういった意見を取りまとめておるのですけれども,本法制審議会の信託法部会における議論を踏まえたものにはなっておりませんことは御了承ください。


  配布資料の一番最後のページに,このワーキンググループのメンバーの名簿が載っておりますので,そちらもちょっとあわせて御覧いただければと思うのですけれども,流動化・証券化協議会について,簡単に御説明申し上げますと,資産の流動化・証券化という取引は,ここ10年余りで本格的に伸びてきた分野だろうと思います。


また,現実には,大多数の流動化・証券化と呼ばれる取引に信託が用いられていることから,流動化と信託は現代においては非常に密接な関係にあるというふうに言えるかと思います。


  ただ,流動化・証券化という金融取引が非常に大きく伸びてきたといっても,流動化・証券化業界といった業界が存在するわけではございません。


流動化・証券化に携わっている者は複数の業界にまたがって存在しているというのが現実でございます。


つまり,銀行,信託銀行,証券会社といった様々な金融機関に,現在は,ストラクチャードファイナンス部だとか証券化商品部といった流動化・証券化を専門に行う部署が存在するのが一般的ですけれども,金融機関のみならず,様々な業種の事業会社,ノンバンクといった業態の参加者がオリジネーターとして,あるいはアレンジャーとして,あるいは投資家として流動化・証券化市場に参加しているというのが現状でございます。

  また,「流動化・証券化」という言葉とセットで,「倒産隔離」ですとか,「優先劣後構造」ですとか,あるいは「格付け」といった言葉が使われることにあらわれるように,取引の仕組みによって信用リスクを加工するというプロセスを含むということが一つの特徴でございまして,その関係で,多くの研究者ですとか弁護士,会計士等の専門家,あるいは格付会社といった方々も流動化には深く関与しております。


  このように,関係者が様々な業界に散らばって存在しているということから,これまで流動化・証券化に関する様々な課題について,横断的に議論したり,意見を集約する場が余り存在しなかったという現実がございます。


流動化・証券化に携わるもののネットワークを形成する組織が必要とされまして,流動化・証券化協議会という場の設立の検討が準備会合の形でこれまで行われてきたというものです。この4月に,この流動化・証券化協議会は,正式な活動を開始する予定です。

  本日配布させていただいた意見書の内容については,多岐にわたりますので,内容の御説明は割愛しますけれども,是非目を通していただければと思います。よろしくお願いいたします。


● あとは,関連する場所でもって,この御意見など踏まえながら議論を進めていきたいと思います。


  それでは,本日も幾つかの項目について,適宜分けながら○○幹事の方から説明をお願いします。


● それでは,審議に入らせていただきますが,前回積み残しとなっております「第5 受託者の不適格事由について」からはじめまして,「第6 受託者の利益享受の制限について」,「第7 受託者の職務の引受けについて」という3項目にわたりまして御説明をしたいと思います。


  積み残し部分を前半にやりまして,休憩後に善管注意義務以降の新たな部分をやらせていただければという大まかな目安ですので,よろしくお願いいたします。


  それでは,まず受託者の不適格事由でございますが,提案の本文自体は前回の提案から変わるところはございません。


  なお,現行法の解釈としましては,不適格事由に該当する者を受託者として指定した信託は,絶対的に無効であると解されておりますが,前回,資料中におきましては,破産者であることを不適格事由から除外することのほかは基本的に現行の趣旨を維持する旨言及しておりました。


  しかし,これに対しまして,第3回会議におきまして,特に遺言信託の場合において,委託者である遺言者の遺言作成時においては,受託者として指定された者が不適格事由に該当しない者であったとしても,その後,委託者である遺言者が死亡し,遺言信託の効力が発生した時点においては,この受託者として指定された者が不適格事由に該当することとなってしまっている可能性もあるところ,このような場合にまで信託自体を無効とする必要はなくて,むしろ当該信託を生かした上で,かわりの受託者を選任する方向で対処すべきではないかとの御指摘がございました。

このような御指摘を踏まえて改めて検討しました結果が,本資料の16ページに記載しておりますところでございまして,遺言信託については,その効力発生時点において受託者が不適格事由に該当する場合であっても,原則として当該信託は無効とする必要はなく,新受託者を選任して遺言信託の効力を存続させるのが適当であると考えるところでございます。


  しかし,これに対しまして,生前の契約信託につきましては,信託契約時点において受託者が不適格事由に該当するのであれば,当該信託は無効として,新たな受託者との間で再度信託を設定し直せば足りると考えているというところでございます。


  続きまして,次のページの「第6 受託者の利益享受の制限について」というところにつきましての御説明に移らせていただきます。


  これは,現行9条に対応する受託者と受益者の兼任の禁止に関する提案でございます。


  ところで,前回の提案におきましては,単独受託者が全益者である場合には,相当期間内に受益権処分義務を課すこととした上で,共同受託者の一人が全益者である場合にも受益権処分義務を課すか否かにつき,積極・消極の両案併記としておりました。


この2点に関しまして,今回の提案では,受益権処分義務を課すという方法のみをとることをやめますとともに,共同受託者の一人が全益者である場合にも,このような兼任状態を継続することは許されず,これを解消しなければならないことと結論したものでございます。


  まず,<説明>の2に関する点でございますが,今回の提案では,単独受託者が全益者であるという状態が生じた場合には,かかる兼任状態が相当期間内に解消されない限り,当該信託は終了するものとする反面,その解消の方法ないし事由には,何ら制限を設けないことといたしました。

したがって,全益者となった単独受託者といたしましては,信託を終了させたくないのであれば,受益権の全部又は一部の処分をする方法により得ることはもちろんですが,受託者の地位を辞任する方法によることも可能でありますし,更には,今後兼任状態の新たな解消方法が考え出せれば,それによることも可能でありまして,また単独受託者兼受益者の自発的な行為に限らず,相続等の客観的事実の発生による場合であっても構わないことになると考えられます。


  このように,信託が存続し得る場合を受益権の処分に限らず,より広く認めることとし,いわばより弾力的な規律に改めることといたしましたのは,資料17ページの2というところに書いてございますが,第3回会議におきまして受益権の全部を保有していたい場合であっても,その意に反して他人に受益権を譲渡せざるを得ない方法のみしか認められないというのは妥当ではないとの御指摘があったことを踏まえて再検討いたしました結果,信託の観点からは,要するに単独受託者が全益者を兼ねている状態が生じていることが問題なのであって,このような状態さえ解消されるのであれば,解消事由のいかんを問う必要はないと考えたからでございます。

  次に,<説明>の1に関する点でございますが,共同受託者の一人が全益者であるという状態が生じている場合についても,同様に,かかる兼任状態が相当期間内に解消されない限り,当該信託は終了するものといたしました。

このような結論に至りましたのは,第3回会議におきまして,そのような場合には全益者としての立場に基づき,受託者としての自己の行為を常に承認できることになって,受益者に対する忠実義務を負わない受託者の存在を認めることになりかねないこと,あるいは全益者を兼ねない共同受託者が存在することをもって,信託の構造の存在を認めるに足りるだけの監督関係,この監督関係というのは全益者の他の共同受託者に対する監督関係を意図しておりましたが,このような監督関係の存在を肯定できるかは疑問であること,あるいは共同受託者の職務分掌の内容いかんによっては,実質的に判断すれば,単独受託者が全益者であるという場合と変わらないことがあり得ることなどの指摘があったことを踏まえたものでございます。

  なお,実務上は,原信託の受託者が再信託を設定することがされておりますところ,この場合には,受託者が全益者ともなるという問題があることが指摘されております。


しかしながら,この再信託の場合につきましては,17ページの3に記載した理由から,今回の提案に係る規律の適用対象とはならないと考えているものでございます。
  


最後に,「第7 受託者の職務の引受けについて」というところでございますが,これは信託行為において受託者として指名された者に対する就職の諾否につきましての催告権等に関する規定を新たに設けることを提案するものでごさいまして,提案の本文自体は前回の提案から変わるところはございません。


もっとも,第3回会議におきまして,前回の提案本文及びその説明ぶりからは,1の催告権者の中に信託管理人は含まれないとの誤解を招き兼ねないとの指摘がされました。


この御指摘を踏まえまして,資料19ページに記載したような理由から,提案の本文自体は改めないこととした上で,催告権者には信託管理人等が含まれることを説明中において明らかにしたものでございます。
  とりあえず,以上でございます。

● それでは,ここまでで御議論をお願いいたします。
  いかがでしょうか。

  この第5については,契約による設定の場合と遺言信託とで結局結論的には少し違ってくるいうことですね。

● はい。
● 条文としては,後でもうちょっとその点を含めたような条文になる。

● 規定振りについては将来検討いたしますが,考え方自体はこれでいいですかということでございます。


● わざわざ新受託者の選任手続に入らなくてはいけないということになると,多少面倒くさいということで,新たに受託者を委託者の方で定めて,簡単に有効な信託を設定できるようにするという趣旨ですね。

遺言信託の場合は,また逆な考慮があるけれども。
  これは,こんなところでよろしいでしょうか。


● 単純な話ですが,第6の「相当の期間」というの,これはどんなふうに考える……。

要するに,これ以上具体的に定めるのか,抽象的にこのままにするのか,その場合に,これに利害関係を持っている第三者から見て,信託が終了したかどうかの
判断をどうやってするのかという,そういう問題です。

● なかなか具体的な規律は今までも決めにくかったのですけれども,何か御意見ございますでしょうか。
  
恐らく,信託を終了させるためには,だれか利害関係者が信託の終了しているということを言い出すことが通常なんだろうと思いますが,それを抜きにして,具体的にこのぐらいの期間がたつと当然に終了するという点について,相当の期間というものを定義するという形で,終了を明確にするというのがうまくできるのかどうか,なかなかそこは一つ難しい問題があるような気がしますが,いかがでしょうか。

  実務的には,どうでしょうか。

● 裁判所の立場からしますと,何度も同じようなことを申し上げて恐縮ですが,「相当の期間」と言われても,何を基準に,どう判断するのかということすらよく分からないということになってしまいますので,裁判所がどう判断できるかというところは非常に難しいということになるのではないかと。


終了しているかどうかによって信託債権者その他の利害関係人の利害というのは大きく変わってき得るということになると思いますので,ここは何か明確な規律というのを設けていただきたいというのが,まだ個人的な希望という段階ですが,そういうふうに思います。


● これも,「相当の期間」というものの考え方がなかなか……。


基本的な考え方ですけれども,本来こういう状態はあっては好ましくないと,つまり受託者が全受益権を取得しているという状態は好ましくないということであれば,本来,比較的短い期間の間にそういう状態を解消すべきであるというのが基本的な考え方なのでしょうが,ただ解消するために受益権を売却するとか,いろいろな形で解消するときに,どういう手段をとるかによって,また期間といいますか,時間のかかり方が違ったりするので,なかなか具体的な期間を定めにくいということがあるのではないかという気もします。

この辺は,実務の方の感覚も伺いたいと思いますが。


● この「相当の期間」でございますけれども,既に会社法の方ではほぼ同様の概念が使われておりまして,子会社による親会社株式の取得というのは原則として禁じられているのですが,例外に当たる場合は「相当ノ時期ニ……処分ヲ為スコトヲ要ス」というのが211条ノ2第2項に既にございますので,このような会社法の方の議論も若干参考になるのではないかということと,それから,これはちょっと論点が別になって恐縮ですけれども,第6が議論している対象について,ちょっと御確認させていただきたいと存じます。
  


この受託者が受益権の全部を取得するというのは,これはあくまでも受託者が固有財産で取得する場合だけを念頭に置いているのか,それとも信託の計算--と言ったら変ですけれども,信託の計算で受益権を取得するということも含まれているのか。


つまり,後者の場合は,受益権が証券化された場合には信託の計算で受益権を持つということも論理的には可能になり得ると思われますので,この第6の射程について御教示いただければと存じます。


● 私,個人は,必ずしも今の問題を深く考えてはいませんでしたけれども,というか,固有財産で取得するという場合を一応念頭に考えておりました。
  そういう信託で取得するという場合,いかがでしょうかね。

● 私自身は,ここのところの規律というのは固有勘定だけで取得した場合ということを念頭に置かれて規定したのだろうと思いまして,いわゆる再信託だとか二重信託のような状態の場合については,基本的には信託財産で別の信託の受益権を購入するということはよく行われていることですし,それについては基本的には運用の方法の一つとして行われておりますので,それを相当の期間で解消するということになりますと,ちょっと支障が出るということでございますので,そこについては固有勘定に限定していただかないと,なかなか実務上問題があるということだと思います。

● ○○幹事の御趣旨も,それはちょっと別に考えた方がいいということですね。


● むしろ,第6の射程が固有財産による取得だという旨を明確に確認した方がいいのではないかという趣旨でございます。

● 先ほどから出ています「相当の期間」ですけれども,私も実務上の観点からいきますと,ここの「相当」というのはある程度相対的なものだというふうにとらえているのですけれども,そこはよろしいのでしょうか。


  要するに,絶対的に例えば3か月ぐらいにとかということではなくて,例えば財産の種類によっても違いますし,それとその保有する意図というのは,そこがちょっと違うのかもしれませんけれども,例えば全部保有してから何かを変えようとしたり,全益になったところで何かをしましょうというような趣旨でやるときのある一定の要する期間とかいうのがあると思いますので,そこは相対的にということでよろしいのでしょうね。

● 意図まで考慮してというのは,若干そこは微妙かもしれませんけれども,財産等によって違うということは当然あり得るのじゃないかと思いますね。


● まず,最初の○○幹事御指摘の点は,事務局としても固有財産で取得した場合を念頭に置いております。
  


それから,「相当の期間」についていろいろ御議論がございましたが,まずこれは相対的なものであって,財産の種類等は考慮できますが,今,○○委員から言われましたように,意図まで考慮できるかというのは,ちょっと客観性の問題がありますので難しいかなという気はしております。


ただ,相対的なものであるということは,こちらもそのような理解でおります。


  ただ,期間を具体的に法文上決めるというのはなかなか難しいことでございまして,少なくとも事務局としては,「遅滞なく」としなかったのは,受益権を処分したりあるいは辞任するのに若干の期間は要るだろうということで,「遅滞なく」というふうにはしなかったと。


  それから,商法の規定なども考慮して,「相当の期間」というふうに決めたというところまでは言えるのでございますが,それを具体化して,いろいろな事情を例えば法文上挙げるかというのは,なかなか難しくて,やはり諸般の事情を考慮して相当かどうかということで判断していくしかないのではないかなという気がしております。

● この規定の機能の仕方ですけれども,相当な期間を超えて保有していたので終了するというところに使うよりは,恐らく処分させるという行為規範的に使われることが多いのだろうと思うのですね。


しかし,そうは言ってもこういう形の条文を置けば,相当な期間を超えて保有していたときにはやはり信託は終了するということになるのでしょうけれども,ただこれも理論的にはなかなか難しいですね。


ある程度客観的な期間,本来このぐらいの期間でもって相当な期間を超えている,それでまだ保有しているけれども,その後処分したら,やはり何か瑕疵みたいなのが治癒されてもよさそうな気もするのですね。


そういうことで,ここでの「相当の期間」というのがどういう形で実際問題なのかというようなことも,少し考えなければいけないという気がいたします。


  それから,「相当の期間」というのは,これ期間の具体的な定めは難しいでしょうけれども,私のこれまた個人的な感覚ですけれども,やはり1年とか何とかというのは長過ぎる,恐らく1か月とか3か月とか,何かそのぐらいの感覚なのではないかと思いますけれども,これもどの程度処分しやすい財産なのかというようなことも関係くると思います。

● 先ほど,当事者の意図というのはちょっとなかなか難しいだろうというお話がありましたけれども,これ,書いてしまえば何かちょっと変わってくるのでしょうか。信託契約に。


● 書くというのは。


● ある程度信託の形態によっては,かなりの時間取得するような可能性があるような,そういう類型の信託であれば,例えば一般に言う「相当の期間」より長いぐらいの期間を保有することも認めるような形の信託契約でのメリットといいますか……。


● それは,この規定の相当な期間,客観的には相当な期間とされるものを超えて保有していいということを書くということになると,それはこの規定は強行規定だというふうに考えると難しいのでしょうね。

● 相当性を考慮するに当たっての……。


● その判断してもらう要素として書いておくと,多少は影響するかもしれないけれども……。この辺は,少し考えさせてください。


● 信託契約に書いて,だれとだれの話なのか,全部自分になったときの話ですよね。

そうすると,委託者はいるわけですけれども,受益権を私が取得したときには,私は文句は言いませんという,そういう約束になってしまうわけであって,それはちょっとおかしいのじゃないかというのが第1点で,それは感想です。

  第2点は,先ほどから固有財産で取得した場合であるということが前提になっているというふうな話でございましたけれども,○○委員がおっしゃったのは,二重信託であると,つまりある信託の受益権を他の信託の財産として購入するという場合じゃないかと思うのですけれども,そのA信託の受益権をA信託の財産として購入するという場合も,この第6には入ってこないということでしょうか。
  だから,自己株式みたいな話ですね。

● そのときには,受益者というのは何になるのだろうな。受益権を信託財産で買うという意味ですよね。そのときの受益者というのは,どこかにいるのですか。

● 会社法の議論ですと,会社が自己株式を取得した場合に,当該自己株式にどのような権利が認められるのか,どこまで権利が認められるのかということについては,立法上の解決と,それから解釈論にゆだねられている部分がございまして,例えば現行法上は利益配当請求権ですとか残余財産分配請求権はないということが明定されております。

  私の先ほどの質問の趣旨も,もし信託財産自身で受益権を取得するようなケース,これは有価証券化されると本当にそういう場合が生ずることが十分に考えられると思うので,その場合についての規律というのは,もしかしたらまた別途考える必要があるかもしれないということもちょっと念頭には置いていたのですけれども,自己株式の取得と同様に信託財産が受益権を取得した場合に,それに対してどの範囲で権利が認められるかということについては,自己株式との対比でいってもなかなか議論がある難しい問題であり,できればやはり立法的に解決するということが望ましいかもしれません。


● 信託財産の中に受益権が入っていて,受託者が信託財産を管理する上でその受益権をある程度行使できるのでしょうけれども,何か信託全体の目的などがあると,一定の行使の制限がかかっている。


それに対して,固有財産が受益権を取得してしまうと,それは受託者がある意味で自由にできるところがあって,そこはやはりちょっと違うのかなという気はしますね。


● 恐らく,ちょっと比喩的な言い方で恐縮ですけれども,固有財産で信託の受益権を取得するというのは,あたかも会社でいえば取締役がその会社の株を持っているような場合であって,これは現行商法上も全く禁止されているところではございません。規制はされておりません。
  


これに対して,信託財産で受益権を買うというのは,正に会社が自己株式を取得するというケースに当たりますので,その二つは,一応理論的には区別されるべきではないかと思います。

● 御指摘のとおり,自己株式の取得というのと類似する局面がございますので,ここでの規律はあくまでも固有財産で取得した場合を念頭に置いておりましたが,また信託財産で受益権を取得した場合の規律はどうなるかというのは,別途検討させていただきたいと思います。

● ほかの点ではいかがでしょうか。

● 言葉遣いだけのことですけれども。
  二人の共同受託者が,二人で受益権全部を取得したという場合は,この対象にはならないだろうと思いますけれども,ちょっと表現だけ見ると,そこが不明確かなと思いますが。


● そうですね。二人でまたがっているので,一応受益権が分散しているということになるわけですね。入らないのだろうというふうに考えますけれども。


● その場合は入らないと認識しておりますが,提案ぶりが不明確かどうか,検討させていただきたいと思います。


● 確認ですけれども。前回の提案との比較において,この提案というのは受託者の処分義務を課していないということでしょうか。


  例えば,仮の例として,帰属権利者が別にいて,受託者が相当期間に処分しなかったために信託財産が下落したと,そうした場合に,帰属権利者は受託者の処分義務がもしあるのであれば,その違反ということを理由として何らかの損害賠償請求とかすることができるのかという話なのですけれども,この規定ぶりからだけ見れば,それが判然としないものですから,あえて御確認する次第でございます。

● これは,処分義務を課すということは考えておりません。結果的に,処分しない場合に終了するという結果は招きますけれども,前回の提案と違って,義務として処分しなければいけないということではないというふうに提案を改めております。

● 今の御質問との関係で確認させていただきたいのですが,この第6の規律というのは,そういう意味では現行の信託法9条の特則といいますか,例外に当たるという,そのような位置づけでよろしゅうございますでしょうか。

● 9条そのものを改めたということですので,例外というか,9条はなくなります。


● 9条にかわる規律であると。

● はい,そういうことでございます。


● 第5ですけれども,細かなことですし,かつ余り現実的ではないと思うのですけれども,この違反の効果について,生前信託の場合と遺言信託で分けるということなのですが,それに関連して,生前信託で共同受託者の一人について不適格事由があった場合にどう考えたらいいかということと,あと,例えば未成年者というので設定してしまったのだけれども,その受託者が成年になったとか,能力を回復したというようなときに,治癒というようなことがあり得るのかどうかという2点が少し気になっておりまして,もしお考えが明らかでしたらお聞かせ願えればと思います。


● ちょっとロジックはなしに,ただ直感だけ申し上げると,後者の治癒はあってよさそうな気がしますね。


● 決定時点ではまだ未成年だったけれども,ちょっともたもたしていたら成年になったとか,そういう場合ですか。


  民事ですから,改めてやり直さなくても,その人がいいと思ってやったわけですので,治癒ということで有効にしていいのではないかなという気がしております。


  それから,能力を回復した場合も,当初は委託者がその人を受託者としてやったところが,不幸にも当時は能力がなかった,しかし少々期間がたったら能力を回復したというのであれば,当初の委託者の意思にかなうものですので,そこは信託は有効ということを認めて差し支えないのじゃないかなという気がしております。

  あともう一つ,共同受託者の一人が不適格の場合には,何かほかの人にいくか,そのまま単独受託者の信託として有効としていいのではないかなという気が直感的にはしておりますけれども,ちょっと御意見があれば伺いたいですし,なお必要があれば検討したいと思っていますが。


● 共同受託者とかの趣旨によって,そこは有効だけれども,あるいは選任ということが出てくるのかなという気がしたものですから。


● 確かに,相互牽制とか相互干渉を重視すると,一人でもそのまま有効というのは問題かもしれません。一応有効としておいて,追加して選任すると,そういうことでしょうか。


委託者の方から選任請求をするとかですね,そういう方法で複数にするということがあり得るのかなとは思いますが。


● 特別な御意見がなければ,少し先に進んでよろしいでしょうか。
  7についてもよろしいですね。
  それでは,少し先に行きましょうか。


● それでは,次に「第9 信託財産の範囲について」,「第10 信託財産の添付について」,「第11 信託財産と固有財産との識別不能について」を順次御説明をいたします。


  まず,第9でございますが,これは前回の提案と同じく,信託財産の範囲に関する現行法第14条の規定を維持することを提案するものでごさいまして,具体的には,現行法における解釈と同様に,信託財産の文字通りの代位物に限らず,信託財産を引当てとした借入れにより,受託者が取得した金銭等も含まれますし,また受託者が信託事務処理により処分した場合に限らず,法令又は信託行為の定めに違反して信託財産を処分した場合において,受託者が取得した反対給付なども含まれると考えているところでございます。

  次に,第10の「信託財産の添付について」でございますが,これも前回の提案と同じく,信託財産の添付に関する現行法第30条の規定を維持することを提案するものでございます。
  

具体的には,不可抗力ですとか,受託者の分別管理義務違反に起因しまして,ある受託者に属する信託財産と,これと同一の受託者に属する固有財産又は他の信託財産とが物理的に混交し,分割することが社会経済上著しく不利益である場合ですとか,事実上これを弁別することが不可能となったような場合におきましては,各信託財産と固有財産とが各別の所有者に属するものとみなした上で,原則として主たる財産の方に財産全体の所有権が帰属し,所有権を失った従たる財産の方に償金請求権が帰属することになると考えるものでございます。


  次に,「第11 信託財産と固有財産等との識別不能について」というところでございます。

これも,大枠について第3回会議では御異論はございませんでしたが,そのときの審議を踏まえて,次の2点を取り上げ,改めております。


  まず,信・信間の識別不能につきまして,各信託の受託者が同一である場合,こういう場合が往々にしてありそうですが,この場合には,原則として各信託の受益者の協議によって共有財産を分割する旨の提案をしておりました。


  これに対しましては,受益者の協議は特にその人数が多数に上る場合には現実的ではないから,受託者の関与を認めるべきではないかという指摘がございました。


しかし,ここに記載した理由にございますように,受益者間の分割に事実上関与するということであればともかくとして,分割方法を決定するということになりますと,利益相反の典型的な局面でございますし,また利益相反行為の禁止の例外といたしまして,信託行為に定めのある場合や,各信託の受益者の利益を害しないことが明らかである場合には,受託者のみで分割ができるということで,信託事務の円滑な遂行に対する配慮もされていると考えておりますので,今回もこのような受益者間の協議を原則とするということは維持しているというところでございます。


  また,第2点といたしまして,例えば甲信託の受託者Aが有する信託財産Xと,乙信託の受託者Bが有する信託財産Yとが識別不能になった場合に,このような場合は単にAの財産とBの財産とが識別不能になったと見ればよくて,信託法による特段の手当ては不要であるのではないかという指摘がございました。


この点,検討いたしましたが,前回の提案は確かにそのような場合も対象とするかのように読めるのではないかということで,今回は受託者の異なる信託財産間で識別不能が生じた場合は,単に所有者が異なる財産が識別不能状態になった場合と同じく,民法の規律する局面であると。


これに対して,同一受託者の中で識別不能状態が生じたときは,信託法の規律する局面であるという考えのもとに,特に1の(1)とか(4)あたりで,その趣旨がより明確化されるように記載ぶりを変えたということでございます。
  以上で,とりあえず終わります。


● それでは,ここまででいかがでしょうか。


● 第11のところの識別不能のところの規律でございますが,前回のときに先ほどの○○幹事の方からお話がありましたように,信託財産間の受益者が多数に上るような場合についてはなかなか現実に難しいのじゃないかというふうに申し上げましたけれども,それで御検討いただきまして,最終的には,一つは当然別段の定めというものが認められているということと,あとは受益者を害する恐れがないときについては構わないという,(注)のところでそのところの説明も書かれておりますので,実務上,多分この二つがある限りにおいては,大体のところは対応できるのかなと思っておりますので,特段反対するというようなことはなく,賛成したいと思います。

  その中で,ちょっと確認ですけれども,一つは,信託契約で書くときのイメージなのですけれども,ある程度抽象的なものでいいのかどうか,例えば「受託者が公正と判断する割合及び方法により分割する」とかいうふうに書かれた場合,この程度でもいいのでしょうか。済みません,ちょっと仮定の話なので申し訳ないのですけれども。


  そういうことと,もう一つは裁判所の方に分割を請求するに当たって,例えばですけれども,数百人ぐらい受益者がいるときには,要するに協議をすることなく,非常に現実の問題としては難しいので,裁判所に直接請求ができるかどうか,この二つを確認したいのですけれども。

● まず,前者の御質問につきましては,信託行為の定めということがあれば,利益相反行為の禁止の例外になるということですので,そのぐらいの定め方でも受益者は受託者がやるということが分かりますので,いいのではないかなという感触を持っております。

  それから,受益者が多数いてというときで,民法の共有物分割の判例でも,実際に協議をしなくても,およそ協議をする意思がないというようなときには「協議調わざるとき」というふうに解していいという解釈がございますので,その範囲がどこまで及ぶかということですが,400人いるから直ちに当たるのかどうか,ちょっとそこら辺は解釈問題ですので,たくさんいたら常にいきなり裁判所に行けるというのか……。意向を聞いてなかなか難しそうだったぐらいの話ではないかという気がいたします。

● 別にそんなにこだわるものではありませんけれども,そこは常識の範囲内で考えていくということであれば……。


● 今の点について,ちょっと質問させていただきたいのですが。

  通常の共有物の場合ですと,その分割や持分の割合云々などについて,約定によって何かを決めるという場合には,共有者間の合意によって決めるということなのだろうと思うのですね。

そうしますと,今,信託行為に別段の定めを置くということによって,何が行われたことになるとお考えなのでしょうか。

  要するに,それによって,信託行為の約定を置くことによって,なぜ分割なり何なりができるようになると考えるのかという点の正当化の理由はなんなのでしょうか。その点について,ちょっと御説明いただければと思います。

● 今の点でございますが,信・信間の信託財産が混合したときにどう分けるかという話でございますけれども,基本的には信託財産というのは受託者が管理処分する対象でございますので,受益者の意向を直接聞くというのは非常に例外的な場合かと思います。


この場合に,受託者ではなくて受益者の意向を聞かなくてはいけないというのが出てくるのは,基本的には利益相反に当たるからであるというのが私どもの考え方ですので,その利益相反の桎梏というのを取り除くということをしていただければ,受託者が決めることになるのだということなのではないかというふうに思っております。

  つまり,直接受益者が共有者であるということからここの話がスタートしているということでは,一応はないという前提なのですが。

● 関連してよろしいでしょうか。


  この1と2ですが,2の方は分割の方法について信託に別段の定めがあるときは,定めることができるというふうになっているのですが,1の方は,これは強行法規であるという前提での理解ということでよろしいのでしょうか。


  つまり,別段の定めができるのは,分割のこの方法についてであって,1の識別財産の割合ですとか,そういった問題については強行法規であるという理解でよろしいのかどうかということですけれども。

● ここは,受益権の物権的救済という観点もございますので,強行的なものだということで事務局は理解しております。

● そうすると,信託行為に割合について別段の定めを置いても,それは効力はないということになるのでしょうか。

● はい,そこは信託財産と固有財産の価格の割合によるということですので,信託行為で別に定めを置いても,それはだめではないかというふうに考えます。

● 2の(1)のアの②,「受益者の利益を害しないことが明らかである場合」ですが,この明らかであるかどうかについて,受益者が異議を述べてきたときにはどういうことになるのでしょうか。


このままですと,いつまででもそれを争えるという可能性があって,かえって不安定かなという気もするのですが。

● どんな異議でもいいというわけではないのだとは思いますけれども,しかし異議があるということは,利益を害しないことが明らかであるとは言えないという可能性があって,そういう意味で争えるかと。

  手続の安定性という観点からも多少疑義があるということですね。
  ほかによろしいでしょうか。


● まず,第9のところから。ちょっと言いっぱなしになるかもしれませんが,一言だけ申し上げたいと思うのですが。

  確かに第9というのは,法律家的には問題のない規定ではないかというふうに思います。


しかし,この現行法の14条でしたか,ここの条文というのは,すごく適用範囲が広い条文で,信託の受託者が通常の取引行為をして普通に運営していると,そのときに取得した株式とか不動産とかが信託財産になるというのもこの条文によって説明するし,管理が悪くて,というよりは,違反で売却してしまった,そこで金銭が入ってきたりかわりのものが入ってきた,そのものが当然に信託財産になることによって救済されるというのも14条とか第9によるわけですし,燃えてしまったという場合の救済についても,それが信託財産になるという,オートマチックに信託財産になるという救済が第9によって与えられるわけですね。

  法律家としては非常によく分かるものなのですが,もし仮に,より分かりやすい信託を作るという観点からしますと,通常の信託の運用によって信託事務の執行によって得られた財産が信託財産になるという話と,非常に例外的な,ないしは好ましからざる事態によって得られた代償物が信託財産になるというのを,本当に同一の条文で規定していいのかというのは,何か問題になるような気がします。

  これは,前回申し上げないことを急に今申し上げて大変恐縮なのですが,もし御検討くださるようなことがありましたら,お願いしたいというのが第1点です。

  第2点は,先ほどから出ております第11の問題でございますけれども,いま一歩私も理解できていないところがありまして,あるいは説明中におっしゃったのかもしれないのですが,私が聞き漏らしているだけかもしれないのですが,ある種の株式が1万株なら1万株ある,それは実は6,000株が信託財産であって4,000株が固有財産であると。

しかし,一応株券に番号がついていて特定性があるというときに,じゃ6対4だよねと。


あるいは,6,000株を信託財産にしまして,場合によっては分別管理しましょうなんていうのは,2の(1)のアの②でできる。


つまり,受益者の利害を害しないことが明らかであるという場合にできると。どういうことによってできるという理解でいいのかというのが,第1点です。

  第2点は,ある不動産が信託財産部分と固有財産部分が一緒になった,というか,一つの不動産中にあると。

これは,通常の共有ですと,6対4の共有ですと,ある単独の共有持分権者が全体を売却するということはできないですよね。


自らの持分だけを売却できるということになります。


そうではない,共有状態を解消しようということになりますと,これは分割をしたり,ないしは共有者の連名で第三者に売却をしていくということになると思うのですが,ただある不動産が6対4の信託財産と固有財産の共有になっているというときには,受託者は売ってしまえばいいのかなと思ったりするのですね。

売ってしまえば,金銭になって,6対4になって,そうすると(1)のアの②になって,1億円で売れたとしますと6,000万円と4,000万円に分けるということになると。


  不動産が,例えばそういうふうになっているときに,売却するということ自体は,禁じられるのかどうなのかということについてもお聞かせいただければと思うわけであります。
  ちょっと長くなりましたが……。

● 9の方は,確かにおっしゃるように信託義務違反で処分がされたようなときに,何かかわりの財産が入ってきた。


今のところ,14条でも--14条からそれは余りはっきりしないけれども,そういう場合の財産も信託財産に一応入ってくるというふうに考えられていると思いますけれども,その場合の信託財産に入ってくるというのは,何かある種の担保みたいなものなのですね。

損失てん補とかあるいは原状回復はともかくとして,損失あるいは受託者に対する損害賠償請求権が一方であって,受益者からすると損害賠償の方を選ぶのか,あるいは入ってきた財産の方がどうもよさそうだというのでそっちを選ぶ,そういう意味である種の担保みたいなところがあるので,本来の正当な処分行為によって入ってくるのと少し違ってもいいのかなという気はしないではないのですけれども,しかし違いを設けるとして,何か具体的な違いを明らかにしたような条文が必要なのかどうかですね。

● 法律家的には不要なんだと思うのですよ。規律は多分同じでいいと思うのですけれども,それを一つの条文でやっているのが本当に分かりやすいのかというのが若干私には気になると,それだけの話です。

● あるいは,説明のところでも少し注意すべきことかもしれません。また少し検討してみたらと思いますけれども。


  もう一つの,11の方はどうですか。あるいは9の方についても何か御意見がありましたら……。


● 9につきましては,今の○○幹事の御指摘と,○○委員の御意見なども踏まえまして,説明文中で書くか,あるいは規律をもう少し分けて書くかというところは検討させていただきたいと思っております。


  それから,11に関して2点御質問があったのですが,一つは1万株のうち6,000株と4,000株が分かれているときに,2の(1)のアの②でいいかというのは,これは分別管理義務を果たしているわけですし,受益者の利益を害しないことは明らかである場合だとして,受託者は,この6対4の割合で分けることができるということで,この規律の適用対象だと考えるところでございます。


  それから,あと,では不動産だった場合には,これは受託者は売ってしまえばいいじゃないかとおっしゃった点につきましては,これは確かに売ってしまえばいいのではないかというのがこちらの考えでございます。


ただ,売るに当たっては,もちろん受託者が善管注意義務のもとで,かつ,権限の範囲内でという縛りはかかりますが,売ったことによって金銭になれば,それを6対4で分割するということでいいのではないかという考えでございます。

● ほかにいかがですか。


●  最後の不動産の問題ですが,今の話は,例えば10分の6と10分の4の共有持分になっていて,一方が固有財産で他方が信託財産,そういうような事例なんでしょうか。


それは,そもそも識別不能の話なのでしょうか。その問題とは別にというお答えだったという理解でよろしいですか。

● 識別不能ではないと。やり方としてはそういうやり方でもいいかなと。


● 識別不能には当たらない。共有持分権が財産になっているから,識別可能であると。その例なんですか,不動産の例は。


● はい。


● そうすると,株式が1万株あって,それを一つのプールと考えたときに,それと共有持分という考え方は……。やはり1株1株に番号があって個性があるととれないので,ということなんですか。


● 株式は識別不能になる……。どれに帰属するか分からないということで,識別不能になるのではないかなと思ったのですが。不動産1個というときには,識別不能というのでしょうか。

1個のものなので,およそどの物がだれに帰属するか不明になったという識別不能の定義から外れてしまうのではないかなという気がいたしました。

● 共有持分権というものがはっきりして,共有持分権を信託財産である,固有財産であるというふうに言えるのならば,識別不能ではないというふうに仮に仮定したときに,2の(1)のアみたいなのが働く場面……。1の(1)ですかね。


● 補足させていただきますと,今,○○幹事がおっしゃったのがここで言う識別不能ではないのではないかというふうに申し上げましたのは,言われていた例が二つの不動産が一つになったということをおっしゃっているのかなと思いまして,それですと添付そのものの方なんですが,こちらの方は複数の財産が,複数の財産であるにもかかわらず,帰属が分からなくなったというのを11の識別不能だと呼んでいるという前提でおりましたので,それが違うと。
 


 つまり,1万株の株の方は株自体は1万個あると,その間で帰属が分からない,ですからこれは11の識別不能ですと。


それに対してこちらの方は,不動産ですか,一つになっているわけですので,それは識別不能というよりは添付ですか,現行法であるあちらの問題なのかなという気がしております。


● 二つの不動産があって,そのどちらが信託財産でどちらが固有財産か分からなくなったというふうにおっしゃいましたけれども,そのときには共有になるのでしょう。1の規律によって。違うのですか。甲不動産,乙不動産とあって……。


● 今,実は幹事がおっしゃられた例を取り違えていたのかもしれなくて,それだと申し訳ないのですが,物理的に1個になってしまったというような話ではないわけでございますか。不動産が一つになったというのは。


● ある不動産が共有であるという,それだけの話なんですが。


● 一つの不動産が共有状態になっていると。


● 二つというか,複数の財産があって,固有財産がどれか,信託財産がどれかというのが分からない状態,これがここで言う識別不能。


● 甲不動産,乙不動産とあったときに,1の(1)の規律を入れたときに,6対4だと仮定しますと,甲不動産も6対4,乙不動産も6対4,共有になるわけでしょう。
● そうですね。


● そうすると,もうそれで……。


● 1の規律でそうなるわけね。

● そうすると,もはや2は働かないのですか。識別不能性がなくなることによって。


● 1によって一応共有という形でもって処理されたときに,それを分割するときの規定が2なんだというふうに理解していたけど。


● だから,1の規定によって6対4の共有になった場合と,最初不動産が6対4の共有であるというのと,違うのですか。同じですよね。


● 分割させるという点においてはね。


● とりわけ,2を利益相反の問題が中心なんだというふうに考えるならば,そこに違いがあると思えないですけれどもね。
  いや,どこかで大きな勘違いをしているのかもしれないので……。


● およそそれは,今,共有物の分割の問題ですね,共有持分権が信託財産になっているときの話一般にすべてかかるのじゃないかということですね。


● それだと,つまり2の方法によって分割しましょうという話は,確かにおっしゃるとおりで,1によって生じた共有だけではないという理解が正しいのではないかなという気がいたします。


つまり,これは共有物の分割に関して利益相反を具体化したような条文ということになりますので,そういう意味ではおっしゃるとおりなのではないかと。
  御指摘をちょっと取り違えていたようで,失礼いたしました。

● 今,○○関係官がおっしゃっていただいたとおりだと思います。したがって,第11の2というのは,識別不能の中の具体的な手続ルールというか,出口のルールだけでない位置づけをした方がいいように思われるということになるのじゃないでしょうか。

  ただ,ずっと識別不能から出発して出口を考えていたので,別の入口から入って共有になる場合が,本当にこの識別不能の第11の2の出口でいいのかどうかというのは,今すぐにはよく分からないのですけれども,出口としては別の入口から入った共有の出口があり得るだろうということなのだろうと思います。


● 今,○○幹事が言われたように,一般的な識別不能から始まったのじゃない共有状態のときに,その共有状態を解消する方法としてこれでいいのかどうかということについては,もう一回そういう観点から検討しなければいけない。

● 添付というのが○○関係官がおっしゃったようにありますのとともに,それから恐らく固有財産と信託財産両方の資金を使って何か一つの物を購入するとか,そういう抽象的な問題はあり得ると思うのですけれども,難しいことを考えなければ可能だと思いますので,そういうことによって共有状態というのは生じ得るのだろうと思います。

● そういう観点から,少しもう一回検討してください。
  それでは,ここまでよろしいでしょうか。
  では,先に進ませていただきます。


● それでは,第12から第14まで,これは基本的には信託財産の独立性に関するものでごさいますので,まとめて御説明をしたいと思います。


  まず第12でございますが,信託財産が受託者の相続財産に属しないことを規定した現行法第15条の規定を削除することを提案するものでございまして,前回提案から変更はございません。


すなわち,受託者の死亡から新受託者の選任までの間の信託財産の所有者についての規定のない現行法と異なりまして,この間の信託財産を法人とみなす旨の規定を設けることとした場合,なおこのような規定を設けることについては第6回会議においては特段異論がなかったと思われますが,これを前提といたしますと,信託財産が受託者の相続財産に含まれないことは明らかと言えるから,削除するということでございます。

  次に,「第13 信託財産に対する強制執行等について」というところでございますが,これは信託財産に対してかかっていける債権の類型を限定し,信託財産の独立性を確保する規定でありまして,その提案の本文自体は前回提案と変わるところはございません。

  ここで問題となるのは,受託者が信託事務の処理につき,不法行為を行った場合において,損害賠償債権者が信託財産にかかっていけるかという点でございます。


第3回会議では,少なくとも受託者の過失によってなされた不法行為に係る損害賠償請求権については可能という考えを示しましたところ,信託事務処理上の不法行為につき,債務不履行構成であれば信託財産にかかっていけるが,不法行為構成であれば信託財産にかかっていけないのでは均衡を失することですとか,受託者が不法行為を行ったリスクの負担については,その故意・過失にかかわらず,被害者ではなくて信託財産,最終的には損失てん補請求を受ける受託者が負担するのは公平であるということから積極的な御意見と,他方,受託者の資力によっては受益者が信託財産に対して受託者から十分な求償を受け得ない場合があり得るので,信託財産の独立性,ひいては受益者の利益を害するおそれがあるから,より慎重な配慮が望まれるとして,消極的な意見とが示されております。


  この点につきまして,資料中にも記載しましたが,法人の理事や組合員が不法行為を行った場合には,被害者は,法人財産や組合財産に対してかかっていけると考えられていることとの整合性等も考慮しつつ,いかなる結論をとるべきかというところを御審議いただければと思っております。

  次に,第14の「受託者倒産の場合における信託と倒産手続との関係について」というところでございます。


  第14につきましては,大枠について御異論はございませんでしたが,前回の御審議を踏まえまして,次の2点を取り上げております。

  まず,一般に破産管財人等は双方未履行双務契約の解除権を有するわけですが,受託者が破産した場合には,その破産管財人が双方未履行双務契約の解除権を行使することにより,信託契約を解除することが可能か否かという点が議論がございました。

  審議の中では,その理由はいろいろございましたが,結論としては皆様,信託契約については双方未履行双務契約の解除権の規定は適用されない,すなわち解除することはできないというお考えであったかと存じます。

こちらでも検討いたしましたが,信託財産は破産財団に属しないとしておりますので,信託契約はいわば自由財産関係の契約に類似するということができます。


そこで,以前の会議で御示唆もいただきましたとおり,双方未履行双務契約の解除権の規定は適用されないものと整理することになるのではないかと考えております。

  また,この点は,再建型の手続においても変わりがないと一応整理できるのではないかということで,その旨記載しております。
 


 ただ,他方で再建型については管財人が受託者の職務を行うなどの点において,別の考慮をすべきではないかとの御指摘などもおありかもしれませんので,御意見をちょうだいできればと思うところでございます。


  次に,第2点といたしまして,再生手続又は更生手続におきましては,受託者の職務等を管財人が行うこととしておりますが,その報酬についてどのように考えるべきかという御指摘がございました。
  

この点,検討いたしましたが,資料にも記載しておりますとおり,まず信託財産の管理処分は再生手続又は更生手続上の管財人が行うべき職務そのものでございますので,その対価はいわゆる管財人報酬に含まれまして,管財人はこれを受けることになると思います。

他方で,受託者の固有財産に属する信託報酬の請求権は,再生債務者財産又は更生会社財産に属する財産でございますので,機関としての管財人は信託財産から報酬を受けることができることとなりまして,報酬として受けた金銭は再生債務者財産又は更生会社財産に属することになります。


このように,管財人報酬と信託報酬という二段階の構造になるのではないかと考えておりますので,この点も御意見をちょうだいできればというところでございます。


  その他は,前回説明で記載していたものを,ゴシック体の本文のアステリスクで記載しているところでございます。
  以上で,とりあえず終わります。


● それでは,ここまでで御意見いかがでしょうか。


● 信託財産に対する強制執行のところですけれども,これについては第3回のときでもちょっと意見として申し上げましたけれども,不法行為を行った場合に,信託財産にかかっていけるかどうかということですけれども,この前の議論で,取引的な不法行為とかについては,正に債務不履行との関係で議論を聞いていますとそういうことかなという感じはするのですけれども,やはり一般的な不法行為の場合,余り例としてふさわしくないかもしれませんけれども,例えば不動産を建設するような形の信託事務をやっている際に,誤って人を傷つけてしまったとか,そういうような場合について信託財産に果たしてかかっていっていいのだろうかと。


やはりこれについては,受託者個人の責任としておさめた方が,そこら辺は相当なのじゃないかなという意見を持っております。


● 今,13の不法行為のところですね。なかなか,これも大きな考え方のところで,どういう考え方をとるかということとも関係すると思いますけれども。


  単純に法人と比較すると,不法行為がすべて法人財産に帰属するわけではなくて,信託の場合も同じように,事業の執行につきとか,いろいろな制約はあるわけですけれども,それでも事故型というのでしょうか,今のような建設する際に受託者の過失があるけれども,それによって生じた損害というのは,いわば第三者に事故として生じたようなものである,取引とは関係ないという場合ですね。
 


 私も,ある程度信託財産にかかっていけるべきだと思うのですけれども,どういう制約が適当なのかというところは,ちょっと悩んでいるところです。

今のような取引的な不法行為と事故的なものと,うまく分けることができれば,それも一つの考え方だと思いますけれども,取引的不法行為とそうでないというのと分けるのが,今の事例は比較的簡単かもしれませんけれども,なかなか境界線は難しいかもしれない。


  これは,○○委員は御意見があったと思いますけれども。


● ○○委員がおっしゃっているように,一般的な債務関係におけるところの信託財産への掴取力みたいなところとの権衡があるので,日本の場合,一層難しいと思いますね。
  


アメリカの場合は,とにかく今度の統一信託法典では,今までにない規定を入れて,受託者の責任をこの点でも限定しようとしたのですが,それは,いわゆる故意・過失が受託者に認められない場合,厳格責任があるようなものであれば信託財産にかかっていけるという話なので。

今日ここで議論されているのは,当然受託者個人にしかいけないという部分なんですね。


だから,日本で今議論されている話とは少し落差というのですか--少しだけではないと思いますが,スタートラインが少し違うので,比較するのも難しいような状況だと思います。


● 私自身も悩んでいるところですけれども,求償関係も視野に入れて,最終的にも過失があって,受託者に,例えば信託財産が一遍責任を負うにしても最終的には受託者が責任を負うべき場合であるというようなときになると,何か信託財産に責任を負わせるというのは余り適当じゃないのかもしれないという気もしますし,逆に今度,受託者にも過失があるけれども,信託財産のために行った行為で,観念的には従来の議論からすると求償権はそういう場合でもあるのかもしれませんけれども,むしろ内部的な負担の問題としては求償権を制限して,信託財産の方で本来負担すべき場合であると,法人の場合にも求償権を制限する議論がありますけれども,それと同じように考えて,信託財産の方で負担すべき場合であるということになると,信託財産のところまでいけるというのがよさそうな気がしますし,なかなか悩ましいところですね。


  これ,アメリカの信託法は確かに無過失責任の場合に受託者に対する責任を負わせるのも適当でないし,日本でいえば工作物責任みたいな場合ですね,そこで信託財産について責任を負わせるという規定になっていることはおっしゃるとおりだと思いますけれども,普通,受託者に過失がある場合についても,今度の統一信託法典は信託財産にいけるようにしたのじゃなかったでしたっけ。


● ちょっとそれは,私の理解ではやはりいけない。やはり信託財産には,基本的にはいかないで,伝統的なルールは受託者の個人責任という話でしたから,それをまず契約の方では信託財産による,責任財産は信託財産ですよということを明らかにして取引をすれば,それは受託者の個人財産のところには行かないという,まずそこで一つルールができますね。

不法行為の方は,故意も過失もないような厳格責任についてまでは受託者--だから,伝統的なルールを維持するのはどうかという話で,その場合だけは信託財産へという話にしたので,だから信託財産へいける事例を,アメリカの信託法典というのも従来から比べればふやしているけれども,日本のように普通の取引では当然いけるのだというところからまずスタートしているところと,スタートラインが甚だしく異なっているわけですね。


● 何か御意見があればと思いますが,まだちょっと私も十分詰めていないのですけれども,もしかしたらこの問題は,受託者の個人的な責任の問題とも少し比較しながら議論していかなければいけない問題なのかもしれないという気がいたしております。

ちょっとまだ,どういうところに問題点があるかもまだ私も考えていない,単なる思いつきですけれども,例の受託者の責任制限とか,そういうこととも多少影響する問題かもしれないし,どこかでもう一回,すべての問題を少し関連させて議論した方がいいのかなということだけ思っています。

● 幾つかの要素を考えていく中の一つとして,不法行為によって得た利得が信託財産に含まれる場合とのバランスも考える必要があるかなと思います。

● そうですね,分かりました。
  それでは,この点についてはちょっとまだ少し詰めるべき点があるということで,更に検討させていただくということで……。

● この今の条文のまま置いておきますと,これはどういう解釈になりますのでしょうか。これは,不法行為は一切含まれないという解釈になるのか,それとも,そうとは限らないのか,いずれなんでしょうか。御趣旨としては。


● これは,従来の解釈を16条のもとでどうしていたかということともちょっと関係しますね。そこははっきりしていませんからね。

● あともう一つ,ついでに言いますと,余り関係ないですが,言葉だけの問題ですが,例えば商法23条で名板貸しの責任について,「取引ニ因リテ生ジタル債務」について名板貸し人が連帯責任を負うと,そんな条文があるのですが,「取引ニ因リテ生ジタル」の解釈に,取引的不法行為に基づく損害賠償請求権を含むとか含まないとか議論があって,判例は含むと言っているみたいなのですけれども,ほっておきますと,この条文はむしろ取引的不法行為みたいなものを含む条文として起草されているようにも読めるし,何かちょっと出発点だけ確認したかったのですけれども。

  具体的に細かく書けなかった場合が,どういうルールになるかということにかかわるものですから。

● この文章自体は事務局でつくりましたので,それなりの何か一つの考え方はあるかもしれませんけれども,繰り返しになりますけれども,従来の信託法16条のもとでも全く同じ問題があったわけですから,ここでは議論として不法行為の場合について書いてありますけれども,一応文言自体は従来の信託法の条文とほぼ同じことを書いておりますので,そこは解釈によってということを考えているのじゃないかと思います。

● 従来も,この文言に当たらないという,信託事務の処理につき生じたる権利に当たらないというような解釈はありましたが,その背後には,そもそも不法行為について信託財産は責任適用はないという価値判断があって,この文言の解釈をそれによって言っているのじゃないかなという気がいたしております。


  ここは,文言をどうするかというか,価値判断としてそもそも信託財産に対して責任を負わせるべきかどうかということをまず考えたいと思っております。

前回の審議会の議論は,大きく分けて肯定説と否定説がありまして,さらに肯定説の中でも,取引的不法行為に限るのか事実的不法行為も含むのかという点で,例えば,利益とかリスクの分配というところを重視しますと,取引的不法行為に限らないし,過失も含むと。

しかし,債務不履行との平仄ということを重視すると,どうも取引的不法行為に限るし,場合によっては故意に限るということになるように思われます。つまり,否定説・肯定説の中での広義説と狭義説という三つぐらいの分け方ができるのかなという気がしております。

● 第14の方について,ちょっとコメントさせください。


  第14の方の説明文の中で,双方未履行双務契約の解除規定が適用されるかどうかという話なのですけれども,私は受託者破産の場合のみならず,会社更生,民事再生の場合においても,解除規定は適用されないというルールを作るということに賛成したいと思います。

  また同様に,ここでは受託者の場合を述べているわけですけれども,委託者の場合においても同様に,委託者破産,あるいは会社更生,民事再生の場合を含め,双方未履行双務契約の解除規定は適用されないということにしてはどうかなというふうに思います。

  本日,最初に配布されています流動化・証券化協議会の意見書の6ページのBの1にこの問題を取り上げているわけですけれども,特にアセットバックド・ローン,ABLと呼ばれるようなスキームの,ABLあるいは信託借入れと呼ばれるようなスキームの流動化スキームにおいては,とにかく信託が解除されたり終了しないということが非常に重要でございまして,委託者ないし受託者の倒産によって容易に解除され得るとすれば,これは取引の予見可能性を損なうことになるかと思いますので,ほかに支障がないのであれば,受託者のみならず委託者の倒産の場合においても,信託契約が双方未履行の双務契約とされて,解除の対象になることがないような手当てがあった方がいいのではないかなというふうに考えております。

● ○○委員の後半の委託者の倒産の話について,同じ趣旨で述べたいと思いますが。

  そもそも双務契約かどうかという問題提起については,私の方から第3回の会議で,倒産時の双方未履行解除権が生じないかどうかということを問題提起したわけでして,その点については本審議でも議論をいただき,また今回の資料でも御説明をいただきまして,非常にそれは有り難いと思っております。

  ただやはり,特に流動化などを考えますと,倒産隔離は受託者の倒産のみならず,委託者からの倒産というのも非常に重要でございます。

これは,例えば先般の破産法の改正で,いろいろ委託者からの倒産隔離という観点で,一種の関連してということですけれども,相当価格売買の否認の特例を設けて,なるべく委託者のオリジネーターからの倒産リスクを解除していこうという方向性もあるわけですから,それに加えてここでも明確にしていただければと思います。

  また,民事信託においても,やはり委託者のその後の破産等によって受益者に影響が及ぶということであれば,安定的な信託とは言えないと思いますものですから,よって,やはり実務上は委託者の倒産の場合も解除権の対象外であることが望ましいというふうに考えるわけです。

  それで,本点についても受託者倒産と同様,まずその解釈ないしは機能の整理によって解決できないかというふうに思うわけですが,この点,第3回の審議の事務局の御見解では,双務契約ではないとは言い切れないということだったかと思います。

  では,どう考えるべきかということですけれども,これは議論のたたき台として私見を述べさせていただきますと,委託者が帰属権利者でなければ,受託者倒産の議論と同様に,信託財産が破産財団の外にあると整理され,結果として倒産隔離が図られるという議論になろうかとは思います。

ただ,委託者が帰属権利者の場合というのは,なお疑問が残るということになろうかと思います。

ただこの場合,例えば委託者が全部の帰属権利者ということであれば,経済的には解除権を認めてもよい思われますが,例えば一部の帰属権で,受益権も一部持っているとかいうことも含みますけれども,この場合,当該一部の解除ということで全部信託が壊れてしまうということは,やはり問題が残ると思います。

  とすれば,他の整理が必要になるかと思うわけですけれども,これもまた私見ですが,第3回で申し上げたことを若干敷えんいたしますと,例えばこう考えることができるのじゃないかということで御紹介したいと思うのですが。


  例えば,信託を委任の性質を有する部分と,それから財産移転を有する部分に概念的に分けて,信託の存続に関するものについては後者,つまり財産権の移転がもう信託設定の際に終わっているということで,その分については双務未履行にはならない,双務未履行があったとしても,報酬請求権とかそういうことで,どちらかというと委任に当たる管理の部分であるから,解除権にたとえ服するとしても,管理部分であって,それはちょっとこれはどうかとは思いますけれども,例えば更迭の問題にも収斂されるということであって,いずれにしても委託者が倒産しても信託は壊れないというふうに考えられないかどうかということです。

  ほかにもいろいろな考え方がございますけれども,是非ともこの点について御意見の整理を願いたいなというふうに思っております。


  仮に,もし解釈上は困難であるということであれば,やはりお願いとしては,立法的に解決するということも御検討いただきたいなというふうにも思っております。

● 解除の対象にならないということについては,大体御賛同はされているのだろうと思いますけれども,なお皆さんの御意見を……。


● 2点ございますが,まず14の53条の解除権の話ですけれども,受託者破産の場合に,53条の解除権の適用がないというのは,これはそれでよろしいのだと思うのですが,この30ページの説明の書きぶりですと,委託者破産の場合に53条が及ばない説明がなかなか難しくなるのかなと思います。

  現在のところの私の試論,つまり試みの論としては,やはり委託者破産の場合に53条が働くというのは何かおかしくないかなという気がしまして,解釈でやるとすれば,近時判例法で種々展開されております解除権を制約する法理がいろいろな形で働いてくるということがあるのかもしれません。

ただ,それで不明確だということであれば,あるいは立法が必要だということになるのかもしれません。


この辺はまだ引き続き考えられると思いますが,いずれにしてもこの30ページの上の方に書いてあるのですが,2の①について書いてある理由だけですと,委託者破産の場合に53条の適用がないことは説明し切れないのかなという気がしております。以上が第1点です。

  それから第2点ですが,同じく30ページの「3 ②について」の,これは前回の私が申し上げたところに関係するわけですけれども,この説明を読ませていただきまして,整理としてはこういうのでいいのかなと。

つまり,いったん受託者の固有財産から共益費用として上がっておいて,あと受託者の固有財産は信託報酬の請求権を持つというふうな二段階の構成でいいのだろうと思います。

  前回,管財人報酬という形でお話をしましたが,それで説明もそういう話に合わせて,管財人報酬に合わせて書いてありますけれども,結局信託財産の管理に必要な費用は,全部多分入ってくることになって,前回はその一つの例として管財人報酬を取り上げたのであって,管理に必要な費用は多分全部入ってきて,同じような説明が当てはまることになるのじゃないかと思いますので,その点はつけ加えさせていただきたいと思います。

● 恐らく,余りここは対立点はないのだろうと思いますけれども,説明の仕方,あるいは信託法の中でどこまで規定できるのかとか,そういう問題があるのだと思いますね。

● ○○委員から,先ほど委託者の破産の場合に,破産管財人の解除権というお話がございまして,双方未履行の双務契約と言えるかどうかというので,一つは報酬がという話がありました。


ただ,報酬については信託財産からというのが,少なくとも今度の新しい提案ではそういうことになっているということでして,報酬は委託者が負担するという意味で双務契約になるということはないのかなという感じがしております。
  


それとは別に,先ほど少しおっしゃっていたかと思いますが,帰属権利者としての権利,これがあることによって双務契約と見られるおそれがあるのではないかというのが主たるお考えということでよろしいのでございましょうか。

● 前者の場合でも,仮に信託行為等で委託者が報酬を払うといった場合に,同じような問題が起こるのではないかとは思うのですけれども。


● それが,つまり債務引受けみたいなものを第三者がした場合と見るなどして,それは双務契約というよりかは信託契約の外側でやったのだというふうに整理することも可能かなと思いますが。
  そういったあたりを御懸念されるということですね。


● そうですね。


● 具体的な中身について,念のため確認させていただきたいのですけれども。
 


 委託者の倒産の場合で,同じ資料の第1の「信託の定義等」のところで,「信託契約の効力」ということがございまして,合意によって効力が発生する,その際には信託財産の引渡しというのはその後ついてくるということですから,信託契約自体がまだ財産を引き渡さない段階でなされているという場合に,その場合についてもやはり双方未履行双務契約であるということで解除の対象にはならないということも手当てをすべきなのかと。

  それから,追加して出すというような約定になっていたような場合どうか。

財産権の移転関係自体が履行されてないというところも含めて,解除権を排除すべきなのか,そこはいいということなのか,ちょっとそこだけ少し確認させていただければと思います。

● 先ほどの○○委員の御意見だと,追加のやつは別として,当初の設定の段階でまず最初に移転していないようなときは,これは双務未履行と言われてもしようがないだろうと。


● それは,もちろんできればということがありますけれども,そこまではちょっと難しいかなというふうには思っております。


● そこも含めて,じゃもうちょっと検討していただきたいと思います。


● あわせて検討いたします。

● よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,もうちょっと先まで進めさせていただきたいと思います。


● では第15から第17までを御説明申し上げます。

  まず相殺でございますけれども,資料の32ページになりますが,まず<説明>の2,3に関する点から先に御説明いたしますと,これは前回提案におきましては,この資料の33ページの1(2)ですとか,2にありますとおり,信託の債権と信託外債務,固有財産あるいは別の信託に属する債務について,受託者から法定相殺をすること,及び相殺契約を締結することがいずれも原則として禁止されることを明示していたことに関するものでございます。


前回の提案は,このような相殺は,受託者と受益者の利益相反関係が生じる典型的な場合と考えられることから,定型的に原則相殺禁止に当たる類型であるということを明らかにする処置でありまして,受託者の忠実義務の内容を相殺の場面で具体化した場合の考え方を明らかにしたものでございましたが,第3回会議におきましては,相殺の規律の中で,利益相反行為の禁止に関する規律を提案すると,両者の関係が不明確になるおそれがあるとの指摘がございました。

  そこで,今回の提案では,このような指摘ですとか,あるいは前回の提案内容には明示されておりませんが,信託債務と固有財産に属する債権との受託者からの相殺につきましても,固有財産からと信託財産からとの競合貸付けがされている場合など,結局は利益相反行為の禁止に関する規律によらざるを得ない場合があり得ることなどを踏まえまして,資料の32ページの2,3に記載しましたとおり,考え方自体は前回提案の内容を維持しつつも,実際の条文化に当たりましては,受託者が行う法定相殺及び相殺契約につきましては,相殺が問題となる場面であるとはいえ,いずれも受託者の行為に関するものであることを中心的にとらえまして,受託者の利益相反行為の禁止に関する規定の方に一本化することを明らかにすべく,相殺に関する提案の内容にはあえて含めないことといたしました。

ただし,今回の提案の1において,ただし書として,受託者の承認というものを含めておりますが,これも利益相反行為の規律に関連する受託者の行為ではありますものの,受託者の行う相殺については利益相反行為の規律に従ってその効力が定まることが比較的明らかであると考えられることに比べまして,第三者からの相殺が効力を生じない場合においても,受託者がこれを承認することによって相殺の効力を生じさせることができるかについては,利益相反行為の禁止の規律からは必ずしも明らかではないと考えられますことから,これができるとの考え方をとることについて,実際に条文化するか否かはともかく,ルールとして明示しておくことが妥当であると考えたからでございます。
  


次に,資料31ページの1に関する点でございますが,これは信託債権と信託外債務,例えば固有財産における債務につきまして,第三者が法定相殺をした場合に受託者がこれを承認した場合の相殺の効果と,承認前に自働債権であります信託債権を差し押さえた債権者の差押えとの優先関係に関するものでございます。

  この点に関しましては,前回提案時には,相殺の効果は相殺適状時にさかのぼり,差押えにも優先するとの説明をいたしましたが,債権譲渡と相殺の優先関係に関する平成9年の最高裁判例との関係を検討する必要があるとの指摘がございました。


そこで,再検討いたしました結果,最高裁の事案も本件の場合も,いずれも本来効力が認められない行為が事後的に有効となる場合である点において共通するものであること等にかんがみれば,同様に解すべきものと考えられますことから,前回提案時の説明を改めまして,差押えが優先することになると考えるものでございます。
以上が,相殺に関する変更点の説明でございます。
  

次に,「第16 信託財産との混同について」でございますが,これは信託財産と固有財産との間では混同が生じないことを規定した現行法第18条,それから第22条第2項の規定の内容を,解釈上のみならず明文上も広げ,ある信託財産とこれと同一の受託者に属する固有財産又は他の信託財産との間では,物権の混同も債権の混同もおよそ生じないことを明文化することを提案するものでごさいまして,前回提案から変更はございません。
  

それから,第17の「委託者の占有の瑕疵の承継について」ございますが,これは受託者が委託者の占有の瑕疵を承継する旨を規定した現行法第13条の規定を削除することを提案するものでごさいまして,前回提案の方向性を進めるものでございます。


  現行法の趣旨は,信託を利用して占有の瑕疵を治癒するという濫用の危険をあらかじめ定型的に排除しておくとの観点から,民法第187条の特則を設けたものと思われますが,受託者が一律に委託者の占有の瑕疵を承継するとの,いわば硬直的な規定を設けるよりは,民法の原則を前提とした上で,信託の濫用の危険に対しては,受益者の主観的態様等も考慮した上で,脱法信託ですとか公序良俗等の規定によって柔軟に対応できることとする方が望ましいと考えるものでございます。
  以上で終わります。


● それでは,ここまででお願いします。


● 相殺のところでございますけれども,相殺の方の規定につきましては,基本的な方向性については賛成ということですが,2点ばかり確認させていただきたいと思います。
  

一つは,現行の実務では貸付信託とかの損失補てん契約のある信託につきましては,第三者と相殺に係る契約を締結してもいいですよということを信託契約の方に書いた上で,それで第三者との相殺についての--相殺の予約契約ですけれども,それを締結して,第三者に預金保険事故が発生時に予約の完結権を与えるというような形のものをやっているのですけれども,信託勘定で借入れを行っている第三者からの相殺についての予約完結権が行使される前に,信託債権者から差押えがあっても……。


済みません,相殺が差押債権者に優先するというふうに考えていいかどうか,それをちょっと確認させていただきたいと思います。これが1点目です。

  もう1点は,第8回の会議で,受益債権というのが他の信託債権に常に劣後しますというようなお話がありましたけれども,ある信託で,他の信託債権がある場合でも,ここで言う2番の相殺ができるのかどうかということで,多分これはできるのだと思うのですけれども,その場合は受託者が承認を行うというような要件が入っていますので,そのときに承認を行ってしまうと,債権者が損害を受けたというような形で,受託者が損害賠償請求を受けることがあるのかどうか。この2点,ちょっと確認させていただきたいと思います。


● ちょっと後の方はよく分からないけれども,最初の方は,いわば相殺の契約が最初からあるという場合ですね。
  最初から相殺の契約があって,それが利益相反行為には当たらないという場合に,改めて受託者の承認というのは必要になるのですか。


● 必要ないと思いますので……。


● 相殺が勝つのじゃないですかね。


● 1のところの規定というのは,基本的に法定相殺のところの部分のことを考えていて,相殺契約についてはここの中から外れてしまったところでの話ということ。

● 利益相反行為の禁止の例外に当たれば相殺契約はできますので,ここに書いてあることとは違います。


● 後者の方は,直ちにはよく理解しなかったけれども,2との関係ですか,受益債権……。ごめんなさい,十分理解していなくて。どこを問題とされたのでしたっけ。

● 例えば信託の受益権があって,その人に対してお金を貸していましたというようなときに,先方から,要するに債務者の方から相殺の申出があって,そのときに基本的には普通の一般債権が別にある場合については,劣後するということであったとしたら,相対劣後する債権であっても,果たしてそれ相殺してもいいのかどうか。

  多分,何かそれはできるのではないかなという気がするのですけれども,ただ相殺するに当たって受託者が承認するというふうな要件が入っていますので,それによって,受益者ではなくて第三の信託の債権者を害することが起こり得るのではないかなと思うのですけれども,そのときに承認を与えたということで債権者の方から何らかの形で損害賠償請求を受けるとか,そういうようなことはあるのかなと。


● そうですね,信託債権者一般と受益債権を持っている者とでもって,受益債権の方が劣後するというふうに考えたときの話ですね。

  直ちに結論は出ないけど,まず相殺がだめだとは恐らく言えないですよね。受託者が承認したという条件が入るために,その責任を問われるかということですけれども……。
  どうですかね,ほかに何かちょっと御意見があれば……。


● 難しい問題にかかわるので自信がないのですけれども,受益債権者が持っている受益債権がどれだけの量であるのかという問題にかかわってくるように思うのです。


信託債権の方が優先しなければ困る場合というのは,要するに十分に信託財産がない,信託の負っている債務を弁済するだけの財産が信託財産,積極財産にない場合に,そういう問題が生ずるのだろうと思うのですね。


そうすると,そのときに果たして受益債権が相殺をするに足るだけのものがあるのかどうかということが問題になってくるのではないかと思うのです。


  ただ,常にリアルタイムで評価をして,受益債権というものの経済的価値とともに,いわゆる法律上の額面というのでしょうか,それが出さないようなタイプの信託がもしあるとすると,おっしゃっているような問題が出てくるのだと思うのですが,常に抽象的にはその段階でのいわゆるバランスシート上の純資産に当たる部分を受益債権は表象しているものなんだというふうに考えるならば,そこに額があるならば信託が負っている債務の債権者を害するような相殺というのにはならないし,信託が負っている債務の債権者を害するような相殺になる場合には,受益債権はゼロだから,結局相殺の意思表示をしても空振りなんだということになる,それが基本なのではないかなというふうに思います。

したがって,承認を与えたがゆえに損害が生じているじゃないかというような問題には,本来はならないのではないかと思います。

● 相殺ですからね,現実にお金を受益者に渡すわけではないので,受益権の価値がその場合には,いわば信託財産が足りないために債権者の方が持っていった残りしか受益権がないというふうに考えると,受益権との相殺をしても,債権者が害されることはないと。


そういうふうに整理できれば,問題ないのかもしれませんね。
  とりあえずは私も納得したけれども……。


● 今おっしゃっていた純資産の額で変動するというのは,例えば金銭債権の額面そのものが変動するということになるわけでしょうか。


つまり,その時点で裁判をしようと思ったときに,私が持っている債権というのは金幾ら幾らですと,支払えという前提として,認識するその債権の内容そのものが変動するということですか。


● 実質的にはそうではないかと思うのですが,ただ余計なことは言わない方がいいのかもしれませんが,会計年度があって,年度末にある一定の操作,というか,作業をした,手続をした上で,受益債権の額を認識して,しかしその後生じた財産の減少というものを,今のような場合にどういうふうに反映させるのかという問題はあるのだろうと思うのです。そこはよく分かりません。

● それは,信託の受益債権一般にそういう性質があるというお話なのか,あるいは合同運用なんかを典型例とするような,期間収益を計って受益の内容を定めるという契約がされている場合にはということなのでしょうか。


  つまり,ある時点においてある種の財産,株式を渡しますというような債権が仮にあるとた場合には,純資産額で決めると申しましても恐らく決め難いのではないかと思いますし……。


● 揚げ足をとるようですけれども,そういうときには相殺はどういう形で問題になりますでしょうか。


● それでは相殺はできないということです。
  ただ,○○幹事が先ほどおっしゃったのが,受益債権一般の性質として変動するというお話……。


● 限定を付して,相殺が問題になるような場合の考え方の基礎に置いたらどうかというにとどめておいてください。

● よく理解できないのですが,受益債権が,例えば額が決まった,毎月なり毎年なり幾ら払うという受益債権で,しかし流動性が低くて今は払えないので,そこで受託者の固有財産の方から受益債権を払うということはあり得るわけですよね。

この相殺の2の局面というのは,固有財産からの支出で相殺をするという話ですから,受託者が相殺ではなくて,自分の現金で受益債権をとりあえず月々払わなければいけないので払ったと,だけどその段階で流動性の資産だけじゃなくて,取った後もばあんと下落していて,信託財産の方の借入金も実は払えないような状態であったというような局面が問題なるかと思うのですが,そのときに,月々幾ら払う,毎年幾ら払うという受益債権であったときに,総財産全体からするともはや払えないのだから,受益債権のこの金額は切り捨てられるということは,やはりないのじゃないかという気がするのですけれども。そうだとすると,相殺はやはり額面で起こり得る話ではなかろうかと。


  その場合なのですけれども,結局その後どうなるのかを考えますと,固有財産から支出しているわけですから,信託財産に対して求償権が立つと。


この求償権と,それから受益債権代位構成でいく可能性があり得るわけですけれども,そのときに例の受託者の求償権の優先関係がどうなるのかということで,もとの債権者に対して,支払いをすることによって求償権を取得した場合には,もとの債権者の地位と同じ立場に入るという仕組みにしているのではないかと思いますので,そうすると求償権自体は受益債権者と同じ立場でしか行使できないということになるのだとすると,そもそも受託者が信託財産から取っていくときに,既に劣後するという形になるはずで,もしそうだとすると,受益債権の相殺を認めたことによって,信託債権者より優先してより取っていけるという地位が認められるわけではないので,その意味で損害賠償というような話にはならない,そういう説明になるのじゃないかと思ったのですが。
  


ただそこは,求償権の優先関係等についての規律が決まらないと,この関係で例えば代位的な構成と求償権本体と二本立てみたいに考えて,こっちは同列でいくのだみたいなことになると,劣後するものに払うことによってより優先的な債権をつけているということになり得ますので,損害賠償の話は出てき得るのかと思いますが,そうでない扱いをするのであれば,そこの問題はないのじゃないかと感じたのですが。


● 恐らく,劣後する方の債権を優先的に弁済するという関係にはしないというふうに理解していましたけれどもね。今の,○○幹事の話のとおりだと思いますけれども。

● 受益債権が求償権に変わるだけで,順位は変わらないという話ではないでしょうか。

● なかなか複雑な問題なので,もう一回求償関係の問題も含めて考えたいと思いますけれども。


  どうも先ほどのお二人の意見は,多少違った局面を問題にされてはいますけれども,少なくとも債権者を害するような形でもって弁済されることはないだろうということでは一致しているのではないかと思います。


  ほかの点も考えなければいけないので,少し今の局面に関連してもうちょっと検討してもらうことにいたしますけれども,ほかの点についてはいかがでしょうか。

● ちょっと相殺から離れてしまって申し訳ありません。混同ですが,難しいことではないと思うのですけれども,今日の早い方でありました第6との関係について,ちょっと申し上げたいと思います。

  先ほど,○○幹事から,信託の受益権を当該信託財産が取得したらどうなるかというような話がありましたが,それは恐らくこの第16で混同によって消滅しないというものに当たらないので,本則に戻って混同によって消滅するという原則的な規律のもとに置かれるのではないかなと思います。


しかし,先ほど○○幹事が繰り返し注意を喚起してくださったように,有価証券化しているような場合には,また別の考え方があり得るとすると,信託財産の中に当該信託の受益権が,極端な場合ですと全部入ったままになってしまうという場合に,恐らく第6と同じような,あるいはより強いものなのかもしれませんが,規律を設ける必要が生じてくるのではないかと。何かそういうことになるのではないかと思います。


  第6については,先ほど御検討してくださるということでしたが,第16との関係で今のような位置関係になるのじゃないかなと思います。御参考になれば幸いです。

● 今のは気がつきませんでしたけれども,16との関係ですね。
  さっき言われたように,信託財産でもって受益権を取得したときというのは,本則に戻るのかな。

● 債権及び債務の場合という,第16の2。債権・債務そのものではないのかもしれませんが,信託受益権というのを債権あるいはそれに準ずる権利としますと,それに応じて受託者が負っている義務というのは,ここで言う債務又はそれに準ずるものになろうかと思いますので,それが固有財産で受益権を持っているときにはこの第16の2の考え方に基づいて混同しないと。


しかし,それを全部持っている場合には,そのまま放置するのは,正に第6の説明にあるような理由で適切ではないので,相当期間で終了するという効果を与えることによってそれを解消させようとしていると,そういうふうに位置づけられるのではないかと思います。

● 固有財産でもって受益権を取得した場合の話ですか,今のは。


● 最後に申し上げたのはそれで,しかし当該信託財産で受益権を持っている場合というのは,第16で混同によって消滅しないというのに当たらないのだろうと思います。

● 後の方から言うと,信託財産で受益権を取得した場合には,そもそも混同の原則に入ってこない。

受益権というのが何に対する権利かということでもありますけれども,信託財産に対する権利,というか,信託財産を引当財産として受託者に対して請求できる権利だというふうに考えると,信託財産が取得したからといって,債権・債務が混同している状態が生じているわけでもないのじゃないかという気がするのですね。

● 分かりました。混同になるというところから出発するというのは……。


● 信託財産で取得した場合にはね。
  ただ,そういうふうに今度考えたときに,では固有財産で取得した場合はどうかと。今までは混同に当たるか考えていなかったのだけれども,今の説明からすると,今度こっちは混同になりそうな気もしてきて……。


● 私は,強いて言うならば第16のような考え方で,固有財産が持っている場合には消滅しないと。

● 結論はいいのですけれども,その説明の仕方としてね。
  どなたか御意見があれば……。
  ちょっと説明の仕方は検討させてください。結論はおっしゃるとおりでよろしいと思いますけれども。--よろしゅうございますか。
  ではここで休憩いたしましょうか。

  (休     憩)

● それでは再開したいと思います。
  


あと資料11の方ですね。それでは,これも○○幹事の方からお願いします。
● それでは,まず善管注意義務と分別管理義務,それから信託事務処理の委託というところの三つにつきましての御説明をしたいと思います。

  まず,善管注意義務でございますが,前回提案から特に変更はございません。

  なお,第4回会議におきまして,受益者の立場からすれば善管注意義務に関する個別的な規定も設けた方が望ましいのではないかという意見も示されました。

しかしながら,第1回会議と第4回会議で御説明したことにも関連いたしますが,まず善管注意義務の個別具体的な内容は,信託目的,信託条項その他の当該信託に係る諸事情によって異なり得るところを,どこまで具体的な内容の規定を設けるべきかについては,明確な基準にならないということ,それから信託に特有の柔軟性を生かして今後様々な新形態の信託スキームの発展があり得ることからしても,個別具体的な内容の規定を設けることについては,そもそも限界がありまして,かえって信託スキームの発展の足かせにもなりかねないということ。


更に,受益者の利益の観点からいたしましても,個別具体的な規定を設けることは,かえって善管注意義務の内容がその点のみに集約されるかのように制限的に解釈されるよすがとなるおそれもありまして,このような危険を招くよりは,むしろ一般的な規定を設けるにとどめた方が,様々な信託スキームの内容に応じて柔軟かつ適切な注意義務を受託者に課すことが可能となり,受益者の利益にも資するのではないかと思われることなどにかんがみまして,受託者の善管注意義務については,やはり一般的な規定を設けるにとどめ,それ以上に個別具体的な内容の規定を設けることとはせず,解釈に委ねることが相当と結論したものでございます。


  続きまして,第21の「分別管理義務について」でございますが,これも前回の提案から実質的な変更はございません。
 


 なお,実務的な観点から,第1回会議におきましては,どのようにすれば分別管理義務が果たされているのか規定上明確であった方が望ましいとの意見がありまして,更に第4回会議におきましては,提案の規律ぶりからは信託の登記・登録をすべきこととされている財産については,常に必ず登記・登録をしなければならないようにしか読めないが,受託者とされるべきものが経済的苦境に陥ったときには,遅滞なく信託の登記・登録をすることが約されているのであれば,なお分別管理義務が果たされているのであるとの趣旨が,規定上も明確になることが望ましいとの意見もございました。

  しかしながら,信託財産の種類ごとの具体的な分別管理義務の履行の在り方について,私法上の基本法たる信託法において,一々規律を設けることは,際限もなく困難であると言わざるを得ず,信託法上の規律としては提案内容にとどめ,登記・登録の具体的な意味内容が常に必ず登記・登録をすべきというわけではなく,指摘のような趣旨にとどまること,あるいは登記・登録すべきこととされていない信託財産については,当該信託の性質に応じて最善の状態で分別管理すべきこととする場合のその最善の状態がどのようなものであるかにつきましては,いずれも解釈によって対応することが望ましいと考えるものでございます。

  また,第4回会議におきましては,信託財産間においては,信託行為の定めがなくても分別管理を要しないという例外を認めてほしいとの意見もあることが紹介されましたが,受託者個人の債権者から信託財産を隔離することのみならず,受託者が複数の信託を受託している場合には,ある信託の信託財産を他の信託の信託債権者から隔離することも,信託制度の中核をなすものと考えるものでごさいまして,たとえ信・信間におきましても分別管理義務の例外を認めるためには,信託財産が金銭でない限り,信託行為の定めを要するものと考えております。


  なお,前回資料で,要検討事項としておりました信託財産に帰属する債権を固有財産に帰属する債権等とあわせて被担保債権とする担保物権を取得すること等についての規定を設けるものとするかという点につきましては,忠実義務との関連で検討することとしたいと考えております。

  それから,第4回会議で指摘のあった預託株券や振替株式等の取扱いについては,信託の公示と関連して,追って検討することとしたいと考えておりますことを付言させていただきます。

  最後に,「信託事務処理の委託について」というところにつきまして御説明をいたします。


  第22でございますが,これは第三者に対する信託事務処理の委託に関しまして,現行法26条より広く,相当な場合には可能とすることを基本に据えつつ,第4回会議における事務局の提案,及びこれに対する批判を踏まえまして,更に新たな修正案を提示するものでございます。


  まず,1につきまして,5ページに,前回の提案が書いてありますが,前回提案から,「ただし,信託行為に別段の定めがある場合には,この限りでないものとする。」を削除いたしました。


  この点に関しまして,第4回会議におきましては,他人の信託事務の処理を委託することが相当な場合であるか否かの判断に当たりましては,信託契約における委託者と受託者との合意内容,これは委託された信託事務の内容からも明示的又は黙示的に認められ,あるいは合理的な意思解釈が可能な場合もあると思うわけですが,このような合意内容が極めて重要な意味内容を持ってくると思われる,そうすると相当な理由の有無と別段の定めとは大幅に内容的に重なるのではないか,しかるに,本文で「相当な場合」という要件を書き,ただし書で「信託行為に別段の定めがある場合」という要件を書くと,両者の関係が分かりにくくなるのではないかとの指摘がございました。


このような指摘は正当と思われますので,今回の新たな提案におきましては,信託事務処理の委託に関する別段の定めの有無及び内容,これは委託の可能性をより緩めているものと狭めているものと両方向あると思われますが,このような別段の定めの有無及び内容も,相当性の判断の一環として考慮されるべきものであると位置づけ,ただし書を削除することとしたものでございます。


  信託行為における定めの内容が,委託の相当性の判断においてどのように考慮されるかについての事務当局の考え方の一端につきましては,4ページの上の方に記載したとおりでございます。


  続きまして,2でございますが,これは前回提案から変更はございません。

受託者としては,善管注意義務のもとではあれ,自由に第三者に信託事務処理を委託できるというわけではなくて,委託することが相当な場合であることを要するのでありますから,このような要件をクリアして,適法に委託がなされたものである以上,受託者の責任を原則として選任監督責任に限ったとしても不合理ではないこと,他方,相当な場合でもないのに,違法に委託がなされた場合には,既にこの点において受託者の義務違反があるわけでありますから,受任者の故意・過失の有無にかかわらず,かかる違法な委託と因果関係のある損害については責任を免れないというべきこと,以上の考え方を明文化したものでございます。

  ただし,受託者の責任が選任監督責任であるというのは,委託が適法になされた場合の委託者,受託者の通常の意思を推測したデフォルト・ルールにとどまるものでございますので,具体的な事案に応じまして,委託者,受託者の属性ですとか,信託事務の内容と委託された事務の内容との比較対照などから推測される委託者の通常の期待内容,あるいは委託者,受託者間の合意内容,すなわちどこまで約束していたかなどの事情によって変動すべきものと思われます。

したがって,これらの事情によりましては,受託者は,最終的な履行まで責任を負うべきであり,すなわち受任者の故意・過失についてまですべて責任を負うべき場合,逆に受託者としては適切な受任者に依頼すれば足り,すなわち選任責任にとどまるような場合,あるいは受任者に選択の余地はなく,あとは監督責任といってもせいぜいモニタリング責任にとどまるような場合などもあり得ることになると思われるところでございます。


  最後に,3につきましては,前回提案のうち,第三者たる受任者の責任に関しては,何ら規定を設けないという方の案を提案するものでございます。

  受託者の責任に関しましては,会議当初にお配りいたしました報告書のみならず,前回提案におきましても何ら規定を設けないという今回の提案のほかに,6ページに書いてございますが,受任者が信託事務処理の全部又は重要な一部であることを知って委託を受けた場合には,受託者と同一の責任を負うことを原則としつつ,正当な理由があれば,受託者は,受任者との間でこの責任を減免する特約を締結することができるとの案も併記してまいりました。

しかし,後者の案に対しましては,第1回会議及び第4回会議におきまして,理論的な観点から,受任者に対して,委託契約に直接の相手方たる受託者を超えて,その背後にある受益者に対する責任までも負担させるためには,委託を受けた事務が信託事務であることを受任者が認識しているというだけでは足りず,職務の一部を受託することを通じて,自らも受託者としての任務を分担するのだという,いわば客観的にも主観的にも受託者と受任者が共同受託に類するような積極的な関係が認められることが必要ではないか。

また,実務的な観点からも,受益者と相対しているのは受託者の方であるから,委託先の責任についても受託者が前面に立って追求していくのが実務感覚に適するという意見ですとか,重要な一部とか受託者と同一の責任という内容は不明確であるなどの種々の問題点が指摘されたところでございます。


  このような指摘を踏まえて検討いたしました結果,そもそも不明確な内容の責任を,単なる受任の認識のみをもって負担させることは,受任者に対する萎縮効果を招き,信託事務の効率的な処理のためにも有益ではないと観念されることを考慮いたしまして,受任者の受益者に対する責任の規定は設けないことといたしました。

  その結果,受任者の責任内容は,受託者との委託契約によって定めるべきこととなりまして,現行法と異なり,受益者としては,この委託契約の中に,例えば受任者は信託財産に生じた損失をてん補する責任を受益者に対しても負担するといった条項があることによって,受任者に対して直接に受益者が責任を追及することができる場合,このような条項はいわば第三者のためにする契約としての性質を有するものと見て,ここで第三者にあたる受益者は契約から生じる利益を享受して,受任者に対する責任追及をすることができると解することができると思われるわけでございますが,委託契約の中に特別の条項がない場合には,受任者に対する責任を追及することはできなくなると思われるわけでございます。


  そこで,このような結論をとることは,受益者の保護の後退につながりはしないかとの懸念があり得るわけですが,しかし受益者の利益は資料の5ページに記載しましたとおり,その責任の内容に応じまして,受託者がしかるべく受任者の責任を追及し,あるいは受益者が受託者に対して善管注意義務違反の責任を追及することによって,遺漏なく図ることができると考えるものでございます。
  以上でございます。

● それでは,ここまでで御議論をお願いします。

● 幾つかあるのですけれども,まず確認の質問をさせていただければと思います。


  第22の「信託事務処理の委託について」の部分で,3ページの一番上の1で,「信託事務処理の委託をする権限」で,「相当な場合には,他人に委託をすることができるものとする」とされているわけで,この点について現行法で言われていることとの関係で,これをどう理解されているかという点についての質問ですが,現行法では信託法26条の解釈として,26条が適用されるような,いわゆる代人というものと,現行法26条が適用されない類型である狭義の履行補助者というのでしょうか,手足として使うようなものですね,この二つを分けて,26条が定めているのは代人についてであって,その狭義の履行補助者は26条は適用されない,つまり狭義の履行補助者はいつでも使ってよいと,そのかわりに受託者は,狭義の履行補助者の行為についてはすべて責任を負うのだというような議論が行われていたかと思います。


この新しい第22の説明において,この代人と狭義の履行補助者の区別というのは,今後も維持されるという前提で考えておられるのでしょうか。それとも,そうではないとお考えなのでしょうか。この点をまずお聞かせいただければと思います。


● 御指摘の点につきましては,そのような区別は維持するものと考えております。
  


若干敷えんいたしますと,ここでは信託事務処理の委託に当たる,何が委託に当たるかというのは,原則として定義は設けないということで,例えば専門家に委託する場合,あるいは運送業者に委託する場合,それから例えば中央集中的なカストディーに委託する場合,これも本条の適用対象からは外しません。

  しかし,そのような独立性のある法主体に対して委託する場合は本条の適用対象と考えますが,独立性がない狭義の履行補助者,典型的には会社の使用人ですとか,そういうものにつきましては,本条の適用対象からは外れるわけでして,その辺については受託者は全責任を負うと,そういう独立性のある法主体である受任者につきましては,本条の適用対象になる。このような区別で考えているものでございます。

● つまり,狭義の履行補助者というのは,常に利用することができるという前提で,それ以外の信託事務の処理を委託することというのは,本来は常にできるわけではないのだけれども,そのような委託をすることが相当な場合にはできると。


そのかわり,相当な場合という,特別な場合なのだから,選任監督の責任に限定するというのが御趣旨だということですね。


● そういう流れでございます。

● これは,第1回のときから指摘させていただいていることで,そして第1回で言われていたことに比較しますと,これははるかによくお考えになったロジックかなというふうには思うわけですが,その上で,しかしなお本来の質問といいますか,意見を述べさせていただきますと,他人に信託事務の処理を委託することが相当な場合には,いろいろな場合があり得るだろうと思うのですが,そういう場合に,常に選任監督について責任を負うというので本当にいいのだろうかというのが聞きたいポイントなのですが。
 


 要するに,委託者ないし受益者の方から見ますと,受託者自身が信託事務を行うのではなくて,他人を使うということは別にあってもいいだろうと,そして信託事務の性格からすると,そのような他人を使うということは合理的な理由があるし,使ってもよいだろうという場合に,そういう場合に常に選任監督についてのみ責任を受託者が負うというだけなのかというと,きっとそうではなくて,他人を使ってもいいけれども,それはその受託者が使われた他人の行為についても責任を負ってくれるからそれで構わないのだというふうに考えるというのがあり得るだろうと思いますし,そして先ほどの御説明の中も,そういう可能性自体は排除されていなかっただろうと思うのですね。


そういった点から見ますと,この2の(1)のデフォルト・ルールという言い方をされましたけれども,本当にこれでいいのだろうかというのが,今なおちょっと私,よく分からないところでして,他人を使うことが相当な場合に常に選任監督の責任に限定されるというよりは,むしろ--言い方がなかなか難しいのですけれども,他人を使ってよく,かつその他人を選び,かつ監督するということをその受託者にゆだねたような場合には,正に選任し監督することについて過失がある場合についてのみ,その受託者というのは責任を負うということにとどまる。


  つまり,他人を使ってよいかどうかということだけではなくて,その受託者に他人を選び,かつ監督することを委ねるというのですかね,そういう信託行為・信託契約である場合に,初めて選任監督についてのみ責任を負うというデフォルト・ルールが出てくるのかなというふうに私自身は理解していました。

そういう観点からしますと……,これ,どう書くかというのは本当に難しいというのはよく分かるのですけれども,あくまでも基準になるのはどういう信託契約が行われたかということであり,そしてその信託契約に基づいて,受託者に何がゆだねられたか,そのゆだねられた内容が他人を選び,かつ監督するということにとどまるというような場合であれば,選任監督上の過失に限定されると。

そうではない,他人を使ってもよいということだけであるとするならば,本来はその受託者が信託事務を遂行しないといけないわけでして,何か免責される,減責されるような理由というのは直ちには出てこないのじゃないかなという気がいたします。

  ちょっとまとまりのない表現で申し訳ありませんが,以上です。

● ○○幹事の場合,どちらを……。今の,他人を使っていい場合,原則はむしろ選任監督だけでなくて,それ以外の全部の責任を負うと。法定代理人の場合の復代理の場合と同じ。あれがむしろ受託者の場合はデフォルトであると,そういう考え方ですね。

● 一番分かりやすいのは,例えば請負人が下請を使うというのは,民法で言われているところ--解釈論にすぎませんけれども--からしますと,仕事の完成が目的なのであって,だれを使って仕事を完成するかというのは,二次的な事柄であると。

したがって,下請というのは使ってよいのだと。丸投げまでいくとちょっと問題ですけれども,下請というのは使っていいのだと。

そのかわり,下請人が実際に行った行為によって債務不履行状態が発生したというような場合については,その故意・過失については全部責任を負うのだというような説明方法がとられているのですね,請負に関しては。

これが,本来からするとデフォルト的な理解であって,つまりこれこれこういうことを頼んだ,その際に他人を使うということはいいかもしれないけれども,そのかわりにその行為については全部責任を負うと。
  


ただ,単に他人を使うというだけではなくて,他人を選任し,監督するということのみを引き受けたのだと言えるようなタイプの契約の場合については,正に契約上,その範囲で責任が限定されるというのが出てくるのかなと。というのが,一応の理解です。

● 御趣旨はよく分かりました。

  基本的には契約の趣旨によって決まるけれども,その場合のいわばはっきりしないときのデフォルトは,むしろ今の請負の下請みたいなので,選任監督だけでなくて,すべてについての責任を負うというのがデフォルトであるべきではないかと。


● もう一言だけ,念のためにつけ加えますと,例えば海外のカストディアン等を使うというようなことが,当然に想定されているような契約ですと,適切なカストディアンを選任し,監督もできるのかどうか,やや怪しいですが,必要な範囲で監督を行うというようなことが,その契約の趣旨から出てくるであろうと思われるので,こういうタイプの契約については選任監督上の過失に責任は限定されるのかなと思うのですが,しかしそういうタイプの契約でないような場合についてまで,常に同じようにデフォルトとしてこう言えるかというと,ちょっと疑問かなと。

● これは,なかなか難しい問題で……。

● 今の○○幹事の御指摘との関係で,ちょっとこの資料の読み方を教えていただきたいのですが。
 


 1項で「相当な場合」と定義されていますけれども,これは,2項と連動する可能性があるかどうかなんですね。つまり,選任監督のみ責任を負うことを前提にすれば,「相当な場合」とは言えないけれども,全責任を負うという形での委託をするのであれば「相当な場合」に当たるといった形で,相当性の判断が委託の形態によって左右される可能性があると考えていいか,1項はもう最初に決まって,独自に決まるということなのか。

  もし連動すると考えるのであれば,実は○○幹事が言われたことはかなり解釈論でいろいろな対処ができるようになり得ると思うのですけれども。

● これは,少なくとも条文ではないけれども,考え方として今のような連動するような考え方をとるのか,切り離して考えるかという問題ですね。

● 一応事務局としては,切り離して考えておりまして,委託できるかどうかという問題と,責任というのは別の問題であると。


  相当な場合であれば委託できるとして,委託したときにどのような責任を負うかということになると,いろいろ御指摘のように当事者の意思内容,特に契約内容によって定まるものであって,委託したときの責任が選任監督でいいというような合意であれば,それは選任監督責任だけれども,最終的な履行まで責任を負うべきだというような合意内容であれば,それは全責任を負うし,選任だけでいいというような合意であれば,選任責任にとどまるということで,相当性の判断と責任とは連動しないということでどうかという考えでございます。


  もちろん,連動するという考え方もあり得ますが,分けて考える方が明確ではないかということで,とりあえずそのような考え方でおります。

● 今の○○幹事の御説明のところで,ちょっと確認なのですけれども。
 


 先ほど,○○委員の方から紹介がありました流動化・証券化協議会の意見書の12ページ,13ページにもちょっと触れてあるのですけれども,債権の流動化等であれば信託法もビークル,箱として考えておりまして,基本的に信託のスキームを使うだけで,実際はオリジネーターであるクレジット会社等が債権回収等の業務は最初から行うように仕組まれているわけですね。

そういったときに,18の受託者の善管注意義務の問題にも関係するのですけれども,信託銀行さんの方に過大な責任を負わせる,例えば債権回収を受託しているクレジット会社が信託事務の受任を受けているというふうに考えますと,この間改正された信託業法の中では,その委託をする信託銀行について,最終的にそこの委託者の方の不始末については責任を負わないといけないということもありますし,そもそも委託するときに,的確な遂行能力とか分別管理をきちんとやらないといけないというようなところを見られるということになって,かなり重たい実務上の要請がオリジネーターの方に来てしまうと。

  それと,実際上何十万件,何百万件という債権回収が,オリジネーターは自分の業務とそのサービサーとしての業務としてやっているわけですけれども,それを信託銀行さんの方で管理するというのは,実務上できないわけでございます。

そういった中で,選任の責任と,今の監督の責任というところで,特に選任自体はこれはせざるを得ないわけですからこれ自体はもう外すわけにはいかないのですけれども,監督の方の責任で,過去のというか,今までの考え方の中では,監督の責任についても例えば免除するとか,そういう形にしないと,先ほど言いましたように信託銀行の方にいろいろな責任が発生してしまうので,やっていただけないような問題というのも発生しかねないということがありますので,例えばこの信託法の中で,今説明がありましたように選任と監督のところを分けて,例えば監督責任についても負わないというような,そういう定めとか,そういったものについても有効なのかどうなのか,そのあたりについても,そういう定めが可能なのかどうなのか,そのあたりをちょっとお伺いしたいと思います。


● 先ほどの○○幹事とはちょっと逆といいますか,何を結局デフォルトにするかという問題だと思いますけれども。
 

 事務局の説明はまた後であると思いますけれども,基本的には,これは信託契約で受託者の責任を決めることができて,一方で--この原案をもとにすれば--重い責任,つまり選任監督についてだけでなくて,すべての責任を負わせるようなこともできるし,選任についてだけ責任を限定するということもできると。

ここは,選任監督についての責任を負うというのがデフォルトで,重くする方と軽くすることができると。


そういう案ですので,今の○○委員の御質問のような中身は,できるというのが前提だと思います。

  その上で,しかしどこら辺をデフォルトにしたらいいかというのが,一つの難しい問題なのじゃないでしょうか。デフォルトというのは,その責任の中身を,ですね。


○○幹事が言われたようなところにするのか,ここに書いてある原案のようにするのか,あるいは更に,逆に選任だけを責任を負うというのをデフォルトにするか,そこら辺ですね。

  何か,ほかの御意見はございますでしょうか。


● 今のに関連した話なのですけれども,狭義の履行補助者という位置づけですけれども,これは別段の定めで定めて,そういう形にするというわけではないのですね。


もともとその状態が狭義の履行補助者という形態,例えば受託者の支配下にあるようなものとか,そういうようなものをイメージされているのでしょうか。

● 履行補助者は,一応ここの規定とはまた別に,いわゆる履行補助者の過失の理論でもって考えるという前提です。


● そういうことでよろしいわけですね。
  それで,現在の御提案でいったら,デフォルトとしてはそういう本当に狭義のものは別にして,選任監督責任だけを負うということが今の御提案の趣旨だということですね。


● そうですね。

● 基本的には○○幹事と同じような趣旨の発言になると思いますが,選任監督に責任を限定して,それで26条3項に当たる規定を削除するということになりますと,この5ページに正しく書いてあるとおり,受益者の保護が現行法と比べて後退すると思います。


それでいいのかどうかという問題なのかと思うのですが,この下に「しかしながら」ということで三つほど,そうではないのだということが書かれていますけれども,やはりこれは,それぞれ説得力に欠けるというか,これが後退させるのだけれども,それでもいいという判断がないと,なかなかこれでいいということにはならないのではないかという感想を持っております。


  これをどうしたらいいのかというのは大変難しい問題だと思いまして,ちょっと私もよく分からないところがありますけれども,これらは既に比較法的な考察とか,そういうのは十分された後の結論ということでよろしいのでしょうか。その辺,ちょっと確認を……。


● 比較法的な研究は,もちろん大分いたしました。


  それから,今の○○委員の御意見というのは,関連はするけれども二つの点にわたっていると思いますけれども,一つは現行法上も26条の2項に当たるところで,選任監督についてのみ責めに任ずという形になっておりますけれども,これを○○幹事が言われたように,これに限らないすべての全面的な責任を負わせるのが原則であるべきではないかという,そういう御意見と,それから26条3項の,これは委託を受ける第三者といいますか,先ほどの説明の中では「受任者」という言葉を使っていましたけれども,それの責任を受託者と同一にするというこの26条3項の規定,これを削除していいかどうかという問題と,二つあったと思いますね。


  ちょっと,26条3項の方は,関連はしますけれども,ちょっとまたこれは少し別な点を考慮しなければいけない点ですので,とりあえずはまずは先に26条の第2項に相当する部分,受託者の責任としてどうあるべきかということを御議論いただければと思いますけれども。


● 今の点ですが,この問題は信託としてどういったものを想定するかによって,多少イメージが違ってくるのかという印象を持っておるのですけれども,少なくとも今後一般の民事信託が広がっていくということを考えた場合には,やはり一般の民事信託の場では受託者の責任としては選任監督だけではなくて,もう少しきちんとした責任を負うというふうにする方が,一般的な考え方に沿うのじゃないかなというふうな印象を持っております。


  それから,この御提案の趣旨の内容についてですけれども,恐らく問題となってきますのは,受任者のところで何か,受任者が故意・過失によって信託財産に損害を与えたような場合に,受益者の立場から受託者に対して責任を問うというような,損害賠償請求をするとか,そういった場合が考えられるのだと思うのですけれども,そういった場合に,この規律の仕方ですと,責任を追及する場合には委託が相当でないということを主張する場合と,それから委託が相当であるとしても,選任監督に問題があるという主張をする場合というのが多分考えられるのだろうと思います。

具体的にそういったことをとっていくということを考えた場合に,受益者の立場から非常に気になりますのが,立証責任の問題でして,こういった相当性ですとか,あるいは選任監督の点についてどちらが立証しなければならないのか,これがもし受益者が立証責任を負うという前提で考えられますと,非常に受益者にとっては酷なことになるのではないかと。


基本的に,その信託の関係では,情報が受託者の方に集中しているということがありますし,それからそもそも受託者が受益者に対して善管注意義務,あるいは忠実義務を負って信託事務を処理すべき立場にあると,それからその内容としてある程度説明義務等,情報提供の義務を負っているということを考えるのであれば,その辺の立証責任については,これは受託者の側に,こういった規律をするとしてもあると考えるべきではないかと思うのですけれども,その辺についてもし御検討されていることがあれば教えていただきたいということです。

● 立証責任の点につきましてですが,基本的なこの委託についての考え方にも関係するわけですが,我々といたしましては,従来の法律の考え方を改めまして,原則として委託はできるのだと,ただ相当でない場合はできないということで,方針を変えております。

ですから,提案の文言はこう書いてありますが,ただ今申し上げた考え方をストレートにあらわすといたしますと,「受託者は第三者に対して信託事務処理を委託することができる,ただし次に挙げる場合はこの限りでない」として,「相当と認められない場合」,あるいは「信託行為で禁じられている場合」,こういう書き方になるのかなと。

  そういたしますと,この方針に忠実にいくといたしますと,相当な理由の有無の立証責任というのは,現行法ではもちろんこれは受託者の側が抗弁として負っているわけですが,やはり受益者側で請求原因として相当な理由がなかったことというのを主張立証するという方向でいくのが筋ではないかと思います。

そして,事務局としては,この方針転換ということを譲るというのはなかなか難しいことでございまして,立証責任の点についてはやはり相当の理由がなかったというのを受益者が言わざるを得ないというところは動かしにくいのではないかと思います。その反面,選任監督責任ではデフォルトとしてですが,軽いというのであれば,そこは多少の変更というのはあり得るのかなと思いますが,立証責任については今のようにいくべきではないかと考えているところでございます。

● そうしますと,受益者の立場からすると,厳しいなという印象を持ちますが,もしそのような形で立証責任を考えるのであれば,これはこの後のテーマということになろうかと思いますけれども,例えば23の帳簿作成義務のところにおいては,その受益者の方がきちんとそういったことをチェックできるような形での,これは後のテーマかと思いますけれども,そういった規律をお願いしたいというふうに思います。

● そこは配慮いたします。

● 基本的なところからいきますと,やはり信託の現代化ということからしますと,特に商事信託というものを前提にする限りにおいて,信託事務が非常に高度化しているということがありますので,これはもう委託しないとどうしようもありませんねというところからは,原則として自己執行義務よりもどちらかというと他人に任せた方がいいだろうというところから,多分その考え方が出発しているのだろうなと思います。

  とは言うものの,何でもかんでもというところではないので,「相当な」というところが入ったのだと思います。


当然,他人に委託するということを大原則にする限りにおいては,やはり選任監督責任というのがデフォルトになるということだろうと思います。


ただ,反面,受託者の義務が軽くなったかというと,果たしてそうかどうかはよく分からないところがありまして,やはりその反面,善管注意義務というのはどうしてもかぶってくるのではないかなというふうに思っておりますので,受益者保護にかなわないということも一概に言えないのじゃないかなというふうに考えております。


したがいまして,今回の御提案に,2番のところについても賛成というふうに考えております。

● 1番の「相当な場合」ということについて,質問といいましょうか,意見になるわけですが。

  私の理解では主に相当な理由と,それから信託行為,記載すべきというところとの関係の整理の結果,「相当な場合」ということに吸収されたというふうに理解しているわけです。

ただ,実務的な考え方としては,信託行為に書いたとして,それが否定されるということになりますとこれは非常に苦しい立場に置かれますものですから,できると書いたとしても,それが相当な場合でないというふうに言われないような保証が欲しいというふうに思っているわけです。

  この点,今回の提案の説明では,4ページの1の御説明の最後の方に,定めがあっても,「その他の事情によっては,極めて例外的に……相当な理由がない」というふうに書かれているわけで,私の理解でいえば事務局はそういうことは余り可能性はないよというふうに思っているわけで,そこは推測するに,仮に例えば民法90条のような公序良俗とか,錯誤であるとか,そういったときにはそういうデフォルト・ローは働かないよという話というふうに理解しています。


もしそうであるのであれば,ここであえてこういうふうに説明するのはある意味でミスリーディングであって,何とならばそういった一般法理によって信託行為に書いたことが否定されるということは,ほかの規律においてもあり得るわけでして,そうするとあえてここで書かずに,信託行為で書かれたことはやはりここもデフォルト・ローということで,原則は認めてほしいというふうに思っております。

  その観点から,例えば記載ぶりの話,先ほど事務局からこういう記載ではどうかという例を示されたところではございますけれども,それについて,例えばこうしてはどうかというふうに思うのですが。

  例えば,「受託者は,信託行為に別段の定めを置く場合,その他,他人に信託事務処理を委託するのが相当な場合には」ということで,一応信託行為によって別段の定めがあるということを真っ正面から書いてほしいというふうに思っているわけです。


● 私も,この22の1につきましては検討が必要ではないかと思っております。


信託法の現行の26条1項は,信託行為に別段の定めがあれば委託することができるということを定めてあるのに比べて,一見すると,もちろんこの「相当な場合」の解釈にもよりますけれども,規制が逆に強化されたかのように読めるので,やはりこの信託事務の処理を委託するというのは,○○委員も御指摘されましたけれども,専門化・分業化が進む世の中にあって,むしろ事務を委託することの方が受益者の利益を促進する,こういう世界的--しかも信託だけではない,いろいろな分野でアウトソーシングというのが進んでいる中で,この信託事務処理の委託について現行法よりも厳しくするような提案を,現代化の中で行うことには,大きな違和感がございます。
  

もう少し具体的に申しますと,信託契約に書いてあったときに,私は権限の行使の問題と,委託の権限を与える条項の有効性,無効性のレベルの議論は別に考えるべきであると考えておりまして,例えば「信託事務を委託することができる」と,そういう条項があったときに,実際にある委託をしたときに,これは委託自体が注意義務違反だったと,相当でなかったと,こういう整理をすべきであって,受託者に委託の権限を与えることと,それからその権限を不適正に行使した場合の責任とを区別して考え,ここでは信託契約に基づき,あるいは相当な場合に受託者に一般的にそういった委託権限が生ずるわけですけれども,それを行使するときの責任というのはまた別で,それは専ら注意義務違反で損害賠償の話になると。


このように,権限の問題と,それから繰り返しになりますけれども権限を注意義務に反して行使した場合とを区別することによって,もう少し,特に第22の1については見直す必要があるのではないかと。
  


また,2についても,選任のところで注意義務が生ずるのは当然だと思いますけれども,監督というのはやはり場合によっては非常にコストが高くなって,何のために委託していたのかコスト倒れになってしまうということも考えられないではないと思いますので,この監督責任については,もちろん一般的にはあると言えるとは思いますけれども,その具体的な内容についてはケース・バイ・ケースなのではないかという印象を持っております。

● 確かに,1の方では事務局の案も別に現行法より狭める意図があったわけではなくて,広げるつもりだったので,今おっしゃったように現行法のもとでも……。

● 信託行為に別段の定めがあっても,例外的にだめな場合があるというのは,私はそこは狭くなっているように感じたのですが。

● 恐らく,ちょっと表現が適切じゃなかったのかもしれませんけれども,信託行為に別段の定めがあれば,現行法と同じように原則としてもちろんそれは構わないと。


それが狭められるというよりは,○○幹事が言われたように権限行使の仕方がまずいとか,あるいは……。実際上は,ほとんどないのだと思いますけれどもね。

  これが公序良俗に反するようなこともないでしょうから,ここの部分は恐らく今の御意見のとおりでよろしいのじゃないでしょうか。

● 今の1の点については,私もちょっと疑問を感じているところがあったので,フォローする方向になるだろうと思うのですが,言いたいことが一つあります。
 

 多分一番大きいポイントは,「相当な場合」というのでかなり工夫してお書きになられたと思うのですが,この「相当な場合」の意味がもう一つよく分からなくて,信託契約とは外にあるような,外在的な,客観的な考慮から,相当か相当でないのかを決められるというニュアンスが出てくるために,信託契約で何を書こうがだめだと言われる場合が出てくるというのが懸念のもとではないかなと思います。
 


 これを理論的に考えますと,信託事務の処理を他人に委託することができるかどうかを決める基準は,やはり信託契約に内在的に決まらないとおかしいだろうと思います。

要するに,こういう事務の処理を委託するから,こういう事務の処理の委託を,しかもこういう趣旨で委託するのであれば,他人は使っていいですよねと,でもこういう事務を受託者に委託するというその趣旨からすると,ほかの人間を使うというのは許されませんよねと。


つまり,あくまでも決め手になるのが,やはり信託契約の趣旨によるというふうに考えるべきではないかと。

信託行為の中で,明文でどう定めたかということももちろん重要なのですけれども,あくまでもその契約の趣旨から見て許されるか許されないかで決めるべき事柄ではないかなと思います。


ですから,あえて表現を選ぶとするならば,要するに他人に信託事務の処理を委託することはできるのだけれども,それが当該信託契約の趣旨に反するような場合にはできませんという書き方というのが,多分一番ふさわしいのではないかなと思います。

● 長くなって恐縮ですが,比較法的な話と,ちょっと概念的な話なんですけれども。


  この18のところに善管注意義務というのがあって,これについては細かな規定は置かないのだということなのですが,私の理解では,アメリカでもどこでもいいのですが,この22で問題になっているのは自己執行義務という形で,かの国でははっきり別な義務として立てられていたものが,それからここでもそうしようとしているのですが,自己執行義務はないのだよという形で覆そうとしているわけですね。

その結果,どうなったかというと,アメリカではプルーデント・インベスター・ルールの中に入れ込みましたから。


プルーデンスというのは注意義務なんですね。だから善管注意義務なんでね,結局のところは。そういうふうに彼らはもう頭中で考えていて,私も実はそう考えている。


  そうすると,この信託事務の処理についての1というのも,信託事務の処理を委託することが相当なものかどうかは,正に善管注意義務の判断ですね,今,○○幹事がおっしゃったように,当該信託の--「本旨に従い」と前のところはそういう表現ですけれども,それにのっとって委託が適当なのかどうかという判断になる。

  2のところも,その後選任及び監督について責任を負うのがデフォルトですが,どういう形で監督をすれば,選任すればいいのかも,やはり善管注意義務の話になるので,そうすると○○幹事がおっしゃったような1と2はリンクしていますかというと,リンクしているに決まっているのですね,結局のところは。

それぞれ別個に分けたところで,リンクしているといえばリンクしている。善管注意義務なんですから。

  ただ,それで自己執行義務はやめて,善管注意義務一本にして,しかも善管注意義務もアメリカではデフォルト・ルールですから,ただそれは相当に今までのルールからすると,えいやっと飛び越えているわけですね。

実務に合わせているので,実務上はそんなにえいやっじゃないのかもしれないのだけれども,法理上はもう大逆転ですので,それでこの統一信託法典では,だから次のような点でちゃんと注意を払わないといけないのだよと。

これは選任監督の中身を少し詳しくしているだけなのですけれども,代行者としてだれを選任するか,それからその後ただ選任するだけではなくて,選任して,あなたには信託の趣旨,目的に従ってこういうようなことをやってもらいたいのですよという委任の条件と内容をちゃんと定めるということが受託者の責任ですよと。


  三つ目には,定期的に検査しなさいとまで書いてあるのです。


しかしそれがデフォルトだから,最後のところで要望書にも出ていますが,ああいう特別の場合には監督は実際にはできないとか,そういうのでここは外しておきましょうということはできると思うのですけれども,更に統一信託法典でいうと,委任された任務を果たす受任者の方には,その委任の条件を遵守するよう合理的な注意を払う義務があると一応は書いてあるわけですよ,この法典の中に。


えいやっとやって,もちろんこれは現代の信託のところでは委託をした方がむしろ受益者のためにもなるのですよということですけれども,やはりそれは濫用する危険もあるというので,そういう形で少し--少しかどうか分かりませんけれども,やはり受益者の不安というのを解消するような手を打っていると思うのですが,ちょっとここの中身は結局のところそんなに違わないのかもしれないけれども,やはり弁護士の先生が懸念を覚えるような感じを,私も少し覚えているのです。

じゃ,どうすればいいのかいうのは,なかなか難しいことだとは思いますが。
  ちょっと感想だけ申し上げました。

● 長くなって本当に申し訳ないのですが,1点だけ質問をさせていただければと思います。というのは,積み残された質問の答えをお聞きしたいというだけなのですが。


  証明責任で,1についての証明責任は,先ほどのお答えで分かったわけですけれども,2の(1)についての証明責任というのは,どのようにお考えなんでしょうか。


  受託者から更に委任を受けた受任者に善管注意義務違反があって,その責任を問うというようなパターンで考えた場合。


● その場合,受任者が債務不履行がありましたと,それに対して,今度こちらは抗弁の方で,選任監督責任を果たしたということを受託者の方で言っていくのではないかと考えているところでございます。


● そうしますと,義務違反があったということは,受益者の方が主張立証する必要があると。


● 受任者の義務違反ですよね。


● いや,受任者の義務違反というよりは,正確に言いますとあくまでも受託者が善管注意義務を負っていて,ただその善管注意義務を履行する上で,受任者を選任し,そしてその受任者がこの善管注意義務を実際に履行することになり,しかしその受任者が善管注意義務の違反に当たるような行為を行ったということを言えて,初めて信託契約上の善管注意義務違反が基礎づけられると。


● 請求原因が立つということになると思います。


● ということですか。

● はい。

● それで,つまり受任者の義務違反というのは,今言われたような意味での義務違反というのは,証明しないといけない。


● こちらの請求原因ですとそうなります。


● しかし,それに対して,いや,選任監督上の義務を尽くしていたのだというのが抗弁で出てくるということになるのでしょうか。


● そうなると考えております。


● ただ,そうしますと,先ほどの話に若干戻るのですけれども,この種のケースでは選任監督上の義務に別に契約上限られているわけでも何でもなくて,そうではなくて,あくまでも受託者が自ら自分の選んだ受任者の行為についても責任を負うのだというタイプの契約なのだというのは,どういう形で出てくるのでしょうか。

● それは,選任監督以上の,最終的な履行まで責任を負うというような契約がされている場合。

● 私の理解からすると,それは本来デフォルトなんですけれども,新たに信託事務を委託したのであって,その新たに善管注意義務違反があるのだから責任を問うというのが請求原因として出てくるわけなので……。


● それは抗弁が立たないというか,抗弁が主張できなくなる。

  全責任を負うということですね。その場合には,それは受任者の故意・過失というか,債務不履行責任を争うことはできると思いますが,受託者側が何か注意義務違反はなかったというような抗弁というのは,できないのではないかということになると思います。デフォルトにすれば,ですね。

● そちらをデフォルトにすれば……。

● デフォルトでなくても,そういう約定があればということで。


● しかし,本来のデフォルトが,自分の選んだ者の行為についてもそうやって責任を負うのだというと,先ほどの請求原因が立つというのは,むしろすごく理解しやすいですね。


それに対して,抗弁として,いや選任監督に限るというような趣旨でこの信託契約というのは行われたのだと,かつ自分はその選任監督上の義務は尽くしているのだというのが抗弁に立つというのは,証明責任の分配からすると非常にすっといくなと私は思うのですが。

● それは,○○幹事のお考えだとそうなります。


● そちらがデフォルトだという場合には,何か証明責任の分配,うまくいかないのじゃないかというのが一番お聞きしたかったことです。


  そもそも,なぜ請求原因で先ほどのような善管注意義務違反の事実を言えば請求が立つのかということ自体が,ちょっと分かりにくくなりはしないでしょうか。


デフォルトは逆の方がいいのじゃないかなと。理論的にもそう思いますし,証明責任の分配からいっても素直かなと。

● 証明責任の問題が絡んでくると,ちょっとよく分からないけれども,この原案の立場でいったときに,選任監督だけでなくて,要するに受任者のところ,第三者のところに義務違反といいますかね。


何かの過失があって損害が生じた場合には,およそもう免責を認めない,受託者の免責を認めませんというもの,それは証明責任の分配から難しいということですか。


● デフォルトを事務局がおっしゃっているようにすると,ちょっと何か説明をもう一つ二つつけ加えないと,すっといかないなという……。


  デフォルトはあくまでも全部責任を負うのだと,ただ信託契約の趣旨からすると,選任監督上の義務を尽くすことに限られる場合があるのだという説明をすると,抗弁にうまく立ってくるということです。


● 分かりました。ちょっとその証明責任の分配も含めて,今日も大分その点に御議論がありましたので,その観点からももうちょっと詰めたいと思いますけれども。
  


何か逃げるようで申し訳ないけれども,実体法のルールとしてどうかという点についてももうちょっと御意見,もしおありであればいただければと思いますが。

  それから,3の点,先ほど○○委員からは御意見がありましたけれども,受任者というのですかね,第三者,事務委託をされた第三者の責任についても現行法を削除するのは適当でないという御意見がありましたけれども,これについてももしどなたか御意見があれば……。

● 3につきましては,第4回のときにも申し上げましたけれども,そのときには甲案・乙案という形で,今残っている部分が乙案ということだろうと思いますけれども,これにつきましては,やはり受託者が--そのときにも申し上げましたけれども--前面に立ってすべて解決するというのが非常に実務感覚に適合した考え方ですので,これについては賛成したいと考えております。

● この場合も,現行法は確かに26条の3項がありますけれども,第三者がどういう理由で受託者と全く同じ責任を受益者に対して負うのかという,その理論的根拠って必ずしも明確じゃないのですね。


確かに受益者にとっては有り難いことは確かなんですけれども,そこがやはりネックの一つだと思っていますけれども。


● 私も,3についてはこの案,つまり削除するということに賛成の立場から申し上げたいのですが。


  第4回でも申し上げましたけれども,「知って」ということについては意味の不明確さもありますし,また知るか知らないかということの偶然の結果として,受益者が救われるか救われないかということで左右されるのはいかがかなと思っております。


やはりそもそも論のことを考えますと,信託の基本的な構造というのは受託者が前に立ってということであれば,あえてここで第三者,受任者の義務ということを定める必要はないのではないかというふうに思っております。

● もちろんこれもケース・バイ・ケースで,さっきの資産流動化でオリジネーターがすべてを実際上やっているというようなときには,何かそのときには責任を負わされてもよさそうな気もいたしますけれどもね。これは,契約の趣旨によってそうなるということなのだと思いますけれども。

● 1に関しまして,信託行為に別段の定めがある場合というものの位置づけというのが問題になっているのですが,希望なのですけれども,整理のときに信託行為に別段の定めがあるというものの在り方について,もうちょっと具体的に整理をしていただければというふうな気がします。
 


 というのはどういうことかというと,例えば投資判断を第三者に委ねるという場合に,最初から信託行為においてある特定の投資顧問会社を指定して,「○○投資顧問の判断に従うものとする」と書いている場合がまず第1に考えられますね。


第2に,「投資については,適切な投資顧問会社を選任し,その指示に従わなければならない」と書いて,これは選任のところが裁量があるわけですが,選任をすべき義務というものは存在していると。


第3に,「投資判断については,投資顧問会社に委ねることができる」というあれが考えられますね。


そして第4に,何も書いていないというのがあって,それぞれによってやはり出方が違うような気がするのですが。


  私が整理して,こうじゃないかというふうに申し上げられれば,それはそれでいいのかもしれないのですが,私もちょっとよく分からなくて,もう少し具体的な信託行為の定め方に……。

● 2番目と3番目が対象になるのじゃないでしょうか。1番目は,もう信託行為でもって投資判断もほかにゆだねているわけですよね。それは,ここの対象とはならないのじゃないでしょうか。

● ならない。監督も関係ないと。


● それはもう,信託行為でもって,権限というか,投資判断を投資顧問業者に与えている。受託者の責任,というか,受託者が選んだ第三者ではない。

  その場合にも,もちろん信託行為の中でもって監督責任というものを受託者に与えるということは,義務として負わせるということはあり得ると思いますけれどもね。


そこは信託の設計そのもので,すべて決まるのじゃないでしょうか。

  ですから,○○幹事の2番めと3番目,「選ばなくてはいけない」でしたか,それとも「選ぶことができる」でしたか。


● そうですね,だから2番目に関しまして,選ばなければいけないというふうになっているときには,1って働かないのですよね,多分。1のルールというのは。


● そういう意味では,選ばなくてはいけない……。確かにそうですね。

● そのときも,しかしながら選任及び監督についてのみ責任を負うと。

● そこはだから,責任の問題はまた別に生じ得る。選任監督のみがいいのか,そこの中身で……。


● もちろんそれはそうだけれども,今の原案を前提にした場合には違うということですが。
  済みません,ちょっと十分に整理ができていないのですが。


● 一応,今お話を伺った限りでは,2番目,3番目が対象になるというふうに思います。


● ここの第22の3についてでございますけれども,先ほどの御発言との関係から申しますと,むしろ3のところはやはり少なくともフィデュシャリー・パワーの一端を担っているということを知っている者については,フィデュシャリー・デューティーを負わせるのが一環するのではないかと。


すなわち,受託者はむしろ自己に与えられたフィデュシャリー・パワーをほかの者に委ねることが,信託全体の利益にとってプラスになるという,そういう前提であれば,ここはむしろ機能的にとらえて,フィデュシャリー・パワーを行使する者については基本的に受託者と同等の責任を与えると。この方が,理論的には一貫するのではないかと思っております。


● 今の3についてですけれども,私もできればそういうふうにした方がいいとは思うのですけれども,もしこの事務局の御提案のような形でいった場合に,なおちょっと心配が残るのが,受託者の方が前に出るのがというふうにおっしゃっていただいて,それはそうだろうとは思うのですけれども,受託者がなかなか動いていただけない場合に,じゃ受益者はどうしたらいいのかというところがちょっと心配がありまして,例えば受託者が委託した先が受託者の関連会社であったりして,なかなか責任の追及がしにくいといった事態が生じた場合に,受益者が何ができるのかということを考えたときに,例えば債権者代位権みたいな形で,受託者が受任者に対して持つ請求権を行使するというこが考えられなくもないのですけれども,本当にそれできるのだろうかという気もちょっとしておりまして,これもし御提案の趣旨のような内容で検討されるのであれば,そういった受託者の持つ権限行使といいますか,そういった代位権的な行使的な制度というのも,ちょっと御検討いただくことはできないだろうかということを一言お伝えさせてください。

● それは,基本的にはできるのだというふうに私は個人的に考えていますけれども,むしろ問題は,受託者と受任者ですね,第三者との間の契約の内容によっては,受任者が責任を負う,軽減するような特約が入っていたり,そういうときにどうなるか。


債権者代位でいくと,なかなかできないわけですね。


● 3の点について,本当に一言。

  現行の26条3項の理論的な理由がよく分からないという○○委員の御指摘に対してですけれども,現行法26条3項がどういう考え方でできているかというのはかなり明白でして,それは26条2項で例外的な場合ではあるけれども選任監督上の責任に限られるべき場合があると,受託者の責任が。


そういう場合には,その責任限定を補う意味で26条3項を置き,受任者がその部分については受託者と同等の責任を負うというふうに言えたと。


つまり,26条2項と3項は抱き合わせでできた規定だということです。

  そうしますと,今回の御提案というのが,26条2項では選任監督上の過失に限定し,しかし3項を外すというのは,もとの立法者の考えとは正反対の立場をとろうとしているという認識は,まず持つ必要があろうと思います。

つまり,○○幹事のおっしゃったような意味で26条3項が位置づけられるというのももちろんあることはあるわけですけれども,やはり2項をどうするかということと連動しているという側面が,やはり無視できない点だろうと思います。

● ○○幹事の意見は全部一貫していると思いますけれども,そういう意味で,だれかがとにかく責任を負わなければいけないというあれですね。


● 今の点について,信託実体法とは関係ないのですが,信託業法の観点からコメントしたいと思うのですけれども。
  


お話というのは,改正信託法において基本的にはアウトソーシングが認められることの一方,これは信託業法22条ですけれども,行為規制がかかって,基本的には受任者に対して信託の内容についての開示であるとか,またそれをした場合に,原則としては受託者と同様の責任を持つという形になっております。


そこで,この結果一体どうなっているかというと,非常に現場では混乱といいましょうか,非常に萎縮効果的なものが起こっていると私は思っています。

  ただ,この信託業法に関していうと,一応解釈上事務ガイドラインでも明確になっていると思うのですけれども,例えば運送会社とか,ある意味裁量がないものについては及ばないとという話でございますので,そこはある程度切れているわけですが,ここで何を申し上げたいかと申しますと,二つありまして,一つは,仮に当初案に戻りますと,やはりそういう信託業法で一応対象外とされているような運送会社とか倉庫会社とか,そういうところまでも同じような義務が生じてしまうというようなことになっている,それはいかがなものかという話と,それから二つ目には,これはそもそもの話で信託業法自体もこの信託法の現代化,いわゆるデフォルト化等の柔軟化に伴って,やはりこの22条自体も見直ししていただきたいというふうに思っております。


● ちょっと,議論が大変隔たりがあって,なかなかうまくまとめることはできませんけれども,○○幹事の方から何か……。


● 今,いろいろいただいた指摘を踏まえて検討いたしたいと思いますが,二,三点言っておきますと,まず代位の構成については,そういうのもあり得るかとは事務局でも考えておりましたが,問題点としては○○委員がおっしゃった受託者と受任者の間の契約で制限されることとか,あと無資力要件をどう考えるか,それから受益者としては,受託者のみならず受任者の資力まで当てにしていいのか,そこら辺の問題については検討する必要があるかなと考えております。

  それから,○○幹事がおっしゃったのは,やはり受任者の責任は設けるべきではないかと。


あと,それは○○幹事もおっしゃった2項と3項のバランスというのと一致するのかと思いますが,その御趣旨は,ただ知っているだけではなくて,共同受託者と見られるような場合だということなのでしょうか。


共同受託者だったら当然注意義務とかを負うわけですが,この受任者ではなくて共同受託者と見てしまうということなのか,受任者ではあるけれどもやはり注意義務を負うような者がいるのではないかという御趣旨なのかというところあたりにつきまして,御教示いただければと思います。


  あと,業法的な観点からの御指摘については,そこは信託法の見直しとあわせて信託業法も見直すということですので,必ずしも業法的な規制を前提に,こちらが見直すということにはならないということで御了解いただければと思いますが。

● 先ほど,フィデュシャリー・パワーということを申し上げまして,この第22は信託事務処理の委託なのですけれども,やはり私がこのフィデュシャリー・デューティーを負う受任者というのは,運送業者や倉庫業者のことは全く念頭に置いておりませんで,むしろフィデュシャリー・パワー,これを日本の概念に持ってくるときに,どのように観念し直せばいいのかというのは問題があると思いますけれども,要するに信託事務処理を委託されたすべての者がこの責任を負うとは考えておらずに,日本でいえば重要なというような,ある程度限定された範囲で責任を負うようなイメージで先ほどは申し上げました。


● もちろん,私もそう理解していますけれども,なお「重要な」と言うと,例えば恐らく信託にとっては財産の管理というのが非常に重要なので,例えば預託機関とか,そういうのが何か入ってきそうな気もしますけれども,逆に,しかしフィデュシャリー・パワーということになると,裁量的な,投資の判断なんかするのは恐らく入ってくると思いますけれども,ただ管理していると言うと入ってきそうもないので,そこら辺の範囲を○○幹事はどう考えられているのか,ちょっと不明だったのですけれども。


● 私,預託機関への預託は,これは管理の形態というふうに考えるべきであって,そういう意味ではフィデュシャリー・パワーの問題ではないのではないかと理解しております。

● 大変いろいろ御意見をいただきました。恐らくもう一回,事務局に少し今の意見をもとにして案を考えてもらうということになると思いますので,またこれは御議論……。やはり相当重要な問題ですので,もう一度ちゃんと議論したいと思っております。


● 分別管理のことでよろしいでしょうか。
● 分別管理,どうぞ。


● そもそも論の話になって,立ち戻って恐縮でございますけれども,2点ほど確認したいことがあります。


  まず1点目でございますが,預金についてどう考えるべきなのかという話でございます。これについては,通常の預金となると金銭債権ということになりますので,この提案になりますと,多分①の規定になるのかなというふうに思っておりまして,よって信託行為に別段の定めがなければ,分別管理が必要であるというふうな理解だと思っております。


ただ,立法論として,預金とかコールとか,いわゆる技術化的なものというものについて,ほかの金銭債権と同じような取扱いをするべきなのかどうかということもあるのかなというふうに思っております。


  例えば,そういうことの観点からすると,この預金というのは②の「信託財産が金銭であるとき」のこの「金銭」というものに当たると考えて規律するというのも,一つの考え方なのかなと思っております。
  


これを考えるときに,実務的な話で非常に恐縮なのですけれども,では預金等の金銭債権における分別管理というのが一体どういうものなのか,その実体を踏まえてどうあるべきなのかということを考えるべきだと思うのですけれども,考えますに,その金銭債権というのは物理的に分別管理はできないと思っております。


よって,識別不能の問題は別に生じると思いますが,それはちょっと別として,そもそも概念上分別管理はできないから,かような義務は生じないのだというふうな考え方が一つあると思いますし,またもう一つの考え方としては,受託者における財産の帳簿とかで,信託財産であるということ等,何らかの管理ができるならばそれで十分であるという考え方があるかと思います。


  仮に,後者の場合に,更に言うと,では具体的にどういう分別管理で足りるのかということが実務上非常に気になるところでありますけれども,そこで例えば預金債権の場合,例えば預金口座を別にするなど,債権として別のものにしておく必要があるのかどうかということが関心があるわけです。

この場合,例えば普通預金,1個の債権と考えられるとされていますけれども--異論はあるかと思いますが--そうした場合に,複数の信託を一つの普通預金にまとめると,例えば信託口という形でまとめた口座を設定する,それを利用するということは無理なのかどうかということが議論の論点になると思います。
  

また,更に言うと,預金通帳などが出てくるときに,これは物理的な預金証書があるわけですけれども,ではその物理的な証書をやはり分別管理するところが出てくるのかと,いろいろ考えることがあるわけですけれども,そういったことを考えると,金銭債権についてはどう考えるのか,とりわけ預金みたいな現金に近いものということについて,特例的なことを,つまり②のようにするのかどうかということについて,まだ私の方では整理はできておりませんけれども,どう考えるべきかについて事務局の考え方がおありであれば,お聞きしたいところでございます。

● 御指摘のありました金銭債権についてでございますが,まず事務局の考え方でございますが,金銭債権は金銭ではないので,②に当たらない。


したがいまして,①で原則どおり分別管理を必要とする,信託行為に定めがない限り分別管理を必要とすると。


  それは,最善の状態ということでございますが,そこで御論考などには債権は二つにするべきだというようなものもございますけれども,事務局としては,そこは債権は一本でいいと,しかし帳簿上信託財産と固有財産の出所を明らかにしておくことによって,分別管理義務が果たされるというようなのが事務局の理解でございます。

● 何らかの形で分かればいいという話。

● まず帳簿で分かればいいと。


● それであれば,実務的にも非常に柔軟な対応ができるというふうには思いますけれどもね。


● 従来から,債権の場合には,分別がそういう形でできるという意見の方が多かったと思いますけれども,それを一応ここでも引き継いでいるということですね。


● 変な話ですけれども,預金口座を分けて,預金通帳を別にしておくという,そういうところまでは金銭債権の性質からするとあえてする必要はないということ,そういう理解でよろしいのでしょうか。

● 事務局の理解としては,分別管理としてそこまでする必要はないということで理解しております。

● 分別管理としてどの程度のことをすべきかという問題,今のように次の問題としてもう一つあるのでしょうね。


原則として分別しなければいけないとなったときに,どういう形で分別するかという問題で。


債権の場合には,帳簿さえ明らかになっていれば,他方の,例えば固有財産と一緒であっても,固有財産全部持っていくということはできないので,そういう意味で分別管理としての目的は,帳簿さえちゃんとしていれば目的は達するという理解ですね。


● 済みません,分別管理についてもう1点。御質問というか,コメントでございますが。


  ①の規律の中で,登記・登録すべきもの,不動産とかについて一時的な登記
猶予が認められるかどうか,それを法文上明確に書くべきなのかどうかということでございますけれども,その点については先ほどの事務局の御説明では,解釈論によるということでございましたけれども,ただ実務的なニーズからすると,やはりそこは何らかの形で明確にしていただきたいなというふうに思っているわけです。


  それを申しますのも,ちょっと私の理解の混乱なのかもしれませんが,ここで言う分別管理と,それから登記・登録という公示ということの関係がもう一つよく分からないわけですが,やはり①の規律というのが登記・登録すべきものについては登記・登録すべき--最終的には登記・登録すべきものであるということでございますので,そうするとやはり登記・登録というのは,分別管理の必要条件であるというふうに考えているのかなと思っているわけですけれども,ただ考えてみますに,分別管理の機能というのはいろいろあるわけでして,例えば不動産の場合に,特定性機能ということだけ考えれば,あえて公示をする必要はないと。

識別不能になってしまうとか,そういうこともないわけですから。


そうしますと,あえて分別管理というところで登記・登録まで必要なのかどうかというところも,そもそもの問題として,ちょっと疑問には,というか,私の理解ができないのかもしれませんけれども,あるわけですが。


  ちょっと話が混乱しましたけれども,もとに戻って,やはりそういった理解の問題もいろいろな考え方も出てきましょうので,実務的にはやはり一時的に猶予できるということであれば,それは何らかの形で明確にしていただきたいなというふうに思っております。

● 今の点の関連してなのですが,分別管理というのは固有財産と信託財産を金銭債権の場合には一本でいいというお話でしたけれども,今日出てきた強制執行の禁止との関係で,固有財産の部分だけ差し押さえるということ,固有財産に対して受託者の債権者が差押えしていったときに,どこまでいったら差押えの競合を受けるかとか,それに関連して第三債務者は供託義務を負うかとか,分からないわけですね,第三債務者には。


つまり,一本の金銭債権なんだけれども,途中までが固有財産で,そこから先は信託財産だというときに,その境目というのは分別管理している人しか分からないわけですけれども,小口の差押えが何本か来たときに,どこまでいったら差押えの競合が起きているのかということが分からなくなってしまわないかということが,技術的には問題になりそうな気がします。


  今突然お話を伺って思いついたことなので,問題意識としてあるいは生煮えなのかもしれませんが,技術的にはちょっと詰めておいた方がいいのじゃないかなと思うのですけれども,もし今何かお考えがあれば……。

● 手続的には,例えば信託財産と固有財産を一緒にして貸し付けて,金銭的な割合は分かっているというときに……。


● 第三債務者が分かっているという前提ですか。


● 第三債務者にも割合が分かっているかという意味ですか。


● はい,分別管理している人にしか分からないのじゃないかという……。


その境目が常にこうやって動いているのだとすると,あるいは総額が動いてするとすると,いわば一本の金銭債権には二つのいろいろなものがあって,どっちがしたか,それは受託者の債権者というのは固有財産の部分にしかかかっていけないというときに,しかし差押えの競合があるかとか,あるいは供託義務を負うかとか,第三債務者にそれが分かっていないと困るのじゃないかというのが私の問題意識なんですが。


● 第三債務者が全部供託してしまえば,これまた問題はない。


● もちろん権利供託はできるけれども,義務供託の場合ですね,差押えが競合しているというので。
 

 あるいは,その前提として執行法の149条ですが,差押えを足していったら,その全額を超えるためには全部に差押えの効力が及ぶという規律があるわけですが,それはどこから発生するのかとかいうようなことがどうやって決まるのかということが,ちょっと今,一本でいいというふうに伺った瞬間,ちょっと気にはなったのですけれども。

● 執行法の方まで必ずしも考えていませんでしたけれども,また第三債務者の方の供託まで十分考えていませんけれども,単純には固有財産と信託財産の中から仮に50・50でもって,それ一本にして貸し付けているときに,その債権が受託者の固有の債権者に差し押さえられたというときに,全部は差し押さえられないということを受託者が簡単に言えれば,そうすればいいのかなと思ったのですけれども,そういうわけではない。

● 信託財産の方に申立てをして,それが及んでいるのでいるのであれば,今日やった第三者異議みたいなことで処理するのだと思いますけれども,固有財産の中でどういう取り合いになるのかということは,手続的に明らかにならないと困る場合が出てくるのじゃないかということです。


  もうちょっと私も整理してみますけれども,少なくとも第三債務者の供託義務あたりは,ちょっと問題になりそうな気がします。

● 必ずしも十分フォローしていませんけれども,ちょっと第三債務者の方の供託の関係とか,そういう問題はもうちょっと考えてみたいと思います。
  


それから,これは登記・登録ができる財産で,不動産なんかの場合,登記をしないという,一定の期間猶予しているというような場合も,場合によっては--場合によってはというか,信託財産であるということの登記をしていないので,仮に受託者の財産になっている,それがために受託者の債権者が差押えに来たと。

  これはしかし,対抗の問題が入ってくるので余りいい例じゃないのかな。

  責任の問題と両方ごっちゃにしているかもしれませんけれども,私が言いたかったのは,たとえここでもって一定の猶予がされていても,そのために債権者が本来信託財産である財産を差し押さえて,そしてまたそれが結果的に信託事務を執行する上で障害となって受益者に損害を与えるというようなことが生じると,受託者の責任というのは何か生じるような気もしているのですね。


そういう意味で,ここの分別管理の問題と,それから後で出てくる責任の問題,分別管理義務を尽くさないというか,分別管理がされていないときの責任の問題というの,その問題はもうちょっと整理しなくてはいけないだろうという気がしています。

  これは,また後の方でもって議論が出てきますけれども,とりあえずは今の○○幹事の点については,何か事務局の方で御意見は……。

● どこまで差押えの範囲が及ぶのかとか,しかし信託財産,固有財産全部に及んで受益者が異議を言うというスキームでもおかしいでしょうし,ちょっと検討させていただきたいと思います。

● 多分,どこかで第三者異議をかませないとうまくいかないような気がするのですが,それで全部うまくいくのかどうか,ちょっとよくまだ分からなくて……。
  済みません,こちらでも少し考えてみます。


● 全部に及んで,受託者が第三者異議を言うとか,そういうスキームもあるとは思いますけれどもね。第三債務者には分からないのですから。


● そこも前提にしなければいけないですね。


● 前提として,預金債権についてはどういう法律関係になっているということなのですか。準共有。


● 準共有だと考えて……。


● なかなか,預金についていろいろ議論があるけれども。
  それから,ちょっとこれは前回の提案と少し表現が変わりしたけれども,前回の提案は信託財産について信託の登記の後で「登録ができない場合に」となっていたのを,今度は「登録をすべきこととされていないもの」というふうにちょっと変わりましたけれども,例えば今度法人の動産でしたか,登録ができるようになりますね。


しかし,そういうものはここに入らないという趣旨ですか。

  そういうことなのだろうと思いますけれども,受益者からすると,分別管理をすることによって信託財産がとにかく守られて,分別管理するということが基本的に,あるいはそれを最大限尽くすということが受益者の利益になるときに,信託行為でもって別段の定めをすればともかくですけれども,今の場合,動産については結局全然しなくていいというルールになるわけですね。

● 動産については,物理的な分別管理は当然しなければいけませんが,そもそも信託の登記が整備されておりませんので。


● そうか,今度は信託の登記はできないのか。分かりました。
  よろしいでしょうか。


● 済みません,2点ありまして,1点目はもう先ほどから議論になっていますけれども,登記・登録を外せるようなことも認めていただけるような規律にしていただきたい。


それが無理であれば,どこかで明らかにしていただきたいということ。○○委員の御意見と同じです。

  2点目は,○○幹事からも御説明がありましたけれども,根担保のところの部分を,前回は入っていましたけれども今回外されたと。


この御趣旨というのは,基本的には忠実義務の問題なのでということで,私どもも基本的には忠実義務の問題だろうなと,共同根担保にとったものでどういう形で弁済するのかが一番なので,そういう問題だろうと思うのですが,その前の問題として,要するに共同で担保をとっているということについて,これは基本的には分別管理事務上の問題はないのですよということで外されたのか,それとも,これはやはり分別管理上の問題だから,契約に書きなさいということで外されたのか,そこら辺のところ,ちょっとお聞かせいただきたいと思うのですが。

● 事務局側としては,そこは分別管理義務上は問題がないということで,忠実義務の問題に収斂して考えたいということでございます。

● 今までは,信託の実務ではどっち--どっちといいますか,信託行為の中にちゃんと書いているのですか。


● いえ,書くことはないです。


● 書くことには,障害というか,実務上の障害はありますか。


● 業法で,「担保を取得することがあります」というようなことは書けると思うのですが,どういう状態でというのは,やはりどういう勘定がどういう形で担保を取得するかというのが非常に分かりづらいところですので,それを明示するというのは難しいのです。

  今までは,基本的に担保権というもの自体が,どちらかというと債権に付着しているようなものというふうな認識がありましたので,余り強く認識されなかったのですが,これからは担保権自体が信託財産というような位置づけになりますと,そうするとそれの登記なんかどういうふうに考えるのだろうとかという問題も出てきまして,そこら辺について別途公示のところの方で議論させていただけたらなというふうに思っております。


● 確かに今のお話を伺っていると,分別管理のところ,完全に外して大丈夫なのかという感じがしないではないけれども,もう一回改めて,さっきの担保の信託なんかとも絡めて議論を……。


● 出所は分かっているのですよね。根担保のうちの被担保債権というのでしょうか,それが信託財産の分がどれだけで,それから固有財産の……。


● 根で設定するときには,どこの勘定からどれだけ出るかというのは全然分からない。


● 担保はちょっと問題なんですね。債権の方は問題ないかもしれないけれどもね。


● 何も置かないと,ちょっと……。忠実義務が非常に問題だと思っておりますが,分別管理上全く問題がないかというと,特約ぐらいはあった方がいいのかなという気もいたします。ちょっと検討させてください。


● よろしいでしょうか。
  まだここもいろいろ議論がありそうですけれども,時間的に……。
  帳簿はできますね。

● では,「第23 帳簿作成義務等について」につきまして,説明いたします。
  
前回の提案からの相違点は2点あります。

  第1は,受託者が保存義務を負う書類及び受益者が閲覧・謄写請求権を有する書類につきまして,前回の提案ではいずれも帳簿と「信託事務に関する重要な書類」としておりましたのを1の(3)におきまして,受託者が保存義務を負う書類は,前回提案どおり帳簿及び信託事務に関する書類にとどめたのに対しまして,受益者が閲覧・謄写請求権を有する書類につきましては,3(2)のとおり,「帳簿,これに関する資料又は信託事務に関する重要な書類」というように広げる方向に改めたことでございます。
  


これは,受託者が保存義務を負う場合の書類については,これを余り広げると受託者の負担が重くなることが懸念されるのに対しまして,受益者が閲覧・謄写請求権を有する書類につきましては,あえてこれを狭める必要はないと思われるという実質的理由に加えまして,例えば現行商法におきましても,商業帳簿等の保存に関する36条におきましては,「商業帳簿及其ノ営業ニ関スル重要書類ヲ保存スルコトヲ要ス」と規定しているのに対しまして,株主の帳簿閲覧請求権に関する293条の6におきましては,「会計ノ帳簿及書類」と規定していることなどを参考としたものでございます。


  第2に,資料8ページのアステリスクに関する事項でございますが,これは第4回会議におきまして,複数の受益者が存在する信託において,受益者がどこまでの書類を閲覧できるのかという点についての問題提起があったことを踏まえて検討したものでございます。
  

帳簿等の閲覧請求権につきましては,強行規定として提案しておりましたが,信託の当事者である委託者や受益者が一定の書類を開示しないことを望んだ場合には,これを許容すべきとも思われまして,信託法に関する論考の中には,特に書類の性質を問わず,受益者自身が同意している場合には,このような制限あるいは放棄を許容してもよいという記述があるものも見受けられます。

  そこで,帳簿等閲覧請求権によって保護される受益者の利益とのバランスを図りつつ,このような制限を認めることが可能ではないかという考えもあり得るということにつきまして,賛否を含め,ご意見を伺えればと思います。
  以上でございます。


● 特に,最後に○○幹事が説明された部分が大きなところだと思いますけれども,いかがでしょうか。

● 最後のアステリスクのところについて,意見を述べたいと思います。
  基本的にはこの方向でお願いしたいということでございますけれども,前回もちょっと述べたかもしれませんが,やはり他の受益者から情報をのぞかれたくないということもございますし,また信託財産について適切に保護すべき情報があると思います。


例えば,住宅ローンの証券化などを考えますと,対象の金銭債権の債務者情報,例えば資産内容であるとか家族構成とかいうことのように,個人情報を含む場合は,やはり信託行為の定めにより制限するのが妥当だと思います。

  また,不動産証券化においては,対象不動産のテナント名であるとか延滞率等の,ある意味で同様のセンシティブ情報のほか,賃料その他賃貸条件のような,営業秘密という情報もあるでしょう。


このようなことを考えますと,やはり閲覧対象からはデフォルトで外すことができるということが妥当だというふうに思っております。


  ちょっと,質問が二つありますけれども,一つは,ここで言う,この本則であります「信託事務に関する重要な書類」というものが一体何なのかということですけれども,保存義務とか閲覧対象になるものですけれども,私の理解では現行法でこういう書きぶりはないということですので,この範囲をここで明確にしておく必要があると思います。

最終的には司法によって判断されるとは思いますけれども,例えば「信託事務に関する」とか,例えば「重要な」ということについて,具体的な事例をもって補足説明等で,少なくとも立法担当者としての見解が明らかになればなというふうに思っております。

  例えば,その対象については,受託財産に関する資料であるとか,受託者が作成した稟議書などの意思決定書類,極端なのは交渉対話記録というものが対象になるのか,また重要に関していうとどういうものが重要なのか,その判断基準が一体何なのか,どのぐらいのものが重要なのかということについて,一定の指針を示していただければ有り難いというふうに思っております。

  2点目の御質問ですけれども,若干テクニカルな話なのですが,3の(3)の①とかに「目的で請求が行われたとき」ということの規律がございますけれども,これはそういうおそれがあると受託者が感じたときに,そもそもおそれがあるということでこの理由に当てはまるのかどうか,また当てはまるということであれば,それの挙証責任がだれにあるのかということについてお尋ねしたいと思います。


● 前者,この何がこの重要な書類に当たるかというのは,商法などでも教科書での解釈によられているところでして,法文上これを明らかにするということは困難だと思います。


あとはせいぜい解説の中で,主要なものについて触れることができるかどうかという程度で検討したいと思っております。

  あと,拒否事由でございますが,立証責任が受託者側にあることは明らかでございます。

おそれというのは,これは規定上は「おそれ」ということを書いておりませんので,やはり相当な理由というのはいわばおそれでございますが,この要件に当たるということを受託者が相当な理由でもって判断すると,おそれというよりは相当な理由があると判断した場合には,初めて拒否できるということで,答えとしてはおそれはだめだと,相当な理由があればいいと,こういうことでございます。


● この帳簿作成義務について,まずアステリスクのところですけれども,これについてはこういった形で最初から除外できるというふうにするのはちょっと問題ではないかと考えております。

特に,この解説の中で挙げられておりますけれども,信託契約書につきましては,今回の立法の過程の中では,柔軟性を確保する観点から,信託行為に別段の定めを置くことによってデフォルト・ルールを外すというようなところが随所に見られ,そういった全体像からすると,受益者は結局信託契約書を見ないことには,どういった権利義務を自分が取得しているのか,負っているのかということを正確に把握することができないというふうに思われます。


したがって,この信託契約書については,こういったことで見られないようにするというのは,やはり問題が大きいと思います。


  特に,もし訴訟等になったような場合には,これは恐らく文書提出命令との関係では,いわゆる法律関係文書というふうにおとりになるのではないかと思うのですが,こうした文書について,閲覧・謄写について制限をするというのはかなり違和感もあるところですので,これは慎重に検討をお願いしたいと思います。

  それから,説明の中では,自己が受益者であることを他に知られたくないという意思があるのではないかということが述べられていますけれども,信託契約書については,少なくとも契約書の作成の仕方によって工夫の仕方があり得るのではないかと思われますし,またほかの書類についても,個人情報については一部を隠して閲覧・謄写に供するというようなことも検討されてよろしいのではないかというふうに思われます。

  それから,内容の異なった受益権を付与した場合に,他の受益者が有する内容を知られたくないと思う場合について記載されているのですけれども,これについてもそういった場合を許容する場合には,これが濫用的に用いられるということもあるのじゃないかということが懸念の声として出ておりまして,そもそもこういった内容の異なった受益権についても,きちんと受益者の監視監督といいますか,そういった機能を発揮させるということの必要性をむしろ考えるべきではないか,あるいはそういったことを制度として持つことによって,そういう濫用的な用い方がされないような形に持っていくべきではないかというふうに思います。
  


帳簿の閲覧について,全体的なところでちょっともう一言申し上げておきたいのですけれども,3の(2),(3)のところで,これは前回の議論の中でも,商法の規定を下敷きにして制度設計をされたという御説明があったかと思いますが,信託の受益者の地位と株主の地位というのはかなり違うということも一応念頭に置くべきではないかというふうに考えております。

信託の受益者というのは,信託契約関係の当事者ですし,受託者はその信託の受益者に対して忠実義務を負っておるという関係にもあります。


信託事務の処理の内容として,当然一定の説明義務も受益者に対して負っているという関係に恐らくなるのだろうと思います。


そうしますと,これと,株主等の立場というのは大分様相を異にするのではないかというふうに思われます。


そういったことの質の違いということも考えますと,やはり受託者が受益者に対して情報を提供する責任といいますか,義務については,これはきちんとできるだけ情報提供がうまくいくようにすべきではないかと,そういった観点から,この(2)と(3)で理由を明示して,かつ拒絶事由を挙げるという規律をしているということについては,やや厳し過ぎるのではないかという感想を持っております。

特に,これは集団信託の場合にはこういった規律が必要であるかなというのは分かるような気もするのですけれども,一般の民事信託とか,あるいは個別の例えば土地信託やなんかの場合を考えた場合に,こういった規律をすることが果たして妥当なのだろうか,一般の民事信託の場に,一般の人たちの感覚に合うのだろうかということを考えますと,ちょっと疑問がございますので,是非この辺は慎重に御検討いただけないかというふうに考えているところでございます。これについて,御検討,よろしくお願いいたします。


● 今の点で,2点ほどお伺いしたいのですが。
  一つは,受益者の情報入手権を重視するという観点から,制限するのはどうかという点に関してですが,これは,受益者自身が同意している場合でもだめということでしょうか。


信託行為で定めている場合は問題があるとしても,受益者が自分でいいよと言っている場合も果たしてだめなのかというあたりをどうお考えになるかというのが1点でございます。


  それからもう一つ,3の(2)と(3)が厳し過ぎるという御意見でございましたが,ここは「理由を明示して」というのは,別に裏付け資料がある必要はなくて,とにかくどういう理由かということを主張だけすればいいということでございますし,相当な理由があって拒むというのは,これは受託者の立証責任でございまして,確かに株主と受益者は違うという,同視しているわけではないのですが,必ずしも厳し過ぎるということはないのではないかと思っておりまして,どういう点が厳しいのか,具体的な規律の中身でおっしゃっていただけると助かりますが。

● まず,後者の点ですけれども,理由を明示するといった場合に,どこまで言わなければいけないのかという問題だろうというふうには思うのですが,例えば土地信託やなんかの場合で,受益者で実質的に自分が持って--土地信託でも不動産の信託でもいいのですけれども--管理をゆだねた場合に,自分のゆだねた財産がどういう状況になっているのか知りたい,確認したいということで,その程度の理由で構わないということであれば,これは余り問題ないかなというふうに思いますし,でも逆に言うと,そうすると「理由を明示して」ということをわざわざ条文にうたう必要があるのかなというふうに考えておるところで,そういった点から,その程度であれば問題ないと思いますし,逆にそれ以上の,商法なんかは具体的な理由を明示しろというふうに規律されていると思うのですけれども,そことの関係,商法と同じような形で理由を具体的に明示しろということになると,ちょっと厳し過ぎるのではないかという感じを持っているというところと,それから前者の受益者の同意については,これは同意のとられ方だと思うのですけれども,もちろん受益者がその内容をきちんと理解して,了解しているということであれば,それは許容されることだろうとは思うのですが,それが一般の権利放棄の場合と同じで,あえて条文で規律をすることもないのではないかというふうに考えておるのですけれども。

● 解釈の中で対応して,あとは信義則とか公序良俗の問題ではないかという御趣旨ですね。一律に,解釈上も否定されるわけではないということですね。


● はい。
● ごもっともな点もありますので,検討したいと思いますけれども。
 

 私も,個別のといいますか,民事信託とか土地信託とか,そういう場合については例えば3の(3)の中の①から⑦までの中の幾つかは,やはり該当しない,そういうものについては当てはまらないという場合があるのだろうと思うのですね。


特に,ちょっといろいろあるけれども,⑦なんていうのは一般的な規定なので該当するかもしれませんけれども,ちょっと実際には解釈,当てはめの問題になると思いますけれども,集団信託でないような場合には拒否できる理由というものは相当制約されるのだろうというふうに思います。
  ほかに,御意見……。


● 受託者の情報提供義務,受益者から見れば帳簿等の閲覧・謄写請求権はやはり受益者に対して与えられている,特にいわゆる共益権的な権利,監督権的な権利を行使するための基礎となるものですので,その制約はやはり慎重に考えるべきではないかと思っております。

特に,例えば信託事務に関する重要な書類について,一切見ることができないというのは,重要な書類であるのにもかかわらずアクセスできないというのは,受益者の立場からすると非常に問題で,むしろこの3の(3)に挙げられております拒絶事由をもう少し見直すことによって,先ほど挙げられた幾つかの例がこの拒絶の理由にうまく入らないというようなものがあるときには,拒絶事由の方を見直すと,こういう考え方で進んでいくのが筋ではないかと思います。

  特に,8ページの下から9ページの冒頭にかけて挙げられている部分については,受益者が自分が受益者であることを知られたくないという部分は,確かにそういう利益もあるかとは思いますが,他方で,例えば少数受益者権が認められていて,ほかの受益者に声を掛けて一定の持分割合に達するというような場合には,やはり必要性がある場合もありますので,一律にこういう利益だけで情報請求権を制約するということには,私も若干疑問があるように思われます。

● 私は,信託法といいますか,信託といいますか,これは信託行為と信託契約という私的自治の枠組の中で行われるということが多分ネイチャーなんじゃないかなというふうに思いますので,自由度の高い設計ができるようになっているというのが原則であるべきじゃないかなと思う次第です。


したがいまして,余りこういうものも開示しなければいけない,ああいうものも開示しなければいけないというよりは,信託--信託といっても本当にいろいろなものがございますので,その信託のそれぞれ性格,あるいは受益者がだれになるかというようなことも含めた上で,それはそれぞれの信託契約,信託行為の中で適切に定められていくというふうに考えるべきであって,法律上の扱いといいますか,デフォルト・ルールといいますか,そういうものとしてはおおむねこういう内容のものでいいのではないかなという気がします。

● 私も,○○委員の方からお話がありましたとおり,私的自治にゆだねられるのが一番いいのだろうと思うのです。


ただ,先ほど来お話に出ておりますように,例えば投資信託の受益者の方に対して,果たして開示しなくていいのかどうかとかいうような問題から,そういう観点から見る場合であるとか,正に一般の民事信託としてどうなのかという観点から見ると,やはり何らかの歯どめが必要なような気もします。
  

ただ,私どもが今扱っているような集団性のある信託ということを前提にする限りにおいては,やはりこの規律というのはぎりぎりのところかなというふうに考えていまして,これよりも受託者側にとって厳しいものが入りますと,やはりなかなか実務上対応が厳しいなというふうに感じておりますので,基本的には原案というものに賛成というふうに考えております。

● これ,信託法全体にわたることですけれども,商事で,かつ集団的な信託と,それから民事というのでしょうか,あるいは土地信託のような個別性の強い信託と,すべてにわたる一般法を議論しておりますので,なかなか難しいのですね。

この問題も,正に先ほどから幾つか御意見がありましたように,土地信託などについては果たしてこのルールでいいのかどうかというのは,若干私などももうちょっと検討した方がいいのではないかという点を感じてはおります。


しかし,集団信託になると,今,○○委員が言われたように,こんなところかなとも思いますので,そこら辺はほかの規定にも共通する問題ですけれども,どこら辺でどういう折り合いをつけるのか,あるいはデフォルト・ルールにして--集団信託とそれ以外とを分けるというのは,なかなかこれもテクニカルには難しいところがあって,どのぐらいになると集団信託なのかとか,なかなか線が引けないので,そこで苦慮しているわけですけれども,今,大体の御意見は出てきたと思いますので,そういう御意見を踏まえながら更に検討させていただければと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,本日はこれで終わります。
─了─

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2016年加工編


法制審議会信託法部会
第12回会議 議事録

第1 日 時  平成17年3月25日(金)  自 午後1時00分
                       至 午後5時00分

第2 場 所 法務省第1会議室

第3 議 題
信託法の見直しに関する検討課題(9)について(続)
   信託法の見直しに関する検討課題(10)について

第4 議 事 (次のとおり)

議    事

● 時間になりましたので,法制審議会信託法部会を開催したいと思います。
  (委員の異動紹介省略)
  それでは,今日の審議ですが,またいつものように幾つかに区切って御審議をいただきたいと思います。その区切り方等につきましては,また○○幹事から説明をお願いします。


● それでは,本日の題目でございますが,以下のとおり四つに分けたいと思っております。


  まず最初に,前回の積み残しでございますが,受託者の損失てん補責任とその消滅時効の問題につきまして,御審議をいただきたいと存じます。
  

続きまして,受託者の忠実義務と公平義務の問題について,それから,引き続きまして受託者の補償請求権と報酬請求権の問題につきまして御審議をいただきたいと存じます。


  最後に,受益者の差止請求権・検査役選任請求権,法人役員の連帯責任の問題という四つの区分でやっていきたいと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。


● では,お願いいたします。

● それでは,最初に前回の積み残しとなっております受託者の損失てん補責任等と,その消滅時効等につきまして,提案の内容を御説明申し上げます。
  

まず,第24の原状回復責任及び損失てん補責任に関する提案でございますが,これは基本的な考え方は前回提案から変更はございません。


  以下では,前回提案に対する指摘事項を踏まえまして,事務局において更に検討した事項について,2点御説明いたします。


  まず,前回提案におきましては,原状を回復するには著しく多額の費用を要するときは,原状回復責任を負わないこととしておりましたが,第4回会議におきまして,ここで問題とすべきは費用の絶対額の多寡ではなくて,原状回復によって増加する信託財産の価値と,原状回復に要する費用との相対的な多寡であるとの指摘がされたことを踏まえまして,その旨を明らかにいたしますとともに,請負人の担保責任に関します民法634条1項を見ますと,「仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は,請負人に対し,相当の期間を定めて,その瑕疵の修補を請求することができる。ただし,瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分な費用を要するときはこの限りでない」という規定がありますのも参考にいたしまして,「原状の回復を要する程度が大きくないときであって原状の回復をするには過分の費用を要するとき」との文言に改めました。


  その結果,原状回復に要する費用が回復される価値に比して過分とは言えない場合はもちろん,たとえ原状回復に過分の費用を要するときであっても,信託目的を達成するためには,信託財産に生じた不具合を是正すべき要請が高いときには,なお原状回復が義務づけられることになるものでございます。
 

 第2に,我が国の損害賠償体系は金銭賠償を原則としているにもかかわらず,信託においては原状回復を原則とすることは果たして妥当であるかという問題を解決する必要があることにつきましては,かつてより指摘してきたところでございます。

  この点につきましては,第4回会議におきまして,信託の受託者は経済的な価値を扱っているのではなくて,信託財産そのものを,その態様まで含めて受託しているというのが基本的な在り方であることに関連しているのではないかとの指摘がございました。

このような指摘を踏まえまして,信託において原状回復責任を原則として考えることの当否について検討したところが,資料の12ページに記載したところでございます。

  すなわち,請負人の担保責任に関する規定に見られますように,契約の性質等によりましては,当事者の救済方法として,金銭賠償ではなくて,原状回復責任の方を基本にとらえることも可能であると解されるものでございます。


これを信託について見ますと,受託者は,信認義務の内容といたしまして,単に受託財産の経済的な価値を維持すべき義務を負うというにとどまらず,むしろ信託財産の態様を,信託目的の達成のために必要な形で管理すべき義務を負うものと解するべきであって,かかる義務に違反して信託財産に不具合を生じさせたときには,金銭賠償をすれば足りるというわけではなく,むしろ原則としては,本来の信託目的の達成が可能となるように,信託財産をもとの状態に戻すべき義務,すなわち原状回復義務を負うことになると解すればよいのではないかと考えるものでございます。平たく言うと,要するに金の問題ではないという考え方をするものでございます。
  以上で第24についての御説明を終わります。

  続きまして,第26の消滅時効等についての提案内容について簡単に御説明いたします。

  これは受託者に対する原状回復請求権,損失てん補請求権,それから仮に認めることとした場合の利益吐き出し請求権の消滅時効期間,除斥期間及びその起算点に関し提案するものでございます。
  

前回の提案を踏まえた検討事項のうち,信託行為の定めをもって委託者にもこれらの請求権を付与することとした場合の起算点につきましては,受託者の信託違反行為のときといたしましたが,その点を除きまして,ほか2点につきまして,いずれも前回からの指摘にかんがみた検討結果の概要を説明したいと思います。

  まず第1点といたしまして,損失てん補等請求権の消滅時効の起算点及び消滅時効の期間につきましては,資料の指摘事項3②,③と書いてございますが,米国統一信託法典との対比に基づく指摘の内容を踏まえまして,消滅時効の起算点については客観的な信託違反行為のときからではなくて,受益者が信託違反行為を知ったときから起算することとした方が受益者の保護に資すること,それから客観的な信託違反行為のときから進行する除斥期間の規律もあわせて導入することによりまして,受益者が信託違反行為の存在を認識しない限り,損失てん補等請求権が消滅時効にかからず,法的安定性を害するという弊害が,相当程度解消されるであろうこと,それから損失てん補等請求権の基本的性質を,債務不履行責任と位置づけることからすれば,債務不履行に基づく損害賠償請求権の場合と同様に,その消滅時効期間を10年間とすることが民法の規定と整合的であること,営業信託におきましては,消滅時効期間は商法522条により5年間に短縮されるので,営業信託の実務にも支障がないと思われること,以上のような諸事情にかんがみまして,受益者が有する損失てん補等請求権につきましては,その消滅時効は,受益者が信託違反行為があったことを知ったときから10年間,除斥期間につきましては信託違反行為のときから20年間とすることとしたものでございます。

  
次に,第2点といたしまして,第4回会議におきましては損失てん補等請求権の消滅時効の援用に当たりましても,受益債権の消滅時効の援用の場合と同様に,受益者に対する通知を必要とすべきかとの問題指摘がございました。

  この点につきましては,資料15ページ以下の4に詳しく理由を記載しておりますが,結論として,受益債権の消滅時効と同じような通知というものは不要であると解するものでございます。


理由を申し上げますと,受益債権というのは信託における基本的な受益者の権利であります上に,原則として受益者による受領を要しますので,受益者に対して権利行使を促し,これを時効消滅させることについても慎重を期するという仕組みをとることが合理的であると考えられます。
  


これに対しまして,損失てん補等請求権は,受益者の本来的な権利というわけではなくて,受託者に対する責任を追及するものでごさいまして,しかも受益者の行為がなくても受託者のみで履行することが可能であると思われますので,受託者が自身のみでできるはずの履行をすることとはせず,受益者に通知して,自己に対する責任追及を促すという仕組みをとることに不自然な感があります上に,消滅時効期間の起算に当たりまして,受託者の信託違反行為の存在を知ったことを要件とする以上,消滅時効の援用の際に改めて権利の存在及び内容を通知して,権利行使の機会を再度確保してやるまでの慎重な手続を経る必要性はないと考えられるからでございます。

  その結果,損失てん補等請求権の消滅時効及び除斥期間につきましては,時効の援用権者,各起算点及び期間につきまして信託法上に規定を設ける以外には,民法の規定が援用を含めまして適用されることとなると解するものでございます。
  以上で終わります。

● それでは,前回の積み残しの第24,それから第26,これについて御議論いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。
  大体,この辺はそれほど大きな対立点もなかったようには思いますが。

● 1点だけ。検討をお願いしたい点なのですが。


  損失てん補責任等を請求し得る者として,委託者については「信託行為に別段の定めがある場合に限る」というふうにされておりますが,委託者の方で恐らくこういった責任追及が必要な場合というのは,例えば親族関係の信託で,受益者が幼少の場合ですとか,あるいは受益者が未存在ですとか,不特定の場合ということになるのではないかと思われます。

こういった場合に,信託行為に定めがない場合に,損失てん補責任を追及し得ないというのは,ややちょっと不都合ではないかというふうに思われます。


したがいまして,この別段の定めをすればいいということになるのかもしれませんけれども,今後一般の民事信託の普及ということを考えた場合には,できるだけデフォルト・ルールとしてはそういった規定がない場合にも不都合がないようにしていただけると助かるかと思います。


したがいまして,先ほど申し上げた場合について,規定の工夫をしていただけないかというのが意見です。よろしくお願いいたします。


● 普通は,そういうときには信託管理人というのを定めるということで,信託管理人が受益者の権利を守るのだと思いますけれども。まあ,そういう問題があるというのが一つ。

  それから,委託者にデフォルトのルールとして当然にそういう権利を与えるというのは,信託の構造からどうかという問題があって,そういう意味でここでは少し慎重な立場をとっているわけですが,これについても何か御意見があれば……。
  あるいは,○○幹事の方から何か。

● それについては,○○委員が今おっしゃったような問題点がありつつ,御指摘につきましては受益者の不特定又は未存在の場合一般に通ずる問題,あるいは委託者の権利をどこまで認めるかという問題に関連するところと思いますので,関連のところで検討したいと思います。


● 細かい話で,かつ提案について賛成とか反対とかいう話ではないのですが,実務的な観点から第26についてコメントを一つです。


  除斥期間ですが,20年ということになっておりまして,これが長いか短いかというのは正しく判断の話だと思っておりますけれども,第23の帳簿保存義務というのが10年というふうになっておりますので,片や除斥期間20年ということになりますと,もちろん挙証責任の云々という話で,必ず受託者が帳簿を20年まで持たなければいけないかということはないわけですけれども,10年と20年の乖離というのをどう考えたらいいのだろうかと。保守的な受託者であれば,結果として20年帳簿を持たないといけないのではないかという懸念の声が一部あったということについて,御報告したいと思います。

● 除斥期間の場合には,これは一律に20年で切ってしまうので,逆に言えば帳簿はなくても切れるというところに意味があるのかもしれませんね。
  ほかに,御意見ございますか。

● 読み方なのですけれども,「故意又は過失により法令又は信託行為の定めに違反する」というふうに記載されているのですけれども,法令違反に関して,過失とか故意を議論するというのはなかなか観念し難いのではないかと思うのですけれども,これはかかり方としては法令違反は別であって,信託契約違反について故意・過失ということなのでしょうかという質問と,これは信託契約に対する債務不履行責任ですから,立証責任という観点からしても,ここではそこまでの,分配はまだ議論する前の話なのかもしれませんけれども,損害賠償請求する立場,また損失てん補請求をする立場の受益者が,自ら受託者の信託行為違反があるにもかかわらず過失まで立証責任を負うというのはちょっと過重ではないのかと,そんなふうに感じるのですけれども,いかがでしょうか。


● ごもっともな御意見のような気がしますが。
  法令については余り議論しなかったけれども。


● 法令の中に,故意・過失を要件としている場合があるのではないかという観点から書いているところでございますが。


● 通常の法令違反は,当然ある意味では過失ということ。法律の不知ということは,過失ということもできますので。
  債務不履行責任との関連では,どうなのでしょうか。

● これは,債務不履行責任という性質だと基本的に位置づけておりますので,受託者側で故意・過失がないという,帰責事由がないという立証が必要になるのではないかと考えているところでございます。

● 第26について,説明だけのことなのですけれども,2点ございまして,受益者に対する事前の通知を要件とする必要はないという結論についての説明は,受領が不必要だということと,それから本来の債務ではないのだという,この2点があったと思うのですが,他方で12ページでは,損失てん補責任の性質として,これは受託者の債務の内容として内在しているという点を強調しておられます。

そこが少し違うんじゃないかなという印象があるということです。それから,受領の有無で区別するというのも必ずしも決定的ではないのではないか。


むしろ,信託違反を知って,受益者が放置したという,その懈怠があるのだから忠実義務違反を問うこともなくなると,そんな説明がオーソドックスといいますか,伝統的な考え方かなという気がいたします。以上が1点。

  それから,もう1点は,第26の3と4なのですけれども,前回から出ていた問題ですが,委託者,あるいは他の受託者については,起算点は消滅時効も除斥期間も同じになるわけですね。

これは,他の法制と比べてみると,少し変わっているのではないかと。ほかは,主観的要件を加味したものが時効の起算点になって,客観的なものが除斥期間の起算点になるというのが多いと思うのですけれども,これが一致していることについて,少し説明をしておいた方がいいんじゃないかなと思います。
  以上,2点です。

● 前者の御指摘の説明文につきましては,ちょっともう一度整合性を含めて検討したいと思います。
  後者は,起算点がずれているのがおかしいのではないかという御指摘であれば,受益者については知ったときから,他の受託者とか委託者につきましては客観的な行為のときからということになっておりますが。


● そうではありませんで,委託者,それから他の受託者については,消滅時効の起算点も除斥期間の起算点も同じときから始まるというのが,ほかの法制との関係では少し特色があるのではないかということです。


● 今のは,受益者以外の者の損失てん補請求権の消滅時効の起算点を,こういうふうに客観的に定めた結果としてそうなってしまったわけですね。


● そうです。


● 多くの場合,確かに消滅時効の場合と除斥期間とで起算点が違うということはあると思いますけれども。

  ただ,必ずしも一緒になっていてだめだというわけではなくて,ほかに何か御提案はございますか。消滅時効の方の起算点を変えるわけですね。


● 消滅時効について,主観的要件を入れるということもあり得るかなとは思うのですけれども,そうした場合には,今度は受益者に比べて時効期間を少し短くするというような調整もまた出てくるかもしれませんで,かえって複雑になるから,これはこれで仕方がないかなという気もするのですが。

● こちらとしては,受益者については特に保護の要請が強いので「知ったときから」としましたが,ほかのものについてはそこまでの必要性がないでしょうし,他の受託者であれば,より信託違反行為の存在を認識してほしいという要請が強いからという気がいたしまして,客観的な時点からでいいのではないかと。むしろ,受益者についてだけ特に遅らせているというのが基本的な発想でございます。


● ちょっと私,よく分からないのですが,第26に関して14ページの説明で,損失てん補等請求権というのは,原状回復請求権及び損失てん補請求権並びに利益吐き出し請求権というものを含んだ言葉として使っているということなのですが,この利益吐き出し請求権のときの消滅時効の在り方というのが,ちょっと私,細かいところまで今頭の中で詰まっていないのですが,分かりにくいところがあるような気がするのです。

つまり,受託者がある忠実違反行為によって利益を上げたというときに,例えば受益者側で,それは信託行為としてなされているというふうに主張すれば,得られた利益というのは信託財産そのものであって,そこには時効なんて観念する余地はないのですよね。そこにある財産が信託財産になるわけですから。


  これに対して,これは忠実義務違反である,おまえはそれで利益を上げて,そこに財産がある,だからそれを吐き出せという請求の形をとりますと,これで消滅時効にかかるという形になるわけですが,この利益吐き出し請求権というものをどういうふうに位置づけるのか,追認をする,一部追認みたいな形で,物権的な救済を受益者に与えると,つまり自分のためにやっていたのだということの主張を許さないというタイプの,そういうふうな性格を持った救済方法として位置づけていくのか,それともいずれにせよ自分のためにやった限りにおいては,そこに信託財産にするという行為が必要であって,そこにおいては消滅時効というものは観念できるというべきなのか。

私は,前者であるということも十分にあり得ると。つまり,受託者の側で,これは自分のためにやったのだということを言うことは許さないということは十分にあり得ると思いますし,また追認ができないかというふうにいいますと,できるような気もするわけです。

そうしますと,消滅時効で利益吐き出し請求権も当然にこれと同じ,原状回復請求権や損失てん補請求権と同じ規律にのるのだよというふうに説明するのは,もうちょっと利益吐き出し請求権の性格を詰めてからにした方がいいのではないかという気がいたします。

● ただ,今の問題は恐らく時効についてだけではなくて,もっと一般的に利益吐き出し請求権とそれから信託違反行為を追認してというのでしょうか,それは信託財産であるということを主張する,その二つの権利の関係,そういう問題にどうもかかわってきそうですね。時効だけでおさまるような問題ではないような気がしますが,どうですか。

● 御指摘のとおり,とりあえず債務不履行というのですか,受託者の忠実義務違反の類型だということで大ざっぱにひっくるめてしまっておりまして,御指摘のとおり利益吐き出し請求権については忠実義務のところでいろいろとまた,そもそもそういう責任を認めるべきかどうか,どういう性格かというところは詳細な御議論いただく必要がございますので,その御議論を踏まえた上で,改めて同じ消滅時効の規定にのせることができるかどうか,再検討いたしたいと考えているところでございます。

● 考え方をちょっと教えてほしいのですけれども。


  この原状回復の方は,受託者のもとに戻るということですね。損失てん補は,信託財産に対する損失てん補というと,損害賠償請求--義務があるのも受託者ですけれども,それが請求するのも受託者ということで,信託財産に帰属するということなのでしょうか。


何となく考え方として,受益者という理解もできるのではないかと思うのですけれども。

  もう一つ,似たような大きい議論として,違反をした受託者のもとに戻るという--ほかのところでも議論されているのかもしれませんけれども,違反した受託者が自らに損害を賠償するというところの考え方とか,何か違反者に対してそういうことでよろしいのかなと思うわけですけれども,その辺の考え方をちょっとお知らせいただければと思うのですが。


● そこは,確かに受託者の所有名義に係るものが信託財産でございますので,御懸念はあるかとは思うのですが,一般的な議論といたしましては,原状回復にせよ損失てん補にせよ,信託財産に戻すと。

ですから,場合によってどういう行為が必要かと。要するに受託者の固有財産から信託財産に戻すというのは一種の形成的なというのですか,外部的な行為がどこまで必要かと,そういう問題はあるとは思うのですが,いずれにしても戻す対象は信託財産というところは変わりがないと考えております。

● そうすると,受益者はこの議論とはまた別に,自ら損害があれば自らの損害を一般法理として請求できるということになるのでしょうか。


● 415条の損害賠償責任は,できると考えております。


● 受益者自身が自分に損害賠償せよという,そういう権利のことをお考えですか。


● 場合によっては,ですね。


● そこは,本当はなかなか難しい問題が信託についてはあると思いますけれども,一般論としては,この信託の枠組の外の問題として,一般法理であり得るかもしれない。


● 原則はどちらに。

● 原則は,ここに書いてある規定のルールに従うわけですけれども。
  ちょっと別な話に関係するかもしれませんが,受益者自身が債務不履行責任とか,場合によっては自分の受益権を侵害されたというので不法行為による損害賠償とか,いろいろな権利を行使する可能性があるのですが,それがどこまで認められるかというのは,なかなか難しいですね。


信託財産自体を専属的にといいますか,専ら管理しているのは受託者で,受益者の損害というのは,基本的には受託者が--受託者自身の義務違反がある場合はちょっとまた別ですけれども,一般論で申し上げますと,受託者がいろいろ権利を行使して信託財産に戻すことによって受益者の損害というのは回復されるというふうに考えると,受益者自身がどこまで請求できるかというのは,結構難しい問題があるような気がしますね。


  ただ,今,○○委員が言われたのは,受託者の義務違反の場合を前提に考えられている。

● そうですね,ですから受託者に戻すのが原則だと考えます。ただ,違反した受託者に戻すということは,なかなか……。そうすると,受益者という考え方も場合によってはあり得るのかなと思った次第です。

● どうしても受託者が信用できないということであれば,受託者の解任とか,そちらで対処するのかなと。とりあえず財産は,信託財産に戻すということで考えております。

● よろしいでしょうか。

● ○○委員が最初に発言されたことに関連するのですけれども,損失てん補責任の「故意又は過失」というのが原状回復責任の要件に加えられているというところについて,ちょっと一言発言させてください。
 


 これが,受託者が負う責任の一般的な規定になると思うのですが,受託者が負う義務には様々なものがあって,例えば今日これから予定されている忠実義務とか,あるいはその中に入る利得,取得行為の禁止とか競合行為の禁止とか,そういうものが入ってきます。


こういうものに,果たして「故意又は過失」という要件を追加的に必要とするのかどうかというところは,答えを持っているわけではないのですけれども,少し細かな検討を必要とするのではないかと思います。

  それから,ばかな話になってしまうかもしれないので,そうであればすぐに撤回しますけれども,善管注意義務というのは重要な問題としてあって,善管注意義務というのは注意のレベルの問題だと言っておりますので,そういうときに法令でデフォルトのルールが定められていて,そして信託行為でもそれを動かすことは可能だとしているのだろうと思うのですが,果たしてそういう問題を,この第24の1のここに書かれている方向で要件を拾い出していったときに,どういうふうに当てはめていくのか,面倒な問題があるのではないかと思います。


それは,やはり一つは「故意又は過失」というのが,趣旨は分からないではないのですけれども,原状回復責任を負う場合の一般的な要件として書き込まれたというところに起因するのではないかと思います。


したがって,例えば受託者が運用をするようなタイプの信託で,十分な調査とか情報収集とかをせずに運用した結果,損害が生じたので,そのときにではどういうふうに考えるのか,「故意又は過失」が要るだろうというような議論になるということはそのとおりだと思うのですが,何かうまく「故意又は過失」というのが必要となる局面というのは必ずしも全部に及んでいなくて,その一部なのではないかなという感じがいたしますので,少しここはなお検討を要するというふうに考えていただけると有り難いと思います。私も,引き続き考えてみます。

● 忠実義務の方はまた後で議論になると思いますけれども,無過失責任と見るかどうかという問題がありますので,○○幹事がおっしゃるとおりだと思うのです。


  善管注意義務の方に関して,これについても「故意又は過失」が及ぶ場合と及ばない場合があるという,そういう御趣旨ですか。

● 信託事務を遂行する義務というのが善管注意義務のところの最初にありまして,それには「故意又は過失」というのをかけていくことになるのだろうと思うのですが,ただその次の項に,善管注意義務の注意のレベルについて定めているので,それが過失のところに当てはまって,そのレベルをデフォルト・ルールとして定めているものとして位置づけるのか,それとも法令の定めというところに当たるのか,あるいはそれを変更している信託行為の定めがあった場合に,そこをどういうふうに「故意又は過失」によって法令又は信託行為の定めに違反した場合というのをどういうふうに読んでいくのかというのは,やや多くの要件が競合して入り込み過ぎているのではないかなという感じがいたします。
  


基本的にそういうのが無過失責任になるだろうということで言っているわけではないのですけれども,幾つかの競合し得る要件が,何か全部書いておけばどれかに当たるだろうというような感じをちょっと受けるということでございます。

● 善管注意義務というもの自体をどういうふうに位置づけるかということで,たしかこの場か,あるいはどこか別の場所だったかで議論いたしましたが,それとも少し関係する問題ですね。
  一般論としてはこれでよさそうだけれどもという……。


● 一般論として,説明の最初のところの「故意又は過失」が必要となるというのは,忠実義務のような問題を除けば,一般論としてはそれはそれでいいのだろうと思いますが,しかしそれを表現しているときに,こういう形でいいのかどうかというのは,ちょっとまだ整理し切れていないのではないかなと思います。

● では,それはもうちょっと検討させていただきます。


● 私も,第24の損失てん補責任についてですが,結論はよろしいのですが,整理だけをお願いしたいということです。


  この原状回復責任の免責要件として,今回,先ほど一つはありましたけれども,二つ挙げておられて,「原状の回復が著しく困難であるとき」というのを一つ明確に挙げて,もう一つが「原状の回復を要する程度が大きくないときであって,原状の回復をするには過分の費用を要するとき」と。


後者については参考にされたのが請負の規定でして,これは正におっしゃるとおりでこれで結構かとは思うのですけれども,請負に関しましては,明文で規定されていますのは正に瑕疵が重大ではなくて,過分の費用を要するときのみなんですね。

  それで,それだけかといいますと,実はそうではなくて,修補請求に対して修補義務の履行が不能であると,履行不能であるといえるときには,やはり修補義務の履行は免れるということになる,解釈上間違いなくそうなっていると思うのです。


その際の履行不能というのが,物理的に不可能だというだけではなくて,もう少し広くとらえられているというのが民法の解釈論だろうと思います。

  としますと,今回挙げられました「原状の回復が著しく困難であるとき」という第1のものが,これは履行不能の御趣旨で挙げておられるのかそうでないのかというのは,ちょっと整理をした上でお考えいただいた方がいいのかなという気がいたします。それだけでございます。

  これでよいのだろうと思うのですけれども,書く必要があるのかどうか,あるとしてどう書くのかというのをちょっとお考えいただきたい。民法にもかかわってくるところですので,ということです。

● 「原状の回復が著しく困難であるとき」と書いたのは,正に御指摘のとおりの趣旨でございます。


ちょっと幅広く,履行不能をとらえているということでございますが,それとあわせて「特別の事情」ということを重複して書く必要があるかどうか,検討したいと思います。


● それでは,第24,それから第26についてまだ御議論があるかもしれませんけれども,一通り御議論いただいたということで次に移りたいと思います。

● それでは,第19の受託者の忠実義務と利益吐き出し責任のところについて御説明いたしますので,どうぞよろしくお願いいたします。ちょっと長くなりますが,御容赦ください。

  今回の資料の最初のところからになりますが,全体的な枠組をまず御説明しておきますと,実は前回の提案では,大まかに申し上げまして受託者の忠実義務に関する総則的な規定,利益相反行為の禁止規定,利益取得行為の禁止規定と分類しておりまして,更に利益相反行為については受託者が複数の信託を受託していたか否かで分け,権限行使上の競合行為,あるいは信託の機会の奪取行為という場面につきましては,利益相反行為に当たる場合と利益取得行為に当たる場合がある,こういうようなデマケーションをしておりました。

  これに対しまして,今回の提案でございますが,まず総則的規定がございまして,それから利益相反行為の禁止規定,利益取得行為の禁止規定がございまして,そのほかに競合行為の禁止規定,これは3ということになりますが,これを受託者が複数の信託を受託している場合か否かを問わず,独立の禁止類型と挙げております。

  さらに,利益相反行為,2になりますが,これにつきましては,受託者が複数の信託を受託しているか否かという切り口ではなくて,信託外の第三者を相手にする行為かそうではないのか,内部的なものが2の(1),第三者を相手にするのが2の(2)と,このような切り口で分けているものでございます。

  なお,今回の提案におきまして,競合行為の禁止については信託外の第三者を相手にする行為でありまして,かつ,受益者の利益を犠牲にする目的がございまして,更に受益者との利益相反関係があるということを要件にしている点におきましては,信託外の第三者を相手方とする利益相反行為に関する2の場合に包摂されると考えることも可能かと思います。
  


しかし,それにもかかわらず,独立にこの競合行為の禁止という類型を挙げましたのは,まず第1点として,競合行為というのは比較的ありがちな顕著な行為類型であって,取り上げるに値するということ,それに加えまして,競合行為は第一次的には信託財産にではなくて受託者の固有財産への効果帰属が問題となる点におきまして,第一次的には信託財産への効果帰属が問題となる利益相反行為とは異なる特色を有すると思われること,あと付随的にではございますが,例えば商法においても利益相反行為の禁止と競業行為の禁止とは別々に規定していること,このような点などを考慮して,独立に競合行為の禁止という類型を取り上げたものでございます。


  以上のようなデマケーションを前提といたしまして,まず忠実義務違反に関する各類型について,前回の提案に対する指摘等を踏まえて更に検討した点について,順次簡単に言及してまいります。
 


 まず,1の総則的規定でございますが,これは信託の利用の拡大に伴い,2ないし4の具体的な規定ではとらえ切れない忠実義務違反行為があり得るとの指摘を踏まえまして,訓示規定との位置づけを改め,効力規定と考えるものでございます。

効力規定と解することによりまして,資料13ページの(注1)というところに書いてございますけれども,受益者の利益を害しないものの違法性の高い行為,例えば信託財産の負担により取得した非公知の情報による一定の利得行為,このようなものを禁止の対象とできるメリットがあるのではないか。


その反面,2や3の場合と同様に,禁止の例外を明らかにする必要が出てくるのではないかといった問題が生じてくると思われます。

  次に,2の利益相反行為の禁止に関しましては,7ページから8ページの<説明>の2の(1)ないし(3)に記載したとおりの検討を加えております。


  まず,7ページの(1)記載の点でございますが,いわゆる信託財産・信託財産間の取引につきましては,その行為の実体が民法の双方代理に類似することにかんがみまして,受託者の主観的意図を要件に含めていた前回の提案を改めまして,自己取引の場合と同様に,受託者の主観的意図を問うことなく,客観的に判断して利益相反状態を生ずるのであれば,当該行為は,原則として無効となる,追認されなければ無効となるものと整理することといたしました。
 

 なお,前回会議では,受託者側からも無効を確定する手段の必要性が指摘されまして,要否を含め検討することとしておりましたが,この点につきましては資料14ページの(注4)というところに記載させていただきました理由から,このような受託者側から無効を確定する手続規定は設けなくてもよい,追認するかどうかということを請求すればよいということですが,そのように結論いたしております。


  次に,7ページの(2)記載の点でございますが,利益相反行為の効果のうち,先ほど説明した点に関係いたしますが,行為の有効性につきましては,受託者の主観的意図を問わず,客観的に判断して決せられるべきものと考えております。

  他方,受託者の損失てん補責任等の問題につきましては,先ほど御説明しましたように一般の場合は過失責任と整理しておりますが,特に忠実義務違反の場合に限っては,ここに書いてございますように,無過失責任とする考え方,過失責任とする考え方,第三として自己のために利益相反行為をした場合は悪性が強いので無過失責任,第三者のために利益相反行為をした場合には過失責任といういわば折衷的な考え方のいずれが妥当か,あるいはそれは責任の内容,すなわち損失てん補,原状回復か利益吐き出しかということによって異なるべきかということを問うているものでございます。

  最後に,利益相反行為の禁止につきまして,受益者の利益を害しないことが明らかであるときとの例外要件を設けることに伴いまして,受益者に対する透明性を確保する観点から,この場合,受託者は受益者に対し,原則としてその行為について重要な事実を通知すべき義務を課すことといたしました。


この通知と,利益相反行為の先後関係につきましては,14ページの(注6)に記載してございますが,両様あり得ると,先に通知してから行為をすることもあるでしょうし,行為をしてから通知するということもあると考えております。

  なお,信託行為の定め又は受益者の承諾がある場合ですとか,市場を介している場合など,受託者において利益相反取引がされたことを認識し得ないやむを得ない事由がある場合,このような場合には,このような通知義務を例外的に負わないこととしてよいのではないかと考えるものでございます。


  なお,付随的に,15ページの(注8)でございますけれども,これは受託者と受益者間の受益権の取引に関しまして,判例・学説上伝統的には忠実義務の問題ではなくて,せいぜい公序良俗の問題として無効になる場合があるにすぎないと解されてきておりましたが,これに対して前回会議におきましては,一定の場合,例えば信託財産の中に将来非常に価値のあるものが含まれているが,受益者がそれを知らないという状況のときに,受託者は受益権を安く買い取ってしまうというような行為は,忠実義務違反行為,利益相反行為の問題と考える余地があるのではないかという指摘がございましたので,この点についてこのような考え方をとるべきか,御意見を伺いたいというものでございます。
  


次に,「3 競合行為の禁止」でございますが,これは8ページから9ページの<説明>3の(1)及び(2)に記載とおりの検討を加えております。
  

まず(1)ですが,これは競合行為の位置づけに関するものでごさいまして,今回の提案においては独立の禁止類型として挙げることとしたこと,先ほど説明申し上げたとおりでございます。


  次に,(2)でございますが,禁止される競合行為に当たるための要件として,「受益者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図る目的」を加えていることに関しまして,むしろ米国統一信託法典のように,当該競合行為が信託に属すると見るのが適切な機会を利用したものか否かという客観的基準によるべきではないかとの指摘を踏まえて検討したものでございます。
  

結論といたしましては,客観的基準のみによるときは,禁止されるべき競合行為の範ちゅうをしかるべく限定することができず,過剰な規制に陥るのではないかとの観点から,主観的要件をも加えることが相当と判断するものでございますが,御意見を伺えればと考えております。

  なお,付言申し上げますと,これも前回指摘があったことでございますが,受益者の利益と第三者の利益とが相反する場合につきましては,利益相反行為の禁止であれ競合行為の禁止であれ,受益者の利益を犠牲にして第三者の利益を図る目的があることを忠実義務違反の要件としております。

しかし,仮に,この目的要件を満たさないために忠実義務違反に問われない場合におきましても,別途,善管注意義務違反に問われ得る場合があることがあることを,13ページ(注3)のとおり確認するものでございます。

  なお,9ページの末尾には「(注4)」と書いてありますが,「(注3)」の誤植でございますので,御訂正をいただければと存じます。忠実義務違反と善管注意義務違反はあくまで別個に考えられるということを確認させていただいたものでございます。
  

次に,「4 利益取得行為の禁止」に関しましては,10ページの<説明>4に記載したとおりの検討を加えております。

  まず,前回の提案でございますが,3類型設けまして,信託財産を利用して利益を取得する行為,例えば預かった土地の上に建物を建ててもうけた,信託財産であるダイヤを展示してもうけたと,こういう場合でございます。

それから,信託事務の処理に当たって利益を取得する行為,リベートなどを受け取ったというようなことでございます。


それから,信託財産に係る情報を利用して利益を取得する行為,この三つを禁止の対象の候補として挙げておりました。


このうち,特に③番目の情報利用行為につきましては,禁止対象となるべき行為,すなわち情報の内容を適切に限定しないときは,規制の内容が漠然となって受託者に困難を強い,翻って信託事務処理にも過度の萎縮効果を与えかねないこと,しかるに情報というのは抽象的なものであって,そもそも定義した上で限定を加えるといったことも困難であるという指摘がされました。


  このような指摘にかんがみまして,今回の提案では,利益取得行為の禁止の対象からは情報利用行為を外すことといたしまして,5ページに記載のとおり,これを外した甲,乙,丙の3案を提示するものでございます。


ただし,情報利用行為につきましては,それを一般的に利益取得行為の禁止の対象とすることは外しますが,信託に係るいかなる情報の利用行為をも忠実義務に抵触しないとまで考えているわけではなくて,特に違法性の強い信託情報の利用行為につきましては,別途忠実義務の一般原則に関する1の規律を効力規定と解することによってつかまえることができるのではないかと考えることは,先ほど申し上げたところでございます。

甲案ないし丙案のいずれが妥当か,あるいは情報利用行為についての今申し上げたような考え方が妥当かなどにつきまして,是非とも御意見をいただきたいと思っております。

  次に,前回の提案では,禁止の原則規定の方では利得の性質について特に限定を加えず,例外規定の方で正当な理由がある場合を除外しておりました。これに対しまして,今回の提案では,禁止の原則規定の方で不当な利益であることを積極要件とすることに改めたものでございます。


  なお,前回会議では,「正当な理由」という要件の内容をより明確化すべきとの指摘がありまして,このような指摘は不当な利益であることを要件とした場合にも同様に当てはまると解されますが,今後不当性の要件の明確化につきましては,例示を挙げることなどによって努めていきたいと考えているところでございます。

  続きまして,要件の話はいったん終わりまして,次に忠実義務違反行為の効果に関する提案について,御説明を続けさせていただきます。効果につきましては,11ページからということになります。


  まず,利益吐き出し責任の根拠に関する分析を除きますと,基本的な考え方につきましては前回提案から変更はなく,11ページの<説明>5に記載したとおりでございます。


  なお,利益相反取引の場合における第三者との間の取引の効果が信託財産に帰属するものとするか否か,換言しますと,無効な自己取引を追認するか否かということは,受益者の権利でございますし,信託違反行為の取消権も前に申し上げましたが受益者のみの権利であると考えておりますところ,競合行為ないし利益取得行為の場合におけるその取引の効果を固有財産から信託財産に引っ張ってくる,帰属させるというような行為,このような効果を生じさせる権利につきましても,当該行為の効果帰属の所在が信託財産か固有財産かを決定する基本的な権限として,受益者のみの権利であると考えているものでごさいますが,では受益者が複数いる信託において,この権利の行使が単独でできる権利であるのか否か,あるいは受益者間において選択が異なる場合にはどちらが優先するか等の問題につきましては,ここに限らず,例えば損失てん補と原状回復など,種々の場面で問題になりますので,別途受益者複数の問題のところなどで検討したいと考えているところでございます。
  

最後に,利益吐き出し責任について取り上げているところにつきまして,若干御説明を申し上げたいと思います。

  まず,受託者にこの責任を認めるか否かというのは,結局忠実義務違反の予防による受益者の保護の要請をどこまで認めるかにあるところ,その規律の在り方としては,資料6ページの5において,あくまでも実損による損失てん補を原則としながら,忠実義務違反による利益の額を損失の額と推定することによって損失の金額の立証を容易ならしめる規律を設けるにとどめるべきとする甲案と,それから正面から利益吐き出し責任を認めまして,忠実義務違反による実損を超える額の利益を受託者が得ている場合には,その利益の返還までも受託者に義務づけるべきとする乙案とを提案していることは前回と同様でございます。

  なお,この乙案におきましては,利益吐き出し請求の請求権者には信託行為に別段の定めがある場合の委託者を含むということが書き漏れておりますので,追加して訂正申し上げます。
 


 ところで,前回の提案におきましては,利益吐き出し責任を正面から認める今回の乙案を採用するとした場合の法的根拠についての検討はとりあえず置きまして,このような乙案をとることによって受益者の保護が甲案に比して具体的にはどのように強化されることとなるかという実際的な観点から3点ほど考えまして,一つは善管注意義務のもとでの損失てん補責任の規定によっても損失としては把握し切れない受託者の利得部分についても,その吐き出しを請求できることとすべきか,それから実際に受託者の利益に相当する金額の損害は信託財産に生じていないという反証を受託者に認めないこととすべきか,更には利益取得行為の禁止も認めるのであれば,その実効性を確保するためには,受益者による損失がないとしても受託者の利益を吐き出させることとすることが不可欠ではないかなどについて検討する必要性があるとの指摘をさせていただきました。


  これに対しまして,今回の提案では,このような実際的な観点からの検討に加えまして,利益吐き出し責任の法的な観点からの検討の視点を明らかにしたつもりでございます。


そして,資料12ページ以下の<説明>において示しました事務局の考え方を端的に申し上げますと,利益吐き出し責任の法的根拠といたしましては,不当利得の問題としてとらえる考え方,あるいは準事務管理の問題としてとらえる考え方などがございますが,受託者と受益者間には信託という一定の法律上の原因が存在することにかんがみますと,法律上の原因が存在しないことを前提とする不当利得や事務管理の問題としてとらえることが必ずしも適切な結論を導かないのではないか,むしろより端的に,利益吐き出し責任は受託者の債務の内容であるとして,すなわち信託における受託者の債務は,信託行為に定められた範囲を超えて信託財産を使ったり,受託者としての地位を利用したりすることによって,仮に信託財産に損失が生じていなくても利益を得てはならず,仮に受託者に利益が生じた場合には,それを信託財産に帰属させなければならないということを債務の内容として含むものと構成して,解決すべきではないかと考えているものでございます。

その上で,利益吐き出し責任を正面から認めるべきかにつきましては,今回の資料に記載しましたとおり,信託における受託者に,かかる重い債務,すなわち利益取得行為を独立の違反類型として規律した上で,利益相反でとらえ切れない受託者の利益を吐き出すべき義務,あるいは利益取得行為の類型を独立して規律しないこととしても,なお損失てん補プラス善管注意義務違反ではとらえ切れない更なる受託者の利得を吐き出すべき義務,このような重い義務を課し得るだけの十分な立法的根拠があると言えるかという理論的な側面,それから前回の資料に記載したところでございますが,受託者にかかる重い債務を課すこととしてまでも忠実義務違反を予防して,受益者の利益を保護すべきか,それとも吐き出すべき利益の程度いかんによっては,受託者に過度の萎縮効果を招き,信託財産にとってもかえってマイナスではないかなどの実際的側面,このような両面からの検討が必要となると思われます。


  この点につきましては,これまで必ずしも十分な御議論のなかった部分ではないかと認識しているところでございますので,本日は是非とも詳細な御審議をいただければと願うところでございます。

  最後に,第20の受託者の公平義務でございますが,公平義務につきましては,忠実義務の類型と考えておりますのであわせて説明させていただきます。


  前回も申し上げましたとおり,公平義務の位置づけにつきましては,一人の受託者が複数の信託を受託している場合の複数信託間の利益相反が忠実義務の問題,一つの信託の中に複数の受益者がいる場合の複数受益者間の利益相反が公平義務の問題であると整理しておりますところ,前回会議で指摘されましたとおり,一つの信託の中に二人の受益者なのか,二つの別々の信託なのかということは容易に互換性のある相互に代替的な法律構成の違いにすぎないと考えられますことから,忠実義務と公平義務とは基本的に同じルールに服するのが適当ではないかとの観点のもとに,改めて整理を試みたものでございます。

  このような観点から,まず第1に公平義務の例外要件といたしましては,基本的に忠実義務の例外要件と同じ規律を設定することといたしまして,受託者がその行為を行うことについて,正当な理由があるときと判断した場合には,その行為について重要な事実を事前又は事後に,不利益を受けるおそれのある受益者に通知しなければならないといたしております。

  それから,公平義務に違反した場合の効果に関するアステリスク3におきましては,忠実義務に関する規律と同様に,固有財産と信託財産間で行ういわゆる自己取引の場合,それからいわゆる信・信間取引の場合を今回は追加いたしますとともに,3番目といたしまして受託者が受益者を含む第三者との間で行う行為については,受益者か受益者以外の第三者かで区別することなく,同様に取引の安全を図る必要があるものと考え,原則として有効との規律をすることを提案しております。


  なお,(3)では,受託者の主観的要件を問わず,客観的な見地から公平義務違反を認定した上で,正当な理由があるときは例外要件として外すとの形式をとっておりますが,仮に忠実義務に関する規律と平仄を合わせるのであれば,ここは受託者の主観的目的,すなわち特定の受益者の利益を害して第三者の利益を図る目的というようなものを要件とした上で,正当な理由をもって例外要件とはしないという規律とすることも考えられるのではないかと思うところでございます。


  最後に,例外要件の一つたる「正当な理由があるとき」とは具体的にどのような場合であるのかとの指摘が前回ございました。


この点は,抽象的に申し上げますと公平義務違反の有無はあくまで形式的に判断するとの立場に基づき,形式的には公平義務に違反するけれども,他の諸事情を考慮すれば実質的には違反しないという場合を救済することを意図したものでございます。

この中には,例えば20ページの(注)の①のとおり,いわば一つの行為を横断的に見て実質的に公平に反しないと考える場合と,それから②のように,いわば複数の行為を縦断的に見て実質的には公平に反しない場合とがあると考えるものでございます。
  以上で説明を終わらせていただきます。

● この忠実義務のところは非常に重要な問題ですけれども,なかなか全体像をつかまえることも非常に難しいところですので,是非御意見をいただきたいと思いますけれども,私自身も何度か読んでいて時々混乱してくることがあるのですけれども,大きな分け方として,第1の総則的な規定がありますね。

あくまで大きな分け方として。次は利益相反と言われるもので,そこでの利益相反は従来と違って非常にいろいろな効用が入ってきますけれども,基本的には受益者の利益が何らかの形で侵害されるというタイプをすべて利益相反として入れているということですね。


● はい。


● そして,競合行為というのは,利益相反の中の一つの特殊な場合ということですね。


● そういうことです。

● そして最後,利益取得というのは,今度は受益者には損害がなくて,専ら受託者が何らかの形で利益を取得する,そういう理解でよろしいですか。


● はい,そのような分類で結構でございます。


● ということで,私もそれなりに大きな枠組のところは……。だんだんテーマが大きくなってきたものですから。


● 重要なところですので,ちょっと長くなりますが。

  まず,全体の大きな問題が一つと,あと個別の問題3点,申し上げたいと思います。


  まず,全体の大きな問題のところですけれども,前回の御提案の方と比較しまして,先ほど○○幹事の方からも御説明がありましたけれども,枠組が変わったということで,この点については非常に分かりやすくなったかなというふうな感じを持っております。


その分かりやすくなった中で,全体を通して見ますと,忠実義務違反の類型として4番のところの利益取得行為というものが果たして必要なのかどうかというような感じを持っております。

  例えば,例の13というのがありますけれども,これについては今検討されている信託法の中では,権限外行為についても信託財産に帰属するのですよということになっておりますので,受益者が受けた収益というのはそもそも信託財産に帰属するというような考え方もあるのではないかと,そうするとそれを受託者がとってしまっているということですので,基本的に信託財産に損失が生じているということも考えられるのではないかと。

  一方,例の14につきましても,リベートを受け取っているということですけれども,リベートの相当額だけ不動産の売却金額がふえたと,本来ならふえたのが減ってしまったというようなことも言えますので,これについても信託財産に損失が発生しているという考え方ができるのではないかと。


ということを考えますと,4の利益取得行為という類型については,基本的には2の利益相反行為に,場合によっては3の競合行為の類型にほとんど入ってしまうのではないかなというふうに考えられます。


  仮に,4の利益取得行為について,今申し上げたような形で整理が可能であるとすれば,利益相反行為又は競合行為についての違反の効果として,物権的な救済であるとか債権的な救済というのが用意されて可能になっておりますので,実質的に考えるとこれは利益吐き出しになっているのではないかというふうに考えられます。


そうしますと,あえて5のところの利益吐き出しというような規定というのは要らないのではないか,実質論から考えると,利益相反だけで考えていって,その違反の効果というものを考えると,わざわざ類型として分けなくても,全く同じような効果があるのではないかというふうな感じがしております。


  忠実義務違反の効果につきましては,2の利益相反行為と3の競合行為について,固有財産に存在します取引の対価であるとか利得が信託財産に帰属するものとして,さきに申し上げた物権的な救済であるとか,あとは債権的な救済であって,我々の実務で考えますとかなりこれ,重いサンクションなんじゃないかなというふうに考えております。

  それに,またプラスアルファするところの,例えば中間最高値のところの部分での吐き出しをせよとか,これについては余りにも重いんじゃないかなというふうに考えておりまして,今申し上げたような利益相反という形の類型にした上で,それの効果をもって利益吐き出しにかえるというか,そういうような考え方ができるのではないかなと思います。

  このような整理を行った場合については,現行実務で想定されるところでいきますと,今申し上げたように利益相反と競合行為,これで大体おさまるのかなという気がするのですが,どうしても捕捉し切れないような非常に悪性の強い場合,悪性の高いようなものがあった場合については,この1の総則的な規定ですけれども,これを効力規定として使うというようなことも考えられるんじゃないかなと考えております。これが全体の大きな問題でございます。

  次に,個別の問題でございますが,これについては2の(1)の②のところの部分ですけれども,これは信託勘定間の利益相反行為の要件のところで,受託者の主観的要件が削除されているというところでございますが,このような取引については,基本的には信託財産と固有財産との間の取引と同じようなものだろうなと,基本的には相手方がないような,内部取引だということだと思いますので,今回の提案の方がバランスがとれているのではないかなと思いまして,これについては異論はございません。


  次に,2の(3)のイの受益者の利益を害しないことが明らかであるときに,受益者に対して重要な事実を通知するという御提案ですけれども,これについても学者の先生方から,必要性について御説明があって,これについても理解ができますので,異論はございません。

  ただ,これについてはちょっと業法の問題かもしれないのですけれども,例えば受益者がプロであるような場合であるとか,あとは投資信託のように受託者が受益者の名前とか所在を知らない,分からないような場合,そんな場合であるとか,あとは委託者であるとか委託者から委託を受けた指図権を持ったような人が指図するとか,それで利益相反になってしまうような場合ですけれども,そのような場合については,例えば通知義務というのはそういう人がするのではないかとか,そういう実務の観点から見ると細かい問題があります。


そういうような問題については,アステリスクの5のところで,電磁的方法であるとか公告による通知の方法であるとか,また信託行為の定め又は受益者の同意により通知の省略が提案されておりますので,これとあわせてもう少し検討を加えていただければなというふうに考えております。


  あと,先ほどちょっと出ておりましたが,7ページの2の(2)の説明のところの利益相反行為として受託者が損失てん補等の責任を負担する場合についてですけれども,やはりこれについては前にも主張させていただきましたが,②の過失責任とすることが自然ではないかなというふうに考えております。
  ちょっと長くなりましたけれども,以上でございます。

● 利益の取得禁止というところですね,これが一つの問題点だったわけですが,これ,仮に○○委員がおっしゃったように利益相反の中に結局は解消されるのではないかというふうに考えたときに,利益吐き出し責任の5として今甲案と乙案が出ていますが,甲案であればおかしくないということになりますか。

● 今申し上げたところからすると,整合するかもしれませんが,特段こういう形のものも設ける必要もないのかなと思っておりますが。


● ほかに,御意見ございますか。


● 実務の立場からコメントしたいと思います。


  議論がたくさんありますので,まずは総論的なこと,それから今回位置づけが変わりました1の総則規定について,まずは述べたいと思います。


  結論から言いますと,効力規定化するということについては,なお検討ということだと思います。
  

まず,全体的な印象を申しますと,実務者としては,これは全体の規定ぶりというのが非常に分かりづらいということです。


先ほど○○委員がおっしゃられたように,前回の提案よりは比較していいのかもしれませんけれども,なお分かりづらいかなというふうに思っております。


そういうことで,検討段階においてはやはり分析して検討すべきだと思いますけれども,法文化する段においては,やはり分かりやすい文章といいましょうか,使われやすい文章にしていただきたいと思っております。

  これがなぜ分かりづらいのかということは,各論にもいろいろ述べたいと思いますけれども,まず一般規定の効力化というところで分かりづらくなっているということを述べたいと思います。


  まず,1の忠実義務があるかどうかということについては,これはもちろん一般規範としては疑いのないということと思いますし,また別の問題になるのかもしれませんが,公法規範でありますけれども,改正信託業法においても,今般「信託会社は,法令及び信託の本旨に従い信託財産に係る受益者のため忠実に信託業務を行わなければならない」というふうに明確化されたところでございます。


しかしこれは,私法上の効力規定をここでこういう形で行うことについては,なお次の点をあわせて考える必要があると思っておりまして,問題提起を主に2点したいと思っています。
 


 まず第1点は,ここで規定化された2から4,つまり利益相反,競合行為,利益取得行為の3類型と,それから1の一般規定との関係が不明確にならないのかということです。


先ほどの御説明では,漏れがある場合にこれの適用をするということでございますけれども,すなわちまず2から4の行為については,この1の規定と排除する排除されない関係にあるのかどうかということです。

例えば,競合行為の禁止に当てはまりますといった場合に,抽象的には競合行為ということに当たるわけですが,実際3で規定されている要件の中に一つ落ちていたものがあった場合,例えば競合行為の類型なのだけれども,その主観的な要素がなかったとか,又は免責といいましょうか,禁止の例外に当たった場合に,これはもう3の規定で一応閉じているわけだから,もう1の規定は適用がないというふうに考えるのか,いや,そうじゃない,3の類型に当たらないという場合であったとしても,やはり最終的には1がキャッチオールとして,先ほどの説明では違法性の高いものということが出ましたけれども,そういうものは適用されるのだということなのかどうかということがよく分からないということです。


  仮に,情報利用規定についてここで説明されておりますけれども,違法性が強いものはというものが入った場合に,ではどういうことが1の類型に当たるメルクマールなのかどうかということが明確にならないのではないかということです。

  例えば,これは4の類型になるわけですけれども,4の類型であったとしても,ここに規定がないということで排除されたと思ったところ,ではそれが違法性が強いということを一つのメルクマールとして,では1の類型になるということになると,ますます,1と,2から3の関係がよく分からないということです。


こうなりますと,やはり実際の受託者の立場からすると,萎縮効果が出てくるのでよろしくないのかなというふうに思っております。

  それから,第2に,そういったあいまいさを残してしまうと,利益吐き出しルール,制定されるかどうかとは別の問題として,もしこれが制定されるのであれば,なお萎縮効果が強くなるのではないかなと思っております。


そのために,御説明にもありましたけれども,では1の類型を効力規定化するとしても,それではやはりこれをもっと明確化するべきではないかという話になると思うのですけれども,こうした場合に,もし1の類型をもっと明確化した場合に,また同じ2から4のような細かな議論が出てきて,結局その議論が循環してしまうのではないかと。

また,禁止の例外を書いた場合に,それも同じような議論が出てくるのではないかということになりますので,非常に1の規範というのを効力規定化するということは余りよろしくないのではないかなという気がしております。

むしろ1の規定を規定化するよりも,2から4の規定が過不足ないかどうかということを検証するという方がまず先ではないかのかなと。

又は,それで漏れるものがあるのでは,その漏れるものを別の類型として出すのがいいのではないかなというふうにも思っております。

  それから,最後に御質問が1点ございますけれども,1について,「法令又は信託行為の定めに従い」ということですけれども,これは基本的には信託行為でデフォルト化を認めているという話だというふうに理解しているのですけれども,これは忠実義務の程度を減らす,縮減するということも可能だということを考えているということでしょうか。


そうした場合に,2から4との関係というのがどうなるのか,正しく2から4における禁止の例外のところでデフォルト化ということもうたわれていますけれども,それとの関係というのがどうなるのかということも,同じような文脈において1と2から4の類型があいまいであるということの問題が出てくるかなと思っています。


  ちょっと長くなりましたが,以上です。


● 1にどういう意味を持たせるかという点で,これは前から議論にあったと思いますね。

● まず第19の1を効力規定とするというのは,これはこういう種類の条文だったら当然のことかなと思います。


ただし,今,○○委員がお話しされたように,2,3,4に当たらない場合でも,それに近いようなやつが1に当たるとか,そういうような話になりますと,これは2,3,4の定め方の問題かなと思います。

要するに,現段階で分かっているもので,具体的にできるものはできるだけ具体的に規定する,それ以外で現段階で分からなくても,やはり忠実義務違反ということでそこにかけて妥当な結果を導くことができる道は残しておく,そういう考え方が基本的に必要なのかなと思います。

  それで,特に4,5に関して若干更に意見をつけ加えたいのですが,4の「利益取得行為の禁止」のところで,先ほど○○委員の方からもお話がありましたような情報利用の関係ですが,これは特に違法性が強い場合は,場合によっては1に当たるのではないかというような,そういう記載もありますけれども,それについてはそういうものがあると現段階で具体的に判断されるならば,それは4の(1)の甲案に①,②と二つありますけれども,前回のクールでありましたような情報取得によって不当な利益を取得する行為というのを,もうちょっと限定的に何か入れるような工夫ができないかということを考えております。
  


例えば,「不当な利益」というのは相当限定されるはずなのですね,具体的な情報利用行為によって利益を得たって,それが不当であるかというと,むしろ不当でない場合は幾らでもあると,そこらあたり限定されますし,更にそれ以上にもうちょっと限定する方法があれば,ここに入れた方がいいのではないかと考えております。

  それから,利益取得行為の禁止で,禁止をして,次に5の利益吐き出し責任の方にいきますけれども,禁止をした以上は,取得した利益を吐き出させるという制度にしないと意味がないということで,5では当然のことながら乙案になるはずだというふうに考えます。

  ここで,具体的に乙案というか,利益を吐き出させる根拠として,13ページの方に,先ほどの御説明でこれは信託の場合の受託者の債務の内容ということで説明するというお話で,それは確かに分かりやすい考え方で賛成いたします。


更に,何でそれが債務内容になるのかという根拠として,13ページの上から8行目あたりから三つほど根拠が書かれていて,「当事者の合理的な公平感に合致するからなのか」とか,その下にいくと,「効率的な財産の利用を生じさせるからなのか」とか,更にその下に,「信託においては……特に課すこととしなければならない必要性があるからなのか」と,三つほど根拠として考えられることをここに書かれていますけれども,このうちの3番目の信託の場合,特にこういう利益吐き出し責任というのを課す必要があるということに関連して,具体的なお話を一つだけさせていただきたいと思うのですが。

  この信託を原因とする不動産の所有権移転登記は,司法書士が行うわけですけれども,それに関する情報は,したがって司法書士のところに集まりますが,これは弁護士を介した伝聞ですけれども,司法書士会の役員の話として,信託を原因とする不動産の所有権移転登記を扱うと,事件屋的な人間が信託の受託者として登場するケースが複数出てきている,高齢者とか認知障害の人とか,そういう人がうまい話に乗せられているとか,あるいはだまされているのではないかと心配していると,そういうような話が最近の話として伝わってきておりまして,そういう場合に利益吐き出し責任を明確に規定しないと,抑制できないのではないかというふうに考えます。

信託の場合,所有権が移ってしまうわけですから,こういう事件屋的な人にいいように利用されても,損害のてん補しか請求できないといことでは,抑制できないということだと思います。したがって,利益吐き出しを規定する必要性は,特に信託の場合あるのだと考えております。

● 今の○○委員の意見と違うところもあるのですけれども。


  先ほどから御発言されている方は,信託銀行が行っている商事信託を前提とされていると思うのですけれども,信託法である以上,民事信託ということも当然対象となりますし,民事信託の場合で考えるべきこととしましては,今の○○委員のお話に近いところがあるのですけれども,やはり悪質な受託者ということと,善良な,又は無知な受益者という視点も必要だと思います。それが,この辺の議論に大きく影響してくると思うのですけれども。


  まず,信託行為の定めが必要であるといいましても,受益者は信託行為に関与することはできませんから,やはり一般規定として忠実義務というものは必要でありますし,それは効力規定であることも当然といいますか,受益者救済のためには必要だと思いますし,なおかつ信託行為の定めというよりは,やはり信託の本旨というふうにしていただかないと,信託行為自体にはほとんど大したことは書いてないという状況もあり得るかと思います。

  それとの関連で,忠実義務一般についての適用除外規定はここでは議論されていないようですけれども,当然のことながら忠実義務一般についてないというような例外規定を設けることはあってはならないと,かように思います。

そうでないと,受益者の保護という視点から,信託法自体がデフォルト・ルールとして救済できないことになってしまうかと思います。
  


あと,大きい話だけということに限りますけれども,およそ受託者の違反行為,違法行為というものはすべて利害的には受益者の利害に反しているわけでして,それを一般的に利益相反行為だというふうにとらえてしまって--そこまでおっしゃっているとは思いませんけれども--細かい議論をしないというのは,せっかく議論を詰めているわけですから,やはり細かい議論はしていくということだと思います。

ただし,それだけでは必ずしも全部フォローできない,要するに利益相反行為とか競合行為とか利益吐き出し責任とかいうだけではまだフォローできない。


先ほど,違法性が高いとおっしゃっていましたけれども,違法性があればそもそも違法性の多い少ない,高い低いということを議論をせずに,忠実義務違反であると思いますし,違法性までいかなくても,本来受託者として不誠実な行為,不適切な行為というものは,経済的に見積もれなくても,忠実義務違反であると,信託行為に定めがなくても受益者としては救済措置が認められるべきではないのかと,かように思います。

● 私も大きな問題について少しと,あと,小さくはないと思いますが,論点二つについて申し上げます。


  今まで,お話を伺っていて,○○委員の御意見は,1から5まであるわけですが,1,2,3があれば4と5は要らないだろうという御意見だったと思います。


○○委員の御意見は,2と3と4を充実させて,1は外そうという趣旨だと理解しましたが,どちらにも反対であるということです。
  


ごく簡単に言えば,今まで我々の信託法には22条というのがあって,それが忠実義務だというふうに言われていたのですが,非常に中身が薄いものであった。

今回,ちゃんとした忠実義務の規定を置こうということなので,そういう意味でこの前の提案以上に非常に今回の提案はよく考えていただいたものだと理解していて,非常に手厚いものになっていると思うのです。


○○委員がおっしゃるように,あるいは○○委員もそういう趣旨だと思いますが,重複する部分があって,それぞれの項目で賄えるものと賄えないものというのがはっきり分からないようなことになっているのですが,私の考えは,今回は重複は害をなさずということかなと思っているのです。
 

 それで,1については,やはり信託の要ですので,我が国のこれから参入しようとしてくださる信託の世界へ,しかも受託者として入ってこようという方たちが,信託というのは何だろうかというのが分かって入ってくるかというと,それはやってみないと分からないという話になるので,やはり忠実義務というのが本当に要ですので,この1を落としては何の新しい信託法かということになり,それを訓示規定ではなくて,あとは裁判所の裁量のところは信頼することになると思いますけれども,やはり効力規定としてまず高らかに宣言する必要があるだろうというふうに思うわけです。

  あと,2,3,4と,それから1というのが,1がオーバーオールで2,3,4がそれを分解しているのだと私も理解しておりますが,4も結局2に入るのではないかという○○委員の御意見は,そう言ってしまえばそうだということなのですが,今回,きちんとお考えになっていただいた5の利益吐き出し責任をどういう形で法律上説明するかというのは,日本ではなかなか現実の問題としては難しくて,今回のように4を書いておくことによって,5の乙案に結びつけるというのは非常に卓見であって,やはり信託の債務の内容としてこういう利益取得の禁止というものがあるから,こういう利益吐き出し責任が出てくるというふうにつなげるのは,非常に分かりやすい気がするわけです。


私は,本当は政策論としてこういうものが必要だというふうには考えておりますけれども。

  それから,甲案では,実際のところ日本の損害概念というのをどんどん薄めていくだけで,そのことによる悪影響だってあるし,また実際に甲案をとったときに,反証を許すようなケースがあるとか,あるいはそれで賄えないような,乙案でないとだめなようなケースというのは現実に出てきそうな気がしますから,やはり乙案でいくべきだと思うのですが,そういうことを考えると,重複はあるのかもしれませんが4を置いておくということには非常に大きな意味があるだろうと思います。

  あと,2点だけですが。
  ここで5ページ目の「利益取得行為の禁止」のところで,甲案,乙案,丙案と一応列挙してありますので,私の考えだけを申し上げれば,丙案は今言ったことですが論外として,甲案,乙案で,これは結局信託関係を利用して受託者が利得を図ってはいけないという,忠実義務の基本のようなことをただ書いてあるだけのものを,更に日本では信託財産を利用する場合と信託事務の処理に当たる場合と,それからもう一つ情報の話があるわけですが,そういう形で細分化して精密に考えているということだろうと思いますけれども,具体的な事案によってはどれもいけない場合があるということだろうと思いますので,乙案を採用した場合に,甲案の②のようなケースは,これはもう禁止行為に当たらないのだという反対解釈がない限りは,それもまた第1項目のところで救うことはあり得べしということになるのかもしれませんが,そうでない限りは,私にとっては本当はどれでもいいのですけれども,普通に考えればやはり甲案でいった方がいいかなというふうに考えております。

  それから,7ページの過失責任,無過失責任という考え方も,結局日本における過失の考え方がどれだけの意味があるかということに帰着するのだろうと思いますが,一応これは参考になるかどうかはともかくとして,英米では,この忠実義務については無過失責任だというふうに考えているということだけ付言いたします。


● いろいろ御議論いただきましたが,今のところこの1の総則的な規定,これを置くことの是非と,それから……。

● 1点,これは言葉じりをとらえているようで問題かもしれないのですが,○○委員が,萎縮効果ということをしきりに言われる。この問題だけは,萎縮効果を持たせるべきです。一言,ちょっとつけ加えたいと思います。

● 目指すところは○○委員と同じだと思うのですが。つまり,よい信託を広げたいということで,ではいかによい信託受託者を参入させ,悪い信託受託者を排するかということでして,私の発言は,どちらかというとよい信託受託者をなるべく多く参入させたい,その中で不要な萎縮効果のあるものはなるべく排除したいという,そういう観点で申し上げております。

  その中で,ちょっと先ほどの話を,○○委員の御意見を踏まえてもう一度お話ししますと,基本的に1の効力要件化ということについては,別にそれに対して絶対反対かというとそうではないのですが,ただ結局整理の仕方の話と,それから利益吐き出し責任の萎縮効果が強いということがあれば,1ということについてそのまま効力要件化するというのはなお疑問が出てくる,そういう話でございます。

  利益吐き出しルールの話を,なぜ萎縮効果というふうに見ているのかというところから御説明した方がよかったのかもしれませんが,その点,基本的には受益者に対する保護と,裏返すと受託者に対する監督,抑制効果ということになると思うのですけれども,それについては基本的には○○委員もおっしゃられましたように,一定の物権的な救済も図られるわけですし,また損害賠償とかああいう法制もありますので,それ以上のものが本当に必要なのかどうかということでございます。

  あと,ほかの法体系との平仄と,前回この場で吐き出しルールというのは日本の法制度に合うのかどうかということを問題提起いたしましたけれども,それについては今回一応の御説明はいただいておりますが,例えば委任という制度ということとの平仄から考えたとしても,私は委任の制度というのは信託と比べると所有があるかどうかということの違いだと思っておりまして,所有を持っているということからこの利益吐き出しルールというものが出てくるのかどうかというのはよく分からないところですが,ただ委任とパラレルに考えるとしても,ここで民法646条のいわゆる受取物引渡し義務ということを言われておりますけれども,ここでさえ「委任事務ヲ処理スルニ当リ」というふうに限定されておりますし,また受け取った金銭ということでその範囲,また物の対象というものが限定されて,いわんや中間最高価格まで返済を求められるということではないということでございます。

そういったときに,この信託というものを新しくつくっていくときに,今までの委任との平仄において,過度に受託者に責任を負わせるということであればどうなのかという話でございます。


  例えば,レベルの話として,では甲案はどうなのか,乙案どうなのかという話になると思うのですけれども,甲案ということであれば,結局いわば損害てん補の延長上になるということで,乙案と比べれば現行法と近しいというふうに思いますけれども,これも一つの利益考量だと思いますが,その点また同じように隣接的な法制度を見ますと,商法266条というのが例に引かれておりますが,これも競業取引のみということになります。

信託の場合には,これは競業取引だけではなく,忠実義務一般に及ぼすという話ですから,その忠実義務というのは今議論しているように非常に広い概念でございますから,そこの外延が明確にならないと非常にそういう意味で萎縮効果が出てくるということになろうかなと思っております。


  また,乙案になりますと,これは言わずもがなかなと思いますけれども,やはり制裁的なもの,また予防的な監督と,一見いいようなものに見えますけれども,やはり1の総則規定,また2から4のその範ちゅうを考えますと,やはり受託者の観点からすると,厳しいものがあるのかなと思っております。


● 私は,基本的には先ほど○○委員がおっしゃったのと同じ方向を考えております。


ただ,と言っても別に見た目ほど対立しているというか,白熱しているというよりも,大体同じ方向を目指しているのだと思いますが,1から5のうち,1をなくす,あるいは効力要件でなくすということはやはり適当ではない,むしろ○○委員がおっしゃったように,2,3,4との関係については,2,3,4の規定ぶりで多分決めていくことができるだろうと思います。

  その上で,2点コメントがありまして,その2,3,4について禁止の例外規定として,「信託行為の定めでその行為をすることが許容されているとき」というのがすべてに入っているわけですが,「その行為」というのは一体何なんだろうか,この定め方によっては随分広い例外が設けられることになって,かえって不安定になるのではないか。

あるいは,その決め方として,例えば2ページに(2)の②というのがありますが,「受益者の利益を犠牲にして当該者又は他の第三者の利益を図る目的をもって,受益者の利益と相反する行為」をするということを事前に書いておけばいいのか,あるいは不当な行為をするということを事前に書いておけばいいのかというようなのは,どうも何か変な感じがいたします。

むしろこの例外規定を信託行為の定めで書くといたしましても,例えば3ページの(3)のアで申しますと,①と②にそれぞれ「その行為」という言葉が出てくるわけですが,②で出ているような「その行為」という具体的な行為をイメージすべきではないか,あるいはそう規定すべきではないかと考えます。
  

それからもう1点ですが,13ページの利益吐き出し責任の乙案についての根拠が幾つか書かれているわけですが,ここに含まれているかもしれませんけれども,私が思いますには,信託制度というある意味では危険な,所有権を移すという意味で危険な制度があるけれども,なおこれはいい制度なのだと,有用な制度であって,世の中の役に立つというその制度に対する信頼感を高めるという意味でも必要ではないかと思います。


● ○○委員の第1点,初めの方でおっしゃったことの補足的なことのみを申させていただきたいと思います。


1でいいますと,「法令又は信託行為の定めに従い」というのが入っていて,そして例外規定の中で「信託行為の定め」云々というのが何度も出てくる,この平仄の問題で1点だけですが。


  もう一つ,もし指摘するとしますと,4の「利益取得行為の禁止」で,どの案--丙案は別ですけれども,甲案であれ乙案であれ,「不当な利益を取得する行為」というのが挙がっております。


こういう形で絞りをかけろというのは本当に結構だと思うのですが,ただ「不当な」というのが一体何を基準にして判断されるべきかというその基準の根幹に当たるのが正しく「法令又は信託行為の定めに従って」これは不当と判断されるのかされないのかということに,今の1から4までの流れだとすると,そう読むのだろうと思います。


としますと,「不当な」というところで信託行為の定めというのが考慮され,しかし例外で定めで許容されているときというのは,いかにもちょっと両方で基準が同じものが出てくるというのはおかしかろうと,やはりこのあたりを整理する必要があると私も思います。

  その上で,○○委員のおっしゃったことが非常に重要でして,信託行為の定めで書いていればいろいろなことが忠実義務違反でなくなったりしていくということが,本当にこのルールを定める趣旨なのかどうかということを考えましたときに,法令はともかくとしまして,「信託行為の定めに従い」というのは一体何を言おうとしているのか,言葉としてはさっき○○委員だったでしょうか,何人かの方が御指摘されていたと思いますけれども,その信託を一体何のために行うのかというその信託行為が行われる目的なり趣旨なりからして,これはやはり忠実義務違反に当たる当たらないというのがまず第1に判断されていくべきなんだろうかなと思います。

そうしますと,1の書きぶりを少し考える必要があろうかなという気がいたします。
  

そしてもあくまでもそういう信託行為が行われる趣旨からすると,一見すると忠実義務違反のあたり,例えば「不当」に当たるけれども,しかし例外としてどういう場合があるかというときに,信託行為そのものではないのだけれども,その後重要な,例えば6ページの一番上にありますように「重要な事実を開示して……承認を得た」というような事情があるので,例外的に許されるのだよというのは平仄が合っていくのかなという気がいたします。


  補足にすぎませんけれども,以上です。

● 私の方は,全体的な御提案の枠組についてはこういった考え方で賛同したいと思うのですけれども,2点。
 

 一つは,受益者に対する情報提供の関係と,それから利益吐き出し責任について若干意見を述べさせていただきます。

  まず,今しがた議論されたこともあるいは関係するのかとも思うのですけれども,受益者の立場から見たときには,本来こういった忠実義務違反の規定については強行法規できっちり定めていただくと一番安心できるということになろうかとは思います。


ただ,信託の柔軟性という観点から,やはりこれはデフォルト・ルールというふうに定めるというのが基本的な方向であろうかと思いますが,そういった場合にも,やはり受益者の立場からすると,いわば受託者と受益者の利害が対立する可能性がある行為が行われるような場合には,きちんと説明をしてほしいといいますか,きちんと情報提供を得たいということはあろうかと思います。

やはり受益者が何も分からないところでそういった取引がされるということは,そういった状況というのは作るべきではないのではないかというふうに思われます。
 


 そういった観点から,この御提案の中では3ページの(3)のイのところで,禁止の例外について,③の場合について「重要な事実を通知しなければならない」という規律が御提案されていますが,これについては是非こういった規律をきちんと定めていただきたい。

  それから,この御提案の中では③の場合についてだけ提案がされておりますが,例えば①の場合,これは恐らく信託行為の中にどれだけ具体的に規定がされているかということにもかかわるかと思うのですけれども,信託行為の定めが抽象的である場合には,やはり重要な事実の開示というものは,これは受益者に対してするという規律が必要ではないかと。
 


 ②については,この「重要な事実を開示して」というのがこの中に入っておりますので,これに含まれるかと思いますけれども,そういった点の御検討をお願いできないかというふうに思います。

  それから,今の点につきましては,いわゆる利益相反行為の禁止に関する部分ですけれども,それでは競合行為の禁止ですとか,あるいは利益取得行為禁止の場合にはどうなのかということについても,これもやはり情報提供の問題については是非御検討いただけないかというふうに思います。

  それから,御提案の中では,このような通知については信託行為の定めか,あるいは受益者による同意がある場合には省略することができるというふうにしてはどうかという御提案がされていますけれども,やはりこれはそういった形でこれを外すというのは慎重であるべきではないかと思います。

基本的に,こういった情報については,恐らく受託者からの通知が,受益者がこういった情報を得る入口になるものと思われます。


この情報提供がないと,基本的には受益者の方でこういった取引について知り得る機会というのがなかなか難しいのではないかと,受益者としてはこういった通知が行われることによって,あるいは信託の内容といいますか,これをチェックする,あるいは疑問がある場合には帳簿閲覧請求権や説明請求を通じて信託事務処理の適正化のための手段を講じることができるということになるのではないかと思います。


こうした観点から,この情報提供については,是非きちんとした定めをお願いしたいと考えております。


そうしたことをすることによって,恐らく受託者の方々もきちんと情報提供しなければならないということで,いろいろな行為の適正化というのが図っていくことができるのではないかと思いますし,またそういった情報提供が行われることによって,受益者の方も,信託についての信頼をすることができるということになると思いますので,是非ここはひとつよろしくお願いしたいと思います。

  それからもう1点,利益吐き出し責任の方ですけれども,これは御提案の中で5ページの例13が挙げられておりますけれども,例えばこの事例についてどう考えるのかということなのかというふうにも思います。

  この例13の中で,更地として管理すべき土地に受託者が建物を建ててしまったというようなことが挙げられていますけれども,これは例えば御提案されております甲案ですとか,あるいはこれまでの伝統的な議論の中では,なかなかこれについて受託者が得た利益を吐き出させるということは難しいのではなかろうかというふうに思われます。

損害賠償の考え方でいった場合には,恐らく信託が適正に行われた場合に,受益者が得べかりし利益というのが損害ということに基本的には考えられるのではないかと思うのですけれども,そうした場合に,信託行為が当初予定していない建物を建てて,利益を得るというところまで損害に通常含められるかというと,これはなかなかちょっと難しいのではないかと思われます。

その利益を受託者に得させることが妥当かどうかという問題があるのだと思いますけれども,やはりこれは信託の関係ですから,受託者が信認を得てこの土地の管理をしている以上,そこで行われるものについてはやはり信託財産に帰属させるというのが通常の考え方に合うのではないか,そうでないと,やはり受益者の立場からすると,自分がゆだねている土地を受託者が勝手に使って利益を得た,それが受託者に帰属するというのはどうもやはり納得できない結果になるのではないかと思います。

  それから,1点,この御説明の中で,準事務管理の考え方について,これを立法化した規定として特許法102条等が挙げられていますが,これは若干規定の趣旨を御確認いただけないかと思うのですが。
 

 一般にお聞きしているところでは,特許法102条等の規定は,むしろ準事務管理の考え方を取り入れてない規定というふうに理解されているのではないかと思われます。

したがいまして,若干御説明が再度御検討いただけないかと思うのですけれども,準事務管理とそれから特許法との関係の議論の整理でいいますと,一つは恐らく準事務管理の考え方というのは理屈の説明としては乙案の根拠となり得るものではないかと思うのですが,逆に特許法102条との関係でいうと,特許法102条等がとっていない準事務管理の考え方を信託法においてとることができるのかどうなのか,そういった観点からの整理が必要なのではないかと。

信託法においては,先ほど申し上げましたように特殊な関係が受益者,受託者の関係であるわけですから,それを根拠に御提案の趣旨に沿った形で,やはり乙案として根拠づけということが可能なのではないかと思いますし,そういった規律をしていくべきなのではないかと思います。

  それから,1点つけ加えさせていただきますと,やはり乙案を採用することによって,受託者が信託違反の行為をする可能性がかなり低まるということはあるのだろうと。

逆に,これを甲案とかあるいは一般法理に委ねるということになりますと,やはり信託違反行為を誘発する可能性というのは高まるのではないか,この点については先ほど萎縮効果がいいという話もありましたけれども,そういうことよりも,信託行為の適正を図るという観点から,乙案をとるべきだと考えます。


● 繰り返しの面もあるのですけれども,私も少し補足をさせていただきたいと思います。


結論といたしましては,○○委員や○○委員,○○委員,○○幹事がおっしゃったような形で,1については訓示規定ではなく,一般的な通常の規定という形で考えるべきであり,また4,5については規律を設けるべきだという考え方を持っております。

  1については特に加えて申し上げることはありませんけれども,ただ通常の規定だとすると,例外規定についても検討すべきだという○○委員の御意見は,やはり検討すべきなのだろうと思います。


  4と5につきましてですが,これも既に御指摘あるところですけれども,最初に○○委員から御指摘のあった例13や例14のような問題事例について,2や3で受けられるのではないかという御指摘に対しては,直前に御指摘がありましたように,特に例13は非常に難しいであろうと。土地自体の賃料相当額というようなものは,これは取れると思いますけれども,店舗を自分の財産とお金で建立したときに,それ自体を信託財産とするということは非常に難しいと思いますし,その店舗の賃貸借契約によって上げる利益というのは,これは受託者が固有財産を貸しているだけだという構造になると思われますので,そうしますと2や3で入れるのはかなり難しいのではないかと思われます。

もともと更地として管理すべきであるということだとすると,競合行為というふうに言うことも非常に困難であると思われますし,また例14につきましても,確かにリベートのようなものはかなりそれで実は売却代金が下がっているのではないかということはあるかもしれませんが,しかし廉価売却であるということであれば,もう忠実義務違反以前にそれ自体が適正ではないということになると思いますので,問題なのはそこそこ市価であるというようなときにどうかという場合に問題となってくると思われますので,この部分というのはたとえ損失についての推定規定を入れたとしても,非常に難しいのではないかと思っております。

逆に,これが2や3で含まれ得るのだとしますと,むしろそちらでいったときの2や3の要件の解釈が広がり過ぎて,特に例えば競合行為の禁止などで「受益者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図る目的」という非常に限定され,一定の配慮を示されているところが,こういうものもこの要件に当たるのだということになりますと,かえって2と3の規律の意味を没却することにならないかというふうに思われますので,これが問題事例であって,やはりこのような場合に利益の取得を認めるべきではないというふうに考えるのであれば,別途4のような規定が要るのではないかと思っております。


  また,既に例13につきまして○○幹事が御指摘あったところですけれども,これを損失の方で持ってくるというのはやはりちょっと難しいのではないかと,推定規定を入れたとしても難しいのではないかと考えておりますので,5についても利益吐き出しということをするのであれば,乙案の方が適合的ではないかと考えております。

  問題は,その際の説明ないし性質ということで,今回の資料で非常に詳細に書いていただいておりますけれども,不当利得,それから準事務管理とその信託の本来的な性質ないし内容からという三つの考え方が出されておりまして,これはただ幾つか次元のある問題だろうと思います。


  不当利得,準事務管理について申しますと,現在の考え方,しかもその主流となるような考え方から容易に導けるような結論となるかという意味で,これを基礎にできるかという話と,この性質は根本はどこかというようなのはまた違ってくる話ではないかと考えておりまして,例えば不当利得でいきますと,現在の類型論からした場合に,法律上の原因について当てはまるような類型があり得るのかという点を考えると,欠落があるのではないかと私自身は考えておりますけれども,しかしながらその場合の利益を返還させるというのが,不当利得的な性質を持つのか,つまり不当な利得であって許されないということを持つのかというと,またそれは別の考え方もあり得るところだと思いますので,少し次元が整理の中でも異なるのかなとは思っておりますが,ただ私個人はこの資料で御提案,それから御説明いただいたような形で,信託そのものに内在するというか,正に中核であるような性質のものであると考えておりまして,もともと信託の定義からいたしましても,その財産権等を移転しながら利益だけは取得しない,自己の利益を図る以外の目的を持って財産を管理運営していくと,しかしその財産権の主体は自分にあるというのが信託の特色であり,しかも昨年の私法学会での御報告によりますと,それが責任財産を裏打ちする点でもあると。


信託財産の責任財産としての独立性も,受託者の固有の債権者がそれにかかっていけないのは,およそ受託者自身が利益取得できないからという説明もあるわけですし,この利益も取得しないというのは,何と言っても信託制度の根幹であって中核であると考えておりますので,それをいかに確保するかというのが,先ほど○○委員のお言葉をかりると制度への信頼という意味でも,この信託制度をきっちりつくっていくためにはこの部分が手当てされないといけないのではないかと思っております。


  隣接制度とのバランスということで,これ自体は非常に議論のあるところで,委任についても同様だという考え方も少なくないということですから,信託だけと言い切ることは問題だと思いますけれども,しかし少なくとも信託においては,ということは言えると思いますし,○○委員がおっしゃった委任とは所有があるかどうかだけが違うのではないかということでしたけれども,しかしそれ自体が非常に重要なことで,所有権がいっていながら利益取得ができないということをいかに確保するかというのが信託においては非常に重要になってくるということがあると思われます。もちろん,ほかにも指図の問題ですとか,既に指摘された点はあるかと思いますが,少なくとも信託においてはということは言えるかと思います。

  あと,ちょっと細かいところを更に少しだけお話しさせていただきますと,通知の点ですけれども,8ページ,それから本体自体は3ページの(3)の「禁止の例外」ということで書かれておりまして,大変細かい問題で恐縮ですけれども,「受託者が自己取引がされたことを認識し得ない場合などのやむを得ない事情がある場合には通知義務を負わない」という点ですが,やむを得ない事情と言われると,通知できないこともやむを得ない以上は通知義務は課されないという一般論としてはそうかもしれないのですが,例として挙がっている自己取引がされたことを認識できなかった場合というのは,通知義務をおよそ免除する場合というよりは,知ったら速やかに通知すべきだという形で働くのではないかと思われまして,具体例との関係でもう少し検討する必要があるのではないかと考えております。

  長くなって恐縮ですが,もう1点,萎縮効果についてですけれども,これはもちろん当然それが前提に入っているわけですけれども,およそこういう行為をするなという規律ではなく,あくまでそれをするときには信託行為にきちんと定めがあるか,受益者の承認を得るかをしてからやってくださいということですので,萎縮効果というときにも,もちろん機動性はある程度含まれるとは思いますけれども,一般的に禁止しているというわけではないということも改めて強調させていただきたいと思います。


● 先ほど言えばよかったことを,一つだけ。結局,また○○幹事が言われてしまったので補足になってしまいますけれども。
  


最後の利益吐き出しに関する問題で,準事務管理,不当利得等との関係で,○○幹事の方からも御説明があったところの補足です。

  ○○幹事だったかが多分おっしゃったと思いますけれども,この問題に関しては準事務管理に類するような形でとらえやすい問題ではないかとおっしゃったのは,ほかの問題と比べますと確かにそのとおりかなという気はいたしますけれども,やはり主観的には本人である受益者のためにやっているとは言えない行為であるということ,例えばリベートのようなものが本当に受取物と言えるかどうかなど考えますと,かなり異質な側面があるというのは従来から言われているとおりのところなのですが,むしろ問題の位置づけだけを言いたいのですが,問題の位置づけとしては,要するに受託者がこういった行為を通じて受け取った利益が,一体だれに帰属させるべきか,だれに割り当てるかというところがこの問題の本質でして,そしてもしこれが受益者に割り当てるというルールが確立しますと,これは正しく不当利得に当たると言っても全然おかしくない行為になる。

つまりは,本来ならば受益者に割り当てられた利益が侵害されたということですから,正に侵害利得の類型に当たっているのですね。


ただ,従来は,侵害利得というのはそういうものだというのはよいとしても,一体こういった利益をだれに割り当てるかというところが必ずしも明確ではないというのでずっと争われてきたということだと思います。


○○幹事の御説明も,よく読むと多分そういうことが書いてあるのだろうと思います。問題の本質はそこにあると。


  ですので,ここからは先ほどの○○委員等の御指摘につながるのですが,やはりこの信託の問題に関して,こういった忠実義務違反によって受託者が受け取った利益をだれに割り当てるか,このルールをはっきりさせようと,これはやはり受益者に帰属させるべきものとして確立させましょうと,その理由は何かというときには,何度ももう既に指摘されておりますように,信託というのは要するに他人の財産を受託者が,名義は別として運用しているわけであって,そこから利益を受託者が得るというのはおかしい,本来はその利益の帰属先である受益者等に帰属をさせるべき性格のものだ,信託というのはそういう制度として信頼されるものにしようという立場決定をすれば,受託者ではなく受益者にこの利益の帰属割当てルールを作る,そうすると侵害利得と言おうが何と言おうが,信託法で明文のルールとしてこの吐き出し請求権というのが位置づけられる,そういう位置づけになるのだろうと思います。


そういう意味で,構成の問題でこれは準事務管理でもないし不当利得でもないというような問題ではなくて,正に割当てルールをこういう形でつくりましょうかどうかという問題で,私自身はこの信託法の制度趣旨からいって,やはり受益者に帰属割当てをするというルールを明確にした上で,この吐き出し請求権を認めるべきではないかというふうに個人的には考えております。蛇足にすぎませんが。


● まず,ちょっと確認なのですが。
  これは,現行法の9条にかわるものであって,9条はなくなるのでしたか。私,資料を持ってくるのを忘れたので。

● 受託者の利益享受の禁止に関する……,あれは別途規定を設けますが。


● 別途残るわけですね。結局,この規定の性格が,先ほど○○幹事から御指摘がありましたように,例えば受託者の個人債権者が信託財産を差押え得ないということが,当該財産からは受託者は利益を得られないのであるということによって基礎づけられているというふうに考えたときに,そのこと自体の最終的な確保というのは,9条類似のものによってなされるのか本条によってなされるのかというのがちょっと気になるのです。

  と申しますのは,本条に関して申しますと,先ほどから何人かの方が御指摘になられておられますように,信託行為に規定があればいろいろここに書いてある制約は免れることができるという形になっているわけですが,じゃあ信託行為に書かれていれば自由にそこから利益を取得できるのかということになりますと--利益を取得できるというのは,お金をもらえるということではなくて,例えば自己取引を何の制約もなくできるのかということになりますと,先ほどの○○幹事の責任財産に関する一つの考え方の説明からしますと,受託者の債権者が差し押え得ないということの根拠がなくなってくるのですね。

そうなりますと,ここに言う「信託行為に別段の定めがあるとき」というのには,やはりおのずから限界があるはずであって,そのあたりのことはまずはっきりさせなければならないのではないかという気がいたします。

それが第1点でございます。したがって,書けばよいという雰囲気を醸し出すのはよくないと思います。

  2番目でございますが,先ほどから1の忠実義務の一般規定というのを置くべきか置かざるべきかという話がございまして,結論からしますと私は置くべきであると思うのですが,ただこれが置かなければどうなるのかということになりますと,大きな違いが出てくるとは私には思えないのですね。


と申しますのは,1を置かないという考え方というのは,2,3,4で個別具体的に規定されている禁止行為に反しない場合には,そもそも違反にはならないというふうな前提になっている,そういう考え方が前提になっていると思うのですが,受益者に損害をこうむらせるような行為をするということは,別に2,3,4に,あるいはそれで自己が利益を得て,それによって不当なことをしてしまうということになりますと,2,3,4に直接に当てはまらなくても,それは善管注意義務違反には十分なり得るわけであって,1を外せば2,3,4がやっていることだけが禁止の対象になるかというと,私はそうではないと思います。


  では,1があるのと2,3,4に外れるものは善管注意義務の規定で対処するのと,どこが実定法的には違いが出てくるのかというと,これは結局5が適用されるかどうかのところだと思うのです。

つまり,利益吐き出し請求という話を忠実義務違反に特殊な効果であるというふうに考えますと,善管注意義務違反であるという話で処理をいたしますと,5の利益吐き出し責任というものは適用されないのに対して,1も含めた忠実義務違反であるといたしますと,5の利益吐き出し責任がかかってくるということになるわけです。


そこは重要な点であろうかと思うのですが,しかしそうなりますと,これは違いが結構大きいわけであって,忠実義務違反であるか,それとも善管注意義務違反の解釈の問題の中に入れられるのかというのは,かなり明確な区別ができないと,それこそ萎縮効果を招く可能性があるのかもしれない。


つまり,キャッチオールだからほわっとした定義で1はいいだろうということにはならないのではないかというふうに思うわけであります。

  そうなりますと,今度は1は置くべきだというふうに申しておりながら,何か矛盾するよようなことを言うかもしれませんけれども,「忠実に信託事務を処理しなければならないものとする」という条文で本当にいいのだろうか,一般規定を置くということの必要性というのは,私は一般規定を置く必要はあるという立場におりますけれども,忠実義務ということの定義というものが法典外在的に存在していて,それを前提としながら忠実にしなければならないというふうに置くべきなのか,それとももうちょっとダウンして,専ら受益者の利益を図るために行動しなければならないとか,自己又は第三者の利益を図らず,受益者の何とかをしなければならないという規定にするのか,もう少し私は内容を明確化した方が,5の適用範囲が明確になるという面があるのではないかと思います。

● 大分いろいろな御意見が出ておりまして,そろそろ休憩の時間に入りますので,また休憩の後,御意見いただきたいと思いますけれども,今までの大きな問題点は,一つは1にある総則的な規定。

これは,いろいろな形の御意見ございましたけれども,これ自体が適当でないという御意見は恐らく余りないのではないか,本来信託であって,受託者は忠実義務を負うという原則自体は,恐らく皆さん大体御承認いただいて,ただ○○委員も,また後で補足していただきたいと思いますけれども,2,3,4,5との関係で明確でないのではないかということで,そうすると,1自体については,私の曲解かもしれませんけれども,そんなに御異論がないのかもしれないという気がいたします。ということで,1の問題点。

  それから,2,3,4,特に4あたりの効果の問題,それから忠実義務を外すときのいろいろな要件,信託行為でもって広く定めることができるのかどうか,それから5の違反の場合の効果,こういった問題点については更に御意見を伺いたいと思いますが,ちょっと白熱した議論を中断して申し訳ございませんけれども,少し休憩に入りたいと思います。
              (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。


● 私が最初に問題提起したことについて議論が出ておりますので,ちょっとまとめた話として再度申し上げたいことがあるのですけれども。
 


 確認ですけれども,私の1に関する趣旨というのは,別に効力規定化そのものについて反対しているというわけではございません。


ただ,やはり2から4の範ちゅうとの関係が不明確なので,1の範囲が逆に不明確になるのではないかと。


また,1の規範としても,要件,またその例外--デフォルト化がどこまで自由なのかどうかということも含みますけれども--が不明であると。

そうであるのであれば,5に関して非常に適用が拡大するかもしれないので,そうした場合に萎縮効果があるのではないかという,そういう議論です。


  5に関して,特に前半の議論では乙案の議論が出てきたと認識しておりますけれども,この点について私の意見を述べたいと思います。


  基本的には,前半で述べたことなのですけれども,5の利益吐き出し責任を認めるかどうかということについては,信託をどうすべきなのか,信託の設計の問題,それから信託をどう広げるべきなのかどうか,ちょっと政策的な話としてどういうものにするか,どういう広がりを持たせるのか,そのためには現行法規制度の親和性,委任との関係であるとか,そういうところに大きな違いが出てこないのか,そういったところが大きなポイントだと思っております。
 


 その観点から見ますと,前半で出ていた議論をお聞きしていますと,なおちょっと疑問がありますので,その点についてお話ししたいと思うのですけれども。

  すなわち,先ほどの議論では,主にこの事例の13ないしは14では,不当利得とか損害賠償とかでは説明できない,よってこういう乙案のような規律を設けるべきたというような議論が多かったかなと認識しております。

十歩譲って,ないしは百歩譲ってかもわかりませんけれども,譲ったとして,もしそういうことで必要であると,つまりそういうことをやはり利益を吐き出せと,それについては現行法規では難しいので,そういう規定を設ける必要があるというふうにしたとしても,私のそもそもの疑問は,ではなぜそういう必要なものだけを切り出して,それを規律しないのかということでございます。
 

 先ほど,冒頭に事務局による乙案の性質決定の説明として,不当利得とか事務管理とか,そういう議論,新たな考え方,つまりそういうふうに行う債務であるというふうに私理解したわけですけれども,もしそういう考え方を使えるのであれば,例えば例13ないしは14の類型を出して,正しく受託者がそういうことをしてはならず,かつそれをした場合に,信託財産に引き渡す義務を負う,そういうものが信託の義務であるというふうに規定する,つまり5を規定せずに,2から4のところでそういうふうに規定すればいいのではないかと。
 


 なぜそういうことを申し上げるかというと,不用意な--不用意と言うとまた問題ありますけれども,不必要に5の場面が出てくるのではないかと。


例えば,競合行為の禁止について,これについて必ず利益吐き出し責任を持ってこなければならないのかということでございますけれども,もちろんそういう場合もありましょう。

ただ,例えば競合行為というのも,そもそも競合行為かどうかということについてまずは受益者の利益を犠牲にしてということでございますので,犠牲でないものについては入らない。

1で引っ掛かるかどうかは別としてあるのですけれども,仮に犠牲にしたというときにもいろいろな犠牲の仕方があって,多分1円でも犠牲にした場合にも勢い3の類型に当てはまって,よってこの規律が出てくるということはどうなのかなと思います。
 

 例えば,いろいろな競合行為があると思いますけれども,その競合行為を実際やったとしても,受託者が利益を得たその利益の中身は,もうちょっと犠牲の部分から成り立ってくるものもあるかもしれませんが,おのずからのエクスパティーを使った能力であるとか努力であるとか,そういうものが関連してあった,ある場合もあるかもしれません。

又は,当該行為における取引というのが,非常に競争的な市場であって,よって別に受託者が自らの資産で固有財産としてやったから犠牲が出てきたということも言えるのかもしれませんけれども,別にそうしなかったとしても,ほかのマーケット参加者が同じような取引をするわけで,いずれにしても信託財産に余り変わらなかったということもあり得ましょう。

そういったような場合でも,やはり5の規律を入れるのかどうかという話がありますものですから,1ないしは2から4までに当てはまったからといって5で救えるというような決め方はどうなのかなというふうに思っています。


  よって,やはりここではもう一度そもそもの規律の是非を御検討いただきたいということと,それからもう一つ,十歩,百歩の話になれば,外延が明確でないからこういう議論が出てくる,萎縮効果という議論を出さざるを得ないわけでして,その外延を,甲案,乙案いずれにしても明確にした上で,議論をしていただければなというふうに思っております。これが大きな1点でございます。

  ついでで恐縮ですけれども,同様な考えで2と3の話をしたいと思うのですけれども。
 


 先ほど,○○委員から,競合があってもいいのではないかという話がありました。


そういう考え方もあろうとは思いますけれども,2と3に違いがあるというのは,含む含まないということもあるわけですが,本当は違いがないということなのかもしれませんけれども,効力が大きく違うという話があります。

そういう意味で,そういう関係にあると,ある程度あいまいな関係であるというふうにしたとしても,実務の観点からすると,有効か無効かが違うということであれば大きな違いになってくるということでございます。

そこにおいては,やはり外延というものを明確化する必要があるのではないかというふうに思っております。

その点,ちょっと私の理解不足かもしれませんけれども,今の提案の中身はまだまだ不明瞭なものがあるのではないかというふうに思っております。

● 今までそれほど議論になっていない点を簡単に申し上げますと,ちょっと調べてこなかったのですが,証取法の中に短期売買,ショートスイング・プロフィットの規定があったかと思うのですが,法制的な背景等はもちろん違いますけれども,仮に証取法という政策的な視点からの規定だとしても,利益を帰属させるというのは現行法上もあるのではないかという……,一応御参考までに,それが第1点。
  

あと,これもどの法律とは指摘できればよかったのですが,ちょっとすぐには分からないのですけれども,法律の中に忠実義務がありますと一般的に規定されているものがあると思うのですね,ですから先ほどから効力規定か云々かという議論がありますけれども,法律に忠実義務があると書いてある場合に,それ自体が意味がないというのは,余りにも変な議論ではないか,もちろん先ほどから議論してそれ以上細かい議論というのは当然必要ですけれども。という,これも御参考までですけれども。


  あと,実務をやっていて,契約の中に忠実義務がありますと,こう書いてある契約書も結構ありまして,ですからその契約上の条項自体が「信託契約に従い」と書いてあって,信託契約を見ると「忠実義務があります」と書いてあって,そうするとそれが訓示規定になってしまう,効力ない,それも何か変な気がいたします。


もちろん,先ほどから申し上げているように細かい議論というのは当然必要だと思いますけれども。

  あと,利益の帰属のところですけれども,法的な性質云々ということで先ほどから非常に民法的な難しい議論が続いているのですけれども,準事務管理的とでもいいましょうか,そういうふうに考えたとき,ここから先は余り議論されてなくて,先ほど○○委員が少し指摘されていましたけれども,別に事務管理であるときに過失の要件とは関係ないのではないかと,本来プロフィットは帰属すべきところに帰属するわけですから,過失要件というものは果たしてここで契約責任のような--要するに,責任があるから帰属するという議論ではないのではないかと。

責任の方は,債務不履行責任ということで損害賠償責任の方で担保すればよろしいわけでして,あくまで損害賠償責任とは違う意味においてこのプロフィット,利益の帰属ということを議論していると私としては理解していますし,乙案,この中でもそういう提案がされておりますから。

ということで,過失の議論というものは余り議論されていなかったので,過失というのはこんな必要ないのではないかと。

  その際に,株式の売買と市場取引を例に挙げて,市場取引のときに場合によってはということがありましたけれども,例として市場取引の場合は別に信託の受託者に限らず,一法人であっても一個人であっても,同じ日の同じタイミングに売って買えば,もしかしたら自分で買って自分で売っているかもしれませんけれども,そういう市場取引が一つの例になるというのは必ずしも妥当ではないのではないかと思います。だから,過失が必要だとかいう議論というのは,ですね。


  あと,もう一つ,今まで議論されていなかったポイントで,なおかつこの検討課題の9ページのあたりにどう考えるかということで指摘されている点で,目的を判断の基準とするか否か,何らかの制限は必要なのではないかという議論,今まで続いてきたようですけれども,現在の「受益者の利益を犠牲にして」,多分これは「かつ」で読むのでしょうか,「かつ」だとしますと,「自己又は第三者の利益を図る目的」,ここまで立証して利益相反行為をとらえ,なおかつ利益相反行為まで立証してということは,せっかく忠実義務という本来信託の本質に迫るものを議論して,その一貫としての重要なポイントとしての競合避止義務とか利益相反に対する責任というのを規定している以上,やはりこれはちょっと強過ぎる規定ではないのかと思います。

どういう規定が適切かということはもちろん必要かもしれませんけれども,恐らく利益相反行為ということだけで十分であって,受託者の方はそれがちゃんと利益相反行為ではないのだということを主張立証することによって責任を免れていくというのが,本来妥当なことだというふうに思います。

● 今,無過失責任の問題ですとか,求償責任も含めてどこまで証明すべきかという問題などについて新しい御意見がございました。関連していかがでしょうか。

● 先ほど,4と5について不要じゃないかというふうに申し上げていろいろな御批判をいただきましたが,先ほど○○幹事の方からお話がありましたように,例えば13のところで1番,2番,3番で救済できないという解釈であるとすれば,それは済みません,私自身の考え違いですので,ここの13番については私は救済すべきかなというふうな考え方を持っております。


  それについて,利益取得行為というものを立てないことには救済できないということであるとすると,ちょっと考え方はもう一度検討しないといけないのかなと考えております。

  私自身が懸念していますのは,まず利益取得行為というのがあって,そういう概念があって,なおかつ利益吐き出しの責任という概念を設けると,そうするとどこまでなんだという部分がありまして,先ほど申し上げたように物権的な形の救済があって,債権的な救済もありますというと,一般的に救済したらいいなと私はぼやっと考えて,ほとんどのところが救済できるのだろうなというふうに思っているわけです。


それ以上の,例えば利益相反行為であったとしても,利益吐き出し責任があるのですよといったら,あとはやはり考えられるのは,先ほど申し上げたように,では中間最高値までとって,受益者の選択によってそこまでの利益を吐き出せというところまであるのでしょうかという懸念があるわけです。

  先ほど,○○委員にもお聞きしたのですけれども,英米では裁判所の裁量でそこら辺のところがかなりの範囲があるいうことですけれども,日本においてはなかなかそういう裁量ということもいかないとすれば,やはり際限というのが,どこまでやれるのかというのが非常に我々にとって懸念材料ですので,その辺のところの考え方を一つ整理していただくということをもって,再度検討したいと思います。

● いろいろな御意見いただきまして,問題となっている論点についてはかなりどういう形で対立しているかということが明らかになってきたように思います。


特に,利益取得行為の禁止のルール,これを立てることの意味,それからそれと密接に結びつく利益吐き出しの責任について,範囲を明確になるように限定してくれないと困るという御意見が,受託者などの実務を経験されている方からは出てきましたし,これらにの点についてはもうちょっと,そういう厳密な定義なり範囲の確定なりができるのかどうかについては,事務局の方でもって少し検討してもらいたいと思いますけれども,今まで対立が激しくあったように思われていた問題について,かなり共通の理解も得られてきたように思います。

これについては,再度また事務局に検討してもらうことにして,とりあえず皆様の御意見……。


● 今まで全く議論になっていなかったごく瑣末な点で,1点だけ申し上げたいと思います。

資料でいいますと4ページのアステリスク9というところでございまして,特別代理人の選任という点について,ごく軽く資料で取り上げているのみというところでございまして,このようなところで御発言申し上げるのも若干気が引けるところではございますが。

  こちらの方に,幾つか現行法にある例というのが書かれております。法人の理事,親権者,社債管理会社がそれぞれ利益相反行為をする場合というものでございます。


ただ,こちらの方を若干見てみますと,今こちらに書かれている例というのは,まず法人の代表者又は親権者が利益相反行為について代理権を失うということを前提としまして,ほかに代表者がいないですとか,あるいは本人が無能力者であるという理由によって,有効に意思表示ができる者がいないという場合ですとか,あと社債管理会社の問題につきましては,社債権者集会によって特別代理人の選任については意思決定自体はされていると,ただ社債権者集会自体が法的主体となることができないことから,特別代理人を選任するというような事例のように思われます。

いずれも,本来その行為によって利益を害される者の同意を得る必要があるとされている場合に,代理人を選任することによって同意を省略すると,ショートカットさせるような制度ではないと思われます。
  


この点,今回の提案においては,利益相反行為については受益者の同意がある場合にはこれが許されるというふうにしておるわけですが,その点と,特別代理人の制度の導入との関係が若干不明確ではないかと思っておりまして,その点,現行法にある特別代理人の制度とは若干異質な制度ではないかなという点が気になっております。


ちょっとこの点,もし引き続き今後にでも検討されるのであれば,是非慎重な検討をお願いしたいということでございます。


● それでは,一応このテーマについては終わりたいと思います。


● 公平義務については何かございますでしょうか。
● 公平義務の方はいかがでしょうか。

● 公平義務の部分につきましては,本文については特段の異論はございませんが,アステリスクの3の公平義務に違反した場合の効果のところですが,これについては不利益をこうむった受益者の救済という観点から,(1)のような固有財産との取引のところの部分については結構理解できるのですが,(2)の信託財産と他の信託財産との間で行う行為のところの部分について,信託財産間において無効とするのは,ちょっと公平義務と関係のない信託にとってみたら,通常の取引であったにもかかわらず,別の信託の公平義務の是正のために無効になってしまうということですので,この辺についてはちょっと解決策としてバランスを欠いているのではないかなという感じがいたします。


この場合には,(3)の第三者との取引と同じような取扱いの方がいいんじゃないかなという感じがいたします。


● おっしゃりたい御趣旨はよく分かりました。
  ほかにございますでしょうか。


● 別段の定めが信託行為にある場合というのを,もし一般的な解除ということで公平義務なしという契約を認めてしまいますと,受益者としては非常に戸惑ってしまう,またもちろん受益者は信託契約に関与できませんという視点がございますから。

もちろん,商事信託においてそういうことがあるとは思いませんけれども,民事信託を前提としたときにはあり得るのではないかと思います。
 

 したがって,一つの考え方としましては,先ほどからの「別段の定め」の議論のときに出てきましたように,具体的にどういうシチュエーションにおいて公平義務が担保されないのかというような具体的なところまで明示し,一種の説明的な規定になるのかもしれませんけれども,その上で解除されるというふうにする必要があるのではないかと思います。


ほかの義務と同じですけれども,一般的な解除規定というのは,信託の受託者という視点からしますと適切ではないのかと思います。

● そうですね,「この信託では公平義務はないものとする」なんていう規定は,やはり適当じゃないでしょうからね。


  これは,この問題に限らずいろいろなところに恐らく出てくる問題なので,もうちょっと注意しながら議論していきたいと思います。


  それでは,忠実義務と公平義務につきましては,一応ここでとりあえず終えまして,次の部分に移りたいと思います。


● それでは,次は,補償請求権と報酬請求権の方を先に御説明させていただきたいと思います。資料でいいますと28ページ以降でございます。


  補償請求権につきましては,前回の提案からの変更点を含め,次の5点について説明を申し上げたいと思います。


  まず第1に,大きな変更点といたしまして,資料30ページの<説明>1に記載しましたとおり,2の受益者から補償を受ける権利に関しまして,従来の甲案,乙案に追加いたしまして丙案を加えた点でございます。

念のため申し上げますと,受益者に対する補償請求権が原則としてあるのが甲案,原則としてないのが乙案,原則としてはありますが,受託者が報酬請求を受ける権利を有する場合,又は,受託者が信託の引受けを行う営業をするものである場合,このような要件を満たす場合には,原則として補償請求権なしとするというのが丙案でございます。


  甲案,乙案が受益者に対する補償請求権の有無を信託行為の定めの有無によってのみ規律しようとしているのに対しまして,丙案というのは信託報酬の有無,あるいは受託者の属性を決定要素に含めて考えるものでございます。


  この丙案のうち,信託報酬請求権のみによって区別する考え方というのは,信託報酬には信託財産を超える損失が生じるリスクは受託者が引き受けることの対価の趣旨も含まれていると解することによりまして,受託者が係る趣旨の信託報酬請求権を有している以上は,特に定めのない限り補償請求権はないと解するものでございます。


  これに対しまして,受託者が信託業者であるか否かによって区別する考え方といいますのは,このような受託者につきましては自ら信託行為において受益者に対する補償請求権を有することを定めることが可能なはずであって,受益者に対する補償請求権を当然に付与する便宜を与えるまでの必要はないという考えに基づくものでございます。


  受益者に対する補償請求権のデフォルト・ルールをどうするかにつきましては,当部会においても見解の対立が大きい分野の一つでございますので,今回,新たに加えた丙案も含めて御意見をいただければと思います。


  第2の変更点は,やや細かい点でございますが,受託者の固有財産による信託債務の弁済について,法定代位と同様の法制をとる1(3)に関しまして,前回の提案では,債権者に通知しなければ債権者に対抗することができないとしていた点でございます。

この点につきましては,弁済後において受託者にかかる通知義務を課すのは,信託債権者の利益を保護するためにすぎず,仮にこれに違反した場合には損害賠償責任が受託者に生ずるということにすぎないと思われまして,対抗問題が生ずる場面ではないと考えられますので,31ページの<説明>,あるいは提案本文にございますとおり,単に「債権者に通知しなければならない」と改めたものでございます。


  さらに,この代位の点に関しまして,前回の提案におきましては,債権者が係る弁済を受けるよりも前においても,民法第504条の場合と同様に,「担保保存義務等を負うものとするか,その要件はどのようにすべきかについては,なお検討する」としておりました。

  この点について検討を加えましたのが,31ページの<説明>3でございまして,事務局といたしましては,民法第504条によりますと,債権者に担保保存義務が課せられるのは,弁済をするについて正当な利益を有する者がある場合であることを要しますところ,信託の受託者は,ここで言う「正当な利益を有する者」には当たると思われるわけですが,債権者にとっては受託者に対する債務が,単なる受託者個人の債務であるのか,それとも受託者による代位の可能性のある信託債務であるのかが必ずしも明らかでないと思われますので,受託者が債権者に対して,当該債務が信託債務であることを知らせることによって,初めて債権者は民法第504条の担保保存義務を負うことになると考えるものでございます。

  なお,代位の件に関しましては,以上の2点のほかに,信託財産に設定していた信託債権者の担保権,例えば抵当権について弁済し,受託者への移転の付記登記をいかにするか,自分の財産についての付記登記をいかにするかという問題がありますところ,この点につきましては28ページのアステリスク1のとおり,前回提案に引き続きましてなお検討いたすものといたしまして,後日,信託財産の公示方法など,登記全般の問題となるところにおきまして,あわせて検討の結果をお示ししたいと考えております。


  第4に,信託財産について競売手続が開始された場合の配当要求手続に関しましては,前回の提案におきましては,実体法上補償請求権は一般先取特権とみなすという方法と,権利の存在を証明することによって配当要求できる等の手続上の例外的な規定を設ける方法とを対峙させておりました。この点につきましては,前回限りでの御意見を踏まえまして,28ページのアステリスク2のとおり,後者,すなわち手続上の例外的な規律を設けるという方法をとることで整理を進めていきたいと結論したものでございます。

  最後に,補償請求権の優先性に関しましては,前回の提案におきまして受託者の支出した費用が必要費又は有益費に該当する場合にのみ優先性を認めることを提案いたしましたところ,32ページの①,②に記載いたしておりますとおり,優先性を認めないと信託財産の経済状態が芳しくない場合には,受託者としては,補償請求権が担保されないようなおそれのある立替払いはせず,あるいは信託終了の結果を招くことにもなりかねず,かえって受益者に不利益ではないか,あるいは信託継続のためには受託者に立替払いの義務があるとされながら,優先権を認めないということになりますと,受託者としては対応に窮するのであって,酷ではないかなどの指摘がございました。


  しかしながら,この点につきましては,32ページに記載してございますけれども,受益債権に対して補償請求権を優先すべきとの理由とはなり得たといたしましても,他の信託債権に対してまで優先する理由とはなり得ないと思われること,補償請求権が満足されない蓋然性が高いことを理由とする信託の終了に当たりましては,受益者に対して履行催告や通知などの手続的保障がとられること,あるいは一般的には受託者には立替払いをし,あるいは立替払いを前提とする信託債務を負担してまで信託を継続すべき義務を負うものではないと考えられることなどにかんがみまして,このような反論が可能であると思われるところでございます。


  やはり補償請求権の優先権を認める実質的な根拠といいますのは,当該支出の共益性にあるものと思われますので,前回提案どおり,補償請求権の優先性が認められるのは,その原因となった支出が必要費又は有益費に当たる場合に限られるとの提案を維持することとしたものでございます。

  以上が補償請求権についての規律の提案の内容でございます。
  最後に,報酬請求権でございますが,これは非常に細かい点が2点直っただけでございまして,すなわち1(2)におきまして,信託報酬額の相当性に関する受益者への通知の内容につきまして,前回の提案では,「信託報酬の額又は算定方法について,これを相当とする理由を明らかにして」とあったところでございますが,この点を「信託報酬の額及びその算定根拠」と改めたこと,それから信託報酬の支払時期に関します3(1)におきまして,「受託者の任務の終了後」とありましたのを,「信託事務を履行した後」と改めたこと,この2点だけ変更したものでございます。

  なお,信託報酬請求権につきましても,実質的には必要費,有益費に当たる部分を除く純粋な利潤部分については優先権を認めないという事務局の提案に対しましては,35ページに記載のとおり,受託者の職務には,信託財産の価値の維持,増加に資するという共益的な側面があるから,優先権が認められるべきではないかとの指摘がございました。

この指摘によりましても,しかしながら実質的に共益性が認められる範囲,すなわち必要費,有益費に当たる部分を除いて,それ以外の利潤部分についてまで優先権を認める根拠とはならないと考えまして,従来の提案を維持しているものでございます。
  以上で終わります。

● それでは,今までのところで御意見いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

● 2点,意見を申し上げます。
  1点目は,「信託財産から補償を受ける権利」のところでございますが,信託財産から補償を受ける権利につきましては,第2回と第5回の会議におきまして,原案に賛成というような少数の意見はあるけれども,受託者として債務を負担するときに優先権が認められないとやはりいろいろなところで逡巡してしまうので,信託事務の円滑な運営に支障が出ますということで,優先権を現行法どおり認めていただきたいというお話をしてきたわけですけれども,ただ2回,5回のところで学者の先生方からいろいろと御意見を聞いて,現行法においても基本的にはそういうことではないのだよと,○○幹事だったかもしれませんけれども,御意見もいただきまして,業界内でもいろいろ議論いたしまして,基本的には信託債権者との関係というものにもかんがみて,原案でやむを得ないのかなというふうに考え直しております。

  一方,受益者から補償を受ける権利につきましては,第2回,第5回会議と同様,デフォルト・ルールとして認められるべきであるということで,甲案ということに賛成したいと思っております。
 


 これは,2回,5回で申し上げて非常にくどいようですけれども,そもそも信託というのは受託者は受益者のためにいろいろな義務とか責任を負って一生懸命信託事務処理をしますと,それで受益者はその損益を受けるというのが大原則であろうというふうに考えておりますので,当然最終的な帰属というのは受益者が受けるのだろうと思っています。

  特殊なケースとして,これもこの前申し上げましたけれども,信託財産がマイナスになるというのは非常にまれなケースだと思うのですけれども,考えられるのは二つ。


一つは,管理の失当,もう一つは非常に不可抗力な大きな天災等の事故があったときということだと思います。

  1点目については,もともとリスクコントロールするのは受託者のところですので,当然それによって管理の失当があったら受託者が責任を負うということだと思いますので,それで責任を負うと。


2点目につきましては,やはりこれはそもそも論からいって受益者が責任を負うべきなんだろうなと,受益者の利益のために職務を遂行する受託者が,過失もないのに生じた費用を負担するという,その合理的な根拠というのはなかなか見出せないということがございまして,前回に引き続き甲案支持ということでございます。


● この点について,いかがでしょうか。


● ただいまの第2点目に関連することでございますけれども,受託者の受益者に対する補償請求権は,私は乙案,つまり信託行為に受益者から補償を受ける権利を付与する旨を定めない限りはないと,このように考えるのがむしろ合理的ではないかと思っております。

  その理由は,まず○○委員もおっしゃいましたように,受託者は信託財産を管理運用するわけですけれども,最近いろいろな信託も出てまいりまして,むしろリスク管理が重要であるという,場合によっては信託財産がマイナスになるということもあり得るわけであります。

そのリスクを管理する際に,やはり管理者である受託者に基本的に責任を集中させた方が,リスク管理が一般的にいうとうまくいくのではないか。


逆に申しますと,結果的に穴があいたから受益者にといったところで,受益者にそのリスクを事前に,どのように回避する手段があるのか,このような回避手段のための方法等,具体的なプロセスを考えますと,やはり原則としては受益者に対する補償請求権はないこととしておき,信託行為に定めておけば,それによって一種の注意を喚起することが可能になるわけですので,場合によっては受益者の方で手を打つということが可能になるわけです。

  特に,民事信託だけではなくて商事信託の方に話を発展させますと,やはり信託で一番広く使われるものは,投資の対象としての信託であり,現に我が国はそうなっていると思いますけれども,投資対象がマイナスになるということは,これはもう投資商品としては非常に,不適格とまでは申しませんけれども適切ではない。


したがって,この民事信託,商事信託,いずれにしても,補償請求権はデフォルトとしてはないと,このように考えることがむしろ合理的ではないかと思いますので御発言させていただきました。

● 今の○○委員の意見と近いところがあるのですけれども。結論は丙案の方かと思うのですけれども。
  


金融商品といいますか,証券化とか最近使われている管理型の信託においては,投資家は社債型受益権,資産流動化法でもそう言っていますけれども,社債型受益権ということで社債と同様な商品として購入しているわけでして,なおかつ,信託契約,信託行為に投資家は当然関与できませんから,それがデフォルト・ルールとしてたまたま信託契約に書いてなかったことによって,あるとき請求が来ると。


非常に抽象的な議論かもしれませんけれども,それでもそれが必要だという議論なのでしているのですけれども。

  というのは,管理型の信託については何十兆と報道されていますし,今後信託を利用しようという正しく信託法の改正の議論において,受託者の受益者に対する補償請求権の行使を原則認めるという議論自体が,今までそういう議論が強かったのでそのとおりだと思うのですけれども,やはり変な議論ではないのかなと。


信託そのものからの議論もそうですし,今日における信託の利用という視点からもそのように思います。


  他方,ですから信託契約に書く書かないというよりも,商事信託--すべての領域ではないかもしれません,土地信託みたいなものを考えたときは違うのかもしれませんけれども,今日主流を占めているところの商事信託とでも言うのでしょうか--においては,ですから,年金等も入るのかもしれませんね。


年金等で,もし年金加入者が受益者というふうに認識されるときに,そこに請求がいくと,これ自体だれも認識していない話でして,ですから一般的な意味においての商事信託においては,そもそも丙案とでもいうのでしょうか,属性によって補償請求権はないのだという本来の信託の姿というのは,通常ではないのかなと思います。


  他方,民事信託になりますと,民事信託として何を念頭に置くかということによって違うかもしれませんけれども,弁護士の業務としては親亡き後の子の信託とか,要するに高齢者とか身体障害者とか,親が先に亡くなった場合の子供の扶養とか,そういう形で民事信託が利用されるということが今後考えられますけれども,そういう場合において子に請求するというよりも,信託財産にわざわざ手を付けずに,適切なところから補償を受けるということも場合によっては必要かもしれません。

ただ,それが絶対必要という意味ではなくて,1の信託財産から本来補償を得ればいいわけでして,何も知らない受益者,先ほどちょっと議論したような悪質な民事信託を考えるときに,何も知らない受益者が信託にした方がいいと言ったところ,多額の補償請求されたということにもなりますものですから,属性といっても民事信託の場合には補償請求があらゆる場合にあってもいいのだとまではもちろん言い切っているつもりではございません,より細かい議論が必要だと思うのですけれども,ただ丙案のような形て,やはり原則ないのだと,商事信託においては原則ないのだということで,あとは例外的なことを考えていくということが適切なのではないかと思います。

● 私も,この問題については何度か発言していて,同じことを申し上げるようで恐縮ですが,28ページの第2項の「受益者から補償を受ける権利」のところですね,○○委員がおっしゃるのも,日本のこれまでの信託のことを考えると,現行法として36条があるわけですから,そういう考えも理解し得るのですが,そもそも信託とはというそもそも論で始められると,ちょっとやはり異論があって,そもそも信託とはと,日本の信託とはという御趣旨だとは思いますが,「日本の」というのを外してしまって,信託とはという話にしてしまいますと,受益者から補償を受ける権利というのが受託者に認められ,かつ報酬についてもこれはいくことができるわけですね,後の方で全部準用していますから。


報酬についても受益者からと。そして利益の存するところに損失ありという,極めてもっともらしい原則が正に信託のそもそも論だよと言われると,実際にアメリカの信託法学者もイギリスの信託法学者もびっくりするわけですので,彼らの信託がそもそも信託なのかということで居直ることもできますけれども,どうなんだろうかという感じがするわけです。


  今までの36条は,私の勝手な理解では,設定当時に,信託のその点については理解していないために入った条項であり,しかし現実に何の問題もなかったのは,特に戦後ですが立派な信託銀行に限って受託者になれるという,そういう体制をとってきたから今まで何の問題もなくて,空理空論のところで,こうなった場合はどうなるのだろうという議論が行われただけで済んでいたと思うのですが,繰り返しますが,信託事業というのが今後いろいろな形で広がるという話になってくると,この機会にそれを見直す必要が出てくると思うのですね。


  次の話は,少しこれも概念論ですが,代理と組合と会社と信託という話で,しかもリスクとかロスのところだけで比較をしてみようかと思っているのですが,通常の代理は,ここにおられる方には釈迦に説法で,ただ私だけが間違ったことを言う可能性があるわけですが,つまり効果は,というか,この場合はロス,リスクの方だけを考えますけれども,本人に帰属するということなので,今度,今この信託法の改正で問題になっている受託者について,有限責任というようなことを認めた場合,しかもこの補償請求権というのをこういう形で残すと,先ほど○○委員は別の文脈でどこまでいくか分からないということですが,この補償請求権のリスクというのは受益者にとっては突然,しかもどこまでいくか分からないという意味では無限責任ですので,受益者に無限責任があって,受託者には責任が限定されているというような形の信託がもしこれからできるとすれば,それは信託ではなくて代理ですね。


ロスの面からだけ見れば,ということですけれどもね。

  それから,そうじゃなくて,現行のように受託者もいろいろなリスクを負っているのですよと,無限責任を負っているのですと。


同じように,だから受益者だって負ってもいいでしょうというのは,無限責任を負って,無限責任を負っているのが二人いるというのは,私の考えだと普通には,アメリカでいえばパートナーシップ,日本でいえば組合ということになると思うのです。


業務執行はこの人だけやるかもしれませんが,特に何の特約もない場合には,ロスがみんなに及んでくるという形だと思って,それはやはりある意味では信託ではないですね。組合である。


  もう一つ,会社の話をしますけれども,会社は御存じのように株主について有限責任を認めていて,この信託のところだけで受益者のところへ無限責任というのが出てくるというのがちょっと政策論として問題,投資とか商事のところで特に問題になると思うのですが,もう一つ信託のところに戻って,信託がそもそも信託たるゆえんというのは,信じられないことに受託者が無限責任を負い,受益者は責任を負わない,有限責任ですけれども,期待していた受益権が実際に信託がつぶれてしまって,なくなってがっかりしたというだけの,そういうリスクはありますけれども,そういうものが信託なので,だからこそおもしろいというのでしょうか。

そういうようなスキームにやはり意味があって使われるのだろうと思うのです。一つの証拠には,やはり受益者の同意がなくても,とにかく受益権が発生するのだというふうに,これは日本でも英米でもそうなっていて,それはどうしてそんなことが可能かというと,受益者の方にはロス,リスクがないのですよという話なら,この話は分かるわけですね,同意なんか要らないでしょうという話になるということですね。


  結局,受託者にリスクもあるかわりに裁量権をゆだねて,専門家としてとにかくいろいろなことをやってもらおうというためには,この受益者のところからはとにかくリスクはないのだという仕組みをつくっておかないといかんのじゃないかと思って,これは私はやはり考え方の問題ですが,忠実義務と並んでここの補償請求権について受益者のところにいく--報酬の方も同じですけれども--というのをなくすということが,少なくともデフォルトとしては当然乙案になるわけですけれども,乙案でなければならないというふうに私としては信託の,いわば人の言葉をかりて言えばそもそも論からして,この乙案で今回はいってもらいたいというふうにお願いしたいと思います。

● 私も,結論を申しますと,この甲,乙,丙という3案,とりわけ今回丙案も出していただいて,事務局の御苦労というが大変忍ばれるのですけれども,やはり乙案が適切ではないかと考えております。


  言い方を変えますと,とりわけ甲案は制度化が非常に困難ではないかというふうに考えておりまして,私,この問題,発言させていただくのは初めてですので,ちょっと重複もあるかと思いますけれども,少しお時間をいただければと思います。


  まず,そもそも任意規定の在り方としてどういうものが適切かということですけれども,任意規定の在り方については,現在のところは恐らくは多数の人が考えるものがどうであるかという考え方と,制裁的な考え方,情報を出させるための任意規定という両方の考え方があるかと思いますけれども,いずれからいたしましても,結論として乙案のような形になるのではないかと。

  多数の当事者がどう考えるかというときに,典型例をどういうものを考えるかですけれども,商事信託につきましては既にもう御指摘がございましたように,現在の主流である投資や年金において,これを多くが受益者にかかっていけるというのが普通だというのは,そういうふうに考えられないということはこの場で一致を見ていることだろうと思われます。

それについて,逐一信託行為で負わないということを書いていくというようなこと,またそういう情報を出させるということに意味があるかというと,その意味もないと思われますので,そういった商事の利用についてはやはり乙案にならざるを得ないだろうと。

  民事信託の方ですけれども,民事信託としてどういうものを考えるかというときに,これもまた最も典型的な例として考えられるのは,有能な受託者と,残念ながらそうではない,それだけに保護に値する受益者のための信託ということですから,リスク管理の点,保険等も含めてそういう点からしても受益者に対して,最終的な責任を負わせるというのが多数の当事者であれば考えるものとして合理的かというと,そうでもないでしょうし,また情報を出させるという点からしても,そうではないというふうに考えられますので,そういたしますと一般的な任意規定の在り方と信託の典型例ということを考えたときには,乙案にならざるを得ないのではないかと。


  2点目は,比較法の観点との関係ですけれども,比較法の観点から甲案のような考え方が異例であるということは,○○委員が繰り返し御指摘になっているところです。


  問題は,現行法との関係で,日本の信託法は現在そうなっているのではないかということについて説明をしておく必要があるのではないかと思いますので,この点を補足させていただきたいと思うのですが,現行法36条がどういうような規律であるのかというのは,また更に詳細を踏まえる必要があるとは思うのですけれども,これはやはり3項というのは非常に大きいもので,常に放棄ができると,もともとは必ずしもはっきりしないかもしれませんけれども,受益権の放棄さえしてしまえば,全面的に責任を免れるというものが想定され,また大本になったイギリスなどもそうではないかという指摘もあるようでございます。


そういたしますと,現行法というのは受益者が補償責任を負うような形になっていながら,その実質は具体的にそれが問題となった段階でいつでも選択できると,負わないことも選択できるというような形を規律しているわけで,それを今回の改正の中ではその部分をかぎ括弧つきの合理化しようというので,いったんいわば受益者たる地位を引き受けたというようなときには,それまでに発生したものは負うというような考え方が出されているわけですので,それとのセットですけれども,もしそういう考え方を受益権の引受けないし放棄との関係でとるのだとすると,これはやはり甲案というのは現行法からもかなり,現行法の受益者の地位よりもずっと厳しいものにしてしまうというものですから,そういうような規律を提案することになるのであって,その点はやはり問題ではないかと。その正当化というのは難しいのではないかと思っております。


  それから3点目で,しばしば挙げられる利益の帰すところ損失もまた帰すべきであるという一般論なんですけれども,これもきちんと調べていないのですが,そのルールだけでこの問題が規律できるのかということでして,局面は違いますけれども,例えば不法行為の715条,716条などですと,利益が帰しているところ常に損失も帰すというような立場はとっていないわけで,指揮命令関係があるという場合であるからこそ責任を課すという,もう一つの段階があって,ただその根底にはどういう考え方があるのかというときに,説明原理として出てくるというものではないかと思いますので,利益を得ているような人は常に最終的な損失も帰すべきなんだということが民法一般のルールであり,直接にここで解決を導くようなルールとして使えるのか,考え方として使えるのかというのは,もう一つステップが要るのではないかと。

かえって指図等を全然していないような場合にも,損失を帰すことができるというのは,異例だというふうにも考えることができるように思われますので,その一般的な考え方の当てはめについても,なお検討する必要があるのではないかと思います。

  最後,4点目で,丙案についてですけれども,丙案は非常に工夫のされた考え方だと思うのですが,この考え方によりますと,有償でない,報酬がないような場合であって,かつ営業等はしていないような場合には,この場合にはなお受益者に対して補償請求ができるというのがデフォルトであるということなのですが,どういった場合がそういう場合に当たるのかということで考えていきますと,例えば友人の弁護士さんに自分の子供のことを頼むとか,そういうような場合なんかが入ってくるのかと思います。

無償であって,別に営業として引受けをするような立場でもないとしますと。


ただ,そういったときに信託財産で賄うに足りなくなったというときに,子供にかかっていける,あるいは高齢者にかかっていけるとか,そういうのが果たして適切なのかというと,最初の話に戻ってくるわけですけれども,報酬を得ているような人はリスクも引き受けていると,営業でやる人には分かっているはずだというような,それ自体としてもそうだと思うのですが,ではそれ以外の場合は正当化できるかというと,それはやはり困難ではないかと思われまして,それとの関連でこの2の(5)のアステリスクの3の「補償を受ける権利が認められていない場合についても……終了に関する規律を設ける」というのは,私はこれが非常に重要だと思っておりまして,義務を課すかどうかとは別に,しかし促すような形でこの部分を検討してくれるのであればまだ続けていけるけれども,というような提案ができるような形にしているということが重要で,逆に言うとそこまでの限りでいいのではないかというふうに考えております。


  さらに,多少細かいことですけれども,資料の記述のところについて最後の最後に申し上げますと,30ページの<説明>の1の2段落目,「甲案及び乙案は」と書かれているところの5行目から,「特に,乙案においては」ということで,乙案の問題点が指摘されております。

信託財産ですとか,それを売却することによって得た金銭によって費用のすべてを賄わなければならないときに,引受けの際の事情等によってはそういう認識を有する機会が存しないおそれが否定できないというふうに書かれているわけですが,これは甲案であるときには受益者がそれは全部分かっていてという状態になるわけで,しかも受益者についてはもちろん受託者がこういうことですよという説明ですから,受託者の認識をもとに受益権をとるかとらないかという話をするわけで,受託者についてなかなか機会がないのであれば,受益者については一層ないというふうにも感じますので,この部分の記述というのは,甲案をベースにされた丙案を導くための一つの根拠として出されているものというふうに推測しますけれども,非常に甲案に偏った視点ではないかと考えております。


● この点について,何かもしありましたら……。

● 補足で1点だけ。
  先ほど,○○幹事の方から,現行法の36条3項のところの解釈として,常に放棄できるという考え方もありますというお話でしたけれども,私自身は基本的に債務超過状態になっているようなものについては,特に自益信託についてはそれは放棄できないというふうに考えておりますし,学説上も多分そういうふうに考えられている方もいらっしゃると思います。ということだけを,ちょっと申し上げたいと思います。


● 放棄の問題と密接に関係しているということは確かだと思いますね。


● 一言だけですけれども。
  この補償請求権については,通常信託をした場合には,受託者の方としても信託財産の範囲内でこれをやるべきだというふうに考えているのが通常ではないかと。


受益者の方も,そのように考えているのがむしろ通常ではないかと思います。


  信託財産の管理ということからすると,やはりどちらかというと,受託者としては信託財産の範囲内できちんと管理運営をしていくというのが本来的な在り方で,それがむしろ義務というふうに考えられてもいいのではないかと個人的には考えております。


そういった観点からすると,受託者の責任なり,そうした義務という観点からすると,これは乙案を原則とすべきというふうに考えております。


● 1点だけ,補足的なことですが。
  


私も乙案がいいと思うのですけれども,その理由の一つとして,受益権の放棄,これは最初信託を受けるかどうかという段階で放棄あるいは承認をする判断をする際に,書かれていると判断が適切にできるだろうと,そういう観点からも書くことが原則だということでいいと思います。

● それでは,この問題については恐らく御意見があると思いますので,また後で戻ってくるかもしれませんけれども。


● 済みません,違う論点で2点でございます。
  一つは,第2回及び第5回で繰り返し申し上げたことですけれども,この資料でいきますと32ページの優先性について,有益費,必要費に限られるということでございまして,要は立替払いについて優先権は認められないという話で,これは繰り返し申し上げましたけれども,かつ,事務局として非常に御検討いただいたということは非常にありがたいと思っておりますが,結論としては消極扱いということで非常に残念に思っているわけでございます。
 


 ここに書かれている理由はもちろん分からないわけではないのですけれども,私から申し上げたことは,結局ここも同じ話で,こういう信託でよろしいのですかという話になってくると思います。


もちろん,義務としてやらなければいけないことはやらなければいけないのですけれども,受益者のことをおもんぱかって立替払いをする,それによって信託も維持されて,よって受益者も満足するし,信託債権者もほぼ満足する場合が多いだろうといったときに,そういう立替払いをすることにちゅうちょされるような規律を設けるのはどうかという話で申し上げたわけです。


もちろん,そういうことが難しいということであれば,基本的にはそういう信託になると,結局親切な信託ではなくなるという,義務さえあればいいという信託になる,そういうものを我々は追求しているのだというふうな理解でいるのかなと思った次第でございます。
 

 仮に,これを認めた場合でも,これは第2回目でも申し上げたことでございますけれども,そうしたときに,やはり必要費,有益費の定義が明確でないと,同じようなちゅうちょの問題が出てきますものですから,ここは是非とも解説等で明確化していただきたいと思っております。


殊に,必要費と有益費の違いについても,やはり明確にしなければならないわけで,これは範囲が違ってくるわけですから,ただ実務上は何かで申し上げたかもしれませんけれども,なかなか区分がしづらいところもあり得ましょうから,そこもあわせてなお検討していただきたいというふうに思っております。

  それから,また違った論点で,今回加わった論点で,担保保存義務の話ですけれども,これは債権者の立場から申し上げると,ここでも31ページのところで考慮はされていますけれども,要するに債権者がこの債権が信託財産にかかるものものかどうかということを知っているかどうかということです。


もし知らなければ,かかる義務を負わすと非常に酷だと思っております。


よって,こういう義務を仮に置くとしたとしても,少なくとも債権者がそういう状況を知っているということを確保できるような状態でないと,債権者にとって困った事態になるのではないかと思っております。

  そこで,ここでは規律の在り方としては本文のところで「知らせた場合」とか,そういうことが書いてございませんが,ただ先ほどの事務局の御説明では,たしかそういうことを前提としたような議論だと理解していますけれども,そういった知らせたという場合を前提にしていただきたい。

かつ,これも有限責任信託のところでも同じような議論をしたと思うのですけれども,やはり確実に知らせるということを配慮していただきたいという意味で,例として,書面で知らせた場合とか,そういうところの御配慮もいただきたいかなというふうに思っております。


● 受益者に対する補償請求権,先ほどから御意見がありますように大きな争点の一つでございます。先ほどからの議論にありますように,今度丙案というのが出てまいりまして,これについての御意見も伺っているわけでございますが,賛成される方,反対される方がございました。

  これは,こういう言い方をしては申し訳ないけれども,例えば信託銀行等の
受託者の立場からすると,今のところ丙案的なことは--丙案的なというか,商事の信託については,少なくとも受益者に対する補償請求権はなくてもいいというようなお考えだったのではないかと。

● 商事信託においては,例えば投資商品については今までもお話があったように,基本的に補償請求がいったりしては商売になりませんので,そういうことは全然考えておりません。


投資信託等についても,基本的にはこれは書くという方法で対処は可能ではあります。

● 商事信託法要綱なんかでも,商事の信託に関しては少なくともこういうルールで,信託銀行もそんなに不満ではないというふうに私なんかは理解していたのですけれども。そういう意味では,一々書くというのではなくて,デフォルトのルールとしてね。


  ただ,民事の信託まで含めて議論しますと,先ほどから若干また別な御意見もあったかと思いますけれども,ただ民事の信託においても,信託というのが……。
 

 先ほどちょっと,委任との比較,別な忠実義務との観点で委任との比較がございましたけれども,補償請求権についても委任契約との比較などは若干気を付けなくてはいけない点だとは思いますけれども,信託というのが単に財産の名義を受託者に移すだけではなくて,私の個人的な理解かもしれないけれども,基本的に信託というのは,受益者は指図をしない,委任の場合には受益者は指図をするというのが基本的な性格で,そこが非常に大きいのだと思うのですね。

したがって,信託の場合には受益者が指図をすることもできない,特別に権利を与えれば別ですけれども,そういう状況のもとで受託者が全面的に責任を持って管理する制度なので,したがって何かの場合,損失が生じたような場合にも受託者が一応責任を負うと,責任というのはリスクを負担するという意味での責任を負うというのを,何人かのさっきの御意見にちょっと私の個人的な意見もつけ加えたいと思います。


  いずれにしても,ただこれは大きな争点であり,ここでもって一気に決着をつけるというつもりはございませんけれども,更に御意見等があれば……。


● ちょっと違った角度から。直接,甲,乙,丙の話ではないのですが。
  


一つは,補償請求権の優先性についてですが,先ほど○○委員の方から,前回これが問題となったときに○○幹事の方から説明があって,現行法でも優先権というのはないのだなというのが分かったので,その点は構いませんというふうにおっしゃったのですが,私は○○幹事が前回説明されたとおりであろうというふうに思っております。

  何を説明されたかと申しますと,幾ら受託者に優先権を認めても,受託者自体は信託債権者に対して自ら債務を負っているわけですから,信託債権者と競合する場面において,信託財産に対してどちらが優先権を持っているかなんていうことを議論したってむだなんですね。

そこから先に取れたって,個人資産も含めて信託債権者に対して弁済しなければいけないわけですから。

ですから,私は現行法が根本的におかしいというふうに思っていて,何を考えているのかさっぱり分からないというのが現行法の理解なんです。


  私は,そこがポイントなのであって,そこに○○委員も納得されたと思うのですが,しかるに,説明は,先ほど○○委員がおっしゃったように共益性云々の話で言っているのは,私はどうかなと。

説明の仕方として,そもそも優先権を認めるという法制度というのが,率直に言うと論理的にあり得ないということを理由にすべきなのではないかというのが第1点であります。

  第2点は,直接甲,乙,丙案について口を挟むわけではないのですが,個人的に私も原則は乙案でいいのだと思うのですけれども,乙案をとったときのバランスの問題というのがやはりあると思うのです。


つまり,この第35の1のところで,一応信託財産から補償を受ける権利というのを持っていると,しかしながら(2)で,「信託目的の達成の妨げとなる場合又は受託者に信託財産を処分する権限が付与されていない場合」には求償を待ちなさいという話になっていて,私は乙案をとったときにはちょっとこれはかわいそうじゃないかという感じがするのです。


乙案をとる限りにおいては,マイナスになるというふうな危険があるときには,すぐに信託の事務の履行というものを停止できる,そしてどんどん立替払いしたものについては取れるというふうにしてあげなければ,履行は継続しなさいと,もちろん信託を終了するという道はあるのですが,それはそれなりの手続をとらなければいけないので大変なわけでありまして,そういうふうな終了について簡易な道がないと仮に仮定したときに,信託は継続しなさい,補償請求権については信託財産から取るのも我慢しなさい,しかるにマイナスになったときには受益者に対しては言えませんというのは,少しバランスを欠いているのではないか,乙案をとるときには1の(2)のところの若干の緩和が必要なのではないかというふうに思うということを1点申し上げておきます。


● 今のは,重要な御指摘ですね。
  ほかに,御意見ございますでしょうか。意見の分布は,大分明確になってきたと思いますけれども。
  優先性については,○○幹事の御意見だとおよそ認めるのはどれについても意味がないと,そういうことになりますか。今,必要費,有益費についてだけは優先性を認めるということもあり得るわけですけれども。


● しかし,優先するというのは信託債権者に対しても優先するのですか。しかるに,信託債権者に対しては,個人財産も含めて……。

● 結局,意味ないということになるのでしょう。例えば,税金なんかが典型的には……。税金はちょっとあれかな。
  いずれにしても信託債権者は受託者に対してかかっていけるのだから,だから信託財産の取り合いのときに優先性を認めても……。


● そこはそうなんじゃないかと思うのですけれども,もちろん信託財産に責任限定特約を締結しているということになりますと,これは別になるのですが,責任限定特約を締結しているにもかかわらず,いったん有益費とかそういう必要費というものを自己の財産から支弁するという行為をするというのが,私には多少矛盾があるような気がするのですが。

つまり,自分のポケットは使えませんと,信託財産から支弁いたしますと,私の固有の財産からは支払いませんというふうに言って,しかし支払ったときに,優先権というのは,かなり非常に特殊な場面を念頭に置くことになるのではないかなという気がしますが。


● この案は,そういうのが有益費等であるような場合には,優先的な権利を認めていいだろうということになるのだろうと思いますけれどもね。

● ○○幹事の最後の方の御意見にちょっと違うことを申し上げることになるかもしれません。


  必要費,有益費,ちょっとこれいいか悪いかは十分まだ意見を持っていないのですけれども,意味がないことはないのだろうと思うのです。


すなわち,必要費,有益費に限ってですが優先性を受託者の固有財産に認めることは,受託者の固有債権者,受託者の個人債権者との関係で意味を持つと。

すなわち,必要費,有益費に限っては信託財産の中で信託債権者が割合的に弁済を受けるのではなくて,そこは固有財産にまず移して,固有財産に対して債権者は,受託者の個人債権者と信託債権者とそろいますので,そこで割合的に弁済をしなさいということで,その部分は個人債権者もかかっていける原資になるというところで違いがあるだろうと。


それは,現行法についてもそういうふうな説明ができるのだと思います。したがって,その範囲を費用全部ではなくて,有益費,必要費に限るというのが今回の御提案だと思いますので,無意味ではないので,その当否を考えていくべきなのだろうと思います。

その当否を考えるのは,妥当ではないかと私は思います。しかし,そこについては十分うまく今理由を述べることはできませんが,無意味ではないということは強く申し上げたいと思います。


● 今まで議論に出ていなかった認識のところで,受益権の放棄と非常に密接に関連があると,もちろん放棄の議論をする場ではないのですけれども,私の理解ですと自益信託には受益権の譲受人が放棄できないような方向の議論があったと思うのですけれども,やはりそれだと,仮に乙案だとしても,信託契約に書いて,投資商品というのは自益信託形式ですから,そうすると放棄もできないという議論になってしまうので,それはちょっと問題ではないかと思います。
 

 あともう1点,ここは議論できていなかったかと思うのですけれども,受益権が有価証券化された場合ですけれども,有価証券化された場合でももともとの信託契約に求償権ありと,補償請求ありと書いてあると,やはり受益者は義務を負うという理解になってしまうとすると,そもそも有価証券--政策論ではなくて,やはり有価証券という視点からしても,何か素直に受け入れられないことだと思いますし,有価証券に何を書くのか,そもそも受益権は単なる権利ですから,その有価証券の券面の書き方とか,信託契約そのものを受益者はどういう形で常に見る権利を持っているのかということ自体にも影響してくると思います。

特に有価証券化された場合には。ということで,乙案というのが一般的に妥当な議論なのかもしれませんけれども,常に信託契約に書けばいいのだというだけでは,やはりまだまだ信託法を有効に利用しようとするときには不十分なのではないかと思います。

● 今の点,1点だけ補足いたしますけれども,事務局の提案では,有価証券化された場合につきましては,補償請求権,報酬請求権,ここの規律にかかわらず認めないものとするという提案はしておりますので,念のために1点補足させていただきます。


● 恐らく,それは合理的な内容でしょうね。


● 今まで,補償請求権については乙案に賛成するという対応をとっていましたけれども,この問題に関連して,弁護士が一般の法律事務として,有償で信託の受託者になるということがこれからあるのではないかと考えていますが,そういう受託者の立場で見ても,乙案となるのがやはりいいのかなと考えております。

ただし,先ほど○○幹事の方からお話があったように,1の(2),要するに信託財産を処分してかけた費用を回収する道が制限されていると。

これが余りきついと,やはり受託者となる場合を自分で想像してみるときついかなという感じがいたしますので,○○幹事の御指摘は大変もっともなことだと思いました。


● この点は重要な問題点で,信託財産が処分できるようにならなくては困るという問題と,それから仮に信託財産は処分してはいけないというようなタイプの信託であれば,やはり信託は終了するという方向が簡単にできないと困るということですね。
  

大体の御意見の分布は分かりましたし,また○○委員,まだなお御意見あるかもしれませんけれども,よろしいでしょうか。

  それでは,次のテーマに行きましょう。


● では,最後の差止請求権,検査役選任請求権と,それから受託者が法人である場合の理事の責任について,簡単に御説明をいたします。


  まず,第30の差止請求権の規律でございますが,これは受託者の将来の信託違反行為に対する差止請求権に関する提案ということになります。
 


 まず,前回の提案に比べまして,提案自体を改めた点でございますが,これは<説明>の1のとおり,差止請求権者に他の受託者を加えることとした点でございます。

これは,受益者保護の観点からは,他の受託者も差止請求権者に加えることが複数受託者間の相互監視義務の実効性を確保するとともに,事後的な救済手段として損失てん補請求等が認められている以上,事前の救済手段としても差止請求権を認めることは適当だと考えられるからでございます。

  なお,21ページの末尾及び(注2)に記載しておりますけれども,他の受託者の差止請求権については,特に要件を軽くすべきではないかという指摘もあり得るところでございますが,この点について御意見があれば伺いたいと思っております。

  以下では,提案の文言自体は改めませんが,前回会議での指摘を踏まえまして検討した点につきまして概略を御説明いたします。全部で4点ほどでございます。
 

 まず,一つは<説明>の2に関しまして,差止請求権の態様としては,あくまでも受託者の将来において行おうとしている信託違反行為,これは法律行為のみならず,無効な法律行為に基づく履行行為のような事実行為も含むものでございますが,その将来の行為の差止めというものでございます。

それにもかかわらず,提案のような文言を採用しておりますのは,受託者が信託違反行為を継続している場合があることを考慮したことなどによるものでございます。
 


 次に,<説明>の3に関しまして,前回会議におきましては,複数受益者の受益権の内容に差異があるような場合においては,差止請求を受けた受託者が判断に困るおそれはないかとの指摘がされました。

この点につきましては,受託者としては,差止請求権の厳格な要件が満たされているか否かを善管注意義務のもとで判断すべきであり,これは通常の信託事務処理の場合と何ら異なるところはないのでありまして,差止請求の局面においてのみ受託者に判断の困難を強いるとの指摘は当たらないと考えるものでございます。


  次に,<説明>の4に関しまして,前回会議におきましては,受益者の受任者に対する差止請求権をも認めるべきではないかとの指摘がされましたが,受任者に対しましては直接の契約関係にある受託者がしかるべき権利行使すべきであって,受益者としては受託者に対する監督権行使をもって自己の権利の擁護を図るべきであると考えるものでございます。
 

 最後に,<説明>の5に関しまして,前回会議では,差止請求権の濫用を防ぐために,裁判所は,受託者の請求により差止請求者に担保の提供を命ずることができるとの規律を設けてはどうかとの指摘がされました。


この点につきましては,資料23ページに記しました現行商法における合併無効の訴えですとか,株主代表訴訟,そのほか被告の請求により悪意の提訴者に担保の提供を命ずる規定は商法に多数存在いたしますけれども,このように商法におきましてこのような規定があるのは,恐らく総会の存在を前提にこのような訴訟類型について類型的に濫訴のおそれが高いと想定されるのに対しまして,信託における差止請求権にはこのような特殊事情があるとは思われませんし,商法においても差止請求権には被告取締役に担保請求を認める規定は存しておりません。


その他,保全であれば民事保全法により担保の提供を命ずることができますし,本案であれば請求を認めないという方法もありますので,今回の提案でも担保提供に関する制度を設けることは提案しておりません。以上が差止請求権でございます。


  次に,第31の検査役選任請求権でございますが,これは前回の提案から特段の変更はございません。

  なお,前回会議におきまして,裁判所は,検査役の報酬を決定する手続のみならず,検査役を選任する手続においても「受託者の意見を聴取しなければならない」とすべきではないかとの指摘がございました。

しかし,報酬は,選ばれた以上は必ず決定することを要するのに対しまして,選任についてはそもそも明らかに濫用的な申立てであって,およそ受託者の意見を聞くまでもなく,選任を要しないというような場合もあり得ることにかんがみますと,裁判所が選任の要否を判断するに当たって義務的に受託者の意見を聞かなければならないとするのは,硬直的に過ぎて妥当ではないと思われます。

そこで,裁判所は,検査役選任手続に当たりまして受託者の意見を聞くか否かは,現行法であれば非訟事件手続法11条の趣旨に従いまして,裁判所の職権による裁量的判断にゆだねればよいと考えるものでございます。
 


 最後に,第32の法人役員の連帯責任ですが,これも変更はございません。すなわち,本条は受益者保護のための規定でございますので,対象となる責任は受託者の受益者に対する責任,典型的には損失てん補や原状回復の責任であること,理事等が受託法人の任務違反行為に単に関与しただけでは責任を負わず,受託法人の違反行為について自ら悪意又は重過失があるときにのみ責任を負うものであること,以上のような点を明らかにしたものでございます。


● それでは,ここまででお願いいたします。


● それでは,差止請求権と検査役の選任請求について申し上げます。
  


まず,1点目の差止請求権につきましては,今回は他の共同受託者の差止請求というのが提案として入っているわけですけれども,これについては損失てん補請求であるとか,原状回復請求とか,それとの平仄から基本的には特段の異論はございません。


  あと,職務分担型の共同受託の場合につきましては,23ページの(注1)のところで,特段の事情がない限り,他の受託者が信託違反行為の差止めをしなかったとしても,相互監視義務に基づく責任を問われることはないというような説明がありますので,これについても賛成しておりますが,ただ1点だけ,年金信託等で見られます財産分属型の共同受託につきましても,やはり基本的には相互監視というのはやっておりませんので,ここについても基本的には職能分担型と同じような形で,相互監視がないという形で差止請求をしなくても善管注意義務違反にはならないという形のことを明らかにしていただきたいということが1点です。
 

 次に,信託事務の受任者の行為に対する差止請求でございますが,これについては22ページの<説明>の4のところにあるとおり,現行法の26条3項を削除して,受任者の過失による損害は,受託者による責任追及によって回復するというふうに私ども主張しておりますので,それとの平仄から,ここにおいても差止請求の対象外の行為というふうに整理されるべきだと考えております。
 

 それと,次に検査役の選任請求ですけれども,これについては第5回の会議で非訟事件手続法の129条の2で取締役と監査役の陳述聴取というのが規定されているから,同じようにしてくださいというお話を申し上げましたら,今般,基本的には裁判所が職権をもってするし,通常聴取されるであろうから,必要が特にないのではないかというお話がございました。

それで別にこだわるつもりはないのですけれども,通常されるのだったら規定していただいてもいいのかなということをちょっと申し上げたいということでございます。


● 今のお話にもありました,受任者の差止請求の可否の点について御意見申し上げたいのですけれども。


  これは,前回の中でも受任者の行為についてどうかという議論があったかと思いますけれども,やはり受益者の立場からすると非常に心配なところです。

受託者が単独で違反行為を行った場合にはとまる,ところが受託者が例えば委託によって受任者とともに行為をした場合とか,あるいは受任者を利用して行為を行った場合,あるいは受任者が違反行為を行おうとしていて,それに対して受託者が適正な権限行使をしていただけないような場合には,やはりそういう場合であっても受益者としては何とかして違反行為はとめたいと考えるのが通常だろうと思います。


  この点に関しては,記述の中で,「受益者等による信託事務処理への介入は最低限度にとどめるべきではないか」という御指摘がありますが,これは正常な信託が行われているような場合には,正に御指摘のとおりだと思うのですが,法令違反,信託行為違反が行われようとしている場合には,むしろ受益者の権限行使が期待される場面なのではないかというふうに思われます。
  


具体的に,どういった制度を作るのがいいか,あるいはどういった態様を考えるのがいいかということが問題になろうかと思うのですけれども,26条3項を削除するという前提では,なかなか容易ではないと思いますけれども,信託の重要な部分については26条3項の規律を維持するということも一案かというふうに,個人的には思います。

これがない場合には,じゃあ受託者の権限について受益者が代位行使を何らかの形でするのかと。


ただ,これも前回もちょっと議論がありましたけれども,どうも十分ではないと。そうしたことからすると,何らかの形で規律を設けるということを是非御検討いただけないかというふうに,重ねて思います。

  あと,もう一つのアプローチの方法としては,受任者に事務処理を委託する場合の責任の規律について,こういった受任者の違反行為が行われにくいような規律の仕方,比較的受託者にある程度の責任を負っていただくことになるのかと思いますけれども,そういった方向からのアプローチも考えられるのかなと思いますけれども,できればこれは基本的には何らかの形でとまるような制度というものを御検討いただけないかと考えております。


● 受任者の問題はなかなか重要な問題だとは思いますけれども。この差止請求権の根拠をどこに求めるかとも関係してくると思いますけれども。
  これは,今のところ差止請求権の根拠については説明はなかったかな。

● 特に説明はしておりません。考え方としては,そもそも受益者と受託者の間には契約的な関係があるから,当然に固有的な権利としてあるという考え方もありますが,それですと一定の要件のもとにこれを限定したという方向になります。
  

他方,こうやって法定で特に付与したという考え方もあるかと思いまして,ちょっとどちらかというのは決め打ちしているわけではございません。


● 純粋な質問でございますが,第30の差止請求権で,ある行為が差し止められた場合に,その行為が事実行為の場合,法律行為の場合,両者あり得るというお話でしたが,法律行為の場合に,その差止めに違反して契約が結ばれた,信託財産に属する重要な財産が処分されたというような場合は,この差止めによって特に影響を受けるのか,あるいは受けずに,単に,第34ではないかと思いますが,受託者の権限違反行為等の問題として差止めがなされていたかどうかは,差し当たって実体法上影響はなく判断されるという構造になるのか,もし事務局としてお考えがありましたらお教えください。


● 対外的効力につきましては,やはり行為の効力に影響しないと解さざるを得ないということになりますので,損害賠償請求権の問題にとどまると。あとは,おっしゃるとおり取消権を行使するかどうかという問題になってくるかというのが基本的な認識でございます。

● ほかの受託者からの差止請求については,要件を少し軽くしたらどうかという御意見もあり,それについても皆様の感触を伺えればということでしたけれども。
  この原案自体は,そこは差を設けていないわけですね。

● とりあえず設けていませんが,これは設けない方がいいかなというわけではなくて,とりあえずそっちの方を出しているだけで,両案併記と思っていただいていいかと思いますが。

● 両案併記ということですと,対案と申しますか,他の受託者の方が行使の要件を緩やかにするという案についてですが,裏返しに言うと,受益者の方がより重くなるということになると思うのですが,差止請求権の根拠ともかかわりますけれども,受益者の方が重いという説明がなかなか難しいのではないかという気がいたしますが,理由をお聞かせいただければと思います。

● そこまで考えていなくて,おっしゃるとおり確かにそういう見方としては非常におかしいと思いまして,ここでは単に他の受託者についてはここに書いてありますような理由をもちまして軽く認めた方がいいのではないかという,素朴な観点から御指摘させていただいただけで,そのようにおっしゃられますと,ちょっと反論のしようがないという感じもいたします。

● いろいろな派生するところがありそうな気がしますね。つまり,受益者の方が重いというのをどう説明するかという問題と,先ほど○○委員からありましたように,ほかの受託者--これは義務とされると困るという場合があると思うのですけれども,しかし軽い要件でできるということになると,何か義務みたいなものが発生してこないとは限らない。


● ○○幹事がおっしゃったことと関係するのですが,差止請求権の違反の問題ですけれども,私法上の効力には一切影響がないということになりますと,差止めがいったんあって,それに違反してそういった行為をした場合と,差止めなくそういった行為をした場合と,結局同じということになりますよね。

つまり,いずれにしてもそれは信託行為の定めに違反する行為なわけですから,損害賠償請求権を最終的には引き起こす行為ですから,この第30に従って差止めが起こらないでやった場合にも,損害賠償というのは発生しますよね。


差止請求権の行使があって,差止命令が出たあとに違反して行った場合も,これは同じということになりそうなのですが,それは一つとして同じという規律にするというのもあり得ないではないような気がするのですが,私は,違うんじゃないかなという気がするのです。

  どう違うのかというと,恐らく受託者がやってはいけない行為というのは二通りあり得て,それは権限内なんだけれども,それは不当であると,善管注意義務違反でもいいですし,忠実義務違反でもいいのかもしれませんが,例えば有価証券を処分するという権限は持っているのだけれども処分の仕方が悪いという場合と,無権限であると,先ほどある財産について処分の権限はそもそも与えられていない場合というふうな話が書いてありましたけれども,そういうふうな無権限でやるという場合とが違うのではないかと。


  そして,差止めの命令が出るというのは,仮にそれが権限内の不当な行為であるという場合でも無権限と同じに扱うというような効果は発生するのではないか,そして,発生しないということになりますと,何かいかにも裁判所侮辱罪がない法制度のもとでは,何をやったのかよく分からないことになってしまうので,何か私法上の効力に結びつける解釈論が必要なのではないかという気がするのですが。
  ○○幹事の趣旨を,私が曲解しているのかもしれないのですけれども。


● 理論的にはおもしろい問題だけれども。
  ○○幹事は,何に結びつけると。私法上の効果ということになると,無効ぐらいしかないわけですが。

● だから,やはり無権限で無効なんでしょうね。権限を剥奪するということになるのではないかと。そうしないと,いずれにしても定めに違反する行為を行うわけですから,別に何でもなかったという話になってしまうような気がするのですけれども。


● これは,商法なんかの方でも規定があるのだと思うのですが。


● 実は,先ほど言いました商法の差止請求権に関する規定を参考にさせていただいてものでごさいまして,例えば商法の教科書を拝見いたしますと,「仮処分違反につき悪意の取引の相手方に対しては会社は無効を主張できるとの見解がある。

この見解は,その仮処分に取締役がその行為をなす権限を制限する効力があると解するのであろうが,現行の民事保全法上,仮処分そのものにそのような効力があるか極めて疑問である」とされておりまして,行為の効力には影響しないと解さざるを得ないという一つの見解。東京高判にもあるようでございますが,そのような見解がとられております。
 

 ○○幹事の指摘は,確かにそういう点もありまして,事務当局としては,行為の効力には影響しないとしても,では,やってしまうのはまずいということであれば,例えば解任をすると,しかし解任は時間がかかるので更にまずいとすれば,例えば職務執行停止の仮処分とか,そういう問題はあるかと認識しておりまして,たしか信託財産管理人のところで前にそういう提案をしてはおりましたが,ちょっとそのような方策があり得るかどうかというのは,その信託財産管理人のところなどでまた検討したいと思っておりますが,当面の事務局の見解といたしましては,やはり行為の効力,権限を制限するというのは難しくて,その他の方法で職務執行停止する等によらないと難しいのではないかというのが,今の考え方でございます。

● そういうことで,もうちょっと商法の方の考え方なども比較しながら検討していきたいと思います。


● 民事保全法上の効力がないという問題と,実体法の中で差止請求権をわざわざ規定するというのとはかなり違う話であって,民事保全法からそのような効力が引き出せないというのは,理由になっていない……。


  別にそれは,○○幹事に対する批判なのか,当該教科書に対する批判なのか……。


● 仮処分の違反ということですから,差止請求権を本案でやったときに,それに違反したときというのは,ちょっとまた確かに別の問題かという気はいたします。


今のは,あくまで仮処分違反の効力という説明でございましたので。
  確かに御指摘のとおりですので,検討したいと思います。


● 一通り御議論いただいたかと思いますけれども,よろしゅうございますか。


● 先ほど,○○委員の方から御指摘のありました,検査役選任の場合の意見聴取でございますが,本来であれば会社の場合にどうしているかというあたり,お調べした上でお答えすべきなのかと思います。

そういった詳しいところは次の機会にでもと思いますが,恐らく聞かないということであるとすれば,先ほど○○幹事がおっしゃったように,聞くまでもないという場合のほか,ひょっとしたら聞いてしまってはまずいのではないかというような場合もあり得る。


  例えば,非常に受託者が怪しげなことをやっているということが明白であるような場合というのを考えますと,その受託者の意見を聞くということによって,受託者に対して対策を立てる間を与えてしまうという場合もあり得るということだろうと思います。

場合によっては,証拠書類の破棄,隠匿といったことも含めてということがあるかもしれませんので,そういったところからもある程度意見聴取ということについては柔軟性のある規定というのが必要になってくるのではないかなと思っております。

  具体的なところは,また新しい会社法においてどうなっているかというあたりも本来確認すべきだったかと思うのですが,そういったあたりも踏まえてなお御検討いただければと思っております。


● ちょっと非常に基本的なことで恐縮でございます。質問で,32の法人役員の連帯責任のところで,「法人の理事又はこれに準じる者」というのは,基本的にどういうふうに考えればよろしいのでしょうか。

● 「準ずる者」ですか。教科書などでの例を見ていただくしかないと思うのですが。


● 何か基本的には会社であれば代表取締役と,準ずる者は取締役みたいな解説があったやに思うのですけれども,どういうところでどこまでなのかなというのがちょっと疑問になったものですから。


● それはまた説明事項かとは思いますが,必要があれば説明中に書くように検討したいと思います。


● この法人の理事というのは,民法の概念というか,民法に使っているような言葉ですけれども,民法の場合には確かに理事というのは原則代表権があって,密接に絡んでいるのだけど,会社なんかの場合ですとどういうふうに当てはめて考えたらいいのかというのは,ちょっと分かりにくいですね。


つまり,代表取締役というのがいて,普通の取締役がいるというときに,そもそもそういう場面で法人の理事というのはどこまで含むのかというのも余りはっきりしないような気がしますね。
  感覚としては,どうなんですか。普通の取締役も責任を負うべきだというのは,厳し過ぎるという感じがしますか。


● 基本的には,代表訴訟の形の対象になる人みたいな意識でもって我々実務上は考えていましたけれども。


● これもちょっと少し調べた上で,また検討します。


● まとまらなくて質問なのですけれども。
  先ほど,○○幹事からの御回答で,法律行為の場合には詐害行為取消権を受益者は行使するというような御回答でしたか。


それは,民法上の詐害行為ということになると,また要件とか違ってくるかと思うのですけれども。

というふうに思って,法律行為についても正しく現に信託契約違反,また法令違反の法律行為をしようとしている場面においては,事前であれば差止めがあっても,詐害行為取消しとは必ずしもパラレルじゃないような気もしますし,また全然違う議論ですけれども,詐害信託の議論のように,相手方の善意重過失か何かを要件として,法律行為についての効果についても,何か違った手当てをするとかいう議論もあってもいいのかないのか,ちょっとその辺,何か御説明いただければと思うのですけれども。

● ちょっと私の説明が不十分だったかもしれませんが,まずとりあえず先ほどの説明の前提では,仮処分によっては権限を奪えませんので,それによって法律行為の効力は何か瑕疵を見るわけではありませんが,それが例えば義務違反行為であった場合には,権限違反という問題が出てまいりまして,それに対しまして現行法でいえば31条に当たります法律行為の取消権,あちらの規定でございまして,詐害行為の問題とは全然別だと考えております。

● よろしゅうございますか。
  それでは,本日の会議はこのぐらいにしたいと思います。どうもありがとうございました。
─了─

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2016年加工編
法制審議会信託法部会
第13回会議 議事録

第1 日 時  平成17年4月8日(金)  自 午後1時01分
                      至 午後5時22分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   受益債権についての物的有限責任について
   受託者の有限責任の許容について
   受託者の権限について
   受託者の権限違反の行為等について
   受託者の解任・辞任等について
   合併又は会社分割による受託者の変更について
   受託者の任務終了事由と倒産手続の開始について
   受託者が欠けた場合の取扱いについて
   受託者の交代について
   受託者倒産の場合における信託財産の取扱い等について

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● ただいまから信託法部会を開催します。
  いつものように,幾つかに分けて説明してまいります。
  ○○幹事の方からお願いします。

● 今日の進行でございますが,大きく4つに分けてさせていただきたいと思っております。

  まず,受託者の解任・辞任等について,合併等について,任務終了事由と倒産手続の開始について,受託者が欠けた場合の取扱いについて,受託者の交代について,ここまでをまず一まとめにしてさせていただきます。
 

 あと3つに分けると申しますのは,1つは,第42の受託者倒産の場合における信託財産の取扱いというところで,差止めという新しい提案をしております。あとは有限責任の問題が一まとまり,権限と権限違反行為についての問題が一まとまりということで,全部で4つでございます。


  まず,第37の受託者の解任・辞任等に関する提案から御説明させていただきます。


  提案内容につきましては,前回の提案から変更はございません。

  具体的には,まず,解任につきましては,委託者と受益者の合意により,いつでも自由に受託者を解任できるものとしたこと。


ただし,受託者の不利な時期に解任されたときは,委任に関する民法第651条第2項の趣旨に従い,受託者に損害を賠償しなければならないものとしたこと。


しかし,以上はいずれもデフォルト・ルールでありますので,一定の事由がある場合に解任を制限したりとか,受託者の同意を要すべきものとしたり,あるいは解任時期にかかわらず損害の賠償を不要とするなどの特約も許されること。


さらに,合意による解任ができない場合に備えまして,現行法第47条の趣旨に従いまして,受託者に任務違反等の重要な事実があるときには,受益者又は委託者は裁判所に対して受託者の解任請求をすることができるとしたことなどでございます。


  辞任については,信頼を受けて就任した受託者が自由に辞任できるとすることは相当ではないとの考えのもとに,辞任方法を特約辞任,承諾辞任,許可辞任の3つの場合に限る現行法第43条と第46条の趣旨を維持するものとしております。
  

新受託者の選任につきましては,委託者と受益者の合意により選任できることを明確化するとともに,利害関係人が新受託者の選任を裁判所に請求できるとする現行法第49条の趣旨を維持しております。
  以上が第37でございます。


  続きまして第38の合併又は会社分割による受託者の変更についてという提案でございます。

  これも提案内容は,前回の提案から変更ございません。
  若干具体的に申しますと,法人または株式会社が合併し,又は会社分割された場合におきましては,債権債務関係のみならず契約上の地位も含めて,新会社に全部あるいは部分的に包括承継されることになりますので,法人又は株式会社が受託者であった場合についても,受託者の任務は終了せず,新会社にそのまま任務が包括承継される。

この場合におきまして,受益者や信託財産に責任を限定された信託債権者は,商法上の債権者保護手続の対象とはならないものとすることなどを提案するものでございます。
  

続きまして,第39の受託者の任務終了事由と倒産手続の開始についてでございますが,これも前回提案と異なるところはございません。

  要するに,受託者について破産手続が開始した場合には,原則として受託者の任務は終了しますが,「破産手続の開始が任務終了事由とならない」との別段の定めを置くことも許容されるとする趣旨でございます。


  続きまして,第40の受託者が欠けた場合の取扱いについてでございます。

  これは,受託者の任務終了事由の発生により受託者の全部が欠けることとなった場合におきまして,新受託者又は信託財産管理人が事務を処理することができるようになるまでの間,信託自体は継続することになる観点から,だれが,いかなる内容の義務を負うことになるかについて提案するものでございます。
 

 まず,提案の1でございますが,これは前回提案から変わるところはございません。

すなわち自然人である受託者の死亡,審判による後見開始,審判による保佐開始,または法人受託者の解散─なお,合併の場合等に関しましては,先ほど言いました,任務が終了せず新法人に承継されるということを提案しておりますが,それを除く,法人受託者の合併等以外の事由による解散による任務終了の場合には,それぞれ相続人又はその法定代理人,成年後見人,保佐人又は清算人が,いわば緊急避難的に信託財産の保管と事務の引継ぎに必要な行為,この2つを行うこととするものでありまして,基本的に現行法第42条第2項と同じ趣旨でございます。

  次に,提案の3でございますが,これは,前受託者が任務終了しながらもなお,原則として,広く受託者の権利義務を有することとなる場合でございます。
  

ところで,前回提案におきましては,1による任務終了の場合と解任による場合を除いて,辞任による場合,信託行為に定めた任務終了事由の発生による場合は,すべてこの3の類型に含まれることとしておりました。


これに対し今回の提案では,辞任のうち現行法第43条に相当する特約辞任と承諾辞任の場合に限って,3の類型に含むことと改めております。


  これは,次に申し上げます提案4の場合と異なりまして,特約辞任又は承諾辞任の場合につきましては,受託者側に非違事由,あるいはやむを得ない事由,換言いたしますと信託事務遂行上の支障となる事由があったとは原則として考えられないわけございますので,受託者の管理を排除するまでの緊急性に乏しく,むしろ受託者としての権利義務を認め,信託事務の処理を継続させることが受益者の利益になると考えられますので,現行法第45条の趣旨を維持することとしたものでございます。

  これに対しまして,提案の4でございますが,これは前受託者が原則として3の類型よりも狭く,信託財産の保管,信託事務に関する計算及び事務処理に必要な事務引継ぎを原則として行うにとどまることとするものでございます。

  ところで,前回提案におきましては,解任による場合のみが4の類型に当たることとしておりましたが,今回の提案では,解任による場合に加えて許可辞任の場合,信託行為に定めた任務終了事由の発生による場合も4の類型に含むこととしております。

  このように変更いたしましたのは,前回提案の下では,例えば信託行為で定めた一定の解任条件が成就したような場合につきまして,これは果たして解任による任務終了の場合に当たるのか,それとも信託行為に定めた任務終了事由の発生による任務終了の場合に当たるのか,前回提案ですと,それによって3か4か変わってきますので,どちらなのか判然としないと思われました。


それで,改めて提案内容を見直したわけでございますが,その結果,受益者,委託者側のイニシアチブで受託者を解任した場合,あるいはやむを得ない事由があることを事由に受託者が裁判所による許可を得て辞任した場合,あるいは信託行為においてあらかじめ定めておいた任務終了事由が成就した場合のいずれにつきましても,原則として,受託者にその信託事務処理を継続させることは妥当ではなくて,最低限の事務処理を除いて受託者の管理を排除することが,信託当事者の通常の意思に沿うものと考えるに至ったものでございます。

  なお,第6回会議における指摘を踏まえまして,提案の3及び4におきまして,前受託者が有する権利義務の内容は,いずれもデフォルト・ルールであることを記述上も明確にしております。


具体的には,3では「信託行為に別段の定めがない限り」という文言が入っておりますし,4につきましては,16ページの頭に「④その他信託行為に定めた事務」と書いてありまして,デフォルト・ルールであることを明らかにしているわけでございます。

  これは,任務終了後の受託者がいかなる権利義務を有するかにつきまして,ニーズに応じて信託行為により定めることを排除する必要性はないと考えるからでございます。

  最後に,第41の受託者の交代について御説明申し上げます。

  これは現行法第50条から第55条に対応いたしまして,受託者の交代に伴う信託財産の帰属,信託に関する権利義務の承継,新受託者への事務の引継ぎなどにつきましての提案でございます。


  提案内容につきまして,資料中,20ページの<説明>の冒頭を見ますと,受益者に対する補償請求権に関して新たに19ページの丙案を書きました。


前回,丙案については支持が少なかったのですが,前回提案したこととの平仄を合わせるために今回も丙案を書いたというにとどまります。


その他,資料中には特段の変化はないと記載してはおりますが,実は,実質的には修正と言うべき点が2点ほどありますので,まず,その点について御説明したいと思います。


  まず第1に,任務終了により受託者の全部が欠けた場合につきましては,先ほど御説明いたしました受託者の任務終了に関する第40におきまして,前回の提案を改めまして,前受託者が引き続き受託者の権利義務を有するのは特約辞任と承諾辞任の場合に限ることといたしましたので,これと連動する形で,第41の提案1の(3)及び提案の3におきまして,特約辞任と承諾辞任のときのみ信託財産管理人または新受託者就任の時点をもって信託財産の所有権を含む信託に関する権利義務が新受託者に承継されるものと見なすこととしております。


1の(3)のイをごらんいただきますと,「新受託者は,信託財産管理人又は新受託者が就任した時に」権利義務を承継する。それまでは受託者としての権利義務をずっと持っているからという理由でございます。
  


これに対しまして,それ以外の場合,例えば解任等の場合には,まさに任務終了時,すなわち解任時,許可辞任のとき,その他任務終了事由が発生したとき─死亡ですとか後見開始ですとかそういうことですが,そのときに,このような承継が新受託者にされたものと見なすこととしております。


1の(3)のアをごらんいただきますと「任務が終了した時に」権利義務を承継するという形,新受託者が選ばれますと,任務終了時に遡って権利義務の承継がされたと見なす,このように移転の時期を定めています。


  第2に,共同受託者の一部が任務終了により欠けた場合につきまして,前回提案では,やはり任務終了事由によって承継時期を区別するかのような提案内容となっておりましたが,他に受託者がいる場合には権利義務の承継時期を遅らせる必要はないと思われますので,特約辞任,承諾辞任の場合を含め,すべての任務終了事由について,原則として任務終了事由の発生時に直ちに他の受託者に対する承継がされることとしております。

太字の2をごらんいただくと,そのような記述になっているわけでございます。


  なお,第6回会議におきまして,かつて提案した信託継続中の受託者の受益者に対する補償請求権行使の要件の方が,今回の任務終了後の前受託者の受益者に対する補償請求権行使の要件よりも緩やかになっていることについて,疑問が提示されました。

この点につきましては,任務終了後の場合と異なり信託継続中の受託者につきましては,信託目的達成の妨げになる場合や信託財産を処分する権限が付与されていない場合には,信託財産に対する補償請求権の行使が制約されるという提案をしておりますので,それだけ受益者に対する補償請求権の行使を認める必要性が相対的に高いと考えられることに鑑みまして,両者の要件について差異を設ける提案を維持しているわけでございます。
 


 具体的には,19ページの4の(5)で「(1)又は(2)の権利を行使することによっても補償を受けられない場合に限り」と,ここまでいかないと,補償を受けられないと判明しないと補償請求できませんが,通常の補償請求の場合ですと,その蓋然性が高い場合であればいけるということで,緩いわけでございますが,先に申し上げましたような違いがあることに鑑みまして,このように提案内容を異ならせているということでございます。
  以上で一応の説明を終わらせていただきます。

● ただいまのところまでの議論をお願いします。


● 第37の4ですが,委託者又は受益者からの裁判所に対する解任請求のところで,信託の種類によっては,委託者からの解任請求が必要とされる状況というのはあるかとは思うんですけれども,流動型の信託で,投資家の知らないところで,軽微といいますか,与り知らぬところで受託者が解任されることに対する懸念がなきにしもあらずと思います。
  

したがいまして,これは信託行為に別段の定めがあれば委託者の解任請求権はないといった例外規定も含み得ると読むこともできない─3の例外は1と2だけですから,裁判所に対する解任請求をデフォルト・ルールとして考えることはできないでしょうか。


● 第37の4と言われましたか。


● はい。受託者の任務違反のときに「委託者又は受益者」という……。だれに解任請求権があるかという論点です。

● 事務局といたしましては,裁判所に対する解任請求権というのは,基本的に委託者にも付与されるという位置づけにはしておりますが,他方,訴訟契約のようなものを信託行為の中で定めておけば,それによって裁判所に対する請求権を遮断することは可能かなという考えでおります。

● その辺,実務的な感覚はわかりませんけれども,先ほど言われたのは,受益者あるいは投資家でしょうか,そういう方が知らないところで,言い換えれば,委託者の方のイニシアチブで解任されるのはどうかということですか。

● はい。現実的にそういった作業かどうかは別として,格付け的な視点からも,この受託者が扱うところの投資商品はという観点から格付けもされているかと思うので,ですから,一たん投資商品化した後は,委託者の関与はなるべく排除したいと考える次第です。


● ○○幹事から今,説明がありましたように,何をデフォルトにするかなんでしょうけれども,契約でもって委託者からの─それはしかし,契約ではだめなのかな。裁判所に対する請求権ですからね,だめですかね。

● 委託者の権利がどこまでかというのは,また後日,検討いたしますが,基本的に,裁判所に対する請求権はあるというのがまず前提でございまして,その上で,しかしながら,今,申しましたように,訴訟契約のようなもので,恐らく委託者と受託者が信託行為で,委託者には受託者の裁判所に対する解任請求権がないことを定めて,訴訟上主張すれば,現在の考え方では,それによって請求が排斥されるのではないかと思います。

● 今,○○幹事から申し上げたとおり,訴訟契約のようなものとしての効力が認められるだろうという限度でございます。


その結果どうなるかというのは,学説はいろいろ,争っているところはあるのですけれども,そのような契約の効力が有効であることは間違いないわけです。


その結果,格付け上も,そのような委託者の申立ては無視されるのが普通ではないかと,今のところ考えております。


● それは,受益者の場合も同じですか。つまり,受益者が受益権取得時にそういった訴訟契約を締結すれば,受益者からの解任請求も排除され得るということでございましょうか。


● 受益者は信託契約の当事者ではございませんが,別途,個々の受託者と契約したという場合でございますか。


それだと,その契約がどこまで公序良俗に反しないかという問題はともかく,任意にやれば有効と言わざるを得ないのではないかという気がいたします。


● 「別途」とおっしゃいましたけれども,もちろん,極端に言えば受益証券に書いた場合にどうなるかという問題もありますし,それ以前の,第1次的な売り出しの段階で,例えば三面契約などで信託が設定されて受益者が定まるといったことになりますと,その中に書いておけば,それで受益者の解任請求権もなくなるのかという感じがいたしまして,そうすると,何か歯どめがないと,訴訟契約が締結されればよいということにはならないのではないかという気がするのですが。

● あらかじめ信託行為に書いておいて,それを受益者が承知の上で受益権を取得したわけだから,その効力が及んで解任請求が解除される,そういう筋書きになるのではないかということですよね。


● それは第2の筋書きで,第1の筋書きとしては,受益権を取得する際の,例えば証券管理でもいいんですが,最初に自益信託として委託者がすべての受益権を取得して,それから販売される形をとってもいいわけですが,そのときに,例えば三面契約をとって受託者を契約当事者に加えた形で受益証券を売却すれば,その売買契約の中の情報の効力によって,そういうことが起こり得るのではないか。

  さらに受益証券の中に記載した場合どうなるかという問題は2番目にありますが,1番目の問題の方が,よりプリミティブな問題として存在するかと思います。

● おっしゃるとおり,プリミティブに考えると,それで請求権が排除されることになりかねないんですが,受益者に対する解任請求権というのは監督の非常に重要な権利の1つでございますので,何らかの制限が必要かなという気もいたします。1度検討したいと考えております。

● もちろん根本的には委託者,これはもとの条文の何条でしたか,現行法でも委託者が入っていまして,そういう意味では現行法と変わらないわけですが,果たしてこの場合,委託者が出てくるのがいいのかどうか,新しい信託法のもとで見直す必要があるのかもしれませんね。
  

委託者はどっちみち信託契約の当事者になるから,委託者の権限を入れようと思えばいろいろな形で入れることもできるでしょうし。

  では,この点はもう少し検討するということで。
  ほかに,いかがでしょうか。
  第37は前回と変わっていないわけで,先ほどのような問題点はなお検討するとして,大体よろしいでしょうか。
  --第38以下は,いかがでしょうか。

● 第38について2点御質問なんですが,1点目は,この受益者に対しては,合併とか分割の通知とか公告とか,そういうものがいくというか,その対象になる--公告の場合は対象というのはないのかもしれませんが。
  

2点目は,この受益者には,合併とか分割無効の訴えの原告適格は与えられるのでしょうか。


● そこはまだ検討しておりませんでしたので,今の御指摘を踏まえて検討して,お答えしたいと思います。


● 合併無効みたいなものは……。どうなんですか,こういうのも,やはり規定がないと。


● 現在の商法第415条に,たしか「合併を承認せざる債権者」とか書いてあるはずなんですが,これはそもそも保護手続の対象にならないような人は一体どういうことになるのかといったことなんですけれども。

● 受益者も受益債権を有する者ですので,言葉を読めば入るんですが,御指摘のとおり,受託者が合併しても信託債権者は特に害されることはないだろうということで,債権者保護手続から外しております。


そうすると,合併無効の訴えというのも,どうもそれとの連動では難しくて,むしろ不服があれば合併後の受託者に対しての解任請求という形でいくのかなという気もしております。


  しかしながら,合併無効の訴えの適格になるかどうかは検討はいたしますが,少なくとも解任という形,自由に解任できますので,一たん合併は仕方ないな,しかしやめさせようということになるのかなということはあり得ます。

● 第38のところで,これは第27の物的有限責任の議論とも絡んでしまうんですけれども,受益者の第19条の債務に係る債権というものは,信託行為の中で,委託者と受託者の間で受益者に対する権利ということで,信託元本とか収益以外のいろいろな取り決めをした場合の債権のようなものは,特に入らないという理解でしょうか。


● 受託者の固有財産におけるものは入らないと考えております。あくまで信託財産を責任財産とする信託債権がここでの対象でございます。

● 受託者の破産手続開始の場合の記述について,信託行為に別段の定めがある場合に任務を継続するというのはいいかと思うんですけれども,一般に,受託者が破産したときは通常時に比べて信託財産が危うい状態にあると言えるのではないかと思います。


信託行為,信託契約をする際に,受益者はこれにかかわることができないことを考えますと,こういった信託行為で受託者の任務継続を認める場合にも,現実的に破産となった場合には,それを受益者に知らせる手だてがあってもいいのではないかと思いますので,そういった点も御検討いただけないかと思います。

● 受託者が破産したことを,受託者自らが,あるいは破産管財人が受益者に通知するという制度ですね。その点については考えてみたいと思います。

● 先ほどの○○委員からの問題提起に対して,御考慮いただくときに考えておいていただきたいことなんですけれども,1も2も債権者保護手続などから外しているのは,第19条の債務に係る債権に限定されておりますので,受託者が個人として莫大な責任を負うシチュエーションがあり得ますので,そういう種類のもの……,つまり,債権者保護手続から外しているのはそれだけですので,合併その他,組織再編についての債権者の地位を考えるとき,そうではない部分を無視していいかということがポイントだということだけ付加させていただければと思います。


● では,第39もよろしいですね。
  第40は,いかがでしょうか。

● 第41にも若干入りますが,第40の今回の御提案によりますと,先ほど○○幹事からのお話では3と4に該当する枠組みを変えているということですけれども,この点については,実務的な観点からして余り違和感がないのかなという気がいたします。

  ただ,4のところで,例えば受託者が悪くないのに解任される場合も当然あるわけでして,そのような場合について,例えば信託債務の弁済であるとか補償請求,これが当然,この規律によるとできません。


ただ,今回の御提案に,④その他信託行為に定めた事務というのが入っていますので,もちろん書けばいいというお話かもしれませんけれども,非常に書きづらい部分もあります。

  この部分の変更というよりも,これを受けて第41なんですけれども,例えば信託財産管理人が選任された場合に,信託財産管理人との間でうまくいかなくて,強制執行をかけたいということもあるのではないかと思うんですが,その場合において,自分の財産に強制執行をかけるようなことになりますので,この辺のところがどうなのか。

できるものなのかどうか。できなければ何らかの手当てをお願いできないかということでございます。

● 御指摘のような問題は事務局も認識しておりまして,信託財産管理人が被告になるとはいっても,勝訴判決をとっても,実際に信託財産がまだ前受託者,自分の名義にとどまっている限りは強制執行できるのではないかという問題がありまして,2つ考えられるのですが,1つは,とにかく新受託者を選んで名義を移して,そして承継執行文でやってくれと。補償請求を受けるために新受託者を選任するという嫌味はありますし,時間もかかりますが,ともかくそういう手当てもあるでしょう。

  しかし,それでは余りにもおかしいので,むしろ端的に,前受託者がまだ名義を持っている段階でも強制執行できるという規律を考えるという手だても一つの選択肢としてはあると思います。
  


かつて補償請求のところで検討しておりましたのは,配当要求については,普通は自分名義の財産に配当要求はできないけれども,例外的に信託財産について強制執行手続が開始された場合には,そこに補償請求権の行使のために配当要求できるという規律を設けるという提案をしておりまして,それとの関連で,ここでも極めて例外的にそのような手当てをすることも考えられますが,いずれにしても,かなり稀有な事例の1つでございますので,そのためにそこまでするかという点,まだこちらでも,どういう手だてをしたらいいか十分考えておりませんので,関係当局とも相談の上,なお検討したいと考えております。

● 第40は,今,○○委員が言われた問題のほかに,先ほど説明があったように3と4のところで切り分けの仕方が少し変わったわけですね。これもそんなに違和感はないのかもしれませんけれども。
  大体よかろうという御感触なんでしょうか。
  --それでは,第41はどうでしょうか。ここら辺は,かなり細かい問題が多いのですが。


● もしもう確認が済んでいたらお詫びしますけれども,第41の2等にある「承継する」という意味なんですけれども,不動産の場合などは,登記を経由しなくても対抗できるということでしょうか。
 

 関連して,有価証券の場合に,今後のことを考えると社振法がいいと思うんですが,社振法上の口座の振り替えはしなくも対抗できるのか,それから,例の公示ですね,社振法で言うと第75条,信託の受益者が口座において記載または記録をしなければ第三者に対抗できないというのがあるんですけれども,こういうこととの関係はどうなるのか。

● 細かい議論をした記憶は私もありませんが,いかがでしたかね。


● まず,御指摘のあった社振とか保振の関係につきましては,実は公示一般の問題を後日扱いますので,そこで対応させていただきたいと思っております。


  登記を経るという点につきましては,承継とは書いてありますけれども,やはりここは公示を具備することが必要ではないか。所有者が変わるわけですので,それに即した移転登記が必要になってくるのではないかと考えております。

● 今の○○幹事のような考え方ももちろんできるわけですけれども,法律上,移転しているんだと考えると,対抗要件がなくてもいいという考え方もあり得るかもしれませんね。


● 受託者の交代が包括承継か特定承継かよくわからないということは事務局も考えておりまして,しかしながら,ずっと登記なしというわけにもいかないのではないかという気がしまして,登記はするのではないか。


特に,合併とか分割の場合は任務が承継されるという形をとっておりますが,一般的な受託者の交代の場合には任務終了して新たに受託者が就任するという形をとっておりますので,そういう意味で言うと,包括承継というよりは,一たん断絶があるということで,登記による移転の公示が必要ではないかという気がいたしております。


  なぜ合併の場合と交代の場合で分けているかといいますと,合併の場合には,まさに任務等が一括して包括承継されるのに対しまして,交代の場合には新受託者が有限責任の限度でしか責任を負わない。

前受託者は責任を無限で負うというように責任の中身に違いもございますし,それから,合併とか分割の場合には受託者のイニシアチブでやるだけで,受益者がそこに関与することは考えにくいんでございますけれども,受託者の交代の局面ですと,任務終了,新受託者の就任のあたりで受託者の関与があり得るであろうということで,第38の場合と第41の場合では違うのではないかと考えております。


そうしますと,少なくとも第41の場合には,一たん交代といいますか,やはり終了,就任という行為が入るので,公示が必要だと。

  その関係でいきますと,合併の場合はどうかということですが,それはやはり交代の場合にも登記がある以上は,そこは特定承継的に考えて,合併,包括承継の任務分割の場合にも,受託者が新たな人になった,変更があったことについて公示があった方がいいのではないかというのが今のところの考えでございます。


● 公示があった方がいいんでしょうけれども,任務が終了した前受託者は権限がなくなるわけですね。


したがって,あり得ないのかもしれないけれども,例えばそこで前の受託者が権限なしで処分をする。そのときは,いわゆる受託者の権限違反の問題ではなくて,およそ権限がない者が処分している。

● どこか別のところで議論があったかと思いますが,例えば複数受託者がいて,そのうちの受託者が全く権限がないのにやってしまった。

それは,どちらかというと権限外行為として,後ほど説明いたします権限外行為の規律に従っていけばいいのではないかというのが個人的な感じでございます。


● いろいろな問題に関連しそうですね。


● 包括処分,例えば不動産の場合は,登記なくてというのはわかりやすい気もしないではないんですけれども,債権の場合ですと対抗要件を具備しなければいけないということですね。

また,譲渡禁止特約とか譲渡制限特約があった場合に受託者の交代が困難になるとか,もし事業型の信託を考えたときに,ライセンスとかそういうものの承継ができなくなるということですね。


受託者の交代で全信託財産が移っていくわけですから,あえて特定承継と結論づけると,やはり幾つか問題が生じる場面があるのではないかと思います。


● 債権の場合も含めまして,もう一度こちらで検討させていただければと思います。


● ほかに,いかがでしょうか。--よろしいですか。大体のところはよろしいという御判断だと思います。細かいことでまだいろいろありましたら,また後で御指摘ください。
  それでは,次にいきましょうか。

● 第42の受託者倒産の場合における信託財産の取扱い等についてでごさいます。
 

 まず,提案1は,前回提案と変わるところはございません。すなわち信託財産は破産財団を構成いたしませんが,便宜上の観点から,破産管財人に対して信託財産の一時保管義務を課すものでありまして,現行法第42条第2項の趣旨を維持するものでございます。

  次に,提案2でございますが,これは受益者等が信託財産を確保するための手段につきまして,前回提案では,破産管財人に対する信託財産であることの確認の訴えという形式をとっておりましたが,これを,破産管財人に対する信託財産の処分の差止請求の形式に改めることを提案しているものでございます。


  ところで,前回提案におきまして,このような確認の訴えの形式をとることを提案いたしましたのには何点か理由がございまして,まず1つは,受託者が破産した場合には一時的に受託者が不在となることがありますが,その間に,破産財団である受託者の固有財産に混入してしまった信託財産を破産管財人がうっかりといいますか,売却処分してしまうおそれがあることに鑑みますと,信託財産の倒産隔離をより実効的なものとする観点からも,受益者には信託財産を確保するための手段が認められる必要性があると考えられます。

  他方におきまして,受益者は信託財産について所有権等の物権を有していないことに鑑みますと,破産管財人に対する物権的請求権を観念することは困難でありまして,受益者による信託財産確保のための権限を法定することが相当であると思われます。

  もっとも,その結果といたしまして,受益者に対してまで信託財産の引渡しを認めるのは,信託においては本来,受託者が信託財産の管理・運用をすべきものであることに鑑みますと行き過ぎであって,妥当ではないと考えられます。


  このような諸点を考慮しまして,前回は確認の訴えの形式を法定することを提案したわけでございますが,その上で,受益者による確定判決の効力は,新受託者及び信託財産管理人に対してもその効力が及ぶこととして実効的なものとするとともに,その前提といたしまして,受益者複数の場合には当該財産が信託財産であるか否かを全受益者間で合一的に確定しておくことが必要となりますので,訴訟告知あるいは必要的共同訴訟とする等の手続的保障措置をとることによって,他の受益者にも確定判決の効力が及ぶものとすることを併せて提案していたわけでございます。
  以上は前回の提案でございます。

  このような提案をしましたところ,前回の会議におきましては,このような手続的保障措置は,受益者が多数に及ぶ場合には実務上ワークしないのではないか,また,破産管財人による信託財産の処分を速やかに阻止するには判決の確定を待っていては間に合わず,保全処分を仕組む必要があると思われるが,そのためには確認訴訟を本案とする等の形式では困難ではないか等を中心とする批判的な御指摘をいただきました。

  そこで,今回の提案におきましては確認の訴えという形式を改めまして,各受益者が破産管財人に対して信託財産の処分の差止請求権を有することを法定することといたしました。

これは,個別執行の場面におきましては,現行法第16条において,異議の訴えにより各受益者に信託財産の換価を阻止することが認められていることに準じまして,包括執行としての性格を有する破産手続の場面におきましても,各受益者に差止請求権を認めることによって信託財産の処分を阻止する機能を営ませることを意図したものであります。


この局面では,受益者が前面に出てきてもいいであろうという判断でございます。

  このように,差止請求権という形式をとることによりまして,受益者に差止請求権を被保全権利とする仮処分を経て,破産管財人による信託財産の処分を速やかに阻止することが可能となると思われますし,新受託者,信託財産管理人あるいは他の受益者に対する判決効の拡張の問題も回避することができることになりまして,前回会議でいただきました問題点の指摘がおおむね解消されることになると考えているわけでございます。
  以上でございます。

● この点はかなり変わりましたので,御意見をいただきたいと思います。

● そもそも論をさせていただきますと,破産管財人の信託との関係での第三者性とか,あと,仮に第三者性を認めるとしても,信託の公示との関連で,どの程度のことを要求するのかという議論もあると思います。

要するに,破産管財人は,どういう制度をとろうとしても利益相反的な地位に立つことは明らかでございまして,御提案自体,信託財産管理人が任命されるまでの間のことであるのは了解しているんですけれども--ということで,倒産関連の実務家の方とも,この辺どうあるべきかということで少し議論しました。

  破産管財人を任命すると同時に信託財産管理人を職権で任命するような--信託財産管理人ですから,もともと違うところの提案自体が,任命できるんですけれども,破産管財人の任命と信託財産管理人の任命との時間的間隙を制度的にも極限まで減らして同時にすることによって,差止請求の議論とか,その他,破産管財人がある財産以外に,果たして債権者のためなのか信託なのかといった判断に迷わなくて済むようにする意味においても,信託財産管理人を同時または非常に近接した時期に任命するような制度的手当てをするような方向があってもいいのではないかという意見です。


● おっしゃるような考え方はあり得ると思いますが,差止請求権を認めるのと信託財産管理人を直ちに--常につけるんであれば,もう差し止めの問題は生じないのかもしれませんけれども,どちらがよろしいという御意見ですか。

● どちらかというと,差止請求は訴訟法的にも細かい議論に入っていく可能性がある。


また,受益者の差止請求については,手続的な議論とは別に実効的な議論としても,「管財人が処分しようとする時」をどうやって把握するのかとか,なかなかわかりにくいのではないか。


その2つの面から,どちらかというと,とにかく初めから信託財産管理人を,破産管財人が当初,任命されるがごとく裁判所の職権で任命されれば,その間において,どれが信託財産でどれが固有財産かということで分別されていくのではないか,このような議論なんですけれども。

● 今のは大変合理的な意見だと思います。本来は,これは裁判所の方がどうやってできるかという問題かなと思うので,裁判所の方の御意見を伺いたいと思
います。


● まず,確認させていただきたいのは,破産を管轄する裁判所において,破産手続開始決定と同時に信託財産管理人を選任する,そういう御趣旨だと伺ってよろしいでしょうか。

● 信託財産の管財人は,東京で言うと20部ですか。何か大阪だと9の……,あ,8部ですか。特に同じ裁判所ということですね。

● 非訟の事件を扱う裁判所と倒産事例を扱う裁判所が分かれているということもあるんですけれども,それ以前の問題として,もしこういう立法をする場合には,信託の受託者について,破産をするときには,裁判所は破産法のコンテキストの中で破産手続開始決定と同時に,破産管財人の選任ですとか債権届出期間の指定ですとか,そういった同時処分がいっぱいあるんですが,それと同時に信託財産管理人についても選任しなければならない,そういった御趣旨だと伺ってよろしいでしょうか。

● 具体的な制度提案としては,そういうことです。
  要するに,信託財産が破産申立ての際にわかっているとき,その時点で信託財産管理人を選任すれば,その後の混乱はかなりの程度防げるのではないだろうかという提案です。

● 仮に破産管財人兼信託財産管理人というようなものを構想する場合に,信託財産で信託の公示を欠くものがあった場合に,その人はどういう行動をとるべきなのか。

● 「兼」ではなくて,別の人ですということですね。

● そうすると問題は,今,おっしゃるとおり,裁判所がそれを把握できるかという問題に尽きるということでしょうかね。

● そうですね。後でわかるケースも当然あるかとは思うんですけれども,当初わかっている状況において,信託財産管理人が任命されるまでの間,破産管財人にある一定の職務を負わせるよりも,信託財産管理人が当初から任命されてもよろしいのではないかという議論です。


● その限りで,非訟事件の管轄がずれるというか,横出しになるというか,そういう感じになるんでしょうかね。つまり,信託に関しては信託固有の管轄の裁判所があるわけですけれども。

● 何か,大阪では同じ部が……。


● それ以前に,多分,破産事件の管轄と信託に関する事件の管轄自体がずれている可能性があるという点が問題なのではないかと思われます。そこはやり方次第かもしれませんけれども,その点が問題になり得るかと思います。

  もう一つは,先ほど○○委員もおっしゃったとおり,実際に,破産の手続開始決定をする段階で信託財産があることを把握できる場合もあるし,把握できない場合もあり得るかもしれない。


破産手続の実務の観点から言って,信託財産があるかどうかを申し立てあるいは開始の段階で常に気をつけていなければならないということがどれぐらい生じるのかといったあたりが,問題になるとすれば問題になるのかなという気はいたしますけれども,今の段階では,もうちょっと検討してみないとわからない。
  

ただ,破産管財人を2人選任するようなものだと考えれば,実務上,絶対できないことではないのかなという気は,個人的にはいたします。


● 破産管財人の選任と同時に信託財産の管理人も破産事件を担当する裁判所が選任するとして,その場合には,第42の2に係るような差止請求権は要らないという御趣旨でしょうか。


ダブッても別に構わないのではないでしょうか。


● そういう例外的なというか,間隙ができる事例がどうしてもあると思うので,恐らく制度的には,受益者保護のために必要ではないかと思うんですけれども,真っ向からこれがどうしても必要だということで議論すると,実効性とか,手続的なところでかなり細かい議論が必要となってくるのではないかということで,議論が急展開したというのが1つなんですけれども。


● 御趣旨はよくわかります。ただ,特に破産が債権者申立ての場合に,債務者に関する情報が申立て段階で十分裁判所に伝わらないことは十分考えられるので,全件御提案のような形で処理できることが保障できるならともかく,信託財産管理人の選任がおくれるとか,あるいはその事情がわからない場合のために,御提案のようなことをとるにしても,差止請求権は残しておく方が穏当ではないかという気がしたということです。

● 信託財産の管理人を同時に選ぶことについては,もうちょっと裁判所サイドからの検討をお願いしたいと思います。
  ほかに,いかがでしょうか。

● 今,若干出ていたと思うんですが,差止請求というのは処分するときまでしかできないんですか。


もしそうだとすると,知らなかったらやりようがないので,例えば処分しようとするときには2週間前までに通知・公告するとか,何かそういう規定を置いておかないとどうしようもないのではないかと思うのですが。


● 信託財産であることがわかっていながら処分する場合は,恐らくそういうことを設けてもいいのかもしれませんけれども,破産管財人の方は,信託財産であることがわからないで処分している場合もあるかもしれないですね。

● これは解釈論になるのかもしれませんけれども,そういう場合であれば,仮にわかっている場合には2週間前に受益者に通知しなさい,そういうルールであれば,わからなかった場合には受益者も知らなければとめようがないわけですから,これは事後的な無効とかいうことを認めざるを得ないのではないでしょうか。

  いずれにしても,少なくともわかっていて処分する場合は何らかの通知等がないと,せっかく受益者の保護が与えられていても,気がつかないことになるのではないでしょうか。

● 受益者の立場からすれば,それ自体はもっともな気がしますけれども,どうですか。

● 素朴な疑問ですが,破産管財人としては,わかっていたら処分できないのではないかと思うのですが。


これは破産財団に入っている財産ではなくて信託財産であることがわかっているにもかかわらず処分するというのは,違法な処分行為であって,およそ許されない行為ではないかという気がいたします。

ただ,逆にわからずに処分するということはあり得て,そのときに受益者はわからないではないかという問題は確かにあると思うんですが,わかっていたら手出しできないはずではないかという気がいたしますが。


● それは全くおっしゃるとおりだと思うんですけれども,もしそういうふうに整理するのであれば,むしろ財産を処分するときには受益者に通知するということにでもしませんと,受益者はどうしたらいいんですか。

差止請求制度というのは,制度としてはいいと思うんですけれども,結局,実際問題として全然行使できないのではないでしょうか。


● 実効性を持たせるために,どうしたらいいかという御提案だと思いますけれども。


● おっしゃるとおりかと思います。我々の仕切りとしては,わかっていたら処分できないはずで,わからずにやってしまったときに受益者はどうするんだということで,そうしますと,たまたま受益者にわかればできるだろうから,少なくとも制度としての意味はあると思うんですが,わからないでやられたときに,どうするんですかね。


それは別途,管財人の責任を追及するとか,不当利得を請求するとか,何か事後的な対応をせざるを得ないのかなという気がいたします。

● わかっていて処分すれば,おっしゃるとおりだと思うんですけれども,私は,よくわからないけれども処分するということだと思うんです。それが1点。
  


それから,今,おっしゃったように事後的に,事前にどうしようもないような場合に事後的な何かの手当てがあるということであれば,それはそれで一つの制度だと思います。

● 実際の適用の仕方のイメージは余りよくわかりませんけれども,要するに,破産管財人が管理している財産ですから,前受託者の固有財産であるか信託財産であるかですよね。


信託財産の可能性があるけれども,よくわからないというので,要するに,全財産が恐らくそういうふうになってきてしまうんでしょうけれども,その財産を処分するときに,全部の受益者に何らかの通知をしなくてはいけないというのは現実的なのか,感覚としてよくわかりませんね。

● 破産管財人というのは当然,財産を処分することを仕事としている者であって,そういう意味では,財産を処分することについては破産の関係の債権者なりには全く別に,通知しないで処分をやっているということですし,特に受益者が多数に上る場合もあり得ることも考えると,財団と思っている財産すべてについて受益者に通知をすることは,破産管財人にとって余りにも大きな負担になることは間違いないのではないかという気がいたします。

● 何らかの形で実効性を持たせるようにした方がいいというのも,おっしゃるとおりだと思うんですけれども。


● 信託財産に属するかどうか,仮に属することが明らかであっても,信託の公示がないといった状況もあると思うんですね。


なおかつ信託の公示としてどの程度を要求されるかとか。だからここの,これは条文ではありませんから要旨なんでしょうけれども,信託財産に属する財産としては認識しているけれども,信託の対抗要件を具備していない財産とかですね,そういう場合とか,それは今後の解釈論に委ねられるとすると,差止請求をする側も,処分する破産管財人も結構窮地に陥って,どうしたらいいのかわからない状況になるのではないか。
 

 ですから,わかっていて処分するというのは,公示がないからわかっていて処分するケースもあり得るのではないかと思います。


● 破産管財人の第三者性との関係で,非常に問題が大きいところだと思います。

● ○○幹事に教えていただきたいんですが,破産管財人が処分するときは,多くの場合,裁判所の許可が必要になるのではないかと思います。


そのときに信託財産であることがわかっていれば,当然そのことを裁判所にも言わなければいけない。


そうした場合に裁判所は許可しないのではないかと思うんですけれども,いかがでしょうか。

● おっしゃるとおりでございまして,破産管財人側から出された資料等によって信託財産であることがわかれば,裁判所は当然許可しないと思います。

ただし,一定額--100万円以下の動産等については,今回の破産法改正と破産規則の制定によって,その許可が不要となっておりますので,そういった破産管財人の裁量に委ねられている部分については,裁判所の許可によるチェックは及ばないことになろうかと思います。

● そうしますと問題は,今,おっしゃった裁判所のチェックを逃れるような部分について,どう対応するかということになるでしょうか。


● あとは,許可の段階で,信託財産であるという認定がどこまでできるかというところであろうかと思います。


● 同じような問題で,第三者の立場はどうなるかという話なんですけれども,善意取得者が生じた場合,すなわち信託財産が有価証券とか動産であった場合に同じような論点が出てくるのではないかと思っております。

その際,今までの議論に合わせて,差止請求自体が善意取得を遮断する効果がないのであれば,例えば執行官保管とか,そういう制度をつくる必要があるのかどうかという議論にも及びそうな気がしております。

ただ,この点については,恐らく財産取得者と受益者と,どちらをおもんばかるかという判断もあると思いますので,この点についても御整理いただければありがたいと思っております。

● 執行官保管は先程お話した仮処分というところででもできますので。それ以外にどういう制度というのは,もうちょっと検討しないと必要性などもどこにあるのかすぐには分かりませんが。


● 今,差止請求権について別に否定的な意見があったわけではなくて,こういうものは受益者の保護としていいのではないか,そういう御意見だったと理解しました。

ただ,それを実効性あらしめるためには,ほかにもいろいろ手当てをしないと意味がないのではないかという御意見で,通知をするというのもその御提案の1つであるということです。

  それから,差止請求権以外に受益者の保護としては,信託財産の管理人みたいなものを早急に選任するという御提案がございました。

受益者の立場の保護としてどういうことをしたらいいかということは,引き続き事務局の方で総合的に検討してもらうことにしたいと思います。

● 第39で,破産手続が開始したときは受託者の任務が終了するわけですが,完全になくなるのかという話です。

現行の破産法を私,十分理解できていないのかもしれませんけれども,破産者は財産について,破産管財人に対して何も言わなくてもいいんでしたっけ。

どんな財産があるかということ。そういう義務は破産法上は存在していないんでしょうか。


  もし破産法上そうだと仮定しても,信託財産が破産財団に属していないとなりますと,今度は破産財団に属さない財産についての話になりますので,これまでの破産法の考え方で律することができるのか,まだ頭の中が整理できていません。

  そうしますと,今までいろいろなされてきた議論の前提として,破産管財人に対しての説明義務みたいなものを観念する必要はないのかということも,併せて御検討いただければと思います。

● 破産法上,何かというお話ですが,破産者の説明義務が第40条に新しくできる,そのお話でございましょうか。


● ええ,第40条を見つけられなかっただけなんですが,第40条であったとして--破産に関し必要な説明ということでございますので,何でも含まれていると言えばいいのかもしれませんが,例えば,第41条の重要財産開示義務に対するものに関しましても,これは破産財団に属する財産についての義務として観念されているんだと思うんですね。

そうすると,信託に関しては「これは破産財団に属さない財産ですよ」という説明を考えなければいけないわけであって,それは現行の破産法の条文の解釈によってできるのか,それとも信託法に,破産によって任務が終了した後にもなお残存する義務としてそういったものを規定した方がいいのか,私,にわかに判断できなかったものですから,破産法の規律と併せて御検討いただければと申し上げた次第です。


● 任務が終了しているので--ゼロになっているかどうかわかりませんけれども,受託者としては,そういうことを言う義務がありそうな気がしますね。

それはまさに信託財産を管理していて,それを保護しなくてはいけない立場にあった者の義務として。


それは破産法との関係で,破産管財人に対してうまく言えるようなことになっているのか,そこは私,わかりませんけれども。

● 御指摘の点,破産法の射程がどこまでかというのは検討いたします。
  思いつきですが,受託者にそういう説明義務を課すことができるのであれば,それは一方では破産管財人に対して,他方で受益者に対してもそのような説明を課すことができれば,先ほど○○委員がおっしゃった差止請求を実行する方向にもつながるのではないかということで,有益なご指摘だと思います。

● ほかに何かお気づきの点,ございますでしょうか。--よろしいですか。
  それでは,次にいきましょうか。

● 続きまして,権限の問題をさせていただきたいと思いますので,第33の受託者の権限と,第34の受託者の権限違反の行為等について御説明申し上げます。

  まず,受託者の権限について,資料7ページからでございます。

  提案内容は,前回と同じでございますが,提案の趣旨をもう一度かいつまんで御説明申し上げます。


  まず,現行法第4条に「受託者ハ信託行為ノ定ムル所ニ従ヒ信託財産ノ管理又ハ処分ヲ為スコトヲ要ス」とある点から見ますと,受託者の権限が信託財産の管理または処分に限られるようにも読まれかねませんので,そうではなくて,受託者は,広く信託目的の達成のために必要な行為であればできる権限を有することを,文言上,明確になるようにいたしました。

  他方,受託者は,信託目的の達成のために必要な行為であれば,これを行い得るとはいいましても,例えば利殖を図ることを目的とする信託における投資対象の財産についての限定がある場合,あるいは共同受託の場合において,信託事務の処理に当たっては共同受託者全員の承諾を有するという制約がある場合,これらはいずれも受託者の権限に対する制限であるという理解を前提といたしまして,この趣旨を明らかにするための規定ぶりとして,甲案と乙案の2案を併記したものでございます。


  ここでの問題は,信託行為の定めと申しましても,信託目的も形式的には信託行為の定めに含まれますので,意味がダブッてしまうのではないかという懸念があることでございまして,このような懸念をなるべく解消すべく,甲案は「信託行為の定めに従い」との文言を用いることによりまして,意味がダブッてはいなというニュアンスを出したものでございまして,乙案は,ただし書きとすることにより,本文の信託目的とただし書の信託行為の定めとは意味がダブっていないとのニュアンスを出したものでございます。


  甲案の方が何となく,印象ですけれども,ちょっと縛りが原則かかっている。乙案は,ぼんと広いけれども,ただしちょっと狭めるよという,気持ちの違いかなという気もしますが,理論的に御検討いただければと思います。

  それから,※の点でございますが,一方におきまして,借入れや信託財産に対する担保権の設定などの行為は,信託財産を毀損しかねない行為であるという性質にかんがみますと,それにもかかわらず,緊急のために必要があるときは借入れ等を行うこともできる旨を確認的に規定しておくべきであるという考え方もあるでしょうし,あるいは,このような行為については信託財産を害する危険性がありますので,特別に規定を設けて規制しておくべきであるという考え方もあると思います。
  しかし,他方におきまして,規制対象となるべき行為を技術的に特定することが困難である--デリバティブなどですね。

あるいは借入れといっても,では物を購入したときに債務を負った場合は,信用取引を行うときはどうかとか,そのような場合につきまして,結局特定することが困難であると考えられることにも鑑みますと,不明確な規定によって過剰な規制に陥りかねない危険を冒すよりは,善管注意義務や忠実義務などの規定に委ねる方が望ましいという考え方もあり得ると思います。


  このような種々の方向の考え方があり得ることを踏まえまして,借入れ等の行為につきまして,特別な規定を設けるべきか否かを問うものでございます。

第5回会議に引き続きまして,甲案,乙案のいずれの書きぶりがよいかという点,併せて※の点について御審議をいただければと思います。


  続きまして,第34でございますが,これは受託者の権限違反行為の取消しに関する現行法第31条ないし第33条に対応する提案でございます。

  まず8ページ,提案1の①と④でございますが,これは前と同じでございます。その要点をかいつまんで申しますと,現行法と同じ点といたしましては,まず,取消権行使をとるとしたこと,それから,取消権者を受益者のみに限るとしたこと,第三者側の保護要件としては善意(無重過失)を要するとしたことでございまして,他方,現行法と異なる点といたしましては,取消しの対象を処分行為に限らないとしたこと,取消しの可否について登記登録を問題にしないとしたこと,信託の本旨についての違反という基準を用いないとしたことが挙げられます。

  このうち前回提案時からさらに検討を加えた点といたしまして,まず,前回提案時においては,取消権者の範囲につきまして,現行法と同様に受益者のみとすべきか,それとも受益者の利益を可及的に図るという観点から,委託者,実際に権限外行為をした受託者自身,共同受託の場合の他の受託者についても含めるべきかについて,要検討事項であるとしておりました。

今回の提案におきましては,資料の9ページ上段に記載させていただきました理由から,取消権者につきましては当該信託に最も大きな利害関係を有する受益者の判断に委ねるべく,受益者に限ることとしているものでございます。

  また,信託の本旨についての違反という現行法の基準を用いないこととの関連では,第5回会議におきまして,受託者の善管注意義務違反の行為についても取消しの対象に含めることとすべきところ,受託者の権限に属するか否かという基準,あるいは切り口によるときは,それが困難になるのではないかといった御趣旨の議論があったかと存じております。


しかし,この点につきましては,受託者の信託事務遂行義務のような,いわば内部的な関係を規律する局面とは異なりまして,信託外の第三者との,いわば対外的な関係を規律する局面におきまして,信託の本旨という柔軟性のある基準を用いることとするときは,取消権を行使し得る範囲,すなわち対外的な効果帰属の有無が問題となる範囲が不明確となって,取引関係の安定性を害するおそれが大きいと思われることに鑑みますと,やはり取消権を行使し得る範囲を画する基準としては,受託者の権限に属するか否かという,より客観的な基準を用いることが適当であると思います。

  そして,受託者の善管注意義務違反の行為が取消権の対象となるか否かにつきましては,抽象的に決することは困難でありまして,具体的事情のもとにおける当該義務違反の内容,程度に応じ,権限違反とまで言えるか否かについての事例判断とならざるを得ないのではないかと考えているわけでございます。
  


なお,第三者の保護要件に関しましては,事務局といたしましては現行法下の解釈と同様に,基本的に幅広い権限を有する受託者の行為が権限に違反するものであることを第三者側において認識することは容易ではないと思われることに鑑みまして,受益者側において第三者の悪意・重過失を立証すべきと考えているわけでございますが,第5回会議におきましては,実際に取引に関与していない受益者が立証責任を負うのは酷ではないかとの御指摘がなされたこともありまして,改めて御意見があれば伺いたいと思っております。

  以上に対しまして,提案1の①と③は,現行法と同様に取消権構成をとることとしたのを踏まえまして,受益者複数の場合の特則を定めた現行法第32条,取消権の消滅期間を定めた現行法第33条に,それぞれ相当する記述を設けることを新たに提案するものでございます。


  なお,現行法第33条では,取消権の消滅期間を一月,それから1年としているわけでございますが,これについては余りにも短過ぎるとの批判がありますので,これをいかなる期間とすべきかについて御意見を伺えればと思います。

  ちなみに,信託法改正試案ですと,民法第126条の取消権と同じように5年と20年にしておりますし,民法の詐害行為取消権ですと2年と20年としておりますが,このような点も参考にしていただきまして,御意見があれば,ぜひとも伺いたいと思っております。


  最後に,提案の2でございます。
  これは権限違反の局面とは若干異なるわけでございますが,前回提案時にも指摘いたしましたとおり,現行法には,受託者と第三者との間での取引の効果帰属先についての認識が異なる場合に関する規定がないために,受託者の認識によって決せられることになると解されますが,このような考え方は取引の安全の観点から問題があり得るということに関しまして,相殺の局面に関してのみ,第三者からの相殺禁止の例外として,第三者の正当な信頼を保護する内容の記述を設けることを提案するものでございます。
 


 具体的な提案内容につきましては,資料の本文あるいは説明を御参照いただければと思うわけでございますが,ここで,第三者の信頼を一般的に保護することまではせず,あくまでも相殺の局面に限って保護する規律を設けることとしている趣旨でございますが,信託財産の安全を確保すべき要請もあることに鑑みますと,第三者の信頼を一般的に保護することまでは行き過ぎであると考えられるわけではありますが,相殺の局面におきましては,第三者としては既に引き当てとなる債権債務のあること,当てがあるということを前提にいたしまして,受託者との間でさらなる債権債務関係に入ったものでありまして,いわば,新たな債権債務と相殺とを一体として,債権を請求されたときの決済に充てるべきものと考えていると見ることができると思います。


  このような点におきまして,相殺の局面は,民法第478条の準占有者に対する弁済の場合と類似の法律関係にあると言うことができますので,全く新たに債権債務関係に入るよりも,第三者の信頼を保護すべき必要性が高いと思われまして,このように,相殺の例外の取り扱いを規律してはどうかと考えるわけでございます。

  なお,第三者の保護要件といたしまして,提案では「信じるに足りる相当な理由」と民法第110条と同様の文言を用いておりますが,既に申し上げましたように,ここの規律では第三者の信頼一般を保護するわけではなくて,あくまでも相殺の場合についてのみ,準占有者弁済と同様の考え方から第三者を保護しようとする趣旨でございますので,民法第478条と同様に,第三者の善意無過失,すなわち信託財産または固有財産に帰属すると信じたことと,それについて過失がなかったことを要するとの趣旨であると御理解いただければと考えております。
  以上で説明を終わらせていただきます。

● それでは,今の範囲で御議論をお願いいたします。

● まず,第33については両案併記されておりまして,違いがよくわからないところもあるんですが,信託の管理事務の適正確保の観点からは,甲案の方が望ましいのではないかと感じております。

  この規律の仕方によって,局面によっては立証責任が変わってくる場合があり得るのか,あり得ないのか,その辺について,もし御検討されている点があれば教えていただければと思います。
 

 それから,第34の受託者の権限違反の行為については,第三者の主観的要件と立証責任について若干意見を述べさせていただければと思います。
 

 受益者が第三者の悪意・重過失を立証するという御提案があるんですけれども,それをやらないと信託財産を取り戻すことができないというのは,やはり受益者の立場からすると負担が重いと思います。

例えば,不動産の管理,賃貸を目的として当該不動産を信託に付した場合において,受託者が同不動産を処分してしまった場合に,受益者の側としては,そういった受託者と第三者の取引には全くかかわっていないわけですから,不動産の処分の事実を知った時点では,その事情は全くわからない。

では,それを関係者に聞いてみようということで,受託者に聞くことになるのかと思いますけれども,その場合に,権限違反を行った受託者の協力が十分得られるか,あるいは受託者の説明義務や帳簿閲覧請求権に関してよほどの整備がないと,受益者の方で有効な情報を得ることはなかなか難しいのではないか等々を考えますと,やはり受益者の立証という点では重いのではないかと思われます。

  翻って,こういうふうに,権限違反の場合に受益者の方で信託財産を取り戻しにくいとなると,受益者としては,よほど信頼できる受託者でないと信託を利用できないことになりかねない。そうすると,かえって民事信託等,一般の利用を狭めることにならないかが懸念されます。


  前回の御提案の御説明の中では,民法の表見代理あるいは理事の代理権の制限に関する規定,虚偽表示の第三者保護規定等に鑑みて,民法第54条の規定と場合が似ているので,この規律に従ったらどうかという形で主観的要件の御提案がされていたかと思うんですけれども,民法第54条では,一応その判例上は--その後もし変更があれば御指摘いただければと思いますけれども--取引の相手方の方に善意の立証責任があるとされているのではないかと理解しております。


  また,ほかの表見代理や虚偽表示等の立証責任と,主観的対応の中身を見たとしても,例えば,表見代理の場合には相手方の過失を立証すれば足りるという記述になっておりますし,虚偽表示や詐欺の場合には第三者側が善意の立証となっていて,そういった規定との関係から言っても,受益者の方に悪意,重過失を立証せよというのは,やや違和感を感じるところです。

  商事信託の場合には,会社法の規制に従って悪意,重過失の立証責任という発想が出てくるのはよくわかるんですけれども,民事信託の場合には果たしてそれでいいのか,そういった場合に受益者の方に酷にならないかということは御検討いただけないかと思います。


  こういった観点から,もし悪意,重過失という主観要件とするのであれば,これは第三者側に立証責任ということを御検討いただきたいですし,もし立証を受益者側にさせるのであれば,主観的要件については,むしろ過失を立証すれば取り消しを主張できるというような規律についても併せて御検討いただけないかと思います。


  もし,この主観的要件について悪意・重過失として,かつ立証責任について,取引安全の見地から受益者に課すことを維持すべきだということであれば,受益者の権限違反行為が生じにくいような他の規定の整備はぜひお願いしたいところです。

つまり,損失てん補責任ですとか忠実義務,特に帳簿閲覧等請求権の規定で,受益者の監督権限が行使しやすいといいますか,きちんとそれができるような制度としていただくことを特にお願いしたいと思います。

  今のは1の関係ですけれども,2について1つだけ質問します。

  2の(イ)(ロ)について,主観的要件について先ほど若干御説明がありましたが,この「信じるに足りる相当の理由がある場合」というのはいつの時点で考えるのか,もし御検討されている点があれば教えていただければと思います。


● 御意見にわたる部分については御議論したいと思いますけれども,今の質問事項については,いかがですか。


● 質問のうち最後の点,立証責任の時期については,これは相殺に供すべき債権ないし債務関係に受託者が入ったときということで,一般に記名式定期預金がある場合の貸付けなどで議論されているわけでございますが,それと同じで,例えば受託者が貸付けをしたときとか受託者が借入れをしたときの時点をもって,相手方の信頼に相当な理由があったかどうかを相手方が立証することを考えているわけでございます。


  あとはおおむね御意見だったと思いますが,第33の甲案,乙案で立証責任についてどうかというのは,今まで余り考えていなくて,どちらの書きぶりがいいかを中心にしていたわけでございますが,甲案ですと,恐らく「権限内」と主張する方が信託行為の定めの範囲であることを立証することになるでしょうし,乙案ですと「権限外であった」と主張する方が別な定めがあったことを立証するのではないかというのが,文章からも素直ではないかという感じがしております。


● 今の甲案,乙案,どういう意味を持つかについて重ねての御質問ですが,これは第34の方で,権限違反の行為が実際に行われた場合を想定しますと,受益者の方から言うべきこととしては,本来,信託財産に属することと,処分を受けた者が占有しているなり公示を有しているなりということを言えば足りるわけであって,そうすると,処分を受けた側の人間としては,これは権限違反の行為でも有効だというのが前提ですから,多分,受託者等から「処分を受けた」と言うだけでいいのではないかと思います。

  そうすると,構造上,受益者が「これは権限の範囲外の行為である」と主張,立証する必要が出てくると私は理解しました。
 

 その場合に,甲案,乙案なんですが,権限の範囲外であることを主張,立証しようとしますと,要するに,受益者としては「目的達成のために必要な行為とは言えない」と言うか,あるいは「信託行為に別段の定めがあって,そこからするとできない行為である」そのどちらを言うことになるんだろうと思います。


そうしますと,乙案が何か妙な案でして,むしろ甲案の方が素直なのかなと。

つまり「信託行為の定めに従うとこれはできない行為だ」と言うか,あるいは「目的達成に必要な行為とは言えない」どちらかを言えばいいという形になる……。

ちょっと先ほどの御説明が,権限外の行為であることを主張,立証する必要が受益者の側にあることを前提にしますと,何かもう少し説明が要るのかなと思いました。

  もう一点,先ほどの意見に重ねて言いますと,今の場合に「権限の範囲外だ」と言うだけでは全然だめでして,取り消すことをしないといけない。

その際に,悪意あるいは重過失まで主張,立証する必要があるのかという点ですけれども,考え方としては,現行法ですとそうなのかもしれませんけれども,考え方としましては,権限の範囲外の行為は確かに有効ではあるけれども,原則として取り消すことはできるべきものだという考え方はあり得るだろうと思います。


ただ,取り消すことは原則としてできるけれども,相手方が善意だった,あるいは過失がない,あるいは重過失がないと言うかどうかは別としまして,相手方の方で,つまり処分を受けた側でそのような事由を述べることによって取消しを阻止することができるという考え方も,十分に考えられるのではないかと思います。


権限外の行為は原則取消可能だというルールを立てるのは,立証責任の公平という観点以前の問題としても言えるのではないかという気がいたします。


● 前段の点ですが,先ほどの私の説明を改めさせていただきたいと思います。
  


今の御指摘を踏まえて考え直したのですが,やはり権限外であることを主張する方が立証責任を負うという前提で甲案,乙案どちらがいいかお考えいただければということで,改めさせていただきます。失礼いたしました。

● 証明責任の点は既にクリアされたので,1点だけ,実質が違う可能性がある本当に些細な点を申し上げますと,乙案のような書き方をしますと,信託目的の達成のために必要ないことをやれるということを信託行為に書けるかのような含みが出てくるという意味で,今までも乙案の方が評判悪いですけれども,今までの意見に加えて,テクニカルにも甲案の方が自然かなという気はします。

  もし言われていることが,目的等にかなり抽象的なものがあって,具体的なものでそれに縛りをかけるようなことを念頭に置かれている限りは,甲案の方が自然だと思います。

● 甲案,乙案の差がそれほどないという前提ですと,余り差はないのかもしれませんけれども,商事信託の場合には,いずれにしても信託行為で詳細を規定されると思うので,民事信託を前提に置いての議論の方が,甲案,乙案の選択のときにはより適切ではないかと思います。

  その場合には,今後,弁護士が高齢者の財産管理とか,親なき後の子の財産管理という形で関与することがあると思いますし,また,弁護士でなくても,まちのボランティアの方が何らかの形で関与することがあると思うんですけれども,そのときに,信託行為自体が要式性があるわけではなくて,また,そういう場合は期間的にも相当長いタームで考えることになると思うので,受託者の違反行為,責任は,善管注意義務とか忠実義務違反というところで問うことができますし,また,第34で議論しているところの権限違反行為でもとらえることができますから,もし乙案の方が受託者としての裁量に基づいて最も適切な行動がしやすいものであるという理解が正しければ,特に民事信託という側面においては,受託者にもう少し自由度を与えた方がよろしいのではないかと思います。


  乙案が余り評判よくないということに対しての反論的な意味合いなんですけれども。


● 自由度を与えるというのは,乙案の方がいいだろうという御趣旨ですね。


● そうですね,乙案の方が広いであろうと。要するに,信託目的が「このために最善を尽くしてくれ」ということであれば,場合によっては不動産を処分することもあり得ると思うので。

● ○○委員が民事信託のことを言われましたけれども,商事信託におきましても,当然のことながら受託者の自由度が高い方がいいので,そういう観点からは乙案の方がいいのかなという気もします。


もちろん,何らかの問題があるということであれば考え直しますけれども,それよりも,もともと我々の方で一番気にしていますのは,※のところに出ています借入れのところでございまして,補償請求の部分の規律がどうなるかまだ決まっておりませんけれども,どうもなかなか難しいということであるとすると,資金繰りを安定的に供給するためには,基本的には常に借入れできるような体制にしておかないと,信託事務を円滑に運営できないというところがありますので,基本的に,もちろん信託の目的の範囲内においてですけれども,信託行為に書かなくても借入れ等の資金調達ができる,そういう形にだけはしていただきたい。


  もちろん甲案でもそういう解釈はできると思いますけれども,そういう観点から乙案の方が整合的かなと思って,前回も乙案と申し上げたんですが,甲案でもそれができるということであれば,それはそれで構いません。

● ○○幹事からも,ほかの方からも御意見がありましたように,乙案の場合はそういうものが入ってきて,信託目的達成のために必要な行為ということで,入るという解釈が素直に出てきそうですけれども,甲はちょっと狭い感じがしないではないですね。

  ○○幹事が言われた,信託行為の別段の定めというのが乙案に入っていて,これが目的の範囲を超えてもできると使われると困るというのは,確かに形式的にはあり得るかもしれないけれども。


本来,信託目的が明確であれば,その範囲内でしかできないと考えれば,信託目的と信託行為の上下関係は明らかになりそうな気がしますよね。

  書きぶりとしてどちらがいいかという問題と,○○委員が指摘されましたように,借入権限について,この2つの案との関係でどう考えるか,あるいは,そのことを考慮したときにどちらの方がいいかという問題点についても御意見をいただければと思います。

● 先ほど○○委員が言われた民事信託の関係なんですけれども,信託行為に書かれていない場合に比較的いろいろなことがやりやすいということで,乙案の方が望ましいという見方もなるほどなと思うんですけれども,他方で,書かれていない場合に,そこで受託者も一応考えるというか,場合によっては受益者と相談した上でやるということを確保することが大事な場合もあり得るのではないかという気がしていて,民事信託の場合に,乙案,甲案どちらがいいかというのは,いろいろな見方で局面があり得るのではないかという気がするんですが。

● 受益者が子供とか高齢者という前提ですから,受益者が自分で財産管理できるときにわざわざ受託者が財産管理するという前提での議論は,余りしなくてもいいのではないかと思います。民事信託で何を観念するかによって全然前提が違うんですけれども。


● 御議論の中にもありましたように,商事の信託を念頭に置くのか民事の信託を念頭に置くのか,また,それぞれについていろいろなタイプがあり得るので,なかなか難しいんですけれども,一般的な考え方としてどういう立場をとるかということですね。

  今までは,甲案の方が評判がよかったんですか。

● 前は乙案をおっしゃっていた方が1人いただけで,ほとんど議論はなかったので,改めて今回,結論をいただければと思っているんですが。


● 先ほど○○幹事がおっしゃったことに関係するかもしれないんですけれども,確認の意味で。


乙案のただし書は,狭める方だけではなくて広げる方も含んでいるという趣旨ですか,もともと。

  言葉を変えて言えば,狭める方だったら,そういう書き方が可能ですよね。本文に対して信託行為でこれをさらに--「てにをは」はともかくとして,制限してもいい。


ただ,もちろんその制限は,善意の第三者にどうなるのかというのは別ですけれども。

● 今までの御議論を正確に覚えていないけれども,例えば借入れの権限などを入れるために,わざわざこのただし書を乙案のもとで使う,そういう議論ではなかったような気がしますね。狭める方向で議論していたのではないんですか。

● 事務局といたしましては,この乙案というのは,言ってみれば本文が最大限書いてあって,これより広げることは考えにくいので,気持ちは狭める方です。


文言だけ見れば,もちろん広げる方もあるんですが,本文との関係では狭める方だけと御理解いただければと思います。


● お一人しか主張がなかったと言うけれども,乙案で,今のようにただし書の方を狭める趣旨であれば,そんなおかしくないような気もするけれども。


● 別にこだわるつもりはないんですが,単に狭め方が広い,狭いではなくて,いろいろなタイプの権限の行使の仕方についての制約みたいなものがあるので乙案の方が書きにくいとすると,甲案の方が書き方としては自然なんですね。

だから,乙案で狭めるというのはあり得るんですけれども,狭い議論ではない部分のことを考えると,乙案でそれをやるのは難しいかなという印象は持っております。

  ただ,これは純粋に技術的な問題ですが,サブスタンスの方が狭めるという前提であれば,甲案,乙案,実質的には余り差はないと思います。

ただ,それを強調しますと,○○委員や○○委員が言われたことは,乙案をとったからといって何一つ解決されるわけではないということにもなってしまうんですけれども,むしろサブスタンスをまず固めていただければ,あとは自然な文言をとればいいだけだと思います。


● 先ほど○○委員が信託の借入れの議論をされていましたけれども,商事信託でもあるし,本当に商事信託でデリバティブ云々というのは信託行為に書くべきことだと思うんですけれども,民事信託の場合,何らかの形で受託者が立て替えなければいけない。

自分で立て替える分には別に構わないのかもしれませんけれども,それを借入権限がない限りは借り入れられなくて,不動産を扱っていて,その不動産が修繕とか万が一のときに,場合によっては資金が必要だと思うんですね。

そのときに,甲・乙案の差が余りないのであればいいと思うんですけれども,こういう立法過程での議論等も踏まえると,やはり信託行為に,特に借入れなどは書いていなければいけないかもしれないという保守的な解釈が出る。

受託者になった方は責任をとりたくないかもしれませんから,そういう保守的な解釈に立った場合は,信託が幅広く利用されようとすることに対して制約的になっていくのではないか。

  ですから,借入れを絶対するなとかデリバティブをするなというのは,やはり信託行為の中で,遺言信託であれば遺言の中で借入れはしてはいかん,あくまでも不動産の管理の中でやればいいとか書けばいいのかもしれませんけれども。
  


これはどういう信託を念頭に議論するかによりまして,絶対乙案がいいというわけではないんですけれども。


● 甲案と乙案の違いがあるかどうか,具体的にお伺いしたいのですけれども,例えば,受託者に一定の投資権限を与えて株式には30%まで投資していいという中で,31%の投資をしてしまった場合,甲案だとそれはもう権限がないことになるのに対し,乙案では,全体の信託契約の趣旨,目的にかんがみ,それくらいの権限はあるという解釈があり得るのかどうか。

それとも,その辺の実質は全く変わらず同じなのか,その点を御確認させていただければと思います。


● そこは,どちらも権限外になるのではないか。実質は変わらないと理解しております。

● 実際の年金などではあり得ないことではないと私自身,認識しているんですけれども,それは意図的云々ではなくて,計算の仕方とか時差の問題とかいろいろな要素がかみ合って,例えば今の1%,大幅に違うものをやるのはあれかもしれませんけれども,あり得るのではないかと思うんですね。

今の1%だけではなくて,いろいろなポートフォリオで細かい指示がどこまであったか。

  要するに,信託行為自体に要式性があって,きっちり紙に書いてあればいいかもしれませんけれども,電話等のやりとりにおいて何らかの設定をしたときに,それが違反だったかどうかとか,それはかなり紛争性があると思うし,それが権限外ということで取引の第三者にまで影響してしまうと,信託と取引する相手方はかえって不都合で,不都合でもいいではないかというと,今度,信託の運用の方にかなり影響を与えてしまうのではないかと思うんですけれども。


● 今の前提は,○○幹事の挙げられた例で言えば,30%以内でしか投資ができないことが信託として明確になっている,あるいは信託行為で明確になっている場合の話ですね。○○委員が言われたのは,仮にそういう場合であっても,ちょっとオーバーしたぐらいについては,少なくとも対外的な権限の問題としては救済がないかと。

  ですから,甲案,乙案の比較の問題ではありませんね。

● ちょっと違うかもしれません。


● ○○委員がおっしゃったこと自体は,また一つの問題だという気はいたします。特に対外的な権限との話ではね。1%を超えた部分については,それは取消しの対象になってしまうかということになると……。
  


ただ,これは取消権の要件の問題である程度は解決できるのかもしれない。相手方の悪意・重過失とかいうところの要件で,権限外であっても取消しの対象にならない場合がある。

● 甲案,乙案,どちらがすぐれているということには考えても結びつかないんですけれども,途中で議論があった幾つかの事柄について,一言発言させてください。

  目的達成のために必要な行為を,乙案をとった場合には別の定めで広げることはないだろうという御意見が幾つかあったように思いますので,実務の方々への質問なんですけれども,私が推測するに,そうではないのではないかと思います。

目的のために必要と裁判所が判断するかどうかはわからないけれども,したがって,これこれはできる,これこれはできる,これこれはしてよい,権限を与えるというのを信託行為の中で定めるというのは,あらかじめ受託者が何ができるかを明らかにしておくためにはあるのかなと思います。


他方で,もちろん目的達成のために必要だと客観的に考えられる行為であっても,この信託ではそれはやってはいけないと委託者,受託者間の信託行為であらかじめ定める場合もあろうかと思います。

そしてこの第33の,先ほどの○○幹事の言葉を使うと,サブスタンスとしては,やはりどちらも承認すべきではないかと私は思います。

  したがって,甲乙どちらがいいかというところには必ずしも結びつかないんですけれども,途中での御議論に対しては,やや疑問,異論がございます。

● 広げる場合の方が問題なんでしょうけれども,信託行為で個別に「こういうことはできる」と書くことによって,恐らく信託目的の解釈が広がっているのではないかという気がするんですよね。


だから,信託目的はここまでだけれども,その範囲を超えていろいろなことができるというのは,何かおかしな感じがするんですが。


● 最後はそうなるんだろうと思うんです。信託行為に明らかに逸脱しているけれども,書いてあるからいいというのか,それとも,具体的に信託行為に定めがあるから,そこまで目的に含まれているかというのは先生のおっしゃることなのかもしれませんが,しかし,具体的にそれが争いになったときに,先生のおっしゃっているようなソフィスティケートされた議論をするよりも,別段の定めに定められている,まさにそれに当たるんだから,これは権限内ということになるのではないかと思うんです。

  だから争い方としては,さらに,しかし,書いてあるけれども,文言上は確かに当てはまるようだけれども,信託全体の趣旨から見ると,やはりそれは外れるのではないかとか,そういう議論はあり得るのかもしれませんが,まさに信託行為の別段の定めを置くというのは,1つは,やはりそういうことをあらかじめ考えて,将来のトラブルを防ぐためにやるのではないかと思いますので,それはなるべくスムーズに,問題解決のときに使えるように考えるのがいいのではないかと思います。


● よくわかります。

● どちらがいいというわけではなくて,今のように広げる方向もあり得るとしたときに,それがどういう意味を持つか,またちょっと証明責任の話をしますと,「別段の定めがある場合には,この限りでないものとする」には2つあって,制約する方向と広げる方向と両方あり得ると考えたときに,先ほど言いましたように,受益者の側としては,権限の範囲外の行為だと言わないといけないわけですね。

その場合に,さっきも言いましたように「目的達成のために必要とは言えない」と言うか,あるいは「必要かもしれないけれども,別段の定めがあってこれはできないことになっている」と言うか,どちらかだと。

その限りでは,本文ただし書になっていますけれども,どちらについても受益者の側がいずれかに当たることを主張,立証しないといけないわけですけれども,ただ,恐らく広げる方向もあり得るとなりますと,考え方としては,受益者の方は「これは目的の達成に必要とは言えない」と--これを広げればまた別なんですが,限定的に考えますと「必要とは言えない」と言うのに対して,むしろ処分を受けた相手方の方が「いや,別な定めがあるではないか,だからこれは権限の範囲内なのだ」ということを,また主張,立証することになるのかなと。


わかりやすく考えると,恐らくそうなるのかなという気がいたします。


  そうしますと,これは規定の書き方がすごく難しくなるんですが,制約する側か広げる側かによって,別段の定めの立証責任の所在が変わってくるのではないかという気がいたします。


すごく書きづらいだろうなとは思いながらも,しかし,ここは立場決定の問題ですから,いろいろお考えの上,決めるべきことかと思います。


● 甲案,乙案については,今の証明責任の問題も含めていろいろ検討したいと思いますが。

● 御検討の際に,信託行為を委託者が決めるというイメージでいくか,それとも受託者が実際には決めるというイメージでいくかで変わってくるのかなという気がするんです。


  受託者が実際に信託行為を決めるということですと,受託者の権限を限定するという意味で甲案の方が親しみやすい気がするんですけれども,委託者だということだと,そのままでいくと乙案になるだろう。


そうすると,民事信託を考えると,それは委託者が書くのだから乙案でということが,多分,○○委員などのイメージとしておありだろうと思うんですけれども,理屈の上ではそうかもしれないんですけれども,実態が本当にそうなのだろうか。
 

 どういう信託をイメージするのかと関係してくると思うんですが,どちらの案をとった場合に,どういう当事者の行動に結びつきやすいかという面からの検討も必要かなと思います。

● もう十分御指摘が出ていると思うんですけれども,確認の意味でベーシックな点をもう一遍発言させていただきますと,どういう類型の信託を考えるにせよ,信託についてどういうルールを考えるかが今,問題だと思いまして,○○幹事がおっしゃったように,もし別段の定めをすれば目的達成のために必要でない行為もできるという立場をとるのであれば--それを俗に広げると言っているんですけれども,甲案では読めないですよね。

ですからその場合には,サブスタンスの問題として言えば,甲案をとるのか乙案をとるのかで全然違うと思います。

  私は,実際の効果という意味では信託のタイプによって違うと思うんですけれども,どういう類型であれば,今ここでは,信託というものについての受託者の権限をどう考えるかが問われているんだと思いますので,どちらかでいくのかはっきりさせた方がいいように思います。

● おっしゃるとおりですね。


信託目的と信託行為の定めの関係とか,これはしかし,本来,信託目的--いや,そう簡単に言ってはいけないな。


信託目的が一応上のものであって,それを具体化するのが信託行為であって,そういう意味では,信託目的の範囲を超える行為を定めるというのは何か私は理解しにくんだけれども。

  それはともかくとして,いろいろな御指摘がございました。


最終的にはどちらの方が--これはまだ条文という形ではありませんけれども,条文として書いたときにどういうものが好ましいのかという観点から,もうちょっと文言については詰めておきたいと思いますけれども,さらに検討しておかなくてはいけない点があれば御指摘いただきたいと思います。


● 先ほど信託目的と信託行為についてというお話が出ていましたけれども,実務上からいきますと,信託目的というのが,確かに信託の目的をあらわした形で信託目的という箇所に入っているかがはっきりしていなくて,信託のタイプによっては,ただ単に形式的なものだけ書いてあって,結局その信託がやるべきこと的な話は全体の条文,信託行為を全部見て,その中で読み取るといったこともあるのではないかと思いますので,「信託目的」という言葉の使い方も,「信託目的」という言葉のところに出てくる話なのか,全体の文意から読み取るものなのかというところの決定も必要ではないかと思います。


● それは先ほど申し上げたように,個々の条項を見て,信託行為に別段の定めがあっていろいろ書いてあれば,それを見て信託目的も一緒に解釈するんだろうと思いますね。--わかりました。


  それでは,これはまだまだ御議論があるかもしれませんけれども,切りがないところもありますので,第33についてはそういうことで。


  第34の方もまだ重要な問題がございます。ただ,時間が中途半端なので,これから15分間休憩して,引き続き第34を御議論いただきたいと思います。

          (休     憩)

● そろそろ時間になりましたので,再開したいと思います。
  (関係官の異動紹介省略)
  それでは,先ほどの続きをしたいと思いますけれども,第34,受託者の権限違反の行為等について,若干は御議論いただきましたけれども,なお御意見があれば。

● 4点ほどあるんですけれども,第1点は,悪意・重過失の立証責任がどちらにあるかというのは,まだ確実に決まっていないのかもしれませんけれども,仮に受益者側にあると仮定したときに,善管注意義務違反の行為であるということについて,当該第三者が悪意であるということまで立証できたとするにもかかわらず,なぜ当該第三者を保護しなければならないのかがよくわからないんですね。

  つまり,善管注意義務違反があったことについて,知らなかったことを第三者に立証せよというのは,何となく酷である。

権限内であることが言えればそれでいいはずであるというのはわかるんですけれども,善管注意義務違反であるとわかったということまで受益者側で立証できたのに,なお取引の安全のためにと言う必要がどこにあるのかがよくわからない。
 

 4点あると申しましたけれども,内的には大体関係しておりまして,第2点目は,9ページの<説明>のところで民法第644条が挙がっているところでございます。

民法第644条のことが書かれていながら「対外的効果帰属については,単純に受任者の代理権の範囲内にあるか否かで考えることとされ,」と書いてあるのが私にはよくわかりませんで,つまり,第644条の受任者の義務内容が規定してあるところは,別に代理権が付与されていることを直接前提にしているわけではなくて,また,委任によって代理権が発生したと考えましても,そういう通常の場合でありましても,代理として法的効果が本人に帰属する範囲と,代理人が委任を受けている受任者であるとして行動できる範囲,そして,それにかかった費用を求償していける範囲はおのずから異なる別の話であって,ここを代理の範囲内にあるかどうかで考えるというふうに続けるのはいかがかと思います。


  仮に,それでも代理と密接な関係があるではないかと言われると,まことにもっともでありまして,その限りではおかしくないんですが,その代理と密接に関係があることを前提としてこの案を考えたときに,代理に関しまして権限外でありますと,それは無権代理であって,保護される側が正当の理由を主張,立証していかなければならないことになるわけで,仮に受益者側で悪意・重過失を主張,立証していかなければならないと仮定しますと,それは代理ならば代理権濫用と言われるタイプのときの立証責任の分配であって,そうなりますと,これは権限の範囲内であっても自己又は第三者の利益を図るためといったことで行えば,本人への行為の効果帰属を否定することができるわけであって,やはりここでも,善管注意義務違反などというものを一応範囲の外に出したということにいたしますと,やはり悪意・重過失の立証責任を受益者側に課するのは無理がある,ないしは他の法制度の部分との間でアンバランスがあるのではないかと思います。


  第3番目は,自分も全くわからないことをこれから申しますので恐縮ですが,大上段の話であります。取消しの効果というのは何なんだろうかという話なんですね。

  もちろん,ある不動産が第三者に対して処分された。

それが権限の範囲内である,範囲外であることが問題となって,取り消すという話になりますと,これは当該売買契約が効力を失うんだと思います。


もちろん相対的取消,絶対的取消といった話がさらにあるかもしれませんけれども,一般的には,当該売買契約が効力を失って,信託財産に戻るんだと思うんですが,ところが,権限範囲外の行為というのは,そういった不動産を売却するといった信託財産を逸失させる行為とは限らないわけであって,単純に,何らかの契約をするようなものもいろいろあるわけであります。

  その場合に,仮に信託財産に責任を限定する特約があったりする場合を考えますと,場合によっては,第三者としては,取り消された方が有利な地位に着く。


つまり,あるいは相殺もそうかもしれません。


信託の業務の執行であるということになりますと,さまざまな制約が相手方の権利の内容にも及んでくるのに対して,取り消されて,それが仮に受託者個人と行った行為であるというふうに性質が転化されますと,かえって有利になるということもあるのではないか。
  

今はちょっと思いつきで申し上げただけなんですけれども,取消しによってどうなるかについて,お考えがあればお聞かせ願いたい。


私個人としては,現行法の第31条が処分行為に限ってそういう規律をしているのには,一定の合理性があるのであろうとなお考えているわけであって,それは信託財産の逸失行為だけを対象としているととらえることができるのではないかと思うわけであります。
 


 第4番目は,実は第33に若干戻るような形になるんですけれども,第33における「信託の目的達成のための」という話を厳格に解しますと,いずれにせよ,権限外とされる範囲はかなり広くなってくるわけであります。

そうなりますと,これは私が今まで申し上げていることと逆の立場からの発言になってしまうかもしれませんけれども,全体としては,第34の規律は,相手方の保護とか取引の安全を図ろうという形ででき上がっているのに対しまして,第33について厳格に解しますと,いずれにせよ,安定的だとは言えない法制度になるのではないかと思うわけです。

  これに対しては,第33によって定まる権限というのは一般的,抽象的に定まるものであって,あるときにある行為をするに当たって,それが適切でない,ある時点におけるある具体的な行為が目的を達するのに適していないと判断されたとしても,それは善管注意義務違反等々の問題であって,権限としてはそれが否定されるわけではない。


権限というのは,もっと抽象的に定まるのだというのが恐らくは正しい回答になるんだと思いますけれども,もし仮にそれが正しい回答だとすると,本当に第33において,目的によって権限を縛ることに何らかの実質的意味があるのか。


  つまり,例えば30年にわたって子供を扶養するために信託を設定するといたしましても,それは通常では,ある不動産が信託財産であるときに,30年にわたって扶養しようということになりますと,これは賃貸をするなりして安定的な収入を得た方がいいということになって,土地の処分権限は否定されることになるのかもしれません。

しかし,場合によっては,土地は値下がり傾向だから売却をして何かに変えた方がよいとか,あるいは今現在,大変困っているので,それを救うためには土地を売却した方がよいという場合もあるかもしれません。


そうなりますと,目的からは,土地の処分権限というのはなかなか否定しがたいような気がするんですね。


  抽象的に「その目的を達成するために必要な行為」ととらえた場合に,本当に第33が権限を制約する法理として働くのかという問題が,第34の前提にもなお存在しているのではないかと思います。


● いろいろな論点がありましたが,それぞれ難しい問題だと思います。全部一遍にはなかなか議論できないと思いますけれども,順次議論していただければと思います。


  そうですね……,一番最後の方が記憶に鮮明に残っているので。

  要するに,目的によって権限が確定されるのか,されないのかという問題ですよね。

これはいろいろな場合があるんでしょうけれども,要するに,抽象的な目的を定めても,それによって直ちに権限が定まらないという意味での権限が定まらないという問題もあるんでしょうけれども。
  

ただ,○○幹事のお話,一番問題となりそうなわかりやすい例としては,当該信託においては信託財産を処分する権限があるのか,ないのかというのが比較的わかりやすい例で,例えば,ある特定の家屋とかこういうものを維持するために,それがそれなりに価値があるので,古い建物だし,維持するために信託を設定しているんだといったときは,これはその値段がどうであれ,とにかく維持することが目的なんですから,その信託においては当該家屋を処分することはできない。


1つぐらいしか今すぐには例が思い浮かびませんけれども,かように目的によって権限が定まる場合もあるのではないかと一番最後の問題については思うんですが。

  2番目,3番目あたりは少し難しい問題なので。
  第1番目の問題は前から○○幹事が主張されている点だと思いますけれども,善管注意義務違反というものが権限に全然関係なくていいのか,簡単に言うとそういう問題ですか。


受託者が善管注意義務違反の行為をしていることを相手方が知っているようなときに,善管注意義務の問題は権限に関する問題ではないから,第三者との取引の効力に影響を及ぼさないというのは適当でない,そういう御趣旨ですよね。


● そうですね,1番,2番あわせてそうであると言っていただいても構わないかと思います。


● これはいろいろ御議論があるところだと思いますけれども。

  私自身も,善管注意義務違反の問題は全く権限と関係ないとは必ずしも思っていなくて,場合によっては,善管注意義務違反というのはある種の重要な権限と結び付くことがあるんだと思います。


ただ,どういう善管注意義務違反が権限に結びつくのか,あるいは相手方が知ってさえいれば,どんな軽い善管注意義務違反であっても,今度は逆に権限外のことになるのかとか,そういうふうに考えると,どうもそう簡単ではないような気がして,そこで,権限の問題はやはり権限の問題として,善管注意義務違反の問題と切り離して考えたらどうかというのがここでの原案なんだというふうには理解しています。これは私の理解です。

● その立場は非常によくわかるんですが,その立場が実効的といいますか,実際的であるためには,第33の規律によってしかるべく権限の範囲が制約される。客観的にですね。

それがあると,そう言えると思うんですよ。第33によって権限範囲が制約されているんだから,それを超した行為をどうするかをまず問題にしようと。

  最後に申し上げたことは,第33の規律によって権限というものがある程度,まずは小さくなると言えるのかということなんですが,もしそれが,第33の規律では権限範囲をある程度狭めるといった効果がもたらされないとなりますと,結局,第34は野放し的になりかねないような気がするので,第33と第34は,その意味ではすごく密接に関係していて,第33がどれだけ実効的に縛れるかということと関係しているのではないかと思います。


● 第33で問題にされているのは信託目的による制限であって,信託行為による制限は構わないわけですね。

● そうです。


● 信託目的というのは抽象的な場合もありますので,これで直ちに,客観的に権限が明らかになるということは,そう多くはないんだろうという気がします。ちょうど法人の目的と同じようなものだと思いますけどね。


  ただ,では全然意味がないのかというと,必ずしもそうではないので,そういう意味で,ここでは一応,信託目的によっても権限が画される場合があると。

ただ,それが明確でなければ,つまり目的の範囲に入るのか,入らないのか,そういうことがよくわからなければ,これは逆に権限外であることが主張できなくなるのではないですかね。


  信託目的についてはそうですが,ただ,甲案,乙案はさらに,甲案であればさらに明確ですけれども,「信託行為の定めに従い」ということなので,そこでは非常に明確な権限が定められていることがある。


その点,乙案の方が少し明確ではないのかな。甲案でいけば,少なくとも受託者の権限を画することになってくる。
  こういうのが第33についての理解ですけれども,ほかの皆さんはいかがでしょう。あるいは事務局の方で。

● 善管注意義務違反については,御指摘のような問題があり得ると思います。

すべてがセーフというわけではなくて,教科書などでは「重大な」といった規律もしております。

それはまた何が重大かという問題になってきますけれども,善管注意義務違反によってもケース・バイ・ケースで,場合によっては取消しの対象になるであろうという理解をしておりまして,一律に善管注意義務違反だったらどう,忠実義務違反だったらどうという理解は難しいだろうということですので,この文言でも,善管注意義務違反の程度によっては権限外というところに昇華してくることはあり得ると事務局は認識しております。
 

 ただ,どんな軽微な善管注意義務違反でもいいかというと,それはさすがに,100万円で売るものを105万円で売ったら権限違反かというと,そこは難しいのではないか。


しかし,100万円のものを1万円で売ったら,これはちょっと問題があるのではないかとか,そういう程度問題かなと認識しているところでございます。

● 先ほど○○委員が言われました--ちょっと違うのかな,30%のところを1%超える,そういうのが軽微な違反なわけですけれども,この30%というのは権限の問題として書かれているので,○○幹事の言われる善管注意義務違反の問題とちょっと違うかもしれませんけれども,かように,非常に軽微なものについては,幾ら相手方が知っていても,それをすべて取消しの対象にすべきだということになるのかどうか,少し問題があるような気がします。


● その限りでは全くそのとおりだと思いまして,私も,非常に軽微な善管注意義務違反まですべて取消しを認めろと言っているわけではないつもりなんですが,そうしたときの立法の技術といいますか,仕方の問題として,善管注意義務違反というのは曖昧である,しかるに権限は客観的に決まる,したがって,権限に属しない行為についてだけ取消しの対象としようという流れでいっているにもかかわらず,大きな善管注意義務違反だったら「さすがにそこまでは権限がないだろう」という非常に実質的な概念だとすると,実は客観的には決まっていないわけであって,それは現行法における信託の本旨に従わざる処分というものに,かなり近づいているのではないか。

  私自体は,それが悪いことだとは思わないわけであって,○○幹事の説明はそのとおりだと私も思うわけですが,そうすると,ここの説明等において客観性が大切なんだ,権限外のときだけやるんだということを余り強調しますと,今後そういうふうな,ある意味では明らかに本旨に反し,相手方がそのことを十分に認識していた,ある意味では通謀的なものであるという場合にも,形式的に権限内であるならばそれで構わないという話になってしまわないか。

その辺をもう少し,第34の言葉の問題あるいは第33の権限の問題として考えることができないだろうかということであります。

● 重大な善管注意義務違反という形でもって,どういう場合が権限の問題に入り込んでくるのか明確でないために,せっかく客観的な基準をつくってもグズグズになってしまうという問題があることは私もわかります。


● グズグズになっていいという立場なんです。


● 仮に客観性を維持するという立場からすると,完全には維持できないのかもしれないけれども,重大な善管注意義務違反をもうちょっと限定して,○○幹事はさっき権限濫用タイプと言われましたけれども,そういうものについては,これは権限があるという前提で,しかし,権限濫用と言えるような,受託者が自分の利益を図るためにやっているような場合が典型でしょうけれども,そういう場合には,やはり相手方が知っていれば効力を否定しようというところでは,単なる客観的な権限の問題に尽きないものが入ってくる。そのぐらいはあってもいいのかなという感じはいたします。

● 今の御議論の前提で,言うまでもない自明の,しかし教科書的なことの確認だけさせていただければと思います。

  先ほど○○幹事がおっしゃいました「重大なものであれば権限の問題になる場合もあり得るであろう」という説明と,民法や商法で従来言われていることとの関係がどうなるのかという点の質問なんですが,今,○○委員からも御説明ありましたように,権限濫用の問題に関しましては,昔からずっと議論のあるところで,主として忠実義務を想定しているんだと思いますけれども,内部的な義務違反があった場合に,それは権限外の行為と見るのか,見ないのかという議論がずっとございまして,何が問題かといいますと,つまり,忠実義務を守ることが権限の範囲を画していると見るのか,見ないのかという議論がずっとあるところで,一部の有力な考え方は,忠実義務に従うということは権限の範囲を画しているのだ,したがって,そのような義務違反の行為があった場合には,これは権限濫用の問題ではなくて権限外の問題だという考え方があるわけですけれども,御承知のように,通説的な判例を含めた見解は,やはり内部的な義務は権限とは別だと。

権限というのは内部的な義務とは別に,客観的に決まるべきものだという前提で,権限外か,権限内だけれども義務違反,権限濫用だという仕分けを一応してきたと思うんですね。

  ただ,この議論の主たる場面というのは,権限の範囲がかなり包括的な場面を想定してきただろうと思います。


会社の場合もそうでしょうし,あるいは法定代理などを想定しているとはいえ,しかし,通常の一般的な代理についても同じような考え方を民法でもとってきたんだろうと思うんですね。

それがいかん,おかしいという御主張が○○幹事には若干あるのかなと思いますけれども,しかし,その理論は置いておいて,信託については重大な善管注意義務違反の場合には権限外だと簡単に言って大丈夫なのか。


やはりもう少し整合的な説明を併せてつけ加えないと波及するのかなという気がいたしました。
  もう自明の前提だとは思いますけれども,念のため。

● 理論的にはなかなか難しいところなんですけれども,ただ,流れとしては結局,忠実義務違反行為は権限外になるんでしたよね。これは前回,前々回でやったのかもしれないけれども。
● 忠実義務違反は……
● 明確になる。

● ……と考えておりますけれども,ただ,例えば商法などでは,一般的な忠実義務に反したら直ちに権限外ではないけれども,自己取引などに違反した場合は権限外とか,忠実義務だから常に権限外と言えるかというと,全くそこも,本当に一律に決めていいかちょっと疑問があるところでございまして,そうしますと,結局,権限外ということについて客観性を余り強調するのはどうかという○○幹事の指摘は,まさに我々としても痛いところでして,信託目的というのも,ある意味では多少あいまいなところもありますし,そもそも信託事務遂行義務も「信託の本旨」という言葉を入れて膨らませているわけでして,それに対応する権限というのも,ある程度の膨らみがあるでしょうし,重大なものかどうかということで,ある程度の基準ができてくるということになると,権限の内外というのは信託の本旨よりは客観性がある気がいたしますが,極限的には,どうしても事例判断によらざるを得ない。
 

ただ,今,○○委員が言われましたように,忠実義務は,善管注意義務違反に比べれば,基本的には権限外という可能性が強いだろうと認識しているところでございます。


● 理論的には難しい問題がたくさんありますけれども,もう一つ○○幹事の言われたことがありましたね。

取消しの効果というのは結局何だろうということで,場合によっては,取り消された方が相手方にとって有利であるという……。
  


これは受託者に責任がある,そういう前提での話ですね。常にあるとは限らないので。

● ○○幹事の指摘とかみ合っているかわからないんですが,我々のここの取消しというのは,前から言っているように絶対的取消しだと考えておりまして,信託財産にも効果が帰属しなくなりますし,固有財産にも効果が帰属しないという意味で,行為の効果がすべて消えるというのが,ここでの取消しの効果と我々は認識しております。


それが御疑問に答えているかどうかはともかく,そういう取消しの効果と考えているところでございます。


● よくわからないまま発言して大変恐縮なんですけれども,それというのは,受託者が主観的に「信託事務の執行である」という気持ちをもってしたら,外形的に判断したときには,それが信託事務の執行であるといった形をとっていなくても必ず信託事務の執行としてのみの性格を有し,仮にそれが権限の範囲外であって,相手方がそれを重過失で,例えば知らなかったという場合には,形の上では,受託者個人がただ単に受託者の名前で借入行為をしようとしているという形なんだけれども,しかし,全く当該契約の効果は失われてしまうことが前提になっているんですよね。

● はい。


● そうなんですかね。
  結局そうすると,受託者が「いろいろあるけれども,これは自分のためにやった」と一言言えば,これは自分のもののことになるんですかね。余りうまく言えませんで,すみません。

● 前から○○幹事が気にされている点だったと思います。


この会議で前に議論したのか,あるいはほかのところで議論したのかわかりませんけれども,つまり受託者が,主観的には自分に効果を帰属させるつもりだけれども,外形的には信託事務のために行っているという……。

● 本来は逆なんですけれども。つまり,受託者の信託事務の執行形態というものは,信託財産に責任を限定する特約を締結する等々のことをしない,つまりアズ・トラスティという形でしない限り,受託者個人の名前で出て,相手方とある一定の法律行為を行うにすぎないわけですよね。


それが信託事務の執行としての性格を取り消されたということになりましても,それはただ単に,受託者の個人的な契約としては存続すると考えるのが筋なのではないかと私は思うのですが。
  


またそのバリエーションとして,それではアズ・トラスティと言った場合はどうなるのかという問題が出てくるんですけれども。

● わかります。完全に人格が違う代理の場合と違って,信託の場合には受託者が,いわば行為者であって,信託のための行為であるという性格が消えると本来の受託者個人としての--受託者個人の名前で取引しているわけだから,それが復活するというのか,生きてくるのではないかということだと思います。

● ○○幹事の御指摘されている問題に全面的には答えられないんですが,一部に対応する形で発言させていただきますと,第34の1の①に書かれていない前提があるのかもしれないと思います。

  といいますのは,①で,この要件に当てはまって取り消すことができる場合というのは,受託者が主観的にといいますかね,受託者の意図として信託事務処理として行った行為で,かつ--そこは多分,○○幹事も前提にしていると思うんですが,もう一つがよくわからないんですけれども,かつ相手方である第三者も受託者の行為が信託事務処理として行われていることを知り,しかし,受託者の権限に属しないことを知っていた場合--ちょっと重過失は落とします--そのときには取り消すことができるのであって,第三者が信託事務処理として行われていることを知らなければ,たとえ権限に属しないことを知っていても,まさに固有財産で取引をしていると思っていたというときには,取り消せないだろうというのがおっしゃっていることの一部ではないかと思うんですが,それでよろしいですか。


● そうです。


● その場合に取り消せるのか,取り消せないのかというところを,まず考えないといけないんだろうと思うんです。


この1の①から解釈でどちらかというのではなくて。どういう解決が望ましいのかを考えないといけないと思います。


  それは,ちょっと十分に考えていないんですけれども,○○幹事の意見にも私も賛成……,今のところ,賛成したいと思います。
  事務局がそうであるのかないのか,私もお伺いしたいと思います。


● 前回の説明資料でその点を論述してあったのですが,受託者の取引の相手方が,受託者の信託事務の遂行として相手方と売買していると認識している場合であれば,信託財産に対して売買代金に係る債権を執行できるという期待は保護に値するにしても,取引の相手方が,受託者が信託事務の遂行として当該相手方と取引していると必ずしも認識していない場合にまで,当該相手方の信頼を保護して取引の効果を信託財産に帰属させる必要はないのではないかという指摘もこれまであったところでございます。

  結論だけ申しますと,相手方が信託財産だと認識していないときは,これは取消しはできなくて,取引の効果は信託財産に帰属して,信頼は保護されるということであります。

  そのようにする妥当性はどういうことかなのですが,例えば,受託者に対して既に財産が交付されて,受託者もこれについて信託財産の中から支払の全部または一部を履行している場合ですとか,受託者に既に交付された財産が信託のために用いられている場合には,既に得た財産はもう信託財産に帰属させるとした方が問題の解決には資するのではないかと思われます。

  御指摘の懸念というのは,主として受託者が自らの債務を全く履行していなくて,取引の対象となった財産が信託のために用いられていなかったという限定的な場面で問題になるにすぎないのではないかと。

それから,取引の相手方が受託者の行為は信託の事務の遂行であることを必ずしも認識していない場合でも,受託者の行為が権限内の行為であれば相手方は信託財産に対して執行することが可能であるところを,こういったケースと先ほど申し上げた権限違反の行為がなされたケースとでは,相手方の認識状況,すなわち受託者の行為が信託事務であるかについての認識状況ですとか,それから,相手方が交付した財産は信託のために用いられているんだという点については全く同様であるにもかかわらず,たまたま受託者が行った行為が権限外であった場合には信託財産について執行することができないというのはバランスを失しているのではないか等々から考えまして,先ほど申し上げたような結論でどうかという考えを前回は述べさせていただいたところであります。


● 誤解のないように補足いたしますと,相手方が信託として取引していると認識している場合であろうが,相手方が信託として取引していると必ずしも認識していない場合であろうが,その場合は取り消せないというのが前回の我々の考え方でございまして,その理由は今,説明がありましたけれども,権限内であれば効果が帰属するなら,権限外であっても同様な結論をとっていいのではないか。

確かに権限外であるということであれば,受益者の利益は害されそうであるけれども,他方,取引の相手方も権限外であることについて善意無重過失で保護されるということもあると,保護される場合と保護されない場合とで結論を異ならせるような理由はないのではないかというのが前回の提案の説明でございます。

● 確認のための質問なんですが,代理の場合で言いますと,相手方が,本人ではなくて代理人に対して法律行為をしたので履行せよとか何か言ってくる場合には,代理人としては,いや,自分は代理人として契約をしたんだ--民事の場合ですと顕名をしたということを言えば,その履行請求は拒むことができるんだろうと思います。

  それともし同じように考えるならば,権限の範囲内かどうかは別として,これは受託者個人としてやったことではなくて信託事務の履行としてやったんだ,あなたもそれを知っていたでしょうということで,先ほどの代理と同じような履行請求なり何なりを免れることができる可能性を認めるかどうかというのが,多分,○○幹事あるいは○○幹事がおっしゃっているようなことなのかなと一瞬思ったんですが,その点はいかがなんでしょうか。

つまり,取り消せるかどうかではなくて,権限の範囲外だということで取り消せるというのは,ルールとしてはある。


しかし,それ以外に今,言いましたように,いや,これは信託事務の履行としてやっているわけであって,あなたもそれを知っていたでしょうというようなことで免責があるのかという点は,いかがなんでしょうか。そこを併せて説明いただくと,わかりやすいかと思います。

● 信託ということを認識している場合は,その信頼を保護して信託財産に効果は帰属する。


信託の取引であることを認識していない場合であっても,権限外について善意無重過失であれば,やはり信託財産に効果は帰属するというところで,同じように考えているということでございます。

● 私は○○幹事のより,むしろ相手方も,受託者の方も信託事務処理とは考えていなかった場合には,これはもう信託財産にはかかっていけない。そこは代理と同じように考えるんだろうと思っていたんだけれども,違いますか。


● 受託者も思っていない場合,それは信託財産にいかないのではないでしょうか。
● いかないでしょうね。


● 受託者は思っていた,相手も思っていたんであれば,いく。受託者は思っていた,相手は信託とは思っていなかったというときでも権限内であればいくんだったら,権限外であっても善意無重過失ならいく,そういうような話でございますが。

● 仮に相手方が信託事務だと思っていなかったから,その場合,信託財産に帰属しないんだといっても,例えば信託財産に属する特定物の売買などをしたときには,どちらにしろ信託財産に帰属すると考えて執行できると考えていかないと,話の辻褄が合わなくなるのではないかとも思ったのですが。


● もう一度言い直しますと,さっき私が申し上げたような問題は別にあるとして,今の問題に即して言いますと,代理の場合ですと,代理人が代理行為を相手方と行った,にもかかわらず本人に履行請求が来たときに,これが本人のための代理行為として行われているのであれば本人は履行を拒むことはできないわけですけれども,代理行為として行われたわけではない,民事ですと顕名がないということであれば,もちろん履行する必要はないというようなお話が出てくるわけです。


それに対応した問題だという位置づけで,しかし,先ほどの御説明ですと,権限の範囲内かどうかでこの問題は一律に扱わないと不公平になる,そういう御理解なんでしょうか。

● 今,○○幹事がおっしゃったように,効果意思というんでしょうか,代理士と同じように受託者にも信託事務を処理しているという……,効果意思が必要だというところは同じでございます。そこから先が,権限内外とか認識によって区別しないと。

● 受託者の側で……,代理人行為説みたいな発想ですね,一種の。


● 効果意思は必要ということです。受託者側ですね。
● そこで決めるということですね。
● 第一義的には,そこで決めます。

● 権限内の行為の場合のときに,相手方が当該取引が信託事務の執行であると思っていても思っていなくても,いずれにせよ信託財産に対して執行していけるんだ,だからという話なんですが,そこは「だから」なのかというのがよくわからないところであります。

  つまり,信託事務の執行行為であるというときに,信託財産に対して相手方が執行していけるというのが,どのようなメカニズムによって起こっているのかということなんだと思うんですね。

それは,受託者が当該取引に信託事務の執行であるという色をつけたからという理屈で考えますと,それはそのとおりで,受託者が行為時に色をつけたならばそうなるんだということになってしまうんだと思うんですけれども,やはり私は,それほど単純な話ではなくて,受託者はもちろんそういう主観的な意図をもって色をつけたわけだし,それで,相手方がそれを色をつけて信託事務の執行であると考えていた場合には,その信託財産が引当てになると考えたであろうと思われますし,仮に信託事務の執行であると思っていなかったと仮定した場合には,受託者の行為によって色がついたからというんではなくて,やはりそこは利益衡量の問題で,相手方に信託財産に対する執行を認めてよいのか。

それは信託事務の執行としてなされている話であって,かつ権限内のものなんだから,受益者にそれによって信託財産から直接とらせても,受益者に損失をこうむらせるものではない,だから相手方に信託財産に対する執行を認めよ,そういった利益衡量の判断の中でなされている話ではないかという気がいたします。

  受託者が色を塗ったからである,それだけの理由によって信託財産への執行が認められるに至るんだということになりますと,今の○○幹事等の御説明のとおりであろうと思うんですけれども,そこは私は,疑う必要があるのではないかと思います。


  そして,実質的に考えたときに,確かに権限内の場合には執行を認めたってだれも困らないわけですけれども,権限外のときに執行を認めてあげる必要が,相手方をそこまで保護する必要はないし,他方,受益者はそれによって損失を被るわけですから,必要性がないと私は思います。

● 権限外の場合はだめなんでしょう,信託財産。


唯一違っているのは,受託者はとにかく,今,色をつけるという言い方をされたけれども,信託事務の処理として行っている。


相手方は,そういう意図ではなかった。そのときに,権限外であれば,やはり信託財産にはかかっていけないけれども,権限内であれば信託財産にかかっていけるとするか……,やはりだめだと。


● 権限内であれば,それはできていいんですけれども……。


● 相手方は,そういう意図で取引しているわけではないから。


● それはそうですけれども,現在の建前でも,信託事務の執行の場合には,信託財産に対して執行していけるとなっているわけですよね。


別にそこを今,変えるべきであるといった主張をするつもりはないんですが,権限外の場合であって,かつ○○幹事は,権限外の場合で,相手方がそれが信託事務の執行だと知らない場合も,悪意または重過失ならば保護が断ち切られるんだ,取消しの対象になるんだとおっしゃいました。

それは理屈の上ではそのとおりなんですけれども,当該取引が信託事務の執行であると思っていない人が,なぜそれが権限外であることについて悪意または重過失であるということがあり得るのかというと,それは基本的にはあり得ない話ですよね。

  そうすると,悪意または重過失の場合には保護されないんだからバランスがとれているでしょうという話にはならなくて,当該取引が信託事務の執行であることを知らない第三者は,受託者が色をつけたときには,当該取引が信託事務の執行であると意図したときには常に保護され,その取り消しは行われないことになるというのが現実的な整理だと思うんですね。そして,その必要はないのではないかと思うんですが。

● 仮に○○幹事の立場をとると,ほかの問題もいろいろ入っているけれども,幾つかの枠組み,権限外かどうかという言葉は残すとして,要件としては何が,あるいはこの原案から何を外すことになるんですかね。

● それは恐らく○○幹事がおっしゃったことに関係しているんだと思いますけれども……

● 意味をつけ加える。要するに,これが適用される前提条件を明確にするということですよね。
● そうですね。


● とんでもない思い違いをしているかもしれませんが,受託者も当然信託事務のつもりでやる前提で,相手方も信託事務だと思っていた。

その信託財産に属するものを何か売りましょうという処分行為をして,それで権限外であることについて相手方は善意(無重過失)であったというような場合は,現行法だって別に,これは有効に信託財産に帰属するわけですね。

その前提があるとすると,ここはちょっと分かれるのかもしれませんが,信託事務であることは認識していて,だけど権限外であることまではわからなかったという第三者と,まさか後ろに信託というものが構えているとは知らずに,これは多分,普通に取引しているんだろうなと思っている第三者が登場して,したがって,善意(無重過失)かというようなことを調べようもないわけですけれども,そういう第三者が登場したときに,後者の方が,突然外から「ごめん,これ信託財産だったのでアウト。さようなら」と言われて,その取引の安全というのは考えなくていい,前者の方は考えるべきだということになるのかどうか,そこのバランス論が……。

私は,前者が保護されるなら後者だって当然保護されるのではないかと考えたのですけれども。

● 私も当然だと思います。だからこそ,現行法第31条は処分に限定しているんだと思います。

  今,特定物の売買の話を出されるので突然そうなるわけであって,例えば,何でもいいんですけれども,借入行為でもいいかもしれませんが,そういったものを,特定物の売買だけがかなりの特殊性を持っているのが,現行法が処分行為という概念を入れて第31条の適用範囲を制限している理由ではないかと私は考えているんですが。

  では,借入行為をした場合に,なぜ執行ですね,これは受託者個人で借りていると思っている第三者が,その信託財産に対して執行していけるということになるのかが私にはわからないんですけれども。

  ですから,ちょっと私,バランスを判断するときの例として,特定物に係る売買契約その他,処分行為がかなり特殊なものではないかと思うんですけれども。

● 論点整理させていただければと思うんですけれども,この権限違反の行為についての扱いとして,ここで提案されている第34が適用される場面が,今,問題になっているわけですけれども,一番問題ないのは,受託者の方も,これは信託事務の処理,そういう行為として,これは処分だけではなくて処分以外の行為であってもいいと思いますけれども,行っている。


相手方も,信託事務の処理として行われているという前提で,しかし,権限外であったというときにどういうふうに保護するかというのが,第34の問題である。

  ここは仮にそういうふうに限定して,先ほどから,受託者の方が信託事務の処理のつもりで相手方がそうではなかったという例などが挙がっていますが,ちょっとそれについては別に--最終的にまたこの中に組み込むかもしれませんけれども,後者についてどういうルールで,どういうふうに解決したらいいかというのは独自に検討して,それで,最終的に第34と統合させて考えるのか,あるいは別個何かルールを考えるのか,そういうふうに分けて議論した方が,どうも生産的なような気がするんですね。
 


 今,第34の中にすべてを入れて議論すると混乱する可能性があるので,そういう議論の仕方はいかがでしょうか。それ自体は,○○幹事は別に反対はされないだろうと思いますけれども。

● 今の整理に賛成です。
  その上で,もう時間がないので相殺のこととも絡めて申し上げたいんですが,よろしいでしょうか。

  結論的には,相殺の問題についても,今の「別に考える」という中で取り上げていただければいいのではないかと思います。


今回のこの相殺の取り扱いについて,今の議論をお聞きしながら感じた問題が3点ほどあるんですが,1つは,相当の理由があったときにはというような主観的要件を課しているけれども,しかし,その中身は善意(無過失)であるとおっしゃっていた。

そうすると,何か正当な理由の方が自然な感じがするのに,なぜあえて「相当」という言葉を使っているのか。

  2番目に,2の①では(イ)と(ロ)という2つの類型を挙げているのだけれども,2の②では1つの類型しか挙げていなくて,逆に言うと,1つが落ちていることになる。これはなぜなんだろうか。


  3番目に,これは冒頭に○○幹事がおっしゃったことですが,基準時が債権発生時か相殺時かについて,これは債権発生時であるとおっしゃって,そうなると思うんですが,であれば,この時期を明確にした方がいいのではないかと思います。


そうしますと,時期を明確にすると,これは債権発生時における信頼の保護ということですから,それを債権の準占有者に対する弁済から持ってくるのはやや迂遠な感じがいたします。


つまり,債権の準占有者に対する弁済から,預担貸しを通じてここに至るわけですが,その債権の準占有者と預担貸しの関係について周知の議論がありますし,さらに,預担貸しとここでの状況が同じかどうかについても問題があると思います。

  今,出てきた議論との関係では,取引の効果帰属がどちらにあるのかということと,むしろ関連してくるわけでして,取引の効果は帰属しないけれども,なお相殺を認めるという,何か隙間みたいに埋めている感じがするんですが,実はそれは,さっき○○委員がおまとめになりました「別個考えてみる」という中で論じられるべき一側面ではないかと思います。

● 既に違うところで議論されているのかもしれませんが,まず基本的なことを1つ教えていただきたいと思います。


  「受託者として」ということを明示しなくても,内心の主観的意図だけでよいという議論がすべての出発点でして,現行法もそういう解釈なのかもしれませんけれども,通常,信託銀行が取引するときでも--貸付信託の場合しないかもしれませんけれども,それ以外の場合ですね。


流動化でも民事信託でも,「受託者として」ということを明示しないことが,それでいいんだ,それ自体が受託者としての義務違反にもなっていないところが,それがあったとしてもという議論で根本的な解決にはなりませんけれども,少なくともそういうことを明示する義務があるということになれば,取引の相手方の保護としても「では,あなたの権限は何ですか」というところで次のステップに入れると思うんですけれども,それ自体もう根本的に必要ないんだというところから始まると,心の中で何を考えていたんだろうかとか,相手方も何を考えていたんだろうかというところで何かわからなくなるというところを疑問に思っていまして,法律論ではなくて常識的な議論になってしまいますが,その辺をどうとらえるのかということ。


  あと,ちょっと違いますけれども,ちょっと前の議論で,動産云々というのは信託の公示の議論であって,他人物売買をしたみたいなところだけれどもというような解決なのかなと。


要するに,信託自体,準法主体説ではないという前提でのすべての出発だと思うんですけれども,何かもうちょっとわかりやすい割り切り方で議論していかないと,この議論は発展していきがたいのではないか。

準法主体的な,でも自分でやる以上は受託者としてという顕名をして,そして効果意思はこっちに帰属する,しないときには自分としてやったんだというふうに認識するとかですね。

そして,こっちで執行するときには対抗関係としてとらえるとかいうふうに割り切っていかないと,議論としてもついていきがたいところもあるし,権限の議論についても,取引の相手の立場だったりするとなかなかついていきがたいところがあるといいますか。


  ちょっとまとまっていませんけれども,何かもうちょっと割り切った整理が出発点としてあった方が,いろいろな問題点が解決しやすいのではないかと思った次第です。

● 前半の部分は,受託者としてという意思を表示しなくても,現在,取引もされているし,その場合にどう考えるかという問題として,私,さっきは○○幹事がさっき議論されていたことに少し賛同したので少し矛盾しているかもしれませんが,そこは完全に代理と同じではないところが多々あるんだろうという気がするんですね。


受託者がとにかく取引をしているわけですけれども,それは受託者として行為をしていれば,もちろん信託財産に効果は帰属するけれども,それを明確にしていないといいますか,そうではない地位で取引をしていたときに--ごめんなさい,そうではないというのはちょっと変だな。
  

代理だと代理人が本人に効果を帰属させるけれども,権限がない場合があって,代理人にも効果が帰属しない,本人にも効果が帰属しない,そういう場合が生じるんですけれども,信託の場合,それを認めていいのかどうか,ちょっと疑問がなくはないんですね。


信託の場合には,信託財産に効果が帰属するか受託者個人に帰属するか,どちらかと考えるべきではないかということも私は前提として考えているんですけれども,いずれにせよ,その部分についてどういう共通の理解をするかが余り明確ではないことが問題だということですね。

● そういう,顕名しないときには,いずれも可能なんだということが議論の出発点になれば,それはそれで。


● その出発点も含めて,帰属の問題については,最後は権限違反の問題にもかかわってきますけれども,ここで言う権限違反の問題とは別に考えてみたらどうかというのが先ほどの御提案なわけです。

  今,○○委員が指摘されたようなことも含めて,出発点から少し考え直したいということですね。

● 私は相殺について,先ほど○○委員がおっしゃったことと若干関係して意見を述べたいと思います。

  前半の○○幹事の意見に反するようなことを申し上げることになると思いますが,要は,相殺する場合の相手方の保護を重視すべきではないのかということなんですが,そこで,いえば善意無過失の挙証責任というのが,この御説明であれば,例えば①のロでは債務者にあると整理されていると思います。


理屈的な話は別として,実務的な話としては,例えば受託者がいまして,銀行取引をしている。


銀行は受託者からお金を預金として受け入れて,金を貸しているといった状況で,仮にその預金が信託財産から来た場合はどうなのかという話なわけですけれども,仮にそれが後で相殺できないとなると,これは銀行にとっては非常に問題だと。

  先ほど○○幹事の御説明の中で,相殺がなぜ特別に2として切り出されるかというと,やはり相殺というのは金銭の取引に関する引当財産になるということで,非常に保護されるべきだという価値判断があったと認識しているわけですけれども,やはり相殺の期待は実務的に非常に大きいですし,逆に,もしそれができないということであれば,繰り返しになりますけれども,例えば銀行としては,お金を受け入れるときに「あなたは一体だれの立場としてやっているんですか」と聞かなければならない,そういう煩雑さが実務的な問題として出てくるのではないかということでございます。


  ○○幹事は,民事信託について考えると非常に酷ではないかといったことをお話しされましたけれども,第三者と受益者との引っ張り合いのときに,どちらを保護するのかという価値判断だと思うんですけれども,その価値判断レベルの話としても,やはり第三者を保護するべき方に傾くのではないかということです。


  理由は2点ございまして,1つは,先ほど○○委員がおっしゃられたことですけれども,法律的にどうなのかは別として,べき論としては,受託者が「この資産はだれのものである」と明確にすべきではないのか。


それをしないのは,やはりその責任を第三者に押しつけるわけではなくて,受託者に受託者を通じて受益者ということになりますけれども--に負ってもらうのが妥当ではないのかということです。
 


 2つ目は,それにつながるんですけれども,第三者と,それから,かかる受託者が適正に開示をしなかったことに連なる受益者と,どちらを保護するかというと,やはり直接受益者と受託者との関係が,委託者と違って信頼される関係にはございませんけれども,ただ,グルーピングとしては,やはり受託者,委託者,受益者と,それから第三者というふうに分かれるわけですから,どちらを保護するかと考えれば,やはり第三者の方に傾くのではないか。


そう考えますと,やはり挙証責任ということも基本的には受益者が負うべきではないのか。それは,①の(ロ)についても同じことではないかと思います。


● 第三者の保護に関しては,第34の①の場面で問題となっているようなところで,第三者保護をどういうふうにするかという問題があるわけですが,先ほどの御提案は,その問題と相殺の問題とは一応切り離して議論したらどうかということなんです。

  相殺の問題というのは,先ほどの私の整理で言えば,当該行為--受託者が相手方と行った行為が一体どこに帰属する行為なのか余りはっきりしていないときに,相手方をどうやって保護するか。


相殺の例が典型ですよね。相手方が信託銀行というか,銀行本体に預金をしているときに,信託銀行から貸し付けを受けた。


それが信託財産から貸し付けられているのか,つまり受託者として貸し付けているのか,固有財産として貸し付けているのか,それがよくわからない。そういうときの相手方からの相殺を保護しよう,そういう御趣旨ですよね。

  これは先ほどの整理で言えば,どこにその行為の効果が帰属しているかについての相手方の誤解あるいは信頼を保護するという問題で,これと典型的な権限違反の問題とは一応切り離して整理して,もう一回御提案したらどうかということです。


● ○○委員がおまとめになったような形で検討することが適切であると考えるのですが,その検討の際に御留意いただきたい点を1つだけ申し上げさせてください。


  具体的には,相殺についての取扱いの,例えば①の(ロ)ですけれども,「信託事務により生じたものであると信じるに足りる相当の理由がある場合」という話と,権限違反か,権限外かどうかといったことに関連して,このあたり,一体どういう概念を持っているのか整理する必要があると思います。

  もともとこれは効果帰属の問題としてとらえられていると思うのですが,例えば(ロ)の局面というのは,信託財産に属する債権を第三者が,実は固有財産に属するものであるにもかかわらず,信託事務により生じたものであると信じるということで,第三者の主観からすれば,どちらも信託債権・債務ということで相殺するような局面だと思うのですが,そういったものについて,権限外かどうかということとは別概念であり,ここでそれを区分けした場合に,既に議論がされていますけれども,別途権限外かどうかというのが立つのだとすると,なお権限外であるということがあり得ると思います。

  信託事務として借り入れるんだろうと思っていたけれども,でも,そういう権限がないことはわかっているといった場合があり得るわけですが,そういったときの取消しがさらにできるのか。

  これまでのお話ですと,1の場合は効果帰属の面で,少なくとも受託者が信託財産の方の効果帰属であると決定している場合を前提にしているということですが,2の想定されている場面というのは,そこが,そもそも受託者はそうではないとされているときですので,取消しとの関係を整理していくときに,取消しができるのか。

できないとすると,一方で非常に問題ではないかと考えるのですが,できるとしたときに,その効果がどうなるのかということで,これも既に議論になっているかとは思いますが,こういった場合も,およそ絶対的に効果がないということでいいのかどうか。
  この点も一つの具体的な問題として御検討いただければと思います。


● 御指摘のとおり,1の問題と2の問題と,ちょっと性質が違うものをとりあえず取りまとめて提案しているところでございますが,今後,分けて検討の対象としたいと思っております。
 


 ただ,○○委員がおっしゃった基本的な構造というのは,我々の認識としては,やはり受託者が信託財産の所有者であって,受託者がした行為の効果は,もちろん受託者には帰属するわけですけれども,現行の信託法第16条で,特に「信託事務ノ処理ニ付生シタル権利ニ基ク場合 」については信託財産にもいけるというところを前提に議論してきておりまして,特に「これはおかしい」ということがあれば別として,なかなか基本的な構造ということは,こういう前提でいろいろ組み立ててきていることを御理解いただければと思います。

● それは十分理解しています。
  その場合に,権限の議論といいますと,ある受託者が持っている財産というのは,信託の公示は別として,通常取引するときには,その方が一切権限を持っていると逆に認識--だから権限の議論になるのですけれども,そういうところが出発点になり得るのか。


だから,権限はかなり広くとらえるところから,逆に制限的に議論していかないと,権限を持っていて自分名義なんだけれども,実はこれは信託財産でしたというところで,善管注意義務とか,別に開示されて公開されていないところの信託契約の中の規制とかが出てくる,そこの整合性がちょっとと思った次第です。

● 大分御議論いただきましたけれども,ある程度整理の仕方については,その中身はまた別として,大体御了解いただいたと思います。この点はなお検討させていただきたいと思います。
  それでは,次にいきましょう。

● では,最後に受託者の有限責任に関する問題について御審議をいただきたいと思います。


  一番最初の資料,第27と第28でございます。


  第27は,現行法第19条に相当する規定の見直しでして,提案内容は,前回から変更はございません。

現行法第19条の趣旨につきましては,受益債権の場合については,信託財産に対してのみ執行できるということ。


換言しますと,信託財産のみが責任財産となることを規定したものであると解されておりますところ,その趣旨を明らかにすべく規定ぶりを改めた,物的有限責任であることを明示したということでございます。


  続きまして,第28は,受託者の有限責任性を原則とする信託に関する提案でございます。
 


 まず,提案1でございます。これは前回は提案2としていたのを1にしたわけでございますけれども,信託取引上の債権に基づく履行責任に限らず,例えば民法第717条の所有者責任など法定の原因による無過失責任も含めて,責任財産が信託財産に限定されることとなる新たな信託の類型の創設を,このような物的有限責任を認めるにふさわしいと思われる債権者保護手続・措置を設けることとあわせて提案するものでございます。
  


第5回会議におきましては,このような新たな類型の信託を創設することの当否について審議をいただきましたが,財産の独立性を確保した上で,柔軟な制度設計のもとに所有と経営の分離を図ることが可能となりまして,資料3ページの冒頭に記載いたしましたとおり,種々のビジネスを初めとする目的でのニーズに応えることができるのではないかとの観点から,総論として賛成との意見が多数を占めたものと認識しております。


  そこで,今回の提案におきましては,受託者が有限責任となる新たな類型の信託を設けることを前提に,債権者保護の措置としてはいかなる規律を設けることが適当かを問うものでございます。
  


すなわち,提案におきましては,1の(2)※1のア,イ,ウとありますとおり,大別して3点。1つは信託財産の確保,もう一つ,イは受託者の第三者に対する責任,ウとして予見可能性の確保のための措置を設けてはどうかとしております。

  このうち,アの信託財産の確保のための措置としましては,商法の配当規制に関する規定などを参考に,いわゆる財産分配規制と,違法な財産分配がなされた場合の受託者及び受益者の責任についての規律を設けることを提案しております。

  この分配規制をかけるに当たって基準となる額につきましては,とりあえず,アの①のとおり「一定の金額」とのみしてありますが,この金額としていかなるものを要求すべきかについては,さまざまな考え方があり得るところですので,御意見を伺えればと思っております。
  


また,予見可能性確保の措置といたしましては,ウでございますが,受託者と取引をする場合には,この新たな信託類型の信託の受託者であることを明示することによって,取引相手方に責任財産が信託財産に限られることを了知させることとしております。

このほか,投資事業有限責任組合に関する立法例などに倣いまして,当該信託が新たな受託者有限責任類型に属する信託であることについての予見可能性を作出する手段といたしまして,登記等の公示制度を設けることの当否について御意見を伺えればと思っております。

  なお,事務局といたしましては,有限責任類型の信託における債権者保護措置としましては,この提案に書いてありますア,イ,ウをもっておおむね足りるのではないかと思っておりますが,なおほかにも検討すべき措置があれば,ぜひとも御指摘をいただければと思っております。


  次のページ,2でございますが,これは受託者の無限責任を原則とする既存の原則形態の信託におきまして,受託者が信託取引をするに当たり一定の事項を明示することによって,取引上の債権については信託財産のみを有限責任とすることとする規律を導入することに関するものでございます。


  第5回会議におきましては,資料5ページの最後に書いておきましたが,基本的にかかる規律を導入するとの方向で御提案しましたところ,部会での議論によりますと,賛否両論が相半ばしたものと認識しております。

そこで,今回提案1のように,種々の債権者保護措置のもとに,原則として,債権の種類を問わず信託財産のみの物的有限責任とする信託の類型を新たに創設することを前提とした上で,さらに提案2に係るような規律を導入することとすべきか,仮に導入することとした場合には,いかなる債権者保護措置を設けることとすべきかについて,御審議いただければと思います。
  以上でございます。

● それでは,御議論いただきたいと思います。


● 新たな信託の類型と既存の類型,2点意見を申し上げたいと思います。
  まず,1点目の新たな信託の類型でございますが,これにつきましては,第5回の会議でも申し上げましたが,有限責任性を原則とすることからしまして,ビジネスを行う上で柔軟に意思決定できるということも併せまして,非常に魅力を感じているということで,方向性としては賛成です。


ただ,これについては既存の制度とは別立ての形で創設していただきたいということでございます。


  あと,これも第5回の会議で,受託者の不法行為についての有限責任性について議論があったと思いますけれども,一般の不法行為につきましては,当然,受託者の故意,過失によって起こりますので,これについては受託者が責任を負わないといけないと考えておりますけれども,例えば工作物責任等の無過失責任につきましては,これは受託者が責任を負わないような形態にしていただきたい。


この点が,新たな類型の信託の特徴ではないかなと思っておりまして,これが2の既存の有限責任の信託との大きな相違点であろうと思いますので,ぜひともお願いしたい。

  あと,※1の債権者の保護策につきましては,先ほど申し上げたように,特別の類型である前提にいたしますと,基本的な方向性としては,この程度の保護策は必要なのではないかと考えております。


  ただ,①の「一定の金額」というのが,先ほど○○幹事から意見をということでしたけれども,よくわからないところでございまして,この一定の金額というのは,絶対額として法定されるような性格のものなのか,それとも,例えば純資産等の割合で幾らぐらいといった形で決められるようなものなのか,それとも,例えば指摘1に委ねられて信託契約に書くというようなことで決められるようなものなのか,その辺のところをお教えいただきたい。

  それによっては,例えばその額が非常に硬直的で過大なものであるとしますと,やはり実務上なかなかたえられないなという部分もございますので,場合によっては,ここは反対させていただくこともあるのではないかと思います。


  あと,登記等の公示の制度なんですけれども,これも先ほど述べたように,特別の取引関係にない人に対しても影響を与える制度であるとすると,やはり何らかの公示制度は必要ではないかと考えております。

ただ,当然その姿勢は理解いたしますけれども,簡便で低コストな形のものをお願いしたいと考えております。

  もう一つは,2番目が既存の類型の信託でございますが,この信託につきましては,信託の取引が特約のないデフォルトの状態では,そもそも無限責任であることを前提に,特定の信託の受託者である旨と,特定の信託に係る信託財産に責任が限定される旨,これを明示したときに有限責任の世界に入っていくということでございますので,これについては,アメリカにおきましては当然アズ・トラスティということだけで有限責任となるというところの平仄から考えても,あとは日本の今までの実務慣行等を考えた場合においても即した規律ではないかと思いまして,基本的には提案に賛成したいと思います。


  ただ,有限責任を明示することによって,一方的に有限責任にさせられるであるとか,債権者として交渉が不利になる懸念があるといった御意見もありましたので,そういうことであるとすれば,我々としては,明示すれば入ってくるといったことに特にはこだわりません。


基本的には合意でも,そこのところは構いません。私どもの方としては,既存の有限責任特約が締結されれば受託者の固有財産に対して強制執行等ができなくなる,これは現行の実務でございますけれども,これが踏襲されて明示的に認められるということが一番必要なわけでして,それに基づいて,お互いの合意によって柔軟に,自由に有限責任の制度を利用していくことができればいいなと考えております。


  その際に,契約に当然のことながらいろいろな縛りが入るということで,現行においてもいろいろな縛りが入っておりまして,債権者保護が図られていると思いますけれども,ただ,何もないというのもどうかと思いますので,前回,法務省からの提案がありましたように,受託者の第三者に対する責任というものぐらいは最低限入れておいて,これは結構柔軟な規定であると思いますので,そのほかの部分についてはお互いの合意によって契約で入れていくという形にすればいいのではないかと考えております。


● 私の方からは,後者の既存の信託の有限責任化についてコメントを申し上げます。


  以前,この件に関しまして2つの資料を配付させていただいたかと思います。

1つは,2月25日の会合で配付させていただいた「国際銀行協会による信託の法定有限責任制度の導入に関する意見」という資料,あと3月11日の会合で配付させていただいた「流動化・証券化協議会準備会合による信託法改正に関する要望事項」,こちらの紙なんですけれども,まず,国際銀行協会のペーパーの趣旨から説明いたしますけれども,こちらの立場は,既存の類型の信託に関しての,明示による有限責任化に関しては基本的に反対ということでございます。

理由としましては,このような提案により,債権者側が責任財産限定特約といったものに,これまで同意することがあったのに,債権者側の同意が不要で受託者側からの一方的な表示あるいは通知により有限責任化が可能になるということが,これまで築かれてきた取引の枠組みに悪影響を与えるのではないか。


あるいはまた,有限責任化に伴うリスクを十分理解していない債権者が,これまでどおり,受託者の固有財産も責任財産になっているんだといったことを前提として取引を行って,損失を被る可能性であるとか,あるいはリスクがあることを理解したとしても,それを把握することが容易ではないといった可能性があるのではないかと考えています。

  こういった制度を導入することによって,むしろ信託財産との取引を行おうとする者が減少して,結果的に,例えば年金等の運用においてヘッジコストが増加するといった可能性もあり得るのではないかと考えております。

  あと,海外での事例として英国の事例を紹介しているんですけれども,イギリスでは,従来,対受託者あるいは対信託財産での債権者が,有限責任になっているわけですけれども,これは債権者の権利の保護が十分ではないという議論が続いているという事例を紹介しております。


その中で,97年及び99年に出されたトラスト・ロー・コミュニティのレポートを紹介しております。

  引き続き,英国においてはこの件,すなわち有限責任であるがゆえに債権者の権利の保護が十分ではないではないかという点については,引き続き議論が行われている状況だそうです。

  次に,流動化・証券化協議会のペーパーの方ですが,こちらの9ページ,5のところに責任財産限定特約の有効性の明文化という要望事項があるんですが,こちらの趣旨は,流動化・証券化実務で行われているような,責任財産を信託財産に特定した貸出しというんでしょうか,受託者側から見れば借入れですね。

この合意が有効であることを明確化してほしいという趣旨でございまして,これが必ずしも信託法のどこをどう改正しろといった内容にはなっていませんで,必ずしも信託法の改正という形で対処すべき問題ではなくて,むしろ解釈の定着ですとか,あるいは場合によっては倒産法とか,そういった分野の問題であるかもしれません。

  現行実務において,責任財産を信託財産に限定するという合意のもとに,ローンという形で,アセット・バックト・ローンと呼ばれる場合が多いと思うんですけれども,行われているわけですけれども,流動化・証券化実務の観点からは,それが有効であることが確認できればそれでいいのかなと考えております。
  

また,責任財産限定特約を置きつつも,これが合意によって特約という形になっていますので,受託者の責任が限定されないような場合を当事者の合意によって,個々の契約において特定しているところでございまして,一律に,信託法において受託者が固有財産でといいますか,個人責任を負担する場合を規定してしまうのは,むしろ弊害があるのではないかという気もしております。

  したがって,合意により受託者の責任の範囲を確定するといったことが,実務の観点からも望ましいんではないかと考えております。

  したがって,第28の後半の提案,通常形態の信託に関しましては,一義的には廃案にすることを希望いたしますし,あえて入れるのであれば,「明示して」ではなくて「合意して」という形で御検討いただきたいと考えております。

● 私は,原案に対して方向性としては歓迎する立場で,前回も同じようなことを申し上げたんですけれども,ただ,その個別論として,問題提起を差し上げるという意味でお話ししたいと思います。

  まず,第1の類型でございますけれども,前回もどういう必要性があるのかという点について問題提起して,それについて一部御回答がありましたが,ただ,いま一度内部で検討したところ,本当にビジネスニーズがあるのかというと,それほどあるのかなという感じでございました。そのことについて,まずは御報告したいと思います。

  いずれにしても,選択肢を増やすという意味では,こういう類型を1つ置くことは有意義だと個人的に思っておりますけれども,仮にそうした場合に,では,どういう要件にするのかというところで,ここで議論が出てきますように,債権者保護制度をどうすればいいのかという話が議論されるところでございますけれども,この点について意見を述べさせていただきますと,まず,ア,イ,ウの話なんですが,アについても,やはり一定の財産分与規制が必要ではないかと思っております。


ただ,具体的にどういうものが必要なのか,規模等いろいろございますので,そこがなかなか悩ましいところかなと。

新会社法には300万円という基準があるようでございますけれども,そのような金額も,一定の意味はあるかもしれませんけれども,一定硬直的なのかなとも思っておりまして,まだ悩んでいるところでございます。

  イについては,必要かなと思っております。

  ウについてでございますが,やはり一定の公示制度は必要であるかと思っております。


具体的にどういうものが必要なのか考えますと,LLP--今,上程中でございますけれども--との平仄を考えますと,やはり登記というのがあればいいのかなと思っています。


  ただ,先ほど○○委員の御発言もあったように,やはりこれは簡便で安価なものが望ましいと思っています。

  このほかにどういうものが必要なのかということですが,これは前回の議論でも出てきましたけれども,やはり開示だと思っております。


計算書類というのが会社法のことと並べてもいいのかもしれませんけれども,一定の書類の債権者に対する開示があるといいのではないかと思っております。


  ただ,そのときに,前にも若干述べたことがありますけれども,会計基準が信託においては余り明確でないと認識しておりますけれども,もし開示をするということであれば,どういう会計基準が妥当なのかも併せて議論する必要があるのかなと思っております。
 
 1については,以上のとおりでございます。


  既存の類型でございますけれども,これも私の方から,特に「明示して」というところで御議論を差し上げたところでございます。


  業界内で議論したところ,いろいろな意見がございまして,原案に賛成という意見もございましたし,やはり「明示して」というところは問題があるかなという意見もございます。

その中で,前回の意見を繰り返し言いますと,「明示して」ということの問題点は2つありまして,1つは少なくとも事実上,曖昧になってしまうということ。


2つ目には,交渉機会を事実上,失ってしまう。


あるいは後出しじゃんけん的なところで,契約直前に言われても困ってしまうということもございますので,やはり何らかの明確性,証言を要求するとか,そういうことが必要である等を申し上げたところでございます。


  その意見に敷衍して考えますと,先ほど○○委員から合意ということが出てきましたけれども,それも私,個人的にはいいのかなと思っています。


アメリカの例をお引きになったわけでございますけれども,アメリカのユニフォーム・トラスト・コードですか,コントラクトの中でアズ・トラスティと書いたときにはということでございますので,そういうものも1つ参考になるのではないかと思っております。


  あと,それで足りるのか,2の(2)のところでほかにどういう債権者保護が必要なのかということでございますけれども,これは,やはりどういう交渉機会があるのかというところによるのかなと思っています。
 

 例えば,合意ということで,十分に交渉機会があるのであれば,やはり開示とかそういうところも決めていくことができる。

そうでないのであれば,やはり一定の,強行法規的なものも含むかもしれませんけれども,債権者保護の規定が必要になってくる。


とすると,結局は1と非常に近くなってくるのかもしれない。とすると,よくよく考えると本当に必要なのかしらということもあるのかなとも思っております。

  そこで,まだ私自身,結論はないんですけれども,やはり1と2の平仄と,それからどういうときに使うニーズがあるのか,それから交渉機会のことを総合的に勘案して決定すべきことだと思っております。

● 結論として,1も2も提案どおり,債権者保護については別途述べますけれども,必要だと思います。


  その理由をお知らせしますと,まず,有限責任信託,1の方ですけれども,やはり80年に1度の信託法改正という視点からしますと,また,これまでの議事録等を見ましても,事業型の信託ということも考えていらっしゃいますし,あと,証券化の分野でいけばWBS--事業の証券化が似ていますけれども,また,先ほどどなたかおっしゃっていましたけれども,土地信託においても工作物責任のようなことがあり得るというような,商事信託の分野においても当然必要な領域だと思いますし,私は弁護士からの委員ということで,民事信託の分野においても,善意の受託者がたまたま預かっていた不動産において何らかの責任を負うという状況は,逆に信託が使われなくなるような状況になるのではないか。


もちろん選択肢の1つですから,これを使わないことも自由なわけですから,ですから,今後のことも考えて,特に必要だと思います。


  弁護士会の議論でよく例として挙げられるのが,阪神・淡路大震災の際に,破産管財人が管理していたビルといいますか,処分対象だったビルが倒壊しそうになったということで,倒壊の撤去費用をだれが負担するんだということがあった。


ですから,決してあり得ない話ではなくて,建物等を受託者として扱った場合,崖が崩れた等の多少の過失がある工作物責任とは違って,地震とかいろいろな状況において,こういう信託制度がないと,そういうものを受託者として預かることは民事信託において極めて難しいという議論になってしまいますから,制度としては必要ではないかと思います。

  あと,先ほど○○委員がおっしゃいましたけれども,信託会計を前提としての信託財産確保のための措置というのが全体的な流れ,ある意味では会社法的な発想だと思うんですけれども,その辺を新たに制度化するということであれば不可能ではないかもしれませんけれども,信託会計というのは実質慣行会計かもしれないし,もちろん信託契約の合意でも自由に設定できるし,それは信託の収益を計算するための基準であって,もともと配当をするための原資とか,ちょっと趣旨も違ってきますから,恐らく信託財産を確保するための措置というのは,受託者に対する何らかの規制とか措置みたいなことを考えると--その具体的な案は何もないんですけれども,ここで余りがんじがらめに信託財産の確保の措置ということを使ってしまいますと,例えば300万円という議論は,非常に高額な物件であれば300万円でも足りないかもしれませんし,小さな民事信託を管理するときに300万円ということになると,受益者は全然配当が受けられないことになるかもしれませんし,また,商事信託的なものを考えると,将来的に資産が出ても,その時点における財産がなければ受益者に配当もできないことにもなってしまいますから,ですから,ここは信託の柔軟性をぜひとも確保していただきたい,かように思います。


  あと,先ほど議論になっている後者の方,契約における責任財産限定特約の有効性なんですけれども,やはり現状,流動化等においてこれは頻繁に使われておりますけれども,ごく数年前まで,その有効性については疑義があるとも言われていましたし,これは法律上,ぜひ確認していただきたいと思います。
 

 それが明示なのか,契約なのかという議論がございますけれども,少なくとも取引に入る--IBAの意見書は内容としては非常に読みごたえのあるものではありますけれども,基本的な疑問として,取引に入る自由を持っているわけでして,そこは気の毒な消費者等を対象とした議論ではありませんから,取引に入る自由の中で,また,受託者との間で自由に契約ができる,また信託財産についての開示を求めるとか,受託者の責任,受託者に対するコメラナンズとか,場合によっては受託者の信託財産を担保にとるとかですね。


ですから,取引に入ろうとしている第三者の議論なもので,なおかつかなりアームズレングスの取引ができる当事者の議論なものですから,細かいところの議論は,なかなか説得力があるところもあるんですけれども,だからこの制度が要らないというのは,やはり信託制度の中で責任財産限定特約を明確にするという趣旨においては,やはり必要ではないかと思います。


  また,そもそも論として,先ほど来のテーマのときにも確認させていただきましたけれども,受託者として,別に事業行為者として入るわけではなくて受託者として入るところで,受託者の併存的な,連帯債務的な責任が生じてしまうのかもしれません。理屈上。
  

ただ,実質的に考えると,やはり信託の債務であって,本来,受託者が固有財産--民事信託的には先祖代々の固有財産等で負担しなければならないものではないはずであって,要するに,受託者となることによって本来,信託だけが負うべき債務を受託者の固有財産まで,包括根保証の議論ではありませんけれども常時負担していかなければいけない制度--これはもう,制度の立てつけとしてしようがないのは理解しますけれども,それに対しての出口を法的に明確にする必要は,やはりあるのではないかと思います。

  ただ,他方において,債権者保護のための方策がその場合には必要であるという議論が強く出てしまいますと,何もない現状の方がかえっていいのではないかという議論にもなると思いますので,この辺はぜひとも,特に契約でステップを決めるということですから,柔軟に,特に民法では,債権者保護のための方策というのは受託者に対する何らかの義務といいますか,受託者としての責任ということで対応すればよくて,会社法的な発想を少し取り入れての,受益権に対して収益の分配をしてはいけないとか,そういう最低資産,純資産のような発想でしたら,くれぐれも入らない方が信託の柔軟性は確保できるのではないか,かように思います。

● 私は,債権流動化の関係から述べさせていただきます。
  

今の○○委員のお話とほとんど重なると思うんですけれども,現状,債権の流動化の実務の中では,契約の中で,受託者の有限責任についての条項を設けて対応しているのが実情でございます。


ただ,これについて特に問題が起きているということではなくて,かなり安定的にやれているのかなとは思いますけれども,先ほど○○委員がおっしゃいましたように,若干疑義があるという意見もございまして,今回,このような形で明確に受託者の有限責任を規定していただけるということであれば,さらに債権流動化の安定に資するのかなと歓迎しております。

  ただ,実際に,現状,契約の中で安定的に取り扱われているという状況の中で,例えば新たな類型の信託の中では※1のアからウまでの債権者保護手続が検討の俎上に乗っているわけでして,例えば最初に書いてありますような,受託者に一定の金額を超えての支払いをさせないといった規定が考えられているようですけれども,これについては,債権の流動化の中では,例えば信用補完,流動性補完のためのさまざまな措置が講じられておりまして,それはスキームに応じた形でつくられておりますので,これを法律の中でかなり固定的にされるようなことであれば,やはり先ほどお話ありましたように,信託の柔軟性が損なわれることにもつながりますし,スキーム自体うまくいかないこともあり得ると思われます。

  したがいまして,ここについてまだ具体的な検討をきちんとやっているわけではないので,今日詳細にコメントはできないんですけれども,このあたりの債権者保護のあり方については,そういった点を考えていただいて,慎重な御検討をお願いしたいと思います。

● 1番の新たな類型の信託につきましては,ぜひこれを導入していただきたいと思います。
 


 今回の信託法の改正の中で,事業についても信託することを認めようかという方向で,今,検討されていますけれども,それが一歩進んだ形でできる,やりやすくなるという意味では,やはり受託者が有限責任になるということが非常に重要なことで,それによって事業信託,いろいろなケースが考えられると思いますけれども,いろいろな形での信託を使って新しい事業に入ってくるということが,よりやりやすくなるのではないかと思います。

  当然,有限責任ということになりますと,債権者保護手続みたいなものを考えなければいけませんけれども,それはこちらで,今回提案がなされていますア,イ,ウということであれば,債権者保護手続が十分図られているということになって,受託者有限責任にしても弊害はないのではないかと思います。

● 恐らく補足の御意見もあると思いますけれども,今,賛成の御意見が多かったので,ちょっと。


  私,必ずしも反対というわけではありませんけれども,少し違った観点から個人的な御意見を申し上げたいんですが,私は,この有限責任の信託というのはもちろんあって構わないと思っているんですが,しかし,この信託法の中にうまく入るのかどうかは気になっています。

  ビジネストラストということを典型的に考えると,ちょっと違うタイプの信託で,信託の1類型とはちょっと違うのではないかとも思っているんですが,ただ,信託法の中に入れることもできなくはないと思います。

その際の考え方としては,この信託は,先ほど○○委員も言われたように,個人も使える,民事の信託としても使えると考えれば,これは信託一般法の中に入っても構わないと思いますけれども,もしこれが法人にしか使えないんだということになると,果たして信託一般法の中でそういうのがいいのかどうか,ちょっと気になっております。そういうことで,これを入れるんであれば個人も使えるということ。
 

 それから,公示制度というのはあった方がいいと思いますけれども,その公示のところで法人に限定するということになると,また困りますので,そういう意味では公示のところも注意する。

  いろいろな利用があると思いますけれども,将来,公益信託などについても個人が受託するという場合があり得て,公益信託ですからなおさら,フィーを当てにして信託をやるわけではないので,信託財産だけで処理する,責任はそこに限定するということも意味があると思いますので,そんな点を考えたらいいのではないかということです。


  もう一点は,受託者の不法行為責任,基本的には受託者が,工作物責任は別として,第709条の責任,それから使用者責任も入るんだろうという気がしますけれども,そういうところは受託者が不法行為責任を負う。

同時に,この有限責任信託の場合には信託財産が責任を負うことになるんだと思いますが,この信託財産も責任を負うというところは--そうではないのかな。


いいんですね--これは一般の信託の方で議論があって,まだ決着がついていないと思いますけれども,受託者の不法行為があったときに信託財産にかかっていけるのかということについては,○○委員が反対されていると思いますし,何人かほかの方も反対されていると思います。

  そのこととの関係で,つまり一般の信託と有限責任信託との間の今の理論的な違いというか,そろえてしまえばいいんですけれども,あるいはそろえないときにはどう違うのかとか,なぜ違うのか,そこら辺の整理をする必要があるのかなという感じがいたしました。
  個人的な意見を表面に出して,申しわけございません。


● 2番の,既存の類型の信託の有限責任化について補足させていただきます。
  


○○委員がおっしゃったように,責任財産限定特約の有効性の明確化という点では大賛成です。

ただ,私がこれに関して問題だと考えていますのは,受託者が明示して取引をした場合に有限責任になるというところが問題だと考えておりまして,これが合意あるいは契約であれば何の問題もない。

責任財産限定特約,これは実際に行われていますけれども,合意によって成立しているからこそ,アームズレングスといいますか,責任財産を信託財産に限定する見返りに,例えば信託財産に関する情報を債権者側に提供せよといった条件交渉ができるわけで,それを合意の内容に盛り込むことができる。


結果的に,自然に債権者保護的な枠組みが個別の取引においてつくられていくわけですけれども,受託者側の一方的な明示によって一律有限責任化ということになれば,○○委員がおっしゃったようにそういった交渉の機会を奪うことにもなりますし,もちろん債権者としては取引に入らないという選択肢がありますので,こういったことでリスクがあるということで,取引を萎縮させてしまうような効果すらあるのではないかという気がいたします。


  したがいまして,私,既存の類型の信託の有限責任化,現状の提案については廃案にするか,「明示して」の部分を「合意」と申し上げましたけれども,基本的には変わりないんですが,責任財産限定特約について,もし信託法の方で何らかの手当でより明確化できる--現状であれば,ただ単に私的自治の原則でそういう合意がなされているんだからいいんだろうということですけれども,それ以上のコンフォートが得られるようなことができるのであれば,それについても賛成したいとは思っております。

● ○○委員及び○○委員に関連することで,先ほど言い忘れたことをコメントいたします。
 


 そもそもこの法律を信託法の中に入れるのかということですけれども,業界内の議論では,ある意味,民法と,今,国会に出ています有限責任事業組合契約法ですか,LLP法のように,たとえ1の類型をつくるとしても,同じ信託法の中に法定して入れるべきなのか,それとも別にするのか,そういう議論があったことを御報告したいと思います。

  なんとなれば,従前から一方で我々は柔軟化,柔軟化と申し上げておりまして,今回こういう強行法規的なものが必要だと言っておりまして,やはり有限責任ということになった場合に,債権者保護ということが出てくるわけですので,そういう意味で,通常の信託と相容れないものがあるのではないか。


  また,実際の債権保護手続を考えますと,いろいろな細かいことも規定化しなければならないわけですので,そうすると,落ち着きというところなのかもしれませんけれども,主観的なものかもしれませんけれども,たとえつくるとしても別の法体系にした方がいいのではないかという意見もあったことを御報告したいと思います。

● やや水を差すようですけれども,むしろ意見のバランス的に申し上げたいと思います。

  私自身は,1の創設は非常に難しい問題ではないかと考えております。<説明>のところに,第5回会議においてこういった積極的な評価がされたと書かれておりますけれども,私自身はかなり消極的な,ネガティブな評価もあったと理解しております。

  理由は幾つかあるかと思いますが,1つは,やはり一般信託の制度との異質性ということが,どうしてもあるのではないか。


今,○○委員から,法律の形式として一般信託法とは別形式にならざるを得ないのではないかという御指摘がありましたけれども,法形式とは別に,理論的な体系化というか,その観点からしても,かなり違うものではないかと考えております。

  どういうことかと申しますと,信託の場合の責任財産のあり方ですけれども,私,個人的に理解するところでは,もともと信託というのは受託者のみが法人格を持つ主体として,受託者個人として行動し,その行動に基づく各種の結果,責任財産自体は受託者の固有の責任財産で全面的に負おうとするのはもちろん一般の場合と全く同じで,法人格を持った主体が自分の財産をもって責任財産とする。

ただ,信託になっている場合は,信託財産がいわば守られている形で,受託者の名義になっているにもかかわらずかかわっていけない。

もともと歴史的に申しますと,信託事務処理に関する債権であってもかかわってはいけない,受託者の有する求償権的な権利の代位構成によってしかいけない,いわば奥の院に守られているような,そういう構造であったのではないかと考えております。

  それがしかし,直接にかかわっていることを日本の信託法は認めているわけで,さらにそこに責任財産限定特約の形で,当事者が合意するなら信託財産に直接かかわっていけるということがあるのであれば,固有財産にはかかわっていけないことを合意ベースでやるならいいでしょうというところまで来ている状態で,これをさらに,およそ受託者の固有財産は責任財産とはならないという信託を一般法理としてつくり出すのは,もともとの信託制度からすると,もう劇的な転換。


そういう意味では非常に異質なのではないかと考えております。

  それが必要である,ニーズがあるときに,それにどう応えていくかということは別途あって,そういうニーズのためにこの信託という器を使えないかというのは十分理解できるところですけれども,そうだとすると,一般の信託法の中でごくごく一般的な制度としてこれをつくる,法形式はどうあれ,これをつくるということではなくて,そのニーズに応じた「こういうものであるから」という形でつくっていくことになるのではないか。

もし1のような創設を考えるとすると,そういった方向であるべきではないかと思います。

  LLPができているではないかということですけれども,LLPは,私自身は非常に例外的な制度であると考えております。

法人格に伴う責任財産というのは非常に重いものではないかと考えており,構成員課税を実現したい,ベンチャー育成のためにそういったことをしたいという要請があって,そこから,そういう範囲においてどういうものがつくれるかという検討ではなかったかと理解しておりますので,アメリカ法などを見ましても,現在の受託者の地位をどう考えるかというときに,それが信託財産の管理人に近い制度になっているという指摘はありますけれども,それは逆に言うと,もともとは信託財産の管理人にすぎないということではなくて,そうではないというのが本質にあるからではないかと理解しております。


  ですから,それをやるのであれば,一般的につくるのであれば,むしろもう法人とかそういう制度を利用するのが筋ではないかという考え方を持っております。


  そういう見地からいたしますと,非常に一般的な,限定のない対象ですとか目的の限定のないものとして1をつくるとすると,むしろ1との割り振りというのは,1がプリフィクストメニューで,2はカスタムメイドでといったことになるのではないか。

むしろ取引債権者にとって,有限責任信託ですという一言さえ言えば,もう有限責任になってしまうというようなタイプで,なぜならそれは債権者保護の措置が全部用意されているからということになるのに対して,2の類型は,これは合意ベースで好きなようにつくってくださって構わないと。

それで,2の問題が出てきたときの一番最初は,こういった責任財産限定特約の効力がそのまま認められるのかということに問題があったわけですから,そこの合意は合意ベースでやってくだされば大丈夫です,そのためのいろいろな保護措置は,それも自分たちで考えてくださって結構です,そういうようなタイプになるか,それとも,1は非常に限定された,特別な,異質の制度であるという位置づけでつくっていったときに,最低限何が必要かということで考えていくことになるのではないかと思います。

● ○○幹事のおっしゃったことをもう一度陳述します。それが第1点。
  第2点目は,これは非常に細かい話なんですが,債権者保護手続のイについて確認させていただきたいんですが,これは受託者が民法第709条の要件を満たしている行為を行った,つまり,民法第709条に基づいて受託者にその責任を追及していくことが妨げられる条文ではないんですよね。
● それはそのとおりです。


● ですよね。これは商法にも規定があるのであれですけれども,こう書きますと,何か責任が,普通の過失の場合には負わないような感じがしてしまうんですが,そうではないということを確認させていただければ,それで結構です。

● ここは両方併存するという理解です。


● 繰り返しみたいなんですけれども,前回,総論的に1について賛成だったというおまとめをいただいたんですが,必ずしも,信託法の中につくることについてはそうでもなかったのではないか。きょう御欠席の○○委員,あるいは○○委員などが,信託法の中に置くことについては非常に積極的な反対意見を述べておられたように思っております。
  それぞれ理由は違っていたかもしれませんが,さらに先ほど○○幹事が詳しく説明されたようなことも踏まえますと,現実のニーズにこたえる必要はもちろんあるとしても,それは別途できるのではないか,信託法の中に入れると,かえってそのニーズにも応えにくくなるのではないかという気もいたします。
  非常に細かいことをあと1つつけ加えますと,1の(2)のアの①で「一定の金額を超えて,受益者に対して受益債務の弁済をすることはできない」とあるんですが,受益債務の弁済をできないというのは一体どういう意味なのか,私はよく理解できないんです。債務があるのに弁済してはいけないのか,債務がそもそもないのか,債務がないんだったら,それは信託行為で決まっているのではないかと直感的に思いまして,恐らくこれは,財産運用規制の一般的なものをここに持ってきたから何かはっきりしないようになっているのかなという気もいたしまして,そういうことも踏まえますと,この制度については別途独自に考えていくのがいいのではないかという気がいたします。
● 1につきましては,(3)のところで補償請求権について規定されております。原則として請求できないことになっておりますけれども,逆に,信託行為に別段の定めがある場合にはできるという規律になっているのではないでしょうか。受益者の立場からしますと,受託者が有限責任である場合に,受益者の方に信託財産を超えて請求があるということはやはり納得がいかないのではないか。
  それと,これが認められる場合には,例えば信託債権者がいる場合に,信託財産に対してかかわっていった場合には,必ずしもその債務の全額を回収できない場合に,例えば受託者から立替払い等を受けて,それを費用償還できるといった形になるとすれば,実際上,そこで優先弁済を受けるという問題が出てしまうのではないか。こういった点も含めて,(3)の,別段の定めを許すかどうかについては慎重に御検討いただけないかというのが1点です。
  もう一点は,先ほどちょっと出ました工作物責任との関係で,この点については意見というよりも疑問なんですけれども,この有限責任信託や特約を定めた場合に,それによって工作物責任の責任が限定されるのかどうかについては,工作物責任との規定との関係で,どういった読み方をすればそうなるのか,あるいはならないのかについて,もし今日は時間がないということであればまた別の機会でも結構ですけれども,御教示いただければと思います。
● 今の工作物責任の責任限定というのは,1の話ですね。
● はい。
● 2の方は同意といいますか,不法行為責任はそうならないということだったと思います。
● ○○幹事,○○幹事,○○委員という著名な民法の先生が,そもそも信託の根本に反するとおっしゃっているところが,実務家としては「そうかな」と思うところがございまして,今回の議論の中でも,あたかも--準法主体説みたいな議論はしませんけれども,あたかも信託財産に対して受託者が請求権を持つとか,あたかも信託財産に対する債務を負うとか,そういう形で,決して完全な契約説的な発想では議論しては--従前からもそうですし,特に今回の信託法改正の議論においては,そういった前提でいろいろな議論を,本日の議論でもいろいろあったと思います。


  ですから「信託の根本は受託者の名義であって」というところが,そもそもこの80年に1度の大改正であったとしても変えられないというのは,民法の先生方はそうおっしゃるかもしれませんけれども,必ずしも説得はされなかった。
  それから,事業型の信託については別でいいでしょうと。確かにデラウェアのとか,ビジネス・トラスト・ローとかありますけれども,私も先ほど申し上げましたように,民事信託,公益信託において,あたかも包括根保証のように受託者が連帯債務を負うという今の信託法の立てつけをきっちりと制度的な手当てをし,信託の公示をし,それによって新しい類型をつくりましょうということに対しては,そこまでやったとしても民法の,また信託法の根本原則に反するんだというのは,○○幹事に一生懸命お話しいただいても必ずしも説得はされなかったということだけ残しておきたいと思います。

● 恐らく基本的な考え方のところで対立しているんだと思いますけれども,今のお話で申しますと,例えば受託者が連帯債務を負うというとらえ方自体が,信託の場合はそうではない,むしろそうではないところから出発し,そういうものとして制度がまず展開しているのではないか。
  それから,ここだけではなく,いろいろなところで法人との比較がされておりまして,組織法制の一環として信託がとらえられていますけれども,そういう考え方もあり得ると思います。それはしかし唯一の考え方ではないですし,そういう法人パラレルのとらえ方自体にも非常に問題があるのではないかと私自身は考えておりますので,この原案に対しては,そこの基本的な部分に対して疑問を呈しているということで御理解いただければと思います。
● 信託の一般議論との関係で言うと,四宮教授の「信託法」などで,まさに信託財産に実質的に法主体があるかのように扱って,ですから信託財産の債務だとか信託財産の権利だとか,そういうことで議論を進めているわけですけれども,いつごろからなんでしょうか,むしろ最近の信託法の研究者には,そういう考え方に否定的な考え方を主張される方が多くて,むしろ法主体は受託者自身にあって,信託財産というのは受託者が管理している財産にすぎない,そういう立場に--私からすると,そういう発展方向でいいのか少し疑問はあるんですけれども--そういう考え方,つまり受託者に法主体がある。○○幹事が言われたのもまさにそういうことで,確かに伝統的な信託の考え方なんですけれども,そういうものからすると非常に違和感を感じるということではないでしょうか。
  一般論は,もう余りここではいたしませんけれども。


● 信託というのはそもそも何なのかという議論になると,私,不勉強でわからないんですけれども,これだけ世の中が劇的に変わっている,経済環境等も短期間ですごく変わっている,こういう世の中のニーズに対して,やはり法制度も利用しやすい,利便性の高いものを準備していく必要があるし,そのニーズが現にあるのではないかと思います。
  ですので,信託とはそもそもこういうものだという議論も大切だとは思いますけれども,清水の舞台から飛び下りるというか,そういうようなところも持っていただいて,ではきちんとした,一方で債権者保護手続のような手当をしていけば,そういうものは乗り越えていけるのではないだろうか,ちゃんと利用価値の高いものを設計できるのではないかといった視点から考えていくことも必要なのではないかと思います。


● 制度が必要かというのと,それに「信託」という名前をつけなければならないかというのは別問題だと思うというのが第1点。
  第2点目は,○○幹事がおっしゃったことが極めて重要なところを突いているような気がして,もし仮にこういう制度をつくるとしたときに,工作物責任なども制約されるんだよというのが皆さんの前提になっていたんですが,ここの規律だけでは,実は工作物責任の制約は起こっていないのではないかと思うんです。もし仮に,私は「信託」という名前をつけることには反対ですが,もしつくって工作物責任も制約しようとするんだったら,何か別の条文がどこかに必要なのではないかと思います。


● ○○幹事が言われた別段の定めによって補償請求権が入っていいのかという点も,先ほどどなたも応対されませんでしたけれども,かなり問題がありそうな気がしますね。
● 私のこれまでの信託の理解ですと,受託者の有限責任を認めることは,有限責任組合に有限責任を認めるよりはよほど理論的に説明しやすいのではないかと思っていたのですが,逆に,組合であるにもかかわらず組合員に有限責任が認められる根拠を,ぜひ教えていただければと思います。

● 確かに,組合の場合も有限責任をというのは,なかなか説明しにくい気がいたしますね。


  先ほど○○幹事は多少信託の方に焦点を合わせて発言されたので,組合の場合に多少政策的な観点があり得るということだったのかもしれませんけれども,あくまで政策的な観点であって,理論的にああいうものがそう簡単にできるかというと,そこはやはりそんなに簡単ではないでしょうね。


  ただ,あそこは一応民法の組合と,切り離してはいないけれども,特別法で強引にやったという……。ちょっと言い過ぎですか。


● 私は門外漢なのでわからないんですが,多分,組合の場合には,やはり組合員がいて何らかの定めがあり,責任財産もありというようなところで,組合とはいえ一種法人に近いところ,組織に近いところがあるというのが,まず一つの前提になるのではないかという気もしたんですが,そうではないんでしょうか。

● それは,組合員という人がいるからということですか。財産があるということであれば,信託でも組合でも同じなんですけれども。


● 1点だけ事務局の原案の確認をさせていただきたいんですが,数字で財産分与規制を設けるといったことは,1の類型のものを認めるとそれは信託になるのか,別の類型にするのかはともかく必要だと思うんですが,前提として,例えば計算書類の精度とか,あるいは計算書類の適正さを確保するある種の精度ですね,株式会社ほどガチガチのではないと思いますけれども,この①は,そういったものを全部前提とした上での提案なのか。それによって,全然その後の想定の仕方が変わってきますので。

  ここで幾つか挙がっている,中間法人法も有限責任組合法も,いずれも計算書類の精度があって,なおかつ期間的なものを加えている,そんなものもパッケージの信託として一応法定されているのかどうか,確認させてください。

● 計算書類につきましては,そういうきちっとしたものを前提として考えておりますが,それ以外の機構的な責任担保の制度まで用意しているかというと,そこはまだ検討しているところでございます。

● いろいろ御意見は出たと思いますが,なおまだ新しい議論としておっしゃっていないことがあればお聞きしたいと思いますけれども。--よろしゅうございますか。


  この制度は,半数ぐらいの方は望ましいという御意見であり,そういう意味で,今後さらに検討していきたいと思います。2と1との関係とか,1の中の仕組み,2の仕組み,まだいろいろ検討することがあるかと思いますので,また次のラウンドで進めていきたいと思います。


  もしほかに御意見がなければ,きょうはこのぐらいにしたいと思いますが,よろしゅうございますか。
  では,これで終わります。
  どうもありがとうございました。

─了─


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第14回会議 議事録

第1 日 時  平成17年4月22日(金)  自 午後1時02分
                       至 午後5時02分

第2 場 所  法曹会館 高砂の間

第3 議 題
   受託者が複数の信託に関する規律について
   信託財産の管理人について
   受益者の利益の享受について
   受益者を指定又は変更する権利について
   信託管理人等について
   受益者名簿について
   受益権の放棄について

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● これから信託法部会を開催したいと思います。
  いつものように,幾つかに区切って事務局の方から説明をいたしますので,その点につきまして○○幹事からお願いします。


● まず最初に,皆様の席上に「信託法の改正を検討されるに当たり投資信託に与える影響からご留意頂きたい事項について」というペーパーが置いてあるかと思います。


これは本日付で社団法人投資信託協会から,この部会での検討に当たって,参考資料としていただきたいということで事務局にいただいたものですので,今後の議論にお役立ていただければと思います。


  それでは,本日の議論の順番でございますけれども,一番最初が受託者複数の問題,その次が信託財産管理人の問題,それから信託管理人の問題,それから受益者の利益の享受についてと受益者を指定,変更する権利,それから受益権の放棄の問題を3つまとめてやりまして,最後に受益者名簿ということで,よろしくお願いいたします。


  それでは最初の,受託者が複数の信託に関する規律について,御説明をいたします。


  今後,信託の利用が進みまして受託者が複数の信託も増加することが予想されることにかんがみまして,受託者が複数の信託について,信託財産の帰属形態,信託事務処理の方法,受託者の責任などに関する規律の整備を提案するものでございます。

  前回の提案からの主要な変更点を中心に,御説明申し上げます。
  まず,提案の3になります。受託者間の信託事務処理の委託の関係で3点ほど御説明いたします。
  

第1に,前回の提案では,共同受託者による信託事務の処理につきまして,原則として受託者の過半数で決定するものとした上で,不在,病気その他のやむを得ない事情があるために信託事務の処理に関与することが困難な受託者があるときには,受益者保護の観点から,信託事務の停滞を避けるために,その受託者を除いた共同受託者の過半数で意思決定できるということを提案しておりました。


  これに対しまして,第6回会議におきまして,この例外要件のもとでは,特に取引の相手方から見た場合に,いかなる場合に残りの受託者だけで意思決定できるのかが基準として不明確ではないかとの指摘がなされました。

このような指摘を踏まえまして,残りの受託者としても,この例外要件に該当し当該受託者を意思決定から除くことができるか否かの判断には確かに困難を伴うと思われますので,この例外要件をなくしますとともに,他方,受託者の一部に信託事務の決定に関与できない事情が生じた場合にも,信託事務処理が停滞しないようにする配慮はやはり必要であると思われますので,3の(1)のとおり,受託者は,やむを得ない事情がある場合には他の受託者に対して信託事務の決定を委託することができるとすることで,解決を図ることとしてはどうかと問うものでございます。

  もっとも,この場合におきましても,委託が可能となるやむを得ない事情がある場合に当たるか否かは,やはり不明確ではないかとの問題指摘はあり得ると思うのですが,そもそもある受託者を意思決定から除外してしまうこととなります前回の提案に比べれば,今回の解決方法は,委託を通じて少なくとも形式的には受託者全員による意思決定という形が維持されることに加えまして,委託の過程において,ある受託者にやむを得ない事情があることが明らかになることも考えられますので,取引の相手方の保護にはより資することになるのではないかと,事務局としては考えているところでございます。

  第2に,受託者間において信託事務の決定の委託が禁止されますのは,重要な信託事務に限ることとしました。


軽微な信託事務の決定についてまで委託できないとすることは,共同受託者による円滑な信託事務の処理に支障を来し,委託者の合理的な意思にも沿わないと考えられるからでございます。


  なお,何が重要な信託事務に当たるかにつきましては,当該事務の信託財産に与える影響や委託者の合理的な意思などを勘案して,事案ごとに決すること
になると思われます。


  第3に,信託事務の執行の局面につきましても,過半数の意思決定に基づく信託事務の執行につきましては,原則としては各受託者が執行権限を有しておりますものの,信託行為において,共同受託者を代表して執行権限を有する受託者が定められている場合もあり得ることをかんがみますと,そのような代表受託者に不都合が生じた場合にも,信託事務処理の円滑を図る必要があると思われます。


  そこで,このような場合を想定しまして,信託行為に定めのある場合はもちろん,このような定めがなくても,やむを得ない事情が生じた場合には,信託事務の執行についても他の受託者に委託することができるとの規律を設けることを提案いたしております。これが3の(2)でございます。


  次に,提案4の(2),共同受託者の第三者に対する責任の関係で,5点ほど説明をいたします。


  第1に,共同受託者の場合における,信託事務の執行によりまして各受託者の固有財産と信託財産が責任を負担する関係でございますけれども,まず,職務分掌の定めのない一般の共同受託の場合におきましては,ある受託者と他の受託者とは相互に執行上の代理権を授与しているものと見なしますので,まず第1といたしまして,ある受託者が共同名義で執行した場合につきましては,顕名を伴う有権代理といたしまして,全受託者の固有財産と信託財産のすべてに効果が及ぶと考えております。
  

これに対しまして,第2としまして,ある受託者が共同名義を出さずに単独名義で,自分だけの名前で執行した場合につきましては,顕名を伴わない無権代理となりまして,その受託者の固有財産のみに効果が及ぶようにして,ほかの受託者の固有財産はもちろん,信託財産にも効果は及ばないと考えているものでございます。

  すなわち,前回の提案では,この後者の一人だけの名義で執行した場合につきましても,他の受託者の固有財産には効果が及ばないが信託財産には効果が及ぶとしておりましたが,この見解を改めまして,信託財産にも他の受託者の固有財産にも効果が及ばないと考えるものでございます。
  

次に,職務分掌の定めのある共同受託の場合におきましては,分掌された職務の限度で独立に信託事務を決定し,執行できるわけでございますので,ある受託者が単独名義で執行した場合であっても,その受託者の固有財産のほか信託財産にも効果が及ぶと考えているものでございます。

  今,申し上げましたことを前提に,第2といたしまして,前回の提案におきましては,共同受託者の固有財産が負担する債務につきましては,原則として分割債務になるとの考え方を示しておりましたところ,民法においても分割責任の原則は慎重に認定すべきと考えられていること等に照らしましても,共同受託者の固有財産が負担する責任は連帯責任とする考え方もあり得るのではないかとの指摘がなされました。

  この指摘を踏まえて改めて検討いたしましたところ,共同受託の場合におきましては,各受託者が共通の信託目的のもとに共同して信託事務処理の決定を行い,他の受託者を代理するという形で,信託事務の執行も共同して行うものであることにかんがみますと,共同受託者は信託事務の処理によって,第三者に対し,固有財産で負担する債務について連帯責任を負うこととするのが相当と考えられます。

そこで,前回の提案を改めまして,現行信託法第25条後段の解釈と同様に,信託事務の処理により共同受託者が第三者に対して債務を負担したときは,共同受託者は固有財産をもって,連帯して弁済の責任を負うことと提案を変えたものでございます。

  第3といたしまして,信託事務処理による債権を有する信託債権者が,各受託者の固有財産及び信託財産に対して執行していくための方法についてでございます。


第6回会議におきまして,固有財産に執行するための債務名義と,信託財産に執行するための債務名義とは同一であるべきであって,信託財産に執行するためには受託者全員に対する債務名義を揃える必要があるとか,ある受託者に対する債務名義をもって信託財産に執行していった場合において,合有財産であることを理由に当該受託者あるいは他の受託者らが異議を主張できるとすれば適当ではないのではないかなどの見解が示されました。


  このような意見も踏まえまして,今回の提案におきましては,以下のように考えております。


  すなわち,信託債権者としましては,ある受託者に対する債務名義をとることによって,その受託者の固有財産はもちろん,共同受託者の合有に属する信託財産に対しても,その所有名義の如何を問わず執行できること,ただし,信託財産に対して執行できることとするための前提といたしまして,資料2ページの※4にございますとおり,共同受託者の1人に対する確定判決は,信託財産を責任財産とする限度で,他の共同受託者にも効力が及ぶ旨の規定を設けることとしてはどうかと問うものでございます。
 


 なお,このように確定判決の効果が拡張するとの規定を設けることの相当性に関する実質的な理由でございますが,これは資料7ページの注にも書いてございますが,受託者は,信託財産について固有の利益を持っていないから,信託財産を責任財産とする限度で他の受託者に確定判決の効果を及ぼしても個人的な損害が発生するとは言えないことであるとか,共同受託者間には相互に連絡関係があると考えられますので,ある受託者に対する訴訟提起,確定判決の効果を他の受託者に及ぼしても酷とは言えないと思われることなどによるものでございます。

  第4に,資料の6ページの末尾におきまして,一番最後のパラグラフでございますが,職務分掌の定めのある場合に関して「他方で,提案1により信託財産は共同受託者の合有となるとしているから,このような場合にも,信託財産を引当財産とする責任の限度では,他の受託者に対して効果を及ぼす必要があると考えられる。


(この点に関し,いかなる規律を設けることとするかについては,その要否を踏まえ,なお検討する。)。」とある点に関しまして,その趣旨を若干敷衍して御説明しておきたいと思います。

  職務分掌の定めのない一般の共同受託におきましては,受託者は共同で意思決定をし,相互に執行の代理権を授与しているものと見なしますので,ある受託者が職務を執行することにより第三者に対して信託債務を負担した場合には,当該受託者によって代理された他の受託者も第三者との間で契約関係に入っており,固有財産レベルにおいて受託者全体が連帯責任の根拠となる債務を負っているので,信託財産レベルにおいても実体法的にも受託者全員について信託財産も責任財産となる,そして手続法的には,先ほど述べましたように,受託者の1人に対する債務名義の効力が信託財産を責任財産とする限度で他の受託者にも拡張するようにすることにも違和感がないように思われます。

  これに対しまして,職務分掌の定めがある場合につきましては,各受託者は,分掌された職務の限度で独立して職務を執行することになりますので,ある受託者が職務を執行することにより第三者に対して信託債務を負担した場合には,当該受託者のみが第三者との間で契約関係に入っていると見るべきであって,固有財産レベルでは,当該受託者のみが責任の前提となる債務を負っていることになりそうでございます。

  しかし,職務分掌の定めがある場合でも,信託財産を責任財産とする限度では実体法的にも他の受託者に効果を及ぼす,すなわち債務を負担しているものと考える必要があると考えられますところ,その説明として,1つは,特別の規定を設けずとも信託財産は合有財産だからということで足りるのか,それとも,もう一つの考え方としまして,特別な規定を設けて,この場合,他の受託者は固有財産レベルでも,いわば責任なき債務を負うことを擬制する必要があるかという点について検討する必要があると思われるというのが,ここで書いている趣旨でございます。

  最後に,以上の改善点のほか前回提案時からの積み残しといたしまして,また資料の2ページに戻りますが,※2におきまして,第三者に対する信託債務に関し,過半数による信託事務の決定に反対した受託者が固有財産をもって責任を負うべきか否かにつきまして,ここに書いてあります両様の考え方がありますところ,いずれが適当かという御意見をいただきたいと思っております。
  以上でございます。

● それでは,ここまででお願いいたします。
  いろいろ理論的にも難しい問題が入っていると思いますが,いかがでしょうか。


● 抽象的に議論するとわかりにくいので,私なりに現状における共同信託というのはどういうものかなと思って,3類型考えてみました。


  1つが土地信託の例だと思うんですが,ある土地を受託者が共同受託する。


この場合,登記法上,単独名義しか認められていないがゆえに,ある特定の信託銀行の名義になりますけれども,それでいい場合と,実質,本当に合有であるような場合があるのではないか。これが恐らく一番わかりやすい共同受託のケースだと思います。
 

 それ以外に,よく本などで紹介されている年金の場合は,私の理解が間違っているかもしれませんけれども,ある適格退職年金等をシェア割りするような形で,それぞれの信託銀行が運用していく。


この場合も,合有という概念を観念することは,それはそれでいいのかもしれませんけれども,恐らくお互いの信託銀行間において,その運用の内容とか詳細については関知していないのではないか。


事務を管理しているところの代表受託者は,信託事務としては知っているでしょうけれども。

  その場合に,合有概念ということでいろいろな論点に絡んでくるということなんですけれども,例えば,今,最後の方でお話がありましたように,既判力が信託財産に及ぶかどうか。

固有財産に関しては及ばないが信託財産に関しては及ぶという議論がございましたけれども,そういう場合,職務を分掌しているからという議論だと思うんですが,果たしてそれでいいのかどうか。

  3つ目の類型が,資産管理専門銀行というシステムを担当しているところ,要するに,ある信託銀行は事務周りのみ,別の信託銀行が資産管理といいますか。

ですから,先ほど申し上げました年金のシェア割りをするような場合とは違って,完全に信託財産をある信託銀行のみが管理しているような場合。


これも共同信託で行っている信託銀行もありますし,再信託ということで,全然違った法律構成で全く同じことを行っている銀行もある。


この場合も,事務周りのみを行っている信託銀行に,合有ということで,あえてその信託財産に対する権利を認めるべきか否か。

  こんなふうに3つを分けて,実際には各論のところだと思うんですけれども,今,幾つか御提示のありました御質問とか論点の主眼ですけれども,例えば,前回ちょっと議論になりました,ある共同受託者の1社が倒産した場合,第三者性とか信託の公示が必要か否かという論点があったと思います。


信託の合有概念であった場合,たまたま登記という観点からある特定の信託銀行の外見を呈していたとしても,まさしく実質においても合有であるものに対して,果たしてその信託銀行の破産管財人の固有財産と……,破産管財人が第三者性を持っていて,信託の公示がないからということで固有財産と同じ扱いになっていいんだろうかと考える反面,2番目と3番目の類型であるところの年金の場合とか資産管理会社の場合には,それぞれ年金を管理している銀行が倒産した場合,またシステムを持っている銀行が倒産した場合においては,今まで単独受託者の場合で議論したのとほぼ同じような発想で考えてもよろしいのではないかと思うところです。


  あと,既判力の議論がございましたけれども,これも同様でして,やはりこの3つの類型,特に最初の類型とあと2つの類型において分かれるのではないか。

特定の信託銀行が運用している信託財産に対してのみ既判力が及ぶと考えるのが適切な場合と,まさしく共同受託している土地のような場合であれば全体に対して及ぶ,なぜならそれは合有であるから,こういうような考え方もできるのではないか,かように思った次第です。

  そういう議論を,今の御提案では職務分掌ということで恐らく切り分けていらっしゃると私は理解していますし,それによって多くの問題点が解決できると思うんですけれども,どうしても,そういう3つの現実的な状況を踏まえて議論しないと,それぞれの論点について考え方がある場合においては,こういう考え方が妥当かもしれないけれども,別の場合においては違う考え方が妥当かもしれないというように分かれていくのではないかと思ったので,最初に発言させていただきました。


● 具体的に考えるきっかけを与えていただきましたが,今の御意見についていろいろな補足……,実務的な感覚から。

● 基本的には,○○委員がおっしゃったような3つの形態はもともとイメージしていまして,それについて,この規定に照らし合わせて,私どもの考え方としては,全般的な方向性についてはほぼこれでいいのかなと理解しています。

  その中で1点,確認なんですけれども,先ほどの財産分属型というところの形態については,ここで言う職能の分担というか,職務分掌型という類型の中に入れてしまっていいということですよね。


何となく,以前は3類型で考えていたのがいつの間にか2類型になったような感じがするんですけれども,そこは,それでよろしいんですよね。

● 財産分属型も,この職務分掌の中に入るものと,我々としては考えております。


● 先ほどの○○委員の問題提起も,職務分掌ということで全部ちゃんときれいにといいますか,ここに書いてあることで大丈夫か,そういう御質問でもあったわけですね。

● 今の御議論で財産分属型というのは,○○委員のおっしゃった類型では,年金とかの話のことをそう呼んでいらっしゃるんですか。

● 私は,そのつもりで申し上げました。

● それは職務分掌の1つであるということなんですか。つまり……

● それらも含んで。

● ……ということは,その場合は信託財産は合有ではない。


● いえ,職務分掌の中での合有で,その合有である共同受託の中で,職務分掌のある場合とない場合に分かれるという記述でございますので……


● いえ,したがって,各信託銀行が年金の信託においてばらばらに信託財産を帰属させている形は,そもそも「合有である」という記述に乗ってこないわけであって,その「財産分属」の意味なんですが,当該財産の処分,管理等をする権限が分属しているという話なのか,その財産の所有権がばらばらになっているという話なのか。


  後者ですと,これはそもそも合有ではないわけですから,これに入ってこないわけですよね。そ


うなると,○○委員が「年金の場合」とおっしゃったのは,そもそもここにのってきていない類型なのではないかと私は考えていたんですが,そのあたりの言葉の問題を確認させてください。


● 我々としては,権限が分属している場合が合有になるという理解でございまして,そもそも所有権自体が分属している場合は合有の前提を欠くことになりますので,ここの類型に入ってこないことになります。

● 確かに今まで,議論の途中では,所有権レベルでも完全に分属しているタイプが年金などにもあって,それは意識はしていたんですけれども,ルールをつくる際に,私も余り細かい経緯まで記憶がありませんけれども,今のやりとりの中であったように,所有権レベルで分属しているのは分掌型ではないという……,これはどの段階でそうなりましたっけね。前回もそうでしたっけ。

● 私の方から補足いたしますと,我々としましては,年金信託についてもここで言う職務分掌の定めの中に入ると理解しております。


確かに現在の年金信託の取り扱いは,A信託銀行がある信託財産を持っていて,B信託銀行がある信託財産を持っている,そういう形をとってはおりますが,信託財産自体は,共同受託の場合はすべて合有という形をとった上で,権限自体が分かれている,そういう形で実質的には対応できるのではないかと考えております。


● 所有権レベルで完全に分かれているようなものは,この共同受託という形にのせて一緒に扱おうとするとお互いに縛りが強くなり過ぎて,もうちょっと各受託者の間で割り当てられた財産については自由に行動できるようにした方がいいので,ここからむしろ落としたということでしたかね。

● 結局それは,現在の年金のそういうふうな,いわゆる共同受託と言われている複数受託者の契約解釈の問題ということなんですかね。


つまり,ばらばらにやっているときに,各信託銀行にそれぞれの信託財産が単独帰属していると認定するならば,そもそも第43の1に入ってこないわけですから,これにのってこない。

しかるに現在の実務のあれを考えると,これはそれぞれの割合で分掌はしているけれども,それぞれが全部合有になっていると考えてもいいのではないかという話ですよね。
  その理解について,信託銀行には異論はないんでしょうか。

● 現行実務において年金の信託の形も2つありまして,全く本当に別の契約という形にしているものもありますので,それは多分このレベルにはのってこないお話で,そうではなくて,いわゆる共同受託と呼ばれている一つのものとしては,この規律にのっかって一応チェックしてみたところ,とりあえずワークするのではないかと考えております。


● 今までの年金実務のもとで行われていた,いわゆる共同受託というのがどっちのタイプかというのは,恐らく余り明確でなかった点があったと思うんですね。

○○委員は理論的に整理されたので,今,2つのタイプがあり得るということでお話しされましたけれども,今後もしこういうルールができると,そこがもっと明確になって,この共同受託のルールにのせたくないタイプについては,とにかく所有権レベルで分属していると。


所有権レベルでは合有だったけれども,それ以外のいろいろな権限のレベルで職務分掌型にすることもできて,それはこれにのりますよ,そういう使い分けがされることになるんだと思います。その上でさらに,これでいいかどうかという問題がまたあると思います。

  それから,所有権が分属する型については,これは共同受託ではないけれども,全然……,あとはもう契約レベルの問題なんですかね。


もし各受託者が何らかの連携をするとね,帳簿をつけるとか。ちょっとそこは私,言い過ぎですけれども,皆さんの実務的な感覚なり,お聞かせいただければ。

● ちょっと確認したいんですけれども,私が申し上げた3番目の類型ですね,ちょっと説明が悪かったかもしれませんけれども,新聞等で報道されて,多分,日本で大きい2つの,マスタートラスト銀行とかJTSBとかありますが,そちらの方は分属する信託財産すらない信託銀行が存在する形になるんですけれども,でも,今の○○委員のお話のように,その信託契約の中で,とはいいながらもこれは合有なんだ,こういうふうに観念すれば共同受託に入っていく,そうでなければ全然違ったものになっていく,こういう理解なんでしょうか。

● 今,マスタートラストで再信託という形でやられているようなものも,再信託ではなくて共同受託の形をとっていて,そのときの財産の帰属の仕方を,当事者間で「合有なんだ」と。そこは強引にできるのかどうかわかりませんが,合有だとすることも可能な気がしますね。

  そのときに,しかし,ここに掲げたルールがすべて適用されると困るのか,困らないのか,そういうのが次に問題になってくるんでしょうか。


  --いや,これは個人的な意見ですので,事務局なりほかの方は違った理解をされているかもしれませんけれども。


● 事務局としましては,マネージング・トラスティとカストディアン・トラスティの関係についても検討はしたのですけれども,このような提案内容で一応は整理できるのではないかという理解でおります。
 

 例えばマネージング・トラスティとカストディアン・トラスティという形で,一律に信託財産が一方の受託者になっているものであればわかりやすいかと思うんですけれども,例えばマネージング・トラスティが信託財産の一部を持っていて,もう一人のカストディアン・トラスティもまた一部持っているといったものも,年金信託以外にも今後あり得るかなと考えておりまして,ここで言う職務分掌の定めという形で規律することによって,そういうものも含めた広い意味での規律が1つできるのではないかと考えております。

● 今の場合も,全体として見ると,とにかく合有財産として信託財産はあるという。だから,合有というものを今までより柔軟に認めていくという考え方につながるのではないでしょうか。

● 今の話につながるのではないかと思うんですが,財産について,公示制度があるものがあります。不動産ですとか,有価証券もそうではないかと思うんですが,そのときの合有の公示について,どういうふうにお考えになっているのか伺いたいと思います。


  不動産登記には合有というのはなくて,組合を例にして考えると,恐らく共有の登記をすることになるんだろうと思いますが,しかし,今のマネージング・トラスティとカストディアン・トラスティのようなものも緩やかな合有と考えた場合に,共同所有の形で公示されるのであれば「これは信託だから合有だ」という議論はあり得ると思うんですが,どっちになるんでしょうか,カストディアン・トラスティの単独名義になったときに,しかしそれは,この第43の考え方からすると1個の信託行為で始まっているので,合有である,そういう議論になるということをお考えなんでしょうか。


● 先ほど○○委員が言われた最初の問題ともちょっと関係……,私の理解が誤っていなければ,土地信託などで共同受託なんだけれども,どれか1つの信託銀行の名義にしているということですよね。

● はい。


● だけれども,これはほかに共同受託者がいるので,○○委員の先ほどの御意見だと,実質的には合有と考えた方がいい場合があるだろうと。


● もしそれが動産とか金銭の共同受託であれば--そういうものがあるかどうかわかりませんけれども,まさしく合有というものが出てくるんですか。


● 金銭とかは公示制度が,占有という公示もあるのかもしれませんが,名義を厳密に観念する公示制度がありませんので,「それは合有だ」と言って,それに基づく法律構成を組み立てていくことは可能だと思いますので,適切ならばそれでよろしいんだろうと思います。

しかし,もう少し名義という観点が公示制度にしっかり結びついているものについて,単独名義になっているにもかかわらず「合有」と言って処理した方がいい場合があったとしても,果たしてそれを合有という共同所有の一形態に,一たん性質決定をした後で処理をするのが望ましいのかと考えると,私は,今のところは躊躇がございます。

● 所有権のレベルで,実質は合有だけれども登記がうまく対応していない,それが1つの問題ですけれども,○○幹事が言われたのはむしろ次の問題で,例えば権限などについては,意思決定の仕方とか代表の仕方とか,そういうものは表示の仕方ね,不動産の登記の仕方に関係なくこのルールを適用しようと思えばできなくはないけれども,それが果たしていいのかどうかということですよね。

例えば単独名義で不動産について,ある受託者が名義されているときに。


● そうですね。


● 事務局から補足いたしますが,まず,共同受託の場合,所有名義も合有という登記はできるものと理解しております。所有権移転の後ろに「(合有)」と記載されます。また,通常の共有と異なり,持分も登記されません。
 

 その上で,しかし単独名義になっている場合もあるではないかというのはおっしゃるとおりでして,そこは事務局として,個々の受託者の単独名義になっている場合について,あるいはある受託者の単独名義になっている場合について,それが本当に実態上も別々の所有に属している場合であれば,この規律は当てはまらないですし,ある受託者の単独名義になっていても,信託行為でほかにも受託者がいる。その解釈としては合有だという解釈がとられていると考えれば,それはこの規律が当てはまる。


そこがどちらかというのは,先ほど議論もありましたけれども,それは信託行為の解釈によって,この規定が適用される合有か,そうではなく別々の所有か決まってくるのではないかと考えております。


● 要するに,単独名義で書かれていても,当事者の意図が合有であってその実質があれば--実質があればというのはつけ加えていいかどうかわかりませんけれども,合有であれば,例えば意思決定の仕方,あるいは代表の仕方というのは,このルールにのせることができるということですね。

● 私,実務をすべて知っているわけではありませんけれども,私の存じ上げている範囲内では,土地信託に係る,要するに不動産にかかわるようなものについては,基本的には,単独名義で登記することはほとんどない。


特別な事情があるものは別ですけれども,基本的には,単独名義で登記しているものはほとんどないと思います。

● そうすると,先ほどの合有といいますか,共同受託者の名前だけを掲げたという形の登記ですね。


それだったらば,それで実質と登記が一致しているので,実務的には,そういう合有登記をすればいいということで対応できるわけですね。


あとは例外的に,当事者としては合有にする意図であったけれども,登記だけは対応していないというときにどうなるのかという問題でしょうか。
  ほかに,いかがでしょうか。


  今の問題も,つまり合有という所有関係が反映して,このいろいろなルールが出てくるのか,あるいはこういう形で処分,権限を行使しようという方の合意が,合意と所有権の問題をある程度分けて考えることができて,しかし一般に共同受託というときには所有関係が合有で,その上にのっかるいろいろな権限の行使の仕方も,それなりに共同性があるものになっている。

だけれども,分けることができるのかどうかというところが理論的にはね,おもしろい問題だと思います。

● 確認的なことなんですが,少し前の研究会で,どうも名義がAという人なのにBもCも受託者ですという信託があることに非常に抵抗感がありまして,それは実際にもあるし,ニーズもあるということであれば余り言う必要もないかなと思っていたんですけれども,どうも法律関係が,そういう意味では確認でいいんですけれども,Aという人の名義で,今,○○幹事がおっしゃった不動産が登記されていて,実は信託行為によればBもCも受託者ですというときに,例えばAが倒産したような場合には,BやCはそれをよこせと言えるのか。管財人との関係で。受益者は言えるんでしょうけれども。それがどういう関係になるのかが……。

  比較して言う場合は,BとかCは受託者ではなくて,例えば単なる受任者としておきましょうか。


そうきれいにいくものなのか,いかないものなのかというのがいま一つ釈然としない。もうちょっと具体的に御質問すべきなんですけれども,ここでの考え方は,要は,登記の例で言えばA単独で登記されていても,ここでの規律の適用があるかないかは信託行為で決まるんだ,そういうふうに割り切っておられるわけですよね。


  ですから,その点を確認させていただければいいのかもしれませんけれども,ほかのBとかCというのはどういう権利,義務を持つのか。

ここで規律されている限りではいいんですけれども,第三者との関係ではどうなのか,そういう問題があるように思うんですけれども。

● 重要な問題提起ですね。
 

 私は,これは個人的な意見ですが,むしろ登記名義がなくてもAにもBにも受託者としての権限を与えてもいいかもしれないということで申し上げている,まさに○○委員が言われたように全く逆なタイプといいますかね,本当はそれはよくなくて,そういうものには受託者としての権限を与えられないという考え方もあるかもしれない。
  どうですか。

● 6の(2)あたりに関係してくるのかと思うのでございますが,任務が終了した場合には,原則としてほかの受託者に権限が承継されることになりますので,今,○○委員がおっしゃったABCという例で,Aが破産したとなりますと,Aは任務が終了するというのが原則でございます。


そうしますと,B,Cは既に合有者として所有権を持っていますので,Aに名義があるのであればB,Cの名義に移すようにという請求ができるのではないかと思っておりますが。

● ABC間ではそうだと思うんです,ここで決めていることですから。そうすると,確認なんですが,それは第三者にも言えるということですね。


A名義の登記のままでAが倒産したときに,B,Cは6の(2)に従って「今は自分が受託者になりました,だから登記名義を移してください」と第三者に対しても,第三者という表現は正確ではないのかもしれませんけれども……

● 破産管財人に対して。
● ええ。
● それは言えると思っておりますが。

● 今の説明ですが,私はさっき,所有のレベルと権限のレベルを分けるということで,名義がなくても受託者としての地位を与えていいと思っていたんですけれども,ただ,ほかの債権者に対する対抗の問題は,やはり何か,対抗要件と言うとちょっと大雑把ですけれども,何かないとまずいのかなという気もちょっとしていた。今の説明はもうちょっと割り切って,いや……。
 

 だけれども,ここはいろいろな考え方がありそうですね。
  何か御意見ございましたら。


● ○○委員も少しおっしゃっていた判決効の拡張の問題ですけれども,いろいろ代理権構成とかを考えておられるので,それなりにある程度考えておられるところがあるのはわかるんですが,ただ,実務的な観点からいくと,最初の判決をとるときに全く手続保障がされていなかった共同受託者に対して判決効を及ぼす根拠として,共同受託者相互が密接な関係にあること,あるいは受託者固有の利害関係がないことが掲げられているわけですが,それのみをもって十分かは非常に疑問があるのではないかと考えております。

  例えば組合については,組合員相互の連携というのは当然あるんでしょうが,判決効は原則としては拡張されないこととなっている。そういったこととの平仄で,どうかということはあるのではないかと思われます。
  

それから,受託者に固有の利益がないということではございますが,例えば共同受託者が不適切な訴訟行為,訴訟の追行を行った結果,敗訴したといった場合において,共同受託者相互が緊密に連携されていることが前提となって信託財産に執行が可能だということにはなるんでしょうが,そういった形で信託財産が最終的に執行の対象となることについて,共同受託者に善管注意義務というような責任は本当にかかってこないのかという意味で,本当に固有の利益が全くないと言えるのかどうかも疑問な点はあるのではないかと考えられるところです。

  一方,第三者の方なんですが,第三者はそもそも共同受託者の一方のみを相手方として訴訟を行っていて,もとから他の共同受託者名義の財産を引き当てとするという期待があったとは言えないのではないか。

いわば,たまたま他の共同受託者名義の財産が存在するというのは,言ってみれば望外の利益ではないか。


そういう意味では,少なくとも共同受託者,固有必要的共同訴訟とは言わないまでも,やはり当初の債務名義の取得の際に何らかの手続保障があることが必要なのではないかと思われます。

  それから,実務上の問題について申し上げますと,仮に判決効を拡張した場合には,恐らく共同受託者,仮にAとしますと,Aに対する債務名義がまず取得されて,それについて共同受託者Bがいるということで,承継執行文を付与してくれと第三者がその付与の申し立てをするといった制度設計とすることを恐らく法務省はお考えなのではないかと思うわけですが,承継執行文の付与というのは,文書によって明白に証明されるものについてされると思われます。

この場合,承継執行文の付与に何が必要かと考えますと,恐らく信託事務処理としてされた債務であることと,Bが共同受託者であること,この2つを証明しなければならないことになろうかと思われますが,これを通常執行の現在の実務で行われていますように文書によって明白に簡潔に証明していただけるかとなると,非常に疑問があるところでございます。


  さらに,これは確認的にということではございますが,共同受託者の1人に対する確定判決は,信託財産を責任財産とする限度で他の受託者にも効果が及ぶと書いてございますが,そういった承継執行文を付与するときに,別に責任財産が書いてあるわけではございません。


承継執行文にも債務名義にも責任財産が何かということは書いていないということでございますので,結局,それをもって共同受託者Bに対する強制執行が行われるときには,債権者が何を差し押さえるかによるんですけれども,公示されているような財産であれば,裁判所は前もってそれが固有財産か信託財産かわかりますから,それでもって強制執行するかどうか判断することもありましょうが,そうでなければ,通常は裁判所はそこを判断できずにまず差し押さえなりをする,しかる後,異議によって争っていただくほかないということでございます。


  そういった形で,共同受託者はその固有財産についてもある程度,一定のリスクを負う結果になるとは思われますので,そういった結果になることについて,当初の債務名義取得の際から共同受託者において手続保障がなくてもよいのかという観点から,やはり再検討していただく必要があるのではないかと考えております。

● 第1点ですけれども,先ほど○○委員の挙げられた,共同受託者がA,B,CといてAの単独名義になっている不動産があるとして,Aが倒産したときに,Aの管財人との関係でB,Cは信託財産だということを言えるかということですが,とにかくB,Cの名義では信託の登記はなかったということなので,B,C名義の登記がないので管財人に対抗できないという場合とのバランスは本当にとれているのか。


やはり何か公示がないと,管財人に代表されるところのAの一般債権者との関係で,信託の公示がない場合,一般との平仄がとれるのかどうか,私もまだ自信がないところであります。

  第2に,今,○○幹事がおっしゃった点に重なるんですけれども,共同受託者の1人に対する確定判決は,この他の共同受託者にも効力が及ぶ。


その根拠として,お互いに代理権を持っている--代理というのか,自己名義で行使できる管理・処分権なのか,この辺はいろいろな考え方があろうと思いますが,この考え方の前提は,恐らく共同受託者間に非常に緊密な関係があって,お互いどの場面で切っても任意的訴訟団体と認められるような強い関係を想定しておられるのではないかと思います。


それで説明はできるんでしょうけれども,実態として,そういう当然にお互いに訴訟担当を認め合っているような関係があることが前提にできるのかどうか,そこが私はよくわからないわけです。
  

それから3つ目に,これも○○幹事が指摘された点に大きく重なるんですが,この資料7ページには,債務名義上の債務者,確定判決の上での被告債務者と執行対象財産の名義がずれる場合が幾つかあるわけですが,執行法第27条第2項で,簡単に承継執行文が出ないとなると,結局執行文付与の訴えをしなければいけなくなる。


それは結局,ほかの受託者に対してもう一回給付訴訟をやるのと同じ手間なわけで,既判力が拡張されるとしても,執行力の拡張がなければ多分,意味がない議論ではないかと思いますので,本当にこういう手当てで十分なのかどうかということですね。


  今の第3点に関連して,4つ目と言うのかどうかわかりませんが,判決以外の債務名義の場合にどうするんだろうかということが問題になろうかと思います。


  例えば,共同受託者が被告になって訴訟が起きて,和解をした。その和解調書についてどう考えるかを考えておかないと,2ページの※4だけでは多分,手当てし切れない。


同じように規律しないと多分,意味がないと思うんですけれども,つまり,判決だと拡張されるけれども和解だとほかの受託者にいけないというのでは意味がありませんので,それをどう規律するかを考えておく必要があるのではないかということです。

● 訴訟法の手続的なことはよくわかりませんけれども,何か事務局の方で。


● 手続的な点で御指摘をいただきました。
  事務局の考えているのは,例えば,ある受託者の訴訟追行が非常にまずかった。


それによって信託財産にも執行されて,信託財産が非常に害を被ったということであれば,その場合は第27条の責任を追及していくしかないのかなとか,それからあと,承継執行文で対応できるかどうかは,やはり確定判決の効力が拡張される以上は承継執行文で対応していくことになって,どういう場合に執行文が付与されるかよくわからないところもありますが,承継についても判断できるだろうと考えたものでございます。

  それから,○○幹事がおっしゃったように,債務名義は,責任財産が書いていない。


だから,例えばAに対して債務名義をとって,その承継執行文をとって,ではBの固有財産にいったらどうかというときについては,御指摘を踏まえて検討したいと思っております。


  なお,判決以外の債務名義の場合も同様に考えておりまして,例えば,Aに対する債務名義の効力がB,Cにも拡張されることになるのではないかと思います。


  ただ,1人に債務名義をとって,信託財産全部にいけるというのは難しいとしますと,では必要的共同訴訟にするのか,それともA,B,Cに対する個々の債務名義をとって,そして3本揃えて信託財産にいくのか,そういう方法の可能性というのにまた回帰しなければいけなくなるわけでして,この提案にかかっているやり方には問題があるというのは御指摘のとおりかと思いますが,逆に「では,こういうやり方でやったらいいのではないか」というのがあれば,ぜひ御指摘をいただければと思うんですが。

● 判決と執行のあり方については,いろいろ場合分けして考えないといけなくて,私は今,それについては発言しませんが,○○幹事がおっしゃった--その前に○○委員もおっしゃいましたが,○○幹事の1番目の話は,A名義単独で登記されているという話になっていましたが,信託の登記はあるという前提ですよね。

したがって,破産管財人等は,それが破産財団に含まれないということは,そもそも対抗される地位にあるわけですので,B,Cの名前が出ていなくてもB,Cに移っていくというのは,他の債権者との関係でも,そんなに不当ではないと思うということだけ。

● 破産とか差押えについては,まさにそうだと思うんですね,私も。

ただ,ちょっと考えたのは,むしろ倒産だとかいう場面ではないときに,まだAが倒産しないときに何か問題が生じないか。


さっきから考えていても余りいい例がないんですけれども,例えば,信託財産が毀損されたことを理由とする損害賠償請求の訴えを提起するといったときに,Aのところに名義があるので,Aという受託者が提起できるのは当然だと思いますけれども,名義を持っていない他の受託者がそういうことをできるだろうかとか,そんなことがさっき気になって,考えていたんです。


  この辺は,もうちょっといろいろお考えいただきましょうか。
  小さい問題なんですけれども,ちょっと私が気になったのは,前回の案と今回の案で違っているところで,やむを得ない事情で共同受託者の1人で受託者としての権限を行使できないときに,何という部分でしたっけ,ほかの……,「委託できる」か。

  その「委託できる」ということの意味なんですが,要するに,残った人たちでただ決めてくれということなのか,それとも権限を行使できない受託者が自分の分の権限を……,例えば残り2人受託者がいるときに,どちらか一方に自分の権限を委託するとかですね。


そうすると,A,B,Cがいるとして,Cが権限を行使できないのでBに委託するという形にして,Aが1票,Bが2票といった形になるのか,あるいは最初に言ったように,Cが権限を行使できないのでA,B間でとにかくやってくれということで,1・1でやるのかですね。


  従来のやり方は明確だったんですけれども,今回のでは一体どっちになるのか,それとも意思によってどちらにでもできるのか。

● 事務局のとりあえずの考え方としては,委託をすることによって,例えば今の○○委員のお話ですと,CがBに委託したというときであれば,AとBが1票ずつになるのではないかと考えております。Aが1票,Bが2票になるのではなくて,1対1。

● 実質は,やはり残りでやってくれということですね。
● はい。
● ほかに,いかがでしょうか。


● 1点目は,共同受託者の1人が第三者に対して不法行為を行ったような場合ですけれども,これは取引的な不法行為と一般的な不法行為がありますけれども,この場合については,他の共同受託者は固有財産で連帯責任を負うのか否か。

  2点目は,先ほど来お話が出ているかもしれませんけれども,訴訟を受ける場合ではなくて訴訟を提起する場合の話で,共同受託者の1人が信託事務の執行の一環として訴訟を提起しますと。


その場合について,全員が一応参加して行わないといけないのか,それとも執行行為をする人だけでいいのか。


その場合,職務分掌がある場合とない場合,それによって違いがあるのかどうか,その辺のところを教えていただければと思います。


● 難しい問題ですね。

● まず前段の御質問で,共同受託者の1人で不法行為をしたときに,ほかの受託者はどうなるかというところは,こちらとしては,信託だから共同受託者も重い責任を負うということはなくて,一般の民法の理論で考えていけばいいのではないかと考えております。


したがいまして,他の共同受託者も第三者に対して責任を負うべき故意,過失ないし違法性が認められるかどうかを個別に判断していけばいいのではないかという考えでおります。
 


 ですから,絶対責任がないとは言いませんが,共同受託者だから常に責任を負うわけではないということでございます。


  それから,訴訟,執行の方法でございますが,まず簡単な方で言えば,職務分掌のある場合は単独で事務執行ができます。


したがいまして,訴訟提起,それに基づく強制執行も単独でやっていけていいのではないか。


他方,職務分掌に定めのない場合には,全員の名義を出して職務を執行することが原則でございますので,そうすると,訴訟の局面,執行の局面で結局,全員の名義を出してやるということは,そこは必要的に共同してやらなければいけないのではないかと理解しております。

● まず,今の話の関係ですが,債務不履行の場合に,全くかかわっていない共同受託者にも連帯して責任を負わせるという考え方をとるとすると,同じ行為が債務不履行にもなるし不法行為になるというのは時々あることですけれども,不法行為だって結局同じことになるのではないかという気がちょっとします。
  


それから,先ほどの判決効の拡張の問題と関連してくるわけですが,そういうこともあるので,判決効の拡張で,ほかの共同受託者に対する手続的保障がないこの考え方は,やはりいろいろなところでつかえてしまうのではないかという懸念を感じます。

  それから,特に執行の方で,○○幹事が説明された承継執行文のことは,本当に現実的に債権者の立場で執行するんだということを考えた場合には,まず無理ではないかという感じがいたしますので,方向として,この方向をさらに細かく考えて,突き詰めていってうまくいくかどうか,ちょっと難しいなと。感想なんですが。

  特に,この名義ですね。例えば不動産が信託財産であるような場合に,先ほどのように,合有の登記もできるし実務も複数の名前で登記していますよということだとすれば,そういった状態を,そうではない方向でできるようにするふうに動くのではなくて,信託の一番基本は財産の移転というところがスタートですから,そこをもとに考えていった方がいいのではないかという気がしました。


  債権者の立場で執行ということを考えると,少なくともA,B,Cと3人いて,そのうちA名義でだけ登記されている場合に,B相手に訴訟なんてやりたくないという感じですので,やはり名義には入れないと,多分その先のことが,障害が大き過ぎて見通しが立たないという感じになるのではないかという気がいたします。

● 債務不履行と不法行為の連帯というか……


● 今の○○委員の意見に賛成なんですけれども,ただ,今の議論にのっかっていくと,職務分掌の定めというのは非常に重要なポイントだと思うんですが,取引の相手方,取引の相手方ではない不法行為を受けた被害者たる第三者とか,職務分掌の定めをどうやって認識できるのかということと,あと,職務分掌の定めというのは信託契約の中にいろいろ書いてあって,どこまで言うと,この大きなメルクマールとして職務分掌の定めがあってということで権利関係とかいろいろ分かれていくのかというのは,非常にキーワードにはなると思うんですけれども,それが公示性とか,あと内容においての明確性というのはどの程度なのかが極めて重要な概念になるように,ちょっと疑問に思ったというか,質問として,どの程度のものをもって職務分掌を定める--年金の場合ですとほぼ明らかですけれども,そうではない,さまざまな類型になっていくと,土地信託のような実質型なのか,そうではないのか分かれていくのかなと思ったんですけれども。


● 何か今ここで答えられることはありますか。


● 「職務分掌の定め」という言葉は包括的なものであって,これがどういうものを意味しているのかという問題点があることは,事務局としても認識しております。


年金信託みたいなものですと,○○委員もおっしゃるとおり明確であるということですが,ほかについてどの程度まで法律の中で明確にできるのかについては,今後も考えていきたいと考えております。
  もう一点,職務分掌の定めがある場合について,こういうふうに特出ししている理由の1つなんですけれども,例えば第三者から見ますと,職務分掌の定めの場合には,当該受託者が独立して執行することになっておりますので,取引の相手方というのは,その当該受託者しか出てこない。

そうすると,債務名義をとるときも,やはりその受託者に対してしか目が向いていないということですので,やはりその場合に,他の受託者に対しても債務名義をとらないと,信託財産が合有であることを理由に執行できないというのは,やはり第三者の方に酷なのではないか。


仮に他の受託者に対して債務名義をとらなければならないとした場合にも,結局,他の受託者は,違う一方の受託者がやっている職務を認識していませんので,結局,認諾するというようなことしか考えられないのではないか。

そうだとすると,一方の受託者に対してとった債務名義をもって,その他の受託者にも効力が及ぶとしてもいいのではないか。


少なくとも職務分掌の定めがある場合には,そういうふうに考えられるのではないかと事務局としては考えています。

● いろいろな問題点があることはよくわかりましたので……

● 反対の見解が多かったので,○○関係官に賛成であるという見解も1個出しておきたいので述べさせていただきますと,おっしゃるとおりだと思うんですね。
 


 かつ,Aが単独なら単独で出てきているんだから,Aの財産しか当てにしていないじゃないかということはあり得るんですが,それは日本の信託法全体の枠組みに大きくかかわってきていて,単独受託者のというか,信託財産というものがいつも一切当てにできない財産であるというふうになれば,それはよくわかるんですが,日本の信託法の枠組みとして,信託事務の執行により生じた債権者であるならば信託財産を差し押さえ得るとなっていることとの関連から言うと,単純に,Aの名前しか出ていないんだから期待はしなかったはずだという理屈は通らないのではないか。


皆さんおっしゃるような執行法上の難しい問題があって,まだまだクリアしなければいけないことがたくさんあるというのは,もうおっしゃるとおりだと思うんですけれども,価値判断としては,私は事務局の原案に賛成であるということを一言だけ述べさせていただきます。

● 一言だけ。今後,お考えいただく上でということなんですけれども,私の感じでは,A,B,Cで合有の登記がなされている場合と,Aだけで登記がなされている場合とはやはりちょっと違うような気がするということで,Aだけで登記がされていてA,B,Cにこの実態がある,あるいは信託契約がある場合に,先ほど若干御議論がありましたが,B,Cの方から第三者に物を言うときは,確かに破産管財人と,それから処分があったような場合とか,場合分けはいろいろあると思いますけれども,常に言えるというのは若干抵抗があるんですね。
  


しかし,逆に第三者の方から実態を主張して,AだけではなくてB,Cの共同受託なんだということが立証できれば,それは第三者の方からBもCも受託者ですという主張は認めていいというのは,私は基本の発想にあっていいと思うんです。
 


 その意味で,難しい--とつい言ってしまいますけれども,手続法の議論は詰めていかなければいけませんけれども,A名義だけで登記されていても,Aに対する債務名義を得ればあるいはB,Cにも拡張はありという発想はありなのかなと思うんですけれども,逆に,先ほど○○委員がおっしゃったことかもしれませんけれども,A名義だけで登記されていたとき,何らかの事情でBが信託事務を執行していた。


したがって,実務は余りないのかもしれませんけれども,B名義に債務名義をとった。

それでAにいけるかと言われると,またこれもよくわからないなという感じがするものですから,いずれにしましても,総体的に場合分けして提示していただければ手がかりになります。

● いろいろな御意見,ありがとうございました。
  この点は,今,いろいろ出されました御意見を踏まえまして,さらに検討していきたいと考えております。


● それでは,次にいきましょう。
● 続きまして,第44,信託財産の管理人についての御説明に移らせていただきます。

  今後,信託の利用が進みますと,受託者が欠けた場合に関する信託財産管理人の需要も高まることが予想されます。そこで,現行法では,信託法第48条と非訟事件手続法に若干の規定のみを有する信託財産管理人につきまして,その選任されるべき場合,権限及び義務,任務終了事由等に関しまして規律の整備を提案するものでございます。


  これも前回の提案からの主要な変更点を中心に御説明申し上げます。
  まず,提案1の信託財産管理人の選任との関係で,3点ほど御説明いたします。

  第1に,信託財産管理人が選任される場合につきまして,前回の提案では,受託者の全部または一部が欠けた場合であれば,その任務終了事由を問わないこととしておりました。


しかし,前回会議において事務局の方から,第40の受託者が欠けた場合の取扱いについて提案いたしましたとおり,特約辞任及び承諾辞任の場合には,受託者は原則としてそのまま受託者としての権利・義務を有し続けることとしましたので,これらの場合には,信託財産管理人の選任の要件である,「信託財産を保護するために必要があると認められるとき」という要件が定型的に欠けることになるのではないかと思われ,したがって,信託財産管理人を選任できるとする必要はないと考えたわけでございます。


  もっとも,特約辞任や承諾辞任の場合も,ここで言う「任務が終了し,受託者の全部又は一部が欠けた場合」に含めた上で,「信託財産を保護するために必要と認められるとき」という要件を満たすか否かで一律に判断していく方がよいという考え方もあり得ると思います。


  そこで,細かい点ではございますが,提案の1及び※3に書いてありますとおり,信託財産管理人を選任できる場合から,特約辞任及び承諾辞任の場合を除くことの当否を問うものでございます。


  第2に,前回の提案では,受託者が欠けた場合だけではなくて,職務を執行することが困難または不適当な受託者がある場合にも,信託財産の保護の観点から相当な場合には,信託財産管理人の選任の余地を認めることとするか否かについて検討することとし,検討の対象とする場合として,受益者が多数のため受託者を迅速に解任することが難しい場合ですとか,受託者が委託者及び受益者の同意を得られないため直ちには辞任できない場合などを挙げておりました。

  しかしながら,第6回会議におきまして,受託者としては,職務の執行が困難な事情が生じた場合には,原則として他人に信託事務の委託をすることができる反面,みずからは,その他人に対する選任監督責任を負うはずであるが,裁判所の監督に服することとなる信託財産管理人を選任してもらうことによって,みずからは責任を免れることまでも認めることが果たして必要なのかという問題指摘がされました。

  もっとも,他方におきまして,現に裁判所に対して受託者の許可辞任あるいは解任の申立てまでがされている場合におきましては,それにもかかわらずその受託者に信託事務処理を継続させ,あるいは選任監督責任を果たすべきものとすることが適当でない場合があることも無視できないと思われます。
  

そこで,このような相反する要請を調和する観点から,今回の提案におきましては,受託者について,職務の執行が困難または不適当な事情が生じたことのみをもってしては信託財産管理人を選任できる場合とはならないとした上で,11ページの※1にありますとおり,さらに裁判所に対して受託者の許可辞任または解任の申立てまでもがされた場合には,信託財産の保護のために必要があると認められるときには,信託財産管理人を選任することもできるとすることの当否について問うものでございます。

  なお,御参考までに,米国統一信託法典によりますと,裁判所は,受託者の解任の申立てについて最終的な決定を行うまでの間などに,信託財産または受益者の利益を保護するために必要とされる適切な救済を命ずることができるとされておりまして,この適切な救済の中には,特別受認者と言われる者を選任し,信託財産をこの特別受認者のもとに移して信託の管理・運営を命ずることや,受託者の職務の一時停止を命ずることが含まれるとされております。
 


 受託者に対して解任の申立てがされた場合に信託財産管理人の選任の余地を認めることは,このような統一信託法典の考え方との親和性があるようにも思われるところでございます。

  第3に,資料16ページ(注2)に記載いたしておりますが,信託財産管理人の選任の要件をどのように定めましても,これとは別個に民事保全法第23条第2項の要件を満たせば,受託者についても職務執行停止,職務代行者選任の仮処分が認められることとし,職務代行者の権限についても,信託財産管理人と同一とするなどしてはどうかという考え方を問うものでございます。
  


次に,提案2に戻りますが,(2)の信託財産管理人の権限についてでございますが,前回の提案では,信託財産管理人は臨時の受託者であるとの位置づけから,信託財産管理人の権限は前受託者と同一であるとした上で,不在者の財産管理人や相続財産管理人の場合などに準じまして,民法第103条に定められた権限を超える行為をする場合には裁判所の許可を受けなければならないものとし,必要があると考える場合には,信託財産管理人は,このような裁判所の許可を受けなければならない義務があるものと考えておりました。

  この提案に対しましては,第6回会議におきまして,信託財産管理人の権限をより拡大すべきであるとの意見と,より限定すべきであるとの意見との双方向の見解が示されておりました。


  そこで,改めて考えてみますと,信託財産管理人は,受託者が欠けた場合に信託財産保護のために,あくまでも一時的に選任されるものにすぎず,裁判所によって選任・監督され,信託財産の名義人ともならず,固有財産で責任を負うこともないなど,受託者とは大きく性格の異なるものであることにかんがみますと,信託財産管理人の権限を受託者の権限と同様とすることは適当ではないと考えられます。


  他方におきまして,取締役の職務代行者のように,原則として常務まで行う権限を有しているとしてしまうと,取締役と比較して受託者の事務が幅広いことが予想されるにもかかわらず,信託財産管理人に常務まで行わせることは適当とは言い難いように思われます。

  そこで,今回の提案におきましては,信託財産管理人は,臨時の受託者であるというよりは裁判所が選任した法定の特殊な財産管理人であると位置づけた上で,原則として,民法第103条に定められた権限を有するにとどまり,裁判所が必要であると考える場合にはこれを超える権限を付与することができますが,信託財産管理人には,原則としてこのような許可を求める義務まではないとの考えに改めたものでございます。


  このような考え方の当否について,意見をお尋ねしたいと思っております。
  

次に,提案3の信託財産管理人の義務でございますが,これも前回の提案では,信託財産管理人は臨時の受託者であるとの位置づけから,受託者の義務に関する規定を準用するものとした上で,受託者との性格の相違から生ずる差異につきましては,信託財産管理人の義務に関して特例を設けることによって対応してはどうかとの考えを示しておりました。


  しかしながら,第6回会議で指摘されましたとおり,このように考えますと,受託者固有の義務とは何であり,しかるに,信託財産管理人についてはそれをどこまで外すことができるのか,あるいは委任や代理,その他の制度における管理人はどうなるのかといった困難な問題に直面します上,先ほど申しましたとおり,信託財産管理人の位置づけやその権限が受託者に比してかなり縮小された性格のものであることにかんがみますと,信託財産管理人については,現行の非訟事件手続法の規定と同様に,委任における受任者の義務を準用するにとどめることが適当であると思われ,その旨の提案に改めたものでございます。その当否について,御意見を伺えればと思っております。


  最後に,細かい点でございますが,提案5の信託財産管理人の任務終了事由につきましては,辞任,解任,新受託者の選任の場合のほかに,信託財産を保護するために必要があると認められる事情が消滅した場合を新たに選任取消事由として,5の(3)の②として挙げているものでございます。

  以上で終わります。
● それでは,信託財産の管理人について御議論をお願いいたします。

● 極めて抽象的であることはわかるんですが,やはり受託者の全部または一部が欠けたときを前提としているということは,信託財産管理人というのは受託者--極めて抽象的,形式的であって実質は伴わないんだと思うんですが--になるという理解でよろしいのかどうかということ。
  


これが何に関連してくるかといいますと,弁護士等が信託財産管理人に任命されることもあるかと思うんですけれども,何らかの形で違うところに受託者を認識するという前提ですと,信託財産管理人として,管理人であるということだけですべてできるのかもしれませんけれども,例えば受託者が破産している場合の不動産についての信託の公示をするといったことが必要になってくると思うんですけれども,そのときにしっかりと権限が与えられていないと,これで十分なのかもしれませんけれども,信託の登記をするための手続の問題とか,場合によっては受託者のところに行って信託財産を預かるような行為とか,現実的にはもう少し対応が必要になるのかなと思ったりしたのと,形式的,抽象的にも受託者になるということであれば,包括承継なのかもしれませんけれども,その「信託財産管理人になった」ということによって,みずからが預かる財産として保存行為を粛々と行っていけばよいのではないのかな,かように思って,その辺でも多少分かれてくるのかなと思っての質問なんですけれども。


● 信託財産管理人の立場でございますが,事務局としては,受託者と同一ではなくて,あくまで新受託者が選任されるまで,前受託者がいなくなって新受託者が選任されるまでの一種つなぎ役であるという位置づけでございますので,受託者と同一の権限まで有させる必要はない。


したがいまして,この提案では,民法第103条に定めておりますような保存行為ですとか,あと権限の性質を変ぜぬ範囲内において利用,改良を目的とする行為,それだけできればいいのではないかと考えております。

  例えば登記をするということであれば,保存行為ということでいいと思いますし,もしもそれ以上に何かやる必要があるということであれば,そこは信託財産管理人を裁判所が選任するに当たって,第103条を超える権限を付与する許可を与える,そういう交渉というんですかね,選ばれる人との間で裁判所と意見交換をしていただいて,それらの許可を付与してもらうことによって対応していくことになるのではないかと思っております。


● 辞任による場合が除外されている点についてなんですが,辞任にもいろいろありますので,「やめてくれ」「わかった。では辞任する」「あんたには頼みたくない」そういう辞任もありますので,これをあえて除外しなくてもいいのではないかという気がいたしますが,いかがですか。


● そうですね,本当にいろいろなことがあり得ますね。


● ここは,提案では※3にありますとおり,裁判所が許可辞任した場合は含まないで,特約辞任と承諾辞任の場合を含んでいる。


ここは,辞任にいろいろな事情があることはもちろんかと思いますが,その権利・義務の関係だけで言いますと,前回提案いたしましたとおり,特約辞任,承諾辞任は前受託者と同一の権利・義務を負っているという立てつけをとっておりますので,そうすると,あえて信託財産管理人を選ぶまでの必要はないのではないかということで,除外しているということでございます。

  もちろん,それにもかかわらずというか,そうはいっても,辞任といってもいろいろな事情があるんだから,とりあえず含めた上で,保護の必要があるかどうかで判断していくべきだという考え方ももちろんあると思いますので,そこら辺についてはどちらがよいかという御意見を伺えればと思っております。

● もちろん,権利・義務についてはそれを前提で,この「信託財産を保護するために必要があると認められるとき」というところで判断すればいいのかなというのが私の意見です。

● 信託財産管理人の権限のところで,先ほど○○幹事から選任時に民法第103条を超える権限を行使することの許可をするというようなお話がありました。


確認なんですが,この許可は選任時にしなければならないという前提なのでしょうかというお尋ねです。


  信託財産管理人が何を許可していいのかというのは,許可を求める義務はないというところが資料に書いてはありましたけれども,裁判所から見ても,必ず選任時にこういう行為を許可しなければならないという形で信託財産管理人を選任しなければならないとなりますと,選任時において,この信託はどういう信託で,この人を選んで,この人にどういう許可をするかというのをすべてワンセットで判断しなければならないということなのか,それとも,むしろ選任後も含めて信託財産管理人と相談しながら,そういった許可を適宜与えていくというようなことをお考えなのかというのが,御確認させていただきたかった点です。


● その点は後者でございます。選任時に付与するという場合があるのかなと思って言っただけでございまして,むしろ今の話ですと,事務処理の過程に当たって許可が必要だということになれば,裁判所が途中で許可をするということは,もちろんあり得ると考えております。


● 先ほどの辞任のところで若干補足意見なんですけれども,例えば受託者に非違行為があって,本来は解任すべきだけれども辞任の形をとっている場合ですとか,あるいは,例えば受託者が事故に遭って,実際上,仕事ができない。

しかしながら,辞任の形をとるというような場合も世の中によくあることではないかと思いますので,やはりそういった場合も考えますと,辞任についても入れた方がいいのではないかと思います。

  もう一点なんですけれども,14ページの真ん中あたりのところで,民事保全法第23条の職務代行者の選任について,こういった制度を利用すればどうかということが問われているんですが,弁護士会等で議論している中では,この手続が,やはり裁判所を説得するのがかなり大変である,手続として重たいので,やはり職務代行者の選任というよりも,※1にあるような形で,この裁判所に対して辞任,解任の申し出がされた場合には,その同じ裁判所で選任していただくのがいいのではないかといった意見がありましたので,それもお伝えしたいと思います。

● 先ほどの御説明で,もう既に検討された上での御提案だと思いますので,私が今さら言うのはどうかと思いますけれども,確認の意味で発言させていただきます。

  それは,民法の受任者の義務にしたということで,何か義務を軽くしたというふうに聞こえたんですけれども,受任者の義務の方が受託者の義務より軽いのかどうかということ自体,議論の対象にはなると思うんですけれども,私が気になるのはその理由でして,信託財産の名義にならないというのが1つと,あとは,つなぎであるし,権限も限定されていると口頭での御説明と,ここに書いてある,あと裁判所の監督というか,選任,監督ということが書いてあるんですけれども,名義人にならないというのは,先ほども議論がありましたように,共同受託でAだけ名義人でも,BもCも受託者の義務を負うと思うんですね,


今度の姿の信託法によっては。ですから,名義人にならないから受託者の義務を負わないということには,恐らくならないと思うんですね。


  次に,権限が限定されているというのは,これは選任,監督の裏腹ですし,つなぎであることからいっても,暫定的なものであることは確かだと思うんですけれども,それは権限の範囲が限定されているので保存行為と言っていいのかもしれませんけれども,原則は。

その範囲において行ったことについての義務の深さというか─が受任者でいいという意味なんですけれども,ですから,これは結局受任者の義務でも十分なのかもしれない。

そんなに受任者の義務と受託者の義務が違うとは思わないんです。


  例えば,受託者がやめた。そこで,信託財産に金銭とか何かがあって,預金でもいいですけれども,そういうものを預かったりするわけですよね,さっきの保存行為で。


やはり分別管理してもらわないと困るのではないかと思うんですけれども,それが「いや,それは民法の受任者だって分別管理義務があります」という答えであれば,最初におっしゃった軽くした方がというか,軽くとはおっしゃらなかったと思うんですけれども,その方がちょっとどうかなと思うし,「いや,分別管理義務はないんです」と言うと,私は,やはりそれはつなぎであっても,信託財産をお預かりするなら分別管理義務は負っていただきたいと思うんですね。
  


ですから,何か誤解しているかもしれませんし,議論の結果,決まったことであれば申しわけありませんでしたけれども,ちょっとその辺は受託者と,類推適用と言うと……,何と言ったらいいんですかね,受託者と同等の義務でいいようにむしろ感じたものですから。それは受任者の義務でも同じ答えになるのではないかとも思うんですけれども,念のため。


● ここは,果たして受託者の義務と受任者の義務がどこまで違うのかというところがよくわからないという点がございますので,果たして受託者の義務を準用する,あるいは受任者の義務を準用するのでそんなに大きな違いがあるのか。


むしろそこは,あえて難しい議論をするまでもなく,非訟事件手続法が委任の規定を準用するとしているのでそれを踏襲しておけばいいのではないかというぐらいの考え方でございます。


とりあえず受任者の義務ということで考えておいて支障はないのではないかというぐらいのところでございます。


  ですから,いや,それはまずいんだ,ぜひ受託者とすべきだという御意見があれば,それはそれでまた検討させていただきたいと思っておりますが,どのように違うのかというところがそもそもちょっとよくわからないということがございますし,受託者ではないんだから受任者でいいのではないかという,ほかの制度もありますしというようなソフトランディングをさせていただいたわけでございますけれども。

● 確かに,先ほどは財産の名義がなくても受託者たり得るということは議論になりましたけれども,それは原則的な形というわけでは必ずしもないので,財産名義がなければ受任者というのが自然だろうというくらいの考え方で来ているんだと思います。


● 1点だけ確認させていただきたいのですが,あるいはできた後の解釈問題かもしれませんけれども,11ページの2の(2)にあります信託財産管理人の権限で,ただし書の方で裁判所が付与する場合ですけれども,かなり個別的な付与なのか,あるいはかなり包括的な権限付与もできるのか。

 

 例えば幾らまでの行為だったらできる,どんな行為でも,それは賃貸借でも売買でも構わないというような包括的なこともあるのか,それとも,この行為に限って権限を付与する,保存行為を超えるものをしていいということをお考えなのか。


かなり包括的なものができるようなことを考えておかないと不便ではないかと私は思うんですが,その辺はいかがでしょうか。


● 特に考えていたわけではないんですが,ここは不在者財産管理人とか相続財産管理人の場合がどうなっているかというところにもよりますが,結論的には後者で,別に包括的でも構わないものと考えております。そこは裁判所の裁量かなと思っております。


● 1点だけ確認なんですが,信託財産管理人というのは,信託を終了させる権限が民法第103条の権限として読み込めるかどうかという話でございます。
  


なぜこういう質問を差し上げるかというと,これは後ほど議論します信託管理人,また受託者監督員等の話にもつながってくるわけですが,当該管理人を行う担い手がどれだけ広がるかということにも関係しているのではないかということでございます。要は,一たん就任して抜け出せないということになってしまうと,なかなかなり手もないのではないか。


  

この提案では,確かに辞任というのがございまして,正当な理由があるときには辞任できるという話ですが,ただ,例えばですが,この信託財産管理人というのは,先ほどの御説明では一時的なものである,つなぎであるということだったわけですが,ただ,予想に反してずるずるとこういう状態が続いて,受託者もなり手がない,本当にない。

それで,もう信託の目的にあたわざるような状況になってしまうのかどうかもわからない。


または,その間に信託の財産がなくなって債務超過に陥ってしまうといったときに,やめることについて別に正当な理由があるわけではないが,信託自身をやめさせる必要があると信託財産管理人が判断した場合に,これが終了ないしは破産の申立てができるのかということです。


  細かい話で言うと,破産に関して言うと,第63のところで申立権者という記載がありますが,この前回の議論では,具体的には検討課題第7の5ページですか--にこういうことがありました。


信託財産の管理,処分を行うものとして,受託者または信託財産の管理人が存在する云々ということで,受託者の権限を持つというベースでは,恐らくこれは,例えば破産の申立権はあると考えていたように思うわけですが,では,今回の提案で,いわゆる民法第103条ベースの受任者という権限になったときに,狭まったのかどうかは別として,本当にこういう終了または破産申立てをすることができるのかどうかわからなくなったもので,お尋ねいたします。

● まず,前受託者の任務終了から1年以内に新受託者が選任されなかった場合につきましては,信託は終了するというような提案を第61の信託の終了のところでしておりますので,少なくとも信託財産管理人は,ずるずるいったとしても1年で任務が終了することになるということは言えるのではないかと思います。

  また,信託終了についての裁判所に対する申立権は,現在の我々の提案ですと,委託者,受益者または受託者としておりますので,確かにおっしゃるとおり,信託財産管理人が固有の権限として裁判所に対して終了の申立権を有しているわけではないとなっておりますが,現在我々が考えているところですと,先ほど○○幹事からお話がありましたとおり,裁判所と信託財産管理人が相談しながら,その権限の付与等をしていくということですので,必要があると認められる場合には,信託の終了についても裁判所の方から権限として与えることができるのではないかと考えております。


● 緊急性のあるもの,1年未満の場合には,やはり裁判所の許可を得て裁判所とともにやっていく,そういう運用を行うということですか。


● そうですね。当然には民法第103条には入らないと思いますし,当然の権限とはならないと思いますが,そこは許可を得てということです。


● 信託の登記の関係で,先ほど,信託財産管理人が保存行為として登記できるという話を○○幹事の方からされたと思うんですけれども,登記の申請人というのは登記名義人でなければならないとされておりまして,信託財産管理人は登記名義人ではありませんので,登記名義人でない信託財産管理人が保存行為として登記を申請できるということは,今までの登記実務でそれを認めた例はないので,信託財産管理人についても何らかの形で,ある場合には登記の申請をしなければならないといった必要性があるのであれば,何らかの対応をしなければならないのかなと思うんですけれども,現在の登記の実務では,信託財産管理人について,直ちに登記の申請を認めるというふうではないと思いますので,その点をつけ加えさせていただきたいと思います。


● どうしても必要ということであれば,何か対応しなくてはいけないということですね。
  それでは,信託財産の管理人については,このぐらいでよろしいでしょうか。


● 先ほどの登記についての件でちょっと気になるんですが,もし仮に登記をするとなったときに,名義人はだれになるんですか。

● 名義人は,前受託者ですね。そこは所有者ですので。
● それは,任務は終了しているんだけれども……。


● 所有権自体は残っていまして,新受託者が選ばれると,場合によっては戻しますということです。


● なるほど。わかりました,結構です。
● それでは,時間が中途半端だけれども,次の説明ぐらいまでは。


● そうですね,第47の信託管理人等については,また複雑なところですので,先に説明させていただきます。


  これは,現行法第8条の定める信託管理人制度を拡張し,その役割に応じて異なる3類型の制度を設けることを提案するものでございます。

  前回の提案におきましては,現行の規定について不特定または未存在の受益者がある場合に限って信託管理人を置くことができるとするのは,受益者保護の観点から狭過ぎるのではないか,信託管理人の権限に関する記述が不明確ではないかなどの指摘があることを踏まえまして,信託管理人を選任できる場合を,受益者が不特定・未存在の場合に限らないとすること,信託行為による選任,裁判所による選任,受益者による選任の3つの選任方法を認めること,いずれの選任方法による場合も信託管理人の権限は特に排除されていない限り受益者の権利全般,すなわち単独受益者権と意思決定権限の双方に及ぶこと等を骨子とする提案をしておりました。

  しかし,この前回提案に対しましては,第7回会議におきまして,特定の受益者が存在する場合に選任される信託管理人と,受益者が不特定・未存在の場合に選任される信託管理人とは異なる性格を有するのではないか,受益者が多数の場合に裁判所による信託管理人の選任を認める必要はないのではないか,受益者が信託管理人を選任できるというのは不適当ではないかなどの指摘がなされたところでございます。

  そこで,今回の提案では,前回に引き続き受益者の保護を重視する観点から,信託管理人制度について改めて全面的な見直しを行いまして,まず,受益者が不特定・未存在の場合に受益者を保護するための信託管理人制度,それから,受益者が特定・現存する場合に受託者を監督して受益者を保護するための受託者監督員制度,それから,受益者が特定・現存する場合に全部または一部の受益者にかわって受益者を保護するための受益者代表制度,いずれも仮称ですけれども,この3つの制度類型に分類して創設することを改めて提案するものでございます。


  まず,提案1の信託管理人でございますが,これは受益者が不特定・未存在の場合におきまして,自己の名をもって信託に関する受益者の権利全般,単独受益者権及び意思決定権限の双方を含みますが,これを行使するものと位置づけておりまして,現行法第8条の信託管理人と同じ趣旨でございます。
 


 なお,受益者が不特定・未存在である以上,信託管理人と受益者の権利行使の競合という問題は生じ得ませんので,この点に関する規律は設けておりません。


  次に,受託者監督員でございますが,これは受益者が特定・現存する場合におきまして,受託者の監督をより実効的なものにすべく,当該受益者のために,原則として共益的な権利である単独受益者権のみを当該受益者と重畳的に行使するものと位置づけております。

  なお,このような受託者監督員につきまして,信託行為による選任のみならず裁判所による選任を認めている趣旨でございますが,信託におきましては信託財産の所有権を受託者に移転しますので,受託者の権限濫用に備えた受益者保護のためのスキームを充実させておく必要性は,一般的に高いと言えますところ,受益者が受託者を十分に監督することができない事情が新たに生じた場合において,信託行為の変更の手続のみをもってしては的確に対応できなくなるおそれがあることにかんがみますと,裁判所による選任の方法も認めておくことが受益者保護の観点から相当であると思われます。

  もっとも,第7回会議で指摘がありましたところですが,受益者保護のための制度を設けるに当たっては,民法の成年後見制度や保佐制度等との関連も問題になり得るところでございますが,この受託者監督員の制度は本人の権利を制限するものではなく,むしろ,単独受益者権に限ってではございますが受益者と重畳的に,権利を行使することを認めるものでございまして,信託の受益者に特に厚い保護を与える必要性があるという観点からこのような民法とは異なる性格の制度を信託法上,設けることとしても,矛盾,抵触等の問題はないと考えるものでございます。

  以上のような考え方の当否について,御意見を伺いたいと考えております。
  次に,受益者代表でございますが,これは受益者がやはり特定・現存する場合におきまして,受益者の全部または一部にかわって信託に関する受益者の権利,すなわち単独受益者権と意思決定権限の双方を行使するものと位置づけております。

  この受益者代表は,単独受益者権を行使することもできるものとして提案しておりますが,むしろ受託者に対する監督上の必要性を要件としないでこの類型を設けることを提案しています主眼といいますのは,特に受益者が多数に上る信託におきまして,共同受益者による意思決定及びこれに基づく信託事務の処理を円滑に行うことができる手段を設けることを通じまして,いわば間接的に受益者の利益を保護しようという点にございます。

  そのような意味におきまして,この受益者代表というのは受託者に対する信託法上の監督機関というよりは,複数受益者の代表者という性格が強いものであるとも言えるかと思います。


  この受益者代表につきましては,受託者監督員の場合と同様に,受益者が特定・現存する場合でございますので,そもそも受益者代表の権限から外れることとなります(2)ア①ないし③の信託行為をもって除外した場合ですとか,あるいは配当受領権のようなものを除きまして,やはり受益者との権利行使の競合関係が問題となります。


  この点につきましては,まず,単独受益者権につきましては,権利の重要性や緊急性にかんがみまして,前回の提案からは除外していた損失てん補等請求権や信託違反行為の取消権も含めて重畳的に権利行使できるものとするということ。


他方,意思決定権限につきましては,これを重畳的な権限としたのでは,意思決定内容が異なる場合に受託者としては判断に窮することが予想されまして,せっかく信託事務処理の円滑性確保のために受益者代表制度を設けることとした趣旨に反したこととなるおそれがありますので,受益者代表のみが専属的に権限を行使できる,すなわち受益者代表だけで意思決定できるものとすることを提案しているところでございます。
  以上についての当否について,御意見を伺えればと考えております。
  

さらに,この受益者代表につきましては,今回,信託行為による選任を認めるにとどめまして,裁判所による選任を認めないとすることに提案を改めております。


これは,第7回会議での指摘を踏まえまして再検討いたしました結果,受益者が多数に上る信託での信託事務処理の円滑化については,信託行為において多数決制度を採用し,あるいは受益者代表を設けるなどの私的自治による自主的な解決にゆだねるべきであって,受益者の意思決定権限を吸収してしまうこととなる受益者代表を裁判所が選任することは適当ではないと思われたからでございます。


  なお,前回の提案におきましては,信託の基礎的な変更,例えば信託行為の変更ですとか信託の終了などに関する受益者の意思決定権限については,受益者が特定・現存する場合には,信託管理人ではなく受益者が行使するものとすることが相当ではないかとの指摘があることをお示ししましたところ,この指摘につきましては,今回の提案に係る受益者代表についても同様に当てはまるところだと思います。
  前回の提案の際には,事務局といたしましては,契約自由の原則に照らせば,このような意思決定権限を第三者に与えることも可能であることにかんがみますと,第三者に与えることもできるんだから前回の提案ですと信託管理人に対して,かかる意思決定権限を専属的に委ねることも可能であるとした上で,受益者の保護については別途,反対受益者の受益権取得請求権に関する規律をもって対応してはどうかとの考え方を一応示したところではございますが,反対の考え方も示されたところでございまして,なお引き続き御意見を伺いたいと思っております。

  最後に,前回の提案におきましては,受益者による信託管理人の選任に関する規律を設けるか否かについては要検討事項としておりました。


この点につきましては,委託者の意思をも反映して,信託行為の定めによる場合であればともかくとして,受益者の意思のみによって受託者監督員または受益者代表を選任できるとするまでのニーズがあると思われないことですとか,第7回会議において,受益者の意思による選任を可能としてしまうと訴訟信託と類似の問題が生じるおそれがあるとの指摘があったことを踏まえまして,今回の提案からは,受益者による選任というものは削除しておりますが,その考え方の当否について御意見を伺えればと思っております。
  とりあえず,以上でございます。

● それでは,議論が途中になるかもしれませんけれども,しばらく御議論いただければと思います。いかがでしょうか。


● 全般についてなんですけれども,まず,第7回の御提案と比較いたしまして,信託管理人というものが,現行法と同じ役割を持つ信託管理人と,受託者を受益者と併存的に監督する受託者監督員,それと単独受益者権を除いて受益者の権利を専属させる,まさに受益者の代表としての受益者代表というんですか,この3つに役割を分割させたことについては,基本的にはその考え方は理解できるわけですけれども,実務上を考えてみますと,特に現在の信託管理人の利用のされ方というところから考えますと,信託管理人と受益者代表との狭間がよくわからない部分がありまして,場合によっては不都合なところが出てくるのではないかと若干の懸念をしております。


  例えばということですけれども,現行法のもとで考えますと,年金信託等につきましては,受益者が不特定であると認識して信託管理人という形のものを置いておりますけれども,今般の提案では,それと同様に考えて信託管理人を置くのか,それとも,同じように考えたら受益者代表になるのか,その辺のところが1つよくわからない。

  それと,分析して考えると,年金の場合は特定している人もいると,不特定と言うと……。


そうすると,併存させないといけないのかといった考え方もありますし,例えばそれは兼務させることができるのか,その辺もあろうかと思います。

  あと,信託管理人の選任後,受益者が特定する,当然不存在のものが存在するということは当然あるわけですけれども,そのときに信託管理人が職務を遂行できるのかどうかが問題になると思います。


現状の実務でいきますと,例えば社内預金引当金信託とか顧客分別金信託というのがあるんですけれども,その場合については,信託管理人が元本受益権を行使して信託財産をまず受け取って,それを確定した受益者に分配していく,そういう役割を負っているわけですけれども,その職務が遂行できないことになりますと,そういうことができないということで,これは信託契約に書けばいいということであれば,それはそれでもいいのかもしれませんけれども,その不特定・未存在というものをすごく厳格に解すると,実務上ちょっと苦しいところが出てくるのかなと思っております。


  それでは,信託管理人ではなくて受益者代表だと考え方を変えてみますと,3の(2)のアの②で,受益者代表の権限のところから信託の利益を受領する権利というのが排除されていますので,みんなのかわりに信託財産を受けるといったことができなくなりますが,このタイプの信託というのは割とこれから増えてくるのではないかと思いますので,その辺の不都合があるのかなと思います。


  ただ,ここは別の契約を締結すればいいという考え方もあると思いますけれども,どうもここの書き方は強行規定的な感じがしますので,ここら辺のところが強行規定的に入ってしまうと,ちょっと困ることになりますので,この辺の御対応をお願いしたいと思います。


● 何点にもわたる御意見でしたが,いかがでしょうか。
  


年金信託が非常にわかりやすいんですが,ああいうのは一体どこに入るんだろうかということですね。私もそれはちょっと疑問に思っていたんですけれども。

● 1つは,先ほど○○委員がおっしゃったとおり,この3つの類型がどういう関係になっているのか,実務的な観点からするとちょっとわかりづらいということでございます。

例えば,極端な話,この3つの制度を同時に入れることが可能なんでしょうか。


例えば,特定の学校の卒業生のために信託をします。将来の卒業生のために,これはまだ決まっておりませんので,信託管理人を選任する。


そして卒業生全体のためには受託者監督員を入れます。そして,例えば卒業生のうち特定の一部の人,例えば外国に行ってみずから権利を行使できない人のために受益者代表を置くといったことが一応想定されているような,つまり,この制度は重畳的なものと併存的なものとして設置するものと想定されているのかどうかといったことがわからないということでございます。

  2つ目に,先ほどの私の担い手の話につながるわけですけれども,すなわち第47と関係し得るわけですが,これらの責任について2つございまして,1つは,この責任については基本的に民法の委任の規定を準用するということでございますが,これはデフォルトなのか,または裁判所が選任する場合に,その点について変更を行うことができるのかということでございます。


例えば重過失のみに限るとか,そういうことができるのか。

  と申しますのも,やはりいろいろな信託のタイプがございまして,特に事業信託で今回,入れようとしているとか,また再生ファンドであるとか,非常に裁量が多い,高度な判断を要求されるものが今後,出てくるかなと思っております。


他方,そういうものは非常に裁量が多いだけに責任が重いということになりますと,ある程度責任を明確化ないしは限定化しないと担い手が出てこないかなと思っております。


  また,例えば金融商品的なものになりますと,受益者代表において複数の投資家で証券化を行うときに,集団的な権利行使をするためには便宜的に,あたかもローンマーケットにおけるシンジケーションのように,エージェントという形で受益者代表を置くことも考えられると思うんですが,そういうエージェントの今のプラクティスというのは非常に機械的でございまして,例えば意思結集のために質問状を出して,賛成票があればその賛成票に従って,それに対して行為する。その行為については免責されるといったことがございます。


  よって,受益者代表といっても,すべて任されるというのも非常に酷なこともございますので,そういった,ある程度のプロセスを経て,その後は免責されるというタイプもあるものですから,そういう余地を,ここの権限ないし義務というところでデフォルト化できないものかどうかということでございます。
  


2つ目に,これも第47と関係するわけですけれども,報酬と費用償還請求権のお話なんですが,これは受託者の補償請求権のところで議論したことがそのまま置きかわるのかどうかという話ですが,すなわち費用償還請求権について,優先権がここでもあるのかどうか。この御説明書では,そこまで言及がないように見えますけれども,そこがどうなのかということです。
 

 仮にそういう優先権があった場合に,では,受託者とこれらの新たな3類型の先取特権間の優先関係がどうなのかという細かい問題も出てきていると思っております。
  総論的なところで,3つ御質問いたしました。


● これはまだまだ議論しなくてはいけない点がたくさんありますが,少し休憩してから再開したいと思います。
            (休     憩)

● 時間が参りましたので,再開したいと思います。
● それでは,先ほど○○委員と○○委員からお話があった件について,お答えしたいと思います。


  まず,年金信託のようなものは1なのか3なのかどうもはっきりしないというお話がありました。結論的には,これは我々としては3の類型だと考えております。


1の信託管理人の類型で,不特定・未存在の場合というのは,典型的には,例えばこれから行われる大会の優勝者が受益者として指定されているときですとか,あるいはこれから産まれてくる子供などを念頭に置いておりまして,受益者複数の年金信託につきましては,その一定の時点をとらえますと受益者が特定しているとも見られますので,受益者が不特定または未存在の場合という類型には含まれてこないと考えております。


  ただ,「不特定」という言葉で,今,申し上げたような意味まで表せるかどうかについては,今後なお検討はしていきたいと思っておりますが,仕切りとしては,そういう理解でございます。
  

それから,信託配当と申しますか,受領権について支障が生ずるのではないかという御指摘がありましたが,ここは我々としては,先ほど○○委員からも御示唆がありましたとおり,信託外でそのような受領権を与える契約を,従業員と例えば受益者代表の間ですればいいのではないかということで,ここで受益者代表というのは,単独受益者権,あるいは複数受益者の場合の意思決定権をかわりに行使する,それによって受益者の便宜に資するという,いわば共益性を有する立場に立つものでございまして,その中に,信託行為をもって純粋に自益的な配当受領権を行使できるということを持ち込むのは,いささか異質なことを持ち込むことにもなって,妥当ではないのではないかと考えております。

  やはりこの点は,書いてはございませんが,別途契約をすればそれによって配当受領権を受益者代表は行使することができるという理解でいいのではないかと考えております。


  なお,誤解でなければ,先ほど受益者不特定・未存在の場合について,現行の信託管理人については配当受領権があるのではないかというお話があったかと思いますが,解説書などを見てみますと,信託管理人については,やはり配当受領権というものはないのであって,その場合の受益者に供すべき信託利益については,受託者が保管しておくべきではないかというような記載がございますので,信託管理人についても受益者代表についても,我々としては,信託行為で配当受領権を付与することは考えられないと理解しているところでございます。


  あと,特定・現存した場合はどうなるかということでございますが,これは,任務終了事由についてはざくっと書いてあるだけでございますけれども,受益者不特定・未存在という場合が事務局の提案で言う信託管理人の選任要件でございますので,特定・現存するに至った場合には,何らかの手続を踏むかどうかは別として,任務終了事由になるだろうと考えております。

そうしますと任務終了してしまいますので,それ以降は権限を行使できないことになると思います。


  ただ,信託行為をもって信託管理人を定めている場合については,例えば特定・現存する場合においては信託管理人の任務が終了するという立場に立った場合には,今度は受益者代表として権利を行使できるんだというようなことを書いておけば,切り換えることはできるのではないか。信託行為の定めによるときは,そのような手当をもって対応することができるのではないかと考えております。

  それから,○○委員から御指摘がありました3点でございますが,まず,3つの関係は併存的かどうかということでございます。


  これは,1の信託管理人は受益者が不特定・未存在の場合で,2,3は受益者が特定・現存する場合ですので,1と2・3は併存しない。2と3は併存し得るということですので,例えばある特定の受益者について,受益者代表も選び受託者監督員も選ぶということも,信託行為で定めれば可能と考えております。


  もちろん,裁判所による場合には少し,保護の必要があるときとか要件がありますので,重複して選任する場合はないのではないかと思いますが,信託行為で定めれば,重複して定めることはできるだろうと思います。
  あと,誤解でなければ,例えば産まれてくる前の子供と産まれている子供といったときはどうかということですが,産まれてくる前の子供については,例えば信託管理人を選ぶ。


そして産まれている子供には受益者代表を選ぶ。それは1つの信託だけを見れば重複しているわけでございますが,ある特定の人を見た場合には1人しかいないわけですので,やはり制度の重複ということは,ある特定の受益者についてはないという理解でございます。

  それから,責任はデフォルトかどうかという点については,これは信託行為で定めている信託の受益者代表ですとか受託者監督員については,軽減はできるのではないかと思っておりますが,裁判所の選任についてできるかどうかというと,なかなか難しいと思います。裁判所の方から御意見を伺えればと思うところでございます。
 

 最後に報酬,費用の関係でございますけれども,費用についての優先権という話だったかと思います。


  これは結局,必要費・有益費,信託財産の価値増殖につながるものであれば優先権があるという理解でございますので,信託財産管理人は非常に認めやすいわけでございますが,信託管理人は受益者のかわりに単独受益者権とか信託の意思決定権を行使するのであって,ちょっと局面として信託財産の価値増殖ということが考えにくいなと。


万が一あって,それはやはり原則どおり必要費・有益費であれば優先すると言えそうでもありますが,しかし,債権者との関係まで優先すると言えるかどうか,価値増殖ということを言えるかどうか,なお考える余地があるかなという気がしております。

  報酬につきましては,信託債権者よりは劣後するのではないか。


しかし,社債に関する規定などを見ますと,受益債権よりは優先するのではないか。

受託者の権利と報酬の権利の優先関係については,ちょっとまだこちらは十分検討しておりませんので,また今後検討していきたいというところでございます。
  とりあえず,以上でございます。


●いかがでしょうか。引き続き議論をお願いいたします。


● 今,○○幹事から御回答をいただいたところで,再度確認……,ちょっと聞き漏らしたんだろうと思うんですけれども,信託の利益を受領する権利について,信託管理人については,例えば現行法においても,多分,法律上の問題として受領する権限はありませんということだろうと思うんですけれども,別にこれは,信託契約に書いた場合においては受領できると。

現行法にもそうだし,今,御提案されている信託管理人においても,そこは受領できるということでよろしいのかどうか。

  同時に,受益者代表について,ここで排除していますけれども,信託契約に書けばそれは認められるということなんでしょうか。

それとも,それとは別の概念として,別のところで契約を締結していないとだめなのか,そこら辺のところを再度お願いいたします。


● 信託行為などで定めると,どこまでできるかですよね。


● 割と最近の,例えば財産を保全するようなタイプの信託は,一括して信託管理人が受け取って,それをそれぞれの保全するところの受益者に対して分配するという形のものが増えてきておりますので,信託管理人の役割というのは,そういう意味合いでかなり重要な部分がありまして,そういうタイプのことを考えると,やはりどうしても必要なものですから。

● 今の例ですと,年金みたいな場合もあり得る。要するに,むしろ受益者が決まっているという……


● 年金というよりも,一括して,例えば……

● 多数の受益者等がいる場合ですね。

● そうですね。多数いて,その委託会社が倒産したらその財産を--例えば従業員の預金を保全するための信託等の場合において,例えば委託者が倒産しました,そのお金を一括して信託管理人が一たん受け取って,それぞれの従業員の預金に応じた形で分配していく。


その場合は,そういうコントロールする人が必要になってきますので。

● これは私の個人的な感想ですけれども,もし信託管理人がそうやって信託財産を受け取るといった形になると,少なくとも現行法は,信託管理人について受託者と全く同じほど強い義務などを負わせていないので,やはり適当ではないのではないかという気がするんですね。

財産を受け取って,また受益者に渡さなくてはいけないわけですから,倒産隔離はもちろん,結局,受託者とほぼ同じルールが信託管理人に適用されないと問題ではないかと思って,そういう意味で,信託財産そのものの給付を受けるのは適当ではないのではないかと思っているわけですけれども,しかし,いろいろな考え方があるかもしれませんね。

● ○○幹事からありましたので。
  信託管理人等の責任の範囲を,裁判所の選任による場合にいろいろ動かす,デフォルトにすることができるかというお話でしたが,一般的には,裁判所が選任する種々の機関というのは権限,義務,責任が法定されていて,それがワンセットとなったものを選ぶということではないかと思っています。

例えば,破産管財人を選ぶときに,否認権を行使すると大変だからこの破産管財人については否認権を行使しなくてもよいといった選任ができるかというと,やはりそれは破産管財人というものの趣旨からして問題ではないかということになってしまうのではないかと思われます。

  そういった義務と責任が一件一件ごとに変わり得るとなりますと逆に,裁判所が選ぶ立場になりますと,この信託管理人については,このぐらいの責任でということを逐一考えなければならなくなって,今度は選ぶ方で渋滞してしまうことにもなりかねないという面もあるのではないかと思った次第でございます。個人的な感想でありますが。

● ○○委員からお話があった配当受領権の問題の理解の仕方でございますが,○○委員の御質問は年金信託が念頭で,我々は,年金信託については不特定・未存在ではないと仕切ったわけでございますが,現行法は第8条しかないので,これも信託管理人と言ってやっているんだろうということで,我々の提案で言えば,年金信託の信託管理人というのは受益者代表の仕切りの中で考えていくことになるんだろうと思います。

  その上で,では,この受益者代表に信託行為をもって配当受領権を与えることができるのかというと,それは先ほどちょっと申し上げましたが,やはり制度趣旨から見て,そのような純粋に自益的な権利を受益者代表に信託行為をもって付与するのは適当ではないだろうという理解でございます。

ですから,もしもそういう必要があるのであれば,これはいわば信託の枠外において,個々の従業員と受益者代表の間で別途,受領できるという契約をしてもらえばいい。
 

 現行法では信託行為でやっているということでございますけれども,我々の提案のもとでは,年金信託の場合についてはそのようなやり方をとっていく方が適当ではないかという理解でおります。

● 1つは先ほどの,信託行為の定めで受領権者を定められないかという話。


それは確かに「受益者代表」という言葉遣いをすると,受益者代表の観念からは外れるような気もするのですが,より一般的に,ある種の給付をするのに,この人に給付をするということでその債務者--この場合,受託者ですが--の債務が理解されたことになるということはあり得るわけでありまして,一般論としては別段,労働基準法のように,本人に対して金銭を渡さなければならないとなっているわけではないと思うので,妨げることはできないのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。


  第2点は,先ほどから裁判所により選任された管理人等について,責任を弱めることはできないのではないかという話なんですが,できないというのは,私は,そのとおりだろうと思います。

  しかし,それでは信託行為の定めによる場合は自由にできるのかといいますと,私は,そうも言えないのではないかと思います。


もちろん,信託行為の定めによってするときにはできるという考えもあり得るんですが,できるとするならば,信託行為の定めによって信託管理人等が選任されていてもなお,裁判所が信託管理人等を選任することがあり得ると考えなければおかしいのではないかと思うんですね。

つまり,選任されているから裁判所は選任しないというのは,その人が完全に守ってくれるという状況にあるからでありまして,それが責任が弱められていることによって受益者の利益を守ることができないとなりますと,今度は信託行為によって定められているんだけれども,なお裁判所が選任するというふうに考えなければならないのではないか。
  こちらは意見ですが,述べておきたいと思います。

● 既存の信託管理人として年金の例が挙がっていますけれども,私が認識しているものとして,流動化の中で,信託管理人を置いているものがあるんですね。

ちょっと特殊なスキームかもしれませんけれども,住宅ローンの証券化で,それが他益信託構成をとっていて,他益信託の受益権は実質担保になっています。

不特定という認識だと思うんですけれども,受益者を取りまとめる立場としての信託管理人。


  それはそれとして,今後の展開はちょっとわかりませんけれども,セキュリティ・トラストの議論があったと思います。


場合によっては,セキュリティ・トラストの受益者を取りまとめるような趣旨での信託管理人というのも,この場合,信託管理人ではなくて受益者代表になると思うんですけれども,そういうような使われ方もあるのではないかと思います。
  


そこからなんですが,そうすると,では,信託契約の定めに従って何が論点になるかというと,やはりどの程度,基礎的な変更というのは「基礎」の概念によりますし,また,それもできるという理解がいいのかどうかというのはありますけれども,場合によっては信託契約を変更するような状況が出てくるかもしれませんし,または受益者間において利害が対立しているときですね,受託者みずからだけでは判断できないときに,受益者代表ということで判断するような状況もあるかと思うんですね。
  


ですから,そういうセキュリティ・トラスト的な視点からすると,先ほどからの議論の中で,受益者代表が信託行為によって,どこまで何ができるのかという議論が中心だったかと認識していますけれども,信託行為の中で定めることによって,ある程度柔軟に対応できるようにしていただいた方が,そういう意味においての使われ方においては,恐らく紛争を未然に不防いだりとかできるのではないかと思います。

● 先ほどの○○委員と○○幹事のやりとりで,ちょっと私,よく理解できていないのかもしれませんけれども,配当を受け取って渡すというようなことが,なぜいけないのかというのが私にはよくわからない。
 


 信託財産そのものを管理し始めると確かに受託者になるということで,これはニワトリと卵の話なので,それなら受託者と同じに動かしたらどうでしょうかという,さっきの信託財産管理人と同じような話になるのかもしれませんけれども,受益者代表を定めておいて,信託の配当というんですかね,何にせよ,受領して渡しますというニーズは結構あるように思うんですよね。

そのときに,それは制度の趣旨に反します,ですから外でやってくださいというのは,制度を変えようとしているときに何かちょっと気持ち悪いなと。


外でやってくださいと言うなら,「中でやっていいけれども,こういう条件を満たしてやってください」という制度にした方がいいような感じを持ちます。

● 受益者代表というのは受益者の利益そのものを,信託行為で設定するので個々の受益者の合意はないかもしれないけれども,受益者の代表として受領できておかしくないではないかということですよね。
  いかがでしょうか。


● 事務局といたしましては,信託行為に書くということのみをもって受益者から配当を受ける権利を吸収することができていいのかどうかいう点を問題にしておりまして,先ほど事務局の方からありましたとおり,信託行為の外で,各受益者の個別の同意をもって代理受領権を信託管理人ないし受益者代表に与えることは当然あってもいいと思うんですけれども,ここで問題としておりますのは信託行為に書くだけで,いわゆる他益信託の受益者から配当を直接受ける権利を奪っていいのかどうか,そういう点に問題があるのではないかということでございます。

● そうしますと,私がちょっと誤解していました。
  

私は,信託行為において受領権を与えてもいいのではないか,そのニーズはあるのではないかと申し上げたんですけれども,その場合には,ですから併存するというつもりでいたんですね。


奪われるのではなくて。個々の受益者は受領権は持ち続けるけれども,まとめて受け取りますということは信託行為に書いてもいい。ですから,ちょっとカテゴリーを読み間違えていたのかもしれません。

● 受益者自身がどういう権限をなお持ち続けるのかということとも関係するんですよね。


  ここら辺は理論的に,必然的に「こうならなくてはいけない」というものではないので,皆さんのいろいろな御意見を伺った方がいいと思いますけれども。

● いつも同じことを申し上げて恐縮なのですけれども,受益者代表の権限に関しまして,特に基礎的変更に係る権限についてなのですけれども,これまでの御議論では,基本的にそういった重大な変更については受益者全員の合意が必要であると。


しかし,受益者集会を設けた場合には,例えば特別決議で行うことができる,こういう前提で考えてきたと思うのですけれども,例えば信託行為の定めの中で,一部,その3分の2まで達しない,例えば10%なり20%なりの受益権を持つ者を受益者代表に決めておいて,その者が信託の基礎的変更についても決定するとなると,先ほどの,受益者全員の合意が必要であるとか受益者集会の特別決議が必要であるというルールにやや矛盾するかのような感じを受けるのですけれども,これはどのように説明がなされるのでしょうか,お聞きできればと思います。


● 今の点に関することなんですが,やはり基礎的な変更を受益者代表が比較的自由にできるとなると,これはやはり受益者の立場からすると,予測の範囲外と言うとあれですけれども,受益者の合理的な予測から外れたこともなし得ることになってしまうのではないかと懸念します。

受益者のある程度の予測可能性を確保するという観点からすると,やはり受益者代表の方が基礎的な変更権まで持つというのは,やや問題ではないかと思います。
 


 特に,この受益者代表は,御提案の中身ですと忠実義務ではなくて善管注意義務を負うという形になっていますので,忠実義務を負わない受益者代表にそこまで広い権限を与えていいのかなと考えています。
  その点,意見申し上げます。


● ある種の共通する問題ですけれども,受益者代表にどこまで強い権限というんでしょうか,与えていいのかという問題ですね。
  何かありますか。


● ○○幹事と○○幹事の御指摘は,我々としても,そういう問題があるということで,むしろこの審議会の場で,どこまで権限を与えるべきかぜひ御議論いただきたいと思っているところでございます。
  

一応事務局の方で示している一つの考え方は,変更権限なども受益者代表に与えていいのではないかという方の理由からいたしますと,1つは,第三者に変更権限も与えられるんだから,受益者代表に変更権限を与えることがなぜ妨げられなければいけないのかという点がございます。

  それから,それによって不利益を被る受益者というのは出てくるわけでございます。


そこは変更の内容にもよりますけれども,受益権取得請求権の方をもって保護することでバランスをとっていくという考えでいいのではないかというのが積極説からの理由でございます。

もちろん反対説もあり得ると思いますので,ぜひともより一層御議論いただければと思います。


● 第60の,反対受益者の受益権取得請求権の議論ともつながる話だと思いますけれども,やはり私としては,信託行為である程度書いたものについては,デフォルト化は認めていただきたいと思います。


そういう信託を前提に権利・義務関係に入ってきたものでございますので,基礎的な変更とかそういうものはございますけれども,そういうものを含めた信託行為だということで,そういう権限も受益者代表に委任できるといったことを基礎にするのが適当ではないかと思っております。


  次に,反対者に対する受益権取得請求権の話で,これも第60の議論と同じになりますけれども,やはりそこについてもある程度,強行法規化は避けるべきではないか。


もちろん,そういう必要があるのであれば,そういうふうに信託行為に書けばいいのではないかと思っています。


そこは議論の対立があるところだと思うんですが,1つ,何といいましょうか,創造的なといいましょうか,前向きな話として,そういう受益者代表に対して信認が置けない状況になった場合に,個別の受益者が自分の分について,受益者代表の権限を取り消すことができればいいのではないかと思っているわけです。
  


この説明ではそこら辺がよくわからないので,逆に御質問したいところでありますけれども,確かに,この説明書の中では受益者代表を解任するといったことが書いてありますが,これはどちらかというと,受益者代表自身,いえば当該対象になっている受益者全員との関係で,解任とかいうことをイメージしているのではないかとも読めるんですね。


ただ,個別の受益者にとってもうこの代表は認められないということであれば,もちろん遡及効はないということだと思いますけれども,その後,発生する行為について自分で行使する,代表には任せないといったことができるのがいいのではないかと思っておりますので,その点について御質問したいと思います。

● 今までいろいろな問題が出てきましたけれども,受益者の権限が完全に残っていれば,受益者代表を定めた場合。


そうしたら,積極的に権限を行使する必要性が出てきたときに各受益者が自分で権限を行使すればいいので,それなりに保護の手段が与えられているわけですけれども,ある程度専属的に受益者代表に権限を与えてしまうとなると,余り強い権限を与えるのはどうかという問題が出てくるわけですね。
  


それから,仮に受益者代表権限を個別に奪うことができるとなりますと,これもある程度は解決になるんでしょうけれども,いろいろな複雑な問題も出てくるような気がいたしますし。
  何かございますか。

● ここでの解任というのは,受益者代表の立場自体を奪ってしまうことを考えておりまして,個々の受益者ごとに解任するというのは問題があるのではないか。


というのは,ここで受益者代表を認めておりますのは,単独受益者権ということもありますが,信託事務処理の円滑化ということがありまして,意思決定権限を代表して行使することによって信託事務処理を円滑にしていきたいというのが主眼の1つでございます。


  そうすると,受益者の1人がその者との関係で受益者代表を解任することができるとしますと,結局もとの木阿弥といいますか,その人の合意とほかの受益者代表の合意とが必要になってくると,結局,信託事務処理の円滑化に資さないことになってきますので,制度を認める趣旨からすると,一たん選んでおきながら受益者ごとにばらばらに解任できるというのは問題ではないかという気がしているところでございます。ですから,そういう制度は今のところ考えていないということでございます。

● ちょっと関連するかどうかわからないんですが,基礎的変更の話に戻るかもしれませんけれども,大体これ,受益者がどのぐらいの数のことを……。
  


ロジカルには両論あると思うんです。10人,20人ならという場合と,何万人といて,例えば今,兼営法の第5条の3で処理している合同運用金銭信託,これの契約を変更しましょうと。


現在,大臣が認可して終わりと。「文句ある人は言ってきてください」と言って,文句のある人が言ってきたときにどうするかは法律に書いていない。

こういうのは多分,廃止してほしいと思うんですけれども,そういう兼営法第5条の3も引き取って,何万人といるようなものをここでも考えるのか,そういうのはやはりあっちでやってくれ,信託法の方では余り……,さらにそういう特別法が,場合によっては大臣の認可だというようなものはありなんだという前提で物事を考えているのか,それによって設計が違ってくると思うんですけれども。

● 年金信託の場合に,今の信託管理人,新しい提案で言うと受益者代表になりますけれども,年金信託の場合だと過去の退職者が含まれますから,個々の年金によって違うと思うんですけれども,かなりの数ではないかと思うんですね。

  恐らく,ここは違うのかもしれませんけれども,年金信託契約というのはそんなに詳細が書いていないことも多いと思うので,解釈論とか,新たに決めなければいけないこととか,たまにはあり得ることだと思います。


そのときの,今の○○委員の投資信託もそうですし,年金の場合も,やはりかなりの数を念頭に置いて,信託の効率性といいますかね,効率化,それからあと,受託者監督員と重複した議論になってしまうかもしれませんけれども,やはり数が多いということになりますと,逆に受託者の方が楽になるというんでしょうかね,少数の対立関係であればしっかり通知されるところを,しっかりした人が信託管理人になることによって,実質この受託者監督員と同様な役割も果たせるのかなと思います。

● 重複してしまったら申しわけございませんが,1つは,先ほど○○幹事の方から,1人について取り消すと円滑化に支障があるという御指摘で,それはまことにそうだと思うんですが,他方で,25ページの3の(1)で「受益者の全部又は一部のために」選任できるとなっておりまして,幾つかの利害グループごとに複数の受益者代表があり得るという制度設計かなと考えておりますので,そんなにこだわらなくていいのではないかという気がいたしました。
  

もう一つ,言葉遣いなんですが,「受益者代表は,受益者以外の者がなることも可能である」と26ページの※6に入っております。そうすると,「代表」という言葉が適当かなという気がします。


というのは,代表というのはみんなの代表だからいいではないかという気がするんですが,それ以外の者にならせるということだと,むしろ「代理」と言う方が実態に即して明確になるのかなという気がいたします。

● ごもっともな御意見のような気がしますね。


● 先ほど○○委員とか○○委員からおっしゃっていただいたように,信託の実務からしますと,やはり何万人とかというスキーム,特に受託者側から提供しているような集団のスキームというか,「こういう形で運用したいんです」と提供しているもの,そういうタイプについては,基本的には受託者の方がリーダーシップをとっていろいろな変更をしていく,それに対して受益者の方がのっていくか,のってこないかといったことではないかと思いますけれども,その際に当然,勝手にやってしまうということではなくて,受益者の代表をする受益者代表という人であるとか,多分次回議論されると思いますけれども,受益者複数の場合の意思決定方法というのがあって,それによって決せられる。

  それについては非常にいろいろなパターンのものがありますので,それに応じた形のものが受け皿として必要だろう。

そういうことからしますと,やはり基本的には受益者代表という人に決定してもらって,それが基礎的なところに当たるものについても,集団スキーム的なものについては,やはりそういう形でないとなかなか対応できないということではないかと思います。

  すべてのタイプの信託がそれに当たるかどうかはよくわかりませんけれども,数万とか数十万とかということもありますので,そういうことについては対応がなかなか不可能ではないかと思います。

● 今,いろいろ御意見がありましたように,受益者の数がどのぐらいの信託を考えるか,あるいは受益者と受託者の間で何が問題となっているか,給付が問題となっているのか,あるいは監督的な権限の行使が問題となっているのか,変更の際の同意とか承諾が問題となっているのか,そういうことによって微妙に違うような気がするんですね。


  その問題と関連して,この受益者代表の権限が専属的な権限なのか,あるいは受益者にも権限が残っているのかとか,どうも皆さんの御意見では,受益者代表というところにもうちょっと議論しなくてはいけない問題がある。


  また,これも皆さんの御意見,みんな同じ方向というわけではなくて,両方の御意見があったと思いますので,そこら辺を少し整理して,もう一度議論していただく機会があるのではないかと思いますけれども,いかがでしょうか。受益者代表の点についてはもう少し検討するということで,ほかのテーマでなお御議論があれば伺いたいと思いますが,よろしいですか。


● 先ほどから議論に出ている点,1つは,この受益者代表で想定している受益者の人数はどのぐらいかというのは,特に制限はなくて,何万人でも別にいい,特に制限はないと考えております。

  それから,今,○○委員から,一部の受益者について選べるではないかという御指摘がありました。

それは私,さっきちょっと言い忘れたんですが,確かにそう書いてあります。ただ,ここで一部というのは,後ろの(注4)にも書いてありますが,種類受益者のようなものを考えておりますので,個々の受益者が「やはりやめた」というのは,ちょっと行き過ぎではないかという気がしております。

● もう一点。この受益者代表が一部の受益者のために選ばれた場合は,その受益者代表は選んだ受益者に対してだけ注意義務等を負うことになるのか。

逆に,その人が非常に働き過ぎてその他の受益者が害されたようなときには,その他の受益者はその解任等,何か打つ手があるのかどうか,その点をお教えいただければと思います。

● ほかの受益者からの解任請求は,難しそうだな。


● 選んだ母体ではないかなという気がしております。十分詰めて考えていないので検討させていただきますが,やはり母集団たる,例えば種類受益者に対して注意義務を負い,その者が解任権などを有するということではないかと思います。

  では,ほかの人が困ったときどうするかという問題は確かにございますので,1度考えてみたいと思います。

● 今日は余り議論がありませんでしたけれども,受益者の間の利害の対立があるときに,今の例は利益相反するものではなくて,選ばれたのは特定のグループからですから,そういう意味ではほかの受益者からの権限がないので,単純な利益相反とは少し違うかもしれませんけれども,しかし,一方のグループの利益を守ると,あるいは守り過ぎるとほかのグループの不利益になる可能性がある。

そういう意味では,広い意味では利益相反的な行為が行われる可能性があって,そういうものをどういうふうに調整したらいいかというのは,この受益者代表とか,信託管理人もそうですけれども,結構難しい問題があるのではないかと思っています。


  ただ,法律構成からすると,今の○○幹事の御指摘は,そのグループから選ばれたというか,信託行為で定める場合もあるでしょうけれども,なかなかほかのグループからの解任とかいうのは難しいけれども,善管注意義務も難しいですかね。


なかなか難しい問題ですね。ちょっと今,とっさにいい解決がないけれども。


  それでは,もしほかに御意見がなければ,この信託管理人等の問題は,私としては非常に重要な問題だと思っております。


これからいろいろなタイプの多数の受益者の信託が出てきて,また,今,申し上げたようにその利害が非常に錯綜している場面があって,そういうときに単純に,ただ代表者を定めればいいという問題でもない。

そういうことで重要な問題ですので,これは皆さんの御意見を踏まえてもうちょっと検討させていただければと思います。

● では,残りの説明を全部やってしまいますので,よろしくお願いいたします。
  受益者の利益の享受と受益者変更権,それと受益権の放棄,あと受益者名簿でございます。

  まず,第45の受益者の利益の享受について御説明いたしますが,これは前回の提案からの変更点についてのみ御説明いたします。2点ほどでございます。
  


まず,提案2の被指定者に対する通知でございますが,このような通知をする趣旨は,受益者が受託者を十分に監督できるようにするためでありますので,通知すべき内容は,信託が設定された事実ではなく,受益権取得の事実であるといたしました。

その上で,委託者の中には被指定者に対して受益権取得の事実を知らせたくない者もあるとのニーズに配慮いたしまして,原則としては,受益者が受益権を取得した場合には受託者が遅滞なくその旨を通知すべきものとした上で,このような通知の要否自体,あるいは通知自体,いずれについても任意規定と改めております。


  そこで,通知をすることを望まない受託者としては,受益権取得時期をおくらせることにより通知時期をおくらせる方法と,そもそも通知義務自体を信託行為で排除する方法との選択肢があることになります。

  次に,前回の提案におきましては,遺贈における利害関係人の催告権に関する民法第987条の規定が,遺言信託のみならず生前信託にも類推適用されるべきであるとの有力な見解があることにかんがみまして,受託者その他の利害関係人は被指定者に対し,相当な期間を定めて,受益権を放棄するか否かを明らかにすべき旨を催告することができ,被指定者がその期間内に意思を表示しないときは,受益権を放棄できないものとするとの規律を設けることを提案しておりました。


  


しかしながら,第7回会議での指摘などにかんがみますと,催告に関する明確な合意を受託者と受益者の間でしたような場合であればともかくといたしまして,法律上の規定をもって受益権を放棄しない旨の明確な意思表示がないにもかかわらず,催告期間の経過をもって受益権を放棄できないものとし,その結果,受益者が多大な補償請求権の行使を受けるかもしれないリスクのある地位に立たされることとなる可能性を認めることは,受益者保護の観点から相当ではないと考えられます。

  そこで,今回の提案におきましては,催告権に関する提案は撤回することとしておりますが,その当否について御意見を伺えればと思っております。

  次に,第46でございます。
  これは今後,遺言代用信託をはじめとする民事信託の分野において特に有効に活用されることが期待される受益者指定権者,または受益者変更権者を有する信託の法律関係を明確にすることを意図する提案でございます。
 

 ここでは,今,申しました「受益者の利益の享受について」において通知に関する提案などを改めたことなどに相応いたしまして,提案3についてのみ内容を改めております。


  具体的には,受益者指定権の行使の場合には,被指定者は受益の意思表示をすることなく受益権を取得するとした上で,通知すべき内容は受益権取得の事実であるとともに,受託者による通知義務は任意規定であるとしております。(1)と(2)がそうでございます。


  また,受益者変更権を行使する場合には,受益権喪失の効果は直ちに生じるとともに,受益権取得の効果は,やはり受益の意思表示をすることなく生じるものとした上で,通知すべき内容は受益権喪失の事実または受益権取得の事実であるとし,受託者による通知義務は,やはり任意規定であるとしております。

(3)(4)がそういうことでございます。
  続きまして,第51の受益権の放棄について,御説明させていただきます。

資料の36ページからでございます。

  これは受益権の放棄につきまして,受益権を放棄できる受益者の範囲や受益権を放棄した場合の効果に関して,前回の提案に引き続き規律の明確化を図るものでございますが,前回の提案から大きく2点,変更点がございますので,順次説明してまいります。

  第1の変更点でございますが,前回の提案では,自己の意思によって利益,不利益を受けることとなった者,いわゆる自益信託における当初受益者につきましては,受益権を放棄できないことをデフォルト・ルールとしていたのに対しまして,今回の提案におきましては,受益者は信託の類型を問わず,原則として受益権を放棄できることにデフォルト・ルールを転換してございます。

  このように変更いたしましたのは,前回の提案におきましては,いわゆる自益信託については受益権を放棄できないことを原則とし,いわゆる他益信託につきましては,受益権を放棄できることを原則とする内容の提案をしてはおりましたが,第7回会議において指摘を受けまして,また,事務局としても問題を認識しておりましたとおり,経済実態としては,自益信託と他益信託との間には実質的な相違がない場合も多く,それにもかかわらず受益権の放棄に関する規律が大幅に異なるのは相当ではないと考えられるからでございます。
 


 このように,デフォルト・ルールとしては受益者は信託の類型を問わず受益権を放棄できることとした上で,例外的に放棄できなくなる場合を定めております。

  1つは,自己の意思によって受益者となった者につきましては,1の(1)の①にあります信託行為に別段の定めのあるとき,または②にございます受託者に対して受益権の放棄をしない旨の意思表示をしたときでございます。
  


これに対しまして,自己の意思によらずに利益,不利益を受けることとなった者,従来の言葉で言えば,いわゆる他益信託における当初受益者につきましては,②の受託者に対して受益権を放棄しない旨の意思表示をしたときに限って,受益権が放棄できなくなるわけでございまして,信託行為をもって受益権を放棄できない旨を定めることはできない。


仮に置いたとしても,この当初受益者との関係では無効であるとしております。


  このうち信託行為の定めのあるときを例外といたしましたのは,この場合には,放棄できないということが受益権の内容に含まれることになる,換言いたしますと,受益権自体がそのような性質の受益権,いわば放棄できない性質を有する受益権となると考えられるのに対しまして,受託者に対して受益権を放棄しない旨の意思表示をしたときを例外といたしましたのは,この場合には受益権自体の性質に影響があるわけではございませんが,当該信託から生ずる利益及び不利益を十分に認識した上で,受益権を放棄しない,あるいは当該信託から生ずる不利益を引き受ける旨の意思表示をしたにもかかわらず受益権を放棄できるとするのは,禁反言の原則に反すると考えられるからでありまして,両者の発想は異なっているものでございます。


  以上を再度まとめて申しますと,受益者は原則として受益権を放棄することができますが,例外的に信託行為で放棄できない旨の別段の定めがあるとき,または当該受益者が受託者に対して受益権を放棄しない旨の意思表示をしたときには,もはや放棄できないこと,それから,放棄できた場合の効果といたしましては,原則としては,放棄の時点までに生じた原因に基づく責任のみを負うことになるが,例外的に自己の意思によらずに受益者となったものについては,一切責任を負わないものとするというものでございます。

  第2の変更点でございますが,前回の提案では,一たん受益権を放棄することができない受益者が生じた場合には,その後,当該受益権が転々譲渡されたとしても,いずれの受益者も原則として受益権を放棄できないこととなる旨の規律を提案しておりましたのに対し,今回の提案では,受益権の譲渡があった場合に関する規律は特に設けないこととした点でございます。
  


前回の提案に対しましては,第7回会議におきまして,今後,金融商品として受益権が販売されていくことを考えた場合には,だれかが受益権を放棄しないとの意思表示をしたら,その後の受益者は一切放棄できなくなるという規律が適切か疑問であるとの指摘がされたことを踏まえまして,受益権の放棄の可否は,個々の受益者ごとに例外に当たる事由があるかどうかを決すればよいとの考え方に改めたものでございます。


  したがいまして,例えば信託行為の定めをもって当該信託における受益権を放棄できないとした場合には,放棄できないことが受益権の内容に含まれることとなるものと考えられまして,転々譲渡されるのは,このような放棄できない性質を有する受益権でありますので,自己の意思によらずに受益者となった者は別といたしまして,みずからの意思によってこのような受益権を譲り受けたいずれの受益者も,受益権を放棄できないことになると考えられます。
  

これに対しまして,ある受益者が受益権を放棄しない旨の意思表示をしたにすぎない場合には,禁反言の効果は信託外の属人的な効果を有するにすぎず,転々譲渡されるのはあくまでも,いわばさらな受益権でありますので,当該受益者から受益権を譲り受けた者は,別途受益権を放棄することができるものと考えております。
  以上が受益権の放棄についての提案内容でございます。


  最後に,受益者名簿について簡単に説明させていただきます。
  資料の33ページ,第50でございますが,これは受益者が複数の信託の一般化にかんがみまして,株主名簿ですとか有限責任中間法人の社員名簿の規定に倣いまして,受益者名簿の作成義務,記載事項,閲覧・謄写請求権とその例外等に関する規律の創設を提案するものでございます。
  


これも前回の提案からの変更点を中心に御説明申し上げます。
  まず,受益者名簿の作成義務等に関する提案1についてでございますが,第1に,受益者名簿の作成については,前回の提案では,受益者が複数の場合である以上は作成が義務的であるとの提案をしておりましたが,第7回会議におきまして,信託の類型によっては受託者が受益者の個人情報を把握していないものがあり得ること,受益者の中には,他の受益者に個人情報を知られたくないと考える者があり得ること等の事情が指摘されました。

そこで,このような指摘を踏まえまして,今回は,信託行為で定めれば受益者名簿の作成を要しないものとすることができるとの提案に改めることとしておりますが,その当否につき問うものでございます。
  


第2に,受益者名簿の法定記載事項につきましては,前回の提案では要検討事項としておりましたが,受益者の権利行使や,受益者の保護のために最低限必要な情報を明らかにするという観点から,※1に書いてございますが,受益者の氏名または名称及び住所,受益者の有する受益権の数,受益者が受益権を取得した日とする考え方につき,その当否を問うものでございます。
  


この提案内容は,現在,国会審議中の会社法案における株主名簿の記載事項の内容とも合致したものであることを付言申し上げます。


  なお,前回の提案におきましては,一定の場合について,受益者名簿に対して一定の法的効力を付与することの可否について,なお検討するものとしておりましたが,この点については受益者集会のところで検討させていただく予定でございます。


  次に,受益者名簿の閲覧・謄写請求権に関する提案2についてでございますが,第1に,閲覧・謄写請求権者がだれかということにつきましては,受益者の個人情報保護等の観点から,この提案に挙げた受益者,信託行為に定めがある場合の委託者,信託管理人,受益者集会の招集権者,それから書面決議の実施権者に限ってはどうかと考えるものでございます。

  なお,信託管理人を閲覧・謄写請求権者に含めるのは,保護の対象である受益者について正確な個人情報を知る必要があると考えらることによるものですので,同様に受益者保護の観点から設けられます受託者監督員あるいは受益者代表についても閲覧・謄写請求権者に含まれるものであると考えていることを補足いたします。

  第2に,前回の提案より引き続き,受益者名簿の閲覧・謄写請求権の重要性と受益者の個人情報保護の重要性との調整という観点から,※3の①から⑦の拒否事由を法定することを提案しておりますが,これは資料34ページの⑦の次に書いているところでございますが,例えば信託行為に定めのある場合,またはさらに加えて受益者の同意がある場合には,閲覧・謄写請求権自体を制限することができるとする考え方もあり得るところでございます。

  このような考え方については,既に信託事務に関する重要な書類,帳簿等の閲覧・謄写請求権のところでも同様な問題提起をして,いろいろ御意見をいただいたところでございますが,受益者のプライバシー保護の要請は受益者名簿の方がより高いと思われることにもかんがみますと,このような制限ができることとする方向性をとることは十分あり得ると思われます。

  また,そもそも受益者名簿の作成義務自体を任意規定としている以上は,閲覧・謄写請求権の制限についても信託行為で柔軟に決定できるというのが一貫しているようにも考えられます。この点についていかに考えるべきか,御意見を伺いたいと思ってございます。
  以上でございます。


● 幾つも論点が分かれておりますけれども,どこからなりとも御議論をお願いいたします。

● 受益権の放棄の点について,意見を述べさせていただきたいと思います。
  第51のところですけれども,御提案の内容からしますと,受益者が責任を負う内容には恐らく3類型あるのではないか。


1つは,受益権放棄により,放棄の時点までに生じた責任は免れ得る。


2つ目として,受益権放棄により,放棄の時点までは責任を負うが将来の責任は免れ得る。


3番目として,受益権を放棄することはできず,将来の責任をも免れることはできない,この3つになろうかと思いますが,御提案の内容を見ますと,まず,信託行為により受益者として指定された者については,原則として,その放棄の時点までに生じた責任も免れることになっておりますけれども,放棄しない旨の意思表示をした場合には,将来の責任も免れることはできないとなるように思われます。

そうすると,この場合には,中間的責任といいますか,放棄の時点まで責任を負う類型の責任というのは余り想定されていないように読めるんですが,そういった理解でよいかどうか,これは1つ質問です。


  それから,原則として,受益権者は放棄の時点までの責任は負うとされているようです。

これはもちろん補償請求権について,デフォルト・ルールとしてどういったことを想定するかにもよろうかと思いますけれども,御提案の内容では,被指定者でない場合と受益権の譲受人については,恐らくこれに該当することになるのではないかと思われます。


そういった場合に,自益信託の場合には問題ないと思うんですが,受益権の譲受人にこのような責任を負わせる場合には,従前からの議論でも指摘されているところですけれども,譲受人が正確な認識のもとに受益権を譲り受ける必要があるということが重要になろうかと思います。

  この点については,業者がその受益権を販売する場合には業法規制によることが考えられると思うんですけれども,一般民事信託の場合にこういった点をどういうふうに確保していくかについては,若干心配があるところです。
  


個人的には,そういうような認識を確保するとの観点もあって,例えば負担付受益権ですとか,あるいは一定の責任を負う受益権等の名称を付した受益権類型を考えてもいいのではないかという気もしますけれども,いずれにしても,そこのところの手当てといいますか,そこを検討する必要があるのではないかと思います。

  関連して,これはむしろ受益権譲渡の問題なのかもしれませんけれども,民事信託を考えた場合に,責任を負担した受益権譲渡をどういうふうに考えるのか,負担付債権の譲渡と考えるのか,あるいは契約上の地位の移転と考えるのかがよくわからないところなんですけれども,その辺の整理も多少必要なのではないかと感じております。


  それから,放棄できない場合として,規律の中では(1)の①と②が示されています。


この②につきましては,放棄しない旨の意思表示に当たって,受益者は間接無限責任を負うんだということを正確に認識している必要があろうかと思います。


この点は前回の議論でも意見としてあったところかと思いますけれども,「受益権を放棄しない旨の意思表示」ということになりますと権利の放棄という印象を受けて,責任の負担といいますか,そういったことが文章の表現上からはなかなか理解しにくいのではないか,誤解を与えるおそれがあるのではないかという懸念があります。

ですから,むしろこういった場合には端的に「責任を負う旨の意思表示」という形での規律を考えるべきではないかと思います。

  それから,①の信託行為に定めがある場合については,これも御説明の中で,私の理解が十分ではなかったのかもしれませんが,譲受人の場合どうなっていくのか御説明いただけると助かります。
  

譲受人の場合にも,これはかなり重い責任を負うことになりますので,やはりきちんと権利の内容を理解して譲り受けることが,もし信託行為によって責任を負わされることになるのであれば,それは重要なことになってくるだろうと思います。


やはりこの受益権の放棄の問題については,受益者が責任を負担するということに関する問題ですので,受益者が,他人が行った契約ですとか自分が関与しない契約ですとか,あるいは法律の規定によって予想外の重い責任を負わされるという事態は,やはり可及的に防ぐ必要があると思います。ですから,この点についてはぜひ慎重な御検討をお願いしたいと思います。


● 多岐にわたっておりましたけれども,極めて基本的な問題ではありますので,いろいろな御意見を伺いたいと思いますが,今の論点に関して御意見ございますでしょうか。

● 第51の内容を確認させていただきたいのですけれども,1つは,1の(1)の①の規律がどういうふうに働いていくのかということでございます。


  先ほどの御説明によりますと,他益信託,自益信託は分けず,自益信託型でとらえようとしていたものは②によると。


そういたしますと,1の(2)の被指定者というのは,自益信託の場合も含めた,およそ一般的に受益者として指定された者を言うことになるのだろうと思います。


他方,37ページでは,譲受人については個々の受益者によって決すれば足りると書かれておりますので,ちょうど○○幹事から御質問がございましたけれども,(1)②の立場の承継者だけではなくて,(1)①の受益権の承継者についてもこの理由は当てはまると思われます。そうしますと,被指定者以外にどういう人が出てくるのか。


  言い換えますと,ここがすべての人がそうなのだ,すべての受益者がそういうことになってくるんだとしますと,(1)の①が必要なのかがからないということです。

可能性としては,2の局面で分けられておりますので,この前提として,受益権に放棄不可能な性質の受益権として信託行為で設定されたものと,そうでないものというふうに分けることが2で意味を持ってくるのかと思われたのですけれども,これもまた○○幹事の御質問の内容ではあるのですが,(1)の②の受益者についてはそもそも放棄ができないことになっていますから,2にはいかない。


つまり「放棄をしたときは」という話にはならないと考えられますので,そういたしますと,2の(1)と(2)が分けられているのは,(2)というのはもともと信託行為において受益権の性質として放棄できないとされていたものについては,しかし,被指定者と譲受人は個々別々に判断として放棄ができて,そのときにはすべて免れる。


それに対して(1)が発動するのは放棄ができる場合ということになって,放棄ができる受益権となったときに放棄する場合には,およそそれまでの原因に基づく責任は免れることができなくて,放棄できないと信託行為で設定されたものについては,すべて免れることができる,そういう趣旨なんでしょうか。

  何か大変誤解しているような気もしますので,まず中身を明らかにしていただければと思います。


● 最初に,私もよくフォローしなかったけれども,この「被指定者」の意味が自益信託の場合も含むのかということを言われましたか。

● 御説明では,含まないという御説明だったと思います。


つまり,自益・他益では分けないという問題設定でございましたので,みずからを受益者とする信託行為をしたときも,私自身は被指定者ということになり,ただ,そういう場合は②の意思表示をするであろうという御説明ではなかったかと思うのですが……

● ちょっと説明がまずかったのかと思いますが,あるいは文言自体が不明確なんですが,ここで言っている被指定者というのは,いわゆる他益信託の当初の被指定者,受益者だけでございますので,自益信託の受益者はここに入っていないという理解しております。


ですので1の(2)は,他益信託の当初受益者については,信託行為で「放棄できない」などと書いてもだめですよと。しかも,2の(2)で,放棄すれば全責任を負いませんという規律という整理をしております。

● わかりました。
  そうしますと,自益信託,他益信託の区別は維持した上で,自益か他益かでは直ちに分けず,2段階目の基準として,そこはやはり入ってくるということですね。

● 自分の意思によらずに利益,不利益を受けた人は1の(2)に当たりまして,そして2の(2)に当たるということの立てつけをしております。

それを昔は他益信託と言っていたようですが,我々の理解では,みずからの意思によらずに利益,不利益を受けることはないので,そういう人は自由に放棄できるし,放棄した場合は全責任を負わないことができるという考え方をとっているわけでございます。

● くどくて申しわけないのですが,自益,他益の概念とは違う概念をここで導入されたという……


● 実は同じなんですけれども,言わないだけです。


● 違うと言うとね,かえってまた難しくなってしまう。ただ,そういう言葉は使わないという。


  それから,受益権の譲渡があった場合を含めて一遍に議論するとまた複雑になるので,譲渡がない段階の問題と,それから譲渡があった場合とで分けて考えた方がいいと思いますが,その上で,この中身はいかがでしょうか。


● 私も,第51の(1)の①で信託行為に別段の定めがある場合は放棄できないというのが,信託行為にどういう……。


先ほどの説明を伺っていたら,次のように理解できる。

間違っているかもしれないんですが,信託行為に「受益権は放棄できない」とまず書いてあって,かつ受益の意思表示があった場合にはこれに当たると理解したんですが,そういうことでしょうか。


まず,これが今の自益,他益のお話とは関係なくて,一般的な話だと理解できるのかどうか。


  もう一歩だけ進んで,そうすると,「放棄できない」と書いてある信託行為でぼやっと受益の意思表示をしてしまうととんでもないことになるということだと,先ほどの○○幹事の危惧に共鳴するところがある。


しかし,そういうものが全部……。この1の(1)の①の信託行為に別段の定めがあるときの説明をもう一度伺えるとありがたい。


● 信託行為での定めについて我々が想定しているのは,「受益権を放棄できない」と書いてあった場合,この定めに当たるという理解でございます。
  

その場合にはそういう性質の受益権になるので,そういう受益権を譲り受けた者は,みずからの意思で譲り受けているわけですから,その者については一切放棄できなくなるということでいいのではないか。


受益の意思表示云々は関係なくて,受益の意思表示がなくてももちろん受益者にはなり得るわけですが,それだけでは放棄できないことにはならない。


ただ,信託行為で「この受益権は放棄できない」と書いてあれば,そういう受益権を取得したことによって放棄できない立場になるということです。

● その効果は,2の(1)へ行くんですね。
● 2の(1)ですね。

● 今のお話は,譲り受けの場合を想定しているようですが,譲り受けた以前のことは何の関係もないとは言えなくて,譲り受けた時点以前に生じた原因に基づく責任は免れなくなるということなんですね。


● そうですね。仮に放棄できてもですね。今の前提として,信託行為に定めがあったら放棄できないので。


● わかりました。そうすると,そこは私が全然理解が足りないんだと思います。
  ああ,そもそも放棄ができないんだからね,最初は。2へ行かないんですね。

● 2は,放棄できる場合。

● そうすると,繰り返しになりますが,それは○○幹事がおっしゃったように「受益権の放棄」という意味がどの程度わかっているかという……


● そうです。放棄したときにどういう効果が発生するかがね。いろいろな場合がある。


● あと簡単なことなので,ほかの項にいっていいですか。

● ちょっと私,○○幹事が中間的なものと言われたのが……。3つあって,中間のはないのではないかと言われたような気がしたんですが,違いましたっけ。先ほど最初に整理した冒頭のところでしたけれども。


● 最初にお伺いしたのは,信託行為により受益者として指定された者は受益権を放棄できるとなっていますが,この人が(1)の②の意思表示をした場合には,もう放棄できなくなるということになりますと,2の(1)で規律されている,放棄の時点までに生じた原因に基づく責任は負うんだという場合は出てこないのでしょうかということ。

● 放棄できなくなるわけですから,2にいかないことになります。他益信託だから,信託行為で「放棄できない」とはできないけれども,自分で「放棄しない」と言ったらそれは放棄できませんので,もう2にいくまでもなく,全責任を負うことになります。

● そういった場合でも,中間的な放棄ができるまでは負うということもあっていいかなと思ったりもしたんですが,そういうのは,この規律の中には入っていない。

● 将来のものだけ免れるということがあり得るのではないかということですか。放棄までに生じた原因に基づく責任は負うけれども,そこから先,将来……


● そういうことは考えなくていいんでしょうかということ。
● そういうのもあるのではないかということですか。
● はい。


● 我々の理解では,一たん受益権を放棄しない旨の意思表示をしてしまえば,それによって一切放棄ができなくなりますので,放棄までの原因であろうが将来の原因であろうがすべて負うという一応の考え方を示しているところではございます。


● ○○幹事の御意見は,放棄しないという意思表示をすると,それ以後の不利益は全部享受する。だけれども,それまでのやつは責任を負わないといったことがあってもいいだろうということですか。


● それまでのものについては負うといった責任の負い方もあるのではないか,そういうことは考えなくてよろしいんでしょうかと。

● あ,そっちは負うんですね。


● 問題意識としてあるのは,要するに,受益権の放棄という枠組みで考えているので,そういった,ちょっと穴が開くようなことになってしまうのではないかという気がしていて,要するに,責任要素のどこまで負います,どこまで負いませんというような意思表示というような形で定めれば,むしろわかりやすくなるのではないかという意見なんですが。

● これは一定の時間がありますから,どこまでの責任を負うか,そっちの方から整理した方がいいだろう,そういう御趣旨ですね。


● 関連してお伺いしますが,2の(2)で遡って責任を免れることになった場合に,その被指定者が受益権を既に一部,利益を受けていたという場合はあり得るんでしょうか。


そして,その場合に,それを返還するということになるんでしょうか。それとも,そもそも利益を受けるということはないという発想なんでしょうか。


● それは不当利得として返還義務を負うのが原則だと。信託行為で特に書いていない限り,責任を免れるかわりに受け取った利益は返還しなければいけないと考えております。

● 放棄はできる,だけど受けた利益は返す。そうね,両方あり得るかもしれないけれども,不当利益で返すというのが一つの考え方ですかね。


● そうすると,○○幹事のおっしゃった真ん中というのは,ないという発想になるわけですね。


最初からゼロか,それともずっと責任を負うかという二者択一だという理解でよろしいわけですね。確認だけですが。


● とにかく放棄できる場合……,この放棄を基準にして考えると,放棄できる場合には,2の(2)の場合であればすべてを免れるわけですからね。


そういう意味では二者択一といいますか,オール・オア・ナッシングになってしまう。片や放棄ができないということになれば,全部責任を負う。

● 関連するところでもあるんですけれども,私が仮に受益者になって判断を求められたときに,やはり信託財産があり,でも無限責任があるというところで判断できかねる状況があると思うんですけれども,前のところでも議論されていたようですけれども,負担付遺贈の場合の免責のような,または総則における限定承認のような,ですからここでの議論に条件付放棄とか--限定放棄と読むのか知りませんけれども,オール・オア・ナッシングではなくて,放棄に対して何らかの条件等をつけることも,恐らく民事信託の前提なのかもしれませんけれども,どういう信託を前提にするかわかりませんけれども,状況に応じて必要なのではないかと思いますし,そういう趣旨ではないのかもしれませんけれども,検討いただきたいと思うんですが。

● 今の前半部分は非常に重要なことで,後半も関係するんでしょうけれども,とにかく受益者が何をすればどうなるか,明確になることが重要ですよね。


少なくともそういう趣旨からこれはできているわけですけれども,そういう問題,つまり,何をすればどうなるかということが明確になっていることと,それから,いろいろな場合があるので,中間的なというんでしょうか,今,条件付と言われましたけれども,そういうようなものをうまく組み込むことができるのかどうかということと,2つ問題点があるような気がします。しかし,両者に多少相反するところもあるのかなという気がしないではない。

● でも,やはり無限というのは怖いですから,信託財産の範囲内というのは,制度的には民法の中に存在しているわけですよね。


遺言信託でも,信託財産はあるけれども片や債務もある。そのときに限定承認的な,限定放棄のようなものがあってもそんなに違和感はないような気がします。

● それは,特に利益を享受している場合に意味があるんですかね,場合によって。要するに,信託財産の範囲ということは……。受益者の補償請求権などを行使されたときに,そういう抗弁を出すわけですね。

● はい。

● 確認させていただきたいのですが,今,おっしゃっていた限定承認に近いようなものは,信託がもちろん始まった後に,事後的に受益者の側から一方的にやる,受託者との契約の制度ができるのはよくわかるんですけれども,それは受益者の一つのオプションとして,常に保有させるべきものなんでしょうか。


つまり,責任は負わないけれども地位はなお保持するに近いような。


● 補償請求のところの議論とも絡んでしまいますけれども,前々回の議論に従えば,信託行為に「補償請求あり」と書けば,恐らく補償請求ありと。


一方的に利益のみ享受するのはある意味で不当,不適切ではないかという議論は,それなりに説得力があると思うんですけれども,受益者の立場に立って,信託財産はあるけれどもよくわからない,今の時点で顕在化していて,それだけということになれば,恐らく経済的にも計算できるわけですけれども,よくわからないという前提での放棄を求められるわけですから,ですから,遺贈の場合と同じように,信託財産または既に利益を受けていればそれを吐き出す責任があるかもしれませんけれども,あくまで信託から得たメリットの範囲内においてのみ債務を負いますと。
  


だから,放棄なのかわかりませんけれども,条件的なそういう言い方があっても,そんなに不自然ではないのではないか。もちろん,債務と信託財産が明確に算出されている状況においては……

● 前提は,やはり受益者に対する補償請求権の問題と密接に絡んでいるんだと思いますけれども,それがなければ,もう全然問題ない。


補償請求権があるときに補償請求されてきて,あるいはその危険性があるときに,受益者の方でどうするかということですね。放棄をするのか。

しかし,放棄すると信託の利益が享受できなくなってしまうから,願わくば安全といいますか,何とか信託がプラスでやっていけるのであれば利益は享受したい,信託の給付も受けたい。


だけれども,そうすると今度は補償請求権がついているので,万が一のときには請求されて困るというので,条件付,限定承認付的な,何なんですかね,万が一補償請求をされるような状況であれば放棄していたという,そんなあれですよね。
  


それは受益者にとってはありがたいけれども,どういうふうに構成したらうまくいくのかな。


● 今おっしゃる話は,例えば,これまでに受益者として既に給付を受けていて,あるいは将来も受ける,そこを限度として責任を負うといったオプションを用意してはどうかということでしょうか。
● そうですね。
● ですから,具体的に求償がどのくらいかかってくるかはわからないので,少なくとももらったものは吐き出します,だけれども,それ以上は負わない。だけれどもそれ以下の,ダウンサイドのリスクはとりませんといった責任の負い方がないかということですか。
● そういう提案です。


● 今の点に関連して,どういうものをイメージするかなんですけれども,株主有限責任みたいなものをイメージすれば,信託行為であらかじめ……,結局これは○○幹事がおっしゃったように,放棄という切り口ではなかなか切りにくいのかもしれないんですけれども,信託行為であらかじめ,将来給付はいただきますと。

今おっしゃったようにもらったものを吐き出すなら要らないんですけれども,信託財産までは失います,これは合意します。


しかし,それを超えては失いません,来るものはいただきます。これは株主の世界なんですけれども,そういう内容に合意することも,合意というか,あらかじめ決めておくのに合理性があるのではないかということですよね。

  これは,株式会社と競争するような場合には,当然そういうスキームにしないと競争が成り立ちませんので。

さらに超えて,今,○○幹事のお説によると,もらったものまでは返します,だけれども,それに追加して払うのは勘弁してくれという類型も,もう一つあるかもしれない。

ですけれども,恐らく○○委員がおっしゃったその名前のところで,株式会社的類型というか,そういうものもあっていいのではないかというのは私は正論だと思うんですけれども,放棄というテクニックを使って組み合わせると,何か三重にも四重にも書かなければいかんように思うものですから,ちょっと放棄というところで,どこまでいけるのかなという課題を投げかけているように思うんですけれども。

● ○○委員の第1段階のは,むしろ正当なやり方は,やはり補償請求権がないという形をとるのが一番いいわけですよね。


だけれども,信託条項の中に補償請求権はあると明記されている。そのときに,どうしたらいいか。


補償請求権があると書いてあって,補償請求権がないような効果を導くというのは,やはりなかなか難しいかもしれないので,やはり何か放棄というものをかませないと,どこかで放棄という行為を入れないと,補償請求権は行使されてしまうのではないかという気がするんですね。前提は。

● そういう発想に立つと,やはり条件付ということで,次の何かを入れないと。


● それがうまく入るのかどうか,さっきから考えていたんですけれども。


● 今の話は私は,○○委員と一緒なのかどうかわかりませんが,補償請求権の定め方のオプションの問題ではないかと思います。
  


私は,本当にこれが理解できているのかどうか,すごく不安になってきたんですけれども,これ,受益者になるよという意思表示をするということと,受益権を行使しない旨の意思表示をするというのは異なることなんですよね。

● 異なります。

● 異なるものであるということが前提になったときに,○○委員の質問に対する回答がよくわからなかったんです。と申しますのは,放棄をしたら今までの受益分が不当利得になると。

● 放棄をすると,全責任を免れるかわりに受益者の地位を失うということですね。

● 遡及的にですか。
● 遡及的に。
● それは2の(2)の場合ですよね。
● 他益信託の場合ですね。
● 2の(1)のときには遡及しない。
● それは,放棄の時点までに生じた原因の責任を免れないので,遡及しないですね。

● 2の(2)は遡及するということは,被指定者は一たんは「受益をします,私,指定されているみたいですね,これは結構ですね」といって受け取るんだけれども,その後,遡及的な放棄をするということですか。


● いわゆる他益信託の受益者については,とりあえずはもらえるので受け取ったけれども,後からよく聞いたらリスクもあるということを十分認識して,「それなら放棄しましょう」ということで放棄することができます。

そして放棄した場合には,2の(2)にいきまして,遡及的に責任も免れるかわりに受け取ったものも返さなければいけないのではないかという理解をしているところでございます。

● さっき,ちょっと小さい声だったかもしれないけれども,私は「そういう考え方もありますね」という言い方をしたんですが,返還しなくてもいいという可能性もあり得るとは思うんですね。


従来の受益権放棄のときは,もしかしたら利益は返さないと考えていたのではないかという気もするけれども,どうですかね。

● もちろん,それは将来に向かっての放棄だったと思いますけれども……
● あ,それは将来に向かってのね。

● ええ。ですから,そういうものを放棄と呼ぶのだったらば,一たん受益の意思表示をしても,遡及的にその受益の意思表示を取り消すことができるという話であって,「受益権の放棄」という言葉で呼ぶこと自体がかなりミスリーディングな感じがするんですが。


● わかります。要するに,受益者の地位を取り消す,遡及的に取り消すという意味での受益権放棄と,もう責任を負いませんというか,これから負いませんというのか……

● 逆に「受益をしません」でいいんですが,将来にわたってもうやめてしまいますという話とは,かなり違う話ですから。


● ここら辺は,確かに従来からいろいろな議論があるところで,受益権の放棄の効果の問題として,いろいろな考え方がある。○○幹事もどこかに書いておられたと思うけれども。


  ここでは,とりあえず事務局としては一つの考え方に基づいてできているということだけですが……。


● 先ほど○○委員がおっしゃった限定承認的な形というのは,基本的に契約に書いて,放棄なのか補償請求なのかは別な問題として,契約に書いた形であれば問題はないんですけれども,法定化という形になりますと,何となく受託者にとっては踏んだり蹴ったりということになりますので,そこら辺で,ちょっと御勘弁いただきたいなという感じがいたします。
  


それと,1点確認なんですけれども,受益者全員が放棄したときのお話なんですけれども,その場合には当然,信託が終了して,法定帰属権利者に信託財産が帰属するという形になると思います。


その場合は,第62のところで規定されていますけれども,法定帰属権利者は放棄ができないといった規定がありますので,受益権の権利,義務は委託者に帰属したままになります。


その場合,補償請求というのが--これはまだ決まっていませんけれども,認められている,法律なのか契約なのかは別にして認められている場合については,法定帰属権利者というのはデフォルト状態で,要するに,放棄ができないと考えてよろしいんでしょうか。

● 事務局の理解としては,補償請求権があるかどうかにかかわらず,法定帰属権利者は放棄できないという理解です。


補償請求権があったら放棄できるのではないかという御指摘かもしれませんけれども,そういうことはなくて,補償請求権があっても放棄できないという理解でございます。

● 委託者ですからね,もともと自分の財産だったわけで,そういう一つの考え方があり得ると。


  受益権の放棄については,どうもまだもう少し整理しなくてはいけない問題がありそうなので,また議論するとして,ほかの論点についてはいかがでしょうか。もう時間が余りないものですから。

● これはここの論点だけではなくて,まず,第45と第46について質問しておきたいんですが,ここだけではなくて全体の関係があって,今のところもそうですね。


結局,補償請求権のデフォルトルール化をどうするかという話と密接に関連している。

  第45では,2に「ただし,信託行為に別段の定めがある場合には」云々とあるんですが,この問題はアメリカの信託法でも,「あなたが受益者だよ」といった受益者への通知のところ,あるいは説明義務というのか,情報に関連する義務のところで強行規定になっている部分があり,それについての反論,批判がありという,なかなかアメリカでも難しいんですが,ここは,この信託行為に別段の定めがある場合には--これはだから全体としての情報提供義務の話との関連なのですが,とにかく受益者が受益権を持っていることを知らなくても構わないという全体構造の中でこうなっていると理解するんですか。これが第1点です。

  次は,第46の受益者を指定または変更する権利について,特に変更する権利の話なんですけれども,信託行為の変更の提案の中にデフォルト・ルールがありますね。

ここには受益者を変更する権利というのは,一応「受益者を変更する権利はだれそれにあります」と信託行為に書いておかないとだめでしょうから,そういう意味では信託行為に一種,デフォルトではなくて,何か書いてあるというだけなんですけれども,そこで,一般に信託行為の変更のときには,私が批判している,これからもそうかもしれないんですが,受託者の利益を害さないといったような要件があったんですけれども,この受益者の変更権についてはそういうことは一切考えないで--ありそうもない話ですが,今まで受益者が1人でした,これからは100人にします。構わない。

それは信託行為の変更でも,ここで意思表示があればいいということで,これは特別な話なんですよということなのかということです。


● まず最初の御質問は,結局,任意規定にしたことによって受益者だということを認識していない受益者が出てもいいということになるのかということですが,そこは委託者の意思にかんがみて,そういう事態も仕方がないなと。

受益者が知らないうちに,意思表示なく受益者になっているわけですが,それを知らないでいる受益者が存在することを許容したということになります。


  また,受益者変更は,信託行為の変更でももちろんやることができるんでしょうが,この場合,特に第三者なり受託者にこういう変更権を与える場合があり得るだろうというか,特に多いだろうということから,特にここに規律を設けているということでございます。

● 1人が100人になると受託者の負担は増えるかもしれないけれども……
● 構わないんですか。


● やむを得ないのではないでしょうか。構わないというか,限界を設けるのも難しいと思います。
● それ自体はいいのかもしれないけれども,当然かかる費用みたいなものは請求できるんでしょうしね,別の問題として。


● 信託行為の変更ですから,信託行為を変えることが当然明らかになっているということですよね。


● 恐らくさっきの質問は,そういうふうに受益者変更権があって,その権利を行使することが全く無制限にできていいのか,受託者などにいろいろ影響することもあるのではないかという。

● 受益者変更権者の義務みたいなことが前回も議論になりました。


最低限信託目的には拘束されるでしょうし,あとは信託時変更権を付与した委任における受任者としての義務というものはかかってくると思うんですが,では,およそ無制限に変更できるかどうか,あるいは変更にそれ以外の縛りがあるかどうかというと,ちょっと具体的に,では何人以上に増やしていいかといった縛りは思い当たらないということでございますので,目的だけの縛りで「受益者の人数を増やし過ぎてはいけない。」と言えるかというと,そういうふうに一義的には言えないのではないかという気がします。

● 何か一般的な原則,権利濫用とかいろいろなものがかかってくるとは思いますけれども。

● 第50の受益者名簿について,信託の本質的な議論とは違うところで,時間がないところで恐縮なんですけれども,これは注意した方がいいのかなということで一言申し上げたいと思います。


  提案のように受益者名簿の作成義務,それから受益者名簿の閲覧・謄写の請求権を強行法規化する場合は,今からいうことについては問題ないわけですけれども,任意化した場合の問題点ということで,個人情報保護法を考えないといけないのかなと考えております。

  あくまでも個人の場合で,受託者が個人情報取扱事業者の場合ですけれども,御承知のとおり,個人情報保護法では原則として本人の同意のない第三者提供が禁止されているんですけれども,この受益者等からの閲覧請求,謄写請求というのは,個人情報保護法でいう第三者提供に当たると考えられるのではないか。もしそうだとするならば,強行規定があれば今の解釈では法令に基づく場合に該当しますので,同意なく提供できることになるわけですけれども,そうでない場合については,法律上の規定があったとしても,必ずしも個人情報保護法の第23条第1項第1号ですか--の適用除外にはならないという解釈がかなり有力でございますので,そうなると,特に有価証券化した受益証券等について名簿化するとなりますと,その収集自体は問題ないと思うんですけれども,他の人たちに開示するというところで,ちょっと問題になってくるのではなかろうか。
 

 かなりの部分で,同意をとっていけばよろしいわけですから,できなくはないかと思いますけれども,有価証券化等を考えますと相当難しいので,これは,必ずしも私が強行規定化することに賛成ということではないことは申し上げておきますけれども,そのあたりも考えて,ここは最終的な整理をしないといけないのではないかと考えまして,発言させていただきました。

● 「法令に基づく場合」というのは,今の吉元委員の解釈よりは広いと思いますが,そちらの方がもしかしたら専門で,有力だとおっしゃるから,私は有力でないと思いますけれども,私の方の関係では,宇賀先生などに聞いてももう少し広くて,これがあれば根拠としては大丈夫と解釈できると思います。


● そういう解釈を明確にしていただければ,それでいいと思います。
● これが法律上の根拠になるかどうかということですね。
● まず,第45のところで,受託者に対する通知の趣旨は信託の設定された事実の通知であると説明されているんですけれども,先ほど私の発言に対して○○委員もおまとめいただいたように,これは補償請求との絡みで,やはりもう少し説明義務を尽くすといいますか,信託の内容,特に「受益権」と言いながらも実は債務の部分もあるんだという,その具体的債務の内容についても知らせるといった趣旨ではないか,このように思います。
 

 それから次は,今,○○委員が議論していたところの変更権とか受益者の指定権ですけれども,弁護士会における議論では,前回も議論されているようですけれども,執行免脱等の関連から,濫用といいますか,悪用といいますか--されることに対して,何らかの,どういうのがいいのかというのはありますけれども,目的とか何らかの規律を1つ入れていただきたい。


何が適切かはわかりませんけれども,一般的に,信託というものは指定権,変更権があるんだということだけですと,場合によっては執行免脱的なことに使われる,また,それ以外の濫用に使われるのではないかという危惧があります。

  3番目は,受益者名簿なんですけれども,信託行為の定めを置けば不要であるというような,柔軟性という視点からは必要なのかもしれませんけれども,片や受益者集会というものも今回の信託法の改正では議論されておりますから,受益者名簿がなくて受益者集会をどうやって機動的に運用するんだろうかということがあります。
 

 ですから,受益者集会を開く可能性がある信託においては,やはり受益者名簿の作成は,必要ではないか。


● 最後の点,全くごもっともだと思います。
  これはどこかに規定がありませんでしたっけ。受益者集会の方か。


● 受益者集会の方でも,特に受益者名簿については規定はなくて,単に有価証券のところで,無記名証券とする場合にはつくらなくてもいいといった規律を設けるかという提案をしておりますが,またそれは受益者集会のところで,受益者名簿の効果のみならず受益者集会があるときは,そもそも強行規定であるというふうにすべきかどうかという点も含めて,検討したいと思います。

● 1点目は,利益の享受のところでございますが,これにつきましては第7回の会議で,2の受益者の被指定者に関する通知義務をデフォルト・ルールにということでお願いしまして,そういう規律にしていただきましたので,これについてはぜひとも維持していただきたいということでございます。


  あと,通知を要する事項というのが,先ほど御説明ありましたように,被指定者が受益権を取得した事実であるということ。これについては,基本的には異論はございません。

  また,利害関係人の被指定者に対する催告権に関する提案を削除したことについても,基本的には賛成でございます。


  もう一点は,受益者名簿ですけれども,作成義務の方と,それから閲覧・謄写請求ですね,これについても両方とも基本的には任意法規化の方向でという形の規律にしていただきまして,これも前回,第7回でお願いしたところでございますので,非常にありがたく思っておりまして,これもぜひとも維持していただきたいと思います。

  これについては前回も申し上げましたけれども,基本的に,物理的になかなかできない部分がございまして--物理的にできないというのは,受益者名簿の作成ができないタイプの信託がございますので,これについては,基本的には任意法規化していただかないと,実務上かなり厳しいものがあるということを御理解していただきたいと思います。
  


あと,これはそういう意図ではないと思うんですけれども,御説明の中には個人についてのみ書かれていますけれども,基本的には,機関投資家とかは基本的には自分の投資の手法やノウハウを知られたくないということもありまして,個人だけではなくて法人についても,やはりこの規律を生かしていただきたいと考えております。

● 名簿を物理的につくることが難しいというのは,例えばどんなことでしょうか。


● 投資信託等につきましては,販売会社が基本的には受益者の名簿を持っておりまして,それを営業上の観点から,なかなか見せてもらえないという部分がありますので,基本的には受託者として,各受益者がどこにいて,どういう名前なのかを知らないということになるんですよね。


● それは投資信託の仕組みとの関係もありますね。


● 今の○○委員のお話ですが,そうすると,受益者集会がある場合には強行規定ということも困るということですか。

● そうですね。
● それについて,○○委員の方から何か御意見はありますでしょうか。


● 受益者集会がある場合でも……
● 今のお話ですと,物理的につくれないんだから,受益者集会がある場合には強行規定というのも困るという。

● それは,どうやって受益者集会を……。ですから,○○委員がおっしゃることはわかるんですけれども,その場合の受益者の意思決定というのは,受益者集会ではない違う方法をとるとか,そっちの議論がないと何か……,そっちもわかるけれどもこっちの……

● 集まってくださいという形ではなくて,何らかの多数決ということはあり得るのではないかと思うんですけれども。


● 今おっしゃったことは,先ほど○○委員がおっしゃったような投信法の中の枠組みで今,対応しているわけですよね,受益者集会ではなくて。

ですから今後は,今の枠組みになるか,全く違う枠組みになるのかわかりませんけれども,そういう枠組みで対応するんであって,受益者集会を開かなくても受益者の保護にはちゃんとなるんだというような議論が片やあることによって成り立つ議論なのではないか。


今後は受益者集会はやりますということになると,やはり受益者名簿がないことには集会が開けないような気がするんですけれども。

● そこは実務上,何らかの工夫の余地があるのかもしれませんが,申し上げたいのは,基本的に現行実務を踏襲して考えますと,そういうことは極めて難しい面があるということです。


● 今のは,○○委員がまとめられたけれども,信託法そのものとしては,受益者集会があるときに名簿がなくていいとは言えないけれども,投信法の方で仕組みを設けているのであれば,投信法の方で特別ルールをつくってもらうということなんでしょうね。わかりました。

● 最後に1点だけ補足でございますが,1つは,先ほど○○委員から通知の内容について,受益者となったことだけではなくて内容についても通知すべきではないかという御指摘がありましたが,ここは仕切りとしては,受託者が通知すべきはあくまで受益者となったという事実だけであって,それ以上の受益権の内容については,逆に受益者側から説明請求権等を行使して知ることができるからよいのではないかというのが事務局の考え方でございます。
 

 あと,受益者が何人になってもいいのかという,先ほど○○委員からお話があった点,ちょっと今,内部でいろいろ話しておりまして,もう一つの考え方としては,受益者指定権というのはそもそも信託行為に淵源を有するものであるから,信託行為で定められている場合に初めて受益者を増やすことができるんだということで,目的のみならず信託行為の制限がかぶっているという考え方も確かにあり得るなと思いますので,結論はまだこれから検討いたしますが,そのような考え方もあるということを補足させていただきます。

● 時間が足りなくて申しわけございませんけれども,一応一通り御議論いただいたことにしたいと思います。
  それでは,これで終わります。
  どうもありがとうございました。
─了─

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2016年加工編
法制審議会信託法部会
第15回会議 議事録


第1 日 時  平成17年5月20日(金)  自 午後1時14分
                       至 午後5時20分

第2 場 所  最高検察庁大会議室

第3 議 題
   信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限について
   受益者が複数の信託の意思決定方法について
   受益権の譲渡について
   受益権の有価証券化について
   受益債権等の消滅時効について
   私益信託における委託者の権利義務
   契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務について
   信託行為の変更について
   信託の併合(仮称)について
   信託の分割(仮称)について
   反対受益者の受益権取得請求権について
   遺言信託について

第4 議 事 (次のとおり)
議        事

● ちょっと遅れましたが,まだいらしていない方もおいおい来られると思いますので,これから法制審議会信託法部会を開催したいと思います。
  いつものように幾つかに分けて行いますので,初めに○○幹事から,進行方針について説明をお願いします。


● 本日の進行でございますが,最初に,信託の変更,併合,分割に関する問題をさせていただきます。


それから信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限と,受益者複数の信託の意思決定方法の問題をしまして,3番目に,反対受益者の受益権取得請求権の問題をさせていただきます。


その後,私益信託における委託者の権利義務とそれから遺言信託の問題,最後に受益権の譲渡,有価証券化,受益債権等の消滅時効の問題ということで,全体を5つに分けてさせていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

● では,お願いします。
● では,まず第57になりますが,信託の変更の問題から御説明させていただきます。


  これは,信託の事後的変更が必要となった場合におきまして,柔軟かつ迅速に変更が可能となるような規律を提案するものでございまして,提案項目ごとに重要な検討事項を含んでおりますので,順次説明してまいりたいと思います。
  

まず,前回提案の1及び2,今回提案の1及び2と同じでございますが,これは,合意による信託の変更については原則として委託者,受益者,受託者の3者の合意を必要としつつ,例えば,受託者の利益を害しないときには受託者の合意が不要となるとの規律等を提案しております。


  これに対しまして,前回会議におきましては,受託者の利益を独立に取り上げること自体が妥当ではなく,受託者は委託者の意思,すなわち信託目的を実現する道具にすぎないのであって,信託の変更について受託者の合意を要件とすべきではない,それにもかかわらず受託者の合意を要件とするときには,信託の変更の場面において受託者が自己の固有の利益を主張することを容認することにつながり,受託者の忠実義務に明らかに抵触することになるのではないかとの指摘がされました。

  しかし,受託者の善管注意義務,忠実義務につきましては,当初設定された信託行為の枠組みの範囲において履行されるべきものであって,受託者が自己の関与しない信託の変更によって,当初予定していた以上の義務を負わされることになるのは酷ではないか。

もっとも,受託者の辞任を容易に認めればよいのではないかとの指摘もされましたが,受託者の辞任を容易に認めてしまいますと,委託者や受益者としては代わりの新受託者を選任する時間的,費用的コストを要するのでありまして,受託者が信託の変更を契機として容易に辞任できるとの制度設計は,決して望ましくないのではないか。

また,仮に原則として受託者の合意は不要としても,結局,営業信託の受託者であれば,信託の変更のためには受託者の合意を必要とする旨の特約を設けることになるでしょうから,いわば素人の受託者のみが自己の関与しない信託の変更によって新たな負担を負うことになってしまうことになりかねず,均衡を失するのではないかなどの問題点を指摘できると思われます。
  

以上の点から,今回の提案におきましても前回の提案と同様の,3者の合意を原則とする案を提示するものでございます。


  なお,前回申し上げましたとおり,ここでの「受託者の利益」と申しますのは,固有の利益ではなくて,「受託者が善管注意義務違反や忠実義務違反に問われることなく,適切に信託事務を処理し得る利益」と考えていることを改めて申し述べさせていただきます。

  次に,前回提案3,通知に関する点でございますが,これは前回は,強行規定としまして,変更内容の通知は,変更の効力が生ずる日の前日までにしなければならないとしておりました。

しかし,そもそもこの通知は変更の効力自体に影響を及ぼすものではなくて,いわば信託の変更がされることについて当事者に警告を与えるとともに,判断の適正を担保するという趣旨にとどまるものであったことに加えまして,常に事前の通知をしなければならないとしますと,必要以上のコストが生じたり,事前の通知に拘泥する余り変更のタイミングを失するなどのおそれもございます。

  そこで,今回の提案におきましては,通知は変更してから事後的に遅滞なく行えば足り,しかも通知義務自体がデフォルトルールであって,信託行為の定めにより通知自体を不要としたり,受益者が多数に及ぶ場合には,個別の通知をしなくとも,公告をもって対処するなどの方法をとることも許されるとの提案に改めるものでございます。

  次に,前回提案4におきまして,信託行為において受託者,特定の第三者あるいは受益者に信託の変更権限を与えることも有効であることを前提に,その変更権限に一定の制約を加えるべきか否かというレベルでの提案をしておりましたところ,前回会議におきまして,そもそもこのような授権行為自体が有効かという,いわば出発点のレベルから問題提起がされました。


そこで,今回の提案におきましては,信託行為をもって特定の者に変更権限を授与することの可否につきまして,全面的に否定する甲案,全面的に肯定する乙案,原則として有効だが一定の限界があるとする丙案の3案を併記して,御意見を問いたいと考えております。

  ただし,学説を拝見いたしますと,信託行為をもって特定の者に信託条項の変更権,英米法ではパワー・オブ・アポイントメントと言うのだと思いますが,これを与えること自体は否定されていないようでもございまして,これを一切否定する甲案は,資料29ページの例に示しましたとおり,実務上の要請にかなわないのではないかとの懸念がございます。


  最後に,今回の提案5は,裁判所による信託の変更に関して2案を提案しているものでございます。
  まず,甲案は,現行法第23条にあります「受益者ノ利益ニ適セサルニ至リタルトキ」という要件を「信託の目的に適合しなくなることとなったとき」と改めた点を除いて,現行法を維持するものでございます。
  


これに対しまして乙案は,受益債権の権利の内容まで裁判所が変更できるとすることについては躊躇されるものの,信託行為の当時予見することのできない特別の事情によって変更の必要が生ずるのは,信託財産の管理方法のみに限られるわけではないと思われることに配慮したものでございます。

すなわち,30ページの例に挙げました多数決制度の導入ですとか自己執行義務の緩和など,いわば管理条項にはとどまらないものの,分配条項には達しない,中間的な信託運用条項とでも言うべきものにつきましては,一定の要件のもとで裁判所による変更を許容するものでございます。

  確かに,多数決の導入ですとか自己執行義務の緩和という点につきましても,委託者の目的ですとか第三者に対する委託の相当性の有無などについての実質的な判断が必要になるわけでございますが,受益債権の内容を裁量的に変更できることに比べれば,その判断はなお容易ではないかと思われるわけでございます。

しかるに,裁判所による乙案のような事項の変更も許されないとすれば,信託当事者の私的自治で対応できない限り,当該信託は目的不達成により終了せざるを得ないことになると思われまして,受益者の利益にかなわないことになってしまうのではないかと懸念されるわけでございます。

  なお,前回会議におきましては,現行法第23条にある「受益者ノ利益ニ適セサルニ至リタルトキ」の要件についても,より明確化すべきではないかとの指摘がされました。

この点につきましては,法文上,対応可能な限度として「信託の目的に適合しなくなることとなったとき」と改めることを提案するものでございます。

  これは,例えば受益者が多数の信託におきましては,受益者の利害はそれぞれ異なり得ることに鑑みますと,総受益者の利益に適合するか否かは必ずしも明確ではないのに対しまして,委託者の定めた信託の目的については,受益者の多寡にかかわらず一義的に明確なはずであって,判断基準としては,より明確ではないかと考えられるからでございます。

  以上の諸点,特に信託行為をもって特定の者に変更権限を与えることの可否及び範囲の問題,それから,ただいま申し上げました裁判所による信託の変更の範囲の問題を中心に御審議いただけるとありがたいと存じます。


  続きまして,信託の変更の特殊類型として,信託の併合と信託の分割の問題について御説明いたします。
 


 定義は前回の資料に書いたとおりでございまして,今,申し上げましたとおり,いずれも信託の変更の特殊類型であると考えられますが,現行法上は規定もなく,いかなる手続によるべきかが明らかではないために,手続を明確化するためのルールを設けることといたしました。

  第58,第59とも,前回提案からの検討点は共通して2点でございますので,あわせて御説明いたします。
 

 まず第1は,前回会議における指摘を踏まえまして,信託の併合,分割の手続において明示すべき事項はデフォルトルールであることを,分類上,明らかにしたものでございます。

その結果,例えば信託の併合ですとか吸収信託分割の場合におきましては,他の信託の内容を明示しないことも可能になるわけでございます。


もっとも,その場合には,受益者としては,このような信託の併合や吸収分割には同意することが困難となり,結局,提案に係る併合や吸収分割が実現できなくなる可能性が高くなるだけのことだと思われるわけでございます。
  

第2に,前回会議におきまして,信託の併合や分割が会社の合併や分割に例えられるべきものであるとすれば,会社の合併無効の訴えや分割無効の訴えに準ずる制度を設けるべきではないかとの指摘があった点についてでございます。

  確かに,このような制度を導入することとすれば,法的安定性には資することになると思われます。


しかし,他方,会社の合併や分割のように法人格をまたぐ場合と異なりまして,信託の併合や分割につきましては,いずれも受託者という同一の法人格の内部で行われるものでありまして,第三者から見ますと契約相手方が変更されるわけではなく,それだけ第三者に対する影響は少ないと思われます。


また,仮にこのような制度を導入するとしても,会社のように合併または分割の登記をもって訴訟提起期間の起算日とする場合と異なりまして,登記の予定されていない信託の併合,分割の場合には,どの時点をもって訴訟提起期間の起算点とすべきかが難しいといった現実的な問題もございます。

  以上のような問題点を考慮しても,なお無効の訴えの制度を設ける必要性が高いと言えるかどうかにつきまして,御審議をいただければと思います。


  なお,第59に関して,36ページの※に記載してございますが,信託の分割によって信託債権者を信託財産によって切り分けることに関する規定を設けるか否かについては,そのニーズを踏まえて検討したいと考えておりまして,実務上,このようなニーズが存するかにつきまして,前回会議に引き続き御教示をいただければと存じます。
  以上で終わります。


● それでは,変更から今,説明があったところまで御議論をお願いしたいと思います。
  いかがでしょうか。

● では,変更について3点申し上げます。
  基本的には前回申し上げたことでございますので,簡単に申し上げます。
  まず1点目は,3番の変更の通知のところでございますが,先ほど○○幹事からお話がありましたように,「効力を発する前日までの通知」というのを「遅滞なく通知」と変更していただいた点と,あと大きな点で,強行規定からデフォルトルール化していただいたという点につきましては,前回この場でお願いした点でもございますので,非常に歓迎しておりまして,ぜひとも維持をお願いしたいと考えております。


  2点目は,4の,信託の変更に係る別段の定めを置くかどうかというところでございますが,これについても前回申し上げたとおり,変更権をだれかに与えることも含めて,特段の制約を行わない乙案を支持したいと考えております。
  


3番目は,5の,信託行為において予見することができない特別の事情が生じた場合の特例についてでございますが,これはもう実務上の観点から見た場合については,当然その管理方法以外についても,これも○○幹事からお話ありましたけれども,いろいろな局面で判断に困ったり,デッドロックに乗り上げたりするようなことが考えられまして,そのときに裁判所の関与する変更というものがあればいいなということで,そこの範囲についてはできるだけ広ければありがたいと考えております。したがいまして,これについても乙案を支持したいと考えております。
  


ただ,ここに括弧書きで「(受益債権の変更に係るものを除く。)」と書いてありますけれども,先ほどの御説明によりますと,例えば分配事項的なものを除くというような御趣旨だと思うんですけれども,ちょっとそこら辺は読みづらいところがございますので,工夫をお願いしたいと考えております。

● 2番目について御質問が1つと,4番目,5番目についてコメントを申し上げたいと思います。
  基本的には,前回会議において申し上げたことでございまして,基本的には任意規定化を追求していきたいという立場から申し上げるわけでございますけれども,まず,2に関しての質問でございます。
 


 ウとエについては受託者の関与しない変更もあり得るという話でございますが,これ自体も信託行為において任意化できるのかどうかということでございます。

例えば,受託者に柔軟な対応ができないのを承知で無理に受託者に依頼したような場合には,受託者サイドからすると,信託行為で,受託者の同意がない限り変更できないと規定したいところもあるのではないかと思っております。
 


 また,これは受託者の利益を害することが明らかという基準が必ずしも実務上,明確でないということもあって,受託者からすれば,この内容を個別具体的な事案に応じて定義ないしは縮小・拡大する必要性もあるのではないかと思っております。
 

 また,ここで言う受託者の利益というのは,先ほどの御説明では,専ら受託者としての立場の義務を追求する観点から定義されるという御説明でございましたけれども,仮に,例えばこの変更があった場合に,受託者個人としての報酬,ないしは前回も申し上げましたように,例えばシステムの投下とか人員の拡大であるとか,どちらかというと受託者個人の損益に影響を及ぼすようなことがあった場合に,やはり受託者のサイドからすれば,ある一定の限度をあらかじめ持っておきたい。


または,そういうことを条件として信託の受託者として当初,応じたいというようなニーズがあるのではないかと思ったものですから,この御質問を差し上げる次第でございます。


  次に,4番目の甲乙丙案でございますけれども,これは先ほど○○委員からも御発言がありましたけれども,乙案を支持したいと思っております。


もちろん,信託の柔軟性を高めること,それから,契約自由の原則,これにはいろいろ議論があるかもしれませんけれども,やはり実務サイドからは,乙案がよろしいのではないかと思っております。


  加えて,実務的にも,例えばどうしても専門家に頼みたいというようなこともあるわけでございますので,そこにおいて,あえて一定の限度を置くことが必要なのかという疑問もございます。
 


 最後に,5でございますけれども,これについてはまだ結論は出ておりませんが,今のところは両論あるのではないかと思っております。

先ほど○○委員から,信託受託者の立場からの御意見があったかと思いますけれども,ただ,その受託者の立場を思った場合に,例えば乙案が採用された場合に,受託者の管理能力を超えた変更が認められる場合もあって,このような場合に,簡単に辞任ができるのであればともかくとして,それができない,または適当でない場合に,対応困難な場合も生じるのではないかという懸念もあるのではないかと思っております。

  他方,受益者等の立場からすれば,やはりデッドロックに陥った場合に柔軟な対応ができる。それもいろいろな場合において対応できる。

信託終了というのは一つの手ですけれども,それが不適当でないという場合には,第三者機関による公正な判断を確保して幅広に対応できる,そういう枠組みができるのが望ましいという考え方もあるのではないかということで,両論あるのではないかということでございます。
  以上です。

● 御指摘の点,御質問ありましたウ,エにつきましてもデフォルトでして,受託者の同意を必要とすることを定めることは可能だと考えております。


● 変更権を第三者に与えるというあたりについては,ほかにいかがでしょうか。
 

 これは,受託者に変更権を与えた場合に,受託者がその権限を行使するについては,受託者としての一般的な義務というのは当然のことながらかかってきますよね。

● はい。それはかかってきますね。


● 第三者に権限を与えたときに,その第三者のいろいろな義務というのは。

● それは,もちろん善管注意義務とかそういうものはかかりますけれども,それはあくまでも委託者との関係でございますので,例えば受益者との関係での義務というのは委任からは出てきにくいので,別途何らかの制限を課すべきか,そこは基本的に自由でいいかという観点からの質問でございます。

● そこはちょっと,全く受託者でない第三者に権限を与えた場合の一つの問題だろうという気がしますね。
  いかがでしょうか。


● 今の変更の問題について,意見を述べさせていただければと思います。
  以前に述べさせていただいたことと重複するところもあるかもしれませんけれども,甲乙丙ある中では,丙案を支持する立場から意見を述べたいと思います。


  先ほど来,乙案を支持する意見が出されておりますが,乙案の解説の中にも,民法の一般原則に照らして相当でないと考えられる信託行為の定めについては効力が否定されると記載されております。

例えば,この受益権取得請求権の原因事由として幾つかの点が挙げられておりますけれども,こういった信託の目的の変更でありますとか,あるいは受益権についての重大な変更がある場合には,やはりこういったものを第三者あるいは受託者に委ねるのは,この一般原則にも抵触する場合が相当出てくるのではないかと思われます。

  そういった観点から,「民法の一般原則」といった言葉が使われていますけれども,この変更権の定めについて限界があるんだということについては,乙案とした場合でも前提となることでしょうし,また,そういった無効となる場合といいますか,効力が否定される場合がある程度,類型的に把握できるものであれば,やはりそれは規定の中にきちんと定めておいた方がよろしいのではないかと思われます。


  特に,一般民事信託の場合を考えますと,法律のその規定を見て,何でもできると勘違いするといったことが起こっても困りますので,どういった場合認められて,どういった場合に認められないかということについては,やはり一定の基準といいますか,そういったものはきちんと定めておいた方がよろしいのではないかと考えております。


  それから,信託の柔軟性ということがずっと言われてきておりまして,これは私も基本的には賛同するところですけれども,ただ,やはり信託の変更というのはかなり,何といいますか,信託の内容が変わるということで,受益者にとっては影響の大きいところですし,受益者の予測可能性という点も重要であろうと思います。


  それから,普通の契約関係においては,やはりその契約は拘束力をもって守られるべきものというのが原則であろうかと思います。


ですから,こういった原則に対して例外を認める場合には,やはり契約自由というのは一方でありますけれども,他方で契約の拘束力といいますか,私的自治といいますか,そういったものと表裏の関係になってあるものだと思いますので,そういった観点からは,ある程度きちんとした規律を設けるべきではないかと思います。

● その限界をどういうふうに設定したらいいかというあたりが,なかなか難しいわけですね。
 


 いろいろな観点から議論ができるんでしょうけれども,一方で,信託の変更そのものの問題とは違うと思いますけれども,裁量信託というんでしょうか,これは信託自体を変えるわけではなくて,信託の枠組みそのもので受益者等を事情に応じていろいろ変更することができるというタイプの信託というのがあって,これは欧米などでも一般的に認められている。

例えば,子供たちに受益権を与えていろいろ給付するわけですけれども,事情の変更によって,ある子供については当初よりも多く与えなくてはいけない,ある子供については要らなくなった,そういうときに,まさに受益権の中身を実質的には変えるわけですけれども,それはもう信託全体として,その受託者--の場合が多いでしょうけれども,受託者に裁量権限を与えて受益権の中身を変えることができるような信託をつくっておく。

これは,理論的にはここで言う信託の変更そのものとは違うのではないかという気がするんですけれども。

  信託の変更というのは,今の裁量信託とオーバーラップはしますけれども,信託の変更というのは,狭い意味で考えると,当初こういう信託として予定していたものが,その仕組みではうまくいかないという事情のもとで,信託の枠組み自体を変えてしまう。

ただ,実際上さっきの裁量信託と紙一重ですよね。そうすると,その枠組みを変更するということも,ある程度認めていいのかもしれない。


裁量信託というものがあるぐらいだから認めてもいいかもしれないけれども,その限界はどこまでがいいのか,どうも私もいま一つはかりかねているところです。

  先ほどちょっと質問の形でいたしましたけれども,受託者だからいいというわけではありませんけれども,受託者に権限が与えられているときには,一応信託法上のいろいろな義務でもって拘束は加えられていて,それによって受益者が保護される形になっていますけれども,完全に別な第三者だということになると,信託法のいろいろな義務が及んでこないために,ちょっと受益者の保護が薄いのかなと。

そういうものをちょっと関連して,いろいろ柔軟にも考えてみたんですけれども,やはり相変わらず,限界をどこら辺にするかがどうも難しいというのが私の感想です。


  何か御意見いただければと思います。

● 遅れてきまして御説明を伺っていないので,重複するかもしれませんが,今の○○委員のお話とも関連して。
  


29ページに乙案についての御説明がありまして,一般的には,信託法上は有効だとして,しかし,それを限定するものがあるとすると,より基本的な民法の一般原則による限定。


それ以外に,信託法以外の法律において何らかの限定をすることがある,この2種類の限定を加えることを考えていらっしゃるんですが,民法一般の原則というのは大体わかりますが,信託法以外の法律における縛りというのは,具体的にどういうことを考えていらっしゃるんでしょうか。

  それによって,今の限界についての線引きについても示唆が得られるのではないかと思うんですが。

● 特に「この法律」というのを,今,具体的に念頭に置いているわけではないんですが,例えば消費者保護に関する法律などで,受益者を保護するというような一定の法規範があれば,それが一つの縛りになってくるのではないかといったことが考えられるわけでございます。

● そうすると,信託法の基本法的性質というものが曖昧になってきて,それと別に消費者保護などが働いてくるということだと思うんですが,むしろそれを信託法の中に取り入れられる部分はないんだろうか。


それがあるとしたら,そこが線を引く要因になるかなという気がするんですけれども。

● そうですね,できるだけ--というか,どこまでできるかは別として,何か信託の法理の中でうまく限界が見つけられればいいと思います。


● まさしく今の点に重ねてできる質問なので,よかったと思っているんですが,消費者保護に関する法律とおっしゃいましたけれども,より一般的な法として消費者契約法があって,消費者契約法の内容規制に関する一般条項である第10条で,契約内容の変更権限を特に契約の相手方に付与するといったタイプの条項が,少なくとも消費者にとってはどのような契約内容になるかわかりませんので,不当条項の一例として挙げられることが少なくないだろうと思います。

  つまり,この点についてはもちろん争いの余地がかなりあるところだろうと思いますけれども,仮に消費者契約法第10条が一般条項として適用される可能性があるとするならば,ここから先は質問ですけれども,この消費者契約法第10条とここでの議論との関係は,どのように理解すればよろしいのでしょうか。
  


もう一つ,つけ加えて言いますと,29ページに書かれてあることの読み方なんですけれども,信託行為で別段の定めをすることができる場合に,別段の定め自体の効力の問題と,別段の定めに従って実際に行われた変更が不当なものか,不当でないのかという問題があって,この29ページの甲案の「こういう例があるではないか」ということでお書きになっているものは「こんな変更だったら問題ないでしょう」というタイプで,どちらかというと,後ろの方を考えておられるんですが,29ページの下の方になりますと,定めの効力の話になっていて,ちょっと混線があるのかなという気がしないではありません。

  ですので,定め自体の効力を否定する可能性というのは,実は先ほどの消費者契約法第10条の話でして,その問題と,定め自体は包括的に定めて,それ自体は仮に無効としないとしても,実際に行われる変更によっては何か規制をかけてくることがあり得るのかというあたり,ちょっとわかりにくい質問で恐縮ですが,2点,お聞かせいただければと思います。


● 明解な御指摘だったと思いますけれども,何か今の段階で。

● 消費者契約法の解釈につきましては,「受益者」というのが直接出てきていないので,直ちに適用されるかどうかわからないところでございますが,おっしゃるとおり変更についても,一つの考え方は消費者契約法的な縛りがかかって,それが変更の限界を画するという考え方は当然あると思っております。

  ただ,もう一つは,後で議論になるわけですが,消費者保護というような精神を,変更権限の制約という方向ではなくて,その変更を踏まえた受益権取得請求権を強行的に,一定の場合に認めるという方向で生かしていくこともできるのではないかと考えておりまして,事務局としては,変更権限は幅広く認めつつ,受益権取得請求権を強行的に認めるという方向での解決をすることではいかがだろうかと。


今,○○幹事や○○幹事がおっしゃった点も踏まえて,そういう解決の方向で御納得いただくことはできないかというのが一つの回答でございます。
  

2つ御質問とおっしゃいましたけれども,1つしか思い当たらなかったので,失念しているところがありましたらおっしゃっていただければ。

● 今の点につなげたもう一つの質問ですけれども,仮に乙案をとるとしますと,信託法にはどう書くんでしょうか。つまり「別段の定めができます」ということを明確に書くおつもりなのか,それとも何も書かないで,しかるべき解説書などに「デフォルトです」とお書きになるか。書き方によって,消費者契約法第10条との関係をどう見るのかという点が問題になるかなと思います。


  消費者契約法は,あくまでも消費者契約に関する一般法ですので,他の特別な法律で別段の定めがあるときは,そのルールによるというようなことがあるのかなと思います。

不当条項について,本当にそう言えるのかということが次の問題としてあることはあるんですけれども,それとの関係で,信託法でどういう書き方をされるのかというのは,法律間の関係という意味で気をつけておく必要があるのかなと思います。

● 書き方としては,1の3者の変更が原則だというものに,特則という形で「別段の定めを設けて変更権限を付与することができる」というような書き方をしていくのかなというのが,現時点での考えでございます。

● それによって,消費者契約法との関係では,少なくとも信託法ではこのような条項は有効であるということを,法律自体が宣言したと見られるということなんでしょうか。

● そうですね,信託法としては有効で,ちょっとその関係はつまびらかではないですが,一種の特別法ですか,消費者保護の観点からの特別法の縛りがまた別途,その変更権限にかかってくるかもしれない。それは信託法の外の話だという感じがいたします。

● あとは,せいぜい公序良俗のような一般法がかかってくるだけだという御理解ですか。

● 公序良俗とか,あるいは消費者保護,監督的な規制が別途かかってくるのではないかという考えでおります。その消費者保護のような精神も信託法に書き込む,そこまでは予定しておりません。

● さっき,2点目の質問は何かということでしたが,要するに,「別段の定めをすることはできる」と信託法で書いて,実際の信託行為で,これこれの事項については,例えば受託者ないしは第三者にその変更権限を与えるという条項が書かれる。

その条項の効力は,今の観点からすると有効だということで,それで終わりですよね。


● それで終わりでございます。
● それで,実際に行われた変更が不当なものか,不当でないかというようなお話は,受託者との関係では,忠実義務違反の問題はあるけれども,変更そのものの効力は維持されるという御理解ですか。

● それは維持されると考えております。あとは責任の問題だと思います。
● わかりました。

● 議論を整理するための御質問ですけれども,先ほどの議論の中で,要は民法の一般原則だけで十分なのかどうかということで,言葉を変えれば,信託法独自の制限をする必要性があるのかどうかということでございますけれども,例えば,個々の変更行為において委任をする,通常の民法上の委任をするといった場合と比べて,本件のように,信託行為であらかじめ決めておくこととどこが違うのかということでございます。

  一応包括的に,かつ受益権が譲渡された場合にはそれもくっついていくという話でございますので,必ずしも個々の委任とは同じではないことはわかりますけれども,そこを信託独自の制限をする必要性がどこまであるのかということでございます。


  また,ちょっと逆の立場からの御質問ですけれども,仮に個々の委託をした場合に,民法ならば委託ではできる。

だけれども,信託においてこのような委託をした場合に,信託法の特別な法理でもって民法の委託行為が制限され得るのかどうかということも疑問になったりいたします。


  議論の整理のために,教えていただければと思います。

● 今の点に関しては,民法でもって,全く信託という枠組みがないところでどういう委託契約をするか,これはもう民法だけの問題だと思いますけれども,信託でもって基本的に受益者に何か利益を与えて,その利益を保護するために受託者にいろいろ義務などを負わせている,そういう構造があるときに,それを前提として別途,委託者との間の契約でもって自由にそれを変更させるような権限を与えるのが適当なのかどうか。

そういう意味では,やはり信託法の基本的な枠組みとの関係で多少制約があるかもしれない,そういうことですね。


● いろいろな点を考えると,個々の取引というのはいろいろあるわけですから,信託法ゆえに,その制限をしなければならないという事由があるのかどうか。

● ですから先ほど,必ずしも信託法の内部にそういう制約を設けることは─検討した方がいいけれども,具体的にどんな制約があるかということについては,今のところまだ抽象的な議論しかされていませんけれども,信託法内部の問題として制約があるかもしれないというのは,繰り返しになりますけれども,やはり信託で受益者に基本的に受益権を与えている構造のもとで,それを何か別の--と言うと変だけれども,もともと設定行為のときに決めるわけですけれども,それを奪えるような構造が果たしていいのかどうかということですね。
 


 さっきの消費者契約法との関係は,一たんこういうものが有効だということは宣言して,もう不当条項の問題にはなり得ないということではないんでしょう。やはりもう一回……,どうですか,○○幹事。

● 消費者契約法第10条のみだとしますと,理解の仕方はいろいろあるだろうと思いますけれども,任意法規に反して一方当事者に不当に不利で,信義則に反してということで,仮に善意に解すれば,乙案でこう定めているということは,法律自身が少なくとも一方当事者に不利でないし,信義則に反しないものだという性質決定をしたというぐらいにしか理解できないのかなと思います。
  


消費者契約法第10条自体の特別法というのは,ちょっと考えにくくて,不当条項に当たらないという立法者の判断と読むしかないのではないでしょうか。


そんな読み方で本当にいいのかと言われると,すごく心配にはなるんですけれども。

● 私の説明が非常に不適切だったと思うんですが,私の考えていたのは,あくまで信託法としては授権できる。


しかし,授権の有効性というのは民法の公序良俗とかもありますし,場合によっては消費者契約法の精神から,そのような授権が一種の公序良俗に反するものとして外的に無効になることはあるという意味で,世界が違うといいますか,一般法が信託法,特別法が消費者契約法みたいな理解をしているわけでございます。

● ちょっとさっきのと違って,消費者契約法によってさらに制約されることがあり得るという……。

● あり得ます。

● ただ,消費者契約法第10条が一般条項なので問題なんですけれども,しかし,何が第10条に該当するような条項かということを,もう少し類型化して挙げるという作業が行われつつあると思うんですが,そのときに契約内容の変更権限を,少なくとも契約の相手方に付与するというような条項は,第10条の典型的な不当条項の一例であるという解釈が仮に確立しているとなりますと,これとの関係は,今の御説明だとすごく難しくなるのではないでしょうか。

● そこがどうもさっきから,消費者契約法との関係で,乙案のような条項を設けたことの意味をどう理解するかが難しい問題ですね。

● 一般的に,変更権限を少なくとも相手方に与える条項は不当条項だというのは,必ずしも根拠のない解釈論ではなくて,比較法的に見ても不当条項の例としてよく挙げられる例の1つですので,やはりそれとの関係はもう少し詰めておく必要があるのではないかと思います。


● ○○幹事の御意見は,もうちょっと詰めた方がいいと思っていますけれども,ただ,ちょっと逆のことを言うかもしれませんけれども,他方で,信託という契約における当事者というんですかね,それが一体何なのかということ。


受託者に仮にそういう権限を与えても,受託者というのは当然には,契約関係における対立的な当事者というわけでもないところもあるものですから,そこが難しい。


そういうことを考慮して,信託においてこういうふうにだれかに与えるのは,契約の構造のもとで相手方に与えるのとは違う,そういう意味で,一般的に有効だという理解の仕方もあり得るかもしれませんね。

  しかし,ちょっと……
● ちょっとよろしいですか。
  ○○幹事から申し上げたことの補足にすぎないかもしれませんが,例えば消費者契約法第10条,○○委員も今,御指摘になられたとおり,契約の当事者でない受益者について,消費者契約法の第10条がどういうふうに適用になるかというのは,例えば,これが第三者のためにする契約だったらどうなるのだとか,そういうことを調べたのですがよくわかりませんでした。
 

 したがって,現時点でどういうふうに適用になるかは率直に言ってわからないのですが,仮に何か適用になると考えたときにも,消費者契約法第10条といいますのは,その契約が公序良俗,民法の第1条第2項とか一般原則で判断するときに,契約の一方当事者が消費者であれば,それが公序良俗に反するか否かを判断する際にそういうものを斟酌して,それで無効とすることもあるよという規定かなと思っておりまして,例えば,第三者に変更権限を委ねるときの受益者が仮に法人だったりしたような場合には,それは,信託法においてそれが無効になるといったことではないのだと思うのですね。
 


 したがって,先ほど○○幹事が申し上げたそれが信託法上は有効だと判断されるという意味は,例えば法人とか,仮にこういう行政法規なかりせばあったであろう状態。


例えば,消費者契約法は民法のほかにあるわけですから,民法があって消費者契約法があるように,信託法があって消費者契約法的な法律があると考えれば,この消費者契約法的な,行政法規的な法規がなかりせば有効だというようなものだって考えられて,そういうものは,信託法の上においては有効だと考えていけばよいのではないか。

  それで,仮にこういう行政法規が適用になると考えて,一方の受益者が消費者というような弱い人たちですねというようなことで考えれば,一般原則との関係で,そういうものは無効だということもあり得るということかなと。


  したがって,それは信託法のほかの法律が,信託法がとりあえず,こういう信託法案に別段の定めで置くことができますよという世界を開放した上で,その際ほかの行政法規でどういうふうに制限を加えていくかというのは,また別の法律において考慮されるべき問題だというのが乙案の考え方かなと理解しておりましたが。

● 消費者契約法は,必ずしも行政法規というわけでもないのでね。
● 行政法規というのは,ちょっと言い過ぎかもしれませんが。


● ただ,さっき私が言おうとしたのは,例えば,普通の自益信託で信託銀行に投資としてお金を委託するというタイプで,それを消費者が委託するということになると,これはもう典型的な消費者契約のパターンなので,恐らくそういうところで一番シビアに消費者契約法第10条との間の相克というのが出てくるんだと思うんですね。


  それと違って,民事信託のタイプかもしれないけれども,子供たちの間で財産を分配するために受託者が親から頼まれて管理しているなんていうことになると,これはまた消費者契約法の世界とは少し違うかもしれないということで,消費者契約法が関連するタイプの信託と,余り関連しないタイプとの信託があるのではないかとちょっと感じます。


● 信託の変更のところで,消費者契約法第10条との関係がどうなるかというのは,前から考えていたんですが,まず当事者の問題で,受益者と受託者は普通の契約関係にはないので,そこだけで,消費者契約法第10条はそもそもかなり適用されにくい関係にあるのではないかと思っているんですね。
  


それから,信託行為で「別段の定めがある場合は」という例外を設けた場合に,消費者契約法第10条の不当条項の規定で,要するに,何も書かない任意規定と比べると,ちょっとまた適用の関係で,別個の1つの,法律で別段の定めを認めているという方向の評価がされると,やはりその適用がされにくい方向にいくことだと思います。

  かつ,受益者の立場からすれば,自分の知らないところで信託の変更がされてしまうような条項が入っている場合に,それを原則として受け入れなければならないのかどうか,そういう問題を考えれば,受益者と受託者の間では直接契約関係がなくても適用されるんだ,そういうふうに消費者契約法第10条のあの規定を信託の世界で読みかえた規定をつくればはっきりして,しかも,受託者が事業者で受益者が消費者の場合にはそうするというふうにすれば,かなりはっきりするのではないかとは思うんですね。

  ですから,何らかの形でこの乙案というか,結果的には丙案がいいと思うんですが,その場合,制限のつけ方として,やはり事業者対消費者の契約の場合の限定が何か考えられないか。

それは,消費者契約法第10条と同じ結果をここに当てはめるというふうに信託法で手当てしないと,消費者契約法第10条自体が適用されない。その前の形式的なところで排除されてしまうのではないか,そんなふうに考えます。

● 今,消費者契約法との関係が出ていますが,もう少し一般的に考えた場合にどうなるのかということなんですが,一般論として,契約の効力として内容が確定しているということが1つあると思うんです。

それを一方当事者が,あるいは第三者が自由に変更できるということになると,内容の確定性との関係が問題となってくるだろう。

その場合の対応の仕方としては,内容が不確定であるがゆえに無効になるという考え方と,それとは別に,有効なんだけれども確定の仕方によって,それが濫用にわたるときはその効力を認めないという2つの方向が比較法的にもあるのではないかと思うんです。

  この場合に,もし有効とした上で濫用を限定するという発想でいった場合には,何が濫用かの基準として,例えば今の消費者契約法の発想も出てくるでしょうし,さらに根本的に言えば,信託の構造というものがそれを画する基準になるのではないかというような,より一般的な整理の仕方もできると思います。


● 今のは,いわば変更権を行使する段階で制限がかかってくるというふうに理解しましたけれども,必ずしもそういう意味ではありませんか。内容が不確定になるので無効になるとおっしゃった方の問題点が残されていると思いますけれども。


● もともと内容が全く確定していなくて,「何かいいものをあげる」という合意は,契約としては効力がない。


一応「何かをあげる」とした上で,あげる内容は一方的に,自由に変更できるとなると,それ自体効力がないという対応も可能であろう。

しかし,そうではなくて,一たんそれを有効とした上で,その決定の仕方が濫用的な場合はその効力を奪うという方向もあるわけでして……


● やはり権限行使の段階での話ですね,後者は。

● そうですね……。段階というよりも,特にフランスでは,もともと代金を決めていない契約は無効だというのがあったんだけれども,それを一方的に無効にするのではなくて,濫用の問題だというように変わってきたということがありまして,それをヒントに考えてみたわけです。

● 私も乙案に賛成の立場から,○○委員のお話について意見を述べたいと思うんですけれども,○○委員が想定されているケースとはちょっと違うのかもしれませんが,流動化の場合で,実務上,乙案のような規定があった方がいいと望むのは,今,お話になられているような,かなり広い権限といったものを望んでいるわけではありません。


要するに,受益者の同意を取りつけるのは実務上,非常に大変だというところはもちろんあるんですけれども,今までの信託契約の変更例などを見ましても,具体的な変更の必要性が出てきたとき,想定していなかった事態になったときに,受益者の利益に適合することが明らかかどうかといったところが,やはりこれ,いいのではないかという議論と,いや,ちょっとでも利益に抵触するようなことになると問題になるのではないかということで,やはり委託者と受託者の間でかなり議論になってしまうということがあるわけですね。

  その中で,今までであればかなり慎重を期して,受益者も含めて合意するというような形でやっているわけですけれども,そこのところが明確な範囲,ある程度の裁量権があれば,もっと安心してこれを使えるなといったことがあるので,乙案のような形を非常に望んでいるということでございます。
 


 したがって,今,問題になるような幅広い権限というのは望んでいないし,○○委員が書かれた現代信託法にも,余り広い権限を認め過ぎると当然,受益者はこれを利用しないだろうということが書いてございますけれども,当然そういう事態,後から市場によって規律されるところもございますし,流動化の場合は当然,受益権について格付とかそういったものを付与しておりますので,そういったところで余りにも広いものがあれば,当然受益権が不安定なものになるわけですから,当然これは許されない。


したがって,そういう市場とか格付の圧力によって大きな権限を与えるということには当然ならないと思われますので,そういった場面も想定していただいて,ここの議論を進めていっていただいたらいいのではないかと思います。


● 結論はちょっと違うところもあるんですが,論点は今の○○委員と近いです。
 

 そもそも論のところで,一応3者合意となっていますけれども,多数当事者の契約変更をどうするか,実務でよく問題になりますけれども,この場合,受益者は一種の第三者のためにする契約の当事者のようなところがありますから。


ただ,1の例外としては,ある意味では2が一つの現実といいますか,委託者に絡むところは委託者の同意が必要でしょうし,基本的には受託者と受益者の間でできるという,2がどちらかというと現実的な原則に近いのかなとおります。


  ですから,2が書いてあることによって多くの問題は解決できるのかなと思う反面,この2の要件の中で,信託の目的ということが一つのメルクマールになっていますけれども,以前にも議論されているようですけれども,実際の信託契約の中で,信託目的というのは非常にシンプルに書かれているだけでして,それを信託契約と全体ととらえてしまうと,ちょっとでも直すと,今度は信託の目的に反するのではないかと。


ですから,解釈論といいますかね,現実的に変えようとするときに,2の原則といいますか,当事者の括りとしての原則は,ある意味では2が現実的だし,民法の原則にも反していないのではないかと思うんですけれども,他方において,2で書いてある要件のところの目的とかいうところで,今,○○委員がおっしゃったように,信託行為に別段の定めが必要になってくるのではないかと思います。

 やはり○○委員もおっしゃったように,実際にはそういうことをしないでしょう,マーケットの目もありますからというのは,そのとおりだと思うんですけれども,一方的に受益者の利益--という,また非常に曖昧な概念を持ってきてしまうと今,言ったことと矛盾するかもしれませんけれども,丙案で一定の限度というのを,今,○○委員がおっしゃったような,ある意味で信託法上の常識的な限度を設ければ,今,議論したことの多くは解決できるのかなと。
  


もちろん,そこに何らかの限度を設けることによって,また解釈論が分かれてしまって,結局,全当事者の同意が必要だとか。


実際に流動化などで信用補完分を入れかえるといったときに,例えばキャッシュに入れかえるといったときに,全く価値としてはその方がいいかもしれませんけれども,しかし,それを好まない人もいるかもしれないとかですね。


ですから,どうしても信託契約の変更が必要な場合というのは出てくるんですけれども,ただ,その場合でも受益者の利益とか,違う何らかの要件をうまく持ってくれば,ある意味では,乙案と丙案の議論というのは究極的には同じところに到達するのかなと感じたんですけれども。


● 先ほどの○○委員のお話に対してですけれども,○○委員がおっしゃったような弊害が起こり得るんだろうなということはよくわかるんですけれども,基本的には,我々の求めているのは,やはり基本的には自由な設計といいますか,理念的なものが非常に大きな要因でして,弊害がある部分について,当然取り除く工夫はしないといけない。

それについて,例えば典型的な例でいくと,受託者が事業者で受益者が消費者だというんであれば,それはもう典型的な業法の問題になろうかと思いますので,一番懸念される部分というのは,そういう部分で排除されるような話だなという気はいたします。


  あと,だれに授与するかという部分を抜きにしますと,内在的なところで変更内容をどうするかという部分については,先ほど○○幹事が「委託内容による」と言われましたけれども,これは以前,聞いたことがあると思うんですけれども,多分それは信託契約,それも多分,上位概念である信託目的というものに,契約の内容ですから,そこに拘束されるとすれば,信託目的に拘束されることにもなるのではないかと考えております。
 

 そういうこともありまして,考え方としては,一つの整理の仕方というのはあるのかなと思っております。


● 今のは,○○委員の発言も結論的には少し似ているところがあると思いますけれども,簡単に言えば,信託目的による制約みたいなものはかかるということですよね。


それは一つの考え方だと思いますので,もうちょっとここら辺は書けるかもしれませんが。

● 遅れて来て申しわけありません。もしかしたら既に御議論なされているか,あるいはもう既に決着している問題かもしれませんが,私も非常に重要なポイントだと思っておりますので,発言させていただければと思います。

  まず第1に,この信託の変更権を,例えば第三者なり,あるいは英米ですと,多分,一番念頭に置かれているのは委託者に変更権を留保しておくということだと思うのですが,その前提として,信託の撤回権というのはどう考えられているのか,まず御確認させていただければと思います。
  


信託契約の中で定めておけば,もちろんもう撤回だって自由だという前提で,それとのつながりで信託の変更権というのも出てきているのか,あるいは信託,いわゆる英米の撤回可能信託というのは,この議論の中ではどう扱われているのか。


もし仮に撤回可能信託まで認めるという趣旨ではないとすると,私は,信託の変更権を第三者に与えれば,それは決めれば自由でしょうという話では必ずしもないのではないかと理解しております。

  その場合,また2つ考え方がございまして,変更権はとにかく権利として第三者にあるんだという場合は,恐らく受託者は,変更権の行使が受益者に何らかの不利益を与えるときには,やはり信託をディフェンドする義務があるのではないか。


そうすると,そこでまた非常に難しい問題が生じて,変更権の行使と,それから受託者が信託を守る義務との間でさまざまなコンフリクトが生ずると思われますし,他方,もう一つの考え方としては,この変更権というのが本来,受益者に帰属するものなのだけれども,受益者から授権されている。


  そういう意味では,むしろ受益者的な立場でこの権限を行使するんだ,こういう2つの考え方に分かれようかと思いますけれども,当然には認められないという前提に立った場合は。


そのときには,この御提案は2つの方向のどちらを指向されているのか,あるいは全く別の考え方なのか,ぜひ教えていただければと存じます。

● 前段の,信託の撤回権の問題につきましては,変更権の延長といいますか,それも認めている,視野に入れていることでございますので,信託を撤回することを委託者が留保することも十分可能ではないか,信託行為で定めればできるのではないかと考えております。
 
 あと後段は,すみません,どういう点でございましでしょうか。恐縮ですが。


● この変更権というのがまさに権利としての性格を持っているとしたら,その権利の行使と,あと,受託者としては受益者を守る,信託を守るという義務があると思いますので,それとの関係と整理するのか,あるいは,変更権というのは本来受益権から生じていて,受益者から委託というか,受託されているものだと。


逆に,変更権の行使に当たって何らかの注意義務がかかると考えられているのか,あるいはそのどちらでもないのか。

● 必ずしも受益者に対する注意義務とは考えにくいので,その変更権をだれが与えたか,あるいは変更権を与えられた趣旨によって,その変更権者が行為するに当たっての注意義務の相手方は決まってくるのではないか。

  そうしますと,今の御質問の答えとしては,端的には,それは場合によるとしか言えない。常に受益者の方を向いていなければいけないとは言えないのではないかと考えております。

● いろいろ重要な問題提起があったと思いますけれども,ここで変更ということでイメージしている中身が,どうも人によって少し違うかもしれない。
 


 変更の主なる場面というのは流動化のときで,○○委員が例を挙げられましたけれども,いろいろな事情で変更せざるを得ない。


そのときに,いちいち受益者の同意を得ていたのではなかなかできないし,そういうものを,あるいはその変更のための要件のところでも,限界的な場合もあるかもしれないから,そういう意味で,簡単に変更できる--というのはちょっと語弊がありますけれども,必要な変更ができるようにしておきたいというのが1つであったと思います。

  こういう場面での変更と,○○幹事が言われたような撤回まで含めた場合の変更とは,ちょっと需要が違うかもしれませんよね。同じ要件で果たしていいのかどうか,ちょっと気にはなりますね。
  


そのほかにもあったかもしれません。そもそも変更権というものがどういう権限といいますか,○○幹事が言われたように,受益者の方から来るのか,あるいは委託者の方から来るのか。受託者固有というのは,本当はないんだと思いますけれども。委託者か,あるいは受益者ですかね。


  そんなふうに,どうもこの変更が問題となる場面が違うために,議論もいろいろなところに向いていますし,なかなか「こうあるべきだ」という姿も見えてこないのかなという感じがしますが,引き続き示唆をいただけるような御意見があれば。


  あるいは,この点だけに集中しないで,裁判所の変更のところの問題も,今の議論にも関係していると思いますので。

● 今回2点として,要件を目的の関係にしたということと,それから,乙案というものが新たにできたという点があるんですが,いずれも問題点があると思っておりますので,御指摘させていただきたいと思います。
  


まず,乙案でございますが,裁判所による変更の範囲として明らかに無限定かつ広過ぎるということで,反対せざるを得ないと考えております。


前回は,財産分配の方法に拡大するかどうかが検討課題とされておりましたので,実体権にかかわるかどうかという観点から申し上げておりましたが,今回の案によりますと,受益債権の変更を除くあらゆる事項が対象となりえる。

信託行為において,いろいろなことが何でも設定できるとすれば,受益債権の内容にかかわらない限り,すべてが変更し得るということになるわけですが,それでよいのでしょうかということを申し上げたいと思っております。

  例えば受託者の義務の範囲,報酬請求権や補償請求権の範囲といったもの,一つ一つ何が信託行為で任意的なのかというところを私,検討したまいったわけではありませんが,強行法規に反しない限り,何でもかんでも裁判所の判断によって変更できてしまう。

非訟手続でございますので,当事者には手続保証もされていないということでございまして,そのようなことは裁判所にとっては若干,本当にそんなことでよいのかという印象を持っております。


  例えば,こちらの資料の例でございますが,予想されなかった技術の進歩があった場合の自己執行義務の緩和ですとか,予想されなかった決議事項が生じた場合の多数決制度の導入というものが挙げられておりますが,これらについても,真に裁判による変更が必要なものかということについて,極めて疑わしいのではないかと考えております。


  例えば,前者につきましては,そもそも今回の法改正においては,相当な場合に他人に委託できることにしておりまして,あえて信託において自己執行義務を課した。


さらに,これを合意によらずに変更する必要性が一体どこにあるかがわからないということでございます。

  また,自己執行義務の緩和は,受託者の責任の範囲を選任・監督責任に限定するという意味では,実体権の変更といった観点からも,本当にそれでいいのでしょうかということを申し上げたいと思っております。

  さらに,実務的な観点から申し上げますと,当初,信託行為の当時,予想されなかった技術の進歩ということでございますが,信託行為の当時にどのような技術を想定して自己執行義務を課したかといったことを,どうやって判断できるのか。

先ほど○○委員からも御発言がありましたとおり,信託目的等についても簡略にしか書かれていない。


ましてや自己執行義務を課した理由などが書いてあるはずもないということでございまして,そのような,この自己執行義務の問題だけを見ても,本当に機能するのだろうかということについても極めて疑問に考えております。


  次に,後者の決議事項の問題でございますが,これにつきましては,信託管理人についての審議のときに申し上げたことと同じでございますが,受益者の内部的な意思決定の方法を裁判所が定めること自体,おかしいのではないか。


そのような制度の例がほかにあるのか。会社との比較で言いますと,会社の意思決定の方法を,裁判所が突然定款を変更して変えてしまうというようなことがあっていいのだろうかということでございます。

  こちらにつきましても,当初予想されていた決議事項というのが何かということについても,かなり実務上も問題があるのではないかと考えておるところでございます。
  


そもそも契約を裁判所が当事者のイニシアチブによらずに変更すること自体,ある種,異常な事態であるということを,まず前提に考えていただく必要があるのではないかと考えております。


多数当事者の契約においてデッドロックに陥るということは,他の契約類型においてもあり得ることでありまして,信託だけ,なぜということを考えております。


  現行法の管理方法の変更というものが要らないというまでの根拠も,実際に事件がないものですから,ないわけではございますが,管理方法の変更以上に変更の範囲を拡大するのであれば,どのような局面で裁判所の関与が真に必要なのかということについて,やはりもうちょっと,具体的なニーズがあるかどうかということも含めて根本的に検討をお願いする必要があるのではないかと考えておるものでございます。
  

次に,「信託目的に適合しないとき」という要件の問題でございますが,確かに,資料などを見ましても,終了との関係で相応の明確性を有しているとの評価を得たという記載がございます。

ただ,今回の提案も拝見いたしまして,改めて考えてみますと,目的を判断の材料とすることについても問題はあるのではないかと考えておりますので,指摘させていただきたいと思います。

  つまり,信託目的に適合しないということを判断基準とする場合には,信託目的の範囲をどういうふうにとらえるかが問題だということになるわけでございます。


前回,終了との関係で御説明がありましたのは,子の学資に充てる目的で信託をしていたところ,当該子が進学せずに就職したというような場合が目的に適合しなくなった例だというふうに御説明を受けました。


ただ,この場合には,学資目的というものが,ある程度明確な目的であるということが前提であったのではないかと考えております。


  例えば「収益を上げること」といった非常に抽象的な目的である場合には,目的に適合しないかの判断も不明確なものとなったり,あるいは,目的が非常に幅広くとらえられるので,それに適合しない場合は稀であるといったように,判断のぶれが生じてくる場合もあるのではないかと考えておるものでございます。
  

特に信託財産の管理方法の場合について考えてみますと,信託目的が「収益を上げること」のみであるような場合では,例えば,現在の管理方法Aでは収益が上がらないが,他の方法Bであれば収益が上がるといった理由で管理方法の変更が申し立てられる。

そのような場合に,裁判所が投資判断のようなことをして変更の可否を判断することとなるのか,そういった裁判所の判断として,適切な対象なのかといったことも含めて,もう少し御検討いただければと考えている次第でございます。


● 裁判所の変更についても,やはり要件の方は明確に書いてありますけれども,どこまで変更できるかについての意見はいろいろあり得ると思います。
  


契約とどこが違うのかなどというのは,根本的な問題。契約とは,やはりちょっと違うところがあるのではないかと思いますけれども,いかがでしょうか。


 ここに限定しないで,先ほど○○幹事から説明のありました合併の方まで含めて,御意見いかがでしょうか。


● 確認したい点なんですが,併合,分割というのは,あくまで同じ受託者,「1つの受託者内における」と書いてあるんですが,これ,違う受託者間ということは考えていらっしゃらない,または,それをやるときには信託の変更--変更でもなかなかできないかもしれませんけれども,その辺はどういうお考えでしょうか。

● ここで考えている併合,分割というのは,あくまで同一受託者の中でございまして,受託者をまたぐ場合は,それを組み合わせて信託の受託者の変更の手続をすればいい。

両方一体としてやって,受託者も変えつつ信託の併合も合わせるということは,もちろん両方組み合わせればできますけれども,ここで考えている原則は,あくまで1つの受託者の中で分ける場合を念頭に,資料を作成させていただいております。当事者の変更と組み合わせればいいだけではないかと。


● 要するに,そうすればできるということですね。


● はい。なお,付言しますと,裁判所の件につきましては,おっしゃるとおり,裁判所としてはなかなか判断が難しいという点は,理解できるところでございます。

しかし,デッドロックになったときに何らかの改善措置はないか。特に信託法においては,裁判所の関与がほかの契約類型とは異なって認められているところを発展的に,乙案のような形で根づかせることができないかという観点で,乙案を提示させていただいているわけです。

  ただ,「信託の目的に適合」では,なかなか不明確だと。この前のお話ですと,「受益者の利益に適合」という要件でも,なお不明確だと。では,逆にどういう要件だったらいいかというのをぜひ出していただけると,こちらとしては助かるのですが。

● それは,なぜ裁判所による判断が必要なのかというところから導かれるべきものであって,そもそも裁判所がそれを云々して,裁判所自身が裁判所にとって都合がいいからというところで要件を提示するというものではないのではないかと考えております。


● 信託財産の管理方法については,現行法でも認められておりまして,少なくともこれは維持していいのではないかというコンセンサスはあると思いますが,この要件は,今,現行法では「受託者の利益に適合」云々ということになっておりまして,これはそのままでいいのか,これについてはどのようなお考えでいらっしゃるかという点ですが。


● それ自体も不明確であるということは,前回ときに申し上げたはずでございます。


● 不明確だったら,どうしたら明確になるかという……,事務局としてもいろいろと考えているところでございますが,裁判所側の意見として,では,どういう要件だったら判断がしやすいんだろうかという,何かこちらに教えていただける点があると非常に助かるんですが。


● そこは,少なくとも最高裁判所の,当局の内部では全く検討しておりません。


個人的にはいろいろ考えるところもありますが,ただ,先ほど申し上げましたように,なぜ裁判所の関与が必要なのか,一体この制度はそもそも何なのかということをまず考えないと,要件というのも出てこないだろうと考えております。

  例えばでございますが,信託財産が非常に急速に毀損しているような場合に,その毀損をとめるために必要な場合というような形で例えばの要件を仕組むことはできるわけですが,それは,例えばほかの法制度などを見て,そういうものが,例えば倒産などで保全処分とかそういったものの要件を見て,それに類したものを考えることはできるわけですが,しかし,それは本来,裁判所が提示するものではなくて,何のために管理方法の変更が必要なのかということがあって,まずそこから導き出されるものかと思いますので,そういう意味で,裁判所から要件を御提示するということ自体,不適切なのではないかと申し上げているものでございます。

● わかりました。
  あと範囲の問題につきましては,また御議論を踏まえて検討したいと思いますが,○○委員もちょっとおっしゃいましたように,範囲の問題と行使の問題は別に考えることもできるのかなという気がしておりまして,確かに授権の範囲については,もちろん目的に反するものはだめだとか,消費者契約法の精神ですとか,それが反映される公序良俗とかの問題はあると思うんですが,それは非常に仕切りが難しいとすると,授権の範囲については信託法上は特に制限はしなくて,あとは一般的な規定に縛りを委ねるというようなこともあり得るのではないかという気がしております。
 


 他方,行使につきましてもやはり問題になるわけでして,目的に反する行使,あるいはそもそも忠実義務を全部なくしてしまうというような行使の仕方,あるいは公序良俗に反するような行使の仕方というのもあって,それについてもまた別途,その行使自体が無効という考え方もあるでしょうし,行使の局面については,私が冒頭ちょっと申し上げましたが,そのようなものは非常に受益者の利益を害するということで,変更を無効とする選択肢のほかに別途,受益権取得請求権の方での解決というのも行使についてはあるのではないかと思いますので,一つの選択としては,範囲は信託法上は無制限で,行使については,受益権取得請求権を強行的に入れていくというような解決策もあり得るのではないかというのが事務局として考えているところでございます。


● 私,前回この問題をやったときにどういう意見を述べたか全然記憶にありませんで,全く前回と違うことを申し上げるかもしれませんけれども,先ほどから問題になっております裁判所による変更の話で,現行法の第23条というのは,もう言うまでもないことかもしれませんけれども,当事者間による変更方法についてクリアな規定がないところに裁判所による変更方法があるわけで,当事者による変更方法が定められた後に5としてこういうものが置かれるというのは,恐らく現行法とは大分性格が異なるものになるんだと思うんですね。
 

 それでは,何のために5を置くのかという話なんですが,先ほどから,デッドロックに乗り上げたときとか,説明の文書によりますと,当事者間で容易に調整がつかないときというふうに書いてあるわけなんですが,その状況のもとに裁判所が介入することを認めるためには,受託者や受益者や委託者といった変更の当事者になる─これは2のところで,当事者は場合によって異なるわけですが,当事者になる人たちが,信託目的というものを考慮しながら変更に応じなければならないという義務を措定するということがないと,できないのではないか。


つまりこれは,自分がどう思おうが自分は勝手なことを言えません,信託目的というより崇高なものに従って,それに適合するんだったらそういうふうな形で合意をしなければならない。


それにもかかわらずしないものだからうまくいかないというときに,裁判所が強制的にやるというふうに考えなければならないと思うんですね。
 


 しかし,本当にそういう義務があるのかということになりますと,これは疑問でありまして,疑問どころか,○○幹事が先ほどおっしゃった,例えば第三者が変更権限を持っていて,その人はどういったことのためにやらなければいけないのかというときに,目的に従ってということにはなるのでしょうから矛盾はないのかもしれませんけれども,そういう人に専権が与えられているときに,果たしてその人の交渉方法がおかしいといって裁判所に請求できることになるのか。

目的というものをより崇高なものとして置いて,そちらに従わなければならないということになりますとできそうなんですが,本当にそうなのか,私はかなり疑問な気がいたします。

  結論から申しますと,やはりこれだけ柔軟な形で変更権限を認めて,かつ,そのときの判断について義務性を認めないのならば,5の規律は置けないのではないかという気がしてならないんです。
  


ひょっとして私,こういう発言をしようと思いながら,ひょっとして前回,私は5を置くべきだと言ったのではないだろうかみたいなことを思って,ちょっと心配になっているんですけれども,議事録は匿名でしかございませんので発言させていただきました。


● 理論的なことではなくて,今後,もし民事信託に弁護士が関与することになったときに,受益者の捕捉とか受益者間における何らかの,本来,信託とは違うところでの争いとか,または,今日の議論に遺言信託における相続に足る委託者の地位というのがありますけれども,もし仮にそういうふうに,本来,利害関係にある当事者が委託者として登場するとかいったときに,信託は確かに1契約類型かもしれませんけれども,信託法がこうやって議論されるほどのものですから,他の1契約にしかすぎないということは全くなくて,そういうような紛争案件で,本来どう見てもいろいろな要件,信託の目的にも受益者の究極的な利益にも資するような状況のときに,やはり裁判所の後見的な役割を期待できる制度であった方が,ほかの契約でも当事者間の紛争があれば紛争するんだからというよりも--の方が,恐らくいいのではないのか。裁判所が困るということはあるかもしれませんけれども。

  ちょっと類型は違いますけれども,実際に非訟事件手続法というのがあって,私,借地非訟をやっておりますけれども,信託が実際に多く使われるようになれば,紛争の類型とか,また,それに対して裁判所としてどういう方から--借地非訟の場合には鑑定人という形で意見をとりますけれども,どういう方からどういう意見をとったらいいかとか,抽象的議論をしていると何でもかんでもとなってしまいますけれども,実際に民事信託ということであれば,この説明には商事信託の例が書いてありますけれども,ある幾つかの民事信託の類型を考えることはできますから,その中での紛争形態というのも考えることができると思うので,そうすると,多少判断基準等が出てくるのではないか。
 

 ですから結論的には,理屈云々よりも,裁判所の後見的解釈というのは,信託においては今後とも維持されるべきだと思いますし,なおかつ信託法改正においては,今回の乙案のような形で,従前の法律よりも多少なりとも明確になっている。


より何か基準を明確にするのは,今後の信託の使われ方とか手続の進展に委ねればよろしいのではないかと思います。


● 借地非訟の点がありましたので,その関係で1点だけ申し上げますと,借地非訟については長い歴史があり,借地についての紛争の歴史があって初めて,「契約を裁判によって変更しない」というのが民法の原則であるにもかかわらず,現在のような形になっているのではないかと思うわけでございます。
  


信託については,実際にそういうことが現在起こっているのだろうかということでございまして,そういう意味で,それだけの立法事実があるのかということを申し上げたいと思っているものでございます。

● 理論的ではなくて実際的なことを考えろということなんですが,やはり理論的なことを考えざるを得ないので,借地借家法の問題に関しましては,これは当事者が給付の均衡をとった形での契約条件にしなければならない,こういう義務を措定して,例えば賃料増減額請求権というものを認めてあれするわけですよね。


この信託において,だれとだれとの給付の均衡がとられることになるのかとなりますと,ちょっとこれは借地借家のときの話とは一緒にできないのではないかと思います。

  もう一つ,後見的な話が出ました。これは極めて重要な話だと思うんですね。


かつ,私が思いますに,第23条で念頭に置いていたのは,まさにそういうふうな後見的な話が第1と,もう一つは,だれの目にもこういうふうにすればよいのは明らかであるという形なのに,その変更する手続がないのでできない。

しかし,勝手にやることはできないので裁判所の許可を求めるというふうな場合なんだと思うんですね。


後者に関しては,手続ができたならそれでいいではないかというふうなことは,私がさっき申し上げたとおりですが,前者に関して後見的な介入をすべき場合というのがあるのかがポイントになるんだと思います。
  

そうなりますと,これ,2のエなんですよね。だけれども,2のエというのも,考えようによってはちょっとおもしろいところがございまして,つまり,この受益者というものに,例えば未成年者でもいいですし何でもいいですが,生活保持のために給付を受けるという人を位置づけたといたしますと,受益者が「私の生活を守るのが信託の目的なんだから,給付額を増やすということはとってもいいし,かつ受託者の利益は害さないんだからいいではないか」といって勝手に変えられるということになりそうなんですが,ここら辺が結局,裁判所の関与がどういうふうに効いてくるのかというのが最後,生きてくるところかなという気がしていまして,受益者が本当に勝手に変えられるんだろうか,それとも受益者が裁判所の許可を得て変えることになるのだろうか。

  後見的な場合に,その必要性があり得るのではないかと○○委員がおっしゃるのは,全くそのとおりだと思うんですが,そのあたりをもうちょっと詰める必要があるのではないかと思います。

● 今,出てきている問題は,まず,立法事実としてそういうニーズがあるのかという話で,ここは私もよくわからないところです。


  したがって,少し別の観点から今の点,この57の5を考えてみたいのですが,先ほど○○幹事からお話があったのは,非訟事件ということで徹底すると,裁判所は新しい法律関係を形成することになる。これが果たして裁判所の役割として適切か,そういうお話であったかと思います。

  私も,まるっきり白地で預けられたら裁判所も困るだろう。これ,ずっと継続的にその信託を見ているわけでもなく,民事雑事件としてポンと上がってくるものについて,いちいち内容を精査して適切な法律内容を形成するというのは,確かに非常に大変なことだろうと思いますが,資料30ページの下2行ぐらいから31ページの上3行ぐらいに書いてあることは,理念的には全然違うことを書いてありまして,今,○○幹事から「許可」という言葉が出てきましたが,まさにそうなのではないか。


  変更申立てをする場合には,まず変更の内容を申し立てろ。それについて裁判所は,許可をするか,しないかだけだと。

もしかしたら,ほんのちょっとのところで一部認容みたいなことをするかもしれませんが,基本的に,違うベクトルをつくり出すことはしないで,それについて認めるか,認めないかだけだと。

別な言い方をしますと,当事者は何となく変更の申立てをして,あと裁判所が白地からつくるという姿ではなくて,当事者がなされるべき裁判内容を限定する権能を持っている,いわば処分権主義的な発想で制度をつくり,裁判所はそれに特化するか,しないかだけだ,そういう仕組みだとすると,白地から法律関係を形成していくという問題は極小化していくんだろうと思います。
 


 もちろん,そういう許可,不許可だけだって大変だというお話はあるかもしれませんが,そういうものになりますと,ほかの実定法規の中に特定の法律関係だけ切り出して裁判所に許可を求めるというような類型のもの,例えば,会社法案はどうだったかよく覚えていませんが,社債権者集会の決意の認可みたいなものとか,ああいうものはあったような気がしますので,そういうものが増えてくるのがいいかどうかはわかりませんけれども,少なくとも30ページの下2行から31ページの上3行ぐらいまでは,今,議論されていることについて1つ解決の道筋を示すものではないかなと拝見する次第です。

● 根本的なところでの問題提起がされておりまして,これにも恐らくこたえる形でもって提案せざるを得ないんだろうと思います。
  


2のところでもって,かなり簡易な形で変更できるようなルールになっている。


その上で5がどういう意味を持つかということですね。いろいろな御意見もあったと思いますし,ここで2当事者,例えばイなどですと--アか--ですと,一応受益者と受託者の合意が必要なわけですけれども,しかし,やはりこれがいろいろな理由でもってできない場合が考えられて,そういうときに5が機能する。


ただ,そのときは,なぜ5が機能していいのかということについて説明が必要だ,そういう御意見だったと思います。なかなかこれも簡単には答えにくい,難しい問題であるような気がいたします。

  これは私の個人的な意見ですけれども,ある種の,この規定は「予見することができない特別な事情」という,ちょっと広い要件で書いてあるかもしれませんけれども,やはりある種の緊急性といいますか,もちろん当初から予見はできなかったし,それから現在,ほうっておくとどんどん財産が目減りするとか,そういう緊急性のあるもとで,しかし合意がうまく形成できない,そういうときに機能すべきものとして位置づけることができるのではないかと思います。もうちょっと理論化は必要ですが。

  これ自体についての根本的な疑問が出ているところでありますので,もうちょっと検討した方がいいと思います。

● 5についてですけれども,考え方としまして,最初,○○幹事が言われたところとの関係をあえて言えばということなんですが,57の1で,あくまでも合意がある場合に変更ができるのであって,2の例外というのも,合意を形式的な意味で要求する必要がないときには緩和してよいという趣旨だろうと思います。

  それに対して5というのは,やはり基本的には事情変更の原則をベースにした考え方でして,事情変更の原則の要件を満たすことによって,合意の有無にかかわりなく契約の改訂権限ないしは解除権が発生すると考えますので,1,2とは別系統のものとして,やはり5というのは位置づけられる。


それだけに,要件をもうちょっとしっかり特定する必要があろうとは思いますけれども,位置づけとしては,そういうものだと思います。

  その上で,先ほど来のお話で甲案,乙案というのが出ていますけれども,これ,事情変更の原則についての議論との関係では非常に,学者風に言いますとおもしろい議論が出ているところでして,といいますのは,従来の事情変更の原則で契約改訂を認めた裁判例というのは,ほとんどない。


少なくとも最高裁レベルで全然ないわけではありますけれども,理論としては認められると言ってきている。

  そのときに,どう考えているかといいますと,事情が変更した結果,今この変更した状況下あるべき契約内容というのは,ある種,決まっている。


それを裁判所が読み取って「これが契約内容です」というのを確定するという考え方をとっているんだろうと思います。そして,借地借家の問題などでも,第32条等でも同じことを考えているんだろうと思います。要するに,ある種,確認的なものを考えているのではないかと思います。

  そして,甲案というのもやはりその延長線上にある考え方でして,「こういう状況下ではこういう信託行為の内容」というふうに,もう変わっていると考えるべきで,それを確認して宣言するだけだと。


そこまで裁判所に要求されたら非常に困るというのはよくわかるところではありますけれども,考え方としては,そうだと思います。

  乙案の変わっている点といいますのは,この考え方を必ずしもとっていないということだと思います。


  つまり,一定の要件を満たしたときに,一方当事者が--当事者かどうかは別として,一方当事者が契約なら契約の改訂提案権というんでしょうかね--を持つと考えて,改訂提案権に基づいて改訂を提案して,裁判所は,あくまでもその実体権である改訂提案権の当否のみを判断するというような構造になっているんだろうと思います。

改訂権限までを一方当事者に与えるわけではなくて,提案にすぎないのかもしれませんけれども,これは多分,比較法的に見ればすごくユニークな制度を導入しようとされているところで,ただ,ユニークだからだめだというのではなくて,むしろ客観的に何か契約内容が,この状況下でこうなっているのを確認するという考え方自体が,ちょっと問題があるところで,しかも,それを裁判所に委ねるのはより一層問題ではないか。


それに対して,こういった形であくまでも当事者のイニシアチブに委ねて,その当否のみを裁判所が判断するというのは,あり得る一つの考え方かなという気はいたします。

  そういう意味では,評価に値するところではないかなとは思いますけれども,ただ,この要件が本当にこれでいいのかというあたりは,もう少し絞る余地なり何なりはあるのかなという気がいたします。
  


さらに言えば,ここには何もありませんけれども,いきなり一方当事者が裁判所にこういう内容で改訂せよというような請求を立てるのが本当に望ましいのかという面もあって,もう少し手続的なところなども含めて要件設定を考えていく--書くならば考えていく余地があるのかなという気がいたします。
  非常に研究者的な,突き放したような言い方になって申しわけないですけれども,問題としては,そんな感じかなという印象です。

● 私も,これは基本的には事情……,少なくとも現在の法律は事情変更の原則を信託の場面で認めたものであると思いますし,この新しい提案も,基本的にはそういう線に乗っているものだと思います。

  先ほどから幾つか出てきた意見は,契約の場合にはこういうものがないのに,信託だけなぜあるのか。


それに対して,今,○○幹事が言われましたように,契約については,法律の中になくても,一般論としては事情変更の原則というものが認められていて,そういう意味では,契約の分野でも事情変更の原則というのはあるんだ,契約を改訂するという効果をもたらす事情変更の原則はあるということで説明されたのであろうと私は理解いたしました。

  それでいいんだと思いますけれども,もう一つ,やはり信託の場合だけさらにもう少し広くというんでしょうか,こういうものを設けることの意味は,○○委員がさっき言われたことと少し関係するのかもしれませんけれども,やはり信託の場合には,必ずしも契約の当事者ではなくて,受益者が利益を受けているので受益者と受託者が合意するという形で変更する,そういう枠組みにはなっておりますけれども,変更,改訂についての交渉をするのに受益者が常に一番適した人間かどうか。

特に「交渉する」という意味での一番適した人間かどうかというのは,必ずしもはっきりしない。いろいろな受益者がいる場合に,そういう能力がない受益者もいるかもしれないし。


  したがって,信託の場合には,合意で変更するというのは意外と難しい場合もあって,だからこそまた,信託については5のように,裁判所が改訂をするということが特別にというか,契約よりはプラスアルファで重要性がある,そのような説明もあるのかもしれません。
  


大分御議論いただきましたけれども,何かここら辺でまとめて……,大体いろいろな論点は尽きたかと思いますので。
  合併の方は,いかがでしょうか。


● 1点だけ。今まで言っていなかったことを今,言うのも恐縮なんですが,やはり2のイとエというのが何か,卒然と読みますと,受託者は勝手に……

● 単独でできるやつね。

● 単独でできる。受益者も勝手に単独でできるという感じがしまして,もちろん--これならば,まさに書いておくべきなんですよね。


受託者はこういうふうに変えられるという話を。これは信託行為に書いてもいないときの規定ですよね。そのときに,受託者ができる,あるいは受益者ができるというのも何か妙な感じがするんですよね。


  まさにこれ,反しないで,かつ受益者の利益に適合するということなんだという,かつ,ここは多分,予見することができない事情があったということが多分,必要になるような気がして,イとエの許可を与えるという制度で裁判所の許可というのは,何といいますか,模様替えできないものだろうかという気がいたします。


● それはそれで1つ考えられるかもしれません。現在の甲案,乙案はちょっと違うところもありますが。


  それでは,大分御意見いただきましたので,また争点を明確にする形で整理した上で,今後も検討していきたいと思います。


  この問題で大変労力を使ったと思いますので,まだ早いかもしれませんけれども,休憩にしましょうか。それで鋭気を養った後で再開したいと思います。

          (休     憩)

● 再開したいと思います。
  それでは,次へいきましょうか。

● 引き続きまして,信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限と,受益者複数の信託の意思決定問題と,それから受益権取得請求権の問題をあわせて,御説明いたします。


  最初に,第48でございますが,前回提案におきましては,権限違反行為に対する取消権以外の単独受益者権については制限を許されず,取消権についてのみ制限の可否が問題となり得るとしておりました。

この点につきまして,今回の提案では,後で述べます受益者多数の信託について特例を設けるべきか否かという点を除きまして,前回会議における意見ですとかその後の検討を踏まえまして,取消権についても単独行使に対する制限は許されないとすることを提案するものでございます。

  その理由は,資料の1,2ページに記載しておりますが,一般的には,権限違反行為の抑止という観点からは,取消権の行使を優先すべきであって,少数の受益者による濫用的な取消権行使に対しては,権利濫用等の一般法理により対処することも可能であることですとか,受益者間の意見対立や信託事務の停滞のおそれ,あるいは権利濫用のおそれを過大視して単独受益者権の制限を認めるのは,受益者保護の観点から妥当ではないと考えられるからでございます。
  

これに対しまして,資料2ページの注に記載しておりますが,受益者が多数の信託については,別途の考慮の余地もあり得るのではないかと思われます。

  典型的には,受益権が有価証券化されている信託の場合におきますように,受益者が多数の信託におきましては,相互に緊密な関係にはない価値観の多様な受益者が大量に参入してくる可能性がありまして,受益者間におきます意見対立のおそれですとか,差止請求による信託事務停滞のおそれ,あるいは濫訴による信託財産の減少のおそれ,すなわち濫訴に対応した訴訟費用が信託財産に求償されるということによって,信託財産が減少するおそれなどは,受益者が少数の信託に比べて類型的に高いと言うことができそうだと思います。

  このような観点からしますと,受益者が多数に及ぶ信託については,信託違反行為の是正に係る単独受益者権について,一定の制限を認めることも許容できると考えることもできるのではないかと思われます。

  そこで,次に問題になるのは,当該信託が受益者が多数の信託と言えるか否かのメルクマールをどこに設けるかという点でございますが,この点については,ある程度の明確性と実質性が求められるところでして,ただいま例示いたしましたとおり,例えば受益権が有価証券化している信託か否かという点をメルクマールとしてはどうかと考えるわけでございます。
  以上の点につきましての御審議をお願いしたいと思います。


  次に,受益者が複数の信託の意思決定の方法というところでございます。

  これは,信託行為に定めを置くことにより,受益者の全員一致にかえて多数決による意思決定を可能とすること,契約締結の行使のコストと削減等の観点から主要な意思決定方法として受益者集会や書面による決議について標準的な規律のセットを提供することを主眼とする提案でございます。
 


 以下におきましては,前回の会議における指摘などを踏まえて事務局において検討した事項のうち,特に重要と思われるものに限って御説明申し上げます。


  まず,前回会議におきまして,信託法に定めのある事項以外の事項については多数決をもって決定することができるのか,できるとした場合には,その決議方法はいかなるものかとの指摘がされました。


  この点につきましては,4ページの提案(1)②に書いてございますが,信託行為に定めを置くことによって,信託法に定めのある事項以外についても多数決で決定することができる--「任意決議事項」と書いてございますが,このようなことを明記しますとともに,その場合の決議方法につきましては,2の(2)のイに書いてありますとおり,信託法又は信託行為に定めのない限り,普通決議によるものとしております。


  次に,議決権の算定基準につきまして,前回提案におきましては,デフォルトルールとしては頭数により,1受益者につき1議決権としておりましたが,今回の提案では,5ページの提案2の(2)のアに書いてございますとおり,デフォルトルールとしては,各受益者の有する受益権の個数によって算定することとしております。

前回の提案は,受益権の金額や価額を基準としたときには算定に窮するおそれがあるのに対しまして,受益権の頭数については算定が単純かつ容易であるということに鑑みたものでございます。

  しかし,同じ1人の受益者でも,受益権を多数有する者の方がこれを少数有する者よりも大きな発言権を有するのが公平かつ常識的であることは多言を要しないと思われますが,受益権の個数については,なお算定することが可能であると思われることにかんがみまして,デフォルトルールとしては,いわば持分に相当する受益権の個数をもって議決権の算定基準としてはどうかとの考え方に改めるものでございます。


  最後に以前より問題となっております受益者集会の決議方法等について,受益者保護の観点から何らかの強行規定を設けるべきか否かという点に関する,事務局の現時点での考え方について御説明申し上げます。
  


前回の提案におきましては,受益者集会の招集手続,例えば通知期間を短縮するとか,個別の通知ではなく公告で足りるとすることですとか,決議方法,例えば見なし承認決議を採用すること,あるいは決議要件,例えば定足数や可決要件など,あるいは受益権の種類に応じた種類受益者集会を設けること,これらについて2案提示しておりまして,信託行為で自由に定めることができ,それに伴う少数派受益者の不利益については受益権取得請求権をもって対処するという考え方と,受益者保護の観点から一定の限度で強行規定を導入し,あるいは種類受益者集会の制度を設けるべきであるとの考え方,この両方があるとの考え方を提示いたしましたところ,前回会議においても,これに対応する両様の見解が示されております。


  この点につきまして,なかなか難しい選択ではございますけれども,信託行為の定めによって第三者や特定の受益者に意思決定権限を付与することを原則として可能であると--先ほど議論になりましたが,これを可能であると考えることを前提とすれば,受益者集会に関する規律において強行規定を設けることの意義は疑問であるということ,それから,例えば受益者集会の定足数について強行規定を導入したとすれば,かえって決議が成立しにくくなって信託事務処理が停滞し,受益者にとって不利益となる事態も想定されるということ,あるいは一定の事項に限定されている種類株式の場合と異なりまして,受益権につきましては信託行為によって多様な種類,内容の受益権を自由に創設することが可能でございまして,種類受益者集会を設けるといいましても,その類型化の基準は不明確であって,現実的には困難であること等の事情に鑑みますと,受益者集会の招集手続,決議方法,決議要件,種類受益者集会の要否等については信託行為による自由な定めを許した上で,後ほど御説明します受益権取得請求権を一定の範囲で強行規定とすることによって,少数受益者の保護を図るという方法によることが現実的かつ適当ではないかと現時点では考えております。
 


 なお,前回の提案においては,株主総会決議取消の訴えに類似した制度を設けることを提案しておりました。

  ところで,株式会社の場合におきましては,招集通知の時期及び方法ですとか定足数や決議要件などについて,厳格な強行規定が存在するわけでございまして,法律においてこのような厳格な要件を課している以上,これが遵守されたか否かを裁判所が事後的にチェックできるとすることが,終始一貫したスキームのあり方だと言えると思われます。
  

これに対しまして受益者集会につきましては,既に述べましたところですが,事務局の現時点の考え方,すなわち決議要件等について,信託行為による自由な定めを許すというわけでございますと,いわば入り口において自由な定めを設けて認めているにもかかわらず,出口において裁判所による判断という厳格な規制を課すのは整合的ではないと思われるわけでございます。


そこで,今回の提案におきましては,決議取消の訴え等の制度を設けることは不要ではないかと考えているものでございます。


  以上の諸点,特に受益者集会の決議に関する強行規定の要否の点を中心に,御審議をいただけるとありがたいと存じます。


  続きまして,第60,反対受益者の受益権取得請求権の提案について御説明申し上げます。


  受益者全員の合意する事項について,多数決による意思決定を認める場合ですとか,特定の者に対して信託の変更に関する権限を与える場合におきましては,多数派受益者の意思や第三者の決定に拘束されることとなる受益者に対して,合理的な対価を得て当該信託から離脱する機会を認めることが公平にかなうと考えられることに基づく提案でございます。

  以下,前回会議における指摘を踏まえて事務局において新たに検討した事項について,順次御説明を申し上げます。
  


まず,受益権取得請求権に関する規律を強行規定であるとする点についてでございます。
  前回会議におきましては,「信託の柔軟性を強調して任意規定とすべき」との意見と,「少数派受益者への公正な配慮を強調して強行規定とすべき」との意見と双方の見解が示されました。

この点につきましては,資料ですと39から40ページに書いてございますけれども,受益権取得請求権が認められる主体及び要件を限定した上で,その限度では多数決制度を採用することの前提とする必要最低限の規律であると考え,強行規定であるとの見解を維持したものでございます。

  第2に,受益権取得請求権を付与される場合に当たる信託の変更の内容につきまして,前回提案におきまして,受益債権の内容を変更する場合というのを挙げていたところ,その外縁が不明確であること等を理由とする反対意見が示されました。

  この点につきましては,確かに同一内容の受益債権の内容が変更されることによりまして,一部の受益者ではなくすべての受益者が,その有する受益権の数に応じて一律に不利益を被るような場合,あるいはもともと受益債権の内容に差異のある場合において,信託の変更が,そのような差異を反映したものであるにとどまる場合などにつきましては,不利益を被る受益者に受益権取得請求権を与えて保護するまでの必要性はないものと思われます。
  

そこで,もともとの受益債権に存した内容の差異の有無,程度を超えて信託の変更により特定の受益者にのみ不利益を生じさせた場合に限って,当該受益者に受益権取得請求権を付与すべきであるという考え方をとることとしまして,これを表現すべく「受益債権の内容の変更であって,受益者間の衡平を害するおそれがあるもの」という要件を設けてはどうかと考えるものでございます。

  さらに,受益権取得請求権が認められる場合をしかるべく限定するという観点からは,一つの案ではございますが,ここで言う「受益債権の内容の変更」とは,受益債権の内容を直接変更する場合,例えば配当率を減少するような場合でございますが,そのような場合に限られるのであって,信託条項の変更によって間接的に受益債権の内容が変更される場合,例えば株式と社債の投資についてのポートフォリオを変更するような場合は含まれないものとしてはどうかとの考え方を示しております。
 


 もっとも,当該変更が受益債権に対する直接的なものか,間接的なものか判断が微妙な場合もあり得るといたしますと,今回の提案では前回と異なりまして,受益債権の変更によって受益権取得請求権が認められる場合を,変更一般についてではなく,受益者間の衡平を害して特定の受益者についてのみ不利益が生ずる場合に限っていることをもって満足し,それ以上に,受益債権に対する直接的な変更か,間接的な変更かを問わないという選択肢もあり得ると思われるところでございます。
  

第3でございますが,受益権取得請求権を行使できる受益者については,前回提案においては,一律に「決議に賛成した受益者以外の受益者」としておりましたが,決議に反対する機会が個別の通知によって与えられている受益者についてまで,賛成しさえしなければ取得請求できるとの広い保護を与える必要はないものと考えられます。そこで,今回の提案におきましては,37ページの※2に書いてございますが,よりきめ細かく,変更内容についての事前の通知の有無によって,取得請求権を有する受益者に当たるか否かを分けることといたしました。

  なお,この権利を行使できるのは,当該変更によって損害を受けるおそれがある受益者に限られることを明記しております。


  第4といたしまして,受益権取得請求権が発生する場合において,一たん変更の意思決定がなされたにもかかわらず,事後の状況から判断して受託者が変更を中止できるとするための条件を設定することに関しまして,前回の提案におきましては,信託の変更の箇所において,合意の主体を明らかにしないまま「条件を明らかにしなければならない」とのみしておりました。

この点に関しまして,前回会議におきまして,受益者と受託者が合意の当事者となる場合以外の変更の場合はどうなるのかとの疑問が提起されたことを踏まえまして,今回の提案においては,変更に関与すべき当事者のみで合意または決定すれば足り,受託者の関与を必須とする必要はないと考えるものでございます。
  

なお,前回会議におきましては,受益権取得請求権の原資を信託財産とするか固有財産とするかにつきましては,信託の変更に際して受益者と受託者との間で合意すべき事項であると説明しておりましたが,今回の提案においては,合意または決定することができるとしていますので,その主体の如何とは別の問題として,このような合意または決定がされなかった場合の原資等についてはどうなるのかという問題がございます。

  この点につきましては,デフォルトルールとしては原資は信託財産であり,ただし,受託者も関与した合意がなされれば,一部または全部を受託者の固有財産ともできること,そして,受益者において受託者の固有財産を原資とする合意をし,あるいは変更の中止に関する合意または決定をすることが可能であったにもかかわらず,これをしなかったものである以上,受託者としては,いかに多数の受益権取得請求権が行使されてこようとも,信託財産をもってこれに応じればよく,その結果として信託財産の規模が縮小し,信託の継続が困難または不可能となったとしても,注意義務違反の責任に問われることはないと考えてはどうかと思われます。


  最後に,手続的な点について2点だけ補足して申し上げます。


  第1に,前回の提案におきましては,受益権取得請求権の通知期限,請求期限,裁判所に対する申立ての期限などの手続的な進行に関するメルクマールとして,効力発生日という概念を用いることを提案しておりました。


しかし,変更を中止するか否かを受益権取得請求権に係る出えん総額の多寡によるとしたときには,結局,当事者の協議または裁判所の決定を経て取得に要する総額が判明することによって,ようやく最終的に変更を中止するか否かが確定することになるわけでございまして,後日の中止の可能性を含みながら事前に効力発生日を決定しておくというのは背理でございまして,効力発生日をもって手続進行上のメルクマールとすることはできないと思われます。

  そこで,今回の提案では,※10に書いてありますとおり,効力発生日については種々の場合があり得ることを認める一方で,信託の変更の合意または決定がなされた日をもって「合意日」との概念を用いることとし,その後の手続的な進行については,この合意日を始期として順次,一律に定めていってはどうかと考えるものでございます。
  

もう一つでございますが,今回の提案におきましては,受託者は合意日以降に反対受益者に対し決議または決定内容等を通知しなければならないものとしておりますが,一部または全部の受益者に対する通知を怠った場合についての法的処理いかんという問題がございます。
 


 この場合,通知を怠った受益者との関係でのみ受益権取得請求ができる最終日を動かすといたしますと,結局,裁判所に対する価格決定の申立てができる期限についても受益者ごとに動かすことになってしまいまして,裁判手続の一律性,安定性の要請から妥当ではないと思われます。

  このような観点から,通知を怠った場合には変更が無効となるとの考え方を38ページの※6で示しておりますが,これをより正確に申し上げますと,通知を怠った瑕疵の程度によりまして,瑕疵の程度が小さければ変更自体は有効とした上で,通知を怠った受益者との関係でのみ損害賠償をもって対処することとし,瑕疵の程度が大きいときには,そもそも変更自体を無効とせざるを得ないのではないかという考えを示したものであることを付言させていただきます。
  以上でございます。

● それでは,ここまでの議論をお願いいたします。


● まず,48について簡単に申し上げます。

  信託事務に関する重要な書類及び受益者名簿の閲覧・謄写権ということがございますけれども,これは一応別なものであるという理解ですか。


そのように,2ページにどのように考えるかが検討の課題として挙がっておりますけれども,一応そこは,この48の規律とは別のものとして考えていただきたい。


すなわち,これは先般の議論のように,基本的にはデフォルトルールとしておきたいということを申し上げたいと思います。

  それから,49の複数の信託意思決定の方法についてでございますけれども,これについては,前回の会議において私の方から問題提起しました任意決議事項であるとか,決議方法のデフォルト化であるとか,あと議決権のデフォルトの原則がどちらであるのかということについて非常に御配慮をいただいておりまして,これは歓迎したいと思っております。ぜひともこの方向性を維持していただきたいと思っております。
  

片や60の買取請求権についてでございますが,これは前回の会議におきまして,基本的には,49の議論とともにデフォルト化を追求していきたいという立場を申し上げましたけれども,これはいろいろな意見があるということで,やはり受益者に対する一定の保護のバランスの問題が重要だと思っておりまして,そこには一定の限界があるのかなとは思っております。

  その観点からして今回の提案は,先ほど必要最小限のものを残すという御説明がありましたけれども,その方向性としては評価できるものではないかと思っております。これで十分なのかどうかは,まだ留保させていただきたいんですが。

  そこで,これも前回,一番大きな問題として問題提起しました1の(1)の6の受益債権の内容でございますけれども,ここも一定の制限を加えていただいたということでございまして,方向性としては歓迎したいと思っております。
  

ただ,やはりこの内容がメルクマールとして非常に明確なのかということについては,若干の疑義がございます。


これは,やはりその中身,精神に鑑みまして,「衡平」という言葉をどうしても使わざるを得ないという御苦労も理解できるところでございます。

つまり,やはりこういうものは,いろいろな状況に応じて判断されるということでございますものですから,こういう言葉が出てくるのかなと思っておりますけれども,ただ,やはりその解釈の基準について一定のコンセンサスをとる,ないしは明確化することが実務的には必要なのかなと思っています。

  その点,この御説明のところで41ページを中心に,先ほども御説明ありましたけれども,例えば信託債権の内容の変更というのは直接的なものである,つまり信託条項の変更により間接的なものというのは含まないであるとか,例えば優先劣後の構造を当初からとっていたものについては,その構造を前提とした差異は当たらないと,41ページの下のところから読み取れると私は認識しているんですけれども,そのようなことについて,この場においてももちろんコンセンサスをとれればと思っていますし,また,法文上に反映できるならば反映していただきたいですし,そうでなければ,少なくとも中間試案の補足説明等において具体的な事例,いろいろな事例も含めて明確化していただきたいと思っています。
  

できれば事務局の方から,この衡平というところについて,いろいろなパターンについての御議論があったと思っておりますけれども,それについて一部御紹介していただければ,この衡平という中身がより明確になるのではないかと思っておりまして,もしそういう事例を御開示いただけるのであれば,ぜひともお願いしたいと思っております。

  最後に,受益権取得請求権が発生した場合に,それが信託財産に限られるのかどうか,ないしは受託者個人の負担になり得るのかという論点について御説明がありましたけれども,私はちょっと理解ができなかったわけなんですが,基本的にはデフォルトとして信託行為に定めることができる,つまり,ある意味,信託財産に限るということを書けば,受託者個人の負担にはならないというようなことができる,そういう理解でよろしいんですか。
 


 そうした場合にでも,例えば,特に不動産信託等,信託財産が部分的に処分できないものについて,片や一部の取得請求者が出てきた場合に,支払期日が決まっているわけですから,その結果として,事実上,受託者がいわば立替払いの形で金銭を出さなければならない場面も出てくるのではないかと思っております。

第1に,そのような立替払いということもデフォルトというところで,そういう換価できない場合には支払いはできないと決められるのかどうか。第2に,もしできないとするのであれば,その立替えをしたものは,これは前回の補償請求権の議論と同じでございますけれども,有益費,必要費ということで全額かつ優先的に回収できるのかということについて,事務局の御見解をお聞きしたいと思っています。

● いろいろ質問もありましたけれども,少しまとめて御意見を伺ってからにしましょうか。

● まず,48の信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限でございますが,基本的には受益者多数の場合についてということですけれども,こういう場合については基本的には,複数の種類に分かれているものも当然ございまして,その中には単独受益者権の行使を想定していないような受益者もあるのではないか。


また,受益者の権利の濫用の防止とか,また競合する他のビークルとの平仄であるとか,あと,やはり効率性を一番重視しないといけないような信託,そういうタイプの信託もあるのではないかと思いますので,そういう観点から,やはり単独受益者権を制限する方がいいものもあるのではないか。

そういう場合については,御提案の一部にありますけれども,その制限の内容を信託行為に書いて,受益者の実質的な了解を得た上で制限を行うといったことがあってもいいのではないかと思っています。
 

 ただし,何でもかんでもいいということではなくて,その制限については,やはり慎重にしなければいけないといった考え方も持っていまして,例えば,別途のバランス策が講じられているような信託,例えば前回御提案がありました,受託者監督員が選任されているようなものに限定するとか,あとは単独受益者権の範囲についても,取消権であるとか差止請求権であるとか,損失てん補の請求であるとか,そういうものを限定するとか,あとはそれを組み合わせるとか--すみません,「こういう形がいいですよ」という提案,提示が今,できないんですけれども,何らかの工夫によって,その辺の組合せを行って制限することも必要ではないかと考えております。


  もう一点,先ほど○○委員からもお話が出ていましたが,信託事務に関する重要な書類の閲覧・謄写請求権を信託行為の定めにより制限することにつきまして,帳簿閲覧請求,こちらの方はどうしても仕方がないのかなという気はしているんですけれども,この重要な書類については,いろいろな種類の書類がございますし,範囲をなかなか明確には言えないということもありますので,受託者の営業上のノウハウであるとか,あとは,例えば取引先との間の契約であったりすると,営業上のノウハウだけではなくてプライバシーにかかわるようなことが流出してしまうおそれもありますので,1つは,閲覧の拒否事由が明記されておりますので,これで対処できるという考え方もあるとは思いますけれども,信託契約の定めを置くことによって受益者との間のトラブルを避けるということもありますので,そういう方向で御検討いただければと思っております。

● 単独受益者権の制限等については,まだいろいろ御意見があるところだと思いますけれども,いかがでしょうか。


● これ特約で,実際には自益信託が多いでしょうから,当初,委託者兼受益者であるところの当事者が特約で制限することは,訴訟契約でもOKであるということからすると,構わないということなんでしょうか。
  

それでも,その受益権が点々と譲渡されたときには,また別途合意が必要だという議論なのか,場合によっては,そういう特約であるから構わないという議論もあり得るのかなということが1つ。


  あと,排除となると確かにいけないのかなと思うんですけれども,合理的な,または正当性のあるような制限まで一切合切いけないという--書きぶりからすると,そういうふうに読めないこともないんですけれども,そうすると,場合によってはちょっと強いのかなと。


  それで,それに対する例外が多数の場合ということで,その多数の議論の仕方にもよると思うんですけれども,先ほどの御説明によりますと,有価証券化が一つの事例であって,他の例を特におっしゃらなかったんですけれども,今後,有価証券化がほとんどのケースで使われるようになれば,それで済むのかもしれませんけれども,現状ですと--現状,資産流動化は有価証券化できますけれども……,何だ,違うな。


ちょっと言い方を変えます。有価証券化しないようなものも多数であり得るのかなと思うので,ですから,その多数のとらえ方によると思います。


  多数の他の例,それが適切かどうかわかりませんけれども,自益信託を分割してというようなことが他の法律にありますけれども,要するに,分割予定の受益権の例などが,別の一つの多数ということのとらえ方の例ではないかなと。
  48に関しては,以上のような意見を持ちました。

● 閲覧・謄写請求権について,意見を申し上げるのがなかなか難しいところもあるんですけれども,1つ確認したいのは,今回,信託の柔軟化を図るという前提のいき方からすると,情報提供の義務といいますか,責任というのは,やはり重要であろうと思います。

ですから,例えばこういった情報提供の義務を緩めるのはかなり慎重にやらないと,一部のニーズにこたえるがためにかなり広くこの制限を認めるということになると,やはりこの情報提供の義務が持っている意義が失われてしまうのではないかということを強く懸念いたします。

  前回,この義務に関しては会社法の議論とは違うのではないかと申し上げておいて会社法を引き合いに出すのは,ちょっと気が引けるところではあるんですけれども,会社法の議論でも,定款自治というようなことで柔軟化が図られた方で,公正さとか透明性ということが言われているかと思います。


これは恐らく,適正化ですとか効率化ですとか高度化のためには,そういった公正さ,透明性が重要だという認識も含むような議論なのではないかと思います。

信託においても,やはりそのような観点を重視して制度を考えるべきではないかと思います。

  それで,この制限を考えるときにどういった形で,これ,個人的には本則において制限することはできないという考え方をとるべきではないかと思いますけれども,ただ,多数の場合に,ある程度こういったことを制限することはあり得ることかというふうには確かに思います。

ただ,そこにおいても幾つか考えなければならないと思うのは,1つは,信託契約書について見られないということになると,これはやはり受益者としては困ったことになるだろう。


それから,基本的には説明の請求ができることになっていると思うんですけれども,この説明請求ができなくなるというのは,やはり困るだろうということで,ある程度要件を課して,一定の数があるものとかそういったものに限定するということは,あるいはあり得るのかもしれませんけれども,そういったことができなくなるというような形での制限のつけ方というのは,やはりまずいのではないかと考えております。

  ですから,この閲覧請求権,情報提供の問題に関しては,ぜひ慎重な規律といいますか,そういったことで御検討いただければと思います。

● 重要な御指摘であると思います。
  さっき出てきた幾つかの御質問に対して,お答えしますか。

● では,記憶のある範囲で順次お答えいたしますが,最初に,第48について,自益信託の場合に,特約をすれば単独受益者権を制限できるのかという点については,委託者としての権利についてはそのようにできると思うんですが,それには吸収されない受益者の権利については,御指摘があったように,受益権が譲渡される可能性などもありますので,そのように,あらかじめ信託行為で放棄することによって受益者の権利がないと--個人的に放棄するのは構いませんが,それによって受益権がない,受益権に基づく受託者に対する監督がない受益権が発生すると考えるのは難しいのではないか。


そういう意味で言えば,個別の放棄はいいですが,一体的な放棄はできないのではないかと考えております。

  それから,○○委員から御指摘があったうち,衡平とはどんなものを考えているのか,議論があったかというと,言ってみればこれは,みんなが損するなら仕方がないでしょうと。

1人だけ抜け駆けをするのはだめだけれども,ある特別な1人が損する場合は,その人は保護してあげればいいのではないかというのが基本的な考え方で,それを,この「衡平」という文言を使っているわけでございまして,先ほど申し上げましたように,例えば,同一内容の受益債権の内容を変更することによって一部の受益者が不利益を被る場合は,その人が請求できる。

他方,すべての受益者が,その有する受益権に応じて不利益を被るような場合はだめであるというようなことですとか,もともと受益債権の内容に差異がある場合において,変更がその差異を反映したようなものであるときは,これは並行的に差がふえるわけですから,それは全員だめだと。そういった考え方を文言に反映させているつもりでございます。

  ですから,補足説明等でそこら辺をもう少し丁寧に書くべきであるということであれば,それは対応できるかと思いますが,文言としては,こういう感じかなと考えているところでございます。


  それから,取得請求権ができないという信託行為の定めができるかということでしたでしょうか。

例えば,事務局の考えとしては,取得請求権は強行規定ですので,信託行為で一律に,その信託においては取得請求権があらゆる受益者にないということを定めるのは難しくて,ある特定の受益者が個人的に放棄するのは構わないわけでございますが,およそその財産の性質によって取得請求権がないというような信託を設けることはできないのではないかと思います。


  そういうときに,では,受託者が代わりに払ってやったときの補償請求権はどうなるのかということでございます。

それは今まで余り考えてはいなかったんですが,恐らく,債権の性質をもって考えるというのが前の考え方だとしますと,受益権取得請求権というのも一種,受益債権であろう。


そうすると,これは普通の信託債権よりも劣後してしまうのではないかという気がするところでございまして,受益債権は,例えば信託の終了の局面でも,信託債権があって受益債権があって,残りが残余財産帰属請求権にいくという規律をしておりますので,受託者にはちょっと酷なようですが,代位弁済をした場合に取得する取得請求権というのは,受益債権に準じて劣後するのではないかというのが個人的な考えでございます。

  ただ,それは,換価できないものについて代位弁済するからでありまして,こういう場合は,もうそれはそれによって,中止の要件を定めていれば中止すればいいわけですし,冒頭に言いましたように中止の要件を定めていない場合には,もうそれは,どうするんですかね,取得請求権に応じることによって信託財産がなくなり,もう信託が終了せざるをえないということかなという気がいたしますけれども。
 

 とりあえず,記憶のある範囲ではその限度でございます。ほかに何かありましたら,また。


● 一番最後の点で,もしそうであるのであれば,受託者にとってちょっと酷な場面もあり得る--もちろん工夫の余地はあるかと思いますけれども,その点について何か工夫があるかどうかという点について,なお検討していただければと思っております。

● 1点目は,反対受益者の受益権取得請求権の(1)の①で「信託の目的の変更であって,受益者を害するおそれがあるもの」という要件となっております。

こちら先ほど御説明を聞き落としたのかもしれませんが,「受益者を害する」というのは経済的利益を害するという趣旨でしょうか。


問題意識としては,目的の変更というような場合に,商事であればともかく民事のような場合に,経済的利益自体は変わらないけれども,やはりこの信託にとどまることは困るというような場合はないのか。


そういったものを,「受益者を害する」という要件をどう解釈すればよいのか,ちょっと疑問に思ったところでございます。
  


もう一点は,受益者間の衡平というところでございますが,最終的には,取得価格の決定の手続のときに裁判所が何を判断すべきかということともかかわるんですが,前提問題として,やはり取得請求権があるかどうかということを判断せざるを得ないようにも思われるんです。

そのときに,衡平を害するかどうかというところで,実体的な請求権の有無自体をまず判断しなければならないということになりますと,決定の手続についてもかなり重い負荷がかかってくるのではないかなというところで若干懸念をしているものでございまして,可能であれば,何かもうちょっと明確なメルクマールがないのかどうか考えていただきたいというのがコメントでございます。

● なかなか具体化も難しいところがあるんですよね。
● 前段の御質問でございますが,ここは経済的な利益と考えておりまして,結局,取得請求権という金で解決する話ですので,信託の受益者を害するというのは,あくまで経済的な利益を害するおそれのつもりで書いているということをお答えさせていただきます。

● 今の「経済的な利益」というところに関連して,もう少し広い話をさせてください。


  第60の反対受益者の受益権取得請求権を強行規定にするために,いろいろ工夫をされたというふうに,拝聴して理解をいたしましたが,しかし,それにしては成立要件が厳し過ぎると思います。


  具体的には,ちょっと小さなところから言いますと,損害を受けるおそれというのが第60の1の(1)の柱書きにありながら,かつ幾つかは6号までの中に重複して入っているというところを,まず指摘したいんですけれども,そこはうまく整理したとしても,やはり基本的に,この強行規定としての受益権取得請求権は,損をする人には出ていってもらえるという思想になったんだろうと思うんです。


しかし,本来あるべき姿は,損をするかしないかにかかわらず,基盤となる重要な法律関係,受益者が置かれているですね。

その変更に対して反対の者は出ていっていい,そして,それに対する対価は公正な価格で補償すべきだ,その立場があるべきではないかと思います。
 


 比較すべき対象としてどういうものが適当なのか,よくわかりませんが,現行の会社法,現行の商法の反対株主の株式買取請求権,あるいは建物区分所有法の建てかえのときの,何というんでしょうか,私は建てかえには参加しないから買ってくれというもの,どちらも損をするから出ていっていいですというのではなくて,そういう方針に反対だからというふうに仕組まれている制度だろうと思いますので,ここも,全体として柔軟な信託の中で,強行規定としてどういうふうに残せばいいかというところに御配慮があったことは理解しておりますが,しかし,これでは狭過ぎるだろうと思います。
  

とりわけ今,○○幹事からお話があったことに対する○○幹事のお答えであるところの,1号の受益者を害するおそれ,経済的な損害だというお話がありましたが,例えば,社会的責任投資ですか--という投資の受益者だったけれども,もうそういうことは考えずに自由にやるんだというときに,自由にやって,あなたは損をしないから出ていけないというのでは,やはりおかしいのではないか。


そういうふうに変えるのは構わないと思いますが,今までの信託だから受益者として入っていたけれども,そういう重要な基盤となる法律関係の変更に対しては出ていっていい,それをやはり強行法的に保護すべきではないか。

私の考えでは,それが多数決で問題を解決できるということに当然に伴うべき保障措置ではないかと思います。

● 今の○○幹事の意見に全く賛成で,同じようなことなんですが,先ほど,ポートフォリオを変える場合は,受託者間の衡平を害するものではないから当たらないといったお話がありましたが,例えば私募投信など,リスクレベル1のものを,これからはリスクレベル5の運用をしますと言われて,それではたまらんから自分はやめたいと言っても買取請求ができないというのは大変困る話ですので,やはり要件が狭過ぎるという結論は,全く賛成です。
 

 理屈の面でも,全員の合意を要すべき事項を多数決でいいとしたこととセットで出てくる反対受益者の取得請求権ですから,反対した人が請求できるとしてもらわないと,制度としてはおかしいと思います。

● 先ほど来,出ています反対受益者の受益権取得請求権の成立要件のところでございますけれども,これは前回からいろいろと工夫していただいて,それに対して,まだ非常に狭いのではないかとか,不明確ではないかといった御意見が出ていますけれども,受託者的な立場というか,営業の受託者的な立場からいくと,これを規律していっても,多分,明確にしていくのは非常に難しいのではないかなと思います。


そうしますと,結局のところは,反対受益者についての買取請求をやるというようなことに実務上はなるのではないかと思っておりますので,その目安になるようものを今,御提示いただいておりますので,もちろんもっと工夫していただいて,明確化を図っていただく必要があると思うんですけれども,なかなかそれ以上突っ込んでいくのは難しいのではないかなという心証を持っています。

  ただ,1点だけ確認させていただきたい事項がございまして,成立要件のところについては,第49の,受益者複数の場合の意思決定方法における受益者全員の合意事項という,これ別表になっているところがあるんですけれども,この中の信託行為の変更に関するものだけが抜き出されているような感じがいたしまして,その他の部分については,1つは,取得請求権は不要だという理解のもとで入れられていないのか,それとも,また別の規律を考えられているのかというような感じもしますので,その辺のところを教えていただきたいと思います。
  


あと,※2の反対受益者の範囲についてですけれども,この規律によりますと,事前の個別の通知を行いますと,反対の意思表示をしない場合には,定足数に入れた上で賛成したものと見なすという,いわゆるみなし賛成制度をとった場合でも,反対の意思表示をした人だけに取得請求権を認めると理解しているんですけれども,これでよろしいんでしょうか。


  あと,通知ではなくて公告でみなし賛成制度をとることも可能であろうかと思いますけれども,この場合には,ある一定の期間内については,すべての受益者に取得請求権を認めるというようなことに最終的にはなってしまうのではないかと思いますが,それはそういう理解でいいのか。

  そうであるとすれば,みなし賛成制度というのは我々の方からずっと要望していた件ですので,これが認められるということについては非常にありがたいなと考えております。
  


ただ,さらにつけ加えて言わせていただくと,同様の考え方で公告についても認めていただけたらなと思っております。


公告を行った場合には,決議そのものには賛成したこととなる受益者にも取得請求権が発生して,ある一定の期間内については,すべての受益者に取得請求権を認めることになってしまうので,何となく違和感があるという感じがいたします。

  あと,※6の通知ですが,ここについては公告でもいいと思っているんですけれども,それでよろしいでしょうかということでございます。

  それと,前回の本席におきまして,受益者複数の意思決定方法については,自由度を高めるためにデフォルトルールにどうしてもしてくださいというお話をして,その代わり,先ほど来,出ていますように,受益者保護というのは反対受益者の取得請求権を強行法規化するということで,これについてはもうやむを得ないと私どもは考えております。


  ただ,とはいえ,これも前回申し上げたと思うんですけれども,流動化等で信用補完をするためのオリジネーターがあり,劣後受益権を保有しているような場合,これで取得請求をやってしまうとストラクチャーが瓦解してしまうというようなことがあります。

これで実務上の工夫をしないといけませんねというのと同時に,法制度の手当てもお願いできませんでしょうかとこの前,申し上げました。

これについては先ほど○○幹事からもお話が出ていますけれども,受託者と受益者との間の相対での取得請求権のあらかじめの放棄といいますか,こういう形態である程度は対応できるのかなと思っていまして,これについても基本的には,「公序良俗に反しない限り」といった限定がつくんだと思いますけれども,この辺のところ,条文上に書くような話ではないかもしれませんけれども,明確化していただけたらなと思っております。


● 第60のところで,もう既に議論されているかもしれませんけれども,弁護士会で議論したときに,この受益権を受託者が取得するのではなくて,他の受益者が取得するようなケースを認めてもいいのではないかみたいな議論が出まして,考えてみると,これは取得請求権だから,多分自己株式の取得のようなことを前提としていて,その後に受託者はそれを消却するのか,場合によっては他に譲渡するのかもしれないですねみたいな議論をしました。
  

その取得請求の法的性質というんでしょうかね,ですから,まだ受益権はそのままとどまっていて,その受益権がさらに,要するに,信託の一部解除ではないのかどうかということをお伺いしたい。


  それから,今,○○委員がおっしゃったことと関連するのかもしれませんけれども,受益債権の内容変更で,衡平を害しない場合。

当然濫用,悪用でなければそういう形になって,反対請求が起こらなくて済むのかと思うんですけれども,種類受益権集会の議論が他にあるのか何か,ちょっとわかりませんけれども,ある種類の受益者の受益債権の内容については一定の変更をする,それは一律に適用があるというときに,ただ,他の種類との関連でどうのと言うと,結局この衡平を害するという議論が出てきてしまって,取得請求が出てきてしまって,その信託自体のキャッシュフローとかマネジメントが非常に混乱するというようなこともあると思うので,その辺も含めて,強行法規性ということで一切変更できないということになると,いろいろな問題が出てくるケースもあるのかなと。


  ですから,基本的な原則としてこういうことであってもよくて,ただ,それぞれの商品とか信託の特性に応じて多少のバリエーションを認めるような記述が何かあっても,かえって紛争を事前に防止できるのではないかと思いました。

● 先ほど来,第60の要件について,この限定では狭過ぎではないかということについて私の意見を述べたいと思います。

  先ほど述べたとおり,基本的には最小限の要件を立てるべきではないのかという話でございまして,もしその商品,その信託の内容に応じて取得請求権がやりやすいようなハードルをつくりたいというのであれば,※4に書いてございますように,基本的に受益権取得請求権の付与のことをそこで書けばいいということでございますので,信託の柔軟性から考えますと,ここでは最低限のことを書けばいい。

  これは先ほど会社法の議論が出ていましたけれども,やはり信託独特における政策的な判断だと思っておりまして,そこを考えますと,その柔軟さに加えて,やはり信託の継続性であるとか受益者同士の一団性等を考えますと,強行法規性というのはできるだけ制限した方がいいのではないか。そして,必要であればデフォルトということで加えればいいのかなと思っております。


  あと,受益者を害するおそれということで,○○委員からリスク1からリスク5という話がございましたけれども,この点については私も,受益者を害するおそれがあるものについて,衡平と同等に,なお現実には不明確だという思いはあるわけなので,そういう意味で,衡平と同様に明確化を,明文化ないしは補足説明等で御説明いただきたいとは思っております。


  ただ,先ほどの事例だけ考えますと,リスクが変わっていくということは,①であれば信託の目的の変更ということもあわせて考えれば,現行提案の案であったとしても,「害するおそれがあるもの」ということで受益者は保護され得るのではないか。

何となれば,実際にリスクが高くなれば害するおそれがあるわけだからということで,この内容であっても一定の保護は図られるのではないかと思っております。


この「害するおそれ」ということについて,何か解釈とか御議論があれば,御開示いただければありがたいと思っております。

● 幾つか御質問をいただいた中で記憶があるものですが,○○委員がおっしゃったのは,これは受託者ではなくて他の受益者が買い取ることを認めてもいいのではないかという御質問ですね。

● そうです。一たん受託者が自己株式の取得のように買って,それを一回転売する,そういう前提での議論なのかどうか。


● それはできると思います。一たん受託者が買った後どうするかというのは,それは別に受益権を処分するということでもいいし,消却してしまう形でもいいですし,そこら辺は信託行為の定め方次第ではないかという気がしております。

  それから,○○委員の質問の中で,まず,一番最後におっしゃったのは,※6は公告でもいいかという点でございますが,これはやはり個別に通知をすることが重要だと考えております。

公告では反対受益者に対する通知をしたことにはならないのではないかというのが現時点での考えでおります。

  ※2についても公告ではどうかということですが,これも個別の通知をすることこそ反対の機会を付与するための重要な礎になるんだという考えに基づいておりますので,たとえ内容を含んだものであっても,公告によって反対の機会を付与したことにはならないのではないか。


そうしますと,公告したというだけでは,なお積極的に賛成した者以外は受益権取得請求権を行使できるのではないかと考えているところでございます。
  もう一つは,1の中が信託の変更の場合だけのように見えるとおっしゃいましたか。最初,ちょっと聞き忘れたんですが。


● 信託の変更以外の,例えば忠実義務違反の行為の承認であるとか,解任とか新受託者の選任とか,そこら辺の部分が複数受益者の決議のあれになっているんですけれども。

● 受託者の変更等につきましては,これは積極的に付与しておりません。というのは,誰が受託者かによって受益権の中身が変わるわけではないという考え方でございますので,例えば受託者が更迭されたことによって変更請求,取得請求は生じないという考えでございます。


  あと,忠実義務を解除するとかというのは,それは信託の変更ではなくてですか。忠実義務をなくしてしまうわけですか。


● はい。違反があったときに,当然のことながら,承認すれば免責されますけれども,その意味合いの承認であるとかですね。

● 承認したときに,その承認に反対の人に取得請求権があるか。
● はい。


● 例えば受託者が信託違反行為をした。それに対して受益者が損失てん補請求権を有しましたという場合に,受益者の多数決によって免除するというようなケースもあるかとは思うんですけれども,ここではそういうものまで含むという趣旨ではなくて,信託の変更で,例えば受託者の責任を軽くするとか,譲渡性を制限するとか,そういう重大なものに限って,原則としては,強行規定として反対受益者の取得請求権を認めようというふうな提案でございます。

● ……ということは,全く今ここに書かれているものに限定して,反対者の取得請求権の要件というのは考えればよろしいわけですか。


● そのとおりでございます。
● 極めて細かい点なんですが,先ほどの話を,例えば中間試案とかそういう形で書く際に,個々の受益者というのは自らの受益権の価値が減少するとか,あるいは受けられるべき給付が受けられなかったことによって,不法行為とかそういうことの損害賠償請求権というのは存在するわけですよね。

信託法上の損失てん補とかそういうものはない,請求しないと決めれば,それに拘束されるという話ですよね。


  多分それは,どこかに明示していただかないと,絶対にないんだと信託業界は主張し出すと思います。不法行為法上はあるんだということは,はっきりさせておいてほしいと思います。

● わかりました。
  ほかに,よろしいでしょうか。大きな枠組みについては,それほど御異論はなかったと思いますけれども。
  それでは,次にいきましょうか。

● すみません,今の第49についてちょっと。
 
 集会の話なんですけれども,2点ほどございまして,これは私の実務家としての感触的な部分もあるんですけれども,デフォルトルールとしての集会手続規定というのは法律にあってもよいのではないか。


そうでないと,信託契約で詳細な手続規定を毎回書くようになったりとか,それぞれによって違ってきたりとか,ですね。


それと,手続規定があれば,場合によっては決議取消の訴えとかそういうものも可能だということであれば,デフォルトルールとしての,それにのっとった場合には,裁判所に対して決議取消しとかそういうものができる,そういう選択肢もあって,なおかつ,そうすれば信託契約ごとにバリエーションがあったりとか,受益者が個々に細かいチェックをしたりとか,場合によっては決議に瑕疵があってもそれは争う手段がなかなか見出せないといったようなことにならなくて済むのではないか,そんなふうに思ったことが1つ。
  


あと,デフォルトルールとしての個数なんです。これもいろいろ検討された結果,出てきた議論のようですけれども,デフォルトルールで書いていないから,個数といっても,なかなか信託契約の中で個数を認定するというのは難しいのではないか。

既に議論された結果の個数という議論のようではありますけれども,流動化法とか議論が出ていたと思うんですが,元本基準とでも言うんでしょうかね。

恐らくこういうところは社債型の受益権をイメージしての議論だと思うので,そうすると,元本基準,持分基準みたいなものがまだ例としてもあってもよいのかなと感じました。

● 先ほどの私の質問の,受益者を害するおそれがあるものについて何か議論があるか,御説明いただければという話で,繰り返しになって恐縮ですけれども,とりわけ先ほどのリスクが変わるというときに,一つの考え方としては,期待利益は変わらないわけだから害さないという考え方もありますし,もちろんリスク幅が多くなるわけだから害するという考え方,いろいろ考え方があると思います。


そのときに,具体的にどういうふうにお考えなのかという,この点について,今この場においてコンセンサスをとっておいた方が,恐らく次の議論の役に立つのかなと思っております。

  すなわち,もしそれが「おそれがある」ということであれば,恐らくは,先ほど○○委員がおっしゃったような懸念への回答になるかもしれませんし,そうでないのであれば,また別の議論が出てくるだろうと思いまして,それゆえに,この「害するおそれがあるもの」の具体的な中身,またイメージが重要になるのではないかと思っております。

● そこは抽象的に,やはり「害するおそれがあるもの」でないと取得請求権を認める必要はないだろうということで,要件を被せているというぐらいのことでございまして,具体的にはいろいろな場合があり得るというぐらいのことでございますが。


● これはむしろ皆さんの方でいろいろ御議論いただく……。


一応こんな基準でどうかということで御提案申し上げているので,これだとこんなものも入って具合が悪いとか,そういうことがあればまた基準を考える。

また事務局の方でも少し考えるということではあると思いますけれども,今の段階では,そういう抽象的な基準だということですね。


● 第49に関しての質問なんですけれども,これは任意規定として,具体的なイメージを教えていただきたいんですが,例えば,5ページの(2)議決権の数・受益者集会の決議のイで,「信託行為に別段の定めがない限り,普通決議によるものとする」これは要するに別段の定めというものが,これは定足数ではなくて,議決権について別段の定め,こういう趣旨なんでしょうか。

● いや,定足数でも別にできますし,決議要件でもできると思います。もちろん2分の1以上ですが,それ以上にしたければ特別決議でもできると考えております。

● 別段の定めというのは,例えば2分の1を増やす方向でしかないということですか。

● 決議要件は,過半数ないと……
● 決まらないですね。
● 2分の1がミニマムだと思っておりますから,それを増やすことはできるということです。

● ちょっと細かいところで恐縮ですが,第49で,まず1点目は,受益者集会の招集の請求のところです。


  ※5ですけれども,今般の提案でいきますと,一部の受益者からの請求によって,例えば受益者集会を開いて協議するまでもないような,こう言ったら悪いですけれども非常につまらないような事項についても,すべて受益者集会が招集されることになってしまいまして,受益者集会を開催しますと当然費用がかかる。

それがすべて受益者の負担になるということがありますので,たしかこれ,前回の御提案では裁判所の許可というのが入っていたのではないかと思うんですが,今回これが入っていませんので,許可だけということではないんですけれども,例えば裁判所の許可といったフィルターを通すとか,あとは,議案が否決された場合の費用は,例えば請求した受益者が持つとか,そういった弊害防止策みたいなものが要るのではないかと思っております。

  それと,※6の受益者の正確な個人情報が把握できない場合ですけれども,これについては前回も申し上げましたように,受託者が把握できない場合も結構ありますので,公告による招集はぜひとも認めていただきたいと思っております。
  

それと,9ページの下の方になりますが,信託行為の定めによって議決権のない受益権をつくることができるかということにつきましては,受益者集会の制度設計を信託行為の定めに委ねるというような考え方でやるとすれば,当然,議決権のない受益権をつくることも可能ではないかと考えられますし,実務的な観点から見ましても,受益権を複層化した場合について,先ほどもちょっと申し上げましたけれども,例えば流動化における信用補完のためのオリジネーターが持っているような劣後受益権であるとか,今度は逆に,ほぼデッドに近いようなもの,こういった受益権であるとか,あとは収益受益権で本当にわずかなものしかもらえないようなもの,こういったものについては議決権のないような形にしてもいいのではないかと思いますので,その方向で御検討いただけたらと思います。


● ありがとうございました。
  まだいろいろ御意見があるかもしれませんけれども,大きなところでは御賛同いただいていると思います。なお,今日議論が出た点についてはさらに詰めたいと思いますけれども,何か答えておくべき点がありますか。よろしいですか。
  では,まだ少し残っておりますので,次に進みたいと思います。


● 次は,委託者の関係と,遺言信託の関係についての御説明に移らせていただきます。


  まず,第55でございますが,提案内容は,前回提案と変わるところはございません。本日,特に御意見を伺いたいのは,22ページの(注2)に記載させていただいておりますが,委託者の地位の移転に関する規律を明確化すべきかという点でございます。

  現行法には規定がなくて,学説上は,一定の類型の信託や自益信託に限って例外的に移転ができるという見解と,そもそもできるという見解とがあるところでございます。
 


 事務局といたしましては,23ページの(注3)に書いてございますとおり,委託者の属人的な要素を強調するとしても,受託者や受益者の同意がある場合ですとか,スキームの維持のために委託者の地位の交代が効率的な場合においては,委託者の地位の移転を否定すべき合理性も必要性もないのではないか。

委託者の地位には,移転に値する経済的な価値がないとまで言えるかは疑問であり,少なくとも地位の移転を否定すべき根拠とはならないのではないかなどの観点から,委託者の地位の移転は,原則として一般的に可能と考えることが相当ではないかと考えているものでございますので,御意見を伺いたいと思います。
  


次に,第56の方でございますが,これは委託者の相続人の権利・義務に関しまして,前回と同様に,両案を提示しているものでございます。

  もっとも前回会議におきまして,結論としては,委託者の相続人は,原則として信託法上の権利・義務を承継しないとする乙案の考え方が大方の支持を得たと認識しております。


しかし,事務局としては,乙案をとることについてはなお,24ページの説明2以下に記載したような種々の問題点があると認識しております。

  この懸念を敷衍して申し上げますが,第1に,乙案のように委託者の地位の相続性を原則として否定した場合の問題点といたしまして,まず,前回会議で指摘されましたように,委託者の相続人は報酬支払義務の方は相続することとなっても,受託者の信託違反行為等を是正する権利の方は相続しないことになりますし,自益信託の場合にも,受益者の地位の方は相続するけれども,この受益者の地位には吸収されない委託者独自の権利については相続しないことになりますが,このような結論は,信託当事者の合理的な意思に合致するものと言えるかどうかという問題がございます。

  2点目といたしまして,委託者の地位には,信頼関係に基づく属人的要素が相当程度あることは否定できませんが,委任とは異なり,信託は信託当事者の死亡によっても終了しないことに照らしますと,相続性を否定する根拠として,委任と同様の観点から,委託者の地位の一身専属性を強調することは困難ではないかという感じがいたします。
  

3番目といたしまして,前回会議におきまして,委託者の相続性を認めた場合の弊害として,法律関係が錯綜するということも挙げられましたが,相続による法律関係の複雑化のおそれは,信託の委託者の場合に限った問題ではございませんし,そもそも信託行為によって相続人の関与を排除するなどの対応が可能ではないかという点も指摘されるところだと思います。
 

 第2に,この信託行為による対処が可能であるという点に関しましては,前回会議におきまして,乙案のように相続性を否定した上で,特に必要があれば信託行為をもって相続人に一定の権利・義務を認めればよいではないかとの方向性が示されております。


しかし,このように,信託行為をもって相続人に一定の権利・義務を認めるという点につきましても,前回会議でも指摘がございましたが,そもそも理論的に,これは信託行為によって相続人による権利・義務の相続を認めるというものなのか,それとも,相続性は否定した上で,信託行為に定める範囲において委託者の地位の全部ないし一部の譲渡を認めるものなのかという問題がございます。
 

 相続を認めるものだとしますと,相続人の関与のないまま,被相続人たる委託者と第三者たる受託者の合意のみで相続財産の範囲を決めることができることになるわけですが,そういうことが相続法上,果たして許されるのであろうか。

これが委託者の地位の譲渡,これはいわば相続人を第三者とする,第三者のためにする契約だと思うのですが,これを認めるものだとしますと,相続性を否定しながら譲渡性を認めるというのは矛盾ではないのか。

むしろ先ほど申しましたように,相続人の関与による弊害に対処できる方法があるのであれば,相続性の有無の範囲に関するこのような複雑な議論にあえて立ち入るまでもなく,一般原則どおり,相続は許されると原則に従った上で,信託行為の定めをもって相続人の関与を排除することができれば足りるのではないかと思われるところでございます。


  以上を踏まえまして改めて,甲案,乙案のいずれが適切か御審議いただきたいと思っております。
  


同じ問題が,第67の遺言信託でもございます。46ページでございますが,相続人の権利・義務につきまして,やはり両案を提示しております。

  なお,信託は遺言でもできるということは明記するつもりでおります。その上で,相続人の権利・義務が問題になるというところでございます。


  遺言信託における遺言者の相続人の権利・義務の問題につきましては,法律構成上も,理論的にも結論的にも,基本的には契約信託の場合と同じように考えれば足りるのではないかということを,この資料の冒頭から書いているところでございます。
 

 すなわち,遺言信託の場合におきましては,確かに信託の効力発生時点においては,委託者たる遺言者は既に死亡して不在ではありますが,教科書などを見ますと,やはり遺言者が委託者であると考えられておりまして,したがって,法律上は契約信託における場合と同様に,遺言者は委託者としての権利・義務を一たん取得した上で,この権利・義務を相続人が相続することとすべきか否かと法律構成することができると考えられます。


  もっとも,契約信託の場合に比べまして,遺言信託の場合には,委託者の相続人と受益者の利害対立というのはより直接的でございますので,遺言信託における相続人には受益者の利益のための権利行使の可能性は一層期待できず,委託者の権利・義務の相続を認めるのは不適当ではないかとの指摘もあり得ます。

この点につきましては,生前信託においても委託者の死亡を効力発生時期とする死因贈与類似の信託設定も可能であることですとか,生前信託であれ遺言信託であれ,委託者において仮に相続人が関与することに不安があれば,信託行為をもって相続人が有する権利を排除していくことが可能であることなどに鑑みますと,委託者の権利・義務の相続性の有無に関するデフォルトルールを定めるに当たりまして,契約信託と遺言信託であえて異なった結論をとることを必要とするほどの違いとまでは言えないとの反論もあり得ると思われます。


  ところで,前回の会議におきましては,遺言信託というのはそもそも相続人の意向を排除するところが大きいとの指摘がありましたほか,契約信託の場合と遺言信託の場合とで特に取り扱いを異にするのはおかしいとの観点から,相続人には権利・義務が原則としてないとする乙案が大方の賛成を得たものと認識しておりますが,相続性を否定した上で,特に必要があれば遺言をもって相続人に一定の権利・義務を認めればよいとする見解によりますと,これを相続と見るのか,それとも,委託者としての権利・義務を原始的に付与するというのは特殊な行為と考えるのか,相続人としては,このような権利・義務を有することを免れるためには,相続でない以上,相続放棄とは言えないわけでして,どうしたらいいのだろうかというような困難な問題が生ずることが懸念されるわけでございまして,このような観点から,やはりこちらについても改めて,甲案,乙案のいずれが適当か御審議いただきたいと思っております。

● かなり理論的な問題があると同時に,もちろん実際的な考慮も必要な点です。いろいろ御意見が対立する可能性がありますが,いかがでしょうか。


● 第56で甲案をとるというのは極めて論理的だと思うんですが,遺言信託に関しましては法的に同列に議論しなくてもよいのではないか。それについては両論ありということで,既に議論されていますけれども。
  


というのは,遺言信託というのは,まさしくその名前が物語るように,相続法の議論なんですね。


ですからある意味では,遺言において遺言執行者がいる,遺言信託においては受託者がいるという規律というのは,別にそれはそれで,デフォルトルールをどちらにするかというだけの議論なのかもしれませんけれども,特におかしくないのではないかという議論と,そういうふうに申し上げる背景としましては,今後,遺言信託がさまざまな形で利用されていく過程において,今,御報告がありましたように,委託者というのはもう必ず,遺言信託をするということは,法定相続とは違ったことをするということですから,信託類型として,初めから利害が反する方が委託者になっているということがデフォルトルールになるわけですから,第56の議論との論理的整合性から,契約に書けばよかったのかもしれないけれども書いていないときに,あえて紛争性を惹起するような類型をデフォルトルールとして残す必要がどこまであるのかなと,弁護士会でも議論したところです。


  あと,ただいまの御説明で明確なんですけれども,書き方として,第56の方は「原則として」という言葉が入っているんですが,第67の方は,今の報告の中ではデフォルトルールで信託契約の中に書けばいいという話だったと思うんですが,「信託行為で別段の定めがない限り」といった形にはなっていないので,表現ぶりではありますけれども,ちょっと気になったところです。
  


あともう一点だけ。以前議論されているようですけれども,後継ぎ遺贈が相続法上,または物権との議論でできるかできないか。

多分できないという議論だと思うんですけれども,他方において,遺言信託においては,過去の議論ですと,それは受益者の変更権との両方の組み合わせによってできるというような議論のようですけれども,遺言信託は,まさしく相続法の1類型としての信託法の中の取り扱いですから,その後継ぎ遺贈に類似するところの,何というんですかね,○○委員の本にもちょっと触れてありますけれども,その辺も議論として明記していただくことが,ある意味では,「遺言」ではなくて「遺言信託」をあえてするというところの意義として出てくるのではないか。

そうでないと,遺言と遺言信託は結局遺言で済んでしまうという議論に相変わらず引きずられてしまうのではないか,かように思ったところです。
● 質問なんですが,第56と一番最後のところで,まず一括して考えてみようということですけれども,これも,とりあえずまず第一段落はアメリカの話。
  


アメリカでは,今の議論と重なっていると思いますが,アメリカにおけるいわゆる民事信託の利用法は,相続からの隔離というか,相続のところへいかないために信託をというのが,この二,三十年の間,極めて発展してきたということになっていると思うんですね。

だから,相続制度をどう考えるかというのと非常に密接に関連しているので,なかなか難しくて,アメリカはアメリカの相続制度に物すごくいろいろな意味で欠陥があるので,そういう形で使っているのだと。


我が国の民事信託というのがどういう形で発展するのか,これは今後を見てみないとわからないので,現状の相続法との関係が非常に重要だというのはわかるんですが,アメリカでも1点だけ相続人が出てくるところがあります。

  1点だけというのか,もしかしたら私がいろいろなところで見落としているかもしれないんですけれども,つまり,いわゆる復帰信託というやつですけれども,日本で言えば帰属権利者ということになりますが,いざ長い期間の後で信託が終了してしまって,受託者として「これはどうしたらいいだろう」というときに,信託条項に何も書いていない場合ですけれども,何も書いていない場合は復帰信託という形になって,どこへいくかというと,委託者に戻る。

委託者が生きていなければ委託者の相続人に戻るということで,ここで初めて出てくる。これ以外は多分,出てこないような仕組みをとっていると思うんですね,アメリカでは。

  ここで,例えば第56の甲案なら甲案でもいいんですが,今のお話だと,委託者の相続人は原則として承継するんだけれども,信託条項で一切承継しないと書けばいいというような御趣旨なんでしょうか。

それで,同じことがこの遺言のところでも,遺言で信託を設定しておいて,それで,この信託に関係しては相続人は一切関係ないものとする,こうやって書いておくと相続の方にいかないということになるんでしょうか。それは我が国の相続法の--いやいや,私きっと説明がわかっていないと思うので,その点をもう一回はっきり御説明いただけますか。そういうことが可能なのかどうか。


● とりあえず申し上げますと,それは相続できるかできないかというよりも,相続人に権利・義務を与えるかどうかという観点の問題でして,相続者の有無を信託行為で決めるということではございません。

● それで,第三者のために契約だとか……,相続を介しないで相続人に権利を与える意思表示をするという説明の仕方をさっきしたんですね。


● 相続人に与えないための条項というのを,どういう形で。


● 例えば「信託の変更は,受託者と受益者の同意ですることができるものとする」というようなことを信託行為で書いておけば,相続人の関与は排除できますので。それは相続を認めないというよりも,関与を直接的に外すというやり方。

● つまり,大きく相続とは関係ないようにするよという1条項を入れるのではなくて,一つ一つ書いておけということなんですか。

● それは「委託者の権利は有しないものとする」と書けば,包括的に排除できるんだろうと思うんですが。「相続できないものとする」と書くのは,それは難しいのではないかと思います。

● そのときに,今の書き方なんですけれども,私の相続人は,私が今,委託者なんだけれども,「委託者の権利を承継する者にはならない」と書いておけば,遺言信託である生前信託であれ,第56であれ,排除できるんですか。
● 「承継」という言葉を使うと,まずいんでしょう。
● 「承継」はだめ。では,権利を……
● 承継するとかしないとか,そういったところを信託行為でいじるのは相続法の観点からして問題があるというのは,そのとおりなんです。


  そうではなくて我々は,先ほどから○○幹事からも申し上げておりますけれども,信託の変更については委託者が関与しない,あるいは信託の併合でもよろしいんですけれども,そういうものに委託者は関与しないということはできますので。
  


それでは,それを一個一個書かなければいけないのかと先ほど言われましたけれども,それは契約書の書き方の問題であって,その契約書の趣旨から言って,変更もできません,併合もできませんというのをバッとまとめて書くことはできる。それはできるんですが,では,それは何を決めているかというと,相続する,しないというのを決めているのではなくて,あくまでも委託者死亡後における委託者の地位をどうするかを個別的に,信託の任意規定として書いているというふうには説明はできると思います。


  ただ,それはあくまでも相続するか,しないか決めているのではないと言わざるを得ない。

● それでいいんですけれども,やはり個別に書かなければいかんのですか。うまく一文で書けるような表現があるんですか。
● 「委託者の権限を与えない」とかね。
● 「委託者の権限を与えない」と書けばいいんですか。

● いや,何か書き方はありそうですが。
● 「委託者の権限は,甲の死亡により消滅する」と書けば,それで終わりだと思いますが。


● それはもう一切権限を消滅させてしまうんですね。
  その相続をさせるかどうかという構成の問題と,今,○○委員が最初の方に言われましたけれども,私もどっちがいいかと迷っている問題は,やはり信託のいろいろな権限ですね,これを与えてもいいのかどうかという問題と,それから,法定の帰属権利者というのがあって,相続を一切否定して,そうすると法定の帰属権利者の地位も,どうも飛んでしまうような感じがするんですよね。だけれども,英米でもそこは残しておく。--というと,それはどうしたらいいだろうかというのが,相続を否定した場合に残る問題でしょうね。

● 消滅するといっても,同じようになくなってしまいますよね。
● 「それを除いて」とか言えば……。


● 委託者の地位というのは分割して承継というのはできなくて,まとめなければいけないんでしょうか。


私は,ポイントとしては,やはり監督権能は初めから締結に期待できないし,逆にいろいろと邪魔されるだけみたいだけれども,帰属権利者というのは経済的な信託の終了のときの枠組みだと思うんですけれども。

● まさに私も,実態としてはそういう監督的な権能,特に遺言信託の場合などは,それは相続人に与えないというのはいいと思う。

ただ,法定の帰属権利者の地位は残っていてもいいのかな。本当に,相当長い年月がたってから戻ってくることはあるかもしれませんけれども,それにしても,別に国庫にいく必要はないだろうということで,行く先がないときにも戻ってくる。それをうまく両立させる法律構成ができればいいのかなと思っていますけどね。
  ○○委員は,その両立させるというのは。

● まさしく遺言信託という類型である以上,ここだけの特別規定があっても,他の信託と同じレベルで議論しなくてもよろしいのではないかなと思ったんですけれども。


● それは1つ,もう思い切ってそういうふうにしてしまうということでね。
  ほかに,いかがでしょうか。
 


 先ほど遺言信託の場合に,私,実質は,やはりその場合にも一たんは相続するんだというのが何か嫌な感じもするんだけれども,といって帰属権利者の地位を飛ばしてしまうのもどうかと思うので,なかなか苦しいところですけれども。

  論理的に,本来は,やはり突き詰めると相続しかあり得ない,それが先ほどの説明ですよね。

● そういう構成しか考えにくいのではないか。非常に特殊な単独行為なものですから。


契約であれば,契約上の地位の移転という説明ができるんですけれども,あるいは相続というのができるんですけれども,遺言の場合には契約上の地位でもないですし,相続以外にはちょっと説明がつきにくいからということでございますが。


  ただ,生前信託と遺言信託では利害対立の状況が大分違いますので,そういう観点から,○○委員がおっしゃったように,仮に契約信託では甲案だとしても遺言信託では乙案ということもあり得るかなという気はしております。それは,あくまで利害対立を重視しているからでございますけれども。

● 理論的な説明はちょっと飛ばしてということになるのかな。もう遺言信託というのはそういうものなんだという……。

● 問題の整理は余りついていないんですけれども,○○委員がおっしゃったように,やはり性質の違うものがあるのではないかという感じがしていまして,財産の帰属関係の話は,まさに相続にも馴染むもので,最後に戻ってくる帰属権利者としての主体というのは,そういう点から考えられるんだと思うんですけれども,適正な信託をチェックする,そして当初設定者としてのそれへの関心の観点から見ていくという地位は,どうもある仕組みの中で監督等ですとか運営等についてかかわっていくという地位で,それは相続とは馴染まないと言うこともできるのかなと。

  ただ,そうしますと,委託者の地位の中で恐らく3つぐらいに性質が分かれてきて,財産の最終的な帰属として残っている地位と,信託の中で監督的なことをやっていく,変更等,あるいは終了等,それからもう一つは当初契約の当事者の地位というのがよくわからないのですが,詐欺取り消しですとかそういうような話がどうなるか。


それから遺言信託のときも,例えば遺言によって信託が設定された場合に,その財産を受託者に引き渡す義務を負う立場というようなものは,これは当初契約における履行をする地位と考えると,そこは相続人が継承して,だけれども,一たん渡したものについて,変更などについて同意をするかというのは,また違う地位かと思われるんですが,その3つがそれぞれ分かれることに伴う複雑さもあって,それをどう考えたらいいのかというところも気になっております。


  もう一つ,ただ,遺言信託と契約信託を全く同じに考えなければいけないのかというと,相続するという構成もできなくはないという説明ではないのかという感じがしているわけですが,それとの関係で,今度は逆に,信託行為に書けば委託者が留保できる権能が幾つか設けられていると思うんですけれども,遺言信託でそういうことを書くことが想定されるかどうか,非常に細かい問題なんですが気になっておりまして,当然,相続人にかかっていけるものならば,そういうものを書くことに意味はあるんですけれども,そうでなければ,そういうものを書いてもそれは全く無意味な記載で,無効というような,そういう理解でよろしいんでしょうかね,そちらは。


● 今の○○幹事のお話は,遺言信託の場合に,財産的な地位は別として,遺言者の相続人には信託法上のいろいろな権能がいかないことを原則として,ただ,場合によっては与えることもあり得るのをどう考えるかということだったと思いますけれども,そういうことですよね。

● その考え方を詰めると,契約信託の場合も実はそういうことになるのではないかという感じはしているんですけれども。

● それでできるのであればということですね。
● はい。

● ちょっと関連して,思いつきですけれども,やはり相続が入ってくると,なかなか難しいことになる。


生前信託だって,委託者は「私」ですが,相続人というのはいっぱいいるんですね。


急にその人たちみんなが委託者の地位を相続して,何だかんだと入り込んでくることを「私」が考えているかというと,普通は考えていないと思うので,この2つを分けないで,できるだけ簡明にした方がいい。しかし,相続法という怖いものがありますよね。強行法。

ですから,やはり○○幹事のような発想でやれるんだったら,そういうものに,つまり「相続」という言葉を使わないで,原則はというか,別段の定めがない限り,まさに「別段の定めがない限り,委託者が有していた信託法上の権利は,委託者の死亡とともに消滅する」そう言ってしまっておいて,あと帰属権利者の方は,帰属権利者の規定のところに「帰属権利者は,委託者である。委託者死亡のときは相続人のところへいく」と書いておけば,それはそれでもう別の話になってという,そういうことの方が簡明なのではないかと思うんですけれども,しかも相続法とも喧嘩もしないし,どうでしょうか。

  ちょっと思いつきだけですので,いろいろな点が問題はあると思いますが。


● 理論的な説明としては,委託者の契約上の地位--○○幹事はそれにも2つぐらい意味があるとおっしゃったけれども,単純化して,委託者のいろいろな監督権を含むという意味での地位というのは,任意的な譲渡はあり得ていいかもしれないけれども,本人が死亡すれば,一身専属性なのかな,そういう意味で消滅させる。


だけれども,帰属権利者としての財産的な地位は,それは財産的な地位なので,相続されると言ってもいいのかもしれない。これは○○委員も,相続でも構わないわけですね。帰属権利者の方は1人でなくていいわけだから。


● 帰属権利者が受益者とどう違うかといった話に,最後また戻ってくると思うんですけれども,財産的な権利がもう都度あるんだよと言ってしまうと,そこから何らかの監督権能が発生するような気がしますけれども,それはしないんですか。


● そこは,だから監督的な地位と財産的な地位とを分ける。


● それなら,財産的と言ったって,本当にあるかないかわからない帰属権利者のところだけで書いておけば。

● 法的な帰属権利者ですから,もう一番割り切れば,もともと本来,当然に委託者にいくというものでもないので,こういう場合の遺言信託の場合というか,委託者にいくと書いてあるわけだけれども,それも,相続などを介した場合には,法律の定めがあるから委託者の相続人とかそういうところにいくんだという理解をすれば,相続を介しないで帰属権利者に財産を与えることも不可能ではないかもしれないですね。

● 委託者たる地位を,例えば遺言の中で,もしかしたら法定相続人の中で長男は立派だといえば,長男に委託者たる地位を与えるとか,場合によっては,全然流動化とは違いますけれども,受益者に委託者たる地位を承継させるとか,ちょっとデフォルトルールではない議論になってしまいますけれども,それは可能という理解ですか。


● それはできますね。


● 相続されないという前提をとった上でも,それはやろうと思えばできるということですね。


● 仮に乙案をとった場合も,できると思っております。


● 恐らく今の議論の全般的な状況というのは,仮に契約でやる場合につきましても信託は信託であるので,普通の契約とは少し違うところがあって,委託者の地位というのは一部相続されないというのが妥当なんだということかと思いまして,それは確かに,アメリカにおける遺言あるいは遺産の承継との絡みでの使い方であれば,私はよくわかるところはございますけれども,他方で,今の我が国における使われ方を見ますと,もちろんそういうものは余り主流ではありませんので,一体どちらをデフォルトにするかというときに,やはり日本の状況をデフォルトにした上で,アメリカ的な使い方にももちろん対応できるのだというところを重視していく。

  特に,遺言のかわりということですと,よく考えて契約をつくると思いますので,先ほども一個一個置くのですかということもございましたけれども,それを期待することがそんなに難しいことなのかということはあると思いますし,いずれにしても,むしろ日本の状況を見た方がいいのではないだろうかというのが一つの発想としてはあるところでございます。

● 私もおっしゃるとおりだとは思うんですけれども,ただ,日本で,例えば自益信託が主流ですねと言うと,委託者の方はいなくても,受益者の方は当然相続という話になりますから。

受益権の方は。だから,余り心配ないのではないかとは思うんですが。日本のような状況を前提にしても。

● それはそうなんですが,委託者の地位というのはなくなってしまうので,いい。

それで多くの場合は問題ないかもしれませんけれども,個別に見て本当に問題がないと言い切れるかというのもございますし,他益信託が,余り日本ではないかもわかりませんけれども,だれかのためによかれと思って他益信託を行ったんだけれども,それが受益者と受託者との間でなかなか正常にはいっていないというときに,自分の親がやった信託があって,その相続人などが,あれを何とかしてあげたい,あるいは受託者がとんでもないことをしているので介入してあげたいというようなこと,それをあえて否定しにかかるようなことを言わなくてはいけないのかどうかでございます。

● 相続人が入ってきてうまくいくというのが……


● 大変細かいことを申し上げて恐縮ですが,○○委員がおっしゃったことに関連しまして,例えば,私が生前に信託を設定していて,死亡すると仮定しまして,受益権に非常に財産的な価値があるのは認識していますから,遺言をしようと思えば遺言をして,ある特定の子供に取得させるといったことはすると思うんですね。


では,そのときに,自益信託の委託者の地位があるではないか,委託者の地位について何か手当てをすることが期待されるかというと,なかなかそれは一般的には期待できないというのが第1点。

  第2点に,それが相続の法理によって承継されるのではないのだとしますと,では,どういうふうにしたらいいのか。

つまり,恐らくある特定の相続人に受益権を帰せしめるということになりますと,その人が単独で委託者たる地位を持たないと,委託者たる地位は共同相続されていろいろな人が行使するけれども,受益者たる地位が1人で持っているというのは,当事者の意思に反するような気がするんですよね。

  ですから,例えば自益信託のときには受益権……,自益信託も後から変わりますから軽々には言えないんですが,ちょっと片方は相続の法理ではないのだということを強調すると,つまり,委託者の地位に関しては相続の法理ではなく承継されていくのだということを強調すると,ちょっとまずいときが起こるかもしれないので,では相続の方にしろと私は言っているわけではなくて,何か手当てが必要なのではないかという気がします。
  ○○委員の発言に触発されて,ちょっと考えたところですが。

● 私は,基本的には○○委員のに近いかもしれないけれども,受益権の相続さえ認めれば,普通の問題は恐らくそれで解決する。


先ほど補足の説明がありましたように,しかし,受益者がうまく行動できないときに委託者が出てきてと言うんですけれども,それは何か,もちろんそういう善意の委託者ばかりではないし,出てくることの弊害を考えると,やはり委託者が出てくるのは適当でないだろうという気がします。

  ただ,もし委託者の相続人というのが出てきてよさそうな場面があるとすると,これは委託者にどういう権限を与えるかですけれども,唯一公益信託,要するに受益者がいないタイプの信託で,信託を設定した人が死亡して,その後,公益信託に何か口出しをしたいというか,少し管理をしたいというときに,その相続人が出てきてもおかしくはないかもしれない。


  ただ,それもどこまでそれを認めていいのかというのは,財団法人であれば拠出者というのはもう一切手を引くわけだし,ちょっと危惧を感じるところですね。


  いろいろ御意見はあるところですが,いろいろなレベルで対立していまして,理論的に相続を認めるか認めないかというところの問題と,もうちょっと実質的なレベルで,少なくとも遺言信託については別に扱った方がいいのではないかとか……。


  もうちょっと整理しますか。何か収斂するというような状況ではないですよね。

● 整理のために1点だけ申し上げますと,先ほどの○○幹事の発言に関連いたしまして,例えば契約信託を設定した場合の詐欺取消の権限と。

この話は,やはり委託者の地位の問題と明確に区別して考えるべき話であって,ここで言っている委託者の地位というのは,設定された信託という一つのスキームから発生する権利・義務の問題であり,詐欺取消しの問題というのは信託設定契約の問題であるというふうに仕分けをしないと,それも一遍に「委託者の地位」という言葉でやろうとすると,何か混乱が生じるのではないかと思います。
  

もちろん,○○幹事の発言の中で,信託設定契約の契約上の地位というものは共同相続されて,委託者の地位は1人に相続されて,またここで分離が起こるのは変だという話もインプリケーションとしてはあるのかもしれませんが,一応その点は区別して整理をしていただいた方がよろしいのではないかと思います。

● 仮に相続に乗るとして,2つがそれぞれ違う相続法理になるのはおかしいと思いますね。片方は相続を否定して,片方は認めるというのはあり得ると思いますけれども。


● おっしゃるとおりです。

● 私も○○幹事と同じ性格の発言で,○○幹事の発言の中で強調したいところが1点ありますので,最後に少し時間をください。


  遺言信託のときに,相続人は受託者に対して信託財産を引き渡さなければならない。


それはもう,いかにしてもそのとおりであって,ほかの解決はないと思うんですね。


その点を根拠にして,遺言者の相続人に委託者と同様の権利・義務を与えるということに広げてしまうという議論がもし第67のところにあるとすると,それは違うだろうと思います。


引渡義務は,もうどういう立場をとってもそれはあると言わなければ,そもそも成り立たない話だろうと思います。

● 単に整理するだけの話なんですが,多分3つの層があって,1つは,相続法理との整合性をどう考えるのか。


2番目が,いずれにしてもデフォルトですので,実際上の支障がどの程度あるのかという問題。


3番目に,委託者の権能の位置づけがあると思うんです。委託者の権能の評価について,どうも積極的に評価するのと,そうでない,わずらわしいというのと両方あって,そこが一番の対立点だと思うんです。

  多分,2番目と3番目は一緒に考えられるのではないか。つまり,委託者の権能をプラスに評価するにしてもマイナスに評価するにしても,それをデフォルトで外すときに,どういうふうにしたら外せるかということを詰めていけばいいだろう。ただ,第1点の相続法理との整合性ということは,これは常に問題になりますので,そこは生かしておくことになると思います。


● どうもありがとうございました。
  これはいろいろな御意見があるので,中間試案のときには恐らく甲案,乙案という形で幾つか出した上で,また御意見を伺うことになると思います。
  それでは,これはそのぐらいでよろしいでしょうか。

● それでは,最後に受益権の譲渡と,有価証券化と,それから受益債権等の消滅時効につきまして,続けて御説明致します。


  譲渡については,るる書いてございますが,伺いたいのは1点だけでございます。
  


補償請求権の構成に関して14ページで甲1案,甲2案,乙案を提案しているところでございますが,これは従来の受益権の放棄等の提案にもかかわるものでございまして,いわば新たな提案,乙案を含んでおります。


  甲案は,補償債務等は,受益者が利益を受ける反面として負担すべき性質のものと理解し,その有無は法律上の規定または信託法の定めを通じて,受益権の内容に一体的に組み込まれ,受益権の移転に伴って補償債務等も移転すると考えるものでございます。

  甲1案というのが,現行及びこれまでの事務局提案の考え方を基本的に踏襲し,譲受人を保護するために,受益権の放棄に関する規定を別途設けることが不可欠になると考えまして,譲受人が受益権を放棄しない限りは補償債務等を負担することになるとともに,受益権譲渡については受託者の承諾を不要とすることを見返りとして,譲渡人にも一定の限度で補償債務等を負わせるというものでございます。
  

甲2案というのは,前回会議において,譲受人は,個別に同意をしない限り受益の限度でしか補償債務を負担しないという限定承認類似の考え方が示唆されたことを踏まえまして,譲受人は,受益の限度,すなわち信託財産の限度でしか補償債務等を負担せず,それ以上に個人的債務を負担させるためには当該受益者との間で個別の同意を要するとし,あわせて受託者を保護する観点から,譲渡人は,譲渡の前後を問わず補償債務等を負担するというものでございます。

 

以上に対しまして,新しい提案が非常に新たなのが乙案でございまして,これは補償債務等を受益権の内容から切り離しまして,補償債務等は受益権とは別個の,信託の外側の契約に基づく責任であって,あくまでも受託者が個々の受益者との間で個別に契約を締結することによって,当該受益者が負担することとなる責任に止まりまして,受益権の移転に伴って移転するという性質のものではないと考えるものでございます。


受益権譲渡人は,一たん補償債務等を負担する内容の契約を締結したものである以上は,譲渡後に生じた費用等についても,その補償責任を免れるものではないと考えるものでございます。
 


 乙案によりますときは,受益者は信託の利益を当然に享受できるとすることの説明が容易になりますし,権利・義務とが同居することから,受益権の放棄という困難かつ特異な問題が生じてしまうことも回避することができまして,法律行為の単純化を図ることができる上に,自己の意思に反して債務を負担することはないという一般原則にも忠実であるという観点からすれば,相応の合理性もあるのではないかと思われますが,御意見を伺いたいと思っております。

  次に,有価証券化のところにつきましては,提案5,6の甲案,乙案の両案併記につきましての御意見を伺いたいということでございます。
  


一言で言いますと,甲案というのは,株式型受益証券と社債型受益証券を分けて考えて,受託者がそれを必要に応じて発行することによって適切な規律が導かれるのではないかというものでございます。
  

乙案は,しかしながら,デットとエクイティは違うのであって,やはり受益権というのは,その権利行使の可能性が社債に比べれば多いのであるから,それを重視して受益者名簿は両方の場合に設けるべきではないかというふうな考え方を提示しているものでございます。

  最後に,消滅時効については特段の変更はございません。


● 譲渡の方の補償請求権は,いろいろ議論があるかもしれません。いかがでしょうか。

● まず,第52の受益権の譲渡における補償請求権等の取り扱いでございますが,乙案が新たに出ております。


  乙案につきましては,信託財産の管理・処分に伴って発生しました補償請求権について,信託の外側で処理する,そういう考え方のものでございまして,これは今までの考え方とは大きく違うということで,理屈の面からも実務感覚からも,非常に大きな違和感を感じております。

  また,受益者に対する補償請求権の規律のほかに,お話しありましたけれども,受益権の放棄に関する規律もなくなる可能性がありまして,これについても,やはり相当ではないと考えております。
  


あと,受益権が,プラスではあってもマイナスはないというお話になりますので,当然,現行法と大きく前提が変わることになりますので,受益権の譲渡に係る税制上の取り扱い,要するに,導管性みたいなものもなくなってしまうのではないかという懸念もあります。したがいまして,乙案に対しては強く反対したいと思います。

  続きまして第53の,受益権の有価証券化でございます。

  これについては,5の受益者名簿の作成につきましては,これは前回申し上げましたけれども,投信のような,販売会社を通した販売形態をとるものについては,受託者が受益者を知らないような状況になっておりまして,無記名証券を発行した場合においても受益者名簿の作成が義務づけられております乙案には,ちょっと賛成できない。


すみません,これは物理的にできないので,賛成できないということでございます。

  また,6につきましても同様で,乙案については受益者名簿の設置を前提とした規定でありますので,乙案についてはとれないということで,両方とも甲案を支持したいと思います。
  

あと,信託財産を引当てとする債券の発行につきましては,現行実務上,信託において借入れを行っている例が多数ありまして,借入れよりも資金調達についてメリットがある。

例えば,資金調達が多くの人間に対して低利で行えるといったメリットが十分にあると思われます。

具体的には,設計につきましては,これ「社債」と言ってしまいますと,例えば取締役会での決議が必要だとか,そんなふうになってしまいますので,そんなものではなくて,信託行為に記載されている場合には受託者の判断で発行できるような,要するに,信託の制度の中にあるような形の規律で創設できないかなということです。

  引当財産につきましては,信託財産のみを引当にするものに限定してもいいのではないかということで,例えば受託者の信用力を要するようなものにつきましては,別途保証という形のもので付加することもできますので,信託財産のみを引当てとするというような形でもいいのではないかと思っております。


● 記録のためにということで,私が申し上げることは,もう言わなくてもいいようなことではあるんですが,第52の,○○委員は現行法と,それからそれぞれのお立場から乙案絶対反対ということだったんですけれども,やはり(注3)(注4)をあわせて読むと,やはり受託者の立場にもいろいろな形で配慮があって,非常に合理的な感じがすると申し上げたいと思います。乙案について。

● 第52の甲案,乙案についてですが,まだ明確な意見を持つものではございません。ただ,新しい乙案というのは,やはり○○委員がおっしゃったように,少なくとも受託者の立場からすると,ちょっと違和感があるということでございます。

  それから,前回の会議において私が申し上げた懸念,すなわち,いわゆるチェリーピック的な,詐害的に使われる,例えば証券化の中でSPCに受益権があって,その受益権がマイナスになるときに,結局その受益権だけを出して,いえばもう何もない空のところに補償債務だけが残っているというような状況も考えますと,よくない使い方も出てくるのかなという気がいたします。
 

 それから,第53について内部の議論を簡単に御案内しますと,細かいことですけれども,受益者名簿の有無についてはいろいろ議論があるところでございますけれども,今,保振制度とか振替制度との関係も議論があると思いますけれども,仮に受益者名簿をつくるべきだというようなことがあった場合には,やはり今の保振制度における名義人の土地制度とかいうことのインフラを整えなければ,実務は回らないのではないかという意見があったことを紹介いたします。

● 補償請求権についての乙案は,ようやく今までの議論が反映されたものとして,非常に意義深いものと思います。本来の信託の姿に戻ったということと,あと,先ほど○○委員がおっしゃったように,決して受託者の方が保護されていないわけではなくて,それなりに考慮されていますし,あと,今後,有価証券化したときに補償請求権がないという議論もされていますから,ある意味では,そちらで一つの議論としての決着がついているのかなと思います。
  


信託銀行の方としては,今まで持っていた権利がなくなるということで,非常に危機感を感じるというのは感覚的にはわかりますけれども,制度の改正の議論をしているわけですから。
  あと,全然違ったことを2点ほど申し上げます。

  指名債権譲渡に倣って,受益権譲渡についてもこういう制度を設けようということだと思うんですけれども,あえて制度を明記するということは,ある意味では指名債権とはまた違ったといいますか,指名債権と同じであれば,ある意味では規定しなくてもいいわけですから。

そういうところで,多少指名債権譲渡に関連するところの制度改善があってもいいのかなと思ったりしました。

  それは何かといいますと,有価証券化すれば問題なくなるんでしょうけれども,信託受益権の転々譲渡をするときに,現状においてもそういう仕組みになっていると思うんですが,いちいち確定日付をとるという問題といいますか,確定日付をとるのは,私の記憶が間違っていなければ,教科書的に言えば債務者と譲渡人が通謀して日付をずらすかもしれないというような議論だったかと思うんですけれども,この場合,受託者というのは定型的に,そういうことをしない方が受託者になっているはずですから,受託者に対する通知,また受託者の承諾ということで,第三者対抗要件的なものも具備している。信託法の教科書の中にはその辺も,記憶の彼方ではあったと思うんです。


  いろいろな提案があるかと思うんですけれども,指名債権ではないんだという議論をしている以上は,多少指名債権譲渡に絡むところの問題点,論点というのも制度改善の議論があってもいいのかもしれないと思いました。
  

あと一点,全然違うことも申し上げますと,これも私の経験なんですけれども,この説明の中で,信託財産を引当てとする債券の発行についてのニーズとか,具体的な構造の提案はなかったようだという話だったんですが,米国などでも,信託財産が債券を発行した例を実際に見たことがあります。

信託財産が発行したというのは法律論としては間違っていまして,細かく見ると当然,受託者の債権なんですけれども,やはり信託財産債権ということで,受託者の社債というような─法的にはそうなんでしょうけれども,全く違った形,雰囲気のものだったことが記憶にあります。

  したがって,先ほど○○委員がおっしゃったように,既存の法律でも別に何々信託銀行・信託財産限定特約をつけて出せばいいのかもしれませんけれども,制度として考える場合には,信託財産債というのがあってしかるべきですし,実際に海外の市場ではそういうものが出ております。

● 第52の,今,話題になっている乙案についてですが,私は,乙案にそれほど違和感は持たなかったんです。ただ,それを前提とした上で,さらに細かいことを検討する必要があるのではないかと思います。


  そもそも乙案は問題にならないということですと,細かいことを議論する意味もないかもしれませんが,二,三あります。

  1つは,乙案をとった場合に,受益者に意思能力がないときなどは,その信託の利益を享受することと,それから補償契約の効力が発生することとの間にずれが生じないだろうか。そのずれを,何かあらかじめ手当てしておく必要はないだろうかということです。

  もう一つ,15ページの(注4)ですけれども,信託契約書の中で2つのことを決めておけば,それで補償請求ができるようになるということ,そうなると思うんですが,その場合に,当初の受益者は譲渡後も責任を負い続けるという制度だと思います。


それ自体は,どうしても受益者にとって非常にリスクになることですので,そのことを特に注意喚起する必要があるのではないかということです。


● 今の点に関連して,最初の点なんですが,乙案によった場合に,例えばこういうことは可能かということで,あるいは第9条は任意規定と考えていいかということなんですけれども,特定の受益者が補償債務について,その負担約束をすることを条件として受益者の地位を有することになるというふうに信託行為で書くことは有効と考えてよいかという点。○○委員の御発言との可能性で,確認したいということです。


  もう一つ,(注3)(注4)関係なんですけれども,(注4)について御指摘の点は,譲渡とともに,例えば放棄をしたような場合,どういうことになるかという点もあわせて問題になるかと思います。つまり,最初からセットになっているときに,セットだろうというふうに考えて,譲渡すればないのではないかと思うという問題は,放棄のときもあり得るかと思われますので,あわせてということがもう一つ。
  


それと(注3)についてなんですが,私は,(注3)の考え方は非常に適切ではないかと考えておるのですけれども,具体的な中身について,前払い等を受けられないときに信託を終了できるという,この構成で,さらに細部には,直ちに終了にいくかどうかという点は,1点,受益者なり委託者なり,補償義務は負っていないけれども信託の終了を望まないときに,もう少しチャンスを与えるみたいなことはさらに考えられるだろうということ。
 


 それから,(注3)は乙案の場合にのみ考えるべき事項なのかというのも少し気にはなっておりまして,甲案的な処理をとるときも組み合わせて考えられることではないかという気がしておりますので,付言いたします。


● 乙案について,それなりに可能ではないかという意見も多かったと思います。さらに検討しなくてはいけない点は残っているとは思いますけれども。


● 今おっしゃった条件付の信託設定は,可能と考えております。
  あと一点,○○委員がおっしゃったチェリーピッキングというのは,補償債務が生じそうになったら,譲渡して免れるという意味ですか。


● はい。
● それだとすると,仮に乙案では,一たん補償債務を負担するという合意を譲渡人がしていれば,譲渡しても免れませんので,おっしゃるチェリーピッキングみたいなことはできないというのが乙案の考え方になってまいります。譲渡したことによっても補償債務は免れませんので,その後に生じた債務についても負担し続けるということなります。

● とすると,いいものだけ取り出す者が出てくるという,ある意味で,詐害的な営業譲渡のように,例えばSPCが受益権を持っている。それで,何か補償債務を負いそうだということであれば,その受益権だけを移して補償債務だけは残しておくということも,あり得るということで,いわゆる詐害的な譲渡みたいなことが生じるのではないかという話なんですけれども。


● それはあるかもしれない。補償債務が具体的に発生する前に受益権自体を売ってしまうというわけですよね。


● チェリーピッキングという言葉は間違いかもしれませんが,クリーニングみたいなものだと思うんですけれども,いわゆる債務を置いてきて,いいものだけを取り出すということが,この乙制度ではできるのではないかということです。

● 確かにそういうことはあり得るのかもしれないけれども,ただ,基本的には補償債務自体は,受益者というよりは信託財産でもって填補されるということで,詐害的な取引がどれほど意味があるのかというのは,疑問がないわけではないと思います。
  ただ,おっしゃることは,抽象的にはあるかもしれない。

● あと,○○幹事がおっしゃった指摘につきましては,終了に当たっての手続的な整備は,恐らく同じように入れていくと思いますが,ほかの点については,ちょっと検討させていただきたいと思います。

● ほかに御意見ございませんでしょうか。
  まだ御意見があるかとも思いますけれども,期日があと2回ですね。今までの中で,まだ論じ足りない点がございましたら,事務局の方に書面等でお送りいただければ,反映できるものは反映することにさせていただければと思います。
  もし御議論がなければ,本日はこれぐらいにしたいと思います。
─了─

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