取締役会議事録と電子署名

商業登記規則第102条第5項第2号(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する法務大臣が定める電子証明書について

法務省HP 2020年6月17日閲覧

第3 電子証明書の取得

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html#05

  • 添付書面情報作成者が印鑑提出者でない場合
  • 添付書面に市町村の印鑑証明書が必要とされているもの・添付書面に認証者の認証が必要とされている場合の,認証者に関するもの

上の2つの条件を満たす場合、下の企業が提供するクラウド型電子契約サービスを利用することが出来ます。

・「Cybertrust iTrust Signature Certification Authority」

(サイバートラスト株式会社)

(弁護士ドットコム株式会社が被認証者になっているものに限る。)

https://www.cloudsign.jp/media/20200615-syougyoutouki/

・「GlobalSign CA 2 for AATL」

(GMOグローバルサイン株式会社)

(添付書面情報作成者本人又はGMOクラウド株式会社が被認証者になっているものに限る。)

私は未だ利用したことがなく、商業登記でクラウド型電子認証の施された取締役会議事録が持ち込まれたこともありません。

サイトを読む限りですが、順序を想定します。

例:取締役会議事録の場合

  • 取締役会を開催して議事録を作成する。
  • 作成された議事録をPDF化して、1人の取締役が、各取締役のメールアドレスを記載し、サービス提供者に送る。
  • サービス提供者は、各取締役のメールアドレスにPDF化された取締役会議事録を閲覧することが出来るURLを送信する。
  • 各取締役は、内容を確認後に押印(ワードの文字入り図形のようなもの)する。
  • 全ての取締役の押印が完了したら、サービス提供者が電子署名及び認証業務に関する法律による電子署名(オプションとしてタイムスタンプもある)を行う。
  • サービス提供者は、自社のクラウド(データセンター・サーバー)に取締役会議事録を保存し、各取締役が確認、保存出来る状態にする。

司法書士に持ち込まれた場合

  • 企業から、取締役会議事録とサービス提供者の電子証明書が、メールか印刷された形で提出される。
  • 確認後、他に必要な情報があれば作成・収集し、押印か電子署名を求める。委任状には、企業が電子署名及び認証業務に関する法律による電子署名による電子署名を行う。
  • 申請用総合ソフトを使用して登記申請する。

というような形になると思います。

「信託管理人・信託監督人・受益者代理人制度の隙間問題への実務的対応」について

田中和明「信託管理人・信託監督人・受益者代理人制度の隙間問題への実務的対応」[1]について、考えてみたいと思います。

信託管理人、信託監督人、受益者代理人の制度について、制度創設の理由から、信託法の解釈から出来ること、出来ないことが簡潔に分かりやすく解説されていると感じました。

・隙間問題はどこか。

下線は私です。

p9 ―民事信託の実務においては、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託のように、信託期間が長期にわたり、かつ、現存の受益者と将来に受益者となるべき者とが存在するような信託においては、これらすべての受益者となるべき者の公平を勘案しながら、数十年の長期間にわたり、受益者への金銭交付の時期・金額・方法等を定める権限を有する者や受益者指定権・変更権を行使する者が求められている。

 このような場合、信託管理人、信託監督人、受益者代理人、さらには、信託行為の定めにより授権した第三者が、この役割を担うことが想定される。

 しかし、私見はさておき、前述したとおり、学説の通説的見解では、信託管理人、信託監督人のいずれも、この役割を担うことはできないものと解されている。-

・すべての受益者となるべき者の公平を勘案しながら、数十年の長期間にわたり、受益者への金銭交付の時期・金額・方法等を定める権限を有する者や受益者指定権・変更権を行使する者が求められているのか。

それを行うのが受託者の仕事なのかなと感じます。

著者は、これらの権限を持つ者を信託監督人が兼任することを提唱されています。信託監督人に適正な人(法人を含めます。)を充てることが可能であれば、機能すると考えます。想像ではありますが、信託監督人には専門職の士業などが想定されているのではないかと思いました。

一般市民は受託者の仕事でも簡単ではないのに、受益者を指定・変更したり将来の受益者との公平を勘案することは、少し難しく感じます。私が信託監督人なら、現段階では無理です。

私がやるとすれば、任意後見契約の同意権目録に記載して、任意後見監督人に行ってもらいます。信託監督人を就ける必要がある民事信託・家族信託の状況によって使い分けを行えるようになると、幅も広がるのかなと感じます。


[1]  『市民と法123号P3~』2020年(株)民事法研究会

株券を発行する旨の定款の定めの廃止

株券を発行している株式会社が、株券を発行しない株式会社に変更する場合、定款に定められた方法による公告と、株主などに対する通知が必要です[1]

例 官報の場合(縦書き)

定款変更につき通知公告

 当社は、○○年○○月○○日付で株券を発行する旨の定款の定めを廃止することに致しましたので公告します。

 ○○年○○月○○日

 本店の場所

株式会社○○ 代表取締役 ○○

インターネット版官報のご利用にあたって

https://kanpou.npb.go.jp/guidance.html

プラス 株主名簿上の株主に対する通知(同じ内容)。

・株券提供公告(会社法219条[2])は必要か

「株主が、会社に株券を返す公告も必要じゃないか。」と質問されました。

株主が、会社に株券の提供をお願いする公告は必要ありません。会社法219の要件に当てはまらないからです。


[1]

(株券を発行する旨の定款の定めの廃止)(Abolition of Provisions of Articles of Incorporation That Share Certificates Be Issued)

第二百十八条 株券発行会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとするときは、当該定款の変更の効力が生ずる日の二週間前までに、次に掲げる事項を公告し、かつ、株主及び登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならない。

Article 218 (1) If a Share Certificate-Issuing Company intends to effect an amendment to the articles of incorporation to abolish provisions of the articles of incorporation to the effect that it issues share certificates for its shares (or, for a Company with Class Shares, shares of all classes), it must give public notice of the following matters, and give separate notice thereof to each shareholder and each Registered Pledgee of Shares no later than two weeks prior to the day on which such amendment to the articles of incorporation takes effect:

一 その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する旨

(i) a statement to the effect that the Stock Company abolishes the provisions of the articles of incorporation to the effect that it issues share certificates for its shares (or, for a Company with Class Shares, shares of all classes);

二 定款の変更がその効力を生ずる日

(ii) the day on which the amendment to the articles of incorporation will take effect; and

三 前号の日において当該株式会社の株券は無効となる旨

(iii) a statement to the effect that the share certificates of such Stock Company become invalid on the day provided for in the preceding item.

2 株券発行会社の株式に係る株券は、前項第二号の日に無効となる。

(2) Share certificates representing the shares of a Share Certificate-Issuing Company become invalid on the day provided for in item (ii) of the preceding paragraph.

3 第一項の規定にかかわらず、株式の全部について株券を発行していない株券発行会社がその株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとする場合には、同項第二号の日の二週間前までに、株主及び登録株式質権者に対し、同項第一号及び第二号に掲げる事項を通知すれば足りる。

(3) Notwithstanding the provisions of paragraph (1), in cases where a Share Certificate-Issuing Company that does not issue share certificates for any of its shares intends to effect an amendment to the articles of incorporation to abolish provisions of the articles of incorporation to the effect that it issues share certificates for its shares (or, for a Company with Class Shares, shares of all classes), it is sufficient to notify the shareholders and Registered Pledgees of Shares of the matters listed in item (i) and item (ii) of that paragraph no later than two weeks prior to the day provided for in item (ii) of that paragraph.

4 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

(4) A public notice may be substituted for the notice under the provisions of the preceding paragraph.

5 第一項に規定する場合には、株式の質権者(登録株式質権者を除く。)は、同項第二号の日の前日までに、株券発行会社に対し、第百四十八条各号に掲げる事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

(5) In the cases provided for in paragraph (1), pledgees of shares (excluding Registered Pledgees of Shares) may, no later than the day immediately preceding the day provided for in item (ii) of that paragraph, demand that the Share Certificate-Issuing Company state or record the matters listed in each item of Article 148 in the shareholder register.

[2]

(株券の提出に関する公告等)(Public Notice in Relation to Submission of Share Certificate)第二百十九条 株券発行会社は、次の各号に掲げる行為をする場合には、当該行為の効力が生ずる日(第四号の二に掲げる行為をする場合にあっては、第百七十九条の二第一項第五号に規定する取得日。以下この条において「株券提出日」という。)までに当該株券発行会社に対し当該各号に定める株式に係る株券を提出しなければならない旨を株券提出日の一箇月前までに、公告し、かつ、当該株式の株主及びその登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならない。ただし、当該株式の全部について株券を発行していない場合は、この限りでない。

Article 219 (1) In cases where a Share Certificate-Issuing Company carries out an act listed in the following items, it must, more than one month prior to the day when such act takes effect (in cases of performing the act listed in item (iv)-2, the Acquisition Day prescribed in Article 179-2, paragraph (1), item (v); hereinafter the day is referred to as the “Share Certificate Submission Day”), give public notice to the effect that share certificates representing the shares provided for in each of such items be submitted to such Share Certificate-Issuing Company before the Share Certificate Submission Day, and a separate notice to such effect to each shareholder and each Registered Pledgee of Shares thereof; provided, however, that this does not apply in cases where the Share Certificate-Issuing Company does not issue share certificates for any of its shares:

一 第百七条第一項第一号に掲げる事項についての定款の定めを設ける定款の変更 全部の株式(種類株式発行会社にあっては、当該事項についての定めを設ける種類の株式)

(i) amendments to the articles of incorporation to create provisions of the articles of incorporation with respect to the matters listed in Article 107, paragraph (1), item (i): All shares (or, for a Company with Class Shares, the class shares that have provisions with respect to such matters);

二 株式の併合 全部の株式(種類株式発行会社にあっては、第百八十条第二項第三号の種類の株式)

(ii) consolidation of shares: All shares (or, for a Company with Class Shares, the class shares under Article 180, paragraph (2), item (iii));

三 第百七十一条第一項に規定する全部取得条項付種類株式の取得 当該全部取得条項付種類株式

(iii) acquisitions of Shares Subject to Class-Wide Call provided for in Article 171, paragraph (1): Such Shares Subject to Class-Wide Call;

四 取得条項付株式の取得 当該取得条項付株式(iv) acquisitions of Shares Subject to Call: Such Shares Subject to Call;

四の二 第百七十九条の三第一項の承認 売渡株式

(iv)-2 approval set forth in Article 179-3, paragraph (1): Shares Subject to the Cash-Out;五 組織変更 全部の株式

(v) Entity Conversion: All shares;

六 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。) 全部の株式(vi) Merger (but only if the Stock Company disappears in the merger): All shares;

七 株式交換 全部の株式

(vii) Share Exchanges: All shares;

八 株式移転 全部の株式(viii) Share Transfers: All shares.

2 株券発行会社が次の各号に掲げる行為をする場合において、株券提出日までに当該株券発行会社に対して株券を提出しない者があるときは、当該各号に定める者は、当該株券の提出があるまでの間、当該行為(第二号に掲げる行為をする場合にあっては、株式売渡請求に係る売渡株式の取得)によって当該株券に係る株式の株主が受けることのできる金銭等の交付を拒むことができる。

(2) In cases where a Share Certificate-Issuing Company performs the acts listed in the following items, if a person fails to submit the share certificates to the Share Certificate-Issuing Company by the Share Certificate Submission Day the person specified in each of those items may refuse to deliver Monies, etc. to the shareholders of the shares pertaining to the share certificates by that act (in cases of performing acts listed in item (ii), acquisition of Shares Subject to Cash-Out pertaining to Demand for Cash-Out) until the share certificates are submitted:

一 前項第一号から第四号までに掲げる行為 当該株券発行会社

(i) acts listed in the items (i) through (iv) of the preceding paragraph: the Share Certificate-Issuing Company;

二 第百七十九条の三第一項の承認 特別支配株主

(ii) approval set forth in Article 179-3, paragraph (1): Special Controlling Shareholders;三 組織変更 第七百四十四条第一項第一号に規定する組織変更後持分会社

(iii) Entity Conversion: Membership Company after Entity Conversion prescribed in Article 744, paragraph (1), item (i);

四 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。) 第七百四十九条第一項に規定する吸収合併存続会社又は第七百五十三条第一項に規定する新設合併設立会社

(iv) merger (but only if the Stock Company disappears in the merger): the Company Surviving the Absorption-type Merger as prescribed in Article 749, paragraph (1) or the Company Incorporated in the Consolidation-type Merger as prescribed in Article 753, paragraph (1);

五 株式交換 第七百六十七条に規定する株式交換完全親会社

(v) Share Exchange: The Wholly Owning Parent Company Resulting from the Share Exchange as prescribed in Article 767; and

六 株式移転 第七百七十三条第一項第一号に規定する株式移転設立完全親会社

(vi) share transfer: The Wholly Owning Parent Company Incorporated in a Share Transfer as prescribed in Article 773, paragraph (1), item (i).

3 第一項各号に定める株式に係る株券は、株券提出日に無効となる。

(3) Share certificates representing the shares provided for in each item of paragraph (1) become invalid on the Share Certificate Submission Day.

4 第一項第四号の二の規定による公告及び通知の費用は、特別支配株主の負担とする。(4) The cost of public notice and notice pursuant to the provisions of paragraph (1), item (iv)-2 is paid by the Special Controlling Shareholder.

民事信託の契約書と登記

登記ができない信託契約書という記事について

以下、私が加工した記事です。

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「登記ができない信託契約書」

登記が難しい信託契約書がある?!あります。

不動産の信託で、せっかく信託契約書を作っても、登記できなかったら困りますよね。今日のポイントを踏まえておくと、司法書士以外の人が信託契約を作るとき役立つと思います。

そうじゃないと、

「この信託、どうやって登記すんの??」

ということになりかねません。

そうゆう信託契約に時々遭遇することがあります。

意識すべきは、不動産登記法97条ですね。1号〜11号まであり、民事信託で特に重要なのは以下。

(信託の登記の登記事項)

第九十七条 信託の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。

一 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所

(中略)

八 信託の目的

九 信託財産の管理方法

十 信託の終了の事由

十一 その他の信託の条項

ちなみに第五十九条は、登記の目的や、申請の受付の年月日及び受付番号、登記原因及びその日付、などですから、あまり気にしなくていいです。

良くあるのは、管理方法の定めが分散して書かれていること。97条の9号は「信託財産の管理方法」これを登記しなければなりません。維持保全するとか、売却していいとか、担保に入れていいとか。売却を目的とする信託なのに、売却できる旨を登記しておかないと、大変です。信託して、その後、買い主も見つかり、信託財産を売買する所有権移転登記を申請しても法務局から電話がかかってきて「これ移転登記できるんですか?」ということになりかねません。

つまり、売買がパー。(誰が責任をとるんだ?)ですから、「信託財産の管理方法」の登記は重要です。

ところがです。

信託登記のことを意識しないで作られた信託契約書は、管理方法が、あちこちに分散して書かれていることがあります。

どれが管理方法に関する条項なのか、1条ずつ、じっくりと読み解かなければならなくなります。

司法書士が作った信託契約書なら、自分で登記するから、それはそれでいいでしょう。自分の責任を自分でとるのですから。

でも、信託契約書を作って、信託登記を別の司法書士に頼む場合は、ちょっと大変。人間ですから、ヒューマンエラーがあります。

もちろん司法書士も注意深く登記事項を拾うんでしょうけど、人間ですから。(苦笑)万一、漏れがあると、後で困ってしまいます。

気づいて、後で更正の登記をするにも、委託者が認知症だったりして・・・

内容によっては、委託者の承諾書が必要な場合もありますので。登記って、登記された内容が正しかったかどうかは、チェックする仕組はありませんから(あくまで人間による、確認)注意しなければいけないんですよね。

そのためには、「間違われない信託契約書」「登記しやすい信託契約書」を作ることが重要です。

となると、

八 信託の目的

九 信託財産の管理方法

十 信託の終了の事由

少なくとも、この三つの項目は、それぞれまとめて書いておくといいですね。

 こんな契約書は登記が大変

信託財産の管理方法(っぽいこと)があちこちに分散されて書いてある契約書。「これも管理方法なの?」と、信託登記をする司法書士が、一個ずつ判断しなければなりません。信託の目的もしかり。

目的みたいなことがあっちの条項にも、こっちの条項にも書いてあると登記するとき、拾い出さなければいけません。

終了事由もそうですね。一つの条項でまとめて書いておくべきですね。

条件をつけて、「この場合は終了しない」なんて項目が、別の条項に書いてあると、ちょっと大変ですね。

 司法書士的に問題なのは11号

不動産登記法97条の十一 その他の信託の条項は何を登記したらいいのか?

しかもこれについて解説した書籍がない!もう、経験を積み重ねるしかないですね。これについては、話すと長くなりますから、また別の機会にしたいと思います。

おすすめ書籍はこちら。

信託登記の実務

 信託登記実務研究会 (著) 日本加除出版

信託登記するときはよく読んでいます。

信託登記の申請書の作り方については、ビデオセミナーを作っていますよ。

12,000円

・設定時・変更時・売却時・終了時について解説しています。もちろん、ひな形もワード形式で提供!

抹消1件分くらいの金額です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

というようなことが書いてありました。

「登記ができない信託契約書」と「登記が難しい信託契約書」は、違うのかなと考えます。

「そうゆう信託契約に時々遭遇することがあります。」

時々とは、10件ぐらいでしょうか。

「信託して、その後、買い主も見つかり、信託財産を売買する所有権移転登記を申請しても法務局から電話がかかってきて「これ移転登記できるんですか?」ということになりかねません。」

登記について気付くとしたら、(受益権)売買契約を締結する段階だと思います。

全部事項証明書を取得して信託登記がされている。宅地建物取引士と買主は、手付金支払前か、売買契約前に司法書士に確認することになります。買主が融資を受けるとしたら、金融機関が司法書士にチェックを依頼することになります。

「信託財産の管理方法(っぽいこと)があちこちに分散されて書いてある契約書。「これも管理方法なの?」と、信託登記をする司法書士が、一個ずつ判断しなければなりません。信託の目的もしかり。目的みたいなことがあっちの条項にも、こっちの条項にも書いてあると登記するとき、拾い出さなければいけません。」

ここについては、作成した方にメールで確認を取ることで足ります。商業登記でも、新株予約権の内容の中から、何を登記するのか、しないのか事前に確認を行うことになります。

・信託財産の管理方法については、条項の内容が任意規定である場合に、これと異なる管理・処分の方法の定めが信託行為に存在する場合に、それが登記事項になる[1]、というのが最初の考え方になると思います。ここから出発して注意書きとして法定されている条項も登記するのか、考えていくことになります。

「司法書士的に問題なのは11号 不動産登記法97条の十一 その他の信託の条項は何を登記したらいいのか?しかもこれについて解説した書籍がない!もう、経験を積み重ねるしかないですね。これについては、話すと長くなりますから、また別の機会にしたいと思います。」

その他の信託の条項についても、信託財産の管理方法と考え方は同じです。

渋谷陽一郎『信託目録の理論と実務』平成26年 民事法研究会その他の論文を探せばあります。そこから、不動産登記法97条1項1号から10号までを除いた部分がその他の信託の条項、というのが考える出発点になると思われます。

「12,000円」

経済を回すには良いのかなと思います。開業当初、司法書士会費を1回滞納した私は、本を買って論文を書くことします。本は残るし論文は実務年数と関係ないので、開業当初の時間があるときから取り組んでおけば良かったと思います。

12,000円。収入が安定してきて、初めて登記研究の定期購読を申し込むことが出来た時を思い出しました。ありがとうございます。


[1] 七戸克彦監修『条解不動産登記法』P604 2013年 弘文堂

鑑定について

鑑定(かんてい)について[1][2]、考えてみたいと思います。

法律用語辞典[3]では、一般には、特別の知識経験を有する者が、その知識経験により知り得る法則又はこれに基づく事実について判断を行うこと、と定義されています。

注2では、あなたのこの事案について私はこの方法で対処することが良いと思うということがいえる、ということが鑑定だと定義されています。

注1では、法律専門家としての法律判断、と定義されています。

行政先例としては、昭和29年1月13日民事甲2554号民事局長回答があります。一部抜粋します。いかなる趣旨内容の書類を作成すべきかを判断することは、司法書士の固有の業務範囲には含まれないと解すべきであるから、これを専門的法律知識に基づいて判断し、その判断に基づいて右の書類を作成する場合であれば、弁護士法72条の違反の問題を生ずる。

判例としては、高松高裁昭和54年6月11日判決があります。一部抜粋します。

司法書士が行う法律的判断作用は、嘱託人の食卓の趣旨内容を正確に法律的に表現し司法(訴訟)の運営に支障を来たさないという限度で、換言すれば法律常識的な知識に基づく聖女的な事項に限って行われるべきもので、それ以上専門的な鑑定に属すべき事務に及んだり、代理その他の方法で担任間の法律関係に立ち入る如きは司法書士の業務範囲を超えたものといわなければならない。

以上、いくつか定義を挙げてみました。他にも様々な定義があります。

ここまで整理して1ついえることは、鑑定と呼ばれているものに対して、弁護士法72条に違反してはならないこと、違反しないためには司法書士制度に根拠が必要なことです。

民事信託・家族信託の業務にしぼります。

いくつかの場面を思い出してみます。

・司法書士会などを通さずに、司法書士が司法書士に対してセミナー、相談、信託契約書のチェック、登記申請書のチェック、共同受任という名前の司法書士の監督人を行って〇万円から○○万円をもらうこと。

私が合格当初に研修で入った事務所の先生は恐いけど商業登記では有名らしい方でした。司法書士同士の勉強会も積極的に主催していました。事務所には、司法書士からの質問のFAXが毎日のように来ていました。この先生がお金を貰ったところを見たことがありません。

・電話で、「自分で公証人役場とかいって信託契約書は作った。チェックして欲しい。」と言われた場合。結局は来ませんでした。

・信託中に、受託者を変えようと思っているんですけど、と受益者から相談があった場合。話を聞いてみましたが、信託契約書を示しながら、変えることは出来るし、変えた場合はこうなる、ということは言いました。未だ変更なしです。

・事務所のホームページを読みこんでいただき、ある程度の知識を持って民事信託を利用するつもりで相談に来られる人と、ほとんど分からないけれど遺言との違いを教えて欲しい、と相談に来られる人。相談の内容が大分変ります。後者の方が鑑定に含まれるようなことを訊かれることが多いです。

・宅地建物取引士と経営コンサルタントが民事信託の流れを図に書いて、信託契約書の作成と不動産登記申請を依頼された場合。報酬も勝手に決められていたので断りました。不動産登記申請の仕事を受任していた宅地建物取引士とも関係を切りました。

ここまで書いてきて、私には、鑑定(法律判断)と書類作成(法的整序)の違いを明確に答えることが出来ません。

逆回りで、鑑定と評価され得る場合はどのような場合か考えてみます。

・依頼者から「あの時、先生にこの方が良いと言われたから。」と言われたら場合。

・関係者から、「あの司法書士が勝手にやった。」と言われた場合。

・司法書士から、「あの先生の有料チェックを受けています。あの先生に有料相談をして、回答の通り業務を行っています。」と言われた場合。

民事信託契約書の場合は、公正証書にする(公証人の前で本人が印鑑を押す)のが現在の一般的実務なので、代理している感覚が薄くなるのかもしれません。

評価から考えて、司法書士は主観的には適法だと認識して民事信託支援業務を行っていることを前提とします。

司法書士の認識が適法だと認められるには、どのような事実が必要なのか、少し考えてみます。野口雅人「民事事件における書類作成業務」[4]を参考にします。

・法令・判例の立場を理解した書類を作成する。

・作成した文書のうち、原本があるもの(公正証書)などを預からない。

・依頼者以外の関係者から民事信託に訊かれた場合、依頼者が答えられるような書類を作成する。

・文書の送達、メールの送信は依頼者から行ってもらう。

・成功報酬型の報酬基準を取らない。見積書も積立て型にする。登記申請の代理と、信託契約書などの書類作成については見積書を別にする。

自分自身気を付けたいと思います。


[1] 渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執務指針案100条(1)」市民と法123号 2020年6月(株)民事法研究会

[2] 斎木賢二ほか「司法書士法改正と司法書士制度の未来(上)」市民と法122号 2020年4月(株)民事法研究会

[3] 法令用語研究会編『法律用語辞典第4版』2012年(株)有斐閣

[4]『月報司法書士』2017年1月号


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