「民事信託の登記の諸問題(1)」

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(1)」を基に考えてみたいと思います。

更には、信託登記の具備が、受益者保護の最後の砦である受託者の権限外行為に対する受益者取消権の権利行使要件となっている(信託法27条2項1号、同法14条等)。

信託法27条2項1号に関して、初めて知りました。受託者が信託の登記申請を行わない場合、代位申請の必要があると考えます(不動産登記法99条)。

業ではないということは、営利を目的として反復継続しないことである。受託者が、原則として、一生に一度だけ行う信託のこととなる。

信託業法2条を載せます。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=416AC0000000154_20200401_429AC0000000045

(定義)

第二条 この法律において「信託業」とは、信託の引受け(他の取引に係る費用に充てるべき金銭の預託を受けるものその他他の取引に付随して行われるものであって、その内容等を勘案し、委託者及び受益者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。以下同じ。)を行う営業をいう。

要件のとして、3つが挙げられています。

1つ目が、営利を目的としない。2つ目が反復継続しない。3つ目が、2つ目と重複する部分もありますが、受託者が、原則として、一生に一度だけ行う。

一つ目の営利を目的としないについて、自己信託については信託業法に基づく登録が不要なもの(信託業法50の2)に関しては、営利を目的としても良いと考えることが出来ます。

(信託法第三条第三号に掲げる方法によってする信託についての特例)

第五十条の二 信託法第三条第三号に掲げる方法によって信託をしようとする者は、当該信託の受益権を多数の者(政令で定める人数以上の者をいう。第十項において同じ。)が取得することができる場合として政令で定める場合には、内閣総理大臣の登録を受けなければならない。ただし、当該信託の受益者の保護のため支障を生ずることがないと認められる場合として政令で定める場合は、この限りでない。

2つ目の反復継続しないについて、受託者の主観も問われる[2]とありますが、民事信託に関わる場合、裁判所からみて反復継続していたと事実認定されないことが重要になります。そのように考えると、はっきりとした判例や法令がない限り、受託者の主観が争点になるようなことは、最初からしない方が良い、という結論になり、記事に記載の通り、受託者が反復継続して信託の引き受けを行う信託に関わることは避けることが必要となります。

3つ目の受託者が、原則として、一生に一度だけ行う、については、1つ目に挙げた自己信託に関しては回数を問いません。また2つ目と矛盾するようですが、特定少数の親族である委託者に関して信託の引き受けを行うことは、営業(営利を目的として反復継続して行う。)に該当しません。ただし、実態として長期に渡る信託について受託者が引き受けを行う回数は、自ずと限られてくると考えられます。

なお、信託業法施行令1条の2第1号で信託業法の適用除外とされる行為が定められています。

(信託業の適用除外)

第一条の二 法第二条第一項に規定する政令で定めるものは、次に掲げる行為であって、信託の引受けに該当するものとする。

一 弁護士又は弁護士法人がその行う弁護士業務に必要な費用に充てる目的で依頼者から金銭の預託を受ける行為その他の委任契約における受任者がその行う委任事務に必要な費用に充てる目的で委任者から金銭の預託を受ける行為

二 請負契約における請負人がその行う仕事に必要な費用に充てる目的で注文者から金銭の預託を受ける行為

三 前二号に掲げる行為に準ずるものとして内閣府令で定める行為

信託登記の公示のために必要な技法

1信託契約書や遺言書等に記載された信託条項群の中から、信託登記の登記事項とすべき信託条項を的確に選択。

2そのようにして選択された信託条項から法的に意味のある要件を抽出

3公示の一覧性の要請に従い、かつ、登記官の審査を可能とするため、適切に要約。

3については、要約してなくてもそのまま信託目録に記録できるように、信託行為の条項を定める方法もあるのではないかと感じました。


[1]881号、令和3年7月、テイハン67~

[2] 小出卓哉「逐条解説信託業法」2008清文社P17~P18。

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