平成29年9月12日(火) 自 午後1時32分
至 午後5時27分
第2 場 所 法務省大会議室
第3 議 題 公益信託法の見直しに関する中間試案のたたき台の検討
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第44回会議を開会いたします。本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
初めに,前回の会議から今回の会議までの間に,委員等の交代がありましたので御紹介いたします。
まず,法務省の小野瀬民事局長が委員として参加されることになったほか,従前,幹事であった筒井官房審議官が委員として参加されることになりました。また,民事局の堂薗民事法制管理官が幹事として,溜箭調査員及び福崎局付が関係官として参加されることになっています。
それでは,新たに部会に参加することになった方々のみ,簡単な自己紹介をその場でお願いいたします。
○小野瀬委員 法務省民事局長の小野瀬でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○溜箭関係官 法務省民事局調査員の溜箭でございます。立教大学で英米法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○福崎関係官 法務省民事局付として参りました福崎と申します。よろしくお願いします。
○中田部会長 堂薗幹事は後ほどお見えになるかと存じますので,そのときにまた御挨拶いただこうと思います。
本日は,筒井委員,道垣内委員,岡田幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席です。
では,本日の会議資料の確認等を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について確認いただければと存じます。
事前に,部会資料43「公益信託法の見直しに関する中間試案のたたき台(1)」を送付いたしました。また,当日配付資料として,吉谷委員から提供いただいた「信託主要法令資料」平成29年9月版を机上にお配りしております。
以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたら,お申し付けください。よろしいでしょうか。
引き続きまして,部会資料43「中間試案のたたき台(1)」の趣旨について御説明いたします。これまでの民事法系の法制審部会の慣例に従いまして,本日の部会からは,ゴシックで記載した部会資料の本文について,このようなゴシック本文の提案内容を中間試案とし,パブリックコメントの手続に付してよいか,修正すべき点があればどのように修正すべきかという観点から御審議いただければと考えております。
ゴシック本文の提案は,これまでの部会の御審議を踏まえ,概ねの合意が得られそうなものについては一本化しておりますが,意見が分かれているものは甲案及び乙案の両論併記としております。甲案は現行制度に近いというだけで,甲案か乙案かで優劣はありません。(注)としてゴシックに記載した考え方は,本文の提案に対する反対意見や別の考え方でございます。
このたたき台は大部のものですので,本日1回では最後までの検討が終わらない可能性があります。したがいまして,本日の部会と次回10月の部会の2回に分けて御審議いただくことを事務局としては考えております。
また,これも従前の慣例によりますと,部会で決定いただいた中間試案については,民事局参事官室の責任において補足説明を別途作成し,中間試案をパブリックコメントの手続に付す際に,その補足説明も併せて公表することが多うございます。もっとも,今回の部会資料43に記載した補足説明は,飽くまでたたき台についての補足説明であり,これがそのまま中間試案の補足説明になるわけではありません。中間試案の補足説明は,現行の公益信託制度からどのような点をどのように見直すことが必要であるのか,その内容及び理由を簡潔に分かりやすく説明するものにしたいと考えております。
○中田部会長 ただいま事務当局から説明がありましたとおり,本日の部会から中間試案の取りまとめに向けた審議というステージに入ります。部会としての案を中間試案としてパブリックコメントの手続に付し,意見をお聞きする際,どのような記載の仕方にすべきかという観点から御審議いただければ幸いです。
したがいまして,部会資料43で挙げられているそれぞれの論点について,ゴシック体で記載された本文の案のうち,どの案を支持するのかということではなくて,パブリックコメントの手続に当たって,ゴシック体の本文の記載の仕方が適切かどうかを中心に御発言をお願いできればと存じます。
その上でなのですけれども,補足説明の中で,今回検討すべき事項とされている部分がございます。この部分につきましては,ゴシック体の本文の記載の仕方に関連して,現段階で議論を詰めておく必要があるものが掲げられているものと思いますので,併せて御意見を頂ければと存じます。いずれもこれまでの審議を踏まえてのものだと思いますので,それを前提としまして,本日は詰めの御検討をいただけますとありがたく存じます。
なお,補足説明には,この部会資料を作成するに当たっての事務当局の認識や問題意識を示すものもあります。その点についての御意見を頂くことはもちろん結構なのですけれども,中心となりますのは飽くまでゴシック体の部分ですので,その旨御理解,御協力をお願いいたします。
審議の進め方ですが,先ほどの中辻幹事の御発言にもありましたように,このたたき台(1)を今回と次回の2回に分けて審議してはどうかと思います。そこで,本日は,部会資料43の第1から「第11 公益信託の情報公開」までを行い,もしも余裕があれば,更に第12から第14までについて御審議をお願いしたいと考えております。途中,午後3時半頃,切りのよいところで休憩を挟むことを考えています。
以上のような審議の進め方でよろしいでしょうか。
ありがとうございます。それではそのように進めさせていただきます。
では,本日の審議に入りますが,まず,部会資料43の第1から第3までについて,御審議をお願いします。
事務当局から説明してもらいます。
○舘野関係官 それでは,部会資料43に記載の論点について御説明申し上げます。
今回は,ゴシックの本文を中間試案をとして掲げるに当たって,検討を要する事項等を中心に御説明させていただきます。
それでは,まず「第1 新公益信託法の目的」について御説明いたします。
第1の本文は,「新公益信託法は,公益信託の成立の認可を行う制度を設けるとともに,受託者による公益信託事務の適正な処理を確保するための措置等を定めることにより,[公益の増進への寄与を目的とする他の法律と相まって,]民間による公益活動の健全な発展を促進し,もって公益の増進及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とするものとする」との提案をするものです。
第1の本文では,部会資料38の第1において「公益信託事務を適正に処理し得る公益信託」としていた表現を,「受託者による公益信託事務の適正な処理を確保する」という表現に修正するとともに,「民間による公益活動の健全な発展を促進し」という表現を追加しております。
その上で,今回検討すべき事項に記載しましたように,新公益信託法と公益の増進に寄与することを目的とする他の法律との相乗効果により,公益の増進が図られることは望ましいものと言えることから,社会福祉法の表現を参考に「公益の増進への寄与を目的とする他の法律と相まって」という表現を入れることも考えられますが,公益法人認定法やNPO法にはそのような表現が用いられていないこともあり,中間試案にこの表現を入れるか否かについて御意見を頂ければと存じます。
なお,(前注3)に記載のとおり,本部会では,従前,公益信託の成立時に行政庁が行う行政行為について,公益信託の認定という用語を暫定的に使用しておりましたが,山本隆司参考人の御意見等を踏まえ,本部会資料では公益信託の成立の「認可」という用語を用いることとしております。
次に,「第2 公益信託の定義等」について御説明いたします。
第2の「1 公益信託の定義」の本文は,「公益信託は,受益者の定めのない信託のうち学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とするものとして,行政庁から公益信託の成立の認可を受けたものとする」との提案をするものです。
第2の1の本文では,部会資料38の第2の1の提案から,「信託法第258条第1項に規定する。」という部分を削除するとともに,新たな公益信託の成立の認可を行う主体を「行政庁」と特定した表現に修正しています。
その上で,今回検討すべき事項に記載しましたように,信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託と公益信託の異同について改めて検討しましたが,両者の共通点は「受益者の定めのない」という点程度しか見当たりません。他方,信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託は,委託者及び受託者の合意のみによってその効力を生じ,同法第259条で20年の存続期間の制限が課され,同法第260条のように委託者の権限が強化された上で,行政庁による成立の認可や監督を受けないものとされていますが,現時点で想定される新たな公益信託は,委託者及び受託者の合意に加えて,行政庁の成立の認可を受けることによりその効力を生じ,成立後も行政庁の監督を受けるほか,委託者が公益信託に過度に関与するような事態を回避することが予定されているものであって,信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託と公益信託は重要な部分で相違点があり,性質上,大きく異なるものと言えます。
そうすると,公益信託を受益者の定めのない信託のうちの一つとして定義した上で,公益信託について信託法第1章から第10章までの規定とは異なる特例を設ける場合には,新公益信託法の中に信託法第11章とは別の特例を設けることが相当であると考えられます。なお,その際には,信託法施行令第3条に定める受益者の定めのない信託の受託者要件の適用範囲について,「受益者の定めのない信託(学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的とするものを除く)」として,主務官庁の許可を受けた公益信託を除外している信託法附則第3項も改正する必要があるものと考えられます。
これらの点について,御意見を頂ければと存じます。
第2の「2 公益信託事務の定義」の本文は,「公益信託事務は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益に関する具体的な種類の信託事務であって,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものとする」との提案をするものです。
第2の2の項目名については,公益信託の目的と公益信託事務は截然と二分できるわけではないと考えられることに加え,公益信託の認可を行う行政庁は,申請書類に記載された公益信託の目的が新公益信託法の定義する公益信託事務に該当するか否かを判断することになると想定されることから,部会資料38の第2の2,「公益信託の目的」から「公益信託事務の定義」に変更しています。
また,第2の2の本文の「不特定かつ多数」の表現については,現在の公益法人の認定実務において「不特定かつ多数」であるか否かについて柔軟な判断が行われているように,新たな公益信託の成立の認可を行う行政庁により,「不特定かつ多数」の要件について柔軟な判断が行われるのであれば,あえて公益に関する他の法律と異なる公益性判断の仕組みを構築するまでの必要性は認め難いことから,従前の提案同様に「不特定かつ多数」という表現を用いることとしています。
第2の2の本文の公益信託事務の内容については,公益法人認定法第2条第4号の別表第1号から第22号までの公益目的事業と同様に,新公益信託法の別表に列挙した上で,公益法人認定法別表第23号と同様に政令で定めるものとすることを予定しております。
第2の「3 現行公益信託法第2条第1項の削除」については,従前の部会で異論はなかったことから変更点はありません。
次に,「第3 公益信託の効力の発生」について御説明いたします。
本文1は,「公益信託は,当事者が信託行為をし,かつ,行政庁による公益信託の成立の認可を受けることによってその効力を生ずるものとする」との提案をするものです。
本文2前段は,「行政庁から不認可処分を受けた場合であっても,当該信託を[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として有効に成立させる旨の信託行為の定めがあるときは,当該信託は,不認可処分を受けた時から[公益を目的とする]受益者の定めのない信託としてその効力を生ずる」との提案をするものです。
本文2後段の甲案は,本文2前段により効力を生ずる信託について,信託法第258条第1項の受益者の定めのない信託に関する信託法第11章の規定を適用するもの,本文2後段の乙案は,信託法第258条第1項の受益者の定めのない信託に関する信託法第11章の規定を適用せず,別の規定を適用するものです。
本文3は,「当事者が本文1の認可の申請を予定していない[公益を目的とする]受益者の定めのない信託については,行政庁から不認可処分を受けた[公益を目的とする]受益者の定めのない信託と同様の規律を適用するものとする」との提案をするものです。
本文1の提案は,部会資料41の第1の甲案及び丙案をベースとしつつ,公益信託は,委託者及び受託者が信託行為をすること及び行政庁による公益信託の成立の認可を受けることの両方の要素を備えることにより,公益信託としての各種の効力が生じるものであるということを論理的に表現した形に修正したものです。
また,本文2前段の提案については,特に本文2後段の甲案を採用する場合には,新公益信託法の中に,本文2前段のような規定を設けるのではなく,解釈に委ねるべきであるという考え方があることから,その考え方を(注)に示しています。
その上で,今回検討すべき事項の(1)及び(2)に記載しましたように,行政庁から不認可処分を受けた場合でも,[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として有効とする旨の信託行為の定めがあることにより効力を生ずる信託について,信託法第11章の規定を適用すべきとする本文2後段の甲案を採用するほか,信託法第11章の規定を適用せず,別の規定を適用する乙案を採用するかの論点は,中間試案のゴシック本文に甲乙両案を併記するか,甲案のみを記載するかに関わる重要な部分ですので,特に御意見を頂ければと存じます。
なお,その際には,信託法附則第3項及び信託法施行令第3条に定める受益者の定めのない信託の受託者要件との関係も踏まえた上での検討が必要となるものと考えられます。
○中田部会長 ただいま説明のありました第1から第3までについて,まとめて御審議いただきたいと思います。
御自由に御発言をお願いいたします。
○深山委員 順に簡潔に申し上げたいと思います。
第1については,ゴシックのようにすることについて特段異存はございません。角括弧のところは,二つの考え方を示して意見を問うという意味でしょうから,そういう意味ではこれを,個人的にはなくてもいいかなと思いつつも,残すことについて特に異存はありません。
公益信託の定義の第2の1についても,結論的には特に異論はございません。第2の1のところは,従前の部会資料38の第2の1では,信託法258条1項に規定するというものがあったところを削除しておりますが,ここは公益信託の性質ないしは目的信託との関係について,目的信託の一種という位置付けをするのか,別類型というふうにするのかは,説明の仕方としては両方あり得ると思います。目的信託の一種だとした上でもろもろの特則を設けるという規定の仕方もあると思いますし,もはや違う類型というのも,どちらもあると思うので,そこは解釈に委ねるという趣旨で,あえてそこは何も書かずにゴシックのような形でよろしいのではないかというふうに考えております。
第2の2については,ゴシックの本文について特段異存はないんですけれども,タイトルが従来は「公益信託の目的」としてこの内容が記述されていたものが,「公益信託事務の定義」というタイトルになっているところをどう理解するかということについて,申し上げます。定義として書いたときに,条文になったときに,公益信託事務という言葉が用いられて,それについて何らかの規律が設けられるんだろうと思うんですが,どういう規律が設けられるのかが,必ずしも今の段階では分からないので,定義だけ見て,これを定義としていいのかどうかというのがやや判断に苦しむなというふうに,個人的には印象を持っております。ただ,本文に関して言えば異存がないので,その問題意識といいますか,印象だけをお伝えしておきたいと思います。
第2の3については異存ありません。
少し意見を申し上げたいのは,第3のところです。第3の1については異存がありません。それから第3の2の前段についても異存ありませんが,甲案,乙案,分かれているところについて意見を申し上げます。
ここは,更に(注)の考え方も入れれば三つの考え方が併記されておりますので,それはそれでパブコメに付す仕方としては,特段の規定を設けない(注)も含めて並べておくということについては異存はないんですが,甲案と乙案のところで,乙案の表現が信託法11章の規定を適用せず,別の規定を適用するというところが,ここで言う別の規定がどういうものなのか,やや分かりにくいのではないかなと思います。
考え方として,認定を受けられなかった公益を目的とする信託は,信託法258条1項の目的信託そのもので,同じルールでいいんだという甲案に立つのであれば悩みはないんですけれども,乙案のようにそれとは何らかの点で違った規律をすべきだという考え方を採る,あるいは採るかどうかということを考えるときには,ではどこが目的信託と違う規律にすべきなのかという問題になります。正にこの別の規定の中身が問題になって,私が考えるに,例えば目的信託の20年という存続期間の定めをそのまま適用するのがいいのかどうかとか,あるいは258条4項で,信託管理人について,ここでは遺言で行った場合は必置となっておりますが,そのルールのままでいいのか,むしろ公益信託と同様に,契約でやった場合でも必置とすべきだというような考え方もあり得るような気がいたします。
そのように,別の規定としてどういうものが考えられるのかということが少し例示されたほうが,乙案にすべきか甲案でいいのかというようなことを考える上では,考えやすいのではないかと思います。もちろん補足説明の中に書けばいいのかもしれないんですが,ゴシックだけを見たときに,別の規定のところがイメージしにくいという点がやや検討をすべきではないかということを感じました。
あと,第3の3については異存ございません。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 ただいまの意見とも重なるところがあるんですが,ただ,ちょっと私が今発言したいのは,第2の1「公益信託の定義」のところです。先ほど説明がありましたように,「受益者の定めのない信託のうち」というふうに書いたことによって,ここでは目的信託の一種であるという考え方を必ずしも採らない,採るということも考えられるけれども,採らないという考え方もありうる,そういう表現に変えたわけですね。この表現自体は私はこれでいいと思うんですが,この定義のところと,先ほど深山委員が問題にされた第3の2の甲案,乙案のところとの関係が気になりました。すなわち,第2の1の定義を是としても,第3の2のところで乙案につながるというものではないこと,甲案と乙案の選択肢はありうるということです。両者の関係について補足説明では特に言及していませんが,第2の1の定義の補足説明では,公益信託は目的信託の一種ではないというニュアンスが出ているようでもあり,そうすると第3の2では乙案につながりやすい。しかし,定義の問題は,第3の2の甲案,乙案とは別の問題であり,定義のところの説明によって,おのずと甲案,乙案のどっちかに流れていくというような,そういう内容にはしないようにすべきだと思います。第3の2の問題は,飽くまでもオープンな,どちらにもなり得るというふうにしておいたほうがいいのではないかということでございます。個人的には,私,甲案に賛成ですけれども。それはともかく,ここの二つの表現,説明の仕方について御注意いただければと思います。
○中田部会長 新井委員,その後,平川委員。
○新井委員 まず,第1については,「公益の増進への寄与を目的とする他の法律と相まって」という文言を追加するということに賛成いたします。積極的賛成です。信託は,これからは信託のみで機能するのではなくて,ネットワークの中で機能することに意味があると言われています。日本の例で言えば,例えば後見制度支援信託があって,成年後見と信託が連携して機能を発揮するというようなことがありますし,それから海外ですと,最近はスペシャル・ニーズ・トラストと言われて,信託と福祉制度が連携しているものがあります。これはシンガポールではもう機能していますし,今度,香港もそういう制度を導入するということが考えられます。したがって,この「他の法律と相まって」というのは非常に意味のあることではないかと思います。もっと広く言うと,最近,信託受託者のアンバンドリングということが言われていますので,受託者は一つの機能を行って,それがほかの社会的機能と連携するということが重要だと思いますので,こういう表現を入れるということは,私は大変いいことではないかと思って積極的に賛成いたします。
それから,第2「公益信託の定義等」についてです。
第2の1「公益信託の定義」自体については,これで結構かと思います。
それで,問題となるのが,信託法の附則との関係です。私としては,目的信託については現在の信託の受託者要件を存置すべきだと考えております。そして,公益信託には,この附則の適用はないわけです。どうしてそう考えるかというと,この附則の意義というのは,目的信託の濫用が心配されるということで,こういう規制を設けたということだと思います。この信託法の濫用ということについて考えてみると,委員・幹事の方々は御存知のように,自己信託が,特に民事信託の分野において相当濫用されているということが言われています。そういう状況の中で,目的信託の現状がどうかということについて必ずしも十分な審議を経ることなくして,この受託者要件を外してしまうことは,やや軽率のようにも思うわけです。他方,公益信託の設定には認可という客観的な縛りがあります。ですから,附則第3条は存置していただきたいと思います。
その次が,第3「公益信託の効力の発生」についてです。
ここについては,まず,私は甲案に賛成したいと思います。その上で,第3の2及び第3の3のところで「公益を目的とする」という表現がありますけれども,これは削除したほうが良いのではないでしょうか。「公益信託」と「公益を目的とする目的信託」の区別が非常に分かりにくいので,「公益を目的とする」という文言は全て削除すべきではないかと考えます。
○中田部会長 平川委員の御発言の前に,今,堂薗幹事がお見えになりましたので,一言御挨拶をお願いいたします。
○堂薗幹事 遅参いたしまして,失礼いたしました。民事法制管理官の堂薗でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○中田部会長 それでは,平川委員お願いします。
○平川委員 まず,第1「新公益信託法の目的」のところですけれども,基本的に賛成いたします。
認定か,認可かということの検討をされておりましたけれども,認可という言葉はやや大時代的な用語ではありますが,学問的検証を経たものであって,容認できるものであると思いますし,この認可という定義を入れることによって,公益信託は目的信託の前置を必要とせず,公益信託そのものを認可するということで成立することが明確になっているということ,そして,公益信託事務の執行の主体が受託者であることが明記されていること,また,公益信託が民間による公益活動であり,この法律はその健全な発展を促進するためのものであることが明確に規定されていることから,この公益信託法の目的についての規定に,基本的に賛成します。
先ほど,新井委員から御指摘のあった「公益の増進への寄与を目的とする他の法律と相まって」という文言については,積極的に反対するものではありませんが,あえてそのような表現を加える必要はないと思いました。社会福祉法第1条の目的に同じ表現が使われているということですが,去年の社会福祉法の改正で新たに加わった表現というわけでもなく,従前から記載があったところを見ると,新しいトレンドとして異なった法律制度に基づく公益増進の相乗効果をうたうべきという方針があるわけでもなさそうなので,公益法人認定法やNPO法と同じように,特にこのような表現を使うこともないのではないかと考えました。
第2「公益信託の定義等」について,賛成いたします。
現行公益信託法において,公益信託を信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託のうち,と定義していたことが,たたき台5ページ記載のとおり,目的信託を規定する信託法第258条第1項への言及が削除され,是正されたことは大いに好ましいことであると考えます。特に,現行法と同様に信託法第258条1項と関連付けた場合には,元々実例のほとんどない目的信託をベースに公益信託が構成され,法技術的にもそれが準用される場合には,一般の人が分かりにくく,公益信託を親しみにくくさせるおそれがあったことから,この解消が図られたことに賛成いたします。
ただ,「受益者の定めのない信託のうち」というたたき台の記載の仕方が妥当かどうか,検討の要があると思います。公益信託という別の類型の信託であるということをはっきりさせるためには,公益信託は公益を目的とするというだけで公益信託の定義は語り尽くされているので,「受益者の定めのない」という文言は不要であると言えます。先ほど新井委員からは,「公益を目的とする」というのは削除すべきなのではないかというお話がありましたが,むしろよりどころをこの「公益を目的とする」という点に置きたいと考えます。「受益者の定めのない」という文言をもし入れるのであれば「公益信託は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とした受益者の定めのない信託として」というように「受益者の定めのない」という文言を入れる場所を後ろの方に持って行ったほうがよいと思います。
また,「受益者の定めのない」という文言を入れる場合には,受益者の定めがあるが,その背後には不特定多数の地域の団体や,不特定多数の受益する人を抱えた公益法人等がある場合について,公益性の認定の中で受益者の定めのない信託と同視され,受益者の定めのない信託として扱われるということなどの議論を行っておく必要があると思います。また,現行信託法の受益者の定めのない信託の特例である第11章を除外して別の特例の規定を設ける場合には,新公益信託にふさわしい条項とする必要があり,今までの第11章の準用や読み替えで対応することのないようにしていただきたいと考えます。また,信託法附則第3項については,公益信託への言及部分である括弧部分は当然不要となると考えます。
第2の2「公益信託事務の定義」については賛成いたします。
第2の3「現行信託法第2条第1項の削除」についても賛成します。さきの第1の4,公益信託の定義において,「信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託」から,単に「受益者の定めのない信託」に変更したことの意義が,信託法第11章の受益者の定めのない信託の特例全部を適用しないことを意味するのであれば,現行公益信託法第2条第2項も削除することになると理解しておりますが,それでよろしいでしょうか。信託法第2条第2項は,公益信託の存続期間については信託法第259条の規定はこれを適用せずという存続期間に関する規定です。
また,第3「公益信託の効力の発生」につきまして,第3の1については賛成いたします。
第3の2については甲案に賛成し,乙案は不要であると考えます。公益認定を得られない信託については,公益を目的とする信託を標榜させるべきではなく,存続するとしても,単に目的信託となるとすべきです。飽くまでも公益信託と目的信託を峻別する思想からは,乙案のような中途半端な非適格公益信託とも言うべき公益を目的とする信託の新たな創造は,百害あって一利なしと考え,公益信託法に特にこれを書く必要もないように思われます。信託行為の中で,認定が受けられなかった場合は終了すること,又は目的信託として存続すること,などが定められるべきもので,信託行為の解釈に委ねてよい問題なのではないかと思います。
第3の3につきまして,記載のとおりの考え方に賛成します。行政庁から不認可処分を受けた公益を目的とする信託であろうと,その認可の申請を予定していない信託であろうと,同一の規律を適用すべきであると考えます。
○中田部会長 ほかに。
沖野幹事,林幹事の順にお願いします。
○沖野幹事 ありがとうございます。
本当に今確認するのは恥ずかしいことで,どこかで確定的に決まったんじゃないかと思うんですけれども,第1「新公益信託法の目的」ということですが,今回の作業としましては,現在のいわゆる公益信託法を改正するなり,新設するなりして,信託法とは別の立法を行うということが当然の前提であるということで進んでいるのではないかと思うんですけれども,念のため,これが最後の機会かと思いますので確認させていただきたいという趣旨です。
と申しますのは,この説明の中で,第2に関連して5ページに,今回検討すべき事項の中に,信託法11章とは別の特例を設けるということで,それは新公益信託法の中にということですから,別途の特別法ということが想定されていると思います。しかし,可能性としては,新しい12章とか,そういう可能性もあるように思われますし,それから元々信託法は一本であったところを切り分けた,それは作業が間に合わなかったということが非常に大きな要因であったように思われます。さらには,一般の信託法の規定する受託者の義務等ということが基本的には公益信託にも妥当するというようなことを考えると,規定の在り方自体は特別法は維持するということでよろしいのかどうか。もし信託法に入れてしまうならば,もちろん第1の目的規定などは要らないんじゃないかということにもなりますので,念のため,そこは確認させていただいて,という趣旨です。
それが1点目ですけれども,個別の中身としましては,第1につきましては,現在,角括弧に入っております内容というのは,個人的には不要だと考えております。言わずもがなであろうと思っておりますけれども,しかし,広く意見を聞くということであれば,飽くまでこのような括弧に入れる形で聞いていただくというのがよろしいのではないか,その意味では原案がよろしいのではないかと考えております。
次に,第2の2「公益信託事務の定義」ということなんですけれども,これはゴシックにどうこうということではなく,ゴシックになったときにこのような考え方でよろしいのかということが2点あります。
一つは,別表方式で,かつ公益法人認定法の中身のものを公益信託法の別表に列挙するということなんですけれども,その列挙の文言のイメージなんですが,例えば,今別表を見ますと,1号が学術及び科学技術の振興を目的とする事業となっておりますが,この事業を事務に置き換えると,そういう文言になるのかどうかです。そうしたときになんですけれども,一方で,信託事務という文言は信託法に出てまいりますので,例えば信託法の29条が受託者の注意義務という規定ですけれども,受託者は信託の本旨に従い,信託事務を処理しなければならない。また29条2項の方が,いわゆる善管注意義務ということで,信託事務を処理するに当たってはという形になっておるんですが,これが公益信託事務の定義というのが入ったときに,29条などは,信託の本旨に従い,公益信託事務を処理しなければならないというような読み方になっていくのかどうか。そうすると,例えば,それが学術及び科学技術の振興を目的とする事務を処理しなければならないというような読み方になっていくのかどうかというのがちょっと気になりまして,それとは違う,具体化のレベルも違う話なので,事務という言葉,あるいは信託事務という言葉を使っても,それは違う概念として立てていくんだということになるのかどうか,ちょっとこの下でどうなるのかというのがイメージが湧かなかったものですから,もし御説明いただければ,よりはっきりとしたイメージがつかめるのかと思いました。
それから,第3の2のところですけれども,これも甲案,乙案とございまして,私は個人的には,特別に規定を設けないという考え方に賛成はしておりますけれども,しかし,いろいろな考え方はなおあり得るところで,現在でも十分に一本化はされていないところですので,パブリックコメントということでは,甲案,乙案という2案で聞いていただいたらいいのではないかと思います。
ただ,乙案の内容がはっきりしないように思われました。と申しますのは,乙案は信託法11章の規定は適用せず,別の規定を設けるとなっております。これは深山委員からも御指摘のあった点ですけれども,別の規定という,そのあり方として,これですと,11章は排除してしまって違うものをたてるということだと,言わば第3類型というんでしょうか,定義された公益信託,つまり認可を受けた公益信託,それから一般的な目的信託があってそれと,公益を目的とする信託の特例のようなものがもう一つあるようなイメージも受けます。それは非常に大掛かりであって,そこまで果たして本当に,この場であってもそこまでの主張があったのかというのはやや疑問に思うのですが。それに対しまして,基本的には11章であっても,幾つかは特則を設けてはどうか。例えば,その例として,深山委員がおっしゃったようなものがあるかと思いますけれども,信託管理人の置き方をどうするかとか,それから受託者の要件を,経過措置等の関係もあってどうするかとか,幾つかの特例を置くという可能性があるのかと思います。
乙案はどちらを意味しているのか,あるいは両方もあり得ることだとしているのかという点が気になりまして,もし後の,やはり特例が幾つかは必要じゃないですかということであるならば,今の書き方だと全面的に信託法第11章は適用しないという形になるように思われますので,例えば,第11章に対してさらなる特則を設けるとか,そのような表現の方が分かりやすいかもしれません。
ただ,更に別の規定というときどのようなものが別の規定なのかというのがよく分からないところで,この中でも若干は議論されていると思いますけれども,そこが余り詰まっていないようには思われます。意見を求めるためには,別の規定についてどういうものかのイメージぐらいは例示として挙げる必要があると思われ,それは補足説明のところでよろしいと思うんですけれども,ただ,別の規定というのが確固としてここで固まっているわけではないとすると,置くとするとどのような規定が考えられるかと,別の規定としてどういうものがあるのかということも問うたほうがよろしいのではないかと思われまして,もし今申し上げたようなことが共有されるならば,この聞き方の表現は,特に乙案については少し考え直したほうがいいのではないかと思います。
○林幹事 先ほど深山委員がおっしゃられたこととほぼ同じなのですが,ポイントだけ申し上げますと,第2「公益信託の定義」の今回検討すべき事項のところで,附則3項の改正ということも触れられていまして,これについては賛成しますし,了解ですので,整理としてはこのようにしていただいたらと思います。
それから,公益信託事務の定義に関してですが,公益信託の目的から公益信託事務の定義へ変更した点について,弁護士会でも賛成の意見もそれなりに多かったのですが,目的のままの方がよかったではないかという意見もあって,それはそう言われると,それも一理あるなと思いました。
それで,改めて考えるに,公益信託の目的というのは,信託の具体的な要素のうちの重要なポイントなので,立法の中にそのことが分かるように出てこないといけないのではないのかという気がします。それから,公益信託の目的と,その下にある公益信託事務というのが2段階であるということも間違いないので,立法になったとき,そのことが分かりやすく出るべきなのではないかと思いました。
それから,沖野幹事もおっしゃられましたが,別表方式でいくとしたとき,何とかの事業じゃなくて何とかの事務と書き換えるのでしょうけれども,そことの関連も考えるときに,目的との区別が分かりにくいという補足説明に書かれた記載内容そのものは全くそのとおりだと思うのですが,整理としては目的のままの方がよかったのではないかというふうにも感じたものですから,申し上げたいと思います。
○中田部会長 これまで頂いた御意見の中に幾つか御質問もありましたので,この辺りで事務局の方から少し御発言をお願いできますでしょうか。
○中辻幹事 まず,平川幹事から,公益信託法2条2項を削除するのかという御質問がございました。公益信託の存続期間について目的信託の20年の期間制限は適用しないという実質を維持することには部会で異論がなかったものと理解しておりまして,その上で,公益信託法2条2項を削除するのか改正するのかは法制上の技術的な問題ですので,条文化の際にこちらで検討させていただきたいと思います。
次に,沖野幹事からの1つめの御質問にお答えします。今回の公益信託法の見直しに当たっては,現在の公益信託法のように信託法の特別法の形式を維持するのか,それとも公益信託についての条文を含んでいた旧信託法と同様に,信託法の中に第12章「公益信託」のような章を設けるのかという問題はたしかにございまして,旧信託法と同様の形式を採るのであれば私も目的規定は不要であると考えておりますし,以前の部会で道垣内委員が発言されていたのもそれに近いのではないかと思います。その上で,事務局としては,新たな公益信託でも現在の信託法の特別法の形式を維持する可能性が高いという見立てを持って第1の提案をしております。その理由を申しますと,公益信託の主務官庁による許可制を廃止し新たな公益信託の認可は国の行政機関のいずれかにおいて一元的に行うということがこの部会の大勢となっていますが,主務官庁制を先に廃止した公益法人の世界では,旧民法から独立した一般法人法及びその特別法としての公益法人認定法が存在しておりまして,それと公益信託も平仄の取れた形にすることが分かりやすいと考えているからでございます。そして,仮に公益信託の認可を行う行政機関が法務省以外の省庁になるのであれば,新たな公益信託法はその役所と法務省の共管になる可能性があると考えております。
それから,沖野幹事からの2つめの御質問,今回の部会資料で用いている公益信託事務という用語と,公益法人認定法及びその別表における公益目的事業という用語との関係ですが,事務局としてはほぼ同一の内容を意味するものとして使っています。現在の公益信託契約書でも受託者が行う「事業」という表現が使われているものがあるのですが,そのような実務とは別に現行公益信託法4条で使われている「公益信託事務」という法令用語を生かせるのではないかと考えておりました。一方で,信託法29条などで使われている「信託事務」という用語は,受託者が行う個々の信託事務を想定しているものであり,それらを束ねたものを「公益信託事務」として整理しているものでございます。
沖野幹事の3つめの御指摘は,深山委員からも御指摘ありましたけれども,第3の2の乙案で出てくる別の規定のイメージですが,遺言でなく契約により成立する公益目的の目的信託でも信託管理人を必置とする,公益信託の目的信託には信託法259条の20年の期間制限や附則3項の5000万の受託者要件をかけない,目的信託の委託者の権限を強めている信託法260条の規定を適用しないなどの特例が思い付くところでございまして,それらの規定を念頭に置きながら乙案の表現ぶりについては更に検討してみたいと思います。
第3の論点については,今回御欠席の道垣内委員から事前にメールを頂いておりますので御紹介いたします。メールの文章を少し順番を変えて読み上げますと,「全体として謙抑的でよい。目的の話がなくなったのはうれしい。」とされた上で,「第3の2は当然甲案でしょうね。また,第3の3については不要な気がします。というのは,僕が全く申請の気持ちがなく,単に受益者の定めのない信託を設定したつもりであったときに,それが後発的に,かつ外部から,いや,これは公益目的ですねと言われ,不認可処分のときと同様となるとしますと,後で述べる不認可のときの処理にも関係するのですが,通常の場合にも制約が掛かるとするとおかしいのではないでしょうか」という御意見をいただいております。
○神田委員 質問のような形で3点申し上げたいと思います。
今,事務当局からの御説明で明らかになってはいるとは思うのですけれども,1点目は,第2の2の公益信託事務という概念なのですけれども,公益信託事務とは別に,当然信託事務という概念があって,その信託事務をすることは妨げられないというか,ということです。公益信託事務という概念を使うことによって信託事務ができるか,できないかという問題が出てくるのか。それは先ほどの御説明で言えば,受託者の個々の権限というのですか,行為をする権限の問題として整理されるのかといったあたりが分かるように書いていただければという希望です。これは中間試案でパブリックコメントを求めると思いますので,ちょっと聞き方の問題になるとは思いますけれども,表現にもう少し工夫できるような気がします。ひょっとすると補足説明でそこを書いていただければ済むことかもしれません。
それから,2点目と3点目は第3に関わるものです。実は今の道垣内委員の御意見と若干かぶるのですけれども。第2点目としては,第3の2で「有効に成立させる」とか,あるいは「信託としてその効力を生ずる」という表現があり,補足説明では「公益信託の準備状態」という言葉が使われていますけれども,例えば信託行為をして,もう信託財産というか,財産を移転して,認可を待つという状態で認可がされた場合には,認可がされて初めて有効に成立させるという選択肢しかないのか,先に,言わば信託を成立させておいて認可を待つというのはありなのかということを聞いたほうがいいと思います。それはパブリックコメントでという意味です。と申しますのは,いろいろなパターンがあると思うのですけれども,認可された後で,何らかの法律問題が信託一般について生じた場合に,認可される前から信託関係は成立していたといったほうがいい場合があるように思いますし,それから,例えば認可が受けられるかどうか分からないというのでいろいろ準備して,駄目そうだというのでまた新たな工夫をしてといってやっているうちに,半年,1年掛かると。それで,半年,1年後に認可が得られましたということもあり得ると思うのですけれども,その場合でも,認可があるまで有効に成立しないというふうに定めておかないといけないというのはちょっと強過ぎるように思います。少なくともパブリックコメントではもうちょっと中立的にというんでしょうか,聞いていいように思います。
それから3点目は,道垣内委員がおっしゃったこととほぼ同じなのですが,3に関してです。この部会資料を拝見すると,認可の申請を予定している信託と,予定していない信託と,二つに分けられているのですけれども,それがいいのかどうかということです。といいますのは,予定していない信託だと分類されても,1年,2年たっているうちに認可申請しようということになると,その時点から予定する信託になるというふうに,この部会資料ですと整理せざるを得ないと思うのですけれども,その二分法というのは,必ずしも不要というか,適切かどうか疑義があります。少なくとも中間試案としてパブリックコメントに付すには,ちょっとそこは論理的に整理して聞いていただいたほうがいいように思います。
○中辻幹事 少しさかのぼって申し訳ありません。第2の2「公益信託事務の定義」のところの項目名について,従前の「公益信託の目的」という項目名のままでもよかったのではないかと,林幹事から御指摘をいただきました。そこで,もう少し丁寧に説明いたしますと,部会資料43の26ページの第9の1「公益信託の目的に関する基準」では公益信託事務を行うことを目的とするものであることを認可の要件としているところ,ここは,公益法人認定法5条1号が,公益法人は収益事業を行うことができるので,「公益目的事業を行うことを主たる目的とする」という規定になっていることに対応させているのですが,今回の部会資料を作る過程で,公益信託事務については公益法人認定法の「公益目的事業」と同様に定義した上で,「公益信託の目的」は認可の要件の項目名に使った方が分かりやすいと考えたものでございます。
○中田部会長 第9の1については,またそこで御審議いただきますけれども,取りあえずその両者の結び付きということだけ,今御説明いただきました。
○山本委員 今の点について確認をさせていただきたいのですが,定義は,4ページで,「受益者の定めのない信託のうち学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とするものとして,行政庁から公益信託の成立の認可を受けたものとする。」とされています。これは,これまでの議論の延長線上にあるものでして,それ自体非常に分かりやすいのですが,先ほどのように変えられた結果,後ろの方で出てくる認可の基準では,「公益信託事務を行うことを目的とするものであること」が認可の基準になっています。そうしますと,微妙な差なのですが,「公益を目的とするもの」として認可を受けているわけではなくて,「公益信託事務を行うことを目的とするもの」して認可を受けているという関係になりまして,何か定義とその後の部分とがぴったり一致していないような印象があります。その意味で,定義の部分は,分かりやすさを優先するとこういうことなのですけれども,むしろ公益法人法がそうなっていると思うのですが,定義自体は「何条の認可を受けたもの」というような形で定義せざるを得なくなっていくのではないかと思いました。その点,今後,文言を詰めていく中で検討していただければと思いますけれども,このような変更をすると,そうした問題が生じてくるのかなということです。
○中田部会長 第1から第3までは,御意見は大体よろしいでしょうか。
○山本委員 先ほどから議論になっている第3の2と3なのですが,3に関しては私も同じような印象を持っていまして,「公益を目的とする」という部分がどうなるかによるとはいえ,このままでは実際に条文にするときには規定できないのではないかと思いました。特に2で甲案を採り,3についてもそれと同様の規律にするとなりますと,規定のしようがなくなっていくのではないかと思いました。
その上で,更に2の意味についてですが,乙案を採る場合は,別の規定の内容がどうなるかということがもちろん大問題であるというのは先ほどのとおりです。その上で,2のような規定を定めることには,「別の規定を適用する」ための要件を定めるという意味があるのだろうと思うのですけれども,甲案を採用する場合には,2のような規定を定める意味はどこにあるかということが問題になるように思います。つまり,行政庁から不認可処分を受けた場合でも,当該信託を受益者の定めのない信託として有効に成立させる旨の信託行為の定めがあるときは,不認可処分を受けた時からその効力を生ずるというのは,それ自体としては分かるような気がするのですが,受益者の定めのない信託として,どういう時から成立させるかということは,信託行為である程度自由に定められる部分があるのではないかと思います。行政庁から不認可処分を受けた場合でも,当該信託を受益者の定めのない信託として有効に成立させる旨の定めがある場合は,当該信託はその効力を生ずるというのは,ある意味では原則どおりかもしれません。そうすると,このような規定を置けるのかという先ほどと同じような問題が生じてくるのですけれども,そこは,疑義を避けるため,このような定めをしていれば効力が認められるということを定めるところに意味があるのではないかと思ったということです。
少し技術的な問題になって恐縮ですけれども,以上です。
○小野委員 先ほどの事務局の沖野委員からの質問に対する回答で,今後検討されるということの中に含まれることかとも思いますけれども,附則の3項と4項について,今後,仮に,私は甲案ではないんですが,甲案だとしても,3項,4項の関係については,やはり一つの方向性,結論を導くべきではないのかと思います。特にこれまでの審議の中で,公益信託でない公益を目的とする目的信託において,法人要件の適用ありや否やという論点について,普通の読み方からして,ないのではないかという議論であったと思いますが,違う読み方もあり得るかと思います。ということも含めて,私は甲案ではなく乙案で,別の規定を楽しみにしている立場ではあるんですけれども,この3項と4項の関係をどう理解していくかということについては,今後議論をしていただければと思います。
○中田部会長 第3の2について幾つか御意見頂いているんですけれども,伺っていますと,自分は甲案なんだけれども,あるいは(注)の立場なんだけれどもという御意見が多くて,積極的に乙案をお採りになっているというお立場の方から,もし別の規定についてのお考えなどございましたら,お聞かせいただければと思うんですけれども。
○小野委員 先ほどの事務局からの説明は乙案の説明だったと思うので,別の規定というのは,今の目的信託,受益者の定めのない信託について,委託者の権利の見直しとか,又信託管理人の設置義務を強制化するとか,期間制限を場合によっては廃止するとか,それによって別のものを作っていこうというのが乙案であると,私は先ほどの事務局の説明で理解しています。他方において,(注)というのは,そういうことはもう一切触れずに,今後どうぞ解釈論に委ねましょう,要するに,附則も含めて今のままですというのが(注)の趣旨と思っています。そういう意味においては,沖野委員も含めて,乙案が支持されたような気はするんですけれども,いかがでしょうか。
○深山委員 今日以降の議論は,パブコメに付す形としてはどうかということを中心にということだったので,自説はあえて控え目に申し上げたんですけれども,私もやはり乙案のように,11章をそのまま適用するのではない規定がよろしいだろうと思いますし,既に出ているように,20年の期間制限の問題,それから信託管理人の問題,受託者要件の問題,あるいは先ほど中辻幹事がおっしゃったように,委託者の権限のところも,全く11章そのものという考え方はむしろ少数説なのかなと思っていたぐらいです。それをもう全く別の第3類型というふうにするのか,あるいは特則というぐらいにとどめるのかという問題は,もちろん沖野幹事がおっしゃるようにあると思うんですが,少なくとも一定の特則は必要ではないかと思います。
さらに,もう一つ言うと,解釈に委ねるという考え方もあり得るのかもしれませんけれども,やはり現行の解釈では主務官庁の認可がない公益を目的とするものは無効という考え方が主流のように思えますので,この部会の議論としては,そうはしないで,信託行為に一定の定めがあれば有効になるということについてはコンセンサスがあるので,この第3の2の前段をはっきりさせる意味合いは十分あるので,そうなると,そこから先はどうしても議論が分かれてしまえば書かないで解釈に委ねるというのもあり得るんでしょうけれども,もし一定の規律についてコンセンサスが得られるんであれば設けたほうがいいし,その点については11章そのものではなくて,その特則が必要とする乙案というのを,私は個人的に支持しております。
○中田部会長 ありがとうございました。
それでは,大体御意見を承りましたので,御意見を踏まえて更に事務当局の方で検討していただこうと思います。かなりの部分はゴシックの部分については御賛成を頂いているかと思いますので,幾つかの点について更に詰めをしてみるということになろうかと存じます。
それでは,続きまして,第4から第7まで御審議いただきたいと思います。
事務当局から説明をしてもらいます。
○舘野関係官 それでは,御説明いたします。
まず,「第4 公益信託の受託者」について御説明いたします。
本文1は,「公益信託の受託者の資格」について提案するものであり,本文1(1)の甲案は,「受託者が公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する法人であることを必要とするもの」,本文1(1)の乙案は,「受託者が公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する者(法人又は自然人)であることを必要とするもの」です。
本文1(2)は,受託者が自然人である場合の欠格事由を,「ア 信託法第7条に掲げる者に該当しないこと,イ 禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行を終わり,又は刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者に該当しないこと,ウ 信託法その他の法律の規定に違反したことにより,罰金の刑に処せられ,その執行を終わり又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者に該当しないこと,エ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者に該当しないこと,オ 公益信託の成立の認可を取り消されたことに責任を負う公益信託の受託者又は信託管理人でその取消しの日から5年を経過しない者に該当しないこととすること」を提案するものです。
本文1(3)は,受託者が法人である場合の欠格事由を,「業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しくはその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,(2)アないしオのいずれに該当する者がないこととすること」を提案するものです。
本文2は,「公益信託の受託者の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある信託の受託者の権限,義務及び責任と同一であるとした上で,受託者の善管注意義務については,軽減することはできないものとする」との提案をするものです。
本文1(1)の提案では,部会資料38の第4の甲案及び乙案と同様に,公益信託の受託者の資格を公益信託事務の適正な処理をなし得る法人に限定する甲案と,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する者であれば,法人に加え自然人も許容するとする乙案の両案を掲げています。税制優遇を受けることを視野に入れる観点から,特定公益信託の要件を定めた所得税法施行令第217条の2の規定等を参考として,受託者がその信託財産の処分を行う場合には,当該公益信託の目的に関し,学識経験を有する者又は組織の意見を聴くことを必要とするべきであるという考え方もありますが,そのような仕組みを委託者及び受託者に強制することは相当でないと考えられることから,(注1)で示すにとどめています。
なお,公益信託の委託者及び受託者が任意で(注1)のような仕組みを採用することを妨げるものではありません。また,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する法人との共同受託であれば,自然人を受託者として許容するものとする部会資料の38の第4の丙案は,(注2)に示すことにしております。
本文2の提案では,先ほど御説明しましたとおり,公益信託は信託法第258条1項に規定する受益者の定めのない信託と,その性質上,大きく異なるものであることから,部会資料39の第1の「目的信託の受託者の権限,義務及び責任と同一とする」という提案を「受益者の定めのある信託の受託者の権限,義務及び責任と同一であるとし」という提案に改めています。また,公益目的のために拠出された公益信託の信託財産の管理処分を行う受託者については,一定の資格が要求された上で,より信託財産の保全に重きが置かれるべきであるため,善管注意義務の軽減を許さない旨の強行規定を設けるものとする提案に修正しております。
その上で,今回検討すべき事項の(1)に記載しましたように,公益信託の受託者の資格として,法人であることの要件を設けるか否かについては,公益信託の社会的信用を維持するために信託法第40条の損失填補責任を果たせるだけの資力を受託者が有していることが必要となること,自然人受託者の場合には,複層的な組織による業務の執行,監督の仕組みを備えている法人におけるようなチェック機能が働かず,そのために複雑で費用の掛かる仕組みを公益信託に持ち込むということになりかねないこと,現在の税法において,信託会社以外の者が受託者となったときには,各種の優遇措置を与えられていないことからすると,受託者の資格を法人に限定しないこととした場合には,公益認定を受けることにより,税法上の優遇措置が与えられている公益法人制度と新たな公益信託制度が整合しない制度となる可能性もあることなどを踏まえると,将来的には公益信託の受託者として自然人を許容することが望ましいとしても,今般の見直しに際しては公益信託の受託者の資格を一定の固有資産を有する法人に限定するなどを本文1(1)の甲案に類似する案を採用することが相当ではないかと考えられるとしております。
公益信託の受託者の資格として,法人であることの要件を設けるか否かの検討は,中間試案に本文1(1)の甲案及び乙案の両案を併記するか,本文1(1)の甲案のみを掲げるかに関わる重要な部分ですので,特に御意見を頂ければと存じます。
なお,今回検討すべき事項の(2)及び(3)において,公益信託の受託者要件として公序良俗要件,学識経験及び信用等の要件は不要とする提案をしておりますので,御意見があれば頂きたく存じます。
次に,「第5 公益信託の信託管理人」について御説明いたします。
本文1は,「公益信託の信託行為には,信託管理人を指定する旨の定めを設けなければならないものとする」との提案をするものです。
本文2は,「公益信託の信託管理人の資格」について提案するものであり,「(1)委託者又は受託者若しくはこれらの者の親族,使用人等の委託者又は受託者と特別の関係を有する者に該当しないこと,(2)信託法第124条に掲げる者に該当しないこと」の2点を信託管理人が自然人であるか,法人であるかにかかわらず必要とした上で,「(3)信託管理人が自然人である場合には,先ほど受託者の欠格事由として述べました第4の1(2)に掲げる者に該当しないこと」,「(4)信託管理人が法人である場合には,業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しくはその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,(3)のいずれかに該当する者がないこと」を必要とするものとしています。
本文3は,「公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある信託の信託管理人の権限,義務及び責任と同一とした上で,信託管理人の権限は,信託行為の定めによって原則として制限することはできないものとする」との提案をするものです。
本文1の提案については,従前の提案から変更点はありません。
なお,第43回会議における佐久間参考人の意見を踏まえ,公益信託事務の規模等によって公益信託に事務処理及び会計の監査権限を有する者を設置しなければならないとの考え方を本文1の(注)として示しております。
本文2(1)の提案では,先ほどの公益信託の受託者と同じく,学識経験及び信用等を信託管理人が有することを新たな公益信託の成立の認可基準としておりませんが,受託者と信託管理人とで異なる扱いをする可能性もありますので,これらを信託管理人の資格とする考え方を本文2(1)の(注)として示しております。
本文3の提案については,先ほどの公益信託の受託者の権限,義務及び責任と同様に,部会資料39の第2の2(1)で,「目的信託の信託管理人の権限,義務及び責任と同等のものとする」という提案をしていたものを,「受益者の定めのある信託の信託管理人の権限,義務及び責任と同一とし」という提案に変更しておりますが,信託行為の定めによる信託管理人の権限を制限することは,原則としてできないとしている部会資料39の第2の(2)の提案は変更しておりません。
その上で,今回検討すべき事項の(1)に記載しましたように,公益信託の信託管理人が1年間不在となったことを公益信託の終了事由とするとの考え方を改めて示しましたほか,今回検討すべき事項の(2)では,新たな公益信託の信託管理人の権限を別表1のとおり整理しておりますので,これらについても御意見があれば頂きたく存じます。
次に,「第6 公益信託の委託者」について御説明いたします。
本文1は,「公益信託の委託者の行使できる権限は,受益者の定めのある信託の委託者の権限と同一とした上で,委託者の権限は信託行為により増減できるものとする」との提案をするものです。
本文2は,「公益信託がされた場合には,委託者の相続人は,委託者の地位を相続により承継しないものとする」との提案をするものです。
本文1の提案は,部会資料39の第3の乙案をベースに(注)の記載を統合した提案としています。
なお,信託法第260条第1項において,同法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託の委託者は,受託者の行為の差止請求権等を有し,それを変更することはできないと規定されていることを参考に,公益信託の委託者に対し,受託者の行為の差止請求権等の権限を強行規定として付与することも検討しましたが,公益信託について公益性を確保する観点からすると,委託者の権限を大きなものと位置付けている同法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託の委託者の権限を公益信託の委託者に付与することは相当ではなく,同法第260条第1項のような規定を公益信託に設ける必要なはいと考えられます。
その上で,今回検討すべき事項の(1)に記載しましたとおり,本文2の提案では,委託者死亡の場合の委託者の地位の承継について,公益信託の委託者が設定した公益目的と委託者の相続人との間では利益相反的な面があることから,設定の方法が契約か遺言かを問わず,委託者の地位の相続を禁止するものとしておりますが,本文2の(注)のように,信託法第147条ただし書を参考にして,信託行為で別段の定めがあるときは,相続人による委託者の地位の承継を認めるとの考え方もあり,この点は,今回新たに明示的な論点として取り上げたものですので,特に御意見を頂ければと存じます。
また,今回検討すべき事項(2)の委託者の権限を別表2のとおり整理しておりますので,御意見があれば頂きたく存じます。
次に,「第7 行政庁」について御説明いたします。
本文1は,「現行公益信託法第2条第1項及び第3条の規律を廃止し,公益信託の成立の認可・監督は,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,特定の行政庁が行うものとする」との提案をするものです。
本文2は,「現行公益信託法第10条及び第11条の規律を改め,公益信託事務が行われる範囲が1の都道府県の区域内に限られる公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁は都道府県知事とし,公益信託事務が行われる範囲が2以上の都道府県の区域内である公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁は国の行政庁とするものとする」との提案をするものです。
部会資料38の第5の1の提案に対して,第39回会議で異論はなかったことから,本文1の提案に実質的な変更はありませんが,現行公益信託法第2条第1項及び第3条の規律を廃止し,主務官庁による許可制を廃止することが前提であることを明示しております。
また,部会資料38の第5の2の提案から本文2の提案に実質的な変更はありませんが,現行公益信託法第10条及び第11条の規律を改めることが前提であることを明示しております。
○中田部会長 ただいま説明のありました第4から第7のうち,まず,第4と第5について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○吉谷委員 第4の1の(1)につきまして,2点発言させていただきます。
後ろの検討すべき事項として挙げられているところですけれども,これについては特に加える必要はなく,御提案のとおりでよろしいかというふうに考えております。
その理由のうち,資料16ページの(3)について更に述べさせていただきますと,ここについては少し議論がございましたが,この要件というのは,結論として,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力という要件に吸収されているというふうに理解しました。なので,ちょっと御説明の仕方ではあると思うんですけれども,学識や経験や信用等も含めた受託者の能力を行政庁と有識者委員会で判断するということなのではないかというふうに理解して,今回の提案でよろしいかと考えたところでございます。
2点目ですけれども,(注1)のところで,運営委員会等について御説明がされております。私が理解いたしましたところでは,ここの(注1)の内容というのは,受託者の資格についての議論そのものではなくて,運営委員会などの受託者あるいは信託管理人といったもの以外の機関を置くべきかどうかという議論であるというふうに理解いたしました。ですので,場所としてここにあるというのにはちょっと違和感がありまして,むしろ第9「公益信託の成立の認可基準」の議論ではないかというふうに考えております。
若干補足しますと,私どもとしては,公益信託事務処理や監督についての体制が整備されているべきというようなことを前から言っておりましたので,もし移されるのであれば,第9のところに(注)なのか案なのかはともかくといたしまして,もう少し一般的な書き方にした上で,この内容を盛り込んでいただくのがよろしいと考えております。
○中田部会長 ほかに。
能見委員,それから川島委員,深山委員の順にお願いいたします。
○能見委員 取りあえず第4についてだけ申し上げます。受託者の資格でございます。
一つは,まだ私の頭の中でもうまく整理できていないんですが,受託者の資格が問題となる場面は何かという観点からの発言です。これには2つあると思います。1つは,公益信託の認可を受けるときに,受託者としての必要な要件を備えているかどうかという観点からの問題と,もう1つは,いったん公益信託が成立した後,その後,受託者の資格という観点からの要件が満たされなくなって,それでその信託はどうなるかというときの問題です。両者はかなりオーバーラップするとは思いますけれども,完全には同じではないような気がしました。
そういう意味で,まず,問題点を今のように二つに分けたほうが分かりやすいのではないかと思うわけです。まず,認可の段階での問題というのは,受託者の資格の一部ではもちろんあるんですけれども,正にここに書いてある1の(1)のところの甲案,乙案に書いてありますように,公益信託事務の適正な処理をなしうる能力を有する法人であるとか,自然人を許容するのであれば,そのような能力を有する自然人であるとか,こういうのがある意味で一番上位というか基本となる資格の基準だと思いますが,この基準に基づいて,適切な受託者であるかどうかというのを判断する,これが恐らく認可の段階の問題だろうと思います。もちろん,そのほかに受託者の欠格事由に該当する事実があれば,それも公益認定の際にその受託者では駄目だということになるとは思いますが,1の(2)や(3)の問題は,認可の申請をする際に注意していれば避けられますので,あまり認可の段階で問題になることはないだろうと思います。これに対して,いったん公益信託が成立した後は,1の(1)で書かれている能力の問題ではなく,今度は,1の(2)や(3)が問題となるのではないかと思います。自然人である受託者が(2)で書かれている事由に該当することになった場合,例えば成年後見や保佐の審判を受けたりした場合に,公益信託はどうなるか,ということですが,この場合には,公益信託の認可が取り消されるのではなくて,適切な受託者への交替の問題になるのだと思います。法人受託者についての(3)についても同様です。
このように,受託者の資格が問題となる局面が2つあり,二つの問題というのを分けてパブコメにかけたほうがいいのかなというのが第1点でございます。
それから第2点目は,1の(3)についてです。これは受託者が法人である場合にこういうことに該当するような理事であるとか取締役などがいると,それは法人全体が受託者として欠格であるということになりますという話なわけですが,この点については以前に,この部会でも疑問の意見として申し上げました。改めてこういう形で中間試案として出てきたときに,違和感を感じます。現在の典型的な受託者である信託銀行について言えば,信託を受託しているのは法的には信託銀行という法人ですが,受託者としての業務はその全体の業務の中の一部でしかない。銀行そのものとしては,いろいろな業務を行っている。そういう銀行の取締役の一人が,信託の業務に関与していない取締役が,例えば金融犯罪を犯したというようなことは,当然に受託者の資格というものを失わせることになるのだろうか。正に吉谷委員が言われたように,そういうことがあったことも考慮して,銀行全体としての受託者の能力がなくなるのかどうかという判断がされるべきなのだろうと思います。
ですから,ちょっとこの(3)の書き方は,これは受託者が自然人の場合とある意味でパラレルに書かれていて,これもおかしいと思いますけれども,もう少し今述べたような趣旨が伝わるような形の問いかけ方にしたほうがいいのではないかということでございます。
○川島委員 ありがとうございます。
第4の1「受託者の資格」について賛成であることを前提に,16ページの(2)公序良俗要件について一言申し上げます。
私は第38回会議で,公益信託の受託者が社会的信用を維持する上でふさわしくない,又は公の秩序や善良の風俗を害するおそれのある事業を行っていることを不適格事由とすべきとの意見を申し上げました。公益信託の社会的信用を維持するためにも,このような規律が望ましいという考えに変わりはありませんが,他の委員や幹事の御意見にありました公序良俗を害するおそれがあることを認定の段階では判断できないのではないのか,また過剰な規制となる可能性があるとの指摘も否定し難いと考えました。
そこで,(2)の最後に記載されている公序良俗に反する事業を行っていることを受託者の法律上の不適格事由とするまでの必要はないとの考えについては,部会におけるこれまでの議論の積み重ねを踏まえた中間試案の内容として受け止め,異存ないことを申し上げます。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
○深山委員 第4の1のゴシックのところで甲案,乙案という形で自然人の受託者の余地を認めるかどうかということを両論併記をしていただいておりますので,これについて,このとおりパブコメに付していただきたいと思います。
先ほどの事務局の説明で,乙案を残すかどうか意見が欲しいということでしたので,ストレートに答えるとしたら,是非とも残していただきたい,残すべきだと私は思います。私が乙案論者だということは今さら申し上げるまでもないですけれども,必ずしも私一人の意見でもないというふうに私は理解しております。この場で多数かどうかはともかくとして,パブコメに付して,国民一般の意見を是非尋ねたいと思います。そういう意味で,是非乙案を残して聞いていただきたいと思うんです。その上でというか,その延長線上の問題なんですけれども,補足説明が,これはパブコメに付されるときにどういう形で,このとおりの補足説明になるのかどうかは,必ずしもそうじゃないのかもしれませんが,少なくとも今日頂いたたたき台⑴の資料を見ると,ゴシックではニュートラルに甲案,乙案を並べていただいていますが,この補足説明は明らかに甲案を推薦しております。同じぐらいの量で乙案の根拠も挙げていただくんであれば,ニュートラルで公平だと思いますが,このような形で書かれると,素直に読んだ人は甲案でいいですよねというふうに聞かれているというふうに考えてしまうと思います。
しかし,そこは最終的にはもちろん総意で決めるべきことなので,最後の最後までこだわるというふうには申し上げませんけれども,少なくとも聞き方としてはもう少しニュートラルに,例えばガバナンス一つとっても,こういう考え方はもちろんあるでしょうが,いやいや,法人だからといって常に個人よりもガバナンスが利いているという保証はないじゃないかという意見だってあるでしょうし,一つ一つ挙げれば,同じような反論は乙案からもできると思っていますので,この説明についてはもう少し公平,ニュートラルにお願いしたいということであります。
それから,もう1点,第5について,内容的には異存はないんですけれども,1年間,信託管理人が不在になったときのことについて補足説明の中で問われていまして,やはり1年間,必置の機関が不在というのはよろしくないと思うので,終了事由とすることによって,そういう事態を避けるような仕組みにしたほうがいいと思うんですけれども,従前の議論ですと,信託の終了事由というような形で項目が上がって,そこの一つとして取り上げられていたかと思うんです。このたたき台⑴の第1から19までの中には,終了事由というのをストレートに取り上げていない関係で,ここで取り上げるのであれば,もう少しゴシックのところに格上げというか,何らかの形で明示していただいて,それについて異論がないかどうかをパブコメに付していただいたほうがいいのかなということをちょっと申し上げたいと思います。
○中田部会長 樋口委員,平川委員,林幹事の順に御意見を頂きたいと思いますけれども,今までのところでも幾つか御提言,御質問が出ておりますので,いったん事務局の方から御発言いただきたいと思います。
吉谷委員,あるいは能見委員,そして今,深山委員から幾つかの御質問と申しますか,御提言があったかと存じます。
○中辻幹事 能見委員がおっしゃられたように,第4の1(3)では,受託者が法人である場合について,社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しくはその職務を行うべき社員と規定しているところ,この中の一人でも金融犯罪を行ったときに受託者の任務終了事由になるのは少し厳し過ぎるのではないかということは従前の部会でも御指摘されており,一つの合理的な考え方であると思います。ただし,私どもが主に参考にしている公益法人認定法なりその他の法律を見渡しますと,信託銀行を特別扱いしていないことはもちろんですし,法人について今のような例を除く規定を設けているものが見当たらなかったことから,ゴシック本文では一般的な書き方をしているということでございます。
○中田部会長 あとは認可を受けるときの要件と,それから事後的な要件の欠如とを分けたほうがいいのではないかとか,あるいは終了事由について,今のと関係しますけれども,もう少しまとめて明確にしたほうがいいんじゃないかというような御提言も頂いておりますが,それは更に検討するということになりましょうか。
○中辻幹事 そうですね。能見委員から御指摘ありましたとおり,受託者の資格については,その信託の受託者が資格を欠くことによって信託の設定自体が無効になる場面と,信託の設定後に受託者が資格を欠いたことにより受託者の任務終了事由となるけれども信託自体は有効に維持される場面の二つに分けて考える必要がございます。
その上で,第4の1にあるような公益信託の受託者の資格要件については,受託者が行政庁に対する認可申請のときにこれらを欠いていれば認可を受けられないし,仮に認可を受けたとしてもその公益信託は無効になる,公益信託の成立後にこれらを欠いた場合には受託者の任務終了事由になると事務局として一応の整理をしてはおりましたが,能見委員の御意見をもう少し詳しく伺えれば有難いと思います。
もう1点,深山委員から公益信託の終了事由についてゴシックに掲げるべきであるという御意見を頂きました。事務局としては,公益信託の終了事由について基本的には信託法163条の規定を同条2号以外は適用するのだけれども,同条9号の信託行為において定めた事由も終了事由とするかどうかについては詰めて検討したいというスタンスで変わっておりませんが,いずれにせよ公益信託の終了事由のような重要論点についてはゴシックに掲げることは十分あり得ると感じましたので,更に検討させていただきます。
○能見委員 一つは,あんまりこれはここでこだわるつもりはないのですけれども,公益法人の方の法制と,公益信託といいますか,信託の仕組みというのはやはり違うところがあると思います。信託銀行などの大きな法人が受託者である場合は特にそうだと思いますけれども,法人の全人格を使って信託の受託をしているわけではなくて,法人組織全体の一部で信託をやっているだけだと思いますので,たしかに取締役は全ての業務を監督していなくてはいけないということは言えますけれども,公益法人の中の理事などが欠格事由に該当した場合に,その公益法人の解散事由になるというのとはちょっと違う構造になっているのだろうというのが一つです。
それから,成立の段階ないし認可の段階とその後というのを分けるというのは,先ほど言い忘れたのですけれども,深山委員が言われたので,それも追加したいと思います。すなわち,認可の段階で一番重要な問題は,やはり公益信託の受託者として自然人も許容するかどうかという問題だと思います。これは正に認可の段階の受託者の資格の問題として検討すべき課題です。この問題について,どちらかの立場をとった上で,次の段階で,公益信託として認可された際の受託者が,その後何かをしたときにどうなるかということが問題となります。ここでも受託者の資格が問題とはありますが,問題の性質がかなり違うので,中間試案でパブリック・コメントを求める場合に,この点をよく理解してもらうために分けたほうがいいのではないかというのが一番私の言いたかったことの中心部分です。
○中田部会長 ありがとうございました。
それでは,先ほど挙手を頂いておりました順に樋口委員からお願いします。
○樋口委員 私は第4について,二つ,三つ,ちょっと考えを申し述べますけれども,前提として,これでパブリックコメントに付すためにどういうやり方がいいかというので,議論をそこへ集中してくれというお話なんです。これだけの労作だと思いますけれども,これはパブリックの一人として読んで,これでどう判断すればよいか理解しにくい部分があります。今まで出てきた中で最もわかりにくい,例えば私が分かりにくいのは,第3の先ほどの公益信託の信託法258条うんぬんをどうするこうするという甲案,これなんかはパブリックは分からないですね。だから,どういう形で提示したらいいのかというのを考えていたんですけれども,私はパブリックコメントのとり方も知らないから,ちょっとこれから無知をさらけ出しますけれども,とにかく目的は設定されたという点を強調することが大事だと思います。この目的についてもパブリックコメントの対象になるんでしょうけれども,とにかく民間による公益活動の健全な発展を促進しという話ですね。そうすると,そのためにはどうしたらいいのかなという話で,例えば第4のところだけ申し上げますけれども,これはやはり,まず,受託者は法人にしておいたほうがいいよねというのか,そうじゃなくて,自然人もまじえたほうがいいのかなということでパブリックコメントをとるというのがいいんじゃないかと思うんですね。
そうすると,深山委員がおっしゃってくださったように,私なんかは,法人だから信頼できるというエビデンスはない,ガバナンスという形だけはあるけれども,しかし,信託の方だって一種のガバナンスをとろうと思えばとれるわけで,たとえば複数の自然人という形とか,法人との共同受託とか。だから,やはり受託者のところは広い選択肢を広げておいて,それは健全な発展につながるということが望みなんですけれども,そのほうが今後公益信託が発展する方向にはいくんじゃないかな,増やそうと思うんだったら,ここで狭めることはないんじゃないかなというような気が本当はします。これが第1点です。
同じように,部会資料43の13ページの一番上にある部分です。ここなんかは問題にならないみたいなんですけれども,受託者の権限,義務及び責任というので,受託者の善管注意義務については軽減することはできないものとする,これなんかも,考え方によっては公益信託を広げるためには,公益信託の受託者になる人には重い責任を課さないほうがいい場合もあるんですね,本当を言えば。それは考え方です。私がそれを採るかどうかは別としてですけれども。それで,まさかここは,この善管注意義務については軽減することはできないが,責任を軽減することはできるというふうに読んでいいんですか,それはそうじゃないですよね。だから,義務はきちんとしたもので,義務違反はきちんと問うのだけれども,最終的な責任は,あなたが一生懸命やっていたというんだったら問わないというか,そういうことができるというようなことではないと思うんですけれども,そういうのはもっとはっきりしたほうがいい。だから,先ほどの健全な発展という意味では,受託者の権限,義務及び責任を簡単に任意規定にしてしまうわけにはいかんのかなというふうに,私も何だか急に保守的に考えているんですけれども,その上で2点目は,忠実義務はどこに行ったんだろうということなんですね。受益者その他についての忠実義務と信託法に書いてあって,公益信託には受益者はいないんだから忠実義務が働かないなんていう理屈は,私にはちょっと考えられない,本当は。それとも,ただ忘れているだけなのか,あるいは善管注意義務の中に,ここは忠実義務も含めるという話なのか,ちょっとここは質問なんです。
三つ目は,この受託者の資格でネガティブなことが書かれてありますよね。結局,こんな悪いやつはなっちゃいかんよという。何かやはり健全な発展というので,健全にだからこういうことを書かんといかんのでしょうけれども,それよりも,ごく普通の人が公益信託というのが,あんたを信頼してとにかくやってみようと言われたときに,すごく困ると思うんですね。受託者になったらどんなことになるんだろうというので,これはちょっと別のところにも書いたんですけれども,イギリスの話だけれども,例えば年金の受託者というのになった場合には,やはり研修義務なんかがあるんです。一体,受託者になるということはどういうことなのかというような話を公益信託で,こういうところで書くのがいいのかどうか分からないんですけれども,受託者というのはこういうことがあるんだよと,いわんや,ここで強行規定にするとか言っているんだったら,紙の上で強行規定にするというだけではなくて,強行規定になるということはどういうことなのかという,その善管注意義務。ただ,あんまりおびえさせると誰も受託者になりようがなくなるから,ごくリーズナブルな話にしてもらいたいと思うんですけれどもね。それで,こういうリーズナブルなことだけきちんとやっていれば,それは善管注意義務に違反することもないし,本当に自分の利益を図るみたいなことをやらなければ,ごく普通にきちんと,先ほどの公益的な事務というのを普通にというかな,果たしておいてくれればいいんです,こういうのはアウトですというような研修を義務付けるようなことは,むしろ公益信託だから必要なんじゃないかなというふうに思って,今日聞いていました。
○平川委員 第4「公益信託の受託者」につきましては,乙案に賛成します。
ただし,自然人のみの場合,少なくとも3名の受託者を要するという要件を唱えた人がいたというのを注記していただきたいんですけれども,自然人を排除するという考えにつきましては,信託先進諸国でも英米でも個人というのは認められており,特に弁護士は,他人から信託を受けることはそもそもの職務の内容と密接な関連性と親和性があり,弁護士が受託者資格を有さないとすることは,職能的に不条理であると思います。また,不祥事が生じた場合に,自主規制団体である弁護士会も懲戒権を有しております。したがって,弁護士ではなくても,このように信託を受けることについて親和性があるような職業につき,また自主規制団体,懲戒権があるような団体に属している者も可能性はあると思います。
ただし,自然人であることから,複数人数で受けることを要件とすべきことは必須であると考えます。突然死のことなどを考えれば,1名で受任ということは無責任であり,あり得ないと思います。また3人いれば,損害賠償責任を受ける場合にも連帯債務を負うと思いますので,何とかやっていけるのではないかと思います。
次に,受託者の公序良俗要件につきまして,先ほど川島委員より,入れないことについて納得したという御意見がございましたけれども,やはり公益認定法第5条第5号の要件と同じような公序良俗要件を資格要件とすべきであると考えます。仮に資格要件とすることに無理があるというのであれば,何らかのほかの方法でもよいから規制の中に入れていただきたいと思います。
学識経験,信用等の条件を規定しないことには賛成します。
また,たたき台の第4の1の(注1)において,運営委員会の設置について,必置とすることはここで不要としておりますが,私どもが従前より述べておりますのは,財産処分の場面のみならず,受託者と信託関係人の選解任など,信託のガバナンスを保つ上で必須の機関とすべきことにつき申し上げておりますので,ここで再度申し上げたいと思いますし,また,第9のところで十分に議論していただくのであれば,大変有り難いと思います。
次に,第4の2の受託者の権限,義務,責任ですけれども,これには賛成いたします。
権限,義務,責任は,私益信託のそれと同一とした上で,かつ善管注意義務の軽減は認めないとする考え方に賛成します。信託法第258条1項に規定する受益者の定めのない信託,いわゆる目的信託との関係が絶たれたことから,受益者の定めのある信託の受託者の権限,義務及び責任と同一とされたことは好ましいことであると考えます。
その上で,公益信託の受託者の善管注意義務は,公益目的のために拠出された公益信託の信託財産を預かり,それをもとにして公益信託事務を行う権限と義務があることから,非常に大きいものと言えます。したがって,公益信託の受託者に対しては,信託業法の適用を受ける受託者や会社法上の取締役等と同様に善管注意義務の軽減は認められるべきではなく,法律上もそれを強行規定とすることに賛成します。
第5「公益信託の信託管理人」の1について,本文について賛成します。(注)につきましては,公益信託法で規定すべき事項ではなく,公益法人制度の場合と同様に公益認定あるいは認可申請のガイドライン等で示すべき事項ではないかと考えます。
第5の2につきまして,公益法人制度の法律及び経験から考えまして,1から4の資格要件で十分であり,(注)に記載された積極要件は必要ではないと考えています。
第5の3につきましては,基本的に賛成します。
信託管理人の権限,義務,責任を受益者の定める信託管理人と同一とし,原則として制限不可とすることについては,個別の権限を更にチェックすることを前提として賛成します。本文には記載されていませんが,たたき台19ページから20ページに記載の信託管理人の不在が1年間継続した場合において,それを強制的取消事由とすることには反対です。公益法人制度と同様に,その不在はしかるべき期間に治癒すれば足り,その意味では行政庁による任意的取消事由であるべきと考えます。
また,信託管理人の権限に関して,別表1の△記載の欄は×とすべきではないかと考えます。利益相反行為,信託財産の状況に関する書類の報告,受託者の任務終了,併合・分割による一定事由,これらは信託管理人が受託者を監督する上で重要な事項であり,これらの通知受領権は信託行為で任意に定められるようにすべき事項ではないと考えますので,×として提示すべきと考えます。
○林幹事 第4と第5につきましては,御提案について,中間試案をパブリックコメントに付するという,そういう趣旨においては基本的には賛成いたします。
主として第4の1の乙案のことを申し上げたいのですが,その前に細かい点について申し上げます。第5の今回検討すべき事項となっているところで,信託管理人が1年間不在でどうなるかということについては,1年で終了であったり,取消しであったり,1年とするべきではないなど,考えはいろいろあると思うので,これは中間試案に格上げすることを検討していただければと思います。
それから,第5の補足説明(2)の別表1のことについては,弁護士会で議論した中では,△のところは,△ではなく×とすべきだという意見もそれなりに出たので,そのことについてもパブリックコメントでも△か×かを聞いていただくような形に,中間試案に格上げしてもよいのではないかと思います。
それから,問題の受託者の資格の第4の1(1)の乙案についてなのですが,パブリックコメントとしてこのように聞いていただくことは理解します。ただ,乙案を残すかどうかという形でおっしゃられたので,それはもう必ず残していただいて,パブリックコメントに付していただきたいです。もちろん乙案に賛成だからということではあるのですが,先ほど深山委員が言われたのと同じで,今回の補足説明は理解するとして,パブリックコメントではニュートラルに是非書いてくださいということです。
それで,今回の補足説明にこう書かれているので,反論しないといけないことになりますが,例えば不特定多数を対象とするから信託事務遂行に社会的影響が大きく,自然人が受託者として何かがあって損失が填補されないような事態となったら,公益信託の社会的信用性が失われるという御指摘もありますが,結局,公益信託もいろいろな規模のものを想定しているので,その影響というのも大小様々ですし,そういった弊害を考えるのであれば,その自然人に合った規模の公益信託を考えるとか,あるいはガバナンスを更に適正に利かせるような工夫をするとか,特に今回は信託管理人を設置しているわけですから,そういう観点からの対応も可能だと思います。
自然人において,その信託財産の規模を一定程度制限するとかいうのもあり得るのかという気はしますが,ただ,一律に自然人は排除するということは,公益信託の拡大や,広く利用してもらおうとする点に反すると思います。法人であれば不正な目的での利用を制御できるかという点については,必ずしもそうではないということは深山委員や樋口委員がおっしゃるとおりだと思います。
それから,自然人を受託者にするから逆に複雑にしてしまうのではないかという,そういう類いの指摘もあるのですけれども,それは規模によるし,状況にもよります。今回,助成型と事業型で収支相償原則の適用等について異なるものとする提案もされています。いずれにせよ,自然人に見合ったものというのを受託していくということは間違いないように思います。とすれば,それをどう取り込んでいくのか,法の外で考えるのか,その点はいろいろ工夫ができそうな気がします。また,コストにおいてもそうで,自然人が複数であったり,自然人と法人の組み合わせというのを考えたときに,法人と比較して,どちらがどうコストが高いかどうかというのは,それはやってみないと分からないことではないかと思います。
あとは,現在の公益信託の受託者がほとんど信託会社であるとか,あるいは税法上のことや,優遇措置のことが書かれていて,それなら法人でなければ,自然人では難しいのではないかという御指摘もありますが,繰り返しになりますが,今回この法改正で公益信託をより広く利用してもらえるものにしようということをやっているわけですから,自然人に広げないと今と変わらないものとなる可能性もあります。それで,法人と言っていても,結局,信託会社,信託銀行に限られてしまう可能性はあります。特に,ここで乙案を否定するという理由で指摘されているものは,公益法人にもそれなりに妥当するものもあるわけで,そういう観点から言うと,現状と変わらない可能性があります。やはりこの法制審で目指していること,軽量軽装備の公益信託をもっと利用してもらおうという精神に反してしまうのではないかと思います。
ですから,少なくとも乙案も掲げてパブリックコメントには付していただいて,乙案もニュートラルにきちんと平等に書いていただいて,中間試案を作っていただきたいと思います。やってみないと分かりませんが,個人的に言うと,民事信託自体に,それなりに世の中的にも注目が集まってきているので,公益信託についてもそれなりにリアクションがある可能性があるので,そういう中でやはり公益信託の利用を広げるために,個人も受託者となったほうがいいんだという意見がパブリックコメントでそれなりに出てくる可能性は,私はあると思います。
もう1点は,現行法と比較して考えたとき,認可基準の問題はありますが,現行法においても自然人は受託者になれるのであり,業法のことも気にしますけれども,少なくとも,例えば無償で一回的なものとか,反復継続ではなければ今でも受託者になれるわけですから,現行法上可能なことをここで遮断してしまうというのはおかしいし,もったいないと思います。将来の可能,広がりというものを遮断してしまうのはよろしくないと思います。
最後に,こういう場合は公益信託を使えそうだという事例があったので申し上げますと,最近,遺言とかの場面で,子供さんがいらっしゃらないような場合は,寄附とかをしたいという方がそれなりにいらっしゃるようです。寄附はいろいろタイプはあるし,額にもよるし,奨学金をやりたいという方もいらっしゃるようなのですけれども,今はそれは多分,公益法人等に依頼していろいろやっているんでしょうけれども,正に公益信託であれば絶対使えると思います。規模によってはそれは受託者が自然人であれば,より簡便にできるのではないかと思います。
テレビとかの情報ですけれども,相続の資産の規模は50兆円ぐらいあるけれども,そのうち寄付をしたいシニアは2割程度はいるようで,現在はそのうち現実に寄付されるのは数%程度にとどまるとの指摘もあるようです。そういうものに公益信託がなお使えるようになれば,社会にとっていろいろな意味でプラスになるので,[HK3]パブリックコメントでは乙案はきちんと残していただいて,補足説明もニュートラルに書いていただきたいと思います。
○中田部会長 それでは,まだ御発言のない小幡委員,そして新井委員,小野委員,そして平川委員の順にお願いします。
○小幡委員 今,林幹事の話にもあったのですが,第4のところ,16ページの3行目のところで税法との関係が書いてありますが,税法のことは後でついてくるものだろうと思われるので,なかなかどちらを先に,どういう議論をするかは非常に難しいところです。今の書き方ですと,現状は信託会社に限定されていて,それ以外に税制優遇を取るのはなかなか難しいことを前提にしているようですが,いずれにしても,新しい公益信託になったときに,税法上は働き掛けをして,優遇をとれるようにということをしなければいけないと思うので,そこはその制度が固まった後,どのようにやっていくかという話になると思います。現実的にはよく分かるのですが,しかし,そうはいっても,林幹事がおっしゃったように,公益法人とは違うものができているわけなので,自然人は全く駄目というようにするのも,同じようなものが並ぶことになり余りよくないという感じはしますので,余りここで,多分税法が駄目なので法人しかできないと書いてしまうのは,これから先,もっと頑張って税の優遇をとるように,これからやらなければいけないという面がありますので,多少引き過ぎかなという感じがします。
○新井委員 受託者の資格ですけれども,私は甲案を支持いたします。
ただ,甲案を支持するといっても,その法人を現行のように信託銀行と信託会社に限定するということではなくて,やはり受託者は拡大していくべきであり,どういう法人が職務遂行に耐えられるのかということを考えてみる必要があると思います。例えば弁護士法人なり,司法書士法人なり,税理士法人というものが受託者になった場合,受託は恐らく1回だけではないでしょうから,反復継続することになりますので,当然,信託業法の規制が掛かってくるわけですね。ですから,ここで甲案を支持するといって,信託銀行と信託会社よりも拡大するときに,どういう法人が新たに登場するのか,そのときの法的対応をどうするのかということをきちんと考えておくべきだと思います。
それから,乙案の自然人については,弁護士の委員・幹事の方々が「自然人でも構わない」と言われると,これは弁護士を受託者にすることを推奨している主張ではないかと考えてしまうのですが,前にも議論がありました能力担保はどうするのでしょうか。司法書士,税理士はどうなのかという問題も出てくると思います。
先ほど民事信託の話がありましたが,民事信託では委託者,受託者,受益者の三当事者が全て親族ですね。そういう公益信託が行われた場合に,一体適正な処理ということがそもそも可能なのかということで,ここでも能力担保ということがあると思います。ですから,私は甲案を支持しますけれども,パブリックコメントとしては甲案,乙案,両方提示していただいて結構です。
ただし,それぞれどちらが採用されても,現行の受託者を拡大する場合の具体的な対応については,あらかじめきちんと準備しておいたほうがいいと思います。
それと,信託法7条の欠格事由が挙がっていますけれども,これは今,内閣府の方で成年後見制度の利用促進が検討されており,成年被後見人等の欠格事由の見直しが議論されていることとの関係で,パブリックコメントを出すときには御留意いただきたいと思います。
○小野委員 第4の乙案についてお話ししたいと思います。今ほどの皆さんの意見と重複しないように,なるべく簡潔に意見を言いたいと思います。
まず,法人がふさわしいケース,自然人がふさわしいケース,自然人の中でもより専門,一般の人というよりも,弁護士とかの専門家がふさわしいケース,いろいろあるかと思います。従来の議論では,正確に把握しているわけではありませんけれども,事業型の場合に,美術館と学生会館がよく取り上げられてきたような気がするんですけれども,特に美術館といったとき,我々は何か根津美術館とかブリヂストン美術館みたいなものをつい想像してしまいます。しかし,仮に弁護士又は美術の専門家が自然人として受託者になるような場合というのは,別に信託財産として建物としての美術館を運営するとかいうことではなくて,1枚又は複数枚の著名な絵画あるいは鑑賞する価値のある絵画を信託財産として受託し,それをどこかの美術館に貸すとかいう形で多分行われることになると思います。ですから,是非事業型の受託者として自然人がふさわしいような事例も書いていただかないと,先ほどの樋口委員のお話のように,一般の方が見たときに,美術館は法人だろうみたいに思われてしまうと,ちょっと議論の前提が違ってしまうと思います。それぞれ適性があるという観点からは,当然乙案であるべきだと思います。
それから,今の新井委員のお話とも関連するんですけれども,学識経験及び信用等の要件については,今回は要求しないという話なんですが,やはり法人にしろ,特に自然人の場合は,定性的要件が必要だと思うんですね。誰でもいいから,犯罪者じゃなければどうぞというわけにはいかないと思います。学識経験,信用という言葉は,他の法律等で使われている用語ですから,この用語を使いつつ定性要件を,ある意味では申請する側が立証していくと,疎明していくということで,行政庁に納得してもらうということもあっていいと思います。このように,自然人で誰でもいいというのではとんでもないことになるじゃないかという議論もありますし,先ほどの深山委員の話にもありましたとおり,乙案を否定する意見があった後に反論する機会が与えられていないので,それぞれについてこういう議論もあるということで,今まで他の委員幹事の方々がおっしゃったようなことも,是非含めていただきたいと思います。
特に,契約を守るということを損害賠償の支払資力の観点からのみ議論していまして,それで法人はふさわしいんだというのもかなり論理の飛躍があります。契約を守る,善管注意義務を果たす,受託者としての義務を果たすという観点からは,損害賠償の支払資力の問題は一部にすぎず,本当に契約を守るかどうかということが重要ですし,その他いろいろ反論は可能と思います。
受託者としてやはり弁護士はふさわしいと思うし,それは他の専門家でもいいと思う状況もあります。今後,公益信託は日本全国津々浦々に広がるものだと思うんですね。その場合に法人が津々浦々に存在するかというと,東京とか大都市を前提とすれば,いろいろあるじゃないかということかもしれませんけれども,それぞれの地域のそれぞれの公益信託にふさわしい受託者というものが,場合によっては法人であるかもしれませんけれども,自然人として適切な専門家がいる可能性は,自然人ですから,日本各地に広がっていますし,そういう方が公益信託の受託者としてふさわしいと思います。そういうロケーションとか,人の分布とか,今後の利用可能性という観点も,是非この乙案のもつプラスの意味という観点で加えていただければと思います。
○平川委員 小野委員が言ってくださいましたので結構です。
○中田部会長 乙案についての補足説明は,冒頭にもございましたように,これは必ずしも中間試案の補足説明ではなくて,今日議論を詰めていただくということで,従来,乙案のメリットが強調されていたわけですけれども,検討すべき点を更に今回出していただいたということかと思います。それについて,本日様々な御意見を頂いたということを踏まえて,中間試案に向けて練り上げていくということになろうかと存じます。
ほかに,第4,第5について。
山田委員,その次に吉谷委員,お願いします。
○山田委員 第4と第5について,共通することを一言お話ししたいと思います。
中間試案になったときの補足説明を御検討いただきたいという趣旨のことです。受託者の権限,義務及び責任というのが第4にあります。それから,信託管理人の権限,義務,責任というのが第5の3にございます。そこで受益者の定めのある信託の受託者又は信託管理人と「同一とした上で」と説明されているのですが,信託法について十分な知識,理解を持っていらっしゃる方はここで意味しているところが分かりますが,そうでない人たちも名宛人になり得ると思いますので,全部補足説明で書き切るというのは難しいのかもしれませんが,もう少し手掛かりというか,条数を分けるとか,何かそういう工夫をしていただけるといいように思います。
信託管理人の権限については,別表があって詳細な検討が加わっておりますが,それ以外のところは知っているということを前提に進めていただかないようにお願いをしたいと思います。
○吉谷委員 第5の信託管理人について,3点申し上げます。
1点目は,もう深山委員がおっしゃっていただいたことで,信託管理人の1年間の不在によることを公益信託の終了の強行事由としないという意見があることについてはゴシックのところで何らかの形で出していただければということを,それに賛成する側の意見として申し上げたいと思います。
2点目は,第5の2(1)の(注)について,不要ではないかという御意見がございました。ここについては,このような表現である必要はなく,むしろ受託者の能力要件のところと同じような記載であるほうがよろしいと思いますが,信託管理人について能力要件が必要であると考えておりますので,そのような趣旨で残していただけたらと思います。
最後,3点目です。別表1のところにつきまして,×と△がございまして,×ばかりでいいのではないかという御意見もありました,ここは△を残したほうがいいと考えております。△の付いている事項については別段の定めを信託行為に許す余地があると思いますので,そのような内容でパブリックコメントで意見を出していただければよろしいのではないかと思います。×ばかりになってしまいますと,何が違うのかというところが分かりませんので,△を出すことによって意見が出てくるというようにも考えております。
○中田部会長 ただいまの2点目ですけれども,第5の2の学識要件について,受託者と同じだけれども,信託管理人は必要だということでしょうか。私の誤解かもしれませんが,もう少し補足をお願いできますでしょうか。
○吉谷委員 第4の1のところだと,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有することというのがありまして,信託管理人の方には,それに対応する項目がありませんで,公益信託事務の適正な監督をなし得る能力を有することでも何でもいいと思うんですけれども,何かそういうような能力要件についての記載が必要ではないかというふうに考えました。
○中田部会長 分かりました。
○神田委員 てにをは的なことで恐縮ですけれども,1点だけ。
第4の1(3)ですけれども,業務を執行するという言葉が社員にだけ掛かるのか,理事,取締役にも掛かるのか。「若しくは」というので明らかだという趣旨かとは思いますけれども,重要な点なので明確にしていただければと思います。
○中田部会長 それでは,その点,検討していただきます。
ほかに。
○小野委員 別表1に関連して,大分以前にも議論したところなんですけれども,限定責任信託におけるという表現がありまして,私の理解としては,限定責任型の公益信託というものも認められるべきであり,その場合には,限定責任信託に関連する条文の中で受益者という言葉が出てくる条文もあるように見受けられなくもないので,それに対応する改正も必要かなと思います。先ほどの樋口委員の発言でもありましたけれども,善管注意義務とは少し側面は違いますけれども,個人が全資力を損害賠償義務に向けて,賠償義務の担保として受託者となるという必要も,逆に有限責任の法人と比べると個人は随分不利な状況に置かれてしまいますから,限定責任型の公益信託というものも認めていただきたく,この表でそういうことが書かれていることでほっとしたんですけれども,今後とも維持していただければと思います。
○中田部会長 第4,第5については大体よろしいでしょうか。
ここまでのところで,もしございましたら。
○中辻幹事 樋口委員からは,国民一般に分かりやすい中間試案とするようにというご指示を頂いたものと受け止めましたけれども,その中に御質問も含まれておりましたので,それだけお答えしようと思います。
まず,善管注意義務の軽減は認めないが責任の軽減を認めるということはありません。義務と責任はセットとして捉えております。また,この部会資料では公益信託の受託者の忠実義務について明示的に触れておりませんが,樋口委員と同様に,事務局としても,公益信託の受託者は信託目的の達成のための忠実義務を負うという理解をしています。その上で,従前は忠実義務及び善管注意義務のいずれも任意規定とする旨の提案をしていたのですが,第39回会議で沖野幹事から新信託法を制定するときに受託者の忠実義務と善管注意義務を任意規定としたのは別の理由に基づくという指摘があり,神作幹事からは会社法の取締役等の善管注意義務は強行法規だと解されていることについての紹介もされ,それらを踏まえて今回の部会資料では,公益信託の受託者の善管注意義務を強行規定とする提案に改め,受託者の忠実義務は任意規定とすることを維持しているものでございます。
あと,道垣内委員から事前にこの論点についてメールで質問を頂いています。これも該当部分を読み上げますと,「第4の2につき,不認可となったときには,このルールは適用されるのでしょうか。不認可だと全く本法と関係がなく,制約をかける理由がないように思います。第5の1についても同様。3についても。」というものです。これにお答えすると,事務局としては,申請された公益信託が不認可の処分を受けた場合には,第4の2や第5の1及び3のルールは適用されないという整理をしているということでございます。
○中田部会長 第4,第5について,よろしいでしょうか。
それでは,まだ第6,7は残っておりますけれども,時間が大分たっておりますので,ここで15分間休憩を挟みたいと思います。4時10分まで休憩したいと思います。
(休 憩)
○中田部会長 それでは,時間が来ましたので再開したいと思います。
第6と第7について,併せて御審議お願いいたします。御自由に御発言ください。
○吉谷委員 第6について発言させていただきます。
第6の1の提案でございますが,提案としては,前回の甲案の方がよろしいのではないか,利害関係人の方がよろしいのではないか。あるいは,甲案か乙案かということが,あえてパブコメするような内容でないということであれば,委託者の権限は任意規定で,信託行為の定めによって受託者の定めのある信託の委託者の権限と同一まですることができるというような趣旨の内容にしていただいたほうが良いと思います。
その理由は,一般の信託というのは,委託者がいて,信託の仕組みの変更について判断する,判断に関わるというのが確かに原則なんですけれども,公益信託の場合は,内部ガバナンスの担い手として,委託者が存在しないでも成り立つような仕組みでないといけないと考えています。ですので,パブコメのときには,委託者がいなくても機能します,でも,委託者を加えることもできますという形の提案にしていただいたほうが良いと考えているので,このような提案をさせていただいているというところです。
そのところは,個別には,後半の第12以降のとこら辺で出てまいりますので,またそこで述べさせていただきます。
○中田部会長 ほかに,第6,第7についていかがでしょうか。
○小幡委員 第7はこのとおりでよろしいかと思います。
都道府県か国かというその区分は,結局公益信託事務が行われる範囲,公益法人の場合は事務所とかがあるわけですが,公益信託の場合,その公益信託事務がどこまで及ぶかということで区分しているので,それが全国的に及ぶ可能性があれば国にしておいたらよいというような,比較的柔軟な扱いができれば,特に問題ないのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにございませんでしょうか。
○平川委員 公益信託の委託者の第6の1についてですけれども,私は,部会資料39の第3の甲案のとおり,公益信託の委託者は,信託の利害関係人が有する権限のみを行使できるものとするという見解をとっております。委託者が,受益者の定めのある信託の委託者と同一の権限を保有し,公益信託に介入することができるということは,基本的には信託財産が公益のために出捐されたものであり,それに伴って各種の税法上の優遇が得られることからすると,考え難いと思います。
委託者の権限には,信託に関する意思決定に係る権利と,受託者の監督に係る権利の双方が含まれるという説に従うとすれば,少なくとも,前者についてはできるだけ公益法人における寄付者同様に少なくする一方で,後者については運営委員会が存在しない場合を前提とすると,受託者が不適切な行為をする場合の対応策として委託者に一定の権限を与えることはやむを得ないと考えます。たたき台の別表2では,大部分△とされておりますが,○とされている信託行為で制限可能という点も含め,今後慎重に検討すべきであると考えます。
第6の2につきまして,ゴシック本文の提案に賛成いたします。(注)の信託行為に別段の定めがあるときに相続人への承継を認めるとする考えは採るべきでないと考えます。
第7「行政庁」につきまして,ゴシック本文の提案に賛成します。公益法人制度と同様,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,特定の行政庁が行うことが好ましく,行政庁の区分については,公益信託の出捐者の申請等の便宜並びに,行政庁において公益信託の認定の扱いと平仄をとって扱える可能性が高いことから,国の行政庁と都道府県知事に分ける法務省案に賛成いたします。
○中田部会長 第6の1については,お二方から,この案と別の案を何らかの形で示すべきではないかというご意見を頂戴いたしました。また,これは事務当局に検討していただきます。
第6の2の(注)なんですけれども,これは,信託行為に別段の定めがあるときの除外というのはなくていいのではないかということを平川委員から御提案いただきました。これについて,検討すべき事項として掲げているわけですが,この(注)をやはりパブリックコメントにおいては残したほうがよいという御意見はございますでしょうか。
○吉谷委員 この(注)は残してよろしいかと思います。相続人を念頭に置いている委託者もいらっしゃるんではないかと思うところです。
ついでにちょっと申し上げておきますと,別表2の△は要らない,すべて○かなと思っています。
○深山委員 第6の2の(注)については,今の吉谷委員と同じような意味で,被相続人にも自分の意思を継いでといいますか,自分が公益信託を設定しようとしたその意思を相続人に委託者として受け継いでもらいたいという人もいてもおかしくはないので,そういう委託者の意思も尊重すべきだという観点から,別の定めについて,私自身あっていいと思いますし,少なくともそれはパブコメに付して意見を求めたらよろしいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
それでは,第6と第7については,第6の1について,御提案があった部分をどういうふうにするかということを検討していただき,その他については今回の案で,少なくともゴシックの部分については,大体これでいいのではないかというように伺いました。
よろしければ,次に進みたいと思います。
部会資料43の第8から第11までについて,事務当局から説明してもらいます。
○舘野関係官 それでは御説明いたします。
まず,「第8 公益信託の成立の認可」について御説明いたします。
本文1は,「公益信託の受託者になろうとする者は,当該信託について行政庁による公益信託の成立の認可を受けることができるものとする。」との提案をするものです。本文2は,「公益信託の成立の認可の申請は,必要事項を記載した申請書等を行政庁に提出してしなければならないものとする。」との提案をするものです。
本文1の提案は,第39回会議において,新たな公益信託制度の下では,公益法人制度を参考に,民間の有識者により構成される委員会の意見に基づいて行政庁が公益信託の成立の認可を行うものとすることについて異論がなく,その申請を行う者は,受託者になろうとする者が想定されることに基づき提案をするものです。
また,公益信託の成立の認可を申請する際には,必要事項を記載した申請書等が必要になると考えられることから,本文2の提案をしております。その種類,内容等については,公益法人認定法第7条に掲げられている書類等々を参考にして,引き続き検討を要しますが,具体的には補足説明2のアからクまでのような書類が考えられます。
次に,「第9 公益信託の成立の認可基準」について御説明いたします。
まず,第9の「1 公益信託の目的に関する基準」の本文は,公益信託は,公益信託事務を行うことを目的とするものでなければならず,収益事業を目的としてはならないものとすることを提案するものです。
第9の「2 信託財産に関する基準」の本文は,(1)「公益信託の信託財産は,金銭に限定しないものとすること」を前提に,(2)は,「公益信託事務を遂行することができる見込みがあること」に関する基準,(3)は,「信託財産に他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財産が原則として含まれないこと」を必要とする旨の基準,またその例外を提案するものです。
それから,第9の「3 信託行為の定めに関する基準」の本文は,(1)は「委託者,受託者又は信託管理人若しくはその関係者に対して特別の利益を供与するものでないこと」,(2)は「特定の個人又は団体に対して寄附その他の特別の利益を供与するものでないこと」,(3)は「公益信託の信託財産の投資運用について」の基準でございます。(4)は「受託者及び信託管理人の報酬について」,(5)は「公益信託の会計について」でございまして,アは収支相償,イは遊休財産の保有制限,ウは公益目的事業比率に関する基準でございます。なお,本文3の柱書に記載しましたとおり,公益信託事務が金銭の助成等に限定されているものについては,本文3(5)の認可基準は適用しないことを前提としております。
第9の1の提案については,部会資料38の第3の1では「公益信託事務の範囲」として提案をしていましたが,公益信託事務の範囲は,信託法第26条に定める信託の目的に拘束されるものであり,新たな公益信託の認可基準としては,公益信託の目的に関する基準として掲げることが相当であると考えられることから,その旨の提案に変更しております。また,従前の部会においては,新たな公益信託の受託者が収益事業を行う可能性も含めて検討を行ってきましたが,新たな公益信託の受託者が収益事業を行うことを許容すると,当該受託者が日常的に公益法人並びの非常に複雑な会計処理を行わなければならなくなるほか,公益信託の成立の認可基準の複雑化を招くおそれがあり,公益信託の軽量軽装備のメリットが維持できない可能性が否定できないことから,第9の1の提案では,公益信託の目的に関する認可基準を公益信託事務を行うことを目的とするものであることとし,公益信託は収益事業を目的としてはならないとしております。
第9の2(1)及び(2)の提案は,従前の部会資料における提案から変更はございません。
第9の2(3)の提案は,他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止を,新たな公益信託の認可基準とする部会資料38の第4の3の甲案と同様の提案をしているもので,これを認可基準としない部会資料38の第4の3の乙案は,(注)に示すにとどめております。
第9の3(1)及び(2)の提案については,公益信託の信託行為の内容が公益信託の関係者への特別の利益を許容するものでないことを必要とする部会資料38の第4の2の甲案を支持する意見が大多数であったことから,関係者の範囲を修正した上で,当該提案と同様の提案としています。
第9の3(3)の甲案は,公益信託の信託財産の運用対象を預貯金等に限定することを強行規定として提案していた部会資料38の第3の甲案を,任意規定という形に修正して提案しているものです。第9の3(3)の乙案は,部会資料38の第3の乙案から変更点はありません。
第9の3(4)の提案は,部会資料38の第4の5の提案及び部会資料39の第2の2(3)の提案等に対し,従前の部会で異論がなかったことから,それらの提案をまとめたものです。
第9の3(5)ア及びイの提案は,新たな公益信託の下で信託財産が不当に蓄積する事態を,会計的な認可基準によって防止する必要があると考えられることから,収支相償及び遊休財産額の保有制限を認可基準とするものです。なお,収支相償の基準については,第9の3(3)で,信託財産の運用対象を拡大する乙案を採用した場合には,金銭の助成を公益信託事務としている場合であっても,多額の運用益等の収入が信託財産に帰属することも想定されるため,認可基準として必要であるとの考え方もあり得ます。第9の3(5)ウの提案は,公益信託の受託者が収益事業を行わないことを前提とした場合でも,当該公益信託の運営に必要な経常的経費の発生は観念し得ることから,公益信託事務の実施に係る費用と経常的経費を合わせた額の中で後者が占める割合について,公益法人認定法第15条の公益目的事業比率と同じ50%よりも低い一定の割合以下であることを認可基準とするものです。
なお,公益信託の経常的経費の大部分を占めると考えられる受託者等の報酬について,第9の3(4)の提案で,「不当に高額とならない」ことが担保されていることからすると,第9の3(5)ウを認可基準とすることは不要であるという考え方を,(注)に示しています。その上で,特に今回検討すべき事項の(2)公益信託の受託者が行う信託事務の範囲と信託財産の運用との関係については,公益信託の受託者が行う信託事務の範囲を目的達成のために必要な範囲に限定した上で,受託者による信託財産の運用対象については,リーガル・リスト方式のような限定を課さないという方向性を示しておりますので,ご意見があれば頂きたく存じます。
「第10 公益信託の名称」については,部会資料37の第5の2の提案から変更点はございません。
最後に,「第11 公益信託の情報公開」について御説明いたします。
本文1は,「現行公益信託法第4条第2項を廃止又は改正し,新たな公益信託の情報公開の対象,方法については,公益財団法人と同等の仕組みとするものとする。」との提案をするものです。また,本文2は,「行政庁は,公益信託の成立の認可やその取消し,公益信託の変更,併合・分割の認可をしたときは,その旨を公示しなければならないものとする。」との提案をするものです。
本文1の提案では,新たな公益信託の情報公開の対象,方法について,公益財団法人と同等の仕組みとする旨を明らかにした上で,信託行為については,それ自体ではなく信託行為の内容を示す書類を受託者及び行政庁において閲覧又は謄写するなどの仕組みを想定しております。また,本文2の提案では,部会資料39の第8の2の提案を実質的に維持しつつ,公益法人認定法の各規定との整合性も踏まえて,行政庁の公示が必要な事項を再度整理し,公益信託の成立の認可やその取消し,公益信託の変更,併合・分割の認可をしたときは,その旨を行政庁が公示しなければならないものとすることを明記しております。
○中田部会長 ただいま御説明のありました第8から第11につきまして,まとめて御審議いただきたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。
○吉谷委員 まず,第9について意見を申し上げます。
第4の受託者のところで述べたところでございますので,何度も繰り返すようで恐縮ですけれども,公益信託の内部で信託事務処理の実施体制,監督体制,有価証券の運用体制などの体制整備がされているということを,認可基準とするのがよろしいのではないかと思います。記載の仕方はいろいろあるかと思いますが,お願いいたします。
あと,第9の3(3)の甲案でございますが,こちらの方は,前回の提案に別段の定めがない場合と加えられております。私は,先ほど述べましたような信託事務処理の実施体制の中に,有価証券の運用体制なども含むと考えておりますので,そういった体制整備がされている公益信託として認可されるということを前提として,甲案,乙案の両論併記ということでよろしいのではないかと考えております。
○深山委員 これは,質問と受け取っていただいてもと思うんですが,第9の1の「公益信託の目的に関する基準」のところで,2行目で,「公益信託は,収益事業を目的としてはならないものとする」といって,(注)で違う考え方も示されていますが,この本文の「収益事業を目的としてはならないものとする」ということの意味合いが,正にそれを目的としてはいけないという意味合いなのか,より端的に,収益事業を行ってはならないという意味なのか,分かりにくいという気がします。
補足説明には,これまでの議論の経過がある程度書かれていますけれども,正に収益をストレートに目的とするものは駄目だというのが大方の,余り異論のないところだと思いますが,他方で,主たる目的は当然公益目的なんだけれども,それに付随するような収益事業,密接に関連するような事業については,収益事業を行うことも許容されるというような議論をしてきたような気がします。その中で,どこまでできるかということは,かなり線を引くのは難しいですねというような議論をしてきたと認識しているんですが,今回の整理は,その線の引き方が難しいということもあって,一切収益事業を行ってはいけないということを提案しているのか,いや,そうではないと,正に収益を目的とするようなものはいかんと言っているに過ぎないのか,この辺がちょっと分かりにくい。私が今読んでも,どっちなのかなと思うぐらいですから,一般の人が見たときに,その趣旨が正しく伝わらないといけないので,そもそもどういう趣旨なのかということもありますし,そこをもう少し,読んだ人が分かるような形で問い掛けたらどうかなという気がいたします。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○山田委員 第9の3の(3)「公益信託の信託財産の投資運用について」です。
甲案のような考え方と乙案のような考え方がこれまで議論されてきて,どちらを良いと考えるか,パブリックコメントで意見を聞くという,その実質は異存ございません。しかし,それが信託行為の定めに関する基準で,認可基準に関わるのかどうかがよく分かりません。乙案ならば,それは認可基準にしないということだと思うんですが,甲案もとっても,認可基準にこれを,落とし込むんでしょうか。そこがよく分かりませんで,信託行為に別段の定めがない場合,これこれに限られるものとするという,信託行為の定めがあることが認可基準になるということでしょうか。それでは,論理的に困難があるように思います。御検討いただければと思います。
○中田部会長 平川委員の御発言をいただいてから,まとめてお答えいただくことにします。
○平川委員 第8につきましては,特に異論はございません。
第9の1「公益信託の目的に関する基準」について,基本的に賛成いたしますが,(注)の収益事業の許容については,公益信託事務を促進,財政的支援をする目的であれば可能としたほうが,使い勝手がよいというようにも思いますが,一方,濫用的な制度使用を防ぐための施策が必要となり,公益信託制度と税制規制が複雑化し,かえって使い勝手が悪くなる懸念がありますので,また,公益信託は,真に公益を目指しピュアであるべきことから,収益事業の許容に対しては反対の立場をとります。
第9の2「信託財産に関する基準」の(1)から(3)までいずれも賛成いたしますが,(注)の株式等の財産が含まれるか否かを成立の認可基準としないということには反対します。公益法人制度と異なることとなり,合理性もないと考えます。
第9の3「信託行為の定めに関する基準」のうち(1),(2),(4)については賛成します。(3)については,公益信託の自治に任せるべきものであることから,乙案に賛成し,受託者は善管注意義務,忠実義務が課せられているのですから,その範囲内で責任を持って行うということでよいと思います。(5)のウについては,公益信託事務が金銭の助成等に限定されているものにも,公益法人制度との均衡から適用されるべきであると考えます。また,アの収支相償要件については,公益法人制度においても問題のある制度とされており,慎重に決定すべき問題だと考えます。収支相償基準は,公益法人でも行き過ぎた規制との声が強く,遊休財産規制と公益目的事業比率さえあれば,儲け過ぎで内部蓄積を図る,管理費用に無駄遣いするなどの弊害は十分に避けられるのではないかと考えます。
○中田部会長 それでは,ここまでのところについて,事務局の方からコメントを,もしございましたら。
○中辻幹事 深山委員からは,公益信託の目的とすることができる公益信託事務と,目的としてはならない収益事業の関係について,収益を伴う信託事務を受託者が行うことが否定されるものではないという基本的な考え方を含めてもう少し分かりやすく説明したほうが良いという御指摘を頂いたものと受け止めました。
事務局としては,これまでの部会での御審議の状況からしても,公益信託では,公益法人と異なり,明らかに収益事業に該当する信託事務を受託者が行うことは許容しない方が良いという方向性に概ねの支持が得られていると認識しています。一方,公益信託事務と収益事業等を截然と区別することは難しく,これまでの部会資料では,公益信託事務に付随する信託事務とか,公益信託の目的の達成のために直接又は間接的にとかという表現で公益信託の受託者が行える信託事務の範囲を検討してきましたが,どこまで公益信託事務として認められるかは結局のところ認定行政庁が個別具体の事案に応じて柔軟に判断するしかないと考えています。その上で,以前の部会資料で例として挙げておりました,公益信託の受託者がその運営する美術館の館内で絵葉書等の物品販売を行うことや,海外からの留学生の学生寮の運営において金銭の借入れとかファイナンスを公益信託の受託者が行うことについては公益信託事務の範囲内として許容されるべき場合があり,公益信託の目的に関する認可基準を適用する場面では,収益事業が認められる公益法人と異なった取扱いがあり得るものと考えておりますので,その点はより分かりやすく説明していきたいと思います。
それから,山田委員から投資運用の論点について御指摘がありました。
乙案であれば認可基準にしないことになるが,甲案になったときに認可基準になり得るのかという御指摘は,そのとおりであると感じました。甲案について事務局が考えておりましたのは,信託法の実体的な規律として,デフォルトの運用方法を書いておき,当事者がそれと異なる運用方法を信託行為の別段の定めとした場合にはそれを許容するというものですので,認可基準との関係は,改めて検討させていただこうと思います。
○中田部会長 山田委員,今のお答えでよろしいでしょうか。
○山田委員 はい。
いいですか,一言。別段の定めにしたときに,それを認可庁が審査するということにはならないほうがいいように思うので,切り離す方向で考えたらいいのではないかなと思います。
○中辻幹事 山田委員のおっしゃるとおりでして,別段の定めが合理性があるかどうかということを,認可行政庁の方で判断してもらおうと考えているわけではございません。
○山田委員 分かりました,はい。安心しました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 今,事務局から説明を受けた収益事業のところですけれども,税法上使われる用語でもあるので,少し表現を変えるか,今のお話を,説明というよりも定義の中で明確にしていただかないと,金銭を取ると,やはりそれは収益事業ですという議論になり得ると思います。受託者は重い責任を負いますから,なるべく少しでも何か問題がありそうな行為をしないことになって,結局美術品であれば無償での貸出しだけになってしまうということもあるかと思います。その辺は既に議論された点ですので,よろしくお願いします。
また,今事務局から説明を受けておりますけれども,投資運用というのは,信託目的に沿って資金を使うことは当然入らないという理解でいるということで,今説明受けたとおりなんですけれども,更に確認したいと思います。
あと,収支相償制なんですけれども,弁護士会の議論で,ある一定の年度に多額の寄附とかがあったときに,なかなかその年度内に使うというわけにもいかないのではないかとか,柔軟性という観点から収支相償制というものを余り厳しく見ないほうがいいのではないかという議論もあったんですけれども,収支相償制が信託期間を通じてということであれば,その辺についてどんなふうに,かつて議論した論点でもありますけれども,どの程度厳格に考えるかというあたりを教えていただければと思います。
○中田部会長 今の最後の部分は,第9の3(5)のアの書き方をもう少し工夫したほうがよいということでしょうか。
○小野委員 書き方だけからすると,それほど厳格ではないかもしれませんけれども,年単位で見るんではないかというようなコメントも。
○中田部会長 そうすると,このゴシック体はともかくとして,その説明ないし理解を容易にするようにというのが必要ではないのかという。
○小野委員 はい,という趣旨でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
ほかにございますでしょうか。
○神田委員 すみません,2点,簡単に。
第9の2,3あたりです。一つは株式等の財産ですけれども,例えば,美術館を資産管理会社のような形で持っている人がいて,それを公益信託設定したいという場合に,その資産管理会社の株式を信託財産にすることはできないということでしょうか。これまでも議論になったのかもしれませんけれども,そして(注)は別の立場かもしれませんけれども,ややフレキシブルを欠くと感じます。本来公益法人なんかで禁止しているのは,もっと全然違う団体とか会社の,ここの言葉でいう事業活動を実質的に支配することはいけませんよというお話だったような気がするものですから。聞き方の問題かとは思いますけれども,それが1点です。
もう1点は,余りにも細かくて恐縮ですけれども,3(3)の後半のてにをはです。最後,「合同運用信託の信託」って書いてあるんですけれども,その前との並びでいえば,合同運用信託の受益権の取得とか何かになるような気がちょっとします。
○中田部会長 前半のご意見は,第9の2の(3)との関係ということでよろしゅうございますね。
○神田委員 はい。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小幡委員 一言だけ。
先ほど,収益事業について事務局から御説明があって分かったのですが,したがって,ここで書くのは,およそ公益を目的するのが公益信託であって,収益自体を目的とするものは,これには当たらないということを意味するくらいだと思うのですが,確かに,そうはいっても,実際上附帯的なものが沢山あるので分かりにくいので,それをどのぐらいここに書いてパブコメするかというのは,そこは考え方だと思います。
ただ,部会資料の30ページのところに,本文1の提案では,「収益事業」という表現を用いて,「収益事業等」という表現を用いていないというところがあって,ここに表れているのかと思うのですが,公益法人の収益事業というのも結構団体によって,附帯事業も収益事業といっているところは結構あるので,そもそも公益法人制度においても,収益事業か公益目的事業かという区分けについては,自動販売機など,こういうのは当然附帯しているから,別に収益事業にしなくてもよいのではないかというのも,収益事業として申請で上がってきたりするのですね。ですから,なかなかはっきりできない部分があって,公益法人の収益事業は駄目ですよと言ってしまうと,×という部分が広がり過ぎるのかもしれないので,そのあたり,どう表現するか難しいのですが,例えば,美術館をやっていて,利用者の利便のためのものも置けないという話ではないと思うので,そこを分かるようにしてもらえばよいかなと思いますが。
○中辻幹事 確認や御質問,何点かございましたので,事務局からお答えいたします。
まず,小野委員からの1点目の御質問,公益信託の受託者が信託目的に沿った形で資金を運用することはできると考えております。
小野委員からは,2点目として収支相償についての御指摘もございました。事務局としては,公益法人の世界でも,単年度での収支相償を要求しているわけではなくて,超過収入があっても複数年をかけて計画的に解消していけばよいという柔軟な仕組みが採られていると認識しており,公益信託でもそれと同じような仕組みが望ましいと考えております。
それから,神田委員から御指摘のありました,美術館の資産管理会社の株式を公益信託の信託財産にすることを全く否定するつもりはありません。公益法人認定法と同じように,他の法人とか他の信託を実質的に支配するような不正なものを防ぐための認可基準を提案させていただいているものでございます。
最後に,小幡委員からの御指摘について,以前の部会でも小幡委員から,公益法人では公益目的事業と収益事業の振り分けは申請主義になっていて,申請する側でこれは収益事業だと申請すれば,認定する側は収益事業として扱うという御説明がありました。公益法人の世界で収益事業とされているものがそのまま公益信託の収益事業とされてしまうと,こちらの本意とは齟齬することになってしまいますので,そのようなことにならないように注意したいと思います。
○中田部会長 今御発言いただいた3人の委員の方,よろしゅうございますでしょうか。
それでは,ほかに御意見いただきたく存じます。
○川島委員 第9以外でもよろしいでしょうか。
○中田部会長 ええ,もちろん。
○川島委員 第11「公益信託の情報公開」の1,2について,事務局案に賛成をいたします。
特に,1において,情報公開の対象,方法について,公益財団法人と同等の仕組みとするとの内容は,分かりやすく,かつ妥当なものであると考えております。今後,この考え方に基づき,細部について検討が深まることを期待しております。その中で,できれば部会資料36の別表5,これは,新たな公益信託の情報公開の内容とその開示等について整理したものですけれども,これをメンテした上で,中間試案に掲載をするということについて,事務局での検討をお願いいたします。
○中田部会長 ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 では,第11について発言させていただきます。
御提案の内容でよろしいのではないかとは考えておりますけれども,35ページの2の今回検討すべき事項の(1)のところで,部会資料36の別表5のところは,原則,基本的に全て情報公開というように書かれていますので,ここについては,もう資料にも書いてあると思いますが,個別の開示項目についてはプライバシーであるとか,事務上の負担などについて配慮して,個別に検討した上で,別表として付ける場合には振り分けていただければと思います。
というのは,別表5の中には,信託設定時,信託運営時に,備置する資料であるとか提示する資料であるとかいうのが出ておるのですけれども,例えば,信託設定時のところで,信託行為の内容を示す書類というようなものがございます。これについては,信託行為そのものではなくてもいいというような議論をさせていただいたところだと思いますけれども,実態としては,申請のときには信託行為というものをそのまま添付資料として申請しているわけですね。ですので,ここで書いていることは,信託行為の内容を示す書類として,信託設定のときに申請した書類を,そのままを開示するという趣旨ではなく,信託行為の内容,信託の内容が分かるべきだというような趣旨であると理解しております。信託設定趣意書というのも同じような類いのものでございまして,これは,委託者が信託を設定するときの思いみたいなものを書いているものですので,これをそのまま開示していいのかどうかというところもございます。ですので,恐らく信託の内容が分かるようなものはきちんと示しましょうというのが,そこら辺の意図であろうと思います。
あと,信託運営時の資料として書いているものは,受託者として備え置いておいて,行政庁が見に来たときに見せられるようにしておくようなものも多数入っていて,例えば,帳簿であるとか事務の細かな書類みたいなものまでを,全て情報公開という形でインターネットであるとか新聞であるとか,そういったもので開示するというものではないと思われますので,ちょっとそこら辺の振り分けについては,個別に確認をしながら進めていたただければと考えているところです。
○中田部会長 第11のゴシックの部分は,これはこれでよろしいという上で,さらに,実施に当たって詰めていくべき点を御指摘いただいたということでよろしいでしょうか。
ありがとうございました。
ほかに。
○林幹事 おおむねその内容においても,あるいは中間試案としての整理においても,賛成するところが多いのですが,ポイントだけ申し上げますと,第9の2の(3)の他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財産は含まれないこととする点は,この内容について賛成の意見もあったのですが,その(注)の考え方に賛成で,認可基準としないという意見もありました。これについては,結局どの程度,何%持っていれば団体の意思決定に関与できるとするか,そういう悩ましい問題もあったところですので,(注)の考え方を乙案か何かにして,甲案,乙案でパブリックコメントに付することもあり得ると思いました。
投資運用については,今までの経緯があって,そういう中でこういう案を作っていただいているのは理解をしています。ですので,取りあえずパブリックコメントとしてはこれでいいと思いますが,弁護士会の中で議論したときは,甲案も乙案も,あるいは,甲案でも別段の定めに関するところは削除してしまったほうが良いとか,いろいろな議論がありましたので,そういう意味においても,取りあえず中間試案としてはこれで良いのではないかと思っています。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 すみません,先ほどちょっと申し上げるの忘れて。
神田委員がおっしゃっていたことに関連するし,今,林幹事がおっしゃったこととも関連するんですけれども,支配権の株式を行使するというと,いかにもいろいろと紛争が背後にありそうなイメージがありますけれども,会社制度があって,そこに株式があって,議決権を行使するということは当然の営みであって,その行使の仕方が何かはたで見て,不規則な,又よからぬ形で,行使されることが問題ではないかと思うんですね。ですから,きちんと議決権行使について適正な考え方が取られているとか,スチュワードシップ・コードにのっとるみたいな,又ISSですとか,いろいろ議決権行使の基準を出しているところもありますから,そういうふうに議決権行使が適正になされれば,それは善管注意義務に反していないということになりますし,不適正に行使されれば,過半数だろうが少数だろうが,それ自体は善管注意義務違反だと思うので,繰り返しになりますけれども,議決権行使について適正な措置がなされていればという例外措置を設けるということも考えてよろしいのかなと思います。
○中田部会長 そうしますと,(3)の例外の記載の部分について,もう少し表現を工夫したほうがよいという趣旨でしょうか。
○小野委員 はい,そういうことです。
○中田部会長 ありがとうございました。
ほかにはございませんでしょうか。
○平川委員 第10「公益信託の名称」について,ゴシックの提案に賛成します。公益法人の名称と同一の扱いである(1)から(3)に加え,(4)として名称又は称号の侵害に対し,侵害の停止又は予防請求可となっていることから賛成します。
先ほどの議論で,信託法258条1項の目的信託でもなく,公益信託でもない,公益を目的とする信託という,第3のカテゴリーの信託を認める場合には,認可済み公益信託ではないことを表示することを要件とすべきです。公益という言葉を使うことによって非常に紛らわしくなり,悪用される可能性があるので,認可済みの公益信託ではない,公益を目的とする信託ということをはっきり表示しなければならないという規制を設けるべきだと思います。
第11「公益信託の情報公開」について,ゴシックの提案に賛成いたします。
受託者による公益信託の情報公開方法について公益財団法人と同等の仕組みとするものであり,行政庁において公益法人認定法と同一の公示を行うことにより,公益信託の情報公開の水準が大幅に上昇することから,賛成いたします。
○中田部会長 ほかにはございませんでしょうか。
第9のうち,1の収益事業について,説明なりが更に必要ではないかという御意見を頂きました。それから,2の(3)について,この例外を認めるその例外の書き方,あるいは(注)の部分をもう少し格上げすべきではないかといった御意見も頂きました。
第9の3(3)については,そもそもこれが認可基準になるのかどうかということも含めて,書き方をどうするかという検討課題を頂きました。(5)については,むしろ中身についての問題点の御指摘があったかと思いますが,パブリックコメントにかける際に,このような記載をすること自体をやめろとまでの御意見はなかったのではないかと承りました。
第10については,ただいまの平川委員の御発言ございましたけれども,平川委員も,全体としてはこれでよいというような御意見と承りました。
第11についてもこれでいいということで,ただ,部会資料36の別表5のようなものを書き改めた形で,別表とするのか,説明にするのかはともかくとして,何らかの形で示したほうがいいのではないかという川島委員の御提言を頂いたわけですが,基本的には,このゴシックについてはこれでよかろうという御意見が多かったかと存じます。
ほかにございませんようでしたら,まだ時間がございますので,部会資料43の第12から第14まで,途中になるかもしれませんけれども御審議に入っていただければと存じます。
事務当局から説明をお願いします。
○舘野関係官 それでは,御説明いたします。
まず,「第12 公益信託の監督」について御説明いたします。
第12の1の本文は,「現行公益信託法第4条第1項の規律を改め,行政庁は,次の権限を行使するものとする。」との提案をするものです。本文1の(1)から(4)の内容をそのまま読み上げることはいたしませんが,第39回会議において,部会資料39の第5の1の提案に多数の支持が得られたことから,当該提案と同様の提案をしております。
第12の2の本文は,裁判所の権限について,「裁判所は,信託法が裁判所の権限としている権限を原則として有するものとすることに加え,現行公益信託法第8条が裁判所の権限としている権限を有するものとする。」との提案をするものです。本文2については,第39回会議において,部会資料39の第5の2の提案に対して特段の反対意見はございませんでしたので,当該提案の実質を維持しております。
部会資料39の第5の提案からの変更点といたしましては,裁判所の権限の中に公益信託に関する検査役の選任権限を含めている点がございます。第39回会議において,検査役の選任権限は行政庁が有するものとする甲案と,裁判所が有するものとする乙案のそれぞれを支持する意見が多数出されたところ,行政庁の行う検査は公益信託の認可基準に関するものである一方で,検査役の行う検査は公益信託の成立の認可基準充足性の判断とは直接には関連しないものであるため,公益信託における検査役の選任権限は裁判所に付与するとする乙案を採用した提案をしております。その上で,今回検討すべき事項に記載しましたとおり,検査役の選任権限は裁判所が有するとした場合においても,行政庁が行う検査と検査役を通じた検査の性質を考慮した上で,選任の結果や検査結果について,必要に応じて行政庁に通知することも含めて検討する必要がございます。
また,別表3に裁判所の有する信託の監督に関する権限を整理いたしましたが,これらの権限への行政庁の関与の有無及びその方法については,各権限の性質を踏まえ,引き続き個別に検討する必要がございます。これらについて御意見があれば頂きたく存じます。
次に,「第13 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任」について御説明いたします。
第13の「1 公益信託の受託者の辞任」の本文は,「現行公益信託法第7条の規律を改め,受託者は,委託者及び信託管理人の同意を得て辞任することができるほか,[やむを得ない事由/正当な理由]があるときは裁判所の許可を得て辞任することができるものとする。」との提案をするものです。
第13の「2 公益信託の受託者の解任」の本文は,まず(1),「委託者及び信託管理人は,[受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるとき/正当な理由があるとき]は,その合意により受託者を解任することができるものとする。」,(2)は,「委託者及び信託管理人の合意がない場合において,受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは,裁判所は,委託者又は信託管理人の申立てにより,受託者を解任することができるものとする。委託者については信託行為において受託者の解任の申立権を有しない旨を定めることができるものとする。」という提案をするものです。
第13の「3 公益信託の新受託者の選任」の本文は,(1)「委託者及び信託管理人は,信託行為に新受託者に関する定めがある場合は,当該定めに従い,信託行為に新受託者に関する定めがない場合は,信託法第62条第1項の方法により新受託者を選任することができるものとした上で,新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるものとする。」,(2)「信託法第62条第1項の場合において,同項の合意に係る協議の状況その他の事情に照らして必要があると認めるときは,裁判所は,利害関係人の申立てにより,新受託者を選任することができるものとした上で,新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるものとする。」との提案をするものです。
これらの提案は,部会資料39の第6の提案で多数の支持があった提案を統合したものであり,当事者間の合意がない場合等において,受託者の辞任・解任等の要件を満たしているかは裁判所の判断事項とした上で,新受託者の選任のように,公益信託の成立の認可基準充足性が問題となる場合には,行政庁が認可基準を満たしているか否かを判断するという形で整理したものです。
今回検討すべき事項の(1)では,公益信託の受託者が裁判所の許可を得て辞任する場合の要件を,信託法第57条第2項の「やむを得ない事由」とする考え方と,「正当な理由」とする考え方があり,これを表現するため,本文1の提案でブラケットを付しております。この点について御意見を頂ければと存じます。
また,今回検討すべき事項の(2)では,委託者及び信託管理人の合意による公益信託の受託者の解任事由として,信託法第58条第4項の「受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたこと,その他重要な事由があるとき」とする考え方と,「正当な理由があるとき」とする考え方があり,これらを表現するため,本文2(1)の提案でブラケットを付しております。また,裁判所に公益信託の受託者の解任を申し立てる権限を有する者を,委託者又は信託管理人とした上で,委託者については信託行為において受託者の解任の申立権者としない旨を定めることができるものとしておりますので,これらの点について御意見を頂ければと存じます。
さらに,今回検討すべき事項の(3)では,裁判所に新受託者の選任が申し立てられた場合における行政庁の関与の方法として,本文3(2)の(注)に記載したような,裁判所が認可基準充足性について行政庁に意見を聴取する方法等も考えられますが,現在の公益法人の実務に照らすと,裁判所が意見を聴くこととした場合に,裁判所から提供される情報のみでは行政庁が認可基準の充足制を判断できないことも想定されます。そうすると,新受託者の選任が遅延し,公益信託事務の遂行に支障が出る恐れがあり,結果的には公益信託の当事者に再申請などの負担を強いるおそれもあると考えられることから,裁判所が認可基準充足性について行政庁に意見を聴取する方法を採用するのではなく,新受託者になろうとする者が行政庁による新選任の認可を受ける方法を採用することとしておりますので,この点について御意見を頂ければと存じます。
次に,「第14 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」について御説明いたします。
本文は,「公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律は,公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任と同様の規律とするものとする。」との提案をするものです。
本文の提案については,部会資料39の第7の提案からの変更点はありません。新たな公益信託における信託管理人の役割の重要性に鑑みると,あえて信託管理人について受託者と異なる規律を設ける必要性はより小さくなると考えられることから,部会資料39の第7の提案を維持しております。
○中田部会長 それでは,残された時間で,この三つの項目について御審議をお願いしたいと思います。もし時間が足りなければ,次回に続行することとしたいと思います。三つまとめて御意見を頂ければと存じます。
○吉谷委員 個別に言うと,すごく長くなるものですから,全体の方向を踏まえて,第12について意見を申し上げたいと思います。
前回まで,第12に相当する提案については特に異論を述べておりませんでしたけれども,これは,もともと第13以降において検討するべき事項であると考えていたというところでございます。ですので,第12について,先にこれでいい,悪いという意見については,今回は差し控えさせていただきたいと考えております。
ただ,その方向感として考えておりますのは,従来この部会におきまして,認可に係る判断については行政庁が行い,意見の不一致のある場合については裁判所が合意に代わる判断を行うということである枠組で合意形成が図られていると理解しておりまして,その枠組に従って今後の意見は申し上げようと考えておりますが,なお,ちょっとまた納得のいかないところもありますので,最後にまた12について意見表明したいと思っております。
第13,第14につきまして,1点だけお話をしたいと思います。
それは,第13のところで,委託者がデフォルトとして入っていること,これについては,むしろ委託者が存在しない場合を前提として提案をしていただいたほうがいいのではないかと考えております。というのは,パブリックコメントの形で委託者が存在するということを前提で意見を述べますと,やはり委託者がいるから大丈夫だろうというようなことを前提で,聞かれた方は考えると思います。ですので,例えば,信託の受託者の辞任や解任,選任におきまして,信託管理人が単独でもやっていいのかどうかという観点からの検討が必要であり,それに更に加えて,委託者が加わってもいいのかと。例えば,解任についても,信託管理人が単独で解任を判断していいのか,あるいは,それとも行政庁なりが判断しないといけないのかということを検討していかないといけないのではないかと思っております。
第13の2の(1)については,私どもの方は,(1)と(2)のところは,むしろ行政庁が受託者の解任について認可することが必要なのか,そうではないのかというような形で,パブリックコメントをしていただくのがよろしいんではないかと考えているところです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 すみません。第13のところのやむを得ない事由か,正当な事由かというところですけれども,いずれにつきましても,正当な理由の方がよりふさわしいと思います。補足説明にありますように,正当な事由の場合には,全体的な総合判断ということになって,よりふさわしい受託者がいる場合とかいうように,裁判所が公益信託目的に沿った形で総合的な判断を下せる余地が十分あるかと思いますけれども,やむを得ない事由ですと,場合によっては,不可能かどうかで判断するとか,かなり判断者による主観的な価値観が反映するような恐れもあるかと思われますので,一般的な言葉ですから,どちらでも同じだという議論もあるのかもしれませんけれども,いずれにつきましても,正当な理由の方がふさわしいと思います。
○中田部会長 ただいまの御発言は,第13の1のブラケットの中のやむを得ない事由というのは,むしろ落とすべきであるということでしょうか。
○小野委員 そうですね。パブコメというのにおいては落とさなくていい,個人的には落としてもいいと思うんですけれども,正当な理由の方が意味があるんですよということを,どちらかというと,今も述べていますけれども,より説明されたかと思います。落としてくれれば,よりふさわしいかと思いますけれども。
○中田部会長 分かりました。
○平川委員 第12「公益信託の監督」の1「行政庁の権限」については,ゴシックの提案は公益認定法と同様であり,賛成いたします。第12の2「裁判所の権限」について,別表3の権限を裁判所が有するとすることについて賛成します。また,裁判所の職権行使は認めないとする×印をいずれも付けておられることにも賛成します。
別表3の行政庁の関与の有無欄で,受託者,信託管理人,検査役等の選任について,認可を行うとありますが,これは認可要件の資格を確認し,抵触する場合にのみ認可しない,適合していれば必ず認可するという意味であるということであれば,賛成いたします。
第13「受託者の辞任・解任,新受託者の選任」及び第14「信託管理人の辞任・解任,選任」ですけれども,従来より述べておりますように,信託関係人の選任,辞任・解任について,ガバナンスを保つ意味で運営委員会あるいは運営委員,複数の運営委員を必置機関とし,ここでは委託者の権限を認めておりますけれども,それはないということを前提にして,運営委員会に選解任及び辞任の権限を全体的に持たせるガバナンスを認めるべきだと考えておりまして,少なくともそういう意見があるということを記載していただきたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○山田委員 質問です。第13のところについて,このゴシックが意味しているところを質問させてください。
複数あると思いますが,3の公益信託の新受託者の選任のところを例として取り上げます。(1)の最後の2行ですが,「新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるものとする。」となっています。これは,新受託者になった者が認可を受けるのではなくて,「新受託者になろうとする者」というところに意味があるのでしょうかというお尋ねです。すなわち,就任の効力が発生するのは,認可を条件にしているとお考えになっているのでしょうか。それはそうかなとも思うのですが,受託者がいない状態が更に続くという点について,難点はないのだろうかと,実質的には思います。ですが,それはパブリックコメントで意見を聞けばいいところだと思いますので,ここでは,「なろうとする者は」というのは,そういう趣旨ですかという質問です。
○中辻幹事 今,山田委員が例に取られた第13の3(1)で,「新受託者になろうとする者」というふうな表現をしている理由は,山田委員の御理解のとおりです。ただし,道垣内委員が以前おっしゃられていたように,取りあえず信託関係人の合意によって,新受託者は選任されたことにする。その上で,行政庁の認可を停止条件として,新受託者が受託者としての実質的な行為を行うことができるようにするという選択肢もあろうかとは思います。ただ,どちらにせよ,行政庁の認可を受けない以上,公益信託の新受託者としての行為はできませんので,実質は同じになるのかなというぐらいの理解で,今は考えています。
○山田委員 はい,分かりました。
○中田部会長 先ほど吉谷委員から幾つか御意見が出ていましたけれども,それについては。
○中辻幹事 そうですね。吉谷委員が今でも納得されていないというのは,吉谷委員の中で,現在の公益信託法7条のように,受託者の辞任や解任についてやはり行政庁の関与を必要としたほうが望ましいというようなことがあるんでしょうか。私の誤解であれば申し訳ありません。
○吉谷委員 行政庁の関与の方を問題にしているわけではなくて,裁判所の権限の書きぶりが,後ろの方の提案の内容と一致するようにならないと,ここで賛成してはいけないと思っているので,後ろのところの提案の議論を見てからでないと賛成できないですということを言っているだけです。すみません,まだ,要するに,検討ができていませんということを申し上げているだけです。
○中田部会長 後ろとおっしゃいますのは,第13,第14についてということですね。
○吉谷委員 そうです。
○中辻幹事 もう少しだけ吉谷委員に確認させていただきますけれども,第13の1のゴシックでは,受託者は委託者及び信託管理人の同意を得て辞任するという提案をしています。すなわち,受託者は委託者及び信託管理人が現に存する場合はその2人の同意を取り付けない限り辞任できないとしているのですけれども,公益信託に対する委託者の影響力を弱めるという観点からは,このゴシックを,例えば,受託者は信託管理人の同意を得て辞任する,ただし,信託行為に別段の定めをすることができるとし,その定めでは信託管理人及び委託者の同意を必要とするというようななどの仕組みを採用する考え方もあり得ると思っておりまして,この点について吉谷委員のお考えを御教示いただければと存じます。
○吉谷委員 第13の1につきまして更に申し上げますと,前回論点となったのが,公益信託の当事者が終了したいと思えば終了してしまうような制度でいいのかと。受託者が辞任しますというのは,1年たったら信託が終了する可能性がすごく高まるということですので,そのような制度にしていいのかどうかというところが前回論点になったと,私は理解しておりまして,それについてはいろいろな御意見があったと,賛同する御意見もあったと考えておるんです。
なので,先ほど申し上げていたのは,行政庁の認可があって,初めて終了できるという案と,行政庁の認可がなくても辞任できるという案との両論ではないでしょうかというのが,まず今回申し上げたい意見でありまして,その両論にするに当たっては,委託者と信託管理人が合意をしないと,行政庁の認可なしには受託者の辞任はできないのかというところでありまして,ここの書きぶりとしては,第13の1には,委託者の権限はなくすことができるとは書いていませんので,これだけ読むと,合意がない場合には,行政庁が認可しようができないと書いているように思えます。
ですけれども,私は,信託管理人が単独で辞任を認めるようなケースがあってもいいと思っていまして,ただ,私の立場は,常に行政庁の認可があれば認めていいというものです。なので,書き方としては,両論で,信託管理人が辞任に同意すれば,受託者は辞任できるというものと,信託管理人が辞任に同意した上で,行政庁が認可をすれば辞任できるという,この両論ですと。ただ,委託者にも信託管理人と同様の権利は与えることができるのか,信託管理人と合意がないとできないと信託行為に書くのは,ちょっとそこの任意規定かどうかというところとの関係が,ここではよく分からなくなっているというところもあります。
○中田部会長 委託者をどうするのかということと,それから,行政庁か裁判所かという,二つの論点について御指摘いただきまして,これは,これまでの部会の御意見を踏まえて,多数の意見を集約するとこういうことになるのではないかというのが,今回の御提案だろうと思いますが,それに対して,反対のお立場から,何らかの形で反対意見を分かるようにしてほしいと,こういうことかと承りました。
吉谷委員は,さらに第13,第14については,なおご意見を次回に御提示くださるという予定と伺ってよろしいでしょうか。
それでは,今日,もし御発言がありましたら,あと時間は限られておりますけれども頂きまして,また次回にも継続いたします。
○棚橋幹事 先ほど小野委員が御指摘されていた点ですが,第13の1の辞任の項目で,やむを得ない事由と正当な理由の両方を中間試案として提示することについては,正当な理由にどのような事由が含まれるかという点次第で意見が変わってくるように思いますし,やむを得ない事由と正当な理由の両方を提示するということであれば,中間試案の取りまとめ段階までの間又は中間試案の補足説明の中で,信託法の条文と異なる辞任許可事由とする理由や,正当な理由とは何を意味するのかという点についても明らかにする必要があるのではないかと考えております。
今回の部会資料43によれば,正当な理由の中には,やむを得ない事由にプラスして,新しい受託者がいることが考慮される可能性があるということかと考えていましたが,小野委員の御発言の中では,目的との関係でも判断するというお話や,やむを得ない事由の方がむしろ主観が入りやすいのではないかというお話もありましたので,その点のイメージは一致した上で議論を進めたほうがよいのではないかと考えました。
○中田部会長 ありがとうございました。
本日のところはよろしいでしょうか。
それでは,次回に第12から第14までを継続した上で,その後の部分に入っていきたいと思います。
本日たくさん御意見いただきまして,中には,ゴシックに格上げすべき点があるとか,あるいは補足説明などで説明を更に工夫すべきであるとか,あるいは全体を通じてですけれども,質問が出やすいような形にし,理解してもらいやすいような工夫をより必要とするというような御指摘を頂きましたので,それを踏まえて,今後また検討していただきたいと思います。
それでは,本日はこの程度にいたしまして,最後に次回の日程などにつきまして,事務当局から説明をしていただきます。
○中辻幹事 次回の日程は,平成29年10月10日の火曜日,午後1時半から午後5時半まで,場所は,法務省20階の第1会議室を予定しております。次回は,本日の審議に引き続き,部会資料43の残りの部分を用いまして,中間試案のたたき台について,引き続き皆様に御審議いただくことを予定しております。
○中田部会長 ほかに御意見などございますでしょうか。
それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。
-了-
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