法制審議会信託法部会 第43回会議 議事録

 

第1 日 時  平成29年7月4日(火)

   自 午後1時30分
                      

 至 午後5時12分

第2 場 所  法務省赤れんが棟第6教室

第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討


第4 議 事 (次のとおり)

議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第43回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
  本日は,神田委員,能見委員,山本委員,渕幹事,松下幹事が御欠席です。
  まず,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について確認いただければと存じます。
  事前に,部会資料42「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(5)」を送付させていただきました。
  また,参考人としての御説明を本日予定しております同志社大学の佐久間毅教授から,本日の御説明に用いられる資料を御用意いただきましたほか,吉谷委員から,平成29年3月末時点における公益信託の受託状況の資料を提供していただきましたので,当日配布資料として皆様の机上に置かせていただいております。
  これらの資料がもしお手元にない方がおられましたらお申し付けください。よろしいでしょうか。
○中田部会長 本日は参考人として,同志社大学で民法及び信託法の研究・教育に従事されていらっしゃいます佐久間毅教授にお越しいただいています。
  佐久間教授には,お手元の「公益信託法の改正における幾つかの論点について」と題する資料を御用意いただいています。この資料に基づいて御説明を頂きまして,その後,若干の質疑応答の時間を設けることにしたいと思います。その後,部会資料42の第1「公益信託の信託行為の定めの変更」と第2「公益信託の併合・分割」について御審議いただく予定です。途中で休憩を挟む予定でおります。
  佐久間教授におかれましては,御厚意で,本日の審議の方にも御同席いただけるものと承っております。
  それでは,早速ですけれども,佐久間参考人,よろしくお願いいたします。
○佐久間参考人 佐久間でございます。本日は,このような機会をくださり,誠にありがとうございます。恐れ多く,また,少しは意味のある話ができるのか,大変心もとなく思っております。
  もっとも,遠慮していては,かえって失礼になると存じますので,部会資料や議事録を拝見しまして,関心を持ちましたことについて,率直に考えを述べさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
  座りながらお話をさせていただきます。
  初めに,本日全ての前提とすることを申し上げます。四つ申し上げます。
  第1に,公益信託を,公益を目的とすることにより法的に何らかの優遇がされる信託と捉えること。その優遇のため,何が必要になるかが問題となることです。
  第2に,公益信託は,受益者の定めのない信託の一つであることです。
  第3に,公益信託の成立に関し,主務官庁による許可制を廃止すること。その代わりに,公益法人と同様の行政庁による認定という仕組みが想定されることです。
  第4に,公益信託に対する外部的監督の制度を設けること。その監督は,認定行政庁が行うと想定されることです。
  それでは,公益信託法の改正に関し,私が考えるところを申し述べてまいります。
  まず,私の基本的立場を述べさせていただきます。公益信託が,公益を目的とすることにより,法的に優遇される信託であるために備えるよう求められるべきこと,とりわけ内部の牽制・監督体制についてです。これは,さきに信託法学会で私の報告をお聞きくださった方には重複になります。この点,おわびいたします。
  公益信託とは,公益を目的とすることにより,法的優遇がされる信託であるとする場合,そこには二つの優遇が含まれていると考えています。一つは,信託として効力が認められること,もう一つは,信託の中で,ほかの信託にない有利な取扱いがされることです。
  信託であることにより,定められた目的のために,財産の独立性が認められます。委託者と受託者の固有財産の状態に影響を受けずに,その目的のための活動のみの責任財産とすることができるわけです。これは,一般には認められない効果であり,一つの優遇と言えます。
  この優遇が認められるには条件があります。その財産を誰も,自分のもののごとく扱うことができないようにするということです。この点で,公益信託もその一つであるところの受益者の定めのない信託には,目的財産化を安定して認めるのに足りない面があると見ています。これを,目的財産化が認められる点で共通する財団法人及び信託の中で受益者の定めのある信託と比較することを通して述べます。
  まず,財団法人との比較です。財団法人は,目的財産化を法人格の付与により認めるものである点で,信託と異なります。もっとも,関係者の誰も,財産を自分のもののごとく扱うことができないようにするための仕組みが用意されていることでは共通しています。財団法人においては,その機関構成がこの仕組みに当たります。
  外部からの監督を受けない一般財団法人を例に採れば,3人以上の理事から成る理事会,3人以上の全評議員から成る評議員会が設けられる必要があり,かつ監事が必置となっています。
  理事は,理事会の決定に基づいて業務執行をするため,業務執行者が互いに牽制・監督することになります。そして,法人の基本的事項を決議する機関として,評議員会が設けられ,評議員会が理事の解任権,新理事の選任権を有することが,牽制・監督体制の要となっています。その上で,評議員会の力が強くなり過ぎないよう,解任事由が限定されています。
  さらに,監事が業務及び会計の監査権限を与えられ,理事の日常の業務執行を監督します。そして,監事によるこの監督がおろそかになる事態に備えて,評議員会に監事の解任権も与えられています。
  このように,一般財団法人では,その内部で複層的な牽制・監督体制が敷かれます。とはいえ,この体制が機能する保証はありません。そこで,公益財団法人となる場合には,理事及び監事に関し,親族規制,同一団体規制が上乗せされ,資産規模が非常に大きな法人につき,会計監査人が必置とされるとともに,行政庁による監督がされることになります。
  次に,受益者の定めのある信託です。信託の場合,受託者が財産を有し,事務を処理するため,まずは受託者による財産の私物化を防ぐ必要があります。そこで,委託者と受益者に牽制・監督のための権利が与えられています。また,委託者と受益者は,その合意により,受託者を解任することができます。
  このように,受益者の定めのある信託では,受託者に対する牽制・監督が複線的にされることが標準となっています。もっとも,これは,飽くまで標準にとどまります。例えば,委託者が受託者又は受益者を兼ねる場合,受託者を監督する者は1人だけになります。それどころか,委託者が欠け,受益者は現に存せず,信託管理人も置かれていないことがあります。また,特に自益信託では,委託者が実質的に財産を支配する事態も起こり得ます。
  ただ,受益者の定めのある信託では,信託財産からの利益を受託者以外の者が受けることから,単線的な牽制・監督体制となっても,財産を支配する者に対する牽制・監督の実効性を一般的には期待することができます。そして,財産が実質的に誰かの自由になる状態である場合には,信託の設定そのものが無効,あるいは倒産隔離効が否定されるなど,目的財産化が否定されることがあります。
  つまり,受益者の定めのある信託は,複線的な牽制・監督体制を標準とするが,それが機能しない場合には,目的財産化が否定されることもある。その意味で,目的財産化の承認に少し不安定なところがあるということです。
  これらに対し,受益者の定めのない信託では,単線的な牽制・監督体制が原則となっています。受託者に対する監督権を当然に有するのは,委託者又は信託管理人だけです。また,監督権を有する者が誰もいない事態となることもあります。
  さらに,遺言信託の場合,信託行為に定めがなければ,信託管理人だけでは受託者を選任・解任することができず,内部での選任・解任を通じて,受託者を牽制・監督する体制が標準とされているとも言えません。反対に,契約信託の場合には,委託者が受託者の自由な解任権を有する点で,委託者の財産からの実質的な分離を危うくする面があります。
  このように,受益者の定めのない信託は,一般財団法人,受益者の定めのある信託と比べて,内部の牽制・監督体制に対する不安が大きいと言えます。そのため,一般財団法人や受益者の定めのある信託と同様に目的財産化が認められてよいかが問題になります。
  実際,受益者の定めのない目的信託の有効性については議論がありました。現信託法も,この信託については,存続期間と受託者の資格を制限しています。その制限は,内容の当否はさておき,牽制・監督体制の弱さに由来する目的財産化の承認への疑念から来るものと考えられます。
  これは,何も手当てをしなければ,公益信託でも同じです。信託の効力が争われる余地が大きく,また,効力も限定されるべきことになるということです。だからこそ,公益信託には,外部的監督を用意するのだという考えもあるかと思います。しかし,公益財団法人は,内部で複層的な牽制・監督体制を採り,加えて行政庁の監督を受けています。
  ところが,特に評議員会が機能しているか疑われ,ガバナンスが懸念される例がなくはありません。行政庁の監督に過度の期待をすべきではないということです。また,公益信託を民間公益活動を担う主要な存在にしようとするなら,できる限り自律的に運営させるべきです。行政庁の監督は,内部の牽制・監督体制が機能不全に陥っていないかを監視し,必要ならば,その機能の回復を促すという補助的な役割にとどまるべきであると思います。
  では,公益信託内部の牽制・監督体制をどのように強めるかですが,次のように考えます。
  まず,遺言信託でない場合も,信託管理人を必置とすることは不可欠です。しかし,それで十分とは思えません。信託管理人しか受託者を牽制・監督する者がなければ,受託者に対し,何らかの措置を講じようとするときに,二者対立となり,混乱を生ずるおそれもあると思います。
  また,信託法上,信託管理人に各種の報告,書類の閲覧等を通じて,情報を収集する権利があることは分かります。しかし,それを越えて,どこまで調査をすることができるのか,よく分かりません。本格的な調査は,裁判所に検査役の選任を求め,その検査役がすることになっているのではないかと思います。
  私益の信託では,それでよいと思います。しかし,公益信託では,受託者に対する具体的な措置の前提となる調査を裁判所の関与がなければできないとすることが適当かに疑問を持っています。
  また,不正行為など重大な事実の存在の疑いが検査役選任の要件とされていますが,これは公益信託では,行政庁から強制的な措置を受け得る事態であり,そこまでの事態にならなければ本格的な調査ができないというのもいかがと思います。むしろ,信託内部で調査が定期的にされることが,信託の自律的運営の点から望ましいと考えます。
  その場合,信託管理人に調査権も与えることが適当とは思いません。理由は三つあります。
  第1に,そこまでの権限を信託管理人に与えると,信託管理人の負担が重くなり過ぎます。
  第2に,信託管理人が自らした調査に基づいて判断を下すことは,判断の客観性をめぐる争いの元になります。
  第3に,信託管理人の力が強大化し,事務処理がその影響を受けること,受託者と信託管理人が結び付くことで,牽制・監督体制が骨抜きになることも懸念されます。
  そのため,私は,信託管理人のほかに,事務処理と会計につき監査をする権利のみを有する者を,必置とすることがよいと考えています。
  以上に申し述べたことが,ほかの信託と比べての有利な取扱いにもつながります。公益信託と認定されることで,信託の効力が安定して認められることは,受益者の定めのない信託の中での有利な扱いと言えます。また,存続期間及び受託者資格の制限が撤廃又は緩和されるならば,それも受益者の定めのない信託の中での有利な扱いです。
  このほか,税優遇や名称規制を通じて,公益信託への信頼感を生み,信託への資金提供を促す契機とすることも,信託の中での優遇です。ただ,これらのためには,公益信託という制度が社会から高い評価を得られる状況を整えておくべきであり,そのためには,公益信託認定を受けた信託が不祥事を起こさないこと,不祥事が起きたときに,制度的欠陥も一因であるとされることがないようにしておく必要があると思います。
  このような発想に立つと,公益信託の制度設計において,保守的になるでしょう。しかし,かつて公益法人に対してされた批判,その批判が公益法人制度改革の理由の一つになったことを思えば,これから育てていく公益信託の制度が同じ轍を踏まないようにすることは重要であると私は考えています。
  こういったことを前提に,続いて,幾つかの論点につき,考えを述べさせていただきます。
  まず,受託者に関する問題についてです。公益信託は,信託銀行等が受託者となり,助成事務を行う者にほぼ限られている現状であるところ,受託者となり得る者及び信託事務の範囲の拡大が目指されていると承知しています。民間公益活動の活性化のために,それが望ましいと思います。
  しかし,他方で,公益信託制度への信用が損なわれることがあってはなりません。この点に,受益者の定めのない信託の効力制限には,牽制・監督体制への不安という理由があることを重ね合わせますと,適切な措置を加えなければ,受託者の範囲も信託事務の範囲も拡大の基礎が整わないことになります。
  外部的監督には余り意味がありません。主務官庁制をやめ,より緩やかな外部的監督とするのですから,信託内部の牽制・監督体制に厚みと安定度を増すことが求められるはずです。そして,これは,法人と異なる信託の特徴である軽量・軽装備をいかすこととは次元の異なる話であると思っています。
  その上で,受託者となり得る者の範囲を拡大するとして,どのような者が受託者となることを認めるかについて,気になることを述べます。
  受託者を法人に限るか,自然人にも広げるかが論点の一つとされていますが,いずれにせよ,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有することが必要とされています。
  ところで,一般法人が公益認定を受けるには,公益目的事業を遂行するための経理的基礎と技術的能力が必要とされます。目的事業を遂行するために必要な財産を備え,あるいはその見込みがあり,その財産を適切に管理・運用することができること。及び,目的事業を遂行するための技術,人的・物的資源を有し,それを維持・活用することができることです。これは,公益目的を担う存在として求められる要件であり,公益信託にも同様の経理的基礎及び技術的能力が求められるはずです。
  しかも,公益信託の場合には,この基礎・能力が,仕組みとしての信託と受託者のそれぞれに,意味はやや異なるけれども,求められると見ています。
 仕組みとしての信託に,目的の達成を図るための信託財産が必要となることは明らかです。
  では,信託財産さえあればよいかといえば,そうではないと思います。信託事務処理により生ずる債務について,受託者は固有財産で責任を負います。また,義務違反により信託財産に損失を生じさせた場合には,その填補の責任を負います。こういったことのため,公益信託制度への信用維持,そのための個々の信託の健全な運営の保障という観点から,受託者は当該の信託事務に照らし,あり得べき責任を負うに足る財産を有することが求められると考えます。
  技術的能力については,信託において,内部の牽制・監督体制も含めて,その目的とする事務を適切に行う人的・物的体制が整っていること,受託者がその体制を適切につかさどることができることが,それぞれ求められます。
  以上のことから,自然人を受託者とすることに,私は消極的です。受託者としての経理的基礎と技術的能力を備えているかが問題になることが多かろうと思うからです。
  自然人を受託者とするのであれば,信託事務の範囲を相当限定する必要があると考えます。信託ごとに公益認定に際し,行政庁が適否を判断すればよいとする立場はあり得ます。しかし,認定の場面で,特定の個人の能力を判断対象にすることは,かなり難しいと思われること,自然人受託者の固有財産の不足のために,公益信託が立ち行かなくなった場合に起こるかもしれない制度に対する批判を考えると,個々の認定に委ねることが得策であるとは思いません。
  次に,法人受託者の有力候補であろう公益法人に関し,気に掛かることを申し上げます。もっとも,いずれも公益信託法の問題ではなく,法人の公益認定に係る問題かと思います。
  第1に,公益法人にとって,公益信託の受託は目的事業の追加に当たると思います。そのため,これには行政庁の変更認定が必要です。
  その際,公益目的事業として受託するのであれば,少なくとも形式的に,法人の規模・体制によっては実際に,その追加の可否が,経理的基礎と技術的能力に照らして判断されることになるはずです。これは,公益法人が,その目的の範囲内にある公益信託の受託者に,当然になり得るとは限らないということを意味しています。
  第2に,公益法人は,固有の事業のために必要な財産を備えていることを求められています。そこに公益信託の受託が加わる場合,信託財産は固有の事業による法人の固有債務につき責任を負わないのに対し,ほかの公益目的事業のためにあるはずの固有財産は,公益信託の債務につき責任を負うことになります。これが認められてよいのかに疑問を持っています。
  一律に不可とされないまでも,責任が現実化するおそれのある事務は認められない,つまり信託事務の範囲の限定が必要ではないかと思います。
  第3に,公益目的事業として受託するのであれば,受託者として受ける報酬について,公益法人認定上の収支相償原則の制限が掛かるはずです。そうすると,信託銀行と同じ水準の報酬を得ることは難しいように思います。
  信託銀行等への適正な報酬額は,費用の額を上回るはずです。それと同じ水準の報酬を公益法人が取ると,公益目的事業と認められない可能性があると思います。収益事業として受託するか,報酬額を下げればよいのですが,先に述べたことを含めて,公益法人が公益信託の受託者となるにも,クリアすべき問題があるかもしれないことを示すものとして,触れることにいたしました。
  次に,信託事務の範囲の拡大に関してです。美術館の経営など,事業型の公益信託を認めることに一致があると承知しており,事務範囲の拡大に異論はありません。ただ,法人がする事業を,信託事務として同じようにすることができるとすべきかに疑問を持っています。
  ある事業を営む場合,それが奨学金の給付であれ,美術館の運営であれ,法人がするか,信託により営むかで,必要となる人的・物的設備が変わるものではないと思います。そうすると,法人が営む事業を全部信託でも可能にすることを目指す場合,公益信託に対してされるべき規制は,法人の組成と信託の設定との違いを除き,公益法人に対する規制と同程度にならざるを得ないと思います。
  特に,本格的な美術館の運営のように,大規模な施設を保有し,広範に及び得る事業を永続的に営むことも信託で可能にすることを目指すならば,信託に求めるべき経理的基礎・技術的能力は,法人と同水準のものとなり,受託者には,相当高い水準の経理的基礎・技術的能力が求められる。信託内部で,公益法人と同程度の牽制・監督体制が構築されていることが必要になると考えます。
  このようなことを避けるために,その営む事務により,規律を分けることが考えられます。その切り分けがうまくできるのであれば,それがよいと思います。ただ,切り分けは,そう簡単ではないように思います。
  仮にそうであれば,公益信託事務を広げるとしても,本格的な美術館の運営のように,法人形式ですることが適するものを信託でしようとするのは,得策にならないような規律とすることも考えられると思います。例えば,公益信託において,収益事務を営むことを認めない,公益目的事務により利益を上げることについて制限を掛ける,公益目的事務とそれ以外の事務の切り分けに融通を余り利かせない,信託財産の運用について,今では評判のよくないリーガルリスト方式を,運用対象を広げることはあるにしても,あえて維持するといったこともあり得るのではないかと思います。
  こう申し上げますと,信託の利点を理解していないとの批判を受けるかと存じます。しかし,我が国には,公益活動を営む者として,既に非常に多くの公益法人が存在し,かつ社会に根付いています。そのため,営む事業に照らして,法人と信託のいずれを選択することが合理的かを意識させるように公益信託法を組み,法人で営むことに余り適さない公益活動,例えば小規模・短期の公益活動を信託で営むよう誘導することも,信託の活かし方の一つと考えます。また,そうすることで,軽量・軽装備での公益活動の実現,受託者となり得る者の拡大も容易になるのではないかと思います。
  受託者に関して,次に,信託行為の定めにより,受託者の善管注意義務を軽減することは認めるべきではないということを申し上げます。
  信託財産が適切に維持され,公益目的のために利用されることは,公益信託に対し,法的優遇を与えるための前提であると思います。また,公益信託の受託者には,その目的事務を遂行する技術的能力が求められるところ,そこには信託財産の適切な維持・利用の能力が含まれるはずです。
  そして,善管注意義務は,当該地位にある者として標準的な注意を用いて事務を処理する義務であり,公益信託の受託者の場合,公益目的事務を処理する者として,標準的な注意を用いることも意味するはずですが,それは,公益信託の受託者として備えるべき技術的能力を現実にいかすことを意味します。そうすると,善管注意義務軽減の定めを認めることは,公益認定の前提との間にそごを来すことになります。
  信託行為に善管注意義務に関する定めが置かれている場合,その定めが義務の内容を具体化するものか,義務を軽減するものかの判断は容易でないことがあります。そのため,ある定めが義務を軽減するものかは,認定行政庁の判断にならざるを得ません。そうであっても,公益信託について,信託法212条1項と同様の規定を設けるべきであると思います。
  続いて,受託者の交代についてです。まず,受託者の辞任について,信託関係人の同意があれば,やむを得ない事由がなくても,辞任を認めてよいと考えています。意欲をなくした者を職に縛り付けるのはどうかと思うことと,辞任後も新受託者が事務処理をすることができるに至るまで,前受託者が引き続き受託者としての権利義務を有するため,信託にとって支障もないと思うからです。
  次に,解任については,委託者があるときは,委託者と信託管理人の合意により,委託者がないときは,信託管理人が受託者を解任することができる。ただし,そのためには,解任を正当とする事由が必要である,とするのがよいと思っています。
  公益信託といえども,信託の運営は自律的にされるべきであり,外部機関の関与がなければ不適任者を解任することができず,事務処理を継続させなければならないとするのは,適当とは思えません。ただ,無理由の解任を認めると,解任権者の力が強くなり過ぎ,その者による公益信託の支配のおそれがあるため,解任にはそれを正当とする事由を求めるべきです。
  辞任・解任とも,信託内部での手続による場合に,外部第三者機関の許可は不要であると考えます。受託者の任務の終了の場合,新受託者による事務処理の速やかな開始こそが重要であり,その開始には行政庁の承認が必要となるはずですので,一連の手続の適切性はそこで担保されると思うからです。
  なお,辞任・解任とも,外部第三者機関,具体的には裁判所の許可を得て辞任あるいは解任するという方法も認めるべきです。やむを得ない事由があるのに,信託関係人が同意しない場合の辞任,正当な事由の存否をめぐって当事者が争う場合の解任を可能にするためです。
  新受託者の選任については,何よりも,信託内部ですることができるようにすべきであると考えます。公益信託であっても,規制が掛かる部分を除いて,信託は自律的に運営されるべきです。そうであるのに,信託を正に動かす受託者を信託内部で新たに選ぶことを法的に認めないのは,適切でないと考えます。そのため,信託行為に新受託者選任の方法の定めがされていることを公益信託認定の要件とすべきであると考えます。その場合も,その定めに基づく選任がされない場合に備え,利害関係人の申立てに基づく,裁判所による選任を認める必要があります。
  新受託者が信託事務の処理を開始するには,行政庁による新受託者の承認が必要と考えます。公益信託は,公益目的の達成を図るため,経理的基礎と技術的能力を備えていることを求められるところ,その基礎・能力は,受託者の属性に大きく依存します。また,受託者についても,経理的基礎・技術的能力が求められます。このため,新受託者が選任された場合,当該信託が引き続き認定要件を満たすことを確認するため,行政庁による承認が必須であると思います。
  裁判所による選任の場合も,理屈はこれと変わりません。しかし,裁判所が選んだ者を行政庁が不適任とすると,混乱の極みになりますので,選任の裁判の中に行政庁の意見を聞く手続を組み込むことがよいと考えます。
  受託者について,最後に,受託者の不在と受託者の資格喪失に触れます。受託者が欠けた場合,特段の規定を設けなければ,その状態が1年間続いたときは,信託が終了することになります。これは,公益信託であってもやむを得ませんが,新受託者が信託事務を開始するまでの間について,気になることがあります。信託関係人の合意による受託者の辞任の場合を除き,信託事務が止まることは仕方がないとしても,その間の信託財産の保管,信託事務の引継ぎについて,措置を講ずる必要はないかという点です。
  例えば,自然人受託者を認める場合,受託者が死亡したときは,相続人が信託財産の保管等の義務を負うことになります。しかしこれは,相続人にとって,相当重い負担であると思います。また,義務が適切に利用されるかが懸念され,公益信託にとっても好ましくありません。法人受託者についても,解任の場合は,その後の義務の履行に不安が残ります。
  これらは,公益信託に限った問題ではありませんが,公益信託は受託者の属性を含めて公益認定を受けているので,受託者以外の者が信託財産を保管することは,適法な第三者委託の場合を除けば,本来あるべきでないと思います。このため,受託者の任務終了に備える措置を公益信託に限り法定する,あるいは,信託行為にその場合に関する定めのあることを公益信託の認定要件とすることを考えてもよいのではないかと思います。
  次に,公益信託の認定要件として,公益法人認定法6条1項が法人役員につき定めるのと同様の資格が受託者について設けられた場合において,受託者がその資格を喪失したときは,公益法人と同様に認定が取り消されるべきかについてお話します。ここでは,受託者が反社会的勢力に該当する者となった場合を例にとります。
  公益法人の場合と異なり,受託者の資格喪失は,受託者の解任理由になり得るだけとすることでもよいかと思います。法人の場合,役員はその機関であることから,役員の属性により法人の属性が決まるという考え方が採られているものと思います。実質的にも,役員の一部に反社会的勢力に該当する者がある場合,その役員さえ交代させれば,法人からその勢力の影響が一掃されるのか,何とも言えません。
  それに対し,信託では,信託のその時々の属性は,受託者の属性に大きく依存しますが,受託者は信託の機関ではありません。また,受託者を交代させれば,別人の下で信託事務が営まれることになるため,体制が一新されると言えそうにも思います。
  もっともこれは,形式的な理屈にすぎません。反社に一度支配された公益信託が社会からどう見られるか。その状況の下で,新受託者の選任可能性は現実にどの程度あるか。受託者の交代は本当に体制一新になるのか,こういった点の考慮が必要と思います。
  続いて,信託管理人に関して,1点のみ申し上げます。
  公益信託において,内部の牽制・監督体制を充実させる必要があると申し上げました。その体制の要になるのは信託管理人です。このことから,私は,信託管理人が容易に不在になる,しかも,その状態の解消に時間がかかることは,公益信託において,本来あってはならないと考えています。ところが,特に自然人が信託管理人となる場合,信託管理人がいつ欠けることになるか分かりません。
  そこで,公益信託については,新信託管理人の選任が速やかにされるよう,特別の措置を講ずべきであると思います。そうすると,外部第三者機関による選任には時間がかかることから,信託行為の定めによる新信託管理人の選任を認め,かつ,その選任に関する定めがあることを公益信託認定の要件とすべきであると思います。
  もっとも,その場合,標準的に誰を選任権者とするかは難しい問題です。この点からは,信託管理人を複数とし,現存する信託管理人に選任権を与えることもあり得るかと思っています。
  信託行為に新信託管理人の選任に関する定めを設けても,信託管理人が欠けることもあります。それに備えて,信託関係人の申立てに基づく裁判所による選任を認めるともに,信託管理人の不在が一定期間続いたときは,公益信託は終了するとすべきであると思います。
  次に,委託者に関することを2点申し上げます。
  まず,信託の運営への関与について,私は,委託者は信託の設定者であることから,一方で,信託行為の定めに表された委託者の意思は最大限尊重されるべきである。他方で,それを超える関与は限定的なものにとどめるべきである,と考えています。
  信託行為の定めに表された委託者の意思の尊重は,とりわけ信託行為の変更,中でも信託の目的の変更につき,重要な意味を持ちます。信託行為の定めの変更は,委託者の意思に反しない限りで認められるべきであり,信託の目的の変更は,その変更を許容する信託行為の定めがなければ,事情変更の原則が妥当するような場合を除き,認められるべきでないということ考えます。
  信託行為に許容の定めがないため,目的の変更ができないということには,目的の達成又は達成不能により,目的の変更をしなければ公益信託が終了する場合も含まれます。類似の公益目的に変更して信託を継続することも,それを許容する旨の信託行為の定めがなければ,例外的な場合を除き,認めるべきではないと考えています。これを認めることは,通常,そのときの受託者の意思を委託者の意思に優先させることになるからです。
  やはり,公益信託の何たるかを分かっていないと思われるかもしれませんので,加えて3点申し上げます。
  第1に,信託行為の定め次第とすることは,ほかの公益目的で信託を継続するかどうかを,受託者ではなく,委託者に判断させるということであり,その継続を阻もうとするものではありません。
  第2に,公益信託において,信託の目的と目的事務とは,事実として同一であることもあり得ますが,概念的には区別されるものです。信託行為において定められた目的事務は,信託の目的の達成のための例示であることがあり,その場合,目的事務の変更は信託の目的の変更に当たらず,委託者の意思に反しなければ認められます。
  第3に,財団法人の目的の変更は,原則として定款にその変更を許容する定めがあるときにすることができるとされており,それは公益財団法人でも同じです。公益信託の目的は,信託行為に許容の定めがあるときに変更することができるとすることは,これに対応します。
  続いて,委託者の地位の相続について,手短に述べます。
  委託者の相続人が委託者と同じように,当該信託に関心を持つとは限りません。相続が何代も続くと,ますますもってそうです。そうすると,委託者の地位の相続を認めても,信託によい影響は余りなさそうです。
  反対に,時を経ると,相続人の把握が難しくなることも考えられ,委託者の同意を要するとする事由を設ける場合,委託者の地位の相続を認めることは,公益信託の円滑な運営の妨げとなることがあります。このため,公益信託の委託者の地位の相続は認められないとすべきであると思います。
  最後に,公益信託における行政庁と裁判所の役割について述べます。
  受託者や信託管理人の辞任・解任・選任,信託行為の定めの変更などについて,外部第三者機関が決めるとされる場合があり,その場合に,外部第三者機関とは裁判所か行政庁かが論点となっています。
  私は,それらのほぼ全部について,裁判所がその任を担うべきであると考えます。理由は三つあります。
  第1の,そして最大の理由は,行政庁が担うとするのでは,主務官庁制廃止の意味が大きく損なわれることです。監督官庁の裁量を排した運営の実現が,公益法人であれ,公益信託であれ,主務官庁制廃止の大きな意味です。そうであるのに,解任手続において,例えば受託者の事務処理の当否を行政庁に判断させる,後任は誰がよいかを行政庁に決めさせる,公益信託が行う事務すら変更命令の形で行政庁の判断に委ねるというのでは,何のための主務官庁制の廃止なのかと思います。
  また,行政庁とは,内閣総理大臣又は都道府県知事であり,その事務を担うのは内閣府又は都道府県の総務部など,特定の部局が想定されていると思います。この想定でよいのは,行政庁は申請を受けた事柄について,法律に定められた基準に照らして,認否だけを判断するからであると思います。
  もし事務の実質と,それに照らした運営体制の適否を行政庁に判断させ,適切な体制の構築にまで行政庁を関与させるのなら,旧来のように,当該信託事務に精通する官庁を行政庁とすべきであると思います。
  第2に,公益法人に係る規定との整合性です。法人について,外部第三者機関による役員の辞任許可,解任・選任はそれほどありません。法人自治に基本的に委ねられており,信託について,同様の考え方で望むべきことを本日申し上げたつもりです。しかし,法人についても,例えば,役員に欠員が生じたときには,利害関係人の申立てに基づき,裁判所が一時役員を選任することがあります。
  また,一般財団法人の目的は,その変更を許容する定款の定めがなくても,例外的な場合には,評議員会の決議によって変更することができますが,その際に,変更の許可を与えるのは裁判所です。そして,これらのことが,法人が公益認定を受けたことによって変わることはありません。
  第3に,信託法の規定との整合性です。受益者の定めのある信託や,公益信託ではない受益者の定めのない信託についても,外部第三者機関の関与による受託者や信託管理人の辞任等,あるいは信託行為の定めの変更等が定められています。ここでは,行政庁の出る幕はそもそもなく,外部第三者機関とは全て裁判所です。
  公益信託の場合,公益認定の手続のため,行政庁が信託に関与することになります。しかし,そのことで,信託法の規定と異なる扱いをすべきことにならないことは,第1,第2の理由が示していると思います。
  以上,意見を申し上げました。このような機会を頂きましたことに,改めてお礼を申し上げます。誠にありがとうございました。
○中田部会長 佐久間参考人,どうもありがとうございました。
  公益信託の法的優遇についての分析を踏まえて,具体的な規律の在り方について,非常に幅広く有益なお話を頂戴いたしました。
  ただいまのお話につきまして,御質問などございましたら,御自由にお出しいただければと存じます。
○吉谷委員 1点,御質問をさせていただきます。
  6月の信託法学会でした質問と少しかぶってしまうところがございますけれども,参考人の御説明では,新しい信託法制というものを念頭に置かれて,公益信託の事業の範囲が拡大し,受託者も拡大するということの前提において,ガバナンスの体制について,御意見を頂戴したというふうに認識しております。
  ただ,一方で,現在行われている公益信託というものにも,同様のガバナンスが必要なんだろうかというところについては疑問がありまして,現在のものがそのまま,新法に適用されるのかどうかというのは,また別の議論でございますので,現在とほぼ同様の仕組みの公益信託,つまり,信託銀行が受託者となり,奨学金などの助成のみを行う,受託者は1人で,信託管理人も自然人の方が1人でやるというものにつきまして,信託銀行の場合は,まず金融庁の監督の下にあり,それを前提として,信託銀行の内部において,二重,三重の牽制体制が敷かれていると。
  そのような受託者と,信託事務の内容が非常に明快,簡便で,年に一度,信託銀行が,例えば奨学金などの募集をして,その結果を運営委員会という組織をもって,受給者が適正であるかどうかという判断についての助言を仰ぎ,その結果をもって受給すると。信託管理人は,その内容を精査するというような単純な仕組みのものについても,ここでおっしゃっているような仕組みが必要ではないかというような御意見であるのか,それとも,事業型を前提とすると,やはり厳しいものが必要である,つまり,段階的な基準というものを設けることが許容されるというふうなお考えなのか,それとも,そういうことがそもそも難しいのではないかというお考えなのかという,ここをちょっとお教えいただけたらと思います。
○佐久間参考人 私,実務に詳しいわけではございませんので,何とも申し上げようがないところがありますが,報告の中で申し上げたことに関わって言いますと,切り分けができるならば,それがいいのではないかというふうに申し上げたつもりです。
  今の吉谷委員のお話ですと,例えば,現在の公益信託をほぼそのまま移行させるということだとすると,別段,今の法制に何か大きく付け加えることが必要かというと,そうは思っておりません。しかし,私が理解したところでは,そうではなくて,どの範囲かは分かりませんが,事務の範囲も受託者の範囲も広げようということであるとすると,当然,今とは異質なものが入ってくるわけでございますので,そこの切り分けが仮にうまくできなかったならば,それはもう,一律に適用すべき法ということになりますので,軽いというとおかしいですけれども,問題がそれほどなさそうなところに合わせるのではなくて,問題があり得るかもしれない方に合わせることにならざるを得ないではないかということで,お話をさせていただきました。
  飽くまで一般的な考え方を申し上げただけでございますので,どの程度の事務をするならば,どれほどの内部牽制・監督体制の強化を図らなければならないのかと言われますと,ちょっとよく分からないところはございますが,受託者の範囲を広げる,そして,それは恐らく他からの監督,他の金融庁,おっしゃった信託銀行なり,他からの監督もないような,一般的には公益信託としての監督しか受けないで済む,そういう受託者が入ってくる。それで,事業型の信託を行うということであれば,それなりの構えが必要なのではないかという,そういう趣旨でお話をさせていただきました。
○中田部会長 吉谷委員,よろしいでしょうか。
○吉谷委員 ありがとうございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 ありがとうございました。
  せっかくの機会なので,ちょっと何点か質問させていただきたいと思いますが,まずその前提として,3ページ目から4ページ目,一番初めから書かれているんですけれども,公益信託というのは,何らかの形で法的な優遇が行われるようなものであるから,やはり,それに対応するような体制作りというのがないといかんと述べられています。4ページ目の一番上では,個々の公益信託が不祥事を起こすようなことがないようにという,そういう配慮をした上で制度構築をという,方向性としては全く私もそのとおりだと思っているんですが,結論のところで,6ページ目の4のところですけれども,公益法人制度と公益信託制度というのを並べて,公益法人制度が社会に根付いているではないかと,だから,公益信託というのは,短期で小規模の活動等に限られるので十分だというのは,ちょっとそちらの方向性は私は残念ですが採ることができません。
  それは私だけの勝手な意見ですから,そういうことだけは申し上げた上で,幾つか質問とコメントになると思いますが,第1点は,ちょっと分からなかったのは,これは私の理解が本当に不十分なんだと思いますが,2ページ目の,結局,内部統制,内部牽制みたいな話なんですけれども,受益者の定めのある通常の信託だったら複線的な内部牽制があるが,受益者の定めがないときには単線的な,つまり受益者によるコントロールがないんだから,1本線は引かれないだろうという単純な意味なんでしょうか。この複線,単線というのがちょっと分からなくて,これが第1点です。
  それから,第2点は,結局,公益法人制度がある中で,公益信託制度をどう位置付けるかというのは難問で,私はやはり,このような小さな補完的な立場でというのではないものを,何とか考えてみたらどうかと思っているんですけれども,そのときに,内部統制の制度みたいなところで,やはり基本的には,ガバナンスの点で信託には問題あるからというところが,一つあるのかなと思っているんですけれども,一方で,2ページ目の上から7行目ぐらいのとおり,公益法人だって,実際には内部牽制・監督の実効性に対する不安,実際に不安が現実化している例は何年にもわたってありますよね,実際はね。
  全ての公益法人が駄目だなんていうことは絶対なくて,多数の公益法人は立派にやっていると思いますけれども,それでも公益法人の不祥事というのは,昭和40年代であれ,平成になってからだって実際にあって,それに対して矢印で,こういう公益法人についてはこういうようなことがあるからというのだけで,本当に公益信託と比べて,実質的な話として,こういう,少なくとも制度的な批判は出てこなくて,何というんですか,公益法人については,たまたまそれに関与した人間が悪かったんだというだけの話に,本当になるのだろうかという気がするんですね。
  ちょっと今の質問がどこに関係していくかというと,先ほどの6ページ目の結論のところで,公益法人制度の方が主体であって,こちらの方は,とにかく法人により行うことが合理的とは言えないようなものに限るべきだというのは,ちょっと,何というんですかね,結論への行き方というのが,私にはどうも得心がいかないという。むしろ,ある種の競争関係,つまり公益法人ではやれないようなことを行う,そこから,公益法人により行うことが合理的とは言えないことだけ行うという話ではなくて,公益法人により行っていいんですけれども,しかし,公益信託というのでやってみたらいいではないかというようなものは幾らでも考えられるような気がするというのが第2点です。これは,ある種,結論みたいな意味なので,コメントだと聞き流してもらえばいいかもしれません。
  あと二つぐらいでやめますけれども,三つ目は,自然人を受託者とすることについて,5ページ,これも否定的な話で,今の吉谷委員の話と関係するんですけれども,これもやはり,一般的に今度,公益信託制度を広げようとするときに,自然人はもう,やはり駄目ですよと言ってしまっていいかというのがあって,例えば,今までの助成型で典型的なものだけ考えますと,今は三菱UFJ信託銀行がやっておられるかもしれないけれども,例えば,そんなことなかなかないんですけれども,どこかのお金持ちが,やはり信託という考え方を広めたい。それで,信託の研究をするような研究者であれ,あるいは大学院生であれ,そういう人たちに助成金を出そうと,一定のお金を出す。それはもちろん,吉谷委員のところへ出すということだってあるんです。
  しかし,たまたま信託というのをずっとやっている樋口というのがいるではないか,樋口だけではすぐ死ぬかもしれないというので,そうすると,死んでも大丈夫なように複数にしておきます,例えば神作幹事とかね。それで,どちらかが倒れた場合には,神作幹事に,先ほども話がありましたけれども,補充的な受託者を常に,でも,2人で一緒に死んでしまうこともあるから,やはり3人にしておいて,もう1人,道垣内委員も入れましょうね。これ,3人で一緒に死ぬことはないと思うからというようなことをしておいて,それで,それら受託者がきちんと助成していくだけなんですね,選んで。だから,そういうときになった場合に,経理的基盤を備えているかが問題になるという話はないであろうし,そのお金だけでやっていくわけですしね。
  自然人受託者の固有財産の不足のために公益信託が立ち行かなくなるという話も,余り考えなくていいような場合もあるのに,ここで一律に,だからそれは,信託によって切り分けというのがうまくできるんだったら,そこにはこだわりませんよということでおっしゃってくださるのなら,それはそれでいいんですけれども,一律に,自然人を受託者とすることは今はもうやめた方がいいよという話はどうなのかなという感じがします。
  最後は,この審議会でも,最後の行政庁と裁判所の役割の分担というのは,やはり難問の一つで,私もうまく発言ができていない。しかし,今日の参考人のお話は,私には極めて説得力のあるようなことに聞こえました。だから,これについて,そうではなくて,やはり行政庁が,認定行政庁を作るんだから,認定行政庁の方で相当部分をやるべきだという方は,せっかくだから,ちょっと佐久間参考人,違いますよという御発言をされたらよろしいのではないでしょうかという,これは勝手な意見です。
○佐久間参考人 最後の点は,特段の御発言がなければよいなと,思います。
  複線・単線というのは,これは単純な意味でございまして,受益者の定めのある信託については委託者と受益者が2人で受託者の事務処理を監督するということであるのに対し,受益者の定めのない信託については,委託者又は信託管理人という1人だけだという,それだけのものでございます。
  受益者の定めのある信託につきましても,随分不安はあってというふうなことは申し上げたつもりですので,そこにすごく大きな差があるとは思いません。しかし,構えとして,違うことは違いますねという確認をいたしました。
  残る2点,大きな問題でございますが,確かにはっきりとした意見を申しました。性分もあると思いますし,はっきり言わないと何となく,本日せっかくこちらに伺ったことに意味がないと思いましたので,はっきり申し上げましたが,こうでないといけないというふうには思っておりません。私のように見る人間からすると,今御審議なさっているところで,こういうことを考えていただいた方がいいのではないかということを申し上げたくて,発言をさせていただきました。
  そのうえで,まず,公益法人制度がある中で,信託をどう位置付けるかということですけれども,これは樋口委員がお話しになったような考え方があることは,もちろん承知しておりまして,私の考え,今日述べました考えのほうが優れているなんていうことを言うつもりはございません。
  ただ,樋口委員がお考えになっているような,つまり公益法人制度と信託でできることを同じようにしてというか,競争関係で並び立ててということは,あり得るとは思いますが,そうしようと思うと,規律が大変なのではないですかと。それで,公益信託だから,公益法人と違う公益信託だから,随分違ってもいいよね,軽くてもいいよね,というふうにはなりにくいのではないかと思っています。
  途中で申しましたけれども,同じ事業,事務をするのであれば,法人でしようと信託でしようと,必要となることは大して変わらない。ただ,例えばですけれども,樋口委員が例に出されましたような,助成だけをとにかくするんですと。しかも,今あるお金を助成し切ったら終わりですというのですと,これは法人を作ってまでするのは,むしろ大変なのではないか,信託の方が向くのではないか,そういうものもあるよねということが,はっきり意識されればいいと思っております。
  それで,切り分けをできれば理想的だと思いますのは,この部分については法人ではなくて,信託でやるのがはっきりいいよねというのがあり,事業型の方でも,本格的な美術館のようになると,これはもう法人の方がいいよねというふうになり,比喩的な話で申し訳ないですけれども,中間的なものについては,それこそ,両にらみでというふうになればいいなと思っております。しかし,仮に,それがなかなか難しいということになった場合には,重いものを二つ作るよりは,法人の方は一応あるんだから,法人制度ではなかなか,何というか,合理性がないというんですかね,費用対効果の点で得策ではないというようなものについて,信託がどんどん使われるような,そういうことができればいいのではないかなというふうに思っておるところです。
  それと,公益法人についても批判があるということですね。公益財団法人ですけれども,評議員会の機能がというのは,それはもうそのとおりというか,たくさんあるという意味ではなくて,そういうものだってあるということなんですが,私が申し上げたかったのは,公益信託の方で同じような事象が仮に起こった場合に,軽い仕組みにしておくというか,法人の方はこういう仕組みになっていますと。それに比べれば,内部の牽制・監督体制が軽いというか,それほど幾重にも重なっているものではないということになると,非常に短絡的な批判かもしれませんけれども,それだったら,もっときちんとした構えにしておけばよかったのに,というような批判が出てきやすくなるのではないか。
  法人の方が大丈夫だというわけではなくて,恐らくこんなものは幾ら作り込んでも不祥事というのは起こるときは起こるでしょうし,切りがないということではあると思うんですけれども,もう少しちょっと見直した方がいいのではないでしょうかと。私が今日具体的に申し上げたことでいいますと,信託管理人を置くのは当然として,あともう少しというようなところは考えた方がいいのではないでしょうかという,そういう趣旨で申し上げたつもりでございます。
  それから,自然人受託者についてでございますけれども,自然人受託者について否定的なのは,結局やはり事業型,あるいは非常に長期にわたるというようなことを念頭に置く場合ということに,典型的にはなります。自然人受託者に否定的だという申し方をしましたのは,経理的基礎・技術的能力のところでございますけれども,例えば死亡,後見開始によって,急に受託者が欠けるという状態も,自然人の場合はやはり起こり得ますので,法人に対してだったら,そういうことは絶対ないかと,それはそうではありませんけれども,やはり不確実性は高いということです。自然人受託者には消極的といいますのは,認めるなということではございませんで,自然人受託者を認めるというのであれば,作り込まなければいけないところが,法に,幾つも出てくるのではないかということを申し上げたかったということでございます。
○中田部会長 樋口委員,よろしいでしょうか。
○樋口委員 はい。
○中田部会長 時間も押しておりますけれども,もうお一方ぐらい……
○新井委員 大変示唆的な御報告,どうもありがとうございました。
  必ずしも御報告の範囲内でないかもしれませんけれども,2点質問させていただきたいと思います。
  1点目は,信託から利益を受ける者についてです。受益者というべきか,受給者というべきか,あるいは受給権者というべきか,いろいろな言い方があると思いますけれども,公益信託において,信託から利益を受ける者については,受益者とはいわないということでスタートしているのですが,そうすると,今日佐久間参考人のおっしゃった法的な優遇を与えるという面からは,やや問題になるのではないかと思います。
  具体的には,実務上は全てのケースについて,受託者と受給者が贈与契約を結ぶ必要がありますが,現行はやっていないと思います。しかし,それはガバナンスの点で,きちんとするということなら,全部贈与契約を結ばなければいけないということですが,それでは,かえって手間暇が増えてしまう。それはむしろ,実務上マイナスではないかという点が第1点です。
  さらには,信託の非常にいいところ,つまり信託財産から利益を受ける者は,利益享受の意思表示なくして利益を受けることができるというのが,信託法88条で明記されているわけです。しかし,受益者ではないと規定してしまうと,これから福祉型の信託で,意思能力はないけれども,公益信託の経済的利益を受けさせる人たちに対する対応が不十分になるのではないかと考えるわけです。ですから,実務上の手間暇という面で,事務負担が増大するということ,そして,本来信託の特徴であったところの,受益者として指定された者は当然信託の利益を享受するというメリット,それを放棄してしまうのではないかという二つの点が重要ではないか考えています。
  これは,この前の信託法学会で質問させていただきましたけれども,佐久間参考人の御回答は,それはもう全部民法の枠内でやるんだということで,そういう割り切り方はあると思うんですけれども,それは法的優遇ということを考えると,ちょっと私としては割り切れないものがあるので,その点,もうちょっと突っ込ませて,参考人の御意見をお伺いできればと思います。これが第1点です。
  2点目は,信託としての安定した効力を認めることが重要だと説明されました。その安定した効力というのは何かというと,結局,目的財産化,それをもっと端的に言えば,信託財産独立性ということだと思います。あるいは,倒産隔離機能といってもいいのかもしれません。
  そうすると,信託法で,信託に基づいて信託を設定しましたという,そういう中でも,目的財産化が成立しているものと成立していないものがないと考えた上で性質決定すべきだというのが,佐久間参考人のお考えでしょうか。むしろ私は,そういうふうな考え方に近いわけですね。
  例えば,佐久間参考人がおっしゃったのは,目的信託は目的財産化を認めるには不十分であるというふうにおっしゃいました。私もその意見に賛成ですけれども,現行信託法の考え方はそうではなくて,目的信託というものを設定して,それが信託法の要件に合致していれば,目的財産化を認めるということではないのでしょうか。あるいは,自己信託もそうです。自己信託という制度を作った以上は,要件に合致していれば目的財産化を認めるという立場で作られていると思います。ですから,ちょっとこれは公益信託の議論とは離れるのですが,信託法の基本的な理解として,その辺りはどんなふうにお考えになっているか,お教えいただければと思います。
○佐久間参考人 まず,第1点でございますけれども,信託から利益を受ける者を受益者でなく受給者とすると,例えば金銭の寄附をするときに,贈与契約をしなければいけないのではないかという点は,分析すればそうなのかと思います。ただ,ちょっとお答えにならないようにも思うんですが,あえて申し上げますと,公益法人でも同じことは起こっていて,そこで受給者に金銭給付しているときに,給付をしましょう,受け取りましょうということで済んでいる話ではないかと思うんですね。
  それは,こういうことを言うと,法でないと言われるかもしれませんが,実際にそういう事実が起こりますと,法律上これを無効だと言う人がいなければ,意思能力者側からですかね,無効にはならなくて,そこに問題が起こることは余りないのではないかと。少なくとも,意思能力を欠く保護を要する方に対する金銭給付については,そうではないかと思うんです。
  紛争が起こることもないとは言えないかもしれませんが,一応給付の対象者を決定し,そこに一定の手続を経て給付をする,金銭が受け取られているというふうになりますと,それでもって特段,後から無効だというふうな主張をする利益のある人がいないのではないかというふうに思いますので,分析をすれば,新井委員のおっしゃるとおり,いろいろあるのかもしれませんが,実際に問題として出てくることはないのではないかなと思っております。
  それから,2点目の安定した効力うんぬんの話でございますけれども,私は,まず目的信託について,これは,安定した効力を認めるに足りないというふうに申し上げたつもりはございませんで,不安定なところがあると。そこはやはり認識されているのではないかと思い,その認識されているのがどこに表れているかというと,存続期間の制限と受託者資格のところであると思います。
  公益信託におきましても,そういう制限をすること自体はあり得ると思うんですが,そのようなことは適切ではないと思います。存続期間の限定,あるいは受託者資格も,現状,信託銀行にほぼ限られているかもしれませんが,それらを広げていこうということには賛成でございます。ただ,そうしていくには,信託法上の受益者の定めのない信託よりも,内部のガバナンスを強化して,差別化を図るというんでしょうか,違うものだというふうにしていくことが適当ではないかと思い,意見を申し上げた次第です。
○中田部会長 ありがとうございます。
  まだ,御質問,御意見もあろうかと存じますけれども,予定した時間になっております。また,吉谷委員,樋口委員,新井委員から,主要な点について幅広く御質問いただきました。さらに,この後の審議の中で御意見を頂くことも可能かと存じますので,申し訳ございませんですけれども,取りあえずこの辺りで,佐久間参考人に対する御質問は,この程度にさせていただきたいと存じます。
  佐久間参考人には,貴重なお話を頂きまして,また質問にも丁寧にお答えくださいまして,大変ありがとうございました。本日頂戴しました御指摘,御意見を今後の審議の参考にさせていただきたく存じます。どうもありがとうございました。
  それでは,本日の審議に入ります。本日は,部会資料42について御審議いただく予定です。
  この資料は,第1「公益信託の信託行為の定めの変更」及び第2「公益信託の併合・分割」に分かれておりますが,相互に関連いたしますので,事務当局からは一括して説明してもらいまして,その後,審議は順次行うことにしたいと思います。
○舘野関係官 それでは,御説明いたします。
  まず,部会資料42,第1「公益信託の信託行為の定めの変更」について御説明いたします。
  まず,「1 公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更」について御説明します。
  本文では,(1)として,「委託者,受託者及び信託管理人の合意等(以下この部会資料において,「信託関係人の合意等」という)のみによる公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更はできないものとすることでどうか。」との提案をしています。
  また,(2)として,「現行公益信託法第5条及び第6条を廃止又は改正し,新たな公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更は」,次の「ア及びイのいずれかの方法によりできるものとすることでどうか。」とした上で,「ア 信託関係人の合意等がある場合には,受託者からの申請を受けた行政庁が,変更の[認可/認定]を行う。」,「イ 信託関係人の合意等がない場合には,信託法第150条を適用し,特別の事情があるときに,委託者,受託者又は信託管理人の申立てを受けた裁判所が変更命令を行う。その際,委託者については信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとする。」との提案をしています。
  さらに,(3)として,「(2)アの例外として,公益信託の目的以外の信託行為の定めの軽微な変更をするときは,受託者は,その旨を行政庁に届け出るとともに,当該変更について委託者及び信託管理人の同意を得ていない場合には,遅滞なく,委託者及び信託管理人に対し,変更後の信託行為の定めの内容を通知しなければならないものとすることでどうか。」との提案をしています。
  新たな公益信託において,委託者,受託者及び信託管理人による信託に関する意思決定を重視する観点からは,信託関係人の合意等による信託行為の定めの変更の手続を定めた信託法第149条を適用することが相当であると考えられます。しかし,信託関係人の合意等がある場合であっても,変更後の信託行為の定めの内容によっては,新たな公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があることからすると,これを全く委託者,受託者及び信託管理人の自由に委ねてしまうことは適切でないと考えられることから,本文1の(1)のような提案をしています。
  このように,信託関係人の合意等のみによる公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更を認めないものとする場合でも,外部の第三者機関を関与させる形で,信託行為の定めの変更を可能とすることが考えられます。
  まず,公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更について,信託関係人の合意等がある場合には,変更後の信託行為の定めの内容によっては,新たな公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があるため,受託者からの申請を受けた行政庁が変更の[認可/認定]を行うことにより,公益信託の目的以外の信託行為の変更をできるものとすることが相当であると考えられることから,本文1の(2)のアのような提案をしています。
  次に,公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更について,信託関係人の合意等がない場合は,信託法第150条の趣旨が妥当するため,同法第261条第1項による読替え後の同法第150条を適用し,特別の事情があるときには,委託者,受託者又は信託管理人の申立てを受けた裁判所が変更命令を行うものとすることが相当であると考えられることから,本文1の(2)のイのような提案をしています。
  この提案に関しては,部会資料40の第1の5では,変更命令の主体を行政庁とするか,裁判所とするか,両案を併記しておりました。しかし,第41回会議における審議を踏まえ,検討しましたところ,変更命令の主体を行政庁としたとしても,その適法性は,最終的には取消訴訟等の司法判断に委ねられるものですし,変更命令の判断は,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情の有無を踏まえた上で,変更について意見対立がある信託関係人の利害を考慮して行われるものであることからすると,変更命令の主体は裁判所の方がより適切であるものと考えられることから,本部会資料では,変更命令の主体を裁判所とする案のみを提案しています。
  以上のとおり,今回は,信託行為の定めの変更について,信託関係人の合意等がある場合には,行政庁が[認可/認定]基準の充足性の観点から変更の当否を審査し,信託関係人の合意等がない場合には,裁判所が変更命令の変更の当否を審査するものとして,それぞれの役割分担を明確にする形で提案をしております。
  なお,本文第1の1の補足説明6で現行公益信託法第5条について,本文第2の補足説明5で現行公益信託法第6条について,それぞれ記載しておりますが,これまでの部会での審議においては,主務官庁の監督権限について規定する現行公益信託法第3条を廃止する点について異論はなかったところ,現行公益信託法第3条の主務官庁による包括的な監督を前提に,主務官庁が職権で信託の目的以外の信託行為の定めの変更を命じることができる旨規定する現行公益信託法第5条及び公益信託の信託行為の定めの変更に際しては主務官庁の許可を受けることを要する旨規定する現行公益信託法第6条の規律は,それぞれ廃止又は改正することが相当であると考えられることから,本文1の(2)の冒頭においては,その旨も併せて提案しております。
  次に,本文1の(3)についてですが,信託行為の定めの軽微な変更も含めて,全ての公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更について,行政庁の変更の[認可/認定]を受けなければならないとした場合には,それに要する受託者等の事務手続の負担が過大なものとなるおそれがあります。また,主務官庁による許可制を廃止した後の行政庁による関与としては,行き過ぎとされる可能性も考えられることから,本文1の(3)のような提案をしています。
  なお,軽微な変更であっても,受託者が当該変更について,委託者及び信託管理人の同意を得ていない場合には,変更後の信託行為の内容は,委託者及び信託管理人に対しても通知されるべきであると考えられます。そこで,信託法第149条第2項第2号の規定を参考として,新たな制度を設けること等が考えられることから,その旨も併せて,本文1の(3)において提案しています。新たな制度を検討するに当たっては,公益法人認定法第11条第1項及び同法施行規則第7条の規定等も参考になるものと考えられます。
  次に,「2 公益信託の目的の変更」について御説明いたします。
  本文では,(1)として,「信託関係人の合意等のみによる公益信託の目的の変更はできないものとすることでどうか。」,(2)として,「現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,新たな公益信託の目的の変更は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合に,受託者からの申請を受けた行政庁が,公益信託の目的の変更の[認可/認定]を行うことによりできるものとすることでどうか。」,(3)として,「現行公益信託法第9条を改正し,公益信託の目的の達成又は不達成の場合において,残余財産があるが帰属権利者が定まらないときは,行政庁は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために当該信託を継続させることができるものとすることでどうか。」との提案をしています。
  公益信託の目的は,当該信託を設定した委託者の意思の表れとして尊重されるべきであり,安易な変更を認めるべきではないと考えられます。また,一旦公益信託として設定された後に信託の目的の変更を認めると,特定の公益目的のために設定された信託であることを前提として,当該信託に寄附をした者の期待が害されるおそれもあることからすると,公益信託の目的の変更を信託関係人の合意等のみによって行うことができるようにすることは望ましくないと考えられます。
  しかし,時代の変化とともに,公益信託の当初の目的が時代のニーズに合わなくなり,公益信託の目的を変更する必要性が生じるケースは想定し得ることから,そのような場合には,類似の目的の公益信託として継続させることが公益に資するものといえ,それが委託者の意思の尊重にもつながると考えられます。したがって,本文2の(1)のような提案をしています。
  また,公益信託の目的の変更については,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合であっても,その変更後の信託の目的の内容によっては,公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があります。したがって,公益信託の目的の変更は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,受託者からの申請を受けた行政庁が変更の[認可/認定]を行うことによりできるものとすることが相当であると考えられることから,本文2の(2)のような提案をしています。
  なお,公益信託の目的の変更は,信託法第261条第1項による読替え後の信託法第149条第1項の合意による方法のみ可能であり,同条第2項及び第3項による方法による目的の変更はできないと考えられることから,ここでは「信託関係人の合意等」とはせずに,単に「委託者,受託者及び信託管理人の合意」という表現をしております。
  さらに,公益信託の目的が達成又は不達成となった場合に,当該信託は終了するのが原則であって,その際,信託行為で残余財産の帰属権利者が定められているにもかかわらず,あえて類似の目的として信託を継続させるためには,十分な理由が必要となると考えられます。そうすると,例えば,受託者において,類似の公益信託を探したものの,それが見付からなかった場合や,帰属権利者の全てがその権利を放棄したような場合に限定して,公益信託の継続は認められるべきであると言えます。
  そこで,本部会資料では,信託の目的の達成又は不達成の場合において,残余財産があるが帰属権利者が定まらないときに,類似の公益信託としての継続を認めることが相当であるという考え方の下に,部会資料40の第1の4の乙案を修正し,本文2の(3)の提案をしています。
  また,第40回会議において,部会資料40の第1の4の乙案の意図するところは,信託の変更によって実現できるのではないかとの指摘があったことを踏まえ,本部会資料では,信託の目的の達成又は不達成よりも前の時点では,信託の変更によって対処し,信託の目的の達成又は不達成よりも後の時点では,類似目的の公益信託としての継続によって対処するという整理に基づき,本文2の(3)の提案をしています。
  次に,「第2 公益信託の併合・分割」について御説明いたします。
  本文では,「1 信託関係人の合意等のみによる公益信託の併合・分割はできないものとすることでどうか。」との提案をしており,また,「2 現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,新たな公益信託の併合・分割は,以下のいずれかの方法によるものとすることでどうか。」とした上で,「(1)信託関係人の合意等がある場合には,受託者からの申請を受けた行政庁が,併合・分割の[認可/認定]を行う。」,「(2)信託関係人の合意等がない場合には,特別の事情があるときに,委託者,受託者又は信託関係人の申立てを受けた裁判所が,併合・分割命令を行う。その際,委託者については信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとする。」との提案をしています。
  新たな公益信託において,委託者,受託者及び信託管理人による信託に関する意思決定を重視する観点からは,信託関係人の合意等による信託の併合・分割の手続を定めている信託法第151条,第155条及び第159条を適用することが相当であると考えられます。そして,新たな公益信託についても,同法第151条,第155条,第159条が適用されることを前提としつつ,受益者の定めのある信託と同様に,信託関係人の合意等のみにより併合・分割を可能とすべきであるという考え方もあり得ないわけではありません。
  また,現行公益信託法第6条の趣旨は,主務官庁制を前提とした上で,公益信託の変更,併合及び分割について,委託者,受託者及び信託管理人の自由に委ねないものとすることにあるため,新たな公益信託に直ちに適合するものではないと考えられます。
  しかし,信託関係人の合意等がある場合にも,併合・分割後の信託行為の定めの内容によっては,公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があることからすると,これを全く委託者,受託者及び信託管理人の自由に委ねてしまうことは適切でないと考えられます。
  また,仮に目的を異にする二つの公益信託を併合する場合には,いずれかの目的が変更される場合と同様の効果が発生することになります。そうすると,信託関係人の合意等のみによる公益信託の併合・分割はできないものとすることが相当であると考えられることから,本文1の提案をしています。
  このように,信託関係人の合意等のみによる公益信託の併合・分割を認めない場合でも,外部の第三者機関を関与させる形で,公益信託の併合・分割を可能とすることが考えられます。
  まず,併合・分割について,信託関係人の合意等がある場合には,併合・分割後の信託行為の定めの内容によっては,公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があるため,受託者からの申請を受けた行政庁が併合・分割の[認可/認定]を行うことにより,公益信託の併合・分割をできるものとすることが相当であると考えられることから,本文2の(1)のような提案をしています。
  次に,併合・分割について,信託関係人の合意等がない場合には,信託法第150条の趣旨が妥当すると考えられるため,同法第261条第1項による読替え後の同法第150条を適用し,あるいは同条と同様の規律を新公益信託法に設けることにより,特別の事情があるときには委託者,受託者又は信託管理人の申立てを受けた裁判所が併合・分割命令を行うものとすることが相当であると考えられることから,本文2の(2)のような提案をしています。
  本文2の(2)の提案は,行政庁と裁判所の役割分担を明確にする形で提案したものである点は,先ほどの本文第1の1(2)の提案について述べたところと同様でございます。
  なお,本文第2の補足説明1に記載しましたとおり,受益者の定めのある信託の併合・分割について,信託法第150条が適用されるか否かについては見解が分かれております。そして,受益者の定めのある信託の併合・分割に信託法第150条は適用されないとの見解を採用しつつ,裁判所による公益信託の併合・分割命令を可能とする場合には,新公益信託法の中に,裁判所が公益信託の併合・分割命令を行う旨の規律を設けることになります。その規律は,命令に対する不服申立手続の方法等を含め,信託法第150条と同様の内容となることが想定されます。
  他方,信託の併合・分割も広義の信託の変更であり,信託法第150条は適用されるとの見解を採用しつつ,裁判所による公益信託の併合・分割命令を可能とする場合には,新公益信託法の中に規律は設けないということになります。もっとも,公益信託における併合・分割命令の仕組みを明確化するために規律を設けるという考え方もあり得ます。そして,新公益信託法の中に規律を設けるか設けないかによって,受益者の定めのある信託の併合・分割について,信託法第150条が適用されるとの解釈,あるいは適用されないとの解釈を固定化することになる可能性がある点に留意する必要がございます。
  なお,これまでの部会での審議においては,主務官庁の監督権限について規定する現行公益信託法第3条を廃止する点について異論はないところ,現行公益信託法第3条の主務官庁による包括的な監督を前提に,公益信託の併合・分割をするに際しては,主務官庁の許可を受けることを要する旨規定している現行公益信託法第6条の規律は廃止又は改正することが相当であると考えられることから,本文2においては,その旨も併せて提案しております。
  以上でございます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分のうち,まず第1「公益信託の信託行為の定めの変更」について御審議いただきたいと思います。
  第1には1と2がありますが,相互に関係しておりますので,特に区分はいたしません。御自由に御発言をお願いいたします。
○深山委員 提案に賛成をいたしたいと思います。
  1点だけ,ちょっと気になった点を申し上げたいと思います。それは,第1の1の注5であります。注5というのが,裁判所の判断と行政庁の判断の調整を図るためということで,二つの提案といいますか,考えられる仕組みが記載されておりまして,1番目は,変更命令の前に裁判所が行政庁の意見を聴取するという仕組み,2番目は,変更命令の後に行政庁の認可・認定を受けるという仕組みが掲げられております。
  これについて,まず,はっきり言えることは,2番目の方のような考え方というか仕組みを採用するということになると,目的以外の信託行為の定めの変更をするためには,アのように信託関係人の合意がある場合はいいんですけれども,イの場合,信託関係人の合意がない場合には,まずは裁判所に判断を求めて,変更命令を出してもらって,さらに,その後に行政庁の認可を受けると。つまり,両方の判断を受けて,初めて変更が成立すると読めます。
  もしそういう理解で間違いないんだとすると,これは,手続的にも非常に,屋上屋を重ねるという意味もありますし,今の御説明でも,従来ここは,変更命令の権限を裁判所にするか,行政庁にするかというのを皆さんで議論してきて,それで,裁判所の方を採用したという御説明を頂いたところですが,そこに更に重ねて行政庁もということになると,結局両方という案になってしまって,これは相当でないというふうに思います。裁判所の判断で十分だというふうに思います。なので,注5のところが,そういうことをも考えているんだとしたら,そこは反対したいと思います。
  二つあるうちの前段の,裁判所の判断を下す前に行政庁の意見を聞くということは,それよりはマイルドというか,一応意見を聞いた上で,総合的に判断して,裁判所が結論を出すという意味では,裁判所の判断に委ねているというふうに言えると思うんですが,ただそれも,必ずしも意見を聞かなければならないというふうに要件にしてしまうことについては,その必要はないのではないかと思います。
  もちろん,要件にしないで,聞くことができるぐらいなことであれば,よいのかなという気もしますが,他方で意見聴取することができるぐらいのことだったら,何も規定を設けなくてもできるのではないかなという気もしますので,そういう意味では,できる規定も必要性は乏しいという気がいたします。
  したがって,注5のところは,いずれにしても,このような行政庁の判断との調整を図るための措置,仕組みというものを付け加える必要はないというのが私の意見です。
  念のため申し上げると,そのように,ここの変更の要件として,行政庁の認定・認可を要件に加えなくても,余り考えにくいと思いますが,裁判所の変更命令後に,行政庁の立場から見て,これは公益性に問題があるとかいう判断があれば,一般的な行政庁の権限に基づいて,調査をしたり,勧告をしたり,場合によっては取消しをするという,その仕組み自体が別に排除されるわけではないので,変更の要件に行政庁の関与を加えなかったからといって,一切何も行政庁が言えなくなるわけではないということは,念のため確認しておきたいと思いますが,そういうことも勘案して,ここでは注5のような仕組みは要らないというのが私の意見です。
○道垣内委員 全く逆の意見なんですが,例えば,信託行為の定めの変更のときに,行政庁がやるのか,裁判所がやるのかという話について,裁判所という意見が多かったと思いますし,私も裁判所だと申し上げたんですが,問題はその理由なんだと思うのです。
  クリアにおっしゃったのは,山本敬三委員ではなかったかと記憶しておりますが,私人の法律行為を行政庁が創設的,形成的に変更するということが認められていいのかという問題があり,やはり,それは裁判所でないとできないのではないかなという,そういう理由を彼は言ったと記憶しています。私も同じ理由で,裁判所だろうと思うのです。
  そうなると,裁判所が行うというとき,(2)のイというのは,アにおける合意等があるというところを代替しているということにしかならないのではないかと思います。そうすると,本当は裁判所が行政庁に申請してもいいのですけれども,それは面倒であり,何か変であるということになりますと,齟齬がないように,注5のいずれかの方法を明示に採るということが必要なのではないかと思います。
○棚橋幹事 今の点に関連して,前提として確認させていただきたいのですが,ここで裁判所が判断する事項は150条に定められた特別の事情の有無と,261条で読み替えた後の信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況等に照らして,信託の目的の達成の支障になるに至ったかという2点であって,認定基準を充足するかという点は,今回の御提案では,裁判所が判断する対象ではないという前提でよろしいでしょうか。
○中辻幹事 棚橋幹事の御理解のとおり,ここでは信託法150条の仕組み,同条2項も含めてですけれども,変更後の信託行為の定めを明らかにした変更命令の申立てというのがあって,それを受けた裁判所の方で150条1項に掲げられている要件の有無について御判断いただくと。行政庁の認定基準適合性の判断については,注5で掲げましたような仕組みを設けることがあり得ると考えておりますし,深山委員から御指摘ありましたように,変更命令のルート以外で不具合が見つかった場合には,別途,行政庁が監督権限を行使して公益信託の認定を取り消すということもあり得ると考えています。
○棚橋幹事 今の点を前提に,疑問や意見があるのですが,注5の部分や7ページのイの部分には,変更命令の前に裁判所が行政庁の意見を聴取する,変更命令後に受託者が行政庁の認定を受けるという部分がございます。まず,仮に事前に意見を聴取するということになった場合,行政庁が意見を述べる対象は認定基準充足性の部分であり,裁判所は先ほど述べた二つの要件について判断するということとなって,裁判所と行政庁が判断することは,それぞれ別々の事項になるということかと思いますが,これを変更命令という一つの手続の中で,裁判所から行政庁に求意見をするという形で行う必要があるのかという点については疑問を持っております。
  先日の部会では,吉谷委員から,公益信託の設立時には事前に行政庁の許可を得ているというお話があったかと思います。この部分でも,例えば,事前に行政庁において,変更後の内容について,認定基準の充足性の判断を受けた上で,裁判所に,合意ができない部分について変更命令の申立てをする制度もあり得るのではないかと考えております。
  また,事前に意見を聞くアイデア自体は信託法168条を参考にされているものかと思います。公益信託についても全くこれと同じ構造を採用する必要があるのかについては議論があり得ると思いますが,仮に事前に意見を聴取することにした場合で,行政庁としてはこの変更内容は認定基準を充足しないという意見であった場合には,裁判所はどのように判断すべきなのかという点は疑問に思っております。
  例えば,裁判所は,先ほど述べた二つの要件を充足していると判断したものの,行政庁は認定基準を充足していないと判断した場合でも,裁判所は,信託法150条と同じ要件ということであれば,変更命令を出すほかないように思いますが,そういった結論でよいのか疑問に思っております。
  また,変更命令に不服がある場合,不服の理由は,裁判所が判断する二つの要件に限られるのかについても疑問に思っております。例えば,行政庁の判断した認定基準充足性の部分に不服がある場合はどういった手続をとればよいのかについては,疑問に思っております。
  次に,注5の後半に書いてある,事後に認定を受けるという場面についてですけれども,この場面に関しては,例えば,裁判所が変更命令を出した後,行政庁の認定を受けるまでの間にタイムラグが生じているような場合,認定を受けるまでの間に受託者が行った行為の私法上の効力はどうなるのかという点には疑問があります。また,裁判所が変更命令を出したものの,行政庁において認定基準を満たしていないと判断し,認定を受けられなかった場合には,認定までの間の受託者の行為は遡って無効になるのかという点や,変更命令を出して,裁判所が私法上の契約内容を変更した部分の効力は,認定を受けられなかったことによって,どうなるのかという点についても疑問を持っております。
  今いろいろ申し上げたとおり,今回の提案ですと,事前か事後か分かりませんけれども,行政庁による認定基準充足性を通じた監督という観点からは,整理や工夫が要るのではないかと思っております。この点について,中間試案でも裁判所が判断するという案のみを提案されるということであれば,取りまとめられる段階までに,今いろいろ申し上げたような,裁判所の判断する部分と行政庁の判断する部分の関係を整理していただきたいと考えておりまして,整理した結果,複雑な制度となるのであれば,裁判所が判断するという提案自体についても,御検討いただければと考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 先ほどの私の発言にも関連するし,今の棚橋幹事の指摘にも関係するんですけれども,信託法150条の適用をこの場面でするときには,現行法を当てはめたときに,読替え規定で,信託の目的達成のために必要であることというのが裁判所の判断の対象になるということに,文言としてはなると思います。
  実は,今御指摘のあったように,裁判所の,信託法150条適用の場面での判断事項というのと行政庁の判断事項というのは,私も当初,それは別なものなのかなと考えました。別なものだとしたら,別のフィルターを掛けるということも論理的にあるのかなというふうに当初は考えていたんですが,この場面というのは,信託の目的は,2のところで区別して検討していますが,ここでの場面というのは,目的以外の変更の場面に限られているわけですね。そうなると,公益信託でやろうとしていることが,目的の点で認定基準を満たすかどうかというところは,ここでは問題にならなくて,目的は当然,元々認定を受けているとして,目的を達成するためのいろいろな仕組みだったり,その他の点について,一旦は認定を受けているわけですが,何らかの事情で変更が必要だというときに問題になるわけです。
  信託法150条の判断の中で,既に認定を受けている信託の目的を達成するために,こういう変更が必要だということがテーマになったときに,何か抽象的には,裁判所の判断事項と,行政庁の認定の判断とは別のものだというふうに,観念的には分けて考えられるけれども,実質的に,そこがそんなに違うものなのかなと思います。結局,この場面で問題になることは,どちらが判断するかというのは従来から論点になりましたけれども,判断する対象がそんなに違うものなのかなという気がだんだん私もしてきて,そうだからこそ,今までの議論は,裁判所なのか行政庁なのかということで,これまでの資料も甲案,乙案が並べられていたんだと思うんですね。
  先ほど道垣内委員からは,それは,裁判所の判断は合意が欠けているところを埋めるだけのことであってというお話があって,もしそうだとすると,裁判所の判断を入れたとしても,行政庁の認定はいずれにしても必要なんだということになると,従来の議論の仕方そのものが違ったのではないかということになってきます。でも私は,今言ったように,ここで信託法150条が問題になって,裁判所の判断する事項と,行政庁が認定基準を満たすかどうかという見地から行う判断事項とが,そんなに実質的に違うものに思えないんですね。だからこそ,どちらにやらせるんだという話で,先ほどの意見は,両方にさせるというのは屋上屋ではないかというのが私の意見です。
  観念的に考えるのではなくて,実質的に考えたときに,そんなに違うことをそれぞれが判断しようとしているのかなというところを,正に整理していただいて,その上で,私は裁判所が,意見を聞くかどうかはともかくとして,一元的に判断をするということがいいのではないかというふうに考えております。
○小幡委員 行政庁と裁判所の役割分担のお話だと思うので,先ほどの佐久間参考人からのお話の最後の論点のところですが,私も基本的に,役員の辞任・解任・選任等々全部,このようなものは裁判所がやるべきであると思います。
  唯一,多少迷いがあるのが,今の話で,当事者間で同意,合意が得られないときに,そこの調整をするのは,裁判所だと。これはほぼ,そうであるべきだと思うのですが,問題は,変更後のものが公益信託としてまた存続するということになったときに,通常であれば認定があるので,それをこの場合にだけ,いきなり裁判所が初めからやるという仕組みにしてよいかどうかという,そこに尽きるかと思いますね。
  前回も少し申し上げましたけれども,公益信託を認可なり認定,どういう言葉を使うかはともかく,そうなったときに,恐らく今の公益法人の認定などであるような第三者機関に委ね,民間の第三者機関が認定について判断をするというような仕組みになったときに,この場合だけそこを飛ばすという,そういう仕組みになるのがよいのかということで,そこで注5のようにするかということなのですが,先ほどのお話にありましたように,なかなかタイムラグといいますか,どちらを先にするかといっても,多少複雑になってくるし,当事者にとってみれば,1回では済まなくなると不便さがあるかということはあります。
  先ほど事務局からあったように,裁判所がやることは,公益信託としての認定基準に適合しているかどうか以外のことであるという整理をすれば,どうしても二回になるわけで,深山委員のおっしゃるのももっともだとは思いますが,他方,確かに,いきなりそれを裁判所がやるというのは,通常ルーチンに公益信託の認定をするのは,そういう第三者機関がやっているという,普通のやり方を,この場合だけ違うようにするということになるという問題があります。それでも,かなり特殊な場合なので,こういう場合は,認定基準に適合しているかどうかということを,裁判所がそもそも判断してしまうという仕組みにしてしまっても構わないのではないかというのも,一つの選択肢としてあり得るとは思います。そうすると,注5は要らないということになるわけです。
  ただ,そこの辺りは,本当に賛否両論あるところで,通常は,民間の第三者機関が普通にやっているという,そういうルーチンでないことまで,裁判所が最初からやらなければいけないことになるので,そこは裁判所も少し負担かなと思います。ここのところが,先ほどの,佐久間参考人のおっしゃるところでいうと,1点だけ残るところで,役割分担として,そこの場面だけ行政の認定というか,第三者機関の認定を飛ばしてよいかどうかということです。
  ただ,これは割り切りの問題で,どちらでも可能ではないかと思いますが,裁判所がやってしまうというのも,認定基準に合っているかどうかという判断について,万一行政が間違った認定をしたときには,裁判所にいずれ行くからよいのだという割り切りもないわけではないということを一応申し述べておきますが,ルーチンのやり方として丁寧であるのは,注5のような処理かというふうには思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 1の公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更について,(1)から(3)なんですけれども,法務省案では,公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更は,信託関係人の合意のみによる変更はできないということを原則としつつ,例外的に軽微なものは,受託者が行政庁に届出をすることにより変更できるとするような,形だけかもしれないんですけれども,そういう条文立てでの御提案なんですけれども,書き方の問題だけなのかもしれないんですが,考え方としては,公益信託の私的自治を原則とまずすべきであり,公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更は,公益法人において定款自治が尊重されているのと平仄を合わせ,公益信託においても原則,信託関係人の合意で信託条項を変更できるということを,まず原則にすべきだと考えます。
  この変更の議論の中で,公益信託の目的の変更という場合に,目的を達成するための公益目的事業をも含む意味で用いられていると思われますけれども,この場合の取扱いは違い得るのではないかと思うので,一応議論するときに,公益目的の変更という言葉の中に,公益目的事業の変更も含んでいる意味で使っているということを,意識的に議論した方がいいのかなと思います。
  というのは,例えば,公益財団法人においては,目的の変更は,一般法人法200条1項ただし書及び2項の規定によって,評議員会の決議により変更できる旨の定款の定めがある場合のみ,できるものとされています。この場合の目的というときには,目標や使命を指すもので,公益目的事業は目的の範ちゅうに含まれていませんので,定款に変更可能との定めがなくても,公益目的事業については,評議員会の決議によって変更が可能となっております。ここで,そういうわけで,二つを一応峻別して考えた方がいいのではないかとは思いますが,ここでいう公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更という場合には,公益目的事業についての変更も含めて除外した上で,そういう,それ以外の信託行為の定めの変更を意味するものとして理解して意見を申します。
  公益信託の目的以外の変更については,新公益信託制度においては,基本的には信託関係人の自主的な判断により,自由に行われるべきですけれども,信託関係人全員の合意を必要としない軽微な変更もあるということは認められますので,全ての事項について,全信託関係人の合意を前提とする必要はないと思います。
  また,信託関係人のうちには,出捐者である委託者は,財団法人制度との対比からいっても,原則として,これを含めるべきではないと考えます。一方,受託者と信託管理人に加え,公益信託のガバナンス強化の観点から,運営委員会又は運営委員を設置し,それを入れるべきであると考えますので,再度申し上げたいと思います。
  言い換えますと,原則として,公益信託の目的以外の変更は,受託者,信託管理人及び運営委員の合意ででき,行政庁への変更の届出を行うことで可能とするけれども,今後の公益信託認定要件の内容如何によっては,その要件に関わる信託条項の変更は,行政庁の変更認定を必要とする場合も想定されますので,そのような場合には,合意と変更認定が必要になるということはあり得ると思います。
  (2)の御提案については,公益信託法第5条の廃止又は改正に賛成しまして,信託関係人の合意がある場合の取扱いについては,今述べたとおりですけれども,信託変更の合意がない場合の信託の変更は,裁判所への申立てによるということにして,申立権者には,原則として委託者を含めるべきではなく,受託者と信託管理人並びに運営委員会又は少なくとも運営委員とすべきであると考えます。
  裁判所が変更命令を行うことについては,事情,内容について熟知していない裁判所が関与することから,この部会資料3ページ記載の注5のような行政庁の関与が必要と考えます。この場合に,裁判の中で,行政庁からの鑑定意見のような形で,認定基準についての意見を聴取して,裁判の中で一括して,これを解決することが可能になるのだと思います。
○吉谷委員 第1の1について,意見を述べさせていただきます。
  (2)のイにつきましては,行政庁というところに行き着くのでありますけれども,順を追ってお話ししたいと思います。
  まず,1の(1)につきましては,賛成なのですけれども,まず前提として,行政庁による認可・認定がされる場合に,信託行為の定めの内容をどの程度見るのかというところが,余り明らかになっていないのではないかというふうに思います。
  信託の目的については,当然記載されて,それを確認されると思いますけれども,信託事務処理の方法についても当然,信託行為の中には記載されるのだと思います。その信託事務処理の内容が,受託者の能力要件との関係で判断されることになると思います。ですので,行政庁は当然,認可・認定の段階で,信託事務処理の方法についても,内容を精査されるのであろうというふうに考えております。
  まず,そういうところからしますと,1の(2)のアにつきましては,やはり行政庁が変更の認可・認定を行うということがよろしいというふうに考えます。
  そして,(2)のアにつきましては,注2というものが非常に,今回提案していただいた中で重要であるというふうに考えております。というのは,信託法149条2項1号についても,公益信託には適用があるというふうに書いていると理解しておりまして,そうなりますと,受託者と信託管理人の合意によりまして,ほとんどの信託目的以外の信託行為の定めの変更については,できてしまうのではないかというふうに考えます。つまり,信託の目的の達成,目的に反しないということが,まず前提になると思いますので……信託目的の達成に必要である場合には,さらに,受託者単独でもできるというのが2号ですけれども,必要でないことにつきましても1号で,受託者と信託管理人の合意によってできるということが説明されております。
  それを前提として,私どもはまず,この(2)の案に賛成するわけでありますけれども,一方で,149条の3項というのが残っていると。ここは別に,信託事務処理の方法について,特に限定されているわけでもありませんけれども,委託者と信託管理人の合意あるいは信託管理人の意思表示で,信託事務処理の方法の変更までしてしまうということになりますと,これは行政庁としては,それが受託者ができることなのかどうかということを判断することになりますので,受託者が反対しているような信託事務処理の方法の変更を149条3項によってできるということであるとすれば,それはちょっと問題であろうというふうには考えます。ただ,そこまで細かく法律に定める必要はないかもしれないというふうに思います。
  もし,信託事務処理の方法の変更を信託管理人が一人でできるようになってしまうということになりますと,公益信託においては,受託者が執行を担当して,信託管理人は監督をするという枠組みから外れてしまうのではないかというふうに思うところです。
  (2)のイにつきましては,行政庁の方がよいというふうに考えておるのですけれども,御説明の中で,7ページにおいて,変更について意見の対立のある信託関係人の利害を考慮して行うのだから,150条なのだという説明には,やや違和感を感じております。というのは,これは必ずしもそうではなくて,一つの典型的な事例としては,委託者の不存在,能力の欠如であるとか,あるいは信託管理人が複数であるような場合に,定員が不足しているとかいうような形で,合意が規定どおりできないというような場合が,十分にあり得るというふうに思うわけです。そういうような意見の対立というのが,元々存在しないような場合について,裁判所が判断するということが必要なのかということが,まず疑問としてあります。
  その次に,信託管理人と受託者で意見の対立のある場合というのを考えてみますと,150条ですので,信託事務処理の方法の変更です。受託者がまず,信託事務処理については考えるということになりますでしょうから,普通の場合ですと,受託者が方法の変更案というのを申し出て,それが公益認可の認定の基準に合致しているのであれば,行政庁について,行政庁はそれが,変更しても構わないという判断が当然できるということになります。信託関係人の利害といっても,せいぜい報酬の妥当性が問題になるということぐらいですので,裁判所でないと判断できないということはないのではないかというふうに考えます。
  意見の対立というのは,信託事務処理の方法が,もっといい方法にしてくださいとかいうようなことを信託管理人の方で受託者に要求していると,それで意見がまとまりませんよというような場合なのであれば,これは行政庁でも裁判所でも,もっといいかどうか,方法があるのだから,認めませんなどということまで判断できるのかというと,これはできないのではないかと思います。ですので,行政庁でよろしいと思います。
  一方で,信託管理人が信託事務処理の方法の変更について申し出ると,案を添えて申し出るということにつきましては,これは更に違和感があるわけでありまして,信託管理人の役割というのは,受託者に対して,信託行為の定める事務処理の方法では信託目的が達成できませんと,ですので,ほかの方法がないか検討しなさいというのが,信託管理人の役割なのでありまして,受託者がその期待に応えられないのであれば,新たな受託者候補を持ってくると。つまり解任と選任ということをすればよいのでありまして,信託管理人というのが自ら信託事務処理の方法を提案するということが,ここに,公益信託において想定されるようなものなのかということについては疑問があります。信託管理人は,現在の能力要件でも,信託事務処理についての能力についても要求されておりませんので,そういうところとも,また整合しないというふうに思います。
  そうしますと,信託管理人側で受託者の信託事務処理に不満があるという場合につきましては,これは受託者の辞任・解任・選任とセットに考えないと,解決できない問題だということになります。この点,ですので,それをセットにした場合に,どういうふうな流れになるかということをまとめて御提案いただかなければ,判断できないのではないかというふうに思うのですけれども,私どもは元々,受託者の辞任・解任・選任につきましても,行政庁の側の判断であるというふうに考えておりますので,整合するのですけれども,この点についての意見の対立があるというふうに承知しておりますので,是非とも一体で議論をするようにしていただければというふうに思います。
○中田部会長 御発言,少し長く続いておりますので,どこかで区切っていただけますでしょうか。
○吉谷委員 すみません。委託者が信託事務処理の方法の変更を提案するということについても,更に疑問があります。役割が監督だからということです。
  ですので,信託法150条というのは,受託者が提案する,申し出るという形に,行政庁に対して申し出るという形にしていただくのが,むしろ整合するのではないかというふうに考えます。
○中田部会長 申し訳ありませんでした。
  それでは,沖野幹事。
○沖野幹事 結論を一言で言えば,原案に賛成で,注5も含めて原案に賛成だということで終わるんですけれども,少しお時間を頂きたいと思います。
  幾つか御指摘があったところなんですが,一つは,深山委員から御指摘のあった判断内容の問題です。従来の議論の中では,実は認可の問題と変更の問題での判断事項はオーバーラップするというか,だからこそ,どちらが判断すべきかということを論じてきたのではないかという御指摘なんですが,私は違う理解をしておりまして,判断内容としては,認可・認定との関係で適合するかという問題と,関係当事者の合意によらない場合の信託法150条の要件を満たすかという問題は,一応別の判断の問題であって,しかし,その両方を同じ機関ができるかという,判断能力といいますか,それは従来公益信託の認定等の仕組みの中で,どちらがやるのが効率的か,あるいは過誤が少ないかということも含めて,どちらの機関ができるかという問題だったのではないかと思います。
  そういう観点からしますと,やはり判断内容は,別のものが二つあるのではないかというふうに,従来からもそう考えていたところを,今回は,関係者の合意プラス認可・認定上問題がないかは,行政庁が正に,基本的な枠組みの中で行政庁がそこを担うわけですので,それをチェックし,当事者の合意が作れないというところは,裁判所が事情変更の要件を満たすかということをチェックしていくという形で整理がされたので,このような原案になっているということだと理解をしております。
  ですから,吉谷委員がおっしゃった150条の点ですが,吉谷委員がおっしゃっていることが,ちょっとよく分からないところもあるんですけれども,第1の1の(2)のイというのは,150条とは関係ないということをおっしゃっているのか,飽くまで150条の問題だというふうに考えておられるのならば,それは公益信託にとどまらず,一般の信託においても,事情変更に基づく信託の事務処理の方法の変更は,受託者がイニシアチブをとるべきだという理解になるのではないかと思うんですけれども,現行は必ずしもそうはなっていないのではないだろかと思っておりまして,150条にのる限りは,受託者のみがということには,やはりならないのではないだろうかと。それぞれ観点は違うかもしれませんけれども,申立人は,この原案のような規定になってくるのではないかということです。
  また,そのときの判断事項として,とりわけ事情変更という点からの要件を満たすかということを,行政庁に任せるべきなのかというと,それは任せるべき事項では,やはりないのではないかと思いますので,可能性としては,これは小幡委員がおっしゃったことですけれども,この局面だけは両方裁判所にやってもらうか,それともやはり,役割分担をより徹底するかということではないかというふうに考えております。
  そのときに,役割分担をそれなりに徹底するといいますか,そう考えるなら,注5のような形で,自分が勝手に前者をA,後者をBと付けていますが,変更命令の前に裁判所が行政庁の意見を聴取するというのは,裁判所が最終的にはその部分も判断するんだけれども,意見聴取の形で考慮に入れていきますと。ただ,実際に意見聴取において,これは認可には到底適合しないという意見が出たら,それに反して,裁判所がそういう判断をするというのは,なかなか考えにくいことだとは思います。それに対して,Bの方は,ここは役割をきれいに分けていくということで,いずれもあり得るかと思います。ただ,Aの方になりますと,確かに不服の申立てで,認可は本来これでは得られないはずではないかということで,不服を考えているようなところが,一体どういう不服を誰に持って行くのかという問題は,確かにあるのかなとうかがっていて思われました。
  一方,棚橋幹事がおっしゃった,事前に認証を受けた上で,あるいは認定を受けた上でというのは,変更命令の前に裁判所が行政庁の意見を聴取するというところを,例えば,行政庁から認可上は,そのような変更になっても問題がないというような書面が提出されることを要求するなどすれば,そこの要件はクリアできるように思われまして,もし事前にということであれば,聴取するというよりは,そういう書面が出るとか,そういう意見が出されることを要件にというような形にすれば,事前になるか事後になるかという形はありますけれども,可能性としては考えられるのではないか。
  そうした場合には,確かに手続は重くなることは重くなるんですが,他方で,軽微な変更については,より簡易な方法を認めていますので,そういうものではなく,かつ関係当事者が合意をしていない局面ですので,関係当事者の中で,そういう変更はやはり適切ではないのではないかという意見が,どういう観点からであれ,ある場面ですので,それなりに手続が重くなるということは仕方がないですし,やはり公益信託の信頼性等を確保するためには,入り口は通ったけれども,あとは変更して,確かに裁判所はチェックしているけれどもというよりは,その認可の関係の部分は,行政庁がきちんとチェックするという仕組みがずっと一貫してあるということの方が,信頼性という点でも,よいのではないかというように考えております。
  もう一つ,タイムラグの問題を指摘されまして,タイムラグの問題は確かに考えておく必要があると思いますので,効力が発生するのはいつかということを明確にしていく必要があるのかなと思いました。もっともそれは,イだけの問題であるのか,アの問題におきましても,関係者の合意はできていると。しかし,その後の認可・認定までの間があって,その間,受託者としては,どうしたらいいのかという問題が同じようにあります。裁判所になりますと,不服申立てとの関係で,いつ確定するのかとか,その辺りが,より問題としては出てくるように思いますけれども,構造としては,アについてもあるのではないかと思いますので,共通する問題として考えておくということでいかがでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございました。
  まだ御議論あるかと存じますし,さらに,2の継続についての御意見も承りたいと思います。まだ御議論が続きそうに思いますので,この辺りで一旦休憩を入れさせていただきまして,それで,4時に再開するということにしたいと思います。

          (休     憩)

○中田部会長 それでは,再開いたします。
  第1の1について御意見を頂いておりますけれども,引き続き御意見を頂戴したいと思います。また,2についても,御自由に御意見をお出しいただければと存じます。
○林幹事 まず第1の1については,結論としては,御提案に賛成ですが,結局,私法上の信託契約に関する変更と,公益の認定と両立てになるというところから問題意識が出て,沖野幹事もおっしゃったところなのですが,第1の1の(2)のアのところでも,合意してから認定を受けるまでのタイムラグがどうしてもあるので,そのタイムラグの間をどう考えるのかという問題意識を弁護士会では議論しました。ただそれは,実際上は,ある種の停止条件付の合意のようにも考えられるところですが,要するに,認可を受けてから私法上の効力も生じるというところです。
  それから,(2)のイにつきましては,注5のところですけれども,基本的には,変更命令の前に行政庁の意見を聴取するという方向を支持する意見が弁護士会では多かったところです。事前に認可・認定を受けるとか,事後に認可・認定を受けるでもいいのではないのかとの意見もあったのですけれども,多くは,変更命令の前に行政庁の意見を聞くというところです。
  信託法168条を参考にしているものの,168条と微妙に違うというところもあるのですが,そこは分かった上で,行政庁の意見を事前に聞くということが,意見としては多かったと思います。
  ただ,もう一つの問題意識は,先ほどの議論でもあるところですが,裁判所が信託法150条の要件に従って変更を認める判断をしたんだけれども,行政庁の方がそれは違うと考えたときにどうなるのかです。そこを突き詰めると,行政庁は認定取消しをするのでしょうから,それに対して,行政手続,行政訴訟の中で争って決することだと割り切って言えば,それに尽きてしまうところと思います。
 ただ,私自身としては,実質的に判断する対象,すなわち150条の読み替えた後の判断の対象と認定の対象は,そんなに大きくは違わないのではないかと思います。事前に行政庁の意見を聞いた上で裁判所がやるので,そんなに大きな問題は,現実には起こらないのではないのかと思っています。
  ですから,ほぼ両方が一致したところで,裁判所が変更の命令を出すのでしょうし,実務的には,そんな変なことは起こらないと思っています。判断の対象はおおむね重なっているので,要するに,裁判所が変更命令を出したけれども,行政庁が違うことを言うというのは,非常にまれなことだと思うので,そこについて,そんなに議論しなくてもいいのではないかという気はしています。
  もう1点は,ここでは,新たに別に認可を受けるというよりは,認定の取消しの問題なのではないかと思っていますので,それは,行政庁がそういうアクションを起こしてから考えればいいと思います。
  あとは,注4については,例えば,1のアとの関係でいいますと,行政庁の変更の認定というか,そのプロセス自体は絶対必要だと思うので,それは変えるべきではないのでしょうけれども,それ以外のところは,別段の定めを定めてもよいと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 すみません,確認をしたい点なんですけれども,先ほど平川委員のお話の中で,信託目的と事業というふうに,一応,中身を分けて議論があったと思いますし,あと,吉谷委員の発言の中でも,信託事務ということでの話がありましたけれども,今回の議論といいますか,検討資料,検討課題を見ると,そういう事業についても,信託事務の細目についても,全て信託行為の中に,信託契約の中に記載するという前提での議かと思うんですけれども,そうであれば,全て信託契約の変更ということで,議論としては収れんすることにはなるかとは思いますが,一方において,公益法人との比較の議論も,いろいろな場面で出てきたと思いますが,その場合の定款というのは,そんな細則まで書かれるものではないかと思います。とすると,両者が同じである必要はないかとは思いますが,とは言っても,全て信託行為の中に,そこまで果たして書くべきなのかということになると,ちょっと違うのかな,また,特に私的自治を重んじれば,公益信託それぞれにおいて規定の仕方というものに違いがあってもよいのではないかと思います。
  そうすると,信託契約の変更,信託行為の変更だけで,この全ての議論が果たして済むのであろうかと思いまして,事務局としての考えをお聞かせいただければと思います。また,公益信託の目的についてですが,弁護士会の議論でも,目的といったとき,普通の信託契約を見ると,非常に目的というのは,すっきりさっぱり書いてあるんですけれども,その目的を具体化することまでのどこまでが目的の範囲内なのか,グラデーションが掛かると思うので,目的といったとき,事業のどこまでが目的なんだろうかという点について事務局の考えをお聞かせいただければと思います。契約に,信託目的に書いてあれば目的の変更になるし,書いてないと目的の変更にならないような議論なのかどうかとか。事務局として,信託契約,信託行為の中の目的に事業の細目まで含めて考えるのか。事務の細目まで含めて信託契約の中に書くという前提で,信託契約の変更の議論をしているのか。そうではないこともあり得るという場合には,それについて,どういうふうに考えたらいいのかという辺りも,教えていただければというふうに思います。
○中田部会長 小野委員の御質問は,第1の1の規律と第1の2の規律と,2種類あるということは前提とした上で……
○小野委員 そうです,はい。
○中田部会長 その上で,その切り分けをどう考えるのかという……
○小野委員 そうです,はい。グラデーション掛かったりとか,契約以外に合意することもあるかと思うので。
○中田部会長 関連ですか。
○平川委員 はい。御質問があったので。
○中田部会長 それでは,平川委員。
○平川委員 私のイメージしている信託目的と,信託目的,公益事業というのは,両方とも信託契約の中に当然記載するものだという前提で申し上げていたんですけれども,今までは助成型しかなかったので,特にどんな事業とは書かなくてもよかったと思うんですが,これからは,いろいろな形があるという前提なので,助成型でなくても,研究所を設立するとか,寮を作るとか,何かそういうのもあると思うので,例えば,信託目的がエイズ撲滅のためというふうに設定したとして,そうすると,それを達成するための公益目的事業としては,助成,奨学金を与えることというのが,一つ事業とあると思うんですけれども,それとは別に,研究所,そういうエイズ撲滅のための研究所の設立・運営とか,そういうことは当然,非常に重要な,信託目的達成のための事業のパターンを書くので,信託契約の中に規定するものだというふうにイメージで言っておりました。
○小野委員 それが目的になるのか,ならないのかというところで,この資料では大きく区別して議論されていますけれども,どうしてもグラデーションが掛かる部分が出てくるのではないのかということもあります。
○中辻幹事 御質問をありがとうございます。
  目的という日本語の意味なんですけれども,英語と違って,二つの若干異なる意味が含まれています。パーパスという,到達すべき地点というのが一つ,それから,物事の対象というオブジェクト,この二つの意味で,日本語として使われることがあるのですが,両者はおおむね一致するので,ふだん使う分にはその違いをあまり意識しなくても困らないという理解をしています。
  そのような理解を前提に,公益信託の契約書のひな形みたいのようなものが手元にありますので,それを見てみると,公益信託契約書を作るときに,その信託の目的と,公益信託の受託者が行う事業は書き分けている,パーパスとオブジェクトは分けて記載しているようでございます。
  例えば,信託目的の条項に「この公益信託は広く科学技術に関する研究を助成し,かつ理工系学部大学院に在学する有為の人材に対する奨学金の給付を行い,もって我が国の学術及び文化の発展に寄与し,国民福祉の向上を図ることを目的とする」と記載され,受託者の行う事業の条項には「前条の目的を達成するために科学技術の研究に関わる学者,技術者に対する研究金,助成金の給付,その他,前条の目的を達成するために必要な事業」を受託者が行うという記載例がありまして,今後もこのような書き方で公益信託の契約書が作られていくことが多いのではないかと思います。
  その上で,第2の2で論じている公益信託の目的の変更の「目的」は,信託契約書の信託目的の条項に掲げられているパーパスを想定している一方,信託契約書の受託者の行う事業の条項に掲げられているオブジェクトである公益信託事務の内容,外縁の変更や,それを遂行するための信託事務処理の方法の変更については,第1の1で論じている公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更になるということになるのですが,両者は截然と分けられるものではなくて,重なりあう部分がある,小野委員のお言葉を借りればグラデーションがかかる部分はあるように感じます。
  なお,本当に細目的な事項の変更,例えば今回の部会資料の8ページの一番下の方に書きました,公益信託の受託者の名称の変更とか受託者法人の場合の代表者の変更などというのは,信託契約書に書かれている事項ではあるけれども,信託契約,信託行為の定めには入らないと考えておりますので,そんな細かい事項の変更まで突っ込んで規律していこうと考えているわけではございません。
○小野委員 確認ですが,オブジェクト,事業のところは,ここでの議論の目的には一応入らないということですね。先ほど,日本語の目的には二つあるという話で,また信託契約の中には,狭義の目的と事業,二つの項目を分けて規定されるのが,一つのひな形上も存在するということだったんですけれども,ここでの議論の目的は,先ほどの崇高な目的だけが目的であって,その事業のところは,それ以外,目的以外の変更という理解での説明かと思ったんですが,その辺も確認できればと思うんですが。
○中辻幹事 そうですね。今回の部会資料で使っている「信託の目的」というのは,基本的には,信託法149条,150条に出てくる「信託の目的」というものと同義で捉えておりまして,ここは,私の理解としてはパーパスです。
  ただし,公益信託のパーパスとオブジェクトについては,先ほども申し上げましたが,重なる部分が多うございます。ですから,公益信託契約書に記載された受託者が行う公益信託事務の内容を変更する場合には,公益信託の目的の変更に該当するとして,第1の2の規律が適用されることも想定されるように思います。
○小野委員 分かりました。
○棚橋幹事 第1の1の変更命令の部分について補足させていただきたいのですが,どの機関が何を判断すべきかについては,どの機関にどのような監督や役割が求められているかということによって決まってくるものなのではないかと考えております。
  これまでの部会の中では,行政庁の監督の在り方について,認定基準の充足性のチェックを通じた監督という考え方も示されていましたが,裁判所が変更命令の中で第一次的に認定基準充足性を判断するという考えを採った場合には,このような行政庁の監督の在り方との関係で整理できるのかという点に疑問があります。また,裁判所が第一次的に認定基準充足性を判断し,それに対して行政庁が,それが正しいかどうかを認定の段階で判断し,その認定に関する判断にもし不服があった場合には,その判断に対して更に取消訴訟という形で裁判所に戻ってくるという構造は,裁判所,行政庁,裁判所と行ったり来たりしているように思われ,直感的には違和感があるということを補足させていただきたいと思います。
○神作幹事 ちょっと戻って恐縮ですけれども,先ほどの小野委員と中辻幹事のやり取りに関連して,会社法について発言させてください。会社法でも目的という言葉が,いろいろな意味に使われていると言われております。恐らくパーパスに当たるのは,営利目的と言われていると思いますけれども,これが会社に共通する究極的な目的です。それを実現するため,定款に記載するのは普通,事業目的と言われていて,パーパスを実現するための手段として具体的に何をするかが記載されます。例えば,車の製造販売など,営利を獲得するための手段として行うことが事業目的と言われており,これが恐らくオブジェクトに相当すると思うのですけれども,一言申し上げたいことは,公益信託の場合は,正に小野委員が指摘されたように,パーパスとオブジェクトというのが非常に接近する場合があるといいますか,ある目的のためにある事業をするという場合に,当該目的を達成するためにはいろいろな手段があり得るのでしょうけれども,公益信託や公益法人の場合は,当該目的を達成するために,ある特定の手段でやることが重要なのであると考えられているケースが少なくないということだと思います。目的を追求するための手段であるオブジェクトが,公益目的の場合には,究極の目的であるパーパスと非常に結び付く可能性が高いという特徴があります。おそらく,小野委員が御指摘されたとおり,グラデーションが微妙なケースというのは,公益信託の場合には非常に多くなってくると考えます。その点はやはり,公益信託の議論をするときに,よく考えていく必要があるのではないかと感じました。
○中田部会長 ありがとうございました。
○道垣内委員 前回か前々回か忘れましたけれども,公益信託の目的を登記事項にするという話のときに,どうして登記事項にできるんですかという話を私がしたと思うのですが,それがこの話と同じ話なんだろうと思うのです。つまり,先ほどエイズの話などが出ていましたけれども,例えば目的として,つまり信託契約の目的と題する第1条に,「不治の病だとされているものについての研究をやって,もって人類の何とかかんとか」というふうに書いて,具体的に何をするかというと,エイズの研究者に対して助成するというふうに書いているときに,それを結核の研究者に助成するというふうに変えてしまったら,それは事実として,根本的に信託を変更しているわけですから,目的の変更なんだろうと思うのですね。
  そうすると,そのときの目的と,変更のときの目的というのは,そういうふうに実質的に判断して,グラデーションあるという話でしたけれども,信託の根本を変えるものになるのかどうなのかというふうな観点で判断するのだということになりましたら,登記のところにおける目的は形式的な書き方にならざるを得ませんから,そこには不一致が出てきます。もちろん,認可のときの行政庁の実務運用として,もっと当該信託の本質を明らかにするようなことを,信託契約における「目的」という条に書かなければならないとするのであれば,一致してくるのかもしれませんけれども,そうはならないであろうと思います。いや,私が登記のときにお話したときには,ほとんど誰からも賛同がなかったのに,私からすると全く同じ話が,ここでみんな,そうだよねというふうに言っているので,悲しい思いをしているということを一言。
○中田部会長 今,目的についての御意見が続いておりますが,これに関連する御意見は更にございますでしょうか。
○吉谷委員 恐らく今の実務でも,目的の書き方って非常に様々で,結構,どういう形で奨学金を出しなさいということを限定している場合もあれば,目的についてはもっと抽象的に,学術の振興とか,簡単なものもあって,ですので,具体的な事業についてまで,目的であるというふうに,その事業をやることが目的だというふうに言及すれば,それはまず目的なんだろうというふうに思います。
  一方で,信託目的とはっきり書かれていないところまで目的が及ぶのかというのは,非常に難しくて,それはちょっと,契約なり遺言なりの解釈の問題になってしまうのかなというふうには思いました。ですけれども,結局のところ,やはり委託者が事後的に変えられては困るものについて,目的として,きっちりと書いていただくというふうに運営されるのがよろしいのではないかなというふうに思います。
○中田部会長 目的については,幾つか御意見を頂きましたが,二つ規律を置くということ自体に反対されるというわけではなくて,グラデーションがあるということを踏まえて,その切り分けをどういう観点で考えたらよいのかということについての御注意だったかと伺いました。
  さらに,ほかの点も含めて,いかがでしょうか。
○明渡関係官 念のためでございますけれども,3ページ目の注5の部分ですけれども,前段のような形を採った場合には,この行政庁と有識者から成る委員会との関係を,改めて整理しておく必要があるのかと思います。諮問,答申が必要なのかという点,意見以外の関与があった場合に,そこをどのようにするのかという点があろうかと思います。
  また,前段のような形の場合で,変更命令の前に裁判所が行政庁に聴取する意見が,後の変更の認定,変更認可と同様の効果をもたらすというようなことであるのであれば,その書類,申請書類に--申請書類という言い方でいいのかどうか分かりませんけれども,それについて,変更認定等と同じようなものを提出してもらうと。それは裁判所経由になるのかもしれませんけれども,そういうふうな手続の方に影響してくるんだろうと思います。一応,念のために申し上げておきます。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 少し前の話ですが,意見を申し上げたいと思います。
  第1の1,注5に関することですが,第1,1の(1),(2)にも,少し遡る話になると思います。信託関係人の合意等がある場合に,(2)のアは,行政庁が変更の認可・認定を行うと書いてあって,これに私は異論ないのですが,アとイを比べると,信託関係人の合意等があって変更が行われ,そして,その変更に対して,行政庁が認可・認定するという構造の方が,私としてはよく理解できるところです。そうすると,少し(1)と抵触してしまいます。したがって,(1)に遡っての発言で申し訳ありませんが,抵触する部分には少し手直しを加える必要があると思います。
  そして,(2)のイですが,信託関係人の合意等がない場合については,私の意見は,裁判所が変更命令を行うというものです。
  これに対して,アとの関係でいうと,行政庁の変更の認可・認定,あるいは,それに代わるものは必要だろうと思います。裁判所がここだけ突然認定庁になって,あるいは認定又は認可庁になって,有識者による第三者委員会の意見を聞いて,又は意見を聞かずに,行うということは,裁判所の変更命令のときには,行政庁の変更に認可・認定を省略することができるというのは,基本的には適切ではないと思います。
  しかし,公益信託を担っている受託者とか関係の人たちが,一方で裁判所に行って,他方で認定・認可行政庁に行って,両方からオーケーをもらわないといけないと思うのですが,しかし,裁判所と認定・認可行政庁の間に,基本的には連絡がないものとすると,たらい回しではないものの,一方で良いとされ,しかし,他方が駄目な場合,前者の方で一生懸命努力したことが水の泡になってしまうということになるように思われ,そういう手続には,できればしない方がいいのだろうと思います。
  ただ,基本は,認定基準・認可基準に当たるものは認定・認可行政庁が行い,そして,信託法150条に当たるかどうかの解釈は裁判所がすると。この仕分けはできるだけ維持して,しかし手続の上で,それがやはり,二つの窓口にそれぞれ,どういう順番でもいい,あるいは,こういう順番で行かなくてはならないとするのではなく,できればそこを一本化,あるいは一本化に近い形にできるといいのではないかと考えます。どちらに一本化するかといえば,(2)のアのところで申し上げましたように,変更はやはり信託関係人の合意で変更すると私は考えますので,そうすると,やはり裁判所の方が主たる第三者機関になるのだろうと思います。
  ですが,不服申立ての問題とか,今日大分いろいろ,具体的な話に展開していきましたので,それはやはり,それぞれに対する不服申立て,それぞれの手続で行うというのが基本だろうと思います。
○道垣内委員 山田委員がおっしゃった前半に係る話なんですが,合意によって変更されるのか,それとも,合意によっての変更というのが,行政庁の認可が停止条件として付いているのかという問題は,多分まだあるんだろうと思います。そして,恐らく停止条件とした方がスムーズだろうと思います。しかしながら,山田委員がおっしゃっていることにほとんど賛成で,この間からもそうなんですけれども,例えば9ページも,その前のページも一緒なんですが,2のところで,1,2となりますと,びっくりしてしまうんですね,最初の段階で。ああ,できないのかとかいう感じなんですが,次見ると,ああ,できるのかといった感じで,それで,それがますますびっくりしたのが,12ページのところで,これずっと読んでいると,目的も変更しなければならないことがあって,それを認めることが大切だと思われるとしながら,最後になると,したがって,合意による目的の変更はできないようにするのが妥当であるとなっておりまして,これは,絶対,「したがって」になっていないのではないでしょうか。まあ,山田委員のような論理構造で考えるのか,この案の論理構造で考えるのかという違いになっているんだと思うんですが,これを,中間試案とか,そういうふうなことを出していくということになったときには,論理的な気持ちも分からないではないんですが,もう少し分かりやすくした方がいいのではないかなと思います。
○中田部会長 今の点につきましては,認可・認定をブラケットで囲っていて,両方あり得るというところでも,そこはまだはっきり固まっていないからという含みがあるのだろうと思います。ただ,(1)で断言しているのが,非常に強い印象を与えたということなのかもしれません。
  ほかにいかがでしょうか。特に2の目的の変更について,現在の公益信託法9条を改めるという案が出ておりますけれども,この点いかがでしょうか。
○平川委員 2につきまして,(1),(2)について賛成いたします。先ほど述べた公益信託の目的と,その目的事業,両方とも含めた意味での目的の変更ということについては,信託関係人の合意に加え,行政庁の認定を必要とするということに賛成します。
  公益信託の目的の変更は,財団法人の目的の変更に類似するものであり,目的の重要性から,その変更は公益信託の場合も,信託関係人の合意等のみによる変更は不可とすべきと考えます。
  御参考なんですけれども,公益財団法人の目的の変更の場合の要件は,定款に変更可能の規定があることを必要としておりまして,この目的というのは,狭義の目的について,定款に変更可能の規定があることを必要としておりまして,その変更には評議員会の3分の2の多数の議決によらなければならず,また,さらに,公益目的事業の方の種類又は内容の変更については,行政庁の認定を要するとされています。
  賛成というふうに申し上げましたけれども,多少修正の意見がございまして,先ほど,今までも何度も述べておりますように,合意の当事者のうち,委託者を除外するとともに,当事者に運営委員会又は運営委員を加える修正を行っていただきたいと思います。
  本日の佐久間参考人の発表の中で,公益信託の信託としての安定した効力を認めるための前提として,そのガバナンスを確保するために,事務処理及び会計の監査権限を有する者の設置という御意見を頂戴いたしましたけれども,この事務処理及び会計の監査権限のみならず,信託関係人の選解任の権限というものも必要だというふうに考えておりまして,私どものいう運営委員は,例えば信託管理人の選解任について,解任を受託者がやるということは考えられず,運営委員がやるということがここで考えられますので,選解任についての権限もあるべきなのではないかというふうに考えました。
  そこで,運営委員を加えるという修正を行っていただきたいということと,狭義の目的の変更は,公益財団法人においては,定款の定めにより変更できる旨の規定がない限り,評議員会の決議によっては変更できないものとされていることの平仄をとる意味で,公益信託の場合も,信託行為に信託目的変更可能条項が規定されていれば,信託関係人の合意と行政庁の認定で信託目的変更が行えるけれども,かかる規定がない場合には,合意では変更できず,申立権者の申立てにより裁判所の命令が必要というふうにすべきであると考えます。
  一方,公益目的事業の変更については,信託関係人の合意により,行政庁に認定申請を行えるというふうに考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論ですけれども,基本的には第1の2につきまして,賛成でした。
  特に付け加えるべきとすれば,委託者の意思を排除しないという立て付けであるべきだというところです。例えば(3)などについても,部会資料の中にも,従前の審議において,委託者の意思を考慮するというか,委託者が継続を排除していないと,そういうような前提の場合に,これを認めるというような記述もありまして,委託者の意思を考慮した上でということでした。
  個別に委託者の同意というのを取るのか,あるいは信託行為上で排除していないというか,そういうことであるのか,在り方はいろいろ,議論としてあったところですが,一応そのようなところでした。
  それで,1点だけ。ただし,個人的には,要するに,2の目的の変更のところでも,いわゆる信託法150条のようなものがあってもいいと考えられるのではないかとも思います。ただ,この部会資料の整理の中では,それは排除されたという整理だというのは分かっていまして,弁護士会としては,この整理で取りあえず賛成だったというところです。
○吉谷委員 (1)は賛成でございますが,(2)につきましては,変更がここまで自由にできていいのだろうかという点については,疑問を持っているというところです。
  (3)のように,信託目的達成であるとか不達成であるとかいうような場合に,信託の目的を変更するという,これはよく分かるのですけれども,そういう前提なしに,自由に公益信託の目的を変更してしまうことがいいのかということは疑問です。ですので,(2)につきましては,信託目的の達成に支障がある場合で,信託事務処理の方法の変更では解決できないような場合は目的の変更ができると,それも類似の信託目的に変更できるという形にするのがよろしいのではないかと思います。
  今の提案のままですと,寄附者が存在する場合には,寄附者の意図に反するような目的で財産が使われてしまうということにもなってしまいます。また,自由に変えることができるということでしたら,毎年信託目的を変えるということもできてしまうわけでありまして,最初に認可・認定申請をしたときに,3年,5年の計画を出していたのに,途中でやはりやめますということで,変えてしまうということもできてしまうわけです。
  信託目的の変更ですので,委託者の合意が必要であるというところは理解できるわけですけれども,逆に言いますと,委託者の発言力が強いような場合ですと,委託者が自由に信託目的の変更を受託者に進言して,受託者と信託管理人が,そういうことでしたら変えましょうということで応じてしまうというようなことが起きるということになりますと,委託者が事実上,信託を支配するということになってしまうのではないかということについては,ちょっとおそれを持っているということであります。
  その上で,(3)につきましては,(2)の合意に比べまして,受託者単独の申請というところになっているというような,もし(2)につきましても,制限的に運用するということでありましたら,(2)と(3)については,連続した形で作るのがいいのではないかと。つまり,(2)は信託の終了前,(3)は終了後のことについて書くというような形ではないかというふうに思われます。
○中田部会長 今,(3)については,単独で見たときには,一応このような規律でよくて,これにむしろ合わせる形で,(2)を更に修正した方がよいというふうに承ってよろしいでしょうか。あるいは,(3)自体についても,何か修正点がおありでしょうか。
○吉谷委員 (3)については,修正というよりは,若干疑問で,委託者,信託管理人の合意がなくていいんだろうかというのは,ちょっと疑問点としてあるというところと,例えば,国や地方公共団体を帰属権利者としているような場合でも,類似の目的への変更はできないということになるのだろうかとかいうような形での,ちょっと疑問があるというところですね。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに……
○平川委員 この(3)については,賛成しまして,これは,やはり英米の公益信託において存在するシプレー原則と同様の原則なので,これは是非表明していただきたいというふうに積極的に考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○沖野幹事 表現だけなんですけれども,(3)について,以前も問題になったのかもしれません。行政庁は継続させることができるという表現が,果たして現在考えられている行政庁の役割との関係で,いいのかどうかということだけ,念のため,御検討いただければと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。第1について,ほかにございませんでしょうか。 
○吉谷委員 第1の1の(3)についてだけ,ちょっと意見と確認なんですが,この提案には賛成させていただこうと思っておるんですけれども,ここの御提案の中で,通知のことが書かれているんですね。これは別に,信託法149条の原則どおりの受託者だけ,あるいは,受託者と信託管理人の合意による場合は委託者に通知するというようなことについて御説明されている,現行どおりの内容を御説明されているということであって,(3)には,委託者への通知は省略できると信託行為で定めることができるというようなことは特に書かれていないんですけれども,別に通知を強行規定化しようとか,そこまでの意図はないんだというふうに理解しておりますが,それでよろしいでしょうか。
○中辻幹事 第1の1の注4に書かせていただいたとおりでございまして,信託法149条4項で,信託行為について,別に定めを置いた場合には,デフォルトルールと違ったことができるというふうに信託法上はなっている。さはさりながら,この149条4項,これを全面的に公益信託について適用するかどうかというのは,なお考え込む必要があると思っておりまして,そういう意味で引き続き検討なんですが,(2)の場合でも,(3)の場合でも,そこは注4の考えが適用されるという御指摘と受け止めました。事務局としても,吉谷委員のお考えのとおり理解しております。
○道垣内委員 第1の2の(1),(2)につきまして,吉谷委員が御発言された内容は,かなり説得的であるという感じを持ったということをまず第1点に申し上げます。これは吉谷委員の単独意見ではないことを明らかにするための発言です。
  より申し上げたいことは別にありまして,(1),(2)で基本的にはいいだろうとなったときに,(2)の書き方が若干微妙な感じがするんですね。つまり,先ほどの山田委員がおっしゃった整理を前提とすると,これは目的変更後の信託を公益信託として認可するないしは認定するということなんだろうと思うのです。ところが,公益信託の目的の変更の認可というふうになりますと,目的を変更することがよいのかという話になってきます。もっとも,逆にそう読んでしまうと,吉谷委員の疑問というか,問題が払拭されてしまうのかもしれないんですが,しかしながら,12ページのところの4の(1)のところの説明のところでは,目的の変更によって,公益信託の認定基準を満たさなくなる事態を防止するということになっていますので,これはやはり,目的変更後の信託について,それが公益信託に該当することの認可であろうと思います。若干誤解を招く書き方になっており,説明とこの文章が,必ずしもクリアに対応していない感じがしますので,お気を付けいただければと思います。
○中田部会長 ほかに,第1についてございませんでしょうか。
○山田委員 第1の2の(3)ですけれども,2行目とか3行目の「行政庁は」というところは,私は裁判所ではないかなと思います。
  しかし,裁判所とすると,信託法の中に,ちょっとそれを受ける規定が,先ほどの信託変更命令は信託法150条があったのですが,ないのかもしれないように思います。そうすると,少しハードルは高いかもしれないと思うのですが,先ほど私が申し上げた,私の基本的な考え方からすれば,ここは行政庁ではなくて裁判所であると思います。それで,しかし,ハードルは高いので,裁判所を主語とするのは成り立たないというときに,次善の策として行政庁を入れた方がいいのか,諦めるかということになるかと思うんですが,これを諦めたら恥ずかしいだろうというのが,2回か3回前の樋口委員の御意見でしたので,次善の策として,行政庁が残ると思います。しかし,第一は裁判所だろうと思います。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。今お名前出ましたけれども,樋口委員,何かございますでしょうか。よろしいですか。
 第1について,非常に多くの御意見頂きまして,ありがとうございました。1の(1)については,おおむね賛成が多かったかと存じますけれども,しかし,認定・認可との関係を考慮すべきであって,できないというふうに最初から言い切ってしまうのは,どんなものかという御注意を頂いたと思います。1の(2)のイについては,裁判所というのが多数であったと思いますけれども,しかし,それを前提とした上で,注5の内容の詰めが更に必要であろうということで,いろいろな具体的な御提案,御意見を頂戴いたしました。
  2につきましても,(1)は,1の(1)と同様でございますが,2の(2)については,御意見が様々であったかと存じます。(3)については,恐らく全体としては,賛成が多いのではないかとは思いますけれども,更にその内容について,幾つかの御指摘を頂戴したかと存じます。さらに,第1の1と第1の2との区別について,とりわけ目的の概念をどのように考えるのかについて,御検討いただきました。
  これらを踏まえて,さらに,中間試案のたたき台に向けて検討していただきたいと思っております。
  第1について,今の段階で,佐久間参考人から何かございますか。
○佐久間参考人 後で結構です。
○中田部会長 では,後ほどということで。
  では,続きまして,第2の併合・分割について,御意見を頂戴できればと思います。
○小野委員 結論に対してではなくて,注1についてなんですけれども,前も発言いたしましたが,公益信託と私益信託,又は公益信託を公益目的目的信託に分けるとか,やはりそういうような多彩なメニューを提示するということは,今後の社会を考えたとき,必要ではないかと思います。ですから,ここでの注1の前提自体,いろいろな意見があると思いますので是非検討していただけたらと思います。
  繰り返しになりますけれども,私益信託といっても,特定の研究者に対する公益目的の私益信託ということも当然考えられますし,あと,不特定多数要件において疑義がある場合に,公益目的目的信託として分割するということもあるかと思います。分割の場合が主な前提かと思いますけれども。ということで,議論は,まだオープンにしていただけたらと思います。
  ついでに一言だけ,そのときに,元々委託者の意思とか,場合によっては,寄附をした方の意思と違った形で財産が使われるかもしれないということを補足説明で書かれていましたけれども,先ほどのパーパスとオブジェクトを分ける発想からすると,そのパーパスにおいては異ならないという前提を置けば,オブジェクトまで明確にして寄附した人の意思とはちょっと違うかもしれませんけれども,パーパスという観点に置いては,違うことはないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 公益信託の合併・分割自体については,行政庁の認定は不要であると考えます。ただし,合併や分割により信託目的や信託事業目的に変更をきたしたり,認定要件に関わる事項に変更を来すような場合には,変更認定を受ける必要があると考えます。
  合併・分割によって公益信託の質的な点は変わらず,量的変更に尽きるのであれば,軽微な変更であるとして,当事者の合意のみで可能として,行政庁への届出でできるというふうにすべきであると考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論としては,第1の1と同じように考えている面もあって,そういう意味において,第2の方は,基本的には賛成でした。確かに,命令の前に行政庁の意見聴取すべきだとか,あとは,裁判所の結論と行政庁との意見が食い違ったときどうするかという問題意識があり,そこの議論は第1の1のときと同様であったので,繰り返しませんが,一応そういう意見でした。
○棚橋幹事 裁判所による併合・分割命令の点ですが,一番率直な疑問としては,この場面で,裁判所にどういった役割が求められているのかという点に疑問があります。信託法150条の要件で判断するという御提案ではありますが,二つの信託を併合する,又は一つの信託を分割するというのは,言わば会社の合併や会社分割にも似ているもののように思えます。そういった場面で,信託行為の定めが信託目的,財産の状況等に照らして,信託の目的の達成の支障になるに至ったかという要件をどのように判断するのか疑問があります。裁判所は,どういった役割で,なぜ関与が必要であって,何を判断すべきなのかというところが判然としないので,教えていただければと思います。
○中辻幹事 事務局の方で想定していた例としては,また遡ってしまい恐縮ですけれども,第1読会で議論していただいた部会資料37の24ページに具体的な例を挙げております。そこで,併合の例としては,同一の受託者が奨学金支給の信託事務を行う2本の公益信託があり,片方の奨学金支給を行っている公益信託の方の信託財産が減少して,その信託財産だけだと受託者報酬に充てるのがせいぜいの状態になった場合に,もう1本の公益信託の方に併合すれば,その分,公益の方にお金が回せるというような事例を考えておりました。
  また,分割の方では,これは事業型を前提としてしまうことになりますが,美術館の運営に加えて,美術を学ぶ学生への奨学金支給を行っている公益信託というものがあった場合に,その奨学金支給に関する部分について,吸収信託分割の方法により,奨学金支給を行っている他の公益信託の方に移転していくというような事例を考えていたものです。
  裁判所に判断していただく事項ですけれども,先ほどの説明と重なりますが,基本的には信託法150条の事情変更の要件を満たしているかどうかというところに絞って判断していただくということを考えておりまして,ここでも公益認定の基準の判断までは,どういう手続に最終的にするかによりますけれども,認定基準充足性の有無について裁判所に丸投げしてご判断頂こうとは考えてはいないというのが,今回の部会資料の趣旨でございます。
○棚橋幹事 
  信託の併合・分割命令という制度自体は,信託法には明文では定められてはいないと思いますが,先ほども申し上げたように,併合・分割は,例えば,信託を一旦終了させて,もう1回作るという手続は採らずに,併合や分割という形で存続できるというもののように思いますが,信託関係人が合意できていない場面であるにもかかわらず,なぜ裁判所が命令すれば,併合・分割により存続していけるのかが,よく分からないところです。併合・分割は,目的の変更にも近い重要な変更を伴うもののように思いますので,関係人の権利,関係人の意思や,法的安定性などへの配慮は必要だと思いますし,裁判所が当事者の合意がない場面で,これを命令できるということになると,私人間の契約関係について,裁判所が新たな契約関係を創造するということにもなります。第三者機関に求められているのは,監督作用だと思いますが,関係人の合意がないのに併合・分割命令ができるという制度は,もはや監督の域を超えた作用になってしまうのではないかと考えますので,関係人の合意がないのに命令ができるという制度を設けることについては,慎重に検討していただきたいと考えております。
○吉谷委員 基本的に,変更の場合と同じような意見になっておりますけれども,第2の1につきましては提案に賛成で,2の(1)につきましては基本的には賛成で,(2)につきましては行政庁の申立てというふうに考えているというところです。
  (1)につきましては,第2で注2が入っていたんですけれども,それに相当するものが,この第2の方には入っておりません。ですけれども,恐らく御趣旨としては,第1の御提案と同じように,信託目的に反しない場合は,受託者と信託管理人の合意で併合や分割ができるのだというような御提案であるというふうに理解しております。そういう前提の下に,まず賛成させていただきます。
  そうしますと,もう一つの委託者と信託管理人の合意だけで併合・分割ができるということにつきましては,これはちょっと,受託者が分割できないとか,併合できないとかいうふうに考えている場合に,行政庁がそれを認可してしまうということがもしあるんだとすれば,それはちょっと問題だろうというふうに思いますので,そういう認可されない前提で賛成,あるいは,それは認められないという規律の方がいいのではないかというふうには考えます。
  その上で,(2)につきましても,併合・分割について,受託者が反対するような分割・併合命令というものがなされるのかということについては疑問でありまして,やはり受託者の解任・選任と一体で,手続としては検討されないといけないのではないかというふうに思いまして,そういう意味で,やはり行政庁の関与が必ず必要であるというふうに思うところです。
  信託の変更のところで,信託管理人の提案ができないというのは,信託一般と公益信託で何が違うのかという御意見もありましたんですけれども,やはり公益信託の場合は,執行と監督という役割分担がはっきり分かれているというところが,ちょっと違うのではないかなというふうに思います。それが変更においても,分割・併合においても当てはまって,信託管理人が信託事務処理の方法をがらっと変えてしまうようなことについて提案できるということについては,非常に抵抗があり,そのようなことが受託者の承諾なく行われるんだとすると,かなり問題があるのではないかというふうに考えております。
○中田部会長 ただいまの御発言の中の御質問の部分がありましたけれども,つまり,注が共通しているのかどうかという確認的な御質問ですが。
○中辻幹事 注は共通しているという理解のもとで,今回の部会資料は作っております。
○新井委員 信託関係人の合意がある場合の公益信託の併合・分割についての質問です。
  まず,併合の場合については,これは,Aという公益信託とBという公益信託の両方の申請がないとできないのでしょうか。それとも,Aという公益信託だけの申請で可能でしょうか。
  分割の場合については,受託者が分割された後,受託者が同一である必要があるのでしょうか。つまり,Aという公益信託が分割された場合に,Bもできて,そのBもAと同一の受託者である必要があるのでしょうか。それとも,全く別の受託者を持ってくるということも想定されているのでしょうか。これが第1の質問です。
  第2の質問は,委託者については,信託行為において,申立権を有しないという表現がありますけれども,この趣旨ですけれども,これは,委託者の権限を一定程度制約するという趣旨と理解してよろしいのでしょうか。つまり,公益信託における財産の拠出は,一度公益目的に出したのだから,申立権をある程度制限しますというような趣旨でしょうか。
  もしそうだとすると,第1のところでも,委託者というのが出てきまして,委託者の合意,信託関係人の合意等ですけれども,平川委員は,この委託者については削除すべきではないかという意見の表明がありました。ですから,それとの関係で,委託者の申立権についての趣旨を,ちょっと御説明していただきたいと思います。
○中辻幹事 まず,質問の1点目についてでございますが,先ほど棚橋幹事の御質問に対しては,同一の受託者とする場合に限定してお答えしましたし,実際上考えられるのは,そのような場合が多いというふうに理解しております。ただし,公益信託の併合・分割を受託者が別である信託の間で行うということも論理的にはあり得ると思います。
  それから,質問の2点目ですけれども,最近の部会資料では,デフォルトルールとしては,申立権は委託者にも含めて与えますよと,ただし,信託行為で別段の定めがある場合には,委託者の申立権限は外せますよということで,そろえて提案しておりまして,そのような趣旨での提案ということでございます。
  委託者については,二つの考え方があり,いったん公益のために財産を拠出した後は,公益信託に委託者があまり口出しすべきではないという考え方がある一方で,公益のために財産を支出した委託者の意思というのは,公益信託設定後もある程度尊重されるべきであるし,受託者の監督の観点からも,そのトリガーはできるだけ多い方がいいという考え方もあるので,それらのバランスをとる意味で,委託者にはデフォルトで申立権を与えるが,信託関係人の中で委託者は外すという合意があれば,むしろそれを尊重するということで,この部会資料は作っております。
○中田部会長 第1の御質問の中で,二つの信託の併合の際に,両方からの申請が必要かどうかという点については……
○中辻幹事 失礼いたしました。そこについては,一般の信託と同様に考えておりまして,Aという信託とBという信託がある場合に,そのAという信託の申請だけで併合できるわけではなくて,Bという信託の関係者の合意も得た上で,それぞれについて,合意を取り付けた上で併合するというような立て付けになっていくと思います。
○中田部会長 新井委員,よろしいでしょうか。
○沖野幹事 念のためですが,受託者は同一でない可能性もあるという御説明でしたでしょうか。
○中辻幹事 事務局としては,公益信託の併合・分割の場面では,受託者が同一である例を念頭に置いて考えていたわけですけれども,論理的には受託者が同一でない公益信託間の併合・分割ということもあり得ないではないのかなと思ったのですが,すみません,私の理解が違っていれば,御指摘いただければ有難いです。
○沖野幹事 私が誤解しているのかもしれませんが,信託法の定義の2条の10項,11項では,いずれも受託者を同一とするというものに類型が限られていて,会社法とは少し違うと理解しておったものですから,それを前提にしているのではなかろうかと思われまして……。
○中辻幹事 沖野幹事の御指摘のとおりです。私の説明が不十分でした。信託法2条の併合・分割は受託者を同一とする信託の間で行うことが前提とされています。併合・分割の前に一方の信託の受託者を変更して他方の受託者と同一にすれば,受託者の異なる信託間における信託財産の移転を行うことは可能と言えますが,特に信託法の原則と違った取扱いを,公益信託の併合・分割について取り入れようと考えているわけではございません。
○中田部会長 ほかに何かございますでしょうか。
  また御意見あれば頂戴したいと思いますけれども,そろそろ,前にお願いしました佐久間参考人から,これまでの審議をお聞きになられまして,何かコメントございましたら。
○佐久間参考人 私,これまでの部会資料と議事録をざっと拝見いたしましたけれども,何というんでしょうか,相場観みたいなのを必ずしも承知しておりませんので,本日申し上げた意見との関係で,このように思いましたということだけ申し上げさせていただきます。
  既に,どなたかがおっしゃった意見ばかりでございますが,まず第1の1につきましては,合意による変更と裁判所の命令による変更は,段階としては同一であって,その後に,本来はいずれも,行政庁による認可・認定が控えているべきところだと私は思っております。しかし,本来であればというのは,裁判所が命令をするというときにつきまして,その2段階をそのまま維持するというのには,必ずしも合理性があるとは思えないからです。初めに意見を述べさせていただいた際には,受託者のところで申しましたけれども,裁判の中で,行政庁の認定・認可についての意見が表明されるという機会が設けられればいいのではないかと思っております。
  それから,公益信託の目的の変更とそれ以外の変更につきましては,目的と目的事務というのは,一応概念的には区別されるものであると思います。ただ,信託行為の定めに目的として書かれているものが,目的事務を抜きにして解釈できるかというと,それは難しいところがございます。そこで,その目的事務に書かれているところも含めた目的の解釈で定まったところが変わるのでなければ,それは第1の1であり,変わるのであれば,第2の2だというふうに考えております。
  それから,第1の2に関しましては,構造としては同じですので,第1の1について今申し上げたことで尽きるのだろうと思いますけれども,先ほど申し上げた意見との関係では,私は,委託者が信託行為の定めにおいて許容している,許容というのは,積極的に許容しているか,あるいは反対しないということか,それはどちらでもあり得ると思うんですけれども,それがあって初めて,目的の変更というのは,事情変更のような場合は別にいたしまして,許されていいものになるのではないかと思っております。
○中田部会長 ありがとうございました。
  そのほか,第2について御意見ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。
  最後に,次回の日程等について,事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回の日程ですけれども,少し間があきまして,9月12日(火曜日)ということになります。時間はいつもどおり,午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省ですが,まだ具体的な場所は決まっておりませんので,決まり次第,改めて御連絡いたします。
  9月12日の部会では,事務局の方で,公益信託法改正の中間試案のたたき台となる部会資料を御用意いたしまして,皆様に御審議いただくことを予定しております。
○中田部会長 それでは,ほかにございませんようでしたら,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。
-了-

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