第1 日 時 平成28年10月4日(火) 自 午後1時30分
至 午後5時27分
第2 場 所 法務省第1会議室
第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の検討
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第34回会議を開催いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
本日は,小川委員,小幡委員,松下幹事,岡田幹事,明渡関係官,藤谷関係官が御欠席です。また,多少遅参される方がおられるようです。
では,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。事前に,部会資料34「公益信託法の見直しに関する論点の検討(3)」を送付させていただきました。また,当日配布資料として,参考人としての御説明を本日予定しております財務省主税局の田原税制第三課長から,本日の説明に用いられる資料をいただきましたので机上配布しております。
これらの資料がお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 ただいま,お話がありましたように,本日は参考人として財務省主税局税制第三課の田原芳幸課長にお越しいただいています。第31回会議の際に事務当局から触れられていたところですが,公益信託制度の見直しに当たっては税法の知見を踏まえた上で,検討することが有益であると考えられますことからお越しいただきました。公益信託税制の基礎的な概要について御教示いただけると承っています。
事務当局から何か補足はありますでしょうか。
○中辻幹事 主税局は現在,大変お忙しい状況にあると聞いており,臨時国会も既に始まっているにもかかわらず,田原課長に本日御説明をいただくことがかないまして,誠に幸いに思っております。田原課長の税制に関する御説明に要する時間は,大体15分程度を目安とされている旨お聞きしておりますが,田原課長には次の所用があることから,今回,質疑応答の時間は特段設けないということになっております。更に税法に関して御関心があるという委員・幹事の方がいらっしゃる場合には,後日,私ども事務当局の方にお伝えいただければ,税法の専門家である渕幹事や藤谷関係官,また,主税局のお力も借りて調査するなどの対応をとらせていただきます。
○中田部会長 ただいまのような事情ですので,本日は御説明を伺うということにさせていただきたいと思います。
それでは,田原参考人,お願いします。
○田原参考人 ただいま御紹介にあずかりました主税局税制第三課長をしております田原と申します。よろしくお願いいたします。
本日はお手元の資料に沿って御説明させていただきますが,内容の説明に入る前に税制改正について一言,申し上げたいと思います。毎年の税制改正でございますが,皆さん,御案内かと思いますが,税制改正のプロセスで決定されていくということでございます。新しい制度を税制上,どのように取り扱っていくかということに関しましては,現行税制の考え方を踏まえつつ,政府全体の政策の優先順位でありますとか,あるいは財源でありますとか,そうしたものを総合勘案しつつ,与党等における御議論なども踏まえた上で決定されていくものでございます。そうした意味におきまして,今回の御説明は,今後の税制改正におきます公益信託の税制上の取扱いに何らかの予断を与えるというものではございませんで,あくまで現行の信託税制の解説をさせていただくというものでありますことを御理解いただければと思います。
早速でございますが,資料の表紙をおめくりいただきまして1ページ目,信託税制の全体像から御説明させていただきます。現行の信託税制でございますが,平成19年度の税制改正におきまして整備されたものでございます。平成18年の新信託法の制定によりまして信託制度が見直されまして,多様な信託の類型を設定することが可能となりました。信託の利用機会が大幅に拡大されることになることを契機といたしまして,平成19年度の税制改正におきまして,一つ目は課税の公平・中立の確保,二つ目は多様な信託の類型への課税上の対応,三つ目は法人税・相続税等の租税回避の防止,こうした観点から信託税制につきまして既存制度の取扱いも含めて見直しを行いまして,信託の性質に応じた課税方法が定められたところでございます。
現行の信託の課税方法でございますが,こちらの1ページ目にございますように,一つ目は受益者段階で信託収益の発生時に受益者等に課税されるもの,発生時課税をするものでございます。二つ目の類型が受益者段階課税で,受益者が信託収益を現実に受領した段階で課税される受領時課税のもの,三つ目が信託段階法人課税で,信託段階におきまして受託者を納税義務者として法人税が課税されるもの,こうした三つに分類されるわけでございます。
現行の信託税制におきましては,平成19年度税制改正前の受益者が不特定又は不存在の信託に採られておりました委託者に対する課税につきましては,原則として行われておりません。こうした受益者が不特定又は不存在の信託の取扱いにつきましては,基本的に二つに分かれてございます。
まず,一つは受益者等に対して課税されるものであります。受益者等課税信託におきます受益者等とは,受益者としての権利を現に有する受益者のみならず,税制上のみなし受益者を含むものでございます。みなし受益者とは,実質的に受益者と同等の地位を有する者をいい,具体的には信託の変更権限を現に有し,かつ,信託財産の給付を受けることとされている者をいうとしております。
次に,そうしたみなし受益者も存在しないものにつきましては,受益者等が存しない信託といたしまして法人課税信託となります。これには遺言により設定された目的信託などが該当するわけでございます。この類型を法人課税信託として位置付けまして受託者に課税することとしておりますのは,信託の収益の帰属者たる受益者が存在しないため受益者段階で課税できないものの,信託から所得は生じておりますので,これに課税しないことは適当ではないため,一義的な所得の帰属主体であります受託者に課税することとされているものでございます。
しかしながら,平成19年度税制改正におきましては,一般の公益信託につきましては法人課税信託に該当せず,従前の委託者課税の取扱いを維持することとされてございます。これは新信託法の法案の附帯決議におきまして,公益信託制度については公益法人と社会的に同様の機能を営むものであることに鑑み,先行して行われた公益法人制度改革の趣旨を踏まえつつ,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点から,遅滞なく所要の見直しを行うこととされたことから,当分の間の措置といたしまして法人税法の附則において手当てされたものでございます。
資料の2ページ目を御覧ください。こちらは(認定)特定公益信託制度の概要でございます。現状の公益信託につきましては,税制上,一般の公益信託,特定公益信託,そして,認定特定公益信託の三つに分類されております。一般の公益信託につきましては,公益信託法に基づきまして主務官庁の許可を受けて設定するものであります。
一般の公益信託のうち,信託終了時に信託財産が国又は地方公共団体に帰属すること,又は同種の公益信託として継続すること,受託者が信託会社等であること,受託者が受け入れる信託財産が金銭に限られることなどが信託行為において定められていることといった税制上の要件を満たすことにつきまして,主務大臣の証明を受けたものが特定公益信託とされるわけでございます。
さらに,特定公益信託のうち,公益の増進に著しく寄与するものとして,こちらの資料の右の下に①から⑫までございますが,このように列挙されております事務をその目的とする特定公益信託で,相当と認められる業績が持続できることにつきまして,主務大臣の認定を受けたもの,こちらが認定特定公益信託とされるわけでございます。こうした証明あるいは認定の際には,主務大臣は財務大臣と協議することが必要となってございます。
以降,公益信託の今申し上げました三つの分類ごとに,それぞれ,信託財産の委託時に委託者の所得の計算上どのように取り扱われるか,信託財産の運用により所得が生じた場合に誰にどのように課税されるのかについて御説明させていただきまして,その後に公益信託から給付を受けた場合についての受給者の課税関係,最後に委託者の死亡時に公益信託に関する権利が相続税法上どのように取り扱われるかについて,順次御説明させていただければと思います。
3ページ目を御覧ください。まず,委託時の取扱いについて御説明する前に,関連する制度といたしまして寄附金税制につきまして簡単に御説明させていただきます。寄附金につきましては,この表は複雑な表ですが,ざっくりと申し上げますと,一つ目は国や地方公共団体などに対する寄附,二つ目が特定公益増進法人などに対する寄附,三つ目が一般の寄附と,このように分類できるわけでございます。原則論で申しますと,法人の支出した寄附金につきましては,事業に関連するものと,要は費用性のあるものとそうでないものがあるわけでございますけれども,そうしたことから一定の基準を定めまして,それによって限度額を定めた上で,その限度額の範囲内の支出額に限り,損金算入を認めるというのが原則論になってございます。
その上で,一つは国や地方公共団体等,更には特定公益増進法人等に対して寄附金を支出した場合につきましては,法人税法上も所得税法上も公共性などに鑑みまして,一定の税制優遇が行われておると,法人税のところで申しますと,国や地方公共団体についていえば,全額損金算入と,特定公益増進法人につきましては一般の寄附金の損金算入の枠とは別枠で損金算入を認めておると,そういった優遇措置が与えられているところでございます。
その上で,公益信託に関しまして御説明させていただきます。4ページ目を御覧ください。公益信託に係る税制の概要でございます。まず,①は委託者が個人の場合,②は委託者が法人の場合でそれぞれ表を分けさせていただいた上で,その表の中で横軸が拠出段階と運用段階の2ディメンションになっていて,縦軸が,公益信託,特定公益信託,認定特定公益信託と三つの信託ごとに分けておるわけでございます。
まず,委託段階,拠出の段階の課税関係について申し上げますと,①と②の表の左側でございますけれども,まず,一般の公益信託について申し上げます。一般の公益信託の委託段階,これにつきましては委託者が個人の場合も法人の場合も寄附金扱いはされないと,すなわち,所得税におきましては寄附金控除の対象とはなりません。また,法人税におきましても損金不算入の扱いとなってございます。
次に,同じく一般の公益信託の運用段階でございますが,まず,下の②の方でございますけれども,法人税の取扱いにおきましては現行法上,信託財産に属する資産負債を委託者が保有するものとみなしまして,その信託財産に帰せられる収益費用は委託者に帰属するものとして,課税することとしてございます。なお,所得税法上は上の表でございますが,一般の公益信託についても信託財産につき,生ずる所得については所得税を課さないこととされてございます。
次に,特定公益信託の取扱いでございます。①,②の表の縦軸の真ん中でございますけれども,特定公益信託につきましては,公益信託の信託財産が実質的には委託者の手を離れたものであること,その運営が公正に行われること及び運営の確実性を担保することなどの観点から,税制上の各要件が定められてございます。こうした要件をクリアする公益信託に限りまして,法人税法上は信託財産として拠出された金銭を寄附金とみなすこと,②の表でございますけれども,これは一般寄附金と同じ扱いをすると,かつ委託者課税を運用段階でもしないこととされております。これらの要件を備えました特定公益信託につきましては,委託者が利益を享受することは実際上余り考えられないことなどに鑑みまして,実態に合った取扱いをすることが適当と判断することとされたものでございます。
また,公益信託の運用時におきます課税に関して御説明することとの関係で,公益法人等の課税対象事業について簡単に御説明させていただきます。5ページ目を御覧ください。法人税法上の公益法人の取扱いでございますが,その行います事業を収益事業とそれ以外に分類いたしまして,営利法人の営む事業と競合関係にある事業であります収益事業を行う場合におきましては,課税の公平性,中立性の確保の観点から,収益事業から生じます所得に対してのみ法人税を課税すると,これを収益事業課税方式と申しておりますが,そうした方式が採られておるところでございます。
また,4ページに戻っていただきますと,特定公益信託におきましては,そもそも,公益信託は許可審査基準におきまして,その内容は原則として助成金,奨学金,奨励金,寄附金等の支給又は物品の配布であることとされてございます。更に税制上の要件におきまして,受入れ財産が金銭のみであること,更には運用方法も預貯金,公社債などに限定されておりますということでありますことから,収益事業に該当するような信託財産の運用は行われないと,こういう整理になっておるということでございまして,こうしたことを踏まえまして,収益事業課税方式は採られておりませんで,運用時の課税は生じないと,こういう扱いになっておるわけでございます。
最後に,4ページ目の資料の中で認定特定公益信託の課税関係でございますが,認定特定公益信託につきましては,運用時の課税につきましては特定公益信託と同じ扱いになってございます。他方,委託時につきましては特定公益信託よりも上乗せの優遇措置が講じられております。信託財産として拠出された金銭をまず寄附金とみなした上で,①の表ですが,所得税につきましては寄附金控除の対象となってございます。②の表ですが,法人税につきましては別枠の損金算入の優遇が与えられておるわけでございます。なお,認定特定公益信託の要件は,寄附優遇を認めるには公益目的を限定するとともに,継続性等を担保することが必要となるという考え方から定められているものでございます。
次に,4ページの2.でございます。受給者の課税関係でございます。公益信託は当初,信託された財産やその運用益などから給付を行うこととなりますが,給付の対象となった者が受けた金銭等につきまして,その者が個人か,法人かによって課税方法が分かれるわけでございます。受給者が個人の場合でございますが,一般の公益信託からの金銭等の受給時に,委託者が個人の場合は贈与税の課税対象となります。委託者が法人の場合,こちらにつきましては一時所得として所得税が課税されることになります。なお,所得税法,相続税法ともに例えば学資に充てるための給付でありますとか,そういった一定の場合には非課税の規定があるわけでございます。
受給者が法人の場合でございますが,法人の場合は受け取る金額が確定した事業年度の所得として,法人税が課税されることとなると,これが原則でございます。ただ,アスタリスクに書いてございますが,公益信託の給付先につきましては,公益法人等がなることが多いということも考えられるわけでございますが,公益法人等が受給者である場合は,給付された金銭等は通常は公益法人等の課税の対象となります,先ほど申し上げました収益事業から生じた所得には該当しないということでございますので,その場合は非課税となるわけでございます。
最後になりますが,公益信託につきまして,委託者が死亡した場合の相続税の課税関係について御説明いたします。相続税法におきましても,一般の公益信託につきましては従前の委託者課税の取扱いを維持することとされているところでございます。委託者が死亡した場合には,その相続人等が公益信託に関する権利を委託者から遺贈により取得したものとみなされまして,その権利は相続税の課税対象となるわけでございます。ただしでございますが,公益信託が特定公益信託の要件を満たすものである場合,4ページの表上,①の下の二つ目のアスタリスクに書いてございますが,特定公益信託の要件を満たす公益信託につきましては,その信託に関する権利の価額はゼロとして取り扱うと,このように定められておるわけでございます。
簡単でございますが,私からの説明は以上でございます。
○中田部会長 田原参考人,どうもありがとうございました。
頂戴しました御説明をそしゃくして今後の審議の参考にさせていただきます。
それでは,本日の審議に入ります。本日は部会資料34について御審議いただく予定です。具体的には途中休憩の前までに部会資料34のうち,「第3 公益信託の認定の主体」まで御審議いただき,午後3時半頃をめどに適宜,休憩を入れることを予定しています。休憩後,「第4 公益信託と目的信託の関係」について御審議いただきたいと思います。
部会資料34の第1と第2は,前回の審議で受託者に関する認定基準と信託事務に関する認定基準について御審議いただいたのに続くものです。まず,「第1 信託財産に関する認定基準」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私から御説明させていただきます。
まず,「第1 信託財産に関する認定基準」のうち,1の「公益目的の信託事務の遂行見込み」について御説明します。本文では「公益信託の信託財産の運用,追加信託及び寄附金等の計画の内容に照らし,その公益目的の達成に必要な信託事務を遂行できることが見込みがあること(信託財産の取崩しを内容とする場合にはその存続期間を通して信託事務を遂行することができる見込みであること)を認定基準とする規律を設けることでどうか。」という提案をしています。
公益目的の信託事務を遂行できる見込みがないような信託を公益信託として認定する必要性は認め難いことから,信託財産に関する認定基準として,このような認定基準を設けることを提案しています。なお,信託事務の遂行可能性を検討するに当たっては,設定当初の信託財産に限定することは相当ではないことから,このような限定は付さず,信託財産の運用のほか,追加信託や寄附金等の計画の内容も考慮して判断することとしています。もっとも,信託財産の運用の概念及びその許容される範囲については,特段異論のないものと思われる預貯金や国債などの安定的な運用を超えて,どこまで許容されるか否かなどの論点があります。公益目的の信託事務の範囲の論点とも関連しますが,本論点においても御意見等を頂ければと存じます。
続いて,第1の「2 遊休財産の保有制限」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益目的の信託事務のために現に使用されておらず,かつ,引き続きそのために使用される見込みのない遊休財産の額が一定の額を上回るものでないことを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,「公益目的の信託事務のために使用しない財産を受託者が当該公益信託の信託財産として保有することを禁止する規律を設ける。」,丙案として,「受託者の遊休財産の保有制限に関する規律は設けない。」という提案としております。
公益信託の受託者が,委託者から受領した信託財産等を自らの下で蓄積し,長期にわたり公益目的の信託事務の遂行に使用しないと,本来公益目的に使用されるべき財産の死蔵につながり,資金拠出者の意思にも反するため,公益法人認定法の規律を参考に,甲案のような提案をしております。
これに対し,公益信託の受託者が,公益目的の信託事務のみを行い,それ以外の信託事務を行わないとした場合には,そもそも公益目的の信託事務のために現に使用しない財産を保有する必要はないことから,そのような信託財産の保有を禁止するとの考え方があり得るため,このような考え方を乙案として示しています。もっとも,乙案に対しては,公益信託の事務の円滑な運営・遂行を阻害するとの批判があり得ます。
以上に対し,そもそも受託者の遊休財産の保有制限に関する認定基準を設けることは不要であるとの考え方があり得るため,丙案を示しております。もっとも,丙案に対しては,収支相償又はペイアウトルールなどのこれに代わる認定基準についての規律や,監督機関等による事後チェックが適切に機能しない限り,信託財産が公益のために使用されず,死蔵されるおそれが残るとの批判があり得るところです。
なお,公益法人制度における収支相償と遊休財産規制の相違点について補足いたします。部会資料5ページの(注)に記載しておりますが,収支相償はフローの面からの規制であり,遊休財産規制はストックの面からの規制となっているといった違いがあるほか,収支相償については公益目的事業のみが対象となりますが,遊休財産規制については法人全体を対象とするなどの違いがございます。
また,前回の部会において議論させていただきましたペイアウトルールにつきまして,部会資料7ページ以下にアメリカにおけるペイアウトルールの説明を補足いたしましたので,参考にしていただければと存じます。
第1の「3 他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益信託の信託財産に他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財産が原則として含まれないこと(例外として,当該株式等の財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合は当該株式等の財産が含まれることを許容する)を認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような規律は設けないという提案をしております。
まず,公益信託の受託者が,信託財産に含まれる株式等を用いて実質的に営利事業を行うことを防止する必要がある一方,公益信託の信託財産として株式を全く保有できなくなることは相当ではないことから,公益法人認定法の規律を参考にして甲案を提案しております。もっとも,甲案を採用する場合には,公益法人制度とは異なり,受託者は複数の信託を受託できる上,受託者自らの固有財産も保有していることから,例外要件の「実質的に支配するおそれ」の有無の判断に当たり,当該公益信託の信託財産に着目すべきか,あるいは受託者に着目すべきかについて検討する必要があります。この点についても併せて御審議いただければと存じます。
これに対し,公益信託の信託事務を公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務は行わないとする場合には,収益事業等を行うことが可能な公益法人に比べて,公益信託の受託者が信託財産である株式の議決権を行使するなどして営利法人等を実質的に支配するような事態が生じる可能性は相対的に低くなると考えられることから,甲案のような認定基準は不要であるとの考え方があり得ますので,それを乙案として示しております。
第1の「4 不可欠特定信託財産の処分制限等」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益信託の受託者が公益目的の信託事務を行うために不可欠な特定の信託財産があるときはその旨並びにその維持及び処分の制限について必要な事項を信託行為で定めているものであることを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような規律は設けないという提案をしております。
公益目的の信託事務を行うために不可欠な特定の信託財産がある場合,その信託財産を受託者が処分してしまうと,公益信託の信託事務の遂行に支障が生じるおそれがある一方,処分を一切禁止するなどの必要以上の規制を及ぼすことは,受託者の行う信託事務を過度に制約することになる懸念もあることから,公益法人認定法の規律を参考に不可欠特定信託財産がある場合には,信託行為にその旨並びにその維持及び処分について必要な事項を定めておくことを認定基準とする規律を設けることを甲案として示しております。
これに対し,信託法の解釈として公益目的の信託事務の遂行に必要な不可欠特定信託財産を受託者が処分できないことは当然である上,公益信託の認定基準が煩雑になるという懸念から,甲案のような認定基準は不要であるという考え方があり得ますので,乙案のような考え方を示しております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきたいと思います。4点ありますので順にお願いいたします。まず,「1 公益目的の信託事務の遂行見込み」,これについていかがでしょうか。
○道垣内委員 重要な議論がなされる前に形式的な話をしておきたいのですが,これから申し上げること自体は,実は公益信託法改正研究会報告書の中でも同じ言葉が使われており,かつ私もメンバーでありましたので,本当は若干申し上げにくいのですが,追加信託という言葉を用いるとき,その意味について信託法の中で定義されていないことが気になります。恐らくここで書いていらっしゃるのは,信託の設定当時から例えば1年後,半年後にはこういうお金が入ってくるとか,更にこういうふうなことをするとかといった計画がされているという場合を念頭に置かれているのではないかと思うのですが,信託法の実務において追加信託という言葉が用いられるときは,予定されていなくても信託財産を追加的に支出するということを広く含めていますよね。
そのような財産の追加的支出がどのような法的性質を有しているのかは,実はよく分からないところであり,いろいろ,議論もあり得るところだと思います。したがって,要綱において,財産の追加を意味する言葉を用いなければならないときは,例えば信託設定後における信託財産たる財産の追加予定とか,まあ,この例も「追加」と言ってしまっているので問題があるかもしれませんけれども,少なくとも「追加信託」という言葉を使うことは避けた方がよいのではないかと思います。細かい点なので最初に発言させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。
表現については最終的にまた御検討いただくことにいたしまして,今日,この場では取りあえず,追加信託という言葉もお使いいただいても,最終的にまた調整させていただくということになろうかと存じます。いかがでしょうか。
○小野委員 先ほど運用の話がございましたけれども,前も同じような発言をしましたが,運用という言葉自体が信託業法の適用とか,金商法上も使われている用語でもありますから,後半の金銭を特定の信託財産に変更する場合も,運用という広いくくりの中で議論しない方が,言葉だけの問題ですみませんけれども,よろしいかと思います。業法規制等をかけない場合の弊害等を懸念する議論があるのかも知れませんが,信託行為の中で金銭の使途等明示しておくということで対応できると思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 1の提案には賛成でございますが,ここで公益目的の達成に必要な信託事務を遂行することができる見込みがあると書いてある部分の解釈について,少し確認的に議論させていただきたいんですけれども,従来の助成型の公益信託は当初信託財産がほとんど金銭であったというところ,今回の改正で当初の信託財産を株式とするような助成型の公益信託ができるようにしたいと考えていることを従来から申し上げておりました。
その株式などを当初の信託財産にした場合には,恐らく二つぐらいパターンがあって,株式を売却して助成資金にするという場合と,配当を助成に使うという場合があると考えています。後者の配当を使う場合なんですけれども,株式の配当ですので,当然,0%ということもあると思います。そうすると,その場合には事務遂行の見込みがあると言えるためには,配当のみを原資にするというような形で最初に決めてしまう,事業計画をそういうふうに作ってしまうと,助成できないということが考えられるわけですので,配当が0なのであれば,株式を売却して助成を行うというような事業計画である必要があるのではないかなと考えております。そうでなくて,0のときは助成しなくていいですよとしてしまうと,株式の内容によりましては全く助成をしないままに期間が経過してしまうということもあり得るわけでして,そうしますと,次の遊休財産との関係でも財産が死蔵されてしまうのを認めるようなことにもなりかねないと思いますので,そのように考えた方がいいのではないかと思っております。
あと,資料の3ページ目の下から3行目辺りのところで,存続期間について記載されております。ここで書いていますように10年未満を予定している公益信託であっても,これを排除する必要はないという点には賛成でございます。その次の「もっとも」以下に書いている部分ですけれども,ここも重要ではないかと考えておりまして,余りその期間が短かすぎるであるとか,財産の金額なのか,あるいは配当が小さすぎるのかですが,公益のために供される信託財産の規模が余りにも小さいというようなものを認めるというようなことがありますと,公益認定自体に社会的なコストが相当掛かるということを考えますと,余り小さなものまで認めてしまうのはいかがなものかとも考えているところです。金額の規模が幾らだったら適切なのかというのは,なかなか,この場で申し上げにくいのですけれども,そういうことも配慮が必要ではないかと考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 これから事業型の信託も認められていくということで,例えば美術館だとか,博物館みたいなのを念頭に置いたときに,こういう基準の下でどう判断するのかという点について述べたいと思います。結論を申し上げますと,そういう事業型の場合には恐らく永久に続くといいますか,特に年限を決めないで博物館なんかでしたら続くということを予定するのが一般的だと思いますので,そういう下で信託事務が遂行できることの見込みというのを余り厳格に判断すると,なかなか,クリアするのが厳しいのだろうという観点からの発言です。
事業型の博物館,美術館なんかを考えますと,恐らく建物であるとか,あるいは絵であるとか,それから,一番問題はそれを運営していく資金というのをどうやって調達するかというところの計画なのだと思います。当初に相当まとまった金額が信託財産として確保できればいいわけですけれども,そう簡単ではないでしょう。博物館とか美術館が年間どのくらいの経費が掛かるのか分かりませんけれども,1億円だとか,そのぐらい掛かるとすると,それを確保していく,そういう仕組みを作れということを要求するのだと思いますけれども,基本財産の運用利益だけでやっていくというのはなかなか難しいでしょう。寄附とかも当てにしなくてはいけない。美術館に関連するものを売ってもその収入はたかが知れている。そういう下で「公益目的の信託事務の遂行見込み」というのをどう判断するのかということが問題です。恐らく寄附というのは相当多く見積もらないとうまくいかないのではないか。
寄附は,それほど確実に入るものではないわけですけれども,そういうものを当てにして大体年間の運用経費はこんな方法でもって調達することを予定していますというような計画でいいというのであれば,事業型は成り立つと思いますけれども,そうではないと,なかなか,厳しい。従って,事業型も可能なように,そこら辺の運用をそれほど厳しくしないようにするのがいいのではないかと考えます。
○林幹事 日弁連の議論では,この要件については見込みがあることではなくて,消極的要件にして,見込みがない場合に認定から排除すべきというのが一致した意見でした。先ほどの御説明では,見込みがないものは排除すべきであるという趣旨であったと思いますが,端的にその旨を規定した方がいいのではないかと思います。見込みがあることを要件としてしまうと,運用や扱いによっては見込みの精度が相当高くないと,認めない方向に働いてしまうのではないのかと考えられます。先ほどの先生方からの厳格にすぎるとうまくいかないのではないかとの御指摘と問題意識は同じで,排除したいのは明らかに見込みがない場合と考えますので,端的にその旨を規定すべきと考えます。
この点,民事再生法第25条3号は,民事再生手続の開始申立に対する棄却の要件として,再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるときを棄却事由としていますので,そのような規定の仕方がベターであると思います。この規定は明らかなときという消極的要件としており,弁護士会では,見込みがないことが明らかなときに排除したらよいとの議論でした。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほど吉谷委員が発言された信託財産の規模と期間ですけれども,公益信託の目的によって判断すべき事柄であって,一概に小さいからいけないとか,短いから問題だという話では,もちろん,信託銀行が受託者となるときには,営業信託として小さい金額を受託することはできないかもしれませんけれども,それは担い手とかにもよると思います。例えばということで例を挙げると,何か災害だったりすると当初の半年,1年という期間が一番重要で,それが数年たってくると,だんだん,違ってくる状況になりますから,その間に集中して公益信託的な目的で何かをするというのは,誰もが想像し得ることと思います。
○平川委員 御提案の公益信託目的の達成に必要な信託事務を遂行することができる見込みがあることを要件にすることには,基本的には賛成なんですけれども,林委員と軸を同じにするところがあるんですけれども,当初信託財産や信託財産の運用については,基本的には受託者の責任として,受託者の自由な判断に委ねられるべき問題ではないかと思いますので,規律は必要最低限にするというスタンスで臨むべきだと思います。ですから,信託事務を遂行することができないということが,余りにも明らかなものを排除するという程度の規制であるべきだと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 存続期間ということにつきましては,現行の公益信託でも向こう3年とか5年とかの計画をお示ししているとは思うんですけれども,必ずしも何年とか,永久に続くとか,初めから決めているわけではないので,事業型だから永久に続かなければならないということもないと思いますので,ここの期間を通してというところが何か厳密に読まれるので,今のような御議論になっているのではないかなと思いました。当初,数年分の計画を出して,それはまずできるんだというようなことが確認できれば,それでよろしいのではないかなと思います。
○中田部会長 最初の方に道垣内委員から追加信託という用語について,そして,小野委員から運用という概念について,それぞれ,御指摘いただいたわけでございますが,これらについてもしお考えがございましたら,お示しいただければと存じますけれども,いかがでしょうか。
○吉谷委員 運用の考え方については,以前も申し上げたのと同じ内容ではございますが,当初の信託財産を別のものにどんどん変更していくというようなものにつきましては,株式のような投資商品であっても,あるいは不動産のようなものであっても,かなりリスクを伴うことになると思いますので,そのようなリスク判断の難しさというものがあるということを認定においてどう考えるのかということがあるかと思います。専門家の関与というものも必要になってくるかと思いますし,そのような専門家が関与することによって,報酬もかなり上がってくるということもあるかと思いますので,信託協会の議論では余りこのような財産の変更をどんどん行っていくというような運用については,慎重に考えた方がいいのではないかなというような議論が出ておりました。信託銀行自身は運用の専門家ではあるわけですけれども,一方で,業として行う場合には一定程度の財産がなければできないというような問題もあると考えております。
○能見委員 中田部会長の言われた用語についてですが,まず,「追加信託」という用語に関しては道垣内委員のおっしゃるとおりだと思いますけれども,ここで問題となっているのは公益信託における追加信託で,新たに信託財産が追加されても受益者が出てくるわけではないので,問題は比較的単純なのだと思います。要するに信託財産として増えるということなので,したがって追加信託が定義されておらず問題であるというならば,この表現を避けて,信託財産の増加というような言葉に変えればいいのではないかと思います。これが受益者がいるような信託ですと,単に財産が増えるのか,追加信託ということで委託者がいて,また,受益者がいるとかいうことになると,信託の関係当事者が影響を受けますので,追加信託の意味を厳密にしなくてはいけないと思いますけれども,公益信託の場合には,そのような問題がないので,先ほど言いましたようにちょっと言葉を直すことでいいと思います。
それから,「運用」に関してですが,今議論しているのは,認定の際の基準として考えていると思いますので,その意味では,先ほど吉谷委員が言われたように,公益認定を申請する際には,計画を作るだけなので,公益信託が成立した後に次から次へと財産が変わっていくという意味での運用,そしてどのような運用が許容されるかといったことは,少なくとも最初の段階では問題にする必要がない。ただ,認定の基準だといっても,その後に監督するときの基準でもあるというお話でしたので,ただ,両者は本来,分けて考えるべきだと思いますが,そういう運用の段階での基準として考えたときには,運用という概念についてもう少し厳密に議論し,規制するのかしないのか,そこら辺を検討する必要があるのではないかと考えます。
○小野委員 私の先ほどの発言に関連して,先ほど吉谷委員がおっしゃられた金銭を株式に変えることはいわゆる運用であって,あと,金銭の運用として,例えば,あり得るかどうか分かりませんけれども,不動産投資として,アパートを建てるとか,不動産の賃貸業をする,それも一つの運用だと思いますけれども,私が申し上げた趣旨での信託財産を別のものに変更するというのは,例えば福祉絡みといいますか,社会的な弱者絡みでいえば,子ども食堂とか,例えば運転資金として給与を払うとか,また,場合によっては新たな備品を買う,場合によっては子ども食堂のため新たに不動産を買うとか,いずれにしても当初の公益信託の目的の範囲内において,資金使途がある程度,明確になっているような形での,だから,運用ではないはずですけれども,資金の利用を指しています。ただ,多分,ここでのくくりとしては,そういうのも含めて当初金銭が他の財産に変更することを変更と呼んで運用に含めており,金銭運用業みたいな運用と,資金使途を明確にした形での資金の利用をどちらも変更という形で記述されているのかと私なりに理解して先ほど発言しました。ですから,吉谷委員のおっしゃっていることはちょっとずれがあるかと思います。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 私の発言も誤解を招くかもしれないと思いましたので,私の方はむしろ計画を立てる段階で株式であるとか,不動産とかに変えることによって,そこから収益を大きく得ることを前提としたような計画を立てることには,慎重であるべきではないかというふうな趣旨で申し上げたところです。
○新井委員 追加信託及び寄附金等という用語ですけれども,まず,追加信託という言葉については道垣内委員の指摘があったとおり,私もこれは避けた方がいいのではないかと思います。というのは,追加信託ということになると,特に委託者の地位をどう扱うのか,当初の委託者と追加信託の委託者の地位をどう扱うのかという,また,難しい問題も出てきてしまうからです。両者とも信託目的を設定したものですが,そこに微妙な差異があったらどうするかというようなこともあると思います。寄附というのは,実際の公益信託でも使われて,結構,たくさん例もありますので,せいぜい,寄附金という用語にしておくのが妥当ではないかと考えます。
○中田部会長 この1については様々な御意見を頂きましたが,大体の方向はこういうもので良かろう,しかし,認定基準の設定に当たって過度に厳格なものにならないようにという御意見を何人かの委員・幹事から頂戴しました。また,用語については追加信託という言葉は適切ではないだろうという御指摘,それから,運用という言葉は概念が幾つかあるようですので,今回の部会資料でもかなり整理されてはおりますけれども,更にそれを詰めていく。それから,寄附という言葉についても今,新井委員から御指摘いただいたようなことがあろうかと存じます。1については,大体,この辺りでよろしいでしょうか。
○道垣内委員 運用について概念を詰めるということでおまとめいただいたので,それで結構なのですが,ここの第1の1で出てきているこの文は,公益目的の信託事務を遂行するために必要な資金をどうやって得るか,それが十分にあるかという視点から書かれているわけですよね。そうすると,ここでの運用というのは,恐らくは吉谷委員がおっしゃったように,必要な信託事務を遂行するための原資が十分にありますかという話なのだろうと思います。運用という言葉を詰めるということも必要ですが,第1回目からの審議との関係で申しますと,運用という概念が多義的になる可能性があるのだろう,規律の目的との関係で,活動を制限する,あるいは認めるという意味で運用という言葉を用いることもあるわけで,その規律における意義との関係と意識しながら,概念を整理していただければと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 手短に言います。追加信託に関して法律上の概念の問題とか,委託者の地位の扱いとか問題点の指摘があり,とすると,信託は1回限りであとは信託財産で取引すればよいという議論かもしれませんけれども,そうすると課税関係も異なる可能性もあるかと思いますし,あと,当初の信託設定行為で足りないものがある,また,委託者が何か当初信託財産である不動産のほかにもう一つ追加するとか,そのときに追加信託が認められたら,メニューとしてはふさわしいように思うので,そういう趣旨で部会長は発言されたと思います。追加信託そのものを法律上の不明確性から排除するということにはならないように,多彩なメニューで対応できるように,なおかつ,税法上もそれで対応できるようにというのが,より公益信託を活性化するために必要ではないかと思います。
○道垣内委員 例えば私が公益信託を設定するが,私の余剰資金は1年間に1億円あるので,10年間,1億円ずつ拠出しますと最初に定まっているということになりますと,10億円の拠出義務を設定したところの信託契約というのが最初から存在していて,それが分割給付になっているわけですよね。追加信託というのが,そのことを指しているのか,それとも,小野委員がおっしゃったような,その後にどうも足りないねとか,あるいはもっとこの公益信託を大きくしたいよねといって追加するというふうな場合を含んでいるのか。後者を含むと,実は公益認定の段階で判断できるような事柄ではないだろうと思います。
したがって,ここを読んだときには,それは前者の分割給付のようなものだけを含んでいるのだろうと理解した上で,そうならば,それを追加信託と本当に呼ぶことがこれまでの用語法に合っているのでしょうかという問題を立てたわけです。どういったものまで認めるか,そして,認めることと,それを公益認定において考慮するというのはまた別問題です。仮に,今議論している規律において,考慮されないということになったときには,およそ,この公益信託をより大きくしようとするための追加拠出が認められないことになるのか,というと,そうではない。そういったことを踏まえて概念整理をしていただければと思います。
○中田部会長 それでは,今,頂いた御注意を参考にしながら更に詰めていきたいと思います。
では,続きまして「2 遊休財産の保有制限」について御審議をお願いいたします。
○渕幹事 ここで「使用」ということはどう定義されているのでしょうか。例えば不動産があって,その不動産を学生寮として使うというようなことで,例えば普通に借りたら,毎月10万円ぐらいの学生寮に,学生をただで住まわせるというようなことをした場合,多分,それは不動産自体を「使用」しているということになるというような気がします。他方,10億円ぐらいを普通預金に預けていて,その利子を奨学金にするというような場合,それは10億円を「使用」しているということになるのかというと何か違うような気もいたします。この辺りについて御説明いただければと思います。
○中辻幹事 渕幹事が例として挙げられた信託財産である不動産を学生寮としてそこに学生を無料で住まわせている場合には,信託財産を公益のために使用していますので,遊休財産規制には該当しないことになります。また,奨学金給付のために信託財産として預けた金銭が1億円あって,それが信託設定の段階で手つかずに残っていたからといって直ちに遊休財産の保有制限に違反するということはなく,事業計画に沿って奨学金が配られるのであれば,その信託財産は公益のために使用される見込みがあることから,遊休財産規制には該当しないことになります。
○渕幹事 分かりました。1億円が減っていって,最終的にゼロになるということであれば,もちろん,使用されるということなのかなと思いますが,例えば,1億円の元本が減らないで利子だけをひたすら使っていくというようなことでも,使用されているということになるという理解ですね。
○中辻幹事 1億円の利子を使って公益目的が実現できるのであれば,その1億円は遊んでいるわけではありませんから,遊休財産規制には該当しないということになります。
○渕幹事 どうもありがとうございました。
○深山委員 甲案,乙案,丙案とありますので,まず,結論から申し上げると,乙案の言葉の使い方はともかくとして,考え方としては乙案のような考え方をベースにしてよろしいのではないかと思います。前回の議論で収支相償の基準を設けるかどうかという議論の際に,その必要はないということを申し上げ,なおかつ,公益のために提供された財産がいわゆる死蔵されたような状態になることは避けるということについては,別途,遊休財産の保有制限のような規律でということを申し上げました。そういう意味では,前回の発言の延長として,およそ公益目的に使われないような財産を公益信託財産として存在させ続けるのは,考え方としてよろしくないだろうという意味で,乙案のような考え方は一つの認定基準になり得るのかなと思っております。
ただ,使用という言葉の議論などにも関連するかと思うんですが,何をもって使用している,していないを判断するのか,あるいは遊休財産という評価を与えるのかどうかという,そこが正に重要でありまして,現に使っている場合は問題ないわけですが,現に積極的に使われていないように見えるものであっても,将来,使うことが予定されているとか,そういうものであれば,ここでいう遊休という評価には当たらないのだろうと思います。
先ほど出た例でいえば,1億の財産のうち,年に1,000万円ずつ使うのだとしたら,残りの9,000万は最初の1年目は使われていない財産ですということは誰も言わないと思うんですが,そういうことから始まって,例えば積極的に今,使っていない不動産があると,土地があるというときに,それはいずれ何らかの目的で使う予定があるとか,あるいはそれを換価して金銭にした上で使う予定があるとか,いろいろな計画がそこに存在すれば,よほど荒唐無稽なものでなければ,直ちに使っていなくても,それは使う予定の財産という意味で遊休財産という評価は与えられないと,こういうような運用といいますか,実務になるのであれば,さほど,規制を設けたからといって不都合はないのではないか。むしろ,公益信託という制度の趣旨,理念からすれば,一つの考え方としてあっていい基準ではないかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 本件の遊休資産の保有制限等のいわゆる財務基準につきましては,基準の全体並びに基準間の相互の関係が問題となり得ることから,その是非の判断をいずれかの段階でトータルに検討すべき問題ではないかと思いますが,本件の遊休財産の保有制限については,公益信託であれば,まずは自由で在るべき丙案に賛成します。また,公益信託につきましては,受託者は公益信託事務のみを行い,他の信託事務は行わない構成とすべきと考えておりますので,他の信託事務からは遊休財産の発生が想定されないため,この点からも遊休財産の保有制限に関する規制は必要がないと考えています。
ただし,先ほどトータルに検討すべきと最初に申し上げましたけれども,収支相償について第33回検討案中,第3の「信託事務に関する認定基準」の「4 収支相償」についての規制は入れないという場合を採用する場合には,内部留保を不当に積み立てる弊害を排除するために,収支相償に代わって遊休財産の上限を,例えば年間の公益信託事務の費用の3年分程度を上限とするという規制を設けるということが考えられると思います。公益法人制度の場合には1年分となっておりますが,もう少し融通性を持たせて3年分程度が考えられるのではないかと思います。
収支相償規制は事業を行っていれば,収支がとんとんでいくということを維持するということは,非常に実務的に難しいところ,これを要求している点で実務的対応がなかなか苦慮しているところなんですけれども,その縛りをなくして内部留保をどの程度規制していくかということについて,その限度は一定程度設けるということは考えられると思います。遊休財産をいたずらに内部留保してはいけないということ自体は分かるんですけれども,公益法人の場合のように遊休財産の1年分というのは余りにも少ないですし,アメリカなんかでは内部留保がある方が信用力のある公益団体であるとも認められているわけですので,そういう点を考慮しても内部留保は全然駄目だとかいうことではなく,収支相償との関係で一定限度の上限を設けるということも考えられるけれども,基本は丙案で自由で在るべきというスタンスをキープするような規制にしていただきたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○能見委員 収支相償の話が出たので,前回,一応議論したわけですが,もう1度確認しておきたいと思います。収支相償は,今回の部会資料の説明の中にも出てきますけれども,公益法人の場合には公益目的事業の会計のところでの収支相償であって,収益事業の方については要求されません。収益事業の方については,その50%以上は公益目的事業の方に使わなくてはいけないけれども,その残りは使わなくて良くて,ただ,そこは法人課税が適用される,というものです。
ただ,この収益事業会計の部分には収支相償原則が掛かりませんので,公益法人の場合には,理論的には財産が増えていく可能性がある。そういう構造に公益法人の場合はなっているわけです。したがって,公益目的事業についての費用が足りないときには,収益事業の方でたまっているものを使えばいいわけですが,公益信託の場合には収益事業は行わない,公益目的事業しかやらない,そういう構図の下で収支相償というルールをかけると,継続的な公益信託を行っていく上でこのルールは,非常に大きな制約となります。非常に公益目的の事務を遂行することを困難にするだろうと思います。そういうことになるということを前回,申し上げました。
そういう考え方から,収支相償の原則は採用しないのが望ましいと思います。そのうえで,今,平川委員が言われたように,収支相償原則がないことで公益信託の財産が内部留保という形で増えていくことを認めるのも適当でないので,それについては別途何らかの規制が必要なのではないかということであります。私も何か規制があった方がいいと思いますけれども,これも余り厳しい規制ではないのが望ましい。アメリカのペイアウトルールを見ますと,これも厳しいかなという感じがしますので,日本の公益信託にふさわしい何かルールを考えればいいのかと思いました。以上が収支相償との関係での発言です。
次に,遊休財産の保有制限についての甲,乙,丙案ですが,今の考え方からすると,甲案に類するもので何か緩いものを考えるということなのかもしれません。乙案は,確かに公益目的事業に関係ない財産を保有するということは望ましくないということは一般的には言えます。例えば助成型の公益信託で絵を保有するとか,そんなようなことなんだと思いますけれども,しかし,これも認定基準のところで規制する必要は必ずしもないと思います。不要な財産を保有しているということ自体が恐らく公益信託の受託者にとっての善管注意義務なのか,何かの義務違反になる可能性もありますし,内部的なガバナンスで対応すればいいのであろうと思います。これは駄目で,これはいい財産だということを認定の段階で区分けをすること自体もなかなか難しいと思いますので,内部的なガバナンスで対応すべきなのではないかという感じがいたしました。
それから,もう1点は,これで最後にしますけれども,ここでの規制といいますか,基準を認定段階での基準として考えるべきなのか,あるいは運用段階の基準にすべきなのかという点を検討した方がいいだろうと思います。遊休財産の保有規制はむしろ公益信託成立後の運営段階の問題ではないかという感じがいたします。そして,公益信託成立後の問題であるとして,そこで仮に何らかの基準を設けて監督するとしても,それに違反した場合に認定取消しになるような問題ではないのではないか。基準を超える財産については,それを使わせればいいことなので,そういう緩い効果を持った基準として考えるべきではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論では,単位会レベルでは丙案の意見がそれなりに多かったかと思いますが,資産を無用にため込んだり,死蔵させることは避けるべきであるので,そのためにはどういうルールがいいのかということと,収支相償については余りよろしくないと考えるので,それに代わるルールは何かとの観点からを考えることになると思います。また,設定当初に,この資産は信託目的に使わないというものを明らかに持っているようなものは認める必要はないので,そうしたものは当然排除するのでしょうけれども,この乙案でも,信託設定後に信託を動かしているときにどう規制するというのも含めたものになると,やや厳しいという気もします。
それから,一番問題と考えるのは遊休財産というのの概念がそれなりに曖昧である点です。不動産を事実上持っているとか,預金を置いているという,それだけで遊休とされてはならないところであり,そうした認識は一致しているようですが,それを適切に規定することができるかという問題点はあります。
この論点では,本質的には公益信託の活動をいかに活発にするかというところにもあると考えられるので,その点何らか工夫できないのかということはあります。そう考えたときに,緩やかなペイアウトルール的なものというのは,個人的には考えられるかと思いました。ただ,まだ,具体的な規定のイメージは持てておりません。いずれにしても,これに違反したから取消しではなくて,そこを是正すれば公益信託を続けられるものにすべきだという,能見委員もおっしゃった点は,私も同じ意見です。
部会資料の7ページ等にアメリカの例とかも頂いていますけれども,ため込みすぎるとペナルティがかかるとかいうようなこともあるかもしれません。場合によっては,そこは課税するというペナルティもあるかもしれません。
○吉谷委員 甲,乙,丙でいいますと甲案には反対です。その趣旨としましては,甲案というのは公益目的の信託事務に使用しない財産を持つということを認めるルールであると理解しました。全ての信託財産を公益目的の信託事務を行うために,使用するのであるということを前提にすべきではないかと考えました。使用するの定義はまた難しいのですが,計画の中で何らかの使用をするということが分かっているかどうかということではないかと理解しております。恐らく助成型と事業型に分けて考えた方が分かりやすいのではないかと思いました。
まず,助成型は,元々,一時的に金銭が増えることは,それほど問題視されないのではないかとは思うのですが,信託契約や事業計画で計画外に試算の増加が生じた場合には,速やかに換金をして年間の助成額を増加するであるとか,あるいは,元々,10年ぐらいで財産がなくなる予定であったところを信託期間の延長をするとか定めておいて,資産の増加への対応方法をあらかじめ決めておくということとしておけば,資産が増加しても,それは一時的なものにとどまるわけでありまして,余り問題にならないだろうと考えました。
一方で,事業型につきましては,計画外の資産の増加が生じた場合には,その資産をどのように使うかというのは明らかではないわけですので,その解消のためには事業計画の変更をしなければならないのだということだと思います。そのため,一定の期間内に事業計画を変更して,増加した資産の処分方法を決定するというプロセスが必要なのではないかと。そのような計画が立てられないのであれば,同様の目的の公益法人や国であるとか地方公共団体に寄附をしても,別に構わないのではないかなと思います。
乙案というのがそのような計画の変更等で対応する,あるいは当初に決めておくことで対応するというような趣旨であるとしましたら,乙案に賛成であるということです。ただ,乙案の場合は計画外の資産の増加があり得るということを認めてないかのようにも読めなくはないので,そこは明確にした方がいいのではないかと。
それで,丙案につきましては,趣旨としては同じなのですけれども,例えば信託財産の範囲の規律の中で,信託財産は公益目的の信託事務に全て使用するというような趣旨の規律が設けられて対応できるとか,あるいは事後的な監督段階での規律が設けられるということであれば,乙案でなくても丙案でもいいのではないかと考えております。
○小野委員 控除対象財産というものがどういうものかということの質問なんですけれども,財団であれば基本財産が当然ありますし,また,それ自体,存在すること自体に意義があると思います。最終的には公益目的のために利用することになるでしょうが,財団継続中には実質的な意味においての会社における資本金みたいなものであって,取引の安全性とか,また,例えば,そこで働く方々,給与債権とかの引当てに最終的になるわけで,そういう意味において遊休資産がそもそも駄目というのは適切ではないと思います。恐らく私の勝手な想像ですけれども,この規定が入ったのは既存の財団法人の中で,そういう遊休財産を非常にため込んでいるものがあったりして,それが公益認定を受ける際に吐き出すような仕組みを採りましょうという観点から,ある意味では特定の一般法人の公益認定の移行における特殊性から出てきた議論のように感じます。そういう観点も控除対象財産の中に,そういう広い意味での公益目的というんですか,信託自体がよって立つ財産という意味において,そういうのもあってしかるべきではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 先ほど平川委員がおっしゃったことと関連して,3年ぐらいの遊休資産というものがいいのではないだろうかというので,いろいろな例を考えていたんですけれども,例えば私が,パラリンピックで頑張った人にとにかく報奨金を出すというようなものを公益信託で作りたい,きっと誰も反対はしないと思うんですけれども,パラリンピックは4年に1度なんだから,3年の間はきっとそのための資産を積み上げということになりますよね,何らかの形で。それを運用というのか,何だか分からないけれども,とにかく,その間は支出しないということになると思うんですけれども,そういう例を考えてもいいかどうかということを思い付いたものだから確かめたいと思いますが。
○中辻幹事 樋口委員御指摘のように,パラリンピックの報奨金の積み上げを3年単位とするということは考え方としてあり得ると思います。公益法人では遊休財産と比較する公益目的事業の費用額を1年分と少な目にしているが,柔軟性を持って3年分程度とすべきではないかという平川委員の意見を,樋口委員も支持されるということで理解しましたけれども,よろしいでしょうか。
○樋口委員 そういうことです。ありがとうございます。
○中田部会長 これは遊休財産あるいは控除対象財産をどのように定義するのかということと,その結果として出た遊休財産を1年分までとするのか,3年分までなのかということの両方の問題があるのだろうと思います。その概念整理が5ページの表で一応されていると思いますけれども,この点も含めて更に検討するということになろうかと存じます。
○新井委員 甲案には認定基準とする規律という文言がありますが,乙案と丙案には認定基準とする規律という文言はないわけですけれども,乙案,丙案もともに認定基準の問題として理解しました。その上で申し上げると,甲案,乙案は事前の認定基準としては厳しすぎるのではないか,結論としては丙案を支持したいと思います。吉谷委員の言葉ですと,計画外の支出ということもあるし,公益信託の内容としては例えば災害に関するような公益信託の場合には,災害が起きたときに突発的な支出,そのためにある程度の蓄えを持っておくということもあるでしょうから,事前の認定のところで,甲案,乙案のように縛るのではなくて,むしろ,これは事後的な監督のレベルで縛ればいいのではないかということで,認定基準としては丙案に賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
様々な御意見を頂戴しました。甲案,乙案,丙案,それぞれ支持される御意見がありました。いずれにしても収支相償との関係をどうするのかということ,当初の認定基準の問題と事後的な監督の問題と2段階あるのではないかということ,そして,遊休財産あるいは控除対象財産というものの概念について検討する必要があること,という辺りかと存じます。ということでよろしければ先に進ませて……。
○道垣内委員 いつも,議論が終わってから発言して申し訳ないんですが,平川委員がおっしゃったことと樋口委員がおっしゃったことは,結局,同じですねというまとめがされたことが気になっております。樋口委員がおっしゃったのは,1年間ということに着目しない方がよい場合があるということなんだろうと思うんです。例えば4年間が1事業単位みたいになっているときには,4年ということだってあり得るということですね。それに対して,平川委員がおっしゃったのは,1年間という単位は仕方がないよねと前提の下で,それを3年ぐらい認めてもよいではないかという話であり,かなり性格の違う話です。両方とも非常に私は重要な発言だろうと思いますので,気になりましたので一言だけ。
○中田部会長 ありがとうございます。先ほど申し上げた遊休財産あるいは控除対象財産をどのように理解するのかという問題と,それから,結果的に遊休財産とされたものについて,どのくらいを認めるのかという2種類の問題があると申し上げたのはそういうつもりでしたが,今の御指摘も踏まえて更に検討していきたいと存じます。
○能見委員 遊休財産という概念が本当にどういう場面で問題となるか,そこら辺の認識が私自身も曖昧なんですが,1年分,3年分という点も関係しますけれども,仮に1年分の遊休財産を保有するところまで許すという場合に,そもそも,公益信託なので余り収入が予定されていなくて,今,たまっているものを来年とかあるいは2年後とか3年後に使うというのは,そもそも,使用計画の中での使い方の問題であって,そういう場合には貯まっている財産は遊休財産にはならないと考えるべきではないかと思います。したがって,遊休財産になるのは,公益信託でいえば,例えば,普通の事業運営によって来年分も一応,収入がそれなりにあってやっていける,だけれども,それ以外に当面,使う必要はないけれども,事業費1年分に相当するような財産が余っている,こういうときに,初めてこれを遊休財産というのだと思いますが,そういう理解でよろしいのでしょうね。
○中田部会長 恐らくそうだと思います。例えば寄附についても特定の目的を定めた場合と,一般的な場合とで,現行法の基準は違ってきている。その適否ということは,当然,議論の対象になると思うんですけれども,将来の公益目的事業のための基金というのは控除される側に入りますから,そこは遊休財産の方には入らないという整理だと思います。よろしいでしょうか。
それでは,続きまして「3 他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止」についていかがでしょうか。
○深山委員 ここの規律については,規律を設けないという乙案の方が妥当だろうと考えます。甲案が意図する,その趣旨について全く理解できなくはないんですが,一つは,ここは一応,認定の段階での基準ということですので,なおかつ,信託財産についての認定基準ということですので,およそ株式のようなものが信託財産になること,そのものから直ちにこれを排除しなければならないということにはならないのではないかと思います。要は他の団体の支配権を持つことによって,正に株式であれば株主権を行使して,他の団体を支配するという行為というか,活動が公益信託として望ましくないということであって,そういう使われ方をする可能性はもちろんあり得るので,およそ持たせないことによってそれを封ずるというのは,一つの手段ではあるんでしょうけれども,必ずしもそういう使い方,要するに懸念される使い方がなされるとは限らない。したがって,株式等を保有した瞬間にもうアウトという評価を下すのは,いささか過剰にすぎるだろうと思うのが一つの理由です。
もう一つは,括弧書きで例外として実質的に支配するおそれがない場合は除くというようなことも書いてありますが,果たしてどの程度の数量といいますか,シェアを保有したら実質的な支配に当たるのか,当たらないのかというのは極めて決め難い問題だろうと思います。団体の性質にもよるでしょう,会社でいえば上場企業なのか,そうでないのかとか,その他,ケース・バイ・ケースであって,過半数を持つ場合であれば比較的明確ですけれども,そこに至らなくても重要な支配を及ぼす場合というのも容易に想定できるということを考えると,この基準は基準として抽象的には立てることはできても,当てはめるところで非常に苦労するような基準にならざるを得ない。そういうやや技術的な観点からも賛成し難いと考える次第であります。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 今,深山委員が言われたことと同じなんですが,仮に設けるとしたら原則と例外が逆になっていた方がいいのだろうと思います。ですから,株式等を持っていても一応,構わないけれども,実質的な支配を及ぼすような場合であれば駄目だとなる。それを証明するのは恐らく受託者の方ではない。また,実質的な支配というのがどのような場合をいうのか,過半数を持っていなければ実質的な支配はないというようなことが,部会資料の中に説明としてありますけれども,それでいいのかどうかも深山委員が言われるように明解でない。そういう概念の曖昧さということもありまして,仮にルールを設けるのであれば,原則と例外を逆にするのがよいと思います。
○小野委員 バックアップチームでの議論を追加しますと,中小企業等の事業承継のときに,こういう公益信託を利用するということは十分考えられます。実質的に過半数を持つこと,それを行使することは性悪的な議論になっていますが,そうではないという考え方もあるのではないかと思います。信託の受託者として善管注意義務を尽くして株主権を行使すればよくて,それは過半数であろうが,少数株式であろうが当然であるというような議論をしました。特に中小企業の事業承継という観点から,公益信託を利用するということもありますね,みたいな議論が結構盛り上がったりしたということがあります。
それと,金融という観点から参考になるかどうか分かりませんけれども,海外のチャリタブル・トラストの例ですと,株主権を行使するときには,どういう観点で,どういうふうに行使するというようなことを信託契約が規定しております。ですから,それも受託者の義務,責任の範囲内において行使すれば良いのであって,一概に株主権を持つことがどうのという問題ではなく,財産の運用の話なので,適正に行使するということで尽きるのではないかと思います。
○道垣内委員 小野委員にお伺いしたいのですが,中小企業の事業承継のために公益信託を用いるということは,どういうふうなスキームを想定されていらっしゃるのですか。
○小野委員 そこで議論になったのは,余り詰めた議論ではありませんけれども,例えば配当等については公益目的に使ってもよいと,ただし,事業承継に関しては,代々,引き継いでいくというような状況をあえて排斥する必要はないのではないかみたいな議論でした。
○道垣内委員 あえて振興する必要もないのではないかという気が伺っていてするんですが。
○小野委員 事業承継で株がばらばらになったりとか,そういう状況があり得ると思うんです。昨今の議論として中小企業の事業承継の問題としてそういう観点からの議論もあったように思います。詰めた議論ではないので,事業承継にどういう形で使われるかということをもっと検討すべきということであれば,また,持ち帰って検討したいと思います。
○道垣内委員 誤解のないように申し上げておきますと,中小企業の事業承継をスムーズに行うということ自体に私は反対しているわけではもちろんありません。公益信託を使って,その間の配当を公益目的に使うというだけで,いろいろな形の便宜を与える必要があるのかということが私には理解できなかったものですから伺った次第で,中小企業の事業承継自体のスキームの必要性について反対しているわけではございません。
○小野委員 配当が公益目的に利用できる程度あれば,それはそれであり得ると思うんです。中小企業の配当がどの程度かという現実的な議論はあるかもしれませんけれども。
○能見委員 すみません,今の議論に割り込む形になりますが,私も小野委員が想定されているような場面というのは考えていたことがあるのですけれども,中小企業の創業者などが持っている株を公益信託にしたいという話を実際に聞いたことがあります。ただ,そのときに聞いた話では配当は確かに公益に使うとしても,株式がそこで安定的に公益信託によって保有されることで,会社としても安定的に事業を行えると,そういう狙いがあったように感じました。しかし,これは公益目的と言えるか問題です。同様に,公益信託が会社の事業承継に使われている場合には,果たして本当に公益と言えるのか吟味する必要があるというような問題もありそうです。それから,そういう公益信託の使い方の場合には,信託契約の中で基本財産的な株式は売却しないとか,そんな条項が入っていたりします。話がずれてきますけれども,とにかく事業承継の場面での公益信託の利用が適当かどうかは,公益目的といえるかどうか疑問があり,どうも適当ではないのではないかという感じがしました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 甲案か,乙案かという点につきましては甲案に賛成いたします。更に他の団体の意思決定に関与することができるかどうかということの判断につきましては,一つの公益信託で考えるのではなくて,受託者単位で考えるというのがよいのではないかと思われます。受託者が複数の信託であったり,固有財産で株式を持つことも想定されると思いますので,そのように考えます。事例で書いてあるような場合は,該当するのではないかと思います。信託銀行で株式の信託をオーナー企業からお預かりすることが多いのですけれども,それは会社の支配権の安定的な確保目的で使われることが一般的なんです。なので,公益信託で支配的な株を持ったときに,それが公益が目的なのか,株式の支配権の確保が目的なのかというのが疑われるようでは,公益と言っていいのだろうかというところは疑問がありますので,ここの甲案の括弧書きにあるように,例外として当該株式等の財産の保有によって,他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合はいいと思うんですけれども,そうでなければいかがなものかと考える次第です。
○林幹事 私は乙案に賛成です。甲案については,その趣旨は一応理解でき,隠れ蓑的に公益信託を使うということは排除されるべきではありますが,結局,甲案であっても実質的な抽象的な基準しか残せないということがあります。確かに,これは絶対に駄目だというような場合を規則か何かに設けるという方法も考えてはみたのですが,パーセンテージを具体的に設定したときに何%がいいのかというのは決められないところです。上場,非上場でも違うし,会社の規模でも違うので,こういうことを考えると,規定するのは難しいと考えます。
逆に言えば,一定の規模だったら別に議決権を行使するのも問題ないというところでもあるとは思います。ですから,深山委員の意見と同じですが,結局,それは持っていることが問題なのではなくて,どう行動すべきかが問題だと思うので,それは公益目的とか信託目的から自然と限定されていって,それに反すると善管注意義務違反になる,そういう形で規律できるのではないか,というのが弁護士会でも出たところだったと思います。
○中田部会長 ほかに商法の先生はよろしいでしょうか。
○神作幹事 期待されていることとは違う発言かもしれませんけれども,前提として私的団体を支配することを目的とすることは,そもそも,公益目的ではないから,当然,そのようなことは公益信託の目的を超えており,行うことができないという前提でよろしいでしょうか。そのような前提であるとしますと,その上で,ここの規律で問題となっているのは,実質的に私的団体を支配することは不可であるけれども,実質的に支配するおそれがある場合も認めることは適切でなく,おそれがある場合をどのように画するかという議論が現在なされているという理解でよろしいでしょうか。初めに御質問をさせていただきます。
○中辻幹事 神作幹事の御理解のとおり,まず,公益信託の受託者が株式を過半数以上保有して私的団体を支配する目的を有しているのであれば,その場合には信託の公益性が失われると考えています。そして,そのように公益信託の受託者が私的団体を実質的に支配するおそれが生じることを防ぐために,どのような認定基準が適切かということで,取りあえずここでは公益法人認定法の認定基準を参考として挙げています。
○神作幹事 ありがとうございました。もしそのような前提から出発すると,すなわち公益信託が私的団体を現実に実質的に支配することになったら,これは公益目的を外れてしまうと思いますので,そのような制約は当然かかってくるという前提の下だとすると,私は実質的に支配するおそれというのは,これまでに多くの委員が御指摘されたように,形式的に切るのはなかなか難しい点がありますので,それが反対に過剰な規制となって,むしろ,運用目的で株式を保有することが妨げられたり,株式で運用してその価値を上げるために議決権を行使することが妨げられるというのは,適切ではなく,また,そのような考え方は日本がここ数年,政策として打ち出しているところであると思います。したがって,支配権を行使して実質的に私的法人を支配するという目的ではなくて,正に投資した財産の価値を増やすという目的のために議決権を行使するというのは,むしろ望ましいということのように思われますので,それと実質的支配のおそれがある場合とをどう線引きするのは大変難問だとは思いますけれども,議決権の行使を一律に悪物視しない,そのような基本的な考え方で,しかしながら実際に支配することになったら公益目的からは離れるということを確認した上で,ではどのような規律の在り方が望ましいかを議論していくのがよろしいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○平川委員 甲案の方に賛成します。それは公益法人が他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の内閣府令で定める財産を保有していないことを,公益法人の認定基準と定めていることとのバランスからも言えることですし,あと,潜脱的に公益信託事務以外の事務を間接的に当該株式保有による実質的支配によって,間接的に行うということを防ぐためには,必要な規制なのではないかと思うんですけれども,今,おっしゃったように株式支配を通じて,その株式を発行している会社の事業を運営するということが公益信託の財産の運用に資するものであるから,それは公益なのであるという議論は,公益信託事務以外の事務を間接的に行っているということになってしまうのではないかと思い,疑問に思いました。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
○小野委員 他のところで海外の事例が先ほどの論点でも議論されていたと思うんですけれども,ここでは特に米国の事例が紹介されていなくて,米国でも私の認識だと株式を所有するというのはチャリタブル・トラストの一つの社会的機能として存在しているような気がします。論点によって,時に海外の事例を参考にし,時に公益法人の移行のときの議論を参考にするというのはしようがないと思いますが,この議論は議決権行使は公益ではないという一つの価値判断に基づくもので,そうでない考え方もあり得るので,なかなか,理屈では割り切れず,そういう意味において,もし事務局又は専門家であられる樋口委員とか,米国の事例とかを紹介していただければ参考になるかと思います。
○中田部会長 今後,御指摘を踏まえまして,また,小野委員からももし情報提供を頂ければと思います。
○神田委員 私,全然,貢献するような発言ができないのですけれども,何か話が難しくなっているのではないかと思いまして,一言,感想を申し上げたいです。他の団体の意思決定に関与することができるとか,できないというのがなぜいけないというか,公益信託の認定基準に入ってくるべきかという話だと思います。ほかの先生方の御発言はそのとおりだと思うのですけれども,ただ,これがこういう基準で切れるかということがあると思うのです。つまり,例を挙げますと,不動産を信託財産で保有していますと,それを賃貸に出して入ってくる収入で助成事業をしますとかというのは当然ありだと思います。そうだとしますと,例えば株式会社の株式を保有していますと,入ってくる配当金で助成事業をしますというときに,配当を決めるのは株主総会決議ですので,その意思決定に参加できないと配当が決まらないかもしれないわけですよね。
そういう場合には,画一的に他の意思決定に関与することができるから駄目とはなかなか言いにくい場合が少なくともあり得ると,抽象的には思うわけです。それで,もうちょっと違う言い方をすれば,また,違った局面では団体というのが何をしているかということでして,先ほど御指摘がありましたけれども,その団体が非常に公益的でないことをしているような場合には,先ほど潜脱という言葉がありましたが,そういうことが生じるようなパターンもあるでしょう。
逆にその団体が非常に公益に近いというか,公益信託との関係でいえば,公益信託と相乗効果が上げられるような,公益信託にとってプラスになるような活動をしている場合には,その団体がしている活動自体は仮に営利活動だとしても,そこの意思決定に参加したとしても,それによって公益信託が公益活動を進めていくことにプラスになる場合もあると思うのです。ですから,物事は実質的に見なければいけないということなのですけれども,他方,認定基準はある程度,形式的に作らないといけないでしょうから,ある程度,形式的に作って外すものを例外とするのかという辺りが悩ましい問題であると思います。多少,先ほどからの御議論とは違う側面で気を付けた方がいいかなと思いましたので発言させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。
○新井委員 先ほど吉谷委員の発言がありまして,甲案を支持したいと述べられました。それは信託銀行の立場としては極めてよく分かります。そういう利益状況だろうということは理解できますが,ここでは今後,公益信託の担い手を拡大していこうということも非常に重要な論点だと思います。そうした場合に,ある委託者がいて,株式を公益信託に拠出して公益活動をやろうというようなときに,信託銀行とまた違った利益状況がありますので,私は乙案の方に少し傾いています。その上で,議決権の行使は受託者が善管注意義務を持って行い,そして,信託管理もチェックするということで,甲案で懸念しているような問題点がクリアできるのではないかと考えています。ですから,委託者が中小企業のオーナーであるかどうかは別にして,もう少し,そこは幅広く,かつ新しい担い手のことも少し考えていいのではないかという感想を持ちました。
○吉谷委員 私どもは信託銀行ですので,銀行法上の株式の保有制限もありますので,支配権うんぬんというようなことに関与できるかどうかというと,そこはむしろ関与できない立場でありまして,新しい担い手の方がこういう信託を受託されることを想定するんだと思うんですけれども,平川委員が先ほどおっしゃったように,潜脱的な使われ方はされるべきではなかろうと思いますので,何らかの形で,そういうような基準というものがあった方がいいのではないかなと考えております。
○中辻幹事 小野委員が先ほど取り上げられた海外のチャリタブル・トラストについて,私どもも,海外の事例は参考になると考えております。チャリタブル・トラストを日本語に訳すと,慈善信託あるいは公益信託になるのかもしれませんが,チャリタブル・トラストと言ってもいろいろな形態の信託があって,その中には資産流動化のためのスキームとして株式を信託財産として目的信託を設定するという私益のスキームに近いものもあると理解しておりまして,そのような違いも含めて,今後も引き続き検討していきたいと思います。
○中田部会長 様々な御意見を頂きました。結局は他の団体の意思決定に関与することがなぜいけないのかという,その本質の問題であり,意思決定に関与することがいけないのか,実質的支配がいけないのかということを突き止めて,その上で,いけないことを防ぐためにはどうするのか,何らかの基準あるいは証明責任というんでしょうか,どちらが証明するか,原則と例外はどうするかという設定,あるいは内部ガバナンスに委ねることで足りるのかどうか,そういった段階に分けて検討すべきだという御指摘を頂いたのではないかと存じます。
次に進んでよろしいでしょうか。それでは,「4 不可欠特定信託財産の処分制限等」についていかがでしょうか。
○山本委員 議論の前提として教えていただきたいことがあるのですが,甲案は公益法人認定法第5条第16号を参考にした提案になっていると思います。そこでは,「不可欠な特定の信託財産があるときに,その旨並びにその維持及び処分の制限について必要な事項を信託行為で定めているものである」こととされていますが,このうちの「処分の制限について必要な事項を定める」というのは,一体,何を想定しているのか,どのような場合を考えているのか,そして,特に公益法人の認定において,この規定の内容についてどのような運用がされているのかということを,議論の前提としてお教えいただければと思います。
○中辻幹事 公益法人の認定における運用については後で内閣府に確認してお答えしたいと思いますけれども,私どもが甲案で想定している必要な事項の定めといいますのは,例えば芸術文化の振興を目的とし,美術品や美術館の建物を信託財産とする公益信託であれば,再収集が困難な貴重な美術品や文化財的美術館の建物が処分されるとその美術館の運営が不可能になってしまいますので,それらの信託財産は処分してはいけませんよという条項を信託行為の中に入れておくことを意図しているものです。
○山本委員 例えば運用ということでお聞きしたのは,どのような形で内容について介入が行われているかということを確認したかったということですが,それ以外にも,例えば原則として処分をしてはいけないとしても,ただし,やむを得ない事由があるときはこの限りでないとか,あるいは公益目的を達成する上でもはや必要でないと判断されたときにはこの限りでないというような包括的な定め方を許容し,そして,その種の定めを入れるような指導等がされているのかどうかということをお聞きしたかったという趣旨です。
○中辻幹事 わかりました。では,その点を後日内閣府に確認いたします。
○能見委員 結論的には,この規制は設けない方がいいのではないかと思っています。私も余りいろいろな知見があるわけではないのですが,アメリカの美術館の例なのですけれども,美術館として絵を集めてきているわけですが,今,山本委員が言われたのと関係しますけれども,その美術館にとってかなり貴重な絵なのですけれども,もう1ランク上げるというんでしょうか,もう少し別のいい絵が売りに出ていて,それを買いたいので今まで持っていた絵を美術館としては売りたいと考えた,それは適当なのか,法律的に可能なのかが議論されていました。これをどう考えるべきかですが,当初,公益信託を設定した際には,その美術館にとってその絵は必要であると判断されていたとしても,後で売りたいという場合が出てくる可能性があるし,そういうことを許容して柔軟な運営ができるようにしておいた方がいいだろうと思います。そういうことで,それぞれの信託の判断に委ねるのがよく,甲案でない乙案の方がよろしいのではないかということでございます。
○林幹事 弁護士会の議論でも乙案に賛成というのが大半だったと思います。不可欠なものと思っても,状況によっては売却することも選択しないといけない場合があり得るというのは,先ほど能見委員が御指摘されたのと同じです。また,そういう場面ではなくても,処分してしまったら,それこそ信託目的自体が達成できなくなって,信託自体が終了するから,規律としてはそちらに委ねるので足り,あえてこういう硬直的になる可能性のあるルールは設けなくていいという議論でした。
○沖野幹事 重なる点ではあるのですけれども,今,既に御指摘にありましたように,不可欠な財産ですと,そもそも,信託行為に明示しなくても当然処分制限がかかる,あるいは黙示の信託行為の定めというようなことも考えられます。ここでは恐らく定めるというのは明示するということだと思いますけれども,確かに明確にするという意味はありますが,補足説明で書かれておりますように,不可欠の財産を処分してしまえば,目的不達成で信託自体が終わってしまうということにもなります。ですから,それと別に定める必要がどのくらいあるかです。明確にするとか,監督のときのチェックポイントとして,明示するということになりますが,そのことにどのくらいの意義を認めるかということではないのかなと思います。
それから,最初に現在の運用でしょうか,運営状況についてお尋ねがありましたけれども,例えば例に出ました美術館の絵のような場合,当初は絵が1枚もないと美術館運営はなかなかできませから,建物だけではなくて絵自体も必要であり,例えばこの絵があるということがいわば目玉商品となっているような場合は,当初は不可欠であるけれども,その後の変更によって入れ替えたいというときには,この下で信託行為を変更して不可欠財産の特定のところの記載を変えて,そして別のものにしてやっていくというようなことがこの規律の下で想定されるのでしょうか。民事実体法としての信託法としては,信託行為に明示で書くと,そういうことになるんだと思います。処分できないというような規定になっているところを処分できるようにした上で,運営を続けていくというようなことをすると思うのです。認可の基準においても,そういう対応が可能というか,されているのかどうか,そういうことも運営というか,運用として明らかにしていただければと思いますが。
○中辻幹事 内閣府に確認した上でお答えした方がいいのかもしれませんけれども,今の私どもの理解ですと,公益法人では,定款で法人のこの財産は不可欠特定財産ですよという目録を作ります。美術館を運営する公益法人の所有する美術品であれば,不可欠特定財産が何十点にも及ぶのかもしれませんけれども,それらの目録を定款に定める。その後,状況が変化して不可欠特定財産とする必要がない美術品が出てきた場合には,定款の変更手続によって,その美術品を不可欠特定財産の目録から除外するということになりますので,沖野幹事がおっしゃったとおり,これを公益信託法に持ち込むのであれば,信託行為で不可欠特定財産を定め,その後は,信託の変更手続により増やしたり,減らしたりしていくことになるものと考えておりました。
○沖野幹事 分かりました。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○吉谷委員 どちらかといえば乙案というふうな意見になっております。その理由は何をしなければならないのかがよく分からないというところにあるように思われました。信託目的との関係がよく分からないところもありまして,例えば特定の財産を保存することを信託目的とした場合は,不可欠特定資産として何かをまた定めなければならないのだろうかと,具体的に信託行為に売却してはならないと,仮に債務超過になるような場合には,それよりも前に信託を終了して特定資産は寄附するとか,そういうようなことをしないと信託目的が達成できないのではないかと,売却してしまったのでは信託目的が達成できないのではないかというようなことで,信託行為に何を更に定めるということなんだろうというような疑問が湧いてくるというようなことでした。それと,事後的に計画が変更可能なのかというところもよく分からなかったという意見がありました。
○樋口委員 時間が来ているのでできるだけ短く申し上げます。先ほど来の御意見と重複するんですけれども,これは認定基準であるということです。だから,こういうものを定めておいて,これがなくなったら終了だという話なんですけれども,先回も重ねて申し上げているんですが,とにかく公益信託にするかどうかという話は,結局,公益信託にどういう効果が与えられるかという話で,その効果を悪用することがあるから,認定基準のところを考えているんだと思うんですけれども,とにかく通常の信託と違う効果が与えられるものとして,日本でも多分,そういうのは認められていると思いますが,いわゆるシープレットか,サイプレットというものがあって,初めにこういうような公益目的を設定して,あるいはこの美術品を守るであるとかなんとかというんですけれども,それが達成不可能になったとして,台風で壊れるなり,何でもいいんですけれども,それで終了するかというと,そうではなくて,それと類似の目的で存続させる,公益目的の信託というのは,結局,設定したらできるだけ長く維持するという話に持っていかないといけないので,その話との関係がここでは重要なのかなと感じました。
○小野委員 信託法との関連で,48条の受託者の費用弁済で信託財産を処分して費用を捻出する可能になっていますが,その辺はこの規定を変更するというようなことも含んでいるんでしょうか。終了するにしても費用は受託者持ち切りなのかというと,それはちょっと気の毒のような気もしますし,もちろん,それを悪用するのであれば,それは別の議論ですけれども,この点について信託法との整理も教えていただければと思います。
○中辻幹事 信託法48条については検討をしていませんでしたが,公益信託も受益者の定めのない信託として信託法の規定が原則適用されますので,その例外に当たらないのであれば,48条も適用されるのではないかと思います。
○平川委員 基本的に乙案に賛成で,上記の規律は設けないと。この問題は,基本的に信託行為をする委託者と受託者の間で自由に定めることができる事項であると考えますので,規律は不要と考えます。
○新井委員 なぜ,これが問題になるかというと,従来,助成型が中心であったものを事業型に変えていこうということで,特に事業型の場合には不可欠特定信託財産の処分を認めないようにする必要があると思います。新しい公益信託法において,事業型が全面的に拡大するかというと,私の予想としては拡大してほしいですけれども,基本は助成型にとどまると思います。そうすると,甲案の規定は少し規制が過剰ではないかということで,基本的には乙案でいいのではないか,そして,ここでの論点については事後的な監督の中でチェックしていけば足りるのではないかということで,結論としては乙案を支持したいと思います。
○道垣内委員 先ほど小野委員から御発言があり,中辻幹事がお答えになった点について一言だけ申し上げたいのですが,信託法48条が適用されましても,受託者がその権利を行使するために信託財産を売却するときには49条2項の制限がかかってきて,そこに括弧書きで当該財産を処分することにより,信託の目的を達成することができないこととなるものを除くとなっていますので,48条の権利の行使のために,そういう不可欠特定財産を処分することはできないのだろうと思います。そして,不可欠特定財産しかないがゆえに,48条の権利が実現できないというときには,52条に入って信託を終了させるしかないというのが現在の信託法の立て付けであろうと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 いろいろな御意見が出て,私もほぼ同感なのですけれども,ここでの問題は当該公益信託を設定するときに,受託者,委託者等が任意にこの財産は必要不可欠だから処分しないようにしようというので,信託行為に書けば,あとは信託法の解釈といいますか,今,道垣内委員が言われたのもそうですけれども,それに従っていくわけですよね。ところが,ここで要求しているのは,そういうものを必ず書かなくてはいけない,それが認定基準だという考え方で,それは行きすぎだと考えるかどうかです。私は行きすぎだと思いますけれども,以上の点がポイントなんだということだけ確認でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
よろしいでしょうか。
○長谷川幹事 確認ですけれども,2ページにございます1の「信託事務の遂行見込み」の話と,今,御議論されている11ページの「不可欠特定信託財産の処分制限等」との関係というのは,どう理解すればよろしいのでしょうか。
○中辻幹事 私どもとしては,これらは両立し得る認定基準であると考えておりますが,認定基準としてだぶってくる可能性があるのではないかという御指摘でしょうか。
○長谷川幹事 2ページの1だけあればいいのではないかという考え方が一つと,もう一つは,両者は両立し得ると考えて,1は財産の規模に着目した規制で,4は財産の質及び信託事務の中身に着目した規制と考えるかということではないかと思います。
○中辻幹事 そのような理解は十分あり得るように思います。第1の1の「信託事務の遂行見込み」は,現在の公益信託の許可審査基準から取ってきたもの,第1の4の「不可欠特定信託財産の処分制限等」は,公益法人認定法から取ってきたものですので,少し整合性がとれていないのかもしれません。
○長谷川幹事 いずれにしても,規制の趣旨等も含めて整理が必要かどうかも含めて整理しておいた方がいいような気がいたします。
○中辻幹事 承知いたしました。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
当初,第3まで休憩の前にという予定でいましたが,熱心な御議論を頂きましたので遅れてしまいました。ここで15分間の休憩を挟みたいと思います。再開はあの時計で3時59分ということでお願いします。
(休 憩)
○中田部会長 それでは,再開します。
部会資料34の「第2 受託者の信託報酬に関する認定基準」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,私から第2の「受託者の信託報酬に関する認定基準」について御説明させていただきます。
本文では,「公益信託の受託者に対する信託報酬について,当該信託事務の内容,当該信託の経理の状況等を考慮して,不当に高額なものとならない範囲の額又は算定方法が信託行為で明確に定められていることを認定基準とすることでどうか。」との提案をしております。
現在の許可審査基準では,公益信託の受託者の信託報酬を制限する規定が置かれていますが,これに対しては,①主務官庁及びその担当者によって適用の基準が異なる,②信託事務の難易度や事務負荷等が勘案されない,③人件費以外の物件費等が認められず,採算確保が極めて困難であるなどの問題点が指摘されております。公益信託の受託者に対して正当な報酬額を支給することは,公益信託の担い手となる受託者にインセンティブを与えることとなり,受託者の確保,ひいては民間による公益活動の促進につながるものと考えられます。他方で,公益信託の受託者に対する信託報酬の適正な水準を確保することも必要であると考えられることから,このような提案をしている次第でございます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○小野委員 まず,不当という実定法上,よく使われる表現ですけれども,信託法の前回の改正のときも不当な利益という議論をしたときに,それは公序良俗で賄えるという議論だったと思います。そうすると,ここでの議論も本来,既に実定法上,組み込まれている概念であるとも言えますが,ただ,部会資料を読むと,そこまでの不当ではなくて少し多いぐらいの議論でもあるようにも思います。不当という言葉が本来の意味ではない議論をするとしたら,受託者にとって持ち出しで何かをするというわけにもいかないところもあるので,その使われ方が気になったという点と,もう1点,受託者の信託報酬の額の制限規定はないと,補足説明の最初のパラグラフで説明されていますけれども,もちろん,不当が元々組み込まれている趣旨であれば,不当ではいけないというのが入っていると思いますし,なおかつ,善管注意義務もありますし,忠実義務的な観点もありますから,ある意味では,元々,信託法には組み込まれていると思うので,直接的に明文の規定はないかもしれませんけれども,これもやや言いすぎかと思いました。
あと,もう一つ,表現の中で一定のパーセントならよく,100万が逓減していったら信託報酬も逓減化しなければいけないというような説明もありますが,信託財産が最終的にどんどん減っていった段階で,それが適切かということもあります。いずれにしても結論としては本来の不当という意味において不当が使われているのであれば,それは当然だと思いますけれども,そうではないとすると,人によって判断する基準が違ってくるところがあり,ただ,繰り返しになって申し訳ありませんけれども,受託者が持ち出して何かをしなければいけないというような制度というのは,制度の普及という意味において適切ではないと思います。正当な報酬は本来あってしかるべきだと思います。
○中田部会長 不当という言葉の中身が多義的である,曖昧であるので,基準としては適当ではないという御指摘かと存じますが,そうしますと,実質的な基準を示すという方向なのか,あるいは最後におっしゃった正当なというような概念を使うことを御推奨なのか,どっちなんでしょうか。
○小野委員 認定のところで当然,報酬規定も出てくるかと思うので,そういう全体の中で判断すればよろしいのかなと思います。少なくとも実定法上,やや混乱するような表現ぶりは,留意した方がよろしいかなということで,それ以上に規定が不要とまで断言するほどではないんですけれども。
○中田部会長 適切な言葉が見つかるかどうか分かりませんけれども,更に検討するということになろうかと存じます。
ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 信託報酬は受託者のガバナンス確保及び開示の観点から,信託行為に明示すべきであると考えます。必ずしもただ額や料率についての規制は必要ないと考えておりまして,不当に高額かどうかの判断ができるような算定基準が信託行為に定められているということで足ると思います。
○林幹事 弁護士会の議論では賛成という単位会が多かったと思います。現在の実務における認識では,信託報酬が実費ベースで,かなり低いというようであり,そうすると受託者が安心して受託できないというようなことにもなるかもしれないところです。先ほど御説明があったように公益信託促進,あるいは受託者の担い手も広げるというところであれば,きちんとしたインセンティブが働くような形で規定すべきだというのは,そうだと思います。そういう前提においては賛成です。「不当」という言葉がいいのかどうかも微妙なところでもありますし,問題点としてはあるのでしょうけれども,適正な額を確保されるべきだというところはそのとおりです。適正と条文に書くかどうかもまた問題ですが,取りあえず,そのような議論でした。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 2点,申し上げますけれども,私は前に法曹倫理というアメリカのケースブックを学生と一緒に読んでいたことがあって,弁護士報酬の定め方というところでびっくりしたことがあります。報酬の定め方として,普通は係争額というんですかね,係争額に対して何%という話はアメリカでは駄目なんです。どれだけの,つまり,仕事をしたかで報酬が定まってくるのが当たり前で,係争額が高ければ2日間で和解にいったら,それでも何%か取るなんていうのは法曹倫理に反しているわけです。
それで,法曹というのはフィデュシャリーであって,本当は受託者もそういう同じような考え方,でも,ただ,日本的なやり方の方が結局,信託財産額の何%かというような話の方が分かりやすくて,しかも,すぐ決まるんです。実際にどれだけの仕事をしたかというのをはかるのは大変なので,だから,正論に持っていくのは大変かもしれませんけれども,そういうことで驚いたことがあるというか,驚いたというか,本当はこっちの方が本筋なんだなと私は感じたというのが一つ。
二つ目ですけれども,先回もそうなんですけれども,ずっと認定基準でこれだけのことをやっていますね。それで,第2のところも「公益」という言葉を外して,「信託の受託者に対する信託報酬について当該信託事務の内容,当該信託の経理の状況等を考慮して,不当に高額のものとならない範囲の額又は算定方法が信託行為で明確に定められている必要がある」というように述べても間違いない。つまり,通常の信託だったとしてもこれは当たり前のことなんです,別に公益信託でなくたって。
ただ,認定基準にしているところに意味があって,逆に言うと,我々がこういう議論を重ねているというのは,規制当局としては,結局,入口のところでしか規制ができなくて,いったん認定された後からは実際上できない,つまり,入口だけ厳しくてあとはざると言ってはいかんのですけれども,そういうことなのかと感じたりします。今後の議論のところで出てくる公益信託の中身の条項について一定のマニュアルというか,スタンダードが決められるんだと私は思っていますけれども,こういう義務を負うとか,しかし,認定のところでここまでというのは,逆に認定のところしか実は規制しないんだという,憶測で申し上げたので,いやいや,そうではないんですよとおっしゃっていただければ,それはそれで有り難いという2点です。
○中辻幹事 樋口委員が御指摘された,入り口の認定基準だけを規制するのでは不十分というのは,私どももそのとおりと考えておりまして,その後の監督や信託内部のガバナンスの場面でも手当ては必要であると思っています。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 現在の許可基準が信託報酬を信託銀行にとって利益の出ない水準とすることを求めておりますが,この改正によって受託者が適正な報酬を受けることも可能になるということはいいことだと考えておりますので,提案に賛成でございます。そして,長期の信託がありますので,今,信託期間中で高すぎるのではないかという話もありましたけれども,逆に受託者側から報酬の水準の変更を求めるようなことも,可能な仕組みにしていただきたいと考えております。ほかにも今回,有価証券であるとか,不動産の管理,売却といったものを行うことを想定しているのであれば,それについては一般の信託と同水準であれば,不当に高額ではないということではないかなと,私どもとしては理解しているところです。
少し分かりにくいところは,経理の状況等というのが書いてあるところなんですけれども,ここは御説明の中では定率を求める趣旨ではないということであると理解しておりますけれども,逆に言うと,信託報酬の金額が信託財産に対して余りにも大きなものになるような場合は,経理の状況からすると認められないということはあっていいのかなと思います。これは信託財産がすごく小さい場合には,信託報酬の割合が大きくなりすぎてしまうことは余りよろしくないのではないかなという趣旨です。
○深山委員 信託報酬に関する定めを設けることについて,私は結論としては認定基準とすることに一定の意味があるのかなと肯定的に考えております。もちろん,本来はある程度,私的自治というか,委託者の意思に委ねて,あるいは受託者との協議に委ねて決められるべきものだという側面はありますけれども,そこは公益信託という制度の趣旨に照らしてある程度,透明性というか,公正性を表に出して認定を受けると,そこも含めて公益性を判断してもらうという意味合いはあるのかなと。そういう意味で,あってもいい基準だと思います。
問題は不当に高額なという辺りをどう理解するか。その表現の問題もそうで,恐らく,もちろん,公序良俗に反するようなものは当然に認められないということはありますが,公序良俗と同じようなレベルまで求めないんだとすると,どの辺までが正当で,それを超えると不当なのかというのは確かに難しい。といいますのも,正に当該信託の中身といいますか,あるいは受託者の役割,業務によって,高いか,安いかということを考えなければならないので,それは必ずしも信託財産の規模と,業務の業務量や困難性が正比例するわけでもないので,直ちに信託財産に連動するのがいいということでもないといえます。
先ほどは樋口委員から弁護士報酬のことについて御指摘を受けましたが,我々の弁護士業務もやってみないとどのぐらい手間が掛かるか分からなかったりして,何が適正な報酬かというのは常に日常的に悩んでいるところですけれども,正に信託業務もそれと比べればまだ定型性があるのかなと,予測可能性が高いかなと思いますが,やってみると想定した以上に手間が掛かるというようなこととかもあるでしょうし,そう簡単に決められないので,認定の基準として考えるのだったら,明らかに公序良俗違反とまでは言えないまでも,明らかに公益性の名にふさわしくないと評価されるほど,高すぎるというようなものだけを排除するという規律として置いておくということで,これが過度の規制になってしまったら,公益の増進に逆行することになって元も子もないので,その定め方は神経を使う必要があると思いますが,基準として設けること自体はあっていいのではないかと思います。
○道垣内委員 ゴシックで書かれた内容自体には,それほどには異論はないのですけれども,何のための認定基準なのかということをもう少し突き詰めて,本来は考えるべきではないかという気がします。と申しますのは,仮に受託者が非常に高額な報酬を受けるということになりましても,高額な報酬を受けるということに対しては課税がされるわけであり,そして,その残りの部分が公益に用いられるのならば,別段,差し支えはないだろうという考え方は十分に可能だろうと思うのです。
しかし,そうではなくて例えば先ほど税制について御説明いただきましたが,委託者の側が損金算入できるとか,寄附金控除ができるというふうなことを前提とすると,例えば私が10億円の収入を得ているというときに,それをある人に実質的にはあげたいというときに,私のところで10億円の課税がなされた上で,そこからまた取得をした人が収入として課税をされるというのではなくて,私が10億を全部,公益信託の信託財産に属する財産とすることによって,私の方は損金ないしは寄附金として控除を受け,他方,受け取った側にだけ課税がなされるということになると,本来は2回,課税がされるはずだったのに,1回になるのはおかしいではないかというふうな見方というのができるのかもしれません。私はそこら辺がよく分からなくて,何のためにこの規制はあるのだろうかということについて,もう少し突き詰めて考える必要があるのではないかなという気が先ほどからしているのですが。
○新井委員 公益信託の受託件数というのは減ってきています。その理由の一つは,ほとんどの受託例を担っている信託銀行が受託者として適正な報酬を得ることができない,つまり,受託者にインセンティブがないということがあると思います。ですから,現在のようにほとんど利益が上がらないという状況を改善して,ある程度の利益を上げることができるようにすべきだと思います。そして,非常に難易度の高い公益信託については,他の公益信託よりも報酬を取っていいのではないかと考えていますので,そういう形の文言にしていただければと思います。
それと,もう一つ非常に大きいと思うのは,13ページの補足説明の2に現行の許可審査基準が出ておりまして,その問題点として三つ挙げられています。この3番目です。人件費以外の物件費等が認められず,採算確保が極めて困難であるということですけれども,信託事務に要した費用というのは信託財産から取れるわけです。しかし,なかなか,どこまで取れるかというところが非常に難しくて,実際には信託銀行のインフラの持ち出しになっているという面もあるので,ここのところも報酬の問題と一体としてきちんと解決するということが必要ではないかなと考えています。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○渕幹事 道垣内委員が税法について適確な説明をしてくださったので,付け加えることはないのですけれども,もう少し敷衍して申し上げます。恐らく,例えば委託者が個人の場合であれば,委託者に対して相続税ないし贈与税が一旦掛かった上で,その上で更に所得税が掛からなくてはいけないと判断されるような局面があります。そういうときに公益信託の受託者の報酬というような形で所得税の課税はあるものの,相続税ないし贈与税の課税の部分がないことになってしまうというような問題があり得ます。
それから,法人の場合でいうと,法人の役員の報酬については,法人税法で正に12ページにあるような不当に高額なものは駄目であるというような規律があるわけですけれども,その脱法というような形がありえます。法人から直接,役員報酬を払ったとしたら,法人税法上,損金算入が認められないのだけれども,一旦,公益信託の資金にして,公益信託の受託者の報酬ということにしてしまうと,法人税法の損金算入制限が回避できてしまうというような問題があり得ます。ただ,そういう税法の脱法について税法でなくて信託法で規制していくことが妥当なのかという問題は別途あろうかと思います。
○山田委員 私は受託者の信託報酬に関する認定基準については,積極で考えたらいいだろうと思います。現在,議論しているのは,信託が公益信託という性格を帯びるためにはどういう要件を満たさなければならないかと,その入口のところで認定という行政行為を経て,公益信託になるということは想定されている一つの主要な例だと思います。そうすると,認定をするための基準というのが,今議論されていて,今日も,それから,前回も認定基準をずっと一つずつ議論してきたわけですが,私が考えるに公益でありますと認めてくださいというときの唯一ではないものの,一つの重要なポイントは受託者が公益信託からたくさんの報酬を得ていないということだと思います。特に税制に関する一番シンプルなものであっても,公益信託で個人が委託者ですと運用段階で信託財産から生ずる所得は非課税という,これはメリットだと思うんですが,これが得られるという扱いを受けるために,この信託は公益ですと,そのためには受託者報酬のところで一定の制約を設けることによって,認定基準段階でそれをクリアするということは重要なポイントではないかなと思います。
そして,それに加えて一般的なことを申し上げますと,できるだけ信託が公益信託であっても自由な委託者と受託者の合意によって柔軟で創意工夫が凝らされたものが望ましいと思うのですが,収支相償とか,遊休財産規制とか,それらをもう一度,信託報酬の認定基準が認定基準としては最後かもしれませんので,どこかの段階で全体を示していただいて,そして,どの程度の公益であるための要件を課すことによって,この部会としては公益性ありと認め,税制上の,単純に言うと,一番シンプルな今日の財務省の課長の方の御説明だと,4ページの公益信託のところの扱いを受けるに足りるのかというところの議論というか,こちら側からは,この扱いは受けることができると考えるというところをまとめられるといいのではないかなと思います。
私は,言う場所が違うかもしれませんが,収支相償についてもない方がいいと思いますし,遊休財産の規制もない方がいいなと思っているのですが,それを全部並べていくと,とても公益信託ですと,租税法上の優遇をこれで認めてくれというのは難しいなということになるかもしれないなと感じています。したがって,全体を見た上で考えなければいけないなと私自身,思っているところであります。しかし,最初の話に戻りますが,受託者報酬はその中でもまずはここは基準を設けて取り組んでいいところではないかなと思いますし,一番分かりやすいところではないかなと思います。
そして,最後に言葉の問題ですので付け加えにすぎませんが,不当に高額がいいか悪いかということですが,私は適正でなければならないよりも不当に高額が駄目だという方がよほどいいのではないかなと思います。基本は受託者と委託者の間の合意でアレンジされるというところから出発すると,適正でなければならないというレンジを決めて,その中に入ってくることを求めるよりは,ここから上は駄目ですよというようなルールの方が望ましいのではないかと思います。
○道垣内委員 私も結論として第2の提案に反対しているわけではないので,これ以上,言う必要もないのですけれども,私が気になったのは受託者の報酬を委託者が信託財産以外から支払うとなっていたならば,それは幾ら高額であったっておかしくないだろうと思うのです。そうすると,つまり,何となくイメージとして,およそ公益信託なんだから,みんな身ぎれいでいようねという感じになりますと,信託財産以外から支払われるときであったって規制が掛かるということになりそうなんですが,そうではなくて,信託財産から支払われるということに対してのみ規制が掛かるということになると,それは身ぎれいでいましょうという話ではなくて,なぜ,公益信託の信託財産に属する財産から報酬が支払われる場合には問題が生じるのだろうかという問題が立ってくるのだろうという気がします。その結論として,公益信託の信託財産であるとされたものの中から非常に多額の報酬を得るというのは妥当でないということになるのは,全然,私も反対するところではないのですけれども,イメージで語るべき問題ではないような気がするということでございます。
○沖野幹事 伺っていて幾つか分からないところもありましたものですから,確認をさせていただきたいという趣旨です。今,最後の道垣内委員の御発言との関係で,受託者に対する信託報酬について,これは信託財産から受け取れる信託報酬のみを考えていたのですが,委託者から払われるというようなものも想定しているのでしょうか。それが1点目です。
もう1点は,一つ前の項目もそうなんですが,気になっておりますのは,今の実体法としての信託法に何かを付け加えるのか,付け加えないのか,あるいは信託法でいけるのかということです。ここの報酬の規定は明らかに信託法とは違う話になっており,信託法の規律ですと営業信託だと定めがなくても報酬が取れる,また報酬について取れるということさえ信託行為に書いておけば,具体的にどうかというのは書かなくてもよくて,受益者に通知するなどの要件が課されますが,相当な額を取れるという規律になります。ですので,実体法にプラスアルファとして付け加えるということになるかと思います。
明確性の確保という点から,その点でも意味のあることではないかなと思うんですけれども,先ほど平川委員から範囲の額又は算定方法を定めるというのはやや重すぎて,不当に高額とならない基準でいいのではないかということを言われたかと思います。その額や算定方法と何が違うのかというのが気になっておりまして,信託法の54条ですと額又は算定方法を定めておけば,受益者に通知するという規律が外れるのではないかと思われるのですが,違う定め方の場合には,信託行為の定め方はもうちょっと緩やかというのでしょうか,漠とした形で書けるけれども,そのときは受益者に逐一通知する,この場合は受益者はいないから何かどこか別のところに通知するというような,そんな規律が考えられることになるのかどうか,54条との関係ではどうなるのかというのが一つです。
三つ目は,この問題について最初から問題になっております不当に高額なものとならないということに関してです。これ以上はアウトだという規律の掛け方は十分あり得ることだと思うんですけれども,他方で,不当に高額とか,不相当に高額だという表現から直ちに連想されますのは消費者契約法などでの更新料とか,敷引きとかで言われるものです。それらの場合は何か,それに名を借りたというような場合に,そのような表現が使われるように思われまして,ここで報酬に名を借りたようなものは駄目だというような基準でよろしいのか,もう少し内容を厳格にしているのかという疑問が生じます。その概念のところは,他で使われる場合からの連想などもありますので,それも勘案しながら言葉遣いがこれでよいのか,他には適切な表現がなくこれしかないということはあるかと思いますが,どの辺りのラインなのかというのは考え方を示す必要があると思っております。
○中辻幹事 沖野幹事の1点目の御質問にお答えしますと,私は,現在の信託法や公益信託の実務を前提として,公益信託の受託者の報酬は原則として委託者が拠出した信託財産の中から支払われることを念頭に置いておりました。例外的に,信託行為の定めにより,信託財産の中からではなく,それとは別に委託者が受託者の報酬を支払うようにすることも信託法の解釈としては可能のように思いますが,実務上,特に公益信託の場合には,委託者がいったん信託財産をまとめて拠出した後の段階で,信託財産とは別途自らの負担で受託者に対し報酬を支払うということはあまり想定されないようにも思います。
2点目について,信託法54条で商事信託の受託者及び信託報酬の定めのある信託の受託者は報酬を得ることは可能とされており,その額は信託行為の定めに委ねられているので,受託者の報酬を公益信託の認定基準とすることは実体法の規律に上乗せがされることになるのではないかというのは結果的にそのとおりかもしれません。信託法上,先ほど小野委員の指摘された受託者の忠実義務などもあり,その枠組みの中で受託者の報酬が適正な水準となるということもあり得るようにも思いますので,信託報酬の額及びその算定根拠の通知の点も含めて更に検討を深めていきたいと存じます。
3点目,「不当に高額」という表現に対しては色々な御意見をいただきましたので,その表現が意味するところの具体的な内容についても含めてこちらで引き取って考えてさせていただきます。
平川委員の御発言に関する部分は,そちらにお譲りいたします。
○平川委員 私が申し上げましたのは,額ということについての規制は開示の観点で,要するに報酬というのは委託者と受託者の間の信託行為で決められることなので,どういう基準で決めたのかという算定方式が開示されて報酬が計算できて,これは高すぎるから,そんなのでは嫌だと自由な契約の自治の範囲で交渉ができたりとか,一方的にこういう金額であるとか,あるいは規制上,こうでなければならないというものではなく,高すぎだろうが低すぎだろうが,自由に決められるべきだと思うというのが基本にあって,でも,どうやって決めるんですかということが信託行為ではっきりされていることというのが認定基準になれば良いという,そういう発言だったんですけれども。
○沖野幹事 そうすると,このゴシックでよろしいという,ゴシックとは違うということなんでしょうか,額又は算定方法というところですが。
○平川委員 額又は算定方法が信託行為で明確に定められていると,不当に高額なものとならないというのは,算定方法にも係っているんですかね。
○沖野幹事 係っていると理解しておりましたが。
○平川委員 不当に高額なものとならないというのは要らなくて,単に算定方法が信託行為で明確になっていればよいという意見です。
○沖野幹事 分かりました。御趣旨を確認したかったということですので,ありがとうございます。
○中田部会長 この点については大体よろしいでしょうか。
この論点につきましては,何らかの認定基準は置いた方がいいだろうという御意見が多かったように伺いました。その上で,原案のようにするのかどうか,あるいは表現がこれで適切か,更に具体的基準をどのように考えるのか,あるいは認定基準としてだけではなくて,監督基準という面も検討すべきではないかと,こういった御意見を頂いたかと存じます。また,全体を通じまして,一つ一つについてここまで御意見を賜ったわけでございますけれども,平川委員からも前に御指摘がありましたし,それから,山田委員からも御意見を頂きましたように,相関的なところがあるから全体を見回した検討が必要だろうというので,これは恐らく第2ラウンドで,また,その機会があろうかと存じます。その際には,全体のバランスあるいはそれぞれの根拠,表現,具体的基準ということで更に課題はあると思いますが,御議論の結果,問題点が明らかになってきたと思いますので,次の機会にまた御審議いただければと思います。
それでは,引き続きまして部会資料34の「第3 公益信託の認定の主体」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私から御説明させていただきます。
「第3 公益信託の認定の主体」のうち,「1 主務官庁による許可制の廃止」について御説明いたします。本文では,「主務官庁による許可制については,廃止することでどうか。」との提案をしております。現行の公益信託の審査実務に対しても,主務官庁による許可制を採用していた旧公益法人に対して指摘されていた問題点と同様の指摘がありますことから,これらの問題点を解消し,公益信託の適正な利用を促進するために,公益法人と同様に主務官庁による許可制を廃止することが相当であるとして,このような提案をしている次第でございます。
続いて,第3の「2 新たな公益信託の認定主体」について御説明いたします。本文では,「公益信託の認定を行う手続(認定主体を含む)は,次のいずれかとする。」として,甲1案,「特定の行政庁(課税庁を除く)が公益信託の認定を行う。」,甲2案,「民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,特定の行政庁(課税庁を除く)が公益信託の認定を行う。」,乙案,「民間団体が公益信託の認定を行う。」との提案をしております。
公益信託について主務官庁による許可制を廃止する場合には,新たな公益信託に認定主体を検討する必要があります。まず,公益信託の認定の効果として,公益法人と同様の税法上の優遇措置を受けられることを視野に入れた場合には,公益法人と同様に,行政庁が公益性の認定に関与し,一定の監督を受けることが必要になると考えられます。また,現行の公益信託の申請事務において,特に複数の主務官庁にまたがる共同所管の場合に,主務官庁による許可制が障害になっているなどの問題点が指摘されていることからすれば,単一の行政庁が一元的に公益信託の認定を行うことが相当と考えられ,甲1案を提案した次第でございます。もっとも,特定の行政庁が認定を行うこととした場合であっても,不当な裁量権の行使を防止し,判断の客観性や透明性を確保するという観点から,公益法人認定法と同様に民間の有識者から構成される合議制の第三者機関を諮問機関として,特定の行政庁が公益信託を認定する仕組みが考えられ,甲2案を提案しております。
なお,甲1案及び甲2案を採用する場合であっても,地方分権における国と都道府県の役割分担などを踏まえると,特定の行政庁については国だけでなく,都道府県を含めることが相当と考えられます。ただし,部会資料17ページの3段落目以降に記載しておりますとおり,都道府県知事だけでなく,現在,認められている都道府県の教育委員会を含めるべきか否かや,国と都道府県の所管をどのように分担するかなどについては議論があり得るところですので,併せて御審議いただければと存じます。
以上に対し,公益信託の認定は民間団体が行うべきであると考えもあり得るところですので,乙案を提示している次第です。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。2は1が前提となっている論点ですので,まず,1について御審議いただきまして,その上で2に進みたいと思います。1についていかがでしょうか。
○平川委員 主務官庁による許可制の廃止に賛成します。主務官庁の所管が異なることにより,公益信託法制の一律的な運用が難しいという弊害が見られたことから,認定主体の一元化が望ましいと考えます。旧公益信託の最大の問題点であったと考えておりまして,所管がまたがった場合に調整ができないなどの問題点があったと理解しております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論でも,主務官庁制は廃止に賛成でした。理由は御説明いただいたところとか,平川委員とも同じですので結論だけ申し上げます。
○中田部会長 今の廃止に賛成の御意見をお二方から頂きましたが,ほかに。特に異論はございませんでしょうか。それでは,1については廃止するということが御意見と承りました。
では,それを前提といたしまして「2 新たな公益信託の認定主体」について御意見を頂きたいと存じます。
○林幹事 弁護士会の議論では,基本的には甲2案でした。民間の意見を反映させるためという観点からは,甲2案の意見が多かったです。一方,民間団体というのも捨て難いという意見もありまして,甲2案と乙案と併用というような意見もそれなりにありました。ルートとしては複数あっても良いのではということです。例えば建築確認の例もありますし,行政が本来やるべきものも民間に委託する形で開放するというやり方もあります。民間が行うときの規定の仕方も,直接行うというのか,行政から委託を受けるのか,いろいろな形もあり得ると思います。
それから,現在,公益法人の認定は都道府県単位で行われており,ある県では認められて,ある県では認められないということが実務的に起こり得るところです。そういうことを想定したときに,ルートが複数あれば,結果として平準化されるということもあるのでは,という意見もありましたので,今の時点では,まだ,民間の可能性も残した上で,中間試案なりに向かっていけば良いのではと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 認定基準と運用の一元化の観点から,特定の行政庁のみの所管とし,それを補うものとして民間有識者から構成される合議体の第三者諮問機関を設けることが必要だと考えまして甲2案に賛成します。これは公益法人の公益認定と同様の制度をイメージしておりまして,税制優遇の問題から考えますと,民間だけに委ねるというのも課税庁の方からすると,なかなか,難しいのかなと思いまして甲2案に賛成します。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山本委員 林幹事が言われたことと関係するのですが,甲2案によるとしましても,特に現在の公益法人については,公益認定の基準について都道府県によってばらつきがかなり見られるのではないかと思います。許可制時代と変わらない運用を前提にしているかのように見えるところもあるとしますと,地域によって非常に不公平が生じる可能性が生じているのではないかと思います。その意味では,林幹事のおっしゃるような併用案がよいのかどうかは別としまして,運用基準の平準化を考える必要がある。そして,そのためにどのような方策を採るべきかということも併せて検討しないと,なかなか実際の実務が変わっていかないのではないかとも思います。その点は,今後の課題として指摘させていただきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございます。
○渕幹事 若干,抽象的な議論で申し訳ないのですが,甲2案で民間の有識者から構成される合議体の第三者機関を諮問機関としてとあるのはどういう趣旨だと理解すればよいのでしょうか。特定の行政庁が恣意的な判断をしないという客観性を確保するため,正しい判断をするためというような面に重きを置いて理解するのでしょうか。それとも,税制優遇を受けた財産が適切に管理され,使われることに対する民主的コントロールないし民主的な参加,すなわち,国民がその判断に参加しているのだというところに重きを置いて理解するという考え方も可能かと思うのですが,どう考えれば良いのでしょうか。
○中辻幹事 甲2案で目的としておりますのは,民間の有識者から構成される合議体の意見を踏まえた行政庁の判断には客観性や透明性が確保されるということで,これが第一次的,本来的な目的です。甲2案を採った結果,税制優遇を受けた財産が適切に管理処分されることを否定するつもりは全くないのですが,甲2案のまずもって意図するところは,公益信託の認定業務を担う行政庁の判断の客観化,明確化にあります。
○渕幹事 どうもありがとうございました。
○長谷川幹事 甲2案はいいようにも思うのですが,私の経験では,公益法人の認定に関して,委員会の下で働いておられる職員の方といろいろ申請に当たって調整する中で,「公益認定等委員会の事務局としてはこう考えますけれども,公益認定等委員会の委員の方がどう判断されるか分かりません」ということを言われてしまうことがありました。要するに,行政庁としては,ある程度独立した機関からのアドバイスをしっかり踏まえてやらなければいけないという判断で,そのような対応をされるのだと思うのですけれども,申請する側からすると予見可能性が非常に低い形になってしまう可能性があるということでございます。その点,今は平準化されているのかもしれないので,知見がある方がいらっしゃれば補足していただければと思いますけれども,申請する側の予測可能性を確保しつつ,行政庁の判断の客観性を確保するのであれば,事後に不服制度等を設けるということでも理屈としては可能であると思いますので,甲2案が絶対的にいいものということでもないかもしれないと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
甲1案の御支持はないようで,甲2案をベースにすることに賛成の方が多いようですが,しかし,このままというわけではなくて,客観性を高める,予見可能性を高める,あるいは地域によるばらつきのないようにするというような御指摘を頂いたかと思います。また,その方法として弁護士会からは甲2案もいいけれども,乙案も捨て難いので,当面は両方を残しておいてはどうかというような御指摘を頂きました。
ほかにございますでしょうか。
○新井委員 林幹事に質問ですけれども,乙案で考えている民間団体は,具体的にはどういうものをイメージされているか,御説明いただけると大変有り難い。
○林幹事 これといってきちんとイメージしているものではないのですが,一つの具体例としては建築確認について民間に開放されているという例があるというところです。また,弁護士会の議論の中では,これもきちんとしたものかどうか分からないのですが,例えばロースクールの認定は法務研究財団もやっていますから,そういう形で,民間で認定能力のあるところに出していくことはあってもいいのではないかというところです。この件で法務研究財団がやるかどうかは全く分からないのですが,そういう形で民間に出していくことはあってもいいのではないか,という議論でした。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
ほかはございませんでしょうか。
○山田委員 三つある案の中では私も甲2案がよいと思います。独自の理由は特にありませんので,補足説明に書いてある甲2案の説明のようなことを考えます。その上でですが,17ページの中ほどに教育委員会のことが書かれておりますが,ここについては甲2案の方向で議論が進んでいくならば,教育委員会は独立のものとして扱わず,知事部局の下で一元的に扱うというのが良いだろうと思います。それは,今,出てきたお話に便乗するような形になってしまうかもしれませんが,教育という分野についてのみ,認定基準を専門化させるという必要性は大きくなく,かえって基準の違いというんでしょうか,それを生じさせかねないというようなことが考えられると思います。したがって,太字にはなっていないところではございますが,教育委員会を独自のものとはしないということがよいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
それでは,第3についてはよろしいでしょうか。
○吉谷委員 2については甲2案に賛成で,特に付け足す理由もないのですけれども,判断の客観性,透明性,統一性について保たれるような仕組みにしていただけたらと考えております。それで,1番で主務官庁の許可制廃止で新たな公益信託の認定主体を設けられるわけなんですけれども,2のところでは認定と監督については,監督は別途,検討する必要があると書いている。認定と監督が一体化されるかもしれないということを踏まえて,一言だけ付言させていただきますと,現行の実務の主務官庁というのは,その後の監督のところについてはほとんど別に3年ごとの立入りとか,そういうことはございませんので,強い権限はお持ちなのかもしれないんですけれども,それを行使されることは余りなかったのです。
その背景について少し考えたのですけれども,恐らく二つほどあって,公益性の確保という点では,今,信託銀行は助成型しかやっておりませんので,公益事業の認定をしておけば,その後,公益性の確保について,それほど心配する必要はないのだろうと思われているのかなと。もう一つ,信託財産の管理の適切性あるいは不正な使用がなされていないかということにつきましては,信託銀行あるいは信託会社というのは,信託業法の下で規制されているという枠組みがありますので,そういう点についても主務官庁から御信頼いただいているのかなと考えているわけなんですけれども,今後の認定主体あるいは監督される主体というのが認定をする,あるいは監督をするに当たって,公益性という点と信託財産の管理の適切性の確保という両面を見られるのだろうと思うわけです。
現在の信託業法の下で行う信託会社あるいは信託銀行というのは,今後,信託財産の範囲であるとか,信託事務の範囲が拡大されても,信託財産の管理の適切性は確保されると思うのですけれども,一方で,公益信託の引受けが営業でなくされた場合には,信託業法の適用はないわけでありまして,認定あるいは監督について公益事業の適切性だけではなくて,信託財産の管理の適切性についても認定あるいは監督していただく必要があるということになりますので,それを担う主体として,一体,どういうことを具体的にされるのかということを検討する必要があるのかなと。逆に言えば,新たな公益認定主体や監督主体に誰がなるかによって,また,受託者の範囲というところをどうするかというところにも考えが及ぶのかなと考えましたので,付言をさせていただきます。
○中田部会長 ありがとうございました。今の背景を踏まえて,冒頭におっしゃったところでは,その上で甲2案に賛成するということでございますね。ありがとうございました。
よろしいでしょうか。それでは,時間があと30分でございますが,第4に入りまして,ひょっとしたら御審議は途中までになるかもしれませんけれども,できるところまでお願いしたいと存じます。「第4 公益信託と目的信託との関係」について事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私から御説明させていただきます。
「第4 公益信託と目的信託との関係」のうち,「1 公益信託を目的信託の一類型とするか」について御説明いたします。本文では,「公益信託を目的信託の一類型とする現行信託法及び公益信託法の構造は維持することでどうか。」との提案をしております。現行の信託法及び公益信託法は,公益信託を目的信託の一類型とする構造を採用しておりますが,現時点においてこの整理を不当とするまでの事情の変動は見当たりませんので,本文のような提案をしている次第です。もっとも,表に記載しておりますとおり,公益信託と目的信託については,範囲や効果には相違点がありますので,必要に応じて公益信託について目的信託に関する規律の特則を設けることを考えております。
続いて,第4の「2 公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託の効力」について御説明いたします。本文では,「公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託の効力について,これを無効とする旨の規律は設けないことでどうか。」との提案をしております。現行の公益信託法第2条第1項の解釈として,主務官庁の許可を受けていない公益を目的とする目的信託は,公益信託としても目的としても無効であると考え方があり得ます。しかし,民間の公益活動の一環として公益信託の適正な利用を促進していくという基本的な方向性からすると,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託であっても,目的信託の要件を満たしている限り,有効とするのが適切と考えられますので,本文のような提案をしております。
第4の「3 公益信託の設定前に目的信託の設定の前置を必要とするか否か」について御説明いたします。本文では,「公益信託の設定前に目的信託の設定を前置することは不要とする。」との提案をしております。公益法人制度では法人格の取得と公益性の認定が制度的に分離されており,一般社団法人又は一般財団法人を設立した上で公益認定を受けることとなっております。しかし,信託においては公益法人制度のように信託の設定と公益性の認定の分離の要請はなく,また,ある信託が目的信託として事前に設定された上でなければ,公益信託の認定を受けられないとするまでの必要もないことなどから,本文のような提案をしております。
最後に,第4の「4 既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容するかどうか」について御説明いたします。本文では,甲案として,「既存の公益を目的とする目的信託が公益信託の認定を受けることを許容する。」,乙案として,「実質的に公益を目的とする私益信託-ここではこれを公益的私益信託を呼びます-が,信託の変更を経て公益信託の認定を受けることを許容する。」,丙案として,「甲案及び乙案に掲げた場合をいずれも許容する。」,丁案として,「既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容しない。」との提案をしております。
まず,公益信託を目的信託の一類型とし,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託を有効とする場合には,既に設定されている公益を目的とする目的信託について,公益信託の認定を申請するケースも想定し得ることから,甲案のような提案をしております。次に,実質的には公益を目的としながらも目的信託として設定せずに残余財産受益者を定めるなどして,公益的私益信託として設定する場合も想定できます。このような公益的私益信託について,信託の変更により受益者の定めをなくした上で公益信託の認定を申請するニーズもあり得ると考えられますので,乙案のような提案をしています。更に甲案と乙案は論理的に両立し得ることから,いずれの場合も許容すべきとの考えもあり得るため,丙案を提案しております。
以上に対し,従来の公益信託は設定時に受託者が引受けの許可を受けることにより成立してきたものであり,この取扱いを変更する必要はないとして,既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容しないとの考え方もあり得るため,丁案のような提案をしている次第です。
○中田部会長 ただいま御説明いただきました部分について御審議いただきたいと思います。4項目がございますが,1と2は公益信託と目的信託との関係の全体的な論点であるのに対しまして,3と4はやや具体的な制度設計に関する論点かと存じます。もちろん,相互に関連しておりますので,きっちりと区別できるわけではありませんけれども,まず,1と2について御審議いただきまして,その後,3,そして,4というように進めていきたいと思います。ということで,まず,1と2について御意見を賜りたいと存じます。
○小野委員 では,口火を切らせていただきます。受益者の定めがないという観点からすると,同じ類型であるということにはなる。そこは理屈上の話ですけれども,他方,今まで議論してきたことで公益財団と一般財団,それから,公益信託と目的信託,こういう比較も必要である。なぜ,必要かというと特に課税上の扱いにおいても,デフォルトルールといいますか,その一類型としたときに分類される目的信託と公益信託が余りにも違いすぎるという点です。その観点からすると,後段の方の議論に近付いてしまいますけれども,公益を目的とする目的信託を認めるという議論が出てきますが,目的信託を二つの類型に分けるときに,一般的な目的信託と公益を目的とする目的信託という分類だけでは足りずに,以前の議論ですけれども,非営利型の目的信託というものも観念して,その上で公益信託と非営利型の目的信託が同じ類型であるというような議論をしていかないと,万一,公益信託であったものが認定を取り消され目的信託に落ちたときに制度上のひずみから生ずるいろいろな問題があり,例えば受託者に問題があって認定が取り消されたときに,本来の公益からベネフィットを受ける受給権者も課税上の影響を受けることにもなり得るなど,いろいろなひずみが生じてしまうということもあると思います。また,だからといって,目的信託一般について非営利型の一般財団法人と同じ扱いをするということ自体,適切ではないと思われますので,分類としても,1,2の議論についても公益信託と目的信託という議論は一つの理屈では当てはまりますけれども,更に突っ込んでいくと,目的信託を更に二つに分けるときに,公益目的の目的信託ではない,もうちょっと幅広の非営利型の一般財団法人に匹敵するような非営利型の目的信託というような分類の仕方もあり得るのではないかというのがバックアップチームでの議論でもあり,私の意見でもございます。
○深山委員 1番目の公益信託を目的信託の一類型とするかということについては,結論的には,そのようにした上で公益信託についての特則を設けていけば,法制度としては成り立つのかなと思ってはいます。ただ,これは,これから定まっていく公益信託の規律として,どういう各論的な規律が入って,それが目的信託という土俵の上に乗っかって,その上での特則というような仕組みで説明できるものなのかという問題であり,ここまでいったら,そもそも類型を違うものとして捉えた方が整理としては分かりやすいのではないかということになれば,一類型としない,別類型という選択肢もあり得るようには思うんです。なので,最もここが一番総論的なことなので,最終的にもう少し議論を進めて,公益信託の具体的な各則的なものが定まってきたところを踏まえて,最終的に類型の整理をすればいいのかなとも思います。
2について申し上げますと,結論としては,現行法の通説的な考え方とは違って,公益を目的とする目的信託は認定を受けていなくても認めるという考え方について賛成をいたします。ただ,ゴシックで書かれているのは,これを無効とする規律は設けないということなので,つまり,規定としては何も置かないということだと思うんです。
もちろん,現行の公益信託法2条1項がなくなるという意味合いはあるものの,なくなるものの,それ以上に何も有効とも無効とも書かないということになると,なお,解釈に委ねられるという理解も可能なような気がします。今の補足説明なり,事務局の説明によれば,有効なものと考える余地が十分あるので提案しているということからすると,意図しているところは有効だという趣旨なんでしょうが,単に規定を置かないということになると,そこまでいかずに,それが有効か無効かは解釈問題だというような整理をされる懸念があります。もちろん,これは条文ではないので,条文のときにどうなるかというのはまた別なのかもしれませんが,より積極的に公益認定を受けない公益を目的とする,あるいは公益的なと言ってもいいかもしれませんが,そのような目的信託というものの有効性を積極的に肯定する規律を何らかの形で表現すべきではないかという気がいたします。
○中田部会長 ほかに。
○林幹事 小野委員と深山委員に連なるところでもあるんですが,ここで私が気にしているのは,現行の信託法の附則3項と施行令の点です。2であえて無効とはしないということであれば,積極的に有効とすればいいのではないのかと考えられ,公益認定を受けないけれども,公益的な目的信託というのが残っていくということを考えるべきであるのはそのとおりと思います。しかしながら,今の御説明でも現在の目的信託の条文に合致していればというご指摘もありましたから,それは結局,附則3項なり施行令が今のままであれば,その条件に合わない目的信託は目的信託としては生き残れないことになってしまいます。ですから,附則も併せて改正するなり,修正することをここで議論すべきだと思います。先ほどの非営利的な目的信託というのを考えたとき,附則3項以下の制約があるとこうした非営利的な目的信託は残っていかないと思いますから,それも併せて議論すべきところだと思います。
○道垣内委員 深山委員がおっしゃったことで,第4の1については具体的に公益信託というのをどういう規律にするのかが決まらないと,決まらないというのはおっしゃるとおりだろうと思います。しかし,条文の規定の技術として現行信託法258条以下のものを準用する形にするのか,それとも新たにいろいろな内容を書き起こすのかという問題というのはもちろんあろうかと思うのですけれども,しかしながら,2のところで公益を目的とする目的信託の効力について,これを無効とする旨の規定を設けない,ないしはそれを積極的に有効とするというお立場を採られる限りにおいては,それは実は公益信託は目的信託の一類型であると言っているにほかならないのではないかという気がするのです。したがって,私は2のことについて規律を設けないということにすべきなのか,有効だと言うべきなのかはよく分かりません。まあ,本当は有効であるとわざわざ書く必要はないと思いますが,少なくとも有効であるということは全く賛成するところであり,賛成するならば,概念的には目的信託の一類型であるということになるのではないかという気がいたします。
○新井委員 目的信託の考え方については,私の考え方は既に複数回,申し上げてきましたので,余り詳しくは申し上げませんけれども,日本の目的信託というのは非常に幅が広くて,私益,共益,公益の全てを含むものであり,かつ受益者がいないために事実上,委託者が監督するという私益的な側面が非常に強いということで,日本独特の信託制度ではないかと私は考えております。目的信託と公益信託の共通点は,唯一,受益者が存在しないということだけです。ですから,私は公益信託を目的信託の一類型とすることについては反対です。
しかしながら,前の信託法部会において全会一致で目的信託の導入が決定され,しかも現在においてはそれが実定法化されているという状況の中では,私としては私の意見を申し上げた上で,1の考え方,つまり,公益信託を目的信託の一類型とする現行信託法及び公益信託法の構造は維持するということに反対はしないという立場を採りたいと思います。でも,私の個人的な意見としては先ほど申し上げたとおりです。
その上で,今度,2ですけれども,そうすると当然の理論的帰結として,許可又は認定を受けていない公益を目的とする目的信託というのは,当然,有効になることは当然の論理的帰結だと私は考えます。これは価値判断の問題ではなくて,1の結論を採れば,当然,そういうことになるかと思います。それを規定するか,有効と書くかどうかは別として,当然に有効だという立場になるので,そこは規定を設けないことでいいと私は思います。
○能見委員 3点ほど申し上げたいのですが,一つは小野委員のおっしゃっていたことと少し重なりますけれども,この資料の中でも公益を目的とする目的信託という言葉が出てきますけれども,こういうコンセプトがあるものではなくて,目的信託というのは公益もできるし,それから,後でいろいろな転換といいますか,公益を目的とする目的信託で公益認定を受けていないで後で公益信託に移行するような場合のことを考えますと,ここでいう公益を目的とする目的信託の公益というのは,必ずしも厳密な意味で後で公益認定を受ける公益そのものではなくて,もうちょっと広いぼやっとしたものだと思います。いずれにせよ,言葉としては注意した方がいいだろうというのが一つです。
それから,皆さん,おっしゃっていたことと共通しますけれども,そういう意味の言葉遣いを注意した上で,いわゆる公益を目的としている目的信託について,これを無効にするという解釈は封じておいた方がいいということですが,そのためにどの程度の手当をすればいいのかは私もまだよく検討していませんけれども,最低限,これを無効にするという公益信託法2条1項のような規定は,廃止するということなのだろうと思います。
それから,3点目は今回,公益信託のいろいろな問題をまだこれから検討していくわけですけれども,目的信託の,あるいは本来の目的信託と言ったらいいんでしょうか,そちらの規定にいろいろ影響するところが出てくるかもしれない。それは公益信託における特則だという形で,目的信託の規定に影響させることなく,公益信託だけの規定を作れば,形としては様になるのかもしれませんけれども,目的信託のところの規定もいじった方がいいのが本当はあるのではないかという気がいたします。これは先ほど林幹事が言われた附則3項のところの目的信託の受託者を制限している規定であるとか,あるいは私の個人的な意見ですけれども,信託の変更という形でもって私益信託と目的信託の間の変更を認めるということも,本当はあっていいのかと思います。最後の点はともかく,公益信託の法制を考えていく中で,目的信託の規定の方を修正するということがあってもいいということを申し上げたいと思います。
○平川委員 公益信託を目的信託の一類型とすることには反対します。目的信託は,信託法第258条1項の受益者の定めのない信託のこととされていますけれども,信託銀行等においての受託実績はゼロと理解しておりますし,一般の人の認識も薄く,公益信託をその一部と説明する実益がないと考えます。目的信託という概念自体が浸透していないのに,あえてその一類型と整理する意味はなく,単に公益信託といえばよいのではないかと考えます。仮に公益信託において公益の認定ないし取消しに目的信託を前置するとか,目的信託として存続させる構造を採るならば格別ですけれども,それらに対してはいずれも消極的な意見を持っておりますので,そういう意味でも,目的信託の一類型であるという必要はないと考えます。
また,新公益信託において受益者の定めのある信託であっても,その背後に不特定多数の受益者の存在が予定されるということもあると思います。例えば公益法人が受益者であるという場合において,その背後に不特定多数の公益的な受益を受ける受益者が存在している場合には,実質的に不特定多数の受益者が存在するものとして,公益認定が得られる場合があるのではないかと思いますので,そういう意味でも,目的信託の一類型とする構造は矛盾することになると考えます。
○新井委員 公益信託を目的信託の一類型としないという平川委員の意見をお聞きしまして,私の意見は必ずしも孤立無援ではないということを感じました。先ほど白旗を上げましたけれども,今の意見がありましたので,一応,白旗を撤回してもう少し,ここのところはきちんと議論していただきたいと思います。
○平川委員 2の方も一緒に述べたほうがよろしいでしょうか。
○中田部会長 是非。
○平川委員 2の方につきましては,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託の効力については,これを無効とする旨の規律を設けないということに賛成します。公益を目的とする目的信託が公益信託の認定を受けないで存在することは,私益信託の問題ですけれども,それを否定する理由に乏しいということから,無効とする旨の規定まで必要はないと考えます。公益信託と公益的目的信託,私益目的信託というんですか,そういうものとの入り繰りの話なんですけれども,結局,入口は自由,公益的目的信託から公益信託に要件を満たせば移行するということは自由で,出口は一旦,公益信託の認定を受ければ,それで生命を全うして,もし要件を欠くことになればシ・プレ原則により,他の公益信託と移行することもあるし,そうでなければ国有財産に召し上げられるという運命をたどるというのが簡潔で,非常に整理ができているのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○島村幹事 先ほども吉谷委員からも御指摘のあった点でございますし,先ほど林幹事の方からも目的信託の附則3項の話でございますとか,信託の受託者の範囲についても幾つか御議論を頂いております。この点につきましては,当然のことながら,現行信託業法では営業目的での信託の受託者については,受益者の保護などの観点から一定の制約を置いておりまして,ここについては現行の制度では少なくとも信託業法での免許なども必要になるというようなことも御留意いただいた上で,御議論いただければと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 1番,2番ともに賛成というのが結論でございます。御議論をお聞きしていまして,1点,疑問に感じましたのは,公益的目的信託というのは多分,委託者や受託者の方は,これは公益的なんだと思われているのだろうけれども,公益認定は受けていないというものを指しているんだと思うんですけれども,1点,疑問なのはまだ議論されていない公益という名称を使っていいのかどうかというところとの関係で,公益的目的信託は自らを公益的目的信託と名乗っていいのだろうか,そう名乗ると非常に分かりにくくて混乱するのではないかなという危惧を抱きましたというのが御議論をお聞きした感想で,非営利型目的信託と名乗るのはいいのかもしれないけれども,公益的目的信託というのはいかがなものなのだろうと思いました。
○中田部会長 ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。この論点2については原案でよいという御意見を頂戴したかと存じます。1につきましては,理論的な問題と,立法技術の問題と,それから,平川委員から御指摘いただいた実際面での問題と,様々,あろうかと存じますが,1については原案賛成の方が多くいらっしゃったとは思います。新井委員が白旗を撤回とおっしゃいましたが,勝ち負けではありませんので,いろいろな御意見を引き続きお出しいただければと存じます。
それで,時間が参りましたので,申し訳ございませんが,3と4につきましては次回に積み残しということにさせていただきます。司会の不手際で申し訳ございません。
それでは,本日の審議はこの程度にいたしまして,次回の議事日程等について事務当局から御説明をお願いします。
○中辻幹事 次回は,本日積み残しになりました第4「公益信託と目的信託の関係」の3と4を御審議いただいた後,公益信託の監督・ガバナンスについて御審議いただくことを予定しております。監督・ガバナンスについての御審議は,まとまりとして次回11月と,次々回12月の2回を予定しております。
次回の日程は,平成28年11月1日(火曜日),午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省で開催します。具体的な部屋につきましては,事務当局で確保でき次第皆様にお伝えいたします。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。
本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-
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