相続に関する法律 台湾



第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より
第1 章 はじめに

中華民国の民法親族編と相続編はともに、1931 年5 月5 日(台湾では1945 年)から施行され
ている。そのうち、親族編は、この十数年間で、もっとも頻繁に改正されている法分野であり、
今日に至るまで、すでに16 回にも及んでいる。この法改正は、言うまでもなく、経済成長、産業
構造、家族の形態ないしライフスタイルの変化などの社会的要因が背景となっているが、その中
でも特に指摘すべきことは、1987 年の戒厳令解除である。台湾では1949 年5 月20 日から1987
年7 月15 日まで、38 年間もの長期にわたり戒厳が施行され続けた。戒厳令の解除により、政治
的には民主化が進み、集会・結社の自由が認められたため、女性団体による積極的な活動が可能
となり、その力が親族法改正を実現させたと一般的に評されている1。現実に、親族編の16 回の
法改正は、戒厳中には1985 年の1 回のみであり、残りの15 回はすべて戒厳令解除後に生じたも
のである。


番人
「親族に関しては、十数年間で16回の改正か。すごいね。」


それとは対照的に、相続編は1985 年、2008 年、2009 年6 月(この二者は同様の理念に基づく
ものであるため、以下では一括して論じることとする)、および2009 年12 月、2014 年1 月の5
回の改正を経るに止まっている。従来から高い注目を集めていた親族編とは異なり、相続編に対
する社会的な関心は低い2。2008 年と2009 年6 月に行われた限定承認を原則とする法改正を除け
ば、相続編の条文には変動が多くなかったが、関連する他の制度、例えば夫婦財産制や家事事件
手続に関する法律が大きく変わったため、相続法の解釈や適用にも少なからず影響を及ぼしてい
る。これは台湾の相続制度を理解するためには不可欠な前提である。

したがって、第二章ではまず台湾における相続の基本原則、すなわち法定相続人、相続分、遺
産共有、遺産分割、遺言および遺留分を紹介してから、第三章では関連する諸制度の改正が相続
に与える影響および最近の立法の動向を整理し、第四章では今後の課題を述べ、結論に代えさせ
ていただくこととする。


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相続に関する法律 台湾②
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
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法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

第2 章 相続制度の概要

1 法定相続人と相続分

1 現行法の規定

台湾法における法定相続人は、血族と配偶者の二種類である。まず、血族相続人について、民
法1138 条と1139 条に規定が置かれている。すなわち、1138 条は、「遺産相続人は配偶者を除き、
左の順序で定める。一、直系卑属。二、父母。三、兄弟姉妹。四、祖父母」3であり、1139 条は、「前
条で定めた第一順位の相続人は、親等の近い者を先にする」である。血族法定相続人の法定相続
分について、第1141 条は「同一順位の相続人が数人いる場合、人数に応じて均等相続する。但し、
他の法律で定める者はこの限りでない」と規定している。
次に、第1144 条は配偶者が常に法定相続人であることを定めている。すなわち、「配偶者は互
いに遺産相続の権利を有する。その相続分は左の規定により定める。

一、第一一三八条で定めた
第一順位相続人と同時に相続するときは、その相続分は他の相続人と相等しい。二、第一一三八
条で定めた第二あるいは第三順位相続人と同時に相続するときは、その相続分は遺産の二分の一。
三、第一一三八条で定めた第四順位相続人と同時に相続するときは、その相続分は遺産の三分の
二。四、第一一三八条で定めた第一から第四順位の相続人がいないときは、その相続分は遺産の
全部」である。
上述の規定に基づいて計算した結果、各人の法定相続分は以下の通りである。

(1) 直系卑属

被相続人に子が二人、孫が二人いる場合、1139 条により二人の子が相続人となり、それぞれの
相続分は遺産の二分の一である。直系卑属が配偶者とともに相続するとき、配偶者の相続分は直
系卑属と頭割りで計算する。例えば、被相続人に子二人と配偶者が存在した場合は、配偶者の相
続分は遺産の三分の一である。すなわち、直系卑属が配偶者とともに相続するときは、配偶者の
法定相続分は固定的ではなく、直系卑属の人数によって変わることになる。

(2) 父母

父母のみが相続人であるときは、父と母の各人の相続分は遺産の二分の一である。父母と配偶
者が共同相続するときは、配偶者の相続分は遺産の二分の一であり、父と母の各人の相続分は遺
産の四分の一である。つまり、配偶者が父母とともに相続するとき、その法定相続分は固定的で
ある。

(3) 兄弟姉妹

相続人が兄弟姉妹四人である場合は、各人の相続分は遺産の四分の一である。相続人が配偶者
と兄弟姉妹四人である場合には、配偶者の相続分は二分の一と定まっており、兄弟姉妹全体の相
続分は二分の一であるから、各人の相続分は八分の一である。

(4) 祖父母

相続人が父系と母系両方の祖父母である場合は、各人の相続分は遺産の四分の一であり、父系
と母系両方の祖父母と配偶者が共同相続する場合に、配偶者の相続分は遺産の三分の二であり、
祖父母全体の相続分は三分の一であるため、各人の相続分は一二分の一である。


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相続に関する法律 台湾③
第6部 台湾法
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2 法定相続分に関する疑問および対応

配偶者の相続分および血族相続における均分主義の定めは、完全に安定したものではない。社
会環境の変化につれ、それに対する疑問は当然に提起され始めている。

(1) 配偶者の相続分について

1975 年に司法行政部の民法研究修正委員会は、民法の改正を目標として、いくつかの改正のポ
イントを提出した。その中で、「配偶者と直系卑属が共に相続する場合は、その相続分は固定すべ
きか(例えば配偶者は二分の一を取得。残りは子に分ける)」という問題が提示された4。しかし、
その後、1976 年に、行政院長(司法行政部は行政院に属する)がこの改正案に反対していたため、
改正作業は中断した5。現在まで配偶者の法定相続分に関する条文が改正されたことはない。とは
いえ、1985 年に夫婦財産制に剰余財産分配請求権を導入したことにより、配偶者の死亡にあたっ
て生存配偶者が得られる財産は実質的に増加することになった。これについては第3 章の1でさ
らに詳述する。

(2) 均分相続と農地細分の問題について

1975 年に司法行政部長が中国国民党中央常務委員会に対して、「民刑法の改正にあたって政策
上考慮すべき問題」を報告した際に、従来から貫かれてきた均分原則に関する疑問が農家相続と
の関連で提起された。すなわち、「民法は遺産相続について均分相続を採用している。例えば、農
民の甲には子5 人がいる。甲の死後、その耕地は5 等分に分割されて、5 人の子に相続される。
この制度は農業社会では公平で合理的であるが、現代工業社会では、農業が既に機械化されたた
め、均分相続による過小の農地面積は機械化を妨げる。先の例のように、農地を過度に細分化す
ることは、耕作に不利な影響を与える可能性がある。


したがって、英米国家のように遺産は遺言
で自由に処分すべきだと主張する者がいる。なぜなら、そうすると、農地の細分化が避けられる
のみならず、子は遺産に頼ることができず、その独立の精神を養うことができるからである。し
かしながら、現行法の均分相続を支持する者は、遺産の自由処分がわが国の社会通念に合わない
こと、そして被相続人が不公平な自由処分をする場合は相続をめぐる紛争が起きやすいことを理
由として、法の改正に反対する。総じていえば、現行相続制度の下で、如何に農地の相続及びそ
の経営問題を扱うべきかに関しては、更なる研究が必要である」6というのである。

このように、民法の均分相続制度を改正することに反対する力が強いので、結局、民法ではな
く、特別法において、分割の規制と単子相続の促進に関する規定を設置するという対応が採られ
た。具体的には、1973 年農業発展条例22 条に一定面積以下の耕地の分割と共有への変更を禁止
する規定、23 条に農地の単子相続を奨励する規定がそれぞれ設けられた。


しかし、農地の細分化
ないしは農業の零細化の問題は一向改善されていない。1970 年には家族あたりの農場の平均耕地
面積は0.82ha であったのに対して、1980 年には0.79ha へと低減した7。農場の規模拡大を図り、
相続による細分化を防ぐため、1980 年に農業発展条例23 条が次のように改正された。すなわち、
農地がまとめて一人の(自作能力を有する)相続人に相続または贈与され、且つ農業の経営が継
続される場合には、遺産税または贈与税、および五年分の固定資産税(原文は「田賦」。収穫され
た作物で現物徴収)を免除すること、さらに、当該相続人が現金で他の相続人に補償することを
要する際には、国が10 年以上の低利子ローンの申込に協力することを定めている。

しかし、2000 年に状況が一変し、上述した零細化防止に関わる条文はすべて撤廃された。この
ことも社会背景と密接に関連している。すなわち、1990 年代末にWTO の加盟予定とグローバルの
波が台湾の農業を襲った。国民経済における農業の比重の低下、農家の高齢化、及び農業科学技
術の進展など、新しい社会や経済環境に対応するためには、農業の市場競争力を高めなければな
らない。すなわち、効率的な経営・管理と新たな資本と技術の導入、言い換えればある程度の市
場原理を働かせる必要がある。そのため、市場メカニズムを著しく阻害する「自作農だけが農地
を所有できる=農地農有」という伝統的な農地政策には、疑問が投げかけられた。結局、「農地農
有」政策は緩和され、「農地が農業の使途に利用される=農地農用」という方針だけが残されるこ
ととなった。2000 年に行われた法改正で農家相続に及ぼす重要なポイントは、分割制限の撤廃と
免税の優遇の拡大(単子相続の条件の撤廃)の2 点である。言い換えれば、農家相続に特別な配
慮をする条文は、すべて取り除かれた。


番人
「台湾の農業はどうなるんだろう。」


以上の法変遷を、均分相続の原理が農業経営の要請を上回ったと把握することができない。そ
もそも所有と経営の不分離を原則とする自作農主義を前提としないのなら、均分相続による農地
の所有権の細分化と農業経営の要請とは必ずしも矛盾しないはずである。台湾法の特徴は、かつ
ての厳格な自作農主義を緩和し、農業法の立法で所有と経営の分離を認めたため、(自作農主義の
下での)均分相続と農業経営の対立構図が崩れたことである8。したがって、民法における均分相
続の原則は現在まで無傷で維持されてきたのである。

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相続に関する法律 台湾④
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2 遺産共有

被相続人の死亡の時点から相続が開始し、当然に相続財産は共同相続人に帰属することとなる。
さらに、台湾法は日本法と同様に、包括承継の原則に基づいて、相続開始の時点から、相続人は、
被相続人の財産に属した全ての権利義務を承継する(中華民国民法第1148 条1 項)。しかし、仮
に相続人が複数である場合には、もともと被相続人一人に属した権利義務関係は、複数の相続人
にどのように帰属するのか、つまり、共同相続の法的状態が問題となる。本節においては、この
相続開始後の第一段階ともいえる「遺産共有」の状態、具体的には、台湾の遺産共有の性質と権
利行使の方法について論じたい。

1 遺産の合有

共有という団体内部の結合関係の強度は、それに属する各共有者の持分の処分権及び分割請求
権の有無などに依存する。ドイツでは、民法における様々な共同所有の形態を、三類型―共有
(Miteigentum)・合有(Eigentum zur gesamten Hand)・総有(Gesamteigentum)―に分けて説明
している。この概念を自国に輸入し、既に存在した共同所有団体に当てはめ、その類型にあるべ
き法律効果を画一的にその団体へ適用するという解釈方法論については、疑問を提起する論者も
ある9が、ここでは説明の便宜のため、とりあえず遺産共有の形態をドイツ流の理論を借用して分
類する。


番人
「共有、合有、総有ってドイツ産だったのか。」

中華民国民法1151 条は、「相続人が数人あるときは、遺産分割の前においては、各相続人は遺
産全部に対して公同所有関係にある」と規定している。では、この「公同所有関係」は共有、合
有または総有のいずれに該当するのであろうか。
台湾の代表的な教科書によれば、公同所有とは、法律の規定または契約により公同関係となっ
た数人が、公同関係に基づいて一物の所有権を共有することである。公同所有の主な事例には、
組合財産、未分割の遺産、および祭祀公業の三種類がある10。個々の公同所有関係の強度は異な
るが、共通点もある。すなわち、各公同所有者の権利は公同所有物の全部に及ぶこと、各公同所
有者は潜在的な持分しか有しないこと、公同所有物の処分と他の権利の行使は、公同所有者の全
員の同意を得べきであること、公同所有関係の存続中は、各公同所有者は公同所有物の分割を請
求できないこと、などである。


次は、合有と総有の定義をみてみる。合有においては、各共同所有者は、目的物に対する管理
権能と収益権能とを留保する。すなわち、持分権を有する。しかし、主体の間に、例えば共同し
て一つの事業を営むというような、共同の目的があり、共同所有は、この共同目的達成の手段と
されている。したがって、各共同所有者の管理権能は、この共同目的達成のための規則によって
拘束され、その共同目的の存続する限り、各共同所有者は、持分権を処分する自由もなく、また
分割を請求する権利もない。

ドイツ民法は、組合財産・夫婦共有財産・共同相続財産について、
これを合有と定めた11。一方、総有では、共同所有者の持分が潜在的にも存せず、持分の処分や
分割請求が問題にならず、各共同所有者は目的物に対して使用・収益権を有するのみである。要
するに、所有権に含まれる管理機能と収益機能とは全く分離し、各共同所有者は、共有における
持分権をもたない。最も団体的色彩の強い共同所有形態である12。

日本における総有の代表例は、
慣習上見られる入会権のほか、慣習上の物権(温泉権)と権利能力なき社団の財産もそうである
と説明されている13。


台湾における分割前の遺産には、各相続人は具体的な持分を有しないが、潜在的な持分を有す
るので、合有に該当するものだと考えられる。台湾の民法物権編における公同共有(合有)の規
定、すなわち827~830 条は、遺産にも適用が可能である。但し、遺産が一般の合有財産と異なる
のは、もともと合有関係の法理によれば、各共有者は合有関係の存続中は、共有物分割を請求で
きないはずである(民法829 条、682 条1 項)が、1164 条は、「相続人は何時でも遺産分割を請求
することができる。但し、法律上に別段の規定があるか、又は契約に別段の約定があるときは、
その限りでない」と定めている。この規定の趣旨は、遺産の合有関係を永久に維持する意味はな
く、合有関係によって経済流通が阻害されること防ぐためのものだと言われている14。
遺産合有の規定について、批判がないわけではない。合有関係の下では相続人は相続財産につ
いて自由に持分を処分することができず、取引の安全を害する恐れがあるというのである15。し
かし、相続編が施行されてから現在まで、該当する条文は変更されなかった。次は合有の下での
法律関係を検討する。

2 債権と債務の共同相続

遺産分割前に、共同相続人は遺産に対して合有関係にあるため、共同相続人は相続債権・債務
についても当然に合有関係となる。

(1) 債権

遺産分割前に、各共同相続人は遺産に対して合有関係にあるため、共同相続人は相続した債権
について具体的な持分を有しない。したがって、相続債権は金銭債権のような可分債権か不可分
債権かにかかわらず、遺産分割前には合有債権と考えざるを得ない。この相続債権の合有状態に
ついて、実務上最も多く見られる争いは、共同相続人が共同して相続債務者に対して弁済を請求
しなければならないのかということである。すなわち、訴訟上、これを必要的共同訴訟と解し、
共同相続人全体が原告となるべきか、または不可分債権の規定16を類推し、共同相続人の一人が
全体のために弁済を請求できるか、という問題である。学説は後者の見解に賛成し、すなわち、
相続人の一人が相続人全体の利益のために、債務者に対して相続人全体へ弁済請求できると主張
している17。その根拠としてはドイツ民法第2039 条18が挙げられている19。

(2) 債務

相続債務は、合有財産に属するため、合有の債務であると同時に、相続債権者の保護及び共同
相続人間の公平を図るために、民法の規定によって、連帯債務でもある。すなわち、1153 条は、
「(1 項)相続人は、被相続人の債務に対して、相続により得た遺産の範囲内において、連帯責任
を負う。(2 項)相続人相互間においては、被相続人の債務に対して別段の約定がある場合を除い
て、その相続分に応じて負担する」と定めている。共同相続人は相続債務に対して連帯責任を負
うため、民法債編の連帯債務に関する規定(272~282 条)は相続債務にも適用される。


(a) 対外関係

民法273 条1 項を適用すると、相続債権者は共同相続人の一人・数人または全体に対して全部
または一部の給付を請求することができる。問題は、債務が性質上、不可分である場合に、債権
者は連帯債務を理由として共同相続人の一人に対して起訴すれば足りるのか、または合有のため、
共同相続人全体を被告とすべきなのか(必要的共同訴訟)である。実務上は、賃借不動産の明渡
義務がしばしば問題となる。最高法院51 年20台上字第1134 号判例は、必要的共同訴訟説に立っ
ている。すなわち、「上告人は契約満了を理由として、賃借人の相続人に対して不動産の明渡を請
求したが、相続人であるA を被告としなかった。原審がこれを当事者適格に反するとして、上告
人の訴えを棄却したことは適法である」と述べ、相続人全体を被告とすべき必要的共同訴訟説を
支持している。

(b) 内部関係

民法1153 条2 項は、共同相続人の内部の債務分担割合を規定している。この条文によれば、共
同相続人間ではその「相続分」に応じて債務を負担するため、連帯債務者が「人数」に応じて(平
等の割合で)連帯債務を分担すると定めた民法第280 条本文のルールは、相続債務には適用され
ない。


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3 共同相続財産の管理、使用収益と処分

相続財産は共同相続人の合有に属するゆえに、民法物権編における「公同共有」(合有)に関す
る規定は相続財産に適用される。合有物の管理、使用収益と処分に関わる最も重要な条文は、民
法828 条2 項における「820 条、821 条、826 条の1 の規定は、公同共有に準用される」という規
定21、および同条3 項における「公同共有物の処分及びその他の権利行使は、公同共有者全体の
同意を得なければならない」という規定である。

(1) 所有権に基づく権利の行使

民法821 条は、(狭義の)共有における所有権に基づく請求について、「各共有者は、第三者に
対して共有物の全部について所有権に基づく請求をすることができる。但し、共有物回復の請求
は、共有者全体の利益に基づいてのみ行うことができる」と定めている。2009 年の物権編改正前
は、現在の828 条2 項の準用規定がなかったため、合有財産の所有権に基づく請求には、821 条
の多数決が準用されるのか、または旧828 条2 項(現行法の828 条3 項)の全体行使の原則が適
用されるのかが問題であった22。現行法は、明確に821 条の準用を認めており、すなわち合有に
おいて所有権に基づく請求を各共同所有者で単独で行えること、つまり、かつての通説の主張を
取り入れている。

(2) 管理と使用収益

合有の相続財産の管理と使用収益には、上述した828 条2 項により、共有の820 条の規定が適
用される。したがって、相続財産の管理と使用収益は、相続人の人数および潜在的な持分の多数
決により行われる。また、裁判所は一定の要件の下で、相続人の管理と使用収益に干渉し、管理
と使用収益の方法を変更する権限を持つ23。

(3) 処分

828 条3 項は、「公同共有物の処分及びその他の権利行使は、公同共有者全体の同意を得なけれ
ばならない」と定めている。

(a) 共有物の処分――共有者全体同意の原則

共同相続人は、合有関係の下で、持分(相続分)が潜在的なものにすぎないため、相続財産を
構成する個々の財産に存在する自己の持分を処分することができない。当然ながら、(自己の持分
を超えて)特定の財産を処分することもできない。ただ相続人は他の共同相続人全体の同意(授
権)を得れば、特定の財産を処分することができる。

(b) 全体同意原則の緩和――不動産の場合

土地法は、民法の「公同共有者全体同意の原則」に関する特別な規定を設けている。すなわち、
土地法第34 条の1 第1 項は「共有土地又は建築改良物の処分、変更、および地上権、永小作権、
地役権又は不動産質権の設定をする場合は、共有者の過半数のおよびその持分合計の過半数の同
意をもってしなければならない。但し、その持分合計が三分の二を超えるときは、その人数は計
算に入れない」とし、同条5 項は「前四項の規定は、公同共有に準用する」と定めている。これ
によって、共同相続人が相続財産に属する不動産を処分する場合には、全体の同意を得なくてよ
いとされた。土地法の適用により、相続不動産の処分(分割は別)は多数決で行ないうるのに対
して、通常はその価値が不動産より安価な動産の処分は、かえって共同相続人全体の同意が必要
である。この結果がアンバランスだという理由で立法的な検討を要すると主張した学説もある24。

(c) 相続分の処分

特定の財産の処分ではなく、共同相続人が自らの相続分そのものを一括して処分することがで
きるか。法律上の明文の規定と判例は存在しないが、学説は、相続分の処分は認められないと解
している25。

(4) その他の権利行使

民法828 条3 項の「その他の権利行使」は、優先購買権の行使、時効利益の放棄がこれに該当
し、共同相続人全体の同意を要する26。


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4 共同相続財産の登記

相続財産を構成する不動産は、共同相続人の合有に属しており、各共同相続人は具体的な持分
を有しない。土地法73 条1 項は、「土地の権利を変更する登記は、権利者および義務者が共同で
申請しなければならない。義務者がないときは、権利者が申請する。それが相続登記であるとき
は、各相続人は全体の相続人のために申請することができる。但し、その申請は、他の相続人の
相続放棄又は限定承認の権利に影響を与えない」と定めている。土地登記規則120 条は、「相続人
が二人以上いる場合に、一部の相続人は他の相続人と共に相続登記を申請することができないと
きは、その中の一人または数人が全共同相続人の利益のために、被相続人の土地について公同共
有の登記を申請することができる。全共同相続人の同意を得た場合に、共有の登記を申請するこ
とができる」と規定している。すなわち、土地法73 条1 項の「相続登記」は「公同共有の登記」
(合有の登記)であり、相続人全員の同意がなくても、共同相続人の一人の単独で可能である。


最高法院69 年台上字第1166 号判例は、「土地の相続登記については、土地法第七三条の規定によ
り、すべての相続人は全体の相続人のために申請でき、訴訟上請求する必要がない…本件被上告
人は上告人に対して相続登記の登記協力を請求したが、これは上告人に対して一般の共有に関す
る登記を求めたのであろうか。仮にそうではなく、ただ合有の登記で足りるならば、なぜ原審は、
上告人の四分の一の持分を被上告人に登記移転せよと命じたのか。被上告人の請求は不明瞭であ
る。原審が釈明権を行使しその補充を促しておらず、直ちに被上告人の請求を容認し勝訴判決を
下したことは違法である」と述べて、土地法73 条の「相続登記」(合有の登記)を相続人の一人
で行いうると明言している。

5 日本との比較

遺産を構成する個々の財産に対する共同相続人の権利についていえば、日本では共同相続人は
自らの相続分を自由に処分でき、しかも、遺産の一部(可分債権と債務)は相続分に応じて共同
相続人に分割帰属する。そのため、遺産の結合は比較的ルーズである。これに対して、台湾では
共同相続人は自由に相続分を処分できず、共同相続人に分割帰属することがないため、遺産は比
較的団体性と結合性が強い。次に、第三者との関係についていえば、日本の共有説の下では遺産
を対象とする商品の交換が円滑に行われ、取引の安全が保護される。他方で、台湾の合有説の下
では持分の処分が禁止されおり、取引の安全が妨げられると思われるが、不動産の登記に公信力
があるため、取引の安全はそこで配慮されることになる。


番人
「登記に対する信頼が厚いですね。」


合有である遺産共有の法律状態は、暫定的・一時的な状態にすぎず、永続的な安定したものと
はいえない。次には遺産分割手続が必要となる。すなわち、相続財産を構成するどの財産が、ど
の相続人に帰属するかは、最終的には遺産分割手続で確定される。但し、遺産分割の際に、考慮
すべき要素は極めて多岐にわたる。単に民法の定めている法定相続分に従い分割すればよいとい
うわけではない。そのため、遺産分割の過程で、本来の法定相続分に修正を与えうる様々な要素
を丁寧に検討すべきである。法定相続分に対する修正とは被相続人の遺言による処分である。遺
言自由の大原則に基づき、確かに被相続人は自由に遺言によって、法定相続分の内容と異なる処
分を行うことができるが、その自由には「遺留分」という制限がある。遺留分は、一定範囲の法
定相続人に留保すべき最小限の相続財産であり、「相続の法定原則に対する被相続人の意思による
攻撃を法定原則の側からいわば巻き戻すためもの」27とも言われている。よって、遺産分割の過
程で配慮しなければならない「遺言による財産処分」を検討する前に、「遺言による財産処分」に
制限を加える「遺留分制度」を検討する。


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3 遺留分

台湾民法の遺留分に関する規定は1223 条~1225 条までの3 ヵ条であり、ゲルマン・フランス
型の遺留分制度に属すると一般的に考えられている28。その理由は、民法は法定相続主義を採用
して、全ての法定相続人に遺留分を与える。法定相続人はその相続人の資格に基づいて遺留分権
を有する。すなわち、法定相続権は遺留分権の基礎である。したがって、相続欠格または相続放
棄した相続人は相続開始時に相続権を有しないことになるので、遺留分権も有しない。次に、遺
留分は遺産の一部であり、遺産の上に存在するものであるから、遺留分が侵害された場合、返還
請求の目的は原則として遺産の現物に限られる。

1 遺留分権利者

台湾民法1223 条によれば、法定相続人の全ての者が遺留分権利者である。それには、被相続人
の直系卑属、父母、兄弟姉妹、祖父母及び配偶者が含まれている。

2 遺留分の率

遺留分権利者の遺留分の率は、被相続人との関係の親密度によって異なる。民法1223 条によれ
ば、直系卑属、父母及び配偶者はその相続分の二分の一であり、兄弟姉妹、祖父母の遺留分はそ
の相続分の三分の一である。したがって、遺留分の前提として、まず相続分を計算しなければな
らない。法定相続人とその順位が、11 で述べたとおり、1138 条、1140 条、1141 条、1144 条に
規定されており、これらの条文に基づいて計算した結果として、各人の遺留分は、以下の通りで
ある。

(1) 配偶者

配偶者が単独相続するとき、その相続分は遺産の全部であり、遺留分は遺産の二分の一である。
配偶者が被相続人の直系卑属、父母、兄弟姉妹、祖父母と共同相続するときについては、次に検
討する。

(2) 直系卑属

被相続人に子A・B・C 三人がいる場合、A・B・C それぞれの相続分は遺産の三分の一である。
遺留分は三分の一の半分、すなわち遺産の六分の一である。直系卑属が配偶者とともに相続する
ときは、配偶者の相続分は他の相続人と頭割りで計算する。例えば、被相続人には子三人と配偶
者がいる。配偶者の相続分は遺産の四分の一であり、遺留分は遺産の八分の一である。他の子の
相続分も遺留分も配偶者と同様である。

(3) 父母

父母のみが相続人であるとき、父と母の各人の相続分は遺産の二分の一であり、その各人の遺
留分は遺産の四分の一である。父母と配偶者が共同相続するとき、配偶者の相続分は遺産の二分
の一であり、父と母の各人の相続分は遺産の四分の一である。そして父と母の各人の遺留分は、
相続分の二分の一であるため、遺産の八分の一である。

(4) 兄弟姉妹

兄弟姉妹の遺留分は上記の者と異なり、相続分の三分の一である。相続人が兄弟姉妹四人であ
る場合に、各人の相続分は遺産の四分の一であり、遺留分は相続分の三分の一であるため、遺産
の一二分の一である。相続人が配偶者と兄弟姉妹四人である場合には、配偶者の相続分は二分の
一、兄弟姉妹全体の相続分も二分の一であるから、各人の相続分は八分の一である。その遺留分
は二四分の一である。

(5) 祖父母

祖父母の遺留分は相続分の三分の一である。相続人が父系と母系両方の祖父母である場合に、
各人の相続分は遺産の四分の一であり、遺留分は遺産の一二分の一である。父系と母系両方の祖
父母と配偶者が共同相続する場合に、配偶者の相続分は遺産の三分の二であり、祖父母全体の相
続分は三分の一。各人の相続分は一二分の一で、遺留分は三六分の一である。


3 遺留分の計算

遺留分額を算定する方法について、民法1224 条は「遺留分は、第一一七三条により計算した相
続すべき遺産の中から債務額を控除して計算する」と定めている。第1173 条29は遺産分割の際に、
相続開始時の遺産額に特別受益額を加える規定である。したがって、1224 条によれば、「遺留分
算定の基礎となる財産」の計算方法は、(ⅰ)被相続人が相続開始時に有した財産に、(ⅱ)特別受
益財産を加え、さらに(ⅲ)債務額を控除する、ということになる。
次に、各遺留分権利者の遺留分額の計算について、1224 条によって算出した「遺留分の基礎と
なる財産」に基づき、さらに1223 条に規定された一定の率を乗じた結果、各人の遺留分額が出て
くる。

4 遺留分の減殺

1225 条は、「遺留分権利者は、被相続人のなした遺贈によってその得べき額に不足を生じたと
きは、その不足額に応じて、遺贈財産を減殺することができる。遺贈を受けた者が数人いるとき
は、その得た遺贈の価額に比例して減殺しなければならない」と規定している。つまり、遺留分
権利者が現実に被相続人から受けた利益が、その遺留分額に達しないときに、はじめて遺留分侵
害があるとして、遺留分権利者は遺留分減殺をすることができる。また、遺留分が不足している
(=遺留分が侵害される)とき、遺留分権利者が減殺請求するか否かはその自由に委ねられる。

(1) 遺留分侵害額の計算

問題は、「遺留分権利者の現実に被相続人から受けた利益」とはどのようなものかである。この
点について、民法は直接の規定を用意していないし、学説も詳しく論じていない。しかし、通常、
「遺留分権利者の現実に被相続人から受けた利益」とは、被相続人から受けた特別受益30の価額
や遺贈の価額のほか、相続によって現実に得た財産(遺産分割で得た財産)もそれに含まれる。

(2) 遺留分を侵害する法律行為の効力

遺留分を害する法律行為は、当然無効なのか、あるいは一応有効であるが、遺留分権利者から
の減殺を受けてはじめて効力を失うか、という問題がある。判例(最高法院58 年台上字第1279
号判例)と通説31は、遺留分を侵害する法律行為は無効ではなく、ただ遺留分を侵害した遺贈が
減殺の対象となるにすぎない、と主張している。

(3) 減殺権の法的性質

減殺権は財産権であることについて、学説上は異論がない。つまり、減殺権は一身専属の権利
ではないため、相続ないし譲渡することが可能であり、遺留分権利者の債権者も代位行使できる32。
減殺権の性質については学説が分かれているが、判例33と通説34は物権的形成権説である。

(4) 減殺の対象

民法1225 条は、「遺留分権利者は、被相続人のなした遺贈によってその得べき額に不足を生じ
たときは、その不足額に応じて、遺贈財産を減殺することができる。遺贈を受けた者が数人いる
ときは、その得た遺贈の価額に比例して減殺しなければならない」と規定しており、遺留分減殺
の対象は一見すると、遺贈だけであると思われる。もっとも、民法1187 条は、「遺言者は、遺留
分の規定に反しない範囲内において、遺言をもって自由に遺産を処分することができる」と定め
ており、通説によれば、「遺言をもって遺産を処分する」ことには、遺贈に限らず、相続分の指定
と遺産分割方法の指定なども含まれる。そのため、遺贈、相続分の指定と遺産分割方法の指定は
遺留分減殺の対象となる。また、贈与者の死亡と伴って効力を生じる死因贈与もまた遺留分減殺
の対象とされている。したがって、減殺の対象は、終意処分に限定され、(特別受益を含むもの)
生前処分には及ばない。

(5) 減殺の行使

遺留分減殺権の行使は、物権的形成権説を採った以上、それは受遺者や受贈者に対する権利者
の一方的な意思表示であり、しかも裁判外でも行使できると解されている。この点において台湾
と日本は同様である。

(6) 減殺権の消滅の期間

日本民法には遺留分減殺請求権の消滅時効(1 年、1042 条を参照)を定める明文があるのに対
して、台湾には条文上は規定がない。様々な見解が存在するが、判例(最高法院103 年台上字第
880 号判決)と通説35は、減殺権の性質が相続回復請求権のそれに類似することを理由として、相
続回復請求権の消滅時効(2年と10 年、民法1146 条)が類推適用されると解している。

5 日本との比較

これまで、台湾の遺留分と遺留分減殺請求の制度の概要を論じてきた。台湾の法定相続人は、
すべて遺留分を有する。これに対して、日本では兄弟姉妹は法定相続人であるが、遺留分権を有
しない。台湾の条文は、遺留分を「相続分の何分の一」という文言で規定している。そのため、
遺留分を不可侵的な相続分とみるのが一般的である。また、日本法と比べると、台湾法には価額
弁償の規定がなく、現物返還が原則であり、且つ相続開始前の遺留分放棄という制度も存在しな
いため、よりフランス・ゲルマン型の遺留分に近いといえる。


番人
「兄弟姉妹には遺留分がないんだ。」

台湾の判例通説によると、遺留分減殺請求権の法的性質は、物権的形成権であり、日本・フラ
ンスとはあまり違いがない。しかし、減殺請求の対象である処分の法的性質において、台湾と日
本とでは差異が生じる。比喩的にいえば、両者は同じ刀物(遺留分減殺請求権)を有していても、
切断する対象(減殺請求の対象)がそもそも異なるので、同じ結果が出てくるはずはないと考え
られる。次の4は、減殺請求の対象、すなわち法定相続分の変更を伴う遺贈などの終意処分につ
いて分析していく。


番人
「台湾でも遺留分の請求の方法も、日本と同じで相手に請求した時に効力が発生するんだ。」


4 遺言による財産処分

台湾民法1187 条は、被相続人は遺留分に反しない限り、遺言により自由に遺産を処分すること
ができると定めている。これは日本民法964 条の規定に類似しており、「遺言による財産処分」と
は何かについて明言していない。台湾の学説は、「遺言による財産処分」とは何かについてまった
く触れておらず、ただ「遺言事項」を定義しているだけである。すなわち、通説によれば、遺言
事項は、監護人の指定、遺産分割方法の指定・指定の委託、遺産分割の禁止、遺言の撤回、遺言
執行者の指定・指定の委託、死亡退職金を受給する遺族の指定、寄付行為、遺贈、相続分の指定
である36。その中の、遺贈、相続分の指定、及び遺産分割方法の指定は同様に被相続人の遺産の
配分に関する指示であり、しかも遺留分減殺請求の目的となる37ため、本稿では遺言による財産
処分という概念で一括する。この三者は確かに概念的には区別されているが、具体的な状況の下
で、例えば、「遺産の中の甲土地はA に分配する」という処分は、一体特定物の遺贈なのか、また
はA の価値が法定相続分を超えたため相続分の指定に属するのか、あるいは遺産分割方法の指定
かは必ずしも容易に判断できないと考えられる38。以下は台湾の判例と学説の見解を考察するが、
結論を先取りすれば、かつての裁判例は確かに学説の指摘通り三種類の遺言による財産処分を特
に区分せずに取り扱っていたが、最近公表されたいくつかの最高法院の判決は、三者の違いを明
確に意識し、学説が想定していなかった遺言による財産処分の効力を認め始めている。

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相続に関する法律 台湾⑧
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

1 遺贈

遺贈について台湾の民法には1200 条から1208 条までの明文の規定が存在する。

(1) 遺贈と認定される処分

例えば、最高法院86 年度台上字第2864 号判決では、遺言で「遺産の中の甲、乙土地をA(被
相続人の孫)に遺贈する」と明確に記載されている場合には、これを裁判所は特定遺贈と認定し
ている。受遺者と遺贈者との関係から観察すれば、遺贈は確かに法定相続人でない者に対するも
のが多いが、法定相続人への処分を遺贈と解している判例も一定数は存在する39。

(2) 遺贈の法的効力

遺贈の法的効力について、台湾の民法は物権変動につき形式主義を採り、不動産の物権は登記、
動産の物権は引渡しがその効力発生要件となっているため、判例(最高法院86 年台上字第550 号
判決)と通説40はともに遺贈は債権的効力しか有しないと考えている。

(3) 遺贈の登記手続

不動産が遺贈の目的である場合には、まずは相続人が相続登記を経由し、その後に登記移転権利
者である受遺者が、登記移転義務者である相続人と共同で、遺贈目的物の移転を申請することと
なる。これは土地登記規則の123 条1 項に明文の規定がある。

2 相続分の指定

被相続人は法定相続分と異なる割合の相続分を指定することができ、これは相続分の指定と呼
ばれている。相続分とは、各相続人の遺産に対する割合的な持分であるから、観念的には相続人
でない者は相続分の指定を受けることができない。台湾の民法には相続分の指定に関する明文の
規定がおかれていないが、判例と学説41はその存在を肯定している。

(1) 相続分の指定と認定される処分

典型的な相続分の指定は、相続人につき、遺産の何割とか、何分のいくつを与えるという処分42
であろう。しかし、台湾の判例は、遺言で遺産の全部または特定の遺産を、特定の相続人に単独
で相続させる処分(つまり割合的な処分ではないもの)をも、相続分の指定として認めている。

(2) 相続分の指定の法的効力

相続分の指定は、本来は相続人の遺産の取り分に対する割合的修正であるため、具体的に遺産
の中の何を取得するのかは遺産分割手続を経ないと決まらない。遺産分割によって特定の遺産が
特定の相続人に帰属することが確定するまでは、相続分は理論的には遺産に対する割合的な持分
である。また、台湾における遺産共有が合有(民法1151 条明文)であり、相続分は潜在的・抽象
的な持分にすぎず、個々の財産に対する具体的な持分ではないため、受益相続人は遺産に属する
特定の財産の持分を第三者に譲渡することができない。これは合有を採用した以上は当然の帰結
であり、日本の状況とは異なっている。

相続分の指定が物権的なのか債権的なのかは、上述の譲渡できないという特徴だけからは決定
することはできない。台湾の学説はこの点について全く論じていないが、以前筆者は、個々の財
産に対する持分を処分できないという性質、また、当然ながら個々の財産の処分もできないこと、
さらに、遺産に対する持分の第三者への一括処分も認められないと解されることから、相続分の
指定は物権的な効力を有しないと主張した43。しかし、2011 年最高法院判決(100 年度台上字第
1747 号判決)は、相続分の指定が遺贈とは異なり、時効にかからないという解釈を採用している。
さらに、登記実務は、遺言により相続分の指定を受けた受益相続人が、被相続人より先んじて死
亡した場合に、その指定された相続分がその直系卑属によって代襲相続されると解している(2003
年8 月29 日の法務部解釈法律決字第920036217 号)。これに対して、遺贈では代襲受遺は原則と
しては認められない(台湾民法1201 条)。相続分の指定と遺贈には、以上のような効力の相違が
あるから、相続分の指定は物権的効力説により親和的である。

(3) 相続分の指定の登記手続

土地登記規則の第120 条第1 項によれば、共同相続人の一人は相続人全員の利益のために、単
独で不動産の合有の登記を申請でき、また、共同相続人全員の同意があれば、共有の登記も申請
できる。その際に、同法第119 条第1 項の書類、すなわち戸籍謄本および相続関係図等を提出す
る必要があるが、これには遺言が含まれていないため、登記官は相続分の指定を知ることができ
ない。そのため、第120 条第1 項の相続登記は必然的に法定相続分の割合に等しい合有の登記と
いうことになる。しかし、内政部の1992 年6 月20 日の台(81)内地字第8181523 号解釈は、相
続分の指定の登記は遺贈の登記に関する共同申請主義と異なると解し、受益相続人が遺言および
他の必要書類を提出すれば、単独で登記を行うことができるとしている。これは日本法の相続分
に関する解釈と同様の結果となる。


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相続に関する法律 台湾⑨
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

3 遺産分割方法の指定

台湾民法第1165 条第1 項は、被相続人が遺言により遺産分割方法を定めることができると規定
している。

(1) 遺産分割方法の指定と認定される処分

台湾の通説によると、分割方法の指定とは、現物分割、換価分割、代償分割等の方法である。
その対象としては遺産の全部はもちろん、遺産の一部について分割方法を指定してもよいとされ
ている44。また、遺産分割に参加できる者は相続人に限られているから、遺産分割方法の指定の
受益者は相続人であろう。
遺産分割方法の指定を認定するのにあたって、裁判例は、一部の遺産に対する処分と一部の相続
人に対する処分を肯定し、緩やかな基準を適用している。例えば、台湾高等法院93 年度重家上字
第8 号判決は、共同相続人が5 人の事案であるが、遺言は、すべての家屋と土地はA に相続させ
るものの、動産については言及していなかった。しかし、A に与える不動産の価値が法定相続分
を超えたため、この処分は相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定とされた。

(2) 遺産分割方法指定の法的効力と登記手続

遺産分割方法の指定は二種類あり、効力や登記手続には相違点がある。その一つは共有帰属指
定型であり、例えば、遺言者が、遺産中の甲不動産を相続人であるX とY に半分ずつ相続させる
というものである。このような処分は、最高法院82 年台上字第2838 号判決によれば、権利移転
効を有せず、指定どおりの登記を実現するためには他の共同相続人の同意が必要である。


もう一
種類の遺産分割方法の指定は、単独帰属指定型であり、すなわち、特定の不動産を特定の相続人
に取得させるものである。最高法院97 年度台上字第2217 号判決は、被相続人の死亡時に当該遺
言が効力を生じ、その定めた遺産分割方法のとおり、受益相続人が直ちに不動産所有権を取得し、
当該不動産はもはや合有の遺産とはならないため、受益相続人によって単独所有の登記が認めら
れると判示している。換言すれば、このような遺産分割方法の指定の目的物の物権が遺産から離
脱し直接に受益相続人に帰属することとなる。

4 小括

以上の1~3 の内容を表1のようにまとめてみた。
<表1 省略>

遺言は、それ自体の真正性もさることながら、たとえそれが真正の遺言であっても後の遺言と
矛盾する、つまり撤回される可能性があるという、常に不確実性を伴うものである。遺言を用い
れば単独で登記名義を自らに移転できるという相続分ないし単独帰属型の遺産分割方法の指定は、
受益者でない共同相続人を害する恐れがある。すなわち、受益相続人が素早く目的物の登記を得
て、第三者に売却した場合に、後に遺言が無効と判明しても、(登記の公信力により)第三者が
善意で登記を信頼した限りは物権を取得することができるため、他の共同相続人は目的物の返還
を主張しえず、受益相続人に対して損害賠償を請求することしかできない。


したがって、台湾に
おいて遺言の危険さと強力な遺言による財産処分で被害を受ける可能性のある者は、共同相続人
に限られており、取引上の第三者は登記の公信力によって守られているため、被害者とはなりえ
ない。言い換えれば、遺言による受益者は、場合によっては相続人より優位であるが、第三者と
の関係では登記がなければ何も主張しえない。日本では法定相続分、相続分の指定、分割方法の
指定における受益相続人は登記なしに第三者にも権利主張できるため、第三者の保護が問題とな
っているが、台湾ではそれは特に懸念されていない。


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相続に関する法律 台湾⑩
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


5 遺産分割

相続開始後の遺産共有状態は、遺産分割が行われるまでの過渡的なものであり、相続人は、分
割を禁止する特別の定めがない限り、いつでも自由に遺産分割を請求することができる(台湾民
法1164 条)。

遺産分割の対象となる財産については、台湾は日本よりその範囲が広いといえる。すなわち、
日本において、可分債権と債務は共同相続人に相続分に応じて分割帰属し、遺産分割の対象とな
らないのみならず、特定遺贈などの目的物は受遺者に移転し、これも概念上、遺産分割の対象と
ならない。これとは対照的に、台湾では、可分債権と債務は相続人に分割して帰属せず、特定遺
贈にも物権的効力がないため、これらのものは全て遺産分割の対象となる「財産」にとどまる。
次に、遺産分割の方法について、台湾の学説は疑問もなく「遺言による分割方法の指定」、「協
議分割」と「裁判分割」の三種類あると述べている46。台湾の民法相続編においては、遺産分割
の方法に関する規定があるのは、「分割方法の指定」についてだけである(1165 条1 項)。その他
の分割方法に関しては、物権編の共有に関する規定を準用する必要がある。830 条第2 項は「公
同共有物分割の方法は、法律に別段の定めがある場合を除いて、共有物分割に関する規定によら
なければならない」と規定している。遺産も公同共有物に属するため、遺産分割の方法は、この
条文に基づいて一般的な共有物分割の規定が適用される。すなわち、共同相続人は、まず協議の
方法によって遺産分割を行い、協議により分割方法を定めることができないときにはじめて、裁
判所に分割の裁判を提起することができる(824 条)。

6 台湾の相続制度の特徴

本章で述べてきた内容を今一度整理する。相続開始後、相続人が複数の場合に、遺産はまず相
続人の共有に属する状態となる。中華民国民法は、かつての兄弟の同居共財の状況に鑑みた上で、
相続開始後の遺産をなるべく一体として保つべく、この段階の遺産の法的性質を合有と定めてい
る。合有における持分が抽象的なものであるため、共同相続人は遺産に属する個々の財産につい
て具体的な持分を有するわけではなく、それを処分することはできず、また遺産全体の相続分を
処分することもできない。このことは遺産の一体性の維持に有利であるが、反面、迅速な処分が
必要な場合、例えば、相場が高価な時に株式を処分しようというときは、合有の状態は不便であ
る。

番人
「兄弟姉妹を含めて家族が同居していることが多かったのかな。」


合有の状態を解消するためには、遺産分割の手続が必要であるが、遺産分割の基準は法定相続
分のみではなく、被相続人による意思表示(相続人に遺贈・相続分の指定・遺産分割方法の指定)
がある場合はそれが優先する。ただし、これらの意思表示が遺留分を侵害するなら、遺留分権利
者は減殺を請求することができる。実際に、遺言に対して調査した結果、台湾の遺言受益者は、
ほとんど法定相続人であり、第三者の割合が少ない47。すなわち、遺留分減殺請求の当事者は、
多くの場合は両方とも共同相続人である。遺産の合有および債権的効力しか有しない遺言による
財産処分は、遺留分減殺請求を含む相続に関する紛争を遺産分割まで凍結させる。遺産分割の手
続では、法定相続分・被相続人の遺言による財産処分・遺留分の問題を総合的に斟酌し、一括し
て解決することができる。これに対して、遺言による財産処分には物権的効力がある場合には、
遺言受益者は、他の共同相続人の協力を経ずとも単独で不動産の登記名義を自らに移転すること
ができる。この場合には、当該目的物がすでに受益者の単独所有物となり、もはや合有の遺産に
属さないため、遺留分権利者は、遺産分割手続を経ず、直ちに当該目的物に対して遺留分減殺請
求権を行使することが、理論的には不可能ではないが、台湾の判例(最高法院86 年台上字第2864
号、88 年台上字第572 号、91 年台上字第556 号判決)は、減殺請求により取戻した財産が合有の
遺産に復帰し、遺留分減殺請求権者が遺留分に相当する遺産を取得するためには、やはり遺産分
割を経由しなければならないとしている。換言すれば、遺産分割は、遺留分減殺請求の前提とな
る手続であり、そこで遺留分の問題の解決が期待されている48。


実体法のみならず、手続法上も同様の結論が導きだされる。すなわち、2012 年6 月1 日の家事
事件法施行前から、台湾では遺産分割事件も、遺留分の減殺請求に基づいた物の返還請求または
共有物分割の事件も、地方裁判所の管轄である。そのため、遺産分割の裁判の中で遺留分減殺請
求の意思が示されれば、取り戻された部分が観念上遺産に復帰し、遺産分割の対象となる。新竹
地方法院94 年家訴字第27 号判決(遺産分割事件)は、このような扱いの具体例である。すなわ
ち、被相続人は生前、係争土地を被告(子の1 人)に遺贈するという公正証書遺言を作成した。
被相続人には7 人の子がいる。係争土地の他には、めぼしい遺産がない。相続開始後、係争土地
は「合有」の相続登記を経た。遺贈を受けていない原告ら(他の6 人の子)は、遺産分割の訴え
を提起した。訴訟の中で、原告らは遺留分減殺請求を理由として、係争土地を、被告に8/14、原
告の各々に1/14 の持分で分割するよう求めた。裁判所は、まず民法第1164 条を根拠として、原
告らの遺産分割請求権を肯定した。次に、被告は、「遺贈の目的物」が遺産の一部ではなく、遺産
分割手続で分配すべきではないと抗弁したが、裁判所は、本件の受遺者が共同相続人の1 人であ
るから、遺贈の目的物を遺産分割の対象財産とすることは妥当であるとしている。したがって、
原告らの遺産分割の請求は認められた。この判決は、「遺産分割手続によって遺留分が保護される」
見解を採用した実例である。

日本の状況は異なっている。日本では遺産分割事件は家庭裁判所の調停審判による解決が必要
であり、遺留分減殺請求事件については地方裁判所の共有物分割訴訟の手続が必要である。さら
に、遺留分権利者が受遺者に対する減殺請求により取り戻した財産は、減殺請求者と受遺者の物
権法上の共有関係に属すると判例49が解しているため、遺産分割手続で遺留分に関する問題は処
理できず、別個の民事訴訟で決着させるほかない。言い換えれば、日本では遺産分割の審判で共
同相続人間の紛争をまとめて解決できないゆえに、別途で地方裁判所で遺留分減殺請求に関する
訴訟を提起する必要がある。
次の第3 章では、相続以外の制度の改正が相続に与える影響および最近の立法の動向について
述べる。


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相続に関する法律 台湾⑪
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


第3 章 最近の立法の動向

1 生存配偶者の保護——夫婦財産の清算に関連して

第2 章12(1)では、配偶者相続分に関する規定について、1975 年に疑問が提起されたことに言
及した。その後、配偶者相続分は修正されてはいないが、剰余財産分配請求権の導入およびそれ
が夫婦一方の死亡時に適用されうるという解釈により、実質的に生存配偶者の保障が図られてい
る。

1 剰余財産分配請求権の創設(1985 年)

1985 年の民法改正の際には、夫婦財産制の剰余財産分配請求権に関する1030 条の1 が新設さ
れた。すなわち、「(1 項)聯合財産関係が消滅したときは、夫または妻が婚姻関係存続中に取得
し、現有する原有財産から、婚姻関係存続中に負担した債務を控除した後に、剰余があるときは、
双方の剰余財産の差額は、平均で分配しなければならない。ただし、相続またはその他無償で取
得した財産は、この限りでない。(2 項)前項の規定による平均分配が明らかに公平を失するとき
は、裁判所は、その分配額を斟酌して減少することができる。(3 項)第一項の剰余財産差額の分
配請求権は、請求権者が剰余財産の差額があることを知った時から二年間行使しないことによっ
て消滅する。聯合財産関係消滅のときから五年を経過したときもまた同じである」となっている。
その立法理由は、内助の功に対する公平な評価であるといわれている。


当時の台湾の法定夫婦財産制は、「聯合財産制」と称し、スイスの(当時の)法定夫婦財産制で
ある財産併合制(Güterverbindung)に類似しており、夫婦財産の管理・用益・処分権が夫にある。
夫婦一方の死亡は、1030 条の1 の「聯合財産関係が消滅したとき」に該当すると解されるため、
剰余財産分配請求権が発生し、まずは夫婦財産の清算を経てから、残りの財産は相続財産として、
民法相続編のルールにしたがって、生存配偶者と他の相続人に相続されることとなる。この解釈
は学説に広く支持されている。下級審裁判例は分かれており50、最高法院はまだ判決を下してい
ないが、最高行政法院は相続税の前提問題として、死亡時の剰余財産分配請求権を肯定しつづけ
てきた51。このように、生存配偶者の保護に関して、夫婦財産法的な解決と相続法的な解決の両
方を認め、配偶者相続分を引き上げずに問題が解決された。


番人
「台湾の家族関係の法律はスイスを参考にしたんだ。」


2 一身専属性の付与(2002 年)

2002 年には夫婦財産制が大きく改正され、具体的には、かつての「聯合財産制」が廃除され、
代わりに「夫婦別産制」が法定夫婦財産制となった。ただし、1030 条の1 の規定する剰余財産分
配請求権はなお維持されている。つまり、法定夫婦財産制は、婚姻関係中の夫婦別産制と解消時
の剰余財産清算という二本柱から構成されている。


1030 条の1 は削除されずに存在しているが、若干の修正が加えられた。本来、1030 条の1 の下
で、仮に死亡者が剰余の少ない配偶者であれば、死亡配偶者は、生存配偶者に剰余財産の分配を
請求する権利があり、この権利は相続される。これにより、死亡配偶者の相続人は、生存配偶者
に対して剰余財産の分配を請求することができる。これは、夫婦財産の清算という性質からは、
自然的な結論といえる。しかし、一部の論者は、剰余財産の分配はあくまでも夫婦間に限られる
べきであり、夫婦以外の第三者が剰余財産の分配により利益を得ることに強く反対している。こ
のような見解もあって、2002 年民法改正では1030 条の1 第3 項が追加された(議員立法)52。そ
れによれば、「第一項の請求権は、譲渡又は相続されることがない。但し、既に契約によって承諾
された場合、或いは既に起訴された場合はこの限りでない」のである。立法理由は、「剰余財産分
配請求権は夫婦の身分関係に基づいて生じるものであるため、夫婦の一方が死亡したときは、剰
余財産分配請求権はその相続人に相続されるべきではない。また、夫婦の離婚後、一方の債権者
は代位して他方に対して剰余財産分配請求権を行使してはならない。その他、夫婦のいずれもそ
の期待権を他人に譲渡してはならない。…」と述べ、本項の趣旨が剰余財産分配請求権の相続性
と譲渡性(移転性)を否定することにあると明言している。


この一身専属性とは何を意味するのかについては、これまでは必ずしも詳細に検討されてはい
ない。すなわち、夫婦間の剰余財産分配の請求権・義務を、扶養請求権・扶養義務と類似するも
のとして、権利も義務も相続されないと理解すべきなのか、あるいは、剰余財産分配の請求権・
義務を慰謝料請求権・義務と類似するものとして、権利が相続されないものの義務は相続される
と捉えるべきなのかがここでの問題である。その結果、剰余の少ない配偶者(権利者)が死亡し
た場合に、その相続人は、確かに剰余の多い生存配偶者(義務者)に対して、夫婦財産の清算を
主張できなくなる。逆の場合すなわち剰余の多い配偶者(義務者)が死亡した場合に、剰余の少
ない配偶者(権利者)が、死者の相続人に対して剰余の分配を主張できるかは定かではない。
いずれにせよ、学説53はこの「一身専属権」の規定を強く批判している。その理由は以下の通
りである。

(1) 取引の安全を害する。剰余の少ない被相続人の剰余財産分配請求権が相続されないと、相
続債権者の弁済を受ける機会は減ってしまう。その他、相続の場合のみならず、離婚の場合もま
た、剰余財産分配請求権を有する配偶者と取引した第三者は、債権者代位権(民法242 条)と詐
害行為取消権(244 条)を行使できず、取引の安全を害する54。
(2) 剰余財産分配請求権は、夫婦の共同生活における協力により生じたものであるが、財産権
であることは否めない。法定財産制の解消前には、それは停止条件付きの債権であり、性質上は
財産権である。そのため、それを行使及び帰属上一身専属的な権利として定め、あたかも非財産
的な損害賠償請求権のように扱うことは、妥当でない55。その他、「身分関係に基づいて生じる」
請求権もまた、必然的に一身専属的であるわけではない。例えば、民999 条の定める結婚の無効
または取消によって発生する財産上の損害賠償請求権は、条文上、一身専属権となっていない。
1056 条離婚による財産上の損害賠償も同様である56。
(3) わが国が参考としたスイス法とドイツ法は、剰余共同制において、剰余財産分配請求権の
一身専属性を認めていない57。

3 一身専属性の削除(2007 年)

以上のような学説の反対を受け、2007 年には1030 条の1 第3 項の一身専属の規定が削除され
た。その理由は、剰余財産分配請求権は確かに夫婦の身分に基づいて生じたものであるが、その
本質が財産権であり、一身専属性を有さないということである。さらに立法説明では、一身専属
の解釈を採ると、剰余の少ない被相続人には剰余財産分配請求権があるものの、相続されず、そ
の相続人にとっては不公平であり、また、一身専属の故に、剰余の少ない配偶者(すなわち債務
者)の債権者が、代位して、剰余の多い配偶者に対して分配請求権を行使できず、不当であると
指摘されている58。


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相続に関する法律 台湾⑫
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

4 一身専属性の復活(2012 年)
ところが、2007 年に削除された3 項は、驚くべきことに5 年後の2012 年にまた復活した。立
法理由は再び剰余財産分配請求権が夫婦の身分に基づいて生じたものであることを強調し、次に、
裁判所が夫婦間の協力程度によりその金額を調整することができるという同条2 項の規定に基づ
き、この権利が夫婦「自身」に密接に関係し属人性を有するから、一身専属的であり、他人に譲
渡できるような財産権ではないと述べている59。当然ながら、民法の研究者はほとんどこの改正
に反対している60。


番人
「研究者が反対しても改正されたんだ。他の人たちはどうだったんだろう。」


5 小括

剰余財産分配請求権を一般的な権利として捉え、かつ夫婦一方の死亡時にその発生を肯定する
ならば、それは確かに生存配偶者の保障に資するといえる。しかも、婚姻関係存続中に形成され
た財産のみが清算の対象となるので、この保障の仕組みは、(日本法のような)単純な相続的構成
と比べれば公平である。問題は、台湾の現行法は、第三者とりわけ債権者が夫婦間に介入するこ
とをあまりに危惧し、この権利の相続性・譲渡可能性をすべて否定してしまい(義務の相続性・
引受可能性は不明であるが)、結局は、(少なくとも)夫婦の中で剰余の少ない一方の配偶者の死
亡に際して、その相続人は、剰余の多い生存者に対して財産の分配が主張できなくなる。このよ
うな法改正は、夫婦財産の公平な清算を阻害しており、不当である。改善の方法としては、この
ような一身専属の規定を再び削除するか、あるいは、せめて剰余財産分配請求権の相続性を肯定
し、移転性のみを否定すればよいであろう61。

2 限定承認を原則とした法改正

21 世紀に入ってからの相続編におけるもっとも重要な法改正は、2008 年と2009 年6 月に行わ
れた。その契機は相続債務の問題である。すなわち、相続放棄や限定承認の手続きをせず、多額
な債務を相続してしまった未成年の相続人が多数存在し、その救済が急務であると認識され、立
法府は相続編の一部改正に踏み切った62。ただ、2008 年の改正は、無能力または制限行為能力の
相続人(当時の民法1153 条2 項)、および相続開始後に初めて責任を生じた保証債務(同1148 条
2 項)に限り、限定責任が適用され、内容的には中途半端なものであったため、施行されてから
間もなく再改正を余儀なくされた。次に2009 年の改正は、もはや相続人や相続債務の種類を問わ
ず、完全なる限定責任の原則を導入し(現行法1148 条2 項)、しかも、相続人が特別な手続をし
なくても限定責任を主張できるという法改正である。このような過激な改正は、多くの疑問と困
難を残している。例えば、本来、限定承認のために、相続人は一定期間内に相続財産の目録を作
成して裁判所に提出し、限定承認の旨を申述しなければならないが、現行法は、これを不要とし
たため、将来、遺産の範囲や相続債務の範囲について争いが生じやすくなるのであろう。そのた
め、研究者は厳しい批判をしている63。


番人
「何もしなければ、限定承認になるんだ。もらったものの限りで借金とかは支払うんだ。」

3 家事事件法の施行

2012 年6 月1 日に、台湾において家事事件法が施行された。これまでの家事事件手続は、一部
は民事訴訟法(例えば、婚姻訴訟事件、親子訴訟事件など)に、他は非訟事件法(例えば、子の
氏の変更事件、不在者財産管理人選任事件など)において規定されていた。このように審理に関
する法規が異なる法典の中に散在すると、相互に関連性のある家事事件でも、異なる裁判官が異
なる手続きで審理するようになりがちであり、裁判所の人的資源を浪費し、ひいては判決が互い
に矛盾するといった状況になりかねない。よって、婚姻や親子関係に関する家事訴訟手続きと家
事非訟手続きを家事事件法にて統合し、法律の併合によって家族をめぐる紛争や相関する他の家
事事件をより適正に、より迅速に解決並びに包括処理できるよう取り計らうとともに、子の利益
の最大化及び家庭の円満化を図ることを目的として、家事事件法は制定された。同法は、全200
条から構成され、「総則」、「調停手続」、「家事訴訟手続」、「家事非訟手続」、「履行の確保及び執行」、
「附則」等六編によって規定されている。同法はソーシャルワーカーの立会い、手続監護人、家
事調査官、手続の併合、仮処分制度、履行の確保、子の引渡し及び子との面会交流の強制執行等
の新たな制度も創設した。
家事事件法3 条によって、家事事件は、甲、乙、丙、丁、戊の5類型に分かれている。このう
ち、甲類、乙類、丙類は「家事訴訟事件」と呼ばれ、家事事件法37 条によって、家事訴訟手続の
適用対象となる。また、丁類と戊類事件は「家事非訟事件」と呼ばれ、家事事件法74 条によって、
家事非訟手続の適用対象となる。分類の基準は、(1)争訟性の有無、(2)当事者或いは関係者が有
する手続きに対する処分権の範囲、(3)裁判所の職権・裁量権による介入の必要性である。
この5類型の事件とそれの分類基準を合わせて、以下の<表2>で示すこととする。
<表2 省略>
表の左から争訟性が高く、右に行くにつれ争訟性が段々下がっていくことになる。続いて、争
訟性がある甲類、乙類、丙類の三つの事件において、表の左にある甲類事件は、表の右にある丙
類事件より、裁判所の職権・裁量権による介入の必要性が強いので、当事者の有する手続きに対
する処分権の範囲が狭くなる。そして、家事非訟事件である丁類と戊類事件について、表の左に
ある丁類事件は、表の右にある戊類事件と比べると、丁類事件は当事者の有する手続処分権が少
ないので、裁判所の職権・裁量権による介入の必要性がより強くなる。
相続に関する事件は、家事事件に分類されるため、家庭裁判所(原文:家事法院)に管轄され
る。そのうち、相続回復、遺産分割、遺留分、遺贈、遺言書真正の確認等は、丙類事件すなわち
訴訟手続による(家事事件法3 条3 項6 号)。まあ、相続放棄、相続人の不存在、遺言執行者の選
任等、争訟性が少ない事件は、非訟的な丁類事件に属する(同法同条4 項9、10 号)。さらに、家
事事件における包括処理の必要性に鑑みて、手続の類型分化または請求権の差異により、当事者
が複数の訴えを起こさなければならなくなることで、当事者に不本意な出費や裁判の矛盾がもた
らされないようにするため、家事事件法は、併合審理・併合裁判を広く認めている。すなわち、
同法41 条1 項は、「複数の家事訴訟事件または家事訴訟事件と家事非訟事件が同一の事実上及び
法律上の原因に基づくときに、当事者は、一つの家事訴訟事件について管轄権を有する家事法院
に申し立てることができ、民事訴訟法53 条と248 条の制限を受けない」と定めている。したがっ
て、遺産をめぐる相続人間の紛争は、現在では包括的に家庭裁判所に管轄され、一つの手続で解
決されることとなる。

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相続に関する法律 台湾⑬
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


4 相続関連税制の改正

台湾の遺産及び贈与税法によると、経常的に台湾内に居住している国民は、その台湾内外の全
遺産および贈与した財産について、遺産税および贈与税が徴収され(1 条1 項、3 条1 項)、経常
的に台湾外に居住している国民および国民でない者は、その台湾内の遺産および贈与した財産に
のみ、遺産税および贈与税が徴収される(1 条2 項、3 条2 項)。
遺産税の納税義務は、遺言執行者、相続人および受遺者、遺産管理人の順で課される(6 条1
項)。贈与税の納税義務者は、原則的には贈与者である(7 条1 項本文)。遺産税は、被相続人が
死亡した日の課税財産の時価(課税遺産総額)から、免税額と控除額を引いた課税遺産額が税率
に乗じて算出される(13 条)。贈与税もこれに類似し、贈与者が贈与をするときの課税財産の時
価から、免税額と控除額を差し引いた課税贈与額が税率に乗じて算出される(19 条1 項)。
2009 年1 月には遺産と贈与税率に関して重大な改正が行われた。改正前の税率は、課税遺産・
財産の総額が高ければ税率も高くなる累進課税方式が採用されていた。例えば、課税遺産総額が
60 万元以下である場合は、税率は2%であり、課税遺産総額が60 万元を超え、150 万元以下であ
る場合には、税率は7%であった。なお、相続税の最高税率は、課税遺産総額が1億元以上であ
る場合の50%であった。贈与税についても、相続税と同様に累進課税方式が採用されており、同
法19 条によると、贈与税の最高税率は、課税贈与総額が4500 万元以上である場合の50%であっ
た。これに対して、2009 年1 月23 日からは、累進課税方式が撤廃され、遺産・贈与の総額を問
わず、一律に10%の税率が適用されることになった。税率のみならず免税額も改正され、2009 年
1 月23 日から、遺産税の名税額が、700 万元から1200 万元へ(18 条1 項)、同時に贈与税の免税
額も、100 万元から220 万元に引き上げられた(22 条)。

法改正の目的については、遺産税・贈与税の税率を下げなければ国民の資金が海外に流出する
ことが避けられず、減税により、財産を多く持っている人々の資金を台湾へ移動させ、台湾の経
済を活発化させることができると説明されている64。これに対して、減税措置に反対する論者は、
今回の減税措置は高額所得者のためだけの政策であり、正義に反するのではないかと批判してい
る。
生存配偶者の保護についていえば、遺産税には配偶者が400 万元の控除額を有する(17 条1 項
1 号)ほか、配偶者間の贈与は、全額が非課税財産である(20 条1 項6 号)。


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相続に関する法律 台湾⑭
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


第4 章 今後の進展

1 相続編改正案

2011 年に法務部は新たな相続法(全般)改正草案65を行政院に提出した。現在はまだ行政院内
にあり、立法院に送付されておらず、可決の目処はついていない。いずれにせよ、当該草案は、
これまでの判例の見解を明文化し、紛争を減少させることを目標としており、家族の多様化や高
齢社会に対応するものではない。その改正のポイントは、以下のようにまとめることができる。
まず、推定相続人の廃除方法について、現行法では被相続人の意思表示のみでよく、争いを惹起
しやすいため、草案は、遺言、書面、録音、録画等の真意が確認しやすい方法によるべきである
と定めている。次に、草案は、相続回復請求権の消滅時効に関しては、現行の2 年と10 年から、
相続財産を侵害された事実を知った時から15 年へと改めている。第三に、遺言による遺産分割禁
止期間を、最長10 年から、5 年へと短縮した。第四に、自筆証書遺言以外に筆記が必要な遺言に
ついては、自筆のほか、パソコンまたは他の機械によって製作される書類も効力を認められる。


第五に、口のきけない者と耳が聞こえない者のため、遺言方式中の「口述」には、通訳による申
述または自書をも含めると明文で規定した。第六に、遺言における親族会議の役割を、すべて裁
判所に移行させることである。
この草案は、世帯規模の縮小、家族連帯の弛緩、人口構造の高齢化が進んでいる台湾の社会の
変化を視野に入れたものではない。そのため、残された課題は、第3 章の1で述べた配偶者の剰
余財産分配請求権の一身専属化が、生存配偶者の保障にとっては不利であるほか、以下の2では
さらにいくつかの問題を指摘しておきたい。

2 残された課題

1 遺言の増加と遺留分の検討

法律の条文は変わっていないものの、遺言慣行を見る限り、相続の実情は確実に社会の変化と
共に変わってきている。まず、遺言の絶対数及び死亡人口に対する割合は確実に上昇している。
一般の自筆証書遺言と代筆遺言等の数ははっきりしないが、公証人を経由した公正証書遺言およ
び(自筆証書遺言と代筆遺言等に関する)認証を経た遺言の数に関しては、明確な統計資料があ
る。<表3>で示されたとおり、遺言の絶対数は、11 年の間にすでに3.6 倍にも増加している。
それに加えて、この数の毎年の死亡人口に対する割合も徐々に上昇してきているから、台湾社会
における遺言利用者は増えつつあると言ってよいであろう。
<表3 省略>
また、第2 章の4で検討したように、遺言による財産処分の内容を実際に観察すれば、遺贈・
相続分の指定・遺産分割方法の指定の区別が不要だったという伝統的な学説のイメージを超え、
最近の裁判例と登記実務では、徐々に異なった類型の遺言による財産処分が形成され始めている。
このことは、法定された均分・共同相続というルールが被相続人のニーズに合致しなくなり、そ
の結果、被相続人が積極的に遺言を用い遺産配分の内容と方法を変えていることを意味すると推
測できる。その際に、現在の(特に兄弟姉妹にまで与えられる)遺留分制度は、再検討の余地が
あるのであろう。

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相続に関する法律 台湾⑮(終)
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

2 寄与分

次に、共同相続人のうち、被相続人の療養看護や財産の維持と増加に特別な寄与をした者に対して、遺産分割の際に評価すべきなのかという問題がある。中華民国民法立法当時、1930 年に開かれた国民党中央政治会議では、この問題が取り上げられたが、寄与分の条文化は否定された。
その理由は、「親族らは、同居する場合に共同で家産を維持する責任を負い、家産分割後でも、依然として互いに助け合い、協力し合う義務を有する」ため、仮に法律が相続時に子の寄与を評価し、報償を認めてしまえば、親族間の紛争を招きかねない66からである。この考え方について、現在から25 年前に、研究者は、それが個人人格の独立と平等に反し、相続財産の合理的な配分を妨げるものであると批判していた67。その後、一部の学説は、それに賛同し、日本法を参考として寄与分制度を導入すべきであると主張している68が、主流を形成するに至らず、前述した2011年法務部改正草案では取り上げられてはいない。しかし、家族形態の多様化に伴い、共同相続人全員は必ずしも同程度の寄与をするわけではない。相続の実質的な平等を図るためには、やはり日本や韓国のように寄与分制度を導入すべきであろうと考えられる。

番人
「寄与分は、介護ではお金以外にプラスの面はないと思ってるのかな。


3 生存配偶者の居住権の保護

例えば、相続人が配偶者と子2 人で、相続財産が居住している建物のみの場合には、法定相続分どおりに相続し遺産分割すると、当該建物を売却する必要が生じ、配偶者が建物から退去する事態となりかねないとして、生存配偶者の居住権の保護は、日本では盛んに議論されている。これに対して、台湾では、居住権の保護に関する議論は、ほとんど見られない。その理由はいくつかあると考えられる。まず、上述したとおり、配偶者間の贈与が非課税財産であるため、配偶者の居住に配慮する建物の所有者は、生前にいつでも税金を課されずに当該建物を配偶者に移転することができるからである(ただし、相続の開始前2 年以内に配偶者が被相続人から贈与により財産を取得した場合に、当該財産は遺産と見なされ、課税遺産総額に算入される)。次に、生存配偶者が子(共同相続人)の母であれば、遺産分割のため生存配偶者の住居が売却されるという事態はほとんど生じない。それは、台湾の社会では「父母が生存すれば、子どもが家産を分割してはならない」という伝統的な認識が浸透しているからである。


番人
「いい伝統だと思うけどな。父母が生存すれば、子どもが家産を分割してはならない。それと現代的な税の保護。」

また、遺産分割(ないし共有物分割)の方法として、2009 年の物権法改正の際に、824 条3 項により全面価格賠償が認められるようになったため、具体的な遺産分割の事件において、例えば、建物を生存配偶者に帰属させるとともに、当該生存配偶者が他の共同相続人に持分の価格を賠償することが可能となった69。以上のような諸要因からであろうか、相続にあたる生存配偶者の居住権を保護する必要性は台湾では特に注目されていない。


すみれ
「長いよ。」

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