社会福祉法人の評議員が、議決権を行使する場合 内藤司法書士に訊いてみました。

平成28年6月20日厚生労働省社会・援護局福祉基盤課

 社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について(経営組織の見直しについて)という、事務連絡があります。

その中の第2章、評議員及び評議員会(6)イ 評議員会の決議の部分で、このような文章があります。

「また、議決権の行使については、書面又は電磁的方法による議決権の行使や代理人又は持ち回りによる議決権の行使は認められない。これは、評議員には、理事と同様、法人との委任契約に基づき、善良な管理者の注意をもってその職務を遂行する義務が課せられており(社会福祉法38条、民法644条)、このような評議員によって構成される評議員会が執行機関に対する牽制・監督を行う機関として十分にその機能を果たすためには、相互に十分な討議を行うことによって決議を行うことが必要だからである。」

として、評議員会での書面による議決権の行使、代理人による議決権の行使を認めていません。

実務では、あらかじめ評議員の都合のいい日程に合わせて開催するのが普通なのであまり問題にはなりません。法改正に伴う付随的な定款の変更なら、決議の省略(社会福祉法45条の9の10項、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律194条)で済ませます。認めないのは良いのですが、その理由として善管注意義務があるから、というのが私の中で引っかかっていました。

委任契約でも一定の場合は復代理が認められています(民法104条、105条、643条)。理事会は経営判断を含む業務執行をしますが、評議員会は法人運営の基本ルールや事後的な法人運営の確認をするための機関であり、性質が違うように思えます。

 社会福祉法改正前の書籍ですが、「各種法人関係議事録文例集」の著者、司法書士の内藤卓先生に伺ってみました。

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初めまして。宮城直といいます。いつも勉強させていただいてます。

 社会福祉法人の評議員が議決権を行使する場合、委任状、書面による議決権行使は認められるのでしょうか?

 「各種法人関係 議事録モデル文例集」(平成27年)P186(社会福祉法人の評議員会)、P66(一般財団法人の評議員会)では、委任状、書面による議決権行使ともに認められるという記載があります。

 東京都社会福祉協議会「改正社会福祉法対応のための規定集第2弾」P231では、書面による議決権行使や代理人による議決権行使は認められない、とあります。理由としては、社会福祉法38条、民法644条の委任契約における善管注意義務と記載されています。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律172条にも委任に関する規定に従う、の条文があります。

 社会福祉法人において、個別の議案に関して賛否を示した上での委任や、書面による議決権行使を認めても善管注意義務には違反しないと考えますが、先生の見解を教えていただければと思います。

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御回答 (内藤卓)

「各種法人関係 議事録モデル文例集」の解説は,法改正前の取扱いです。法による規律が存しなかったので,緩やかな運用が許容されていたわけです。

しかし,改正後は,現実に会議体を開催して,慎重な審議を行うことが要求されていますので,書面による議決権行使や代理人による議決権行使は認められないことになりました。

先日,取締役会における代理人による議決権行使の問題をこのブログでも取り上げましたが,御説のような立場も一部には見られるものの,極めて少数にとどまるようです。

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というわけで、どうやら私が間違っているようです。

先生の回答をまとめると、

1、改正前は、法による規律が存在しなかったので、緩やかな運用が許容されていた。

2、改正後は、現実に会議体を開催して、慎重な審議を行うことが要求されている。

3、一般財団法人の評議員会との関係には触れない。

4、株式会社の取締役会における代理人による議決権行使と、社会福祉法人の評議員会における代理人による議決権行使を同一視している。

5、私の意見は極めて少数にとどまる。

という感じでしょうか。

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その後、調べてみたことをまとめます。

1、について

法による規律は存在しませんでした。しかし、緩やかな運用が許容されていたとの記載は見つけることができませんでした。改正前は、必置の決議機関ではなく、任意の諮問機関でした。

2、について

改正後についてはその通りです。改正前については、改正前の社会福祉法人定款準則(平成12年12月1日、障890・社援2618・老発794・児発908 別紙2)では、「評議員会を設ける場合には、理事や監事の選任も「評議員会」において行うこととすることが適当である」との記載があり、現実の会議体を開催することが要請されています。「評議員の過半数により」「評議員の互選により」などの記載はされていません。

 先生の著書は、現実の会議体を開催している議事録があり、定款変更や理事の選任を承認ではなく決議しています(P187、188)。

3、について

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の評議員会に関する部分は、書籍刊行のあと、改正されていません。一般財産法人の評議員会は、代理出席は認められない(平成20年度新公益法人に関する説明会P8)ので、書籍の記載は誤り。

4、について

株式会社の取締役会

  会社の業務執行に関する事項の決定、取締役の職務の執行を監督、一部を除く業務執行について、取締役に委任することができる議決機関(会社法362条)。

  社会福祉法人の評議員会

 法人運営の基本ルールや事後的な法人運営の確認をするための議決機関(平成28年11月28日社会福祉法人制度改革の施行に向けた全国担当者説明会資料3、P21)

5、について

 調べることができませんでした。少数意見がどういうもので、どういう効果があるか分からないということが分かりました。

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考えられること

1、について

改正前の社会福祉法人の評議員会が諮問機関なら、なおさら書面による議決権行使や代理人による議決権行使は認められないと考えられます。何故なら、諮問機関は審議して答申することが目的であり、現実に出席することに意味があるからです。決議機関ではないので、欠席しても問題はありません。

2、について

改正前から評議員会を設ける場合は、現実の開催が要請されているので、緩やかな運用が許容されていたとは考えにくい。

3、について

 一般財団法人の評議員会と、社会福祉法人の評議員会は書面による議決権行使や代理人による議決権行使は認められない。

4、について

議決機関であることは共通であり、議決する事項が違う。

5、について

 なし

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