民事信託手続準則案[1]
(4)信託契約書の鑑定
他人が作成した信託契約書の内容に対する鑑定を報酬を得て行う業務を依頼された場合、依頼された司法書士の当該業務は、司法書士法上、正当業務として許容される範囲で行う。なお、当該司法書士が、その善管注意義務(法令実務精通義務)を怠り、当該業務の方法や内容等に過誤を生じることで、信託契約書を作成した他人その他の利害関係人に対して損害を与えた場合、当該司法書士は、同損害を回復するため誠実に対応しなければならない。
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信託契約書の内容に対する鑑定を報酬を得て行う業務を依頼された場合
例
不安な司法書士
「民事信託(家族信託)が専門の○○先生、信託契約書の「チェック」をしていただきたいのですが、宜しいでしょうか。」
○○先生
「はい。良いですよ。(業務委託?)契約書をメールします。「報酬」は見積書の通り(信託契約書の作成と同額)です。」
不安な司法書士
「分かりました。どうぞよろしくお願い致します。」
○○先生
「チェック終わりました。この通りに直して下さい。」
不安な司法書士
「チェックありがとうございます。分かりました。○○先生、ここの部分が分からないのですが、大丈夫ですか?」
○○先生
「100%大丈夫とはいえないけど、条文と私の書籍(やセミナー資料)を読んでください。」
不安な司法書士
「分かりました。お忙しい中ありがとうございます。」
例はたくさんありそうです。
「チェック」は、誤字脱字や形式チェックではありません。
準則案にあるように、信託法の理解を通した契約書の内容に踏み込みます。もしかしたら、全文書き直しというのがあるかもしれません。
○○先生は、教えてあげてチェックする時間も割いているのだから、報酬を貰うのは当然、という意識かもしれません。
また、司法書士間においても当然に単純な業務委託契約、または有償の委任契約を締結することが出来ると思っているでしょう。
個人的には損害が出た場合、不安な司法書士と○○先生が連帯責任を負うのが普通だろうと思います。訴訟になった場合もそのような判断が出ると思います。報酬を信託契約書作成と同じにしているからです。
「お願いされたから、仕方なくチェックしただけ。不安な司法書士から、○○の報告は受けていなかった。」などの理由は、利用者からみると通じないのではないかと思います。
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(5)報酬算定方法
委任を受けた信託登記代理の付随業務または簡裁訴訟代理等関係業務としての民事信託支援業務を行う場合、その業務の報酬算定方法は、司法書士法上の業務規定を法令遵守し、受任方法の法的性格に即した合理的なものであることを、依頼者に対して書面を交付して十分に説明したうえ、依頼者から承諾を得ることを要する。
(6)双方受任と利益相反の回避
司法書士が信託登記代理の登記原因証明情報として民事信託契約書の作成の受任を行う場合、司法書士は、双方受任の利益相反回避措置を行い、信託当事者に対して双方受任のリスクを説明し、信託当事者の双方から承諾を得なければならない。
[1] 渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会