家族信託実務ガイドの記事、(一社)家族信託普及協会代表理事 宮田浩志「受託者の権限」[1]からです。
「家族信託では受託者にどんなころを任せるかが肝」
この段落では、依頼者のニーズに合わせて受託者の権限を決める、というようなことが記載されています。
家族信託の契約書における受託者の権限についての条項で、「受託者は、信託財産の管理、運用、処分をすることができる」とだけ記載してある契約書を見かけることがあります。
私が知る限りでは、家族信託支援業務の初期から、受託者の権限について、この条項だけを記載している書籍や資料などはないので驚きでした。一般の方が作成した契約書なのでしょうか。
実際にあった事案として、商事信託の契約書を流用したばかりに、家族信託の受託者に信託不動産の売却権限が明記されていなかったというケースがあります。売却権限が明記されていなければ、委託者(兼受益者)は受託者に売却する権限を与えたとは解釈出来ません。
誤りです。売却権限が明記されていなくても、委託者(兼受益者)は受託者に売却する権限を与えたと解釈することができます(信託法26条)。
実務レベルにおいて、信託行為に受託者による不動産の売却権限が記録されていない場合に、売買契約を締結することが出来ない場合が多い、ということです。記事の字数制限の問題でもないと思われるので、不思議に感じます。
不測の事態・やむを得ない事情があることを受託者以外の客観的立場で判断できるように、「信託監督人」や「受益者代理人」を置いて、売却時にはその同意を必要とすることも良策となり得ます。
委託者は存命中は自宅を売却したくない、受託者は原則として委託者の意思を尊重して売却しないが、やむを得ない事情がある場合は売却したい、というような事例における対応例です。信託監督人や受益者代理人を置く前に、やむを得ない事情の基準や定義を記録することが必要だと思います。
[1]2021.11第23号P61~日本法令