月報司法書士[1]の記事からです。株主名簿を整備しましょう、定款を見直しましょう、ということは、私が司法書士になった10年以上前から言われていました。司法書士の営業面からいっても、これをきっかけに法人との仕事を増やすことが出来る、というお話や研修もありました。ただ、私の場合ですが、こちらから株主名簿を整備しませんか?、定款を見直しませんか?とそれとなく言ったり小冊子を配って、実際に着手したことがありません。有償・無償を問わずです。
(2016年頃に作った小冊子です。)
全て登記の依頼から始まって、定款が設立時のまま、平成18年施行の会社法改正前から代わっていない、株主名簿はない、株主は多分あの人とあの人と、という感じで作っていきます。そして登記完了後、定款と株主名簿(または社員名簿)を紙とデータで渡します。その後の登記や株主の変更の際、以前渡した物を持っていますか、と聴いて持っていますと答えてもらえる場合が半分くらい、という感覚です。
会社設立は1日で完了、スピード感のある事業を、など定款や株主名簿に時間を割くのは正直なところ法人の利益になったりするわけではないので、お金がかかるし面倒くさいんだろうなと思います。私が法人の立場でも、そのように考えるかもしれません。
参考 内閣府マイナポータル「法人設立ワンストップサービスについて」
https://www.cao.go.jp/bangouseido/myna/index.html#houjinoss
ただ、株主名簿については2016年から株式会社・投資法人・特定目的会社が登記申請を行う場合に株主リストという情報が必要となり、2018年から定款認証時に実質的支配者となるべき者の申告制度が始まりました。そのため株主名簿を作成する機会は少し増えたのかなとは思います。
日本公証人連合会「実質的支配者となるべき者の申告制度が2018年11月30日よりスタート」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=324M50000001009_20190701_501M60000010015
第十三条の四 公証人は、会社法(平成十七年法律第八十六号)第三十条第一項並びに一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)第十三条及び第百五十五条の規定による定款の認証を行う場合には、嘱託人に、次の各号に掲げる事項を申告させるものとする。
一 法人の成立の時にその実質的支配者(犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成十九年法律第二十二号)第四条第一項第四号に規定する者をいう。)となるべき者の氏名、住居及び生年月日
二 前号に規定する実質的支配者となるべき者が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員(次項において「暴力団員」という。)又は国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十四号)第三条第一項の規定により公告されている者(現に同項に規定する名簿に記載されている者に限る。)若しくは同法第四条第一項の規定による指定を受けている者(次項において「国際テロリスト」という。)に該当するか否か
2 公証人は、前項の定款の認証を行う場合において、同項第一号に規定する実質的支配者となるべき者が、暴力団員又は国際テロリストに該当し、又は該当するおそれがあると認めるときは、嘱託人又は当該実質的支配者となるべき者に必要な説明をさせなければならない。
法務省「「株主リスト」が登記の添付書面となりました」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00095.html
商業登記規則
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=339M50000010023
第六十一条 (添付書面)
1項 (略)
2 登記すべき事項につき次の各号に掲げる者全員の同意を要する場合には、申請書に、当該各号に定める事項を証する書面を添付しなければならない。
一 株主 株主全員の氏名又は名称及び住所並びに各株主が有する株式の数(種類株式発行会社にあつては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。次項において同じ。)及び議決権の数
二 種類株主 当該種類株主全員の氏名又は名称及び住所並びに当該種類株主のそれぞれが有する当該種類の株式の数及び当該種類の株式に係る議決権の数
3 登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の総株主)の議決権(当該決議(会社法第三百十九条第一項(同法第三百二十五条において準用する場合を含む。)の規定により当該決議があつたものとみなされる場合を含む。)において行使することができるものに限る。以下この項において同じ。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であつて、次に掲げる人数のうちいずれか少ない人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の数)及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面を添付しなければならない。
一 十名
二 その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が三分の二に達するまでの人数
他に株券発行会社(会社法214条)の場合には、相続税の納税猶予の適用を受ける場合等、株券の担保提供が条件となっています(株券不発行会社の場合は、株式に税務署長が質権を設定することについて承諾した旨を記載した書類)。
国税庁「(問9)担保提供に関する書類等はいつまでに提出しなければならないのでしょうか。」
https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/enno-butsuno/qa/qa_6/q09.htm
株券不発行会社においては、株主名簿への記載・記録は第三者対抗要件(会社法130条)とされており、不動産登記と同じ位置付けを持つと考えると、自分たちで頑張って稼いだお金に関して名義変更などを疎かにしておくのは、少し怖い気もします。株主名簿は、株式会社の本店に備え置く必要があります(会社法121条、125条)。株主総会議事録を10年間ちゃんと保存している会社を初めて知ったことがありましたが、その会社も株主名簿は作成していませんでした。
株主名簿の記載事項は法定されています(会社法121条、148条、154条の2、217条、)。いつかは株主名簿も株主情報、株主記録などと名称が変わるような気がします。株式所得日、1人の株主が複数回にわたり株式を所得している場合、株主が法人の場合などはそれぞれ記載の方法が解説されています。
会社法132条により会社が株主名簿記載事項を株主名簿に記載・記録しなければならない場合でも、そのために株主から情報提供を受ける必要があるというのは、なるほど言われてみれば私が経験した実務では、全て情報提供を受ける形になっているなぁと思い、会社法はその辺を前提としているのだろうか、などと考えました。株主が印鑑を届け出るのは、私はやっていませんでした。株主総会で議決権を行使する場合、委任状を利用するとき(会社法310条)に押す印鑑と照合して本人かどうかを調べるためだそうです。そのようなやり方もあるのだなと思いました。株主に相続が起きた場合、株式譲渡があった場合、更新日の記載など意外と気付きにくいけれど、記録してあると後で助かる、という事柄はたしかにあります。気を付けないと。
私自身は、定款附則を株主名簿にしておけば良いと考えています。保存・管理が難しいのではないかと考えるからです。ですが、株主リストなどを提出することを考えると難しいのかなとも思います。もしくは税務上毎年提出するような書類などと一体化出来ないか、少なくとも年に一回、定款と株主名簿(社員名簿)を見直す機会を作れないかなと思うところです。
[1] 2021.2№588 日本司法書士会連合会P64~
20221116追記
参考
登記研究896号(令和4年10月号)2022/10テイハン■商業登記倶楽部の実務相談室から見た商業・法人登記実務上の諸問題(第103回)
一般社団法人商業登記倶楽部代表理事・主宰者
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート理事
一般社団法人日本財産管理協会顧問
日本司法書士会連合会顧問 神﨑満治郎