渋谷陽一郎「民事信託の実務と書式第2版」

渋谷陽一郎先生の著書[1]が発刊されました。第2版ということで、初版との違いを私が気づいた範囲で書いてみたいと思います(新しい判例や通達、実務、学説、注釈文献の増加は触れません。)。

・田中和明氏(法制審議会信託法部会臨時委員)、遠藤英嗣弁護士の寄稿があること。

・各種条項例の削除(書式は有り)。

・民事信託・家族信託・個人信託の用語の使い分けの整理。

・【図28】民事信託の独断論の立場からの営業信託批判。

・【図69】特別の事務の削除。

・責任財産限定特約の記載場所の変更。

・守秘義務、合意管轄の削除。

・【図73】緊急対応、【図79】信託不動産の修繕の報告・承諾・指図―第4章 受益者の指図権行使に関する実務より―

・災害の具体名(P190,P241)

・【図86、図87】信託の終了についての図

・清算事務の一部の代行受任

・信託法164条2項について

・民事信託のベストプラクティス⑮から標準化の語が消える。

・P277の「信託口」口座の開設・維持についての具体的な記述。

・【書式46】「信託口」口座開設のための確認票(資格者専門職用)の変更

・第8章 司法書士による民事信託支援業務の法的根拠論と手続準則の追加。

→最初にここを読もうと思います。

・全体的に感じたこと

「~すべきである。」「~されよう。」から「~としたい。」「~となる。」「とされる。」へ。

信託の終了に関する文章の増加。

何となく民事信託の利害関係者の合意に関する記述が多くなったような気がします。

文章・書式例のメリハリ 短くなっているところもあれば、確認の事項を付け足しているところもある(署名押印をもって確認した、としていない)。


[1] 令和2年8月 民事法研究会

任意後見と民事信託の連携

民事信託の仕組み

●委託者の特定の財産の所有権を移転して、受託者(親族等)に管理処分してもらう制度。
●受託者は、信託財産の所有権を取得するが、その所有権から生じる利益が受託者に帰属することはなく、受益者に帰属する。 
●受益者は受託者に対する債権者であり、受益債権を通じて信託財産から利益を享受することになる。

・受託者に所有権が移転する。 受託者は、受益者のために、信託目的に従って、不動産等を管理処分する。

 司法書士、弁護士、学者、税理士が集まった勉強会の備忘録です。なお、私は今回の発表者の実務に関しては肯定的ではありません。。Twitterで知った、マウントを取る、という姿勢が無理でした。質問の一部は一番下に掲載しました。

2020年度民事信託勉強会  令和2年9月2日(水)

 後見制度(法定・任意)と民事信託の関係性のイメージ
 民事信託の設定によって、本人から切り離された財産

●後見制度は、財産管理のみならず身上保護(施設入所・入院など)も 対象となるため、本人の生活全般についての支援が可能となる。

●後見人は、本人の全財産を包括的に管理することができるため、財産状況が分からない事案においても、積極財産・消極財産の調査をすることができる。

●後見人は、将来、本人が取得する財産(例えば、相続財産・年金・ 保険金等)も管理することができる。

 受託者も、将来、受益者が取得する財産をその都度、信託財産に属する財産として管理することは可能だと思います。

●後見人は投資・投機行為はできない。本人の財産は、本人のた めに安全に管理される。

 任意後見制度の場合、異なると感じます(任意後見契約に関する法律2条)。民事信託ならば投機行為が出来るのか、分かりません。

●後見人は、判断能力が十分でない本人に代わって、遺産分割協議をしたり、訴訟を提起をしたり、高齢者虐待の被害等にも対応することができる。

任意後見制度の場合、少し異なると感じます(任意後見契約に関する法律2条)。また、信託法132条、139条。

平成29年度 「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果報告書 

厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部
障害福祉課 地域生活支援推進室 

https://www.mhlw.go.jp/content/12203000/000464431.pdf

●裁判所による監督体制がある。 ➡後見制度は、本人の権利擁護を中心に据えた生活支援を行うた めには、必要不可欠な制度である。

 少し異なると感じます。(信託法150条、信託法研究34号 新井誠「平成18年信託法と民事信託」信託法学会2010、新井誠「信託法」P389~ 2014年有斐閣)

民事信託 
特定の財産をめぐる法律関係 
●特定の財産につき目的を定めて受託者に管理処分等を託すものであり、投資用不動産の購入など、後見制度では難しいとされる積極的な財産管理も可能となる。

 任意後見契約の定め方次第では、可能だと感じます(任意後見契約に関する法律2条)。

●民事信託では、特定の財産(信託財産)以外は管理できない。信託を設定しなかった 財産や将来取得する財産(相続財産・年金・保険金など)については、本人が追加信託しない限り、受託者は管理することができない。なお、本人が判断能力を欠く状況になった後は、追加信託をすることはできない。

 任意後見契約の内容によっては、少し異なると感じます(任意後見契約に関する法律2条)。その他に、信託法146条、139条。

●入院や施設入所等の身上保護、遺産分割・訴訟等の法律行為については、対応できない。➡民事信託は、後見制度を「補完」することは可能であるが、「代替」(=後見制度は不要)となる制度ではない。民事信託でできないことは、後見制度を併用することで解決できる。それぞれのメリットを活かしたスキーム作りが重要である。民事信託特定の財産をめぐる法律関係 ➡信託法には、次のようなことが規定されている。

 信託法132条、139条。民事信託で出来ないことは後見制度を併用することで解決が出来るのか、分かりませんでした。

 ●誰が受託者になることがきるのか? ➡受託者の資格(§7)※未成年者は不可●どのような信託が禁止されるのか? ➡受託者の利益享受(§8)、脱法信託(§9)、訴訟信託(§10) 詐害信託(§11)

民法7条、90条など。

 ●信託契約の内容を変更する必要が生じた場合は? ➡当事者の合意による変更(§149)、変更を命ずる裁判(§150)3 3 後見制度(法定・任意)と民事信託の関係性のイメージ

信託法149条3項の範囲

 【どのようにして、信託が終わるのか】  ●信託の終了事由は何か? ➡法定の終了事由(§163)、合意による終了(§164)、 終了を命ずる裁判( § 165)など

信託法163条1項9号の範囲

 ●信託が終了した場合に受託者(清算受託者)がすべきことは何か? ➡現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済、受益債権に係る債務の弁済、 残余財産の給付(§177)

遺言代用信託(§90) 「委託者が死亡した時にBが受益権を取得する」等の定めのある信託 

受益者連続型信託(§91) 「受益者Aの死亡によりAが有する受益権は消滅し、Bが新たな受益権を取得し、B の死亡によりBが有する受益権は消滅し、Cが新たな受益権を取得する」等の定 めのある信託

➡信託契約書の中で、遺言代用信託や受益者連続型信託に関する定めを設けた場合、その定めによって、受益権が承継される。つまり、受益権は受益者の相続人に承継されるのものではない。

後記「民事信託設定により、遺言は、撤回したものとみなされるので、遺言を活かすことはできない。」との整合性が分かりませんでした。後記のように考えて上の方法を採ると、信託契約は終了してしまうと思います。

4 任意後見で管理する財産と民事信託で管理する財産の 切り分け方の視点 

・信託を設定できる財産か否か 農地・・・農業協同組合等が引き受ける場合を除き、農地は 信託できない(農地法第3条2項3号)。

 年金・・・年金受給権は、一身専属権であり、信託できない。

預貯金債権のことかなと感じます。

cf.法律上は可能であるが、事実上、制限される財産もある。 上場株式、生命保険、担保付の不動産、など。 ➡ 任意後見での管理が望ましい。

 生命保険の何を信託財産に属する財産とするのか分かりませんでした。担保付不動産については、金融機関との調整になるので直ぐに任意後見という考えにはならないのかなと感じました。

➁任意代理(財産管理契約)の代替として機能し得るか

 昨今、移行型任意後見契約(任意後見契約が発効するまでの間、任意代理で支援するもの)の問題点が指摘されている。

どこで問題とされているのか、分かりませんでした。

【問題点】 ●監督制度がない(ただし、LS会員は、監督を受けている。)
●任意後見契約を発効すべき時期にあるにも関わらず、任意後見監督人の選任申立てをせず、任意後見受任者による不祥事が発生している。
➡将来型任意後見契約を原則とし、任意後見契約の発効までの支援を 任意代理ではなく、民事信託によることは可能か?
➡民事信託では、信託監督人・受益者代理人を設置して監督を強化する ことはできるが、実効性は未知数。

 「将来型任意後見契約を原則とし、任意後見契約の発効までの支援を 任意代理ではなく、民事信託によることは可能か?」前記の通り、民事信託は、信託財産に属する財産とするには制限があるので、任意代理契約の代替とはならないのかなと感じます。

・任意後見の限界を補うことが可能か

 任意後見では、積極的な資産運用や相続税対策は、難しいとさ れる。
➡老朽化した収益不動産の再築、資産の組み替えの予定がある場合は、その財産を民事信託で管理することは有益である。 ただし、一定の限界もある(22頁、52頁参照)。

任意後見契約の内容次第では可能だと考えます(任意後見契約に関する法律2条)。

Cf. 任意後見制度における財産管理の在り方について、独自の見解を示す論考として、実践 成年後見NO.85(民事法研究会)「任意後見の相談現場からみた利用されるためのポ イント」(司法書士大貫正男)』がある。これまで議論されることが少なかった論点で あり、示唆に富む論考であるので参考にされたい。

・関係者の理解を得られるか、不明瞭な実務上の論点等は無いか、老朽化した収益不動産の再築、資産の組み替えに備えるため、収益不動産を信託財産とするにあたり、担保権者の同意を得られるか?

●被担保債権の扱い(免責的債務引受・併存的債務引受)はどうする か?

●建物を新築する際、信託内融資を受けることはできるのか?

●税務上の問題(債務控除の可否など)は無いのか? ➡金融機関と調整がつかなければ、民事信託で管理する財産とするこ とは難しい。

不明瞭な点は、事前に依頼者に伝えておき、その都度対応していくことになると思います。

本人(委託者)の意思尊重と本人保護の観点

 本人(委託者)が、任意後見制度を利用することによる負担(親族が担う任 意後見人の事務負担、任意後見監督人の報酬の負担等)を回避するために、 民事信託を利用したいと考えているケース。

 専門家が任意後見人候補になることは不可能なのかなと感じました。任意後見監督人の報酬の負担等について、どのように説明し民事信託の報酬と比較するのか分かりませんでした。

この場合、本人(委託者)の大半の財産は民事信託で管理し、その他の財 産管理や身上保護については、監督が及ばない家族の事実上の支援によるこ とになる。しかし、受益者の保護を考えると、果たして、これでよいのか?

任意後見制度を利用することで良いのかなと感じました。

➡この点、信託監督人や受益者代理人を設置して、受益者を保護することも 考え得るが、監督の実効性は未知数である。 民事信託で管理する財産の範囲は、本人保護の観点も考慮した上で、慎重 に考えるべきであろう(相談者の私見)。

 信託監督人や受益者代理人の属人性によるのかなと感じました。相談者の私見という部分はよく分かりませんでした。

【相談者の不安・希望】 
(1)認知症に備えておきたい 
(2)月極駐車場の土地について 相続税対策も視野にいれて、小規模保育所・有料老人ホーム・コンビ ニなどの事業用地として貸してはどうか、収益アパートを建築しては どうか等の提案を受けることがあるが、自分では判断できない。空き が多くなってきた駐車場経営をこのまま続けるのがよいのか、相続税 のことも考え、何らかの対策をしておいたほうがよいのか、売却した ほうがよいのか、悩みは尽きない。 土地活用については、すぐにでも、会社を経営する長男に託したい。

(3)自宅について 可能な限り、自宅で過ごしたい。施設に入所することになっても、 子供等と集まる場所として使いたいので、売却したくない。 維持管理費が負担になるようであれば、売却してもよい。

(4)遺産の承継について 子供等で、そのときの経済状況等に応じて、話し合って決めてほし い。 

連携(事例)

(1)認知症に備えておきたい 兄の相続が開始したときに、相談者の判断能力が低下している場合 は、本人に代わって遺産分割協議を行う後見人等が必要となる。 ➡民事信託だけでは不十分。任意後見の利用が必要となる。

(2)月極駐車場の土地について 移行型任意後見契約で対応することも考え得るが、任意代理の段階 では、実務上、代理人のみで対応することはできず、相談者の負担軽減とはならない。 民事信託を利用すれば、受託者に所有権が移転するので、本人の関 与は不要となり、相談者の負担軽減につながる。

(3)自宅について 本人は居住中であり、月極駐車場の土地のように管理の負担はないので、 受託者名義で管理する必要性は低い。 自宅を信託財産としてもよいが、本事例では信託財産とはせず、必要が生じたときは、任意後見人において売却することにした。 

(4)その他の財産について 株式、投資信託、預金、将来取得する年金・相続財産の管理は、任意後見で対応する。

 相談者は、長男だけに負担をかけたくないと考えていたため、二男 を任意後見受任者、長男を受託者として、役割分担をしてもらうこ とにした。

任意後見受任者:二男 

任意後見で管理する財産:自宅・株式・投資信託・預金 ⇒静的な財産管理 受託者:長男 信託で管理する財産:月極駐車場、現金(当面の維持費相当額) ⇒積極的・柔軟な財産管理 

6 任意後見人と受託者の兼任の可否
 事案によっては、親族が少ない等の理由で、任意後見人と受託者 を別人とすることができない場合もある。
任意後見人と民事信託の受託者を同一人とすることはできるか? ➡任意後見人と信託の受託者を兼務することは原則として不可であろう。

任意後見人は、受益者の代理人として受益者の監督権限等を行使する ところ、受託者を同一人とすると利益相反関係が生じてしまうため。

信託法では、受託者は信託管理人・信託監督人・受益者代理人とな ることはできないと規定されており(法124条、137条、144条)、 任意後見人は受益者代理人に準じるものと考えられるから。 【新井誠・神田秀樹・木南敦編「信託法制の展望」(日本評論社)383頁には「受託者が 任意後見人を兼務することは慎重に扱うべきである」の記載がある。】

②任意後見人の代理権目録から、委託者の権限と受益者の権限を 除外すれば、任意後見人と受託者を兼ねることは可能か? ➡前記➀(ⅰ)の趣旨からすると、利益相反関係は生じないため可能 であるとも考えられる。

実例を有しているが、慎重に検討す べきである。なお、この場合、受益者を保護するために、受益者代理人を設置するのが望ましいと考える。

実際に経験した際に、慎重な検討は具体的にどのように行ったのか分かりませんでした。

cf 任意後見人と受託者が兼任する場合において、受益者代理人を設置することについては、司法書士山崎佳乃先生が意見を述べておられるので、参考にさ れたい(信託フォーラムVol.8、44頁)。

 民事信託における任意後見人の役割

➀信託財産以外の財産を管理する。
②受益者を代理して、受託者から受益債権にかかる給付を受ける。
③委託者の権限・受益者の権限を代理行使して、受託者を監督する。
④身上保護を行う。 
⑤登記義務の履行 ※農地法5条の許可を停止条件として、農地を信託した場合において、 条件成就した際の登記の義務の履行、など。

 任意後見契約の内容次第なのかなと感じました(任意後見契約に関する法律2条、例えば登記義務の履行(債務の履行)のみではなく、農地法の許可申請など)。

 ①で信託財産以外の財産を管理しているのに、②で受益債権にかかる給付を受けることが出来るのがどのような構成を採っているのか分かりませんでした。

専門職の関わり方

➀ 受託者(親族)・任意後見人(親族)・受益者代理人(親族) ➡監督機能を果たすことが可能か?

➁ 受託者(親族)・任意後見人(専門職)・受益者代理人(親族)

③ 受託者(親族)・任意後見人(親族)・受益者代理人(専門職) ➡受託者を監督するだけで十分か?

④ 受託者(親族)・任意後見人(親族)・受益者代理人(親族) 受託者の支援(専門職) ➡専門職が受託者の法律顧問のような役割につくことの重要性。 弁護士山中眞人先生がこの重要性について述べておられるので参考にされ たい(信託フォーラムVol.9、51頁)。

司法書士法上のどの業務として行うのか分かりませんでした。

9 積極的な財産管理のために民事信託を活用 する場合の留意点

➀ 成年後見制度では難しいとされる積極的な財産管理を民事信託を活用して 行う。これは、スタンダードになりつつあると思われるが、実務上の論点等を知った上で、活用することが重要である。

(1)積極的な財産管理とはいえ、無制限ではないことを理解しておくこ と。➀受託者が受益者以外の者に対し、暦年贈与することは可能か? ➡不可 ∵信託は、受益者のための制度であるから。



 考え方が逆だと考えます。信託行為の受託者の事務に定めておくことで暦年贈与(例えば、大学在学中は暦年贈与する)し、その間は受贈者は受益者になるという構成だと考えます。

cf.商事信託における暦年贈与の信託商品は、受益権の一部の贈与を受 けた者に対し、金銭を給付する等の仕組みとなっており、受益者以 外の者に給付するものではない。

②受益者の一族の資産管理会社のために信託財産を利用(ex担保提供等) することは可能か?

受託者は、受益者のために財産を管理処分しなければならないため、受益者以外の第三者の債務のため 信託不動産に担保設定することは、受益者の利益に反して第三者の利益を図ることになり、そもそも信託 の目的(趣旨)に反することになる。

そのため、旧信託法時代(平成18年以前)の登記実務では、受益者以外の第三者を債務者とする担保設定の登記は認められていなかった。 信託法では、受託者は、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必 要な行為をする権限を有するものとされ、その権限の範囲が旧信託法のそれと比較して拡大されている。

一方、受託者は、受益者のために忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならず(信託法30 条)、受益者保護のため一定の行為が禁止されている(31条)。受託者による第三者を債務者とする抵 当権の設定の登記は、形式的には受益者の利益が害されることとなり、禁止行為である利益相反行為に該 当するが、絶対的に認められないというわけではなく、信託行為をもって当該利益相反行為を許容する旨 の定めがあれば、かかる登記は認められるものと解される(信託法31条2項参照)。(信託に関する登 記(第二版)横山亘著622頁から引用)

信託法31条2項の利益相反行為を許容する旨の定めは、信託の目的の達成のために必要で受益者の利 益を害しないものとして想定されるものを予め信託行為に明記しておくものである。この許容する旨の 定めは、受託者の利益相反行為の禁止を解除するだけであり、この定めにより受託者が自己または第三 者の利益を図る行為までを許容するものではない(道垣内弘人「信託法」有斐閣212頁)。

したがって、信託行為において、受益者の一族の資産管理会社の債務を担保するため、受託者が信託 財産に属する不動産に担保権を設定することができる旨の定めを設ける場合は、受益者の利益と信託の 目的との関係性にも配慮する必要があると考える。

 登記が認められるだけでなく、信託行為に定めがあり、信託目的に適合し、受益者の不利益にならない行為であれば、法律上、形式上、事実上、実体上可能だと感じます。

【問題のある事例】
信託の目的:受益者の生活支援と福祉の確保

受託者の権限:受託者は受益者の生活に必要となる金銭を信託財産から給付する。生活に必要のない余剰の信託財産は、一族の資産管理会社のために使うことができる。 上記のような趣旨の条項を見かけることがあるが、このような受託者の権限の定めは、信託の目的との関係においても、問題であると思われる。

 「生活に必要のない余剰の信託財産は、一族の資産管理会社のために使うことができる。」というような条項が存在しているのか分かりませんでした。



出口(残余財産の帰属)の難しさを理解しておくこと。

【一般的な帰属権利者の定め方】

①帰属権利者としてAを指定する

②帰属権利者としてAを指定する。Aが死亡しているときはBを帰属権利者と して指定する。等々 ➡このような定めでは対応できない場合がある。

 一般的な定め方ではないと感じます。書籍などでもあまり見かけたことがありません。

【問題のある条項例】

委託者兼受益者Aの死亡により、信託は終了する。 信託財産は、Aの相続財産に組み込まれ、遺産分割協議によって帰属を決定する。

 このような条項を書籍などで見かけたことがないのですが、どのようなところから作成されたのか分かりませんでした。

(問題点) 信託財産がAの相続財産に戻ることはないため、遺産分割協議によることはできない。

【問題のある条項例】 残余財産の帰属権利者は、委託者Aの法定相続人とする。 取得する財産の種類・割合については、遺産分割協議によって定める。

 このような条項を書籍などで見かけたことがないのですが、どのようなところから作成されたのか分かりませんでした。

(問題点) 残余財産は、信託行為の定めによって法定相続人に物権的に帰属するもので あり、遺産分割によって、取得する財産の種類・割合を決めることはできな い。

【問題のある条項例】 
残余財産の帰属権利者は、委託者Aの法定相続人とする。 取得する財産の種類・割合については、帰属権利者間の協議によって定める。

 このような条項を書籍などで見かけたことがないのですが、どのようなところから作成されたのか分かりませんでした。

(問題点) 帰属権利者間で財産の取得の内訳を協議した場合の、法律上・税務上の規定が存在しない。遺産分割と異なり、遡及効の規定はないので、「被相続人か ら取得した」と扱うことができないリスクがあることに注意すべきである。

【以上の問題点の解決策と課題】
➀残余財産の帰属権利者は、「信託終了時の受益者」とする。
➁信託行為では受益権の承継先を指定せず、受益権を相続の対象とする。

③受益者死亡後、遺産分割によって、その受益権を取得する者を決する。

④遺産分割後、信託当事者の合意により、信託を終了させ、帰属権利者(信託 終了時の受益者)に信託財産を引き継ぐ。 ➡この方法によれば、相続人間の協議で信託財産の引継ぎを受けるものを決す ることができ、また、帰属権利者の協議による場合の課税上の問題(50頁 参照)も生じない。

遺産分割協議を行うのであれば、任意後見契約で代替できる可能性も一定程度出てくるのかなと感じます。

【以上の問題点の解決策と課題】 
法定相続人の一人が残余財産の全てを取得するのであれば、上記の方法で対応することができる。しかし、「収益アパートは相続人A、自宅は相続人Bが取得したい」という場合は、この方法では対応できない。

これは、受益者は受託者に対する債権者であり、受益債権を通じて信託財産全体から利益を享受することになる以上、個々の信託財産に紐づいた受益権なるものは観念できないからである。➡あらゆる財産を信託財産とすると、「出口」で困るこ とがある。

 「受益者は受託者に対する債権者であり、受益債権を通じて信託財産全体から利益を享受することになる以上、個々の信託財産に紐づいた受益権なるものは観念できない」という根拠がよく分かりませんでした。受益権の内容の条項で定めることが出来るのではないかと感じました。受益権を割合ではなく個数で分けることが出来れば可能と考えます。

 遺言と民事信託の併用の失敗事例

【事例】⇒遺言作成後、直ちに民事信託の設定を行うスキーム

➡このスキームは、委託者死亡によって信託を終了させ、信託財産を亡委託者に戻し、 遺言の内容によって信託財産を承継させることを意図している。

遺言と民事信託の併用の失敗事例
【スキームの問題点】

●民事信託設定により、遺言は、撤回したものとみなされるので、遺言を 活かすことはできない。

 「民事信託設定により、遺言は、撤回したものとみなされる」については、信託財産に入っていない財産については遺言の効力は活きるので(民法1023条)、少し違うのかなと感じます。

●帰属権利者を亡委託者と指定しているが、死者は権利の主体とはなり得ない。 帰属権利者の定めがないものとして、信託法第182条第2項により、委託 者の相続人に帰属することになる。つまり、「甲不動産・乙不動産は長男に 相続させる、丙不動産・丁不動産は二男に相続させる。」の希望は実現できないことになる。

➡民事信託の設定する際の検討が不十分である。 組成に関与した専門職が対応できず、他の専門職が信託終了に関する登記等 を対応しているケースがままある。

最後に 

民事信託は、歴史も浅く、判例の蓄積もないため、まだま だ手探りの状態で実務を行っている。 信託の魅力を引き出そうとすると、どうしても、内容が複雑になりがちで、その分、不確定要素が多くなる。

講師の個人的なスタンスとしては、民事信託を利用する場 合、他の法律との抵触や問題が生じないようするため極力 シンプルな内容とするようにしている。 信託を活用するにあたり、信託法の知識はもちろん、最新の実務上の論点をおさえておくことが大切である。


質問したこと

受託者が受託者以外の者に対し、暦年贈与は可能か?→不可について
可能だと考えます。暦年贈与を受けた者が受益者に加わるので、考え方が逆ではないでしょうか。

回答・・・受益権を譲渡した後に、暦年贈与を受けるなら、OK

あなたのように、司法書士を対象としてセミナーを個別で開き、信託の学校と称して月額会費、相談料を取っている場合、実質的に信託監督人のような立場として責任が生じませんか?

回答・・・講義と関係がない。

残余財産は、信託行為の定めによって法定相続人に物権的に帰属するものであり、遺産分割協議は出来ない。の根拠は?

回答・・・遺産の共有状態にならないから、遺産分割協議は出来ない 私見。

受益権は一本ではないのでは?信託行為で定めることが出来る。

回答・・・資産の組み換えで、信託終了時の財産の特定が出来ない可能性がある。から一本にした。私見

民事信託設定により、遺言は、撤回したものとみなされるので、遺言を 活かすことはできない、というのは違うのでは?信託財産に重複する部分だけでは?

回答・・・遺言は撤回されたとみなされる。私見。全て相続させるとしても、無理。

How to Open a Trustee Bank Account  受託銀行口座を開く方法

https://www.sapling.com/5793869/open-trustee-bank-account

By Melvin Richardson Updated  March 29, 2017

メルビン・リチャードソン 更新  2017年3月29日

There are many different types of trustee accounts. As a trustee you have authority over the bank account and only you can make withdrawals. You can be a trustee for a minor child or for someone that the state has determined needs a trustee.

トラスティアカウントにはさまざまな種類があります。受託者として、あなたは銀行口座に対する権限を持ち、あなただけが引き出しを行うことができます。あなたは未成年の子供、または州が管財人を必要と決定した誰かの管財人になることができます。

Many things are considered when you open a trustee account, such as state laws. A trust document should be prepared by an attorney. This document appoints the trustee and describes the duties and requirements.

州法など、管財人の口座を開設する際には、多くのことが考慮されます。文書は弁護士が作成する必要があります。この文書は受託者を任命し、義務と要件を説明しています。

Step 1

ステップ1

Go to the bank of your choice. Speak to a relationship banker or a sales associate. Tell her you want to open a trustee account. Tell her who will be on the account and what that person’s status is.

選択した銀行に行きます。リレーションシップバンカーまたは販売員に相談してください。受託者口座を開設することを彼女に伝えます。アカウントに誰が入るのか、その人のステータスは何かを彼女に伝えます。

Provide correct identification. You will need either a driver’s license, state identification, passport or military identification. An opening deposit of $25 to $100 will be needed to open the account, depending on the bank’s policy.

運転免許証、州の身分証明書、パスポートまたは軍の身分証明書が必要です。銀行のポリシーに応じて、口座を開くには$ 25から$ 100のオープニングデポジットが必要です。

Step 2

ステップ2

Determine the type of trustee account. If you are opening a trustee account for a minor you will need the minor’s Social Security number. You will be able to open a savings account. There is no need to have the child with you. Only you can withdraw from the account. The account will read as follows, “John Smith (your name), trustee for Michael Smith (child’s name).

トラスティアカウントの種類を決定します。未成年者の受託者口座を開設する場合は、未成年者の社会保障番号が必要です。普通預金口座を開設することができます。子供を連れて行く必要はありません。あなただけが口座から引き出すことができます。アカウントは次のようになります、「あなたの名前、子供の名前の受託者」。

If you are the trustee of an account for an adult, take that person with you. He will need his identification. Take the trust document or certification issued by the court appointing you as trustee. The account will read, “John Smith” (your name), trustee for Joe Smith. Some trustee accounts require a tax Identification number, which the trustee has to apply for.

大人のアカウントの管理者である場合は、その人を連れて行ってください。彼の身分証明書が必要になります。受託者としてあなたを指名する裁判所によって発行された信託文書または証明書を取ります。アカウントには、受託者である あなたの名前が表示されます。一部の受託者口座には、受託者が申請しなければならない納税者番号が必要です。

Step 3

ステップ3

Turn all of your paperwork over to the bank representative. She will open the account and provide you with all of the details. Sign all of the appropriate documents. The relationship banker will make copies of the paperwork you provided and return your original documents.

すべての書類を銀行の担当者に引き渡してください。彼女が口座を開き、すべてを提供します。あなたはすべての文書に署名します。リレーションシップバンカーは、提供された書類のコピーを作成し、元の文書を返却します。

 Make sure you get copies of the paperwork that you signed and put them with your other paperwork and documentation. Verify with the relationship banker how often you will receive your statements.

署名した書類のコピーを手に入れ、他の書類や書類と一緒に置いてください。リレーションシップバンカーに、ステートメントを受け取る頻度を確認します。

Warning

警告

Don’t prepare the trust documents on your own without an attorney. There could be technical aspects you don’t understand.

弁護士なしで自分で文書を準備しないでください。理解できない技術的な側面があるかもしれません。

Your attorney will know the exact type of trustee you need and the state requirements involved.

あなたの弁護士はあなたが必要とする正確な種類の受託者と関係する州の要件を知っています。

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署名は必要なんですよね。最近、アメリカに住んでいる日本人が、なんでも署名、署名でそれはそれで押印とは違う面倒くささがあるとおっしゃっていたのを思い出しました。

以前、アメリカの信託証書に関する仕事を受けて、文書を見せてもらったのですが、確かに署名がありました。

どこにも弁護士の名前はなかったので、あくまでもアドバイス、書類作成に携わっているのかなと思いました。

信託終了に伴い、受託者が帰属権利者として 残余財産を取得する場合の登記

令和 2 年 9 月 1 日民事信託推進センターテーマ別実務研究会「民事信託登記」 ~信託終了に伴い、受託者が帰属権利者として 残余財産を取得する場合の登記についての考察 

東京司法書士会実務研修(研究?)会と東京法務局は、定期的に照会・回答や意見交換を行っていると教えてもらいました。沖縄県でもあるのですが、東京法務局だと、法務省民事局と直接繋がりやすい、通達になりやすいとかあるんだろうか?などと考えていました。

参考文献等 

横山 横山亘著「信託に関する登記(第二版)」(テイハン 2013) 

藤原 藤原勇喜著「信託登記の理論と実務(第三版)」(民事法研究会 2014)

実務研究会 信託登記実務研究会編著「第三版 信託登記の実務」(日本加除出版 2016)

 寺本 寺本昌広著「逐条解説 新しい信託法」(商事法務 2007) 

条解 道垣内弘人編著「条解信託法」(弘文堂 2017) 

登記記録例 不動産登記記録例の改正について (平成 28 年 6 月 8 日法務省民二第 386 号民事局長通達)

【事例1】東京法務局と協議された不統一な登記事務取扱事例 

1.甲・乙共有名義の建物につき、甲持分について次の信託の登記 委託者 甲 受託者 乙(甲の子) 受益者 甲 信託の終了事由 甲の死亡 帰属権利者 乙 

2.甲の死亡により信託が終了 

3.以下のとおり登記申請(事前相談済み) 登記の目的 受託者乙持分全部移転及び信託登記抹消 登記の原因 平成30年●月●日 信託財産引継 (信託登記抹消の原因 信託財産引継) 権利者兼義務者 乙 登録免許税 登録免許税法7条2項を適用し、1000 分の 4 

4.登記官より次の指摘 A.同一人への所有権移転登記はできないため、登記の目的は『受託者の固有財産とな った旨の登記』となる。 B.登録免許税につき、『受託者の固有財産となった旨の登記』には登録免許税法第7条 第2項の適用がないので、登録免許税の税率は 1000 分の 20 となる。 

5.次のとおり登記完了 a.登記の目的は「受託者の固有財産となった旨の登記」に補正した。 b.登録免許税は、登録免許税法7条2項を適用し、税率は 1000 分の 4 とした。

[協議内容] 

1.登記の目的について(㋑または㋺いずれによるべきか。)

 ㋑ 「信託財産引継」を原因として『受託者の固有財産となった旨の登記』として申請 する。 

㋺ 「信託財産引継」を原因として『所有権移転』登記として申請する。 

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ロが相応しいと思いました。信託設定の際の登記の目的が所有権移転だからです。

2.登記申請人について(㋩または㋥いずれの者によるべきか。)

 ㋩ 上記㋑㋺のいずれの方法による場合でも、登記申請人は「登記権利者 兼 義務者 乙」 である。 

㋥ 上記㋑の方法による場合は、不動産登記法第104条の2第2項を根拠として、受 益者甲の死亡を基因として信託が終了する場合にはその受益者甲の相続人全員が登 記義務者となる。 

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ハだと考えました。

ニの「受益者甲の相続人全員が登記義務者となる。」という場合は、第2受益者、第3受益者、第4受益者と、残余財産の帰属権利者(残余財産の受益者)を特定できない場合に限られると思います。信託契約書やその変更証明書で手当ては可能だと思います。

(参考:日本司法書士会連合会編「条解不動産登記法」P633~P635)

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3.登録免許税について 上記㋑の方法による場合でも、登録免許税法7条2項の要件を充たす場合は、その税率 は 4/1000 であるか。

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登録免許税法7条2項の要件の1つは、委託者の相続人なので、イ、ロの登記の目的、登記原因及びその日付に縛られないと考えます。

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 4.登記記録及び登記識別情報の通知の有無について

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登記識別情報通知書に関しては、通知がないと後続登記に影響が出て、厳しいんじゃないかなと感じました。

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 5.共有名義と単独所有の相違点について 上記1~4について、本件のように甲乙の共有名義である場合と甲単独所有の不動産で ある場合とで違いはあるか。 

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違いがあるとちょっと困るかなと感じました。

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[東京法務局の回答] 

信託登記については、先例等がいまだ少ない状況であり、本事例と同種の事例について も、現在法務省民事局に照会中であり取扱いが確立していないことから、現時点での回答 は差し控えたい。

 [検討] ※[事例1]において、甲単独所有だった場合を考える。

 1.登記の目的について 本登記の目的について、次のいずれの目的にするべきか法務局によって見解が異なる。

 ㋐ 所有権移転及び信託登記抹消

 ㋑ 受託者の固有財産となった旨の登記及び信託登記抹消 

➢ 報告事例①(山﨑芳乃司法書士「登記情報 686 号 43 頁」) 信託条項どおりに解釈すれば、受託者が帰属権利者となったのですから『信託財産引 継』が登記原因とも考えられます。私が事前相談した法務局では、同一人物であっても、 立場が異なるので、『所有権移転』とし、権利者兼義務者として実質単独申請となりまし た。 

➢ 報告事例② ある法務局からは、登記記録例に「信託財産引継」を原因とする受託者の固有財産と なった旨の登記記録例がないため、「信託財産引継」を原因とする場合には、登記の目的 を所有権移転として申請しなければ受理できないとの回答を得たとも聞き及んでいる。 

➢ 「自己信託」について 委託者自身が受託者となり、委託者が自己の有する一定の財産の管理・処分を自ら(受 託者として)すべき旨の意思表示を書面等によりする方法である(信託法3③)。そのた め、当該信託の対象となる権利は、自己信託がされても、受託者(同一人)の属するも のである点は変わらず、権利の移転は伴わないが、受託者の固有財産から信託財産に属 することとなる点で、権利の「変更」に該当し、当該権利が信託財産となった旨の権利 の変更の登記をすることとされた(平成 19 年 9 月 28 日法務省民二第 2048 号民事局長 通達第二5(1))。 

➢ 寺本 380 頁 信託財産は受託者の所有に属するものであり、信託財産と固有財産との区別は、こ の点を踏まえた上で信託財産に関する対内的・対外的法律関係を規律するために設け られている区別であるにすぎない。

2.登記の原因(登記の原因となる事実又は法律行為をいう)について 本登記の原因について、次のいずれの原因となるのか法務局によって見解が異なる。

 ㋐ 委付

 ㋑ 信託財産引継 ➢ 旧信託法22Ⅰ 受託者ハ何人ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス信託財産ヲ固有財産ト為シ又ハ之ニ付権利ヲ 取得スルコトヲ得ス但シ已ムコトヲ得サル事由アル場合ニ於テ裁判所ノ許可ヲ受ケ信託 財産ヲ固有財産ト為スハ此ノ限ニ在ラス

 ➢ 「委付」について(登記研究 624 号 126 頁) 「委付」とは,自己の所有物又は権利を相手方に交付し,自己と相手方との間の法律関 係を消滅させるとの意味であり,昭和 50 年法律第 94 号による改正前の商法 691 条1項に おいて,船舶所有者は海産を債権者に「委付」して責任を免れることができることを規定 していたことから,受託者の固有財産とした場合にも,「委付」という登記原因が用いられ るようになった 。

 ➢ 「委付」の3つの説(横山 584-587 頁)

 第1説 受託者が権限に基づき、信託財産に属する財産を売却する場合で、その売却 が困難なときに、委託者が受託者から融資を受ける見返りとして、金銭債務の 返済に代えて、委託者の一方的な意思表示で受託者の固有財産とすることによ って、委託者が免責されるものとして、あらかじめ当事者間でその旨の契約を 締結しておく必要があり(委付条項)、裁判所の許可を要件として認めされる特 殊な事例(旧信託法22Ⅰただし書)

 第2説 委付条項がない場合であっても、受託者が支出した費用等の支払いを信託財 産で行ったときや、委託者が受託者に報酬を支払うべき場合に、委託者が支払 いをできず、信託財産そのものを与えること

 第3説 信託財産が、受託者の固有財産となるすべての場合

 本事例の検討:各説の固有の財産となった旨の登記及び信託抹消の原因

 第1説 年月日信託財産引継 ⇐横山氏※

 第2説 年月日信託財産引継

 第3説 年月日委付 ⇐登記記録例 No.564

 ※ 委付とは、本来、委付条項に基づき委付行為を行った場合に用いられるべき用語 であり(第1説)、それ以外の原因により信託財産が受託者に帰属するのであれば、 『信託財産の処分』、『信託財産の引継』等の原因を用いることが相当である。

【事例2】 委託者 甲 受託者 乙(甲の子) 受益者 甲 信託の終了事由 甲の死亡 残余財産の帰属 ①A土地は丙(甲の子)に ②B土地は乙(甲の子)に帰属させる

 ①登記申請(帰属権利者≠受託者) A土地につき、甲の死亡を基因として信託が終了し、丙に帰属された場合

 登記の目的 所有権移転及び信託登記抹消

 登記の原因 所有権移転 年月日信託財産引継 

信託登記抹消 信託財産引継

 ②登記申請(帰属権利者=受託者)

 B土地につき、甲の死亡を基因として信託が終了し、乙に帰属された場合 

登記の目的 受託者の固有財産となった旨の登記及び信託登記抹消

登記の原因 変更の登記 年月日信託財産引継(委付?) 

信託登記抹消 信託財産引継 (委付?)

 3.登記原因の日付(登記原因である法律行為又はその他の法律事実の発生した日)につ いて

 信託の終了事由が生じたことによる残余財産の帰属主体への権利移転時期については、 学説上争いがあるが、新法では、この点については特段の規定を設けず、解釈に委ねるこ ととしている(寺本 380 頁注1)。

 ㋐ 対象財産の特定 信託終了日 ㋑ 対象財産の特定+清算受託者の意思表示(受託者の行為) 信託財産の引継日 ⇐横山氏、

藤原氏 ➢ 信託法177条 信託が終了した時以後の受託者(以下「清算受託者」という。)は、次に掲げる職務 を行う。 ① 現務の結了 ② 信託財産に属する債権の取立て及び信託債権に係る債務の弁済 ③ 受益債権(残余財産の給付を内容とするものを除く。)に係る債務の弁済 ④ 残余財産の給付  ➢ 信託法181条 清算受託者は、第 177 条第2号及び第3号の債務を弁済した後でなければ、信託財 産に属する財産を次条第2項に規定する残余財産受益者等に給付することができない。 ただし、当該債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場 合は、この限りでない。

 ➢ 裁判例 ①知的財産高等裁判所平成 24 年 2 月 14 日判決 信託の解除の事例だが、信託終了事由が発生したので(信託財産は著作権)、その時 点で当然に権利が帰属権利者に移転し、受託者の信託財産管理の権限も消滅すると判 断した。

 ②名古屋高等裁判所金沢支部平成 21 年 7 月 22 日判決 残余財産の帰属すべき者に対して帰属すべき残余財産が特定されれば、その時点で 即時に、残余財産の帰属すべき者に対して権利移転が生じるものと判示した。

 ➢ 福田修平司法書士「≪土地の調査で知っておきたい≫不動産登記簿(登記事項証明書) 等の読み方のキホン」税務QA2020 年6月号 36 頁 信託終了原因が発生した日

 ➢ 条解 802 頁 いずれの立場にあっても、所有権等の権利移転が生じるには目的財産の特定が必要 である。そして、残余財産は、信託債権等(に係る債務)の弁済の後でなければ具体 的な内容が確定しないのが原則であり、たとえ信託行為において特定の財産が指定さ れていても、清算段階においてその売却が必要となることもあるため、181 条の要件を 勘案し残余財産として給付すべき財産として具体的に特定することが必要であると考 えられる。その特定においては、清算受託者の行為が必要と考えられ、それは、対外 的な意思表示である必要はなく、内部的な処理で足りると解される。 

➢ 横山 564 頁 信託の終了事由の発生日と、信託財産の引継日及び信託の終了日は、別の法律行為 に基づくものであり、これらが同一日行われるとは限らない。 

➢ 藤原 513 頁、横山 564 頁 所有権の移転及び信託の抹消においては、信託の終了事由及びその年月日、信託財 産の引継ぎ年月日及び帰属権利者等が信託行為において指定されたものであるときは その旨を記載した書面(報告形式の登記原因証明情報)を提出する必要がある。 

 4.登記義務者について 不動産に関する権利が信託財産に属する財産から固有財産に属する財産となった場合に おける権利の変更の登記については、「受託者」を登記権利者とし、「受益者」を登記義務 者とするとされている(不登法 104 の2Ⅱ前段)。本登記の登記義務者については次の二通 りの考え方がある。 なお、信託の登記の抹消そのものは、受託者単独申請である(不登法 104Ⅱ)。 ㋐ 受益者甲の相続人全員 ㋑ 帰属権利者 乙

 ➢ 報告事例③(谷口毅司法書士 当センタ-令和元年度実務入門講座「補足資料」5頁) 帰属権利者等と清算受託者が同一人なので、登記権利者と登記義務者が同一として手 続を進めてよいと私見では考えているが、不動産登記法第 104 条の2第2項を根拠に、 受益者(受益者の死亡を基因として信託が終了する場合にはその相続人全員)を登記義 務者とする法務局も存在する。

 ➢ 売主死亡の場合の売買登記の登記義務者 売買登記未了のまま売主が死亡した後、買主が売主の共同相続人と共に所有権移転登記 を申請するには、売主の共同相続人全員が登記義務者となるべきである(昭和 27 年 8 月 23 日民事甲第 74 号民事局長回答)。 ➢ 受益者としての権利権能 帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなされ(信託法 183Ⅵ)、受益者としての権 利・権能を有する。

 Cf. 自己信託の方法によってされる信託の登記の申請に当たっては、申請人が申請権限を 有する者であること(登記名義人であること)を担保するため、登記識別情報を提供し なければならない(不登令 8Ⅰ⑧)。 登記の目的 登記識別情報の提供 (不登法 22) 登記識別情報の通知 (不登法 21) 自己信託 〇 (不登令 8Ⅰ⑧) 〇 所有権移転 (権利者兼義務者 甲) 〇 〇 受託者の固有財産 となった旨の登記 × (不登法 102 の 2Ⅱ後段) × 8 

5.登録免許税について 不動産に関する権利が信託財産に属する財産から固有財産に属する財産となった場合の 登録免許税は次のいずれとなるのか。 ㋐ 変更の登記 不動産1個につき 1,000 円(登録免許税法別表第 1,1,(14)) ㋑ 所有権移転の登記(登録免許税法7条2項は適用外) 不動産の価額の 1000 分の 20(登録免許税法別表第 1,1,(2)ハ) ㋒ 所有権移転の登記 登録免許税法7条2項の要件を充たす場合 不動産の価額の 1000 分の4(登録免許税法別表第 1,1,(2)イ)

 ➢ 昭和 41 年 12 月 13 日民事甲第 3513 民事局長電報回答 ここにいわゆる所有権の変更の登記とは、受託者名義になされた信託による所有権移転 の登記を、委付を原因とする通常の所有権移転の登記に変更する登記である。すなわち、 本件の事例では、委付によって委託者の潜在的所有権が受託者に移転し、信託による所有 権の移転が通常の所有権の移転に変更することによって信託が終了することになるのであ るから、このような所有権の変更の登記をすべきものとされているのであって、その実質 は不動産登記法第 56 条第1項の規定による権利の変更の登記ではなく、所有権移転の登記 である。しかもその所有権の移転は、委付によって委託者がまぬがれた債務と対価関係に たつのであり、無償名義による移転ではない。したがって、登録税法第2条第1項第3号 の規定を適用し、不動産価格の千分の 50(現在の 20)の税率による登録税を徴収すべきも とされたのである。

 ➢ 登録免許税法7条2項 信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合(要件1)であつて、かつ、当該信託の 効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合(要件2) において、当該受益者が当該信託の効力が生じた時における委託者の相続人(当該委託者 が合併により消滅した場合にあつては、当該合併後存続する法人又は当該合併により設立 された法人)であるとき(要件3)は、当該信託による財産権の移転の登記又は登録を相 続(当該受益者が当該存続する法人又は当該設立された法人である場合にあつては、合併) による財産権の移転の登記又は登録とみなして、この法律の規定を適用する。 

Cf. 事例2 ➢ 平成 30 年 12 月 18 日名古屋国税局審理課長回答「信託の終了に伴い、受託者兼残余財 産帰属権利者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第 7 条第 2 項の適用関係 について」 

登記記録及び登記識別情報の通知について 受託者の固有の財産となった旨の登記における受託者が 1 人の場合においては、信託法 等の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(平成 19 年 9 月 28 日法務省民二第 2048 号民事局長通達)の第3登記の記録例 22 において「原因 年月日委付、所有者 何市何町 何番地 乙某」と記録されることとなっているが、登記記録例 No.564 においては、「所有 者 何市何町何番地 乙某」の記録がない。 なお、受託者が複数の場合には、前記平成 19 年通達の記録例 23 及び登記記録例 No.565 ともに、「共有者住所氏名 持分」を記載することとなる。

 ➢ 平成 19 年 9 月 28 日法務省民二第 2048 号民事局長通達の第3登記の記録例 22 ➢ 登記記録例 No.564 (注1)所有者名は記録すべきと考える(実務研究会 436 頁(注4))。

➢ 平成 30 年 12 月 18 日民二第 759 号民事局民事第二課長回答 複数の委託者のうちの一部の者を受託者とする信託の登記については、自己信託(信 託法第3条第3号)には直ちに該当せず、信託契約(同条第1号)によるものとして、 共有者全員持分全部移転及び信託の登記の方法により登記をすることが相当である。 この「信託行為全体を一体とみなして判断すべきであり、信託行為の一部のみを切り 出して個別に判断することは相当ではない」との考えは、信託設定時のみならず、信託 終了後に帰属権利者等へ残余財産を引き継ぐ場合についても同様であると考えられる。 

2 受託者持分の特定について 乙は、順位3番で固有財産として持分9分の4[A]を、順位4番で信託財産として受 託者持分3分の1[B]を取得している。本件受託者持分移転の「登記の目的」について は次の3通りが考えられる。 ㋒ 乙持分一部(順位4番で登記した持分)移転 及び 4番信託登記抹消 (登記記録例 No.211 参照) ㋓ 受託者乙持分3分の1(順位4番で登記した持分)移転 及び 4番信託登記抹消 (登記記録例 No.553 参照) ㋔ 受託者乙持分全部移転 及び 4番信託登記抹消 上記㋓㋔の方が受託者持分の移転である旨がより明確ではあるが、「受託者の固有財産と なった旨の登記」等の権利の変更の登記等の登記の目的の記録例であるため、移転登記に おいては「受託者乙持分3分の1」「受託者乙持分全部移転」と記録することはできないと も思われる。

登記記録例によると、自己の固有財産である持分[A]と信託財産である受 託者持分[B]をあわせた 乙の持分の一部が移転する旨、つまり上記㋒のとおりに記載し て登記申請しなければならないと考えるが・・・ 

 ※上記のいずれも登録免許税法7条2項の要件を充たす場合は、その税率は 4/1000 

※統一見解が出ていないため、各法務局によって対応は異なる。

以下チャットです。

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信託不動産を売買契約後、決済前に委託者兼受益者が死亡した場合、受託者は清算受託者として登記義務を果たし、」決済できるとの考えた方でよろしいでしょうか?

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経験ないですが、売買契約していたら、決済できるんじゃと思います。

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私は、何故当初受益者の相続人全員が出てくるのか講義を聴いても分かりませんでした。

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受益者(帰属権利者)が登記義務者でも、信託を終了されることについて不利益ともいえるので、義務者であることに問題はないのかなと感じます。

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信託行為で、委託者の地位について定める、信託の終了日(所有権移転の日)を特定可能に設定する、残余財産の帰属権利者を信託終了の日に特定出来るようにしておけば、受益者の相続人全員、委託者の相続人全員という問題は、出てこないのではないかと思います。間違っているかもしれませんが。

認知症の人の症状悪化と家族の介護負担増の実態

広島大学【研究成果】コロナウイルス感染症の拡大により、認知症の人の症状悪化と家族の介護負担増の実態が明らかに ~全国945施設・介護支援専門員751人のオンライン調査結果 ~

概要です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しては長期的な取組が必要であり、そのためにはマスクの着用など含めた新しい生活様式への移行が必要であるとされています。しかし、認知症の方は認知機能低下による情報やサービスへのアクセスの困難さ、環境変化への適応の困難さから新しい生活様式の実践が困難である可能性が考えられます。さらに、新型コロナウイルス感染拡大下においては、外出自粛や施設における面会制限などの感染予防のための取組により、身体機能の低下や行動心理症状の増悪などの悪影響が認知症者に生じていたと言われています。また、認知症の方が感染した場合には、認知症症状や行動心理症状などのため、隔離など必要な対応が困難であったとする意見も聞かれました。認知症者のほとんどが高齢であり新型コロナウイルス感染では重症化するリスクが高いにも関わらず、新型コロナウイルス感染症への備えに関して多くの面で課題があると考えられます。

広島大学大学院 医系科学研究科共生社会医学講座の石井 伸弥寄附講座教授は、一般社団法人 日本老年医学会、広島大学公衆衛生学講座と共同で高齢者医療・介護施設および介護支援専門員を対象としたオンラインによる質問票調査を行い、コロナウィルス感染症感染拡大下(おおよそ2020年2月~6月頃)の期間に高齢者医療・介護施設に入院もしくは入所中の認知症者や在宅で介護保険の居宅サービスを利用している認知症者や家族にどのような影響がみられたのか、またそれに対してどのような取組が行われたのか調べました。

入所系医療・介護施設945施設および介護支援専門員751名がオンライン調査票に回答しました。入所系医療・介護施設の32.5%に運営状況に大きな変化があったと回答しており、さらに、ほぼ全ての施設が入所者の日常的な活動に制限が生じたと回答しました。通所系や訪問系サービスに関しては、介護支援専門員の71.5%が介護サービス事業所の運営状況に大きな変化があったと回答しており、78.7%が認知症者が少なくとも一部のサービスが受けられなくなった、受けなくなったと回答しています。

医療・介護施設の38.5%、介護支援専門員の38.1%が認知症者に影響が生じたとしており、特に行動心理症状の出現・悪化、認知機能の低下、身体活動量の低下等の影響がみられたと回答しています。

介護保険サービスが受けられなくなった場合、家族が介護を行うことがあったと72.6%の介護支援専門員が回答しており、そのため家族が仕事を休んだり、介護負担のため精神的・身体的な負担が増したと回答しています。

今後、新型コロナウイルス感染症拡大下における認知症者の実情についてさらに深く調査するため、秋田大学高齢者医療先端研究センター等と共同で高齢者医療介護施設従業員や介護支援専門員を対象としたインタビュー調査を実施する予定です。

これらの調査結果は、認知症高齢者が感染拡大を予防する「新しい生活様式」を実践するため、どのような支援が適切か検討する基礎資料として活用されることが期待されます。

https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/59484

 先日の相談でもあったので、掲載しました。

夫は奥様に全部あげるという公正証書遺言を書いていました。夫は奥様より10歳以上年齢が上だったから、というのが理由ということです。

現在のコロナ禍で、奥様の認知症が進みました。コロナ禍以前からその兆候があったのかは分かりません。少なくとも日常生活には支障がなかったようです。車も運転していました。

「コロナ禍で、2か月位家から出なかったため、物忘れや転倒が多くなっている。もし、私が先に亡くなったとして大丈夫なのか?遺言を子供に渡すなどに書き換えた方が良いのか?」というような不安がありました。

任意後見契約は締結していません。

奥様の状態を聞いて、任意後見契約の締結が微妙な状態でありやるなら早めに締結した方が良いこと、任意後見契約が締結出来ない場合、法定後見人が就くことなどを説明しました。

遺言を書き換えるかは、任意後見契約が締結出来るか、公証人からの判断を待って考えても遅くはないことを説明しました。遺言は単独行為だからです。

民事信託については、相談者は興味があったようですが、今回は遺言と同様、任意後見契約が締結出来るのか、それからの話になるんじゃないかという説明をさせていただき、民事信託の仕組みの説明を簡単にしました。

奥様は、最近は家の近くを散歩していることを聴いて少し安心しました。2か月も家から出なかったら、やっぱり何らかの変化があって当然だよなぁと感じるとともに、難しい判断でもあるなと思いました。

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