第1 日 時 平成29年6月6日(火) 自 午後1時30分 至 午後5時26分 第2 場 所 法務省第1会議室 第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討 第4 議 事 (次のとおり) 議 事 ○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第42回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。 本日は,能見委員,岡田幹事,島村幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席です。 では,本日の会議資料の確認等を事務当局からお願いします。 ○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。 事前に部会資料41,「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(4)」を送付させていただきました。また,参考人としての御説明を本日予定しております東京大学の山本隆司教授から,御説明に用いられる資料を頂いておりますので,当日配布資料として机上に置かせていただいています。 これらの資料がお手元にない方がいらっしゃいましたら,お申し付けください。よろしいでしょうか。 それから,次回7月4日の部会には,同志社大学の佐久間毅教授を参考人としてお招きすることになっておりますが,秋以降は,公益信託法の見直しに関する中間試案のたたき台についての検討に入っていきたいと考えておりまして,今年9月から12月までの日程を確保させていただきました。7月4日の部会が終了した後,8月はいったんお休みで,9月から従前どおり月1回のペースで今年の12月まで部会を開催します。来年,平成30年1月以降の日程につきましては,もう少し先の時点で調整させていただければと存じます。 皆様には,御多忙のところ誠に恐縮ですが,何とぞよろしくお願いいたします。 ○中田部会長 本日は,参考人として東京大学で行政法の研究,教育をしていらっしゃいます山本隆司教授にお越しいただいています。山本教授には,お手元の「公益信託を成立させる行政行為について」と題する資料を御用意いただいています。この資料に基づいて,40分程度お話を頂き,その後,若干の質疑応答の時間を設けることにしたいと思います。 その後,少し短めの休憩を挟みまして,休憩後に部会資料41について御審議いただく予定です。 山本教授におかれましては,御厚意によりまして,本日の御審議の方にも御同席いただけるものと伺っています。 それでは,山本参考人,どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本参考人 ただ今紹介を頂きました山本と申します。 私は信託法の専門家ではありませんし,ましてや公益信託について知っているというわけでもございません。それから,この場の審議につきましても,この間の経緯を存じ上げているわけではございません。したがいまして,今日はお話をいたしますけれども,かなり的外れな話になってしまうのではないかということを恐れております。その点は,何とぞ御容赦を頂きたいと思います。 それでは,お手元の資料に,ほぼ今日お話しすることを全て書いてございますので,これに沿ってお話をしてまいります。 私に与えられました課題は,立法論として,公益信託の成立要件として,どのような法的性質の行政行為を考えることができるかと,そして,公益信託がそのような行政行為によって成立しなかった場合であるとか,あるいは行政行為が事後的に取り消された場合に,それぞれどのような法的効果が生じるのかと,具体的には,信託法により受益者の定めのない信託が成立するかという点でございます。これを考えるに当たりまして,まず伝統的に行政行為の分類論,類型論とされてきたものについて,1のところで大まかにお話をしたいと思います。 この行政行為の分類学というのは,当時の法律行為論にならいまして,美濃部達吉教授という戦前の大学教授が言ったものを,戦後の田中二郎教授が一部モディファイした上で継承した分類論でして,下の表に書いてあるのがその概要です。これは学問上の名前でして,法令上こういう言葉が使われているとは限りません。例えば,ここで命令的行為として挙がっている許可が法令上は認可であったり,逆に,ここで認可と挙がっているものが法令上は許可と表現されているというようなこともありますので,これは法令上どういう名称を使うかということと直接の関係はないということを,まずお断りしておきます。以下の話も,そういうものだと御理解ください。ただ,この分類論については,既に強い批判が存在するところでございます。 2ページにお移りいただきまして,実際上,今からお話をすることと関係のある批判について申し上げれば,第一にこの分類学においては,多様であって組み合せることが可能な複数の分類の軸が含まれているにもかかわらず,それらが整理されないで,それぞれ異なる観点から定義された諸類型が単純に列挙されていると。例えば,一番大きな分類項目である法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為という枠なのですが,例えば,前者はどのような内容,性質の私人の法的地位を対象として規律するかという基準で分類されているのに対しまして,準法律行為的行政行為というのは,私人の法的地位に対してどのような影響,強い効果,弱い効果を持つかという基準で分類されております。けれども,これは,本来は,縦軸,横軸のように同時に適用されるべきではないかといったような批判でございます。要は,いろいろな分類の軸が混ぜこぜになっているということでございます。それから,第二に,こういった行政行為の各類型が,必ずしも行政作用とかその対象となる私人の法的地位の実体的な性質を反映していないという批判でございます。 こういうことがありますので,現在では,学説上,この分類学というのは余り重視されておりません。例えば,ここに挙げました宇賀克也教授の本などにも,行政行為の分類という形でこういったものは挙がっておりません。しかし,具体的な法制度を設計する際の手掛かりにはなるということがありますので,実務上は今でも使われることがあると承知しております。 ただ,これを使うといたしましても,以上のような批判があるということを踏まえて,一体この分類がどういう基準を前提にしているのか,こういった基準が行政過程においてどのような意味を持つかということを明確にしないと,何か分類をすれば,そこからあらゆる効果,あらゆる答えが出てくるかのような誤解が生じる可能性がありますので,その点はよく注意をして,この分類を使わなくてはいけないということでございます。 ここで手掛かりにしたいのは,その次にあります認可と,それから確認という概念でございます。 まず,認可の方なのですけれども,これは,学問上の定義としては,行政庁が「第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成せしめる行為」ということで,例えば,一番典型的に挙げられるものが,農地法3条による農地等の権利移転の許可,それから,実はかつての,昔の民法の公益法人設立許可が学問上の認可の例として挙げられてまいりました。 こういった認可の中には,学問上の許可の性質を併有するものがあるということが,従来から指摘をされてきました。この許可というのは,「一般的な禁止を特定の場合に解除し,適法に一定の行為をすることをえせしめる行為」というものを指しまして,この農地法上の許可がその例です。つまり,この農地法上の許可を得なければ,農地の売買等をしてはならない,しかし,許可を受ければ売買をすることができるようになるというのが許可の効果でして,学問上の許可としての効果ですし,その許可を得なければ法律行為としての効力が発生をしないと,売買契約の一番本体に当たる部分の効果は発生をしないというのが,これが認可としての効果ということになります。 この場合の許可と認可の関係を考えますと,認可制というのは,許可制の趣旨を徹底させるという意味の制度と言えます。つまり,許可の対象行為を一般的に禁止し,要件を満たす場合にだけそれを許すという点は,認可制の性質を併有しない単純な許可制においても同じなのですが,しかし,単純な許可制の場合には,許可を得ていない行為に対して,不利益処分とか刑罰などの制裁を課す可能性が定められることがあるわけですが,許可制の性質を併有する認可制の場合には,更に法律行為としての効力が一律に否定をされるということがございます。許可制,単純な許可制の場合ですと,法律行為としての効力が場合によっては否定をされることがあると,例えば,民法90条違反であるというふうな形で否定をされることが場合によってはあるわけですけれども,一律に画一的に否定をされるわけではないのに対して,ここでいうところの認可制がとられていると,その法律行為としての効果は画一的に,認可を得ていなければ一律に否定をされるということになります。 ここでは,このように許可制の性質を併有する認可制が,認可の対象行為を規律する効果を行為規制効と呼んでおきたいと思います。要は,許可とくっ付いた認可制の効果ということです。 ただ,実は,先ほどの公益法人設立許可のように,認可制には,今申し上げた行為規制効を趣旨目的にするとは言えないものがあります。かつて公益法人設立許可を受けていない団体については,公益目的で活動することを禁じられていて,それで,それが許可を得ることによって初めてそれができるようになるというように理解されてきたわけではありませんで,むしろ,いわゆる権利能力なき社団,財団として設立許可を受けた公益法人に近づけた法的な取扱いがされてきたところです。 ですから,こういった場合に,認可制の意味は一体どこにあるのかと申しますと,一定の要件を満たして認可を受けた主体に,社会で活動するための一定の法的な地位を定型的に認めると,つまり,一定の権利を定型的に認め,同時に義務を課すということにあろうかと思います。これを,以下では認可の地位設定効ということにいたします。 その次の段落は飛ばしまして,この認可によって成立する法的地位は,法律行為に基づく民事法上の地位に限られません。例えば,伝統的な行政行為の分類論で申しますと,公共組合の設立認可というものが認可の例として挙げられることがあるわけですが,その効果の中心は,民事法上の地位の成立というわけではなくて,組合に公権力を認めるということにあります。土地区画整理組合とか土地改良区といったものが公共組合の例ですけれども,そういうことでございます。 かつての公益法人設立許可も,法人格の成立という民事法上の効果と監督関係の成立という行政法上の効果とを併有しておりました。ただ,最近の教科書では,その点,認可は法律行為の法的効果を完成させると限定をする定義も見られますけれども,これは,先ほど申し上げた行為規制効を持つ認可を想定したものなのであって,認可一般に妥当するというわけではなかろうと思います。認可一般に妥当するものは,むしろこの認可の地位設定効の方であろうと思われます。 そこで,公益信託の話にようやく入るわけですが,公益信託を成立させる行政行為は,少なくとも民事法上は当該信託について信託法上の受益者の定めのない信託に係る存続期間の制限が適用されなくなるという効果,それから,行政法上は,限定された範囲ではありますが,行政庁による監督関係を発生させる効果を持つことが想定されております。このことを考えますと,以下で検討する公益信託を成立させる行政行為は,こういった地位設定効を有するという意味で,認可の性質を持っているということになろうかと思います。ただ,行為規制効を持つかどうかというのは別の問題でして,これは後で述べたいと思います。認可が地位設定効を持つということを確認しておきたいと思います。 逆に申しますと,行為規制効を持たない認可については,地位設定効に反しない限りは,認可を受けていない行為に法律行為としての効果を認めるということも考えられます。公益信託を成立させる行政行為が地位設定効を持つ認可であるとしても,認可を受けていない信託に公益信託法上の効果ではなく,信託法による受益者の定めのない信託としての効果を認めることは,これはあり得るということになります。こうした効果を認めるべきか否かという点は,したがって,その地位設定効を持つ認可の性質を更に別の角度から考えることによって決めなくてはいけないということでございます。 今日の話は,全体的に,結局行政法上はいろいろな制度ができますと,いろいろな選択肢がありますという結論で,その点では余り長々とお話しても仕方がないところがあるのですけれども,大枠として,この枠はなかなか超えるのが難しいけれども,その枠の中でいろいろな制度の選択肢を考えることができると,こんなような話になろうかと思います。 次に,もう1点,確認についてでございますが,これは,「特定の事実又は法律行為に関し疑い又は争いがある場合に,公の権威をもってその存否又は真否を確認する行為」と定義をされておりまして,恩給権の裁定とか発明の特許とか,こういったようなものが例示をされております。これらは,既に成立をしている私人等の法的地位を対象とし,その意味で,私人の実体法上の法的地位を変動させない行政庁の行為,あるいは,私人等の法的地位を対象にするのですが,当該法的地位について決定し規律する効果までは持たない,言わば弱い効果しか持たないというものとして括ることができます。ただ,では,どういう効果を持つかという点は,実は法律によってばらばらでして,統一的に定義をすることはできません。 以上のような性質があるので,この確認という行為には,行政庁に裁量が基本的にないということになります。公益信託を成立させる行政行為につきましても,統一的な行政庁が所管をして,当該行政庁は法令上の基準に従って判断をする,裁量はないという制度にすることが想定をされているのではないかと思いますので,以下でもその点は前提にしたいと思います。行政庁に裁量が認められない行政行為を確認的行為と表現することがありますが,その意味で申し上げれば,以下で検討する行政行為は,その意味の確認的行為ということになろうかと思います。これも,以下の話で前提にいたします。 ただ,実は,確認でない行為だから,逆に行政裁量が常にあるかというと,そういうことはありませんで,現在では,行政裁量が認められるか否かという点については,行政行為の分類学から独立の基準によって判断をされますので,先ほどの認可の性質を持つものについて裁量がないということも,これはあり得るということになります。したがいまして,公益信託を成立させる行政行為の効果は,以上のことから,次の2の方に入りますけれども,地位設定効を持つという意味で認可の性質を持つと。基本的に裁量が認められないという意味で,確認的行為であると考えられます。それで,以下で更に詳細にこの公益信託を成立させる行政行為の法的性質として考えられるものの選択肢を示していきたいと思います。 まず,一つ考えられますのは,地位設定効だけでなく行為規制効も持たせるという選択肢です。言わば,強い効果を持つ認可として考えるという考え方です。つまり,受益者の定めのない公益目的の信託は,認可を受けなければ行ってはいけないと,信託としての法的効果を持たないという考え方です。 これは,現行の公益信託法の1条及び2条1項の体裁に合うようにも見えるわけですが,ただ,この考え方は,行為規制効を正当化する公益上の理由があるということを前提にいたします。認可を受けなければ,受益者の定めのない公益目的の信託を行ってはならないという,これは規制ですので,それを正当化するだけの公益上の理由がなければ,財産権の過度な制限に当たるのではないかという問題が生じます。公益目的事業を行う団体は,公益認定を受けなくても一般社団法人として活動ができるのに,公益目的の信託について,これだけ強い禁止をするというのはなぜなのかということの説明が求められることになります。 ここでの議論も,ここまで強い効果を持たせるということは,恐らく想定されていないのではないかと思います。そこで,公益信託を成立させる行政行為に,こういった行為規制効は認めないで,地位設定効だけを持たせるということが考えられます。この場合には,受益者の定めのない公益目的の信託は,こうした行政行為を受けていなければ,公益信託法上の効果は生じないわけですが,信託法上の受益者の定めのない信託としての効果は持つ可能性があります。そこで,こういった考え方を採る場合なのですが,更に,何を行政行為の対象にするかによって,制度の選択肢が分かれます。 一つには,信託法に基づいて設定をされ,効力を持っている受益者の定めのない信託に対して行政行為を行い,公益信託としての効果を発生させるということが考えられます。言わば,信託法上の受益者の定めのない信託に上乗せをするような形で認定をするものです。これは,ちょうど一般法人法によって設立された一般社団法人,一般財団法人が公益認定を受けるという仕組みとパラレルな考え方ということになります。以下では,これを認定と便宜的に呼ぶことにいたします。 ただ,信託の制度と法人の制度には違いがありますので,公益認定に相当する行政行為について,これをパラレルにそのまま持ってくるということが本当にできるかどうかという点は,検討を要する点です。つまり,設立時社員らが,一般社団法人又は一般財団法人を設立するプロセスと,当該法人が公益認定を受けるために意思決定を行うプロセスというのは,一応区別が可能です。したがいまして,設立された一般社団法人又は一般財団法人を対象にして,2段階目に公益認定を行うという制度は,これは関係者が取る行動のプロセスに適合すると解することができるわけですが,受託者が公益認定を受けるために取る行動は,その信託行為に基づいて行われると考えられますので,信託行為によって信託を設定すると,まずそのプロセスが第1段階としてあって,そして,受託者が公益認定を受けるために行動を取るというプロセスが第2段階であるという,はっきりとした区別ができないということがあります。 したがいまして,この両者の区別を前提にして,信託法によって設立をされて効力を持っている信託に対して,言わば第2段階として公益認定を行うという制度は,必ずしも関係者が取る行動のプロセスに適合しないものがあるのではないかと。具体的に申し上げれば,公益信託としての効果が生じる前に,とにかく信託法に基づいて受益者の定めのない信託が有効に成立をするという期間が必ず必要になるわけですが,こういったことが関係者の不利益にならないかどうかということを検討する必要があろうかと思います。 特に問題になるのは,委託者が公益信託の認定を受けられない場合には,信託を有効に成立させないという意思の場合です。この場合に,信託行為において公益信託の認定を受けられないことが確定することを解除条件として,一旦とにかく信託を成立させるという方策も考えられるわけですけれども,しかし,こういうことを絶対にやらなくてはいけなくなるということが合理的なのかという点は,考える必要があろうかと思います。 そこで,もっと簡単に考えるという選択肢があろうかと思います。つまり,公益信託を設立させる行政行為の行為規制効を否定して,地位設定効だけを認めるという場合にも,単純に公益信託を準備する受託者の状態に対して行政行為を行うと,公益信託を成立させるという制度が考えられます。こういたしますと,信託法による受益者の定めのない信託としての効力の有無から,ニュートラルに公益信託を成立させる行政行為の制度が考えられることになります。これを,以下では,弱い効力を持つ認可ということにいたします。(2)の先ほどの認定との違いは,行政行為の効力そのものというよりは,行政行為を行う前の,言わば初期状態をどういうものとして想定するのかということによるということになります。 こうした認可の制度,今申し上げた弱い効力を持つ認可の制度におきましては,公益信託の認可を受ける前に,信託法上の受益者の定めのない信託の効力を認めるか否か,あるいは,受託者が認可を申請したものの認可を受けることができなかったという場合に,信託法上の受益者の定めのない信託が成立するか否かという点は,基本的には信託行為の解釈によるということになろうかと思います。これは,この制度の直接の枠の中の話ではなく,基本的に信託行為の解釈によって決まるということかと思います。公益信託の認可を受けることを停止条件として信託を成立させる旨,あるいは,逆に公益信託の認可がない限り,信託法上の受益者の定めのない信託とするという定めが信託行為にあれば,それぞれに従うということになります。 ただ,これがないときには,結局,信託行為の解釈に困難が生じる可能性があるので,そこで,その次のところですが,一種のデフォルト規定を法律に定めておくということが考えられようかと思います。つまり,受益者の定めのない公益目的の信託を設定する信託行為に,信託法上の受益者の定めのない信託の成否について定めが置かれていない場合に,どちらにするかということを法律に定めてしまうということで,一方で,公益信託の認可を受けることを停止条件として信託を成立させる旨の定めが信託行為になければ,信託法上の受益者の定めのない信託としての効力が認められるということを法定する選択肢,言わば,信託法上の受益者の定めのない信託の成立を原則とするというデフォルトの規定,他方で,逆に,公益信託の認可がない限り,信託法上の受益者の定めのない信託とする旨の定めが信託行為にない場合には,信託法上の受益者の定めのない信託は成立しないという,逆のデフォルトを設けるということが考えられます。それぞれ,以下では単に信託成立原則規定,信託不成立原則規定と申し上げます。 私はこれ以上の判断はできませんので,どちらにするかということは,ここでの議論かと思います。結論的にといいますか,後での議論との関係で申しますと,今日お配りを頂いているこの補充的な検討という資料がございますが,この第1のところに,公益信託の効力の発生時期ということで,甲案,乙案,丙案と並んでございますが,おおむね,今私が申し上げたこととの対応関係で申しますと,6ページの(1),一番最初に申し上げた認可,強い効力を持つ認可が甲案に相当すると思われます。次の6ページに認定と書いた部分ですが,これは乙案の出発点に対応するかと思います。ただ,内容的には本当に乙案なのかということが若干問題になりまして,内容的には,先ほどの乙案は,むしろ私の書いたものの7ページの(4)の信託成立原則規定をデフォルトとして設けるというのに近い見方になっているのではないかと。それに対して丙案が,7ページのデフォルトとして信託が成立をしないという信託不成立原則規定という考え方に対応するのではないかと思われます。 そこで,次ですが,それでは,この公益信託の認可ないし認定が取り消された場合に,どのような法的効果が生じるのかという,次の話に移ります。8ページです。 具体的には,信託法上の要件を充足する限り,同法による受益者の定めのない信託として信託の効力がなお存続をするのか,それとも存続しないのかということでございますが,これは,先ほどの公益信託を成立させる行政行為をどういう性質を持つものとして制度設計するかによって,答えは変わってくるだろうと思われます。 以下では,非常に極端な場合,公益信託の認可ないし認定が信託法166条1項の定めるような事由によって取り消されるといった場合には,これはもう信託法による信託を存続させる余地はないと考えますので,これはちょっと除いて考えます。もっと普通の場合を考えたいと思います。 まず,先ほどの2で述べたことと全く同じようにパラレルに考えるということが考えられます。すなわち,まず,強い効力を持つ認可の制度を採る場合には,受益者の定めのない公益目的の信託が信託法によって効力を持つことが否定されますので,結局,公益信託の認可が取り消されれば信託は終了すると,これは一切効力を持たないということになります。 逆に,(2)の認定の制度を採る場合は,公益信託の認定が取り消されますと,信託法により受益者の定めのない信託が復活をするということになります。ただ,特段の定めがある場合,公益信託の認定を受けられないことが確定することを解除条件として信託を設定する旨が信託行為に定められている場合は,これは別でありますが,原則としては,信託は復活をすると。信託法により受益者の定めのない信託が復活する,こういうことになりますので,先ほどの二つの選択肢を採ると,制度としては,終了時も同じように考えることになります。 それに対して,2の(3)で申し上げた弱い効力を持つ認可の制度を採る場合は,少し話が複雑になります。まずは,同じように考えるということも,もちろん可能です。すなわち,公益信託の認可が取り消された場合に,信託法による受益者の定めのない信託として,信託の効果が存続するか否かは,基本的に信託行為の解釈による。その判断は,公益信託の認可を受ける前及び認可を受けられなかった場合に,信託法による受益者の定めのない信託が有効に成立するか否かの判断と基本的に同じということになりますので,先ほどの信託成立原則規定はそのまま信託の終了時にも妥当すると,あるいは信託不成立原則規定は終了時にも同じように妥当するという考え方です。 ただ,次の8ページから9ページの方ですけれども,今のこの認可の制度は,実は,信託法による信託の成否からニュートラルな制度ですので,今申し上げたのとは別の選択肢として,公益信託の設定時と終了時との間で,信託法による受益者の定めのない信託の成否について,別の考え方を採るという可能性も排除していないのではないかと思われます。 ここの部分は,私はよく分からないので,ちょっと間違いかもしれませんが,弱い効力を持つ認可の制度によりますと,公益信託の認可を受ける前及び認可を受けられなかった場合に,信託法によって受益者の定めのない信託としての効力を認めるか否かを決定するに当たっては,信託を設定する当事者の意思が主な考慮要素になるだろうと。これに対して,終了時ですけれども,この場合には,公益信託の終了までに信託財産が公益信託として運用されているということが,やはり考慮要素となろうと思われます。つまり,具体的には,公益信託の終了後も,信託法による受益者の定めのない信託を存続させる場合には,財産を計算して分けるという必要が出てくるようです。受託者は,公益社団法人,公益財団法人の場合の公益目的取得財産残額に相当する額を算定し,他の類似目的の公益信託の信託財産としたり,類似事業を目的とする他の公益法人等に贈与するといったような措置を採ることによって,財産を分ける必要があると。これは,かなり複雑な計算措置になり,当事者にとっても制度を運営する国や都道府県にとってもかなりのコストが掛かると。 それから,公益信託の終了後にこのように複雑な計算及び措置を経て分けられた財産によって信託法による信託が存続することが,公益信託が社会的に高い信認を得て第三者から寄附等を受ける上で,若干のマイナスにならないかどうかという点も検討する必要があろうかと思います。 以上,申し上げたここの段落のところは,私は全く素人でよく分からないので,むしろ皆さんで御議論いただきたいと思っております。 そこで,とにかく,公益信託の認可がない状態で,受益者の定めのない公益目的の信託に信託法上の効力を認めるか否かを信託行為の解釈によって判断するに当たって,公益信託の終了時には,設定時に比べて効力を否定するという方向で解釈,判断をするということが考えられるのではないかと思われます。つまり,デフォルト規定を法律に定めるとすれば,むしろ終了時には信託不成立ということにすると。つまり,公益信託の設定時について,信託法上の受益者の定めのない信託の成立を原則とするデフォルト規定を置くという場合であっても,公益信託の終了時については,信託法上の受益者の定めのない信託の不成立を原則とするというデフォルト規定を法律に定めるというわけです。すなわち,公益信託の認可を受けることを停止条件として信託を成立させる旨の定めが信託行為にない限り,信託法上の受益者の定めのない信託としての効力が認められるということを法定する場合にも,一旦成立をした公益信託は,公益信託の認可がなければ信託法上の受益者の定めのない信託とする旨が信託行為に定められていなければ,終了時には信託法上の信託としては存続しないということになります。 更に進んで,一切信託の存続を認めないということも考えられます。ただ,こういう制度が正当化されるのは,かなり強い理由がある場合で,先ほど申し上げたように公益信託終了後に信託を存続させないことの要請が当事者の意思の自由を制限する理由になるほど強いという場合に限られますので,ここまで強い理由があるかどうかという問題になろうかと思います。 やはり,今日配られている先ほどの補充的な検討の資料で申しますと,甲案は,これは先ほどの甲案,あるいは私の資料で申し上げれば,6ページの(1)に述べた強い効力を持つ認可の場合を想定しているか,あるいは私の資料の9ページの(3)のところに書いた,いわゆる弱い効力を持つ認可の制度においても,一切信託の存続を認めないという考え方かと思われます。 それに対して,乙案の方ですけれども,こちらは,私の資料で申しますと8ページから9ページにかけて,(2)という形で信託の成立可能性を縮小すると,具体的に言えば,終了時には信託の不成立をデフォルト規定とするという考え方に対応しているのではないかと思われます。乙案は8ページから9ページの(2)の考え方におおむね対応していると見られます。 最後に,これはほんの付け足しですけれども,認可ないしは認定を受けた公益信託に対して,行政庁及び裁判所がどのような権限を持つ制度が考えられるかという点でございます。これは,今日のテーマから少し外れますので,飽くまで参考程度ということでございますが,述べたいと思います。 公益信託の認可ないし認定を行った行政庁は,信託が認可ないし認定の基準に適合しなくなったという場合や,あるいはその他法令違反があるといったような場合には,認可ないし認定を取り消すことができます。これを行政行為の撤回と申します。公益信託法には,この公益信託の認可の取消しを根拠付ける規定が実は現在置かれておりませんが,しかし,最高裁判所の判例によりますと,一般に法律上の明文の根拠規定がなくても,許認可等を行った行政庁が許認可を取り消すことは可能であると考えられておりますので,現行法の下でもこれは可能なのだろうと思います。 近時の法律においては,しかし,この取消しについては明確に法令上の規定を設けておくというのが普通かと思われます。実際,法人に関する公益認定法にもそういう規定がございます。そういたしますと,更にこれに加えてもっと前の段階で,言わば違反状態の是正を求める勧告とか命令という制度も,これに付随をしてくるということになろうかと思います。 それから,更に,公益信託の認可ないし認定を一旦受けた事項を関係人が変更するというときに,認可ないし認定の基準がなお満たされているかどうかということをチェックするために,行政庁による変更の認可ないし認定の制度を置くことが考えられます。これに加えて,重大な変更でなければ,関係人が行政庁に届出をするだけでオーケーであるという制度も考えられます。行政庁の方がそれでは基準に適合しないと判断をする場合には,先ほどの勧告とか命令という制度を使っていくということになります。 以上の制度を設けることは,恐らく認可ないし認定の制度を採る以上は,必然的についてくることであろうと。ここまでは,ほぼ必然なのではないか。これと違う制度も考えられないことはありませんが,かなり強い理由が必要になるのではないかと思います。要は,一旦とにかく許認可をするときには行政庁が判断するのだけれども,あとは知りませんという制度になりますので,それは,なかなか考え難いのではないかということでございます。 ただ,ここから先の部分でございますが,現行の公益信託法は,今申し上げた権限のほかに,いろいろ行政庁の権限を認めております。これは,主務官庁がそれぞれの公益信託によって公益が実現されるようにという目的で,それぞれの公益信託を積極的に方向付ける権限を包括的に持つという考え方の現れであろうかと思いますが,しかし,ここで考えている新たな公益信託制度においては,そうではなくて,統一的な行政庁が公益信託が法令上の基準を満たすように監視をする権限を持つにとどめるということであろうと思われます。これが,考え方のベースラインであろうと思われますので,したがって,公益信託の認可ないし認定及びその変更の認可ないし認定については,基本的に行政庁に裁量が認められないということは先ほど申し上げたとおりですし,関係人の申出に基づかないで,職権でいろいろなことをやるということを正当化するのも難しいだろうと。 ただ,問題になりますのは,信託法が現在裁判所の権限としている関係人の一部からの申立てによるもろもろの処分,例えば,受託者の辞任の許可とか新受託者の選任とか,あるいは信託の終了命令等といったように,関係人の一部から申出があったときに裁判所が処分をするという,こういう制度でございます。これらは,先ほど述べました法令適合性を審査する趣旨にとどまらず,信託の利害関係人の諸利益を調整して保護するという目的の制度と解することができます。こういった権限が,現行法上は,先ほどの(2)で述べましたように,公益信託によって公益を実現させる包括的な行政庁の権限があるというところに,言わば隠されていたというか,そこに全部含まれていたということであろうかと思いますが,しかし,新たな公益信託制度においてはベースラインがもっと下がりますので,そうすると,こういった権限をどういうふうに,どこに持たせるかという問題が浮上してくるということでございます。 これについても二つの考え方があり得て,一つは,公益信託についても信託の関係人の諸利益を調整し保護する趣旨の処分を行うというのであれば,これは裁判所がやるのにふさわしいであろうという考え方です。この点で,信託法上の信託と変わらないという考え方が一つにはあり得ようかと思います。こう考える場合には,裁判所が公益信託の認可ないし認定の審査対象を直接規律することになりますが,認可ないし認定とは別の切り口から規律を行うということですから,別にこれが法制度としておかしいということはないであろうと思います。矛盾,抵触はないだろうと。裁判所は,公益信託の認可ないし認定の基準の範囲内で処分をすべきことになり,制度としては,処分をした場合には,公益信託の認可ないし認定を行う行政庁に通知をするといったような制度を設けておけば足りるのではないかと思われます。 ただ,もちろん別の選択肢もあり得ます。つまり,公益信託及びその変更の認可ないし認定を行うのは行政庁ですし,その基準が守られるように監視を行うのも行政庁です。したがいまして,それぞれの公益信託に関する情報を持っていて,公益信託の関係人と接触をしているのは行政庁だと考えますと,それから,もう一つは,他の行政機関から必要な情報を迅速に集めることができるのも行政庁であると考えますと,こういった利点を生かして,公益信託の認可ないし認定を行う行政庁がいろいろな処分を行うということも考えられるのではないか。あるいは,こちらの方が窓口がとにかく1本になりますので,関係人にとって分かりやすいということもあるかもしれません。ただ,この場合には,具体的な手続をどうするか,行政手続法とか行政不服審査法とか行政事件訴訟法とか,この辺の標準的な手続をそのまま全部使うのかといったようなことは,検討しなくてはいけないであろうと思います。 それでは,おおむね時間ですので,これで終わります。 ○中田部会長 山本参考人,どうもありがとうございました。非常に有益な御説明を頂きました。 ただ今のお話につきまして,御質問などございましたら,御自由にお出しいただければと存じます。 ○深山委員 ありがとうございます。非常に分かりやすく整理していただいて,勉強になりました。 お話の中で,いわゆる公益認定なり認可のない公益を目的とする受益者の定めのない信託の位置付けについて,その設定時と終了時をパラレルに考えるということが一つ考えられる,しかしながら,必ずしもパラレルには考えない,設定時の規律と一旦なされた認可,認定が取り消されたときの終了時の規律をそろえないという可能性もあるのだということを御指摘いただいて,なるほど,そのとおりだなと思った次第なのですが,その延長線で,設定時と異なるときに,設定時よりも信託成立の可能性を縮小する可能性があるという御指摘があって,それはそれで分かるのですが,逆に,設定時よりも信託不成立の可能性を縮小する可能性,逆のねじれという可能性も,少なくとも論理的にはあるのではないかということを感じました。 単に論理的な可能性だけではなくて,設定時と終了時の違いというのは,設定時はまだこれから信託を設定しようという段階で,まだ何も起きていないわけですが,終了時の方は既に,どのぐらいの期間かはともかくとして,公益信託としての実績といいますか,運用がなされているという既成事実なるものがあります。その違いをどう見るかで,それはどちらにも振れるのではないか。つまり,もう既にその信託の運用がなされているので,認定が,それなりの理由があって取り消されるのでしょうが,取り消されたからといって,いきなり終わりにしてしまうと,やはり不都合が生じる場合もあるのではないかと思います。 少しそこはソフトランディングを考えて,未来永劫とは言わないまでも,一定期間はむしろ受益者の定めのない信託としてでも残しておいてソフトランディングを図るというような,これは理屈というよりは実務的なニーズがあるような気もいたしまして質問させていただく次第ですが,そのような方向での,今の御説明と逆の方向での違いを作るということもあり得ることでしょうか。 ○山本参考人 ええ,私もちょっとそういうことは考えたのですけれども,まず,論理的にはあり得ると思います。私が申し上げたのは,ここでいう弱い効力を持つ認可の制度から,成立時と終了時の間をそろえなくてはいけないといったような論理的な帰結は生じないだろうと,そこは変える可能性があるだろうということを申し上げましたので,そうだとすれば,逆に,なるべく信託をそのまま残すということもあり得るだろうと思います。 問題は,したがって,実質的にそういう選択をするかどうかというところで,そこが余り自信がなかったものですから今日は申し上げなかったのですけれども,一つ,今,正に深山委員が言われたようなことが考えられるかと思います。一定期間存続をしている状態をすぐになくしてしまうのは社会的な損失が大きいだろうということで,むしろ一旦成立したものはなるべく残した方が,社会的にむしろ有益であろうと考えると,逆の選択肢もあり得るかと思います。 ○中田部会長 深山委員,よろしいでしょうか。 ○深山委員 はい。 ○吉谷委員 信託協会から来ております三菱UFJ信託の吉谷でございます。 レジュメを拝見して,いろいろと疑問な点がございまして,大きく3点ほどございましたのですが,まず,1番目の中心的なところについて御質問させていただきたいと思います。 私どもは,元々立場としては,公益信託の前に目的信託を設定しなければならないという規律になっていると実務上は弊害があるので反対するという立場を採っておりまして,その立場からの質問という形になります。 まず,内容の確認なのでございますが,御説明からしますと,私どもがやりたくないと思っているような目的信託を事前に設定するというやり方が認定というものになり,事前に設定しなければよいというものであれば認可の方になると,まず理解しております。ただ,その認可につきましては,事前に目的信託を設定して,それを公益信託に変えると,そういう変更の段階を認可するという方法もあり得るのでしょうかというところが一つでございまして,もう一つは,認可の御説明として,2ページ目のところに,「第三者の行為を補充してその法律上の行為を完成せしめる行為」というふうな御説明のくだりがございます。これを普通にイメージとして受け取ったところでは,例えば,認可を受託者となるべきものが得ようとするというときには,委託者との間で信託契約をまず締結して,その状態で認可を申請して,認可がおりたところで信託が成立するというふうなイメージを抱くところであります。 ただ,実務で実際に行われているところは,現行法を基にした許可の制度の下でありますけれども,この場合は,まず許可を得て,その後に信託契約を締結するという手順を踏んでおります。このような手順というのが,ここで御説明の認可においても否定されることはないのだということでよろしいかどうかと,ここは実務上非常に気になるところでございます。 もし契約は認可の後で行うということになりますと,そもそも認可がない場合には目的信託が成立するのかどうかという論点も出てきません。ですので,私どもとしては,それが認められるのであれば,今後もそのような手順でやるということが想定されるわけであります。 ○中田部会長 3点とおっしゃいましたけれども,今のでよろしいですか。 ○吉谷委員 一つずつお尋ねしようかと思ったのですが。 ○中田部会長 今のが第1点でございますか。 ○吉谷委員 今のが1個目なのです。 ○中田部会長 分かりました。では,一つずつ。 では,山本参考人,お願いできますでしょうか。 ○山本参考人 第1点と最初に言われたのは何でしたか。 ○吉谷委員 目的信託を事前に設定する場合は認定になって,目的信託を事前に設定しない方式であれば認可になるという理解でよろしいでしょうか。 ○山本参考人 ここで,まず名前として付けている認定とか認可というのは,非常に便宜的なものでございますので,法令上の用語であるとか,あるいは学問上の用語とぴったりと当てはまっているという意味で,1対1の対応関係にあるわけではございませんが,7ページのところで,(3)として弱い効力を持つ認可と書きましたのは,今お話のあった,まず目的信託を設定しなければいけないかどうか,あるいは目的信託を設定しているか否かということから,いわばニュートラルに制度を作るという話でございますので,6ページの(2)の方で認定と書いたのは,まず目的信託を設定するという制度なのですが,(3)の方は,そこのところはこだわらないと。したがって,目的信託を設定していない,目的信託がない状態で認可を求めるということもあり得る,もちろん,目的信託を設定した後に認可を求めるということもあり得ると,そういうことでございますし,認可が得られなかった場合にどうなるかについても,いろいろな制度設計の仕方があるだろうということでございます。 それから,2ページの(2)で,認可というときに,第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成せしめるというわけなので,まず,第三者の行為がなければならない。それが言わば目的信託の設定ということになってしまうのではないかと。この認可という概念の中に,まず目的信託を設定することが必要であるという含意があるのではないかと,そういうことですよね。 その点に関して申し上げれば,実は,ここで言う第三者の行為が一体どういうものなのかということがございまして,行為規制効という形で一番強い認可の制度を考える場合には,何か法律行為があって,それを補充することになるのですが,認可と言われているものが全部そうかというと,必ずしもそうではないということがありまして,例えば,先ほどのように一定の準備行為があると。それで認可を受けて効力が発生するということも,認可の制度に含めて構わないのではないかと。 典型的に強い認可を思い浮かべると,まず何か法律行為があって,それを補充するということなのですが,実は,ここでいう定義のところも,法律行為という限定はしていないのですね。法律上の行為というような表現が使われていて,本によっては法律行為と,例えば藤田宙靖教授の本などには書いてあるのですが,そこは今までは余り限定をしてこなかったので,したがって,今のお話でいうと,別に認可だから必ずまず目的信託の設定があって認可をするとしなければいけないというわけではないだろうと思います。 ○吉谷委員 ありがとうございます。 事実上の準備行為が先行する形でもいいのではないかと理解いたしました。 ○山本参考人 はい,そういう制度を作ることもあり得るのではないかと思います。公共組合の設立認可などは,むしろそうなのではないかと思いますが。 ○吉谷委員 ありがとうございます。 続きまして,2点目を質問させていただきます。 こちらは,まず,5ページのところで,「裁量をもたない制度とする」という御説明がされてありまして,裁量をもたない制度というのが後ろの方でも出てくるわけなのですが,ここの意味について確認させていただきたいと思っておりまして,その前に,「当該行政庁は法令上の基準に従って判断をし」となっております。「裁量をもたない」というのは,法令上の基準に従って判断をするということとほぼ同義なのではないかなと私は理解しまして,そのような理解でよろしいのでしょうかというところが疑問です。 実務的な感覚からいうと,何ら裁量がないというふうな御説明だとすると,ちょっとよく分からないというところの実感があるのですけれども,例えば現在,本部会では認定あるいは認可の基準の受託者の資格として,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有するというような基準を設けるという提案があります。この能力の有無というのを客観的に評価するというのは,かなり難しいように思うのですけれども,そのような判断をこの基準に従ってするというのは,裁量という評価ではないということなのかなと理解をしております。 そのような理解で仮に正しいとして,ここからが実は本題なのですけれども,11ページの4行目の辺りで「裁量が認められず」の後,「また」以下に,職権は「正当化することが難しくなる」と記載されています。この職権が正当化されないという理由のところなのですけれども,これが,私が先ほど理解したように,裁量を認めるべきではないのだということが法令上の基準に従うということとほぼ同義なのであるとすると,確かにその受託者を職権で選任するということは受託者を探索するようなことになりますので,法令上の基準に単に従うだけでは難しいことになるのだろうと思います。一方で,その認可,認定の取消しについては法令上の基準に従うということで,職権でできるのだと理解をいたしました。 ただ,ここに記載されている中でも,受託者の解任というのがあります。受託者の資格要件については,認定基準のところにも記載されていますので,受託者の認定基準に従って判断するということであれば,裁量ではなくなって,職権の行為というのは行使が難しくないのではないかと考えるわけであります。 元々なぜこのようなことを問題意識として持っているかというと,公益信託の場合は,受託者と信託管理人という2人の機関によって成り立ってしまうというところがありますので,その監督をする行政庁の役割が結構重いのでは,大きくなるのではないかなと考えているところがあるというわけでございます。 ○山本参考人 最初の点でございますけれども,5ページの「法令上の基準に従って」というフレーズと「裁量をもたない」というフレーズが同義かということでございますが,おおむね同じように考えていただければよろしいかと思います。 厳密に申し上げると,法令でどれだけ細かく決めているかということと別に,裁判所に行ったときに,行政庁の判断を裁判所が一定程度尊重して,やや控えた審査をするのか,それとも裁判所が完全に行政庁の行った判断を見直すのかという点で,裁量がある,ないということも言いますし,一般に裁量という場合は,むしろこちらの,裁判所と行政機関との関係を考えていることがむしろ多いのですが,恐らくここで議論する際には,余りそこのところは細かく考える必要はないかと思いますので,ほぼ,基準を定めていて,それに従って行政庁が動くということと,ここでいう裁量はほぼ同義と考えていただいて結構かと思います。 ただ,厳密に申し上げれば,行政庁と裁判所との関係と,行政庁と立法機関との関係とは若干異なるところがあるということでございます。 それから,後の方の11ページの受託者の解任の部分の話でございますが,これは,私も個々に厳密に検討した上で自信を持って書いたところではございません。個別に,それぞれ検討する必要があろうかと思います。 ただ,考え方としては,例えば,受託者が非常に不適任であるというようなときには,まずは先ほど述べましたように,基準に適合していないということであれば,それでもって是正を命令すると。それにも従わず,一切改善がないということであれば,究極的には認可ないし認定を取り消すという手段を,まず行政庁は持っていますので,それに加えて,更にこういう解任という特別な権限を持たせる必要があるかどうかという問題であろうと思います。 本当に今述べた認可,認定の取消しとか,あるいは是正命令というだけでは足りず,更にそれを補うような意味で解任の制度が必要ということであれば,そうした権限を行政庁に持たせることも考えられるのではないかと思いますが,問題は,認可に関わる制度で間に合わないのかどうか,それでは十分でないのかどうかということだろうと思います。 ○中田部会長 よろしいですか。では,吉谷委員,3点目お願いします。 ○吉谷委員 3点目は,これは11ページのところで,「行政庁が,公益信託が法令上の基準を満たすように監視する」と記載されていて,監視の対象は公益信託となっておるのですね。その監視の対象というのは,機関である受託者と信託管理人の両方を含むと考えるのが素直なのではないかと私は理解しておるのですけれども,そこについて何か御見解がありましたら,お願いいたします。 ○山本参考人 私は細かいことまでは承知しておりませんが,そのようなことになるのではないでしょうか。つまり,基準が満たされているかどうかを監視するということであれば,それに必要な範囲の人を対象にしなくてはいけないですから,細かいことまで分かりませんけれども,直感的に申し上げれば,両方やはり対象になるのではないでしょうか。 ○中田部会長 吉谷委員,よろしいでしょうか。 ○吉谷委員 はい。 ○小野委員 大変勉強させていただきまして,ありがとうございます。 今までの議論にちょっと重複するところあるかもしれませんけれども,これまでの部会でも,裁判所と行政庁の権限分配の議論がいろいろなされてきまして,今,理論的な幾つかの考え方を教えていただいたこととやや重なる質問になりますけれども,手続法をかなり充足することによって,最後のくだりですけれども,行政庁の判断,すなわち行政処分と裁判所の許可というものがかなり同質的になるというような趣旨にもとれるところもありましたが,対象によるのかもしれませんけれども,やはり行政処分であるという観点とか手続法という観点,もちろん立法論まで含めての議論ですから,非訟事件手続法と同じような行政手続がということになれば同じになってしまうところもあるのかもしれませんけれども,やはりどうしても行政処分では超えられないところがあるのではないのかというような議論も,私も含めてこの部会でもしてきております。 その関係で2点ほど,今までの議論との関連で質問させていただきますと,取消しのところで,先ほどの深山委員からの質問とも関連しますけれども,既に公益信託として継続しているものが取消しになって,終了としての効果が発生する。他方において,当事者は,公益性ありということで争って裁判所に行って,最終的に取消処分が有効ではないということが確定するということになったときに,既に終了手続が開始,場合によっては終了してしまっているという状況は,必ずしも適切ではない。 もちろん行政処分でも執行停止がとれればいいのかもしれませんけれども,やはり行政処分と裁判所の判断とは違うところがあると肌感覚で思うところがあるので,その辺についての山本参考人のお考えをお聞きしたいという点と,次に,先ほどの吉谷委員からの質問にも関連するのですけれども,やむを得ない事由というものを要件としましょうということが随所で議論されているのですが,私は弁護士ということもあって,裁判所に対してやむを得ない事由を,過去の先例等とか含めて主張していくということは,非常に分かりやすい手続かと思うのです。他方において,行政庁の場合法文として非常に抽象的な要件が書かれることを現実的に判断することになり,これまでの信託法の条文の規定の仕方からしてやむを得ない事由ということが規定されたときに,果たして行政庁としてどう判断するのか,手続法をどうするのかとか,それについてどんな考えでいるかという辺りを,御見解を頂ければと思います。 ○山本参考人 最初の方の御質問は,私,ここでの議論の流れを把握していないので,正確に理解できるかどうか分からないのですけれども,例えば,取消しの場面を想定されているわけですね。公益信託の認定ないし認可が取り消されて,それが確定した後のことをお話されているのか,手続の進行中の,例えば認可ないし認定の取消しに対して取消訴訟が提起されて争っていると,その場面で,もう認可,認定の取消しの効力が発生しているから駄目ということになってしまうので,それが問題ではないかということをおっしゃっているのか,どちらのことでしょうか。 ○小野委員 行政処分なので,行政処分として認定の取消しということが行われれば,取りあえず効力として発生するということを前提としております。 ○山本参考人 手続中の,つまり,公益信託の認可,認定が取り消されて,しかし,それについて適法性を争っているという場面を想定しているわけですね。 ○小野委員 はい。 ○山本参考人 それについては,確かに,行政事件訴訟法上の原則は,訴訟提起したとしても執行停止をしないと。特別な場合に,先ほどお話がありましたように,執行停止の申立てをして,それが認められれば執行停止が行われるということですので,現行法を前提にする限りは,まず執行停止の手段で十分かどうかということかと思います。更に,立法論として申し上げると,不服申立て等の手続を取ったときに,一旦処分の効力が停止をするという制度が日本法にもないわけではありませんので,もし本当に必要であれば,そういう制度を考えることも可能であろうと思います。つまり,不服申立て等を行って争っている最中は,認可等の効力はなお存続をするといった制度を考えることもできるのではないかと思います。 それから,やむを得ない事由等のことですね。これについては,私もそれほど存じ上げているわけではございませんので,中身によると思います。行政処分の要件として,やむを得ない事由とか公益上の理由といったような抽象的な概念は,かなり実際使われていますので,そういう要件を定めているから行政機関では難しいということにはならないと思います。むしろやむを得ない事由というときに,実際に,具体的に何を判断することになって,それについて行政庁が判断するのは難しいかどうかということを検討する必要があるのではないかと思います。 抽象的な概念という点で言えば,行政機関がそれを具体化する基準をある程度定めて,基準といっても,いわゆる法令のように例外を一切認めないような基準ではなくて,大まかな原則的な基準を定めておいて判断をするといったような手法もありますので,抽象的な概念を定めるから行政機関では難しいということにはならないかと思いますけれども。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○小幡委員 私も行政法をやっている者として,この認定と認可というのは,どこかでしっかり時間を掛けて討議しなければいけないのではないかと思っていましたので,本日,山本参考人が大変クリアに整理してくださったので,大変よかったと思っています。 ただ,このタイミングで法形式を討議するというのは,やはり実体をどのようなものにするかというのが,まずは優先すべきでありまして,その上で,行政法の概念にどのように落とし込めるかという,それは後の,最後の話だと思いますので,かなり議論が大体煮詰まったところでのタイミングで,認定,認可という法形式を議論するのはよかったと思います。 山本参考人のレジュメに,行政法の概念を整理してまとめていただいています。ご説明を非常に簡明にしていただいたので皆さんも分かりやすかったと思うのですが,その中で,恐らくこの弱い効力を持つ認可というのが多分少し分かりにくいかもしれません。強い効力を持つ認可と認定というのは非常にはっきりしていて,甲案,乙案,丙案と論点の方でありますが,結局,認定とした場合,しっかり2階建てにしなければいけないという構造で組むと,先ほど吉谷委員がおっしゃったような実務と不具合なところが出てくるという問題があるので,弱い効力を持つ認可という概念が出てくると思うのですが,認定をもう少しアレンジというか,変容させればよいのではないかとも思われます。完全な2階建てにすると,まず,受益者の定めのない公益目的の信託というのができている必要があって,その上で公益信託という肩書というか資格をもらうのが認定だという仕組みになると,確かに必ず公益信託でない信託が前になければいけないという問題があると思うのですが,説明の仕方ですが,認定のところで,例えば7ページの(3)のすぐ上の「しかし」というところで,「公益信託の認定を受けることを停止条件として信託を成立させる旨の信託行為は,認定の制度のために,実現できないことになる。」と書かれていますが,それは,認定の要件をどのように作るかということによりますねという,確認です。 つまり,その認定をするための要件として,前にそういう信託行為がなければいけないとしていれば,そうなりますが,ここは多分,認定というものをどう作るかで柔軟になりうると思うので,そのことの確認が1点です。山本参考人の御報告で,要望に応じていろいろな形を行政法の概念で実現することは可能だということが明らかになったかと思います。 それから,2点目ですが,11ページのところで,裁判所との権限配分の話です。私もやや迷うところですが,最後の関係人の一部からの申立てによる処分権限で,一つの考え方と別の考え方というのがあります。確かに信託の関係人の諸利益の調整というのは,いかにも裁判所にふさわしいという感じがしているのですが,他方で,またそれを公益信託として機能させなければいけないときに,通知すれば足りるのではないかという御見解でしたが,一方で,最終的に争いになると,確かに裁判所に行けば裁判所が判断するわけですから,それでもよいかとも思いつつ,他方では,今の公益法人の認定のように,民間委員の入った第三者機関を介して,そこが公益認定をする,公益信託の場でも,そのような第三者委員会が公益信託の認定なり認可をするという仕組みになるとすれば,この場合だけ裁判所がやって,それを行政庁に通知でよいかという,多少私自身は迷いがあるのですが,念のために,その点を御確認できればと思います。 ○山本参考人 まず,第1点につきましては,6ページから7ページにかけてのところで,公益信託の認定を受けることを停止条件として信託を成立させる旨の信託行為は,この認定の制度を採ると難しいのではないかと書いた部分ですが,これにつきましては,ここで想定している認定が非常に固い制度として想定されているということがありまして,必ずまず一旦,目的信託が成立していなければいけないという制度を想定すると,こうなりますということですので,今,小幡委員が言われたことは,私の報告で申しますと,むしろ弱い効力を持つ認可というところで,公益信託を準備する受託者の状態という,一定の状態があれば認可を与えるという制度の,そちらの方で私は考えました。ですから,今の御質問について申し上げれば,認定というところは,あえて図式的に分かりやすく,非常に固いものをまず想定してみたということでございます。 この認可とか認定という言葉は,先ほどもちょっと話が出ましたけれども,最終的に法令上どういうふうに表現するかという問題になりますので,ここでは飽くまで便宜的に使ったものにすぎません。やはり,まず実体としてどういう効果を持たせる制度にするのか,どういう状態に対して認可ないし認定を出す制度にするのかという,まず実体についての議論があって,そういった制度を法律上表現するときに,どういう言葉を使うのが適切かという議論の順序になりますので,ここでは,飽くまで名前を便宜的に使っているということでございます。若干,ミスリーディングというか,分かりにくい表現もある点はお詫びをしたいと思いますけれども,飽くまでこれは便宜的なものであって,重要なのは正に中身であるということは,小幡委員から御指摘のあったとおりでございます。 それから,11ページの裁判所か行政機関かという問題については,11ページの最後のところで,どういう手続にするかということはブランクにしたところがあります。実は,行政機関が判断をするといっても,小幡委員が言われましたように,第三者機関がここで登場することが想定されていますので,その点がまず普通の行政手続ないし行政組織とは異なっているということがありますし,こういった事項を審議するために,特別な手続を考えていくことも考えられるかと思いますので,最終的に裁判所と行政庁との間の関係を考えるときには,実際,裁判所の手続という場合はそれほど違いが出てこないかと思うのですが,行政機関,行政庁というときに,一体どういう手続を想定するかということを詰めておかないと,議論が進まない可能性があるかと思いました。 ここでは,通知で足りるというような形で割り切って書いておりますけれども,これは,かなり割り切った場合の話で,そこまで裁判所に徹底的に任せるというのであれば,そういう制度もないわけではないということでございまして,しかし,小幡委員が今言われましたし,ここにも若干書きましたけれども,実際公益信託の認可とか認定とか,あるいは監督的な処分とかをやるのは行政庁であり,その行政庁には第三者機関も入っているということがありますので,言わばそちらを除いておいて裁判所でということが適切かどうかという問題があろうかと思います。 ですから,私もここのところは決め切っておりませんで,二つ,若干極端な選択肢を挙げれば,こういうことになるのではないかと御理解を頂ければと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○山本委員 民法を専門にしております山本敬三と申します。 今日は,非常にクリアなお話をして頂きましてありがとうございます。非常に分かりやすかったのですけれども,その分かりやすかったと思ったのが誤解ではいけませんので,これで本当にこのような理解でよいのかということを確認させていただいた上で,最後に一つだけ質問をさせていただければと思います。 今日お話を伺って,認定や認可等の概念があるわけですけれども,重要なのは,その下で行われる規制の実質がどのようなものかということではないかと思いました。したがって,問題は,公益信託の成立に関する規制,特に公益信託の成立要件が認められない場合の効果をどうするかということなのだろうと思いました。 その際に,御指摘によると二つ問題があり,一つは,認可の対象行為を規制する効果として,どこまでの効果を認めることが許されるのか。特に行為規制効として,信託としての私法上の効力を否定するという効果を認めるべきかどうかがポイントではないかと思いました。 強い効力を持つ認可とおっしゃったのは,この信託としての私法上の効力を否定するというものではないかと思います。 次の認定は,私法上の効力は肯定するものだと理解しました。 その次の弱い効力を持つ認可とは,信託としての私法上の効力は認めるかどうかを私的自治に委ねるというもので,デフォルト規定を付け加えるのは,私的自治を前提として,そこにデフォルトルールを設定する,要するに変更可能な緩やかな規制を行うものではないかと理解しました。 では,どこまでの規制が許されるかは,行政法上は,今日はおっしゃいませんでしたけれども,恐らく比例原則ないしはそれに類する基準ではないかと思います。おっしゃっていたのは,強い効力を持つ認可は,この比例原則によると正当化できないのではないかということではないかと思いました。 認定については,当事者が取る行動のプロセスに適合しない可能性があるとおっしゃっておられました。これは,この方法では規制目的を適切に実現できない可能性があるので,やはり問題があるのではないかという指摘をされたのではないかと思いました。 それに対して,弱い効力を持つ認可について,デフォルトをどのように設定するかは,比例原則からすると全て正当化可能であり,したがって立法裁量の問題であって,この場で議論して決めてくださいとおっしゃったのか,あるいは,そこに何らかの指針が行政法の観点から出てくるのかということをお伺いできればと思います。 もう一つは,地位設定効というもので,一定の要件を満たしたものに一定の権利を定型的に認めて,同時に義務を課すという効果であるとおっしゃいました。この要件の設定の当否について判断するための行政法上の基準はあるのでしょうか。比例原則はここでも妥当するのか,それとも,そうではなくて,立法裁量に委ねられる,したがって自由に考えればよいというものなのでしょうか。これが最後の質問です。 少し長くなってしまい,申し訳ありません。 ○山本参考人 大変分かりやすく私のごちゃごちゃした話を整理していただいて,ありがとうございます。 比例原則という点から整理をしていただきましたけれども,私のお話をしたことと適合しておりますので,そのような趣旨で私も申し上げたつもりです。 最後の地位設定効については,これは,結局,そこで問題となっている地位の法的な性質によって,行政機関が,どういう地位をまず設定して,そのためにどういう要件を設定して,それをどういう手続で判断するかという問題になりますので,恐らく比例原則そのものの問題というよりは,今申し上げたような,もう少し広い制度設計の在り方の問題,今の山本委員のお言葉によれば立法裁量といいますか,立法上の考慮で決めていく問題であると理解をしております。 それから,デフォルト規定として何を選択するかというところについてですけれども,これも特に比例原則からということは恐らくなく,ここに書きましたように,行政法の観点から答えを出すことはちょっとできない問題で,むしろ信託の法的な性質等に照らして判断をしていただくことになるのではないかと思います。 ○山本委員 分かりました。 ○中田部会長 ありがとうございました。 まだ御質問があろうかと存じますけれども,当初,山本参考人にお願いしていました時間を相当超過しております。また後の審議の中でも御議論いただけるかと存じますので,もしどうしても,この機会に是非お伺いしたいということがございましたら,お一人ぐらいであればとは思いますが,よろしいでしょうか。 それでは,山本参考人には貴重なお話を頂きまして,また,質問にも丁寧にお答えくださいまして,大変ありがとうございました。頂戴しました御説明をよく咀嚼して,今後の審議の参考にさせていただきたく存じます。どうもありがとうございました。 それでは,いつもより少し早いのですけれども,ここで一旦休憩にいたします。15分後の3時15分に再開いたします。その時間になりましたら御参集くださいますよう,お願いいたします。 (休 憩) ○中田部会長 再開します。 ここから,本日の審議に入ります。 本日は,部会資料41について御審議いただきます。 部会資料41の「第1 公益信託の効力の発生時期」及び「第2 公益信託の[認可/認定]の取消しによる終了」について,事務当局から説明してもらいます。 ○舘野関係官 では,御説明いたします。 まず,「第1 公益信託の効力の発生時期」について御説明いたします。 本文では,甲案として「公益信託の認可(私法上の法律行為の行政庁による補充)があった時とする。」,乙案として「[公益を目的とする]受益者の定めのない信託の信託行為の効力が生じた後,公益信託の認定(行政庁による確認行為)があった時とする。」,丙案として「原則として,公益信託の認可があった時とし,公益信託の認可を受けられなかった場合には,その効力を生じないものとするが,例外として,当該信託の信託行為に公益信託の認可を受けられなかった場合でも当該信託を無効とはしない旨の定めがあるときは,当該信託は,[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として,信託行為の効力が生じた時にその効力を生ずるものとする。」との提案をしています。 これまでの部会での審議においては,現在の主務官庁による許可制の廃止について検討を行うとともに,新たな公益信託の仕組みを検討するに当たり便宜的に認定という用語を使用してきましたが,第38回会議までに新たな公益信託制度においては,現在の主務官庁による許可制を廃止し,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,課税庁を除く特定の行政庁が公益信託の認定を行う仕組みを採用することで意見が一致しました。 そこで,これまで暫定的に使用してきた認定の内容について,更に詳細な検討を行う必要が生じています。新たな公益信託において採り得る制度としては,現行制度に比較的近い「認可」,公益信託類似の制度である公益法人制度にて採用されている「認定」,NPO法人制度にて採用されている「認証」等が考えられます。 各用語の一般的な定義は部会資料の3ページに記載のとおりですが,NPO法人制度にて採用されている認証制度は,所轄庁の認証を経て法人格を付与する制度ですが,公益信託はそれ自体の法主体性を認めるような制度ではないことから,これを参考にして認証制度を採用することは相当でないと考えられます。 また,公益信託の法的効力は,委託者,受託者及び信託管理人等の信託関係人の権利義務を生じさせる私法上の効力と,公益信託の名称保護等の公法上の効力に分けて整理することが可能であると考えられます。したがって,新たな公益信託における行政処分の法的性質を認可とするのか,認定とするのかについて,公益信託の効力発生時期との関係及び行政との処分と結び付けられる法的効力との関係で検討することが有益であると考えられます。 現在の公益信託の実務においては,公益信託の受託を予定している信託会社が公益信託の引受けの許可を受けた後に,受託者として公益信託事務を行っています。このような現在の実務との連続性を尊重する観点からすると,私人である委託者及び受託者が行う法律行為が行政庁による公益信託の認可によって補充され,当該信託が行政庁の認可を受けた時点で公益信託としての私法上の効力及び公法上の効力が同時に発生するものとすべきであるとの考え方があり得ることから,このような考え方を本文の甲案として提案しています。 なお,甲案によれば,公益信託の認可を受けられない場合には,公益信託としての私法上の効力及び公法上の効力がともに発生しないことになるため,当該信託は[公益を目的とする]受益者の定めのない信託としても無効となります。そうすると,甲案に対しては,行政庁による公益信託としての適格性審査を受けず,行政庁の監督に服さない[公益を目的とする]受益者の定めのない信託を一律に無効とはしないとする本部会の方向性に整合しないという指摘があり得ます。 一方,現在の公益法人制度との平仄の観点に加え,実際の公益信託設定時の法律行為としても,委託者と受託者との間の合意がされた後に行政庁の処分が行われることを重視するのであれば,公益信託の認定より前に委託者と受託者との間では,その信託契約の締結等により[公益を目的とする]受益者の定めのない信託としての私法上の効力が発生し,その後,当該信託について公益信託としての適格性を審査した行政庁が認定をすることにより,公法上の効力が追加的に発生することとなるとの考え方があり得ることから,このような考え方を乙案として提案しています。 なお,乙案においては,公益信託の認定以前に信託契約の締結等を想定しているものの,停止条件付きの信託契約等,公益信託の認定後に信託行為の効力を発生させる方法を一律に否定するものではありません。ただし,そのような方法によることが可能か否かについては,実務的な検討を要すると考えられます。 乙案を採用する場合,行政庁の認定を受けない受益者の定めのない信託について,それを有効とするか無効とするかについての検討が必要となりますが,従前の部会での審議においては,そのような信託を一律には無効とはしないということで意見が一致しております。また,そのような信託を一律には無効とはしない場合,信託法附則第3項との関係で,受益者要件の検討等が必要となることから,乙案においては「公益を目的とする」の箇所にブラケットを付し,留保を付す形でその旨を表現しております。これは,この第1の丙案及びこの後御説明いたします第2の乙案についても同様です。 さらに,原則として,公益信託の認可を受けられなかった信託については,私法上の効力も公法上の効力も発生しないものとするが,公益信託の認可を申請したが不認可の処分を受けた場合等について,当事者の意思を尊重して,信託行為にその旨の定めがある場合には,例外的に[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として,信託行為の効力が生じたときに私法上の効力が発生し,存続するものとするとの考え方があり得ることから,このような考え方を丙案として提案しています。もっとも,信託行為にその旨の定めが明記されていないと,当事者の意思が不明確になり,事後的に当該信託の有効性について紛争が生じる可能性があることから,上記のような当事者の意思が存在する場合には,それを信託行為として契約書や遺言書等に明記しておくことが望ましいと考えられます。 丙案に対しては,公益を目的とするが,行政庁の認可を受けていない受益者の定めのない信託が有効な場合と無効な場合が信託行為の定めの有無によって生じることから,既存の実務よりも法的仕組みが複雑になり,利用者にとって分かりにくい制度となる可能性があるとの指摘があり得ます。 次に,「第2 公益信託の[認可/認定]の取消しによる終了」について御説明いたします。 本文では,公益信託の[認可/認定]を取り消された信託について,甲案として「当該信託は終了するものとする。」,乙案として「原則として,当該信託は終了するものとする。ただし,信託行為に公益信託の[認可/認定]の取消後は[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として存続するものとする。」との提案をしています。 まず,本文の提案について,冒頭の公益信託の[認可/認定]を取り消された信託の部分は,部会資料37の第1の3では「公益信託の認定を取り消された信託」と表現していましたが,今回は,先ほどの第1のとおり,行政庁が公益信託について行う処分は認可あるいは認定とすることが考えられることから,ここでもブラケットを付し,留保を付す形でその旨を表現しています。 本文の甲案は,部会資料37の第1の3の甲案と同一の提案であり,その内容及び理由に実質的な変更はありません。仮に甲案を採用する場合には,その取消事由の如何を問わず,行政庁による公益信託の取消処分によって当該公益信託が終了することになりますが,取消事由によっては[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として継続させる方が社会的に有益である事例も想定されることなどの指摘を付加することが考えられます。 本文の乙案は,部会資料37の第1の3の乙案をベースに,公益信託の[認可/認定]を取り消された信託の信託行為に,当該信託を[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として無効とはしない旨の信託行為の定めがあるときは,当該信託は[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として存続することとしたものです。先ほどの第1の丙案と同様,公益信託の[認可/認定]を取り消された場合に,当該信託を[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として無効としないためには,信託行為にその旨の定めが存在することを必要とする考え方があり得ることから,その旨を付加した上で提案しています。 仮に乙案を採用する場合,公益法人認定法第30条の規定等を参考に,公益信託の[認可/認定]が取り消された後,受託者が速やかに公益目的取得財産残額を算定し,その額を他の類似目的の公益信託の信託財産とすることや,他の類似目的の公益法人,NPO法人等,若しくは国又は地方公共団体に贈与しなければならないとする規律を設ける等の方策を採ることが想定されますが,その場合には,公益信託に当初拠出された信託財産の価額の変動や,公益信託の運営期間中の信託財産の増加や減少に対応した規律を設けることになる結果,制度設計が複雑になり,公益信託の軽量・軽装備の利点を損なう懸念があることなどの指摘を付加することが考えられます。 また,部会資料38の第3の1においては,新たな公益信託の受託者が行うことができる公益信託事務の範囲を当該公益目的の達成のために[直接又は間接的]に必要な信託事務とすることを提案しており,その前提に立つ場合には,公益信託においては全ての財産が公益目的の達成のために取得した財産と言え,公益法人制度でいうところの公益目的事業財産に相当する財産に該当すると考えられます。したがって,そのことを前提として乙案を採用し,公益信託の認定を取り消された信託を,その後も[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として存続させる場合には,当該信託の受託者に全ての信託財産を公益目的に使用することを義務付け,それを行政庁が一定の範囲で引き続き監督するなどの仕組みを設ける必要が生じる可能性があり,その点でも制度として複雑になる懸念があることなどの指摘があり得ます。 最後に,第1の論点と第2の論点の関係についてですが,第1の甲案のように,行政庁の認可によって公益信託の私法上の効力及び公法上の効力が発生するとする考え方は,第2の甲案のように行政庁の認可が取り消された場合には公益信託が終了し,私法上の効力及び公法上の効力が消滅するという考え方と親和性を有するものと考えられます。一方で,第1において甲案を採用しつつ,第2において乙案を採用するとした場合,公益信託の[認可/認定]時と終了時とで取扱いに差異が生じ,利用者にとって分かりにくく,混乱を招く可能性は否定できないと考えられます。 また,第1の乙案及び丙案のように,公益信託の[認可/認定]を受けられなくても,[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として無効とはしないとする提案は,第2の乙案と親和性を有するものと考えられます。 以上でございます。 ○中田部会長 ただ今説明のありました「第1 公益信託の効力の発生時期」及び「第2 公益信託の[認可/認定]の取消しによる終了」について御審議いただきます。 まずは第1からお願いしますが,第1と第2は相互の関係も問題になりますので,併せて御発言いただいても結構です。 なお,先ほどの山本参考人の御説明と,部会資料41の用語とには少しずれがあるかもしれませんし,また制定法上の用語がどうなるかという問題も別途ありますけれども,ここでは規律の実質について,御検討いただければと存じます。また,山本参考人におかれましても,適宜コメントを頂ければ幸いに存じます。 それでは,御自由に御発言をお願いします。 ○道垣内委員 以前も発言させていただいて,繰り返しになるのですけれども,公益信託とは何かというのが分からないままに,公益信託の認可があったときに公益信託の効力が発生するとなっているような気がするのですね。と申しますのは,例えば私が東京大学に所属している行政法の教授の研究のために金銭を交付するという信託を作ったときには,恐らくは東京大学の行政法の教授に金銭を交付しても,公益目的ではないというふうなことになるのだろうと思います。しかし,私自身は公益目的だと思ってそういう信託を設定したわけであり,そのときに,認可申請をしても断られるわけですけれども,どういうふうになるのか。結論から言えば,本来は,公益信託というものは,行政庁によって公益信託であるとの認可があったものを指す概念なのではないかということです。 ただ,例えばこれから申し上げるような内容の条文を作るというのならば,この第1の問題の意味というのは分かってくるわけで,例えば「公益信託の設定は,特定の者との間で,当該特定の者に対し財産の譲渡,担保権の設定,その他の財産の処分をする旨,並びに当該特定の者が裁判所又は行政庁に対し,公益信託としての認可--認定かもしれませんが--の申請をするとともに,一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下,「公益信託契約」という。)を締結する方法によってする」というわけです。例えば,このように,公益信託という言葉を,その受託者が--受託者とは限らないかもしれませんけれども--行政庁なら行政庁に対して,公益信託としての認可の申請をするという義務を負わせられている契約によって設定されるものと定義をすれば,第1の甲案,乙案,丙案というのは成り立ち得ると思います。しかし,そこの定義というものをしないままに,公益信託というのが,あたかも神の目によってあらかじめ決まっているというふうな形で条文とかルールとか作れるのかというと,私は作れないのではないかと思うのですが。 ○中田部会長 という御意見を頂きました。何かありますか。 ○中辻幹事 私どもとしては,公益信託は,行政庁の認可あるいは認定を受けるという形で,一定の基準を満たしているか否かの審査をクリアした信託であるという定義付けをしております。ですので,道垣内委員がおっしゃられた公益信託の認可/認定の申請を前提としているものかと問われれば,そのとおりでございますというお答えになります。 ○道垣内委員 そうすると,公益信託の認定が得られなかったときの話というのは,どういう場合を指しているのかということにならないでしょうか。論理的には,申請をしなかった,あるいは,申請したが認められなかったということになると,それは公益信託ではなかったのだという話になるということになりますでしょうか。 ○中辻幹事 行政庁が基準を満たしていないという判断をすることによって公益信託の認定が得られなかった場合には,今,私どもが考えている公益信託の定義には当たらない信託になるということになります。 ○道垣内委員 では,その要件を満たしていると考えるときには,要件を満たしていると必ず認可申請をしなければいけないでしょうか。そんなことないですよね。そうすると,それは要件を満たしていようが,申請をしなければ,公益信託ではないということになりますね。そうなりますと,同じく客観的に見れば公益の認定基準を満たしている信託なのだけれども,申請して認められるという場合と,申請して断られるという場合と,申請しない場合というのがあるということになりますが,1の第1のところで書いてあるのは,申請して認められたときにどうなるかという話ですよ。申請しなかった場合は,それではどうなるのですか。 ○中辻幹事 事務局としては,これまでの部会での御審議の状況からすると,公益信託の要件を満たしている信託を設定する場合に,その受託者が行政庁に対し公益信託の認可申請を必ずしなければならない,認可申請が義務付けられるというような制度を作ることにはならないと考えております。 その上で,今回の部会資料41の第1では,公益信託としての認可申請がされた信託の効力の発生時期について,どのように考えるかという論点の設定をしていますので,そもそも認可申請をする気が信託契約の当事者に無くて申請をしなかった公益を目的とする受益者の定めのない信託の効力の発生時期はどのように考えるか,ということが別途問題になるという御指摘をいただいたものと受け止めました。 ○中田部会長 取りあえずよろしいでしょうか。 ○小幡委員 私も同じようなことを考えましたが,要するに,公益信託をどう定義するかによるので,ここは公益信託というのは認可あるいは認定を受けたものという定義をしたら意味がなくなってしまいますね,効力の発生時期の話は。およそただ,抽象的にそういう性質を帯びたものを公益信託と広く呼ぶとすれば,広い公益信託があって,その中に申請によって認定/認可されたものがある,したがって,それだけを公益信託と呼ぶことにするかどうかという問題かと思うのです。 山本参考人の話も含め,行政法的な技術的な器をどうするかとか考えている中で,一番実は重要なのは,公益信託というものの認可あるいは認定を受けたことにより,一体どういうメリットがあるかということだと思うのです。公益法人の制度であれば,あれは2階建てですが,公益法人となった途端に,特に税務当局からの別途の審査もなく,そこで税法上の優遇は付いてくると,そういう仕組みになっています。ただ,それでも実際には同じような公益事業をしながら公益認定を受けないという選択をしている一般法人は沢山あります。それはなぜかというと,監督を受けることもありますが,多分いろいろ揃えるべき書類が非常にたくさんあって,事務的にやっていくのが大変だという,ほとんどがそういう理由だろうと思うのです。公益認定を受けるためのハードルを高くして全部税務上の優遇が得られるという仕組みに作っているのが公益法人の制度です。 それに対して,今回考えている公益信託の場合は,もちろん申請主義で,申請しなくてもよいわけです。ただ,その申請によって,そこで実際公益信託とされるために,申請が認められるためには何が必要とされるか,どのぐらい大変なのかということと,受けるメリット,例えば,その公益信託の認定あるいは認可を受ければ税務上の全ての優遇が得られるということであるのか。税法上の優遇は,後で付いてくるので,多分ここでは決め切れないと思うのですが,それは逆から言いますと,公益信託がきちんとしたものである,そして行政庁が認定あるいは認可し,監督をするというようなものを公益信託としたから税法上の優遇を付けるべきという話にはなってくるので,そこも制度設計の問題かと思います。現状公益信託の中で税法上の優遇が付いているところがありますが,それが今回どのようになっていくかということがあろうかと思います。それによってメリットがなければ,別に申請はしなくてよいわけで,申請しなくても,実際上同じようなことをやることは可能なように作った方がよいだろう,したがって甲案でないのです。結局は,強い認可ではない,そういう行為規制はしない,実際上,公益目的の受益者の定めのない信託ができることになる。ただ,プラスして,申請すれば公益信託を受けられる,そこで名称の独占があれば世の中の利用者が安心できるとか,そういうものは得られます。ただ,税法上は全部特典が付くことになるかどうかは,ここは全く分かりませんが,そういうふうに仕組めれば本当はよいと思います。 いろいろ申しましたが,そもそもどういう効果が実際上,得られるかということが大事でして,ここで甲案,乙案,丙案とありますが,それによって決まってくる話でありましょうし,強い認可ということは概念としてやや考えにくいと思います。実際には同様なことはできる。しかし,公益信託と認められれば何かのメリットはあるのですが,それは何のメリットがあるかということと,逆にどのぐらい大変なものかということ,両方を勘案する必要がある,釣り合いを取らせる必要があると考えております。 ○新井委員 第1については甲案に賛成します。乙案には賛成できません。 その理由は,乙案においては,公益を目的とするという部分と受益者の定めのない信託,つまり目的信託を連結させている点にあります。目的信託,すなわち受益者の定めのない信託というのは,その立案担当者の解説書によりますと,私益,共益,公益,全てを含むと解説がなされておりますので,それによると公益を目的とするという部分と目的信託を結合させることは可能だとは思いますけれども,現行信託法によると,目的信託というのは委託者が非常に強い権限を持っています。これは260条の規定で強行規定になっております。そして公益信託においては,やはりその委託者の権限というのは限定されるべきではないかと考えます。この部会の議論では,一定の委託者の権限は残していいという議論があることは十分承知しております。しかし,260条の規定は,はるかにそれを超えて,委託者に強大な権限を持たせていると私は考えるわけです。ですから,委託者に強大な権限を持たせながら,それを公益だというのは非常に難しい。 したがって,乙案は,公益を目的とするという部分と公益信託を結び付けるということです。公益を目的とする目的信託と公益信託を結び付けるというのは,ちょっときつい言葉を用いれば,概念矛盾のように私は思います。したがって,乙案には賛成いたしません。 丙案ですけれども,丙案も一つの可能性としてはあると思うのですが,ただ,この場合でも,公益を目的とするという部分は削除すべきではないか。削除すれば,丙案の可能性もあると思います。 それから,第2については甲案に賛成です。 ○沖野幹事 私もちょっと,ここの第1の問題がよく分からないと感じております。タイトルが「公益信託の効力の発生時期」となっておるのですけれども,甲案,乙案,丙案,いずれも公益信託は認可があったときに効力を生ずる,公益信託として効力を生ずるという点では同じではなかろうかと思われるわけです。とりわけ,今のやり取りを聞いた中では,公益信託というのは認可を受けた信託であって,公益信託の名称を使うことを許されるものだということになると,認可を受けたときということになるのではないかと思われるからです。 ただ,ここで問われているのは,そういう公益信託がいつ効力を発生するのかということではなくて,認可を受ける前に何らかの信託としての効力が既に発生しているのか,例えば受託者は忠実義務を負っているのかといった問題と,もう一つは,認可を申請したのだけれども,それが受けられなかった,不認可であったときに,公益信託の名称の下で公益信託としての各種の規律や効果は生じない。その中の一つとしては名称を使うとか,あるいは20年以上を超える期間でも構わないとか,そういうことが出てくるのですけれども。それ以外の一般信託における目的信託としての存続の余地があるのかという,その問題ではないのかと思われるわけです。それは別に効力の発生時期の問題ではないのではないかと,あるいはそういう定式をすることは適切ではないのではないかと思われまして,それらの効力を持っているかどうかということが,それに対してどういう回答をするかということが,あるいは行政庁が行う何らかの認定行為というか,それをどのような性質として法性決定をし,どのような法律上の表現を与えることが適切なのかということに関わってくるという話ではないのだろうかと考えます。 それから,そのおおもとには,これは道垣内委員がおっしゃったことですけれども,あるいは新井委員の御示唆もそれに含まれるのかと思いますけれども,そもそもその公益の認定なり認可なりの申請をせずに,公益の目的のために目的信託を使うことは許されるのかということで,現行法は,信託法は少なく本則は許していると思うのですけれども,公益信託法がそれを制限しているように思われるわけで,そこをどうするのかということではないかと思われ,新井委員のお考えによりますと,公益を目的とする信託を使った活動は,現在の目的信託を使う限りは委託者に強大な権限を与えすぎるので,許されるべきではないということではないかと伺いました。そうだとすると,認可を申請しなくても,そのような目的信託はそもそも認められないという考え方を含意しているのだと思います。 私自身は,そしてこの部会では,むしろ,そのお考えではない方が,より数の上では多数ではなかったかと思われます。かつ,委託者に強大な権限を与えることがなぜ駄目なのかと,自分の財産を公益の目的で使いたい,細々と,というような人がやる分には構わないのではなかろうか。ただ,公益信託だという名称は使えないし,あるいは税法上の特典がどのくらい与えられるかというのは,それは税法上の問題であるので,それにどういうものを与えるかというのは税法で,そういう目的信託には余り与えられない,あるいは全然与えられないというような話になるだけのことではなかろうかと思われますので,したがって,前提としては,公益信託としての認可を受けず,したがって公益信託という名称にはならないけれども,公益のために目的信託を使うということは,それは許容されてしかるべきであるということが適切ではないかと思います。その前提の下であるならば,認可の申請をしたときに,その前に既に効力が生じているのかという問題と,認可の申請をしたけれども,不認可であったときにその後どうなるのかという問題として,この問題を考えた方がいいのではないでしょうか。 そうしますと,甲案の位置付けというのはよく分からないところもありますけれども,甲案の含意としては,別途目的信託としてやることは構わないのだけれども,ただ,認可の申請までしたようなときには,認可がなければそれはもう諦めてもらって,別途目的信託としては改めて設定してやればいいのだという考え方なのかなと思われます。 乙案の方は,既に通常信託としての効果は生じさせるという前提で,各種の信託の効果は発生するのだけれども,認可によって更にプラスアルファで加わる部分があるという考え方だと思われますが,丙案は,ただ,丙案が扱っているのは認可が受けられなかったときにどうなるかという問題の方なので,乙案とは若干次元が違うことを扱っているのではないかと思われまして,そこを委託者の意思にかけるかどうかという話ではないかと考えております。 誤解をしておりましたら,訂正をしていただければと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○深山委員 95%ぐらい,今,沖野幹事がおっしゃったことを私も申し上げようと思ったので,重ならない限度でお話したいと思います。 公益信託の効力の発生時期は,沖野幹事がおっしゃるとおり,私も,甲,乙,丙,全部同じことを言っていて,要するに認可ないし認定があったときということを言っているので,このタイトルの議論というのはほとんど議論する必要もないことだろうと思います。 その上で,これも沖野幹事が御指摘のとおり,ここで議論しようとしているのは認可/認定のない公益を目的とする受益者の定めのない信託の位置付けの問題で,これは三つのパターンがあると思います。既に何人かの方から出ているものの整理のような形になりますけれども,1番目は,元々,公益目的の受益者の定めのない信託なのだけれども,公益認定を受ける意思のない場合,それから2番目は,認定なり認可の申請をしたのだけれども,認められなかった場合,それから3番目は,認可/認定が一旦は認められて公益信託になったのだけれども,後日,何らかの理由で認可/認定が取り消されてしまった場合で,それぞれ共通する側面と違う面があろうかと思います。 まず,1番目の元々その中身は全く公益信託的な公益目的の信託なのだけれども,認可/認定を受ける意思がない場合,これはどのぐらい実務にあるかどうかというのは疑問ですけれども,まず,その制度の整理としては,これはこれで有効なのだということをやはり明文で明らかにすべきだろうと思います。沖野幹事御指摘のとおり,信託法にはネガティブな規定はないと読めるのですけれども,公益信託法の方はそれに対してネガティブな表現があるので,そこは新たな公益信託法では,できるということを何らかの形で明文化をする,これが出発点になるのだと思います。その上で,認可/認定の申請をしたけれども認められなかった場合,あるいは,認められたけれども後日取り消されてしまった場合に,どのような信託としての効力が認められるのかどうか。 これは,前半の山本参考人のお話でもいろいろ言及されたところに関係するかと思いますけれども,やはり委託者の意思はそれなりに尊重すべきで,およそ公益認定を求めて認められない場合には,もうやる気がないという場合には,それはそれで,それでも私益信託としてやりなさい,私益とは言わないでしょうけれども,公益信託ではない信託としてやりなさいというのはふさわしくないと思います。先ほど私が質問したように,その設定時の問題と後日取り消された場合とではちょっと考慮すべきことが違うと思いますが,一般的に言えば,委託者の意思に反してまで信託を続けさせるというのは,基本的には好ましくないという方向で考えるべきなのかなと思います。 したがって,そこでは委託者が,認可が認められなかった場合,あるいは取り消された場合に,その後の信託をどのようにしたいかということを,その意思を基本的には尊重すべきだろうと思います。デフォルトルールとして,どちらを原則にしてどちらを例外にするかというのは,両方あり得るのだろうと思います。そこはまだ,決め打ちは私の頭の中でもしていないですが,信託行為の意思解釈を補助する意味でどちらかのデフォルトルールを置いて,あとは個々の信託行為の解釈に委ねるという規律になるのではないかなと,そうすべきではないかなと考えている次第です。 ○小野委員 2点ほど質問といいますか,確認みたいなことをちょっとさせていただきます。 税の扱いと一致すべきという議論は,正にそのとおりの考え方だと思います。ただ,現行の公益信託と違いまして,今後いろいろ事業型の公益信託等も認めていこうと,また受託者が個人とか又は株式会社でない受託者も登場してくる,信託銀行,信託会社ではない受託者も登場していくだろうという前提に立って,それに税の特定,認定が追い付けばいいのですけれども,そこに齟齬があるかもしれません。 ですから,公益認定と税との間には,どうしてもそこで時間的な問題,場合によっては,公益は取れたけれども税法上の特定は取れない,また,そのために時間を要すると,こういう問題があるかと思うのです。その公益信託の特定が取れるまでの公益信託税制の議論は今までもこの部会でしてきたかと思いますが,いずれにしてもそういう問題があり得る。もっとも信託行為の中で効力発生の前提条件とするのかも知れず別に問題視するほどのことではなく理屈上の問題かもしれません。 とは言っても今の深山委員が話したように,デフォルトルールを明確にしなくてはいけないと思います。もちろん信託行為の中にしっかりと書いていくということである意味では十分でそれ以上にデフォルトルール的に目的信託になるうんぬんというところまで明確に規定する必要は必ずしもないとも感じます。 今述べたことは,今までの私の部会での発言とちょっと矛盾するのですけれども,税法上の扱いで,公益目的ということを今までも随分議論していますけれども,実際にこれまでの部会での議論でも,単に目的が公益であればいいだけではなくて,公益信託として認められるためにはガバナンスとか全体を含めて公益信託として機能するかどうかということで公益認定が取れるという理解だったと思います。 他方において,目的信託の公益目的というのは,別にガバナンスうんぬんではなくて公益目的,ある意味では,条文上の規定にならってそれを目的とすれば,取りあえず目的信託としての公益目的目的信託にはなると思います。法人要件が適用されないとしても他方において法人課税信託の対象になりますから,恐らく信託行為の作り方としては,そのときにあえて法人課税される信託ではなくて,単純に委任型とか,信託ではない形を採ることにするのかもしれません。そもそもそういうことならばやめようという議論かもしれませんし,それでも構わないという議論になるのかもしれません。いずれにしてもそういう信託行為における自由度をできる限り認めるということが,やはり税の適用関係もありますから,必要ではないのかなと思います。 ○神田委員 第1のほうを例にとって意見というか,感想を申し述べたいと思います。 それは前半でのやり取りにも関係するのですけれども,意見としては,論理的な順序と時間的な順序とは必ずしも同じでないので,それを整理した上で考えた方がいいでしょうということです。第1の方で言いますと,認可が受けられた場合に,いつから公益信託としての効力が発生するのかというのは,もちろんその認可があった時からでもいいですけれども,それより後に信託契約の効力を発生させるような形態もあり得ると思いますので,その場合には,それより後に信託契約の効力が発生した時から公益信託としての効力が発生するということだと思います。 それから,既に存在している公益信託でない信託について公益信託としての申請が行われて,そういうことがあり得るとしてですけれども,認可された場合には,これは認可があった時から公益信託になるというのが時間的順番だと思います。 これに対し,認可が受けられなかった場合ですけれども,丙案の最後の語尾がちょっと分かりにくいです。信託行為の効力が生じた時にその効力を生ずると書いてあるのですけれども,認可が得られなかった場合には,私の理解では,時間的な順序としては,その時又はそれ以降の時点であって駄目だった場合にもという,この例外的な場合の規定がある場合には,その信託契約が効力を生じた時から,ここの言葉で言う受益者の定めのない信託としての効力が生じるという意味だと理解します。ただ,時間的順番ということで言いますと,既に受益者の定めのない信託が存在していて,それについて公益信託の認可を求めて,そしてその認可が得られなかった場合には,ある意味元へ戻るだけというか,既に受益者の定めのない信託は存在しているわけですから,それは何もなかったかのごとく元へ戻るということではないかと思います。 いずれにしても,文言で言うと,丙案の最後に言う「生じた時に」というのは,認可があった時又はそれ以降を信託契約で定めるということを想定していると私は理解します。より一般的に言うと,第2についても同じ問題があって,論理的にどういう順番に物事が起きるかという話と,時間的にどういう順番に物事が起きるかというのは必ずしもイコールでないので,それを分かりやすく整理していただきたいというのが意見です。 ○平川委員 第1について,丁案を提案します。 丁案というのは,信託行為の効力発生を前置を必要とすることなく,公益信託の認可ではなく認定があったときとするという説です。ですから,認可でなくても,その信託行為が認定であっても,信託行為の前置を必ず必要とするということにはならないのではないかという問題点の指摘です。 理由としましては,甲案についてですけれども,公益信託の成立時期を行政庁の行政処分のあったときと同時に成立させるためには,講学上の概念である認可でなければならないという理由に基づいているようです。そして,講学上の認定というものは行政庁による確認行為であり,公益法人制度において,まず一般社団法人や一般財団法人を設立して,それに対して公益性の確認を行う行政行為を認定とした前例をもって,まずは第1段階として私人の信託行為があり,それに対して公益認定を下すという2階建て方式が必然であるという考え方を採っています。 しかし,認定と2階建て方式というのは,必ずしも必然であるとする必要はないと考えます。この考え方は,山本参考人のレジュメ7ページにある,弱い効力を持つ認可と実質的に似通っているとも言えますし,山本参考人も認定という言葉にどういう意味を込めるかというのは,立法上,柔軟に考えてよいとおっしゃっていたと理解しています。すなわち,公益信託を準備する受託者の状態に対して行政行為を行い,公益信託であることを認定して公益信託を有効にするという山本参考人のレジュメからの引用によれば,そういう形になります。 ただ,弱い意味による認可とか,何しろ認可という言葉を使った場合には,一般人の考え方としては,国が公益活動を認可するという許可制度を連想し,公益活動を民間の手で促進するという新しい公益信託制度の促進の意図が伝わらないと考えます。新しい公益信託制度は,法務省の補足説明3にありますように,公益信託自体を法主体と認めることではないこと,また,旧民法の公益法人の設立のように,私人間の法人の設立行為に対し行政庁がそれを補完して効果を与えるということでもないこと,また,新公益法人制度においては,一般法人に対する公益法人への移行については認定とされており,同じ言葉を使った方が一般の人々にも分かりやすいということなどを理由として認定とし,しかしながら,信託行為を前置し,それに認定を与えるのではなく,認定をもって公益信託が発効するのが相当であると考えます。 繰り返しになりますけれども,認定が行政庁による確認行為であるとしますと,乙案のように受益者の定めのない信託行為の効力が生じた後に行政庁による確認行為が行われるという時間的な差を設けなければならないとする必要はないと考えています。すなわち,信託行為の効力とその効力の発生の結果,公益活動がそれを受けて行われる可能性を行政庁が確認する行為は同時に行われても一向に構わないと考えます。上記に述べたとおり,認可による効果の一つであるとされる法主体を認めるということでないのであれば,なおさらのことであると思います。 乙案による事前に目的信託を設定する案に対しては,そもそも公益信託を目的信託の一類型とする考え方には反対であること,また,前置した目的信託については,補足説明6のとおり,設定段階においてみなし法人課税の問題等,固有の問題を抱えていることなどから反対です。 また,丙案については,公益信託の認定が得られなかった場合には一定の条件の下に目的信託の効力を認めるとするものですけれども,認定が得られない場合には,信託行為に受託者の定めのない信託として効力を生ずる旨の明確な意思表明がなされていない限り信託の効力を否定する信託不成立原則を法に規定し,明確にすべきであると考えます。元々公益目的信託を目指していたのですから,当事者の意思解釈として認定が得られない場合には,信託としても効力を生じないと法に明記することが法律関係を簡便にすると考えます。 ○林幹事 確かに,委員・幹事の方々の問題点の捉え方はそのとおりであり,沖野幹事の整理のとおりだと思っています。それを踏まえて,少なくともこれは動かないというか,こうで在るべきだと思う点を,理屈は通らないかもしれないのですけれども申し上げたいと思います。恐らく,それを後から翻って評価して,どういう制度になるかとか,認定という言葉なのか認可なのか,そういうふうに考えるのだろうと思います。ですので,まず,こうであるべきだと思う点をちょっと,一つ一つ申し上げたいと思います。 1点は,認定を受けなくても公益的な目的信託というものが残る,それを一律に否定しないという前提だと思いますので,まずそれを確認したいのが1点です。申請をしない場合とか,申請したけれども駄目だった場合,あるいは取り消されたような場合はそこの類型に入っていくので,そういう類型があるという点は疑いないところとして議論していただいたらと思います。 それから,その上で,結局,申請をすることについて,申請する前と,申請して認定が受けられなかったときの二つの問題があって,認定を受けられなかった場合については,目的信託として残りたいというときはその意思が尊重されるべきだと思いますので,目的信託に戻るというか,移行できるルートを設けるべきだと思います。確かにゼロから目的信託を作り直せばいいではないのかとの意見もあるかもしれないのですが,手続的にそういうステップを踏んでいるのであれば,それは尊重していいと思いますので,そうすべきだと思います。 ただ,そのときに当事者の意思のデフォルトをどう考えるかについては,私もまだ決めかねているところです。信託行為に書かれないときに,そういう意思がある前提でいくのか,ない前提でいくのか,そこは決めかねているのですが,少なくとも可能な限り意思を尊重すべきです。この提案で,例えば丙案の例外のような,こういう留保がなくても,黙示の意思を尊重してそちらのルートに持って行くべきではないかという議論もあったぐらいです。少なくとも意思を尊重して目的信託として残りたいときはそちらのルートに行けるようにという制度にしていただきたいのが1点です。 それから,申請の時点の段階のことで言いますと,神田委員がおっしゃったとおりと思っていまして,確かに思考の中では信託行為があって,その後,認定を受けるとあるのだけれども,吉谷委員が言われたように,信託契約が後の場合もあり得るわけで,それが前か後かによって,その効果が違うように考えるのは,この場合にはそぐわないと思っています。 これまでの議論だと,軽量・軽装備だから,設立や認定のときは比較的軽微に考えるべきだから,そこにおいては2階建て的には考えないというのは一応,議論としては一致していたと思います。ただ,その中でも,思考の中では信託行為というものと認定というものと2段階にあると考えるのはそのとおりなのですけれども,ただ,プロセス的には信託契約は必ず前だというのではないと思います。山本参考人の整理でも,行政的な効力の面と私法的な効力の面が両方あって公益信託になるという理解だと思ったのですけれども,どちらかが前で,どちらかが後という問題ではなく,恐らく両方そろったときに公益信託としての効力が生じるのだと思いました。 そうしたときに,信託契約なり行為が前だったときに,恐らく認定を受けるのとタイムラグが生じます。そのタイムラグがあるがために税が課せられるという議論があったと思うのですけれども,そこで税が課せられるというのが私自身はすごくナンセンスだと思います。典型的に想定しているのは申請して認定を受ける期間がそれなりに短いもの,あるいは頭の中で一体的に手続としてやっている場合なのに,そこで税が課せられるなんていうのがおかしくて,それは税が課せられるということ自体がおかしいのかもしれません。そういう前提で心配してしまうのかもしれないのですが,実務的には,そういう状況であれば,恐らく信託行為の中に停止条件を付けて,認定を受けたときに私法的な効力が生じると書くことになると思われ,だから,それで手当てできるという面もあります。それだったら,その面においても法なりにそこをしっかり書き込めば,それで十分ではないのかと思います。 ○中田部会長 ほかに。 ○樋口委員 私はちょっと政策論的な話をしようと思っています。うまく三つにまとめられるといいと思っていますけれども。まず一つは,山本参考人のお話を聞いて,私が最も感銘を受けたのは10ページから11ページ,山本参考人の資料なのですけれどもね。それで,行政庁の権限の縮小という話になっていて,題名が,そもそもそういうことが書いてあるのですけれども,今まで主務官庁制を採ってきたのだというわけですね。それはどういうことかというと,それぞれの主務官庁で勝手にとは言わないのですけれども,それぞれやはり何が公益であるかをそれぞれの主務官庁で判断して,しかも権限が相当にありますから,今までの旧信託法では,こういうものだということであえていえばそれぞれの判断で介入もできたということです。いや,それは今度やめたのですよという話になっているわけですよね。 統一的な行政庁が新たな公益信託制度においては法令上の基準を満たすかどうかだけを監督するのだと,こういうようになったのだというのは,基本的に行政庁の裁量が縮小したことが,うまく私が言うような話につながるかどうかは何とも言えないのだけれども,実は正直に言うと,やはり公益の判断が,各主務官庁で極めて狭くそれぞれのところで考えていたものが一つのところで,一つの大きな抽象的な基準ですから,これも公益だという形で,広げられるはずだということです。つまり政策目的は,今度の公益信託法改正は絶対に公益信託を広げようとするものでないといけないと初めから私は思っているわけです。 そういう観点から見て,行政法の教授がというか,山本参考人がこんなふうに制度の改正で,こういうふうに道が広がるというか,そういうことを含意してくださるような,なるほど,主務官庁制を廃止するというのはそういう意味もあるのかということを感じたのが1点。 その上でなのですけれども,今日の第1の効力の発生時期という,まず問題の捉え方が,沖野幹事が言うようにちょっとずれているのではないでしょうかというのはそのとおりだと思いますけれども,その上で,これでこの議論を,今までの方と違って細かな議論ではなくて申し訳ないのですけれども,公益信託を広げるという観点から見てどう考えるのかというと,次のように見える。いいですか,公益信託が認可されなくても,実は公益概念はもっと広いものである。 私にとっては,例えば,私は公益信託の申請は駄目だと言われたのだけれども,これは公益を目的とする受益者の定めのない信託です,そっちはきちんと存在していますよといえるという議論が今なされているわけです。そのうち公益概念も変わってきますから,時代とともに,だから,こういうような準公益信託みたいなものを認める方向で全体としての公益信託,公益信託というのは認可/認定されたものだけかもしれないけれども,そうではない,単なる目的信託でもなくて「公益を目的とする受益者の定めのない信託」というのをここで作ろうとしているわけですから,乙案,丙案では。そちらの方が従来の意見では多数だというわけなので,そういう発想でこれはできているのかなと思います。しかし,事務局は,私が思っているように考えていないはずなのですよ。そんなことは,私もそれほど楽観的ではないので。でも,そういうように見えるということなのですよね。 第3点は,だから,そういう意味では乙案でも丙案でも,私はそういうふうに,つまり公益概念をある行政庁が独占して勝手に解釈するのではなくて,実はもう少し広がりのあるものですよというふうに広げていって,将来にいろいろな種を残す布石を打つというのだったら非常にいい話だと思いますけれども,ただ,1点心配なのは,公益を目的とする受益者の定めのない信託で,公益信託という名前は名称独占で使わせないでしょうけれども,長くても何でもいいのでしょうから,「公益を目的とする受益者の定めのない信託」をたとえば樋口が作りましたといって本当にいいのかなというのはあるのですよ。 それで,それを私がある程度の財産を出して,それをこのために使っていきましょうという話だけだったら,いいではないのと,それでいいのですけれども,普通は私が考えるのは,これに,山本参考人,是非とも私の考えに賛同してください,500円でもいいです,1,000円でもいいですという,同じような,何しろ公益を目的とする,しかし,どうしてか分からないけれども認定を受けられなかった信託,今のところは認定を受けていないかもしれないけれどもという信託を始めますね。私は詐欺師ではないので真面目にやります。しかし,この公益を目的とする受益者の定めのない信託というのを簡単にやはり認めていいのかなというのは,先ほど言ったこととちょうど反対になるのですけれども,公益概念をもう少し柔軟に考えていく政策論的な話はあるけれども,もしこういう議論をするのだったら,やはり少し注意を,何らかの,やはり普通の目的信託ではないものを認めようみたいに見えますので,これはどういうことなのかと多少の危惧も覚えます。それに関しては,少なくとも初めの信託財産がずっと動かない,それを費消していくだけだったらいいと思います,別に関係ないから。でも,それに追加の信託財産を受けるようなものについてだけは,やはり何らかの,余り私は規制とは好きではないのだけれども,何らかの注意は当然必要になるのではないだろうかというふうに,今日の議論を通して,ちょっとピント外れだけれども感じました。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○新井委員 質問です。あるいは,私だけが分かっていないのかもしれませんけれども,質問をさせていただきます。 受益者の定めのない信託というのは,現行法上,二つの制約があります。一つは課税は信託財産課税であることと,もう一つは受託者要件が厳格に定められているという二つの制約があると理解しております。それで,公益を目的とする受益者の定めのない信託についても,当然その制約は掛かってきているわけです。この場では公益を目的とする受益者の定めのない信託を認めるという意見が大勢であるということは十分承知しております。 その上での質問なのですけれども,今まで目的信託,受益者の定めのない信託というのは一件も設定例がないわけですね。それは今言った二つの制約のせいだと思っています。そうすると,そういう類型を認めて,これを拡張しようとする意見の方は,現行法の二つの制約というのを廃止しろという主張なのでしょうか,あるいは存置した場合は,ほとんど現行法と変わらないような,使い勝手がないと思うのですが,その辺りはどのようにお考えになるのか,これは質問というか,御意見をお伺いしたいと思います。 ○中田部会長 今回,「[公益を目的とする]受益者の定めのない信託」という概念を仮に置いていて,その中身について更に詰めていこうということだろうと思いますが,新井委員は,仮にそのようなものを置くとしても,その中身をもっと明確にする必要があるのではないかと。とりわけご指摘の2点について,今の段階でこのような類型の信託を認める方の御意見があれば伺いたいということだと存じます。 どなたでも結構ですけれども,もしございましたら。 ○林幹事 その点は,私としてはずっと申し上げてきたつもりなのですが,新井委員の問題意識はそのとおりだと思うので,本来的には目的信託がなお使われるようにという意味においては,公益にかかわらずその要件は緩和されるべきであり,そこを工夫すべきだと思っています。ただし,少なくとも公益的なものに絞ったとき,現行法の解釈だと附則も公益目的のものを除くとなっているので,附則を読めば,受託者要件は公益には掛からないという考えもあるかもしれないのですが,いずれにしても,公益目的の目的信託で認定を受けないものというのを考えるときは,その受託者要件は外れる形で何か類型を考え,ガバナンスなりを考えるというか,そういうものを作っていかなければそこは機能していかないのだろうと思いますので,そこを何らか変えていくべきだと思います。 今の法務省の御提案だと,ちょっとそこはブランクというか,まだこれから考えましょうというか,そういう形で問題提起していただいていると理解しているので,これから議論していくのかなと思っています。 ○沖野幹事 個人的な意見を聞かれたと思いますので,申し上げたいと思います。もちろん全て個人的な意見なのですけれども。私は現在の税法の話は,やはり税法としてはどういうものを認めるかということではないのかと思っております。どういう要件があれば,どういうところが認められるのかはそちらの方の問題で,それをにらみつつ,それをクリアするような制度を整えるということはもちろんあるかと思いますが。ですので,信託法の問題としては,受託者要件の問題が大きいのではないかと思っております。 この附則については,一定期間の実際の運用等々を見て目的信託の乱用などがないのかということを見ながら,適切な時期に見直すということであるとすると,附則自体の見直しという問題はあるのだと思います。ただ,これがそのまま存置されるならば,目的信託の場合に,公益信託の場合には受託者要件の限定が除かれるということが,公益目的であれば除かれるのか,それとも,公益目的で行われる場合には,公益信託法による各種のきっちりした制度が作られているので受託者要件で絞る必要はないということなのかで,私は後者だと思います。ですから,公益目的であるならば,この要件はもう外してもいいということにはならないだろうと考えます。 可能性としては,そうすると,公益信託とは別に,公益を目的とする目的信託について更に特有の規律を置くのか。受託者要件を外してもいいけれども,公益信託というほどではないというタイプのものを置くのか。そのことは委託者の権限の問題に関わったり,あるいはその中にも,他者から寄附等を含めて財産を得るようなタイプのものをするときには,更に一定の要件がなければいけないというような形とし,ですので,他者から財産を得ないときにはもう構わないのだということにして,ただ,財産の管理処分先は,きちんとした受託者にお願いすると,そこは要チェックですねという話をするかどうかという問題なのだと思います。 目的信託の中に更にそういうものを作り込むというのは,その方が公益活動を拡大するにはいいのかもしれないのですが,やや大仰ではなかろうかという気がしていまして,附則自体の受託者要件の見直しは,目的信託一般について見直されるならば,それはそれでいいのですけれども,公益を目的とする,しかし,公益信託とはならない目的信託のためだけに,何かを用意するということは必要ないのではないかと考えております。 ○中田部会長 確認ですけれども,そうしますと,仮に現在の附則3項があるとすると,目的信託の受託者要件から公益を目的とするものは除くという規定になっているわけですけれども,そうすると,認定ないし認可を受けていない公益信託については結論としてはどうなりますでしょうか。 ○沖野幹事 附則自体は公益信託としての認可を受けたものを除くとか,そういうような形になるのではないかと思います。 ○中田部会長 つまり,その限りで附則は書き換える必要があるという。 ○沖野幹事 そうです,その意味ではそうなると思います。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。 ○吉谷委員 新井委員の御確認の趣旨にはきちんと答えられるかどうか分からないのですけれども,議論をお聞きしていたところで,元々発言しようとしていた項目でありますので,併せて発言させていただきます。 まず,目的信託で公益的な目的を信託行為に記載するというような類型を認めてよいのかどうかということについては,これは認めてよいというのが従来からの立場でございます。 ただ,その上で,新井委員がおっしゃった,あるいは樋口委員がおっしゃったように,その委託者がただ公益だと思っているだけで,実は公益ではないことをするかもしれない信託というのに,信託行為に公益目的でというようなことが書かれているということに対しての懸念はやはりあります。ありますが,私はこれは名称使用の問題のところで解決すべきなのではないかと考えております。ということは,公益的目的信託という新たな目的信託の類型というのを作るのはやはり屋上屋を重ねるということになりますので,やるべきではないと考えております。 ○中辻幹事 今回の部会資料41の「第1 公益信託の効力の発生時期」で挙げた3つの案のまとめ方については沖野幹事の御指摘のとおりでして,認可でも認定でもその行政行為がされた時点から効力が発生することになりますし,仮に信託契約の準備段階で行政庁の認可を受けたなら信託契約のときから効力が発生するということになると考えています。 その上で,ちょっと前の資料に立ち戻ってしまいますし,その資料が今お手元にない方がいらっしゃると思うので申し訳ないのですが,部会資料38の第2の3のゴシックでは,公益信託法第2条1項の削除という提案をしておりました。そこでは,公益信託の認定を受けていない目的信託の効力を認めるかどうかは,信託法附則3項で公益信託法に任されている部分であり,現行の公益信託法2条1項からは,主務官庁の許可を受けない限り許可申請の有無を問わずそのような信託を設定しても無効である,山本参考人の表現をお借りすれば一般的禁止を伴う「強い認可」であるように読めるのだけれども,2条1項を削除することにより,そうはならないということが明確になるということを御説明し,皆様の了承を得られたと理解しております。 その上で,今回の部会資料41は,信託契約の当事者が公益信託として認可/認定の申請を予定しているものを取り出して効力の発生時期を議論していただくために作成したものですので,認可/認定の申請を予定していない信託はひとまず枠の外に措いてお考え頂ければと存じます。 ○吉谷委員 第1の論点につきましても,既に同様の御意見も出たところではございますが,意見を述べさせていただきます。 まず,公益信託の効力の発生時期につきましては,先ほど申し上げましたように,認可の後に信託契約を結ぶという場合もありますので,認可のときではなくて認可のとき,あるいはそれ以降という形でしていただければと思います。そして,先ほど申し上げたとおりで,山本参考人の御説明の認定という形には反対ということでございます。 それでは,弱い認可の場合に,デフォルトルールをどのように置くのかということにつきましては,認可がされなかった公益信託が目的信託として成立するということをデフォルトとする規定を置く,これには反対いたします。理由は2点です。 1点目は,私が元々イメージしておりますのは,公益信託を設定するに当たって,新たな信託を設定するというような場面を専ら想定しているところです。その場合に,委託者は,公益信託の認可が得られない場合に,普通はどのように修正をすれば公益信託として認可が得られるのでしょうかというふうに受託者になろうとしている人に対して確認するわけです。そのような検討もせずに目的信託を成立させてしまうというのはいかがなものかと,本末転倒なのではないかと思います。 また,その認可が得られなかった,認可を受けられなかった場合に効力が生じるとなっておるのですけれども,認可が受けられなかったというのが一体いつ決まるのかということになるかと思います。そうすると,あらかじめこの信託契約で認可を受けますと,これが受けられなかった場合には目的信託になりますよというようなことをあらかじめ委託者と受託者との間で考えておくというようなことになるわけです。 そこで,理由の二つ目にまいりますけれども,先ほど,公益信託になるから税の恩典が得られるとは限らないのではないかというお話もございましたが,私どもとしては,公益信託の認定が受けられることによって,どのタイプのものも一律に税の恩典が得られるかどうかというのは分からないのかもしれないと思っておりますけれども,公益信託の認可が得られた場合には,セットになって何らかの税の恩典があると,一定のパターンのものには一定の税の恩典があるというような形で,今まで2段階に分かれていたものが1段階で済むということを望んでいるわけであります。 ちょっとそのような形になるといいなという話ではあるのですけれども,現状のものを考えてみましても,公益信託と目的信託では課税の違いがあります。課税が違いますと,当初信託財産であるとか,事業を始めてから得られる信託財産について,当然キャッシュフローが違ってくるわけです。このキャッシュフローが変わるわけですから,当初の信託財産額も変わるわけですし,事業計画も変わるということになります。そのようなことを織り込んで,初めから目的信託と公益信託でこういうふうになりますからということを検討した上で公益信託の認可を受けようというのですから,これは余り現実的ではないだろうと思っているのです。というわけで,デフォルトルールとしては,目的信託としては成立しないとすべきだと思います。 目的信託から公益信託に変更するパターンのときにどうなのかという議論もあると思いますけれども,これについては,私は元々そのような変更というのを,複雑な制度になるので認めるべきではないという立場でありますので,省略させていただきます。 ○中田部会長 ただ今の御発言は,甲案を前提とした上で,その認可の時ではなくて,認可の時あるいはそれ以降とすべきだということなのか,それとも丙案について,デフォルトルールを逆にするというものであれば許容するという御趣旨なのか,いかがでしょうか。 ○吉谷委員 丙案でデフォルトルールを逆にするのであれば許容できるとは思っているのですけれども,余り使われることがないだろうと思っているので,わざわざそのようなデフォルトルールを設ける必要があるのか,それとも,解釈に任せるのかというところは考えようかなと思いました。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。 ほかにいかがでしょうか。 ○沖野幹事 度々申し訳ありません。場面設定がどうかということを詳細に説明をしてくださいまして,ありがとうございました。中辻幹事から最後,明確にしていただいたと思うのですけれども,念のためなのですが,神田委員あるいは吉谷委員のお話などをお伺いしまして,あるいは林幹事のお話をお伺いしまして,ここでは申請がされたときの問題であるということはもう明確になったと思うのですが,その申請が新しく公益信託をゼロからといいますか,作ろうという場合の申請と,既に例えば1年ぐらい,目的信託でもできるということだということが前提ですが,やってみて,これはやはり公益信託の名称で続けよう,いったん終了させてもう一回作り直すというよりは,今のままで申請しようという場合もあり得るということが指摘され,そういう場合がそもそもあり得るか,認められるかということと,それをも射程にして,この話をするのかということですが,そこを多分,整理はした方がいいのではないかと思います。 それから,効力発生時期ということに関連しましては,例の2段階論の話ということがあり,それは最終的には林幹事がおっしゃったように,信託行為と認可の両方がそろったときに効力は発生するというところでまとめられ,信託行為というのが常に先行しなければいけないかというと,必ずしもそうではないと,現在の実務もそうであると,何らかの前提の予備的行為で認可を申請しても足りるというところになるのではないかと思われます。それで,あとの認可を受けられなかったときにどうなるかというのは,どちらをデフォルトにするかということであり,先ほどのやりとりですが,丙案はデフォルトはおよそ効力を生じないのだけれども,信託行為で別の定めがあったときには有効にするというものですよね。吉谷委員のお考えとしては,許容可能なのはその範囲だということでしたよね。という理解かと思いましたが,これは念のため確認です。 ○中田部会長 すみません,最後の御指摘については,ちょっと私の整理が混乱したかもしれませんけれども,今の沖野幹事のような御指摘の趣旨と承ってよろしいでしょうか。 ○吉谷委員 結構です,はい。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ほかにいかがでしょうか。 ○中辻幹事 先ほど吉谷委員が少し触れられました目的信託から公益信託への変更のような,途中まで目的信託として遂行し,ある時点で公益信託の認定を受けることにしました,というものは,最初から公益信託の認可/認定を受けるつもりがある基本形とは違いますので,これも今回は枠の外としてお考えいただければと思います。 ○中田部会長 山本参考人,これまでの御議論をお聞きになられまして,もし何かコメントなどございましたら。 ○山本参考人 やや法技術的に言えば,私の理解するところ,甲案ないしは私が強い効力を持つ認可というふうに表現したものは,先ほどの道垣内委員の話にもありましたけれども,まず,現在の公益信託法の2条1項のように,公益目的の信託という定義がまずあって,それについては,とにかく認可を受けなくてはいけないと,逆に言えば,認可を受けないと効力は発生しませんという形にした上で認可の基準を定めるという形で,まず,認可の対象をはっきりと決めて,その上で認可基準を決める形になるかと思います。私の理解するところ,若干このようなシステムに賛成という委員もいらっしゃいましたけれども,反対であるという委員が多かったのではないかと思います。 ちなみに申しますと,余り議論を混乱させても仕方がないのですけれども,行為規制効をもつ認可を狭い範囲で法定して,公益目的の中でも,一部については認可を受けなければ信託を行ってはならないとするような制度も中間的には考えられますけれども,果たしてそこまで複雑な制度を作る必要があるかどうかということかと思います。 あと,丙案ないし私が弱い効力を持つ認可と表現をしたものは,結局,受益者の定めのない信託として効力を持つかどうかは信託行為の解釈により,当事者の意思によるというのがベースで,その上で,では,どちらをデフォルトにするかということですので,細かく言えば,何もデフォルトを設けない,とにかく意思解釈に全部任せるやり方もあるという前提で書いておりますが,ただ,実際上はデフォルトを設けた方が恐らく動きやすいだろうということで,そういうふうに表現をいたしました。 ですから,この場合には恐らく,法律において,先ほど道垣内委員が言われた公益信託契約みたいなものを定義して,そこにおいて,契約にこういう定めがない限り,受益者の定めのない信託として効力を持つとか,持たないというような形で表現をしていくことになると思いますので,特に丙案ないし私が弱い効力を持つ認可と書いたものは,公益信託契約のような表現を多分使って定義をした上で,契約に定めがあるかないかで場合を分けて,デフォルトルールを作っていく形になるのではないかと思います。 樋口委員から言われた点ですけれども,そのような御指摘を頂くのは大変有り難く思います。恐らく樋口委員の懸念に関しては,先ほどほかの委員からも御指摘がありましたように,まず,名称独占といいますか,名称の使用の規制をある程度厳しくする,つまり,公益と信託という二つの言葉をくっ付けたような形で名乗ってはいけないとか,そういった形でまずは対応できるかと思います。もしも,それでは対応し切れないということですと,先ほどちょっと申しましたけれども,公益目的の中でも部分的にこういうものを目的に信託をする場合には認可を受けなくてはいけないというふうに,ここで言う強い効力を持たせる認可を,範囲を限定した上で残すことも考えられなくはないかと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ほかにございますでしょうか。 主として第1について御意見を承りながら,第2についても言及していただくということでございましたけれども,第2について,更に御意見などございましたらお出しいただきたいと存じます。 ○平川委員 第2につきましては,第1の公益信託の効力の発生時期について,公益信託の認定があったときとする丁案を妥当と考えますけれども,それの関連から,認定の取消しがあった場合には私法上の効果と公益性の認定は同時に効力を失うというのが私どもの丁案との親和性もあり,妥当であると考えます。 乙案の取消しがあった場合に,信託行為に事前の定めがある場合に,公益を目的とする目的信託として存続するという案については,そもそも公益信託として出捐された財産を,公益を目的とすると言いながらも私益信託として引き継ぐことは,制度としても税法上の優遇の観点からもあり得ないと考えます。もっとも,それを認めるとするならば,残された信託財産について,公益法人制度におけるように公益目的支出計画を提出し実行させるとするか,優遇を受けた税金の還元を何らかの形で行う等の議論が必要となり,大変複雑な制度となりますので,そのような形で信託を存続させる必要性もメリットもないと考えております。 ○中田部会長 ほかに。 ○吉谷委員 従来同様で,甲案に賛成いたします。 乙案の場合は,資料の9ページの6よりちょっと上の辺りにも説明してありますように,公益信託では全ての財産が公益目的の達成のために取得する財産であるという前提ですので,公益目的事業財産に相当する財産だと。そうしますと,公益法人と同様の立て付けで考えると,ほとんど全てを寄附等してしまわないといけないということになるのではないかと,まず考えております。そうすると,乙案というのは寄附とかはしないで公益的目的信託として残しましょうという提案であると思います。先ほども申し上げましたけれども,公益を目的とする目的信託の規律というのを新たに設けるのは,まず屋上屋を重ねることになりますので反対というところが一つでございます。 そしてもう一つは,終了時に目的信託に戻りますということが書かれている信託行為については,これは恐らく税の控除の適用というのはないだろうと思われます。すると,認定取消しがあっても公益を目的とする目的信託として存続させたい場合には,税控除の適用はありませんけれども,そのような公益信託にしたいですかということを委託者の方に我々受託者は確認をするということになるのですけれども,余りそういうニーズはないのではないかと。まず,税控除の適用があった方がいいと思う人にはそういうニーズはないと思いますし,一方で,税控除の適用がなくてもいいのだ,とにかく公益をやりたいのだという人にとっては,公益のお墨付きが得られないような信託として残すことを望みますかという問いには,これは公益ではないから,いや,それはもうそのときは要らないよと,何とか公益信託のままで残してくれと,そのために工夫をしてほしいという反応になるのではないかと思います。ですので,乙案というのは事実上は,ほとんど使われないのではないかと考える次第です。 ○林幹事 前回の部会資料40の2の5のときにも申し上げたのですが,それと引き続き同じですが,今のところは乙案に賛成致します。 確かに,部会資料にも書かれているような,公益として支出された資産なのだからという部分について,問題点というか,悩ましさがあることは承知しているつもりなのですが,とはいうものの,取消しがされる場面というのはいろいろあって,取消しはされたけれども,公益的な目的として残る可能性がある場合もあると思います。吉谷委員はニーズはないとおっしゃられたのですけれども,必ずしもそうではないのではないかと,場合によってはあるのではないかとは思います。ですから,そういう意味においては,今のところは少なくとも乙案のようなことで残していただいて,あの中間試案なりでもう少し議論していただいて,ニーズの有無であるとかをパブリックコメントを経て見ていただいたらいいのではないかと思います。 ですから,認定のない公益的な目的信託は否定しない前提ですから,その中の一つのものとしてあり得るものと思いますし,その前提で,そういうものも制度で組めないのかをもう少し議論していただいたらと思います。 確かに,山本参考人は設立とか申請の時点と,その取消しの時点と,考え方が違う場合とおっしゃられて,そこにも引っ掛かってはいるのですが,問題点は分かった上で,今としては乙案を支持して,もう少し議論の対象としていただきたいというところです。 ○中田部会長 ありがとうございました。 部会資料41の9ページに,乙案を採る場合の問題点が指摘されていますけれども,これについては何かお考えはございますでしょうか。 ○林幹事 個別にこうであればというのは,まだ答えを出し切れていない面もあるので,今直ちには答えられず申し訳ありませんが,ただ,その時点まで公益信託として実績があって,ガバナンス等の制度も一応設けられたものとしてそこまで来たわけですから,そういう意味においては,公益認定が取消されてその認定機関からの監督はないのですが,一定監督もあるわけで,公益目的としての余地があるのなら残せばいいのではないか,というのが今のところの意見です。そういう点も含め,もうちょっと詰めないといけないことは理解していますが,今のところはこうした意見にとどまりますが申し上げたいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ほかに。 ○神田委員 ちょっと細かい点で,前に出たのかもしれませんし,本筋でなかったら申し訳ないのですけれども,現在,現行法のもとで存在している公益信託というものは,この新しい改正の下では永遠に適用除外で行き続けるのか,一定の時期にこの新法というか,改正後のルールに言う公益認定を受けなければいけないのか。もし後者だとして,受けられなかった場合に,そういうものについては,一般論としては例えば甲案でいく場合であっても,乙案で処理をするのかという問題があるように思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 経過措置については,前に少し事務局の方からの御提案,御議論があったかと存じますが,重要な点だと思いますので,引き続き検討することになろうかと存じます。 ほかには。 ○藤谷関係官 申し訳ありません,お時間が限られているところ,恐れ入ります。 一つ,山本参考人が問題提起してくださったところでまだ議論されていないと思われる点として,公益上の理由がないと財産権の過度の制約に当たるのではないかという論点がございます。 この論点は,強い効力を持つ認可というのと甲案とが連動するのではないかという話で,まず資料の6ページで出てきて,もう一回,資料の9から10ページにかけて,終了のところでももう一回出てくるというかたちになっております。 確かに,財産権の過度の制限に当たるのではないかというのは非常に重要なポイントだと思います。しかし,その点については,既に先ほど中辻幹事から御説明ありましたとおり,現在の案でも,現行法の2条1項を削除するという形で,公益認定を受けないルートで私人が,自由にやるということは否定しないということで,一応そこは認められていると。そうすると,現在の第1の甲案及び第2の方の甲案を採った場合,若しくはデフォルトルールで,甲案というか,認めないというルールを採った場合には何が問題になるかというと,公益認定を目指してやったけれども失敗した人に全然それ例外の救済がなくて,奈落の底まで落ちてしまうというような制度の立て付けが問題になるということなのだろうと思いますが,果たして,その場合にもやはり財産権の過度の制約ということは考えた方がよいのか否か。つまり,山本参考人の御説明の中で,この論点が一つ甲案と丙案デフォルトの原則としては整理させないという考え方との分水嶺になっているような気がしましたものですから,それは民事基本法制を考える方からすると,余りそういう財産権の規制に当たるのではないかということは,それほど正面から議論してこなかったように思いますので,とても重要なポイントではないかと思いましたので,その点について改めてお考えをお聞かせいただけると大変勉強になるのではないかと思いまして,よろしくお願いいたします。 ○中田部会長 山本参考人,よろしいでしょうか。 ○山本参考人 財産権と書きましたけれども,民事法の研究者の方々の前でこんなことを言うのは恐縮なのですが,私的自治と申しますか,意思の自由の問題ではないかと思います。 丙案,あるいは私が弱い効力を持つ認可と申し上げたものは,私的自治ないし意思の自由を基礎にしており,それと比べたときに,甲案ないし私が強い効力を持つ認可と言ったものは,当事者がどのように考えていようとも終了をさせるという制度であって,ということは,始めようというときにも,認可を受けない限りやはりやってはいけないということに必然的になるわけですね。当事者が受益者の定めのない信託として続けようと思っても,もうそれは駄目です,どう考えていようとおしまいですということは,当事者の意思が否定されることになり,それはなぜか,それだけの実質的な公益上の理由が,必要だろうと思うのですね。 そうすると,それと同じ理由でもって,結局,信託を始めようというときにも,一定の類型の信託については,やはり認可を受けなくては駄目だということになってくる。そうすると,全面的に,当事者の意思如何にかかわらず,とにかくそれは駄目ですと,信託としての効力を発生させませんということに,公益上の理由があるかどうかということになろうかと思います。ですから,財産権というよりも,むしろそのような私的自治,意思の自由の制約ということかもしれません。 ○藤谷関係官 ありがとうございます。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ほかにございますでしょうか。 ○深山委員 先ほど沖野幹事が御指摘をされたとおり,全く新たに公益信託を作ろうという場合と,既に公益的な信託設定があって,それをある段階で,これをいっそ公益信託にしようという場合があり,場面を分けて議論なり整理すべきだという御指摘だったとお聞きしたのですが,それにごもっともだと思って,その先を私なりに考えていました。既に公益的な受益者の定めのない信託をしているときに,例えば1年やって,では,これはもう公益信託に言わば格上げをして税制優遇も受けようとか,名称も使わせてもらおうということになって申請をしたけれども,何らかの理由で認められなかったという場合,その場合には公益信託にはもちろんならないわけですが,全く何もなくなるわけではなくて,元の状態に戻るといいますか,元の公益信託ではない公益的な受益者の定めのない信託に戻るといいますか,そのままということだと思うのですね。 他方,全く新たに信託そのものを作ろうというときを考えると,それは元々何もない状態なので,公益の認定なり認可を申請したけれども,おりなかった場合には,戻るものがないという意味では全く何もなくなってしまうというのも一つの割り切りとしてはあると思うのです。しかし,観念的にはそういうふうに,場合が違うから結果が違ってもいいと言えるのでしょうけれども,しかし実際には,そういう認められない場合もおもんぱかって取りあえず作っておこうと。極端に言えば,1か月でも作って,それからやれば全くゼロにはならないということになるのも,またおかしな話だという気がするのですね。ですから,もちろんどういう理由でその認定が受けられないかということにもよるのかもしれませんけれども,新たに作る場合,あるいはそれに近い場合であっても,現行法の2条1項を削除する以上,もはや,藤谷関係官の言い方を借りるとすれば,奈落の底まで落ちてしまうしか道がないというのはどうもやはりしっくりこないので,2条1項を削除する以上は,主位的な意思が通らなくても予備的な意思が,無条件ではもちろんないわけですが,一定の要件さえ満たせば生かされる余地というのは,やはり認められるような仕組み作りが必要なのではないかなという気がいたしました。 ○山本委員 先ほどの山本参考人からの答えに引き続いて,少し怖いのですけれども,質問させていただければと思います。 9ページの真ん中ぐらいの段で,本論点で乙案を採用する場合にはとあって,公益信託の認可ないし認定が取り消された後,公益目的取得財産残額を算定し,その額を他の類似目的の公益信託の信託財産とすることなどというのが方策として挙げられています。 このようなことを本当にしないといけないとなると,信託としての存続は事実上,考えられなくなるだろうということがあるわけですけれども,このような規制を課すこと自体,私的自治に対する過剰な制約になるかという問題はあるのでしょうか。それとも,これは確かに一見すると過剰な制約のように見えるけれども,やはり合理的な理由があるのであって,それは正当化されると考えるのでしょうか。これはかなり重大な問題ですし,それを直接おうかがいできるまれな機会ですので,お聞きかせいただければと思います。 ○中田部会長 よろしいでしょうか,お願いします。 ○山本参考人 これは私が最終的な判断はできないのですけれども,観念的にはあり得ると思います。やはり私的自治等の制約として観念的には考えられると。ただ,問題は,先ほど言われましたように,要するに合理的な理由があるのかどうかということで,全く新規に公益信託を始めるときよりは,ずっと公益信託をやってきて,その結果として問題が出てくるという場面ですので,私は感じとしては,合理的な理由がこちらの方が付けやすいかと思います。 ですから,私の案の中でも,一応考えられるとしました。それにも更に段階があって,デフォルトルールとしてどちらを設けるかということと,更に一切,甲案のように排除するというやり方があると思いますが,可能性としては合理的な理由が立つかと思います。 ついでに,資料を事前に読んで分からなかったのが,今の9ページの6と書いてあるところの直前に,乙案を採用して公益信託は終了するのだけれども,引き続き行政庁が一定の範囲で監督する仕組みを設けるとありまして,これは公益信託における行政庁の監督等の仕組みとはまた違う監督の仕組みを設けるということなのですが,何かこれが,いささか中途半端な感じがして,なぜ公益信託はおしまいなのに,まだ行政庁の監督が続くのだろうかと。公益信託の場合よりは弱い監督を考えているのかもしれないのですが,そういう中間的な監督の制度というものが成り立つかどうかということがよく分からなかったというのが質問というか,単に感想ですけれども,ついででしたので申し上げます。 ○中田部会長 何か。 ○中辻幹事 部会資料の9ページで表現したかったことは,公益信託の認定を取り消された後の信託への行政庁の監督の仕組みとしては,当然のことながら公益信託の認定を受けているときと同じ形で監督する必要も理由も無くなるものの,認定中の監督よりも弱い形で,公益への拠出が予定されていた信託財産が私益に流れないようにするために必要な範囲での監督が考えられるのではないかということなのですが。 ○中田部会長 私が伺うのはよくないかもしれませんけれども,公益目的財産額について,公益目的支出計画を立てて,何年かに分けてそれを実行するというときの,それを監督というのかどうか分かりませんけれども,一定の関与があり得ると思うのですけれども,その話とは別のことですか,それとも,そのことでしょうか。 ○中辻幹事 旧公益法人のうち新制度の下での公益認定を受けない法人が一般法人に移行していく局面では,今,中田部会長に御紹介していただいたように,旧公益法人の財産を一般法人が公益目的支出計画に従って支出していくことを行政庁が監督するという仕組みがございました。それと同じような仕組みをイメージしていただくのが分かりやすいように思います。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ○山本参考人 ええ,分かりました。そういうイメージで了解いたしました。 ○吉谷委員 何を聞こうとしていたのか,ちょっとすぐによみがえってこないですけれども,深山委員の御発言に対する御質問の趣旨だったのですけれども,深山委員の御発言は,その第1の方の論点をお話されたのかなというふうに聞いていたときは理解していまして,その第1のところで公益の認可がされなかったときに奈落の底に落ちるということは多分なくて,認可されなかったら,そのときもう一回受託者と委託者で合意をし直せばいいのではないかなとちょっと考えましたので,そこの御確認というか,意見なのですけれども。 ○深山委員 おっしゃるように,まだ何も信託としての実態がなくて,これから作ろうというときを想定すれば,確かに公益信託で作ろうと思って契約を結んで認可/認定の申請をしたけれども,駄目だったというときに,では,もう一回,一からやり直せばいいというのは,それ自体はそのとおりなのでしょう。 私が申し上げたかったのは,その場合に,先ほど契約が必ずしも先行するとは限らないという御指摘もあって,確かにそうかなと思うのですが,契約が先行をして,なおかつ是非公益信託を新たに作りたいけれども,万が一,認定が通らなかったときには,次善の策として公益的な目的信託にしようという意図で契約を結んでいた場合には,改めて契約を結び直すまでもなく,従前の契約を生かすということがあるというようなことをイメージして申し上げました。 ○中田部会長 大体よろしいでしょうか。 ○藤谷関係官 すみません,一つだけ。テクニカルなのですけれども,公益からもう一回目的におりてくるときに,目的信託の20年の期間制限の潜脱にならないか,どういうふうに考えたらいいのかという問題はあるかなと思いました。 ○中田部会長 今のような問題点があるという御指摘を頂きました。 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中辻幹事 沖野幹事がさきほど仰っていたことに関連して,少し御質問させていただければと存じます。 沖野幹事からは,新たな公益信託制度の下では,信託法附則3項も改正の必要があり,3項のうち,現在公益を目的とするものを除くとしているところが,公益認定を受けたものを除くという形になるのではなかろうかと,その上で,公益を目的とする受益者の定めのない信託について敢えて特段の規律を設ける必要性はない,すなわち現在の目的信託と同一の規律を適用すれば良く,2類型で足りるというお考えが提示されたものと受け止めました。 事務局としては,そのようなお考えを前提とした場合には,今回の部会資料で用いている[公益を目的とする]受益者の定めのない信託の角括弧でくくった部分を取り外し「受益者の定めない信託」とすることが合理的な選択肢になると考えています。その場合,行政庁の認可を受けられなかった,あるいは行政庁の認可を受けるつもりのない公益目的の目的信託が有効に成立するためには,現在の目的信託の受託者要件を満たしていることが必要になると思います。 他方で,公益信託法2条1項を廃止した場合には,山本参考人のお言葉を借りるなら,公益認定を受けることに伴う地位設定効が生じない,公益目的の目的信託の設定が現実味を帯びてきて,3類型目といいますか,角括弧でくくった部分を取り入れた「公益目的の受益者の定めのない信託」について現在の目的信託とは別の規律を設けるという選択肢もあると考えています。そして,その場合,考え方はさらに2つに分かれて,そのような信託をわりと緩やかに認めていくべきだと,信託法附則3項のような受託者要件は要求しないし,ガバナンスも緩やかなものでいいという考え方がある一方で,いやそれは違うのだと,委託者の私益を実現するための目的信託ですら厳しい受託者要件が設けられているのに,公益目的の目的信託の受託者要件が緩和されるのはおかしいし,ガバナンスも厳格なものにすべきであるという考え方もあると思います。後者の考え方を採ると,最終的には2類型論と同じ仕組みに落ち着くことになりそうです。 今回の部会資料は,これらの点をひとまず措いて作っておりますし,本当は事務局がもう少し詰めて検討すべきなのですけれども,少しなりとも前に進みたいので,もしこの点について沖野幹事に更にお考えがあれば,御教授いただきたいと思います。 ○沖野幹事 機会を与えていただきましてありがとうございます。 私はそこまでの必要はないのではないかと申し上げました。現時点で立法をすることを前提にすると,目的信託に更に2類型目のというか,そういう制度を用意するまでのことは,今のところはないのではないかという趣旨です。それは,そのような制度を作ることそのものについて,およそ否定的な立場を採っているわけではなく,公益活動というのを幅広く認めていくということであれば,目的信託だけれども,特殊な目的信託としての制度を用意するということは,それは考えられることは考えられるのではないかとは思います。ただ,そこまでしなくても今の時点ではいいのではないかという程度の感触ではあります。 考え方としては,元々が制度として公益信託という,あるいは現在ですと公益信託法による信託ですが,それと目的信託というのがあり,それが公益目的であるということによっていずれか分けられるというよりは,こちらの制度を利用するタイプのものはこちらの制度で,目的信託を利用するならば目的信託の規律でと,そういう区分けになるのではないかと考えているということです。 事務局としては間のものを考えることも十分余地があって,そのときには受託者要件が掛からないということですよね。受託者についての附則の限定が外れるけれども,それを埋める形のそれ以外の一定の規律が入ってくる,あるいはその中に他から財産を集めるときにはというような話が入ってくるかもしれませんが,そういうような,特別な規定を更に設けて,公益信託とは別に目的信託の両方で公益目的に信託を使えるということを正面から明らかにし,類型としても3類型用意するということをするだけの用意があるということであれば,それに対しておよそ否定的な姿勢だということではありません。抽象的な言い方で申し訳ありません。 ○小野委員 すみません,触発されまして,是非やりましょうということで。 この部会の初めの頃に,一般財団法人,一般社団法人,それに対して公益認定をもらうという形での法人制度の2階建ての方は,税制的にも,またガバナンス的にも非常に明確で分かりやすく,また使いやすいものであるにもかかわらず,この信託制度に関しては,目的信託の中に,もちろん法人要件とかそっちの要件もありますし,法人課税信託という,ある意味では使い勝手が悪いという観点もございますし,先ほど新井委員がおっしゃったように,委託者の権利が非常に強いという観点もありますけれども,デフォルトルールとしてといいますか,2階建てとしてとか,いろいろな言い方あるかもしれませんけれども,公益目的の目的信託というものが今後登場してくる場面というのは非常に今回の議論でも多いわけですが,そうすると,やはりそこでは通常の目的信託よりガバナンス機能というのはもっと強化して,一般的に割と批判的に言われるような,今までの類型としての公益目的ではない,目的信託とは違うものというものを,しっかりとガバナンス制度も整えた上で,制度として用意することによって,仮に公益信託認定は必要でない公益目的目的信託であっても,社会一般的にはきちっとしたガバナンスがされている。また,そうすることによって,税制上の扱いも違ってくるかもしれないというような可能性を秘めるものとして,せっかくの機会ですし,決して当部会の枠を,のりを越えているとも思えませんので検討してみてはいかがでしょうか。ガバナンスの制度をしっかりというのは,ある意味では公益信託と同様に信託管理人必置にするし,委託者の権利をその分だけなるべく後退させるとか,そういう観点だと思います。それに対して行政庁はどういうふうな監督機能を果たすかというのは別の議論ですし,ガバナンス機能だけ十分果たせれば,私的自治に任せるという観点もあるかと思います。 ○沖野幹事 小野委員に趣旨を確認させていただきたいのですが,例えばガバナンスの方を信託管理人を必置にすることによって,附則の受託者の限定を外すというようなことですよね。それは,やはり公益目的だということがあるからなのでしょうか。それとも,そういうのにすれば,公益目的かどうかということをぎりぎり言わなくても目的信託でできるということなのか。つまり,やはり公益目的だと,目的がそこだと,その制度として特殊なものが許されるということなのか,ガバナンスがしっかりそこで対応できるならば,受託者による絞りによらなくてもよく,それは公益ではなくても制度としてはもう十分いろいろなものに使えるのですということも考えられるのかと思ったのですが,飽くまでやはり公益目的だからということなのですね。 ○小野委員 沖野幹事が私にいいきっかけを作っていただいて,いや,そういうものと必ずしも限らないと,我々が想定したり想像する以外の形での公益目的以外の社会に有用な目的信託というのも十分あり得ると思うところもありますから,ガバナンス機能をより強化することによって広げるというのは,総論としてはもちろん賛成です。 ただ,他方において,当部会における議論とか,先ほどから議論しているように公益信託でない場合に何かが残るだろうと,残るべきではないか,また,私的自治は認めるべきではないかという議論の観点からすると,公益目的目的信託に当面は,別にそれを広げるという議論を反対するわけでも何もないですけれども,当部会の今日の議論,今日の延長としては,公益目的の目的信託においてはということでいいかと思います。特にこれまでの議論,今日でなくてこれまでの部会での議論でも,受託者として担い手というものが個人の場合,場合によっては法人とか,それは別に資産規模ではなくて受託者の能力という観点から考えましょうということを議論してきたわけですから,そうすると,附則の要件というものは必ずしも適用がない,そぐわない状況ではないのかなと思います。 ただ,沖野幹事がおっしゃるように,より広げるということはいろいろな意味で必要かと思います。どういう状況ということを今後,議論できるかと思います。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。そろそろ時間が近づいてまいりました。 ○吉谷委員 元々公益的目的信託という制度を作ることに反対なのですけれども,公益的目的信託という制度を作る場合に,それは公益だからなのか目的だからなのか,目的信託だからガバナンスを厳しくしないといけないのか,公益だからガバナンスを厳しくしないといけないのかが,どういう理由なのだろうというのはちょっとまだよく分かっていないということと,以前から,公益的な一般の信託というのはできるのであって,それを活用するというのがいいのではないかということを申し上げてきました関係からすると,公益的目的信託という類型を立てるとしたら,公益的一般信託,これについて何らの規律もなくていいのか。そういう制度を作ることは元々不要だという立場なので,要らないという結論になるべきだと思っているのですけれども,一応,概念整理としてはそういうことも視野に入れる必要があるかもしれないというところまで言及させていただきました。 ○中辻幹事 ありがとうございました。事務局として2分類にするのか,3分類にするのか,必ずどちらがいいということまで考えているわけではございません。今回の部会資料で,角括弧を用いて[公益を目的とする]受益者の定めのない信託という表現をしているのは,どちらの選択肢もあり得ると考えているからでございます。 一見すると,3類型にした方が類型が増えるので公益を目的とする信託の利用を促進するようにも見えるのですが,2類型とした方が公益信託本体の信頼性が高まるし,制度としても分かりやすく,公益信託本体の利用を促進するようにも思います。この点については,現時点では,事務局として固定的に考えているわけではないということを付け加えさせていただければと存じます。 ○中田部会長 大体よろしいでしょうか。 第1の論点につきましては,タイトルが「公益信託の効力の発生時期」ということで,分かりにくいという御指摘を頂きました。恐らくこれは発生時期というよりも,発生の仕方とかメカニズムとか,そういう趣旨でありまして,それに伴って,認定ないし認可を受けていない公益目的の信託をどういうふうに呼ぶのかという概念整理の問題であったと思います。その上で,その概念について,神田委員から御指摘を頂きました時間的な関係と論理的な関係を検討すべきであるとか,あるいは今日,山本参考人からるる御説明いただきました行政上の概念との関係であるとかということで,更に整理していく必要があると思います。 その上で,実質論としていただきました御意見は,結局は認定ないし認可のない公益を目的とする信託,受益者の定めのない信託をどう考えるのかということで,本日は,場合分けをして考えるべきであるという御指摘をいただきました。すなわち,申請しない場合と,申請したが不認可である場合と,認定ないし認可が取り消された場合という三つある,あるいは,新たに申請する場合と,既にあるものについての認定ないし認可の申請をする場合という二つのケースがある,というようなことだったと思います。それぞれについて認めるかどうか,あるいは認めるとして,その規律の具体的な在り方をどうするのか,更に,受益者の定めのない信託一般との関係,あるいは認定ないし認可の前置を必ず要求するべきかどうかといった点についての御指摘があったかと思います。 本日の山本参考人のお話から始まり,御審議によりまして,問題点が非常に明確になってきたと思います。その上で,公益を目的とする受益者の定めのない信託を仮に認めるとしたら,その具体的な規律の在り方はどうなのかということが検討課題だということが浮かび上がってきたのではないかと思います。 第2につきましては,当然に終了するということに賛成の御意見の方が多かったかと存じますが,いや,これは残してもいいのだという御指摘もいただきました。ただ,残すにしても,何らかの規制ないし注意が必要ではないかという御指摘を複数の委員からいただきまして,仮に残すとすれば,その規制ないし注意の具体的な在り方,あるいはそれに要するコストとの関係というのが検討課題であろうということが浮かび上がってきたのではないかと思います。 以上の御指摘を踏まえまして,更にこの部会で検討をお進めいただければと存じます。 ほかに御意見などございませんでしょうか。 ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。 最後に,次回の日程等について,事務当局から説明をしていただきます。 ○中辻幹事 次回の日程としては,7月4日(火曜日)午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は,現時点未定ですので,決まり次第,また御連絡いたします。 当日は,参考人としてこの部会にお招きする同志社大学の佐久間毅教授から,新たな公益信託制度を設計する際の民法,信託法上の論点についてお話していただいた後,今日と同じような形で質疑応答を行う予定です。 また,次回は,公益信託設定後の信託の変更等の論点について,信託の目的以外の変更と信託の目的の変更,信託の併合・分割の三つに分けて整理した部会資料を事務局の方で用意し,それを踏まえて御審議いただくことも予定しております。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 それでは,これで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-
法制審議会信託法部会 第41回会議 議事録
第1 日 時 平成29年5月9日(火) 自 午後1時31分 至 午後4時44分
第2 場 所 東京地方検察庁総務部会議室
第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第41回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
本日は,小川委員,神田委員,岡田幹事が御欠席です。
まず,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いいたします。
○中辻幹事 今回の部会では,特に新たに事務局の方から配布する資料はございません。本日の御審議は,前回配布の部会資料40を使用して行うことを予定しておりますので,部会資料40がお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。よろしいでしょうか。
○中田部会長 それでは,積み残しの分ですが,部会資料40の第1の「5 公益信託の変更命令」及び「第2 公益信託と私益信託等の相互転換」について御審議を頂きます。前回の残りということで,審議事項は多くありませんので,続けて御審議いただきまして,もし必要があれば,適宜,休憩を入れることもあり得るということで進めさせていただきたいと存じます。
それでは,早速ですけれども,第1の「5 公益信託の変更命令」について御審議いただきたいと思います。事務当局からの説明は,前回,既にされておりますので,最初から意見交換に入ります。御自由に御発言をお願いいたします。
○松下幹事 12ページの5についてですけれども,ここでは(2)である権限を裁判所と行政庁のいずれに属せしめるかということが問題になっています。もっと早い段階で発言すべきだったようにも思うのですが,第二読会で裁判所と行政庁の権限分配が出てくる最後の箇所なので,一言,発言させていただきます。
以前の部会資料36で公益信託法8条について議論をいたしました。一般の信託では,裁判所の権限になっているものを主務官庁に移している規定ですけれども,そこで,部会資料では権限分配について,このような整理がされていました。受益者その他の信託関係者の保護とか,利害調整を通じて信託目的の達成を図るための権限は,公益信託の目的の達成を図るために,公益信託を監督する機関である公益信託の主務官庁の権限とする。信託関係者以外の利害関係人,例えば信託債権者などですが,の保護のための権限は司法裁量なので裁判所の権限とすると,こういう整理がされました。公益信託法8条をどうするかということについては,新しい公益信託法制でもこの趣旨を基本的に維持するという方向で議論がされたと記憶しております。ただし,主務官庁による包括的な監督は廃止されますので,信託の一般原則によれば裁判所の権限になるものが,公益信託であるがゆえに主務官庁の権限とされていたものを裁判所の権限に戻すということがあり得るということかと思います。
先ほど述べた誰のための権限かという区別は,ほかの論点にも当てはまるだろうと思います。そういう観点から,部会資料40の第1の5の「公益信託の変更命令」というのを見てみますと,信託の変更命令という制度は信託目的の達成のために,あるいは受益者の保護のためにする仕組みではないかと思いますので,その観点からすると行政庁の権限とするというのが落ち着きがよさそうな気がしますが,私,この辺は詳しくはありませんので,この点については御教授いただければと思います。
もう三つ,問題があると思うんですけれども,一つは理論的な問題として行政庁に対する申立権,(3)に出てきますけれども,申立権というのは観念できるのかどうかです。つまり,裁判所に対する申立権という観念は,我々はなじんでいる言葉ですけれども,行政庁に対する申立権というのが同じように観念できるのかどうかということが理論的には気になります。
それから,二つ目の問題として,裁判所の非訟手続であれば決定に対する不服申立ては即時抗告になりますが,行政庁の権限とする場合に不服申立てがどういう手続になるのか,これは行政不服審判になるのでしょうか,あるいは行政訴訟にいきなりなるのでしょうか,分かりませんが,それが公益信託の目的の達成という手続構造と適合的かどうかということが問題になるわけです。
それから,三つ目,最後の問題として,時間的にはその決定より前になりますけれども,判断資料の収集を始めとして,どのような手続で判断がされるのか。つまり,非訟手続と行政手続の違いというのでしょうか,そういうものを異同という観点から検討すべきであるという気がいたします。
今,申し上げた三つの問題は既にある問題で,別に新しく出てきた問題ではないんですけれども,私が不勉強のせいだと思いますが,余り物の本を見ても書いていないような気がしますので,検討する必要があろうかと思います。
最後にもう一言,検討の仕方なんですが,部会資料36には別表1というのが付いていて公益信託の監督における第三者機関,つまり,裁判所と行政庁の権限の一覧表というのがありますけれども,一通り議論したら,この別表に議論の成果を落とし込んで横串で刺してみて,相互に均衡を失しないように考える必要があろうかと思います。
○中田部会長 どうもありがとうございました。あちこちで出てくる問題ですけれども,それについての観点と申しますか,検討の仕方について御教示いただきました。ありがとうございました。
この点について何かございますでしょうか。
それでは,今の点も含めまして他の点でも結構でございます。変更命令についていかがでしょうか。
○深山委員 5の(1)については賛成いたします。
今,松下幹事から御指摘のあった(2)についてなんですけれども,ここが実際に機能する場面というのを実務的に推測すると,信託の事務処理の変更が必要になる場面が生じたときには,通常は信託関係者内部で信託の変更をする。しかし,それが何らかの事情で合意が得られないような場合に,(3)の申立権者の誰かが裁判所なり行政庁に申立てをして変更を求めると,こういう場面が想定できます。そういう意味では,以前の同様の論点でも申し上げたかと思いますが,信託関係者内部の意見の対立があって,そこに一種の紛争性がある場面ではないかという気がいたします。そういう紛争性のある場面での判断機関としては,行政庁よりは裁判所の方がふさわしいのではないかというのが以前も申し上げた私の意見でございます。そういう意味で乙案を支持したいと思います。
松下幹事が指摘された裁判所の権限一般について,信託法全体の理解の仕方というのは御指摘いただいたとおりだと思うんですが,この変更命令あるいは終了命令もそうかもしれませんが,この場面を具体的に考えると,裁判所の方がいいのではないかというのが私の意見です。
(3)については,申立権者に委託者を入れるかどうか,入れるとして,それをデフォルトルールにするかどうかというところですが,デフォルトルールとして委託者を入れるという,この提案に賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私は裁判所ではなく,行政庁が公益信託について専門性を有するという点では,行政庁がこの変更についての権限を持つべきだと思うんですけれども,変更命令ではなく,申請又は請求による信託関係人の請求による認可をすると,命令ではなく認可とするとすべきだと思います。それは行政庁の関与をなるべく小さくして私的自治を重んずると,民間による公益信託の促進という意味で,自治に任せるということを原則にすべきであると考えるからです。信託の変更については,原則,信託関係人の合意によりできるということをデフォルトルールとしつつ,例外的に事業目的や事業地域の変更などをする場合において,公益財団法人における定款変更における行政庁の関与と同等にすることが望ましいのではないかと考えます。
(3)については,委託者に申立権を与えるべきではないと考えます。また,従来より申しておりますように,運営委員会を重要な意思決定機関と位置付けることから,申立権者に運営委員会を加えるべきであると考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
委託者に与えるべきでないという御意見でございますけれども,これは(3)を逆にして,信託行為で定めれば可能ということでしょうか。それも駄目だということでしょうか。
○平川委員 結局,公益信託においては委託者の権限というのは,極力,制限されているという構造を持つべきであると考えますので,信託行為において定めるということもできないと考えます。
○中田部会長 分かりました。
ほかにいかがでしょうか。
○棚橋幹事 第1の5の(2)については甲案に賛成します。まず,変更命令自体は認定基準に沿って認定したものを事後的に一部変更するというものですので,認定作用に類似する実質を有するものと思えますし,また,行政庁が判断するということになれば,変更後の公益信託が認定基準に適合しているかどうかということも併せて判断することができますので,変更後の公益信託が認定基準に適合することが制度的に担保されることになると考えます。部会資料には,裁判所が認定基準に違反するような公益信託への変更命令を行うことは適切ではないということも記載されていますけれども,そのような御懸念があるということであれば,行政庁が判断主体となる方が適切と考えております。
○中田部会長 ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。関連ですか。
○道垣内委員 1つ前の話題に関連する事柄でして,平川委員の御発言についてです。考慮すべき要素というのを明らかにするために,あえて反対するというところもあるのですが,平川委員の方から,変更が申し立てられて,それを認可するというシステムではないかということが出てきたわけですが,そのことと委託者を申立権者から外すというのがどういう関係にあるのかがよく分かりませんでした。
この制度を,合意による変更というのとは別途の制度であると考えたときには,合意が成立しないというのが前提になりますが,変更の申立てと認可という構造であると理解しますと,誰かが自分の案を認可してくれと申し立てるという話になります。しかし,それはおかしくて,飽くまで認可ではなくて,その提案内容について,裁判所なり,行政庁なりが判断して,変更を命令するというふうな枠組みにせざるを得ないのではないかと思います。手続の具体的な内容が変わってくるわけではないのかもしれませんが,構造の問題として,一言,申し上げておきたいと思います。
○吉谷委員 まず,(1)につきましては提案に賛成でございます。
(2)については甲案に賛成いたします。これは元が信託法第150条であるということですので,何らかの事情で信託事務処理の方法の変更を行う必要があると例えば受託者が考えるというわけです。それについては,公益目的の達成のためにはどのような方法がいいのかということを考えるというわけですから,公益事業の運営計画について公益目的に沿っているから,公益目的に対していい方法に変わっているのかどうかということを判断するということでありますので,これはほぼ認定のやり直しに等しいというようなことであると思われます。そうしますと,最初に認定する行政庁が行うべきであると考えるわけです。
確かに意見対立がある場合を想定しているかと思いますので,受託者が変更の申立てをしますと,信託管理人はそれに反対すると。もし,反対するのであれば,よりよい方法を提案する受託者へ変更を申し立てるとか,そういう形になっていくと。ですので,変更命令と受託者の更迭が,一体的に判断されるということになってくるのではないかと思われます。そういう点で,全て行政庁が行うというのが整合すると考えております。
その次の委託者にデフォルトで申立権を与えるかどうかということにつきましては,これはデフォルトで与える必要はないと考えております。信託行為で追加することは可能であると思います。これも以前から申し上げておりますとおり,委託者をデフォルトの公益信託の機関であると考えて,委託者がいるから,委託者がいいと言ったからということを前提として,いろいろな合意形成であるとかいったことをするという仕組みは必ずしも機能しないと。委託者がデフォルトでは入っていても,除くこともできるわけですから,それを前提とした制度設計をするというのは余りよろしくないと。追加した場合には,こういう機能を委託者に期待できるということを前提にして認定を行うべきであると思います。ですので,委託者はデフォルトで与えない方がいいのだと考えている次第です。
あと,1点,補足させていただきます。前回で,信託の終了命令のところで私の方からは信託行為の当時,予見することのできなかった特別の事情という要件があることは厳しすぎるのではないか,この要件は不要ではないかという趣旨の意見を申し上げました。例えば信託目的の達成,不達成により終了するべきであると受託者が考えているような場合だけれども,信託管理人は同意しませんというような場合に,信託行為の当時に予見する可能性がないというような要件がないと,申立てができないということですと,厳しすぎると想定していたわけです。
今回,信託の変更命令について,信託行為の当時,予見することのできなかった特別の事情という要件は,どうすべきかということについて触れさせていただきますと,結論としては,この要件はなくてもいいけれども,残っていても,それほど支障はないと考えています。信託終了の場合ですと,信託行為に予見できる終了事由を全て記載するというのは非現実的だと思うんですけれども,変更については一読のときの資料の考え方によりますと,簡易な変更は信託法の原則どおり,当事者が可能ということを前提とした提案であると考えております。そうしますと,それ以外のものについてはある程度,予見可能なことは信託行為に書いておけばいいので,そうすると,信託行為の当時,予見することのできなかった特別の事情という要件が変更命令に残っていても,特に問題になることはないかなと考えたということです。終了の方はない方がいいということとの関連で申し上げさせていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○能見委員 恐らく以前に私が述べたことの繰り返しになると思いますが,いろいろな意見が出てきたので,それとのバランスをとる意味で発言させていただきたいと思います。先ほどどなたか,この変更命令で何が変更できるかという変更の対象について,私の聞き間違いかもしれませんけれども,信託目的等の変更というものも入っているかのように聞き取れたのですけれども,現行の信託法150条を公益信託にも適用するというときにも,この規定によって信託目的自体の変更まではやらないというのが基本的な理解だったと思います。飽くまでこの規定は信託行為で設定された信託目的を前提にしながら,その下で信託財産を管理する方法が適切でなくなったときに,それを信託目的等に沿って変更する,そういうときに使われる規定だと考えるべきだと思います。
公益目的の変更ということであれば,設立認可のときに公益性を判断する行政庁がここでも権限を有するということでもよいと思いますけれども,信託の事務処理の方法についての変更命令であれば,これは別に行政庁である必要はない。例えば助成型の信託において,こんなことが実際にあるかどうか分かりませんが,財産運用の方法が今まで信託行為で定めていたのではうまくいかなくなったので,別の方法を考えなくてはいけないとかいうような場合に,その変更命令の主体が行政庁でなければならないということはない。裁判所でも構わない。
では,どちらもあり得るというときに,どっちがいいかということになると,先ほどどなたか,委員がおっしゃいましたが,この規定を使って変更命令で対処しなければならない場面というのは,当事者間に意見の対立があった合意による信託行為の変更ができない。そういう意味で関係者間に争いがある,争訟性があるということですので,そういうときの処理は裁判所に扱ってもらうというのがいいのではないかと,私も考えております。
それから,申立権者については,委託者が今,一番問題になっているかと思いますけれども,今のように信託目的を変更するのではなくて,単に事務処理の方法について変更が必要であるという状況で,それを変更するための申立てということであれば,申立権者を余り狭く限定する必要はなく,委託者であっても構わない。委託者も信託目的の下で信託事務が適切に行われていくことに利害関係を持っていますので,そういう委託者も申立権者に含めて構わないと考えます。委託者を申立権者の中に含めるという(3)の立場が適当であると思います。
○小野委員 前も発言しましたけれども,150条の立て付け,また,理屈からして信託契約そのものを変更するという観点からすると,裁判所以外にはあり得ないのではないかと思います。どっちかを選ぶということではなくて,150条の条文を見ても,申立てのときに変更後の信託契約の内容を明らかにするとか,又は即時抗告の議論も出てきます。では,認定機関たる行政庁は何もできないかというと,行政庁として業務改善命令とか,契約の内容ではなくて受託者の行為とか,信託業務そのものについて行政命令,行政上の措置はとることができるので,それによって別に問題はないと思います。飽くまで信託契約である以上,また,150条という立て付けからしても,150条の適用がある以上は,裁判所以外は理屈上もあり得ないと思います。
○林幹事 この点の弁護士会の議論を簡単に御紹介すると,(1)については当然,賛成だったのですが,(2)については行政庁も裁判所も両意見があったものの,裁判所の意見の方が強かったと思います。その根拠としては,争訟性もあるところですので,要件からしても裁判所の方がいいのではないかという議論でした。ただ,裁判所とした場合は,行政庁との兼ね合いというのを検討せざるを得なくなり,補足説明の中にも信託法168条と同様の規定を考える必要があるとありましたが,それはそのとおりであり,その手当てはすべきと思います。
一方,行政庁とすることについては,先ほど松下幹事からも御指摘があったように,不服申立ての手続をどうするかを書き込む必要があり,150条にも即時抗告の規定はあるわけですから,その辺りの手当てをしないといけないと思います。それから,変更の範囲につきましては,信託目的に及ばないとの御指摘もありましたが,弁護士会の議論では,変更の範囲に制限を加えなくてもいいのではないかという意見もありました。
それから,(3)については,これについても委託者の捉え方でいろいろ意見もあったのですが,(3)の御提案のとおりで賛成という結論が多かったところです。
○小幡委員 変更命令ですが,今の5条は削除するということですから,職権というのはなくなるわけですね。全部,申請によるということになります。そうすると,(2)の甲案,乙案のどちらかということですが,いろいろ,お話を聞いていて両論があると思うのですが,どこまで変更するのをイメージするかという話だと思いますが,変更した後も公益信託であり続けるための変更ということになりますね。
公益信託を変更して,また,公益信託で存続し続けるということになるので,そうすると,行政が関与してもよいと思うのですが,ただ,変更命令という名前が150条なので,これを行政庁がするというのは,やや違和感があるという感じはいたしますが,名前の問題です。松下幹事がおっしゃったことですが,もちろん,行政上のこういう行為でも,申請は誰々に限るということは幾らでもありますので,職権ではできなくて必ず申請により行政庁が審査して,命令というと強いのですが,こういう形の方がよりよいだろうという形の変更の申請に応じて審査して,それを行政庁が認定するというイメージだと思うのです。
そうであれば,別に行政庁がやるのでもよくて,公益信託としてきちんと変更した後も,機能するということを行政庁が審査するというのはあると思います。150条のところの変更命令という名前があるので,何か非常に強権的な感じがするということです。委託者を含むかどうかという議論はまたあるとは思いますけれども,イメージとしては私はあってもよいのではないかと思うのですが,ともかく,限られた申請者からの申請に応じて行政庁が審査するということは,おかしくはないという感じがしております。
○中田部会長 もし,変更命令という言葉を使わないとすると,何か適当な言葉はございますでしょうか。
○小幡委員 公益法人の公益目的事業であれば,いろいろな変更に対して出てきたものを認可とか認定でしたか,名前はいろいろあり得ると思いますが,同じような仕組みで,変更したいという申請に対して,軽微なものについては届出で足りるということになっているのですが,軽微なものでない場合は第三者機関にかけて変更認定するということになります。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
○道垣内委員 今の小幡委員のお話が私にはよく分かりませんでした。例えば公益法人を考えますと,変更の主体は公益法人であるわけですね。そうすると,公益法人が自らの何かを変えたいと申し出て,それが認可されるというシステムは,それなりによく分かります。しかし,信託の変更は,公益信託の設定をもたらした契約の変更,信託行為の変更手続であって,そのような信託行為の変更の手続が認可であるというのはよく分かりません。例えば委託者でも受託者でも信託管理人でもいいですが,誰か特定の人が単独で変更権限を実体法上有し,その権限行使が認可されるということになるのでしょうか。私はそれは理屈上はあり得ないのではないかと思うのですが。
○小幡委員 命令と認可のどちらがきついと考えるかというのは,もしかすると行き違いがあるのかもしれませんが,私人間で決めたことについて,その効力発生を補完する形での認可というのがあります。命令というのは,その行為そのものを命じるという通常は,第一的な権限行使なのです。あくまで私人がやったことについて,補充的に行政庁が確認して効力を発生させるというのが認可という意味です。
○道垣内委員 その点では別に小幡委員のおっしゃったことを誤解しているわけではなくて,そうであるならば,作りとしては,委託者,受託者,信託管理人は,信託目的その他に照らして,うまく目的が遂行できなくなったときには,その合意により信託行為を変更する権限を有するということが前提とされ,その合意による変更の権限の行使の結果を認可するという形になるはずですよね。
そのような形にするというのであれば,それでも全然構わないのですけれども,ここで,今,問題にしているのはそうではなくて,例えば三人が信託関係者だとするならば,そのうちの一人がこうせざるを得ないと思うんですと言って申し出て,それに対して行政庁なり,裁判所なりが何らかの行為をするわけですから,その前提としての合意による変更というのが生じていないのだと思うのです。もちろん,合意による変更も自由に認めるわけにはいかないので,両方ともについて手続を作らなければいけない,というのであれば,それはそれで分かります。しかし,合意が調達できない場合について,それを裁判所なりが認可とするというのは,私はあり得ないことだろうと思います。
○小幡委員 その場合,そうすると150条を作り直さないと形がおかしい,ということですね。
○道垣内委員 そうですね。
○中田部会長 ありがとうございました。
今のやり取りで,命令,認可,それぞれの概念について認識の整理がかなりされてきたと思います。認定,認可については次回にも引き続き御検討いただくことを予定しておりますので,本日の今のやり取りも踏まえて,また,次回に御審議いただければと思います。
○山田委員 12ページの5の「公益信託の変更命令」の特に(2)について発言します。結論は,私は乙案が適当だと思います。理由は,いろいろな方々がそれぞれ御発言されましたが,小野委員のおっしゃっていることが多分,一番,私の考えに近いと思います。ですが,私なりの理由をこれから述べたいと思います。
参照したらよいと思いますのは,信託法149条と150条の両方を見て考えたらいいと思います。そして,受益者の定めのない信託というものを今回の公益信託にどれぐらい参考にするかという点については,当部会においても複数の意見があるということは承知しておりますが,一方では,261条1項の149条の読替規定を参考にするとよいと思います。
他方で,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律を見ますと,認定に関する規定が4条にありますが,11条で変更の認定というのがあります。軽微なものについては13条で変更の届出で足りるという規定があります。法人と信託とをどこまで同じにすべきか,違いをどうするかというのはなお残されている問題だと思いますが,法人についての2階建て構造というのでしょうか,一般社団法人,一般財団法人で法人格を取得した上で公的認定を受ける,それによって税制上の各種の優遇を受けるという,この仕組みを私は信託においても,個別に考えて別の手当てをすべきところはあるとしても,基本的には同じ発想で臨むとよいのではないかと思っております。
そうしますと,公益信託の変更命令の話ですが,何人かの方が既におっしゃっていますが,149条に対応する関係者の合意,信託当事者の合意と言ったらいいのでしょうか,公益信託における関係者又は当事者の合意で信託の変更はできるというのがベースに置かれるべきだと思います。しかし,公益信託については公益認定を受けていますから,一旦公益認定を受けた後,信託を変更して,公益信託であることを濫用するのはもちろん認められるべきではありませんので,そうすると,信託が変更されたら変更の認定ですか,公益法人認定法の11条のこれに類するような手続を定めればよいのではないかと思います。話が細かくなるかもしれませんが,軽微なものであれば,そこまでも必要ないだろうというので,変更の届出についての13条に当たるようなものを用意すると。
その上で,しかし,149条に対応する公益信託の変更に必要な信託当事者の合意がそろわない場合があると,そろわないから,これは行き倒れになるのがよいだろうという考え方もあるかもしれませんが,信託法上の信託では,そこはそうではなくて裁判所の変更を命ずる裁判という方法で,合意が存在しない場合を補うことができるという規定になっていると,私は制度の趣旨を理解します。そして,公益信託においても,この信託法150条が用意している道筋は,あってよいだろうと思います。こう考えると裁判所が変更命令をするということになる。小野委員がおっしゃった結論に私も同じだというのはそのとおりです。
しかし,ここでも当初の信託は公益認定を受けて,税制上の各種の優遇措置を受けているということは,考慮する必要があります。しかし,関係当事者の合意ではなくて,変更命令という裁判所が関与する方法で行ったときに,変更の認定に係るものが不要になるのかというと,それは不要ではないのだろうと思います。裁判所の変更命令というのは,当事者の合意がそろっていないことを補うためのものですから,公益認定をして各種の税制上の優遇措置を取得すると,その後の変更には,軽微かどうかに応じますが,原則は変更の認定が必要だと思います。
こうなりますと,手続が二重になるのではないかというのが最後,解決すべきところかもしれません。裁判所で変更命令を受けた後,更にまた,変更の認定を受け直さなければいけないということになりそうです。その場合,例外的かもしれませんが,裁判所の変更命令に対して認定が得られなかったという例も出てくるかもしれないと思います。しかし,それについては,私は,あっても仕方のないことであり,手続の上で何らかのそうならないような仕組み,あるいは,問題を緩和する仕組みを,追加的に設ければいいのではないかと思います。
追加的な手続については,司法と行政をどう折り合わせるかというような問題で難しい問題であり,私は分からないのですが,変更命令の非訟事件がスタートするときには誰かが申立てをします。非訟事件の手続が継続している段階で,裁判所が,変更命令という決定をする前に,認定行政庁から意見を聴くということが考えられ,あるいは行政庁でなくて,認定行政庁の認定に対して意見を言う公益認定等委員会,それになるかどうか,まだ,決まっていないのかもしれませんが,仮に公益認定等委員会が公益法人における手続と同様に関与するのであれば,そこから,直接,裁判所が意見を聴いてもいいのかもしれないと考えます。認定をする行政庁を通す必要もないのかもしれないなと思うからです。そういう手続を設ければ,完全に一本の手続では終わらないのかもしれませんが,その意見を聴くというところで,しかし,二度手間になって判断が食い違うというようなことは避けて,もう少し手前のところで調整ができるというようなことが考えられるのではないかと思います。長くなり,申し訳ありません。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○小幡委員 先ほど認可か認定と申し上げましたが,公益法人の場合は,認定ということです。今,正に山田委員がおっしゃった認定です。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○棚橋幹事 先ほど乙案を前提に,168条又は行政庁の意見を聴くという方向の御意見があったかと思いますが,仮にそういう方向で議論を進められるのであれば,行政庁は,どのような事項について,どのような観点で,どういった意見を述べる枠組みとなるのか,行政庁の意見に拘束力があるのか,裁判所と行政庁の権限の違いなどについて整理していただいた上で,慎重に検討していただければと思います。
○吉谷委員 山田委員の御意見を聴いて,頭の中が非常に整理された気がするんですけれども,実務的な立場から直感的に思うところでは,行政庁が最初からやるという手続を採った方が多分,時間的にも労力の面でも低いコストで済むのではないかと思われるので,そうでないということが分かれば,また,違う意見になるかもしれないんですけれども,今のところ,直感の方を踏まえて先ほどの意見を維持したいと思います。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○道垣内委員 実は,私も小野委員が御発言になる前に,小野委員とほぼ同じことを申し上げようと思っておりまして,それに山田委員が根本的な理念としては近いという発言をされました。私は両委員がおっしゃったことに賛成で,コストが掛かるか,掛からないかという問題からすると,確かにコストは掛かるのかもしれませんが,理屈上は行政庁が勝手には変えることはできないだろうと思います。
○平川委員 先ほど多分,私の発言で信託の目的の変更というような言い方をしてしまったかもしれないんですけれども,目的事業の変更というのを想定しておりました。例えば公益信託の目的というのがエイズ撲滅のためというような目的であった場合に,それを達成するための事業として例えば研究団体に助成するというようなことをやっていたんだけれども,信託の規定の中にもそれを目的達成のための事業としていたんだけれども,さっぱりらちが明かないので,自分たちも資金が潤沢にあるので,自分たちで研究所を立ち上げようと,エイズ撲滅の研究施設を立ち上げるということになったというような目的事業の変更という意味で申し上げておりましたので,訂正させていただきます。
○中田部会長 大体,御意見はよろしいでしょうか。
5の(1)につきましては,特に反対という御意見はなくて,御意見を頂いた方は,皆さん,賛成ということであったと思います。
(2)については,甲案,乙案それぞれの御支持がありました。議論の中で変更命令が出るのはどんな場面なのかという問題や,あるいは対象となる変更の範囲は一体,何を想定しているのかという問題について,人によって若干違いがあったようですけれども,それがだんだん明確になってきたと思います。更に第三者機関が関与する目的は何なのか,何を保護しようとしているのか,それから,更に制度設計の在り方としてどうするのがより効率的か,例えば裁判所が判断するとすれば行政庁が関与する,その仕組みを練り上げる必要があるでしょうし,行政庁がするとすれば,不服申立てをする手続をどう考えるのかを検討する必要がある,こういった御指摘も頂いたかと存じます。
それから,(3)につきましては,原案でよいという御意見が比較的多くあったかと存じますが,原案に反対されて,信託行為で定めれば委託者も申立権者にし得るという御意見と,それから,信託行為に定めたとしても委託者は申立権者にすべきでないという御意見と,それぞれ,頂いたと思います。
以上の御意見を踏まえて,更に中間試案に向けて検討を進めていただくことにしようと思います。
次に進んでよろしいでしょうか。
それでは,次について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○舘野関係官 それでは,「第2 公益信託と私益信託等との相互転換」について御説明いたします。
まず,「1 公益先行信託」について御説明します。本文では,公益先行信託について規律は設けないものとすることでどうかとの提案をしています。
公益先行信託は,受益者の定めのある信託を設定し,信託行為において一定期間は信託財産又はそこからの収益を公益目的のために利用した上で,一定期間の経過後は残りの信託財産を委託者が指定する私人のために利用する内容の定めを置く等の方法によって実現することができます。そこで,部会資料37の第4の1の提案のうち,「許容しない」としていた部分の表現を「規律を設けない」という表現に改めた提案をしているものです。なお,アメリカにおいては,公益先行信託は受益者の定めのある信託の一類型であることを前提として,税法上の優遇措置の観点から議論されていることに留意する必要があります。
次に,「2 公益信託から受益者の定めのある信託への転換」について御説明します。本文では,信託法第258条第2項の規律を維持する(公益信託を含む受益者の定めのない信託においては,信託の変更によって受益者の定めを設けることはできない)ものとすることでどうかとの提案をしています。
本文の提案は,部会資料37の第4の2の提案の表現を信託法第258条第2項に即した直截的な表現に改めたのみで,実質的な内容及びその理由に変更はありません。また,公益信託において事後的な信託の変更により,受益者の定めを設けることを許容すると,その信託が継続している間に,公益活動に使われることを期待して,自らの財産を拠出した寄附者等の意思に反するし,その公益信託により利益を受けていた者の期待権を害するおそれがあり,公益性を理由に税制優遇を受けていた場合には,その公益信託の委託者等に不当な利益を与える可能性があることを本文の提案の理由として追加することが考えられます。
次に,「3 残余公益信託」について御説明いたします。本文では,残余公益信託についての規律は設けないものとすることでどうかとの提案をしています。
本文の提案は,部会資料37の第4の3の提案の内容を実質的に維持するものであり,その理由に変更はありません。残余公益信託の目的とするところは,公益信託法の中に特別の規律を設けなくとも,最初に私益信託を設定する際に,その信託行為において受託者に対し,一定期間後に公益信託の認定申請を行うことを義務付け,その期間経過後に受託者の申請により,公益信託の認定を受けることにより実現可能であること等から,そのような趣旨で部会資料37の第4の3の提案のうち,「許容しない」としていた部分の表現を「規律を設けない」という表現に改めた提案をしているものです。
次に,「4 受益者の定めのある信託から公益信託への転換」について御説明いたします。本文では,甲案として信託法第258条第3項の規律を維持し,受益者の定めのある信託から公益信託への転換を許容しないものとする,乙案として信託法第258条第3項の規律の例外として,受益者の定めのある信託から公益信託へ転換する場合には,信託の変更によって受益者の定めを廃止することができるものとするとの提案をしています。
本文の甲案は,部会資料34の第4の4の丁案と実質的に同一の提案であり,その内容及び理由に変更はありません。本文の甲案は,部会資料34の第4の4の丁案をベースに,その内容を直截的に表現して提案しているものです。本文の乙案は,部会資料34の第4の4の乙案のうち,実質的に公益を目的とするとの要件の内容が不明確であり,このような要件を設けても,それを行政庁が公益信託の認定時に判断することは実際には困難であることから,その部分を削除して提案しているものです。
次に,「5 公益信託から目的信託への転換」について御説明いたします。本文では,公益信託の認定を取り消された信託について,甲案として当該信託は終了するものとする,乙案として原則として当該信託は終了するものとする,ただし,信託行為に公益信託の認定の取消し後は(公益目的の)目的信託として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は(公益目的の)目的信託として存続するものとするとの提案をしています。
本文の甲案は,部会資料37の第1の3の甲案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。本文の乙案は,部会資料37の第1の3の乙案をベースに,原則として公益信託の認定を取り消された信託は終了するものの,例外として信託行為に,公益信託の認定の取消し後は(公益目的の)目的信託として存続させる旨の定めがあるときは,その信託は(公益目的の)目的信託として存続するものとすることを提案するものです。乙案を採用する場合には,公益目的取得財産残額の算定や公益信託の認定取消し後の(公益目的の)目的信託について監督する仕組み等を設けて,規律の実効性を確保する必要があり,制度として複雑になる等の問題点の指摘があり得ます。なお,本論点と関連して,「公益目的の目的信託」を新たな類型の信託として位置付け,その要件等について規律を整備するか否かも問題となり得ます。
最後に,「6 目的信託から公益信託への転換」について御説明いたします。本文では,甲案として目的信託から公益信託への転換を許容しないものとする,乙案として目的信託から公益信託への転換を許容するものとするとの提案をしています。
本文の甲案は,既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容しないとする部会資料34の第4の4の丁案の内容を,受益者の定めのある信託と目的信託に場合分けし,後者について目的信託から公益信託への転換を許容しないものとすることを提案しているものであり,その内容及び理由に実質的な変更はありません。本文の乙案は,既存の公益を目的とする目的信託が公益信託の認定を受けることを許容する部会資料34の第4の4の甲案と実質的に同一の案であり,その内容及び理由に変更はありません。部会資料34の第4の4の甲案の既存の公益を目的とするとの要件は,認定の際に転換後の当該信託における公益目的の有無を行政庁が判断すれば足り,このような要件を設ける意義は乏しいことから,その部分を削除して提案しているものです。
○中田部会長 ただ今説明のありました部分につきまして御審議を頂きます。六つのパターンが示されておりますが,三つに分けて御審議をお願いしたいと思います。すなわち,まず,公益信託から私益信託への転換に関する1と2,次に私益信託から公益信託への転換に関する3と4,その後,公益信託と目的信託との相互転換に関する5と6について,順次,御審議をお願いします。
まず,第2の「1 公益先行信託」及び第2の「2 公益信託から受益者の定めのある信託への転換」について御意見をお願いします。御自由に御発言をお願いします。
○吉谷委員 1,2ともに提案に賛成いたします。1につきましては,公益先行信託というのは私益信託として現状でも可能なものでありまして,公益信託としてわざわざ位置付けるというニーズは不明であると思います。また,税制上の措置の観点からも問題があると思っております。2番につきましては補足説明のとおりで,特に付け加えるところはありません。
○深山委員 提案について結論を先に申し上げれば賛成をしたいと思います。1の公益先行信託,それから,2の部分の両方とも提案に賛成したいと思います。ただ,1について賛成の趣旨は,従前,許容しないものとするということを改めて規定を設けないとなったということを,許容されるという余地を認めたと理解した上でのことであります。補足説明を拝見しても,公益先行信託というべきものは実現可能であるということが記述してあります。
もっとも,そこでは二つの意味で実現可能と書いてあって,一つは私益信託の一つの定め方として,後日,公益認定を受けるということを受託者に義務付けるということで,これ自体は別にそういうことがあってもしかるべきだと思いますが,しかしながら,これは正に私益信託そのものでございます。もう一つの実現の例としては,「残余財産の帰属」の論点で乙案を採用した場合には実現可能であるということです。私は残余財産の帰属について乙案を主張しておりますので,そういう立場からすると確かにその延長線上の問題として,ここで許容しないというようなネガティブな規定がなければ実現できると思います。したがって,言ってみれば残余財産帰属の問題で,乙案を採ることを前提に賛成というような趣旨になろうかと思います。なので,吉谷委員とはニュアンスが違いますが,結論については一緒ということでございます。
○小野委員 前にも発言しましたけれども,私益というのを公益信託の真逆の意味で捉え,私の利益のための信託のように理解すると,適切ではないという議論に結び付きやすいと思いますけれども,私益信託をもっと単純に,公益目的の私益信託,要するに受益者がいる,受益者がいることで既に公益信託になりえない,あるいは,不特定多数要件は満たさないが目的から見たら明らかに公益である,がん撲滅のため,初めは何か不特定多数の方々に支援するけれども,ある一定の理由になったときにはがんセンターとか,特定の研究機関宛て受益者として支援するとか,私が想像する範囲というのは乏しいものしかありませんけれども,軽装備,柔軟,また,将来のいろいろな社会の状況にそぐうようなものにしようとしたときに,この部会の我々だけの創造力の範囲内で,これはけしからんというのはよろしくないのではないかと思います。
繰り返しになりますけれども,公益的私益信託というものは明らかに観念できる話だと思います。先々の別の機会でも,私益という言葉をくれぐれも私の利益と捉えない議論が必要と思います。要するに,受益者がいる信託に変えることは何がいけないのかという観点かと思います。
○中田部会長 取りあえず,1と2につきましては,そうしますと結論的にはどうなるんでしょうか。
○小野委員 当初の信託行為に規定する場合も,後に信託の変更による場合も,いずれも許容されるべきということです。
○中田部会長 1については,特に規律は設けないということが今回の提案でありまして。
○小野委員 元々許容しないとしていたのが,規律を設けないで果たして許容されることになるのか,明確ではないことになりませんか。
○中田部会長 先ほどおっしゃった公益的私益信託というのは,恐らくこれの制度の外で考えていて,それを禁止するわけではないということだろうと思うんですけれども。
○小野委員 公益的私益信託は別に議論をする機会があるということでしょうか。
○中田部会長 そうではなくて,公益先行信託についての独自の規律は特に設けないという,そういう提案でありますけれども。
○小野委員 すみません,できるという前提での提案であるとのことであれば,賛成ということになります。
○中田部会長 16ページの3というところに,公益先行信託という形でなくても同様の機能を実現することができるという代替方法が存在するということが,今回の提案の理由として示されているわけですけれども,そうしますと,小野委員のお考えになっていることと,それほど遠くないのかなと思ったんですが。
○小野委員 公益信託が終了したときに,何らかの規律を設けないでそれを私益信託に自動的にそれほどスムーズに移行できるのかなと。公益信託の終了の議論からしたら,公益信託を終了したときには類似目的の公益信託や公益法人に信託財産を移管するとか,いろいろな議論がありました。できるという大前提を置かれての御質問であれば,特に規定は置かないでいいですということになると思いますけれども,そうではない可能性もあり得る。要するに,ここに書いてあることが本当に実現できるのかなと思う素朴な疑問からの発言です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 1番目の公益先行信託については,規律を設けないということに賛成したいと思います。ただし,規律を設けないということの意味については,少し検討が必要だろうと思います。つまり,説明によりますと規律を設けないということは,規定がなくても実務的な対応が可能なので,あえて条文で許容するというようなことを言わなくていいという趣旨のように理解しました。ただし,一般の方にとってみて,公益先行信託について規律がないということが,一体,どういう意味を与えるのかということは,少し慎重に検討した方がいいのではないでしょうか。つまり,公益先行信託というものの信託法の中における位置付けです。こういうものを少し促進しようということなのか,それとも抑制的であっても仕方がないような趣旨なのか,その辺を少し明確にした方がいいように思います。
それから,2点目については,1点目と2点目,第1の類型と第2の類型の違いは何かというと,第1の方は当初から予定されていた,第2の方は事後的に変更するということの違いだと思います。第2類型については258条2項の規律を維持するということですが,果たして,これだけの理由で第1の類型は実務的に対応できるとして,2番目の方は認めないということの理屈として十分なのかという疑問があります。というのは,258条2項の規律というのは,公益信託を加味しなくても理解できる条文だと思いますので,一つの可能性としては,1,2とも許容するというのでしょうか,規律は設けないというのでしょうか,認める方向での考え方もあり得るのではないかと思います。
ですから,結論的に言いますと,1番目については賛成,ただし,規律を設けないことの意味についてはもう少し検討する必要がある。それから,2番目についても事後的な変更と当初から予定で,それほど本質的な違いがあるのだろうか。つまり,事後的な変更であっても実務的に対応が可能な場合もあるので,そうすると,利益状況は第1の類型と異ならないようにも思うので,その辺りの検討も更に必要のように思われます。
○樋口委員 三つのことを申し上げたいと思いますけれども,まず,第2という部分には転換という言葉が入っていて,しかし,中身を読むと変更という言葉も出てきて,変更と転換とどう違うのかというのが普通に読んでいくとよく分からない。普通は先ほど能見委員がおっしゃったように,信託の変更というのは,英語でいうとdeviationとかchangeでもいいんですけれども,特に裁判所が関与して行う信託の変更という話は,英語でいえばadministrative provisionsについての変更を認める,状況の変更に応じてということなので,信託の事務的な部分の変更をいうので,目的を変えるという話はないんです,そもそも。
だから,事務処理の方法で具体的には投資先で今までのようなことをやっていたのでは,すぐになくなってしまうではないかというような事例がそれに当たります。だから,もっと新しい投資先を開拓したらいいとか,何でもいいんですけれども,そういうようなことを考えた受託者が通常は裁判所のところへ行って,こういうことは信託条項には書いてないんだけれども,是非ともやらないといけないと自分は思っている,それに対して許可してくれる,それを認定というか,どうであろうが,裁判所の許可というのがあるというのが英米法の考え方です。だから,今,資料の1と2ですから,2というような大転換の話はどこにもない。だから,世界で初めてというのを作ろうという感じがするということです。パラダイム転換みたいな気がするということです,実は。
それで,二つ目は,私自身は1の公益先行信託とか,後で出てくる残余公益信託というんですか,そういうハイブリッド型というのも,アメリカでもやっているのだし,日本では特に今回の公益信託法の改正の正に目的としては,公益信託を拡大するという話にしないといけないと思っているんです。この法律を改正することによって,法律だけではできないことなのかもしれませんけれども,法律としてもとにかくもっと広げていくんだという,法改正はそのための手段だと。そのための手段として,現実的な策として,こういうハイブリッド型というのもやってみたらいいのではないかというのがまず私の結論としてはあるということです。
その上で,何も規定しないというのは危ない,逆に。16ページのところに,公益先行信託は,受益者の定めのある信託を設定し,信託行為において,一定期間は信託財産,それを公益目的のために初めのうちは利用した上で,一定期間の経過後は今度は私人のために,その私人というのはきちんと受益者として初めから指定しておくというので,そういう形でできるではないかというのはおっしゃるとおりだと思いますけれども,その前提としては公益先行信託はまず認定しないんでしょうね,公益信託とは。
しかし,二つ目の問題として,そういっても例えば樋口が,公益先行信託というのを始めました,10年間は公益のためにやるんです,是非とも協力してくださいというのまで禁ずるのでしょうか。公益信託については名称独占が認められると思いますけれども,公益先行信託になれば大丈夫なんでしょうか。何も規定しないのでは,かえってそれを悪用することも考えられます。それについてどうするか,分からないけれども,こういうのもきちんと,この部分については公益だというのだったら,日本のように認定しないと気が済まないという,とにかく認定制度ありきというところでは,責任を持って何もしないでどうぞというのではなくて,きちんと,この部分については公益性があるんですよという形の認定制度を採る方が日本的な感じがするんですけれども,私は。そこまでにします。
○中田部会長 3点あるとおっしゃいませんでしたか。
○樋口委員 名称独占との関係で,公益先行信託というのも名乗らせないというところまでやらないと,不十分です。しかし,そういう方向性は,結局,公益信託拡大について完全にネガティブなんです,本当を言うと。先ほどどなたかがおっしゃった,どういう方向性を採るかというと,だから,それはまた,どうなのかという気がします。そうすると,そういう悪用の事態も想定されるのに,何かあったときに何も規定しておかないという意識的判断をしたんですよといえば,立法担当者はその責任を問われると思います。こういう脅し的な言い方もよくないんです。申し訳ない,言いすぎたと思いますけれども。
○中田部会長 ありがとうございました。確認ですけれども,2番目の事後的な変更については,これを認めるのはパラダイムの転換のような大きなことであるというのは,結論的には慎重であるべきだという御意見ですね。
○樋口委員 ええ。
○中田部会長 1番目の当初から予定しているものについては,認めるのだとすると中途半端にするのではなくて位置付けが必要で,受益者のいる公益を目的とする信託についても,例えば名称との関係を詰めておくべきだと,こう伺ってよろしいでしょうか。
○樋口委員 そうです。
○中田部会長 ありがとうございました。
○林幹事 まず,1の方につきましては,弁護士会の議論では両論がありました。御提案に賛成で,認めないという意見も,それなりに強かったのですが,バリエーションという意味においては,認めてもいいのではないかという意見もあり,私個人としては後者の意見で今はおります。
今回の提案で,「許容しない」ではなくて「規律は設けない」に変わったこととか,私益信託においても実質的にできるとか,そういう御指摘の限りにおいては前向きに進んでいると思っているので,それは評価したいですし,少なくともその限りではできるようにと思うところです。ただし,規定があるか,ないかが大きくて,ないとできないという方向に働くかもしれません。税制の問題は悩ましいのですが,端的に受益者のいない公益信託として認めるということで税制のメリットも出てくるかもしれません。規定がなくてもできるではないかというような御指摘であれば,そこから,規定は要らないという方向もあるかもしれませんが,規定を設けてもよいという方向も考えていいのではないのかと思います。
「残余財産の帰属」のところで私も乙案なのですが,そちらで乙案だから,本論点の公益先行信託もあってよいという立場もあり得て,期間限定の公益信託的な考え方からすると,1についてはあってもよいのではないのかと思います。ですから,ここでは特に当初の信託行為において,委託者の意思として,そういうものを希望すると,そこが明確に出るわけですから,その意思を契約として尊重するということはあってもいいと思いました。
ただ,2の場合,つまり設定当初は全く想定せずに,後に信託の変更で対応するかについては,ハードルが高いように思いましたし,弁護士会の意見でもこれは認めないという意見で一致していたところだと思います。バリエーション的にはあってもいいという気はするのですが,なかなか,難しいかと思います。
○山本委員 分かっていないので質問をさせていただければと思うのですが,1について規律を設けないとしても,実質的に意図するところは実現可能であるという指摘があります。例えば10年間は公益目的で行い,その後は私益信託とするということですが,先ほどの御発言の中にもありましたけれども,このようなものを申請しても恐らく公益認定はされないのだろうと思いました。少なくとも,公益認定と税制優遇を一致させるという考え方からすると,認定はされないだろう。そうすると,認定されない場合において,最初の10年間,公益目的で信託をしているという場合のこの10年間には,どの規律がどう適用されることになるのでしょうか。それがよく分かりません。
公益認定を受けていないので,公益信託に関する規定が直接適用されることはないでしょう。ただ,性質に応じて準用なり,類推なり,何かが行われるのか。私益信託といいましても,10年間は受益者がいないわけですので,どのような規律がどう適用されるのかということがよく分かりませんので,御説明頂ければと思います。
○中辻幹事 事務局としては,最初の10年間は公益目的のために信託財産が使われるということを前提としても,その後は公益目的とは違う目的のために信託財産が使われるのであれば,全体としては受益者の定めのある私益信託としての性質を有する信託を設定したと言える場合があり,その場合には,最初の10年間についても受益者の定めのある私益信託の規律が適用されることになると考えておりました。
なお,先ほど小野委員から御指摘ありましたけれども,公益目的の受益者の定めのある信託という言葉を使っておりますが,公益認定を受けた公益信託とは別の類型として,受益者の定めのある信託が利用されて公益目的が実現されることは,むしろ望ましいと事務局としては考えております。余計なことまで付け加えましたが,質問に対してお答えになりましたでしょうか。
○山本委員 まだ,分かっていないのですけれども,受益者が少なくとも法律上はいないはずの最初の10年間において,何らかの法的な対応をしないといけないはずなのですけれども,そこで私益信託の規定がそのまま適用されるというのは,どうもうまく実情にそぐわないような気もするのですが,それでも基本的には私益信託の規定によるということなのでしょうか。
○中田部会長 前提を整理したいんですが,事務局の方の提案というのは16ページの3に書いてあるところだと思うんですが,これは受益者の定めのある信託を設定して,その収益を公益目的のために利用するということですので,ひょっとしたら少しイメージが違うのかもしれません。
○山本委員 先ほど来の議論からしますと,10年間は公益目的である,そして,それが終われば受益者をあらかじめ指定してあって,その受益者が受益するという仕組みではないかと思っていましたので,先ほどのような質問になりましたが,最初から受益者は法的にも存在する,ただ,収益を公益目的に充てるというだけであるというものであれば,名称としても公益先行信託と言えるのかどうか怪しいところがあるように思いました。
○中辻幹事 もう一つだけ付け加えさせていただきますと,深山委員が最初の方で御発言されましたが,代替案としては2パターンがございます。一つは中田部会長がおっしゃった受益者の定めのある信託を設定する方法,もう一つは公益信託の残余財産の帰属先の論点で解決する方法であり,後者であれば公益信託を当初の10年間行っている間はその信託には公益信託の規定が適用されることになりますので,受益者の定めのある信託の規定が適用されるパターン,適用されないパターンの2パターンがあるのだろうと思います。
○中田部会長 失礼しました。今御説明のあったとおりです。
○山本委員 分かりました。
○能見委員 先ほど小野委員が最初に言い出されて,その問題が先ほどから私も気になっていて,どこかで発言しようと思っていたわけですけれども,いろいろな観点があるのですが,まず,事実上の公益信託というのでしょうか,私益信託の枠組みを使っているけれども,そういう意味では受益者もいるし,受益者がガバナンスに関与する,そういう意味で完全な私益信託であるけれども,公益的な活動をするというのは,多くの方は全く問題はないと考えられていると思います。私もそれは問題ないと思っています。しかし,これについても解釈の争いが若干はあるかもしれないので,本当はどこかで,この議事録だけでもいいのかもしれませんけれども,あるいは要綱などではっきりと,それができるということを明記した方がいいだろうと思います。
ただ,ここの書き方ですが,1の公益先行信託のところで,規律を設けないとある。設けないけれども,私益信託を設定し,そこで信託財産を公益目的のために使うなどでして,事実上公益先行信託はできる。だから,それでいいだろうという説明の部分は余り理由になっていない。公益先行信託を認めることを主張する側は,公益を行う信託を先行させるわけですが,そこでは公益信託としての実態が欲しい,これは税制優遇も含めてですけれども,そういうことを公益先行信託では考えていると思いますので,アメリカの議論は必ずしも私は正確に理解していませんけれども,少なくとも今までの日本での議論は,そういうことを考えていると思いますので,事実上の公益活動ができればいいだろうというのは,十分な理由になっていないと思います。
ですから,本当は公益先行信託ができるとする規定を設けた方がいい。事実上の公益信託ではなくて,きちんとした公益信託を先行させて,その後,私益信託に変わっていくというのを実現するためには規定が必要です。私は規定を設けるべきだという意見ですけれども,もし,それができなければ,そういう規定がなかなか難しいというのであれば,次善の策として,事実上の公益信託というのを使うことになると思いますけれども,事実上の公益信託についても本当に大丈夫かどうか解釈のレベルで争われる恐れがありますので,できるということをどこかで明確にしておいてほしいというのが一つです。
それから,山本委員が言われたことは私も重く受け止めております。事実上の公益信託を先行させる,たとえば最初の10年間,幾らそれは私益信託であるからといって,受益者が全ての普通の私益信託と全く同じようにガバナンスに関与することでいいのだろうかという問題は確かにあるような気がいたします。ただ,事実上の公益信託であるから公益の認定は受けないけれども,公益信託と同様のガバナンスなどの仕組みは使わなくてはいけないということは,私益信託に与えられる基本的な自律性というのでしょうか,自由な自律という部分を大きく阻害することになると思います。痛しかゆしの点はありますけれども,結論としては,私益信託の枠組みを使うのであれば,私益信託の枠組みでやるしかない,公益信託の枠組みを押し付けないのがよいという感じがしております。
2の方については,本当はこれを可能にするのがいいと思いますけれども,この点については特に新しい意見といいますか,理由があるわけではありませんので,省略したいと思います。
○渕幹事 1の「公益先行信託」について,小野委員,それから,林幹事等が規律を設けるべきである,むしろ,積極的にカテゴリーとして認めるべきではないかと発言されました。その趣旨については御説明があったとおり,柔軟にいろいろな種類のカテゴリーの公益信託を認めた方がいいのではないかというようなことではなかったかと伺っておりました。確かに,委託者の立場から見るといろいろな選択肢があった方が,委託者にとってはいろいろな手段で公益を実現できるというような意味で,委託者にとっての私的自治といいますか,柔軟な選択が可能になるということなのだと思います。
しかし,前回か,前々回か,小野委員の御発言で非常に印象に残っておりますのが,信託の存続中に信託関係人の柔軟な意思決定で物事を決めていくべきではないかという,そういう方向での御発言です。そうだとすると,信託の設定の段階での柔軟さというか,いろいろなカテゴリーを認めるということと,その後の信託存続中における柔軟な運営というものは,当然,衝突する関係にあるわけです。その辺りについての小野委員のお考えを伺いたく思います。
○小野委員 いろいろなことを発言しているので,どういうコンテクストで発言したかなと思うところがあって,御質問に沿った内容となるか分かりませんけれども,公益信託は継続して運営されますから,その意味においては善管注意義務という観点からも柔軟性はどなたも認めることかと思います。ということと,公益目的とか終了時における残余財産の帰属のような大きい枠組みに従うということは衝突するということはないと思います。もっとも,今,渕幹事がおっしゃられたこととの関係で,当初の委託者の意思をそれほど尊重する必要がなく,柔軟に考えてもよい事例としては,例えば種銭公益信託のように,取りあえず,一定の財産は当然,必要ですけれども,公益信託を設定し,実際の運営は今後,寄附等によって公益信託を賄っていきましょうみたいなスキームの場合,これも,一つの公益信託の在り方と思うのですが,信託設定行為の内容と運営上の柔軟性が衝突することもあるかもしれません。もっとも,信託行為でそれを認めるという趣旨なので,衝突する状況ではないとも思います。回答になっていないのかも知れませんが。
○渕幹事 小野委員のお考えを正すという印象になってしまって恐縮でありますが,そのつもりではございません。もし,先日おっしゃったように柔軟な信託存続中の信託関係人による意思決定を尊重したいということであれば,むしろ,こういう委託者にとっての選択肢を広げる規律を設けないというか,むしろ,認めないという方向の結論になるのが筋ではないかなと疑問に思ったので発言させていただいた次第です。特に矛盾はないということであれば,それで結構です。
○中田部会長 最初にカテゴリーをたくさん作って,その代わり,そのカテゴリーに当てはまった以上は,後は最後までそれを貫くという考え方と,入り口は広くしておいて,後は柔軟にするという二つの方向があるのではないかという御指摘だったと思いますが,必ずしも対立するわけではないというのが小野委員の御理解,御説明だったかと存じます。ほかに。
○新井委員 第1類型の公益先行信託の意味が議論になっていると思いますけれども,それについて少し私の意見というか,質問をしたいと思います。16ページの3ですけれども,公益先行信託は,受益者の定めのある信託を設定し,信託行為において,一定期間は信託財産又はそこからの収益を公益目的のために利用した上で,一定期間の経過後は,残りの信託財産を委託者が指定する私人のために利用する内容の定めを置くことで実現することができるということが書いてありまして,中辻幹事もそういう趣旨のことをおっしゃったと思います。
ただ,ここでの議論の前提となっている公益信託というのは,公益認定を取ったものを一応の前提としていると思います。16ページに書いてあるような多様なもの,これを公益信託に含めるという考え方はもちろんあると思います。それはそれでいいと思いますけれども,ただ,両者を一緒にして議論する,正に第1類型がそうなんですけれども,そういうやり方をするといろいろなバラエティが出てきて,本当に議論の仕方として妥当なのでしょうか。私は第1類型というのは,公益認定を取った公益信託が正に先行している,そういうことで考えるのが一番ピュアな理解だと思うんですけれども,すごく外縁を広げるということでもいいのでしょうかというのが私の質問です。
○中辻幹事 もっと検討の対象を絞った方が議論の前提が浮き彫りになるという御指摘であると受け止めましたので,それは今後の検討に生かさせていただきたいと思います。事務局としては,公益目的の受益者の定めのある私益信託の活用について触れないまま,公益信託にだけ特化して検討するよりは,少し間口を広げて検討してみようというくらいで考えていたものでございます。
○平川委員 1の点については,公益信託として認定を受けられるような公益信託としては,法律関係の複雑化や税制優遇の観点から,許容しないとすることが妥当だと思います。公益的な私益信託というのは,許されてもいいと思いますけれども,その場合には公益信託という言葉や,それと紛らわしい言葉は使ってはならないとしなければならないと思いまして,準公益信託とか,公益類似信託とか,公益的信託とか,そんなような公益先行信託というだけでは,認定を受けた公益信託と混同して,不当な詐欺まがいのことが起きる可能性があると思いますので,そこのところは厳密にすべきだと思います。
2の方につきましては,公益信託を受益者の定めのない信託の類型とすることには,公益信託を目的信託の一類型とすることには反対するという意味で,信託法第258条第2項の規律を維持するという観点からではなく,公益性を担保する根幹を揺るがすこととなるという観点から,受益者の定めのある信託への変更を不可とする案に賛成します。ただし,受益者が公益法人等であり,その背後に不特定多数の受益者が存在して,公益性を認定できるような場合もあり得ると思いますので,そういう場合には例外的に認めるということはあり得ると思います。
○深山委員 ここの議論は,何人かの方から御指摘があったように,やや整理というか,前提を確認する必要があると思うんですが,先ほど新井委員が御指摘になったとおり,私もここで議論すべきことは公益認定を受けた公益信託が先行して,それがその後に,例えば補足説明の例でいえば,10年後は私益信託に転換することを認めるかどうかということを念頭において規定を設けるかどうかと,こういう議論です。したがって,補足説明16ページのところの実現できる例として二つある前段のところと後段のところは,先ほど中辻幹事に御説明いただきましたけれども,前段の方の例というのは純粋な私益信託の話ですから,参考までに書いておくことには意味があるかもしれませんけれども,ここの議論の例にはならないし,ましてや,こういうことを私益信託として実現できるからということを理由に,ここでの議論をするということもふさわしくない。
後段の方の例というのは,残余財産の私人への帰属を認めることを前提に,その私人に帰属させるときに単純に戻すのではなくて,私益信託に転換するということができるということで,これは正にここでの議論を検討する上で想定されている場面なんだと思います。そういう理解で,私は残余財産の帰属の論点については乙案を採ることを前提に,そうであれば,重ねて何かここで公益先行信託ができるということを書かなくても実現できるので,この提案に賛成すると申し上げました。
先ほどはそこまでで止めたんですが,仮に残余財産の帰属の論点で甲案ということになった場合には,そういう意味では何も規定を置かなければ,自然の理解としてはできないという解釈が出てくる,それが自然な解釈だと思います。それは私は反対したいと思いますので,先ほどの意見を別に変える気はないんですけれども,仮に残余財産の帰属の論点で甲案が採用される場合には,仮にそれを前提にしても,公益先行信託という形で後に単純に私人に戻るのではなくて,私益信託に転換するという限度では認めるという意味で,積極的に認めるという趣旨の規定を置くべきだという意見を付け加えたいと思います。残余財産の帰属の論点について諦めたと思われたくなかったので,先ほどは言わなかったんですが,予備的な主張としては,そういうことを主張したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 繰り返し出ていることかもしれませんが,事務当局がこの資料をどういう趣旨で作られたかということを教えていただきたいという質問をさせてください。15ページのゴシックのところですが,「1 公益先行信託」,公益先行信託(注)で(注)に飛びますが,委託者が信託を設定し,一定の期間,公益目的のために用いるがうんぬんとあります。これは,設定したときに公益認定を受ける場合もあり,受けない場合もあり,広くオープンで考えよう,そして,一定期間の間に,公益認定を受ければですが,税制優遇はあるという場合もあるし,ない場合もある。そこをオープンで考えようということで,公益先行信託について考え方を一定の整理をした,これでどうかというお尋ねになっているのでしょうか。
○中辻幹事 御質問に端的にお答えしますと,オープンに考えているということでございます。補足説明の1行目に書きました「公益先行信託は,委託者が信託を設定し」という部分の「信託」の前には何も修飾語を付けていないわけですが,それは受益者の定めのある私益信託と,公益認定を受けた受益者の定めのない信託の両方を考えているという意味を込めています。
○山田委員 分かりました。ありがとうございます。
○道垣内委員 山田委員の質問に対して,中辻幹事は,そうですとお答えになったのですが,本当にそうなのですか。と申しますのは,ここに書いてあることはメカニズムが二つあって,公益認定を受けるかどうかだけの話ではないと私は理解していたのです。
どういうことかというと,まず1つめのものとして,例えばある特定の者を受益者にする信託を設定するが,その人には10年後から受益させればよいと考えられるため,10年の間は,運用益は赤十字だとか,そういうところに寄附をするという形にしているとします。これは,私が普通に信託を設定して,10年間の間の資金の運用方法とか,資金の使い道とかをそう定めているというだけであって,それだけの話ですよね。そして,そのときに,最初の10年間の部分について公益認定を受けられるかというと,それは受けられないのだろうと思います。
それに対して,例えば10年間という期限が付いた信託を作り,その間の信託目的は公益目的であるのですが,しかし,10年経った段階で,元からあった財産の額については,帰属権利者はそれをもって新たに私益信託を設定するという義務を負っているというメカニズムも考えられます。このときは,前半部分と後半部分というのは信託が違うわけですよね。したがって,前半部分の信託について公益認定を受けるということは可能になると思います。
すべてがオープンになっていて,いろいろなやり方がある,認定を受けるか否かであるというのではなく,公益認定を受け得るかたちで公益信託先行型の信託を設定しようとしますと,それは後ろの信託は別の信託であるというふうな法律構成をするということが前提になっているのではないかでしょうか。
○中辻幹事 事務局としては,公益先行信託として,信託の存続期間全体を通じて受益者の定めのある私益信託の形を採るパターンと,公益信託が10年存続した後に公益信託を一旦終了させた上で私益信託を設定するパターンの2つを想定し,後者では信託設定当初に10年後の信託終了を前提として公益認定を受けることを前提としているわけですが,その信託が10年経過後に終了するのではなく私益信託に変更して同一性を維持したまま継続することを前提として当初の公益認定を受けるというパターンも論理的にはあり得ると思います。そのような御指摘であるとするならば,その点についても,また別途考えていこうと思います。
○道垣内委員 私はそれが可能だと言ったわけではありません。公益信託が終了して,それがそのまま,同一性を保った形で私益信託に転換していくというものについて認めるのならば,特別な規定がないと認められないと思います。しかし,同一性がなく,帰属権利者がそのような公益信託の設定義務を負っているというものは,特段の規定がなくてもできるのではないかと思いますし,更には10年の間は受益者には受益させないで,運用益は公の利益のために使うという定めをするというのは当然に可能です。その二つは規定がなくてもできる。これに対して,同一性を保って性質を変えるというのは規定がなければできないと思います。
○藤谷関係官 今,道垣内委員がおっしゃったところで,かなりクリアになったと思っていまして,ここは多分,抽象的に,公益,私益と連続すると考えると難しくなってしまうのですが,小野委員がちょっと遡ったところで具体的に最初はがんの撲滅,小野委員だったと理解しますけれども,ある段階で特定の研究所みたいなところに割り付けるというような話だったと思うんですが,恐らくこの問題というのは正に今,道垣内委員が言われたように一回,公益認定を受けてしまうと,それが本当にどんな私益のところにもいくというようなものは,残余財産の帰属のところでの議論との平仄上,あり得ないんだと思うんです。
ただ,そこで行き先が特定の公益法人ないし,それに類するもの,そこをどこまで広げるかというのは,そちらの論点ですが,先ほど小野委員が挙げられた例というのは,正にそういう例だったのではないかと。ただ,特定の公益法人を受益者とするような形で財産がいくというのは,これ自体は公益信託ではないので,公益目的のための私益信託ということになりますが,それであれば,残余財産の帰属のところのハードルもクリアできそうであると。そう考えていくと,恐らく今,道垣内委員がおっしゃったように,二つは別の世界の話ではないのかということも平仄が合うような気がいたします。
それから,税の観点から一つだけ付け加えておきますと,今の現行法上,特段の規定がなくてもできると整理してくださったようなものであっても,全く税制優遇がないわけではありません。そのようなものであっても,10年間先行している間,公益的なものにいっているのですから,行き先が適切な寄附控除の要件を満たすものであればという条件付きですけれども,寄附控除は取れますし,その結果として,一回,法人税,所得税みたいのは掛かるかもしれないけれども,それを打ち消すというようなことも不可能ではないと。細かく言い出すといろいろあるんですが,決して認定が取れれば100%の税制優遇,認定がなければ全く税制優遇がないというような世界ではないのだということは,一つ述べておく価値があるかと思いました。ありがとうございます。
○樋口委員 私も深山委員と道垣内委員の話を聞きながら,残念ながら深山委員の意見に賛成できないんですけれども,公益信託で最後のところの帰属権利者を私人にというのは,無理なのではないかなと思うんです。前にも紹介したように,例えば日本で病院なんかは公益信託とか,公益法人のところから全部外してしまって,医療法人という別の法律になっているんですけれども,医療法人も今までは,代々,病院というか,経営者のものだという意識が強くて,結局,それが廃業になったときも自分のところへという話が最近の法改正で駄目になっているわけですよね,新設のものは。
だから,それまで相当の税制上の優遇を受けているわけですから,医療法人であれ,何であれですけれども,だから,そういうようなものが結局,最後,帰属権利者という私人にいくというのは,大体,理屈の上でも受託者にとっては,日本では帰属権利者と言っているかもしれないんだけれども,結局,受益者ですから,最終的な,だから,利益相反の典型になるんです,それまでは別のもののために。だから,受託者は一体誰のために行動するのかという話になって,収拾が付かなくなるような話になるので,公益目的で一貫しないといけない。
しかし,深山委員がおっしゃるようなことが可能であれば,実はこういう何とか何とか信託なんて言わないで,取りあえず,認定も受けて10年間,それで10年間が終わったところで財産が帰属権利者のところへいって,帰属権利者が新たにまた私益信託を,つまり,ここで終了して新たに私益信託をというのをやればいいではないかというんですが,本当はそんなことをやるのだったら,続けさせていいのではないかという気もします。わざわざ,ここで一旦,切るというのは信託登記であれ,何であれ,無駄な話を,同じことを結局やっているのだったら,帰属権利者が私人になれるということを仮に前提としても,それができるのだったら,ここで初めから認めたっていいではないかという,中身としては同じで,かつスムーズに移行する。それから,一番初めの委託者の意思がそのまま貫徹するという意味でも,それを否定するような話にならないような気がするということです。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
○神作幹事 1と2について御議論を聞いていて,大分,理解できたところもあるのですが,まだ,少し不明な点もありますので,その点について御確認をさせていただきたいと思いますけれども,私は1で基本的に書いてあるのは公益信託ではなくて,公益的だけれども,公益認定を受けるということは前提としていないと。それで,公益信託からいわゆる受益者の定めのある私益信託に移るというのが2で書いてあって,それで,一旦,ワインドアップして,それで,帰属先を私人にというのが16ページの3の「また」のところで書いてあると理解したのですけれども,それまでの話というのは,基本的には公益信託とは違う話ではないかと理解しておりました。
それで,私が申し上げたいのは,信託の場合は利他的に利用するということができると,そういう制度になっておりまして,委託者以外の者を受益者にすると,その受益者の採り方によっては非常に利他的なことが私益信託でもできるということだと理解しております。そういう意味では,公益という言葉の使い方に気を付ける必要があって,私益信託の中にも利他的な他人を受益者にしてあげるということで,私益信託の枠の中で利他的なことというのは幾らでもできるわけで,そこに信託の非常に大きなメリットがあると思いますので,利他的な信託というのと,それから,誰かが認定するところの公益というのとが,1の公益先行信託というときにお話を伺っていると,イメージが発言されている方によって公益の捉え方が違っているのではないかと思ったのです。要するに,公益信託というときは,誰かが認定した公益だという前提で整理した方が,話がすっきりするのではないかと思いました。
そこでまた,御質問ですけれども,1の公益先行信託というのは16の3の「また」より上の部分は,今,申し上げたような利他的なものではあるけれども,公益認定は受けていないという前提で理解してよろしいでしょうかという,また,すみません,山田委員の御質問に戻る感がありますけれども,いま一度,御確認させていただければと思います。
○中辻幹事 「また」よりも上のところで言っている信託ですけれども,ここは飽くまで受益者の定めのある信託で公益認定は受けていないものを意図しております。公益信託であれば不特定多数の利益,すなわち,公益が必要とされるわけですが,ここでは神作幹事がおっしゃったように,私益信託ですと間口がより広いので,不特定多数にこだわらず,利他的なもの,それも含めて公益と表現できるようにも感じておりまして,御指摘も含めて今後整理していきたいと思います。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
言葉の整理がまだ十分でなかったかもしれませんので,若干,議論が出ましたけれども,15ページの1の「公益先行信託」というのは,最終的には規律を設けないというネガティブな意味ですので,広く対象にして,そういったものを包摂するような一般的な規律を設けないという,その程度のことであり,いろいろなものが入っているのだろうと思います。そのことと16ページの3に出ている二つの例との関係が若干入り組んだので,少し御議論があったと思いますけれども,最後の方で大体収束してきたかと存じます。
その上で御意見を伺っていますと,1の「公益先行信託」については原案に賛成といいますか,規律は設けないということに賛成という方が比較的多くいらっしゃったように伺いましたけれども,ただ,それが皆,同じ意見というわけではなくて,積極的にこういうものは置くべきではないという方と,残余財産の帰属権利者について乙案を採ることを前提とした上でという留保付きで認めるという方と,それから,事実上,できるのだから,これでいいかなという方と,幾つかあったと思います。そうしますと,事実上,できるということの意味をより明確にする必要があるだろうということになりそうです。
そこで出てきた御意見ですと,名称ですとか,適用法規だとかということをよりはっきりさせて,一体,何ができるのか,できないのかということを明らかにし,疑義のないようにする必要があるのではないかということが,原案に賛成される方からも頂いたと思います。他方で,反対だという御意見も複数の方から頂戴いたしました。
2については,賛成の御意見が大多数であったと思いますけれども,その中でも結論は賛成なんだけれども,理由が違うという平川委員の御指摘であるとか,結論的には反対であるという御意見も頂いたと存じます。ということで,もう少し概念を整理した上で,次の段階まで検討を続けたいと存じます。
当初は全部,一気にと考えていたのですが,まだ,幾つかございますので,一旦,ここで休憩を挟ませていただきたいと存じます。3時40分まで休憩いたします。
(休 憩)
○中田部会長 それでは,再開いたします。
続きまして,部会資料40,第2の「3 残余公益信託」及び第2の「4 受益者の定めのある信託から公益信託への転換」について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○吉谷委員 まず,3番でございますが,提案に賛成です。これは補足説明のように特段の規律を設けなくても,実務上,対応可能なものであると考えます。
4番ですが,3に賛成したという立場からすると,甲案に賛成ということになるのではないかと考えております。実務上は一般的な受益者の定めのある信託を信託の変更によって,3で説明されているような信託に変更するということを一回,手続を踏めば,公益信託の設定ができるということになりますので,甲案でよろしいのではないかと思われます。特に信託の変更によって転換する,形式的に同一の信託のままで転換するという必要性はないと考えます。
○深山委員 まず,3の「残余公益信託」については,結論としては提案に賛成したいと思います。理由については,補足説明の中の,特別な規律がなくても実現可能であるので設けないという趣旨において賛成いたしますが,気になるのは18ページの補足説明3の1文目を見ますと,「部会資料第37の第4の3の提案の内容を実質的に維持するものであり,その理由に変更はない」と書いてあるんです。37の第4の3は上の四角で囲ってあるように,これは許容しないと書いてあるわけです。それを維持するもので理由も変わらないというところを見ると,これはとても賛成できないんですが,その後を読むと実現可能であるからとあり,これは説明としてどうも整合性がないと私は思うんですが,従前の提案を改めて許容するという趣旨で設けないという提案と理解した上で賛成したいと思います。
次の4については乙案に賛成したいと思います。一般論としては258条3項という規律があるわけですけれども,甲案のように単純にそれをそのまま公益信託の転換へ適用しなければならないかというと,実質的に考えると,従前の信託につき公益認定をきちんと受けた上で,そして,認定を受けられた場合に,以後,公益信託として認めることを否定する必要はないのではないかと思います。どういう経緯なり,事情で,こういうことが現実に行われるかというのは,必ずしもイメージはしにくいところもあるんですが,一定の段階で公益認定を受ける,そして,認定が得られた場合に公益信託に転換するということを否定しないという意味では,乙案に賛成したいと思います。
ただ,この場合に,今までの議論もそうですけれども,「転換」ということが法律的に何を意味するのか,つまり,従前の信託と転換後の信託というのがどこまで同一性があるのか,ないのかということについてはいろいろ議論の余地もあると思います。そういう問題があるとは思いますが,それはさておいて,およそ公益信託への転換を認めないとする必要はないという意味で,乙案に賛成したいと思います。
○道垣内委員 3のところについて,これでいいと思うんですが,以前の議論をいろいろ忘れておりますので確認したいのですが,公益信託は信託宣言でできることにするのだったでしょうか。自己信託ですね。
○中辻幹事 現在の法律ではできないと思います。以前の部会資料では,新たな公益信託法の規律として自己信託を認める案と認めない案の両案を出していました。
○道垣内委員 両案は現在でも並存しているという状況なのかもしれませんが,3について,既存の仕組みでできますよねというためには,恐らく信託銀行が当該信託銀行を受託者とする公益信託を設定するということを認めないと,うまくいかないのではないかなという気がします。受託者が公益信託の設定義務を負うというとき,A信託銀行が公益信託の設定義務を負うわけだけれども,そのときにA信託銀行を受託者にできないとすると,実務上,面倒になるのかなという気がしますので,御検討いただければと思います。
○能見委員 私も同じことを考えていたのですけれども,3のところで正式な意味での残余公益信託は設けないけれども,事実上できますよというときに,どういうことが実際に行われるのか,という点です。私益信託を設定して,その受託者が一定の段階で公益信託の認定申請を行うと書いてありますけれども,まず,ここで認定審査を行うというのは,私益信託がそのまま,公益信託に変わるということではなくて,この段階で元の私益信託の信託財産を使って受託者が新たに公益信託を申請する,新たに公益信託を設立するということで,前の方の私益信託と後の方の公益信託は,別であるという前提なのか,あるいは同一という場合も考えているのかということが問題となります。同一になりますと恐らく4の問題になるので,別に公益信託を設定するということを恐らく考えているのでしょうね。
別のものだとすると,別の公益信託を設定するときに二つぐらい方法があり,一つは道垣内委員が今,言われたように現在の私益信託の受託者がその信託財産を使って,新たに公益信託を設立する方法です。その際,最初の私益信託の受託者が公益信託の受託者にもなるとすると,最初の私益信託の受託者が委託者になり,自分が公益信託を受託するという形になる。そこで自己信託が生じるので,それができるかどうかというのが,今,道垣内委員の言われたことだと思います。
それから,もう一つの方法は,私益信託の受託者が信託財産を使って公益信託の申請を受けるわけですけれども,もともと残余公益信託は最初の私益信託の委託者に意思に基づいて後の公益信託を設定するので,元の委託者の言わば代わりにというんでしょうか,元の委託者が相変わらず後の公益信託の委託者だというような方法も,もしかしたらあり得るのかもしれません。公益信託の財産は先行する私益信託の財産で,その受託者が処分するわけですが,実質的には元の委託者が公益信託の委託者であると考えることで,自己信託ではないという考え方もあるかもしれないということです。いずれにしても,幾つかの方法があり得るので,ここで18ページに書いてある,事実上,できるから我慢してくださいというときの事実上できるというのが何なのかというのを,明らかにしておいた方がいいだろうという感じがいたしました。
○中田部会長 ありがとうございました。
○樋口委員 私もお二人の意見に並んで,18ページの3というところで,それで,2点だけ申し上げますけれども,今度はきちんと二つということを数えて,自分の頭の中で,つまり,これは事実上,できるではないかと。本当に同じことができるのかどうかを今,お二人は問題にしているので,しかし,仮にできるのだったら,規定を設けたっていいではないかという気がするんです。同じことなのだったら,何で規定を設けないのだろうと。
それで,なぜ,規定を設けた方がいいと考えるかというと,私のはもちろん政策論なんですけれども,結局,PRなんですよ。今度,公益信託法が改正されました。それで,それは公益法人法の改正に並べて,今度,公益信託法も改正されましたというんですけれども,そのときに,当然,一つ問題になるのは公益法人法と公益信託法と全部が同じなのだったら,本当に要るのかという話すらあるんですよ。これは何か違いもあった方がいいという気がしているんです。残余公益信託とか,先ほどの公益先行信託みたいなハイブリッド型は多分,公益法人ではもちろん今はないのだし,今後もきっと考えられないのではないかなと思うんですよ,分からないんだけれども。法人法を知っているわけではないから。
しかし,信託というのは本当に融通無碍なので,受益者をいろいろな形で交代させ,だから,私益の中に公益を入れる,かつてのヨーロッパなら収益の10分の1は教会にとにかく上げるとかいうようなことだってずっと昔からしてきたわけですから,しかし,正に信託だから,公益信託というのも公益法人でできないことができるんですというPR材料としては,同じことができるというのだったら,同じことをきちんとはっきりできますよと,書いてあげた方がいいのではないかというのが一つ。
二つ目ですけれども,ここに認定申請を義務付けと書いてあります。この段階で義務付けというのを一応,義務はあるけれども,誰がエンフォースするのでしょうかという疑問があります。一番初めから信託が設定されていれば,もちろん,アトーニージェネラルだか何だか,いろいろな関係者という話になるんだと思うんですけれども,ここで一定期間後に公益信託の認定申請を行うことを義務付けとすると,義務と書くのはいいんですけれども,一体,それは誰が,どういうインセンティブで,だから,誰も知らないんですから,これは,私益信託しかなかったんですから,だから,それが本当に実現するのだろうかと,義務ですよというだけで,という疑問が湧きました。
○中辻幹事 最後の義務付けですけれども,事務局としては信託行為で受託者に義務付けられた債務を,受託者が委託者に対し負うものと考えておりました。したがって,受託者が信託行為に違反した場合に,どのような信託法上のサンクションが用意されているのかということは,また,別なのでしょうけれども,少なくとも委託者が裁判所に受託者を民法上の債務不履行で訴えることは可能であるように思います。
○樋口委員 いやいや,委託者は大体,亡くなっているものなんです。
○中辻幹事 確かに遺言による信託設定の場合には,委託者が不存在のときがあり,受託者の債務不履行責任を追及する主体が存在しないという事態はあり得ますので,その点も含めて更に検討したいと思います。
○能見委員 今の樋口委員の言われたことについて,最初の方は普通の私益信託ですから,私益信託の信託行為の中で受託者の義務として一定の時期に公益信託を設立して,当初の財産は公益信託に移すということを義務付けているのだろうと思います。ですから,そういう受託者の私益信託における義務を誰が履行を請求できるかというのは確かに難しい問題がありますが,それをしないと受託者としての義務違反が生じ,そのことによる損失補填責任については受益者が追及できることは問題がない。厳密な意味での履行請求とは異なりますが,義務違反をすると責任を追及するということを主張することで,間接的に義務の履行を求めることができるのではないかと思います。
私益信託の後の公益信託に関連しては,今,アメリカで議論されている信託のデカンティングというものがありますが。これが参考になります。この制度自体は,公益信託を設定するということに使うものではありませんが,ワインを別の容器に移すデカンティングというのがありますが,この考え方を信託の場合に応用して,1つの私益信託があるときに,別の新しい私益信託の器を作って,そこに元の信託の財産を移すというものです。このときに最初の信託の受託者が,これは普通,裁量信託になっており,その裁量権の範囲でもって新しい信託を作って財産を移すわけです。最初の私益信託が裁量信託になっていると,受託者の義務違反ということは問題にならないのでしょうけれども,仮に裁量信託ではなく受託者に新しい信託を設定する義務があるとすると,最初の信託の受託者の義務を追及できる人が追及するという形をとるのではないかと思います,
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 バックアップチームの議論の中で,特に座長の矢吹弁護士より具体的例をもう少し議論すべきではないかという指摘を頂きました。私益先行で後,公益信託という残余公益信託についてですけれども,生涯独身率が増え,子どもがいない場合,兄弟,姪に財産がいくより,公益に使いたいが,生前は特に認知症になるかも知れない自らのために財産を使い,その死後については国庫にいくよりも自分が指定した公益のために使ってほしいと,こういうような公益に自分の財産を使うということを,もっと積極的にPRしたらどうかというようなことを座長も言っております。
ということで,繰り返しになりますけれども,今の状況からすると,生涯独身の方が増える,その財産を国庫ではなくて,また,遠い相続人ではなくて,自ら考える公益のために使うというニーズはかなりあるのではないかと思います。規定を設ける,設けないについては,先ほど樋口委員がおっしゃったように,PRという観点からも,こういう目的のために使えますよということは,十分,意味があることですし,積極的に認めていくということになると思うので,是非,規定をしていただきたいと思います。
あと,転換うんぬんという議論ですが,私としては単純な法的発想で,当初信託設定行為によって信託財産が受託者に移れば,それで一つの信託が成立しているわけで,それが目的信託から受益者のいる信託になろうが,その逆であろうが,契約レベルにおいては単なる信託契約の変更,又は元々の信託行為中の契約の規定に従った推移にしかすぎないと思います。税法上は税独自の世界があるかもしれませんけれども。公益認定が取れるかどうかという別の問題はありますが,基本は信託行為レベルの議論と思います。
○中田部会長 最後の4についての御意見は,そうしますと,可能にすべきではあるのではあるのだけれども,それが信託の変更という,この概念に狭い,広いがあるのだろうと思いますけれども,その方法を更に検討すべきであるということでしょうか。
○小野委員 はい,そうです。信託行為の変更が認め難い状況があるとしたら,積極的に認めるような規定も必要かと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○平川委員 3の「残余公益信託」につきましては,これを認めるという規律を設けるということになると,その設定をしたときに事前に公益認定を受けておくということだと思うんですけれども,まず,規律を設けないとすることで賛成します。私益信託の終了時点で公益信託への転換を図り,その時点で公益信託設定の認定を取るということが法律関係を簡素化するものであり,私益信託の設定の当初の段階で,将来の時点での公益信託となることについて事前に公益認定をするということは,実務的にも将来の事情変更ということもありますし,困難が伴うのではないかと思いますので,これも許容する必要も実益もないと私は考えます。したがって,規律を特に設けることは必要がない。
4につきましては乙案に賛成しまして,理由としては受益者の定めを廃止する信託の変更をする時点で新たに公益信託としての認定を受け,公益信託の要件を満たすものを公益信託に転換するということを可とすることについては,公益の増進に資すると考えますし,何ら弊害はないと考えます。
○吉谷委員 先ほど御議論がありました3の「残余公益信託」の18ページの3番の事例のところでございますが,このような類型については,自己信託の規定の適用がないと考えて行われているスキームというのが存在するのではないかなと考えております。ただ,その上で,それはある種の解釈の問題であるということかもしれません。ここに出ている事例以外にも,私益信託の帰属権利者に対して再度,信託を設定するということを義務付けた上で,帰属権利者とするというやり方がありますので,そちらの方は特に解釈の疑問はそれほどないのかなと思いますので,どういうものを実務上の例として載せるのかというところは,いろいろ,考えるところはあるかと思いますが,お話させていただきました。
○林幹事 まず,3の「残余公益信託」の方は,弁護士会の議論ではこの御提案で賛成という意見が多かったと思います。ここでは,一応,当初,事前に公益認定を受けるということを想定して検討しましたが,あえてそこまで必要はなく,あるいは信託行為の中に書き込めば,事後的には実現できるとも考えられるので,その前提では,御提案の通り残余公益信託の規定は設けないことに賛成という意見も多かったところです。ただ,そうではありながら,信託設定の段階で当初から意思が固くて,どのタイミングで公益認定をするかは,それぞれに判断するという,この御提案の中でもそうなるのかなと。だから,それは比較的早く出したかったら出せばいいのか,認定がおりるかどうかはその場面というか,認定する側の問題なのかもしれませんけれども,そんなふうには理解しました。
4については,弁護士会としても乙案の意見で一致していたところです。前回の議論の際も申し上げたのですが,当初は私益信託で,特定の病気の子どものための信託ではあるが,一定のときから同じ病気の人たちのために,広く公益信託にするというようなニーズが十分あり得ると思っています。その点で,実質的に公益という要件を落とした形で提案いただいていることは評価しているところです。
信託の変更によってという点を乙案で付け加えられていると思うのですが,それは関係者の利益に配慮してということでもあって,評価できる部分でもあります。ただ一方,要件としてそれだけに限定するというのか,あるいはそれこそ信託行為に書いてあったら,その辺はもう少し緩く考えてもいいかもしれない,という議論もあったところです。基本的には乙案ですし,信託の変更の手続をとることによって,関係者の意思を確認した上で対応するというところは評価しているところです。
○道垣内委員 林幹事の御意見は,3について事前に公益認定を取るというものだったのか,どうなのかというのが,少しよく分からなかったんですけれども,3について私益信託の設定の段階で将来の公益信託について公益認定を取得するというのは,システム上,不可能だと思います。つまり,財産が幾らあるか分からないですよね。公益認定の場合には,示された公益目的を達成できるだけの安定的な資産があるかどうかということも,考慮の対象になってきます。しかるに,公益信託開始時にはどれだけの資産があるかはわかりませんが,残っている資産で公益目的の信託をしますから,今の時点で公益認定をしてください,というのは,あり得ない話だろうと思います。
仮にもしそれがあり得るとしますと,今度はそのような認定を受けたときには,先行する私益信託においての資産の運用方法とか,受益者への給付についての制限的な規律を定めなければならないということになりますが,それは無理だと思います。したがって,これは終了した段階で公益信託を設定するのであり,その時点で公益認定を受けるのだということなのだろうと思います。
しかし,そのときに本当は,樋口委員がおっしゃった問題があり,それは非常に重要なものです。理論的には受益者ができるということなのでしょうが,受益者はどちらかといえば公益信託の設定について利益相反の地位にいるのですね。だらだらと続けてくれた方が自分はたくさんの受益ができるわけであり,期間が来ましたので,公益信託にしてくださいということを,一定の手続を用いて受託者に強制することは,受益者に余り期待できることではありません。そこに,問題は残っているのだろうと思います。
更にもう一言,付け加えますと,能見委員がおっしゃったことで微妙なところがあったような気がするのですが,公益信託を設定するというのが私益信託の終了時の帰属権利者としての受託者の役割なのか,それとも,ある一定の段階が来たときに,残余財産について公益信託を設定することが受託者の役割として求められるのかというのは,理論的には詰めておいた方がよい問題ではないかと思います。恐らく後者の方が作りとしてはスムーズなのではないかなという気がします。樋口委員が指摘された問題点は解決されていませんが。
○山田委員 これまでの各委員・幹事の御発言とうまく絡むかどうか分からないのですが,3と4を併せて発言させていただきたいと思います。公益信託でない信託があって,それがその後,認定を受けて公益信託になるという道は,是非,作ってほしいというのが私の一番強い意見です。最初から公益認定を受けるということで,厳密な意味での前後関係はよく分からないのですが,最初から公益信託として出来上がるというものも,もちろん,あってよいのですが,そうではなくて,公益信託でない信託が公益認定を受けて公益信託になるという道は作ってほしいというものです。
その上で,信託の個数という話をさせてください。厳密にこれを定義することができるのかどうか分かりませんが,信託法3条に定められている三通りの方法のいずれかで,今,信託行為と呼ばれているもので成立し,そして,信託法163条以下の規定に基づいて終了する,こういう時間的な幅のある,人間に例えるならば生まれて亡くなるまで,この例えがいいかどうか分かりませんが,これを一つと考えるとしますと,その一つの信託で前半は公益信託ではない信託だけれども,ある時期から公益認定を受けて公益信託になるということです。その公益認定を受けた時点から税制上の公益信託に与えられている優遇を受けられるようになるということです。それ以降は,残余財産の扱いなどは,全部,公益信託の規律に置かれるべきであると思います。そういうものを是非,作ってほしいと思います。それが公益信託を増やす道にもなるでしょうし,今,幾つか御発言に出てきたように,具体的な例としても,それはありそうだなということで,何とか使い道が広がるのではないかと思います。
ただ,そのときに3と4が,ざっくり言うと両方が認められればいいのですが,問題の性格が3と4で違うのではないかという感じを今,持ち始めております。といいますのは,4の方は信託法258条第3項という規律があるので,それを除くとすればいいのかもしれませんが,何で公益信託の場合には除外できて,公益信託でない受益者の定めのない信託の場合は駄目だとされているのかというところが今,私は十分に258条第3項の現存のルールを乗り越えられるだけの理由を持ち合わせておりません。ですから,もし適当な理由があれば乙案でいいと思うのですが,甲案にならざるを得ないところがあるのかもしれないなと感じております。
そうすると,ぱっと見ると4の方が実現可能性が高いと思える面もあるんですが,3のように,要するに受益者というのは当初の信託行為の中で定められているときまでしか受益権を持っていないんだと,したがって,信託の変更という手続を経ずにできるんだという考え方に,3の方です,となり得るように思われ,少なくとも3は残してほしいと思います。ただ,3については受託者の義務,1個の信託ということですから,残余権利者がうんぬんではなくて,受託者が,自分が受託者である信託が公益認定を受けるということをしてもらうわけですが,そのエンフォースの方法というのは先ほど中辻幹事が考えますとおっしゃっていただいたところですが,是非,考えていただきたいなと思います。委託者は死亡している場合が遺言信託に限らず,あろうかと思いますので,現実的なエンフォースの方法を考えることができるといいと思っています。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○道垣内委員 エンフォースの方法について一言だけ申しますと,受託者が何らかの義務を履行しないときについて,エンフォースの方法は信託法上,定めがないですよね。信託法上,何が定められているのかというと,結局,受託者の解任及び損失填補請求しか定められていないのだろうと思います。3について帰属権利者としての義務というよりは,受託者としての義務だと考えた方がスムーズだろうと申し上げたのは,強いて言えば,解任という方法があるというためなんですが,ただ,それも本当は誰が解任申立てをするのかという問題は,先ほど申し上げましたように誰も利益を得ませんので,残ったままです。
○小野委員 今の点で思い付きなんですけれども,これを積極的に法文上認めて,この残余公益信託の場合には信託管理人を必置とするとして当事者を設ければ,受託者がサボっても信託管理人が善管注意義務を尽くせばチェックできるのではないかと思います。そういう意味においても規定があれば,より実効性のあるものになるのではないかと思いました。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
○神作幹事 19ページの4について申し上げたいと思います。「受益者の定めのある信託から公益信託への転換」ということで,これは私は弊害は余り考えられず,むしろ,方向としては非常に望ましい方向なのではないかと思います。例えば乙案を拝見しますと,私益信託が信託の変更を経て公益信託の認定を受けると。この前提としては,258条3項の例外を設けるということが考えられるわけですけれども,気になりますのが4の表題は「転換」と書いてあって,今日のこの会議でも樋口委員から御指摘があったと思いますけれども,乙案は単なる変更ということになっております。
私は率直なこれも直感的なことなのですけれども,私益信託から公益信託に変わるときに組織の実質や実態,少なくともガバナンスの構造は相当大きく変わると思いますし,かなり実質的な変更があるのではないかと。そうすると,単に258条3項の規律の例外を設けるだけで済むのかというのがございまして,例えばもう少し変更について,会社でいえば組織変更に類似したような規律を検討すると,例えば利害関係人の利益調整等は必要がないのかどうか,私は一種の信託という組織におけるファンダメンタルチェンジズが起こるのではないかという気がいたしまして,そうすると,単なる信託行為の変更で移るというだけではなくて,もうちょっと考えなければいけないことがあるような気がいたします。
そのときのポイントというのは,本来であれば,一旦,清算して終了して,それで新しく作ると,その手間を省かせてやるということでありますので,清算とか終了についての規律,それから,新しく公益信託を新設するときの規律のうち,どれが省いてもいいものなのかという観点から,検討する必要があるのではないかと思いますけれども,しかし,方向としては,私は4については乙案の方向で,しかし,今,申し上げたように乙案も恐らく簡単ではなくて,先ほどの実質的な信託のファンダメンタルチェンジズに当たるという前提の下で,規律を整備するということが考えられるように思われます。
○中田部会長 ありがとうございました。
ほかによろしいでしょうか。
3については,賛成される御意見の方が多数であったと思いますが,事実上,できるということの意味が,一体,何なのか,その内容を更に詰める必要があるのではないかという点,あるいはエンフォースが期待できないというのは,一般的には他の信託でも同じだけれども,とりわけ,この場面ではインセンティブのある人がいないではないかというような御指摘を頂いたと思います。また,同一性を維持しながら,形態を変えるということの持つ意味を更に詰めるべきであるということがあったと思います。
4については,乙案に賛成される方の方が多くいらっしゃったと思います。ただ,その上で,258条3項との違いをどのように説明するのか,もっと言うと,信託の変更と言うけれども,最後に神作幹事から御指摘いただきましたように,一種の組織変更のようなことで,かなり大掛かりな検討が必要になるのではないかというような御指摘も頂いたかと存じます。こういったことを踏まえて,更に中間試案に向けて検討していただきたいと思いますが。
○平川委員 今の大きな組織変更にもつながってしまうという話のところで,登録免許税が掛かるような財産の場合には,同じ受託者でも新たな登録免許税が掛かることになると,公益信託への変換というのが実務的には費用の問題が障壁になりますので,論理的にはそうかもしれないけれども,何とか同一性が保たれた同じ信託勘定だという理論を築けると,実務的にはいいと思いました。
○中田部会長 御指摘,ありがとうございました。
それでは,次に進んでよろしいでしょうか。
それでは,最後になりますけれども,第2の「5 公益信託から目的信託への転換」,第2の「6 目的信託から公益信託への転換」について御審議をお願いします。御自由に御発言ください。
○深山委員 5の「公益信託から目的信託への転換」について,まず,この議論の立て方について少し留意すべきと思うのは,タイトルはともかくとして中身を見ると,認定が取り消された場合の処理といいますか,その後のことを甲案,乙案で単純に終了するのか,あるいはただし書が付いて,一定の信託行為の定めがあれば目的信託として残るかというような議論になっております。
こういう場面も考えておかなければいけないとは思うんですが,タイトルにあるように公益信託から目的信託への転換,恐らくこれは事後的なといいますか,当初から想定されているわけではないけれども,ということが前提なのかなと思うんですが,それは何も認定取消しの場合に限られないのだろうと思うんです。認定が取り消された場合というのは,何らかの取消事由があるという場面なので,そういう場面に限定していえば,甲案でいいという気もするんですが,しかし,今,申し上げたように公益信託から目的信託への転換ということを議論するのであれば,認定取消しの場合でない場合も視野に入れるべきです。そこの議論がここから抜けて落ちているような気がするということを一応,指摘したいと思います。
6については,目的信託から公益信託への転換ですが,これは許容するという乙案を支持したいと思います。これは先ほどの4にもやや似たような場面だと思うんですが,当初は目的信託からスタートしたものであっても,どこかの段階で公益認定を得て公益信託に転換していくということについては,あえてこれを否定する必要はないと思いますので,乙案を支持したいと思います。
○中田部会長 5について認定取消しの場合には甲案でよいけれども,より広く検討すべきだという御意見を頂戴しましたけれども,例えばどのような場合に転換を認めるべきだというお考えがもしありましたら,お願いいたします。あるいは一般的にということで,更に検討せよということであれば,そう承りますが。
○深山委員 認定取消しのような場合ではなくて,一定の意図なり目的,もちろん合理的な意図なり目的に基づいて,当初,公益信託であったものをある段階から目的信託に変えるということは,一般論としては私は認めていいと思っています。これは,何度か同じような議論が出てくる期間限定の公益信託を認めるかどうかということにつながる議論だと思っているんですが,そういう意味でいうと,一定の期間,例えば10年間は公益信託として財産を供するんだけれども,当初,定められた時期にはそれが目的信託に変わるという意味では,期間限定の公益信託ということを許容することになります。
ただ,どういう具体的なニーズがあるのかというのは,私も実は余りイメージができていなくて,観念的にいうと,そういう期間限定の公益信託で,その後は目的信託という一種の私益信託に変わるというものがメニューとしてあってもいいのではないかなという抽象的な考え方です。一切それを否定してしまう必要はないと。ただ,ここに提案があるように認定が取り消されたような場合,何かしら問題があると判断されたものについて,その後,目的信託への転換を認めるというのは,普通に考えると望ましくないのだろうなという意味で意見を申し上げましたが,一般化すると期間限定信託という意味での転換はあっていいのというのが私の考え方です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 深山委員のおっしゃったことと実質的に共通すると思うのですが,具体的には5については乙案が望ましいだろうということを申し上げます。公益認定の取消しについても,どういうイメージを持つかという点についてはまだ開かれているのかもしれませんが,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の29条というものを手掛かりにしますと,1項の4号に公益法人から公益認定の取消しの申請があったときというものがあります。要するに,何か不祥事があったときに取り消されるというのが1号から3号までの例ですが,4号としては別にそういうのがなくても,当該法人が公益認定を取り消してくれと申請したら,認定行政庁が認定を取り消すという仕組みになっているように思います。公益信託においても,こういう考え方は大いに重要参考例になるのではないかと思います。
そうしますと,深山委員のおっしゃった実質は公益認定の取消しに流れ込んでくるように思います。したがって,公益認定の取消しを柱書きにしたこの表現で乙案につなげることで私はよいと思いますし,私が理解するところでは,深山委員のおっしゃっていることも,ここに対応するのではないかなと思います。
あとは補足説明の中に書いてあることですが,公益法人認定法30条の公益目的取得財産残額に関する,あるいはその前提となる公益認定の取消し等に伴う贈与,これは残余財産の行き先に関するルールに平仄を合わせるべきですが,私の意見としては公益法人認定法30条のようなルールが伴わざるを得ないだろうと思い,それでよいのだろうと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○平川委員 5について甲案に賛成します。乙案というのは,公益信託というのは目的信託の一類型であるとか,あるいはそれであるために目的信託を前置するというような,公益信託を設定する前に目的信託が前置されているかのごとくの考え方から来るのではないかと思うのですが,こういう考え方については信託関係が複雑化することから反対の立場を採ります。公益信託と目的信託は,前者が後者に包括されるのではなく,並列的関係に立つと整理することから,公益信託が終了した場合には,目的信託として残存するということはあり得ないという立場を採ります。
公益法人制度において,一般法人と公益法人の2階建てとしたことから,各種の法律関係において複雑化,煩雑化を招いておりまして,例えば公益認定を取り消された場合,当該一般法人は1か月以内に公益目的残存財産を他の同類の公益法人や地方公共団体に寄附しなければならないなどの縛りが設けられているとか,安易に同様の制度とすべきではないと考えます。
6につきましては乙案に賛成します。元の素性が目的信託であろうと,通常の私益信託であろうと,信託の転換というか,変更というかは別として,変更する時点で新たに公益信託としての認定を受け,公益信託の要件を満たすものを公益信託として認定するということを可とすることに何ら弊害はなく,公益増進に資するものであると考えます。
○吉谷委員 まず,今,平川委員が発言されたところで,公益信託が目的信託の一類型なのかどうかというところに関連してなんですけれども,私どもの方は以前から意見として,公益信託は目的信託の一類型というような形でよろしいのではないかという意見を申し上げていたと思います。ただ,その趣旨というのは,立法技術として公益信託の法律を作るのに,目的信託の規定を読み替えるというやり方を採るということについては,異論がありませんということで申し上げていたわけでありまして,少なくとも公益信託というのが目的信託の一類型でなければならないと,積極的に考えていたわけではないということをまずお伝えしておきたいと思います。
公益信託と目的信託との間には,非常に大きな断絶というのがあるんだと考えているところであります。公益信託は公に拠出されたものであって,それゆえに税制上の取扱いもその他の信託と区別されるとかいうもの,あるいはその認定も必要であってということがあります。つまり,公益信託のブランドであるとか,信頼性であるとかというものを確立するためには,目的信託との間には一線を画すると考えた方がよろしいのではないかとまず思います。
その上で,5番と6番につきましては,5番については甲案に賛成です。委託者の当初の意思であるとか,税制上の措置とかの関係からしますと,目的信託として存続を認めるべきではないと考えます。
6番につきましては甲案に賛成です。これは3や4と同じ理由でありまして,実務上は新たな公益信託として始めればよいというだけでありまして,信託としての同一性を保って転換しなければならないというニーズは,特にないのではないかと思います。制度を余り複雑化するよりは,シンプルな形で対応できるのであれば,その方が分かりやすいと思われます。
そのバリエーションを増やすことによって,利用が促進されるのではないか,今度,こういうふうなことができるようになりましたと,宣伝しやすいのではないかというお話が先ほどありましたけれども,それは公益信託法が変わりましたと,公益信託というのは,こういう使い方ができますということを宣伝することによってなされるのであって,法制がどうなっているかということを見て,一般の方々が,こんな法律がこんなふうに変わったので,こんなことができるようになったのだと思われることはまずないのだろうと思うんです。なので,同じことが実質的にできるのであれば,あえて複雑な制度を設ける必要というのはないと思われます。
○林幹事 まず,5の「公益信託から目的信託への転換」ですが,弁護士会の議論では,甲案で当然終了という意見もそれなりにあったのですが,私はここでは乙案に賛成と申し上げたいと思います。
ここでは公益認定が取り消されたという前提になっていて,取消しに関してはいろいろ論点があり得るのですが,取消事由はもとよりですが,一旦,取り消された後,その後,手続的にどうなるのかは問題です。
特に取消しに対して争っている場合,結局,行政訴訟なのか,分かりませんけれども,取り消されたら,一旦,終了してしまい,争った後,取消しの命令なりが否定され,取消しではない状態になったときには,公益信託に戻るのだと思います。そうすると,その間の存在はどういうものになるのか問題です。あるいは手続上,保全なりの方法で何らか利益を確保される方法が残されるのか,そういう心配がありますし,その間の存在が何なのかということになって,それを公益的な目的信託的に理解するのか。そういうところが気になった問題点です。
それから,もう1点は補足説明にあったかと思いますが,認定が取り消されてしまうと,公益目的の資産ははき出さないといけないから,結局,それが残らないのでという議論があったかと思います。ただ,必ずしもそうでないのではないのかという気はします。取消しを想定したとき,何をもって取り消されるのかがあって,公益性がなくなったから取消しというのだったら理解はできるのですけれども,公益性は残したままだけれども,別の事由で取り消されるという場合があり得て,それは実質的な存在としては公益性を持ったまま,公益認定のない信託になって,それは公益的目的信託になるのでしょうから,その限りでは,私個人の意見としては,資産をはき出すという前提で議論する必要は無く,同一性を持ったまま,公益認定のない公益的な目的信託として残ってもいいのではないのかと思いました。その辺りをどう規律するかということがあって,乙案で信託行為に定めがあればという御提案は,一つ傾聴に値すると考えました。
それで,6については先ほどの3とか4とかと同じような議論で考えます。ですから,バリエーションを認めるという意味においても乙案に賛成ですし,これであっても信託契約なり,信託行為に書いてあることであれば,その点を私的自治的な観点からも重視していいのではないのかと考えました。ですから,6については弁護士会の意見は乙案で一致だったので,その前提の意見になります。
○中田部会長 ありがとうございました。
5について認定の取消しがあって,公益目的取得財産を引き継ぐこともあり得るんだということでございましたけれども,その場合には,しかし,公益信託としての規律は受けない,監督も受けないという理解でよろしいでしょうか。
○林幹事 その場合の規律としては,補足説明にもあったのですけれども,公益目的の目的信託という新たな類型なりを設けて,規律するというものがあっていいと思います。目的信託につきましては,私は,これまで,現行法よりも,もう少し広く活用されるようにするにはどうするのか,そこを考えるべきだと申し上げていたところですので,その前提ですと,公益的な目的信託という新たな類型に対する規律を積極的に考えていただけたらと思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。ほかに。
○新井委員 5類型については認定取消しの場合ですけれども,これについては甲案に賛成したいと思います。
それで,6番目についてですけれども,私が繰り返し,ここで発言してきたように目的信託と公益信託というのは全く別の類型の信託ですので,両者がお互い,相互に入れ替わるようなことは認めるべきではないと思っております。そして,ここで申し上げたいのは,先ほどファンダメンタルチェンジという話がありました。それで,日本の目的信託の場合には委託者の権限が非常に強いわけです。そして,更に信託法施行令3条で受託者の要件が限定されているというようなことも加味すると,同一性を持ってチェンジするということは,まず,難しいのではないかと考えます。したがって,6については甲案,許容しないという説に賛成します。
そして,その上で,今,問題になっていませんけれども,7,8というのがありまして,これは公益信託から目的信託,目的信託から公益信託への変更ということですけれども,これについても認めないということでよろしいのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
大体,御意見を頂戴したということでよろしいでしょうか。
5については,少なくとも認定取消しの場合については,終了するという甲案に賛成される方の方が多くいらっしゃったと思います。ただ,その上で,より広く考えるべきであるという御指摘も頂きました。また,乙案でいいのではないかという複数の御意見も頂きました。
6については,それぞれの御支持があったと思います。この6の問題というのは,多分,より広い問題につながっていくことで,従来から2階建てというような制度にするかどうかというような御議論もありましたし,公益信託の効力が一体,いつ,発生するのかというようなこととも関係すると思いますので,今後,更に検討を進めていきたいと存じます。
ほかに御意見などはございませんでしょうか。ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。
今後のことでございますけれども,前回,事務当局から御案内があり,皆様から御賛同いただきましたとおり,第二読会が終わるこの時点で,民法,信託法及び行政法関係の有識者をこの部会に参考人としてお呼びすることを予定しております。具体的な人選は,前回,私に御一任いただいておりましたけれども,このたび,行政法の研究者であります東京大学の山本隆司教授及び民法,信託法の研究者である同志社大学の佐久間毅教授を参考人として部会にお招きするということで,両教授から御内諾を頂くことができました。そこで,次回,6月6日(火曜日)の部会では山本隆司教授を,次々回,7月4日(火曜日)の部会では佐久間毅教授に参考人として御出席いただき,ヒアリングを実施したいと存じます。
この点も含めて次回の日程等について事務当局から更に説明してもらいます。
○中辻幹事 次回の日程は,6月6日(火曜日),午後1時半から午後5時半までということになります。当日は,今,中田部会長から御紹介ありました山本隆司教授から,新たな公益信託制度を設計する際の行政法上の論点についてお話ししていただいた後,若干の質疑応答を行う予定です。また,行政庁が公益信託の認可を行うのか,認定を行うのか等の論点について事務局で部会資料を用意いたしますので,ヒアリングが終わった後,山本教授御同席の上で,それらの論点について皆様に御審議いただくことも予定しております。
○中田部会長 ほかに何かございますでしょうか。
ないようでしたら,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-
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法制審議会信託法部会 第40回会議 議事録
法制審議会信託法部会 第40回会議 議事録 第1 日 時 平成29年4月11日(火) 自 午後1時30分 至 午後5時33分 第2 場 所 法務省第1会議室 第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討 第4 議 事 (次のとおり) 議 事 ○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第40回会議を開催いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。 4月の人事異動により,本日の部会から,法務省民事局の川畑局付と渡部局付が,関係官として加わられることになりました。両関係官,簡単に自己紹介をお願いいたします。 ○川畑関係官 法務省民事局付として参りました川畑と申します。よろしくお願いいたします。 ○渡部関係官 法務省民事局付として参りました渡部と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○中田部会長 どうぞよろしくお願いいたします。 本日は,小川委員,神田委員,稲垣幹事,岡田幹事が御欠席です。 最初に,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。 ○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。前回,部会資料39「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(2)」を配布しております。また,今回新たに配布する資料として,部会資料40「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(3)」を事前に送付させていただきました。 以上の資料について,もしお手元にない方がおられましたらお申し付けください。よろしいでしょうか。 なお,今回の部会資料40ですけれども,本年1月の第37回会議で御審議いただいた部会資料37で論点として挙げておりました,公益信託の終了等の論点についての補充的な検討という趣旨で作成したものでございます。 第37回会議から余り時間がたっていないこともありまして,網羅的にではなく,現段階で更に検討していただく必要があると事務局の方で判断した論点を中心に記載しております。例えば,公益信託の名称や新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱いの論点は,今回の部会資料40には記載していませんが,事務局としてはこれらも重要な論点であると考えており,特に後者については皆様の意見が大きく分かれていることを前提として,今後の中間試案に向けた作業を進めていく予定であることを御了解いただければと思います。 ○中田部会長 本日は,前回,積み残しになりました部会資料39の「第7 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」及び「第8 公益信託における情報公開」を御審議いただいた後,部会資料40について御審議いただく予定です。途中休憩前までに部会資料40の「第1 公益信託の終了,変更命令」の審議に入りまして,午後3時過ぎに切りのよいところで休憩を挟んで,その後,それ以降の御審議を頂くことを予定しております。 では,本日の審議に入ります。 まず,部会資料39の第7と第8について御審議いただきたいと思います。いずれも事務当局の説明は前回,既にされていますので,最初から意見交換に入りたいと思います。まず,「第7 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」について御審議をお願いします。御自由に御発言ください。 ○吉谷委員 第7につきましては,提案には反対でございます。それは受託者と信託管理人では,異なる規律がよいと考えているからです。受託者と信託管理人では,公益信託において果たす役割や,その重要性というものが大きく異なります。そのため個別に規律の在り方を考えるべきであると考えます。受託者は信託財産の帰属主体であり,信託事務の執行主体であり,認定や監督を受ける主体でもあります。公益信託の要であり,その適格性は,より慎重に判断されるべきです。 一方で,信託管理人は,受託者の信託事務の監督が任務でありまして,助成型のような,現在行われているようなものですと,年に数回チェックを行うということに業務内容がとどまっております。相当にパッシブな性格なものであると思います。 このような両者の差異からすれば,受託者は認定行政庁等による事前のチェックがなければ新たな受託者に信託事務を行わせるべきではないと思いますが,信託管理人につきましては,業務開始後の認定行政庁等による事後チェックでも足りるのではないかと考えております。そのために同じ規律にする必要はないと思います。 具体的な信託管理人の規律につきましては,これは一読のときの繰り返しではありますけれども,信託管理人の辞任には,信託関係人の同意や第三者機関の許可というのは不要であると考えます。辞任の要件としてやむを得ないというものを要求すべきでもないと思います。これはなり手確保の観点からということです。 信託管理人の解任・選任につきましては,信託行為で規定をしましたら,内部完結が可能という方法も十分に検討に値すると考えております。信託管理人のガバナンスにおける重要性に照らせば,辞任等については内部完結とはいえ,認定行政庁等への事前の届出等を義務付けるというような方法も考えられるとは思います。 また,受託者について,職権による解任を認めるべきということを申し上げておりますが,これは信託管理人にも当てはまり,職権による信託管理人の解任というのも認めるべき,あるいはそれができないのであれば,認定行政庁による信託管理人の解任,あるいは辞任の勧告等の処置が設けられるべきであると考えます。 その解任については,受託者単独での解任権というものは認められなくてもやむを得ないと思いますが,辞任と選任については,内部で完結できるべきであると考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ほかにいかがでしょうか。 吉谷委員のただ今の御発言の中で,行政庁という言葉が出てまいりましたけれども,裁判所か行政庁かという選択の場合には,ここでは行政庁という判断でございましょうか。 ○吉谷委員 さようでございます。 ○林幹事 弁護士会の議論では,基本的には,信託管理人の辞任・解任等について,受託者の辞任・解任等と枠組みとしては同様に考えるというので特に異論はなかったのですが,確かに信託管理人と受託者の違いというのが当然あるわけでして,同じ枠組みながら微妙に違うところをどう捉えるかというか,そういう点で考えるべきと思います。 その中では,解任申立権についてという論点の指摘がございましたが,それについても受託者に解任申立権を認めるかどうかという問題点があると理解しています。それについては,賛成意見が多かったと思います。 委託者に認めるのかについては,ほかの論点でも同様のところですが,委託者か受託者か,考えられる登場人物はこれぐらいだと思うので,少なくともどちらかというのは当然かと思います。 ○能見委員 別に違った意見があるということではなくて,先ほど吉谷委員が言われたように,信託管理人については,受託者よりも辞任に関しては軽い要件でもって辞任ができるという考え方に賛成いたしますので,その基本的な考え方に賛成するということだけ申し上げたいと思います。 ○中田部会長 辞任についての御発言と承ってよろしいですね。ありがとうございました。 ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 前回,欠席したのですけれども,当方の考えとしては,この信託管理人の辞任・解任,選任について,特に運営委員会というものを必置の要件とすべきだという見解を私ども採っているのですけれども,正にこのときにこそ,その運営委員会というものが機能を発揮するような場面であると考えておりまして,委託者や受託者を管理する立場にある信託管理人の辞任・解任や選任について,受託者が権限を持つということはおかしいと思いますし,そういう意味で運営委員会を創設して,前回の第5や6に述べました受託者の辞任・解任,新受託者の選任の規律に,この運営委員会というものが反映させられたものと考えれば,それをこの信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律においても適用するべきであると考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 裁判所か行政庁かということについてはいかがでしょうか。 ○平川委員 行政庁に対する届出というような形で考えております。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○深山委員 結論としては,提案のとおりでいいのではないかと考えております。議論がされているように,受託者と信託管理人の役割が違うということは全くそのとおりであり,そういう意味では同じ規律でなければならないということでもないのですけれども,では,どこをどう変えなければいけないかと考えたときに,規律を変えるほどの差を設ける必要があるのかなと思います。 準用規定になるのか,同じようなフレーズで書き起こすのかという技術的な問題はありますけれども,いずれにしても,例えば受託者が任務をきちんと履行しているかどうかということと,信託管理人がその任務を適正に履行しているかということは,もちろん任務が違うので,判断の視点も変わってくるのでしょうけれども,しかし任務を適正に遂行しているかどうかという抽象的な言い方としては,同じような言い方になるのではないかなという気がいたします。 その意味では,条文として準用するか,あるいは同じような表現だとしても,おのずとその判断の中身は変わってくる。そのことを前提に,法律の規律としては,あえて変えるほどの必要はないのではないかという消極的な理由です。同じにすること自体に意味があるわけではないのですけれども,変えるまでの必要性は乏しいという消極的な理由から,提案に賛成したいと思います。 ○能見委員 先ほどの補足をしたいと思いますけれども,信託管理人の辞任に関しては,内部的に簡単にできるようにということで構わないということを申し上げましたけれども,その際に,先ほど運営委員会の意見が出ましたので,運営委員会を設けて,それの承認等を求めるというようなことについては,これは反対したいと思います。 これはそもそも運営委員会というのは,どういう位置付けで設けるかということに関連する基本的な問題ですけれども,運営委員会については,公益信託のガバナンスの一端を担うような役割を持たせるべきではないという考え方を基にして考えますと,これは私の考えですが,そうしますと信託管理人の辞任について,運営委員会の同意が要るというような規定は望ましくないと考えます。 ○新井委員 信託管理人の役割というのは,私益信託と公益信託で随分違うと思うのです。公益信託においては,信託管理人は必置の機関です。受益者(受給権者)の権利擁護という意味で非常に重い役割を持っておりまして,それで私益信託と公益信託で信託管理人の役割は異なりますが,公益信託においては受託者の役割にも匹敵する機能というのが非常に大きいと思うのです。したがって,私としては,あえて信託管理人と受託者の辞任・解任等について,分ける必要はないのではないかと思います。 さらに,私は運営委員会は設置すべきだという論者ですが,この部会では必ずしもそうではなくて,むしろそれは要らない,という意見もかなり強いと理解しています。そうすると,運営委員会を設置しないとすると,より信託管理人の役割が大きくなると思うのです。その意味でも,機能というのは,より受託者に近くなりますので,あえて両者を分けるということの必要はないのではないかと考えます。 ○山田委員 一度にたくさんのことが今,話題になっていると思うのですが,1点に絞ってのみ発言いたします。 新信託管理人の選任であります。同じ信託法部会資料39の21ページの公益信託の新受託者の選任というところが,ここにスライドされてきているのだろうと思います。したがって,新受託者の選任を行政庁が選任するのか裁判所が選任するのかということとともに議論することになると思うのですが,まず,新信託管理人の選任は裁判所が選任するのがよいだろうと思います。具体的に今,行政庁が選任することとすべきだという御意見が複数出ましたので,それと違う考え方を持っているということで申し上げたいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 もし,その理由を補充してくだされば。 ○山田委員 それは受託者のところでも多分申し上げたと思うのですが,認定行政庁の役割というのは,私人が作り上げた信託の仕組みをよしとするか,あるいはそれでは足りないとするかという受け身の立場に徹するべきであり,当事者が,あるいは関係人が,特にここの信託管理人が不在になったときの選任のように,誰かに協力してもらわなければならない,私人の中では新しい体制を作ることができないというときには,裁判所が,信託法が定めている規律と同様に裁判所が選任するという考え方で,私は,ここは臨んでいいのだろうと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 今,山田委員から御指摘いただきましたように,いろいろな問題が入っているわけでございまして,受託者と信託管理人をどの程度近く見るのか,あるいは離して見るのかという点と,それから具体的な規律の在り方についての問題があると思います。 具体的な規律の在り方は,前回,受託者についてかなり御議論いただきましたので,それとの対応も考えながら,信託管理人について,ただ今頂いた御意見を踏まえて一つずつ,また御検討いただくということになると思います。 この第7については,大体よろしいでしょうか。 それでは,続きまして「第8 公益信託における情報公開」について御意見をお願いいたします。 ○川島委員 事務局案に賛成する立場で,2点申し上げます。 まず,1点目は,行政庁の情報公開について,今回,公益信託の認定,変更,取消し等の事項を公示しなければならないとの事務局案が示されました。 これについては異論ございませんが,部会資料36の別表5で,行政庁等における公表義務の欄で丸が付されていた事項については,これらについても公表義務を課すという理解でよいか,念のため確認をさせていただきたいと思います。 次に,受託者,行政庁における公告方法について,受託者における電子公告を認めるということについては,妥当と考えます。その上で,公益信託における情報公開については,その内容だけではなく,方法においても公益財団法人と,できるだけ同等のものとすることがよいと考えます。 そのような観点から,手間やコストがどれぐらい掛かるかにもよりますが,受託者,行政庁における閲覧を義務付けることが望ましいと考えますので,意見として申し上げます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 第1点についていかがでしょうか。 ○中辻幹事 御質問にお答えします。 部会資料36の別表5で行政庁における公表又は公告義務がある書類として丸を付けているもの,例えば当該信託年度の事業計画書,収支予算書,事業状況報告書等の書類については,前回の提案時と同様に,事務局としては公表義務を課すべきであると考えています。 なお,前回,吉谷委員から,丸を付けたものや三角を付けたものについて公表・公告の義務を課すかどうかは個別に必要性を検討していくべきであるとの御指摘も受けておりますので,引き続き皆様の意見をお伺いしながら検討していきたいと思います。 ○中田部会長 川島委員,よろしいでしょうか。 ○川島委員 はい,ありがとうございました。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○樋口委員 この情報公開のところで一つ確認というのか,質問しておきたいところがあるのですけれども,これに,つまり信託行為を含めないという話がありますね,公告の対象としない。そこの文章は,私には理解がうまくできなくて,このまま3のところを読みますけれども,「ただし,これは法人の権利能力の範囲を画する定款」,定款の方は公表するが,「信託行為は受託者の権限を制約するもので,両者は性格を異にすることからすると,信託行為を公告の対象に含めることは妥当でないと考えられる」というのが,どうして妥当でないのかが本当に分からないので,ちょっと教えていただけると有り難いと思います。 ○中辻幹事 前回,事務局からは,実質上の理由として,信託行為にはプライベートなことも含まれているので,定款とは違いますということを申し上げました。その上で,道垣内委員から,理論的にも定款と信託行為とは性格が異なり,定款は書面しかないのに対し,信託行為は書面以外のものも含めて信託行為として解釈されるという御指摘を頂きましたので,そのような趣旨を3では表現したかったということでございます。一般法人でも公益法人でも定款は公開されるのに対し,一般の信託,すなわち受託者の定めのある信託の信託行為は公開されないので,それと異なる取扱いを公益信託ですることには十分な理由付けが必要であるようにも思います。これらの理由から,信託行為のうち公益信託の事業計画のような主要な部分が公開されるのであれば,あえてそれ以外の部分も含めて信託行為の全部を公開すべきとまでは言えないとしております。 ○中田部会長 樋口委員,よろしいでしょうか。 ○樋口委員 続けてよろしいですか,では,今に関連して。 プライベートなことが含まれるのではないかという,これもまた質問の形になるのかもしれませんけれども,3のちょっと上に「公益信託の内容のうち個人情報的なものの開示は慎重にすべきである」と。これと同じことを今おっしゃられたのかもしれない。そうすると,定款の中で個人情報的なことが入るというのは一切ないのでしたか。 それから,最後に信託と,つまり法人の方は何であれ,公益法人であれ一般法人であれ,定款というのは公表することになっているけれども,信託というのは,私益信託は大体公表されていないではないかというのは,そういう区分の仕方は,つまり法人か信託かという形で概念的に分けて,こっちに近いではないかという話は理屈としては分かりますけれども,これは公益信託なので,公益信託の一番基本的な柱ですよね,何しろ信託行為なるものが。それを,公益信託を作ろうという人が公表したくない,公表しなくていいというのが,本当は,私は理解ができないのですけれども,堂々と公表してというのは,更に言えば,ちょっとこれは言いすぎになるかもしれませんけれども,公益信託について,公益法人に比べて,まずガバナンスの問題がどうなのか。信託にはそもそもガバナンスがあるのかという話が伝統的にあるわけですよね。その弱さが信じられていて,そのためにも信託管理人は必置だというわけですけれども,一方では信託管理人のなり手というのを考えて,簡単に辞任もできるようにしようという議論も,実際問題としてあるわけです。つまり,信託管理人にも余り期待はできないということなのですね,はっきり言えば。 そうだとすると,肝はむしろ情報公開になるのではないかと思うのです。私は,たまたまネットに行ってみて,自分には歯が立たないということがよく分かりましたけれども,フォード財団の情報公開というので,ずらっと何とかバランスシートとか,そういう類いの話から今年度の活動とか何十ページにも及ぶ詳しいものというのが出てきて,あれが,私には歯が立たないけれども,あれだけの情報公開制度があるなら,本当に公益法人あるいは公益信託の活動を何らかの形で外部的にモニタリングするような機関というのが,そのうち出てくると思うのです。 出てきてしかるべきなのですけれども,特に税法上の恩恵を受けているという話であれば。それこそ公益活動としてやるような人たちが出てきたときに,やはり大事な情報は,きちんと公開するという方が,むしろ今後のガバナンスの在り方としては重要なのではないかと思っていて,その公益信託の最初の基本的文書である信託行為について,何か妥当でないから公開してなくてよいというのが,どうもうまく釈然としないのは,もしかしたら私だけなのかもしれないのですけれども,どうして困るのか,それは何か具体的な例で,こんなのはやはり公表すべきではないのですよねと言ってくださると,私も得心がいくかもしれないと思っております。 ○中田部会長 これは事務局の判断というよりも,前の第37回でしたかの審議の際に,信託行為については公開すべきでないという御意見があり,あるいは個人情報について配慮すべきであるという御意見があり,複数の委員,幹事の御意見があったのを,ここに反映しているというつもりだろうと思います。 その上で,樋口委員は,いや,信託行為も公開すべきであるという立場から今,るる御説明いただいたかと存じます。 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 話を二つに分けて考える必要があるのだと思うのですね。妥当でないか,妥当であるかという問題と,理屈上,可能なのか,可能ではないのかという問題とです。 私が発言させていただいたのは,専ら後者のつもりで発言させていただきました。つまり,定款については,登記対象であるということからしますと,それが文書として作成されていることが前提であり,そして,その範囲内,そこに書かれている文言の範囲内で,会社が権利を有し義務を負うという形になるわけです。会社を作るという際に,発起人たちが集まって,定款にはこう書いてあるけれどもこうしようということを合意していても,それは登記されていない内容ということになりますから,効力を有しないことになります。 それに対して,信託行為というのは法律行為という言葉に対応する概念であって,信託が信託契約によって設定されるということになりますと,その契約解釈の問題です。そうなると,信託行為を開示するというのは,契約文書の開示にとどまらない可能性があるわけです。解釈も含めた形での信託行為というのを公開の対象とするというのは,少なくとも定款とパラレルに考え得る問題ではないのだろうと思います。例えば,文書をして作成されたもの以外に,いろいろな合意があるときに,では,文書だけ公開すればいいのか,文書外の合意を公開しなければいけないのかという問題が生じてくるはずであって,そうなると,定款とパラレルだから信託行為も開示対象としましょうというのは,理屈上は難しいのではないかということを申し上げた次第です。 それは非常に限界的な問題であって,普通ならば公益信託が文書ベースで設定され,その文書が信託行為そのものであり,その文書に従って様々なことが決められるというのは,それはそのとおりだと思います。 しかし,理論上は必ずしもそうはならないのではないか。そうすると同じに規定するというのは,理屈上は不可能ではないかということを申し上げた次第です。 ○樋口委員 今の道垣内委員の意見には異論があります。一つは,定款だって解釈の余地は幾らでもあるのではないだろうか。だって,結局のところは文書ですから,そういう話はないかなというのと,認定するかどうかの段階で,信託行為を含めて検討対象にした上で,認定しているのですよね,何らかの形で。そうではないですか。 ○山田委員 そうだと思います。 ○樋口委員 すみません,ありがとう。 ○山田委員 小幡委員に伺えば,認定されていますので,実際のところをお話しいただけるのかもしれません。 ○樋口委員 基本的なところでね。そうすると,認定の際には,きちんと何とかやっているのに,情報公開はしないというのも何だかという。こっちは妥当でないうんぬん,それから,つまり可能だということです,簡単に言えば,今の道垣内委員の議論のレベルのところと同じところで言えば,それが契約であろうが何であろうが,きちんと認定してやっているわけですから,その段階で可能だというのだったら,情報公開だって可能だろうと思いますけれども,可能である上に,それは道垣内委員は別の問題だということで,それについては御意見を言わなかったけれども,やはり公開原則の方が妥当なのではないかと私は考えるということです。同じことを繰り返して恐縮でした。 ○能見委員 定款と信託行為はもちろん,道垣内委員が言われるように,恐らく違う要素が加わってくると思いますけれども,ここで考えるべきは,公益信託の場合に,できるだけ公開できるものは公開するというような方針を採るかどうかという観点から考えればいいのではないかと思います。 そうしますと,確かに信託行為として文書になっているものについて言えば,それについての解釈が加わったりするので,文書としての信託行為だけでは全てが決まるわけではないわけですが,文書として存在する信託行為は原則公開する,特に公開を妨げるべき要素がないのであれば,すなわち個人情報などの問題がなければ,それは公開すればいいではないかと私としてはむしろ単純に考えたい。繰り返しになりますが,基本的な考え方は,公開できるものは公開するということでいいのではないかということであります。 それからもう一つ,これはもう少しいろいろ複雑な問題が絡むことで,簡単に言えないのですが,信託行為を公開することで,受託者の権限の範囲がある程度明確になります。それゆえ,権限違反の処分があったとき,受託者による信託財産の権限外処分があったときに取消権の問題が出てくるわけですが,現在の27条の取消権というのは,相手方が権限外処分であることについて悪意,重過失がないと取り消せないということになって,非常に取消しが難しくなっているわけですが,信託行為が公開されていますと,相手方の悪意,重過失が言いやすくなります。もちろん,信託行為における書き方にもよりますが,受託者の権限が信託行為で明確に書いてあれば,その開示されている信託行為を見れば,相手方にすぐ分かるような状態になっているのであれば,権限違反処分についての相手方の重過失は認定しやすくなりますので,権限違反の信託財産処分行為の取消しが容易になり,それは結局,公益信託の財産を確保,保護することにつながります。本当は,私益信託にも同じ問題があるわけですが,少なくても公益信託においては,信託行為を開示することで,このようなメリットもあるということです。この2番目は理由はちょっと付け足しの理由かもしれませんが,私としては公開できるのであれば,公開していいのではないかと思います。 ○吉谷委員 議論が,信託行為という書面,信託契約書あるいは遺言というものを公開するべきなのかどうかということだと今,理解しましたのですけれども,第36回の資料の別表5には,信託行為の内容を示す書類というのが公開対象となっておりますので,信託契約書であるとか遺言であるとか,そのもののコピーをPDFとかで張り付けるということは,あえてしなくてもいいのではないかと思います。 それは不動産登記でも,昔は,信託原簿で契約書のコピーなどを登記簿の謄本にも,一緒に出していたと思うのですけれども,今は信託目録となって,信託行為の内容を示す書面で十分だとなっていますので,あの趣旨からすると今の提案の内容で十分なのだろうと思いますし,遺言とか契約とかで公開されるとなってしまうと,取りあえず何か余り書くのはやめておこうみたいな発想に,逆に書面の作り方としてなってしまいますので,余りそういうことはよろしくなくて,むしろ信託行為の内容を示す書類の中に,今お話しになられたような趣旨の内容が十分に盛り込まれていればよろしいのではないかと理解しております。 ○道垣内委員 吉谷委員がきれいにまとめてくださったので,特に言うべき事柄はないのですけれども,定款だって解釈の余地があるではないかということでして,それはそのとおりなのですが,文書の文言解釈なのですね。 それは信託行為の解釈と本質的に違うものです。そして,能見委員がおっしゃったのは,正に吉谷委員がおっしゃったように,文書化されているものがあれば文書化されているものを出せ,あるいは,合意文書そのものではなくても,別の整理の仕方をした書面を出せという話と,信託行為を出せという話は,全然論理的には違う話です。吉谷委員が前々回か何かの議論の話としておっしゃったところの信託行為の内容を示す書類を出せということであれば,私は反対するつもりはありません。ただ,信託行為を公開しなさいという文言は,私は論理的には認め難いと申し上げているだけです。 ○新井委員 基本的には私は,この提案に賛成です。その上で申し上げたいのは,今の我々の議論は,信託財産をこれまでの金銭から不動産にも拡大しようとなっております。 そうすると不動産ですと,信託目録というのを必ず添付しないといけません。信託目録の記載事項というのは,必ずしも一定のものがあるわけではないのです。契約内容を抜粋した省略版を載せたり,非常に詳細なものを載せたりするということがあるわけです。ですから注意点としては,この公示というときに信託目録に記載する機微情報をどのように調整していくかというのが本当の論点のように思われます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○小幡委員 私も情報公開は,基本的にはできるものはした方がよいと思います。今のは技術的な問題で,信託行為と言わないで,その内容を示す書類ということでよろしいと思います。 個人情報的なものの開示を慎重にすべきとありますが,個人情報というのは,何を指しているか。例えば,確かに遺言そのものを貼り付けろというのは,適当でないので,このように御本人たちにとって開示したくないと思うものは当然あると思うので,そういうものは外すべきだと思うのですが,一般には,個人の名前が出るというのは幾らでもあり得るわけですから,それを個人情報で駄目という趣旨ではないですねという確認と,もう一点,行政庁による情報公開も信頼を高める上で有用とありますが,それは行政庁が認定するから当然のこととして,それについては公表するというのにすぎないのであって,基本的にはやはり自ら情報を公開していただくという形がほとんどではないかと私は思います。 今の個人情報に関しての意見です。 ○中田部会長 前半に出てきました御質問の点については,いかがでしょうか。 ○中辻幹事 現在の公益信託の受託者がほとんど信託銀行であることを前提とすれば,どの信託銀行が受託者でありその本店所在地がどこかは既に公開されているものですし,個人情報で駄目ということはないと思います。その上で,誰が委託者で誰が受託者であるかは公益信託の基本的な情報として原則的には公開されるべき情報なのだろうと思います。もっとも,御指摘の遺言の場合もそうですけれども,無記名の寄附のように個人の委託者が自らの氏名や住所を公開したくない場合はあるかもしれませんし,それは新たな公益信託を仮に個人の受託者が引き受けることになった場合にもあり得る話で,そのような部分で個人情報というのを考えて行かなければならないように思います。 ○林幹事 弁護士会の議論では,部会資料の第8の御提案には基本的には賛成でした。個々の規定というか,情報開示の個々の内容によるという面もあるのでしょうけれども,基本的には賛成であったと思います。 先ほどの信託行為等の件については,これは個人的な考えですが,信託行為そのものは基本的に公開すべきではないというところは理解できるのですが,一方で,個々の公益信託の基本的な構造というか,その内容は情報公開の方法によって公開されてしかるべきだと思います。部会資料36の表の理解を十分できていないのかもしれないのですが,何か基本的な構造を示す書類が,開示の対象になっていれば,それで十分ではないのかと思います。それは,ほかの方の御意見と同じと思います。 ○吉谷委員 第8の提案につきましては,賛成と申し上げておきます。 ちょっと感想めいたことだけ付け加えさせていただきますと,現行の公益信託というのは,大体余り寄附を受けないようなものが多くございます。ここで言う行政庁による開示,公示のところの趣旨なのですけれども,情報公開ということであると認識しておりまして,というか,よくホームページとかで紹介をしたりとか,そういったような活動というような趣旨ではないと理解をしているというところでございます。 実際に,公益信託を紹介したり,寄附を寄り募ったりとかいうことの目的ではないと。そういうものについては,自主的にやりたい公益信託の受託者がやればよいのだろうと考えているところです。 ○中田部会長 いろいろ御意見を頂戴いたしました。この(注)の信託行為という言葉がちょっと多義的なものであったのかもしれません。法律行為というレベルのものなのか,それとも契約書や遺言そのものを指すのか,そうではなくて,信託行為の内容を示すものを指すのか,それによって捉え方が違ってくるのかもしれません。 恐らく契約書や遺言書のコピーをPDFで公開しろということまでにはならないのではないかと伺っておりました。そうしますと,先ほど吉谷委員が一つ目の発言の際におっしゃってくださいました,信託行為の内容を示す書面について公開するという方向で,様々な御意見を頂きましたけれども,その辺りに収束するかなと伺っておりましたが,いかがでしょうか。そういう理解でよろしいでしょうか。 では,そういったことを含めまして,頂いた御意見を基に,この第8について,更に検討していくということにしたいと思います。 よろしいでしょうか。 ありがとうございました。 それでは,部会資料40に入ります。 まず,「第1 公益信託の終了,変更命令」のうち,1から3までについて御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○舘野関係官 それでは,部会資料40について御説明いたします。 まず,「第1 公益信託の終了,変更命令」につきまして,「1 委託者,受託者又は信託管理人の合意等による終了の可否」について御説明いたします。 本文では,甲案として,公益信託の委託者,受託者又は信託管理人その他の第三者による合意又は単独の意思表示によって公益信託を終了することはできないものとする。乙案として,原則として,信託関係人の合意等による終了を禁止するが,例外として,公益信託の委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合に,公益信託を終了することについてやむを得ない事由があるときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等(以下「行政庁」という。)の許可を受けて,公益信託を終了することができるものとする,との提案をしています。 本文の甲案は,部会資料37の第1の4と同一の提案であり,その内容及び理由に変更はありません。甲案では,公益信託には,信託法第164条を適用しないこととした上で,仮に信託行為において公益信託の信託管理人の合意等によって公益信託の終了を可能とする旨を定めた場合であっても,同法第163条第9号の例外として,当該信託行為の定めが無効になることを想定しており,その旨を補足説明に記載しています。 次に,本文の乙案は,今回新たに提案するものです。一旦設定された公益信託は,公益すなわち不特定多数人の利益に寄与するものであり,その継続性,安定性及び確実性が重要であることから,原則として,信託関係人の合意等による公益信託の終了を認めるべきではないと考えられます。 しかし,例えば,文化財的価値のある古民家の保存・公開を目的とする公益信託等において,その事業がうまくいかず,支出が収入を大幅に上回る状況が続いているような場合には,社会的意義の乏しくなった公益信託を継続させて信託関係人に無用な負担を強いるよりは,公益信託の終了を認めた上で,信託財産を他の公益活動に用いられるようにする方が合理的かつ効率的であると言えます。 また,そのような場合に,信託法第165条を活用しようとしても,同条の要件を満たさないために,それが妨げられることが想定されることから,乙案は,信託関係人の合意等による終了を原則として禁止するものの,例外として,公益信託の信託関係人の合意がある場合に,公益信託を終了することにつきやむを得ない事由があるときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁の許可を受けて,公益信託の終了を認めるべきである,としています。 次に,「2 公益信託の終了命令」について御説明いたします。 本文では(1)公益信託における信託法第165条第1項の権限は,甲案として,行政庁が有するものとする。乙案として,裁判所が有するものとする。 (2),(1)の終了命令の申立権者は,委託者,受託者又は信託管理人とする。ただし,委託者については,信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとすることでどうか,との提案をしています。 本文(1)の甲案及び乙案の各提案は,部会資料37の第1の6(1)の甲案及び乙案と同様の提案であり,その内容及び理由に変更はありません。 公益信託の終了が客観的には相当であるが,認定基準違反に該当しない場合などに公益信託の認定取消しとは別途信託法第165条第1項による信託の終了命令を認める意義があると考えられることから,その旨を補足説明に記載しております。 本文(1)の甲案は,信託法第165条第1項の信託終了命令の要件の判断主体については,当該公益信託の情報を有し,受託者に対して立入検査の権限等を行使できる立場にある行政庁の方が裁判所よりも判断主体として適切であるとする考え方です。 これに対し,本文(1)の乙案は,公益信託の認定取消しと信託法第165条第1項による信託終了命令を併存させる場合には,前者は公益認定に関するものとして行政庁が行うのが相当であり,後者は私法上の効力に関するものとして裁判所が行うのが相当であるとの考え方です。 次に,本文(2)の公益信託の終了命令の申立権者については,部会資料37の第1の6(2)では,委託者の申立権については,信託行為による増減が可能であることを前提としつつ,委託者を含む甲案と委託者を含まない乙案の両案を提示していました。 しかし,委託者の申立権について,信託行為による増減を可能とするならば,信託法上の規律と実質的な相違はないことから,今回の本文(2)の提案では,終了命令の申立権者を委託者,受託者又は信託管理人とするが,委託者については信託行為で終了命令の申立権を有しない旨を定めることができるとの提案に変更しています。この提案は,受託者及び信託管理人については,信託行為において終了命令の申立権を有しない旨を定めることができないことを一応の前提としています。 次に,「3 残余財産の帰属」について御説明いたします。 本文では,(1)公益信託は,その信託行為において,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利者」という。)の指定に関する定めを設けなければならないものとすることでどうか。 (2),(1)の定めの内容は甲案として,信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは公益法人等又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする。乙案として,信託終了時の残余財産のうち,公益信託の認定時における信託財産については,私人を帰属権利者として定めることを許容するが,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については,当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは公益法人等又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする,との提案をしています。 また,(3)信託行為における帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄した場合の残余財産は,甲案として,清算受託者に帰属するものとする。乙案として,国庫に帰属するものとする,との提案をしています。 本文(1)の提案については,部会資料37の第2の1(1)柱書きの提案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。 今回の部会資料では,部会資料37の第2の1(1)柱書き以外の提案から,特に支持がなかった甲1案を削除し,甲2案を本文(2)の甲案として提案しています。 本文(2)の乙案は,部会資料37の第2の1(1)の乙案と同様の提案であり,少し表現を改めておりますが,その内容及び理由に実質的な変更はありません。 なお,残余財産の帰属先に「類似の目的」の要件を外すことについては,信託財産の帰属先が寄附者等の意思に反する可能性があることから慎重であるべきと考えられます。 また,(2)の乙案を採用する場合には,信託財産の価額の変動等に対応する規律を設ける必要が生じ得るために制度設計が複雑になり,公益信託の軽量・軽装備のメリットを損なう懸念があると考えられます。 以上でございます。 ○中田部会長 ただ今説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。終了に関する三つのポイントですけれども,まず,終了の方法に関する1と2について御意見をお願いいたします。 ○深山委員 まず,1の信託関係人の合意による終了についてですが,一切,合意による終了を認めないという甲案は,やはり不都合が生じるのではないかという意味で反対をいたします。 乙案も,原則は認めないというスタンスですけれども,例外的にやむを得ない事由があるときに認める余地を残すという点で,これを支持したいと思うのですが,更に,乙案には行政庁の許可を受けてという手続的な要件が加わっております。これは不要ではないか,あるいは必ずしも合理的とも言えないのではないかと考えます。 実質的な要件として,やむを得ない事由というのが要件として定められることによって,やむを得ない事由がないにもかかわらず,やめてしまうということが,仮にそういうことがあったとすれば,何かの形で訴訟等の中で,実体的な規律としては,終了の当否を判断する余地は出てくると思いますが,手続的に行政庁の許可というものを要件としてしまうことについては不相当であるという意味で,この点は反対したいと思います。 それから,次の2番目の終了命令については,これは,(1)については乙案の裁判所が有するということが相当であると思います。やはりこれもいろいろな場面が想定されますけれども,少なからず司法的な判断を要する場面というのも想定し得るところですので,裁判所が判断機関としては行政庁よりもふさわしいと考えるところであります。 (2)については,賛成いたします。 ○道垣内委員 深山委員に確認をしたいのですが,第1の1の乙案を採ったときの行政庁の許可の話なのですが,訴訟で争うというときの訴訟の構造は,どういうことをお考えなのでしょうか。誰が原告になって,どういうふうにするのか。 ○深山委員 恐らく終了してしまうことについての利害を持つのは,その受給者であったり,あるいは将来の受給を期待している人,潜在的な受給者のような人が,それは困ると,あるいは不適当であるというようなことをするのかなと思いますが,それも考えづらいなとは思っておりました。つまり,この人というふうに,がちっとした原告適格的なものが想定しにくいという問題意識は私も持っておるのですが,しかし,それは不可能ではないだろうということと,そうだからといって,この行政庁の許可がいいのかというのは,また別の問題ではないかなという気もいたします。 ○道垣内委員 不可能ではないだろうとおっしゃっているのですが,私は不可能ではないかと思います。将来のポテンシャルな受給者という人が終了を争えるかというと,それはちょっと無理なのではないかと思います。 ○山本委員 質問というか確認をさせていただきたいのですけれども,まず2の方では,信託法165条第1項が前提とされていて,公益信託の場合であれば,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当となるに至ったことが明らかであるときというのが,要件になっています。これと1のやむを得ない事由があるときとの関係が,どのような関係にあるのかというのをお教えいただけるでしょうか。 ○中辻幹事 事務局としては,第1の1のやむを得ない事由という要件と信託法165条の要件は,異なる意味で使っています。第1の2の公益信託の終了命令については信託法165条の要件がデフォルトとして存在するので,その文言を尊重してそのまま使っているのですが,第1の1の信託関係人の合意による公益信託の終了については特にデフォルトがないこともあり,やむを得ない事由という文言を使っているものです。 ○山本委員 165条の1項の文言を見ますと,特に後段の方で,信託を終了することが相当となるに至ったことが明らかであるときとされていますが,これはやむを得ない事由に対応するのではないか,少なくともそのように理解しやすいように思います。 ただ,165条第1項では,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情によりという限定があって,これは,やむを得ない事由の場合には,必ずしも常に要求されるものではないのではないか,そこに違いがあるのかもしれないという気もします。 もしそうだとすると,1の方で,合意があれば,やむを得ない事由があるときに,更に手続を経て終了するというのは,2よりは少し緩和されていると理解するのではないかとも思いましたが,必ずしもそうではないというお答えだったのでしょうか。 ○中辻幹事 山本委員御指摘のとおり,165条1項による終了には,信託設定時に予見できなかった特別の事情という,かなり厳しい要件が定められておりますので,それより広い意味で,第1の1のやむを得ない事由という文言を理解するという考え方は十分あり得ると思います。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ○渕幹事 山本委員の御質問に関連するのですが,やむを得ない事由に関する第1の1の4番のところでの事務局の御説明について,少し伺います。 古民家の保存という例が挙がっており,赤字になってしまうということから,社会的意義の乏しくなった公益信託事務をやめてもいいのではないかというようなことが書かれていますが,この例と,その後の一般論がどういう関係にあるのでしょうか。若干そごがあるような気がいたしました。 すなわち,古民家の保存とか公開といった目的に,もはや社会的な意義が乏しくなってしまったというようなことを,この例で示されたいのか,それとも,古民家の保存・公開ということには意味があるのだけれども,それを公益信託という手段で行うことが不適当になったというような例としてこれを示されたいのか,あるいは両方なのでしょうか。その辺りについて御説明を頂ければと思います。 ○中辻幹事 古民家の保存・公開の例について言えば,その社会的意義が全くなくなってしまうということはなくて,赤字であっても続けることに公益的な意義が認められるけれども,そのような公益信託の受託者に最後までずっと古民家の保存・公開を継続させるのは酷であるような場合を想定しておりました。もっとも,古民家の保存・公開に社会的な意義がなくなった,あるいは非常に乏しくなったことをもってやむを得ない事由があると言える場合もあるように思います。その上で,渕幹事の御質問に直接お答えするならば,両方の例を示すものであるということになると思います。 ○渕幹事 そうすると,場合によっては,かなりこれは広くなり得るということでしょうか。というのは,公益信託というのは,ある一時点で設定されるのですが,その後,社会的な状況が急速に変化するようなことも大いに想定されるわけです。そうするとかなり多くの場合に,元々考えられていた目的と大分違うことを継続しなくてはいけないということは十分想定されると思うのです。165条よりは大分広いということになると,現実には,ここでのやむを得ない事由というのは,かなり広いものになると考えてよろしいでしょうか。 ○中辻幹事 そうですね。山本委員の御指摘にもありましたけれども,165条1項は事情変更の法理に基づくもので厳しい要件が課されていますので,第1の1の信託関係人の合意にプラスして行政庁の認定を条件に公益信託を終了させるという場面では,公益信託を継続させることの社会的意義や,信託関係人,特に受託者の負担について,165条1項の要件よりは柔軟に考える余地があるように思います。 ただし,以前の部会で樋口委員から御指摘がありましたけれども,受託者がいったん公益信託を引き受けたのであれば,それは責任を持って最後までやりなさいという考え方もありますので,やむを得ない事由を広く柔軟に認めていくのですねと絶対に言い切れるかといえば,そうではなくて,社会的,公益的意義があるのだったらできるだけ公益信託を続けていくべきであるという考え方もあるように思います。 ○渕幹事 分かりました。私が広いとか狭いとか言ったのは,曖昧で不適当だったと思います。乙案の内容についてよく分かりました。どうもありがとうございました。 ○吉谷委員 私どもも,公益信託の終了命令につきまして,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情というところにつきまして,ちょっとここは厳しいかもしれないなと思うところはございます。ですが,そこに行く前に1,2の全体についての意見を述べさせていただきたいと思います。 まず,1ですけれども,これはどちらかといえば乙案に賛成です。ただし,デフォルトでは委託者を合意権者にする必要はないと考えています。 2の公益信託の終了命令の(1)につきましては,どちらかといえば甲案の行政庁に賛成です。(2)につきましては,委託者をデフォルトで申立権者とする必要はないと考えております。 まず,「どちらかといえば」と留保を付けさせていただきました理由なのですけれども,この後でも出てきます認定取消しが信託終了事由になるかどうかという論点につきまして,私どもは認定取消しによって信託が終了すべきであるという立場を採っております。かつ,信託関係者が単独で認定取消しの申請をするということもあり得べき,認めるべきであるという立場です。 この立場が採用された場合には,1の乙案でありますとか2の終了命令の規律との関係を整理するべきであるとまず考えます。信託終了についての我々の全体的な立場をお話ししますと,当然,終了となるというような場合以外に合意とかで任意に終了できるというのは余り望ましくなくて,行政庁等の何らかの関与があるべきと考えております。 認定取消しによる終了なのか,許可を受けて合意終了なのか,終了命令なのかという,そういう形式はともかくとしまして,信託関係者の全部又は一部が申出を行って,それで何らかのやむを得ない事由があるという場合には,行政庁等の決裁を経て信託が終了するということが可能な仕組みであるというべきだと考えます。そうでないと,合意終了であるとか,終了事由を信託行為に任意に定めることが認定段階で認められないということですので,何らかのそれに代わる仕組みが必要であると思っております。 そのために,もし公益認定の取消しというのが終了事由にならないという場合でしたら,信託関係人の合意とやむを得ない事由がある場合に終了できないというのは,非常に実務上も困りますので,1は乙案でなければならないと思いますし,2の信託関係人が単独で申し立てる場合にも,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情というのがなくてもやむを得ない何かがありましたら申し立てて終了は可能というふうにしていただきたいと考えております。 一方で,公益認定取消しが終了事由となるということを前提にした場合で考えますと,ちょっと気になりましたのは,6ページの補足説明の3のところの後ろの方に「そうすると」というところがありまして,そこで公益信託を終了することが客観的に相当である場合であっても認定基準違反に該当しないというような場合があると。そのような場合があるのかどうかということが疑問ではあるのですけれども,もしそのような場合があるということであれば,やはり終了命令の要件はやむを得ない事由で十分なのではないかと考えます。 そういう場合がないということであれば,許可による終了とか,終了命令の制度が別になくても成立するのではないかと考えているところです。 裁判所か行政庁かというところにつきましては,終了命令制度を残すのであれば,その認定基準違反に該当するのかどうかというところの論点との関係からは,裁判所の判断で終了できていいということについては疑問があります。 あと,委託者について,デフォルトで申立権者とする必要はないと言いました理由ですけれども,これは委託者を監督機関とするという位置付けには違和感があるというところです。委託者がいるからということで,委託者と信託管理人の合意でとかいう形で物事が進むことを期待するのは余りよろしくなくて,委託者が機能しなくても成り立つような仕組みというものを考えるべきであると考えております。 あと,ついでにちょっと委託者関連で申し上げますと,前回,委託者の地位は相続されないという前提で議論が進んでいたと思うのですけれども,それで,その立場には賛成なのですけれども,それであればその旨を法令で規定していただく必要はあるのだろうと思いますので,付け加えさせていただきます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ただいまの御発言の中で,終了命令と,それから認定基準違反による取消しとの関係について,それぞれの場合について御検討いただいたわけですが,どちらかを選ぶとすると,その二つを並行させるのではなくて,一方だけの方がむしろよいとお考えでございましょうか。 ○吉谷委員 いや,そこが本当によく分からないところで,終了事由があるのに認定取消ししないというような場合が,私には考え付かないのですけれども,それは多分,認定取消事由を広く考えているからだと思いますので,そこが広いのであれば,終了事由のところは余り要らないのではないかと思うのですけれども,そこがちょっと曖昧なのだとしたら,両立していてもいいのではないかなと。どちらを採用するかは,むしろ行政庁の方の裁量があってもいいかもしれないと思います。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。 ○小野委員 第1の1についてのコメントですが,一つ一つ論点を取り上げて,何か悪い事例を想定して,それを前提に議論したりするよりも,もうちょっと分かりやすく全体を通した論理的な説明の方がよろしいのではないかと思います。バックアップチームでもそのような議論をしました。それは何かというと,やはり契約に基づく公益信託ですから,私的自治というのは最大限尊重すべきではないかという点です。 それによって状況によっては弊害うんぬんというのは別の議論であって,まず私的自治,そうでないと個々の論点が,それぞれ想定する事例によって全然違ってくることになりますし,それを反論しても,また違う事例を想定した反論をするわけですから,かみ合わないことになるかと思います。 そういう観点と,あともう一つは,行政庁か裁判所かと,何かメニューとしてAかB,どちらかですかという議論で,Aの方がよく知っているからとの議論がありますが,裁判所というのは,正直,手続法的にも,非訟事件手続法というのがあって,それによってしっかりと申立てをすれば判断しなければいけないと。恐らくここでいう行政庁の許可というのも,あたかも裁判所的な機能をもつ裁判所代替機関としての行政庁の許可という意味で全体的に使われているのではないかという雰囲気の中で議論がなされている感じがありますけれども,これは行政上の許可ということになれば,非訟事件手続法上の許可とは違いますから,全然意味合いが違ってくると思います。その辺を前提としないと,行政庁はよく知っているからというような議論になって,よく分からなくなっていくと思います。 ですから,もし行政庁の許可ということを残すのであれば,裁判所と同じような機能を果たす行政庁の許可ということで,その手続とか,また忌避手続とか,どうやって証拠を提出するのか,認定するのかとか,そういう手続があることを前提とする必要があると思います。行政庁はよく知っているのは確かで,認可しているわけですけれども,それだけの議論ではないという前提が必要と思います。そうでないと本当によく知っているところがという議論で,あとは,手続は全く同じように流れていくと捉えられていると思います。 という前提で,第1の1のコメントをさせていただきますと,やはり163条9号がまず認められるという前提がないと何が何だか分からなくなってしまうと思います。一方,甲案,乙案,補足説明を見ると,信託行為で,合意で終了するということも認めないかもしれないし,また,そういう意見もあり得ると述べられています。 そういう意見があり得るというのは分かりますし,また,信託行為に9号の合意による終了が入っていなくて,当事者がいろいろ検討した結果,やはりこれは終了した方がいいと。終了した後の効果は,別のところの議論ですけれども,私人がそれを自由勝手にできるわけではなくて,どの見解を採っても,公益的な形で使われることは確かでしょうからということで合意することは認められるべきであると思います。 乙案を採る場合,先ほど申し上げたように,やむを得ない事由の行政庁の許可って一体何ですかという問題が残る。やむを得ない事情というのは,法律用語としても適切ではない。旧信託法で,信託銀行の方は,第三者委託はやむを得ない事由がないとできないというところで随分苦労して,膨大な量の論文が出ていますけれども,それの亡霊とは言いませんけれども,同じような議論をするのではなくて,実際にどういう事例がやむを得ない事由なのかということを,ガイドラインで述べ,先例を積み重ねていかないと,もし行政庁に任せるとしたら,行政判断というもので前に進まなくなるおそれがあると思うのです。 いずれにしても,甲案,乙案ではなくて本来丙案ということで,当事者が任意で合意して終了したいのであれば,そういう私的自治というものは認めるべきではないかと。 その効果としてどうのというのは,また別ですが,やりたくない人を永久に拘束しなければいけないような仕組み,行政庁に行ったところ,できないことはないではないかと言われるような話というのは,どう考えても今の時代にふさわしくないと思うのです。 それが不適切うんぬんということであれば,権利濫用とか,いろいろな法理がございますから,違う形で何か対応すればいいわけでして,それを乙案ということで対応するというのはふさわしくなく,繰り返しになりますけれども,私的自治というものを前提とされるべきではないかと思います。 ですから,乙案であるとしたら,裁判所の許可ということで,非訟事件手続法の中でやむを得ない事由をきちんと述べて,裁判所に判断してもらうということだと思います。 ○林幹事 この乙案なのですが,どちらかというと乙案の方で考えたいところで,本論点の先般の部会資料37における議論で,合意による場合もないと不都合が生じ得るからということと,ただ合意だけでは不十分というので何らかの機関の関与が必要であるという議論があって,乙案が出てきたということは理解はしています。ただ,弁護士会の中では,そういうところはおおむね理解しながらも,例えばやむを得ない事由もあって,それで関係人が合意して,行政庁に許可をもらいに行くのだけれども,裁量で許可してくれないということで止まってしまうようなことがあるのかどうか。それだったらやはりおかしい。というのも,やむを得ない事由が要件としてあり,要件があるのにやめられないのではおかしいという議論がありました。ですので,そのときに行政庁が許可してくれないときどうできるのかが問題であり,それは行政処分だから,行政処分の不服申立手続で争えると考えるのか。それができるような制度として組むことができるのか問題になります。 ただ,行政で,許可で,裁量でというふうになると,そもそも争うのが難しくなるというのかが議論になり,そうすると小野委員の言われたことにつながるのですけれども,行政がよく知っているからといって行政に判断してもらうのがよいのか,実体的な判断だったら裁判所の方がいいのではないのかという議論にもなりました。それはほかの論点でも同じような理解だったのですが,行政庁とする場合は,しかるべく許可してくれないときは争えないと駄目であり,そういう制度が担保されるべきであると思います。 ○平川委員 この1の1につきましては,やはり私的自治を重んじるという観点から,行政庁が許可を与えるとか,その終了について介入をしてくるということを最小限に抑える必要があると思います。 また,委託者についても,この終了の合意を認めるべきではないと思いますので,まず原則としては,公益信託の委託者,受託者又は信託管理人その他の第三者による関係人の合意によって公益信託を終了することはできないということを原則としつつも,信託行為においてその別段の定め,やむを得ない事由について終了する合意をするということは認めるとしつつ,やはり先ほどから申しております運営委員会の合意というものをそこに,先ほどガバナンスに関与させるのはどうかというお話がありましたけれども,委託者を抜きにしてしまいますと,受託者,信託管理人だけになってしまいますので,やはり三鼎する状態というものは必要なのではないかと思います。 したがって信託関係人の選・解任を認めたり,あるいは信託の終了という重要な側面においては運営委員会というもののガバナンスに対する機能を認め,それによって私的自治を確保するということを丙案として提案します。 2の(1),(2)につきましては,(1)については,甲案に賛成いたします。(2)については,やはり丙案を提案し,委託者というものは,そもそも申立権者に入れるべきではなく,受託者,信託管理人又は運営委員会をこの信託終了命令の申立権者に入れるべきと考えます。 (1)についての理由としましては,行政庁が権限を持つというのは妥当であると考えるということと,公益法人制度においては認定取消しの権限は行政庁にありまして,取消事由として,当初の認定条件違反のほか,その後の認定条件の違反,法令や行政機関の処分に対する違反等も含まれております。そのこととの整合性という点で,行政庁に権限を認めるのがよいと考えます。 (2)については,委託者は公益信託への財産を出してしまった以降においては,公益信託に対して関与する権限をやはり極力少なくすべきであるという観点から,申立権者から外すべきであると考えます。 そして,運営委員会につきましては,重要な意思決定機関と位置付けることから,申立権者に加えるべきだと考えます。 ○棚橋幹事 まず,質問が2点あります。先ほど吉谷委員のお話の中にもありましたが,部会資料の6ページの3に,「公益信託を終了することが客観的に相当であるが認定基準違反に該当しない場合などに終了命令を認める意義がある」という記載があるのですけれども,その具体例を教えていただけると理解がしやすいかなと思いますので,具体例があれば教えていただきたいというのが質問の1点目でございます。 質問の2点目ですが,例えば終了命令の申立ての際に,終了命令の理由として認定取消事由と同様の事由が主張される場合,その事由は終了命令の枠組みの中で判断することになるのかということを教えていただければと思います。 ○中辻幹事 まず,質問の1点目,部会資料6ページの公益信託を終了することが客観的に相当であるが認定基準違反に該当しない場合の具体例ですけれども,先ほどの古民家の例で言えば,最終的に公益信託の認定基準をどのようなものかとするかによりますし,「やむを得ない事由」がある場合に信託関係人の合意等による公益信託の終了を認めるか否かにもよりますが,公益信託設定後の事情の変更により古民家の公開・保存という公益信託事務を受託者が継続することが関係者への特別利益の供与等の認定基準には違反しないけれども合理性を欠く状況になったことが明白であるようなケースを想定しています。 次に,質問の2点目,終了命令の申立事由の中で,認定取消しの事由と同じようなことが主張されていた場合に,どちらの枠組みで判断するかという点については,第一読会でも論点として取り上げさせていただきましたが,公益信託の認定取消しと終了命令を併存させて両者は別々に判断するという考え方がある一方で,公益信託の認定取消しと終了命令はどちらかに一本化して同じ枠組みで判断すべきであるという考え方もあるように思います。 ○棚橋幹事 ありがとうございました。 今,御質問したことを前提に,裁判所の意見を述べさせていただきますけれども,基本的には一読と同様ですが,裁判所としては認定基準の関係と,情報,資料や知見との関係という観点からは,2の(1)の点については,甲案が適切だと考えております。 終了命令の申立ての中で,認定取消事由と同じような事由について判断することもあり得るということですと,裁判所が認定基準違反を判断することになりますが,認定基準については行政庁が判断すべきと考えておりますし,情報や資料といった観点からみますと,終了命令の要件は当時予見できなかった特別の事情と,信託の目的,財産の状況等に照らして終了することが相当であることというものですが,認定行政庁は認定当時の御事情もよく御存じであろうと思われますし,特別の事情の有無や,終了が相当かどうかということは,認定やその後の検査・監督を通じて,信託事務の内容や信託目的など,当該公益信託の実情をよく知っている行政庁が最も実情に沿った判断ができるのではないかと考えておりますし,ほかの公益信託との関係での知見も活かした判断ができるのではないかと考えております。 他方で,裁判所の方では,問題となっている当該公益信託については,申立てがあって初めてその存在を認識し,申立て時に提出された資料などから分かる情報を知り得るにすぎないということになりますので,認定時点や監督を通じて分かる情報,認定当時の状況,ほかの公益信託の実情といった知見を有していない状況ですので,行政庁という公益信託について情報も知見も有している機関がある中で,本当に裁判所が一番適切な判断主体なのかという点については疑問があります。 ○道垣内委員 結局,5の公益信託の認定を取り消された場合の信託について,どうするのかというのが先決問題なのだろうと思うのですね。 当該信託が終了するというとき,甲案も乙案も一見,終了するという感じがするのですけれども,甲案と乙案とでは作りが全然違っていて,乙案というのはある種の意思推測なのだろうと思うのですね。成立のところでも議論がありましたが,公益信託として,いろいろな税務上の恩典とか,そういうものが受けられないということならば,信託を設定しないという意思ではないかというのを原則として考えるか,そうではないと考えるかというのはあるわけですが,いずれにせよ,それは意思の問題である。 それに対して,甲案というのは,恐らく公益信託から公益認定というものが欠けたら本質的要素がなくなるために,当然終了するという考え方なのだろうと思います。 さて,5においては,公益信託の認定を取り消すというのが行政庁の権限であるというのは当然であろうと思います。そうなりますと,現在,議論の対象となっている2のところに戻りますが,2においても行政庁が有するというふうにするのは,それほどおかしいことではないというか,ある種,自然なのだろうと思います。 しかし,本当にそうなのかというのが私にはよく分かりませんで,行政庁というのは当該信託において公益認定をしているということだけであると考えますと,公益認定が外れたからといって,その信託が当然に終了するということに本当はならないのではないか。公益認定を外す,ないしは付けるという権限がある行政庁が,終了させるという権限を有するということに直結するのは,私はおかしいと思います。 したがって,私は,5においては乙案だと思いながら,2の1においては乙案ではないかなあと思います。もちろん5について甲案も不可能ではありませんで,当該信託における本質的な要素というのは何なのかという問題に関わってくるわけですから,そうならば2においても,甲案にしてもいいかなという気もします。しかし,余り私は適切な規律ではないと思います。 さて,そこで1に戻りましたときに,1においては,認められるときも行政庁等であるということが前提になっているわけですけれども,本当にここも行政庁なのかというのは気になるところです。やむを得ない事由について,山本委員がおっしゃったことは前回の受託者の解任についても,同じく問題となった構造がここにも存在するということですが,説明の4ページのところに書いてありますように,その許可を取り消すということに対して行政庁が判断権限を持つというのはよく分かるのですが,終了させる合意が正当か否かということについて行政庁が判断権限を持つというのは,私は構造としてはおかしいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 今,5とおっしゃいましたのは,第2の5,20ページを指していらっしゃるわけですね。 ○道垣内委員 はい,20ページです。すみません。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ほかにいかがでしょうか。 ○林幹事 先ほど2の方について述べるのを忘れた点があるので,簡単に。 弁護士会の中の議論としては,2の(1)については両意見あったのですが,乙案の裁判所というのが多かったと思います。 それから,2の申立権者については御提案に賛成の意見も多かったのですが,一部反対意見もあって,特にその委託者についてデフォルトが逆だという意見がありました。本文には委託者は入らずに,「ただし」の方で委託者が信託行為で加えられる。そういう規律の方がいいのではないかという意見も,少数ながらあったというところを申し上げます。 ○小野委員 道垣内委員のおっしゃられたことに,かなり重複するところがあるのですけれども,歴史的なことを述べますと,165条は旧信託法の58条の関係で随分議論してできた規定なのですけれども,何を言わんとしているかというと,先ほどの議論でありましたが,認定の取消しはできないのだけれども,取り消した方が,この信託は終了した方がいいときに発動するような議論,そういうような趣旨で作られた規定ではないのです。 ですから,立法趣旨も,また,165条1項の条文を見ても,何も悪いことをしている信託の業務を終了させるために裁判所が発動して終了するという規定にはなっておりません。議論がまず前提として混乱していると思います。またそもそも認定基準の取消しはできないけれどもけしからんという状況で,行政庁が立ち入って,その信託を終了するということ自体は,私的行為を無効にする権限はないと思うので,それは終了命令なのか,その命令に従わなかったらどうのという話なのかなと思います。書きぶりからすると私的行為を無効にするような効果を与えるような規定になっていますけれども,繰り返しになりますが,元々の信託法165条の規定はそういう趣旨ではありませんし,先ほども発言したことの繰り返しになりますけれども,行政庁にそれだけの権限は本来,私法上ないというのは当然の議論かと思います。ということを付け加えたいと思います。 ○中田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○小幡委員 よく理解できていないのですが,そもそも本当は合意で終了させてもよいかもしれないけれども,公益信託なので,余り安易な気持ちで始めてもらっても困るし,当事者の合意だけで終了というのはまずいだろうという考え方でこういう話になっていると思うのですが,他方で,165条の方で本当に予見し難いような出来事が出てきたときには対応できるわけです。 同条によらない場合に,絶対駄目というのではなくて,合意でも終了できる場合もあってよいというときに,何らかの機関のチェックを介在させることによって,勝手な合意ではなく認めてよいという正当化をする制度を作った方がよいという話でしょうか。 結局,合意による終了を認めるわけなのですが,それを単に当事者の合意だけではないようにした方がよいと考えたときに,どこが入るべきかという話ですね。 確かに,皆さんおっしゃるように,そこで当事者の合意にチェックを入れるために,行政庁が出てくるというのも多少奇妙な話だなと私も直感的には思うところはあります。 そうすると,そこで裁判所が出てくるのか。165条の方があるので,幾つか制度が何か重なってしまうという,そういう感じになってしまいますね。 一点お伺いですが,公益法人の場合,公益目的事業の全部廃止というのは届出でできますよね。明渡関係官,そうですね。条文上はそうなっていますが,あれは届出だけでオーケーなのですか。 ○明渡関係官 廃止は届出だったと思います。 ○小幡委員 そうですよね。合併とかもありますが,公益法人の方の24条の3号で公益目的事業の全部の廃止というのはあらかじめ届け出るということで,届出だけでできることになっているのですが,その後,ただ,どういう整理をしますか。 要するに,公益認定の取消しをすると,今度,残余財産贈与とか強制的に流れていきますが,他方で,自分たちでやろうと思って認定を受けていた公益目的事業を全部やらないことにするのは届け出るだけでオーケーになる。そうすると,今回の公益信託について,合意だけで廃止できないというのも,確かに,単なる合意というのではまずいのかもしれないのですが,公益法人とのバランスがどうかなと思った次第です。 ○平川委員 公益法人の場合は,取消しの申請があれば行政庁は取り消すこととされていますけれども,その場合,別に公益法人が解散するわけではなく一般法人に移行するということになって,ちょっと仕組みが違う。 ○小幡委員 そこは生き残れる,一般法人としてですが。公益認定だけなくなるという話になりますが。ただ,少し気になるのがバランスの問題です。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○樋口委員 今の小幡委員がおっしゃっていたバランスの問題というのは,ずっとここで私自身が気になっていたことで,公益信託の終了・変更で,変更の話はほとんど出てきていないけれども,二つ書いてありますよね。 それで,その比較の視点からすると,まず私益信託の終了変更命令という話と比べて,どう考えるべきなのかということですね。基本は,私益信託に関わるところの百六十何条であれ,163条だか165条だか,それをベースにして議論しているわけですよね。しかし,公益信託だからという話でどうするかという話になっている。 165条なんかも,はっきり受益者の利益のためにという,当たり前ですけれども,私益信託だから。それが指針になっているのだけれども,公益信託の場合は,受益者がいなくて,それで,うまく整理して話をすることができないけれども,それは非常に残念ですけれども,公益信託の終了・変更命令については,私益信託と比べてやはり別の考え方で,簡単には終了させないどころか,後で出てくる,シープレの話が出てきますけれども,本当は信託財産,公益信託財産というのをできるだけ継続して,信託の目的が達成され,あるいは達成不能になった場合ですら,とにかく何とか継続させるという話があるわけですよね。別の公益信託につなげてというようなことまで考える。 だから,それは私益信託であり得ないようなことなので,だから私益信託との比較という点で,やはりこれは終了はそう簡単にはできないという話で一貫できるかどうか。しかし,こうやってやむを得ない事由だか何だかというので合意なんていうのを入れる余地があるかどうかというのをどう考えるかということが,一つのポイントなのだろうと思うのですね。要するに,この場面でまず私益信託の条文から公益信託の問題を考えるという発想自体が再検討する必要があるように思います。それだけ性格が違うということです。 もう一つは,今度は公益法人との比較があって,公益法人というのを本当,私は何も知らなくて,これで今,何とかかんとかという検索や何かで見ると簡単なのですね,どうやら解散というのが。つまり公益法人は解散が簡単にできるらしい。そういうものと公益信託は別なのですよという話をどううまくつなげたらいいかという課題がありますね。いや,今,私が解答を持っているわけではなくて,勝手な悩みをしているということを申し上げているだけなのです。 それから,最後に1点だけ。これは私的自治ということを言われている。やはり私的自治の範囲で公益活動をやるのだ,だからそれが公益信託なのだという意味ではそうなのかもしれませんけれども,日本のように,あらかじめ公益認定という制度を入れておいて,それで,あと私的自治という話がどうも,それだったら初めから認定の方も事前の規制ではなくて,後からやってくださいよという,税法上の優遇措置が後であるかもしれないみたいな話の方が本当はすっきりするのに,初めに公益認定というような重い制度を作っておいて,しかし私的自治ですよというのがうまく理屈として合うのか。やはり,しかし合わせないといけないという話で,今こうやって悩んでいるのかというところです。 ○中田部会長 ありがとうございました。 変更命令について,また後ほど別項で出てくるわけですが,共通した問題の御指摘を頂いたと存じます。 ○明渡関係官 先ほどの小幡委員の関係で正確に申し上げますと,公益認定を取り消したいという場合は申請してもらって,これは処分を行います。ただ,それは取り消さなければならないとなっておりますので,出てくれば自動的にといいますか,事務処理をするという形になっています。 一方,法人が解散する場合には,解散した後1か月以内に届出をするというような形に,公益法人の場合はなっております。 すみません。先ほどちょっと不正確でしたので。 ○小幡委員 要するに公益目的事業をしていたけれども,その公益法人が,自分からもうやめたいというわけですね。その場合は自分から申請して,やめられるという制度にはなっているというのが公益法人の方なのです。公益信託の方が,その合意で,やめたいというときに,今,税法上は確かに税制優遇を受けるためには合意では駄目ということになっているのですが,もし公益信託の制度に認定というのをかませるとすると,そういうことも言われなくなるということがあり得るかということですが。公益法人とのバランスから考えると,絶対合意が駄目というのも厳しすぎるのではないかという感じがするということです。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 大体御意見を頂いたと存じます。 1については,甲案に賛成される御意見はなかったように伺いました。乙案に基本的には賛成だという御意見が比較的多くあったわけですが,ただ,その場合でも第三者機関が行政庁なのか,それとも裁判所なのか,あるいはその第三者機関の関与の仕方,更に終了命令との関係について様々な御意見を頂きました。 更に,丙1案として小野委員のおっしゃったような私的自治を押し進めるという考え方と,丙2案として平川委員のおっしゃいました運営委員会を組み込むという御意見等を頂きました。 2につきましては,甲案行政庁,乙案裁判所,これはそれぞれ両論,御意見を頂きました。 (2)の委託者の権能につきましては,どの程度の役割を与えるのかについて幾つかの御意見があったと思います。 認定取消しとの関係については,そもそも認定義務違反の場合にどのような帰結になるのかということと,それから認定取消しになるとして,認定取消しと終了命令との関係を整理すべきであるということの御指摘を頂いたと思います。 大きくいうと,更に,私的自治と公益を認定するという仕組みの中で,公益の維持というのをどうするのかということ,それから公益信託と公益法人との異同を分析することという御指摘を頂いたかと存じます。 以上のような本日の御議論を踏まえまして,更に検討していただくということになろうかと存じます。 ほかに,この1,2について御意見はございませんでしょうか。 それでは,ここで一旦休憩を挟みたいと存じます。後ろの時計で38分まで休憩し,38分に再開いたします。 (休 憩) ○中田部会長 それでは,再開したいと思います。 続きまして,「残余財産の帰属」に関する3について,御意見をお願いいたします。 ○深山委員 残余財産の帰属のうち,まず(1)については提案に賛成いたします。その上で,定めの内容についての(2)ですけれども,乙案を支持したいと思います。 ここは,残余財産の帰属という,最後の終わった後の処理という形で論点が整理されていますけれども,もちろんそういう面はあるのですが,そもそも公益信託について一定の期間,それが確定的な期間であれ不確定な期間であれ,一定の期間を限定して公益信託を設定するということを認め,そのしかるべく定められた期間が終了した段階で,委託者の下に財産が戻るということを認めるかどうかということが大きな論点と理解しています。 私はそういう信託があっても構わないし,そういうニーズに応える必要があるだろうと思います。これは先ほどの議論にも影響する公益信託観といいますか,信託をどういう制度として理解するかということに最終的にはつながるのだと思うのですが,従来の一つの主流の考え方というのは,公益財産に拠出したものは,もう永久にその公益財産たる性質を変えないで,委託者の手を離れた公共の財産になるのだと。したがって,委託者が手放した後に運営等に関与することも認めるべきではないし,ましてや,後から委託者の手元に戻るということは考えられないのだという考え方が一つあったのだろうと思います。 正に公共のために手放した財産という位置付けで制度を考えるという,そういう公益信託像,公益信託観というものがベースにあって,それは少なからず支持がなされていたのかもしれませんけれども,私は今回,抜本的な制度の見直しをするに当たって,そのようなものでなければならないと考える必要はないだろうと認識しています。もちろんそういう信託があっても構わないわけですけれども,そうではなくて,もう少しニーズを広く拾い上げる意味で,期間限定の信託というものも認めていいだろうと思います。 そういう意味で,遡ればそういう制度設計の根本的な考え方に関わる問題だと思いますが,一度手放した財産が二度と戻ることはないという考え方を採る必要は必ずしもないという意味で,乙案を支持したいと思います。 (3)のところは,ここは乙案の国庫に帰属するということを支持したいと考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 3の(1)については,法務省案に賛成いたします。 そして(2)の1の定めの内容としましては,甲案に賛成します。 (3)については,乙案に賛成いたします。 (2)の理由としましては,今ある公益信託においても,既に各主務官庁の行政指導及び税法上も私人への残余財産帰属は認めておりませんし,また,実際の公益信託設定事例においても私人帰属を規定する信託条項は皆無と認識しております。このような状況において,新公益信託においても,私人帰属を認め得る考え方である乙案を採ることは難しいのではないかと考えます。ただし,帰属権利者の対象は公益信託だけでなく,広く公益認定法第5条17号並みに拡大すべきであると考えます。 公益認定法においては,公益法人の残余財産を類似の公益信託に帰属させることを認めていませんけれども,公益信託法の本改正に伴っては,公益信託法を改正して相互的に,リシプロカルにすべきであると考えます。 私人への帰属について,日本においても英米におけるチャリタブル・リード・トラスト的なものを普及させていくべきであるとは考えますけれども,米国においてもこれと公益信託は別物の扱いとなっていると認識しておりまして,米国においてはチャリタブル・リード・トラストやチャリタブル・リメインダー・トラストは,日本の公益信託法に相当するインターナル・レベニュー・コード501条C3項のチャリティーとは直接関係がなく,税法上,一定の優遇措置を別の税法の規定で優遇していると理解しております。 (3)につきましては,公のために支出された財産が受託者に帰属するということは想定できないものでして,当然,国庫に帰属すべきものと考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ほかにいかがでしょうか。 ○林幹事 弁護士会の議論としては,3(1)については賛成で,飛びまして(3)については,乙案で国庫帰属というので一致していました。 特に(3)につきましては,清算受託者に帰属するとなると,清算受託者に利益を取らせる必要もないし,また負担の多い資産を押し付けることになるかもしれないので,両面において乙案ということでした。 問題は(2)の方ですが,これは甲案,乙案両方あったところですが,私自身としては,先ほど御指摘もあったとおり,今のところはまだ公益信託像が確定していないところですが,より広く利用される方にと考えたときは乙案の方がよいのではないかと思います。まだ今のところは甲乙を維持してパブコメに付すべきだとは思っています。 あと,細かいところですが,類似の目的については,御指摘もありましたが,引き続きなくてもいいのではないかという意見もありました。また,定めの内容で,国又は地方公共団体というところもあるのですが,これは必ずしも要らないのではないのかという意見もありました。 ○吉谷委員 (1)につきましては,提案に賛成いたします。 (2)につきましては,甲案に賛成です。乙案は,公益信託財産の一部が私人に帰属するということですので,これは私益信託であると思われます。このようなものを公益信託とする必要はなく,私的自治ということであれば,私益信託で御対応いただければよろしいのではないかと思います。 また,特に税制上の措置を獲得するという観点からも,乙案のようなものまで公益といってしまうのは余り適当ではないと考えます。 ○神作幹事 私も3の(1)には賛成で,(2)については甲案を支持いたします。 その理由は,もちろん理論的には乙案のような考え方もあり得るとは思いますけれども,しかし,公益信託に拠出された財産についてはプライベートの領域に戻ることがないことを確保しておくことは,公益信託に対する信頼性を確保する上で非常に重要な前提であると思います。 特に,現在は余り日本では活発に行われているとは言えないかもしれませんけれども,将来的に寄附が行われるというようなことを考えると,寄附したものが私的な領域に戻るということは,公益信託制度としては考えられないのではないかと思います。 もし,乙案の①のような考え方を認めるとすると,非常に複雑な利益相反関係が惹起されますので,現在考えているガバナンスの議論では足りない,重装備の制度を設計し運用していく必要があると考えます。したがって,(2)は,私も乙案というのは採り得ないのではないかと思います。 (3)は,乙案を支持します。これまでの委員の方の御発言のとおり,私も乙案を支持いたします。 ○能見委員 税務当局の賛同が得られるかといった実現性の有無はともかくとして,基本的な考え方としては,私は深山委員の考え方に近い考え方をしており,3の(2)の中のどちらかを選択するのであれば,乙案になるかと思います。 乙案のもとでは,今,神作幹事が言われましたように,寄附などの扱い方が問題になるということですけれども,寄附のうち,信託設立時の信託財産とするための寄附については,委託者以外に拠出者ないし寄附者がいる場合でも,これら寄附者の間でいろいろな話合いをして合意をした結果,こういうふうにしようということで帰属権利者の定めをするわけですから,そこは問題ないと思います。また,公益信託が設立された後から加わってくる寄附についても,乙案の②のような処理をするということであれば,寄附者の期待を害することにはならないのではないかと思います。 それから,(3)の甲案,乙案なのですが,このどっちかということであれば乙案なのですけれども,私は,個人的には国庫ではなく地方自治体に帰属するというのがよいのではないかと思っています。こういう場合の帰属をどこにするかについては,民法の相続人不存在の場合の国庫帰属の原則との調整が必要なのですけれども,自治体に帰属するというような考え方もあり得るのではないかと思っています。活動範囲が1つの自治体の範囲に限られるような信託については自治体,それ以外のものについては国庫,そういうことも考えられるかもしれません。ただ,これは民法の相続人不存在のところの規定で相続財産は国庫に帰属することになっていますので,公益信託の残余財産の帰属のところだけ地方自治体とすると民法との不整合といいますか,それと違う考え方を採ることになりますので,信託法だけでこういう考え方を採用することができるかどうか分かりません。ただ,こういう考え方もあるということだけメンションしておきたいと思います。 ○沖野幹事 残余財産の帰属の,特に(1)と(3)なのですけれども,(2)において乙案のような考え方を採った場合には,①の点で帰属先を決めるということが必須になってくるのですけれども,そうでない考え方によりますと,(1)で指定に関する定めを置かなければならないものとされるのは,前提としては残余財産は,①の目的をどうするかという問題はあるにせよ,公益信託や公益法人,あるいは国若しくは地方公共団体のいずれかに帰属させるという中で,具体的にどこにするのかという点をあらかじめ決めておく,その具体性の程度はあるにせよ,という意味になるように思われます。 そうしたときに,具体的に決めておくことで,残余財産の帰属についての関係が明確になりますし,事務処理としてもやりやすいとか,終了の後処理も迅速にできるといったことがあるのですけれども,これはどのくらいの定めが許容されるのかということで,例えば類似の目的を有する他の公益信託若しくは公益法人というような定めでもよろしいのか,それともここはかなり特定した○○大学とかということになるのかという点でして,少し気になっておりますのは,これが仮に極めて具体的な特定の仕方をされた場合には,そこが拒否をし,帰属権利者として権利を放棄するということになりますと,財産としては十分価値もあり,類似の目的にも使えるという中で,そのためのほかのところに何とかできないかというような方法は,この後に出てくる4をどうするかという問題もありますけれども,直ちに(3)のところに行って国庫なり誰かなりに帰属するということでよろしいのか,それともその間に,極めて具体的であるならば,ほかに類似の目的のどこかに渡すようなことができないか。その中には,あるいは自治体ということも出てくるのかもしれませんが,そういう要素は一つ入らなくていいのだろうかというのが1点目です。 もう1点は,逆に先ほどの古民家の例なのですけれども,古民家は社会経済的に維持する意義も疑わしく,かつ経済的にも全くペイしない状態になっている。そういう財産は,押し付けられても困るという場合もあるわけで,特に,もしも最終的な帰属というものが,極力類似のものとして活かしていけないか,公益活動のために活かしていけないかというのを,具体的な目的との関係で努力したけれども,どこも駄目だったという場合は,どこもそういうものを引き受けなかった,要らないと言われた財産ということになるわけです。それは,もう国庫に任せてしまえばいいのだということでいいのか。とりわけこの帰属,最終的な帰属を考えるときの財産というのが,誰が取得すべきなのかという望ましい財産であって,そういうものを誰が得ていいのかと,一旦,公益に拠出したからにはということになるのか,それとも,言わば忌避される財産であって,誰が責任を負うべき財産なのかという両方の可能性や観点が出てくるように思われて,そこに至るルートは両方あり得ると思うのですけれども,この帰属権利者の決め方と,その決め方が非常に特定していて,そこから拒絶された場合には直ちに最後の放棄された残余財産の帰属に行ってしまうのかということとも関連しているように思われるのです。 それで,責任を負うべきという言い方は適切ではないのかもしれませんけれども,責任を負うべきということになれば,一方では最初に拠出した委託者というようなことも間に入ってくる可能性もあるように思うのですね。ですから,どういうルートを考えて,最終的な財産がどのような財産と想定するのかというイメージによっては,大分考え方が違ってくるのではないかと思われるのですけれども,どういうことがこれの前提としては想定されているのでしょうか。 ○中辻幹事 事務局としては,抽象的なのかもしれませんけれども,「当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託」のような文言が公益信託の契約書の中に記載されている場合を想定しておりました。 そうではなくて,個別具体の公益信託が契約書の中で帰属先として挙げられる可能性もあるとは思いますが,そうしてしまうと,沖野幹事の御指摘のとおり,特定の帰属先に断られてしまったら,直ちに清算受託者ないし国庫に帰属するのかという問題が生じてきますので,どちらかと言えば抽象的な文言の方が望ましいようにも感じます。 2点目,残余財産の最終的な帰属先についてですが,私どもとしては,例えば民法239条で無主物の不動産は国庫に帰属するとされておりますが,公益信託の残余財産となった不動産が無主物と言えるのかといえば,元々は委託者の資産ですのでそうではない。そうすると,信託法の原則のとおり清算受託者,すなわち受託者に帰属させるという選択肢が出てくるということを想定しておりました。沖野幹事御指摘のように,最初に拠出した委託者に戻るという選択肢も論理的にはあり得ると思います。 ○中田部会長 (2)の方はどうですか。マイナスの財産というか。 ○中辻幹事 そうですね。プラスの残余財産について誰も引受け手が現れないということは余り想定できないと思っています。他方で,誰にとっても使い道がなく,しかも公益性も失われてしまったような不動産であれば,単に皆に断られたからといって誰かに行くべき性質のものとも言えませんので,最後に残るマイナスの財産もイメージして御議論いただいた方がよいのかなと思います。 ○沖野幹事 状況は分かりました。私もこの最後の帰属権利者の一番最後の(3)というのが,望まれる財産が残るというよりは,処理できない財産が残るという場合ではないかと考えられまして,何か議論のイメージが,あるいは逆の方向のイメージで受託者にそういうものを得させていいのかといった話ですとか,委託者にそんな戻してもいいのかという話になっているようにも思われました。 もちろん林幹事がおっしゃったように,負担の部分に着目して,受託者にそういう負担を負わせるべきではないということも言われたわけなのですが,ただ,信託法一般は受託者が最後の帰属先となっておりますので,それとの関連ということもあるかと思われて,更には帰属権利者として国が指定されて,国が拒絶したときに,しかしやはり国に行くというようなことにもなるわけなのでしょうけれども,それで本当にいいのだろうかというのは,やはり気になっているところではあります。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 沖野幹事のおっしゃったことは非常によく分かるのですが,私はこの提案を読んで,具体的な法人名,具体的な公益信託名が記載されているということを頭の中に描いていました。 というのは,そうしないと,清算受託者の裁量権限が重くなりすぎるというか,大変だろうと思うのですね。どこまでが類似の目的の信託なのかの判断は大変です。そうすると,清算受託者において,例えばこういうところにトライしてみて断られたら,もはやもういいですということの定めを置くということが認められなければならないのではないかと思います。しかし,私も十分に勉強しておりませんけれども,清算受託者の権限について,そういう細かな規定が置かれるというのは,必ずしも前提になっていないのではないかという気がするわけです。そうなりますと,それだけの裁量権限を与えて,なるべく努力しなさいというのには無理がある。 ただ,これは公益法人に関連する法律の解釈・運用というのがどういうふうになされているのかということと密接に関係いたしますので,それとのバランスが必要なのではないかという気がいたします。 ○能見委員 沖野幹事から,(3)の残余財産としてどんなものをイメージするかという発言がありました。マイナス財産みたいのは一番問題になると思いますけれども,マイナスというのは余り正確ではないと思いますが,恐らく一定の価値はある。例えば建物なんかにしても,それ相当の価値があるけれども,それを維持していくためには,これから相当な費用が掛かることが予想される。そういうような財産が,ここでは問題になるのではないかと思います。 それは建物であるとか,あるいは場合によっては絵画のようなものであっても,これをきちんと保存して管理していくためには大変な費用が掛かるというので,その帰属権利者として指定された者がそれはとてもできませんというような場面が一番問題になるのだろうと思います。もちろんいろいろな場合がありますので,どんな場合を想定したらいいかと余り単純に範囲を狭めるわけにいかないと思いますけれども,今のような場合が一番問題となるかと思います。 実は,先ほど私が最終的な帰属先として自治体というのを提案したのは,建物みたいな場合を考えておりまして,地方の民家などは,その地方にとってはそれなりの価値があり,人々の関心も高い。従って,地方自治体としては費用が掛かっても維持したいと考える可能性がある。しかし,国は全然関心がないということも相当あるのではないかと思いました。しかしながら,これら財産の存在する自治体であれば,自治体といっても,県,市町村など,いろいろな単位があるかもしれませんが,いずれにせよそういうところであれば,これら財産を有効に保存して活用していくということも考えられると思います。民法の原則と整合的でないと採用しにくい案かもしれませんけれども,以上のようなことも考えて,自治体というのはどうかという意見を述べたわけでございます。 それから,話はまた更に脱線しますけれども,現在,国レベルで所有者が分からない不動産をどうするかという議論をしていると思いますけれども,それをどうするかということについていろいろな議論があるところですけれども,この所有者が分からない不動産の中には,本当は所有権放棄が簡単に認められれば,所有者不明でさまようことが避けられる場合もあると思いますが,不動産所有権の放棄が簡単に認められないために,所有者はどこかにいるけれども誰であるか分からないという不動産が出てくることになります。 こういう不動産についても,放棄を認めて,国ではなく,自治体に帰属させれば,自治体であれば引き取ってもいいという場合があるかもしれない。そんなことで,話を元に戻しますと,財産をできるだけ有効活用するという観点からすると,3の(3)の点について,自治体に帰属するという選択肢があるとよいと思います。先ほど述べたことの補足です。 ○樋口委員 少なくとも2点申し上げます。 今の地方自治体の話なのですね。地方自治体の話は,そういうことは十分あり得るのではないかと私も思っていて,民法が全てを支配しているわけではないというのが一つと,そんなふうに民法学者を敵にする必要もないのですけれども,少なくともここでは,前に私が覚えているところでは,つまり認定機関というのがどこかの,つまり公益信託認定委員会というのが中央に一つだけあって,それでおしまいではなかったですよね。都道府県単位で作るという話になっているのなら,それは本当に別個の手続なので,こういうときに,終了時にその認定した地方自治体が何らかの関心を持ってということはあっていいような気がするのですね。だから民法の原則に余りこだわらなくていいのかなというのが,これは能見委員の応援のつもりで言っているのですが,1点。 二つ目は,これは言うまでもないのですけれども,今,終了から始めているのですけれども,次の類似目的の公益信託としての継続の方がまずやはり話としてあって,どうもこれでうまくいかないという場合に終了。実際には今,重なっているところを議論しているのですね。類似の目的のためにという話と。 だから,話としてはやはり公益信託については簡単に終了,先ほど公益法人やなんかとどう違わせてというところで悩んでいるところの一つなのですけれども,向こうは簡単に終了できる。何で公益信託の場合は終了できないのかと言われると,なかなかという感じがするのですけれども,やはり公益信託の方は継続を考える。4を先に考えて,その後で終了,帰属,権利者みたいな話を考える方がやはり順番としては正しいような,正しいか正しくないかよりは適切ぐらいの話だと思いますが,と感じます。 三つ目の沖野幹事がおっしゃったそのマイナスのというのはやはり難問で,これはそれこそ民法の先生の方が十分御存じで,所有者がいなくなった財産で,本当に引受け手がなくて,例えば自治体であれ国であれ,かえって困るというものが相当に出てきているようで,これは公益信託の財産であるという,不動産であれ何であれというのは,その大きな場面のごく一部なのだと思うのですけれども,やはりここでも考えておかないといけないようなことで,単に国庫に帰属だけでいいのかなという感じは私もいたします。 ○中田部会長 ありがとうございました。ほかは。 ○樋口委員 それは,つまりプラスとマイナスをはっきり区別して議論すべきことだと思います。 ○中田部会長 沖野幹事の御提示くださいました問題について,分けて考えるべきだということだと思います。 ○深山委員 いろいろ論点があるのですが,帰属については,先ほど(3)のところで,最終的に乙案を支持すると言いましたけれども,それ以外に地方公共団体というのもあるのではないかというのも,なるほどなと思いました。 申し上げたかったのは,(2)のところについて,先ほど私の意見は申し上げましたけれども,その後の意見を聞いて感じたところとして,一つは,樋口委員が御指摘になった,信託の継続ということにも関係する点をまず申し上げると,委託者がなるべくこういう公益に供して末永く使ってほしいという考えであれば,その意思は尊重されてしかるべきだと思います。 しかし,先ほど私が例に出したように,一定の期間,公益信託に供したいと,その期間限定を元々の設定者である委託者が望む場合であれば,それはそういう意思も尊重してしかるべきだと私は考えます。そういう意味で,期間限定で委託者に戻る信託というのもあっていいと考えます。 先ほどそれに対して神作幹事から乙案を採り得ないというふうに言われ,研究者から理論的に採り得ないと言われると非常にショッキングなのですが,そこで想定しているのは,神作幹事が触れられたような後から寄附するような人であり,そういう人にとってということをおっしゃったと思います。確かにそういう人が拠出したものが委託者のところに行ってしまうというのは問題ではないかと言われれば,それはそういう面があろうかと思います。しかし,まず一つは,乙案も①のほかに②が用意されていて,元々委託者が拠出した財産の帰属の問題と,その後に加わった財産とを区別しているということで一つその問題をクリアしているという面があります。私に言わせると,元々期間限定の公益信託であるということをうたっている公益信託に,つまり,いずれ残った財産が委託者に戻るということを承知でなお寄附する人がいるのであれば,それも認めてもいいような気も私はするのですが,しかし,この乙案は,②を用意して元々の財産と後から加わった財産を区別しているという意味で,その問題を解消しているのだろうと思います。 そもそも,金銭の助成みたいな従来の公益信託をイメージし,第三者が寄附をするとか,あるいは寄附を集めるという場面を想定すると,それがいずれ委託者に行ってしまうのは問題だという発想につながると思うのですが,今回見直そうとしている公益信託というのは,そういう助成型とか寄附を募る型に限らず,例えば不動産を信託会社に供して,生存中,災害に遭った人の仮住まいとして使ってもらうとか,あるいは留学生に使ってもらうとかいう公益信託を設定をして,それが何十年後という縛りでもいいし,自分が亡くなったときという縛りでもいいのですが,一定の期限が来たときには,それは戻してもらって子供たちに相続してもらう,こういう場面を考えると,およそその利害相反が大変なことになって重装備しなければという議論にはならないと思うのです。 ですから,先ほど言いましたように,いろいろな信託があってしかるべきなので,やはりそこはいろいろな可能性を許容する,そういう柔軟な制度設計という意味で,最初から委託者に戻るのは一切なしというふうにして,一度出したら永遠に戻ってこないものでしかあり得ないと考える必要はないだろうというのが私の意見です。 最後にもう1点,税制のことが,どうしてもこの問題の議論として登場し,税制優遇を受けているのだから,あるいは受けるのだからということが問題になりますが,まず一つは,今の税制がそうだということが,この新しい制度後も,必ず同じ制度が維持されるというものでもないだろうと思いますし,それなりに見直しをされてしかるべきだと私は思います。 もちろん見直しをするのは財務省等々ですから,どうなるか分からないという問題はありますが,現在の税制ありきで議論する必要はないし,議論すべきではないというのが私の考えです。 更に言えば,もしかしたら,そういう信託については税制優遇は与えられませんとなることもあるとは思います。少なくとも公益信託の中身によって,税制優遇の内容だったり,その程度が変わってくるということは,それは当然あると思うのです。極論すれば税制優遇ゼロというのもあるかもしれない。税制の問題として,そういうことがあったとしても,実体法の規律として,あるいは公益信託の仕組みとして一切そういうものを認めないということにする必要はなくて,税制優遇は乏しいかもしれないけれども,こういう公益信託を作りたいという人がいたら,それはその意思を尊重してしかるべきではないかというのが私の考えです。 ○中田部会長 10ページの第2パラグラフに,乙案を採用する場合について,新たな問題点の指摘が事務当局の方からされています。これは先ほど神作幹事のおっしゃったこととも共通するところもありますが,やや別のことも入っているのですけれども,これについてもし御意見がございましたら,この機会にお出しいただければと思います。 ○深山委員 単純な寄附だけでなくて,その収益が誰に帰属するかということを問題にしているのかなと思うのですが,最終的には,乙案の①の方に分類される財産か②になるのかという当てはめというか,その判断になるのだと思います。抽象的に言えば,元々の財産の果実みたいなものは元々の財産の方に帰属するという考え方にもなるのかなと思うし,そこは状況次第というか,その中身次第で個別に判断することになると思うので,そういうことを踏まえても,先ほどのような考えをしているということでございます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○吉谷委員 いろいろ御意見を聞いておりまして,意見としては,余り複雑な制度にどんどんしていくのはよろしくなかろうと思うところです。 最終的に国に行くのか地方公共団体に行くのかというようなこともございますけれども,公益認定を受けるところで,残余財産の帰属権利者として,1番目に公益法人どこそこというのを指定して,そこが要りませんと言った場合には国に行きます,あるいは地方公共団体の方で認可いただけるのであれば地方公共団体に行きますというふうに信託行為に書いておけば,それで解決するのではないかと考えておりまして,それを法律で細かくどんどん定めていくということを追求していくことの実益は余りないのではないかと考えます。 そしてまた,乙案につきましては,先ほどの繰り返しではありますけれども,余りこれも複雑な制度にするのはよろしくなくて,更に,先ほど部会長から信託財産の価格の変動等の問題について提起されましたけれども,私はこの乙案というのは,これは設定時のものが元に戻りますよというだけではなくて,後から加わった寄附等による財産を基にして最初の不動産なりというものが維持されて,それが戻るということになりますので,これは私人のために寄附を集めているというに等しいような内容になってしまうのではないかと思います。 それで,税の手当がなくてもいいのではないかというふうな御意見もあり,そこは全く意見が対立するところではありますけれども,公益と公益ではないものというのをシンプルに分けるということが,公益信託というもののブランド的な価値というのを維持するためにも,非常に有効なのではないかと考えております。 ○新井委員 まず,全般としましては,(1)については賛成,(2)については甲案に賛成,それから(3)については乙案に賛成ということを申し上げた上で,気になりましたのは沖野幹事の発言です。 つまり古民家のような,マイナスの財産になった場合のその帰属,処理をどうするのかという問題についてちょっと気になりましたので,私の考え方を申し上げていろいろ御意見を伺えればと思います。 古民家のようなものに限らず,当初不動産の運営がうまくいくと予想して信託をスタートしたけれども,うまくいかなかった例というのは,御存じのように判例にあった兵庫県の青野運動公苑のような事件でもあるわけですね。 あの場合は自益信託でしたので,損失分を信託銀行である受託者が固有財産から補填しておいて,求償の問題になったということで,その委託者又は受益者に求償するか,信託財産に求償するかという問題になったのだろうと思います。 ですから,当初うまくいくと思っても,そういうような結果になることがあるとすれば,古民家のような非常にリスクのあるものについては,そもそも受託者は受託しない,というのが受託者のスタンスではないでしょうか。 なぜならば公益信託には,受益者がいないとされているわけですから,受益者に求償できない。それから委託者も舞台から去るわけですから委託者にも求償できない。そして,信託財産もマイナスだということで,非常に動きが取れない状況となります。そういうことをシミュレーションして,多分受託するかどうかを決めるのだと思うのです。ですから,一般的な受託者の義務を受託者がどう判断するかという問題で仕切ればいいのであって,マイナスの財産になるものをどのように最終的に帰属させるかということと一応分けて考えた方がいいのではないかと少し考えたのですけれども,もし沖野幹事の方で御意見があれば,お伺いしたいと思います。 ○沖野幹事 ありがとうございます。事前に受託者がそれを計算して,受託者の行動として決定をすべきだというお考えだとすると,むしろ(3)では甲案にした方が,最後は自分に来る以上は,それをあらかじめ考えてということを生じやすいようにも思われ,そうでなければ,最後は全部国庫に任せてしまえばいいのだということにもなりそうに伺ったのですけれども。そうすると,そこが新井委員の結論として逆になるのかなというふうにも伺ったのですけれども。 ○新井委員 (3)の甲案はないと思います。 ○沖野幹事 そうですか。 ○中田部会長 新井委員の御発言は,受託者にはリスクのあるものは受託しない義務がある,それに反して受託した以上は,最終的な責任を持つべきことにならないだろうかという御指摘かと伺いましたけれども。 ○新井委員 恐らく受託した以上はそうなるので,一般論としては受託しない方向に行くのではないかと私としては考えました。 ○吉谷委員 以前,神田委員が公益信託で借入れができるのかということをおっしゃっていたと思うのですけれども,先ほどの残余財産がプラスかマイナスかということにつきましては,借入れなどがあって,清算して,その結果,土地建物を売って,借入れが返せなくてマイナスだということであれば,それは受託者が負担するという,受託者のリスクということであろうと思っておりまして,先ほどから話題になっていますのは,別に債務とかで清算する必要がなくて,でも維持するためには経費が掛かりますと,古民家として維持することには経費が掛かるということだと思います。 ですので,先ほど私が申し上げましたのは,例えば地方公共団体が認可しますということであれば,最終的には地方公共団体の古民家になるというリスクを承知の上で,認定なり認可なりを地方公共団体がされるのだと理解いたします。ですので,これも監督されるわけですから,本当に不要な価値のなさそうな古民家などというのは公益認定されないだろうと。その上で,事情が変更してしまった場合には,それは国なり地方公共団体のものになるということで仕方ないのではないかと思います。 ですので,元々その想定として,この残余財産が最終的に誰に帰属するかというこの(3)につきましては,やはり何らかのプラスの価値があるということが前提になっている。ですので,清算受託者に帰属しないという観点で,私どもも従来から国庫に帰属することで結構ですと申し上げておりますので,マイナスの価値の資産というものの意味合いがちょっと,どういうふうに考えるべきなのかということについては,私の考えは今話したようなものというわけです。 ○中田部会長 ありがとうございました。 確かにマイナスの財産というと少し多義的な感じがいたしますが,必ずしも債務ということではなくて,資産ではあるのだけれども,維持管理に負担が多く掛かり,結果としては赤字になってしまうような財産を意味しているのだろうと伺っておりました。 それについて一般的なといいますか,プラスの財産と今のように負担の大きい財産とを区別して検討すべきではないかという辺りに多分なっているのだろうと思います。 ○道垣内委員 話を更に混乱させるようで大変申し訳ないのですが,古民家の事例がずっと挙がっているのですが,それは余り現実性がなくて,より現実的な問題としては,不動産で産業廃棄物が地下に存在する例は幾らでもあるのですね。9億円の土地が産業廃棄物を掘り出すのに8億円掛かるということならば,まだ1億円で売れるのですけれども,それは逆のときもあるのですよね。その土地のその面積からすると5億円ぐらいの市場価格であるが,産業廃棄物を取り出すのに6億円掛かるという場合も実際に存在するわけです。そのときに受託者って,掘り出さなければいけないのか,それとも埋めたままで国庫に引き渡せばいいのかというのは,これはよく分からない感じがします。古民家だって,皆さん古民家の保存に熱心なようですが,誰も行かない,維持にべらぼうにお金が掛かるというのだったら壊せばよいと思いますが,そうだとしても,壊すにはお金が掛かるわけですよね。しかるに,受託者は壊さなければいけないのだろうか。土地の値段がないようにするために地上権付き古民家を考えると一番分かりやすいと思うのですが,最後はどうすればいいのかというのを決めないと,マイナスの財産,プラスの財産というふうに言うと何となく整理できた気がしますが,現実的に考えると訳が分からない問題が多々あるような気がいたします。 ○渕幹事 新井委員と沖野幹事のやり取りを伺っておりまして,財産の価値がプラスかマイナスかという問題ももちろんあるのですけれども,最初の時点で受託者にモラル・ハザードが起きないような制度設計をする必要がある,そういうことなのかなと思った次第です。 ○林幹事 マイナスの財産というのを私も前回のときも意識していたのですけれども,それは要するに誰も引き受けたがらない財産というものなのかと思われるのが1点です。誰も引き受けたがらないというのは何かというのもあるかもしれないのですけれども,そういうことなのかと思いました。 ○小野委員 議論の前提なのですけれども,終了する前に認定を取り消されたときは,もはや公益信託ではなくなっているのですけれども,その後,それが何なのかという議論はあるかもしれません。終了後に清算手続に入ると思うのですが,もはや公益信託ではないのでどう考えるのか,それともそれでも過去を引きずってという議論なのか。これまでの助成型で信託銀行が受託者となる場合は信託財産が明らかなのでそれは別として,個人が受託者になったりする事業型の場合,ここから先は国庫ですとかの線引きが不明であったり,何かいろいろな状況がある中で,特定の古民家だとか,不動産の価値が上がっている場合とか特定の状況を捉えて何か議論するとやはり見えにくくなるのではないかと思って,結論としては,深山委員が述べたように,原則として自由ではないかと。本来,信託なのだから,信託として扱えばいいのであってというところを出発点とすればよろしいかと思います。 あと,利益相反うんぬんと議論もありましたけれども,元々信託行為で定める話なので,信託行為で定めたときに,それがよからぬ信託行為であれば,そもそも認定のところで適切に認定が得られないというような仕組みであることを前提とすれば,認定もされて,それでも駄目ですと,場合によっては廃棄物です,場合によっては価値がある,場合によってはどっちか分からないみたいな,場合によっては固有財産と全然区別が付かないみたいなときに,無理に引き剝がすというような議論までする必要はないような気がいたしました。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○林幹事 もう1点だけ。国庫帰属の点なのですけれども,実務的にどうかというのがあって,私自身は,それほど事案を担当したことがないので分からない面もあるのですが,相続財産管理の場合で,プラスの資産があって,最終的に,国庫帰属させようとする場合に,なかなか国庫が受けてくれないことがあるようです。金銭に換えていると受けてくれるのだけれども,そうでないと国は余り受けたがらないというような実務があるように聞いたことがあるので申し上げます。 ○明渡関係官 公益法人の場合の残余財産の帰属についての御質問がありました。 実際,定款においてどのように規定するかというふうなことにおいては,例えば認定法5条17号に掲げるものとのみ定めることでも可というような運用になっております。現実にどれくらいの法人が,個別の法人を定款で指定しているのかというのは,データを取ったことがないのでそこは分かりませんけれども,例えば公益認定を取り消したときに贈与する先,これも同じような規定になっておりますが,通常それは取り消された後に,この法人に贈与するというふうな話が出てきますので,恐らく個別の法人をあらかじめ定款の中では定めていないことの方が多いのではないかと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 大体よろしいでしょうか。 (1)については,この指定に関する定めを置かなければならないということは御異論がなかったと思います。 (2)については,甲案と乙案とそれぞれ支持される方がいらっしゃいました。論点も,もう既に出ていることかと存じます。 (3)については,国庫に帰属ということを基本的に支持するという方が大多数であったと思いますが,更に新たな論点として,国だけではなくて地方自治体も対象とし得るのではないかということと,それから,負担の大きい財産については区別して検討すべき必要があるのではないか,こんな御指摘を頂いたかと存じます。 これらについて更に検討をして,また新たな案を御覧いただくことになろうかと存じます。 よろしければ,次に。 ○山本委員 少し発言させていただいてよいでしょうか。(3)で,乙案により国庫に帰属するものとすることになるとした場合について,先ほどの議論の中で出てきた問題なのですけれども,例えば古民家の例でも何でもよいのですけれども,実際にそれを持続的に維持していこうとするとコストが掛かる。その元の所有者,つまり委託者が一人では到底担えないと考えて,それを打開する道として,例えば広く寄附を集めるために,公益信託という形でお金を集めて,何とか維持することを図ろうとしたけれども,それが結局うまくいかない場合には国庫に帰属するとしますと,要するに,潰すか税金で維持するかどちらかだという選択になっていくことになります。そのような見通しの下で,先ほどの問題なのですけれども,持続可能性を考慮して,特に最後には税金で負担することも考慮して考えると,やはり公益信託として認定できないというようなことが起こるのではないかという指摘がありました。これは,認定基準として,そのような考慮が入ってくるということなのでしょうか。そこを少し確認させていただきたいのですが,よろしいでしょうか。 ○中田部会長 この御発言は小野委員でしたでしょうか。 ○山本委員 事務局でもいいですが。 ○小野委員 そうですね,総合的に恐らく判断するのではないかと思うのですけれども,公益だけ崇高な目的が書いてあって,信託契約,信託行為を見ると,前に善管注意義務の任意規定かどうかという議論もありましたけれども,善管注意義務はないわ,随分,自分勝手なことを書いてあるということになれば,それがどういう要件でどこで引っ掛かるかというところまではすぐには答えられませんけれども,やはり広く見たときに,その公益性においてやや問題ありということになるのかと思います。ちょっとそんなイメージでおりました。 ○山本委員 公益性から見てという表現で捉えられているのかどうか,疑問の余地がありますけれども,御意見としては理解しました。事務局の方から特にないということでしょうか。 ○中辻幹事 御指名ですのでお答えします。 事務局としては,認定行政庁は,公益信託の受託者が委託者から拠出された信託財産を用いて予定されている公益信託事務を遂行する見込みがあるかないかという点について判断することを想定しておりました。 ですので,山本委員がおっしゃられたような最終的な帰属先に関連する税金面の問題意識まで含めて認定行政庁が認定の可否を判断するということは想定していなかったというのが率直な答えです。そこまで認定行政庁の判断要素とすることが適切なのか否か,私は今,確たる解答を持ち合わせておりませんが,御指摘を踏まえて検討させていただきます。 ○吉谷委員 私はてっきりそこまで考えて,複数年の計画において成り立つのだということの検証までされた上で,公益認定がされるのだと考えておりました。 ○樋口委員 たまたま私が知っていることですけれども,医療法人,東京都の医療法人部会という委員会に出ているのですね。そうすると認定基準の中に,新規のものは2年間の経営計画で,これで一応安定できているはずだという,そういうものが出てきます。更に言うと,これは皆さん御存じかもしれませんが,医療法人法の改正があって,帰属の相手先は,残余財産の帰属先は今まで個人でよかったのですけれども,それはいかんということになり,国,地方公共団体,公的医療機関の開設者,他の医療法人,医師会に限定されるということに,今なっています。 ○中田部会長 どうもありがとうございました。 それでは,この点については更に検討するということにしまして,続きまして,「4 類似目的の公益信託としての継続」,「5 公益信託の変更命令」について事務当局から説明をしていただきます。 ○舘野関係官 それでは,御説明いたします。 まず,「4 類似目的の公益信託としての継続」について御説明いたします。 本文では,甲案として,公益信託法第9条を削除するものとする。乙案として,公益信託法第9条を改正し,信託の目的の達成又は不達成の場合において,信託財産があるときは,行政庁は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとするとの提案をしています。 本文の甲案は,公益信託法第9条を削除するとした部会資料37の第2の2の乙案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。 本文の乙案は,今回,新たに提案するものです。 部会資料11ページの5に記載したような,新薬の研究開発を行う研究者への助成を行う公益信託について,日本よりも先にアメリカで新薬Aが開発された場合に,当該信託が終了し信託の清算が行われることは,公益目的のために信託財産を拠出した委託者の具体的な意思に反するという見方もあり得ます。 そして,そのような場合には類似する新薬A’の研究開発を助成する公益信託として継続させることが委託者の意思の尊重や公益への寄与の観点から相当と言えるケースもあることが想定されます。 そうすると,公益信託法第9条を改正し,信託の目的を達成した場合又は信託の目的を達成することができなくなった場合において,信託財産があるときは,行政庁は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとする考え方があり得ることから,これを乙案として提案しています。 次に,「5 公益信託の変更命令」について御説明いたします。 本文では(1)公益信託法第5条は削除するものとすることでどうか。 (2)公益信託についても信託法第150条を適用することとし,同条に基づく変更命令の権限は甲案として行政庁が有するものとする。乙案として裁判所が有するものとする。 (3)。(2)の変更命令の申立権者は,委託者,受託者又は信託管理人とする。ただし,委託者については,信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとすることでどうかとの提案をしています。 本文(1)の提案は,公益信託法第5条を廃止又は改正するとする部会資料37の第3の1,柱書き第1文の提案と同様であり,その内容及び理由に変更はありません。 また,本文(2)前段の提案も,公益信託についても信託法第150条を適用するとする部会資料37の第3の1の柱書き第2文の提案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。 なお,本論点の検討に当たっては,信託法第150条では,信託の目的の変更を裁判所が命ずることはできないと考えられている点に留意する必要があります。 なお,本文(2)後段の提案の甲案を採用し,行政庁が公益信託の変更命令を行うこととした場合には,行政庁が変更後の公益信託が認定基準に適合しているか否かも併せて判断することができます。 これに対し,本文(2)後段の乙案を採用し,裁判所が変更命令を行うこととした場合には,裁判所が認定基準に違反するような公益信託への変更命令を行うことは適切でないため,変更後の公益信託が認定基準に適合しているか否かの判断を行うための知見や資料を行政庁から入手できるようにするための仕組みを用意することが必要であり,例えば信託法第168条を参考として,裁判所は同法150条に基づく公益信託の変更命令申立てについての裁判をする場合には,行政庁の意見を求めなければならないものとすることが考えられます。 さらに,本文(3)で提案している公益信託の変更命令の申立権者について,部会資料37の第3の1(2)では,委託者の申立権については信託行為による増減が可能であることを前提としつつ,申立権者に委託者を含めない甲案及び申立権者に委託者を含める乙案を提案していました。 しかし,信託行為による増減を可能とするのであれば,現在の信託法上の規律と実質的に相違がないことから,今回の本文(3)では,変更命令の申立権者を委託者,受託者又は信託管理人とするが,委託者については信託行為において変更命令の申立権を有しない旨を定めることができるとの提案に変更しています。 この提案は,受託者及び信託管理人については,信託行為において変更命令の申立権を有しない旨を定めることはできないことを,一応の前提としています。 以上でございます。 ○中田部会長 それでは,まず「4 類似目的の公益信託としての継続」について,御審議をお願いいたします。 ○道垣内委員 4について,結論としては,甲案に賛成なのですが,その賛成の理由を説明したいと思います。 信託法150条というのがあって,信託の変更ができるということなのですが,この点については京都大学の吉政さんの「ジュリスト」の御論文があって,実はこの150条で対応すべきときとは,多くの場合,信託行為の解釈問題ではないかという主張がされているわけです。つまり,例えば国債のみに投資することになっているときに,それは「国債」という意味なのか,それとも「元本割れがない安定した資産」という意味なのかという解釈の問題として考え得る余地が結構あるのではないかという議論です。 4の話というのは,私は正にそういう話ではないか。とりわけ,今,例としてAという難病とA’の難病というのが出ておりますけれども,私は医学の知識がないのでよく分かりませんけれども,AとA’というのが仮に類似しているとするならば,それはAと書いてあったって,A’の新薬の開発にも使えると信託行為を解釈することは十分にできるし,その解釈ができる範囲でなければ,12ページに書いてありますような委託者の意思の尊重という観点から正当化できないのではないかという気がします。委託者の意思の尊重という観点から正当化できるのならば,信託行為を委託者の意思を尊重して解釈すれば足りるのではないかという気がいたします。 とは言いながら,結論として,それほど絶対に甲案でないといけないと思っているわけではありません。ただ,理屈上はそういう問題が4についても5についても隠れているということを指摘しておきたいという話でございます。 ○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。 ○樋口委員 4については,もちろん乙案をという趣旨で,それは言わなくても分かるような話だと思いますけれども,今,道垣内委員がおっしゃったのは,一つの筋としては,歴史的には分かるのですね。アメリカでは,やはり委託者の意思というのを尊重するのが信託だという話になっていて,公益信託についても,委託者が例えば何々大学のためにと言ったら何々大学,その大学がなくなって,では,別の大学でいいのかというと,それは絶対駄目だというような話にしていたわけです。 しかし,アメリカ法の傾向ははっきりしていて,リステイトメント等でも,とにかくジェネラル・パブリック・インタレストというのがキーワードかな。本人はとにかくこういうところでという,それをできるだけジェネラルに解釈して公益のために,先ほどどなたかおっしゃった,一旦公益のために供与された財産を無駄にしない。それがたまたまその機関がなくなったり,病気がなくなったりというのであれば,やはりそれに類似した,だから場合によっては,難病AとA’という話ですけれども,難病でなくてもいいわけです,本当はね。広い伝染病みたいな話でもいいわけです。そういう話で存続させようという傾向が明確に見られる。だから,それはそれでいいのですけれども,道垣内委員がおっしゃったのは一つの筋だけれども,アメリカでは過去の議論であるということをちょっと強めに申し上げたのかもしれないけれども。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○能見委員 私も樋口委員とこの問題に関して近い立場を前にも表明したと思いますけれども,乙案に賛成という立場ですが,一つ,確認しなくても明確なのかもしれませんけれども,先ほどの帰属権利者の定め方との関係でいいますと,帰属権利者がどんな形で定められていても,この4の,つまり信託目的の達成又は不達成で終了するときには清算段階に入るわけですが,その段階で受託者としては申立てをすると,このルールが適用されるという理解でよろしいですね。そういうことで,こちらのルールの方が少なくとも受託者の申立てがあれば,これが優先するということになるのだろうと思います。 ちょっとそのときに気になったのは,受託者は裁量権があるのか,つまり申立てをしないのも自由だし,するのも自由だという程度に考えるのか,あるいはもう少し強くこのルールが適用されるとした方がいいという考えを私は持っていますので,申立てをするか否かは受託者の裁量で自由だというよりは,類似目的で存続するという方向性がより強く採れるような,そういう内容のルールにした方がいいのではないかという感じを持っております。そのためにどういうふうに直したらいいかというのは今この場では言えませんが,類似目的で存続することを優先するという基本的な立場があると思います。 それから,委託者の意思の尊重ということでいうと,これは私が何か新しい論拠を付け加えることができるのではなくて,樋口委員の言われたとおりでありまして,委託者の意思が,ある種の特定の公益のためというときに,類似目的とはいえ,当初の目的と少しはずれてくるということがあり得る。それを許容するわけですが,委託者はやはりそれは嫌だという,自分が設定した公益信託は本当に当初の目的のためだけに限定したいというような意思があるのであれば,それが表明されればこの類似目的のルールは適用されないことになろうかと思います。そういうように調整すればいい。委託者の意思としてしてはそこまで強くない。Aという研究でないと駄目だという意思が明確になっていないのであれば,Aという研究のための公益信託が目的達成又は目的達成不能で終了する場合に,できるだけ類似の公益目的のために公益信託を存続するという方向でこのルールを適用することができる,そんなふうに考えたらどうかと思いました。 ○平川委員 私も乙案に賛成します。このシープレ原則は,公益信託の特色を表す象徴的な原則ですので,これをやはり公益信託法の中に残して,原則的な概念的な規定として,飽くまで委託者の公益目的を実現させようとする意図を明確に示した規定として,残しておいていただきたいと思います。やはりこの日本の公益信託制度においても,この規定を欠くということは考えられないと思います。 樋口委員の前の37回の御発言でもありましたけれども,当初は適用条件というのは厳しく決められていたようだけれども,その公益概念において類似というものを少し,より解釈を広げていくという方向性がアメリカの動きでもあるということなので,そういうことも参考にして考えていくべきだと思います。 ○林幹事 まず,4の類似の目的の公益信託の継続についてですが,これは先般の部会資料37の提案の際には,定めの対象となるものが受けなかったときということを前提にして議論していたかと思いまして,だから,適用場面は少ないのではないのかというような話を申し上げ,あるいはほかの先生方からは,もっと早いタイミングでこれが適用されたらいいという御意見もあったので,それを受けて,今回の部会資料でこういうふうに出てきているのだと理解はしています。ただ,前の残余財産の帰属のところと,この4の関係というのをどう捉えるのかというのが若干分かりにくいという議論は弁護士会でもしていまして,先ほどのお話だと,単純に併存するからどちらでもいいようなことなのか,それでいいのか,3と4の関係性が分かりにくかったという議論がありました。それが,まず1点です。 そういうところもあって,この論点では,弁護士会の議論では甲案の方が多かったのですが,乙案もあってもいいという意見もありました。個人的には,直感的にはシプレ原則は残った方がいいような気もしているのですが,その3とか4の関係をどう捉えるのかというのも一応考えておかないといけないように思いました。 それから,先ほどの沖野幹事の御発言にもあって,その3のところで,例えば甲案で抽象的にこのように書いてしまっていいのであれば,この4の乙案というのは,そこで尽きてしまうようにも思いました。あるいは,その3のところで具体的に書かないといけないとすると,先ほどの御指摘もありましたけれども,そこで漏れたときにどうフォローするのかを考えると,この4がないといけないと思いますし,場合によっては,前回の部会資料37の案の方が筋が通っているかもあるかもしれないというようないろいろな意見が出ました。ですから,3において甲案なりのときでもどう書くのかであったり,あとは4と3の関係であったりを,もう少し整理してもいいのではないかというような議論がありました。 ○吉谷委員 4について申し上げますと,どちらかといえば乙案であろうと。3のところで,残余財産の帰属につきまして,類似の目的の公益法人なども指定できるというふうにされたとしますと,それほどニーズがあるということもないのだろうなとは思っています。その指定されたところに渡せばいいのではないか。 そういうものも特に指定されておらず,国あるいは地方公共団体にというような場合で,何らか継続した方がいい場合があるかもしれないという程度かなとは思いましたけれども,という趣旨で,どちらかといえば乙案です。 ○樋口委員 議論の仕方として,こういう議論の仕方をするのが本当はいいのかどうか,よく分からないのですけれども,率直に第1点としては,この4の乙案みたいな話をなくしてしまいますと,私がもうアメリカに行くこともないのですけれども,例えば外国で日本の公益信託の説明をするときに,今度,日本の公益信託法は改正されたのだよと,日本ではシープレという原則は公益信託について認めないことにしたのだよというのは,何だかすごく言いにくいのですね。どうしてという感じで世界中から思われるような感じがして,いや,それに代わる方法はきちんとあるのですよとか,先ほどの帰属権利者のどうのこうのと説明はするのだと思うのですけれども,何でもインターナショナルな基準に合わせればいいというふうな議論をするのもちょっと,自分でもどうかなと思うのだけれども,何か率直にまずそういう。先ほど平川委員がおっしゃったように,公益信託と言えばシープレというのが,あるいはサイプレといっている人もいるのですけれども,そういうのは何かもうキャッチフレーズみたいにあるのですね。税制のものも,もちろん実際にはそっちの方が大きいのですけれどもね。 それから2点目としては,吉谷委員が言ったようなことと能見委員がおっしゃったことと絡めて,これはやはり受託者は申し立てなくてはいけないというようなことにした方がいいような気も私もしていたのですが,一方で考えると,多分,英米でも義務付けてはいないと思うのですよね。何にもしないでぼやっとしていたら,誰かに訴えられることはあるかもしれないのですけれどもね。 つまりどういうことかというと,多分,選択肢は幾つかあって,例えば公益信託がこれで大体どうも目的不達成とか達成という話になったときに,しかし財産はありますというときに,やはり一つの手段は合併,同種の公益信託との合併,あるいは公益法人との。同じことなのでしょうけれども,終了させて帰属権利者がどこかの似たような公益法人であれ公益信託であれというそういう手段もある。それからここで,この公益信託として独立独歩として,しかし類似の目的でずっとやっていくというのも選択肢の一つとしてあるという感じもあるのですね。 そのときに最後の手段はシープレといっているのだと思うのですけれども,でも実際の方法は,シープレでも,方法としてはほかのところへ財産を移してというのも,もしかしたら概念的にはむしろシープレ法理の中に入っているのかもしれないです,考え方としては。 ともかくちょっとコメントいたしました。 ○中田部会長 ありがとうございました。 先ほど能見委員の御発言の中で,委託者が明示的にこれだけに限るといった場合は別だとおっしゃいました。それは結局,道垣内委員のおっしゃっている解釈の一部の問題かと思うのですけれども,樋口委員は明示的に委託者がこの目的以外には使ってほしくないと言った場合は,どうお考えになりますでしょうか。 ○樋口委員 ちょっと留保を付けて,暫定的にお答えすると,やはりそれは,私がアメリカ法を代表しなくていいのですけれども,アメリカでもそれは仕方がないことにするかもしれません。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○新井委員 今の点について,私の考え方を申し上げます。 まず,私は乙案に賛成です。それで,この乙案で非常に重要なのは,受託者の申立てによりというところだと思います。終了して,帰属権利者に帰属するというルートがあります。しかし,受託者としては,別の選択肢も考え,そのときの判断を行政庁に仰ぎ,行政庁はいろいろな事情を忖度して,別の可能性を考えるというルートはあってもいいのではないかということで,私はこの「受託者の申立てにより」というところが非常に大きな意味を持っていると考えますので,この乙案は正にそこがポイントではないかという感じがします。 そう申し上げた上で,したがって受託者だけではなくて,信託管理人にも申立権を与えてもいいのではないかと考えます。 ○道垣内委員 2点申し上げたいのですが,1点目は,先ほどの能見委員がおっしゃった,これ以外には使ってほしくないとされていたならば,それはさすがに類似目的のための公益信託の継続というのは生じないという話ですが,私も仮に乙案を採っても,そうあるべきだと思いますけれども,そのような考え方は,結局,乙案の限界というものを当事者意思,委託者意思に置いているのだと思うのですね。 それに対して公益信託の本質はシープレであるというふうな言い方をしますと,ある財産が公益に付されているという,その本質からこの原則が来るという考え方になって,それとは異なる考え方ではないかという気がいたします。 私は,公益信託の本質というものがどこかにあると思いませんので,仮に4の乙案を入れる場合も,能見委員がおっしゃった話とか樋口委員が賛成された話とかで,限定を本人が付している場合には,それは乙の申立権は発動しないだろうと思います。 第2点目なのですが,私は,4の乙で行われるというときに,受託者の申立てというのは内容がかなり特定されていなければならないと思います。つまり,AとA’の話にしますと,Aという新薬を開発するための基金であるところ,いや,Aはできてしまったので,A’にしますと申し立てて,それで行政庁がA’という新薬を開発するための基金として考えるときに公益性があるのかという判断をして,それで認めることができるというわけです。抽象的に,類似目的にしたいと思うのですけれどもいいですかと申し立てれば,行政庁が類似のものを見つくろってくれるという制度ではないと考えています。 そうしたときに,新井委員がおっしゃったことなのですが,信託管理人に認めるというのはおかしいと思います。受託者が自分ができる範囲でこういうことをやるということで申立てをして,それで認められるか,認められないかという勝負なのだろうと思います。 最後に一言申し上げますと,お前は乙案を前提に話しているけれども,お前は甲案賛成と言ったのではないかとお思いになる方がいらっしゃるかもしれませんが,私は甲案賛成と申し上げたときから,それほど甲案に固執しているわけではなくて,どちらかといえば乙案が,委託者の意思の問題だということを主張したい,いずれにせよ,委託者意思の問題である,というのが私の根本でございますので,個人的には矛盾しておりませんので,お断りしておきます。 ○能見委員 先ほど述べたことと同じことを,ちょっと違った観点から言うだけなのですけれども,類似目的の公益信託として,そのまま継続するというこの4のところの乙案で,これは帰属権利者の定めのところで類似目的の公益信託若しくは公益法人,こういう形で抽象的に帰属権利者が定められていても,この4の乙案というものの意味があるということを,前回触れた点ですけれども,もう一度強調しておきたいと思います。 これは,帰属権利者のところで処理しますと,公益信託が清算結了までいって,そこで残余財産として残ったものだけが帰属権利者に行くわけですけれども,そういう意味で残余財産を誰かに帰属させるためには清算しなくてはいけないということになります。しかし,4のところの類似目的のために同じ公益信託が継続するということになりますと,その清算はしなくていいことになりますので,ここはいろいろな状況次第ですけれども,かなり大きな違いがあるのだろうと思います。 そういうことで,帰属権利者がどういうふうに定められていても,類似目的の公益信託として継続するということができるということに意味があると思います。 ○山田委員 4でございますが,乙案が,今御議論いただいているところの御意見を伺うと,望ましいのではないかなと,自信はないのですけれども,思うに至っております。 しかし,行政庁が公益信託を継続させることができるものとするという点に,私はすごく抵抗があります。すなわち本来は当初信託の定めに基づくと,信託の目的の達成又は不達成で信託が終了するということです。それを終了させずに継続させるということは,ちょっと微妙なところもあるのですが,やはり私人間の法律関係を形成する側面があるのだと思うのですね。放っておけば終了するわけですから,終了させずに今のまま続けなさいということになります。したがって形成する側面が十分にある。したがって,そのような規律は慎重に考えるべきだと思います それから,目的は,これは恐らく継続させることに伴って,変更するのだと思うのですね。類似であれ,AからA’なのかAからBなのか分かりませんが変更する。それを行政庁が行う,認定等委員会の意見を聞いた上でということだと思いますが,ということについては,選任とか解任とかいろいろあったところで,大幅に行政庁が出てくるなら,ここで行政庁ではなく裁判所が関与すべきであると頑張ってもしようがないなと思うのですが,そういうところを裁判所がということでもし解決するならば,公益認定を受けていたという公的な性格は十分にあるけれども,私人間の法律関係を行政庁が形成するということについては,極めて慎重に扱うべきだろうと思います。 そうすると乙案はこのままでは,先ほどいいのではないかと冒頭で申し上げましたが,私の意見としては,このままではやはり反対と言わざるを得ません。 そうすると,どうしたらいいか。乙案の心をいかすにはどうしたらいいかということで,十分に検討していないので自信はないのですが,信託の変更なのではないかなと思います。 信託法上の信託の変更で信託の目的が変えられるかというのは,よく分からないのですが,もしできないとしても,公益信託についてはできるとして,そして,そうすると149条の考え方,あるいは,これは受託者の定めのない信託については手直しが加わっているのかもしれませんが,それを参考にしながら当事者が目的を類似目的に変えるというふうにして,しかし,それは当初の公益認定の対象とは違ってまいりますので,公益認定等委員会の意見を聞いた上で,認定それから認定の取消しそしてその間の監督をする行政庁がそれを,それが認定なのか認可なのかよく分かりませんが,それは技術的に詰めればいいことだろうと思いますので,行政庁の関与が必要だというような作りに,形を作り替えると,心は残っているのではないかと思われ,それであれば私は賛成したいと思います。 ○中田部会長 今の御提案は,目的の達成又は不達成の場合,終了事由になっているのを少し繰り延べるみたいな考え方でしょうか。終了してしまえば,変更できないのではないかという議論があるわけですね。 ○山田委員 ですから,その前になるのではないでしょうか。あるいは,遡って変更するみたいな考え方を取り入れるのだろうと思います。客観的に達成又は不達成があるから,終了しか道がないのではないかという考え方を採ると私の考え方は成り立ちませんので,そこは大人の知恵で,当初信託行為の中に定められている終了事由である信託目的の達成又は不達成がある場合においても,その前に効力が生ずるものとして信託を変更するということが考えられると良いという意見です。 ○中田部会長 分かりました。時系列としては,目的の達成又は不達成が起きた後でアクションが生じると思うのですけれども,それを何らかの形でみなすというような対応を考えるということでございますね。 ○山田委員 そうですね,はい。この乙案は,実質はそういうことですよね。おそれがあるとか,そういうのではなくて,その事実があるということを前提にしているので,それを私は何か修正した上で作った方がいいだろうということではないのですが,考え方として,行政庁の関与の仕方というものは,今申し上げたところが強い意見としてあるということです。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。 ○新井委員 今,山田委員のおっしゃったことなのですけれども,私はこういうふうに理解しました。 信託目的はそのままで,ただ,現に受託者が遂行している信託事務の処理,これが現下の情勢に適合しなくなったので,したがって,目的が達成できないような状況に至ったというときに,目的はそのままで信託条項を変更するものとして,信託の変更をするということについて,行政庁なり裁判所が後見的に関与してくる,そういう理解をしておりますが,山田委員も賛成していただけますでしょうか。 ○山田委員 少し違うと思うのですけれども,私の意見の実質は実現していると思いますので,私は特に構わないと思います。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ○小幡委員 今の話はまた議論していただければよいと思いますが,乙案のところで,私も山田委員がおっしゃる前に,ちょうど同じようなことを考えておりまして,行政庁は類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとすると,これはどういう意味なのかということです。基本的に,そもそもこの認定というのがどういう意味合いを持つのかというのがクリアにならないでずっと来ているような気がしていて,つまり認可のような効力要件なのか,そうではなくて公益のための信託で,税法上の優遇を与えるための意味もあって確認,公益信託であることを確認するというような行為として整理するのか,その辺りも余りはっきりしなかったのですが,ここで継続させることができるというのは一体どういうことかを含め,そういう問題が潜在的にあると思います。 それから,先ほどのここの乙案の読み方として,委託者がどうしても嫌だと言っているものを継続させないのですから,それはその信託の本旨というところで読むのかなと思うのです。委託者の意思がはっきりしていれば,それは信託の本旨がそういうことだという読み方になると思うのですが,そういうことを行政庁が確認するという役割を担うことになる,つまり,これは公益に資するものであるという確認,公益の認定ということは当然よいのですが,こちらのほうは,勿論できないことはないと思うのですが,委託者の意思に沿っているかとか,ある意味,非常に私法上の私人間の関係のことについて行政庁がコミットするという,その役割をここで担わせるということになるのかなと思いまして。 もちろん,私人間の行為について,効力要件として行政庁が認可するというのは幾らでもありまして,それは私人間の事柄に直接関与していなくても最終的に効力を補完するという形の認可というものですが,今回考えられているものが何なのか,そうでもなくて確認というか認定,公益法人の場合,2階建てなのですが,そもそも公益信託の方もいろいろあるようで,信託,目的信託とか議論があるようですが,いずれにせよその辺りが余りクリアでないと思っております。また,この辺りもお考えいただければと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○沖野幹事 4についてなのですけれども,あるいは山田委員がおっしゃったことと関連するのかもしれないのですが,私は乙案の考え方というのは,行政庁の点を除けば現行法でも可能なのではないかとは考えておりまして,その一つは,信託目的の達成あるいは不達成の場合に目的を変更して続けていくということが,それほど異例であって,規定がないとできないことなのかという点ですけれども,実際にというか,確かに論理的には,目的達成・不達成という事実が生じますと終了事由になってしまう,信託が終了して清算に入ってしまうわけですけれども,どうもそのような事情が生じているのではないか,しかし,変更すれば続けていけるし,変更すること自体は問題がないとか,関係当事者は全員合意しているということであれば,変更して続けていくということは,今の信託法の下でできることではないかと。確かに論理的にはどう説明するかという問題はあるのですが。 もう一つは,信託財産破産の場合に,破産法244条の13で,債権者の同意による破産手続廃止の申立てというのがありますけれども,一旦,破産手続開始で終了事由が生じて,破産による清算に入るのですけれども,同意による廃止で手続をやめてしまうと。このときには信託を継続させなければならないので,確か変更の手続をとらなければいけないというのが立案担当者解説だったと思います。 そうすると,終了事由が生じていて,既に破産手続による清算に入っていても,一定の場合に目的というか,それを一旦変更をして清算をやめるということは一応,もちろん規定があるからということはありますけれども,それほどおかしなことではないのではないのかなというところもあります。 とはいえ,それが本当に解釈で十分できるかということが不透明な部分もないわけではないので,そうだとすると,乙案のような考え方を明示するということに意味があるのではないかと。なるべく続けていった方がいいということなら,こういう可能性はあるのではないかと思っております。 その際に,更に二つなのですが,一つは,もしできたら山田委員にお伺いしたいところなのですけれども,信託の変更というときに,私はちょっと乙案を見たときには,これは例えば,その前に出てきておりました許可を得て継続させるというのは,受託者を主体に継続させ,しかしそれについては許可が必要だというような構成もできるかと思ったのですけれども,そうではなくて端的に信託の変更とするとなると,それは信託関係者全員でというような,受託者だけではできないということでよろしいかというのが一つです。山田委員のお考えによると乙案のどこを変えることになるのかということです。 もう一つは,それとは関係ないところなのですけれども,信託を継続させるというのは,当該受託者が自ら受託者としてこの信託を,しかし類似の目的のために継続させていくということだと思うのですけれども,先ほどの帰属権利者との関係のところで,帰属権利者の指定というものが幅広に指定されるというか,ほとんど3の(2)の甲案であれば,甲案に掲げられているようなものがほとんどカバーされるような指定であるならば余りその必要はないのですけれども,吉谷委員からは,もっと特定のどこどこと指定しますということであり,そうだとすると,その類似の目的のためには幾らでもほかに渡すところがあるのに,でも,特定された先に入っていないために,あとはこの規律に行かざるを得ないとか,あるいは清算受託者というところに行かざるを得ないという,その間を埋めるためにこういった,自分が継続していくということだけではなくて,指定された帰属権利者が拒否をしたような場合に,しかし,より適切なところを考え付くところがあるのであれば,その一つが地方公共団体かもしれませんけれども,そういったところに許可を得て渡すことができるというような規律も別途考えられるのではなかろうかと思われます。あるいはこれまで議論があったのかもしれませんけれども,この4の乙案にどうこうということではなくて,乙案とともに,そのような帰属先についての受託者の申立てによる帰属先ということも考えられてよいのではないかと思ったものですから,あるいは少し御議論なり御検討なり頂ければと思います。 ○中田部会長 今の御発言は,10ページの下の方に部会資料37の第2の2というのがございまして,その段階での甲案があるわけですけれども,これに近いようなことを更に検討すべきだということになりますでしょうか。 ○沖野幹事 37の部会資料の甲案は,飽くまで公益信託を継続させるということですので,受託者の下で信託を継続させていくという選択肢だと理解していたのですけれども,それに対してどこかに与えてしまう,渡してしまうというところの範囲がその帰属権利者を指定して非常に狭いような場合に幅を考えていたのですけれども,ちょっと誤解しておりますでしょうか。 ○中田部会長 いえ,37の第2の2は,帰属権利者の全員が放棄した場合について,継続させることができるということですよね。 ○沖野幹事 そうですね。その意味では場面は共通している,方法は違うけれどもということです。すみません,失礼しました。 ○中田部会長 ありがとうございました。 山田委員に対する御質問がありましたが。 ○山田委員 発言を補足する機会を与えていただきまして,ありがとうございます。 私はこの「受託者の申立てにより」というところは,このまま残すべきではないと思っております。 ただ,具体的にどう作ればいいかというのは,149条とそれから261条ですか,受益者の定めのない信託について読み替えている規定を詳細に検討しないとなかなか出てこないのですが,方向だけを申し上げますと,信託管理人が必置としますと,受託者と信託管理人の合意というのでしょうか,それは必要だろうと思います。それに加えて,委託者をどうするかということが問題となるのですが,これは大きな問題の一つに含まれるかなと思います。すなわち公益信託について委託者の関与というのを設立した後,どこまで認めるかということに関わります。 私自身は,そこは,委託者は公益信託にやはり一番関心を持っているものですから,口を出させていいだろうということを一般的には思っておりますので,したがって委託者も入れて考えるのが今の私の意見ではありますが,そこだけ委託者を必ず残すべきだというのではありませんで,公益信託である以上,委託者の関与は遮断していくべきだとなるならば,ここでも委託者は落ちるだろうと思います。それが149条の1項をベースにしたところであり,2項,3項と少しずつ細かな規定がありますので,それに合わせたものも可能な範囲で,複雑にならない範囲でフォローしていくのが望ましいだろうと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○山本委員 これは確認なのですが,山田委員が先ほどから主張されているように,当事者が変更するのであって,行政庁はそれを認定というのか分かりませんけれども,判断するというような仕組みでよいとすることは賛成なのですが,その際に行政庁が,元の乙案もそうなのですけれども,何を基準に判断するのかという問題があると思います。 この乙案の書かれているところからすると,その信託の本旨に従い類似の目的であるか否かを判断するということなのでしょうか。それ以上の何か判断が更に付け加わって行われるのかどうかという点についてはいかがなのでしょうか。 例えば,目的は類似しているかもしれないけれども,既に当初から目的の達成あるいは不達成まで一定期間が経過していて,その間の活動状況等から見て,これは無理であるというような評価,ないしは更に一定の手直しをしないとできないというような評価まで含めてここで行えるのかどうか。これは,道垣内委員が最初に述べられた考え方からしますと,飽くまでも当初の信託行為の趣旨から決まるというのであれば,そのような評価は直ちに出てこないのではないかと思います。この辺りが,道垣内委員のおっしゃる甲案と,現在の乙案ないしは山田委員の修正を加えた乙案との差なのかもしれないと思ったのですけれども,そうでないのかどうかということを確認させていただければと思います。 ○中辻幹事 公益信託法第9条は,旧信託法73条からの継続の条文であり,主務官庁制を前提としています。そこでは,条文どおり公益信託の継続が信託の本旨に従うものかどうかが第一の考慮要素となるものの,主務官庁の監督権限は広いので,それ以外の点についても幅広に考慮しつつ公益信託の継続の当否を判断するという解釈があり得たのだろうと思います。 さはさりながら,新たな公益信託において主務官庁制を廃止し,それに代わる行政庁の権限を従来の主務官庁の権限よりも縮小することを指向するならば,最後は解釈になるのでしょうが,行政庁は信託の本旨のみに沿って継続の当否を判断するべきことになるのではないかと考えます。 ○山本委員 ということは,道垣内委員がおっしゃった留保付きの甲案と,ここで述べられている乙案は,本質的には変わらないという理解でよろしいのでしょうか。 ○中辻幹事 道垣内委員がそうお考えになるかというのは別として,私の方は同じようなことになるのかなとは思います。 ○山本委員 ありがとうございました。 ○中辻幹事 すみません。せっかくの機会ですので,樋口委員に一つ御質問させていただきますでしょうか。 英米法のシプレ原則では,類似目的の判断は裁判所が行うものとされています。今回の部会資料の提案では,現行の公益信託法9条が類似目的の判断は主務官庁が行うものとしていることからそれを尊重して行政庁を主体としているのですが,樋口委員の御意見としては,行政庁なのか裁判所なのか,どちらになるのか御教示いただければと思います。 ○樋口委員 本当は確固たる意見がないので,どちらでもいいというのは無責任かな,やはり。 前にも申し上げましたけれども,こうやって公益の認定庁を作ったときに,裁判所とどういう役割分担をする仕組みがいいのかというのはやはり難問で,だから,英米流でいえば,裁判所がこういうシープレであれ何であれ作り上げてきた法理なので裁判所へ行けば何か答えてくれるということなのですね。しかも裁判所はエクィティーの裁判所なので,裁量権があって,これとこれしか判断しないなんていうことはないのですね。 ただ,一般的に言えば,これは本当に類似の目的で,公益のためにきちんとやろうとしているかというのを判断して,どうぞと言ってお墨付きを与えるということだと思うのですが,そういう役割を行政庁が担ってくれるなら,それはそれでと取りあえずは考えておりますけれども。 ○中辻幹事 ありがとうございました。 ○中田部会長 大体よろしいでしょうか。 乙案を支持される方が多くいらっしゃいましたが,その乙案を前提としても,委託者が明示的に排除した場合には,それを尊重するという御意見を何人かの方から頂きました。そうすると,思想的には道垣内委員の御指摘になられた意思解釈の問題とつながってくるところがあるのではないかということだろうと思います。 その上で,更に信託管理人にも申立権を与えるべきか,行政庁がどのように関与すべきか,行政庁なのか裁判所なのかというような問題点の指摘を頂き,更に乙案とは別に,むしろ信託目的の変更によって対処し得るのではないか,その場合には,終了についてどのように考えるのかということと関係してくるだろうという御指摘を頂いたかと存じます。今日頂いたような御意見を基にしまして,更に検討を進めたいと存じます。 大変申し訳ないのですけれども,時間が来てしまいましたので,「5 公益信託の変更命令」,そして「第2 公益信託と私益信託等の相互転換」については,次回に持ち越しということにさせていただきたいと存じます。 それでは,事務当局の方から,次回の議事日程等について御説明をお願いいたします。 ○中辻幹事 次回は,5月9日(火曜日)の午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省で開催します。具体的な部屋については,後日皆様に改めて御連絡いたします。 今回の部会資料40について積み残しの論点が残りましたので,次回は,部会資料40の残りの部分を御審議いただくことになります。 なお,現時点で,7月まで部会開催の予定日を皆様に確保していただいております。その中で,この場に御参集の委員幹事以外の民法及び信託法の研究者や,また,小幡委員から御指摘ありましたけれども,行政庁が公益信託の認定を行うのか認可を行うのかなどの論点について行政法の研究者を参考人として招致し,それらの参考人のお話を踏まえて今後の御審議を行っていただくことが有益ではないかと考えております。 参考人の具体的な人選は中田部会長に御一任いただければ有り難く存じますけれども,参考人の招致について,この部会で了解を頂けるようでしたら,今後,事務局の方でヒアリングの実施に向けた調整に入ります。 その際は,従前の審議日程を生かす方向で努力しますが,参考人の御都合が付かなかったような場合には日程の変更を御願いする可能性もありますので御海容いただければ幸いです。 ○中田部会長 ただ今のお話は,取りあえずは既にお示しいただいている日程の確保は引き続きしていただくということで,ただ,ひょっとしたら変更があるかもしれないということでございます。 事務当局から参考人ヒアリングの実施を含む今後の日程についての提案がありました。もちろんこの部会には民法,信託法,行政法の専門家が大勢いらっしゃるわけでございますけれども,第二読会の終わる段階で,部会の外からの御意見も伺ってみて,今後の審議の参考にするという御趣旨だと思います。 ということで,事務当局の御提案のように進めるということでよろしいでしょうか。 それでは,そのように進めることにいたします。 そのほか御意見などございますでしょうか。 ございませんようでしたら,本日の審議はこれで終了といたします。 本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-
法制審議会信託法部会第37回会議 議事録
法制審議会信託法部会 第37回会議 議事録 第1 日 時 平成29年1月17日(火) 自 午後1時29分 至 午後5時33分 第2 場 所 法務省第1会議室 第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の検討 第4 議 事 (次のとおり) 議 事 ○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第37回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。 本日は,神田委員,岡田幹事,沖野幹事,渕幹事が御欠席です。 最初に,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。前回,部回資料36「公益信託法の見直しに関する論点の検討(5)」を配布しております。また,部会資料37「公益信託法の見直しに関する論点の検討(6)」を事前に送付させていただきました。 以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたら,お申し付けください。 さて,再開後第1回となりました昨年6月の部会でも御説明しましたが,皆様のおかげをもちまして,いわゆる一読,第1読会は当初の予定どおり,おおむね本日で終えることができそうですので,来月からは第2読会に入っていくことになります。そして,二読の後,まだ確たる時期をお示しすることはできませんが,公益信託法改正の中間試案を作成し,その案をパブリックコメントにかけていくことを予定しております。取りあえずはこれまでの月1回火曜の午後に開催というペースを維持しまして,今年4月から7月までの日程を確保させていただきました。これら以降の日程につきましては,もう少し先に調整させていただきます。皆様には御多忙のところ,誠に恐縮ですが,どうぞよろしくお願いいたします。 ○中田部会長 本日は,前回,積み残しになりました部会資料36の残りの部分を御審議いただいた後,部会資料37について御審議いただく予定です。具体的には,まず部会資料36の「第4 公益信託における情報公開」を御審議いただきました後,部会資料37のうち,「第1 公益信託の終了事由等」と「第2 公益信託の終了時の処理」あるいは「第3 公益信託の変更,併合及び分割」まで御審議いただいて,区切りのよいところで適宜,休憩を入れることを予定しています。その後,部会資料37の残り部分を御審議いただきたいと思っております。 それでは,審議に入ります。まず,部会資料36の「第4 公益信託における情報公開」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○立川関係官 部会資料36の「第4 公益信託における情報公開」について御説明します。本文では,「公益信託における情報公開の内容は,公益財団法人と同等のものとする(信託と法人の相違により導入できないものを除く。)ことでどうか。」との提案をしています。公益法人制度において,情報公開の規定が整備されている趣旨は公益信託にも当てはまることなどから,法人と信託の制度間の相違により導入できないものは除くとしても,基本的には公益信託における情報公開は,公益財団法人と同等のものとするのが相当であると考えられるため,このような提案をしています。 なお,第4の論点の検討に当たりましては,公益信託及び公益財団法人における情報公開に関する規律を比較しました別表4,新たな公益信託における情報公開の内容を検討した結果を整理した別表5を参照していただければと存じます。 ○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言をお願いします。 ○川島委員 事務局から提案されております,公益信託における情報公開の内容は公益財団法人と同等のものとするということについては異存ありません。その上で2点,確認のために質問をさせていただきます。 まず,1点目は信託行為の扱いについてです。27ページ目の2番目の第2段落のところの1行目に,「公益法人における定款は,公益信託における信託行為に相当する」と記述があります。また,研究会報告書でも定款を信託行為に関する書類と読み替えるといった記述もございました。その上で別表5を見ますと,信託設定時の信託行為の内容を示す書類について,また,信託運営時の信託行為の欄について,受託者における公表義務又は行政庁等における公表義務のところが×印になっておりまして,見る前は○か△かなと思っておりました。この点について,このような扱いで提案されたという理由についてもう少し詳しく御説明いただけたらと思います。 次に,2点目でございます。研究会報告書の中で情報公開の方法に関して,インターネットを利用した情報公開を許容すべきとの意見もあったとの記載がございました。この点については,この審議会の中でどのような取扱いをされるのか,この点についても事務局の考えをお聞きしたいと思います。 ○中田部会長 以上の2点について御説明をお願いいたします。 ○中辻幹事 第1点目,信託行為について受託者の公表義務又は行政庁等の公表義務が×印となっているのは,公益法人の定款が公表されていることと均衡を欠くのではないか,という問題意識からの御質問と理解しました。まず,現在の仕組みを御説明しますと,公益信託法第4条は「公益信託ノ受託者ハ毎年一回一定ノ時期ニ於テ信託事務及財産ノ状況ヲ公告スルコトヲ要ス」と規定し,受託者に信託事務の処理とその結果としての財産状況について公告する義務を負わせていますが,その直接の対象に信託行為は含まれておりません。そして,受託者が主務官庁に対し公益信託の許可を申請する際にも,信託行為の内容を示す書類の提出義務はありますが,それを公表する義務は課されておりません。その理由として,定款と違い,信託行為には契約当事者間のプライベートな内容が条項として定められる可能性がある一方で,公益信託への社会の信頼を高めるという観点からは公益信託の事務処理や信託財産の状況が公開されることで足りるという考え方に基づくものであり,今後,これらについての情報公開がより積極的にされていくのが望ましいとしても,信託行為については一般に公開しないとする取扱いを維持する方が合理的ではないかと事務局としては考えております。ただし,全面的に信託行為の公表を×とするのでなく,例えばその一部や信託行為の内容によっては公開すべきものもあり得るのではないかという御指摘と受け止めましたので,もう少し検討を深めてまいりたいと思います。 もう1点,インターネットの活用についての御質問がございました。事務局としても,現在の情報化社会を前提とすれば,インターネットによる公益信託の情報公開は,当然あってしかるべきであると捉えておりますし,本部会の御審議の対象となるものと考えております。 ○川島委員 ありがとうございました。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ○道垣内委員 同じ点について理論的な観点から,一言,お話をしたいのですけれども,法人において定款が定められ,その定款が公表されるということは,民法34条との関係で,法人というのは定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するという形になっていることと関係しており,その範囲でしか法人というのは存在していないという形になっているからこそ,明確な定款を定め,公開しなければならないわけです。 それに対して信託においては,別に権利能力が信託行為によって制約されるというわけではありません。受託者の権限が制約されるということはありますが,権利能力が限定されるわけではなく,定款と信託行為というのは理論的にはかなり性格が違うものであることを指摘しておきたいと思います。更に言えば,信託行為というのは場合によっては書面として信託行為というふうな形として作られたもの以外というものも含めて解釈されます。法律行為に対応する概念ですから,法律行為の解釈方法として,契約書面だけで解釈されるわけではない,ということと同じです。したがって,定款とはかなり性格が違うのであって,×になっているというふうな理論的な正当化もあり得るということです。まあ,その背後には,後になって○にするといったら私は反対するということも意味しているわけですが,一言,申し上げておきたいと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○小幡委員 基本的には情報公開というのは大変重要なことですので,開いていくという,こういう方針でよろしいと思うのですが,今の信託行為もそうですが,27ページの最後に,公益法人では認定行政庁等に対する提出書類の作成等の事務が負担となっているとの指摘があることにも留意する必要があると書いてありまして,それが結果,別表5にどうつながるのかと思ってみてみましたら,基本的には提出義務のところは随分,○,というような扱いですかね。 これは結局,自ら作成して保存義務があるので,そのまま提出義務を負ってもよいという話かと思いますのが,そうすると留意する必要があるというのがどういう留意になるのかという質問です。そのような指摘があるというのは確かなのですが,それは,公益法人の中にもなかなか事務処理のための事務体制が十分できていないところもあって,そういう法人は確かに年度ごとの提出を求められると大変だという,そういうことはあるのですが,この中には,一回出せば提出義務は終わっているというタイプもたくさんありますよね。すみません,留意するというのがどういう趣旨かなということをお伺いしたいと思います。 ○中辻幹事 留意するという趣旨ですけれども,別表5に書いたものは,現在の公益信託の中で保存義務なり,行政庁への提出義務があるものですので,これを新たな公益信託でも保存義務や提出義務があることにしても問題はないと考えています。ただし,公益信託の情報公開を,信託と法人の異同に留意せず,形式的に公益法人の情報公開と横並びにしようとすると,別表5では挙げられていない公益信託に関する書類の保存,提出義務がプラスアルファで相当数出てきます。そうすると,公益信託の受託者にとって過剰な負担を強いる可能性もあることから,現在の公益法人に保存,提出義務が課されている書類について,特段の吟味なく公益信託の受託者に保存,提出義務を課すことは適切でないという趣旨でございます。 ○小幡委員 ここの部分は今でも作成保存しているものなので,それをただ提出すればよいから問題ないという,そういう趣旨ですか。 ○中辻幹事 そのとおりです。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 法務省案に基本的に賛成します。公益信託の透明性を確保して,税制優遇措置を得られるということを視野に入れるため,公益法人制度におけると同等程度の情報公開を行うという,そういう基本的な考え方に賛成します。制度の違いからくる修正を加えつつ,行っていくということに賛成します。 ○吉谷委員 法務省案におおむね賛成でありますが,その具体的な運用については少し意見を申し上げておきたいと思います。別表5にあります受託者による公表欄でございますけれども,これについては○が付いているものとすることでよろしいのではないかなと考えておるところです。それで公益法人との平仄がとれていないというわけでもないと思いますし,軽量軽装備の公益信託が公益法人よりも重い情報公開をする必要はないと考えております。また,公益法人と公益信託では元々の財産の拠出の在り方はかなり違っていると考えております。 公益信託は委託者が信託した財産を元にして,以降,運営するということであるかと思いますけれども,公益法人は寄附というものが重視されていると思います。現在の公益信託でも寄附を受けることを前提に運営しているものというのはごく少なくなっております。ですので,情報を広く公開するという意味については,公益法人ほどは高くないと考えております。ですので,寄附を受けたいという公益信託は,自主的により広く公開していけばいいのではないかと考えております。 あと,公表の方法でございますけれども,別表5の(注)のところに幾つか出ているわけですけれども,現実には○の項目を開示するのに,官報とか日刊新聞というのは費用負担が重いと考えます。ですので,ホームページによる公表か,公益信託の事務を行う事業所での備置のどちらかを公益信託の事情により,選択できるようにすればよいと思われます。行政庁による開示は,寄附による支援を受けるという観点であると仮にするならば,余り意味はないのではないかなとは考えます。積極的に宣伝したければ,ホームページというのを選択するのではないかなと考えているところです。 ○中田部会長 ありがとうございました。今の吉谷委員の御意見は,別表5の受託者における公表については,ここに○印が付されているものだけでいいではないか,それから,行政庁等における公表についても○印だけでよいと,こういう御趣旨でございましょうか。 ○吉谷委員 ○が付いているところに特に反対するという意図はないのですけれども,行政庁による公表というのがなぜ必要なのかというところの趣旨は,明らかにされた方がいいのかなとは思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 受託者にしろ,信託管理人にしろ,個人が就任することも恐らく十分あり得ると思いますので,場合によっては個人情報的なものをどこまで開示するかというのも,どう在るべきかまで意見は持ちあわせてはいませんが,検討していただいた方がよろしいかと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。別表5の中に履歴書という言葉が出てきまして,その中に,氏名,住所,略歴などがあるけれども,それについて今おっしゃった観点から検討すべきだということでございましょうか。ありがとうございました。 ほかに別表5の△のところについて御意見を頂ければと思いますが,特にございませんでしょうか。それでは,基本的な方針としては原案でよいということで,その上で若干の点について御指摘を頂きましたので,それらについて更に検討の上,進めたいと思います。 次に,部会資料37の「第1 公益信託の終了事由等」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○佐藤関係官 それでは,部会資料37「第1 公益信託の終了事由等」のうち,「1 信託法第163条各号の終了事由」について御説明いたします。本文では,「信託法第163条各号の終了事由は,原則として,公益信託の終了事由となるものとすることでどうか。」という提案をしております。受益者の定めのある信託の終了事由について定めた信託法第163条の規定は,公益信託についても原則として適用されると考えられております。補足説明に記載のとおり,適用が問題となり得る終了事由もありますけれども,新たな公益信託においても信託法第163条各号の終了事由は,原則として公益信託の終了事由となるものとすることが相当であると考えられ,このような提案をしております。 続いて,第1の「2 公益信託の存続期間」について御説明いたします。本文では,「公益信託の存続期間については,期間制限を設けないものとする(公益信託法第2条第2項の規律を維持する)ことでどうか。」という提案をしております。公益信託法第2条第2項は,公益信託の存続期間については,目的信託の存続期間は20年を超えることができないと定めた信託法第259条の規定を適用しない旨規定しておりますけれども,新たな公益信託においても目的信託に関して存続期間を20年間に制限する信託法第259条の趣旨は,公益信託には妥当しないと考えられることから,このような提案をしております。 第1の「3 公益信託の認定の取消しによる終了」について御説明いたします。本文では,公益信託の認定を取り消された信託について,甲案として「当該信託は終了するものとする。」,乙案として「当該信託が目的信託の要件を満たすときは,目的信託として存続し,目的信託の要件を満たさないときは,当該信託自体が終了するものとする。」という提案をしております。 まず,公益信託と公益信託以外の目的信託の関係について,両者が横並びの並列的な関係にあると整理した場合,一旦成立した公益信託がその後に認定を取り消された場合には,それを公益信託以外の目的信託として存続させる必要はないと考えられ,法律関係の簡明化という観点からも当該信託は終了させるべきであるとの考え方があり得ることから,これを甲案として提案しております。 これに対し,公益信託は公益信託以外の目的信託と縦並びの2階建ての構造にあると整理すると,一旦成立した公益信託がその後に認定を取り消された場合には,当該信託が公益信託以外の目的信託の要件を満たすときは,公益信託以外の目的信託として存続するものとし,公益信託以外の目的信託の要件を満たさないときに,当該信託は終了させるべきであるとの考え方があり得ることから,これを乙案として提案しております。 第1の「4 委託者,受託者又は信託管理人の合意等による終了の可否」について御説明いたします。本文では,「公益信託の委託者,受託者又は信託管理人その他の第三者による合意又は単独の意思表示によって公益信託を終了することはできないものとすることでどうか。」という提案をしております。公益に寄与するために存在する公益信託が,委託者及び受託者等の合意等により,いつでも終了させることになることは相当ではなく,公益信託の運営の継続性,安定性及び確実性を確保することなどから,このような提案をしております。 第1の「5 信託管理人が就任しない状態の継続による終了」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人が欠けた場合であって,信託管理人が就任しない状態が1年間継続したときは,当該信託は終了するものとすることでどうか。」という提案をしております。新たな公益信託制度においては,信託管理人を必置とし,その権限行使を通じて,受託者の信託事務遂行の適正を図ることが望ましいと考えられます。そのような信託管理人の役割の重要性からすれば,信託管理人が欠けた状態が1年間継続した場合を当該信託の終了事由とした信託法第258条第8項の趣旨は,全ての公益信託に妥当するものと考えられることから,このような提案をしております。 第1の「6 公益信託の終了命令」について御説明いたします。(1)の本文では,公益信託における信託法第165条第1項の権限,すなわち,公益信託の信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当となるに至ったことが明らかであるときに信託の終了を命ずる権限は,甲案として「公益信託の認定・監督を行う行政庁等が有するものとする。」,乙案として「裁判所が有するものとする。」という提案をしております。 公益信託法第8条本文は,公益信託における信託法第165条第1項の権限が主務官庁に属するものとしております。新たな公益信託においても,特別の事情により公益信託を終了することが信託の目的等に照らして相当であるか否かは,公益信託の認定及び監督を行う行政庁等の判断に委ねるべきであるとの考え方があり得ることから,これを甲案として提示しております。これに対し,特別の事情により公益信託を終了することが信託の目的に照らして相当であるか否かは,裁判所にも判断することが可能であるとして,信託法第165条と同様に,終了命令の判断主体としては,裁判所が適当であるという考え方もあり得ることから,これを乙案として提示しております。 次に,(2)の本文では,上記(1)の公益信託の終了命令の申立てを行う者は,甲案として「受託者又は信託管理人とする。」,乙案として「委託者,受託者又は信託管理人とする。」という提案をしております。 委託者については,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだけ排除することが望ましいとの観点から,委託者を終了命令の申立権者とすべきではないと考えられることから,これを甲案として提案しております。これに対し,委託者も信託財産を拠出したものとして,その信託の行く末に大きな関心を持っている場合が多いことなどから,委託者についても信託の終了命令の申立権者とすべきであるとの考え方もあり得,これを乙案として提案しております。なお,いずれの案もデフォルトルールとして御提案させていただいているところでございまして,信託行為による委託者の権限の増減は認められることを想定しております。 以上の点について御審議いただければと存じます。 ○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。1から6までございますので,便宜,半分ずつに区切って御審議いただこうと思います。まず,1から3までについて御発言をお願いいたします。 ○小野委員 まず,1について,信託法163条8号,破産法53条1項の適用関係ですけれども,せっかく公益信託ということで信託を設定したにもかかわらず,僅かな委託者の義務を見付けて双方未履行双務契約ということで解約されその有効性が争われる等,紛争状態になることは望ましくないと思います。とはいっても,それは解釈論であるという議論かと思うんですけれども,補足説明の中で委託者の義務として残っているものは,引渡し未了の財産という記述がありますが,そのほかに委託者が受託者の報酬や費用を払うとか,そういうこともあり得るかと思います。そういう場合に解釈論とは言いながらも,公益信託自体が破産法53条1項の適用があるというのは望ましくはないのではないかと思っております。 あまりあり得ないのではないかというのが全体的な記述なものですから,必ずしもそうではないし,恐らく管財人になった方は財団を少しでも増殖させようとして,僅かな義務を見いだすという行為が行われると思うので,それについては十分,留意をしていただきたいと考えております。 ○中田部会長 そうしますと,小野委員は。 ○小野委員 本日の後の方の論点として取り上げられているように,公益信託と法律上名乗ることを要請され,公益のために行うわけですから,それが私益信託と同様に安易に信託法163条8号,破産法53条1項の適用があると論じることには疑問を感じます。では,どうすればいいかについて明確な考え方は現在持ち合わせていませんけれども,全体的に記述がそんなに心配は要らないのではないかというふうな感じで書かれているのがちょっと心配に感じての発言でございます。適用があるべきではないという方向で議論していただければと考えております。 ○能見委員 今の破産法の関係ですが,結論としてはわざわざ条文を変えたりしないで,解釈論でいいのだと思いますけれども,そもそもどの程度信託法163条8号で信託が終了することがあるのか,実は疑問があります。余りここで一般論をしてもしようがないのかもしれませんが,信託の場合に委託者の義務と双務的な対価的な関係にあるのは何かというのが余りはっきりしません。私の理解では委託者の最初の信託財産の拠出にしても,追加信託で財産を拠出する義務にしても,これに対する対価的関係にある受託者の義務というのは,公益信託の場合にはないのではないかという感じがするのです。 受託者が信託目的に従って信託財産を管理しなければならない義務というのは,むしろ,信託報酬と対価的な関係になっているのであって,信託財産の拠出と対価的な関係になっているわけではないと思います。ただ,私益信託の場合には受益者がいますので,対価的な関係を認めるとすれば,受託者が受益者に給付する義務と,委託者の給付義務が対価的な関係になっているのだと思います。これに対して,公益信託の場合には受益者がいないので,どこに対価的な関係が生じるのか,明らかでありません。報酬と受託者の信託事務遂行義務とは対価的な関係になりますけれども,それ以外は基本的には対価的・双務的な関係は本当は生じないと思うので,公益信託の場合には,この条文は削除してもいいかとは思うのですが,余りはっきりしないところもありますので,8号も残した上で解釈論で対応するというので,結論としてはいいと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○新井委員 全体としては信託法163条各号の終了事由を公益信託の終了事由とするという,この提案に賛成です。その上で2号について少し意見があります。というのは,2ページの説明を読みますと,「したがって」というところから始まるパラグラフです。新たな公益信託についても163条第2号の適用はされないものと解釈すべきであると述べた上で,ただ,目的信託に163条2号が適用されないことは解釈に委ねられているにもかかわらず,公益信託にのみ同号を適用除外とする規律を設けることは,目的信託の場合との均衡を欠き,妥当ではないと考えられるという説明があるのですが,ここの説明は工夫を要するのではないでしょうか。 どういうことかというと,ここで挙がっている例は,例えば受託者が受益権者を1年間,選定しなかったという例が挙がっています。しかし,もっと端的に受託者は受給権者を選定したけれども,本来,受益権者に給付すべき金銭なり,奨学金なりを受託者が手元に留保して,それが1年以上続いたということも考えられるわけです。そうすると,これは直接的に受益権を受託者が留保していたということで,極めて利益状況が類似するということがあるので,この説明は少し工夫を要するかなという気がします。 ○中田部会長 ほかに。 ○道垣内委員 同じく信託法163条第2号についてなんですが,これは立法の技術との関係がすごく密接なところがあって,仮に公益信託というのを単行法にするとしても,信託法163条を準用するという形になるのならば,あえて2号を抜いて解釈論としてあり得ないわけではない考え方を潰すという必要はないだろうと思います。しかしながら,仮に公益信託法というのを新たに書き起こす,基本的に全部,書き起こすという立法態度をとった場合には,2号と同様の規定を入れると,それは,公益信託においても受益権というものの存在を前提にしているということにならざるを得ないと思います。そのような見解があるということも重々,承知しているわけですけれども,私は必ずしもそれには賛成でありません。そうしますと,準用するということに対しては,何ら私に異存はないのですけれども,書き起こすのならば2号を入れるということには反対です。 ○中田部会長 ただいま立法のスタイルについて出ましたけれども,まだ,確定はしていないと思いますが,もし今の段階で何かございましたら。 ○中辻幹事 事務局としては,今のところ,新たな公益信託についても信託法の規定が原則として準用されると,そして,そのことを踏まえた上で,新たな公益信託について信託法の規定と異なる特則を設ける場合には,公益信託法の中に何らかの規定を設けるという立法のスタイルを想定しております。道垣内委員の御懸念はよく分かりましたので,注意して今後の作業を進めてまいりたいと思います。 ○中田部会長 今,準用とおっしゃいましたけれども,適用ではなくて準用ですか。 ○中辻幹事 適用の可能性は十分あると思います。わざわざ準用と言いますと,準用規定を公益信託法の中に設けなくてはいけないので,公益信託法の中には準用規定を設けずに,信託法の規定をそのまま新たな公益信託に適用するという考え方は十分あり得ると思いますし,むしろ事務局としては準用よりは適用の方向で考えております。失礼しました。 ○道垣内委員 私が準用と申しましたのも,深い意味があって申したわけではございませんので,確認までに一言,申します。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○吉谷委員 終了事由につきましては提案に賛成でございます。1点だけ先ほどの小野委員の御発言で気になったところが,委託者が報酬を支払うところなんですけれども,委託者が報酬を支払うということを公益信託で認めると,どうしても委託者の影響力が受託者に対して強く働くので,そういうものを認めてしまっていいのかなというところの疑問を少し感じました。ですので,それを前提として議論をされるのがいいのかどうかというところについて疑問を呈させていただきます。 ○平川委員 第1の1の終了事由につきまして,私どもは第2号については解釈論で適用されないのだからというのではなく,適用除外とはっきりとその部分を明確に規定するべきだと考えます。法務省補足説明の2の(1)では,信託法163条第2号は新たな公益信託についても適用されないと解釈すべきだが,これを明文化する必要はないとの理由付けとして,目的信託に信託法第163条2号が適用されないことは解釈に委ねられているにもかかわらず,公益信託にのみ同号を適用除外とする規律を設けるということは,目的信託との場合との均衡を欠き,妥当ではないという理由なんですけれども,しかし,現在まで実例のない目的信託と,既に多くの活用例があり,かつ,改正後更に普及が期待される公益信託を同列に置き,解釈論で補うという考え方には違和感がございます。多くの国民が関係し得る公益信託について誤解が生じないよう解釈ではなく,明確に規定すべきであると考えます。 また,信託法163条9号に信託行為において定めた事由が生じたときという終了事由がございますが,果たして公益信託の終了原因として,そのまま適切なのかどうか,当事者が定めれば何でもありなのか,一定の縛りが必要なのではないかという議論が,考察が必要なのではないか,法務省のお考えや,また,法制審各委員の御意見も伺いたいところです。 これで1と2と3を一緒に言ってしまっていいんですか。 ○中田部会長 結構です。 ○平川委員 1の2につきまして,公益信託の存続期間ですけれども,期間制限を設けないものとするという御提案に賛成します。英米においても公益信託は,ルールアゲインストパーペチュティの適用除外とされていると理解しております。 1の3の公益信託の認定の取消しによる終了ですけれども,甲案に賛成します。すなわち,信託は終了するものとすると。公益信託を設定する前に目的信託を前置するということに対しては,信託関係が複雑化することから反対の立場をとっておるところですが,公益信託と目的信託は並列的関係に立つと整理することから,公益信託が終了した場合には目的信託として残存することはあり得ないという立場をとるものです。また,公益法人制度におきまして,一般法人と公益法人の2階建てとしたことから,各種の法律関係において複雑化,煩雑化を招いておりまして,安易に同様の制度とするべきではないと考えます。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 2と3のそれぞれについて一言ずつ。 2につきましては期間制限を設けないものとするということ,それ自体は当然のことかと思うんですけれども,後の相互転換の議論との関連で,そっちの議論を今,するわけではないんですが,目的信託への転換を認めるという前提に立った場合には,そのときから20年というようなデフォルトルールとでもいうのでしょうか,公益信託契約中に明文に書かれなくても,デフォルトルールとして,そう理解していいのかというところが,相互転換のところの議論かもしれませんけれども,関連するのではないかと思います。 3についてなんですけれども,当事者が争った場合,行政処分なものですから,処分が取消されるまで,執行停止にならない限りは,有効な処分として存続するので,そうすると,当事者が争っているのに甲案で終了する,また,乙案でも目的信託に移行してしまうということであるとすると,割り切れないところがございます。当事者が争って最終的に裁判で勝つかもしれません。そのときにも公益信託は終了してしまっているということになるのか,その辺をどう考えるのか,教えていただきたいと思います。 それと,乙案の場合,乙案がふさわしいと私は思うんですけれども,これまでの審議でも目的信託というものを二つか,三つか,分かりませんけれども,少なくとも異なる幾つかの分類があり得るのではないかと議論されたと思います。例えば,公益信託の要件は満たしているけれども,認定はとらないような公益目的信託また特定の高校の学生や卒業生に対する奨学金の公益性に関する議論が以前ありましたけれども,公益性について見解が分かれるということもあるかと思います。その他,準公益的信託,準公益的目的信託とか,そういうのもあるかと思います。ですから,既存の目的信託というと,特に要件のところで純資産が5,000万円を超える法人の要件とかの問題がありますけれども,そういう違う形の目的信託として残るという選択肢もあり得るのではないかと思います。もちろん,そうではなくて単純に目的信託として残るといってもいいんですけれども,その場合,要件のところで残ることが難しくなる可能性もあるのではないかと思います。 ○能見委員 3についてだけ取りあえず発言したいと思います。今の小野委員とほぼ同じことになるのだろうと思いますけれども,これまでの議論において,目的信託の形をとりつつ,実際上,公益的な活動をすることは認められると,それから,認定を受けようと思えば公益信託になり得るけれども,認定を受けないで目的信託のまま,公益活動をするというのも認められるという前提で考えてきたのではないかと思います。そうすると,目的信託と公益信託というのが並列なのか,直列で2階建てなのかというのは,そう簡単には言えないことで,むしろ,目的信託の方が非常に広い範囲で存在しうるものであって,その一部については公益信託とは大分違うのでそれと並列的な関係になるのかもしれませんが,公益的な活動をするような目的信託については,両者は2階建ての関係になると見ることもできます。要するに,並列か,そうでないかというのは比喩的な表現なので,余りそれによって結論が決まるというような形で議論はすべきではないのではないかと思います。 実質的に考えた場合に,先ほどの繰り返しですけれども,目的信託でもって公益活動ができるのであれば,公益信託の認定が取り消されて,いろいろな理由で取り消されることがあるとしても,一番厳しい場合としては公益性が結局認められないという理由で取り消される場合も含めてですが,その場合でも,もともと目的信託のままでも公益的な活動はできるわけですから,公益信託が取り消された場合も,目的信託として存続させることは十分考えられる。そういう意味では,ここでは甲案ではなくて乙案の方がよろしいのではないかと思います。 ○深山委員 まず,1の終了事由については既にいろいろ御意見がありますが,結論としては2号を除いて各号を終了事由にするということに賛成したいと思います。9号について平川委員から問題提起がございました。信託行為に定める終了事由というものを残すかどうかで,結論は今,申し上げたように残していいと私は思います。ここは公益信託という制度の基本的な考え方に結び付く問題だと思うんですが,私は委託者を中心とした当該公益信託を創設しようとする信託当事者の意思というものをそれなりに尊重すべきだろうと思います。 これはいろいろな場面で出てくるわけですけれども,その一つの場面として,終了事由を法定の事由以外に当該公益信託にとって必要な事由として当事者が定めたのであれば,それはそれで基本的には尊重してしかるべきだろうと思います。もちろん,公益信託にふさわしくないような終了事由を仮に定めていたということになれば,認定のところでチェックがかかって,そういう終了事由を含む公益信託であれば,認定しないというような判断もあり得るとは思いますが,基本は自由な意思で自由な設計を許すということからスタートすべきだという意味で,そこはそのままでいいだろうと思います。 2のところは,期間については特段の意見はありません。提案どおりでいいと思います。 3については,既に出た能見委員等の意見と共通しますが,いろいろな自由な設計といいますか,バリエーションを増やす,メニューを増やすという観点からは,常に終了しかないというよりは乙案を検討してもいいのかなとは思います。ただ,これも当事者の意思が公益信託が取り消されたら,それ以上,やる気がないというのであれば,その意思は尊重すべきですし,逆に公益認定が取り消されても目的信託として公益的なことをしたいという意思があり,なおかつ,法定の要件を満たすのであれば,残り得るというような道を残す意味で,乙案というのも検討してもいいのではないかと考えます。 ○林幹事 まず,1については基本的には法務省の御提案に賛成ですが,1点,確認です。信託法166条については当然,終了事由になるという理解なのですが,問題意識としては,公益認定の取消しと近いというか,場合によっては重なるとも考えられるからですが,今の御提案のままだとこのまま166条も残るというのでよいでしょうか。公益信託法8条の関係では,現行法でも裁判所の権限によるものなので,そういうものとして今後も残るという前提において議論されているのだと思いましたが,その点,確認させてください。 それから,2については特に私も賛成です。 3についてですが,先生方と重なる部分もあるのですが,確かに甲案でもよいという考えもあるだろうとは思うのですが,バリエーションを広くするために,今の時点では乙案に賛成しますし,まだ,乙案も残して検討していくべきと思っています。ただ,ここで問題は,目的信託の要件を満たせば存続するというのはそのとおりですが,現行法の目的信託では,受託者には信託法附則3項の問題があってハードルが高いことから,目的信託の要件を満たさない場合には,事実上,存続が難しいことになると思いますから,乙案の立場に立って,目的信託の要件等について,なお,改めて検討すべきと考えます。 ○中田部会長 今,166条とおっしゃいましたのは,公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判についてでございますか。 ○林幹事 そうです。 ○中辻幹事 信託法166条については,新たな公益信託についてもそのまま適用され,裁判所が公益の確保のために公益信託の終了を命ずる裁判を行うことはできる,すなわち,現在の公益信託法8条により裁判所の権限とされている公益確保のための終了命令の権限が新たな公益信託においても裁判所の権限とされることを事務局としては前提としております。 もう1点,目的信託の要件のお話が何度か出ておりました。信託法附則3項の存在により,政令で定める法人以外の者を受託者とすることはできないとされ,政令で純資産額を5,000万を超えるなどの要件を見たしていなければ,流動化スキームの構築などを目的とする目的信託の受託者になることはできないとされているわけですが,附則3項には「受益者の定めのない信託(学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的とするものを除く。)」と書かれていますので,附則3項の対象からは,公益を目的とする信託はすべて除外されているということになります。そうしますと,仮に公益信託法2条1項を廃止し,公益を目的とする目的信託,あるいは公益を目的とする受益者の定めのある信託を有効とする場合でも,それらに5,000万円の受託者要件が適用されることにはなりません。それとは別に,公益を目的とするが公益信託としての認定を受けていない目的信託や私益信託に何らかの受託者要件が必要か否か,仮に必要であるとするならばどのような要件を設けるべきかという整理で,現在事務局としては検討を進めているということを付け加えさせていただきます。 ○山田委員 意見としては,これまで出ているものに対して新味はないのですが,申し上げておきたいと思いましたので発言させていただきます。3について,公益信託の認定の取消しによる終了でございます。これは私は乙案を強く支持したいと思います。信託という法律関係が維持されると,すなわち,委託者から受託者に対して財産が移転し,受託者の下で信託目的に従って財産の管理・処分が行われることになります。そして,受託者の下では受託者の倒産から隔離されていることになります。そういう法律関係,これが信託の私は基本だろうと思うのですが,これは公益信託の認定が取り消されても維持されるのが原則であるべきだろうと思います。ただ,例外として信託行為の中に,信託行為が取り消された場合には信託を終了するというような旨が定められているようなことがありましたら,それは尊重してもよいのではないかなと思うのですが,そこは十分に詰めて考えておりませんので,原則として申し上げた通り,乙案を是非,実現していただきたいと思います。 そして,6でございますが,公益信託の終了命令であります。 ○中田部会長 すみません,6は後ほど。 ○山田委員 そうですか。これはまだ入っていませんか。 ○中田部会長 1から3まで。 ○山田委員 失礼しました。では,3についてのみの発言とさせていただきます。 ○新井委員 3について私は甲案を支持したいと思います。現行法では,公益信託は目的信託の一類型とされています。つまり,公益信託と目的信託というのは連続性があるという,そういう立て付けになっているわけです。しかし,私の意見では公益信託と目的信託というのは連続性はないと考えています。公益信託というのは委託者が自らの財産を公益のために出えんするというのであるのに対して,目的信託の場合の現行法の規定では,委託者が非常に強大な権限を持っているわけです。ですから,それを公益信託との連続性で捉えるということは,私は賛成できません。ですから,私は甲案を強く支持したいと思います。 ○中田部会長 1から3についてほかに。 ○吉谷委員 まず,2ですけれども,公益信託の存続期間については期間制限を設けないという提案に賛成いたします。現在でも期間制限というのは設けられておりませんで,ほぼ期限のない公益信託ばかりであると考えていただいてよろしいのではないかと思われますので,それを維持するべきであると考えます。期限を設けてはいけないのかというと,期限を設けるというニーズもあるかもしれないと思っておりまして,例えば東京オリンピックのために信託を設定すると,オリンピックが終わって1年後には終了するというような定め方もあっていいのではないかと思われます。そうしますと,信託法163条9号についてはなければ困るということにはなると思います。ただ,何でも定めていいかというと,それはまた違う問題なんだろうなと思いますし,それは認定の判断のところでなされればいいのではないかと考えます。 次に,3番でございますけれども,公益認定の取消しの場合には甲案の信託は終了するを支持いたします。大きく二つ理由があります。一つは公益信託の財産というのは,公益のために用いられるべきものであるということ,そして,もう1点は税制との関係です。公益信託の委託者は,公益目的のために利用されることを前提に金銭を出捐するわけであります。この委託者の意思は尊重されるべきであって,一旦,公益のために出えんされた金銭が公益目的以外のために利用されることは,制度設計としては問題があると考えます。しかし,公益信託が目的信託に変わるということを許してしまうと,公益信託の規律はその後はもはや適用されないわけでありまして,行政庁の監督の対象外でもありますし,信託目的を公益以外のものに変更することも可能となると思います。そのため,公益認定を取り消された公益信託を目的信託として存続することは適切でないと考えます。 新しい公益信託は,信託財産が委託者の支配から切り離されて,委託者など公益とは無関係の主体を帰属権利者とはできないということを前提にすると考えておりますけれども,そのような前提で会計や税務上も委託者から切り離されるというものであると考えております。公益信託から目的信託への転換を認めるのであれば,公益目的で拠出された財産というのは目的信託に帰属しないような仕組みが必要になると思います。公益法人でも同じような仕組みがあると思います。しかし,公益信託では公益目的以外の目的で財産を拠出するということは余り前提とされていないと思います。すると,目的信託に帰属する財産も存在しないということになりますので,このようなニーズはそもそもないのではないかと思います。 税制との関係でいいますと,公益信託から目的信託への転換を認めると,公益信託財産が私益のために利用される道も開かれる,ということになりますと,税の優遇であるとか,公益認定と税の認定の一体化という観点でも,実現できるかということに懸念を持っております。新しい公益信託では,信託財産の公益信託事務の範囲の拡大など,従来の公益信託になかった要素が様々取り入れられているところですので,これに加えて私益の利用の道を残すということになりますと,税制優遇が措置されるハードルが更に高くなるのではないかと懸念しているというところです。 1点,質問がございます。取消事由として公益法人の場合ですと,認定法29条1項4号ので取消しの申請というのがあると思うんです。それと同様に,信託においても受託者又は信託管理人から,公益認定の取消しの申請の取消しがあったということを取消事由とすることがあるのでしょうか,というのが疑問です。仮に乙案を採るのならば,受託者や信託管理人が目的信託への転換をしたいがために,認定取消しを申請するというようなことも出てきかねないと思っておりまして,そういうことは適切ではないと考えます。もし,また甲案であれば後で出てきます終了命令との関係というのが問題になって,制度としては一体的にした方がいいのではないかなと考えて質問させていただきます。 ○中辻幹事 先ほど山田委員が終了命令についても御発言されようとしたこととも関連すると思うのですが,公益信託の認定の取消しによる公益信託の終了の論点は,信託法165条の公益信託の終了命令の論点と関連するので,その関係を整理しておく必要がございます。 一つの考え方は,信託法165条の受託者等からの申立てを受けて裁判所が行う特別の事情による信託の終了命令の裁判の規定は,公益信託にも適用されるとするものです。特に,新たな公益信託において信託法165条の申立先を認定行政庁等とする場合には,公益法人認定法には信託法165条のような規定がないことから,公益法人認定法29条1項4号は,公益法人から認定取消しの申請があったことを公益認定の取消事由としているが,公益信託の受託者は信託法165条による公益信託の終了ができることになるので,公益信託の受託者から認定取消しの申請があったことを公益信託の取消事由とする必要はないという整理があり得ると思います。 それとは別に,公益信託の受託者が特別の事情により信託を終了する必要がある場合に信託法165条による公益信託の終了ルートが存在するとしても,受託者からの申立てを受けた認定行政庁等による認定取消しのルートは別途併存させておいて差し支えないという整理も,特に第1の3の論点で乙案を採るのであれば,あり得ると思います。ただし,その場合にも,認定行政庁等による認定取消事由をどのように定めるのかが問題となり,信託法165条が信託設定時に予見することのできなかった特別の事情を要求して終了事由を限定しているのと同様に,認定行政庁等による認定取消事由を限定するならば,例えば受託者が公益信託を目的信託に変えたいという理由のみで認定取消しの申請をしてもそれだけは公益信託の認定取消しは認められないことになると考えます。 ○中田部会長 1から3については。 ○山本委員 今の3の点についてなのですが,先ほどの議論の中でも少し顔を出していたことですけれども,甲案,乙案のそれぞれについて,これが強行的なルールとして提案されているのか,任意法規的なルールとして提案されているのかという問題があるように思います。新井委員や吉谷委員の甲案の御主張は,これを強行的なルールとして想定すべきであるというものだったと思いますが,甲案であっても,論理的には少なくとも任意法規的なルールとして提案するという可能性もあり,そうなりますと,乙案との違いは相対的なものになる可能性もありそうです。この辺りは部会資料には明示されていなかったと思うのですが,そのような問題があることがわかってきたように思うのですけれども,この点はいかがなのでしょうか。 ○中辻幹事 事務局としてこの部会資料を作っている段階では,任意規定というよりは強行規定と考えて作っておりました。ただ,いろいろ御指摘いただきましたので,それを踏まえてまた考えていこうと思います。 ○長谷川幹事 3につきまして,後ほどご議論が予定されている終了時の処理のところにも関わるかと思いますけれども,私も税の観点から,仮に乙案としたときに現行の税制上の優遇が受け入れられにくくなるということであるとすると,慎重に考えた方がよいのではないかと考えている次第でございます。 ○道垣内委員 吉谷委員がおっしゃったことはほぼ理解できたのですが,1点だけ分からなかったのでお伺いします。つまり,公益信託において公益目的に給付することが求められているところ,目的信託に拠出することはできないはずであるということをおっしゃいましたか。 ○吉谷委員 私の理解では,公益法人から一般法人になるときには,公益目的で出えんされていた財産について一般法人にある程度は入れないという仕組みがあると理解しておりまして,もし,それが間違っていれば教えていただきたいんですけれども,公益信託の場合ですと,元々,委託者が信託する財産というのは全て公益目的で使うということが前提になっていると思いましたので,それを目的信託にするということは,目的信託にいく財産と国や地方体などに帰属させてしまう財産とより分けるんだろうなと考えました。それが税の考え方とも整合するのだろうというふうな理解だったんですが。 ○道垣内委員 税との関係ということについては,吉谷委員のおっしゃることはよく分かるのですけれども,一般法人と公益法人の場合はともかく,例えばある信託銀行が公益信託の受託者となっているというときに,その信託自体が目的信託に変容するということになる際,そこにおいて財産の移転があるとは思えないものですから,おっしゃっていることの趣旨がよく分かりませんでした。公益法人法制と平仄を合わせ,そこにおける公益認定の仕組みないしは考え方というのを参考にして考えると,そうなるということであるならば話は分かります。ただ,拠出というか,移転がないというのが多分,乙案の前提でしょうから,余りそこを重んずる必要はないのではないかという気が致しました。 ○中田部会長 1から3については。 ○平川委員 公益法人の場合は,公益認定を取り消された場合には一般法人になりますけれども,その場合には1か月以内に公益目的残余財産を他の同類の公益法人や地方公共団体に寄附しなければならないという縛りがあるので,多分,こういう公益信託の認定が取り消されて目的信託になるという法制になった場合には,同じような縛りが入ってきて,公益信託で使っていた財産は,公益目的に全部,拠出してなくしてしまわなければならないというような規制になるのだろうと想定され,そうなると複雑・煩雑化して,公益信託にすることがディスカレッジされていくようなことにならないか,というのが懸念されると思います。 ○道垣内委員 今の議論のよく分からないんですが,今,平川委員がおっしゃったように,公益信託のために拠出された財産を全部,ほかの公益信託に移すと財産がなくなりますから,目的信託に変わるわけがないですよね,財産がないのですから。ですから,乙案を採るということの前提として,残余財産を他の公益信託等に移さなければならないとはしないということになっているわけですので,どうも議論がその点はかみ合っていないような気がするんですが。 ○平川委員 微々たるものが残っている……。 ○道垣内委員 それは公益目的の財産のはずですから,微々たるものが残っても駄目だと思います。 ○中田部会長 まだ,続くと思うんですけれども,そろそろ,次のところにも進みたいと思います。 ○吉谷委員 私が最初に公益目的で委託者が出した財産は,公益目的に使われるべきだと。なので,目的信託になった後に目的がどんどん変容してしまう可能性があるので,それは目的信託に変わるべきではないと申し上げました。今の道垣内委員の御指摘のところを受けると,仮に目的信託になるんだとしたら,その後,縛りの強い目的信託というのと現行の目的信託というのと2種類を作らないと,元々の委託者の公益目的をずっと維持するということが難しくなるのではないかなとも思っていまして,どんどん,仕組みを複雑化していくのではないかということを懸念するところだったんです。 ○中田部会長 御議論があると思うんですけれども,後ほど転換のところで,また,この論点が出てくると思います。それから,先ほど山田委員が言及しようとされました6の終了命令とも関係してくるところでございますので,先に進ませていただきたいと思います。 今,1から3までについては,1については2号と8号と9号について御意見を頂きまして,それを踏まえて更に検討ということになろうかと思います。2についてはこれでよいという御意見であり,転換との関係についての御指摘がありましたけれども,基本はこれでよいということと承りました。3については両論があるということで,更に御検討いただくということになろうかと思います。 それでは,4から6について御意見をお願いいたします。 ○深山委員 取りあえず4についてまず意見を申し上げたいと思います。提案では,信託関係者等の合意による終了を一切できないという割り切り方を提案しておりますが,先ほどの私の発言とも関連するんですが,多くの場合,信託契約で信託が作られるときに,契約当事者全員が何らかの理由でやめようというときにやめられないというのは,契約としてはかなりイレギュラーな話だろうと思います。 そういう意味で,一切,その道を封ずるというのは少し行き過ぎで,委託者,受託者,信託管理人ぐらいでいいと思うんですけれども,委託者が存在する場合には,その三者の合意で終了を認め,ただ,この考え方の背景として恣意的な終了というものは好ましくないという価値判断があると思うので,それにプラスして,三者の合意による終了を行政庁等になるのかなとは思いますが,認可等のお墨付きを与えるということを要件に加えて終了を認めるという,そのような道を認めるべきではないかと考えます。その意味で,提案そのものには反対して,行政庁等の関与を含めて認めるような方向を検討すべきではないかと考えます。 ○小野委員 結論においては深山委員と同じなんですけれども,理由付けのところを,1,2点,追加いたしますと,これまでは給付型でしたけれども,今後は事業型の公益信託を期待しているわけですが,そうすると,事業の成り行きというものがあると思うので,今までとは状況が違うのではないかと思います。したがって当事者の意思ではそもそも終了できないということは問題があるように思います。それから,もう1点は公益法人制度との比較なんですけれども,公益法人制度の場合でも終了することは大変かもしれませんけれども,それでも財団を終了することは可能なので,そういう観点からも一定の枠組みとか制約は必要だと思いますけれども,終了できないというような規律を設けることには反対です。 ○吉谷委員 4番につきましては,合意では終了することができないという提案に賛成いたします。信託が終了してしまいますと,公益目的で財産を使うという当初の公益目的に使われることは期待できないわけでありますので,信託目的のために利用できる間は,当事者によって公益信託は継続されるべきであって,当事者の合意で終了されるべきではないと思います。目的達成あるいは不達成で終了ということがあるわけですけれども,恐らく当事者間で目的が不達成になったということに自信がないとかいうときには,合意で終了ということにしようかということが考えられるわけですけれども,自信がないのであれば行政庁によってチェックしていただくというのがよろしいのではないかと思います。 ○平川委員 4につきましては,合意によって終了することができないという提案に賛成します。英米においても公益信託の信託契約は,取消不能であるということが公益性を担保するものとして,その要件となっているものと理解しておりますし,ただ,先ほどの信託法163条の終了事由の9号で,信託行為において定めた事由が生じたときとありますが,例えばここで期間を定めるとか,そういうことは可能なのではないかと思いますけれども,任意に合意で解除できるということには反対します。 5につきましては,信託管理人が就任しない状態が継続することによる終了ですが,終了事由ではなく,認定取消事由とすべきであると考えます。ただし,不在期間は1年以上と限定せず,行政庁の判断に委ねられてよいと考えます。その理由は,公益信託においては信託管理人を必置機関と考えますし,その存在及び資格要件は公益信託認定基準の一つであり,信託管理人の不存在は重要な基準違反であると考えます。したがって,不在期間の長短にかかわらず,その不在は取消原因となる状況にあると考えるものですが,やむを得ない事情により一時的に不在となったけれども,早期に回復が可能な場合も想定されますので,それらの状況を行政庁が判断し,公益認定取消しをするということが妥当と思われます。 なお,新たな公益信託では公益法人同様,行政庁へ各種報告の提出義務が課せられるということになると思いますので,行政庁は信託管理人の不存在についても知り得る立場にあります。また,公益法人制度においては監事の不存在は一般法人法違反として,行政庁にある公益認定の任意的取消事由となっていることに鑑みますと,公益信託の場合に直ちに絶対的な終了事由とすることは,信託関係人に混乱と過大な負担を与えると思われます。また,前任の信託管理人の恣意的な辞任等により,公益信託の終了を招くおそれもあると思います。 6につきましては,甲案に賛成します。その理由は,公益信託の認定及び監督を行う行政庁等が事情を一番よく知っていると思われることから,行政庁が公益信託の終了命令を発するのが妥当であると考えます。行政庁等は認定要件につき,監督する立場にありますので,かかる行政権に基づいて信託終了を命ずる権限を有することは,適切な行政手続の分配にかなっていると考えます。 ○中田部会長 6の(2)についても御意見を。 ○平川委員 6の(2)は甲案に賛成します。その理由は,委託者は財産の拠出設定等後は公益信託に対し,影響を持つべきではないと考えますので乙案には反対します。 ○中田部会長 ほかに。 ○能見委員 4と6について意見を述べたいと思いますが,4は悩ましいところで,私もこれがベストだという意見は必ずしもないのですけれども,少なくとも結論としては委託者と受託者と,そしてプラス,信託管理人の3人の合意があれば,終了させることができるというのならいいのかなと感じています。その理由としては,一つは委託者と受託者が合意するという部分は,両者は信託行為の当事者であり,事前に信託行為のところでいろいろな終了事由が書ける立場にある。もちろん,公益信託の場合にはどんな終了事由でもいいというわけではありませんけれども,しかし,一般的には終了事由を信託行為で書こうと思えばできる立場にある,そういう者の合意がそこにある。ただ,公益信託として許容されるような状況下での終了であることが必要なので,両者の合意だけで簡単に事後的に終了させるというのは軽すぎるかもしれないので,信託管理人も加えて3者が合意するのであれば,終了させることを認めるというところでどうかと思います。 4の問題は6とも関係するのですが,6の手続,これは予見できなかった特別な事情などが必要ですけれども,恐らく三者が信託を終了させたいと考えるのは,いろいろな特別な事情がある場合で,信託法165条でいけなくはないかもしれないが,その要件を満たしているかはっきりしない。そのようなときに,言ってみれば信託法165条の代替的な機能を4のところで認めるということがあるのではないかと思います。 6に関しては,165条の終了命令ですけれども,これが公益信託についてはどういう場合に問題になるのか,ということがあります。公益性がなくなるというのはここの問題ではなく,ここでは公益目的自体は別に問題はない,当該信託が遂行している事務が公益性を有しなくなったということではなくて,むしろ,公益目的ないし公益性自体はきちんとある,だけれども,その公益目的を遂行する上で,どうも今の状態で信託を続行するのはまずい。こういう場合に,165条の終了命令がなされるのではないかと思います。 適切な例かどうかわかりませんが,例えば公益目的は遂行しているが,非常にコストが掛かって信託財産がどんどんなくなってしまう。これは財産の効率的な利用という観点からは無駄が多くてよくないというような,そんな場合なのではないかと思うのです。公益性がなくなった場合と違って当然に終了させなければならないわけではない。そこで,このような状況のもとでは,終了させたいと考える関係者と,終了させたくないと考える関係者がそこで対立する可能性がある。一つのパターンとしては,受託者あるいは信託管理人の方はどうもこのままでは効率的ではないので終了させたいと考える。だけれども,委託者は公益信託を設定して,その目的を飽くまで追求してもらいたいと考えている。ここではある種,争訟的というと正確ではないかもしれませんが,やはり争いがある。そういう構造の中で165条というのが使われるのではないかと思います。 そうなると,誰が終了を命ずるかというところの問題ですけれども,行政庁ではなくて裁判所の方が望ましいという感じが致します。現在の165条でも即時抗告ができるようになっていると思いますが,一旦,なされた裁判所の判断に対して委託者であるとか,受託者のことも書いてありますけれども,これらの者が争うことができる。そういう形で争いがそこで生じることがいろいろ考えられますので,そういう意味で,ここで終了命令を出すのは裁判所の方が望ましいと思います。 ○中田部会長 申立権者についても御意見はおありでしょうか。終了命令について申立権者について。 ○能見委員 申立権者は一応論理的に必ずこうでなければいけないということはありませんけれども,委託者も含めて申立権者は三者ができるということでいいのではないかと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。 ○林幹事 4につきましては,小野委員,深山委員と同じです。4の基本的な枠組みは部会資料をざっと一読したときには賛成だと思ったのですが,継続が難しく終了させるべき場合にどうするのか考えたときに,信託法165条で対応できるのか,あるいは目的不達成で対応できるのかというと,明確ではない場合もあるのではと考えます。その事由を柔軟に解釈すればいいとの考え方もあるかもしれませんが,逆に柔軟に解釈することがよくなかろうということもあります。そういう意味においては,行政庁なりの関与もあった上で,何らか委託者,受託者,信託管理人なりの合意による終了というものが,例外的なものとしてあってもよいと思いました。 次,5につきましては,弁護士会の議論の中では賛成という意見も多かったのですが,大阪弁護士会では(注)の意見に賛成でした。というのは,1年継続したときについては,1年について固定的に考えるべきではないというものです。事案によっては1年未満でも終了させた方がよいものもあれば,新たな信託管理人を選任しようとして,きちんと候補者はいるけれども,1年では間に合わず,もう少し時間が掛かるというような場合にまで強制的に終了させるのはどうかというような意見もあり,1年間というのに固定的にすべきではないという意味において,(注)のように取消事由のような形で行政庁に柔軟に判断してもらえばいいのではないのかという意見でした。 6の終了命令につきましては,これも両方の考え方があるところかと思いますけれども,そういう特別の事情は裁判所の判断になじむのではないかというのが,弁護士会の大方の意見でした。 それから,(2)申立権者につきましては従前と同様ですが,弁護士会の意見としては,委託者にも一定の関与の余地を残すべきであり,それは,委託者が関心を持っているからというところで,乙案の方が多かったです。それで1点,確認させていただきたいのですが,これについてはデフォルトルールということも補足説明に記載があったのですが,委託者についてのみデフォルトルールであって,受託者,信託管理人については奪うことのできない申立権だと,そう理解していますので,その点確認させてください。 ○中田部会長 今の最後の点はいかがですか。 ○中辻幹事 林幹事の御理解のとおりです。 ○中田部会長 ほかに。 ○棚橋幹事 6の(1)についての意見と質問です。まず,質問は先ほど能見委員の御意見の中にもありましたけれども,そもそも,御提案されている信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当となるに至ったことが明らかであるときという要件は,公益信託においては,どういった場合が想定されているのかということを質問したいと思います。信託法261条1項で想定されている場合と内容ですとか,判断する観点といったところに違いがあるのかを教えていただきたいと思います。 先ほど能見委員の意見の中では,公益目的に反しているのかどうかということは,ここでは関係ないのではないかというような御趣旨の御指摘があったかと思いますけれども,裁判所としては,前回と同様に,何が公益なのかというような判断が必要ということであれば,難しいだろうと考えておるところでして,そうであれば行政庁の方が望ましいと考えているための御質問ということになります。 また,先ほども少し出てきたところですけれども,取消事由や,認定基準との関係についても疑問に思っているところがあります。提案されているのがどういった場面かということにも関わってくるのですけれども,例えば特別の事情によって事業の継続,目的の達成ができないというようなことになった場合には,正に認定基準の裏返しの判断が必要になってくるところかとは思いますし,認定法上の取消事由の一部として定められているものに当たり得るような場面のようにも思えました。また,信託財産の状況に照らして終了が相当という場面も,認定法上の取消事由として捉えることもできるようにも思いましたので,認定法との重複があったり,認定取消しと重複するということであれば,特別の事情による場合を裁判所が行うよりは,認定基準について判断を行い,認定取消しについて判断を行う行政庁等が行う方が適切なのではないかと考えております。 ○中辻幹事 棚橋幹事の御質問についてお答えします。信託法165条に挙げられた信託の終了命令についての考慮要素について,受益者の定めのない信託に関する信託法261条の読替え表を使うと,信託法165条の「受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるとき」は,「相当となるに至ったことが明らかであるとき」と読み替えられます。ただし,信託法165条の「信託の目的」という判断要素は,信託法261条の読替えの対象ではありませんので,仮に公益信託の終了命令の要否を裁判所で審理される場合には,当該公益信託で定められている目的がどのようなものであるかも踏まえて御判断されることになるのだろうと考えております。 ○中田部会長 棚橋幹事,よろしいでしょうか。 ○棚橋幹事 そうしますと,判断の内容ですとか,判断する観点というものは,基本的には信託法で定められている現行の終了命令と同じということになるのか,公益信託については違う部分があるのかについては,違いはないという理解でよろしいのでしょうか。 ○中辻幹事 受益者の利益を考えるか,考えないかというところに違いはありますが,その他の部分については違いはないという理解です。 ○深山委員 今の6の終了命令の点ですが,結論としては乙案がよろしいと思います。先ほど発言しました4のところで,合意による終了を認めるかどうかという点は,この提案では否定的ですし,認めてもいいのではないかという私の意見が残るかどうか定かではありませんが,仮に残るとすれば,関係者全員が終了すべきと考える何らかの事情が発生して,みんなでやめましょうという場合もあるのでしょうが,先ほど能見委員も例を出されましたけれども,やめましょうという人と続けましょうという意見が分かれるということも,当然,あると思います。あるいは4の論点は論点なので外して,終了事由一般としても,目的を達成したから終わるべきだ,まだ,達成していないではないかと,そういったところで関係者の意見が分かれるとか,あるいは目的達成不能かどうかで意見が分かれるとか,いろいろな場面があって,関係者間で続けるべきか,続けるべきではないのかということが問題になったときに,そこで判断を下すのは裁判所がふさわしいだろうと思います。 ここでは,そもそもの公益性があるかないかというのは,既に立ち上がりのところで判断がされていて,恐らくいろいろなケースがあるとは思いますが,終了させるのが公益にかなうのか,続けるのが公益にかなうのか,そういう観点でいろいろな事実認定等が問題になると思います。そこを判断するのが裁判所の役割だろうと思います。 (2)の申立権者については,関係者がそれぞれ発議できるといいますか,申立てができるのが望ましいという観点から,乙案を支持したいと思います。 ○樋口委員 2点だけ,これまでの議論で感じたことがありましたので申し上げます。 一つは,6の行政庁がいいのか,裁判所がいいのかというので,裁判所を代表する方もそれなりの発言をされているんですが,私が英米の信託の考えに,結局,染まっているからだと思うんですけれども,例えば行政庁が終了命令を出すというのはよほどのことです。このときに受託者は,公益信託の受託者であれ,私益信託の受託者であれ,何であれだと思いますけれども,とにかく公益信託の話ですけれども,受託者はどういう立場にあるかというと,必ずそれに反抗しなければなりません。受託者は信託を守る義務があるからです。つまり,公益信託として終了させてくれるなという形で必ずあらがうことになります。 だから,一種,行政裁判になるんです。行政手続と実体的判断を争うことになると思いますけれども,最後まで頑張るような話になって,最後はそうすると裁判所のところへ行って判断せざるを得なくなるので,裁判所が公益判断はできませんといって最後まで逃げ回るということはできないのではないかと思うのです。つまり,議論のあり方として,裁判所の関与を妨げることが,日本ではできるのかなと錯覚しそうな感じになるんですが,錯覚ですよね。そうであるとしたら,もしかしたら手続的にはこういう終了というのは本当に異常な事態なので,そんなにたくさんあるわけがないときに,ぽんと行政庁は行政庁の言い分で裁判所の前で弁ずればいいわけです。これはおかしいんだ,終了すべきだと,この公益信託なるものが何らかの理由でだと思いますけれども,そういう話にした方が一回で済むというのか,そういう感じがするんです。それは私の誤解かもしれないので,しかし,誤解であれ,何であれ,申し上げたくなったので申し上げます。 二つ目は,全体としての話なんですけれども,今日はとにかく情報公開はいい話だと思うんですが,終了させる話から始まっていて,そのときに私のイメージかもしれないんだけれども,公益信託に対するイメージが違うような感じがするんです,人によってだと思うんですけれども,でも,共通しているのは公益信託という形で何らかの公益活動を広くやってもらいたいというのはきっと一緒だと思うんですが,その次が違っていて,そういう公益活動に携わろうとする人たちがグループとして存在する,受託者になる人と委託者になる人と信託管理人になる人がいて,その人たちが公益のために頑張っているんだなというイメージです。だから,それはこっち側とは遠くの,つまり,そこである種の合意がなされていて一生懸命やってくれよという話になる。そういう話だとすると,場合によってはその人たちがいろいろ頑張ったんだけれども,嫌になった。では,みんなでやめようじゃないかということもあり得ます。ここまで頑張ったからよしとしようという話だっていいわけです,そういう話になれば。そうすると,信託法163条の先ほど平川委員もおっしゃっていたように,信託行為において定めた事由が生じたときというので,信託行為において定めておけば,当事者がですよ,それでやめていいんだという話になりかねないんです。 もう一つの別のイメージがあります。その公益信託のイメージは,そういう人たちが始めたんだけれども,始まったからには一種,公益的な何か特別な存在になっていて,そう簡単にはやめられない,つまり,もっと公的なものであるということです。受託者も公的サービスに使えるような一種,公務と言ってはいけないのかもしれませんが,そういうようなものになっているのだとしたら,終了事由についてはそう簡単には終了しないで頑張ってくれという話になります。例えば信託管理人が就任しない状態ができたからやめてしまおうとか,それから,信託法自体にも書いてあるわけだからしようがないんですけれども,受託者が欠けた場合であって新受託者が就任しない状態が1年間継続したときにはやめていいというのはおかしいことになります。信託法の定めの対象は私益信託ですけれども,これを公益信託にも適用だか準用だか何だかするという話なので,公益信託もそれでやろうということなんですが,英米の信託では受託者が欠けたからやめるという話はまずない。 信託管理人というのは必置のものではないと思いますけれども,そういうものは何とか裁判所のところで手続で見付けるという。そうすると,広いそれぞれの国で,国柄だと思いますけれども,誰かは見付かる。だって,公益団体だっていろいろあるわけですし,ノンプロフィットコーポレーションであれ,弁護士であれ,誰かはやろうではないかという話に普通はなる。しかし,こうやって諦めがいいということを見ると,先ほどの二つのイメージの中の公益信託も,公益で頑張っているんだけれども,それは結局,私人の発意,私人の発意は大事なんですけれども,そういうものでいいんだと,その人たちが嫌になれば,それでおしまいという,そういう感じなのか。私が言うようにもう少し公的な,税制的なものとも結び付いているのだったら,そんな無責任な話はできないという話に,私としては後の方に近い方が制度設計としてはいいのではないかなと考えております。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○山田委員 6について申し上げます。6の(1)でございます。意見は乙案が私はよいと思います。使う理屈は代わり映えがしないのでございますが,信託という枠組みを終了させるかどうかという観点から考えると裁判所が望ましいだろうと考えます。認定基準の観点から公益信託として一定の税制の優遇を与えるという観点は,認定,そして,監督する行政庁等が行えばよいわけですが,それは先ほどの3に戻りますけれども,公益信託の認定の取消しについては,事後的な認定基準に不充足が生じたような場合には,それで対応すればよく,それに対して,信託という枠組みを外部から終了させてしまうという,そういう場合には裁判所を使って公益信託でない,そして,目的信託を含むのかもしれませんが,目的信託にとどまらない様々な信託と同じ扱いで裁判所が行うと,終了命令を出すという考え方がよいだろうと思います。 ○中田部会長 ほかに。 ○新井委員 5番についてですが,樋口委員の発言を私なりに少し補足させていただきたいと思います。5に書いてあるこういう考え方に私は基本的に賛成です。ただし,立法論として考えたときに,信託管理人の給源をどうするかというのは非常に大きな課題だと思うのです。今度は給付型,助成型だけではなくて,事業型の公益信託も考えていくということがあります。そして,信託管理人というのはほとんど無報酬であるというときに,たくさんの有能な信託管理人をどう確保していくかということが課題で,信託管理人が存在しなければ,公益信託は成り立たないということがあるわけです。ですから,一方ではこういう考え方を採用して,信託管理人が欠けた場合は終了あるいは認定取消しでもいいのですけれども,こうした上で,他方では信託管理人を確保するという,そういう観点もあっていいのではないか。 そのためにはどうするかというと,例えば行政庁が信託管理人を任命するようなシステムもあっていいのではないか。英米法では確かに信託は受託者が欠けても失効しないという考え方があるわけです。長期的な財産管理制度ですので,そうしないといけない。しかも公益信託ですから,公益目的を維持するということに鑑みて,5の規定は存置するとしても,立法論的に公益信託の普及のために信託管理人をきちんと確保するような,そういう仕組みもあってもいいのではないかということを提言したいと思います。 4については原案賛成,6については(1)(2)とも甲案に賛成です。 ○道垣内委員 まだ自分の申し上げたい内容がまだまとまっていない状態で発言し始めることを自分自身危惧しておりますが,能見委員,深山委員がおっしゃったことが気になっております。6に関して,予見できなかった特別の事情による場合だけが6の(1)になるわけですよね。しかし,より問題なのは先ほど深山委員とかが例に出されたように,財産が減るなどして効率的な公益を果たすということができなくなった場合に,ごく僅かな財産の管理のために大変な手間を掛けて信託事務を執行し,ほとんどが信託報酬で消えてしまうといった状況で信託を継続するのが適切なのかが問題になるけれども,それは普通の物価の変動,株価の変動等の結果だと考えるならば,6の(1)に当たるというのは,かなり言いにくいので終了できないという点にあるのではないかと思うのです。 その場合には信託法163条1号の信託目的を達成することができなくなったときというのに当たるとして,信託の終了ということにするのでしょうけれども,これは結構,受託者にとっては危ない話です。実は,信託法本体のほうにも存在する問題なのですが,受託者が信託が終了したと思って信託終了の手続をとっていたけれども,後発的に目的達成不能にはなっていないと判断されますと,その行為の正当性が問われることになるわけで,結構,危ない橋を渡るということになります。私個人としては,善良な管理者の注意に基づいて,163条1号に該当すると判断したのならば,受託者はそれで責任は問われないと考えるべきだと思いますけれども,結構,危なくて,どうしてもティミッドになりがちなことになろうと思います。おそらくは,法164条1項によって合意による終了というのが委託者と受益者でございますけれども,多くの場合には合意による終了とかが認められるだろうと,そうなるだろうということによっているのではないかなという気がします。 さて,以上のような認識を前提にして,4に関連して,私もこれで終了させるというのはどうかなという感じがしますが,そうしたとき,信託財産が少なくなったときにどうするのだろうかと,どういうふうにして受託者は,安心して信託を終了させることができるのだろうかというのが大変気になるところです。一つの方法としては,6のところを終了命令にしなくて,終了自体を裁判所に申し立てることができるという制度設計にするというのがあり得ると思いますし,5は残して,誰から見ても目的達成不能の状態のときには,合意で終了するというのがもう一つの道かなと思います。そして,後者の方が現実的なのかなという気がします。 いろいろ申しまして話がまとまらないのですが,つまり4についてはそれだけを独立して考えることは多分できなくて,みんなが終了させるのがこれは普通だよねと,経済的に見て普通だよねと考えているときに,どういうふうにすれば,安心して終了に持ち込むことができるのか,その手続をどうするのかということなのだろうと思います。感想めいた話で大変申し訳ございません。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○吉谷委員 最初に樋口委員が先ほどおっしゃられたイメージ的には,一旦,受けたら,そうやすやすとは終了することが受託者はできないんだというイメージを我々信託銀行の人間は持っていると思います。そういうことも踏まえまして,5につきましては信託管理人が就任しない状況が継続した場合には,任意的な認定取消事由とする方が柔軟でよろしいのではないかと思います。 公益信託の終了命令につきましては,先ほど認定取消しを信託終了事由とするという案に賛成しておりますので,これを分けて別の信託終了命令というものを作る必要はそもそもないのではないかと。統一した条項として定めるのがよいと思います。もし,残すのであれば甲案の行政庁等ということになると思います。 更に3のところで,当事者から認定取消しについて申請できるのかという御質問もさせていただいたのですけれども,認定取消しによって終了するという前提であれば,逆に受託者,信託管理人によって認定取消しを申請するという枠組みがあった方がいいと考えておりまして,信託を続ける意味がどうもないのではないかと当事者が考えているときでも,目的達成あるいは不達成と言い切ってしまっていいのかどうかというところに迷いが生じますというような場合は,行政庁に認定取消しをしていただいた方がいいと思っているなら申請して,それで終了するというのがよいのではないかなと考えています。そうしますと,6の(2)につきましては,委託者が認定取消しや信託終了を申し立てるという実益は余りないのではないかなと考えますので甲案に賛成です。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。 それぞれについて御意見が分かれたようでございますが,しかし,それぞれ単独で取り上げるのではなくて組み合わせながら,一定の事由が生じたときに適切に終了させ得る道を考えていくという方向を示していただいたかと存じます。 それでは,時間が3時を過ぎておりますけれども,もう一つ進めたいと思います。「第2 公益信託の終了時の処理」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○佐藤関係官 それでは,御説明いたします。 「第2 公益信託の終了時の処理」のうち,「1 残余財産の帰属」について御説明いたします。(1)の本文では,「信託行為における残余財産の帰属権利者の指定に関する定めの必置とその定めの内容」について,「公益信託は,その信託行為において,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利者」という。)の指定に関する定めを置かなければならないものとし,その内容は」,甲1案として「信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする。」,甲2案として,「信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは他の公益法人等(公益法人認定法第5条第17号イないしトに掲げる法人を含む。)又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする。」,乙案として,「信託終了時の残余財産のうち,公益信託の認定時における信託財産については私人に帰属させるとの定めとすることを許容するが,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については私人に帰属させるとの定めとすることを許容せず,【甲1案】又は【甲2案】のいずれかとしなければならないものとする。」という提案をしております。 まず,公益信託が終了した場合にその残余財産が誰に帰属するかは,信託財産を出えんする委託者や公益活動に使われることを期待して公益信託に寄附する者にとってその意思を担保するために重要な事項であることなどから,公益信託は,その信託行為において残余財産の帰属権利者の指定に関する定めを置かなければならないものとすることが相当であると考えられます。 次に,その帰属先につきましては,公益信託終了時の残余財産について,公益目的のために利用されることを目的としていた信託財産である以上,公益信託の認定の時点で拠出された財産であっても,公益信託の認定後の運用や寄附により増加した信託財産であっても,それらは公益信託終了後も公益目的のために用いられるべきであり,私人に帰属させるべきではないと考えられます。そして,税法上の要件も参考にしますと,公益信託は,信託終了時の全ての残余財産の帰属権利者の指定に関する定めの内容を,当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとすべきであるという考え方があり得ることから,このような考え方を甲1案として提案しております。 もっとも,類似の目的の公益信託に寄附する場合には,寄附先の選択肢が限定されてしまいます。公益的な活動を行い,法人内部で残余財産を分配しないことなどが制度的に担保されているものとして,類似の事業を営む公益法人や学校法人,社会福祉法人,更生保護法人,独立行政法人,国立大学法人,大学共同利用機関法人,地方独立行政法人等の法人も,公益法人の残余財産の帰属先として適格性を有するものとされていることからしますと,これらの法人を公益信託の残余財産の帰属権利者として認めることも,信託財産を公益目的のために使用するという観点からは相当であると考えられ,このような考え方を甲2案として提案しております。 これに対しまして,公益信託において,公益信託の認定後に取得した財産には,公益活動に使われることを期待した国民からの寄附等によって形成されたものが含まれることから,そのような財産が私人に帰属することは,寄附者等の意思に反し不当である一方,公益信託の認定時に委託者が拠出した財産については,委託者又はその指定する者に返還されてもよいという考え方もあり得ます。そこで,信託終了時の残余財産のうち,公益信託の認定時における信託財産については私人に帰属させるとの定めとすることを許容するが,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については,私人に帰属させるとの定めとすることを許容せず,甲1案又は甲2案のいずれかとすべきであるという考え方があり得ますので,このような考え方を乙案として提案しております。 続きまして,(2)の本文では,信託行為における帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄した場合の残余財産は,甲案として「清算受託者に帰属するものとする。」,乙案として「国庫に帰属するものとする。」という提案をしております。信託法第182条第3項の趣旨が公益信託にも妥当することなどを理由として,公益信託においても同項を適用し,帰属が定まらない残余財産は清算受託者に帰属するものとすべきであるという考え方を甲案として提案しております。これに対し,一旦公益目的のために出えんされた財産を清算受託者に帰属させることは,清算受託者に不当な利益を与える可能性がある上,引き取り手のない信託財産を清算受託者に帰属させることは酷であるということを理由として,公益信託においては,信託法第182条第3項は適用せず,帰属が定まらない残余財産は国庫に帰属するものとすべきであるという考え方がありますので,これを乙案として提案しております。 第2の「2 類似目的の公益信託としての継続」について御説明いたします。本文では,甲案として「公益信託法第9条を改正し,公益信託の終了事由が生じた場合において,帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄したときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとする。」,乙案として「公益信託法第9条を廃止する。」という提案をしております。 新たな公益信託制度において,公益信託を民間による公益活動の手段として積極的に位置付け,主務官庁による裁量的・包括的な許可・監督制を廃止する場合には,信託関係人による監督・ガバナンスを確保することが重要であり,主務官庁が公益信託の継続を職権で判断する公益信託法第9条の規律をそのまま維持することは相当でないものと考えられます。ただし,シ・プレ原則の趣旨は,新たな公益信託制度においても妥当することから,ある公益信託について終了事由が発生したとしても,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続することを可能とする仕組み自体は,存続させるべきであるとも考えられます。 そこで,公益信託が終了した場合において,信託行為における帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄したときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとすべきであるという考え方を甲案として提案しております。これに対し,信託法第163条各号の終了事由は,当該信託が確定的に終了する場合を規定したものであり,そのような事由が発生する場合には,当該信託を類似の目的の公益信託として継続させる余地はないとして,終了事由が発生する前の時点における信託目的の変更の可否の論点を検討すれば足りるとの考え方もあり得ることなどから,端的に公益信託法第9条を廃止すべきであるという考え方がありますので,このような考え方を乙案として提案しております。 ○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○林幹事 まず,1の(1)につきましては,まず,残余財産の定めをすることを義務付けるということ自体は賛成です。その定めがないような状態において信託法182条2項などで相続人に関わる制度が入ってくるのもおかしいと思いますので,その点では,賛成です。 その上で,甲案か,乙案かというところですが,乙案に賛成したいと思います。ここにもいろいろ考え方はあると思うのですが,当初,認定時において給付した財産の限りで委託者に戻るという制度があってもいいと思いますし,それは公益信託を促進するという意味において,プラスになるのではないかと思います。この点,税の問題とか,いろいろ悩ましいところはあるのですけれども,それはさておき,乙案でということです。 乙案においても,甲1案か,甲2案かという問題が出てくるのですが,甲1と甲2の比較においては甲2の方がよいと考えます。要するに,そこでの選択を広げた方がよいという観点からです。ただ,大阪弁護士会での議論としては,類似の目的となっているのですけれども,類似の目的に限定せずとも公益信託や公益法人であればよいのではないかという意見もありました。もう一つの考えは類似の目的を多少柔軟に考えるというのもあるかと思います。要するに帰属先を何とか広く捉えたいとすると,そのようになると思っております。 それから,1の(2)については国庫に帰属することで賛成です。 2の「類似目的の公益信託としての継続」のところですが,ここでは日弁連の意見では基本的には乙案でした。その手前の制度でしっかり組んであるので,この段で更にシ・プレ原則のように考える必要はないのではないかという意見の方が強かったかと思います。個人的な意見としては,甲案もあってもよいようには思うのですけれども,あえてここまで制度を用意するかというのに,若干引っ掛かりがありそうに思います。結局,ここの論点というのは当初の帰属権利者がみんな放棄した財産で,要するに誰も受けたくないような財産なのかもしれなくて,それを国庫が最後には受け取るという制度になれば,そこで完結するように思いますが,国に帰属する手前にもう少し考えるべきだという,そういう要請というかが積極的にあるのであれば,甲案もあるのかなと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 1の(1)につきまして,公益信託はその信託行為において,残余財産の帰属すべき者の指定に関する定めを置かなければならないとすることに賛成します。また,その定めの内容は甲2案に賛成します。その理由は,現在の公益信託においても既に各主務官庁の行政指導及び税法上も私人への残余財産帰属は認めていないと認識しております。また,実際の公益信託設定事例においても,私人帰属を規定する信託条項というのはないのではないかと思っております。このような状況で,新公益信託において私人帰属を認め得る考え方を採るということは難しいのではないかと考えます。帰属権利者の対象は公益信託だけでなく,広く公益法人認定法第5条18号並みに拡大すべきと考えています。 乙案というのは,チャリタブルリードトラスト的な考え方と共通するのではないかと思うのですが,そのような後で私的な信託になるというようなものを,それも普及させていくべきだと考えますけれども,これと公益信託というのは別物と考えてよいのではないかと思います。だから,例えば特定寄附信託とかに例を見るように,公益信託の実現と,信託制度を用いた公益への寄附優遇税制というものを別物として進めていくこともできると思います。なお,公益法人認定法においては,公益法人の残余財産を類似の公益信託に帰属させることを認めていませんが,公益信託法の本改正に伴って公益法人認定法を改正し,リシプロカルにすべきであると考えます。 1の(2)につきましては乙案に賛成します。理由は,公のために拠出された財産が受託者に帰属するということは考えられず,当然,国庫に帰属するものと考えます。 2につきましては甲案の変形なんですけれども,丙案を提言します。現公益信託法9条は,信託終了の場合においてと規定しておりますが,新公益信託法においてはさきに議論したとおり,信託の終了原因について信託法163条2号は除いて,信託法163条を適用するということにしました。そうしますと,163条各号のうち,1号は信託の目的が達成したとき又は信託の目的を達成することができなくなったときであり,正に英米公益信託法のシ・プレ原則が適用され得る場面です。例えばエイズ治療の研究助成を目的としていたが,エイズが地球上から消滅したので,それに代わる重大な感染症に信託基金を振り向けるべく,目的を変更するというようなのが例かと思いますが,このような場合を想定して信託法163条1号の終了の場合に限り,受託者等の形式的判断に任せず,行政庁等が類似目的の公益信託として存続され得る権限を付与させてよいと考えます。 なお,このように限定しなくても1号以外の終了事由では,継続させることは事実上,困難であり,あえて1号だけを区分する必要はないという考えが有力なのであれば,甲案に賛成ということになります。以上の理由としまして,シ・プレ原則は英米の公益信託の特色を表す象徴的な原則で,飽くまで委託者の公益目的を実現させようとする意図が明確に示された規定であります。その意味からは,日本の公益信託制度において,この規定を欠くということは考えられないと言えます。ただし,アメリカの判例においても,その適用条件は厳しく決められているというようなことが樋口委員の「アメリカ信託法ノート」275ページから282ページにも記載されておりますので,日本法においても,それらを参考にする必要があると考えます。 ○能見委員 まず,1の残余財産の帰属ですけれども,結論としては乙案に賛成ですが,なかなか,いろいろな諸般の状況からこれを採用することは難しいかもしれないという認識を持っております。しかし,本来は乙案が望ましい。この問題は,公益信託がどのような理由で終了したかという点も少し関係するのかもしれませんが,その意味で今の平川委員のご指摘とも関係しますが,とはいえ平川委員と同じ結論をとるわけではないのですけれども,終了事由が例えば信託目的を達成したというので終了するが,まだ,財産が残っている。こういうときには,委託者からすれば,本来の信託を設定した目的が達成したのであるから,その後のことは自由に決めさせてほしい。私人も含めて自由に帰属権者を決めることができるということがあっておかしくないと思うのです。ほかの終了事由にも今の議論が当てはまるかどうかは分からないのですが,少なくとも目的達成などについてはそう言えるのではないかと思います。 それはそれとして,私がむしろ問題にしたいのは,残余財産の帰属に関する1の問題と,2のシ・プレ原則との関係です。仮に甲1案,甲2案などの案を採ったときの話なんですが,これらの案のもとで帰属権利者が定められているとしますと,これら帰属権利者が全て放棄しないと2のシプレの問題に移れないというのは,おかしいのではないかと思います。むしろ,甲1案,甲2案で許容される帰属権利者よりも前に2のシプレの処理がくるべきだろうと思います。これら帰属権利者が決められていても類似の目的のために公益信託を存続させることはできる,そういうルールとして2を捉えるべきではないかと思います。ですから,2の甲案ですけれども,そこに書いてある要件は見直しが必要だろうと思います。 ○樋口委員 短く2点だけ。今,能見委員がおっしゃったことに全く賛成です。15ページのところにあるところへ,帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄したときはと限定した上で,シ・プレ原則ということになると,先ほど林幹事がおっしゃったように,絶対にとんでもない負担のあるような,つまり,よほどのことですね,これは。だから,実際には甲案を採ってもこういう形でシ・プレが残ることはないだろう。類似の目的について,先ほどの平川委員がおっしゃってくださったというか,私の本まで,引用されたのは本当に有り難いことなんですが,その後のアメリカの動きを見ると,公益概念をシ・プレでは少し類似というのを広げて解釈するようにという方向性は出ているんです。そのことだけは申し上げますけれども,できるだけ公益信託を残そうという話は重要だと考えます。 だから,放棄したときに限るという話だと,実際には甲案を残したところでまずあり得ないような話になるので,本当にまず類似の公益目的を探す,こちらがまずあって,どうしようもないといえば,最初の方でほかのところへ財産を預けて何とかしてもらうという,そういう順番になるのが普通なのかなと私も考えます。 ○道垣内委員 林幹事がおっしゃったことで,大阪弁護士会の意見だったという話に関係します。私は第2の1の(1)について特に甲案でなければならないという強い見解は持っておりません。持っておりませんが,他の類似の目的を有するという要件が加わる理由がよく分からないのです。と申しますのは,シ・プレのそもそもの考え方をどう考えるかというのは,いろいろ考え方があると思いますけれども,一種の当事者意思の推定の問題であると考えるならば,1(1)は,当事者が定めているわけですよね。一定期間はスポーツ振興,その後は,学術振興と委託者が考えているときに,あなたは本当はこういう気持ちでしょう,学術よりもスポーツが好きでしょう,といって,他の類似であるということを要件とするというのは私にはよく分かりません。当事者が,次はここを目的にすると,そのために,そこに全部,財産を与えるとしているのならば,それはそれでいいのではないかという気が致します。さらに,もう1点,加えますと,国若しくは地方公共団体というのは,終了する公益信託の目的とは類似していないんですよね。それと比べるというのはすごく違和感があります。 乙案とどちらがいいかということにつきましては,私は特に強い意見はございませんけれども,甲1案にせよ,甲2案にせよ,類似目的を要求するのはおかしい。 もう一つ,先ほどの15ページの2のところの,これが放棄したときの話なのかという問題なんですけれども,当事者の意思でほかの目的に使うということになっていれば,そちらになるわけでしょうから,そうすると,結局は,第2の1について,どこまでの当事者の意思を考えるのかという問題なのだろうと思います。こういうふうなことになったらば,次はこうするんだよと当事者が決めていたならば,そちらの方を重んじるというのならば,それが達成できないときに限って,2のルールが発動するということは,理論的にはそれほどおかしいことではないだろうと思います。ただ,私自体としては2はなくてもいいと思いますが,論理の問題としてはそうではないかなという気が致します。 ○中田部会長 最後の2はなくてもよいとおっしゃったのは。 ○道垣内委員 類似目的の公益信託としての継続。 ○中田部会長 ということは,乙案ということですね。 ○道垣内委員 そうです。 ○中田部会長 分かりました。ほかに。 ○深山委員 残余財産の帰属権利者については乙案を強く支持したいと思います。甲案との違いはもちろん,私人への終了後の帰属を認めるかどうかという考え方の違いですが,これまでも折に触れて申し上げてきたように,一旦,公益目的のために拠出した財産は,もはや公益の色をとることはできないという硬直的な考え方を採る必要はないし,採るべきでもないと思います。例えば一定の目的を達成するまで,公益に拠出して目的を達成したら委託者に戻るにしろ,委託者の指定するものに帰属させるにしろ,公益目的の財産から外すような制度設計というのを頭から否定すべきではないと思います。 正に当事者の意思でそうしたいというときに,しかし,それが全体として見て公益信託としてふさわしくないという評価が加えられて,認定が受けられないということはあり得るかもしれませんけれども,それなりに合理的な制度設計で最終的に目的達成後に私人に帰属するとしても,その間,公益に拠出して公益に資するということに社会的な価値があると評価されれば,それはそれで認められてしかるべきだと思います。そうしないと,非常に制度が利用されにくいものとして出来上がってしまうだろうという気が致します。 もちろん,税制優遇との兼ね合いが常にここでは問題になりますが,それはそれで,それにふさわしい税制を財務省の方で考えていただければよくて,そこは税制の方で工夫すべき問題だろうと考えておりますので,そもそも論からいえば,合理的で適正妥当な信託関係者の意思というものを可能な限り尊重すべきだという観点から,乙案を支持したいと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山田委員 第2の1(1)について申し上げます。一つ質問を先にして,しかし,お答えいただくのを待たずに意見を申し上げたいと思います。第2の1の(1)は,公益社団法人,公益財団法人の認定等に関する法律で,この問題がどこで扱われているかといいますと,補足説明の中にもありますが,同法の5条18号だろうと思います。そうだとすると,公益認定の基準の一つになっておりますが,公益信託においても,この問題を公益認定の基準として位置付けようとされているのか,それともまた,別の仕掛けでこの問題を扱おうとされているのかは,すみません,私の発言の後に事務当局としてお考えがあったらお教えください,あるいはどこかに書いてあるのかもしれません。申し訳ありません。 その上ですが,結論としては私は甲案でやむなしと思います。乙案については,公益法人改革が行われる前の民法上の公益法人のときに,例えば財団法人に寄附行為によって出えんされた財産を残余財産として元の人,寄附行為者ですか,に返してよいかどうかという問題がありました。それについては,私のその問題についての意見は法律が変わっていますので,意見を言っても仕方のないことですが,例えば不動産を公益目的に使ってもらって使用してもらうとします。そして,10年とか,50年とかがたった後,その不動産は寄附行為者に残余財産分配として返すということがここでの問題です。しかし,10年でも50年でもいいですけれども,その間,不動産を利用する利益というものを公益に使うという,そういうタイプの公益法人というのはあってよいと考えておりました。 しかし,旧民法下において,古い時代のものはどうなっていたか分かりませんけれども,登記に関する行政先例に,残余財産を各社員の出資額を限度に払戻しをすることができるとの定款の定めは,公益法人の性質上妥当ではないというものがあったように思います。それが公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の5条18号に,私は具体化しているものと思います。もちろん,二枚腰というのでしょうか,まずは第2の1,乙案で考えた上で,それで税制優遇が得られるような仕組みが得られないならば,甲案に退却するというようなこともあり得るのかもしれませんが,どうも公益法人改革の公益法人三法ができるときの様子を見ていますと,この5条18号というのは,結構,重要なポイントになるのではないかなと思います。そうしますと,甲1案又は甲2案でやむなしと考えます。そのいずれかというならば,公益信託,国又は地方公共団体だけではなく,公益法人を含めることは全く構わないと思いますので,甲2案でやむなしと思います。 ○中田部会長 御質問の部分についていかがでしょうか。 ○中辻幹事 事務局としましては,残余財産の帰属に関する定めについては公益信託の認定基準とすることも十分あり得べしと考えておりました。 ○山田委員 あり得べしですね。分かりました。 ○中田部会長 ほかに。 ○山本委員 すでに多くの方がおっしゃっていることなので,繰り返し申し上げる意味は余りないのかもしれませんが,意見表明だけはしておいた方がよいと思いますので,発言させていただきます。 第2の1の(1)についてですけれども,結論からいいますと,私も乙案を強く支持したいと思います。委託者の意思うんぬん以前に,これは政策の問題だと思うのですけれども,世の中にある財産が公益目的のために使われることが望ましいとするならば,公益目的のために使われる財産が多くなれば多くなるほどよいはずです。そうすると,リジットな考え方を採るのではなく,例えば乙案のように,公益信託終了後については私人に戻るというような選択肢を与えるならば,少なくとも公益信託に提供される財産は減ることはなく,むしろ増えることになるだろうと予想されます。そうしますと,このような手段をとらない理由は理論的にはないはずであり,積極的に認めていくべきではないかと考えられます。 もちろん,公益法人の改革のときの議論については,山田委員から御紹介のあったとおり,難しい問題があることは分かるのですけれども,公益目的の推進ということを考えるならば,見直すことができるならばその必要があるのではないかと従来から思っていました。この審議会での御意見を聞いていても,その点についてはやはり考え直す必要があるのではないかと考えられます。したがって,この第2の1については,乙案を支持したいと思います。 その上で,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については,この考え方からしますと,甲1案か甲2案かという問いを立てられれば,甲2案に従って,類似の目的を有する公益法人も選択肢として認めるべきだろうと思います。 ○神作幹事 第2の1について私の意見を述べさせていただきます。甲案か,乙案かというのは,私も,山本委員が言われたように政策的な問題であると思いますけれども,乙案について一つ考えておくべき視点があるのではないかと思っております。それはどのような視点かと申しますと,確かに拠出を促進するという面からいうと,乙案は多くの先生が御指摘のとおり,非常にメリットがあると思いますが,しかしながら,中長期的な視点から見たときに,そのようにして誕生した公益的な信託とか,公益的な存在を周囲がサポートするということを考えると,それこそ例えば寄附とか取引とか,いろいろな関係で支持していき公益信託や公益的な存在が成長し発展していくことを想定すると,最後は私的領域に財産が戻るんだと,あるいは少なくも財産の一部が最終的には私人に戻るとすると,そのような存在に対し,サポートが得られやすいのかという観点があると思います。公益信託の誕生を最初の時点で増やすというのはよく分かるのですけれども,公的存在の成長と発展につながるための制度設計という視点は重要で,私はそういう意味では,一旦,公にしたらば,そう簡単には私的領域には戻らないんだという制度設計は,十分,理由のある考え方であると思いますので,一言,申し上げさせていただきます。 ○能見委員 1と2との関係について,1については私は個人的には乙案なものですから,余り甲1案,甲2案をそう詳しく見なかったんですが,例えば甲1案でいきますと,類似の目的というのがどこに係るのかということなんです。「類似の目的の・・・公益信託」というように公益信託のところまでなんでしょうね。国や自治体にはかからない,これは関係ないんですね。元々の公益法人の規定も大体,そうなっていると思いますが,そうなると,道垣内委員はここにある意味でシ・プレ原則が入っているので,2の方は要らないという,甲1案にせよ,甲2案にせよ,そこには委託者の意図が出ているわけだから,後の2の方の問題,シ・プレ原則の方は要らないという御意見だったと思いますけれども,そうではないのではないかと思います。例えば国だとか自治体を帰属権利者にするときに,委託者としては信託の設定の時点では,すぐに適切な帰属権利者を思い付かなかったので,取りあえず国や自治体を帰属権利者として決めているということもあると思うのですが,そういうときの委託者の意思というのはそれほど確固たるものではない。従って,信託が終了することになったときに,今の述べたような意味で定められた帰属権利者がいても,それを乗り越えるようなシプレ原則の適用はありうると思います。シプレ原則の適用では受託者が申立てをするのでしたっけね。いずれにせよ,主務官庁に申立てをして類似の目的の公益信託として存続させてもらうということは十分あり得るし,合理的だと思いますので,1で甲案を採っても2の方はシ・プレ原則を認めるということの意味はあるんだろうと思います。 もう一歩,踏み込むと,1の甲1案において先ほど道垣内委員が言われたように,類似の目的というのをそれほど厳格にここで考える必要はなくて,もっと広い,そういう意味で,シ・プレ原則よりは広いといっていいのかどうかはっきりしませんけれども,甲1案のところでは,相当,広いものを類似の公益信託として当初から帰属権利者として指定することはあり得ると思います。こういうときは,委託者の明確な意思があるということで,2のシプレ原則に行かなくてよいのかもしれません。しかし,その場合も含めて,一般的には最初の信託設定の段階では,十分に信託終了時のことまで考えられないこともあるので,委託者としては取りあえず,こんなものを帰属権利者にして指定しておこうという程度のことが多いと思いますので,後で実際に終了する段階で委託者の意思も忖度しながら考えるとよりふさわしい財産の使い方がある,その目的のために公益信託を継続させることが可能だというときには,そちらを優先するということは十分あり得るのだろうと思います。 それから,もう一つの観点は,仮に甲1案,甲2案のような帰属権利者を定めるという方式で類似の団体,公益信託や,甲2案の場合には公益法人も含めてですが,そういうものに財産が承継されるということはあると思うのですが,その場合には信託財産を帰属権利者に承継させますので,公益信託自体は清算するのだろうと思います。公益信託を完全に清算してから,帰属権利者に財産だけを移転するということになります。これに対して2のシ・プレ原則の方は清算をしないで,そのまま公益信託として存続させることになります。そういうことのメリットが2の方にはありますので,その点でも,2のところでシ・プレ原則を採用する甲案というものの意味があるのではないかと思います。 ○吉谷委員 まず,1の(1)の帰属権利者の定めを必置とすることは賛成です。帰属権利者の範囲については甲2案に賛成します。ただ,検討の段階で類似の目的を有するという部分が必要かどうかについては,未検討であるということも申し上げておきます。乙案につきましては最も懸念しておりますのは,公益信託に対する税制の優遇措置や公益認定と税の認定の一体化の実現という観点から,懸念を持つというところであります。制度を余り複雑なものにすることは,避けるべきではないかという考えも持っておりまして,税の恩典を享受しないということを前提にできるのであれば,私益信託や目的信託を用いて残余財産受益者や帰属権利者を私人に指定する,それで,公益活動を行うということはできるわけでありまして,一部,そういう形で寄附などを行っている信託も実際にあるわけであります。 続きまして,1の(2)の指定帰属権利者の権利の放棄のところですが,ここにつきましては乙案の国庫に帰属でよいと考えます。受託者に帰属させる理由は特にないと考えております。 2の類似目的の公益信託としての継続につきましては,どちらかといえば甲案なんですが,これも余りニーズがあるとは考えておりませんので,むしろ,後で出てきます公益信託の変更において,信託目的の変更を認めるのであれば,それによることができると考えますので,乙案賛成ということになります。信託目的の変更を認めることができる場合につきましては,帰属権利者による権利の放棄以外の場合にまで,もう少し広げて考えてもよいのではないかと考えております。 ○中田部会長 ほかに。 ○長谷川幹事 先ほどと同じ意見ですけれども,残余財産の帰属のところの(1)につきましては,当事者の意思の尊重という観点から,乙案も大変魅力的ではございますけれども,現実的に考えたときに,乙案だと税制優遇が仮にとれないということであるとすると,最初から甲案でいくというのも1つの考え方かと思っております。 ○藤谷関係官 1点だけ,租税の観点からの情報提供ということでお話をさせていただければと思います。発言をお許しくださり,ありがとうございます。公益信託法の私法の問題として,先ほど来,問題になっております第2の1について乙案あり得るべしというのは全くそのとおりだろうと思いますし,税法については別途考えるのであり,この場では飽くまでも信託法の問題として議論するのだ,というのも,本来,あるべき考え方の道筋であろうと私も思います。 ただ,現在の税法が,現行の公益信託法において財産が私人に戻る可能性が必ずしも排除されないということを踏まえて,税法独自に特定公益信託という仕組みを作っているということがまず1点ございます。さらには,公益信託の財産が何らかの私人に戻るならば,戻った段階でまた別途課税関係を考えればいい,ということには,税法の観点からはならないということは,申し上げておかなければならないだろうと思います。 今年度,例えば100万円の財産を出えんして,そこから得た利子とか何とかは全部,きちんと公益目的に使ったと。最後に残った100万円なり,50万円なりが戻ってくる,その可能性がある限りは,最初の100万円について寄附税制の適用が与えられる可能性はゼロと言っていいと思います。なぜならば,それを認めてしまうと,今年,たくさん所得があって高い累進税率が掛かるときには寄附で税金を減らしておいて,後で適用税率が低いときに公益信託から手元に財産を戻すことで,それに税金が課されたとしてもトータルで税負担を減らすことができてしまいます。ですので,寄附したら税制優遇,戻ってきたらその時に課税すればいいではないかという考え方には,残念ながらならないということは,単に情報提供として申し上げておく必要があるかと思いました。その上で,それはそれとして,私法の問題として財産帰属のあるべき姿を考えるというのは,本来の道筋だろうと思いますので,それについて私が特に申し上げるべきことはございません。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○長谷川幹事 すみません,せっかくなので教えていただきたいのですが,資料でも基本的には拠出時の税制優遇のことを念頭に書いておられて,その前提で乙案を採った場合に,例えばA,B,Cという拠出者がいて,最終的にAさんには残余財産が返ってきますといった場合,Aさんの税制優遇だけを拠出時に考えればいいということにはならないのでしょうか。要するにAさんに残余財産が返ってくるということであれば,Aさんだけ税制優遇しないということもあり得るような気もしていたのですが,そのような理解は成り立たないのでしょうか。別途,果実についてどう考えるかということはあると思いますが。 ○藤谷関係官 今,おっしゃっているのは帰属権者の話だと思うんですが,例えば私が100万円の財産をAさん,Bさん,Cさんのうち,どなたかに財産を上げたとしたとしたら,私の税金は減らないんです。公益目的に行ったきりでいずれの私人にも帰属しないからこそ寄附税制が適用されるのです。私が申し上げているのは徹頭徹尾,拠出時の寄附税制がとれるかという話であって,財産が残余財産として帰属した場合に,その人が課税されるのは当然の話であります。ここで申しておりますのは,私が誰か別の人に財産をあげた場合,その人には贈与税が掛かるのは当然として,私についても寄附控除というか,税金が減ることがない,というのと同じ理屈です。最終的に誰か私人の手元に帰属してしまうようでは入口のところで寄附税制はとれませんと,確かに私の財産は減っているけれども,寄附税制はとれません,ということになります。財産が終局的に公益目的に帰属しているからこその寄附税制です,というのが現在の説明になっております。したがいまして,今,長谷川幹事がおっしゃったように,当然,財産の返還を受けたAさんが課税されるのですけれども,それに加えて,全ての人についての寄附税制がおぼつかなくなるということを申し上げたつもりでございます。 ○長谷川幹事 例えば私が信託に拠出するとして,当該信託における残余財産は私に帰属することになっているとします。ほかにも信託を構成するときにB,Cさんも拠出しているのですが,このB,Cさんには残余財産は戻ってこないことになっているというような想定です。このときに,私の拠出時の税制優遇については,残余財産が戻ってきてしまうので,優遇しないこととする一方,ほかのBさん,Cさんについては残余財産が戻ってこないので,優遇してもいいのではないかというのが拠出時の問題としてはあり得るかというのが御質問です。果実の問題もあると思うので,なかなか,難しいような気もしますが。 ○藤谷関係官 それに関しても,Bさん,Cさんも税制優遇はもらえないとなると思います。なぜならば,B,CがAに間接的に財産をあげているのと同じことと考えるからです。 ○長谷川幹事 ありがとうございました。 ○中田部会長 ほかに。 ○山田委員 先ほど申し上げたことには直接関わらない,しかし,第2の1の(1)について,もう一言,申し上げたいと思います。(注1)でございます。公益信託の認定の取消しによる終了の論点において乙案を採る場合にはというので,乙案を先ほど私は私の意見として申し上げたところですが,このときは信託終了時の残余財産ではなく,公益信託認定取消時の信託財産と表現することになるものと考えられるということです。これを第2の1の(1)に当てはめた場合に,私はやむなしということではありますが,甲2案が私の意見であると申し上げましたが,信託終了時にはこのとおりでいいと思うのですが,取消時はよく理解をしていないのですが,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の5条17号が類似するルールではないかと思います。 そうすると,少し違った規律になっておりますので,何が違うかというのはうまく説明できないのですけれども,全てか,全てではなくて一部かという違いだろうと思います。その一部かというところが第2の1の(1)でいうと,乙案に対応するのかどうかというのが今,見極めきれていないのですが,同じであれ,同じでないにせよ,取消しの場合は類似目的の公益信託,公益法人,国又は地方公共団体というのに帰属させる部分について,一定の制約を掛けるという考え方は,公益法人法の中では採られているところでありますので,それと同等のものは公益信託においても可能ではないかと思いますし,可能であればそのようにするのがよいと思います。 ○中田部会長 ほかに。大体,よろしいでしょうか。 第2については,残余財産の帰属権利者の指定に関する定めを必置とするということについてはほぼ御異論がなかったと思いますが,その後,甲案か,乙案かについて御意見が対立したと思います。その上で,類似の目的という要件の要否あるいはその内容について検討すべきだという御意見も頂戴いたしました。それから,1の(2)については国庫に帰属するという御意見が出たと思います。清算受託者に帰属するという御意見はなかったように伺いました。2の類似目的の公益信託としての継続というのは,1との関係をよく考えるべきだという前提の御指摘があったかと思います。その上で,甲案,乙案の両論の御意見があったと思います。 それでは,時間が来ておりますので,ここで,一旦,休憩にしたいと思います。15分後の4時25分に再開いたしますので,その時間になりましたら御参集ください。 (休 憩) ○中田部会長 それでは,再開いたします。 部会資料37の「第3 公益信託の変更,併合及び分割」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○佐藤関係官 それでは,「第3 公益信託の変更,併合及び分割」のうち,「1 公益信託の変更命令」について御説明いたします。(1)の本文では,公益信託法第5条を廃止又は改正する。その上で,公益信託についても,信託法第150条を適用することとし,同条に基づく変更命令を権限,すなわち,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況に照らして信託の目的の達成の支障になるに至ったときに信託の変更を命ずる権限は,甲案として「公益信託の認定・監督を行う行政庁等が有するものとする。」,乙案として「裁判所が有するものとする。」という提案をしております。 新たな公益信託制度において,公益信託を民間による公益活動の手段として積極的に位置付け,主務官庁の裁量的・包括的な許可・監督制を廃止するのであれば,信託の変更についても公益信託の信託関係人の私的自治に任せることが適切であることから,公益信託法第5条の規律は廃止又は改正するのが相当であると考えられます。その上で,公益信託についても信託法第150条の趣旨が妥当することから,同条を適用することが相当であると考えられます。そして,同条による変更命令は,変更後の公益信託が認定基準に合致していることを確認した上で行う必要がある上,公益信託の監督とも関連する権限であることから,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の権限とする考え方を甲案として提案しております。他方,信託設定の当時予見することのできなかった特別の事情の有無等の判断は,裁判所においても可能であるとして,信託法第150条と同様に,変更命令の主体を裁判所とする考え方もあり得ますので,これを乙案として提案しております。 (2)の本文では,(1)の公益信託の変更命令の申立てを行う者は,甲案として「受託者又は信託管理人とする。」,乙案として「委託者,受託者又は信託管理人とする。」という提案をしております。 委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだけ排除することが望ましいとの観点から,委託者を変更命令の申立権者とすべきではないと考えられ,これを甲案として提案しております。これに対し,委託者も信託財産を拠出した者として,その信託の行く末に大きな関心を持っている場合が多いことなどから,委託者についても,信託の変更命令の申立権者とすべきであるとの考え方もあり得,これを乙案として提案しております。もっとも,いずれの案もデフォルトルールとして考えておりまして,信託行為により委託者の権限の増減は認められることを想定しております。 第3の「2 公益信託における信託の変更」について御説明いたします。本文では,「公益信託について信託の変更(信託法第149条)をするときは,原則として,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の変更の認定を受けなければならないものとし,例外的に軽微な変更の場合には,公益信託の認定・監督を行う行政庁等に対し事後の届出を行うことで足りるものとすることでどうか。」という提案をしております。 公益信託が一旦設定された後は,その公益信託は公益のために存在するものですので,これを委託者や受託者等の合意によって自由な信託の変更を認めるべきではないと考えられる上,信託の変更内容によっては公益信託の認定基準の充足性に問題が生じる可能性があることからすると,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の認定を必要とするのが相当であると考えられます。もっとも,信託行為の軽微な変更も含めて全ての信託の変更について公益信託の認定・監督を行う行政庁等の認定を得ることとするのは,受託者等の事務手続の負担が課題となることなどから,信託の軽微な変更については公益信託の認定・監督を行う行政庁等に対する事後の届出で足りるものとすべきと考えられます。そこで,本文のような提案をしております。 第3の「3 公益信託における信託の併合及び分割」について御説明いたします。本文では,「公益信託について信託の併合・分割をするときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等から併合・分割の認定を受けなければならないものとすることでどうか。」という提案をしております。 公益信託が一旦設定された後は,その信託財産は公益のために存在するものであり,当該信託を委託者や受託者等の合意等による併合・分割を行った結果,その信託財産に変動が生じるのは不適当な場合があり得ます。また,信託の併合又は分割の内容によっては,公益信託の認定基準の充足性に問題が生じる可能性もあります。そこで,公益信託について信託の併合・分割をするときには,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の認定を受けなければならないものとすることを提案しております。 ○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○平川委員 まず,3の1につきましては甲案に賛成します。理由は,当該公益信託を実質,よく知る行政庁等の権限とするのが妥当であると考えます。行政庁等は認定・監督権を有しており,公益信託の変更命令を発令する権限は,かかる監督権を行政庁として妥当な行政権の行使の範囲内であると考えます。 1の(2)につきましては甲案に賛成します。理由は,委託者の権限は極力,限定的に考えるべきであるという立場を採ります。 2につきましては法務省には反対します。法務省案は,一旦,全ての変更を原則,行政庁の認定を必要とした上で,軽微な変更はこの例外として事後届出とするものです。しかし,公益法人の場合と同様に原則的に信託の変更は届出にとどめ,例外的に公益目的事業の変更,監督行政庁の変更を伴う活動地域の変更など,公益信託認定の根幹に関わる事項については変更認定を必要とすることとし,逆の規定の書きぶりとすべきであると考えます。例えば公益法人の場合,定款変更のときには届出によることを原則としており,認定が必要な場合としては地域の変更,公益事業目的の変更,収益事業の変更を例外として設けています。 3につきましては基本的に賛成します。ただし,行政庁等の認定に委ねるとしても,認定ガイドライン等を設けるのだと思いますけれども,これに公益信託が私益信託に吸収合併される場合等,場合に分けて要件が検討されるべきであると考えます。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○吉谷委員 まず,1(1)につきましては甲案に賛成いたします。変更命令は認定を行う行政庁によるというのが認定制度と整合すると考えます。裁判所による変更命令は,更に行政庁の認定基準と整合させるための仕組みが必要であって制度を複雑にします。それを上回るようなメリットが乙案にあるとは感じられませんでした。 次に(2)ですが,これも甲案に賛成です。デフォルトルールとして甲案でよいと考えます。委託者に内部的なガバナンスの機能をデフォルトで期待するということはできないと考えます。 次に2番ですが,これは提案に賛成です。その中で,信託の目的の変更については先ほども申し上げましたが,委託者が最初に意図したもの以外に信託目的を変更することは,容易には認められるべきではないと考えます。しかし,委託者の意図を余りに狭く解することで信託が終了してしまったり,利用されなくなったりするというよりは,若干,拡大して解釈して変更を認めるのがよいのではないかと。ただ,行政庁による変更認定の際に必要な認定審査をしていただくべきと考えます。 最後に3番ですが,信託の併合・分割については効率化等が認められるのであれば認めてよいと考え,行政庁の関与があるということで,提案でよろしいのではないかと考えます。その上で,私益信託と目的信託が公益信託の併合・分割の対象になるのかということについては,認める必要はないと考えます。まず,公益信託の財産を私益信託や目的信託の財産とするような併合・分割につきましては,一度,公益目的のために拠出された財産を公益目的以外に用いることを許すものでありますので,先ほども申し上げたとおりの理由ですが,反対です。 次に,私益信託,目的信託の財産を公益信託の財産にするような併合・分割ですが,これは追加信託であるとか,寄附とかいう形で代替ができるので,特段,法制化する意味合いはないと考えました。 ○深山委員 変更命令について意見を申し上げたいと思います。結論として私は乙案,裁判所が有するということが妥当だと考えます。その理由は,先ほど似たような議論を終了命令のところでもしましたけれども,より分かりやすいのは変更命令であると思います。つまり,信託関係者が変更しようと皆が思っていれば変更の手続をとる。その場合に,もちろん,2の論点である行政庁等の認定等の問題は更に出てくるわけですが,いずれにしても,そちらのルートをとるのが一般的で,そうではなくて変更命令が発せられる場面というのは,内部的に意見の対立がある場合というのが一つ想定されるように思います。そういう意味で,関係者間で意見の対立があるときに,どちらが妥当かという判断をする機関として裁判所がふさわしいと考えるのは先ほどと同様であります。 (2)の申立権者については,ここはデフォルトルールなので余り強くこだわる必要はないのかもしれませんが,考え方としては,委託者も含め関係者にそれぞれ申立てができる地位を与えた上で,最終的には,いずれにしろ裁判所が判断するということで,そういう仕組みにするのがよろしいと考えますので,ここも乙案ということでございます。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 1の(1)ですけれども,結論としては深山委員と同じなんですが,恐らく理屈としても信託契約という私法上の効果を伴う変更ですから,信託法の本来の原則,信託法にのっとって裁判所が私法的な効果を伴う変更命令を出すということだと思います。仮に行政庁たる認定機関にもそういう権限を与えるとしたら,それは私法上の効果を伴わない形での何か違うものとして認識するということになるのではないかと思います。どっちがいいかというよりも,私法上の効果という観点からすると,裁判所以外には考えられないのではないのかと考えます。 ○棚橋幹事 まず,裁判所としてやりたくないということは全くないということは,はっきり申し上げたいところでございます。 その上で,意見を述べさせていただくのは1の(1)の点のみですけれども,私法上の効力というお話ですとか,争いの有無ですとか,様々な考慮要素はあるかと思いますが,裁判所としては,基本的には認定基準に関わる部分については,認定機関が一番その判断に適しているのではないかという観点から,裁判所か行政庁等のどちらが判断するのがより適切かという点については行政庁等なのではないかという趣旨で意見を申し上げてきたということでございます。 ここの1の(1)については,もちろん,これは事情変更の場合ということではあるんですけれども,変更ということと,一旦,終了又は認定取消しなりがあった上で,また,新しく作るということとの違いが若干,分からないというところもあるんですけれども,基本的にはここでは認定基準の判断が行われるということのように思いましたので,より適切なのは行政庁等ではないかという意見となります。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山田委員 第3の1の(1)でございますが,乙案で裁判所による変更命令が望ましいと思います。理由は,小野委員,深山委員がおっしゃったのと重なりますので繰り返しません。その上でですが,分からないところもあります。それは,裁判所が変更命令を信託法150条に基づいて出すとした場合に,認定基準周りの問題をどうするかということです。棚橋幹事の御発言に少し関連するかもしれませんが,認定基準周りそのものは認定・監督をする行政庁の問題であろうと思います。したがって,2のところの軽微な場合にどうする,そうでない場合にどうするというのが基本的には係ってくるのかなと思います。 しかし,一方で,裁判所に変更命令を申し立て,変更命令が出た後ですかね,軽微でないと,今度は行政庁等に変更の認定を受けるということになるとすると,少し工夫をする余地があるのではないかなと思います。一般的に裁判所が関わる,これは非訟ですかね,信託の非訟についてできるのかどうか分かりませんが,第3の1の(1),公益信託の変更命令は裁判所が有するものとした上で,認定・監督をする行政庁等の意見を聴くみたいな仕組みを設けることによって,ワンストップでというのでしょうか,一つの手続で行うというようなことができるならば,考えたらいいのではないかなと思います。 ○樋口委員 3点,申し上げますが,いずれも短く,一つは質問なんですけれども,あるいは確認なんですが,ここの19ページに例えば委託者というのが出てきます。こういう場合に,我々はまず共通理解として委託者というのは一身専属の委託者,委託者の相続人であれ,何であれなんていうと,どんどん,ネズミ算式には増えていかないと思いますけれども,そういうことを考えていなくて,単純に委託者が生きていて,その人がという,そういうことだけを想定して我々は議論しているのだろうかということを確認しておきたいと思いますが,1点目,ごく簡単なことなので。 ○中田部会長 では,先にそれを。 ○中辻幹事 私どもとしては,公益信託を委託した委託者本人について考えておりまして,相続人については……。 ○樋口委員 亡くなってしまえばおしまいと。 ○中辻幹事 はい,ということを考えておりました。 ○樋口委員 分かりました。ありがとうございます。 二つ目は,私も逃げ回ってしまうなんていう表現をしたのは非常に穏当でないと思っておるので,つまり,この国で認定制度をやるわけですよね,とにかく公益信託について。それについて,認定制度は当然のことだという話になっているわけで,認定する行政庁がいて,行政庁がいるところと,それから,裁判所というところでの役割分担がどう在るべきかというのは,なかなか,難しい課題であるということは単純な私でも認識しております。その点は補足したいと思います。 三つ目ですけれども,変更ということなんですけれども,信託の変更というのは何なのだろうというのが,幾つかのここの説明の中では文章として出てくる部分があるので,推測ももちろんしているんですけれども,普通に例えば英語ではデビエーションとかいうような法理があって,これは私的信託の話,私益信託の話ですけれども,信託の変更で当初の信託から変更されるときに大きく分けて二つあるということです。 一つは,信託というのは,結局,財産管理で,それを財産管理して運用して,収益を可能であれば上げて,それを今回の場合は公益目的のために配分していくということなので,初めの運用の部分と,それから,配分の部分があって,どちらも変更はあり得るわけです。もちろん,公益目的という大きな目的の中で配分先を重点化して,こちら,今年はこういうところにとかいうことが元々の文章では例えば平等にみたいな話でやっていたのが,いやいや,そうではないでしょうという配分のところだって変更はあり得るんですね。運用のやり方について今までの運用のやり方では,これでは先細りして,全部,駄目になってしまうから,何らかの形で変更しないといけないと,運用手段をというのもあると思うんですけれども,そのいずれも考えながら,こういう話なのか,そうでないのかということが必ずしも十分に分からなかったものだからということで発言しました。 ○中辻幹事 三つ目も御質問と捉えましたのでお答えしますと,信託の変更の定義につきましては,部回資料37の18ページ補足説明の冒頭に書いてあるとおりです。ここでは抽象的な書き方になっておりますので,もう少し具体的にという御趣旨だと思いますけれども,既存の信託行為の定めについて改廃を加えることは信託の変更に当たると言うことができます。そうしますと,信託行為の中に先ほど樋口委員が言われた運用の方法あるいは配分の方法が定めがあるのであれば,それらの定めを変えることは両方とも信託の変更に当たることになりますし,そもそも運用の方法や配分の方法が信託行為の中に規定されていなければ,信託の変更には当たらないという整理になるものと考えます。 ○中田部会長 樋口委員,よろしいでしょうか。 ○樋口委員 はい。 ○神作幹事 23ページの3についてでございますけれども,よろしいでしょうか。公益信託における信託の併合・分割についてでありますが,24ページの2の理由付けからすると,これは必ずしも併合・分割だけではなくて,事業の移転だとか,事業の取得のような場合にも同じ理由付けが当てはまるようにも思われます。23ページの記載は併合・分割に限定する趣旨なのか,それとも機能的に同等のものがあれば,それらについても基本的に同様の規律を適用するという前提なのか,御質問させていただければと思います。 ○中辻幹事 御指摘をありがとうございます。事業の移転についてまでは考えを及ぼしておりませんでした。公益信託における事業の移転や取得について,信託の併合や分割の規律が適用されるか否か,御指摘の点も含めて,この論点を考えていこうと思います。 ○新井委員 信託の併合と分割についてです。(注)がありまして,併合・分割前の信託がいずれも公益信託の場合に限らないと,公益信託,私益信託又は目的信託との併合や,公益信託から私益信託又は目的信託への吸収信託分割の場合も含めて検討する必要があると記述されています。この検討をする必要があるという意味なんですが,つまり,ここでいう併合・分割というのは,そういう多様な種類の信託との併合・分割ということを必然的に意味すると。したがって,必ず検討するという趣旨なのか,それとも,もう少し軽い意味で一応,検討しておく必要があるという趣旨なんでしょうか。私はここでの併合・分割というのは,公益信託相互に限るべきだと考えます。したがって,そういう質問をしたわけです。 それと関連して,今の神作幹事等の発言とも関連しますが,併合・分割というのと信託の変更,この辺の差異というかが必ずしも明確ではないような気がするんです。もう少し,この辺りを少し整理してみる必要というのはないでしょうか。どちらが大きい概念かといえば,何となく信託の変更のほうが大きい概念で,併合・分割も全て,その中に含み得るような感じもするんですが,その辺り,もし何かお考えがあれば事務局の方からお答えいただきたいんですが,いかがでしょうか。 ○中辻幹事 まず,1点目につきましては軽い意味で考えておりました。物事を検討する際には,できるだけ広い視野から検討すべきであるというくらいの趣旨でございます。 また,信託の変更と,信託の併合・分割の関係を整理してみる必要があるという御指摘も頂きましたので,それも含めて,再度,事務局の方で検討させていただきます。 ○中田部会長 信託法自体で,変更と併合と分割と規定を分けているということを踏まえて御提案されたのだと思いますけれども,更に神作幹事の御指摘も含めて検討を進めるということになろうかと存じます。 ほかにいかがでしょうか。 ○林幹事 まずは,2の公益信託における信託の変更について,法務省の御提案では原則として認定を受けなければならないが,例外的に軽微な変更のときは届出で足りるという,こういう書きぶりですが,原則と例外は逆であるべきで,事後的な届出で足りるというのが原則で,変更認定を受けなければならないのを例外として捉えるべきではないかという議論が,日弁連ではありました。ただ,そうしたときにどこまでが届出で足りる軽微なもので,どこからが認定を受けるべきものなのか,もちろん,それに関わって1の変更命令の対象はどこまでかという議論にもなってくるんだろうと思います。私自身は,それらの境界線について具体的なイメージは持ち切れていないので,問題点を指摘するところまでにとどまってしまうところです。 併合・分割に関しましては,取りあえず,御提案としては賛成なのですけれども,(注)のところというか,それはほかの論点とも絡むところで,それ次第と思っています。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。 1については御意見が分かれました。2につきましては,平川委員と林幹事と恐らく共通しているのかと思いますけれども,原則と例外を逆にすべきではないかという御指摘を頂きました。それに対して,これに賛成だという委員からの御発言もございました。それから,3については公益信託相互間に限るべきだという御意見がお二方から出たかと思いますが,更に変更,併合・分割に加えて事業の移転・取得も含めて,更に検討すべきであると,こういった御意見を頂きました。 それでは,続きまして部会資料37の「第4 公益信託と私益信託の相互転換」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○佐藤関係官 それでは,御説明いたします。 「第4 公益信託と私益信託の相互転換」については,(前注)に記載しておりますとおり,①公益信託の認定を受ける当初から一定期間後に公益信託を私益信託に転換させることを予定している場合,②公益信託の認定を受けた段階では私益信託に転換させる意図はなかったが,その後の状況の変化により,信託の変更により公益信託を私益信託に転換させる場合,③私益信託を設定する当初から一定期間後に公益信託に転換することを予定している場合,④私益信託を設定した段階では公益信託に転換させる意図はなかったが,その後の状況の変化により,信託の変更により私益信託を公益信託に転換させる場合の大きく4類型に整理することができるかと思います。ここでは,このうち,①から③までの類型について検討するということにしております。 それでは,第4の「1 公益先行信託の可否」について御説明いたします。本文では,「公益先行信託は許容しないものとすることでどうか。」という提案をしております。 ここでいう公益先行信託とは,公益信託の認定申請を受ける際において,一定期間経過後に私益信託に転換することを予定しているものを対象としております。公益先行信託は,当初から公益のために供する期間が一定期間に限定されており,公益信託としての認定手続などの社会的コストを掛けるまでの必要性について疑問があることや,税制優遇を受ける観点などから,これを許容しないとの提案をしております。 第4の「2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更の可否」について御説明いたします。本文では,「いったん設定された公益信託について,信託の変更によって受益者の定めを設けることはできないものすることでどうか。」という提案をしております。 公益信託の委託者は,特定の公益目的に財産を拠出するという意図で,その財産を信託する事例が大半であることに加え,公益性を理由に税制優遇を受けていた公益信託を受益者の定めを設けて私益信託にすることは,公益信託の関係者に不当な利益を与えることになり,相当ではないことなどから,一旦設定された公益信託については,信託の変更によって受益者の定めを設けることはできないものとすることを提案しております。 第4の「3 残余公益信託の可否」について御説明いたします。本文では,「残余公益信託は許容しないものとすることでどうか。」という提案をしております。ただし,ここでいう残余公益信託は,残余公益信託の設定時において,将来公益信託に移行した場合の認定基準該当性を含めて,公益信託の認定・監督を行う行政庁等が判断することを前提としております。 当初の私益信託の設定の段階で,例えば30年後の公益信託としての適格性や認定基準該当性の判断を新たな公益信託の認定を行う行政庁等が行うことは困難であると考えられることなどから,このような考え方を提案しております。なお,このような考え方を採用した場合であっても,私益信託を設定する際に,その信託行為において,受託者に対し一定期間後に公益信託の認定申請を行うことを義務付け,その期間経過後に受託者が公益信託の認定申請を行い,公益信託を設定することが禁止されるものではないと考えられます。 ○中田部会長 ただいま御説明のありました部分について御審議いただきます。資料25ページの表のうちの④につきましては,昨年11月の部会で御審議いただきました。その際,①から③についても関連する御意見を頂いております。本日はその①から③について特に御審議を頂きたいと思います。それが第4の項目の1から3に対応しております。どこからでも結構ですので御自由に御発言をお願いいたします。 ○小野委員 すみません,気になったことで私益という法律用語なんですけれども,その法律用語が本当に私の利益と理解されて,議論されているような感じがするんですが,公益的私益信託というんでしょうか,また,学説では公益信託であっても,受益者がいてもいいのではないかという考えもあり,海外ではそういうのもあるかと思います。ですから,私益だから,また,受益者がいるのはよろしくないというようなニュアンスにとられないように議論する必要があると思います。公益的私益信託もあってもしかるべきですし,前にも議論しましたように,不特定多数という公益性の要件において争いがあり得る特定の高校の学生や卒業学生に対する奨学金のように,場合によっては公益的私益信託を用いる,公益的目的信託もあり得るかもしれませんけれども,その辺の設計の自由度というのは認めてもよろしいかと思います。また,事業型の場合,事業が継続しなくなった段階で違う公益的又は準公益的私益信託のような形で継続することもあるかと思うので,そういう前提での議論でないと私益を個人的利益ととらえ,それはよろしくないという議論だと,恐らく転換は認めにくいという議論に近付いてしまうと思います。しかしながら,事業型の場合,公益的な私益信託また公益的目的信託という前提とすれば,自由度というものはよりなるべく認めてメニューを豊富にした方がよろしいのではないかという議論に近付くのではないかと思います。 ○平川委員 1の公益先行信託の可否については,許容しないものとするという法務省案に賛成します。理由は,法律関係が複雑化しますし,また,税制優遇の観点から許容しないことが妥当であると考えます。 2番の公益信託から受益者の定めのある信託への変更の可否についても,できないものとするという法務省案に賛成します。公益性を担保する根幹を揺るがすことから,受益者の定めのある信託への変更は不可と考えます。ただし,ただいま小野委員がおっしゃいましたように例外もあり得ると考えられ,例えば新受益者が公益法人等であり,その背後に不特定多数の受益者が存在して,公益性を認定できるような場合には,例外的に認められるということはあると考えます。 3につきましても,残余公益信託は許容しないという法務省案に賛成します。理由は,私益信託の終了時点で公益信託への転換を図り,その時点で公益信託認定を取ることが法律関係を簡素化するものでありまして,私益信託の設定の当初の段階で,将来の時点で公益信託となることにつき,事前に公益認定をするということは実務的にも困難が伴いますし,これを許容する必要性も実益もないと考えます。 ○中田部会長 ほかに。 ○深山委員 第4の公益信託と私益信託の相互転換については,①,②,③と整理されたいずれも提案としては許容しないという提案ですが,私はいずれも許容するということを検討すべきだと思います。もちろん,いろいろなメニューを増やして使える可能性を広げるという総論的な観点もありますが,もう少し各論的に見ていったときに,税制の問題はさておいて,ここでは度外視して,仕組みとして先に公益信託を設定して,それが事後に私益信託になるという場合であれ,逆の場合であれ,最初から一定の設計がなされている①と③の場合には,全体として見て,公益信託として許容するかどうかということを判断して,それで,駄目だということもあるかもしれません。後ろに私益信託が予定されていることによって,前段の公益信託についても公益認定を認め難いという場合もあるかもしれません。しかし,そうでない場合もあるかもしれない。 その逆もそうでして,私益信託が先行していたからといって,これが何十年後に公益信託になりますというのでは判断できないということが指摘されていますが,しかし,比較的短期間,私益信託が先行して近い将来に公益信託に移行するというような設計であれば,必ずしも当初の段階で公益認定の判断ができないとは限らないだろうと思います。ですから,そこはケース・バイ・ケースで,常に転換を認めるということではもちろんなくて,転換が認められる余地を残すというか,その可能性を制度として残した上で,あとはケース・バイ・ケースで許容できるかどうかを判断するということでよくて,最初から全て駄目ということはないだろうと思います。あえて例外的に認める場合だったら,最初から認めた上で駄目な場合もありますよという仕組みの方が素直だろうという気が致します。 ②の事後的に変更する場合は,正に変更する時点での妥当性が判断されるのだろうと思いますが,いずれにしろ,制度としてはいろいろな可能性を残した上で,必要な要件ですとか,認定とかできちっとした規律にする必要は当然あり,そのことを当然の前提にしていますが,制度として否定する必要はないというのが私の意見であります。 ○林幹事 ①と②の公益先行の方についてのみ申し上げますが,そこについて結論としては,こういうのもあってよいではないかという意味において深山委員と同じです。弁護士会の議論の中でも両論があるところですが,公益信託の促進という観点でメニューを増やすという意味において,公益先行信託の可能性も認めるべきではと思います。少なくとも今後のパブコメなりを考えたときに,両論があるという形でパブコメをやって,その上で,今後,議論を詰めればいいのではないかと思います。 それから,一つは残余財産の帰属のところでは私自身は乙案で,一定の財産は当初の信託財産の額の限度で委託者に戻ってよいという意見なのですが,それとの対比で見たときに,ここと先ほどの残余財産の論点とは連動はしないはずですので,残余財産の論点では認めて,ここは否定するというのもあり得るので,公益から私益へという目的を残余財産を戻すというところにおいて実現するという考え方もあると思いました。また,逆に,残余財産について委託者に戻ることが認められるのだったら,こちらで認められてもいいという議論もあり得るところと思います。ですから,両論点は,連動はしていないのですけれども,それを制度としてどう組むかという問題であると考えます。 それから,それとの関連では,①と②は,これもまた,実は連動しないと考えられて,①は認めるけれども,事後的な場合の②は否定するというのも論理的にありうるとも思います。この点は,制度としてどう組むかというところとは思いますので,指摘させていただきます。 ○吉谷委員 残余財産につきまして私人に帰属させることは不適当だという意見との整合性から,①,②については反対でございます。①につきましては帰属権利者だけでなくて,私益信託に転換させるということで,更に何か,このような制度で公益信託をやろうと思う人が増えるとは余り思えないと思いました。公益認定を受ける手間が増えるだけですので,私益信託と一体,どこが違うのだろうと思いますし,公益事業をさせている受託者に,今度は私益のために何かをさせるというのは相容れないような気も致します。受託者も代えるのだろうかとか,いろいろ,考えてしまいますけれども,このような複雑な制度を導入する必要性というのは余り感じられないなと思います。もちろん,税制の問題のところは非常に大きな懸念点というところであります。 ②につきましては税の問題に加えまして,当初の委託者の意図と全くかけ離れたものに変更するということを許容することはできないと思います。 ③につきましては,これは信託設定時に公益認定できるかというと,認定の制度を作る上で技術的に非常に難しいのではないかなと考えました。そうすると,④も含めまして私益信託の終了時点で公益認定を受けるということになろうかと思われます。もし,そうするということでありましたら,信託の変更という方法をとる必要はなくて,そのような転換の制度を作らなくても,公益信託と私益信託という制度を組み合わせるということを実務的に工夫すれば,解決するのではないかなと思っております。 ○能見委員 私の個人的な意見としては,全ての類型を認めるべきだと思いますけれども,先ほど税法の専門家から,税法の観点からはそれは駄目ですよと言われたので,余りこれ以上,議論してもしようがないところはあるのですが,ただ,先ほどどなたかが言われましたけれども,選択肢としてこういうのを提示して,パブリックコメントを募るということは,それなりに意味のあることだと思いますので,一応,原案としては残したらと思います。 ①と②は,先ほどの残余財産の帰属権利者とある意味で共通する問題なので,そこで乙案を採って,こちらでも認めるというのが一番整合的だろうと思っております。それでもって,また,①,②に関して公益信託の期間というのが非常に短いようなものというのを当初から予定して,①ですかね,そういうのはまずいではないかということが書いてあったと思いますけれども,ここは単なる私法ルールではなくて,もうちょっと大きな政策的な考え方が問題になっていると思いますので,そういうルールとして一定期間以上,公益信託というものを行って,そういう意味で,社会に貢献しなくてはいけないというような規律にすることも考えられるかと思いました。 それから,③は,私益信託の設定の当初から後で公益信託になることを予定しているからということで,当初の段階で公益の認定を受ける,税の優遇を受けるというのは,なかなか実際上は難しいかもしれないと思います。それに対して私としては,特にこれはという対案があるわけではありません。ただ,③は難しいにしても,ある意味ではハンブルな希望ですが,せめて④ぐらいは何とかできないかということを考えています。なんとか,私益信託を終了させないで公益信託につなげる方法はないだろうかということです。先ほども言いましたけれども,一旦,終了させて公益信託を設定することはもちろん可能なわけですが,一度終了させるというのと,そのまま継続するのでは,清算の有無などの点で大分違います。継続させるということのメリットは大きいものがありますので,そういう方法として,せめて④が認められるといいのではないかと思います。 私益信託を公益信託につなげる方法としては,いろいろなことが考えられ,1つには私益信託で目的変更して,目的信託を介することなく,いきなり公益信託にするという方法,これが④かもしれませんが,私としては考えられるのだろうと思うわけです。もう一つ,私益信託から一度目的信託にする。その後に,公益信託に変わるということも,本当は考えられるのだと思いますが,私益信託と目的信託の関係については,現在の信託法の規律で相互の転換はできないとされておりますので,個人的にはこの規律も修正してできるようにすべきだと思います。しかし,そこはいじらいないんだとすると,私益信託からある意味で目的信託を飛び越えて,いきなり公益信託にするというのを目的変更を伴ってできるとする方法があるとよろしいのではないかと思います。 ○中田部会長 ほかに。 ○新井委員 1番目と2番目については,委託者が公益に財産を出えんしているわけですので,これは不可としたいと思います。そして,3番目については,税法上あるいは実務上の観点から法律関係を非常に複雑にするので,これも不可としたいと思います。それで,④の私益信託から公益信託だけ生きるわけですが,これを生かした上で,その後のことを少し検討したらどうでしょうか。というのはどういうことかというと,私益から公益へ転換というやり方はいろいろあるわけです。例えば私益の受託者は甲,公益の受託者は甲というやり方もあれば,私益の受託者が甲で公益の受託者は乙という,そういうやり方もあると思います。あるいは,同一性を保ったのにするのか,全く別の信託にするのか,継続性の問題もあると思うのです。あるいは吸収合併という,そういうようなやり方もあると思うのです。ですから,むしろ,④に限定した上でどういうことが実務的に可能なのかという辺りを詰めていくことが生産的ではないかなと思っています。 ○中田部会長 ありがとうございました。④につきましては昨年11月の部会で御議論いただきまして,更に本日,能見委員,新井委員から,その方向についてもっと詰めろという御指摘を頂きましたので,部会資料34と併せて更に検討していただきますが,本日,それもさりながら,①から③について特にお願いできればと思います。 ○樋口委員 私も藤谷関係官が代表している税の壁というので,何を言ってもという感じもなくはないんですが,しかし,藤谷関係官が言ったように,ここでは私法上のルールを決めているんだということです。つまり,今は私法的な法改革をやっているわけですよね。それで,現状をどうやっていい方向に変えていくかというので,一挙にはできないでしょうということではあります。しかし,後で出てくる名称のところで,つまり,公益という名称を使える,公益信託とはそのまま言えなくて公益先行信託でいいと思うんですけれども,そのままなんですから,しかし,残余公益信託とか,そういうものもある,それで,取りあえずは税制上の恩典はないかもしれない。しかし,そういうものが一つでも二つでも実際に税制上の問題ではなくて公益信託で,しかし,自分の利益も自分だけではなくて孫だか何だか分からないんですけれども,そういう人たちのことも両方を考えないといかんという,そういうようなものもあり得る,しかも,公益性もあるんだという名称もあって,そういうものが幾つか出てこないと,仕組みや何かは変わらない。 だから,取りあえず税の壁は壁として,こういうものがあっても,本当にそういう人がどれだけ出てくるかというのを見てみようではないかという,出てきたら,しかも,藤谷関係官が危惧しているように単純に脱税だか何だかのためにうまく使うというだけの話ではない使い方をしている人がいて,そういう人には税法上の恩典だってあってもいいのではないかという話にまで進むこともあるかもしれない。私が死んでからだと思いますけれども,何であれ,何か一歩は記すというのはあってもいいかもしれない。その一歩の本当の小さな一歩として,パブリックコメントでこういうようなアイデアも,例えばアメリカなんかではあるんだよと,これは日本では受け入れられないんでしょうかというようなことを聞いてみる等があっていいではないかと感じました。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 それでは,それぞれの論点について両方のお立場から御意見を頂いたかと存じます。あと,残り時間は僅かでございますが,できるところまで進めたいと思いますので,続きまして部会資料37の「第5 その他の論点」について御審議をお願いいたします。事務当局から説明してもらいます。 ○佐藤関係官 それでは,御説明いたします。 「第5 その他の論点」のうち,「1 自己信託の方法(信託法第3条第3号)による公益信託の設定の可否」について御説明いたします。本文では,甲案として「自己信託の方法により公益信託をすることを可能とする。」,乙案として「自己信託の方法により公益信託をすることを可能としない。」という提案をしております。 新たな公益信託制度においては信託管理人を必置とするなど,信託管理人による監督の充実が図られる一方,委託者の監督権限は,目的信託の委託者の監督権限よりも限定される可能性があることから,信託法第258条第1項の趣旨は,公益信託については必ずしも妥当しないなどとして,自己信託の方法により公益信託をすることを可能とする考え方を甲案として提案しております。他方,公益信託の委託者があえて自らを受託者として公益信託を運営するニーズは多くないと考えられることなどから,これを否定する考え方を乙案として提案しております。 第5の「2 公益信託の名称」について御説明いたします。本文では,「公益信託の名称に関して以下のような規律を設けることでどうか。(1)公益信託には,その名称中に公益信託という文字を用いなければならない。(2)何人も,公益信託でないものについて,その名称又は商号中に,公益信託である誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。(3)何人も,不正の目的をもって他の公益信託であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。(4)(3)に違反する名称又は商号の使用によって事業に係る利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある公益信託の受託者は,その利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる。」という提案をしております。 新たな公益信託制度において,公益信託に対する国民の信頼の確保や税法上の優遇措置を視野に入れて検討する観点からは,その活動の透明性を確保することが重要であり,そのために公益信託の認定等の処分が公益信託に関して行われることを国民が理解できるように,公益信託の名称を付すことは有用であると言えることから,公益法人認定法及び一般法人法などを参考にして本文のような提案をしております。 第5の「3 新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い」について御説明いたします。本文では,新法施行時に存在する既存の公益信託について,甲案として「新法の施行日から一定の期間内に新法の公益信託として認定を受けることを必要とし,その認定を受けなかった信託は上記の期間経過後に終了するものとする。」,乙案として「新法の施行日後に新法の公益信託として認定を受けることを必要とせず,その認定を受けなかった信託も存続するものとする。」という提案をしております。 新たな公益信託制度の下で,旧法の規定の適用を受けて主務官庁の監督に属する公益信託と,新法の適用を受けて新たな公益信託の認定・監督を行う行政庁等の監督に属する公益信託が併存するのは望ましくないことなどから,甲案を提案しております。他方,新法施行時に存在する既存の公益信託は,これまで特段の支障なく運営されてきたことなどからすれば,新たな公益信託の認定を受けることを必要とせず,その認定を受けなかったものも存続するものとすべきであるとの考え方もあり得るため,これを乙案として提案しております。 ○中田部会長 三つ,それぞれ別の論点でございますので,できるところまで進みたいと思います。まず,「1 自己信託の方法による公益信託の設定の可否」についていかがでしょうか。 ○吉谷委員 乙案に賛成いたします。委託者が公益信託を支配しないという基本的な考え方に甲案は合っていないと思います。税制も伴わないと思われますし,委託者の会計からオフバランスされるかというところでも疑問です。自己信託ではなくて,自分の財産を使って自らの計算で公益事業をすればいいというだけでありまして,そのようなものを公益信託とするニーズがあるとは思えないです。 ○新井委員 私は個人的には乙案で可能としないということでよろしいのではないかと思います。ただ,それだけだとそっけないので参考までに申し上げたいことがあります。それは台湾信託法が参考になると思います。自己信託を導入すべきかどうか,台湾でも問題になりました。それで,結論はどうなったかというと,公益法人が委託者兼受託者で公益信託を設定する場合については自己信託を許容するとしました。ですから,一般的に自己信託は認めなかったのですけれども,公益信託の設定について公益法人が関与するときには可能であるという法制を作りました。ですから,事務局の方でその辺りの経緯を調べてもらい,結論がどうであるにせよ,そういう比較法的な検討をされることは大切なことかなと思います。 ○中田部会長 ほかに1についていかがでしょうか。 ○深山委員 ここでも甲案を考えていきたいと思います。根本的な考え方として,いろいろなところで出てくる委託者の立場をどう理解するかという点は,関与させるべきでないという考え方と,いやいや,公益信託の創設者として関与を一定限度で認めてもいい,あるいはむしろ認めるべきであるという根本的な考え方の違いがあろうかと思います。そこは一つの対立点なんですが,少なくともニーズがないかといったら,そんなことは全然ないと思います。委託者がこういう信託を作りたいと考えた際に,自らそれを受託者として運営したいと思う人は恐らくいると思います。 ですから,そのことをそれはよろしくないことなんだというのは価値観の問題ですけれども,ニーズがあるかないかといったら,ニーズは間違いなくあると思います。そういう意味で,それが誰から見ても,どこから見ても正しい公益的活動だという評価がなされるのであれば,それを否定する理由はないと思います。実は公益信託と称して何か私的な利益を図るとか,脱税をするとかということが見えてくれば,もちろん,それは否定するという個別の判断をするということを前提に,仕組みとしては残していいのではないかなと考えます。 ○平川委員 自己信託については甲案に賛成し,自己信託の方法により公益信託をすることを可能とすることに賛成します。理由は,民間による公益活動を促進する観点から,様々な多様なメニューを用意することが望ましいこと,及び公益法人が受託者になれるということになった場合において,ただいま新井委員がおっしゃいましたように実際的なニーズもあると思われます。想定されるのは寄附者から公益法人が使途を指定された寄附金を受け入れた場合に,このような指定寄附金について寄附者が委託者,公益法人が受託者という形態のほかに,寄附金を受け入れた公益法人が委託者兼受託者となる形態が考えられます。 このような自己信託の場合の形態のメリットとしては,寄附者から資産が分離されることが明確になるとともに,寄附者は指定寄附の意思表示のみで事務手続は終了し,その後の信託関係を成立させることに伴う事務負担や成立後の権利義務関係から離脱することができます。英米においては,募金型公益信託が多いと理解しておりますが,これらはほとんど宣言信託による設定であると認識しています。今後,募金型が増えるということを想定しますと,自己信託は是非,実現していただきたいと思います。 ○小野委員 深山委員,平川委員がおっしゃったことと重複するところもありますけれども,今,ESG投資ということで,非財務的な投資を推進していこうと,また,そういうのが企業評価につながっていくという大きな流れがございます。もちろん,好調な企業がESG投資を自らやればいいのではないかという吉谷委員のおっしゃっていることは,今現在,行われていることそのものですけれども,公益信託を自己信託の形で利用し,そこで倒産隔離,ですから,企業の業績がよくなくなったとしても,倒産隔離された資産をESG投資として公益目的のために利用できることを可能にする制度が導入されれば,恐らく非常に喝采を受けることと思います。 受託者を探していく手間ひまとか,諸々のことを考えると,自己信託は大変有効なルールと思います。自己信託型に対して,制度設計の当初から何かよからぬことをするという前提で議論すると,がんじがらめになるおそれがありますが,今はそういう議論をすべきではありません。企業がそういう社会的貢献をしたいと思ったときに,それを倒産隔離した資産として明確になるような制度を提供するという姿勢こそが,非常に意味のあることだと思います。という観点から,平川委員もおっしゃったと思いますけれども,是非,甲案を提案していただくということは,公益信託を広める意味においても非常に有用と思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 この論点につきましては,意見が分かれておりまして,ただ,平川委員と新井委員の結論はそれぞれ違いますけれども,折衷的なものを御示唆いただいたかと存じますので,それも含めて更に検討を続けるということにしたいと思います。 あと,二つあるんですけれども,既に時間が来ておりますので,司会の不手際で申し訳ございませんが,この2点については次回に持ち越しということにさせていただきたいと存じます。 最後に,次回の議事,日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○中辻幹事 次回は,本日積み残しになりました「公益信託の名称」と「新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い」の論点を御審議いただいた後,いよいよ,第二読会に入ります。そして,「公益信託法の改正に関する補充的な検討(1)」と題しまして,公益信託の定義や,公益信託の具体的な認定基準,これはできれば一まとめにして御審議いただくのが有用ではないかと考えまして,今,一生懸命,資料を作っているところです。 次回の日程は,2月21日(火曜日)午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は,合同庁舎6号館のB棟4階の東京地検公判部会議室です。法務省の隣の検察庁の建物の更に横,公正取引委員会などが入っている建物になりますので,御注意ください。詳細については後日,開催通知と共にお知らせいたします。 ○中田部会長 ほかに御意見等は。 ○深山委員 質問なんですけれども,いわゆる二読というのをどのくらい,会議の数でいって何回ぐらいとかというイメージをお持ちなのか,あるいは資料との関係もあるとは思うんですけれども,今,答えられる範囲でイメージをお伝えいただければ有り難いんですが。 ○中辻幹事 私どもが考えている理想的な展開としては,次回,公益信託の認定基準までまとめて御審議いただき,3月は公益信託の監督・ガバナンスについて,これもまとめて御審議いただく,そして,4月に残りの論点を御審議いただくというイメージでおります。 ○深山委員 ありがとうございます。 ○中田部会長 ほかに御意見等はございますでしょうか。よろしいでしょうか。 それでは,本日の審議はこれで終了と致します。 本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-