民事信託・家族信託契約をするときに、委託者の能力はどのくらい必要か。

委託者が3つの認識ができること必要です。

1、信託する財産がどれか、特定されている。

2、信託すると、信託した財産の所有者ではなくなるが、所有者とほぼ同じ権利持ち、その権利が侵されたときの救済を求めることが出来る。

3、信託すると、信託した財産は受託者が、受託者自身の財産とは別扱いで管理する。

民法上

権利能力

 生まれたときから持っている、とされる権利です(民法3条)。

行為能力

意思能力が取引成立の前提であるとすれば、行為能力は、その取引が自身にどのような意味を持つのか、土地を1億円で売ると決めたが、相手が値下げして欲しいと言ってきた場合、100万円値下げすると決めるか、これからもっと土地の値段は上がるかもしれない、下がるかもしれない、自身にとって値下げは有利か、不利か、といったことをある程度判断する能力。プロでも100%正確な判断は出来ないと思いますので、ある程度、です(民法7条など)。

また、社会状況によって行為能力が衰えた人を保護するための法律や判例も変わってきます。(高齢化社会、多様な取引形態、本人の自己決定権の尊重と保護のバランスなど)。

行為能力の有無や衰えの程度は、法定後見等の開始の審判がされる基準になります。事理を弁識する能力(民法7条等)は、行為能力のことを指しているといえます。

契約書に住所と名前を書くように、権利能力+行為能力+住所で契約をすることが出来ると考えることができます。

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その他、色々な名前の能力

意思能力

 この本を2,000円で買おう、この土地を1億円で売ろう、などの意思を表示することができる知識と能力。本を買う、という取引と土地を売るという取引では、土地を売るという取引の方がより高い意思能力が必要とされます。考えることが多いからです。この土地は売った方が良いのか、貸した方が良いのか、いくらなら買い手がつくか、仲介業者はどこにしようか、売った後の税金はいくらか、など。

1、意思能力があるとはいえない事例

2歳の幼児がジュースを飲みたい、お菓子を食べたいという意思表示。

→ジュースを100円で買おう、お菓子をお母さんから貰おうという意思の表示が必要。

2、意思能力がなかった場合の効果

意思能力を欠く人の意思表示は、明治時代から無効のようです(大判明治38年5月11日)。

任意後見契約を締結するとき

判断能力が必要とされています。

ここでいう判断能力とは、自身の判断能力が衰えたときに行われる後見事務の内容を認識していること、後見事務を行う任意後見人を自らの意思で決めることだといえます。

公正証書遺言を作成するとき

15歳になると、遺言を作成することができます。

また遺言者は、遺言を作成するときにおいて、遺言能力を持つことが必要とされています。遺言能力とは、意思能力のことを指します。

金融機関との取引

預金

複数の行職員による、意思能力と行為能力の確認。

本人から自署・捺印を受け、同居の家族や医師の確認をとったり、推定相続人の同意をとる。

借入れ

預金と同様の確認。

借入れの必要性の検討

返済

記述なし。

意思能力がなくても金融機関は、返済を受け続けることは出来るのでしょうか。よく分かりませんでした。

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参考

信託法1条、34条

一般社団法人金融財政事情研究会編著「CSのための金融実務必携」(株)きんざい P52-P55、P122-P126

新井誠他編「信託法制の展望」(株)日本評論社 P21-P30

任意後見契約に関する法律第2条

(社)成年後見センター・リーガルサポート「任意後見実務マニュアル

Q&Aと契約条項例」新日本法規出版(株)P14-P15

東京地判平成17年9月29日

民法961条、963条

内田貴「民法4」(財)東京大学出版会 P471-P473、「民法1」P91-P121

信託の終了事由

条文の読み方、間違っていました。

司法書士谷口毅先生の研修資料に、ご自身が作成された信託契約書を研修用にみせていただきました。

(信託の終了)の条項に、「ただし、信託法164条1項は適用しない」の記載がありました。

最初はこの記載はなくても良いだろう、と考えていました。信託行為によって別のことを定めることで、回避できると理解していたからです。

谷口先生も契約書に、信託が終了する別のことを記載していました。

あとで条文を読んでみると、

信託行為に他の終了の方法を定めたら、「その定めるところによる」とあって、「除く(他の終了方法は無くなる)」とはなっていません。

立法担当者解説も、信託行為によって、他の終了方法を排除することも「選択できる」、というような記載があります。

ということで、私の条文読み間違い。

「ただし、信託法164条1項は適用しない」は信託行為に記載した方がよい条項です。理由は現在の税制だと、委託者と最初の受益者は同じ人が多いので、実質1人で信託を終了することが出来るからです。

金融機関など、第3者との関係でも必要だと考えられます。

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参考

(委託者及び受益者の合意等による信託の終了)

第百六十四条   委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。

2   委託者及び受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは、委託者及び受益者は、受託者の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

3   前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4   委託者が現に存しない場合には、第一項及び第二項の規定は、適用しない。

・寺本昌弘『逐条解説 新しい信託法』商事法務 P366

(株)沖縄銀行の民事信託研修

 


(株)沖縄銀行は、銀行主催により(一社)民事信託協会のセミナーで勉強中のようです。(一社)民事信託協会の代表は、福岡の島田司法書士。

2016年セミナーがある前、私が、民事信託・家族信託を(株)沖縄銀行に提案しに行きました。スレンチボードA1版に説明図を貼って、契約書を貼って。対応してくださった行員には、信託の説明をしながら、「民事信託・家族信託契約の標準化を日本で一番早く沖縄でやりたいです。」と伝えました。
行員さんは、「紙の資料なら頂きたいです。」とおっしゃったので、帰ってから紙の資料をレターパック一杯にして送りました。


その後は何も連絡ありません。
福岡から呼んで勉強しようとしていたのですね。沖縄では他の司法書士もやっていると思いますが、大都市とか大きな法人に弱い、というか好きですね。やっぱり。

講師の報酬は、銀行が出して、そのお金はどこから来ているんだろうと思います。

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出典:(一社)民事信託協会HP 2017年5月6日閲覧

2016/08/02 「家族信託・民事信託を活用した融資マーケットの創出」

主催:沖縄銀行 本部 行員様約30名
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アパートの所有権と、その賃貸人たる地位を分離して相続

子ども2人の夫婦で、夫が亡くなり将来は子ども2人へ適切に引き継いでもらいたい、配偶者が元気なうちは、生活に必要な分を確保したい、というような事例です。

アパートに関して、アパートの所有権と、賃貸人の地位を分離して相続することを検討しても良い、二次相続を考慮すると節税にもつながると思われます、というような考えがあって、初めて知りました。たしかに不動産の所有権と、賃貸借契約の賃貸人の地位は別に考えることができます。

この場合、固定資産税などの支払いは所有者である子ども(2人か1人)が行い、修繕、賃料の受取り、ローン返済を配偶者が行うことになるのかなと思いました。

配偶者が亡くなったときは、賃貸人の地位とローンが残っている場合は、債務者の地位を子どもが話し合いで決める、ということになるのでしょうか。

家族信託をもし使うのであれば、配偶者が亡くなった場合でも相続税がかからないように(この場合だと約4200万円)遺産分割協議をします。

その後、子の1人を受託者にして、配偶者を委託者&最初の受益者にする信託契約を締結します。信託する財産には自宅も含めることができます。残っているローンは、信託することができません。

子2人がアパートの共有持ち分を持っている場合は、それを信託するかはケースによります。

配偶者の生活費は、アパートの持分に応じた賃料から、金融機関から連帯債務が認められれば、持分に応じた債務返済分と修繕引当金を差し引いた額を充てます。

配偶者が亡くなった場合は、子2人で残った財産と債務を分けます。分けたあと、信託を終了するということができます。

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参考

かふうVol.604

「よくわかる不動産相続Q&A」

オーナーの認知症に備えた委任状(管理業務委任状)

自分なら利用するかといえばしませんが、こういう認知症への備えもあるようです。

対象

賃貸物件の所有者とその家族

利用する場面

所有者が認知症になる前に、なった後のことを家族などに委任しておく

特徴

1、後見開始の審判を受けた場合であっても、自動的に代理権は消滅しない。

2、委任できる事項が多い

(1)賃貸借契約(サブリース業者との間のサブリース原賃貸借契約を含む)の締結

(2)転貸の承諾

(3)賃料その他の契約条件の変更

(4)賃貸借契約の解除

(5)賃貸物件の修繕工事

(6)賃貸物件の原状回復工事に関する請負契約の締結

(7)その他これに付随する一切の行為

3、賃貸住宅管理業者との管理業務委託契約は解除することができない。

4、成年後見制度(おそらく任意後見を含みます)を利用することができるまでの間に使用するためのもの

参考:

(公財)日本賃貸住宅管理協会HP(2017年5月11日閲覧)

 サブリース業者との契約解除も可能か?

(公財)日本賃貸住宅管理協会のQ&AのQ4では、サブリース業者との契約解除も可能と記載されています。(2021年6月17日閲覧)

https://www.jpm.jp/proxy_form/Q&A.pdf

 私の依頼者には、確実に可能とは答えられません。委任状は、民法上の委任契約ですが簡単に作ることが出来る一方、作成時期や内容を証明するのに手間がかかる場合があるからです。作成時期や内容を証明しないといけない場合(訴訟等)、委任者は認知症などに罹患していることが想定されています。

 賃貸住宅管理業者との管理業務委託契約は解除することができない、とあるが、サブリース業者の場合は契約解除は可能か?

(公財)日本賃貸住宅管理協会の解説では、「賃貸住宅管理業者との管理業務委託契約は解除することが出来ない」との記載はないので、解除することが可能と読めます。

https://www.jpm.jp/proxy_form/Q&A.pdf

 現在、親が所有している土地について、サブリース業者との賃貸借契約解除に向けて話合い中です。父から交渉を任されているのですが、裁判になった場合に備えて委任状を作成しようと考えています。

 私なら、任意後見契約を薦めると思います。理由は、任意後見契約に関する法律に基づくので東京法務局が発行する登記事項証明書により代理権の証明が容易だからです。サブリース業者との交渉や弁護士への委任も、登記事項証明書に基づき行うことが出来ます。

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