「氏名の読み仮名の法制化に関する研究会取りまとめ(案)」について

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会第7回(令和3年7月28日開催)資料 7

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会取りまとめ(案 その2)
https://www.kinzai.or.jp/uploads/siryou7_kana.pdf

・「2024年からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせ,公証された氏名の読み仮名(カナ氏名)に基づき,マイナンバーカードに氏名をローマ字表記できるよう,迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図る。

・デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律附則第73条
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/204/pdf/s0802040282040.pdf

・例えば,①登記法令において,氏名が登記事項とされているところ,その読み仮名が登記されていないこと,②会社法令において,取締役の選任に関する議案を提出する場合には,候補者の氏名が株主総会参考書類の記載事項とされているところ,その読み仮名が記載されていないことは,いずれも不適法とはならない。

戸籍法施行規則
第六十条 戸籍法第五十条第二項の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。
一 常用漢字表(平成二十二年内閣告示第二号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)
二 別表第二に掲げる漢字
三 片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)

 

法務省 戸籍統一文字情報

http://houmukyoku.moj.go.jp/KOSEKIMOJIDB/M01.html

参考 法務省 出生届
手続根拠 戸籍法第49条,第52条
http://www.moj.go.jp/ONLINE/FAMILYREGISTER/5-1.html

・性同一性障害と診断された戸籍上の性別が男性である申立人が,男性名から女性名への名の変更許可を申し立てた事案において,正当な事由があると認められると判断し,原審を取り消して名の変更を許可した事例(大阪高裁令和元年9月18日決定(判例時報2448号3頁))もある。

・同一戸籍内においては,氏の読み仮名を異なるものとすることはできないとすることが考えられる。

・氏は戸籍の筆頭者の氏名欄にのみ記載することとされているが,氏の読み仮名は,氏と同様に戸籍の筆頭者の氏名欄にのみ記載する方法又は名の読み仮名とともに戸籍に記載されている者欄に記載する方法が考えられる。

・家庭裁判所の許可を要することなく,届出のみによる入籍が許容されるのか否かが問題となりうる。

・氏名の読み仮名の性質は、報告的届出。

・氏にあっては現に使用されている読み仮名,名にあっては命名された時に定められた読み仮名という既成の事実を届け出るものと整理するのが相当。

・【甲案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人に一定の期間内の届出義務を課す方法
【乙案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人に一定の期間内の届出を促す方法
【丙案】戸籍法第24条の戸籍訂正を活用する方法

・令和2年3月31日現在の本籍数は,約5千2百万戸籍,令和元年度の戸籍の届出数は,約4百万件。

・届出の方法としては,この他マイナポータルを活用すべきとの意見があった。

・原則として,氏名の読み仮名の届出に際し,これを証明する資料の添付を求めないが,氏名の読み仮名の許容性に疑義がある場合には,届出人に対し,氏名の読み仮名が通用して使用されていることを示す疎明資料の提示を求めるとすることも考えられる。

・氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として法制化した後,氏名の読み仮名及び氏名のローマ字表記を戸籍に記載される氏名の読み仮名と整合させる。デジタル・ガバメント実行計画において,「在留カードとマイナンバーカードの一体化について,現在関係省庁等で検討を進めているところであり,(中略)2025年度(令和7年度)から一体化したカードの交付を開始する予定。

・参考「名前のヨミガナというパンドラの箱が開きかかっている」

https://note.com/hiramoto/n/nd48f230ff0e9

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第1 氏名の読み仮名の法制化が必要な理由

1 氏名の読み仮名やその法制化の必要性についての従来の検討

  戸籍に氏名の読み仮名を記載することに関しては,過去3回,当時の法務大臣の諮問機関であった民事行政審議会及び法務省民事局に設置された戸籍制度に関する研究会において検討されたものの,いずれも「今後の検討にまつべき」,「なお検討すべき余地が残されている」,「なお慎重に検討すべき」として,制度化は見送られてきた。

(補足説明)

1 民事行政審議会における検討

  「戸籍制度に関し当面改善を要する事項」に関する諮問に対する答申(昭和50年2月28日民事行政審議会答申)においては,「子の名に用いる漢字の問題に関連して,出生届等の際に,戸籍上の氏名にすべて「ふりがな」をつけることが望ましいという意見が提出された。しかし,この点について,多数意見は,戸籍上の氏名にふりがなをつければ,各人の氏名の読み方が客観的に明白となり,便利をもたらす面はあるが,漢字それ自体の読み方にそぐわないふりがなを付して届出がされた場合の処理や,後日におけるふりがなの訂正の方法などにつき,多くの実務上の問題が派生するので,この問題は,今後の検討にまつべきである。」とされた。

   戸籍法施行規則第60条の取扱いに関する諮問に対する答申(昭和56年5月14日民事行政審議会答申。以下「昭和56年答申」という。)においては,「出生の届出等に際しては,必ず名の読み方を記載すべきものとし,戸籍上にその読み方を登録記載するという制度を採用すれば,各人の名の読み方が客観的に明白となり,社会生活上便利である。しかし,無原則に読み方が登録されると,かえって混乱の生ずるおそれがあり,かつ,混乱を防ぐためにどの範囲の読み方が認められるかの基準を立てることは必ずしも容易ではなく,戸籍事務の管掌者においてその読み方の当否を適正に判断することには困難を伴うことが予想される。また,振り仮名の訂正又は変更をどのような手続で認めるかについても,なお検討すべき余地が残されている。これは,氏についても同様である。」とされた。

 

 2 戸籍制度に関する研究会における検討

    戸籍制度に関する研究会最終取りまとめ(平成29年8月1日戸籍制度に関する研究会資料22)においては,①読み仮名の法的位置付けとして,氏や名の一部となるか,②漢字の音訓や字義に全く関係のない読み仮名の取扱い,③同じ氏の親子や兄弟について異なる氏の読み仮名が届け出られた場合の取扱い,④読み仮名の収集方法が主な問題点として挙げられた上,「これらの問題の解決は困難であり,戸籍実務上及び一般国民の社会生活上混乱を生じさせることになるものと考えられることから,戸籍に振り仮名を記載する取扱いとすることについては,その必要性や国民の意識も踏まえ,なお慎重に検討すべきである。」とされた。

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法務省

平成29年8月1日戸籍制度に関する研究会資料22

http://www.moj.go.jp/content/001236231.pdf

戸籍制度に関する研究会最終取りまとめ

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2 本研究会における検討

 上記民事行政審議会及び戸籍制度に関する研究会における検討は,戸籍に氏名の読み仮名を記載することについて,いずれも,諮問事項や主たる検討事項には明示されず,審議・検討の過程で検討された。一方,本研究会においては,戸籍における氏名の読み仮名の法制化を前提に具体的な検討事項を明示して,全7回にわたり検討を行った。そして,第1の1の従来の検討並びに第1の3の法制化が必要な理由及び4の登録・公証される意義を踏まえて,第2のとおり,氏名の読み仮名の法制化事項を取りまとめた。

3 氏名の読み仮名の法制化が必要な理由

 氏名の読み仮名を法制化し,氏名が記載事項となっている戸籍などの公簿に氏名の読み仮名を一意のものとして登録・公証することが必要な実務上の理由は,以下のとおりと考えられる。

(1) 氏名の読み仮名を一意のものとして,これを官民の手続において利用可能とすることにより,氏名の読み仮名が個人を特定する情報の一部であるということを明確にし,情報システムにおける検索及び管理等の能率,更には各種サービスの質を向上させ,社会生活における国民の利便性を向上させるため。

(2) 氏名の読み仮名をマイナンバーカードなどの公的な身分証に記載し,本人確認資料として広く利用させ,これを客観的に明白にすることにより,正確に氏名を呼称することが可能となる場面が多くなり,国民の利便に資する上,氏名の読み仮名を本人確認事項の一つとすることを可能とすることによって,各種手続における不正防止を補完することが可能となるため。

(注1)氏名を平仮名又は片仮名をもって表記したものには,読み仮名,よみかた,ふりがななど様々な名称が付されているが,本研究会取りまとめにおいては,「氏名の読み仮名」という。

(注2)ここでの「一意」とは,一個人について,特定の時点における氏名の読み仮名を一つに特定することを意味する。

(注3)本文3(2)については,各種手続において,氏名の読み仮名を本人確認事項の一つとすることを義務付けるものではなく,そのような選択肢を設けるものである。

(補足説明)

1 登録・公証する公簿

 氏名の読み仮名の法制化をするに当たっては,氏名の読み仮名を登録し,公証する公簿として,戸籍ではなく,住民基本台帳も考えられるのではないかとの意見もあった。この点,氏名の読み仮名は氏名と密接な関係を有するものであり,氏名を初めて公簿に登録する場面である出生の届出等の際に,戸籍の届書の記載事項として収集することが最も適当と考えられる(第2の2(1)参照)。なお,現在も運用上,出生の届出の場面で,出生子の名の「よみかた」を収集し,住民基本台帳に登録しているところであるが,戸籍の届出の際に収集しつつ,あえて戸籍の記載事項としない理由はないものと考えられる。

 

2 諸外国の状況及び我が国における固有の事情

 他の漢字圏の国においては,一字一音の原則が採られているところ,我が国においては,一つの漢字に音読み及び訓読み等の複数の読み方があるものが多いという特徴がある。また,我が国においては,漢字のほか,平仮名,片仮名といった複数の文字種が併用されている。

 韓国においては,漢字及びハングルが併用されているところ,家族関係登録簿の特定登録事項のうち,姓名欄には,漢字で表記することができない場合を除き,ハングルと漢字を併記するとされている(大韓民国家族関係の登録等に関する規則第63条第2項第1号。柳淵馨「大韓民国における新しい家族関係登録制度の概要」(戸籍時報特別増刊号640号86頁))。

 なお,家族関係登録制度実施前の戸籍の取扱いについて,姓名欄は漢字で表記することができない場合を除き,漢字で記載するとされていたが(大韓民国戸籍法施行規則第70条第2項。柳光煕「韓国の戸籍実務」384頁),国語基本法の公文書ハングル化原則によって,姓名については,ハングルと漢字の両方を記載するようになったとのことである。

4 氏名の読み仮名が登録・公証される意義

 氏名の読み仮名の法制化が必要な実務上の理由は,第1の3本文のとおりであるが,これに加え,以下のとおり,より広範な意義も認められる。

 氏名の読み仮名が一意的に決まり,それを登録・公証すること自体に意義があると考えられる上,多くの日本人にとっては,氏名と同様その読み仮名にも強い愛着があるため,これが戸籍などの公簿に登録・公証されることにも意義があるものと考えられる。実際,社会生活において,氏名の読み仮名(音)のみにより相手を特定・認識する場面も多いと考えられる。こうした点に照らせば,我々が社会生活において「なまえ」として認識するものの中には,氏名の読み仮名(音)も含まれていると考えられるのであり,それを登録・公証することは,まさしく「なまえ」の登録・公証という点からも意義が認められるものと考えられる。

 さらに,幼少期など,漢字で表記された氏名を記載することはできないものの,その読み仮名を記載することはできる場面が想定されるため,戸籍などの公簿に登録・公証されたものを記載することができることにも意義があるものと考えられる。なお我が国の国際化の進展に伴い,例えば,まず,外来語又は外国の人名を子の名の読み仮名として定め,次に,その意味又は類似する音に相当する漢字を漢字で表記された名とする場合など,漢字で表記された名よりもその読み仮名により強い愛着がある者も少なくないものと考えられる。

 なお,上記のとおり,「なまえ」には,文字により認識される側面のほか,音により認識される側面もあるものと考えられる。後者を前提とする場合には,音に基づいて表記される氏名(なまえ)という位置付けになるものと考えられる。

(補足説明)

 社会保障・税・災害の分野に関し,個人を特定して正確かつ迅速に事務が処理されるようにするためには,個人番号を利用することが考えられるものの,個人番号は,半面において秘匿性の高い情報であり,官庁公署やその事務を委託される諸機関が広く取得することにはおのずと限界がある。他方,氏名の読み仮名は一般的にも広く利用されているものであり,官民の手続において,氏名そのもののほか,氏名の読み仮名を登録し,公証することには意義が認められると考えられる。

 例えば,情報処理技術を用いて五十音順で配列する名簿を作成するに当たり,漢字を含む氏名のみだとすれば,それを実現することができないのに対して,氏名の読み仮名を利用することでそれが可能となる。

 なお,これまで,大きな災害など社会的に異常な事態に際し,広く被災した国民に定額給付金ないしこれに類するものを迅速に支給するなどの機会において,氏名の読み仮名が登録・公証されていないことが支給の遅れの一因となったとの声があったところ,第204回通常国会に提出された公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案が令和3年5月12日成立し,同月19日公布されたことにより,特定公的給付の支給に係る情報について,個人番号を利用し管理することができることとなった。

5 そのほかの氏名の読み仮名を取り巻く状況

 令和2年12月11日に開催されたマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ(第6回)において,マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ報告「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて」が取りまとめられた。

 デジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月25日改定。同日閣議決定。)において,「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ報告」のとおり,「2024年からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせ,公証された氏名の読み仮名(カナ氏名)に基づき,マイナンバーカードに氏名をローマ字表記できるよう,迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図る。これにより,官民ともに,氏名について,読み仮名(カナ氏名)を活用することで,システム処理の正確性・迅速性・効率性を向上させることができる。」とされた。

 また,令和3年2月9日,第204回通常国会に提出されたデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案は,同年5月12日成立し,同月19日公布されたところ,同法附則第73条において,「政府は,行政機関等に係る申請,届出,処分の通知その他の手続において,個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを利用して当該個人を識別できるようにするため,個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを戸籍の記載事項とすることを含め,この法律の公布後一年以内を目途としてその具体的な方策について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と規定されている。

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デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律附則第73条

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/204/pdf/s0802040282040.pdf

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(補足説明)

1 本文のほか,氏名の読み仮名やその法制化の必要性に関しては,これまで,主に以下のとおり説明されている。

(1) 平成31年3月28日に漢字,代替文字,読み仮名,ローマ字等の文字情報の現状や導入方法に関するガイドとして策定された「文字環境導入実践ガイドブック」(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室)において,次のように記載されている。

 「行政機関では,行政運営上,本人確認等を厳格に行う場合や個人のアイデンティティに配慮する場合に,この膨大な文字を用いようとする傾向があります。その結果,外字をそれぞれのコンピュータに導入する方法や,当該文字のヨミガナを別途データとして管理する方法が採られてきました。」,「標準的な文字の取扱いにしても,約1万文字もあり,文字自体の読み方が分かりにくく,複数の文字の組み合わせによって読み方が特殊,難読又は複数になる場合があります。

 また,例えば氏名の並べ替え(ソート)をする場合,システムでは文字コードでソートされるため,表2-1のように,漢字によりソートした場合には人間が認識しにくい順番で並びますが,ヨミガナによりソートした場合には五十音順に並びますので,人間が認識しやすくなります。したがって,サービス・業務及び情報システムを設計していく上では,漢字と併せてヨミガナを取り扱うことができるようにすることを強く推奨します。」,「日本人にあっても外国人にあっても,同じ氏名であれば,複数のヨミガナを持つ可能性があり,近年は氏名からでは容易にわからないヨミガナも存在します。しかしながら,我が国の現行制度においては,氏名のヨミガナを規定する法令は明確でなく,ヨミガナは氏名の一部とされていないという課題があります。一方,氏名のヨミガナは,氏名と同様に,本人の人格を形成する要素の一部であって,他者と区別し本人を特定するものの一つとなっている実態があります。さらに,情報システムの構築及び管理においては,氏名のヨミガナがデータの検索キーや外部キーの重要な要素の一つとなっています。

 情報システムにおいては,清音と濁音のような小さな違いであっても,同一人物が異なる人物と特定されてしまう場合があり(「山崎」のヨミガナを「ヤマサキ」とデータベースに登録していた場合,「ヤマザキ」で検索しても特定できない等),デジタル技術を活用して適切に行政サービスを提供する上で問題が発生するおそれがあります。」

(2) 第204回国会 衆議院予算委員会(令和3年1月25日)において,「私の名前をどのように読むのかというのが,どこにも法的な位置づけがされていない。私の名前の片仮名表記あるいは平仮名表記というものを一つに整えていただき,曖昧性がなくなるようにしていただきたい。」という質問に対し,平井大臣(デジタル改革担当)から,「戸籍において個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを公証するということこそ,まさにデジタル社会の一つのインフラ,我々が整備しなきゃいけないベースレジストリの典型的なものだと思います。」と発言されている。

2 令和元年改正戸籍法

 令和5年度における改正戸籍法(令和元年法律第17号による改正後の戸籍法をいう。)の完全施行により,戸籍事務を扱う各市区町村と他の行政機関との連携及び各市区町村間の連携がより円滑に進み,行政サービスの質の向上が期待されるとともに,各種行政手続及び戸籍の届出における戸籍証明書等の添付省略等が可能となることから,国民の利便性が大幅に向上する。そして,氏名の読み仮名が戸籍の記載事項となることにより,将来的には,氏名の読み仮名を上記情報連携の対象として,各種行政手続において,公証された読み仮名の情報を利用し,手続をより円滑に進めることが可能となることが想定されるのであって,更なる国民の利便性の向上に資するものと考えられる。

 3 ローマ字による表記等

 第1回本研究会における議論を踏まえ,本研究会においては,まずは戸籍における氏名の読み仮名,具体的には片仮名による読み仮名の法制化について検討の対象とするが,マイナンバーカードや旅券その他ローマ字により氏名が表記され,又はされる予定の公的資料があり,戸籍の記載事項はこれらローマ字により氏名が表記される公的資料に一定の影響を及ぼすこととなるため,最終取りまとめまでのスケジュールも勘案の上,片仮名による読み仮名の法制化についての方針が固まり次第,これを踏まえたローマ字による氏名の表記についての考え方についても付言することを目指すこととされた。

第2 氏名の読み仮名の法制化事項

1 氏名の読み仮名の戸籍の記載事項化

(1) 氏名の読み仮名の名称

 氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として法令に規定するに当たっての名称については,「氏名を平仮名で表記したもの」又は「氏名を片仮名で表記したもの」とすることが考えられる。

(補足説明)

1 本文の用例

 第1の5のとおり,デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律附則第73条においては,「個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したもの」と規定されており,本文の用例の参考としている。

2 表記する仮名

 本文のとおり,氏名の読み仮名を表記する仮名には,平仮名又は片仮名があるところ,市区町村等行政機関や金融機関等民間において利用している仮名は異なっており,平仮名と片仮名とでは,例えば長音の表記等,表記の方法が異なる場合があることから,表記する仮名を定めるに当たっては,これらの点を考慮する必要がある。

(2) 氏名の読み仮名の位置付け

以下の案のとおり,氏名の読み仮名を位置付け,法令に規定することが考えられる。

【甲案】氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として戸籍法第13条第1号に定める氏名の一部と位置付ける。

【乙案】氏名の読み仮名を戸籍法第13条第1号に定める氏名とは別個のものと位置付ける。

(補足説明)

1 【甲案】の問題

 本文【甲案】を採用した場合には,戸籍法第29条第4号の氏名又は同法第107条若しくは第107条の2に規定する氏若しくは名の変更の届出に関する規定など戸籍法に規定されている氏名に関する他の規定においても,同法第10条の2第3項に定める事件又は事務の依頼者や同法第49条第2項第3号などに定める父母の氏名,同法第50条に定める子の名に用いることのできる文字に関する規定など氏名の読み仮名が含まれないと解される規定を除き,氏名に氏名の読み仮名が含まれることになるものと考えられるが,そのことを明記する必要があるか否か,検討する必要がある。

 さらに,戸籍法第107条又は第107条の2に規定する氏又は名の変更の申立ては,氏又は名とこれらの読み仮名とのセットでなければすることができないのか,また,第2の1(3)により氏又は名の読み仮名の変更が許容されないものとなれば,氏又は名の変更も許容されないものとなるのかといった点も検討する必要がある。

 なお,他の法令に規定されている氏名に関する規定において,氏名に氏名の読み仮名が含まれるのか否か疑義が生じるおそれもある。この点,他の法令を所管する各府省部局において,そこで規定された「氏名」に氏名の読み仮名が含まれないと整理することができるかを検討する必要があり,含まれないと整理することができれば,例えば,①登記法令において,氏名が登記事項とされているところ,その読み仮名が登記されていないこと,②会社法令において,取締役の選任に関する議案を提出する場合には,候補者の氏名が株主総会参考書類の記載事項とされているところ,その読み仮名が記載されていないことは,いずれも不適法とはならない。他方で,例えば,氏名が法定記載事項である場合に,氏名に氏名の読み仮名が含まれると整理したとき,当然に氏名のみ又は氏名の読み仮名のみの記載は不適法となるのかについては,別途検討すべき問題となると考えられる。

2 【乙案】の問題

 本文【乙案】を採用した場合には,戸籍法に規定されている氏名に関する他の規定においても,氏名の読み仮名を氏名と同様の取扱いとするときは,当該他の規定にその旨を規定する必要があると考えられる。

3 傍訓の扱い

 平成6年12月1日まで申出により戸籍に記載することができると実務上扱われていた名の傍訓については,名の一部ではないかとの混乱があったことから,名の一部をなすものとは解されない旨法務省民事局長通達により取扱いが周知されていた(「戸籍上の名の傍訓について」(昭和50年7月17日民二第3742号法務省民事局長通達五))。同通達では,「傍訓が付されている場合には,漢字と傍訓とが一体となつて名を表示し,その名を表示するには常に傍訓を付さなければならないと考える向きがある。しかし,傍訓は単に名の読み方を明らかにするための措置として戸籍に記載するものであつて,名の一部をなすものとは解されない。したがつて,戸籍上名に傍訓が付されている者について,戸籍の届出,登記の申請,公正証書・私署証書の作成など各種の書面において名を表示するに当たり,常に傍訓を付すべき必要はないので,この趣旨を十分理解して事務処理に当たるとともに,戸籍の利用者に対しても必要に応じ適宜説明するものとする。」とされていた。

(3) 氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性及び氏名の読み仮名をめぐる許容性

 氏名の読み仮名の届出(第2の2(1)本文及び(2)本文【甲案】又は【乙案】参照)の受否又は戸籍法第24条の戸籍訂正(第2の2(2)本文【丙案】参照)に当たっては,以下の案のとおり,判断することが考えられる。なお,本案については,様々な意見があることが予想されるため,国民の意見を十分踏まえて検討する必要があるものと考えられる。

【甲案】私法の一般原則である民法第1条第3項の権利の濫用の法理及び法の適用に関する通則法第3条の公序良俗の法理によるものとする。

【乙案】氏名の読み仮名は国字の音訓及び慣用により表音されるところのほか,字義との関連性が認められるものとする。

(補足説明)

1 【甲案】の参考例

 東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)は,「民法1条3項により,命名権の濫用と見られるようなその行使は許されない。」との判断を示しているところ,当該届出事案に係る先例の解説(戸籍610号75頁)では,「命名権を親権の一作用あるいは子のための代位行為とするとしても,これに行政がどの程度関与することができるか,あるいは根本的に関与することが妥当であるかとする問題が存在する。現行法上,これらに関する明文の規定は存在しないが,私法の一般原則である民法第1条第3項の権利の濫用の法理の一適用場面であると考えられるほか,本件出生届が子の福祉を著しく害するものであると考えられること等を考慮すれば,あえて行政が関与することもやむを得ないものであり,この行政の関与は,社会的にも容認され得るものと思われる。」とされており,また,「民法典に規定されているが,法の一般原理を表現したものと解されるものとして,信義誠実の原則,権利濫用の禁止に関する規定がある」(塩野宏「行政法Ⅰ」[第五版補訂版]83頁)とされており,本文【甲案】の民法第1条第3項の権利の濫用の法理の参考としている。

 法の適用に関する通則法第3条の公序良俗の法理については,「本条の1つの整理としては,①法令においてその効力についての規定が設けられている慣習に関しては,法令の規定により認められたものとして,その法令の規定に従って法律と同一の効力を有するかどうかが判断され,②法令においてそのような規定が設けられていない慣習については,法令に規定のない事項に関する慣習に限り,法律と同一の効力が認められ」る(小出邦夫「逐条解説 法の適用に関する通則法」30頁)とされ,本条は,成文法に規定の存在しない事項についての補充的法源としての効力(補充的効力)を慣習に認める立場を基本的に採用したものと一般に解される(櫻田嘉章=道垣内正人「注釈国際私法第1巻」77頁)ところ,氏名の読み仮名の定め(氏又は名を定める際にその読み仮名を定める慣習。通常その後,戸籍の届出等において,届書に「よみかた」として記載している。)自体の効力は,法令に規定されていない事項に関するもので,公の秩序又は善良の風俗に反しないもののみ,法律と同一の効力を有するものと考えられるため,本文【甲案】の参考としている。

 なお,日本国憲法第12条が国民の権利濫用を禁止しているのは,行政機関に対する場合も念頭に置いており,国民に申請権が認められている場合であっても,申請が権利の濫用である場合には,当該申請は不適法な申請として,拒否処分を受けることになり,このことは,権利濫用が認められない旨の明文の規定の有無にかかわらない(宇賀克也「行政法概説Ⅰ行政法総論」[第6版]55頁)とされており,本文【甲案】の権利の濫用の法理について,憲法第12条を根拠とすることも考えられる。

2 【甲案】について法令に規定する場合の参考用例

 本文【甲案】については,権利の濫用又は公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められる場合に該当するときを除くなどとして,法令に規定することも考えられる。少額領収書等の写しの開示請求について定める政治資金規正法第19条の16第5項において,「開示請求を受けた総務大臣又は都道府県の選挙管理委員会は,当該開示請求が権利の濫用又は公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められる場合に該当するときを除き,当該開示請求があつた日から十日以内に,当該開示請求に係る国会議員関係政治団体の会計責任者に対し,当該開示請求に係る少額領収書等の写しの提出を命じなければならない。」と規定されており,上記の参考用例としている。

 また,商標登録を受けることができない商標を定める商標法第4条第7号において,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と規定されており,上記の参考としている。なお,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標の例示として,特許庁ウェブサイトにおいて,「商標の構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形,記号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音である場合。なお,非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは,特に,構成する文字,図形,記号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音に係る歴史的背景,社会的影響等,多面的な視野から判断する。」と掲載されている。

3 【乙案】について法令に規定する場合の参考例

 本文【乙案】については,国字の音訓及び慣用により表音されるところ並びに字義との関連性が認められるものによるなどとして,法令に規定することも考えられる。旅券法施行規則(平成元年外務省令第11号)第5条第2項においては,旅券に記載するローマ字表記の氏名について,「法第6条第1項第2号の氏名は,戸籍に記載されている氏名(戸籍に記載される前の者にあっては,法律上の氏及び親権者が命名した名)について国字の音訓及び慣用により表音されるところによる。ただし,申請者がその氏名について国字の音訓又は慣用によらない表音を申し出た場合にあっては,公の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用されているものであることが確認され,かつ,外務大臣又は領事官が特に必要であると認めるときはこの限りではない。」と規定されており,上記の参考としている。

4 【乙案】の問題

 氏名の読み仮名については,慣用とされる範囲や判断基準を明確に決めることは困難であり,慣用によることを基準とすることについては消極的な意見があった。また,命名文化として,最初に誰かが名の読み仮名として考えた漢字の読みが広まって一般化することにより名乗り訓となるところ,本文【乙案】における「慣用」が既にあるものを意味するのであれば,新たな名乗り訓を認めないこととなり,これまでの命名文化・習慣が継承されないことになるので,反対である旨の意見があった。

5 氏の読み仮名と名の読み仮名の取扱い

 氏の読み仮名と名の読み仮名については,異なる基準により許容される範囲を画することとすることも考えられ,特に,氏の読み仮名が許容される範囲について検討するに当たっては,慣用にない氏の読み仮名も存在することを考慮すべきであるとの意見があった。なお,本文【乙案】を採用する場合,氏の読み仮名については,原則として慣用(通用)によりのみ認めることとする運用も考えられるとの意見があった。

6 現行の読み仮名の審査

 法務省民事局長通達に定める出生届等の標準様式には氏名の「よみかた」欄が付されているが,住民基本台帳事務処理上の利便のために設けられているもので,戸籍事務では使用しておらず,市区町村において,氏名の音訓や字義との関連性は審査されていない。

7 傍訓の例

 かつて申出により名に付することができた傍訓について,届出が認められたものとして,「刀(フネ)」,「登(ミノル)」,「秀和(ヒデマサ)」,「海(ヒロシ)」などがあり,届出が認められなかったものとして,「高(ヒクシ)」,「修(ナカ)」,「嗣(アキ)」,「十八公(マツオ)」がある(大森政輔「民事行政審議会答申及びその実施について(戸籍441号44頁))。

8 審判・民事行政審議会答申における名についての判断

 東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)は,「名は,氏と一体となって,個人を表象,特定し,他人と区別ないし識別する機能を有し,本人又は命名権者個人の利益のために存することは勿論であるが,そのためだけに存在するものではない。即ち,名は極めて社会的な働きをしており,公共の福祉にも係わるものである。従って,社会通念に照らして明白に不適当な名や一般の常識から著しく逸脱したと思われる名は,戸籍法上使用を許されない場合があるというべきである。このことは,例えば,極めて珍奇な名や卑猥な名等を想起すれば容易に理解できるところである。」,「明文上,命名にあっては,「常用平易な文字の使用」との制限しかないが,改名,改氏については,家庭裁判所の許可が必要であり,許可の要件として,「正当な事由」(改名)「やむを得ない事由」(改氏)が求められている(戸籍法107条の2,107条)。そして,一般に,奇異な名や氏等一定の場合には改名,改氏が許可とされるのが例であり,逆に,現在の常識的な名から珍奇ないしは奇異な名への変更は許されないのが実務の取扱である。即ち,戸籍法自体が,命名(改名も命名を含んでいる)において,使用文字だけでなく,名の意味,内容を吟味する場合のあることを予想し,明定している。」との判断を示している。

 また,昭和56年答申においては,「子の名は,出生に際し,通常親によつて命名されるのであるが,ひとたび命名されると,子自身終生その名を用いなければならないのみならず,これと交渉を持つ他人もまた,日常の社会生活においてその名を読み書きしなければならない機会が多い。そこで,子の利益のために,子を悩ませるような書き難い漢字による命名を避けることが望ましいのみならず,日常の社会生活上の支障を生じさせないために,他人に誤りなく容易に読み書きでき,広く社会に通用する名の用いられることが必要である。」としている。

 これらは,本文各案のいずれを採用する場合にも参考となり得るものと考えられる。

9 周知すべき事項

 本文各案を採用した場合には当該基準に該当するものをできるだけ分かりやすく周知する必要があるものと考えられる。このうち,権利の濫用及び公序良俗の法理により認められないものは,特許庁ウェブサイトに掲載されている登録商標を受けることができない商標の例示(第2の1(3)(補足説明)2参照)が参考となり,この他氏名の読み仮名独自のものとして,例えば,氏が「鈴木」であるその読み仮名を「サトウ」として届け出るものについて許容すべきか否か,検討する必要がある。

 あわせて,届け出られた氏名の読み仮名の変更は,戸籍法第107条若しくは第107条の2又は第2の1(5)本文の手続による必要があり,必ずしも認められるわけではないこと及び本文【甲案】を採用した場合には,氏名の読み仮名が戸籍に記載されたことをもって,氏名の漢字部分の読み仮名が公認されたわけではないことも,十分周知する必要があるものと考えられる。

10 平仮名・片仮名部分の氏名の読み仮名

 本文【甲案】を採用した場合には,氏又は名の全部又は一部が平仮名又は片仮名で表記されているときも,漢字部分と同様に本文【甲案】によることが適当と考えられる。

11 不服申立て

 新たに法令に規定される氏名の読み仮名の届出(第2の2(1)本文及び(2)本文【甲案】又は【乙案】参照)を市区町村長が受理しない処分を不当とする者は,家庭裁判所に不服の申立てをすることができる(戸籍法第122条)。

 なお,第2の2(2)本文【甲案】又は【乙案】を採用した場合には,短期間に市区町村に大量の届出がされ,これに比例して多数の受理しない処分及び不服申立てがなされることが想定される。戸籍事務の取扱いに関して疑義がある場合には,市区町村長は管轄法務局等に照会することができるところ(戸籍法第3条第3項),氏名の読み仮名の戸籍への記載を円滑に実施するため,例えば,市区町村長が本文各案を理由として受理しない処分をする場合には,当分の間,管轄法務局等に全て照会する運用をすることも考えられる。

(4) 戸籍に記載することができる平仮名又は片仮名の範囲

 氏名の読み仮名として戸籍に記載することができる平仮名の範囲については,現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)及び「現代仮名遣い」の実施について(昭和61年内閣訓令第1号)によることとし,氏名の読み仮名として戸籍に記載することができる片仮名の範囲については,これらに基づき,現代仮名遣い本文第1の直音(「あ」など),拗音(「きゃ」など),撥音(「ん」)及び促音(「っ」)を片仮名に変換したものとすることが考えられる。

 また,現代仮名遣いに含まれていないが,先例上,子の名として戸籍に記載することができるとされている「ゐ」・「ヰ」,「ゑ」・「ヱ」,「を」・「ヲ」,小書き(「ぁ」・「ァ」など)及び片仮名については,「ヴ」及び長音(ー)についても,範囲に含めることが考えられる(平成16年9月27日付け法務省民二第2664号法務省民事局長通達,昭和40年7月23日付け法務省民事局変更指示,外来語の表記(平成3年内閣告示第2号),「外来語の表記」の実施について(平成3年内閣訓令第1号))。

以上については,法令に規定することも考えられる。

(5) 氏名の読み仮名の変更

 氏名の読み仮名を氏名とは別個の新たな戸籍の記載事項と位置付けた上,氏又は名の変更を伴わない氏名の読み仮名の変更を認める規律としては,以下の案のとおり,法令に規定することが考えられる。

【甲案】氏又は名の読み仮名の変更については,氏又は名の変更(戸籍法第107条又は107条の2)と同様に「やむを得ない事由」,「正当な事由」を要件とする。

【乙案】相当の事由により氏又は名の読み仮名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるものとする。

【丙案】氏又は名の読み仮名の変更について,家庭裁判所の許可を不要とし,届け出ることのみでできるものとする。

(注1)氏又は名の読み仮名は,氏又は名を変更(婚姻,縁組によって氏を改めた場合,離婚,離縁等によって復氏した場合,氏の変更による入籍届,又は戸籍法第107条若しくは第107条の2の変更の届をした場合を含む。)すると,これに伴って変更すると考えられるため,この場合には,読み仮名の変更に関する特別な手続は必要ないと考えられる。

(注2)第2の1(2)本文【甲案】を採用した場合には,氏名の変更(戸籍法第107条,第107条の2)の規律に服することとなる(第2の1(2)(補足説明)1参照)。

(注3)第2の1(2)本文【乙案】を採用した場合であっても,氏名の変更(戸籍法第107条,第107条の2)の規律に服するとすることは可能である(第2の1(2)(補足説明)2参照)。

(補足説明)

1 固定化の必要性とその程度

 氏名の読み仮名については,第1の3本文(1)及び第1の4のとおり,情報システムにおける検索及び管理等の能率を向上させることが法制化が必要な理由の一つであるとともに,他者からは「なまえ」として個人を特定する情報の一部として認識されるものであるところ,以下の理由から,その変更を安易に認めることにより上記意義が損なわれるおそれがあるとの意見がある。

①氏名の読み仮名が変更されると,氏名の読み仮名を利用して検索等を行っている個人のデータベースとの照合等において情報の不一致を招き,円滑な本人特定を阻害するおそれがあること。

②氏の読み仮名は,配偶者の氏を称する婚姻などの身分変動や戸籍法第107条の氏の変更など氏の変動により従前のものと異なるものとなる可能性があるが,いずれも身分行為や家庭裁判所の許可などを要し,無制限に行われるものではなく,また,名の読み仮名は,戸籍法第107条の2の名の変更以外により従前のものと異なるものとなることはないところ,氏又は名の読み仮名のみの変更を特段の事由なく認めるとすると,円滑な本人特定を阻害するおそれがあること。

 他方で,上記各理由については,上記①につき,個人を特定するための他の情報(生年月日など)により照合することが可能であり,また,上記②につき,例えば,名簿の並べ替えなどは氏をキーとして行うのが通常であるところ,氏が従前のものと異なるものとなる可能性は決して少なくないとも考えられる。そして,氏名の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3本文(1)参照)は確保されるため,氏又は名の読み仮名の変更については,氏又は名の変更よりも柔軟に認めること(本文【乙案】又は【丙案】)も考えられる。

 なお,仮に,氏名の読み仮名の変更を特段の事由なく認めるとするとしても(本文【丙】),第2の1(6)の同一戸籍内の規律は適用され,何度も変更を繰り返す場合には,権利の濫用の法理によりその届出を不受理とすることも考えられる。

2 【甲案】を採用した場合に届出が想定される場面

 本文【甲案】を採用した場合において変更の届出が想定される場面については,現在の氏又は名の変更の取扱いが参考となる。氏については,一定の事由によって氏を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得て(ただし,一定の場合には,家庭裁判所の許可を得ないで),名については,正当な事由によって名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるとされている。

 このうち,戸籍法第107条第1項及び第4項(外国人である父又は母の称している氏に変更しようとするものなどの要件あり)に規定する氏の変更については,やむを得ない事由がある場合に家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるとされている。このやむを得ない事由に該当する事例としては,著しく珍奇なもの,甚だしく難解難読のものなど,本人や社会一般に著しい不利不便を生じている場合はこれに当たるであろうし,その他その氏の継続を強制することが,社会観念上甚だしく不当と認めるものなども,これを認めてよいと考えられている(青木義人=大森政輔全訂戸籍法439頁)。

 婚姻により夫の氏になったものの,その後離婚し,婚氏続称の届出をして,離婚後15年以上婚氏を称してきた女性が,婚姻前の氏に変更することの許可を申し立てた事案において,やむを得ない事由があると認められると判断し,申立てを却下した原審判を変更して,氏の変更を許可した事例(東京高裁平成26年10月2日決定(判例時報2278号66頁))もある。

 また,同法第107条の2に規定する名の変更については,正当な事由がある場合に家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるとされている。この正当な事由の有無は一概に言い得ないが,営業上の目的から襲名の必要があること,同姓同名の者があって社会生活上支障があること,神官僧侶となり,又はこれをやめるため改名の必要があること,珍奇な名,異性と紛らわしい名,

 外国人に紛らわしい名又は難解難読の名で社会生活上の支障があること,帰化した者で日本風の名に改める必要があること等はこれに該当するであろうが,もとよりこれのみに限定するものではないと考えられており,また,戸籍上の名でないものを永年通名として使用していた場合に,その通名に改めることについては,個々の事案ごとに事情が異なるので,必ずしも取扱いは一定していないが,相当な事由があるものとして許可される場合が少なくないとされている(前掲全訂戸籍法442頁)。

 また,性同一性障害と診断された戸籍上の性別が男性である申立人が,男性名から女性名への名の変更許可を申し立てた事案において,正当な事由があると認められると判断し,原審を取り消して名の変更を許可した事例(大阪高裁令和元年9月18日決定(判例時報2448号3頁))もある。

 さらに,名の変更については,出生届出の際の錯誤あるいは命名が無効であることを理由として認められる場合がある(戸籍610号75頁)。以上の例と読み仮名の特性に鑑みれば,氏の読み仮名にあっては,著しく珍奇なもの,永年使用しているもの,錯誤による届出によるものなどを理由とした届出が,名の読み仮名にあっては,珍奇なもの,永年使用しているもの,性自認(性同一性)と一致しないもの,錯誤による又は無効な届出によるものなどを理由とした届出などが考えられる。さらに,これらの届出のうち,実際に氏名の読み仮名のみの変更の届出が想定される場面は,極めて限定されるが,例えば,氏名の読み仮名の永年使用については,濁点の有無や音訓の読みの変化などが,氏の読み仮名のうち著しく珍奇なもの及び名の読み仮名のうち珍奇なものについては,①第2の1(3)によれば不受理とすべきものが誤って受理されたもの,又は②本人以外が届け出た氏名の読み仮名について,不受理事由はないが本人にとってなお著しく珍奇なもの若しくは珍奇なものの届出が考えられる。

 また,氏名の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3本文(1)参照)は確保される。

3 新戸籍編製時の扱い

 新たに戸籍を編製する場合において,戸籍の筆頭に記載することとなる者の氏の読み仮名が戸籍に既に記載されているときは,新たな戸籍における氏の読み仮名は,原則として,従前の戸籍におけるものと同一のものとなる。

 他方で,新戸籍が編製されると,当該者が除籍された戸籍での同一氏の制約はなくなるところ,新戸籍が編製された場合であっても,氏の読み仮名の変更については,原則どおり家庭裁判所の許可を得て届け出る必要があるとする考え方のほか,新戸籍の編製を契機に氏の読み仮名の変更を届出のみで可能とする考え方がある。

 この点,①氏の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3本文(1)参照)は確保されること,②新たな読み仮名についても第2の1(3)本文のとおり適切に判断されること,③氏の読み仮名は既成の事実と位置付けているものの,同籍者がいる場合には,当該者と他の同籍者が使用しているものが異なる場合も想定されるところ,新戸籍の編製により,氏の読み仮名を実際に使用しているものに整合させることが戸籍法第6条の規律との関係でも可能となることを考慮した上で,新戸籍編製の機会における変更に際し,濫用防止の観点から,家庭裁判所の許可を必要とするか否かが問題となる。なお,転籍については,上記③の必要性もないことから,その濫用を防止するため,家庭裁判所の許可を必要とすべきと考えられる。

(6) 同一戸籍内の規律

同一戸籍内においては,氏の読み仮名を異なるものとすることはできないとすることが考えられる。当該規律については,法令に規定することも考えられる。

(補足説明)

1 戸籍編製の規律

 戸籍は,一の夫婦及びその双方又は一方と氏を同じくする子ごとに編製するとされており(戸籍法第6条),同一戸籍内の同籍者の氏は異ならないこととなっている。氏の読み仮名についても,氏と異なる取扱いをすべき特段の理由はないものと考えられる。また,現在,戸籍における氏については,戸籍法施行規則附録第6号のいわゆる紙戸籍の記載ひな形及び付録第24号様式のいわゆるコンピュータ戸籍の全部事項証明書のひな形等において,氏は戸籍の筆頭者の氏名欄にのみ記載することとされているが,氏の読み仮名は,氏と同様に戸籍の筆頭者の氏名欄にのみ記載する方法又は名の読み仮名とともに戸籍に記載されている者欄に記載する方法が考えられる。

 なお,第2の1(2)【乙案】を採用した場合にも,本文の考えによると,戸籍法第6条の規定は氏の読み仮名にも適用(又は準用)されるとすることになる。また,戸籍を異にする同氏の子は,家庭裁判所の許可を要することなく,届出のみによって,父又は母と同籍する入籍が先例上認められているところ(昭和23年2月20日民事甲第87号法務庁民事局長回答,昭和33年12月27日民事甲第2673号法務省民事局長通達,昭和34年1月20日民事甲第82号法務省民事局長回答),本文の考えによると,この場合に,父又は母と子との間で氏の読み仮名が異なるときは,子の読み仮名の変更を要することとなるが,上記先例と同様に家庭裁判所の許可を要することなく,届出のみによる入籍が許容されるのか否かが問題となりうる。

2 同一戸籍内にない親族間の扱い

 戸籍を異にする親族間で氏の読み仮名が異なることは,氏が異なることがあるのと同様に,許容されるものと考えられる。なお,氏の異同は,夫婦,親子の関係を有する当事者間においてのみ生ずる問題であると考えられている(昭和31年12月28日付け民事甲第2930号法務省民事局長回答)。

2 氏名の読み仮名の収集方法

(1) 氏名の読み仮名の届出

 第2の1(2)【乙案】を採用した場合においては,戸籍法第13条第1号に定める氏又は名を初めて戸籍に記載することとなる以下の戸籍の届書(イにあっては調書)の記載事項として,法令に規定することが考えられる(以下の届書に併せて記載した出生子等以外の氏名の読み仮名の取扱いについては第2の2(2)(補足説明)4参照)。

ア 出生の届書(戸籍法第49条,55条,56条)(名(新戸籍が編製されるときにあっては,氏名)の読み仮名)

イ 棄児発見調書(戸籍法第57条)(氏名の読み仮名)

ウ 国籍取得の届書(戸籍法第102条)(名(新戸籍が編製されるときにあっては,氏名)の読み仮名)

エ 帰化の届書(戸籍法第102条の2)(名(新戸籍が編製されるときにあっては,氏名)の読み仮名)

オ 氏の変更の届書(戸籍法第107条)(氏の読み仮名)

カ 名の変更の届書(戸籍法第107条の2)(名の読み仮名)

キ 就籍の届書(戸籍法第110条,111条)(名(新戸籍が編製されるときにあっては,氏名)の読み仮名)

(補足説明)

1 届出の原則

 戸籍制度においては,戸口調査により戸籍を編製した明治初期を除き,原則として届出によって戸籍に記載し,公証してきた。したがって,氏名の読み仮名を戸籍に記載するに当たっても,戸籍の届出によって記載するとすることが原則となる。

2 氏名の読み仮名の性質

 戸籍の届出は,報告的届出と創設的届出とに分類される。報告的届出は,既成の事実又は法律関係についての届出であり,原則として,届出義務者,届出期間についての定めがある。一方,創設的届出は,届出が受理されることによって身分関係の発生,変更,消滅の効果を生ずる届出である。

 なお,報告的届出と創設的届出の性質を併有するものとして,認知の効力を有する出生の届出,国籍留保の意思表示を伴う出生の届出,就籍の届出(本籍を定める届出の部分が創設的届出の性質を有する。),帰化の届出(新戸籍が編製される場合にあっては,本籍及び氏名を定める届出の部分が創設的届出の性質を有する。)等がある。

 氏名についてみると,例えば,出生の届出は,創設的届出の性質を併有するものがあるものの,民法第790条の規定により称するとされている氏及び命名された名という既成の事実を届け出るものであって,そのほとんどは報告的届出である。そして,氏名の読み仮名についても,同様に,氏にあっては現に使用されている読み仮名,名にあっては命名された時に定められた読み仮名という既成の事実を届け出るものと整理するのが相当と考えられる。

 

3 その他新たな氏を定めることができる場合の取扱い

 外国人が,日本人と婚姻後,日本人の氏を称して帰化し,その後離婚した場合には,復すべき氏はないが,その者の意思によって新たな氏を定めることができると扱われている(昭和23年10月16日付け民事甲第2648号法務庁民事局長回答)。この場合には,離婚届書に新たな氏の読み仮名を記載することができるとするのが相当と考えられる。

4 第2の1(2)【甲案】を採用した場合の取扱い

第2の1(2)【甲案】を採用した場合には,本文アからキまでの届書等の記載事項として,氏名とともに届出がされることとなる。

(2) 既に戸籍に記載されている者の氏名の読み仮名の収集方法

既に戸籍に戸籍法第13条第1号に定める氏名が記載されている者に係る氏名の読み仮名の収集方法として,以下の案が考えられる。

【甲案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人に一定の期間内の届出義務を課す方法

【乙案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人に一定の期間内の届出を促す方法

【丙案】戸籍法第24条の戸籍訂正を活用する方法

(補足説明)

1 届出又は職権記載申出の対象となる氏名の読み仮名

 初めて氏又は名を届け出るときのこれらの読み仮名の届出(第2の2(1)本文参照)は,氏又は名の読み仮名という既成の事実を届け出るものであり,その変更は,第2の2(1)本文オ若しくはカ又は第2の1(5)本文【甲案】,【乙案】若しくは【丙案】によって可能となるものと整理している。

 一方,既に氏又は名が戸籍に記載されているときのこれらの読み仮名の届出又は職権記載申出は(本文参照),初めて氏又は名が届け出られたときの読み仮名を既成の事実として届け出る又は職権記載申出をするのが原則とも考えられるが,便宜通用使用などにより既成の事実が変更していれば,変更後のものを既成の事実として届け出る又は職権記載申出をすることも可能と整理することが考えられる。ただし,旅券などの公簿に氏名の読み仮名又はこれらを元にしたローマ字が登録され,公証されている場合には,第2の1(3)本文各案いずれによっても,これに反するものを届け出る又は職権記載申出をすることはできないと整理することも考えられる。

2 届出人

 氏については,同一戸籍内の同籍者の氏は異ならないこととなっており,氏の読み仮名についても同様に考えられるため(第2の1(6)本文参照),本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届の届出人は,同籍者全員とする必要があるかが問題となる。特に,DV(ドメスティック・バイオレンス)などにより離婚には至っていないが,別居状態にある者については,届出をすることが困難との意見もあった。

 なお,同籍者全員を届出人としない場合には,同籍者の一人が届け出た氏の読み仮名が,他の同籍者が認識しているものと異なることも想定される。この場合には,戸籍法第113条の「その記載に錯誤があることを発見した場合」に該当するとして,利害関係人である他の同籍者は,家庭裁判所の許可を得て,戸籍訂正を申請することとなるものと考えられる。

3 届出期間

 本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届については,例えば,改正法令の施行日から一定期間内(当該者が届出人等となる戸籍の届出をする場合にあっては,当該届出の時まで)にしなければならない又はするものとする旨法令に規定することが考えられる。

 戸籍の届出については,戸籍法第137条において,正当な理由がなくて期間内にすべき届出をしない者は,過料に処するとされているところ,本文【甲案】において,定められた期間を経過した場合には,過料の対象となるため,当該期間が適切なものとなるよう検討するとともに,その効果的な周知方法についても検討する必要がある。

 また,戸籍法第44条第1項において,市区町村長は,届出を怠った者があることを知ったときは,相当の期間を定めて,届出義務者に対し,その期間内に届出をすべき旨を催告しなければならないとされている。本文【甲案】において,氏名の読み仮名の届が期間内にされなかったときは,同項が適用されるものと考えられる。なお,同条第2項において,当該期間内に届出をしなかったときは,市区町村長は,更に相当の期間を定めて,催告をすることができるとされ,同条第3項において,これらの催告をすることができないとき,又は催告をしても届出がないときは,市区町村長は,管轄法務局長の許可を得て,戸籍の記載をすることができるとされている。もっとも,同項の措置に関しては,(補足説明)4の氏名の読み仮名の届があったものとして取り扱うもの,(補足説明)9の資料又は氏名の読み仮名を職務上知った官庁等からの本籍地市区町村長への通知により市区町村長が届出の内容(当該者の氏名の読み仮名)を職務上知っていると評価することができなければ,戸籍の記載をすることはできないこととなる。

 なお,上記催告は,届出期間を経過した場合にしか行えないが,本文【甲案】において,届出期間経過前であっても,運用として,市区町村から氏名の読み仮名の届を促す案内を送付することなどは可能であると考えられる。

 他方,本文【乙案】及び【丙案】においては,届出義務が定められていないため,上記催告,職権記載等の対象とはならないが,運用として,市区町村から氏名の読み仮名の届又は職権記載の申出を促す案内を送付することなどは可能であると考えられる。

4 届出方式

 本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届については,他の戸籍の届出がされた場合についても,届出人等について記載された氏名の「読み仮名」をもって,氏名の読み仮名の届があったものとして取り扱うことも考えられる。また,この氏名の「読み仮名」は,本文【丙案】の戸籍訂正の資料とすることも考えられる。これらの場合には,その旨周知するとともに,届書の様式に注記することが適当であると考えられる。なお,令和2年3月31日現在の本籍数は,約5千2百万戸籍,令和元年度の戸籍の届出数は,約4百万件であり,仮に,上記のとおり他の戸籍の届出の際に氏名の読み仮名の届(本文【甲案】又は【乙案】)又は職権記載申出(本文【丙案】)があったものとして取り扱う場合には,単独の氏名の読み仮名の届(本文【甲案】又は【乙案】)又は職権記載申出(本文【丙案】)と併せて,年間数百万件以上の氏名の読み仮名の届又は職権記載申出が想定される。

 また,届出の方法としては,この他マイナポータルを活用すべきとの意見があった。

 5 届出時に疑義がある場合の疎明

 第2の1(3)本文【乙案】を採用する場合であって,本文【甲案】又は【乙案】を採用する場合においては,原則として,氏名の読み仮名の届出に際し,これを証明する資料の添付を求めないが,氏名の読み仮名の許容性に疑義がある場合には,届出人に対し,氏名の読み仮名が通用して使用されていることを示す疎明資料の提示を求めるとすることも考えられる

6 届出期間の定めのない報告的届出の例

 報告的届出については,原則として届出義務が課され,届出期間が定められているが,届出義務が課されておらず,届出期間が定められていない例として,法改正に伴う経過的な取扱いである外国の国籍の喪失の届出(昭和59年法律第45号附則第10条第2項)の例がある。これは,改正法により,重国籍者が併有する外国国籍を喪失したときは,その旨の届出義務が課されることとなったが,施行前にはそのような義務が課されていなかったので,施行前に外国国籍を喪失した場合については改正法を適用しないこととしつつ,戸籍記載上から重国籍が推定される者が法律上又は事実上権利制限や資格制限を受けるおそれもあり,重国籍状態を解消していることを明らかにすることについて本人も利益を有することから,施行前に外国国籍を喪失している旨の届出をする資格を本人に認め,その届出について,戸籍法第106条第2項の規定を準用することとされたものである(田中康久「改正戸籍法の概要」民事月報昭和59年号外81頁参照)。また,傍訓については,通達によって,記載の申出をすることができるとされていた。

7 承認の擬制

 本文【甲案】の氏名の読み仮名の届を前提としつつ,届出期間経過後,市区町村が保有する情報を基に,国民に戸籍に記載する氏名の読み仮名の通知を送付し,一定期間内に異議を述べなかったときは,同期間経過後に当該通知に係る氏名の読み仮名を承認したものとみな(擬制)し,市区町村長が職権により戸籍に氏名の読み仮名を記載する制度とすることも考えられる。

 なお,身分関係に関し,通知後,一定の期間の経過に一定の効力を持たせる制度として,昭和59年法律第45号により創設された国籍選択催告制度(国籍法第15条,戸籍法第105条)がある。これは,重国籍の日本国民が法定の期限までに日本国籍の選択をしない場合,法務大臣が書面により国籍の選択をすべきことを催告し,催告を受けた者が催告を受けた日から1月以内に日本国籍の選択をしなければ,原則としてその期間が経過した時に日本国籍を失う(擬制)というものである。ただし,国籍喪失後は,戸籍法第105条による法務局長等からの報告により,市区町村長は,職権で戸籍に国籍喪失の記載をし,除籍することとされているが,これまで法務大臣による国籍選択の催告がされたことはない。

 

8 戸籍訂正の考え方

 国民に届出義務を課さずに,氏名の読み仮名を戸籍に記載することができる本文【丙案】の戸籍訂正に関しては,氏名の読み仮名の届出義務はないものの,第2の1(2)により氏名の読み仮名が戸籍の記載事項として法令に規定されている以上,戸籍法第24条第1項の戸籍の記載に遺漏があると評価することができるため,当該戸籍に記載された者若しくはその法定代理人からの職権記載申出((補足説明)4の職権記載申出があったものとして取り扱うものを含む。),(補足説明)9の資料又は氏名の読み仮名を職務上知った官庁等からの本籍地市区町村長への通知があれば,同条第2項の戸籍訂正により市区町村長が氏名の読み仮名を記載することができると考えるものである。もっとも,これまでの戸籍訂正の運用に鑑みると,第2の2(2)(補足説明)4の資料がない限り,職権記載申出を促した上で,実際に申出があった場合にのみ戸籍訂正をする運用とするのが相当と考えられる。

9 戸籍訂正の資料

 法務省民事局長通達に定める婚姻届の標準様式には,「夫になる人」及び「妻になる人」の氏名欄に「よみかた」欄が付されている。仮に,本文【甲案】を採用し,戸籍法第44条第3項の規定により職権で氏名の読み仮名を戸籍に記載するとした場合又は本文【丙案】を採用し,戸籍法第24条第2項の規定により戸籍訂正する場合においては,,例えば,当該「よみかた」が記載され保管されている婚姻届を資料として,本籍地市区町村が戸籍に氏名の読み仮名を記載することが考えられる。

 第1の3(注1)のとおり,氏名を平仮名又は片仮名をもって表記したものには,読み仮名,よみかた,ふりがななど様々な名称が付されているものがあるが,いずれも,原則として(濁音が記載されない,小書きをしないなどのルールが定められているものを除く。)氏名の読み仮名として取り扱って差し支えないものと考えられる。なお,万一,本人が認識している氏名の読み仮名と異なっている場合には,戸籍法第107条若しくは第107条の2又は第2の1(5)の読み仮名の変更手続により対応することとなるものと考えられる。

10 戸籍訂正における配慮すべき事項

 謝罪広告等請求事件(最判昭和63年2月16日第三小法廷民集42巻2号27頁)判決において,氏名を正確に呼称される利益に関して,「氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するものというべきであるから,人は,他人からその氏名を正確に呼称されることについて,不法行為法上の保護を受けうる人格的な利益を有するものというべきである。」,「我が国の場合,漢字によつて表記された氏名を正確に呼称することは,漢字の日本語音が複数存在しているため,必ずしも容易ではなく,不正確に呼称することも少なくないことなどを考えると,不正確な呼称が明らかな蔑称である場合はともかくとして,不正確に呼称したすべての行為が違法性のあるものとして不法行為を構成するというべきではなく,むしろ,不正確に呼称した行為であつても,当該個人の明示的な意思に反してことさらに不正確な呼称をしたか,又は害意をもつて不正確な呼称をしたなどの特段の事情がない限り,違法性のない行為として容認されるものというべきである。」との判断が示されている。

 これを踏まえると,氏名の読み仮名を仮に,本文【甲案】を採用し,戸籍法第44条第3項の規定により職権で氏名の読み仮名を戸籍に記載し,公証する又は本文【丙案】を採用し,戸籍法第24条第2項の規定により戸籍訂正し,公証するには,少なくとも本人の明示的な意思に反しないように配慮すべきと考えられる。

 

第3 ローマ字による表記等

 氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として法制化した後,戸籍以外の公簿や各種証明書等に記載されている氏名の読み仮名及び氏名のローマ字表記を戸籍に記載される氏名の読み仮名と整合させる(氏名の読み仮名をヘボン式ローマ字等によって表記させる。)必要があると考えられるところ,これをどうやって確保するか,検討する必要があると考えられる。

なお,デジタル・ガバメント実行計画において,「在留カードとマイナンバーカードの一体化について,現在関係省庁等で検討を進めているところであり,(中略)2025年度(令和7年度)から一体化したカードの交付を開始する予定である。」とされているところ,この一体化したカードにおける氏名の表記方法についても,検討する必要があるとの意見があった。

 

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会取りまとめ(案)

https://www.kinzai.or.jp/uploads/siryou6_kana.pdf

 

第1 氏名の読み仮名の法制化が必要な理由

1 氏名の読み仮名やその法制化の必要性についての従来の検討

戸籍に氏名の読み仮名を記載することに関しては,過去3回,当時の法務大臣の諮

問機関であった民事行政審議会及び法務省民事局に設置された戸籍制度に関する研究

会において検討されたものの,いずれも「今後の検討にまつべき」,「なお検討すべ

き余地が残されている」,「なお慎重に検討すべき」として,制度化は見送られてき

た。

(補足説明)

1 民事行政審議会における検討

「戸籍制度に関し当面改善を要する事項」に関する諮問に対する答申(昭和50

年2月28日民事行政審議会答申)においては,「子の名に用いる漢字の問題に関

連して,出生届等の際に,戸籍上の氏名にすべて「ふりがな」をつけることが望ま

しいという意見が提出された。しかし,この点について,多数意見は,戸籍上の氏

名にふりがなをつければ,各人の氏名の読み方が客観的に明白となり,便利をもた

らす面はあるが,漢字それ自体の読み方にそぐわないふりがなを付して届出がされ

た場合の処理や,後日におけるふりがなの訂正の方法などにつき,多くの実務上の

問題が派生するので,この問題は,今後の検討にまつべきである。」とされた。

戸籍法施行規則第60条の取扱いに関する諮問に対する答申(昭和56年5月1

4日民事行政審議会答申。以下「昭和56年答申」という。)においては,「出生

の届出等に際しては,必ず名の読み方を記載すべきものとし,戸籍上にその読み方

を登録記載するという制度を採用すれば,各人の名の読み方が客観的に明白とな

り,社会生活上便利である。しかし,無原則に読み方が登録されると,かえって混

乱の生ずるおそれがあり,かつ,混乱を防ぐためにどの範囲の読み方が認められる

かの基準を立てることは必ずしも容易ではなく,戸籍事務の管掌者においてその読

み方の当否を適正に判断することには困難を伴うことが予想される。また,振り仮

名の訂正又は変更をどのような手続で認めるかについても,なお検討すべき余地が

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 2 –

残されている。これは,氏についても同様である。」とされた。

 2 戸籍制度に関する研究会における検討

戸籍制度に関する研究会最終取りまとめ(平成29年8月1日戸籍制度に関する

研究会資料22)においては,「これらの問題の解決は困難であり,戸籍実務上及

び一般国民の社会生活上混乱を生じさせることになるものと考えられることから,

戸籍に振り仮名を記載する取扱いとすることについては,その必要性や国民の意識

も踏まえ,なお慎重に検討すべきである。」とされた。

2 本研究会における検討

上記民事行政審議会及び戸籍制度に関する研究会における検討は,戸籍に氏名の読

み仮名を記載することについて,いずれも,諮問事項や主たる検討事項とは別の問題

として検討され,制度化は先送りされたところ,本研究会においては,戸籍における

氏名の読み仮名の法制化自体を検討事項として,全○回にわたり検討を行った。

3 氏名の読み仮名の法制化が必要な理由

上記1を踏まえると,氏名の読み仮名を法制化し,氏名が記載事項となっている戸

籍などの公簿に氏名の読み仮名を一意のものとして登録・公証することが必要な理由

は,以下のとおりと考えられる。

(1) 氏名の読み仮名を一意のものとして,これを官民の手続において利用可能とする

ことにより,氏名の読み仮名が個人を特定する情報の一部であるということを明確

にし,情報システムにおける検索及び管理等の能率,更には各種サービスの質を向

上させ,社会生活における国民の利便性を向上させるため。

(2) 氏名の読み仮名をマイナンバーカードなどの公的な身分証に記載し,本人確認資

料として広く利用させ,これを客観的に明白にすることにより,正確に氏名を呼称

することが可能となる場面が多くなり,国民の利便に資する上,氏名の読み仮名を

本人確認事項の一つとすることを可能とすることによって,各種手続における不正

防止を補完することが可能となるため。

(注1)氏名を片仮名又は平仮名をもって表記したものには,読み仮名,よみかた,

ふりがな,片仮名など様々な名称が付されているが,本研究会取りまとめにおいて

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 3 –

は,「氏名の読み仮名」という。なお,氏名の読み仮名の定義や法制上の位置付け

を踏まえ,今後,適当な名称が定められるものと考えられる。

(注2)ここでの「一意」とは,一個人について,特定の時点における氏名の読み仮

名を一つに特定することを意味する。

(注3)他の漢字圏の国においては,一字一音の原則が採られているところ,我が国

においては,一つの漢字に音読み及び訓読み等の複数の読み方があるものが多いと

いう特徴がある。

(注4)本文3(2)については,各種手続において,氏名の読み仮名を本人確認事項の

一つとすることを義務付けるものではなく,そのような選択肢を設けるものであ

る。

(補足説明)

1 登録・公証する公簿

氏名の読み仮名の法制化をするに当たっては,氏名の読み仮名を登録し,公証す

る公簿として,戸籍ではなく,住民基本台帳も考えられるのではないかとの意見も

あった。この点,氏名の読み仮名は氏名と密接な関係を有するものであり,氏名を

初めて公簿に登録する場面である出生の届出等の際に,戸籍の届書の記載事項とし

て収集することが最も適当と考えられる(第2の2(1)参照)。なお,現在も運用

上,出生の届出の場面で,事件本人の「よみかた」を収集し,住民基本台帳に登録

しているところであるが,戸籍の届出の際に収集しつつ,あえて戸籍の記載事項と

しない理由はないものと考えられる。

2 氏名の読み仮名が登録・公証される意義

社会保障・税・災害の分野に関し,個人を特定して正確かつ迅速に事務が処理さ

れるようにするためには,個人番号を利用することが考えられるものの,個人番号

は,半面において秘匿性の高い情報であり,官庁公署やその事務を委託される諸機

関が広く取得することにはおのずと限界があり,また慎重であるべきである。他方,

氏名の読み仮名は一般的にも広く利用されているものであり,官民の手続において

氏名そのもののほか,氏名の読み仮名を登録し,公証することには意義が認められ

ると考えられる。例えば,情報処理技術を用いて五十音順で配列する名簿を作成す

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 4 –

るに当たり,漢字を含む氏名のみだとすれば,それを実現することができないのに

対して,公証された読み仮名を利用することでそれが可能となる。氏名の読み仮名

を登録・公証することによる実践的な意義は,大きな災害など社会的に異常な事態

に際し,広く被災した国民に定額給付金ないしこれに類するものを迅速に支給する

などの機会においても見出されると考えられる。

また,氏名の読み仮名が一意的に決まり,それを公証すること自体に意義がある

と考えられる上,多くの日本人にとっては,氏名と同様その読み仮名にも強い愛着

があるため,これが戸籍などの公簿に登録・公証されることにも意義があるものと

考えられる。実際,社会生活において,氏名の読み(読み仮名)のみにより相手を

特定・認識する場面も多いと考えられる。こうした点に照らせば,我々が日常生活

において「なまえ」として認識するものの中には,氏名の読み仮名(音)も含まれ

ていると考えられるのであり,それを公証することは,まさしく「なまえ」の公証

という点からも意義が認められるものと考えられる。

さらに,幼少期など,漢字で表記された氏名を表記することはできないものの,

その読み仮名を表記することはできる場面が想定されるため,戸籍などの公簿に登

録・公証されたものを表記することができることにも意義があるものと考えられ

る。なお,我が国の国際化の進展に伴い,例えば,まず,外来語又は外国の人名を

子の名の読み仮名として定め,次に,その意味又は類似する音に相当する漢字を名

とする場合など,漢字の名よりも名の読み仮名により強い愛着がある者も少なくな

いものと考えられる。

なお,上述のとおり,「なまえ」には,視覚により認識可能な表記の側面のほか,

聴覚により認識可能な音という側面もあるものと考えられる。前者を前提とする場

合には,氏名の読み仮名という位置付けになるが,後者を前提とする場合には,氏

名の読み仮名ではなく,音によって表記される氏名(なまえ)であるという位置付

けになるものと考えられる。

3 韓国における姓名の表記

韓国においては,家族関係登録簿の特定登録事項のうち,姓名欄には,漢字で表

記することができない場合を除き,ハングルと漢字を併記するとされている(大韓

民国家族関係の登録等に関する規則第63条第2項第1号。柳淵馨「大韓民国にお

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 5 –

ける新しい家族関係登録制度の概要」(戸籍時報特別増刊号640号86頁))。

なお,家族関係登録制度実施前の戸籍の取扱いについて,姓名欄は漢字で表記す

ることができない場合を除き,漢字で記載するとされていたが(大韓民国戸籍法施

行規則第70条第2項。柳光煕「韓国の戸籍実務」384頁),国語基本法の公文

書ハングル化原則によって,姓名については,ハングルと漢字の両方を記載するよ

うになったとのことである。

4 そのほかの氏名の読み仮名を取り巻く状況

令和2年12月11日に開催されたマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基

盤抜本改善ワーキンググループ(第6回)において,マイナンバー制度及び国と地方

のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ報告「マイナンバー制度及び国と地方の

デジタル基盤の抜本的な改善に向けて」が取りまとめられた。

デジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月25日改定。同日閣議決定。)に

おいて,「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググルー

プ報告」のとおり,「2024年からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせ,

公証された氏名の読み仮名(カナ氏名)に基づき,マイナンバーカードに氏名をロー

マ字表記できるよう,迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図る。こ

れにより,官民ともに,氏名について,読み仮名(カナ氏名)を活用することで,シ

ステム処理の正確性・迅速性・効率性を向上させることができる。」とされた。

また,令和3年2月9日,第204回通常国会に提出されたデジタル社会の形成を

図るための関係法律の整備に関する法律案は,同年5月12日成立し,同月19日公

布されたところ,同法附則第73条において,「政府は,行政機関等に係る申請,届

出,処分の通知その他の手続において,個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したも

のを利用して当該個人を識別できるようにするため,個人の氏名を平仮名又は片仮名

で表記したものを戸籍の記載事項とすることを含め,この法律の公布後一年以内を目

途としてその具体的な方策について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講

ずるものとする。」と規定されている。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 6 –

(補足説明)

1 本文のほか,氏名の読み仮名やその法制化の必要性に関しては,これまで,主に

以下のとおり説明されている。

(1) 平成31年3月28日に漢字,代替文字,読み仮名,ローマ字等の文字情報の

現状や導入方法に関するガイドとして策定された「文字環境導入実践ガイドブッ

ク」(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室)において,次のように記載さ

れている。

「行政機関では,行政運営上,本人確認等を厳格に行う場合や個人のアイデン

ティティに配慮する場合に,この膨大な文字を用いようとする傾向があります。

その結果,外字をそれぞれのコンピュータに導入する方法や,当該文字のヨミガ

ナを別途データとして管理する方法が採られてきました。」,「標準的な文字の

取扱いにしても,約1万文字もあり,文字自体の読み方が分かりにくく,複数の

文字の組み合わせによって読み方が特殊,難読又は複数になる場合があります。

また,例えば氏名の並べ替え(ソート)をする場合,システムでは文字コードで

ソートされるため,表2-1のように,漢字によりソートした場合には人間が認

識しにくい順番で並びますが,ヨミガナによりソートした場合には五十音順に並

びますので,人間が認識しやすくなります。したがって,サービス・業務及び情

報システムを設計していく上では,漢字と併せてヨミガナを取り扱うことができ

るようにすることを強く推奨します。」,「日本人にあっても外国人にあっても,

同じ氏名であれば,複数のヨミガナを持つ可能性があり,近年は氏名からでは容

易にわからないヨミガナも存在します。しかしながら,我が国の現行制度におい

ては,氏名のヨミガナを規定する法令は明確でなく,ヨミガナは氏名の一部とさ

れていないという課題があります。一方,氏名のヨミガナは,氏名と同様に,本

人の人格を形成する要素の一部であって,他者と区別し本人を特定するものの一

つとなっている実態があります。さらに,情報システムの構築及び管理において

は,氏名のヨミガナがデータの検索キーや外部キーの重要な要素の一つとなって

います。情報システムにおいては,清音と濁音のような小さな違いであっても,

同一人物が異なる人物と特定されてしまう場合があり(「山崎」のヨミガナを「ヤ

マサキ」とデータベースに登録していた場合,「ヤマザキ」で検索しても特定で

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 7 –

きない等),デジタル技術を活用して適切に行政サービスを提供する上で問題が

発生するおそれがあります。」

(2) 第204回国会 衆議院予算委員会(令和3年1月25日)において,「私の

名前をどのように読むのかというのが,どこにも法的な位置づけがされていな

い。私の名前の片仮名表記あるいは平仮名表記というものを一つに整えていただ

き,曖昧性がなくなるようにしていただきたい。」という質問に対し,平井大臣

(デジタル改革担当)から,「戸籍において個人の氏名を平仮名又は片仮名で表

記したものを公証するということこそ,まさにデジタル社会の一つのインフラ,

我々が整備しなきゃいけないベースレジストリの典型的なものだと思います。」

と発言されている。

2 令和元年改正戸籍法

令和5年度における改正戸籍法(令和元年法律第17号による改正後の戸籍法を

いう。)の完全施行により,戸籍事務を扱う各市区町村と他の行政機関との連携及

び各市区町村間の連携がより円滑に進むことが想定され,行政サービスの質の向上

が期待されるとともに,各種行政手続及び戸籍の届出における戸籍証明書等の添付

省略等が可能となることから,国民の利便性が大幅に向上する。そして,氏名の読

み仮名が戸籍の記載事項となることにより,将来的には,氏名の読み仮名を上記情

報連携の対象として,各種行政手続において,公証された読み仮名の情報を利用し,

手続をより円滑に進めることが可能となることが想定されるのであって,更なる国

民の利便性の向上に資するものと考えられる。

 3 ローマ字による表記等

第1回本研究会における議論を踏まえ,本研究会においては,まずは戸籍におけ

る氏名の読み仮名,具体的には片仮名による読み仮名の法制化について検討の対象

とするが,マイナンバーカードや旅券その他ローマ字により氏名が表記され,又は

される予定の公的資料があり,戸籍の記載事項はこれらローマ字により氏名が表記

される公的資料に一定の影響を及ぼすこととなるため,最終取りまとめまでのスケ

ジュールも勘案の上,片仮名による読み仮名の法制化についての方針が固まり次

第,これを踏まえたローマ字による氏名の表記についての考え方についても付言す

ることを目指すこととされた。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 8 –

第2 氏名の読み仮名の法制化事項

1 氏名の読み仮名の戸籍の記載事項化

(1) 氏名の読み仮名の定義

以下の案のとおり,氏名の読み仮名を定義し,戸籍の記載事項として法令に規定

することが考えられる。

【甲案】氏名を片仮名で表記したもの

【乙案】氏名について国字の音訓及び慣用により表音されるものを片仮名で表記し

たもの

(補足説明)

1 【甲案】の用例

令和3年2月9日,第204回通常国会に提出されたデジタル社会の形成を

図るための関係法律の整備に関する法律案は,同年5月12日成立し,同月1

9日公布されたところ,同法附則第73条においては,「個人の氏名を平仮名

又は片仮名で表記したもの」と規定されており,本文【甲案】の用例の参考と

している。

なお,本文【甲案】を採用するとした場合には,旅券の取扱いへの影響が想

定される。

2 【乙案】の用例

旅券法施行規則(平成元年外務省令第11号)第5条第2項においては,旅

券に記載するローマ字表記の氏名について,「戸籍に記載されている氏名(戸

籍に記載される前の者にあっては,法律上の氏及び親権者が命名した名)につ

いて国字の音訓及び慣用により表音されるところによる。」と規定されており,

本文【乙案】の用例の参考としている。

なお,本文【乙案】を採用する場合には,第2の1(3)本文【丙案】を採用す

るのが自然である。

 3 【乙案】の問題

【乙案】については,命名文化として,最初に誰かが名の読み仮名として考え

た漢字の読みが広まって一般化することにより名乗り訓となるところ,【乙案】

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 9 –

における「慣用」が既にあるものを意味するのであれば,新たな名乗り訓を認め

ないこととなり,これまでの命名文化が崩れることになるので,反対である旨の

意見があった。

なお,【乙案】を採用する場合には,例外を認めるべきか否か,仮に例外を認

めるとすればその判断をどのようになすのかについても,検討する必要がある。

(2) 氏名の読み仮名の位置付け

以下の案のとおり,氏名の読み仮名を位置付け,法令に規定することが考えら

れる。

【甲案】氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として戸籍法第13条第1号に定める

氏名の一部と位置付ける。

【乙案】氏名の読み仮名を戸籍法第13条第1号に定める氏名とは別個のものと

位置付ける。

(補足説明)

1 【甲案】の問題

本文【甲案】を採用した場合には,戸籍法第107条又は第107条の2に

規定する氏又は名の変更の届出に関する規定など戸籍法に規定されている氏名

に関する他の規定においても,同法第10条の2第3項に定める事件又は事務

の依頼者や同法第49条第2項第3号などに定める父母の氏名,同法第50条

に定める子の名に用いることのできる文字に関する規定など氏名の読み仮名が

含まれないと解される規定を除き,氏名に氏名の読み仮名が含まれることにな

るものと考えられるが,そのことを明記する必要があるか否か,検討する必要

がある。

さらに,戸籍法第107条又は第107条の2に規定する氏又は名の変更の

申立ては,氏又は名とこれらの読み仮名とのセットでなければすることができ

ないのか,また,第2の1(3)により氏又は名の読み仮名の変更が不適法となれ

ば,氏又は名の変更も不適法となるのかといった点も検討する必要がある。

なお,他の法令に規定されている氏名に関する規定において,氏名に氏名の

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 10 –

読み仮名が含まれるのか否か疑義が生じるおそれもある。この点,他の法令を

所管する各府省部局において,そこで規定された「氏名」に氏名の読み仮名が

含まれないと整理することができるかを検討する必要があり,含まれないと整

理することができれば,例えば,①登記法令において,氏名が登記事項とされ

ているところ,その読み仮名が登記されていないこと,②会社法令において,

取締役の選任に関する議案を提出する場合には,候補者の氏名が株主総会参考

書類の記載事項とされているところ,その読み仮名が記載されていないことは,

いずれも不適法とはならない。他方で,例えば,氏名が法定記載事項である場

合に,氏名に氏名の読み仮名が含まれると整理したとき,当然に氏名のみ又は

氏名の読み仮名のみの記載は不適法となるのかについては,別途検討すべき問

題となると考えられる。

2 【乙案】の問題

本文【乙案】を採用した場合には,戸籍法に規定されている氏名に関する他の

規定においても,氏名の読み仮名を氏名と同様の取扱いとするときは,当該他の

規定にその旨を規定する必要があると考えられる。

3 傍訓の扱い

平成6年12月1日まで申出により戸籍に記載することができると実務上扱

われていた名の傍訓については,名の一部ではないかとの混乱があったことか

ら,名の一部をなすものとは解されない旨法務省民事局長通達により取扱いが周

知されていた(「戸籍上の名の傍訓について」(昭和50年7月17日民二第3

742号法務省民事局長通達五))。同通達では,「傍訓が付されている場合に

は,漢字と傍訓とが一体となつて名を表示し,その名を表示するには常に傍訓を

付さなければならないと考える向きがある。しかし,傍訓は単に名の読み方を明

らかにするための措置として戸籍に記載するものであつて,名の一部をなすもの

とは解されない。したがつて,戸籍上名に傍訓が付されている者について,戸籍

の届出,登記の申請,公正証書・私署証書の作成など各種の書面において名を表

示するに当たり,常に傍訓を付すべき必要はないので,この趣旨を十分理解して

事務処理に当たるとともに,戸籍の利用者に対しても必要に応じ適宜説明するも

のとする。」とされていた。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 11 –

(3) 氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性及び氏名の読み仮名をめぐる許容性

氏名の読み仮名の届出(第2の2(1)本文及び(2)本文参照)の受否又は戸籍法第

24条の戸籍訂正(第2の2(2)本文参照)に当たっては,以下の案のとおり,判

断することが考えられる。

【甲案】私法の一般原則である民法第1条第3項の権利の濫用の法理及び法の適用

に関する通則法第3条の公序良俗の法理によるものとする。

【乙案】権利の濫用又は公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められる場合に

該当するときを除くものとする。

【丙案】氏名の読み仮名は国字の音訓及び慣用により表音されるところによるもの

とする。なお,【甲案】又は【乙案】も適用するものとする。

なお,【甲案】及び【乙案】は,第2の1(1)【甲案】又は【乙案】いずれを採

用する場合においても,採用可能であり,【丙案】は,第2の1(1)【乙案】を採

用する場合はもとより,【甲案】を採用する場合においても,採用可能である。ま

た,【乙案】又は【丙案】を採用する場合には,法令に規定するものとすることが

考えられる。

(補足説明)

1 【甲案】の参考例

東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)は,

「民法1条3項により,命名権の濫用と見られるようなその行使は許されない。」

との判断を示しているところ,当該届出事案に係る先例の解説(戸籍610号7

5頁)では,「命名権を親権の一作用あるいは子のための代位行為とするとして

も,これに行政がどの程度関与することができるか,あるいは根本的に関与する

ことが妥当であるかとする問題が存在する。現行法上,これらに関する明文の規

定は存在しないが,私法の一般原則である民法第1条第3項の権利の濫用の法理

の一適用場面であると考えられるほか,本件出生届が子の福祉を著しく害するも

のであると考えられること等を考慮すれば,あえて行政が関与することもやむを

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 12 –

得ないものであり,この行政の関与は,社会的にも容認され得るものと思われ

る。」とされており,また,「民法典に規定されているが,法の一般原理を表現

したものと解されるものとして,信義誠実の原則,権利濫用の禁止に関する規定

がある」(塩野宏「行政法Ⅰ」[第五版補訂版]83頁)とされており,本文【甲

案】の民法第1条第3項の権利の濫用の法理の参考としている。

法の適用に関する通則法第3条の公序良俗の法理については,「本条の1つの

整理としては,①法令においてその効力についての規定が設けられている慣習に

関しては,法令の規定により認められたものとして,その法令の規定に従って法

律と同一の効力を有するかどうかが判断され,②法令においてそのような規定が

設けられていない慣習については,法令に規定のない事項に関する慣習に限り,

法律と同一の効力が認められ」る(小出邦夫「逐条解説 法の適用に関する通則

法」30頁)とされ,本条は,成文法に規定の存在しない事項についての補充的

法源としての効力(補充的効力)を慣習に認める立場を基本的に採用したものと

一般に解される(櫻田嘉章=道垣内正人「注釈国際私法第1巻」77頁)ところ,

氏名の読み仮名の定め(氏又は名を定める際にその読み仮名を定める慣習。通常,

その後,戸籍の届出等において,届書に「よみかた」として記載している。)自

体の効力は,法令に規定されていない事項に関するもので,公の秩序又は善良の

風俗に反しないもののみ,法律と同一の効力を有するものと考えられるため,本

文【甲案】の参考としている。

なお,日本国憲法第12条が国民の権利濫用を禁止しているのは,行政機関に

対する場合も念頭に置いており,国民に申請権が認められている場合であって

も,申請が権利の濫用である場合には,当該申請は不適法な申請として,拒否処

分を受けることになり,このことは,権利濫用が認められない旨の明文の規定の

有無にかかわらない(宇賀克也「行政法概説Ⅰ行政法総論」[第6版]55頁)と

されており,本文【甲案】の権利の濫用の法理について,憲法第12条を根拠と

することも考えられる。

2 【乙案】の参考用例

少額領収書等の写しの開示請求について定める政治資金規正法第19条の1

6第5項において,「開示請求を受けた総務大臣又は都道府県の選挙管理委員会

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 13 –

は,当該開示請求が権利の濫用又は公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認め

られる場合に該当するときを除き,当該開示請求があつた日から十日以内に,当

該開示請求に係る国会議員関係政治団体の会計責任者に対し,当該開示請求に係

る少額領収書等の写しの提出を命じなければならない。」と規定されており,本

文【乙案】の参考用例としている。

また,商標登録を受けることができない商標を定める商標法第4条第7号にお

いて,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と規定されており,

本文【乙案】の参考としている。

なお,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標の例示として,特許

庁ウェブサイトにおいて,「商標の構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょ

う激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形,記号,立体的形状若

しくは色彩又はこれらの結合,音である場合。なお,非道徳的若しくは差別的又

は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは,特に,構成する文字,図形,

記号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音に係る歴史的背景,社会的

影響等,多面的な視野から判断する。」と掲載されている。

3 【丙案】の参考用例

旅券法施行規則第5条第2項において,「法第6条第1項第2号の氏名は,戸

籍に記載されている氏名(戸籍に記載される前の者にあっては,法律上の氏及び

親権者が命名した名)について国字の音訓及び慣用により表音されるところによ

る。ただし,申請者がその氏名について国字の音訓又は慣用によらない表音を申

し出た場合にあっては,公の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者に

より通常使用されているものであることが確認され,かつ,外務大臣又は領事官

が特に必要であると認めるときはこの限りではない。」と規定されており,本文

【丙案】の用例の参考としている。

なお,本文【丙案】を採用した場合にも,氏名の読み仮名については,慣用と

される範囲や判断基準を明確に決めることは困難であり,慣用によることを基準

とすることについては消極的な意見があった。

4 現行の読み仮名の審査

法務省民事局長通達に定める出生届等の標準様式には氏名の「よみかた」欄が

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 14 –

付されているが,住民基本台帳事務処理上の利便のために設けられているもの

で,戸籍事務では使用しておらず,市区町村における現在の実務上,氏名の音訓

や字義との関連性は審査されていない。

5 傍訓の例

かつて申出により名に付することができた傍訓について,届出が認められたも

のとして,「刀(フネ)」,「登(ミノル)」,「秀和(ヒデマサ)」,「海(ヒ

ロシ)」などがあり,届出が認められなかったものとして,「高(ヒクシ)」,

「修(ナカ)」,「嗣(アキ)」,「十八公(マツオ)」がある(大森政輔「民

事行政審議会答申及びその実施について(戸籍441号44頁))。

6 審判・民事行政審議会答申における名についての判断

東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)は,

「名は,氏と一体となって,個人を表象,特定し,他人と区別ないし識別する機

能を有し,本人又は命名権者個人の利益のために存することは勿論であるが,そ

のためだけに存在するものではない。即ち,名は極めて社会的な働きをしており,

公共の福祉にも係わるものである。従って,社会通念に照らして明白に不適当な

名や一般の常識から著しく逸脱したと思われる名は,戸籍法上使用を許されない

場合があるというべきである。このことは,例えば,極めて珍奇な名や卑猥な名

等を想起すれば容易に理解できるところである。」,「明文上,命名にあっては,

「常用平易な文字の使用」との制限しかないが,改名,改氏については,家庭裁

判所の許可が必要であり,許可の要件として,「正当な事由」(改名)「やむを

得ない事由」(改氏)が求められている(戸籍法107条の2,107条)。そ

して,一般に,奇異な名や氏等一定の場合には改名,改氏が許可とされるのが例

であり,逆に,現在の常識的な名から珍奇ないしは奇異な名への変更は許されな

いのが実務の取扱である。即ち,戸籍法自体が,命名(改名も命名を含んでいる)

において,使用文字だけでなく,名の意味,内容を吟味する場合のあることを予

想し,明定している。」との判断を示している。

また,昭和56年答申においては,「子の名は,出生に際し,通常親によつて

命名されるのであるが,ひとたび命名されると,子自身終生その名を用いなけれ

ばならないのみならず,これと交渉を持つ他人もまた,日常の社会生活において

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 15 –

その名を読み書きしなければならない機会が多い。そこで,子の利益のために,

子を悩ませるような書き難い漢字による命名を避けることが望ましいのみなら

ず,日常の社会生活上の支障を生じさせないために,他人に誤りなく容易に読み

書きでき,広く社会に通用する名の用いられることが必要である。」としている。

これらは,本文各案のいずれを採用する場合にも参考となり得るものと考えら

れる。

7 周知すべき事項

本文各案を採用した場合には当該基準に該当するものをできるだけ分かりや

すく周知する必要があるものと考えられる。このうち,権利濫用及び公序良俗の

法理により認められないものは,特許庁ウェブサイトに掲載されている登録商標

を受けることができない商標の例示(第2の1(3)(補足説明)2参照)が参考

となり,この他氏名の読み仮名独自のものとして,例えば,氏が「鈴木」である

その読み仮名を「サトウ」として届け出るものについて許容すべきか否か,検討

する必要がある。

あわせて,届け出られた氏名の読み仮名の変更は,戸籍法第107条若しくは

第107条の2又は第2の1(5)本文の手続により,必ずしも認められるわけで

はないこと及び本文【甲案】又は【乙案】を採用した場合には,氏名の読み仮名

が戸籍に記載されたことをもって,氏名の漢字部分の読み仮名が公認されたわけ

ではないことも,十分周知する必要があるものと考えられる。

8 平仮名・片仮名部分の氏名の読み仮名

本文【甲案】又は【乙案】を採用した場合には,氏又は名の全部又は一部が平

仮名又は片仮名で表記されているときも,漢字部分と同様に本文【甲案】又は【乙

案】によることが適当と考えられる。

9 不服申立て

新たに法令に規定される氏名の読み仮名の届出(第2の2(1)本文及び(2)本文

参照)を市区町村長が受理しない処分を不当とする者は,家庭裁判所に不服の申

立てをすることができる(戸籍法第122条)。

なお,第2の2(2)本文【甲案】又は【乙案】を採用した場合には,短期間に

市区町村に大量の届出がされ,これに比例して多数の受理しない処分及び不服申

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 16 –

立てがなされることが想定される。戸籍事務の取扱いに関して疑義がある場合に

は,市区町村長は管轄法務局等に照会することができるところ(戸籍法第3条第

3項),氏名の読み仮名の戸籍への記載を円滑に実施するため,例えば,市区町

村長が本文各案を理由として受理しない処分をする場合には,当分の間,管轄法

務局等に全て照会する運用をすることも考えられる。

(4) 戸籍に記載することができる片仮名の範囲

氏名の読み仮名として戸籍に記載することができる片仮名の範囲については,現

代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)及び「現代仮名遣い」の実施について(昭

和61年内閣訓令第1号)に基づき,現代仮名遣い本文第1の直音(「あ」など),

拗音(「きゃ」など),撥音(「ん」)及び促音(「っ」)を片仮名に変換したも

のとすることが考えられる。

また,現代仮名遣いに含まれていないが,先例上,子の名として戸籍に記載する

ことができるとされている「ヰ」,「ヱ」,「ヲ」及び「ヴ」のほか,小書き(「ァ」

など)及び長音(ー)についても,範囲に含めることが考えられる(平成16年9

月27日付け法務省民二第2664号法務省民事局長通達,昭和40年7月23日

付け法務省民事局変更指示,外来語の表記(平成3年内閣告示第2号),「外来語

の表記」の実施について(平成3年内閣訓令第1号))。

以上については,法令に規定することも考えられる。

(5) 氏名の読み仮名の変更

氏名の読み仮名を氏名とは別個の新たな戸籍の記載事項と位置付けた上,氏又は

名の変更を伴わない氏名の読み仮名の変更を認める規律としては,戸籍法第107

条又は第107条の2に,氏名の読み仮名を氏名と同様の取扱いとする旨定める

か,以下の案のとおり,戸籍法第107条又は第107条の2の変更手続と別の規

律を法令に規定することが考えられる。

【甲案】氏又は名の読み仮名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得て,

届け出ることができるものとする。

【乙案】氏又は名の読み仮名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得る

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 17 –

必要があるとしつつ,一定の場合には,家庭裁判所の許可を得ないで,届け出る

ことができるものとする。

(注1)氏又は名の読み仮名は,氏又は名を変更(婚姻,縁組によって氏を改めた

場合,離婚,離縁等によって復氏した場合,氏の変更による入籍届,又は戸籍法

第107条若しくは第107条の2の変更の届をした場合を含む。)すると,こ

れに伴って変更すると考えられるため,この場合には,読み仮名の変更に関する

特別な手続は必要ないと考えられる(第2の2(1)オ及びカ参照)。

(注2)第2の1(2)本文【甲案】を採用した場合には,氏名の変更(戸籍法第1

07条,第107条の2)の規律に服することとなる(第2の1(2)(補足説明)

1参照)。ただし,この場合であっても,本文【乙案】と同様に,一定の場合に

は,家庭裁判所の許可を得ないで,届け出ることができるものとする規律を設け

ることも考えられる。

(注3)第2の1(2)本文【乙案】を採用した場合であっても,氏名の変更(戸籍

法第107条,第107条の2)の規律に服するとすることは可能である(第2

の1(2)(補足説明)2参照)。ただし,この場合であっても,本文【乙案】と

同様に,一定の場合には,家庭裁判所の許可を得ないで,届け出ることができる

ものとする規律を設けることも考えられる。

(注4)氏名の読み仮名を訂正する方法としては,戸籍訂正(戸籍法第24条第3

項)によることが考えられる。

(補足説明)

1 固定化の必要性とその程度

氏名の読み仮名については,第1の3(補足説明)2のとおり,他者からは「な

まえ」として個人を特定する情報の一部として認識されるものであるとともに,

情報システムにおける検索及び管理等の能率を向上させることが法制化の必要

な理由の一つであるところ,以下の理由から,その変更を安易に認めることによ

り上記意義が損なわれるおそれがあるとの意見がある。

①氏名の読み仮名が変更されると,氏名の読み仮名を利用して検索等を行って

いる個人のデータベースとの照合等において情報の不一致を招き,円滑な本人特

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 18 –

定を阻害するおそれがあること。

②氏の読み仮名は,配偶者の氏を称する婚姻などの身分変動や戸籍法第107

条の氏の変更など氏の変動により従前のものと異なるものとなる可能性がある

が,いずれも身分行為や家庭裁判所の許可などを要し,無制限に行われるもので

はなく,また,名の読み仮名は,戸籍法第107条の2の名の変更以外により従

前のものと異なるものとなることはないところ,氏又は名の読み仮名のみの変更

を無制限に認めると,円滑な本人特定を阻害するおそれがあること。

他方で,上記各理由については,上記①につき,個人を特定するための他の情

報(生年月日など)により照合することが可能であり,また,上記②につき,例

えば,名簿の並べ替えなどは氏をキーとして行うのが通常であるところ,氏が従

前のものと異なるものとなる可能性は決して少なくないので,いずれも円滑な本

人特定を阻害するおそれがあるとまでは言えないとも考えられる。そして,氏名

の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み仮名の法制化

が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3本文(1)参照)は確保されるため,

氏又は名の読み仮名の変更については,氏又は名の変更よりも柔軟に認める余地

があるとの意見もある。

なお,仮に,氏名の読み仮名の変更を無制限に認めるとしても,氏名の読み仮

名の変更の届を要することとなるが,この場合であっても,第2の1(6)の同一

戸籍内の規律は適用され,何度も変更を繰り返す場合には,権利の濫用の法理に

よりその届出を不受理とすることも考えられる。

2 変更できる場面

氏又は名の変更を伴わない読み仮名のみの変更を検討するに当たって,戸籍法

第107条又は第107条の2に,氏名の読み仮名を氏名と同様の取扱いとする

旨定める場合には,現在の氏又は名の変更の取扱いが参考となる。

氏については,一定の事由によって氏を変更しようとするときは,家庭裁判所

の許可を得て(ただし,一定の場合には,家庭裁判所の許可を得ないで),名に

ついては,正当な事由によって名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可

を得て,届け出ることができるとされている。

このうち,戸籍法第107条第1項及び第4項(外国人である父又は母の称し

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 19 –

ている氏に変更しようとするものなどの要件あり)に規定する氏の変更について

は,やむを得ない事由がある場合に家庭裁判所の許可を得て,届け出ることがで

きるとされている。

このやむを得ない事由に該当する事例としては,著しく珍奇なもの,甚だしく

難解難読のものなど,本人や社会一般に著しい不利不便を生じている場合はこれ

に当たるであろうし,その他その氏の継続を強制することが,社会観念上甚だし

く不当と認めるものなども,これを認めてよいと考えられている(青木義人=大

森政輔全訂戸籍法439頁)。

婚姻により夫の氏になったものの,その後離婚し,婚氏続称の届出をして,離

婚後15年以上婚氏を称してきた女性が,婚姻前の氏に変更することの許可を申

し立てた事案において,やむを得ない事由があると認められると判断し,申立て

を却下した原審判を変更して,氏の変更を許可した事例(東京高裁平成26年1

0月2日決定(判例時報2278号66頁))もある。

また,同法第107条の2に規定する名の変更については,正当な事由がある

場合に家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるとされている。

この正当な事由の有無は一概に言い得ないが,営業上の目的から襲名の必要が

あること,同姓同名の者があって社会生活上支障があること,神官僧侶となり,

又はこれをやめるため改名の必要があること,珍奇な名,異性と紛らわしい名,

外国人に紛らわしい名又は難解難読の名で社会生活上の支障があること,帰化し

た者で日本風の名に改める必要があること等はこれに該当するであろうが,もと

よりこれのみに限定するものではないと考えられており,また,戸籍上の名でな

いものを永年通名として使用していた場合に,その通名に改めることについて

は,個々の事案ごとに事情が異なるので,必ずしも取扱いは一定していないが,

相当な事由があるものとして許可される場合が少なくないとされている(前掲全

訂戸籍法442頁)。

また,性同一性障害と診断された戸籍上の性別が男性である申立人が,男性名

から女性名への名の変更許可を申し立てた事案において,正当な事由があると認

められると判断し,原審を取り消して名の変更を許可した事例(大阪高裁令和元

年9月18日決定(判例時報2448号3頁))もある。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 20 –

さらに,名の変更については,出生届出の際の錯誤あるいは命名が無効である

ことを理由として認められる場合がある(戸籍610号75頁)。

以上の例と読み仮名の特性に鑑みれば,氏の読み仮名にあっては,著しく珍奇

なもの,永年使用しているもの,錯誤による届出によるものなどを理由とした届

出が,名の読み仮名にあっては,珍奇なもの,永年使用しているもの,性自認(性

同一性)と一致しないもの,錯誤による又は無効な届出によるものなどを理由と

した届出などが考えられる。さらに,これらの届出のうち,実際に氏名の読み仮

名のみの変更の届出が想定される場面は,極めて限定されるが,例えば,氏名の

読み仮名の永年使用については,濁点の有無や音訓の読みの変化などが,氏の読

み仮名のうち著しく珍奇なもの及び名の読み仮名のうち珍奇なものについては,

①第2の1(3)によれば不受理とすべきものが誤って受理されたもの,又は②本

人以外が届け出た氏名の読み仮名について,不受理事由はないが本人にとってな

お著しく珍奇なもの若しくは珍奇なものの届出が考えられる。

また,氏名の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み

仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3(1)参照)は確保され

る。

したがって,氏又は名の変更を伴わない読み仮名のみの変更の要件について

は,第2の1(5)(補足説明)1の氏名の読み仮名の固定化の必要性を踏まえ,

現行法の規律による上記のような整理とするのか,別の整理とするのか,検討す

る必要がある。

3 新戸籍編製時の扱い

新たに戸籍を編製する場合において,戸籍の筆頭に記載することとなる者の氏

の読み仮名が既に記載されているときは,新たな戸籍における氏の読み仮名は,

原則として,従前の戸籍におけるものと同一のものとなる。

他方で,新戸籍が編製されると,当該者が除籍された戸籍での同一氏の制約は

なくなるところ,新戸籍が編製された場合であっても,氏の読み仮名の変更につ

いては,原則どおり家庭裁判所の許可を得て届け出る必要があるとする考え方

(【甲案】)と,新戸籍の編製を契機に氏の読み仮名の変更を届出のみで可能と

する考え方(【乙案】)がある。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 21 –

この点,①氏の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読

み仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3(1)参照)は確保さ

れること,②新たな読み仮名についても第2の1(3)本文のとおり適切に判断さ

れること,③氏の読み仮名は既成の事実と位置付けているものの,同籍者がいる

場合には,当該者と他の同籍者が使用しているものが異なる場合も想定されると

ころ,新戸籍の編製により,氏の読み仮名を実際に使用しているものに整合させ

ることが戸籍法第6条の規律との関係でも可能となることを考慮した上で,新戸

籍編製の機会における変更に際し,濫用防止の観点から,家庭裁判所の許可を必

要とするか否かが問題となる。

なお,転籍については,上記③の必要性もないことから,その濫用を防止する

ため,家庭裁判所の許可を必要とすべきと考えられる。

(6) 同一戸籍内の規律

同一戸籍内においては,氏の読み仮名を異なるものとすることはできないとする

ことが考えられる。

当該規律については,法令に規定することも考えられる。

(補足説明)

1 戸籍編製の規律

戸籍は,一の夫婦及びその双方又は一方と氏を同じくする子ごとに編製すると

されており(戸籍法第6条),同一戸籍内の同籍者の氏は異ならないこととなっ

ている。氏の読み仮名についても,氏と異なる取扱いをすべき特段の理由はない

ものと考えられる。また,現在,戸籍における氏については,戸籍法施行規則附

録第6号のいわゆる紙戸籍の記載ひな形及び付録第24号様式のいわゆるコン

ピュータ戸籍の全部事項証明書のひな形等において,氏は戸籍の筆頭者の氏名欄

にのみ記載することとされているが,氏の読み仮名は,氏と同様に戸籍の筆頭者

の氏名欄にのみ記載する方法又は名の読み仮名とともに戸籍に記載されている

者欄に記載する方法が考えられる。

なお,第2の1(2)【乙案】を採用した場合にも,本文の考えによると,戸籍

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 22 –

法第6条の規定は氏の読み仮名にも適用(又は準用)されるとすることになる。

また,戸籍を異にする同氏の子は,家庭裁判所の許可を要することなく,届出

のみによって,父又は母と同籍する入籍が先例上認められているところ(昭和2

3年2月20日民事甲第87号法務庁民事局長回答,昭和33年12月27日民

事甲第2673号法務省民事局長通達,昭和34年1月20日民事甲第82号法

務省民事局長回答),本文の考えによると,この場合に,父又は母と子との間で

氏の読み仮名が異なるときは,子の読み仮名の変更を要することとなるが,上記

先例と同様に家庭裁判所の許可を要することなく,届出のみによる入籍が許容さ

れるのか否かが問題となりうる。

2 新戸籍編製時の扱い

本文によると,新たに戸籍を編製する場合(転籍,分籍,新戸籍が編製される

婚姻など)において,戸籍の筆頭に記載することとなる者の氏の読み仮名が既に

記載されているときは,原則として,新たな戸籍における氏の読み仮名は,従前

の戸籍におけるものと同一のものとなる。

3 同一戸籍内にない親族間の扱い

戸籍を異にする親族間で氏の読み仮名が異なることは,氏が異なることがある

のと同様に,許容されるものと考えられる。なお,氏の異同は,夫婦,親子の関

係を有する当事者間においてのみ生ずる問題であると考えられている(昭和31

年12月28日付け民事甲第2930号法務省民事局長回答)。

2 氏名の読み仮名の収集方法

(1) 氏名の読み仮名の届出

第2の1(2)【乙案】を採用した場合においては,戸籍法第13条第1号に定め

る氏又は名を初めて戸籍に記載することとなる以下の戸籍の届書(イにあっては調

書)の記載事項として,法令に規定することが考えられる(以下の届書に併せて記

載した事件本人以外の氏名の読み仮名の取扱いについては第2の2(2)(補足説明)

4参照)。

ア 出生の届書(戸籍法第49条,55条,56条)(名(新戸籍が編製されると

きにあっては,氏名)の読み仮名)

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 23 –

イ 棄児発見調書(戸籍法第57条)(氏名の読み仮名)

ウ 国籍取得の届書(戸籍法第102条)(名(新戸籍が編製されるときにあって

は,氏名)の読み仮名)

エ 帰化の届書(戸籍法第102条の2)(名(新戸籍が編製されるときにあって

は,氏名)の読み仮名)

オ 氏の変更の届書(戸籍法第107条)(氏の読み仮名)

カ 名の変更の届書(戸籍法第107条の2)(名の読み仮名)

キ 就籍の届書(戸籍法第110条,111条)(名(新戸籍が編製されるときに

あっては,氏名)の読み仮名)

(補足説明)

1 届出の原則

戸籍制度においては,戸口調査により戸籍を編製した明治初期を除き,原則と

して届出によって戸籍に記載し,公証してきた。

したがって,氏名の読み仮名を戸籍に記載するに当たっても,戸籍の届出によ

って記載するとすることが原則となる。

2 氏名の読み仮名の性質

戸籍の届出は,報告的届出と創設的届出とに分類される。報告的届出は,既成

の事実又は法律関係についての届出であり,原則として,届出義務者,届出期間

についての定めがある。一方,創設的届出は,届出が受理されることによって身

分関係の発生,変更,消滅の効果を生ずる届出である。

なお,報告的届出と創設的届出の性質を併有するものとして,認知の効力を有

する出生の届出,国籍留保の意思表示を伴う出生の届出,就籍の届出(本籍を定

める届出の部分が創設的届出の性質を有する。),帰化の届出(新戸籍が編製さ

れる場合にあっては,本籍及び氏名を定める届出の部分が創設的届出の性質を有

する。)等がある。

氏名についてみると,例えば,出生の届出は,創設的届出の性質を併有するも

のがあるものの,民法第790条の規定により称するとされている氏及び命名さ

れた名という既成の事実を届け出るものであって,そのほとんどは報告的届出で

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 24 –

ある。そして,氏名の読み仮名についても,同様に,氏にあっては現に使用され

ている読み仮名,名にあっては命名された時に定められた読み仮名という既成の

事実を届け出るものと整理するのが相当と考えられる。

報告的届出については,原則として届出義務が課され,届出期間が定められて

いるが,届出義務が課されておらず,届出期間が定められていない例として,法

改正に伴う経過的な取扱いである外国の国籍の喪失の届出(昭和59年法律第4

5号附則第10条第2項)の例がある。これは,改正法により,重国籍者が併有

する外国国籍を喪失したときは,その旨の届出義務が課されることとなったが,

施行前にはそのような義務が課されていなかったので,施行前に外国国籍を喪失

した場合については改正法を適用しないこととしつつ,戸籍記載上から重国籍が

推定される者が法律上又は事実上権利制限や資格制限を受けるおそれもあり,重

国籍状態を解消していることを明らかにすることについて本人も利益を有する

ことから,施行前に外国国籍を喪失している旨の届出をする資格を本人に認め,

その届出について,戸籍法第106条第2項の規定を準用することとされたもの

である(田中康久「改正戸籍法の概要」民事月報昭和59年号外81頁参照)。

また,傍訓については,通達によって,記載の申出をすることができるとされて

いた。

3 初めて氏又は名を届け出るときのこれらの読み仮名の届出(本文参照)は,氏

又は名の読み仮名という既成の事実を届け出るものであり,その変更は,本文オ

若しくはカ又は第2の1(5)本文【甲案】若しくは【乙案】によって可能となる

ものと整理している。

一方,既に氏又は名が戸籍に記載されているときのこれらの読み仮名の届出は

(第2の2(2)本文参照),初めて氏又は名が届け出られたときの読み仮名を既

成の事実として届け出るのが原則とも考えられるが,便宜通用使用などにより既

成の事実が変更していれば,変更後のものを既成の事実として届け出ることも可

能と整理することが考えられる。ただし,旅券などの公簿に氏名の読み仮名又は

これらを元にしたローマ字が登録され,公証されている場合には,第2の1(3)

本文各案いずれによっても,これに反するものを届け出ることはできないと整理

することも考えられる。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 25 –

4 復氏する者が新戸籍編製の申出をしたときの扱い

戸籍法第19条第1項の規定により,離婚,離縁又は婚姻若しくは縁組の取消

しによって復氏する者が新戸籍編製の申出をしたときは,新戸籍が編製される。

この場合には,婚姻又は縁組前の戸籍に入るわけではないため,氏の読み仮名が

婚姻又は縁組前の戸籍に記載されているものと異なることも許容されるところ

(第2の1(6)(補足説明)1参照),本文アからキまでの届出時に加え,新戸

籍編製の申出時に,家庭裁判所の許可を得ないで,氏の読み仮名を届け出るもの

とすることも考えられる。戸籍法第19条第2項において同条第1項の規定を準

用する場合も同様である。

なお,外国人が,日本人と婚姻後,日本人の氏を称して帰化し,その後離婚し

た場合には,復すべき氏はないが,その者の意思によって新たな氏を定めること

ができると扱われている(昭和23年10月16日付け民事甲第2648号法務

庁民事局長回答)。この場合には,離婚届書に新たな氏の読み仮名を記載するこ

とができるとするのが相当と考えられる。

5 第2の1(2)【甲案】を採用した場合の取扱い

第2の1(2)【甲案】を採用した場合には,本文アからキまでの届書等の記載

事項として,氏名とともに届出がされることとなる。

(2) 既に戸籍に記載されている者の氏名の読み仮名の収集方法

以下の案のとおり,既に戸籍に戸籍法第13条第1号に定める氏名が記載されて

いる者に係る氏名の読み仮名の収集方法として,法令に規定することが考えられ

る。

【甲案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人

に一定の期間内の届出義務を課す方法

【乙案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人

に一定の期間内の届出を促す方法

【丙案】戸籍法第24条の戸籍訂正を活用する方法

(補足説明)

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 26 –

1 届出義務

戸籍の届出については,戸籍法第137条において,正当な理由がなくて期間

内にすべき届出をしない者は,5万円以下の過料に処するとされているところ,

本文【甲案】の戸籍の記載事由の発生時期は,氏又は名を初めて戸籍に記載する

こととなる出生等の届出の時ではなく,新たな規律を定める法令の施行時と考え

られる。

戸籍法第44条第1項において,市区町村長は,届出を怠った者があることを

知ったときは,相当の期間を定めて,届出義務者に対し,その期間内に届出をす

べき旨を催告しなければならないとされている。本文【甲案】において,氏名の

読み仮名の届が期間内にされなかったときは,同項が適用されるものと考えられ

る。なお,同条第2項において,当該期間内に届出をしなかったときは,市区町

村長は,更に相当の期間を定めて,催告をすることができるとされ,同条第3項

において,これらの催告をすることができないとき,又は催告をしても届出がな

いときは,市区町村長は,管轄法務局長の許可を得て,戸籍の記載をすることが

できるとされている。もっとも,同項の措置に関しては,第2の2(2)(補足説

明)7の資料等により市区町村長が届出の内容(当該者の氏名の読み仮名)を職

務上知っていると評価することができなければ,戸籍の記載をすることはできな

いこととなる。また,同法第138条において,同法第44条第1項又は第2項

の規定によって,期間を定めて届出の催告をした場合に,正当な理由がなくてそ

の期間内に届出をしない者は,10万円以下の過料に処するとされている。

なお,上記催告は,届出期間を経過した場合にしか行えないが,本文【甲案】

において,届出期間経過前であっても,運用として,市区町村から氏名の読み仮

名の届を促す案内を送付することなどは可能であると考えられる。

他方,本文【乙案】及び【丙案】においては,届出義務が定められていないた

め,上記過料の制裁,催告,職権記載の対象とはならないが,運用として,市区

町村から氏名の読み仮名の届又は職権記載の申出を促す案内を送付することな

どは可能であると考えられる。

2 届出人

氏については,同一戸籍内の同籍者の氏は異ならないこととなっており,氏の

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 27 –

読み仮名についても,同様に考えられるため,本文【甲案】又は【乙案】の氏名

の読み仮名の届の届出人は,同籍者全員とする必要があるかが問題となる。特に,

DV(ドメスティック・バイオレンス)などにより離婚には至っていないが,別

居状態にある者については,届出をすることが困難との意見もあった。

なお,同籍者全員を届出人としない場合には,同籍者の一人が届け出た氏の読

み仮名が,他の同籍者が認識しているものと異なることも想定される。この場合

には,戸籍法第113条の戸籍訂正手続により対応することとなるものと考えら

れる。

3 届出期間

本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届については,例えば,改正法

令の施行日から一定期間内(当該者が事件本人又は届出人となる戸籍の届出をす

る場合にあっては,当該届出の時まで)にしなければならない又はするものとす

る旨法令に規定することが考えられる。

4 届出方式

本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届については,他の戸籍の届出

がされた場合についても,事件本人又は届出人について記載された氏名の「読み

仮名」をもって,氏名の読み仮名の届があったものとして取り扱うことも考えら

れる。また,この氏名の「読み仮名」は,本文【丙案】の戸籍訂正の資料とする

ことも考えられる。これらの場合には,その旨周知するとともに,届書の様式に

注記することが適当であると考えられる。なお,令和2年3月31日現在の本籍

数は,約5千2百万戸籍,令和元年度の戸籍の届出数は,約4百万件であり,仮

に,他の戸籍の届出の際に氏名の読み仮名の届がされた場合には,単独の氏名の

読み仮名の届と併せて,年間数百万件以上の氏名の読み仮名の届がされることが

想定される。

また,届出の方法としては,この他マイナポータルを活用すべきとの意見があ

った。

5 通知に係る氏名の読み仮名の承認の擬制

本文【甲案】の氏名の読み仮名の届を前提としつつ,届出期間経過後,市区町

村が保有する情報を基に,国民に戸籍に記載する氏名の読み仮名の通知を送付

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 28 –

し,一定期間内に異議を述べなかったときは,同期間経過後に当該通知に係る氏

名の読み仮名を承認したものとみな(擬制)し,市区町村長が職権により戸籍に

氏名の読み仮名を記載する制度とすることも考えられる。

なお,身分関係に関し,通知後,一定の期間の経過に一定の効力を持たせる制

度として,昭和59年法律第45号により創設された国籍選択催告制度(国籍法

第15条,戸籍法第105条)がある。これは,重国籍の日本国民が法定の期限

までに日本国籍の選択をしない場合,法務大臣が書面により国籍の選択をすべき

ことを催告し,催告を受けた者が催告を受けた日から1月以内に日本国籍の選択

をしなければ,原則としてその期間が経過した時に日本国籍を失う(擬制)とい

うものである。ただし,国籍喪失後は,戸籍法第105条による法務局長等から

の報告により,市区町村長は,職権で戸籍に国籍喪失の記載をし,除籍すること

とされているが,これまで法務大臣による国籍選択の催告がされたことはない。

6 戸籍訂正の考え方

本文【丙案】の戸籍訂正に関しては,氏名の読み仮名の届出義務はないものの,

第2の1(2)により氏名の読み仮名が戸籍の記載事項として法令に規定されてい

る以上,戸籍法第24条第1項の戸籍の記載に遺漏があると評価することができ

るため,当該戸籍に記載された者若しくはその法定代理人からの職権記載申出,

第2の2(2)(補足説明)7の資料又は氏名の読み仮名を職務上知った官庁等か

らの本籍地市区町村長への通知があれば,同条第2項の戸籍訂正により市区町村

長が氏名の読み仮名を記載することができると考えるものである。もっとも,こ

れまでの戸籍訂正の運用に鑑みると,第2の2(2)(補足説明)4の資料がない

限り,職権記載申出を促した上で,実際に申出があった場合にのみ戸籍訂正をす

る運用とするのが相当と考えられる。

なお,氏名の読み仮名を職務上知った官庁等が通知するためには,本籍地市区

町村を把握している必要がある。

7 戸籍訂正の資料

法務省民事局長通達に定める婚姻届の標準様式には,「夫になる人」及び「妻

になる人」の氏名欄に「よみかた」欄が付されている。本文【丙案】の戸籍訂正

においては,例えば,当該「よみかた」が記載され保管されている婚姻届を資料

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 29 –

として,本籍地市区町村が戸籍法第24条第2項の規定により,戸籍に氏名の読

み仮名を記載することが考えられる。

第1の3(注1)のとおり,氏名を片仮名又は平仮名をもって表記したものに

は,読み仮名,よみかた,ふりがな,片仮名など様々な名称が付されているもの

があるが,いずれも,原則として(濁音が記載されない,小書きをしないなどの

ルールが定められているものを除く。)氏名の読み仮名として取り扱って差し支

えないものと考えられる。なお,万一,事件本人が認識している氏名の読み仮名

と異なっている場合には,戸籍法第107条若しくは第107条の2又は第2の

1(5)の読み仮名の変更手続により対応することとなるものと考えられる。

8 戸籍訂正における配慮すべき事項

謝罪広告等請求事件(最判昭和63年2月16日第三小法廷民集42巻2号2

7頁)判決において,氏名を正確に呼称される利益に関して,「氏名は,社会的

にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,

その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の

象徴であって,人格権の一内容を構成するものというべきであるから,人は,他

人からその氏名を正確に呼称されることについて,不法行為法上の保護を受けう

る人格的な利益を有するものというべきである。」,「我が国の場合,漢字によ

つて表記された氏名を正確に呼称することは,漢字の日本語音が複数存在してい

るため,必ずしも容易ではなく,不正確に呼称することも少なくないことなどを

考えると,不正確な呼称が明らかな蔑称である場合はともかくとして,不正確に

呼称したすべての行為が違法性のあるものとして不法行為を構成するというべ

きではなく,むしろ,不正確に呼称した行為であつても,当該個人の明示的な意

思に反してことさらに不正確な呼称をしたか,又は害意をもつて不正確な呼称を

したなどの特段の事情がない限り,違法性のない行為として容認されるものとい

うべきである。」との判断が示されている。

これを踏まえると,氏名の読み仮名を本文【丙案】の戸籍法第24条の規定に

より職権により戸籍に記載し,公証するには,少なくとも本人の明示的な意思に

反しないことに配慮すべきと考えられる。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 30 –

第3 ローマ字による表記等

氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として法制化した後,戸籍以外の公簿や各種証明書

等に記載されている氏名の読み仮名及び氏名のローマ字表記を戸籍に記載される氏名の

読み仮名と整合させる(氏名の読み仮名をヘボン式ローマ字等によって表記させる。)

必要があると考えられるところ,これをどうやって確保するか,検討する必要があると

考えられる。

なお,デジタル・ガバメント実行計画において,「在留カードとマイナンバーカード

の一体化について,現在関係省庁等で検討を進めているところであり,(中略)202

5年度(令和7年度)から一体化したカードの交付を開始する予定である。」とされて

いるところ,この一体化したカードにおける氏名の表記方法についても,検討する必要

があるとの意見があった。

 

 

 

 

 

 

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会

 

https://www.kinzai.or.jp/legalization_kana.html

 

戸籍における氏名の読み仮名(カナ氏名)の法制化を迅速に図るための論点や考え方等を検討し、整理することを目的として、氏名の読み仮名の法制化に関する研究会(座長=窪田充見神戸大学大学院法学研究科教授)が発足し、令和3年1月28日に第1回会議が開催されました。

 

第1回(令和3年1月28日開催)抜粋

本日の議題(自由討議)

【本研究会の検討対象】

・ 本研究会の検討の対象は,仮名のみか。仮名表記とローマ字表記は1

対1の対応ではないので,ローマ字による表記についても議論の対象

とし,最初から議論の対象から外すとはしない方がいいのではないか。

【氏名の読み仮名の法制化の意義】

・ 漢字氏名の他,仮名氏名,ローマ字氏名というのを,個人として一

意なものとして定めていきたい。そうしないと,このデジタル化の社

会に対応出来ないと考えており,デジタル庁に向けては,そういった

形で,ベースレジストリを考えているところ。

・ 氏名だけで個人を一意に特定できるわけではないのに,氏名の読み

仮名を全員の戸籍に記載しなければならないというのは,システム処

理の正確性・迅速性・効率性を向上させることができるというところ

に飛躍してしまっているのではないか。システム処理の正確性・迅速

性・効率性を向上させるためにこれだけの大作業をするのであれば,

そこをきちんと丁寧に説明しないと,受け入れ難いとなりかねない。

システム処理を一番簡単にできるのはマイナンバーを使えるように

することなので,それはそれで正面からチャレンジすべきではないか。

2

【氏名の読み仮名の定義】

・ 研究会資料では,氏名を呼称する表音を片仮名で表記したものを氏名

の読み仮名と定義するとしているが,「表音」は一般的に言う「発音」

と理解し,今後「表音」という表現を法律用語のように一般の人たちに

も使っていくのか。

・ 「表音」という言葉,あるいは概念を用いるかは,これから本研究会

で考えていくべきであり,民事基本法制に本格的にこの概念が入る初

めての例になるので,旅券法施行規則の表音の例はそれとして,慎重

に検討しなければならない。

・ 商業登記における商号の扱いについて行政通達のレベルでは類似の

局面があるので,調べておく必要があるのではないか。

・ 氏名の読み仮名は氏名としてコントロールされている戸籍の記載事

項なのか,オプションとして戸籍に記載することも許される程度のも

のなのかについて検討する必要があり,それが収集方法にも関係して

くる。

・ 氏名の読み仮名を氏名の一部とせず,氏名とは別個の戸籍の記載事

項とすることに障害はないか。

・ 氏名の読み仮名を氏名の一部と位置付けるか,そうでない形で位置付

けるか双方の考え方があり得るという点は,双方の考えがあり得ると

してしばらく検討を続けるべきである。

・ 新たな届出にするか,住民登録などの情報に基づいて間違いないか確

認してもらうとか手段はいろいろあるが,今回新たにやろうとしてい

ることが,法律の根拠を付けて,本人に何らかの形で関与してもらい,

新たに読み仮名を戸籍に記載する制度を設けたいということであれば,

氏名の一部かどうかという二つの位置付けは,あまり変わらないので

はないか。むしろ,今回別個に戸籍の記載事項になったという方が明

確かと思う。

・ 読み仮名が氏名の一部かどうかという議論と切り分けた方がいいの

かもしれないが,氏名の読み仮名を任意的記載事項だとすると,全部

集めない,それが漏れていても正しい記載がされていないわけではな

いということになり,必要的記載事項だとすると,海外に行く予定が

なく,マイナンバーカードを使う予定もなくても,戸籍として正しい

情報が反映されていないので,読み仮名を収集しなければならないと

いう方向になると思う。

・ 片仮名の範囲は実ははっきりしていない。国語政策とJIS漢字とで

も範囲が違う。国語政策には現代仮名遣いがあって,これを片仮名に

3

置き換えれば,現代の日本語はほぼ書けることにはなる。帰化された

方などは,最初から片仮名で記載されていることもあり,外国語の発

音を片仮名に置き換えていることになるが,外来語の表記という内閣

告示・訓令では対応しきれないところもある。片仮名の範囲のほか運

用をどこまで認めるかという問題でもある。「ワ」に濁点のある片仮名

などをどこまで認めるかといったことも決めておかないと窓口等で混

乱が発生する。

・ 片仮名を1バイトとするかなども決めておかないと,それによって使

える文字が変わってくる。

・ 任意的記載事項にするのか,必要的記載事項にするのかを押さえる

必要がある。任意的記載事項とし,届出を要請するが,強制しないとい

うのであれば,法律上の根拠はあるけれども運用は今と同じである。

今の運用は,漢字との字義の関連性は厳格ではなく,自由に読み仮名

を設定しているが,それを認めて良いのかが問題となる。そして,現在

の運用をなるべく変えないとすると,読み仮名を変更する場合には,

裁判所の許可を得てやってくださいという運用も一つの方法だと思う。

それではまずい,変えないといけないというのであれば,その必要性

を議論することが大事なのだと思う。

・ 氏名の読み仮名をどう位置付けるかという問題,それが必要的記載

事項か,任意的記載事項かという問題と,収集の仕方が全部関わりあ

ってきているので,うまく整理して議論しないと,堂々巡りになるの

で,どういう順番で何を議論するかを検討する必要がある。

【氏名の漢字部分の音訓や字義との関連性】

・ 傍訓が設けられたのは,当時の識字の問題,難しい漢字が戸籍に記

載されると読めないという問題があったからである。字義については,

常用漢字表の音訓表や,漢和辞典の音訓,最近は名乗りの辞典もある

が,それ以外の読みも多い。例えば,「温心」で「ハート」と読むなど

あるが,そこまで何でもありとなると,一番大変なのは出生届の審査

で,窓口でトラブルが起こることもある。収集する以前の問題として,

新しい名前が出生届で届け出られたときの問題を検討する必要がある。

・ 漢字の字義と名乗りの発音との不一致に関して,「温心」と書いて,

「ハート」も当て字であるが,意味が合っている,字義が合っているで

はないかという話にもなりうる。100年,200年の歴史を持って

いる当て字もたくさんあって,誰かが客観的に判断するのは,裁判官

がするとしても相当大変なことになる。名乗り訓とされているものも

網羅された資料はなく,江戸時代になかったものが今では普通になっ

4

ているものもある。平和の「和」と書いて「カズ」と読むものさえ,実

は確実な根拠が見つかっていないとされる。足し算で和が数だからと

もいうが,それが理由なのかはまだ分かっていない。混沌とした世界

が漢字自体にあって,それが名前に持ち込まれて,名前でさらに拡張

している感がある。今回そこまで足を踏み入れると大変だろうと思う。

・ 漢字との関連性についてある程度自由に認めていかなければならな

いだろうが,勝手に全く関係ないものを好きに付ければいいのか,極

端に言えば,漢字と全く関係ないものが片仮名表記にあって,片仮名

表記とも違うローマ字表記があるということでいいのか,どこかで線

引きする必要がある。

・ 傍訓が戸籍に残っているもの(改製不適合戸籍)があれば,読み仮名

をそれと違うものとしていいのかという問題がある。

・ 例えば,名が「てふ」で,戦前に「テフ」と傍訓が記載されているよ

うな方の読み仮名を「チョウ」と変更することはできるか。また,方言

で仮に「チュウ」と呼んでいる場合に,「チュウ」と読み仮名を記載す

ることはできるか。さらに,実際に「子」を補って「チョウコ」と呼ん

でいる場合に,「チョウコ」と読み仮名を記載することができるか。本

欄のひらがなが本体なのか,読み仮名欄を含めて名前とするのか。こ

のような問題が今回表面化するだろう。

・ 上記の問題は,読み仮名を氏名の一部と位置付けるかにもかかわる深

刻な問題であり,丁寧に検討する必要がある。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 読み仮名を氏名の一部と位置付けると,裁判所の氏名の変更の手続が

使えるということは,メリットと言えるか。見方によってはデメリッ

トかもしれず,別の仕組みを工夫しなければならない可能性も大いに

想定しなければならないのではないか。

・ 現行の氏の変更は,やむを得ない事由,名の変更は,正当な事由が必

要であるが,読み仮名の変更もパラレルになると思う。

【氏名の読み仮名の収集方法】

・ 住民基本台帳には読み仮名があるのではないか。例えば,選挙で本人

確認をするときに読み仮名を発言させているなど,今ある読み仮名の

データとしては多分かなりあると思うが,法律上の根拠がなかったか

ら使えない,もう一回収集し直す必要があるということを前提に議論

しなければいけないのか。

・ 婚姻届には氏にもふりがなが付いている。現在は戸籍の記載事項では

ないが戸籍に登録されるための書類として書かれた点では,住民票と

5

は違うレベルのものとして位置付け,市区町村の戸籍事務と国の戸籍

事務(現在の婚姻届の保管事務)をうまく連携するなど工夫ができな

いか。

・ 届出錯誤になると戸籍法第113条の戸籍訂正の問題となるが,届

出のミスなのか審査ミスなのかよく考えないと大きな問題となるなど,

具体的に細かい点まで決めておかないと市区町村の窓口の担当者が大

変になる。

・ 住民記録システムのふりがなについては,当初本人に確認して入力し

ているものではなく,その後の異動時にも直したり,直していなかった

りという状況である。現在,ふりがなは,住民基本台帳法上も法令上の

記載事項とはされていないので,住民票のふりがなについても正しい

ものが入っているとは限らない前提のものであると思う。

・ 旅券は戸籍の氏名の表音をヘボン式ローマ字表記することを原則と

しているが,例外も認めている。有効旅券数は約 3,000 万冊あり,留意

が必要。

3 閉会

 

第2回(令和3年2月25日開催)

抜粋

2 本日の議題

【本研究会の検討対象】

・ 氏名の読み仮名やローマ字表記について,目的がはっきりしない。後

の手段がどうあるべきかの前提として,パスポートにしても住民票に

しても戸籍にしても,なぜこれを紐付けてどういうことをしようとし

ているのか。

・ ベースレジストリの中でしっかりと個人の氏名を位置付けたい。シス

テム処理,情報技術を使った処理になると,カタカナであったりロー

マ字であったり,しっかり処理できるようにする必要がある。本人を

特定する一意なものとして漢字氏名,カナ氏名,ローマ字氏名としっ

かり位置付けていく。デジタル社会の形成において,しっかり位置付

けないと,デジタル化の中で,いろんな障害を生じる。マイナンバーカ

ードの海外利用が目的ではない。個人を識別し,特定する身分証明書

としてマイナンバーカードを活用していくが,海外利用にあたっては

ローマ字表記がマストだが,現在では,何も公証されてないものを表

記することになる。

・ 「2024 年からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせ」てと

あるが,海外での利用と戸籍の読み仮名は,どう繋がるのか。

・ マイナンバーカードの海外利用になると海外の方々に認識してもら

わなければならないが,公証されていない平仮名に基づくローマ字表

記になる。また,ベースレジストリとして,個人や事業所がデータをし

っかり整備しようと検討を始めている中,個人を認識するものとして,

カナ氏名,ローマ字氏名も特定し,公証する必要がある。

・ 単に海外での利便性であれば,任意的記載で足り,必要な人がやれば

いいだけではないか。利便性だけの問題か,別な目的があるのか。

2

・ マイナンバーカードの海外利用というのは時期を特定するために書

かれているものであり,本人を一意として認めるために漢字氏名とカ

ナ氏名,ローマ字氏名を公証するのが一番の目的である。2024 年度か

らマイナンバーカードがローマ字表記になる期限として,検討し,実

施していくもの。マイナンバーカードのローマ字表記が目的ではなく

て,時期がそこになるという意味。

・ 「カナ氏名の法制化を図る」までと,その後の「これにより」の記載

が飛び過ぎていて,システム処理の正確性,迅速性,効率性が向上する

のかわからない。これをすることで,本当に正確性,迅速性,効率性が

上がることを示さないと,この大作業は,コストだけかかって,一体何

のためにやったんだとなりかねない。

・ 海外で身分を証明する場合には問題なくパスポート 1 択だと思うが,

マイナンバーカードはこれに並ぶ効力を持つということになるのか。

・ 書かれた漢字,文字が自分の名前の中心という意識の人と,文字を知

らない頃からの呼び名・発音こそが自分の名前の本体だという意識の

人とがいる。日本では千数百年前から卑弥呼のような名前があって,

我々は漢字が浮かぶが,卑弥呼自身は「ひみこ」のように言っても,漢

字は知らなかったと思われる。呼び名しかない音の世界で,中国の人

がそれに漢字を当てて記録がなされた。いつしか日本でその音と漢字

の位置関係が逆転し,漢字こそ名前の本体だ,公簿たる戸籍にはその

漢字だけ書けばいいという意識が明治時代には広まった。「イトウヒロ

ブミ」も,漢字を当てたことから「ハクブン」とも読まれるようになる。

自身でそのように言う人もいた。漢字が中心だからこそ,音読み,訓読

みと発音が自在にできる時代には戸籍に書かれている名前の本当の読

み方を本人も知らないということが,明治の頃の記録に現れている。

・ 日本では氏名の発音を書くときに,平仮名,片仮名やローマ字を使わ

ざるを得ないが,そのローマ字はパスポートはいわゆるヘボン式で,

「ち」が CHI になって「つ」が TSU になるが,国語政策としては訓

令式(日本式)が優先されている。目的によっては,ヘボン式に統一す

る明確な理由が求められる。訓令式が日本人の意識を代表するもので,

例えば全部Tで書いてこそ「た行」だという主張もある。本件がローマ

字に関わるのであれば,そういうことも問題として付随してくる。

・ 研究会の目的となると,日本人の名前における漢字と音の関係を見直

すというのをストレートにすることはできないのではないか。

3

【氏名の読み仮名の定義】

・ 戸籍の届出は原則義務が課されているとの記載について,義務が課さ

れているのは,出生届,死亡届,裁判離婚,裁判離縁など,結果が出て

いる報告的届出というもので,婚姻や養子縁組という創設的届出は義

務化されていない。名の変更なり氏の変更は,現在では義務が課され

ておらず,裁判所の許可があったとしても届出義務が課されず,創設

的届出であるので,そこをきちっと分けて考えた方がいい。

・ 一つの局面の例を挙げると,婚姻によって新戸籍を編製する場合に,

氏が変わらないケースもある。妻の氏を称する婚姻をする場合に,妻

となる人は氏が変わらなくても,新戸籍を編製する局面において,従

前その妻となる人がいた戸籍の氏の漢字の部分は,新戸籍にしても,

妻の氏を称する婚姻であれば同じであるが,チャンスという言い方が

いいのかわからないが,そのチャンスに,従前の読み仮名とは異なる

読み仮名を希望するのでそちらにしてくださいとなったときに,それ

はやめてくださいという話になるのか,それもあるという話になるの

か。そのどちらであるかをこの研究会で多数決で決める話ではなく,

今後この議論が社会に告知されていくにあたって,国民世論がこの読

み仮名というものを,どこまで堅苦しく,あるいは国が押しつけるよ

うな仕方でされるという感覚を持つのか,いやいや割とそのカチッと

機械的に決めていただくことで良いと感ずるかといったようなことを

見据えながら,考えていく必要がある論点だろう。氏の一部とすると,

従前の読み仮名とは違うものを選ぶというのは論理的に自動的に位置

付けられることになるが,氏の一部にならないとなると,今回新しく

仕組もうとしている考え方で,従前の読み仮名でオートマチックにや

っていただきますという戸籍事務の処理を法務省は考えているのかも

しれないが,世論の動向によっては違う仕組み方もあるかもしれず,

そちらの方がオープンな議論になる。

・ 「傍訓が付されている場合には,漢字と傍訓とが一体となって名を表

示し,その名を表示するには常に傍訓を付さなければならないと考え

る向きがある」という記載については,漢字である氏名を書くだけで

はなくて,常にふりがなを付けなければ完全な名前の表記ではないと

いうものに対して,そうではないという説明であり,この話と名前の

一部かどうかというのは,ずれがある。名前として書くのは,漢字を用

いていいが,ふりがなは別個にあるのではなく,最終的には人を特定

するための個人を識別するための名前の一部だという捉え方は,少し

4

議論のずれがあり,名前の一部かどうかということも複数の局面があ

る。

・ 金融機関は,本人確認資料として免許証やマイナンバーカードの提

示を受けて,実際に本人を確認して口座を作っている。氏名の一部に

なり公証されると,法的な本人確認資料を見ない限り,金融機関は受

け入れができないので,全部氏名と共に仮名氏名も表示されるとなら

ないと,実務上耐えられない。何らかの形でデータとしてもらえれば,

実務的に回るが,そうすると,戸籍と民間機関が持っている個人情報

とを紐付けるキーが必要で,片仮名の氏名はキーにならないので,マ

イナンバーカードの認証情報のようなものをくっつけてもらわない

限りできないことになる。本当に必要なもの以上にもどんどん義務付

けて,必要的記載事項として,義務としてやることが可能か。

・ それぞれの自治体と金融機関,企業体が機関を越えてマッチングする

ときには,漢字はコードとか,使っているシステムが違うケースも多

く,マッチングできないので,仮名でやる検索の方が合わせやすいと

いうことが一部にあるかもしれないが,大きな決め手になるものでは

ない。とりあえずそれが必要な人には全部振るという作業をして,縛

ってしまうことは,作業量も,いろんなコストも多く,デジタル処理

もある中でそこまでやらないといけない理由がわからない。

・ 仮名の方が検索の利便性が良いというのは,電子政府の事業に関わる

中で,学んでいる。

・ 銀行と顧客との取引時には,免許証等の公的本人確認書類を用いて,

「氏名」を確認することが税法又は犯罪収益移転防止法上,義務付け

られている。今回の検討で,読み仮名が氏名の一部と位置付けられた

場合,読み仮名を本人確認時の確認項目とすべきかどうかという論点

が生じると思っており,この点は実務への影響が大きい。また,もし

読み仮名を本人確認時の確認項目とするのであれば,どのような公的

本人確認書類に読み仮名が付され,これにより確認が可能となるのか

ということが明らかにされる必要があると考える。

・ 昭和 63 年判決の記載について,これを読むと確かに個人の意思に反

しないものの方がいいというのはわかるが,あの事件で問題になった

のは,母国語読みと日本語読みのどちらが正確な呼称なのかというこ

とであって,その主観的な正しさと一般的な正しさ,一般的な読み方

か,個人の主観的に思っている読み方とどっちが優先されるのかとい

う話の問題ではない。ここでこの判決を書くことによって,個人の思

5

っている呼称というのが尊重されるべきだということはわかるが,そ

の接続が必ずしもそうダイレクトにいくものではない。

・ 読み仮名の変更については,読み仮名も氏名の一部と考えると,漢字

の氏・名の変更をしたいとき,読み仮名も合わせて,セットとして申

し立て,判断しなければならないか。仮に,読み仮名が不適法で認め

られない場合には,漢字もあわせて変更が認められないか。読み仮名

の変更の可否をどうするかとは別に,漢字の氏・名の変更のあり方も

変わってくる可能性もある。

【現代仮名遣い】

・ 「いう」を「いふ」,「蝶」を「てふ」と書いたのは,平安時代の人々

の発音に基づくもので,かつての表音的な表記であった。発音は変化

するが,その変化に仮名表記をどう対応させるか,そのままにするか,

さまざまな議論と方法があった。戦後に簡単にしようとして,なるべ

く発音(音韻)のとおりに書くと決めたのが現代仮名遣いである。

・ 長音符「―」がないのが「現代仮名遣い」の特徴である。今回片仮

名表記をすると,帰化された方の名前を書くときにカナや記号が足り

なくなるが,かなりのところまでは,平仮名を片仮名に読み換えるこ

とでカバーできる。その他,「姉さん」は「ねいさん」ではなくて「ね

えさん」と,「父さん」は「とおさん」ではなくて「とうさん」と書く

といったことが決められている。これも歴史的仮名遣いを現代風に置

き換えるといったことを1つ1つ行った結果である。例えば助詞の

「は」は「は」と書くが,平安時代にそれを「ふぁ」と発音していた

からそのまま書いたもの。鎌倉時代頃に発音が「わ」と変わってしま

ったため,「わ」を書けばいいではないかというのが表音式の書き方で

ある。ところが,現代人にとって読みにくいので,助詞の「は」は「わ」

と読むけれど「は」と書くと決められた。これを名づけと関わらせる

と,「なほこ」と平仮名で書く人がいた場合に,「なおこ」と現在風に

読む方がいるので,この規定が少し関わってくる。

・ 例えば「かおり」さんがいるが,わ行で「かをり」と書く方もいる。

その人のふりがな欄を見ると,「かおり」になっている,つまり「お」

と現代仮名遣い式に置き換える人がいる。また,「かほり」さんと書く

「かおり」さんもいた。定家仮名遣いと言って,鎌倉時代以降にでき

た新しい仮名遣いだが,やはり「かおり」のほか「かほり」とふりが

なを付ける人がいる。現代仮名遣いの考え方からは逸脱している。そ

ういう意味で,本件は現代仮名遣い(固有名詞にすべて適用するもの

ではないとされる)の考え方をそのまま当てはめることはできない。

6

・ 会津さんの「津」は,「づ」,「ず」に分かれる。津は「つ」だから,「づ」

と思うが,昔から「ず」で書いていると主張するような人たちもいる。

【氏名の漢字部分の音訓や字義との関連性】

・ 「十八公」と書いてマツオという例が挙がっているが,マツと読ませ

るのには典拠があって,「十八」を組み合わせると「木」になり,隣に

「公」を持ってくると「松」になる。中国で千何百年前にそう考えた

人がいて,ある種の教養のある層では「十八公」は「マツ」と読むこ

とが楽しみながら共有されていた時代があった。現在では,むしろ常

識外れとされかねないが,本当に字義と関係がないと言い切れるかど

うか,個々の判断を誰がするかを考えると難しい問題である。

・ 「高」と書いて「ヒクシ」に関しては,中国古典における漢字の運用

法でいわゆる反訓,つまり反対の字義と称されるものさえあったこと

が想起される。「乱」と書いて「オサメル」と読むという例も漢籍など

に時々出ており,名付けに反訓という方法を利用していると命名者か

ら主張されたときには,反訓にも認められる範囲があると個別に判断

することになるのか。

・ 「和」は,平和の「和」や昭和の「和」で人気になった。そこで「カ

ズ」という読み・表記が一般に認められているのだが,実はその根拠

が明確ではない。このように,使用者が増えれば名乗り訓として認め

られるということを我々は経験しており,「和」で「カズ」という読み

がおかしくないと思うのは,テレビで見て,友達にいて,親がそうい

う名前でなどという接触頻度が常識を作っていることの表れである。

「月」と書いて「ルナ」ちゃんというのは,ラテン語みたいな読み方

をするのかと思うが,オリンピック代表選手などに次々に現れて,だ

んだん馴染みが生じてきた。おそらく 10 年,20 年後の世代だと,も

っとそういう意識が強まる。「月」と書いて「ルナ」というのは字義に

合っているとはいえる。数の論理や意識も言語においては重要で,ま

た身近に 1 人いるだけで馴染みが生まれることも経験するところであ

る。

・ 「海山」の読みを聞いたら,「ヒロタカ」で,海は広いなというところ

と山が高いということでそう読み,受け付けられているとのことであ

った。親が個性を考えて名前をつけて,育っていくと,本人も非常に

愛着を持っている。キラキラネームとかいろんな名前が出回っている

が,それをやりかえろということは,到底言えない。名前というのは,

よほど混乱させるとか,そういうものではない限り,基本的に認める

方向ではないか。

7

・ 漢字が読めるかの議論も非常に重要と思うが,デジタル化は,漢字氏

名で片仮名,平仮名も含めた仮名氏名とローマ氏名,これが本人を特

定するために一意になっていることが重要。漢字氏名をローマ字でも

表記し,そこが一つにまとまっている,ブレることなく,ちゃんと公

証した形で一意に定めていくことが非常に重要。海と書いて「マリン」

であったり,月と書いて「ルナ」というものは認めていき,社会通念

上非常におかしい,名前としてちょっとそぐわないというところ以外

は認めた上で,そこを一意として認めていく,さらには,変更が簡単

にできない形で家庭裁判所に行くことを仮名氏名,ローマ字氏名にも

適用していくことが重要。

・ 私の名前を,「ルートビッヒ」,「フランチェスカ」,「フランチェスコ」

でもいいか,そういうふりがなをつけたときに許容されるのか。全く

逆のものもありうるとすると,全く無関係で,どう考えてもない,「ダ

ビット」とか「デビット」と呼ばせるとかそんなものもありか。

・ 全く予想できない,説明できないものはやっぱりおかしい。やはり認

めるべきではない。判断基準は何だと言われるとなかなか難しいが。

・ パスポートは,漢字の音訓読みをヘボン式でローマ字表記することを

原則としており,他方で,海外渡航上,円滑にするために,外務大臣

が認めるときは,その限りでないという例外を設け,その中で海外渡

航上必要かどうかというものを申請者から疎明していただいている。

全く無関係ではなくて,音訓読みに近いような形で,あくまでも例外

だということで渡航上必要かどうかということを判断して認めてい

る。ただし,一旦決めて認めたものについて変更する場合は,基本的

に戸籍上の氏名が変わらない限りは認めないということで,変更につ

いては非常にハードルを高くしている。

・ ○○さんという人がどこに登録されても一意に登録されていなけれ

ばならないということはそのとおりで,きちんとそれを括るというこ

とは大事なこと。しかし,○○さんという人を名前だけで,不特定多

数からユニークにすることはできないので,それがユニークに振られ

たマイナンバーを活用して処理をするというのが基本。自分がどこに

登録されているものも一意であれば,読み仮名は,ある程度,自由度

が認められてもいいのではないか。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 比較的自由な読み方を認めるとした場合でも,後から変更も自由にで

きるというのは別の問題で,一意で決まるという観点からは,ある程

8

度,自由な読み方を認めるとしても,一方で本人を同定するためのも

のとして,そんなに簡単に変更は認めないという考え方もある。

・ 戸籍法107条1項と4項は家庭裁判所の許可を要する事案であり,

107条2項と3項は届出人の意思で,2項は外国人と婚姻した場合

の氏を使用する,3項は離婚したときに元の氏に戻るという届出であ

る。この場合に,107条2項,3項いずれの場合にも,ふりがなまで

名前に含めるとなると,107条2項,3 項の変更したものの変更をす

るときは,今度は家庭裁判所の許可を要するとなるのか。

【同一戸籍内の規律】

・ 同一戸籍内にとどまっている中で,お父さんは「スズキ」と読んで,

子供は「ススキ」というものが許されるのか。そこで読み仮名を変える

というのは,少なくとも戸籍制度を前提とする限りは難しい。

【氏名の読み仮名の届の届出人の範囲】

・ 同一戸籍内にある者全員が届出人になるという手続の記載について,

一つのありうる自然な解決かもしれないが,同時に心配になることと

して,典型的な局面を挙げると,配偶者から暴力を受け,又は受けるお

それがあるために住所又は居所を秘して生活をする者が,単に届出人

となる者との間で,社会的な接触を事実上強いられる事態は生じない

ように注意をしなければならない。同じ戸籍の中にある人はみんな仲

がいいという保証は,とりわけ現代社会においては全くないので,今

後の検討において留意する必要がある。

3 閉会

 

第3回(令和3年3月29日開催)

抜粋

2 本日の議題

【氏名の読み仮名の法制化が必要な理由】

・ 読み仮名の登録は必要だということであるが,それのために,せっか

く振ったマイナンバーがキーとして,活用されなくなるという動きに

ならないようにすべき。

・ 外国人については,戸籍はないが,在留証明,外国人証明とか,そこ

の読み仮名とか,そういうのはむしろ住民サービスと言うのだったら,

そっちの方も必要になるはずで,むしろ戸籍というよりも,住民サー

ビスという点からいうと,住民登録の方が強いのではないか。

・ 戸籍の方で扱う理由というのも,おそらく単純にデータをソートする

とか,特定するというだけであれば,住民票であろうがどこであろう

が,読み方が付いていればいいのだという扱いになると思うが,やは

りそれだけで済まないのが,おそらく名前の一部という性格があるの

ではないか。そうだとすると,単純に記号としても振り仮名がつけれ

ばいいと,ある意味で,本人関係なしに,記号として振り仮名をつけた

らソートできるわけであるが,そうではなくてやはり名前の一部とい

うふうに位置付けたときに,戸籍の問題になってくるのではないか。

・ 氏名には発音と表記がある,だからその氏名という定義というものに

二つの構成部分があるのだと,それで初めて氏名なのだという趣旨と

理解していたが,その中で今の制度では表記しかないので,むしろ今

回発音の部分を入れるということで,氏名の特定というものを明確に

するという,まさにその一意として明確にするというところに今回の

意義があるのだという具合に理解していたが,逆に言うと,そうなら,

外国の制度はその発音とかいうのは一体どうなっているのか。外国も

表記だけなのか,発音の部分もあるのか。

2

・ 一意ないし一意性というのが,氏名に読み仮名をつけようという法制

化,その法制化の施策の重要なバックボーンになっているので,「一意

のものとして」「一意性」というのが何を意味するのかというのは,研

究会資料のどこかの段階で示しておく必要がある。

・ マイナンバーカードが国内でも利用が拡大する中で,海外でも当然利

用拡大ということになってきて,普段使いのものとしてマイナンバー

カードも国内でも利用場面が増えてくる中で,海外でもそういった形

で身分証明書として使っていただくということが必要ではないか。

・ 一意性というものがあるタイミングで一対一対応になると,ある人に

とって読み仮名が一対一対応になるという意味だとすると,そのこと

と,当然に読み仮名が固定化されるのかというのは結びつかないので

はないか。一対一対応であることは変わらないが,後はその紐づけの

話のような気がする。

・ この時期においてこういう読み仮名をしたということが記録上残せ

れば,変更自体はある程度柔軟にしてもいいのではないか。

・ 一意性の範囲について,まず行政に登録されているものが,戸籍に読

み仮名を登録をしたら,それがどこにでもそうなっていますという,

そのどこというのは,住民票とかいろんなものがあるが,その範囲と,

それから,それはやはり戸籍に登録申請をしたら,その範囲において

はワンスオンリーでいかないと,それもまたみんなが戸籍の証明書を

持って範囲内のところに登録しに行かなければならないとなると大変

なことになるので,そこは考慮すべきと思う。

・ 今,マイナンバー関係やマイナンバーカードの関係では,基本 4 情報

として住所,氏名,生年月日と性別,これに氏名にカナ氏名,ローマ字

氏名が付け加わっていくのか,4情報とは別に基本5情報,6 情報にな

るのかというのは,今後の議論だと思う。カナ氏名,ローマ字氏名が紐

づけされることになっていくと,漢字氏名と同じように,いろんなと

ころと情報が連携されることになるものではないかと考えている。

【氏名の読み仮名の変更】

・ 登録した後に,その読み仮名を簡単には変更を認めないと,仮にそう

いう立場を取るとしたら,氏名の読み仮名について固定化する,ある

いは簡単に変更を認めない理由ないし必要性についても,やはり整理

ないし議論する必要があるのではないか。

3

・ 氏名の読み仮名を一義的に登録し,公証する必要があるということと,

一度登録した読み仮名について固定化することとは当然には結びつか

ないのではないか。

・ 読み仮名を変更したときは,戸籍上変更の履歴はすべて残るというこ

とでよいのか。そうであれば,変更自体は柔軟に考えるということも

ありうるのではないか。

・ 氏名の読み仮名は付加的な情報と位置付けることも考えられるとい

うようなご意見もあって,そうだとすると,なおさら,なぜ変更に厳し

い要件を課すのかということが問題になってくるのではないか。

・ 氏名の読み仮名の変更を簡単に認めない理由であったり,必要性の中

身によって,読み仮名の変更の当否の判断基準の内容にも影響がある

のではないか。この点について整理をしないと,仮に今後裁判所がそ

の変更の当否の判断をするとなった場合に,その解釈等に困難が生じ

るのではないか。

・ 漢字の変更と読み仮名の変更はやはり一緒かどうかなというと,やは

りもうちょっと緩くてもいいかという気さえする。

・ 氏名の変更に関しては,もう今まで実績というのがかなり積み重なっ

ていると思う。やはり,氏の場合と名の場合とで違うということは一

般的には言われており,教科書でも書かれていることなので,少し読

み仮名の問題の手がかりとして,漢字表記の氏名の変更に関するもの

も少し材料とすると,議論の手がかりになると思う。

・ 氏名の読み仮名の変更の要件に関する判断基準はできる限り明確に

すべきであるが,変更が認められる場合として,著しく珍奇な読み仮

名,又は長年使用していた読み仮名が挙げられているが,そもそもこ

の二つに限られるか。例えば,性同一性障害を理由に,読み仮名だけを

性自認に合わせて変更してほしいという申立てがあった場合にどう考

えるべきかということは,問題になるように思う。また,「著しく珍奇」

かどうかをどう判断すべきか,変更後の読み仮名について,最初の届

の場面と同じ程度の漢字部分の音訓・字義との関連性が要求されるの

か,例えば,音訓・字義との関連性のない読み仮名を永年使用している

場合どう考えるべきか,なども問題となる。

・ そもそも,この氏名の漢字の変更についてどういう基準で判断してい

るかということについて,現行法の下においては,氏名の漢字部分の

変更の可否については,現在の氏又は名が社会生活上支障を生じさせ

るか,あるいは著しい支障を生じさせるかという基準で判断している

と考えられるが,この基準が読み仮名の変更にも当てはまるのか,当

4

てはまる場合,この基準を満たすか否かを判断するための具体的な考

慮要素について,どのように考えるべきか。

【氏名の読み仮名の収集方法】

・ 収集方法について,全く新たに集め直すというのと,既に戸籍に何ら

かの記載がされている情報に基づいてそれを利用してというのとでは,

後者の方が断然使いやすい制度になるのだろうとは思う。

・ 変更については,研究会資料で挙げられている考慮要素はどのように

位置付けられるか,他に考えられる考慮要素はないかといった観点か

ら検討すべきではないか。また,「著しく珍奇」というのをどう判断す

ればいいのか。

【氏名の読み仮名の戸籍の記載事項化】

・ 長年使用しているうちに皆が受け入れているものはもう認められる。

一方,昨日今日出来たようなものは一概にキラキラネームだなどと言

って切り捨てるということが,本当に可能なのだろうか。

・ 読み仮名を法制化するのか,カナ氏名を法制化するのかは,何か違う

のではないか。

・ カナ氏名という言い方をすると,漢字との関連性が非常に薄くなるよ

うな気がする。

・ 民法上の氏にこの読み仮名を含むのかという議論をしたときに,い

くつか考えるべき問題があって,それは婚姻の際の氏の変動との関係

で,ちょっと論点を意識しながら考え込む議論があるだろうと思う。

また,戸籍法学上,特有の概念である呼称上の氏に読み仮名を含むの

かという議論との関係でも,離婚の際の復氏あるいは婚氏続称との関

係で,当事者の自由度をどこまで認めるのかということとの関係で検

討しておかなければならない局面があるだろう。

・ 表記上の氏,民法上の氏と呼称上の氏という言葉があり,表記上の

氏というのは,私が勝手に作った言葉であるが,表記上の氏に読み仮

名を含むのかという問題があって,例えば不動産登記法では氏名及び

住所を記録すると書いてあるが,もし表記する際に必ず読み仮名を書

かなければいけないという意味で,氏名に読み仮名を含むのだという

ことになると,登記法には漢字しか書いてない,読み仮名が書いてな

いではないか,違法ですよというような議論が,やや揚げ足取りのよ

うな感じであるが,出てきかねない。また,例えば株主総会にある人

を取締役にする議案を出すときに,漢字の氏名だけ出すと,これは不

5

適法な議案の提出で,その脇に平仮名で読み仮名を書いておかなけれ

ばいけないのではないか,というようなことを先々聞かれたりしたと

きに,いや常識で言ってそれはないでしょうという説明ではなくて,

いやいやその上で,氏に読み仮名を含むということは多義的なので,

一度研究会資料や部会資料で整理しています,それによると,私が仮

のニックネームをつけたことなんですが,表記上の氏には含まないと

いう運用を想定していますのでその心配は要りませんよというよう

な説明をして,きちっと明快に説明していくことが大事で,そういう

議論を重ねることによって,一般の取引の場面で人の名前を挙げると

きに,いちいち読み仮名を表記してないと,それはその違法な不十分

な文書の作成なのかというと,いやそういう国民生活の広範囲にわた

っての不便をお願いすることは考えてないんですよというような説

明をいよいよ整えていく,だんだんに整えていって,研究会資料にも,

皆さんのコンセンサスが得られる範囲で文章化していくということ

が大事だろう。

3 閉会

 

第4回(令和3年4月28日開催)

抜粋

2 本日の議題

【戸籍制度に関する研究会最終取りまとめに挙げられた問題点の整理】

・ 「漢字との関連性を考慮せず,届出のとおり戸籍に記載することとす

ると,漢字とその読み方を公の機関が公認したものと考えられること」

が問題点として書かれているが,どうやってもこの問題は残るので,

この関係での二案だというと,少し問題があると感じた。これは答え

がない,解決の方法がないと思う。

・ 第1の3(1)から(4)までは,むしろ各論のところでまとめ,まと

めのところをどう書くべきかという議論かと思う。

【氏名の読み仮名の法制化が必要な理由】

・ これまでの議論では,戸籍に振り仮名の記載をすることについて,そ

の必要性や国民の意識も踏まえてなお慎重に検討すべきであるという

ことだった。それが,政府や行政機関に係る申請届出処分の通知その

他手続においてひらがなで表記したものを利用して,そういう措置を

執る,この新しい法律案でそういうのが決まっているというが,具体

的にそのメリット,どういうことをやろうとしているのか,明示が必

要かと感じる。

・ 時代の流れを考えると,外国人の方が増えて,帰化する方も多いし,

他方で子供の権利が言われるようになっている。そういう状況を考え

たとき,例えば子供という視点から観たとき,子供は文字よりも音を

認識する方が先だと思うので,表音文字である仮名を自分を表象する

文字として公に書いてもらえるのは,それなりに意味があるかもしれ

ないし,概念的には意味があると思う。昔は帰化したときに漢字の名

前を付けなければならなかったので,漢字は表意文字であるが,自分

2

の意図しない漢字を当てざるを得なかったという方もいると思う。そ

ういう時に表音文字であるカタカナを正式な文字として書けるし,定

義できる,その方がより自分らしいと感じるというか,正確と感じる

というか,落ち着きが良いと感じるというか,色んな思いを持つ方が

いると思うので,そういった時代変化に合わせた外国人とかあるいは

子供という視点から何かよい書き方ができないか。

・ 韓国は昔は漢字が正式であったが,今はハングルが正式であり,漢字

というのを持たない方もいるが,読み仮名的なものとしてハングルを

例として記載するのは適切か。

・ 名前というものには、現在、読みと表記の二つの面,聴覚的な情報と

視覚的な情報とがあるということが、少なくとも言語の世界では前提

として認識されている。現状では、その表記だけが公簿である戸籍に

表示されているという状態であると理解される。

・ 氏名の読み仮名の社会的なニーズといったものを整理して研究会で

の議論の結果として含めるのが良いか。

・ 漢字圏では一字一音の原則があるが,日本はそれを大きく崩している。

日本の場合,変則的で,音読みもあり,訓読みもあり,それらの応用も

あり,ある意味で無秩序な状態にあるため,国語政策も名前の読み方

には関わらないとしてきたほどである。そういうこともあって,戸籍

のような公簿上の読み仮名は韓国くらいにしか見られず,日本では独

自の多様性といったものの現れとして読み仮名が必要だといった説明

もあり得るか。

・ 氏名の読み仮名を一意のものとして云々というのは,一つの読み方し

かあり得ないということで,不正利用のところまで入るということま

で含もうとしているのか,それともその後の国民の利便性の向上を図

るためだけなので,飽くまでもそういう観点での読み仮名であり,要

するに,行政サービスとかそういうものがちゃんと行き届いているか

どうか,あるいはチェックをするための読み仮名であるという位置付

けなのか,その点によってこの制度の建て方も大きく違ってくるし,

これからの利用についても変わってくるので,そこははっきりした方

がいい。

・ 通常,金融機関等は,基本 4 情報の提示を受けて,顔写真と本人との

確認を行うことによって本人確認をしている。それを強化するという

が,免許証とかマイナンバーカードとか,現物の提示を受けて本人確

認を行うということにおいては,強化ということはない。それイコー

ル本人確認そのものなので,読み仮名が加わったことによって,強化

3

が行われることはないと思う。ただし,その情報を元にコンピュータ

に登録して,その情報を使って,同じ人が取引をしたりするときに,漢

字の氏名がコンピュータのコードが違ったりして,一意にならなかっ

たりすることがあるので,その時には役に立つということはあり得る

話であり,補完的な話ではないか。

・ 今回の検討の主目的は,戸籍に氏名の読み仮名を振って,それを法制

化することというのが一番のトピックと思う。第2の2(注 2)の記述

は,現在行われている本人確認のあり方を変更するようにも受け止め

られると思っている。本人確認のあり方を変更するのは,元々の目的

とはちょっと違う。本人確認は金融機関その他の日本社会のいろんな

ところで実施されており,現行の本人確認のやり方を変更するとなる

と,結構影響も大きいので,慎重に検討しないといけない。例えば,金

融機関の本人確認において運転免許証を用いる場合,氏名と生年月日

と住所,顔写真,そういったものを見て,確認を行っているが,性別ま

では,運転免許証にはないので,金融機関では見ていない。民間で,性

別まで見る必要があるとなると,大変な部分があるかと思う。

・ 法制化が必要な理由について第2の2の(1)と(2)だけでは弱く,

もっと本質的な要素があるのかという気がだんだんしている。我々は,

氏名というと漢字で書いた氏名を念頭に置いて,それについての読み

仮名という捉え方をした上で,読み仮名についてどうするのか,とい

う議論をするが,例えば,お名前はと聞かれたときに,音としての名前

しかないわけで,音としての名前に対して漢字はどのように書くので

すかという形で聞いた場合は,むしろ名前というのは,音として認識

された上で,それにどういう漢字を当てるのかという捉え方もあり得

るだろう。別にどちらが正しいということではなくて,我々の日常生

活の中では当然のように音としての名前というのを使って,その音と

しての名前は必ずしも漢字の読み方ではなくて,やはりそれ自体が名

前なのかなという気もする。利便性とか,そういうもの以外に,もう少

しあるかと思った。以前の資料では人格とあったが,人格を持ち出さ

なくても,そもそも名前はそういうものだよねというのを,委員の中

である程度共有できるのであれば,それをむしろ,出していくという

のは,議論という点でも意味があると思う。

・ 言語は,大前提として音がまずある。言語によっては文字,表記を持

っている。音声だけの言語は,世界中にまだ多くあり,ローマ字表記さ

えも定まっていないというものがたくさんある。言語の本質は音だと

いう認識が漢字圏以外で広く見られ,明治以降,日本人の言語研究者

4

たちも西洋の言語を取り入れる中で,言語は音が中心と捉えるように

なる。それまでは漢字が中心とみる人が多かった。初め名前は互いに

呼び合ったもので,呼び名というものだった。いつしか逆転が起こっ

た。日本人と言っても漢字が書ける人も江戸時代にはそう多くなかっ

た。何とか左衛門と書いてもゼムなどと発音していたことも資料でわ

かっている。我々は漢字が中心だと認識しているが,それは識字率が

高まった現代ならではのことで,漢字があれば十分という意識が強ま

ったと感じている。どこまで書くかは別として,言語の世界では,音が

重要というのは共通した認識となっている。

【氏名の読み仮名の定義】

・ 第3の1(1)の「なお書き」については,なお書きで済む話ではない

と思う。読み仮名を氏名の一部にするかどうかの場合分けを踏まえて,

この後,こちらにした場合にはこうなるし,そうでない場合にはこう

なるという論理分析が続いていくものであって,報告書ができた時に

読んでもらう人にとっても,ここのところは非常に考え込まなければ

いけないことだということを明瞭に伝えるべく,論点として,今でも

可視化されているが,もっと可視的な記述にするのがよい。

・ 氏名の読み仮名の概念をどう考えるかは,第3の1(1)両案あると感

じるし,これは今後の議論でオープンに,どちらであるかを初めから

落としどころを決め付けるような仕方で議論していかない方がいいと

感じる。仮に【甲案】を採った時に旅券法施行規則が関係法制整備で改

正が避けられなくなると,旅券の事務は今まで長い蓄積があるところ

で運営されてきたので,そちらは今までの取組を可能な限り尊重され

なければならないと話が進んでいかなければならない。もっとも,そ

うは言っても,【甲案】を採ったから旅券法施行規則を変えなくてはい

けないという論理必然性の関係にはならないようにも感じる。

【氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性等】

・ 仮名の範囲については,現代仮名遣いでは文字種はひらがなしか示し

ていないので,それをカタカナに読み換えるという一言があると,親

切かと思う。仮に「てふてふ」と戸籍に書かれているけれど,振り仮名

欄は「チョウチョウ」とするというのは現代仮名遣いの考え方に沿っ

ているが,そういう話ではないと理解してよいか。また,外来語的な名

のカタカナをどこまで認めるかという部分は,ここに書いておかなけ

れば,後で混乱が生じかねない。

5

・ 第3の1(2)において,【甲案】,【乙案】の関係は,二者択一というよ

りも,【甲案】と【甲案】プラス【乙案】という趣旨かと思う。悪魔く

んとか,そういう名前については,【乙案】で言えば,漢字の読み方と

しては問題ない。しかし,公序良俗というのは同じように出てくるの

で,【甲案】は,音訓の読み仮名には縛りがない,縛りを付けようとし

てもできない,【乙案】は,ある程度それを縛って,今までのものはと

もかく,これから付ける名前については,多少縛っていこう,ただ公序

良俗や権利濫用というところについては同じように,両案ともに適用

する,そういうことかと思う。

・ 第3の1(2)の【甲案】,【乙案】については,対立よりは,それぞれ

の良いところを最終案にしていくというのがベストではないか。

・ 社会的な慣用とは,多くの人が現に使ってきたとか,あるいは典拠み

たいなものがあるということになるか。漢和辞典を引くと名乗り訓と

いうものが示されていて,平和の和にカズがあったり,朝という字に

頼朝のトモがあるが、実は明確な根拠が見つかっていないものである。

しかし,平安時代,鎌倉時代から,現代に至るまで使われている。新し

い名乗りはいつでも出て来て,そこそこ広まるものもある。月と書い

てルナというのは,平成期に広まった。漢和辞典の名乗り訓を,全て慣

用と認めた場合に,例えば一番規模の大きい漢和辞典である『大漢和

辞典』の中には,神様の神という字の名乗り欄にアホという読みが出

ている。神と書いてアホというのは典拠があったとしても名付けに使

うと物議を醸しかねず,複雑な議論になりかねない。

これは 100 年ぐらい前から漢和辞典で受け継がれてきたものだが,

公序良俗や,表現の自由などにも関わりそうである。漢和辞典もそうし

たものを含んでいる。

・ 不服申立てや読み仮名の変更などにおいても,判断基準が具体的にな

いと判断に混乱を来す。どのように読み仮名を収集するのかにもよる

が,親権の一作用で読み仮名を付けるという場面だけではない中で,

権利の濫用といったときの権利は何か,もう少し検討をする必要があ

る。もう少し,判断基準,判断に資するようなところがないと,なかな

か大変かと思う。

・ 第3の1(2)に【甲案】,【乙案】二つあるが,【乙案】の表現よりもも

う少しゆるい表現というのがあってもいい。

・ 家庭裁判所に不服申立てができるという点であるが,受理しないもの

をすぐに家庭裁判所というよりも,その前に法務省とかどこかの行政

官庁,上級官庁で判断をしてもらうという方が迅速ではないか。この

6

問題は早く迅速に受理するかどうかを決定する手続が必要で,全国各

地の受付を全部まとめて統一することは非常に難しいし,そういう意

味では,行政官庁のところで少しまとめ,受理についての不服を受け

付ける,そういうものがあった方がいい。

・ 悪魔ちゃん事件の場合には,子供の利益を加味した上で,親の命名権,

親権の濫用という枠組みが比較的立ちやすいが,例えば現時点であれ

ば本人自身が申請するという場合を考えると,権利濫用より本当は公

序良俗の方が本則かという気もする。だから公序良俗に変えてくれと

いうことではないが,ここの書き方のところで,権利濫用のことだけ

で書かれてしまうと,やはりちょっと違和感があり,かなり限定され

るのではないかと感じる。

・ 第3の1(2)の【甲案】,【乙案】のハイブリッドというか,中間とい

うか,そういうものを,今後の検討のために可視化しておくことには

賛成である。実際問題として考えたとき,中間的な第3の案を,純粋に

文章で書けるかという問題,それからそれが果たして現場でワークし

ていくのかということは,見通しは必ずしも楽観できないと感じるが,

今後の議論を,オープンにしてもらう観点からいうと,選択肢二つよ

りも,議論の成果として三つぐらいは示した方がいい。

・ 第3の1(2)の【甲案】に関して,八王子支部審判は,「命名権を親権

の一作用」と言った後で,「あるいは」として,「子のための代位行為と

する」と言っており,命名する行為が親権の一作用だと決め付けてい

るわけではないと思うので,学説上も,命名権は親権中に含まれるの

かそうではないのか,もう少し人格権的な,生まれてきたばかりの子

供本人が持っている人格権を代行するという理解も有力に採られてい

て,八王子支部審判は別にそこを何か決めようとしているのではない

として,「あるいは」と書いていると思う。権利濫用という【甲案】に

書いているところは親権だと決めつけて話が進むと,学説の議論との

関係で少し苦しくなってくるので,そこは今のような二つの理解がい

ずれかの権利の内容だと思う。しかし,そうは言っても,今回生まれて

きた人の読み仮名を付ける場面だけではなく,新しい制度施行後しば

らくは,既に成人して一定の社会生活を営んでいる人が私の読み仮名

をこれだと考えていますという届出が多いかもしれないが,それは別

に代行しているのでも何でもなくて,本人のこう読んでほしいという,

それこそ人格権的な権利となると思うので,これを防止する場面だと

思う。そうだとしても,濫用という考え方もあるのかもしれないが,い

やそれをもしかしたらあなたの権利かもしれないけれども,公序良俗

7

違反というふうなアプローチの方がしっくりくるかもしれない。だか

ら,【甲案】のところは,何か突然公序良俗しかないみたいに書かれて,

その権利が親権だと決めつけるようになるよりは権利の濫用や公序良

俗と書くということではどうか。また,理論的に考えると,悩ましく,

公序良俗というのが,民法 90 条に出てくる公序良俗だと法律行為が対

象であるので,公序良俗がもう少し広く使われている用例か何かで補

足説明する方がいい。

・ 悪魔ちゃん事件をここで書くのは適切なのかという問題意識である

が,公の目から見て人の名前としてそれが適切なのかという問題より

は,むしろ人が子供に付けるという命名権は親や祖父母だけの権利で

はなくて,人が子供に付ける名前として,それが適切なのかといった

観点からの審判例であるので,それをここで書くということは,人に

名付けとして適切なのかと,公から見て適切なのかを同視することに

なってしまわないか。

・ 漢字表記とその読み仮名は,一体となってその人の名前をなしている

のか,それともその読み仮名は補助的なものなのか。

・ 悪魔ちゃんと名付けたケースは公序良俗の面からも,命名権からも議

論があるが,例えば悪魔と書いてテンシとかエンジェルとか読み仮名

を付けたとし,それらを一体としてみると,実は悪い意味ばかりでも

ないのではという議論もでてくる可能性があり,問題は複雑になりそ

うだ。神と書いてアホと読み仮名を付けた場合もどちらが本体かなど,

議論の進む先が気になる。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 性同一性について書かれているが,第3の1(1)で【乙案】を採っ

た場合,かなり読み仮名の自由度の幅が狭くなるような気がするが,

男性から女性あるいは女性から男性への読み仮名の変更は問題ないと

いうことになり,自由度との関係でどうなのかという気がする。

・ 性同一性については,もう少し丁寧にそのバックグラウンドを説明す

る必要があるのではないか。

【同一戸籍内の規律】

・ 選択的夫婦別姓を否定するものではないことを,注意事項というよう

な形で一言触れてはどうか。

3 閉会

 

 

第5回(令和3年5月31日開催)

抜粋

2 本日の議題

【氏名の読み仮名の届出】

・ 日本人と婚姻した外国人配偶者が婚姻後,帰化し日本人配偶者の氏を

称して,日本人配偶者の戸籍に入ると,次に復氏の問題が生じてくる

が,この場合にも,氏を創設するということになり,氏の読み仮名も必

要になってくることも明記すべき。

【既に戸籍に記載されている者の氏名の読み仮名の収集方法】

・ 読み仮名の届出を権利としてできるという第3の2(2)【乙案】のよ

うなものであれば,みんなしなくていいとなり,法制化する意味があ

まりないことになる。他方,【甲案】のように義務付けるのかというと,

もし届けなかったら過料 5 万円が課されてくるのかという問題になる

が,義務にするが過料までは課さないというのがいいのではないか。

・ 読み仮名の届出を義務とするのか権利にとどめるのかという論点と,

戸籍法 24 条の戸籍訂正を活用するかどうかというのは違うベクトル

の問題だろう。

・ 読み仮名の届出を権利とするという第3の2(2)【乙案】では,今回

法制化する意味はほとんどない。ほとんど集まることもないし,こう

いう形でやるのであれば,実効性はほとんどないだろう。むしろ,義

務とするというよりも,擬制することが必要と思う。「住民基本台帳に

よれば,あなたの氏名はこういう読み仮名になっています。これにつ

いて異議がありますか。ある場合には,一定期間の間に届け出てくだ

さい。」そういうものを何らかの形で各所帯あたりその人の名前をこ

うなっていますというような形で通知して,異議がなければそれで進

2

めるという運用などをしない限りこれを集めることは実際難しいと

思う。

・ 今までの届出はベースとするのだろうが,マイナポータルとかデジ

タルのことをセットでやらないと,いちいち申込書をまた送るのかと

か,通知が封書で来て,これに対して,OK ですと書いて返すのかと

かいう,そういうルートしかないのかというのは,受け入れる人たち

が「えっ,今の時代にそうなの」となる気がするので,そういうこと

も含めて検討する必要がある。

・ 権利として集めるということをするであれば,戸籍の読み仮名の法

制化をすることの意義,今後のあり方についてもう少し,理解が得ら

れるようなものにする必要がある。義務にした場合は,それぞれが届

け出るというのは実質的に実現が難しいので,今届け出られているも

のについて,通知なりをして不同意の方については言っていただくと

いう形,ただその場合については職権でそこを記載することについて

の法制化なり,ある程度の具体的な要件は定めておく必要がある。

・ 第3の2(2)の【丙案】で,どれだけ戸籍訂正ができるのかというと

ころが問題だろう。現時点で読み仮名の届出があっても,読み仮名に

ついて法律の根拠がなかったので,戸籍法 24 条だけで訂正できない

のではないか。むしろ今回新たな立法が必要と思われる。今回の戸籍

に氏名の読み仮名を法制化するためには,一定期間,今のあなたの名

前の氏名の読み方はこういう形で住民基本台帳に記録されているこ

とを連絡し,それについて一定の訂正申出期間を経過をすると読み仮

名の届出があったものとみなす,そういう制度を設けて行うという必

要があるのではないか。

・ 令和 3 年法律第 24 号による不動産登記法の改正では,住所の変更

の登記について二つのルールが法制上盛り込まれていて,一方では登

記官が職権によって住民基本台帳ネットワークシステムにアクセス

して変えることができるという制度を入れると同時に,当事者に対し

ては 2 年以内に住所の変更の申請をしなければなりません,しないと

過料としますという罰則付きの規律を入れているので,実務上の運用

というか実際のことを考えると,やはり二つは,盛り込んでおいた方

がいい。法律事項となっていない段階で,戸籍法 24 条を発動するの

は非常に難しいのではないか。先にそこを決めておかないと,前に進

まないのでないか。読み仮名の届出というのはいったい何なのか,今

まで使っている読み仮名を届け出ろというのか,ここで全く新たに自

由に読み仮名は全くフリーに作っていいということなのかというと

3

ころがまず出発点として,整理しておく必要があると思う。今まで読

み仮名として使用していたものを届け出なさいということになれば,

今まで使用していた内容としては,出生届や婚姻届等が一つの資料で

はあるし,それらの読み仮名を今回読み仮名の届出があったとして擬

制し,それが違うというのであれば,連絡してくださいと,また,あ

るいは一緒であったとしてもこの際氏名の読み仮名を変更したいと

いうのであれば,もうそれは柔軟に全部認めますよというような発想

の制度でこれを制定するとかいうのがいいのではないか。

【ローマ字による表記】

・ 公証された読み仮名に基づいたローマ字氏名が,マイナンバーカード

に表記されたものとパスポートや接種証明などと違うとなると,何の

ためにこれやっているのかとなるので,そこの整合性を確保するとい

うことを検討する必要がある。

・ 在留外国人についての表記をどうするのか,ローマ字にとか,カタカ

ナにしても,現地読みにするのか,漢字読みにするのかなど,マイナン

バーカードの表記の仕方の問題も合わせて,やっておく必要があるか。

・ 一義的に固まった読み仮名とローマ字との関係について,ヘボン式

と訓令式があり,ヘボン式でも複数の方式があるので,そうなった時

に,例えば,パスポートとマイナンバーカードでずれがあるというの

は駄目だろうということはだれも異論がない。ただそれをどうやって

確保するのかというと,工夫をしなければならない。

【はじめに,氏名の読み仮名の法制化が必要な理由】

・ 第 1,第 2 はこれまでの経緯とか今まで議論した内容ということを整

理するという位置付けになるので,半分ぐらいに削るという姿勢が必

要ではないか。

・ 第 2 は,結構重要なのではないか。法制化が必要な理由は明らかにこ

の研究会で検討した成果なので,むしろもう少し強調すべきではない

か。

・ 検討開始の経緯というのは一定程度記載しなければならないので

はないか。今回が何のために立ち上がったのかっていうところの経緯

は必要。

・ 漢字の文字の問題については,戸籍のコンピュータ化の時に非常に

議論があったところで,衆参委員会からも文字に愛着があるというこ

4

とで,附帯決議までされているので,読み仮名を登録公証する時には,

しっかりとやっていかなければならない。

・ 日本ではそもそも音の方が文字よりも先に認識されており,現在で

も例えば電話をかけて,お名前と生年月日よろしいですかと言われる

が,漢字を教えてくださいとはなかなか言われないので,古来から日

本人は音で個人を識別すること文字より先にそれを行っていたとい

うこと,現在でも実務的には使われている古来からの日本の伝統なん

だということも含めて記載してはどうか。

・ 「表音」という用語がどうしても引っかかる。「国際的な表音の方法

(あるいは表音文字)によって」などとしないと,一般の人からする

と,何のことか分からなくなり,誤解を招きかねない。

・ 社会保障や税に関し,個人を特定して正確かつ迅速に事務が処理さ

れるようにするためには,普通個人番号が役立てられることがイメー

ジされるが,個人番号は半面において秘匿性の高い情報であり,官庁

公署はその事務を委託される諸機関が広く取得することにはおのず

と限界がある。関係機関が氏名そのものを取得するほか,公的に確か

められ,認められた読み仮名を取得することには,意義がある。例を

挙げると,多人数の人々について情報処理技術を用い,五十音順で配

列する名簿を作成するに当たっては,漢字を含む氏名しかないとそれ

を達することがかなわない。こうした意義は大きな災害など社会的に

異常な事態に際し,広く被災する国民に定額給付金ないしこれに類す

るものを迅速に支給するなどの機会においても見い出される。

【氏名の読み仮名の定義】

・ 「氏名についての国字の音訓及び慣用により表音されるものを片仮名

で表記したもの」との記述は旅券法施行規則の規定を用例として参考

にしているが,このうち「慣用」の内容がいかなるものか明確でないた

め適当ではないのではないか。

・ 旅券法施行規則第5条第2項は,氏名は,戸籍に記載されている氏

名(戸籍に記載される前の者にあっては,法律上の氏及び親権者が命

名した名)について国字の音訓及び慣用により表音されるところによ

る戸籍の漢字の音訓により表音されるところによる旨規定しており,

その音訓をヘボン式でローマ字表記することを大原則としている。他

方,旅券法施行規則第 5 条第 2 項但し書きは,申請者がその氏名の国

字の音訓又は慣行によらない表音を申し出た場合にあっては,公の機

関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用され

5

ているものであることが確認され,かつ,外務大臣又は領事官が特に

必要であると認めるときはこの限りではない旨規定し,例外を認めて

いる。例外としては,極端な例であるが,例えば,七音と書いてドレ

ミ(ローマ字ヘボン式表記で Doremi)と言う申請がある場合には公

の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用

されているものであることが確認され,かつ,特に必要であるときに

は認めている例がある。同様の例として,天に舞うと書いてヒラリ(ロ

ーマ字ヘボン式表記で Hirari)さんという,申請がある場合に認めら

れた例もある。いずれにせよ,旅券法施行規則第5条第 5 項は,旅券

面に記載されるローマ字表記は,外務大臣又は領事官が特に必要と認

める場合を除き変更することができない旨規定し,原則として,一度

決めたローマ字表記は戸籍氏名が変更しない限り変更はできないと

の極めて厳格な運用を行っている。

・ 音訓の慣用に関して,命名に際し,子のためになどとして漢字を学

び,今までそういう読み方はなかったが,例えば「朝」と書いて「ト

モ」と読もうとか,「和」と書いて「カズ」と読もうとかそういうもの

を誰かが最初に作り出してきた。それらの明確な根拠は見つかってな

いが,多くの日本の人々の心をとらえて命名習慣となり,いわゆる名

乗り訓になっている。そういう命名で新しい読み方を作るということ

も命名習慣,命名文化の一部として存在してきた。慣用の音訓という

と,それを受け次いでいるようにもみえるが,実は違うものであり,

そういう新作を排除する,要するに過去のものから選ぶだけで,良い

ものを生み出す可能性をゼロにしてしまう怖さが第3の1(1)の【乙案】

にはある。子などから憎悪を受けるような,公序良俗に反するような

ものが出てくることへの対処は,別に考える必要があるが,そういう

受け入れられるものも自然に広まって一般化してきたという名前の

漢字の歴史を見た場合に,新作の根を絶やすような【乙案】には,反

対せざるを得ない。

・ 第3の1(1)の【乙案】には反対,【甲案】には反対だという意見が

あるということも含めて,【甲案】と【乙案】を残したらいいのではな

いか。つまり名前というのを定義の仕方として二つ考えられて,【乙案】

を前提として第3の1(3)の問題を考えるのと,【甲案】を前提とし

て(3)の問題を考えるのでは重なってくる部分もあるが,違う形でも

説明できるので,ひな形としては,とりあえず残しておくというのも

あり得る。

6

【氏名の読み仮名の位置付け】

・ 氏名の一部と位置付けた場合,父母欄の父母の氏名等に全部振り仮

名をふるとしたら,非常に大変である。第3の1(2)の【甲案】の方は,

もう少し考え直した方がいい。【乙案】として戸籍法 13 条 1 項に定め

る氏名と別個のものという位置付けで,例えば戸籍法施行規則付録 24

号のひな形で示すこととしてはどうかを,今後検討していかなければ

ならない。

・ 氏名の一部と位置付ける第3の1(2)の【甲案】を前提とすると,他

の法令に規定されている氏名に関する規定において,氏名の読み仮名

が含まれるのか否かという疑義が生じるところは重要である。読み仮

名が氏名の一部であるとしたときに,読み仮名だけを書きましたとい

うときに,氏名ということで有効になるのかどうかと,逆の問題も生

じてくる。

【氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性や氏名の読み仮名の適法性】

・ 第3の1(3)のタイトルの氏名の読み仮名の適法性について,適法性

という表現が果たして妥当か。

・ 氏名の読み仮名を届け出ることと,読み仮名を自分に付けることは

別であるが,憲法 12 条が出てきているということは,読み仮名を付

けるのが国民の権利という発想か。第3の1(3)の【甲案】のよう

なものになると,権利性が非常に強くなるが,国に対する権利と考え

るのであれば,憲法 12 条が出てきておかしくないが,第3の1(1)

で【乙案】のようなものを採ったとき,憲法 12 条というのは,果たし

て,どうなのか。読み仮名というものが,読み仮名権という国民の国

に対する権利なのかという問題が,届出が義務か権利かと別にある。

読み仮名権というものが,権利として想定してもいいのか。今まで氏

名に関して問題になったのは,命名権であるが,命名権というのは,

人が人に名前をつけると,それがたとえ代理という形であっても,そ

ういうものであるが,今回初めて自分で自分の読み仮名を付けるとい

うのが問題になってくる場面であるので,今までには知らなかった概

念を我々は使わなければならない。

・ 第3の1(3)のタイトルである氏名の読み仮名の適法性というのは,

非常に挑発的な見出しという感じはする。本文の中で適法性について

記載することは構わないが,例えば氏名の読み仮名と音訓や字義との

関連性並びに氏名の読み仮名の許容性をめぐる問題などのタイトル

にすべきではないか。

7

【氏名に記載することができる片仮名の範囲】

・ 出生届のふりがな欄では,ひらがなで「よみかた」と書いているの

で,暗黙の了解としてひらがなでふりがなを書き込む人がほとんどだ

と思う。仮にこれをカタカナにそのまま置き換えるとすると,ひらが

なの体系とカタカナの体系とでは字や記号の運用の仕方に微妙なず

れが生じる。例えば,仮にカタカナで「マーヤ」と長音符が入るのが

本名という人がいるとして,そのふりがな欄には,ひらがなに長音符

は駄目なんだという出版界などの慣例に従って,「まあや」と振ったと

いうケースがあり得る。それを機械的にカタカナに変えると「マアヤ」

となってしまい,長音符「ー」と,振り仮名欄の「ア」とでずれが生

じる。つまり出生届のふりがなを,ひらがなからカタカナへ一括置換

をしてそのまま利用しようとすると,それらに関して一つ一つチェッ

クが必要ということになる。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 読み仮名は,固定化,つまり,変更しづらくすることが必要か,やむ

を得ない事由となり得るものでなければならないか,これだけ固定化

する,ハードルを上げることが求められているかなどについても一つ

の視点として,記載する必要があるのではないか。

3.閉会

 

第6回(令和3年6月30日開催)

抜粋

2 本日の議題

【氏名の読み仮名の法制化が必要な理由】

・ 日本は,漢字の文化圏ではあるが,日本の特殊性として,漢字が一つ

の音と対応しているわけではないことがある。

【氏名の読み仮名が登録・公証される意義】

・ 氏名の読み仮名が登録・公証される意義として補足説明に書いてある

内容は,かなり本質のこと。

・ 公的給付の迅速化のためにマイナンバーを使った施策が進んでいる

ので,読み仮名の登録・公証だけではなく,給付迅速化のための政策も

進んでいるということを示すべき。

・ マイナンバーは,社会保障,税,災害の分野で,逆に個人を特定する

ために作られているものなので,そこについて慎重にすべきであると

か,そういうことを書くのは,いかがか。

【氏名の読み仮名の定義における平仮名又は片仮名】

・ 読み仮名の定義という項目は,あった方がいいが,片仮名又は平仮名

で表記したものというような定義でも十分ではないか。

・ 第204回通常国会で成立したデジタル社会の形成を図るための関

係法律の整備に関する法律では,平仮名又は片仮名で表記したものと

規定されており,平仮名を落とす理由はあまりないのではないか。

・ 読み仮名というものの学問,法律的な定義概念や世の中一般で言われ

る読み仮名は何かの議論をしているのか,それとも戸籍法上の概念と

してどのように定義し,市区町村の役場の方がどういう事務をするか

2

ということをこの法律をもって指示するのかという局面は全く性質が

異なる。読み仮名の定義の議論を法制上法文に入れるのか,単にこの研

究会の整理の議論としているのかという区別も必要である。仮に市区

町村の役場の事務を指示するという役割を持つなら,平仮名,片仮名両

方入れておいた方が安心と言われても現場は不安になる。

・ 言語学,国語学の概念で読み仮名の定義を戸籍法の議論で決定したと

する必要はない。法制上必要であれば,意味を明確にした上で,市区町

村役場の現場では片仮名に慣れてきたということであれば,片仮名に

絞り,補足説明などで学問的な定義としての読み仮名で平仮名を排除

するのが一つのやり方。あるいは法制上置く必要がないのであれば,

様々議論したけれども参考になる議論として,純粋学問的,規範ではな

くて認識の問題として整理しておく方向のいずれかであって,どちら

にするかを明確にしておくべきではないか。

・ 戸籍システムの入力は全て片仮名で入力し,全部片仮名で処理してい

る。したがって,出生届に「よみかた」と平仮名で書かれているが,平

仮名で書かれていてもシステムでは,片仮名で入力して登録している。

実務上はほとんど片仮名で処理しているので,ここの定義の視点がど

こになるかによる。

・ 氏名を平仮名又は片仮名で表記したものとした上で,実際には銀行実

務あるいは戸籍のデータシステムにおいては片仮名が用いられていて,

法律上の運用としてはもっぱら片仮名ということを前提として議論し

ていく方向も考えられる。また,片仮名と平仮名において表記の音が違

う点もあるので,最終的にはそうした点についても検討する必要があ

る。

【氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性及び氏名の読み仮名をめぐる

許容性】

・ 第2の1(3)の【丙案】について,国字の音訓及び慣用による表音だ

けではなく,字義との関連性が認められるもの,あるいはそれが認めら

れないもの,全く認められないものは駄目だという言葉があった方が

より広がるのではないか。音訓及び慣用という表現だけでは狭くなり

すぎるのではないか。

・ 字義との関連性を付け加えたところで,実際に運用するとなると非

常に大変な窓口の混乱が起きるということになる。そうなると,一般条

項だけがいいのか,一般条項以外に権利濫用とか,注釈として関連性が

全くないものというものは受理できない場合があるというような形で

 

の説明をする方がいいのか。戸籍の実務を聞いて,実際運用がどうかを

考えざるを得ないのではないか。

・ 出生届などを受理する際に「よみかた」についても,ある一定程度の

基準が示されると窓口では非常にやりやすい。ただ,基準に合致しない

ものがあったときに,各種行政サービス,児童手当といったものに影響

してくる。合致しないときに受理できないという場合もあるかもしれ

ないし,受理照会をして,法務局に委ねるというような場合もあるかも

しれない。受理照会をすると,住民票をその場で作ることができず,回

答待ちになり,行政サービスがその間受けられないということも生じ

てくるので,ある程度の基準といったものがあった方がいい。

・ 何らかの基準を示すことが考えられるところ,一般の方からの広い

意見なども踏まえて,基準としてまとめることが考えられる。

・ 「朝」と書いてトモのような,字義と関連が見つけにくい名乗訓がす

でに慣用となって,そういう慣用は今後も生まれていく可能性がある

ことをまた指摘しておきたい。氏名が 4000 万件入っている電話帳を

JIS 漢字の第 3,第4水準を作る委員会などで分析したが,名前でタカ

シと読む漢字だけで 570 種も出てきた。字義と関連なくてもタカシと

読ませるものもあった。ヨシと読むものも 474 種も出てきて,字義と

してはプラスかマイナスかで言えばプラスなので,ヨシと読ませると

いうケースが過去に多かった。これからもそういうことは現れうる。

例えば,曖昧の曖という字が 2004 年に人名用漢字に追加されたが,

ほとんど曖昧という用法しか辞書に載ってない。ぼんやりしていると

いう意味だが,日偏に愛情の愛で暖かさを感じる字だと名付け親がイ

メージして名付けに用いようとする現実があり,しかも曖昧としてよ

く使うために人名用漢字に入り,その後,常用漢字に追加され,自由

に使える状況が生まれた。曖昧という意味しかないが,その字面の雰

囲気で訓読みしようといったことが現実に起きている。人名用漢字の

規則を見ると字種についての制限ははっきりと法的にあるが,その読

み方と長さ,何文字連ねるか,ふりがなを何文字書いてよいかは自由

とも読み取れる。現状として,名前というものが体系性を持たない開

いた体系になっているうえに,日本の漢字もそういった性質を持ち,

さらに命名ではプラスアルファの性質を帯びることがある。そのため,

字義に関連させた読みかどうかという審査は,かなり難航しそうであ

る。ただし,公序良俗に反するかどうかという判定基準は,実績もあ

って効いてくるだろう。

 

・ 氏には一地方にしかない読み方の氏もあり,名の読み方とは異なり,

氏の読み方は音訓や字義との関連でどんな制約もかけられない面があ

るのではないか。

・ 慣用による表音も認められているから,氏は全部慣用によって認め

られるとしていいのではないか。

・ 公序良俗は理解できるが,読み仮名を規制する必要があるのか。規制

するという案とそういうものではないという案が併記できないか。

・ 第2の1(3)の【丙案】で全て考えようというのではなくて,【丙案】

は結構難しいかもしれないという意見が出つつ,案としては残してお

いて検討したらどうかという流れだろう。慣用という中に含まれるか

どうか自体が議論の余地としてあるのではないか。1 個しかない名前で

呼んできたことで,それも慣用でいいのではという見方もあるが,慣用

としては含まれないという見方もあるので,その点も含めてどこかで

は触れておく必要がある。

・ 親や祖先の名の1字とその読み方を子に受け継がせる行為は,日本

の命名文化として,1000 年以上前からあり慣習とも言える。これは中

国,韓国にほとんどなく,日本に顕著な命名の慣行であって,過去の 1

個の使用が後代に,未来に影響するということが,どうしても起こりう

る。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 今までの議論は,読み仮名の変更について,氏名の変更よりも基準が

緩くていいかどうかであり,こちらの方を論点として残しておいたほ

うがいいのではないか。

・ 論理的には,氏名の読み仮名の変更について,現行の氏名の変更と同

じ規律とすること,現行の氏名の変更よりも緩やかな規律とすること,

家庭裁判所の許可を不要とし,届出のみで変更を可能な規律とするこ

との3つのパターンが考えられる。

【氏名の読み仮名の収集方法】

・ 第2の2(2)の【甲案】に過料が出てきて,従来の戸籍法制を運用し

ている人はそういうものかと思うが,一般の国民はドキっとするので,

あたかも読み仮名を届け出ないと片っ端から 5 万円取られると伝わっ

てはいけない。従前の扱いを見ても,戸籍も,不動産の表示に関する登

記も,商業法人登記もそんなにバッタバッタと過料を課してきたわけ

ではないので,そういう意味では運用は【甲案】と【乙案】でそんなに

 

隔たっているものではないということも,どこかで明らかにした方が

よい。

・ 第 2 の2(2)の【甲案】の義務が発生するのは法律の施行時としてい

るが,理論的にはもちろんそうであるが,あたかも新法施行と同時に,

直ちに 5 万円払えと言われるのかと思われるので,経過措置や周知期

間については適切に穏やかなものを平行して考えていかなければなら

ないというのも書いておいた方がよい。

・ 既に戸籍に登録している者が自らの読み仮名を届け出る際,本人から

疎明資料を求めることが必要かどうか,については今後の実装を考え

れば重要な論点ではないか。読み仮名は原則変更できないものである

以上,許容できない読み仮名が提出されるリスクは少ないと考え疎明

資料を求めないという考え方もある。一方で,読み仮名はこれまで日常

生活で使われてきたものであるということであれば,日常生活に使わ

れてきたことを証する資料を提出すべきという考え方もある。読み仮

名は読み仮名を付けた両親等の意思が重要であるならばそれを分かる

ような資料を提出すべきであるという考え方もある。疎明資料を求め

るとなると,実装においてかなりのコストになる。読み仮名とはそもそ

も何かということを踏まえて,既に戸籍に記載されている者の読み仮

名の収集方法について,論点とした方がいいのではないか。

・ 過料を課すのは,ものすごい反発があり,実際に課すことはほとんど

できないだろうし,そういう説明をしたら,つぶれてしまう。過料を実

際には課しませんと言ったら,届出はあまり集まらないが,課してもあ

まり集まらない。読み仮名は,住民票には記載してないが,住民基本台

帳にはおそらくほとんど記載されている。選挙人名簿,健康保険証にも

読み仮名が書いてあるケースが多いが,それは全部住民基本台帳の情

報から出ているはずである。せっかく今までの戸籍の実務で集めている実績があるので,それを使うというのが一番根拠になるのではないか。ただ,氏名の読み仮名として法的に根拠付けられていなかったから,それをすぐ読み仮名とはできない。そうすると,異議がなければそれを使うという制度で運用するのが一番ではないか。そういう意味で擬制をするのか,みなすのか,承認の擬制とかということが,選択肢にあるべきではないか。

3 閉会

叔父さんが生まれてから、亡くなるまでの戸籍を辿ってみます。

(注)一般的な方法なので、分からない場合、役所(役場)に請求して該当がないと言われた場合は、役所(役場)の担当者か専門家に相談をお願いします。

  • 亡くなった後、死亡診断書を提出後、少し落ち着いたら叔父さんの本籍の役所(役場)で、除籍(戸籍)謄本を取得。本籍が分からない場合、住所がある役所で本籍記載の住民票を取得して、本籍を確認。住民票がある住所が分からない場合、親の戸籍謄本を辿ると、分かる場合もある。

参考

厚生労働省 令和3年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル

https://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/

参考 法務省 死亡届について

http://www.moj.go.jp/ONLINE/FAMILYREGISTER/5-4.html

・手続対象者 親族,同居者,家主,地主,家屋管理人,土地管理人等,後見人,保佐人,補助人,任意後見人,任意後見受任者

・提出時期 死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡したときは,その事実を知った日から3か月以内)

・提出方法     届書を作成し,死亡者の死亡地・本籍地又は届出人の所在地の市役所,区役所又は町村役場に届け出

・除籍について・・・除籍謄本は、戸籍に入っている方全員が除籍になっている場合に発効されます。もし叔父さんが亡くなっても、叔母さんが元気であれば、除籍謄本を請求しても、「除籍謄本はありません、戸籍謄本で良いですか?」と言われたりすることになります。

戸籍法第二十三条 

第十六条乃至第二十一条の規定によつて、「新戸籍を編製され、又は他の戸籍に入る者は、従前の戸籍から除籍」される。「死亡」し、失踪の宣告を受け、又は国籍を失つた者も、同様である。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000224

除籍謄本の確認箇所

・本籍地・・・〇〇県〇〇郡〇〇町〇〇番地

・生年月日・・・昭和29年〇月〇日

・亡くなった年月日・・・令和2年〇月〇日

・除籍謄本が作成された日

生年月日~亡くなった年月日までが記載されている戸籍を集めていきます。

 上が除籍(戸籍)謄本が新しい様式に作り変えられた日、平成13年3月3日です。

平成6年法務省令第51号附則第2条第1項、戸籍のコンピュータ化によって代えるという規則に拠ります。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000010094

附 則 (平成六年一〇月二一日法務省令第五一号)

(施行期日)

第一条 この省令は、平成六年十二月一日から施行する。ただし、第五十八条及び付録第十一号様式から付録第十四号様式までの各改正規定は、平成七年一月一日から施行する。

(戸籍の改製)

第二条 戸籍法第百十八条第一項の市町村長は、電子情報処理組織によって取り扱うべき事務に係る戸籍を戸籍法第百十九条第一項の戸籍に改製しなければならない。ただし、電子情報処理組織による取扱いに適合しないものは、この限りでない。

2 前項の規定による戸籍の改製は、戸籍に記載されている事項を磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。)をもって調製する戸籍に移記してするものとする。この場合においては、この省令による改正後の戸籍法施行規則第三十七条ただし書に掲げる事項を省略することができる。

3 第一項の規定により戸籍を改製する場合には、従前の戸籍にする戸籍の改製に関する事項の記載は、その初葉の欄外にすることができる。

4 市町村長は、第一項の規定により戸籍を改製したときは、当該改製に係る全ての戸籍の副本(電磁的記録に限る。次項において同じ。)を電気通信回線を通じて管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局の使用に係る電子計算機に送信しなければならない。

5 戸籍法施行規則の一部を改正する省令(平成二十五年法務省令第一号)による改正後の戸籍法施行規則第七十五条の二第一項前段の規定は、管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局が前項の規定によってその使用に係る電子計算機に戸籍の副本の送信を受けた場合に準用する。

6 第一項の規定により戸籍を改製して従前の戸籍の全部を消除したときは、その除かれた戸籍及びその副本の保存期間は、改製の日から百五十年とする。

第三条 この省令による改正後の戸籍法施行規則第八十三条の規定は、前条の戸籍の改製に関する事務について準用する。

次に、平成13年3月3日より前の戸籍を集めていきます。除籍(戸籍)謄本で確認した本籍が変わっていなければ、同じ役所(役場)で取得することが出来ます。

 今回は、本籍が変わっていなかったので、同じ役所(役場)で取得することが出来ました。

平成十六年法務省令第五十一号附則第二条第一項による改製につき平成壱参年参月参日消除、という記載は、除籍謄本と繋がっているよ、ということを表しています。

 昭和六拾弐年八月参日編製、と記載があり、この戸籍が、昭和62年8月3日から、平成13年3月3日までの期間の出来事が記載されている戸籍である、ということが出来ます。

改製原戸籍・・・作り変えられる前の元の戸籍。

平成13年3月3日以降に本籍が変わっている場合は、次のような記載があります。

 このような場合は、従前の記録の本籍地の役所(役場)で除籍(戸籍)謄本を取得することになります。

 戻ります。叔父さんの本籍は未だ変わっていないようなので、引き続き同じ役所(役場)で、昭和62年8月3日以前の除籍(戸籍)謄本を集めていきます。

 左側に昭和、除籍の文字がみえます。 除籍した後の本籍地の除籍(戸籍)謄本を取得してみます。

 昭和23年10月18日に作られた(編製)ことが分かります。叔父さんはこの戸籍が作られてから、作り変えられる(改製)前に生まれています。よって、叔父さんの生年月日から、亡くなった年月日までが記載されている戸籍が集まった、ということが出来ます。

相続等により取得した不動産の登記義務などについての民法の改正について

 相続等により取得した不動産の登記義務などについての民法の改正について

民法等の一部を改正する法律

可決成立日 令和3年4月21日

公布日    令和3年4月28日

官報掲載日 令和3年4月28日

施行日    原則として公布の日から2年以内

第204回国会 衆議院 法務委員会 第6号 令和3年3月23日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120405206X00620210323&spkNum=3&single

・持分の過半数の共有者の所在が分からない場合の管理行為

 共有者の一部が不特定又は所在不明である場合に、裁判所においてそのことを確認し、かつ公告を実施するなどの手続を取った上で、管理人の選任を経ることなく、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、又はその持分の過半数の決定によって共有物の変更又は管理を可能とする仕組みを創設。

・共有者の一部の所在等が不明である場合の変更・処分行為について

 共有物分割訴訟には、共有者全員を当事者としなければならないなどの手続上の負担があることも踏まえまして、共有者の一部の所在等が不明である場合に、訴訟手続ではなく非訟手続の下で、共有者全員を当事者とすることなく、他の共有者が適正な代価を支払った上で所在等不明共有者の持分を取得したり譲渡したりすることができる仕組みを創設。

・所在不明な共有者、相続人の探索方法について

 一般論として、例えば共有者の所在を知ることができないと認められるときには、登記簿や住民票といった公的記録を調査し、その住所に当該共有者が居住しているのかを調査してその所在が不明であることを立証。共有者が死亡して相続が開始しているケースでは、相続人やその所在を確認するため、戸籍や相続人の住民票などの調査が必要となるほか、当該不動産の利用状況を確認したり、他に連絡を取ることができる相続人がいればその相続人に確認してみるなど。

・誰々ほか十六名のような不動産登記記録の表題部記載について

 表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律に基づいて対応することが可能・登記官において探索等を行ってもその共有者が不明なケースでは、裁判所が管理命令を発し、その選任した管理人がその共有持分の管理、処分を行うことができる。

 所有者等不明共有者の持分の取得、譲渡の制度も表題部所有者不明土地について適用することが可能。申立人が、表題部所有者不明土地の共有者が不明であることを立証し、裁判所が命ずる金銭を供託するなど所要の手続を取れば、管理人の選任を経ることなく持分の取得、譲渡をすることができる。

・登記名義人が五十年以上前に死亡している土地について、子供の兄弟が三人いることが分かっている、二人についてはやっと連絡が取れました、でも、残り一人についてはどうも外国で亡くなっているらしい、相続人がどれだけいるかも分からない。この土地を譲り受けたい、あるいは処分したいという場合

 制度を利用し、遺産分割を経ることなく、他の相続人が当該土地の持分を取得するなどして譲渡することも可能。

・ごみ屋敷への管理不全建物管理命の適用可能性について

 ごみ屋敷についても、他人の権利利益の侵害の状況等によっては管理不全建物管理命の要件を満たす場合はある。

・相続人申告登記がされた後に遺産分割があったケースについて

遺産分割成立の日から三年以内に遺産分割の内容を踏まえた登記申請をする義務を負う。

・遺言が作成されていた場合

 遺言により不動産を取得すると定められた者は、所有権を取得したことを知った日から三年以内にその旨の所有権の移転の登記の申請か、相続人申告登記の申出をする義務を負う。

・相続人申告登記の添付書面について

 申出をする相続人が、被相続人の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本を提出。

・相続登記申請をするための登録免許税(現行は不動産の固定資産税評価額の0.4%)について

令和四年度税制改正において必要な措置を検討。

・住所等の変更登記に当たって、他の公的機関との情報連携について

自然人・・・所有権の登記名義人から、その氏名、住所のほか、生年月日等の情報を提供してもらい、これを検索キーとして法務局側で定期的に住基ネットに照会して情報の提供を受けることにより、住所等の変更の有無を確認。

法人・・・省内のシステム間連携による対応が可能。法人の住所等に変更が生じた場合には、不動産登記システム側からの定期的な照会を要さずに、商業・法人登記のシステムから不動産登記システムにその変更情報を通知することにより、住所等の変更があったことを把握。登記官が職権的に住所等の変更の登記を行うことになる。

・改正法の施行日前に相続の開始等があった場合

 原則として適用。施行日前に既に相続が開始した場合又は住所等の変更があった場合であっても、登記の申請に必要な期間を確保する観点から、少なくとも施行日から三年間又は二年間の猶予期間を置く。

 施行日前に相続が開始した遺産の分割について、長期間が経過している場合には、法定相続分等の割合により分割を行うことを可能とすべく、改正法を適用。施行日前に生じた相続について、改正後の規定を適用することとしつつ、少なくとも施行日から五年間は具体的相続分による遺産分割の請求を求めることができる。

・管理不全土地管理の制度について地方公共団体の長などを請求権者としなかった理由

 管理不全土地管理制度について権利利益を侵害されるなどの利害関係の有無に関係なく地方公共団体に申立て権を付与することは、現行の所有者不明土地特措法で定められた目的の範囲を超えており、その是非については、同法の趣旨、目的や、同法における管理不全土地対策の位置づけも踏まえ、国土管理の観点から、別途検討すべき課題と整理された。

・管理不全土地、管理不全建物管理命令の申立て権者である利害関係人について

例えば公共事業の実施者などの土地の利用、取得を希望する者。隣地に擁壁が設置されている場合、劣化して倒壊して、それによる土砂崩れが生ずるおそれがあるというようなケースで、そのことを主張するその隣地の所有者など。

 ごみ屋敷状態で、草が生えて獣が入って悪臭が漂うとか、具体的な意味での隣地に対する影響が出ていればこれに該当する可能性はあるが、町内会あるいは自治体も含めて申立て権を認めるかどうか、利害関係に含めるかどうかは、引き続き議論をして検討。

・相続登記申請と住所変更登記申請義務について、過料の制裁を科さない正当な理由がある場合

 相続が数次にわたって何度も発生して、相続人が数十人を超えるなど極めて多数に上る場合。戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に時間を要するケース。遺言の有効性、遺産の範囲等が争われているケース。

 申請義務を行う相続人自身が病気で入院している場合。登記費用を負担する能力がないケースについては、その財産状況や具体的な生活環境にもより、正当な理由があるとされる場合もある。

・DV被害者等の住所等の情報に係る部分について

 課長通知に基づく実務運用として、既に本人以外の者に対しては閲覧を制限する措置が取られているが、今回法制化。

20211004追記 改正後不登法第76条の6関係

Q 改正後に所有権を取得した人は、全員が検索用情報を提供するか。

A 現在、登録のある人は全員提供している。法務局が住民基本台帳ネットワークシステムに照会する基準をどのように設けるのかの問題。住民基本台帳法別表第一(三十一) 

Q改正前に所有権を取得して検索用情報を提供していない人は過料の対象となるか。

A 施行日前に既に住所等の変更があった場合であっても、少なくとも施行日から三年間又は二年間の猶予期間を置く。

Q 住所変更登記申請義務について、過料の制裁を科さない正当な理由がある場合とは

A 申請義務を行う相続人自身が病気で入院している場合。登記費用を負担する能力がないケースについては、その財産状況や具体的な生活環境にもより、正当な理由があるとされる場合もある。

Q 他の公的機関との情報連携について(自然人の場合)

A 所有権の登記名義人から、その氏名、住所のほか、生年月日等の情報を提供してもらい、これを検索キーとして法務局側で定期的に住基ネットに照会して情報の提供を受けることにより、住所等の変更の有無を確認。

第204回国会 衆議院 法務委員会 第7号 令和3年3月24日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120405206X00720210324&spkNum=5&single

・登記官が他の公的機関から所有権の登記名義人の死亡情報を取得をして、これに基づいて不動産登記にその旨を符号によって表示する制度の情報源

 住民基本台帳、また固定資産課税台帳のほか、長期相続登記等未了土地や表題部所有者不明土地の解消事業、また登記所備付け地図作成事業など。

・所有者不明土地、所有者不明建物管理人が、裁判所の許可を得て土地、建物を売却等した場合の不服申し立てについて

 借地借家人等の利害関係者を含めて、不服を申し立てることができない。

・沖縄県の大戦によって不動産登記とか公図とか戸籍が全て焼失してしまっている場合。今まで、その焼失等によって生じた沖縄の所有者不明土地について、沖縄の復帰に伴う特別措置法に基づき沖縄県又は市町村が管理するという便宜的な対応をしている。この不動産について、相続人があることが明らかでないときは相続財産法人となるが、その近隣に居住する者は戸籍謄本を確認することができないので、それが相続財産法人となっているかどうかすら確認ができないが、所有者不明土地管理の制度を利用することについて

 利用可能。

・沖縄県にある不動産登記簿にについて、表題部の所有者欄に所有者名の記載がない空欄、又は不明地と記載されていて、便宜的に県とか市町村の名前が記載されている。本来の所有者は不明であるが、その管理を地方自治体が行えることが沖縄の特別措置法によって担保されている。管理をしている地方自治体が利害関係人に含まれ、申立てをすることができるのか。

 沖縄県又はその市町村が管理している不動産について、所有者が不特定又は所在不明なものであることから、個別の事案における裁判所の判断に委ねられる。裁判所が選任する管理人による管理の必要性が認められる場合には、所有者不明土地管理命令が発令されるケースもあり得る。

 沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律第六十二条に基づいて現に土地の管理を行っている地方公共団体が、利害関係人として所有者不明土地管理命令を請求することができるかについては、個別の事案ごとの判断による。事案によっては利害関係が認められるケースもあり得る。

・外国籍の方の遺族年金等の請求について

 請求者との婚姻や親子関係などを明らかにすることができる書類として、戸籍謄本又は抄本の提出。外国籍の方の場合は、戸籍に代えて、請求者等の属する国の公的機関の発行した出生証明書や婚姻証明書などを提出。

 請求者等の属する国の公的機関が発行した証明書で、いつから婚姻されていたかなどの必要な確認ができない場合は、外国人登録原票を提出するケースもある。

第204回国会 衆議院 法務委員会 第8号 令和3年3月30日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120405206X00820210330&spkNum=3&single

・居住者がいる建物がごみ屋敷となった場合

 居住者が、発令後に管理不全建物管理人の管理を妨げる行為をすることが見込まれるときは、管理人を選任したとしても、結局、訴訟を起こさざるを得ず、実効的な管理をすることが困難となる可能性が高いことから、権利利益を侵害されている者としては、この管理不全建物管理命令を求めるよりも、訴訟を提起して物権的請求権等を行使することが適当である場合もある。

 建物がいわゆるごみ屋敷状態となった場合、その居住者が管理人による管理を妨げる行為をすることが見込まれているケースでは、利用することが難しい。

 建物所有者が建物をごみ屋敷状態としたまま遠方に移住しており、建物を放置し居住者もいない、は居住者がいても管理人の求めに応じて任意に退出することが見込まれるようなケースでは、この制度の利用が想定される。

・利害関係人があらかじめ費用や報酬に見込まれる予納金を支払った場合

 管理人はその予納金から費用や報酬を受け取ることになり利害関係人は、別途、最終的な費用の負担者である土地の所有者に対して求償することになると考えられる。

・相続開始後、遺言がなく遺産分割も直ぐには調わない場合の最初の登記について

 法務省としては、法定相続分での相続登記ではなく、より簡易な手続である相続人申告登記が利用されて相続登記の申請義務が履行されるようになることを想定。

・管理人による共有持分の処分、共有物の分割協議、持分の全部を取得

 裁判所の許可を得て、所在が明らかな共同相続人との間で可能。

・選任される管理人の要件について

 専門職という縛りはない。

・所有者不明建物管理人が自ら建物を取り壊すことについて

 基本的には許されない。建物の管理を続けるのが困難なケースにおいて、所有者の出現可能性や建物の所有者に生ずる不利益の程度などを考慮した上で、建必要かつ相当と認められる場合には、管理人が、裁判所の許可を得た上で、建物を取り壊すことも可能。

・遺言がある場合で、2つの不動産のうち1つの不動産について相続登記を申請した場合の3年以内の起算日

 相続人が遺言書を添付して特定の不動産についての登記の申請をした際に、遺言書が他の不動産の所有権についても当該申請人に移転する旨を内容とするものであった場合に登記官が通知したとき。

・相続登記等の申請期間の最初の日

 原則として、当事者の主観。

・相続登記等の申請期間について

 相続人申告登記の申出が可能。

 遺産分割がされたケースについては、遺産分割が相続開始に伴う登記申請義務の三年以内にされた場合には、登記の申請をすることになります。

 遺産分割が三年以内にされないケースは、相続人申告登記をすることで義務の履行。その後、遺産分割が現に調ったケースは、遺産分割の日から三年以内に登記の申請。

 遺言が作成されていた場合、遺言により不動産を取得する者は、所有権を取得したことを知った日から三年以内。

・隣の土地を所有している人、住んでいる人が不明な場合に立ち入る際の事前通知について

 立ち入る際に隣地の所有者等の所在が不明な場合、事前の通知は不要。立ち入って隣地を使用した後に所有者の所在が明らかになった場合、所在が明らかになった所有者に対して事後的に通知する必要がある。

第204回国会 参議院 法務委員会 第7号 令和3年4月13日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120415206X00720210413&spkNum=4&single

・相続人申告登記の申出をした後、遺産分割が調わない場合

  遺産分割が調うまで、申告登記のままで可能。期間は問わない。

・数次相続がある場合の相続登記等の申請期間について

 相続開始時から十年を経過するまでに家庭裁判所に遺産分割の請求をしなかった場合には、原則として具体的相続分による遺産分割を求めることができない。遺産分割は法定相続分又は指定相続分によりする。

 数次相続のケースは、個々の相続ごとにこの十年の期間の経過が問題となり、その開始時から十年を経過した遺産の分割については、原則として具体的相続分による遺産分割を求めることはできなくなる。改正法の七十六条の二は、二次相続、三次相続の場合も含む。

 家庭裁判所は、相続開始時から十年を経過した後に遺産分割の申立てがされた場合には、特別受益や寄与分については考慮せずに法定相続分又は指定相続分によって遺産の分割をすることになる。

・申告登記をした相続人が亡くなった場合、この場合には二次相続人は申告登記できるか。

 可能。

第204回国会 参議院 法務委員会 第9号 令和3年4月20日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120415206X00920210420&spkNum=4&single

・自己に相続があったことを知ったことについて

相続人において、相続が開始した事実を知らないケース、不動産の存在自体を知らないケース、具体的な土地の地番等までは把握していないなどといったケースは、この要件を満たすことはなく、相続登記の申請義務は生じない。

20210906追記 民法・不動産登記法部会資料 57

民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案 (案) (2)

https://www.moj.go.jp/content/001339375.pdf

所有不動産記録証明書(仮称)の代理交付請求について

 郵送による本人申請請求の場合・・・本人確認書類の写しを送付させた上で、対象不動産の登記に記録された本人の住所地(所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人による交付請求の場合にはその本人の住所証明書類の原本に記載された住所地)宛てに送付するなどして、請求者本人が確実にその書類を取得するように配慮することが考えられる。

 代理申請の場合・・・委任者の実印が押印された委任状及び印鑑登録証明書(例えば、3か月以内に取得したものに限定する。)の提供がある場合には、受任者宛ての送付を可能とするといった手法を併用することも考えられる。

・相続放棄で遡及的に持分を失った人も、持分を取得した人が登記申請を行うまでは申請義務は免れないか・・・免れる。
民法・不動産登記法部会資料 60民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案 (案) (5)p2
https://www.moj.go.jp/content/001340118.pdf

民法 第209条(隣地の使用)

 同条第1項中「境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕する」を「次に掲げる目的の」に、「の使用を請求する」を「を使用する」に改め、同項ただし書中「隣人」を「住家については、その居住者」に改め、「その住家に」を削り、同項に次の各号を加える。

  1 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕

  2 境界標の調査又は境界に関する測量

  3 第233条第3項の規定による枝の切取り

 第2項中「前項」を「第1項」に、「隣人」を「隣地の所有者又は隣地使用者」に改め、同項を同条第4項とし、同条第1項の次に次の2項を加える。

 2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

 3 第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。

 第213条の2(継続的給付を受けるための設備の設置権等)

 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第1項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。

 2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

 3 第1項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。

 4 第1項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第209条第1項ただし書及び第2項から第4項までの規定を準用する。

 5 第1項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第209条第4項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、1年ごとにその償金を支払うことができる。

 6 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。

 7 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

 第213条の3

 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、前条第5項の規定は、適用しない。

 2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

 第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)

 第1項中「隣地」を「土地の所有者は、隣地」に改め、同条第2項を同条第4項とし、同条第1項の次に次の2項を加える。

 2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。

 3 第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。

 1 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。

 2 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

 3 急迫の事情があるとき。

 第249条(共有物の使用)

 次の2項を加える。

 2 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。

 3 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。

 第251条(共有物の変更)

 中「変更」の下に「(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)」を加え、同条に次の1項を加える。

 2 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

 第252条(共有物の管理)

 中「は、前条の場合を除き」を「(次条第1項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第1項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は」に改め、同条ただし書を削り、同条に後段として次のように加える。

 共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

 2 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。

 1 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

 2 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。

 3 前2項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

 4 共有者は、前3項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。

  1 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年

  2 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 5年

  3 建物の賃借権等 3年

  4 動産の賃借権等 6箇月

 5 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

 第252条の2(共有物の管理者)

 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

 2 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

 3 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。

 4 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

 第258条(裁判による共有物の分割)

 同条第1項中「とき」の下に「、又は協議をすることができないとき」を加え、同条第2項中「の場合において、」を「に規定する方法により」に改め、「の現物」を削り、同項を同条第3項とし、同条第1項の次に次の1項を加える。

 2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。

 1 共有物の現物を分割する方法

 2 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法

 4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。

 第258条の2

 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。

 2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。

 3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第1項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

 第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)

 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。

 2 前項の請求があった持分に係る不動産について第258条第1項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。

 3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。

 4 第1項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。

 5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

 第262条の3(所在等不明共有者の持分の譲渡)

 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。

 2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。

 3 第1項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。

 4 前3項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

 第264条(準共有)

 中「この節」の下に「(第262条の二及び第262条の3を除く。)」を加える。

 第264条(準共有)

 中「この節」の下に「(第262条の二及び第262条の3を除く。)」を加える。

 第264条の3(所有者不明土地管理人の権限)

 前条第4項の規定により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。

 2 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。

 1 保存行為

 2 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

 第264条の4(所有者不明土地等に関する訴えの取扱い)

 所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。

 第264条の5(所有者不明土地管理人の義務)

 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。

 2 数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。

 第264条の6(所有者不明土地管理人の解任及び辞任)

 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。

 2 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。

 第264条の7(所有者不明土地管理人の報酬等)

 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。

 2 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用及び報酬は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)の負担とする。

 第264条の8(所有者不明建物管理命令)

 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(第4項に規定する所有者不明建物管理人をいう。以下この条において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。

 2 所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有し、又は当該建物の共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。

 3 所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物管理命令が発せられた後に当該所有者不明建物管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分並びに当該所有者不明建物管理命令の効力が及ぶ動産及び建物の敷地に関する権利の管理、処分その他の事由により所有者不明建物管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。

 4 裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、当該所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。

 5 第264条の3から前条までの規定は、所有者不明建物管理命令及び所有者不明建物管理人について準用する。

 第264条の9(管理不全土地管理命令)

 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(第3項に規定する管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。

 2 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。

 3 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。

 第264条の10(管理不全土地管理人の権限)

 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。

 2 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。

 1 保存行為

 2 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

 3 管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可をするには、その所有者の同意がなければならない。

 第264条の11(管理不全土地管理人の義務)

 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。

 2 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。

 第264条の12(管理不全土地管理人の解任及び辞任)

 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。

 2 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。

 第264条の13(管理不全土地管理人の報酬等)

 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。

 2 管理不全土地管理人による管理不全土地等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全土地等の所有者の負担とする。

 第264条の14(管理不全建物管理命令)

 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(第3項に規定する管理不全建物管理人をいう。第4項において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。

 2 管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。

 3 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。

 4 第264条の10から前条までの規定は、管理不全建物管理命令及び管理不全建物管理人について準用する。

 第392条(共同抵当における代価の配当)第1項中

 「按分する」を「按分する」に改める。

 第897条の2(相続財産の保存)

 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が1人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第952条第1項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。

 2 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

 第898条(共同相続の効力)

 に次の1項を加える。

 2 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。

 第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)

 前3条の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

 1 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

 2 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

 第907条(遺産の分割の協議又は審判等)

 の見出し中「審判等」を「審判」に改め、同条第1項中「次条」を「次条第1項」に改め、「場合」の下に「又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合」を加え、同条第3項を削る。

 第908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)

 に次の4項を加える。

 2 共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

 3 前項の契約は、5年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

 4 前条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

 5 家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

 第918条(相続人による管理)」

 同条第2項及び第3項を削る。

 第926条(限定承認者による管理)

 第2項中「、第650条第1項」を「並びに第650条第1項」に改め、「並びに第918条第2項及び第3項」を削る。

 第936条(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)

 (見出しを含む。)中「管理人」を「清算人」に改める。

 第940条(相続の放棄をした者による管理)

 第1項中「によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」を「の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間」に、「の管理を継続しなければ」を「を保存しなければ」に改め、同条第2項中「、第650条第1項」を「並びに第650条第1項」に改め、「並びに第918条第2項及び第3項」を削る。

 第952条(相続財産の管理人の選任)

 の見出し及び同条第1項中「管理人」を「清算人」に改め、同条第2項中「管理人」を「清算人」に、「これ」を「、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨」に改め、同項に後段として次のように加える。

   この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。

 第953条(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)

 第954条(見出しを含む。)及び第955条ただし書中「相続財産の管理人」を「相続財産の清算人」に改める。

 第956条(相続財産の管理人の代理権の消滅)

 の見出し及び同条第1項中「相続財産の管理人」を「相続財産の清算人」に改め、同条第2項中「相続財産の管理人」を「相続財産の清算人」に、「管理の」を「清算に係る」に改める。

 第957条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)

 第1項中「後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかった」を削り、「相続財産の管理人は、遅滞なく、すべて」を「相続財産の清算人は、全て」に、「一定の」を「2箇月以上の期間を定めて、その」に、「2箇月を下ることができない」を「同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない」に改める。

 第958条を削る。

 第958条の2(権利を主張する者がない場合)

 中「前条」を「第952条第2項」に、「相続財産の管理人」を「相続財産の清算人」に改め、同条を第958条とする。

 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)

 第2項中「第958条」を「第952条第2項」に改め、同条を第958条の二とする。

二不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)(第二条関係)

改正案

現行

目第次四章(略)

第一節・第二節(略)

第三節(略)

第一款(略)

第二款 所有権に関する登記(第七十三条の二―第七十七条)

第三款~第八款(略)

(登記することができる権利等)

第三条(略)

一~九(略)

十採石権(採石法(昭和二十五年法律第二百九十一号)に規定する採石権をいう。第五十条、第七十条第二項及び第八十二条において同じ。)

(当事者の申請又は嘱託による登記)

第十六条(略)

2第二条第十四号、第五条、第六条第三項、第十条及びこの章(この条、第二十七条、第二十八条、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第四十一条、第四十三条から第四十六条まで、第五十一条第五項及び第六項、第五十三条第二項、第五十六条、第五十八条第一項及び第四項、第五十九条第一号、第三号から第六号まで及び第八号、第六十六条、第六十七条、第七十一条、第七十三条第一項第二号から第四号まで、第二項及び第三項、第七十六条から第七十六条の四まで、第七十六条の六、第七十八条から第八十六条まで、第八十八条、第九十条から第九十二条まで、第九十四条、第九十五条第一項、第九十六条、第九十七条、第九十八条第二項、第百一条、第百二条、第百六条、第百八条、第百十二条、第百十四条から第百十七条まで並びに第百十八条第二項、第五項及び第六項を除く。)の規定は、官庁又は公署の嘱託による登記の手続について準用する。

(申請の却下)

第二十五条(略)

一~六(略)

七申請情報の内容である登記義務者(第六十五条、第七十六条の五、第七十七条、第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)、第九十三条(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)又は第百十条前段の場合にあっては、登記名義人)の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。

八~十三(略)

(権利に関する登記の登記事項)

第五十九条権利に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。

一~五(略)

六 共有物分割禁止の定め(共有物若しくは所有権以外の財産権について民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百五十六条第一項ただし書(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)若しくは第九百八条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合若しくは同条第一項の規定により被相続人が遺言で共有物若しくは所有権以外の財産権について分割を禁止した場合における共有物若しくは所有権以外の財産権の分割を禁止する定め又は同条第四項の規定により家庭裁判所が遺産である共有物若しくは所有権以外の財産権についてした分割を禁止する審判をいう。第六十五条において同じ。)があるときは、その定め

七・八(略)

(判決による登記等)

第六十三条(略)

2(略)

3遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。

(買戻しの特約に関する登記の抹消)

第六十九条の二買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から十年を経過したときは、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。

(除権決定による登記の抹消等)

第七十条登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が知れないためその者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第九十九条に規定する公示催告の申立てをすることができる。

2前項の登記が地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり、かつ、登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合において、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは、その者の所在が知れないものとみなして、同項の規定を適用する。

3前二項の場合において、非訟事件手続法第百六条第一項に規定する除権決定があったときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独で第一項の登記の抹消を申請することができる。

4(略)

(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)

第七十条の二 登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第二項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から三十年を経過し、かつ、その法人の解散の日から三十年を経過したときは、第六十条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。

第二款 所有権に関する登記

(所有権の登記の登記事項)

第七十三条の二 所有権の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。

一 所有権の登記名義人が法人であるときは、会社法人等番号(商業登記法(昭和三十八年法律第百二十五号)第七条(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する会社法人等番号をいう。)その他の特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるもの

二 所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるもの

2 前項各号に掲げる登記事項についての登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。

(相続等による所有権の移転の登記の申請)

第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

2 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

3前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、適用しない。

(相続人である旨の申出等)

第七十六条の三 前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。

2 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。 

3 登記官は、第一項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。

4 第一項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第一項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

5 前項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、同項の規定による登記がされた場合には、適用しない。

6 第一項の規定による申出の手続及び第三項の規定による登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。

(所有権の登記名義人についての符号の表示)

第七十六条の四 登記官は、所有権の登記名義人(法務省令で定めるものに限る。)が権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、当該所有権の登記名義人についてその旨を示す符号を表示することができる。

(所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請)

第七十六条の五 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。

(職権による氏名等の変更の登記)

第七十六条の六 登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。

(登記事項証明書の交付等)

第百十九条(略)

2~5(略)

6 登記官は、第一項及び第二項の規定にかかわらず、登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合において、その者からの申出があったときは、法務省令で定めるところにより、第一項及び第二項に規定する各書面に当該住所に代わるものとして法務省令で定める事項を記載しなければならない。

(所有不動産記録証明書の交付等)

第百十九条の二何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。

2 相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。

3 前二項の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。

4 前条第三項及び第四項の規定は、所有不動産記録証明書の手数料について準用する。

(地図の写しの交付等)

第百二十条(略)

2(略)

3 第百十九条第三項から第五項までの規定は、地図等について準用する。

(登記簿の附属書類の写しの交付等)

第百二十一条(略)

2何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記簿の附属書類のうち前項の図面(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。次項において同じ。)の閲覧を請求することができる。

3何人も、正当な理由があるときは、登記官に対し、法務省令で定めるところにより、手数料を納付して、登記簿の附属書類(第一項の図面を除き、電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。次項において同じ。)の全部又は一部(その正当な理由があると認められる部分に限る。)の閲覧を請求することができる。

4前項の規定にかかわらず、登記を申請した者は、登記官に対し、法務省令で定めるところにより、手数料を納付して、自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類の閲覧を請求することができる。

5(略)

(法務省令への委任)

第百二十二条この法律に定めるもののほか、登記簿、地図、建物所在図及び地図に準ずる図面並びに登記簿の附属書類(第百五十四条及び第百五十五条において「登記簿等」という。)公開に関し必要な事項は、法務省令で定める。

(筆界特定の申請)

第百三十一条(略)

2~4(略)

5 第十八条の規定は、筆界特定の申請について準用する。この場合において、同条中「不動産を識別するために必要な事項、申請人の氏名又は名称、登記の目的その他の登記の申請に必要な事項として政令で定める情報(以下「申請情報」という。)」とあるのは「第百三十一条第三項各号に掲げる事項に係る情報(第二号、第百三十二条第一項第四号及び第百五十条において「筆界特定申請情報」という。)」と、「登記所」とあるのは「法務局又は地方法務局」と、同条第二号中「申請情報」とあるのは「筆界特定申請情報」と読み替えるものとする。

(筆界特定書等の写しの交付等)

第百四十九条 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、筆界特定手続記録のうち筆界特定書又は政令で定める図面の全部又は一部(以下この条及び第百五十四条において「筆界特定書等」という。)の写し(筆界特定書等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該記録された情報の内容を証明した書面)の交付を請求することができる。

2・3(略)

第七章 雑則

(情報の提供の求め)

第百五十一条 登記官は、職権による登記をし、又は第十四条第一項の地図を作成するために必要な限度で、関係地方公共団体の長その他の者に対し、その対象となる不動産の所有者等(所有権が帰属し、又は帰属していた自然人又は法人(法人でない社団又は財団を含む。)をいう。)に関する情報の提供を求めることができる。

(登記識別情報の安全確保)

第百五十二条(略)

2(略)

(行政手続法の適用除外)

第百五十三条(略)

(行政機関の保有する情報の公開に関する法律の適用除外)

第百五十四条(略)

(削る)

(秘密を漏らした罪)

第百五十九条 第百五十二条第二項の規定に違反して登記識別情報の作成又は管理に関する秘密を漏らした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

(虚偽の登記名義人確認情報を提供した罪)

第百六十条 第二十三条第四項第一号(第十六条第二項において準用する場合を含む。)の規定による情報の提供をする場合において、虚偽の情報を提供したときは、当該違反行為をした者は、二年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(検査の妨害等の罪)

第百六十二条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。

一 第二十九条第二項(第十六条第二項において準用する場合を含む。次号において同じ。)の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避したとき。

二 第二十九条第二項の規定による文書若しくは電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの提示をせず、若しくは虚偽の文書若しくは電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものを提示し、又は質問に対し陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をしたとき。三 第百三十七条第五項の規定に違反して、同条第一項の規定による立入りを拒み、又は妨げたとき。

(過料)

第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条、第五十八条第六項若しくは第七項、第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。

2第七十六条の五の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、五万円以下の過料に処する。

三 非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号) (第三条関係)

目次

第三編(略)

第一章 共有に関する事件(第八十五条―第八十九条)

第二章土地等の管理に関する事件(第九十条―第九十二条)

第三章供託等に関する事件(第九十三条―第九十八条)

第一章共有に関する事件

第一章(共有物の管理に係る決定)

第八十五条 次に掲げる裁判に係る事件は、当該裁判に係る共有物又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百六十四条に規定する数人で所有権以外の財産権を有する場合における当該財産権(以下この条において単に「共有物」という。)の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

一 民法 第二百五十一条第二項、第二百五十二条第二項第一号及び第二百五十二条の二第二項(これらの規定を同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)の規定による裁判

二 民法第二百五十二条第二項第二号(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。第三項において同じ。)の規定による裁判

2 前項第一号の裁判については、裁判所が次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号の期間が経過した後でなければ、することができない。この場合において、同号の期間は、一箇月を下ってはならない。

一 当該共有物について前項第一号の裁判の申立てがあったこと。

二 裁判所が前項第一号の裁判をすることについて異議があるときは、当該他の共有者等(民法第二百五十一条第二項(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)に規定する当該他の共有者、同法第二百五十二条第二項第一号(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)に規定する他の共有者又は同法第二百五十二条の二第二項(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)に規定する当該共有者をいう。第六項において同じ。)は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。

三 前号の届出がないときは、前項第一号の裁判がされること。

3 第一項第二号の裁判については、裁判所が次に掲げる事項を当該他の共有者(民法第二百五十二条第二項第二号に規定する45当該他の共有者をいう。以下この項及び次項において同じ。)に通知し、かつ、第二号の期間が経過した後でなければ、することができない。この場合において、同号の期間は、一箇月を下ってはならない。

一 当該共有物について第一項第二号の裁判の申立てがあったこと。

二 当該他の共有者は裁判所に対し一定の期間内に共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべきこと。

三 前号の期間内に当該他の共有者が裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしないときは、第一項第二号の裁判がされること。

4前項第二号の期間内に裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにした当該他の共有者があるときは、裁判所は、その者に係る第一項第二号の裁判をすることができない。

5第一項各号の裁判は、確定しなければその効力を生じない。

6第一項第一号の裁判は、当該他の共有者等に告知することを要しない。

(共有物分割の証書の保存者の指定)

第八十六条 民法第二百六十二条第三項の規定による証書の保存者の指定の事件は、共有物の分割がされた地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 裁判所は、前項の指定の裁判をするには、分割者(申立人を除く。)の陳述を聴かなければならない。

3 裁判所が前項の裁判をする場合における手続費用は、分割者の全員が等しい割合で負担する。

4 第二項の裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

(所在等不明共有者の持分の取得)

第八十七条 所在等不明共有者の持分の取得の裁判(民法第二百六十二条の二第一項(同条第五項において準用する場合を含む。次項第一号において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分の取得の裁判をいう。以下この条において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号、第三号及び第五号の期間が経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることができない。この場合において、第二号、第三号及び第五号の期間は、いずれも三箇月を下ってはならない。

一 所在等不明共有者(民法第二百六十二条の二第一項に規定する所在等不明共有者をいう。以下この条において同じ。)の持分について所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあったこと。

二 裁判所が所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。

三 民法第二百六十二条の二第二項(同条第五項において準用する場合を含む。)の異議の届出は、一定の期間内にすべきこと。

四 前二号の届出がないときは、所在等不明共有者の持分の取得の裁判がされること。

五 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。

3 裁判所は、前項の規定による公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、同項各号(第二号を除く。)の規定により公告した事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。

4 裁判所は、第二項第三号の異議の届出が同号の期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。

5 裁判所は、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。

6 裁判所は、前項の規定による決定をした後所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするまでの間に、事情の変更により同項の規定による決定で定めた額を不当と認めるに至ったときは、同項の規定により供託すべき金銭の額を変更しなければならない。

7 前二項の規定による裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

8 裁判所は、申立人が第五項の規定による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。

9 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、確定しなければその効力を生じない。

10 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、所在等不明共有者に告知することを要しない。

11 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを受けた裁判所が第二項の規定による公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が同項第五号の期間が経過した後に所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、当該申立人以外の共有者による所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを却下しなければならない。

(所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与)

第八十八条 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判(民法第二百六十二条の三第一項(同条第四項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判をいう。第三項において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 前条第二項第一号、第二号及び第四号並びに第五項から第十項までの規定は、前項の事件について準用する。

3所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後二箇月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者(民法第二百六十二条の三第一項に規定する所在等不明共有者をいう。)の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。

(検察官の不関与)

第八十九条 第四十条の規定は、この章の規定による非訟事件の手続には、適用しない。

第二章 土地等の管理に関する事件

(所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令)

第九十条 民法第二編第三章第四節の規定による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号の期間が経過した後でなければ、所有者不明土地管理命令(民法第二百六十四条の二第一項に規定する所有者不明土地管理命令をいう。以下この条において同じ。)をすることができない。この場合において、同号の期間は、一箇月を下ってはならない。 

一 所有者不明土地管理命令の申立てがその対象となるべき土地又は共有持分についてあったこと。

二 所有者不明土地管理命令をすることについて異議があるときは、所有者不明土地管理命令の対象となるべき土地又は共有持分を有する者は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。

三 前号の届出がないときは、所有者不明土地管理命令がされること。

3 民法第二百六十四条の三第二項又は第二百六十四条の六第二項の許可の申立てをする場合には、その許可を求める理由を疎明しなければならない。

4 裁判所は、民法第二百六十四条の六第一項の規定による解任の裁判又は同法第二百六十四条の七第一項の規定による費用若しくは報酬の額を定める裁判をする場合には、所有者不明土地管理人(同法第二百六十四条の二第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下この条において同じ。)の陳述を聴かなければならない。

5 次に掲げる裁判には、理由を付さなければならない。

一 所有者不明土地管理命令の申立てを却下する裁判

二 民法第二百六十四条の三第二項又は第二百六十四条の六第二項の許可の申立てを却下する裁判

三 民法第二百六十四条の六第一項の規定による解任の申立てについての裁判

6 所有者不明土地管理命令があった場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分について、所有者不明土地管理命令の登記を嘱託しなければならない。

7 所有者不明土地管理命令を取り消す裁判があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の登記の抹消を嘱託しなければならない。

8 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その土地の所有者又はその共有持分を有する者のために、当該金銭を所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である土地)の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。

9 裁判所は、所有者不明土地管理命令を変更し、又は取り消すことができる。

10 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。

11 所有者不明土地等(民法第二百六十四条の三第一項に規定する所有者不明土地等をいう。以下この条において同じ。)の所有者(その共有持分を有する者を含む。以下この条において同じ。)が所有者不明土地等の所有権(その共有持分を含む。)が自己に帰属することを証明したときは、裁判所は、当該所有者の申立てにより、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。この場合において、所有者不明土地管理命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者に対し、その事務の経過及び結果を報告し、当該所有者に帰属することが証明された財産を引き渡さなければならない。

12 所有者不明土地管理命令及びその変更の裁判は、所有者不明土地等の所有者に告知することを要しない。

13 所有者不明土地管理命令の取消しの裁判は、事件の記録上所有者不明土地等の所有者及びその所在が判明している場合に限り、その所有者に告知すれば足りる。

14 次の各号に掲げる裁判に対しては、当該各号に定める者に限り、即時抗告をすることができる。

一 所有者不明土地管理命令利害関係人

二 民法第二百六十四条の六第一項の規定による解任の裁判利害関係人

三 民法第二百六十四条の七第一項の規定による費用又は報酬の額を定める裁判所有者不明土地管理人

四 第九項から第十一項までの規定による変更又は取消しの裁判利害関係人

15 次に掲げる裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

一 民法第二百六十四条の二第四項の規定による所有者不明土地管理人の選任の裁判

二 民法第二百六十四条の三第二項又は第二百六十四条の六第二項の許可の裁判

16 第二項から前項までの規定は、民法第二百六十四条の八第一項に規定する所有者不明建物管理命令及び同条第四項に規定する所有者不明建物管理人について準用する。

(管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令)

第九十一条 民法第二編第三章第五節の規定による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 民法第二百六十四条の十第二項又は第二百六十四条の十二第二項の許可の申立てをする場合には、その許可を求める理由を疎明しなければならない。

3 裁判所は、次の各号に掲げる裁判をする場合には、当該各号に定める者の陳述を聴かなければならない。ただし、第一号に掲げる裁判をする場合において、その陳述を聴く手続を経ることにより当該裁判の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

一 管理不全土地管理命令(民法第二百六十四条の九第一項に規定する管理不全土地管理命令をいう。以下この条において同じ。)管理不全土地管理命令の対象となるべき土地の所有者

二 民法第二百六十四条の十第二項の許可の裁判管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者

三 民法第二百六十四条の十二第一項の規定による解任の裁判管理不全土地管理人(同法第二百六十四条の九第三項に規定する管理不全土地管理人をいう。以下この条において同じ。)

四 民法第二百六十四条の十三第一項の規定による費用の額を定める裁判管理不全土地管理人

五 民法第二百六十四条の十三第一項の規定による報酬の額を定める裁判管理不全土地管理人及び管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者

4 次に掲げる裁判には、理由を付さなければならない。

一 管理不全土地管理命令の申立てについての裁判

二 民法第二百六十四条の十第二項の許可の申立てについての裁判

三 民法第二百六十四条の十二第一項の規定による解任の申立てについての裁判

四 民法第二百六十四条の十二第二項の許可の申立てを却下する裁判

5 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その土地の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、当該金銭を管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。

6 裁判所は、管理不全土地管理命令を変更し、又は取り消すことができる。

7 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、管理不全土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、管理不全土地管理命令を取り消さなければならない。

8 次の各号に掲げる裁判に対しては、当該各号に定める者に限り、即時抗告をすることができる。

一 管理不全土地管理命令利害関係人

二 民法第二百六十四条の十第二項の許可の裁判管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者

三 民法第二百六十四条の十二第一項の規定による解任の裁判利害関係人

四 民法第二百六十四条の十三第一項の規定による費用の額を定める裁判管理不全土地管理人

五 民法第二百六十四条の十三第一項の規定による報酬の額を定める裁判管理不全土地管理人及び管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者

六 前二項の規定による変更又は取消しの裁判利害関係人

9 次に掲げる裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

一 民法第二百六十四条の九第三項の規定による管理不全土地管理人の選任の裁判

二 民法第二百六十四条の十二第二項の許可の裁判

10 第二項から前項までの規定は、民法第二百六十四条の十四第一項に規定する管理不全建物管理命令及び同条第三項に規定する管理不全建物管理人について準用する。

(削る)

供託等に関する事件(適用除外)

第九十二条 第四十条及び第五十七条第二項第二号の規定は、この章の規定による非訟事件の手続には、適用しない。

第三章 供託等に関する事件

四 家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)(第四条関係)

改正案

目次

第二編(略)

第二章(略)

第十二節 相続の場合における祭具等の所有権の承継者の指定の審判事件(第百九十条)

第十二節の二 相続財産の保存に関する処分の審判事件(第百九十条の二)

(相続に関する審判事件の管轄権)

第三条の十一(略)

2(略)

3 裁判所は、第一項に規定する場合のほか、推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件(別表第一の八十八の項の事項についての審判事件をいう。第百八十九条第一項及び第二項において同じ。及び相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分の審判事件(同表の九十九の項の事項についての審判事件をいう。以下同じ。)について、相続財産に属する財産が日本国内にあるときは、管轄権を有する。

4・5(略)

(家事審判の申立ての取下げ)

第八十二条(略)

2(略)

3 前項ただし書、第百五十三条(第百九十九条第一項において準用する場合を含む。)及び第百九十九条第二項の規定により申立ての取下げについて相手方の同意を要する場合においては、家庭裁判所は、相手方に対し、申立ての取下げがあったことを通知しなければならない。ただし、申立ての取下げが家事審判の手続の期日において口頭でされた場合において、相手方がその期日に出頭したときは、この限りでない。

4・5(略)

(家事審判の申立ての取下げの擬制)

第八十三条 家事審判の申立人(第百五十三条(第百九十九条第一項において準用する場合を含む。)及び第百九十九条第二項の規定により申立ての取下げについて相手方の同意を要する場合にあっては、当事者双方)が、連続して二回、呼出しを受けた家事審判の手続の期日に出頭せず、又は呼出しを受けた家事審判の手続の期日において陳述をしないで退席をしたときは、家庭裁判所は、申立ての取下げがあったものとみなすことができる。

(管理人の改任等)

第百四十六条(略)

2家庭裁判所は、民法第二十五条第一項の規定により選任し、又は同法第二十六条の規定により改任した管理人及び前項の規定により改任した管理人(第四項及び第六項、次条並びに第百四十七条において「家庭裁判所が選任した管理人」という。)に対し、財産の状況の報告及び管理の計算を命ずることができる。同法第二十七条第二項の場合においては、不在者が置いた管理人に対しても、同様とする。

3(略)

4 家庭裁判所は、管理人(家庭裁判所が選任した管理人及び不在者が置いた管理人をいう。次項及び第百四十七条において同じ。)に対し、その提供した担保の増減、変更又は免除を命ずることができる。

5・6(略)

(供託等)

第百四十六条の二 家庭裁判所が選任した管理人は、不在者の財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、不在者のために、当該金銭を不在者の財産の管理に関する処分を命じた裁判所の所在地を管轄する家庭裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。

2 家庭裁判所が選任した管理人は、前項の規定による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。

(処分の取消し)

第百四十七条 家庭裁判所は、不在者が財産を管理することができるようになったとき、管理すべき財産がなくなったとき(家庭裁判所が選任した管理人が管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、不在者、管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、民法第二十五条第一項の規定による管理人の選任その他の不在者の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならない。

第十二節の二

相続財産の保存に関する処分の審判事件

第百九十条の二 相続財産の保存に関する処分の審判事件は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

2 第百二十五条第一項から第六項まで、第百四十六条の二及び第百四十七条の規定は、相続財産の保存に関する処分の審判事件について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「相続財産」と読み替えるものとする。

(申立ての取下げの制限)

第百九十九条(略)

2 第八十二条第二項の規定にかかわらず、遺産の分割の審判の申立ての取下げは、相続開始の時から十年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。

第二百一条 相続の承認及び放棄に関する審判事件(別表第一の九十の項から九十五の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

2(略)

3 家庭裁判所(抗告裁判所が限定承認の申述を受理した場合にあっては、その裁判所)は、相続人が数人ある場合において、限定承認の申述を受理したときは、職権で、民法第九百三十六条第一項の規定により相続財産の清算人を選任しなければならない。

4~9(略)

(管轄)

第二百三条

次の各号に掲げる審判事件は、当該各号に定める家庭裁判所の管轄に属する。

一 相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分の審判事件相続が開始した地を管轄する家庭裁判所

二 相続人の不存在の場合における鑑定人の選任の審判事件(別表第一の百の項の事項についての審判事件をいう。)相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分の審判事件において相続財産の清算人の選任の審判をした家庭裁判所

三(略)

(特別縁故者に対する相続財産の分与の審判)

第二百四条 特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てについての審判は、民法第九百五十二条第二項の期間の満了後三月を経過した後にしなければならない。

2(略)

(意見の聴取)

第二百五条 家庭裁判所は、特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てについての審判をする場合には、民法第九百五十二条第一項の規定により選任し、又は第二百八条において準用する第百二十五条第一項の規定により改任した相続財産の清算人(次条及び第二百七条において単に「相続財産の清算人」という。)の意見を聴かなければならない。

(即時抗告)

第二百六条 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。

一 特別縁故者に対する相続財産の分与の審判申立人及び相続財産の清算人

二(略)

2 第二百四条第二項の規定により審判が併合してされたときは、申立人の一人又は相続財産の清算人がした即時抗告は、申立人の全員に対してその効力を生ずる。

(相続財産の換価を命ずる裁判)

第二百七条 第百九十四条第一項、第二項本文、第三項から第五項まで及び第七項の規定は、特別縁故者に対する相続財産の分与の審判事件について準用する。この場合において、同条第一項及び第七項中「相続人」とあり、並びに同条第二項中「相続人の意見を聴き、相続人」とあるのは「相続財産の清算人」と、同条第三項中「相続人」とあるのは「特別縁故者に対する相続財産の分与の申立人若しくは相続財産の清算人」と、同条第四項中「当事者」とあるのは「申立人」と、同条第五項中「相続人」とあるのは「特別縁故者に対する相続財産の分与の申立人及び相続財産の清算人」と読み替えるものとする。

(管理者の改任等に関する規定の準用)

第二百八条 第百二十五条の規定は、相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分の審判事件について準用する。この場合において、同条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「相続財産」と読み替えるものとする。

(家事調停の申立ての取下げ)

第二百七十三条 家事調停の申立ては、家事調停事件が終了するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。

2 前項の規定にかかわらず、遺産の分割の調停の申立ての取下げは、相続開始の時から十年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。

3 第八十二条第三項及び第四項並びに民事訴訟法第二百六十一条第三項及び第二百六十二条第一項の規定は、家事調停の申立ての取下げについて準用する。この場合において、第八十二条第三項中「前項ただし書、第百五十三条(第百九十九条第一項において準用する場合を含む。)及び第百九十九条第二項」とあるのは「第二百七十三条第二項」と、同法第二百六十一条第三項ただし書中「口頭弁論、弁論準備手続又は和解の期日(以下この章において「口頭弁論等の期日」という。)」とあるのは「家事調停の手続の期日」と読み替えるものとする。

別表第一(略)

事項

根拠となる法律の規定

(略)

相続財産の保存

八十九

相続財産の保存に関する処分

民法第八百九十七条の二第一項及び第二項

相続の承認及び放棄

九十

相続の承認又は放棄をすべき期間の伸長

民法第九百十五条第一項ただし書

(略)

九十四

限定承認を受理した場合における相続財産の清算人の選任

民法第九百三十六条第一項

(略)

九十九

相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分

民法第九百五十二条及び第九百五十三条

百一

特別縁故者に対する相続財産の分与

民法第九百五十八条の二第一項

(略)

別表第二(略)

事項

根拠となる法律の規定

(略)

十三

遺産の分割の禁止

民法第九百八条第四項及び第五項

(略)

(不動産登記法の準用)

第八条 不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第七条から第十一条まで、第十三条、第十六条第一項、第十八条、第二十四条、第二十五条第一号から第九号まで及び第十二号、第六十七条第一項から第三項まで、第七十一条、第百十九条(第六項を除く。)、第百二十一条第三項から第五項まで、第百五十三条から第百五十六条まで、第百五十七条第一項から第三項まで、第五項及び第六項並びに第百五十八条の規定は、夫婦財産契約に関する登記について準用する。この場合において、同法第十八条中「政令」とあるのは、「法務省令」と読み替えるものとする。

附 則

  (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

 一 第二条中不動産登記法第百三十一条第五項の改正規定及び附則第三十四条の規定 公布の日

 二 第二条中不動産登記法の目次の改正規定、同法第十六条第二項の改正規定、同法第四章第三節第二款中第七十四条の前に一条を加える改正規定、同法第七十六条の次に五条を加える改正規定(第七十六条の二及び第七十六条の三に係る部分に限る。)、同法第百十九条の改正規定及び同法第百六十四条の改正規定(同条に一項を加える部分を除く。)並びに附則第五条第四項から第六項まで、第六条、第二十二条及び第二十三条の規定 公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日

 三 第二条中不動産登記法第二十五条第七号の改正規定、同法第七十六条の次に五条を加える改正規定(第七十六条の四から第七十六条の六までに係る部分に限る。)、同法第百十九条の次に一条を加える改正規定、同法第百二十条第三項の改正規定及び同法第百六十四条の改正規定(同条に一項を加える部分に限る。)並びに附則第五条第七項の規定 公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日

 (相続財産の保存に必要な処分に関する経過措置)

第二条 この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に第一条の規定による改正前の民法(以下「旧民法」という。)第九百十八条第二項(旧民法第九百二十六条第二項(旧民法第九百三十六条第三項において準用する場合を含む。)及び第九百四十条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定によりされた相続財産の保存に必要な処分は、施行日以後は、第一条の規定による改正後の民法(以下「新民法」という。)第八百九十七条の二の規定によりされた相続財産の保存に必要な処分とみなす。

2 施行日前に旧民法第九百十八条第二項の規定によりされた相続財産の保存に必要な処分の請求(施行日前に当該請求に係る審判が確定したものを除く。)は、施行日以後は、新民法第八百九十七条の二の規定によりされた相続財産の保存に必要な処分の請求とみなす。

 (遺産の分割に関する経過措置)

第三条 新民法第九百四条の三及び第九百八条第二項から第五項までの規定は、施行日前に相続が開始した遺産の分割についても、適用する。この場合において、新民法第九百四条の三第一号中「相続開始の時から十年を経過する前」とあるのは「相続開始の時から十年を経過する時又は民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第24号)の施行の時から五年を経過する時のいずれか遅い時まで」と、同条第二号中「十年の期間」とあるのは「十年の期間(相続開始の時から始まる十年の期間の満了後に民法等の一部を改正する法律の施行の時から始まる五年の期間が満了する場合にあっては、同法の施行の時から始まる五年の期間)」と、新民法第九百八条第二項ただし書、第三項ただし書、第四項ただし書及び第五項ただし書中「相続開始の時から十年」とあるのは「相続開始の時から十年を経過する時又は民法等の一部を改正する法律の施行の時から五年を経過する時のいずれか遅い時」とする。

 (相続財産の清算に関する経過措置)

第四条 施行日前に旧民法第九百三十六条第一項の規定により選任された相続財産の管理人は、施行日以後は、新民法第九百三十六条第一項の規定により選任された相続財産の清算人とみなす。

2 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により選任された相続財産の管理人は、新民法第九百四十条第一項及び第九百五十三条から第九百五十六条までの規定の適用については、新民法第九百五十二条第一項の規定により選任された相続財産の清算人とみなす。

3 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定によりされた相続財産の管理人の選任の請求(施行日前に当該請求に係る審判が確定したものを除く。)は、施行日以後は、新民法第九百五十二条第一項の規定によりされた相続財産の清算人の選任の請求とみなす。

4 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により相続財産の管理人が選任された場合における当該相続財産の管理人の選任の公告、相続債権者及び受遺者に対する請求の申出をすべき旨の公告及び催告、相続債権者及び受遺者に対する弁済並びにその弁済のための相続財産の換価、相続債権者及び受遺者の換価手続への参加、不当な弁済をした相続財産の管理人の責任、相続人の捜索の公告、公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者の権利並びに相続人としての権利を主張する者がない場合における相続人、相続債権者及び受遺者の権利については、なお従前の例による。

5 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により相続財産の管理人が選任された場合における特別縁故者に対する相続財産の分与については、新民法第九百五十八条の二第二項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

 (不動産登記法の一部改正に伴う経過措置)

第五条 第二条の規定(附則第一条各号に掲げる改正規定を除く。)による改正後の不動産登記法(以下「新不動産登記法」という。)第六十三条第三項、第六十九条の二及び第七十条の二の規定は、施行日以後にされる登記の申請について適用する。

2 新不動産登記法第七十条第二項の規定は、施行日以後に申し立てられる公示催告の申立てに係る事件について適用する。

3 新不動産登記法第百二十一条第二項から第五項までの規定は、施行日以後にされる登記簿の附属書類の閲覧請求について適用し、施行日前にされた登記簿の附属書類の閲覧請求については、なお従前の例による。

4 第二条の規定(附則第一条第二号に掲げる改正規定に限る。)による改正後の不動産登記法(以下「第二号新不動産登記法」という。)第七十三条の二の規定は、同号に掲げる規定の施行の日(以下「第二号施行日」という。)以後に登記の申請がされる所有権の登記の登記事項について適用する。

5 登記官は、第二号施行日において現に法人が所有権の登記名義人として記録されている不動産について、法務省令で定めるところにより、職権で、第二号新不動産登記法第七十三条の二第一項第一号に規定する登記事項に関する変更の登記をすることができる。

6 第二号新不動産登記法第七十六条の二の規定は、第二号施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合についても、適用する。この場合において、同条第一項中「所有権の登記名義人」とあるのは「民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第24号)附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日(以下この条において「第二号施行日」という。)前に所有権の登記名義人」と、「知った日」とあるのは「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」と、同条第二項中「分割の日」とあるのは「分割の日又は第二号施行日のいずれか遅い日」とする。

7 第二条の規定(附則第一条第三号に掲げる改正規定に限る。)による改正後の不動産登記法(以下この項において「第三号新不動産登記法」という。)第七十六条の五の規定は、同号に掲げる規定の施行の日(以下「第三号施行日」という。)前に所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があった場合についても、適用する。この場合において、第三号新不動産登記法第七十六条の五中「所有権の登記名義人の」とあるのは「民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第24号)附則第一条第三号に掲げる規定の施行の日(以下この条において「第三号施行日」という。)前に所有権の登記名義人となった者の」と、「あった日」とあるのは「あった日又は第三号施行日のいずれか遅い日」とする。

 (第三号施行日の前日までの間の読替え)

第六条 第二号施行日から第三号施行日の前日までの間における第二号新不動産登記法第十六条第二項の規定の適用については、同項中「第七十六条の四まで、第七十六条の六」とあるのは、「第七十六条の三まで」とする。

 (家事事件手続法の一部改正に伴う経過措置)

第七条 第四条の規定による改正後の家事事件手続法(以下この条において「新家事事件手続法」という。)第百九十九条第二項及び第二百七十三条第二項の規定は、施行日前に相続が開始した遺産の分割についても、適用する。この場合において、新家事事件手続法第百九十九条第二項中「十年を経過した後」とあるのは「十年を経過した後(相続開始の時から始まる十年の期間の満了後に民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第24号)の施行の時から始まる五年の期間が満了する場合にあっては、同法の施行の時から五年を経過した後)」と、新家事事件手続法第二百七十三条第二項中「十年を経過した後」とあるのは「十年を経過した後(相続開始の時から始まる十年の期間の満了後に民法等の一部を改正する法律の施行の時から始まる五年の期間が満了する場合にあっては、同法の施行の時から五年を経過した後)」とする。

2 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により相続財産の管理人が選任された場合における特別縁故者に対する相続財産の分与の審判については、新家事事件手続法第二百四条第一項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

3 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により選任された相続財産の管理人は、新家事事件手続法第二百五条から第二百八条までの規定の適用については、新民法第九百五十二条第一項の規定により選任された相続財産の清算人とみなす。

20220502追記

『登記研究』886号、887号、888号、889号、890号(株)テイハン

法務省民事局総務課長 村松秀樹、法務大臣官房参事官 大谷太、法務省民事局参事官脇村真治、東京地方検察庁検事 川畑憲司、法務省民事局付 芳賀朝哉、法務省民事局付 宮崎文康、東京地方裁判所判事 渡辺みどり、弁護士 小田智典、法務省民事局付 中丸隆之、法務省民事局付 福田宏晃「令和3年民法・不動産登記法等改正及び相続土地国庫帰属法の解説1~5」

司法書士白書 2020 年版 会社登記事件数・法人登記等の登記事件数(総数)の推移等

資料:法務省「民事・訟務・人権統計年報」、国税庁「国税庁統計年報書」 2010年以降の会社数は、確定申告のあった事業年度数を指す。 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet…

司法書士白書 2020 年版 会社登記事件数・法人登記等の登記事件数(総数)の推移 https://www.shiho-shoshi.or.jp/galler…

法制審議会担保法制部会   第1回会議 議事録

法制審議会担保法制部会   第1回会議 議事録

http://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003008.html

部会資料1 担保法制の見直しにおける検討事項の例

http://www.moj.go.jp/content/001346936.pdf

参考資料1-1は動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会の報告書

http://www.moj.go.jp/content/001346939.pdf

参考資料1-2「中小企業が使いやすい譲渡担保制度の実現に向けた提案」

http://www.moj.go.jp/content/001346940.pdf

参考資料1-3 事業者を支える融資・ 再生実務のあり方に関する研究会論点整理

http://www.moj.go.jp/content/001346941.pdf

委員等提出資料1-1 メモ(金融庁)

http://www.moj.go.jp/content/001346943.pdf

第1 日 時  令和3年4月13日(火) 自 午後1時29分

                     至 午後4時33分

第2 場 所  法務省第一会議室

第3 議 題  1 部会長の選出等について

        2 担保法制の見直しについて

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○笹井幹事 それでは,予定した時刻まで少しございますけれども,既に皆様おそろいのようでございますので,法制審議会担保法制部会の第1回会議を開会いたします。

  本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

  私は,法務省民事局の笹井と申します。本日は,この部会の第1回会議ですので,後ほど部会長の選出をしていただきますが,それまでの間,私が議事の進行役を務めさせていただきます。

  最初に,資料について御確認いただきたいと思います。まず,部会資料1「担保法制の見直しについての検討事項の例」がございます。こちらにつきましては,後ほど審議の中で事務当局からご説明いたします。次に,参考資料がございます。参考資料1-1は動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会の報告書です。参考資料1-2「中小企業が使いやすい譲渡担保制度の実現に向けた提案」は,中小企業庁から御提供いただいたものです。参考資料1-3「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会論点整理」は,金融庁から御提供いただいたものです。このほか,委員等提出資料として,金融庁から御発言メモをいただいております。以上,御確認いただければと思います。

  次に,部会設置決定の報告でございます。まず,この部会で審議される諮問事項と部会の設置決定につきまして,簡単に御報告いたします。

  本年2月10日に開催されました法制審議会第189回会議におきまして,法務大臣から担保法制の見直しに関する諮問がされました。お手元の資料のうち,右肩に「諮問第百十四号」と記載されたものを御覧ください。

諮問事項はここに記載されておりますように,「動産や債権等を担保の目的として行う資金調達の利用の拡大など,不動産以外の財産を担保の目的とする取引の実情等に鑑み,その法律関係の明確化や安定性の確保等の観点から,担保に関する法制の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものであります。この諮問を受けまして,法制審議会総会では,その日の会議において,専門の部会を設置して調査審議を行うのが適当であるとして,この担保法制部会を設置することを決定したものであります。まず,以上のことを御報告いたします。

  続きまして,審議に先立ちまして,本来であれば民事局長の小出から御挨拶申し上げるところですが,所用のため不在としておりますので,代わりまして担当の大臣官房審議官である堂薗委員より挨拶があります。

○堂薗委員 法務省で民事局担当の審議官をしております堂薗でございます。民事局長の小出が所用により不在にしておりますので,事務当局を代表いたしまして,私の方から一言御挨拶を申し上げます。

  皆様にはそれぞれ御多用の中,法制審議会担保法制部会の委員,幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。

  従来,金銭の貸付け等による債務の担保としては,不動産や個人保証が多用されてきました。他方で,特に中小企業の中には,高い収益性がありながら不動産を有しないものもあることや,個人保証の問題,特に企業の債務を個人で保証した者が過大な責任を負う場合があることが問題視されたことなどを背景といたしまして,不動産や個人保証に過度に依存しない担保取引の必要性が指摘されているところでございます。このような担保取引につきましては,平成30年6月に閣議決定された骨太の方針2018において,「経営支援を強化するため,金融機関による担保・保証に依存しない融資の促進を通じて金融仲介機能を一層発揮させる」とされ,また,令和元年6月の未来投資戦略の成長戦略フォローアップにおきましても,「企業や金融機関からのニーズを踏まえて,動産担保に関する法的枠組みや登記制度の整備について,将来的な法改正も視野に入れて検討する」との取りまとめがされるなど,制度整備の必要性に言及されてございます。

  しかし,民法には担保設定者が所有する動産について,その占有を維持したままこれを担保の目的とすることを内容とする規定は設けられておりません。

そのため,在庫などの動産に担保を設定するための手法といたしましては,明文の規定のない譲渡担保などが用いられております。また,在庫や売掛債権等を担保の目的とするためには,複数の動産や債権を一体として担保の目的とする必要がありますが,設定者が将来取得するものを含む財産の集合体を目的とする担保の取扱いについても民法には規定がありません。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

譲渡担保、集合動産・集合債権譲渡担保に関する条文が民法に組み込まれるのかもしれません。

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 このため,動産や債権等を目的とする担保取引に関する法律関係は,専ら判例法理に委ねられてまいりました。判例は一定程度蓄積されておりますが,なおルールが不明確な場面も残されております。

  このように判例法理に委ねられてきた担保取引に関するルールについて,必要に応じて見直しをした上で明文の規定を設けるとともに,判例によって解決されていない問題について規律を設けることが,担保取引に関する法律関係の明確化,安定性の確保のために必要であると考えられるところでございます。

 そこで,法制審議会において,法律関係の明確化や安定性の確保等の観点から,動産を目的とする担保や債権を目的とする担保を中心として,担保法制の見直しに向けた検討をお願いしたく,今回の諮問がされたものでございます。

  私ども事務当局といたしましても,本部会における調査審議が充実したものとなりますよう努めてまいりますので,委員,幹事の皆様方におかれましては,明確かつ安定した担保法制の構築のために御協力を賜りますよう,何とぞよろしくお願い申し上げます。

○笹井幹事 ありがとうございました。

  それでは,続きまして,委員,幹事及び関係官の方々に自己紹介をお願いいたします。

 (委員等の自己紹介につき省略)

○笹井幹事 どうもありがとうございました。

  なお,本日は小出委員が御欠席,倉部委員は途中,中座されると伺っております。また,横山委員,岩井幹事,森山関係官においては途中で御退席予定と伺っております。

  この機会に,関係官につきまして補足して説明いたします。法制審議会議事規則によりますと,審議会がその調査審議に関係があると認めた者は会議に出席し,意見等を述べることができるとされております。この部会でも従前どおり,関係省庁に対して審議への参加を求めていこうと思っております。そのため,当省の事務当局のほか,最高裁判所事務総局民事局の森山局付に関係官として御参加いただいております。

  続きまして,部会長の選任を行っていただきます。法制審議会令によりますと,部会長は,当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき会長が指名することとされております。この部会は本日が第1回会議ですので,まず,部会長を互選していただく必要がございます。

  それでは,ただいまから部会長の互選をしていただきますが,自薦又は他薦の御意見などはございますでしょうか。

  それでは,井上聡委員から手が挙がっておりますので,井上聡委員から御発言をお願いできますでしょうか。

○井上委員 ありがとうございます。僭越ながら道垣内委員を部会長に推薦したいと思います。道垣内委員は,皆様御存じのとおり,民法について幅広く,かつ深い識見を持っておられます。複雑で多面的な視点を要する担保法の研究においても深い洞察に満ちた成果を数多く発表されておりまして,私自身も日頃より御指導いただいております。そのような次第ですので,道垣内委員には是非本部会での議論の中心となっていただきたく,部会長に推薦したいと存じます。

○笹井幹事 ありがとうございます。

  もう一方,山本和彦委員からも挙手がございますので,山本和彦委員からも御発言をお願いできますでしょうか。

○山本委員 私も井上委員と同じく,道垣内委員にお願いするのが適当ではないかと考えております。今回の問題は担保法制に関するかなり包括的な諮問事項であって,理論的にも実務的にも多々難しい問題を含むものだと思っております。その意味で,今,井上委員から御指摘がありました,担保法自体に対する道垣内委員の識見はもちろんのこと,広い視野から周到な目配りをして,困難な課題について議論を取りまとめていただけるという点で,やはり私も道垣内委員にお願いするのが適当であると考えている次第であります。

○笹井幹事 ありがとうございました。

  ただいま,井上委員,山本委員から,部会長として道垣内弘人委員を推薦するとの御発言がございましたが,ほかに御発言ございますでしょうか。

  よろしいでしょうか。ほかに御意見がないようでしたら,部会長には道垣内委員が互選されたということになろうかと思いますが,いかがでしょうか。

  ありがとうございます。

  異議なしという御意見がございました。ほかにも御意見ないようですので,部会長には道垣内弘人委員が互選されたものと認めます。

  その上で,本日は法制審議会の内田貴会長にも御出席いただいておりますが,内田会長におかれては,いかがでございましょうか。

○内田会長 法制審議会の会長をしております内田でございます。ただいま道垣内弘人委員が互選されましたけれども,担保法の分野における御業績等に照らしましても,私も道垣内弘人委員が適任であると思います。互選の結果に基づき,道垣内委員を部会長に指名したいと思います。

○笹井幹事 ありがとうございました。

  ただいま内田会長から道垣内弘人委員を部会長に指名していただき,これをもちまして道垣内委員が部会長に選任されました。

  道垣内委員におかれては,部会長席への御移動をお願いいたします。

○道垣内部会長 ただいま部会長に指名されました道垣内弘人と申します。井上さん,山本さんから御推薦いただいたのですが,そこにおける推薦の理由に必ずしも納得しているわけではありません。力は及ばないとは思いますけれども,議論を取りまとめるために,微力を尽くしたいと思います。

  先ほど堂薗さんからもお話がありましたように,担保法制の見直しの必要性が高まっているわけですけれども,他方でやはりいろいろなところ,倒産法制にせよ,民法の中にせよ,商法にせよ,いろいろなところに跳ね返りのあるテーマでございますので,かなり丁寧に検討していかなければいけないと思っております。皆さんの御知見をいただいて,何とか取りまとめができるようにしていきたいと思います。

  なお,私はこれまでも法制審議会の部会において委員とか幹事とかをさせていただいておりましたけれども,大体,中間に1回と要綱案が取りまとめられた段階で,昔の言葉でいうとコンパというのですが,懇親会をやっていたのですけれども,最近できないという状況になっております。ちなみに会費制でございますけれども。この取りまとめが終わる頃にはコロナも収束して,要綱案の取りまとめができましたときには心置きなく懇親会ができるという状況であればよいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

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コンパ、時代を感じます。

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  さて,法制審議会令というのがございまして,法制審議会令の6条5項というのがあります。そこでは,部会長に事故があるときには部会長代理が職務を代行するのですが,それをあらかじめ部会長が委員及び臨時委員のうちから指名しておくという仕組みになっております。今後,部会長であります私が会議に出席することがかなわないという場合に備えまして,私としてはこの6条5項に従いまして,部会長代理を指名させていただければと思います。沖野眞巳委員にお願いをするということで指名させていただきたいと思いますけれども,沖野委員におかれましては,お引き受けいただけますでしょうか。

○沖野委員 はい,ありがとうございます。微力でございますが,努めさせていただきます。くれぐれも事故のないようにお気を付けていただきたいと思います。よろしくお願いします。

○道垣内部会長 それはお互いかもしれませんけれども。では,沖野委員に部会長代理を引き受けていただきましたが,そこで審議に入るわけなのですが,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについてお諮りをしておきたいと思います。

  まず,現在の法制審議会部会における議事録の作成方法につきまして,事務当局から御説明いただきます。

○笹井幹事 法制審議会の部会の議事録における発言者名の取扱いにつきましては,かつては発言者名を明らかにしない形で逐語的な議事録を作成していた時期もありましたが,平成20年3月に開催された法制審議会の総会におきまして,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において部会委員の意見を聴いた上で,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという取扱いに改められております。

 御参考までに申し上げますと,この総会の決定後に設置されました民事法関係の部会では,いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成するものとされております。したがいまして,この部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとするかどうかを御検討いただく必要があるのではないかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  それでは,笹井幹事からの御説明につきまして御質問,御意見がございましたらお願いいたします。

  特段,御意見はないと考えてよろしいでしょうか。といたしますと,部会長の私といたしましても,当部会における審議事項の内容等に鑑みて,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにしたいと思いますが,いかがでございましょうか。

  よろしゅうございますでしょうか。では,そういうことで,当部会につきましては発言者名を明らかにした議事録を作成することとしたいと思います。

  それでは,本日の審議に入りたいと思います。

  本日はまず,皆様に今回の担保法制の見直しにつきまして,幅広いテーマになりますので,それぞれの問題意識やこの部会の進め方について自由に御発言をいただくフリートークをお願いしたいと思います。個々的な論点に関して,こう在るべきだというふうな話はこれからどんどん詰めていくわけですが,全体としての,こういうふうな形で進めていくべきである,こんなことを考えるべきである,あるいは,これから笹井幹事から部会資料1について御説明いただきますけれども,そこに書いてあること以外にこういうことも必要だとか,あるいは,こういうふうな方向が必要なのではないかとか,そういうふうなことにつきましていろいろな御意見をいただければと思います。

  そこに先立ちましてというか,前提といたしまして,事務当局から部会資料1に基づいて説明をしていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

○笹井幹事 それでは,部会資料1につきましてご説明いたします。部会資料1を御覧ください。

  まず,第1,基本的な視点についてです。先ほど堂薗委員からの挨拶にもございましたように,これまで大きな役割を果たしてきた不動産担保や個人保証に過度に依存しないように,多様な資金調達手法を整備する必要があるということが指摘されておりまして,在庫などの動産や売掛債権などの債権が担保の目的として活用できるのではないかと言われてまいりました。

  しかし,民法には,設定者が所有する動産の占有を維持したまま,これを担保の目的とすることを予定した規定はなく,設定者が将来取得するものを含む複数の動産を一体として担保の目的とすることを予定した規定もございません。

 このため,実務では,所有者が引き続き占有する必要がある動産を担保とするためには,譲渡担保や所有権留保などのいわゆる非典型担保が用いられてきました。また,債権,さらにそれ以外の財産を担保とするための手法としても,実務上は譲渡担保が利用されてきたところです。これらの手法につきまして,現在は専ら判例によってルールが形成されておりますけれども,その射程がどこまで及ぶかが必ずしも明確でないことも多く,また,判例がルールを示していない論点も残されているという状況でございます。このため,法律関係の明確化,安定性の確保等の観点から,動産,債権を目的とする担保を中心として,担保に関する法制の見直しが必要であるという認識から,今回,諮問に至ったものでございまして,こういったことが今後の検討に当たっての基本的な視点になるのではないかと考えております。

  こういった問題意識に基づきまして,担保法制についてこれから御議論をお願いしていくわけでございますけれども,議論する必要があるのではないかと考えた具体的な論点を第2以下に記載しております。

  まず第2,総論―担保法制全体の構成ですけれども,これは第3以下とも少し異なっておりまして,個別の論点というよりは,担保法制全体をどのように構成していくのか,どのようにその全体を設計していくのかということに関わる点でございます。この担保法制全体をどのように構成していくかを考えるに当たりまして,幾つかのポイントがあるのではないかと考えまして,そのポイントを差し当たり三つ挙げたものでございます。

  一つ目は,どのような財産を目的とする担保制度を設けるかということでありまして,先ほど申し上げましたように,動産,債権が中心になってくると考えておりますけれども,それ以外の財産を取り込む必要があるのか,取り込むとして,どのような財産を対象としていくのかという,その対象の範囲の問題でございます。

  二つ目は,今申し上げました一つ目とも関係しますけれども,担保制度の種類や形式についてでございます。財産の種類などに着目して,例えば動産や債権といった財産の種類に着目して別々の担保制度を作るのか,あるいは,担保という機能を有する取引について広範に適用される統一的な適用範囲の広い担保制度を一つ作るのかといった問題ですとか,あるいは,少し違った視点ですけれども,抵当権や質権と並ぶ新しい担保物権を典型担保物権として作るのか,あるいは現行法の譲渡担保などの形式を残しまして,担保目的で財産権を移転する,あるいは留保する場合にこういう規定が適用されるというような形で規定を設けていくのか,そういった形式もあるかと思います。こういった二つの問題を取り上げてございます。

  三つ目は,対抗要件制度,それから登録制度の在り方でございます。先ほど二つ目のポイントについて御説明申し上げましたけれども,担保目的で財産権を移転する,あるいは留保する場合に適用される規定を設けた場合,所有権の移転についての対抗要件が必要になってくるわけですが,それに加えて,担保目的の取引であることを示す何らかの登記等の制度を設けるべきか,また,そういったものを設けた場合に,その登記・登録制度をどのような効力と結び付けるのかといった問題があろうかと思います。

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こういうものも考えられているようです。

ETH、Solidity、Remixを利用した譲渡担保プログラムの解説

https://github.com/gurunbox-contracts/contracts/tree/main/youtube

  ほかにも担保法制全体を検討するに当たって大きな視点があるかもしれませんので,そういったものがございましたら,後ほど御指摘いただければと思っております。

  続きまして,部会資料1の第3以下は,より個別具体的な論点を挙げたものでございます。今,部会長からもございましたように,それぞれの論点につきましては次回以降,もう少し詳しい資料を作成いたしまして,一つ一つ御議論いただければと思っておりますので,今回は簡潔な説明にとどめさせていただきたいと思っておりますけれども,大きく言いまして,担保の実体的な効力,それから,第三者への対抗やこれに関連して担保権が競合した場合の優劣関係の定め方,第3に,担保の実行方法,第4に,担保の倒産法上の扱い,その他といった,大きく言えば五つくらいの領域に分類できるのではないかと思っております。

  まず,第1の実体的な効力につきましては,例えば,目的物の使用収益権限がどちらにあるのかということですとか,物上代位の可否,物上代位を認める場合にどのような代替物に対して物上代位をすることができるのかということですとか,あるいは,いわゆる集合動産ですとか集合債権が担保の目的となった場合にどういった規律が妥当するのか,そういったものを予定した場合にどのような規律が必要になるのかといったところが,実体的な効力に関しては問題になるのかなと思っております。

  また,第2の対抗要件制度や担保権の優劣関係につきましては,現在の動産譲渡担保の対抗要件である引渡しのうち,特に占有改定につきましては公示性が乏しいという指摘がございまして,対抗要件制度を全体としてどのように設計していくのかということが問題になってこようかと思います。また,同一の財産権について,例えば同一の動産について,複数の担保権が競合するという場合が考えられるのではないか,これは同種の担保が競合するだけではなくて,先取特権,質権あるいは現在の譲渡担保などをいろいろな形で組み合せることが考えられるかと思いますが,複数の担保が同一の財産について設定されたといった場合に,競合した担保の優劣関係をどういう基準で判断していくのかということが問題になってこようかと思います。

  この点につきまして,現在は対抗要件の具備の先後によって優劣関係を決めるということになっているのだと思いますけれども,こういった対抗要件具備の先後によるという考え方を維持するのか,あるいは,第三者対抗要件とは区別された基準を設けて,それによると,第三者対抗と担保同士の優劣関係については別の考え方によって定めていくという考え方もあり得るところかと思っております。

  なお,資料では担保所有権という言葉を用いておりまして,これは講学上,特に確立した概念というわけではございませんけれども,現在の譲渡担保や所有権留保がされた場合に,担保の目的の範囲で債権者が取得したり留保したりといった所有権を指す言葉として用いました。これは,私どもも参加しておりました動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会の中で用いられている概念ですけれども,ここでは譲渡担保や所有権留保を包摂する概念として表現として便利であったために,使わせていただきました。ただ,事務当局として,立法に当たってこの概念を使うという方針が決まっているというわけではございません。

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所有権留保も含む担保所有権。

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  それから,冒頭に五つほど大きな領域があると申し上げましたけれども,三つ目の担保の実行についてでございます。実行につきましては,私的実行の可否,これに加えて,裁判所の手続を利用することの可否などが問題になってくるかと思いますが,そのほか,いわゆる後順位の譲渡担保などが許容される場合に,後順位の担保を有する債権者が実行することがそもそもできるのか,あるいは,実行できるとしてどのような要件で実行することができるのか,また,動産が目的となっている場合には,短期間に価値が大きく下落する場合があるというような特質もございますので,こういった特殊性を考慮して,引渡しなどの実効性を確保するための方法を設計する必要があるかといったところが問題になるかと思います。

  さらに,集合動産や集合債権といった財産の集合体が目的である場合に,その担保をどのように実行していくのかということも問題になってくるかと思います。

  第4の大きな領域として,担保の倒産手続における取扱いがございます。ここに属するものといたしましては,担保権実行手続中止命令に関する論点として,例えば,実行着手前に発令することができるのかといったことですとか,発令前の審尋が必要的であるのかというような問題,あるいは流動的な集合物,集合債権が目的である場合に,倒産手続後にその範囲内に加入してきた新たな動産や債権といったものに担保の効力が及ぶのかといった問題を検討する必要があるかと思います。

  最後に,その他ですけれども,問題となり得るものとして,預金担保,ファイナンス・リース,包括担保制度を掲げました。これらにつきましても,またおいおい詳細に御検討いただく機会を設けたいと思いますが,包括担保につきまして,後ほど金融庁からも御説明があるかと思いますけれども,どういった場面を想定しながら,どういった効果を期待することができるのか,また,その具体的な制度設計につきましては,他の特定の担保の扱いや他の取引との関係等,細かく制度設計をしていく必要があろうかと思いますので,そういった点につきまして今後,議論をお願いするということになろうかと思います。

  最後に,担保法制につきまして以上のような論点を一例として挙げさせていただきましたけれども,ほかに検討すべき事項がありましたら,今日の機会に御指摘いただければ,事務当局において検討させていただきまして,部会に資料として提出させていただくということになろうかと思います。

  簡単ですけれども,部会資料1につきましては以上でございます。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  これから御意見いただくわけですが,少しその前に一言だけお話をしておきたいと思います。1時半から5時半という形で時間が設定されておりますが,4時間連続して行うというふうな非人道的な行動をとるということは一般的にはありませんで,4時間ですので,やはり2時間見当で1回お休みを取るということにしたいと思います。そこで,3時半までをまず第1回のセッションとして考えたいと思うのですが,それは一応でありまして,3時15分からお休みに入っても,3時45分からお休みに入っても,それは適宜やります。ともかく,ずっと続くわけではないということだけは最初に申し上げておきたいと思います。

  そこで,ただいまの笹井幹事の御説明につきまして,御質問や御意見ないしは補足点等がございましたら,お伺いしたいと思います。どなたからでも,どの観点からでも結構でございますので,御自由に御発言いただければと思います。よろしくお願いします。

  金融庁からお手が挙がっているようですが,尾﨑さんですか。よろしくお願いします。

○尾﨑幹事 ありがとうございます。少々お時間をいただきまして,発言させていただきたいと思います。

  金融庁は,金融機能の発揮を通じて経済の成長に貢献することを仕事としています。この部会においては,特に事業者の成長のために融資実務がどう在るべきか,融資実務を形作る重要な要素である担保法制はどうあってほしいかという立場から発言させていただきたいと思います。金融庁ではこうした観点から,昨年末に事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会を設置し,論点整理を公表しています。お手元の参考資料1-3を御覧ください。

  本日はこの論点整理を踏まえつつ,3点,求められる融資実務,担保法制への提案,論点整理後にいただいた御意見について御紹介したいと思っております。お手元にあります「メモ(金融庁)」とあります1枚の紙を御覧いただけますでしょうか。

  まず,1番目の求められる融資実務というところですけれども,この融資実務はどう在るべきかという点から議論したいと考えています。以前より金融機関は不動産担保や経営者等の個人保証に依存し,事業者の事業そのものをよく理解していないのではないか,また,過去の財務データを重視し,事業の将来性を十分に評価していないのではないかという指摘がされてきました。その結果,担保が十分でなく過去の実績がない借手,例えばベンチャー企業や新規分野などに思い切って事業を拡大したい企業,経営の悪化した企業などに対してリスクマネーが行き渡らない,資金以外の支援が行われにくい,あるいは再生局面で再生支援の着手までに時間が掛かっている上に,貸手の利害が錯綜するため調整に更に手間取り,その間に事業価値が毀損してしまい,かえって再生が困難になることもあるといった課題が存在し,企業の生産性向上や経済の成長を必ずしも後押しできていないのではないかと言われています。

  こうした課題を克服するために求められるのは,事業者の事業の実態と将来性を深く理解し,事業の将来のために必要な資金を出すとともに,資金を出した後も事業が成功するよう継続的に支援を行う金融機関の職員です。そして,そうした融資や支援が可能となるノウハウ蓄積と体制整備を行う金融機関です。こうした取組を進める金融機関,そして金融機関の職員が増えれば,ベンチャーを含めた成長企業にリスクマネーが供与されやすくなります。事業価値の維持・向上という方向性で一致した債権者間の調整が容易になり,早期の再生が可能となります。その結果,我が国の企業の生産性の向上,経済の成長を後押しすることになります。

  次に,2の担保法制への提案を御覧ください。まず,※の注にありますように,金融機関においては近年,事業者の事業の実態や将来性を理解し,事業者のニーズに沿った支援を行うよう努力されています。事業性評価とか伴走型支援と呼ばれているものです。金融庁も,90年代の金融危機の時代などには厳格な資産査定や資本規制を通じた健全性確保に重点を置いていましたが,その後,検査マニュアルを廃止するなど,今申し上げたような金融機関の多様な創意工夫を後押しすることにも重点を置いています。金融庁としては,金融機関が事業の実態や将来性を理解し,事業者のニーズに沿った支援を行えるよう,環境の整備という方向性を更に追求していきたいと考えています。

  その上で,こうした取組を進めるためには制度的な裏付けも必要であると考えています。特に担保法制は融資実務を形作る重要なインセンティブであり,金融機関及び金融庁の取組が成功するか否かにも大きな影響を与えるものと考えています。現在の担保法制は,個別資産に対する担保を中心としていると理解しています。こうした法制の下,金融機関は融資の担保として個別の不動産を利用することが多いのが実情です。このほか,経営者の生活住居の担保や個人保証も使われています。不動産や個人資産は事業そのものとは独立した価値を持っているので,清算したときの債権の保全としての効果を期待しているわけです。そのため,清算したときにも貸し倒れないようにという観点から,融資の実行時から担保価値の範囲内の融資額かどうかといったことが重要視されてきたと理解しています。

  しかしながら,こうした側面が強く出すぎると,事業の価値を向上させるために必要な資金を出す,事業の価値を向上させるために資金以外の支援も行うという金融機関の動機が弱くなってしまいます。極論すれば,事業者が必要としているかどうかに関わらず,担保や保証の価値に見合った資金を出す,あるいは,事業者が苦しいときでも担保や保証で回収できるので,事業者を支援する必要はないということになりかねません。また,再生局面でも,場合によっては事業の継続よりも不動産抵当権を実行するインセンティブが働く可能性もあります。また,担保価値の範囲内の融資額かどうかが重要であれば,動産や債権を担保とする融資も,その資産の価値が乏しい場合には少額しか融資できないことになります。特に中小企業の場合には少額になりやすく,そうすると,評価のコストや手間の方が大きくなることから,活用も限定的になっていると言われています。

  このように,担保法制の在り方は融資の実務,考え方に大きな影響を与えます。そこで,事業を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会では,新たな選択肢として,事業そのものを担保とすることを可能とする担保権を提案し,この担保権をその目的を踏まえて事業成長担保権と呼んでいます。動産,債権のほか,契約上の地位,知的財産権,のれん等を含み,将来発生するものも含まれるものと考えています。事業が継続していれば,事業から将来生ずるキャッシュフロー全てを担保の目的とすることになり,冒頭で申し上げた,事業の実態と将来性を理解し事業の将来のために必要な資金を出すという金融本来の在り方と担保の在り方が一致し,金融機関に対して事業価値の向上という事業者と同じ方向を向いて支援をする強力なインセンティブを与えることになります。経営が困難に直面した場合も,不動産担保や個人保証の場合と比較して,金融機関には早期に支援を行い,事業価値を回復するインセンティブが強くなります。また,そうならないように日頃から事業者をしっかりと支援することにより,健全な経営が促され,経営難に陥りにくくなることが期待できます。

  担保法制というとデフォルトに陥った場面に目が向きがちですが,事業成長担保権の最大の意義は,デフォルトに陥らないような支援が行われることにあるともいえます。

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事業成長担保権。初めて聴きました。

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再生局面でも,事業者が事業全体に担保を設定すれば,個別の不動産,動産にばらばらに担保が設定された場合と比較して,事業者と債権者の利害が一致しやすく,また,事業価値が毀損する前に経営改善,事業再生を支援することが,事業者だけでなく担保権者にとっても利益になるため,早期の事業再生が促されると考えられます。

  このように,事業の将来性を評価して資金を出し,事業の成長のための支援を行う融資実務が実現すれば,デフォルトの可能性を抑えることができます。また,仮にデフォルトに至ったとしても,早めの支援を通じて事業をいかすことにより,貸倒れを抑えることも可能になります。そのため,金融機関が事業者の成長や再生のためにより積極的にリスクを取ることが可能となり,そのための目利き力を養うことも合理的になります。

  海外においてはこのような実務が見られます。ベンチャー企業が全資産を担保にリスクの高い融資を調達する例があります。中小企業融資では,全資産を担保に融資し,密度の濃いモニタリングを行い,経営が悪化すると素早く支援を行うようです。単純な比較はできませんが,担保法制について参考にすべき点があるように思います。海外だけでなく日本でも,内田会長の御論文ですとか,今般の中小企業庁における提案にも見られるように,議論も蓄積されております。日本の事業者,金融機関に十分な選択肢を確保するためにも,是非取り上げて御検討いただきたいと考えております。

  最後に,研究会の論点整理の公表後に有識者や実務家からいただいた御意見を幾つか紹介したいと思います。3.の論点整理公表後に有識者や実務家からいただいた御意見のところを御覧ください。

  前向きな御意見としては,事業者を中心に,まず,メインバンクが明確になるというものがありました。中小企業は安定的な資金供給等の支援を行うメインバンクを求めている,事業成長担保権により金融機関を順位付けすることでメインバンクが明確化できるとよい,金融機関の職員は一人で多くの事業者を担当しているが,事業成長担保権を設定することで,金融機関にとっても自社の優先順位が決まり,自社の実情を理解した対応がされるようになるとよい,また,経営者としての挑戦や再チャレンジの後押しが期待されるというものもありました。不動産等の資産を持たない事業者が融資を受けるためには,現在でも経営者保証を求められるところ,家族との生活を危うくさせるようなリスクまでは負えないという経営者は多い,事業成長担保権を通じて経営者保証の負担を負わずに融資を受けられるようになれば,起業や事業承継も前向きに考えやすくなるという御意見もありました。

  他方,再生実務家や金融機関の方を中心に,慎重な御意見もありました。その一つは,まだ見ぬ世界であり,時間が必要というものです。例えば,事業成長担保権を活用した融資実務は日本の金融機関にとってまだ見ぬもの,例えば業務分担や人事評価制度,人事ローテーションなどを含め,人材育成や組織体制の整備のために相応の時間が必要になる,といった御意見がありました。また,既存の制度・実務との整理が必要というものもありました。例えば,民法典ではなく,財団抵当法や企業担保法などの特別法によることを考えるべき,あるいは,活用したいと思う金融機関から使い始めて,顧客に金融機関を選んでいただくというのが望ましい,実務の混乱を避けるためにも不動産担保や経営者保証の融資といった現状の実務は否定すべきではない。こうした御意見がございました。

  金融庁といたしましても,頂戴した御意見も踏まえつつ検討が進められれば有り難いと考えております。

  最後に,事業成長担保権を立法するとなれば,実務上の運用を含め,乗り越えるべき点が多いことは理解しております。しかし,海外でできていて日本でできないということはないのではないかと考えています。当然ですが,担保法制だけで全てが解決できるわけではありません。しかし,海外の例を見ても,担保法制が重要なインセンティブの一つとして機能していることは確かです。また,現状の実務とはかなりの距離があることも理解しています。しかし,現状を維持すべきことは常に正しいわけではないとも考えています。10年,20年先を見据えて,是非この部会でも取り上げていただいて,前向きに御検討いただければと存じております。

  長くなりましたが,ありがとうございます。

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やっぱり担保というと金融機関と事業者の関係になるのですね。

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○道垣内部会長 どうもありがとうございました。非常に説得的なプレゼンテーションだと思います。今後どのような形でそのお話を位置付けていくのかということについては,皆さんの御意見を伺いながら整理をしていきたいと思います。

○尾﨑幹事 ありがとうございます。

○道垣内部会長 では,ほかに何か御意見はございませんでしょうか。

○鈴木委員 地方銀行協会の鈴木でございます。いきなり金融の実務の話になりましたので,せっかくですので発言させていただきます。

  私,先ほど申しましたけれども,銀行員生活の3分の2が営業の現場におりまして,融資実務に携わってまいりました。正しくアフターコロナにおいては,政府の支援策が順次終了することが想定されますので,今まで以上に金融機関が創意工夫とか目利き力を発揮しながら取引先を支える必要に迫られていると認識しております。私もABLなどの融資形態に時に触れてまいりましたけれども,やはり法律が定まっていないところもありまして,オーダーメードの契約書を多数作成する必要があるなど,決して使い勝手がよいものではなかったと認識しております。今回は現場の代表でございますので,私自身がより積極的に活用する気になるかとか,腹落ちできるかといったところを気にしながら臨んでいきたいと思っております。

  新たな枠組みとしての包括的な担保制度,包括担保については,取引先企業の事業成長について金融機関が利害を共にするというものでございますので,そういった枠組みと捉えております。やはりここ何十年,失われた時代ともいわれていますけれども,活力ある企業が次々と育つアメリカのような状況,そうなっていくためには一つの選択肢になるかもしれないと思っております。

  私ども地銀協は全国64行から,いわゆる第一地方銀行といわれているところになりますけれども,その中に融資部会というのがありまして,そこの21行で機動的に意見集約をしながらこの会に臨んでいきたいと思っております。包括担保については,どのような場面で活用が考えられるかといったところを意見集約しましたところ,ベンチャー企業とか事業承継,それから再生支援,そういった局面で活用できるのではないか,そういった声が多く上がりました。議論すべき点は非常に多いと考えておりますけれども,リレーションシップバンキングを担う地域金融機関においては想像以上に関心が高い,そういうテーマであることを御紹介しておきます。

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金融機関については、まずは自行が利益を出す、その後に事業者の中で成長する企業が出てきたら良い、という考え方についてブレないと思います。

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○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかに御意見,御質問いただければと思います。

○大西委員 包括担保の話が出ましたので,少し発言させていただきます。

  私は元々弁護士時代に会社更生などの法的整理,その後,産業再生機構時代以降は私的整理の方でずっとやってまいりました。その中でやはり感じるのは,担保も明確になっているものと,不明確なものが結構あって,もちろん動産担保もそうですが,例えば代表的には,ここに書かれているファイナンスリースは,会社更生では更生担保権で扱いますが,私的整理では全くらち外となっています。金融機関の方が融資をする際には,予測可能性がある担保制度というのは非常に大事であり,今回の主題である譲渡担保も,これまでは判例の中で勉強してきたのですが,そこを明確化するというのは非常に意義が深いことかなと思っております。

  それから,もう一つ,包括担保の件で申し上げますと,やはりかつてのように製造業のように,いわゆる工場等の施設を持った産業が主流の時代ですと,従来の不動産担保というのがなじみやすかったと思うのですが,今主流となって増えているのはサービス業ですよ。しかもITとかそういう企業になりますと,不動産もないし,場合によっては動産もなく,権利若しくは事業ということが重要となり,企業によって何に価値があるかというのが多様化していると思います。そうすると,やはり担保制度もそれに合わせていろいろな選択肢が必要であり,その一つが事業の担保だと思うのです。そういうことが,ひいては金融機関も担保を付けて融資をしやすくなるし,例えば事業再生に至った企業であれば,そういう担保を入れることで,先ほどのお話もあるように,個人保証によらない融資が主流となり,経営者も安心して事業に専念できることになります。そういう意味で事業の担保というのは意義深いと思います。先ほど申し上げたように,どういう業種の企業が最近増えてきているのか,そして何に対して担保価値を見いだすべきなのかを踏まえて,担保制度を考えることが,本質的な考え方だと思います。私どもは実務家ではありますが,そのような考え方に即した議論がなされれば有り難いと思っております。

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IT企業はその分初期投資などが製造業などに比べて少額で済み、担保を付けるほどの借り入れを必要としない場合もあると思います。

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○道垣内部会長 どうもありがとうございます。

  ほかに,御自由に御発言いただければと思いますが。

○井上委員 ありがとうございます。今の御発言と重なるところがあるかもしれないのですけれども,3点ほど申し上げたいと思います。

  一つ目は,バランスを考える必要があるということです。担保権というのは設定者が持っている様々な財産,あるいはそこから生ずるキャッシュフローの一定の範囲を排他的・優先的に確保する権利だと思うのですけれども,それが今までは不動産に偏りすぎていたところ。今,大西委員がおっしゃったように事業が多様化する中で,より広いといいますか,在庫のような流動性のある動産ですとか売掛債権のようなもの,さらには事業そのものをつかまえることが必要になってくるという問題意識は,私もそのとおりだと思います。

  ただ,そういう形で,資金調達のために担保権者に対して排他的・優先的に提供できる範囲を広げていくという観点ばかりですと,それは,一般債権者,あるいは取引債権者に何が引当財産として残るかということの裏返しでもありますので,そういう意味では,事業再生フェーズになったときに何も残らないということでは,これまた困るというわけでして,その意味では,不動産から動産・債権に対象を広げていく,あるいは事業性のある資産に広げていくという発想とともに,むしろ何を残すのかという視点も併せて考える必要があり,そういう点で,冒頭申し上げたバランスというのが1点,申し上げたい点ということになります。

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  2点目は,担保というのは優れて実務的な道具ですので,そういう意味では融資実務をどうしていくかに関わる問題ですが,その際に制度としての簡易,迅速,廉価というのは非常に重要なポイントになると思います。ですので,取り分け,対抗要件制度ないし公示制度といった制度を議論する際,それ以外には実行段階もそうかもしれませんが,手続的に重くなりすぎないようにして,簡易であり,迅速であり,かつコストが安いということも,この担保法の改正が成功するためには非常に重要なポイントになるのではないかと思うので,議論のときに,そういったことを念頭に置くことも忘れてはいけないと思います。

  あと,もう1点申し上げたかったのが,大西委員が先ほどおっしゃった予測可能性でして,先ほど申し上げた,排他的・優先的に担保権者が確保できる範囲を広げるか,狭めるかという問題とともに,どう明確化するかという視点がないと,どちらからも萎縮してしまって無駄になってしまう部分が出てきてしまうと思います。ですから,設定者の財産,あるいはそこからのキャッシュフローのどこまでが担保権者のもので,どこまでが一般債権者,あるいは取引債権者,あるいは設定者自身に残されるべきかということについての予測可能性があること,フェーズが変わって事業再生あるいは倒産に至ったときも,担保権者がどこまで取れて,どこからは取れないことが分かるという明確さ,あるいは予測可能性も非常に重要だと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  それでは,何人かから更に手を挙げていただいておりますので,大澤さん,お願いいたします。

○大澤委員 大澤でございます。今の井上先生の1と3に対する補足になろうかと思いますが,私は実務においては倒産実務家の側面が強いものですから,事業成長というための包括担保というアイデアそのものについて大きな異論があるというわけではなくて,どちらかというと,やはりバランス,特に事業再生前に包括担保が設定されたものについて,破産は少し話が違うかもしれませんが,事業再生,民事再生,ADR,あるいは会社更生等で事業再生に至ったときに,担保権者がどこまで手を伸ばせるのかと。もちろん先ほどお話のあった,今回の担保法の中でも第6でしたか,その辺りで確か出てきていたと思いますけれども,固定化というような概念等も含めて種々議論がなされているところだと思っております。もちろん一般取引債権者,あるいは再生債務者そのものの再生という観点から,倒産法のフェーズにおいてどこまで制限されるべきなのか,きちんと線引きをしておかないと,都度,都度,倒産実務家としては交渉という話になってしまうと,予測可能性ももちろん担保できませんし,取引債権者等が被害を被るというようなことにもなりかねないとも思っておりますので,そういった倒産の場面における担保法制とのバランスというものについては,今後も議論を是非させていただきたいと思っております。

  簡単ではございますが,以上です。

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弁護士の先生は、最後の執行の部分。執行が出来ないと担保を設定する意味がなくなります。不動産担保が普及する要因でもあります。

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○道垣内部会長 ありがとうございます。

○本多委員 先ほど,井上委員,それから大澤委員からもバランスというお話がございましたが,これについて金融実務に照らして補足させていただければと存じます。間接金融を担っている銀行の立場において,ファイナンスを提供させていただく場面というのは貸付けの場面だけに限られなくて,例えば,保証やLCという信用補完を提供させていただく場面とか,デリバティブ等のリスクヘッジ商品等を提供させていただく場面においても,与信をさせていただくことになります。そういう与信者サイドにおける様々な金融商品間における,それから与信者同士の間における競争関係や,競争環境にも配慮して,バランスというものを考慮する必要があると考えています。一方で,受信者サイド,ファイナンスを受ける事業会社サイドにおいても,受信をする方法は金融機関からの借入れに限られるわけではなくて,社債の発行だったり,株式の発行だったり,商取引におけるファイナンス,それから,リース等を活用してファイナンスを得るということもあるわけでございまして,こうした様々なファイナンスの局面を想定しながら,ある一定のファイナンサーに対して強力な排他的な権利を与えた場合の影響について,全体のバランスを考慮しながら検討しなければならないと考えております。

  もう一つ,補足をさせていただきますと,特に事業会社の成長のライフサイクルを考えた場合に,当初,シードから発生し,それからだんだん大きくなっていくという過程において,アーリーステージにおけるファイナンスのための強力な担保権が必要になることがあるかもしれないのですが,成長の過程において,強力すぎる担保権があることによって資金調達をかえって害してしまうということにも配慮しないといけないことがあるかもしれません。その後,更に成長していって,健全なファイナンスに関する競争の中で,そういう強力な担保権が外れるということもシナリオとして想定されると思われるのですが,その後,今度は逆方向に衰退していくという状況が生じた場合に,また強力な担保権が必要になってくるということがあるかもしれません。その局面において,例えば複数の金融機関からファイナンスを得ていた場合,窮境にある会社に対するファイナンスが強力な担保権を付与された者によりロールアップされていく過程というものがどうやって生じるのかということも慎重に議論する必要がありそうなのかなと思っております。そうしたファイナンスにまつわる与信者,それから,受信者における実務面にも配慮しながら,強力な担保権が生まれるということの影響がどうなっていくのかということについては,慎重に考慮しなければならないと考えております。

  一方で,尾﨑幹事からも御指摘のありました,事業の実態や将来性を深く理解した上で事業者のニーズに沿ったファイナンスの支援ができるという命題自体はとても大切なことですし,金融機関として引き続き真剣に考えていかなければいけない課題であると思っています。それから,10年,20年の将来を見据えた,よりフォワードルッキングな担保法制というものを金融機関としてもしっかり考えていかないといけないというところは深く共感しておりますし,そういう方向感で議論に参画できればとも考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  ほかに御発言はございませんでしょうか。最初の回でございますので,なるべく多くの方にそれぞれのお考えないしは気になっているところ等のお話をしていただければと思うのですけれども,いかがでしょうか。

○山崎委員 私,改めて申しますけれども,中小企業の立場で参加させていただいて,多分この中で行くと,ほとんど数少ない借手,債務者になる可能性のある企業でございます。また,商工会議所からの推薦で今回,来ているのですけれども,商工会議所って全国で122万社の会員様がいて,そのうちの95%の116万の会員様が中小企業基本法の範囲に当たる,いわゆる中小企業でございます。大体,身近でそういう方々と話していると,現状でもある規模以上の企業でしたら現状の法制を使いながら,こういった譲渡担保のなどの技術を使いながら,いわゆる不動産担保以外の資金調達ができるかと思うのですけれども,全くそんなものにほとんど,ファクタリングとか商手割引ぐらいしか知らないのが大体,実情だと思います。

  それで,先ほど井上先生がおっしゃられたように,今度こういうものが動産担保等に,そういう法制が作られるとすると,やはり簡素で迅速で廉価というのは非常に大事だと思います。特に廉価というところが,先ほどのABLとかそういうものというのは割とコストが掛かるかと思いますので,いわゆる貸金が小さい,銀行さんから見てですね,そういうところにそれだけのコストを掛けられないので,その辺を法律で簡素,迅速,廉価というものを何とか担保していただけると有り難いと思います。

  簡単ですけれども,以上です。

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分かりやすさと実感が伴うもの、費用、大切だと思います。

  • 000万円以内。

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○道垣内部会長 ありがとうございます。

  ほかに御意見等はございませんでしょうか。

○伊見委員 日本司法書士会連合会の伊見でございます。まず,動産と債権担保に関しましては,皆様御発言いただいておりますとおり,特に不動産を保有しない企業にとって,本来有益な資金調達手段であるということではありますが,今一つその利用というのが十分になされていないと承知をしております。その要因の一つとしまして,動産譲渡担保におきましては隠れた占有改定の問題であったり,その他,法的効果が不明瞭である点など,制度上の課題があるということを認識しております。今般この部会におきましてこれらの課題が検討されるということは,とても有意義なことであると考えております。

  司法書士は日常的に,融資実行に際しまして担保の実務に関わっておりますし,融資後の途上与信におけます担保内容の変更であったり,担保の解除の局面においても役割を担っているところでございます。今回検討されます新しい制度が融資実務の中でスムーズに機能するものとなるよう,ひいては多くの企業にとって動産や債権の担保を活用した資金調達がこれまでのように特別なものではなく,資金調達を考える際の普通の選択肢の一つとなるように,実務の立場から議論に参加をしてまいりたいと考えているところでございます。

  一方で,このたびの担保法制に関する見直しの検討の範囲につきまして1点,申し上げたい部分がございまして,それは工場抵当や各種財団抵当,そして各種動産抵当の制度につきましても,一定の範囲で,できましたら今回の見直しの検討の範囲に含めていくべきではないかと考えている点でございます。

  その理由といたしましては,例えば設備等の個別動産を担保の設定をし,融資をしようとする場合に,当初から譲渡担保を用いるということを決め打ちをするということは必ずしも行われていなく,実際には譲渡担保や工場抵当,財団抵当,動産抵当制度といった様々な選択肢を想定し,これらのメリット,デメリットを比較した上で,最終的にどの手続を採用するかを判断するということが行われているかと思われます。したがって,個別動産についての非占有型の担保を議論するに当たりましては,譲渡担保や所有権留保だけではなく,先ほど申し上げたような隣接する制度についても,例えば競合した場合の法的効果やそれらの制度の制度自体の内容についても,可能な限り今回の議論の対象に含めていただきますと,動産債権譲渡の担保もより取り組みやすい環境につながっていくのではないかと考えているところでございます。

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個人的には、可能であれば一本化して欲しいと思います。

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○道垣内部会長 ありがとうございました。

  工場抵当の話が出ましたので,一言だけ申しますと,諮問第百十四号というものに基づいて本部会が行われるわけですが,この文章においても,不動産に関連することについては一切扱わないというふうになっているわけではないと思います。しかし,それでは抵当権等も全面的にこの部会で見直すのかといいますと,それは恐らく,一度にやるのには難しい,今回は動産や債権等を担保の目的として行うというところに重点を置いて審議をするということになろうかと思います。

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  ただ,伊見さんがおっしゃいましたように,例えば工場抵当になりますと,財団目録に記載されている動産の工場抵当権の効力の問題と,当該動産なら動産,ないしはのれんとかも含まれるわけですが,動産なら動産を1個担保に取ったときとの効力の衝突という問題について明確な基準を提示する必要があるというのはごもっともだろうと思いますので,一番小さく諮問を考えましても,そういったものは十分に議論していかなければならないのだろうと私自身は理解しているところでございます。

○松下委員 ありがとうございます。松下です。諮問にもありましたとおり,本部会の一つのポイントは,法律関係の明確化や安定性の確保ということかと思います。その意味では,ルールをなるべく明文化する,見える化するということを意識する必要があるというのは余り御異論のないところではないかと思います。そういう意味では,判例が固まっていて学説上も異論が少ないルールについては明文化していくということになるのだろうと思いますが,しばしば隣接する問題についてはまだ議論が固まっていないというようなこともあるわけです。その場合に,審議の結果,隣接する問題については明文の規定を設けないという結論になることもあろうかと思います。そのような場合には,その問題についてはまだブランクである,議論が固まっていないので明文の規定を設けないまま残してあるのだということを審議の過程で明らかにしていく必要があるのだろうと思います。

  逆から申し上げますと,隣接問題についてはまだ議論が固まっていないときに,ある問題について明文の規律を置くと,ブランクの部分では反対解釈をされるおそれがあるのではないかと,だとすれば固まった部分の明文化も断念しようと,そういうような思考経路はなるべく避けるべきではないかと考えているところです。

  以上でございます。ありがとうございました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  亀井さんから御発言もあるということでございますので,よろしくお願いします。

○亀井幹事 

  今日,お手元の資料にも,参考資料1-2ということで,中小企業庁においても取引法制研究会を開催してこの問題を取り扱ってまいりました。資金調達をする中小企業,ユーザーの立場から,この問題についてどういった制度が望ましいのかということを,学者や弁護士といった専門家の先生方,中小企業や金融の実務をよく御存じの方々の御意見をいただきながら,一つの制度提案をさせていただきました。先ほど金融庁から御紹介のありました研究会とほぼ同内容のものと理解をしておりまして,是非こういった意見も踏まえて,この審議に御活用していただけると有り難いと思っております。その上で,何点か申し上げたいと思います。

  まず一つは,何人かの委員,幹事の方がおっしゃっていましたけれども,各資産それぞれを個別に担保に取るという制度ではなく,資産というのは事業の中で動産が売掛債権になり,売掛債権が預金となるというように形を変えて動いていくものですから,事業全体を担保に取れるような新しい担保制度を是非御検討いただきたいと思います。

  もう一つは,インフラとしての問題です。実体法の整備だけでなく,担保法制を支えるインフラについても,それが登記制度なのか登録制度なのか,いろいろ制度の仕組み方はあると思いますけれども,是非ユーザー,特に中小企業の皆さんにとって低コストで使いやすい制度となるよう,議論する必要があると思います。他の制度との平仄を重視するような議論,例えば,不動産がこうなっているから,こちらの制度もこうしなければならないのだ,というような検討ではなく,ユーザーの立場から簡易迅速で使いやすいというような制度についても併せて検討する必要があると思います。他方で,中小企業は非常に法律の弱者でもございます。

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とは限らないと思います。

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そういう意味では,この担保制度が濫用的に運用されるのではないかといった御懸念もありますので,これはもしかすると,それぞれの所管省庁でガイドラインのようなものを作っていくということかもしれませんけれども,そういった検討も含めた制度の御検討をしていただきたいと思います。

  あと1点,本日の担保法制部会資料1についてコメントをさせていただきたいと思います。3ページですが,2,担保制度の種類の(1)と(2),特に(2)なのですけれども,私も資料がいわんとしている中身を十分理解しているわけではございませんが,担保目的取引規律型というものと,新しい担保を作る担保物権創設型という二つのオプションが提示された上で,現行実務との連続性などから,担保目的取引規律型の規定を設けることとしてはどうかという事務局からの御提案がされています。ここでこれから議論されるのは,既存の法律を前提とした解釈論ではなく,そもそもどういった制度がよいのかという立法の議論であり,検討の範囲を最初から狭めるということを意図するのであれば,それは少しもったいないのではないかと思います。新しい担保制度を作るということも含めて,是非いろいろな観点から検討を行っていくことが必要ではないかと思います。

  以上です。ありがとうございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。本日の担保法制部会資料1におきましては,設けることとしてはどうかという形になっておりますけれども,真意として,新たな担保物権を創設するという形の全面的に新しい法制度ということが最初の段階で排除されているということはないと思います。今後の皆さん方の御議論次第であろうと考えております。

  ほかに何か御意見,御発言,ございませんでしょうか。

○冨高委員 まず総論として,企業継続,事業継続の観点で多様な資金調達手段を整備することは,結果的に労働者の雇用の安定につながるものと考えますが, 労働者保護の立場から,企業が倒産する際に労働債権の確保が図れるのかが課題になると考えております。現行でも資金繰りに行き詰まって倒産する場合は,既に動産,在庫等に担保権が設定されていれば,その支払が滞っていることも考えられます。賃金等の労働債権は,一般先取特権があるといえども債権確保がままならない場合もあり得ることですので,その後の労働者の生活に大きな影響を与えることから,民法においては労働債権が先取特権の対象になっているという趣旨が損なわれないような見直しが必要ではないか。先ほどから出ております包括的な担保制度についても,労働者保護の視点が必要ではないかと考えております。

  また,平成15年の改正で,民法第306条の一般先取特権については,2号の文言について,雇人の給与から,雇用関係と範囲を拡大した改正がされております。今後の話になりますが,昨年来,コロナ禍においてセーフティネットの脆弱性が明らかとなったフリーランス等の労働債権の確保も重要な課題だと考えております。

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ここは興味があります。

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○道垣内部会長 どうもありがとうございました。その話も正に,先取特権全般を今回扱えるかというと,それは分かりませんけれども,ある制度を作ることによって,例えば給与債権といいますか報酬,いろいろなフリーランスも含めた報酬債権というものの取り分というのが減るというときには,それでは,その保護のために何をしなければならないのかという問題は常に表裏の問題として存在していると思います。先取特権の話だから今回の話とは無関係であるということにはならないと私も思いますので,御自由に広い範囲で御議論いただければと思います。

  それでは,ほかの方,何かございますでしょうか。

○阪口幹事 阪口です。現在の集合動産などの担保がうまく使えない大きな要因の一つとして,実行段階,執行段階の問題があると私は理解しています。現在の実務ではなかなかそこがうまくいかないものだから,貸す段階でも安心して貸せない。したがって,執行段階,実行段階について,皆様からお話の出ている簡易,迅速,低廉に手続ができるような制度を,整備する,執行制度の整備というのは,大きな論点で,そこは十分検討したいと思っています。

  他方,先ほどからも出ているとおり,バランスのとれた制度というのが当然必要ですので,執行がもう一歩進んだ倒産という局面になると,少しまたステージが変わるというか,執行の延長だけでは多分済まないのだろうと思っています。この種の議論をするときに,執行局面と倒産局面を一元的に捉えるのか,少し角度を変えて考えるのかという議論が常に僕はあると思っていますけれども,今回の立法では,場合によれば,そこはもうある程度切り離した議論もあり得るのかなということです。例えばアメリカであれば,UCCは州法の問題であり,他方,倒産法は連邦法で規定されていて,全然別次元で物事を決めていると私は理解しています。我が国では執行と倒産を連続的に捉えているけれども,場合によれば少し切り離した議論も必要なのかなと,それがバランスのある結論につながるのではないのかとも思っています。

  バランスの延長でもう一つ申し上げると,包括担保については,非常に有用な,うまくいけば実用性の高い担保であると理解しておりますけれども,他方,弁護士はいろいろなところから相談を受ける立場です。先ほども出ていた労働者からも相談を受けたり,買う側からも相談を受けたり,そういう立場でもある。そのため,やはり危惧を覚える点もあるわけです。

従業員のモチベーションというものを考えたときに,仮に参考資料1-2,1-3の実行の段階で,さあ,従業員から見たときにどう見えるのか,活力のある企業になるのかということであったり,また,例えば担保権者が選任する管理者というのを考えたときに,それは取引先なりから信用してもらえるのかという,例えばそういう問題もあるのだろうと。つまり,今であれば裁判所が選んだ更生管財人が入れば,公正中立な人だろうと皆思って,一応物事は動いていくと思うのですけれども,担保権者が選んだ人なのかと見られる中で物事が動いていくということが,心理的な問題で,法律的な問題ではないのかも分かりませんけれども,どこまでうまくいくのかということも考えながらバランスある制度を作っていかなければいけないのかなと思っています。

○道垣内部会長 ありがとうございました。いや,正に心理的な問題も含めて制度設計をしていかなければならないと思いますので,貴重な御発言かと思います。

  ほかに,もちろん2回目の御発言であっても全然構いませんし,御発言いただいていない方でいらっしゃれば,お願いいたします。

○片山委員 片山でございます。貴重な時間をお与えいただいてありがとうございます。これまで実務家の委員の方々からの御発言が多かったですので,民法研究者の視点から,今回の部会資料1の第2の総論の担保法制全体の構成に関連してという部分について,3点ほど申し上げたいと思っています。

  まず第1は,集合動産という概念をどのように定義して規律していくかということであります。部会資料1では,個別動産と集合動産を対比して,集合動産については集合動産譲渡担保に関する判例法理,これを前提に,構成部分が変動する動産の集合体として,主として在庫担保を念頭に置いているということかと思います。しかし,この点は,先ほどから御意見が出ている事業担保権とか事業成長担保権,これは恐らく部会資料1ですと10ページの第9のその他,3の包括的な担保制度という位置付けになってしまうということになるのかもしれませんが,比較法的に見ますと,UCCとかUNCITRALだけではなく,大陸法系での立法例でも,そもそも民法における集合動産というのは,在庫のような流動資産だけではなく,事業資産や営業財産,知財とかのれんも含んだような,収益を生み出す固定資産の集合体も含めた広い概念として立法化を行うのが一般的のようであります。

  仮に今回の法改正の中で,集合動産概念を判例が用いるような集合物概念を前提として立法するということになりますと,今の判例法理を追認するというだけで,その域を出ない立法となってしまいますし,資金調達のニーズに十分に応えることができないという面もあるかと思います。また,諸外国の立法例と比較すると極端に矮小化した立法を行うことになってしまうのではないかという点も懸念されます。これは,もちろんその他の包括的な担保制度という形で議論をして立法化していくということであれば,それはそれで問題がないということなのかもしれませんが,むしろ一歩踏み込んで積極的に広義の集合動産概念を民法の中にビルトインしていくという選択肢も十分に検討に値するのではないかと考えている次第でございます。そういう意味で,集合動産という概念をどのように規律していくかということをお考えいただきたいというのが第1点です。

  それから,第2点は,動産担保と債権担保を区別して二元的に構成するということの意義でございます。この集合動産と集合債権を区別していくということに関しましては,近時の諸外国の担保法制の動向にも合致しているという印象を持っております。いわゆる帰納的なアプローチで担保を一元的に把握するという議論が随分行われてきましたけれども,近時はむしろ金融担保,すなわち債権とか有価証券を目的とするような担保につきましては,例えばコントロールのような概念で占有担保化構成をするなどして,公示とか実行といった点において,他の動産担保とか事業資産担保とは区別した二元的な取扱いを推進していく傾向が非常に強いと思っております。

  その点からは,今回の諮問にある動産や債権等の担保を目的として行う資金調達の利用の拡大という点からの担保法制の見直しとしましては,大別して2つの視点があって,一つは,不動産を除く事業資産の集合的な担保価値をいかに把握するかという点と,もう一つは,債権の担保化の新しいルールの設定を模索するという点とを分けて,二元的に考察していくということは賛成できる点かと思っています。

  そのことを前提とした上で,集合動産については在庫,いわゆる狭義の集合物に限定せずに,広く企業資産を担保化する,そういう制度設計をしていくということ,それから,債権担保につきましては,債権譲渡法制との関係で難しい点はあるかと思いますが,登記等の公示の緩和まで踏み込んだ議論ができればと期待しております。

  3番目ですが,所有権担保という概念です。これは先ほど事務局の方から,取りあえず便宜的に使っているという御説明であったわけですけれども,部会資料1の3ページの2の担保制度の種類のところで,担保目的取引規律型の規定を設けるという点ですけれども,帰納的アプローチに基づく動産非占有担保の規律については,諸外国の例を見ますと,やはり動産抵当であるとか,非占有動産質というような制限物権型の担保をデフォルトルールとして設定し,当事者の法的性質決定の如何を問わず,動産抵当とか非占有動産質を擬制する,そういう法制になっているのではないかと思われます。

  そこで,デフォルトルールとしまして所有権担保のカードをここで切ってしまうのは,確かに判例法理,担保実務との連続性ということで受け入れやすいという面はあるかとは思いますけれども,やや担保法制としては世界に例を見ない立法になってしまうのではないかとも思っております。

  他方,諸外国でも近時は債権担保や金融担保といった領域では,所有権移転型の担保,すなわち譲渡担保を脱法的な位置付けではなく,正面から排他的担保として認めていこうという傾向が看取されます。例えばフランスでは,新しい担保法改正草案の担保の定義の中で,優先権付与型の担保と排他権付与型の担保の二元的な把握を行うという提案がなされているところでございます。そういう意味では,動産一般については優先権付与型としつつ,他方,必要な場合に切り札としての所有権担保を用いていくというような制度設計を目指すことも一つの選択肢ではないかとは思っております。

  そういう意味で,所有権担保という概念をどういう場面でどう使っていくかということも慎重に御検討いただければと思っております。

  長くなりましたが,3点申し上げさせていただきました。よろしくお願いいたします。

○道垣内部会長 ありがとうございました。一つ一つについてコメントすべき立場にはないのですが,最初のお話は,どちらかといえば集合動産概念をビルトインするというよりは,事業財産という概念に変えた方がいいと,そういう感じの御発言だったように理解したのですが,そうではないですか。

○片山委員 事業という概念を持ち込むということも1つの方向性かと思いますけれども,必ずしも事業概念で把握できない固定資産の集合体もあるでしょうから,事業概念と集合動産概念とをどう結び付けていくかという点を御検討いただければということかと思います。

○道垣内部会長 すみません,ありがとうございました。

  ほかに御発言ございませんでしょうか。

○藤澤幹事 資料の第2の点について,3点ほどコメントさせていただきます。

  まず,担保の目的財産についてなのですけれども,これまでも先生方のお話にも出ていましたように,動産債権以外にも企業が保有する経済的価値を有する財産というのはいろいろあります。このうち既に物権化しているもの,特許権とか著作権とかそういったものについては,既存の登記制度などを一元化するかどうかといった議論はあるとは思うのですけれども,それを担保化できないという問題は生じていないと思うのです。

  これに対して,例えば契約上の地位,例えばライセンス契約におけるライセンシーの地位ですとか,ビッグデータのような不競法によって保護されている地位といったものは,どんなふうに担保化することができるのかといったこと,それから,実行をどのようにすればいいのかといったことが現時点でも不明確なのではないかと思います。もしこのことが実務上,不便を生じさせていたり,金融の可能性を狭めていたりするとすれば,こういったテーマについても検討の対象とする必要はないでしょうか。

  次に,二つ目のコメントなのですけれども,今,片山先生がコメントしていらした担保制度の種類のところについてです。資料では,担保目的取引規律型を採用するのはどうかという御提案がされていますけれども,今次の担保法改正の背景には,世界銀行によるDoing Businessのランキングにおいて,日本のGetting Creditの項目の評価が低くて,動産等の財産についてルールの明文化が要請されているということがあるようです。その評価の指標の中には,統一的なlegal frameworkがあるかという項目がありますが,担保目的取引規律型のルールを採った場合には,民法に動産質の制度もありますし,特別法上の自動車抵当,航空機抵当といった制度もありますし,それと並んで譲渡担保制度が明文化されることになり,改正によってこの指標をクリアすることができるのかといったことについて,少し問題意識を持っています。

  それから,3点目に,対抗要件制度・登録制度の在り方についてです。これまでの御議論を伺っていると,包括担保についての議論がすごく盛り上がっていましたが,例えばアメリカのUCC第9編を見れば,そこに「包括担保」という名前の付いた制度があるわけではありません。設定契約や登録に際して担保目的物の包括的な記載が許容されていることや,登録制度において広く優先順位を確保できる担保オプションが存在することによって,事実上の包括担保が可能になっている状態だと評価することができると思います。このような観点からすると,今次の立法に当たって,担保権設定契約や対抗要件における特定性の要件を緩和することはできるのかとか,緩和するべきなのかとか,そういったことを考える必要はないかなと思いました。

  以上です。ありがとうございました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。これも1点だけ申しますと,藤澤さんがおっしゃった2番目の話で,担保目的取引規律型の場合には,自動車抵当とかとの関係という話なのですが,それは恐らく担保物権創設型を採っても同じ話で,いずれにせよ,その整理をしないとごちゃごちゃになるよという御指摘かなと理解いたしました。

  本日はせっかくの最初の機会ですので,なるべく多くの方にお話をいただきたいと思います。少し休憩を置きますと,またむくむくとしゃべりたい事柄が湧き起こる方がいらっしゃるかもしれませんので,今,3時18分でございますけれども,これから15分ということで,3時35分まで一旦,休憩を置きまして,それから再開をして,更にいろいろなお話を伺えればと思いますが,それでよろしいですか。

  それでは,3時35分まで一旦休憩を致します。

          (休     憩)

○道垣内部会長 それでは,15時35分に再開をするということにしておりましたので,議論を再開したいと思います。

  もちろん今まで御発言された方でも結構でございますし,そうでない方ももちろん結構なのですが,今後の議論の在り方等々につきまして,御自由に御発言いただければと思います。

○青木(則)幹事 ありがとうございます。私は公示制度ないし対抗要件制度に関心を持っておりますけれども,特に,先ほど藤澤先生がおっしゃったような世界銀行の指標でありますとか,あるいはUNCITRALのような国際水準との関係をどう考えていくのかというのがなかなか難しい問題だなと思っております。

 判例にみられるルールを明文化すること自体がそういった国際水準へのアピールになることは確かだと思いますけれども,その中身が国内のニーズを満たすものであれば何でもいいのかというと,そういうわけにもいかないのではないか,国内のニーズと国際水準が必ずしも一致していないようなところもあるかと思いますので,それをどう考えていくのかが難しい問題になるのではないかと思っております。

 例えば,占有改定の方法による対抗要件の具備を引き続き認めるべきかというような論点がありますけれども,国内のニーズだけを考えると認めてもよいが,国際水準を考えるとできるだけ排除すべきではないかということになるのかと思います。ただ,従来,占有改定によって対抗要件を具備してきた最先順位の譲渡担保のようなものについては,公示制度を入れることによって担保権をほかの第三者との関係で弱めていくというような側面もございますので,それがどこまで認められるのかといったようなことが問題になるのかと思っております。

  また,もう1点ですが,先ほどから事業包括担保のニーズのような御指摘がありましたけれども,そのニーズを素直に取り入れられそうな制度としては,ネガティブプレッジのような制度も検討の余地があるのではないかと思います。ただ,これもネガティブプレッジを対抗要件を具備できるようなものにしていくというのは,恐らく国際水準に反するということになってしまうのだと思います。

 こういうような形で,幾つかニーズとのずれがあるようなところがあるかと思っておりますので,なお検討していきたいと思っております。

  以上でございます。ありがとうございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。ネガティブプレッジについて対抗要件を設けるというのが,という話は余りお分かりにならなかった方もいらっしゃると思いますので,私の方で少し付言をしますと,ネガティブプレッジというのはほかの担保を付けては駄目だよという約定のことですが,それについて,ほかの担保を付けては駄目だよという約定があるということを何らかの形で公示するというシステムというのは普通は考えにくくて,ネガティブプレッジ違反があったら,例えば弁済期が到来するだとか,そういう話になるだろうという話なのだろうと思います。もちろんネガティブプレッジ自体がある一定の物権を設定する効力を持つという議論もありますので,そうなると,そこで公示という話も出てくるのかもしれませんが,そういうふうな問題があるというお話かと思いますが,私の付言で正しいでしょうか。青木さんからもオーケーをいただきましたので,そういうことで。

  ほかに御意見いただければと思います。

○沖野委員 ありがとうございます。既にいろいろ御指摘のあった点について,共感するところも多いのですが,そういう点を繰り返すことはせずに,総論的な話について少し申し上げたいと思います。

  一つは,判例の扱いについてです。判例が確立している,また,これまで動産や債権を用いた実質的な担保には判例が非常に大きな役割を果たしてきたということがあります。ただ,一方で,たとえそれが確立しているところも,解釈論ゆえの制約の下で展開された議論であるということは十分念頭に置いた方がいいのではないかと考えているところです。集合物の概念などは,そういうものかと思います。ですので,立法論としてあるときには,判例から離れるということも十分考えられるところだと思っております。

  2点目としまして,登記制度についてです。今回の部会資料におきましては,対抗要件制度のところで言及されており,そもそも対抗要件制度あるいは公示や優先関係の決定基準の,その在り方自体も,言わば既存のものを当然の前提にせず,制度を考えていくことも十分あり得べしということなので,必ずしも書かれていないのですけれども,そういう新しいファイリングなどの可能性もあるところですが,現行法の制度を用いるときも,登記制度についてはかなり見直しの要望ですとか,理論的にも見直しの可能性というのがあるのではないかと考えているところです。

  ファイリング制度について言及しましたので,また対抗要件についても言及しましたので,あわせて申し上げますと,現在の担保の一般的な考え方というのは,対抗要件の具備の順序による優先関係の決定というのが基本であって,当然優先ですとか,さらにはその調整ということもあるかと思いますけれども,ただ,その原則というのをどこまで重視すべきかということについては,少し考える余地があるのではないかと思っております。対抗要件の具備方法による強弱というのがあり得てよいように思いますし,対抗要件と部分的に切り離して優先関係を決定していくという方策も十分考えられるべきではないかと思っているところです。これ自体は資料の3ページの3のところですとか,他のところでも書かれているところでありますけれども,その点を改めて申し上げておきたいと思います。

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時間の順序以外に優劣を付けられるのでしょうか。

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  最後は,立法の形式についてということですけれども,今回は担保法制の見直しということですので,どの立法というようなことではなく,担保に関する法制の見直しということですから,必ずしも民法に限られないのだろうと考えております。そのことは,何らかの制度を作っていくときに,必ず民法に置くということが想定されるわけではなく,逆に言うと,立法の形式自体は最後の出口のところなので,それに制約されることなく検討していくということなのだろうと理解しております。そのような理解でよろしいかというのを確認させていただければと思います。

○道垣内部会長 最後は質問になっていたのですが,その質問の内容が少し私は理解できなかったのですが。

○沖野委員 申し上げたかったのは,例えば,特定の包括的な担保制度というのは,むしろこれは特別法でやるべきではないかと,民法から見てということですが,そういった立法の形態というのはいろいろあるという前提でいろいろな制度を考えていくということなのかなと思っておりますけれども,そういう理解でよろしいかということです。

○道垣内部会長 本日の部会資料1を作られた方には,その作られた方の御意見があろうかと思いますけれども,例えば事業担保とかそういうものについて,特別法にするのか,あるいは特別法にするとしても,この部会で十分に議論するのか,中に埋め込むのか,そういったことは正に議論によって決めていけばよい問題だろうと思います。特別法にするということを前提としながら,さらにこういうものを特別法として作るべきだというふうな御意見を今後,議論の中で出していただくことは一切差し支えないのだろうと思いますし,また,民法の中にそういった制度を埋め込むべきだ,あるいは埋め込むべきでないという議論も当然に可能だろうと思っておりますが。それでよろしいでしょうか。何かそれについて,沖野さんの方で,こういう方向ではないかという御意見があるのならば,続けてお願いできればと思いますが。

○沖野委員 今おまとめいただいたような形でお願いできればと私自身は思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  ほかに御意見ございませんでしょうか。佐久間さん。お願いします。

○佐久間委員 2点発言をさせていただきます。

  1点は,包括担保というか,特に事業担保権,あるいは事業成長担保権ということに関連してです。それぞれの御提案は,なるほどもっともだなと思っておりまして,大きな基になるところは今回の担保法制の改革全体を通しても共通していて,結局のところ,融資がされるべきところにきちんと行き渡るようにしましょうねというところにあるのだろうと思っております。

  その観点で少し心配なところがございまして,例えば包括的な担保を誰かに取らせたということになりますと,それに見合った融資が十分にされないと全くもって意味がないということになるわけですね。そうだといたしますと,包括的な担保,どういう仕組み方でもいいのですけれども,それを仕組むときには,きちんと担保に見合う融資が,一旦されるだけではなくて,場合によっては,継続的にある程度はされていくというような措置を,法的なものなのかどうかは分かりませんけれども,きちんと講じておかないと,ひどい事態になるのではないか。誰かに包括的に担保を与えたために,個別の担保を別の者に与えることがなお可能であったとしても後順位でしかないとなると,包括的な担保によって融資が十分に受けられない場合,個別の担保を出したくても応じてくれる人もみつからず,包括的な担保の設定のためにかえって受けられる融資の総額が少なくなるというようなことが,場合によっては心配されるかなと。

  そういう観点からは,包括的な担保を,例えば特別法を作って,あるいは,今ある特別法を改正して設ける場合には,それに即して融資が十分にされるように,あるいは債務者が困った状態にならないようにする措置を付加することが必要ではないかと思っています。

  それに対して,先ほど少しどなたか,お二人ぐらいおっしゃったのだと思うのですが,民法の制度というか,一般的な制度として,広く担保を取ろうと思ったら取ることができて,その公示も,ファイリングでもいいのですけれども,何らかの形でできるというようにすることが考えられる。確かに考えられるとは思うのですけれども,そのようにしますと,それに見合う十分な融資が行われないというときには,過剰担保になるかもしれませんし,もう一つ心配なのが,公示はされている,調べてみれば実際には担保の範囲は限られているということになっていたとしても,見掛け上はものすごく広く担保が取られていて,制度の理解が非常に進んだ段階ではいいのかもしれませんが,そうでない段階では,個別の融資になかなか応じにくいという,見掛け上の過剰担保というと,いい言い方ではないのかもしれませんが,そういったことが起こり得ないのかな,そういうことが起こっては困るな,という心配を致しました。議論する際には,そういう点にも留意した方がいいのではないかと思ったのが1点です。

  もう1点は,それと少し関連するような関連しないようなことなのですが,Doing Businessの世界ランキングとの関係なのです。欧米では常識化していることが我が国では常識ではない,それはきっとそうなのだろうと思うのです。ただ,我が国においても,取引社会は当然のことながら進展してきたわけで,取引慣行という定着しているものがある。その中で融資をより多く引き出せるような法制はどういうものだろうかと考えたときに,必ずしもDoing Businessの世界ランキングを上げることにつながらないような方策の方が,我が国の実情に照らせば,いいのではないかということだってあり得ると思うのです。

  そのときに,これは質問になってしまうのかもしれませんが,どの程度世界ランキングを,ぶっちゃけた話,意識しておく必要があるのでしょうか。私は,個人的には,まあランキングの順位を上げることも大事だけれども,それよりは融資がきちんとできるようになった方が,とは思うのですけれども。でもまあ,そういうことではないのだということもあるかもしれませんので,2点目として,世界ランキングをどの程度意識した方がよろしいのかということを,笹井さんに答えてくれと言っても,答えにくいのかもしれませんけれども,取りあえず笹井さんぐらいしか答えてもらう人がいないので,可能であればお願いいたします。

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担保とビジネスランキングの関係が大きいとは思えません。

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○道垣内部会長 ありがとうございました。笹井さんに御指名がありましたが。

○笹井幹事 確かに答えにくい問題ではあるのですけれども,御承知のようにDoing Businessにつきましては,2030年までにG20で1位を目指すという政府目標が示されているところでございます。したがいまして,私どもといたしましては,行政府の一員としてこの政府目標も意識しながら取り組んでいくことになります。

  ただ,この部会がどういう形で議論がおまとめになるのかというのは,それはこの部会における意思決定の問題ですので,そこはそれぞれの委員,幹事のお考えがあろうかと思います。例えば今,佐久間先生は世界ランキングを上げることにつながらないような結果の方が我が国の実情に照らせばよいこともあり得るとおっしゃいましたが,それはそれでもちろん一つの御見識であろうと思います。

  したがいまして,それぞれのお立場から担保法制の在り方について議論を尽くしていただきたい,その中でどういう形で取りまとめていくのかということにつきましては,部会での議論を見ながら,相談させていただきたいと思っているところでございます。

○道垣内部会長 よろしいでしょうか,差し当たっては。

  ほかに何か,最初の段階での御発言ございませんでしょうか。

○加藤幹事 加藤です。よろしくお願いします。私から3点コメントさせていただきます。

  1点目は,株式や投資信託受益権など,ペーパーレス化した有価証券の担保制度については改善の余地があるのかなという気がしています。これらの有価証券,元有価証券につきましては,社債株式等振替法に基づき,振替口座簿の記録によって権利関係が定まるとされているわけですけれども,実際にはそれほど多くの権利関係が振替口座簿によって定まっているわけではない気がいたします。ですから,仮に新しい担保制度を検討する際には,可能であれば,振替口座簿に記録できる情報を拡充して,担保権者間の優先劣後関係なども明確に定めることができるようにしてはどうかという気がしております。ただ,これは振替機関のシステムの更新の時期と合わないと改正できないという問題もあるのですけれども,検討はやはり,してはどうかと思っております。

  2点目は,部会資料1で,普通預金口座を目的とする担保について検討してはどうかということが御提案されていました。この点について,私は全く異存ありません。むしろ,普通預金口座を目的とする担保を検討するのであれば,証券口座を目的とする担保というものについても,つまり,証券口座に記録された有価証券を包括的に担保に取るということも検討に値するのではないかと思います。ただ,これも証券会社及び振替機関のシステム対応の問題はありますけれども,やはり重要な問題ではないかと思います。

  最後は,暗号資産のように法的性質が必ずしも明らかではない財産というものが今後,増えてくる可能性があります。そうしますと,こういったものを担保化できた方が,やはり資金調達の便宜というものには資する気がします。これも流動的な面がありますけれども,こういった,これまで法的性質が債権,物権というふうになかなか区切ることができないような財産というものが出てきているということも意識しながら,担保制度の検討などを進めていければよいのではないかと個人的には考えております。

  私からは以上です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○亀井幹事 2回目,申し訳ございません。

  今,佐久間先生の御指摘について,私のほうからも若干,コメントさせていただきたいと思います。

  聞こえますか。

○道垣内部会長 聞こえますよ。

○亀井幹事 ありがとうございます。今,佐久間先生の御指摘されたDoing Businessの点について,私から一言御発言させていただきたいと思います。特定の書物のランキングを上げる,下げるということはさて置いても,日本の事業環境を世界に比べても遜色ないものに高めていくという観点で,この制度を議論する必要があると思います。例えば,他の国ではできることが日本ではできない,ということのないように,また,他の国と比べても資金調達がしやすい事業環境の整備,そういった制度設計を是非お願いしたいと思います。そのときに諸外国でどういった取引ができているのかというのは当然,参考にすべきだろうと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。ただし,アメリカ以外も視野に入れて,世界というものを考えていくべきだし,いきたいと思います。

  ほかにございませんでしょうか。

○水津幹事 1点申し上げます。例えば,部会資料で挙げられている物上代位を例に取りますと,差押えや債権譲渡等との関係も明確にした方が望ましいのであれば,現行の民法304条の規定やこれを準用する規定を前提として,そのような明確化を最初から断念するのではなく,むしろ,この機会に現行の民法304条の規定やこれを準用する規定を併せて改めることを検討した方がよい気がいたします。このように,新たなルールを定める場合において必要があるときは,関連する現行の規定の見直しも含めて検討していただければと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。全てのことですね,新しい担保物権を創設するという話も含めて,余り最初から議論の幅を狭めるのではなくて,いろいろなことを考えながら全体をバランスよく作っていかなければならないということだろうと思います。

  ほかに御意見ございませんでしょうか。

○尾﨑幹事 すみません,まだ話しておられない方がおられますが,少し時間が空いたように思われましたので発言させていただきます。

  何点か,我々が申し上げた事業そのものを担保にする制度について,例えば,バランスをとった制度整備が必要ではないかといったような御意見がありました。金融庁の研究会でも,そのバランスをどうやってとるかということは非常に重要な問題だと議論されてきました。例えば,労働者の賃金債権や取引先との関係での商取引債権を優先させる必要があるのではないかといった御議論もありまして,それは結局のところ事業継続の観点から,そういったものを保護しないと望ましくないからだといったような御意見もありました。引き続き,この制度について議論する際には,バランスをとった制度整備というものを考えていきたいと考えています。

  それから,もう一つ,事業成長担保権を使う際の与信者間の競争についても言及がありましたし,さらに,事業成長担保を取ったときに,十分な融資がされない可能性がないのかといった御議論がありました。我々は,そもそも金融機関が事業を理解し支援をするような競争,そういったものを促すことが重要であると考えておりまして,結局のところ事業成長担保権の担保権者の地位をめぐっての競争がなされると,つまり,事業成長担保権を取っておきながら十分な融資を行わない金融機関があれば,その事業者の方は別の金融機関を選ぶことができるわけで,そのためのスイッチングコストなどを十分に低減しておくということが重要なのではないかといった議論を行ってきたところであります。適切な融資が供給されるような,競争が促されるような制度設計というものを検討することが重要であると考えています。

  いずれにしましても,まだ見ぬ制度でありまして,実務も共に立ち上がっていくべきものと考えておりますので,早期に具体的な制度について議論ができますと幸いでございます。10年,20年先の実務を見据えてお知恵をいただければと,是非この部会で議論していただければ有り難いと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかに,いかがでしょうか。御発言いただいていない方もいらっしゃいますが,特に発言をしなければならないというオブリゲーションがあるわけではございません。よろしいでしょうか。

  私これから少しお話をしますが,別段私が話をするというのを,これでもうやめるということと結び付いているわけではございませんので,私が話をしても,その後幾らでも続けていただいて結構なのですが,少し話の流れを整理しておきたいと思います。

 皆さんの御意見としては,最初,事業担保の話から出まして,金融庁の方のプレゼンテーションというのがあったわけですが,これはどちらかといえばモニタリングを中心として,企業価値を高め,倒産しないようにコントロールしていくために事業全体を押さえるという発想なのではないかと思います。それに対して,同じく事業担保とか,包括的に担保を取ると申しましても,実行を前提とする,実行の中には,ばらばらに売るということも含めた実行も念頭に置きながら発言をされた方もいらっしゃったと思います。

  そうなりますと,事業の担保化といっても,どういうふうな,これは金融庁のレポートに正に書いてあることですが,担保の機能というものの中のどれに着目した形の事業の担保というものを考えるのかということが若干まだ――それは片方に決め打ちをしなければならないわけではないのですけれども――分かれている状態にあるのかなと思います。

  その際には,しかし,いずれにせよ事業全体を担保に取るということになりますと,融資がきちんとされるようにしないと,全部を担保に取った上で貸してくれないということになっては困るという話があったのに対して,それ自体が金融機関の競争と位置付けるというふうな形で何とかできないかという話もあったかと思います。

  さらには,包括的に担保に取るという際に,集合動産というふうな,第一倉庫内にある在庫商品という形の概念だけではなくて,事業用の財産全体を,事業用とは限らないですが,一つの集合物というか,一つの包括的な何か財産体として担保化するというふうな,そういう概念設計といいますか,そういうふうな概念をより,彫琢していくということも必要なのではないかという話も出たかと思います。

  他方で,事業全体の担保化の話と別個に,やはり区分して担保化するということのメリット及び簡易性というのを強調する御意見もあったかと思います。そうなると,あるものについて非常に簡易で安価な方法によって担保設定というのができるということが制度設計として求められると,こういう御意見もあったかと思います。さらに両方に関係する問題として,取り分け事業全体の担保化かもしれませんが,倒産の局面で他の債権者等との関係をどういうふうに考えるのかという,倒産だけではありませんけれども,重要な問題として提起されていたかと思います。

  それはある種,いろいろな絡み合った一つの問題点なのですが,もう一つ,本日の部会資料1との関係では,新しい担保物権というものを創設する形で立法論というのを考えていくのか,それとも,現在の譲渡担保のように所有権の移転という形を取った取引が担保目的であるという際に,その内容を規律するという方法で考えていくのかという論点があり,本日は,その新たな担保物権,物権として新たな物権を創設するという形の立法というものを最初から排除すべきではないという見解が強かったかのように理解しております。

  ただ,これは大変微妙な問題がございまして,と申しますのは,現在,仮登記担保法というものについて,仮登記担保というのは物権を創設したものであると書いてある教科書が多いのですが,これは,少なくとも立法当時の議論ないしは法文上の文言とは反した議論なのですね。代物弁済予約とか売買予約をするときに,それが担保目的であったときに,その契約の効力は以下のようになりますというのが「仮登記担保契約に関する法律」でありまして,仮登記担保権という物権を創設したものではないというのが立法当時の議論だったわけなのですけれども,現在では仮登記担保権という物権があると見た方がいいという見解は結構強い。

  そうなると,仮に所有権移転の契約を規律するという法制度というのを作っても,新たな担保物権が創設されたのだというふうに議論されて運用されていくということは十分にあり得るわけであって,そう考えると,2つの見解が明確に対立するものかどうかは分かりません。ただ,そこと絡んでくるのが,先ほどの国際的に分かりやすい基準という問題で,クリアに新たな担保物権を作るのだと書いていた方が分かりやすくていいのではないかという問題はあろうかと思います。

  さらに,3番目のクラスターとして,クラスターというのは最近は特定の意味で使われますが,まとまりとして,振替証券とか,暗号資産とか,さらには普通預金口座を担保化するというのだったら,口座の担保化概念との関係で,証券振替の口座の担保化というふうなこともあり得るので,いろいろそこら辺の不安定といいますか,分かりにくいところもきちんと調整すべきではないかという意見もあったかと思います。

  もちろん今私が申し上げたのに尽きるわけではありませんで,工場抵当との関係とか,いろいろな御意見があったところですし,さらには動産と債権を目的物ごとに区別して考えるのか,それとも包括性を重んじるのかというふうな議論もあったところですが,大体そういうふうな話がされたのかなと私は理解をしたところであります。勝手な私のまとめかもしれませんけれども,それが正しいわけでもないと思いますし,何か更に御意見がありましたら,お聞かせいただければと思います。

○横山委員 まず,規定の仕方に関して,担保権の設定として規定するのか,それとも取引型でするのかという点については,海外に対してのみならず,国内的にも分かりやすいかどうかも考えるべきではないかと思いました。

  この点,細かいことかもしれませんが,用語法について,今回,留保所有権とか担保所有権という言い方がされています。所有権と表現しつつ実質は担保ですよねということであれば,譲渡担保または留保担保という言葉を用いてもよいのではないかと思います。

 また,内容に関しては,債権譲渡も含め,様々な財産権について適用が予定される担保が想定されているようですが,帰属移転型,帰属留保型の担保と構成すれば,あらゆる財について適用されることが可能ですので,動産と,債権を主眼としつつ,適用範囲をより広げることを念頭に検討するという視点もあってもいいのかなと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかには何かございますでしょうか。阿部さん,お願いします。

○阿部幹事 すみません,私が思いましたのは,結局この担保法制に関する検討というのは,どういう金融の在り方が望ましいかという検討の表裏なのかなと思いました。例えば,今日の部会資料1の各論のところで,同一の不動産に複数の担保所有権を設定された場合の取扱いといった話もされていましたけれども,これは,いろいろな債権者が同一の債務者の同じ目的物を担保として,いろいろな人が少しずつ金融をする,そういう在り方を前提とするものだと思うのです。劣後担保権の効力も,設計次第ではそういうものを促進していくということにもなると思うのですけれども,これに対して,最後の方で扱われていた包括的な担保制度というのは,どちらかというと,そこに二重,三重にいろいろな金融機関が担保を設定して,少しずつ金融して,というものではなくて,一つの金融機関が包括的に担保を取ったら,その金融機関がその事業者の資金需要を全面的に面倒を見る,そういう金融の在り方というのを望ましいと,そういう前提があるのではないかなと思うのです。なので,そういう各種の担保制度が前提にしているというか,念頭に置いている金融の在り方を考えて,どういう金融の在り方が望ましいのかというところを視野に入れながら,この担保制度を設計していくということが必要なのかなと思いました。その先,どちらが望ましいと私が今考えているかというのは,必ずしも定見がないのですけれども,そういうところまで意識する必要はあるのかなと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。非常に重要なポイントだろうと思います。

  一言だけ,私の意見になってしまいますけれども,申しますと,UCCで包括性のある担保権が取れることになったからアメリカで包括的な担保制度が発展したということよりも,やはり鉄道金融とかにおいて,包括的にある一つの金融機関が全部を取るという融資慣行があって,その上にUCCが存在している,その後にUCCが存在しているのではないかと思うのです。担保法制度を何か仕組むことによって融資慣行というのを変えるというふうにもくろむのかというのは非常に難しい問題で,少なくとも他国が担保制度を変えたことによって融資慣行が変わったという因果関係にあるとは言い切れないのだろうと思います。もちろんそれがあってはいけないということではございませんし,そういう萌芽があるのだったらば,その萌芽を後押しするように担保制度を整えるというのはあるのかもしれませんが,そんな気もいたします。すみません,要らない話をしてしまいました。

  ほかに御発言,今日の段階では,これくらいでよろしいでしょうか。特にやめたいわけではないですよ。

○藤澤幹事 ありがとうございます。先ほどは第2の全体的な部分についてお話しさせていただいて,今の阿部先生の御発言,道垣内先生のお取りまとめも全体像に関わるところだったかと思うのですけれども,もう少し個別の部分についてコメントさせていただくということも可能でしょうか。

○道垣内部会長 もちろん御自由にお願いします。

○藤澤幹事 ありがとうございます。第3の個別動産を目的とする担保権の効力についてなのですけれども,ここでは主に設定者の使用収益権限と物上代位について挙げられているのですけれども,個別動産担保の担保権設定者が担保目的物を無権限で処分したという場合の処理について,項目を立てて検討する必要はないかというようなことを思いました。

  具体的には,無権限処分があった場合,第三者が目的物についての設定者留保権を承継取得すると考えるのか,それとも,そもそも何の権利も取得しないと考えるのか,この辺りについて意見の対立があったように記憶しておりますので,この点について検討の必要があるのではないかと思いました。

  それから,第5の集合動産のところについても同じように,担保権設定者による処分について関心を持っております。こちらには設定者が通常の営業の範囲内で個別動産を処分し得るというようなルールが提案されていますけれども,これは強行規定的なものと考えるべきなのでしょうか。集合動産に含まれる個別動産の処分に際して,例えば担保権者の許可を必要とするといった合意とか,処分の性質にかかわらず一定数量をキープすることを求める合意といったものも考えられますけれども,このような合意は有効なのかとか,このような合意に反して行われた処分は無権限処分ということになるのかとか,そういうようなことを考えていく必要があるのではないかと思いました。

  それと併せて,こういった合意との関係で,第三者をどのように保護するのかということが問題になります。第三者保護については民法192条の解釈で行くのか,それとも集合動産担保に関して192条の特則となるような第三者保護ルールを用意するのか,この辺りについて検討する必要があるのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。設定とか実行,倒産というふうな話を書きますと,真ん中のところといいますか,設定後,最終的な実行に至るまでの間の法律関係の検討が不十分になりがちになるので,そこを気を付けるべきであるということかなと思いました。ありがとうございました。

  ほかに何か,いかがでしょうか。

○尾﨑幹事 融資実務につきましては,我々も最初に申し上げたように,担保制度を設けると,実務があしたからころっと変わってしまうということではないのだろうと思っております。そんな単純なものではないし,また,強引に変えるようなやり方は弊害もあり望ましくないとも思います。一方で,今の融資実務が必ずしも全く改善の余地がないものであるとも思っていません。その改善のために,金融機関におかれても,金融庁においても,やはり事業者の事業の内容や将来性をよく見た上で成長資金を融資するという方向性,そういったものに今,取り組んでいるところであります。そうした中で,成長資金の融資に取り組む上で,制度上の後押しも必要だと考えております。制度というものは当然のことながら,慣行に対して一定の影響力,一定の動機付けを与えるものですので,いま日本に求められている融資実務を進める上で,制度もより望ましく,それをより後押しできるものになることが,成長資金の融資に取り組むため,日本の企業や経済の成長にも資するような環境を整備するためには必要ではないかと思う次第です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。制度で変えるというのではなくて,変えることの足を引っ張らないように制度的な受皿を用意しておくと,そういう話かなとも思いました。

  ほかに何か今の段階で,ございますでしょうか。

○亀井幹事 今後の審議の進め方やスケジュールについてお聞かせください。この部会の取りまとめを行う時期について目処というものがあれば,教えていただきたいということと,審議の過程で,例えば金融機関の皆さんだとか事業者の皆さんのヒアリングだとか,そういうことを行う予定があるのかどうか,こういった点も教えていただければと思います。よろしくお願いします。

○道垣内部会長 まず,取りまとめの時期のめどみたいなものにつきまして何かお考えがございましたら,笹井さんの方からお願いいたします。

○笹井幹事 取りまとめの時期でございますけれども,この点につきまして事務当局として何か特段の,いつまでを目標とするというような時期を定めているわけではございません。そこは飽くまで,議論が成熟したときに取りまとめを行うということでございます。

○道垣内部会長 はい。もう一つのヒアリングの問題につきましては,もちろん事務局がどのように考えるのかという問題もございますけれども,委員,幹事の皆様から,こういうふうなところの実務というものをここできちんと伺うべきだと,意見をこういう立場の方から伺うべきだということがございましたら,積極的に,事務局でも結構ですし,私でも結構ですので,言っていただければ,それを踏まえて準備をするなりしたいと思います。今の段階で,ヒアリングを一切しないということは普通考えられないかと思いますが,誰のヒアリングをする予定であるとかそういうことはなく,皆さんの御意見によって決まってくるものだと考えております。

○亀井幹事 ありがとうございます。

○道垣内部会長 なぜ中小企業庁との間では,ネット上,大きくタイムラグが生じるのでしょうね。それと,亀井さん,次回でいいけれども,スピーカーとの関係でハウリングするので,何とか調整してください。

○大西委員 フロンティア・マネジメント,大西です。2回目の発言をします。

  先ほど事業担保という話が幾つか出て,多少各論にも入るのですが,私がこの件で一つ重要だと思っているのは,担保設定をするときに,いろいろな資産に担保を付けて融資ができるという融資のしやすさという点と,最後の担保実行時にどのようにスムーズに実行を行うのかという論点です。私も再生の仕事においては,金融機関による強制執行や倒産に至る前の,私的整理というのが主流なのですが,そのときには,事業担保制度の導入が実はM&Aを促進する,こういう要素もあるかと思っているのです。そういう意味からすると,少し気になる論点というのが,この金融庁さんのレポートの27ページにもある,いわゆる会社法上の株主総会特別決議事項に当たるのか,当たらないのか,若しくは当たるとしてどの時点なのかという論点です。これがハードルが高くなると,実際はこういう制度ができてもなかなか会社によっては設定ができないようなことになるといけないので,本件をどこまで視野に入れて議論するのかは別として,少し論点としてあるのかなと思いました。

○道垣内部会長 事業財産が複数あったときに,その複数の塊であるという話だけではなくて,それが企業になるということになりますと,企業そのものの譲渡の話になってまいりますので,会社法との関係でいろいろな,また問題も生じてくるということだろうと思います。それをどういうふうに考えていくのかというのも,一応は考えていかなければならないと思います。なかなか難しい問題も多々ありますが。

  いかがでしょうか。

  次回からは個別具体的な,といいましても徐々にということでございますが,論点に入っていくわけですが,本日お話しになりたかったのに結局お話しにならなかったとか,あるいは,次回からの部会の資料と直接関係しない問題だけれども,将来の資料を作る際にこういう観点というのも重要であるとお考えになる点も,個々的にもいろいろ今後出てくるのではないかと思います。その際は御遠慮なく事務局なら事務局,私なら私に御連絡いただきましたら,今後の議論において反映をさせていただくというふうにしたいと思いますので,ジェネラルな御発言は今回にとどまるということにはならないと御理解いただければと思います。

  本日の御議論はこの辺りでよろしいでしょうか。

  それでは,次回の議事日程等につきまして,事務局から説明をしていただきます。

○笹井幹事 次回第2回は令和3年5月11日火曜日,午後1時30分から午後5時30分までを予定しております。

○道垣内部会長 これで今回の法制審議会担保法制部会の第1回会議を閉会にさせていただきます。

  本日,私,部会長に指名していただきまして,それ自体慣れていないというのと,慣れていても結構難しいのですよね,ウェブ上の挙手と会場の挙手を見ながらやるというのは結構難しくて,いろいろ皆さんに御迷惑をお掛けいたしましたけれども,だんだん慣れていきたいと思います。本日はそのような不手際な司会にもかかわらず,熱心な御審議をいただきましてありがとうございました。それでは次回,またよろしくお願いいたします。

-了-

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住宅ローンに伴う担保設定が出てこなかったのが少し残念です。

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