信託の計算(受託者)

・信託法37条

第三十七条   受託者は、信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、1、信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

2   受託者は、毎年一回、一定の時期に、法務省令で定めるところにより、2、貸借対照表、3、損益計算書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

1、その他の書類の例

(1)信託契約書の財産目録

(2)固定資産税評価証明書

(3)固定資産税納付書のコピー

(4)預金通帳のコピー

(5)税務申告書のコピー

(6)その他の書類との組み合わせ

2、3の要件

信託財産と信託財産責任負担債務(信託財産で返済しても良い債務)が、どの位あるか分かること

・信託計算規則

(信託帳簿等の作成)

第4条   法第37条第1項 の規定による信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録(以下この条及び次条において「信託帳簿」という。)の作成及び法第37条第2項の規定による同項の書類又は電磁的記録の作成については、この条に定めるところによる。

2  信託帳簿は、一の書面その他の資料として作成することを要せず、他の目的で作成された書類又は電磁的記録をもって信託帳簿とすることができる。

3  法第37条第2項に規定する法務省令で定める書類又は電磁的記録は、この条の規定により作成される財産状況開示資料とする。

4  財産状況開示資料は、信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の概況を明らかにするものでなければならない。

5  財産状況開示資料は、信託帳簿に基づいて作成しなければならない。

6  信託帳簿又は財産状況開示資料の作成に当たっては、信託行為の趣旨をしん酌しなければならない。

・企業会計基準 実務対応報告23号

受託者の会計処理

Q8 受託者は、どのように会計処理するか。

A 新信託法において、信託の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする(第13 条)とされている。

これまで、信託は財産の管理又は処分のための法制度であり、これを適切に反映するために、その会計は、主に信託契約など信託行為の定め等に基づいて行われてきたと考えられる。

むろん、信託の会計を一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準じて行うことも妨げられないものの、新信託法においても、信託は財産の管理又は処分の制度であるというこれまでの特徴を有しているため、今後も、これまでと同様に明らかに不合理であると認められる場合を除き、信託の会計は信託行為の定め等に基づいて行うことが考えられる。

ただし、次のような信託については、債権者が存在したり現在の受益者以外の者が受益者になることが想定されたりするなど、多様に利用される信託の中で利害関係者に対する財務報告をより重視する必要性があると考えられるため、当該信託の会計については、株式会社の会計(会社法第431条)や持分会社の会計(会社法第614条)に準じて行うことが考えられる。この場合には、原則として、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準じて行うこととなる。

(1) 新信託法第216条に基づく限定責任信託

(2) 受益者が多数となる信託(この点については、Q3 のA3(2)②を参照のこと。)

なお、受託者が信託行為の定めに基づくなど財産管理のための信託の会計を行ってい

ても、受益者の会計処理は、原則として、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づいて行うことに留意する必要がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

受託者の会計は、原則として信託契約(信託行為)で定めた基準で行ってください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

受益者○○様

                            受託者○○

             (会計基準)1、収益の認識:実現ベース

2、未収入金:計上せず

信 託 貸 借 対 照 表

              (○○年○○月○○日現在)     

(単位:円)

資産の部

【流動資産】

普通預金     19,900,000

流動資産計    19,900,000

【固定資産】

(有形固定資産)

建物       3,000,000      

土地       25,000,000

修繕積立定期預金  5,000,000

固定資産合計   28,000,000  

資産の部計    37,900,000  

純資産の部

信託拠出金    38,000,000   

未処理金損失      100,000   

剰余金計     37,900,000   

信託損益計算書

(○○年1月1日から○○年12月31日)

【費用の部】

租税公課          100,000

損害保険料          30,000

当期損失          130,000

次期繰越損失        130,000

受託者の義務 善管注意義務

 

1、善管注意義務の整理

信託が設定された目的(委託者の意図)を達成するために信託事務を行うこと。

受託者が信託事務を行う際に、注意する、気を付ける客観的な水準[1]

(例)

(1)委託者自身が管理していたアパートの信託で、不動産の知識がない受託者が、信託事務として、当初は管理を第3者へ委託する。

(2)非公開株式の信託で指図権の定めがない場合、後継者である受託者は、株主総会において議決権を行使する際、会社経営者としての注意(責任)をもって行使する。

(3)金銭の信託について、株式投資の経験が豊富な委託者に代わり受託者が信託事務を行う際、株式投資を止めること、又は損失の上限を決めて上限に達したら次受益者に通知し、株式投資を止めること。

2、義務違反

(1)基準時

  受託者の行為時[2]

(2)義務違反の効果

   損失てん補等(信託法40条、92条、105条、)

   損失てん補等の内容

   ア 信託財産の現状を回復する(100万円が50万円になったら、50万円足す)

   イ 土地を売ってしまって買い戻すことが出来ない、などの場合は、土地の価格相当のお金を信託財産に入れる

【条項例】

(受託者の善管注意義務)

第○条 受託者は、本信託の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって信託事務を処理する。


[1] 道垣内弘人『信託法』2017 有斐閣P168

[2] 村松秀樹ほか『概説 新信託法』きんざいP90

農地の家族信託・民事信託についての整理

1 利用例(本人の判断力低下への備え)

(1)農地の所有者が高齢であり、自ら農地転用して宅地開発をしていきたい(農地法4条、農地を自ら宅地などに転用する場合)。

(2)農地の所有者が高齢であり、生前に農地以外に転用して売却処分をしたい(農地法5条、農地を宅地などにするために、売却する場合など)。

2 農地の家族信託・民事信託  

(1)現在の状況が、農地である場合

原則として農地法の許可が下りないので、農地のまま家族信託を行うと、農地部分についての効力は生じないことになります。

(2)登記の記載は農地だが、現状が農地ではない場合

(2)-1登記記録の地目を、畑などの農地から、宅地や雑種地などへ変更して家族信託を行います。

(2)-2農地法の要件を満たした場合に効力が生じる条件付きの家族信託を行います。

(3)地目変更の要件

農地法4条の許可

市街化区域・・・農業員会への届出(所有者=委託者)

市街化調整区域・・・農業委員会の許可(所有者=委託者と受託者)

農地法5条の許可・届出

市街化区域・・・農業員会への届出(所有者=委託者と受託者)

市街化調整区域・・・農業委員会の許可(所有者=委託者と受託者)

(4)農地法3条・・・農地を農地のまま、他の人に売却などを行う場合

農地の信託は、許可が不要とされている農業協同組合と農地保有合理化法人を受託者とする以外は、許可が下りないため行うことができません。

(農地法第3条第2項第3号、同法第3条第1項ただし書き第14号)

【条項例】

第○条 信託不動産のうち、農地法の適用を受ける土地については、次のいずれかのときに、本信託の効力を生じる。

(1)農地法に基づく許可を受け、許可通知書を受け取ったとき

(2)農地法に基づく届け出を行い、受理通知書を受け取ったとき

(3)農地法の適用対象から外れた場合

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参考

・農地法第3条第2項第3号(抜粋)

(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)

第三条   農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第五条第一項本文に規定する場合は、この限りでない。

2   前項の許可は、次の各号のいずれかに該当する場合には、することができない。ただし、民法第二百六十九条の二第一項 の地上権又はこれと内容を同じくするその他の権利が設定され、又は移転されるとき、農業協同組合法第十条第二項 に規定する事業を行う農業協同組合又は農業協同組合連合会が農地又は採草放牧地の所有者から同項 の委託を受けることにより第一号 に掲げる権利が取得されることとなるとき、同法第十一条の五十第一項第一号 に掲げる場合において農業協同組合又は農業協同組合連合会が使用貸借による権利又は賃借権を取得するとき、並びに第一号、第二号、第四号及び第五号に掲げる場合において政令で定める相当の事由があるときは、この限りでない。

一   所有権、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利

三   信託の引受けにより第一号に掲げる権利が取得される場合

・農地法上の転用(変更)要件

農用地区域内農地

市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地

原則不許可(市町村が定める農用地利用計画において指定された用途(農業用施設)等のために転用する場合、例外許可)

甲種農地

 市街化調整区域内の土地改良事業等の対象となった農地(8年以内)等、特に良好な営農条件を備えている農地

 原則不許可(土地収用法の認定を受け、告示を行った事業等のために転用する場合、例外許可)

第1種農地

10ヘクタール以上の規模の一団の農地、土地改良事業等の対象となった農地等良好な営農条件を備えている農地

原則不許可(土地収用法対象事業等のために転用する場合、例外許可)

第2種農地

鉄道の駅が500m以内にある等、市街地化が見込まれる農地又は生産性の低い小集団の農地

 農地以外の土地や第3種農地に立地困難な場合等に許可

第3種農地

 鉄道の駅が300m以内にある等、市街地の区域又は市街地化の傾向が著しい区域にある農地

 原則許可

定義条項

よく使う用語がたくさんあると、定めて便利な時があります。

【条項例】

(用語の定義)

第○条 信託契約において、用語の定義は、次の各号に定めるところによる。

(1)本信託  委託者○○と受託者○○の契約締結により効力が生じる信託

(2)信託財産  本信託の目的とする財産

(3)信託不動産 信託財産中の不動産

(4)信託金銭  信託財産中の金銭

(5)信託株式  信託財産中の株式

(6)本件会社  株式会社○○

(7)本件事業  本件会社が行う事業

契約書の構成

1、信託法の順番に合わせる場合

第1章 総則

第2章 信託財産

第3章 受託者等

第4章 受益者等

第5章 委託者

第6章 信託の変更

第7章 信託の終了と清算

第8章 その他

2、いくつかの章を併せる場合

第1章 総則

第2章 信託財産

第3章 当事者

第4章 信託の変更、終了及び清算

第5章 その他

3、実際に信託事務を処理する受託者の目線による場合

第1章 総則

第2章 信託財産

第3章 受託者等

第4章 受益者および委託者など

第5章 信託の変更、終了と清算

第6章 その他

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