加工コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(犯罪による収益の移転防止に関する法律関係)

コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(犯罪による収益の移転防止に関する法律関係)令和5年5月26日金融庁

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の一部を改正する政令案等に関するパブリックコメントの結果等について

https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230526-2/20230526-2.html

Ⅵ 犯罪収益移転防止法に関する留意事項関係

20民事信託だけでなく商事信託も対象という理解でよいか。

・・・ご理解のとおりです。

21エビデンスの一律の徴求までは求めておらず、申告ベースを前提としているという理解でよいか。

・・・取引を行う目的の確認方法は、犯収法施行規則第9条において、「顧客等又はその代表者等から申告を受ける方法」と規定されています。

なお、AML/CFT ガイドラインにおいては、「顧客及びその実質的支配者の本人特定事項を含む本人確認事項、取引目的等の調査に当たっては、信頼に足る証跡を求めてこれを行うこと」という着眼点を示しており、金融機関はリスクに応じ、適切な顧客管理を行うことが求められていることに留意が必要です。

22 特定取引に際し、特定事業者が顧客に対し信託の受託者の地位にあるかを確認すること、確認の結果受託者の地位に該当する場合には当該信託の受託者の実質的支配者の確認を行うことが求められるものと認識しているが、当該信託の委託者・受益者の確認まで求められるものではないという理解でよいか。

23 受託者のみならず、委託者・受益者の確認も必要となる場合、特に商事信託においては守秘義務の観点から、当該開示は難しい場合が想定される。このような開示を受けられない場合でも特定事業者として確認義務を果たした理解してよいか。

・・・犯収法上の「顧客等」には信託の受益者が含まれることから、特定取引に係る取引相手が信託の受益者に該当する場合には、当該受益者に係る取引時確認が求められます(犯収法第2条第3項、犯収法施行令第5条)。また、上記の場合の取引を含め各種取引を行うに当たっては、疑わしい取引の届出の判断のため、当該取引の態様等を勘案し、必要な調査・情報収集を行う必要があるもの

と考えられます(犯収法第8条第2項、犯収法施行規則第27 条第1項、同第32 条第1項)。

なお、AML/CFT ガイドラインにおいては、「顧客の受入れに関する方針の策定に当たっては、顧客及びその実質的支配者の職業・事業内容のほか、例えば、経歴、資産・収入の状況や資金源、居住国等、顧客が利用する商品・サービス、取引形態等、顧客に関する様々な情報を勘案すること」、「自らが特定・評価したリスクを前提に、個々の顧客・取引の内容等を調査し、この結果を当該リスクの評価結果と照らして、講ずべき実効的な低減措置を判断・実施すること」という着眼点を示しており、金融機関はリスクに応じ、適切な顧客管理を行うことが求められていることに留意が必要です。

25 商事信託の受託者が特定事業者と特定取引を行うに際し、受託者および受託者の実質的支配者について開示することは問題ないと考えられる一方で、委託者・受益者の開示については、守秘義務の観点で困難と考えられる。

仮に当該開示を必須とする場合には、個人情報保護法等の法令改正により開示を許容する方法もあり得ると考えるが、そのような法令改正の予定はあるか。

・・・現時点では改正は予定しておりませんが、将来の改正予定について、予断をもって申し上げることはできません。

27 銀行口座開設のケースを考えた場合、広義には、資産運用や相続などにも含まれると考えられるが、当該目的を個別に加える理由について、類型の整理を行うにあたりご教示いただきたい。

28 「信託の受託者・委託者・受益者としての取引」とせず、「信託の受託者としての取引」のみを追加する理由をご教示いただきたい。

・・・FATF 第4次対日相互審査の指摘も踏まえ、信託の受託者の立場を明らかにされないことに伴うマネロン・テロ資金供与リスクを勘案し、改訂を行うものです。信託の受託者として取引を行う場合、顧客属性から通常想定される取引とは異なる態様の取引となることから、犯収法第8条に規定する疑わしい取引の届出の判断等において、適切にその判断を行うために、その事実を把握する必要性が高いと考えられます。

31「信託の受託者としての取引」とは、委託者Aが受託者Bと信託契約を締結し、受託者BがB名義で特定取引(口座開設、送金取引等)を行うといった場合が該当するとの理解でよいか。

・・・ご理解のとおりです。

32法定後見・任意後見制度(成年後見制度等)を活用し、被後見人A名義の特定取引を後見人Bが「代理」して行う場合は、「信託の受託者としての取引」には該当しないとの理解でよいか。

また、同じく信託契約に基づくものではない「後見制度支援預金」の開設についても「信託の受託者としての取引」に該当しないとの理解でよいか。

・・・ご理解のとおりです。

33例えば、取引を行う際に顧客から専用の信託口座開設申込書や信託契約書の写し等を受け入れることにより「信託の受託者としての取引」であることを確認している場合には、それをもって「取引を行う目的」として「信託の受託者としての取引」の確認を実施していると考えられることから、別途顧客から受け入れる口座開設書類等に選択肢を追加する対応(それに伴うシステム対応を含む)までは求められていないという認識でよいか。

・・・ご理解のとおりです。当該改訂の趣旨である、FATF 第4次対日相互審査で指摘された、信託の受託者の立場を明らかにされないことに伴うマネロン・テロ資金供与リスクを勘案し、各金融機関においては、自らが提供している商品・サービスや、取引形態、顧客の属性等やその他の事情を踏まえ、実施について検討いただく必要があると考えられます。

渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(19)」

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(19)」からです。

信託目録に記録すべき情報(抜粋)

信託条項 信託財産の管理方法

受託者の権限 受益者以外の第三者の債務を被担保債権とする信託不動産に対する抵当権の設定および抵当権設定登記申請の手続

このような情報を、信託目録に記録すべき情報の信託条項として申請できるであろうか。果たして、信託法上、許容される有効な信託条項なのだろうか。あるいは、信託法上、類型的に、有効となる要件が存在するのだろうか。

信託目録に記録すべき情報の信託条項として申請できるであろうか。

→却下事由(不動産登記法25条各号)に該当する、とは考えられませんでした。

信託法上、許容される有効な信託条項なのだろうか。

→例えば、信託財産である土地に受益者の親族の居住用建物を建築する場合を考えてみます。信託行為においても、委託者の希望として親族の居住用建物の建築には、担保設定など許容しているケースです。

 居住用建物を建築計画が具体的になり、土地への担保設定が必要になることが分かったときに、親族を受益者に加えることが考えられます。また、委託者兼受益者の判断能力がある間であれば、信託財産から該当する不動産を外す、ということも考えられます。

 記事に、二回目テスト、という用語が使用されています。1回目の信託目録への記録がテストされる機会(後続登記申請時など)を指しているようです。地震についての比喩がありますが、登記申請がされないとしても、終了しない信託があるのか、分かりませんでした。

将来的に遡行的審査の基準が類型化され、登記実務家の間に共有されることができれば、状況は変化していくだろう。

 時間の経過や実務の蓄積によって、書籍の出版や通達の発出などにより、類型化されていくのではないかと思います。登記官、実務家双方にとって、異なる類型の信託目録を読み解いて処理していくのは、難しくなっていくのではないかと考えられるからです。

後続登記申請時における厳格なテストを成功させるためには、当初登記申請時における信託目録に記録すべき情報を具体化・詳細化しておくのがよい。しかし、当初時点における後続登記申請の予測は、あくまで想定であるという限界もある。

 日時や期間、固有名詞などは、確定している事項を除いて、詳細な記載は不要だと感じます。また、~する、を~することができる、とするなど、受託者の裁量に幅を持たせることが必要な場合もあるのかなと思います。

信託法上、受託者に対して、信託行為の定めなしに、当然に完全な処分権限が与えられているのか否か、という問題がある。

 受託者は、信託法上、信託法2条1項、2項5項、26条から55条まで、などに縛られることになると考えられます。委託者の終了権に関わる合意権、という用語が出てきますが、どのような権利なのか分かりませんでした。

参考

昭和44年8月16日 民事甲第1629号 民事局長回答 信託の登記ある不動産を目的とする抵当権設定登記申請の受否について

要旨 信託原簿記載の信託条項に「信託財産の運用及び処分方法は受託者において自由に実行し得るものとする」旨の信託の登記ある不動産について、「受託者は受益者の債権者に対する債務全額を担保するため、受託者所有の不動産につき債権者のため抵当権を設定することとし、直ちに債権者に対し右抵当権設定登記手続きをする」旨の和解調書を添付して抵当権設定登記申請があった場合、これを受理してさしつかえない。


[1] 902号、令和5年4月、テイハン、P71~

遠藤栄嗣「委託者代理人を考える―委託者の地位の承継移転の欠陥を補う方策として―」

信託フォーラム[1]の記事、遠藤栄嗣弁護士「委託者代理人を考える―委託者の地位の承継移転の欠陥を補う方策として―」からです。

後継委託者、という用語が出てきますが、記事では委託者の相続人と定義しているようです(P107)。

著者の問題意識

・信託契約における、委託者の地位(信託法146条、147条)に関する条項について

条項がない場合は、委託者の地位が委託者の相続により承継され、後継委託者が多数存在する信託となり、信託事務に関する意思決定が、円滑に出来ない可能性が高くなる。

「委託者の地位については、相続により承継しないが、受益権の移転とともに新たな受益者には移転する」と定めた場合は、受益者が複数の場合、複数委託者が登場し、中には受託者と敵対関係を持つ者が出てくる可能性がある。

・後継委託者が、受益権割合の多数を取得したものであり、かつ、受託者である場合は、受託者のへの監視・監督機能が期待できない。

→信託法2条1項、8条との関係で、個別具体的な判断になると思います。

解決策

1 「委託者の地位は、受益権を取得した者に移転するものとし、委託者の死亡により相続されない。この場合において、委託者の地位を受けた者は、追加信託できるほか委託者の義務を負うものの委託者の権利を行使することができない」との条項を置く。

・・・私が、「市民と法」112号、2018年8月、民事法研究会、P54で、次のように事案に応じたチェック方式の条項として記述しています。似ているような感じを受けました。この条項を置いた場合、金銭については追加信託が可能ですが、不動産については、不動産登記法の構造上、追加信託が出来ません(受益者は登記名義人ではないので、登記義務者となることが出来ない。不動産登記法法2条1項10号から12号、60条、62条、63条、64条。)。私はこの部分について、答えを持っていません。

(委託者の地位)

□1  委託者は、次の各号の権利義務を受益者に移転する。

□(1)信託目的の達成のために追加信託をする権利義務。

□(2)受益権の放棄があった場合に、次の順位の受益者または残余財産の帰属権利者がいないとき、新たな受益者を指定することができる権利。

□2  委託者は、受益者を変更する権利およびその他の権利を有しない。

□3 委託者の地位は、受益権を取得する受益者に順次帰属する。

□4 委託者が遺言によって受益者指定権を行使した場合、受託者がそのことを知らずに信託事務を行ったときは、新たに指定された受益者に対して責任を負わない。

 1項では、委託者の持つ権利義務のうち、一部を受益者に移転する。権利義務のうち一部を移転することは、(1)信託法に一部移転を制限する定めはなく、(2)受益者に不利益がないことを要件として可能である。

 1号は、委託者から受益者へ、信託目的の達成のために追加信託をする権利義務を移転する。追加信託を設定する義務は、信託法48条などを根拠として受益者に備わっているという考えも成り立つ。当初から受益者に追加信託設定の義務があるとしても、その権利義務は受託者が信託事務を行うために必要な財産を補うためのものに限られる可能性がある。受益者固有の余裕財産を信託財産に移す権利を排除しないために、委託者が信託当事者として持つ追加信託の権利を受益者に移転する。これにより受益者は、委託者から移転された権利及び受益者に備わっている義務を根拠に追加信託を設定することができる。

 2号では、委託者から受益者へ、受益権の放棄があった場合に次の順位の受益者または残余財産の帰属権利者がいないとき、新たな受益者を指定することができる権利を移転する(信託法89条)。本稿で想定する遺言代用信託(信託法90条1項1号)における委託者は、受益者変更権を有する(信託法90条1項本文)ので、利用できる場面を制限(信託法90条1項本文但し書)して民事信託の安定を図る。ただし、新たな受益者を指定する受益者(又は受益者代理人)が生存している場合に限り利用することができる権利であり、受益者が死亡した後に次の順位の受益者として指定されていたものが受益権を放棄した場合には利用することができない。

 2項では、委託者に信託設定後の権利を持たせないとする(信託法89条、90条など)。1項において受益者に移転した権利の他、委託者は信託設定によりその権利関係から外れる。

 3項は、信託財産に不動産がある場合における登録免許税を考慮した条項である[2]。また委託者の地位に関するリスクとして、委託者の地位が相続または第三者へ移転された場合、その地位(権利)の所在が不明となる可能性を取り除く。

 4項は受託者の免責事由を定める(信託法89条3項)。遺言は単独行為であり、信託契約において禁止・制限しても委託者が行うことは可能である。

2 委託者代理人制度

役割

1 委託者の死亡により、多数の後継委託者が登場した場合、その権利義務を制限すること。

2 意思表示が思うようにできなくなった当初委託者の代理人。

3 受益者代理人の委託者版。

選任方法

 委託者が意思能力を著しく欠く状態になったとき及び後継の受益者が委託者の地位を取得したときに、後任者【住所・氏名】を代理人に指定。

・・・委託者の地位は、受益権と共に移転する、というような条項があることが前提となっていると思われます。意思能力を著しく欠く状態になったとき、という条項が抽象的ではないかなと感じました。

 意思能力を著しく欠く状態になったとき及び後継の受益者が委託者の地位を取得したとき、を、及びで繋いでいますが、私が定めるとしたら、または、で繋ぐと思います。

分からなかったこと

委託者代理人というのは、制度なのか。


[1] 19号、2023年4月、日本加除出版、P107~

[2]信託法146条、登録免許税法7条2項東京国税局審理課長「信託契約の終了に伴い受益者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」2017年6月22日回答

金森健一「第4回民事信託実務入門―民事信託の標準仕様を備える―公正証書と信託口口座(上)―」

信託フォーラム[1]の記事、金森健一弁護士「第4回民事信託実務入門―民事信託の標準仕様を備える―公正証書と信託口口座(上)―」からです。

信託は受託者が受託者責任を負うこと(信託内のフィデューシャリー。)でその目的を図るものであるが、民事信託の受託者は「生身の素人」であるがゆえに民事信託を設定「専門家」がその受託者による信託事務処理を容易にするための措置を講ずるべき義務を負っているというべきである(信託外のフィデューシャリー。)。これは、依頼者に対する「専門家」の善管注意義務(民法644条)、少なくとも信義則上の義務(民法1条2項)をなすのではあるまいか。これが筆者の考える二重のフィデュ―シャリー論である。

 フィデューシャリー、という用語が、どのような意味で使われているのか、分かりませんでした。カッコの使い方から推測して、託された者・委任された者の信認関係に基づく責任としておきます。

 信託法2条1項、2項5号、8条、9条、26条から37条までなど、信託内で、受託者が信認義務を負うことに同意です。

 専門家が依頼者である委託者に対して、受託者による信託事務処理を容易にするための措置を講ずるべき義務を負うことに同意です。

 これが二重のフィディ―シャリーというのであれば、任意後見契約案の作成の依頼を受けた場合も、同じように二重のフィディ―シャリーというものが働くのではないかと思いました。

公正証書により信託契約を締結することも信託口口座を利用することも受託者による信託事務の処理をより容易にするための措置である。

 少し違和感を持ちます。公正証書により信託契約を締結する理由は、記事にも記載されていますが、信託口口座を開設する金融機関の要請があるからです。信託口口座を開設する理由は、信託法23条(信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等)、34条(分別管理義務)に拠ります。金銭として銀行の貸金庫に入れる可能性も考えられます。

 金融機関の要請(判断能力の低下した状態での信託契約締結リスクの低減、公証人による違法無効のチェックを得ることでのリスク低減)がなくなって、信託口口座への強制執行等の制限の運用が、実務上確立してくると、信託契約を公正証書にするのは、必要に応じて、という実務に変わるのが信託当事者の負担も減ると思われます。また専門家責任という意味でも、無条件で公証人にリスクの一部を引き受てもらうことを排除することで、果たされる部分があるのではないかと思います。

参考

タマール・フランケル 著『フィデューシャリー「託される人」の法理論』2014、弘文堂

https://www.koubundou.co.jp/book/b172115.html


[1] 19号、2023年4月、日本加除出版、P121~

渋谷陽一郎「民事信託と登記―昭和43年先例、香川判事と相馬司法書士(追悼)―」

信託フォーラム[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託と登記―昭和43年先例、香川判事と相馬司法書士(追悼)―」からです。

昭和43年4月12日付け民事甲664号民事局長回答

 客年6月21日付登第429号をもって紹介のあった標記の件については、前段、後段とも貴見のとおりと考える。ただし、後段の場合は、不動産登記法第49条第4号の規定により却下するのが相当である。

―中略―

照会文

 登記されている信託条項が、別記のように表示されている場合、受託者から、委託者又は受益者以外の者に対し、信託期間終了後であっても、信託期間終了後の日付でなされた売買その他の有償行為を原因として所有権移転登記の申請があったときは、受理すべきものと考えますが、贈与その他の無償行為を原因として所有権移転登記の申請があった場合は、登記されている信託条項に反するので、不動産登記法第49条第2号又は同条第4号の規定により却下してさしつかえないと考えますが、いささか疑義もあるので、お回示を願います。

登記研究246号昭和43年4月12日 民事甲第664号 民事局長回答

信託財産の所有権移転登記の取扱いについて

1、信託の目的

信託財産の管理及び処分

1、信託財産の管理方法

信託財産の管理方法(処分行為を含む)はすべて受託者に一任する。

  • 信託終了の事由

 本信託の期間は五カ年とし期間満了による外、受託者が信託財産を他に売却したるとき及び委託者が信託財産を委付したときはこれにより信託は終了する。

  • 其他信託の条項

 本信託は委託者が大阪市内に家屋を建築するための資金を得るため且委託者が現在第三者より負担する金銭債務を返済するための資金を得るために受託者をして信託財産を売却せしめんとするものにして現在借家人の立退要求、其他売却条件の困難のため売買が進捗しない場合に於ても委託者の要求あるときは受託者は自己の資金を委託者に融通し、又その金融のためには自己の責任に於て信託財産を担保に供することができる。

 前記による金融のため委託者が受託者に対し金銭債務を負うに至った場合に於てその返済をすることが困難と思料するときには、信託財産を委付してその債務を免れることができる。

 前項委付により委託者は受益権並びに元本帰属権(信託財産の返還請求権)を失うものとする。

 委託者及び受託者の死亡は本信託に影響を及ぼさないものとする。

 委託者と受託者との合意により何時でも信託条項を追加又は変更することができる。前記以外の事項に付てはすべて信託法の定めるところによる。

・返済期限を5年とした金銭消費貸借契約の、担保としての信託と思われます。

なお、信託原簿時代の本先例では触れていないが、信託の登記の記録欄の振り分けという問題がある。本照会分でいうならば、「委託者の資金調達のための信託財産の売却」という定めは、信託の目的の領域なのか(不動産登記法97条1項8号)、あるいは、受託者の権限の領域なのか(同行9号の信託財産の管理方法)、という実務論点である。

 記事記載の通り、受託者が委託者のために行う、受託者による信託財産の管理方法であり、広義の信託の目的でもある、と考えられます。どちらか一つに振り分ける必要はないと思います。信託目録への記録申請は、後続登記との連続性を考えると、信託財産の管理方法に記録が必須、信託の目的には要約(例として、委託者の資金調達など。)になると思われます。


[1] 19号、2023年4月、日本加除出版、P114~

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