法制審議会信託法部会 第40回会議 議事録


法制審議会信託法部会 第40回会議 議事録 第1 日 時  平成29年4月11日(火)   自 午後1時30分                         至 午後5時33分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第40回会議を開催いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。   4月の人事異動により,本日の部会から,法務省民事局の川畑局付と渡部局付が,関係官として加わられることになりました。両関係官,簡単に自己紹介をお願いいたします。 ○川畑関係官 法務省民事局付として参りました川畑と申します。よろしくお願いいたします。 ○渡部関係官 法務省民事局付として参りました渡部と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○中田部会長 どうぞよろしくお願いいたします。   本日は,小川委員,神田委員,稲垣幹事,岡田幹事が御欠席です。   最初に,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。 ○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。前回,部会資料39「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(2)」を配布しております。また,今回新たに配布する資料として,部会資料40「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(3)」を事前に送付させていただきました。   以上の資料について,もしお手元にない方がおられましたらお申し付けください。よろしいでしょうか。   なお,今回の部会資料40ですけれども,本年1月の第37回会議で御審議いただいた部会資料37で論点として挙げておりました,公益信託の終了等の論点についての補充的な検討という趣旨で作成したものでございます。   第37回会議から余り時間がたっていないこともありまして,網羅的にではなく,現段階で更に検討していただく必要があると事務局の方で判断した論点を中心に記載しております。例えば,公益信託の名称や新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱いの論点は,今回の部会資料40には記載していませんが,事務局としてはこれらも重要な論点であると考えており,特に後者については皆様の意見が大きく分かれていることを前提として,今後の中間試案に向けた作業を進めていく予定であることを御了解いただければと思います。 ○中田部会長 本日は,前回,積み残しになりました部会資料39の「第7 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」及び「第8 公益信託における情報公開」を御審議いただいた後,部会資料40について御審議いただく予定です。途中休憩前までに部会資料40の「第1 公益信託の終了,変更命令」の審議に入りまして,午後3時過ぎに切りのよいところで休憩を挟んで,その後,それ以降の御審議を頂くことを予定しております。   では,本日の審議に入ります。   まず,部会資料39の第7と第8について御審議いただきたいと思います。いずれも事務当局の説明は前回,既にされていますので,最初から意見交換に入りたいと思います。まず,「第7 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」について御審議をお願いします。御自由に御発言ください。 ○吉谷委員 第7につきましては,提案には反対でございます。それは受託者と信託管理人では,異なる規律がよいと考えているからです。受託者と信託管理人では,公益信託において果たす役割や,その重要性というものが大きく異なります。そのため個別に規律の在り方を考えるべきであると考えます。受託者は信託財産の帰属主体であり,信託事務の執行主体であり,認定や監督を受ける主体でもあります。公益信託の要であり,その適格性は,より慎重に判断されるべきです。   一方で,信託管理人は,受託者の信託事務の監督が任務でありまして,助成型のような,現在行われているようなものですと,年に数回チェックを行うということに業務内容がとどまっております。相当にパッシブな性格なものであると思います。   このような両者の差異からすれば,受託者は認定行政庁等による事前のチェックがなければ新たな受託者に信託事務を行わせるべきではないと思いますが,信託管理人につきましては,業務開始後の認定行政庁等による事後チェックでも足りるのではないかと考えております。そのために同じ規律にする必要はないと思います。   具体的な信託管理人の規律につきましては,これは一読のときの繰り返しではありますけれども,信託管理人の辞任には,信託関係人の同意や第三者機関の許可というのは不要であると考えます。辞任の要件としてやむを得ないというものを要求すべきでもないと思います。これはなり手確保の観点からということです。   信託管理人の解任・選任につきましては,信託行為で規定をしましたら,内部完結が可能という方法も十分に検討に値すると考えております。信託管理人のガバナンスにおける重要性に照らせば,辞任等については内部完結とはいえ,認定行政庁等への事前の届出等を義務付けるというような方法も考えられるとは思います。   また,受託者について,職権による解任を認めるべきということを申し上げておりますが,これは信託管理人にも当てはまり,職権による信託管理人の解任というのも認めるべき,あるいはそれができないのであれば,認定行政庁による信託管理人の解任,あるいは辞任の勧告等の処置が設けられるべきであると考えます。   その解任については,受託者単独での解任権というものは認められなくてもやむを得ないと思いますが,辞任と選任については,内部で完結できるべきであると考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   吉谷委員のただ今の御発言の中で,行政庁という言葉が出てまいりましたけれども,裁判所か行政庁かという選択の場合には,ここでは行政庁という判断でございましょうか。 ○吉谷委員 さようでございます。 ○林幹事 弁護士会の議論では,基本的には,信託管理人の辞任・解任等について,受託者の辞任・解任等と枠組みとしては同様に考えるというので特に異論はなかったのですが,確かに信託管理人と受託者の違いというのが当然あるわけでして,同じ枠組みながら微妙に違うところをどう捉えるかというか,そういう点で考えるべきと思います。   その中では,解任申立権についてという論点の指摘がございましたが,それについても受託者に解任申立権を認めるかどうかという問題点があると理解しています。それについては,賛成意見が多かったと思います。   委託者に認めるのかについては,ほかの論点でも同様のところですが,委託者か受託者か,考えられる登場人物はこれぐらいだと思うので,少なくともどちらかというのは当然かと思います。 ○能見委員 別に違った意見があるということではなくて,先ほど吉谷委員が言われたように,信託管理人については,受託者よりも辞任に関しては軽い要件でもって辞任ができるという考え方に賛成いたしますので,その基本的な考え方に賛成するということだけ申し上げたいと思います。 ○中田部会長 辞任についての御発言と承ってよろしいですね。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 前回,欠席したのですけれども,当方の考えとしては,この信託管理人の辞任・解任,選任について,特に運営委員会というものを必置の要件とすべきだという見解を私ども採っているのですけれども,正にこのときにこそ,その運営委員会というものが機能を発揮するような場面であると考えておりまして,委託者や受託者を管理する立場にある信託管理人の辞任・解任や選任について,受託者が権限を持つということはおかしいと思いますし,そういう意味で運営委員会を創設して,前回の第5や6に述べました受託者の辞任・解任,新受託者の選任の規律に,この運営委員会というものが反映させられたものと考えれば,それをこの信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律においても適用するべきであると考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   裁判所か行政庁かということについてはいかがでしょうか。 ○平川委員 行政庁に対する届出というような形で考えております。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○深山委員 結論としては,提案のとおりでいいのではないかと考えております。議論がされているように,受託者と信託管理人の役割が違うということは全くそのとおりであり,そういう意味では同じ規律でなければならないということでもないのですけれども,では,どこをどう変えなければいけないかと考えたときに,規律を変えるほどの差を設ける必要があるのかなと思います。   準用規定になるのか,同じようなフレーズで書き起こすのかという技術的な問題はありますけれども,いずれにしても,例えば受託者が任務をきちんと履行しているかどうかということと,信託管理人がその任務を適正に履行しているかということは,もちろん任務が違うので,判断の視点も変わってくるのでしょうけれども,しかし任務を適正に遂行しているかどうかという抽象的な言い方としては,同じような言い方になるのではないかなという気がいたします。   その意味では,条文として準用するか,あるいは同じような表現だとしても,おのずとその判断の中身は変わってくる。そのことを前提に,法律の規律としては,あえて変えるほどの必要はないのではないかという消極的な理由です。同じにすること自体に意味があるわけではないのですけれども,変えるまでの必要性は乏しいという消極的な理由から,提案に賛成したいと思います。 ○能見委員 先ほどの補足をしたいと思いますけれども,信託管理人の辞任に関しては,内部的に簡単にできるようにということで構わないということを申し上げましたけれども,その際に,先ほど運営委員会の意見が出ましたので,運営委員会を設けて,それの承認等を求めるというようなことについては,これは反対したいと思います。   これはそもそも運営委員会というのは,どういう位置付けで設けるかということに関連する基本的な問題ですけれども,運営委員会については,公益信託のガバナンスの一端を担うような役割を持たせるべきではないという考え方を基にして考えますと,これは私の考えですが,そうしますと信託管理人の辞任について,運営委員会の同意が要るというような規定は望ましくないと考えます。 ○新井委員 信託管理人の役割というのは,私益信託と公益信託で随分違うと思うのです。公益信託においては,信託管理人は必置の機関です。受益者(受給権者)の権利擁護という意味で非常に重い役割を持っておりまして,それで私益信託と公益信託で信託管理人の役割は異なりますが,公益信託においては受託者の役割にも匹敵する機能というのが非常に大きいと思うのです。したがって,私としては,あえて信託管理人と受託者の辞任・解任等について,分ける必要はないのではないかと思います。   さらに,私は運営委員会は設置すべきだという論者ですが,この部会では必ずしもそうではなくて,むしろそれは要らない,という意見もかなり強いと理解しています。そうすると,運営委員会を設置しないとすると,より信託管理人の役割が大きくなると思うのです。その意味でも,機能というのは,より受託者に近くなりますので,あえて両者を分けるということの必要はないのではないかと考えます。 ○山田委員 一度にたくさんのことが今,話題になっていると思うのですが,1点に絞ってのみ発言いたします。   新信託管理人の選任であります。同じ信託法部会資料39の21ページの公益信託の新受託者の選任というところが,ここにスライドされてきているのだろうと思います。したがって,新受託者の選任を行政庁が選任するのか裁判所が選任するのかということとともに議論することになると思うのですが,まず,新信託管理人の選任は裁判所が選任するのがよいだろうと思います。具体的に今,行政庁が選任することとすべきだという御意見が複数出ましたので,それと違う考え方を持っているということで申し上げたいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。   もし,その理由を補充してくだされば。 ○山田委員 それは受託者のところでも多分申し上げたと思うのですが,認定行政庁の役割というのは,私人が作り上げた信託の仕組みをよしとするか,あるいはそれでは足りないとするかという受け身の立場に徹するべきであり,当事者が,あるいは関係人が,特にここの信託管理人が不在になったときの選任のように,誰かに協力してもらわなければならない,私人の中では新しい体制を作ることができないというときには,裁判所が,信託法が定めている規律と同様に裁判所が選任するという考え方で,私は,ここは臨んでいいのだろうと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。   今,山田委員から御指摘いただきましたように,いろいろな問題が入っているわけでございまして,受託者と信託管理人をどの程度近く見るのか,あるいは離して見るのかという点と,それから具体的な規律の在り方についての問題があると思います。   具体的な規律の在り方は,前回,受託者についてかなり御議論いただきましたので,それとの対応も考えながら,信託管理人について,ただ今頂いた御意見を踏まえて一つずつ,また御検討いただくということになると思います。   この第7については,大体よろしいでしょうか。   それでは,続きまして「第8 公益信託における情報公開」について御意見をお願いいたします。 ○川島委員 事務局案に賛成する立場で,2点申し上げます。   まず,1点目は,行政庁の情報公開について,今回,公益信託の認定,変更,取消し等の事項を公示しなければならないとの事務局案が示されました。   これについては異論ございませんが,部会資料36の別表5で,行政庁等における公表義務の欄で丸が付されていた事項については,これらについても公表義務を課すという理解でよいか,念のため確認をさせていただきたいと思います。   次に,受託者,行政庁における公告方法について,受託者における電子公告を認めるということについては,妥当と考えます。その上で,公益信託における情報公開については,その内容だけではなく,方法においても公益財団法人と,できるだけ同等のものとすることがよいと考えます。   そのような観点から,手間やコストがどれぐらい掛かるかにもよりますが,受託者,行政庁における閲覧を義務付けることが望ましいと考えますので,意見として申し上げます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   第1点についていかがでしょうか。 ○中辻幹事 御質問にお答えします。   部会資料36の別表5で行政庁における公表又は公告義務がある書類として丸を付けているもの,例えば当該信託年度の事業計画書,収支予算書,事業状況報告書等の書類については,前回の提案時と同様に,事務局としては公表義務を課すべきであると考えています。   なお,前回,吉谷委員から,丸を付けたものや三角を付けたものについて公表・公告の義務を課すかどうかは個別に必要性を検討していくべきであるとの御指摘も受けておりますので,引き続き皆様の意見をお伺いしながら検討していきたいと思います。 ○中田部会長 川島委員,よろしいでしょうか。 ○川島委員 はい,ありがとうございました。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○樋口委員 この情報公開のところで一つ確認というのか,質問しておきたいところがあるのですけれども,これに,つまり信託行為を含めないという話がありますね,公告の対象としない。そこの文章は,私には理解がうまくできなくて,このまま3のところを読みますけれども,「ただし,これは法人の権利能力の範囲を画する定款」,定款の方は公表するが,「信託行為は受託者の権限を制約するもので,両者は性格を異にすることからすると,信託行為を公告の対象に含めることは妥当でないと考えられる」というのが,どうして妥当でないのかが本当に分からないので,ちょっと教えていただけると有り難いと思います。 ○中辻幹事 前回,事務局からは,実質上の理由として,信託行為にはプライベートなことも含まれているので,定款とは違いますということを申し上げました。その上で,道垣内委員から,理論的にも定款と信託行為とは性格が異なり,定款は書面しかないのに対し,信託行為は書面以外のものも含めて信託行為として解釈されるという御指摘を頂きましたので,そのような趣旨を3では表現したかったということでございます。一般法人でも公益法人でも定款は公開されるのに対し,一般の信託,すなわち受託者の定めのある信託の信託行為は公開されないので,それと異なる取扱いを公益信託ですることには十分な理由付けが必要であるようにも思います。これらの理由から,信託行為のうち公益信託の事業計画のような主要な部分が公開されるのであれば,あえてそれ以外の部分も含めて信託行為の全部を公開すべきとまでは言えないとしております。 ○中田部会長 樋口委員,よろしいでしょうか。 ○樋口委員 続けてよろしいですか,では,今に関連して。   プライベートなことが含まれるのではないかという,これもまた質問の形になるのかもしれませんけれども,3のちょっと上に「公益信託の内容のうち個人情報的なものの開示は慎重にすべきである」と。これと同じことを今おっしゃられたのかもしれない。そうすると,定款の中で個人情報的なことが入るというのは一切ないのでしたか。   それから,最後に信託と,つまり法人の方は何であれ,公益法人であれ一般法人であれ,定款というのは公表することになっているけれども,信託というのは,私益信託は大体公表されていないではないかというのは,そういう区分の仕方は,つまり法人か信託かという形で概念的に分けて,こっちに近いではないかという話は理屈としては分かりますけれども,これは公益信託なので,公益信託の一番基本的な柱ですよね,何しろ信託行為なるものが。それを,公益信託を作ろうという人が公表したくない,公表しなくていいというのが,本当は,私は理解ができないのですけれども,堂々と公表してというのは,更に言えば,ちょっとこれは言いすぎになるかもしれませんけれども,公益信託について,公益法人に比べて,まずガバナンスの問題がどうなのか。信託にはそもそもガバナンスがあるのかという話が伝統的にあるわけですよね。その弱さが信じられていて,そのためにも信託管理人は必置だというわけですけれども,一方では信託管理人のなり手というのを考えて,簡単に辞任もできるようにしようという議論も,実際問題としてあるわけです。つまり,信託管理人にも余り期待はできないということなのですね,はっきり言えば。   そうだとすると,肝はむしろ情報公開になるのではないかと思うのです。私は,たまたまネットに行ってみて,自分には歯が立たないということがよく分かりましたけれども,フォード財団の情報公開というので,ずらっと何とかバランスシートとか,そういう類いの話から今年度の活動とか何十ページにも及ぶ詳しいものというのが出てきて,あれが,私には歯が立たないけれども,あれだけの情報公開制度があるなら,本当に公益法人あるいは公益信託の活動を何らかの形で外部的にモニタリングするような機関というのが,そのうち出てくると思うのです。   出てきてしかるべきなのですけれども,特に税法上の恩恵を受けているという話であれば。それこそ公益活動としてやるような人たちが出てきたときに,やはり大事な情報は,きちんと公開するという方が,むしろ今後のガバナンスの在り方としては重要なのではないかと思っていて,その公益信託の最初の基本的文書である信託行為について,何か妥当でないから公開してなくてよいというのが,どうもうまく釈然としないのは,もしかしたら私だけなのかもしれないのですけれども,どうして困るのか,それは何か具体的な例で,こんなのはやはり公表すべきではないのですよねと言ってくださると,私も得心がいくかもしれないと思っております。 ○中田部会長 これは事務局の判断というよりも,前の第37回でしたかの審議の際に,信託行為については公開すべきでないという御意見があり,あるいは個人情報について配慮すべきであるという御意見があり,複数の委員,幹事の御意見があったのを,ここに反映しているというつもりだろうと思います。   その上で,樋口委員は,いや,信託行為も公開すべきであるという立場から今,るる御説明いただいたかと存じます。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 話を二つに分けて考える必要があるのだと思うのですね。妥当でないか,妥当であるかという問題と,理屈上,可能なのか,可能ではないのかという問題とです。   私が発言させていただいたのは,専ら後者のつもりで発言させていただきました。つまり,定款については,登記対象であるということからしますと,それが文書として作成されていることが前提であり,そして,その範囲内,そこに書かれている文言の範囲内で,会社が権利を有し義務を負うという形になるわけです。会社を作るという際に,発起人たちが集まって,定款にはこう書いてあるけれどもこうしようということを合意していても,それは登記されていない内容ということになりますから,効力を有しないことになります。   それに対して,信託行為というのは法律行為という言葉に対応する概念であって,信託が信託契約によって設定されるということになりますと,その契約解釈の問題です。そうなると,信託行為を開示するというのは,契約文書の開示にとどまらない可能性があるわけです。解釈も含めた形での信託行為というのを公開の対象とするというのは,少なくとも定款とパラレルに考え得る問題ではないのだろうと思います。例えば,文書をして作成されたもの以外に,いろいろな合意があるときに,では,文書だけ公開すればいいのか,文書外の合意を公開しなければいけないのかという問題が生じてくるはずであって,そうなると,定款とパラレルだから信託行為も開示対象としましょうというのは,理屈上は難しいのではないかということを申し上げた次第です。   それは非常に限界的な問題であって,普通ならば公益信託が文書ベースで設定され,その文書が信託行為そのものであり,その文書に従って様々なことが決められるというのは,それはそのとおりだと思います。   しかし,理論上は必ずしもそうはならないのではないか。そうすると同じに規定するというのは,理屈上は不可能ではないかということを申し上げた次第です。 ○樋口委員 今の道垣内委員の意見には異論があります。一つは,定款だって解釈の余地は幾らでもあるのではないだろうか。だって,結局のところは文書ですから,そういう話はないかなというのと,認定するかどうかの段階で,信託行為を含めて検討対象にした上で,認定しているのですよね,何らかの形で。そうではないですか。 ○山田委員 そうだと思います。 ○樋口委員 すみません,ありがとう。 ○山田委員 小幡委員に伺えば,認定されていますので,実際のところをお話しいただけるのかもしれません。 ○樋口委員 基本的なところでね。そうすると,認定の際には,きちんと何とかやっているのに,情報公開はしないというのも何だかという。こっちは妥当でないうんぬん,それから,つまり可能だということです,簡単に言えば,今の道垣内委員の議論のレベルのところと同じところで言えば,それが契約であろうが何であろうが,きちんと認定してやっているわけですから,その段階で可能だというのだったら,情報公開だって可能だろうと思いますけれども,可能である上に,それは道垣内委員は別の問題だということで,それについては御意見を言わなかったけれども,やはり公開原則の方が妥当なのではないかと私は考えるということです。同じことを繰り返して恐縮でした。 ○能見委員 定款と信託行為はもちろん,道垣内委員が言われるように,恐らく違う要素が加わってくると思いますけれども,ここで考えるべきは,公益信託の場合に,できるだけ公開できるものは公開するというような方針を採るかどうかという観点から考えればいいのではないかと思います。   そうしますと,確かに信託行為として文書になっているものについて言えば,それについての解釈が加わったりするので,文書としての信託行為だけでは全てが決まるわけではないわけですが,文書として存在する信託行為は原則公開する,特に公開を妨げるべき要素がないのであれば,すなわち個人情報などの問題がなければ,それは公開すればいいではないかと私としてはむしろ単純に考えたい。繰り返しになりますが,基本的な考え方は,公開できるものは公開するということでいいのではないかということであります。   それからもう一つ,これはもう少しいろいろ複雑な問題が絡むことで,簡単に言えないのですが,信託行為を公開することで,受託者の権限の範囲がある程度明確になります。それゆえ,権限違反の処分があったとき,受託者による信託財産の権限外処分があったときに取消権の問題が出てくるわけですが,現在の27条の取消権というのは,相手方が権限外処分であることについて悪意,重過失がないと取り消せないということになって,非常に取消しが難しくなっているわけですが,信託行為が公開されていますと,相手方の悪意,重過失が言いやすくなります。もちろん,信託行為における書き方にもよりますが,受託者の権限が信託行為で明確に書いてあれば,その開示されている信託行為を見れば,相手方にすぐ分かるような状態になっているのであれば,権限違反処分についての相手方の重過失は認定しやすくなりますので,権限違反の信託財産処分行為の取消しが容易になり,それは結局,公益信託の財産を確保,保護することにつながります。本当は,私益信託にも同じ問題があるわけですが,少なくても公益信託においては,信託行為を開示することで,このようなメリットもあるということです。この2番目は理由はちょっと付け足しの理由かもしれませんが,私としては公開できるのであれば,公開していいのではないかと思います。 ○吉谷委員 議論が,信託行為という書面,信託契約書あるいは遺言というものを公開するべきなのかどうかということだと今,理解しましたのですけれども,第36回の資料の別表5には,信託行為の内容を示す書類というのが公開対象となっておりますので,信託契約書であるとか遺言であるとか,そのもののコピーをPDFとかで張り付けるということは,あえてしなくてもいいのではないかと思います。   それは不動産登記でも,昔は,信託原簿で契約書のコピーなどを登記簿の謄本にも,一緒に出していたと思うのですけれども,今は信託目録となって,信託行為の内容を示す書面で十分だとなっていますので,あの趣旨からすると今の提案の内容で十分なのだろうと思いますし,遺言とか契約とかで公開されるとなってしまうと,取りあえず何か余り書くのはやめておこうみたいな発想に,逆に書面の作り方としてなってしまいますので,余りそういうことはよろしくなくて,むしろ信託行為の内容を示す書類の中に,今お話しになられたような趣旨の内容が十分に盛り込まれていればよろしいのではないかと理解しております。 ○道垣内委員 吉谷委員がきれいにまとめてくださったので,特に言うべき事柄はないのですけれども,定款だって解釈の余地があるではないかということでして,それはそのとおりなのですが,文書の文言解釈なのですね。   それは信託行為の解釈と本質的に違うものです。そして,能見委員がおっしゃったのは,正に吉谷委員がおっしゃったように,文書化されているものがあれば文書化されているものを出せ,あるいは,合意文書そのものではなくても,別の整理の仕方をした書面を出せという話と,信託行為を出せという話は,全然論理的には違う話です。吉谷委員が前々回か何かの議論の話としておっしゃったところの信託行為の内容を示す書類を出せということであれば,私は反対するつもりはありません。ただ,信託行為を公開しなさいという文言は,私は論理的には認め難いと申し上げているだけです。 ○新井委員 基本的には私は,この提案に賛成です。その上で申し上げたいのは,今の我々の議論は,信託財産をこれまでの金銭から不動産にも拡大しようとなっております。   そうすると不動産ですと,信託目録というのを必ず添付しないといけません。信託目録の記載事項というのは,必ずしも一定のものがあるわけではないのです。契約内容を抜粋した省略版を載せたり,非常に詳細なものを載せたりするということがあるわけです。ですから注意点としては,この公示というときに信託目録に記載する機微情報をどのように調整していくかというのが本当の論点のように思われます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○小幡委員 私も情報公開は,基本的にはできるものはした方がよいと思います。今のは技術的な問題で,信託行為と言わないで,その内容を示す書類ということでよろしいと思います。   個人情報的なものの開示を慎重にすべきとありますが,個人情報というのは,何を指しているか。例えば,確かに遺言そのものを貼り付けろというのは,適当でないので,このように御本人たちにとって開示したくないと思うものは当然あると思うので,そういうものは外すべきだと思うのですが,一般には,個人の名前が出るというのは幾らでもあり得るわけですから,それを個人情報で駄目という趣旨ではないですねという確認と,もう一点,行政庁による情報公開も信頼を高める上で有用とありますが,それは行政庁が認定するから当然のこととして,それについては公表するというのにすぎないのであって,基本的にはやはり自ら情報を公開していただくという形がほとんどではないかと私は思います。   今の個人情報に関しての意見です。 ○中田部会長 前半に出てきました御質問の点については,いかがでしょうか。 ○中辻幹事 現在の公益信託の受託者がほとんど信託銀行であることを前提とすれば,どの信託銀行が受託者でありその本店所在地がどこかは既に公開されているものですし,個人情報で駄目ということはないと思います。その上で,誰が委託者で誰が受託者であるかは公益信託の基本的な情報として原則的には公開されるべき情報なのだろうと思います。もっとも,御指摘の遺言の場合もそうですけれども,無記名の寄附のように個人の委託者が自らの氏名や住所を公開したくない場合はあるかもしれませんし,それは新たな公益信託を仮に個人の受託者が引き受けることになった場合にもあり得る話で,そのような部分で個人情報というのを考えて行かなければならないように思います。 ○林幹事 弁護士会の議論では,部会資料の第8の御提案には基本的には賛成でした。個々の規定というか,情報開示の個々の内容によるという面もあるのでしょうけれども,基本的には賛成であったと思います。   先ほどの信託行為等の件については,これは個人的な考えですが,信託行為そのものは基本的に公開すべきではないというところは理解できるのですが,一方で,個々の公益信託の基本的な構造というか,その内容は情報公開の方法によって公開されてしかるべきだと思います。部会資料36の表の理解を十分できていないのかもしれないのですが,何か基本的な構造を示す書類が,開示の対象になっていれば,それで十分ではないのかと思います。それは,ほかの方の御意見と同じと思います。 ○吉谷委員 第8の提案につきましては,賛成と申し上げておきます。   ちょっと感想めいたことだけ付け加えさせていただきますと,現行の公益信託というのは,大体余り寄附を受けないようなものが多くございます。ここで言う行政庁による開示,公示のところの趣旨なのですけれども,情報公開ということであると認識しておりまして,というか,よくホームページとかで紹介をしたりとか,そういったような活動というような趣旨ではないと理解をしているというところでございます。   実際に,公益信託を紹介したり,寄附を寄り募ったりとかいうことの目的ではないと。そういうものについては,自主的にやりたい公益信託の受託者がやればよいのだろうと考えているところです。 ○中田部会長 いろいろ御意見を頂戴いたしました。この(注)の信託行為という言葉がちょっと多義的なものであったのかもしれません。法律行為というレベルのものなのか,それとも契約書や遺言そのものを指すのか,そうではなくて,信託行為の内容を示すものを指すのか,それによって捉え方が違ってくるのかもしれません。   恐らく契約書や遺言書のコピーをPDFで公開しろということまでにはならないのではないかと伺っておりました。そうしますと,先ほど吉谷委員が一つ目の発言の際におっしゃってくださいました,信託行為の内容を示す書面について公開するという方向で,様々な御意見を頂きましたけれども,その辺りに収束するかなと伺っておりましたが,いかがでしょうか。そういう理解でよろしいでしょうか。   では,そういったことを含めまして,頂いた御意見を基に,この第8について,更に検討していくということにしたいと思います。   よろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,部会資料40に入ります。   まず,「第1 公益信託の終了,変更命令」のうち,1から3までについて御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○舘野関係官 それでは,部会資料40について御説明いたします。   まず,「第1 公益信託の終了,変更命令」につきまして,「1 委託者,受託者又は信託管理人の合意等による終了の可否」について御説明いたします。   本文では,甲案として,公益信託の委託者,受託者又は信託管理人その他の第三者による合意又は単独の意思表示によって公益信託を終了することはできないものとする。乙案として,原則として,信託関係人の合意等による終了を禁止するが,例外として,公益信託の委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合に,公益信託を終了することについてやむを得ない事由があるときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等(以下「行政庁」という。)の許可を受けて,公益信託を終了することができるものとする,との提案をしています。   本文の甲案は,部会資料37の第1の4と同一の提案であり,その内容及び理由に変更はありません。甲案では,公益信託には,信託法第164条を適用しないこととした上で,仮に信託行為において公益信託の信託管理人の合意等によって公益信託の終了を可能とする旨を定めた場合であっても,同法第163条第9号の例外として,当該信託行為の定めが無効になることを想定しており,その旨を補足説明に記載しています。   次に,本文の乙案は,今回新たに提案するものです。一旦設定された公益信託は,公益すなわち不特定多数人の利益に寄与するものであり,その継続性,安定性及び確実性が重要であることから,原則として,信託関係人の合意等による公益信託の終了を認めるべきではないと考えられます。   しかし,例えば,文化財的価値のある古民家の保存・公開を目的とする公益信託等において,その事業がうまくいかず,支出が収入を大幅に上回る状況が続いているような場合には,社会的意義の乏しくなった公益信託を継続させて信託関係人に無用な負担を強いるよりは,公益信託の終了を認めた上で,信託財産を他の公益活動に用いられるようにする方が合理的かつ効率的であると言えます。   また,そのような場合に,信託法第165条を活用しようとしても,同条の要件を満たさないために,それが妨げられることが想定されることから,乙案は,信託関係人の合意等による終了を原則として禁止するものの,例外として,公益信託の信託関係人の合意がある場合に,公益信託を終了することにつきやむを得ない事由があるときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁の許可を受けて,公益信託の終了を認めるべきである,としています。   次に,「2 公益信託の終了命令」について御説明いたします。   本文では(1)公益信託における信託法第165条第1項の権限は,甲案として,行政庁が有するものとする。乙案として,裁判所が有するものとする。   (2),(1)の終了命令の申立権者は,委託者,受託者又は信託管理人とする。ただし,委託者については,信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとすることでどうか,との提案をしています。   本文(1)の甲案及び乙案の各提案は,部会資料37の第1の6(1)の甲案及び乙案と同様の提案であり,その内容及び理由に変更はありません。   公益信託の終了が客観的には相当であるが,認定基準違反に該当しない場合などに公益信託の認定取消しとは別途信託法第165条第1項による信託の終了命令を認める意義があると考えられることから,その旨を補足説明に記載しております。   本文(1)の甲案は,信託法第165条第1項の信託終了命令の要件の判断主体については,当該公益信託の情報を有し,受託者に対して立入検査の権限等を行使できる立場にある行政庁の方が裁判所よりも判断主体として適切であるとする考え方です。   これに対し,本文(1)の乙案は,公益信託の認定取消しと信託法第165条第1項による信託終了命令を併存させる場合には,前者は公益認定に関するものとして行政庁が行うのが相当であり,後者は私法上の効力に関するものとして裁判所が行うのが相当であるとの考え方です。   次に,本文(2)の公益信託の終了命令の申立権者については,部会資料37の第1の6(2)では,委託者の申立権については,信託行為による増減が可能であることを前提としつつ,委託者を含む甲案と委託者を含まない乙案の両案を提示していました。   しかし,委託者の申立権について,信託行為による増減を可能とするならば,信託法上の規律と実質的な相違はないことから,今回の本文(2)の提案では,終了命令の申立権者を委託者,受託者又は信託管理人とするが,委託者については信託行為で終了命令の申立権を有しない旨を定めることができるとの提案に変更しています。この提案は,受託者及び信託管理人については,信託行為において終了命令の申立権を有しない旨を定めることができないことを一応の前提としています。   次に,「3 残余財産の帰属」について御説明いたします。   本文では,(1)公益信託は,その信託行為において,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利者」という。)の指定に関する定めを設けなければならないものとすることでどうか。   (2),(1)の定めの内容は甲案として,信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは公益法人等又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする。乙案として,信託終了時の残余財産のうち,公益信託の認定時における信託財産については,私人を帰属権利者として定めることを許容するが,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については,当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは公益法人等又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする,との提案をしています。   また,(3)信託行為における帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄した場合の残余財産は,甲案として,清算受託者に帰属するものとする。乙案として,国庫に帰属するものとする,との提案をしています。   本文(1)の提案については,部会資料37の第2の1(1)柱書きの提案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。   今回の部会資料では,部会資料37の第2の1(1)柱書き以外の提案から,特に支持がなかった甲1案を削除し,甲2案を本文(2)の甲案として提案しています。   本文(2)の乙案は,部会資料37の第2の1(1)の乙案と同様の提案であり,少し表現を改めておりますが,その内容及び理由に実質的な変更はありません。   なお,残余財産の帰属先に「類似の目的」の要件を外すことについては,信託財産の帰属先が寄附者等の意思に反する可能性があることから慎重であるべきと考えられます。   また,(2)の乙案を採用する場合には,信託財産の価額の変動等に対応する規律を設ける必要が生じ得るために制度設計が複雑になり,公益信託の軽量・軽装備のメリットを損なう懸念があると考えられます。   以上でございます。 ○中田部会長 ただ今説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。終了に関する三つのポイントですけれども,まず,終了の方法に関する1と2について御意見をお願いいたします。 ○深山委員 まず,1の信託関係人の合意による終了についてですが,一切,合意による終了を認めないという甲案は,やはり不都合が生じるのではないかという意味で反対をいたします。   乙案も,原則は認めないというスタンスですけれども,例外的にやむを得ない事由があるときに認める余地を残すという点で,これを支持したいと思うのですが,更に,乙案には行政庁の許可を受けてという手続的な要件が加わっております。これは不要ではないか,あるいは必ずしも合理的とも言えないのではないかと考えます。   実質的な要件として,やむを得ない事由というのが要件として定められることによって,やむを得ない事由がないにもかかわらず,やめてしまうということが,仮にそういうことがあったとすれば,何かの形で訴訟等の中で,実体的な規律としては,終了の当否を判断する余地は出てくると思いますが,手続的に行政庁の許可というものを要件としてしまうことについては不相当であるという意味で,この点は反対したいと思います。   それから,次の2番目の終了命令については,これは,(1)については乙案の裁判所が有するということが相当であると思います。やはりこれもいろいろな場面が想定されますけれども,少なからず司法的な判断を要する場面というのも想定し得るところですので,裁判所が判断機関としては行政庁よりもふさわしいと考えるところであります。   (2)については,賛成いたします。 ○道垣内委員 深山委員に確認をしたいのですが,第1の1の乙案を採ったときの行政庁の許可の話なのですが,訴訟で争うというときの訴訟の構造は,どういうことをお考えなのでしょうか。誰が原告になって,どういうふうにするのか。 ○深山委員 恐らく終了してしまうことについての利害を持つのは,その受給者であったり,あるいは将来の受給を期待している人,潜在的な受給者のような人が,それは困ると,あるいは不適当であるというようなことをするのかなと思いますが,それも考えづらいなとは思っておりました。つまり,この人というふうに,がちっとした原告適格的なものが想定しにくいという問題意識は私も持っておるのですが,しかし,それは不可能ではないだろうということと,そうだからといって,この行政庁の許可がいいのかというのは,また別の問題ではないかなという気もいたします。 ○道垣内委員 不可能ではないだろうとおっしゃっているのですが,私は不可能ではないかと思います。将来のポテンシャルな受給者という人が終了を争えるかというと,それはちょっと無理なのではないかと思います。 ○山本委員 質問というか確認をさせていただきたいのですけれども,まず2の方では,信託法165条第1項が前提とされていて,公益信託の場合であれば,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当となるに至ったことが明らかであるときというのが,要件になっています。これと1のやむを得ない事由があるときとの関係が,どのような関係にあるのかというのをお教えいただけるでしょうか。 ○中辻幹事 事務局としては,第1の1のやむを得ない事由という要件と信託法165条の要件は,異なる意味で使っています。第1の2の公益信託の終了命令については信託法165条の要件がデフォルトとして存在するので,その文言を尊重してそのまま使っているのですが,第1の1の信託関係人の合意による公益信託の終了については特にデフォルトがないこともあり,やむを得ない事由という文言を使っているものです。 ○山本委員 165条の1項の文言を見ますと,特に後段の方で,信託を終了することが相当となるに至ったことが明らかであるときとされていますが,これはやむを得ない事由に対応するのではないか,少なくともそのように理解しやすいように思います。   ただ,165条第1項では,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情によりという限定があって,これは,やむを得ない事由の場合には,必ずしも常に要求されるものではないのではないか,そこに違いがあるのかもしれないという気もします。   もしそうだとすると,1の方で,合意があれば,やむを得ない事由があるときに,更に手続を経て終了するというのは,2よりは少し緩和されていると理解するのではないかとも思いましたが,必ずしもそうではないというお答えだったのでしょうか。 ○中辻幹事 山本委員御指摘のとおり,165条1項による終了には,信託設定時に予見できなかった特別の事情という,かなり厳しい要件が定められておりますので,それより広い意味で,第1の1のやむを得ない事由という文言を理解するという考え方は十分あり得ると思います。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ○渕幹事 山本委員の御質問に関連するのですが,やむを得ない事由に関する第1の1の4番のところでの事務局の御説明について,少し伺います。   古民家の保存という例が挙がっており,赤字になってしまうということから,社会的意義の乏しくなった公益信託事務をやめてもいいのではないかというようなことが書かれていますが,この例と,その後の一般論がどういう関係にあるのでしょうか。若干そごがあるような気がいたしました。   すなわち,古民家の保存とか公開といった目的に,もはや社会的な意義が乏しくなってしまったというようなことを,この例で示されたいのか,それとも,古民家の保存・公開ということには意味があるのだけれども,それを公益信託という手段で行うことが不適当になったというような例としてこれを示されたいのか,あるいは両方なのでしょうか。その辺りについて御説明を頂ければと思います。 ○中辻幹事 古民家の保存・公開の例について言えば,その社会的意義が全くなくなってしまうということはなくて,赤字であっても続けることに公益的な意義が認められるけれども,そのような公益信託の受託者に最後までずっと古民家の保存・公開を継続させるのは酷であるような場合を想定しておりました。もっとも,古民家の保存・公開に社会的な意義がなくなった,あるいは非常に乏しくなったことをもってやむを得ない事由があると言える場合もあるように思います。その上で,渕幹事の御質問に直接お答えするならば,両方の例を示すものであるということになると思います。 ○渕幹事 そうすると,場合によっては,かなりこれは広くなり得るということでしょうか。というのは,公益信託というのは,ある一時点で設定されるのですが,その後,社会的な状況が急速に変化するようなことも大いに想定されるわけです。そうするとかなり多くの場合に,元々考えられていた目的と大分違うことを継続しなくてはいけないということは十分想定されると思うのです。165条よりは大分広いということになると,現実には,ここでのやむを得ない事由というのは,かなり広いものになると考えてよろしいでしょうか。 ○中辻幹事 そうですね。山本委員の御指摘にもありましたけれども,165条1項は事情変更の法理に基づくもので厳しい要件が課されていますので,第1の1の信託関係人の合意にプラスして行政庁の認定を条件に公益信託を終了させるという場面では,公益信託を継続させることの社会的意義や,信託関係人,特に受託者の負担について,165条1項の要件よりは柔軟に考える余地があるように思います。   ただし,以前の部会で樋口委員から御指摘がありましたけれども,受託者がいったん公益信託を引き受けたのであれば,それは責任を持って最後までやりなさいという考え方もありますので,やむを得ない事由を広く柔軟に認めていくのですねと絶対に言い切れるかといえば,そうではなくて,社会的,公益的意義があるのだったらできるだけ公益信託を続けていくべきであるという考え方もあるように思います。 ○渕幹事 分かりました。私が広いとか狭いとか言ったのは,曖昧で不適当だったと思います。乙案の内容についてよく分かりました。どうもありがとうございました。 ○吉谷委員 私どもも,公益信託の終了命令につきまして,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情というところにつきまして,ちょっとここは厳しいかもしれないなと思うところはございます。ですが,そこに行く前に1,2の全体についての意見を述べさせていただきたいと思います。   まず,1ですけれども,これはどちらかといえば乙案に賛成です。ただし,デフォルトでは委託者を合意権者にする必要はないと考えています。   2の公益信託の終了命令の(1)につきましては,どちらかといえば甲案の行政庁に賛成です。(2)につきましては,委託者をデフォルトで申立権者とする必要はないと考えております。   まず,「どちらかといえば」と留保を付けさせていただきました理由なのですけれども,この後でも出てきます認定取消しが信託終了事由になるかどうかという論点につきまして,私どもは認定取消しによって信託が終了すべきであるという立場を採っております。かつ,信託関係者が単独で認定取消しの申請をするということもあり得べき,認めるべきであるという立場です。   この立場が採用された場合には,1の乙案でありますとか2の終了命令の規律との関係を整理するべきであるとまず考えます。信託終了についての我々の全体的な立場をお話ししますと,当然,終了となるというような場合以外に合意とかで任意に終了できるというのは余り望ましくなくて,行政庁等の何らかの関与があるべきと考えております。   認定取消しによる終了なのか,許可を受けて合意終了なのか,終了命令なのかという,そういう形式はともかくとしまして,信託関係者の全部又は一部が申出を行って,それで何らかのやむを得ない事由があるという場合には,行政庁等の決裁を経て信託が終了するということが可能な仕組みであるというべきだと考えます。そうでないと,合意終了であるとか,終了事由を信託行為に任意に定めることが認定段階で認められないということですので,何らかのそれに代わる仕組みが必要であると思っております。   そのために,もし公益認定の取消しというのが終了事由にならないという場合でしたら,信託関係人の合意とやむを得ない事由がある場合に終了できないというのは,非常に実務上も困りますので,1は乙案でなければならないと思いますし,2の信託関係人が単独で申し立てる場合にも,信託行為の当時予見することができなかった特別の事情というのがなくてもやむを得ない何かがありましたら申し立てて終了は可能というふうにしていただきたいと考えております。   一方で,公益認定取消しが終了事由となるということを前提にした場合で考えますと,ちょっと気になりましたのは,6ページの補足説明の3のところの後ろの方に「そうすると」というところがありまして,そこで公益信託を終了することが客観的に相当である場合であっても認定基準違反に該当しないというような場合があると。そのような場合があるのかどうかということが疑問ではあるのですけれども,もしそのような場合があるということであれば,やはり終了命令の要件はやむを得ない事由で十分なのではないかと考えます。   そういう場合がないということであれば,許可による終了とか,終了命令の制度が別になくても成立するのではないかと考えているところです。   裁判所か行政庁かというところにつきましては,終了命令制度を残すのであれば,その認定基準違反に該当するのかどうかというところの論点との関係からは,裁判所の判断で終了できていいということについては疑問があります。   あと,委託者について,デフォルトで申立権者とする必要はないと言いました理由ですけれども,これは委託者を監督機関とするという位置付けには違和感があるというところです。委託者がいるからということで,委託者と信託管理人の合意でとかいう形で物事が進むことを期待するのは余りよろしくなくて,委託者が機能しなくても成り立つような仕組みというものを考えるべきであると考えております。   あと,ついでにちょっと委託者関連で申し上げますと,前回,委託者の地位は相続されないという前提で議論が進んでいたと思うのですけれども,それで,その立場には賛成なのですけれども,それであればその旨を法令で規定していただく必要はあるのだろうと思いますので,付け加えさせていただきます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ただいまの御発言の中で,終了命令と,それから認定基準違反による取消しとの関係について,それぞれの場合について御検討いただいたわけですが,どちらかを選ぶとすると,その二つを並行させるのではなくて,一方だけの方がむしろよいとお考えでございましょうか。 ○吉谷委員 いや,そこが本当によく分からないところで,終了事由があるのに認定取消ししないというような場合が,私には考え付かないのですけれども,それは多分,認定取消事由を広く考えているからだと思いますので,そこが広いのであれば,終了事由のところは余り要らないのではないかと思うのですけれども,そこがちょっと曖昧なのだとしたら,両立していてもいいのではないかなと。どちらを採用するかは,むしろ行政庁の方の裁量があってもいいかもしれないと思います。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。 ○小野委員 第1の1についてのコメントですが,一つ一つ論点を取り上げて,何か悪い事例を想定して,それを前提に議論したりするよりも,もうちょっと分かりやすく全体を通した論理的な説明の方がよろしいのではないかと思います。バックアップチームでもそのような議論をしました。それは何かというと,やはり契約に基づく公益信託ですから,私的自治というのは最大限尊重すべきではないかという点です。   それによって状況によっては弊害うんぬんというのは別の議論であって,まず私的自治,そうでないと個々の論点が,それぞれ想定する事例によって全然違ってくることになりますし,それを反論しても,また違う事例を想定した反論をするわけですから,かみ合わないことになるかと思います。   そういう観点と,あともう一つは,行政庁か裁判所かと,何かメニューとしてAかB,どちらかですかという議論で,Aの方がよく知っているからとの議論がありますが,裁判所というのは,正直,手続法的にも,非訟事件手続法というのがあって,それによってしっかりと申立てをすれば判断しなければいけないと。恐らくここでいう行政庁の許可というのも,あたかも裁判所的な機能をもつ裁判所代替機関としての行政庁の許可という意味で全体的に使われているのではないかという雰囲気の中で議論がなされている感じがありますけれども,これは行政上の許可ということになれば,非訟事件手続法上の許可とは違いますから,全然意味合いが違ってくると思います。その辺を前提としないと,行政庁はよく知っているからというような議論になって,よく分からなくなっていくと思います。   ですから,もし行政庁の許可ということを残すのであれば,裁判所と同じような機能を果たす行政庁の許可ということで,その手続とか,また忌避手続とか,どうやって証拠を提出するのか,認定するのかとか,そういう手続があることを前提とする必要があると思います。行政庁はよく知っているのは確かで,認可しているわけですけれども,それだけの議論ではないという前提が必要と思います。そうでないと本当によく知っているところがという議論で,あとは,手続は全く同じように流れていくと捉えられていると思います。   という前提で,第1の1のコメントをさせていただきますと,やはり163条9号がまず認められるという前提がないと何が何だか分からなくなってしまうと思います。一方,甲案,乙案,補足説明を見ると,信託行為で,合意で終了するということも認めないかもしれないし,また,そういう意見もあり得ると述べられています。   そういう意見があり得るというのは分かりますし,また,信託行為に9号の合意による終了が入っていなくて,当事者がいろいろ検討した結果,やはりこれは終了した方がいいと。終了した後の効果は,別のところの議論ですけれども,私人がそれを自由勝手にできるわけではなくて,どの見解を採っても,公益的な形で使われることは確かでしょうからということで合意することは認められるべきであると思います。   乙案を採る場合,先ほど申し上げたように,やむを得ない事由の行政庁の許可って一体何ですかという問題が残る。やむを得ない事情というのは,法律用語としても適切ではない。旧信託法で,信託銀行の方は,第三者委託はやむを得ない事由がないとできないというところで随分苦労して,膨大な量の論文が出ていますけれども,それの亡霊とは言いませんけれども,同じような議論をするのではなくて,実際にどういう事例がやむを得ない事由なのかということを,ガイドラインで述べ,先例を積み重ねていかないと,もし行政庁に任せるとしたら,行政判断というもので前に進まなくなるおそれがあると思うのです。   いずれにしても,甲案,乙案ではなくて本来丙案ということで,当事者が任意で合意して終了したいのであれば,そういう私的自治というものは認めるべきではないかと。   その効果としてどうのというのは,また別ですが,やりたくない人を永久に拘束しなければいけないような仕組み,行政庁に行ったところ,できないことはないではないかと言われるような話というのは,どう考えても今の時代にふさわしくないと思うのです。   それが不適切うんぬんということであれば,権利濫用とか,いろいろな法理がございますから,違う形で何か対応すればいいわけでして,それを乙案ということで対応するというのはふさわしくなく,繰り返しになりますけれども,私的自治というものを前提とされるべきではないかと思います。   ですから,乙案であるとしたら,裁判所の許可ということで,非訟事件手続法の中でやむを得ない事由をきちんと述べて,裁判所に判断してもらうということだと思います。 ○林幹事 この乙案なのですが,どちらかというと乙案の方で考えたいところで,本論点の先般の部会資料37における議論で,合意による場合もないと不都合が生じ得るからということと,ただ合意だけでは不十分というので何らかの機関の関与が必要であるという議論があって,乙案が出てきたということは理解はしています。ただ,弁護士会の中では,そういうところはおおむね理解しながらも,例えばやむを得ない事由もあって,それで関係人が合意して,行政庁に許可をもらいに行くのだけれども,裁量で許可してくれないということで止まってしまうようなことがあるのかどうか。それだったらやはりおかしい。というのも,やむを得ない事由が要件としてあり,要件があるのにやめられないのではおかしいという議論がありました。ですので,そのときに行政庁が許可してくれないときどうできるのかが問題であり,それは行政処分だから,行政処分の不服申立手続で争えると考えるのか。それができるような制度として組むことができるのか問題になります。   ただ,行政で,許可で,裁量でというふうになると,そもそも争うのが難しくなるというのかが議論になり,そうすると小野委員の言われたことにつながるのですけれども,行政がよく知っているからといって行政に判断してもらうのがよいのか,実体的な判断だったら裁判所の方がいいのではないのかという議論にもなりました。それはほかの論点でも同じような理解だったのですが,行政庁とする場合は,しかるべく許可してくれないときは争えないと駄目であり,そういう制度が担保されるべきであると思います。 ○平川委員 この1の1につきましては,やはり私的自治を重んじるという観点から,行政庁が許可を与えるとか,その終了について介入をしてくるということを最小限に抑える必要があると思います。   また,委託者についても,この終了の合意を認めるべきではないと思いますので,まず原則としては,公益信託の委託者,受託者又は信託管理人その他の第三者による関係人の合意によって公益信託を終了することはできないということを原則としつつも,信託行為においてその別段の定め,やむを得ない事由について終了する合意をするということは認めるとしつつ,やはり先ほどから申しております運営委員会の合意というものをそこに,先ほどガバナンスに関与させるのはどうかというお話がありましたけれども,委託者を抜きにしてしまいますと,受託者,信託管理人だけになってしまいますので,やはり三鼎する状態というものは必要なのではないかと思います。   したがって信託関係人の選・解任を認めたり,あるいは信託の終了という重要な側面においては運営委員会というもののガバナンスに対する機能を認め,それによって私的自治を確保するということを丙案として提案します。   2の(1),(2)につきましては,(1)については,甲案に賛成いたします。(2)については,やはり丙案を提案し,委託者というものは,そもそも申立権者に入れるべきではなく,受託者,信託管理人又は運営委員会をこの信託終了命令の申立権者に入れるべきと考えます。   (1)についての理由としましては,行政庁が権限を持つというのは妥当であると考えるということと,公益法人制度においては認定取消しの権限は行政庁にありまして,取消事由として,当初の認定条件違反のほか,その後の認定条件の違反,法令や行政機関の処分に対する違反等も含まれております。そのこととの整合性という点で,行政庁に権限を認めるのがよいと考えます。   (2)については,委託者は公益信託への財産を出してしまった以降においては,公益信託に対して関与する権限をやはり極力少なくすべきであるという観点から,申立権者から外すべきであると考えます。   そして,運営委員会につきましては,重要な意思決定機関と位置付けることから,申立権者に加えるべきだと考えます。 ○棚橋幹事 まず,質問が2点あります。先ほど吉谷委員のお話の中にもありましたが,部会資料の6ページの3に,「公益信託を終了することが客観的に相当であるが認定基準違反に該当しない場合などに終了命令を認める意義がある」という記載があるのですけれども,その具体例を教えていただけると理解がしやすいかなと思いますので,具体例があれば教えていただきたいというのが質問の1点目でございます。   質問の2点目ですが,例えば終了命令の申立ての際に,終了命令の理由として認定取消事由と同様の事由が主張される場合,その事由は終了命令の枠組みの中で判断することになるのかということを教えていただければと思います。 ○中辻幹事 まず,質問の1点目,部会資料6ページの公益信託を終了することが客観的に相当であるが認定基準違反に該当しない場合の具体例ですけれども,先ほどの古民家の例で言えば,最終的に公益信託の認定基準をどのようなものかとするかによりますし,「やむを得ない事由」がある場合に信託関係人の合意等による公益信託の終了を認めるか否かにもよりますが,公益信託設定後の事情の変更により古民家の公開・保存という公益信託事務を受託者が継続することが関係者への特別利益の供与等の認定基準には違反しないけれども合理性を欠く状況になったことが明白であるようなケースを想定しています。   次に,質問の2点目,終了命令の申立事由の中で,認定取消しの事由と同じようなことが主張されていた場合に,どちらの枠組みで判断するかという点については,第一読会でも論点として取り上げさせていただきましたが,公益信託の認定取消しと終了命令を併存させて両者は別々に判断するという考え方がある一方で,公益信託の認定取消しと終了命令はどちらかに一本化して同じ枠組みで判断すべきであるという考え方もあるように思います。 ○棚橋幹事 ありがとうございました。   今,御質問したことを前提に,裁判所の意見を述べさせていただきますけれども,基本的には一読と同様ですが,裁判所としては認定基準の関係と,情報,資料や知見との関係という観点からは,2の(1)の点については,甲案が適切だと考えております。   終了命令の申立ての中で,認定取消事由と同じような事由について判断することもあり得るということですと,裁判所が認定基準違反を判断することになりますが,認定基準については行政庁が判断すべきと考えておりますし,情報や資料といった観点からみますと,終了命令の要件は当時予見できなかった特別の事情と,信託の目的,財産の状況等に照らして終了することが相当であることというものですが,認定行政庁は認定当時の御事情もよく御存じであろうと思われますし,特別の事情の有無や,終了が相当かどうかということは,認定やその後の検査・監督を通じて,信託事務の内容や信託目的など,当該公益信託の実情をよく知っている行政庁が最も実情に沿った判断ができるのではないかと考えておりますし,ほかの公益信託との関係での知見も活かした判断ができるのではないかと考えております。   他方で,裁判所の方では,問題となっている当該公益信託については,申立てがあって初めてその存在を認識し,申立て時に提出された資料などから分かる情報を知り得るにすぎないということになりますので,認定時点や監督を通じて分かる情報,認定当時の状況,ほかの公益信託の実情といった知見を有していない状況ですので,行政庁という公益信託について情報も知見も有している機関がある中で,本当に裁判所が一番適切な判断主体なのかという点については疑問があります。 ○道垣内委員 結局,5の公益信託の認定を取り消された場合の信託について,どうするのかというのが先決問題なのだろうと思うのですね。   当該信託が終了するというとき,甲案も乙案も一見,終了するという感じがするのですけれども,甲案と乙案とでは作りが全然違っていて,乙案というのはある種の意思推測なのだろうと思うのですね。成立のところでも議論がありましたが,公益信託として,いろいろな税務上の恩典とか,そういうものが受けられないということならば,信託を設定しないという意思ではないかというのを原則として考えるか,そうではないと考えるかというのはあるわけですが,いずれにせよ,それは意思の問題である。   それに対して,甲案というのは,恐らく公益信託から公益認定というものが欠けたら本質的要素がなくなるために,当然終了するという考え方なのだろうと思います。   さて,5においては,公益信託の認定を取り消すというのが行政庁の権限であるというのは当然であろうと思います。そうなりますと,現在,議論の対象となっている2のところに戻りますが,2においても行政庁が有するというふうにするのは,それほどおかしいことではないというか,ある種,自然なのだろうと思います。   しかし,本当にそうなのかというのが私にはよく分かりませんで,行政庁というのは当該信託において公益認定をしているということだけであると考えますと,公益認定が外れたからといって,その信託が当然に終了するということに本当はならないのではないか。公益認定を外す,ないしは付けるという権限がある行政庁が,終了させるという権限を有するということに直結するのは,私はおかしいと思います。   したがって,私は,5においては乙案だと思いながら,2の1においては乙案ではないかなあと思います。もちろん5について甲案も不可能ではありませんで,当該信託における本質的な要素というのは何なのかという問題に関わってくるわけですから,そうならば2においても,甲案にしてもいいかなという気もします。しかし,余り私は適切な規律ではないと思います。   さて,そこで1に戻りましたときに,1においては,認められるときも行政庁等であるということが前提になっているわけですけれども,本当にここも行政庁なのかというのは気になるところです。やむを得ない事由について,山本委員がおっしゃったことは前回の受託者の解任についても,同じく問題となった構造がここにも存在するということですが,説明の4ページのところに書いてありますように,その許可を取り消すということに対して行政庁が判断権限を持つというのはよく分かるのですが,終了させる合意が正当か否かということについて行政庁が判断権限を持つというのは,私は構造としてはおかしいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。   今,5とおっしゃいましたのは,第2の5,20ページを指していらっしゃるわけですね。 ○道垣内委員 はい,20ページです。すみません。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○林幹事 先ほど2の方について述べるのを忘れた点があるので,簡単に。   弁護士会の中の議論としては,2の(1)については両意見あったのですが,乙案の裁判所というのが多かったと思います。   それから,2の申立権者については御提案に賛成の意見も多かったのですが,一部反対意見もあって,特にその委託者についてデフォルトが逆だという意見がありました。本文には委託者は入らずに,「ただし」の方で委託者が信託行為で加えられる。そういう規律の方がいいのではないかという意見も,少数ながらあったというところを申し上げます。 ○小野委員 道垣内委員のおっしゃられたことに,かなり重複するところがあるのですけれども,歴史的なことを述べますと,165条は旧信託法の58条の関係で随分議論してできた規定なのですけれども,何を言わんとしているかというと,先ほどの議論でありましたが,認定の取消しはできないのだけれども,取り消した方が,この信託は終了した方がいいときに発動するような議論,そういうような趣旨で作られた規定ではないのです。   ですから,立法趣旨も,また,165条1項の条文を見ても,何も悪いことをしている信託の業務を終了させるために裁判所が発動して終了するという規定にはなっておりません。議論がまず前提として混乱していると思います。またそもそも認定基準の取消しはできないけれどもけしからんという状況で,行政庁が立ち入って,その信託を終了するということ自体は,私的行為を無効にする権限はないと思うので,それは終了命令なのか,その命令に従わなかったらどうのという話なのかなと思います。書きぶりからすると私的行為を無効にするような効果を与えるような規定になっていますけれども,繰り返しになりますが,元々の信託法165条の規定はそういう趣旨ではありませんし,先ほども発言したことの繰り返しになりますけれども,行政庁にそれだけの権限は本来,私法上ないというのは当然の議論かと思います。ということを付け加えたいと思います。 ○中田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○小幡委員 よく理解できていないのですが,そもそも本当は合意で終了させてもよいかもしれないけれども,公益信託なので,余り安易な気持ちで始めてもらっても困るし,当事者の合意だけで終了というのはまずいだろうという考え方でこういう話になっていると思うのですが,他方で,165条の方で本当に予見し難いような出来事が出てきたときには対応できるわけです。   同条によらない場合に,絶対駄目というのではなくて,合意でも終了できる場合もあってよいというときに,何らかの機関のチェックを介在させることによって,勝手な合意ではなく認めてよいという正当化をする制度を作った方がよいという話でしょうか。   結局,合意による終了を認めるわけなのですが,それを単に当事者の合意だけではないようにした方がよいと考えたときに,どこが入るべきかという話ですね。   確かに,皆さんおっしゃるように,そこで当事者の合意にチェックを入れるために,行政庁が出てくるというのも多少奇妙な話だなと私も直感的には思うところはあります。   そうすると,そこで裁判所が出てくるのか。165条の方があるので,幾つか制度が何か重なってしまうという,そういう感じになってしまいますね。   一点お伺いですが,公益法人の場合,公益目的事業の全部廃止というのは届出でできますよね。明渡関係官,そうですね。条文上はそうなっていますが,あれは届出だけでオーケーなのですか。 ○明渡関係官 廃止は届出だったと思います。 ○小幡委員 そうですよね。合併とかもありますが,公益法人の方の24条の3号で公益目的事業の全部の廃止というのはあらかじめ届け出るということで,届出だけでできることになっているのですが,その後,ただ,どういう整理をしますか。   要するに,公益認定の取消しをすると,今度,残余財産贈与とか強制的に流れていきますが,他方で,自分たちでやろうと思って認定を受けていた公益目的事業を全部やらないことにするのは届け出るだけでオーケーになる。そうすると,今回の公益信託について,合意だけで廃止できないというのも,確かに,単なる合意というのではまずいのかもしれないのですが,公益法人とのバランスがどうかなと思った次第です。 ○平川委員 公益法人の場合は,取消しの申請があれば行政庁は取り消すこととされていますけれども,その場合,別に公益法人が解散するわけではなく一般法人に移行するということになって,ちょっと仕組みが違う。 ○小幡委員 そこは生き残れる,一般法人としてですが。公益認定だけなくなるという話になりますが。ただ,少し気になるのがバランスの問題です。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○樋口委員 今の小幡委員がおっしゃっていたバランスの問題というのは,ずっとここで私自身が気になっていたことで,公益信託の終了・変更で,変更の話はほとんど出てきていないけれども,二つ書いてありますよね。   それで,その比較の視点からすると,まず私益信託の終了変更命令という話と比べて,どう考えるべきなのかということですね。基本は,私益信託に関わるところの百六十何条であれ,163条だか165条だか,それをベースにして議論しているわけですよね。しかし,公益信託だからという話でどうするかという話になっている。   165条なんかも,はっきり受益者の利益のためにという,当たり前ですけれども,私益信託だから。それが指針になっているのだけれども,公益信託の場合は,受益者がいなくて,それで,うまく整理して話をすることができないけれども,それは非常に残念ですけれども,公益信託の終了・変更命令については,私益信託と比べてやはり別の考え方で,簡単には終了させないどころか,後で出てくる,シープレの話が出てきますけれども,本当は信託財産,公益信託財産というのをできるだけ継続して,信託の目的が達成され,あるいは達成不能になった場合ですら,とにかく何とか継続させるという話があるわけですよね。別の公益信託につなげてというようなことまで考える。   だから,それは私益信託であり得ないようなことなので,だから私益信託との比較という点で,やはりこれは終了はそう簡単にはできないという話で一貫できるかどうか。しかし,こうやってやむを得ない事由だか何だかというので合意なんていうのを入れる余地があるかどうかというのをどう考えるかということが,一つのポイントなのだろうと思うのですね。要するに,この場面でまず私益信託の条文から公益信託の問題を考えるという発想自体が再検討する必要があるように思います。それだけ性格が違うということです。   もう一つは,今度は公益法人との比較があって,公益法人というのを本当,私は何も知らなくて,これで今,何とかかんとかという検索や何かで見ると簡単なのですね,どうやら解散というのが。つまり公益法人は解散が簡単にできるらしい。そういうものと公益信託は別なのですよという話をどううまくつなげたらいいかという課題がありますね。いや,今,私が解答を持っているわけではなくて,勝手な悩みをしているということを申し上げているだけなのです。   それから,最後に1点だけ。これは私的自治ということを言われている。やはり私的自治の範囲で公益活動をやるのだ,だからそれが公益信託なのだという意味ではそうなのかもしれませんけれども,日本のように,あらかじめ公益認定という制度を入れておいて,それで,あと私的自治という話がどうも,それだったら初めから認定の方も事前の規制ではなくて,後からやってくださいよという,税法上の優遇措置が後であるかもしれないみたいな話の方が本当はすっきりするのに,初めに公益認定というような重い制度を作っておいて,しかし私的自治ですよというのがうまく理屈として合うのか。やはり,しかし合わせないといけないという話で,今こうやって悩んでいるのかというところです。 ○中田部会長 ありがとうございました。   変更命令について,また後ほど別項で出てくるわけですが,共通した問題の御指摘を頂いたと存じます。 ○明渡関係官 先ほどの小幡委員の関係で正確に申し上げますと,公益認定を取り消したいという場合は申請してもらって,これは処分を行います。ただ,それは取り消さなければならないとなっておりますので,出てくれば自動的にといいますか,事務処理をするという形になっています。   一方,法人が解散する場合には,解散した後1か月以内に届出をするというような形に,公益法人の場合はなっております。   すみません。先ほどちょっと不正確でしたので。 ○小幡委員 要するに公益目的事業をしていたけれども,その公益法人が,自分からもうやめたいというわけですね。その場合は自分から申請して,やめられるという制度にはなっているというのが公益法人の方なのです。公益信託の方が,その合意で,やめたいというときに,今,税法上は確かに税制優遇を受けるためには合意では駄目ということになっているのですが,もし公益信託の制度に認定というのをかませるとすると,そういうことも言われなくなるということがあり得るかということですが。公益法人とのバランスから考えると,絶対合意が駄目というのも厳しすぎるのではないかという感じがするということです。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。   大体御意見を頂いたと存じます。   1については,甲案に賛成される御意見はなかったように伺いました。乙案に基本的には賛成だという御意見が比較的多くあったわけですが,ただ,その場合でも第三者機関が行政庁なのか,それとも裁判所なのか,あるいはその第三者機関の関与の仕方,更に終了命令との関係について様々な御意見を頂きました。   更に,丙1案として小野委員のおっしゃったような私的自治を押し進めるという考え方と,丙2案として平川委員のおっしゃいました運営委員会を組み込むという御意見等を頂きました。   2につきましては,甲案行政庁,乙案裁判所,これはそれぞれ両論,御意見を頂きました。   (2)の委託者の権能につきましては,どの程度の役割を与えるのかについて幾つかの御意見があったと思います。   認定取消しとの関係については,そもそも認定義務違反の場合にどのような帰結になるのかということと,それから認定取消しになるとして,認定取消しと終了命令との関係を整理すべきであるということの御指摘を頂いたと思います。   大きくいうと,更に,私的自治と公益を認定するという仕組みの中で,公益の維持というのをどうするのかということ,それから公益信託と公益法人との異同を分析することという御指摘を頂いたかと存じます。   以上のような本日の御議論を踏まえまして,更に検討していただくということになろうかと存じます。   ほかに,この1,2について御意見はございませんでしょうか。   それでは,ここで一旦休憩を挟みたいと存じます。後ろの時計で38分まで休憩し,38分に再開いたします。           (休     憩) ○中田部会長 それでは,再開したいと思います。   続きまして,「残余財産の帰属」に関する3について,御意見をお願いいたします。 ○深山委員 残余財産の帰属のうち,まず(1)については提案に賛成いたします。その上で,定めの内容についての(2)ですけれども,乙案を支持したいと思います。   ここは,残余財産の帰属という,最後の終わった後の処理という形で論点が整理されていますけれども,もちろんそういう面はあるのですが,そもそも公益信託について一定の期間,それが確定的な期間であれ不確定な期間であれ,一定の期間を限定して公益信託を設定するということを認め,そのしかるべく定められた期間が終了した段階で,委託者の下に財産が戻るということを認めるかどうかということが大きな論点と理解しています。   私はそういう信託があっても構わないし,そういうニーズに応える必要があるだろうと思います。これは先ほどの議論にも影響する公益信託観といいますか,信託をどういう制度として理解するかということに最終的にはつながるのだと思うのですが,従来の一つの主流の考え方というのは,公益財産に拠出したものは,もう永久にその公益財産たる性質を変えないで,委託者の手を離れた公共の財産になるのだと。したがって,委託者が手放した後に運営等に関与することも認めるべきではないし,ましてや,後から委託者の手元に戻るということは考えられないのだという考え方が一つあったのだろうと思います。   正に公共のために手放した財産という位置付けで制度を考えるという,そういう公益信託像,公益信託観というものがベースにあって,それは少なからず支持がなされていたのかもしれませんけれども,私は今回,抜本的な制度の見直しをするに当たって,そのようなものでなければならないと考える必要はないだろうと認識しています。もちろんそういう信託があっても構わないわけですけれども,そうではなくて,もう少しニーズを広く拾い上げる意味で,期間限定の信託というものも認めていいだろうと思います。   そういう意味で,遡ればそういう制度設計の根本的な考え方に関わる問題だと思いますが,一度手放した財産が二度と戻ることはないという考え方を採る必要は必ずしもないという意味で,乙案を支持したいと思います。   (3)のところは,ここは乙案の国庫に帰属するということを支持したいと考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 3の(1)については,法務省案に賛成いたします。   そして(2)の1の定めの内容としましては,甲案に賛成します。   (3)については,乙案に賛成いたします。   (2)の理由としましては,今ある公益信託においても,既に各主務官庁の行政指導及び税法上も私人への残余財産帰属は認めておりませんし,また,実際の公益信託設定事例においても私人帰属を規定する信託条項は皆無と認識しております。このような状況において,新公益信託においても,私人帰属を認め得る考え方である乙案を採ることは難しいのではないかと考えます。ただし,帰属権利者の対象は公益信託だけでなく,広く公益認定法第5条17号並みに拡大すべきであると考えます。   公益認定法においては,公益法人の残余財産を類似の公益信託に帰属させることを認めていませんけれども,公益信託法の本改正に伴っては,公益信託法を改正して相互的に,リシプロカルにすべきであると考えます。   私人への帰属について,日本においても英米におけるチャリタブル・リード・トラスト的なものを普及させていくべきであるとは考えますけれども,米国においてもこれと公益信託は別物の扱いとなっていると認識しておりまして,米国においてはチャリタブル・リード・トラストやチャリタブル・リメインダー・トラストは,日本の公益信託法に相当するインターナル・レベニュー・コード501条C3項のチャリティーとは直接関係がなく,税法上,一定の優遇措置を別の税法の規定で優遇していると理解しております。   (3)につきましては,公のために支出された財産が受託者に帰属するということは想定できないものでして,当然,国庫に帰属すべきものと考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○林幹事 弁護士会の議論としては,3(1)については賛成で,飛びまして(3)については,乙案で国庫帰属というので一致していました。   特に(3)につきましては,清算受託者に帰属するとなると,清算受託者に利益を取らせる必要もないし,また負担の多い資産を押し付けることになるかもしれないので,両面において乙案ということでした。   問題は(2)の方ですが,これは甲案,乙案両方あったところですが,私自身としては,先ほど御指摘もあったとおり,今のところはまだ公益信託像が確定していないところですが,より広く利用される方にと考えたときは乙案の方がよいのではないかと思います。まだ今のところは甲乙を維持してパブコメに付すべきだとは思っています。   あと,細かいところですが,類似の目的については,御指摘もありましたが,引き続きなくてもいいのではないかという意見もありました。また,定めの内容で,国又は地方公共団体というところもあるのですが,これは必ずしも要らないのではないのかという意見もありました。 ○吉谷委員 (1)につきましては,提案に賛成いたします。   (2)につきましては,甲案に賛成です。乙案は,公益信託財産の一部が私人に帰属するということですので,これは私益信託であると思われます。このようなものを公益信託とする必要はなく,私的自治ということであれば,私益信託で御対応いただければよろしいのではないかと思います。   また,特に税制上の措置を獲得するという観点からも,乙案のようなものまで公益といってしまうのは余り適当ではないと考えます。 ○神作幹事 私も3の(1)には賛成で,(2)については甲案を支持いたします。   その理由は,もちろん理論的には乙案のような考え方もあり得るとは思いますけれども,しかし,公益信託に拠出された財産についてはプライベートの領域に戻ることがないことを確保しておくことは,公益信託に対する信頼性を確保する上で非常に重要な前提であると思います。   特に,現在は余り日本では活発に行われているとは言えないかもしれませんけれども,将来的に寄附が行われるというようなことを考えると,寄附したものが私的な領域に戻るということは,公益信託制度としては考えられないのではないかと思います。   もし,乙案の①のような考え方を認めるとすると,非常に複雑な利益相反関係が惹起されますので,現在考えているガバナンスの議論では足りない,重装備の制度を設計し運用していく必要があると考えます。したがって,(2)は,私も乙案というのは採り得ないのではないかと思います。   (3)は,乙案を支持します。これまでの委員の方の御発言のとおり,私も乙案を支持いたします。 ○能見委員 税務当局の賛同が得られるかといった実現性の有無はともかくとして,基本的な考え方としては,私は深山委員の考え方に近い考え方をしており,3の(2)の中のどちらかを選択するのであれば,乙案になるかと思います。   乙案のもとでは,今,神作幹事が言われましたように,寄附などの扱い方が問題になるということですけれども,寄附のうち,信託設立時の信託財産とするための寄附については,委託者以外に拠出者ないし寄附者がいる場合でも,これら寄附者の間でいろいろな話合いをして合意をした結果,こういうふうにしようということで帰属権利者の定めをするわけですから,そこは問題ないと思います。また,公益信託が設立された後から加わってくる寄附についても,乙案の②のような処理をするということであれば,寄附者の期待を害することにはならないのではないかと思います。   それから,(3)の甲案,乙案なのですが,このどっちかということであれば乙案なのですけれども,私は,個人的には国庫ではなく地方自治体に帰属するというのがよいのではないかと思っています。こういう場合の帰属をどこにするかについては,民法の相続人不存在の場合の国庫帰属の原則との調整が必要なのですけれども,自治体に帰属するというような考え方もあり得るのではないかと思っています。活動範囲が1つの自治体の範囲に限られるような信託については自治体,それ以外のものについては国庫,そういうことも考えられるかもしれません。ただ,これは民法の相続人不存在のところの規定で相続財産は国庫に帰属することになっていますので,公益信託の残余財産の帰属のところだけ地方自治体とすると民法との不整合といいますか,それと違う考え方を採ることになりますので,信託法だけでこういう考え方を採用することができるかどうか分かりません。ただ,こういう考え方もあるということだけメンションしておきたいと思います。 ○沖野幹事 残余財産の帰属の,特に(1)と(3)なのですけれども,(2)において乙案のような考え方を採った場合には,①の点で帰属先を決めるということが必須になってくるのですけれども,そうでない考え方によりますと,(1)で指定に関する定めを置かなければならないものとされるのは,前提としては残余財産は,①の目的をどうするかという問題はあるにせよ,公益信託や公益法人,あるいは国若しくは地方公共団体のいずれかに帰属させるという中で,具体的にどこにするのかという点をあらかじめ決めておく,その具体性の程度はあるにせよ,という意味になるように思われます。   そうしたときに,具体的に決めておくことで,残余財産の帰属についての関係が明確になりますし,事務処理としてもやりやすいとか,終了の後処理も迅速にできるといったことがあるのですけれども,これはどのくらいの定めが許容されるのかということで,例えば類似の目的を有する他の公益信託若しくは公益法人というような定めでもよろしいのか,それともここはかなり特定した○○大学とかということになるのかという点でして,少し気になっておりますのは,これが仮に極めて具体的な特定の仕方をされた場合には,そこが拒否をし,帰属権利者として権利を放棄するということになりますと,財産としては十分価値もあり,類似の目的にも使えるという中で,そのためのほかのところに何とかできないかというような方法は,この後に出てくる4をどうするかという問題もありますけれども,直ちに(3)のところに行って国庫なり誰かなりに帰属するということでよろしいのか,それともその間に,極めて具体的であるならば,ほかに類似の目的のどこかに渡すようなことができないか。その中には,あるいは自治体ということも出てくるのかもしれませんが,そういう要素は一つ入らなくていいのだろうかというのが1点目です。   もう1点は,逆に先ほどの古民家の例なのですけれども,古民家は社会経済的に維持する意義も疑わしく,かつ経済的にも全くペイしない状態になっている。そういう財産は,押し付けられても困るという場合もあるわけで,特に,もしも最終的な帰属というものが,極力類似のものとして活かしていけないか,公益活動のために活かしていけないかというのを,具体的な目的との関係で努力したけれども,どこも駄目だったという場合は,どこもそういうものを引き受けなかった,要らないと言われた財産ということになるわけです。それは,もう国庫に任せてしまえばいいのだということでいいのか。とりわけこの帰属,最終的な帰属を考えるときの財産というのが,誰が取得すべきなのかという望ましい財産であって,そういうものを誰が得ていいのかと,一旦,公益に拠出したからにはということになるのか,それとも,言わば忌避される財産であって,誰が責任を負うべき財産なのかという両方の可能性や観点が出てくるように思われて,そこに至るルートは両方あり得ると思うのですけれども,この帰属権利者の決め方と,その決め方が非常に特定していて,そこから拒絶された場合には直ちに最後の放棄された残余財産の帰属に行ってしまうのかということとも関連しているように思われるのです。   それで,責任を負うべきという言い方は適切ではないのかもしれませんけれども,責任を負うべきということになれば,一方では最初に拠出した委託者というようなことも間に入ってくる可能性もあるように思うのですね。ですから,どういうルートを考えて,最終的な財産がどのような財産と想定するのかというイメージによっては,大分考え方が違ってくるのではないかと思われるのですけれども,どういうことがこれの前提としては想定されているのでしょうか。 ○中辻幹事 事務局としては,抽象的なのかもしれませんけれども,「当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託」のような文言が公益信託の契約書の中に記載されている場合を想定しておりました。   そうではなくて,個別具体の公益信託が契約書の中で帰属先として挙げられる可能性もあるとは思いますが,そうしてしまうと,沖野幹事の御指摘のとおり,特定の帰属先に断られてしまったら,直ちに清算受託者ないし国庫に帰属するのかという問題が生じてきますので,どちらかと言えば抽象的な文言の方が望ましいようにも感じます。   2点目,残余財産の最終的な帰属先についてですが,私どもとしては,例えば民法239条で無主物の不動産は国庫に帰属するとされておりますが,公益信託の残余財産となった不動産が無主物と言えるのかといえば,元々は委託者の資産ですのでそうではない。そうすると,信託法の原則のとおり清算受託者,すなわち受託者に帰属させるという選択肢が出てくるということを想定しておりました。沖野幹事御指摘のように,最初に拠出した委託者に戻るという選択肢も論理的にはあり得ると思います。 ○中田部会長 (2)の方はどうですか。マイナスの財産というか。 ○中辻幹事 そうですね。プラスの残余財産について誰も引受け手が現れないということは余り想定できないと思っています。他方で,誰にとっても使い道がなく,しかも公益性も失われてしまったような不動産であれば,単に皆に断られたからといって誰かに行くべき性質のものとも言えませんので,最後に残るマイナスの財産もイメージして御議論いただいた方がよいのかなと思います。 ○沖野幹事 状況は分かりました。私もこの最後の帰属権利者の一番最後の(3)というのが,望まれる財産が残るというよりは,処理できない財産が残るという場合ではないかと考えられまして,何か議論のイメージが,あるいは逆の方向のイメージで受託者にそういうものを得させていいのかといった話ですとか,委託者にそんな戻してもいいのかという話になっているようにも思われました。   もちろん林幹事がおっしゃったように,負担の部分に着目して,受託者にそういう負担を負わせるべきではないということも言われたわけなのですが,ただ,信託法一般は受託者が最後の帰属先となっておりますので,それとの関連ということもあるかと思われて,更には帰属権利者として国が指定されて,国が拒絶したときに,しかしやはり国に行くというようなことにもなるわけなのでしょうけれども,それで本当にいいのだろうかというのは,やはり気になっているところではあります。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 沖野幹事のおっしゃったことは非常によく分かるのですが,私はこの提案を読んで,具体的な法人名,具体的な公益信託名が記載されているということを頭の中に描いていました。   というのは,そうしないと,清算受託者の裁量権限が重くなりすぎるというか,大変だろうと思うのですね。どこまでが類似の目的の信託なのかの判断は大変です。そうすると,清算受託者において,例えばこういうところにトライしてみて断られたら,もはやもういいですということの定めを置くということが認められなければならないのではないかと思います。しかし,私も十分に勉強しておりませんけれども,清算受託者の権限について,そういう細かな規定が置かれるというのは,必ずしも前提になっていないのではないかという気がするわけです。そうなりますと,それだけの裁量権限を与えて,なるべく努力しなさいというのには無理がある。   ただ,これは公益法人に関連する法律の解釈・運用というのがどういうふうになされているのかということと密接に関係いたしますので,それとのバランスが必要なのではないかという気がいたします。 ○能見委員 沖野幹事から,(3)の残余財産としてどんなものをイメージするかという発言がありました。マイナス財産みたいのは一番問題になると思いますけれども,マイナスというのは余り正確ではないと思いますが,恐らく一定の価値はある。例えば建物なんかにしても,それ相当の価値があるけれども,それを維持していくためには,これから相当な費用が掛かることが予想される。そういうような財産が,ここでは問題になるのではないかと思います。   それは建物であるとか,あるいは場合によっては絵画のようなものであっても,これをきちんと保存して管理していくためには大変な費用が掛かるというので,その帰属権利者として指定された者がそれはとてもできませんというような場面が一番問題になるのだろうと思います。もちろんいろいろな場合がありますので,どんな場合を想定したらいいかと余り単純に範囲を狭めるわけにいかないと思いますけれども,今のような場合が一番問題となるかと思います。   実は,先ほど私が最終的な帰属先として自治体というのを提案したのは,建物みたいな場合を考えておりまして,地方の民家などは,その地方にとってはそれなりの価値があり,人々の関心も高い。従って,地方自治体としては費用が掛かっても維持したいと考える可能性がある。しかし,国は全然関心がないということも相当あるのではないかと思いました。しかしながら,これら財産の存在する自治体であれば,自治体といっても,県,市町村など,いろいろな単位があるかもしれませんが,いずれにせよそういうところであれば,これら財産を有効に保存して活用していくということも考えられると思います。民法の原則と整合的でないと採用しにくい案かもしれませんけれども,以上のようなことも考えて,自治体というのはどうかという意見を述べたわけでございます。   それから,話はまた更に脱線しますけれども,現在,国レベルで所有者が分からない不動産をどうするかという議論をしていると思いますけれども,それをどうするかということについていろいろな議論があるところですけれども,この所有者が分からない不動産の中には,本当は所有権放棄が簡単に認められれば,所有者不明でさまようことが避けられる場合もあると思いますが,不動産所有権の放棄が簡単に認められないために,所有者はどこかにいるけれども誰であるか分からないという不動産が出てくることになります。   こういう不動産についても,放棄を認めて,国ではなく,自治体に帰属させれば,自治体であれば引き取ってもいいという場合があるかもしれない。そんなことで,話を元に戻しますと,財産をできるだけ有効活用するという観点からすると,3の(3)の点について,自治体に帰属するという選択肢があるとよいと思います。先ほど述べたことの補足です。 ○樋口委員 少なくとも2点申し上げます。   今の地方自治体の話なのですね。地方自治体の話は,そういうことは十分あり得るのではないかと私も思っていて,民法が全てを支配しているわけではないというのが一つと,そんなふうに民法学者を敵にする必要もないのですけれども,少なくともここでは,前に私が覚えているところでは,つまり認定機関というのがどこかの,つまり公益信託認定委員会というのが中央に一つだけあって,それでおしまいではなかったですよね。都道府県単位で作るという話になっているのなら,それは本当に別個の手続なので,こういうときに,終了時にその認定した地方自治体が何らかの関心を持ってということはあっていいような気がするのですね。だから民法の原則に余りこだわらなくていいのかなというのが,これは能見委員の応援のつもりで言っているのですが,1点。   二つ目は,これは言うまでもないのですけれども,今,終了から始めているのですけれども,次の類似目的の公益信託としての継続の方がまずやはり話としてあって,どうもこれでうまくいかないという場合に終了。実際には今,重なっているところを議論しているのですね。類似の目的のためにという話と。   だから,話としてはやはり公益信託については簡単に終了,先ほど公益法人やなんかとどう違わせてというところで悩んでいるところの一つなのですけれども,向こうは簡単に終了できる。何で公益信託の場合は終了できないのかと言われると,なかなかという感じがするのですけれども,やはり公益信託の方は継続を考える。4を先に考えて,その後で終了,帰属,権利者みたいな話を考える方がやはり順番としては正しいような,正しいか正しくないかよりは適切ぐらいの話だと思いますが,と感じます。   三つ目の沖野幹事がおっしゃったそのマイナスのというのはやはり難問で,これはそれこそ民法の先生の方が十分御存じで,所有者がいなくなった財産で,本当に引受け手がなくて,例えば自治体であれ国であれ,かえって困るというものが相当に出てきているようで,これは公益信託の財産であるという,不動産であれ何であれというのは,その大きな場面のごく一部なのだと思うのですけれども,やはりここでも考えておかないといけないようなことで,単に国庫に帰属だけでいいのかなという感じは私もいたします。 ○中田部会長 ありがとうございました。ほかは。 ○樋口委員 それは,つまりプラスとマイナスをはっきり区別して議論すべきことだと思います。 ○中田部会長 沖野幹事の御提示くださいました問題について,分けて考えるべきだということだと思います。 ○深山委員 いろいろ論点があるのですが,帰属については,先ほど(3)のところで,最終的に乙案を支持すると言いましたけれども,それ以外に地方公共団体というのもあるのではないかというのも,なるほどなと思いました。   申し上げたかったのは,(2)のところについて,先ほど私の意見は申し上げましたけれども,その後の意見を聞いて感じたところとして,一つは,樋口委員が御指摘になった,信託の継続ということにも関係する点をまず申し上げると,委託者がなるべくこういう公益に供して末永く使ってほしいという考えであれば,その意思は尊重されてしかるべきだと思います。   しかし,先ほど私が例に出したように,一定の期間,公益信託に供したいと,その期間限定を元々の設定者である委託者が望む場合であれば,それはそういう意思も尊重してしかるべきだと私は考えます。そういう意味で,期間限定で委託者に戻る信託というのもあっていいと考えます。   先ほどそれに対して神作幹事から乙案を採り得ないというふうに言われ,研究者から理論的に採り得ないと言われると非常にショッキングなのですが,そこで想定しているのは,神作幹事が触れられたような後から寄附するような人であり,そういう人にとってということをおっしゃったと思います。確かにそういう人が拠出したものが委託者のところに行ってしまうというのは問題ではないかと言われれば,それはそういう面があろうかと思います。しかし,まず一つは,乙案も①のほかに②が用意されていて,元々委託者が拠出した財産の帰属の問題と,その後に加わった財産とを区別しているということで一つその問題をクリアしているという面があります。私に言わせると,元々期間限定の公益信託であるということをうたっている公益信託に,つまり,いずれ残った財産が委託者に戻るということを承知でなお寄附する人がいるのであれば,それも認めてもいいような気も私はするのですが,しかし,この乙案は,②を用意して元々の財産と後から加わった財産を区別しているという意味で,その問題を解消しているのだろうと思います。   そもそも,金銭の助成みたいな従来の公益信託をイメージし,第三者が寄附をするとか,あるいは寄附を集めるという場面を想定すると,それがいずれ委託者に行ってしまうのは問題だという発想につながると思うのですが,今回見直そうとしている公益信託というのは,そういう助成型とか寄附を募る型に限らず,例えば不動産を信託会社に供して,生存中,災害に遭った人の仮住まいとして使ってもらうとか,あるいは留学生に使ってもらうとかいう公益信託を設定をして,それが何十年後という縛りでもいいし,自分が亡くなったときという縛りでもいいのですが,一定の期限が来たときには,それは戻してもらって子供たちに相続してもらう,こういう場面を考えると,およそその利害相反が大変なことになって重装備しなければという議論にはならないと思うのです。   ですから,先ほど言いましたように,いろいろな信託があってしかるべきなので,やはりそこはいろいろな可能性を許容する,そういう柔軟な制度設計という意味で,最初から委託者に戻るのは一切なしというふうにして,一度出したら永遠に戻ってこないものでしかあり得ないと考える必要はないだろうというのが私の意見です。   最後にもう1点,税制のことが,どうしてもこの問題の議論として登場し,税制優遇を受けているのだから,あるいは受けるのだからということが問題になりますが,まず一つは,今の税制がそうだということが,この新しい制度後も,必ず同じ制度が維持されるというものでもないだろうと思いますし,それなりに見直しをされてしかるべきだと私は思います。   もちろん見直しをするのは財務省等々ですから,どうなるか分からないという問題はありますが,現在の税制ありきで議論する必要はないし,議論すべきではないというのが私の考えです。   更に言えば,もしかしたら,そういう信託については税制優遇は与えられませんとなることもあるとは思います。少なくとも公益信託の中身によって,税制優遇の内容だったり,その程度が変わってくるということは,それは当然あると思うのです。極論すれば税制優遇ゼロというのもあるかもしれない。税制の問題として,そういうことがあったとしても,実体法の規律として,あるいは公益信託の仕組みとして一切そういうものを認めないということにする必要はなくて,税制優遇は乏しいかもしれないけれども,こういう公益信託を作りたいという人がいたら,それはその意思を尊重してしかるべきではないかというのが私の考えです。 ○中田部会長 10ページの第2パラグラフに,乙案を採用する場合について,新たな問題点の指摘が事務当局の方からされています。これは先ほど神作幹事のおっしゃったこととも共通するところもありますが,やや別のことも入っているのですけれども,これについてもし御意見がございましたら,この機会にお出しいただければと思います。 ○深山委員 単純な寄附だけでなくて,その収益が誰に帰属するかということを問題にしているのかなと思うのですが,最終的には,乙案の①の方に分類される財産か②になるのかという当てはめというか,その判断になるのだと思います。抽象的に言えば,元々の財産の果実みたいなものは元々の財産の方に帰属するという考え方にもなるのかなと思うし,そこは状況次第というか,その中身次第で個別に判断することになると思うので,そういうことを踏まえても,先ほどのような考えをしているということでございます。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○吉谷委員 いろいろ御意見を聞いておりまして,意見としては,余り複雑な制度にどんどんしていくのはよろしくなかろうと思うところです。   最終的に国に行くのか地方公共団体に行くのかというようなこともございますけれども,公益認定を受けるところで,残余財産の帰属権利者として,1番目に公益法人どこそこというのを指定して,そこが要りませんと言った場合には国に行きます,あるいは地方公共団体の方で認可いただけるのであれば地方公共団体に行きますというふうに信託行為に書いておけば,それで解決するのではないかと考えておりまして,それを法律で細かくどんどん定めていくということを追求していくことの実益は余りないのではないかと考えます。   そしてまた,乙案につきましては,先ほどの繰り返しではありますけれども,余りこれも複雑な制度にするのはよろしくなくて,更に,先ほど部会長から信託財産の価格の変動等の問題について提起されましたけれども,私はこの乙案というのは,これは設定時のものが元に戻りますよというだけではなくて,後から加わった寄附等による財産を基にして最初の不動産なりというものが維持されて,それが戻るということになりますので,これは私人のために寄附を集めているというに等しいような内容になってしまうのではないかと思います。   それで,税の手当がなくてもいいのではないかというふうな御意見もあり,そこは全く意見が対立するところではありますけれども,公益と公益ではないものというのをシンプルに分けるということが,公益信託というもののブランド的な価値というのを維持するためにも,非常に有効なのではないかと考えております。 ○新井委員 まず,全般としましては,(1)については賛成,(2)については甲案に賛成,それから(3)については乙案に賛成ということを申し上げた上で,気になりましたのは沖野幹事の発言です。   つまり古民家のような,マイナスの財産になった場合のその帰属,処理をどうするのかという問題についてちょっと気になりましたので,私の考え方を申し上げていろいろ御意見を伺えればと思います。   古民家のようなものに限らず,当初不動産の運営がうまくいくと予想して信託をスタートしたけれども,うまくいかなかった例というのは,御存じのように判例にあった兵庫県の青野運動公苑のような事件でもあるわけですね。   あの場合は自益信託でしたので,損失分を信託銀行である受託者が固有財産から補填しておいて,求償の問題になったということで,その委託者又は受益者に求償するか,信託財産に求償するかという問題になったのだろうと思います。   ですから,当初うまくいくと思っても,そういうような結果になることがあるとすれば,古民家のような非常にリスクのあるものについては,そもそも受託者は受託しない,というのが受託者のスタンスではないでしょうか。   なぜならば公益信託には,受益者がいないとされているわけですから,受益者に求償できない。それから委託者も舞台から去るわけですから委託者にも求償できない。そして,信託財産もマイナスだということで,非常に動きが取れない状況となります。そういうことをシミュレーションして,多分受託するかどうかを決めるのだと思うのです。ですから,一般的な受託者の義務を受託者がどう判断するかという問題で仕切ればいいのであって,マイナスの財産になるものをどのように最終的に帰属させるかということと一応分けて考えた方がいいのではないかと少し考えたのですけれども,もし沖野幹事の方で御意見があれば,お伺いしたいと思います。 ○沖野幹事 ありがとうございます。事前に受託者がそれを計算して,受託者の行動として決定をすべきだというお考えだとすると,むしろ(3)では甲案にした方が,最後は自分に来る以上は,それをあらかじめ考えてということを生じやすいようにも思われ,そうでなければ,最後は全部国庫に任せてしまえばいいのだということにもなりそうに伺ったのですけれども。そうすると,そこが新井委員の結論として逆になるのかなというふうにも伺ったのですけれども。 ○新井委員 (3)の甲案はないと思います。 ○沖野幹事 そうですか。 ○中田部会長 新井委員の御発言は,受託者にはリスクのあるものは受託しない義務がある,それに反して受託した以上は,最終的な責任を持つべきことにならないだろうかという御指摘かと伺いましたけれども。 ○新井委員 恐らく受託した以上はそうなるので,一般論としては受託しない方向に行くのではないかと私としては考えました。 ○吉谷委員 以前,神田委員が公益信託で借入れができるのかということをおっしゃっていたと思うのですけれども,先ほどの残余財産がプラスかマイナスかということにつきましては,借入れなどがあって,清算して,その結果,土地建物を売って,借入れが返せなくてマイナスだということであれば,それは受託者が負担するという,受託者のリスクということであろうと思っておりまして,先ほどから話題になっていますのは,別に債務とかで清算する必要がなくて,でも維持するためには経費が掛かりますと,古民家として維持することには経費が掛かるということだと思います。   ですので,先ほど私が申し上げましたのは,例えば地方公共団体が認可しますということであれば,最終的には地方公共団体の古民家になるというリスクを承知の上で,認定なり認可なりを地方公共団体がされるのだと理解いたします。ですので,これも監督されるわけですから,本当に不要な価値のなさそうな古民家などというのは公益認定されないだろうと。その上で,事情が変更してしまった場合には,それは国なり地方公共団体のものになるということで仕方ないのではないかと思います。   ですので,元々その想定として,この残余財産が最終的に誰に帰属するかというこの(3)につきましては,やはり何らかのプラスの価値があるということが前提になっている。ですので,清算受託者に帰属しないという観点で,私どもも従来から国庫に帰属することで結構ですと申し上げておりますので,マイナスの価値の資産というものの意味合いがちょっと,どういうふうに考えるべきなのかということについては,私の考えは今話したようなものというわけです。 ○中田部会長 ありがとうございました。   確かにマイナスの財産というと少し多義的な感じがいたしますが,必ずしも債務ということではなくて,資産ではあるのだけれども,維持管理に負担が多く掛かり,結果としては赤字になってしまうような財産を意味しているのだろうと伺っておりました。   それについて一般的なといいますか,プラスの財産と今のように負担の大きい財産とを区別して検討すべきではないかという辺りに多分なっているのだろうと思います。 ○道垣内委員 話を更に混乱させるようで大変申し訳ないのですが,古民家の事例がずっと挙がっているのですが,それは余り現実性がなくて,より現実的な問題としては,不動産で産業廃棄物が地下に存在する例は幾らでもあるのですね。9億円の土地が産業廃棄物を掘り出すのに8億円掛かるということならば,まだ1億円で売れるのですけれども,それは逆のときもあるのですよね。その土地のその面積からすると5億円ぐらいの市場価格であるが,産業廃棄物を取り出すのに6億円掛かるという場合も実際に存在するわけです。そのときに受託者って,掘り出さなければいけないのか,それとも埋めたままで国庫に引き渡せばいいのかというのは,これはよく分からない感じがします。古民家だって,皆さん古民家の保存に熱心なようですが,誰も行かない,維持にべらぼうにお金が掛かるというのだったら壊せばよいと思いますが,そうだとしても,壊すにはお金が掛かるわけですよね。しかるに,受託者は壊さなければいけないのだろうか。土地の値段がないようにするために地上権付き古民家を考えると一番分かりやすいと思うのですが,最後はどうすればいいのかというのを決めないと,マイナスの財産,プラスの財産というふうに言うと何となく整理できた気がしますが,現実的に考えると訳が分からない問題が多々あるような気がいたします。 ○渕幹事 新井委員と沖野幹事のやり取りを伺っておりまして,財産の価値がプラスかマイナスかという問題ももちろんあるのですけれども,最初の時点で受託者にモラル・ハザードが起きないような制度設計をする必要がある,そういうことなのかなと思った次第です。 ○林幹事 マイナスの財産というのを私も前回のときも意識していたのですけれども,それは要するに誰も引き受けたがらない財産というものなのかと思われるのが1点です。誰も引き受けたがらないというのは何かというのもあるかもしれないのですけれども,そういうことなのかと思いました。 ○小野委員 議論の前提なのですけれども,終了する前に認定を取り消されたときは,もはや公益信託ではなくなっているのですけれども,その後,それが何なのかという議論はあるかもしれません。終了後に清算手続に入ると思うのですが,もはや公益信託ではないのでどう考えるのか,それともそれでも過去を引きずってという議論なのか。これまでの助成型で信託銀行が受託者となる場合は信託財産が明らかなのでそれは別として,個人が受託者になったりする事業型の場合,ここから先は国庫ですとかの線引きが不明であったり,何かいろいろな状況がある中で,特定の古民家だとか,不動産の価値が上がっている場合とか特定の状況を捉えて何か議論するとやはり見えにくくなるのではないかと思って,結論としては,深山委員が述べたように,原則として自由ではないかと。本来,信託なのだから,信託として扱えばいいのであってというところを出発点とすればよろしいかと思います。   あと,利益相反うんぬんと議論もありましたけれども,元々信託行為で定める話なので,信託行為で定めたときに,それがよからぬ信託行為であれば,そもそも認定のところで適切に認定が得られないというような仕組みであることを前提とすれば,認定もされて,それでも駄目ですと,場合によっては廃棄物です,場合によっては価値がある,場合によってはどっちか分からないみたいな,場合によっては固有財産と全然区別が付かないみたいなときに,無理に引き剝がすというような議論までする必要はないような気がいたしました。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○林幹事 もう1点だけ。国庫帰属の点なのですけれども,実務的にどうかというのがあって,私自身は,それほど事案を担当したことがないので分からない面もあるのですが,相続財産管理の場合で,プラスの資産があって,最終的に,国庫帰属させようとする場合に,なかなか国庫が受けてくれないことがあるようです。金銭に換えていると受けてくれるのだけれども,そうでないと国は余り受けたがらないというような実務があるように聞いたことがあるので申し上げます。 ○明渡関係官 公益法人の場合の残余財産の帰属についての御質問がありました。   実際,定款においてどのように規定するかというふうなことにおいては,例えば認定法5条17号に掲げるものとのみ定めることでも可というような運用になっております。現実にどれくらいの法人が,個別の法人を定款で指定しているのかというのは,データを取ったことがないのでそこは分かりませんけれども,例えば公益認定を取り消したときに贈与する先,これも同じような規定になっておりますが,通常それは取り消された後に,この法人に贈与するというふうな話が出てきますので,恐らく個別の法人をあらかじめ定款の中では定めていないことの方が多いのではないかと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。   大体よろしいでしょうか。   (1)については,この指定に関する定めを置かなければならないということは御異論がなかったと思います。   (2)については,甲案と乙案とそれぞれ支持される方がいらっしゃいました。論点も,もう既に出ていることかと存じます。   (3)については,国庫に帰属ということを基本的に支持するという方が大多数であったと思いますが,更に新たな論点として,国だけではなくて地方自治体も対象とし得るのではないかということと,それから,負担の大きい財産については区別して検討すべき必要があるのではないか,こんな御指摘を頂いたかと存じます。   これらについて更に検討をして,また新たな案を御覧いただくことになろうかと存じます。   よろしければ,次に。 ○山本委員 少し発言させていただいてよいでしょうか。(3)で,乙案により国庫に帰属するものとすることになるとした場合について,先ほどの議論の中で出てきた問題なのですけれども,例えば古民家の例でも何でもよいのですけれども,実際にそれを持続的に維持していこうとするとコストが掛かる。その元の所有者,つまり委託者が一人では到底担えないと考えて,それを打開する道として,例えば広く寄附を集めるために,公益信託という形でお金を集めて,何とか維持することを図ろうとしたけれども,それが結局うまくいかない場合には国庫に帰属するとしますと,要するに,潰すか税金で維持するかどちらかだという選択になっていくことになります。そのような見通しの下で,先ほどの問題なのですけれども,持続可能性を考慮して,特に最後には税金で負担することも考慮して考えると,やはり公益信託として認定できないというようなことが起こるのではないかという指摘がありました。これは,認定基準として,そのような考慮が入ってくるということなのでしょうか。そこを少し確認させていただきたいのですが,よろしいでしょうか。 ○中田部会長 この御発言は小野委員でしたでしょうか。 ○山本委員 事務局でもいいですが。 ○小野委員 そうですね,総合的に恐らく判断するのではないかと思うのですけれども,公益だけ崇高な目的が書いてあって,信託契約,信託行為を見ると,前に善管注意義務の任意規定かどうかという議論もありましたけれども,善管注意義務はないわ,随分,自分勝手なことを書いてあるということになれば,それがどういう要件でどこで引っ掛かるかというところまではすぐには答えられませんけれども,やはり広く見たときに,その公益性においてやや問題ありということになるのかと思います。ちょっとそんなイメージでおりました。 ○山本委員 公益性から見てという表現で捉えられているのかどうか,疑問の余地がありますけれども,御意見としては理解しました。事務局の方から特にないということでしょうか。 ○中辻幹事 御指名ですのでお答えします。   事務局としては,認定行政庁は,公益信託の受託者が委託者から拠出された信託財産を用いて予定されている公益信託事務を遂行する見込みがあるかないかという点について判断することを想定しておりました。   ですので,山本委員がおっしゃられたような最終的な帰属先に関連する税金面の問題意識まで含めて認定行政庁が認定の可否を判断するということは想定していなかったというのが率直な答えです。そこまで認定行政庁の判断要素とすることが適切なのか否か,私は今,確たる解答を持ち合わせておりませんが,御指摘を踏まえて検討させていただきます。 ○吉谷委員 私はてっきりそこまで考えて,複数年の計画において成り立つのだということの検証までされた上で,公益認定がされるのだと考えておりました。 ○樋口委員 たまたま私が知っていることですけれども,医療法人,東京都の医療法人部会という委員会に出ているのですね。そうすると認定基準の中に,新規のものは2年間の経営計画で,これで一応安定できているはずだという,そういうものが出てきます。更に言うと,これは皆さん御存じかもしれませんが,医療法人法の改正があって,帰属の相手先は,残余財産の帰属先は今まで個人でよかったのですけれども,それはいかんということになり,国,地方公共団体,公的医療機関の開設者,他の医療法人,医師会に限定されるということに,今なっています。 ○中田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,この点については更に検討するということにしまして,続きまして,「4 類似目的の公益信託としての継続」,「5 公益信託の変更命令」について事務当局から説明をしていただきます。 ○舘野関係官 それでは,御説明いたします。   まず,「4 類似目的の公益信託としての継続」について御説明いたします。   本文では,甲案として,公益信託法第9条を削除するものとする。乙案として,公益信託法第9条を改正し,信託の目的の達成又は不達成の場合において,信託財産があるときは,行政庁は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとするとの提案をしています。   本文の甲案は,公益信託法第9条を削除するとした部会資料37の第2の2の乙案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。   本文の乙案は,今回,新たに提案するものです。   部会資料11ページの5に記載したような,新薬の研究開発を行う研究者への助成を行う公益信託について,日本よりも先にアメリカで新薬Aが開発された場合に,当該信託が終了し信託の清算が行われることは,公益目的のために信託財産を拠出した委託者の具体的な意思に反するという見方もあり得ます。   そして,そのような場合には類似する新薬A’の研究開発を助成する公益信託として継続させることが委託者の意思の尊重や公益への寄与の観点から相当と言えるケースもあることが想定されます。   そうすると,公益信託法第9条を改正し,信託の目的を達成した場合又は信託の目的を達成することができなくなった場合において,信託財産があるときは,行政庁は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとする考え方があり得ることから,これを乙案として提案しています。   次に,「5 公益信託の変更命令」について御説明いたします。   本文では(1)公益信託法第5条は削除するものとすることでどうか。   (2)公益信託についても信託法第150条を適用することとし,同条に基づく変更命令の権限は甲案として行政庁が有するものとする。乙案として裁判所が有するものとする。   (3)。(2)の変更命令の申立権者は,委託者,受託者又は信託管理人とする。ただし,委託者については,信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとすることでどうかとの提案をしています。   本文(1)の提案は,公益信託法第5条を廃止又は改正するとする部会資料37の第3の1,柱書き第1文の提案と同様であり,その内容及び理由に変更はありません。   また,本文(2)前段の提案も,公益信託についても信託法第150条を適用するとする部会資料37の第3の1の柱書き第2文の提案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。   なお,本論点の検討に当たっては,信託法第150条では,信託の目的の変更を裁判所が命ずることはできないと考えられている点に留意する必要があります。   なお,本文(2)後段の提案の甲案を採用し,行政庁が公益信託の変更命令を行うこととした場合には,行政庁が変更後の公益信託が認定基準に適合しているか否かも併せて判断することができます。   これに対し,本文(2)後段の乙案を採用し,裁判所が変更命令を行うこととした場合には,裁判所が認定基準に違反するような公益信託への変更命令を行うことは適切でないため,変更後の公益信託が認定基準に適合しているか否かの判断を行うための知見や資料を行政庁から入手できるようにするための仕組みを用意することが必要であり,例えば信託法第168条を参考として,裁判所は同法150条に基づく公益信託の変更命令申立てについての裁判をする場合には,行政庁の意見を求めなければならないものとすることが考えられます。   さらに,本文(3)で提案している公益信託の変更命令の申立権者について,部会資料37の第3の1(2)では,委託者の申立権については信託行為による増減が可能であることを前提としつつ,申立権者に委託者を含めない甲案及び申立権者に委託者を含める乙案を提案していました。   しかし,信託行為による増減を可能とするのであれば,現在の信託法上の規律と実質的に相違がないことから,今回の本文(3)では,変更命令の申立権者を委託者,受託者又は信託管理人とするが,委託者については信託行為において変更命令の申立権を有しない旨を定めることができるとの提案に変更しています。   この提案は,受託者及び信託管理人については,信託行為において変更命令の申立権を有しない旨を定めることはできないことを,一応の前提としています。   以上でございます。 ○中田部会長 それでは,まず「4 類似目的の公益信託としての継続」について,御審議をお願いいたします。 ○道垣内委員 4について,結論としては,甲案に賛成なのですが,その賛成の理由を説明したいと思います。   信託法150条というのがあって,信託の変更ができるということなのですが,この点については京都大学の吉政さんの「ジュリスト」の御論文があって,実はこの150条で対応すべきときとは,多くの場合,信託行為の解釈問題ではないかという主張がされているわけです。つまり,例えば国債のみに投資することになっているときに,それは「国債」という意味なのか,それとも「元本割れがない安定した資産」という意味なのかという解釈の問題として考え得る余地が結構あるのではないかという議論です。   4の話というのは,私は正にそういう話ではないか。とりわけ,今,例としてAという難病とA’の難病というのが出ておりますけれども,私は医学の知識がないのでよく分かりませんけれども,AとA’というのが仮に類似しているとするならば,それはAと書いてあったって,A’の新薬の開発にも使えると信託行為を解釈することは十分にできるし,その解釈ができる範囲でなければ,12ページに書いてありますような委託者の意思の尊重という観点から正当化できないのではないかという気がします。委託者の意思の尊重という観点から正当化できるのならば,信託行為を委託者の意思を尊重して解釈すれば足りるのではないかという気がいたします。   とは言いながら,結論として,それほど絶対に甲案でないといけないと思っているわけではありません。ただ,理屈上はそういう問題が4についても5についても隠れているということを指摘しておきたいという話でございます。 ○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。 ○樋口委員 4については,もちろん乙案をという趣旨で,それは言わなくても分かるような話だと思いますけれども,今,道垣内委員がおっしゃったのは,一つの筋としては,歴史的には分かるのですね。アメリカでは,やはり委託者の意思というのを尊重するのが信託だという話になっていて,公益信託についても,委託者が例えば何々大学のためにと言ったら何々大学,その大学がなくなって,では,別の大学でいいのかというと,それは絶対駄目だというような話にしていたわけです。   しかし,アメリカ法の傾向ははっきりしていて,リステイトメント等でも,とにかくジェネラル・パブリック・インタレストというのがキーワードかな。本人はとにかくこういうところでという,それをできるだけジェネラルに解釈して公益のために,先ほどどなたかおっしゃった,一旦公益のために供与された財産を無駄にしない。それがたまたまその機関がなくなったり,病気がなくなったりというのであれば,やはりそれに類似した,だから場合によっては,難病AとA’という話ですけれども,難病でなくてもいいわけです,本当はね。広い伝染病みたいな話でもいいわけです。そういう話で存続させようという傾向が明確に見られる。だから,それはそれでいいのですけれども,道垣内委員がおっしゃったのは一つの筋だけれども,アメリカでは過去の議論であるということをちょっと強めに申し上げたのかもしれないけれども。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○能見委員 私も樋口委員とこの問題に関して近い立場を前にも表明したと思いますけれども,乙案に賛成という立場ですが,一つ,確認しなくても明確なのかもしれませんけれども,先ほどの帰属権利者の定め方との関係でいいますと,帰属権利者がどんな形で定められていても,この4の,つまり信託目的の達成又は不達成で終了するときには清算段階に入るわけですが,その段階で受託者としては申立てをすると,このルールが適用されるという理解でよろしいですね。そういうことで,こちらのルールの方が少なくとも受託者の申立てがあれば,これが優先するということになるのだろうと思います。   ちょっとそのときに気になったのは,受託者は裁量権があるのか,つまり申立てをしないのも自由だし,するのも自由だという程度に考えるのか,あるいはもう少し強くこのルールが適用されるとした方がいいという考えを私は持っていますので,申立てをするか否かは受託者の裁量で自由だというよりは,類似目的で存続するという方向性がより強く採れるような,そういう内容のルールにした方がいいのではないかという感じを持っております。そのためにどういうふうに直したらいいかというのは今この場では言えませんが,類似目的で存続することを優先するという基本的な立場があると思います。   それから,委託者の意思の尊重ということでいうと,これは私が何か新しい論拠を付け加えることができるのではなくて,樋口委員の言われたとおりでありまして,委託者の意思が,ある種の特定の公益のためというときに,類似目的とはいえ,当初の目的と少しはずれてくるということがあり得る。それを許容するわけですが,委託者はやはりそれは嫌だという,自分が設定した公益信託は本当に当初の目的のためだけに限定したいというような意思があるのであれば,それが表明されればこの類似目的のルールは適用されないことになろうかと思います。そういうように調整すればいい。委託者の意思としてしてはそこまで強くない。Aという研究でないと駄目だという意思が明確になっていないのであれば,Aという研究のための公益信託が目的達成又は目的達成不能で終了する場合に,できるだけ類似の公益目的のために公益信託を存続するという方向でこのルールを適用することができる,そんなふうに考えたらどうかと思いました。 ○平川委員 私も乙案に賛成します。このシープレ原則は,公益信託の特色を表す象徴的な原則ですので,これをやはり公益信託法の中に残して,原則的な概念的な規定として,飽くまで委託者の公益目的を実現させようとする意図を明確に示した規定として,残しておいていただきたいと思います。やはりこの日本の公益信託制度においても,この規定を欠くということは考えられないと思います。   樋口委員の前の37回の御発言でもありましたけれども,当初は適用条件というのは厳しく決められていたようだけれども,その公益概念において類似というものを少し,より解釈を広げていくという方向性がアメリカの動きでもあるということなので,そういうことも参考にして考えていくべきだと思います。 ○林幹事 まず,4の類似の目的の公益信託の継続についてですが,これは先般の部会資料37の提案の際には,定めの対象となるものが受けなかったときということを前提にして議論していたかと思いまして,だから,適用場面は少ないのではないのかというような話を申し上げ,あるいはほかの先生方からは,もっと早いタイミングでこれが適用されたらいいという御意見もあったので,それを受けて,今回の部会資料でこういうふうに出てきているのだと理解はしています。ただ,前の残余財産の帰属のところと,この4の関係というのをどう捉えるのかというのが若干分かりにくいという議論は弁護士会でもしていまして,先ほどのお話だと,単純に併存するからどちらでもいいようなことなのか,それでいいのか,3と4の関係性が分かりにくかったという議論がありました。それが,まず1点です。   そういうところもあって,この論点では,弁護士会の議論では甲案の方が多かったのですが,乙案もあってもいいという意見もありました。個人的には,直感的にはシプレ原則は残った方がいいような気もしているのですが,その3とか4の関係をどう捉えるのかというのも一応考えておかないといけないように思いました。   それから,先ほどの沖野幹事の御発言にもあって,その3のところで,例えば甲案で抽象的にこのように書いてしまっていいのであれば,この4の乙案というのは,そこで尽きてしまうようにも思いました。あるいは,その3のところで具体的に書かないといけないとすると,先ほどの御指摘もありましたけれども,そこで漏れたときにどうフォローするのかを考えると,この4がないといけないと思いますし,場合によっては,前回の部会資料37の案の方が筋が通っているかもあるかもしれないというようないろいろな意見が出ました。ですから,3において甲案なりのときでもどう書くのかであったり,あとは4と3の関係であったりを,もう少し整理してもいいのではないかというような議論がありました。 ○吉谷委員 4について申し上げますと,どちらかといえば乙案であろうと。3のところで,残余財産の帰属につきまして,類似の目的の公益法人なども指定できるというふうにされたとしますと,それほどニーズがあるということもないのだろうなとは思っています。その指定されたところに渡せばいいのではないか。   そういうものも特に指定されておらず,国あるいは地方公共団体にというような場合で,何らか継続した方がいい場合があるかもしれないという程度かなとは思いましたけれども,という趣旨で,どちらかといえば乙案です。 ○樋口委員 議論の仕方として,こういう議論の仕方をするのが本当はいいのかどうか,よく分からないのですけれども,率直に第1点としては,この4の乙案みたいな話をなくしてしまいますと,私がもうアメリカに行くこともないのですけれども,例えば外国で日本の公益信託の説明をするときに,今度,日本の公益信託法は改正されたのだよと,日本ではシープレという原則は公益信託について認めないことにしたのだよというのは,何だかすごく言いにくいのですね。どうしてという感じで世界中から思われるような感じがして,いや,それに代わる方法はきちんとあるのですよとか,先ほどの帰属権利者のどうのこうのと説明はするのだと思うのですけれども,何でもインターナショナルな基準に合わせればいいというふうな議論をするのもちょっと,自分でもどうかなと思うのだけれども,何か率直にまずそういう。先ほど平川委員がおっしゃったように,公益信託と言えばシープレというのが,あるいはサイプレといっている人もいるのですけれども,そういうのは何かもうキャッチフレーズみたいにあるのですね。税制のものも,もちろん実際にはそっちの方が大きいのですけれどもね。   それから2点目としては,吉谷委員が言ったようなことと能見委員がおっしゃったことと絡めて,これはやはり受託者は申し立てなくてはいけないというようなことにした方がいいような気も私もしていたのですが,一方で考えると,多分,英米でも義務付けてはいないと思うのですよね。何にもしないでぼやっとしていたら,誰かに訴えられることはあるかもしれないのですけれどもね。   つまりどういうことかというと,多分,選択肢は幾つかあって,例えば公益信託がこれで大体どうも目的不達成とか達成という話になったときに,しかし財産はありますというときに,やはり一つの手段は合併,同種の公益信託との合併,あるいは公益法人との。同じことなのでしょうけれども,終了させて帰属権利者がどこかの似たような公益法人であれ公益信託であれというそういう手段もある。それからここで,この公益信託として独立独歩として,しかし類似の目的でずっとやっていくというのも選択肢の一つとしてあるという感じもあるのですね。   そのときに最後の手段はシープレといっているのだと思うのですけれども,でも実際の方法は,シープレでも,方法としてはほかのところへ財産を移してというのも,もしかしたら概念的にはむしろシープレ法理の中に入っているのかもしれないです,考え方としては。   ともかくちょっとコメントいたしました。 ○中田部会長 ありがとうございました。   先ほど能見委員の御発言の中で,委託者が明示的にこれだけに限るといった場合は別だとおっしゃいました。それは結局,道垣内委員のおっしゃっている解釈の一部の問題かと思うのですけれども,樋口委員は明示的に委託者がこの目的以外には使ってほしくないと言った場合は,どうお考えになりますでしょうか。 ○樋口委員 ちょっと留保を付けて,暫定的にお答えすると,やはりそれは,私がアメリカ法を代表しなくていいのですけれども,アメリカでもそれは仕方がないことにするかもしれません。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○新井委員 今の点について,私の考え方を申し上げます。   まず,私は乙案に賛成です。それで,この乙案で非常に重要なのは,受託者の申立てによりというところだと思います。終了して,帰属権利者に帰属するというルートがあります。しかし,受託者としては,別の選択肢も考え,そのときの判断を行政庁に仰ぎ,行政庁はいろいろな事情を忖度して,別の可能性を考えるというルートはあってもいいのではないかということで,私はこの「受託者の申立てにより」というところが非常に大きな意味を持っていると考えますので,この乙案は正にそこがポイントではないかという感じがします。   そう申し上げた上で,したがって受託者だけではなくて,信託管理人にも申立権を与えてもいいのではないかと考えます。 ○道垣内委員 2点申し上げたいのですが,1点目は,先ほどの能見委員がおっしゃった,これ以外には使ってほしくないとされていたならば,それはさすがに類似目的のための公益信託の継続というのは生じないという話ですが,私も仮に乙案を採っても,そうあるべきだと思いますけれども,そのような考え方は,結局,乙案の限界というものを当事者意思,委託者意思に置いているのだと思うのですね。   それに対して公益信託の本質はシープレであるというふうな言い方をしますと,ある財産が公益に付されているという,その本質からこの原則が来るという考え方になって,それとは異なる考え方ではないかという気がいたします。   私は,公益信託の本質というものがどこかにあると思いませんので,仮に4の乙案を入れる場合も,能見委員がおっしゃった話とか樋口委員が賛成された話とかで,限定を本人が付している場合には,それは乙の申立権は発動しないだろうと思います。   第2点目なのですが,私は,4の乙で行われるというときに,受託者の申立てというのは内容がかなり特定されていなければならないと思います。つまり,AとA’の話にしますと,Aという新薬を開発するための基金であるところ,いや,Aはできてしまったので,A’にしますと申し立てて,それで行政庁がA’という新薬を開発するための基金として考えるときに公益性があるのかという判断をして,それで認めることができるというわけです。抽象的に,類似目的にしたいと思うのですけれどもいいですかと申し立てれば,行政庁が類似のものを見つくろってくれるという制度ではないと考えています。   そうしたときに,新井委員がおっしゃったことなのですが,信託管理人に認めるというのはおかしいと思います。受託者が自分ができる範囲でこういうことをやるということで申立てをして,それで認められるか,認められないかという勝負なのだろうと思います。   最後に一言申し上げますと,お前は乙案を前提に話しているけれども,お前は甲案賛成と言ったのではないかとお思いになる方がいらっしゃるかもしれませんが,私は甲案賛成と申し上げたときから,それほど甲案に固執しているわけではなくて,どちらかといえば乙案が,委託者の意思の問題だということを主張したい,いずれにせよ,委託者意思の問題である,というのが私の根本でございますので,個人的には矛盾しておりませんので,お断りしておきます。 ○能見委員 先ほど述べたことと同じことを,ちょっと違った観点から言うだけなのですけれども,類似目的の公益信託として,そのまま継続するというこの4のところの乙案で,これは帰属権利者の定めのところで類似目的の公益信託若しくは公益法人,こういう形で抽象的に帰属権利者が定められていても,この4の乙案というものの意味があるということを,前回触れた点ですけれども,もう一度強調しておきたいと思います。   これは,帰属権利者のところで処理しますと,公益信託が清算結了までいって,そこで残余財産として残ったものだけが帰属権利者に行くわけですけれども,そういう意味で残余財産を誰かに帰属させるためには清算しなくてはいけないということになります。しかし,4のところの類似目的のために同じ公益信託が継続するということになりますと,その清算はしなくていいことになりますので,ここはいろいろな状況次第ですけれども,かなり大きな違いがあるのだろうと思います。   そういうことで,帰属権利者がどういうふうに定められていても,類似目的の公益信託として継続するということができるということに意味があると思います。 ○山田委員 4でございますが,乙案が,今御議論いただいているところの御意見を伺うと,望ましいのではないかなと,自信はないのですけれども,思うに至っております。   しかし,行政庁が公益信託を継続させることができるものとするという点に,私はすごく抵抗があります。すなわち本来は当初信託の定めに基づくと,信託の目的の達成又は不達成で信託が終了するということです。それを終了させずに継続させるということは,ちょっと微妙なところもあるのですが,やはり私人間の法律関係を形成する側面があるのだと思うのですね。放っておけば終了するわけですから,終了させずに今のまま続けなさいということになります。したがって形成する側面が十分にある。したがって,そのような規律は慎重に考えるべきだと思います   それから,目的は,これは恐らく継続させることに伴って,変更するのだと思うのですね。類似であれ,AからA’なのかAからBなのか分かりませんが変更する。それを行政庁が行う,認定等委員会の意見を聞いた上でということだと思いますが,ということについては,選任とか解任とかいろいろあったところで,大幅に行政庁が出てくるなら,ここで行政庁ではなく裁判所が関与すべきであると頑張ってもしようがないなと思うのですが,そういうところを裁判所がということでもし解決するならば,公益認定を受けていたという公的な性格は十分にあるけれども,私人間の法律関係を行政庁が形成するということについては,極めて慎重に扱うべきだろうと思います。   そうすると乙案はこのままでは,先ほどいいのではないかと冒頭で申し上げましたが,私の意見としては,このままではやはり反対と言わざるを得ません。   そうすると,どうしたらいいか。乙案の心をいかすにはどうしたらいいかということで,十分に検討していないので自信はないのですが,信託の変更なのではないかなと思います。   信託法上の信託の変更で信託の目的が変えられるかというのは,よく分からないのですが,もしできないとしても,公益信託についてはできるとして,そして,そうすると149条の考え方,あるいは,これは受託者の定めのない信託については手直しが加わっているのかもしれませんが,それを参考にしながら当事者が目的を類似目的に変えるというふうにして,しかし,それは当初の公益認定の対象とは違ってまいりますので,公益認定等委員会の意見を聞いた上で,認定それから認定の取消しそしてその間の監督をする行政庁がそれを,それが認定なのか認可なのかよく分かりませんが,それは技術的に詰めればいいことだろうと思いますので,行政庁の関与が必要だというような作りに,形を作り替えると,心は残っているのではないかと思われ,それであれば私は賛成したいと思います。 ○中田部会長 今の御提案は,目的の達成又は不達成の場合,終了事由になっているのを少し繰り延べるみたいな考え方でしょうか。終了してしまえば,変更できないのではないかという議論があるわけですね。 ○山田委員 ですから,その前になるのではないでしょうか。あるいは,遡って変更するみたいな考え方を取り入れるのだろうと思います。客観的に達成又は不達成があるから,終了しか道がないのではないかという考え方を採ると私の考え方は成り立ちませんので,そこは大人の知恵で,当初信託行為の中に定められている終了事由である信託目的の達成又は不達成がある場合においても,その前に効力が生ずるものとして信託を変更するということが考えられると良いという意見です。 ○中田部会長 分かりました。時系列としては,目的の達成又は不達成が起きた後でアクションが生じると思うのですけれども,それを何らかの形でみなすというような対応を考えるということでございますね。 ○山田委員 そうですね,はい。この乙案は,実質はそういうことですよね。おそれがあるとか,そういうのではなくて,その事実があるということを前提にしているので,それを私は何か修正した上で作った方がいいだろうということではないのですが,考え方として,行政庁の関与の仕方というものは,今申し上げたところが強い意見としてあるということです。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。 ○新井委員 今,山田委員のおっしゃったことなのですけれども,私はこういうふうに理解しました。   信託目的はそのままで,ただ,現に受託者が遂行している信託事務の処理,これが現下の情勢に適合しなくなったので,したがって,目的が達成できないような状況に至ったというときに,目的はそのままで信託条項を変更するものとして,信託の変更をするということについて,行政庁なり裁判所が後見的に関与してくる,そういう理解をしておりますが,山田委員も賛成していただけますでしょうか。 ○山田委員 少し違うと思うのですけれども,私の意見の実質は実現していると思いますので,私は特に構わないと思います。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ○小幡委員 今の話はまた議論していただければよいと思いますが,乙案のところで,私も山田委員がおっしゃる前に,ちょうど同じようなことを考えておりまして,行政庁は類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとすると,これはどういう意味なのかということです。基本的に,そもそもこの認定というのがどういう意味合いを持つのかというのがクリアにならないでずっと来ているような気がしていて,つまり認可のような効力要件なのか,そうではなくて公益のための信託で,税法上の優遇を与えるための意味もあって確認,公益信託であることを確認するというような行為として整理するのか,その辺りも余りはっきりしなかったのですが,ここで継続させることができるというのは一体どういうことかを含め,そういう問題が潜在的にあると思います。   それから,先ほどのここの乙案の読み方として,委託者がどうしても嫌だと言っているものを継続させないのですから,それはその信託の本旨というところで読むのかなと思うのです。委託者の意思がはっきりしていれば,それは信託の本旨がそういうことだという読み方になると思うのですが,そういうことを行政庁が確認するという役割を担うことになる,つまり,これは公益に資するものであるという確認,公益の認定ということは当然よいのですが,こちらのほうは,勿論できないことはないと思うのですが,委託者の意思に沿っているかとか,ある意味,非常に私法上の私人間の関係のことについて行政庁がコミットするという,その役割をここで担わせるということになるのかなと思いまして。   もちろん,私人間の行為について,効力要件として行政庁が認可するというのは幾らでもありまして,それは私人間の事柄に直接関与していなくても最終的に効力を補完するという形の認可というものですが,今回考えられているものが何なのか,そうでもなくて確認というか認定,公益法人の場合,2階建てなのですが,そもそも公益信託の方もいろいろあるようで,信託,目的信託とか議論があるようですが,いずれにせよその辺りが余りクリアでないと思っております。また,この辺りもお考えいただければと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○沖野幹事 4についてなのですけれども,あるいは山田委員がおっしゃったことと関連するのかもしれないのですが,私は乙案の考え方というのは,行政庁の点を除けば現行法でも可能なのではないかとは考えておりまして,その一つは,信託目的の達成あるいは不達成の場合に目的を変更して続けていくということが,それほど異例であって,規定がないとできないことなのかという点ですけれども,実際にというか,確かに論理的には,目的達成・不達成という事実が生じますと終了事由になってしまう,信託が終了して清算に入ってしまうわけですけれども,どうもそのような事情が生じているのではないか,しかし,変更すれば続けていけるし,変更すること自体は問題がないとか,関係当事者は全員合意しているということであれば,変更して続けていくということは,今の信託法の下でできることではないかと。確かに論理的にはどう説明するかという問題はあるのですが。   もう一つは,信託財産破産の場合に,破産法244条の13で,債権者の同意による破産手続廃止の申立てというのがありますけれども,一旦,破産手続開始で終了事由が生じて,破産による清算に入るのですけれども,同意による廃止で手続をやめてしまうと。このときには信託を継続させなければならないので,確か変更の手続をとらなければいけないというのが立案担当者解説だったと思います。   そうすると,終了事由が生じていて,既に破産手続による清算に入っていても,一定の場合に目的というか,それを一旦変更をして清算をやめるということは一応,もちろん規定があるからということはありますけれども,それほどおかしなことではないのではないのかなというところもあります。  とはいえ,それが本当に解釈で十分できるかということが不透明な部分もないわけではないので,そうだとすると,乙案のような考え方を明示するということに意味があるのではないかと。なるべく続けていった方がいいということなら,こういう可能性はあるのではないかと思っております。   その際に,更に二つなのですが,一つは,もしできたら山田委員にお伺いしたいところなのですけれども,信託の変更というときに,私はちょっと乙案を見たときには,これは例えば,その前に出てきておりました許可を得て継続させるというのは,受託者を主体に継続させ,しかしそれについては許可が必要だというような構成もできるかと思ったのですけれども,そうではなくて端的に信託の変更とするとなると,それは信託関係者全員でというような,受託者だけではできないということでよろしいかというのが一つです。山田委員のお考えによると乙案のどこを変えることになるのかということです。   もう一つは,それとは関係ないところなのですけれども,信託を継続させるというのは,当該受託者が自ら受託者としてこの信託を,しかし類似の目的のために継続させていくということだと思うのですけれども,先ほどの帰属権利者との関係のところで,帰属権利者の指定というものが幅広に指定されるというか,ほとんど3の(2)の甲案であれば,甲案に掲げられているようなものがほとんどカバーされるような指定であるならば余りその必要はないのですけれども,吉谷委員からは,もっと特定のどこどこと指定しますということであり,そうだとすると,その類似の目的のためには幾らでもほかに渡すところがあるのに,でも,特定された先に入っていないために,あとはこの規律に行かざるを得ないとか,あるいは清算受託者というところに行かざるを得ないという,その間を埋めるためにこういった,自分が継続していくということだけではなくて,指定された帰属権利者が拒否をしたような場合に,しかし,より適切なところを考え付くところがあるのであれば,その一つが地方公共団体かもしれませんけれども,そういったところに許可を得て渡すことができるというような規律も別途考えられるのではなかろうかと思われます。あるいはこれまで議論があったのかもしれませんけれども,この4の乙案にどうこうということではなくて,乙案とともに,そのような帰属先についての受託者の申立てによる帰属先ということも考えられてよいのではないかと思ったものですから,あるいは少し御議論なり御検討なり頂ければと思います。 ○中田部会長 今の御発言は,10ページの下の方に部会資料37の第2の2というのがございまして,その段階での甲案があるわけですけれども,これに近いようなことを更に検討すべきだということになりますでしょうか。 ○沖野幹事 37の部会資料の甲案は,飽くまで公益信託を継続させるということですので,受託者の下で信託を継続させていくという選択肢だと理解していたのですけれども,それに対してどこかに与えてしまう,渡してしまうというところの範囲がその帰属権利者を指定して非常に狭いような場合に幅を考えていたのですけれども,ちょっと誤解しておりますでしょうか。 ○中田部会長 いえ,37の第2の2は,帰属権利者の全員が放棄した場合について,継続させることができるということですよね。 ○沖野幹事 そうですね。その意味では場面は共通している,方法は違うけれどもということです。すみません,失礼しました。 ○中田部会長 ありがとうございました。   山田委員に対する御質問がありましたが。 ○山田委員 発言を補足する機会を与えていただきまして,ありがとうございます。   私はこの「受託者の申立てにより」というところは,このまま残すべきではないと思っております。   ただ,具体的にどう作ればいいかというのは,149条とそれから261条ですか,受益者の定めのない信託について読み替えている規定を詳細に検討しないとなかなか出てこないのですが,方向だけを申し上げますと,信託管理人が必置としますと,受託者と信託管理人の合意というのでしょうか,それは必要だろうと思います。それに加えて,委託者をどうするかということが問題となるのですが,これは大きな問題の一つに含まれるかなと思います。すなわち公益信託について委託者の関与というのを設立した後,どこまで認めるかということに関わります。   私自身は,そこは,委託者は公益信託にやはり一番関心を持っているものですから,口を出させていいだろうということを一般的には思っておりますので,したがって委託者も入れて考えるのが今の私の意見ではありますが,そこだけ委託者を必ず残すべきだというのではありませんで,公益信託である以上,委託者の関与は遮断していくべきだとなるならば,ここでも委託者は落ちるだろうと思います。それが149条の1項をベースにしたところであり,2項,3項と少しずつ細かな規定がありますので,それに合わせたものも可能な範囲で,複雑にならない範囲でフォローしていくのが望ましいだろうと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○山本委員 これは確認なのですが,山田委員が先ほどから主張されているように,当事者が変更するのであって,行政庁はそれを認定というのか分かりませんけれども,判断するというような仕組みでよいとすることは賛成なのですが,その際に行政庁が,元の乙案もそうなのですけれども,何を基準に判断するのかという問題があると思います。   この乙案の書かれているところからすると,その信託の本旨に従い類似の目的であるか否かを判断するということなのでしょうか。それ以上の何か判断が更に付け加わって行われるのかどうかという点についてはいかがなのでしょうか。   例えば,目的は類似しているかもしれないけれども,既に当初から目的の達成あるいは不達成まで一定期間が経過していて,その間の活動状況等から見て,これは無理であるというような評価,ないしは更に一定の手直しをしないとできないというような評価まで含めてここで行えるのかどうか。これは,道垣内委員が最初に述べられた考え方からしますと,飽くまでも当初の信託行為の趣旨から決まるというのであれば,そのような評価は直ちに出てこないのではないかと思います。この辺りが,道垣内委員のおっしゃる甲案と,現在の乙案ないしは山田委員の修正を加えた乙案との差なのかもしれないと思ったのですけれども,そうでないのかどうかということを確認させていただければと思います。 ○中辻幹事 公益信託法第9条は,旧信託法73条からの継続の条文であり,主務官庁制を前提としています。そこでは,条文どおり公益信託の継続が信託の本旨に従うものかどうかが第一の考慮要素となるものの,主務官庁の監督権限は広いので,それ以外の点についても幅広に考慮しつつ公益信託の継続の当否を判断するという解釈があり得たのだろうと思います。   さはさりながら,新たな公益信託において主務官庁制を廃止し,それに代わる行政庁の権限を従来の主務官庁の権限よりも縮小することを指向するならば,最後は解釈になるのでしょうが,行政庁は信託の本旨のみに沿って継続の当否を判断するべきことになるのではないかと考えます。 ○山本委員 ということは,道垣内委員がおっしゃった留保付きの甲案と,ここで述べられている乙案は,本質的には変わらないという理解でよろしいのでしょうか。 ○中辻幹事 道垣内委員がそうお考えになるかというのは別として,私の方は同じようなことになるのかなとは思います。 ○山本委員 ありがとうございました。 ○中辻幹事 すみません。せっかくの機会ですので,樋口委員に一つ御質問させていただきますでしょうか。   英米法のシプレ原則では,類似目的の判断は裁判所が行うものとされています。今回の部会資料の提案では,現行の公益信託法9条が類似目的の判断は主務官庁が行うものとしていることからそれを尊重して行政庁を主体としているのですが,樋口委員の御意見としては,行政庁なのか裁判所なのか,どちらになるのか御教示いただければと思います。 ○樋口委員 本当は確固たる意見がないので,どちらでもいいというのは無責任かな,やはり。   前にも申し上げましたけれども,こうやって公益の認定庁を作ったときに,裁判所とどういう役割分担をする仕組みがいいのかというのはやはり難問で,だから,英米流でいえば,裁判所がこういうシープレであれ何であれ作り上げてきた法理なので裁判所へ行けば何か答えてくれるということなのですね。しかも裁判所はエクィティーの裁判所なので,裁量権があって,これとこれしか判断しないなんていうことはないのですね。   ただ,一般的に言えば,これは本当に類似の目的で,公益のためにきちんとやろうとしているかというのを判断して,どうぞと言ってお墨付きを与えるということだと思うのですが,そういう役割を行政庁が担ってくれるなら,それはそれでと取りあえずは考えておりますけれども。 ○中辻幹事 ありがとうございました。 ○中田部会長 大体よろしいでしょうか。   乙案を支持される方が多くいらっしゃいましたが,その乙案を前提としても,委託者が明示的に排除した場合には,それを尊重するという御意見を何人かの方から頂きました。そうすると,思想的には道垣内委員の御指摘になられた意思解釈の問題とつながってくるところがあるのではないかということだろうと思います。   その上で,更に信託管理人にも申立権を与えるべきか,行政庁がどのように関与すべきか,行政庁なのか裁判所なのかというような問題点の指摘を頂き,更に乙案とは別に,むしろ信託目的の変更によって対処し得るのではないか,その場合には,終了についてどのように考えるのかということと関係してくるだろうという御指摘を頂いたかと存じます。今日頂いたような御意見を基にしまして,更に検討を進めたいと存じます。   大変申し訳ないのですけれども,時間が来てしまいましたので,「5 公益信託の変更命令」,そして「第2 公益信託と私益信託等の相互転換」については,次回に持ち越しということにさせていただきたいと存じます。   それでは,事務当局の方から,次回の議事日程等について御説明をお願いいたします。 ○中辻幹事 次回は,5月9日(火曜日)の午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省で開催します。具体的な部屋については,後日皆様に改めて御連絡いたします。   今回の部会資料40について積み残しの論点が残りましたので,次回は,部会資料40の残りの部分を御審議いただくことになります。   なお,現時点で,7月まで部会開催の予定日を皆様に確保していただいております。その中で,この場に御参集の委員幹事以外の民法及び信託法の研究者や,また,小幡委員から御指摘ありましたけれども,行政庁が公益信託の認定を行うのか認可を行うのかなどの論点について行政法の研究者を参考人として招致し,それらの参考人のお話を踏まえて今後の御審議を行っていただくことが有益ではないかと考えております。   参考人の具体的な人選は中田部会長に御一任いただければ有り難く存じますけれども,参考人の招致について,この部会で了解を頂けるようでしたら,今後,事務局の方でヒアリングの実施に向けた調整に入ります。   その際は,従前の審議日程を生かす方向で努力しますが,参考人の御都合が付かなかったような場合には日程の変更を御願いする可能性もありますので御海容いただければ幸いです。 ○中田部会長 ただ今のお話は,取りあえずは既にお示しいただいている日程の確保は引き続きしていただくということで,ただ,ひょっとしたら変更があるかもしれないということでございます。   事務当局から参考人ヒアリングの実施を含む今後の日程についての提案がありました。もちろんこの部会には民法,信託法,行政法の専門家が大勢いらっしゃるわけでございますけれども,第二読会の終わる段階で,部会の外からの御意見も伺ってみて,今後の審議の参考にするという御趣旨だと思います。   ということで,事務当局の御提案のように進めるということでよろしいでしょうか。   それでは,そのように進めることにいたします。   そのほか御意見などございますでしょうか。   ございませんようでしたら,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-

法制審議会信託法部会第37回会議 議事録



法制審議会信託法部会
第37回会議 議事録







第1 日 時  平成29年1月17日(火)   自 午後1時29分
                        至 午後5時33分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  公益信託法の見直しに関する論点の検討

第4 議 事 (次のとおり)

議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第37回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,神田委員,岡田幹事,沖野幹事,渕幹事が御欠席です。
  最初に,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いいたします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。前回,部回資料36「公益信託法の見直しに関する論点の検討(5)」を配布しております。また,部会資料37「公益信託法の見直しに関する論点の検討(6)」を事前に送付させていただきました。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたら,お申し付けください。
  さて,再開後第1回となりました昨年6月の部会でも御説明しましたが,皆様のおかげをもちまして,いわゆる一読,第1読会は当初の予定どおり,おおむね本日で終えることができそうですので,来月からは第2読会に入っていくことになります。そして,二読の後,まだ確たる時期をお示しすることはできませんが,公益信託法改正の中間試案を作成し,その案をパブリックコメントにかけていくことを予定しております。取りあえずはこれまでの月1回火曜の午後に開催というペースを維持しまして,今年4月から7月までの日程を確保させていただきました。これら以降の日程につきましては,もう少し先に調整させていただきます。皆様には御多忙のところ,誠に恐縮ですが,どうぞよろしくお願いいたします。
○中田部会長 本日は,前回,積み残しになりました部会資料36の残りの部分を御審議いただいた後,部会資料37について御審議いただく予定です。具体的には,まず部会資料36の「第4 公益信託における情報公開」を御審議いただきました後,部会資料37のうち,「第1 公益信託の終了事由等」と「第2 公益信託の終了時の処理」あるいは「第3 公益信託の変更,併合及び分割」まで御審議いただいて,区切りのよいところで適宜,休憩を入れることを予定しています。その後,部会資料37の残り部分を御審議いただきたいと思っております。
  それでは,審議に入ります。まず,部会資料36の「第4 公益信託における情報公開」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○立川関係官 部会資料36の「第4 公益信託における情報公開」について御説明します。本文では,「公益信託における情報公開の内容は,公益財団法人と同等のものとする(信託と法人の相違により導入できないものを除く。)ことでどうか。」との提案をしています。公益法人制度において,情報公開の規定が整備されている趣旨は公益信託にも当てはまることなどから,法人と信託の制度間の相違により導入できないものは除くとしても,基本的には公益信託における情報公開は,公益財団法人と同等のものとするのが相当であると考えられるため,このような提案をしています。
  なお,第4の論点の検討に当たりましては,公益信託及び公益財団法人における情報公開に関する規律を比較しました別表4,新たな公益信託における情報公開の内容を検討した結果を整理した別表5を参照していただければと存じます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言をお願いします。
○川島委員 事務局から提案されております,公益信託における情報公開の内容は公益財団法人と同等のものとするということについては異存ありません。その上で2点,確認のために質問をさせていただきます。
  まず,1点目は信託行為の扱いについてです。27ページ目の2番目の第2段落のところの1行目に,「公益法人における定款は,公益信託における信託行為に相当する」と記述があります。また,研究会報告書でも定款を信託行為に関する書類と読み替えるといった記述もございました。その上で別表5を見ますと,信託設定時の信託行為の内容を示す書類について,また,信託運営時の信託行為の欄について,受託者における公表義務又は行政庁等における公表義務のところが×印になっておりまして,見る前は○か△かなと思っておりました。この点について,このような扱いで提案されたという理由についてもう少し詳しく御説明いただけたらと思います。
  次に,2点目でございます。研究会報告書の中で情報公開の方法に関して,インターネットを利用した情報公開を許容すべきとの意見もあったとの記載がございました。この点については,この審議会の中でどのような取扱いをされるのか,この点についても事務局の考えをお聞きしたいと思います。
○中田部会長 以上の2点について御説明をお願いいたします。
○中辻幹事 第1点目,信託行為について受託者の公表義務又は行政庁等の公表義務が×印となっているのは,公益法人の定款が公表されていることと均衡を欠くのではないか,という問題意識からの御質問と理解しました。まず,現在の仕組みを御説明しますと,公益信託法第4条は「公益信託ノ受託者ハ毎年一回一定ノ時期ニ於テ信託事務及財産ノ状況ヲ公告スルコトヲ要ス」と規定し,受託者に信託事務の処理とその結果としての財産状況について公告する義務を負わせていますが,その直接の対象に信託行為は含まれておりません。そして,受託者が主務官庁に対し公益信託の許可を申請する際にも,信託行為の内容を示す書類の提出義務はありますが,それを公表する義務は課されておりません。その理由として,定款と違い,信託行為には契約当事者間のプライベートな内容が条項として定められる可能性がある一方で,公益信託への社会の信頼を高めるという観点からは公益信託の事務処理や信託財産の状況が公開されることで足りるという考え方に基づくものであり,今後,これらについての情報公開がより積極的にされていくのが望ましいとしても,信託行為については一般に公開しないとする取扱いを維持する方が合理的ではないかと事務局としては考えております。ただし,全面的に信託行為の公表を×とするのでなく,例えばその一部や信託行為の内容によっては公開すべきものもあり得るのではないかという御指摘と受け止めましたので,もう少し検討を深めてまいりたいと思います。
  もう1点,インターネットの活用についての御質問がございました。事務局としても,現在の情報化社会を前提とすれば,インターネットによる公益信託の情報公開は,当然あってしかるべきであると捉えておりますし,本部会の御審議の対象となるものと考えております。
○川島委員 ありがとうございました。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○道垣内委員 同じ点について理論的な観点から,一言,お話をしたいのですけれども,法人において定款が定められ,その定款が公表されるということは,民法34条との関係で,法人というのは定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するという形になっていることと関係しており,その範囲でしか法人というのは存在していないという形になっているからこそ,明確な定款を定め,公開しなければならないわけです。
  それに対して信託においては,別に権利能力が信託行為によって制約されるというわけではありません。受託者の権限が制約されるということはありますが,権利能力が限定されるわけではなく,定款と信託行為というのは理論的にはかなり性格が違うものであることを指摘しておきたいと思います。更に言えば,信託行為というのは場合によっては書面として信託行為というふうな形として作られたもの以外というものも含めて解釈されます。法律行為に対応する概念ですから,法律行為の解釈方法として,契約書面だけで解釈されるわけではない,ということと同じです。したがって,定款とはかなり性格が違うのであって,×になっているというふうな理論的な正当化もあり得るということです。まあ,その背後には,後になって○にするといったら私は反対するということも意味しているわけですが,一言,申し上げておきたいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小幡委員 基本的には情報公開というのは大変重要なことですので,開いていくという,こういう方針でよろしいと思うのですが,今の信託行為もそうですが,27ページの最後に,公益法人では認定行政庁等に対する提出書類の作成等の事務が負担となっているとの指摘があることにも留意する必要があると書いてありまして,それが結果,別表5にどうつながるのかと思ってみてみましたら,基本的には提出義務のところは随分,○,というような扱いですかね。
  これは結局,自ら作成して保存義務があるので,そのまま提出義務を負ってもよいという話かと思いますのが,そうすると留意する必要があるというのがどういう留意になるのかという質問です。そのような指摘があるというのは確かなのですが,それは,公益法人の中にもなかなか事務処理のための事務体制が十分できていないところもあって,そういう法人は確かに年度ごとの提出を求められると大変だという,そういうことはあるのですが,この中には,一回出せば提出義務は終わっているというタイプもたくさんありますよね。すみません,留意するというのがどういう趣旨かなということをお伺いしたいと思います。
○中辻幹事 留意するという趣旨ですけれども,別表5に書いたものは,現在の公益信託の中で保存義務なり,行政庁への提出義務があるものですので,これを新たな公益信託でも保存義務や提出義務があることにしても問題はないと考えています。ただし,公益信託の情報公開を,信託と法人の異同に留意せず,形式的に公益法人の情報公開と横並びにしようとすると,別表5では挙げられていない公益信託に関する書類の保存,提出義務がプラスアルファで相当数出てきます。そうすると,公益信託の受託者にとって過剰な負担を強いる可能性もあることから,現在の公益法人に保存,提出義務が課されている書類について,特段の吟味なく公益信託の受託者に保存,提出義務を課すことは適切でないという趣旨でございます。
○小幡委員 ここの部分は今でも作成保存しているものなので,それをただ提出すればよいから問題ないという,そういう趣旨ですか。
○中辻幹事 そのとおりです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 法務省案に基本的に賛成します。公益信託の透明性を確保して,税制優遇措置を得られるということを視野に入れるため,公益法人制度におけると同等程度の情報公開を行うという,そういう基本的な考え方に賛成します。制度の違いからくる修正を加えつつ,行っていくということに賛成します。
○吉谷委員 法務省案におおむね賛成でありますが,その具体的な運用については少し意見を申し上げておきたいと思います。別表5にあります受託者による公表欄でございますけれども,これについては○が付いているものとすることでよろしいのではないかなと考えておるところです。それで公益法人との平仄がとれていないというわけでもないと思いますし,軽量軽装備の公益信託が公益法人よりも重い情報公開をする必要はないと考えております。また,公益法人と公益信託では元々の財産の拠出の在り方はかなり違っていると考えております。
  公益信託は委託者が信託した財産を元にして,以降,運営するということであるかと思いますけれども,公益法人は寄附というものが重視されていると思います。現在の公益信託でも寄附を受けることを前提に運営しているものというのはごく少なくなっております。ですので,情報を広く公開するという意味については,公益法人ほどは高くないと考えております。ですので,寄附を受けたいという公益信託は,自主的により広く公開していけばいいのではないかと考えております。
  あと,公表の方法でございますけれども,別表5の(注)のところに幾つか出ているわけですけれども,現実には○の項目を開示するのに,官報とか日刊新聞というのは費用負担が重いと考えます。ですので,ホームページによる公表か,公益信託の事務を行う事業所での備置のどちらかを公益信託の事情により,選択できるようにすればよいと思われます。行政庁による開示は,寄附による支援を受けるという観点であると仮にするならば,余り意味はないのではないかなとは考えます。積極的に宣伝したければ,ホームページというのを選択するのではないかなと考えているところです。
○中田部会長 ありがとうございました。今の吉谷委員の御意見は,別表5の受託者における公表については,ここに○印が付されているものだけでいいではないか,それから,行政庁等における公表についても○印だけでよいと,こういう御趣旨でございましょうか。
○吉谷委員 ○が付いているところに特に反対するという意図はないのですけれども,行政庁による公表というのがなぜ必要なのかというところの趣旨は,明らかにされた方がいいのかなとは思います。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 受託者にしろ,信託管理人にしろ,個人が就任することも恐らく十分あり得ると思いますので,場合によっては個人情報的なものをどこまで開示するかというのも,どう在るべきかまで意見は持ちあわせてはいませんが,検討していただいた方がよろしいかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。別表5の中に履歴書という言葉が出てきまして,その中に,氏名,住所,略歴などがあるけれども,それについて今おっしゃった観点から検討すべきだということでございましょうか。ありがとうございました。
  ほかに別表5の△のところについて御意見を頂ければと思いますが,特にございませんでしょうか。それでは,基本的な方針としては原案でよいということで,その上で若干の点について御指摘を頂きましたので,それらについて更に検討の上,進めたいと思います。
  次に,部会資料37の「第1 公益信託の終了事由等」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,部会資料37「第1 公益信託の終了事由等」のうち,「1 信託法第163条各号の終了事由」について御説明いたします。本文では,「信託法第163条各号の終了事由は,原則として,公益信託の終了事由となるものとすることでどうか。」という提案をしております。受益者の定めのある信託の終了事由について定めた信託法第163条の規定は,公益信託についても原則として適用されると考えられております。補足説明に記載のとおり,適用が問題となり得る終了事由もありますけれども,新たな公益信託においても信託法第163条各号の終了事由は,原則として公益信託の終了事由となるものとすることが相当であると考えられ,このような提案をしております。
  続いて,第1の「2 公益信託の存続期間」について御説明いたします。本文では,「公益信託の存続期間については,期間制限を設けないものとする(公益信託法第2条第2項の規律を維持する)ことでどうか。」という提案をしております。公益信託法第2条第2項は,公益信託の存続期間については,目的信託の存続期間は20年を超えることができないと定めた信託法第259条の規定を適用しない旨規定しておりますけれども,新たな公益信託においても目的信託に関して存続期間を20年間に制限する信託法第259条の趣旨は,公益信託には妥当しないと考えられることから,このような提案をしております。
  第1の「3 公益信託の認定の取消しによる終了」について御説明いたします。本文では,公益信託の認定を取り消された信託について,甲案として「当該信託は終了するものとする。」,乙案として「当該信託が目的信託の要件を満たすときは,目的信託として存続し,目的信託の要件を満たさないときは,当該信託自体が終了するものとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託と公益信託以外の目的信託の関係について,両者が横並びの並列的な関係にあると整理した場合,一旦成立した公益信託がその後に認定を取り消された場合には,それを公益信託以外の目的信託として存続させる必要はないと考えられ,法律関係の簡明化という観点からも当該信託は終了させるべきであるとの考え方があり得ることから,これを甲案として提案しております。
  これに対し,公益信託は公益信託以外の目的信託と縦並びの2階建ての構造にあると整理すると,一旦成立した公益信託がその後に認定を取り消された場合には,当該信託が公益信託以外の目的信託の要件を満たすときは,公益信託以外の目的信託として存続するものとし,公益信託以外の目的信託の要件を満たさないときに,当該信託は終了させるべきであるとの考え方があり得ることから,これを乙案として提案しております。
  第1の「4 委託者,受託者又は信託管理人の合意等による終了の可否」について御説明いたします。本文では,「公益信託の委託者,受託者又は信託管理人その他の第三者による合意又は単独の意思表示によって公益信託を終了することはできないものとすることでどうか。」という提案をしております。公益に寄与するために存在する公益信託が,委託者及び受託者等の合意等により,いつでも終了させることになることは相当ではなく,公益信託の運営の継続性,安定性及び確実性を確保することなどから,このような提案をしております。
  第1の「5 信託管理人が就任しない状態の継続による終了」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人が欠けた場合であって,信託管理人が就任しない状態が1年間継続したときは,当該信託は終了するものとすることでどうか。」という提案をしております。新たな公益信託制度においては,信託管理人を必置とし,その権限行使を通じて,受託者の信託事務遂行の適正を図ることが望ましいと考えられます。そのような信託管理人の役割の重要性からすれば,信託管理人が欠けた状態が1年間継続した場合を当該信託の終了事由とした信託法第258条第8項の趣旨は,全ての公益信託に妥当するものと考えられることから,このような提案をしております。
  第1の「6 公益信託の終了命令」について御説明いたします。(1)の本文では,公益信託における信託法第165条第1項の権限,すなわち,公益信託の信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当となるに至ったことが明らかであるときに信託の終了を命ずる権限は,甲案として「公益信託の認定・監督を行う行政庁等が有するものとする。」,乙案として「裁判所が有するものとする。」という提案をしております。
  公益信託法第8条本文は,公益信託における信託法第165条第1項の権限が主務官庁に属するものとしております。新たな公益信託においても,特別の事情により公益信託を終了することが信託の目的等に照らして相当であるか否かは,公益信託の認定及び監督を行う行政庁等の判断に委ねるべきであるとの考え方があり得ることから,これを甲案として提示しております。これに対し,特別の事情により公益信託を終了することが信託の目的に照らして相当であるか否かは,裁判所にも判断することが可能であるとして,信託法第165条と同様に,終了命令の判断主体としては,裁判所が適当であるという考え方もあり得ることから,これを乙案として提示しております。
  次に,(2)の本文では,上記(1)の公益信託の終了命令の申立てを行う者は,甲案として「受託者又は信託管理人とする。」,乙案として「委託者,受託者又は信託管理人とする。」という提案をしております。
  委託者については,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだけ排除することが望ましいとの観点から,委託者を終了命令の申立権者とすべきではないと考えられることから,これを甲案として提案しております。これに対し,委託者も信託財産を拠出したものとして,その信託の行く末に大きな関心を持っている場合が多いことなどから,委託者についても信託の終了命令の申立権者とすべきであるとの考え方もあり得,これを乙案として提案しております。なお,いずれの案もデフォルトルールとして御提案させていただいているところでございまして,信託行為による委託者の権限の増減は認められることを想定しております。
  以上の点について御審議いただければと存じます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。1から6までございますので,便宜,半分ずつに区切って御審議いただこうと思います。まず,1から3までについて御発言をお願いいたします。
○小野委員 まず,1について,信託法163条8号,破産法53条1項の適用関係ですけれども,せっかく公益信託ということで信託を設定したにもかかわらず,僅かな委託者の義務を見付けて双方未履行双務契約ということで解約されその有効性が争われる等,紛争状態になることは望ましくないと思います。とはいっても,それは解釈論であるという議論かと思うんですけれども,補足説明の中で委託者の義務として残っているものは,引渡し未了の財産という記述がありますが,そのほかに委託者が受託者の報酬や費用を払うとか,そういうこともあり得るかと思います。そういう場合に解釈論とは言いながらも,公益信託自体が破産法53条1項の適用があるというのは望ましくはないのではないかと思っております。
  あまりあり得ないのではないかというのが全体的な記述なものですから,必ずしもそうではないし,恐らく管財人になった方は財団を少しでも増殖させようとして,僅かな義務を見いだすという行為が行われると思うので,それについては十分,留意をしていただきたいと考えております。
○中田部会長 そうしますと,小野委員は。
○小野委員 本日の後の方の論点として取り上げられているように,公益信託と法律上名乗ることを要請され,公益のために行うわけですから,それが私益信託と同様に安易に信託法163条8号,破産法53条1項の適用があると論じることには疑問を感じます。では,どうすればいいかについて明確な考え方は現在持ち合わせていませんけれども,全体的に記述がそんなに心配は要らないのではないかというふうな感じで書かれているのがちょっと心配に感じての発言でございます。適用があるべきではないという方向で議論していただければと考えております。
○能見委員 今の破産法の関係ですが,結論としてはわざわざ条文を変えたりしないで,解釈論でいいのだと思いますけれども,そもそもどの程度信託法163条8号で信託が終了することがあるのか,実は疑問があります。余りここで一般論をしてもしようがないのかもしれませんが,信託の場合に委託者の義務と双務的な対価的な関係にあるのは何かというのが余りはっきりしません。私の理解では委託者の最初の信託財産の拠出にしても,追加信託で財産を拠出する義務にしても,これに対する対価的関係にある受託者の義務というのは,公益信託の場合にはないのではないかという感じがするのです。
  受託者が信託目的に従って信託財産を管理しなければならない義務というのは,むしろ,信託報酬と対価的な関係になっているのであって,信託財産の拠出と対価的な関係になっているわけではないと思います。ただ,私益信託の場合には受益者がいますので,対価的な関係を認めるとすれば,受託者が受益者に給付する義務と,委託者の給付義務が対価的な関係になっているのだと思います。これに対して,公益信託の場合には受益者がいないので,どこに対価的な関係が生じるのか,明らかでありません。報酬と受託者の信託事務遂行義務とは対価的な関係になりますけれども,それ以外は基本的には対価的・双務的な関係は本当は生じないと思うので,公益信託の場合には,この条文は削除してもいいかとは思うのですが,余りはっきりしないところもありますので,8号も残した上で解釈論で対応するというので,結論としてはいいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 全体としては信託法163条各号の終了事由を公益信託の終了事由とするという,この提案に賛成です。その上で2号について少し意見があります。というのは,2ページの説明を読みますと,「したがって」というところから始まるパラグラフです。新たな公益信託についても163条第2号の適用はされないものと解釈すべきであると述べた上で,ただ,目的信託に163条2号が適用されないことは解釈に委ねられているにもかかわらず,公益信託にのみ同号を適用除外とする規律を設けることは,目的信託の場合との均衡を欠き,妥当ではないと考えられるという説明があるのですが,ここの説明は工夫を要するのではないでしょうか。
  どういうことかというと,ここで挙がっている例は,例えば受託者が受益権者を1年間,選定しなかったという例が挙がっています。しかし,もっと端的に受託者は受給権者を選定したけれども,本来,受益権者に給付すべき金銭なり,奨学金なりを受託者が手元に留保して,それが1年以上続いたということも考えられるわけです。そうすると,これは直接的に受益権を受託者が留保していたということで,極めて利益状況が類似するということがあるので,この説明は少し工夫を要するかなという気がします。
○中田部会長 ほかに。
○道垣内委員 同じく信託法163条第2号についてなんですが,これは立法の技術との関係がすごく密接なところがあって,仮に公益信託というのを単行法にするとしても,信託法163条を準用するという形になるのならば,あえて2号を抜いて解釈論としてあり得ないわけではない考え方を潰すという必要はないだろうと思います。しかしながら,仮に公益信託法というのを新たに書き起こす,基本的に全部,書き起こすという立法態度をとった場合には,2号と同様の規定を入れると,それは,公益信託においても受益権というものの存在を前提にしているということにならざるを得ないと思います。そのような見解があるということも重々,承知しているわけですけれども,私は必ずしもそれには賛成でありません。そうしますと,準用するということに対しては,何ら私に異存はないのですけれども,書き起こすのならば2号を入れるということには反対です。
○中田部会長 ただいま立法のスタイルについて出ましたけれども,まだ,確定はしていないと思いますが,もし今の段階で何かございましたら。
○中辻幹事 事務局としては,今のところ,新たな公益信託についても信託法の規定が原則として準用されると,そして,そのことを踏まえた上で,新たな公益信託について信託法の規定と異なる特則を設ける場合には,公益信託法の中に何らかの規定を設けるという立法のスタイルを想定しております。道垣内委員の御懸念はよく分かりましたので,注意して今後の作業を進めてまいりたいと思います。
○中田部会長 今,準用とおっしゃいましたけれども,適用ではなくて準用ですか。
○中辻幹事 適用の可能性は十分あると思います。わざわざ準用と言いますと,準用規定を公益信託法の中に設けなくてはいけないので,公益信託法の中には準用規定を設けずに,信託法の規定をそのまま新たな公益信託に適用するという考え方は十分あり得ると思いますし,むしろ事務局としては準用よりは適用の方向で考えております。失礼しました。
○道垣内委員 私が準用と申しましたのも,深い意味があって申したわけではございませんので,確認までに一言,申します。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 終了事由につきましては提案に賛成でございます。1点だけ先ほどの小野委員の御発言で気になったところが,委託者が報酬を支払うところなんですけれども,委託者が報酬を支払うということを公益信託で認めると,どうしても委託者の影響力が受託者に対して強く働くので,そういうものを認めてしまっていいのかなというところの疑問を少し感じました。ですので,それを前提として議論をされるのがいいのかどうかというところについて疑問を呈させていただきます。
○平川委員 第1の1の終了事由につきまして,私どもは第2号については解釈論で適用されないのだからというのではなく,適用除外とはっきりとその部分を明確に規定するべきだと考えます。法務省補足説明の2の(1)では,信託法163条第2号は新たな公益信託についても適用されないと解釈すべきだが,これを明文化する必要はないとの理由付けとして,目的信託に信託法第163条2号が適用されないことは解釈に委ねられているにもかかわらず,公益信託にのみ同号を適用除外とする規律を設けるということは,目的信託との場合との均衡を欠き,妥当ではないという理由なんですけれども,しかし,現在まで実例のない目的信託と,既に多くの活用例があり,かつ,改正後更に普及が期待される公益信託を同列に置き,解釈論で補うという考え方には違和感がございます。多くの国民が関係し得る公益信託について誤解が生じないよう解釈ではなく,明確に規定すべきであると考えます。
  また,信託法163条9号に信託行為において定めた事由が生じたときという終了事由がございますが,果たして公益信託の終了原因として,そのまま適切なのかどうか,当事者が定めれば何でもありなのか,一定の縛りが必要なのではないかという議論が,考察が必要なのではないか,法務省のお考えや,また,法制審各委員の御意見も伺いたいところです。
  これで1と2と3を一緒に言ってしまっていいんですか。
○中田部会長 結構です。
○平川委員 1の2につきまして,公益信託の存続期間ですけれども,期間制限を設けないものとするという御提案に賛成します。英米においても公益信託は,ルールアゲインストパーペチュティの適用除外とされていると理解しております。
  1の3の公益信託の認定の取消しによる終了ですけれども,甲案に賛成します。すなわち,信託は終了するものとすると。公益信託を設定する前に目的信託を前置するということに対しては,信託関係が複雑化することから反対の立場をとっておるところですが,公益信託と目的信託は並列的関係に立つと整理することから,公益信託が終了した場合には目的信託として残存することはあり得ないという立場をとるものです。また,公益法人制度におきまして,一般法人と公益法人の2階建てとしたことから,各種の法律関係において複雑化,煩雑化を招いておりまして,安易に同様の制度とするべきではないと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 2と3のそれぞれについて一言ずつ。
  2につきましては期間制限を設けないものとするということ,それ自体は当然のことかと思うんですけれども,後の相互転換の議論との関連で,そっちの議論を今,するわけではないんですが,目的信託への転換を認めるという前提に立った場合には,そのときから20年というようなデフォルトルールとでもいうのでしょうか,公益信託契約中に明文に書かれなくても,デフォルトルールとして,そう理解していいのかというところが,相互転換のところの議論かもしれませんけれども,関連するのではないかと思います。
  3についてなんですけれども,当事者が争った場合,行政処分なものですから,処分が取消されるまで,執行停止にならない限りは,有効な処分として存続するので,そうすると,当事者が争っているのに甲案で終了する,また,乙案でも目的信託に移行してしまうということであるとすると,割り切れないところがございます。当事者が争って最終的に裁判で勝つかもしれません。そのときにも公益信託は終了してしまっているということになるのか,その辺をどう考えるのか,教えていただきたいと思います。
  それと,乙案の場合,乙案がふさわしいと私は思うんですけれども,これまでの審議でも目的信託というものを二つか,三つか,分かりませんけれども,少なくとも異なる幾つかの分類があり得るのではないかと議論されたと思います。例えば,公益信託の要件は満たしているけれども,認定はとらないような公益目的信託また特定の高校の学生や卒業生に対する奨学金の公益性に関する議論が以前ありましたけれども,公益性について見解が分かれるということもあるかと思います。その他,準公益的信託,準公益的目的信託とか,そういうのもあるかと思います。ですから,既存の目的信託というと,特に要件のところで純資産が5,000万円を超える法人の要件とかの問題がありますけれども,そういう違う形の目的信託として残るという選択肢もあり得るのではないかと思います。もちろん,そうではなくて単純に目的信託として残るといってもいいんですけれども,その場合,要件のところで残ることが難しくなる可能性もあるのではないかと思います。
○能見委員 3についてだけ取りあえず発言したいと思います。今の小野委員とほぼ同じことになるのだろうと思いますけれども,これまでの議論において,目的信託の形をとりつつ,実際上,公益的な活動をすることは認められると,それから,認定を受けようと思えば公益信託になり得るけれども,認定を受けないで目的信託のまま,公益活動をするというのも認められるという前提で考えてきたのではないかと思います。そうすると,目的信託と公益信託というのが並列なのか,直列で2階建てなのかというのは,そう簡単には言えないことで,むしろ,目的信託の方が非常に広い範囲で存在しうるものであって,その一部については公益信託とは大分違うのでそれと並列的な関係になるのかもしれませんが,公益的な活動をするような目的信託については,両者は2階建ての関係になると見ることもできます。要するに,並列か,そうでないかというのは比喩的な表現なので,余りそれによって結論が決まるというような形で議論はすべきではないのではないかと思います。
  実質的に考えた場合に,先ほどの繰り返しですけれども,目的信託でもって公益活動ができるのであれば,公益信託の認定が取り消されて,いろいろな理由で取り消されることがあるとしても,一番厳しい場合としては公益性が結局認められないという理由で取り消される場合も含めてですが,その場合でも,もともと目的信託のままでも公益的な活動はできるわけですから,公益信託が取り消された場合も,目的信託として存続させることは十分考えられる。そういう意味では,ここでは甲案ではなくて乙案の方がよろしいのではないかと思います。
○深山委員 まず,1の終了事由については既にいろいろ御意見がありますが,結論としては2号を除いて各号を終了事由にするということに賛成したいと思います。9号について平川委員から問題提起がございました。信託行為に定める終了事由というものを残すかどうかで,結論は今,申し上げたように残していいと私は思います。ここは公益信託という制度の基本的な考え方に結び付く問題だと思うんですが,私は委託者を中心とした当該公益信託を創設しようとする信託当事者の意思というものをそれなりに尊重すべきだろうと思います。
  これはいろいろな場面で出てくるわけですけれども,その一つの場面として,終了事由を法定の事由以外に当該公益信託にとって必要な事由として当事者が定めたのであれば,それはそれで基本的には尊重してしかるべきだろうと思います。もちろん,公益信託にふさわしくないような終了事由を仮に定めていたということになれば,認定のところでチェックがかかって,そういう終了事由を含む公益信託であれば,認定しないというような判断もあり得るとは思いますが,基本は自由な意思で自由な設計を許すということからスタートすべきだという意味で,そこはそのままでいいだろうと思います。
  2のところは,期間については特段の意見はありません。提案どおりでいいと思います。
  3については,既に出た能見委員等の意見と共通しますが,いろいろな自由な設計といいますか,バリエーションを増やす,メニューを増やすという観点からは,常に終了しかないというよりは乙案を検討してもいいのかなとは思います。ただ,これも当事者の意思が公益信託が取り消されたら,それ以上,やる気がないというのであれば,その意思は尊重すべきですし,逆に公益認定が取り消されても目的信託として公益的なことをしたいという意思があり,なおかつ,法定の要件を満たすのであれば,残り得るというような道を残す意味で,乙案というのも検討してもいいのではないかと考えます。
○林幹事 まず,1については基本的には法務省の御提案に賛成ですが,1点,確認です。信託法166条については当然,終了事由になるという理解なのですが,問題意識としては,公益認定の取消しと近いというか,場合によっては重なるとも考えられるからですが,今の御提案のままだとこのまま166条も残るというのでよいでしょうか。公益信託法8条の関係では,現行法でも裁判所の権限によるものなので,そういうものとして今後も残るという前提において議論されているのだと思いましたが,その点,確認させてください。
  それから,2については特に私も賛成です。
  3についてですが,先生方と重なる部分もあるのですが,確かに甲案でもよいという考えもあるだろうとは思うのですが,バリエーションを広くするために,今の時点では乙案に賛成しますし,まだ,乙案も残して検討していくべきと思っています。ただ,ここで問題は,目的信託の要件を満たせば存続するというのはそのとおりですが,現行法の目的信託では,受託者には信託法附則3項の問題があってハードルが高いことから,目的信託の要件を満たさない場合には,事実上,存続が難しいことになると思いますから,乙案の立場に立って,目的信託の要件等について,なお,改めて検討すべきと考えます。
○中田部会長 今,166条とおっしゃいましたのは,公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判についてでございますか。
○林幹事 そうです。
○中辻幹事 信託法166条については,新たな公益信託についてもそのまま適用され,裁判所が公益の確保のために公益信託の終了を命ずる裁判を行うことはできる,すなわち,現在の公益信託法8条により裁判所の権限とされている公益確保のための終了命令の権限が新たな公益信託においても裁判所の権限とされることを事務局としては前提としております。
  もう1点,目的信託の要件のお話が何度か出ておりました。信託法附則3項の存在により,政令で定める法人以外の者を受託者とすることはできないとされ,政令で純資産額を5,000万を超えるなどの要件を見たしていなければ,流動化スキームの構築などを目的とする目的信託の受託者になることはできないとされているわけですが,附則3項には「受益者の定めのない信託(学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的とするものを除く。)」と書かれていますので,附則3項の対象からは,公益を目的とする信託はすべて除外されているということになります。そうしますと,仮に公益信託法2条1項を廃止し,公益を目的とする目的信託,あるいは公益を目的とする受益者の定めのある信託を有効とする場合でも,それらに5,000万円の受託者要件が適用されることにはなりません。それとは別に,公益を目的とするが公益信託としての認定を受けていない目的信託や私益信託に何らかの受託者要件が必要か否か,仮に必要であるとするならばどのような要件を設けるべきかという整理で,現在事務局としては検討を進めているということを付け加えさせていただきます。
○山田委員 意見としては,これまで出ているものに対して新味はないのですが,申し上げておきたいと思いましたので発言させていただきます。3について,公益信託の認定の取消しによる終了でございます。これは私は乙案を強く支持したいと思います。信託という法律関係が維持されると,すなわち,委託者から受託者に対して財産が移転し,受託者の下で信託目的に従って財産の管理・処分が行われることになります。そして,受託者の下では受託者の倒産から隔離されていることになります。そういう法律関係,これが信託の私は基本だろうと思うのですが,これは公益信託の認定が取り消されても維持されるのが原則であるべきだろうと思います。ただ,例外として信託行為の中に,信託行為が取り消された場合には信託を終了するというような旨が定められているようなことがありましたら,それは尊重してもよいのではないかなと思うのですが,そこは十分に詰めて考えておりませんので,原則として申し上げた通り,乙案を是非,実現していただきたいと思います。
  そして,6でございますが,公益信託の終了命令であります。
○中田部会長 すみません,6は後ほど。
○山田委員 そうですか。これはまだ入っていませんか。
○中田部会長 1から3まで。
○山田委員 失礼しました。では,3についてのみの発言とさせていただきます。
○新井委員 3について私は甲案を支持したいと思います。現行法では,公益信託は目的信託の一類型とされています。つまり,公益信託と目的信託というのは連続性があるという,そういう立て付けになっているわけです。しかし,私の意見では公益信託と目的信託というのは連続性はないと考えています。公益信託というのは委託者が自らの財産を公益のために出えんするというのであるのに対して,目的信託の場合の現行法の規定では,委託者が非常に強大な権限を持っているわけです。ですから,それを公益信託との連続性で捉えるということは,私は賛成できません。ですから,私は甲案を強く支持したいと思います。
○中田部会長 1から3についてほかに。
○吉谷委員 まず,2ですけれども,公益信託の存続期間については期間制限を設けないという提案に賛成いたします。現在でも期間制限というのは設けられておりませんで,ほぼ期限のない公益信託ばかりであると考えていただいてよろしいのではないかと思われますので,それを維持するべきであると考えます。期限を設けてはいけないのかというと,期限を設けるというニーズもあるかもしれないと思っておりまして,例えば東京オリンピックのために信託を設定すると,オリンピックが終わって1年後には終了するというような定め方もあっていいのではないかと思われます。そうしますと,信託法163条9号についてはなければ困るということにはなると思います。ただ,何でも定めていいかというと,それはまた違う問題なんだろうなと思いますし,それは認定の判断のところでなされればいいのではないかと考えます。
  次に,3番でございますけれども,公益認定の取消しの場合には甲案の信託は終了するを支持いたします。大きく二つ理由があります。一つは公益信託の財産というのは,公益のために用いられるべきものであるということ,そして,もう1点は税制との関係です。公益信託の委託者は,公益目的のために利用されることを前提に金銭を出捐するわけであります。この委託者の意思は尊重されるべきであって,一旦,公益のために出えんされた金銭が公益目的以外のために利用されることは,制度設計としては問題があると考えます。しかし,公益信託が目的信託に変わるということを許してしまうと,公益信託の規律はその後はもはや適用されないわけでありまして,行政庁の監督の対象外でもありますし,信託目的を公益以外のものに変更することも可能となると思います。そのため,公益認定を取り消された公益信託を目的信託として存続することは適切でないと考えます。
  新しい公益信託は,信託財産が委託者の支配から切り離されて,委託者など公益とは無関係の主体を帰属権利者とはできないということを前提にすると考えておりますけれども,そのような前提で会計や税務上も委託者から切り離されるというものであると考えております。公益信託から目的信託への転換を認めるのであれば,公益目的で拠出された財産というのは目的信託に帰属しないような仕組みが必要になると思います。公益法人でも同じような仕組みがあると思います。しかし,公益信託では公益目的以外の目的で財産を拠出するということは余り前提とされていないと思います。すると,目的信託に帰属する財産も存在しないということになりますので,このようなニーズはそもそもないのではないかと思います。
  税制との関係でいいますと,公益信託から目的信託への転換を認めると,公益信託財産が私益のために利用される道も開かれる,ということになりますと,税の優遇であるとか,公益認定と税の認定の一体化という観点でも,実現できるかということに懸念を持っております。新しい公益信託では,信託財産の公益信託事務の範囲の拡大など,従来の公益信託になかった要素が様々取り入れられているところですので,これに加えて私益の利用の道を残すということになりますと,税制優遇が措置されるハードルが更に高くなるのではないかと懸念しているというところです。
  1点,質問がございます。取消事由として公益法人の場合ですと,認定法29条1項4号ので取消しの申請というのがあると思うんです。それと同様に,信託においても受託者又は信託管理人から,公益認定の取消しの申請の取消しがあったということを取消事由とすることがあるのでしょうか,というのが疑問です。仮に乙案を採るのならば,受託者や信託管理人が目的信託への転換をしたいがために,認定取消しを申請するというようなことも出てきかねないと思っておりまして,そういうことは適切ではないと考えます。もし,また甲案であれば後で出てきます終了命令との関係というのが問題になって,制度としては一体的にした方がいいのではないかなと考えて質問させていただきます。
○中辻幹事 先ほど山田委員が終了命令についても御発言されようとしたこととも関連すると思うのですが,公益信託の認定の取消しによる公益信託の終了の論点は,信託法165条の公益信託の終了命令の論点と関連するので,その関係を整理しておく必要がございます。
  一つの考え方は,信託法165条の受託者等からの申立てを受けて裁判所が行う特別の事情による信託の終了命令の裁判の規定は,公益信託にも適用されるとするものです。特に,新たな公益信託において信託法165条の申立先を認定行政庁等とする場合には,公益法人認定法には信託法165条のような規定がないことから,公益法人認定法29条1項4号は,公益法人から認定取消しの申請があったことを公益認定の取消事由としているが,公益信託の受託者は信託法165条による公益信託の終了ができることになるので,公益信託の受託者から認定取消しの申請があったことを公益信託の取消事由とする必要はないという整理があり得ると思います。
  それとは別に,公益信託の受託者が特別の事情により信託を終了する必要がある場合に信託法165条による公益信託の終了ルートが存在するとしても,受託者からの申立てを受けた認定行政庁等による認定取消しのルートは別途併存させておいて差し支えないという整理も,特に第1の3の論点で乙案を採るのであれば,あり得ると思います。ただし,その場合にも,認定行政庁等による認定取消事由をどのように定めるのかが問題となり,信託法165条が信託設定時に予見することのできなかった特別の事情を要求して終了事由を限定しているのと同様に,認定行政庁等による認定取消事由を限定するならば,例えば受託者が公益信託を目的信託に変えたいという理由のみで認定取消しの申請をしてもそれだけは公益信託の認定取消しは認められないことになると考えます。
○中田部会長 1から3については。
○山本委員 今の3の点についてなのですが,先ほどの議論の中でも少し顔を出していたことですけれども,甲案,乙案のそれぞれについて,これが強行的なルールとして提案されているのか,任意法規的なルールとして提案されているのかという問題があるように思います。新井委員や吉谷委員の甲案の御主張は,これを強行的なルールとして想定すべきであるというものだったと思いますが,甲案であっても,論理的には少なくとも任意法規的なルールとして提案するという可能性もあり,そうなりますと,乙案との違いは相対的なものになる可能性もありそうです。この辺りは部会資料には明示されていなかったと思うのですが,そのような問題があることがわかってきたように思うのですけれども,この点はいかがなのでしょうか。
○中辻幹事 事務局としてこの部会資料を作っている段階では,任意規定というよりは強行規定と考えて作っておりました。ただ,いろいろ御指摘いただきましたので,それを踏まえてまた考えていこうと思います。
○長谷川幹事 3につきまして,後ほどご議論が予定されている終了時の処理のところにも関わるかと思いますけれども,私も税の観点から,仮に乙案としたときに現行の税制上の優遇が受け入れられにくくなるということであるとすると,慎重に考えた方がよいのではないかと考えている次第でございます。
○道垣内委員 吉谷委員がおっしゃったことはほぼ理解できたのですが,1点だけ分からなかったのでお伺いします。つまり,公益信託において公益目的に給付することが求められているところ,目的信託に拠出することはできないはずであるということをおっしゃいましたか。
○吉谷委員 私の理解では,公益法人から一般法人になるときには,公益目的で出えんされていた財産について一般法人にある程度は入れないという仕組みがあると理解しておりまして,もし,それが間違っていれば教えていただきたいんですけれども,公益信託の場合ですと,元々,委託者が信託する財産というのは全て公益目的で使うということが前提になっていると思いましたので,それを目的信託にするということは,目的信託にいく財産と国や地方体などに帰属させてしまう財産とより分けるんだろうなと考えました。それが税の考え方とも整合するのだろうというふうな理解だったんですが。
○道垣内委員 税との関係ということについては,吉谷委員のおっしゃることはよく分かるのですけれども,一般法人と公益法人の場合はともかく,例えばある信託銀行が公益信託の受託者となっているというときに,その信託自体が目的信託に変容するということになる際,そこにおいて財産の移転があるとは思えないものですから,おっしゃっていることの趣旨がよく分かりませんでした。公益法人法制と平仄を合わせ,そこにおける公益認定の仕組みないしは考え方というのを参考にして考えると,そうなるということであるならば話は分かります。ただ,拠出というか,移転がないというのが多分,乙案の前提でしょうから,余りそこを重んずる必要はないのではないかという気が致しました。
○中田部会長 1から3については。
○平川委員 公益法人の場合は,公益認定を取り消された場合には一般法人になりますけれども,その場合には1か月以内に公益目的残余財産を他の同類の公益法人や地方公共団体に寄附しなければならないという縛りがあるので,多分,こういう公益信託の認定が取り消されて目的信託になるという法制になった場合には,同じような縛りが入ってきて,公益信託で使っていた財産は,公益目的に全部,拠出してなくしてしまわなければならないというような規制になるのだろうと想定され,そうなると複雑・煩雑化して,公益信託にすることがディスカレッジされていくようなことにならないか,というのが懸念されると思います。
○道垣内委員 今の議論のよく分からないんですが,今,平川委員がおっしゃったように,公益信託のために拠出された財産を全部,ほかの公益信託に移すと財産がなくなりますから,目的信託に変わるわけがないですよね,財産がないのですから。ですから,乙案を採るということの前提として,残余財産を他の公益信託等に移さなければならないとはしないということになっているわけですので,どうも議論がその点はかみ合っていないような気がするんですが。
○平川委員 微々たるものが残っている……。
○道垣内委員 それは公益目的の財産のはずですから,微々たるものが残っても駄目だと思います。
○中田部会長 まだ,続くと思うんですけれども,そろそろ,次のところにも進みたいと思います。
○吉谷委員 私が最初に公益目的で委託者が出した財産は,公益目的に使われるべきだと。なので,目的信託になった後に目的がどんどん変容してしまう可能性があるので,それは目的信託に変わるべきではないと申し上げました。今の道垣内委員の御指摘のところを受けると,仮に目的信託になるんだとしたら,その後,縛りの強い目的信託というのと現行の目的信託というのと2種類を作らないと,元々の委託者の公益目的をずっと維持するということが難しくなるのではないかなとも思っていまして,どんどん,仕組みを複雑化していくのではないかということを懸念するところだったんです。
○中田部会長 御議論があると思うんですけれども,後ほど転換のところで,また,この論点が出てくると思います。それから,先ほど山田委員が言及しようとされました6の終了命令とも関係してくるところでございますので,先に進ませていただきたいと思います。
  今,1から3までについては,1については2号と8号と9号について御意見を頂きまして,それを踏まえて更に検討ということになろうかと思います。2についてはこれでよいという御意見であり,転換との関係についての御指摘がありましたけれども,基本はこれでよいということと承りました。3については両論があるということで,更に御検討いただくということになろうかと思います。
  それでは,4から6について御意見をお願いいたします。
○深山委員 取りあえず4についてまず意見を申し上げたいと思います。提案では,信託関係者等の合意による終了を一切できないという割り切り方を提案しておりますが,先ほどの私の発言とも関連するんですが,多くの場合,信託契約で信託が作られるときに,契約当事者全員が何らかの理由でやめようというときにやめられないというのは,契約としてはかなりイレギュラーな話だろうと思います。
  そういう意味で,一切,その道を封ずるというのは少し行き過ぎで,委託者,受託者,信託管理人ぐらいでいいと思うんですけれども,委託者が存在する場合には,その三者の合意で終了を認め,ただ,この考え方の背景として恣意的な終了というものは好ましくないという価値判断があると思うので,それにプラスして,三者の合意による終了を行政庁等になるのかなとは思いますが,認可等のお墨付きを与えるということを要件に加えて終了を認めるという,そのような道を認めるべきではないかと考えます。その意味で,提案そのものには反対して,行政庁等の関与を含めて認めるような方向を検討すべきではないかと考えます。
○小野委員 結論においては深山委員と同じなんですけれども,理由付けのところを,1,2点,追加いたしますと,これまでは給付型でしたけれども,今後は事業型の公益信託を期待しているわけですが,そうすると,事業の成り行きというものがあると思うので,今までとは状況が違うのではないかと思います。したがって当事者の意思ではそもそも終了できないということは問題があるように思います。それから,もう1点は公益法人制度との比較なんですけれども,公益法人制度の場合でも終了することは大変かもしれませんけれども,それでも財団を終了することは可能なので,そういう観点からも一定の枠組みとか制約は必要だと思いますけれども,終了できないというような規律を設けることには反対です。
○吉谷委員 4番につきましては,合意では終了することができないという提案に賛成いたします。信託が終了してしまいますと,公益目的で財産を使うという当初の公益目的に使われることは期待できないわけでありますので,信託目的のために利用できる間は,当事者によって公益信託は継続されるべきであって,当事者の合意で終了されるべきではないと思います。目的達成あるいは不達成で終了ということがあるわけですけれども,恐らく当事者間で目的が不達成になったということに自信がないとかいうときには,合意で終了ということにしようかということが考えられるわけですけれども,自信がないのであれば行政庁によってチェックしていただくというのがよろしいのではないかと思います。
○平川委員 4につきましては,合意によって終了することができないという提案に賛成します。英米においても公益信託の信託契約は,取消不能であるということが公益性を担保するものとして,その要件となっているものと理解しておりますし,ただ,先ほどの信託法163条の終了事由の9号で,信託行為において定めた事由が生じたときとありますが,例えばここで期間を定めるとか,そういうことは可能なのではないかと思いますけれども,任意に合意で解除できるということには反対します。
  5につきましては,信託管理人が就任しない状態が継続することによる終了ですが,終了事由ではなく,認定取消事由とすべきであると考えます。ただし,不在期間は1年以上と限定せず,行政庁の判断に委ねられてよいと考えます。その理由は,公益信託においては信託管理人を必置機関と考えますし,その存在及び資格要件は公益信託認定基準の一つであり,信託管理人の不存在は重要な基準違反であると考えます。したがって,不在期間の長短にかかわらず,その不在は取消原因となる状況にあると考えるものですが,やむを得ない事情により一時的に不在となったけれども,早期に回復が可能な場合も想定されますので,それらの状況を行政庁が判断し,公益認定取消しをするということが妥当と思われます。
  なお,新たな公益信託では公益法人同様,行政庁へ各種報告の提出義務が課せられるということになると思いますので,行政庁は信託管理人の不存在についても知り得る立場にあります。また,公益法人制度においては監事の不存在は一般法人法違反として,行政庁にある公益認定の任意的取消事由となっていることに鑑みますと,公益信託の場合に直ちに絶対的な終了事由とすることは,信託関係人に混乱と過大な負担を与えると思われます。また,前任の信託管理人の恣意的な辞任等により,公益信託の終了を招くおそれもあると思います。
  6につきましては,甲案に賛成します。その理由は,公益信託の認定及び監督を行う行政庁等が事情を一番よく知っていると思われることから,行政庁が公益信託の終了命令を発するのが妥当であると考えます。行政庁等は認定要件につき,監督する立場にありますので,かかる行政権に基づいて信託終了を命ずる権限を有することは,適切な行政手続の分配にかなっていると考えます。
○中田部会長 6の(2)についても御意見を。
○平川委員 6の(2)は甲案に賛成します。その理由は,委託者は財産の拠出設定等後は公益信託に対し,影響を持つべきではないと考えますので乙案には反対します。
○中田部会長 ほかに。
○能見委員 4と6について意見を述べたいと思いますが,4は悩ましいところで,私もこれがベストだという意見は必ずしもないのですけれども,少なくとも結論としては委託者と受託者と,そしてプラス,信託管理人の3人の合意があれば,終了させることができるというのならいいのかなと感じています。その理由としては,一つは委託者と受託者が合意するという部分は,両者は信託行為の当事者であり,事前に信託行為のところでいろいろな終了事由が書ける立場にある。もちろん,公益信託の場合にはどんな終了事由でもいいというわけではありませんけれども,しかし,一般的には終了事由を信託行為で書こうと思えばできる立場にある,そういう者の合意がそこにある。ただ,公益信託として許容されるような状況下での終了であることが必要なので,両者の合意だけで簡単に事後的に終了させるというのは軽すぎるかもしれないので,信託管理人も加えて3者が合意するのであれば,終了させることを認めるというところでどうかと思います。
  4の問題は6とも関係するのですが,6の手続,これは予見できなかった特別な事情などが必要ですけれども,恐らく三者が信託を終了させたいと考えるのは,いろいろな特別な事情がある場合で,信託法165条でいけなくはないかもしれないが,その要件を満たしているかはっきりしない。そのようなときに,言ってみれば信託法165条の代替的な機能を4のところで認めるということがあるのではないかと思います。
  6に関しては,165条の終了命令ですけれども,これが公益信託についてはどういう場合に問題になるのか,ということがあります。公益性がなくなるというのはここの問題ではなく,ここでは公益目的自体は別に問題はない,当該信託が遂行している事務が公益性を有しなくなったということではなくて,むしろ,公益目的ないし公益性自体はきちんとある,だけれども,その公益目的を遂行する上で,どうも今の状態で信託を続行するのはまずい。こういう場合に,165条の終了命令がなされるのではないかと思います。
  適切な例かどうかわかりませんが,例えば公益目的は遂行しているが,非常にコストが掛かって信託財産がどんどんなくなってしまう。これは財産の効率的な利用という観点からは無駄が多くてよくないというような,そんな場合なのではないかと思うのです。公益性がなくなった場合と違って当然に終了させなければならないわけではない。そこで,このような状況のもとでは,終了させたいと考える関係者と,終了させたくないと考える関係者がそこで対立する可能性がある。一つのパターンとしては,受託者あるいは信託管理人の方はどうもこのままでは効率的ではないので終了させたいと考える。だけれども,委託者は公益信託を設定して,その目的を飽くまで追求してもらいたいと考えている。ここではある種,争訟的というと正確ではないかもしれませんが,やはり争いがある。そういう構造の中で165条というのが使われるのではないかと思います。
  そうなると,誰が終了を命ずるかというところの問題ですけれども,行政庁ではなくて裁判所の方が望ましいという感じが致します。現在の165条でも即時抗告ができるようになっていると思いますが,一旦,なされた裁判所の判断に対して委託者であるとか,受託者のことも書いてありますけれども,これらの者が争うことができる。そういう形で争いがそこで生じることがいろいろ考えられますので,そういう意味で,ここで終了命令を出すのは裁判所の方が望ましいと思います。
○中田部会長 申立権者についても御意見はおありでしょうか。終了命令について申立権者について。
○能見委員 申立権者は一応論理的に必ずこうでなければいけないということはありませんけれども,委託者も含めて申立権者は三者ができるということでいいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○林幹事 4につきましては,小野委員,深山委員と同じです。4の基本的な枠組みは部会資料をざっと一読したときには賛成だと思ったのですが,継続が難しく終了させるべき場合にどうするのか考えたときに,信託法165条で対応できるのか,あるいは目的不達成で対応できるのかというと,明確ではない場合もあるのではと考えます。その事由を柔軟に解釈すればいいとの考え方もあるかもしれませんが,逆に柔軟に解釈することがよくなかろうということもあります。そういう意味においては,行政庁なりの関与もあった上で,何らか委託者,受託者,信託管理人なりの合意による終了というものが,例外的なものとしてあってもよいと思いました。
  次,5につきましては,弁護士会の議論の中では賛成という意見も多かったのですが,大阪弁護士会では(注)の意見に賛成でした。というのは,1年継続したときについては,1年について固定的に考えるべきではないというものです。事案によっては1年未満でも終了させた方がよいものもあれば,新たな信託管理人を選任しようとして,きちんと候補者はいるけれども,1年では間に合わず,もう少し時間が掛かるというような場合にまで強制的に終了させるのはどうかというような意見もあり,1年間というのに固定的にすべきではないという意味において,(注)のように取消事由のような形で行政庁に柔軟に判断してもらえばいいのではないのかという意見でした。
  6の終了命令につきましては,これも両方の考え方があるところかと思いますけれども,そういう特別の事情は裁判所の判断になじむのではないかというのが,弁護士会の大方の意見でした。
  それから,(2)申立権者につきましては従前と同様ですが,弁護士会の意見としては,委託者にも一定の関与の余地を残すべきであり,それは,委託者が関心を持っているからというところで,乙案の方が多かったです。それで1点,確認させていただきたいのですが,これについてはデフォルトルールということも補足説明に記載があったのですが,委託者についてのみデフォルトルールであって,受託者,信託管理人については奪うことのできない申立権だと,そう理解していますので,その点確認させてください。
○中田部会長 今の最後の点はいかがですか。
○中辻幹事 林幹事の御理解のとおりです。
○中田部会長 ほかに。
○棚橋幹事 6の(1)についての意見と質問です。まず,質問は先ほど能見委員の御意見の中にもありましたけれども,そもそも,御提案されている信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当となるに至ったことが明らかであるときという要件は,公益信託においては,どういった場合が想定されているのかということを質問したいと思います。信託法261条1項で想定されている場合と内容ですとか,判断する観点といったところに違いがあるのかを教えていただきたいと思います。
  先ほど能見委員の意見の中では,公益目的に反しているのかどうかということは,ここでは関係ないのではないかというような御趣旨の御指摘があったかと思いますけれども,裁判所としては,前回と同様に,何が公益なのかというような判断が必要ということであれば,難しいだろうと考えておるところでして,そうであれば行政庁の方が望ましいと考えているための御質問ということになります。
  また,先ほども少し出てきたところですけれども,取消事由や,認定基準との関係についても疑問に思っているところがあります。提案されているのがどういった場面かということにも関わってくるのですけれども,例えば特別の事情によって事業の継続,目的の達成ができないというようなことになった場合には,正に認定基準の裏返しの判断が必要になってくるところかとは思いますし,認定法上の取消事由の一部として定められているものに当たり得るような場面のようにも思えました。また,信託財産の状況に照らして終了が相当という場面も,認定法上の取消事由として捉えることもできるようにも思いましたので,認定法との重複があったり,認定取消しと重複するということであれば,特別の事情による場合を裁判所が行うよりは,認定基準について判断を行い,認定取消しについて判断を行う行政庁等が行う方が適切なのではないかと考えております。
○中辻幹事 棚橋幹事の御質問についてお答えします。信託法165条に挙げられた信託の終了命令についての考慮要素について,受益者の定めのない信託に関する信託法261条の読替え表を使うと,信託法165条の「受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるとき」は,「相当となるに至ったことが明らかであるとき」と読み替えられます。ただし,信託法165条の「信託の目的」という判断要素は,信託法261条の読替えの対象ではありませんので,仮に公益信託の終了命令の要否を裁判所で審理される場合には,当該公益信託で定められている目的がどのようなものであるかも踏まえて御判断されることになるのだろうと考えております。
○中田部会長 棚橋幹事,よろしいでしょうか。
○棚橋幹事 そうしますと,判断の内容ですとか,判断する観点というものは,基本的には信託法で定められている現行の終了命令と同じということになるのか,公益信託については違う部分があるのかについては,違いはないという理解でよろしいのでしょうか。
○中辻幹事 受益者の利益を考えるか,考えないかというところに違いはありますが,その他の部分については違いはないという理解です。
○深山委員 今の6の終了命令の点ですが,結論としては乙案がよろしいと思います。先ほど発言しました4のところで,合意による終了を認めるかどうかという点は,この提案では否定的ですし,認めてもいいのではないかという私の意見が残るかどうか定かではありませんが,仮に残るとすれば,関係者全員が終了すべきと考える何らかの事情が発生して,みんなでやめましょうという場合もあるのでしょうが,先ほど能見委員も例を出されましたけれども,やめましょうという人と続けましょうという意見が分かれるということも,当然,あると思います。あるいは4の論点は論点なので外して,終了事由一般としても,目的を達成したから終わるべきだ,まだ,達成していないではないかと,そういったところで関係者の意見が分かれるとか,あるいは目的達成不能かどうかで意見が分かれるとか,いろいろな場面があって,関係者間で続けるべきか,続けるべきではないのかということが問題になったときに,そこで判断を下すのは裁判所がふさわしいだろうと思います。
  ここでは,そもそもの公益性があるかないかというのは,既に立ち上がりのところで判断がされていて,恐らくいろいろなケースがあるとは思いますが,終了させるのが公益にかなうのか,続けるのが公益にかなうのか,そういう観点でいろいろな事実認定等が問題になると思います。そこを判断するのが裁判所の役割だろうと思います。
  (2)の申立権者については,関係者がそれぞれ発議できるといいますか,申立てができるのが望ましいという観点から,乙案を支持したいと思います。
○樋口委員 2点だけ,これまでの議論で感じたことがありましたので申し上げます。
  一つは,6の行政庁がいいのか,裁判所がいいのかというので,裁判所を代表する方もそれなりの発言をされているんですが,私が英米の信託の考えに,結局,染まっているからだと思うんですけれども,例えば行政庁が終了命令を出すというのはよほどのことです。このときに受託者は,公益信託の受託者であれ,私益信託の受託者であれ,何であれだと思いますけれども,とにかく公益信託の話ですけれども,受託者はどういう立場にあるかというと,必ずそれに反抗しなければなりません。受託者は信託を守る義務があるからです。つまり,公益信託として終了させてくれるなという形で必ずあらがうことになります。
  だから,一種,行政裁判になるんです。行政手続と実体的判断を争うことになると思いますけれども,最後まで頑張るような話になって,最後はそうすると裁判所のところへ行って判断せざるを得なくなるので,裁判所が公益判断はできませんといって最後まで逃げ回るということはできないのではないかと思うのです。つまり,議論のあり方として,裁判所の関与を妨げることが,日本ではできるのかなと錯覚しそうな感じになるんですが,錯覚ですよね。そうであるとしたら,もしかしたら手続的にはこういう終了というのは本当に異常な事態なので,そんなにたくさんあるわけがないときに,ぽんと行政庁は行政庁の言い分で裁判所の前で弁ずればいいわけです。これはおかしいんだ,終了すべきだと,この公益信託なるものが何らかの理由でだと思いますけれども,そういう話にした方が一回で済むというのか,そういう感じがするんです。それは私の誤解かもしれないので,しかし,誤解であれ,何であれ,申し上げたくなったので申し上げます。
  二つ目は,全体としての話なんですけれども,今日はとにかく情報公開はいい話だと思うんですが,終了させる話から始まっていて,そのときに私のイメージかもしれないんだけれども,公益信託に対するイメージが違うような感じがするんです,人によってだと思うんですけれども,でも,共通しているのは公益信託という形で何らかの公益活動を広くやってもらいたいというのはきっと一緒だと思うんですが,その次が違っていて,そういう公益活動に携わろうとする人たちがグループとして存在する,受託者になる人と委託者になる人と信託管理人になる人がいて,その人たちが公益のために頑張っているんだなというイメージです。だから,それはこっち側とは遠くの,つまり,そこである種の合意がなされていて一生懸命やってくれよという話になる。そういう話だとすると,場合によってはその人たちがいろいろ頑張ったんだけれども,嫌になった。では,みんなでやめようじゃないかということもあり得ます。ここまで頑張ったからよしとしようという話だっていいわけです,そういう話になれば。そうすると,信託法163条の先ほど平川委員もおっしゃっていたように,信託行為において定めた事由が生じたときというので,信託行為において定めておけば,当事者がですよ,それでやめていいんだという話になりかねないんです。
  もう一つの別のイメージがあります。その公益信託のイメージは,そういう人たちが始めたんだけれども,始まったからには一種,公益的な何か特別な存在になっていて,そう簡単にはやめられない,つまり,もっと公的なものであるということです。受託者も公的サービスに使えるような一種,公務と言ってはいけないのかもしれませんが,そういうようなものになっているのだとしたら,終了事由についてはそう簡単には終了しないで頑張ってくれという話になります。例えば信託管理人が就任しない状態ができたからやめてしまおうとか,それから,信託法自体にも書いてあるわけだからしようがないんですけれども,受託者が欠けた場合であって新受託者が就任しない状態が1年間継続したときにはやめていいというのはおかしいことになります。信託法の定めの対象は私益信託ですけれども,これを公益信託にも適用だか準用だか何だかするという話なので,公益信託もそれでやろうということなんですが,英米の信託では受託者が欠けたからやめるという話はまずない。
  信託管理人というのは必置のものではないと思いますけれども,そういうものは何とか裁判所のところで手続で見付けるという。そうすると,広いそれぞれの国で,国柄だと思いますけれども,誰かは見付かる。だって,公益団体だっていろいろあるわけですし,ノンプロフィットコーポレーションであれ,弁護士であれ,誰かはやろうではないかという話に普通はなる。しかし,こうやって諦めがいいということを見ると,先ほどの二つのイメージの中の公益信託も,公益で頑張っているんだけれども,それは結局,私人の発意,私人の発意は大事なんですけれども,そういうものでいいんだと,その人たちが嫌になれば,それでおしまいという,そういう感じなのか。私が言うようにもう少し公的な,税制的なものとも結び付いているのだったら,そんな無責任な話はできないという話に,私としては後の方に近い方が制度設計としてはいいのではないかなと考えております。
○中田部会長 ありがとうございました。
○山田委員 6について申し上げます。6の(1)でございます。意見は乙案が私はよいと思います。使う理屈は代わり映えがしないのでございますが,信託という枠組みを終了させるかどうかという観点から考えると裁判所が望ましいだろうと考えます。認定基準の観点から公益信託として一定の税制の優遇を与えるという観点は,認定,そして,監督する行政庁等が行えばよいわけですが,それは先ほどの3に戻りますけれども,公益信託の認定の取消しについては,事後的な認定基準に不充足が生じたような場合には,それで対応すればよく,それに対して,信託という枠組みを外部から終了させてしまうという,そういう場合には裁判所を使って公益信託でない,そして,目的信託を含むのかもしれませんが,目的信託にとどまらない様々な信託と同じ扱いで裁判所が行うと,終了命令を出すという考え方がよいだろうと思います。
○中田部会長 ほかに。
○新井委員 5番についてですが,樋口委員の発言を私なりに少し補足させていただきたいと思います。5に書いてあるこういう考え方に私は基本的に賛成です。ただし,立法論として考えたときに,信託管理人の給源をどうするかというのは非常に大きな課題だと思うのです。今度は給付型,助成型だけではなくて,事業型の公益信託も考えていくということがあります。そして,信託管理人というのはほとんど無報酬であるというときに,たくさんの有能な信託管理人をどう確保していくかということが課題で,信託管理人が存在しなければ,公益信託は成り立たないということがあるわけです。ですから,一方ではこういう考え方を採用して,信託管理人が欠けた場合は終了あるいは認定取消しでもいいのですけれども,こうした上で,他方では信託管理人を確保するという,そういう観点もあっていいのではないか。
  そのためにはどうするかというと,例えば行政庁が信託管理人を任命するようなシステムもあっていいのではないか。英米法では確かに信託は受託者が欠けても失効しないという考え方があるわけです。長期的な財産管理制度ですので,そうしないといけない。しかも公益信託ですから,公益目的を維持するということに鑑みて,5の規定は存置するとしても,立法論的に公益信託の普及のために信託管理人をきちんと確保するような,そういう仕組みもあってもいいのではないかということを提言したいと思います。
  4については原案賛成,6については(1)(2)とも甲案に賛成です。
○道垣内委員 まだ自分の申し上げたい内容がまだまとまっていない状態で発言し始めることを自分自身危惧しておりますが,能見委員,深山委員がおっしゃったことが気になっております。6に関して,予見できなかった特別の事情による場合だけが6の(1)になるわけですよね。しかし,より問題なのは先ほど深山委員とかが例に出されたように,財産が減るなどして効率的な公益を果たすということができなくなった場合に,ごく僅かな財産の管理のために大変な手間を掛けて信託事務を執行し,ほとんどが信託報酬で消えてしまうといった状況で信託を継続するのが適切なのかが問題になるけれども,それは普通の物価の変動,株価の変動等の結果だと考えるならば,6の(1)に当たるというのは,かなり言いにくいので終了できないという点にあるのではないかと思うのです。
  その場合には信託法163条1号の信託目的を達成することができなくなったときというのに当たるとして,信託の終了ということにするのでしょうけれども,これは結構,受託者にとっては危ない話です。実は,信託法本体のほうにも存在する問題なのですが,受託者が信託が終了したと思って信託終了の手続をとっていたけれども,後発的に目的達成不能にはなっていないと判断されますと,その行為の正当性が問われることになるわけで,結構,危ない橋を渡るということになります。私個人としては,善良な管理者の注意に基づいて,163条1号に該当すると判断したのならば,受託者はそれで責任は問われないと考えるべきだと思いますけれども,結構,危なくて,どうしてもティミッドになりがちなことになろうと思います。おそらくは,法164条1項によって合意による終了というのが委託者と受益者でございますけれども,多くの場合には合意による終了とかが認められるだろうと,そうなるだろうということによっているのではないかなという気がします。
  さて,以上のような認識を前提にして,4に関連して,私もこれで終了させるというのはどうかなという感じがしますが,そうしたとき,信託財産が少なくなったときにどうするのだろうかと,どういうふうにして受託者は,安心して信託を終了させることができるのだろうかというのが大変気になるところです。一つの方法としては,6のところを終了命令にしなくて,終了自体を裁判所に申し立てることができるという制度設計にするというのがあり得ると思いますし,5は残して,誰から見ても目的達成不能の状態のときには,合意で終了するというのがもう一つの道かなと思います。そして,後者の方が現実的なのかなという気がします。
  いろいろ申しまして話がまとまらないのですが,つまり4についてはそれだけを独立して考えることは多分できなくて,みんなが終了させるのがこれは普通だよねと,経済的に見て普通だよねと考えているときに,どういうふうにすれば,安心して終了に持ち込むことができるのか,その手続をどうするのかということなのだろうと思います。感想めいた話で大変申し訳ございません。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 最初に樋口委員が先ほどおっしゃられたイメージ的には,一旦,受けたら,そうやすやすとは終了することが受託者はできないんだというイメージを我々信託銀行の人間は持っていると思います。そういうことも踏まえまして,5につきましては信託管理人が就任しない状況が継続した場合には,任意的な認定取消事由とする方が柔軟でよろしいのではないかと思います。
  公益信託の終了命令につきましては,先ほど認定取消しを信託終了事由とするという案に賛成しておりますので,これを分けて別の信託終了命令というものを作る必要はそもそもないのではないかと。統一した条項として定めるのがよいと思います。もし,残すのであれば甲案の行政庁等ということになると思います。
  更に3のところで,当事者から認定取消しについて申請できるのかという御質問もさせていただいたのですけれども,認定取消しによって終了するという前提であれば,逆に受託者,信託管理人によって認定取消しを申請するという枠組みがあった方がいいと考えておりまして,信託を続ける意味がどうもないのではないかと当事者が考えているときでも,目的達成あるいは不達成と言い切ってしまっていいのかどうかというところに迷いが生じますというような場合は,行政庁に認定取消しをしていただいた方がいいと思っているなら申請して,それで終了するというのがよいのではないかなと考えています。そうしますと,6の(2)につきましては,委託者が認定取消しや信託終了を申し立てるという実益は余りないのではないかなと考えますので甲案に賛成です。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  それぞれについて御意見が分かれたようでございますが,しかし,それぞれ単独で取り上げるのではなくて組み合わせながら,一定の事由が生じたときに適切に終了させ得る道を考えていくという方向を示していただいたかと存じます。
  それでは,時間が3時を過ぎておりますけれども,もう一つ進めたいと思います。「第2 公益信託の終了時の処理」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,御説明いたします。
  「第2 公益信託の終了時の処理」のうち,「1 残余財産の帰属」について御説明いたします。(1)の本文では,「信託行為における残余財産の帰属権利者の指定に関する定めの必置とその定めの内容」について,「公益信託は,その信託行為において,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利者」という。)の指定に関する定めを置かなければならないものとし,その内容は」,甲1案として「信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする。」,甲2案として,「信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは他の公益法人等(公益法人認定法第5条第17号イないしトに掲げる法人を含む。)又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする。」,乙案として,「信託終了時の残余財産のうち,公益信託の認定時における信託財産については私人に帰属させるとの定めとすることを許容するが,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については私人に帰属させるとの定めとすることを許容せず,【甲1案】又は【甲2案】のいずれかとしなければならないものとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託が終了した場合にその残余財産が誰に帰属するかは,信託財産を出えんする委託者や公益活動に使われることを期待して公益信託に寄附する者にとってその意思を担保するために重要な事項であることなどから,公益信託は,その信託行為において残余財産の帰属権利者の指定に関する定めを置かなければならないものとすることが相当であると考えられます。
  次に,その帰属先につきましては,公益信託終了時の残余財産について,公益目的のために利用されることを目的としていた信託財産である以上,公益信託の認定の時点で拠出された財産であっても,公益信託の認定後の運用や寄附により増加した信託財産であっても,それらは公益信託終了後も公益目的のために用いられるべきであり,私人に帰属させるべきではないと考えられます。そして,税法上の要件も参考にしますと,公益信託は,信託終了時の全ての残余財産の帰属権利者の指定に関する定めの内容を,当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとすべきであるという考え方があり得ることから,このような考え方を甲1案として提案しております。
  もっとも,類似の目的の公益信託に寄附する場合には,寄附先の選択肢が限定されてしまいます。公益的な活動を行い,法人内部で残余財産を分配しないことなどが制度的に担保されているものとして,類似の事業を営む公益法人や学校法人,社会福祉法人,更生保護法人,独立行政法人,国立大学法人,大学共同利用機関法人,地方独立行政法人等の法人も,公益法人の残余財産の帰属先として適格性を有するものとされていることからしますと,これらの法人を公益信託の残余財産の帰属権利者として認めることも,信託財産を公益目的のために使用するという観点からは相当であると考えられ,このような考え方を甲2案として提案しております。
  これに対しまして,公益信託において,公益信託の認定後に取得した財産には,公益活動に使われることを期待した国民からの寄附等によって形成されたものが含まれることから,そのような財産が私人に帰属することは,寄附者等の意思に反し不当である一方,公益信託の認定時に委託者が拠出した財産については,委託者又はその指定する者に返還されてもよいという考え方もあり得ます。そこで,信託終了時の残余財産のうち,公益信託の認定時における信託財産については私人に帰属させるとの定めとすることを許容するが,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については,私人に帰属させるとの定めとすることを許容せず,甲1案又は甲2案のいずれかとすべきであるという考え方があり得ますので,このような考え方を乙案として提案しております。
  続きまして,(2)の本文では,信託行為における帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄した場合の残余財産は,甲案として「清算受託者に帰属するものとする。」,乙案として「国庫に帰属するものとする。」という提案をしております。信託法第182条第3項の趣旨が公益信託にも妥当することなどを理由として,公益信託においても同項を適用し,帰属が定まらない残余財産は清算受託者に帰属するものとすべきであるという考え方を甲案として提案しております。これに対し,一旦公益目的のために出えんされた財産を清算受託者に帰属させることは,清算受託者に不当な利益を与える可能性がある上,引き取り手のない信託財産を清算受託者に帰属させることは酷であるということを理由として,公益信託においては,信託法第182条第3項は適用せず,帰属が定まらない残余財産は国庫に帰属するものとすべきであるという考え方がありますので,これを乙案として提案しております。
  第2の「2 類似目的の公益信託としての継続」について御説明いたします。本文では,甲案として「公益信託法第9条を改正し,公益信託の終了事由が生じた場合において,帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄したときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとする。」,乙案として「公益信託法第9条を廃止する。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度において,公益信託を民間による公益活動の手段として積極的に位置付け,主務官庁による裁量的・包括的な許可・監督制を廃止する場合には,信託関係人による監督・ガバナンスを確保することが重要であり,主務官庁が公益信託の継続を職権で判断する公益信託法第9条の規律をそのまま維持することは相当でないものと考えられます。ただし,シ・プレ原則の趣旨は,新たな公益信託制度においても妥当することから,ある公益信託について終了事由が発生したとしても,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続することを可能とする仕組み自体は,存続させるべきであるとも考えられます。
  そこで,公益信託が終了した場合において,信託行為における帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄したときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとすべきであるという考え方を甲案として提案しております。これに対し,信託法第163条各号の終了事由は,当該信託が確定的に終了する場合を規定したものであり,そのような事由が発生する場合には,当該信託を類似の目的の公益信託として継続させる余地はないとして,終了事由が発生する前の時点における信託目的の変更の可否の論点を検討すれば足りるとの考え方もあり得ることなどから,端的に公益信託法第9条を廃止すべきであるという考え方がありますので,このような考え方を乙案として提案しております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○林幹事 まず,1の(1)につきましては,まず,残余財産の定めをすることを義務付けるということ自体は賛成です。その定めがないような状態において信託法182条2項などで相続人に関わる制度が入ってくるのもおかしいと思いますので,その点では,賛成です。
  その上で,甲案か,乙案かというところですが,乙案に賛成したいと思います。ここにもいろいろ考え方はあると思うのですが,当初,認定時において給付した財産の限りで委託者に戻るという制度があってもいいと思いますし,それは公益信託を促進するという意味において,プラスになるのではないかと思います。この点,税の問題とか,いろいろ悩ましいところはあるのですけれども,それはさておき,乙案でということです。
  乙案においても,甲1案か,甲2案かという問題が出てくるのですが,甲1と甲2の比較においては甲2の方がよいと考えます。要するに,そこでの選択を広げた方がよいという観点からです。ただ,大阪弁護士会での議論としては,類似の目的となっているのですけれども,類似の目的に限定せずとも公益信託や公益法人であればよいのではないかという意見もありました。もう一つの考えは類似の目的を多少柔軟に考えるというのもあるかと思います。要するに帰属先を何とか広く捉えたいとすると,そのようになると思っております。
  それから,1の(2)については国庫に帰属することで賛成です。
  2の「類似目的の公益信託としての継続」のところですが,ここでは日弁連の意見では基本的には乙案でした。その手前の制度でしっかり組んであるので,この段で更にシ・プレ原則のように考える必要はないのではないかという意見の方が強かったかと思います。個人的な意見としては,甲案もあってもよいようには思うのですけれども,あえてここまで制度を用意するかというのに,若干引っ掛かりがありそうに思います。結局,ここの論点というのは当初の帰属権利者がみんな放棄した財産で,要するに誰も受けたくないような財産なのかもしれなくて,それを国庫が最後には受け取るという制度になれば,そこで完結するように思いますが,国に帰属する手前にもう少し考えるべきだという,そういう要請というかが積極的にあるのであれば,甲案もあるのかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 1の(1)につきまして,公益信託はその信託行為において,残余財産の帰属すべき者の指定に関する定めを置かなければならないとすることに賛成します。また,その定めの内容は甲2案に賛成します。その理由は,現在の公益信託においても既に各主務官庁の行政指導及び税法上も私人への残余財産帰属は認めていないと認識しております。また,実際の公益信託設定事例においても,私人帰属を規定する信託条項というのはないのではないかと思っております。このような状況で,新公益信託において私人帰属を認め得る考え方を採るということは難しいのではないかと考えます。帰属権利者の対象は公益信託だけでなく,広く公益法人認定法第5条18号並みに拡大すべきと考えています。
  乙案というのは,チャリタブルリードトラスト的な考え方と共通するのではないかと思うのですが,そのような後で私的な信託になるというようなものを,それも普及させていくべきだと考えますけれども,これと公益信託というのは別物と考えてよいのではないかと思います。だから,例えば特定寄附信託とかに例を見るように,公益信託の実現と,信託制度を用いた公益への寄附優遇税制というものを別物として進めていくこともできると思います。なお,公益法人認定法においては,公益法人の残余財産を類似の公益信託に帰属させることを認めていませんが,公益信託法の本改正に伴って公益法人認定法を改正し,リシプロカルにすべきであると考えます。
  1の(2)につきましては乙案に賛成します。理由は,公のために拠出された財産が受託者に帰属するということは考えられず,当然,国庫に帰属するものと考えます。
  2につきましては甲案の変形なんですけれども,丙案を提言します。現公益信託法9条は,信託終了の場合においてと規定しておりますが,新公益信託法においてはさきに議論したとおり,信託の終了原因について信託法163条2号は除いて,信託法163条を適用するということにしました。そうしますと,163条各号のうち,1号は信託の目的が達成したとき又は信託の目的を達成することができなくなったときであり,正に英米公益信託法のシ・プレ原則が適用され得る場面です。例えばエイズ治療の研究助成を目的としていたが,エイズが地球上から消滅したので,それに代わる重大な感染症に信託基金を振り向けるべく,目的を変更するというようなのが例かと思いますが,このような場合を想定して信託法163条1号の終了の場合に限り,受託者等の形式的判断に任せず,行政庁等が類似目的の公益信託として存続され得る権限を付与させてよいと考えます。
  なお,このように限定しなくても1号以外の終了事由では,継続させることは事実上,困難であり,あえて1号だけを区分する必要はないという考えが有力なのであれば,甲案に賛成ということになります。以上の理由としまして,シ・プレ原則は英米の公益信託の特色を表す象徴的な原則で,飽くまで委託者の公益目的を実現させようとする意図が明確に示された規定であります。その意味からは,日本の公益信託制度において,この規定を欠くということは考えられないと言えます。ただし,アメリカの判例においても,その適用条件は厳しく決められているというようなことが樋口委員の「アメリカ信託法ノート」275ページから282ページにも記載されておりますので,日本法においても,それらを参考にする必要があると考えます。
○能見委員 まず,1の残余財産の帰属ですけれども,結論としては乙案に賛成ですが,なかなか,いろいろな諸般の状況からこれを採用することは難しいかもしれないという認識を持っております。しかし,本来は乙案が望ましい。この問題は,公益信託がどのような理由で終了したかという点も少し関係するのかもしれませんが,その意味で今の平川委員のご指摘とも関係しますが,とはいえ平川委員と同じ結論をとるわけではないのですけれども,終了事由が例えば信託目的を達成したというので終了するが,まだ,財産が残っている。こういうときには,委託者からすれば,本来の信託を設定した目的が達成したのであるから,その後のことは自由に決めさせてほしい。私人も含めて自由に帰属権者を決めることができるということがあっておかしくないと思うのです。ほかの終了事由にも今の議論が当てはまるかどうかは分からないのですが,少なくとも目的達成などについてはそう言えるのではないかと思います。
  それはそれとして,私がむしろ問題にしたいのは,残余財産の帰属に関する1の問題と,2のシ・プレ原則との関係です。仮に甲1案,甲2案などの案を採ったときの話なんですが,これらの案のもとで帰属権利者が定められているとしますと,これら帰属権利者が全て放棄しないと2のシプレの問題に移れないというのは,おかしいのではないかと思います。むしろ,甲1案,甲2案で許容される帰属権利者よりも前に2のシプレの処理がくるべきだろうと思います。これら帰属権利者が決められていても類似の目的のために公益信託を存続させることはできる,そういうルールとして2を捉えるべきではないかと思います。ですから,2の甲案ですけれども,そこに書いてある要件は見直しが必要だろうと思います。
○樋口委員 短く2点だけ。今,能見委員がおっしゃったことに全く賛成です。15ページのところにあるところへ,帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄したときはと限定した上で,シ・プレ原則ということになると,先ほど林幹事がおっしゃったように,絶対にとんでもない負担のあるような,つまり,よほどのことですね,これは。だから,実際には甲案を採ってもこういう形でシ・プレが残ることはないだろう。類似の目的について,先ほどの平川委員がおっしゃってくださったというか,私の本まで,引用されたのは本当に有り難いことなんですが,その後のアメリカの動きを見ると,公益概念をシ・プレでは少し類似というのを広げて解釈するようにという方向性は出ているんです。そのことだけは申し上げますけれども,できるだけ公益信託を残そうという話は重要だと考えます。
  だから,放棄したときに限るという話だと,実際には甲案を残したところでまずあり得ないような話になるので,本当にまず類似の公益目的を探す,こちらがまずあって,どうしようもないといえば,最初の方でほかのところへ財産を預けて何とかしてもらうという,そういう順番になるのが普通なのかなと私も考えます。
○道垣内委員 林幹事がおっしゃったことで,大阪弁護士会の意見だったという話に関係します。私は第2の1の(1)について特に甲案でなければならないという強い見解は持っておりません。持っておりませんが,他の類似の目的を有するという要件が加わる理由がよく分からないのです。と申しますのは,シ・プレのそもそもの考え方をどう考えるかというのは,いろいろ考え方があると思いますけれども,一種の当事者意思の推定の問題であると考えるならば,1(1)は,当事者が定めているわけですよね。一定期間はスポーツ振興,その後は,学術振興と委託者が考えているときに,あなたは本当はこういう気持ちでしょう,学術よりもスポーツが好きでしょう,といって,他の類似であるということを要件とするというのは私にはよく分かりません。当事者が,次はここを目的にすると,そのために,そこに全部,財産を与えるとしているのならば,それはそれでいいのではないかという気が致します。さらに,もう1点,加えますと,国若しくは地方公共団体というのは,終了する公益信託の目的とは類似していないんですよね。それと比べるというのはすごく違和感があります。
  乙案とどちらがいいかということにつきましては,私は特に強い意見はございませんけれども,甲1案にせよ,甲2案にせよ,類似目的を要求するのはおかしい。
  もう一つ,先ほどの15ページの2のところの,これが放棄したときの話なのかという問題なんですけれども,当事者の意思でほかの目的に使うということになっていれば,そちらになるわけでしょうから,そうすると,結局は,第2の1について,どこまでの当事者の意思を考えるのかという問題なのだろうと思います。こういうふうなことになったらば,次はこうするんだよと当事者が決めていたならば,そちらの方を重んじるというのならば,それが達成できないときに限って,2のルールが発動するということは,理論的にはそれほどおかしいことではないだろうと思います。ただ,私自体としては2はなくてもいいと思いますが,論理の問題としてはそうではないかなという気が致します。
○中田部会長 最後の2はなくてもよいとおっしゃったのは。
○道垣内委員 類似目的の公益信託としての継続。
○中田部会長 ということは,乙案ということですね。
○道垣内委員 そうです。
○中田部会長 分かりました。ほかに。
○深山委員 残余財産の帰属権利者については乙案を強く支持したいと思います。甲案との違いはもちろん,私人への終了後の帰属を認めるかどうかという考え方の違いですが,これまでも折に触れて申し上げてきたように,一旦,公益目的のために拠出した財産は,もはや公益の色をとることはできないという硬直的な考え方を採る必要はないし,採るべきでもないと思います。例えば一定の目的を達成するまで,公益に拠出して目的を達成したら委託者に戻るにしろ,委託者の指定するものに帰属させるにしろ,公益目的の財産から外すような制度設計というのを頭から否定すべきではないと思います。
  正に当事者の意思でそうしたいというときに,しかし,それが全体として見て公益信託としてふさわしくないという評価が加えられて,認定が受けられないということはあり得るかもしれませんけれども,それなりに合理的な制度設計で最終的に目的達成後に私人に帰属するとしても,その間,公益に拠出して公益に資するということに社会的な価値があると評価されれば,それはそれで認められてしかるべきだと思います。そうしないと,非常に制度が利用されにくいものとして出来上がってしまうだろうという気が致します。
  もちろん,税制優遇との兼ね合いが常にここでは問題になりますが,それはそれで,それにふさわしい税制を財務省の方で考えていただければよくて,そこは税制の方で工夫すべき問題だろうと考えておりますので,そもそも論からいえば,合理的で適正妥当な信託関係者の意思というものを可能な限り尊重すべきだという観点から,乙案を支持したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 第2の1(1)について申し上げます。一つ質問を先にして,しかし,お答えいただくのを待たずに意見を申し上げたいと思います。第2の1の(1)は,公益社団法人,公益財団法人の認定等に関する法律で,この問題がどこで扱われているかといいますと,補足説明の中にもありますが,同法の5条18号だろうと思います。そうだとすると,公益認定の基準の一つになっておりますが,公益信託においても,この問題を公益認定の基準として位置付けようとされているのか,それともまた,別の仕掛けでこの問題を扱おうとされているのかは,すみません,私の発言の後に事務当局としてお考えがあったらお教えください,あるいはどこかに書いてあるのかもしれません。申し訳ありません。
  その上ですが,結論としては私は甲案でやむなしと思います。乙案については,公益法人改革が行われる前の民法上の公益法人のときに,例えば財団法人に寄附行為によって出えんされた財産を残余財産として元の人,寄附行為者ですか,に返してよいかどうかという問題がありました。それについては,私のその問題についての意見は法律が変わっていますので,意見を言っても仕方のないことですが,例えば不動産を公益目的に使ってもらって使用してもらうとします。そして,10年とか,50年とかがたった後,その不動産は寄附行為者に残余財産分配として返すということがここでの問題です。しかし,10年でも50年でもいいですけれども,その間,不動産を利用する利益というものを公益に使うという,そういうタイプの公益法人というのはあってよいと考えておりました。
  しかし,旧民法下において,古い時代のものはどうなっていたか分かりませんけれども,登記に関する行政先例に,残余財産を各社員の出資額を限度に払戻しをすることができるとの定款の定めは,公益法人の性質上妥当ではないというものがあったように思います。それが公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の5条18号に,私は具体化しているものと思います。もちろん,二枚腰というのでしょうか,まずは第2の1,乙案で考えた上で,それで税制優遇が得られるような仕組みが得られないならば,甲案に退却するというようなこともあり得るのかもしれませんが,どうも公益法人改革の公益法人三法ができるときの様子を見ていますと,この5条18号というのは,結構,重要なポイントになるのではないかなと思います。そうしますと,甲1案又は甲2案でやむなしと考えます。そのいずれかというならば,公益信託,国又は地方公共団体だけではなく,公益法人を含めることは全く構わないと思いますので,甲2案でやむなしと思います。
○中田部会長 御質問の部分についていかがでしょうか。
○中辻幹事 事務局としましては,残余財産の帰属に関する定めについては公益信託の認定基準とすることも十分あり得べしと考えておりました。
○山田委員 あり得べしですね。分かりました。
○中田部会長 ほかに。
○山本委員 すでに多くの方がおっしゃっていることなので,繰り返し申し上げる意味は余りないのかもしれませんが,意見表明だけはしておいた方がよいと思いますので,発言させていただきます。
  第2の1の(1)についてですけれども,結論からいいますと,私も乙案を強く支持したいと思います。委託者の意思うんぬん以前に,これは政策の問題だと思うのですけれども,世の中にある財産が公益目的のために使われることが望ましいとするならば,公益目的のために使われる財産が多くなれば多くなるほどよいはずです。そうすると,リジットな考え方を採るのではなく,例えば乙案のように,公益信託終了後については私人に戻るというような選択肢を与えるならば,少なくとも公益信託に提供される財産は減ることはなく,むしろ増えることになるだろうと予想されます。そうしますと,このような手段をとらない理由は理論的にはないはずであり,積極的に認めていくべきではないかと考えられます。
  もちろん,公益法人の改革のときの議論については,山田委員から御紹介のあったとおり,難しい問題があることは分かるのですけれども,公益目的の推進ということを考えるならば,見直すことができるならばその必要があるのではないかと従来から思っていました。この審議会での御意見を聞いていても,その点についてはやはり考え直す必要があるのではないかと考えられます。したがって,この第2の1については,乙案を支持したいと思います。
  その上で,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については,この考え方からしますと,甲1案か甲2案かという問いを立てられれば,甲2案に従って,類似の目的を有する公益法人も選択肢として認めるべきだろうと思います。
○神作幹事 第2の1について私の意見を述べさせていただきます。甲案か,乙案かというのは,私も,山本委員が言われたように政策的な問題であると思いますけれども,乙案について一つ考えておくべき視点があるのではないかと思っております。それはどのような視点かと申しますと,確かに拠出を促進するという面からいうと,乙案は多くの先生が御指摘のとおり,非常にメリットがあると思いますが,しかしながら,中長期的な視点から見たときに,そのようにして誕生した公益的な信託とか,公益的な存在を周囲がサポートするということを考えると,それこそ例えば寄附とか取引とか,いろいろな関係で支持していき公益信託や公益的な存在が成長し発展していくことを想定すると,最後は私的領域に財産が戻るんだと,あるいは少なくも財産の一部が最終的には私人に戻るとすると,そのような存在に対し,サポートが得られやすいのかという観点があると思います。公益信託の誕生を最初の時点で増やすというのはよく分かるのですけれども,公的存在の成長と発展につながるための制度設計という視点は重要で,私はそういう意味では,一旦,公にしたらば,そう簡単には私的領域には戻らないんだという制度設計は,十分,理由のある考え方であると思いますので,一言,申し上げさせていただきます。
○能見委員 1と2との関係について,1については私は個人的には乙案なものですから,余り甲1案,甲2案をそう詳しく見なかったんですが,例えば甲1案でいきますと,類似の目的というのがどこに係るのかということなんです。「類似の目的の・・・公益信託」というように公益信託のところまでなんでしょうね。国や自治体にはかからない,これは関係ないんですね。元々の公益法人の規定も大体,そうなっていると思いますが,そうなると,道垣内委員はここにある意味でシ・プレ原則が入っているので,2の方は要らないという,甲1案にせよ,甲2案にせよ,そこには委託者の意図が出ているわけだから,後の2の方の問題,シ・プレ原則の方は要らないという御意見だったと思いますけれども,そうではないのではないかと思います。例えば国だとか自治体を帰属権利者にするときに,委託者としては信託の設定の時点では,すぐに適切な帰属権利者を思い付かなかったので,取りあえず国や自治体を帰属権利者として決めているということもあると思うのですが,そういうときの委託者の意思というのはそれほど確固たるものではない。従って,信託が終了することになったときに,今の述べたような意味で定められた帰属権利者がいても,それを乗り越えるようなシプレ原則の適用はありうると思います。シプレ原則の適用では受託者が申立てをするのでしたっけね。いずれにせよ,主務官庁に申立てをして類似の目的の公益信託として存続させてもらうということは十分あり得るし,合理的だと思いますので,1で甲案を採っても2の方はシ・プレ原則を認めるということの意味はあるんだろうと思います。
  もう一歩,踏み込むと,1の甲1案において先ほど道垣内委員が言われたように,類似の目的というのをそれほど厳格にここで考える必要はなくて,もっと広い,そういう意味で,シ・プレ原則よりは広いといっていいのかどうかはっきりしませんけれども,甲1案のところでは,相当,広いものを類似の公益信託として当初から帰属権利者として指定することはあり得ると思います。こういうときは,委託者の明確な意思があるということで,2のシプレ原則に行かなくてよいのかもしれません。しかし,その場合も含めて,一般的には最初の信託設定の段階では,十分に信託終了時のことまで考えられないこともあるので,委託者としては取りあえず,こんなものを帰属権利者にして指定しておこうという程度のことが多いと思いますので,後で実際に終了する段階で委託者の意思も忖度しながら考えるとよりふさわしい財産の使い方がある,その目的のために公益信託を継続させることが可能だというときには,そちらを優先するということは十分あり得るのだろうと思います。
  それから,もう一つの観点は,仮に甲1案,甲2案のような帰属権利者を定めるという方式で類似の団体,公益信託や,甲2案の場合には公益法人も含めてですが,そういうものに財産が承継されるということはあると思うのですが,その場合には信託財産を帰属権利者に承継させますので,公益信託自体は清算するのだろうと思います。公益信託を完全に清算してから,帰属権利者に財産だけを移転するということになります。これに対して2のシ・プレ原則の方は清算をしないで,そのまま公益信託として存続させることになります。そういうことのメリットが2の方にはありますので,その点でも,2のところでシ・プレ原則を採用する甲案というものの意味があるのではないかと思います。
○吉谷委員 まず,1の(1)の帰属権利者の定めを必置とすることは賛成です。帰属権利者の範囲については甲2案に賛成します。ただ,検討の段階で類似の目的を有するという部分が必要かどうかについては,未検討であるということも申し上げておきます。乙案につきましては最も懸念しておりますのは,公益信託に対する税制の優遇措置や公益認定と税の認定の一体化の実現という観点から,懸念を持つというところであります。制度を余り複雑なものにすることは,避けるべきではないかという考えも持っておりまして,税の恩典を享受しないということを前提にできるのであれば,私益信託や目的信託を用いて残余財産受益者や帰属権利者を私人に指定する,それで,公益活動を行うということはできるわけでありまして,一部,そういう形で寄附などを行っている信託も実際にあるわけであります。
  続きまして,1の(2)の指定帰属権利者の権利の放棄のところですが,ここにつきましては乙案の国庫に帰属でよいと考えます。受託者に帰属させる理由は特にないと考えております。
  2の類似目的の公益信託としての継続につきましては,どちらかといえば甲案なんですが,これも余りニーズがあるとは考えておりませんので,むしろ,後で出てきます公益信託の変更において,信託目的の変更を認めるのであれば,それによることができると考えますので,乙案賛成ということになります。信託目的の変更を認めることができる場合につきましては,帰属権利者による権利の放棄以外の場合にまで,もう少し広げて考えてもよいのではないかと考えております。
○中田部会長 ほかに。
○長谷川幹事 先ほどと同じ意見ですけれども,残余財産の帰属のところの(1)につきましては,当事者の意思の尊重という観点から,乙案も大変魅力的ではございますけれども,現実的に考えたときに,乙案だと税制優遇が仮にとれないということであるとすると,最初から甲案でいくというのも1つの考え方かと思っております。
○藤谷関係官 1点だけ,租税の観点からの情報提供ということでお話をさせていただければと思います。発言をお許しくださり,ありがとうございます。公益信託法の私法の問題として,先ほど来,問題になっております第2の1について乙案あり得るべしというのは全くそのとおりだろうと思いますし,税法については別途考えるのであり,この場では飽くまでも信託法の問題として議論するのだ,というのも,本来,あるべき考え方の道筋であろうと私も思います。
  ただ,現在の税法が,現行の公益信託法において財産が私人に戻る可能性が必ずしも排除されないということを踏まえて,税法独自に特定公益信託という仕組みを作っているということがまず1点ございます。さらには,公益信託の財産が何らかの私人に戻るならば,戻った段階でまた別途課税関係を考えればいい,ということには,税法の観点からはならないということは,申し上げておかなければならないだろうと思います。
  今年度,例えば100万円の財産を出えんして,そこから得た利子とか何とかは全部,きちんと公益目的に使ったと。最後に残った100万円なり,50万円なりが戻ってくる,その可能性がある限りは,最初の100万円について寄附税制の適用が与えられる可能性はゼロと言っていいと思います。なぜならば,それを認めてしまうと,今年,たくさん所得があって高い累進税率が掛かるときには寄附で税金を減らしておいて,後で適用税率が低いときに公益信託から手元に財産を戻すことで,それに税金が課されたとしてもトータルで税負担を減らすことができてしまいます。ですので,寄附したら税制優遇,戻ってきたらその時に課税すればいいではないかという考え方には,残念ながらならないということは,単に情報提供として申し上げておく必要があるかと思いました。その上で,それはそれとして,私法の問題として財産帰属のあるべき姿を考えるというのは,本来の道筋だろうと思いますので,それについて私が特に申し上げるべきことはございません。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○長谷川幹事 すみません,せっかくなので教えていただきたいのですが,資料でも基本的には拠出時の税制優遇のことを念頭に書いておられて,その前提で乙案を採った場合に,例えばA,B,Cという拠出者がいて,最終的にAさんには残余財産が返ってきますといった場合,Aさんの税制優遇だけを拠出時に考えればいいということにはならないのでしょうか。要するにAさんに残余財産が返ってくるということであれば,Aさんだけ税制優遇しないということもあり得るような気もしていたのですが,そのような理解は成り立たないのでしょうか。別途,果実についてどう考えるかということはあると思いますが。
○藤谷関係官 今,おっしゃっているのは帰属権者の話だと思うんですが,例えば私が100万円の財産をAさん,Bさん,Cさんのうち,どなたかに財産を上げたとしたとしたら,私の税金は減らないんです。公益目的に行ったきりでいずれの私人にも帰属しないからこそ寄附税制が適用されるのです。私が申し上げているのは徹頭徹尾,拠出時の寄附税制がとれるかという話であって,財産が残余財産として帰属した場合に,その人が課税されるのは当然の話であります。ここで申しておりますのは,私が誰か別の人に財産をあげた場合,その人には贈与税が掛かるのは当然として,私についても寄附控除というか,税金が減ることがない,というのと同じ理屈です。最終的に誰か私人の手元に帰属してしまうようでは入口のところで寄附税制はとれませんと,確かに私の財産は減っているけれども,寄附税制はとれません,ということになります。財産が終局的に公益目的に帰属しているからこその寄附税制です,というのが現在の説明になっております。したがいまして,今,長谷川幹事がおっしゃったように,当然,財産の返還を受けたAさんが課税されるのですけれども,それに加えて,全ての人についての寄附税制がおぼつかなくなるということを申し上げたつもりでございます。
○長谷川幹事 例えば私が信託に拠出するとして,当該信託における残余財産は私に帰属することになっているとします。ほかにも信託を構成するときにB,Cさんも拠出しているのですが,このB,Cさんには残余財産は戻ってこないことになっているというような想定です。このときに,私の拠出時の税制優遇については,残余財産が戻ってきてしまうので,優遇しないこととする一方,ほかのBさん,Cさんについては残余財産が戻ってこないので,優遇してもいいのではないかというのが拠出時の問題としてはあり得るかというのが御質問です。果実の問題もあると思うので,なかなか,難しいような気もしますが。
○藤谷関係官 それに関しても,Bさん,Cさんも税制優遇はもらえないとなると思います。なぜならば,B,CがAに間接的に財産をあげているのと同じことと考えるからです。
○長谷川幹事 ありがとうございました。
○中田部会長 ほかに。
○山田委員 先ほど申し上げたことには直接関わらない,しかし,第2の1の(1)について,もう一言,申し上げたいと思います。(注1)でございます。公益信託の認定の取消しによる終了の論点において乙案を採る場合にはというので,乙案を先ほど私は私の意見として申し上げたところですが,このときは信託終了時の残余財産ではなく,公益信託認定取消時の信託財産と表現することになるものと考えられるということです。これを第2の1の(1)に当てはめた場合に,私はやむなしということではありますが,甲2案が私の意見であると申し上げましたが,信託終了時にはこのとおりでいいと思うのですが,取消時はよく理解をしていないのですが,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の5条17号が類似するルールではないかと思います。
  そうすると,少し違った規律になっておりますので,何が違うかというのはうまく説明できないのですけれども,全てか,全てではなくて一部かという違いだろうと思います。その一部かというところが第2の1の(1)でいうと,乙案に対応するのかどうかというのが今,見極めきれていないのですが,同じであれ,同じでないにせよ,取消しの場合は類似目的の公益信託,公益法人,国又は地方公共団体というのに帰属させる部分について,一定の制約を掛けるという考え方は,公益法人法の中では採られているところでありますので,それと同等のものは公益信託においても可能ではないかと思いますし,可能であればそのようにするのがよいと思います。
○中田部会長 ほかに。大体,よろしいでしょうか。
  第2については,残余財産の帰属権利者の指定に関する定めを必置とするということについてはほぼ御異論がなかったと思いますが,その後,甲案か,乙案かについて御意見が対立したと思います。その上で,類似の目的という要件の要否あるいはその内容について検討すべきだという御意見も頂戴いたしました。それから,1の(2)については国庫に帰属するという御意見が出たと思います。清算受託者に帰属するという御意見はなかったように伺いました。2の類似目的の公益信託としての継続というのは,1との関係をよく考えるべきだという前提の御指摘があったかと思います。その上で,甲案,乙案の両論の御意見があったと思います。
  それでは,時間が来ておりますので,ここで,一旦,休憩にしたいと思います。15分後の4時25分に再開いたしますので,その時間になりましたら御参集ください。

          (休     憩)

○中田部会長 それでは,再開いたします。
  部会資料37の「第3 公益信託の変更,併合及び分割」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,「第3 公益信託の変更,併合及び分割」のうち,「1 公益信託の変更命令」について御説明いたします。(1)の本文では,公益信託法第5条を廃止又は改正する。その上で,公益信託についても,信託法第150条を適用することとし,同条に基づく変更命令を権限,すなわち,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況に照らして信託の目的の達成の支障になるに至ったときに信託の変更を命ずる権限は,甲案として「公益信託の認定・監督を行う行政庁等が有するものとする。」,乙案として「裁判所が有するものとする。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度において,公益信託を民間による公益活動の手段として積極的に位置付け,主務官庁の裁量的・包括的な許可・監督制を廃止するのであれば,信託の変更についても公益信託の信託関係人の私的自治に任せることが適切であることから,公益信託法第5条の規律は廃止又は改正するのが相当であると考えられます。その上で,公益信託についても信託法第150条の趣旨が妥当することから,同条を適用することが相当であると考えられます。そして,同条による変更命令は,変更後の公益信託が認定基準に合致していることを確認した上で行う必要がある上,公益信託の監督とも関連する権限であることから,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の権限とする考え方を甲案として提案しております。他方,信託設定の当時予見することのできなかった特別の事情の有無等の判断は,裁判所においても可能であるとして,信託法第150条と同様に,変更命令の主体を裁判所とする考え方もあり得ますので,これを乙案として提案しております。
  (2)の本文では,(1)の公益信託の変更命令の申立てを行う者は,甲案として「受託者又は信託管理人とする。」,乙案として「委託者,受託者又は信託管理人とする。」という提案をしております。
  委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだけ排除することが望ましいとの観点から,委託者を変更命令の申立権者とすべきではないと考えられ,これを甲案として提案しております。これに対し,委託者も信託財産を拠出した者として,その信託の行く末に大きな関心を持っている場合が多いことなどから,委託者についても,信託の変更命令の申立権者とすべきであるとの考え方もあり得,これを乙案として提案しております。もっとも,いずれの案もデフォルトルールとして考えておりまして,信託行為により委託者の権限の増減は認められることを想定しております。
  第3の「2 公益信託における信託の変更」について御説明いたします。本文では,「公益信託について信託の変更(信託法第149条)をするときは,原則として,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の変更の認定を受けなければならないものとし,例外的に軽微な変更の場合には,公益信託の認定・監督を行う行政庁等に対し事後の届出を行うことで足りるものとすることでどうか。」という提案をしております。
  公益信託が一旦設定された後は,その公益信託は公益のために存在するものですので,これを委託者や受託者等の合意によって自由な信託の変更を認めるべきではないと考えられる上,信託の変更内容によっては公益信託の認定基準の充足性に問題が生じる可能性があることからすると,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の認定を必要とするのが相当であると考えられます。もっとも,信託行為の軽微な変更も含めて全ての信託の変更について公益信託の認定・監督を行う行政庁等の認定を得ることとするのは,受託者等の事務手続の負担が課題となることなどから,信託の軽微な変更については公益信託の認定・監督を行う行政庁等に対する事後の届出で足りるものとすべきと考えられます。そこで,本文のような提案をしております。
  第3の「3 公益信託における信託の併合及び分割」について御説明いたします。本文では,「公益信託について信託の併合・分割をするときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等から併合・分割の認定を受けなければならないものとすることでどうか。」という提案をしております。
  公益信託が一旦設定された後は,その信託財産は公益のために存在するものであり,当該信託を委託者や受託者等の合意等による併合・分割を行った結果,その信託財産に変動が生じるのは不適当な場合があり得ます。また,信託の併合又は分割の内容によっては,公益信託の認定基準の充足性に問題が生じる可能性もあります。そこで,公益信託について信託の併合・分割をするときには,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の認定を受けなければならないものとすることを提案しております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言ください。
○平川委員 まず,3の1につきましては甲案に賛成します。理由は,当該公益信託を実質,よく知る行政庁等の権限とするのが妥当であると考えます。行政庁等は認定・監督権を有しており,公益信託の変更命令を発令する権限は,かかる監督権を行政庁として妥当な行政権の行使の範囲内であると考えます。
  1の(2)につきましては甲案に賛成します。理由は,委託者の権限は極力,限定的に考えるべきであるという立場を採ります。
  2につきましては法務省には反対します。法務省案は,一旦,全ての変更を原則,行政庁の認定を必要とした上で,軽微な変更はこの例外として事後届出とするものです。しかし,公益法人の場合と同様に原則的に信託の変更は届出にとどめ,例外的に公益目的事業の変更,監督行政庁の変更を伴う活動地域の変更など,公益信託認定の根幹に関わる事項については変更認定を必要とすることとし,逆の規定の書きぶりとすべきであると考えます。例えば公益法人の場合,定款変更のときには届出によることを原則としており,認定が必要な場合としては地域の変更,公益事業目的の変更,収益事業の変更を例外として設けています。
  3につきましては基本的に賛成します。ただし,行政庁等の認定に委ねるとしても,認定ガイドライン等を設けるのだと思いますけれども,これに公益信託が私益信託に吸収合併される場合等,場合に分けて要件が検討されるべきであると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 まず,1(1)につきましては甲案に賛成いたします。変更命令は認定を行う行政庁によるというのが認定制度と整合すると考えます。裁判所による変更命令は,更に行政庁の認定基準と整合させるための仕組みが必要であって制度を複雑にします。それを上回るようなメリットが乙案にあるとは感じられませんでした。
  次に(2)ですが,これも甲案に賛成です。デフォルトルールとして甲案でよいと考えます。委託者に内部的なガバナンスの機能をデフォルトで期待するということはできないと考えます。
  次に2番ですが,これは提案に賛成です。その中で,信託の目的の変更については先ほども申し上げましたが,委託者が最初に意図したもの以外に信託目的を変更することは,容易には認められるべきではないと考えます。しかし,委託者の意図を余りに狭く解することで信託が終了してしまったり,利用されなくなったりするというよりは,若干,拡大して解釈して変更を認めるのがよいのではないかと。ただ,行政庁による変更認定の際に必要な認定審査をしていただくべきと考えます。
  最後に3番ですが,信託の併合・分割については効率化等が認められるのであれば認めてよいと考え,行政庁の関与があるということで,提案でよろしいのではないかと考えます。その上で,私益信託と目的信託が公益信託の併合・分割の対象になるのかということについては,認める必要はないと考えます。まず,公益信託の財産を私益信託や目的信託の財産とするような併合・分割につきましては,一度,公益目的のために拠出された財産を公益目的以外に用いることを許すものでありますので,先ほども申し上げたとおりの理由ですが,反対です。
  次に,私益信託,目的信託の財産を公益信託の財産にするような併合・分割ですが,これは追加信託であるとか,寄附とかいう形で代替ができるので,特段,法制化する意味合いはないと考えました。
○深山委員 変更命令について意見を申し上げたいと思います。結論として私は乙案,裁判所が有するということが妥当だと考えます。その理由は,先ほど似たような議論を終了命令のところでもしましたけれども,より分かりやすいのは変更命令であると思います。つまり,信託関係者が変更しようと皆が思っていれば変更の手続をとる。その場合に,もちろん,2の論点である行政庁等の認定等の問題は更に出てくるわけですが,いずれにしても,そちらのルートをとるのが一般的で,そうではなくて変更命令が発せられる場面というのは,内部的に意見の対立がある場合というのが一つ想定されるように思います。そういう意味で,関係者間で意見の対立があるときに,どちらが妥当かという判断をする機関として裁判所がふさわしいと考えるのは先ほどと同様であります。
  (2)の申立権者については,ここはデフォルトルールなので余り強くこだわる必要はないのかもしれませんが,考え方としては,委託者も含め関係者にそれぞれ申立てができる地位を与えた上で,最終的には,いずれにしろ裁判所が判断するということで,そういう仕組みにするのがよろしいと考えますので,ここも乙案ということでございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 1の(1)ですけれども,結論としては深山委員と同じなんですが,恐らく理屈としても信託契約という私法上の効果を伴う変更ですから,信託法の本来の原則,信託法にのっとって裁判所が私法的な効果を伴う変更命令を出すということだと思います。仮に行政庁たる認定機関にもそういう権限を与えるとしたら,それは私法上の効果を伴わない形での何か違うものとして認識するということになるのではないかと思います。どっちがいいかというよりも,私法上の効果という観点からすると,裁判所以外には考えられないのではないのかと考えます。
○棚橋幹事 まず,裁判所としてやりたくないということは全くないということは,はっきり申し上げたいところでございます。
  その上で,意見を述べさせていただくのは1の(1)の点のみですけれども,私法上の効力というお話ですとか,争いの有無ですとか,様々な考慮要素はあるかと思いますが,裁判所としては,基本的には認定基準に関わる部分については,認定機関が一番その判断に適しているのではないかという観点から,裁判所か行政庁等のどちらが判断するのがより適切かという点については行政庁等なのではないかという趣旨で意見を申し上げてきたということでございます。
  ここの1の(1)については,もちろん,これは事情変更の場合ということではあるんですけれども,変更ということと,一旦,終了又は認定取消しなりがあった上で,また,新しく作るということとの違いが若干,分からないというところもあるんですけれども,基本的にはここでは認定基準の判断が行われるということのように思いましたので,より適切なのは行政庁等ではないかという意見となります。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 第3の1の(1)でございますが,乙案で裁判所による変更命令が望ましいと思います。理由は,小野委員,深山委員がおっしゃったのと重なりますので繰り返しません。その上でですが,分からないところもあります。それは,裁判所が変更命令を信託法150条に基づいて出すとした場合に,認定基準周りの問題をどうするかということです。棚橋幹事の御発言に少し関連するかもしれませんが,認定基準周りそのものは認定・監督をする行政庁の問題であろうと思います。したがって,2のところの軽微な場合にどうする,そうでない場合にどうするというのが基本的には係ってくるのかなと思います。
  しかし,一方で,裁判所に変更命令を申し立て,変更命令が出た後ですかね,軽微でないと,今度は行政庁等に変更の認定を受けるということになるとすると,少し工夫をする余地があるのではないかなと思います。一般的に裁判所が関わる,これは非訟ですかね,信託の非訟についてできるのかどうか分かりませんが,第3の1の(1),公益信託の変更命令は裁判所が有するものとした上で,認定・監督をする行政庁等の意見を聴くみたいな仕組みを設けることによって,ワンストップでというのでしょうか,一つの手続で行うというようなことができるならば,考えたらいいのではないかなと思います。
○樋口委員 3点,申し上げますが,いずれも短く,一つは質問なんですけれども,あるいは確認なんですが,ここの19ページに例えば委託者というのが出てきます。こういう場合に,我々はまず共通理解として委託者というのは一身専属の委託者,委託者の相続人であれ,何であれなんていうと,どんどん,ネズミ算式には増えていかないと思いますけれども,そういうことを考えていなくて,単純に委託者が生きていて,その人がという,そういうことだけを想定して我々は議論しているのだろうかということを確認しておきたいと思いますが,1点目,ごく簡単なことなので。
○中田部会長 では,先にそれを。
○中辻幹事 私どもとしては,公益信託を委託した委託者本人について考えておりまして,相続人については……。
○樋口委員 亡くなってしまえばおしまいと。
○中辻幹事 はい,ということを考えておりました。
○樋口委員 分かりました。ありがとうございます。
  二つ目は,私も逃げ回ってしまうなんていう表現をしたのは非常に穏当でないと思っておるので,つまり,この国で認定制度をやるわけですよね,とにかく公益信託について。それについて,認定制度は当然のことだという話になっているわけで,認定する行政庁がいて,行政庁がいるところと,それから,裁判所というところでの役割分担がどう在るべきかというのは,なかなか,難しい課題であるということは単純な私でも認識しております。その点は補足したいと思います。
  三つ目ですけれども,変更ということなんですけれども,信託の変更というのは何なのだろうというのが,幾つかのここの説明の中では文章として出てくる部分があるので,推測ももちろんしているんですけれども,普通に例えば英語ではデビエーションとかいうような法理があって,これは私的信託の話,私益信託の話ですけれども,信託の変更で当初の信託から変更されるときに大きく分けて二つあるということです。
  一つは,信託というのは,結局,財産管理で,それを財産管理して運用して,収益を可能であれば上げて,それを今回の場合は公益目的のために配分していくということなので,初めの運用の部分と,それから,配分の部分があって,どちらも変更はあり得るわけです。もちろん,公益目的という大きな目的の中で配分先を重点化して,こちら,今年はこういうところにとかいうことが元々の文章では例えば平等にみたいな話でやっていたのが,いやいや,そうではないでしょうという配分のところだって変更はあり得るんですね。運用のやり方について今までの運用のやり方では,これでは先細りして,全部,駄目になってしまうから,何らかの形で変更しないといけないと,運用手段をというのもあると思うんですけれども,そのいずれも考えながら,こういう話なのか,そうでないのかということが必ずしも十分に分からなかったものだからということで発言しました。
○中辻幹事 三つ目も御質問と捉えましたのでお答えしますと,信託の変更の定義につきましては,部回資料37の18ページ補足説明の冒頭に書いてあるとおりです。ここでは抽象的な書き方になっておりますので,もう少し具体的にという御趣旨だと思いますけれども,既存の信託行為の定めについて改廃を加えることは信託の変更に当たると言うことができます。そうしますと,信託行為の中に先ほど樋口委員が言われた運用の方法あるいは配分の方法が定めがあるのであれば,それらの定めを変えることは両方とも信託の変更に当たることになりますし,そもそも運用の方法や配分の方法が信託行為の中に規定されていなければ,信託の変更には当たらないという整理になるものと考えます。
○中田部会長 樋口委員,よろしいでしょうか。
○樋口委員 はい。
○神作幹事 23ページの3についてでございますけれども,よろしいでしょうか。公益信託における信託の併合・分割についてでありますが,24ページの2の理由付けからすると,これは必ずしも併合・分割だけではなくて,事業の移転だとか,事業の取得のような場合にも同じ理由付けが当てはまるようにも思われます。23ページの記載は併合・分割に限定する趣旨なのか,それとも機能的に同等のものがあれば,それらについても基本的に同様の規律を適用するという前提なのか,御質問させていただければと思います。
○中辻幹事 御指摘をありがとうございます。事業の移転についてまでは考えを及ぼしておりませんでした。公益信託における事業の移転や取得について,信託の併合や分割の規律が適用されるか否か,御指摘の点も含めて,この論点を考えていこうと思います。
○新井委員 信託の併合と分割についてです。(注)がありまして,併合・分割前の信託がいずれも公益信託の場合に限らないと,公益信託,私益信託又は目的信託との併合や,公益信託から私益信託又は目的信託への吸収信託分割の場合も含めて検討する必要があると記述されています。この検討をする必要があるという意味なんですが,つまり,ここでいう併合・分割というのは,そういう多様な種類の信託との併合・分割ということを必然的に意味すると。したがって,必ず検討するという趣旨なのか,それとも,もう少し軽い意味で一応,検討しておく必要があるという趣旨なんでしょうか。私はここでの併合・分割というのは,公益信託相互に限るべきだと考えます。したがって,そういう質問をしたわけです。
  それと関連して,今の神作幹事等の発言とも関連しますが,併合・分割というのと信託の変更,この辺の差異というかが必ずしも明確ではないような気がするんです。もう少し,この辺りを少し整理してみる必要というのはないでしょうか。どちらが大きい概念かといえば,何となく信託の変更のほうが大きい概念で,併合・分割も全て,その中に含み得るような感じもするんですが,その辺り,もし何かお考えがあれば事務局の方からお答えいただきたいんですが,いかがでしょうか。
○中辻幹事 まず,1点目につきましては軽い意味で考えておりました。物事を検討する際には,できるだけ広い視野から検討すべきであるというくらいの趣旨でございます。
  また,信託の変更と,信託の併合・分割の関係を整理してみる必要があるという御指摘も頂きましたので,それも含めて,再度,事務局の方で検討させていただきます。
○中田部会長 信託法自体で,変更と併合と分割と規定を分けているということを踏まえて御提案されたのだと思いますけれども,更に神作幹事の御指摘も含めて検討を進めるということになろうかと存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 まずは,2の公益信託における信託の変更について,法務省の御提案では原則として認定を受けなければならないが,例外的に軽微な変更のときは届出で足りるという,こういう書きぶりですが,原則と例外は逆であるべきで,事後的な届出で足りるというのが原則で,変更認定を受けなければならないのを例外として捉えるべきではないかという議論が,日弁連ではありました。ただ,そうしたときにどこまでが届出で足りる軽微なもので,どこからが認定を受けるべきものなのか,もちろん,それに関わって1の変更命令の対象はどこまでかという議論にもなってくるんだろうと思います。私自身は,それらの境界線について具体的なイメージは持ち切れていないので,問題点を指摘するところまでにとどまってしまうところです。
  併合・分割に関しましては,取りあえず,御提案としては賛成なのですけれども,(注)のところというか,それはほかの論点とも絡むところで,それ次第と思っています。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  1については御意見が分かれました。2につきましては,平川委員と林幹事と恐らく共通しているのかと思いますけれども,原則と例外を逆にすべきではないかという御指摘を頂きました。それに対して,これに賛成だという委員からの御発言もございました。それから,3については公益信託相互間に限るべきだという御意見がお二方から出たかと思いますが,更に変更,併合・分割に加えて事業の移転・取得も含めて,更に検討すべきであると,こういった御意見を頂きました。
  それでは,続きまして部会資料37の「第4 公益信託と私益信託の相互転換」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,御説明いたします。
  「第4 公益信託と私益信託の相互転換」については,(前注)に記載しておりますとおり,①公益信託の認定を受ける当初から一定期間後に公益信託を私益信託に転換させることを予定している場合,②公益信託の認定を受けた段階では私益信託に転換させる意図はなかったが,その後の状況の変化により,信託の変更により公益信託を私益信託に転換させる場合,③私益信託を設定する当初から一定期間後に公益信託に転換することを予定している場合,④私益信託を設定した段階では公益信託に転換させる意図はなかったが,その後の状況の変化により,信託の変更により私益信託を公益信託に転換させる場合の大きく4類型に整理することができるかと思います。ここでは,このうち,①から③までの類型について検討するということにしております。
  それでは,第4の「1 公益先行信託の可否」について御説明いたします。本文では,「公益先行信託は許容しないものとすることでどうか。」という提案をしております。
  ここでいう公益先行信託とは,公益信託の認定申請を受ける際において,一定期間経過後に私益信託に転換することを予定しているものを対象としております。公益先行信託は,当初から公益のために供する期間が一定期間に限定されており,公益信託としての認定手続などの社会的コストを掛けるまでの必要性について疑問があることや,税制優遇を受ける観点などから,これを許容しないとの提案をしております。
  第4の「2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更の可否」について御説明いたします。本文では,「いったん設定された公益信託について,信託の変更によって受益者の定めを設けることはできないものすることでどうか。」という提案をしております。
  公益信託の委託者は,特定の公益目的に財産を拠出するという意図で,その財産を信託する事例が大半であることに加え,公益性を理由に税制優遇を受けていた公益信託を受益者の定めを設けて私益信託にすることは,公益信託の関係者に不当な利益を与えることになり,相当ではないことなどから,一旦設定された公益信託については,信託の変更によって受益者の定めを設けることはできないものとすることを提案しております。
  第4の「3 残余公益信託の可否」について御説明いたします。本文では,「残余公益信託は許容しないものとすることでどうか。」という提案をしております。ただし,ここでいう残余公益信託は,残余公益信託の設定時において,将来公益信託に移行した場合の認定基準該当性を含めて,公益信託の認定・監督を行う行政庁等が判断することを前提としております。
  当初の私益信託の設定の段階で,例えば30年後の公益信託としての適格性や認定基準該当性の判断を新たな公益信託の認定を行う行政庁等が行うことは困難であると考えられることなどから,このような考え方を提案しております。なお,このような考え方を採用した場合であっても,私益信託を設定する際に,その信託行為において,受託者に対し一定期間後に公益信託の認定申請を行うことを義務付け,その期間経過後に受託者が公益信託の認定申請を行い,公益信託を設定することが禁止されるものではないと考えられます。
○中田部会長 ただいま御説明のありました部分について御審議いただきます。資料25ページの表のうちの④につきましては,昨年11月の部会で御審議いただきました。その際,①から③についても関連する御意見を頂いております。本日はその①から③について特に御審議を頂きたいと思います。それが第4の項目の1から3に対応しております。どこからでも結構ですので御自由に御発言をお願いいたします。
○小野委員 すみません,気になったことで私益という法律用語なんですけれども,その法律用語が本当に私の利益と理解されて,議論されているような感じがするんですが,公益的私益信託というんでしょうか,また,学説では公益信託であっても,受益者がいてもいいのではないかという考えもあり,海外ではそういうのもあるかと思います。ですから,私益だから,また,受益者がいるのはよろしくないというようなニュアンスにとられないように議論する必要があると思います。公益的私益信託もあってもしかるべきですし,前にも議論しましたように,不特定多数という公益性の要件において争いがあり得る特定の高校の学生や卒業学生に対する奨学金のように,場合によっては公益的私益信託を用いる,公益的目的信託もあり得るかもしれませんけれども,その辺の設計の自由度というのは認めてもよろしいかと思います。また,事業型の場合,事業が継続しなくなった段階で違う公益的又は準公益的私益信託のような形で継続することもあるかと思うので,そういう前提での議論でないと私益を個人的利益ととらえ,それはよろしくないという議論だと,恐らく転換は認めにくいという議論に近付いてしまうと思います。しかしながら,事業型の場合,公益的な私益信託また公益的目的信託という前提とすれば,自由度というものはよりなるべく認めてメニューを豊富にした方がよろしいのではないかという議論に近付くのではないかと思います。
○平川委員 1の公益先行信託の可否については,許容しないものとするという法務省案に賛成します。理由は,法律関係が複雑化しますし,また,税制優遇の観点から許容しないことが妥当であると考えます。
  2番の公益信託から受益者の定めのある信託への変更の可否についても,できないものとするという法務省案に賛成します。公益性を担保する根幹を揺るがすことから,受益者の定めのある信託への変更は不可と考えます。ただし,ただいま小野委員がおっしゃいましたように例外もあり得ると考えられ,例えば新受益者が公益法人等であり,その背後に不特定多数の受益者が存在して,公益性を認定できるような場合には,例外的に認められるということはあると考えます。
  3につきましても,残余公益信託は許容しないという法務省案に賛成します。理由は,私益信託の終了時点で公益信託への転換を図り,その時点で公益信託認定を取ることが法律関係を簡素化するものでありまして,私益信託の設定の当初の段階で,将来の時点で公益信託となることにつき,事前に公益認定をするということは実務的にも困難が伴いますし,これを許容する必要性も実益もないと考えます。
○中田部会長 ほかに。
○深山委員 第4の公益信託と私益信託の相互転換については,①,②,③と整理されたいずれも提案としては許容しないという提案ですが,私はいずれも許容するということを検討すべきだと思います。もちろん,いろいろなメニューを増やして使える可能性を広げるという総論的な観点もありますが,もう少し各論的に見ていったときに,税制の問題はさておいて,ここでは度外視して,仕組みとして先に公益信託を設定して,それが事後に私益信託になるという場合であれ,逆の場合であれ,最初から一定の設計がなされている①と③の場合には,全体として見て,公益信託として許容するかどうかということを判断して,それで,駄目だということもあるかもしれません。後ろに私益信託が予定されていることによって,前段の公益信託についても公益認定を認め難いという場合もあるかもしれません。しかし,そうでない場合もあるかもしれない。
  その逆もそうでして,私益信託が先行していたからといって,これが何十年後に公益信託になりますというのでは判断できないということが指摘されていますが,しかし,比較的短期間,私益信託が先行して近い将来に公益信託に移行するというような設計であれば,必ずしも当初の段階で公益認定の判断ができないとは限らないだろうと思います。ですから,そこはケース・バイ・ケースで,常に転換を認めるということではもちろんなくて,転換が認められる余地を残すというか,その可能性を制度として残した上で,あとはケース・バイ・ケースで許容できるかどうかを判断するということでよくて,最初から全て駄目ということはないだろうと思います。あえて例外的に認める場合だったら,最初から認めた上で駄目な場合もありますよという仕組みの方が素直だろうという気が致します。
  ②の事後的に変更する場合は,正に変更する時点での妥当性が判断されるのだろうと思いますが,いずれにしろ,制度としてはいろいろな可能性を残した上で,必要な要件ですとか,認定とかできちっとした規律にする必要は当然あり,そのことを当然の前提にしていますが,制度として否定する必要はないというのが私の意見であります。
○林幹事 ①と②の公益先行の方についてのみ申し上げますが,そこについて結論としては,こういうのもあってよいではないかという意味において深山委員と同じです。弁護士会の議論の中でも両論があるところですが,公益信託の促進という観点でメニューを増やすという意味において,公益先行信託の可能性も認めるべきではと思います。少なくとも今後のパブコメなりを考えたときに,両論があるという形でパブコメをやって,その上で,今後,議論を詰めればいいのではないかと思います。
  それから,一つは残余財産の帰属のところでは私自身は乙案で,一定の財産は当初の信託財産の額の限度で委託者に戻ってよいという意見なのですが,それとの対比で見たときに,ここと先ほどの残余財産の論点とは連動はしないはずですので,残余財産の論点では認めて,ここは否定するというのもあり得るので,公益から私益へという目的を残余財産を戻すというところにおいて実現するという考え方もあると思いました。また,逆に,残余財産について委託者に戻ることが認められるのだったら,こちらで認められてもいいという議論もあり得るところと思います。ですから,両論点は,連動はしていないのですけれども,それを制度としてどう組むかという問題であると考えます。
  それから,それとの関連では,①と②は,これもまた,実は連動しないと考えられて,①は認めるけれども,事後的な場合の②は否定するというのも論理的にありうるとも思います。この点は,制度としてどう組むかというところとは思いますので,指摘させていただきます。
○吉谷委員 残余財産につきまして私人に帰属させることは不適当だという意見との整合性から,①,②については反対でございます。①につきましては帰属権利者だけでなくて,私益信託に転換させるということで,更に何か,このような制度で公益信託をやろうと思う人が増えるとは余り思えないと思いました。公益認定を受ける手間が増えるだけですので,私益信託と一体,どこが違うのだろうと思いますし,公益事業をさせている受託者に,今度は私益のために何かをさせるというのは相容れないような気も致します。受託者も代えるのだろうかとか,いろいろ,考えてしまいますけれども,このような複雑な制度を導入する必要性というのは余り感じられないなと思います。もちろん,税制の問題のところは非常に大きな懸念点というところであります。
  ②につきましては税の問題に加えまして,当初の委託者の意図と全くかけ離れたものに変更するということを許容することはできないと思います。
  ③につきましては,これは信託設定時に公益認定できるかというと,認定の制度を作る上で技術的に非常に難しいのではないかなと考えました。そうすると,④も含めまして私益信託の終了時点で公益認定を受けるということになろうかと思われます。もし,そうするということでありましたら,信託の変更という方法をとる必要はなくて,そのような転換の制度を作らなくても,公益信託と私益信託という制度を組み合わせるということを実務的に工夫すれば,解決するのではないかなと思っております。
○能見委員 私の個人的な意見としては,全ての類型を認めるべきだと思いますけれども,先ほど税法の専門家から,税法の観点からはそれは駄目ですよと言われたので,余りこれ以上,議論してもしようがないところはあるのですが,ただ,先ほどどなたかが言われましたけれども,選択肢としてこういうのを提示して,パブリックコメントを募るということは,それなりに意味のあることだと思いますので,一応,原案としては残したらと思います。
  ①と②は,先ほどの残余財産の帰属権利者とある意味で共通する問題なので,そこで乙案を採って,こちらでも認めるというのが一番整合的だろうと思っております。それでもって,また,①,②に関して公益信託の期間というのが非常に短いようなものというのを当初から予定して,①ですかね,そういうのはまずいではないかということが書いてあったと思いますけれども,ここは単なる私法ルールではなくて,もうちょっと大きな政策的な考え方が問題になっていると思いますので,そういうルールとして一定期間以上,公益信託というものを行って,そういう意味で,社会に貢献しなくてはいけないというような規律にすることも考えられるかと思いました。
  それから,③は,私益信託の設定の当初から後で公益信託になることを予定しているからということで,当初の段階で公益の認定を受ける,税の優遇を受けるというのは,なかなか実際上は難しいかもしれないと思います。それに対して私としては,特にこれはという対案があるわけではありません。ただ,③は難しいにしても,ある意味ではハンブルな希望ですが,せめて④ぐらいは何とかできないかということを考えています。なんとか,私益信託を終了させないで公益信託につなげる方法はないだろうかということです。先ほども言いましたけれども,一旦,終了させて公益信託を設定することはもちろん可能なわけですが,一度終了させるというのと,そのまま継続するのでは,清算の有無などの点で大分違います。継続させるということのメリットは大きいものがありますので,そういう方法として,せめて④が認められるといいのではないかと思います。
  私益信託を公益信託につなげる方法としては,いろいろなことが考えられ,1つには私益信託で目的変更して,目的信託を介することなく,いきなり公益信託にするという方法,これが④かもしれませんが,私としては考えられるのだろうと思うわけです。もう一つ,私益信託から一度目的信託にする。その後に,公益信託に変わるということも,本当は考えられるのだと思いますが,私益信託と目的信託の関係については,現在の信託法の規律で相互の転換はできないとされておりますので,個人的にはこの規律も修正してできるようにすべきだと思います。しかし,そこはいじらいないんだとすると,私益信託からある意味で目的信託を飛び越えて,いきなり公益信託にするというのを目的変更を伴ってできるとする方法があるとよろしいのではないかと思います。
○中田部会長 ほかに。
○新井委員 1番目と2番目については,委託者が公益に財産を出えんしているわけですので,これは不可としたいと思います。そして,3番目については,税法上あるいは実務上の観点から法律関係を非常に複雑にするので,これも不可としたいと思います。それで,④の私益信託から公益信託だけ生きるわけですが,これを生かした上で,その後のことを少し検討したらどうでしょうか。というのはどういうことかというと,私益から公益へ転換というやり方はいろいろあるわけです。例えば私益の受託者は甲,公益の受託者は甲というやり方もあれば,私益の受託者が甲で公益の受託者は乙という,そういうやり方もあると思います。あるいは,同一性を保ったのにするのか,全く別の信託にするのか,継続性の問題もあると思うのです。あるいは吸収合併という,そういうようなやり方もあると思うのです。ですから,むしろ,④に限定した上でどういうことが実務的に可能なのかという辺りを詰めていくことが生産的ではないかなと思っています。
○中田部会長 ありがとうございました。④につきましては昨年11月の部会で御議論いただきまして,更に本日,能見委員,新井委員から,その方向についてもっと詰めろという御指摘を頂きましたので,部会資料34と併せて更に検討していただきますが,本日,それもさりながら,①から③について特にお願いできればと思います。
○樋口委員 私も藤谷関係官が代表している税の壁というので,何を言ってもという感じもなくはないんですが,しかし,藤谷関係官が言ったように,ここでは私法上のルールを決めているんだということです。つまり,今は私法的な法改革をやっているわけですよね。それで,現状をどうやっていい方向に変えていくかというので,一挙にはできないでしょうということではあります。しかし,後で出てくる名称のところで,つまり,公益という名称を使える,公益信託とはそのまま言えなくて公益先行信託でいいと思うんですけれども,そのままなんですから,しかし,残余公益信託とか,そういうものもある,それで,取りあえずは税制上の恩典はないかもしれない。しかし,そういうものが一つでも二つでも実際に税制上の問題ではなくて公益信託で,しかし,自分の利益も自分だけではなくて孫だか何だか分からないんですけれども,そういう人たちのことも両方を考えないといかんという,そういうようなものもあり得る,しかも,公益性もあるんだという名称もあって,そういうものが幾つか出てこないと,仕組みや何かは変わらない。
  だから,取りあえず税の壁は壁として,こういうものがあっても,本当にそういう人がどれだけ出てくるかというのを見てみようではないかという,出てきたら,しかも,藤谷関係官が危惧しているように単純に脱税だか何だかのためにうまく使うというだけの話ではない使い方をしている人がいて,そういう人には税法上の恩典だってあってもいいのではないかという話にまで進むこともあるかもしれない。私が死んでからだと思いますけれども,何であれ,何か一歩は記すというのはあってもいいかもしれない。その一歩の本当の小さな一歩として,パブリックコメントでこういうようなアイデアも,例えばアメリカなんかではあるんだよと,これは日本では受け入れられないんでしょうかというようなことを聞いてみる等があっていいではないかと感じました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  それでは,それぞれの論点について両方のお立場から御意見を頂いたかと存じます。あと,残り時間は僅かでございますが,できるところまで進めたいと思いますので,続きまして部会資料37の「第5 その他の論点」について御審議をお願いいたします。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,御説明いたします。
  「第5 その他の論点」のうち,「1 自己信託の方法(信託法第3条第3号)による公益信託の設定の可否」について御説明いたします。本文では,甲案として「自己信託の方法により公益信託をすることを可能とする。」,乙案として「自己信託の方法により公益信託をすることを可能としない。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度においては信託管理人を必置とするなど,信託管理人による監督の充実が図られる一方,委託者の監督権限は,目的信託の委託者の監督権限よりも限定される可能性があることから,信託法第258条第1項の趣旨は,公益信託については必ずしも妥当しないなどとして,自己信託の方法により公益信託をすることを可能とする考え方を甲案として提案しております。他方,公益信託の委託者があえて自らを受託者として公益信託を運営するニーズは多くないと考えられることなどから,これを否定する考え方を乙案として提案しております。
  第5の「2 公益信託の名称」について御説明いたします。本文では,「公益信託の名称に関して以下のような規律を設けることでどうか。(1)公益信託には,その名称中に公益信託という文字を用いなければならない。(2)何人も,公益信託でないものについて,その名称又は商号中に,公益信託である誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。(3)何人も,不正の目的をもって他の公益信託であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。(4)(3)に違反する名称又は商号の使用によって事業に係る利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある公益信託の受託者は,その利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度において,公益信託に対する国民の信頼の確保や税法上の優遇措置を視野に入れて検討する観点からは,その活動の透明性を確保することが重要であり,そのために公益信託の認定等の処分が公益信託に関して行われることを国民が理解できるように,公益信託の名称を付すことは有用であると言えることから,公益法人認定法及び一般法人法などを参考にして本文のような提案をしております。
  第5の「3 新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い」について御説明いたします。本文では,新法施行時に存在する既存の公益信託について,甲案として「新法の施行日から一定の期間内に新法の公益信託として認定を受けることを必要とし,その認定を受けなかった信託は上記の期間経過後に終了するものとする。」,乙案として「新法の施行日後に新法の公益信託として認定を受けることを必要とせず,その認定を受けなかった信託も存続するものとする。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度の下で,旧法の規定の適用を受けて主務官庁の監督に属する公益信託と,新法の適用を受けて新たな公益信託の認定・監督を行う行政庁等の監督に属する公益信託が併存するのは望ましくないことなどから,甲案を提案しております。他方,新法施行時に存在する既存の公益信託は,これまで特段の支障なく運営されてきたことなどからすれば,新たな公益信託の認定を受けることを必要とせず,その認定を受けなかったものも存続するものとすべきであるとの考え方もあり得るため,これを乙案として提案しております。
○中田部会長 三つ,それぞれ別の論点でございますので,できるところまで進みたいと思います。まず,「1 自己信託の方法による公益信託の設定の可否」についていかがでしょうか。
○吉谷委員 乙案に賛成いたします。委託者が公益信託を支配しないという基本的な考え方に甲案は合っていないと思います。税制も伴わないと思われますし,委託者の会計からオフバランスされるかというところでも疑問です。自己信託ではなくて,自分の財産を使って自らの計算で公益事業をすればいいというだけでありまして,そのようなものを公益信託とするニーズがあるとは思えないです。
○新井委員 私は個人的には乙案で可能としないということでよろしいのではないかと思います。ただ,それだけだとそっけないので参考までに申し上げたいことがあります。それは台湾信託法が参考になると思います。自己信託を導入すべきかどうか,台湾でも問題になりました。それで,結論はどうなったかというと,公益法人が委託者兼受託者で公益信託を設定する場合については自己信託を許容するとしました。ですから,一般的に自己信託は認めなかったのですけれども,公益信託の設定について公益法人が関与するときには可能であるという法制を作りました。ですから,事務局の方でその辺りの経緯を調べてもらい,結論がどうであるにせよ,そういう比較法的な検討をされることは大切なことかなと思います。
○中田部会長 ほかに1についていかがでしょうか。
○深山委員 ここでも甲案を考えていきたいと思います。根本的な考え方として,いろいろなところで出てくる委託者の立場をどう理解するかという点は,関与させるべきでないという考え方と,いやいや,公益信託の創設者として関与を一定限度で認めてもいい,あるいはむしろ認めるべきであるという根本的な考え方の違いがあろうかと思います。そこは一つの対立点なんですが,少なくともニーズがないかといったら,そんなことは全然ないと思います。委託者がこういう信託を作りたいと考えた際に,自らそれを受託者として運営したいと思う人は恐らくいると思います。
  ですから,そのことをそれはよろしくないことなんだというのは価値観の問題ですけれども,ニーズがあるかないかといったら,ニーズは間違いなくあると思います。そういう意味で,それが誰から見ても,どこから見ても正しい公益的活動だという評価がなされるのであれば,それを否定する理由はないと思います。実は公益信託と称して何か私的な利益を図るとか,脱税をするとかということが見えてくれば,もちろん,それは否定するという個別の判断をするということを前提に,仕組みとしては残していいのではないかなと考えます。
○平川委員 自己信託については甲案に賛成し,自己信託の方法により公益信託をすることを可能とすることに賛成します。理由は,民間による公益活動を促進する観点から,様々な多様なメニューを用意することが望ましいこと,及び公益法人が受託者になれるということになった場合において,ただいま新井委員がおっしゃいましたように実際的なニーズもあると思われます。想定されるのは寄附者から公益法人が使途を指定された寄附金を受け入れた場合に,このような指定寄附金について寄附者が委託者,公益法人が受託者という形態のほかに,寄附金を受け入れた公益法人が委託者兼受託者となる形態が考えられます。
  このような自己信託の場合の形態のメリットとしては,寄附者から資産が分離されることが明確になるとともに,寄附者は指定寄附の意思表示のみで事務手続は終了し,その後の信託関係を成立させることに伴う事務負担や成立後の権利義務関係から離脱することができます。英米においては,募金型公益信託が多いと理解しておりますが,これらはほとんど宣言信託による設定であると認識しています。今後,募金型が増えるということを想定しますと,自己信託は是非,実現していただきたいと思います。
○小野委員 深山委員,平川委員がおっしゃったことと重複するところもありますけれども,今,ESG投資ということで,非財務的な投資を推進していこうと,また,そういうのが企業評価につながっていくという大きな流れがございます。もちろん,好調な企業がESG投資を自らやればいいのではないかという吉谷委員のおっしゃっていることは,今現在,行われていることそのものですけれども,公益信託を自己信託の形で利用し,そこで倒産隔離,ですから,企業の業績がよくなくなったとしても,倒産隔離された資産をESG投資として公益目的のために利用できることを可能にする制度が導入されれば,恐らく非常に喝采を受けることと思います。
  受託者を探していく手間ひまとか,諸々のことを考えると,自己信託は大変有効なルールと思います。自己信託型に対して,制度設計の当初から何かよからぬことをするという前提で議論すると,がんじがらめになるおそれがありますが,今はそういう議論をすべきではありません。企業がそういう社会的貢献をしたいと思ったときに,それを倒産隔離した資産として明確になるような制度を提供するという姿勢こそが,非常に意味のあることだと思います。という観点から,平川委員もおっしゃったと思いますけれども,是非,甲案を提案していただくということは,公益信託を広める意味においても非常に有用と思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  この論点につきましては,意見が分かれておりまして,ただ,平川委員と新井委員の結論はそれぞれ違いますけれども,折衷的なものを御示唆いただいたかと存じますので,それも含めて更に検討を続けるということにしたいと思います。
  あと,二つあるんですけれども,既に時間が来ておりますので,司会の不手際で申し訳ございませんが,この2点については次回に持ち越しということにさせていただきたいと存じます。
  最後に,次回の議事,日程等について事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回は,本日積み残しになりました「公益信託の名称」と「新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い」の論点を御審議いただいた後,いよいよ,第二読会に入ります。そして,「公益信託法の改正に関する補充的な検討(1)」と題しまして,公益信託の定義や,公益信託の具体的な認定基準,これはできれば一まとめにして御審議いただくのが有用ではないかと考えまして,今,一生懸命,資料を作っているところです。
  次回の日程は,2月21日(火曜日)午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は,合同庁舎6号館のB棟4階の東京地検公判部会議室です。法務省の隣の検察庁の建物の更に横,公正取引委員会などが入っている建物になりますので,御注意ください。詳細については後日,開催通知と共にお知らせいたします。
○中田部会長 ほかに御意見等は。
○深山委員 質問なんですけれども,いわゆる二読というのをどのくらい,会議の数でいって何回ぐらいとかというイメージをお持ちなのか,あるいは資料との関係もあるとは思うんですけれども,今,答えられる範囲でイメージをお伝えいただければ有り難いんですが。
○中辻幹事 私どもが考えている理想的な展開としては,次回,公益信託の認定基準までまとめて御審議いただき,3月は公益信託の監督・ガバナンスについて,これもまとめて御審議いただく,そして,4月に残りの論点を御審議いただくというイメージでおります。
○深山委員 ありがとうございます。
○中田部会長 ほかに御意見等はございますでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,本日の審議はこれで終了と致します。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

メールマガジン2019年07月23日号

家族信託専門コンサルタント、川嵜一夫司法書士のメールマガジンです。

川嵜先生とは、小冊子の件でお世話になっています。

以下全文引用です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

信託の遺留分のお話し

おはようございます。

家族信託専門コンサルタントで司法書士の川嵜です。

このメルマガは、家族信託の実務家向けです。

一般の人はちょっと難しいかも。

「このメルマガいらないな」、と思ったら、以下から。

面倒な操作は不要で、2,3回クリックするだけで解除できます。

https://abaql.biz/brd/48s/minji-shintaku/mail_cancel.php?cd=02YcR4fy6hmCY1

先週のメルマガはお休みさせていただきました。

m(_ _)m

ちょっと最近、忙しすぎて、休みが必要だなと思いましたので。

すいません。

自主休刊でした。

先週は、

火曜に新潟大学で講義。

水、木は神奈川に出張。

金は事務所で仕事。(週に1日だけ)

土曜は宮城県司法書士会で研修会。

こんな感じで、大変なんです。(汗)

ご容赦ください。

新潟大学のテーマは民事信託。学生にとって身近な話題でお話しさせていただきました。

親や祖父母が認知症になったらどうなるか。

宮城県司法書士会さんでは、民事信託を使った事業承継をテーマに研修会をさせていただきました。

上層部の人もこのメルマガを読んでいるとのこと。

恐縮してしまいました。(汗)

どちらも、100名を超える参加者で、熱気ムンムン。

私もパワー全開でお話しさせていただきました。

今日も新潟大学で講義なので、頑張ってきます!

■■ 今回は遺留分のお話し

最近のメルマガは、信託の終了シリーズ

受益者連続の信託の終了のタイミング

信託の清算と結了

帰属権利者

今回は終了シリーズの4回目です。

内容は遺留分。特に受益者連続の。

まだ判決等で確定していませんが、主流な考え方をお伝えしますね。

■■ 家族構成

父、母、長男、二男

の4人家族

お父さんが、自分の資産の多くを長男に信託

委託者:父

受託者:長男

受益者:父 ⇒ 母 ⇒ 長男(帰属権利者)

何ももらえなかった二男は、遺留分の請求をできるかという問題です。

■■ お父さん死亡時

受益権が

父 ⇒ 母

に移ります。

このとき、二男は、お母さんに遺留分の請求ができます。

7月以降は、民法が変わるので、金銭請求になるのだと思います。

■■ お母さん死亡時

受益権が

母 ⇒ 長男

に移ります。

このとき、二男は、長男に遺留分の請求ができません。

え?!

もう一度言いますよ。

このとき、二男は、長男に遺留分の請求ができません。

これ、通説的な考えです。

なぜか?

実は、信託で後継ぎ遺贈型の受益者連続が認められた理由と深く結びついています。

■■ 遺言では後継ぎ遺贈型は無効

このような遺言ね。

*************

私の財産は、妻に相続させる。

妻が私から相続した財産は、妻が亡くなったら、長男に相続させる。

*************

これは、最高裁判決で明確に無効とされています。

しかし、これが信託なら可能になる。

遺言で無効な内容が、信託では有効。

どう理論づけたらいいのか?

立法担当者たちは、頭をひねったと思います。

(と、勝手に想像(汗))

■■ ポイントは、長男は受益権をだれから取得するのか?

後継ぎ遺贈型の【遺言】では、

母の財産を、

母 ⇒ 息子

とする内容。これを「父」が遺言で、書く。

自分の財産でないものを遺言ではかけないですよね。

信託ではどうか?

受益者が

父 ⇒ 母 ⇒ 長男

と動く。

ポイントは受益権の「期限」

●母が取得する受益権

母が取得する受益権は

母が死亡するまでの不確定な「終期」つきの受益権。

これを「父」から取得します。

当然ですね。

ですから遺留分の対象になる。

●息子が取得する受益権

息子が取得する受益権は、

母が死亡してから始まる不確定な「始期」つきの受益権。

これを「父」から取得するんです。

もう一度言います。

母が死亡してから始まる不確定な「始期」つきの受益権を

「父」から取得するんです。

息子は受益権を「父」から取得するんです。

ですから、何ももらえなかった二男は、

「父」が死亡したときに、長男にも遺留分の請求をすることになります。

つまり、二男は

父死亡時

母と長男に遺留分の請求(その割合は不明)

母死亡時

遺留分の請求はできない

もちろん最高裁判決はありませんが、通説的な説です。

■■ 実は、お母さんは遺贈の意思表示をしていない

別な見方です。

遺留分の請求は遺贈や贈与に対してできますよね。意思表示がともなっています。

「お父さん、私に何も渡さない遺言書くなんて、ちょっと不公平。

だから、私にも少しちょうだい」

っていうのが遺留分の請求。

お父さんは、信託という形で意思表示していますよね。

でも、お母さんは、何も意思表示していない。

「お母さん、私に何も渡さない信託で、ちょっと不公平。

だから、私にも少しちょうだい。

って、その信託、お父さんが書いたんだっけ」

というものです。お母さん、意思表示(遺贈や信託)していないんです。

ですから、お母さんが亡くなったときに、遺留分の請求というのもちょっと違和感があります。

■■ 参考書籍

ちなみにこの考え方(終期つき、始期付きの受益権を父から取得)ですが、

信託法改正の立法担当官だった寺本昌広先生の

「逐条解説 新しい信託法」に、詳しく記載されています。

残念ながらこの本は廃版です。

アマゾンで、目玉が飛び出るような価格で中古本が取引されていますが。

でも、新井誠教授や、道垣内弘人教授などの書籍でも、同じような内容で解説されていますよ。

「条解信託法」 道垣内 弘人

https://amzn.to/30YzE5B

「信託法 第4版」 新井 誠

https://amzn.to/30NDzSv

僕もこの2冊は時々目を通しています。

特に道垣内先生の本は、逐条解説ですから、おすすめです。(ちょっと高いけど)

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最後までお読みいただきありがとうございました。

バックナンバーはこちらです。

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家族信託コンサルタント

 司法書士 川嵜 一夫 (かわさき かずお)

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「つまり、二男は

父死亡時

母と長男に遺留分の請求(その割合は不明)」

「その割合は不明」、の部分について考えてみたいと思います。

前提

  • 仮に父死亡時の受益権は3000万円

考え方

父死亡時に母に移転する受益権は3000万円、長男に移転する受益権は0円

よって弟は3000万円の8分の1(4分の1法定相続分×2分の1遺留分割合)の金銭債権を母に請求。

となります。

親族以外の成年後見人は、信託法164条1項の終了の意思表示ができない、は可能か。

家族信託専門コンサルタントで司法書士の川嵜一夫先生が、5月30日付メールマガジンに記載されていました。

「親族以外の成年後見人は、信託法164条1項の終了の意思表示ができない。」という条項を入れて、不動産登記の信託目録にも記録する場合がある。

任意後見を利用する必要があまりない場合(親1人子一人など)に、第三者による信託終了をさせないための条項のようです。

この条項は初めてみて、機能するのかなと考えてみました。

結論としてはケースバイケースになります。

私も現在、「本信託において、信託法164条1項は適用しない。」という条項を信託契約書に入れることが多いです。理由は、委託者兼受益者が1人で信託を終了させてしまうと、民事信託・家族信託の安定性が失われるからです。

さらに、

「受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見人が就任している場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない。ただし、任意後見人、保佐人および補助人においては、その代理権目録、代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く。(1)本信託の終了に関する合意権。」という条項[1]を入れることもあります。

これは、親族に限らず民法上の成年後見人等に信託の終了に関する合意権を与えてしまうと、民事信託・家族信託が想定外のときに終了してしまう可能性があるからです。実際に機能するかは未だ分かりません。

ただし、任意後見契約に関する法律、成年後見制度の利用の促進に関する法律の趣旨、同委員会議事次第を読みながら、この表現なら調整可能だと確信したので自分で考えて入れました。信託財産に不動産がある場合、信託目録に記載はしません。信託の終了事由にいくつか記録して、「その他の事項は○○年第○○号月○○号信託契約公正証書(○○法務局所属)及びその変更を証する書面に記載」

と記録します。

さて、

「親族以外の成年後見人は、信託法164条1項の終了の意思表示ができない。」に戻ります。

この条項がどういう時に問題になり得るかというと、司法書士や弁護士が民法上の成年後見人に就いて、民事信託がされていることを知り、契約書で目にします。

「なるほど。私は法定代理人だけど、信託終了の意思表示は出来ないのか。」と考える司法書士や弁護士もいるかもしれません。

「何だこの条項は。法定代理人なんだから、信託終了の意思表示も可能に決まっている。これから自宅を売ろうとしているみたいだから、信託を終了させよう。」と考える方もいるかもしれません。

どちらが正しいのかは、成年後見人等の主観です。ただし、何が出来るかはある程度の範囲に落ち着きます。

信託を終了させたがっている成年後見人等を例に取ると、信託終了の意思表示自体は可能です。

理由は法定代理人だからです。

しかし、不動産登記は通りません。

親族以外の成年後見人だからです。よって、信託の終了を命ずる訴訟(信託法165条、166条)を提起することになります。

不動産売買契約はどうでしょうか?買主、不動産業者は受託者がどのような権限を持っているのかを調べます。その際に、受託者は忠実事務、善管注意義務を基に「成年後見人から信託終了の意思表示が届いていますけど、大丈夫ですよ。信託契約書には、信託法164条1項の終了の意思表示ができない、と書いてありますから。」と説明することになります。説明がなかった場合は、忠実義務違反、善管注意義務違反が問われます。

説明があった場合、買主は受託者と売買契約を行うでしょうか。不動産業者は仲介を行うでしょうか。私が買主だったら買いませんが、買うとしたら、この信託契約書を作成した人に対して、何かあった場合は責任を取る旨の書面を要求すると思います。

売買契約自体は、権限を持つ売主と買主の合意で締結出来て不動産登記も通るので、現金決済まで行うことが可能です(融資が絡むと別です)。

この場合も親族以外の成年後見人は、信託の終了を命ずる裁判(信託法165条、166条)その他の民法上の責任を問う訴訟を提起することになります。

預貯金はどうでしょうか。例えば、受託者が1億円分の預金を管理していて、同居している本人と自分の旅行、株式投資、金の売買、先物取引などを信託財産で信託契約に基づいて行っているとします。

この場合は、成年後見人等の管理している通帳に幾ら入っていて、その金額で業務が出来るのか、本人の1億円がゼロになっても生活していけるか、などのバランスが考慮されることになります。

金融機関は、信託契約書を保管していて、成年後見人等からの信託終了の意思表示だけでは、民事信託・家族信託専用口座を解約する可能性は低いのではないかと考えます。

信託の終了を命ずる訴訟(信託法165条、166条)の判決文などが必要になってくると思われます。

いずれにしても、訴訟になってしまうと時間とお金を費やして、精神的負担が生じます。

私の感想は、表現が少し過激かな、というものです。


[1] 任意後見契約に関する法律第2条1項1号。成年後見制度の利用の促進に関する法律11条1項5号。民法13条、17条。平成28年12月20日第6回成年後見制度利用促進委員会議事次第

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