渋谷陽一郎「日弁連ガイドラインにみる司法書士業務としての民事信託支援の難しさ(1)」

市民と法[1]の記事、渋谷陽一郎「日弁連ガイドラインにみる司法書士業務としての民事信託支援の難しさ(1)」からです。

1、の東京青年司法書士協議会の民事信託研究会については、沖縄県では働きかけても参加する方がいない、率直に良いなと思います。ゲストに関しては記載されている方々が、同業の司法書士等に対してどのようなビジネスを行っているのか、考えた方が良いように感じましたが、能力や経験があると勉強会の主催者が判断出来れば良い、という考えかもしれません。記事の筆者は、民事信託に関する記事で、何度も公益、市民のための、という用語を使用します。

司法書士の執務規律としては、ガイドラインに対して、どのように向き合うべきだろうか。司法書士の場合、子ども世代を依頼者として認識する人もいるようであるし、さらには、委託者と受託者の双方から受任を行っていると思う人もあろう。親族全体を依頼者であると感じている人もいるそうだ。

 日本司法書士会連合会の指針は、依頼者は委託者のみ、依頼者は委託者及び受託者の双方、という2つです[2]。依頼者は委託者及び受託者の双方、という考え方について、司法書士法関連法令に基づく根拠は記載されていません[3]

 1、利益相反による不当性の回避措置、2法律整序としての執務方法に注意、3、利用者に対して、そのリスクを説明し、明示的に委託者と受託者の承諾を得ることが出来れば、双方受任は適当(適法)と認められるのか、分かりませんでした。

たとえば、終了に関する別段の定めなどを信託条項化する場合、委託者と受託者との間の利益相反を生じうるリスクがあるが、そのような局面では、委託者と受託者の双方が、それぞれリスクを認識しておく必要があることから、それぞれに別の司法書士が助言する、弁護士のオピニオンをとるなどの手当てが必要となる場合があり、一人の司法書士が、双方を(特に委託者のリスク認識が曖昧なまま)、仲裁人的な立場で丸め込むようなことに加担してはならない(仮に仲裁であれば簡裁訴訟代理等関係業務の範疇ともなりうる)。司法書士法3条の法律整序事務であればこそ、適正な許容要件を踏まえた双方受任の理論構成を試行しうる(アプリオリに許容されるわけではない)。

 なお、民事信託支援業務に携わる司法書士の人々は、法律整序事務とは何か、その方法はいかなるものなのかを熟知しておく必要がある。

 別の司法書士が助言する、弁護士のオピニオンをとるなどの手当てが必要となる場合があり・・・同意です。費用面で上がりますが後の過誤や紛争を防ぐ可能性を上げることで、依頼者には説明することになると思います。定型がない現在、図を付けるとして、助言やセカンドオピニオンを得やすい提示の方法は模索が必要だと思います。信託設定書類のチェックは、事案によっては案の作成よりも時間や労力を使うことがあります。

 仲裁人的な立場で丸め込む・・・仲裁人的な立場と、日本司法書士会連合会民事信託等財産管理業務対策部が考えている調整役の違いが分かりませんでした。また仲裁法上の仲裁人は、依頼者を丸め込むこともあるのか、分かりませんでした。

 民事信託支援業務に携わる司法書士の人々は、法律整序事務とは何か、その方法はいかなるものなのか・・・著者が本記事P115で記載している裁判事務におけるメニュー論、に同意です。

受託者支援は、司法書士にとって、司法書士法施行規則(以下、「規則」という)31条1項業務となり得るので、情報提供およびリスク説明義務の履行が重要となる(同条1号の文言上、委託者支援は、同様の要件には該当しない)。

 文脈から、信託期中ではなく、信託設定時の場面であると想定されますが、司法書士法施行規則31条1項を根拠に、受託者支援業務を委託者との委任契約と同時進行で行い得るのか、分かりませんでした。私なら、信託設定時と信託期中は分けて考えます。

 記事で触れている、利益相反のリスクを最小化、という表現についても、分かりませんでした。私なら、信託設定時の受託者支援業務について、司法書士法施行規則31条1項を根拠にするのであれば、利益相反関係にあることを前提にします。

この点、家族信託契約書の自動作成ソフトやひな形提供サービスを利用することにリーガルリスクはないのだろうか、慎重に考えてみたい。

たたき台として利用する分には、良いのではないかと思います。最終的に責任を問われるのは司法書士個人です。

司法書士にとっての、遺留分侵害の有無に対する着眼点は、紛争性(法定紛議性)の蓋然性の有無である。遺留分が侵害される推定相続人(遺留分権者)の理解と納得があるか否かを確認しておきたい。

 たとえば、司法書士による遺留分対抗(潜脱)のしくみの教示や、司法書士が組成に関与した家族信託のしくみが遺留分権利者の意向に反し、結果として紛争を生じれば、司法書士の関与形態に応じて、潜在的に紛争性ある事件関与であると評価され、評価規範上、職務範囲の逸脱であると判断されるリスクも生じうる危険な領域である。

 遺留分侵害の有無に対する着眼点は、紛争性(法定紛議性)の蓋然性の有無・・・信託設定時に遺留分を侵害していると職務範囲の逸脱と判断されるリスクがあるのか、分かりませんでした。

 記事のように考えると、遺言書の作成支援で、全ての財産を相続させる、という内容だった場合、司法書士法3条の業務範囲で行っている限りでも、違法とされるリスクがある、とされる可能性が出てくるのではないかと考えられます。

 例として挙げられている、司法書士による遺留分対抗(潜脱)のしくみの教示と、遺留分権利者の意向に反し結果として紛争を生じた場合では、分けて考える必要があると思います。

 前者については、判例や法改正がない限り、法令の独自解釈であり、紛争性があると判断されるリスクがあると考えても良いと思います。

 後者については、記事記載のとおり関与形態が問われ、司法書士法3条の業務範囲である限り、紛争性がある判断された例は現在、ないと思われます。

 遺留分が侵害される推定相続人(遺留分権者)の理解と納得があるか否かを確認・・・本記事に記載の推定相続人(遺留分権者)は、信託設定時の人であると思われます。理解と納得がどの程度のものなのか分かりませんでした。私なら、説明をして、説明を受けました、という書類に署名(記名押印)を求めます。


[1] №142、2023年8月、民亊法研究会、P110~。

[2] 日本司法書士会連合会民事信託等財産管理業務対策部『任意後見と民事信託を中心とした財産管理業務対応の手引』2023年、日本加除出版、P20。

[3] 調整役について日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程【第三版】』日本弁護士会連合会、2017、P81 。

村松秀樹 (著, 編集), 富澤賢一郎 (著), 鈴木秀昭 (著), 三木原聡 『概説信託法』2008年版と2023年版比較、第四章から第10章まで。

村松秀樹 (著, 編集), 富澤賢一郎 (著), 鈴木秀昭 (著), 三木原聡 『概説信託法』、2023、金融財政事情研究会が出版されました。

旧版にあたる、村松秀樹,富澤賢一郎,鈴木秀昭,三木原聡著『概説信託法』2008年版との比較です。

誤りなどありましたら指摘願います。

第4章 受託者の変更関係

P189 1 受託者の任務の終了事由

注2【後見開始又は保佐開始の審判】の追加。

→成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律施行に伴う変更。

P203 2 相続人・成年後見人・補佐人又は破産管財人の義務

注13【成年後見制度適正化法による改正の影響】追加。

第5章 受益者・受益権等関係

P220 受益者指定権(信託法88条1項)について、記載の追加。

P233 3 信託と遺留分侵害請求

遺留分減殺請求から遺留分侵害請求に改められたことの記載を追加。

P234 (1)遺留分身体の対象の項、追加。

・民法1046条の贈与と実質的に同視することが出来る場合の考え方・例について記載。

(2)遺留分侵害額請求の相手方の項、追加。

侵害行為を受益権の付与などとみる場合・・・受益者など。

侵害行為を財産の移転とみる場合・・・受託者。

(3)財産の評価の項、追加。

受益権の価額を評価。

(4)侵害額請求の相手方が複数存在する場合における請求の順序

受益権・残余財産の付与の前後。

P244~ 1 受益権の譲渡 注4【旧信託法との関係】

契約上の地位一般については、譲渡当事者間の譲渡の合意に加えて、譲渡しようとする契約上の地位に係る契約の相手方の承諾が必要(民法539条の2。)。

注9【債権法整備法による改正前の信託法との異同】

受益権については、譲渡制限の定めを明文で制限する改正が行われていない理由を追加。

 受益権については同様に流通性を確保する具体的なニーズは必ずしも指摘されていない。信託行為の定めによって受益者を固定する必要性は、民法における債権譲渡の場合と比較して高いともいえる。

注13【異議をとどめない承諾についての抗弁切断効】

債権譲渡の受益権の譲渡との差異が亡くなったことの記載。

P249 3 受益権の相続による承継(対抗要件を含む)の項、追加。

信託法94条、95条の説明。

P256~ 2 受益債権の消滅時効

債権法改正による、主観的起算点からの消滅時効5年と客観的起算点からの消滅時効からの消滅時効10年が通常の信託における受益債権に適用されることの記載追加。

注4【消滅時効の具体的な当てはめ】追加。

民法166条に従い、確定期限が付されている場合など、ケース別の記載。

注6【債権法改正後における定期金債権の取扱い】追加

 定期金債権について民法168条1項が適用。定期給付債権について、民法166条1項、信託法102条2項が適用。

P260 (3)除斥期間

除斥期間が消滅時効とは異なるものであること、起算点は受益債権を行使することができる時、であることの記載追加。

P264~ 3受益権取得請求権の行使手続

注12【価格決定前の支払制度】追加。

会社法117条5項、信託法104条9項の説明。

P271~ 3 受益権者集会

注15【書面の要求】

信託法110条2項ただし書の記載追加。

P281~ 【54】信託管理人・信託監督人・受益者代理人

注9【不適格事由の削除】の追加。

→成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律施行に伴う変更。

P290~ 【55】委託者の権利義務

注3【委託者に権限を留保した理由】

 信託法182条2項が適用される者は、信託の終了後の地位であるため、性質を異にすることの記載追加。

P422~ 2 定型約款に関する規律と受益者との関係、の追加。

 委託者兼受益者と受託者とが信託契約と締結するという取引が並行的に多数行われる取引が並行的に多数行われるケースにおいては、定型約款に関する規律が適用され得る旨の記載。

P423~ 3 定型約款の変更と信託の変更、の追加。

 特別法である信託法の規定が優先的に適用され、一般法である民法の規定は、特別法である信託法の規定に矛盾しない範囲で補充的に適用される。

注1【具体例】の追加。

貸付信託、合同運用金銭信託、委託者非指図型投資信託等が該当。

注2【類推適用の要否】

 受益者による受益の意思表示とこれによる受益の意思表示について、類推適用の余地がある。

注3【業法上の特例】の追加。

信託業法29条の2について記載。

P430 (3)公益信託の特例

 主務官庁は、信託の本旨に反しない限り、適用される法律を新法とする旨の信託の変更を命じて、新法信託とすることができる(信託法整備法6条1項)、の追加。

注9【主務官庁による変更命令】の追加。

主務官庁のみが新法信託への移行を決定することが出来る、旨の記載。

村松秀樹 (著, 編集), 富澤賢一郎, 鈴木秀昭 , 三木原聡(著) 『概説信託法』2008年版と2023年版比較、第一章から第三章まで。

 村松秀樹 (著, 編集), 富澤賢一郎, 鈴木秀昭 , 三木原聡(著) 『概説信託法』、2023、金融財政事情研究会が出版されました。

 旧版にあたる、村松秀樹,富澤賢一郎,鈴木秀昭,三木原聡著『概説信託法』2008年版との比較です。

誤りなどありましたら指摘願います。

目次

小目次の削除。

【46】後継遺贈型の受益者連続信託における、信託と遺留分侵害請求の追加。

【48】受益権の譲渡等及び相続による承継における、受益権の相続における承継の追加。

【71】信託契約の締結と定型約款の追加。

・各箇所・・・新法から現行信託法への変更。

  • 総則関係

P5 「事業」が信託されるものではない。の追加。

P7 受働信託(名義信託) 信託の定義との対比で有効・無効を判定すれば足り、の追加。

P19からP20 受託者の□ 信託法7条に関して、成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律施行に伴う変更。

P28からP29 信託財産に属する財産の取戻し(詐害信託取消請求)注1、注2、注3の追加。 

注1【一般的な詐害行為取消請求の直接適用】

3つのケース別に考え方を提示。

注2【詐害信託取消請求等についての民法の適用】

 基本的に、信託法の特例の規定と両立しない規律を除き、民法の規定がそのまま適用される。地位の置き換えをしながら、民法の詐害行為取消権の一般的な要件を満たす必要がある。

民法424条の7第2項(訴訟告知)

注3【帰属権利者について】

原則として、残余財産の帰属権利者を含まない(信託法182条。)。

P33 受益者に給付された財産の取戻し(受益者給付取消請求)、注11の追加。

注11【同趣旨の規定】

会社法759条2項、同条3項。

P42 3不動産登記法等における信託の公示に係る規定の整備、注8の追加。

注8【信託の登記の法的な位置付け】

 そうすると、信託の変更の登記をするに当たって、厳密にいえば、不動産登記令別表25の項の適用はなく、登記原因証明情報の提供は必要がないと解することができる(したがって、受益権の譲渡当事者の作成した譲渡証明書の提供などは必要なく、受託者作成の報告書において譲渡の経緯が証明されれば足りると解することができよう。)。

  • 信託財産関係

(1)信託財産と固有財産との間での共有物の分割

P56 信託法105条1項ただし書きの追加。

P57 信託法84条中の、信託法19条の規定の適用について、受託者とは受託者全員を指すこと、の追加。

P58 信託法19条4項の説明の追加。

(2)自己信託についての特例

P68 信託法23条3項で準用される、信託法11条1項7項、同条8項の追加。

  • 受託者の権限、義務、責任等関係

P94 2権限に基づいて信託事務の処理を第三者に委託した受託者の義務及び責任、注5の追加

注5【第三者の監督と債権法改正の関係】

民法105条の改正による、信託法の規律との均衡について考え方を追加。

改正前民法105条

1 代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。

2 代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。

P119 1 分別管理義務の内容、注2について追加。

注2【法務省令による例外的な扱い】

信託法施行規則4条は、信託法14条の信託の登記又は登録をすることができる財産には当たらない財産についての特例という位置付けであること。

P143 【27】他の受益者の氏名等の開示の請求、注2【信託帳簿等の閲覧等の請求の拒否自由との対比】に追加。

 平成二六年六月二七日法律第九一号改正後の会社法125条3項(株主名簿の備置き及び閲覧等)と信託法38条2項との対比

会社法(株主名簿の備置き及び閲覧等)

第125条 株式会社は、株主名簿をその本店(株主名簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければならない。

2項略

3 株式会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。

一 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。

二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。

三 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。

四 請求者が、過去二年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

信託法(帳簿等の閲覧等の請求)

第三十八条 受益者は、受託者に対し、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

一 前条第一項又は第五項の書類の閲覧又は謄写の請求

二 前条第一項又は第五項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

2 前項の請求があったときは、受託者は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。

一 当該請求を行う者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。

二 請求者が不適当な時に請求を行ったとき。

三 請求者が信託事務の処理を妨げ、又は受益者の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。

四 請求者が当該信託に係る業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。

五 請求者が前項の規定による閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。

六 請求者が、過去二年以内において、前項の規定による閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

P154 【31】損失填補責任等に関する消滅時効等

民法167条改正による説明の追加。

P171 (5)費用等の償還等を受ける権利の行使に対する制限、注14の変更。

注14【受託者による代位の規律】→注14【受託者の保証人地位と代位】

P176 【35】受託者の信託報酬

信託法54条4項、民法648条の2についての説明。

注8【委託者又は受益者の帰責事由】の追加。

民法536条2項の説明。

家族信託の相談会その57

お気軽にどうぞ。

2023年7月28日(金)14時~17時

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円

場所

司法書士宮城事務所(西原町)

要予約

司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

加工「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題」(2023年6月)

加工「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題」(2023年6月)

金融庁

https://www.fsa.go.jp/news/r4/20230630/20230630.html

2「実行を容易にするツールを根絶する」ための対策

(4) 預貯金口座の不正利用防止対策の強化

 不正に譲渡された預貯金口座等が、犯罪者グループ等内での金銭の授受等に用いられている実態がみられるところ、預貯金口座に係る顧客管理の強化を図り犯罪への悪用を防止するべく、業界団体等を交えた検討を行いつつ、犯罪収益移転防止法により求められている預貯金口座利用時の取引時確認や金融機関による顧客等への声掛け・注意喚起を徹底・強化するなどの対策を推進する。

 また、犯罪収益移転防止法等で定められている本人確認の実効性の確保のため、制度改正を含め、非対面の本人確認においてマイナンバーカードの公的個人認証機能の積極的な活用を推進する。

(2) デジタル技術を活用した取引時確認手法(e-KYC)におけるリスク

 e-KYC(electronic Know Your Customer)とは、オンラインで完結する本人特定事項の確認方法の通称であり、2018年11月の犯罪収益移転防止法施行規則の改正・施行により、同規則第6条第1項第1号ホからトなどの方式が新たに認められた。近年、金融機関では、顧客から写真付き本人確認書類の画像と本人の容貌の画像の送信を受ける方法(同号ホ)が多く用いられている。なお、金融機関が、e-KYCを実施するに当たっては、申し込みのあった顧客について本人であることの確認や本人確認書類の精査等の本人確認手続の一部を、1件当たり数百円などの単価で他の企業に委託していることが一般的である。

 しかしながら、金融機関が、当該e-KYC業務の委託先に対して、適切な研修や指導を実施しなかった場合や、本人確認手続の一部を受託した事業者が適切な確認作業を実施していない場合、委託先におけるe-KYC業務が適切に実施されず、適切な取引時確認がなされないリスクがある。

 また実際に、金融機関の顧客が、e-KYCにおいて偽造した運転免許証等を用いて口座を開設しようとした事例も発生している。偽造した本人確認書類等で作成された口座は、特殊詐欺の犯行グループ等により、マネロン等に悪用されるおそれがある。

 このような点を踏まえ、金融機関においては、e-KYCを他の企業に委託している場合には、e-KYCが法令等に基づき適切に実施されることを確保するため、委託先の定期的なモニタリングや最近の検証実績の確認、e-KYCの悪用事例を踏まえた検証態勢の高度化の検討等の措置を講じることが重要である。

 また、e-KYCを利用するに当たっては、偽造本人確認書類を検知できるよう適切な検証機能を整備し、不正な口座開設申請を検知した場合には、警察庁への通報や疑わしい取引の届出を行うことが必要である。利用するe-KYCの手法についても、利用者の真正性がより確認しやすいマイナンバーカード等に搭載されている公的個人認証機能による本人確認方法(犯罪収益移転防止法施行規則第6条第1項第1号ワ)等を検討することも考えられる。

 いずれにしても、各金融機関においては、e-KYC等が悪用され、自社の金融サービスを不正利用されない為の対策を講じることが重要である。

イ 地域金融機関の現状と課題

(イ) 継続的な顧客管理

 継続的な顧客管理の実施に当たっては、自らが抱える全顧客のリスク評価に応じた中長期的な行動計画を策定した上で、その進捗を管理しながら着実かつ丁寧に対応を進めていくことが重要となる。しかし、以下のとおり、一部の金融機関においては取組状況に遅れが認められた。金融庁としては、2022年3月公表の改訂FAQにおいて、改めてSDDの考え方について留意点を明確化する改訂を行っており、引き続き、検査・監督のほか様々な意見交換会や研修・勉強会といったアウトリーチ(金融機関に対し、対策の必要性とあり方について働きかけを行う取組)を通じて、顧客情報の更新を含む継続的な顧客管理に関する態勢整備を促している。

【取組に遅れが認められる事例】

・ リスクに応じて提供できない商品や確認すべき事項を定めた顧客受入方針を策定していない。

・ 犯罪収益移転防止法施行規則第7条に定める本人確認書類に加え、顧客及びその実質的支配者について調査する事項及びリスクに応じ、具体的にどのような公的な書類(経歴や資産・収入等を証明するための書類等)をいかなる場合に「信頼に足る証跡」として顧客に求めるかを検討していない。

・ 顧客の本人確認事項、取引目的等や、実質的支配者の本人確認事項について、いかなる場合にどのような情報を調査するのか、犯罪収益移転防止法に定められている内容にとどまり、リスクベースの対応が規程等に定められていない。

・ 制裁対象者リストの照合手順は定まっているものの、該当候補者がヒットした場合の判断手順が具体的に定められていない。

・ 具体的な高リスク顧客の範囲を明確に定めておらず、的確に検知する仕組みが出来ていない。

・ 高リスク先と判断された顧客以外の顧客について、高リスク先と判断された顧客と類似又は共通する項目等がないかを確認していない。

・ 過去に疑わしい取引を届け出た対象顧客を高リスク顧客として管理していない。

・ 生活口座(給与振込口座、住宅ローン返済口座、公共料金等の振替口座)については、一律SDD対象としている。

・ 顧客リスク評価に影響を与える事象が発生した場合に顧客リスク評価の見直しが行われていない。

・ 国籍や業種等一つの要素のみを理由として、特定の国籍・業種の顧客に対して一律に謝絶することとしている。

【取組が進んでいる事例】

継続的顧客管理(DM送付)への対応について、県内の金融機関はもとより、隣接県内の金融機関、行政機関、銀行協会及びマスコミ等と連携した上、マネロン対策会議を開催し、共通チラシの活用等を通じて県民への理解・浸透を図ることにより回答率の向上を目指している。

・ 自社におけるリスクの特定・評価の結果を踏まえ、取引開始時及び継続的取引における「顧客受入に関する方針」を策定し、取引類型・顧客属性ごとのリスクに応じた対応方針を定めている。

店舗の所在地との地縁の有無等を法人顧客の口座開設における判断基準の一つとしている。

・ 犯罪収益移転防止法施行規則第7条に定める本人確認書類に加え、顧客及びその実質的支配者について調査する事項、及びリスクに応じ具体的にどのような公的な書類(経歴や資産・収入等を証明するための書類等)をいかなる場合に「信頼に足る証跡」として顧客に求めるかを検討の上、一覧表に取りまとめ、実施手順等を規程等に定めている。

→規定について、起業する者がどの位の期間で口座開設出来るのか、分かる範囲で公開する必要があると考えます。

・ 注意コードを設定することなどにより高リスク顧客であることが営業店の端末でも把握できるようにされており、必要なEDDを漏れなく実施することができる仕組みを構築している。

・ 全ての顧客に対して顧客リスク評価を付与し、顧客リスク評価に応じて情報更新の頻度や取引モニタリングのシナリオ・敷居値を変更するだけでなく、顧客の事業内容等を踏まえ、実態に即して、追加的なリスク低減措置を講じている。

・ 規程等により頻度を定めた上で、高リスク顧客の属性や取引形態等を分析し、共通点がみられる項目については高リスク要素として顧客リスク評価ロジックや取引モニタリングルール等に機動的に反映している。

・ 過去に疑わしい取引を届け出た対象顧客について、届出内容に応じ、高リスク先と特定・評価し、システム上でフラグが立つ等の情報共有態勢を構築している。

・ SDD対象とした顧客についても、取引振りや高リスク顧客との関係性等を考慮して必要に応じてSDD対象外としている。

・ 顧客リスク評価を、リスクに応じた頻度で定期的に見直すだけでなく、顧客において、経営戦略の見直し、新規事業の開始、合併・買収、実質的支配者の変更、資金移動のパターンの顕著な変化、ネガティブ・ニュースが報道された等、顧客リスク評価に影響を及ぼすような事象が発生した場合には、直ちに、実態把握を行い顧客リスク評価の見直しを行うこととしている。また、リスク評価に影響を及ぼす事象の検知方法、判断基準、手続等を事前に文書化し、第1線を含む関係部署に周知徹底している。

・ 顧客に提供している商品・サービス、顧客属性等も踏まえつつ、リスクに応じて、複数のリスク遮断の方法を検討している。

4.マネロン対策等に係る業務の共同化

 法律・会計等専門家が行う取引時確認事項については、司法書士等、行政書士等、公認会計士等及び税理士等に対して、顧客に本人特定事項を確認する義務のみが課されていたが、これを改正し、取引を行う目的、職業・事業の内容、法人の場合にはその実質的支配者の確認を求めることとした。また、改正前は、法律・会計等専門家には、疑わしい取引の届出義務は課せられていなかったが、行政書士等、公認会計士等及び税理士等においては、守秘義務に係る法律の規定によって漏らしてはならない事項が含まれる場合を除き、疑わしい取引の届出が義務付けられたほか(司法書士等については、会則で代替措置が設けられる予定。)、リスクの高い取引については、疑わしい取引の届出判断として、資産・収入の状況を確認する義務が課された。

(3) 実質的支配者リスト制度に係る連携

 マネロン対策等においては、法人の悪用防止のため、実質的支配者(Beneficial Owners:以下、「BO」という。)の確認が重要とされており、犯罪収益移転防止法においても、法人顧客の実質的支配者の確認が義務付けられている。

 2022年1月31日より、法務省により実質的支配者リスト制度(以下、「BOリスト制度」という。)が開始された。これは、全国の商業登記所が、株式会社等(利用者)が提出した自社の実質的支配者に関する情報が記載された書面(実質的支配者リスト。以下、「BOリスト」という。)を確認した上で、その写しを交付する制度である。BOリストの写しを活用することで、確認手続の円滑化が期待されるものであり、金融庁においても、法務省と連携し、所管業界への周知や制度の活用を呼び掛けている。

 BOリストの写しについては、一部の地方銀行においては、法人(非上場株式会社)の新規口座開設の際に、口座開設を希望する顧客に依頼して、法務局での取得と銀行への提出を依頼しているなど、積極的に活用されている事例もある。BOリストの写しは、法人顧客の実質的支配者について確認を行ったことの証跡として使えるものであり、より多くの金融機関において活用されることを期待したい。

 また、BOリスト制度については、一般社団法人金融財政事情研究会により「商業登記所における実質的支配者リスト制度の利便性向上に関する研究会」59が立ち上げられ、2023年5月から議論が開始されている。全国銀行協会及び全国地方銀行協会などがメンバーとして議論に参加しているほか、法務省、財務省及び金融庁もオブザーバーとして参加し、制度の更なる活用に向けた利便性向上策について検討を行っている。

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