法制審議会信託法部会第21回~25回

2016年加工編


法制審議会信託法部会
第21回会議 議事録

第1 日 時  平成17年9月30日(金)  自 午後1時02分
                       至 午後5時45分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   第16 委託者の占有の瑕疵の承継について
   第17 信託事務遂行義務について
   第21 分別管理事務について
   第22 信託事務の処理の委託について
   第23 帳簿作成義務等について
   第25 受託者の損失てん補責任について
   第29 検査役選任請求権について
   第32 費用等の補償請求権について
   第37 受託者の解任及び辞任について
   第39 前受託者等の義務等について
   第48 受益権の譲渡について
   第52 受託債権等の消滅時効等について
   第53 私益信託における委託者の権利義務等について
   第63 遺言信託について
   第64 契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務について
   第71 受益者が複数の場合の損失てん補請求と原状回復請求の関係

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● それでは,これから信託部の部会を開催したいと思います。
  皆さんお忙しい中おいでいただきまして,ありがとうございました。
  それでは議事の進め方につきまして,○○幹事からお願いします。


● それでは本日の議事でございますが,全部で16項目ございますけれども,16から22までを1番目,23から29までを2番目と,32から39までが3番目,48と52を4番目にやりまして,最後に53から64と。


あと71は新たなテーマでございますので,これだけちょっと独立して御議論いただければと。細かく言いますと6つになりますか,そういう感じでやらせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

● それでは続けて。
● それでは,まず第16の委託者の占有の瑕疵の承継について御説明を申し上げます。

  結論的には,試案にありました乙案を採用しまして,13条1項の趣旨を維持することを提案するものでございます。なお,2項は削除することを提案いたします。


パブリック・コメントの結果でございますが,信託の安定性や受益者の利益の観点から,1項を削除すべきであるという意見と,信託の濫用防止の観点から1項を維持すべきであるとの意見がございましたが,維持すべきであるとの意見が多数を占めました。


また,委託者が信託を濫用的に利用することによって,占有の瑕疵の治癒を図るという弊害を防止すべきであるとの要請は改正法のもとでも妥当すると考えられます。


そこで,1項の趣旨を維持してはどうかと提案するものでございます。
  また2項は,占有の行使力の点で特殊性を有する有価証券についても,占有の瑕疵が承継されることを示す注意規定であると解されておりますが,信託の場合におけるこのような特殊性をあえて2項を置かずとも1項により明らかであると解されます。


そこで,2項の注意規定は削除してはどうかと提案するものでございます。

  なお,パブリック・コメントでは,いわゆる自益信託と他益信託とで区別して取り扱ってはどうかという意見もございました。


しかし,両者の区別は相対的なものでございまして,例えば,とりあえずは他益信託で設定し,その後直ちに委託者が受益権を譲り受けるという形をとった場合でも,この見解によりますと占有の瑕疵を治癒できることになってしまいまして,妥当ではないと思われます。


そこで,この区別する意見は採用しないということとしております。
  また,学説上,13条を根拠といたしまして,権利変動に関する対抗の問題でも,自益信託の信託財産すなわち受託者には第三者たる資格を認めるべきではないという解釈が存することを踏まえまして,仮に1項を維持し,委託者の占有の瑕疵が承継されるということになりましても,受託者が第三者たる資格を否定される根拠とはならないという旨を明示すべきであるという意見がございました。


しかし,本提案の立場は,自益信託か他益信託かの区別を採用しないものでございますので,この学説の考え方を採用する前提を欠くというべきものでございます。


さらに申しますと,委託者からの倒産隔離が信託における重要な機能の一つであることには異論はないところでございまして,そのことは,委託者の債権者は,原則として詐害信託取消権を行使できる場合以外には,信託財産に対してかかっていけないとしていることからも明らかでございます。


1項は,あくまでも占有の瑕疵の承継についての局面に関するものでございまして,これを維持したからといって,それ以外の委託者の倒産からの隔離の場面におきまして,受託者が委託者とは,法律上独立の地位を有するものであることは,明示するまでもなく否定するものではございません。

  もっとも,受託者にこのような法律上独立の資格を認めることと,権利変動に関する対抗の局面や権利の瑕疵の承継の局面において,通常の取引の局面とは異なる信託の特質性を考慮した解釈を行うこととは矛盾しないものでございまして,受託者が権利変動の局面において対抗要件を必要とする第三者に当たるか,あるいは権利の瑕疵が原則として切断されるべき第三者に当たるか,といった点につきましては,一律に決するのではなくて,当該信託のスキーム,殊に受益者の利益を保護すべき必要性の程度に応じまして解釈によって対応することが,適切な結論を導くと考えるものでございます。


  以上が,第16についてのパブリック・コメントを踏まえた再提案ということでございます。

  続きまして,第17の信託事務遂行義務についてでございますが,これは試案のとおりとすることを提案するものでございまして,試案につきましては賛成意見が大勢を占めております。


もっとも「信託の本旨に従い」という抽象的表現を多用すべきではなくて,現行法4条のとおり「信託行為の定めに従い」とすべきであるとの意見もございました。


しかし,民法の委任におきましても,「委任の本旨」という文言の用いておりまして,「信託の本旨」というものを用いることは,このような立法例とも平仄が合うものと考えられます。


そこでこの提案でも「信託の本旨」との文言を用いることが相当と判断したものでございます。

  続きまして,第21の分別管理について御説明申し上げます。パブリック・コメントにおきましては,試案の方向に賛成する意見が大勢を占めましたが,金銭債権など物理的管理を観念し得ない金融資産ですとか,信託財産の管理を第三者に委託した場合などにつきまして,規定の明確化を望む意見がございました。


そこで,分別管理の方法につきましては,信託財産が適切に確保される方法として,法務省令で定める方法によるべきものとする,ということに規律を改めることを提案するものでございます。


このように法務省令で定める方法に委ねるとすることによりまして,信託財産の性質に応じた具体的な分別管理の方法,すなわち登記登録ですとか,帳簿によるか,物理的分別が必要か,などという点。


それから証券保管振替機構ですとか,海外カストディ等の適切な第三者に信託財産,特に券面のある有価証券の管理を委託した場合の分別管理のあり方,さらには新たな財産の取得の形態が開発された場合における分別管理のあり方,などにつきまして,信託法自体に定めをおく場合よりも,より具体的かつ明確に,さらに時期に応じた柔軟な対応が可能となると思われるからでございます。


なお,法務省令の制定の際には,改めてパブリック・コメントを通じて内容を確定していくことになりますが,想定される方向性といたしましては,基本的には試案及び補足説明に記載した内容を踏襲いたしまして,この資料の7ページに記載したような方向性で考えているところでございます。


  また,試案の補足説明におきましては,この資料の5ページの下の方に,少し小さなポイントで記載いたしましたとおり,信託財産が信託の登記または登録をすることができる財産である場合においても,信託行為において受託者が経済的な窮境に至ったときには,遅滞なく信託の登記登録をする義務があるとされていると認められる限りは,分別管理義務が課されていると解してよいと述べたことに関しまして,1つは一般的にこうした取り扱いを許容すべきではないという方向性の意見,その対極といたしまして,信託行為で定めれば登記登録義務を完全に免除できるものとすべきであるという意見,それからいわば中間的な意見といたしまして,現行実務では抵当権付債権の信託がされる場合の抵当権ですとか,重要性が低く,あるいはすぐに除去される予定の建物などについては,一時的とはいえ登記を免除することが一般的でありますので,この趣旨を明確化すべきであるという意見,などが寄せられました。


  しかし,最初の2つの両極の意見につきましては,まず信託の登記登録義務を完全に免除してしまうということは,要するに受託者からの倒産隔離を放棄してしまうものでございまして,もはや信託としての意義を認めることはできず,相当ではないと思われますし,他方におきまして,補足説明が許容しているような一時的な免除というものは,分別管理義務の主たる目的である,受託者からの倒産隔離を害することなく信託財産の効率的運用を通じて受益者の受益に資する場合があると評価できるのでありまして,信託行為に定めがあることを前提に,このような一時的な免除を認めることまで否定する必要はないというふうに思われるところでございます。
  


なお,最後の意見につきましては,経済的な窮境と申しますのは,信託財産の倒産隔離効果を確保するために信託の登記登録をすべき現実的な要請が顕在化する典型的な場合,これを挙げたものでして,抵当権付債権の信託における抵当権ですとか,除去予定の不動産の信託についても,信託の登記をすべき現実的な要請が顕在化する一定の事情が発生するまでは,登記登録義務を免除することができる,といたしましても,なお信託の意義を失うものではなくて差し支えないと思われます。


もっともいかなる事情が生じようとも,登記登録義務を免除してしまうということは,先に申しましたとおり,信託の意義を認めがたく妥当ではないと思われます。以上のような考え方を前提といたしますと,補足説明に述べたような,この小さなポイントの考え方を維持することでよいと思われるというのが,事務局の見解でございます。


  最後に,信託事務の委託について,第22について御説明を申し上げます。本日はこの第22のうち,提案の2の(1)にかかります甲案と乙案についてのみ審議願いたいとの趣旨でございます。後日,改めて全体について本日の御審議を踏まえて御提案する予定でございます。
  

この点につきまして,パブリック・コメントの結果は,受託者は原則として選任監督責任のみにとどまるとする甲案が,より多数意見を占めました。


なお,甲案と乙案を指示する理由として挙げられている意見の趣旨は,それぞれ資料の8ページと9ページに記載させていただいたとおりでございます。


いずれの考え方をとるべきかを改めて御審議願いたいわけですが,ただ社会の分業化,専門化が進んだ現代社会の経済実態を重視しまして,現行に比べて信託事務の趣意を他人に委託できる場合を実質的に拡大するという提案1の趣旨からいたしますと,甲案の考え方の方が一貫しているように思われるところでございまして,乙案によるときは結局受託者が相当な委託をもちゅうちょしたり,信託報酬の上昇を招くことになりまして,かえって受益者の利益にも資さない結果になるのではないかと懸念されるところでございます。

また,甲案をとった上で,現行法26条3項を削除するとなりますと,受益者の保護が後退するのではないかとの意見に対しましては,資料の9ページから10ページ,ぽつが3つございますが,そこに書きましたような方法があることにかんがみますと,決して受益者の利益の方が現行法よりも劣る結果になるとは言えないのではないか,と思われることにつきまして付言させていただきます。
  以上でございます。


● それでは,今説明があったところについて,順次御議論いただきたいと思います。


これからいろいろ決めていかなくてはいけないわけですので,合意ができるものについては決めていきたいと考えておりますし,また,いろいろ意見が対立するものについても,もしある方向性が出せるものであれば,その方向性を確認しながら進んでいきたいというふうに考えております。いずれにせよ,今の範囲で御自由に御議論をお願いいたします。


  皆さんから御意見がなければ,ちょっときっかけにということですけれども,順次ということで,この占有の瑕疵の承継ですが,現行13条の1項の趣旨のこれは非常にもっともなことで,一番典型的には,自益信託で設定して委託者には本来その瑕疵があって,例えば短期の取得時効などが認められない,そういう瑕疵のある占有であるときに,受託者に占有を移して,それは独立の占有だということで,そこで取得時効が認められるというのはおかしい,というのがその趣旨ですよね。

やはりそういう趣旨は生かした方がいいだろうということで,その点については全く問題がないというふうに思います。


ただ,この規定だけがあったとき,13条以降ないし今度の第16のこの規定があったとき,これはちょっと確認ですけれども,本当に委託者と全然関係ない受益者が設定されて,委託者と全く関係のない者が受益者になって信託が設定されて,その信託のもとで受託者の,例えばその今の取得時効とかですね,こういうふうなものは今後一切認められないということになるのか,あるいは何か余地があるのか,ここら辺はどうですかね。

● そこはこの規定を維持しますと,原則として信託財産の瑕疵を承継されるということになりますので,基本的に難しいということになると思われます。

● 私はですね,そもそも,ちょっと日本の法理とうまく合うかどうかわかりませんけれども,今の他益信託の受益者というのは,無償の受益者ですのでね,あんまり強い保護は与えなくてもいいかもしれないというふうに一方では思うんですが,ただ贈与などと比較すると,一切取得時効が認められる余地がないというのはどうかという気もちょっとするのでね,そこら辺のバランスをどう考えたらいいかというのは,この立場をとるのであれば少し説明を要するのではないかという気がします。

  ほかにいかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● ちょっと飛んでしまってもよろしいですか。21の分別管理義務のところなんですけれども,前回の要綱試案のところから変わって,政省令で定める方向をとりましょうというような御提案ですけれども,この方向性につきましては,やはり信託財産というものが多様化してきて,今後もますますいろいろなものが出てくるだろうということで,典型的な規律というのがいつまで持つかわからないという部分がありますので,そういう観点からいくと,割と柔軟に対応できるようなこういう省令で定める方法というのは,方向性としてはいいんではないかなと。こういう方向は賛成するということでございます。

  ただ,当然のことながら,細かく規定される限りにおいては,当然解釈というのがものすごく限定されますので,実務の立場からいくと,それでちょっと違ってしまえば全然適合しなくなるという,そういうような恐れもありますので,ここら辺については実務上の配慮というのをお願いしたいと。


具体的にはですね,例えばということで,ここでは7ページで動産というのが物理的な保管管理というふうに書いてありますけれども,例えばその動産においても動産信託で,もうちょっと具体的にいうと,例えばパソコンを信託をしているような場合については,ユーザーのところに貸し出したりしていますので,そうするとその物理的な管理というのに当たらないような,文言上かもしれませんけれども,そういう管理方法もありますので,その省令を書かれるときには,その辺のところの御配慮もお願いしたいと。


  あとは有価証券を預託した場合,これについては御配慮いただけるということで書かれていますけれども,証券の振替機構であるとか,カストディであるとか,あとここだけで切れてしまえばいいんですけれども,ほかに預託するようなものもありますので,ここで切ってしまうのか,それともそういうものを全部含めた形で規定されるのかというのは,ここら辺も実務上大きな問題があると思いますので,そういうところを御配慮いただきたいと。


そこら辺が明確に規定できるということで,こういう方法をとられるということですので,そういうことを期待しまして,ぜひとも実務上の配慮をお願いしたいということであります。


● 今の御意見についてですが,資料の7ページのところに書かせていただきましたけれども,もちろん法務省令を制定する際には,またパブリック・コメントを通じて内容を確定していくわけでございますが,今,○○委員から御指摘がありました,物理的な分別管理に限るのはちょっと規則が厳しいという点につきまして,資料7ページに「信託行為において別段の定めを置くことも許容されることを定めていく」という方向性で考えておりますので,最終的にはパブリック・コメントになるとはいえ,その点は,今までの提案と変えるところはなくて,御懸念には当たらないのではないかと思っております。


  それから,第三者に例えば有価証券を預託する場合も,まさに法務省令に落としておりますのは,いろいろな形態がこれから生み出されてくるということに柔軟に対応できるということを考慮してのものでございますので,現行法にありますような証券保管振替機構ですとか,海外カストディ以外についての預託の方式について,どのような分別管理をすべきかということについても,当然しかるべく協議の上,対応していきたいと思っております。

● はい。先に○○委員,どうぞ。
● この21番分別管理のところですが,まず今回の御提案のとらえ方としては,分別管理義務は強行規定であるけれども,法務省令で信託行為で別段定めを置くことも許されるというのは,要するに分別管理の方法について信託行為では定められると,そういうような理解でよろしいんでしょうか。

● 大きな問題だと思いますけれども,どうですか。
● 先ほどちょっと御説明したところの補足でございますが,法務省令で定めますのは,あくまでも分別管理の方法なのでございますが,ただその法務省令で定めることによって,何か定めた方法をとったから任意規定になるとかいう話ではなくて,あくまでも法務省令で定めるのは,基本的には分別管理の方法であって,この規定自体は強行規定であるということの性質自体が変わるものではないのだというふうに思います。


  ただしその動産,これは補足説明のときから考え方を変えているわけではございませんが,その登記登録することができないような財産については,信託行為で固有財産と集合して管理するというようなことを,許容されていくことにはなるのだろうというふうに思います。


その場合には,また今後扱うことになる識別不能のルールで,倒産隔離のルールはまあ働いてその信託の倒産隔離的な機能というのは維持される,という整理になるのかというふうに思います。


● わかりました。それでこの7ページの法務省令制定の際の考え方として,次のようなことだということで書かれているところで,債権がですね,信託帳簿上の計算管理というふうに書かれていますけれども,例えば預金債権でこの委託者1人,受託者1人,受益者1人というのは,素朴な信託で考えてみますと,口座は自分の固有財産の口座とは別の口座で,信託財産を分けて管理することを義務づけるというのは相当であるし,それを実行するのは簡単だと思いますので,そういうかなりきめの細かいつくり方になっていくのではないかという気がしますが,そうでしょうか。

● 処理の定め方については,またパブリック・コメントの際に検討されていくこと,より具体的に検討されていくことになると思いますが,基本的な考え方としましては,原則は口座を別々に個人の固有財産にかかる口座と別々に開設すること自体は困難なことではないと思いますので,受託者なにがしと書いて,それで固有財産と別の管理でやるというのが恐らく原則になりながら,ただ帳簿上,出し入れをはっきりときちんと管理している限りにおいて,どこまで認められるかという御要望もまたちょっとあるかもしれませんが。原則はおっしゃられたような形になるのではないかなと思います。

● 今の第1点と第2点に関係するんですけれども,この分別管理義務の規定が一応強行規定という形で規定されていて,だけど先ほど○○幹事から説明がありましたように,5ページの小さい字で書いてあるように,その一定の範囲での分別管理の措置をとらなくても許容されるようなことがあるという意味で,強行規定で出発しながら,ある程度緩くしている部分があるわけですね。


今,○○委員の質問は,その大きなレベルの条文のレベルよりはもう一つ下の,法務省令で規定したときの信託行為において別段の定めを置くということの意味であったわけですけれども,もう一つ上のレベル,法律のレベルでこの分別管理義務というものが,多少その性格がはっきりしないところがあって,繰り返しになりますけれども,強行規定で出発しながら多少許容されるところがある。


分別管理の処置をとらなくても分別管理義務に反したことにならない,という解釈を許容すると。


これは我々ここで議論してきたことなので,我々共通の理解があると思うんですけれども,条文にしたときですね,それが明確に出るのかどうかというのが気になっておりまして,もし今のようなある種の許容性というのを認めるのであれば,それはもうちょっと明確にした方がいいのではないかということを,ちょっと私は個人的に思っております。


これはちょっと○○委員の信託行為による別段の定めということとも少し関連する問題です。
  もう1点はですね,これも今,法務省令でもってどの程度のことを書くのかということと関係するんですが,分別管理義務というのは非常に重要な義務ですので,法律のレベルでも,例えばこの7ページ書いてあること,この程度のことは法律のレベルで書いておいて,さらに細かいこと,あるいはさっきの証券保管振替機構を使う場合の話とか,いろいろなことがたくさんほかにもあるでしょう。


こういうものは法務省令で対応できるように,そういうふうにした方がいいのではないかということを,ちょっと思っております。事務局とは少し違う考え方ではありますけれども,皆さんの御意見を伺えればと思います。


● 私,議論をしたことをすぐに忘れてしまいますし,そもそもこの話は私が考えついた話ではなくて,ここにいらっしゃるある幹事の方に教えていただいた問題ですので,その幹事の方に発言していただいた方がいいのかもしれないんですが,抵当権付債権の信託のときの抵当権の登記の話なんですが,例えばある債権について譲渡がなされたというときに,抵当権がそれに対して随伴していくわけですが,指名債権譲渡の対抗要件を備えていればですね,その抵当権についての登記をしなくても第三者に対抗できる,と言葉遣いは難しいんですけれども,それで抵当権行使できるんじゃないかという気がするというのか--。


そもそも抵当権者として登記面状に記載されている人が倒産した,破産したというときに,倒産財団,破産財団にその被担保債権が譲渡されている抵当権だけが帰属するということは考えられないわけでして,からっぽになりますから,そうするとそこでは第三者に対抗の問題が生じてこないわけですよね。


そこで,その被担保債権の方について,その信託の分別管理なり,あるいはひょっとしてその登記登録というのがあるかもしれませんが,こうしておけば抵当権についてはしておかなくてはいいのではないかというのが,恐らくパブリック・コメントに出てきた意見なのではないかと思いまして,私は他の法制度との関係で考えますと,またそして第三者に対抗できるという意味から考えますと,そのパブリック・コメントの意見というのは,ごもっともなところがあるんではないかという気がするわけです。


  さらにまた,例えば信託銀行が受託者となって,ある行為をしているというときに,例えば根抵当権を取得している。


根抵当権が銀行取引によって生じた債権であると--銀行取引だという言葉にするとまた問題があるかもしれませんが--ある種の広く被担保債権が規定されていると。


しかるに,例えば信託銀行が第三者に貸付をするというときに,その貸付の原資が銀行勘定の固有資産であるという場合と,信託の事務として貸し付けるという場合とがあり得るわけでありまして,しかしながら,それを両方とも根抵当権の被担保債権基準によりますと,被担保債権として含まれるという場合には,別段その信託の登記というものがなされていなくても,当該信託財産に含まれている債権というのは,担保つきのものになるのではないかという気がするんですよね。


したがって,すぐに壊す建物というのと,抵当権付債権の信託のときの抵当権というのが,並べてやっぱりやらなければいけないというふうに論じられるものなのか,この抵当権付債権における信託のときの抵当権の登記というものは,もうちょっと細かく考える必要があるのではないかという気がするのですが,いかがでしょうか。

● 私も実務の方からお伺いしているような話でもあるのですけれども,○○幹事の最初におっしゃられた抵当権付債権が譲渡されたときに,確定日付ある通知とか承諾があれば,第三者に対しても債権についてのそれがあれば,抵当権の登記を移さなくても対抗できるじゃないかというようなお話は,確かにそういう話になってこれまで進んできているところは,御意見の中でもあったかと思うのですけれども。


  1点目として,さもさりながら実務の方に聞くと,じゃあ債権の譲渡人の方でですね,転抵当とかを設定してしまったとかいうときに,本当に登記がなくて対抗できるんだろうかというようなところは,多少なりともその不安感を感じながらやっているというようなお話を伺ったこともあるのですけれども,そういう不安感もありながらやっている中で,例えば抵当権を実行するときとかいうことになりますと,いずれにせよ,これは移転の登記を経た上できちんとやっていかないといけないと思いますので,何も今回の手当てをしたからといって,現行の抵当権の実行があるときまで,抵当権の移転の登記を留保するという実務をやめましょう,というか,やめてくださいと言っているつもりもございませんで,今回の提案に基づいても,現行の実務はそのまま維持されて矛盾なくできるんではないかというのが,説明させていただいた趣旨なのですけれども。


● 第2点も伺いたいのですが,第1点のことから申しますと,例えばですね,ある信託銀行が債権の譲渡を受けたというふうにします。


そしてそれが信託財産に帰属したと。そうしたときに,実行しなければ,実行する際には当該信託銀行が抵当権者のところに記載されている状態にならないと実行できない。


それはそのとおりだと思うんですね。しかしながら,それが信託財産であるということを登記しなくても実行できますよね。

したがって,その実行のときには信託の登記が必要ではないか,ということにはならないんじゃないかと思うんですが。


● おっしゃる趣旨は,移転の付記登記さえされていれば,信託の登記がなくても実行はできるという趣旨でございます。


ただ実務上,移転登記だけして信託登記をしないといったことはできないといいますか,一緒にせざるを得ないという事態になっていますので,そうすると両方しないか,まとめてするかということになると,両方しないんでは実行できませんので,移転の付記登記と合わせて信託の登記を,実行の局面になったらせざるを得ないんではないかと。


しかしそれは,我々のその提案の窮境な状態というのを,「など」というふうに読めば,実行の必要性が生じた場合にも受益者の保護の必要性が生じて,信託の登記登録義務が生ずるという余地があるのではないかというふうに考えているところでございます。

● 根抵当権の方はいかがでしょうか。
● 今回の提案に基づきましても,現在の現行実務で行われていることについては,個々の被担保債権それぞれが信託財産,固有財産のいずれかに帰属するかということが明らかにされている限りにおいて,現在の実務はそのまま,別にこの規定に違反するということを言われることなく,肯定されてよいのではないかというふうに考えますけど。


● ○○委員の関係,そういうことですか。


● 根抵当権の場合につきましては,明確に,例えば信託勘定で幾ら出していて銀行勘定で幾ら,例えば100万円ずつ出していますという,そういう単純なものというのがほとんどなくてですね,根抵当権を1つばんと設定しますと,まず銀行勘定から幾ら出しています,信託勘定から別途長期の資金を出しました,救済の必要が出てきたので,じゃあまた銀行勘定から出しました,とかという形で,状態というのが日々,ある意味極端な言い方ですけれども,日々動いているような状態ですので,我々の方の不安としたら,それで何らかの受託者についての信用力が低下したような場合,破綻に近いような状態になったときに,果たしてそれが保全されるのかどうか。


というのは,そこが明確に,どこの部分がどう担保されているというのが,明確でない部分がありますので,そういう意味合いで非常に不安な部分があると。


そこで,その辺のところの規律というのをお願いしたいというふうに,前々から言っていたものなんですけれども。


● 先ほどの1点目の話にまた戻るようなところもあって,ちょっと確認だけさせていただきたいんですけれども,抵当権について信託の公示をしなくていいかどうかというようなお話で,先ほども少しお話出ましたけれども,抵当権は処分,委託者の権利違反で処分してしまうというような,転抵当ですとかね,お話が出ましたけれども,それとの関係での公示の問題というのがあるのかどうか。


それからちょっと考えられないのかもしれないんですが,抵当権をある種の価値権を把握しているというのは,これはありますので,抵当権そのものをその他財産権として強制執行するというようなことは,それはないという前提で考えた上で,それでしたらその信託の公示をしなくてもいいだろうと,いうようなお話をされていたということでございましょうか。


● そうですね。○○幹事が聞かれたのは。

● そうですね,結局,倒産隔離というふうに申しましても,かなりその意味合いがですね,倒産財団に含まれるか含まれないかというのが,倒産隔離という話として出てくるわけですが,倒産財団に空の抵当権だけが含まれるということにはならないですよね。


先ほど抵当権の処分の話が出たところで,処分は結構厄介なんですけれども,本当を言えば,空っぽのその抵当権ですと,処分されてもそれは抵当権の価値というのは被担保債権額に依存しますので,転抵当を受けてもですね,だめなんじゃないかと思うんです。


その辺は解釈論でございますので余り口出しはしないこととしましても,譲受人との形に,抵当権との処分を受けた人との関係が問題となるというのは,もし仮にそうだと仮定しても,倒産隔離が問題になるわけではないような気がしますので,そのちょっと意味合いが少なくとも,かなり違うのではないかという気がするんですね。

○○関係官がおっしゃるとおり,抵当権だけを差し押さえるということは考えられないわけでして。


● いずれにせよ,これは何か具体的に細かく,それで大丈夫だということを書く必要があるのかどうかという,そういう問題ですよね,○○委員が心配されているのは。


少なくとも法律のレベルで分別管理義務を負わせているというレベルの話としては,全く影響がない問題,実務的な現在のあれを変えるわけではなくて。

そういうことですので,何かさらにつけ加えて言っておきたいことがあれば伺いますけれども,これ以上細かいことも--。
  はい,○○委員。

● 21番分別管理に関して,ちょっと最初の問題に戻るような話で恐縮なんですけれども,やはり前回の試案の作成時点における考え方が変わっていないということを,この場で確認したいと思っている,と言いたいところなんですけれども,つまり試案時点では,まさしく本文に信託行為に別段定めある場合には,そもそもその分別管理が登記登録のないものについては免除されることもあり得る,ということを前提にして書かれていたと思うんですね。

現に,補足説明の51ページにそのようなことが書いてございますが,読みますと「信託行為において別段の定めを置くことにより,分別管理義務を免除できるものとした」というふうなことが書いてあります。


今回の書きぶりになりますと,政省令レベルで外すということもあるのかもしれませんが,やはりちょっと原則が変わったように思えて仕方がないんです。
  

じゃあ,この試案がパブリック・コメントを受けてこのように変わることに,何か合理的な理由があるのかどうかというのを,今さっきお話があったのかもしれませんけれども,私,ちょっと聞き漏らしたかもしれませんが,ちょっと私にはよく理解できないものでございます。


やはり,柔軟性を確保するためには,こういうことについて法律レベルで書いておく必要があると思います。冒頭,○○委員がおっしゃったとおり,政省令にすることはもちろんきめ細かい対応ができるということのためにはよろしいかと思いますけれども,やはり重要なことについては法律で定めるということも,必要ではないのかなというふうに思いました。
 


 それから,これからちょっと個別についての意見なんですけれども,2つございまして,1つは先ほどから出ていますカストディといいましょうか,第三者に委託するものでございますけれども,その考え方についてちょっと意見を述べたいと思います。


すなわち,これは信託業法でも同じような考え方をとっているんですけれども,委託先においても受託者の同等の分別管理を求めるかどうかということでございますけれども,私は少なくとも実体法レベルでは,そこまでは求める必要はないというふうに思っております。


  例えばどういうことかといいますと,有価証券における帳簿であれば,受託者を置いているところは,信託A,B,Cとかなったとしても,第三者委託のところで出てくると,そこは単に受託者名だけで十分ではないのかなと思っています。


何とならばということでございますけれども,それはやはり分別管理の意味というのが,受託者が倒産した場合に財産がごちゃごちゃにならないことと,受託者の倒産リスクから分離するということが目的だというふうに思っております。


したがいまして,第三者のところでこれがその受託者のものか,また信託Aなのか,信託Bなのかということが,もちろん明らかになることは望ましいんですけれども,明確化ならないとしても,例えばその受託者の方の帳簿等で明確化されていれば十分ではないのかなというふうに思っております。


したがいまして,そこのバランスについて御配慮いただければというふうに思っております。


  それから2つ目に,個別に政省令できめ細かく定めるということに関連するわけなんですが,世の中いろいろありまして,その中に例えば,これも寄託物ですけれども,その請求権というのは2つありまして,1つは所有権に基づく引渡し請求権というのがあると思うんですけれども,もう1つは何らかの寄託契約に基づく請求権というのがあると思うんです。


かように,例えば同じ経済的主張であったとしても,法律の性質決定が,例えば債権と所有権とこう一緒になっていたもの,ということもままあると思うんですね。


そうした場合に,これは決め方の問題だと思うんですけれども,例えば1つの決め手である債権はどうである,動産であるという法的な性質にしたがって定めるという方法もあると思うんですが,もう1つはいわゆる経済的な実体に即してカストディはこうである,こうであるというふうなことがあると思うんですけれども,場合によってはどれに当てはまったらいいんだろうかとか,そういったことで非常に混乱することもあるのかなというふうに思っているわけです。

  したがいまして,これは○○委員の指摘にもあるわけですけれども,実際にその政省令を決める場合には,きめ細かくするということは大切なんですけれども,そこは実務に応じて逆に問題になることもあるかもしれませんものですから,そこら辺も十分な検討が必要だと思いました。

● 第1点は,先ほどちょっと私も申し上げた,強行規定ではあるけれども任意法規的な性格を多少持つのか,持たないのかという問題ですね。ちょっとニュアンスが違ってきて--。今,何か補足説明ありますか。


● 今の御意見についてですが,まず試案に書いた考え方と現時点での我々の考え方,別に何も変わっているわけではございません。


ただ,今伺っていても我々が理解しましたように,例えば海外カストディに預けたときにどのような分別管理をすべきかとか,あるいは寄託物についてはどういう分別管理が正しいかとか,かなり非常に今,些細というか,複雑な問題でございまして,到底それを全部法律に書くということはできないというのも御理解いただけるところかと思います。
 

 じゃあ,基本的な部分を書いたらどうかという,もちろんそういう御指摘は十分あり得るところかと思うんですが,ただその一部を法律に書いて,一部を省令に書くというのも,なかなか見栄えの問題もありますし,あと実際どこで切り分けるかという難しい問題もございまして,それであればこの試案の考え方を維持することを前提として,将来的にはもちろんもう1回パブリック・コメントには付すわけではございますが,まとめて省令で書くという選択肢もあるのではないかというのが事務局の考え方でございます。

● 今のような点について若干意見なんですけれども,まず冒頭の方で○○委員の方からありました分別管理義務を免除できるというその補足意見のコメントについては,その言葉を額面どおり受け止める限りでは,なかなか賛成できないというふうに考えております。


ただ,試案の段階と今回の御提案と,若干分別管理義務の射程範囲が異なってきているのかなという感じがしておりまして,補足説明の段階では分別管理義務の内容については,物理的なその分別という前提で,恐らくとらえられていて,それによってその帳簿作成義務が免除されるものではないということが,恐らく前提になっていたのではないかというふうに理解しております。


今回,分別管理義務を考えるに際しては,帳簿作成義務のところまで取り込んだ形で,義務の中身を措定するというような立て方をされたのかなというふうに受け止めておりまして,もしそういうことであれば,そういった考え方もあり得るのかなというふうには考えております。


  ただ若干,先ほど問題になっておりました債権,特に預金との関係で,その先のことを御検討いただけないかなというふうに考えておりますのは,例えばその預金口座を分別するということを考えた場合に,もちろん別口座にするというのは原則だということをうたうということであれば,それはそれでお願いしたいことであるんですけれども,やはり実務上の要請から,それを帳簿だけの管理にするということも許容すべきだということが,恐らく議論としてはあるんだと思います。


その場合にも,そういったことが許容されるとしても,ただ単に帳簿だけつければいいということになるんであれば,それに対応する口座残高が確保されないという事態が起こったときに,やはりこれは分別管理義務が尽くされたことにはならないのではないかというふうに思われます。


そうすると,もし債権で帳簿上の計算管理で分別管理義務が尽くされるということを考えたときには,やはりそれとともにそれに対応する,例えば預金であれば口座残高であるとか,そういう財産が確保されるような措置といいますか,そういったものをあわせて求めていく必要があるのではないかというふうに考えているところです。


この点については,もちろん将来的にはパブリック・コメントのレベルの問題かもしれませんけれども,ぜひ債権,特に預金については,帳簿上の管理計算ということを考える際にも,そういった財産確保ということも含めた形での御検討をお願いできないかというふうに思います。


  それからもう1つ,この規定の規定ぶりといいますか,どういった規定をつくるかということとの関係の御意見なんですけれども,これはもし民事信託ということを考えた場合には,一般の人たちが,やはり法律の条文を読んで分別管理義務の内容がわからない,わかりにくいというのは,できればわかりやすくしてほしいという感じがちょっとしておりまして,やはり法務省令を見なければわからないというよりも,原則的な管理方法については,できれば条文に挙げていただいて,ただし法務省令によることができるとか,そういった形の規律をしていただけると,民事信託とかそういった分野との関係ではありがたいかなというふうに考えております。
  以上です。

● はい。ほかにいかがでしょうか。
  ○○委員。


● すみません。今,議論をお聞きしていまして,ちょっとわからなくなったところがありますので,2点ばかり確認させてください。


  1点目はですね,例えば債権の場合ですけれども,信託ごとまたは固有勘定と信託財産ごとで口座を分けるということが,ここでいう分別管理なんでしょうか。


私自身は,その債権というのが帳簿上の計算管理と書いてありましたので,その必要性はないというふうに考えておりましたが,そこは口座を分ける必要性があるのかということと,もう1つは,先ほど○○委員の方から,預託しているような場合については,所有権であったり債権であったりということがあるということですけれども,所有権の場合,共有というもの自体の概念というのは別に認められているのでしょうか,認められているものだと私は思っていたんですけれども,その2点,ちょっとお伺いしたいのですが。

● まず口座を開けるかどうかという点については,前も議論がございまして,そのとき私の方から,口座まで分ける必要はなくて帳簿一本でいいんではないかと答えた記憶がございます。


ただ,書物によっては口座も分けるべきではないかという議論もございましたし,私がそういうふうに答えたときに,ある幹事の方から,じゃあ差押えが来たときに競合の有無がわからなくなるのではないかという御指摘もございまして。なお,その分別管理プロパーの問題からいたしますと,帳簿で区別していれば口座まで開ける必要はないんではないかという気がするものの,ちょっとその点はまだこちらで結論が出ているわけではございませんので,今の御意見なども踏まえて,将来的には法務省令に落とすことができれば,法務省令のパブリック・コメントの段階までに確認,検討していきたいというふうに思っているところでございます。


  それから2点目の共有というのは,別に信託でも共有はあり得ると思うんですが,共有持分権が信託財産に帰属するという御理解でございますか。そういうことはあると思いますが。

● 帳簿については,例えば所有権ですので,動産みたいなものも当然あろうと思いますし,運用ということを前提に考えると,一番最初に複数の信託財産からまたは固有財産と一緒に当然物を買うということはあり得ますので,そうすると自動的に共有状態になってしまうというふうに考えられますので,当然そういう管理形態というのはあり得るというふうに考えてよろしいわけですよね。


● ○○委員,どうぞ。
● 先ほど分別管理のところでですね,○○幹事の方から,前は口座の物理的な区分,口座を設けての物理的な分別管理までは求めるものではないという説明があったので,ずっとそのつもりで考えてきていたんですけれども,債権の流動化の場合ですね,実際我々受託者ではないんですけれども,受託者から実際に流動化した債権の回収の委託を受けているという状況の中で,もし受託者の方の分別管理義務がかなりそういう物理的なものまで強化されるということになりますと,やはり委託者の方にもさらにそれが及んできてですね,例えば当社のように1,000万件くらいの債権のうちですね,もちろん固有の債権もありますし,A信託銀行,B信託銀行とか複数の信託銀行にお売りをして流動化しているようなケースで,かつ,個別の発生時期によって複数の流動化があるわけですね。


こういったものが一つの対お客様との関係では1日の約定日の中で1,000万件の入金があるわけですけれども,それが実際には多数の固有財産と複数の信託財産と,それに最終的に帰属するわけですけれども,そういったところの管理義務といったところがですね,次の信託事務処理の委託のところの,受託者の責任の範囲との問題とも絡まって,また業法の方とも絡まってですね,かなり重たくなってしまうのかなと。


不必要に義務が出てきて,せっかく帳簿上の管理でできるだけ効率的にこれをやっていこうという形で,業法の方も流動化型の信託会社,A信託会社も認められるような形で体制が行われてきているわけですけれども,そこが非常に,歯車が逆に動くのではなかろうかなというふうに,そういう印象を持ちましたので,ちょっと発言をさせていただきました。

● ちょっと伺いたいんですけど,これ流動化の場面で,信託財産だったら信託財産間のね,複数の信託財産間でもってそれぞれ別に例えば預金しなくちゃいけないとか,債権として物理的に--物理的という言葉はちょっと適当じゃありませんけれども--債権として分けなくちゃいけないというのは大変だろうというのはよくわかりますけれども,固有財産との関係でもその帳簿上の計算管理でないとやっていけないと,そういうことですか。

● 実際には,個別の債権ごとに譲渡している単発の債権もありますし,カード債権のように日々発生するようなものがございますので,そういったものについて,一括して請求管理,それから誰が債権者であるか,固有財産なのか信託済みの財産なのかということの区別をした上でですね,かつどの信託に入るべきものなのかというのは,コンピューター上で全部管理はされているんですね。


ですからその分が請求の時点では一律に,対銀行さんに対しては,一律に当社の口座に一たん入れさせていただきますけれども,その後の入金結果を一つ一つの分類に基づいて,固有財産に属するものと信託の何々口,信託の何何口というふうに分別の作業をやって,定められた期間までにその回収金を引き渡す,こういうことをやっているわけなんですね。


● まだ十分理解していないのかもしれないけど,その今,流動化の資産として債権などが問題となっている場合を考えられて--。


● 今のは,預金の方をちょっと考えたんですけれども。

● その回収というか,取り立ての段階の話をされているんですね。

● 取り立てた後の,信託銀行に引き渡すまでの管理というのがですね,現状もいろいろな方法で確実に引き渡されるような契約上の手当てとか,担保とか,そういったところで対応はされているんですけれども。


● 仕組みがよくわかっていないせいかもしれないけれども,固有財産がその中に入っているというのはどういうことなんですか。


● 一たん回収した段階では,すべての当社の固有財産に属する債権も,既に信託譲渡済みの債権も,一たんは同じお金として,色がついていませんので,お客様の口座を開いている銀行の当社の預金,固有財産としての預金口座の中に一たんはすべて収納されるわけですね。


● 債権回収というのは,なかなか難しい問題がありそうで。
  どうぞ,○○委員。


● たぶんそこでその銀行の口座に入金をしたところの部分というのは,多分それは信託固有の口座ではないかなというふうには思いますので,受託者,多分委託先のところの部分での分別管理というのはいろいろな問題があってですね,今,業法で問題になっているような形の,委託先に対して分別管理を課すとか,忠実義務を課すとか,そういう観点から見ると,今,○○委員がおっしゃったような形で,割と混在化しているような部分があるので非常に難しいと思うんですけれども,受託者単体で考えたときには,固有財産のものと信託財産を同じ口座に入れるということはほとんどないと思います。
債権として出す場合については。


● ちょっと私もそういうふうに今までは理解していたんですけれども,いろいろな債権の形もあり得るので,いろいろなというのは債権の形といいますか,いろいろな場面でその信託財産,債権,債権である信託財産,それから固有財産である債権,それが問題となる場面がありますので,債権についてはもう少し細かいことをいろいろと検討しなくてはいけないのだろうと思います。


ただ,ここで今,どの程度の合意を得るかということなんですが,ここでの趣旨は今のいろいろなものについてすべて細かく全部検討して,大体の方向性はここで議論して同意を得るということではないんですね。


むしろ,その法務省令に落としていいのかどうかということ,あるいは先ほど信託行為において別段定めを設けることができるというような,そういうのを,これも条文化へ落として省令のレベルでいいのかという,これはちょっと分別管理義務の性格にも少し関係しますけれども,そういうことを御議論いただければと思います。


細かいことについては,もし法務省令に落とすということであれば,またそれについては別途検討するということになります。

  いかがでしょうか。

● 恐縮ですけれども,先ほど私が申し上げたとおり,別段の定めで構わないということが,試案では本文に載っていたのが,この案ではそうでないということに変わった理由というのは,パブリック・コメントとかを受けて変わったんでしょうか。どういう理由があったんでしょうか。


● パブリック・コメントとかで,合意によりました基本的な考え方を変えたというわけではございませんで,基本的に管理方法を法務省令に落とすのであれば,その例外も許容されるということも,法務省令の中に1項目設けて規定したらいいのではないかという,ただそれだけの理由です。


● 繰り返しになりますけれども,私はその今の信託行為によって別段定めができるというのは,この分別管理義務に関するかなり重要な点なので,そういうことはやはり分別管理義務に関する法律上のレベルの条文の中で,書き方はなかなか難しいのかもしれないけれども,ある程度明らかにしておいた方がいいだろうと,いうふうに思いますね。
  はい,○○委員。

● すみません,多分その考え方を変えたということではないんだと思うんですけれども,温度が変わったのかもしれないんですけれども,何となく今回の規律を見てみますと,特に法律レベルで今おっしゃったような形の規律にもしましょうということになりますと,その倒産隔離とのリンケージというのが,以前よりかなり強くなったのではないかなという感じがしまして,そうすると,法律レベルでもっての分別管理義務を守っていれば,イコール倒産隔離が図られると,というようなぐらいの位置づけになっているような気がするんですけれども,そういうような意図を持たれているということではないんですか。


● 問題は,法律のレベルで守っているということの,法律は余り書いてない--。
● 法律で分別管理というのを強行規定でやりましょうというお話ですから,分別管理さえできていれば,それが受託者が倒産したときについては,常に隔離が図られていると。


● 具体的なたてつけについて中身を変えたつもりはございませんで,基本的な信託の基本的な考え方自体について,分別管理を通じる基本的な考え方自体について考え方を試案から変えたということは全くございません。


その前回の試案とよく比べていただければおわかりになりますとおり,「法務省令で定める方法により--」というところを加えたのと,そのただし書きを落としたという,ただそれだけの話ですので。

仮にこれにただし書きを加えれば,明確になる余地がふえたというだけで,別に不明確になったと,わからなくなったという批判を受けるいわれはないのではないかというふうにも思います。


  それで,特に試案で分別して管理しなければならないといったって,じゃあ債権の物理的分別なんてないので,じゃあ何をやったらいいんだとかですね,別に一般の民事信託を前提にされた方だけではなくて,実際の事業者の方からもそういう御指摘は多々いただいているところですので,そうであればもう少し明確にした方が,ユーザー,信託を活用される関係当社の皆様にとってはよいのではないかという観点から,できる限り努力をしてみましょうという気持ちを込めて書いているわけでございまして,繰り返しになりますが,1つ文言が入ったという以上に前回から全く何も変わっていないわけですから,それによって基本的な考え方が変わったとか,温度差が変わったとかいうことでは全然なくて,したがって基本的な考え方は全く同じであって,ただ不明確だという批判が幾つかあったので,それをできる限り,皆様のニーズに合わせて明確化していくように努力させていただきたいと,その旨御理解いただければと思います。


● ほかにいかがでしょうか。ほかの条文でも結構です。
  はい,○○幹事。


● それでは第22の方について発言させていただければと思います。毎回のように発言しておりますので,もう言いたいことはわかったから黙っておれということもあるでしょうけれども,私なりにもう少し違う表現で問題点だけは,明らかにしておきたいと思います。

  第22の2で(1)甲案,乙案とあって,パブリック・コメントの多数というのが,甲案賛成であるということです。


これはある程度予想はしておりましたけれども,ただやはり若干,甲案,乙案の意味についての誤解とまではいいませんけれども,そういったものがあるのではないかないう気もいたしました。


と言いますのは,例えば乙案が強行法規とまでは言いませんけれども,どのような信託であれ,必ずないしは原則として,他人に任せた場合でも,任された者の故意・過失があったときには責任を負うというようなもの,つまり適切に選任監督をしていたとしても,それだけでは免責されないというふうに必ずなるのだ,ないしは原則としてそうなるのだ,ということを前提とするならば,それは違うだろうというのが,甲案に賛成された方々の意見ではないかと思います。その解釈は非常に正しいと思います。

  要するに,これまで私,何度か申してきましたように,重要なのは契約で一体何を約束したかということでして,契約で自分自身ではなく,適切に財産の管理等をしてくれる第三者を選ぶということを約束したというときには,適切な者を選任監督できなければ責任を負うし,適切な者を選任監督しておれば,それでみずからのなすべきことはやったわけですから責任を免れると,こういう約束をしたときは,当然そうなるはずでして,そして多くの商事信託,とりわけ複雑なシステムを前提にした商事信託では,このような約束,つまり適切な財産の管理等を行ってくれる者を選任し,監督するという約束を明示的に行っているでしょうし,あるいは明示的に行っていなくても,その契約の性質からすると,当然そうなっているだろうと。


その意味では,甲案を支持しておられる方々の意見というのは,全くそのとおりだろうと思います。


  ただ,適切な第三者を選任し監督するという約束を行っているときはそうなんですけれども,そうではなくて,預かった財産を適切に管理するという約束を行ったときには,やはり適切に管理できなければ責任を負わざるを得ないと,いうことになるのではないかと思います。


そして,きょうの御説明の中では,22の1で,これまでと違って他人に処理を委託できるとするならば,甲案の方が平仄は合っていると。


要するに,他人を使っていいというんだから,適切に選任監督するという義務だけを負えばいいと,その方が平仄があるというふうにお考えなったのかもしれません。


それだけ見ているとそうかなとは思うんですが,ただ,何を約束したかというときに,財産を適切に管理するという約束をしたというときに,自分だけが1人で管理するんじゃなくて他人も使ってよいとすると,いうことが仮に1で認められたとしても,約束したのはあくまでも財産を適切に管理するということですから,結果として適切に管理されなければ,当然責任を負うと。


つまり乙案の内容というのが,当初の約束した内容,つまり財産を適切に管理するという約束をしたときには,やはり平仄は合っていると思います。


たとえ1があったとしても,乙案の方が平仄が合っているのではないかなと思います。

この2つの約束,つまり適切に財産を管理するという約束と,そして適切な第三者を適切に選任し監督するという約束,これどちらも可能ですし,そして自由に契約してよいだろうと思います。

  としますと,問題は,何をデフォルトにすべきかということだと思います。そのときにこれは信託法ですので,信託法の中のデフォルトとしては,契約内容はやはり適切に財産を管理するということが,やはりデフォルトでないとおかしいのではないかなという気がいたします。

もちろん,第三者を適切に選任し監督するという約束を行うことは可能ではありますけれども,これがデフォルトになりますと,何を約束しているのかというと,適切な第三者を選んで監督するということですから,これが信託かと。これだけ取り出すと委任に近いですよね。


これがやはりデフォルトではなくて,財産を適切に管理するということが,やはりデフォルトの契約内容ではないのかと。


そうでないと,何のために善管注意義務や忠実義務のようなお話をしているのかわからなくなってしまうと。そういう意味では,約束の内容のデフォルトはもし適切に財産を管理するという内容ですと,それを貫くならばやはり乙案というのが筋が通っているのではないかなという気がいたします。


  その上で,先ほども申しましたように,それに対してそれと異なる特約をすることはもちろん自由ですし,そしてまた,先ほど言いましたような契約の性質からすると,当然特約があると解釈できる場合が多いと思いますので,恐らく甲案を賛成された方が抱いておられるような危惧は,発生しないであろうというふうに思われます。

  それが1つで,もう1つだけちょっとつけ加えておきますと,民法で従来言われてきましたものとの整合性という点ですが,これはこの中にも若干指摘されていますけれども,復代理に関する規定がこれに対応するものとしてありまして。


復代理の規定ができますときに,多分この会の一番最初に申し上げたと思いますけれども,もともとの旧民法というのは,実は乙案の考え方でできておりまして,自由に他人に任してよい。


そのかわり,復代理人が適切な行為を行わなかったときには,責任を負わないといけないと,いうような形でなされていたと,いうのが現在の民法105条以下の規定ができるときには,旧民法とは違いまして,他人を自由に使ってはいけない。

自分でしないといけないというふうに,そこの原則を入れかえて,ただ例外的に特別な理由があって使ってよいときには,選任監督の過失に限られるというふうにしましょうと,いうふうにしたと。


  こういう2つの考え方があったんですが,今回の1で自由に使ってよいということにして,しかし,旧民法だと乙案なんですが,しかし1を採用しつつ甲案をとるというのは,旧民法とも現行民法とも違う新たな立場をとるということを意味しております。


これが果たしてうまく説明が可能なのかなというのが,民法学者の立場としては,やや心配があるところです。一体何が当事者間で約束されたことなのかと,それに応じて責任の範囲も決まってくるというのが,現在のかなり有力な流れでして,そこからしますと,やはり何度も言いますように,適切に財産を管理するという約束をしたのか,それとも第三者を選んで監督するということを約束したのか,そのどちらかに応じて責任の内容は決まってくる。


問題は,どちらをデフォルトにするかだということだと,いうことがこの問題の所在であるということを,結局同じことを言っているじゃないかということなのかもしれませんけれども,ちょっとこの場で申させていただきました。
  以上です。

● いかがでしょうか。
  信託において,今○○幹事が挙げられた復代理も含め,あるいは旧民法も含めてそういうのと,なぜ信託が違うのかというルールの違いをですね,やっぱり何か説明があった方がいいんだと思いますね。

ある種の政策的な判断もありますけれども,理論的にそれが耐え得るというためには説明があった方がいい,というふうに私も思います。


  なかなか私自身も十分説明できるのかどうかわかりませんけれども,信託をお持ちの受託者の負う一番中心的な義務は,適切に財産を管理する,あるいは財産の管理だけではないかもしれない,処分もありますけれども,まあ管理するということなんですけれども,やはりどういう形で管理するかというところについての,そこまで含めてのデフォルト的な合意があって,やっぱり従来は受託者が管理するというときには,受託者1人で管理するというのから出発して,他人を使ってもいいけれどもそのときにはもちろん受託者は全面的な責任を負いなさい,というそういう形で管理すること,管理の方式も含めて,形式も含めてもちろん考えていたわけですが,今度新しい,この現在のもとでは,もちろん信託財産を管理することが中心でありますけれども,適切な場合には第三者を使って管理するという何か合意で,反対に言えば,やっぱり自分で管理するという出発点を完全に捨てた,そういうところが今度の信託法の考え方ではないかというふうに思います。

  これだけではまだちょっと納得されないかもしれませんけれども,復代理とかいうところは,いろいろな規定の,そこでもあり得ると思いますけれども,やっぱり信託と違って代理権に基づいて何かを決定するという世界は,たとえ復代理人を使っても本来,やっぱり元の代理人の権限に集約されて,その代理人が決定すべき世界で,ちょっと信託と少し違うのかなという感想です。十分説明になっていないかもしれませんが,とりあえずそんな感じは持ちますね。
  ○○委員,どうぞ。

● やっぱり22ですが,これは既に出ていた話なのかもしれませんが,ちょっと確認ですけれども。この22には甲案,乙案それぞれありますけれども,これはいずれも立証責任を考えた上でのこういう表現だったということだったのでしょうか。


この請求原因がこの受任者の行為により,損害が発生したと。したがって,受託者は損害賠償なり,てん補責任で何らかの責任を負えというのが請求原因で,抗弁でこの受託者は選任,及び監督について過失がなかった,あるいは受任者に故意過失がなかったということを立証するという,そういうこれはお考えだったでしたでしょうか。


● どうですか。


● 立証責任について,大分議論がございまして,その点ももちろん無視しているわけでは全くないんですが,一応ここは実体上どういう規律を置くのが妥当かという観点から提案しているわけでございます。


ただ今の御指摘を踏まえて考えれば,確かに甲案であれば,受託者の方で自分に選任監督に過失がなかったということを立証することになると思いますし,乙案であれば,受任者の方に故意過失がなかったということを受託者の方で立証するということになるというふうに考えるところでございます。

● はい。
● もう1点ですけれども,甲案と乙案で,甲案の方が受益者の保護が後退することになるのではないかという意見に対しては,そうはならないのではないか,というような論調で書かれていますけれども,具体的にですね,受任者が故意または過失で信託財産に損害を与えた場合--受任者ですから受託者から委任を受けた人ですね--そういう場合に,選任監督に過失がなかったということを前提として,甲案,乙案で考えてみますと,26条3項は削除するという前提で,甲案の場合は,その場合は受任者は受託者の方と,信託財産に対して損害賠償義務があると,そういうことになりますよね。


それで乙案の方だと,受託者が損失てん補責任ですか,それを負うということになるので,結局責任を負う人が受任者なのかあるいは受託者なのか。


26条3項を削除しますから,どっちか片方のみにしかならないと思いますけれども,ということになるので,結局,その受託者が資力不足の場合どうだとか,そういったところで違いが出てくるような感じがします。


  それから,もう1つあるのがこの免責規定ですね。この受託者,受任者間で免責規定がある場合に,信託財産というか受託者が受任者に対して損害賠償請求しろとは言えないと。免責規定があるためにですね。


そういう場合に,受託者が任務違背になるから,受託者に損失てん補責任が発生するので,この受益者の保護としては十分なのではないかというようなことが書かれていて,その場合は結局,受任者の故意・過失のほかに受託者の任務違背も立証しなければなりませんので,受益者の立場からすれば,立証すべき事項がふえるということになりますので,やはりその限度では受益者の保護は後退していると,いうことにはなるかと思います。だから,あとはその程度ならばいいじゃないかというふうに見るかどうかと,そういうことかなというふうに思います。

● 私もそう思いますけれども,どうですか。


● 確かに資力の点とか細かいところは,いろいろ分析すれば,現行法の場合に比べて受益者の保護が欠ける部分がゼロとは言えないと思っておりますが,しかしその全体的な規律を総じて眺めますと,受託者の方の責任を追及することによって,受益者はしかし,ほぼ相当な損失の回復を受けることができるのではないかというふうに思われますので,あえてここで26条3項を維持するまでの必要性はないんではないかという価値判断が入っているということは否定できないところでございます。

● それは全然違わないとはやっぱり言えないと思うんですよね。でも一番大きなのは,今,言われましたけれども,受託者に対しては選任監督の過失がないということで,受託者にはいけなくて,受任者の方に過失があるのでそこにいかなくちゃいけない。


信託財産の方に損害を与えている,受任者が与えていますから,信託財産からの損害賠償請求があるということで,それを行使するといいますかね,受託者が行使する。


受託者が行使できなければ,場合によっては受益者がかわりに,代権的に行使することも考えられるかもしれませんけれども。そこの部分ですよね,一番もし大きな違いがあるとすれば。


ただ実体法的には,今のように信託財産に対する損害を与えているので,損害賠償請求権が信託財産にはあって,それを行使することで,まあ何とか受益者には損失を与えないようにすると,いうのがこの仕組みで。


全然違いがゼロだとは言いませんけれども,一方でこうやって社会的な分業のもとで,第三者を使わざるを得ない外国のカストディアなども使わざるを得ないと,そういう条件のもとで,どういうルールが適切だろうかということで選択された,提案されたルールだというふうに思います。

  ほかにいかがでしょう。はい,○○委員。

● 細かいことなんですが,大きなことはさっき○○幹事がおっしゃったことと,○○委員がおっしゃったことと,つまり信託の原型をどう見るかということの転換をここでどうとらえるかということに尽きると思うんですが,仮に甲案をとった場合のただし書きでございますけれども,そのただし書きでさらに軽減するという別段の定めが可能か。それはどこまで可能か。例えば選任監督について,重過失がなければとか,あるいは故意がなければとか,あるいは一切というようなことまで可能かどうかということでございますが,そこはいかがでしょうか。


● 重過失まで軽減することは,まあできると思っておりますが,さらにそれを越えて故意とか一切責任がないというのは,公序良俗といいますか,条理の範囲から難しいのではないかという気がしております。


これは規律から明らかではないですが,一般的にその重過失は可能だというのが,一般的な理解だと思いますが,そこを越えてまで信託行為を緩めていいというのは,難しいというふうに解釈していいんではないかと思っております。


● 今の規律は解釈に委ねるということであって,さらに,例えばこの甲案がぎりぎりで重過失なんかとんでもないという意見もあり得ると思うんですけれども,それはもう解釈任せということになるんでしょうか。


● 重過失に緩めることが信託行為に書いてあって,それがそれを承知の上で,受益者が受益を取得しているという事態があれば,それはそれでやむを得ないんではないかと思っております。


● 重過失はだめなんじゃないですか。
● はい。

● これ公序良俗の一般の議論に委ねるということですよね。
  ほかにいかがですか。○○幹事。

● 今日ちょっと初めて参加させていただきましたので,この会にどういうスタンスで臨めばいいのかということが,私自身ちょっとまだ図りかねているので教えていただきたいんですけれども。

  今の論点でいきますと,業法においては乙案,事実上の無過失責任を維持するというのが,まあ私の当たり前の感覚なものですから,そういう場合に,信託法と信託業法でそういった違いが出てくるということについて,そもそもこの場ではどういうふうにお考えになっていて,この場における業法を所管するものがどういう構えで意見を言うということが期待されているんでしょうか。


質問なんですが。
● 私から答えるべき問題かどうかわかりませんけれども,皆さんがそれぞれ違った理解を持っているかもしれませんが,ここでは信託に関する一般的なルールというのをとにかく改正というか,現在の社会に合ったようなものに変えていこうということで,現在の信託業法は,今までの信託法に基づいてつくられたものだという前提で考えております。


その上で,現在そのもとになっている信託法レベルの義務,受託者の義務などを見直しをする。そうしますと,現在の信託業法とこう食い違ってくる場面が出てくるかもしれませんが,そのときに--ここら辺からは私の個人的な意見ですけれども--できれば,それは信託,新しいこの信託法のルールに従って信託業法が調整をしていただければ一番ありがたいなと。


ただ,場合によっては,信託業法の観点から,特にこれは業法の場合には必要な規制なんだということで,正当化はあり得るかもしれません。


○○幹事には,どういう立場で御発言をお願いするというそこまでは僭越ながら私が言える立場ではありませんけれども,私は今のように,信託法と信託業法の関係を考えておりますので,それを前提に何か御発言をいただければありがたいと思っております。


● すみません。じゃあ先ほど私は,○○幹事がおっしゃったことに100%同感でございます。


● この点--はい,どうぞ。

● ちょっと事務局の方としては,これ甲案,乙案どちらがいいかというのを伺っている立場なので,事務局の立場を明らかにするというスタンスにはそもそもないわけではございますが,ただ信託における適切な管理処分のあり方は,当事者はどういうふうに見ているのがデフォルトとして考えるべきかというのはまさにおっしゃるとおりで,それについては全く賛同するところでございます。
  


ただ,これまでの信託法ですと,本来委託はできないというのが前提になっていたわけでございますが,今回の信託法のもとにおきましては,相当な場合にはまず委託できる。


これは自由に委託できるわけではなくて,あくまで善管注意義務のもとで相当だと思われる場合には,まず委託できるという規律があるわけでございまして,しかもその場合には,受託者は選任監督の責任はありますと。


さらに受任者は全く無責任というわけでは当然なくて,受任者の方は通常の故意・過失責任を負いますと。


そういうその相当な場合には委託できて,受託者は責任を一定限度負って,さらに受任者も故意・過失責任を負うという,一体のものとして,そういうのが現在の信託のスキームなんであると。


そういう理解を前提として,信託がつくられ,それに受益者も当事者として加わってくるということになりますと,受益者もそういうふうに,相当な場合には自分の利益のために委託してもいいんだという意思を持っているのが,むしろ合理的な意思の推測にかなうわけであって,それがその信託における適切な管理処分のあり方についての当事者の一般的な意思であるということも,不可能ではないような気がするというのが,事務局の--というか,私個人かもしれませんが--考えでございます。

  そうすると,決して甲案というのが,通常の信託投資の意思に反していて,むしろ乙案の方がかなうかというわけではなくて,甲案になっても,この新たな相当な場合には委託できるという信託法のスキームの中では,十分当事者の意思を反映したものという理解もあり得るのではないかという気がするところ,ということをちょっと付言させていただきます。


● ほかの方,いかがでしょうか。
  先ほど○○幹事が説明されたように,ある意味で出発点が全然違うというわけではなくて,第三者に委託するということがむしろ前提となっている,というもとでも,○○幹事の意見は甲ではなくて乙ではないかという,そういう意見だったわけですね。


● すみません。きょうのこの場においては,乙案の意見が多いと思いますけれども,甲案,乙案については,いろいろ実務の人数とか,今さっき○○幹事の方からありました全体のその規制のあり方といいますか,受益者の合理的な期待をもって考えるべきであって,そこはパブリック・コメントにも反映されていることも,両方併せ考えて決めるべきではないかなというふうに思っておりまして。


  ちょっと甲案の方,私自身が甲案絶対賛成という,そういう立場ではないんですが,甲案もやはり十分に傾聴すべき意見だというふうに思っておりまして,あえて発言したいと思っておりまして。


と言いますのは,やはり実務においては,ここの御説明,甲案指示の理由のところの②というところが多いかと思っております。


相当の理由ということになるかもしれませんけれども,現在においてはいろいろな操作というのは十分必要なことで,それをなくしてできないという業務がございまして。


そうした場合に,それを使うことが相当な理由ということであり,かつそれが委託先が責任を負うということ自体が,全部受託者にこうリスクとして寄せてこられるということになると,結局全体として,そういう信託スキーム自体が成り立たないというようなこともあり得ますので,ここは非常にバランスの問題が重要じゃないかなというふうに思っております。


もちろん,先ほど○○幹事がおっしゃられたように,行政の立場から何らかの規制が必要でありますし,またそれは,現行信託業法もこの部分についての督促がございますので,そこは一応分離して,そこら辺においてもバランスが必要だと思うんですけれども,そこは別途検討していただければとは思っております。


● ありがとうございました。
  これは確認ですけれども,業法の立場は今,乙案だと思いますけれども,乙案で別段の定めは許すんでしたっけ。別段的な定めで甲案的な立場をとるということはあり得るわけなんですね。


● 別段の定めで受託者の責任を軽減・監督にするのはできるという--。

● ええ,軽くなるのはもちろんできるんだけれども。今,○○委員が言いましたけれども,確かに甲案でなくてはいけないという絶対の理由というのは,もちろんあるわけではなくて,ある程度全体のその先のパブリック・コメントとかですね,それから今までの議論の中での多数意見というものを反映させて,甲案が今のところ優勢であるということだと思います。

今ここでは,○○幹事の御意見もありますし,○○幹事の御意見もありますし,今ここで甲案と決めるわけではございませんけれども,大体大勢がどういうものであったかということを確認はさせていただきたいというふうに思っております。
  よろしいですか。○○委員。


● やはり実務の立場から一言だけ言わせていただきたいんですけれども,これも前々から申し上げているところですし,きょうも議論が出てきたところでございますけれども,やはりその信託法をこう変えましょうと,現代化しましょうというところの中の1つの大きな柱として,当然その分業化,専業化というのが非常に進んでおりますので,それに対応するために,この1項のような形の規定が設けられて。この1項の規定を受けて,それじゃあ受託者の責任をどうするんだといった場合については,私自身はもう甲案しかないのかなというふうに考えています。

  業法的な観点からいくと,別途の考え方というのはおありになるんだと思うんですけれども,信託法上の観点からいうと,受託者が受益者のために自分が執行したり,他人に委託しながら一番ベストの形のものを選択して実務を遂行していくと。


そういうことをやっていくに当たって,選任するということ自体も1つの信託事務であると思いますので,そういう観点からいくと,全面的に受託者が責任を負ってというよりも,基本的には,やはりその選任監督というのがしかるべき規律なんではないかなというふうに考えています。


  それと非常に,あとはちょっと乱暴で個人的な見解なんですけれども,私の今までの実務的な感覚からいきますと,やはりその委託先が何らかの過失によって損害を与えました,といったときには,受託者としては基本的にその過失がどういうところにあって,どんな責任があるんだということを追及していって,当然場合によっては訴訟も提起しですね,それで信託財産を補てんすると,そういうふうに動くわけですけれども,乙案でありますと,基本的に委託者対受託者と受任者というような形の闘い方になってしまいますので--すごく乱暴な議論だということはわかっているんですけれども--そういう観点から言ってもですね,実際に受任者からその過失について信託財産を取り戻すというのは,甲案の方が非常にやりやすいかなというふうに感じておりますし,今まで実務的にもそういうふうに追及していく際に,それが何となく自分の責任になるんじゃないかというような不安もありましたので,甲案の規律というのは非常にありがたいなというふうに思っております。

● はい。

● 今の点に必ずしも関係するかあれなんですけれども,甲案,乙案を考えた場合に,今の受託者の受任者に対する責任追及を考えた場合に,甲案ですとまずは選任監督に過失があったかどうかということを受託者は考えるんじゃないかという気がするんですけれども,そうであるとすれば,その受任者への責任追及の実行を確保する観点からは,乙案の方がむしろ適切な行動を導くのではないかなという感じがするんですが。


  その点ともう1つ,これはほかの論点とも絡む点で御考慮いただけないかなと思っておりますのが,できれば民事信託のことを考えますと,そういった民事信託を利用する人たちの使いやすいといいますか,意識に合ったような規律をデフォルト・ルールとして掲げていただけるとありがたいというふうに思っております。


これは乙案の中でも,信託行為に別段定めがあるときには別段の定めが許されるというふうになっておりますものですから,恐らくそういった別段の定めをつくりやすい立場にあるのは,商事信託とかそういう分野に携わっている方々だというふうに思いますし,なかなか民事信託のことを考えた場合に,当事者の間でこの別段の定めを細かく決めていくということは,実際上なかなか難しかろうかというふうに考えております。


そういったことを考えたときには,デフォルト・ルールとしては,できれば民事信託の意識に適合するような形でのものをつくっていただけると助かるかなと考えております。
  以上です。


● それは具体的にどっちになるんですか。

● いや,そうすると乙案かなというふうに考えております。

● 民事信託の場合を考えた場合には。

● 今,個人間で信託契約をしてやっていく場合には,やはり乙案に従った形で責任を負うというのが,通常の考え方なんではないかなという気がしております。


● それは逆にとったんだね。
  はい,どうぞ。


● 前提としてですね,先ほど甲案によるときに,受託者が受任者に対して責任追及していくときに,その選任監督について過失がないと責任追及ができないとかおっしゃいましたですかね。


そんなふうにお伺いしたのですが,選任監督について過失がなければその責任を免れるものとするというのは,それは受益者に対しての話で,受託者,受任者の間は受託者と受任者のその選任契約で,仮にその選任監督について過失がなかったとしても,受託者,受任者間で受任者が債務不履行すれば,それは当然責任追及できるということで,わざわざ選任監督について過失を証明しないと責任追及できないなんてことはないんだと思いますけれども。

● それはおっしゃるとおりであります。そういうことを前提としたときに,受託者の立場でまず何を考えるかというときに,選任監督についての過失の方をまずお考えになってしまうんじゃないかなという,それがなければみずからはその責任を負わないというようなことで,安心されたりしないかなということをちょっと心配しているところです。


● 要するに,受任者に対する責任追及をする努力をしない可能性があると。

● どちらかというと乙案の方がしていただけるのではないかという期待をしておるところなんですけれども。

● そういうことをしないと,逆に善管注意違反に問われることになりますので,決してそういうことはないんではないかという気はいたします。


発想の順序として,まず自分の責任を免れたいなというのは,それは人間の条理かもしれませんが,しかしその後で受任者に故意過失があれば,それを責任追及すべきであって,それをしないと損失てん補責任は自分にかかってきちゃいますので,結果的にそういう恐れはないんではないかという気はいたしますが。


● 要するに,受託者の立場でそういうやりとりをしていく際に,何をこう考えるかということで考える,ということで意見を申し上げさせていただいた限りです。


● 2段階になっているわけですよね,自分自身の責任とそれから受任者に対する損害賠償請求権というのは信託財産になりますから,それはやっぱり適切に行使しないと,今度は今,○○幹事から説明があったように善管注意義務違反になるという。
  ○○委員。


● 今の件ですけれども,やはりその受託者的な立場になりますと,選任監督責任とはいえ,当然訴訟の提起された相手方といいますか,受けるのはみずからの受託者ですので,当然のことながら,それに対してはそういうことではありませんと,選任監督責任はありませんということを言います。


当然その選任監督がありませんというところを言う際にですね,やっぱり受任者のところについても過失があったことが,過失ではありませんという形の立証をしていく可能性も結構あるんじゃないかと思うんですよね。


すみません,そういうことをやりますと言っているんではなくてですね,甲案と乙案の比較からすると,どちらかというとそういう傾向に動いてしまうのかなというふうに思います。


● それではいろいろ御意見が,ごめんなさい,まだ終わっていなかった。
  じゃあ先に○○委員が,まだ初めてですから。

● 弁護士会で意見が分かれたわけで,私はちょっと甲案の方がいいのかなと思って一言発言するんですが,パブリック・コメントでも日弁連は乙案なんですが,弁護士会によっては甲案のようなんで。


民事信託の場合を考えて,受益者の視点に立つと,○○幹事がおっしゃる視点はわかるところがあると思うんですけれども,じゃあ私が民事信託で受託者になっているとする。


不動産を預かる,といっても,私が管理行為を全部やるわけにはいきませんから,そうするとやはり選任監督のところはデフォルト・ルールであって,もしかしたら選任監督に過失がなくてもあってもいいんだ,免責されるんだということはまずおかしいと思うんですけれども。


  やっぱり選任監督のところをしっかりするというところで,その中で管理業者を選任していくとかですね,そういう状況もあり,そういう状況の方がより適切なのかなと。

そうじゃないと何かおっかなくて預かれないなと思ってしまうし,およそ天変地変以外はですね,必ず過失があって損害が発生するわけですから,それに対して連帯責任を受託者が負わなきゃいけないと,もちろんその後で求償関係で受任者の方に請求していけばいいのかもしれませんけれども。


なかなかそれがたてつけであるということになると,ちょっと厳しいのかなと。

これはなかなか難しいところになりまして,やっぱりデフォルト・ルールでどこまで緩和できるのかという視点もあると思うんですけれども。

  また受託者の方がですね,選任監督さえスキャンすればいいんだということで,全部外に出してしまって楽にするという趣旨ではないんですけれども,先ほど○○委員がおっしゃっていたかもしれませんけれども,今後の信託を幅広く利用するというときにですね,受託者ができることというのは非常に限られていると思うので,その選任監督のところでしっかりと善管注意義務を果たす,忠実義務を果たす。


ですから選任監督というのも,もしかしたら民法上の選任監督というよりもっと非常に重い意味での選任監督義務が課せられていると。ですから,そこでのデフォルト・ルールでそれを緩和するということは,非常に問題があることではないのかなとは思うんですけれども,その選任監督が非常に重い義務であるということを前提とすればですね,受託者の視点に立っての議論になってしまいますけれども,甲案でも十分信託でも機能するのかなと思いますし,受益者も納得してもらえるのかなというふうに思うんですけれども。


● そうですね,この選任監督上の過失についての解釈,これがどの程度重い判断をされるかというのは,非常に重要な問題ですね。
  じゃあ,○○委員,どうぞ。

● 私も○○委員と同じようなことを申し上げようと思ったんですけれども。

  要は,リスクの負担を誰に分配するのが適当かという話だと思うんですけれども,仮に例えばその郵便であるとか,保振であるとか,誰もが使わなければならないようなことがあって,たまたまその受任をした者に過失があって,事故が起きたといったときに,結局その信託を使わなかったとしても,その委託者であった人はそれを郵便とか使ったわけですから損害を被ったと。


じゃあ,もし乙案になれば,信託を使えば,リスクがある意味信託会社が保険みたいな形でとるという形になると,それが妥当なのかどうかという話だと思うんです。


  今の時代,非常に極端な例で,誰もが使うという場合だと思うんですけれども,じゃあ場合によってはこれはそうした方がいいなと。だけど誰がベストなのかと。


いろいろな絶対必要な,あるいはそうじゃないというような場合には,それなりの責任が受託者に求められると。それなりのリスクテイクが受託者に求められると思うんですけれども,そこはやはり受託者の選任監督義務をもちろん相対的な考えになりますけれども,ものによっては重くとらえて,何でこんな人に頼んだんだ,こんな危ないところに,というところで,結局は責任を追及していくというふうに,リスクの分配を図った方が適当ではないのかと。


そういう意味で,甲案,乙案ということを比べれば,甲案の方がいいのではないかなというふうには思いました。


● どうもありがとうございました。
  それでは,よろしいでしょうか。
  ○○幹事。


● すみません。甲乙案が決まる,追加するという状況で案を絞る方向に入っているのに恐縮なんですが,2点だけ気にかかることがございますので,その点を確認ないしは御教示いただきたいと思っておりまして。


  甲案による場合ということなんですけれども,1つは選任及び監督の内容をどう考えるかということが出まして,それに関連しまして,その説明の10ページ等で書かれております不相当な免責規定を置いた場合,先ほどの○○委員の御指摘により,あるいはまたここでの説明というのは,選任監督とは別の問題としての善管注意義務違反だというふうに整理されているかと思うのですけれども,不相当な免責条項というのが無効ではないという前提なのかもしれませんけれども,こういう形で選任等の契約を締結してくるということが,選任監督の内容として,果たしてそもそも適切なのかというのが気になっておりまして。選任というのは,ただ単にどういう人を選ぶかということだけではなく,その契約によってどのような義務が負われ,どのような責任を負わせる形で他人に委託できるのかということになってくるんではないかという気がしておりますので,その契約内容等も含めて選任監督を尽くしたかということが言われるべきではなかろうかという気がするのですが,自信もないところですので,どう考えたらいいか,改めて確認させていただきたいと思います。

  もう1つ,甲案による場合ですけれども,甲案のような形をとりますと,むしろ選任及び監督にその義務内容が縮減されるというのが適切であるような場合が,1の相当な場合であるという形になって,逆に1の相当の場合はかなり絞られることにならないのかと。先ほど来,使わざるを得ない場合がかなり出されておりまして,これは○○幹事がおっしゃったように,乙案によってももう使わざるを得ないような場合というのは,選任監督というか,義務自体がそれなのですから,甲案でも乙案でも同じ結論になると思うんですけれども,もう少し自由に,よほどまずいという場合でない限り自由に使いたいというようなときに,果たして甲案によるとかえって1の場面が狭まらないか,というのが若干気になるところではあるんですが,その点はどう考えたらいいでしょうか。


先ほど○○幹事から,ここの相当の場合というのは自由に使っていいということではないという御説明もありましたので,改めて確認させていただきたいと思います。


● ○○幹事の御指摘のまず1点目の,不相当な免責条項を置いたこと自体が善管注意義務違反だということについて。それをしかし,例えばその内容は甲案によるときにそういう条項を置いたことが,甲案の選任監督責任のところで考慮されるべきではないかと。


仮にそこで考慮するというふうに考えたとしましても,それも選任監督の際に善管注意義務を果たしたかどうかということでありまして,適応の場面を2の(1)の選任監督についての過失で考えるか,そうではないところで考えるかという適応の場面を考えたとしましても,実際の注意義務を勘案するときには,具体的なその帰結については異ならない,ほぼ異ならないことになるのではないかというふうにちょっと思ったものですが,ちょっとまだ御指摘をよく理解していないかもしれませんが,とりあえずそんなふうに思いました。


  それから,2点目の相当な場合が甲案をとるときは狭まらないかというのは,一応私どもの原案では,その信託目的に照らして相当な場合ということで,中身自体は信託行為の解釈によって,その信託目的に照らして,ここはあなたの能力に頼んだところだよという場面と,そうではないと,社会的一般的にここまでは頼んでないだろうというところは委託することができるということで,必ずしもその法社会学的にそういうことになるんではないかという御指摘は,肝に命じなければいけないかもしれませんけど,法律論としては一応客観的に信託目的に照らしてどうかという観点から考えられると,いうことではないかなととりあえず思ったのですけれども。いかがでしょうか。


● はい,どうぞ。
● すみません,余りこだわるようなところではないんですが,では1点目の方は先ほどのような例ですと,選任監督における過失があると認定される場合も十分あり得るというお答えだったと理解してよろしいでしょうか。


● そこの問題かどうか,ちょっと僕らもはっきりわからない--,まあそういう場合もあるかもしれませんけどね。従来,普通に考えている選任監督とはちょっと違いますよね。


● 従来は誰を選ぶかということに力点を置いていたと思うんですけれども,先ほど来,信託における選任監督とは何か,あるいはそれは非常に重いものではないかと言われるときに--。


● ですから,それを含めることも可能かもしれませんけれども--。

● 先ほどの議論のところでは,選任監督の注意義務の話と全く別立てに,さらに善管注意義務違反のようなことを受益者が言っていかなければいけないのか,という点が議論になったように思われましたので。ただ非常に細かいことかもしれません。


● 少なくとも,選任監督以外の問題として,善管注意義務違反というのは一般的にはあると思いますので,ただ,今のような受任者を選ぶとき,受任者と契約するときの事柄,典型的には不相当な不適当な免責,特約を入れたような場合ですけれども,これはそうですね。


ちょっと僕の個人的な感じですけれども,本当は選任監督というよりは,先ほど事務局の方の説明からは,信託目的に照らして相当なという,これは信託目的の関係での相当な問題だ,というふうに説明されましたけれども,そこの問題ではないかという気がするんですね。


人だけではなくて,どういう形でもって人を選ばなくてはいけない,契約をしなくちゃいけないのか,受任契約をしなくちゃいけないのか,受任契約といいますか委任契約ですか,しなくてはいけないのか,それも相当性の問題の中に入ってくるような感じを,私はちょっと思いますね。

  この原案自体はどういうふうにできているかというのは,よくわかりますね,恐らく--。


● 原案は一応今,○○関係官が説明しましたように,1項については客観的に相当かどうかで,2項の方はそれを別の問題であると。


前の部会では,たしか1項と2項を連動して考えるべきではないかという御指摘もあったわけですが,事務局の考え方は一応分けて考えているというものでございます。


● その上で,不相当な契約みたいなものをどうするかという--。

● はい,それはもう2項の方の問題で。
● 2項の方で,はい。

  よろしいですか。これはこういう規定ができても,それについてのような考え方,解釈の問題として,まだいろいろな議論の余地があると思いますけれども。

  とりあえず,それでは今の16から22までですけれども,幾つかの規定については若干御意見がございました。


分別管理義務のところ,それから今の22の信託事務の処理の委託については,いろいろ御意見がございましたが,私の見た限りでは,皆さん,特に別に御発言をされなかった方は,原案で大体よろしいという御意見だというふうに伺えると思いますので,大勢としてはこの原案を賛成していると--。


若干意見はあるけれども,大勢は甲案の方を指示していると,そういう理解をいたしますが,それでよろしいでしょうか。今ここで最終的な決定をするわけではございません。


後でもう1回,本当にこの決定する段階というのはまたありますので,そのときにもう一度チャンスがございますが,ここでの大勢は今のようなものであったというふうに私は理解しましたが,よろしいですか。
  それでは,説明だけお願いしますね,次。

● では,帳簿作成義務から3つほど,時間の関係もありますので,説明だけいたします。

  第23でございますが,まず提案の1に関しまして,(2)と(4)の書類の保存期間について,試案では一律に書類作成のときから10年間としておりましたのに対して,起算時を,信託事務の終了時とすべきという意見がございました。


しかし,この意見のように,一律に信託事務の終了時から10年間という保存義務を課しますと,長期間存続する信託においては,受託者の負担が過大になることが懸念されるわけですが,他方,試案のように一律に書類作成時から10年といたしますと,信託の終了以前に重要な書類が廃棄されてしまうということがあり得て,受益者の権利保護に欠けるということが懸念されます。


  そこで,試案を改めまして,受益者にとってより関心の高いと思われます(3)(4)の信託財産の状況に関する書類,これはいわば資産や損益に関するBSやPLに相当するようなものでございますが,これにつきましては(4)のとおり信託の清算事務の結了のときまで保存義務を課す一方,これには当たらない帳簿その他の書類と,それから信託事務の処理に関する書類,(2)でございますが,これにつきましては,せいぜい書類作成時から10年間,それより前に信託が終わればそれまでということですが,せいぜい10年間の保存義務を課すということにして,受益者の利益と受託者の利益とのバランスを図ってはどうかと提案するものでございます。


  次に3の(1)の受託者に説明を求める権利に関しましては,資料12ページの2の(1)に書きましたところでございますが,試案を改めましてデフォルト・ルールとして委託者にもこの権利を認めることとしております。


これは後で説明いたしますが。それとあわせて,委任における受任者の報告義務に関します民法645条にならって書きぶりを修正しております。


この義務というのは,信託事務処理の経過の概要を説明する程度のものでありますので,その反面として,理由の明示は不要でありますし,法定の請求拒否自由も認められないものと考えております。


  それから,提案3(2)の書類の閲覧請求権に関しましては,これは理由を明示することは不要とするべきであるという意見がございました。


しかし,受託者にとりまして理由を明示されないと,どのような書類を開示すればよいかということが不明であります。資料12ページの2の(2)から13ページにかけて書いてあるところでございますが。


それから,閲覧拒否自由に該当するか否かの判断も困難であると。他の立法例,会社法を初めとして理由を明らかにすることが要求されていることですとか,株主の会計帳簿等閲覧請求権に関する最高裁の判例によりますと,理由を基礎づける事実の立証までは要しないと,具体的な理由の明示は必要だけれども,その立証までは要しないというように解されていて,この趣旨は信託にも当てはまるであろうと思われることなどに照らしますと,試案のとおり理由の明示を要求すべきものと考えるところでございます。

  それから最後でございますが,提案の(注1)と(注2),資料でいいますと13ページ以下にかかるところでございますが,これは受託者側における一定の情報を秘匿するニーズに配慮した制限を許容すべきであるという方向性の意見と,受益者側の帳簿等閲覧請求権の実効性に配慮した制限にとどめるべきであるという方向性の意見とが対立しております。


そこで資料14ページに記載しておりますとおり,甲案,乙案,丙案の3案を提示して意見を問うものでございます。

事務局としては,一応の考えはございますが,まずは皆様の御意見をぜひとも伺えればというところでございます。

  続きまして15ページの方に移りますが,損失てん補請求権ですが,これはパブリック・コメントでは賛成意見のみが寄せられましたので,試案をそのまま維持することとしたいと考えております。


ただし,この責任を任意に履行しない場合の債務名義の内容や強制執行の方法について問う意見がございましたが,分析しますと,この場合債権者としては,受託者に対する損失てん補または原状回復の作為請求をすると。


その上で,損失てん補につきましては,固有財産から信託財産に財産を移転するということになりますので,間接強制の方法によるということになると思われますし,原状回復につきましては,代替的作為義務であれば,原則として代替執行,現行法では間接強制もできるとなっておりますので,その両方,どちらかによると。


それが不代替的作為義務であれば,間接強制の方法,執行法の171条から173条の方法によって強制執行していくということになるものと思われます。


  最後に,検査役選任請求権でございますが,パブリック・コメントにつきましては,試案についておおむね賛成意見が占めましたものの,(注3)のところに関しまして,試案のように受託者が請求をした以外の,受益者全員に対して常に通知しなければならないというのは厳格に過ぎるという意見がございました。

前は強行規定としておりましたので,その点についての指摘でございます。そこで検討いたしましたものが,資料17ページ以下に記載しておりますが,調査の結果,事務処理に問題がないことが判明した場合における受託者,それからその通知費を負担することになる信託財産の負担の軽減の必要性という点,それから受益者として指定された者に対して受益権取得の事実を知らせたくないという委託者の意図の尊重という点,それから調査の結果,重大な違反が判明した場合には,(注4)にありますとおり裁判所による命令というものの可能性があるということ,あと会社法の上でも同様な規定があるということにかんがみまして,受益者に対する通知義務につきましては,任意規定とすることに改めることを提案して二重線を引かせているところでございます。ほかには変更点はございません。
  とりあえず,以上のところまで説明させていただきます。

● それでは,議論は休憩の後ということにいたしまして,ちょっと休憩ということにさせていただきたいと思います。


          (休     憩)

● それでは時間になりましたので,再開をしたいと思います。
  ただいま説明がありましたところについて,また御自由に御意見を伺えればと思います。いかがでしょうか。

  はい,○○幹事。
● 25まできましたでしょうか。
● 25まできました,はい。


● 何か学生が先生にする質問のようなもので申しわけないんですけれども,25とですね,先ほど大分時間をかけて議論をした22とを合わせてみると,どういうふうに考えたらいいかということを教えていただきたい点があります。


  第22の2で,仮に甲案でとった場合には,受託者は選任及び監督について過失がなければ,その責任を免れるものとすると,先ほどこの書きぶりは選任監督に過失がないことを受託者が主張するべきだろうと,ということでしたが,その前提にはある場合には受託者が責任を負うというものがあるはずだと思います。


それが恐らく第25になるのではないかと思いますが,そうするとここは受託者が信託財産に関して,その任務に違反する行為をした場合において,ここに掲げている事由に該当するときには,ここに書いてある請求を受益者はすることができるということですので,そうすると任務違反をしたと。


要するにアウトソースをしている場合にもですね,任務違反をしたということをまず受益者等が主張し,そしてそれに対して受託者は,いやこれは他人にアウトソースしているのであって,加えて私はそれの選任監督に過失がなかった,ということを言えれば免責されるという構造になるように,2つを読み合わせるとなると思われるんですが。


  だから,実質的に考えると,この任務に違反する行為というのが,結局何なのかということで,先ほども議論で,甲案をとった場合に甲案はどういう意味を持つか,というのが少し明らかになったと思うんですが,そこでの任務,まさに選任監督,アウトソースしたその先で起こった事故であれば,選任監督がその任務になるんだろうということですので,古い考え方で任務違反を客観的に考えて,過失を主観的に考えるという立場をとらなければですね,今恐らくこういう問題についてはとらないという考え方の方が一般的だと思いますので。


そうすると,両者がかなり競合しているように思われますので,もし今まで申し上げた私の疑問が成り立つのであれば,整理を要するのではないかなと思います。
  以上です。


● もっともですね。これ困るね。どうしますかね。どう考えますかね。

  端的に言えば,第22の信託事務の外部委託のときの任務違反というものをどう考えるかということですね。求償責任にも関連してね。何かうまい,それこそ○○幹事が質問するということは,○○幹事もそれなりに--。


● いや,わかりません。すみません,第25というのは当然のことですが第22だけを受けているのではなくて,自分自身でやることを主として念頭に置いてつくられているんだろうと思いますが,その第22で甲案のような考え方をとったときには,第25とのすり合わせが,書く必要があるのかどうかわかりませんけれども,整理が必要なのではないかなと思います。


● 25自体はもう一般的なもので,ここでの要件,任務違反というのが要件で,こっちをいじるということは恐らくできないので,22の方で--。


● 22の2についてですね,これはあるいは甲案,乙案どちらにも共通するのかもしれませんが,やはりこの無過失の受託者が主張して免責されるという,この構造が25に合っていないんじゃないでしょうか。


● 過失任務違背とほぼ同じに考えますとね,ええ。

● あるいは任務違背と区別される意味での過失というのを考えるか。

● だけど今度は逆に,そういうふうに考えても,任務違背と過失を別にしても,22の場合の任務違背って一体何かというのが出てくるんですよね。


  これはさっきの甲案,乙案,乙案の場合だとそういう問題は生じないのかな。余り表面化しないというだけですかね。


● しかし,乙案は受任者というんでしょうか,委託を受けた第三者の故意過失ですから,今の競合問題は生じない,ええ。


● はて,何か事務局でいい案があればあれだけど。

● 今,名案は思いつきませんが,御指摘の点を踏まえて書きぶりと思いますので,検討したいと思っております。

● うん。ほかにいかがでしょうか。
  ちょっとこれは個人的な意見です。25の損失てん補責任のところで,ここで原状回復と損失てん補というのが出てきまして,その2つの関係をどうするのかというのが,ここ自体,これはちょっとただ聞き流していただきたいというのは,これから申し上げることは私は積極的にこの25で改正した方がいいということではなくて,後のほうで受益者が複数いるときに,やはり損失てん補とそれから原状回復との関係というのが問題となって,後の方では原状回復を原則的な救済手段とするという考え方が出てくるんですね。


  そうしますと,この25のところでも,受益者が1人しかいないときにも,論理的には全く同じではないかもしれないけど,受益者1人のときにも原状回復と損失てん補というものが,2つの救済手段の関係がですね,つまり両方が考えられるとき,全く選択的なのか,それとも原状回復というものが優先するのか。


これは特に受託者の方からその原状回復に相当するような行為を自分で申し出ると。


自分でこういうふうに回復するから,だから損害賠償じゃなくて原状回復でいきたいと,いうことを受託者が言えるかと。そんな問題とも関連いたします。


ちょうど契約だと債務不履行とかいろいろな責任のところでキュアーというのが治癒というふうに言っていますけれども,債務者の方から損害賠償を請求されたり,解除を請求されたりした者が,治癒をする。


債務不履行瑕疵を治癒するという行為がありまして,それと似たような問題があるのかなと。最近の1つの大きな流れは,そういう治癒というのを認めていこうという考え方がありますので,そういう考え方を,一方で少し頭の隅に置きながら,この規定をどう考えたらいいかというふうなことをちょっと思っています。


ただそれを言い出して,原状回復と損失てん補の関係を全部もう一回見直すということになると非常に大変なので,私としてはそんな問題もありますというくらいの,非常に消極的な発言で申しわけないけれども,ことだけ指摘しておきたいと思っています。


  ほかに。25はよろしいですか。今まで少なくとも余り違う御意見はなかったと思いますし。検査役の選任と--。
  ごめんなさい,○○幹事。

● いいですか。25でそれぞれ1の損失てん補責任等a,bがあって,aまたはbに定める事項の請求をすることはできる,とありますけれども,一部について変更と損失ってもう完全に分けられるものではなくて,重なって起こり得ると思うんですよね。


その場合に,変更できる部分については,変更じゃない,回復できる部分については回復請求し,その他についてはてん補というのは当然あり得るということですよね。


ですから。これも書きぶりの問題だと思うんですけれども,そういった趣旨がよりクリアになるような書きぶりをしていただいた方がいいんじゃないかと思います。


● 原状回復して損害がなおあるという場合,幾らでもありますからね。わかりました。それは書きぶりの問題としてこちらで対応したいと思います。

  ほかに,25はよろしいでしょうか。
  それであれば,29検査役の選任請求について。○○委員,どうぞ。


● 23で--。

● 前の方ね。ごめんなさい,飛ばしちゃった。帳簿作成義務,はい。

● 帳簿作成義務等のところで,ちょっと2点申し上げたいと思います。

  1点目は1の(4)のところの信託財産の状況に関する書類についての保存義務のところでございますが,要綱試案では10年というところが,信託の結了の,清算事務の結了のときまでというふうに変わっておりまして,もちろんこれよりも短いものもあるんだと思うんですけれども,信託の中にはやはり期限がない,半永久的なものがありまして,例えば年金であるとか,そういうものも考えますと,半永久的な形で保存義務というのはちょっとしんどいかなという感じがいたしまして,この辺のところちょっと御配慮をいただけないかなというふうに思っております。


  それと2点目が注1と2のところの,甲乙丙案のところですけれども,これについてはその基本的には乙案支持ということで,ここの部分につきましては,甲案につきましては当初から当方の方でいろいろとお願いしていた分でございますし,丙案につきましても文書というのが非常に種類も多いですし,重要なものから軽微なものまでいろいろあるということですので,そこら辺のところ,契約によって開示しないでいいものができればいいんではないかと思いますし,特に顧客のプライバシーであるとか,営業上のノウハウ,特に今後は多分,知財なんかは非常にデリケートな問題なんかが出てくると思いますので,そういうところを契約で閲覧拒否というのができれば,そういうニーズに合致するんではないかなと思っておりまして,ここの分については乙案に賛成ということでございます。
  以上です。


● 第1点目は質問みたいなものかもしれない。半永久的な--期間。

● 半永久的な信託があって,年金信託などでというお話かと思うんです。ただここでは書類の範囲が限定されていて,我々が説明するところではBSとかPLみたいな,そういうたぐいのものくらいは,最後まで持っておいていただけないか。


それはその信託全般を並べるときに,やっぱりそれぐらいの資料は残しておいていただきたいというのが趣旨であるということが1点ございますのと,それから一応ただし書きがついておりますので,かなりの年限がたったものについては,委託者といいますか,受益者といいますか,そちらの方に引き渡すというようなことで対処しようとかですね,そういう余地があるのじゃないかないうところを踏まえていただければというふうに思っております。

● どうしてもという現行の実務からいくと,少し変えないと。少しといいますか,変えないといけない部分というのが結構あるんではないかな,というふうに考えておりまして,そういう観点から御配慮いただけれえばありがたいなと思うんですけれども。


そういうことをやらないといけないということであれば,ちょっとそこは検討したいとは思いますけれども。


● 具体的なイメージとしては,信託財産の状況に関する,どんな信託財産がどれだけあるかとかですね,そういうことだと思いますけれども,毎年,毎年といっても書類はもっと短期間でつくるかもしれませんが,最低限毎年1回分はあるでしょうね。こういうのをずっと積み重ねて保存しておくという,そういうことになるんですかね。そういうことのようですね。
  はい,○○委員。

● 23の関係ですが,3の(2)で受益者は理由を明示して閲覧または投資者を求めることができるという,この理由を明示してというところの関係で,これはどの程度のものを想定されているのかというのがちょっとお伺いしたいんですが。


受益者である以上,信託財産の現状を知りたいというような当然の要望のはずなので,信託財産の状況を知りたいというのが「理由を明示して」ということになるのかどうか。それはいかがでしょうか。


● 一般論から言いますと,この最高裁の判例を挙げてあるとおりでございまして,どんな書類を閲覧させていいのかと,それから請求の拒否事由に当たるかどうかという判断が可能な程度の主張はほしいと。

もちろん裏づけ資料までは要らないということですが,その判断が可能になる程度の理由の明示は必要ということになりますので,今,おっしゃった信託財産の状況を知りたいということでは余りに広すぎるので,もう少し具体的な理由というのを言う必要はあるのではないかという気がいたします。程度問題ではありますが,それだと全部という感じがするんですけどね。

● そういうことですと,この理由を明示してというのを入れるのに,まず反対したいということなんですが。いろいろな信託がありますけれども,一番素朴な形の信託でいくと,やっぱり受益者がこの信託財産の現状を知りたいんだというのは当然の話なので,それ以上のことを言え,言わないと見せないぞということになると,大変この,理由の明示がないから見せないということで,何かこう悪用される恐れがあると。


これは立派な信託銀行のレベルの話ではなくて,もっと個人レベルで信託がたくさん利用されるということになった場合に,大変困るのではないかと。やっぱりデフォルト・ルールとして,そういう理由,財産の現状を知りたい,今どんな財産がどれだけあるのか知りたいんだという,そういう程度の理由で十分だという,そういう制度の方がいいと思うんですけれども,いかがでしょう。

● ただ,今どういう信託財産があるかというのは,信託財産状況に関する書類として1の(3)に当たりまして--。

● 年に1回しか来ないんですよね。

● 年に1回,まあ未満でもいいわけでございまして,それを見ることによって,あとはその説明,説明というか状況報告義務を求めるということによって,相当程度カバーできるんではないかなという気がいたしますので。


しかも会社法とか,中間法人法でも理由の明示ということは要求されていますので,信託だけ理由の明示がなくても一切財産状況の書類が見れるというのは,少し幅が広すぎるんじゃないかという気がしているところでございます。


● その点は,例えばほかの会社法でこういう場合に拒絶事由があると。それを参考に決めるという,そういう書き方がされていて,それを広げる方向で何か検討されているようなんですが,その点も含めてですね,何か全体に拒否的な方向に行き過ぎていないかという心配があるんですが。


● 最後の点は,必ずしも広げるのがいいと我々が思っているわけではなくて,そこはまさに甲案,乙案,丙案で御議論ぜひともいただきたいところで,確かに乙案は先ほど御支持があったものは,あるいは甲案でもそうですが,広げるという方向に,方向性としてはあるわけでございますが,果たしてそれでいいのかという観点から,御議論いただければというふうに思っているところでございます。


● もっともな趣旨が含まれていると思いますけれどもね。どういうのが一番--○○委員が言われているのも,帳簿閲覧請求権一般の問題としてさっきの3の(2)のところですけれども,これが1の(2)か,だから,もし1の(2)が全体を受けているとすれば広すぎるかもしれない。


信託財産の状況だけであれば,おっしゃることはそれなりに相当,妥当するような気もしますけれどもね。


● ええ,私もそんな気がします。

● 一応,今,○○幹事が言ったように,信託財産の状況に関しては,1の(3)があることはあるけれども--こういうのは--。

● もしかすると,想定する信託がやっぱり違うことによって,明示すべき理由の範囲が,それは個別の信託を前提にして考えなくちゃいけないと,変わるということを前提にすれば,同じような思いでいるのかなという気もいたします。


  つまり,今,○○委員がおっしゃっている話というのは,恐らく個人と個人の間でやられていて,信託財産が別にそんなにいっぱいあるとか,そういうような話ですとか,あるいは帳簿につきましてもものすごく多数に上ってというような,いわゆる商事的な理由ではない状況を考えれば,見たいですよという,なぜ見たいのかといえばそれはやっぱり心配だからだということなんだろうと思うんですけれども,見たいですよと言えば出すのは簡単ではないかと。


つまり今,信託財産に入っているのはこれとこれとかですね,その程度のことだから,それを見せる理由としては,つまりどの範囲かというのを限定するという趣旨も,この理由の明示には含まれているというふうなことのようなんですけれども,範囲を限定するといっても2つしかないんだから,あんまり限定する理由もないし,それであれば理由は,心配だからちょっと今どういう状況になっているのか,信託財産の内訳はどうなっているのか教えてくれ,というので足りるのではないかと言われれば,それはそうなのかもしれないなと。


  ただその信託についても,当然御存じのようにいろいろ違いまして,合同運用していたらどうかとか,そういうような条件がありますので,一般には入れますけれども,個別の当てはめでは,やっぱり解釈はそれぞれ事柄の性質に応じて変わってくるんだろうとは思います。そういう御理解では難しいのでございましょうか。

● 一番最初の質問が,そこにかかわるような質問だったんで,そういうような解釈ならば,こういう書き方でもいいかなというふうに思いますけれども。


● 確かに,つい我々もこの会社と同じようにたくさんの受益者がいて,またたくさんの財産が日々いろいろ変動してたり,複雑な信託を念頭に置いてこれを考えてきましたけれども,非常に単純な信託におけると,民事信託なんかの場合だったら,もうちょっとこの理由というものを,少なくとも判例が言っているよりは,緩く解する余地はあるんじゃないかという気はしますよね。まあ,そういうことで。

  はい,どうぞ。

● 今のことと関連するような話ですけれども,今も議論があったように,理由明示について,信託の性質に基づいてかなりリアルに会社に被害あるということであれば,それではいけないのかなという気がします。


そうすると恐らく会社法ですとか,あるいは中間法人が想定しているような規律ですとか,あるいはその最高裁の判例が示しているような規範とはちょっとやっぱりずれてくるのではないかなというふうな気がするんです。


それで弁護士会の方でもその議論をしていた中で,やはりここらあたりの規律というのは,会社ですとか中間法人とは大分やっぱり様相が違うのであろうと。


したがって,その解釈としては御指摘あったような,特に個人信託の場合にはそういったその解釈があり得るんではないかというようなこともあったところで,それはぜひそういった方向で整理していただけないかというふうに考えております。


  具体的には,実は今回御提案いただいた3の(1)のところで信託事務の処理の説明を求めることができるということになっていますので,この説明を求めていく中で,帳簿等の閲覧請求を求めることに多分なっていくのではないかなという気がしておりますけれども,そういったときに理由の明示をつい立てとして,特に個人信託の場合に受益者が困るような状況がないように,ぜひ規律をお願いできないかというふうに考えております。


  全体のここの枠組みとしては,多分閲覧を認めるかどうかということを考える際に,3段階ハードルというか検討するところがあるんじゃないかと思うんですけれども,今の理由の明示のところと,それから一定の拒否事由に該当するかどうかどうかというところと,それからあとは対象となる書類の範囲を制限するというところとの関係で,恐らくどこの段階でどういうふうに規律するのが一番切りわけとして適当なのかという問題かなという気はしておるんですけれども,ぜひ適切に切りわけができるような規律をお願いしたい。


理由の明示の点に関しては,それがないと拒絶事由の該当性が判断できないじゃないかというような議論があると思うんですけれども,それは恐らく拒絶事由として,どういった事由を設けるかということに絡んでくる問題かと思いますが,例えばこの検討課題の15の13ページの一番下あたりで御指摘いただいております,信託財産に属する債権に係る債務者の情報ですとか,知的財産権の信託におけるライセンス契約における内容等の取得については,これは理由云々という問題よりも,むしろ情報の性質にかかわる問題ではないかなという気がしておりまして,そうするとその理由の明示との関係は薄いんじゃないかという気もしますし,また会社法の規定の中では,競業者からの請求を排除するような規定もありますが,これも理由とはちょっと関係がないかな問いう気がしておりまして,そういった観点からもこの理由の明示の問題について,御検討いただけないかなと。


  ちなみに拒否事由に関しましては,会社法等の規定に基づいてというようなことが提案されておりますけれども,これは恐らく追っての御検討ということになろうかと思うんですけれども,競業については,例えばどういった形で競業を考えるのかとか,そういった点についてよくわからないというような議論が多少ありましたので,その点だけ御紹介しておきます。
  


それから,先ほどの13ページの下の中で,受託者の営業上の秘密ということがうたわれておるんですが,これについては多少弁護士会で意見交換した中でも,ちょっとなかなかピンと来ないというとあれですけれども,例えば債権の債務者情報ですとか,ライセンス契約の内容等については,これは受益者の立場から,それをある程度出さないことが受益者の立場からも利益になるということが想定されるのに対して,やや受益者の立場とは対立的な受託者の営業の秘密ということを保護するという点では,かなり慎重に御検討をお願いしたいというような意見がありましたので,ぜひその点についてはよろしくお願いしたいと思います。


  それから,あと14ページの甲案,乙案,丙案についてなんですが,これについては若干留保つきで丙案を支持したいと考えています。

甲案についてはここに記載してある合理的に認められる限度を越える請求ということがあったときには,こういうふうになりますと,なかなか基準として判断が難しい。


これは基本的には受託者の側で,これに該当するかどうかを判断することにとりあえずはなるということになると思いますので,ややこれでは受託者の方が拒絶しやすくなり過ぎないかということを懸念しております。


丙案についてですけれども,これは先ほどの知財の関係ですとかを考えるとこういったことはあり得るではないかというふうにかんがえております。


ただ,丙案の内容ですと,文書を開示,閲覧させるかどうかという問題,文書全体というような書き方のようにお見受けするんですけれども,文書によっては,文書自体は出すけれども,例えば氏名の欄を伏すとか,かぶせるとか,そういったことも対応としてはあり得ると思いますので,できるだけ拒絶事由ですとか,あるいはいろいろな法益を保護することとの関係で,配慮しなければならないというところは理解できるんですけれども,そういったできるだけ受益者の開示請求を認めるような形での規律をお願いできると助かるのかなと考えております。
  以上です。


● どうもありがとうございました。
  ○○委員。

● 内容的なことではなくて,表現だけの問題なんですが,11ページの2,受託者の情報提供義務という見出しでございます。


これは試案の段階では,信託財産の状況に関する報告義務となっていたのが,非常にこう一般的な見出しになっている。その結果,3の(1)あるいは(2)との関係が,この2の見出しとどういう関係にあるのかというのがちょっとわかりにくい。


さらに言うと,2に情報提供義務という見出しをつけることによって制限的な影響はないだろうかと。


これだけだ,というふうになってしまわないだろうかという気がいたしますので,この見出しに変えられた御趣旨をお聞かせいただくとともに,もう少し整理した方がいいんじゃないかなというふうに思います。


● 今回お渡ししている資料では,見ておわかりになるとおり,変更箇所については二重下線を引いておりまして,今の見出しのところに引いておらないんですが,恐らく何か貼りつける際に間違えたというか,試案の表現がそのまま書いていたつもりだったのですが,いつの間にか間違っていたようでして,試案のとおりでございます。変更したつもりのところは,すべて傍線を引いてわかりやすくしているつもりでございます。申しわけございませんでした。


● 私の持っている資料が間違っているのかもしれませんが--。
  それはそれで結構なんですが,その結果今申し上げたように,一般的なことで情報提供義務という大きな見出しにすることに伴って,それがかえって混乱が生じないかということなんですが。


● 試案のとおり,信託財産の状況に関すると。報告義務という見出しを変えます。元に戻します。


● 元に戻すということですね。はい,わかりました。
● といいますか,変えたつもりではなかったということです。すみません。


● 先ほど14ページの甲,乙,丙というふうに3つ案がございます。これもさっき○○幹事から説明がありましたように,事務局としてはそれなりに考え方があるようですけれども,皆さんの御意見をむしろ,ある程度の御意見を伺っておきたいということですので,もし御意見があればお願いしたいと思いますが。


○○委員は乙案を主張され,それから○○幹事は丙案を主張されたという状況でございますが--。いかがでしょうか。

  そうですね,もしあれでしたら事務局の考え方を。

● まず甲案につきましてですけれども,まず1つは会社法にない閲覧拒否事由を加えることが適当かという問題があると。


それから甲案によりますときは,最終的に先ほど御指摘があったとおり閲覧対象から外れるかどうかというのは,現実に閲覧請求がされた上で,閲覧拒否事由に当たるかどうかが判断されるまでは明らかではないということになりますと,受託者,その信託の他の受益者ですとか,あるいは信託外の第三者,信託債権の債務者などにとっての予見可能性という点からは,どういう書類が外れるのかは実際やってもらわないとわからないという点で,いささか難点があるんじゃないかという気がしているところでございます。


  それから乙案についても同様に,会社法にない閲覧制限事由を加えるということの問題と,甲案と異なりまして,信託行為の定めによる閲覧制限を認めるという点は,受益者の閲覧請求権の制限について,委託者の意思も反映できるという点で妥当とは思われるんですが,他方,一定の重要な書類については,この閲覧制限は認められず閲覧に供されてしまうという点がございますので,やはり予見可能性という点からはそれに反する嫌いがあるということと,なお信託行為の定めのみによって閲覧制限ができるといたしますと,受益者に閲覧請求権に対する配慮にやはり欠けるところがあるのではないかという気がするわけでございます。


  丙案でございますが,甲案と乙案と異なりまして,会社法にはない閲覧拒否事由を加えるという問題点はございませんことと,乙案と異なりまして,信託行為の定めによる閲覧制限のためには,受益者の個別の同意をも必要とするとしておりますので,委託者の意思にも受益者の意思にも,利益にも配慮した内容となっております。


もっとも乙案と同様に,一定の重要な書類については,この閲覧制限が認められないわけですが,最後に書いてあります当該請求によって,受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報の記載された文書につきましては,その重要性ということではなくて,受益者の同意をもって,あらかじめ一律に閲覧制限を対象としていくことができますので,予見可能性という点からもすぐれているのではないかという気がするわけでございます。


総じて受益者らと受託者,信託以外の第三者の利害調整がバランスよく図られる内容と,丙案はなっていると思われるのが,事務局の考え方ということでございます。


● いかがでしょうか。
  ○○委員 


● ちょっと確認なんですけれども,丙案のところの先ほどの御説明で,信託行為の定めで委託者の方の意思をと,受益者の個別の同意によって受益者の意思をということですけれども,当然自益信託であれば,信託契約に書いてあればいいということですね。


● 要するに,信託契約の設定と合わせてこういう同意もされているというふうに,2つの契約があったと見ることができます。その辺は大丈夫と思います。

● あるいは,まだ皆さんの御意見が必ずしも,考慮中ということなのかもしれませんが。


それでは,ちょっとまだ皆さんの意見が十分固まっていないということだと思いますので,この点はもう一度いずれ確認したいと思います。


  先ほど説明があったほかの点はいかがでしょうか。そうしますと,検査役の選任の請求はこれでよろしいでしょうか。


  それでは,特に反対はないというふうに判断いたしますので,ここまでは基本的に承認をいただいたと。さっきの甲乙丙に関しては,もう一度ぐらい御意見を伺う機会を設けたいと思います。

  それでは,次にいきましょうか。

● それでは次,第32から3つほどでございますが,まず19ページの費用の補償請求権のところでございます。

  本日は,この中で提案2の受益者から費用の補償を受ける権利についてのみ,御審議願いたいという趣旨でございまして,その上で後ほどまた全体について改めて御提案申し上げます。


  パブリック・コメントの結果というのは,甲・乙案というのが数の上でも,実質的にもほぼ同数にわかれております。それぞれの案を支持する理由として挙げられている意見の要旨は,この20ページから21ページのとおりでございますが,総括して言いますと,受益者の補償債務というのが,受益者が信託の利益を享受する反面として負担されるべき性質のものであるという甲案的な考え方をとるか,債務の負担に関する一般原則に照らして信託行為の当事者ではない受益者が,当然に補償債務を負担するというのは不自然であるという乙案的な考え方をとるかというところであろうと思われます。


なお,資料21ページの太字2に書きましたとおり,この甲案,乙案以外に仮に甲案がされない場合にはという留保も付したものもございますが,その上で信託行為に定められるときは受益者から補償を受ける権利を有するものとすべきであると。

補足説明の注に書いておきましたが,旧乙案の見解を支持するものも複数ございました。以上のようなパブリック・コメントの結果を踏まえまして,いずれの考え方を採用すべきか御審議いただきたいと思います。


  次に,第37の方に移りますが,受託者の解任につきましてでございますが,委託者及び受益者に自由な解任権を認める試案に反対する少数意見もありましたが,パブリック・コメントの大多数の意見は,試案に基本的に賛成するというものでございます。


もっとも,裁判所に対する受託者の解任請求の要件はより厳格化されてよくて,軽微な任務違反についてまで解任権を付与するのは妥当でない,との意見がございました。


現行法の47条の任務違反につきましても,ささいなミスや怠慢や不正確な行為については,解任事由に当たらないと解されております。


そこで,このような理解を正確に反映すべく,裁判所による解任事由に当たるためには,任務に違反したことだけでは足りず,その結果として信託財産に著しい損害を与えたことが必要であると,いうことを明記するように試案を改めることを提案しております。


  さらにパブリック・コメントにおきましては,多数の一般投資家を対象とする金融商品の場合には,受益者に対しての評価はさまざまなものになると考えられることから,一部の受益者による解任の可能性は回避すべきであって,一部の者からの裁判所に対する解任請求権についても,一定の制約が課されるべきであるという意見がございました。


  しかし,考えてみますと,受益者が多数による場合におきまして,委託者との合意による解任権を行使するには,そもそも原則として全員の同意を要するものでありますし,この自由な解任権の規律というのは,1(3)のとおり任意規定でございまして,信託行為の定めをもって受託者の解任のためには一定の非違行為を必要とするとか,受託者自身の同意を必要とするというような制限を課すことも可能でございます。

また,裁判所に対する解任請求権につきましても,解任事由があるとされるためには一定の重要な事実が必要とされることにかんがみますと,この提案のもとでも,金融商品のスキームの安定性が損なわれるとの懸念は当たらないと思われます。


  なお,辞任に関しましては,パブリック・コメントの大多数が試案に賛成する意見でございましたので,試案の規律をそのまま維持することとしたいと考えております。


  次に,第39の前受託者の義務というところでございますが,試案につきましては以下の2点を除きまして,賛成意見が大多数を占めましたので,以下の2点につきまして,変更すべきとの意見がなければ,試案をそのまま維持することとしたいと考えております。


  第1点は,この試案と同じ文言でございますが,1の(1),2の(1),それから3の(2)におきまして,前受託者等の受益者及び他の受託者に対する通知義務,これをこの試案ではデフォルト・ルールとしているわけでございますが,これを強行規定とすべきであるという意見がございました。


しかし,受託者に通知義務を課した趣旨というのは,受託者が欠けた場合におきまして,通常は受益者や他の受託者には速やかに新受託者を選任して,信託財産を適切に管理処分させる必要性があるということに配慮したものでございまして,そうすると,信託行為においてあらかじめ受託者が欠ける事態に備えて,後継の受託者を定めているような場合には,このような必要性は既に満たされていると言えるわけでございます。


それにもかかわらず,通知費用の負担をあえて信託財産に課してまで,他の委託者,場合によっては多数に及び得る受益者に対する通知を義務づける必要はないものと思われますので,試案を維持して任意規定にすることを提案するものでございます。


  第2点は,試案の1(1)につきまして,受益者以外の者に受託者の解任権が付与されている場合に,解任された受託者ではなくて,解任権者が受託者に通知することが期待されるのであって,解任されたものが通知することは期待されないのだから,解任された前受託者に通知義務を課すのは適当でない,という御意見がございました。


しかし,この意見のもとにおきましても,裁判所による解任の場合に誰が通知するのかという問題が残ります上に,信託行為によって解任権が付与された第三者が解任権を行使する場合には,解任事由も当該信託行為において定められるべきところでございますが,裁判所によって解任される場合と異なって,必ずしもその受託者に重大な非違行為があった場合には限られないわけですので,通知はおよそ期待できないとまでは言い切れるかは疑問がないわけではございません。

  それから,解任権者は受益者や他の受託者を把握しているとは限りませんので,解任権者に通知義務を課すといたしますと,多大な負担を課すことになったり,実効的な通知が困難になる恐れもございます。


また必要があれば,解任権を付与する信託法の定めにおいて,解任権者に通知義務があることを規定することで,対処することも可能でございます。


  以上の点をかんがみますと,通知義務のデフォルト・ルールにつきましては,解任の場合にも前受託者に義務づけるということが相当で思われるということで,そのまま試案を維持することを提案するものでございます。
  以上でございます。

● それでは,ここまでまた御議論いただきます。
  いかがでしょうか。それではですね,皆さんから御意見を伺いますが,きょう欠席された○○委員から第32の受益者に対する補償請求権についての意見を書面でいただいておりますので,ちょっとそれを読ませていただきます。

● それは○○関係官の方から御紹介させていただきます。


● それでは,私の方から御紹介させていただきます。文章をそのまま読ませていただきます。


  受益者に対する補償請求権について,我が国では現行信託法36条のもとでそれが認められており,ただし放棄可能ということの解釈によって,実際にはその意味を失う可能性があるということだと理解しております。


今次改正において,この問題が焦点の1つとなっており,既に私はみずからの意見を繰り返し述べているところですが,ここに再度申し上げる機会をいただければ幸いです。


  受益者に対する補償請求権は,英米信託法では認められないものであり,それは信託の本質にかかわるものです。それは次のような意味です。


受益者に終局的なリスク,無限責任が及ぶようであれば,勢い受益者は信託の運用に口を出したくなる,あるいは出さざるを得なくなり,それは共同事業であってもはや信託ではなく,英米法ではパートナーシップと見なされます。


だからこそ,受益者にも無限責任が及ぶことが認められることになります。繰り返しになりますが,これは信託ではありません。


仮に,受益者に終局的なリスク,無限責任が及ぶのに,受益者には一切口を出させないということであれば,信託はもっとも危険なスキームになります。


会社よりもリミテッド・パートナーシップよりも危険なものになります。投資スキームとしてばかりではなく,民事的な関係でも同じく危険なものであって,全財産を裁判所の監督のない後見人に委ねるようなものです。


  以上を要約すると,信託のあり方について,日本独自のことを考えるのは一般論としては否定しませんが,受益者に対する補償請求権は,概念的に信託というものの本質にかかわる点であり,しかも実際上も信託に対する不信を抱かせるような利用法に道を開くものであって,補償請求権なしということを明示するような改正が強く望まれることを申し上げます。御高配のほどよろしくお願いいたします。
  以上です。


● 以上のような意見が出ましたので御紹介します。
  それでは皆さんの方から,御意見をいただけたらと思いますが,いかがでしょうか。

  ○○委員。
● 私の方も,この点に関しましては繰り返し申し上げていますので,そんなに追加で申し上げることもないんですけれども,先ほど○○委員の方からの御意見ということで紹介されました,例えば共同で事業を行うようなものについては,パートナーシップというふうに見なされて,それはトラストではありませんと,そういうことから補償請求権はないんです,ということですけれども,日本における信託といいますのは,○○委員がおっしゃっている信託というのも当然ありますし,もう何回も言っていますけれども,土地信託みたいな形で共同の事業的な形で進める信託もあると。


要するに,かなり受益者の意思というのが反映されて,指図等を受けるようなものもあると。


なおかつ,特定金銭信託等については,運用の指図そのものを受益者が行うというものもあります。

そういう観点からすると,○○委員のいう英米法においては補償請求権があるということではないというふうに思っておりまして,それを日本に置きかえた場合については,受益者に対して補償請求権があってもそこはおかしくないんではないかなというふうに考えております。
  以上です。

● ほかにいかがでしょうか。この部会--。
  ○○幹事,どうぞ。


● 私もパブリック・コメントを経てなお意見は変わらないということで,以前にかなり長い時間をちょうだいして説明をさせていただいたかと思いますけれども,私自身は結論として,その○○委員の御見解として示されたところにやはり賛成で,乙案の方が適切ではないかと。


ただ,確かに共同事業的なあるいは受益者が指図をするというタイプのものもおよそ信託として認められないかどうかというと,そこは私自身はかなり疑念を持っておりますけれども,どちらがあるべき,あるいは典型的な信託像なのかというふうに考えたときには,受益者が指図をし,共同事業的なものはかなり特別なものではないかと。

またそういったときは,まさにみずから信託行為にかかわっており,その中で対応していくものでしょうし,乙案の立場によっても補償請求は最終的に認められるという点ではかわりがないのではないかと,いうふうに思っております。


  パブリック・コメントの中で寄せられた各種の理由につきましても,ざっと申し上げますと,甲案支持の理由として出されているところは,利益を享受する受益者が負担すべきであるという利益を得る者が損失もという報償責任的な考えかというのは,単純にそういうことではなく,指揮命令があるとか,やはり一定のコントロールを及ぼしているという場合にこそ認められるものではないかと思われますし,第2点目の受託者がリスクをコントロールできない場合があるということについても,より受益者の方がコントロールできるというのが信託なのかというと,そうではないだろうと思われます。


  第3点につきましては,これはむしろ別途手当てをすると。最終的には信託の終了に向けて各種の手当てを講じていくということですので,ここの部分は十分な手当てが図られると思われますし,また,第4点目で出されている受益者間の公平を害するということですが,むしろ指図があるような共同事業的なという場合の受益者を考えますと,そういう能動的な受益者と受動的な受益者がいるときに,一律に同じように補償債務が負わされるということの方がかえって不公平ではないか,というふうにも思われます。


そもそも基本的な考え方が違うところかと思われますから,ある意味水かけ論かもしれませんけれども,やはりパブリック・コメントを経てなお,乙案の方が適切ではないかというふうに考えております。


● ほかにいかがでしょうか。
  ○○委員。

● 確認をさせていただきたいんですけれども,そもそも私どもの立場としては,甲案支持ということで専ら議論あるところが,ここに書かれている理由の1のところでありますけれども,それはちょっとさておきですね,2のその他意見について出されたものについて,ちょっと前に議論が出たのかもしれませんけれども,ちょっと確認をしたいんですけれども。


  すなわち信託行為で負担をするということを書いた場合に,それは例えば受益権が譲渡されたとき,そうしたときにその譲受人というのは,当然に補償債務を負うのかどうかということですけれども。


民法でいくと債務引受になりますから,なかなか当然にということにはならないとは思いますけれども,ここに書かれている前提となっているのはそれのどちらなのかと。


仮に,そうではないと,単に自益信託だから信託契約にサインをしたわけだから,当然別途の合意と同様に補償債務を負っているだけであって,受益権の譲受人はそうではないというような,もし整理になるのであれば,逆に2の御解説の「その反面として,乙案を支持する立場から--」というところで,「信託行為に定めがある場合だけでは足りず」というところがちょっとよく理解できなくなってしまうわけで,何とならば別に,信託行為,少なくとも受益権である場合は,別にその別途の合意というのは信託行為に書かれようが,別途の合意であろうが,別途の契約であればそれは意思の合致があるわけですから,乙案をとったとしても,その合意がある限りにおいては,信託行為が定めがあった場合には,自益信託について補償債務を負うということが1つの整理ではないのかなというふうに思っておりまして。


ちょっとこの点についてお尋ねしております。仮に,もし受益権の承継に伴って,補償債務が当然に承継されるということであれば,甲案と乙案のその違いというのが,非常に隣接的になるのではないかなというふうに思いました。

● はい。
● 受益権譲渡の場合の考え方で,質問と1対1で対応しているかどうかわかりませんが,まず信託行為の定めを置いた場合に補償義務が生ずるというのは,これは何度も言うことでございますが,受益権の中に権利義務が含まれる,一体の物となると。


そうしますと,受益権が譲渡されれば補償債務もくっついていきまして,新受益者が補償債務を承継すると。


そのかわり,前受益者は特段の手当てをしない限り,補償債務を免れるという形になると思います。


これに対しまして,個別の合意によって補償義務を負担するということになりますと,受益権の譲渡があったからといって,新受益者が補償義務を負ういわれはないわけでございまして,別途合意をしない限り新受益者は補償義務を負わない。


そのかわり,前の受益者は譲渡したからといって,責任を免れるものではない。そのような結論になるというのが,我々の理解でございます。


● 乙案にとってもそういう--。
● 乙案がそうなるわけですね。乙案がこうおっしゃったように別途の合意ですから,譲渡人は残るけれども譲受人はないということになります。


● ほかにいかがでしょうか。
  私の理解では,この部会の中では今まで御発言いただいた方の中では,甲案の支持よりも乙案の方が多かったように思いますが,そういう理解でよろしいでしょうか。


  まだこれは恐らく,○○委員あるいは○○委員,甲案の方がいいという御意見をきょうも表明されましたが,それがパブリック・コメントの中は半々だったかもしれませんけれども,そのパブリック・コメントを踏まえた上でも,きょうは○○幹事が乙案の方が適当であるという意見を表明されました。

ほかの方々は,特に御意見を判明されませんでしたけれども,乙案が適当であるという御意見だというふうに理解させていただいてよろしいでしょうか。


  それじゃあ,これはきょう最終的な決定をするというわけではございませんけれども,いろいろな後のたてつけというんでしょうか,ほかの関連もありまして,放棄のところとかいろいろなところに影響しますので,基本的には乙案をベースにしてこれからほかの点も詰めていきたいというふうに思います。


よろしいでしょうか。
  ほかの点については,いかがでございましょう。今の32が一番大きな争点の1つだったわけですが,そこは解決したとして,37,39あたりはいかがでしょうか。


  これも先ほど一応事務局から説明がありましたが,その説明を了承するということでよろしゅうございますか。


  じゃあ,そういうことで37,39は御承認いただいたというふうに考えたいと思います。

  それでは先にいきましょうか。
● では次は,受益権の譲渡と消滅時効につきまして,御説明を申し上げます。
  第48,27ページからでございます。試案につきましては,次にあります2点を除きまして,賛成意見が大多数を占めましたので,これから申し上げます点について御異論がなければ,試案をそのまま維持するということとしたいと思います。

  まず,試案の3に関しまして,受益権の譲渡の場合においても,異議をとどめない承諾に抗弁切断の効果を認めるべきであるという意見がございました。

しかし,受益権の性質を権利義務の総体と位置づけた場合というか,今の一応のまとめですと,権利の相対と位置づけるという方向性でございますが,その場合でも単純な指名債権の場合と異なりまして,受益権というのは性質・内容の異なる各種の権利を包含するものでございますので,契約上の地位の移転の場合に準じまして,抗弁切断の効力を付与しないということも十分にあり得ると思われます。

また,仮に承諾に異議をとどめない限り抗弁が切断とされるといたしますと,受託者としては抗弁を承継させるためには,受益権の包含する権利総てに関して,いちいち異議をとどめる必要があることになりまして,受託者に相応の負担を課すことになると思われます。


また,異議をとどめない限り抗弁が切断されるとしますと,例えば信託行為が無効であって受益権が発生しない場合におきましても,受託者はその瑕疵を対抗することができないということになりまして,そのような結論というのは受益証券の有因性となじまないという指摘があり得るところでございます。


  これらの事情にかんがみますと,受益権譲渡の場合には,受託者の抗弁は常に承継されるとの試案の考え方が相当であって,反対意見は採用しないとすることでよいと思われるがいかがでしょうか,というのが第1点でございます。


  次に,試案の1の(2)につきまして,受益権の譲渡に関する信託行為の別段の定めを対抗できない第三者の要件について,善意に加えて無重過失,重過失がないことを要請すべきであるとの意見がございました。


ところで,この第三者について,善意のみならず無重過失が必要とされるという考え方自体には異論はございません。


しかし,指名債権の譲渡に関する民法466条2項におきまして,譲渡禁止特約を対抗できない第三者に当たるためには,善意のみならず無重過失を要すると判例上解されておりますが,その上で同項は現代語化された後も,善意とのみ規定されておりまして,そうしますと試案のとおり,善意とのみに規律しても,ここに無重過失まで読み込むことは当然に可能でありますし,民法の規定にも平仄が合うと思います。


そこで,試案を維持して無重過失の要件を明文化しないということでよろしいのではないかと思われます。


以上につきまして,御異論がなければ原案維持ということにしたいと思います。

  次に,29ページの消滅時効の点でございますが,試案につきまして,次の3点を除いて賛成意見が大勢を占めております。

  まず,第1に残余財産に関する権利の消滅時効に関する試案の2につきまして,信託終了後の帰属権利者の権利に関しては,残余財産が金銭以外の財産権である場合には,帰属権利者に所有権が移転して,帰属権利者が所有権に基づく物権的請求権を有することになりますが,物権的請求権が消滅時効にかかるか否かについては,消極的に解する見解が有力であるという疑問の指摘がございました。


試案におきまして,消滅時効にかかる残余財産分配請求権として観念しておりましたものは,あくまでも受益債権と同列に論ずべきものでありまして,つまり債権的な信託財産の給付請求権でありましたが,その趣旨を明確にするためには,試案では残余財産に関する権利としておりましたところを,残余財産の給付に関する債権と改めて明確化してはどうかと考えるものでございます。

  次に,試案の1(2)につきまして,通知だけではなくて権利行使の催告も必要とすべきであるという意見がございました。しかし,受益債権の消滅というのは,あくまでも消滅時効の援用によって生ずるものでございまして,通知に対する受益者の不回答によって生ずるものではありませんので,権利消滅の前提として権利行使の催告を要するという,論理的な関係にはないと言えます。


また,受託者にこのような通知義務を要求しましたのは,受益者に対する忠実義務ないし公平義務を負っている受託者の地位にかんがみまして,本来禁止されるべきものとは言えない時効援用権に付随して,いわば最低限の義務を課したにとどまりまして,それ以上に受託者の負担を重くする必要性があるかは疑問でございます。


さらに受益債権の存在及び内容の通知に加えて,権利行使の催告まで行うということをするか否かによって,受益者の利益に大きな違いが生ずるとも考えがたいところでございます。


そこで,権利行使の催告も必要であるという意見は,採用しないということでよろしいのではないかと思われますが,御意見を賜れればと存じます。


  最後に,1の(3)に関しまして,受益者の所在不明以外に正当な理由があるという場合は想定できないから,正当な理由は削除すべきであるという意見がございました。


しかし,この資料の31ページの①,②で挙げた事例など,事情のいかんによりましては,常に受益者に対する通知義務を課すことが相当ではないと思われる場合もあるわけでございまして,そうしますと,所在不明以外にも正当な理由がある場合には通知不要とする規律を設けることに合理性があると考えられます。

そこで,正当な理由がある場合を削除すべきとする意見につきましても,採用しないということでいきたいと考えておりますが,御意見を賜れればと存じます。
  以上でございます。


● それでは,ここまでで御意見を伺いたいと思います。
  はい。では,○○幹事。


● ここで聞くことではないのかもしれないんですが,48の受益権の譲渡の3の抗弁の話で確認させていただきたいんですが,これ有価証券が出た場合というのは,どう考えているんでしょうか。


有価証券のところを見たら,抗弁の話は全く書いていないように記憶しているんですけれども。


たしか67なんですけれども。この考え方は基本的にそのまま有価証券ででも当てはまるとお考えなんでしょうね,多分。つまり,理由づけが一体として地位を譲り受ける,包括承継的な性格なんだというんであれば,その譲り受けのやり方が有価証券であろうが,この民法の債権上と類似--類似と言ったのは,包括承継的な性格があるから,そう言ったんですけれども--それであろうが同じで,ただ善意取得についてだけ,証券の所持に基づく権利者としての推定が働くからそこは違うと。そういうふうに理解したんですが,それでよろしいんでしょうか。


● そういう御理解で結構かと存じます。
● 受益権の譲渡に関してはよろしいですか。
  それでは今,○○幹事が指摘されたのが,もちろんこの前提になっている理解ですけれども,それも含めまして,受益権の譲渡48についてを御承認いただいたというふうにしたいと思います。52の時効はいかがでしょうか。


若干の改正部分がありますけれども。
  はい,どうぞ。

● 本文については,これで結構かと思います。1つだけ御質問ないし御確認なんですが,31ページに正当な理由の例を2つ挙げておられますが,そのうちの第1の例の方なんですけれども,最終計算の承認行為があった後は云々とありますけれども,これは試案でいうと58信託の清算についての6の最終計算を指しているのでしょうか。


そうだとしますと,それに伴う免責の効果があることになると思いますが,それと時効との関係はどうなのかということです。

  もう1つ,この①についてより一般的なことなんですが,信託行為で定めることによって,その時効あるいは援用に伴う忠実義務の規範をどこまで自由に変えることができるのか,という問題がさらにあると思います。


そういう意味で,①については少しわかりにくいことがあると思いますので,御説明いただければと思います。


● はい,いかがでしょうか。
● ①の例というのは,おっしゃるとおりでたしかに信託行為でどのような定めを置いた場合に,それがそのまま正当な理由として認められるかどうかというところの1つの問題だろうと思います。


最終計算の局面のところで,確かに免責というのは入っておりますけれども,私どもの理解ではここでの免責は,若干範囲狭いものではないかというふうに考えておりまして,つまりどのような責任でも免責されるわけではない,ということになりますと,それと並存的にあらかじめ受託者が信託行為の中で消滅時効も--共益債権についてということになるんだろうと思いますけれども--定めておくということもあっていいのではないかなというふうに考えて,ここではとりあえず例に挙げたと。


つまり,そういうことを受託者サイドとして現実的にやるのではないかと,やり得るのかなということで,とりあえず書いたというところでございます。


  じゃあそれを越えて,今はこのような信託行為の歯どめを例に挙げたのですけれども,じゃあ一体どのような例がそのほかにも許容されるかというのは,ちょっとなかなか一概には申し上げにくいところはありまして。信託行為で消滅時効の援用を自由にできますという例を挙げていないのは,何でもかんでもというわけにはいかないのだろうなというのが,1つの判断ではあった。


ただ,じゃあどのような条件でというところまでは,ちょっとまだ解釈に委ねざるを得ないのかなというようなところで考えていたということでございますが。


● 今の御説明の中で,最終決算に伴う免責の効果については,またその部分で具体的に検討すればよろしいかと思います。


それから,信託行為に定めれば何でもこの時効に関する規範を左右できる,というのは適当ではないという御説明は,私もそのとおりだと思うんですが,であればこそ,①の例というのよりも,もう少しほかの例の方がいいんじゃないかなという気がいたします。

● わかりました。これはちょっと適当な例に考える,変えるかどうかね。
  ほかに御意見ございますか。
  はい,どうぞ。


● 何回か出た話の蒸し返しのようで恐縮なんですが,これ消滅時効,時効消滅したときには,その弁済の事実があるにもかかわらず,それを証する資料がないという場合は別なんですけれども,弁済していないんだけれども期間が経過したということで,かつそれを消滅時効を援用したという場合には,その財産は信託財産ではなくなるんですか。


当該その受益者がそのときに給付する権利がなくなるだけ,給付を請求する権利がなくなるだけであって,信託財産であることの性質は変わらないんでしょうか。


● 一番端的に申しますと,受益債権について受益者が放棄したのと同じ状態になるんだと思っておりまして,そうしますと,信託財産性というのが失われるということではなくて,それに対して実質的な次順位の方が取り分をとられるということになっており,例えば残余財産として,残余財産を帰属権利者にいくとか,そういうような関係になるんだというふうに整理しております。


● それが適当だと思いますね。よろしいでしょうか。
  それでは,52の消滅時効のところも御承認をいただいたというふうに考えたいと思います。


  それでは,先にいきましょう。
● では,続きまして遺言信託と契約信託の問題,第63と第64についてでございます。


  まず第63の36ページ以下でございますが,パブリック・コメントによりますと,遺言による信託設定を許容する試案に対しては,1件反対意見がありましたが,それ以外は賛成意見であったということ。


それから3につきましては,受託者の選任請求に関するものでございますが,反対意見はなかったので,1,3についてはいずれも原案どおりとしたいと思っております。


問題は2でございますが,これはやはり実質的にも意見が同数にわかれたところでございます。


  ところで,この甲案と乙案,補足説明にもいろいろ書かせていただきましたが,ちょっと切り口を変えて御説明しますと,まず委託者の地位が相続になじむか否かという法的性質論から考えてみますと,資料の37ページのイ以下に書きましたとおり,遺言信託における委託者の地位は,その性質上相続になじまないという乙案のA説の考え方と,それから遺言信託における委託者の地位についても民法の一般原則と異なるところはなくて,その性質上は相続の対象となるという乙案B説の考え方,それから当然ながら甲案の考え方とに分けることができると思われます。


その上で,この乙案A説によりますと,委託者の意思を介した説明をするのではなくて,そもそも委託者の地位の相続性を否定してしまいますので,法律行為の当時者としての地位,例えば詐欺を理由とする取消権や信託財産の受託者への引き渡し義務といったものが観念できると思われますが,こういうものあるいは信託法上の法定帰属権利者としての地位も承継されないこととするのか,仮に相続される権利義務があるとすると,その区別の基準や承継の法的根拠--相続ではないとするとどういう根拠で承継されるのか--というような問題について解決する必要が生じてくると思われます。


  一方,委託者の地位の法的相続性を肯定する甲案と乙案のB説では,このような問題は生じてこないと思われるわけですが,この両者の結論としては,正反対となりますのは,法的性質論とは別に,受益者と委託者の相続人との利害関係にかんがみまして,委託者の通常の意思をどのように考えるかについての実質論からの違いから生ずるものと思われます。


つまり甲案におきましては,委託者の相続人も委託者の地位を相続により承継することを原則とした上で,受益者との利害対立の恐れを回避するために必要があるのであれば,被相続人としては,信託行為である遺言において委託者の権利を縮減ないし消滅させるという定めを置けば足りるというふうに考えるものと思われます。

これに対して乙案B説によりますと,委託者の相続人と受益者とは信託財産に関して類型的に利害が対立する関係がある,という理解を前提といたしまして,被相続人の合理的な意思というのは,委託者の相続人に委託者の地位を承継させないということを,類型的に意図しているとみるのが相当である,としまして,このように委託者の意思の推定のもとに,原則として委託者の死亡を契機として,法的帰属権利者としての地位以外の委託者の権利義務を喪失する,という定めが置かれていると,いわば擬制するものと言えると思われます。

  それから次に,委託者の相続人は委託者の権利義務を有しないことをデフォルト・ルールとします,結論において共通するこの乙案A説とB説でございますが,信託行為の定めによってデフォルト・ルールと異なる取り扱いをしようとする場合の説明の仕方が異なってくると考えられます。


つまり,乙案B説におきましては,委託者の地位の相続性自体は肯定するものでありますところ,委託者の相続人が委託者の地位を有しないことをデフォルト・ルールとするのは,あくまでも委託者の意思を推定したことによるものに過ぎませんので,委託者が信託行為である遺言において明示的に相続人は委託者の権利義務を有するということになるということ。


つまり,相続を契機として委託者の権利義務が消滅するということはない,ということを定めれば,この定めが優先しまして,民法の一般原則に戻って相続人が委託者の地位を承継することとなると。


このように被相続人の意思を介した説明が可能であると思われます。正確に申しますと,ここでの信託行為の定めは,権利の相続性という属性を決定しているのではなくて,相続されるべき権利の範囲を信託行為によって決定しているのでありまして,あとは一般的な相続のルールにのるというふうに考えているわけでございます。

  なお,パブリック・コメントにおきましては,乙案を支持する見解の中でも,このB説のように委託者の地位を相続性自体を否定するのではなくて,委託者の通常の意思を推定に根拠を求める見解が多かったという印象でございます。
 

 これに対しまして,乙案A説によりますと,そもそも相続性を否定しますので,委託者が信託行為である遺言におきまして,相続人に権利義務を付与すると定めた場合におきまして,遺言によっているにもかかわらず相続以外の理由,つまり第三者のためにする契約というような特殊な法律行為として相続人が委託者の権利義務を原始的に取得するのだというように説明すると思われます。


しかし,この考え方につきましては,かなり技巧的な法解釈をとることが妥当であるかどうか。あるいは私人が遺言によって裁判所に対する権利を創設することになるということになりますが,このようなことが説明可能であるのか。


仮に相続人が委託者の権利義務を欲しないときに,相続放棄ではないわけですので,いかなる方法が可能であるかなどの問題を解決する必要が生じてくるというふうに思われるところでございます。


以上が乙案A説の場合の難点という感触でございます。
  次に,第64の契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務につきましてでございますが,これも同様に甲案,乙案を挙げておりますけれども,パブリック・コメントの結果といたしましては,委託者の信託上の地位の相続承継を原則として肯定する甲案の方が優勢でございました。

それぞれの理由として述べているところは,この39ページに書かせていただいているとおりでございます。これも法的性質論から分析いたしますと,この資料の41ページの(3)というところに書いてございますけれども,委託者の地位はその性質上相続性になじまないとする乙案のA説の考え方と,相続性自体は問題ないと,対象となるという乙案B説の考え方と,甲案の考え方にわかれるということになると思います。

  なお,この資料におきましては,42ページの「いずれにしても--」以下に書いているところでございますが,これは基本的な視点でございますけれども,委託者の地位の相続性という法的性質論に関する限りは,遺言信託の場合と契約信託の場合とで特段区別される点はなくて,両者は統一的に解されるべきであると考えているわけでございます。


委託者の地位がその性質上,相続になじむかどうかということ。つまり,帰属上の一身専属性があるかどうかということは,設定方法によって変わることはなくて,あとは委託者の相続人と受益者との利害関係の相反性という実質的な点を考慮して,相続されるかどうかを決定することになると考えられるわけでございます。


その上で,委託者の地位の相続性を否定する乙案のA説の考え方によりますと,すべての権利義務の承継が否定されるのか,承継される権利義務があるとすればその区別や承継の法的根拠は何かという問題が生ずることにつきまして,先ほど述べさせていただいたとおりでございます。
 

 次に,委託者の地位の相続性を肯定する点において共通する甲案と乙案B説が,結論として正反対になることにつきましても,性質論から離れた実質論から生じるものであるということは,先ほど述べたところと同様でございます。


  また,委託者の相続人が権利義務を有しないことをデフォルト・ルールとする結論において共通する乙案のA説とB説におきまして,信託行為の定めによって異なる取り扱いをする場合の説明の仕方が異なってくるということ。

特に原則として相続性を否定した上で,しかし契約信託において権利義務を付与するという定めをした場合に,若干特殊な説明を必要とすることになるという点も,遺言信託に関して述べたところと同様でございます。

  なお,特に遺言信託ではなくて,契約信託の場合におきまして,乙案B説のような考え方,つまり法的性質論としては地位の相続性を肯定するものの,実質的観点から委託者の地位の承継を否定するという考え方,これが相当であるかどうかという点につきましては,このような前提となる理解が,自益信託の場合にも妥当するのかどうか,他益信託の場合についても信託の経済的利害,信託が経済的利益に基づいて設定されている場合ですとか,公益,準公益や扶養目的として設定されている場合には,相続人による権利行使を認める方が目的達成のためには望ましく,委託者自身にもかなうのではないか。


あるいは委託者の地位の承継を実質的に否定する考え方というのは,委託者の地位の移転を認める考え方との平仄が果たして合うのであろうか。


さらに言えば,委託者の相続人による不適切な権利行使が懸念されるという点は,遺言信託ではなくて契約による信託による場合においても,委託者の地位の相続を意図しないことが一般的であると類型的に推定するに足りるほどの社会的事実があるものと言えるか等の問題点をクリアする必要があると思われるところでございます。


これが契約の場合には,特に乙案をとった場合に特に検討する必要があると思われる点についてのお話でございます。


  次に,第53のところに戻りますが,試案に対しましては以下の3点を除きまして,賛成意見が大勢を占めております。32ページ以下でございます。


  まず試案では,委託者の権利を基本的に現行法よりも後退させる考え方をとっているのに対しまして,これとは逆に,委託者に原則として従来どおりの権利を残すべきであるとの意見がございました。


もともと信託においては,委託者が受託者を選任したのであって,信認関係も委託者と受託者間にあったのだから委託者の方が監督に適切である,というような理由を挙げるものでございます。

しかし,受益者の保護をいう点につきましては,試案の考え方におきましても,委託者としては信託行為に定めを設けて監督的権能を留保することができるということに加えまして,法定代理人が受益者の利益を代弁することも可能であると思われます。


また,受託者が委託者との間においても信認関係を有することを否定するわけではないのですが,委託者と受益者の意見衝突を避けて,信託の運営を効率化させるためには,委託者の権利と受益者の権利のいずれか一方を尊重する選択をせざるを得ないわけでございますが,信託の設定後は受益者こそが当該信託にもっとも強い利害関係を有すると考えられることにかんがみますと,受益者の権利の方を後退させるのは適当ではなくて,委託者の権利の方を後退させる方が妥当であると思われます。

これらの事情にかんがみまして,試案の考え方を従来どおり維持したいと考えております。


  第2に,別表の権利のうち,4の説明請求権と6と12の差止請求権につきまして,原則として委託者にも付与すべきであると。

試案では,デフォルト・ルールとしてはなしとしておりましたが,デフォルト・ルールとしてありとすべきであるという意見がございました。


ところで,この6と12の差止請求権につきましては,資料34ページに書きました理由によりまして,試案どおり委託者には原則として付与しないということでよいと思われます。


これに対しまして,4の説明請求権につきましては,これまで原則として認めておりました21の信託財産に関する書類の閲覧請求権に加えて,この信託事務の処理の状況に関する報告を受ける権利というのを,原則として認めることによりまして,委託者としては信託財産の状況のみならず信託事務の処理の状況も合わせて,信託の概況全体を把握できることになりまして,信託目的の設定者によりふさわしい地位を有することになると思われます。


つまり,信託の委任的側面として信託事務の処理の状況の報告を受ける権利というのを認め,財産的側面として信託財産の状況に関する書類の閲覧請求権を原則として有する,ということになるわけでございます。

そこでこの4につきましては,試案を改めましてデフォルト・ルールとして,委託者が有する権利と位置づけるべきと考えるところでございます。


  第3に,委託者の地位の移転に関しまして,試案に明記しておりました信託当事者全員の合意を得て移転する方法に加えまして,信託行為の定めによって移転することもできることを明記すべきであると,いう意見がございました。


この資料でいいますと,本文の2に関するところでございますけれども,この意見につきましては,補足説明でも実は備考欄の注で付記していたところでございますが,信託行為の定めに従って委託者の地位の移転を否定する理由はないと思われますので,これを本文中に明記することとしてはどうかと考えるところでございます。

● それでは,委託者に関連する問題ですけれども,53からいかがでしょうか。
  

53のところは,ある意味で原案的というんでしょうか,修正も含めて原案という形で出ているわけですが,遺言信託のこの63の2のところ,甲案と乙案が出ておりますし,また64のところも契約による私益信託の場合においての,委託者の,相続人の権利義務です。


これも甲案と乙案がございますので,これは皆さんの御意見を伺って決めていきたいと考えております。


  私の記憶も余りはっきりはしませんけれども,私がまとめることに対して御異論があれば,また御異論いただきたいと思いますけれども。


  委託者の地位につきまして,遺言信託に関しては,これは最後の甲案,乙案をとるかとは別にですね,遺言信託の場合の相続人というのは遺言者,つまり信託を設定した遺言者としたがってまたさらに言えば受益者と,利害対立する関係にあるので,相続人には権利を与えない方がいいのではないかという御意見が多かったように思います。


そのときの法律構成の仕方として,ここはいろいろな御意見があったと思いますけれども,一切委託者の地位というものを相続しないんだと,遺言信託の場合ですけれどもね,そういう考え方と,これは今甲案ですが,それから乙案のように一応相続性を否定するわけではないけれども,遺言者の意思,委託者の意思というのは相続人に権利を与えないことだというふうに考えて,結局相続人には権利義務を与えないという立場と,両方あり得る。


今のが乙案のB説ですけれども,これは必ずしも十分ここでは御議論はいただいてないように思います。


しかし,まあ結論は今申し上げたように,少なくとも遺言信託の場合については,委託者の相続人には権利義務を与えない方がいいのではないかという御意見であったのではないかと思いますが,いかがでしょうか。


  今のまとめ方でよろしかったかな。
  どうぞ,では○○委員。

● 意見が出ないので,今の乙案B説に賛成します。これは遺言者の意思からすれば,相続人に承継させないと。そういう意思であると。


だから乙案のA説の方は,理屈がやっぱり難しくなってしまう。Bの方は信託行為の定めで承継させることもできるんだという,そういう設定ですから,大変合理的でいいかと思います。


● どうもありがとうございました。
  ほかに御意見ありますでしょうか。


  私も個人的には,乙案のB説がいいのではないかというふうに思います。ただ,その何かやっぱり規定が必要なのかなと。つまり,遺言の解釈だけで一般論として,相続性があるというのを前提でなるべく,だけど遺言者の意思を根拠にして,一般的な意思を根拠にして,委託者の相続人に委託者の権利義務を与えない,相続させないというわけですが。


何か規定が,そういうことを可能にする規定が信託法の中に必要なのかもしれない,というふうに思うんですね。単に解釈だけでそういけるかというと,ちょっとそこは危惧をしているところなんですが,この点についても何か御意見があればと思いますが。


  これはどうですかね。何か--。
● 事務局としても,遺言信託だったら当然そうだというふうに読み込むのはなかなか難しいので,乙案B説の場合でも,規定があった方がいいんではないかなという感触を持っているところでございます。


将来的には,法制的なことですが,そういう印象でございます。
● そういうことでよろしいですか。
  では,余り反対はなさそうでございますので,今の乙案のB説でいくということで,何か適当な規定も考える。

  生前のといいますか,契約による私益信託の場合の甲案,乙案はいかがでしょうか。パブリック・コメントとしては甲案の方が多かったということですね。

それから説明の仕方,それから実質を考えても,甲案の方が支持者が多かったようでございます。この部会では--ちょっと私もはっきり覚えておりませんけれども--甲案を積極的に否定される方は,そんなに多くはなかったように思いますね。

  じゃあ,どちらがいいかということを理由づけは結構ですけれども,御意見だけでもいただかないと方向が決まらない。

  指名してあれですけれども,○○幹事,いかがですか。

● 私は実を申しますと,遺言信託においても,そんなにA説がとれないものかなという感じがして,実を言うとそういう気はしておりまして,相続人が何らかの権利取得をするというのも,相続人という立場にある人にそのような権利義務を認めるということで,いろいろ説明はつくんじゃないかという気は,実はしておったのですが,しかし乙案であることにかわりはありませんので,B説でということであればB説でもよろしいかなというふうに思っております。


  ただ,恐らくA説かB説かというのは,この契約による設定の場合に,もう少し変わってくるところがあるのかなという気がしておりますが,ただ,そうですね--。


● 整合性を考えなくてはいけないところがあるかもしれませんね。

● はい。むしろ結論を先にありきなのかもしれませんけれども。
● そんな結論はありません,こちらとしては。


● 私自身は,もうちょっと理論的な説明のところをおきますと,かなり委託者の意思というものが相当に尊重されていい話ではないかという気がしておりまして,委託者自身がもう自分で終わりたいというのであれば終わらせ,別の人に移転したいというのであれば,別の人に移転させるということでいいのではないかというふうに考えておるのですけれども,ただ一方で,委託者の地位の移転のところで,他の委託者,受益者及び受託者の同意を得て移転することを妨げないということですから,基本的に全関係者の同意を得ないと誰に自分の地位を承継させたいかということは決められないという設定になっており,かつ大もとのところ,それをやりたくなければ信託行為のところであらかじめ定めておいて,委託者の一方的な意思表示によって移転できるとか,そういうふうに定めておくという法制なので,そう委託者自身の意思が最大限尊重されるというようなことには,全体としてなっていない。


ある程度制約がかかってくるという仕組みなんだろうと思っていまして,それが本当にいいのか,っていう気にはなっているのですが。そうですね--。


● それは遺言信託の場合は,遺言者が自分で信託を設定するときにあらわす意思であるから,それはその委託者の地位を後から移転する場合と違って,その意思だけを考えればいいということで済むわけですよね。

● 自分は抜けるわけですので,最初から別の人しかあり得ないわけですから,別の人に最初から設定できるという想定ですよね。


その際はやはり,相続人でしかやっぱりあり得ないかというと,第三者を指定してもよろしいわけでしょうか。委託者としての各種の監督権限はだれだれに与えるという,信託行為で決めてよろしいものでしょうか。


● 不可能じゃないかもしれないですね。
● 可能かどうかによって,また違ってくるのかなという気はしているんですけれども。


● 委託者の地位を承継させるというのは,それはちょっと違うと思いますけれども,信託行為の中で委託者が持っているような権限を,信託行為としてだれに与えるかというのは,全く不可能ではないような気がしますけれどもね。


● 恐らく今言われたのは,それこそ細分化すれば,損失てん補はこの人を委託者として,また解任の申立権はこの人を委託者として,というようなことが可能になるんだとすると,まだそこまでは言えないんだろうと思いますけれども。


● 委託者なのかどうかね,それが。いろいろな権限を与えるということは可能性があるような気がするけど--。


● そこを自由に決められるのであれば,もう相続も否定してしまって,意思一本でというふうに実は考えていたのですけれども,そこは委託者の地位としてはもちろん別で,ある程度相対であって,かつ全体として移っていくとすると,相続による承継をするというのでもいいのかなという程度なんですが。すみません,ごちゃごちゃと申し上げながら。

委託者の地位という点では,無理だろうということでしょうかね。ですから,自分はこれだけ持っているけど,相続人に対してはこの半分しか与えないとか,そんなことは基本的にできないという--。


● 個別的に委託者の地位の,地位に含まれるような各種の権利ございますけれども,そのうちの一部だけ個別に承継させるというのは,相続人でありましたり,それから個別の承継がもちろん念頭に置かれると思いますけれども,そういった切り売りのようなものではなくて,地位に基づいて各種の権利を法律上認めているということだと思いますので,ある程度の一体性というものが必要だという理解をしております。

● ありがとうございます。

● 最後,結論がよくわからなかった,契約の場合はどういうことになるんですか。関連するということだったと思いますけれども。


● いや,そうであるでの法理でよろしいんじゃないかと。

● ほかに何か御意見がございますでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● 私ども自身,別にどっちの案ということではないんですけれども,単なる関心なのかも,ちょっと御確認したいところがございまして,それは法律関係が複雑になるのか,ならないかということについて,僕の意見でもありましたのでちょっとその観点から御質問したいんですけれども。仮に承継された場合に,複数になると思うんですけれども,その複数,多分2人とか3人とか承継された場合に,監督権を行使する場合には共同して行うことになるんでしょうか。


それとも一種の共有というふうに考えて,監督権の行使というのが管理権みたいなものだから,おのおの1人ずつが係る監督権を行使できるというふうになるんでしょうか。


そうするのであれば,結局受託者からすると,監督権を行使される人がふえてしまうと,そういう単純な整理ということでよろしいんでしょうか。


● 準共有っていうふうになるんだと思いますけれどもね。だから全員でという。相続人が数人いたときには,委託者の地位の権利行使をするときには,まとまってしなくちゃいけないということになるんだと思います。


内部でどういうふうに決めるかはまた別ですけれどもね,多数決で決めたいかどうかは,その内部で決めることができると思いますけれども,合意がなければ準共有ということで説明すると思います。

● だから,受託者の側の権利を行使するときにも全員でという。

● 恐らく,例えば書類帳簿閲覧請求権みたいな,単独で行使しようと思えばできなくはないのがありますけれども,これもやっぱりまとまっていくんだというふうに思いますけどね。僕はそう思うけれども,どうなんですか。

● 基本になるのはそうかなと思いました。あとはちょっと考えたこともないんですが,その権利の性質によって果たして処分までいくものなのか,管理的なものなのかによってわかれてくるのかなと。


帳簿ぐらいですとどうでしょうかね。管理行為だったら過半数とか,あるいは保存行為だったら1人でもできるでしたでしょうか。そこら辺は権利の性質によってではないかなという気がいたします。

一概にはちょっと言えないですが。基本になるのはそうだと思います。

● 私が余りリードしては,本当にそれほど強いどっちかっていうわけじゃないので。皆さんの御意見を伺って決めたいと思いますけれども。今の何人かの御意見は,契約の場合は甲案で構わないという,そういう御意見だというふうに変わってよろしいでしょうか。

  それでは,規約64の場合には甲案で,それから遺言の場合には乙案のBという線でいければと思います。そういうふうに組み合わせをとったときに,先ほど○○幹事が言われた整合性の観点から言えば,一応相続性はあるというもとで扱いますので,整合性はとれているということになりますね。

  それでよければ,じゃあ残りの最後のところで。

● すみません,53に一言言いたいんですけれども,受託者の権利義務ということで,今回説明請求権をこのデフォルト・ルールで認めていただくということでいただいているんですけれども,先ほどちょっと話も出たところなんですけれども,帳簿閲覧請求権はどうでしょうかということなんですけれども。


これは委託者の立場で何か問題があったときに,とり得る対応を考えたときに,説明請求権を行使して説明を受けるというのが,まず第1段階あると思うんですけれども,その次にとり得る手段というのが,考えられるところが,受託者監督人を選任するか,あるいはその解任とかいうことになるとちょっとドラスティックなところにいきなりいってしまうような気がしておりまして。

できれば,その帳簿等を見られると助かるかなという気がしておるんですけれども。その点,もし御検討いただけると助かるかなという気がしますが。


● 今の説明請求権と帳簿のところございますけれども,こちらの方ではパブリック・コメントに付された意見も踏まえて,意見の方も説明を求めるという方だけで,帳簿などの細かい資料についての閲覧というのはさすがに行き過ぎだろうという,恐らくそういう御判断で意見が寄せられていましたものですから,それに従ったというのが1つと,もちろんそれに加えて,じゃあもう一歩進んだらどうかという点も問題になります。


  その点については,こちらでももちろん検討はしたわけなんですけれども,やはり信託についての状況を知りたい,ということについては,契約当事者ですので当然に付与しましょうという判断は適当だろうと思っているんですが,それに加えて,信託についてのその先にある帳簿ですとか細かいような資料になりますと,これについては,信託によってはかなりのものがいろいろ出てきたりしますので,信託が大きな信託,あるいは商事的な信託ということになるのかもしれませんけれども,そこにはやっぱり受託者の負担という点もあるのかもしれませんし,利害対立あるいはそういったもろもろの委託者の地位について後退させるとしたことについての,制度的な理由かと思うんですけれども,そういったものがあり,信託についての説明を求めるというのと,やはり帳簿その他のものについて閲覧あるいは謄写をさせるというのとでは扱いを変えた方が,今回の委託者に関する全体の考え方の中ではふさわしいのではないかなというふうに考えたというところでございますが。

● 今のは説明ではありますけれども,何かさらにもし御意見があれば。

● 全体の御意見のあれでしょうから,この点には余りこだわろうという気はないんですけれども,実際上のことを考えるとその方が助かるかなという気がちょっとしておるという,意見だけ申し上げさせていただければと思います。


● 御意見を伺って,もし検討してみて委託者も加えた方がいいということになれば,また提示いたしますが,一応原案ということでよろしいでしょうか。

  それじゃあ,次いきましょう。

● 受益者が複数の場合の権利の関係でございまして,提案1というのは,受益者が複数の場合における損失てん補請求権と原状回復請求権につきまして,資料ですと45ページの(注2)のとおりに,各請求権がいわゆる単独受益者権であるという考え方をとることを前提といたしまして,ある特定の任務違反行為について,受益者ごとに別々の請求権を行使した場合に,受託者がいずれの義務を履行すべきかという点について検討したものでございます。


ですから,(注2)が前提となっております。
  ところで,信託における受託者というのは,信託の本旨に従いまして,信託財産をあるべき姿で管理処分することが求められていると思われます。


そこで,みずからの任務違反行為によって信託財産に損失及び変更を生じさせた受託者としましては,受益者に対して信託財産をあるべき姿に戻すこと,すなわち信託財産の原状を回復することをその債務の内容として負担しているものと思われます。


そうすると,原状を回復請求権と損失てん補請求権とが競合して行使された場合は,原状回復請求ができないとする特別の事情がない限り,原状回復請求が優先するものと考えるのが相当であると思われるわけでございます。


そこで両者が競合して行使された場合には,提案1のとおり受託者は原則として原状回復義務を履行することを要しまして,その上でなお信託財産に損失が生じております場合には,資料45ページの(注1)に書きましたとおり,その損失についてさらに損失てん補義務を履行すべきこととなるとしてはどうかと考えるものでございます。


  次に,提案2でございますが,一部の受益者から損失てん補請求がされた受託者がとることのできる対応について,検討したものでございます。


原状回復の優先性を前提といたしますと,一部の受益者の損失てん補請求に応じて,受託者が損失てん補義務を履行してしまった場合に,他の受益者はもはや原状回復請求をすることができないとの考え方をとるのは妥当ではないと思われます。


その反面,受託者が自発的ではなくて請求に応じて,損失てん補義務を履行した場合においても,その後に原状回復請求権がなされれば,受託者は常に原状回復にも応じざるを得ないといたしますと,受託者は二重に義務履行を強いられることになりまして,酷に失すると思われるわけでございます。


そこで,一部の受益者から損失てん補請求権を受けた受託者は,この義務を二重に履行せざるを得なくなる事態を避けるために,提案2のとおり,他の受益者に対して原状回復請求をするかどうかを催告することができるといたしまして,催告に対して回答しない受益者は,もはや原状回復請求をすることはできなくなるとしてはどうかと考えているわけでございます。
  


ところで,視点を変えて付言いたしますと,受益者からの請求のされ方については,どちらもまだ何も請求されていない場合,それから一部の受益者から原状回復請求されている場合,全部の受益者から原状回復請求がされている場合,一部の受益者から損失てん補請求がされている場合,全部の受益者から損失てん補請求がされている場合と,こういう5通りがあると思われるわけでございます。

まず,提案1で述べましたような優先性からいたしますと,一部または全部の受益者から原状回復請求がされていれば,受託者は原状回復義務を履行すべきことになると思われます。


そこで,まだどの受益者からも請求がない場合について,検討してみたところでございますが,この両請求というのは,いずれも受託者の任務違反行為に対する受益者の救済手段ですので,救済対象である受益者が原状回復ではなく損失てん補の方を望むのであれば,その意思を尊重するのが適当であるように思われるところでございます。


原状回復の優先性というのも,それは一般的には受益者の利益にかなうものと考えられることを根拠にするものですので,まずは救済対象である受益者の選択を尊重しつつ,選択が競合したときに原状回復の方を優先すればよいと考えるわけでございます。


  そうしますと,いまだ請求がない場合におきましても,受益者の選択の尊重ということを重視しますと,受託者としては受益者全員の意思をまずは確認するのが一貫した考え方ということになると思われますが,しかし請求が全くない段階におきまして,任務違反行為を自覚した受託者としてみずから責任を履行するのではなくて,あらかじめ受益者の意思を確認すべきだというのも,いささか違和感のあるところでございます。


そこで,いまだ請求がない場合におきましては,受益者の意思の尊重の要請を働かせるべき局面には至っていないものと考えまして,受託者において原状回復と損失てん補のいずれを履行することもできると考えてはどうかと思うわけでございます。


ただ,信託の性質と受益者の保護の要請からきます原状回復の優先性といいますのは,この場面でも尊重されるべきでございまして,損失てん補をしたものの後から原状回復請求がされた場合には,受託者は原状回復を履行せざるを得ないことになると思われるわけでございます。

そうすると,受託者としては二重の義務履行をしなければならなくなる危険性を回避するためには,原状回復の方を履行しておくべきことになろうと思われるわけでございます。


以上は,資料の45ページの(注3)というところの考え方でございまして,このように考えてはいかがかと思うわけでございます。


  そうすると,次に資料45ページの(注5)に書きましたとおり,全部の受益者から損失てん補請求のみがされていた場合について,それにもかかわらず受託者が原状回復の方を履行して損失てん補を免れることができるかという点が問題となってまいります。


もちろんこの場合,受託者としては損失てん補義務を履行しておけば,一切の責任を免れることになると思われますが,例えば任務に違反して信託財産の株式を売却したというような場合におきまして,任務違反行為のときの株価に比して現在の株価の方が下がっているというときには,受託者としては現状回復の方が得策だと判断する可能性があるわけでございます。

原状回復の優先性にかんがみますと,全部の受益者から損失てん補請求がされているとしても,なお受託者の方で原状回復の方を履行することが許されそうでございますし,受託者が現状回復をしてしまえば,結局損失の要件が欠けることになりまして,もはや損失てん補請求を追及し続けることができなくなると,いうようにも考えられるところでございます。

しかし他方,受益者の意思の尊重ということを重視すれば,全部の受益者が損失てん補請求をしているのに,受託者の方でいわば勝手に原状回復をするのは妥当でないように思われますし,原状回復がされれば,常に損失が回復されたものと言えるかという点につきましても,反対の見解があり得るところでございます。


このような(注5)の問題については,どのように考えたらよいかという点が,この(注5)の問題提起の趣旨でございます。なお,類似の問題は,一部の受益者のみから損失てん補請求が現にされている場合にも生ずると思われるところでございます。

  最後に,以上の説明でございますが,これは受益者に両請求権のいずれを行使するかの選択権があることを前提にしたものでございますが,これまでお話申し上げましたとおり,選択権があることに起因してかなり複雑な法律上の問題が生じてくることは否定できないところでございます。


そこで,資料46ページの(注6)に記載いたしましたとおり,法律関係の簡明化の観点などからいたしますと,受益者は原則として原状回復請求のみが可能であって,特別な事情がある場合には,逆に損失てん補請求のみが可能であるというふうにする考え方もあり得るところでございます。

この点につきましても,どのように考えるべきか,御意見を賜れればと思っております。
  以上でございます。


● それでは,この点について御意見を伺いたいと思います。なかなかこれを考えると難しい問題をたくさん含んでいるんですが,いかがでしょうか。

  はい,○○幹事。

● 難しいところで,何が問題なのかをちょっと突き止めたいという意味での質問をさせていただければと思います。

  これは前の第25で,15ページですが,の書きぶりをどうするかということで,先ほど指摘させていただいたところとも関係するかと思います。


要するに,原状回復請求と損失てん補請求,それぞれの内容がどういうものかということをもうちょっと詰めないと,難しくなるのかなと思います。


いずれにしましても,原状回復の優先性という御提案の考え方は,私も基本的にそれでよろしいかと思うんですが,それはあくまでも両者が重なる範囲内においてだと思うのですね。


ですから,重なるというのがどういう場面か。同一な任務違反行為に基づき,であっても,何て言うんでしょう,損失てん補請求の方からいいますと,原状回復請求にあるいは原状回復にかわる損失てん補というものと,原状回復をしてもなお残る損失のてん補というのがあり得るんだと思います。

請負でいいますと,修補と損害賠償の関係はまさにそうでして,修補にかわる損害賠償と,修補とともにする損害賠償というのは区別されておりますけれども,それと同じようなものがここでもあるのかなという気はいたします。


  ただ,原状回復としてどういうものをイメージするかによって,それがまた実際上は変わってくるのかもしれませんが,いずれにしましても,損失てん補に関して2つ分けられるとしますと,原状回復請求の優先性というのはあくまでも原状回復にかわる損失てん補と原状回復の関係に言えることであろうと。


原状回復とともにする,原状回復しても補われないような損失は,またそれとは別ではないかなという気がいたします。それがわかるような書きぶりをこの第71でもすべきかと思いますし,それが第25の書きぶりにもまたはね返ってくるのではないかなという気がいたします。


どうすればいいかというのは,なかなかちょっと具体的に御提案することができないんですけれども,そういったあたりが実は問題じゃないかなという気がいたしました。
  以上です。


● 全くそれはその点から同感ですが,規定の仕方を言われますけれども,○○幹事が今言われたように,原状回復とそれから損失てん補の優先性が問題になるのは,まさに重なっている部分だけであって,重なっていない部分は別途損失てん補が請求できると。


それは受益者が多数であっても同じであると。単独の場合はもちろんですけれども。という理解でよろしいんじゃないかと思います。具体的な何かいい例がもしあれば--。


● 具体的にいい例かどうかわかりませんけれども。
  例えば信託財産,ちょっと今ある例と違うかもしれませんけれども,信託財産に何か機械があってそれで何か生産していましたと,それでその機械が壊れてしまいましたと,したがって原状回復しろと言ってその機械を修理するなり設備を直すなり,新しい機械を入れるなりする,というのが1つの原状回復であると思うんですけれども,その壊れていた期間,それが稼動して売り上げが上がって利益があったじゃないか,というのはまた,その壊れていて放っておいたので,その間活動ができなくてその収益が落ちたじゃないか,というのはまた損失ということで追及できるというのが,いい例かどうかわかりませんが,それが1つの例かなと思います。


● はい。○○幹事。
● 今,○○幹事がおっしゃったことと矛盾することではないという趣旨で発言をしたいんですけれども,○○幹事は損失のてん補と現状の回復という効果の方からおっしゃいましたが,損失と変更というこの要件について,事務局がどう考えていらっしゃるのかというのを少し伺いたいと思います。


  例えば金銭がなくなった,盗まれたということが明らかだと,いうときにはこれどっちと言ってもいいんだと思う,原状回復も恐らく金銭の支払いになるでしょうから,一緒だと思うんですが,損失と考えて損失てん補,aの方の号で考えていらっしゃるのかなと思います。


それに対して,ある会社のですね,新日鉄でもソニーでもいいですけれども,株券が1万株盗まれたというときに,先ほど○○幹事が価格が変動したときの考え方を例として挙げられましたが,そのときは変更が生じたというふうに考えて,原状回復がまずあると。


しかし損失が生じたとも考えられると。同じ事実について,変更と損失,要件の方では両方に当たるということがあり得るという前提があって,原状回復の救済方法としての優先性,何かそういう話になるんでしょうか。

そこが,ある一つの事実である部分が損失,ある部分が変更がある,というのは認めた上でですね,同じ部分について損失でありかつ変更であるということを,あると考えているのか,それとも変更である以上は損失ではない,と考えるのか,そこがちょっとわからないので教えてください。


● そこはやはり,その物の見方で両方あり得るんではないかと思っておりまして,その株券を失った場合というのもまさに原状回復であれば同じ物を返すということですし,それを金銭的に損失と見れば損失てん補だと。


どっちでいくかというのは,受益者の自由でございますけれども,どちらでも,それは構成の仕方次第ではないかと思っております。

● ○○幹事が特に強調されたのは,25の1のa,bというところに書いてある要件のところですね。同じ事実が損失にも該当し,変更にも該当することがあるかと,簡単に言えば,ね。


● 今,あるということで。わかりました。
● はい。ほかにいかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● 71の1,2ともですけれども,例えば1番の原状回復請求の優先性であるとか,受託者の催告の規律という,いずれも少人数の非営業信託というのであればこういうのが妥当しますし,そういう規律なんだろうなというふうに思うんですけれども,やはり営業信託でなおかつ集団投資スキーム的なもの,これについてちょっと考えた場合,なかなかやっぱりワークしないんじゃないかなという感じがいたします。


  1つは,営業信託ですから,○○委員がよく言われる,金もうけの信託ということの観点からいきますと,やはり金銭賠償というのを投資者が念頭に置いてやっておりますので,損失てん補というのがやっぱり最初に来るんだろうなというのが1つ,それとあと実際上の問題で考えた場合ですけれども,ワンワン方式で1対1で考えればわかりやすいんですけれども,例えば投資信託みたいなもので,株の売買を日々やっていますというのと,受益者の入れかわりも激しくありますといったときに,それじゃあ原状回復というのは何か1つすぱっと切れば,そのときの財産はどれだけあって,じゃあその分を補てんしないといけないというのは出てくるかもしれませんけれども,それは多分大変な作業だろうなという感じがいたします。そういうことが1点。

  それとあと,我々信託銀行で信託事務をやっていましたら,やはり失敗もありまして,補てんすることもあります。そのときに基本的に金銭で補てんする場合もありますし,例えば株式とわかっていれば株式でそこを入れるという場合もあります。


ただ,例えばそれが数万円の場合もありますし,場合によったら数十円とかですね,そんなような場合もあると。そうすると,それをいちいち催告してどうなんでしょうかと,数千人,数万人のお客さんに聞くと,そういうのはやはり非現実的なところではないかなというふうに考えています。


  そういう観点からいきますと,1つは営業信託というものについて,デフォルトとして金銭賠償という形,損失てん補というのをデフォルト・ルールにしていただけないかということが,要望として1つあります。

それが難しいということであれば,せめて信託契約,信託行為に書くことによって,てん補であるとか原状回復とかですね,そういう方法を記載してそれに従うような形にしていただけないかなというふうに思っております。


● 後者は可能だと思いますけれどもね。
● 後者はあり得る。前者はなかなかそれは厳しいかなという感じです。


● 少し確認させていただきたいんですが,商事,営業信託であれば金銭であるという認識でいるというふうに今,発言されたと思うんですけれども,その実際にいろいろと今言われたようにミスをするということは当然あって,それを戻していると思うんですけれども,それは原則お金で戻しておられると,今,そういうおっしゃり方をしたんでしょうか。

● それは,その物自体が明確であれば,それはまさに原状回復するのを前提に考えていますけれども,例えば本当に原状回復といったって,例えば数万円のものがあったときに,それじゃあそれを原状回復するんですかといったら,その場合はその,どういうんですか,原状回復という定義というか,意味自体がどうなのかよくわからないのですけれども,それだけ損失が出たときに,物自体が外に出たことによって損失が出た,といったらそれを戻すという行為について,わかる限りにおいてはやっていますけれども,それがどこまで調査してですね,やっていけばいいかというのはわかりませんので,そこはその金銭賠償でやることというのが,金額が低額の場合には多いんじゃないかと思います。

● 今のは恐らく原状回復を認めることについての問題というのを御指摘されているんだと思うんですが,どちらかというと我々としては,商事信託,営業信託においても原状回復というのが受託者が人から財産を預かっているので,まず第一義的なものじゃないか,というふうに考えております。

その中で,試案の考え方というのは,原状回復は難しいですよというような場合はしなくてもいいです,というような考えをとっておりますので,今言われたところと試案において原状回復を認めているというのが,余り矛盾するような感じがしないのですけれども。実際の営みに近いような規範に,原状回復はなっているんじゃないかという気がするのですけれども。

● そういう形で明確に認めていただけるんであればですね,その原状回復するためにどれだけ特別の事情ですか,そういうものがあるのかないのかというのが,やはり複雑な信託になればなるほどわかりづらいですよね。


そうすると,ひょっとしたらこれをもうちょっと調査すれば,きちんと財産というのがわかって,それを原状回復できるのかもしれないけれども,まあそこまですることはないでしょう,ということも結構あるんじゃないかと思うんですよ。


明確に,例えば土地信託で建物の一部がどうかなりました,と言ったらそれはそれを修復しましょう,という話になると思うんですけれども,複雑な信託でなおかつ当事者が多くて,お金の出入りも多いというものについて,果たしてそういうのがわかるのかどうか。

そういうものをそんな調査をかなり要して,手間暇かかって仕方がないものについては,別にそれは金銭賠償でもいいですよというんだったら,それはそれで構いませんけれども,


● その調査がしにくいので金銭賠償ということなんですが,その金銭賠償すべき額というのは当然,その適切な額を算定しなくちゃいけないわけで,受益者との間でももちろんそういう義務があるということだと思うのですが,原状回復は調査してもなかなかできないんだけれども,お金に換算するのは非常に簡単だというのが,何となくよくわからないんでございますけれども。どういった例を,複雑な信託というのは--。

● 例えば,運用しているのが,たくさんの運用財産があった場合,例えば投資の中だったら基準価格が間違っていましたという形があって,入ってきたお客さんに対して高い基準価格だったらお金は高い基準価格で購入していますから,そういうお客さんに対してどういう形で対応していくかというふうに考えたときに,やっぱり考えていくとわからないところってたくさんあるんですよね。

● 今のは,仮に原状回復でやろうとしたら,どういうふうにしたらいいかというのはよくわからないと,そういう意味ですよね。確かに。


● ですから,そんなのは金銭賠償でいいですよ,っていうふうに割り切るというか,この規律というのはそういうことなんですよ,というんだったらそれは安心できるわけですけれども。


● どこまでカバーするかわかりませんけれども,25の方でしたか,原状回復と損失てん補の一般原則の方ですけれども,そこは著しく困難といわれて,これはちょっとあれかもしれないけれども株の費用がかかるとか,そういう場合は原状回復ではなくて損失てん補で構わないという考え方で,それでうまくカバーできないかという感じがするのが1つです。


しかしそれではうまくいかないので,損失てん補だけにというわけにはいかないでしょうけれども,受託者の方で,責任を負う方の受託者の方でどっちか選べるということになると,ちょっとこれは行き過ぎで,なかなかそこまでは行けない気がするんですね。

● そこのルールみたいなものを信託契約に書くというのは,それは別に構わないということですね。


● それは構わないと思いますね,僕の意見ですが。
  はい。


● これはやっぱりかなり難しい話で,催告権にも絡むんですけれども,受託者がすべき事柄なんですけれどもね。まず損失てん補請求を受けたとしますよね。


それに対して,原状回復を自発的にやったら,それはそれでいいわけですか。今,○○委員は--。


● 僕はさっきそういうことを言ったけれども--。
● だめかもしれないという。


● そこまで強くは言わなかったわけね。そういうこともあり得るんじゃないかという話をしたので。

● それで,そうすると催告はしなくてよいわけですね。
● そう,その立場をとればね。


● それとですね,その損害賠償をしてきた人がいるときに,損失てん補請求をしてきた人がいるときに,原状回復をすると過分な費用がかかるというふうな事情があるときには,催告はしなくていいんでしょうか。


● これは催告義務の関係ね。催告がなかなか難しいものがたくさんあるような気がする。


● これやっぱり催告は本当に,その商事信託で受益者が多数になると,やっぱり大変なことだと思いますので,どうやったら催告をすることを免れるのかというのは,考えておいた方がいいような気がするのですが。


● これは催告義務というよりは,催告することができるということですので,ちょっと紋切り型で恐縮ですけれども,自信があれば,来られてもただし書きでいけるというふうにすればやらなきゃいいし,自信がなかったらやるしかないということだと思うんですけれども。


● はい,○○委員。
● 例えば訴訟が提起されてですね,損害賠償請求の提起がされて,そういう観点からいくと訴訟告知をしても,まあわかる限りやりますということかもしれませんけれども,それで例えば負けてしまったらどうなるんですか。

● 訴訟をしなかった--。
● いや,ごめんなさい,訴訟告知をしても,全員にできるということは多分できないと思いますので,じゃあそれで訴訟をやったら負けてしまいましたっていって,そのうちをてん補しました,でもある人が出てきて,いや原状回復でないと嫌だというふうに--。

● それはしかし,その告知できない人には効力が及んでおりませんので,その人が請求するのは自由になりますので,我々の提案の考え方ですと,原状回復が来たらそれに応じなきゃいけないということになってしまいますね。


● そうすると,原状回復もやるということになってしまうという--。
● 損失てん補した部分については,不当利得として信託財産に求償していくと。そういう帰結でございます。


● 今までに少し関連するところなんですが,受益者が多数おりまして,受託者の1つの行為を理由に多数の受益者から損失てん補なり原状回復の訴訟が提起された場合に,そういった訴訟全般について,合一的に判断するというようなことについては,特に考慮する必要はないという前提でよろしいのかどうか,ということが1点目でして。


  それから第2点目で,その原状回復の裁判と損失てん補の裁判が2つ係属している場合に,それぞれの訴訟がどういった形で影響を与えるのかという点について,少しイメージが沸かないところがありますので,受託者として抗弁としてそういった原状回復の裁判がなされているということを,もう一方の訴訟に対して出せば,何らかの効力が生じるという整理になるのか,そのあたりについて御教示いただければと思います。

● 私の方から御説明いたしますと,まず原状回復請求訴訟と損失てん補請求訴訟について,類似必要的共同訴訟という形にして,両方が違う裁判所に提起された場合には,同一の審判をしなければいけないというふうにするという方法もあるのかとは思うんですけれども,なかなかそこまで,例えば期間を区切って一定の期間までにそのいずれかの請求をしなければいけない。訴えを提起しなければいけないという形にするのは,やはりその受益者の保護という観点から難しいのではないかと,いう形がいたしますので,今の前提というのは,各受益者が訴えを提起できて,仮に原状回復請求と損失てん補請求訴訟が両方起きた場合には,その受託者,被告である受託者の方が,現状回復請求訴訟も一緒に来ていますという形で,一緒に併合して審判をしてくれという形にして,同一の裁判所でやるようになれば,当然この原状回復優先性というルールが働きますので,原状回復の方を判断していくという形になるというようなことを考えておりますけれども。

● そうしますと,損失てん補の請求の方はその場合どういった終わり方になるんでしょうか。


● そちらの方は,現状同一な任務違反行為に基づいて原状回復がされましたと。原状回復がされたことによって,損失が発生していないということになれば,棄却されるということになると思いますけれども。

● いや,裁判のことまで考えるといろいろ難しいですね。これはまあ,きょう,ある意味で初めてお出しするもので,原状回復と損失てん補については,一般原則の方は既に御議論いただいておりますけれども,それとも若干は関連するし,きょうはここでは御承認いただくということとかしないでですね,次回以降もう一回検討するということでよろしいでしょうか。


ただ御意見があれば,伺っておきたいと思いますが。今,大体出たような御意見を,またこちらで検討したいと思います。よろしいでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● 1点だけ確認なんですけれども,先ほど損失てん補か原状回復かを信託契約に書いてということはいいんではないかということですけれども,催告の仕方とかというのもよろしいんでしょうか,考え方として。


● 例えば公告であるとか,そういうことでございますか。そこまではちょっと十分均一考えておりませんが,そこも合わせて検討したいというふうに思います。


● ちょっと催告のところはね,受益者多数だとちょっとネックになりますよね,たしかにね。
  はい,どうぞ。○○幹事。


● 今のことにも関係するんですが,信託契約でどちらの請求権を選択するか。例えば多数決あるいはその他の集団的意思決定の対象にすることは,これは認めないという前提と理解してよろしいでしょうか。


● そうすれば話は簡単なんでございますが,ここはやはり受益者の保護という観点からは,単独受益者権という規律がいいのではないかというのを前提にしていきたいと。これは後日,また議論されるところでございますが,一応それが前提の上での話でございます。

● バランス論として,受託者の責任を免除するのは,これは多数決でできるという御提案ではなかったでしょうか。


● 受託者の責任を免除するためには,原則として全員一致ということで,その多数決にするかどうか,多数決できるかどうかにつきましては,確かに我々の従前の提案というのはできるとすることが相当なんではないかと,いうことはしておりますけれども。


● 免責は多数決でできるけれども,救済の方法を選ぶことはできないと,多数決では。


● これは1人でできるんです。各自がそれぞれどの請求をするかでひしてしまうということで,多数決にできるかというか,信託行為で多数決でないとできないとしてしまうかという意味でございますか。

● 多数決で,少なくとも多数決で決められて,多数決ができなかったときには原則に戻るといいますか。


● 原則1人でできるという強行規定に考えておりまして,それをその信託行為で加重することはできないというふうに考えておりますので,常に1人でできるという方向で考えているところでございます。


● 請求権自体は多数決で免除できる。
● 責任は原則全員一致なので,本当は全員一致が必要なんですが,多数決でも許されると。こちらの方は,本来一人一人ができることでございまして,それを過重することはできないと。出発点が全然逆でございますので--。ちょっと検討してみますけれども。


● なかなか--。
  どうぞ,はい。
● なかなかあのわからないんですけれども。今の1人が請求した後に,多数決で免責することはできない。

● それはできるんです。それはできます。免責自体はできますから。
● 免責ができるっていうのはもう,その1人が損害賠償請求訴訟を起こしても,棄却になるわけですよね。


● 棄却でしょうね。結論的にはそうなってしまいます。
● そうすると,幾つかあと検討していただければありがたいんですが,これは例えば100万円損害が生じたといって損失てん補請求権をしたある受益者がいて,で,それに100万円支払ったと。しかしその後の人がやってきて,実は200万円だったからもう100万円払えというふうに言えば,それも認められるわけですね,ずっと。


● それは本当に200万であれば,残りの100万は認められるということになります。追加的な部分ですね。
● はい。
● よろしいでしょうか。何かほかに御意見があれば,伺っていきたいんですけれども。この規定自体がもうちょっと検討しないと。
  はい,どうぞ。

● 1点お伺いしたいことがありまして,損失てん補請求が受益者からされましたという場合に,原状回復を履行することが受託者の方で自発的にできるのかと。


受益者の方で原状回復か損失てん補請求かの一方の方を選択した以上,受託者はそれに従うべきなのかどうかという,ここの(注5),(注6)で書いたところについて,この点につきましてはどのように考えるべきかというのを,いろいろ事務局の方でも考えておりまして,例えば注文者のところですと,瑕疵修補請求と損害賠償請求の方は選択的に行使することが,原則としてできるという形になっておりますので,このあたりどのように考えたらいいのかというのを今後検討する参考に,御議論いただけると助かるんですけれども。


● なおさら難しいんだな。
  直ちに,すぐにこれだという意見がなかなか出にくい,難しい問題だと思いますので,もし御意見があれば,今の--。
● 今の話は2つに分けて考える必要があるような気がするんですが,つまり,損害賠償請求訴訟が起こって,それで判決が出てですね,それは履行方法と原状回復をしたということになりますと,そもそもその債務名義の内容と原状回復の内容とがイコールとは限らないわけですが,そういう判断の手続というものがどこかに必要となってきますよね。


  それに対して,口頭弁論終結時までの間に原状回復してしまいますと,損害がないという抗弁ができるような気がして。そうすると,自発的な原状回復をしますと,実質的にはいずれにせよ選択的にできるという結論が出てくるんじゃないかという気がしたりもするんですが,よくわかりませんけれども。余り自信はないですけれども。

● 私も○○幹事と同じ意見です。損失てん補請求される前に変更が生じて,損失てん補請求される前に自発的に回復する場合というのがありますよね。そのときに一たん変更があったんだから,損失てん補請求をそれ以上認める必要はないと思うんですね。そうであるならば,さらに損失てん補請求が一たんされたということで,みずから変更された状態を回復するということで,受益者から訴えられるということを避ける利益を,受託者から奪う必要はない。したがって,訴訟が提起されたとか,あるいは訴訟前でその損失てん補請求をされたからといって,受託者がとり得る方策は限定されないんだろうと。


  多分最後のところは,○○幹事の話の最初のところですが,判決が出てしまうと,それに基づく執行というのを封じるには,請求異議を出さないといけないですよね。請求異議で修補したんだからというのでは通らないんじゃないかなと。金銭の支払いを命じる,これは支払いじゃなくて作為なんですかね,こういう勘定から信託勘定に移しなさいという作為を命ずる判決に対して,修補したというのでは請求異議が認められる事由にはならないんだろうと。実質的にはやっぱり履行になってないんだろうというふうに思います。


● はい,どうぞ。
● 今,○○幹事,○○幹事,お2人とも,損害の基準時というのはやっぱり口頭弁論終結時になるんであるという,まず御見解だと思うんですが,すみません,私の理解が間違っているのかもしれませんけれども,一般的には債務不履行時を原則としてという理解なんですけれども,ここはなぜ口頭弁論終結時に遅れるのかと,それがその信託だからなのか,どういう理由なのかがちょっとよくわからなかったんですけれども。そこはどのような御説明が--。それとも前提が違うのかもしれませんが。

● それは損害賠償の額の評価時点というのと,損害賠償債権が存続しているかどうか,という問題は違うという話じゃないでしょうか。


● 損害の存在なんだろうと思うんです。損害の存在は口頭弁論終結時がやはり基準時であって,そこでその要件が満たされなくなってしまうので,損害賠償額のあるいは損害額の基準時の問題には入らないということなんじゃないでしょうか。


● 大体わかってきました。そうしますと,例えば価値の修補と損害賠償が選択できるというような場合について考えますと,私は君に瑕疵修補してくれなくていいから,お金で返してくださいということを言ったんだけれども,いやいや私は直したからと言われたら,それを受け取った上で,本当に瑕疵修補されているかなというのを調査するというのが結論になる。まあそれと同じ結論になんだろうと,そういうことになるわけですね。


● わかりました。
● なかなかね,請負なんかのことを考えるとちょっと難しい。信託はちょっと--。


● そうなんですけれども。請負はですね,そういうのが問題になるときに,注文者が引き渡し後のことが多いので,人のものをさわれるかという問題がそこに出てくるのに対して,自分の占有物に対してある一定のことをするという信託の場合と,なかなか微妙に違った問題が起こってくるのかもしれないですよね。事実としてはね。


● はい,○○委員。
● 最初に○○幹事がおっしゃったところに戻ると思うんですけれども,原状回復にかわるてん補と,原状回復とともにするてん補で,ともにするということは登記事実として残るわけで,あとは何をすれば原状回復をしたことになるかという問題だと思うんですよ。ですから,その組み合わせだけでそんなに難しいことはないのではないかと思うんですけれども。

● といってもまだ難しい問題がありそうだけれども。
  はい,○○委員。


● 架空の問題ではなく,現実的といいますか,あり得る現実性,本当かどうかわかりません,年金なんかですとおびただしい数の受益者がいらっしゃると思うんですけれども,あとまだ年金受給者にはなっていなくても将来の受給者の方のような方もいるとおもうんですけれども,そういう場合に受託者が何かこの損失てん補請求といいますか,何らかの形で信託財産を毀損してしまったときの解決が,やっぱり効率的に解決される必要があると思うんですけれども。


  その場合のことを考えると,個別の何人かの受給者たる受益者が訴訟を起こしてですね,多くの訴訟がほとんど和解で終わると思うんですが,和解で終わる分,和解では終わらせられないということがまず大きな問題として1つ生じるのかなと思いますし,訴訟告知をするといってもできないケース,または現在確定していない受益者がいるということになりますと,何か永久に,永久というと大げさだけど半永久的に訴訟は,とにかく判決で確定し,その確定した判決が間違ったということでちゃんと抗弁として利用でき,抗弁になるんですかね,既判力が及んでいませんからその判決が正しいんだということを主張して,みたいなことになってしまうので,何か多少既存の法的な,民訴的な視点でもそうですけれども,理屈もそうですけれども,効率的な解決が図れるようにしておかないと,数えられる範囲の複数の受益者の場合は構わないと思うんですが,ちょっとそれが何千,何万とかいう状況になってきますと,個々に権利があるということは非常に受益者保護にとってはすばらしいことだと思うんですが,解決できないという視点からすると,非常に何か社会的な問題になり得るのではないのかなというふうに感じたんですが。

● おっしゃるとおりですね。今御議論いただいているのも,いろいろな点を御議論いただいておりまして,損失てん補と原状回復,2つの救済手段の間の単なる抽象的な関係といいますか,1人の受益者の場合にも生じる問題ですよね。


それが多数の受益者でもって,今○○委員が言われたように,あるいは○○委員も指摘されましたけれども,多数の受益者のときの優先関係のルールというのを設けたときに,果たしてうまく機能するのかどうかという,そういう問題を御指摘いただいたと思いますけれども,これはもう一度検討したいと,そのように考えております。

● 今の○○委員の関係で,事務局の中でも1人の受益者が訴訟を提起したその効果が他の受益者にも及ぶ,というような制度をつくれないかどうかということを検討はしてみたんですけれども。


  例えば株主代表訴訟のような形にすれば,1人の株主が訴えを提起して,その効果が会社に及ぶと。会社に及ぶということの反射的な効果として,他の株主に及ぶということで,1人の株主の訴えの提起が究極的には他の株主に及ぶということなので,それと同じような制度にすることによって,1人の受益者は訴えを受託者に提起しましたと。

その訴えの確定判決の効果が,他の受益者にも及ぶというようなことができないかなというふうに考えたんですけれども,やはり他の受益者にとってみると,自分のあずかり知らないところで確定判決の効果が及んでしまって,それによって損失てん補請求とか原状回復請求をするという機会が奪われてしまうと。


そうだとすると,何らかの訴訟告知を受託者に義務づけるとか,訴えを提起した受益者に義務づけるとか,そういう制度も一応あり得るのかと思うんですけれども,そうだとすると受託者が任意に訴訟告知をするという,現行の民事訴訟法にあるような制度を用いるとしておけば足りて,特に他の受益者の情報を知らないことがありますので,訴えを提起した受益者が訴訟告知をするというのは現実的ではありませんし,かといって,受託者に義務的に訴訟告知をさせるというよりは任意で,この場合には訴訟告知をしようというケースと,これはほかの受益者は多分言ってこないだろうから訴訟告知はしなくていいだろうというような,それを選択というのかどうかわかりませんけれども,そういう裁量の余地は与えておけば足りるのではないかなということで,今のところはそういう制度は設けていないということなんですが,これはあくまで事務局の中で考えたことに過ぎませんので,ここで何か御意見等ありましたら,ぜひ述べていただけますと大変助かりますけれども。

● いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
  それでは,ただいま出てきたような御意見をまた参考にしながら,もう一回練り直して,もう一回御提出したいと思います。
  それでは終わります。
  どうもありがとうございました。
-了-

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第22回会議 議事録

第1 日 時  平成17年10月7日(金)  自 午後1時00分
                       至 午後5時00分

第2 場 所  法曹会館 高砂の間

第3 議 題
   受託者による受益権の全部の継続保有の禁止について
   信託財産と固有財産等との識別不能について
   信託財産に対する強制執行等について
   善管注意義務について
   法人役員の連帯責任について
   受託者の権限違反行為について
   報酬請求権について
   受託者の職務の引受けについて
   信託管理人等について
   受益債権と信託債権との優先劣後関係について
   営業信託の商行為性について
   受益権の有価証券化について

第4 議 事 (次のとおり)

議        事

● ただいまから第22回信託法部会を開催したいと思います。
  いつものように,幾つものテーマがございますので,これを適宜区切りながら議論していきたいと思いますけれども,その区切り方につきましては○○幹事から説明をお願いします。


● テーマは全部で17ございますが,一番最初は,受託者による受益権の全部の継続保有の禁止と信託財産と固有財産等との識別不能の問題,善管注意義務,法人役員の連帯責任,それから報酬請求権と受託者の職務引受けを御審議いただきまして,次に,信託財産に対する強制執行と受託者の権限違反行為の問題を御審議いただきたいと思います。


そして,あと残りを後半で分けさせていただいて,全部で4つに分けたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
● それでは,お願いします。


● では,資料の一番最初,受託者による受益権の全部の継続保有の禁止というところでございますが,パブリック・コメントにおきましては,試案の考え方,すなわち受託者は受益権の全部を保有する場合でも,受託者と受益者を同一人が兼任する状態が解消されることがあり得ることに鑑みますと,兼任状態が生じたことをもって直ちに信託を無効とする必要はないという考え方に対し賛成意見が多く寄せられました。


  ところで,この規律によっても,このような兼任状態は相当期間を超えて継続することは許されないものでございます。


この点につきまして,試案では,信託の終了事由として「兼任状態を解消するのに必要な期間を超えて,受益権の全部を保有していたとき」としておりましたところ,この期間の明確化を図るべきであるとの意見が寄せられました。

  この規律の趣旨といいますのは,受託者と受益者の兼任状態が生じている場合においては,実質的には受益者の受託者に対する監督関係が存在せず,信託のあるべき構造が損なわれているのでありまして,このような状態が長期間継続するのは望ましくないと考えるものでございます。


  ところで,これと類似の状況としましては,受託者の全部が欠けている場合がございます。


本規律の場合には,信託事務処理を行う者が欠けているわけではございませんで,監督関係が期待できないにとどまるわけですが,いずれの場合も信託の一部に機能不全の状態が生じていることには変わりないと思われます。


  そこで,このような不健全な状態を解消するためのいわば入院期間といたしまして,受託者の全部が欠けた場合には,「新受託者が就任しないまま1年を経過したとき」をもって信託が終了すると提案していること,これと同様に,受託者と受益者との兼任状態が生じている場合についても,1年間をもって兼任状態を解消するために必要な期間と考えるものでございます。
 

 以上によりまして,資料ですと42ページ,第57の1のcにございますが,兼任状態を解消しないまま1年を経過したときには信託が終了するものとして,期間を明示することを提案するものでございます。
  続きまして,第10の識別不能についてでございます。
 

 試案の考え方,すなわち信託財産と固有財産等とで識別不能状態にある各財産について,共有を擬制しまして,その持分の割合は均等であると推定しまして,さらに共有された財産の分割に関する規律を設ける。この考え方に対しましては,賛成意見が多数寄せられました。


  なお,この提案1の二重下線部は,(※2)に書いてありますとおり表現ぶりを見直したにとどまりまして,実質を変えているものではございません。
 


 その上で,資料3ページの2の(1)から(4)で個別の意見について検討しているところでございます。


  まず,(1)といいますのは,共有持分の割合を識別不能当時の価格の割合に応じるものとの提案に対しまして,時点についての処理が硬直的であり,その時々の割合に応じて共有割合を算定する,あるいはできることとすべきではないかとの意見について検討したものでございます。


  しかし,識別不能となった財産が同種・同等のものであれば,その後に財産の一部滅失ですとか価格変動が生じてもその効果は持分に比例して吸収され,持分割合は変化しないことになります。


また,仮に識別不能となった財産の品質等に若干の差があるために,本来であれば価格変動の効果は財産ごとに異なり,持分割合に影響するはずのものであったといたしましても,ここでの規律は識別不能の場合を対象にしているものでございます。


そうしますと,価格変動のあった財産が固有財産に属するものであったのか,あるいは信託財産に属するものであったのかが特定できないことが前提でございますので,価格変動の効果は信託財産と固有財産とで従前の持分割合に比例して吸収されるものとして処理せざるを得ず,結局,持分割合は変化しないことになると思われます。

  以上の次第で,この意見は採用しないこととしたいと考えております。
  次に,資料4ページの(2)ですが,「価格」の意義に関する御意見がございました。


  ただ,ここでの「価格」と申しますのは,民法第244条における一定時点における価格,すなわち時価を指すものでございますが,民法でも,この価格の意義をより詳細にした規定は置かれていないことなどに鑑みまして,この意見も採用しないこととしたいと考えております。


  次に,(3)でございますが,試案におきまして,識別不能当時の価格の割合の立証が困難な場合に備え,共有持分の割合を均等と推定することに対する意見についてでございます。


  まず,アでございますが,受託者の分別管理義務違反により識別不能となった場合につきましては,固有財産よりも信託財産を優先して保護すべきであるという旨の指摘についてでございます。
 

 しかし,この場合,受託者は損失てん補責任を負うわけでございますし,損失てん補責任の実効性の如何と信託の倒産隔離機能とは別個の問題でございますので,識別不能当時の時価の割合が証明できない場合に備えて持分割合を均等と定めることといたしましても,公平にかないこそすれ,信託の倒産隔離機能ですとか信託への信頼が害されることにはならないと思われます。
 

 次に,イでございますが,持分を均等と推定した場合には,計算上,信託に帰属すべき財産の総額を超える財産が信託財産と推定されるということが起こり得るから,均等との推定規定を設けることは妥当でない旨の指摘でございます。


  しかし,この場合,少なくとも信託財産に帰属すべき持分が一定の割合を超え得ないことが認められるわけでございますので,その割合を限度として持分の割合が認定されることになりまして,そもそも推定規定が働くことにはならないという整理をすればよいのではないかと思われます。

  最後に,資料5ページの(4)でございますが,これは受益者が複数の場合の共有物分割訴訟につきまして,受益者全員が訴訟当事者になる必要があるとしても,訴訟を提起するとの意思決定については信託行為の定めや受益者集会等により定めることができるとすべきであるとの指摘についてでございます。

  この点につきましては,このような意思決定については,信託行為の定めをもって第三者に意思決定権を付与したり,多数決制度によることなども可能であると考えております。


  なお,(※3)にございますとおり,共有物分割の手続の概要につきましては,試案に示したところに対して特段の異論は示されておりません。


  続きまして,強制執行のところは飛ばしまして,第18の善管注意義務に移らせていただきます。資料は10ページになります。


  これも試案の考え方,すなわち現行法第20条を維持して受託者は善管注意義務を負うこととした上で,これが任意規定であることを明らかにすること,そして,現行法第21条は削除することについては,いずれも賛成意見が大勢を占めております。


  なお,受託者の善管注意義務が任意規定であることを明らかにしていることに関しまして,善管注意義務の免除までは許されないことを明らかにすべきであるとの意見がございました。


  この点につきましては,受託者の善管注意義務を完全に免除する定めがある場合には,委託者は,信認関係を本質とする信託の設定意思をそもそも有していなかったと考えるのが合理的でありまして,それ以外に善管注意義務の免除は許されないとの特段の規定を要するものではないと考えております。


  また,善管注意義務に関する個別的,具体的な規定を設けることの当否に関しましては,両様の意見が示されております。


この点につきましては,資料10ページから11ページの①から④に示した理由によりまして,この提案以上に個別的,具体的な規定は要しないものとすることでよいのではないかと考えております。

  続きまして,第27,法人役員の連帯責任について御説明いたします。
  試案に対しましては,賛成意見が大勢を占めております。


  この提案,すなわち試案と同じでございますが,現行法第34条の規定の明確化と合理化を図ったものでございます。3点ございまして,まず1つは,受益者と直接の契約関係にはない理事等が責任を負うのは,受託法人が損失てん補責任等を負う場合であることを明確にしたこと,次に,受託法人の任務違反行為に理事等が関与しただけでは足りず,任務違反行為につき悪意・重過失があることを要求したこと,さらに理事等が負う連帯責任の内容も,損失てん補責任等であることを明確にしたこと,この3点の明確化,合理化を図ったものでございます。


  このように,試案の内容といいますのは,受益者との間で直接の法的関係にはない理事等の責任の内容を明確かつ合理的な範囲に限定し,理事等の利益と受益者の利益とを適切に調整する内容であると思われます。


そこで,試案のとおり維持することとしております。
  なお,仮に利益吐き出し責任を設ける場合については,この責任に関する理事等の責任負担のあり方について,別途検討することとしたいと考えております。


  続きまして,また1つ飛ばしまして,16ページの受託者の報酬請求権についてでございます。


  本日は,この第33のうち,提案2の(2)の甲案と乙案について御審議願いたいと考えております。


  パブリック・コメントの結果ですが,乙案,すなわち受託者が受益者から補償を受けるためには,受益者との個別の合意を必要とするという考え方の方が多数意見を占めております。


  なお,甲案または乙案を支持する理由として挙げられております意見の要旨は,それぞれ資料の17ページに記載したとおりでございます。


  いずれの考え方を採用すべきか御審議願いたいわけでございますが,あえて1点だけ付言いたしますと,原則無報酬であり,一定の事情があって初めて発生する信託報酬請求権と異なりまして,当然に発生する費用償還請求権につきましても,前回部会におきましては,受益者と受託者との個別の合意がない限り責任を負わないとする乙案の考え方で基本的なコンセンサスをいただいているところでございます。


このことに鑑みますと,論理必然ではないとは言えますが,やはり受益者から信託報酬を受ける権利についても乙案を採用するのが一貫しているように思われるところでございます。

  最後に,第35の受託者の職務の引受けについて御説明申し上げます。
  試案の考え方,すなわち被指定者に対する利害関係人の催告権を認めまして,回答がない場合には就任拒絶と見なすという考え方につきましては,寄せられた意見は,すべて賛成するものでございました。


もっとも回答の相手方につきまして,催告者に対しても常に回答すべきであるとの意見がございました。


  この後者の意見に触発されまして,回答の相手方について再検討いたしました結果,試案におきましては,回答の相手方を受益者としておりましたのを改めまして,原則として委託者,委託者が死亡している場合には委託者の相続人としてはどうかと,改めて提案するものでございます。

  被指定者が催告を受けて回答すべき相手方を考えるに当たりましては,まずは催告に基づくのではなくて,いわば自主的に信託の引受けの意思表示をすべき相手方を考えまして,その上で,催告に対する回答の相手方についてもこれと同様とするのが相当と思われます。


遺言指定者の就職に関する民法第1007条,第1008条の規定とも,この考え方が平仄が合うところでございます。


  なお,このように考えますと,少なくとも催告者のみを回答の相手方とする選択肢はとり得ないことになるわけでございます。


  そこで,被指定者が催告に基づかずに意思表示をすべき相手方について検討した結果が,資料19ページの(2)の①から④のとおりでございまして,かいつまんで申しますと,まず①が,受益者または信託管理人に対する回答がそもそも不可能な信託があり得るということ,②といたしまして,受益者の有無に対応して回答の相手方を変えるのは煩雑でございますし,被指定者が判断を誤るおそれもあるということ,③として,受益者に対して受益権取得の事実を通知したくないという委託者のニーズを尊重するということ,④といたしまして,委託者と被指定者は実質的には信託の設定という法律行為の対立当事者に準じる関係にあるものと考えられまして,そうすると,被指定者の意思表示は,いわば委託者からの契約の申し込みに対する承諾の意思表示に類するものと見ることができると思われますので,委託者に対して意思表示すべきものとするのが自然であることなどが考えられます。

  以上を総合いたしますと,資料19ページの(3)にありますとおり,被指定者が催告に基づかずに意思表示をすべき相手方,そして,これと同様に解すべき催告を受けた場合の回答の相手方につきましては,委託者とするのが適当と考えられるわけでございます。


  また,資料20ページの(※2)に書きましたとおり,委託者と被指定者が実質的には法律行為の当事者に準じる関係にあるという点を考慮いたしますと,委託者の死亡の場合には,法律行為の当事者としての地位を相続する相続人において,被指定者からの回答の相手方としての地位についても承継すると考えるのが適当であると思われます。


そこで,委託者が死亡している場合には,被指定者は委託者の相続人に対して回答すべきものとしております。


  なお,パブリック・コメントにおきましては,催告者に対しても常に回答すべきとの意見がありましたが,この点につきましては,資料20ページの(4)のとおり消極に考えております。


すなわち,催告に対する回答の場合のみ,委託者だけでは足りず催告者に対しても回答すべきとするほどの必要性があるかは疑問でございますし,催告者といたしましては,被指定者本人または委託者から回答の結果を知ることにさほどの困難があるとは思われないこと,さらに,遺言執行者の就職に関する民法の規定におきましても,催告があった場合でも,相続人のみに対する回答で足りるとされていることなどに鑑みまして,催告者に対する回答を法律上,義務づけるまでの必要性はないと考えられるからでございます。

  以上で,とりあえずの説明は終わらせていただきます。

● それでは,今の範囲で御議論をお願いします。


● 第5について,細かいことで恐縮ですが,(注)の第三者名義の場合というところで,中間試案では「同様とする」ということで本文と同様のような形で書かれていますけれども,以前の法制審での議論でも,また補足説明においても,その場合には直ちに無効であるといいますか,有効でないと書かれているんですけれども,以前も議論--余り議論にならなかったかもしれませんけれども,受託者が固有財産の保有をすること自体が違法とは見なされない以上,例えば受託者の子会社がそれを保有したとしても,何か違法,脱法とかいう目的が他に存在すればまた別ですけれども,単純な保有であれば同様とするということでしばらくの間,継続し,また,今の御提案のように,1年という期間を設けて,それで解消するというようなことでもよろしいのかなと思うんですけれども。
  


そういう視点で,この「同様とする」という趣旨が,従前どおり本文と同様なのか,また,補足説明にあるように,今の状況においても直ちに無効であるというような考えなのか。


無効だとすると,何か本文との間の平仄が立たないような気がするんですけれども,その辺はいかがでしょうか。


● ここで書いておりますのは2つの場合がございまして,1つは,明らかに脱法的な場合,すなわち事実上,自分が利益を得ているのに傀儡の者を受益者として立てている場合。こういうものについては,直ちに無効でいいのではないかと思っております。


  他方,正当な理由があって,受託者の固有財産が同一の信託の受益権を取得するわけではないが実質的には利益を得ることになるというような場合があり得ると思うんですけれども,そういう正当な理由で受託者の固有財産が信託の利益を享受しているという形式になる場合につきましては,この第5の規律の対象外でありまして,永続的に続いていいのではないかと考えているわけでございます。

● 同じく第5についての確認ですが,1年間の解消がなかった場合ということで,期間の明確化が新たに提案されていると認識しているんですけれども,これはデフォルト・ローとしてということですか。


すなわち,この第57の1のe,つまり受託者が欠けた場合を参考に1年と言われているわけですけれども,その第57の1のeというのはデフォルト・ロー,信託に定めがあれば別だということで規定されていると思うんですが,そうすると,本件での御提案もこの点はデフォルト・ローであるということでございますか。


  考えてみるに,やはり信託にはいろいろあるわけですから,明確化と言ったとしても,単純に1年ということで規するべきではなくて,物によっては変えることがあるのかなと思っていますので,その場合でもデフォルトの方がよろしいのではないかと思っていますけれども,いかがでしょうか。


● 例えば6か月で終了するとか,そういう場合でございますね。

  それは恐らくfの事由で問題になりまして,信託行為に定める終了事由が生じたときで,終了するという方向に持っていけばいいのではないかと思っております。長くする方はだめです。


短くする方はできますが,それはdがデフォルト・ルールというよりは,終了事由をfで定めたと考えればいいのではないかと整理しているところでございます。


● ですから,この第5の規定は,1年間入れる場合に,これはデフォルト・ローではなくて強行法規ということですか。


● これは,言ってみれば信託の構造に関する一種のポリシーというか,考え方を明らかにしたものでございまして,具体的な効果というのは第57の方でございますので,第5はデフォルト・ローではなくて,これは強行規定でございます。


第57の方は,多少の信託行為での変更は可能という位置づけでございます。

● まあ,そういうものでしょうね。
● 御説明の中では何度も出てきた言葉なので,指摘をするのは恐縮なんですが,1年というクリアな期間が書かれますと,1年なら常にいいんだという感じが漂ってくるような気がするんですね。


○○委員も○○幹事も,脱法のような場合にはもちろんだめだけれどもとおっしゃいましたので,もし最終的な要綱でその補足説明をつけるということですと,合理性があるような場合で必要性が認められるんだ,しかし,もちろん脱法的な場合はだめなんだということについてもお書きいただければと思います。

● 趣旨は確かに,脱法的なものはだめだというのは共通の理解ではありますので,書き方が難しいかとは思いますけれども,どこかに書ければ,それは。理解は同じですよね。


  これもポリシーは比較的明確だと思いますけれども,条文として書くときには,意外と難しい条文の1つであると思っています。


今のようにいろいろな例外というのかな,直ちにだめになる場合とか,この適用を受けない場合とかいろいろありますので,そこら辺の規定の仕方は難しいと思いますけれども,中身についての共通の理解としてここで確定しておきたいと思いますが,なお中身について,いかがでしょうか。


  ただ,○○幹事の言われたことは重要だと思いますけれども,今までは「相当の期間」ということで,「相当な期間」というのはケース・バイ・ケースで定まる可能性があったのが,今回は,直ちにだめになるものは別として,それ以外は1年間は大丈夫だということになるわけですよね。


それは明確性を図るがゆえに,多少割り切りをすることになるんだと思います。

それがいいかどうかということですね。いかがでしょうか。これも一つの選択肢ということで,よろしゅうございますでしょうか。

  それでは,第5については,書きぶりについてはなお検討するにしても,中身については以上のように確定させていただくとして,それ以外の点,識別不能あるいはそれ以外のことについて,いかがでしょうか。


● 先ほど御説明の中で,ある一定割合以上には信託財産が存在しないことがはっきりしている場合にどうするかという問題なんですが,例えば,信託財産があるとしてもせいぜい3割であるといったことが明らかになっていたときに,英米法では,たしか証明できないときにはなるべく信託の財産が多いと推定するという判例上の準則がありますので,3割が限度であるということになりますと,3割ということになると思うんですね。


  しかしながら,この案は,一般的に信託財産の方を優先するというのがないものですから,せいぜいあっても3割である,しかし実際には何割かよくわからないというときに,3割にはならないような気がするんですね。


だからこそ,それならば3割しかない,せいぜいあっても3割だというのに半分になるのかという話が出てくるのであって,必ずしもそれを限度として認められることになるのだから構わないというふうにはならないのではないかという気がするんですが。

● ○○幹事のおっしゃったことをうまく理解できたかどうかわかりませんが,今の推定割合について御指摘されていることは,むしろ信託側が多くとり過ぎるのが問題ではないかということなんですが,○○幹事がおっしゃっているのは,どちらかというとその逆で,信託が多くとれるというルールにはなっていないのではないかということですか。

● 私は,どちらにすべきかといえば信託財産の方を多くすべきだと思うのですが,それとは無関係に,せいぜいあっても3割であるということだけが証明されたときに,この案のままで3割だというふうにできるんだろうか,不明であるということにおいては変わらないことにならないのだろうかということで,どちらを優先すべきだという価値判断を含まないで質問させていただいているつもりなんですが。

● 識別できないということの意味だけですね。
  今のは,せいぜい3割だけれども1割かもしれないし,2割--あ,逆か。せいぜい……。そうですか。1割かもしれないし,それより少ないわけですね,信託財産の方が。


だけれども,その証明ができない。そういうときにこれを適用するとどうなるか,簡単に言えばそういう質問ですね。


● ええ。その割合を限度として持分割合が認定され,したがって推定規定が働くことにはならないという御説明になっているんですが,3割なのか2割なのか1割なのかわからないときに,証明できれば,もちろんそれはそうなるわけですけれども,当然には3割という認定にはならないわけですよね。


● ある意味で,今の信託財産を有利に扱っているところがあるわけですよね,3割までは認めてしまう。


3割の推定が実際にあるわけではなくて,単にせいぜい3割だというときに3割まで認めてしまえば有利になるわけで,そういう結論がここから出てくるかと。


● ええ。認めるのならば,その趣旨の条文みたいなものが必要であろうという気がするのですが。


● 今の例は,ほうっておくと半分まで信託財産にとられてしまう受託者としてどうするかということなのかなと拝察したんですが,そうであれば,受託者としては「3割まであります」というところで自白すればいいだけのことでは--自白すればというか,もうそれで「確かにそうです」と言ってしまえば,実際の裁判上はそれで認定せざるを得ないのではないでしょうか。そういうお答えはちょっとおかしいのかもしれませんが,実際の営みの話としては……。

● そうすると,3割までしかないことは明らかになっているけれども,しかし,その場合にも,形式的には3項みたいな均等であるという推定規定が働くので,推定規定を働かせないために,受託者は自白をして話をおさめないといけないという話になりますか。裁判の流れとしてはよくわかるんですが,教科書等には書きにくいなという感じはしますよね。

● 手続ではなくて実態だと冷たい感じがしますけどね。結論は,恐らく3割でいいんだろうと……。何かございますか。


● 今の場合で,逆に固有財産の方から見て3割は超えない場合は,どのようになるんでしょうか。今のは信託財産が3割は超えないという想定ですよね。今度は固有財産の方が3割は超えないという場合は。

● 逆の側からも同じ問題があるわけですよね。
● 今の話は,信託財産を優遇するというルールを打ち立てたことになっているのか,なっていないのかということなんですけれども。


● 同じようなルールになってしまうとは思いますが。

● ちょっと間違っているかもしれないけれども,固有財産が3割を超えないときは,7割までは信託財産であることが確定し,残りの部分がわからないので,残りの3割について半分にするというわけには……


● ただ,先ほどのように受託者が自白するというようなことになると,さっきの場合は,1割か2割かわからないところを3割までは認めるということですから,信託財産のためになるわけですけれども,そこで3割と言うと,ひょっとしたら固有財産は1割かもしれないのに3割というような話をするんでしょうか。

  非常に基本的な誤解をしているのかもしれませんが。

● どちらから言っても構造は全く同じですよね。何かうまい解決がありますか。

● ここは,恐らく裁判の過程でどこか裁判所が認定しますので,今おっしゃった例で言えば,普通は3割を超える固有財産はない,7割は信託財産であるという認定をするだろうと思いますし,そのように当事者間で,この場合はどちらが自白するんでしょうか,受益者の方が,あるいは受託者の方が3割しかない,3割を超えることはないと言って,受益者の方がそれを争わないとすれば,7割は信託財産という認定ができますので,この推定規定が働かないことには変わりないと思いますし,いずれにしても,3割の範囲でどこかで認定はされるのではないかという気がするんですね。

ですから,推定規定が働かないことには変わりないのではないかと思われますけれども。


● なかなか難しいですよね。具体的にどうなるのか,まだ私もすっきりわからないけれども,○○幹事の方の例で言えば,固有財産はせいぜい3割だということで,7割まではとにかく信託財産が確定し,残りの30%についてはいろいろわからないけれども,そこで行う推定というのは,もうこの条文による推定ではなくて……


● この条文自体は全体ですからね。残りの部分だけ均等と推定するというわけではないと思いますので。


● そこはゼロから30までの間で,今の○○幹事の話だと,裁判所の方で……。

● 一番もっともらしいところで認定していくのではないかという気がいたしますけれども。


● 今,出された問題を,手続に絡めないで実体法の考え方として何かうまく書けるのであれば,御提案いただきたいと思いますけれども。


● この問題自体は,恐らく民法の方の添付のところですかね,あそこでも全く同じ構造になっているのではないか。つまり,共有持分の割合が推定という規定自体,これは民法そのものにある条文を引っ張ってきているだけなものですから,もしかしたら,そちらの方の議論を見れば何か参考になることがあるのかなと……


● いや,それは怪しい。
● ……とすると,今ここでどうのという問題ではないのかもしれません。


● 決め手はないかもしれません。
  よろしいですか,今ここで具体的にどうなるかという答えは十分出せないかもしれませんけれども,今の場合,わかっている範囲,さっきの固有財産の方がせいぜい3割であれば,とにかく7割までは信託財産だという考え方,あとをどうするかというのは,先ほどの民法の規定ともにらみ合わせながら,解釈で決まることになると思いますけれども。


● 恐らく3割である,3割は超えないことは明らかだということが,実際の裁判の中で一体どういう過程で「そこは認定できる」という話になってきたのかが,抽象的な話としてはよくわかるんですけれども,それがいま一つ,ではどういう事情なんでしょうかということが。


● そうですね,そういうものにも影響されて認定されるということですね。わかりました。


  問題意識としては,こちらでもそういうことをにらみながら考えていきたいと思いますけれども,とりあえず,よろしいでしょうか。


● 今のと違って,逆に足りない場合で,今回の検討課題の説明の中では,受託者は無過失責任を負うから,損失てん補責任があるからそちらで解決できるではないかといった御説明なんですけれども,受託者が自ら預かるケースというのは,商事信託においては余り考えられない。民事信託でもそうかもしれませんけれども。

それで,例えば有価証券であれば,第三者たるカストディアンが預かっているということになると思うんですけれども,そうすると,前回の議論で,選任,監督に過失がなければ受託者の方は責任は負いませんし,カストディアンに対する請求権は持つかもしれませんけれども,そういう場合はカストディアンも破綻しているような事例だと思うんですけれども,その場合ですと,今のこの原則に従って,信託財産が特に有利に扱われるわけではなくて,共有持分ということになる。


  それも一つの判断かもしれませんけれども,今回の説明ですと,信託に対する信頼とか信託財産がより--よりといいますかね,信頼という観点から余り問題ないのではないかという話なんですけれども,そういう場合,やはり信託財産が有利に扱われてもいいのかな,また,そういう選択肢を受託者が持ったとしても,損失の補てんにならないという方が,逆に受託者にとっても,「どうしようもありません」という説明をせざるを得ないわけではなくて--と思ったりするんですけれども,不足している場合に,第25項の規律でのほぼ不可抗力による責任です,無過失責任ですというのが当てはまらないケースというのが,今,申し上げましたように,第三者が受任している場合という現実で,そのカストディアンが破綻したときには,現実的にもあり得る話ではないのかと思うんですけれども,その辺については今の規律のまま,しようがないという考えなんでしょうか。

● 資料に書かせていただいた,信託に対する信頼が害されないのではないかというのは,制度としての信託に対する信頼は害されないのではないかと。


つまり,今,言われているところで問題になっているのは,結局のところ,適切な受託者を得なかったことによる,適切な信託事務の遂行をしなかったことによる損害なわけですけれども,そこについては信託制度の問題というよりは,やはり適切な人を選ばないと限界はあるんだろうと思っておりまして,その点については,ここの問題ではない。


むしろここで考えるべき問題というのは,識別できないような状況になったときの,いわば物権的な帰属をどういうルールにするのがいいんだろうかというところなわけでして,それに対してもう一方,適切な受託者が選ばれなかった,あるいは適切な信託事務の処理ができなかったときのルールとしては,一般的には,やはり損失てん補なり原状回復なりの方で図るんだという整理をしている。


  それに加えて,今おっしゃいました,信託事務処理の委託の問題だろうかと思いますけれども,そちらについても,また個別にどういう責任を第三者に負わせ,どういう責任を受託者に負わせるのがいいのか,一般論の中でむしろそこは考えていかざるを得ない話でして,整理としては,私どもとしてはそう考えているわけです。

● 現に英米法ですか,あちらの方では受託者の,特に分別管理義務違反のときですけれども,そういうことを加味して物権的な救済についても信託有利にという考え方はあり得ることはあり得るんでしょうけれども,ここの原案自体は,そういう責任の問題と物権的な救済の問題は区別するという形でできていて,それをどう考えるかということですね。
  今の点についても,何かほかに御意見ございませんか。

● 第10の2の(1)の共有持分の割合についてですが,その当時における割合が一体どうなのか,変動した場合どうなのかということについてパブリック・コメントで御意見があって,それに対する検討があったという認識でおります。


  これはちょっと確認したいわけで,ある意味パズル的な話なのかもしれませんが,このペーパーで検討されていますのは,その変動が減った場合ないしはその中身が変わった場合ということがあると思うんですけれども,では,増えた場合どうなのかということです。


  例えば,ちょっと例としてお話ししたいと思いますけれども,ヒツジでも何でもいいと思うんですが,固有財産と信託財産が7対3でありました。その時点で識別不能になりました。


その後,ヒツジがまた2,これは固有財産だとわかっています。ただし,そのときには価格は2倍になっていました。そして,今はもう全部が識別不能になっていますと。ですから2回識別不能になっているという状況です。


  そうした場合に,固有財産と信託財産をどういう割合で分けたらいいのかという例を考えていただければと思うんですけれども,一つの考え方としては,あくまでも2段階で7と3があったわけで,それに固有財産として2が加わったのだから,これは7+2対3,つまり9対3である。信託財産が25%という話になると思います。

  もう一つの考え方として,その当時における価格ということを考えますと,新たに加わった固有財産の2というのは価格が2倍ですから,4である。


そうすると,算数なんですけれども,7+4=11対3,したがって,信託財産は21%。そうすると,考え方によって信託財産が25%か21%かということで違ってくると思うんです。


  頭の体操的な話で恐縮ですが,確認のために,これはどちらで考えたらよろしいんでしょうか。


● 後でちょっと補足してもらうかもしれませんが,私の感じでは,その場合,識別不能になったときの価格を考えて,最初の7対3は,そのごっちゃになったときの7対3で分けますよね。


後で固有財産に加わったということで,数としては,あるいは割合としてはその分が増えているわけですけれども,価格が違うので……,何というんですかね,7対3だから,10対2でまた分けるのかな。新たに2加わるわけですよね。


これは別に固有財産でなくても,全く違う,例えばもう一つ別な受益者のでもいいのかもしれないし,そういうものが加わって全体でわからなくなるのも同じで,要するに,高い価格のときに識別不能になったら,それはそのときの価格でまた全体をといいますか,今度は全部が12になっていますけれども,12を10と2に分けて,それで計算できませんか。


● それは一つの考え方だと思いますが。

● ええ,一つの考え方として。
● 仮の考え方としては,ちょっと御質問のことがよくわからないんですけれども,2段階で識別不能というものが生じるだろうと。例を確認しながらお話しさせていただきたいんですが,最初が10頭で……


● 10頭で,7と3。
● そこに後で2頭が加わりますという状況。それは固有財産。
● それは固有財産として加わった。ただ,今はもう全部識別不能になっている。だから2段階で識別不能があった。つまり,加わる場合は多分,2段階識別不能が出てくるという話で,減る場合はそういうことはないとは思うんですけれども。加わる場合は,2段階識別不能が生じ得る。


● 2段階目が起こるときにはヒツジの価格が倍になっているというのは,その12頭全部について倍になっているということですか。


● いえ,そのヒツジだけがですね。


● いろいろあると思うんですけれども,高級ヒツジみたいなものがいて……

● 例えば高級ヒツジが入ってくる。全体のヒツジの価格が2倍になるのであれば余り問題にならないと思いますけれども。まさに識別不能というのは,そういうところも一応,どういうふうに共有するかということを見なしで,ある意味で推定ですけれども,やるわけですから。


● そうすると,その2頭は高級だけれども,識別はできない状況になってしまう。そうすると,ほかの人に売るときには幾らで売れるんでしょうか。みんな倍で売れる……。


何かちょっと……,やはり識別できてしまうのではないですか。


● それが識別不能になっているという状況だということで。
● 2段階目でなくたって,第1段階目だって同じことが起こる。価格が違うとすれば。見かけは同じヒツジなんだけれども……


● おっしゃるとおりです。

● 実際分ければ……

● つまり,みんな同じように見えますという前提であるにもかかわらず値段が高いもの2頭と言われても,ちょっと。

● 2倍で調達してしまう。


● そのヒツジだけを2倍で調達してしまった。つまり,時価が関係するときには12頭全部,当初の1の値段でしか売れないんです。


● ただ,その当時の価格というのは識別不能の時点であって,売却の時点ではないですから。つまり,2加えたときには,その2というのは価格が2倍であった。


だけれども,売るときにはそれが全部また価格が下がって1になった場合。

● 価格の問題をどう考えるかはちょっと複雑ですけれども。
  余りこればっかり議論してもしようがないかもしれないけれども,後から加わる2頭以外の最初のヒツジも,これは調達価格は安いかもしれないけれども,後で2頭が加わるときに,そのときの客観的な価格があるわけですよね。


そうだとすると,そして,単に調達価格が違っただけで同じヒツジだとすると,後から加わる2頭についても調達価格をその基準にするのか,そのときの客観的な価格を基準にするのか。


  識別ができない同じものであって,そのときの客観的な価格がある時点で違うということが,そもそも想定しにくいですよね。


● そういう想定事由がないのであれば,それでよろしいんですが,加わった場合,どういうふうに考えるのかも検討する必要があるのではないかという趣旨でございます。


● 細かいところはもうちょっと詰めなければいけないかもしれませんけれども,2段階的に考えるということは,基本的な考え方だと思います。


● 私も同じことを考えていたんですが,2段階的に考えると,さらに条文を別に置かなくてはいけないかどうかがかかわってくるだろうと思うんです。


識別不能状態にある,その財産と新たな2頭とが混じるのか,それとも識別不能状態にあっても共有持分という形で識別可能であって,その共有持分との間で一緒になることを考えるのかによって規定の仕方が変わってくるのかなと思います。


● 1点,確認だけさせていただきたいんですが,御質問は,共有持分状態になっている10頭がいて,それにまた別の1頭が--1頭,1頭ですけれども,それが一緒になる。


ということになると,ここで共有持分が生じ,多分この共有持分割合に応じて,これだったら4分の1ですから,4分の1ずつA信託,B信託,C信託……というふうにぶら下がっていく,こういう状況ではないかと思います。


それは1,2,3というふうに書いておけば,当然解釈ができるのではないかと思います。


● 今の○○委員の御質問も,規定ぶりはともかく,最後の結論は,結局同じことになるという理解でよろしいですか。

  なかなか,まだ頭の体操のようなものが幾つもあるのかもしれませんけれども,今のような問題も意識しながら,条文にするときはさらに注意することになると思いますが,基本的な考え方として,大体よろしいでしょうか。


  では,今の細かい問題は宿題として残りましたけれども,基本的なことは御了解いただいたということで,第10についてはそのように扱わせていただきます。


  あと善管注意義務とか,あるいは法人の責任とか,幾つかまだ残っていますが,こちらについてはいかがでしょうか。


● 善管注意義務について,1点確認させていただければと思います。

  2,寄せられた意見についての個別的な検討の(1),善管注意義務の免除のところでございますけれども,ここには,受託者の善管注意義務を完全に免除するとの定めが信託行為に置かれている場合においては,委託者は信託設定の意思を有していなかったと解するのが合理的だと書かれているところでございますけれども,これは,こういったいわば丸投げ的な,全部免除的な特約がある場合は,そもそも信託の契約そのものがなかったと考えるのか,あるいはその特約だけが公序良俗違反ということで除かれるのかといったことについて,考え方の整理を教えていただければと思います。


  私がこれを質問いたしました背景ですけれども,私ども,業法であるところの信託業法を所管する立場でございまして,いわば商事信託の世界では,一般投資家と受託者たる信託会社との間に,経済学の言葉で言うところの「情報の非対称性」みたいなものがございまして,そういったことからすると,取引主体間の情報量と交渉力にかなり差がある場合がございます。

そういたしますと,私ども,一般投資家であるところの委託者とか,あるいは受益者を保護するという観点から申しますと,信託業法については善管注意義務の任意規定に関しては非常に慎重な検討をしなければいけないと考えておりまして,すると,一般投資家にとって,例えば善管注意義務を免除したときに,信託行為がなかったということは一体どういう意味を持つんだろうか,こんな問題意識でございます。

● 御質問自体も非常に重要な問題だと思いますし,さらにそのバックグラウンドになる今の御説明の点についても重要な問題だと思いますので,御意見を伺いたいと思いますけれども,先に,こちらから何かあれば。


● この点につきましては,事務局の中でも検討いたしました。そもそも善管注意義務の免除というものがどういう内容を含むのかという点がよくわからないというような議論をいたしまして,この点につきましては,以前の審議会でも同じような検討がされたかと思います。


  そもそも免除するというのがどういう内容かと申しますと,1つ考えられますのは,そもそも故意で何をやってもいいんだと。


例えば信託財産を壊してもいいといったことなのかなというようなことを考えまして,そういうようなことを信託行為で考えているのであれば,そもそもそういうものは信託を設定するという委託者の意思はないのだろう,そうだとすると,すべて信託というのは成立しなかった,信託行為自体が無効になるといった理解でいいのではないかと考えておりまして,そもそもここで「信託行為の定めにより免除することはできない善管注意義務は……」ということを書く意味がよくわからないということがありまして,ここで議論していただきたいことの1つとしましては,そもそも善管注意義務を免除するというのはどういうことを指しているのかということではないかと思っております。

それが明らかになって合理性があるのであれば,例えば,信託行為の定めにより,善管注意義務は価値を軽減することができるというようにする余地もあるかとは思っておりますが,そもそも免除というのが,先ほど申し上げたとおり何をやってもいいんだというのであれば,そういうものは信託ではないだろうということになるのではないか。それは解釈で明らかなのではないかというのが今の結論でございます。

● 信託財産の引渡しがあり,契約当事者間の契約があっても,この場合は無効と解する,こういうことでございますか。


● 無効という言い方がいいのかどうか,よくわからないところがありまして,所有権移転等を引用しているのかもしれませんし,いや,その場合は委任でもないのかもしれないしというふうな話ではあるのではないかと思います。


無効という言い方がいいのかどうかわかりませんけれども,信託という認定はされないのではないか,そういう趣旨でございます。


● 免除という言葉はちょっと強いかもしれませんけれども,現実的にあり得るのは,やはり損害賠償責任を心配して,そこについては故意・重過失以外は負わないとか,故意だけ負わない。そんなのないかもしれませんけれども。
  他方において,善管注意義務は義務として負っても構わない。なおかつ,信託財産を破損するようなことをわざとすれば,それは善管注意義務が免除されていたとしても,実質他人財産に近いものですから不法行為を構成すると思うので,ですから,免除,また免除に近い規定が契約上,入ったとしても,そもそもそこまで悪質といいますか,そこまで管理しないつもりはなくて,私は,それは主責任の方の心配からそういう規定になっていくのではないかと思うんですよね。

  そういう意味におきましては,やはり免除とか免除に近い規定が入っている場合には,本来その免除規定,また免除に近い規定自体が無効であって,そしてデフォルトルールとして善管注意義務が普通に課せられると解釈した方が,かえって信託も継続しますし,受益者保護にもなるのではないかと思うんですけれども。


● 普通の,いわゆる免除といいますか,今,○○委員が言われたような免責規定ですかね,その場合には,確かにこういう重過失を免責する部分はだめで,通常の善管注意義務を負わされる規定として考えれば,多くの場合はそれで解決するんでしょうね。


  どんな場合がそもそも信託にならないのか,私もまだ十分イメージがありませんけれども,免除そのものよりは,何をしていいかという行為義務の範囲の決め方とも関連して,そして何をやっても構わない,また,それによって損害が生じても責任を負わない,仮にそんなような規定があると,果たしてそういうものは信託と言えるかどうかが問題となる。そんなことではないかと私としては理解しました。事務局の説明は。

  ただ,多くの場合はそういう規定ではなくて,仮に損害が生じても責任を負わない,文言上は故意・重過失についても免責するような規定があったときに,これは故意・重過失の部分だけ否定すれば済む問題であろう,そういう感じがしますね。○○委員も,結局そういうことだったと理解してよろしいですか。

● そうですね,義務と責任を分けて規定することはあり得ますので,義務は負うけれども責任は負わないという……

● それもあり得ます。義務の方もすべて免除というか,何をやってもいいということになると,これはまた,果たして信託かどうかが問題となるということだと思います。

● 今のような極端な事例は,いろいろな考え方の中で一つの考え方を示されたと思うのですけれども,そこまでに至らない場合は,第18の「ただし,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めに従うものとする。」というのはもちろん原則としてそうであって,このただし書きの限界というのは,公序良俗のような第90条の規定によって,つまり一般的な内容規制に関する規定によってのみ制約を受けるという理解でよろしいんでしょうか。


● 私はそう思っているけれども,どうですか。
● そういう理解です。


● そうですね。としますと,例えば今のような極端な責任を,信託と銘打ちながらおよそ責任を負わない,善管注意義務を負わない,ないしは実質的にはそれと等しいような免責規定をたくさん入れているということは,信託という契約の……,やはり公序良俗とは別の考慮から,信託である以上そのような制約がかかってくるのだという理解で先ほど御説明があったと考えればよろしいのでしょうか。


● そうですね,公序良俗そのものとは,ちょっとまた違った説明があり得るということだと思います。具体的にどういう場合がそうかというのは,なかなかいい例が……。


● すみません,先ほど御回答にあったと思うんですけれども,契約そのものが無効になるかならないかは,その時の状況次第ということなんでしょうか。


  例えば救済という観点からすると,信託という形で成立していた方が,ある意味,ほかの部分の義務が課せられていますから,できるだけそれは存続させるような形にした方が得策--得策というのは,受益者の側からして,救済額として得策ではないかと思うんですけれども。


● 確かにそういう問題もありますね。
  これはここだけの問題ではなくて,分別管理義務などについても全く同じような問題が生じると思いますけれども,分別管理義務を一切排除して,ごちゃごちゃにしていいなんていうのが果たして信託かというと,信託とは言いにくいわけですけれども,あれも信託であるというふうにしておいて,分別管理義務の免除の部分はだめだということで分別管理義務を負わせるという解決の仕方をするというのと同じ問題ですよね。


  そこは,この条文といいますか,この試案自体では,どちらになるかということまで必ずしも明確に書いてあるわけではなくて,解釈によって決まると思いますけれども,場合によっては「こんなものは信託ではない」というものがあり得るかもしれないというぐらいのニュアンスとして私は理解しています。


しかし,多くの場合は信託であることを認めた上で,排除している義務は,その部分は無効だということで本来のデフォルト的な義務が負わされるというのが,解決としては望ましいかもしれません。


● 先ほどの質問の趣旨をもうちょっとはっきり言った方がいいかなと思いますので,つけ加えさせてください。
  

通常の民法の売買とか賃貸借といった契約ですと,その契約の本質的な要素にかかわる部分について,例えば賃貸借と銘打ちながら,かなりその本質と違うようなことを当事者間で合意するというような場合に,それは賃貸借であるとか,あるいは売買であるとは言えないかもしれないけれども,しかし,契約は自由なんだから,そういう一種の無名契約のようなものとして効力を認めればいいではないかというのが民法の基本的な考え方だと思うんですね。


  ところが,信託の場合は,ちょっとそれとは違うという理解でよろしいんでしょうか。それが実はさっきの確認の一番根本にあったところなんですけれども。


● 私としては,違うとは言いたくない,そこは。基本的な構造は同じだと思いますけれども。

● 我々も,ほかの契約と違うということを申し上げているつもりはなくて,再度申し上げることになるかもしれませんけれども,これはパブリック・コメントに寄せられた意見の理解なんですけれども,第18に書いてある「信託事務を処理するに当たっては,善良な管理者の注意をもってしなければならない」これを完全に免除することはできるのかという,言われ方の問題のようなところが1つあるのかなと思っていまして,つまり,善良な管理者の注意でなくてもいい,自己財産と同一の注意でなくてもいい,何も注意しなくてもよくて,信託事務を処理するに当たって,信託目的に従って行動しなくもいいぐらいのことを言われる,それが完全な免除なんだろうか,そこまで言われているのであれば,それはもう信託ではない。

つまり,自己のために財産を使う,それはもう信託ではないという整理を我々としてはしておりますので,そこまで言われるのであれば,それは信託ではないということになってしまうのではないだろうか。


  それに対して--すみません,今,先生方がいろいろおっしゃっているのは,いや,そうではなくて,もう少し個別的な義務の軽減,あるいは免除の話なんだよということで,ちょっとパブリック・コメントに寄せられた意見の受けとめ,あるいは第18のただし書きの理解というか,そこのあたりがもしかしたら少し違っていたのかなという感じがするのですが。

● さらにつけ加えていますと,○○委員が非常に悩んでおられる,余り極端なことを言いたくないというお気持ちは非常によくわかるわけでして,要するに,善管注意義務を外したような財産管理契約という無名契約を考えるならば,それは信託ではないかもしれないけれども,そういう契約はあり得る,一般論からするとそういうふうになりそうだけれども,何とかそこから先をうまく説明できないものだろうかということだろうと思うんですね。
  


もう一つの考え方は,信託と言うかどうかは別として,他人の財産を扱いながら,およそ全く善管注意義務のようなものを負わない,受託者に相当する者がかなり適当なことをやれるといった契約自体が,公序良俗と言うかどうかは別として,やはり一般法理として,そのような財産を預ける者にとって非常に危険な,一方的な契約は許されないからではないんでしょうか。


そういう意味では,一般法理の一つのあらわれとして,この種の善管注意義務を外すような財産管理契約というのは,やはり無効なのだということが出てくるのではないでしょうか。


  その上で,その契約全体が無効なのか,それとも財産管理を約束した以上は善管注意義務に相当するものは必ず負うという強行法規のようなものがあるわけであって,それがそのまま適用されるだけであって,外せないというふうに考えるのか,どちらで考えるのが,より他の説明と整合的だろうかという話で済むのではないかなと,私は最初,直感で思ったのですけれども,どうもそうではない展開をしていたので,確認させていただいたということです。

● ○○幹事がおっしゃった,そういうのは公序良俗から無効だというお話ですが,ある財産を寄附したり,贈与だってできるわけですから,そういうものは,いわゆる財産管理契約でなかったのだというだけの話で,無名契約とさせない,したがって認めないということまでする必要があるかどうか,ちょっと今……。

完全に贈与して所有権を移転してしまうことだって当然できるわけですね,世の中的には。


それと信託の中間にあるようなものだと。そういうものを財産管理契約と言うかというと,そうではないのだろうという,それだけの話なのではないかという気が,ちょっと。


● 自分の財産を管理するという,そういう枠組みでの話ですよね。

  これはむしろ○○幹事に確認ですけれども,他人の財産を管理するもので,しかし善管注意義務を,ここでも完全に排除するということは微妙ですが,完全に排除するのはだめかもしれないけれども,それを軽減するようなものはあり得る,そういう御理解でよろしいですか。それはそれでいい。


● ええ。ですから,どこまでに限界があるのかというもので,それが,何かこれは信託だから,信託と言えないからというのでは,ちょっと説明が,ほかの契約と違い過ぎていて,そういう説明も,信託は特別だという説明はあり得るとは思うんですけれども,そうでない説明の仕方もあり得るのかなと思った次第です。


  結論は,そんな大きい違いがあるとは思いません。全部無効か一部無効かというのは残りますけれども。


● そうですよね,普通の財産管理,信託も含めてだけれども,普通の財産管理の場合の契約に共通する,いわば解決の仕方を提示したということですよね。


  恐らくそれで十分済むといいますか,信託でないというような場合を,これもたまたまパブリック・コメントがこういう形で出てきたので,それに対する一つの答え方として,そういう答え方がちょっと目立った形になりましたけれども,恐らく一般論から出発して,第18の善管注意義務の問題を考えるのであれば,信託行為で別段の定めがあれば,ある程度軽減できるけれども,それには一定の限界があって,およそ故意・重過失の場合でも構わないというものはもちろんだめで,そういう限界がある。


これはしかし信託の場合だけでなく,委任であれ,ほかの場合であれ同じような問題がある,あるいはそういう理解が一番一般的な理解としてわかりやすいかもしれません。


  特にこちらもそれで異論があるわけではありませんからね。

● 今の議論,何も異論はございませんけれども,このパブリック・コメントといいますか,提案されている文章の中に,今,議論になっているのは,むしろ認定規定化の限界といいますか,その辺が議論になっているのかなという気がしておるんですけれども,その限界があるということが表現として出てきていないかなという気がしておりまして,そこが1つ,もしそういったことも盛り込めるのであれば,何らかの形ではっきり書いた方がいいのではないかという気がするのと,それから,先ほど業法のお話が出ましたけれども,この辺については弁護士会や何かでも多少議論があったところですけれども,信託の一般法のレベルの問題と,それから業法のレベルの問題は,やはりちょっと違うのではないかという気がしておりまして,信託の一般法としては,こういった形で別段の定めを置くことが適当だと思いますけれども,両方のレベルで同じように任意法規化するかどうかについては,やはりいろいろ議論があり得るところだと思いますので,そこは,そういった観点も踏まえた方がよろしかろうと思っています。

● 2番目の論点も非常に重要な問題だと思いますので,また御意見を伺いたいと思います。


  最初の方に関して言えば,ここで「別段の定め」の限界がうまく書けるかどうかという問題なんですが,これは私の個人的な意見ですけれども,一般的に公序良俗の問題としても,故意・重過失の免責までは含んではいけないというのが大体決まった考え方ですので,少なくともそういう限界については,ここでわざわざ書かなくても一般的にはかぶってくるだろうというふうには思います。


  2番目の論点は,もうちょっと実質的に重要な問題だと思いますけれども,これは私よりもお詳しい方がほかにおられますので,信託一般法と,それから業法との関係みたいなものですね,この場は「業法はこういうふうにあるべきだ」ということを議論する場ではございませんけれども,何か御意見があれば。

● これはファクトの御説明ということでお話しさせていただけるとありがたいんですけれども,実は,ここの善管注意義務のところは,前回の信託業法の改正のときに,いえば強行規定に近い形で新しく導入させていただいたところで,その考え方としては,当時の立法担当者の意思としては,信託業への信頼性確保の観点から,一般的な義務規定を業法上も規定することが適当で,監督に当たっての受益者保護のための行動する根拠,あるいは職業としての受託については,一般の受託者よりも相当程度,やはりそういう義務の重いところを考えなければいけないということから,確かに○○幹事おっしゃるように,そこは一般法であるところの信託法と,それから,いわばプロの法律たる業法として規範の定めとは違う,そういう整理をしております。それがファクトです。


● この場で余り議論することは適当でないのかもしれませんが,仮にこの信託法が一般法でもって任意規定--任意規定といっても一定の限界があるわけですが,先ほどから問題となっているような故意・重過失みたいな場合には,もちろんだめだと。


ですから,ある種の軽減ができるだけである。そういうものが信託法に一般法でもって入ってきたときも,やはり業法は別に考えた方がいいのではないか,そういう御意見ということですか。


  先ほどまでは,今まではこれ自体が強行法規であったという前提だったわけですけれども。


● ○○委員おっしゃるとおり,もちろん,この信託法の改正を受けて私どもの業法をどうするかという議論があり得るわけで,そこはいろいろな考え方があると思いますが,先ほど申し上げましたように,私どもといたしましては,やはり受託者,それから委託者の間に情報の非対称性がある場合が結構多うございますので,そういった観点を踏まえて慎重に検討せざるを得ないのではないか,こんな感じでございます。


● 業法の観点からは,もちろんそうでしょうし,一般法の定め方としては,信託法としてはこれでよいかと思うんですけれども,先ほど何度も出ていますように,契約の内容規制に関する一般法理によって,やはり制約を受けてくることになる。


公序良俗がその代表例でしょうけれども,それによって制約を受けてくるというときに,やはりどういう契約であり,どういう主体がだれに対してどういう契約をしているのかというのは,やはり内容規制に当たって大きい意味を持ってくるんだろうと思います。


  やはりプロの業者が通常の一般の人間に対して契約するときには,やはり善管注意義務を負いませんよとか,相当軽減していますよというようなものが信託として行われている場合には,考え方によっては,厳しい内容規制が入ってくる可能性があるだろうというのは,やはり確認しておく必要があるのではないでしょうか。


  ここでただし書きが入ったので「よほどひどいものでない限り大丈夫」一般的にそう簡単に受けとめてよいかどうかはちょっと別問題として,次の問題としてあるというのは押さえておく必要があるかと思います。


● 業法と一般法は違うということもよくわかりますし,○○関係官がおっしゃったような形で,例えば情報に格差がある者同士,受託者と受益者について,それなりの規制をしなければいけないというのも理解できますけれども,もう御承知のように,信託というのはいろいろな種類がありまして,営業信託におきましても多種多様な信託があって,その状況が,今,おっしゃったような状況そのものにおさまるものでもありませんので,これもよく御承知のことだと思いますけれども,業法というのはその辺のところを割と,さじ加減という言い方はおかしいですけれども,いろいろな対応に応じた形で臨機応変に規制ができると思いますので,その辺のところを御配慮いただけたらなと考えております。

● ちょっと的外れになってしまうかもしれませんけれども,善管注意義務を免除するという意味なんですけれども,これは受託者の自己のものに対する注意義務まで軽減することになるのか,それとも一切何の注意義務も負わないということになるのかがよくわからないんですが,もし,善管注意義務を免除することが自己のものに対する注意義務にレベルを落とすということであれば,例えば貸付債権の信託を想定した場合で,受託者が信託銀行ですと,銀行業務も営んでいますと。


そして銀行業務として貸し出しをやっているので,それなりに貸付債権を,自己のものであってもきちんと管理しています,杜撰なことはやっていませんということがある程度わかる場合に,それを期待して,それでもいいというようなこともあり得るのではないかという気がしておるんですけれども。

● そこのところは,やはり免除をどういうふうに考えるのかという点に戻るかと思うんですけれども,委任でも同じような話がありまして,善管注意義務につきましては,自己の財産におけると同一の注意までは軽減することができる。

ただし,免除まではすることができないという議論がありますので,ここにおける善管注意義務につきましても,自己における財産と同一の注意までは軽減することができるというのを当然の前提にしておりまして,それ以上に免除はできないのではないか。


その免除というのが,何をやってもいいですよというのであれば,それは許されない。それは先ほど議論ありましたとおり,公序良俗とか契約の本質とかで制約されるのではないかという考え方でございまして,もう一度申し上げますと,自己の財産におけると同一の注意までには軽減できるというのを前提にしております。


● その点,よろしいですか。
● わかりました。


● ほかに,よろしいでしょうか。結構重要な,象徴的な問題であると思いますので,御意見があれば伺いたいと思います。


● 議論の整理だけですが,昔からある問題で,善管注意義務というのが債務の範囲を決めたことなのか,それとも過失の程度を決めたものなのかという問題が根底にあって,さらに債務の内容と過失とが峻別できるものなのか,それとも裏表なのかというのがあると思います。


それをどこから見るかによって,契約として認められるかどうかということと,それから公序によって規制されるのかというのは視点が変わってくるんだろうと思います。


● おっしゃるとおりでございます。
  よろしいでしょうか。それでは,ただいまのような御意見を踏まえながら,この規定について基本的には御了承いただいたと思いますけれども,説明等につきましてはさらに検討するといいますか,これでいいかどうか確かめながらまとめていきたいと考えます。


  それでは,法人の役員の連帯責任と報酬請求権,受託者の職務の引受け,残りの部分についていかがでしょうか。


  法人の役員の連帯責任につきましても,現行の規定からすると大分軽くなるようでありますけれども,これは,そもそもその法人である受託者が一応責任を負って,それが財産が足りないようなときに,またさらにその法人の理事に負わせるという信託にとっては二重の仕組みになっているわけで,ここは他には余りない制度なので,軽減してもいいのかなということであります。

  報酬請求権は甲乙がございますので,これは少し御意見を伺っておいた方がよろしいと思います。


● 例のごとく甲案支持でございますけれども,費用の補償請求権といいますのは,なかなか予見ができないところもありますけれども,報酬につきましてはある程度,どういうものかはお互い理解しているところでもありますので,信託契約に書けば受益者にいけるという形であっても別にいいのではないかと考えておりまして,やはり基本的には甲案支持ということでございます。

● 同じく銀行会ということになるかもしれませんけれども,少数派であることも認識しつつ,一応甲案という立場であることを明確にしておきたいということと,それから,1点御質問がございます。


  前回の○○委員の話にも関連するかもしれませんけれども,例えば複数の受益者がいた場合に,交渉の結果,片一方が有償,片一方が無償になったといったときに,事実上,有償であった方が口を出すことになると思うんですが,そうした場合に,受託者としての公平義務との関係が出てくるのではないかと思っております。
 


 ただ,法律的に考えると,その委任は無償が前提であって,かつ基本的には有償か無償かというのは善管注意義務等に余り影響を及ぼさないという理解でいるわけで,ですから結果として,法律的にはお金をもらおうがもらうまいが公平義務には影響しないという整理なのかもしれませんが,ただ,やはり事実上「もらったからには私にいいことしてよ」という話になると,公平義務としてはなかなかしんどい。


もしそれが事実上の話であって,それは受託者としてちゃんと公平義務を実現するために頑張って公平にしなさいということであれば,結果的に受託者としては,そういう,ある意味トラブルといいましょうか,そういう説明がしにくくなると,やはり個別にこの人はとったり,この人はとらなかったりというような扱いはできなくなってしまう,そういう整理になるのかなと思ってはいるんですけれども,そういう意味で,ちょっと確認なんですけれども,有償,無償に関して受託者の義務というのは変わり得るのかどうかを,いま一度確認しておきたいと思います。

● そこは有償であろうが無償であろうが公平義務には変わりなく,平等に扱うべきだと考えているところでございます。


● よろしゅうございますか。甲案御支持の方もおられましたけれども,ほかの方。

● バランス上ということで,乙案支持の意見も十分あることを申し上げたいということで,理由につきましては前回,費用等の償還について申し上げましたし,事務局の方で用意してくださった文書が十分に伝えていると思いますので,この点についても乙案がよろしいのではないか。


受益権の譲渡ですとか放棄ですとか法律関係も,そちらの方が非常に明確になるのではないかと考えております。


  それから,今,○○委員から御指摘のあった公平義務につきましても,これはもう既にお答えになったとおり,それによって変わるものではない。


  有償,無償というお話ですけれども,分配の局面においても管理の局面においても,それが一体どういうふうに変わってくるのか,受益権の内容に反映するものではないわけですから,それによって変わることがないのは当然であると考えております。

● 今のバランスをとるための発言なんですが,私も乙案でよろしいかと思います。


  理由はここに書いてあることと,さらに考えてみると,委任と事務管理との比較というのを考えてみました。


委任の場合は,契約があって特約があれば報酬が支払われる。事務管理の場合には,そもそも報酬はなくて,費用補償の問題だけが出てくる。


受益者との間には契約関係がないわけですから,むしろバランスから言っても,報酬というのは別段の合意がない限りは発生しないという乙案の方が筋が通るのではないかと思っています。


● バランスはもうとれたので,それはいいんですが,乙案の読み方なんですけれども,これは信託行為に定めがあって,その上で合意をするということなんでしょうか。


そして,その信託行為の定めとして要求される内容なんですが,抽象的に報酬が取れるという話なのか,それとも受益者との個別の合意をすれば受益者からも取れるという信託行為の定めが必要なのかということなんですが,私の個人的な考え方としては,報酬が取れるというのは,やはり信託財産から取れるという意味であろうと思いますし,委託者が信託の設定のときに,例えば無償で受益者に何かの利益を得させようと考えてやったにもかかわらず,受託者が受益者に「あなたからもお金をもらえば嬉しいな」と言って個別に合意するというのも妙な話でございますので,基本的には信託行為の中に,受益者との合意によって受益者から取ることもできるまでの定めが必要なのではないかと思うのですが,そのあたりの理解についてお教えいただければと思います。

● 事務局としては,信託行為に定めは不要であって,信託外で受託者と受益者が合意するということでいいのではないかと考えていたところでございます。


● そうすると,何の対価なんですか。信託行為の信託の設定によって,受益者に対する給付義務なら給付義務,ないしは財産の管理義務なら管理義務が発生しているわけですよね。


その上で受益者と個別に合意をして受益者から取るのは,何の対価なんですか。


● 対価と言うと,信託財産から取れるわけでございますので,受益者から取るのは,対価性といいますと,やはり受益者の利益をおもんぱかって信託財産の管理・処分をしたことの対価ではないかという気がいたします。

● いろいろな考え方があり得るかもしれないけれども,基本が信託財産から取れて,そこには対価性があって,受益者からも取れるというのは,一種受益者が担保するというような関係になるのかもしれませんね。だからこそ,また当然に生じるものではなくて,特別な合意が必要である。


● ○○委員の御説明はわかるんですが,それというのは,例えば信託報酬が信託財産から取れないといった状況があるときに,それが信託の終了に結びついてしまうというふうなとき,ないしは信託財産のうちで核となる信託財産を売却しないと信託報酬が取れないので売却をしてしまって,目的が達成できなくなって終了しそうになる。


それは困るということで受益者が払うということだと思うんですが,それというのは,ある意味では代位弁済のようなものでありまして,受益者が報酬支払義務を負っているという関係とは少し違うのではないかという気がするのですが。


● ええ,その2つは違うと思うけれども。ちょっと○○幹事の御意見を十分理解していなかったかもしれませんけれども,仮に今,信託の報酬だけに限定して考えると,これはその信託財産を管理して,そのサービスを提供することの対価として,それは当然発生する報酬請求権ですけれども,これは信託財産から取れる。


これが普通の形であると考えるわけですよね。その信託財産以外になお受益者からも取れるというふうにするためには,これは何か特別な合意が必要なのではないか。


● その信託報酬の額は,信託行為の定めに例えば「月々100万円」と書いてあって,受益者と個別に合意して30万円取れることになったら,信託財産かは70万円しか取れないんでしょうか。


そうなると,それは私が言っている代位弁済のような,第三者弁済のようなものではないかという話なんですが。


● ○○幹事がおっしゃっているところで,もう御趣旨は明確なのかもしれませんが,念のため確認だけさせていただきたいと思います。


  信託行為に定めていなくてはいけないのですかというお話は,受益者から信託報酬を取るということの意味なのかもしれませんけれども,まず信託財産から信託報酬を取れるということが書いていなければ,それはだめですと。


ただ,信託財産からではなくて「受益者から信託報酬を受けることができます」ということが信託行為に書いてある必要は当然ないわけで,言われているところは,信託報酬を信託財産から幾ら幾ら受けることができますとあって,それと同じ内容のものを受益者からとりたいのであれば,受益者との間で個別の合意を結んだらどうですか,そういうことを表現しているのが乙案の趣旨かと,それが第三者の弁済と同じようなものではないか,こういう御趣旨ですか。


  すみません,うまく言えていないような気がするのですが。


● そうすると,減るわけですね。受益者から取れた分だけ信託財産から取れなくなるわけですよね。


● それは,そうでしょうね。
● ええ,そういう関係です。


● 示せば減るけれども,合意をしなければ減らないのではないでしょうか。


ですから,何を例にするのが一番いいか,よくわかりませんけれども,保証人なのか連帯債務者なのか,そういう複数の責任財産に共同で帰属する,そういう債務というか,受託者から見ると請求権になるのではないでしょうか。


● 私が考えているのも,そういうことですけれども。


● ですから最初のところに戻って,何の対価かということに対する私の答えは,他の信託事務処理の対価なんだろうと思います。


そして,では何で対価を受益者が払うのか。合意で払うわけですけれども,その経済的な実質が基礎にあるのかというと,信託財産から利益を受けるのは受益者なので,そこをバイパスしてといいましょうか,直接取っても何ら経済的にバランスを失することにはならないだろうと思います。

  ただ,だからといって甲案がいいわけではなくて,乙案を私も支持するところでありますが,乙案は,そういうふうに説明できるんだろうと思います。


● ○○幹事の御意見と同じことですが,ある種の保証人みたいなものだということですよね。


● 申しわけありませんでしたが,大体頭の整理がつきました。そうしましたら,ゴシックで「信託報酬を受ける権利の行使方法」と書いてあるところが重要な意味を持ってきて,これは,信託報酬を受ける権利というものは信託行為によって定められている一つの権利であって,その行使方法として,受益者からの信託報酬の取得という行使方法が合意によって成立し得るということであると読むことができるような気がします。


  かつ,そうしますと,これは言葉遣いだけの問題ですが,2の(2)の「受益者から信託報酬を受ける権利」というのは,もうちょっと丁寧な言葉遣いをした方が,その趣旨がとりやすいのかなという気がするわけで,それは誤解をするのはおまえだけだと言われればそれまでなんですが,そういう気がいたします。


● 御趣旨はよくわかりました。その部分は少し表現を,今,議論して大体了解を得たような中身があらわせるように検討したいと思います。
  それでは,報酬のところもよろしいでしょうか。
  


さっきバランスと言われましたけれども,バランスだけだとどっちにしていいかわからないので,大体の方向としてどちらが多いのかを確認させていただければと思いますが,ほかの皆様の中で御意見は。


● 数を数えるなら,乙案の方に賛成いたします。
● よろしいですか,乙案。では,乙案が多数であるということだけ確認させていただきました。


  それでは,あと残り特に御意見がなければ,職務の引受け等,これは御了解いただいたということでよろしいでしょうか。


● 委託者に相続人がなくして死亡したときにはどうなるかについて,お教えください。


● 相続人不存在の場合ですね。相続財産法人の管理人に対して回答するということに……


● それならそれで,わかりました。

● ちょっと細かいことなんですけれども,相続の場合なんですけれども,遺言執行者等が選任されているときはどうなるんですか。


● 難しい問題ですね。いかがですか。


● そこは遺贈の場合の規律で,文言上は「遺贈義務者に対して」となっているわけでございますが,この場合,遺言執行者も含めていいのではないかと見解が分かれているところで,どちらとも言えないところでございます。


  どちらがいいかちょっと迷っているところでございますが,実質的には,遺言執行者がいればその人に回答するのがよりベターだと思うんですね。


ですから,遺言執行者がいる場合には遺言執行者ということでいいのかなという気がしておりますが。


● 現実的には,やはり遺言執行者だろうという感じはするんですけれども。遺言信託で仮に問題となるとすると,そもそも受託者が引き受けるかどうか問い合わせてくるのは遺言執行者ですよね,その段階では。


後で催告するのは,また別の人間があり得るかもしれないですけれども,やはり遺言執行者が正面に出ていますから,それがよさそうですけれども,相続の理論だとかいろいろなものとの兼ね合いで,そういう解釈でいけるのか,いけないのか。


  実質は余り問題ないと思うんですけれども,そんなところが問題なんだろうと思います。


  そういう意味で,これは遺言執行者を排除するつもりではなくて,原案としては,むしろ遺言執行者で構わないんだけれどもという……。


● 遺言執行者がいれば,この相続人に含めて解釈することは妨げないのかなと。そうすると,どっちに解釈してもいいということにはなると思いますが。


● そうしますと,この催告の相手方とかというのは,やはり遺言執行者等の問題というのは特殊なもので,基本的に委託者の地位自体の,どう言うんですか,基本的にはばらばらにしてはいけないわけですよね。


● 余り望ましくないでしょうね。


● あと,例えば委託者の地位自体,流動化等であれば当然移転させることもありますけれども,こういったものについてもそれに連れて移転するということですか。


● 法律行為の当事者としての地位が移転すれば,新たに委託者となった者が相手方になるのではないかと考えているところでございます。


● 民法の第1015条に「遺言執行者は,相続人の代理人と見なす。」という規定がありまして,また,第1012条を見ますと,遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をすることができるとなっておりますので,これは具体的に注釈等は見ていないんですけれども,相続人の代理人と見なされる以上は,確答する相手方として遺言執行者というのも当然いいのではないかという気が個人的にはいたしますけれども。


● 今のだと,専属的ではないということですかね。大体そんな解釈でよろしいのではないかと思いますが,よろしいでしょうか。


  それでは,これも今の解釈についてはもうちょっと詰めたいと思いますけれども,今のように,遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対する確答でよろしいという--あ,どうぞ。

● 遺言執行者ですから,もちろん遺言信託の場合を前提としてということだと思いますので,契約信託で指定されているような場合は,また違ってくるという理解でよろしいでしょうか。


● そうですね,遺言信託の場合のことを考えております。


● もう一つ。先ほど若干議論があった点なんですけれども,だれに回答すべきかというのは,あくまで受託者側で調査すべき事項ということになりますでしょうか。


それとも,その確答を求める側が「だれだれに確答されたい」というようなことを明らかにすることになるのでしょうか。そこだけ確認させてください。


● 遺言執行者の就職の催告権というのが第1007条にございますが,あれも相続人に対して回答する。ああいうところも催告者が相続人を一々通知してやらなければいけないことになっているのかどうかという点は,いかがでしょうか。


  私の考えでは,受託者に指定された人の方で,相続人を探して回答する,あるいは遺言執行者がいれば遺言執行者でも相続人でもどちらでもいいんですが,催告する人がそれを一々通知してあげる必要はないと考えております。


● それでは第1区分,第8まではここまでとして,次に移りたいと思います。


● 次は,第12と第31について,関連いたしますので一緒に御説明いたします。

  資料ですと7ページでございますが,提案第12につきましては,ほぼすべての意見が改正試案の方向性について賛成でございました。

  以下では,第1点として,資料13ページにおける第31の受託者の権限違反行為の取消しとの関係で,この提案の1の(4)における「当該権限違反行為が信託財産のためにされたものであることを相手側が知らない場合」の要件に対する考え方が1点。


第2点といたしまして,(注)に記載した不法行為に関する問題について,この2点について御説明いたしたいと思います。


  まず,資料8ページの2(1),これが第1の問題を検討したところでございまして,試案におきましては,信託財産に属する財産について権利の設定または移転をする権限違反行為については,当該行為が信託財産のためにされたものであることを相手方が知らない限り,当該財産に掛かっていける,このような考え方を示しました上で,第31の補足説明の中におきまして,2つの考え方を示しておりました。


すなわち,取引相手方が信託財産のための行為だとは知らなかったと主張することにつきまして,1つは,取引対象となった財産について,現に信託の登記・登録がされていれば知らなかったとの主張はできないという考え方。


もう一つは,信託のためだとは知らなかったことについて,相手方に重過失があれば知らなかったとの主張はできないという考え方,この2つの考え方があり得ることを指摘いたしました。


  この点につきまして,この提案におきましては,前者の考え方,すなわち信託の登記・登録がある場合には,信託のためだとは知らなかったとの主張ができないとする考え方をとってはどうかと提案するものでございます。


  後者の重過失の場合には主張できないとする考え方によりますと,取引の相手方に対しまして,信託の受託者と取引をしているのかどうかの注意義務を課すことになると思われますが,これは取引の相手方に困難を強いるものであるように思われるわけでございます。


これに対しまして信託の登記・登録のある財産の場合におきましては,受託者の債権者がこのような財産に強制執行をした場合は,信託であることを対抗されて強制執行が排除されてしまうということに対比いたしますと,取引の相手方についても当該財産が信託財産であることを対抗されてもやむを得ないと思われる点が1点。


  それから,取引の相手方といたしましても,登記・登録のできる財産について取引しようとするのであれば,信託の登記・登録の有無ぐらいは調査すべきこととされてもさほどの困難を強いるものとは思われないという点が第2点。


  もう一つは,受託者の債権者の場合には執行が常に排除されてしまうわけですが,これと異なりまして,取引の相手方の場合には,信託のためだとは知らなかったという主張が許されないことになるにとどまりまして,なお受託者の権限違反行為について,善意・無重過失であれば救済される余地がありまして,取引の安全に対しても配慮した内容となっていることなどの点を指摘することができると思われます。

  これらの事情にかんがみますと,信託の登記・登録がある場合には,信託のためだとは知らなかったとの主張を許さないとする考え方を採用することが適切であると思われたわけでございます。


  そこで,今回の提案と試案との違いといいますのは,この1点についてのみでございまして,すなわち,現に信託の登記・登録のある財産については,取引の相手方において信託のためだとは知らなかったと主張することは許されず,信託のためであることを知っているものといわば同視されることになりまして,その結果,第12の1(4)から外れまして,一たん第31の権限違反行為についての取消権行使の可否のテストに服させることとした点でございます。

  これに対応いたしまして,資料13ページの第31の方におきましては,現に信託の登記・登録のある財産,典型的には不動産につきましては,「当該行為が信託財産のためにされたものであることを知り」という要件が常に満たされるものと考えまして,(2)から(1)の方に特出ししております。あとは権限違反行為についての悪意・重過失のみを問うことといたしました。
  


このような検討を加えました結果,本提案の内容を具体的に示しますと,資料14ページに書いてある①ないし④のとおりになるわけでございまして,①では,現に信託の登記・登録がされている不動産の権限取引の場合には,信託のためであることを知っているものと同視されることになりますので,第31の1(1)により取消権の行使の可否が決せられることになりまして,ここで取引ができないとすれば,取引の相手方は第12の1(3)によりまして,この信託不動産に掛かっていけることになります。

  これに対しまして,資料14ページの②のとおり,現に信託登記がされていない信託不動産の権限外取引の場合には,第31の1のいずれにも当たらないわけでございますが,これは要するに,信託財産であることの対抗ができないという理由によりまして,権限違反についての認識を問うまでもなく,取消権の行使ができないことを意味するわけでございます。


しかし,取消権の唯一の根拠であります第31により,取消しができないことには変わりがございませんので,取引相手方は,やはり第12の1(3)により,この信託不動産に掛かっていけることになると考えております。

  次に,信託の動産の権限外取引について考えてみますと,取引相手方が信託のためと知っているか否かによって分かれまして,信託のためと知っている場合には,14ページの③のとおり,第31の1(2)のイによりまして取消権の行使の可否が決せられることになりまして,ここで取消しができなくなりますと,第12の1(3)によりまして,やはり信託財産に掛かっていけるとなります。


  これに対しまして,信託のためと知らない場合には,第31の規律,すなわち当事者双方が信託のためとの認識自体は共有している場合に当たらないことになりまして,単に第12の1(4)の方によりまして,この信託不動産に掛かっていけることになります。


  最後に,信託のための権限外借入行為についてはどうかといいますと,貸付債権者が信託のためと知っているか否かによって分かれまして,信託のためと知っている場合には,資料14ページの④のとおり,第31の1(2)のロによりまして取消権の行使の可否が決せられまして,取消しができないとすれば,第12の1(3)によりまして,信託財産に掛かっていけることになります。


  これに対しまして信託のためと知らない場合には,第31の対象とならず,第12にも当てはまる場合がありませんので,結局,貸付債権者は信託財産には掛かっていけないということになります。


  以上がこの提案の考え方の,第12の1と第31の1との関係でございます。


  次に,不法行為の被害者が信託財産に掛かっていけるかという問題につきましては,パブリック・コメントの結果では,掛かっていけるとの意見の方が多数を占めております。


ただ,純然たる事実行為による不法行為の場合については,信託財産の独立性への配慮から,消極に解する見解もございました。


  この問題は,結局,受託者の無資力のリスクを被害者と受益者のいずれが負担するかという問題と言えますが,第1に,事実的不法行為といえども信託事務処理により生じたものに限定されているということ,それから,事実的不法行為と取引的不法行為との区別は必ずしも明確ではございませんが,取引的不法行為の場合に信託財産に掛かっていけることには,ほぼ異論がなかったことなどにかんがみますと,不法行為の被害者は,取引的不法行為であるか事実的不法行為であるかを問わず信託財産に掛かっていけるとすることが適当ではないかと思われます。

  なお,最後に資料7ページの末尾から8ページの冒頭に記載いたしました信託の設定時に債務の引受けがあった場合における当該債務に係る債権など個別のものにつきましては,信託財産に対して強制執行等ができる権利に当たる旨を明確化する方向で検討したいと考えております。


  続きまして,第31の方でございますが,資料で申しますと13ページからになります。


  本文については特段の異論は見られませんで,むしろ試案で(注)で示していた,この□の3点それぞれについて,意見が分かれております。


  なお,提案1の一部を変更したことは,さきに第12の関連で御説明したとおりでございます。


  まず,第1の□の取引相手方の悪意・重過失の証明責任についてでございますが,パブリック・コメントの結果では,取引の安全の観点から受益者に証明責任を負わせるべきであるという考え方と,受益者は十分な情報を有していないのが通常であるから,取引相手方に証明責任を負わせるべきであるとの考え方との両論がございました。


  この点につきましては,受益者が信任を寄せた受託者が権限違反を犯した場合であるということですとか,受託者の権限外行為も一応有効である上に,受益者が取引の当事者でないにもかかわらず第三者間の取引を一方的に取り消すものであることなどを考慮いたしまして,現行法どおり,受益者の方が証明責任を負うこととしてはどうかと考えるものでございます。


  次に,取消権の消滅期間につきましても,パブリック・コメントの結果は,取引の安全の観点から,現行法どおりの短期の消滅期間を定めるとともに,催告権は不要という意見と,受益者に対する催告権を導入することを前提に,消滅期間を延ばすべきであるという考え方とがございました。この点については,御意見を伺えればと考えております。

  最後に,有限責任取引の場合におきまして,善意・無重過失の相手方から受託者に対して民法第117条における無権代理人の責任と同様の責任の追及,すなわち受託者の固有財産からの履行または損害賠償の請求を認めるかという点につきましても,パブリック・コメントの結果は賛否両論が見られました。

  ところで,試案の補足説明で記載しておりましたが,無権代理人の取引の相手方が表見代理により本人に対して履行の請求をするためには,基本代理権ですとか正当事由の存在の立証責任を負担しなければならず,これは必ずしも容易ではないと思われます。


これに対しまして受託者の権限違反行為の場合には,受託者との取引の相手方が信託財産に掛かっていくためということになりますと,受託者の権限違反についての善意・無重過失のみが要求され軽過失は救われるわけですし,その証明責任も,先ほどの考え方によれば受益者側が負担することになるなど,利益状況はそもそも相手方にとってかなり有利なものとなっていると言えます。


そうすると,有限責任取引を締結した相手方に対しましては,約定どおり信託財産に対する請求の余地を認めておけば足り,それ以上に固有財産に対する請求という選択肢までもあえて付与する必要はないと思われるものでございます。


  説明は,以上でございます。

● それでは,ここで休憩いたしたいと思います。

          (休     憩)

● 再開したいと思います。
  先ほどの第12と第31,いかがでしょうか。


● 内容の確認でお聞かせいただければと思います。
  第12の1(3)と(4)に二重線が引いてあります。そして,(3)と(4)の関係を伺わせていただければと思うんですが,(3)というのは,第31云々で取消しがされていないものにより生じた権利で,(4)が,同じく権限違反行為なんですけれども,権限違反行為が信託財産のためにされたものであることを相手方が知らない場合に限る--によって生じたものだということなんですが,(4)の行為も,意味合いとしては,そもそも第31で取り消せない行為ということなんでしょうね。

そして(3)というのは,想像ですけれども,取り消せるけれども取り消していないという御趣旨なんでしょうかね。


多分そういう仕分けなのかなと思ったんですが,ただ,そうしますと,(3)と(4)をわざわざ並べる必要があるのかという気もちょっとしまして,要するに,取り消されない場合に一元化できるのかなという気がしただけで,意味内容の確認をさせていただければと思います。


● 今の御指摘は,実質的な内容は,先ほど○○幹事の方から御説明申し上げたとおりなのですが,ちょっと私どもの書き方がよくなかったかなと思います。


  補足説明,改正試案の場合におきましては,(3)は権限違反の行為で,相手方が信託財産のためにされたものであることを知っている場合として,(4)は,例えば,動産などのようなものについて権利の設定をする場合で,相手方が信託財産のためであるということを知らない場合という整理をしていたところ,(3)の知っている場合というときにつきまして,補足説明で書かせていただきましたけれども,信託の登記とか登録がある場合においては,それは相手方が知らなかったなんていうことは言わせる必要はないのではないかという御意見があったことを踏まえまして,したがいまして,その点については,信託の登記または登録があれば,相手方に「信託のためにしたことは知らなかったんだ」とは言わせないということで,したがって,第31の方は,第31の1の(1)の相手方が知っている場合を除いたわけでございます。

  それで,それ以外の(2)のものにつきましては,やはり相手方が知っている場合という要件は引き続きかかってくるとしないといけないかと思います。


したがいまして,ここで第31の1(1)または(2)に掲げるというふうにザクッと書いてしまったのでございますが,(2)に掲げる受託者の行為というのを文理に忠実に読みますと,確かに第31の1の(2)のイに掲げる行為ですから,借入行為と登記・登録ができない動産についての権利移転・設定行為をそのまま指すことになってしまいますので,○○幹事から御指摘のありましたように,(3)の中に(4)が含まれることにもなってしまうほか,改正試案を出す前に○○幹事や○○幹事から御指摘のあったような,相手方が信託のためだとは知らなかった場合について,取り消せないからといって信託財産に対して執行を認める必要はないではないかという御意見にも答えたような形には文理上,なっていないように読めてしまうかもしれませんが,ここの趣旨は,その実質を変えたわけではございませんで,条文ではないというところに甘えさせていただいて,第31の1(2)に掲げるという意味,第31の1の(2)の相手方が信託財産のためにされたものであることを知っている場合に限定した上で,第31の1による取消しがされていない場合と分けております。

● どういう場合はどうかという御説明は,おおむね「そうかな」と思って聞いたのですけれども,その上で,こうまとめていいのかということだけなんですが,(4)の場合は,相手方が知らないわけですから,第31では取り消せないですよね。

(3)の場合は,そもそも取り消せない場合も含まれているし,取り消せるけれどもまだ取消しが行われていない場合も含むということですよね。要するに,(3)(4)は,いずれにせよ第31によってもう決まることであって,つまり取り消すことがそもそもできなければだめだし,取り消せるとしても取消しの意思表示をしなければだめだ,そう理解してよいかということだけです。

● その点についてはそうなんですが,書き方の点で,第12の1の(3)の中に(4)は含まれているから,(4)を削ればいいかというと,そういう問題ではなくて,例えば借り入れなどをしたときに,信託財産のためにしたと思って受託者はやったんだけれども,相手方は,それは信託財産のためにしたことは知りませんでした,それが権限違反でしたというときに,確かにその場合,その受益者は取り消すことはできません。

だけれども,だからといって信託財産に執行できるというわけではなくて,その場合は権限違反で借り入れをしただけなんだから,それは固有財産に帰属させて,固有財産に執行させればいいでしょうという帰結になりますので,すみません,ちょっと書き方が悪い上にこんなことを申し上げて恐縮なんですが,(4)は(3)に含まれるので(4)を削ってそれで終わるかというと,そういう問題ではなくて,第31の1(1)によって取消しがされていないものと,第31の1(2)と書いて(信託財産のためにされたものであることを相手方が知っている場合における当該権限違反行為に限る。)という限定をつけた上で取消しがされていないものという,そういう整理になるかなということを申し上げたところであります。


● これは第31についての確認ですけれども,今,借り入れの例を挙げられましたけれども,これは第31の方で言うと,1の(2)のロに当たらないんですか。


● 借り入れですか。
● ええ。


● ロに当たります。したがって,受益者の取消しはできない。だけれども,第31で取消しができないものが全部信託財産に執行できますかというと,それはそうではないですよねというために,(3)のところで相手方が知っている場合に限るという限定を,借入行為についてはつけないといけない。そこを丁寧に書き分けないといけない。

● それが今の(3)の表現で落ちているということですか。
● そうです。そこは申しわけございませんでしたというか,経緯からそういうふうに書いてしまったのですが,説明ではそういう説明をさせていただいておりまして,条文を意識したものではないとはいえ,試案の書きぶりは,ちょっと正確ではなかったかなと思います。

● とりあえず,確認だけですので。
● 今の第31の1の(2)のロが借り入れに当たるということで,それは外すんだという御説明だと思いますが,このロについては,例えば権利の変更行為も入るのではないかと思うんですけれども,それも落ちてしまうことになるんでしょうか。

● 権利の変更と申しますと,例えば……。すみません,ちょっと具体的に。
● 一般的に言えば,不動産の対抗要件のところで権利の設定または変更というように言われている,その変更。いろいろなものがあると思いますけれども,この文字面だけですと,設定・移転行為以外ということですと,そういうものも入り得るのではないか。


それをまとめて除外するのが適当かどうか。むしろ借り入れについてが特別のルールがあり得るのではないかと思ったんですけれども。


● 権利の変更について……,そうですね,今まで具体的には考えてこなかったけれども,この表現だとそれが借り入れと同じ扱いになってしまうわけですよね。


今まで変更のことは余り考えていなかったけれども,借り入れと同じに扱った方がいいという積極的な意見があったわけではなかったですね,確かに。


  それは,もしそういう御意見であれば,表現をそれに揃えるように書き直すことはできると思います。いずれにせよ,借り入れがとにかく一つのキーポイントだったわけで。

  ごめんなさい,この点また戻るかもしれませんけれども,もし○○委員が関連することであれば。


● 十分理解しての質問かどうかわかりませんが,ただ,大ざっぱな質問なもので通用すると思うんですが,重過失の議論なんですけれども,今「信託財産のためにすることを知り」というところに重過失を入れるべきではないかというふうなことを言わんとしているんですけれども,そう言うことが,信託財産のためにしていなければ,そもそも信託財産に掛かっていけないんだと思って,仮に受託者の行為が信託財産のためであってもという議論だとすると,ちょっと言っていることが矛盾してしまうんですけれども,言わんとしていることは,民事信託を考えた場合,御説明にあったように,受託者名義ですから取引の相手方はわかりませんけれども,通常の場合というか,商事信託であれば信託会社は専業義務を課せられていますし,信託銀行であれば何々信託銀行ということですし,まして動産であれば分別管理ということで,分別して管理されていますから,ですから,取引の相手方というのはかなりの程度,ちょっとした注意義務をもってすれば信託財産であること等はわかると思うので,そういう場合でも取引の相手方を保護するような議論--と私は理解しているんですけれども,そうではないとすると意味がない議論になってしまうんですが,そういうのはどうなのかなと。

  要するに,分別管理,それから信託会社における専業義務という視点から,信託財産のために行動することは取引の相手方だったらわかり得るのではないか。


それからあと,信託の公示制度そのものがかなり軽減化されているという現実が,他方において分別管理で賄われるという全体の建てつけですから,そういう意味において,幾ら同じ受託者名義とは言いながらも,信託との取引ということが注意義務としてある程度は課せられてもいいのではないかというコメントと,あと,不動産とか登記・登録を要するものに関して,登記・登録がすべての判断の基準という建てつけのようですし,基準としてのわかりやすさはあると思うんですけれども,あと,以前にも議論した,背信的悪意者みたいなものは入るかもしれないという話だったと思うので,その辺の確認と,仮に登記・登録していなくても,信託銀行が信託財産として預かっていることを相手方が知っていれば,それはそれで悪意として,その効果というものは考えてもよろしいのではないかと思うんですが。

  細かいところの理解が間違っているかもしれないので,検討違いの議論かもしれませんけれども,そういう視点から何か御見解をいただければと思うんですが。


● ○○委員のおっしゃった最後の,当該財産が信託銀行が信託財産のために預かっていることを知っているかというのは,もう文言ばっちり,「信託財産のためにされたものであることを知り」というところに当たるかと思いますので,あとはその権限違反について,善意・無重過失であるか悪意があるかどうかを論ずればよろしいのかと思うのですけれども……

● それは,登記・登録を要するものであっても,もうそれはそこで決めるということですか。


● 登記・登録を要するものについては,信託の登記・登録がされていれば,相手方が信託のためにしていることを知らなかったとは言わせないというのが第31の1の(1)ですので,信託の登記・登録があるものについて,その登記・登録があれば相手方は「いや,私はあなたが信託のためにやったとは知らなかったよ」という主張はできなくて……

● 登記・登録を要するものが登記・登録していないんだけれども,分別管理され,信託財産として管理されていることを相手方が知っている場合。


● その場合は,信託の登記・登録をすることができる財産であれば,相手方は,これも前回,○○委員の御発言にもあったかと思いますけれども,背信的悪意者に当たらない限りは,それは信託の対抗問題として,相手方というか,受託者が信託であるということを相手方に言えないわけですから,先に履行してとってきてしまえば,それはもう対抗問題として相手方が勝つことになるのではないかと思います。

● 背信的悪意者というのは,結局悪意・重過失……,ちょっと昔の議論を忘れてしまったんですけれども,それほど加重されていなかったような気もするんですけれども。--いや,ちょっとわかりません。私の理解が間違っているかもしれませんけれども。

● 背信的悪意者ということであれば,それはもう受益者,これは信託であるということは対抗できますよという話になって,あとは軽減違反について別途,善意・無重過失かどうかというところで決せられることになるかと思います。


  あと,ちょっとつけ加えですが,信託の登記または登録をすることができない動産のようなものを売るときに,これも○○委員から,民事であれば確かにこの主張は妥当するけれども,商事であればいかがかという御指摘があったかと思うのですが,確かに分別管理はしてあるわけですけれども,何か実際の売買のときに,商事であれば動産をポッと出されたときに,それは信託財産の財布から来たか固有財産の財布かということを常に考えなければいけないという注意義務を若干なりとも課すことが適切かどうかということで,とりあえずこの案では重過失は問わずに,悪意か善意かだけを問うという案にさせていただいているということかと思います。

● そこは判断の分かれるところだから,いろいろな考えがあるのかもしれませんけれども,普通,民法的な議論をすると,故意と重過失はかなり同視されるような行為として考えますよね。


ですから,そういう意味において,悪意のみというのも何か強いような……。将来の解釈に委ねるという趣旨であれば,それはそれでいいのかなと思うんですけれども,ここの規律だけ「重過失」という言葉が結構はっきり出てくることによって,悪意は悪意だけみたいな感じもしますし,将来的に軽過失でいいんだという議論が逆にしにくいような規律にもなっているのかなと。


民法一般としては,やはり外観法理にしろ何にしろ--と言ったらちょっと間違っているかもしれませんけれども,やはり過失があれば責任があるということかと思うんですけれども,ここだけちょっと,ある意味では将来の解釈論が確定してしまっているのが分別管理,先ほども言ったように,信託の専業義務という視点からすると,信託財産が結局受託者,その受託者を信じたあなたが間違っていたんだと言われてしまえばそれまでかもしれませんけれども,分別管理されているものを取引した人が,重過失があるにもかかわらず保護されるようなシチュエーションというのは,民法的な視点からも信託を守る視点からも,何かちょっと感覚的にそぐわないところがありまして,再度確認している次第ですけれども。


● いろいろな問題があったと思いますけれども,1つは,信託の対抗という問題を正面に出しているために,信託の登記・登録ができるのにしていないと,もう信託を対抗できないということで,あとは背信的悪意者でないと受益者というか,信託が保護されないとなっていることがどうかというのが後半の問題ですよね。


  これは信託の対抗がもうできないと言われてしまうと,あとは背信的悪意者しかとにかく保護しようがないので,そこで過失があってもだめだとはなかなか言いにくい構造になってしまっている。これをどうするかが1つの問題であることは確かですね。

  もう一つは,あるいは○○委員の問題意識と私のと完全にオーバーラップするかどうかわかりませんけれども,信託の登記・登録をした場合であって,ですから,これは相手方はもちろん信託財産であることを知っているし,そういうときに相手方に要求される要件が,故意・重過失があれば取消しができて,しかし,軽過失があった程度では取消しができないという部分,ここもちょっと私は,個人的にはこれでいいのかどうかちょっと気になっていまして,特にこれ,今までの信託法第31条の取消権というのは,これも硬直的で,これを直そうというのが出発点だったわけですけれども,少なくとも今までの信託法第31条の取消権の場合には,登記・登録があると,これは相手方の善意だろうが無過失だろうが,それに関係なく常に取り消せるというので,これはちょっと極端である,とにかくこれを変えようと。

  変えようとなったんですけれども,今度は反対側の方に振り子が完全にいってしまって,故意・重過失の場合にしか信託の方は保護されない。おまけに挙証責任も受益者の方で証明しますので,受益者の方で,信託財産の取引の相手方が悪意または重過失があることを証明しないと保護されないということになって,従来の第31条の下で保護されていた受益者,あるいは保護されていた信託からすると,極端に取引の安全の方に移行してしまっているのではないかという気が個人的にはしております。

  信託財産というものはそういうものだと割り切ってしまうのも1つかもしれませんが,そこまで極端な議論をしなくても,法人などの場合で取締役が定款などで定められている,制限されている権限に違反して取引をした場合とのバランスみたいなものを考えた方がいいのではないか。

これも事務局にはちょっと調べていただいたわけですけれども,民法で言うと第54条の問題ですかね,全く同じ問題かどうかわかりませんけれども,取締役の権限が制限を受けているときに,その制限に反して取締役が取引をした。


そのときに第51条,条文上は確かにこれ,善意としか書いてありませんけれども,いろいろな解釈によっては善意・無過失の相手方を保護する,ですから過失があれば逆に保護しない,そういう規定として理解している人たちもいると思うので,民法第54条とのバランスみたいなものを少し考えた方がいいのではないかと思っておりまして,○○委員と多少共通するところがあるんだろうと思いますが。

● そのとおりですね。
● ただ,民法第54条は,条文上は善意だけになっているので,そこはちょっと問題と言えば問題なんですが。


● 他の箇所でもそうなんですけれども,民法と平仄を合わせるということで善意としか書かずに,ただし解釈論で多分,過失も入るでしょうと。ここも将来の解釈論に委ねるような規律,だから過失か重過失かこの場で決めずに,「善意」とかいう言葉を使うことによってという規律でもよいのかなという気がしております。


● さっき言われたように「重過失」とまで書いてしまうと,過失についての解釈がそこで決まってしまうのでということ。


● はい。

● ほかに,いかがでしょうか。
● 余り強く申し上げるつもりは全くないのですけれども,今の重過失の点で,権限違反の方も問題になっておりますけれども,もともとの信託への帰属の方で,御提案は登記・登録で一律に決するということで,重過失のような判断はしないということ,それも一つの割り切り方かなというふうには思っているのですが,ただ,それで大丈夫だろうかということも考えなくはないですので,その点だけお話しさせていただきたいと思います。


  1つは,もう既に出ておりますように,少し調べればわかるようなものについて調べなくていいかという点でございまして,特に,結局取消しが問題になるということは,権限違反について,悪意であるとか,あるいは重過失があるという要件を満たさないといけないわけですので,そのことは知っているというような状況において,それが果たして信託のための取引なのかどうか若干の調査をしなくていいのだろうか。

先ほど例に挙げられました動産のようなものは,安心してやってよいというのが適切であるとすれば,そのときには,もうそれで既に重過失はないと判断されると思いますので,どうなのかというのが若干気になっております。


  もう一つは,登記・登録との関係なのですけれども,これは恐らく信託の登記・登録のあり方とも関係してくるものではないかと思うんですが,現行法のような形であれば,もう登記・登録があれば当然に悪意擬制と同じという扱いで,それでよろしいと思うんですが,もう少し登記・登録のあり方が柔軟に,あるいは必ずしも現行のように確固としたものでないものが出てきたときに,当然登記・登録はチェックして取引すべきだということが常に言えるのかどうか,若干気になるところでして,これは事例自体は全然違う話ですから,引くのが適切でないことは理解しているんですけれども,動産の譲渡登記などですと当然それは見てしかるべきで,当然悪意擬制がされるような性質のものでもないということがありますので,登記・登録制度のあり方によっては,もう少し考える余地があるのではないか。

そうだとすると,登記・登録を見てしかるべきということは,当然重過失があるというので判断できるという仕組みも,より適切な結果を導けるのかなという気はしているのですが。


  ただそういう観点もあるのではないかということだけ,補足的に申し上げます。


● その点は,全くそのとおりだと思います。
● 今,○○幹事が御指摘になったポイントでございますが,2つ目の登記・登録されているものについて,信託の登記・登録のあり方が変わってくるような場合で,まさしく御指摘のあったとおり,動産の登記というのは別に,今回の場合,動産の登記をしてあったから信託云々という話ではなくて,(1)の話は信託の登記・登録がある財産についての話でございますので,動産の登記があれば,それを見たって信託のことはわからないことは,もちろんわからないわけでありますけれども,仮に,例えば信託の登記とか登録を免除しているというか,一時的に免除しているといったときに,第三者と受託者の取引をして,それで第三者の方が権利移転の登記も移してしまったようなときに,受益者と第三者とでどちらが勝つかといえば,それは第三者が勝つのではないか。


そこは権限違反云々という主観的要件を問題にすることもなく,そういうことになるのではないかと思いますので,信託の登記・登録の運用のあり方が確かに変わってくることは変わってくると思うんですけれども,第三者と受益者とでその財産を取り合いになったときに,ルールとしてどういうふうに決するかというふうに考えますと,その場合は,まず受益者としては,権利移転の登記をする前に信託の登記・登録をしなさいということを受託者に言って,受託者がそれを移した後で,それをもって取消権を行使するとかいうようなことになるのではないかと思います。

  すみません,ちょっとお答えになったかどうかわかりませんけれども。


● いずれにせよ,さっきから問題になっているポイントは恐らく大きく2つあって,登記・登録できるけれどもしていない,しかし,何らかの形でそれが信託財産であることがわかるような場合に,どこまで受益者というか,信託の方を保護し,取引の相手方の方が多少負担をすることになるのか。

今のところ,登記・登録できるのにしていないものは,もう一切信託が対抗できないので,これは当事者間の合意でもって免除している場合も同じような扱いになるということですね。これについての御意見がさっきから上がっている。


  ○○幹事の御意見は,私の理解では,登記・登録ができる場合で,かつしていて,そのときの相手方の主観的な要件の問題で,この原案がいいのかどうかは,どういう登録制度があるかによって違ってくるだろう。


現在の不動産の登記のように信託財産目録があって,そこでかなり詳しく信託財産の中身が判断できるようなものについては,例えば,それを見なかったら悪意というふうな推定が働くんですかね,そういうことで解決できるけれども,そういう信託財産目録のような,情報を完備しているような登記・登録制度ばかりではないので,そういうものについては果たして適当なのかどうか,不動産の登記と同じように扱っていいのかどうか,そういう問題ですよね。


  これも登記・登録制度がどうなっているのか,よくわかりませんけれども,今のところ不動産に関しては,現在の信託財産目録というのは大体同じような制度が引き継がれていく方向にあると理解してよろしいんですか。


それ以外のいろいろな登記・登録制度ですよね,こっちがまだはっきりしない。そういうもとで,どういうルールがいいか。


● 今の登記・登録制度のところで,信託目録が現在の制度と同じようなというお話がありますけれども,そこはそんな形なんでしょうか。少なくとも権限といいますか,そういう部分は書かれないというふうに,何となく……

● すみません,私がちょっと先走ったことを言ったかもしれませんが。

● またここの議論をしていただこうと思ってはいるのですけれども,逆に言えば,権限のところを書かれないというような整理がされた記憶もないんですが,いずれにしても,信託がどれであるかを信託の公示を見てわかるようにしなくてはいけませんね,少なくとも不動産についてはという,そこはたしか昔,パブリック・コメントをする前に御議論いただいたのかと思っております。

  その際に,では,どういう情報が特定のために必要なのかという観点から考えると,権限だけは要らないだろうといった議論がそう簡単にできるのか。


つまり,契約を特定するという作業の中で何が必要なのかという話を,またいずれしていただきたいとは思っておりますけれども,逆に言えば,権限は要らなくなるというのは,確かに効力の問題としては,権限の有無と信託の公示は切り離されましたけれども,それと,公示の際に何を書かせなくてはいけないのかというのとは直接にはリンクしない問題ではないかという感じがしております。


● また別途議論させていただきます。
● 公示の中身については,また御議論いただけると思います。

● 先ほど来,問題になっております,信託の登記とか登録をしていない場合に相手方が,それは信託財産であるとわかって取引をした場合については,例えば信託財産,受託者の固有財産に属する債務に係る債権者が信託財産だとわかっていて登記・登録をしていなかったら,そこは登記で差し押さえてしまったら,どっちが早く登記をとったかというような話で決することになりますので,確かに心情的に多少なりとも忸怩たるものはございますけれども,第3条でそういう整理をした以上は,やはりそうなるのではないか。

この嫌らしさというのは,通常の二重譲渡のときに,AさんがBさんに売ったことがわかっていて,もうBさんにいってしまったときでも,後から売買契約して登記を先に備えてしまえば勝てるという,その通常の対抗要件主義をとって決するというふうにしたことと同じ,そのときに思う気持ちと同じようなことなのではないか。

  それで,信託の登記・登録が制度として整備されている以上は,登記・登録を見ればどれがこの信託に属する財産かというのは,やはり明確になるように制度整備を図っていかなければいけないのかなとは思いますけれども。


  他省庁が所管しているものまですべて明確に確認したものではないので,その点はもう一度,信託の登記・登録制度自体は見てみる必要があるかと思いますけれども,現行法の建前は一応そこは区別されているんだ,特定できるんだという建前でできているのではないか。


そうではないと,信信間だって対抗要件で決するわけですから,それが登記で明らかになっていないということになると,法の建前自体がおかしいということになってしまうのではないかなとちょっと思いますので,補足させていただきました。


● 前回もちょっと質問させていただいたんですけれども,対抗問題であるということで,今,ちょっと話があるんですけれども,典型的な対抗問題とはちょっと違うのではないかという気がずっとしておりまして,必ずしも対抗問題としてとらえる必要があるのかなという気がしております。

  受益者の立場からすると,登記にそこまでの意味を持たせるのはちょっと厳しいなという気がしておりまして,これは私の方から申し上げるべき意見かどうかわかりませんけれども,ここで登記に重い,そういう登記によって取消しができるかどうか切り分けられることになりますと,かえって公示のところで多少柔軟にしたいという要請があるところとぶつかる場面が出てきはしないかなという気がちょっとしておって,そういったことですとか,先ほど○○委員から話がありました信託銀行等の実情等をお聞きすると,どちらかというと,登記・登録では切り分けずに,もう悪意・重過失だけで取消しの有無を切り分ける方がすっきりするように思うんですけれども。

● 以前からそういう意見もあったわけでして,ほかに御意見ございますか。
● 一般的要件の証明責任についてですが,お書きになられているところは14ページから15ページにかけてなんですが,少なくとも民法でこの種の問題をお話しするときは,権限がある場合とない場合を分けて,権限がある場合でも,さらに内部的な手続違反だとか,あるいは内部的な義務違反がある場合という分け方をした上で,どういう議論をするかというと,権限があれば効果は帰属するし,権限がなければ効果は帰属しない。

ただ,権限がなければ効果は帰属しないけれども,一定の特別な要件を満たす場合には,例外的に効果が帰属する場合を認めるという考え方だと思うんですね。


  そうしますと,権限外の場合は,やはり特別な要件,善意だったとか善意・無過失だったというようなことは,あくまでも相手方の方で証明責任を負うというのが通常の考え方だと思います。


その上で推定などで変わってくるのはもちろんありますけれども,それがベースですね。それに対して,権限はあるんだけれども内部的な義務違反だという場合は,内部的な義務違反があるというだけでは効果の不帰属は基礎づけられなくて,やはり権限があるわけですから,効果は帰属してしまう。


だから,義務違反があって,かつ相手方がそれを知っていたではないかとか,過失がある,あるいは重過失があるということまであわせて言わないと効果の不帰属は基礎づけられないので,この場合は財産を持っている側がそこまでの主張,立証をしないといけない。
  


この14ページから15ページに書かれている内容というのは,むしろ内部的な義務違反の場合に寄せて考えようというような御説明に近いのかなというふうに伺ったんですけれども,やはり権限という言葉を使う以上は,権限がないならば効果はもう帰属しないわけであって,そうすると,例外的に効果が帰属するということを,つまり受益者の側としては権限外だということを言えば足りて,相手方の方で,いや,知らなかったし重過失もないんだと立証責任を負う方が,少なくとも民法の考え方からは自然なのかなというふうに伺いました。


  ただ,これ商法はどうなっているのか,やや心配なところはありますけれども,少なくとも民法の普通の考え方からすると,この14ページから15ページに書かれていることは権限外なんだけれども,それについて相当政策的な操作をしておられるのかなという気がいたしました。

● 今の御指摘につきまして,相手側,受託者側,こちら側というお話がございましたけれども,受益者は,経済的な利益の実質的な帰属先という観点からいきますと,確かにこちら側なのでございますけれども,やはり受託者とは違う第三者なのでございまして,受託者と取引の相手方との取引を,取引当事者でもない第三者たる受益者がその効果を取り消すという話ですから,例えば第54とかいうようなときに,無効をどちらが証明するか,しないかということを考えるときには,実際に取引をやった理事の方と,それから相手方との証明責任,どうですかということを多分,考えて議論しているのだと思うのですけれども,本件におきましては,全くの取引当事者でない受益者がパラシュートのようにおりてきて「取消し」と言うわけですから,一般の民法のときの証明責任と同様に考えるべきなのだろうかと。


  そういうことを踏まえて,現行法は受益者の方に証明責任を課しているのではないかというのがこれまでの議論,資料等を拝見して考えたことなのですが,いかがでございましょうか。


● お考えは,もちろんわかるようなところはあることはあるんですけれども,法人の場合だって,法人自身がこれは権限外だというようなことを言う場合もあれば,それ以外の者が言う場合もあって,いろいろだろうと思うというのが1つと,それから,やはり受益者が言うのであれば,権限外だということを言わないとだめなわけで,権限外だということが言えてしまうと,もう本来は効果が帰属しないというふうになるのが民法の考え方からすると筋なのかなと。

そうすると,それ以上なぜまだ主観的要件まで言わないといけないのかというのは,ちょっと平仄が合わないのかなと。

少なくともここまで,しかも○○委員がおっしゃいましたように取引安全をかなり重視したような制度の仕組みになっている上に,証明責任のところまでさらに変えていくというのは,ちょっと--御説明わかることはわかるんですけれども,かなり一般原則から踏み出しているなという感じが否めないところです。


● 先ほど商法の方は御存じないと言われたんですが,例えば商法第42条,もう番号は変わったかもしれませんが,六法に載っているので言えばですけれども,表見支配人などのケースですと,悪意ならばそうではありませんという形でありまして,ある種の肩書を与えた場合には当然効果が帰属して,悪意ならそうではありませんといった形になっております。


代表取締役も似たような発想でして,ある種の包括的な代理権,代表権みたいなものを与えられるような外観を持っている場合,及び商法の場合は迅速な取引の補償といった別の要素があるんですけれども,あわせて証明責任が引っくり返っているんですね。


信託の場合,どちらかというと,当然に商事信託ばかりとは言えませんから,商法的な,迅速な取引の安全の保護という発想は正面に出しにくいかもしれませんけれども,包括的な代表権,代理権が与えられているような外観に近いような基盤は,あると考えるなら,この証明責任は一応は説明できる。

それが最終的に商法と同じだからいいんだというふうな,そんな簡単な説明はできませんけれども,全く説明がつかないわけではないような気がしました。


  あわせて,第31について質問させて痛きたいんですが,私,おくれて来て聞き逃したのかもしれないんですけれども,1の(2)の方で「信託財産のためのものであることを知り」と掲げられていますが,後半は権限についての悪意・重過失なんですけれども,意味が非常に違うような気がするんですね。

後半の悪意というのは,いわゆる表見法理などの悪意と同じような意味なんですが,前半は,悪意だから保護されないとかそういう話ではなくて,そもそも信頼できる信託財産の取引をしているという前提でやって,なおかつそれが権限外であることを知っていたからだめだという話,それを並列して悪意として書くような話なのか。


何かちょっと構造が違うわけですね。要件として書けばこうなのかもしれませんけれども,その辺わかりにくくなっているので,書き方だけなのかもしれませんけれども……


● 趣旨は,今,○○幹事が言われたとおりだと思います。
● その趣旨を,条文で書くときも何か工夫していただければと思います。


● 1の(2)の「信託財産のためにされたものであることを知り」ということですけれども,これ,取消しの積極要件という位置づけだとするならば,受益者の側で,当該行為が信託財産のためにされたものであり,かつそのことを相手方が知っていることを立証しないといけないということなんでしょうか。

でも,何か自然な流れというのは,当該行為は信託財産のためになされたものではないんだということを受益者の方が言い,それに対して相手方が,「いや,仮にそうだとしても自分は知らない」というようなことを言って争うのが普通の流れのような気がして,考え方はわからないではないんですけれども,何かどうも,前からずっとなんですけれども,もう一つ何か頭の中にしっくり入ってこないなという点と,今ちょっと言われた若干性格が違うのではないかというのと,リンクしているのかなという気がどうしてもします。

● これはいろいろな御議論がありますので,大きな方向はそれなりに御了解いただいていると思いますけれども,今の証明責任とか,それから--もちろん大きな方向も若干御議論あったわけですが,これでいいかどうか,もう一回確認していただくということでよろしいですか。

● 整理はついているのに私が読めていないだけかもしれませんが,強制執行というのは,引き渡しの強制を求めるというのも含まれますよね。


だから,信託財産に属する財産が売却されたという場合の,その履行を求める強制執行と,例えば,それが債務不履行になったとかいうふうなことで損害賠償請求権を持った,それで強制執行をしていく,損害賠償請求権の金銭債権の満足のために強制執行をかけていくという場合とは,かなり違うような気がするんですが,それは区別されているんですか。


  「信託財産のために」という言葉を使うときには,これは総信託財産という感じで,「信託財産に属する財産」というのは個別の財産という感じで,第31条では何となくわかるんですが,その言葉遣いも何となくそれでいいのかなという気もしますし,強制執行のときなどで第12の1の(4)などのときに,当該財産に対して引渡しを求めていくことができるというのと,損害賠償の問題とは,どう区別すればいいのかがよくわからなくてクリアなことが言えないんですが,御意見があればお聞かせいただき,あれでしたら再検討の際にその辺を書き分けていただければありがたいと思うんですけれども。

● ○○幹事の御指摘は,例えば信託財産に属する動産について取引をしましたというときに,相手方は確かに信託だということを知らなかったので,この財産だと信じたから,その信頼を保護していいではないかというのはあるにせよ,それで債務不履行になって損害賠償請求権の金銭債権に化けたときに,だからといって信託財産という,そちらの方にいかせるのは信頼の保護としてちょっと行き過ぎなところがあるのではないか,そういったものをきちんと(4)で書き切れているのかというお話だと思いますので,書き方をもう少し検討します。

● では,それも含めて検討させていただきます。


  それでは,不法行為についても御感触だけ伺っておきたいと思いますが,受託者の不法行為に基づく債権が発生したときに……


● 今,事実的不法行為と取引的不法行為の区別も必ずしも明確ではないし,信託事務処理過程における不法行為だからという,この2つの理由で信託財産に掛かっていってもいいのではないかという結論と書かれているんですけれども,やはり,区別が不明確というのはそのとおりかもしれませんけれども,被害者の方が信託事務処理であることを認識し,信託財産の存在を認識しているケースと,たまたま受託者が,余りいい例ではないかもしれませんけれども,交通事故を起こしたと,不動産の信託で。


それが一応,信託事務処理過程においてのことかもしれませんが,それが,わかりませんが,それが事実的と仮に呼んだときに,区別していい,また,区別しないと何か,信託の方がもしかして本来守るべき--というのも勝手な価値判断かもしれませんけれども,倉庫で物を預かっている場合,委任で他人の物を預かっている場合には,その物にかかわっていくわけでもないにもかかわらず,信託のときだけ何か,被害者の方が実は予想もしなかった財産にまで掛かっていけることができるような状況になってしまうと思うんですよね。

ですから,どこかで区別した方がいいと思って,結局は事実的不法行為と取引的不法行為で分けようではないかというのが一つの今までの議論だったと思うんですけれども,まだそこの区別が不明確だからということで,やはり恣意的に信託財産というふうに持っていってしまっていいのかなというところは,ちょっとまだ判断しかねるところがあるんですけれども。

● おっしゃることは,よくわかるつもりであります。取引的な不法行為に関しては,特に御異論はないということですね。


  確かに交通事故などの例を挙げられますと,果たしてその信託事務の執行の過程で自動車を運転して事故を起こしたときに,信託財産に掛かっていけるかというと,それはちょっと行き過ぎかなという感じもしないではないですね。

ただ,一方で,第715条と同じでいいではないかという意見もあり得るとは思いますけれども。

  皆さんの感触を。


● 私は,区別が難しいということと,それから,今,第715条を挙げられましたけれども,その同じような考え方で,どちらについても信託財産に対して掛かっていくことができるというのでいいのではないかと,もう割り切って考えました。

  割り切ってしまうと,さらにその先にまで行きまして,受託者の被用者についての場合,第715条の場合であるとか自賠法第3条の場合だとか,第717条の場合も,そこではもう切れなくなってしまうのではないかと思います。


● なるほど。

  まだ両論あるようでございまして,今日は○○委員も来ておられないので,ちょっと慎重を期して,全体の見直しの際にもう一回検討したいと思います。


● 例えば,年金の事務処理過程で事故を起こす,あり得ると思うんですよね。

そういう場合も,実は被害者の方が年金の財産にかかわっていける。何となく変というか,相手方が知っていても掛かっていけるんですかね。


● 信託財産の執行ということですか。

● ええ。信託銀行が年金事務処理をしていて,不法行為--だから取引的不法行為かもしれません,場合によっては債務不履行で構成できるけれども,どうも不法行為で構成した方が信託財産に掛かっていけそうだという判断のもとに掛かっていくということが,何となく不自然に思われるんですよね。

交通事故というのはちょっと,わかりやすい分だけ,また逆に違った意見もあるかもしれませんけれども。


● 私も,どういう要件でもっていくのがいいのか,第715条と全く同じ要件でいいのか,そこはもうちょっと検討した方がいいだろうという気がしますけれども,ただ,受託者の行為が信託財産のために行われた行為で,たまたま相手方がそれによって被害を受けたときに,受託者が無資力という場合もあり得るわけですが,そのときに信託財産に全然掛かっていけないというのはいいのかどうか,そういう判断なんですけどね。

  要件も含めて,少し検討させていただければと思います。


● これは私もどちらがあれという意見を持ち合わせているわけではないんですけれども,これ,もし不法行為で掛かっていけるとした場合,強制執行を認めた場合に,その後処理といいますか,信託財産から財産が出ていくわけですけれども,その後の,例えば受託者がそれを埋めなければならないのかとか,そういった点については。

● 受益者が,受託者に対して損失てん補責任追及をしていく。


● そうすると,基本的には,それは損失てん補請求の枠組みで処理されるという前提ですね。


● はい。
● それでは,これもいろいろ御意見いただきましたので,もう一回検討したいと思います。


  次に,13ページに□で2つほど,パブリック・コメントで出てきた意見に対してですけれども,消滅時効の話と無権代理人の責任について,代理と同じように考えるべきかどうかという話ですが,これはどうでしょうか。何か御感触があれば。

● まず,この1か月というこの期間ですけれども,やはり実務的な感覚で言うと短か過ぎる。


特に弁護士が日常的に,仮にこの取消権行使で相談を受けて何かする,そういう発想でいくと,取消権を行使するなと言うに等しいぐらいの期間であるという意見が多くの弁護士から出ています。

  それから,1年という方の期間ですが,これも報告自体が1年に1回義務づけられているような制度なので,短か過ぎると。


例えば,1月1日に何かそういう行為が行われて,12月31日に報告によってそのことが初めてわかった。そうすると,次の日にはもう1年たってしまうよということになりますし,これももう何年か,3年なり5年なりといった期間にしてもらわないと,なかなか使いようがないのではないかという感じがいたします。

  先ほどの立証責任が,本当は一番扱えるかどうかというところが大きいんですが,それに加えてこの期間の問題というふうに思います。


● 取消権の期間のところですけれども,先ほど○○委員の方から,受益者側から見たら1か月ではどうしようもないのではないかというお話でしたけれども,受託者の事務処理上の問題からしますと,当然商事信託でかなり大量の信託財産を日々動かしているという観点からいきますと,1か月でもなかなか,どうなるかよくわからんなというところがありまして,とはいうものの,やはりそういう期間設定も要るとすれば,やはり現行法と同じぐらいの期間が望ましいのではないかと考えております。

● ほかに,この点について御意見は。

  今,時効期間については両論の御意見があったと思いますけれども,無権代理の方は,これは一応原案といいますか,先ほどの説明ではなくていいというふうに考えておりますが,それでよろしいでしょうか。


  では,こちらはそういうことで。
  時効の期間につきましては両方に分かれているので,どちらが多数とも今,簡単には言えませんけれども,今度,見直しのときにもう一度伺いますので,そのときまでに御意見を固めておいていただければと思います。


  それでは,先を急がせていただければと思います。

● それでは,続きは第44の信託管理人等と,第51の受益債権と信託債権との優先劣後関係,あと,営業信託の商行為性と受益権の有価証券化という4つの論点を先にやらせていただきたいと思います。


  まず,信託管理人でございますが,受益者が現に存しない場合に限定して信託管理人の選任を認めるとの試案の考え方に対しては,賛成意見が多数を占めております。

まず,資料22ページの(イ)でございますが,受益者の一部が未存在の場合にも,信託の変更等の意思決定を可能とするためには,信託管理人の選任を認めるべきではないかとの意見がございました。

しかし,事務局の考え方でございますが,受益者の一部について未存在の者を指定した委託者としては,残りの受益者によって信託に関する意思決定がされることを期待していると考えることが合理的であると思われます。


そうすると,一部の受益者が未存在であるからといって信託に関する意思決定ができなくなるわけではございませんので,未存在の受益者のために信託管理人の選任を認める必要はないのではないかと思っております。


  もっとも,未存在の受益者と現存する受益者との間で利益相反関係があるときには,現存する受益者のみで意思決定がされるような場合があって,これが問題となるわけでございますが,この場合は受託者の公平義務の遵守に期待するほか,委託者において後述いたします信託監督人を選任して受託者の公平義務の遵守を監督させることなどによって,未存在の受益者の利益を図ることができるのではないかと考えております。


  次に,資料23ページのイの(ア)から(ウ)に関してでございます。
  まず,(ア)でございますが,信託の利益の受領権については,受益者との委任関係にない信託管理人が配当を受領して保管しておくよりも,受託者が信託財産の一部として管理しておくことの方が委託者の意思にかなうと思われますので,信託管理人にはこの受領権までは認めないこととしております。
  


ただ,信託管理人が受益者を保護するために受益債権を保全するための権利の行使,例えば受益債権の消滅時効中断のための措置をとるようなことまで否定するわけではございません。

  次に,(イ)の点でございますが,信託管理人の権限は,自益的な権利に限るべきであるとの意見がございました。しかし,信託管理人が未存在の受益者にかわって受託者を監督することが期待されているということですとか,受益者未存在の間にも信託の変更の必要性が生じたような場合におきまして,信託管理人にその同意権を付与することが相当と考えられることなどから,信託管理人には別表1,別表2,これは28ページから29ページにございますが,ここにありますとおり,共益的な権利や,信託に関する意思決定への合意権なども付与することが相当と考えております。

  (ウ)でございますが,信託管理人が選定されている場合には,最終計算は信託管理人の承認でよいとすべきであるとの意見がございました。

この点については,受益者が未存在の状態でも信託が終了することはあり得ますので,これを認めてよいのではないかと考えております。


  なお,この最終計算の承認権につきましては,これを受託者に対する監督的な権利であると位置づけますと,これは信託監督人等の話に多少入ってしまうんですが,別表1の範疇,監督権に属することになりまして,そうすると,後述の信託監督人とか受益者代理については,受益者と重畳的にのみ行使し得ることになると思われます。


  他方,これを受託者の責任の免除に類するものと考えれば,別表2の範疇に属することになりまして,信託監督人には認められませんし,受益者代理は専属的に行使できることになると位置づけるのかなと考えられるところでございます。


  それから,信託管理人に関する最後,資料24ページの(ウ)でございますが,資格について何らかの要件を設けたり,不適格者の範囲を広範なものとすることについてでございますが,消極的に考えております。

ただ,受託者不適格者に関する規律に準じまして,未成年者,成年被後見人,被保佐人,そして監督されるべき受託者自身を不適格者としてはどうかと考えております。


  次に,2の信託監督人についてでございますが,受益者が受託者を適切に監督できない場合に,受益者にかわって受託者を監督する者として,信託監督人は重要な役割を果たすという観点から,信託監督人制度を設けるとの考え方に対しては賛成意見が多数を占めております。


  もっとも,資料24ページの(ア)のとおり,信託監督人制度と受益者代理制度とを併存させることは不要であって,受益者が現に存しない場合の信託管理人制度と,受益者が現存する場合の受益者代理制度とを設ければ足りるとの意見がございました。


しかし,次のページの(イ)に書きましたとおり,信託監督人といいますのは,すべての受益者のための別表1の共益的権利を行使するものでありまして,信託の機関としての法的性格を有して,自己の名をもって権利を行使する。

ですから「信託監督人」という名称に仮称を変えているわけでございますが,そういう性質のものであるのに対しまして,受益者代理はあくまでも受益者の全部または一部のための代理人としての法的性格を有するものでございます。

  このような性格の違いにかんがみますと,併存させることが相当と考えております。


  それから,資料25ページの(ウ)でございますが,裁判所による信託監督人の選任につきましては,信託行為で信託監督人を選任していないという委託者の意思に反しない範囲で限定的に認めることが相当と考えております。


  そこで,裁判所による信託監督人の選任につきましては,信託行為の当時には予見できないような特別な事情が生じまして,受益者が受託者を適切に監督することが困難な場合に限られるべきであると考えております。

  したがいまして,他に受益者が多数であるというだけでは,この要件を満たさないと考えられますし,受益者が複数いる場合におきまして,一部の受益者によって受託者の監督が適切に行われているときにも,裁判所による選任要件を満たさないものと考えております。


  最後に,資料26ページのイでございますが,信託監督人が選任された場合に,受益者にも重畳的に権利の行使を認めることにつきまして,信託事務処理の円滑性を害するのではないかという意見がございました。

  しかし,そもそも信託監督人が行使する権利といいますのは,受託者の監督のために各受益者がそれぞれ単独で行使できる権利でございますので,重畳的な権利の行使を認めましても,いわば単独で権利行使できる受益者が1人増えたのと実質的には変わらないわけでございまして,信託事務処理の円滑性を害するとの批判は当たらないと考えております。


  最後に,3の受益者代理でございますが,受益者が特定多数の場合ですとか,時々刻々とと変わるため不特定とされる場合につきまして,受益者保護の観点から受益者代理の制度を創設するとの考え方に対しては,賛成意見が多数を占めております。


  まず,受益者代理の選任方法につきまして,26ページの3の(2)のアのとおり,受益者が時々刻々と変わる場合におきまして,裁判所による選任を認めないことに異論がございました。

しかし,この場合には,ある特定の時点を切ってみれば受益者は特定しているのでございますので,それにもかかわらず,信託行為の定めという私的自治によらずに裁判所が受益者代理を選任して受益者の意思決定権限を喪失させてしまうことになりますと,委託者の意思に反しますし,受益者の利益にも資さないことになると思われます。

  そこで,試案と同様に,裁判所による受益者代理の選任は認めないこととしております。


  それから,26ページのイの(ア)から(ウ)までの点でございますけれども,まず(ア)のとおり,受益者代理に対して信託の基礎的な変更に関する同意権を付与することに反対する意見がございました。

  しかし,信託行為の定めをもって受益者代理が選任されている場合には,受益者も受益者代理が選任されて意思決定権限を専属的に有することを認識しているわけでございますので,基礎的な変更に関する同意権を認めるとしても,不測の不利益を受益者に与えることにはならないと考えております。

  次に,(イ)でございますが,受益者代理が受益者に変わって信託の利益を受領する権限を信託行為で付与できるとすることについて,反対の意見がございました。


しかし,受益者以外の者が受託者から配当を一たん受領した上で受益者に配当を交付するというニーズは,現行の信託実務においても強く認められまして,信託行為の定めによりこのような方法を採用することを否定するまでもないと思われますし,受益者代理は受益者に対して民法上の受任者と同様の義務及び責任を負うことにかんがみますと,受益者代理に信託の利益の受領権を信託行為で付与することを認めても差し支えないと考えております。

  それから,(ウ)でございますが,受託者の受益者に対する通知義務の取扱いにつきましては,多数の受益者にかえて受益者代理に対して通知することを認めれば,信託のコストの削減につながるということ,受益者代理は受益者の代理人であるとの位置づけであるところを,一般代理では代理人に通知すれば本人に重ねて通知することまでは要しないと考えられていることなどにかんがみまして,受益者代理にのみ通知すればよいと解しております。


  最後に,28ページのウでございますが,社債管理者に関する会社法の規定に倣いまして,受益者代理が複数の受益者を代理して権利を行使する場合には,個別の受益者を表示することを要しないものとしてはどうかと考えておりまして,そのことは資料21ページの3の(2)のイで新たに規律を設けているところでございます。

  続きまして,第51の受益債権と信託債権との優先劣後関係に移らせていただきます。


  試案におきましては,本提案と同一の内容をパブリック・コメントに付しましたところ,甲案を支持する見解が多数を占めました。


  資料30ページの2以下に記載いたしましたとおり,甲案を支持する見解
といいますのは,実体法上,信託債権を優先されるとした方が公平の観念にかなうということ,あるいは一般の信託においては受託者の固有財産も責任財産となるとはいいましても,信託債権者の信託財産に対する信頼を保護すべきであることなどを主たる理由とするものでございます。

  これに対しまして乙案を支持する見解といいますのは,いわゆるABLスキームなどにおきましては受益債権と信託債権の経済的同一性をとらえまして,両方を同順位として組成している投資商品があること,あるいは信託行為により受益債権の劣後特約を締結することにより,柔軟なスキームの構築が可能となることなどを主たる理由とするものでございます。

  しかし,事務局の考え方でございますが,乙案の言う受益債権と信託債権との経済的同一性といいますのは,ABLスキームなど一部の信託についてのみ妥当するものであるということ。


確かに,乙案のように原則として両者を同順位とした上で,別途信託行為により受益債権を一律に劣後させる旨の定めを置くことができるとした方が,より柔軟なスキームの構築に資する面があることは否定できないと思われますが,甲案によりましても,取引による信託債権につきましては受益債権と同順位とする旨の特約を取引の都度,締結することなどによりまして,ABLスキームなどに対応し得るだけの柔軟性は確保できると思われることなどを指摘することができると思われます。

  以上のようなパブリック・コメントの概要と,とりあえずの検討結果を踏まえまして,いずれの考え方をとるべきかという点について御審議をいただければと思います。

  続きまして,資料50ページ,営業信託の商行為性に移らせていただきます。

  試案に対しては賛成意見のみでございます。ただし,信託法と信託業法との建てつけが強く関連されているとの理解を前提に,民事信託の拡充を図るという見地から,弁護士による信託の引受けは営業に該当しない旨のただし書きを付すことが相当であるという意見がございました。

  しかし,この規律は,営業的商行為に関する商法第502条に1号を付加するのと同様の効果を有するところでございますが,商法第502条には,特定の業種の事業については営業の解釈から当然に外れることを前提とした除外規定は置かれておりません。


このことにかんがみますと,特に信託の引受けに限ってこの意見のような除外規定を設ける必要はないものと考えております。


  なお,念のため,本提案はあくまでも私法上の商行為に関する規律でございまして,信託業法における信託業の解釈とは,理論的には別個の問題であることを付言させていただきます。


  続きまして,第67の受益権の有価証券化についてでございます。

  試案の考え方に対しましては,基本的に賛成する意見が多数でございましたので,以下では,個別的な意見に対する検討結果について御説明申し上げます。


  まず,資料51ページの(2)のアのとおり,そもそも受益証券の発行を信託法によって一般的に認める必要はないとの意見がございました。


しかし,有価証券の発行手続や効力に関する規定を,私法である信託法に設けることは当然でございまして,あとは受益者保護等の見地から,必要があれば業法をもって対処すればよい問題であると思われます。


  次に,受益権につき有価証券が発行されている場合には,受益権の譲渡に受益証券の交付を要することになるわけでございますが,資料52ページのイに書きましたとおり,受益証券が発行されているとは知らずに指名債権譲渡の方法によって受益権を譲り受けてしまった譲受人は,受益権は取得できないこととなって,その利益が害されることになりますので,受益証券の発行に関する公示制度を設けて,取引の安全を図るべきであるとの意見がございました。

  しかし,譲受人としては,受益証券の発行の有無をあらかじめ受託者に確認することが可能でございまして,(※1)のとおり,受益者名簿または受益権の原簿の作成,閲覧の制度を設けることもあわせて考えますと,このような公示制度まで設ける必要はないと考えております。

  次に,ウでございますが,受益証券を発行した信託を利用することにより,不動産の善意取得が認められたのと同様の結果になるのは不合理ではないかとの指摘がございました。


  しかし,受益証券が発行されている信託においては,不動産を信託財産に含めることを禁止するというのはおよそ非現実的でございますし,不動産の善意取得と類似の状況が生じますのは,主として不動産のみが信託財産である信託におきまして,単数ないし少数の受益権が証券化されている場合であると思われますが,合理的な判断としては,このような場合には流通性の付与を目的とした有価証券化がされることはないと考えております。

  結局,信託財産中に不動産を含めまして,これを受益権に化体させることにより善意取得の可能性を含む流通の強化を図ることは,信託の,いわゆる転換機能を重視する以上,むしろ当然あり得べき結論でございまして,先の批判は当たらないものと考えております。

  それから,資料53ページのエでございますが,無記名式の受益証券が発行された場合においても,受益者名簿が作成された場合には,受益者名簿への記載をもって受託者対抗要件とすべきであるという意見がございました。

  試案では,無記名式の受益証券については,受益者名簿の作成にかかわらず受益証券の占有をもって受託者と第三者の双方に関する対抗要件としておりまして,会社法における無記名社債についても同様の措置がとられております。

しかるに,無記名式の受益証券につきまして受益者名簿が作成されていない場合には,受益証券の占有で,受益者名簿が作成されている場合には受益者名簿の記載で対抗要件とするというような3つの選択肢といいますか,複雑な選択肢まで認める必要が果たしてあるのか,御意見を伺えればと考えております。

  最後に,提案に付記した(注)についてでございますが,まず,受益権を振替制度の対象にするかという(注3)につきましては,パブリック・コメントの結果を踏まえまして,積極的な方向で検討を進めたいと考えております。


  次に,(注4)の,いわゆる(仮称)信託債の制度に関しましては,パブリ
ック・コメントの結果,このような制度の整備に賛成の意見が多数寄せられまして,その場合,責任財産は信託財産のみとして,その発行には取締役会の決議を要しないものとすべきとの指摘がある一方,個人の受託者にも発行のニーズがあるとの指摘はございませんでした。

  そこで,資料53ページの①,②に書いてございますとおり,ここでの(仮称)信託債につきましては,株式会社が有限責任信託,仮に入ればでございますが--において発行する取締役会の決議が不要な社債であると構成することによって,ニーズにこたえた適切な落ち着きどころと言えるのではないかと考えております。


  この点についても,御意見があればお伺いしたいと思っております。

● それでは,たくさんありますけれども,よろしくお願いします。


● 第44の信託管理人等について,1点,御質問をお許しください。

  この信託管理人,信託監督人,受益者代理の制度でございますけれども,具体的にこの管理人,監督人,代理についてはどういった類型を考えておられるか。


自然人なのか法人なのか,あるいは業をもってなすものがここに入るのか,そういったことをイメージで教えていただければありがたいんですが。


● 特にどのというか,法人であれ個人であれ業者であれ,特にこちらでは特定の類型を念頭に置いているわけではなくて,適切に信託行為なり裁判所で選任されればいいのではないかと考えております。


● 第44の信託管理人等の22ページの(ウ),最終計算の承認のところなんですけれども,信託管理人の方についてはいいでしょうということで,あと,信託監督人とか受益者代理が選任されているときに最終計算の承認権限かどうかというところで,相当ではないということなんですけれども,これはまさに実務的な問題として,これとはちょっと違うところで,実際に配当を受領するといったところがありましたけれども,例えば顧客分別金信託とか社内預金引当信託,これは終了したときに資金を受け取ることになっていまして,受け取ると,やはりその人が最終計算の承認をするというのが一般的なことですので,今現在の実務はそういう形になっているんですね。

  といいますのは,各受益者は受託者の方からは顔が見えないということですので,各受益者に対して直接最終計算の承認をするということが実際にできないわけですね。このタイプの信託というのは,大体不特定多数の方々の財産を保全するための信託ということで,これから先も結構出てくるのではないかと思われる信託ですので,ここの部分については認めていただかないと,実務上しんどい部分があるかなと思います。

● 御意見はよくわかります。


● この資料を書きましたときは,ここまで受益者代理に認めるのは適当ではないのではないかといったことも考えたんですが,別表2をごらんいただきますと,例えば受託者の責任の全部又は一部の免除というのは受益者代理ができるとしておりますので,このように考えますと,受益者の代理人という受益者代理は,やはりこのような承認もできるようにした方がよろしいのではないかというふうに,今,事務局内部では考えておりまして,そのような考え方の当否につきまして,ここで御審議いただければと考えております。

● それに賛成するということですね。

● これは質問なんですけれども,22ページの(注3)のところで,これは今回変わったわけではありませんけれども,信託行為の定めで信託管理人と信託監督人または受益者代理の権限を変更することができるということなんですけれども,この権限の変更の範囲といいますのは,どこまでなんでしょうか。


  例えば,信託監督人といいますのは別表1の権利だけということですけれども,例えば別表2の権利というのは,これは契約によって変わるんでしょうか。

● ここのところも,第三者にどこまで別表2の権限を委ねることができるのかということと関連するかと思うんですけれども,仮にそちらの方でOKということになるのであれれは,信託監督人にそういう権限を与えることもできますが,ただ,その場合に,自己の名前でするのかどうかというのは第三者の方と平仄を合わせる。

少なくとも信託監督人が自己の名前で裁判所の権利を行使できるのは,ここに書いてある別表1の権利に限られることになるのではないかと思います。

● 1つは,信託監督人の裁判所による選任の要件のところなんですけれども,例えば高齢者や障害者が受益者である場合に,そういう立場にあるので十分監督ができないといったことになったときには,この要件は充足されることになるんでしょうか。

  実は,前回の中で,委託者の権限について制限するというような方向で確認いただいていると思うんですけれども,その中で,委託者側のとり得る手段として,この信託監督人を選任できるということがあったものですから,これが実際上,もし対応を考えるとすれば重要なところかなと思ったりしているものですから,ちょっと質問させていただいたんですけれども。


● その場合,その人だけが受益者ということで,ほかに適切に監督できる受益者がいないのであれば,それは選任要件を満たすと考えております。OKということでございます。

● そうすると,当初からそういう状態であっても,途中でそういう必要が出てきた場合には可能であると。


● 大丈夫です。
● 2つ目ですけれども,この御説明の中で,26ページから27ページの信託の基礎的な変更に関する同意権というところで,例として,会社の年金の受給権者に関するものが挙げられています。

この基礎的な変更まで認めるかどうかについては議論があり得るところかというふうには思っておるんですけれども,ここまで例として挙げられると,ちょっと難点が多いのかなと思っております。

  例えば,年金の関係で,軽微なものといいますか,余り重大でないものについては受益者代理で同意をすることは必要なことかなとは思いますけれども,例えば,ここには基礎的な変更に関する例として出てきているものですから,そこまでということになりますと,例えば受益権の引き下げ,かなり引き下げることを代理でできるかということになると,それはやはり行き過ぎではないかと思われますので,この点については,少なくとも例としては,余り適切ではないのではないかと思われます。御検討いただければと思います。


  3つ目に,これは意見なんですが,別表2の中で,先ほどもちょっと出ました12番の受託者の責任の免除に関する合意権なんですけれども,ここについては,受益者代理にこれを認めるということは,私の意見としては消極です。

やはり受益者の責任については余り簡単に免除できるというような規律をすることは,慎重であった方がいいと思いますので,この点については慎重に御検討いただけないでしょうかということです。

● まず,基礎的な変更の権限を受益者代理に与えるのかどうかという点ですけれども,ここは後で検討いたします第54の信託の変更のところと密接に関連するのですけれども,少なくとも受益者代理のところに限って申し上げさせていただきますと,受益者代理は委託者と受益者だけで解任もできますし,受益者代理と受益者との間につきましては善管注意義務の関係にありますので,仮にいけない同意等をすれば,損害賠償請求等もすることができるとなっておりますので,御懸念の点は,それで大分解消できるのではないかと思われますし,そもそも第三者に変更権限を委ねることにつきましても,事務局内部としましては,契約事由の原則があるので,そこをできないと言うのが果たして妥当なのかどうか。これはもちろん後で議論していただく点でございますが,そのように考えております。
  

それと同じように,責任の全部または一部の免除というものにつきましても,ここは受益者が多数の場合につきましては,やはり余り信託事務処理に関心を持っていないようなケースもあるかと思われますので,やはりこの点は信託の設計の中で,信託行為の定めに受益者代理を置くようなケースにおきましては,ここまで認めてあげても結構なのではないか,仮にこういうものが妥当でないと受益者が思う場合には,そもそもその信託の中に受益者は入ってこないということになるかと思いますので,それでカバーできるのではないかというのが現在の考え方でございます。

● 受益者代理について多少気になっている点が2点ございまして,1つは,受益者代理,「代理」という言葉がついているんですけれども,基本的にはこれは信託行為で定められるということで,具体的に受益者から何か授権があるというような関係ではないので,そこがちょっと,「代理」という言葉から感じるところとちょっと違うのかなという気がしておりますのと,信託の変更の場合には,変更の仕方について信託契約の中に書かれることになるんだろうと思いますけれども,この受益者代理の場合には,信託契約の中にどう書かれるかわかりませんけれども,もし代理を選任するということだけ書いて,その権限内容等が書かれないことになるのであれば,契約を見ただけではちょっとわからないといった問題もあるのかなという気がしておりまして,受益者の予測可能性等の観点からも,信託の変更の場面とはちょっと違うかなという気がしております。

● 一つの論点であることは確かだと思います。

  ほかに,いかがでしょうか。

● 信託行為の定めで裁判所の行為の代理権も与えられるという点が,やはり
……。


社債型の信託を考えれば理解できないことはないと思うんですけれども,これは信託制度ですから,あらゆる民事,普通の信託でも何でも可能なんですけれども,そこの段階でやむを得ない状況がある場合というのではなくて,いずれにしても信託行為の定めによって受益者代理が定められて,そうすると裁判所の権限も与えられるということになると,裁判における弁護士代理の原則とか,その辺が潜脱されるおそれもあるのではないか。

  それはそれとして違法である,脱法であるという議論をすることになるのかもしれませんけれども,一応そういう懸念が会内での議論ではされましたということをお伝えしたいと思います。


● その点に関しましては,現行法第8条につきましても,受益者が不特定の場合には信託管理人を選任することができるとなっておりまして,その中には,転々変化する受益者がいるから信託管理人を置くことができるんだという説明が立法・制定当時にはされております。

そう考えますと,今回の受益者代理というのは受益者が不特定の場合について,信託行為の定めで受益者を代理を置くということでして,現行法第8条第1項ただし書きの場合とほぼ同じことを考えていると言えますので,現行法の考えを維持しているという意味では,確かにおっしゃるとおり,弁護士代理の原則との問題があるかなということは認識してはおるのですけれども,どうにかなるのではないかなと考えてはいるんですけれども。


● 受益者代理にこれだけの権限を与えるのは,事務局の方もこんなに権限を与えてしまっていいのかと当初思っていたというお話がありましたけれども,私は今でも,こんなに権限を与えてしまうのか,なかなか受け入れ難いなと思っているところがあるんですが,いずれにせよ,権限を与える以上,義務も何かつくる必要があるのかなと考えたんですが,多数の受益者の場合の信託ばかりでなくて,どういう信託でも結局つくれることになりますから,何か義務の規定を考えられた方がいいのではないかと思いました。


● その点につきましては,(注4)で「信託管理人等の義務及び責任は,民法の受任者の義務及び責任と同様とするものとする。」という規定を置く予定ではございますが,これ以上に重い義務を課した方がいいという御意見でしょうか。


● そうです。
● 確かに権限が広いので,十分な義務も伴っていないといけないと思いますけれども,ここに書いてある以上にどんなことができるか,ちょっと検討してみたいとは思います。


  いかがでございましょう。ほか,よろしいですか。
  この信託管理人,それから監督人,受益者代理,結構重要な制度でして……


● 先ほどの義務を重くするという点につきましては,この部会の中でも御検討されたかと思うんですけれども,そのときの御検討の結果といいますのは,ここで仮に受任者の義務を重くすることになりますと,委任のところにおける受任者の義務との平仄が合わなくなるのではないか,そう考えますと,ここでは受任者の義務と同様にするということにした上で,解釈に委ねておくのが適当ではないかということではなかったかと思うんですけれども,その点はいかがでしょうか。

● そのときの受益者代理権限と今回の受益者代理の権限が随分違っているので。


● そのときも,「信託管理人」という名前であったかもしれませんが,できる権限について,このように広く認めるというところは同じであったと認識しておるんですけれども。


● 現行法との比較で言うと,今まで信託管理人という一つの制度で,実はいろいろなものをたくさんその中に盛り込んでおりまして,それを機能分化して整理すると,こういうふうに分かれて,これである程度適切な対応ができるのではないか。

いろいろ不十分であったり,細かいところでいろいろな問題はまだあると思いますけれども,基本的に,この信託管理人,監督人,受益者代理というふうに分けて考えると,今までの需要にも応ずることができるし,適切な対応ができるのではないかということだと思います。

  ただ,細かいところで今のように,受益者代理にもうちょっといろいろな義務があった方がいいとか,いろいろな問題があるわけでございますが,規定ぶりはもうちょっと検討いたしますけれども,もし基本的な御承認がいただければ……。

先ほどの御意見は踏まえながらまた検討したいと思いますけれども,いかがでしょうか。

● 受任者の義務だけで足りるかということで,公平義務のようなものはあり得るんでしょうか。社債管理者はそういう義務をたしか課されているんですが,あれは善管注意義務からも,当然には出てこないという前提で入っていたと思うんですが,多数の受益者を相手の管理人,例えば受益者代理などであれば想定し得るとすれば,多少考える必要があるような気は--重く,軽くではなくてですね。

● それは規定の形になっているんですか。
● 商法ですか。なっています。


● ある程度,類推適用がそんな簡単にできるかどうかわかりませんけれども,今の公平義務みたいなものが,例えば解釈なりで加わる可能性があるのではないかという感じは,ちょっとしているんですけれども。規定がないとどうかという気がいたしますけれども。


  いかがでしょうか。大筋では御承認いただけるということで,よろしいでしょうか。

  ほかの点は,いかがでしょうか。
● 第51の受益債権と信託債権の優先劣後関係について,確認と意見を述べたいと思います。


  そもそもこの問題については審議の後半に入れておりまして,十分な審議がなされているかというと,もうちょっと議論が必要なのかなと思っております。


問題の立て方であるとか受益債権の考え方について,パブリック・コメントにも出ましたように若干の混乱が,また認識の違いがあるように思われまして,実際に資料30ページの(注1)にありますように,こういうような問題の立て方についての認識の分かれがあると思っております。

本点については,そこら辺の問題の立て方について,まずは共通認識を持っておかなければならないと思っています。


  そこで,一つの確認なんですけれども,私はこの問題について,以下の3つのレベルに分けて考える必要があると思っておりまして,一つの整理の仕方なんですけれども,1つは,いわゆる受益債権について,例えば信託計算が終わって期限が到来して,具体化された債権についてどうであるのかという話です。

2つ目は,期中の債権でありまして,典型的な問題状況としては,いわゆる社債型の1年に100万円払うというような受益債権である。これを債権と言うのかどうかはまた別の議論になりますけれども,そういう期中においてどうなのかという話です。


3つ目につきましては,信託が終了したときに残余財産の分配において受益債権がどうなのかという話です。

  私は,この3つに分けますと,ここで論じるべきものは2番目なのかなと思っております。すなわち,1番目について具体化された債権については,恐らくこれは受益債権であれ信託債権であれ,通常の一般債権であるわけですから,これは同順位であるということについて,余り異論がないような気がしております。

ですから,ここで余り論じる必要はないのかなと思っております。それから,3番目の残余財産の分配権については,これは受益債権の方が劣後するということも認識は同じであるのかなと思っております。そこで,2番目がここで議論するべきものなのかなと思っております。

  まずはこのような問題の立て方でよいのかどうかということを,提案なのかもしれませんけれども,ちょっと御確認したいと思います。


  そこで,私ども銀行界としてもいろいろ議論した中で,そういう問題の立て方とか状況がよくわからないなという中で,意見としては甲案,特に信託債権者の立場から,甲案の方がいいのかなと現時点で思っているわけでございますけれども,それについての理由を述べたいと思います。

  1つは,前提としては,やはりエクイティといいましょうか,実務的な認識としては,一部例外的な実務運用はあるかもしれませんけれども,全般としては,やはり信託債権と受益債権と比べれば信託債権の方が優先すると思っているわけでございます。

そのように実務運用がされているということでございます。

  2番目に,経済実態的に考えますと,仮にそれが,信託という財産があって,それに対してのファイナンスということを考えれば,今まで信託債権が優先するというふうに考えていましたので,引当財産というのは信託財産であると思って与信の判断をしていたということでございます。

ところが,これが仮に受益債権も同列である,かつ,それがいわゆる社債型の定期給付型も同順位であるということになりますと,その債権の額が一体幾らなのかということは,もちろん信託契約とか見なければなりませんし,また,それの変更もあり得ることを考えれば,当然のことながら,自己の信託債権の同順位者というのがもちろん増える,プロラタになるわけですけれども,増える。

また,その受益債権の金額も十分に計算できないということもあり得るわけです。


  そうしますと,その信託財産に係る与信全体を見ますと,いえば信託債権者からすると,隣にいる受益債権の金額がわからないだけ,ある意味,保守的に与信判断をすることになると思いますので,全体の枠としては与信額が下がるのではないかと思っています。


いわゆる萎縮効果になってしまうのかもしれませんけれども。

  そうすると,いわゆるファイナンスの観点から,また経済的な観点からすると,やはり債権者をまず保護して,そして受益債権を劣後させる方が,デフォルト・ローであることを前提にしますけれども,その方が経済的には妥当だと思っています。

  2番目に,実務的な観点からして,受益債権というのもいろいろ,設計によっては劣後債権,優先債権とかあるわけでして,これが信託債権と並びますと,この3つの中で一体どれが優先するのか,よくわからなくなってしまうのではないかと思っています。


信託債権があって受益債権があって,これが同順位であるとなるのが乙案なんですけれども,その中で,受益債権の中で優先劣後というのが出てくると,では,その2つの受益権の中では優先劣後があるわけですけれども,信託債権との関係が,そこだけではわからないわけですから,これは実務的にもなかなかうまくいかないのではないかと思っています。


  これは一部パブリック・コメントにもありますけれども,あとは理論的な話で,これは一つの商品設計的な議論だと思うんですが,やはり受益債権というのは受益権としてのコントロール権を持っているわけですから,株券とも同じだと思うんですけれども,そういうものがあるからこそ,一般債権よりは劣後することが妥当ではないかと思っております。

  他方,乙案に関してのニーズがあることは認識しておりますけれども,これはやはり信託全体からすると,私どもの認識では,それほどないのではないかと思っておりまして,そうすると,全体的にはどちらをとるかということであれば,甲案の方がよろしいのではないかと思っております。

  無論,甲案としたとしても,これはデフォルト・ローであって,先ほど○○幹事から,同順位としたいのであれば同順位の特約を設ければいいという御説明がありましたけれども,そういうふうな対応でやればいいと思いますし,現状もそうしているのではないかと私は思っております。


  ただ1点,御提案とすれば,この提案では乙案のときの劣後特約が有効であるということを裏の意味から認めることを明記する,明確化しておりますけれども,甲案であったとしても,今度は逆に,同順位特約が信託法上,有効であるということの明確化を図っていただければありがたいなと思っております。

● 今の○○委員のお話,また,この甲案,乙案の今回の検討課題の中の説明でも,立法提案ですから,ある意味では政策的な視点からの議論が中心になっていると思うんですけれども,この論点に関しましては,まさしく検討課題の中でも書かれているように,実体法の問題ということなので,やはりまずそこから考えていく,そしてその後に,甲案,乙案どちらがいいかというわけではなくて,仮に実体法上,劣後することにいろいろな問題があるとしたら,その問題点について逐一条文といいますか,立法的に対応しておく,こういうことをしないと,一般的に優劣を決めてしまった場合,今,デフォルト・ルールというお話がありましたけれども,相対でのデフォルト・ルール--相対で契約するのは別にデフォルト・ルールというわけではありませんから,一般的にだれかとだれかが約束したからといって優先劣後が全部引っくり返ることはないと思うので,デフォルト・ルールではないと思うんですよね。実定法上,もう順位が決まるということだと思うんです。


  そうすると,余り例はないかもしれませんけれども,実体法の議論ですから議論しても構わないと思うんですが,例えば信託受益権に担保をつけたい。

それは受託者にとっても将来何らかの形で,その信託財産が毀損されたら嫌だとかですね。そのときに,受益債権に担保をつけるといったときに,その担保は有効や否や。


民法的には有効なはずですけれども,ところが,担保付債権が無担保の一般債権より劣後するというシチュエーションが生じるわけですね。それが一つの例。


  もう一つ二つ,似たような例としては,一般債権が強制執行したときに,配
当加入していたときにどういう扱いになるかということもありますし,逆に,担保をつけなくても受益権者が,受託者が配当してくれないので強制執行していった,そのときに,他の一般債権者が入ってきたときに,強制執行した人が実は劣後的に扱われる。


それは扱えばいいではないかという一つの議論があるかもしれませんが,そういう実体法上の問題がある。


  もっと由々しき状況としては,信託の破産とか受託破産とか,そういう状況に関連するのかもしれませんけれども,一般的に劣後するということは,最終的に信託債権が弁済できないときに,受託者から受益者に対する受益権,受益債権の支払いというものが,ある意味,法的には,本来払うべきものでなかったのに払ってしまったということで,受益者は不当利得を得た,株に関して言えば違法配当を得たようなシチュエーションが生じてしまうのではないかと思うんですね。


払った時点においては,それは認識しなかったかもしれませんけれども,最終的にはそういう状況が生じる。また,そういう状況が生じるがゆえに,受託者としてはやたらに払うわけにはいかないというような,やや萎縮的な効果も出るかもしれません。


  ……等々いろいろ考えていきますと,やはり手続法レベルの議論は別としまして,一般的に債権に優劣をつけるということは,実体法上,いろいろな問題が生じてしまう。だから,そこから先の,とはいいながらも甲案がいいんだという議論は政策的な議論ですから,それはそれで傾聴に値しますけれども,そうすると「受益権とはこういうものである」とか,いろいろと例外的な扱いということを議論し,規定していく必要が出てくると思うんですね。

  ここから先は判断の分かれるところですが,そういうような非常に難しい問題を果たして議論していくというか,個々に解決していくべきかどうかというと,従前でも,この議論というものは特にクローズアップされずに,またはそれぞれ思うところもあってやってきたのかもしれませんけれども,今の段階で優劣をつけることによる立法というものが,逆にどれだけ意味が出てくるのかなという意見を持ちます。意見です。


  その辺は価値判断の問題だと思うんですけれども,実体法の問題としては,多少頭の体操的なところがあるかもしれませんけれども,やはり債権に優劣をつけるということは,いろいろなところでひずみが生じるのではないかと思いました。


● なかなか難しい問題をたくさん提起されましたね。

  時間の関係もありますので,議論が途中になるかもしれませんけれども,あとお一人ぐらい。


● 最後,どうせ詰め切れないと思いますので,一言だけ申し上げますが,○○委員の3つの分け方,見事だと思うんですけれども,計算して確定している受益債権,既に発生している。

これは当然に平等ですよねというのは,必ずしも当然でないような気がします。
つまり,株式の配当ですと,配当制限等がいろいろあって,むやみに配当してはいけないというのがあるわけですので,それが決定したという場合と,例えば信託行為で月々何十万円と決めて受益とさせることになって,それが弁済期が到来したということになりましても,それは本来は債権者に弁済した残りの額を払うべきなのであって,30万円の弁済期が到来したからといって当然に平等になるわけではないような気がいたしますので,結論としては平等にするということでいいのかもしれませんけれども,「異論がない」とおっしゃられたので,異論もあり得るのかなということを,もし検討する際には考慮に入れていただければと思います。

● そこも含めて,恐らく議論があるところだと思います。

● 私も3つに分けられたところで,ちょっと。

  3番目の残余財産なんですが,ここは恐らくパブリック・コメントでは,すみませんが,私どもの補足説明の書き方が悪くて勘違いされた方がいらしたと思いますけれども,恐らく部会の中では皆さん同じようなお考えで,②は定期的な話で,まさに今の①のところ,その具体化した,あるいは確定したから何か性質が変わるんだというところが私もよくわからないところがございまして,これは確認なんですけれども,受益債権ですと物的有限責任になりますということなんですけれども,その性質自体も失われる,そんなことはないわけでございますよね。


● それは同じでしょうね。
● 「独立性がある債権になります」と言ったからといって,物的有限責任制は失われない。


だけれども,順位としては平等になるというのは,どういう理屈でそういうことになるのかなと。つまり,受益債権と言えば物的有限責任だというような,コアといいますか,そういう重要な性質があって,そこは変わらないんだけれども,順位の問題としては,弁済期が来たからというような異存があり得るのかどうか,その辺が私にはいま一つわからなかったんですが,今日はもう時間がないので,また次回以降かと思いますけれども。


● これは予想どおりというか,政策である程度決めるべき場所かもしれませんけれども,理論的には非常に難しい問題を抱えておりまして,すみませんが今日はたくさん残してしまいまして,また次回,もうちょっと効率的にやりたいと思いますけれども,今の問題も含めて,これはもう一度ここで御議論していただくことにいたします。


● ほかの論点でも議論があるんですが,それは次回以降,持ち越しということでよろしいですか。


● すみません,次回にさせてください。それでは,これで終わります。
-了-

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第23回会議 議事録

第1 日 時  平成17年10月21日(金)  自 午後1時03分
                        至 午後6時40分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  信託法の見直しについて

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

● それでは,これから法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。
  前回の積み残しも若干ありますので,それを含めてまた適宜区切って行っていきたいと思いますが,最初にちょっとお断りをしておきたいのですが,私が大学の仕事の関係で途中で退席をさせていただきまして,その後,議論が残っていた場合には○○委員に部会長代理として議事の進行をお願いしたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。


● 最初に,審議スケジュールのことでお手元にお配りしました紙について御説明いたします。おかげさまで部会の審議も着々と進んでいるわけでございますが,しかし,御承知のとおりなお議論すべき論点も多々ございまして,あくまで予備日という位置づけではございますが,1月20日ということで,部会長とも相談の上,案として提示させていただきました。


予備日とはいってもほぼ確実な予備日ではございますが,ただ実質的な議論は12月中に終えまして,1月20日は実質的議論はほとんどないものを期待しているところでございますので,そういうことで1月20日を追加するということで御了承いただければと思いますが,よろしいでしょうか。


  では,そのようにさせていただきますので,どうぞ御協力をお願いいたします。


● では,本日の議事に入ってください。


● それでは,本日の議事でございますが,まずは前回の積み残しからやらせていただきたいと思います。前回の最後の時間で,信託管理人等と受益債権と信託債権との優先劣後関係,それから営業信託の商行為性と受益権の有価証券化,この4つについて御説明いたしまして,信託管理人等につきましては議論が終わっていると承知しておりますので,本日は前回途中になりました受益債権と信託債権との優先劣後関係からまた御意見をちょうだいできればというふうに思っております。


● それでは,積み残された議論につきましていかがでございましょうか。
  優先劣後関係につきましては,これもかなり理論的には重要な問題だと思います。


従来余りはっきりしていなかった点でございますが,ある程度明確にし,まだ解釈でいろいろ多少グレーゾーンが残るかもしれませんけれども,大体こんなところでいいかどうかということですね。


  では,○○委員から先にどうぞ。

● 前回の議論の続きということでちょっと確認ということですが。優先劣後に関して,議論の土台を明確化してほしいという問題提起をしたわけでございますが,その後に○○委員の方から,例えば株式会社における違法配当の場合には結果として債権者が株主に対して取り返すことができることがあるという御指摘であるとか,あと○○関係官の方から債権の方に有限責任性があるというような指摘があったと思いますけれども。


ただ,もちろん受益債権と信託債権についていろいろな制限があるということは承知しておりますが,ここで多分議論すべきということはそういう特質は別として,じゃあ,例えば倒産した場合に配当表において一義的にそれが劣後債権となるのかどうかというその基本的な考え方をここで議論するのがよいのではないのかなと,そういう問題提起でございます。


  ちょっと前回の意見を再度繰り返させていただきました。

● そうですね。私が申し上げたのもある程度そういうことなんですけれども,これ細かい問題はいろいろ残るかもしれませんが,基本的にはどういう立場をとるのか。


ただ,基本的といいましても,この受益権が具体化する前と具体化する後で違うかもしれませんので,そういうことも含めて,しかし,基本的な考え方を一応ここで確認しようと,そういうことです。

  では,○○委員。

● ちょっと前回の繰り返しになるので一言だけで。やはり理論的なというと大げさですけれども,ちょっと理屈の面での幾つか指摘を前回させていただきましたけれども,ぜひその辺についてクリアにならなければなかなか難しいのではないのかということと--これはほぼ前回の繰り返しですけれども。


  あと,ちょっと別の研究会で議論したときに出た議論なんですけれども,例えば既発生の信託債権といってもいろいろなバリエーションがあり得るのではないかということ考えられると思います。例えば実際に信託の解約で済むようなもの--例えば信託元本を10年に分けて10回ずつ払いますと。


ですから,収益部分の株式配当のような収益部分に対する信託元本を配当しますと,配当といいますか配りますと。ですから,その信託の解約でもいいと思うんですけれども。


じゃあ,それがどの時点で既発生で,どの時点で未発生なのかとか,いろいろなバリエーションがあって,それぞれについての優先劣後を考えていくんだろうかというようなことも考えます。

  また,理論的に,民法の世界の議論かもしれません,理論的に債権について優先劣後を設定するというのは極めて困難な問題が多いのではないか。


私の投資実績,例えば中間法人の出資とか債権だと思うんですけれども,そういうのに関しては例えば払い戻しができないとか,要するに弁済をしないという形で優先劣後性をある程度担保していると思うんですけれども,信託債権についてはそういうことはもともと意図されているものではありませんし,株式についても本来出資したものは戻ってこない立て付けになってますけれども。


信託というのはやはり受益者に配当して初めて意味があるわけですから,それに対して一般的に劣後ですということにしたときの弊害もありますし,それは考え方というか政策的理論だからいいですけれども,理屈の面でなかなかすべてのシチュエーションに立法的に対応するというのはどうしても漏れが出てきてしまうのではないのかなと,こんなふうに思いますけれども。


● 重要な御指摘だと思います。なかなかすべてを見渡した上でどういうルールが建てられるのかということだと思いますけれども,なかなかそれが難しいであろうと。


特に優先劣後をつけるとなると難しいだろうと,そういう御指摘ですね。
  ほかに御意見ございますでしょうか。


● パブリックコメントの結果をちょっと見せていただくと,この点については必ずしも甲案支持が圧倒的多数というふうに私感じませんで,乙案を支持している意見,あるいは補足,どちらでもないけれども,いろいろな意見が寄せられているわけですけれども。それ踏まえて,ちょっと意見というよりは質問になってきてしまうかと思うんですが。

提案の中で乙案の方の注として,乙案を採用した場合において信託行為によって劣後特約が一律に効力を有しないことにはならないことを前提としているというようなことを書いてあるんですが。


甲案についても,特約による同順位の合意を強制力あるものだという形で認めるということはできないんでしょうか。


  甲案について合意による同順位化を認めるというふうなことにすれば,ひょっとしたら恐らく,いろいろな意見を提出された方はいらっしゃるかと思うんですけれども,大多数の方の,少なくとも実務面でのニーズは満たされてくるのではないかなというふうな気がしておるんですけれども,いかがでしょうか。
● どうぞ,何か。


● 甲案の場合ですと,信託行為で定めたことによって信託債権を劣後させるということはできませんけれども,ただ個々の取引において受託者と信託債権者が合意することによって受益債権と同順位するという特約もすることは可能だと考えております。


ですから,契約ごとにやらなければいけないという手間はかかりますけれども,そういう特約も当然できるのではないかという前提で考えております。


● よろしいですか。そこまでは恐らく甲案を指示される方も大体認めてくださると思っていますけれども。甲案というのは,私が言うべきことではないかもしれませんけれども,信託実務などではある程度こういうものだという前提で考えてきたものでありまして,そういう意味ではどういう順位にするという立場は多少実務的な感覚からするとかなり大きな変更を強いられるというところがあるわけですね。

ただ,理論的に甲案というのは難しいということになってしまえばもちろん甲
案はとれないと思いますけれども,いかがなものでしょうか。ほかに御意見ございますか。
 
 ○○委員などはどういうふうに。信託協会はもう既に御意見が出ているかもしれませんが。


● 信託協会というふうにいいますと意見が割れておりますので,明確にどちらかということは言えないんですけれども。いわゆる実務的感覚といいますか,今まで信託業界にとってはやはり甲案といいますか劣後するというような感覚のもとで実務を行ってきたというところがあります。

ただし,やはり乙案のところのよさというものもありますので,今のところは業界内で議論していても両案あるというところですので。


● 確かにどちらも特約である程度乙案から出発しても優先劣後つけることはある程度できるし,甲案から出発しても同順位にする特約もある程度可能であるというので,両者はかなり接近はするんでしょうけれども,非常に細かいことをいうといろいろそのしやすさというか,難易度があったりするんだと思いますが。


  ここでの御意見は,甲案,乙案,相半ばしているとそんな認識でよろしいんでしょうか。今までもし御意見を言っておられない方は,あえすどちらを強く支持するほどではないというそういう御意見だということでございましょうか。

  はい,○○幹事。


● どちらを支持するというわけではないんですけれども,解釈論的にはいろいろわからないところがありまして,もちろん債権について責任財産限定特約がついている場合とついていない場合で大分利益状況が違うんだと思うんですが,仮に受託者が債権者に対して固有財産から弁済したということになりますと,その求償権というのは現行法ですと他の債権者が先立つことになるわけですよね。


そうなりますと,その信託債権より恐らく勝つんじゃないかなという気がするんですが。


  それでいいのか,そういう解釈論でいいのかというのが1つ前提にありまして,そうなりますと甲案かなというふうに思うんですが。


先ほどから出ております特約との関係でそのシステムというのがどういうことになるのかというのがちょっと頭の中で整理がついておりませんで。


つまり,債権者同順位であると,破産状態では同順位であるというふうになったときに,では,受託者が固有財産から支出したということになりますと,その求償権というのは同順位であるという性格を持った形で生じるというふうに考えないと,受託者が弁済すると債権者がといいますか,同等ではなくなるという,受益債権の額が減っていくということになりますので,その辺もちょっと解釈論的にはよくわからないですね。


  さらにもっと言えば,これ私発言したのかだれかの発言なのか思って書いたかわからないんですが,私のところのメモには受益債権に担保を信託財産からつけたらどうなるのだろうかという鉛筆書きのメモがあるんですが,これはどなたかが発言されたのか,自分が思ったのか,2週間たつと全部忘れてしまいますのであれなんですけれども。

そういうときにはどうなるのかなというのがわからないんです。私は基本としては甲案の上でそういうふうなところについての解釈的な整備をしていくということなのかなと思っていますが。

● ほかに,○○委員,どうぞ。

● 私も甲乙どちらかというわけではないんですが,甲案が理論的に不可能かというとそれは必ずしもそうでもないんじゃないかという気がいたします。


すべての債権は平等であってという原則があるのかもしれませんけれども,しかし,それは一定の場合に比例弁済を受けるということであって,政策的にあるカテゴリの債権を優先するあるいは劣後するということはできなくはないんじゃないかなというふうに思います。


  ですから,最終的には実務の御要請との関係にも立つと思いますが,理論的に甲案が不可能だというわけではないのではないかと思います。


● ○○委員。


● 基本的というところで○○委員に反論するのは極めて大変なチャレンジなんですが。

先ほど○○幹事もおっしゃられた,債権だと担保つけられますけれども,そのときに一般債権との関係で担保実行しようとしたときの関連はどうなるんだろうかということと。


あと,前回も申し上げたかと思うんですけれども,年金なんかであり得るかもしれません,ずっと配当していって企業が破綻して,最後の方の配当をしようとしたところにちょっと足りなかったと,信託債権も残っていたというような状況のときに,以前に配当された方々は不当利得,全員といいますか比例配分でしょうけれども,不当利得になると思うんですね。


実行の理論は別としまして。そういう場合に,政策的にそれでいいのかという議論もありますけれども,これは政策の議論なんですかね。


そういうことになるとすると,結局最後まで銀行の劣後ローンとかそういうのもそうですけれども,要するに債権に順位があるというとやはり既に上位債権は全部払った後に初めて払うというところまでその優先劣後性というのが担保されることになるんじゃないかと思うんですけれども。


  ちょっと後者の方がやや理論的なのかもしれませんけれども。政策的かもしれませんけれども。配当管理の点,○○委員が書かれた信託協会のところにもちょっとその辺の議論はされていたと思うんですけれども。


それは強制執行との関連でもそうやっていうんですが,その辺はどういうふうに理論的に解決されるのかお伺いできればと思うんですが。


● 何かございますか。
● その優先劣後が一体どの舞台,場面で出てくるかという問題だと思うんですね。それで,その執行の場面でどういう順位をつけるか。それは,実体法ルールに従って配当するということになると思うんです。


それから,破産の場面でどう扱うのかというような,その場面場面で優先劣後が決まってくるわけでして。それぞれの場面においては,優先劣後というのは政策的に決まり得ることだろうと思うんです。


そうしますと,一律にある債権について優先させられ劣後させるということが絶対に不可能だということにはならないだろうということです。


● わかりました。どうぞ。


● ○○委員がおっしゃっている,○○幹事がおっしゃったところなんですけれども。劣後するという前提のもとでの受益債権に担保をつけるというのがおかしいのではないかというか,どうなるんだろうということなのですが。


すみません,ちょっとよくわからなかったんですけれども,一般債権に担保をつけることは可能で,そうすると労働債権と優先権のある債権が結局優先していってしまうわけなんですけれども。


それとはちょっと違うことになり得るだろうということなんでしょうか。つまり,抵当権なら抵当権の効力が勝つのは当然なのかなという感じがいずれにしてもするのですが。


● 劣後に担保がついたときに一体順位がどれぐらい繰り上がるのかという議論だと思うんですね。それは倒産の手続の中に入っても劣後的債権との順位はどうなんだろうかとか。


劣っているもの同士の中でもいろいろな順番づけがまた出てくると思いますし,担保というのは普通は1ランク上といいますか,担保がつくことによって一般債権よりも優先弁済権が確保されますけれども。劣後債権に優先弁済権が確保された都に一般債権との関連ではまだ一般債権は超えられないんじゃないのかと思うんですよね,一般的に劣後していれば。


そこも立法的に対応して担保つけた場合には,一般債権よりも上になりますという2段階しますということで対応するのであれば,それは1つの考え方かなと思いますし。


  ○○委員がおっしゃるように,それは執行のところで法整備をするということであればそれはそれかもしれませんけれども。理屈では別につけられないんじゃなくて,つけた後の一般債権との順位はどうなるのかという質問なんですけれども。

● 恐らく一般債権よりも優先権のある債権等々,先取特権ですね,そういうものよりも上にいくというのが抵当権の効力として認められているので,そちらが優先していくんじゃないのかな。


つまり1個上がる2個上がるという議論というよりは抵当権の効力として優先権のある債権よりも,先取特権よりも上にいく,あるいは一般債権よりも上にいくということにならざるを得ないのかなという気がするのですが。そういう整理ではよろしくないのでしょうか。

● それはそれでもいいというか,よくもないんですけれども,気がするんですけれどもね。弁済はされたけれども,受領した後はとっている人が先受領してしまったみたいなことになるんじゃないかなと思うんですけれども。


ですから,普通劣後債権とか無担保であることが多分前提だと思うんですよね。

銀行の劣後や何かで。担保つけるということ自体の,議論自体の整合性がなくなってしまうので。


● 今まで余り議論したことのない問題で。
  どうぞ,○○幹事。


● 感想めいたことで恐縮なんですけれども。一般的にはやはり○○関係官のおっしゃったようなことになるのではないかと。抵当権という形で担保権がついているのであれば,被担保債権が本来は劣後する性格の,もともとは一般債権であれば劣後するものであったとしても,担保債権になっている以上はそちらでカバーされるのであれば,優先的な地位がそのまま付与されることになるのではないかと,破産手続後に発生した利息ですとかそういうのは本来劣後的な破産債権でなるところ,被担保債権であればカバーされるということになるのではないか。間違っていたらまた訂正していただきたいのですが。

  ただ,○○幹事のおっしゃった点は,本来資本的なというか,そういうような性格であるものについておよそそのような優先的地位を付与することが受益債権の性質に反しないかという問題提起ではないかというふうに思いまして。例えばこういうことがあるのかわかりませんけれども,株主の地位から発生する一定の請求権を被担保債権として抵当権をつけることができるのかとか,約定劣後破産債権になるようなものに論理矛盾に近いわけですけれども,担保権をつけることができるのかとか。


そういう点から出てくる御議論なのではないかと思います。

  ただ,その点につきましても,もともと甲案であれ乙案であれ,合意によって債権の順位を左右するということは可能であるという前提で,したがって,もう少し高くするということは妨げられない,あくまでデフォルトの問題だという整理をしているということと受益債権というのはやはりそういう完全なエクイティーよりはもう少し操作性の余地のあるものと。


ただ,それによって実質的に劣後する人の合意なくして設定できてしまうということが若干嫌らしい面はあるのかもしれませんけれども,そういうふうに考えますと,○○関係官のお答えのようなことになるのではないかというふうに今は理解しております。

● ○○委員も同じ問題に関連してでしょうか。
● ちょっとごめんなさい,混ぜ返す話になるかもしれませんけれども。劣後という意味がやはり大切であって,例えば劣後債権と相殺をするという場合に,例えば一般債権と劣後債権と相殺を考えるときに,例えば相殺適状状況が劣後債権の方が早かった場合に相殺してしまったというときに,結果としてどちらが優先しますかというと劣後債権が優先することもあるわけです。

また,劣後といっても例えば銀行劣後債みたいに劣後のやり方として停止条件付きな劣後債権ということであれば,そもそも担保をつけたとしても当該被担保債権が発生しないからそれは劣後になるという話だと思いますので。

  ですから,ここは私のきょうの一番の話と同じで,やはり想定するシチュエーションをどこに置くかということを定めて,基本的にはどう考えるかということを議論しなければ,多分いろいろなパーツパーツでやるといろいろな状況があってそれは違いますよねという議論になるので,非常に混迷するのではないのかなと。実際にその内部で検討したときも非常に混迷していますので。


そこまでいろいろ議論するのであれば,非常にこの議論,テーマというのは重いというかもっと検討すべきことが多いとは思っております。


● それはおっしゃるとおりでして,今もいろいろなシチュエーションごとに必ずしも同じでなくて多少政策的な観点からもバリエーションがあり得るということでもありますし,すべてを詰めきって議論するというのは非常に大変な問題なんですね,これは。


そういう意味で理論的に本当にこれで耐え得るかというところはもうちょっと検討しなくてはいけないと思いますけれども,ここでは皆さんの御意見の中で必ずしもどちらでなくてはいけないというほど強い御意見はなかった。


ただ,理論的にはどちらの方がいいのではないかということで,今,甲案を支持される方と乙案を支持される方とが両方おられるという状態ですけれども。しかし,理論的に十分どちらかでも耐え得るものであればどちらでもそれほど異論はないと,そういう御意見だったというふうに一応理解いたしましたが,それでよろしいでしょうか。

  もしそれよろしければ,これは理論的に詰めますけれども,甲案であっても乙案であっても理論的に詰めた結果であればどちらでも構わないという御意見だったのかなと思いますが。


  ○○関係官,何か補足がございますか。

● これはもしかしたらこういう考え方があるのかという程度のお話ではあるんですが。甲案と乙案の違いのところで,特に甲案側からの意見として,会社であれば配当規制のようなものがあるけれども,信託においては一般的に配当規制はとにかく今はないということなので,やはり甲案がいいのではないかというような御意見がありまして。


あるいは乙案の方がいいという御意見の中にも実は一般の信託においても配当規制,会社と同じような配当規制というのは通常での信託にというのは無理なのかもしれないですけれども,例えば純資産額がマイナスになっているときに,それを超えて受託者が弁済というか,支払をしたというときには,何らか受託者が責任を負うとか,あるいは受益者のところに取り戻しに行くというか,不当利得の返還を請求するというようなこととセットで乙案なんだというようなお考えもあるやに聞いているんですけれども。

  その乙案を御支持される,御支持というか,いいかもしれないというような御見解の方の中にはやはりそういうほかの,つまり,ここでどういうようにするというだけにとどまらず,そのほかのもう少し手当とセットで乙案がよいのではないかという意見もありそうだという話も少し伺ったのですが,その辺いかがか,もしよろしければとお話を伺えればという気が。


● いかがでしょうか。○○委員の意見は少しそれに近いですか。
● ですね。私は近いといえば近いし,甲案というのは理屈で成り立たないんじゃないかといまだにちょっと思っているところがあって。


政策的に甲案の趣旨はわかるし,乙案にとってもセットでという議論もわかるんですけれども。ですから,そういう趣旨だといったらいいんでしょうか。


● わかりました。どうぞ。

● 先ほどの,ちょっと私どもの立場を明確にするために発言するだけなんですけれども。


どちらでもいいという強い希望があるというわけではないんですけれども,どちらかということであれば,銀行業界としては債権者の立場から立つと甲案の方が望ましいなということは前回の審議でもお話ししましたとおりでございます。


ただ,強い希望があるのかと言われると,そこはまだ検討中だということでございます。


● わかりました。恐らく御意見の分布はこういうことだと思いますけれども。多少政策的な観点を入れると甲案の方がいいのではないかという御意見が,政策的な観点からは多少多いのではないかと思います。


理論的に甲案で本当に大丈夫なのかということについての,しかし,御懸念もあり,そういう観点から乙案を支持される方もおられる。意見分布としては大体そういうことなのではないでしょうか。

  その政策的な観点からということであれば,甲案の方が支持者は若干多いと。

しかし,本当にこれで理論的に大丈夫かということは,まだちょっと詰めますけれども,基本的に甲案でいけるかどうかという観点から議論させていただいて,やはり理論的に難点があるということであれば,また乙案に戻ることはあり得るかもあれませんが。


とりあえず今の段階でそういう整理をさせていただくということでいかがでしょうか。


  それでは,理論的に本当に大丈夫かという観点から甲案をもう一回詰めていただくけれども,甲案の方で基本的にいくということでよろしいでしょうか。


  はい。それでは,あと営業信託の商行為性と受益権の有価証券化ですね。

● 私ちょっと発言しますと申し上げたので,すみませんけれども,しばらくちょっと発言させていただきたいんですけれども。日弁連としてパブコメで書きましたように,信託業法と信託法はそもそも実体法と業法というので違うんだと,これはだれから見てもそのとおりなんですけれども。

商行為に関する信託法の定義規定,現行法でも今回の改正案でもそうですけれども,と,信託業法における定義規定がほぼ,ほぼというか全くといっていい,同じ表現を使われております。


それぞれの業法に応じて解釈が違うんだという議論も今後あり得るのかもしれませんけれども,現在のところ信託業法の解釈でも商行為法における解釈と同じ解釈をとられているようでして,昨日も議論したときに国会答弁みたいなところまでいきまして,営利を目的として反復継続ということで,反復継続はしても営利目的が例えば弁護士とかにはならないんじゃないか。


弁護士である必要はなくてNPOの場合もならないんじゃないかというような議論があったところ,いや,国会答弁においては営利性というのは収支合い償うことというふうに答弁されていると。

それは商行為法における営利性の,商行為の502条の営利性に関する通説の見解ですから,特段それはそれでいいと思うんですけれども。

  そうすると,収支合い償うことということは弁護士が報酬を得てやることということも入ってしまいますし,弁護士ということを強調すると余り皆さん御賛同いただけないかもしれませんけれども。両方とも違う法律だと言いながらも,今申し上げましたように,文言も同じですし解釈も同じだろうということの結論としましては,民事信託においても収支合い償うことが前提で反復継続すればすべて信託業法の対象となってしまうと。


もちろん,信託業法というのは非常によくできた精緻な法律ですから,それによって悪質な信託行為,信託業が取り締まれるという側面もありますけれども,かたや実体法としての信託が使われればたまたま民間の人が一生に一回やる場合だけであるということですと,ここでの信託法の改正の議論,また弁護士会でも相当時間を割いて議論しておりますけれども,高齢化社会において今度信託法改正によって民事信託というのをいろいろな形で使っていきましょうという議論からすると,ちょっと流れというか方向が違うのではないかと。

もちろん,民事信託一般について信託業法とは別な形で何らかの規制法ないし規律というものを設けられるかどうかは全然別の議論ですけれども,商事信託を前提としている信託業法が民事信託についてもほぼすべからく適用になってしまうという状況というのはやはり問題ではないか。


特に弁護士会としましても今後この民事信託の分野で活躍したいというふうに思っているわけですから,そのときに信託業法の世界に入る。現行法ですと株式会社しかできませんから,弁護士はそこから排斥されているといういうことになります。


  ということで,両者違う法律なんだということは今申し上げたように,とはいいながらももう理屈の解釈論でも同じなんですよということが1つと。


それから,じゃあ,例外規定を設けることは解釈論でも可能じゃないですかというのは今回の検討課題での御説明ですけれども,それは今申し上げたように,解釈論,営業についての解釈論というのは商行為法で何か争いがある議論ではなくてもうほぼ確立された一般通説ですから,その中で新たに解釈論を展開するというのは,孤立無援で頑張ることは不可能ではないかもしれませんけれども,普通の弁護士であればそこまでチャレンジングにやるということはあり得ないわけでして。


ということで,解釈論での対応というのは極めて困難であると思います。

  ただし書きのことの適正さという議論もございますけれども,趣旨は違いますけれども,商法502条の本文にはただし書きがあります。


小規模事業者に関しては商行為にならないというようなただしがありまして。信託業というのはすべからく一般的法的性格として商行為性を帯びているのだということであれば,本来ただし書きがあることが不適切ということになるかもしれませんけれども,信託というのは民事信託から発展して商事信託が盛んであるという現状からしましても,信託行為そのものがそもそも行為として,受託行為するということはそもそも行為として商行為性を帯びているわけではありませんので,という意味においてはただし書きをおくということは502条の立てつけからしましても信託法,信託の受託という視点からしましても,特に不思議ではない,おかしくはないのではないのかなと思います。

  あと,また弁護士会で議論したとき,立法例というところまでいきまして,そうすると何か--何かといいますか,手元には資料あるんですけれども--米国のイリノイ州のフィディシャリアクトの中に信託業に対する例外規定として,弁護士業だけじゃなくて幾つか載っているんですけれども,会計士さんとかですね,やはり弁護士の業務として受託をする場合にはそれは例外ですというような例外規定もございます。


  ですから,一見弁護士会の身勝手なパブコメのように思われるかもしれませんけれども,決してそんな趣旨ではございませんでして,立法例もありますし,やはり弁護士が今後活躍する,弁護士である必要はなくて,その方,それ以外の正当な業務をされる方々でも適切なただし書きの文言が考えられればそこに含めても構わないと思うんですけれども,商行為に該当しないということを明確にしていただくことによって,信託業法の適用がないということがまた明らかになると思います。

● ほかいかがでしょうか。

● まず,信託はそもそも商行為性がそれ自体あるものではないというお話ですけれども,例えば商法502条を見ますと,寄託の引受とかあるいは作業または労務の請負とか,ここらになってくるとこれもやはり当然に営業行為といえるかと,商事性を帯びるかというと,やはりそうも言えないのではないかという気がしますので。


信託だけ特別扱いできるかというのは商法502条との関連でいうとなかなか難しいのではないかなという気がするというのがまず1点でございます。


  それから,おっしゃるとおり,弁護士の方とかNPO法人が民事信託のために活躍していただきたいというのは,それは発想自体は非常に歓迎しているところでございますけれども,じゃあ,どこまでの範囲が主体が果たして商行為性を省かれるのかという規律の仕方も難しいところでございますし,民事信託という言葉自体もなかなか定義しにくいというところがございまして。あとは仮に少額の報酬であっても,1件10万円とかそういうのでも反復継続して民事信託やればやはりそれは商法の観点からいうと商行為と言わざるを得ないのではないかなという気がしているのでございます。

  ○○委員のおっしゃる趣旨は,問題はむしろ商法あるいは信託の引受が営業的商行為になるというところではなくて,むしろ業法が弁護士の方が活躍するにあたっての支障になると,そちらの方の問題ではないかなという気がするわけでございますが。


そこは何か商法の適用があるとまずいということなんでしょうか。それともやはりこれは業法の方から引っ張られている議論だというふうに理解させていただいてよろしいんでしょうか。


● 繰り返しになってしまうんですけれども,信託業法は同じ定義を使っていることによって実質商行為についての信託の受託について業として取り締まっている法律ではないのかなと,こういうふうに解釈されるんですけれども。


その場合,今の御発言にありましたように,現行法でも弁護士がやることは解釈論として十分できるんだろうと。それはある意味では弁護士会が萎縮しているだけであって何の問題もないんだということであれば,日弁連としても確認規定はぜひ入れてほしいとは思いますけれども,現行法における解釈がネックになったということでそれはそれでありがたいことだとおもうんですけれども。

  商行為ということが信託業法の対象とほぼオーバーラップしていると,こういうふうに解釈されるものですから,そこで弁護士が行う反復継続している信託の受託というものは商行為ではないということを明記していたたくことには意味がありますし。例えば弁護士は委任業務,請負業務というものを民法的に言えば反復継続してやることを業としておりますけれども,だれもが常識としてそこで報酬を得たとして収支合い償っていると思うんですが,商行為とは思っていない,思っていないというか商行為ではないはずですから。今の仮にそれが法律事務の処理として民事信託を継続して行う,弁護士も専門化しておりますから,高齢者を対象とするような専門の弁護士であれば継続反復して何らかの形で高齢者とか弱者のために受託者になると思うんですが。


それは決して今の○○幹事の御発言とは違って,現行上においても商行為にはならないとこういうふうに理解するんですけれども。はからずもそういう御発言があるぐらいですから,やはりここでは明確にした方がいいんじゃないのかなと今ちょっと強く思いましたけれども。


● なかなか商法とも関連して難しい,商法の先生はきょうはおられないのかな。

  どうぞ。
● 商法の専門ではございませんけれども,信託業法という話が出たもので。

● はい,どうぞお願いします。
● 補足だけさせていただきますと。○○委員が御指摘のとおり,先般の国会答弁,信託業とは何か。


例えば反復継続であるとか収支に対するような形である営利目的であるか,そういったことも考慮して,これは事実でございますし,私どもの解釈も変わっておりません。


問題は,恐らく私ども信託業法の中でいわば参入規制に当たるところがあって,いかなるものが信託業できるのかというところにあるわけですけれども。御指摘のように,これは株式会社経営体でやっていただいて登録または許可制というふうになっています。


  事実,これは事実の御説明だけなんですけれども,実は私の記憶に間違いがなければ,あれば訂正しますけれども,確かに法曹関係の方が株式会社をつくられて信託会社として参入しておられるというケースも最近ございます。
  以上です。

● その例は信託業法にのっとるために会社をつくったんだというふうに当然理解できますし。そこで法律業務やるとすると,株式会社は法律業務できませんから,逆に弁護士法違反の問題が生じているのではないかと,これが日弁連での議論なんですけれどもね。


  ですから,それはそういうふうに何か問題点を指摘するというよりも,やはり弁護士が,営業として,商売としてやるという弁護士さんがいれば別ですけれども,弁護士がある意味では多少純粋な気持ちで,もちろん収支合い償う必要はありますけれども,高齢者から財産を預かるというような場合,高齢者といいますか弱者から財産を預かるというような場合に,じゃあ,わざわざ株式会社をつくってやらないといけないんだと。かたやそれは弁護士法違反じゃないですかという議論もかいくぐらなきゃいけないというような制度ではないんじゃないのかなと思うんですけれどもね。

  悪質な例をとらえると信託業法というのはより広くカバーすべきだという議論になってしまいますが,ここではどちらかというと純粋な議論とか悪質な弁護士じゃなくてまっとうな弁護士が純粋な気持ちでやるという前提で構わないと思うんですけれども。


現在の信託業法でも営利を目的として信託の引き受けをするというところで,弁護士が報酬を得て高齢者から財産を一度ならず2回預かった場合にはそれは信託業法違反であると,このような解釈になるのでしょうか。


● 個別の多分事例に照らしてみてそのとき考えてみるということになるんだと思うんですけれども。


● 純粋な事例で,悪質事例じゃなくてですね。
● どうなんですかね。


● 悪質なものまでそれでいいんですかという議論になっちゃうのはもちろん心配だと思うんですけれどもね。


● まさにそこのところを気にしているわけでして。主観的な要件が入るもんですから,そのときの個別の案件のいろいろな要素絡めて見てそのときに監督あるいは業法の立てつけの観点から判断していくということになるのだろうと思うんですね,そこは。


アプリオリにこのケースはもうガバッと排除してくれというのはなかなかそれは難しいと思います。

● 取締監督当局としてそういう御発言されるのは同じ立場に立てば理解できるんですけれども,結局そういうことによって弁護士会は今までも,また今の解釈のままですと今後とも受託者になるという選択はとっていないですね。


ですから,信託法改正になってこれほど議論して,また日弁連のバックアップチームが毎回何時間も議論して,結局弁護士会は何もできないという,株式会社をつくるということは弁護士会株式会社をつくるなんていうことは現実的にあり得ませんから。


もちろん個人的に商売といいますかね,本当に営業目的で株式会社をつくるようなケース,大阪とか東京で1件ずつあったという話を聞いておりますけれども。そういう目的じゃない場合にもできるようにしていただけるというのが解釈論として正しい方向ではないのかなと思うんですけれども。

● これは弁護士会の問題だけでなくて,業法に関連しますと私も個人的には,この中でもそういう御意見持っている方がおられると思いますけれども,やはり先ほど○○幹事からも説明ありましたように,非営利法人ですかとこれからは場合によっては公益法人が幾つもの公益信託を受託するということが現実的な問題としてあり得る。


そのときに,これは業法の問題ですから,ここで今議論しなくてもいいかもしれませんが,業法の問題としては収支合い償うというところの解釈によるのかもしれませんけれども,それによって,公益法人の場合は弁護士とまたちょっと違う点もあるかもしれません,必ずしもそれでもって収益というか利益が上がらなくても,それこそトントンでゼロであっても公益法人の場合に受託するということはあり得ると思いますけれども。


そういう形態による信託の受託,場合によっては反復受託が業法でいうところの業としての信託でないという解釈ができるとそれは非常にありがたいのではないかというふうに思いますので,ちょっと要望ですけれども。


  ただ,その問題とここでいう商行為とするかどうかという問題とが,確かに関連はあるのかもしれませんが,理論的には直接は関連がないということでよろしいですか。


つまり,両者が実質上影響するというのではないかということですよね。

● ちょっとこの論点ばかり議論して申しわけないんですけれども。そこは理論的に違うというのは恐らく法律家としては当然でそうだと思うんですけれども,ただし,ただし書きを置くという点については,弁護士は収支合い償う目的を持って継続反復したとしても,それは商行為にならないという。


ですから,あくまで商行為性の有無だけの議論としてそれについてはぜひ御検討いただければと思いますし,それは弁護士がということだけじゃなくて,今先生御指摘されたようなほかの形態であっても一定の場合には商行為にならないという例外規定,たまたまこれ以外にもあるのかもしれませんけれども,イリノイ州のフィディシャリアクトの中では10項目にわたって例外規定が書かれていますけれども,その中の一部は弁護士に限らず会計士さんもそうかもしれません。


あと,業法上お金を扱った,資産を扱わざるを得ない場合,それを今後信託宣言するかもしれませんけれども,そのときにそれが業法ですということにならないと思いますね。

  ですから,例外規定を検討するということにはぜひこの場の議論としてはそこまでの要望にしたいと思うんですけれども,ぜひ今後とも御検討いただければと思うんですけれども。

● それはちょっと検討はしてもらうということにいたしますが,ただこれ本当に商法とも関係する恐らく問題でもあると思いますので,直ちに適切な回答が出るかどうかわかりませんけれども,要望事項として検討するということにしたいと思います。

  ほかにこの点についていかがでしょうか。

  よろしゅうございますか。それでは,金融庁の方には業法との関係についてはいろいろ御配慮をお願いしたいとは思いますけれども,ここでの検討課題としては商行為の問題でして,これについてはただし書きというのは可能なのかどうかということについての御要望があったということで一応まとめさせていただきたいと思います。


  それでは,あと残り1つ,有価証券化はいかがでしょうか。

  ○○幹事,どうぞ。

● 恐らくここにいろいろな先生がおられると思いますけれども。この受益権の有価証券化,現行の証券取引法やこれを改組拡大するプロジェクトである投資サービス法と密接に関わっておりますので,現在金融庁が検討していることを御紹介しながら幾つかコメントをしておきたいと思います。


  証取法のカバレッジが狭く投資家保護の必要性に機動的に対応できていない背景に,法律の構造が画一的で硬いということが挙げられてきました。


すなわち,有価証券に指定すると,発行体には原則開示義務が課せられ,販売するのは原則証券会社になり証取法の行為規制がついてきますので,もっと自由にお金を集めたいという人はなるべく証取法以外の手段を模索するということになっております。

  例えば組合という法形式によるファンド,最初はベンチャーファンドとして使われておりましたが,そのうち公開株式や金銭債権などにも投資したいということになってきますと,それは投資信託とどう違うんだということになりまして,昨年の証取法改正で一定の類型の組合への出資持分がみなし有価証券ということになりました。


  このように必要が生じるたびに証取法を改正して有価証券を追加するのはいたちごっこになりますので,投資家保護のための基本的なインフラとして分立した投資関連の法制を一元化し,有価証券の概念もより包括的にくくり直そうとうい構想が投資サービス法でございます。


  一元化するとさまざまな投資商品というのが対象になりますので,当然規制も画一的では困るということになりまして,投資商品によっては開示は相対でもいいとか,販売業者として証券会社並みの要件はいらない,例えば自己資本規制というのは必要ないとか,公益性も投資商品の性質に応じて,○○委員の言葉でいう柔構造化,柔らかい弾力的な構造に仕組んでいくといことになります。

  この法律のもとでは当然信託受益権についても投資商品の1つとして規定する方針でございまして,信託受益権という投資商品の性質に応じた規制の柔構造化が図られるということになります。

要は,伝統的な投資商品である株式や社債のみならず,組合であれ信託であれ合同会社であり,投資のビークルとして使われるものは投資サービス法に取り込んで,過不足のない規制の枠組みを整理していこうとしております。


したがって,ここにございますように,信託法で受益権の有価証券化を可能とするのであれば,その仕方,施行のタイミングなどについては今後よくよく御相談をさせていただきたいということでございます。

  つまり,今申し上げた投資サービス法の施行前に信託受益権を証取法の有価証券にしますと,先ほどの硬い構造が適用されますので,受益権の販売業者を新たに証券会社にならなければならないとか,株式などと同じ発行継続開示規制が課せられるということになりますし。


逆に,信託受益権を証取法上の有価証券にしませんと,同じ有価証券でありながら投資家保護のルールに差異が生じますし,振替制度の対象とすることもできないということになります。


  両方の法制というのが同じタイミングでいきますと受益権販売業者も自動的に投資サービス法の販売業者,投資サービス業者に吸収されて過不足ない規制がかかるということでございます。


  また,この資料,受益権について有価証券,受益証券を発行できるようにするという提案は券面の存在を前提にしているように見えますので,証取法の構造について念のため申し上げておきますと,先ほど組合の出資持分を見なし有価証券に指定したと申し上げましたが,券面が存在するかどうかという区分はしておりません。


株券や社債券のように券面が存在するものは存在しない場合もみなし有価証券,有価証券とみなすという構造になっておりまして,株券不発行会社の株式もみなし有価証券でございます。


先ほどの振替制度も証取法上の有価証券しか対象にできませんのが,信託受益権全般が券面の有無に関わらず証取法上の有価証券になりますと振替制度の対象にできるということになります。


  なお,やや細かいところですけれども,証取法の発行継続開示規制の適用上は信託自体を発行者とみなす必要があるという指摘があったという記述がありますが,財産である信託を発行者とみなすということはあり得ないので,信託の当事者である受託者ないしは委託者または両方が開示義務者ということでございます。

  いずれにしても現在の証取法を前提に信託受益権の有価証券化を検討しますと,双方の関係の整理とかつなぎが結構なものになってしまうんですけれども,たまたま私たちまさに信託のようなさまざまな性格を持ち得るツールを投資のビークルとしてみるとどう整理すべきかという検討を並行的にやっておる最中ですので,両方がうまくつながっていくように御相談させていただきたいということでございます。
  以上です。


● それはぜひ連携を持ちながら進めていけるとありがたいと思います。

  この有価証券化についてのこの提案につきましてはいかがでございましょうか。

  ○○委員。
● まず,投資サービス法の御議論かと思うんですけれども。投資のビークルとして信託が利用された場合という前提で,なおかつ前提かと思うんですけれども。


その場合に,現行法でもいろいろな法律の適用がありますから,いろいろな証取法だけじゃなくて,証取法の適用がなければ信託業法,不動産特定事業法とかいろいろありますけれども。


投資ビークルとして利用される場合というのはそれはそれで当然といいますか,1つの流れかなとは思うんですけれども。信託の場合には,先ほどの議論でもそうですし,民事信託としての利用というものを強く日弁連としてもまたこの審議会でも考えておりまして,その場合に民事信託についてまで過剰な規制が及ぶということはまた,過剰といっては申しわけないですけれども,民事信託で本来民法の行為が実は投資サービス法ですといって,なぜならば民事信託と商事信託というのは区別はつきませんという議論に巻き込まれていくんじゃないのかなという--懸念のしすぎかもしれませんけれども,持たないわけではないです。


というのは,投資サービスというのは広く横断的にというのが前提ですし,信託というのはそこに財産を入れて転換機能を果たすわけですから,その転換機能の結果,その信託受益権を販売するのか,それを弱者のためにまた相続のために利用するのかとか,そこの差だけのような気もしますから,その辺の民事信託における利用というものが投資サービス法に一たん入ってその後に出るというような,それによって制度が担保されているんだということになりますと,実体法としての信託法というものが何のための議論なのかという議論にもなりますし,やはり制度としては違うんじゃないか,先ほどの議論ともつながると思うんですけれども。


商売として民事信託やる方はそっちで下がってもいいのかもしれませんけれども,通常の弁護士の場合でもその他公益法人の場合でもそうですけれども,本来投資サービスの適用ではないのではないかと,その辺についてはぜひ御配慮いただきたいということと。


  あと,有価証券化できる受益権というのは株券と同様じゃないかというような趣旨のもし御発言だとしますと,株券というのは別に発行する前から,発行しても発行しなくてもそれが有価証券であるということはまた議論する余地すらなく明確ですけれども,この場合にはもともと信託受益権という指名債権類似ですけれども,法律上の権利について一定の場合,また当事者が選択した場合,有価証券化ができるという議論ですから。


もともとの有価証券と信託受益権というのはやはり法的性質が根本から違うんじゃないかというふうに思います。


  なおかつ,私法上の有価証券と証取法上の有価証券というのはもともと概念的にも,先ほどの議論にもつながりますけれども,根本的に違うわけですから,私法上の有価証券がすべからく証取法の対象になるという議論ではもちろんないかとは思うんですけれども。

仮に今後議論が拡張して証取法の議論でも投資サービス法の議論でも私法上の有価証券について,証取法上の有価証券が発行できるということはそれは投資性がある,流通性があり得るんだという議論になりますと,やはり民事信託においての有価証券の利用というのは今のところ余り深く考えられていませんけれども,それが利用されるケースもあり得るかと思うので。


ですから,その辺について民事信託において萎縮効果がないようにぜひ御配慮いただきたいというふうに思うんですけれども。


● 重要な御指摘だと。
  ○○委員,どうぞ。


● 先ほど○○委員の方から民事信託ということでの御指摘ございましたが,信託業界の方としましても,私法信託といいますよりも営業信託というふうに考えていただいた方がいいと思うんですけれども。


私法上の有価証券化につきましては,もう何年も前から信託業界としてはお願いしていた件でありますけれども。その理由といいますのは,当然今はほとんどないですけれども,今後の信託の発展のことを考えますと,当然受益権の中には転々流通させて受益権が多数の者で,なおかつ転々流通させた方がいいような種類のものがあるということでこういうお願いをしてきまして,法務省の方からもこういう御提案をいただいたということでございますけれども。


  そのときの私どもの考え方というのは,基本的には有価証券化するというのはある一定の受益証券に限定したものであって,転々流通する必要のないものについては基本的には当然必要がないわけでから,私法上の有価証券としても必要もありませんし,ましてや業法的な問題としての例えば証取法とかの対象になるというようなことは今まで考えてもみなかったもんですから,ちょっと驚いているような状況でございます。


  営業信託におきましても,今回の御提案で出ていますけれども,遺言代用の信託であるとか,後継ぎ遺贈型信託というのが当然ありますから,これが証取法であったり投資サービス法,投資サービス法の範囲というのがまだ検討中ですので,どういう形になるかそこがよくわかりませんけれども,投資のビークルというような形の観点で見られるというのはやはりちょっと違うんではないかなというふうに考えておりまして。


  今,法務省の方でもこういう私法上の有価証券化の方を御検討されていますし,金融庁の方では投資サービス法等を御検討されておりますので,私どものニーズというのはこういう状況でございますので,お含めいただいて,両省庁でいろいろと御協議いただいて,すべからくうまくいくような形でお願いしたいと思います。


  以上でございます。

● 今大体共通する御意見だったと思いますけれども,○○委員,どうぞ。

● 私は○○委員とほぼ同じことで,かぶってしまうんですけれども,私法上の有価証券を認めるということについては,先ほど○○委員がおっしゃられたように,流動化の観点からも非常に喜ばしいということで歓迎している立場なんですけれども。


先ほどの○○幹事のお話のように,将来の投資サービス法の関係であればそれはそれまたいろいろなこれからの議論がされていかれると思いますので,そこについてはここでコメントするということではないとは思うんですけれども。

現行の証取法の対象の有価証券となると,先ほどもある程度の御配慮をいただいているような御発言だったかとは思いますけれども,いろいろ障害が出てくるのではないかなというふうに考えております。


  流動化の場合,現行信託受益権が投資家の方で持ちきりになっているケースがかなり多いとは思いますけれども,今後もっとこの市場拡大する場合においては転々流通するということが当然考えられますし,その場合の権利移転が容易になるという点では有価証券化というのは非常に望ましいわけでございます。


  しかしながら,最初からそういうふうに転々流通するというふうに仕組む場合と,そうじゃなくて,一定程度まで特定の投資家が持っていて,その後に改めてまたそれを分割して流通させるとかいろいろな手法がございます。


そういったことを考えますと,最初から一律に有価証券化された場合についてはやはり証取法の規制になるということは,先ほどもお話ありましたように,硬い規制の中の問題でありますとか,オリジネーターとしてその取扱いの資格の問題とかそういったことも出てまいりますので,ぜひそのあたりも配慮していただきまして,一律の規制にならないようにということでお願いしたいというふうに思います。


● どうぞ。

● 経済産業省でございますけれども。投資サービス法についてはいろいろとそのファンドの多様な形態とかそういうこともありますので,そこは個別に実態に合った本当に必要な規制にしてもらいたいということで,これは当省と金融庁の方でもお話をさせていただいているところであります。


  その関係でいきますと,そういった意味では本件につきましてもそういった意味で実態にいかに合わせて必要に合わせてということが確保されることが必要だというみなさんの御意見に全く同感でございます。


  それから,○○幹事からお話がありました投サ法,新しくできる制度では非常に柔構造の規制になるので,こちらにうまくつながるようにというそういった御趣旨の発言だと思いますので,そういった意味でぜひ,特定の今の証券取引法で硬い規制の方に入って,この新しい信託の制度がいろいろな意味で動かなくなるということをどうやって防ぐかというそういう方向性での御議論かと思いますので,ぜひそういった方向で政府内でも意見を調整させていきたいと思います。

● どうもありがとうございました。先ほどから出ている議論は,やはりこの有価証券化といっても受益権の有価証券の場合には,もちろん投資のために有価証券化される場合がほとんどでしょうけれども,将来的にはそうでない場合もあり得て,そういうものについては,これは投資サービス法との関係の問題なのでここでの問題ではないかもしれませんけれども,投資サービス法の関係では御配慮をお願いしたいということでございました。


  それでは,有価証券化の中身については特に御異論がないというふうに了解してよろしいでしょうか。


  では,先に○○委員,その後○○関係官,お願いします。

● 注4の部分なんですけれども,信託財産のみを引き当てとする債権,信託債を認めるかどうかというところで,今回有限責任信託に限定するというようなことを提案されているわけですけれども。


信託債権を認めるのであれば,必ずしも有限責任信託に限定せず,既存の形態の信託であっても特に構わないのではないかなという気がいたします。


  それとあと,受託者が株式会社である必要も必ずしもないのかなという気がいたします。


● 信託財産を引当てにした債権,ちょっと一種の社債みたいなものかもしれませんけれども,そういうのを発行するのを有限責任に限定しないで,既存のものについても認めたらどうかと,そういう御意見。

● そうです。現実にABLと呼ばれている仕組み,アセット・バックト・ローンと呼ばれている仕組みで,受託者が信託財産のみを引当てに借入を行うということは広く行われいるわけですけれども,それに代用するということを考えれば,実態的には変わらないと思うんですけれども,それをただ単に債権に置き換えるということが可能になってもいいんじゃないかというのが。

  それとあと,受託者が株式会社である必要があるかということなんですけれども,これは恐らく社債が発行できるのは株式会社だからというところからきているのかもしれませんけれども,受託者は必ずしも株式会社に限らないんじゃないかなと。


外国法に基づく会社であるとか,その他いろいろな形態はあり得るのではないかなと。


場合によっては法人であるということを要求するということはあり得るかとは思いますけれども,株式会社でなくても,例えば学校法人債とか医療法人債いったものも現実にございますし,それとバランスとる上では株式会社に,受託者が株式会社であることを要求する必要はないんじゃないかなという気はいたします。


● わかりました。
  ここまで何かありますか。


● こちらの意見というのは別にその株式会社に限定したらどうかということを申し上げているつもりではありませんでして,恐らく実務上のニーズという意味ではさすがにこういったことをやるのは信託業務なのかなということで,とりあえず今の規制ですと株式会社ということですし,寄せられている意見も恐らくは株式会社が発行するということなのかなということで社債というふうに書き,その上で取締役会決議というのをまずは書いたということですので,具体的なニーズとしてこういう形態の法人でというのがあれば,それはそれでということなのかなというふうに思います。

  それから有限責任信託にするかどうかという話は,まさに個別の責任限定特約を置き換えて債権の性質として信託財産に責任が限定されると,そういったものをつくってはどうかという御趣旨のそういう立法提案だったのかなということでして。


そうしますと,限定責任信託というところと規制の調和というのが必要になってくるんじゃないか,そういう指摘がありましたということでございますので,それが必要と考えるのか,それともそうではないのかというところが1つ議論していただくとよろしいのかなということなんですが。

● そういう意味では原案は別に限定しているわけでは必ずしもないと。
● すみません,手短に。


● すみません,さっき○○関係官も手を上げて,関連して。

● 実は,注4,○○委員の御発言と関連するものですから,ちょっとすみません。

少しだけ心配性なものですから,もう少し掘り下げて御質問したいんですが。恐らくこれは信託の事務及び管理ができるということから信託に係る借入,アセット・バックト・ローンみたいなものができるというところから始まって,じゃあ,その借入でやればよいのであればこの信託債というのが発行できるのではないかという,こういうロジックでこの信託債という仕組みが考えられているのでしょうか。

  ちょっと,なぜ信託債というのがここで突然出てきているのかいうそのロジックみたいなものを御説明いただけるとありがたいです。


なぜならば心配性だと申し上げた理由は,さっき○○幹事から申し上げたのと同じ理由で,社債に関してもいろいろな発行開示規制等も,流通する場合にはですね,関わらざるを得ないと考えている場合があるものですから,ちょっとその背景を伺おうと思いまして。


● はい,いかがでしょうか。
● この注4の記載が出てきたというのは,もともと前段階の研究会でやっておったときもそうですし,この法制審でも指摘がされたから入れたということでございまして。


恐らくそのときは言われておりましたのは,信託財産を引当てとする社債,あるいは社債という必要はないんですけれども,債権ですね,券面を発行したいというニーズが実務上ありますという話がありまして。

しかもそのときには,責任が限定されたタイプを望んでいるんですというような話がございました。


恐らく御提案者の方たちはそれが信託債というような性質のものであって,社債というような位置づけではなくて,もうちょっと別の社債なんかとはまた異なるタイプの券面だというお話だったのかなと思うんですけれども。


  そういった御提案を踏まえてこちらの方で検討していったところ,とりあえずのところは社債であって,しかも責任が限定されるタイプの社債なんだというふうに整理するのではないかなと。


特に株式会社が発行する場合には。そういう整理で,しかもなおかつ限定責任信託との整合性をどういうふうにとるのかといったところを議論していただく必要があるのではないかということでこうしてきたということでございます。


  それと,開示の話とか証取法上の開示の話とかというのはその上でお考えいただくというような話になるんじゃないかなと思いますけれども。


● よろしいでしょうか。バックグラウンドは今のようなことだということです。

  それでは,○○委員,どうぞ。


● 手短かに。実務のニーズですけれども,例えばジェイリートなんてリート債というのが盛んに発券されています。


ですから,ローンでできるからツールとして債権というのも必要だという,そのとおりなんですけれども。これができるようになると非常に使われることになると思います。

他方,法的考え方ですけれども,これを社債と裏づけちゃいますと,それこそ何々銀行,何々信託銀行債社債ということになって,それ自体投資家にとっても非常に混乱を来すものだと思いますし。


私の記憶が間違っていなければ,海外の信託財産が社債を発行しているケースも,法的には受託者なんですけれども,信託財産というのは全面的に出てきて債権だという格好をしていまして。


いわゆる企業の社債だというようなイメージではなかったと思うんですね。ちょっとそれは事実関係の問題ありますから余り強くは言えませんけれども。


  ですから,社債という整理をすると,会社法の問題とか,もちろん証取法の関係とかありますけれども,複雑になりますし,なおかつこれ特に責任財産限定特約つきの債権とみていただいてといいと思いますが。


その場合に,信託銀行にとって別に多額な借財をしているわけでもありませんし,本来社債規制の中が前提としていることと全然違うものですから,立法論である以上,これは信託債という社債とは性質の異なったものだよ,特に責任財産限定特約がついている場合という前提でいいと思うんですけれども。


というような議論がされると,また機動的に信託で借入をするのとほぼ同じように機動的に発行できて,それが実際に市場とかのニーズにも見合うのではないのかなと思うんですけれども。

● 恐らくこちらの趣旨もそういう意味で社債であることを積極的に主張しているということではありませんので,今,○○委員が言われたようなものであるというふうに理解しております。


  説明等につきましては,またもうちょっと適切な説明で検討するということでよろしいですかね。

● 基本的には社債と言わざるを得ないのではないかという話と,あと恐らく社債の規定を相当借りてこざるを得ないのかなというようなところもあって社債と言っているわけですが。


仮に限定責任信託となりますと当然名称を付すと,限定責任信託として取引行為を行うには名称を使用するということになるんだと思いますので,登記もしておりますし。そういったことが券面上には表示されるというようなことにはなるわけですけれども,それとはまず……。


● おっしゃったように,それはそれでそうだと思うんですけれども,限定責任信託がきょうも議論されますし,制度設計によってどの程度利用されるかという議論もあるとは思うんですけれども。

現状,ノンリコースローンというのは非常にボリューム等も多くて非常に使われていますから,ノンリコースローンの代替として,またローンとしての貸付ができないけれども,それは貸金業とかいう手順ありますけれども,社債という形式であれば投資家として投資してもいいという機関投資家というのは多々あると思うので。


  ですから,限定責任信託を利用しなくても責任財産限定特約つきの債権形式であれば,社債とは違った規律,また社債の特例としての規律というものを考えてもいいというような議論があってもよろしいのではないかなという提案なんですけれども。

● そうすると,まさにその信託についての限定責任の信託におけるいろいろな規制と,それからその特約とのバランスをどう考えるのかというようなところなんだろうと思うんですけれども。恐らく有価証券ということにしますと,転々流通しても次の譲受人に対してその限定責任の効力が対抗されるというようなことになりますので,恐らく,これはパブリックコメントで寄せられた意見ですけれども,限定責任と同じような規制をやはりかけておかないとまずいのではないかというような話はあったわけなんですが。


そこは特約があるからその効力を譲受人との間で認めていいだろうと,そういう御趣旨。


● そうですね,実際今SPC形式で社債形式で出す責任限定特約付社債ということで一応流通する可能性があって発行しております。それは有効であるということは,多分それほど疑われていないと思います。

● それも含めて検討してもらいましょう。

  ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。

● 今伺っておりまして,結局受益権が信託法に定めて受益証券になった場合の規制の仕方については別途検討するとしまして,この1,2についてはこのとおりでいいというふうに事務局としては理解しておりますので,それでよろしければこの方向で進めたいと思います。


  この資料の中では1点,無記名式の受益証券については受益証券の占有によるというのが受託者対抗要件として我々考えているわけでございますが,その中でもエというところに書いてあるんですけれども,受益者名簿を作られた場合には受益者名簿への記載をもって無記名式であっても対抗要件をするべきだという要望はあったわけでございますが。


そうしますと,無記名式でありながら,場合によっては受益者名簿への記載が対抗要件になり,場合によっては占有が対抗要件になるということで非常に区々になりまして,会社法上の無記名社債でもそこまでの区別はされておりませんので,事務局としてはこの提案のとおり占有をもって一律に無記名式の受益証券については受託者対抗要件とするという方向でいいのではないかというふうに思っておりますが,そこについてもそれでいいということで御承認いただいたということでよろしいでしょうか。

● いかがでしょうか。その方が簡易であるということだと思います。わかりやすいと。よろしいですか。

  では,これはそれは了解していただいたということで。


● では,前回の積み残し分の最後として,信託の変更・併合・分割それから終了関係を説明させていただきたいと思います。


  資料33ページからでございますが,提案の1と2については特段異論がございませんでしたので,変更はありません。提案3と,それから(注2)との関係で,資料ですと34ページの2の(1)のとおり,信託行為の定めに基づいて第三者に信託の変更権限を付与したという場合に,変更できる範囲を制限するべきか否かという問題点について検討したところを御説明申し上げます。


なお,パブリック・コメントの結果としては両論あるというところでございました。


  ところで,制限を設けるべきであるという見解というのは,変更できる範囲に制限を設けないと関係者,特に受益者の予見可能性を害する恐れがあるということを理由としております。


しかし,事務局としてはその必要はないと考えるわけでございますが。その理由といいますのは,ここにも書いてございますけれども,まず信託行為において第三者に信託の変更権限が与えられ,しかもその範囲に特段の制限が課されていない場合におきましては,受益者としては,信託行為の内容,すなわち第三者にこのような制限のない変更権を付与されているということは認識できるはずでありまして,それにもかかわらず予見可能性を一般的に害するとまでいえるか疑問がないではないということ。

  それから,第三者の変更権限も信託行為に与えられたものである以上は信託目的に従うなどの制約は当然かかるであろうということ。


また仮に受益者を害するような変更がなされた場合には,その内容にもよりますが,受益権取得請求権をもって救済を図ることも可能でございますし。


さらに,仮に第三者による変更が余りにも不合理な場合にはその変更が公序良俗違反として無効とされることもあるというふうに考えます。


そういうことからこのような制限は設けなくていいのではないかというのが事務局の見解ということでございます。


  このような方法によっても救済できない場合は,もはや信託法の守備範囲外の問題でありまして,消費者契約法等の問題で対処すべきではないかと考えているわけでございます。


  次に,提案4と(注3)と(注4),裁判所の変更の問題でございますが。これにおきましては,試案では,変更の対象を現行法どおり信託財産の管理方法に限るという甲案と,より広い範囲まで認める乙案とを対比してパブリック・コメントに付しております。


  その結果,資料ですと35ページにありますが,甲案にとどめるべきである見解,すなわち裁判所の判断対象としての適格性ですとか,信託スキームの安定性,私的自治を重視する見解と,私的自治で対応できない場合の裁判所の後見的関与に対する期待から乙案を支持する見解とに分かれております。

いずれの考え方が適切かにつきまして,特に乙案の方向に進む場合には具体的にいかなるニーズあるいは事例が想定されるのか,あるいは乙案を合理的に限定するような第3の考え方はないかといった点も含めて御審議をいただきたいと思っております。


  なお,甲案の中で示しておりました変更の要件につきましては,より明確な要点にすべきであるという指摘がございました。そこで試案におきましては,「信託財産の管理方法が信託の目的に適合しなくなることとなったとき」,としておりましたが,ここではそれを改めまして「信託財産の管理方法が信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合しなくなることとなったとき」と改めまして明確化を図っているということを付言させていただきます。


  続きまして,信託の併合の方でございます。パブコメではほぼすべての意見が試案に基本的に賛成するものでありましたので,ここでは試案をそのまま維持しております。以下パブコメで指摘のあった2点につきましてのみ考え方を御説明したいと思います。


  まず第1点は,信託の併合におきまして,信託の変更における第54の2の(1),資料ですと33ページになりますが,それを準用しているというところについての指摘でございます。


指摘の内容といいますのは,結局信託の併合というのは信託の関係全般に影響を及ぼす重大な事項であることにかんがみますと,併合の有効性が事後的に争われることになる可能性は可及的に排除すべきであって,三者間の合意の例外となる信託の目的に反していないことが明らかであるとか,受益者の利益に適合することが明らかという要件についてより明確化を信託の変更の場合よりも図るべきではないかという主張かと推測するわけでございます。


  しかし,受託者は信託財産に固有の利害を有しておりませんので,リスクを犯してまで信託の併合による利益を追求するよりは,事後的に併合が無効とされ責任を追求されるような事態を避けようとするのが合理的な行動だと思われるわけでして,そうしますと,仮に受益者の利益に適合すると明らかといえるか疑問があるような場合には慎重を期して受益者の同意を得た上で信託の併合を実行するという運用がされることになると思われるわけでございます。

  そうすると,この明らかという法律上の要件についてはこれ以上明確化する必要はないのではないかと考えているわけでございます。


  なお,信託の併合の関係で,提案では第54の4,すなわち裁判所による信託の変更の規律も準用するという形になっておりますが,第54の4における裁判所による変更の範囲に関する審議の結果如何,特に変更の範囲を信託財産の管理方法に限るという甲案が採用される方向となりました場合には,信託の併合という行為の性質上,裁判所による変更の規律は信託の併合には準用されず,裁判所に対して信託の併合を請求することはできないということになると思われるということ,すなわち準用の対象は第54,ただし(2)及び4を除く,そのようになるのではないかと思われることを付言させていただきます。


  第2点は,この2の(1)の一定の事項が明らかにされる手続を明確化する必要があるとの指摘でございます。これは例えば会社法における合併契約等の備置に関する厳格な手続的規定を信託法にも導入することを示唆するものと解するわけでございます。

しかし,この信託の併合の規律というのは大規模な信託に限らず,小規模・個人的な信託も含めまして,あらゆる規模,類型の信託の併合に適応されるものですので,それにも関わらず重厚な手続を課すこととなりますと,機動的な信託の併合の支障となりまして受益者の利益にも資さない結果となる恐れがあると思われます。


  そこで,2の(1)の一定の事項につきましては,最低限,関係当事者が併合に合意する時点で明らかにされていることが確保されていれば足りまして,それ以上の手続規定は設けず,各事項について合意に至るスケジュールについては関係当事者の事情に応じて柔軟に定めることとしてよいのではないかと思われるわけでございます。


  次に,信託の分割の方でございますが,これもほぼすべての意見が賛成意見でしたので,試案をそのまま維持しております。

  なお,信託の併合の場合と同様に,一定の事項を明らかにする手続を明確化する必要があるという指摘がございますしたけれども,この点につきましては,ただいま申し上げましたように,最低限,関係当事者間において分割の合意がされる時点において明らかにされていれば足りると考えているところでございます。


  また,(注3)になりますが,信託の分割によって信託債権者を信託財産ごとに切り分けるニーズがあるという試案の問題提起に対しましては,不動産流動化の実務においてこのような切り分けのニーズがあるとの意見がございましたので,一定の債権者保護手続を条件にそのような切り分けを可能とする規律を整備することを考えております。


  なお,信託の併合のところで述べましたように,信託の分割につきましても,裁判所による変更の範囲に関する審議の結果によりましては,裁判所による変更の規律は信託の分割には準用されないということになると思われることを付言させていただきます。


  続きまして,信託の終了事由,第57の方に移らせていただきます。パブコメでは試案に対しておおむね賛成意見が占めましたが,1のcの裁判所に対する終了請求権に関する規律と,1のdの兼任状態を解消するに必要な期間を超えた場合に関する規律について異論ないし意見が示されております。


  このうち1のdの兼任状態の解消の問題につきましては,解消するのに必要な期間という試案の提案を明確化を図る必要があるというものでございましたが,これは前回部会で述べましたとおり,1年間という期間を明記することとしております。


これに対しまして,1のcの裁判所に対する終了請求権の問題につきましては,まず試案では信託を継続することが信託の本旨に適合しないこととなった場合という要件を要件としていたことにつきまして,信託の本旨を初めとしてこのような要件を認定することが困難であるという指摘がございました。


  そこで,この指摘を踏まえまして,この提案では「信託を終了することが信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合することが明らかである場合」と改めて要件の明確化を図っているものでございます。


  ちなみに1のaと1のcの関係でございますが,信託の目的が達成不能とまではいえないものの終了させる方が受益者のためになるときには1のcにより終了させることになるというふうに考えております。


  また,この1のcに関しまして,流動化取引におけるスキームの安定性の観点から,委託者が請求権者となっていることに反対する意見がございました。


確かに信託をファイナンス目的で利用する場合におきましては,委託者がいったん受益者となった上で受託者が第三者から借り入れた金銭によって委託者に受益権を償還しまして,その結果委託者が劣後受益権を持ち,第三者が信託債権を持つという状態に至ることがあるわけでございますが,この場合,唯一の受益者である委託者としてはもはや本来のファイナンス目的を達成しているともいえますので,信託を終了させても債権者は害されるものの,委託者兼受益者の経済的利益は害されないようにも思われるわけでございます。

  しかし,この場合におきましても,信託の目的その他の事情としましては,当初から折込み済みの第三者からの借入も含めた一連のスキームが円滑に機能することによってファイナンス目的を達成することにあると考えるのが妥当であると思われるわけでして,そうしますと,単に受益権の償還を受けたからといって第三者の信託債権が残っている状態で信託のスキームを終了させてしまうこととなれば,信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合することが明らかであると認めることは難しいと,できないということになるのではないかと思われます。


したがいまして,委託者を請求権者に含めても意見にかかるような不都合はないと思われるところでございます。なお,念のため申立権の不行使の特約をもって対処することも可能であるということも言うまでもないところでございます。


  続きまして,資料44ページの(注1)から(注3)の問題について御説明いたします。まず,(注1)につきましては,今後信託の利用の進展が予想されることも踏まえまして,信託の濫用防止の観点から会社の解散命令の制度に準じた信託の終了命令のような制度を設けることが相当と考えるものでございまして,パブコメの結果も制度設置に賛成する意見が多数でございました。


  それから,(注2)につきましては,信託行為に職務分掌の定めがある場合におきましては,欠けた受託者の権限は他の受託者が承継するということになるわけでございますが,信託行為に職務分掌の定めがあるときにおきましては,欠けた受託者の行っていた職務のうち信託財産の保管及び引継ぎに関する事務を残りの受託者が行うことにするということを考えております。

  この資料の作成時には単独受託者につき任務終了があった場合と同様と考えていると,(注2)の説明の4行目に書いてございますが,これは現在では考え方が変わっておりまして,相続人でありましても信託財産の保管とか信託事務の引継ぎに必要な行為をするわけですから,まして残りの受託者はそれぐらいの義務は課されてもいいのではないかという考えに基づきまして,任務の終了した受託者の行っていた職務のうち信託財産の保管及び引継ぎに関する事務を残りの受託者が行うということにしたいと考えているわけでございます。


  ただし,この考え方のもとにおきましても,共同受託者の一部の任務が終了したことによりまして信託財産の保護に欠ける状態が生じていることに変わりはございませんので,任務の終了した受託者と同一の権限を有する新受託者が1年以内に選任されない場合には,やはり信託は終了するということには変わりがないと考えているところでございます。


  それから,最後に(注3)でございますが,これは民法653条の定める委任の終了事由といいますのは,委任者または受任者の死亡・破産ですとか,受任者の後見開始,資料では禁治産という不適切な用語を用いておりまして,おわびして訂正申し上げたいと思いますが,後見開始という当事者の一方に関わる事情でございまして,知らない相手方に対抗はできないということが非常に言いやすいわけでございますが,信託の終了事由の方は,信託当事者の全員が了知し得る事情であるか,あるいは信託当事者のだれもがあずかり知らない事情であるかというような違いが委任の場合とあるわけでございまして,そうすると信託の終了事由が生じたことを知らないことによって不測の不利益を被る当事者の救済をいかに図るべきか。

そもそも図るべきか,ということについて一体どのように対処したら方がいいのか,非常に複雑な問題が生じそうな気がいたしますが,御意見を伺えればというふうに思っております。

  次に,信託の清算のところでございますけれども,パブコメにおきましては,試案全体につきましては特段の反対意見がございませんでしたので,個別意見について若干御説明を申し上げます。


  まず,資料47ページの2(1)に書きましたが,提案の2の1の清算受託者の職務の内容,それから,提案3の帰属権利者等への残余財産の給付の制限に関しまして,信託行為に別段の定めがあるときはその定めに従うものとするということとすべきであるとの意見がございました。


  しかし,この意見があげますような不動産流動化のための信託では現状有姿のままで不動産と債権債務関係がそのまま受益者に交付されるのが通常であるという例につきましては,こういう信託のスキームであることを関係当事者全員が合意しているのでありますから,あえて信託行為が優先する旨の定めを置かなくても当然許されることになると考えられれば足りると思うわけでございます。

  むしろ一般的には,清算受託者は信託が終了した以上,信託債権者を含む全関係者に対しまして,いわば中立的な立場に立つものとして速やかに現務を結了して信託債権者に弁済してから残余財産を帰属権利者に引き渡すという義務を負うことになると考えるべきであると思われます。


  そうすると,全債権者の同意もないのに,単に信託行為の定めのみをもちまして清算手続を行うこととしたり,行わないこととしたり,信託財産に属する債務の弁済前でも帰属権利者等に対する信託財産の交付ができるとするのは不適当でありまして,これが可能であるかのような誤解を招きかねない規律を設けるのは妥当ではないと思われます。


したがいまして,この意見は採用しないこととしたいと考えております。

  それから,資料48ページの(2)に記載したところでございますが,受託者が長期不在のため信託が終了した場合には,裁判所が職権で清算受託者を選任することができるとすべきであるという意見がございました。


しかし,清算受託者も受託者であることには変わりがありませんのが,受託者の選任に関する規律にしたがいまして,委託者と受益者との合意,または利害関係人の裁判所に対する請求によって清算受託者を選任することができますので,この意見に対しましては既に試案の内容をもって答えているものと思われます。


  なお,意見の中にはさらに信託財産管理人が当然に清算受託者に就任することとすべきであるという意見ですとか,裁判所の職権で清算受託者を選任できることとすべきであるという意見もありましたが,いずれも資料48ページに①,②で書いた理由から採用しないものとしております。

  最後に,資料48ページの(3)に書きましたとおり,必要財産を留保して信託財産を既存権利者に引き渡した後で留保財産では債務の弁済が足りないこととなったときの措置を定めておくべきであるという指摘がございました。


  この点につきましては,株式会社等の有限責任制度に見られる債権者保護措置としまして①の受託者の損失てん補責任,それから②の受託者から帰属権利者に対する返還請求権,それから③の信託債権者から帰属権利者に対する返還請求権を整備することが相当であると考えているものでございます。
  以上でございます。

● それでは,ただいまの信託の変更のところから最後のところまで,いかがでしょうか。
 

 ○○幹事,どうぞ。
● それでは,信託の変更の4の点につきまして,裁判所としての意見を言わせていただきます。裁判所といたしましては,甲案に賛成する立場で意見を述べさせていただきたいと思います。


  変更の場面につきまして,管理方法の変更に限定しない乙案につきましては,パブリックコメントを通じて実務庁の方にも意見を聞いてみたんですが,やはりどういった事案を念頭においているのか,それからどのようなものを対象に判断をするのか,それからどういった要件に基づいて,その要件に基づいて判断した結果,どのような法律効果を生じるのかというあたりについて全く理解することができないような状況でして,やはり裁判所として判断ができるようなたぐいのものではないのではないかという議論が体制を占めたところでして,このままこのような制度になってしまいましても結局変更というものにつきましてうまくニーズに裁判所として応えていくことができないのではないかということで,結局そういったものに応えていけないということになるのではないかということに帰着いたしました。

  それで,ここからは意見といいますか,御質問させていただきたいところなんですが。


もし仮にそういった具体的なニーズがあるのであれば,そのニーズをうまく変更に反映できるような何らかの制度設計というものを,きょう来ていらっしゃる法務省の方々ですとか学者の先生方に何かいい案が対案としてあるのであれば,そちらの方で検討できないかというのが裁判所としての考え方でございます。

  以上です。
● いかがでしょうか。

  確かに乙案ですといろいろなのが出てきて大変は大変なんですけれども。ただ,契約なんかでも,余り裁判所は認めないかもしれませんけれども,事情変更の原則で契約の改定とかいうのは理論的にはあり得るわけですよね。

余りそれも範囲は限定されていない。実際上は当事者がこういうふうに変更した方がいいだろうということを申立てるんだと思いますけれども,なかなか対案は難しい。


● そういった場面ですと,この変更の要件にありますように,例えば受益者の利益に適合することが明らかであるとか,信託の目的に反しないことが明らかであるとか,そういった明らかであるというような事情の方が先に満たしてしまうのではないかというふうに思われるところでして,やはり裁判所の判断にはなじまないというところは変わりはないだろうというふうに思っております。


● ほかにいかがでしょうか。○○幹事。


● この乙案に対するパブリック・コメントの乙案に賛成する意見の理由を拝見していますと,裁判所の後見的な作用を期待するという意見,これはあたかも家事事件における裁判所の関与のようなものを期待してらっしゃるのかなと思うんですが,ただ(注4)がついておりまして,これがあることによって乙案の意味は大きく変わってくるのではないかと思うわけであります。


  (注4)は,余りに無範囲な無限定なものが裁判所に持ち込まれることを恐らく懸念して,当事者は必ず変更内容を提示して請求しなければいけないと。


裁判所は提示された内容の許可,不許可しかしないんだということです。こうなりますと乙案のもともと,多分(注4)がなかった乙案とは全然意味が変わってきて,もともと乙案のアイデアというのは当事者は自分では無力で保護すべきものであって,裁判所が広く手を差し伸べていろいろ助けてあげようという発想だったはずなのに,(注4)がつくことで,自分で裁判所が「うん」と言ってくれる内容をつくらなきゃいけないということになってしまったわけで。


  この乙案だとすると,一面では今裁判所の方から御懸念がありましたような,懸念というのは(注4)をつけ加えると余りなくなってくる,逆にですね,裁判所は不適切だとか不許可と言っちゃえばそれでいいといことになるわけですが,ただそれはもともと乙案の意図したところなんだろうかという気がするわけでございます。

  私,結論としてはこれは甲案で仕方がないのかなと思うんですが,乙案のようにすると,結局この(注4)のようなものがつかざるを得ないとすれば,それは乙案というのはなかなかとりにくいんだろうということであります。
  以上です。

● 乙案のもともとのというのはいろいろな源流があるかもしれませんけれども,やはり信託財産の管理方法に限らず,変更必要とするけれども,当事者間の合意がなかなか得にくいという場合に,裁判所の判断でできるとありがたいということで。


合意ができにくいというのは当事者が判断能力がないからというよりは,いろいろ利害も錯綜していていできないという場合も当然含まれているわけですよね。


  しかし,○○幹事の趣旨を逆にとってしまうことになるかもしれませんけれども,(注4)がつくことによって乙案といってもそれほど裁判所にとって大変なことではないのだから,乙案でもいいのではないかという意見にもなり得るところではありますね。

  何か御意見があれば。いかがでしょうか。これもなかなか具体的なニーズでこういう場合があってというのが,あるいはしょっちゅうこういう場合があるんだというそういう具体的なイメージがあるわけではないので,なかなか抽象的なところだけで議論しておりますので,そういう意味では決め手がないのかもしれませんけれども,もし御意見があれば。

  ○○幹事,どうぞ。
● 意見というよりは質問なんですけれども。やはり(注4)についてなんですが,恐らく先ほど○○委員がおっしゃられましたように,事情変更の原則で日本の裁判所では契約改定というのは理論的には認めるのかもしれませんけれども,実際には認めていないところなのではありますけれども,理論的に言うならば,契約改定を認める場合に事情変更の原則のもとで当事者の側がこういう内容への改定を請求するというようなことをしないといけないというふうに考えているかというと,恐らくそうではないと思うんですね。


要するに事態は変更して,その変更した事態に則して公平とか考えられる契約内容を確定するということであって,当事者がこれという必要があるかどうかというのが,日本では余り議論していませんけれども,もとになってますドイツの議論を見ましても,当事者の側にそのようなこういう内容での改定を請求する権利があるというような議論の立て方はどうもしていないようですので。


ちょっと違う考え方がこの(注4)ではあるのかなという気がいたします。そういう意味では事情変更の議論からしてスッと出てくるものかどうかというのがやや疑問があるというのが(注4)の内容であり,かつ,そして,ここから先はむしろ○○幹事にお聞きすべきなのかもしれませんけれども,この内容で改定してくれといったら裁判所からけられた場合に,じゃあ,この内容でという別の内容でというふうになっていく可能性についてはどう考えればいいのかというような問題等はらんでるんじゃないかなと思います。


つまり,いつまでたっても終わらない可能性もあると。

  そういった問題をはらんているということからしますと,乙案を前提にして(注4)をつけるというのはちょっといろいろな意味で問題があるのではないかなという気がいたします。


ちょっとその点お聞かせいただければと思います。

● ○○幹事,いかがですか。

● これは現行法でそうですけれども,非訟事件ですので規範力がないということですから,裁判所がその変更申立てがあってそれを退けて,それはしかしもちろん規範力の問題以前かもしれませんけれども,いくらでも続くことはあります。


正しい答えがどこかにあるとして。近いところまでずっとグルグル回っていつまでも手続が終わらないということも理論上はもちろんあり得ますが。

ただ多くの場合には,こうは言いながら,非訟事件の中ですぐ近くまできてるんだったら裁判所がこんなあたりはどうですかみたいなことは事実上あって,しかるべき許可がされるということがあるんだろうと思いますけれども,ただそれに多くを期待してくれるなというのが先ほどの裁判所からの御意見ではないかというふうに私は忖度いたしました。


● 通常の契約の場合は当事者2人しかいないという前提ですので,問題は今言われたような形で処理可能なのかもしれませんけれども,信託の場合はいろいろな当事者がほかに複数存在するわけであって,そううまくいくのかなという不安はちょっとあるかなと。


そういう意味ではやはりちょっと(注4)というのは現実に,理論的にもそうですし,現実にどうなんだろうかなというのはちょっと感じるところです。


● 何かございましたか。
● 先ほどの(注4)に関しましてですが,これも許可,不許可と申しましても,結局は法律要件,効果がほかのものと違いまして具体的に書かれているわけではございませんので,結局許可,不許可の判断に当たりまして裁判所としては何をよりどころにして許可,不許可の判断をすべきなのか,その反対する当事者の方々とは別の判断を下す根拠はどのあたりにあるのかというあたりについては以前問題としては残っているように思いますので,その点にもつきましてもやはり問題があるように考えております。

● はい,いかがでしょうか。何か御意見があれば。

● ちょっとずれるかもしれませんけれども,この信託の変更と,それから併合分割についての論点でございますけれども,受益者の権益の保護ということで遅滞なく通知するとか,あるいはそういったいろいろな要件をはめていただいているわけでございますけれども,どうしても私ども信託業法所管省からいうと,受益者の保護の方にかなり重点がかかるケースが考えておられまして。


例えばなんですけれども,1点御質問させていただきたいのは,例えば受益権者が多数おりまして受益権者代理などを定めている場合で,それで例えば信託行為で別段の定めをしていれば信託の併合分割なんかはそれに従うということになるわけですが。

例えば受益権者の代理にそういった信託の併合分割というようないわば大きな権限を委ねている場合,果たして本当にその受益権者の権限を保護できるのかという観点から,例えば受益権者でありというものについて例えば具体的に義務を負わせるとか禁止行為とか責任を規定する,そんな考えはございますでしょうか。質問でございます。


● いかがですか。
● 受益権代理のことでございますれば,受益権代理は受益者の代理人という位置づけでございますので,善管注意義務とか委任の規定を準用しますと。


受益者との関係で善管注意義務をもって事務を処理するという義務は課されることになります。

● 了解しました。
● ○○委員。

● 以前も議論になったかもしれません,仮に弁護士が受託者となって財産を預かって,不動産だとして不動産の管理方法の変更というとき,その売却まで入るのかどうかというと,恐らく今の信託業法でも管理型と運用型と分けて,管理には売却というか処分はいけないというようなたしかそんな解釈だったと思うので。


そうすると,売却を仮にすべきであるというようなときに,それは上の方の受託者の決定でいいのかしもしれませんけれども,信託の目的ということの解釈論を,当然争いがあるという前提で争いがあった場合,裁判所に頼むというか,裁判所のせいにするとか裁判所を頼りきるわけではなくて,一定の解釈論を確立する,自分がそう思っても紛争の解決になりませんから,そうすると何もしない方が安全だということになってしまうと思うんですけれども。


  とすると,乙案が幅広く無制限に使われたら困るという趣旨はよくわかるんですけれども,信託の変更の例外規定の確認的な意味で使われるのではないかということでたしか今までの法制審でも議論されていましし,そのたびに裁判所を頼るのはということの議論はあるかと思うんですけれども,やはり一定の法律解釈を裁判所の後見的な役割として確認できるという制度があった方が紛争を未然に防ぐという意味においても非常に有用ではないのかなと思うんですね。


  ですから,無制限の乙案ではないし,また(注4)がちょっと拘束的であってちょっと違った方向がいいといったときにどうなのかわかりませんけれども,ある意味では,繰り返しになりますけれども,2に書いてある1の例外規定の確認的な意味での後見的作用としての裁判所の役割ということが恐らく現実的には必要になってくるのではないかと思います。


● その役割も果たすでしょうね。
  はい,どうぞ。


● 先ほど来,(注4)の評判が余りよろしくないのですけれども,もともと原案を議論しておったときには事情変更の方に対応するためというふうに考える中で,裁判所の方々からどこまで判断できるかという問題が御提示いただいた中で,(注3)のようないろいろな要件をプラスすること,それから○○幹事がおっしゃられたようなお話もあるのですけれども,当事者としては何も判断能力がないというだけではございませんで,事情変更があってやはり明らかにこういうふうにした方がいいというふうに思うような場合もあり得るだろうということで,それでそういった幾つかの御指摘に対応するために生まれてきたのが(注4)だというふうに理解しております。

  それで,○○幹事の御指摘があったように,事情変更の法理にぴったり当てはまるかと言われると,確かに忸怩たるものがあることは否定しがたいところではありますけれども,そのさまざまな実務の必要性と裁判所の御判断される能力というものを勘案した中で生まれてきたのが(注3),(注4)ではないかというふうに思います。


  それで,先ほど仮に(注4)をとって許可,不許可だけにしたときでも,裁判所の方として何を基準に判断されるかがよくわからないというお話がございましたけれども,それは単純に,別に事務局として甲案,乙案どちらにコミットするものでもございませんけれども,その点だけを申し上げれば,それは事情変更があったということを勘案して,当該変更された内容がその信託目的の趣旨に照らして適当かどうかという通常の法律判断の中で判断されるということに,禅問答のようですけれども,ありていに言うとただそれだけの話ではないかなという気がちょっといたしますけれども。


● 確認ですけれども,○○委員の意見は,やはり乙案に一応賛成だということですね。

● ええ。基本的なことですけれども,仮に受託者で変更したいと思って,それを非訟事件じゃなくて訴訟事件として法律関係の確認をするということが可能であれば乙案もいらないのではないかと,そのときにはちょっと受益者か何かを確認して訴えるんですかね。


やはり法律関係確定させたいという希望はどの変更にとってもあり得ると思うんですね。

  反対がなければもともと三者合意でいけるわけですが,必ず反対があるからこそ2があるわけでして。そのときに権利関係確認するときに,また乙案以外の何か訴訟,法的手段,手続的な手段があればそれによって恐らくスムーズに進行できるのではないかと思うんですけれども。

● 今の御指摘なんですが,その変更された後の権利を前提に給付訴訟を提起するということについては,通常の訴訟どおり特に妨げられるものはないという理解だとすれば,先ほどの解釈論を固めるですとか,そういったことについての御懸念も払拭できるというふうに理解してよろしいのでしょうか。

● そうですね,そうだと思います。ただ,給付訴訟,給付だけじゃなくて契約関係を変えるわけですから,すみません,私の未熟さかもしれませんが,なかなか従前の訴訟形態,要するに契約当事者なりある一当事者が契約関係変えてほかの方にその契約関係でいいという確認訴訟を起こすということは現行の通常の発想でも可能,給付訴訟じゃないと思うんですね,給付に至る前の話だと思うんですが。不動産を処分するとかですね。


● その受託者の決定によって変更された法律の。


● 1の例外全部そうだと思うんですけれども,三者の合意じゃないということですね。


● ええ。十分検討できているわけではないんですが,それは訴訟として提起された場合には,何らかの判断をするようなものになるのではないかという気がいたしますが,その点につきましては。


● 私が言っているのはコンテクストで乙案というのは非常に現実的には有用ではないかという議論だと思うんですけれどもね。


● 重複になる部分もあるのですけれども,今,○○委員のおっしゃったことは,やはり給付訴訟なり確認訴訟なりでできる枠組みのことを多分おっしゃっているのであって,もともとの4のアイデアというのは形成作用を多分問題にしているんだと思うんですね。


先ほど私は判断能力がないというようなことを言ってちょっとそれは撤回いたしますけれども。つまりだれもが交渉を押し切る力を持ってなくて,泥んこになってる状態でどうしたらいいかということじゃないかと思うんです,問題状況は。


そのときに,この33ページの2では処理できないことについて権利関係を新しくつくるのが4の本来のもともとの役割だと思うんですね。先ほど申しましたけれども,だとすると,(注3),(注4)のない乙案というのはもともとそれは非常に広い権限で,しかし,それを縛りましょうというのは先ほどの(注4)でありまして。


それは現行法どおり,対象事項を絞ろうというのは甲案だろうということだと思うんですね。


  ですから,乙案をとっても(注4)のような形で,先ほど事務局から追加で御説明ありましたけれども,なかなかなお硬直的だなという感じが払拭できないものですから,どちらかというのであれはまだ甲案の方が,現行法維持の法がいいのではないかというのが先ほど申し上げた趣旨です。


● はい。なかなか難しいですね。私の個人的な意見は別に言っても,言うのも適当ではないと思いますけれども。先ほど○○委員が挙げられたように,信託財産の管理だけれども,やはり売却しなくちゃいけなくて,そのときに受益権あるいは利害関係人の合意が必ずしも十分にとれない,意見が対立している,そんなようなときにやはり甲案よりは少し広い範囲で判断がもらえるとありがたいことはありがたいですね,裁判所に。

  わかりました。どうぞ。○○幹事。

● 乙案がいいかどうかはわからないんですけれども,甲案の意味がいまひとつよくわからないんですけれども。


ちょっと私が聞き逃しているないしは理解できていないだけなのかもしれませんけれども。甲案というのは受益者の利益に合致しなくなる,なっているというのが前提ですよね。


そして,信託財産の管理方法は変更した方がよいという場合というのは,2の(2)のbで一般的には受託者にいける場合ということなんでしょうか。その変更請求をできる場合ということになるんでしょうか。


  もし仮にそうだとしますと,本当に裁判所の関与が必要になってくるのは,例えば子どもが3人いて経済状態が同じだから月々30万円ずつ給付するというふうになっているときに,1人が大きなけがをしてしまったとか病気になってしまったということを考えて。そうしますと,親がそもそも信託を設定した趣旨というものが子どもに安定した生活を送らせるということにあったというふうにみたときに,10,10,70というふうに変えるというふうな,受益者間の利益が対立する,つまり受益者の利益に適合するようにするのではなくて,信託目的を達成するように,どちらかといえば複数受益者のうちのある種の受益者の利益を犠牲にする場合というときにこそ働くんじゃないかという気がするんですが。


  そうしますと,乙案が難しければそれは仕方がないんですけれども,甲案にそんなに価値があるのかというのがちょっとよくわからないんですけれども。


● 甲案はやはり狭いんでしょうね,そういう意味で。今のように受益者の間の分配を変えるよなんていうのは甲案の枠ではやはりできない。


まさにそういうことが必要だというふうに○○幹事は考えられるとすれば,それは甲案では実現不可能である,だから,乙案だという脈絡なわけですけれども。


● 甲案にそんなに意味があるとは思えないということなんですけれども。

● ですから,これは信託財産の管理方法だけの小規模な何か変更で,しかしこの2の各号といいますか,当事者間の合意あるいは単独で何かできるようなのにはぴったりと当てはまらない,そういう場合を救済するということなんでしょうね。○○幹事はそういうものはもうないんじゃないかと,むしろ……


● ないというか,極めて狭いですよね,2の(2)のbで。


● 大体これが解決できちゃうから余りないんじゃないかというそういう趣旨ですね。


  そういうことも言えるかもしれないし。甲案自体が確かに非常に狭いので,できれば少し拡張したいと思いますけれども。

  何か,どうぞ。

● 私は乙案が難しくなるという,私そういう意図はもともと持っていないんですけれども,しかし,にもかかわらずなんですけれども。


やはり事情変更の原則と違うものだと割り切ってしまえばいいんですけれども,割り切れるのかなというのがずっと引っかかってるもので,あえてなんですけれども。


やはり(注4)で当事者が変更内容を提示して,それがよいか悪いかのみだというのはやはり,先ほど日本の事情変更の原則では余り議論されてないとは言いましたけれども,しかし,当事者がどのような内容に変更しろと言ってるのかに拘束されずに,裁判所としては当該事態において事情変更の原則要件を満たしている限りは適当と考える契約内容を確定できるということは多分,少なくとも日本の今の議論の中では異論がないんじゃないかなと思います。


  ただ,本当にそれでいいのかどうかという段になりますと,私個人的にはちょっと本当にそんな裁判所の後見的な介入を広く認めるのがいいのかどうかという,私個人的には疑問は感じてはいるんですけれども,ただ一般に言われている議論がそのようなものだとしますと,信託に関しては(注4)のようにいくのだというのは何かより積極的な理由が必要になってくるのではないかなと,その理由が本当にあるのだろうか,出せるのだろうかというのがちょっと疑問があります。


  ○○委員がおっしゃいましたように,信託でももちろんそうですけれども,契約はもっとより広いものであっていろいろなシチュエーションが出てくるけれども,一般法理として事情変更の原則そのように認められていてそのように言われていると。


しかし,信託は違うんですよというのはなかなかちょっと言いがたいので。ここで(注4)のようなものを認めるとしますと,何か大きく一歩踏み出すのかなという感じがします。


個人的にはそれもいいのかなと実は思っているところはあるんですけれども,ちょっとそこをしっかり考えてやりませんと影響が大きいかなという気がいたします。何度も同じことで恐縮ですけれども。
  以上です。


● わかりました。これも単なる意見分布,御意見おっしゃらない方もおられると思いますけれども,もしかしたら私のまとめ方が正しくないかもしれませんが,やはり甲案は狭いという認識を持っている人が多いことは多い。


乙案がこのままの形でいいのか,またこの(注4)をくっつけることはかえって理論的にはすっきりしないという御意見も今ありましたけれども。できれば甲案よりは少し広いものが本当は望ましいのではないかという御意見が多いことは多いのではないかというふうに思っております。

  今後,ここではちょっと時間でこればかりやっているわけにもいきませんのてで,甲案よりは少しやはり広げる方向で何とかできないかということで少し検討はしていただくと。


しかし,どうしても裁判所が難しいということになると,拒絶権があるというふうには私思いませんけれども,しかし,理論的な意味で難しいということであればそれは挫折するかもしれませんが,とりあえず少し広めに考えるということで,少し議論は進めさせてください。


● すみません,1点だけ。先ほど私が挙げたような例を考えますと,ちょっと私今慌ててほかのところを見ていて確認できないまま発言するんですが。


54の2の(2)のbの受益者というのは多数決とかで,複数受益者のときに多数決とかで決まる受益者であり,4の受益者というのは単独受益者でいいということですね。

  だから,どうも申しわけございません。

● 54の別のところなんですけれども,1つだけ。これは説明の部分の説明の仕方のお願いなんですが,35ページに極めて非常識な信託行為の定めはというところがございます。それが公序良俗に違反する点はわかるんですが。


その次に,別段の定めに基づいて不合理な変更がなされた場合も公序良俗違反と認定されることもあるというこういう説明なんですが。不合理な変更をするときはむしろ権利濫用になるのではないかなという気がいたします。


公序良俗だけですとかなり限定的な感じがいたしますので,説明だけですけれども,お願いできればと思います。


● そうですね。そっちの方が理論的かもしれません。では,これは改めさせていただきます。
  それでは,今から休憩にいたします。

          (休     憩)

● それでは,変更の点はいずれにせよ重要な問題がたくさんまだ残っておりますので,よろしくお願いします。


  では,○○委員,どうぞ。

● 信託の変更権限を第三者に与えるというその件で,35ページのところですね。これで制限を特に設けることなく与えるというそういう考えが示されていますけれども,最後のところに書いてある「消費者契約法等で対処する」というこの一言で具体的に消費者契約法でどのような対処をすることを考えられたのかをちょっと伺いたい。


● いかがでしょうか。
  今のところすぐ思いつくのは,○○幹事の方が詳しいかもしれないけれども。第三者に非常に広範な権限を与えて,それが……


● 前回というか,前ここ議論になったときに出てきたのが,第三者への一方的な変更権限を与えることで,不当条項にならないかと,ここのことだと思うんですが。


● そうですね,一般的な条文としてはそれしかないでしょうね。

● ええ。それで,この消費者が委託者兼受益者で,その消費者と受託者との信託行為,信託契約,その中に例えば受託者に変更権限を与えるとそういう条項が入っていった場合に,それが消費者契約法を適用されることによって不当条項として無効となることがあり得ると,それはあり得るかなというふうに思います。


● 一般論としてね。
● それとはまた別の形の信託特有の問題として,受益権の転々譲渡ということ,いわゆる金融商品としての受益権というのを考えた場合に,受益権を取得した人というのは信託契約の契約当事者には入っていないので,例えば受託者に一方的な受益権の内容を変更する権限があるというような信託の受益権であった場合に,そのことを知って取得すればそれはそれということになるのかもしれませんが,知って取得するとは限らないと。


そういう場合に,この受益権を取得した人は消費者契約法ではやはり余りぴったり適用できないのか,それとも受益権を取得する契約の中にこの受益権はこういう受益権であるというものがあって,その受益権の内容として受託者が一方的に変更権限を有する受益権であるというのが入っていて,それが消費者契約法,受益権の譲渡契約に消費者契約法が適用されて,それで受益権の内容を一方的に受託者が変更できるという条項だけが,その受益者との関係でだけ無効になるというようなことがあり得るのかどうか。


  そうすると,多分受益者が多数いる場合はちょっと余り混乱して変なことになるし。そういう場合は消費者契約法というのは使えないということになるような気もするんですが,これは消費者契約法に詳しい学者の先生方の御意見を伺いたいんですけれども。

● 契約関係が移転するとかそういう場合の話ですよね。基本的には消費者契約法,いやいや,これも私も余り詳しくないのだけれども,最初の当事者間で一応まず固定して考えて,そこで消費者契約法を適用したときに不当条項になるかどうかによってその後の,もしそこで不当条項だということになればその地位を譲り受けた人間もそれを主張できるというだけじゃないかと思うんですが。


  ですから,実体法的にバラバラになることはなくて,その場合には,ただ,ある受益者は主張しないという場合はあるかもしれない。ある受益者は主張する。


だけれども,当初の関係でもってその契約自体が消費者契約法でいうところの条項が不当条項に当たるかどうかというのを判断するというのが基本なんじゃないでしょうか。どうですか,○○幹事あるいは○○幹事。

● こういうのは質問した方が楽だということで質問なんですが。そうなのかなという今の御説明聞いて思うところなんですけれども,しかし,○○委員が後半の方に言われた受益権の取得契約に,一方が事業者であり他方が消費者であるというような場合に,消費者契約法が適用されないかという多分それは適用されるだろうと思うんですよね。

それ自体はやはり消費者契約ですから。問題は,その場合に受益権という目的物がどういうものであるかということがその信託行為によって定まっていて,その信託行為の中に不当条項に相当するようなものが仮にあったという場合に,これに消費者契約法は適用されないのだということをどうやって説明すればいいのかなというのがちょっとまだ確信持てないもので,私が聞くのはいかがなものかと思うんですが。どうなんでしょうかということですね。ちょっとまだ答え出てないので。


むしろどういう理由があり得るんだろうかということですね。それ自体消費者契約であることは間違いないという場合に。


● 何かありますか,○○幹事。
● 今のお話というのは大もとの受益権のところで不当条項があり,その受益権の中身を規定している信託契約の中に不当条項があり,それが消費者契約法の適用を排除するかどうかという……

● そこは事業者だったような場合ですかね。
● 信託行為そのものが,先ほど言われましたように,消費者契約だという前提でいける場合というのは割とすっといくのかなと思うんですけれども。


そういう論理では仮に難しいというようなことになった場合に,もう1つの論理考えられるというのが○○委員の御指摘で。仮にそれが何か難しいのかなというふうに考えるときに,じゃあ,一体どうして消費者契約であることは間違いないけれども,不当条項規制というのが直接は妥当しないということになるとするならば,それをどう説明すればいいのかなというのがちょっとわからない。

もし説明できないとすると適用されるのかなという気もしてくるということですね。

● どんな例が適当なのかわかりませんけれども,最初の受託者と受益者の間で,受益者というか,自益信託型で,その委託者兼受益者がそれ自体も事業者で受託者に一方的な権限を与えている,しかし,その事業者はそれを販売して受益者に消費者に販売している,例えばそんな場合ですよね。

そうすると,やはりその場合には受益権を販売するという契約は消費者契約で,もう商品の中身といいますか,販売する中身はもう既に決まっているんだけれども,契約はその販売の中身そのものというか,それを移転するという行為ですけれども,やはり消費者契約を適用してその販売の中身の不当な条項は無効になるというふうに考えるんですかね。結論はその方がよさそうな気がしますけれども,ちょっと理論的にまだ。

● その適用をちょっと排除するような理由づけというのが,契約内容そのものは譲渡契約だけであるというふうに本当に言い切れるのかですよね。


商品自体の性状を決定しているものがあるわけであって,このような性質を持った目的物を譲渡するという契約ですから,契約内容は構成しているんじゃないかなという気は……

● そういうふうに考えれば適用される可能性は。

● はい,してくるかという気はして,そうじゃないということをどう言えば言えるだろうということですね。

● はい。そういう意味ではちょっとここでは結論は出ないかもしれませんけれども,消費者契約法がやはり今のような譲渡契約の段階でも適用される可能性はあるのではないかという有力な意見があった。
  どうぞ。

● 今の議論をお聞きしていて,もしこれ受益者の立場で,例えば何かその種の裁判をやらなきゃならないということになった場合には,ちょっとなかなか難しそうかなという気がしていて。もう少しやはり受益権の変更については何らかの手当というのがないと,ちょっと受益者としては……


● 要するに,不当条項で争うよりはもっと信託法の中に制限があった方がありがたいと,そういう御趣旨ですね。


● ええ。まさに変更権を第三者に与えるときに無制限でいいのかどうかというそういう問題だと思いますけれども,ここについて何か御意見ございますでしょうか。○○委員。

● 今変更の内容について制限を設けたらどうかというお話ですけれども。そこの制限というのは事項についてということを多分想定されているんだと思うんですけれども。

そうであるとすると,(注2)のところにありますけれども,基本的に合同運用というものが広く一般に信託で使われておりますけれども,その場合の意思決定といいますか,変更するときの意思決定というのがうまくいかないということになるんじゃないかと思いますので。ここは事項についての制限というのはちょっと見合わせていただきたいなというふうに思っております。

● という御意見がございました。いかがでしょうか。

  こういう限界を設けるときには何か案はございますか。○○委員。

● 先ほども私の意見も消費者契約法だけだと不安だなという前提で制限が一定限度設けられるべきではないかというそういう意見で。その場合の制限としてはやはりこの目的とかそういう基礎的事項として別の項目のところにたしか列挙されていたのがあったと思うんですが,そういったものにしたらどうかなというふうには考えたんですが。どこでしたっけ,ちょっと。

● 取得請求権のところでの対象事項のような制限を設けるということでしょうか。


● そうですか。事務局としてはああいうのは,取得請求権の方で対処できるんだから,ここは無制限でいいんじゃないかということなんですか。


● 結局両方が相関関係にあるわけですよね。取得請求権の方を余り制限しすぎちゃうとここで変更権を全く無制限にして取得請求権も制限されていると,かなり,というそういう選択が最悪の選択かなというふうな懸念があるんですね。


ですから,どこまでカバーできるかという問題とも言えると思います。


● 今説明ありましたように,取得請求権の方では一応一定の配慮をしているということですね。


● 取得請求権の方は事務局としては強行規定でいって配慮しようと思っていますので,その上にかつ信託目的の制限とかあるいは変更の公序良俗違反,あるいは権利濫用であれば排除されるということなども合わせて考えますと,変更の範囲についてまで制限を設ける必要はないのではいかというのが事務局の考えでございます。

● すみません,その取得請求権の方は反対した受益者は請求できるとかそういうのではなくて,特に不利益を受ける人が請求できるというそういう前提のされ方をしていたと思うんですが。


そうなると,前もちょっと話題になりましたけれども,当初方針を変えちゃうというような場合でもとにかくただつき合っていくしかないということになって,投資信託なんかを例に考えると大変困った事態になっちゃうなというそういう心配をしたんですね。

● 反対受益者の取得請求権のところにつきましては,○○委員のおっしゃるとおり,信託目的の変更につきましても受益者が不利益を被る場合に限って取得請求権を認めたらどうかという提案を今まではしておりました。


これにつきましては,次回以降検討する予定でございますが,パブリック・コメントではその不利益を被るという場合に限らず認めるべきではないかというような意見もございましたので,これも踏まえてもう少し信託目的の変更につきましては,例えば重大な変更という形で取得請求を認めた上で,その場合には不利益を被った受益者以外の受益者,一般の受益者につきましても取得請求を認めるという方向もあり得るのかなというふうに今では考えておりまして。その点につきましては今後検討したいと思っております。

● いかがでしょうか。

  これはその取得請求権と密接に関連する問題でありまして,とりあえずといいますか,とりあえずここでは制限をしないという原案でいかしていただいて,取得請求権のところでもしやはり十分ではないということであればまた戻って議論していただくこともあり得るということで先に進ませていただいてよろしいでしょうか。

  それでは,そういうことでお願いします。

  ほかの信託の併合,分割,終了事由,清算で何かありますでしょうか。


● 先ほどの信託の変更との関係なんですが,4の議論のところで甲案の管理方法の変更という意味では狭すぎるというお考えで,それより広げることができるかどうかを今後検討していくというような方向性が示されたところですが。それを前提といたしまして,併合ですとか分割の場面にその規定を準用していくのかどうかというところなんですが,併合分割につきましては,やはり単なる事情変更のような発想とは全く違うものがありまして,信託の構造自体を変えていく,会社でいうところの合併だとか分割みたいな判断をやらなければならないところありますので,やはり簡単にそういったことを併合分割に準用していくということにつきましてはやはり裁判所の判断という意味ではなじまないということと,裁判所としては判断すべきものではないのではないかというふうに考えているところですので,御検討いただければというふうに思っております。


● 1つの信託の中身の変更とほかの信託との問題というのは確かに性質が違うということは十分踏まえた上で,先ほどの○○委員のとりまとめも踏まえつつ,どこまで広げるか,その場合には信託の併合,分割は,しかし,除外すべきかというところは十分留意した上で検討したいと思っております。


● あり得る選択肢ですね,今みたいなのは。

  ほかに,では,まず○○幹事からどうぞ。

● 投資信託についても併合の規定がありませんので日本ではできないということで,これを何とかしてくれという要請がここ数年ずっとメーカーサイドからいただいておるんですね。


投資家サイドではなくて。諸外国で投資信託ファンドの併合というのは,例えば投資家に人気が出なくて規模が小さいままのファンドをたくさん維持するのが大変だから併合しようとか,あるいはパフォーマンスが悪いファンドをいいファンドで埋め合わせようとか,もっぱらと言い切っていいかどうかわかりませんけれども,メーカーの都合で行われるということで,信託一般にこれを広げていいのかどうかわかりませんけれども,金融というものをながめている目からこの話を見ると,受益者による何の関わりもないままに行われるというのはやはり相当に違和感があるということは申し上げておきたいと思います。

● いかがでしょうか,今のような御意見も踏まえまして。

  今の御意見はある意味で受益者の利益のためになるようなものはいいかもしれないけれども,受託者のむしろ都合というか効率性とかそういうことでもって合併するのは適当ではていと,そんなことですかね。


● 投資信託の話をどこまで一般化できるかわかりませんけれども,商品として失敗したようなものを併合するというニーズが別に悪いとは申し上げない,それはそういうニーズがあると思うんですけれども,そうであれば当然受益者集会がいいのかその他のガバナンスの方法がいいのかわかりませんけれども,受益者の意思と無関係にメーカーの都合で併合分割が行われるということが私の常識ではちょっと考えにくいというそういう意味で申し上げました。


● 提案させていただいております案におきましては基本的には多数決原理だって別に信託行為の定めがないと適用になるものではございませんで,原則54の1と同じように委託者,受益者及び受託者の合意により行うことができるということでございまして,多数決原理が書いてなければ受益者全員の同意がないとできないというのが出発点になっているわけでございます。

  それで,2で,(1)で信託の目的に反しないことや受益者の利益に適合することが明らかであるとき等々の要件を満たしたときに受益者の関与が一定限度外れるということだけでございまして,別に受益者の利益を無視したままできるようにするという立て付けにはしていないわけでございます。


  このような手当は必要となると考えられます1つの例としまして,例えばそれこそ会社でいうところの簡易合併とかいったようなくじらがめだかを飲み込むような信託の併合のときに,くじら側信託の受益者の全員の同意を一律にとらなければいけないということが果たして受益者,皆さんの便益にかなうのだろうかというと,そういうことではないのではないかということでございます。

  それから,米国におきましてはむしろ我々よりもさらに進みまして,もちろん受託者の義務つきという前提でありますけれども,併合などにつきましても受託者の裁量でできるというようになっているというふうに理解しておりますので,それを踏まえますと私どもの方が,そういう言い方が適当がどうかわかりませんが,適時適切に皆様方の利害に配慮した規定になっているのではないかというふうに考えているところであります。

● ほかにいかがでしょうか。合併だけではなくて分割も含めて。
  ○○幹事。

● 清算ですが。質問です。第58の清算を本日の最初の方での話題になった第51と関係させてお伺いしたい点がございます。第51は甲案,乙案一定の方向性,○○委員から示されましたが,まだ両方の可能性残っていようかと思いますので,それぞれとの関係で事務局に御説明をいただけるとありがたいと思います。

もし甲案をとった場合,第51で甲案をとった場合ですが,第58で2の(1)のbのところで,信託財産に属する債務の弁済というのがありますが,ここでは第58ではひとくくりになっているけれども,この中に第51が埋め込まれて,甲案に従ってまず信託債権に弁済が行われ,そしてその後受益債権に行うべしと,そういうふうに読むのだろうかということが質問です。


  そしてもう1つは,どこで読んだらいいんでしょうか,第58の2の(1)のc,そして3,それから4のあたりを組み合わせることになると思いますが。残余財産の帰属についても,本来の帰属権利者と,それから残余財産受益者というのが2通りありますが,この受益者の方に着目したときには,残余財産受益者とそうではない一般の受益者との関係は清算の局面においては3のところで結局弁済の順序がつけられていると。


同じ,広くいうと受益者になるけれども,残余財産受益者と一般の受益者はここでは弁済の順序がつけられているので,それは第51のような規律を考えるならば,書いてくださいという趣旨ではないんですけれども,残余財産受益債権はその他の一般の受益債権に劣後すると,そういうものがあると考えたらいいのかどうかということです。2つ目
  

それから,次に乙案の方ですが,もし乙案に立った場合には,第58の2の(1)のbでは,信託財産に属する債務の弁済というのは受益債権であろうが信託債権であろうが同じなので,まさにこの58の2の(1)のbのとおり,中は区分けせずに弁済をしていくというふうに考えていいのか。


  そして,もう1つは,甲案をとったときの2つ目の質問と並ぶものになりますが,2の(1)のc,それから3,それから4の(1)のbというあたりを組み合わせて出てくるところですが。


いわゆる残余財産,受益者が持っている残余財産の給付を内容とする受益債権について着目するならば,この受益債権については第51の乙案をとったとしても信託債権に劣後すると。


ここでは順序で定めていますが,実体法の優先劣後の関係におき直すことができて,第51のところの乙案をとっても同順位とすると,これでいいですが,書くとするならばですね,ただし,残余財産受益者が有する受益債権については信託債権及び残余財産受益者が有する受益債権以外の受益債権に劣後するとそういうふうに考えていいのでしょうかということをお伺いできればと思います。


● まず,甲案の方を前提としますと,2の(1)のbのところでいうところの信託財産に属する債務,これは本当は2つに分けられて,時期的前後関係からいくとまず信託債権を払って,その後受益債権にいきますということになるんじゃないかという御質問だと思いますが,それはそのとおりでございます。


  他方,乙案の方についてもおっしゃったとおりでございまして,乙案をとれば恐らく同時期にどんどん払ってくださいというような一応の順序になるだろうということかと思います。


  それから,甲案をとった場合の残余財産との関係ですね,特に残余財産受益者というのを今回新しく作っておりますけれども,そちらとの関係で順位が違うという表現をどういう意味にとらえるかということかと思うんですけれども,一等第51のところはまさに優先順位,つまり執行手続などにおいてどの順序で分配するかというような話ですので,普通は一般債権同士であれば同順位,それで優先権のある債権になっていますとその上にいってというような,その局面でいわれるところの順位を問題にしておるつもりでございまして。

  恐らく先ほど○○幹事がおっしゃったところというのは,私の理解ですと,むしろ受益者に対する給付内容の違いであって,つまり残余財産受益者に対する給付の内容というのはすべての信託の終了が生じて,そのときにabcという職務を行うと。


その職務が行った結果,残った残余財産といわれるそういうものがあって,その給付を受けるというのがこの受益者の受益債権の給付内容なんだという整理でございまして。


そうしたときに,じゃあ,甲案で劣後という必要があるかどうかというのは余り言ってもしょうがないというか,全部終わっちゃった後のはずですねということではあるんですけれども,劣後しているといってもいいのかもしれないという気がしておるところでして。


● 私なりに今の○○関係官の説明で理解できたところを申し上げると,経済的には優先劣後ということで,私が最初に申し上げたように並べることができるけれども,それを支えている法律構成が第51の考え方と第58の残余財産関係のところとが違って,残余財産関係の方は額面がなくて,要するに残ったものなんだと。であるがゆえに劣後するんだと,経済的にはという御説明になるわけですね。

● まさにおっしゃるとおりでございまして。
● わかりました。


● 受益権の優先劣後をいろいろな形でつけるところあると思いますけれども,そういうときも恐らくその停止条件構成といいますか,そういう構成したりすると思いますけれども,それと同じようなことで考えればいいんじゃないかと。


● わかりました。
● よろしいですか。

  ほかにいかがでしょうか。○○幹事。

● 終了のところで教えていただきたいところが,細部にわたりまして恐縮なんですけれども。57の(注1)ですね,44ページの(3)で書かれている点なんですけれども。会社法824条に準じた規律を設けるとするのが相当であると。


濫用防止というのはやはり非常に重要になってくるというのは全くそのとおりだろうというふうに考えておるのですが,具体的なルールのイメージについて教えていただきたいと思っておりまして,824条ですと裁判所による解散命令という形ですので,恐らく裁判所による信託の終了命令というのが3本立てでつくと,濫用目的での設定,それから設定後の濫用的運用,もう1つは実体がないというようなタイプなのかと思うのですが。


それらについて適用されるべきものだというふうに説明されているのですが,そういうふうな裁判所による終了命令という構成を考えるということでよろしいのかということと
  

もう1つ,信託の濫用目的での設定ということになりますと,そもそも無効ではないのかという気がするものですから,有効とした上で終了というふうにかけていくというのが果たして適切なのか,あるいは無効との関係どうなるのか,会社法ですと設立の無効について期間制限等もあるようですので,そういうこととの関係もあるのかなという気がしておりますので。特に当初からそういう濫用目的で設定されている場合の無効との関係について教えていただければと思います。

● まず,手続がどうなるかということですけれども,基本的には事務局としては会社法にそろって同じような機能を果たすべきものだと思っておりますので,裁判所への申立てというのが一番ありそうかなという感じで考えております。


  それから,濫用目的である場合に,会社の設立と違って契約でありますので信託でそういうような要件で終了命令を入れるのがどうかというようなお話かと思うんですけれども。


考えられる事例といたしますと,普通は委託者と受託者双方が濫用目的についてよく知っているということが一番ありそうで,そういう場合は公序良俗ではねられる可能性が非常に高いんだろうと思うんですけれども。


またそれと信託を使ったマネー・ローンダリングといいますか,そういうようなことを考えますと,受託者も余りよく知らないということもありそうな気がいたしまして,あるいは委託者と受益者はよく知っているけれども,受託者はよく知らないというようなことがあるのかと。


そうすると,そういった事例に対処するためにその設定者,委託者の意思を問題,委託者だけの意思を問題にするというようなところで何か差がつくのかなというようなことを少し考えておりまして。


ただ,もしそれが一般の公序良俗との関係でそういう議論はちょっとおかしいんじゃないかということがあれば,恐らくは設定段階というよりもその後の使われ方に着目して終了させるというのが基本的な機能になるのかなというような気がいたします。

● よろしいでしょうか。何かどうぞ。
● いえ,御説明はわかりました。何となく脱法ですとか動機の不法ですとかそういうもので,かつ今の例ですと,受託者は本来余り利害関係を持たない,実質的な利害関係を持たないのだとなると,そもそも終了命令になると前提としてそういうのが有効であるということが前提になってしまうのかなというのが気になったものですから。問題関心だけお伝えします。


● 最初から有効じゃないという方がすっきりしてるということでしょうね。

● そうですね,そんな感じがちょっとすることはするのですけれども。

● 舌足らずだったのかもしれないですけれども,恐らく双方の当事者の意思なんかが公序良俗の判断の中では忖度される部分が相当あるのかなということで,受託者が知らないときにちょっと公序良俗で無効とはしにくいと,ただ相当悪質な目的で使われているということなので,そこはまた別な配慮でというようなことがあり得るのかなという,そういうことです。


つまり,ちょっと有効といわざるを得ないんだけれども,設定時の不法な目的あるいは実際の使われ方も不法になっているんだろうとは思うんですけれども,それで終了させるというような位置づけで考えられないかなということなんですが。

● とりあえずはよろしいですか。はい。
  ほかにいかがでしょうか。どうぞ,○○委員。


● 第57の1のc,また58条リスクのことを申し上げますけれども。いわゆる証券化,流動化における解除リスクというのを排除したいという中でいろいろ議論がなされて検討されたということでございますけれども。

この新たに出てきました第57の1のcの文言を見ると,若干以前の議論,つまり試案に書かれている議論と,それから委託者の云々ということでこの本資料においても43ページのところの(2)のところで書かれていることとちょっと整合性がないのではないのかなというようなことがありまして,ちょっとその趣旨の御質問と,もしできるならば御配慮いただきたいということで申し上げたいと思います。


58条リスクというのは特にファイナンス目的の場合には信託は壊れないという期待をもって当初もそういう期待を,受益者も当初はそういうスキームの中で投資家が集まって,またその利害関係人と債権者も含む利害関係人もそのスキームに加わると。


そこでそういう予測可能性のもとにリスクが明確になってバランスがとれてビジネスができるという,そういう文脈だと思います。

  現に例えば試案の補足説明でも証券化,流動化目的の信託では中途で信託が終了することは関係当事者に大きな不利益を生じるのが通常であるため云々ということで,関係当事者ということも2つ目には書いてるわけですので,当初の受益者の期待と,それからごめんなさい,ちょっと話を戻しますけれども。


その当時,おかしくなってからの受益者ということと状況が違ってきたとしても,事情が変更があってその当時において受益者の利益にかなうとしても,やはり当初の受益者の利益のために成立したスキームであれば,事情の変更後の場合で当該受益者に対して仮に確かに受益者のためになるんだろうかと思ったとしても,やはりそこはそれだけを忖度して終了とすべきだというふうに考えるのはちょっとやりすぎなのかなというふうに思っています。

  また加えて,ちょっと戻りますけれども,補足説明のところで,関係当事者への配慮というのが書いてあります。


そこはさっき申し上げたところですけれども,いわゆる信託債権者とかも含む関係当事者の不利益がないように組み立てられているわけですから,そこの利害関係も含めて合わせ勘案して終了させることが妥当かどうかということを考えるべきだと思います。


現にまた43ページのところで,繰り返しになりますけれども,中ほどに書いてあるのは,中途で信託を終了することはその他関係当事者にとっては大きな不利益を生じることが通常であるから云々と書いてあるわけですので。


そういう意味で終了させるときに考えるべき事情というのは,この原案の文言だけを見ますと,受益者の利益に適合することが明らかである場合というふうに書いていますが,そうではなくて,やはり当初の受益者を含む利害関係人の利益関係を含んで全体的に見て判断すべきだというふうに思っているわけです。

  そうすると,1つの考え方としては,批判はあるところかもしれませんが,試案の考え方の方がいいのかなとも思うわけなんですけれども,その点いかがでしょうか。

● 試案の考え方というか,試案で懸念していた,あるいは達成しようとしていたことを変更しようというふうに事務局が思っていないということはもちろん重々御承知で,問題は書き方あるいは読み方の問題なのかなという気がしておりまして。


事務局も当然ながら信託の目的あるいは信託の本質といったような契約,最初の信託契約締結時の諸事情に照らして受益者の利益というふうに言っていいのかどうか,そういうところからこの照らして云々というような文言を入れているところでして。


  つまり,受益者の利益と裸で言うと恐らく裁判時点における受益者にとっての経済的利益とかそういうことだけで判断されそうなんだけれども,そういったような受益者の利益ではなくて,信託の目的なのか,あるいは契約締結時の事情などに照らして縛られた中での受益者の利益なんだと。


つまり,ファイナンス目的であれば自分のことだけ考えて中途で終了してしまえば,今取り分が多いと,そういうのは信託において受益者の利益と,信託における受益者の利益として認められているものではないんだと。


理解としてはそういう理解で。問題はそれをどういうふうに文言に落とすかというところだと思うんですけれども。そのあたりの考え方を目的に照らしたところでの受益者の利益なんだ,あるいは受益者の利益に適合すると目的に照らしてもいえる,そういう場合であればというのはまさに今申し上げたような趣旨でして。


  あとは,この書き方だと,ちょっとそのあたりの趣旨がよくわからない,あるいはそのあたりについてはよく解説なんかで処置してくれというような話なのかもわかりませんけれども,考えていることは試案の段階からさして変わってはいなくて,あとはその表現の問題なのかなと。あるいは事務局はそういうつもりで表現を変更してみましたということでございます。

● 今さっきの○○関係官の話であれば理解できました。要は,当初の受益者を含む関係当事者も含む広い意味での受益者の利益を考えるという話なんですが。


ただ,繰り返しになりますけれども,お願いとすればやはりちょっとこの文言だけで法文化になってしまうと,多分誤解が出てきますので,そこら辺はこの趣旨が明確になるように条文等には御配慮いただきたいと思います。


● はい。そういう意味では先ほどの事務局からの説明の繰り返しですけれども,裁判時の受益者の利益だけを考えるものではないと。ただ,若干どこまで広がって入ってくるのかというのはもしかすると微妙に○○委員の意見と同じではないのかもしれませんけれども,いずれにせよこれはこういうふうに限定するものではないので,文言でうまくあらわすことができれば検討してもらうということにいたしましょう。

  それでは,ほかにいかがでございますしょうか。よろしゅうございますか。

  この42ページ,信託の終了のところの(注3)のところが,「なお検討する」というふうになっておりまして,これももし御意見があれば伺いたいと思いますが。信託の終了事由の対抗について。

民法の規定を参考にして整備するかどうかということですけれども。いかがでしょうか。


  では,これは直ちには御意見がないかもしれませんので,御意見をお寄せいただければ子細検討いたしますけれども,一応事務局の方に任せていただけるということでよろしいでしょうか。


  それでは,終了,変更から清算までいろいろ御意見いただきました。必ずしも皆さんの御意見すべてをうまく取り入れることができるかどうかはわかりませんけれども,大体のところは御承認いただいたというふうに考えます。


個別にまた異なる御意見をお持ちの方もおられるかもしれませんけれども,それもできるだけ配慮するよな形でまとめていきたいと考えます。


  それでは,ここまでは終了させていただいたことにさせていただいて。次に,本日の問題。


● では,本日の資料に基づきまして,まず最初に忠実義務とその違反の効果と,この2つにつきまして御議論をいただきたいと思います。資料でいうと2ページからになります。


  概要を説明いたしますと,まず忠実義務の提案1でございますが,パブコメでは受託者の忠実義務について総則的な規定を設け,これを効力規定とするという試案の考え方については賛成意見が大多数を占めておりますので,以下個別的な意見に対する検討の結果について御説明いたします。


  まず,資料4ページのアというとおり,そもそも忠実義務は強行規定とすべきであるという意見がございますしたが,受益者の利益の保護と私的自治の尊重の観点から受託者の忠実義務は任意規定とするのが相当と考えるものでございます。


  次に,イのとおり,提案1について禁止対象と例外規定を明確化すべきであるとの意見が複数ございました。


しかし,まず,提案1で総則的な規定を設けておりますのは,受託者の忠実義務違反として具体的に想定される行為類型といいますのが提案2以降でほぼ網羅しているとは思われますものの,なおこれ以外に違反行為はないと断言することもできないという理由もございます。


したがいまして,提案1の対象となる行為類型をさらに具体化するということは困難である上に相当でもないと考えるものでございます。


  また,ここでの「忠実」というのは,提案2以下の利益相反行為のように形式的に判断されるべきものとは異なりまして,実質的に判断されるべき概念であると考えておりますので,問題となっている行為について信託行為で許容されている場合ですとか,受益者の承認がある場合などにおきましては,あえて例外規定を設けるまでもなくここの「忠実」義務に違反していないと評価することができると思っております。

  つまり,例外規定を設けますのは,利益相反行為など忠実義務違反行為の該当性を一たん形式的に判断した上で実質的に違法性がない場合を救済するためでありますので,そもそも忠実義務違反性を実質的に判断することとしている提案1に関しては例外規定を設ける必要はないと考えるものでございます。


  それから,ウでございますが,忠実義務を一切免除することはできないことを明らかにすすべきであるとの意見がございました。

しかし,この①,②で記載しましたとおり,あえて画一的な規定を設けるよりも信託を設定した当事者の意思の合理的な解釈によって適切な解決を導くことができると思われます。


  また,③に記載しましたとおり,具体的な違反類型を定めた提案2以降におきましても相当程度特性された行為を信託行為の定めで許容していれば禁止の例外を認めるということから推論いたしますと,提案1に関しましても相当程度特定された行為を許容していれば禁止の例外が認められる反面,包括的な免除規定は許容されないということが含意されているといえます。


  したがいまして,意見のような特段の規定は要しないものと考えております。

  次に,提案2の利益相反行為の禁止でございますが,受託者と受益者の利益が形式的に相反する行為を広く禁止の対象とした上で例外要件を求めるという試案の考え方自体については賛成の意見のみが占めております。


  その上で試案の考え方の一部に対する反対意見なども踏まえまして,提案内容の一部を変更しております。まず,提案2の考え方でございますが,2の(1)で受益者の利益を受託者が害する恐れが高い,いわばより悪性の強い行為類型といたしまして,受託者が単独で行い得る行為,すなわちアとイと,それから受託者と受益者の利益が相反する行為,すなわちウでございますが,これらを取り上げた上で(2)で例外要件を定めているといういうものでございます。


  まず,個別的な意見のうち5ページのアのところにございますが,信託財産間取引については受託者の主観的意図を問うことなく客観的に利益相反性を判断すべきであるという意見がございました。


この意見は直接的には提案本文の(1)のイの①に関するものでございますが,この②も含めまして,これらの行為は民法108条の双方代理に類似するものでございますので,この意見のとおり受託者の主観を問うことなく利益相反性を判断すべきものと考えております。


この点は試案では明示しておりませんが,それまでの審議を含め,試案でも同じように解していたところでございます。

  次に,5ページのイに関しますが,試案では受託者と第三者がする取引でありまして,かつ受益者の利益と第三者の利益とが相反するもの,例えば信託財産を外部に売却する場合については,「受託者が受益者の利益を犠牲にして第三者の利益を図る目的」がある場合に限り利益相反行為になるものとしておりました。


しかし,これに対しましては,利益相反行為となるか否かは客観的な基準によって判断すべきであるとの意見が複数示されました。


  そこでこの提案におきましては,受託者と第三者がするいわば外部取引につきましては,利益相反行為に該当するか否かの判断基準から受託者の主観的目的要件を外しますとともに,利益相反行為となる行為類型はを受益者を害する恐れが高い場合に限定するために,次の2類型に絞っております。

  1つは,受託者,または経済的に受託者と同視し得る例えば子どもですとか妻ですとかそういう者と受益者との利益が相反する場合,すなわちウの場合,間接取引のウの場合のみが忠実義務の問題となるといたしまして,先ほど言いましたように,受託者が第三者と取引をして第三者の利益のもとに受益者に損害を与える場合。


受益者と第三者との利益が相反する場合,例えば,信託財産を外部に安く売ってしまったというような場合につきましては,忠実義務ではなくて善管注意義務違反の問題となるにすぎないものとして整理を改めているところでございます。


  それから,次に6ページのウでございますが,利益相反行為の例外に関しまして,試案におきましては,「受益者の利益を害しないことが明らかであって,かつ受託者がその行為をすることについて合理的な必要性が認められるとき」というのを挙げておりました。


これにつきまして,本案では,提案本文にありますとおり,信託目的,行為の性質,受託者の事情,受益者側の事情など,より幅広い事情を総合的に考慮するとの要件に改めているところでございます。


  また,試案におきましては,受益者の承認を例外要件として挙げておりましたが,この提案では(2)の②というところにございますとおり,共同受託の場合で他の受託者がいる場合にはその他の受託者の承認をもって受益者の承認に代えることとしているわけでございます。受託者がいる以上は受益者は前面に出てこないという発想でございます。

  それから,7ページのエでございますけれども,受益権に係る取引については利益相反行為の禁止に該当すると考える必要はないという意見がございました。


事務局でも基本的にはその方向性でいいのではないかと思っておりますが,御意見があれば伺いたいと思っております。


  次に,提案3の競合取引の禁止でございますが,規定を設けること自体については賛成意見が大多数を占めております。


もっとも試案では受託者の固有財産による取引の機会を不当に奪うことがないように,競合行為が禁止されるのは受託者に受益者の利益を犠牲にして受託者または第三者の利益を図る目的がある場合に限られることとしておりました。


しかし,この点につきましても,競合行為となるか否かは客観的な基準によって判断されるべきであるとの意見が複数示されております。


  そこで,この競合行為の禁止につきましては,甲案と乙案の2案を資料2ページ,3ページにありますとおり示しております。


  甲案といいますのは,基本的に試案の考え方を維持いたしまして,受託者が自己または第三者の利益を図る目的をもって競合取引をする場合に限って禁止の対象とするものでございます。このように主観的要件を付加いたしますのは,会社が営む一定の事業の部類についてのみの競業を避ければよい取締役の場合と異なりまして,受託者の場合には固有財産で行い得る行為との競合が広範に及ぶということがあり得ますことからしますと,取締役の競業避止義務のように客観的基準のみによって違反性を判断するときには,禁止されるべき競合行為の範囲をしかるべく限定することができず,過剰な規制に陥る恐れが懸念されるということからでございます。

そこで,主観的要件を付加することによりまして,競合取引の禁止の対象を合理的な範囲に制限しようとしております。

  これに対しまして,乙案といいますのは,パブリック・コメントの意見を入れて試案を改めまして,受託者の主観的要件を排除し,受託者が「信託事務処理として行うべきであった取引を自己または第三者の計算で行った」か否かを客観的,形式的に判断しようとするものであります。


もっとも,乙案の場合には甲案に比しまして,受託者が固有財産で行う取引が広く禁止の対象となりかねませんので,提案本文の(2)①の②の例外に加えて,3ページにアンダーラインが引いてあります③の例外もこの乙案の場合には加えることが不可欠になってくると考えております。


  それから,提案4の利益取得行為の禁止につきましては,パブリック・コメントの結果では甲案と丙案にそれぞれ極めて多数の支持が集まりましたが,規定を設けないとする丙案がやや優勢でございました。


それぞれの意見の概要は,資料の9ページから10ページのところに示させていただいているところでございます。


  この点につきましてはパブリック・コメントの結果なども踏まえまして,いかなる考えをとるべきか御審議願いたいと思っております。

  次に,忠実義務違反の効果の方でございますが,試案に対しましては,いわゆる利益吐き出し責任の部分を除きまして,次の指摘以外は賛成意見が占めております。


その指摘といいますのは,信託財産間取引については各信託の受益者の利益を考慮する必要があるから,受益者の善意,悪意を問わず一律に無効との取扱いをすべきではないという意見が複数示されていたところでございます。


しかし,これには事務局としては反対でございまして,やはり信託財産間取引というのは,自己取引と同様に,受託者が単独で行い得る行為で,典型的な忠実義務違反行為の一類型でありますので,これを無効とすることがこのような行為の抑止につながると思われますし,また信託行為の定めや受益者の承認がある場合はもちろん,「信託の目的,その行為の性質及び態様,その行為をするに至った経緯その他の事情に照らして受託者がその行為をすることについて正当な理由があるとき」という要件に該当すれば無効とはならないのでありますから,必ずしも受益者が不測の損害を被るというわけではないと考えられます。


  そこで,やはり受託者内部で行われる利益相反行為の危険性に鑑みまして,試案のとおり,例外事由に該当しない限り無効と解することが相当と思っております。


  次に,提案4に関係します利益吐き出し責任につきましては,甲案の支持する見解と乙案を支持する見解が相半ばしたほか,そもそも何ら規定を設けるべきではないという意見も12ページの上に示したとおり6件ほどございました。


それぞれの意見の概要はここに○で記しているところでございます。

  このパブリック・コメントの結果を踏まえまして,いかなる考え方をとるべきであるか。仮に甲案によったとしても,その規律の対象を会社法と同様に競合取引に限るべきか,それとも利益相反行為にも及ぼすべきかなど全般につきまして御議論をお願いしたいと思っております。

  以上でございます。

● それでは,重要な忠実義務の部分でございますが,これについて御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。

  では,○○幹事からどうぞ。

● 忠実義務の中の主に3と4項について意見を述べさせていただきます。
  この3については甲案,乙案並立されておりますけれども,甲案ではやはり主観的要件がこの許容される行為と許容されない行為を切り分ける基準ということになっておりますので,受益者がこの目的を立証するということはかなり困難だろうというふうに思われます。


こうした観点からすると,甲案にはかなり難点があるのではないかというふうに考えております。


  先の部会の中でも,こうした忠実義務違反等の問題については,私的エンフォースメントの観点から適正な規律をという御意見もあったかと思いますけれども,そうした観点からもこの甲案というのはやはり難点があるのではないかというふうに考えております。


  これに対して乙案ですけれども,乙案は今回新たに御提案いただいた中身で,この忠実義務違反の行為をまずは形式的,客観的な基準によって切り分けようということですので,こういった形であれば比較的受益者の立場から問題提起をする,責任を追求していくといったことを甲案に比べるとできやすいのかなという印象を受けております。


  他方で,この考え方というのは恐らく例外事例,③のところで実質的には適正な行為をどう切り分けようという御発想かと思うんですけれども。


この規律の仕方を,表現の仕方を拝見しますと,恐らくこれについては受託者の側でこの正当な理由であるかどうかということを立証せよというような前提になっているかと思うんですけれども,こういった規律のあり方であれば,信託においては本来受託者が情報を基本的に持っていて,受託者がその受益者に対して情報提供義務を負っているというような構造からしても,それを訴訟上の立証責任の分配ということに引きつけて考えますと,そうした立証責任の分配という観点からも合理性があるように思われます。


  それから,この乙案については,アメリカの統一信託法典の条項を拝見しますと,基本的にこういったような形での規律がされているようにお見受けしますけれども,もしそういった形で米国との法律との平仄といいますか,海外でもこういった立法事例があるということであれば,国際化という観点にもかなうものではないかというふうに思います。


  それから,4についてなんですけれども,これはちょっとなかなか意見を申し上げるのがちょっと微妙な問題もあるんですが。


基本的には甲案の考え方を支持したいというふうに考えています。ただ,甲案に対する批判意見を拝見しますと,若干甲案の中身といいますか,禁止される対象というものをもう少し整理する必要があるのかという印象を受けております。


禁止される行為が利益を生み出した行為自体なのか,それとも利益を信託財産ではなく保有財産に帰属させた行為なのかといったことがややちょっと意識的にもう少し整理されてもいいのではないかというふうな気がしております。


  例えば従前の議論の中では土地を更地として管理すべきことを依頼された受託者が,その上に店舗を立てて商売をして収益をあげてしまったというような事例ですかと。


あるいは不動産を売却した受託者が購入した相手方から自動車が収受した場合というような例が挙げられておりましたけれども,こういった例を見たときに例えば前者の例ですと,土地の上に店舗を立てて収益をあげる行為をこの忠実義務違反の規律として規制するのか,あるいはそれとも収益を自己のもとに帰属させた行為を忠実義務違反としてとらえるのかと,そういった2つの局面といいますか,側面というのがあり得るように思われます。


後者の自動車の収受の場合についても,自動車の収受が問題なのか,それともそれを自己の財産に帰属させたことが問題なのかといった整理の仕方というのがあり得るのではないかと。


  そういうふうに考えますと,前者の問題,つまり例えば建物を立てるですとか,自動車をもらった行為自体はむしろ善管注意義務の問題として整理をして,自己に帰属させた行為を忠実義務違反として整理することも可能なのではないかというふうに思われます。こうした観点から,この甲案を整理することができないかというのが,というふうに考えております。


  それから,甲案への批判的意見としては,今のように考えますと,結局それは利益相反の問題ではないかと,2項ですか,の問題ではないかというような意見があるいはあり得るかと思うんですけれども。


やはり自己取引の場面と今の場面というのは恐らく違ってくるだろうと思われますので,そういった観点からするとやはり独立に利益取得行為をきちんとした規定を置くということは大事なことではないかというふうに思います。


  それから,もう1点,この甲案の支持する意見の中では,この要件の中に不当な利益を取得する行為という文言に対して,「不当な」という限定は必要ないのではないかというような意見が,これは○○でしたでしょうか,出されているかと思います。


本来の信託財産を利用した利益の帰属からすると,基本的にはやはりこれは信託財産に帰属させるべきであるということが本筋であるというふうに思われますので,この「不当な」という限定を除くというのは検討されてよい考え方なのではないかというふうに思われます。


  そうした場合には,さらに,それではいかなる場合にも自己の利益に帰属させることはできないのかといった議論があるいはあるのではないかと思います。


この場合には,私は必ずしも現段階ではそうするのがいいと思っているわけではないんですけれども,例えば先ほどの3項の競合取引の禁止のところの(2)の3のような規定をあるいはむしろ例外規定として設けるというようなことも選択肢としてはあり得るのではないかというふうに思われます。


  基本的には以上のようなことで,3の競合取引の禁止については乙案,それから4の方については若干ちょっと留保付きではありますけれども,甲案を支持したいと思います。
  以上です。

● どうもありがとうございました。いろいろ難しい問題を提起するところでございますけれども,できるだけ多くの方に御意見いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

  ○○委員,お願いします。

● 何点かありますので,続けてお聞きしたいと思います。

  まず,19の1のところの一般規定でございますけれども,これにつきましては前回の要綱試案のところと変わっておりまして,補足説明を見ますと,忠実義務というのは基本的に任意規定だという記載がございますので,任意規定であるのであれば前回の要綱試案と同様に信託行為の定めに従いという形のものがあってもいいのではないかなというふうに考えております。


私どもの方の営業信託で考えますと,基本的には信託契約というのが基本ですので,信託契約の定めに従ってやっていればそれは大丈夫だろうというところが非常に強くございますので,そういう形の規律を入れていただければなというふうに思います。


  次に,2の利益相反行為のところの(1)のウのところです。これは第三者との間における利益相反行為,間接行為の部分と思うんですけれども,ここについては基本的には自己との利益相反行為のみであるということと。


あと,信託財産に関して,ここには担保設定とか書いていますけれども,信託財産に関して行うものに限定されているのか否かということをお聞きしたいということであります。


  次に,2の(2)の②,複数受託者の場合の例外規定なんですけれども。先ほど複数の受託者の場合については他の受託者の承認を得れば受益者の承認を得る必要がないといことでしたけれども,逆に受益者の承認があればそれはそれでいいのではないかと思いまして。

これ両方ともいいですよというのであればいいんですけれども,受益者の承認があってもだめだというのはちょっとおかしいのではないかなと思いますので,ここは受益者の承認があってもいいという形にしていただければなというふうに思います。


  それと,次に2の(2)の③のところでございます。ここの部分につきましては,要綱試案では受益者の利益を害しないことが明らかであって,かつ受託者がその行為をすることについて合理的な必要性が認められるときというところから比較いたしまして,極めて実務的に落として考えますと,信託目的のほかいろいろなファクターを勘案しながら受託者というのは判断してきますので,ここの部分については非常に実務に則した形の規定になったなというふうに考えております。ここについては積極的に賛成したいというふうに思います。


  続きまして,3の(1)の競合行為でございますけれども,これは以前から申し上げているように,競合行為といいますのは,信託銀行といいますのはもう本当に何回も申し上げますけれども,信託業務と銀行業務,その他いろいろな業務をやっておりますので,象徴的に言えますのは,信託勘定と銀行勘定の両方から貸出している場合というのも非常に多うございます。


そういうことを考えますと,非常に日常的な形の事務でございますので,これを厳しく規制されますともう身動きがとれないということでありますので,ここにつきましては主観的要件による限定がかかってきます甲案,これ前回と同じような考え方と思いますけれども,甲案の方を支持したいというふうに思います。

  4番のところにつきましても,実はちょっと別の研究会でこういう忠実義務のところの契約書の検討をやったわけですけれども,そのときにこの利益取得行為とかというのをどういう形であらわしたら忠実義務違反にならないのだろうというふうに検討いたしましたが,やはりこれは全部書いていくしかないのかなということで,そういう観点からしますと,要するに間接的な取引でどこでどういう形の収益が得ているかというのがわかりませんのが,全然これ普通の銀行業務または併営業務等をやっている中で得ている収益,そういうものがございますので,ここについてはかなり限定的にしていただかないと困るということで,基本的には丙案というふうなものを支持したいというふうに考えております。


  それと,最後に,例の利益吐き出しのところでございますが,これはもう今まで何回も議論がありまして,特に象徴的に書いていただいていますのは,12ページのところの部分で忠実義務違反の行為につきましては,まず無効ということが主張できますと。


それと,介入権的権利がありますということと,あとは物上代位みたいなものも当然あるということですので。


私が考えるに,これでやはりほとんど満たされるのではないかなと思います。それにプラスアルファーで利益吐出し責任というのをわざわざ入れる必要性というのがないのではないかなと思います。


  前回,先ほど○○幹事の方からもお話ありましたけれども,普通の更地の上に建物を立てて営業をして収益を得ると,こういうのはすごく希有なケースであって,こういうケースまでも勘案しながらこれが利益取得だからとか,これは利益を吐き出すんだと,こういう形のことまでは考えることもないのかな。


これについても,例えば先ほどの無効であるという主張であるとか,物権的な形の主張というのが十分でき得るのではないかなと。


当然損害賠償という形でもできると思いますので,これについては利益吐き出しのところの部分についても甲案,乙案ではなくて,こういう規律はなしということでやっていただければなというふうに考えております。

  以上でございます。
● ほかにいかがでしょうか。


● 忠実義務についてでございますけれども,恐らくこれ先ほどお話ししました信託法と信託業法とのパラレルの関係のところでの1つでございまして,1点ちょっとまずファクトの御説明からいたしますと。


私ども信託業法28条の方に忠実義務の規定を入れさせていただいておりまして,これは法令及び信託の本旨に従い信託財産に係る受益者のため忠実に信託業務を行わなければならないという規定になっておりまして。


この規定が入った趣旨は,やはりプロである信託会社と一般投資家との間の情報量,交渉力の格差ということを留意するとともに,私どもどちらかというと委託者,一般投資家である委託者,受益者を保護するという観点がございまして,そこでかなり忠実義務のいわば任意規定化については慎重に考えた結果こういうことを入れさせていただいているというまずファクトでございます。


  先ほどほかの委員からも御指摘ございましたけれども,これまでの要綱試案でございますと受託者は信託事務を処理するに当たっては法令及び信託行為の定めに従いというふうに入っていたわけです。


ここの総則のところですけれども,確かに御説明を○○幹事の方からいただいたわけでございますけれども,逆にこれ1点御質問で,法令及び信託行為の定めに従いというのをあえて落とした方がよいというか,その方がよろしいという何か理由のようなものがございましたらちょっと教えていただきたいですけれども。


逆にいうと入っていても構わないのではないかとも思われるんですが。

● ここでは忠実という言葉を先ほど言いましたように実質的に考えていますので,あえて書かなくてもこの「忠実」の意味として読み込めるのではないかということもありますし。


果たして除外事由というのが信託行為の定め,それから承認,それ以外にも例えば正当な理由がある場合といろいろなものがあるわけでございますので,そういうのを全部書き切るということもできませんので,忠実という言葉の中に全部ひっくるめて読み込んでもらいたい。


その一部たけ抜き出して書くというのはちょっと非常にアンバランスでありますので,あえて落としたということでございます。


● 今の点ですけれども,法令というのを落とすのは○○幹事が説明していた以上に私が補足することはないとは思うんですけれども,私はこれは落とした方が絶対いい,体系的にいいと思います。


恐らく信託業法の規定がどこからきているかといいますと,全くいきなり出てきたのではなくて,これは商法254条の3,現在の会社法とは別の規定ですけれども,会社法の規定にもとがあるんだと思います。


254条の3は簡単に言いますと法令,定款に従い忠実にと書いてあるんですね。

そこで書かれている意味は,法令定款遵守義務,狭い意味での忠実義務,善管注意をまとめてその1行で書いてあるわけです。

  それで,信託業法,どうしてそういう書き方になったか私わからないんですが,28条の忠実義務の方は狭い意味での忠実義務と法令遵守義務が規定されていて,注意義務だけまた別の条文になっているんですね,こういう体系というのは私ちょっと整理の仕方としては理解しがたいと思います。


現に投信法などは法令定款遵守義務なくなっておりまして,忠実義務と善管注意義務だけの2本立てになっております。


法令遵守義務を書くのであれば,書いて私はいいと思いますが,少なくとも忠実義務とパッケージで書くのはおかしいと思います。


それは法令を守って,かつ忠実に,かつ善管注意義務を果たしてやるべきだと書くのであれば,例えば信託事務の執行の一般規定の方に入ってきて両方にかかると。


それと別に忠実にもやるしという規定があり,善管注意義務に尽くしてやるというそういう整理になっていれば非常にきれいなんですけれども,忠実義務の中にこれを放り込むと非常に体系的に変だと思いますし,信託業法の方こそなぜ商法の注意義務だけ抜き出して別立ての条文にして全然性格の違う法令遵守義務と忠実義務でパッケージのようなつくりをとったのは,私はむしろそっちの方が疑問に思われますので,私こういう整理はむしろ概念としてはきれいになっても中身が根本的に変わるかどうかわかりません。


ただ,中身に関して言いますと,法令違反があった場合,例えば独禁法とか信託の利益を守らない法令違反があった場合に直ちにそれが何らかの法的効果をもたらすか否かという議論が商法の方では254条の3の規定,つまり法令定款遵守義務をめぐって最高裁判例までありまして,またそういうある種の難しい問題を引きずり込むという意味でも余りこういうところで妙な言及の仕方もしない方がいいと思いますので,少なくともつくるとしたらこれがずっときれいだと思いますし,信託業法もでき得るならこれに合わせて直していただけないかなというふうにむしろ思うわけであります。

● 今,○○幹事がおっしゃって,私も思い出しまして。信託行為の定めを落としたというのはまさに実質的に判断しているからということでございますが。


法令というのは,今,○○幹事がおっしゃった難しい問題もあるのと,あといわば当たり前のことなので書くまでもない,そういうことの議論がありました。ちょっと補足いたします。


● 原案ができた理由はそういうことだということでございますね。
  ○○委員。


● ちょっと長くなるかもしれませんけれども,19,20について一連の意見を述べたいと思います。

  この点については,私から何回も同じようなことをお話ししていますし,また○○としても意見書を提出しておりますので,骨子だけということになるのかもしれません。また,新しい提案に関してはちょっと若干お話ししたいと思いますけれども。


  まず,第1の忠実義務の話ですけれども,ここは試案と比べて「信託行為により」という言葉が落ちているということについて,ちょっとこれはどうしたのかなというふうな疑問があります。


先ほど○○幹事の方から御説明は一応ありましたけれども,やはりここは任意規定ということであれば,これは全体的な条項立てもそうですけれども,任意規定であればその任意規定であることを明確化するということではなかったかと思いますものですから,ここだけあえて任意規定であるということであることを前提とするけれども,書かないというのはやはりおかしいものですので,そこは書いていただきたいなというふうに思っています。


  2つ目に,従前からの例外規定を設けてほしいという話をしております。


その点,先ほどの御説明ないしは今回のペーパーでは承認を得ている場合とかについては当然忠実義務として評価できることはできるというふうに書いてございます。


一種の解釈論で解決しようということだと思いますけれども,果たしてそういう解釈論が成り立つ得るのかどうか。もし解釈論があるのであれば,別に2,3,4で例外規定をこと細かく書く必要はないわけですので,なぜその2,3,4で例外規定を明確に書いておいて1で例外規定が明確に書かないのかというその差がちょっとよくわからないところであります。


  もちろん,1は総則規定ですので例外規定を具体的に書くということは限界があることは承知しておりますけれども,それならば何らかの例外規定があるということを明確化する必要があるのではないかと思っております。

  それから,総則的な話かどうかわかりません,ちょっと付言しますと,公平義務というのが一体どういう扱いになったのかというのがちょっとわからないんです。


その点ちょっと後でお教えいただければと思います。従前から私どもは公平義務と忠実義務というのは別にして議論すべきではないかというふうに思っているわけですが。


今回の提案でどういうふうに整理されているのかというのは今改めてお尋ねしたいと思います。

  次に,2でございますが,その点は特段ございません。

  3の競合行為のお話でございますが,この点は先ほど○○委員からお話があったように,銀行としては特に信託を兼営している銀行としてはいろいろな業務をしているということでございますので,やはり競合行為というのが過剰に制限されてしまうと非常に動きがとれなくなってしまうということは事実でございます。


  加えて,なぜ専業信託会社に頼まなく信託銀行に頼むか,お客さんが依頼するかというのは,やはりいろいろな業務を行っていると,それによってノウハウがあるというそういうシナジー効果を期待して取引に入るというようなこともあると思いますから,そういう競合行為を過度に縛ることによってかかる兼営的な行為を過度に萎縮させるということはやはり避けていただきたいというふうに思っております。

  その観点から今回の甲案,乙案というのを見ますと,ちょっとどちらの案に賛成するのかというのは今決めかねているところでありますが,ただ,甲案,乙案の柱書きについてどれほどの差異があるのかなというふうに思っているわけです。


もちろん立証責任が違うということは先ほどもお話があったと思いますけれども。


  と申しますのは,例えば甲案に関してですが,どちらも広いという話を申し上げたいんですけれども,甲案でいうと,確かに目的を持ってという主観があるわけですが,競合行為といっても結局およそ商人であれば自己のためにいろいろなビジネスをするということがあるのは当然の話であって,そうしますと自己の利益を図る目的をもって行うということは当たり前の話なのかなということを思っているわけです。


  そうしますと,今回いわゆる受益者の犠牲の行為をという要件を外しましたけれども,その外したことによってここの残った意味というのが非常に明確さを欠くのではないのかなと。


ここでいう目的を持ってというのはどういうものなのかというのがちょっとよくわからなくなったということでございます。


  他方,乙案で信託事務処理として行うべきであった取引というこの「べき」ですけれども,これもそうであるべきというのがどこまで客観的に言えるのかどうかという話と。


また,べきというのは,これもここで明確化したいわけですけれども,例えば信託事務処理として行える,行うことが可能であるものはすべて,じゃあ,これは信託のものであるというふうにするということであれば,これは非常に広い概念になると思います。


そうしますと非常に受託者としては萎縮的な効果が出てきますけれども,そういうときに,じゃあ,どういうときに行うべきであるのかどうかというのが不明確であって,その不明確さが残る限りにおいては非常にこの乙案でとらえる事象というのは非常に大きいのではないのかなと思っています。

  そうしたところ,結局乙案の(2)というのは,甲案と乙案の柱書きが乙案が広いということを前提にしてその救済のために③というのを入れると,そこで正当な理由があれば救おうというそういう配慮があるいうことの御説明がありましたけれども,今度は正当な理由ということが一体何なのか,またその正当な理由を立証するのは受託者のサイドであるということからすると,この例外規定を実際使えるというのが本当に多いものかどうかということもありまして。そうしますと,この甲案,乙案の中身をもっと明確にしないとどこまでワークするのかなということがちょっと疑問であったということでございます。

  続きまして,4でございますが,これは従前から申し上げているとおり,私どもとしては丙案ということでございまして。結局「不当な」という言葉が非常に不明確なものですから,効果が出てくること等が大きなことでありますし,またほかの2,3等の類型によってすっきりさせることが多いのではないかというふうに思っているわけなんですが。


ここは次に申し上げます利益吐出しのところと合わさって4という,ここが拡大になると非常に大きなインパクトがあるということを懸念しているということでございます。


  そこで,最後に,利益吐出しの話をいたしますと,ここもまず第一に前々回に指摘しましたように,パブコメの結果は甲案,乙案ということの意見が同数が多かったという話ですけれども,ただ,選択肢にないにもかかわらず設けるべきではないという意見がここに書いてあります,少なくとも6件あったということをメンションしたいと思います。


  また,甲案の中でもよく見ますと甲案,乙案とどちらかと選べれば甲案だという言い方をしているように見えるものもあります。


実際はもし選択肢があるのであれば設けるべきではないというようなことと思われるようなものもあったことを合わせてメンションしたいと思います。


  やはり利益吐出しルールがなぜ問題なのかということは,これは従前いろいろ申し上げたことで,ここではそれほど繰り返しはいたしませんし,先ほど○○委員からもお話がありましたけれども,やはり1点,この法的体系が今の日本でどれだけの位置づけを持っているのかということの議論をいたしましたけれども,やはりこのルールがほかの取締役であるなり委任であるなり,その影響がどういうものになるのかどうかということも合わせて考える必要があるのではないかというふうに思っております。

そういうことを考えると,やはりこの時点で整理がないまま決めてしまうということはちょっと時期尚早ではないかとも思います。


  ちょっと長々お話しいたしますけれども,以上です。

● 両案になっているところはちょっと議論いただくとして,1,2だけ答えますと。

まず,信託行為の定めを書くべきかというのは,これはほかのところも任意規定であることを表すために書いているという意味だけからすると書くということもあり得るかなという気がしますが,ちょっとそこは検討したいと思いますが。


  他方,ほかの除外事由も書くということになると,何か逆にそれ以外の事情というのは除外事由にならないのではないかという反対作用みたいなものを起こすのではないかという気がしますので,むしろ忠実という中で読み込んでいくということで十分対応できるのではないかという気がしております。


  それから,なぜ2から3あるいは4を設けるとすれば例外規定を書いたのに1には書かないかというと,これは2の(1),3の(1)とかでは形式的にまず判断して,その実質で飛ばすのを例外規定でやっているからでございまして,1の方は忠実で全部読むものですから,あえて例外規定はいらないという整理をしているわけでございます。


  それから,公平義務については,今回,忠実義務の方がある程度見込みがついたらやろうと思っておりまして,これは別途規律を設けるという方向で考えているところでございます。

● ○○委員。

● まず,1について一言述べたいと思います。忠実に,あるいは法令か信託行為というところは今の議論に特に意見をさしはさむところではないんですが,信託事務を処理しなければならないというところについて一言申し上げたいと思います。


  前の要綱試案と比べますと,ちょっと限定されてているように思います。このような文言で規律ができ上がったとしても,全体として忠実義務ということの趣旨を,例えば競合取引が禁止されている,あるいは利益取得行為が禁止されているということを合わせて読むことによって,厳密な意味での信託事務の処理に限定せずに,その周囲にある信託事務の処理として行わなかった行為についても忠実義務はかかるんだという解釈十分にあろうかと思いますが,しかしでき上がってしまったらそういうふうな解釈を試みるということになると思いますけれども,現段階でどういうふうにつくっていこうというときには,忠実義務というのは信託事務の処理についても係る義務だと思いますが,信託事務の処理に関連するそれ以外の受託者の行動についてもまさに競合取引の禁止とか利益取得行為の禁止が問題になるようにかかってくるものだと思いますので。

この1の信託事務を処理しなければならないというこの表現,もう少し工夫できないかということをお願いしたいと思います。


ただ,どういうふうにすれば今の私が申し上げたことを実現するかというちょっと案が持ち合わせておりませんので,そういうレベルでの意見でございます。


  それから,もう1つは,2の(1)のウなんですが,これ○○幹事の最初の御説明の中にありましたところですが,間接取引であって,そしてどのような間接取引をここで外形的にまず原則禁止するかというと,受益者と受託者の利益相反であると。


これはさかのぼってみると,アに対応する間接取引だと思うんですが。イに対する間接取引というのもあり得るのではないかと。


同一の受託者が2つの信託を預かっていて,A信託で借入をすると。だけれども,貸主はそれだけでは貸してやらないと。それでB信託を持っているのでB信託で保証するとか,この今のウの表現をそのまま使うならば,B信託で物上保証するというようなこともあり得るんだろうと思うんですね。


それもイの間接取引型としてまさに双方代理ですか,双方代理の信託版になろうかと思いますので。同じようにここに規制にせしめるべきではないかなと思います。


確かに自己取引型のものと信託財産型取引のものとを禁止する趣旨は少し異なるんだろうと思いますが,間接取引に広げたときに信託財産間取引の間接取引をあえて外す理由はないように思います。
  

それから,あともう1つですが,2の(2)の①と②の関係について一言申し上げたいと思います。これも具体的な意見があるということではないんですが,工夫をお願いしたいという趣旨のことなんですけれども。①で信託行為に許容文言があればそれでいいと,これもちろん賛成でありまして,そこにはどの程度具体的に許容するかという問題があるというパブリック・コメントでも指摘された問題があると,それもそのとおりだと思います。


  しかし,その上で1つ具体的な例を挙げると,例えば信託行為に重要な事実を開示せずに受益者の承認を得たときに許容するというような定めがあったときにどうするかというような問題があるんだろうと思います。


私実質的にはそれは(2)の①で許すべきではないんだろうと思うんですね。2の②の趣旨を反映させるべきなんだろうと思います。


そして,そうだとすると今の私の意見,実質的な意見に御賛成が得られるとすると,①と②を今のような形で並列して書いても確かに解釈でそのくらい出てくるだろうということかもしれませんが,これも今これからルールを書こうというときですから,あるいはそういうことをにじみ出すことができる書き方があるならば,工夫をお願いできればと思います。
  以上です。


● 何かございますか。

● 信信間の間接取引は恐らく入るんだろうなという気がします。

● これは入るでしょうね。

● それから,①,②の書き方については検討したいと思いますが。一番最初のところは,おっしゃるとおり,ここで固有事務なら何でもやっていいというわけではもちろんなくて,事務局としては信託事務処理遂行義務の中にはこういう例えば競合取引をしないという不作為義務も入っているというようなことで読んでいるつもりですし,会社法でも株式会社のために忠実にその職務を行わなければならないと355条でありまして,その上で競合取引の禁止とか利益相反行為の禁止とか書いてあるので,それとの平仄も合っているのではないかという気はしているところでございますが,御指摘を踏まえて検討したいと思います。

● 実質は全く異論がないところなんですけれども,表現がね,競合取引みたいなのはこれで入るのかというのが気になるということだったと思いますけれども。


  いろいろな論点がまだございます。とてもちょっとあれですけれども。
  ごめんなさい,○○委員,どうぞ。


● すみません,重要なポイントなので,大分重複わたるところあるかもしれません,なるべく簡単に申し上げたいと思うんですけれども。

  まず,1の規律ですけれども,これは非常に重要な変更であったと私理解します。

やはり具体的な忠実の具現化のところで別段の信託行為の定めということが書いてありますけれども,この説明の中でも忠実義務を一切免除するようなことはもともと信託の本質に反すると書いてあるわけですから,2からのところで信託行為の別段の定めでどんどん免除されていったとしても,やはり信託の本質であるところの忠実義務は残るという趣旨においてもこれは単に表現だけの問題ではなくて,信託行為の定めに従いということがなくなったということは非常に重要ですし,やはりこの規律というのは今のままであるべきではないかというふうに思います。


  それから,ちょっと細かいようですけれども,善管注意義務と忠実義務を論理的に分けて議論しましょうというところで説明をされていますけれども,やはり忠実義務というのは信託のかなめであって,それの対応が利益吐き出し責任であると,こういうふうに学んできた次第ですから,利益吐出し責任の議論は後ほどいたしますけれども,忠実義務と善管注意義務と果たしてそんなに論理的区別できるんだろうかと。

要するに受益者のために忠実に,要するに受益者の利益ということを最大限図りましょうという議論だと思いますが,ほぼ善管注意義務と一部,またかなりの程度オーパーラップしているところもあると思うので,信託と第三者との取引のところで受託者の利益を図る場合と第三者の利益を図る場合を分けて考えるということは,考えようによっては整理としてはわかりやすいんですけれども,その効果の利益吐き出し責任というところからすると,そこをそんなに截然として分けるべきかどうか,果たして分けられるのかどうかというところではちょっと考え方としてやや疑問がなきにしもあらずというように思います。

  それから,競合行為のところ,甲案,乙案,先ほどの○○委員も話していたところですけれども。


信託事務処理として行うべきという乙案の,この「べき」のところで一定の価値判断が入っているわけでして,そうすると乙案をとった場合でも信託事務処理として行うべきであったけれども,正当理由があるという状況というのは果たして考えられるんだろうかというところで,乙案をとる場合はやはりこの3の正当事由の場合の例外というのが本来いらないはずではないのかなというふうに思います。


  それとか,信託銀行の方とかこの4のところの反対が強いようですけれども,信託銀行がこういう信託勘定ではなくて銀行勘定において業務を行う場合というのは,どう考えても信託事務の処理に当たってとかいうところに該当しないわけでして,それが該当しているんだけれども,固有業務,銀行業務であるというところの議論自体が非常にわかりにくい議論なのかなというふうに思います。


そんなに懸念するような話ではなくてですね。もうちょっと濫用事例を考えていただければ,この4の意味というのは十分あるわけでして,固有業務でやっていることが4で不当であるという議論が登場する可能性というのはあり得ないし,なおかつもともと信託契約の中で特段の規定を書けばいいだけですから,心配なところが,限界事例があるようでしたらそのように対応すればほぼまかなえるのではないのかなと,かように思いました。


  あと,利益吐出し責任,今のところと絡むんですけれども,不当な利益という言葉の不当性というものの議論の仕方とまた解釈論の議論あるかもしれませんけれども。


私の理解では,利益吐出し責任の利益と不当というのはある意味では対応関係にもあるのかなと,それは利益吐出し責任の論理的根拠をどこに求めるのかという議論ともつながるかと思いますけれども,かように思います。


ですから,4というのはやはりあってしかるべきものではないのかと考えます。

  あと,最後の利益吐出し責任ですけれども,既に繰り返し述べておりますけれども,忠実義務と善管注意義務というのはかなり近いんだけれども,そこに差があるのはやはり忠実義務の信託の,委任と違って信託のかなめであって,その効果として利益吐き出し責任があると,ここで初めて意味があるんだと。


利益吐出し責任がなくて忠実義務があるといったらほとんど善管注意義務があるというのに等しい,完全とはいいませんけれども,近くなるわけでして。


やはり信託のかなめであるところの利益吐き出し責任というものをなくすというような立法というのは不適切ではないのではないのかなと思いますし。


  あと,今回の検討課題の説明の中で両説については説明書いてありますが,これよりも補足説明における説明の方が非常に説得力がありまして,今の甲案,乙案支持だけでいきますと,何か乙案が随分弱気みたいなあれですけれども,皆さんパブコメ読んだ方はこの補足説明にさらに加えて言う必要はないのではないかと思って議論されていると思うので,ここだけの理由づけでは決してなくて,補足説明にしっかり書いているところを,要するに信託の中心のかなめであるというあたりがやはり重要なポイントだと,かように思います。
  以上です。

● すみません,ちょっとまだこの忠実義務についてはまだこの後続けていただきたいと思いますけれども,先ほど最初に申し上げたように,ちょっと私5時で退出しないといけないものですから,途中で退出いたしますけれども。私は今,○○委員の利益取得行為の禁止ですとか,利益吐出し等については個人的には全面的に賛成ですが。


  それから,忠実義務と善管注意義務との関係というのは非常に難しい問題でして,構成としてはどっちに構成するということも可能なんだと思いますけれども,やはり効果が違ってきて,第三者との間接取引において,第三者の利益を図るというタイプですね,これが今度は善管注意義務の方に出ちゃったというので忠実義務の問題になっていないので,これはしたがって効果としては,利益吐き出しの問題もありますけれども,一応有効であると,行為としては許されると。


だけれども,損害を与えれば損害賠償の問題になるということで善管注意義務の問題になっているというそういう整理なのかというふうに思いました。


  この辺もこれでいいのかということも含めてさらに続けて御検討いただきたいと思いますが,1,2分交代のために時間をいただきます。


          (休   憩)

● それでは,再開させていただきます。

  本日の進行でございますけれども,今まさに御議論していただいています忠実義務というのは非常に重要なところでありますので,さらに議論を深めていただくというわけですが,なかなか部会長もいらっしゃらないところで最終的に決定することも難しいかもしれない。


そこで,今からしばらくの間さらに御議論を深めていただいて,事務局でも検討を深めていただくというふうにしたいと思います。それを大体20~30分ぐらいいたしまして,その後できる限り進めていって,進行については後ほど○○幹事の方からお願いいたします。

  それでは,先ほどの点についての補足と進行についてお願いいたします。

● まず,進行ですけれども,最初に,今,○○委員かおっしゃったように,忠実義務等をやりまして,あとは最後の限定責任信託をやりまして,あとはできるところまでということでございます。


  2点補足ですが,1つは,先ほど○○委員がおっしゃった忠実義務と善管注意義務の仕切りというのは,○○委員もおっしゃったとおり,事務局としては自己取引類型ですとか受託者と受益者の利益が相反するのは悪性が高いから効果に及ぶと。


受益者と第三者の利益が相反する場合はそこまで悪性が高くないといいますか,そういう観点から効果までは及ぼさないで損失てん補の問題にとどめるというような仕切りをしているという,行為の悪性と,あとやはり受託者内部でできる行為かどうかという容易さとかそこら辺で区別をしているということでございます。


  あと,信託財産間取引で先ほど○○幹事の方から間接取引型の信託財産間の取引も書き忘れているではないかという御指摘がありまして,私それはそうかもしれないと申したんですが,ちょっと内部での打合せを確認した結果,これは意図的に外しているんでございまして,結局事務局としては受託者と受益者の利益が相反するのが基本的に忠実義務の問題で,外部のもの,第三者との利益が相反する場合はそれは善管注意義務の問題だとしておりますので,他の信託財産をある信託財産の債務のために担保に供したというのも第三者の,第三者というか他の信託が第三者でございますので,そこに効果が及ぶ行為であるということになりますと,これは事務局の認識しています忠実義務の範囲からは外れてくるわけでございます。


いわゆる信託財産間取引というのは例外的に民法108条の仕切りに入るので含めておりますが,それ以外の信託外の第三者が絡むものについては善管注意義務の問題というふうに考えておりますので,その仕切りからいたしますと先ほど○○幹事の方から御指摘があった問題は善管注意義務の問題であるというふうにこの提案では考えているところでございます。

● それでは,今の点も含めまして,忠実義務あるいはその効果について議論を続けたいと思います。


  ○○幹事。

● 簡単に。今までの議論を伺っていてちょっと1つ気になった点なんですけれども。


1項,一番最初のものですね。ここで「信託行為の定めに従い」というのを復活させるべきであるという議論が出て,それを契約自由とのコンテクストで議論されているようなのですが,ここを従来の表現に戻してそういう効果が得られるかというと私そんなことはないと思うんです。結論としては○○委員と同じなんですけれども,ちょっと理由づけは違うとは思うんですが。

  従来の規定ぶりは受託者は信託事務の処理をするに当たっては法令及び信託行為の定めに従い行うと書いていたんですが,法令が落ちたのはさっき言った理由で私支持するんですが。


これは会社法の規定でいえば定款遵守義務に相当する定めでありまして,これは違反すれば結果責任ですよという規定,忠実にやっても違反すれば責任はありますよという規定であって,決して任意法規化を定めている意味合いはもってこないし,このまま条文化してもそんな意味は持って来ない,解釈されないと思います。


もし任意法規化を書きたいのであれば善管注意義務と同じように,ただし信託行為に別な定めがある場合はみたいな書き方をしなきゃいけないんですが,こういう書き方をしますと,今度は2項以下と完全にオーバーラップしますので,非常に書きにくい。


  したがって,私はさっき言った「信託行為の定めに従い」というのを入れるとちょっと忠実義務の性格がまた違う種類の義務をここに書き込むので,純化されないという問題はありますが,内容は別段反対するわけではありませんが,さっきから言われているような効果はそれでもたらされないと思いますので,それを前提に議論した方がよろしいのではないかと思います。私は余りそういうことというのは入れない方がいいと思います。それが1点です。

  2点目は,善管注意義務,忠実義務の関係なんですが,取引の効果については今整理されたとおりなんですけれども,観念的にある行為が忠実義務違反行為であり,かつ善管注意義務違反行為であり,かつ違った取引の効果のみならず責任の内容においても違う内容をもたらすということは,従来からも会社法の領域ではよく認識されてきたことです。


有名な最高裁判例がありまして,利益相反取引をした場合に無過失責任の規定が従来あったんでが,それを生じる以外に内容がばかげていたという理由によって善管注意義務違反,従来は266条1項5号の法令違反なんですけれども,それにも当たる。


両方は併存するというような整理がされていました。新会社法のもとではまた変わったんですけれども,観念的にはこういう発想が維持できると思いますので,そういう観点で別次元のものとしてこの責任と善管注意義務違反というのを別次元のものとして整理するという方向性は私は正しいと思うのですが。


  正しいとすると今度は気になるのが競合行為の禁止の甲案,乙案であります。


とりわけ乙案で,これは○○委員が指摘されたことがほぼ私も同じ印象を持つのですが,信託事務処理として行うべきであったと書いてあるここのところに善管注意義務的な内容が読み込まれてしまう危険が非常に高いような懸念を持っております。

つまり,信託事務処理として行うべきであった,やれることでやったら信託がもうかったはずでしょうと。しかし,やらなかったと。


それは基本的に善管注意義務の中身でもあり得るんですけれども,ちょっとやったらよりもうかったことを例えばほかのお客さんのためにやっていたら当然これに当たる,あと救済は2の(2)の③ですというのはちょっと整理としてやや問題,乙案は広いところをカバーしすぎているのではないかと懸念を持っています。


  恐らく行うべきであったというのは,これは○○委員も指摘されたと思いますが,ある種の価値判断を含んでおりまして,「べき」の内容というのは利益相反関係がなかったなら恐らく信託としてやったであろう,やることが自然であっただろうというようなそういうふうな内容が暗黙のうちに含まれているんだと思うんですが。


ちなみにアメリカの統一信託法典を言及された方がいらっしゃいましたので,今ちょっと古い草案なんですが見てみますと,やはりそこでも単純にやれたこととは書いてなくて,あるいはやるべきであったこととは書いてなくて,利益相反関係があったようなことが書かれているんですね。


フィデュシャリー・インタレストとパーソナル・インタレストの対立みたいなものはそこでも適用の要件になっていたと思いますので,だからやはり「行うべきであった」の中にはそういう利益相反的な環境を読み込まないといけないんだろうなと,乙案をとるとすれば,と思います。


  そうなってくると,甲案とそう変わってこなくなって,ただ目的というふうに書いてあるところが唯一違うんですが,目的というのがちょっと狭すぎるというのであれば,甲案の目的を客観化するという方向でドラフトし,あるいは乙案の行うべきであったの中にある種利益相反的なものをさらに具体的にイメージ的に書き込んでいく。


結論は同じところに収れんすると思うんですけれども,そういう形でこれは解決すべき問題なのではないかと思います。


  ちなみに,昔ありました受益者は信託の利益を犠牲にしてとか何とかいう表現は,あれはさすがに何といいますか,善意みたいなものを,ことさらに害するような目的があるようなことが要求されるように理解されるとすれば狭すぎますので,それを落としたことはよいと思うんですけれども。


さらにこれ客観化,利益状況を書くことで客観化した方がいいのかなという気はしております。そうすることによって善管注意義務とのオーバーラップといいますか,マージしてしまうことを概念的には防げるんだと思います。
  以上です。


● 今,甲,乙の収れんの方向性を示唆されたわけですけれども,何か具体的な御提案というのはございますか。

● そこまではよく考えていません。
● はい,わかりました。
  では,ほかに。○○幹事。


● 甲,乙の話ではなくて別な話なんですが,まず先ほど○○幹事がおっしゃったことなんですが,私もなるほどとというふうに思ったんですけれども。第三者との間でやった取引というのはここの忠実義務違反の中には含まれていないと。

気持ちはわかります。と申しますのは,第19のつくり全体がまず形式的な形で該当,不該当というのを押さえて,それである一定の場合にはいいというふうに解除をするということになると,第三者との間の取引が形式的に全部忠実義務違反になるということはあり得ないわけですから,それは外した方がきれいにいくというのはよくわかるんですが,しかしながら,これは一時別のコンテクストだったと思いますが,○○幹事がおっしゃったと思いますけれども,例えば代理権の問題につきまして自己取引だけではなくて,第三者の利益を図るという目的を持って取引をしたというのも代理権濫用という領域で考えられてきたわけでありまして,第三者の利益を図る目的で第三者と信託財産との間での取引をしたというときに,なぜ忠実義務違反から外されて善管注意義務違反の問題になるのかというのは私にはよくわからないわけです。

  それには若干また関連するところがありまして,あと内容について2つ申しますと。


1つは,やはり相手方が知っていれば無効になっちゃって全然おかしくないという気がするのが第1点と。第2点は,先ほど○○幹事がおっしゃったように,善管注意義務違反というのはいずれにせよ起こるんですね。


これは確認しておきたいんですが,仮に利益相反行為に関してここに,現在の第19に書いてある利益相反行為に関して受益者の承認があったとしても,それは起こるんですよ。


不当な判断が悪い取引をした場合に善管注意義務違反が。つまり,利益相反行為に,だからつまり,善管注意義務というのは広く全体に及んでいるわけであって,第三者の取引は善管注意義務違反の問題になり得るというのは当たり前の話なんですが,それをそれだけでよいのかというと,僕はおかしいのではないかというのが第1点です。

  第2点は非常につまらない話なんですが,4の利益取得行為の禁止のところの文言が私よくわからないですが,と申しますのは,不当な利益を得ちゃいけないと。


不当な利益を得ちゃいけないのは私当たり前だと思うんですが。そうなると,許容する旨の定めがあるなんていうことがあり得るんだろうか。ないしは受益者の承認を得たら不当な利益でもいいんだろうかというのがすごく気になってくるわけでありまして。


その不当性という評価的な概念を表のところに置いているので,(2)のところと多分合わなく,解除事由のところと例外事由のところと何か平仄が合わなくなっているような気がするんですが,ちょっと。


もちろんこれ多分善解いたしますと,何を主張,立証すれば受託者側は一応その責任を免れ得るのかという問題に関わってきて,同意があるいうことがあれば,それでもなお善管注意義務違反である等々について受益者側から主張,立証していかなければならないということで,立証責任を転換させるとか,あるいは忠実義務のフェーズではなくて善管注意義務のフェーズに移すというふうな意味なんだとは思うんですけれども,何かこのまま率然と読みますと不当なときも許容するときはいいみたいになって何か変な感じがするんですが。後ろの話は細かい話ですけれども。


● まず,○○幹事の御指摘になられました忠実義務という問題があったと
しても善管注意義務の問題も起きるというのはおっしゃるとおりでして,例えば信託行為にその行為をすることを許容する旨の定めがあるときというこの中で例えば自己取引をすることができますというふうこと等が書いてあったとしても,実際に自己取引をする場合にその価格というのが適当でなければ当然善管注意義務違反を問われることになりますので,そういう意味では忠実義務違反と善管注意義務違反とはその範囲でオーバーラップしてくると,両方とも問題になる場合があり得ると。

  それに対しまして,第三者と取引をする場合,受益者の利益と第三者の利益が相反する場合につきましては,今回の整理ですとそれは善管注意義務違反の問題として考えれば足りて,忠実義務違反の問題というのは原則としては出て来ないと。その例外というのがここで申し上げました間接取引というものでして,第三者と受託者が取引をするけれども,受益者の利益と受託者の利益,ここはかぎ括弧つきの「受託者」ということでして,例えば○○幹事も申し上げましたとおり,受託者の配偶者とか子どもとの利益が相反する場合については間接取引に当たるというふうに考えておりますけれども。


そういう形で第三者との取引につきましては第三者も出てきますので,基本的には忠実義務違反というよりは善管注意義務違反の問題として考えた方が適当なのではないかというふうに考えております。


  このように考えるようになりました経緯といたしましては,パブリック・コメントの意見の中で受益者の利益と第三者の利益が相反するようなケースについても客観的に判断すべきではないかというような意見が多数寄せられまして,それで考えてみたんですけれども,そうしますと,受益者の利益と第三者の利益が相反するというのはまさに善管注意義務違反の問題ではないかと。


試案ですとそこのところは第三者の利益を図る目的をもってというような形で整理していたんですけれども,第三者の利益を図る目的というのはまさに善管注意義務違反の行為で善管注意義務違反をしたというものに当たるのではないかというふうに考えられますので,そのように考えるのであれば第三者の利益と受益者の利益が相反するような受託者と第三者の取引につきましては善管注意義務違反の問題として考えれば足りるのではないかというふうな整理を今回したところでございます。

● ○○幹事,よろしいでしょうか。


● そういう論理をとりますと,自己取引でもそうですよね。善管注意義務違反でよいということになりませんか。


● そこのところも自己取引をしてその経済的な利益というのが第三者に帰属するというのも当然あり得るかと思うんですか,それは内部的な取引をするので特に悪性が強いということ,双方代理,自己契約みたいなものが民法108条で禁止されているので入れていこうというふうに考えております。


その点では確かに完全に論理一貫しているとまでは言えないんですけれども,そういうふうに整理をしています。


● ちょっとすみません,続けて申しわけございません。例えば第三者の利益を図る目的で第三者と信託の財産の取引をしたとします。第三者が故意または重過失でもいいんですが,悪意または重過失ですね,ごめんなさい。


で,それが自己の利益を図るというものであったということを知っていたというふうにします。このときは権限外取引なんでしょうか。もしこれが仮に善管注意義務違反の問題であるということになると,権限内取引であって,31条によっても取り消せない取引になりますよね。


そうしますと,第三者が悪意,有過失ないしは重過失であっても,当該取引が取り消された無効になったりすることはないということになりませんか。


それはその民法の代理の議論とかとの間で平仄が僕は合わないような気がするんですが。


● そこのところにつきましては確かにおっしゃるとおり検討したところでございますが,確かに代理人ですと権限濫用行為をしたことについて第三者の方が悪意であれば無効ですとかになるというのに対して,ここでは善管注意義務違反の問題となりまして,あとは損失てん補請求の話になってしまって,確かにその限度では一貫していないところはあるといえばあるのですが,そこのところは信託で全く代理と同じように考えなければいけないわけではないのではないかというのが事務局の考えでございます。

● それはそれでもいいんです。信託は全く代理と同じ考えでなくてもよい,それはそのとおりだと思うんですが。じゃあ,その信託の何がそれを正当化するんですか。


● 確かに第三者の方が知っているという前提ですので,このように言えるのかどうかわかりませんが,信託の場合は代理と違って顕名等をするということもありませんので,本人,完全権者であるというところに違いがあるのではないかというふうに考えておりますが。

● それは私は過失なのか重過失なのかというところに反映されている処遇ではないかというふうに思うんですが。ちょっとそれは水かけ論になりますのでやめますけれども。

  4の不当の話,ちょっとだけ。つまらない話ですが。
● ここは確かにおっしゃるとおりでして,前にこの部会の中でほかのところのコンテクストでも議論がされたかと思うんですけれども。例えば前の議論ですと受益者の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図る目的を持ってと書いてあるの信託行為で許容する旨の定めがあるときというのは適当ではないのではないかというのはおっしゃるとおりです。


そこのところは今回受益者の利益を犠牲にしてということをとったことによってある程度合理的になったかと思われますが。確かにここのところでも不当な利益を取得する行為となっていて,それを許容するという定めがあるなんていうのはあり得るのかというのはおっしゃるとおりのところはありまして。

  経緯を申し上げますと,当初は例外規定の中に③として正当な利益,正当な理由がある場合にはオーケーなんですよと書いてあったんですけれども,そうしますと原則として利益を取得する行為というのはすべて禁止されるというのが本当に適当なのかどうかというところがちょっと疑問がありまして,もう大分前からでありますけれども,不当な利益を取得する行為というのを利益取得行為の禁止として対応していこうという形になっております。

● まず,1点目の,第三者の利益を図る目的をもってというところを考えたときに,例えば何か,○○委員がどういうお考えであるかですけれども,何か信託財産を処分する権限は信託行為に与えられていたと。


それで,ある市場価格より安い価格で売りましたと。それはもう両者みんな知ってましたというようなときに,それが何か利益を図っているということで無効などということにされてしまいますと,これは世の中的にも健全な状態にはならないのではないかというような実質判断も1つあろうかと思います。


  それから,2番目の不当な利益というのは,確かにこれはまさに不当なというところがうまく説明できないじゃないかということがあるとすれば,ひょっとしたら甲案とか利益吐き出し責任を設けるということの議論の脆弱性をあらわしているのかもしれない。


  すなわち何かといいますと,ここでやりたいことは,何かの信託財産に損失を超えていないにも関わらず,受益者が信託財産に返さなければいけいというものは何かというものをとらえなければいけないと。それを利益という形でとらえましょうという提案をしているわけでございます。


  ただし,例えば補足説明にも書かれておりますように,大口,信託財産と固有財産と大口のロットで売ったら手数料が大幅にディスカウントされれ,それで信託財産も固有財産も利益を得たと言われるウィン・ウィン・シチュエーションのような場合に,じゃあ,固有財産が利益を得たんだからそれ返せというようなてことがハッピーな結果を招きますかというとそういうことではないですということで。


したがって,これまでの部会の議論の中でもすべての利益を返還しなければいけないのではないのではないかという御指摘があったことを踏まえまして,ここは一応不当なということで書かせていただいているわけでございまして。


  この不当なというのはむしろ何か利益吐出し責任とかあるいは利益返還の特則みたいなものを設けようとするのであれば,何等かの外延をもって規定しなければ,確定しなければいけない文言がそこに入るということでありまして,それが私どもにただちにいい知恵がないものですから,ちょっと不当なという言葉でとりあえず置かせていただいているということで,むしろ御議論いただくべきは,この実質というのをどういうふうに確定していくかというふうなことなんじゃないかというふうにちょっと拝察いたしました。


● ○○幹事。

● 今の利益取得行為の禁止で(1)と(2)の関係なんですけれども,単にこういうことにすぎないんじゃないかと思いますが。(2)で1の禁止の例外と書くからこれわけわからなくなるということがあるだけであって,(2)で①,②の場合は不当な利益を取得する行為に当たらないものとするというだけのことではないんでしょうか。


● まあ,そういう構造をとるかどうか。

● そういう書き方をする以外に多分,○○幹事言われるように書き方がないんじゃないんじゃないかなという気がしたというだけのことです。すみません。

  それと,もう1点,ちょっと今言われた点で前半の方に言われた世の中的にはうまくいかないことになるんじゃないかという点に関して言いますと,これ○○幹事言われましたように,代理の場合につきましては第三者の利益のために図る行為をするというのが相手方について相手方が知りまたは知ることができたという場合には,代理権濫用の問題として無効とするということを認めていますから,ちょっとやはりそれとの平仄の問題はどうしても出てくるんじゃないでしょうか。


  私最初に伺ったときに,善管注意義務の問題にするというふうにされるのはそれはそれでいいのかなと思ったんですけれども,その場合でもやはり相手方が知りまたは知ることができた場合というのは代理権濫用のような一般法理にのせていかれるのかなというふうに思っていたんですけれども,そうではないという趣旨だったのでしょうか。

● そうですね。ただ,事務局内で検討いたしましたときはそういうものは善管注意義務に問題とせず第三者が悪意,重過失の場合には取消し得べし行為と,無効ですかね,にするという余地はあるのかという議論はいたしたんですけれども,結論としては今のところはそう考えていないと。

● 否定だったわけです。そうすると,ちょっと一般法理との平仄がやや合いにくいのかなという気はいたします。そして,仮に一般法理と同じように考えるとしますと,広く善管注意義務の中に2種類が少なくともあり得て,第三者の利益を図るような行為をするという善管注意義務違反と,それ以外に本来きちっとやってないといけないのがばかなことをやったという意味での善管注意義務違反あって,前者の第三者のためを図ってはいけないというような意味での善管注意義務違反については相手方がそれを知りまたは知ることができた場合は一般法理により無効になるけれども,それ以外のばかなことをやったというだけのときには多分無効にはならんのだろうと思うんですね。


そういう意味では善管注意義務の中に2種類を設けることになる,果たしてそれがいいのかどうかという問題はちょっと残るのかなと思います。


ただ,事務局のお考えがそもそも一般法理にもうのせないのだとしますと,その問題は発生しませんけれども,そうすると代理との平仄がちょっとかなり合いにくいのではないかという気は私もいたします。
  以上です。


● ○○幹事が先ほどからの後段の論点なんですが,実は私もこれは変だなと思って考えてみたんですけれども。そもそもこの甲案というものの規定自体がある意味ではトートロジーみたいな書き方になっていることから多分そういうことになるんじゃないかと思っていまして。


それで,この甲案の不当なという要件をもう少し客観的な,外形標準で仕切れるような概念になってれば逆側で(2)の方でもそれを許容するとかという書き方ができるんでけれども,ある種トートロジーになっているのが変なことになっているということだと思うんです。


  それで,他方でこの不当というのを落としたらいいじゃないかというような御指摘も一部から出ていますけれども,この不当を落とすとこれは明らかに処理に当たって利を受け入れてしまった,けれどもこれは全く受益者,あるいは委託者等と関係者にとって何ら実損を与えていない,むしろ利益を図っているような行為についてまで否定することなのでこれは明らかにやりすぎだと思います。

  したがって,こういった極めて不明確で,かつある種トートロジーというか論理矛盾みたいな難しさのままでこういった規定をおく意味が一体どこにあるのか必ずしも理解できないと思いますけ。


  それからもう1つで,これはコストがある話で,こういった非常に不明確な要件の禁止行為があるということになると,当然先ほどから議論出ていますけれども,特約で何でも置かなきゃいけないんじゃないかとか,あるいは怖いからやめておこうかというビジネスを萎縮する効果の方を私は非常に懸念いたしますので。


  そういった意味でやはり事業者の創意工夫をいかに生かすかという観点も踏まえると,これは丙案しかないのではないのかなと思います。
  以上です。


● 先ほど○○幹事が甲案について4の(1)について問題を提起されたわけですが,これは甲案をとるとしたらこういう問題があるということでしょうか,それとも甲案あるいは乙新よりも丙案の方がいいという御趣旨でしょうか。


● 丙案がいいという趣旨はありません。

● ほか,先ほど文言について御発言された方も○○幹事と同じように理解してよろしいわけですね。

  ○○幹事はむしろ丙案の方がよいという御意見だと承りました。
  なかなか議論が収れんできない状況でして,19の1については試案との対比でこれでいいのかどうか。ここでは多分任意規定,任意法規ということの概念が人によってちょっと違っているのかなという感じもいたします。


全面的に排除するというのを任意規定というのか一部なのか。あるいは信託行為との関係についても先ほど○○幹事が分析されたような問題があると思います。


それから,3については,甲案,乙案,両論あるわけですが,第3の方向としてむしろ甲,乙の間,収れんを図れないだろうかという御提言もありました。


それから,4については,これも対立が多いわけですが,甲,乙をとる場合の表現の問題と,それから要件効果が一緒になっているのではないかという問題と両方あるでしょうから,それを整理するということになると思います。

  ここではそれぞれのお立場からの御議論があったということで,また次回に続けて次回に決着をつけるということにしたいと思います。よろしいでしうょか。


  それでは,20についても利益吐出しは,これも両論あって,ただ受託者の立場になられることが多い信託銀行あるいは銀行の方はどちらかというと消極的で,同じく受託者の立場になられることがおありになる弁護士会の方では必ずしもそうでもないというように理解いたしました。


  というあたりがもしよろしければ次に進めさせていただきます。

● 一言言わせていただいていいですか。
● どうぞ。

● 利益吐出し責任に関しての規定化の懸念の1つとしてちょっと述べ忘れましたので。いわゆるこれはビジネスが萎縮してしまうという類型に入るかもしれませんけれども,濫訴的な請求というのが出てくるのではないかと,それが萎縮効果になるのではないかというお話でございますけれども。


19の忠実義務の意味合いが不当だということも含めてあいまいであることに相まって,何らかの形でその受託者に責任を追求することというのが多くなるのではないかということがあります。


  また加えて,その規定のやり方が結局ある意味,たとえていうならばサブマリン訴訟みたいな形で,いえば受益者がずっとそういう違法的な状況があることを知って,そのままずっと待って,利益がたまったところである日訴訟するというようなことも考えられます,もちろんそういう人が世の中にいっぱいいるとは申しませんけれども,そういったことも考えると,やはりその可能性を斟酌する受託者からすると,なおビジネスに対する萎縮効果が出てくると,そういう点も合わせて考えていただければと思います。

● では,今の点も含めて検討し,さらに次回に議論を進めていただくということにいたします。

  それでは,次,お願いします。

● では,ずっと飛びまして,資料の最後の限定責任信託というところでございますが。31ページでございます。名称の問題ですが,試案では有限責任信託といっておりましたが,ここでは株式会社等の他の有限責任類型の制度とは異なりまして,出資者や受益者の有限責任性が問題となるわけではなくて,一定の種類の債権を除けば責任財産が信託財産に限定されることになって,業務執行者である受託者がその固有財産をもって責任を負わないという点に特徴があるということを明らかにすべく,限定責任信託との名称に改めているわけでございます。

  パブリック・コメントにおきましては,このような制度が導入されれば民事,商事を問わずさまざまな分野で有効な活用が可能であるとの意見が大勢を占めております。このような結果を踏まえまして,本提案では限定責任信託の制度の創設を提案するとともに,制度の骨格案を示したものでございます。
  

なお,限定責任信託の受託者としては,法人のみならず個人もなれることは当然のこととして考えております。


  提案2でございますが,取引相手方の利益を考慮いたしまして,必要な事項が登記されて公示され,第三者の予見可能性が確保される状況にいたって初めて限定責任信託の効果を享受できることとすることを提案するものでございます。


  それから,3の(1),(2)でございますが,これは一般の信託における帳簿作成義務等の規律に準じますとともに,作成すべき帳簿等の内容をこの信託の性質にかんがみまして,具体的に会計帳簿,BS,PLなどとしたものでございます。


  それから,(3)と(4)でございますが,これは債権者にとって唯一の引き当てとなる信託財産を確保するための措置として財産分配の制限規定を設けるとともに,制限に違反した場合の受託者や受益者の責任内容について会社法等の規定と同様の内容を提案するものでございます。


  それから,提案5の方にいきますが,限定責任信託における取引債権者や不法行為債権者の保護の強化のために,受託者に対していわゆる第三者責任を課すことを提案するものでございます。


  それから,提案4と6でございますが,この類型の信託の受託者と取引した場合には,責任財産が信託財産に限定されるということにつきまして,取引相手方の予見可能性を確保するために受託者に対して限定責任信託の受託者であることの明示を義務づけますとともに,客観的な公示手段としての登記制度の整備を提案するものでございます。


  なお,受託者が個人責任も負う既存の類型の信託につきましても,受託者において信託財産に責任が限定される旨を明示して取引をすれば,限定責任の効果か導かれるとするか否かにつきましては,一方的な明示のみで限定責任の効果を発生させることについて消極の意見が大勢を占めましたが,合意に基づく責任財産限定特約の有効性を確認する規定を置くべきであるとの意見がございました。


  この点でございますが,しかし,当事者間で責任財産限定特約を締結することは実務上一般的に浸透しておりまして,これが無効であるとは解されていないことなどにかんがみまして,あえてその有効性を確認する特段の規定を設ける必要まではないと考えているものでございます。
  以上でございます。


● それでは,新しい名称ですが,限定責任信託について,御意見をお出しください。
  では,○○幹事。


● 一言申し上げておきたいという趣旨で,以前に大分時間をちょうだいしましたので,私自身はこのような制度を現時点において,かつ信託法の改正作業の中で取り上げることが適切なのかという点については非常にもともと疑問を持っております。


その点は変わっておらないということを申し上げたいということが1つございます。仮に信託と名のつく組織法制を整理する必要性があるということであれば,そのようなものとして別途取り上げるべきでしょうし,また,仮につくるといたしましても,信託法とは別立てで別立法によって各種の組織法制との関係を考えつつこれが何を担うのかということを整理してやるべきではないのかというふうには思っております。

  一般的にはそう思っておるのですけれども,そうは申しながら,この中身について少し以前から気になっております点を改めて確認させていただきたいのですが。


大変細かい点ではあるのですけれども,4の特定の有限責任信託の受託者である旨の明示というのが義務づけられておりまして,このしなかったときの効果がどうなるのかというのが以前から気になっております。


たしか最初にこの提案がされたときにお伺いしたときは,それは信託契約の中身に書き,それによるのだというような御回答もあるのかと思うのですが,それでは取引債権者からはわからないでしょうからそうではないのだろうと思うのですけれども。


  なぜかと申しますと,もしこれが明示されなかったと,それによって相手方が誤認したというような場合には,これは受託者も固有で責任を負うんですというような場合には取引債権者であればわからないときにそういう保護が与えられるにもかかわらず,不法行為債権者等一切そのような機会のないものについてもなお限定責任ということがどう正当化さていくのかというのが前から気になっておりますものですから,個別の話ではあるのですけれども,その点についてお考えをお聞かせ願えればと思います。

● まず1点目の明示されなかった特定の限定責任信託であるということを明示されなかった場合におきましては,通常の信託と同じように受託者は無限責任を負うということになって,それが権限内の行為であれば信託財産に対して執行することができる,そういう期待のもとに取引をしているわけですから,そういうことになるのであろうというふうに思います。


  それから,取引的な不法行為をしたような場合につきましては,5に書いてございますように,第三者に対する責任ということで,5の要件を満たすときにおきましては,受託者が固有財産で個人責任を負うということもあり得ることになろうかというふうに考えております。

● そうしますと,そういった一切機会のない工作物責任の被害者とかそういった人との関係で限定責任になる理由,正当化はどういうところに求められているのでしょう。


● そういった方々との関係で限定責任が認められる理由といいますのは,通常の信託とは違いまして,財産分配規定とか違法に分配したときの受託者の責任とかいったように,通常の信託とは異なった債権者保護手続,保護的な規定が設けられているからということになるかと思います。

その合名会社が工作物を持っていたとき,株式会社が工作物を持っていたとき,あるいは合同会社が工作物を持っていたとき,あるいは有限責任組合が工作物を持っていたときにおきまして,これらの各種の組織法制と債権者保護手続という点におきまして遜色がない手当がされているのであれば前者の場合において債権者が有限責任になるのと同様に,本件においても有限責任になるというふうに考えればいいのではないかというふうに考えております。

● 取引債権者については特段に保護を過重していると,そいう制度をつくっていると……


● いや,取引債権者の保護を加重してというよりは,その取引債権者はそういう期待をもって入ってきているわけでから,そのような保護を過重してというわけではなくて,期待に見合った手当をしているというだけのことではないか。
● では保護行為責任のようなものだととらえればよろしいですか。


● 保護行為責任ですか,まあ,すみません,ちょっと。
● いや,結構です。
● ○○委員。


● もちろんこの制度等については賛成です。そういう賛成を前提として今の議論の関係についても幾つか質問なり意見を述べたいと思うんですけれども。


何となく今の質疑の中で1つの新しい組織形態としての認識のような形での議論があったかと思いますし,なおかつそういう使われ方もあり得ると思います。


それを全然否定する趣旨でもないんですけれども。これをもって活発に利用できれば,要するに信託自体に法人格はないにしろ,こういう制度を導入することによって類似の効果がもたらされる。それはちゃんと公示制度によって担保されているというような趣旨で。


  そうすると,これは質問ですし,なおかつ多分制限されていない趣旨だとは思うんですけれども,これを利用するといったら別にSPCをつくってそれが有限責任信託をやるというような趣旨じゃなくて,信託銀行がある信託についてこれは有限責任信託ですと,ですから決して組織形態とか事業形態を前提としなくてもよろしいわけですよね。今,納得されているみたいですけれども。わかりました。

  そうでないと利用されないといいますか,要するに会社法の一メニューであると,今,○○幹事がおっしゃったように,別の法律というのはいかにも何か会社法の特則みたいな形のイメージになってしまっていますけれども,決してビジネストラスト,類似の機能もあるかもあるかもしれませんけれども,そうでない機能も果たし得るという前提ですと理解します。そうじゃないとなかなか利用促進にはならないと思います。

  あと,公示制度というのは今後検討されるんだと思うんですけれども,そうすると重装備の公示制度か軽装備なのかといろいろあると思うし,重装備の方がいいという議論もある反面,そうすると何か非常に重い制度になってしまってなかなか利用できないというところはあると思うんです。

公示制度についてどんなイメージでいらっしゃるのかなということと。一定の公示がされていれば,その取引のときに明示する必要というのは,それは明示しないことによる責任というのは違う形で生じるかもしれませんけれども,明示している形で限定責任信託とは違った効果になるみたいなのもちょっと何か違和感を感じないでもないですけれども。

● まず,1点目の訂正でもないのですが,確認でございますけれども。ちょっと組織法制というふうに申し上げましたけれども,何もだからといって事業を前提としたような会社法の特則みたいなものを意識したものでもございません。

  それから,米国でも別にビジネストラストというふうに俗称言われており
ますけれども,その規定を詳細に読んでまいりますと,別に営業のためではない公益または収益を伴わないもの,あるいは,パーマネントのものであるかテンタティブなものであるかも問わない,ある種合法的なものすべてに使えるんだという確認規定があったりしますので,そのビジネストラスト,米国におきましても別に事業だけの目的でできているわけではないという点も踏まえまして立法させていただいているんだということも確認させていただきたいというふうに思います。

  それから,登記事項は何かということにつきましては,イメージというか,公示すべき事項でございますけれども,基本的には例えば限定責任信託の目的ですとか,あるいは何か信託に名称をつけるのであれば限定責任信託の名称ですとか,それから受託者の氏名とか住所とか限定責任信託の効力の発生といったようなことを登記することになるのではないかというふうに,そのような方向で関係当局と調整をさせていただきたいというふうに思っております。


  それで,やはり,ただ取引のときに限定責任信託ですよということが,しかもどの限定責任信託ですよということがわかりませんと取引をした相手方は登記所にいってどれだろうかというとっかかりがございませんので,その点での明示はやはりいるのかなというふうに,取引のときにはいるのかなというふうに思っております。

● わかりました。追加で,関連して。そうすると,組織法じゃない使われ方もあるし,いわゆる器としての使われ方,また弁護士が受託するときもこういう財産で何も知らなくてもいいわけですから,という使い方をすると,この分配制限のところ,一定の何か必要だというところまで理解できますけれども,例えば組織法的に300万とかいうのが出てきてしまいますと,別に高額な受託をしているときには300万は大した金額じゃないかもしれませんけれども,もっと弱者のためといいますと300万といいますと300万というのは結構大きい金額ですので,その辺については組織法ではないケースということもよく知っていただいて御検討いただければと思います。


  あと,感覚的な発言で申しわけないんですけれども,UCCのファイリングのように何か問い合わせをするということによってその信託財産の範囲がわかるとかそういうような方向もあり得るのかなと。


そうじゃないと非常に重い装備になってしまって全部公示しましょうとかいうようないわゆる物権と同じような議論になってしまうとなかなか使い勝手が悪くなってしまうし,そこから漏れているのが結局どうだったのかみたいなことにもなってしまうのかなというふうに感じました。
  以上です。

● 限定責任信託に関して,今出ています公示制度のことも含めてちょっと意見を述べたいと思いますけれども。私どもとしてはいろいろなビジネスニーズがあるということで,それを前提に限定責任信託というのは賛成であるという立場をとっております。他方,債権者としましては,やはり十分な債権者保護の手当が必要だというふうに述べております。


  具体的には,そんなに詳細に詰めているわけではないですが,ここに書かれているようなある意味で会社法並びになるのかもしれませんけれども,であれば実務感覚としてはそんなものなのかなというような感触は今のところしております。


ただ,他方,今度ユーザーの立場としてこれでは重すぎるよと,これではワークしないよということであれば,ワークしないので,そのユーザーサイドの意見もちょっと聞いてみたいとは思っております。


  そこで,公示制度について述べたいと思うんですけれども。我々債権者としては当該貸付が有限責任信託であるかどうかということを探知したいというニーズがございます。


もちろんこの提案にあります4のところで明示があるというところである程度カバーできるのかもしれませんが,ただ取引に入る場合の調査として当該相手方が限定責任信託なのか,それとも信託だけれども無限責任を負っているものなのかということが非常に関心事があるわけです。


  そこで,探知しやすい制度というのが望ましい話だと思っております。そうしますと,これは公示制度の個別論になるのかもしれませんけれども,ほかに登記制度がありますよと,そっちも見て,例えば法人であれば商業登記簿も見てください,またほかの登記簿を見てくださいということになると,取引コストとしては上がってしまう,かさんでしまうのかなというふうに思っていますので。


これは私見ですけれども,何らかの関連性が出てくるような,いわゆる一覧性があるものができればいいなとは思っています。

  ただし,そこでちょっと思いますのは,今回,先ほど個人も限定責任信託の対象であるという御説明がありました。そもそも個人まで限定責任信託のニーズがあるのかということは,記憶にある限り今までの議論でどういうニーズがあったのかというときに,例えばパイロット事業であるとかプロジェクト事業とかいうような例示の中には余りなかったようなものでございますので,そこのニーズが本当にあるのかなというところがあります。

  そのニーズの話をなぜ議論するのかといいますと,公示制度の話に絡みますけれども,個人で公示をするということはなかなか現実には難しいのかな,プライバシーのこともありますし,あと戸籍とか住民票とかどう連関させていくのかということもありますので。

そうしますと,新たに取引に入るときにどういうふうに探知したらいいのかということが障害になるのかなという若干懸念を持った次第でございます。


  そうしますと,そのニーズの高さと,それから取引コストの問題とどうバランスしていくのかなというようなこともちょっと思った次第であります。

  以上です。

● 個人がやられるニーズにつきましては,私よりは○○委員に補足していただいた方がいいかもしれませんが,パブリック・コメントにおきましてはそういった高齢者の皆様の不動産とか工作物などを預かるというようなお話もお伺いしておりますし,その他にもいろいろお伺いしておりますので,ニーズがないということではなくて,当部会でパブリック・コメント前に出たときにはそういう事業に関連したものが多かったということではないかなという気がしております。

● 恐縮ですけれども,先ほど○○委員の質問で公示制度はどういうものをお考えなのかという話があったんですけれども。その中身についてはさっき説明があったんですが,連関といいましょうか,一覧性といいましょうか,例えば限定責任信託の登記というのが商業登記簿謄本に何らかの形で指定されるのかどうかというところまで今議論がされているのかどうか。


もしそういう場合をよしとする方向性で議論するのであれば,個人の場合にそういうことがあり得るのかどうかということ。ちょっと次の話で恐縮でございますけれども,ちょっとお尋ねしたいと思います。


● 登記所に限定責任,例えば信託登記簿というようなものを備えまして,その閲覧というものを考えるということはあり得るかなというふうに思います。


  それから,先般施行されました有限責任事業組合契約におきましても,当然これは個人が組合をつくる場合も前提にされてつくられておりまして,そのときに同様の開示手続が設けられているわけですから,別に特段何ら考えられないということではないというか,当然に考えられるということだというふうに思っております。


● 最初のところは○○委員,○○委員の問題意識も重なるところでございますが,2点,質問をお許しください。

  1点目は,財産分配の制限について法務省令で定める方法によって算定されるということですけれども。今○○委員の方から300万という例えばイメージの御発想がありましたけれども,ここのところはどういう具体的なイメージを持ってこの省令を定められるかどうかというのをちょっと教えていただければ,現時点においてで結構ですから,ありがたいと思います。


  この問題意識は,財産分配の制限の方法いかんによっては分配の制限がされることで受益者が害されることもあり得ることでありまして,そこのところをちょっと教えていただければということであります。


  第2点目の御質問でございますけれども,公示としての登記の整備のところでございますけれども,私どものような立場から考えると,例えば受益者かわざわざ登記のところを見に行くかどうかというところはちょっと,一般の投資家の方がこれは限定責任信託かどうかということで確かめにその公示を見に行くという,登記簿を見に行くということはどうなのかと考えると,果たしてその登記だけでどのような財産分配が課されているのか,受益者には本当に把握できるんだろうかと心配をいたしまして,こういう登記だけで明示性方法というのは十分なのかどうか,この辺のところをちょっと教えていただけないでしょうか。

● まず1点目の,財産分配制限の方につきましては,例えば合同会社ですとか,それから有限責任事業組合契約におきましても,両方とも経済産業省令あるいは法務省令を見ないと詳細はどういうふうになっているかはわからないわけでございますが,先般施行されました有限責任事業組合契約におきましては,当初の出資額が300万を下るときにはその出資額が限度で,300万を超える出資額のときには300万が限度というような規定になっております。


  それから,LLCにつきまして,合同会社につきましては,一応純資産額すべて配当できる,要は債務超過にならない限りは配当できるというふうに規定する方向だというふうに,まだ法務省令は,ちょっとこれは言い過ぎかもしれませんけれども,法務省令の検討作業中でございますが,そんなような中で検討をするというふうに担当部局から伺っておりますので。いずれにしましても信託法ができましたときは,両方とも施行された後になりますので,そういった利用者の規定をちょっと見ながら適切にパブリック・コメント等を通じて省令をつくってまいりたいというふうに思います。

  それから,2番目の御指摘にございました受益者との関係でございますけれども,こういう公示制度というのが要求されますのは,むしろ趣旨としましては,債権を有限責任にするというその債権者との関係で必要になるのではないかというふうに考えておりまして。


受益者が必要になるのはむしろ会計処理とか損益計算書ですとか貸借対照表とか,あるいは営業報告書的なものですね,受託者がきちんとやっているのかというようなものを受益者に適時適切に開示していくということがむしろ重要なことでございまして,それは有限責任である受託者が有限責任であるか無限責任であるかを問わず両方必要なことではないかというふうに考えております。

  債権者と受益者は,信託債権者と受益者はむしろここでは利益相反関係にある種立ちますので,その意味から考えましても,受益者というのはむしろ計算書類とかそっちの方をいかに開示していくかということの方で関わってくることではないかというふうに考えております。

● ちょっと私の理解がもしかしたら不十分かもしれないんですけれども,この提案の中で提案5の部分なんですが,この規定との関係で不法行為,特に先ほどちらっと出ました工作物責任ですとか,製造物責任ですとか,そういった責任を受託者にとっていくということは制限されるという前提でのご提案なんでしょうか。

● 工作物に関しては,まず占有者としての責任は当然に負うという前提で,所有者であるから負いなさいという責任については,信託財産に工作物の所有権があって,それについては制限はされていくということを申し上げたのですけれども。


● そうすると,占有者として受託者がその責任を負うということはあり得ると。


● それは当然にあり得ると。
● それから,先ほどの製造物責任については何か影響を及ぼしますでしょうか。


● 普通に負うのではないかと。
● 普通に負うという理解でよろしいんですね。

● 法定の責任は負わないということですから,例えば所有者責任とかそういうものは負わないんですけれども,製造物責任ですとか709条の責任とかそういうものは負います。


● 先ほど○○幹事が提起された問題,今の質疑で明らかになってきたと思いますけれども,受託者個人が709条の責任あるいは占有者責任を負うということはあるという前提のようです。

  ついでにお聞きしますと,私聞いていいかどうかわからないんですが,使用者責任は負うんでしょうか。あるいはそれは外観理論の適用があるかどうかについて,ついでですから御確認いただければと思うんですが。


● いや,使用者責任は,それは一般に709条で負うんですから,それも受託者の従業員が何かやったときに受託者個人の監督責任について監督の職務をまっとうするについて過失があれば負うということになろうかと思います。


● 今までの議論とちょっと違った質問になってしまうんですけれども,2点質問させてください。


  5の第三者責任なんですが,使用者責任とかそういう話じゃなくて,文言なんですけれども。第三者と書いてありますですね。これ言うまでもなく,もともとの商法266条の3の第三者責任の規定を下敷きにしたような書き方になっていると思うんですが。


あそこの第三者は株主も含むというふうに普通は解釈されていまして,下級審判例ありますけれども。株主が直接被った損害ですね,そういったものが含まれるんですが。

それでいくと,ここは受益者も含み得るのかどうか。つまり,そういう問題を提起することになってしまうんですね。ただ,これは限定責任信託であるがゆえにこれが入ったんだとすれば,そういう人が入ってくれたらちょっと非常に変な感じもするのですね。


第三者責任で商法のあの規定を下敷きにしてしまったときにちょっとその辺の整理はしておいた方がいいのかなというふうな印象は受けます。


  また,あそこでも間接損害,直接損害いろいろ議論があるんですけれども,あれはどっちを含んでも債権者との関係ではいいと思うんですけれども,ちょっと整理をまたしていただければと。もし答えがある,とりわけこれ受益者を含むという答えなのであれば,その実質的根拠を伺いたいとは思いますけれども,それが1点です。

  もう1点は,もしこの手の信託が本当にいいかどうかはちょっとやや留保するんですが,仮に認めるとすれば,財産分配の制限が必要であることは異論の余地はないとは思いますが,この現在の規定は私が見たところ,新会社法の合同会社の規定を相当下敷きにしたようにも読めるんですが,よく比べますとかなり違う点がございまして。


まず,違いが私の理解しているような違いがあると理解していいかどうかを聞かせていただいて,それからどう説明されるかというのを伺いたいんですね。
  1つの違いは,合同会社の場合は違法な財産分配,純資産の範囲内云々,法務省令というのは同じような額が決まると思うんですけれども,違反した場合は,合同会社の場合は受け取った社員は無条件で返還しなきゃいけないんですね,会社に対して。

それに対して,分配をした社員は過失責任--過失責任といっても表面的には転換した過失責任を負うんですね。


実際分配した社員から求償を受けたときは受け取った社員は善意であれば返さなくていいというそういう仕切りになっていたと思うんですが。これ見せていただきますと,まず第一の違いは,信託の場合,これ違法な分配した場合は受託者は無過失責任なんですね。


会社法の方は無過失の反証を許していますけれども,それがないということは従来の株式会社と同じ無過失責任と理解していいかどうか。それが1点目。


  2点目は,受け取った受益者は,これは返さなくてよくて,ごめんなさい,悪意でないかぎりは返さなくていいのかどうか。唯一返さなきゃいけないルートは受託者が弁償して求償を受けて,その場合の悪意の場合だけが返せばいいのかどうか。


  もし,これ書き方なんですが,そうじゃなくて,いや,当然に返さなきゃいけないというのを前提にしているのであれば,それは書かないと現在の合同会社の規定は違法配当が無効ではない,有効であることを前提に返還請求権を書いている,それに合わせて書いているのであれば変えておかないとこれは返還義務ないということを意味する規定になってしまうので。


そもそも,でも,理解として基本的に返さなくていいという,受益者は返さなくていいという前提,それは無過失責任と受託者がなっていることとのバランスでそうなっているんだというふうなそういう理解でよろしいんでしょうか。


ちょっと整理を教えていただければと思います。

● 基本的に無過失責任というわけではございませんので,○○幹事のおっしゃられた合同会社との,まず払って,求償をするときに善意であれば株主は払わなくていいんだけれども,そうでないときには払わなければいけない……


● 受託者は無過失責任ではない。
● ええ,ない。

● 受託者はそうすると計算違いしたけれども,それはもうやむを得なかったという抗弁が許されるというわけですね。

  それで,次に,その責任を負って求償するときは制約がかかる。その第3に違法な分配をしても,受益者は当然に返す義務はないと理解してよろしいですか。

● 合同会社の分配を受けた社員と同様に。
● それは,書かないと。

● ちょっと書きぶりが,御指摘の趣旨はわかりましたので。
● 書かないとそれはないというふうに読めてしまいますので。

 では,全く合同会社と同じにするという御趣旨ですね。

● ええ,そうです。
● わかりました。

● 原則的には○○幹事と同じで,そもそも反対なんですが,そうも言ってられないような雰囲気を感じておりますので,その範囲内で申し上げますと。


先ほどから工作物責任が問題となっていて,占有者としては責任を負うんだけれども,所有者としての責任というのは制約されるだろうという話なんですが,それは条文の操作としてはどのようなことによって結論が出てくるのかというのがよくわからないわけであります。つまり,限定責任信託であっても所有者であることには変わりがないと思いますので,そうなりますと責任制限がかからない。


責任制限がかかるのはどこなんだろうかと思ったら,1の,ごめんなさい,第12の1の(1)から(4)まで掲げる件についての債務について信託財産のみをもってその履行の責任を負うというところが問題だなというふうに思って12を読んでみますと,第12の1の(1)から(4)までの間に工作物責任は入りそうもないんですよね。


  これは,もし私の読み方が正しいとすると,12を直すべき問題かなという気がします。


● そのつもりでいます。直します。

● それであって初めて,それで12の(5)みたいなのをつけ加えて,第12の(1)から(5)というふうにすることによって導かれるのかなという気がします。


● 前回,第12の資料を御提示したときに,できる限り明確化するように努めるというふうに書きましたので,その(1)から(4)だけではなく,(5)だけでもなく,もう少しふえる。ただ,それをちょっとどこまでできるかという作業をしておりまして,そこの方を御指摘のとおり直す予定でおります。したがって,(7)になるか(8)になるかわかりませんが。

● 大体御議論はこのあたりでしょうか。どうも,今,○○幹事や○○幹事のおっしゃいましたように,原則的にはどうも釈然としないがという御意見は,恐らく法人格と責任制限の分離ができるかどうかという問題と,仮にできるとして,それを信託という制度の枠の中で,特に一般法としてできるかどうかについての御疑念がおありだろうと思います。ただ,両幹事とも,しかし,パブリック・コメントの結果などからしてもこれが大勢であるので,それを前提としてさらに改良する方向を具体的に御提示いただいたというふうに理解いたしております。

  どうもここでの大勢は,そういう消極的な容認論を含めて,この限定責任信託を導入すくというのが多数の意見だというように理解してよろしいでしょうか。


● 消極的にも容認をしているつもりはありません。

● 失礼しました。それでは,消極論もあるけれども,多数は導入に賛成であるというまとめでよろしいでしょうか。


  その上で,この具体的に,例えば公示のあり方ですとか,財産の分配規制,広く言えば債権者保護手続の充実,さらに不法行為債権者をいかに保護していくかという具体的な問題についてさらに検討していただくということになろうかと思います。


● では,最初に戻りまして,時間の関係もあって1個ずつできるところまでやりたいと思います。

  最初,受託者不適格者でございますけれども,1つは,破産者を除外し,その余を維持するという提案に対して,多くの賛成意見が占めております。少数意見のうち,破産者は一定期間は受託者となれないとすべきとの意見ですとか,被補助人は受託者となれないとすべきとの意見については,資料に記載したとおりいずれも採用しないこととしたいと思っております。

● では,1つずつということですので,第4について何か御意見はありますでしょうか。

  これは前にも出てきておりますし,特に御異論がないということで進めさせていただいてよろしいでしょうか。


● では,次,第22でございますが,これはちょっといろいろあると思いますが。資料ですと14ページになります。

  まず,提案2の(1)に関しまして,パブリック・コメントの結果ですとか,前々回の審議を踏まえまして,受託者は原則として受任者に対する選任,監督責任を負うにとどまるとの考え方を採用するとともに,提案3において現行法26条3項は削除するということを提案しております。


  この点に関しまして,パブリック・コメントでは,受益者保護の見地から現行法26条3項の削除には反対するという意見がございます。しかし,資料15ページに記載しておりますが,委託できる場合を実質的に拡大するとともに,受任者に受託者と同一の法定責任を負わせないとした方が全体としては受益者の利益にかなうと,現代社会では特にそのように思われるということ。


26条3項を削除しても,毎回言っておりますが,なお受益者の利益を保護するための方策は種々あるということ。

  あと,信託のスキームでございますが,やはり受任者の責任は受託者が全面に出て追求し,受益者は受託者の責任を追求するという方が適合的であるということなども考えまして,消極説といいますか,この反対意見は採用しないというふうにしたいと思っております。


  2以下は五月雨的なことでございますが,1つは,提案1の規律のもとでも受託者の自己執行が必要となる場合はもちろんあり得るということは含意しているつもりでございます。


  それから,他人の範囲については,会社の従業員のように独立性のない狭義の履行補助者は除くということのほかは,例えば法律義務や外貨建て資産の保管事務などの専門的な事務の委託を受ける弁護士ですとか,保管業者,あるいは機械的な事務の委託を受ける運用業者,いずれのようなものでありましても,およそ信託事務の内容,性質を問わずその委託を受ける者すべてが含まれると解しているものでございます。


  それから,3番目,少なくとも信託法のもとではたとえ全部であっても,相当である場合には許容し得ると考えております。これに対しまして,信託行為によって委託を一切禁止されている場合はどうかというのは,それにもかかわらず信託目的に照らして相当である場合に該当する余地はないのではないかと考えているところでございます。


以上につきましては,資料15ページから16ページについて記載しているところでございます。
  以上です。


● 1つずつということになりますが,第22についていかがでしょうか。

● この規律で賛成なんですけれども。1つ質問させていただきたいのは,通常,第三者が過剰な負担または信託行為以外で負担をするのは大変じゃないかという議論からされていますけれども,積極的に第三者が事務委任契約の中で同じ義務を負うということを認めた場合,なぜそんなことを認めるかというと,受託者と同じ義務を負うことによってその効果といいますか,固有財産,要するに受任者の債権者から信託財産を守ることができるということになると思うんですけれども。


そういうところはそういう効果をもたらすというような議論は可能なのかどうか。要するに,信託財産が第三者のもとにいっても信託財産として守られた方がいいという観点からの質問なんですけれども。


● おっしゃる意味は,第三者というか受任者が直接受益者に責任を負うというような契約を受託者と結べるかということでございますよね。


● そういう類型もあるかもしれませんし,第三者と受託者の間が通常ですと事務委任契約のようなものを結びますけれども,その中で受託者と同じ義務を負いますと。その効果として受託者として同じ効果を享受できるかという。


● 恐らくそれは第三者のためにする契約と同じように考えれば,そういう契約はできて,あとは受益者がその利益を享受する意思表示といいますか,享受して,受託者に対する責任と同じ責任を受任者に追求できるということになるのではないかと考えておりますから,それはできるというふうに事務局としては結論しております。

● では,信託財産として受任者の債権者から守られる。
● 受任者の債権者ですか。


● はい。事務委託を受けた方ですね。
● 受任者の債権者はそもそも信託財産にかかってこれないですよね。


● ええ,かかってこれないけれども,受任者名義に,そうか,名義とはまた別
ですかね。名義も移ってる場合という前提で議論しちゃってるんですけれども。


そうですね,事務処理だけであれば名義は移ってないかもしれませんね。名義が移っている場合という前提で,カストディアンとか有価証券ですと占有者が処理者となるケースもあり得ると思うので,その場合に信託財産としての。


● 所有者となってしまうと,ちょっとそれに信託財産としての効果を付与して受任者の債権者の責任の追求から免れるというのは難しいんじゃないかという気がいたします。


● はい。
● ほかに。○○関係官。

● またかとお叱りを被るかもしれませんけれども,あえてちょっとすみません。今,○○幹事が非常に注意深く信託法の世界ではとおっしゃっていただいたので,それでフットノートをつけさせていただくようなものですけれども。


私どもといたしましても,現在非常に業務の分業化,専門化が進んでいますので,この信託法の中の世界で信託事務の処理を第三者に委託することができれば実質的に拡大しておられる点については,これは賛成いたします。


  ただしというところが,私が申し上げなきゃいけない点なんですが。この業法との立て付けの世界で私ども信託業法の中の世界で申しますと,やはり委託先と直接の契約関係のない受益者の保護を徹底するという観点ございまして,受託者の責任を事務処理の委託に関して軽減するというのは私ども大変慎重に考えておりますという注釈だけでございます。

● ありがとうございました。
● もしかしたら今のところに関係するかもしれないこと,一言なんですけれども。御提案の中身ですと16ページの真ん中あたりで全部委託がされているということで,それで選任,監督責任ということになっているわけですけれども。それで現行法の26条3項を削除するということの御提案が一緒に出てきているわけですけれども。全部を委託するといったときに,その委託を受けた先が全くその責任を負わないというようなことで果たしていいのかと。ちょっとそれは行きすぎではないかというような気がしております。

  ちょっと多少弁護士会の中でも議論しましたけれども,ちょっとやはり行きすぎではないかというふうな意見が出てきています。ただ,これは信託法でどこまで手当をするのかという問題かなという気も,先ほどもちょっと業法のお話をお聞きして思いましたけれども,ちょっとこの点は個人的には信託法でもし手当ができるものであればきちんとした方がいいのではないかなというふうに思ったりしますけれども,切り分けがということであればほかの場面に委ねるものかとも思います。ちょっとその点だけ。


● それでは,○○幹事。
● 2点だけで,1点は,どちらも確認なんですが。14ページで二重線が引いてある部分なんですが,これは前回ちょっとありましたが,証明責任をどちらが負うかで,この書き方はやはり受託者の方が選任及び監督について過失がないことについて証明責任を負うという当初の考え方を維持しておられるというふうに。

● それはその考え方でございます。
● そう理解してよろしいわけですね。それが1つです。
  それから,もう1点は,16ページの他人の範囲のところで,狭義の履行補助者はこの他人には入らないということを書いておられて,これは狭義の履行補助者に関しては一般法理によるという御趣旨なんでしょうかということですね。


● それはそういうことです。
● ただ,その際にはちょっと注意しておく必要がありますのは,結論は全然変わらないんですが,従来は自己執行義務があって代理人と別に狭義の履行補助者を考えることにはすごく大きい意味があったんですね。つまり代理人は使ってはいけない,しかし,狭義の履行補助者は使ってよいという意味で,従来の信託法26条1項の例外を認めることによって広く他人を使えるようにしようというような意図でこの区別が行われていたわけですね。

ところが,今回は26条1項を変えますので,基本的には使えるという方向へ移るわけですよね。そうすると,その限りでは,つまり26条1項限りでは代理人と狭義の履行補助者を区別する必要というのはそれほどなくなったと,そういう意味ではこの区別は26条1項に関してはそうする必要はないのですが。ただ,恐らく違いが出てくるのは,維持されるというか,26条2項の方で選任,監督の過失についてのみ責任を,選任,監督について過失がなければ免責されるというようなルールが適用されるのが代理人であって,狭義の履行補助者に関しては原則として狭義の履行補助者の故意,過失について受託者は責任を負うのだと,そこにのみ恐らく代理人というか,他人と狭義の履行補助者を区別する意味が出てきたのだと,そういうことをちょっと確認しておく必要があるかなと思うんですが,いかがでしょうか。


● おっしゃるとおりの趣旨で,そこだけ違いが出てくると理解しております。
● ほかに。22については。○○幹事。


● 16ページの(4)なんですけれども,相当な場合であっても委託することができないという定めがあるときに,いや,相当な場合であるといって委託ができないという結論自体は全くもってそのとおりだろうと思うのですが,この間にはさまれている,前回との関係で間には有力説として,やむを得ない場合には代理人使用が認められるという考え方がはさまれて,最後,しかしながらで否定されているのですが。相当な場合とやむを得ない場合というのはそもそも別ではないかと。

およそ他人に委託できないということが明らかにされている場合であったら,やむを得ないという場合にまでそれが妥当するのか。あるいはそういうときにも禁止するような条項が果たして効力を持つのかというのは別途議論があり得るように思いますので,ちょっとここの論理関係と相当な場合とやむを得ない場合との取扱いというか関係というか,どうお考えになってるんだろうか。単純に「まず」以下のパラグラフがなければ余り疑問を持たないんですけれども,少し疑問に思いましたものですから。

● 御趣旨を確認させていただきながらですけれども。仮に,ここに書いてございますように,相当な場合であっても委託することができないという定めがある場合に,相当な場合に当たるということで委託することができると解する余地はないとしているこの結論自体はよろしい,一般論としてよろしいのだけれども,その契約の解釈次第によってはやむを得ない場合にまで絶対やってはいけないというような契約の趣旨の理解という必要はなくて,ものによっては契約の趣旨に,この規約の解釈によれば,やむを得ない場合には確かに信託行為の,具体的に列挙はしてないんだけれども,黙示の合意を含めて考えれば,やむを得ない場合には委託できるというふうに考える余地がある場合は委託できるというふうに考えてよいのではないかという御指摘であれば,そうではないかというふうに思います。


● これは信託行為に照らして相当ということになるんじゃないでしょうか。その程度の信託行為の定めであれば。やむを得ないときには,しかし,委託していいよというのはそれは相当であるということで読みきれるのではないかという気がいたしましたけれども。

● そういう解釈もあるかもしれません。ただ,そうであれば,多分ここの説明はちょっと正直わかりにくいのではないかと思いますので。記載は少し検討していただいた方がいいかもしれません。

● いらないことに口はさんで申しわけないんですが,この16ページの一番下の上記の指摘というのは1段落目の指摘のことですよね。
● そうです。


● そうですよね。多分これ2段落目って後から入ったんじゃないですか。1段落目と3段落目が素直に文章が続いているんですよ。それで,多分やむを得ないというときにはこういう見解もあるから,最後の防波堤があるよねというそういう話が真ん中に入っちゃったんじゃないかと思うんです。すみません,変な勘繰りを入れてしまいました。

● 以上については幾つか御確認的な質問が出ましたが。
  ○○委員。

● 確認的な。第45の方で受益者の権利,信託行為によって奪えない権利とずっと,受託者に対する権利が出てきますよね。例えば帳簿閲覧請求権とか名簿の閲覧請求権,いろいろ説明ありますけれども。信託事務処理の一切を任せるといっても,ここに書いてあるようなものについては受託者は当然義務として負ちゃっていますし,任せちゃった後でも義務を負っているわけですから,結局は任せられないというような趣旨なんでしょうか。いろいろな状況において事務処理任せる状況でつくると思うんですけれども。受託者に最後にどの程度のものが残るのかなというところをちょっと確認したくて質問するんですが。

● どんな義務が最後に残るということになりますでしょうか。


● そうですね,この45の義務の中で例えば見ると,帳簿閲覧請求権がありますけれども,帳簿をつけるという義務があるとか,受益者の名簿閲覧請求とか,そのあたりですかね。説明義務も説明できないといけいなと,これは任せておいても説明しなきゃいけないんでしょうけれども。この中で拾っていくと,任せた後にどうなっていくのかなみたいなのがあって,少しは残るという前提と理解しているんですけれども。

● 契約当事者としての違いはもちろん残ると思うんですが,信託法上の義務はこの考え方ですと何か帳簿の例えば作成義務でも委託できるような気がするんですけれども。だから,あえて特に残さないという選択肢もあり得るのではないかという気がするんですが。

● なるほど。そうすると,この単独受益権で強行法規といってももともと信託行為とか相当性ある場合は任せているわけですから,請求しても……


● 受託者についてはですね。まあ,重畳的に義務を負うみたいに考えれば受託者に請求,例えば帳簿であれば,第三者にはつけてもらっているけれども,残りみたいなものが受託者にもあって,少なくとも閲覧責任は応じるというような義務が残るのではないかということですね。そう言われればそういう気もしますけれども。ちょっとはっきりわからないですね。


● 場合によっては全部任せちゃった方が妥当なケースもあるかと思いますけれど。


● 申し上げるほどのことではないのですが,恐らく義務自体を負っているので,帳簿閲覧請求権,請求があれば対処しなくちゃいけませんということですから,その請求があったときに対処できる体制はもちろんとっておかなくちゃいけないんですけれども,あるかどうかわかりませんけれども,作成行為自体は他人に任せた方が容易にできるというのであれば,任せた上でその結果は常に自分の手元に適時適切に保存しておくというだけのことを多分,今。

● そうですね,それすらなくなるわけじゃなくてということですね。
● ええ,それは義務との兼ね合いですので。

● 受託者が何を委任できるかというのと,それから受益者の権利が残るのか。その反面として義務が残るのかということの整理だと思いますが,大体今のような説明でよろしいでしょうか。

● 1点だけ,確認なんですが。この16ページの御説明ですと,信託事務処理のを全部を他人に委託するというふうに信託行為に書いた場合にも,相当でない場合にはそれが認められないということがあり得るという理解を前提にされているんでしょうか。それとも,書けばできるという前提なんでしょうか。ちょっとそこだけ確認させていただけますでしょうか。

● 書いてあれば委託できると。それ以外に相当な場合というのか別途あるという理解でございます。
● 書いてあればできると。
● 書いてあればできると,はい。


● わかりました。
● 御確認,御質問,多数出していただきましたが,基本的にはこの第22の原案自体はこれでよいというように承りました。その上で,細部をさらに検討していくというように承りましたが,それでよろしいでしょうか。
  それでは,第22はそういうことで了承ということにいたします。

● では,第26の事項につきましては異論がなかったので,原案どおりというふうにしたいと思っておりまして。利益吐出し責任についてはその議論の状況,今後の検討を踏まえて検討したいということでいかがでしょうかということでございます。
● 第26については試案のままということで。

● 試案のままで,異論は全くなかったものですから。
● では,よろしいでしょうか。
  では,これも了承ということで。
  では,大分長時間御議論いただきました。もう時間も相当過ぎておりますので,本日はこれで閉会といたします。
  どうもありがとうございました。
-了-

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2016年加工編
法制審議会信託法部会
第24回会議 議事録

第1 日 時  平成17年11月4日(金)  自 午後1時00分
                       至 午後6時50分

第2 場 所  検察庁17階東京高検第2会議室

第3 議 題  信託法の見直しについて

第4 議 事 (次のとおり)
議        事

● それでは,時間になりましたので,これから法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。


  今日もたくさんの議題がございますが,大変申しわけございませんけれども,この間と同じように,私,5時から授業がありますので,いったん,5時で休憩して,その後○○委員に座長を引き継いでいただきたいと思います。
  それでは,きょうの資料から,○○幹事,御説明お願いします。


● では,本日用の資料,検討課題の(18)というものでございますが,4点ほど修正といいますか訂正がございます。


  一番最初は,既に皆様のお手元にメールか何かで届いたかと存じますが,詐害信託の取消しについて,当初の資料から差しかえたものをお配りさせていただいております。それが第1点でございます。

  それから,もう1つ差しかえという意味では,当初の資料では36ページ以下の受益権取得請求権についての資料も差しかえさせていただいております。
  

あとは誤記の訂正が2カ所ございまして,1つは,資料の28ページになりますけれども,報酬請求権のところの3の(1)でございますが,第32の1(3)及び(6)となっておりますが,これは(7)の間違いでございますので,御訂正いただきたいと思います。
  

それから,あともう1つは,資料の31ページと35ページのところで,「受益者名簿の閲覧等請求権」という文言が使われておりますが,これは「他の受益者に関する情報を求める権利」というように,第24に合わせて訂正させていただきたいと思います。
  以上が,資料の修正,変更でございます。


  それでは,きょうの進行でございますけれども,今回の資料,それから前回の積み残しの資料とございますが,きょうは,会場の都合で,何とか延長できるということですので,今後の都合もございますので,積み残しも含めて全部できればいいと思っておりますので,ぜひとも御協力をお願いいたします。
  進行につきましては,事務局の方から,まず議論をいただいた方がいいと思われるものから,順次分けて行わせていただきたいと思っております。

● では,お願いします。
● それでは,まず一番最初,本日の資料になりますが,信託の意義等についてという方から始めさせていただきます。


  この第1といいますのは,信託の意義及び効力発生時期に関する試案の第1と,それから委託者みずからが受託者となる信託,すなわち信託宣言の有効性に関する試案第68の双方に相当するものでございます。


それで,信託の意義と効力発生時期につきましては,賛成意見が大多数を占めましたので試案の内容を実質的に維持しております。
  


また,信託宣言につきましては,パブリック・コメントによりますと,民事,商事双方の分野において,多様な利用可能性・ニーズが指摘されておりまして,信託の目的ですとか信託当事者の属性に注目して許容できる範囲を一定に制限するということは,相当ではないと考えられます。

  そこで,信託宣言を一般的に許容するとともに,債権者詐害のために濫用される懸念にも配慮して,次のような種々の措置を講じる予定でございます。
  

第1に,提案1の(3)のとおり,設定方法の特例として,常に公正証書等の書面によってしなければならないものとしております。


  それから,2番目に,提案の2の(3)のとおり,効力発生時期の特例といたしまして,一般の信託のように,合意または遺言のみによってではなくて,公正証書等の証明力の高い文書が作成された時点,または受益者に対する確定日付ある通知がされた時点としております。


  第3に,その下の「※」のとおり,信託宣言におきましては,詐害信託取消しの要件を緩和することとしております。


  第4に,資料ですと4ページの上段になりますが,仮に受益者の定めのない目的信託を認めることといたしましても,信託宣言による目的信託の設定につきましては,特段のニーズも指摘されておりませんこともあり,認めないこととしたいと考えております。


  そのほか,4ページのその次に書いてございますが,公益的見地から,会社の解散命令の制度に準じた,いわば信託の終了命令の制度を導入いたしまして,これも,信託宣言の濫用防止にも資するものと考えております。


  とりあえず,以上について御審議いただければと思います。

● それでは今の信託宣言を含めまして,信託の意義につきまして御議論いただきたいと思います。いかがでしょうか。


● 信託宣言について,意見とそれから確認をしたいと思います。
  銀行界としましては,パブリック・コメント意見の際に意見集約しましたところ,試案の乙案ないしは丙案,つまり,何かの形で信託宣言を導入するということに賛成というのが多数でございました。


  この立場から,総論的には本案は条件付きであるが信託宣言を導入するものであるということと理解しておりますので,非常に評価しているということが言えます。


  その観点から,では実際に,条件が一体どういうものが適当なのかということについて,先ほど御説明あったところですけれども,ちょっと整理いたしますと,まず第1に,信託宣言の日付をさかのぼらせない等,法律関係の明確化のために書面化を行うこと。


  それから2番目に,詐害行為に対する対応として,その救済コストの低減による一定の抑制と理解しております。本点は,非常に難しい論点でありまして,信託宣言の推進と,それから弊害防止のバランスをいかに図るかということでありまして,いろいろ考えるところあるわけですけれども,仮にその信託宣言を推進する立場に立った場合に,まず述べました,書面化につきましては,中間試案の段階での案,つまり公正証書等ということでございましたけれども,それとの比較においては,確定日付による案ということも付加されておりまして,こういった,これは公正証書よりも費用及びその手続も非常に簡単でございますので,そういうところでいきますと,例えばエスクローのように,小額,迅速性を要求する取引にも利用されやすくなったということで,これも一定の評価ができると思います。


  問題は,ここに2のところの「※」のところで書いてあります点でございますけれども,これは特に流動化を利用する立場から,これは正当な流動化だということとしても,債権者の行為によって,キャッシュフローが一時とまってしまうということの懸念がありますので,そうしますと,倒産隔離性の観点から,格づけ機関等,投資家がどう判断するのかというところは,ちょっと非常に気になるところでございまして,その点,慎重に検討をいただきたいと思っております。
  

そこで,質問でございますけれども,2つございまして,1つは,この「※」の規律でございますが,これ第3の詐害信託の規律との関係はどうなるのかということでございます。


  この案でやりますと,例えば受益者が善意の場合では,これはどうなるのかということですが,これは,私思うに,詐害信託の本則第3が適用されると。


したがって,取消しの対象にならないという,そういう理解でおりますけれども,つまりこの第1の「※」のところと第3の関係を教えていただければと思います。


  2つ目のご確認のところですが,ここで「※」のところの上から4行目のところで,「受益者等による異議の主張があったときは」ということで,「等」という言葉がございますが,この「等」には何が入るのか。


具体的に,受託者というのは入るのかどうかということでございます。つまり,もしこれが受託者が入ったとすると,例えばその受益者に対する善管注意義務であったり,または場合によっては,信託行為によって差押えがきたとしても,受託者としては迅速にそれに異議を申立てるということをした場合には,例えば流動化において,そのキャッシュフローがとまってしまうことの問題を極小化することができる。


つまり,受益者からの請求を待つまでもなく対応することができるというふうに思うわけですけれども,この点,受託者が「等」に入るのかどうかということについてお尋ねしたいと思います。

● それでは,ご質問の,まず1点目でございますけれども,これは,前も御説明しましたとおり,訴訟を要しないという点で,特殊性あるわけですけれども,それ以外の点につきましては,基本的に第3と同じ規律になってきますので,受益者が善意であれば,この執行に対しては止めることができるということになると考えております。


 それから,受益者等の「等」の意味でございますが,これは御指摘のとおり,受託者も入りますので,受託者が異議を言って,とりあえず止めるということができると考えております。

● ありがとうございました。
● この信託宣言のところの,この簡易な,いわば詐害行為取消しを裁判でやらなくても簡単にできるというやつと,詐害行為本来の規定との関係というのは,確かにちょっとわかりにくいところありますけれども,今の説明のとおりですね。裁判でやらないところ以外は詐害行為取消権のところの規律が,全面的にかぶると。

  ほかにいかがでしょうか。


● 信託宣言のところで,2点ちょっと確認させていただきたいんですけれども,1つは,信託勘定でやっている信託は,二重信託ですけれども,前回,試案の方ではそれの規律があったかと思うんですけれども,今般については,なくなっているということは,それは,信託宣言でないというふうに理解したらいいのか,それとも,信託宣言なので,同様の様式を整えないといけないということなのか。


  私どもの方は,こういう規律になったとしても以前の民事局長の回答というのは生きているというふうに理解しておりますので,そういう方向でお願いしたいということであります。


  2点目は,信託宣言で,登記登録制度のある財産については,登記登録制度というのは創設されるのかどうか。これは創設されるべきだと思いますけれども,その2点について,ちょっと確認させていただきたいと思います。

● まず第2点目の方から先ですけれども,登記については,当然信託宣言に合わせて整理する方向で検討を進めております。


 それから第1点目の方の,二重信託の関係なんですけれども,今現在実務でよく行われているそのマザーファンドをつくってというようなあたり,あのあたりの実際の法律構成がどういうあたりなのかというところを,また少し教えていただきながら,もう少し検討をした方がいいのかなという感じでおりまして,つまり,本当の信託を,そのたびに設定しているというふうに見るべきなのか,また別の見方があり得るのかなど,ちょっと実務の方の実際の仕組みの方をよく見てみないといけないのではないかなという気もしているところでございます。


● よろしいでしょうか。
● ご相談させていただきます。
● ほかに。

● 導入について賛成です。パブリック・コメントでもそういうことなので,ほぼ明らかではないかと思うのですけれどもちょっと1点確認をさせていただきたいんですが,信託宣言において委託者兼受託者がみずから受益者となることを指定するということも,もちろん許容されるという前提でよろしいでしょうかということですかね。


  あとパブリック・コメント,補足説明の方に弁護士の場合とか,そこら辺出ていませんか,金銭を預かった場合のことが出ていますけれども,そういう多様なニーズというものはいろいろと考えられるのではないかと思います。

  あと,事業を担保にするというようなこともこの信託宣言によって非常に可能になるのではないかと。ですから,まだまだいろいろ,パブリック・コメントによって新しい用途とかいろいろ例が記載されておりますけれども,そのほかにもいろいろとこの信託の転換機能というものと組み合わせますと多様な用途があるのではないのかと思いますので,導入について賛成です。


● 1点目の御質問の点ですけれども,おっしゃるとおり,委託者,受託者,受益者が同一人というものも可能と考えております。


● こちら資料の4ページに,信託宣言に対する,消極に考える考え方に対する基本的な考え方,御説明いただいておりまして,大変わかりやすくて感謝をいたします。


  他方,私どもといたしましては,やはり3つの論点に分けてこの信託宣言に関する,いわば懸念というものをちょっと述べさせていただければと思います。


  1点目でございますけれども,これは具体的に言うと,4ページの下から8行目ですけれども,私ども念頭に置いておるのは資産流動化スキームの場合なんですけれども,信託宣言で,資産流動化がされた場合に,やはり私どもといたしましては,資産の裏づけのない信託受益権,あるいはその資産を過大に評価した信託受益権を販売される恐れはないのかという,そういった懸念を持っておりまして,こちらに書いていただいておりますように,子会社株式の売却とどこが違うのかという論点もあろうかと思いますけれども,会社法では,会社設立に伴うガバナンス等が発揮されるわけでございまして,そういった意味では,この信託宣言では,特に資産流動化のスキームに照らしてみれば,いわば構造的に,資産の裏づけのない信託受益権等が発行されるこの恐れを内包しているのではないかという懸念がございます。

  それから2点目でございますけれども,これはページ4の一番下のところでございますけれども,私どもといたしましては,信託宣言において,信託設定時に,固有財産から信託財産への移転が明確に,本当に行われるのかどうかという心配をもう有しておりまして,例えば,その信託期間中に信託財産に帰属すべき財産が,第三者に二重譲渡される恐れがある場合に,具体的にどのような措置が講じられるのかといったことを心配しております。


  ここに御説明いただいておりますように,債権譲渡等につきまして,第三者や対抗要件は確定日付ある通知承諾でいいんだということで,ここでも具体的に言うと,前のページの2の(3)の②で,例えば確定日付ある証書による信託の通知というような措置が講じていただいておられるわけですけれども,本当にこれで足りるのかどうかということを心配しております。


  その第2点に関連するポイントで,例えばその信託の設定時に,固有財産から信託財産に財産が明確に移転したかどうかについて,例えば第三者の検証を入れるというような補完する措置が必要なのではないかなというふうに考えております。

  それから第3点でございますが,二重譲渡につきましては,債権には帳簿を備えて分別管理義務を課しまして,ちゃんとやるということでありますし,善管注意義務違反,忠実義務違反を問うていけばいいと,違反した場合にはですね,ということも考えられようかとは思いますけれども,他方,その信託行為で別段の定めをしていればそれに従うという,いわば任意規定化の流れがございますから,その信託宣言の場合,こういった別段の定めで善管注意義務,忠実義務等について緩和が可能ということでございますので,果たしてこれは本当に大丈夫なスキームであろうかということについて若干懸念がございまして,以上,この3点,述べさせていただきます。

  以上です。

● 3点,ないし,あるいは4点目もあったかもしれませんけれども,これについては。
  では先にどうぞ,○○委員。

● 今ちょっと,流動化に関連して資産の裏づけがないとか,もしくは資産に比べて過大な信託受益権が発行されてしまう可能性があるということの御指摘をされたかと思うんですけれども,確かにそういった御懸念はあるのかもしれませんけれども,実際に流動化をやっている立場からしますと,小口もしくは私募的なものであれば別ですけれども,一般に我々の方として,率先している多額で多数の投資家向けに発売,販売するということでのスキームをやる場合については,基本的に,格づけ機関等の第三者を入れて,格づけをとってやっておりますので,その中で資産の裏づけ等がないかどうかというのは当然のチェックがされますし,今回のスキームの中でも我々としては一定の要件の,全く条件なしでの信託宣言というのは希望はしておったんですけれども,確かに一定の懸念はあるので,今回,公正証書等でもって設定の日付とか設定事実が明確にされるということもございますし,この要件のもとであれば,先ほどのような御懸念というのは非常に少ないのではないかなというふうに思っておりまして,流動化の観点で,先ほど言われた第1の観点の部分は,ちょっと当たらないのではないかなというふうな感想を持っております。


● では,どうぞ。同じ関連でしょうか。
● その関連でございます。
  経済産業省といたしましては,この信託宣言の制度つくるということ自体について,基本的な条件を課することなく認めるべきだという意見を出しておりまして,その点について,あまり,基本的には考え方変わっていないんですが,というのは,少なくとも我々の理解しているところ,現在の消費信託の多くというというのは,自益信託ですので,そういった意味で,そもそも詐害行為について,どこまで懸念する必要があるのかというところについても若干疑問を持っております。
 

 ただ,いろいろと御議論をいただいておりまして,特に債権者保護とのバランス等々,いろいろな関係者の利益保護というのは重要な課題だと思いますので,少なくともその公正証書等の客観的な形式要件を課すると,この点については賛成です。


  それで,他方で,この詐害信託取消しについて,若干,非常に,特例的な取り扱いを設けるということについては,ちょっと我々,当初のパブリック・コメントを出した時点の検討との関係で言うと,若干,忸怩たる思いというか,あまりもろ手を挙げて賛成というわけではないのですけれども,ただ他方でいろいろな懸念もありますし,これをもって信託宣言自体のクレデビリティが下がるということがあってはいけないと思いますので,そういった意味では,こういった厳しい特例的な扱いをされるということ自体については,やむを得ないのかなというふうに思っております。


  それで,ただ,他方で流動化スキーム等々については,プロではないんですが,ただ一般論として申しますと,そういった受益者への空売りのリスクとか,そういった御指摘だと思うんですけれども,金融庁さんからの御提言というのは。


しかしながら,この資料にもありますとおり,まさに子会社を設立して売却する場合とどこが違うのかという点は,ございますし,会社法のガバナンスという御議論もあるんですが,ちょっと必ずしもここにそこがきれいにパラレルに,対応しているのかというところも疑問ありますので,それほど,会社組織の場合には,保護が全うされていて,こちらの信託法のこの新しいスキームで,その点についての手当てがされていないとまでは,われわれとしては言えないのではないのかなというふうに思いますので,そういった意味では,あまりそういった点の懸念を強調されることというのは,必ずしもよくないのではないかというふうに思うところであります。


  それで,一般論として,当然,受益者の保護という観点ももちろん重要なことだと思うんですけれども,ただ,この信託宣言の場合は,これちょっと信託業法の規制ですので,基本的には金融庁さんの話だと思うんですけれども,ただ,信託宣言の場合,あくまでも委託者と受託者は,これ同一,定義上,そういうことになっておりますので,そういった意味からすると,受益者保護のみという観点であれば,例えばいろいろな大衆,一般投資家保護という観点のためには,現在であれば証券取引法の規制がありますし,また,現在金融庁の方で,より一般的な,横断的な投資サービス法というのも検討されていると聞いておりますので,そういった意味で,必要があれば,むしろそちらの方で機能的に対応されるのが望ましいのではないかなと思いますので,あまりこの信託宣言について,そういったリスクを強調して,あまり抑制的に,規制的に制度を設計すること自体に,非常に懸念がございますので,その点申し上げたいと思います。
  以上です。

● どうもありがとうございました。
  では,ちょっと先に,いろいろな委員の方がこの点御意見がおありなので,○○委員,どうぞ。


● 私も先ほどの○○関係官からの御意見に対しては,ちょっと異論がありまして,ざっくり言って,資産の裏づけがない場合があるかもしれないではないかということについては,やはりそれは,委託者なり受託者なりが,同一人物ですけれども,きちんとしたことをやっているかどうかということは,例えば,事業者間で行われる,プロ同士で行われるといいますか,そういう中では,ちゃんとそういう確認が行われた上でなされている。

  例えば,子会社をつくって株式の譲渡のときだって,子会社の中身がどうか,ちゃんとした資産なり営業権みたいなものを持っていて,その株式の価値に見合うものを持っているのかどうかというのは,ちゃんと確認の上,譲渡を受けるということをやっていますので,少なくとも事業者間,プロ間あるいはこういう民事基本法というレベルでは,そういうことを前提にした上での規制,ルール化ということでいいのではないかなと思います。


  そういうことができない,そういう信託の中身について,きちんと精査することができないような一般消費者向けといいますか,そういうものについては,今度一般消費者保護の観点から,保護をすべくどういうルール化をしていくかというのは,それは別の視点からあるかとは思いますけれども,この民事基本法という意味では,現在ここで御提案いただいている枠組みということでいいのではないかな,十分なのではないかなというふうに思います。
  以上です。


● どうもありがとうございました。
  ○○委員もどうぞ。

● 特にお話ししないでおこうと思ったんですけれども,いろいろと御意見がありましたので,ちょっと一言だけ申し上げたいと思います。

  二重譲渡であるとかについての弊害のお話が○○関係官の方から出まして,私自身はやはりかなり類型的にある話なんだろうと,債権については非常にやりやすいものだろうと思います。

  ここに書かれているのは,子会社を売却するときの話というものの従前のやり方とは全く違うと思いますので,ですから,私自身の考え方としては,ここに書かれているような規律があったとしても,弊害は防止し得ないのではないかと。

  それで,基本的には反対なんですが,とは言うものの,皆様方もこの方向でということであったとすれば,ここにつきましては,まさに○○関係官がおっしゃっていますので,信託業法の方で,例えば,兼業規制であるとか,あとは一般事業会社が参入する場合については,当然,業であるわけですから,業法の規制をかけると,そういう形のものをご検討いただければなと。この場の議論にはなじまないかもしれませんけれども,そのあたりのところをよろしくお願いしたいと思います。
  以上でございます。


● 皆さんが議論されている点の追加のポイントなんですけれども,先ほど私の方から,受託者が受益者として指名可能ですかという質問をいたしまして,もちろん可能ですという回答だったと思うんですが,流動化の側面で言いますと,これは受益権を販売するという行為を受託者がすることになりますから,通常の信託と異なりまして,受益者と受託者の間で契約関係が成立いたしますと思うんですね。
 


 したがって,ガバナンスの提示についてはさんざん議論したように,信託法そのものがガバナンスのシステムですから,受益者というのは受益権として独自に,別に契約関係立たなくても独自にいろいろな権利を持っております。


それは,いろいろな信託においてもこういうフロードがあってはいけない。また,受託者に対してちゃんと監視しなくてはいけないという観点からの議論ですけれども。


  それにつけ加え,契約関係に立つということで,先ほど○○委員もおっしゃっていましたけれども,通常の市場取引として契約関係立てるということになりますから,または間に証券会社が介在すれば,そこで引受行為が行われるかもしれませんし,ですから,そういう信託宣言だからフロードが強いということは逆に,委託者が一たん受益権を取得して,それを販売するときの,そこで受益権の中身をかえるということはないかもしれませんけれども,委託者経由で,委託者がもし困窮状態になったときの問題という別の側面を考えると,逆に,より健全な流動化のスキームではないのかなと。

  要するに委託者がみずから信託宣言をするというケースもありますし,私が申し上げているのは,信託銀行に対して譲渡した後に,信託銀行がみずから信託宣言をして,流動化するという,こういうケースもあると思うので,後者の場合,前者の場合,後者の場合にだと,より委託者のフロードから委託者自身の問題が解決できると思いますし,先ほど冒頭言いましたように,契約関係に立つことができるので,受託者,受益者間というのも,それなりに契約の中で規律することはできると思います。

● 御議論の中で,会社との比較のお話がございましたので,会社法を勉強している者の観点からコメントさせていただきたいと思いますが,完全子会社の株式の売却とのアナロジーで言うと,信託宣言を利用する場合に,大きな制約をかける必要がないのではないかと,会社法のガバナンスのようなものはそれほど大きなウエートを置くべきではないのではないかというような御指摘もございましたけれども,会社法的な観点からいたしますと,やはり信託と会社との間には幾つかの大きな違いがあろうかと思いますので,その何点かを御指摘させていただければと思います。

  やはりまず第1は,設立規制でございますけれども,もし子会社を設立するという場合であれば,出資が確実に履行されるようなもろもろの諸制度がございまして,先ほどの財産の裏づけがあるかないかというところにもかかわってくるかと思いますけれども,一応会社法の方では,少なくとも,資本,払い込まれるべき資本に相当する額が実際に払い込まれているかということについては,会社法上,さまざまな手当てがなされている。


  例えば現物出資の制度などは,その代表かと思いますけれども,もしその信託財産を金銭以外で当初信託財産として設定しようというようなときに,その評価について,やはり会社法の方は現物出資による調査等の制度があるという点があると思いますし,その点とも関連いたしますが,資本制度というのがそもそも会社法の方にはございまして,信託には資本制度に相当する制度がございませんので,ここでも,簡単に会社と信託とを比較するということはできないかと思います。


  また,計算書類の公示,それから計算書類に当たっての監査等も,やはり信託と会社とでは違いがございますので,完全子会社の株式の売却,あるいはその募集,発行等が,特段の制約がないからという議論が,ただちに信託宣言に当てはまるかどうかということについては,もう少し慎重に議論をする必要もあるのではないかというふうに感じた次第でございます。

● 今の御指摘のありました,例えば株式会社をつくるときはそうですが,例えば合同会社をつくるときなどにありましては,別に裁判所の選任する検査役の調査というようなものは必ずしも必要ということではないのかと思います。

  それから,○○幹事御指摘のとおり,設立の際に,確かに裁判所の選任する検査役の調査などが必要だということは御指摘のとおりなのでございますが,これは何のためにこれは要請されているかというと,設立した会社に対して,債権を有した債権者の保護ということになっているのではないかと思います。


  したがって,設立して取得した完全子会社の株式をだれかに譲渡するときに,そこに検査役の調査が入って会社を時価で洗い直すというようなことは,特に要求されているわけではございませんで,むしろ設立した会社の債権者の保護という観点から株式会社制度の信頼性という観点から想定されているということかと思いますので,先ほど御指摘があったような,受益権を売却するときに,受益権の信託財産自体がどうかというところ,すなわちここで言うと,完全子会社の株式を譲渡するときにその会社の資産の裏づけがどうかということで,裁判所の選任する検査役の調査が生きているわけではないということだと思います。


  例えば,会社を設立した後,確かに出資資本はそれだけあったということは確保されますけれども,その後,いろいろな営業やってまいりますと,それは資本が棄損したりすることも多々,いろいろあるかと思います。


それはむしろ,その会社法のガバナンスという観点から申しますと,ある会社の株式をだれかに譲渡するときに,その会社法の規定がかかってくるということでは,必ずしもございませんで,それはむしろ一般の私人間の取り引きに,会社法の世界でもゆだねられているとうことなのではないかなと思います。


  ここで書かせていただきましたのは,情報の非対称性という観点が存するから,受益権を売却するときに情報の非対称性というものが存するから,これは認めてはならないんだというような御指摘に対して,信託であれば信託財産ということなんですけれども,設立した会社ということになりますと,事業内容はさまざまですから,普通の信託の場合よりも情報の非対称性というのは高いと思われます。


  それにもかかわらず,そこについて,規制はないではないかという観点から,このような規律を書かせていただいているということかと思います。

  だからといって,では対象を相手にするときにディスクロージャー規制もなくていいかとか,そういう問題はまた別のお話として議論する話でございまして,情報の非対称性が存するから,信託宣言をというような話であるとすると,それは違うのではないかということを,もっと情報の非対称性が高いものを,高いと思われるものを例にして書かせていただいたというのがここの規律の趣旨でございます。

  あと,受益権を売却するときの情報の非対称性という話をいたしますと,別に信託宣言ではなくても,通常の委託者と受託者が別の場合であっても,自益信託であれば受益権を高く売却したいというような欲望には駆られるのが通常であると思います。


資本主義社会であれば自分のものを高く売りたいというインセンティブが働くのは当たり前のことですので。そのときに,譲受人は別に受託者と比べて,第三者なんではありますから,そこについても当然情報の非対称性というのは存在するわけで,そのときに信託財産の中身をチェックしなくてはいけないというときに,譲渡人にここを見せてくれと言うか,第三者に見せてくれと言うかという,言ってしまえばそれだけの違いと言えばそれだけの違いでありまして,どちらの方がどうだというようなことではないのではないかというふうに思います。


  それで,もっとさらに情報の非対称性が高いものと言いますと,例えば新株発行を会社が募集するというようなときであっても,言ってみれば,これは自分の会社の株価を所与のものとして,この株価が適正な価格でいかがですかというふうに応じるわけですけれども,その場合であっても,別にまさに自分自身を売っているわけですけれども,そのときに,第三者のチェックが必要だというような話は,あるかもしれませんが,それはその法的なものとして要求しているというよりは,通常の格づけ機関が,この会社の信頼度はAAAですとかBBですとか,そういうような話の中で解決されていく。その延長線上で同じように考えればよろしいのではないかというふうに提示させていただいているということかと思います。


  二重譲渡につきましても,例えばこれは信託宣言ではなくても,委託者から受託者に対して,例えば動産を信託しましたと,それでところが,動産,委託者から他の人に対して,それを売ってしまいました,信託とは別の第三者に売ってしまいましたとかいうようなことで,最初は信託設定したつもりだったんだけれども,そうでもなかったというようなことは別にあり得ることかと思いますので,特段ここで取り上げるというような話ではなくて,それはむしろ,何か大衆性のあるもので問題があるとすればディスクロージャー規制等々という,そちらの方でちょっと考えられるべきではないかなというふうに書かせていただいていると,そんなことでございます。

● いろいろな議論がありますけれども,先ほどから議論になっておりますのは,ちょっといろいろ局面が違う問題はあったように思いますけれども,1つは,信託宣言という形でもって信託が設定されることが必ずしも明確でないとか,あるいはその時期の問題ですとか,それが明確でないために,債権者が害される,委託者が債権者を害される可能性があるということについての問題点。
 

 これは設立の時期を明確にするとか,書面性を要求するとかということによって明確にし,かつ債権者は簡易な手続でもって詐害行為取消権に実質的に行使することができるという形の手当てをすることで対応しようというのがこのスキームですね。


  それから,先ほどから主に議論されておりますのは,こういうふうにして設定された信託宣言で設定されたときのその受益権の中身,これが,その財産は裏打ちがないとかいうことから来る問題点。


これも先ほど会社との比較などからいろいろな議論されましたけれども,そういう観点からの正当化が可能であると,私はここら辺,あまり専門ではございませんけれども,お話を伺っておりますと,信託と会社の場合の比較の議論はそれなりに意味があると思いますし。


  それから,○○委員が指摘されましたように,受益権の中身について利害関係を持つのは,恐らくやっぱりその後の受益者権を譲り受ける人間だと思いますので,その観点から大丈夫かどうかと,受益者権を買い取る人間自身もチェックをするでしょうし,そこが十分できるようなことになっているかどうかという問題だろうと思います。

  それから,それ以外のもうちょっとテクニカルな問題として,二重譲渡の問題が大丈夫かとか,いろいろな問題があるんだと思いますが,少なくとも二重譲渡に関しては,今,○○関係官が説明したように,恐らく信託宣言特有の問題ではなくて,普通の信託でも二重譲渡,受託者に譲渡して,それがさらに別な人間に譲渡されると,委託者から別な二重譲渡がされると。対抗要件がある財産については,一応,一義的に明確でしょうが,対抗要件のない財産もありますし,対抗要件と言っても動産の場合には明確でないために,実際上,二重譲渡的なことが行われる。

  そういう,大きく分けると3つの問題群があるのではないかと思います。
  それぞれについて,さらにもし御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。


● すみません,ちょっと今回の提案の内容について1つ御確認といいますか質問なんですけれども,まず,信託宣言による信託の効力の②のところで,受益者の1人に対する確定日付ある証書による通知ということは提案されているんですけれども,これ,委託者兼受託者が受益者でもある場合は,自分自身に対する通知で確定日付ある証書による通知でいいのかという点,ちょっと教えてください。
  実務上の,ちょっと問題になりますが。

● 確かに1つの問題かもしれませんね。登記ですと,もうちょっと客観的かもしれないけれども。


● ちょっとそこのところは,まだ十分想定していなかった局面でございますので,ちょっと検討させていただきたいと思います。


● それで,信託宣言に関しましては,民事的な目的含め,さまざまな用途あろうかと思いますけれども,ちょっとあえて,資産流動化,証券化に限定してちょっと申し上げたいんですが,資産流動化,証券化,想定した場合でも,いろいろ使い道があるということは以前からこちらの部会でも私の申し上げてきたところかと思うんですが,今まで指摘されてきている弊害についてちょっと現実踏まえて,私自身の感触申し上げさせていただきますと,資産の裏づけのない信託が設定されるのではないかとか,あるいは二重譲渡の懸念があるのではないかといった御懸念,御指摘というのは,受託者によるチェックが働きにくいということではないかなと思うんですけれども,受託者による牽制,チェックが働きにくいとしても,流動化,証券化の場合は,究極的に受益権をだれかに販売することで,資金調達する仕組みですので,受益者または受益権を取得する人によるチェックというのは,当然入り得るのではないかという気がいたします。

  それと,これも何度か申し上げたことあるんですけれども,現実に信託銀行が住宅ローン債権を証券化する際に,みずから保有している住宅ローン債権を一たんSPCに譲渡して,SPCが委託者,みずからが受託者として信託設定するというスキームでの住宅ローン債権の証券化というのが多々行われているわけですけれども,この場合,委託者はSPCなわけですけれども,もともとその住宅ローンを生み出して,原取得して維持管理してきたのは委託者ということで信託宣言ではないんですけれども,事実上,委託者と受託者が同一ではないかと思われるような資産流動化の取り引きというのは行われてきているということ,ちょっと御指摘させていただきたいと思います。


  それと,信託宣言に関するさまざまな弊害があるがために,今回の御提案ということで,詐害信託取消しの手続を経ることなく簡易にその効果を得られるというようなところなんですけれども,これは流動化,証券化考えた場合に,多少ちょっとこういう条件というのは制約になるかな。


ただ,異議の主張ということで,受益者等が先ほど受託者も含むということだったわけですけれども,これで相当程度緩和されているのではないかと。


  あと,また,指摘されている懸念の,固有財産から信託財産に移ったことが,明確にわかるようなものがないのではないかということなんですが,資産の流動化,証券化考えた場合,ほとんどの場合が債権ですね。


貸付債権等の債権ですし,債権は不動産というものが大多数だと思います。今後,一部に動産というものもあり得るかも知れませんけれども。


  例えば,信託の公示制度を手直ししていくとかですね,あるいは流動化,証券化される資産としても債権が圧倒的に多いわけですけれども,債権に関しては,例えば動産・債権譲渡特例法の手直しによって,固有財産から信託財産に移ることについて何らかの公示制度で,公示制度をもって対抗要件にするというようなことも併せて考えていくことで,手当てはできないのかなというような気はいたしております。

● 最後の点に関連して,ちょっと私も思いますけれども,不動産の方は公示制度をそれなりに検討するということのようでございますが,ほかの公示制度もいろいろありますので,信託宣言をもし設けるとすると,できるだけその部分では対応しなくてはいけないという気がしますね。


  どうしても公示制度はないものが,少し不明確な部分が残って,これはちょっと嫌なところではあるんですけれども,ただこれは信託宣言だから特有の問題ではなくて,信託宣言であると一層わかりにくい感じがいたしますけれども,しかし,理論的には信託宣言特有の問題ではなくて,どこかで申し上げた機会があると思いますけれども,金銭などについても,一体いつ,信託が設定される時期は一応明確になっていますけれども,実際財産がいつ移転するのかなんていうのは,必ずしも明確でないところが残って,ただ,これは申し上げたように,信託一般に恐らく関係する問題なんだろうというふうに思います。
  ほかに御意見があれば。

● 先ほど○○委員が整理していただいた以外の問題でもよろしいでしょうか。
● どうぞよろしくお願いします。


● 2点ございまして,1点は,この「※」の内容についてお教えいただきたいと思います。
 

 3つほどありまして,1つは「※」の権利,債権者の権利というのは期間制限があるかないかということです。


  それから2番目は,委託者兼受託者が死亡するなどして,2つの地位が分離した場合に,この規律は及ぶのかどうかという点です。


  それから3番目は,委託者兼受託者が破産した場合にどうなるのかと。特に倒産隔離との関係で,○○委員からも御指摘があったわけですが,破産の場合の処理について,もしお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。
  まとめてご質問してよろしいでしょうか。


● はい,どうぞ。
● 全然流動化と関係ない話なんですけれども,相続との関係でどうなるかということです。遺留分減殺の対象になるのかどうか。


なるとした場合に,いわゆる自益型の場合と,それから他益型の場合とで基準値が変わってくるのかなというような感じもいたしますけれども,その点について,お教えいただければと思います。

● 大きく分けると2つの問題ね。
  最初の「※」のところに関連しての説明としていかがですか。


● 期間制限は,この規定は詐害行為取消権が行使できなくなったときには,この規定はかからない,この規定の適用はないというのが論理的な帰結になるのかなというふうに思います。


  委託者兼受託者が,その後に分かれてしまったような場合についても,このような規律がかかるかという話につきましては,以後,分かれてしまったら,このような規律はかからないということでいいのではないかというふうに思いますけれども。


  あと,正しく御質問を理解したかあれですけれども,受託者が死亡したような場合におきましては,受託者が死亡して,受託者の任務が終了して,それでその受託者交代が起こるということで,別に,受託者の地位を,委託者が相続するわけではないわけでありますから,どなたかほかの方が受託者として選任されて,それで,受益者から見ると,典型的な民事だとすると,例えば,障害をお持ちの方が受益者だったときに,自分の親が受託者だったんだけれども,破産しましたというときに,今度は受託者が,自分のおじさんになるとかいうような形で続いていくということではないかというふうに,とりあえず考えております。

● よろしいですか。今の「※」の部分に関して。

● 破産の関係につきましては,一般の詐害信託取消権についても同様の問題があるわけでございます。それは後日,破産について,まとめて提案するときに規律を提示しようという方向で考えておりまして,基本的には否認権の問題に近いと思うわけでございますが,破産した場合には委託者の破産管財人になるんですか,同じような権利を行使していくことができるということになるのではないかと,今の時点では考えております。


  あと,遺留分減殺というのが,ちょっと私もよくわからなかったんですが,どういう局面で,どういう問題になってくるという御趣旨でございましょうか。


● 委託者の相続人たちが,相続財産が減ってしまったということで,遺留分減殺をしたいと考えるわけですが,そのときに,自益型の場合ですと,受益権が相続財産になるのでしょうから,遺留分減殺の対象にならなくて,受益権を贈与なりしたときに,対象になるのかなと。


  それに対して他益型の場合ですと,信託宣言をしたときに,受益者に対する贈与になるのかなというふうにぼんやり思ったんですが,そういう理解でいいかどうかということです。


● そうなるんではないでしょうか。
  そもそも詐害行為になるかどうかというところも似たような問題が恐らくあると思うんですよね。今までの財産が信託設定されて,受益権に変わっているだけだ。


自益型ですと。そのときに,先ほどもちょっとどなたか御発言ありましたけれども,詐害性があるのかどうかという問題,これはこれでちょっと恐らく信託の中身に関連して,一種の定期預金をしたようなものだというふうに考えると,別に詐害性はないのかもしれませんけれども,非常に拘束性の強いものを,それで設定したなんていうことになると,詐害性が出てくる可能性もあるかもしれないと思っておりますが。

  遺留分の方は,もうちょっと,恐らく単純なのかな。受益権という形で残っていれば遺留分の侵害というのは基本的にないのではないかと思いますが。


● 私が申し上げたのは,そんな本質的なことではございませんで,それは信託宣言特有の問題というよりは,例えば委託者がだれか信託銀行に信託財産を,預けまして,それで受益権をもらって,その受益権を相続人に渡すというときと一般的に他益信託の形で設定したときとどう違うか。


そのときに遺留分減殺の規定はどのようにかかってくるかという問題と全く同じ問題で,検討はいたしまして,○○委員が御指摘いただいたとおりだと思うのですけれども,信託宣言特有の問題ではないということだけちょっと確認させていただいたと。

● 恐らく,今,○○関係官のおっしゃったようなことだと思いますが,事実上,その遺留分減殺にとって,しにくくなるのかなということがあるかないかがまだ十分自分の中で整理できていないところです。


多分,理論的には今おっしゃったようなことになると思うんですが,さらに,これが相続の場合にどうなるかということは,詰めて検討しておいた方がいいのかなというふうに思います。


● それでは,○○幹事,どうぞ。
● 私,個人的には,信託宣言の必要性及び妥当性そのものに疑問も持っておりますけれども,その点はひとまず置きます。


その上で,試案の中身について伺いたいのですが,ちょっと話が難しいものですから,議論をずっと伺っている間についつい自己の世界に入って陶酔してしまいまして,考えにふけってしまって,十分に皆さんの議論を拝聴できていないような気がしますので,ひょっとして出た問題をもう1度繰り返すことになるかもしれませんで,その点は大変申しわけなく思います。

  第1の質問なんですが,先ほどから自益型という話が出ているんですけれども,信託宣言で自益型というのを本当に認めるのでしょうか。もちろん資産流動化等の局面において,一たん自分を受託者としてある財産を取り分けて,それでその後に受益権を販売するという形をとるというニーズがあるというのはわからないではないのですけれども,もしそのときに限って,その自益型というのを認めるというのでしたらば,どのような,今まで信託の終了のところで,受託者が受益権の全部を固有財産で取得した場合には適当な時期で売らないとだめだよという規定があるわけですが,それでは,その信託宣言でみずからを受益者にしたといったときには,それではいつまでそれを持っていてよいのかというのは,この信託の意義等についてという条文案,試案ですが,からはどうもわからないような気がするわけです。

  私個人的には,売却をするために,一たん持つというのならば,信託の効力自体を売却して受益権が第三者になった時点で発生させるべきであって,自分の財産を取り分けて,自分が受益者であるというふうな形の信託宣言を認めるというのには,賛成できません。

  2番目なんですが,2番目,3番目は細かい話なんですが,先ほどから出ております「※」のところなんですが,これは最後の行,「債権者は,当該信託の設定が債権者を害することを債務者が知っていたことを証明しなければならないものとする」というわけですが,これは受益者の善意,悪意は,この場合は問わないというふうなことなのでしょうかということ。先ほど,何か○○委員の方からも出たような気がしますけれども,ちょっと確認をさせてください。

● 今の御指摘で,自益型のものであれば,改正試案の前のときに御指摘もありましたように,○○委員からも御指摘がございましたように,基本的に,債権者詐害にならない方向で活用がされることになるかとは思うのです。


  ずっと委託者兼受託者となって,受益権を持ち続けているということではなくて,これは既に,前回の,前々回かもしれませんが,御審議で御了承いただいたとおり,1年間,だれにも売らずに持っているということになると,その信託は終了するということになりますので,そこと同様の規律がかかってまいりまして,1年以内に売却できなければ,それはその時点で信託は終了するということになろうかと思います。

  例えば,これは諸外国,例えば米国などにおきましても,このような使い方もされるのではないかというふうに理解しております。


  それから「※」のところにつきましては,先ほど○○幹事の方からお答えをさせていただきましたが,受益者の善意というのを受託者が証明すれば,これは他の人に売買したときに,その売買,ある物を買った人が善意であった場合というふうに機能的に同視できるでありましょうから,その執行はとまるという手続で考えております。

● よろしいですか。○○幹事。
● とりわけ,最後の説明に関連するのですが,そうすると,その信託宣言の原則形態というのは自益型なんですか。

  つまり,受益者というのがほかにいるということを前提にすると,その「※」のところの案においても,受益者の話を正面から書かなくてはいけないような気がするんですが,債務者に受益権が帰属して,それがいくのだというふうに考えると,この債務者に同視することができるというふうな理屈が出てくるような,それは棄却するんですが,そうすると,委託者兼受託者兼受益者であるというのを原則形態として,受益者が第三者になるというのをそれのバリエーションとしてとらえていくという,こういう発想になるんでしょうか。

● すみません。ちょっと御質問を正しく理解したかどうかわかりませんけれども,自益が原則であるか他益が原則であるかというのは,それは民事,商事の使われ方で,言ってみれば,国民の皆さんがお決めになることではと,私どもとしてどちらが原則で,どちらが例外というようなことを申し上げるようなつもりもないのですけれども,その場合に,適時適切に債権者,関係者の利益保護に配慮するようにルール整備をしたい。その結果考えたのがこの案であるということでございまして。

  すみません。そんなことを聞いているのではないんだという話かもしれませんが。
● 「※」のルールとの関係。


● ニーズがどちらが原則かという話ではなくて,条文の書き方とか法の定め方として,どちらを原則形態でどちらをバリエーションとして考えるのかと,というふうな形で規定していくのかという問題ですから,国民が決めることではない--国民がもちろん決めるんですが,法律は,利用者が決めることではないような気がするんですが。


● まさに「※」のルールのところがどういう書き方をするかという問題ですけれども,これはだから受益者が別にいる場合には,先ほどの御説明のように,その受益者が善意であるということになると結局取消しができないのと同じように,こちらの簡易な形でもかかっていけなくなると。


受益者が同一人物である場合には,これは恐らく第三者と考えないということになるんでしょうけれども,それはそれで別な扱いをするという,それだけのことなのではないでしょうか。


● 今,○○幹事が指摘された点と関係する点で,まず第1点申し上げさせていただきたいと思いますが,この信託宣言で,例えば流動化のようなニーズを考えているときには,たとえ一時的には委託者イコール受託者イコール受益者となるにしても,いずれはやはり第三者たる受益者が出てくるということを念頭に置いているはずではないかと思われます。


  逆に言うと,委託者イコール受託者イコール受益者で,ずっと最後まで行くようなものというのは,考えられないのではないか。そんなことのために信託宣言を認める必要は全くないのではないかと思いますので,そういう意味では,この自益か他益かという言葉自体が非常にコントラバーシャルだというのは承知しておりますけれども,信託宣言の場合は,やはり受益者は別に,最後はいるんだという,こういう前提で議論を進めないといけないのではないかと思いました。

  ちょっとそれとはまた関係なく,3点,申し上げさせていただきたいのですが,ちょっと話がまた戻って恐縮なのですけれども,先ほど会社との比較の中で現物出資に対する検査の制度があると。


これは専ら債権者保護のためであるという○○関係官からの御説明ありましたけれども,むしろ資本制度自体の債権者保護の機能が低下していることと相まって,最近の会社法の方では,むしろこの調査というのは内部的な株主間の公平の確保になると。


  つまり,金銭で出資した人と現物で出資した人とがいて,現物で出資したものの評価が過大に高ければ,いわば,それだけ割り負けると言いますか,そのような不公平が生ずると。


  この,例えば受益者間の公平の問題のようなことを考えると,私はこれは契約ベースで解決するというのは,非常になかなか難しい問題があって,もう少し組織的と言いますか,制度的にとらえて考える必要も出てくるのではないかと思っております。

  それから,第2点は,先ほどこれまた○○関係官より合同会社は設立の規制が非常に緩いので,それと比較すれば信託もという話がありましたが,この合同会社については,業務執行社員の忠実義務とか強行法規にされておりまして,新会社法の593条の第5項でございますけれども,それともアナロジーで考えると,この信託の方は原則として任意法規化しようという動きがありますので,やはり合同会社と簡単に比較していただくことにも,難しい点があるのではないかというような気がいたしました


  それから,3番目に,これ,もうちょっと根本的な点なのですけれども,情報の非対称性についてどう見るかということなのですが,私はむしろ信託法というのは情報の非対称性があると。


それが簡単には埋まらないということを前提に,だからこそ受益者を保護する必要があると,そういう,信託法というのはまさにそのためにあるのではないかというふうに思っていたのですが,むしろ今までの議論の中では,そういう必要があったら開示だったら証取法,あるいは投資サービス法でやればいいと。消費者保護だったら消費者契約法ですか,その他あるいは民法の一般法類でやればいいと。


  このように,むしろ信託法の受益者の保護の多くの役割がむしろ信託法以外のところに期待されているような,そのような印象を受けたのですけれども。

  もちろん,私も方向としては信託法の任意法規化に賛成している者なのですけれども,この情報の非対称性がある点は,例えばほかの会社なんかと同じではないかという議論を,信託法の改正の論議の中ですること自体が,私は信託法における受益者保護という考え方から,やや,伝統的に考えられてきた受益者保護とは,やや違和感があるような感じを持ちましたので,その点について,御教示賜れればと思います。


● 今の,現在の,最初に御指摘いただきました検査役の調査の件ですけれども,確かに裁判所の選任する検査役の調査は債権者保護だけではなくて,株主間の平等を図るためにあるというのは御指摘のとおりかと思います。

  それは,しかし,どういう局面で問題になるかと言いますと,既に既存の株主がいて,第三者割当増資で,その第三者に現物出資でやってもらいましょうというときに,その価格が不相当だったりしますと,株主間の利益の移転が,実質的に起きてしまうもので,そこを調整しましょうということだったかなというふうに思います。


  かつて商法部会で,100%子会社の現物出資をするときには,裁判所の選任する検査役の調査はいらないではないかということを議論したことがございました。


そのときは,株主間の利害の調整というのは必要なくて,むしろ株主はこれでいいと言っているだけであると。すなわち,現物出資した親会社,完全親会社たる会社のB/S,帳簿,仕分けを見てみますと,左側に資産50と立って,右側に株式50と立てるだけで,それで,株主が1人である限りにおいて,株主に対する配当化の利益というのは,その後の仕分けがきちんとつけられている限りにおいて,全く変わりません。


  例えば,子会社の方で,資産X,資本Xというふうに置いた上で,このXが幾つになるかということが,その会社の配当可能利益に影響を与えるわけではございません。精算したときにその財産が全部返ってくるわけですから,精算したときに返ってくる財産という形でも変わらないので,要は100%子会社をつくったときの裁判所の選任する検査役というの考えますと,それは純粋に債権者保護のためでありまして,そのときに100%子会社でやるときに,株主保護のために裁判所の選任する検査役の調査が働いているということは基本的にはないのだということで。

  それでただし,債権者のためというものがあるから,裁判所の選任する検査役は必要ですよねというのがこれまでの商法との整理だったのではないかというふうに思います。


  今のような観点で,それでその後でその株式をだれかに譲渡するときは,それは,裁判所の選任する検査役が最初に入っていたからと言って,その後,転々する事業活動で会社の財務内容も変わっていますし,そこを裁判所の最初の選任する検査役が入っていたから,その後の時価が全部適正だということではないのではないかということだと思います。


  今の信託宣言を,完全子会社をつくる場合のアナロジーに全く同じというふうには申しませんけれども,基本的に委託者兼受託者で,受益権を委託者が全部持っているというときには,受益権は全部同一人物に帰属しているわけでございますので,そのときに,何か株主間とか受益者間の平等を図るというような話は,ここは基本的に問題は起きないんだということだと思います。

  したがいまして,何でも検査を入れればいいということではなくて,その検査というものが,いろいろな局面において,どういう機能を持つかということを考えて入れていかないと,整合ある法制度はできないのではないかというふうに考えているということなのでございます。


  あと,売却したときに,確かに情報の非対称性というのはあって,会社もあって,信託もそれが多いからだというようなお話だったかと思いますけれども,善管注意義務というのは,基本的には会社も受託者も,今受益者になる人に対して負う,今受益者である人に対して負うというのが善管注意義務,忠実義務であるわけでありまして,これから善管注意義務,忠実義務を負うかもしれない,将来の潜在的受益者に対して負っているということでは,一応法制度のたてつけではないのだというふうに思います。


  例えば,昨今いろいろ議論されているたてつけから行きますと,商法のたてつけを強調していきますと,例えば株主はひょっとしたら善管注意義務,非常に,ちょっと愚かな話をすれば,ひょっとしたら取締役というのは粉飾決算をした方がいいのかもしれないと。


株主のためにはですね。それはなぜかと言うと,株価が高くついて,その株価を高く売ったら株主は利益受けるからと。


  そんな議論はないのですけれども,将来の株主に対して,今の取締役がどういう義務を負うかということを,必ずしも商法の善管注意義務とか忠実義務というところで,措定できないからこそ,証取法でディスクロージャー規制とか,こういう金融法規というのがかかってきているというのが,現在の法制度でありまして,そこがうまく措定できないから,証取法と商法をどういうふうにつなぐかというのが今まで皆さん悩まれていることなのではないかというふうに思います。

  したがって,将来の受益者になる人のために,今受託者は,別に善管注意義務とか忠実義務を負っているわけではなくて,それはあくまで現在の受益者のために負っているのだということだと思います。


  それで,一たん受益者となった人に対して,善管注意義務なり忠実義務をいかに負うかということについては,それは現在,例えば取消権の適用範囲を拡大しようとか,違法行為の差止請求権の制度を設けようですとか,ディスクロージャー規定を整備しようとか,あるいはいつでも解任できるようにしようとか,そういったところで,受益者,受託者間の情報の非対称性と言われるような問題というものを解決していこうということかというふうに思います。


  それから,情報の非対称性で,受託者に対する監督ということを御指摘されることはもちろんだと思います。それは,それ自体として正当なことだと思うんですけれども,何でこういう情報の非対称性という議論が出てくるかというと,ここに,いわゆるプリンシパル・エージェントのような関係が措定されるわけでありまして,プリンシパル・エージェントのような関係というのは,そもそもエージェントの専門的な能力というもの信じて,それを生かしましょうというところが,そもそものプリンシパル・エージェントが生まれてくる前提のスタート地点なのでありますから,何も米国におきましても,情報の非対称性があるプリンシパル・エージェントで,そのエージェントを締め上げたらいいというような結論にはなっていなくて,エージェントを締め上げると,今度はエージェントの創意工夫とか能力とかいうものができなくなってくるので,かえってプリンシパルのためにならないのではないかと。

  したがって,ではそのエージェントの創意工夫を生かしつつ,プリンシパルの監督というものをいかに働かせていきますかというのが米国での経済学での悩ましいところというか,議論だと思いますので,情報の非対称性ということを前提に,受託者を常に縛れば受益者のためになるというような結論は,もちろんそんなことおっしゃっていないんだと思うんですけれども,ということではないんだという,当たり前のことを1つ確認させていただければと思います。


  それから信託宣言の場合も,常に委託者,受益者が同一であるというようなことが常に措定されているわけではございませんで,当然それは,最初は自益だけれども,その後転売されるというようなことを考えた上で,制度は,そういう場合を念頭に置いて制度をつくっているんだということを申し述べさせていただきたいと思います。

● ちょっと先ほど私の申し上げたことが誤解されているのではないかというふうに恐れましたので,あえて。


  先ほどいろいろな一般大衆投資家の保護に関して,証取法とか投資サービス法でということを申し上げましたが,それは別に,この信託法自体で,受益者の保護についてのスキームを備える必要がないということを申し上げているのでは,全くございません。


  あくまでも,これは要するに基本法として,受益者の保護としてのスキームというのを,きちんとこの信託法の中で整備されるということだと思います。

  私が申し上げたかったのは,ただ,要するに,このような委託者と受託者が同一のスキームについて,信託業法で規制するということは,やってしまいますと,いろいろな意味で,過重なことになってしまって,せっかくおつくりいただこうとしている,この信託宣言のスキームが実質的に世の中でワークしないようなことになってはいけないので,そういった意味で,本当に何をどういう観点から規制しなければならないかということは,それぞれの法体系のもとで厳密に規制の必要性を検証する必要があるという趣旨で申し上げたものであります。


● ありがとうございます。
  恐らくそういう趣旨で皆さん理解されたと思います。
  いいでしょうか,○○幹事,とりあえず。
  では,○○幹事からどうぞ。


● 前の方の話にさかのぼりますが,○○委員が御発言になった中で,公示制度のお話がありましたので,ちょっとそれについて事務局のお考えが,もしあればお伺いしたいということろでございます。

  不動産については,所有権の移転があったときに,登記原因が信託になるという制度とともに,信託財産がキャッシュを持っていたときに,いわゆる信託の設定ではなくて,キャッシュで不動産を買い取ったときに,登記原因が,所有権移転の登記原因は売買になるのとともに,さらに信託の登記というのがあるように思います。

  したがって,それを受け皿にして考えると,今回の信託宣言について,所有権の移転は確かにないと。委託者の手元で所有権移転していないけれども,信託を公示して,それによって信託であること,受託者からの倒産隔離を図る信託であることを第三者対抗できるということは,可能だろうし,必要なんだろうと思います。

  他方で,登記というのは,最近不動産だけではなくなりまして,債権と動産とが加わるようになりました。


この債権と動産の登記制度,実はちょっと私,自信がないんですけれども,私の理解しているところでは,動産所有権の移転とか債権の譲渡の登記原因のところに信託というのは書かれることはあるかもしれませんが,不動産について申し上げた第2の例である信託財産にキャッシュが入っていて,それで買い取った場合には,債権登記簿上,あるいは動産登記簿上,その買い取った財産が信託財産であるということは,あらわれない,あらわす余地がないのではないかと理解しております。


  そうすると,債権,動産についての今の登記制度を,基本的にそのまま置いておいて,そして信託宣言の公示をそこに載せようというのはなかなか難しいだろうと思います。

  難しいところを実現するという方法もあるかもしれませんが,難しいから差し当たってそこはできないだろうというふうに立った場合には,債権や動産については,確かに登記制度はある。


けれども,やはり登記簿上は公示されないんだということで信託宣言も行われると。


信託宣言は不動産しかできないということにはなり得ないわけですから,そういうふうに考えたらいいのかどうか。事務局の今の登記制度についての見通しをお聞かせいただければと思います。


● 今のおっしゃったとおりで,動産とか債権については,それは信託の登記ができないということと,公示ができないということで,信託宣言はもちろんできますが,現時点での公示制度を前提にやるということでございます。

● そうすると,もう答えは用意されているんだろうと思いますが,信託宣言の中身が動産であったり,債権であったときに,それが信託宣言が行われた結果,信託宣言については,今第1のところに書いてあったような形で要件を具備することになると思いますが,その財産について,要するに信託財産に入ったんだと,要するに固有財産の債権者がそれを差押えられない,あるいは固有財産が,倒産したときに倒産隔離がそこに生ずるというのは,何をもってそれが実現することになりますか。

● それは結局は分別管理によって行って,あとはそれに基づいてそういう執行がかかってきたら立証すると。その手段としての分別管理をもって一応の公示ではないんですけれども,制度的にこれが信託財産になったということを明らかにするということでございます。

● わかりました。
  私もそれしかないのかなと思いますが,さっきの○○委員の発言が,そのまま流れていると,何か動産や債権についても不動産に似たような公示制度ができるのかなというような印象も持ちましたので,お伺いした次第です。

● ちょっとそこら辺は,私もあまり専門ではないからよくわからないけれども。そうですか。できないんですか。それは。
  何か登記制度があって,債権譲渡についての,一応,対抗要件の制度がそこであって,しかしそれは信託宣言のときは使えないという……。


● 登記という観点からいきますと,分別管理という話になるんですけれども,通常の,普通の信託で受託者が委託者から債権を信託されたとき,あるいは動産を信託されたときというのは,基本的に分別管理で,帳簿で書いてありますとか,あるいは倉庫を別にしていますということで,固有財産の債権者が入ってきたときに,それを証明することになるわけですけれども,幸か不幸か,書面を要求しておりますので,信託宣言でやった場合はですね,こちらの方が,債権者に対する証明度という点では,書面がないとそもそも信託設定を対抗できませんので,こちらの方がまだ証明度の高さはやや高くなっているのではないかと,ちょっと感想めいた話ですけれども。

● はい。どうもありがとうございました。
● ただ,書面は存在するけれども,外からは調べにかからない限りはわからないわけですね,そういうことですよね。


ですから,さっきの期間制限の問題と関係するかもしれないけれども,いつ設定されたかというのがわからないと。可能性がある。
  ○○幹事,よろしいですか。

● はい。
● いや,何か解決策の提案があるのであれば。

● 質問に入る前にずっとお話し申し上げたように,私ももうそれで仕方がないのかなと思いますが,信託宣言については,なるべく何が移ったか,はっきりさせる方法いろいろあるのを動員しようという雰囲気はあったように思いますので,したがって,その雰囲気はうまくいかなかったんだということかなと思います。


● 雰囲気というか,いじらないとするとうまくいかないということよね。
● ええ,そうですね。


● まさにその問題は非常に関心がございまして,どこから言ったらいいのか,いろいろあるものですから。

  ちょっと今の債権のところから言いますと,信託の公示の問題は財産権の処分そのものについてどうかという話と,それから信託であることの公示という2面があり,信託宣言ということになりますと,財産の移転そのものについての公示が,一切,基本的に使えないと,今の制度ですと,手当てをしないと同一人格のもとでということですから,不動産登記も,そもそもどうなるのかというのがちょっとよくわからないのですが,そこから。

● 今の不動産登記法の世界でも,実は実例として信託財産から固有財産に移るというのはありまして,委付の登記とこれは呼ばれておりますけれども,それ自体は,所有権はもちろん移転しないわけですけれども,信託の登記が結果的にははずれることになっていて,実際上は,所有権移転の登記と似たような,固有財産とする旨の登記と,たしかそういう表題の登記が,所有権とともにされるということになっております。


  ですから,それのいわば応用形というのが,信託宣言の行われる逆になるだけだというような認識でおります。


● それは債権の場合はどうかという話ですね。
● すみません,ちょっと不動産の話にせっかくいきましたので,そうしますと,例えば抵当権設定なんかも現行法では登記もできるということで理解してよろしいですか。


つまり固有財産のための信託財産に対する登記設定,忠実義務の問題はないとしまして,あるいは信信間での登記設定なんかもできるという理解でよろしいでしょうか。


つまり大もとの,これが完全にできるとなると,ほかのものにもいろいろ波及するだろうと,まず不動産ですけれども,現行法でできるかどうか調べてきませんでしたので,申しわけございません。


● それは,つまり信信間で,あるいは信固間で,あるいは銀貸しとかですね,それに抵当権が設定できるかということですか。


● できるかどうかは,実体法の問題としてはできると思うんですけれども,忠実義務の問題とかをはずせば。できると言っていいのか,ちょっと悩ましいところですが。登記がどうなっているかと。

● そこがまさに1つ問題だと思っておりますが,まず,つまり銀貸しみたいなものを行ったときに,契約をしたと言えるのかどうかですね。ここまで言っていいのかどうかよくわかりませんけれども,同じ人格同士で,意思表示と意思表示の合致があった契約と言えるのかどうかというような話がありまして,そこに債権が発生したと見ることができるのかどうか。債権が発生していれば,担保権は恐らくつけることができるのでしょうということになりますので,それを受ける公示というのが要請されてくると,そういう関係になるんだろうとは思いますが。

  今の取り扱いの中では,私の聞いている限りでは,そういった申請は多分なかったはずですので,考えられてはいないんだろうと思います。


● 申し上げたかったのは,ちょっと実体法上,できるかどうかというのは,ただちに実はわからないんですけれども,仮に,できたとして,登記の部分で,あるところ手当てをすると,実は,ほかにも波及するものがないかというのは,不動産登記についても気になっているところです。


  債権の方に戻しますと,債権譲渡につきましては,債権譲渡登記がかなり普及をし,非常に成功をしているというふうに聞いておるわけですけれども,そもそもやはり信託によって,既に移っているんだと,したがって,それと競合したときには負けるんだというようなことがあり得るとすると,それも本来は同じ登記制度に載った方がいいわけですけれども,その部分を手当てしていくということになりますと,結局すべて登記登録あるもの全部に手当てをしていくと,知的財産とかですね,そういうものまで含めて手当てするということになりますので,単純に信託法に1個置けばできるならともかく,申請の書式ですとか,いろいろ考えると,ちょっと非現実的ではないのかと。

  そうだとすると,信託宣言ができる財産の種類とかを絞るか,絞らないで,もうそこはしようがないということで頑張るか。


ただ,しようがないというふうにしたときに,これからこれが入ると,債権譲渡登記を見にいって,あるいはないことの証明とかをもらっても,しかし信託設定されている可能性は,信託宣言でされている可能性はあるということで,しかもそれを知りたいと思えば,公正証書か,確定日付ある証書ですけれども,どこに公正証書あるかわかりませんし,受益者だれか何かもわからないので,端緒もないと。


  ひたすら譲渡人の言うことを信じるというような話の,そういう制度を導入するということになるのではないか。どこまで信託宣言が使われるかという問題はありますけれども,かなり影響は大きい話ではなかろうかという気はしております。


  もう1つは,先ほど動産の場合はよくわからないということで,私,動産の場合,ますますわからないのですが,178条の問題というふうにいたしますと,対抗要件としての引き渡しがあるわけですが,これは一体どう考えたらいいのか,自己の間で引き渡しということはおよそ考えられないので,178条の局面では,つまり,設定されたということ自体は,もう当然に対抗可であって,あとは,16条ですとか,そういう分別管理の問題というふうに考えたらいいのか,それとも占有改定はできているというようなことを考えたらいいのか。そうすると,178条は満たすけれども,192条の話は出ませんと。


  先ほど二重譲渡の問題は,全くほかの場合と変わりありませんというお話をされたようにも思ったんですけれども,理論的には,ちょっといろいろ違うところあるのかなと思いますので,引き渡しの問題などは,およそ,同一人格間である以上は,引き渡しということはあり得ないという理解の上で,単に信託を対抗する強制執行なり,動産なりの局面で,その問題として考えるのみであるという理解でよろしいのかどうかというのも,もしお考えありましたら教えていただきたいと思います。

● 債権の問題ですけれども,例えば,債務者に,債務者情報センターというか,債務者に聞けば全ての債権がどこに帰属しているかというのが,今の法制上で,別に,そうなっているわけではもちろんないのですね。


債権譲渡登記をしたときに,譲渡人から譲受人にこの債権が移ったということは最低限わかりますけれども,譲受人がその債権をさらにどうしたかというのは,登記を見ても,必ずしも同じものかどうかというのはわからない。


  債権譲渡登記制度というのは物的編成ではなくて,人的編成をとった以上,宿命として,既にどこか,何かを見れば絶対にわかるようになっているというふうには,もう既に制度としてなっていないので,その時点でもうその点についてのルビコン川は既に渡っているということではないかというふうに思います。

  さらに,その上で,譲り受けたときに,例えば今の債権譲渡登記で,もう譲渡人が信託設定ということであれば,債権を信託設定でやったということであれば,登記原因を見ればわかるかもしれませんけれども,受託者の方が信託設定ではなくて,受託した金銭で,信託財産たる金銭で債権を譲り受けたというようなときには,譲渡人は,譲受人がどこでとっているかというのはわかりませんし,債務者であっても単に譲渡したと通知するだけですから,債務者の方でも信託勘定でとったかどうかというのはわかりませんし,要は,分かるのは譲受人だけという世界になっているわけでありまして,それはもう,譲受人に聞いて,それでやってみて功を奏さなかったらほかの手段をとるというようなことになっているというのが現在の制度のたてつけなのであるかと思います。
  


それで,動産とか債権について,常にこのものがだれの所有権にあるかというのを公示していないとだめだというようなことには,我が国法上,そもそもなっていないのですね。


債権者というのは,別に固有の債権者に対する固有の財産に対する信頼を持っているわけではないわけでございまして,何かある動産を譲渡したんだけれども,引き続き賃貸借しているとか,あるいは占有改定で持ち続けているとか,そのときに執行したときに契約書を見せたら執行をとめられるということは当然あるわけでして,したがって,何かすべてのこの世の財産はだれかに実質的に帰属しますということが公示できていないといけないというような法制度には,我が国民事法上は,そのようにはなっていない。

  したがって,その原則が維持されているという,ただ,それだけのことという言い方はちょっといけませんけれども,そういうふうに考えられるのではないかというふうに思います。


● 信託財産であることの公示は,幾つかの公示制度で十分に対応できていないということで,今のように金銭で買って,信託財産で買ってもそれが公示できないということは,しようがないと言えば,しようがない点,そこも改正しない限りは改正できないことなんだと思いますけれども。


  信託宣言の場合に,そもそもの移転の部分さえも公示ができないというところが恐らく違っていて,それは,何とか不動産の方でできるんであれば,債権譲渡の方もできないのかという感じはいたしますね。


  ちょっと○○関係官もいろいろお考えの上で,相当苦労されたところだとは思いますけれども,あまり信託宣言について,やっぱり不透明な部分が残ると,結局信託宣言に対する信頼性が失われて,業法の方でやっぱり規制すべきだなんていうような議論にもなる可能性があって,私は,個人的にはやはり,こちらの信託法の方でもってできるだけ明確な形で信託宣言はされたということがわかるような手当てをすることが,できればですが望ましい。


  法務省の所管の中でできることと,それから,外でなかなかできにくいこともありますけれども,せめて債権のあたりはどうだという感じはいたします。


● 債権につきましては,確かに債権譲渡の登記というのはございますけれども,何もこれは,債権譲渡の登記が唯一の対抗要件という登記登録制度ではないので,信託法3条で言うところの登記登録すべき財産のところの登記とはまた違う意味であるということは,何度かこちらで確認されていることかなと思いますので,何かそこで載るんだったら,ここでも載らないと不整合ということでは恐らくないのだろうと思います。

  それで,○○委員の御指摘や,○○幹事の何らか,例えば明確性とかですね,それから占有改定によるようなものというような話がございまして,それはもう,一定の様式性を要求して,それで制度の設計としてはこういうことを,こういう様式的な行為をしないと対抗できないよというふうにして,効力としては発生しているとかいうようなことでも,考えられなくはないのですけれども,書面でやらないと,そもそも効力が,書面でやらないと効力の前提を欠くわけでありますし,それから公正証書なりをつくるとか,あるいはその旨を受益者に通知するということをしていないと,そもそも効力は発生しませんという厳しい様式的な縛りをかけて,そこで初めて効力が発生するんだというような形で考えていますので,それによって,一種の普通の取引で言うところの対抗要件を取得したというふうに同じように考えられないかということでどうかということで提示させていただいているということかなというふうに思います。


● 恐らく公示の持っている2つの機能のうちの,対抗要件の方は書面でもって効力発生要件ということで,そちらは客観的には確定する問題なんでしょうけれども,対抗要件制度が持っている公示機能と言うんですか,やっぱり外に見せるという部分がもうちょっと何とかならないかという問題なんだろうというふうに思いますけれども。

● 私自身がちょっと了解していないだけかもしれませんが,○○委員がおっしゃいましたように,ちょっと3条の問題を出されましたので,3条によっても,委託者から出ているということが,基本的に達成されるわけですよね。債権譲渡登記などであれば。


そこすらも達成されなくなるということの問題をどう見るかということだと思いますので,そういう御趣旨でおっしゃったのかとは思いますが,一応,確認。
最終的には政策判断だとは思いますけれども。


● 私どもの基本的な発想というのは,移転の部分と信託に入るという部分は,別々の段階が基本的にはあると思っておりまして,信託の公示というのは,信託になった,信託財産に入っているという,そのことであるというふうに理解しております。


  そこからすると,信託宣言というのは,移転していない以上,第三者に移転していない以上,それを公示上,反映させることはできなくて,あとは信託の公示を,ではつけるかという話なんですけれども,それは確かに不動産登記は受けられる制度になっているからうまいこと動くでしょうし,不動産登記制度並びのその他の登記登録制度も所要の整備を行っていくという方向で考える,そういう話だとは思うんですが,債権や動産譲渡の登記については,債務者対抗要件,第三者対抗要件というふうに分かれているとか,ほかにも公示方法があって,なかなか信託の公示というのは載せにくいという議論が,たしかあったということで,ちょっとあそこに信託の公示を入れるのは難しいのかなと思っておりまして,そうすると,債権や動産の登記制度に信託の公示とはまた別の情報を示すというような,ちょっとまた別の登記というのを入れるということを検討するかどうかだと思うんですが,ちょっとそこまでは何か……。

● いや,登記制度でそんな無理なことはあまりお願いは難しいんだと思いますけれども,不動産で,設定の段階でもって何らかの形で信託宣言というか,どういう形で表示するのかわかりませんけれども,それができるんであれば,要するに,その場合は信託財産になったということが,示されるということなんですかね。不動産の場合には。


  移転の方はできないけれども,信託財産であることを示すことはできるんだと,不動産の。


● それは,移転はもう公示してはいけないわけでして,移転はもちろんしていないわけですけれども,信託に入ったのは信託に入っているので,そこは信託の公示をつけるということを行います。


● 不動産はそういう信託財産であることを示す方法があるので,できるということですね。


● はい。そのような信託の公示制度は,債権や動産について,つけられるのであれば同じようなことは行われると思うんですけれども,そこがちょっと難しいのではないかとずっと思ってきましたものですから,我々としてはちょっと対処が難しいかなと。


● 理論的にはよくわかります。ただ,そのまさに移転の部分を,だから,移転とは言わないけれども。


● 委託者から出ているというか,そういうことなんですけれども。

● 信託宣言によって括弧つきの移転ですけれどもね,そういう形の公示ができないものかという,恐らく議論なんだろうと思いますけれどもね。


● 動産の引き渡しは,基本的にそういう概念はないという理解してよろしいですか。

● 引き渡しね,どうですかね。

● 動産についても同じだろうと思っておりまして,動産については,信託の公示は,あるいは信託の公示なくして対抗できるということになっておりますので,信託宣言の局面で言えば,もちろん占有改定などなくして対抗できるというようなことになるのではないかと思っております。


  つまり,委託者から出ていくという,まさにその部分を信託の公示というものが引き受けているのではないかと,こういう理解。


● なかなかこれは,信託宣言というか,信託の本質にかかわる問題で,受託者と,それから信託財産の関係,さっきちょっと○○幹事もちらっと言われた抵当権登記ができるかという問題などとも共通する,非常に難しい部分でして……。

● ぜひ○○委員おっしゃるように,つける方向で検討していかれて,何となくシステム的にはあそこに載せるだけであって,法律の目的をちょっと変えるだけかなみたいな。


  あと,公示と対抗要件というように,全部論理的に結びつけるからあれですけれども,当然の理屈ですからしようがないんでしょうけれども,重過失がない限り,結局,取引第三者は保護されてしまいますよね。

ですから,その重過失に対するやっぱり公示制度があることによって,だから3条の公示とは違った意味だと思うんですけれども,重過失性をより認定しやすくなるという趣旨だと思うんですけれども。


● 1つはまさに,動産の公示というのは技術的にどうされるんでしょうという単純な質問をしたかっただけですので,それは今の議論で相当難しい問題だなというのがわかったということで結構なんですが。


  もう1つ,ちょっと自分の,何を質問しようとしてたのかという記憶はやや薄れつつあるんですが,「※」の部分で,もう1点だけ,非常に技術的な質問がありまして,これ,詐害信託取消しの手続を経ることなくするところに意味があるのだという,それは非常によくわかるんですけれども,その上で,これはこの場合に,この効力がどうなるのでしょうかね。


  要するに,信託宣言,そのものの効力はどうなるのか,これはあくまでも手続によることなく,取り消せるということなのか,それともそうではなくて,信託宣言あったということを,否認するという表現はよくないのかもしれませんが,要するにあくまでも委託者の固有財産であるものとみなすことはできるというような趣旨なのでしょうかということです。


  これ,先ほど,不動産の場合は,少なくとも公示がされ得るわけで,そして登記原因明らかにして,信託宣言に基づいて信託の登記が行われているときに,しかしその信託宣言よりも前に委託者に対して債務名義を持っていたというものであったとしても,強制執行はかけられると,これ信託法に書くのかどこに書くのかちょっとよくわかりませんが,それができるとした上で,しかしその受益者は異議を主張できるということなんですね。

  この受益者の異議というのはあくまでも,信託宣言が有効であるということを前提にした異議なんだろうと思うんですね。


  それに対して,債権者の側は,最後ですけれども,「当該信託の設定が債権者を害することを債務者が知っていたことを証明しなければならない」,このポリシー自体はいいと思うんですけれども,これが一体何らか,信託宣言の効力自体を否定するというのであれば,詐害信託の場合と同じことなんですけれども,そうではなくて,一体,これ,どういう法律構成になっているのかという技術的なところをちょっとお聞かせいただければと思います。

● 質問を正しく理解したか恐縮ですけれども,別に詐害信託の取消しも,この場合も,信託自体を取消すというよりは,信託に伴った財産の移転というものを取消すわけですから,したがって,例えばA,B,2つの財産が信託宣言によって設定されて,それで被担保債権というのが1億で,その観点からいくとAだけ戻してくれれば結構だというようなことが,例えば詐害信託のあったときには,そのAを戻せというだけでありまして,その信託自体をばつにするということではないわけでありまして。

  それとの関連でいくと,それはその信託の設定自体を取消すというよりは,その財産に執行できると。


そのときに受益者の異議というのは有効でしたというよりは,むしろ詐害意思があったということを私は知りませんでしたということを受益者は言う。あるいは受託者は,そういう受益者がいましたということを言うということになるんだと思いますけれども。


● 相対的なと言われると。
● 理論的にはよくわかるんですけれども,よくわかるというか,理解はできるんですけれども,ただ,一般の,通常の理解ですと,やはり委託者の所有物であるからこそ委託者の固有債権者にとっては責任財産であるという建前が普通なのではないでしょうか。


  信託宣言が有効であるとしますと,同じ当事者間で,固有財産から信託財産移るということではありますけれども,それに対して,なおその信託宣言の効力自体を維持しながら,なお責任財産だと,委託者の固有債権者にとっての責任財産だというような構成というのが,一般の考え方からして,すっと出てくるのかなという疑問がちょっとあるということですね。

  効力否定してしまえばもう簡単なんですけれども,効力維持したままというのは,何かある種責任説みたいなもの,考えるのに近いのかなという感じがちょっとしたというだけです。はい。


● ちょっと私も実はこの規定と,詐害信託の関係については,もうちょっと質問も,というか自分なりの疑問もあるんですが,ちょっとこれは後でやるとして,今の○○幹事の関係で言いますと,信託宣言は一応やはり有効に設定されて,たまたまこの簡易な詐害行為取消しというんですか,この権利を行使してくる債権者との関係だけで相対的に,詐害行為と同じですけれどもね,その行使する債権者との関係だけで相対的に取消しというか,取消しという観念を入れるかどうかですね。そこで。


  取消しという観念を入れて,執行できるというふうに言うか,あるいは全然取消しという観念は入れないで執行できるというふうにするか。

  後者だと説明がつきにくいだろうと。

● 現行の多くの制度から見ると。

● 詐害行為からとね。これはどちらでも取消しの観念を入れてもよさそうな気もするけれども,どうなんですか。

● 一括してできたところ,どう説明するかという話だろうと思いまして,それはその詐害行為取消しと同じ要件であれば責任財産にかかっていけるというのは,その前提として,この執行手続,あるいは執行債権者との関係では,その信託の効力を主張させることはできない。それは無効であるといってもかまわないような気がするんですが,という前提である。そこは間違いないわけでして。

  ただ,いずれにしても,結論的に書くところはこの要件をクリアしていけば,執行手続に入ることができるよと。


● その説明の仕方として,今のような,相対的な取消しという観念を入れるということでも構わないのではないかと。ただそこまではっきりと書くかどうか,条文でね。ということですよね。


● そこまでは必要ないのではないかなという感じは何となくしているんですけれども。理論的には,信託の効力はないという前提なんだろうなとは思いますが。


● ちょっとよくはわからないんですけれども,取消しという観念入れた方がわかりやすいなというのは1つあるというのと。


● 確かにね。

● 期間制限等,先ほど同じように合わせて入れるとおっしゃっていましたけれども,もし,取消しというのを入れないで,期間制限というのはどういう期間制限なのかなというのも,ちょっと,最初お聞きしたときわかりにくかったもので,この質問を思いついたということではあるんですけれども。


● 仮に,取消し入れないとすると,これもここで書いてあるのも簡易な何か権利行使なんでしょうけれども,その権利行使についての期間制限ということにはなるんでしょうけれどもね。


  ○○幹事が言われたように,結果的に説明するときに取消しというのを前提に説明するという方がわかりやすい感じはしますね。特に詐害行為取消しそのものとの比較で言ったときにはわかりやすいかもしれない。


  ちょっとここら辺は,少し,もうちょっと検討させてください。

● これ,どういうふうに働くかだけちょっと教えていただきたいのですが,例えば,先ほどの債権ですと,移転がないので,対抗要件を備えるというすべは全くなくて,財産債務者に対する通知とかも関係ないということで,そこで,債権者の方が,相変わらず委託者兼受託者である人の固有の財産であるということで債権を押さえてきたときに,受益者は異議を出すわけですけれども,その内容は,通常は信託であって,もう固有財産ではないという話だと思うんですが,信託宣言によってされているというときには,その異議は何ら意味を持たないということになるんでしょうか。

● 今のような話ですと,例えば固有財産の債権者が来たときに,まず執行をかけてきましたと,まずそれで受託者または受益者の方が,これは信託財産ですと,まず一言言います。


そうすると債権者の方で,その財産は信託宣言によって設定された財産で,私はその詐害意思を知っていましたよということを債権者の方に言って,今度は受託者または受益者の方で,いや,私はそんな意思はありませんでしたと言って否認するか,あるいは受益者は善意ですよと言ってやってとめるかという,そういう手続フローになるのかなというふうに思いますが。

● 異議の主張というのは,およそいかなる異議,ここは信託だという異議の主張があれば認定する理解でよろしいでしょうか。


● はい。
● わかりました。すみません。
● では,○○関係官,どうぞ。
● ちょっと別の観点からの御質問でもよろしゅうございますか。
● はい,どうぞ。


● ちょっと,もしよろしければ事務局の方から教えていただきたいんですけれども。
  3ページの2の2行目に,パブリック・コメントからの抜き出しのところで,「これを導入することが」,これというのは信託宣言のことですが,「を導入すれば国際潮流に沿うこと」という1節がございまして,もし事務局の方で,この国際潮流とはいかなることを指すのかということについて,もしご存じであれば御教授いただければありがたいなと思います。


  もちろん,信託宣言そのものについては,大正11年の立法当時から非常に議論があって,そういう意味ではむしろ国際潮流というよりは,歴史は繰り返す的なそういう問題意識なんですけれども,私どもが考えております,所管する商事信託,特に流動化スキームの場合で,○○幹事がおっしゃったような特に自益型の場合は,ひょっとしたら世界でも相当このスキームが最先端を行くようなスキームになるかもしれないという観がありまして,私ども不勉強かもしれませんけれども,何か国際潮流として,特に自益型の流動化スキームとして信託宣言を利用する場合,何かそういったことがあるのかどうか,ちょっと御教授いただければと思います。


● 国際潮流に沿うことというのは,これは意見書の中から,いただいた中から意見があったものを書いたものでございますが,私どもが知る限り,米国とかあるいはヨーロッパ等で,信託宣言等については特段の,例えば不動産のときは何か書面がいるとか,詐欺防止法の観点から書面がいるとかいうような規制があるかもしれませんが,欧米では一般に認められておって,それで,例えばヨーロッパ信託8原則か何か忘れましたけれども,その中にもあるのだというふう伺っております。


  それで,例えば,流動化的な使い方という観点から考えますと,例えばいわゆるビジネストラストのようなものを使われるときには,実際の自分の財産を信託宣言で,信託設定して,信託証書を出すということで,言ってみれば,対象となった財産というものを,それによって資金調達をして,一種流動化と同様の機能を有しているというふうに評価はできるのではないかというふうに,そういう使われ方もあるというふうに認識しております。

● よろしいでしょうか。
  これも,諸外国でどういうふうに使っているかということについては,いろいろ議論あるようでございますけれども,信託宣言一般に関して言えば,一般には認められていると。どういう場面に使うかによっては,いろいろな国によってまた違うということなんであろうと思います。

● 設定の方法について,ちょっと1点,ちょっと心配な点がございまして,申し上げたいんですけれども,この御提案の内容では,要するに,委託者兼受益者が,私製文書をつくって,それでその確定日付のある通知書を出せば効力を発するという方法を取り得るということになっているんだと思うんですけれども,そうしますと,要するに,みずから私製文書をつくって,通知書を出すだけで,できてしまうという点が,ややその弊害除去という観点からすると,ちょっとお手軽にでき過ぎはしないかなという心配がちょっとありまして,これ1つは,公正証書,私署証書であれば,その信託宣言自体がきちんと公に確認されるということになると,公証人で確認されるということになると思うんですけれども,その私製の証書だけで通知ということになりますと,通知の中身で,あなたは受益者になりましたという通知だけでは,多分,信託宣言の中身まではそこには盛り込まれないことになるのではないかという気がちょっとしておりまして,そうすると,弊害除去という観点からすると,ちょっと十分かなという気がしております。

  公正証書,私署証書であれば,そういった点は,恐らくそれはないかと思うんですけれども,私製の書面でできるという点については,若干懸念がありますので,その点,ちょっと一言申し上げさせていただきました。

● 通知は,信託宣言の内容も通知することになるかと思います。
  それで,お手軽にできてしまうという点については,例えば贈与契約を書面でやるというようなことであってもあるわけでございまして,必ずしもこれがお手軽かというと,一部の方から厳しいというふうに,こんなことまでしなくてはいけないのかとおっしゃる方もいる反面の中で,いろいろなことを考えて,この辺でどうかということを御提示させていただいているということ,御理解いただければと思いますけれども。

● そうすると,通知の中に,その内容を盛り込まなければならないという前提での。そすると,できればその趣旨を明確にしていただけると助かるかなという気はしていますが。

● はい,わかりました。
  信託宣言は,特に皆さん御関心もあり,またいろいろ議論もあるところですので,またそれに関連して,先ほど少し信託の基本的な構造そのものについてのいろいろな議論も出てまいりました。


  大きな方向としては,皆さんは信託宣言を認めていくということで,大体よろしいという感触を私,持っておりますけれども,なお細かい部分,先ほどの登記制度の対抗要件についても,なおもう少し検討してみたらというふうに思いますし,今の○○幹事の御指摘の部分も含めまして,その辺はもうちょっとリファインした形で,最終的にまとめてもらうということでよろしいですか。

  一応,そういうふうにまとめさせていただければと思います。また,恐らくこれは,あと2回議論するチャンスは恐らくないのではないかと思いますので。


● いや,まだあります。
● これについて2回議論するチャンスあります。
● これについて2回は。あと1回です。


● ないですね。ですから,恐らく次回には,もう最終的に決まると思いますので,そういう意味で,皆さんの御意見があれば,事務局の方にお寄せいただくというのが効率的だと思いますので,お願いいたします。


● 信託宣言のところではないんですが,意義のところでよろしいでしょうか。
● はい。
● 前回の要綱試案のところと比較しまして,信託契約の効力発生時における債務の引き受けというところの記載がなくなっているんですけれども,これについては,債務の引き受けというのがなくなったのか,それとも入っているんだけれども,どこで読んだらいいのかということが1点。
 

 それと,債務の引き受けができることによって,事業自体の信託ができるというようなお話であったと思うんですけれども,事業自体の信託といいますのは,私自身,別に反対しているわけでも何でもないんですけれども,それだけができるということだけで,ちょっとそこは心配だなという感じがいたしまして,例えば,整備法とかで,何らかのものは御検討される予定があるんでしょうかと。


  例えばですけれども,事業が商法上の営業というところまで広まった場合
ですけれども,ではこれ営業譲渡というのと,経済的効果は全く同じだということになりますと,そうすると,総会の決議というのは要るんでしょうかということになると思います。


その場合も,自益信託であったら,実際に動いていないんだから同じではないのという考え方もあるでしょうし,他益になったところで,または譲渡があったところでそれは必要だという考え方もあると思います。


  そこら辺がよくわからないのと,例えば雇用ということを考えたときに,では信託で雇用されているというのは,どういう状況を言うのか,ではだれがその雇用について責任を持つのか,そこら辺のところがよくわからないところでして,例えば,今からやりましょうと行ったときに,それをどうやっていったらいいかわからないので,現実の問題として,それなりの指針めいたものであるとか,整備的なものというのは,何か御検討されているのであれば,教えていただきたいと思います。

● 債務を含むというのは,別にパブリック・コメントの結果,賛成多数というかすべて賛成ということで,その方向で維持したいということでございまして,ちょっと記述がないのは失念いたしましたということで,申しわけありませんでした。その方向は維持するということで,原案どおりということでございます。

  それで,整備法令でどこまで整備するかというお話で,ただ,今,お伺いしたようなお話ですと,例えば,それこそ事業をだれかに信託して,対価が通常の営業譲渡ではお金であるところを,それが受益権でしたというような場合であれば,それは恐らくは,今変わってしまいましたけれども,昔で言うと,245条の決議が要るということになるのではないかと,それが素直な帰結ではないかというふうに思われます。

  それで,自益の場合に,株主総会決議は自分でやっているんだから要らないのではないかという点につきましては,私も心の中ではそういうふうにできたらなとも思いますけれども,100%子会社をつくったりとかするときの会社分割ですとか,あるいは現物出資の形でいわゆる営業譲渡のような形で100%子会社をつくるときも,現在の商法ですと,総会の特決が要ることになっていますので,それとの並びでいくと,要るということになるのではないかなというふうに思います。


  ただ,○○委員が御指摘いただいた,何か,整備を図らないと何か動かないことはないかということについては,ちょっと貴重な御指摘ですので,私どもでもう1回,ちょっと関係法令を見直した上で,必要な法制度があれば考えたいと思いますし,実際の運用の面であれば,関係各方面にその旨をちょっと議論を提起してまいりたいというふうに思います。


● では,そういう事業の信託ということに恐らく関連するもの。
  はい,どうぞ,○○幹事。

● 同じような趣旨のことですが,担保権の設定が信託の意義の中に入っておりまして,これ要綱試案と同様であって,実質的には賛成でございますが,担保権の設定を信託法上の信託として行うことができるということを明らかにし,さらに何かこの信託法の中ではもう手当てしないというようなお考えでしょうか。


● 信託法の中で,何か手当てが必要であろうという御意見ですか。
● いや,特に思いつくことはないんですけれども,要綱試案のときの説明では,関連法に挙げておりましたけれども,なお,スムーズに行われるようにするためにはどうしたらいいかを検討するというふうに書かれておりましたので,その答えとしては,あるとしても,関連法にとどまるということになりますか。


● ほかの法律の方がね,いろいろ。
● 信託法では,この限度で,現時点での考えでございますが,あとは不動産登記法とか民事執行法とか,そちらの関連法での整備ということになるのではないかなというふうに考えております。


● はい,わかりました。
● それでは,大変時間をとりましたけれども,ちょっと次の説明だけして,お願いします。

● 本当は,一番最後に行こうかと思ったんですが,詐害信託の方に,いろいろ議論が及びましたので,第3の方,続けて御説明したいと思います。

  パブリック・コメントの意見は試案の方向性に基本的に賛成するものでございましたので,まず,個別的な指摘を踏まえたものでございますが,受益者の善意のみを要求し,無重過失までは要しないとしたこと。民法と平仄を合わせております。

  それから,これは書きぶりを明示したというだけで,受益権の譲り受けについては,譲り受けた当時ということを各所に明文化したこと。

  それから,あと,提案2の譲渡請求権の行使については,やはり詐害信託取消権と同様に,訴訟上の行使を必要としたこと。

  このような3点について,明確化を図っております。
  問題は,過去の部会及びパブリック・コメントでも指摘がありましたとおり,1の(1)の(b)に関するところでございまして,詐害信託の受託者が信託債務を負担した後に,詐害信託取消権が行使されたという場合に,善意の信託債権者を保護すべきではないかという点でございます。


  今回の提案では,このような善意の信託債権者の保護にも配慮することといたしまして,詐害信託取消権が行使された場合には,善意の信託債権者は,受託者が委託者に移転する財産の価額の限度で委託者の財産に請求できるとすることを提案するものでございます。


  その結果,委託者の財産について,取消権を行使した委託者の債権者と信託債権者,後者は財産の限度はございますが,が競合して委託者の財産にかかっていくということになります。


  このように,善意の信託債権者に対する委託者の責任を,一定の価額の限度に限ることといたしましたのは,善意の信託債権者が保護されるべきなのは詐害信託取消権の行使によって,善意の信託債権者が害される金額,すなわち受託者から委託者に移転することとなる財産の金額でございまして,委託者の責任もこの限度とすることが相当であると考えられるからでございます。


  この資料では,会社法の分割の例を挙げておりますけれども,取消権が行使された局面を見ますと,比喩的に言えば,分割されて新しい会社の方に,財産が一部戻っていくという関係に似ているなという気がいたしまして,それが会社法の条文ですと,承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求することができるというふうに書いてありますので,それも参考にしまして,戻った財産の価額の限度で,信託債権者は執行していくことができるとしてはどうかと考えたものでございます。
  以上でございます。


● それでは,10分間の休憩にさせてください。

          (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。
  先ほどの説明,詐害信託取消権のところですが,御意見伺えればと思います。
● 簡単なことなんですけれども,確認なんですけれども,先ほどの御説明にもありましたけれども,8ページのところの,(2)のところの上の段のところのここにおいてというところの部分の意味なんですけれども,実際には,信託財産自体が委託者に戻ったところで,補償請求権がある場合については,かかっていけると。


ということは,ほかの委託者の債権者と同じような形で,かかっていけるというような理解でよろしいのかどうかということと,もう1つは,信託の債務なんですけれども,先ほどの意義のところで,債務の引き受けも認められるということですので,当初から債務の引き受けをした分についても,やはり同様の形の整理になるのかどうか。

  ちょっとこの2点,お聞かせいただければと思います。
● まず前段については,補償請求権も信託債権者と同様の取り扱いとするということでよろしいのではないかというふうに思います。


  それから,当初から引き受けていた,当初から信託債権者であった人だって,当然,そういう信託財産が来るだろうなと思って,免責的債務引き受けに同意しているかもしれませんので,それが,戻ってしまうということですから,特段別異の扱いをする必要はないのではないかというふうに考えております。


● よろしいですか,それで。
● これは以前から申し上げていましたけれども,受託者がリスクを負うという部分がありますので,そこら辺のところは相殺する形で残った分だけ弁済というふうには申し上げていたんですけれども,こういう形であれば,この方向でやむを得ないのかなと。


● ほかにいかがでしょうか。
● 何点か確認したいんですけれども,受益者との関連で議論しているんですが,あとABLの貸主ということで,信託債権者としての貸主ということで出てくるんですけれども,ほかにそのレンダーが信託受益権に担保を設定するということもよく行われていますので,ですから信託受益権に対して担保設定した第三者とか,あと,レンダーだけではなくて,信託財産との取引をした第三者との関係とか,いわゆる詐害行為取消権の相対効とか絶対効とかいう議論との関連で,ほかの受益者以外の第三者が登場したときの保護の関係がどうなるのだろうかというところは,ちょっと既に議論されたのかもしれませんが,私自身わからなくなってしまいまして,あと,そのときに重過失なのか軽過失なのかとかですね,権限外行為との議論とかの関連との整合性の議論も出てくるのではないのかと思いまして,その辺ちょっとお伺いできればと思います。


● 基本的には信託財産の取引をする相手の保護の問題ですね。

● 最初に,例えば信託財産にものを移転して,受託者がだれかにそれを譲渡しましたというときは,それは一般の424条と同じような取り扱いになるかと思いますので,受託者からその財産を譲り受けた人が,一種の詐害行為取消権で言うところの受益者とか転得者と言われる地位になるので,その人が,悪意であれば,相対的に委託者から受託者へのところを,その人の関係で取消すということになるのではないかというふうに思います。


  信託財産の受託者のもとにあって,受益権に質権を設定したときに,その質権設定者が善意であったけれども受益者が悪意だった場合というような場合におきましては,これはたてつけをしますと,受益者が悪意だったら……。

● もうしないという立場になりますね。
● ということになってしまうかと思いますね。
● つまり絶対的になってしまうということですか。


● というか取引債権者は,今のような信託財産の取り戻しそのものについては,固有の利益を主張できないという考え方でできているようですね。これは。それがいいかどうかは御議論いただければと思いますけれども。

● 今の設問の前者の方ですと,受益者悪意で,取引第三者が善意の場合だと,民法424条の詐害行為取消しの対象になりませんけれども,信託法における詐害信託取消しの対象になるとすると,絶対効の効果は受けてしまうんですか。

  受益者が悪意であれば,常に信託は取消されて,信託の取消しというのは絶対的効力があるんだというたてつけなんですか。


● そうね。ちょっとアンバランスですかね。
  いや,どうですか。専ら受益者,いわゆる信託の受益者ですね,それとの関係で決めていくという考え。今まであまり信託財産と取引関係にあった債権者とか質権者とか,そういうものについての議論はあまり今までしてこなかったような気がするので,それをどう扱うかですね。


● すみません,回答を誤解しまして,不動産が信託財産として設定されて,それを処分してお金にかえて受益者に分配してくれるみたいな信託で,不動産を仮に処分をしたときの譲受人が善意であったときも,一般的な詐害信託取消しがかかると。


● 不動産の譲受人が善意であったら取消さないですね。

● それは取消さないんですよね。この信託法の詐害行為取消しの特則を使ったとしても,それは全くということですね。


● 受託者から出てしまったら,別にこの世界の,受託者,受益者のコミュニティの信託法の詐害信託取消権で扱う話ではないので424条の方で扱って,その人が善意か悪意かということを決するということだと思います。


● そうですね。ただ,受益権に対する質権設定は信託設定によって移転した財産に対する抵当権設定みたいなものとは全然性質が違うという説明ですか。


  すみません。回答の理解を確認しているだけなんですけれども。

● それはそうですね。

  受益者1人でも善意であれば,そもそも取消せないわけですけれども,受益者全員悪意で受益権に質権を設定していたというふうにしたところで,それはちょっと財産自体は戻ってしまうかなと。


● 受益権に対する,ちょっと僕もわからなくなってきたけれども,受益権に対するいろいろな取引関係にあるものと,それから信託財産に対しての取引関係にあるものと両方あるんでしょうけれども,受益権に対する取引関係にあるのは,受益権の譲受人と同じような扱いをすればよろしいのではないですか。


● そう言えば,そうですね。
● そうでしょうね。
● それであれば。
● 何か,もしうまく解明する御議論があればどうぞ。


● ちょっと別の,大きな全体の構造を聞きたい話ですから,どうぞ。
● そうですか。もし今の件について,さらにもし。
● ○○幹事が確認したことの再確認なんですが,不動産の場合の取引の相手方が善意で,不動産を譲渡したと,信託財産の不動産の場合ですね。受益者が悪意の場合に,先ほどの御回答ですと,その場合には,詐害信託の取消しの対象にはならない,受益者悪意であっても。ただ信託は終了していないという前提ですから,対価は信託財産に入っていると思うんですけれども。

● ええ。それはだから,通常の詐害行為のときに物,例えば,受益者悪意で,転得者善意というときに,物が行ってしまいましたというときに,悪意の受益者に対して価格賠償請求ができますねという意味で,信託財産に対して価格賠償請求するという話はあると思いますけれども。


● 最後の,だから信託財産がさらに出ていったときの,転得者とか,それが善意であればそれは取り戻せないと,そこは424条と。


● 詐害信託には該当するけれども,取り戻せないというのと,詐害信託にも該当しないというのと。


● そこの言い方ですけれども,悪意の受益者に対しては,詐害信託としての権利が行使できると。だから出ていったものが,取得者が善意であれば,そこからは取り戻せない。そういう意味では424条と基本的には同じ構想ですね。


● なるほど。はい。
● これも何か議論すると,なかなかわかりにくいところがあって。今までも案は出てきたんでしょうけれども,そんなに集中的に議論がなかったものですから,今のような細かい問題についてちょっと見落としなんかがあるかもしれませんので,もし御議論があれば。
  ○○委員,どうぞ。


● 細かくなくて,むしろ全体像をまず確認したいと思います。
  424条のではなくて,この詐害信託について,まず被告がだれになるのかということ。それから,何を取消すのかということ。それから,効果としてさっきも出てきたんですが,信託の終了が生じるのか生じないのかという,まずその基本的なイメージを共有したいと思うんですが。

● まず1として,被告は,財産が受託者のもとにあれば,受託者が被告になると。もしそれが受益者に給付されていれば,受益者にいきますけれども。詐害信託取消訴訟の対象になった財産が受託者のもとにある限りにおいて,被告は受託者になる。受託者は,それで,受益者は善意でありますよということを証明しないといけないと。しない限りは取り戻されてしまうということになるかなというふうに思います。


● それから終了するかどうか。
● その場合,財産が戻ってくるときに,例えば,一部戻っただけで,まだこれでも当初の信託目的は達成されるよということであれば,別に信託は終了しないということだと思います。


  そのかわり,ほとんど全部取られてしまって,これではこの目的を達成しようがないよねということであると,終了のところの,信託の目的達成あたわざるときというところの要件にかかって,そこで終了するという整理になるかなというふうに思いますけれども。

● 2番目にお聞きした,何を取消すのかというのはどうでしょうか。
● 財産の処分を取消す。


● それでは被告についてなんですが,委託者も債務を負担するという場面があるわけですよね。その場合には委託者は,別の訴訟で被告になるというイメージですか。


●  すみません。今1の(b)の関係ででございますか。
● ええ。
● それは違う訴訟でという話になります。
● ○○幹事。


● 先ほど取消し対象は,何か財産の処分を取消すと。例えば,○○幹事が出された例かもしれませんが,不動産が信託財産として信託が設定されて,その不動産を受託者が売って,金銭にかえていて,現在金銭が信託財産になっているというときには,これは取消せないんですか。

● 先ほどの○○委員の質問にお答えした類例だと思うのですけれども,その場合に,仮に受益者が悪意で,あるいは全員悪意で,もちろん受益者が1人でも善意あればそもそも取消せないわけなんですけれども,受益者が全員悪意で,受託者から売った財産,不動産を譲り受けた人が善意でありますというときにはその譲り受けた人に対しては取消権は行使できないと。


  それで,受託者に対しては,そこにある金銭を価格賠償という形で,取り戻せると。通常の詐害行為取消権のときに,債務者が受益者に渡して,受益者が転得者に譲渡しましたというときに,受益者は悪意ですけれども,もう譲渡してしまいましたと。


転得者は善意ですというときに,転得者から取り戻せませんねというときには,その受益者,悪意の受益者は価格賠償責任を負うというのと同じ取り扱いをするということを先ほど答えたということですね。


● そこへ善意とか同じなんですかね。今の場合,受益者が悪意なので,財産が処分されていなければもちろん受託者から取り戻せるけれども,処分されていて,受益者全員悪意だけれども,取得者が善意であって,かわりに金銭が入っているという例でしたか。○○幹事のは。売却したので。


● はい。
● ですからその場合には,もとの信託財産そのものは取り戻せないけれども,価格賠償,価格の返還というのができると。受託者から。


● それは受託者が悪意であることが要件になるわけですよね。
● 受託者は問題にしていなくて。
● いや,受託者は問題にしていなくて,ここは受益者が全員悪意であればということで。受益者が1人でも善意であれば,そもそも取消せない。


● いや,それはそうなんですけれども,どうして財産の処分を取消すということにこだわる必要があるのかがよくわからないんですが,信託の設定行為を取消すということにはならないんですか。


● その設定行為を取消すという意味は,取消しされたら信託をただちに終了してしまえということですか。


● 全部になってしまうからということですか。なるほど。
● ええ。そういうわけではないと。
● はい。

● ただ,それは同じなんではない。信託設定が取消されていても,相対的にと言いますか。

● 一部しか取消しのない,目的物の一部しか戻らないときは信託は残りの財産にそのまま継続されますので,信託自体は取消すのではなくて,その財産の処分を取消すという構成にしているわけですから。


● でも財産が仮に1つの場合であったら。
● それはそれで目的不達成で信託終了という。


● 不達成で終了になるけれども,取消しによって信託が終了してしまうわけではなくて。


● 信託は取消しとは考えていないです。
● 考えていないのね。だからそこは同じなんですよね。
  だから,それは,普通の,信託という形ちょっと複雑だけど,普通の424条の譲渡とか譲与された場合と同じに考えればいいのではないんですか。


● 中身が424条と同じではないかと,取消しの対象は同じ話になるのではないかと思うんですけれども,それをどう説明するかというときに,424条も法律行為の取消しを裁判所に請求するというときに,あまり厳密に考えていないのかもしれませんが,売買契約によって移転したときに,財産権移転行為を取消すというよりは,売買契約を取消すというふうに考えて,ただ一部取消しなので,残るというような説明をしているのではないかと思うんですが,この場合に,わざわざ,信託契約を取消すのではなくて,処分行為を取消すというと,何か物権移転行為の独立性を認めるのかとか,そういう議論になるのではないかというので,法律関係がどうなるかの説明としてはそういう趣旨ですという説明の方が,424条との関係でもあつれきがないような気がするんですけれども。

● 私の説明が悪かったかもしれませんけれども,取消された財産についての信託関係はなくなるわけですから,その点については,○○幹事にも御指摘されたとおりの説明の方がよかったかもしれませんけれども。


● 用語法だけの問題かと思いますけれども。
● 今のと関係するかどうかあれなんですけれども,そうすると,例えば先ほどの事例で,受託者が不動産を例えば処分しましたと。代金が入ってきましたといった場合に,その入ってきた代金というのは,信託財産として観念されることになるんでしょうか。


● ええ,14条の規定が働きますから,信託財産以外の何物でもないですね。
● わかりました。はい。
● ○○委員,どうぞ。


● ノンリコースローンのレンダーが委託者に対して請求権を持つというような規定でここ書いてありますが,先ほどの取引した第三者ですね,物権的な処分行為だけではなくて,お金を貸すというような行為も含むというように第三者を考えると,なおかつ,ここでの説例としては,ノンリコースローンのレンダーですから,委託者の資力よりも,信託財産に対する資産の価値に対してお金を貸しているわけですから,ですから,その場合に,詐害信託が取消されたとしても,あくまで信託財産に対しての何らかの物上保証的な観念をした方が,ある意味では,レンダー保護に資することになって,今の提案ですと,それほどもともと資力のない委託者,または詐害信託をするほどの委託者ですから,あまり意味がないし,なおかつ第三者保護のさっきの議論ともちょっと必ずしも整合しないのかなと思ったことが1つ質問の点なんですが。


  あと,ちょっと違うポイントなんですけれども,破産法改正のときに,適正価格売買の否認の議論がいろいろあって,一定の着地点を見つけたと思うんですけれども,そのときに,民法の詐害行為も変わるや否やみたいな議論がよく座談会何かでされていて,きっと解釈論的には変わっていくのではないですかみたいな議論があったと思うんですけれども,その場合,信託実体法の中で,詐害信託を規定するというときに,仮に取引第三者が悪意であったとしても,適正価格を払って受益権を取得,信託に入れるとかですね,または信託受益権を取得する場合に,適正価格を払っているような場合に対しては,民法と同じ規律するのか,民法を1歩踏み出した破産法の実体法と同じ規律するのか,その辺の議論はせっかく破産法であれだけ議論したんだから,それだったら破産法に,どちらかというと,寄せた方がいいのかなと思っての質問なんですが,いかがでしょうか。


● 1つ目の物上保証みたいな話も,ちょっと内々には私ども考えたことは考えたのですけれども,ここは,いわば委託者の債権者と信託債権者とのバランスをどうとるかというような中で,どちらに寄せすぎても,利害調整としていかがなものかという中で,御提示をさせていただいている案だということを御理解というか,御議論いただくというか,いただければなというふうに思いまして,通常であれば,財産が委託者のもとに戻って終わりなんですけれども,そこについて一定の程度,執行が可能になったという意味において,信託債権者もある程度保護はしているというふうに考えられないかということでありまして,逆にそこで信託債権者が全部取ってしまうというふうにしますと,今度は委託者の債権者はどうなるのかという話にもなってまいりますので,そのバランスを考えた上で,一応,御提案させていただいているということを,ちょっと御理解いただければと思います。


● バランスですからあれです。でも,買った人は保護されるけれども,ほぼ同じように,買うお金を貸した人で,なおかつその方保護されないみたいな,善意の第三者まで,善意の貸主と善意の買主を前提としたときに,何か貸主がやや不利,ややというか,圧倒的不利に扱われているような。信託財産を買った人は先ほどの議論だと,保護されますよね。


善意ですから。信託財産だけを手当てにノンリコースローン出したレンダーは,ある一定の範囲では保護されますけれども,信託財産に対しての物上保証的なものはなくなってしまって,保護されないという意味でのバランスもちょっと欠いているのかなと思うんですけれども。

● その場合も,ちょっと理屈としてどうかという話もあるかもしれませんが,一応,貸し出しをしたときにあって,受託者,現金幾ら,債務幾らと書いて,現金が何か,資産に化けているんだとすると,貸したというのは,別に,単にお金を贈与したとかいうわけではなくて,貸したお金というのは何らかの資産に化けているわけですから,通常受託者がうまくやっている限りにおいては,相応の担保は,相応の財産は受託者のもとに残っているはずであるというふうに考えますと,単に受託者から買った人と比べてバランスを失しているとまで言い切れるかどうかというのは,ちょっとあれなんですけれども。


● 物は買えるけれども,お金は残っているはずであるという。
● 残って,何かほかのものに化けているはずであると。複式簿記を前提とする限り。現金,債務で,現金が出て,左側に何か立っているはずですから,という。

● ABLのスキームで,お金は委託者にもどってしまいますが,信託財産だけが残る形なので。


● というのは,信託財産にお金を貸した債権者の方は,財産が取消されて委託者に戻るけれども,それ以外に,なお信託財産のところに少しお金が,要するに,お金,別の形で残っていればそれは行かない場合があるわけですよね。


● はい。
● それが残っているであろうと,そういうことなんですね。
● ABLのスキームを前提とすると,お金は,委託者はそのために信託財産を信託設定したので,お金は信託の一部解約とかいう形で現物交付にかえて委託者のもとに戻っていますから,できあがりの姿というのは,一部受益権が,理想的な受益権が委託者は持っていて,信託財産としては信託財産そのもの,不動産とか債権ですね,それに対してノンリコースのレンダーがいるという,こういうたてつけなものですから。


  だから,今の状況にはならないんですけれども。

● 基本的には,やっぱり○○委員,あるいは○○関係官も説明されたと思いますけれども,この取消しを認めるニーズ,それは当然取消して委託者が債権者がそれにかかっていく利益と,それから貸し付けをして,特に信託なので,実質上,あたかもそれを担保に貸しているような,実際に担保権を設定するのはまた別なんだと思いますけれども,そういう債権者の保護を何か調整できないかということですよね。

  もし,取消しを一切認めなられないということになると,委託者の方の債権者の方は0だということになるし,その取り戻しを認めておいて競合させるような形にすれば利害調整ができないだろうかというのが,恐らくこの原案なんだと思いますけれども。

● そうすると,適正価格,その対価は何らかの形で委託者のもとへ入っていると,取消す必要はないのではないかという2番目の質問とも絡んでくると思うんですけれども。


● なるほど。これは難しいね。
  ちょっとあまり戦線を広げてもよくないかもしれないけれども,僕が言いたかったのは,普通の詐害行為取消しの場合にも同じような問題は生じ得ますよね。ただ,お金を貸したような利害関係人が出てきたときに,転得者としては保護されないということになれば。


● それだと困窮している企業に対してお金を貸したりすると。
● もっと保護しようという議論ですね。
● という議論ですね。処分した場合とかですね。


● 確かにそういう問題もあるようには思いますけれども,一応,ある程度の利害関係の調整を図るという考え方からできておりまして,今の○○委員のような意見も踏まえながら,また検討してもらうということにしますけれども,とりあえず,原案を基本にさせていただければと思います。
  はい。○○委員。


● 細かい点ですが,1の(1)の(a)の,「受益権を譲り受けた当時」というのが入っておりますけれども,この解説を拝見しますと,いわゆる自益信託で受益権が譲渡された例を考えているように読めまして,それだったら理解できるんですが,この文言だけ読みますと,他益信託で,悪意の受益者が善意者に譲渡するという場合も入るかのように読めまして,そうすると,不適切な場合が出てくるかなという気もしますので,そこは区別した方がいいのではないかなと思うんですが。


● いや,それは悪意の受益者から善意の受益者に対して譲渡した結果,1人でも善意の人が出てくれば取消せないと。


● そういうことなんですか。

● ただ,悪意の受益者に対しては,価格賠償等ができるという,悪意の受益者に対する受益権の譲渡請求ができることの裏返しとして,通常の詐害行為取消権で,悪意の人が善意の人に渡してしまったからもうだめだよということはさせないぞということは,悪意の受益者に対して,価格賠償,譲渡してしまった受益者に対して価格賠償していくということになるのかなと思いますけれども。


● 僕もちょっとはっきりしなかったんだけれども,僕も今○○関係官のように理解していて,詐害行為取消しの一般の場合と同じように,転得者を善意の場合に保護するというのを同じようにここで当てはめて考えると,受益権を譲り受けた人間が善意であった場合には,それは,保護されると,そういうことですね。

● それだったら理解できます。
  もし1人でも善意者がいる場合に取消せないという効果が出てくるんだとすると,どうかなと思ったんですが,転得者とパラレルに考えて価格賠償ということであれば,それで理解できます。


● この詐害行為取り消しも,細かいこと考えると恐らく,まだまだ問題が出てくるのかもしれませんけれども,一通りよろしいでしょうか。御議論いただいたこと。


また後で気がついたような点がありましたら,これも先ほど言いましたように,もう時間的にあまり余裕がありませんので,御意見があれば,積極的に事務局の方におっしゃっていただくようにお願いしたいと思います。
  それでは,次行きましょう。


● では,次は,いわゆる後継ぎ遺贈の受益者連続という問題について,御議論をいただければと思います。
 

 これにつきましては,その有効性を認めて,多様な相続ニーズにこたえるためにその導入に賛成しながらも,期間的に一定の制限が必要であるという意見が多数寄せられましたけれども,他方,我が国の相続制度との調整や,遺留分制度との関係の調整がついていない現段階での導入は時期尚早であるというような反対意見も少なからず存在したところでございます。


  そこで,この資料中に記載しましたような反対意見の内容も踏まえまして,このような信託の有効性については,どのように考えるべきか,仮に有効性を認めるとした場合でも,信託法において,いかなる規律が必要,あるいは可能なのかにつきまして,御審議をいただければと思います。
  以上でございます。


● どういう規律が可能なのかということについても,ここではまだ土台となるような原案というのは出ていないわけでございまして,むしろ皆様の御意見の中から,可能であれば,こういう規律が可能,考えられるということがあれば,御提案をいただきたいという趣旨でございます。
  いかがでしょうか。どうぞ,○○委員。

● 弁護士会としても,この点は昨日議論しまして,○○の見解としてはパブ・コメでもそのようになりましたけれども,賛成であるということです。

  やはり,この反対論は2点,民法の相続秩序云々という議論ですけれども,遺留分については,これは計算の問題なので,遺留分を否定するという提案ではないと思うので,計算の問題なので,それは信託受益権が金額的に計算できるという前提だと思いますから,ということは当然だと思いますので,特に問題ないと思いますし。


  前者の方が,相続秩序云々ですけれども,相続秩序というのは,ここで何か大上段な議論してもしようがないんですが,所有権の議論から出てきている節もかなり強いのではないのかと思いますし,あと,何か戦前を引きずるみたいな議論も多少あるかもしれませんけれども,いい面をとらえますと,ここの場でもいろいろ議論したように,やはり障害児のいる親御さんの議論とかですね,または昨今の中小企業の事業承継の議論とか,いい面も多々あります。
  


ですから,相続秩序云々というニーズに,今現在の相続秩序云々というのがあるとしたら,それが多少,今日的な社会から見るとちょっと不都合になっている点もあるのではないのかと,こんな大上段に議論してもしようがないんですが,と思います。

  あと,反論もあるかもしれませんけれども,現状でも,財団つくるとか,または公益信託を設定するとか,類似のように,自分が死んだ後も,自分の財産が何らかの目的のために使われる制度というのはあると思うので,とにかく,所有権の絶対性から来た議論という面に,やはり相続秩序の面で強いのではないのか。

  要するに信託自体は所有権の制度を指定したわけではなくて,受託者が所有権を持つわけですからできるわけでして,この今御提案されている,後継ぎ遺贈型の受益者連続信託が持つ,今後の社会をにらんで,非常にいい面というものをやはり看過してしまうと,せっかく信託をつくっても特に,今後の社会において,十分機能しないことになってしまいますので,ぜひ導入するという方向で検討していただければと思います。


● 私も個人的にはできれば規定というか,認められるといいと思っているんですが,ただ,ここにもありましたように,期間についての議論というのがございまして,一体先の先の先まで決めるような連続受益者と言いますか,そういうのが可能なのかとかですね,どこかで期間制限をしたらいいのではないかという議論が他方であって,そうなると,それに正直に対応しようとすると,それはなかなか期間制限の設け方というのが,どうしたらいいか悩ましいところなんですけれども,もしそれについて,もし御意見があれば,○○委員の方は。

● ○○としましては,パブリック・コメントの中で意見を,たしか一定の期間に限るべきだみたいなもの出ていたと思うんですけれども,ロジックとして,どの期間が一定の期間なのかという,理屈では説明しがたいところもあると思うので,その辺は信託の変更とか,違ったところで,別にこの形の信託ではなくても,非常に長い信託を設定したときに,それが社会のニーズとか,状況と合わなくなってきたときに,信託の変更で対応するというたてつけだったと思いますから。

● 財団法人なんかですと,一応,そういうことでよさそうなんですが,またそれから信託の場合でも,ある種の集団信託,年金信託とか,そういうものについては,あまり期間ということを心配しなくてよさそうなんですけれども,個人が受益者になって,自分の子の子という,抽象的に受益者を指定しようと思えば,自分の子孫を抽象的にどんどんつけ加えていくこともできたりして,そういうのが,それでも構わないと割り切ってしまえばいいんですけれども,反対も恐らくあるのではないかと思いまして,それに対する,何か,うまい対応があればいいのではないかという感じなんですね。

● はっきり覚えていないんですけれども,たしか弁護士会の議論では,要するにあると想定できる自分の子供,孫,今の時代であれば長生きしますからひ孫とかですね,それの大体平均余命ぐらいのところまでをとらえる,ひ孫までいくか孫までいくかわかりませんけれども,というような議論があったかと思うんですけれども,どちらにしても理屈ではなくて,切らなくてはいけないところはあると思うんですが,少なくても1次相続人だけではなくて,2次相続人まではカバーする期間,またはその世代間で切るというものありますけれども,そうすると,ひ孫以降までの期間なのか,世代をとらえるのかというところの議論かなという,そんな議論が弁護士会ではしました。
● 世代で切るというのも1つかもしれませんね


  ○○委員は,何か。
● いろいろ心配性なものですから,どんなケースがあるかということを考えているんですが,先ほど○○委員の挙げられた,利用方法として,障害児の場合と中小企業の事業承継の場合を挙げられたんですが,両者,ちょっとニーズが違うのではないかなという気がします。
  


生活保障というのはかなり必要性があると思うんですが,家業維持の方につきましては,半面で,世襲財産をつくり出す弊害であるとか,あるいは他の方法によってそれを実現することができる。


それから,期間の制限という意味でも,生活保障であればある程度は限定できるんですが,家業維持ですと,当然には出てこなくて,非常に永続的になってしまう。そうしますと,どうもここで考えるとしても,生活保障の方を中心に考えていく方がいいのではないかなという気がします。


  とりわけ委託者が自分の死んだ後,第1次受益者の遺産やあるいは生活を事実上拘束すると。あるいはさらにその後の世代を死んだ方が長い間拘束してくというのは,どうも何か適当ではないのではないかなという気がいたします。


  そうしますと,仮に第1次受益者の生活保障を主眼といたしますと,例えば世代で区切るということがあり得るのではないかなという気がします。それは期間で区切りますと,どうもその信託目的がかえって実現しにくくなるのではないかなという気がします。


  それからさらに外国法では,第1次,これは受遺者ですが,第1次受遺者の資格,あるいは第2次受遺者の資格というような角度から限定している法制もありますので,そういった,だれが受益者になり得るのかという面からの限定も考えうると思います。

  それから,もう1つ,信託設定行為自体は,本来自由であるべきなのですが,あまり複雑にしますと,委託者の死後の,さっき申し上げた人々の生活や財産を非常にコントロールするということになる,そういう弊害もありますので,できれば認めるにしても,シンプルなものにした方がいいのではないかなというふうに思います。


● 今の,ちょっと僕も誤解したかもしれませんけれども,どこかで切るというときには,第2ぐらいまで認めるということなんでしょうか。


● 第1を自益だとしますと,第2ということで,つまりは,委託者の死んだ後の1世代というのが,1つの目安かなというふうに思います。

● ほかに何か御意見ございますか。
  では先に○○委員,どうぞ。


● 制限というのはあまり議論したことがないので,どれが適当なのかというのはよくわからないんですけれども,実務上のニーズということだけで申し上げますと,先ほど○○委員がおっしゃったような感じでありまして,基本的には目に見える範囲内のものに対して2次,3次ぐらいの承継をさせたいということと,あとは遺留分を侵してまでというようなことは考えていないと,そういう形でのニーズで,それで,最終的にやはり何年というのもどうかと思いますので,世代として2世代というか,3世代というのか,そこら辺のところが最終的なところの,落としどころということではないかなと。実務的な観点からしたら,そういう感じがいたします。


  生活の保護の問題だけではなくて,やはり事業承継というのも昨今結構そういうニーズがございますので,そういうことも視野に入れていただければなというふうに思います。


● 信託一般からすると,まだ未存在の受益者というのを受益者にすることで切るんですけれども,1つの考え方としては,何世代というのもちょっとなかなか区切りにくいので,このタイプの信託に関しては,未存在の受益者はだめだけれども,現存する受益者であれば何世代でも構わないというようなやり方で切るというのも客観的に切れるかもしれない。

● 私もそれ考えたんですが,最終的に公益に使ってほしいという場合もあると思うんですね。そうしますと,あるいは胎児でも構わないだろうと思います。
  ですから,信託行為時に確定できるというようなあたりで切れるんではないかなというふうに思いました。


● ○○幹事,どうぞ。
● ○○委員がおっしゃってしまったので,同じなんですが,やっぱり民法の遺言について965条で重用される886条を基準にして,胎児まで認めるという以外に,やっぱり切りようがないような気がするんですね。そして,そういうふうに最初の設定者から特別に相続なら,相続そのものではないわけですが,相続類似の形で,胎児も含めて指定されている,つまりここで言えば,妻というのには生きている間の受益権というものがその時点で相続類似の形で発生していて,長男にはその死亡後にその受益を受けるという権利が,その時点で相続として発生していると,相続類似の形で発生しているというふうに考えないと,遺留分というのはやっぱり計算は,計算の問題だというのはそのとおりなんですが,計算できないんだと思うんです。


  なぜならば,仮にその妻に行ってしまって,そして,妻のまた財産の中から,当該受益権が長男に行くときの遺留分の算定ということになりますと,ではその遺留分の侵害というのはどの時点で起きるのかという問題が起こってくると思うんですね。

  そうではなくて,やっぱり最初の遺言なら,遺言代用的な話だと,その段階で,設定者が直接に長男に対して,ある一定の期間の受益権を与えたと,それを遺留分算定の基礎として計算していかなければならないと思いますので,民法886条の基準でいくほかはないのではないかというふうに気がしておりますけれども。

● ここまでの範囲まで,連続受益者を設けることができるかという問題と,それは今の○○委員,あるいは○○幹事,私も基本的に現存する,胎児も入れて現存するということでいいと思うんですけれども,次の問題は,今○○幹事が言われた遺留分減殺請求権というんですか,遺留分侵害をどこの時点で判断するかで,今の○○幹事の,すべて最初の段階でもって,すべてについて判断すると。
  

しかし,そのときにも,だれの相続に,つまり最初の受益者といいますか,今委託者です,か,委託者に相続があったというふうに擬制して,生前でやる場合もありますけれども,それで,例えば第2受益者が,最初は自分だとして,第2受益者が妻だとすると,妻の後に子供がいて,その子供にいく受益権が遺留分の侵害になるかどうかを判断するときに,父親の相続について判断するのではなくて,妻の相続について仮定して判断するんですか。そのときの財産を計算して。


● いや,だから,それは無理なんだと思うんですよ。だから最初の父親の相続のときに判断して,妻には生きている間の受益権が相続されていると,相続ではないんですが,譲渡されているということを遺留分侵害の基礎として計算をしていくというほかはなくて,その時点で,相続の法理を妻から長男への移転において考えるのではなくて,最初の委託者が当該長男に対して,妻が死亡した後の受益権というものを遺言なら遺言によって与えているというふうに計算せざるを得ないのではないかと思うんですが。


● それなら可能ですね。
  では,これもまだちょっと詰めなくてはいけない問題がございますので,今のような御意見を参考にしながら,ちょっと最終的にどうなるかはなかなかまだちょっと予測できないところありますけれども。


● 1つだけよろしいですか。
● どうぞ。
● 今のは,そもそも認めるか認めないかという話で,仮に認めたとして,その後の規律は,一般の信託とすべて同じという理解でよろしいのでしょうか。例えば信託の変更や終了などのあたりというのはどうなるかというのも,一たん認めると,考えないといけない問題,それなりにあるのではないかなという指摘だけで。

● まだそこまでなかなか行き着かない,前段階でとどまっていますけれども,基本的には大体同じでいいんだと思いますが,変更だとか幾つかの問題があるかもしれませんね。


  どうもありがとうございました。では,さらに検討させてください。
  次,ではいきましょうか。


● では次は,また少し中間の,受益者複数の問題について,やらせていただければと思いますので,第45からでございます。

  まず,受益者が多数に上る信託について,第45でございますが,信託法の定めにより,単独受益者権を制限することも,一定の範囲で可能とすべきであるとの意見が多数を占めております。


  確かに受益者が多数に上る信託ですと,濫用的な権利行使によって,信託事務処理の円滑性が害されまして,他の受益者の利益が害される可能性が受益者少数の信託に比べて高いと考えられます。


  そうしますと,単独受益者権の重要性に十分配慮しつつも,なお一定の権利については,株主における権利行使のように,集団的な処理を可能とすることにも合理性が認められると思われます。

  ここで問題は,受益者が多数に上る信託を,受益者の数はナンセンスだと思いますので,数以外のどのような基準で類型化するかでございますが,この点につき,今回の提案では,受益権につき,有価証券を発行するとの定めのある信託をもって,この類型に当てはまるとしてはどうかと考えております。


  その理由でございますが,受益者が,有価証券化されていれば多数に上ることが一般に多いことですとか,受益権が転々流通することによりまして,受益者間の関係が希薄になって濫用的な権利行使や意見対立の可能性も類型的に高いと思われることですとか,あるいは受益権の内容を割合的にとらえることが可能であるので,株主と同様の制限を認めることが容易であるということなどが考えられます。

  あと,どのような単独受益者権について,信託行為による制限を設けるべきかにつきましては,その信託への影響の重大性ですとか,受益者間の意見対立の可能性などを考慮しまして,会社法などの規定も参考にいたしまして,31ページの(注2)と,それから33ページに記載しましたとおり,5つの権利,裁判所に対する検査役選任請求権と,受託者の違法行為の差止請求権,帳簿等の閲覧等請求権,以上は会社法にも規定がございます。それから裁判所に対する信託の変更,または終了請求権,これはその重大性にかんがみましてということでございますし,権限違反行為の取消権につきましては,意見対立の可能性があるということで,これらの権利につきまして,それぞれ33ページに記載したような制限を設けてはどうかと考えております。

  あとは(注3)のとおり,受益者が訴訟を提起して勝訴したというときには,信託財産に求償をするような規定を設けていきたいと,会社法にも類似の規定があったかと存じますが,そのような規定を整備したいと考えております。


  次に,第46の受益権取得請求権の問題でございますが,パブリック・コメントでは,受益者保護の観点から,取得請求権に関する規定を設けることには賛成意見が多数を占めましたが,これを強行規定とするかについては賛否が分かれましたものの,賛成意見の方が優位を占めております。

  まず,強行規定として受益権取得請求権を導入すべきかという点につきましては,あらゆる信託の変更についてではなくて,受益者の利害に重大な影響を与える可能性のある内容の信託の変更などがされる場合に限定して,受益者が合理的な対価を得て当該信託から離脱する機会を,強行規定として認めることが,受益者の保護の観点からやはり相当ではないかと考えるものでございます。
  


そこでさらに問題となりますのは,このように強行規定として取得請求権を認めるべき信託の変更等の範囲でございますが,この点につきましては,受益者の利害に重大な影響を与える可能性のある事項との観点から,提案1のとおり,まず新しい資料の(1)の①から④までの信託の変更と,それから,信託の併合及び分割に限った上で,さらにその信託の受益者間の権衡に変更を及ぼすものにつきましては,信託行為の定めをもって,取得請求権の対象から外すことができる上に,損害を受ける恐れがある受益者に限って取得請求ができるとすること。それから信託の併合及び分割につきましては,損害を受ける恐れのある受益者に限って,取得請求権ができるとすることとの限定をしているところでございまして,その理由は資料中に記載しているとおりでございます。

  それから,取得請求権を行使できる主体の限定という観点からは,さらに提案2のとおり,問題となる変更等に賛成した受益者に限り除かれるものとしております。
  

変更等につきましては,典型的には第三者に意思決定権が付与されている場合のように,受益者が常に信託の変更等に関与ができる仕組みとはなっておりませんので,反対した受益者のみに限ることが相当ではないからでございます。


  なお,ここで賛成と言いますのは,あくまでも積極的に賛成の意思を表明した受益者のことを考えておりまして,たとえば信託行為の定めによって,いわゆるみなし賛成の制度を設けることも可能と考えておりますが,そこで賛成とみなされた受益者については,取得請求権は失わないものと考えております。


  それから,提案3の関係では,(1)の②において,中止条件を定めるか否かは,任意的なものであるということを付言させていただきます。


  その他,受益権の取得価格を公正な価格とすることの意義ですとか,取得原資を原則として信託財産とすることなどにつきましては,資料中に記載したとおりでございますので,そちらに譲らせていただきます。


  最後に第47の受益者が複数の場合の意思決定についてというところでございますが,この点につきましては,パブリック・コメントを踏まえまして,次の2点につきまして,検討,改善をした以外は試案を維持しております。


  まず,受益者集会に関する規律を任意規定としている点につきましては,定足数や決議要件など一定の事項については,強行規定とすべきであるとの意見がございました。


しかし,信託行為の定めによりまして,そもそも第三者に対して意思決定の権限を付与することも可能としていることに照らしますと,受益者集会について強行規定を導入する意義は疑問でございまして,定足数や決議要件についても,任意規定とした上で,受益者の保護は先ほど申しました一定の事項について,受益権取得請求権を強行規定として付与することをもって,解決することが相当と考えるものでございます。

  次に,議決権の数の算定方法につきましてでございますが,これは2の(2)のアのところに関係いたしますけれども,試案では,信託行為の解釈に基づく受益権の個数によるとしていたわけでございますが,その後の審議の経過ですとか,パブリック・コメントの意見を踏まえまして,このアのとおりに改めております。


  すなわち,信託行為の定めによりまして,さまざまな内容の受益権を創設できるという信託の特性ですとか,信託を設定した委託者の合理的な意思,受益者間の実質的な衡平,私的自治の尊重ですとか,信託に関する特別法の定めなどにかんがみまして,まず,受益権が口数,元本持分など,均等の割合を単位として数量化されている場合には,その単位の数量に応じて議決権を有するものとしまして,そうでない場合には,受益権の価格によるものといたしますが,ただ,信託行為の定めで,例えば各受益者がそれぞれ1個の議決権を有するとの定めがあれば,それが一番上に繰り上がるというような規律にすることを提案しているものでございます。

  その他は,資料中に記載したとおりでございますので,そちらを御参照いただければと思います。
  以上でございます。


● それでは,今の3つの問題につきまして,御意見伺えればと思います。いかがでしょうか。


● 多数受益者の意思決定方法等につきましては,従来から,特に受益権取得請求権の強行法規化について疑問を投げかけていたわけですが,その観点から,ちょっと第46を中心に,ちょっと意見とそれから確認をしたいと思います。


  今回のパブリック・コメントを受けての御提案というのは,一応,完全化しておりませんので,そういう意味で,完全に私どもの意見とはとってはいないわけですが,ただ,実際の中身を見ますと,特に,④のところで,これは特に定義がよくわからないということで,さらにちょっと問題視をしていたところですが,一定の解説等も含めての中身の明確化と,それから信託行為に定めのあるときはこの限りではないということで,一定の任意法規化が図られているのではないかというふうに思っておるわけで,そこの点については,御配慮をいただいているなというふうに認識でございます。


  そこで,完全にちょっとこれについてどうかということは,また別途ちょっと発言するかもしれませんが,その前に,特に銀行界にとって,関心があるセキュリティ・トラストについて,このシンジケーションとの兼ね合いで,この受益権取得請求権がどういうインパクトを持つのかという観点で,ちょっと2点御確認したいと思っています。

  1つは,先ほどの④の意味合いでございますけれども,ここの受益債権の内容の変更がされることについての信託行為の定めというのは,具体的にどの程度記載する必要があるんでしょうか。


なかなかちょっと抽象的な御質問でございますけれども,極端な例としては,例えば変更があり得ることについて合意をするという規定だけでいいのか,それとも,また別途の極端の話として,その変更され得る内容を,あらかじめ具体的に記載しておくというところまで必要なんでしょうか。もし何かその基準があるのであればお示しいただきたいと思います。


  思いますに,ある程度,受益者に対して,そういう変更がある,その中身を予測可能性がある程度に記載されていればそれでいいのではないのかなというふうに思っております。


あまり厳格に書いてしまうと,なかなか実務としては窮屈なものになるのではないかなという問題でございます。


  それから,①,信託目的の変更ですけれども,これも従前から内容について,またはその強行法規性について,会社法等の関係も含めてパラレルに考えてもどうなのかという疑問を持っていたところでございますが,お尋ねしたいのは,この信託目的について,例えばセキュリティ・トラストの観点で言いますと,例えば,この点はどうなのかということですけれども,信託財産の入れかえ自体を行うということが信託目的の変更に当たるかどうかということです。

  これは次元の違う議論なのかもしれませんけれども,例えば,信託行為の中で,信託目的としてA債権の被担保債権として,担保を信託を設定するといった場合で,そこに当該担保目的物の特定をしないという内容であれば,いわば信託物ですね,物自体の変更,入れかえというのは,これは信託目的そのものの変更ではないということであるから,よって,①の規律には抵触しないという,そういうふうに考えてよろしいんでしょうか。

  ちょっとここが,実務的には大きな問題,関心事ですので,あえてお尋ねする次第でございます。


● まず,前者の方の,受益債権の内容の変更,これがどの程度,信託行為の中に書いてあればいいかということで,恐らく抽象的には,先ほどおっしゃったように,受益者として,変更の内容,もちろん予測できなくてはいけないという話だろうと思います。

例えば,ある一定の条件が成就したときには,ここからここの範囲内で,受益債権が切り下げられますとか,そういうことが書いてあればもちろんここに当てはまって大丈夫ということになるんだろうと思いますけれども,どういう条件が,どういう事情が生じたときにどこまで切り下げられるかというのはおよそなしで,とにかく変更があり得ますというのだとちょっと厳しいのではないかなというような気がいたします。

  つまり,手続的な,だれがどういう手続をとったら変更する,あるいはその前提としての条件とか,その結果どの範囲内で減ることがあり得るのかといったことが書いてあれば,大丈夫だというようなぐらいのことで,考えているということでございます。

  それから,セキュリティ・トラストにおいて,担保の目的物の変更があったときに,信託目的の変更と言えるかどうか,当たるかどうかは,恐らく一概には言えなくて,やっぱり担保は非常に重要なので,担保目的物が変わるというのだったら,それはもう信託の目的の変更に当たるのだと言わなくてはいけない場合はあるかもしれませんけれども,ただそこはいずれにしても,契約条項に書き込んでおけば,つまり担保の入れかえについて,書き込んでおけば,それはその信託の目的の変更には当たらないということが逆推知というか,逆に推認されるというような関係になると思いますので,実務上は,そういうふうに手当てをしていただくのではないか。
  


繰り返し申しますと,信託目的の変更に当たるかどうかは,一概には多分言えないんだろうと思いますけれども,信託,担保目的財産の変更というのが,この信託においてあり得るんだということが書かれているのであれば,それが信託目的の変更に,つまり担保の入れかえが信託目的の変更に当たるということは多分ない,こういうような話なのかなと思います。

● ですから総合的に考えて,その当該入れかえとかの変更がその目的に当たるかどうかと,抵触しないかということが,その信託行為全体から見て読み込めるかどうかと。


細かい話ですけれども,よって,例えば信託契約の中に目的何とかというようなことだけではなくて,ほかのところで入れかえがあり得るようなことが前提であるのであれば,それを含めて目的を判断して,この①に抵触するかどうかということを判断すると。

  よって,結果的に見れば,実務上,契約行為の工夫いかんによれば,大分柔軟な対応が可能であろうという,そういう整理になるという理解でよろしいでしょうか。


● おっしゃるとおりでして,信託財産が変更すること自体,一般的にあり得る,信託に通じてあり得る話ですので,基本的には信託財産がかわったからと言って,信託目的に変更があるというふうに直結する話では,もともとないわけですし,それに加えて,信託の契約書の中に入れかえがあり得ると書いてあるんであれば,それが信託目的の変更に当たらないというふうに言いやすいのではないかと。そういう認識でいますが。

● わかりました。
● 私はあまり詳しくよくわかっていない部分だから,口出しするものではないのかもしれないけれども,信託財産,ここでは信託目的の変更であるということになってしまうと,これはおよそ信託行為でもって,例外を設けることはできないという前提ですね。

  ですから,信託財産の変更というのが,信託目的の変更でないということを明らかにするようにしておくと,そういうことなんですよね。
  ほかにいかがでしょうか。


● この45から46,47の規定についての方向性なんですけれども,私ども,実務化の方から見まして,信託の柔軟性と受益者の保護というのを兼ね合わせたい規律ではないかなと思いますので,賛成いたします。


  賛成した上で,1点ちょっと要望と,1点御質問ということで,要望の方は46のところの1の③,今回変わったところですけれども,受託者の義務の全部または一部の免除というところなんですけれども,ちょっと細かいところで恐縮なんですけれども,例えば運用を目的とするような信託で,運用の対象財産がいいものができて,それを入れましょうと言ったときに,分別管理のところの義務については一部契約で免除したりとか,そういうようなことも結構あるのではないかと思うんですけれども,こんな場合についてはやはり入ってくるというようなことになるのではないかなと思いますので,受益者にとって,そんなに問題があるようなものでなければ,ここら辺のところに御配慮をいただきたいというのが要望としての1点です。

  質問は,31ページのところの部分で,これも言わずもがなということだろうと思うんですが,2のところの(1)の下の方のところですけれども,ここの,権利の行使に関して協定を結ぶということですけれども,これについては基本的に信託契約,自益信託であれば信託契約で書くということが,これを満たすことだと思うんですけれども,その場合は,当然(注2)というものに限定されることなく,そういう協定が結ばれるのかどうか。


これはそうだと思うんですけれども,それが1点と,それとあと,それを敷衍してということなんですけれども,ほかの局面で,よく受益者の個別の承認というのが出てくるんですけれども,この承認というのは,当然,不利益についての説明等があって,それで受益者の方がオッケーすればそれはそれでいいということだと思うんですけれども,例えば,受益権が譲渡されるような場合について,受益権の譲渡人が譲受人に対して,こういう受益権ですよというような,いろいろな説明をすると思うんですけれども,そういうところで,例えば説明がなされているということであれば,これはそういう,協定と言ったらおかしいですけれども,受益者の個別の承認がとれたというふうに考えていいのかどうか。


  こちらの方,ちょっと教えていただきたいと思います。

● まず一番最初の③の点,これは確かに,事務局としてもいささかもしかすると広いなというので,例えば,善管注意義務や忠実義務であればいいのかなという気はしますが,分別管理義務とか,それから第三者への委託などについて,一部の軽減,そういうものも入ってくるというと,ちょっと確かに広いかもしれないという気もしておりまして,④とのバランスなどもありますので,今の御指摘なども踏まえまして,この③についてはどのようにするか,検討をしたいというふうに考えております。


  それから,2番目の信託契約ですることができるという点は,御指摘の点は,(注2)に限定されず,いかなる権利についてもできると考えております。

  あと,譲渡人が合意をしたときに,それが譲受人に承継されるかという点でございますが,これは,信託行為で制限しているのであれば,それが受益権の中身になると思いますので,そういう受益権を譲り受けた場合には,それは譲受人もそれに制限されるということになると思うんですが,全く個別の合意ですと,ちょっとそれを説明したからといって,直ちに承認があったとみなすのは難しいのではないかなと。


  やはり,個別の同意を新受益者から得てもらわなければいけないのではないかと。もちろん,裁判所が認定する場合に当たって,1つの事情にはなると思うんですが,最終的な立証すべき事実は,新受益者が承認しているということではないかなという気がいたします。


● よろしいですか。
  ほかにいかがでしょうか。


● 3点ほど意見及び質問があるんですが,1つは,受益権取得請求権についてなんですが,この規律を前提としますと,受益者の立場からすると,受益債権,ある受益権の内容が,例えば切り下げられるですとか,それから,受益権あるいは受益債権がリスクが大きなものにかえてしまう,かわってしまうという場合に,問題となるといいますか,紛争となる場合が比較的多いように思うんですが,そういった場合であっても,基本的にはこの衡平を害さない限り,この買取請求権の対象とはならないということになりますと,そういった場合には,もし受益者がそれを問題に,何か問題があるかどうか検討するとすれば,もともとの変更の点を問題にするといいますか,その変更が合理的であったかどうか等を検討することに,恐らくなるのではないかと思うんですけれども,何と言いますか,全体のたてつけとしては,そういうように思われます。


  果たしてそれでいいかどうかというのは,ちょっとやや受益者の立場からすると,どちらで争う,変更を争う余地があるほうがいいのか,それとも買取請求権で救済されるというふうに確定的に決まってしまうのがいいかというのは悩ましいところかという気はするんですけれども,ややそういったあり方でいいかなということについては,ちょっと疑問を感じております。これは意見です。


  それから,2点目は確認なんですけれども,第45の先ほどの受益者の権利の制限についてのところで,33ページのこの条件についてで,100分の3以上ということが書いてあるんですが,この括弧内が,これを下回る割合を定めた場合には云々というふうにあるんですが,これは下回るというのがどちらの方を指しているのかというのが,ちょっと,という点の確認なんですが,要するに,100分の4とか5とか,そういうふうに要件を加重することは許されないという趣旨という理解でよろしいですか。

● そういうことでございます。
● それから,もう1点,これもちょっと感覚的な意見で申しわけないんですけれども,複数の場合に意思決定方法について,45ページのあたりで,基本的には受益権買取請求権で解決するというような方向が示されております。


  これも,受益者の立場からしますと,多数決によって,みずからの権利内容等が変更される,あるいはその信託のあり方が変更されるというようなことですので,果たして,この受益権買取請求権だけですべてカバーされるというふうになるのかなという気がしておりますけれども,ここの多数決との関係では,例えばこの多数決によって,これ前に,信託の変更のところでの質問させていただいた点とも関連するんですけれども,例えばこの多数決で,信託目的の,全く別のものにかえてしまうとか,あるいは信託の内容を全く別のものにかえてしまうとか,そういうことも,許容されるというような前提なのか,あるいはそれはまた,要するに,そういった一般的な信託の縛りがある程度あって,多数決で決められる事項についてある程度限界が,これは解釈上ということになるのかもしれませんが,あり得るのかどうなのか,その辺について,ちょっと教えていただけると助かるんですけれども。

● 事務局の考え方といたしましては,特に,多数決で変更できる事項については制限はないと。したがいまして,御指摘のあった目的ですとかについての変更も多数決でできると。


  そのかわりに,そういうものについては,受益権取得請求権を強行的に付与すると。信託行為でそれはなしとすることはできないということでバランスを図っているというつもりでございます。

● そうしますと,目的について,全く異なるものについての変更ができるということになるんでしょうか。あるいは,何らかの信託行為の解釈等によって限定を図るということがあり得るということなのか,その辺はいかがでしょうか。


● 信託目的の変更につきましては,原則として委託者の合意というのも必要になりますので,受益者が多数決で合意したからといって,直ちに信託目的が変更できるというわけではありませんで,その場合には,委託者,受託者の合意というのも必要になりますので,そういう観点からしますと,信託目的が今までのものとは全くかわったとしても,信託目的の変更をされることによって,委託者の権利というものが害される可能性というのはあるわけですけれども,委託者の合意というのを要するので,問題ないのではないかというふうに考えております。

● ある種の歯どめというんでしょうか,逆に言えば歯どめにもなるわけですよね。委託者も同意しなくてはいけないという。しかし,そういう要件をクリアした場合には,どんな目的の変更でも可能であると。


● 先ほどの○○幹事からの御発言と関連する点でございますけれども,またおしかりを賜るかもしれませんが,信託の併合,分割などの重大な変更についての意思決定の仕組み,かなり御工夫をいただいておりますけれども,やはり,他方,一方で,任意規定化という流れは,これはもう重々承知しておりますけれども,例えば,こういった重大な信託の併合,分割について,本当に任意規定の中で,うまく受益者保護の仕組みができるんだろうか,意思決定の仕組みがどうなるのと,ちょっと私は懸念をしております。


  2番目のポイントは,これと関連するんですが,受益権の取得請求権は強行規定化するという御方針であるとしても,例えば,定足数とか決議要件といったことについて,これは,委託者と受託者の合意で自由に決められるという点についても,さらにもう少し強い何らかの規律が必要ではないかという懸念を持っております。
  以上,テークノートしていただければ幸いです。

● まず,第1点目の信託の併合または分割についてという点ですけれども,我々としましては,お答えになっているかどうかわかりませんけれども,やはり受益権取得請求権というものを強行規定とすることによって,受益者の保護というのを図ることができるのではないかというように考えておりまして,その限度において,信託の併合または分割の方法については自由に決定できるというのが契約自由の原則から妥当なのではないかというふうに考えているところでございます。


  2点目の点につきましても,やはり,契約自由の原則からすれば,原則としてその変更の方法等につきましては,自由にするというのが信託の柔軟性という観点から適当なのではないかというように考えております。

● ○○幹事。
● 1点質問させていただきたいんですけれども,46の受益権取得請求権の1の(1)の④で,ひょっとしたらさっき○○幹事が質問されたことと重なるのかもしれませんが,これを素直に読みますと,受益者間の不平等な変更がある場合だけがこれでカバーされているように読めて,一律に非常に大きな権利の制約を課す場合というのは,これはかぶらないようにも読めます。


  一番その典型は,譲渡を制限する場合で,これは別途書かれているからよろしいんですが,それ以外に,一律に受益者の受益権の中身を変更してしまうというケースで,というのは,ちょっと信託目的の変更にもかからないようなものになると,ちょっと何か落ちていないかなという心配があります。


  例えば,信託であるかどうかわかりませんが,会社法なんかですと,株式について,会社が買取請求できるという,会社の方の意思決定で強制的に株式を取得できるような条項をつけるというのは非常に慎重な,総株主の同意みたいなものが要求されたりするという形になったりするんですけれども,それに類するようなこと,例えば,受益者の多数決によって,一定の値段で受益権を買い取りますと,多数決でいつでも特定の値段で追い出されるという,信託の変更が例えばされるとき何かは,これは,1の受益権取得請求はかぶらないというようにも読めるんですが,ちょっとそういうことなのかどうか。

  また,それだったら,ちょっとそれでいいのかということを,お答えいただければと思います。


● まず,④のところにつきましては,受益者間の取り扱いを異にするような変更がされた場合に限っておりまして,前に部会で議論されたときにも受益債権の内容を一律切り下げるというものにつきましては,受益者の多数決で決まったんだから,それに従うというのが妥当なのではないかということで,今のところは,このような形にしております。


  確かに,○○幹事おっしゃるとおり,受益権を強制的に取得することができるというようなものにつきまして,受益権取得請求権を認める必要が,もしかしたらあるのかもしれないと,今,個人的には思いましたけれども,今のところそういうものは含まないというふうに考えております。

● 取得請求だからではなくて,その変更を認めたら,その後で確実に例えば多数少数の問題が起きるようなタイプのものというのは少なくとも何か考えておかないと,1回,一律に,形式的に権利を,内容を変更するかのような,ステップをかませれば何でもできるということにだけ,ならないように工夫していただければと思います。

● はい。なかなか規定の仕方が難しいのかもしれませんが,趣旨はよくわかりましたので,ちょっと検討してもらうことにいたしましょうか。
  ○○委員,どうぞ。


● 細かい点ですが,47の受益者複数の場合の意思決定方法で,受益者集会の招集権なんですが,信託監督人も招集権を持っているわけですけれども,任意規定化するという場合には,ここも任意規定になるんでしょうか。むしろこれは何か残っていてもいいのかなという気もいたしますが。
● そうですね。いかがですか。

● 一応,現時点では任意規定化なので,これも信託行為定めれば不要ということになるというのが考え方でございます。


● ちょっと検討させていただきましょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
  ○○委員。


● この46番,受益権取得請求権のところですが,先ほどまで出てきた幾つかの点と重なる部分がありますけれども,この1の(1)①,②,③,それから(2)で,損害を受ける恐れのあるというのを意識してとられたというのはよくわかります。


  ただし,このやっぱり,④が何かあまりにも狭い感じがして,これを受益権を金融商品として流通して取得する受益者という立場で見ると,自分の,やっぱり知らない,例えば,第三者に変更を権限を与えた場合とか,ちょっと考えてみますと,知らないところで,受益債権の内容をかえられて,しかもそれを持ち続けなければいけないということになってしまいますよね。


そうすると,そもそもそんな受益権は買うなという,そういうレベルの話になっていってしまって,私募投信なんかで考えれば,市場で売れないような受益権になりますから,それを内容をかえられても持ち続けなくてはいけないということになってしまうので,ちょっとこれはもうちょっと広くすべきなのではないかと。特にこの権衡に変更を及ぼすものと,やっぱりこの限定が限定し過ぎなのではないかという気がします。

● 先ほど○○幹事の意見と共通するような問題で,これはちょっと検討させていただきたいと思います。


  ほかよろしいでしょうか。大体御意見を伺ったというふうに思いますが。

  それでは今出てきました意見を踏まえまして,また最終的な案は検討させていただくということにいたしたいと思います。特に御意見が多かったところについては検討したいと思います。

  それでは,次。

● では次は,償還請求権と補償請求権の問題でございまして,第32と第33のところでございます。

  まず,費用の補償を受ける権利につきましては,まず,提案2のとおり,受益者に対する費用の償還を受ける権利については,信託行為の枠外において個別の合意をするものとして位置づけることを明らかにいたしました。


  あとは,細かい点として,1の(1)では,委任に関する民法650条に規
定振りを合わせたところが二重線の部分でございます。

  それから,提案1の(2)におきましては,受任者の費用前払請求権に関する民法649条を参考にいたしまして,受託者に信託財産から事務処理費用の前払いを受ける権利を認めまして,あと3の引渡拒絶権ですとか,4の損失てん補義務の先履行,それから(注1)の信託の終了をさせる権利についてもそれぞれこの前払いを受ける権利も対象とする内容に改めております。

  あと,提案1の(3)におきまして,受託者による信託財産の任意処分権が任意規定であることを明らかにしております。


  問題は,提案1の(5)と(6)のところでございますが,これはいずれも受託者が信託財産から費用の補償を受ける権利につきまして,他の信託債権者に対する優先性を付与する場合と,その優先性の内容について,合理性が認められる範囲に限定したものでございますが,試案にあった(5)に加えて(6)を新たに加えております。
 


 まず,(5)におきまして,信託財産に属する特定の財産の価値の維持,増加に寄与した必要費や有益費については,当該財産の代価に限ってではございますが,最優先の効力を認めるとしております。この点は試案から変更はないつもりでございます。


  これに対し,今回の提案では,(6)を追加しまして,受託者の支出した一定の共益性のある費用については,共益費用の一般先取特権と同じ程度にとどまるわけですが,しかし信託財産に属するすべての財産に対する効力を付与することとしております。


  具体的に言いますと,例えば,A,Bの各信託財産があるといたしまして,A信託財産が競売に付されたというときに,受託者がこのA信託財産に必要な保存費用を支出していたというのであれば,受託者はA信託財産の競売代金につき,(5)に従いまして,一般の信託債権者はもちろん,A信託財産につき,登記済みの抵当権を有する信託債権者にも優先することができることになります。

  これに対しまして,B信託財産に必要な保存費用を支出していたというのでございますと,受託者はA信託財産の競売代金につきましては,(6)に従いまして,一般の信託債権者には優先しますが,A信託財産につき,登記済みの抵当権を有する信託債権者には劣後するということになるわけでして,これは民法336条でも同じような規律になっているわけでございます。

  このような具体例自体は,かつて第5回部会でも示していたところでございますが,このような結論を導くには,(6)があることが相当であると思われましたので,今回(6)を追加することとしたわけでございます。

  次に,提案1の(7)でございますが,受託者が信託財産から費用の補償を受ける権利の性質につきまして,債権ではなく,一種の形成権であるという理解を前提に,信託財産につき,競売手続が開始された場合には,受託者は費用補償を受ける権利を有することを文書で証明することによって,配当要求できるとしたものでございます。


  なお,この場合の証明文書につきましては,一定の証明力の高い文書に限定することが相当かつ可能であるのかという点につきまして,もし御意見があれば伺いたいと思っております。


  その他,資料の26ページの(5)以降の記述は,パブリック・コメントでの個別の指摘に対する解釈を示したにとどまりまして,提案に具体的に反映させているものはございませんので,資料中の説明に譲らせていただきます。


  次に,第33の報酬請求権でございますが,これも提案2のところで,受益者から報酬を受ける権利につきましては,信託行為の枠外で個別の合意を要するものとして位置づけております。


  その他,試案に対しましては,おおむね賛成意見が占めましたので,試案の内容を基本的に維持しております。


  ただ個別の指摘を踏まえまして,(注1)のところで,受託者は受益者に対してのみ通知義務を負う。委託者に対してはそういう義務を負わないとしまして,しかもこれは任意規定であるということ。


  それから,信託行為に信託報酬の額とか算定方法の定めがあるときには,デフォルト・ルールとしての通知義務をも負わないとしたことなどに改めております。


  なお,パブリック・コメントには指摘がございましたものの,受託者が信託報酬の額を決めたときの受益者による異議ですとか,裁判所による報酬額の決定につきましては,特段の手続を設けることとはしないということにつきましては,資料の29ページに記載したとおりでございます。

  以上でございます。

● それでは,32と33のところについていかがでしょうか。
  ○○委員,どうぞ。

● まず,1点,御質問なんですけれども,今般の御提案で,前払金について,受けることができるというのを入れていただいたんですけれども,これは,時期的に言って,例えば,極端な例でいくと,借り入れをしましたといったときに,借り入れをしたという時点において,当然債務は確定するわけですから,それで前払いができるのかというのと,逆に,いや,やっぱり期限の利益というのがあるので,そこのときまではというのか,これは,いずれなのかということが1点です。

● これの時期だとか,いろいろな問題はありそうな気が。
● それはちょっと委任の前払請求権と同じ考え方をしていますので,そちらがどう解されているかで,それ次第ですので,民法に詳しい方から教えていただければと思いますが。


● 委任の方も,あまりはっきりしないけれども,ただ,信託は,深刻というか,信託の場合にはこれは形式的には自己取引的な,信託財産を移すわけですよね。自己取引に該当して,利益相反行為の禁止に一応形式的には該当するけれども,これが認められる限りでは,利益相反行為とならないということですね。


  では,どういう範囲で利益相反行為にならないのかということで,今のように,一体いつ前払いを受けられるのか。それから,逆に,今度,前払いを一応受けたけれども,結局その目的に使わなかったというようなときに,ちょっとどういう扱いを受けるのかというのも,ちょっとよくわからないんですが。


● 損失てん補責任とかそういうことで対処していくのではないかなと。
● 損失てん補責任。
● 基本的には,前払い請求を認めることについての議論もあったわけでございますが,資料に書いたように,受益者は受託者を監督できるしというようなことで,前払い請求権自体は認めているわけでございますので,あとは,受託者のもとに帰属した前払いに基づいて受けた財産を目的に使わなかったということは,任務違反行為ということになって,それはそれに対して損失てん補でいくのではないかなという気はしておりますけれども。

● いろいろな場合があるんでしょうけれども,本来使う目的があって,しかし,使わなかった,あるいは流用してしまったとか,そういうところの違反なんでしょうけれども,使う予定だったけれども,使う必要がなくなったとかね。そうするとやっぱり戻すというようなことをどこかでするんでしょうけれども,いずれにしても,どこからどこまで,さっきの○○委員の一体いつからという問題でしょうけれども,いつからいつまでが,この前払費用として信託財産から受託者に財産を移すことが許容されるのかという,そこら辺があまりはっきりしないというところですね。

  何かいい御意見があれば,あるいは,何かもう既に考えたことがあれば。いかがですか。

  あまり早く,さっきのように,借り入れをしたので,もうそのときから前払費用をもらっておくというのは,それはちょっとおかしな感じがしますけれども,いつからいいのかと言われると。普通はやっぱりどうなんですかね。やっぱり弁済する……。しかしそんなに遅く。

● 先になってしまうと,ちょっと意味がなくなってしまうので。
● あまりそんなすぐではないんでしょうけれども,しかし,弁済期そのものではないでしょうけれども,ちょっと前というぐらいなんでしょう。感覚としては。
  ○○幹事。


● すみません。前払いの時期そのものではないんですが,現在の四宮先生の教科書とかにも書いてあると思いますし,英米の教科書にも書いてあることですが,支出権限というものは書かなくていいんでしょうか。


  つまり,今考えられている債務を支払うというのを,前払いプラス固有財産からの支出というふうにとらえるのか,それとも信託財産を使って,その費用の支出ができるというふうにとらえるのか,後者もできるわけですよね。


● 直接やる場合ですよね。
● それが本則であって。
● 本当はね。

● 委任の場合,前払いであるのは,もちろん財産がある程度来ている場合もあるかもしれませんけれども,ある種の債務の支払いを行うに際して,原資が受任者にないわけですよね,基本的に。


そこで委任者から原資を移してもらうという行為をしなくてはいけないわけですが,信託の場合には,信託財産としてそこにあるわけであって,そうすると,委任で前払いがあるから信託でもあるという形にはならなくて,もちろんあってもいいのかもしれませんけれども,基本は,支出権限の方ではないか。例外的に前払いが認められる場合があるというだけではないのかと思うんですが。

● 僕も基本的にはそう考えているんです。だけれども,前払いがあっても,あるいは必要な場合もあるかもしれないので,それはあえて反対しないというぐらいのニュアンスなんですけれどもね。

● だから,例外的な位置づけを与えるのか,それとも前払いというものが権利として,前払請求というものが権利として1個確定したものとしてあるのかによって,先ほどのいつもらえるのというものも,議論の雰囲気といいますか,方向性は大分変わってきますよね。


● おっしゃるとおり。
● 私は例外ではないのかと思うんですが。
● 信託は直接支弁しようと思えばできるという前提ですからね。
  何かいい整理の仕方,あるいは提案ございますでしょうか。
  ちょっとこれ,僕は出てきた経緯も今ちょっとあまりはっきり覚えていないけれども,実務的に,やはりこういうのは必要な場合があるという御感触だったんでしたっけ。

● これもともと出てきた経緯は,結局例の甲案,乙案,あのあたりの議論の中で,受託者として有限責任信託であれば,もちろんでしょうし,そうではない信託においても,費用等を取りっぱぐれることがあってはいけないのではないかと,そことの見合いのようなもので,委任において前払いが認められているんだから,それと同じような限度においては認めても構わないのではないかというようなところで,費用の前払いを認めて。


費用の前払いを受けられないのであれば,その信託事務できません,その信託を続けることはできませんねというようなことになってくるのではないかと,そんなような話だったんではなかったかなと思います。

  費用の前払いと,それから債務負担の場合の関係については,民法はどうも649条で費用を要するときはその前払いと,それから,650条の2項の方で,受任者は委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは,委託者に対して代払いを請求できる。弁済期にないときは,相当の担保の提供を求めることができると,こういうような規律になっておりまして,こちらの方では649条を見てつくっておりますので,恐らく債務負担,すぐに,前払いというようなことには多分ならないはずでして,現実的にもう債務を固有財産で負担せざるを得ないということがわかった時点とか,恐らくそういう解釈になるのではないかなと今思うのですが,その点については,ちょっと,なお検討してまた部会の方で御報告したいと思います。

● ちょっと今,細かいことまではちょっとつけ加えませんけれども,今○○関係官が言われたような,基本的な両者の関係を押さえておくということで,よろしいでしょうか。


  今も直接弁済をできるわけだし,しかし他方で固有財産から弁済しなければいけない場面が予想できて,補償請求を取りっぱぐれるという可能性があるというような状況のもとでもって,この前払いを求めることができるというのが基本的な考え方であると。


  それに基づいて,具体的に何か規定がかけるのかかけないのか,ちょっとそこはよくわかりませんけれども,少なくとも,解釈のスタンス,考え方を明らかにしておこうということはできるのではないかと思います。


● 今,○○関係官がおっしゃったことはよくわかるんですが,もしそういうふうな実務的なニーズにこたえようとするならば,弁済期が到来しなくても,早めに取っておかなければ怖くて仕方がないという,こういうことになると思うんですよね。


  それに対して,弁済期が到来して,まさに固有財産から支払わなくてはいけなくなったときに取れるというんだったらば,直接の支弁をすればそれで済むわけであって,そういうふうに考えたときに,それでは,実務的に怖いと,責任財産限定特約を付していないということになったときに,受託者が個人的に債務を負担せざるを得なくなって,かつ費用が取れなくなるということになったらかなわないということで,前払いを受けたいと,そこにこたえようとするのだったらば,それなりの要件が必要になってくるような気がしまして,まさに650条の2項に近いような話なのかもしれませんけれども,ちょっとこのままでは使えないのは明らかですが,何か,先ほどおっしゃった○○関係官の解釈というのが,○○関係官のおっしゃった,出てきた経緯というのとうまくつながっていないような気がしたんですけれども。

● おっしゃるとおりかもしれませんが,結局のところ,費用を現実に,固有財産だと思いますが,固有財産の方から費用として負担せざるを得ないことが,予見できるのではないかと,今言われたような,受託者としてこれはできないと,この信託事務として債務負担はできない,なぜならばというのは,それはやっぱりある程度客観的な裏づけをもって将来これは費用負担せざるを得ない,そういったような客観的なところを重視したのが,たしか649条の費用を要するときというような解釈だったかなと思いまして,そういう意味でございますが,なおちょっと検討したいと思います。

● ではこの点に関しては,そういうことでよろしいでしょうか。少し検討させてください。

  ほかに何かございますか。
● ほかのポイントといいますか,確認の点と質問の点があるんですけれども,この優先権といいますか,先立ちてという権利ですけれども,何か四宮先生の本を見ると,両説あって,通説と違う説がある。


1つが先取特権説で,もう1つは絶対権説であるということを書かれておりまして,これの説明は通説の方の絶対権説を取って,担保権よりも優先するというような解釈を,今回は正式に採用するという趣旨,そういう説明,それの確認ということなんですが,そうすると,前回でしたか,前々回でも私の方が発言しました,債権に優劣があるところの議論ともちょっと関連してくるのかなと思いまして,そうすると,債権の優劣の規定も,こういうような形での記載ぶりになり得るのかなとかですね,またはこういう絶対権的なものを明示するということは,あのときの議論と同じように,債権譲渡した後に,その債権の絶対権的な性質がどうやって,維持されていくんだとは思うんですけれども,とかですね,全部理屈っぽい議論で申しわけないんですけれども,ほかの論点もあるのかなと思います。


  わからないというのは,行為に明確にする必要性がやっぱりあるから,こういう議論なのかもしれませんけれども,そういう債権の優劣という従前からの議論とも関連するというところの御質問,確認なんですけれども。


  それとあと補償請求権について,金銭債権とみなすということで,執行の側面での議論をされていると,これは非常にわかりやすいと思うんですけれども,他方において,やはり形成権という,従前からの説明といいますか,信託法の説の中でもそのように説明されていますけれども,形成権というのは,形成的なものということだと思うんですけれども,信託財産か固有財産かの分類というのは,形成権というと,いつでも随時形成権を行使して,右行ったり左行ったりできるみたいな感じになってしまって,何か,説明的としての形成権というのはわかるんですけれども,ある意味では,固有財産と信託財産というのは,要するに形成権の行使は何をもってやるかというのは,単独行為で何でもいいみたいな感じで書かれているので,ここはある意味では本質的ですし,なかなか答えが簡単に出ないから議論になるんだと思うんですけれども,信託財産と固有財産の分類というのはそう簡単に,右行ったり左行ったりしていいものなのやらどうなのやらというあたりとか,では,補償請求権を差押えたいと思ったときに,一体どういう規律になっていくのかとかですね,恐らく事務局としてもこの辺深く検討して,こういう形で報告されたと思うので,その辺の,信託内部における,このみなす権利のたてつけの議論とか,優先性についての議論についても,その辺の議論をお知らせいただければと思うんですけれども。


● まず最初の,この優先権というのは,確かに現行法上,先立ちてに解釈はあるのは御指摘のとおりですが,必ずしも優先権説をとったというわけではなくて,ご覧のとおり,およそあらゆる補償請求権が優先するというわけではなくて,その財産に限り,かつ必要費,有益費と認められるものに限って,一番優先するということで,むしろ民法の第三取得者の担保物に対する必要費,有益費の支出の規律に合わせている方でございまして,信託法の四宮先生の書いておられます優先権説をとってきたというのとは発想が違うかなと考えるところでございます。


  それから,補償請求権が形成権かどうかというお話で,行ったり来たりというか,一たん行ったらそれっきりではないかという気がして,固有財産から,これの場合ですと,信託財産から固有財産に行くんですかね,それを1回行使するかどうかという問題だと思っております。


  差押えられるかどうかという問題は,前から○○委員がおっしゃっていたところでございますが,請求権でしたら,差押え,もちろんできるわけでございますが,請求権だと,だれか,人に対して,ある履行を請求して,それによって実現するというものですが,こちらの方はだれか相手がいて実現するというものではないので,請求権なり債権という構成は,どうしても難しいのではないかと思います。


  むしろ一定の意思表示によって,法律効果を発生させることはできるという考え方からすれば,形成権類似ということでいいのではないかなと思って形成権と書いているわけでございますが,その上で,差押えができるかというと,この補償を受ける権利とは違うんですが,取消権とか解除権とか,そういう形成権が差押えできるかという問題がございまして,それは,債権ではないことは当然ですが,民執法167条のその他の財産権にも当たらないというふうに解されております。


  他方,代位行使はできるかというと,代位行使はできるというんですね。そうすると,こういう形成権それ自体は財産的価値がないけれども,その結果,生ずる,その形成権の行使の結果生ずるところまで見ると,全体として責任財産を構成するというふうに言えるのではないかと思われますので,差押えはできないけれども,代位行使はできると。


  そうすると,この補償を受ける権利についても,やはり差押えはできなくて,ただ,債権者が,この場合は受託者の債権者が代位行使をして,受託者のもとに移ってきた固有財産化した財産について強制執行していくというプロセスを経ていかざるを得ないのではないかなと。


ちょっと差押えを直にするというのは,どうしても,民執法には乗らないのではないかという気がしているところでございます。

● 差押えはできないということですけれども,これ譲渡もできないということですよね。

● 差押えというのは譲渡ができるから差押えできるわけですから,無理ですね。

● 私もですが,差押えできないということは,受託者はそしたらその中に入らないということになるんでしょうか。それも妙だなという気もするんですが。


● そこはまた別に,受託者の権利を現実化させるんだと思うんですね。つまり,難しい話なんですが,受託者が交代した場合に,新受託者に対して,この補償請求権というのは信託財産の限度ではあれ,かかっていけるというふうに現行法も書いてありまして,そこでは形成権が受託者が,別人格になったことによって,債権に転ずるというようなことに多分なっているのではないかなと思いまして,破産の局面ではそちらに合わせることになろうかと思うんですが,では,そうではなくて,形成権でなおあり続けている状態で,差押えや譲渡を観念できるかというと,なかなかちょっと簡単にはいかないのなかと。


  恐らくここは,所詮は解釈論の世界に入ってしまうのだろうとは思いますけれども,そう簡単ではないのかなというのが,とりあえずの我々の検討の方向です。


● 先ほどちょっと途中で問題になったのと関連しますけれども,やっぱりこれ,受託者が信託財産に対して持っている権利というのは一体何かという問題なんですよね。

さっきの強制執行との関係では金銭債権とみなすという形になっていますけれども,それ以外の場面では,形成権だという説明をしていて,要するに,自分の財産に対する権利なので,債権だというふうには構成しないという,一応説明ですね。


  これは,議論しだすと,大変な問題に,行き当たるところがありまして,私の感じでは,ある程度解釈論にゆだねた方がいいのではないかと,ここで全部詰め切って,これはだめだというふうに否定してしまうよりは,解釈論にしておいた方がいいのではないかという感じがするんですが。


  ほかの点で,そういうことでちょっと議論を封じるわけではありませんけれども,ちょっとそんな感触を私は持っております。

  関連して,あるいはほかのことでも結構です。いかがでしょうか。

● 考え方の確認なんですけれども,受益者から費用の補償を受けるとか,受益者から信託報酬を受けるとか,そういう個別の合意をすると,それができるということになっていて,こういう場合に,受益者が費用補償分を払うとか,あるいは信託報酬分を払った場合に,これ考え方としては,受益者は信託財産に求償できるという,そういうのが原則的な位置づけになるんでしょうかということ。


● 受益者から信託財産にですか。
● ええ。
● あまり考えたことないけれども。どうですかね。
● それはこの受益者が受託者と合意をした趣旨とかいうんですか,本来信託財産からだと考えれば求償できそうなんですが,やっぱり自分は請求を受けたら払いますと。


別に求償するということまで予定せずに合意をしているのであれば。ただ,当然信託財産にいけるというわけでもないという気がするんですけれども。

● そうですね。明確にそこに,別個に払いますという合意があれば,そういうことになるんだと思うんですが,特に原則的な考え方というんですかね,この前,このテーマが議論になったときに,保証債務的なものだよという御意見というか,御説明があったような気もしたんですが。


  例えば,報酬請求権だと,信託行為で,信託財産から信託報酬を払うというふうに決めてあるという場合に,受益者と個別に合意して,受益者も請求あれば払いますよと。払った場合には何か信託財産に求償できていいような気もするんですけれどもね。


● 受益者に対する請求権というのは信託の枠外の合意であると。ということなので,もしそういうことを言い出すと,例えば,では信託財産と受益者,どちらが先に行けるかとか,いろいろ問題になってくるので,そこはもう受益者に対する補償をした場合に,求償できるかどうかは,まさにそのときの約定次第と言わざるを得ないのではないかなという位置づけをしているところではございます。


● 一種の連帯債務的なものなのかもしれないし。ちょっと考えさせてください。

信託財産が負担するのが原則だというときに,こういう特約があって,受益者にもいけるというときに,受益者が最終的に負担してしまうのはおかしな感じもしますので。ちょっと理論構成も含めて少し検討させていただければと思います。


● 2点要望と,1点質問です。

  要望といたしますのは,抵当権付の債権者に,受託者が弁済した場合,代位するということで,1の(3)と書いてあるんですけれども,当然そのときの抵当権というのは,混同消滅しないということだろうと思います。


  それと,あと,受託者への債権譲渡した場合について,その抵当権も生きるということだと思いますので,こういうところからしますと,先ほどの信託宣言のところで議論がありましたけれども,○○幹事からもお話ありましたけれども,銀信間の取引とか,信信間の取引のときに,抵当権を設定するということが実務上,これからもニーズがありますので,その辺のところをよろしくお願いしたいと。

  これが金銭債権なのかどうか,よくわかりませんけれども,抵当権が設定できるような形の規律をお願いしたいというのが1点です。


  2点目は,(7)のところの,証明力の高い文書というのが,すみません,本を読んでも受託者としてはどういうものを出したらいいのかというのがよくわからないので,こちらの方への御配慮をお願いしたいというのが要望の2点目です。


  3点目の質問については,(3)のところの,ただし書きで,別段の定めがあるときは,その定めに従うものとするということが入っているんですけれども,これというのは,待機義務を外すというようなことは考えられていないんですかということです。


● 1の(3),待機義務。
● 説明にはそのような説明はないんですけれども。
● わかりました。


● 1の(3)のところ。
● そこだけ。
● 外し方として,両面いけるのかということですね。
● そう。

● 一応,両面いけるということになっていますね。
● 第1点は,ちょっとまたさっきの大問題にいくことになりそうなので,ちょっと私も言いたいことはあるんだけれども,ちょっと後で,後でというか,また御議論伺って,どこかで言うチャンスはあるかと思います。


  それでは申しわけないんですが,10分休憩させていただきたいと思います。

          (休     憩)

● それでは,お疲れのところ恐縮ですけれども,再開させていただきます。
  この後の進め方ですけれども,とりあえずは,今議論しております第32,
第33について,もう少し御議論いただきました上で,今回の資料,それから前回の積み残しの資料を検討していくということになります。


  それでは,補償請求権,報酬請求権について,御意見ございましたら,お出しくださいますよう,お願いいたします。

● 最終的に債権がどうかというのは,解釈論に寄るのだからあまり深入りするなというのは○○委員のおっしゃるとおりだと思うんですが,これ,利息はつくんですか。


● 補償請求権にですか。
● そう。
● つきます。


● 英米法はそもそも,法定利率という観念がないわけですが,アメリカ法のこと,ちょっと調べる機会があって調べてみますと,これは裁判所の許可によって,一定のレートがとれるという仕組みになっているようで,そういう。それは一般の法定利率そのものがそうですので,結局法定利率がつくというのがアメリカ法であるというだけで,別にそれが特に決定的になるわけではないんですが。それだけです。


● 今おっしゃったように,性質論について,これはやり出すと大変なことになるという,○○委員の残されたこともあるわけですが,もちろん議論してよろしいかと思いますけれども,大体問題点が出てきたでしょうか。


● 別のところで,報酬請求権で,すみません,ちょっと一言だけお願いなんですけれども。


  報酬額に対する異議については,確かにちょっと制度上どうするかというのは難しいかなという気はしておりますが,やはりお手漏りの危険があるという構造はありますので,これで,例えば会社法ですとか,あるいは忠実義務等の規定との関係で,バランスがとれているのかというのは,若干ちょっと疑問には感じております。


  ただ,今回の御提案の中では,(注1)のところなんですけれども,ただし書きのところで,この通知に関して,別段の定めがあるときには,それに従うという言い方だと,これを任意法規化することが提案されています。この点については,ぜひ従前の規律を維持する方向でご検討いただけないかというふうに考えております。


  忠実義務違反の問題もあるんですけれども,この報酬請求権の問題というのは,信託である以上,必ず出てくる問題で,かつ濫用はやはり起こりやすい場面だというふうには思いますので,何らかの形で,第三者のチェックが入る機会というのはやはり必要ではないかと。


  そういう観点から,最低限この受益者に対する通知ですとか,あるいは委託者に対する通知というものを維持する形で御検討いただけないかというふうに思います。


  この理由のところで,30ページのところで,受益者として指定されたものを知らせたくないというニーズがあるとういうことは,これはこういう場合あろうかと思うんですけれども,こういう場合には受益者にかえて,委託者に通知をするとか,そういった形で,だれかには知らせるというような形での規律をぜひお願いできないかと思います。

  以上です。

● ちょっといただいた御指摘を踏まえて,委託者ですかね,委託者に通知というのはもしかするとあり得るかもしれないので,ちょっと検討いたします。

● ○○幹事。

● 記録にとどめるためだけに発言しておきますが,先ほど私が委任費用の前払いとの関係についてちょっと発言をさせていただいたんですが,休み時間に○○幹事の方から御教授いただきまして,私のような見解というのは,結局,委任の費用の前払いの話ではなくて,保証人の事前求償権の話に類似したものとしてこれをとらえようという話なのではないかと。

そこと平仄を合わせるということも考えられるのではないかというふうなことを御指摘いただきました。

  まさに仮に責任財産限定特約がない場合の受託者の地位というものを,保証人的にとらえるというふうに仮定しますと,そこらあたりに類似が求められるのではないかということを,全くもって休み時間中の受け売りでございますが,発言だけさせていただきます。


● 確かに何と近づけて考えるのかというのは難しいですよね。委任と考えるのか保証と考えるのか。別のところで,650条の3項が出ていますけれども,それも委任の方は無過失で,こちらは過失ですから,また違うのではないかとかということありますが,多分,参考のために参照しているということではないかと思います。

  ただ,今の御意見もまた,検討させていただくことになると思います。

● 今の○○幹事が触れた委任との関連の650条のところの注2のところの議論なんですけれども,私が読んだ理解では,そういう説明があったかないかちょっと忘れてしまったんですが,第三者に損害賠償ができる限度において過失があってもと書いてあるので,ですから,結局過失相殺した後の金額ということで,実質過失がないときの,一切過失がなくて,差額分というんですか,そういう趣旨において,もしかしたら民法の規定との整合はとれているというような金額をという趣旨なのかなと理解しているんですけれども,その辺確認できたらと思うんですが。

● 結論的にはおっしゃるとおり,過失相殺後の損害額について,両方にいけるという理解をしているわけでございますが,よろしいでしょうか。


● それでいいです。はい。
● 結論については多分,御異論がないと思うんですが,その650条の,本来の趣旨と比較すると,ちょっとずれているのかもしれない。650条の3項というのは,もうちょっと別の局面で使われていたのが広がっていったというのがありますので,そのずれがあるかもしれませんが,結論としては,これでよろしいということでしょうか。


  ほかに。32,33について,御意見はございませんでしょうか。
  では今いただきました御意見,御指摘を踏まえて,さらに検討していただくということで,基本的にはこの方向でいくということで進めさせていただくということになると思います。

● では続きまして,相殺について,御説明いたします。
  第14,10ページでございます。

  太字の1には,賛成意見のみでしたので,そのままにしております。問題は(注1)と(注2)のような第三者保護規定を設けるべきかという点につきましては,賛成意見は多数を占めておりますが,1つは,民法478条の類推適用によれば足り,信託のみに特殊な救済を設ける必要はないという,本質的な反対意見と,信じるに足りる正当な理由という書きぶりをしておりました点が不明確である。これは反対意見というよりは,修正意見みたいなものでございますが,その2点の指摘が,結構多数ございました。

  まず,規律は不要だという意見でございますが,相殺について,民法478条の類推適用は問題となる通常の場面でございますが,これは私が申し上げるまでもないことかと存じますが,例えば銀行からの相殺について考えますと,自動債権となります銀行の貸付債権の債務者と,受働債権となります銀行への預金債権の債権者,これが別人であります。

これに対しまして,信託でございますと,自働債権と受働債権というのは,いずれも受託者という同一人に帰属するという点で特殊性を有するわけでございまして,このような点にかんがみますと,資料13ページに記載しましたとおり,民法478条と同じ趣旨の第三者保護の規律が及ぶことを確認的に明示しておくことが相当であると考えられます。

  ということで,こういう規律を設けてはどうかと考えているところでございます。

  また,信じるに足りる正当な理由というのは不明確だという指摘につきましては,表現ぶりを今回改めまして,民法478条と同様に,第三者の善意,無過失を要する行為であるということを明確化して,(注1)の1,2と(注2)に書いてございまして,これによって,批判にこたえているものと考えております。


  以上のとおり,(注1),(注2)のような規律を明文で設けてはいかがかと考えております。

  その他,パブリック・コメントの指摘についての解釈論を示したものにとどまりまして,提案に具体的に反映したものはございませんので,資料中の説明に譲らせていただきたいと思います。

  以上でございます。

● それではこの相殺についていかがでしょうか。
● 細かな議論になって,テクニカルな議論になってちょっと申しわけないんですけれども,1点,質問させてください。

  受託者からの相殺については,ここでは扱わないという整理をされると書かれておられまして,それは忠実義務でカバーしている話なんだという整理だと,これは論理的には確かに考えられる整理であって,それできれいに,忠実義務の方の,利益相反取引などの処理で,うまく収まればそれでいいと思うんですけれども,ちょっと忠実義務の規定ですね,利益相反行為の禁止に関する規律の方で,ゆだねると,どういう帰結になるかについて,確認させていただければと思います。それしないとゆだねていいかどうかが,ちょっとはっきりしないものですから。

  ゆだねるとどうなるかなのですが,まず,14の1に相当する状況ですね,信託財産に債権が帰属していて,固有財産が債務を負っているときに,これを相殺,受託者の側からするということを考えますと,これは固有財産の債務を信託財産で返していることになりますので,忠実義務の方の規定で言いますと,受益者の利益と相反する行為の,幾つか挙がっている中で言うと,(1)のウというやつで,固有財産に属する債務に係る債権の担保として信託財産を第三者に提供したりとか,いうのが挙がっていますが,それとほぼ同じなので,これに当たって,忠実義務との関係が問題となるという整理になりそうに思いました。

  それで,もう1つ,逆のケースなんですが,2の方で,信託財産に債務が帰属していて,固有財産が債権を持っている,固有財産に債権が帰属していて,信託財産が債務を負っている場合に,14の2に相当する場合に,受託者の側からする場合ですが,これは,信託債務を固有財産で返すのですから,原則構わないのですが,原則何にも引っかからない,忠実義務の問題起こさないんですが,仮に信託財産も同じ債務者に対して,お金貸していたとすると,信託財産に属する債権で相殺するのか,固有財産に属する債権で相殺するのかという問題が起きてしまうので,したがってその場合にはいわば競合貸付の債権回収と同じ問題が起きるということになるために,14の2で相当するシチュエーションで,受託者から相殺する場合は,競合貸付的な状態が存在する場合に限って,今度は忠実義務の規定で言うと,第19の3の競合取引の禁止に引っかかって,規制されると,こういうことに,仕切りでよろしいですね。

● そのとおりでございます。
● 仮にそうしますと,その効果はどうなるかなのですが,忠実義務の方の第20にいきますと,前者のケースですと,1のdに当たる,つまり利益相反取引の場合ですから,1のdに当たって,第三者が利益相反行為であることを知り,または重大な過失によって知らなかった場合は取消すことができるということで,原則相殺は有効なんだけれども,相手が悪意である場合であったりすれば,これは相殺を取消せると。


その場合,悪意の対象というのは,普通に考えれば利益相反であることの認識は,自分がどちらから借りているか,つまり,自分は信託財産から借りて,固有財産に対して債権を持っているんだという認識があれば利益相反であること,その相殺が利益相反であることはわかるはずですので,当然それは,取消せることになるんですが,14の(注1)で書いているような状況で,どちらから借りているかわからない的な状況があった場合は,仮に重大な過失がなければ,取消しはできないということで,同じ借り入れ先が混同しているようなケースであっても,14の1のように,第三者から相殺していく場合と,受託者から相殺された場合では,有効性の要件は変わってくるという理解でよろしいのか。


仮にそうだとすれば,その説明はどちら側からイニシアチブとったかで,保護要件が変わっても構わないからだという整理なのかということが,この有効性に関する1つ目の疑問です。

  2つ目は逆に,2の方のシチュエーションですと,固有財産が債権を持っていて,信託が債務を負担していて,競合貸付的な状況で,受託者が相殺した場合,この場合は,競合取引ですか,それの禁止に引っかかるので,第20の2によって,効果が決まることになります。


その第20の2というのは,当該行為は第三者の,受益者は,当該行為が信託財産のためにされたものとみなすことができるという規律でありまして,第三者の利益を害する場合は,その限りではないと。
  


これで考えるということは,これのみなしによって,相殺がなかったことになるというよりは,信託財産との方で相殺が起きた状態になるんですが,問題はただし書きで,第三者を害する場合というのはあるだろうかということなんですが,これは,第三者は,どちらの債権が消えるかだけなので,基本的にそういうことはないと考えてよいのかどうか。


もしそうだとすると,借り入れ先を誤解していたようなケースみたいなケースであっても,およそ無効になることはあり得ないということで,第14の(注2)に,相当するシチュエーションですね,第三者からする場合であれば,第14の(注2)に相当するシチュエーションについては,忠実義務違反的な場合について,受託者がする場合については全く考慮しないという,そういう整理をされたんでしょうか。

仮にそうだとすれば,それは今言ったすべてのケースの結論というのは,整合的に説明できているんだろうかという疑問がないわけでもないんですが,ちょっと最後のところの結論は,仮に正しいとしたら,簡単に説明お願いできますでしょうか。


● 結論と帰結については,今○○幹事の御説明されたとおりであるかというふうに思います。
  それで,相互の整合性についても,ついているはずだと信じているわけでありますけれども。


● 相手方が,つまり借り入れ先を誤解していたケースについての,有効性というのが,随分いろいろなところで違ってくるんですね。相殺が有効になる要件が。それが受託者がイニシアチブをとった場合が,第三者がイニシアチブをとった場合かだけで変わってくるんだったら,まだわかるんですけれども,そうではない違いも出てきているところで,そこがちょっと整合性があるのかなというのが,素人的によくわからなかたということなんですけれども,それは問題ないんでしょうか。

● ちょっとすみません。検討してみます。直ちにすぐ答えられませんが,ぱっと考えた感じでは問題はないはずだと思いますけれども。

● ○○幹事。
● 実は言われた,第1のシチュエーションで,紛争,いろいろな形で起こり得るとは思うんですけれども,まず単純に,受託者が債務者に対して,履行請求をしていくときに,債務者の方が,第2のシチュエーションは逆ですね,受託者の方が相殺するという場合が外れるのはどうかという問題ですね,そちらで言いますと,債権者が受託者に対して履行請求するときに,受託者の方が,その相手方に対して反対債権を持っているというので相殺するというようなシチュエーションで,この段階だけだと,債権持っているとさえ言えば,相殺はできそうなんですけれども,それに対して,相手方の方が,いや,受託者が持っていると称する債権というのは信託財産に属する債権ではないのかと言ったところで,忠実義務の問題になりますと,受益者が取消さない限りは,債権,債務そのものはあり,かつ相殺も効力も否定されることはないですから,この2人の当事者間だけだと,相殺が有効として扱われてしまうと,悪意だったとか,重過失だったとかいうこともそもそも言うまでもなく,これだけだと相殺ができてしまうと。

  ただ,この紛争が終わった後で,ひょっとすると,受益者が取消してくるかもしれないと。取消されると,相殺効力を失うので,改めて債権者が受託者に対して履行請求していくというような手間をどんどんとっていくという形になっていく。


  それが果たしていいのか。要件が平仄合わないというのは,かもしれないというような○○幹事が指摘されたことですけれども,紛争形態として,こんなパターンになっていいのかというのが,よりちょっと実践的にいいのかなという問題としてあると。


  第14の中に両方全部含めてしまうのだとすると,相手方が今のような相殺というのは許されないのではないかということで,履行請求そのまま認められるという可能性出てくるわけですけれども,この規律から外すというのは,今のような二度手間になる可能性を,容認するという立場決定でもあるというのはちょっと意識する必要があるのではないでしょうか。
  以上です。

● そうすると,○○幹事は,この外すということ自体,もう1度考えたほうがよい。


● もう1度考える余地があるのかなという気がしないではないなというのをお聞きしていて思ったということですね。


  もちろん,受益者が取消すかどうかが,決定的なポイントであって,受益者が取消さないんだったら,別に相殺認めてもいいのではないかというのは1つの立場だとは思いますけれども,何か後で取消してくると,何か本当にこれでいいのかなというもやもやとしたものが残るという,それだけのことです。


● 恐らく,相手方が無資力の場合に,どういう問題が出てくるかということがさらにあるでしょうから,忠実義務の一般ルールにゆだねる場合の効果をさらに詰めて,検討していただいて,詰めていくということでよろしいでしょうか。


  今,多分,即座にすべての細かいところまで詰めきれないと思いますので。
  今の点を含めてほかに相殺について。

  では,○○委員。


● これもちょっとはっきり書いてあるので,確認的な発言なんですけれども,何度も議論しているように,取引のときは善意,重過失ですけれども,相殺という,これとりひきとはちょっとずれるというような,これだと過失という要件で,やはり相殺についての取引保護については少し弱める,または通常の取引と同じように扱うと,こういうような判断をやっぱり事務局としてはされた,相殺はちょっと違うというそういうこと,そう書いてありますので,そうだと思うんですが。

● 通常の権限違反の場合には,信託事務であるということは認識した上で,その権限内か権限外かという話であるのに対して,これは信託財産に帰属するか固有財産に帰属するかというときに,実際固有財産に帰属はしているんですけれども,その帰属自体がわからなかったというのを,弁済という局面に限って,信託という特性に関して救済しましょうということですから,別に主観的要件が異なったからといって,別に理論的な整合性がとれないということではなくて,むしろ,478条との整合性を考えれば,このような主観的要件をとるのが妥当なのではないかというふうに考えているということであります。

● 13ページの説明のところに,相殺は可能であることを確認して融資を受けたがみたいな,だから,何となく通常の取引行為において,お金を借りる場合に,後に相殺を考える場合には,信託からの借り入れか否かを確認するような注意義務が,いけないという議論ではないんですけれども,ちょっとそんなふうに読むのかなみたいなことで,弁護士会でも議論していたこともありまして。

  だから,一般の人,金融機関同士であれば別に当然でして,銀行取引する人はある意味ではそこまでの義務あるというのは。なかなか一般の人が信託銀行から住宅ローン借りるときに,それがどこからの借り入れだったかというのも,過失ありという認定はちょっと厳しいのかなと,そんな議論なんですけれども。過失がないということなんでしょうが。


● 普通はそうなんでしょうね。
  それでは,この14の方向性については,パブリック・コメント前から出ていたことで,特に御異論がないかと思いますが,しかし,効果の点をさらに詰めて,検討するということで,14についてはその程度でよろしいでしょうか。
  それでは次に進ませていただきます。


● では続きまして,第23と第24について,御説明申し上げます。
  まず,帳簿作成義務等についてでございますが,帳簿の閲覧拒否事由が問題になっておりまして,第21回の部会におきましては,甲,乙,丙案をお示しいたしましたところ,乙案を指示する見解と,丙案を指示する見解とが示されました。

  今回はその際の審議内容ですとか,その後の検討も踏まえまして,丙案をベースとしつつ,受益者単数の信託の場合には,閲覧拒否事由をさらに限定するという考え方を提案するものでございます。

すなわち,受益者,委託者,受託者,信託外の第三者のそれぞれの利益のバランスをよく図ることのできる内容であるという点からは,丙案が基本的に妥当と思われるわけですが,ただ会社法の規定を参考に閲覧拒否事由を定めることにつきましては,そもそも多数の株主を前提とする会社の規定の中には,受益者が単数の信託には適切に当てはまらない事由があると思われるわけでございます。

  そこで,受益者以外にその利益を保護すべき者がいるかどうかという観点
から,提案の3の(3)と(4)の①,②というものにつきましては,受益者の単数,複数を問わず閲覧拒否事由となるとする反面,(注1)の③から⑥の事由につきましては,他に保護すべき受益者がいる場合,すなわち受益者が複数の場合の信託についてのみ,閲覧拒否事由となるとすることによりまして,丙案よりも関係者の利益保護のバランス,特に受益者の閲覧請求権の実効性に配慮した趣旨でございます。

  なお,第21回の部会では,帳簿閲覧請求に当たり,理由の明示を必要とすることの妥当性についても議論が及びましたが,資料の16ページに記載しましたとおり,理由の明示はやはり必要とは考えておりますが,その理由の明示すべき程度や内容は信託の類型によって異なってくるものと考えておりまして,この点は,前回の審議会で,最後にそのように御説明させていただいたところと承知しております。

  続きまして,第24の,他の受益者に関する情報を求める権利と。前は,受益者名簿の作成義務に関する規律としておりましたが,この試案の考え方に対しましては,賛成意見が多数を占めております。

  ところで,受益者名簿の作成に関する規律を提案いたしましたのは,意思決定に関する権利行使を望む受益者のために他の受益者の情報を知るための方法を確保することにあったわけでございますが,そうだとすれば,端的に受益者が他の受益者に関する情報を求める権利を有するということを確保すれば足りるわけでございまして,名簿の作成に固執する必要はないものと考え直したわけでございます。

  このような観点から,今回の提案1におきましては,受益者の複数の場合には,受益者が理由を明らかにすることによって,他の受益者の情報の開示を求めることができるといたしまして,そのために,受益者が受益者名簿を作成するかどうかについては,あくまでも信託行為を定める委託者及び受託者の任意の判断にゆだねることとしております。


  もっとも,自分の個人情報ないし,プライバシーを他人に知られたくないという受益者の正当な期待ですとか,あるいは他の受益者に関する情報をわからせたくないという委託者のニーズにこたえることのできる信託の設計を可能にするという観点から,他の受益者の情報を開示する義務については,あくまで任意規定にとどまると。


原則は義務があるわけですけれども,信託行為で外すことができるという位置づけにしております。


  さらに,提案2におきましては,株主名簿の閲覧請求に関する会社法の規定を参考にいたしまして,他の受益者の情報の開示請求に対する受託者の拒絶事由を法定することとしております。


  もっとも,提案1のとおり,そもそも情報開示請求の権利自体を任意規定としていることですとか,株主名簿については信託外の債権者にも閲覧請求権があるわけですが,ここでは他の受益者に関する情報を求める権利を有するのは受益者に限っているということなどにかんがみまして,この拒絶事由に関する規律も任意規定でございまして,信託行為をもって増減できるものと考えております。
  以上でございます。

● この23,24について,御意見ございますでしょうか。
● 若干意見とお願いを述べさせていただきます。

  23の3のところですけれども,まず,これもしかしたら前回申し上げるべき点だったのかなという気もするんですけれども,御容赦いただければと思います。

  3の(1)のところで,状況の報告を求めることができるというふうに,表現ぶりが改まっております。今回,これに合わせて表題もかえられているようですけれども,これは,報告という表現よりも,むしろ現行法どおり,説明という表現の方がよろしいのではないかということで,できれば,そういった形でお願いできないかと。


  例えば,個人の不動産の管理の信託を,考えた場合でも,報告という言葉ですと,事後的な報告という印象を受けますし,他方,説明ということであれば,管理方針等についても説明を求めることができるというようなこと,あるいは不明点については質問ができるというような感じがいたします。


  報告という言葉は,国語的に告げ知らせることということになっておりますし,結果を,与えられた任務の結果などについて述べることというようなことになっていて,説明という,よくわかるように述べること,解き明かし教えることというその国語的な意味でも,やはりこちらの方が適当なのではないかというふうに思われます。

  民法の委任の規定に倣って報告という表現にしたということが前回の御説明であるんですが,委任と信託を比較しますと,委任に比べて,信託というのは,他人の財産を預かるものであるということですとか,あるいは期間も長期にわたる,それから,委任のように当事者に当然にその解除権が認められているわけではないということですとか,という特性がありますので,やはり,委任に比べて受益者や委託者等,関係者の監督を図る必要性が高いのではないかというふうに考えております。

  そうするとやはり,言葉としては,報告という言葉よりも,説明という言葉をぜひ維持していただけないかというふうに考えております。それが第1点です。


  それから2番目ですけれども,3(3)の規律についてです。この規律については,基本的な方向性については賛成したいというふうに考えておりますけれども,閲覧対象から除外する範囲が広範になり過ぎないように,合理的な切り分けができるように,ぜひお願いしたいというふうに考えております。


  この規律の内容については,何点か御質問をさせていただければと思います。

  1つは,この規律の中で,信託の定めということが言われておりますけれども,これはどこまで具体的に定める必要があるのかという点です。具体的な書面を特定することまで必要なのか,あるいはその抽象的な定めでも許容されるのかどうかという点。


  それから,また,この規律の中で,受益者以外の第三者という表現が用いられている文がありますけれども,この第三者の範囲をこの信託行為の定めの中で定めておくことが必要かどうか。信託行為の定め方について御教授いただければというふうに思います。


  それから今の点に関しまして,第三者の中には受託者が含まれるのかどうかと。これは,個人的には,この第三者に,受託者を含めるというのは,若干問題ではないかというふうに考えておりますけれども,この点についても御教授いただければと思います。

  それから,この要件の中で,受益者の同意が要件とされておりますけれども,受益権が譲渡された場合には,この要件の充足についてはどう考えればいいのかということについても,教えていただければ助かります。


  それから,あと,(注1)についてなんですけれども,この点については,基本的には集団信託と個人の場合の切り分けで,こういった別異の規律を設けるという方向性については,基本的に賛成したいと思うんですが,ただ,この切り分けの方法として,この御提案の中では,受益者が単数か複数かということによって,切り分けがされております。これは,やや切り分けの線として,ちょっとやや厳しいのではないかという感じを持っております。


  個人的な色彩の強い信託の中には,親族の何名かが受益者となっている場合も少なくないというふうに思われるんですけれども,こういった場合については,やはり(注1)の規律にいかずに,(4)の規律で収めることが適当ではないかというふうに思われます。


  なかなかこの切り分け方が難しいであろうというふうには拝察するんですけれども,感覚的には受益者が一定の個性を持った特定少数のものである場合には,この(4)の規律だけでいくというふうにするのが適当なのではないかという感じを持っております。

  もし,その切り分けの方法として考えられるのであれば,例えば,信託の目的が特定のものの利益のために設定されたものかどうかということとか,あるいは受益権が不特定の者に譲渡が予定されているかどうかとか,そういった切り分け方とか,あるいは,どうしても難しい場合には,人数的な切り分けとか,そういった規律を御検討いただくことはできないかということです。この点,もし御検討いただければお願いしたいと思うんですが,よろしくお願いします。
  以上です。

● 3点について,御意見,御質問があったわけですが。
● 報告のところだけ,後で説明いたしますが,まず,第三者のこの信託行為の定めの具体性ということですが,これ,結局ここは第三者が,受益者が予見可能な範囲の状況を書いておけばいいだろうということでございまして,およそあらゆる文章なんていう書き方はだめだと思いますが,他方具体的に一々特定しなくてはだめというのも厳しすぎますし,そこは条理で判断するしかないのかなという気がしているところで,ちょっとそれ以上に,事務局からこう書かなくてはいけないとか,そこまで言えるような筋合いではないかなと思っております。

  それから,受託者も第三者に含まれるかというのは,これはやはり,信託債権の債務者であれ,ライセンスを受けている第三者であれ,受託者の場合でも入るのではないかというのが事務局の考え方でございます。


  それから,あと,個々の受益者,信託行為定めて,受益者の同意を得た場合に,それが譲渡されたらどうなるかということでございますが,これは個人的な感じでございますけれども,信託行為だけで定めれば,それが受益者の内容になって,それが転々流通すると思うんですが,受益者の同意がかんでおりますので,やはりそれによって,直ちにそういう性質の受益権になるということは難しくて,やっぱり譲渡されたら,また新たに譲受人の受益者の同意がないといけないのではないかという気がしているところでございます。

  人数の切り分けというのは,ちょっとなかなかそれはしかし,どういう,なかなか難しいとは思うんですが,ちょっとそこは検討させていただきたいと思います。


  あと1点,ではちょっと説明をお願いします。

● すみません。3の(1)の報告の書き方の問題でして,このあたりは結論的には法制的な事柄ですので,ある程度お任せいただきたいと思うんですが,その前提としての,実質のところが問題なのかと思います。


  先ほどおっしゃったお話というのは,基本的には信託であれば,受託者から何が聞けるかというのが委任と違って,質的に違いがあるんだと,恐らくそういう前提で説明という言葉のほうがいいのではないかということをおっしゃったのかなというふうに思うんですけれども,むしろそのあたりは信託事務の処理の状況についての,受託者に対して,報告を求められますし,それから信託財産の状況については,これはまた,信託法においては,一定の時期になったら,積極的に報告しなくてはいけないということですし,さらには,信託の帳簿なり何なり,これを作成し,あるいは取得したものを保管して,見せなくてはいけないと,こういうようなルールになっておりますので,むしろ我々としては,そこが上乗せになっていると,信託財産というものを委託者から預かり,受益者のために保管するという点において,そこが上乗せになっているということなのかなというふうに認識しておりまして,そうすると,別に3の(1)のところの信託事務の処理の状況,これを報告というふうに言ったから問題があるという感じは,正直あまりしていないと。


むしろ説明と言うと,何かいま一つあいまいな感じもいたしますので,そこは委任と同じような表現ぶりで,別に報告と言ったからと,委任でも同じだと思うんですが,事後的な報告だけというふうなことでは恐らくないはずだと思いますので,表現ぶりですけれども,その前提の実質については,今申し上げたようなところを,事務局としては考えているというようなところでございます。

  それから,若干,先ほどの○○幹事の発言の補足ですが,3の(3)ですが,同意を得るため何を書かなくてはいけないかということで,ここは,ほかのところの同意なんかとちょっと違いまして,あるいは信託行為ですね,何を書くかですけれども,ある程度,秘匿することができる情報について,法律で定めを設けておりますので,つまり第三者の秘密的なところですね,そういった情報でなくてはいけないとかいったような制限を設けておりますので,そのあたりも踏まえて,判断されることになるはずではないかと思います。

  あとそれから,受益者の同意を得ておいた場合に,ではその譲受人に対しては,どうなのかと新たに同意を取り直さなくてはいけないのかどうかという話ありまして,ちょっとここは,検討が必要かなというふうに思います。


  先ほど○○幹事が申し上げたように,同意の効力は譲受人に引き継がれないんだということもあるかと思いますけれども,あるいはそれだとちょっと第三者の情報の秘匿なんかの関係では少しどうかなというようなところもありますので,あるいは,こういうふうにもう信託法で,同意を得た受益者,閲覧,当初の対象にしないというような記述まで設けるという前提ですので,そこまでしてしまったら,その効果は引き継がれるんだと,譲受人ですね,そういうことも考えられてもいいのではないかなというような気もいたしますので,ちょっとそこは,なお検討させていただきたいというような感じがいたします。
  以上です。


● その点については,慎重に御検討お願いできればと思うんですけれども,先ほどの報告のところについては,要するに受益者の立場からすると,多分質問をしたり,いろいろなもう少し詳しく教えてくださいというようなやり取りを,多分したくなる場面が,特に個人的なものの場合,多いのではないかと思うので,そういったことができやすいと言うとあれですけれども,そういった形の表現ぶりを御検討いただければと思います。

● おっしゃることはよくわかります。恐らく我々の認識は,委任でも,報告を一方的に受けるというような話ではなくて,もちろんそれに伴って,質問したりというのは想定されているはずなので,何か特に今言われたようなことを想定して表現ぶりをかえるというと,何か,委任の方に変なバックフラッシュがあっても困るかなというような気もいたしましたので,発言いたしました。


● 多分,実質的なイメージはそんなに違っていないと思うので,その表現の問題だと思いますが,多分,ほかの法制との関係もあるでしょうから,今のような,趣旨は共通の理解だということで,よろしいでしょうか。

● 先ほどの,受益者の同意を得たということで,譲受人との関係の話で,意見といいましょうか,確認なんですが,基本的には譲受人も新たにとらなくてはいけないという話であるという,その趣旨というのは,結局,もしそうであるのであれば,譲受人というのは,例えば,受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報についても,閲覧謄写請求ができるという,そういう趣旨ですか。


  もしそういうことであれば,やはりこれは,そういう規律というのは,やはり受益者の譲渡によって,そういう情報が開示されるか開示されないかと分かれるというのは,ちょっと合理的ではないなというふうに思うわけなんですけれども。


  ちょっとそこで御質問なんですけれども,そもそも,私も議論は追いついていっていないのかもしれませんが,この「かつ受益者の同意を得た場合には」という要件が入った経緯というのは,これ,ちょっと20回の会議で提案された甲,乙,丙案からは,ちょっとかけ離れているような気がするんですが,ここの趣旨,そもそもこれを置いた趣旨と,つまり,信託行為に書いただけでは足らず,受益者の同意を個別に,当初の受益者は信託行為だけで十分なのかもしれませんけれども,置いた趣旨というのは,これは一体どういうところなんでしょうか。

● これは前回の丙案にも,受益者の同意によりという要件が入っているような気がいたしますが,入れた趣旨といいますのは,信託行為の定めで一方的に受益者の閲覧請求権を奪うというのは受益者の権利保護の観点から望ましくないので,ここの受益者の同意も要件とする必要があるのではないかという,受益者の権利保護の重要視というか,そちらの方向から入れたということでございます。


  そういう経緯で入ってきたわけでございまして,ただ,最初のときに,信託スキームをつくるときに,自益信託であれば,同意を要件として設定すればいいわけですし,他益信託の形であれば,同意しなければ受益権を売却,取得できないというようなスキームをとれば,受益者となる以上は,同意しなければいけないということになるかと思うんですね。

  先ほどちょっと私の方からは,同意が,よって,信託の受益権の中身になると言えるのかどうかというような疑問もあるというふうなことも言ったんですが,この点はなおちょっと検討したいと思っております。

● よろしいでしょうか。
● 今の関連なんですけれども,ここで閲覧除外にする根拠として,実質的にどういったことが考えられるかということで,1つは受益者の同意ということと,それから文書の性質ということと,2つの要素があるのではないかという気がちょっとしておりまして,例えば,この記述していただいております受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報というのは,これはむしろ文書の性質から除外することが正当化されるような気がするんですけれども,例えば,前段の方の,1の(2)の書類については,むしろ同意がその根拠になるのかなという気もしておりまして,ややちょっと性質が違うという見方もあり得るのかなという気がしているので,そういったことも含めて検討いただけないかというふうに思います。

  それから,そういったことで考えたときに,文書の性質から,同意要件は比較的薄くてもいいというような発想がもし出てくるとすれば,この第三者に受託者を含めるというのは,ややちょっとやはり問題があるかなという気がしておりますので,併せて御検討いただければと思います。よろしくお願いします。

● 今の○○幹事の御発言で,確認なんですが,前半の資料というのは,信託財産の状況に関する資料を作成する基礎になった資料のうち,重要でないものということでして,それに対して,後半の方は確かに第三者の利益を害する恐れがあるものではありますけれども,逆に言えば,これは信託財産,例えば,信託財産に属する債権の債務者情報とかで,詳しいものみたいなことになっていたときには,それは知った方が受益者にとってはためになるんだろうけれども,見せないという選択をするものですので,むしろ性質に応じてということであれば,前半の方は,重要性が乏しいものという縛りになっていますので,こちらの方がむしろ性質上ではないか。


  後半の方については,確かに,第三者の利益を害する恐れのある情報ではありますけれども,ではそれは信託の受益者にとってみたら重要な情報であるかもしれない。


それを見せなくていいということなので,こちらについては,同意というのを考えたというのが事務局の方の整理ではあるんですが。とりあえず,申し述べた上で,また検討いたします。


● 受益者保護という観点からいきますと,○○幹事のおっしゃることもよくわかるんですけれども,受託者としてのやはり信託事務の執行ということからいたしますと,前回乙案というのが提示されておりましたけれども,今回についても,基本的には乙案を支持したいというふうに思っております。


  受益者が単独と複数であるものに分けるということについては,こういう方向性はいいのではないかと思うんですけれども,本当に極めて実務的なところからいくと,他益の信託の場合がやはり困るかなと。御承知のように,適格年金とかでありますと,年金に係る情報というのは非常に大量でなおかつ長期間にわたるものがありますので,これが全部見せられるということがなかなか厳しいものがありまして,(3)のところの規律でいきますと,他益の信託ですので,受益者の同意というのが,これとれないということになります。したがいまして,実務上,かなり制約を受けるようなことになりますので,ちょっと考え方としてどうかなと思うんですけれども,例えば受益者代理の同意のみであるとか,年金信託ということに限定して考えますと,委託者というのが非常にきちっとしたところですので,そういうところが監視しているというところもありますので,何らかの特別の配慮をお願いできればなと思います。

  そういうことがなかなか理論的に難しければ,やはり乙案支持で,甲案に書かれているような要素も入れていただかないと,なかなかちょっと厳しいかなということで,御配慮をいただきたいということであります。


  それと,先ほど○○幹事の方から,受益者以外の第三者の利益というのも,受託者が入るか否かというところですけれども,これはぜひとも入れていただかないことには営業上の秘匿というのは絶対必要なことですので,ここはお願いしたいと思います。


  以上であります。


● 24のところでのちょっとだけ確認なんですけれども,先ほどの○○幹事の御説明のところで,2の受託者の拒絶事由のところで,ただ信託行為に別段の定めがあるときはその定めに従うものとするということで,この拒絶事由の増減ができるという御説明をいただいたかと思うんですけれども,1の(2)の趣旨と,これが設けられているのは,基本的に個人情報保護ということで,制約する方向ということで,御説明があったと思うんですけれども,その趣旨からすると,2の方も,これをふやすのはわかるんですけれども,ここの中から減らすというのはどういうことかなというふうに,ちょっと疑問に思いました。


  と申しますのは,これ任意規定でございますので,個人情報保護法の適用がある場合とすると,例えば株主名簿の閲覧請求の商法の規定の場合であれば,これ強行規定的に規定されているので,今たしか第三者提供の制限の例外で,法令に基づく場合という整理がされているかと思うんですけれども,こういう任意規定だということになると,以前も発言させていただいたことがあると思うんですけれども,なかなかそこが難しいのではないかと。


  そうなると,もう1つの適用除外である,人の生命,身体及び財産の保護のために必要であって,同意を得ることが困難である場合というものが該当するということになって,例えば2の①,こういうケースでは本人の意に反しても,他の受益者等の権利,受益者としての権利行使のためにどうしても他の受益者と一緒になって行動しないといけないというようなケースがあるようなときには可能だというふうに考えられると思うんですけれども,こういったものを,例えば外してしまうというようなものだと,やはり問題ではないかなと,個人情報を考えた場合は問題ではないかなと思うので,この拒絶事由を減らすというのは,ちょっと私の中で納得いかなかったものですから,ちょっとそのあたりの御説明をいただけたらと思うんですが。


● あくまで信託行為で初めて減らすわけでして,一応デフォルトとしてはこれだけあるわけですが,ふやすのはいいんだというのは御異論ないと思うので,減らすのも,信託行為で減らせばいいわけで,減らしたら,そういう信託に入りたくない人は受益者にならないというだけではないかと思うんですが,何かその。


● そういう理解です。最初に契約の方で,受益者が契約の中に入っていれば,いいんですけれども,後から転々流通するものであればそこまで明確に理解できるのかな,どうなのかなというふうにちょっと思ったものですから。

● 後から減らすのであれば,信託行為の変更の要件を満たす必要が出てくると思いますが。


● 後からというか,そういう信託行為がある分を,明確に認識した上でやっていれば,もちろん問題はないのかなとは思うんですけれども。


● 後から受益者が気づいた場合ですか。
● はい。
● それは,どうしようもない……。ちょっと気づかなかったのが悪いというか,そう言うと厳しいんでしょうか。しかたがないのではないかなという気がいたしますけれども。


● ○○幹事,関連ですか。
● まさに同じ点を聞こうと思っていたんですが,24の1も2もいずれも任意法規化されていると。その趣旨はおおむねは理解できるんですけれども,やはり拒絶事由をふやしていく方向でも実は問題が本当にあって,一切見せないのだというような形での定めが信託行為に最初からあってと,それが果たして常に許されるのかというのは,やっぱり考えないといけないポイントで,もともとの制度の趣旨というのは,やっぱり受益者の権利行使を容易にするというような制度趣旨があって,やっぱりその,およそこういうものが見られないことによって,受益者の権利行使が,実際上,権利はあるんだけれども,行使できない,非常に困難になってしまうというようなときには,やはりこのような信託を設定する以上は,そして受益者というものを存在を認めるということである以上は,やはり,いかに個人情報といいましても,他人の権利がそれによって大きく制約されるということであれば,管理しないといけないという側面もあろうと思いますので,完全任意法規化ではなく,何らかの制約がやっぱりちょっとないと,困ったことが生じるのではないかなという危惧は,私も持っていまして,その意味では,今の御発言,全くそのとおりかなという気がいたしました。

 逆の意味でも,この完全任意法規化という点については,ちょっと考えるべきポイントがあるのではないかなという気がいたしました。


● 方向は逆の方向ですけれども。
● 同じ趣旨ですね。はい。


● 今1についても触れられましたけれども,逆に1で,開示事由を広くしたときに,今度は個人情報保護法との関係でどうなのかということもあるでしょうから,両面ですね,信託行為で決めれば何でもできるのか,それから逆に個人情報保護法の23条でしたか,その規定との関係でどう考えるのかという,両方の方向でさらに検討するということでしょうか。

  ちょっと私,先ほどうっかりしまして,○○委員の御発言と○○委員の御発言が関連するかと思って続けてしまったものですので,○○委員の御発言について,事務局の方から。


● 乙案,丙案がどちらがいいかというのは,御指摘を踏まえてまた検討したいと思います。

  基本的にやはり,受益者の権利の重視という観点からは,乙案よりは丙案ではないかなというのが今の考えでございます。その後は,譲渡されたときにどうかというのはまた改めて検討したいと思っております。


  あと,受益者代理に言えばいいかというと,やはり受益者代理は個々の受益者の権利までは奪えませんので,やはり個々の受益者が同意をする権利というのは受益者代理によっては代替できないのではないかということで,そこは,受益者代理に通知すれば同意というのは難しいのではないかなと考えております。


  あと,これは先ほど他益信託のとき困ると言っておられたんですが,他益信託のときに,例えば,この情報の開示をしないことに同意しない者については受益者となることができないとか,そういう定めをして,同意をあった者しか受益者になれないとすることは難しいということでございますか。

● いや,そういうようなことは許されるのであれば,比較的検討はできるのかなという感じはしています。


● ただ,それが適法であれば対応策はあるけれども,そういうことが許されるかどうかということですか。
● はい。
● ちょっとそこは,また考えたいと思います。
● お願いします。
● ほかにいかがでしょうか。


● 24の関係ですが,任意規定として,この拒絶できる範囲をどこまでも広げられるということにしてしまうと,45番で,この受益者の権利の制限のところで100分の3という,有価証券化した場合ですね,という要件を設けた案が出ていますので,それとの関係で,帳簿閲覧請求権があると言ってみても,100分の3,集めることが,ほかの受益者だれかがわからないので,できませんというようなことになってしまいますが,その辺は何か,そういう場合でもこれがあるから大丈夫だというのはありましたか。

● 特にそこについては,対応しておりませんので,多数決,全員一致,100分の3いずれも,ほかの受益者がわからないとできないということから,受益者の情報を求める権利が必要ではないかという話が出ているわけでございますが,ここではそういう必要性はわかりつつも,個人情報の保護という観点からその制約を設けることは可能ではないかという仕切りをしているわけでございますので,100分の3ということにした結果,100分の3を持っていない人が帳簿閲覧できない結果になるということは,もし他の受益者に関する情報を求める権利が付与されていない場合には,それは仕方がないのかなという気がするところでございます。

● そうすると,この100分の3という方を,ちょっと帳簿閲覧請求権ぐらいは外していただくとか。


● これは一応会社法の規定に倣ってのことでございますので,もしそういう御意見であれば,そういう御意見は,それはそれであり得るというか,検討はいたしたいと思いますが。


  24とのバランスといいますか,どちらをとるかというか,そういう観点はございますけれども。帳簿閲覧は外したほうがいいのではないかということですか。

● ええ。と思います。はい。
● その場合には,情報を求める権利の方は,任意規定でいいと。
● そういうセットになりますね,はい。


● 1つだけよろしいでしょうか。
  先ほどからの説明もありまして,これまでの説明もそうなんですけれども,最初から,こういう他の受益者に関する情報を求める権利などがもう制限されているような信託だったら,最初から入らなければいいではないかというのは全くそのとおりの側面あるんですけれども,こういう点まで熟慮の上,受益者になるかというと,そういう場合もあるでしょうけれども,そうでない場合決して少なくなかろうという気がするんですね。


  要するに本体部分とは別の細々とした権利が,実は制約されているというところまで,目が届かないまま受益者になるというような場合は,今日の休憩2回ありましたけれども,何回かの前の議論にも若干出てはいましたけれども,信託法以外の問題なのだという図式で本当にいいのかというのは,ちょっと気にはずっとかかっているところでして,そういう意味では,任意法規化するという全体の流れはよろしいのかもしれませんけれども,やはり一定の制約というのをちょっと考えないと,行き過ぎたところが出てくるのではないかなという気がいたします。

  特にこの問題に関して言いますと,ちょっとそういう思いが,先ほど発言しましたように,あるなという気がいたします。


  そういう意味では今の100分の3の云々の問題がクリアされたとしても,なおちょっと問題残るのはあるのではないかなという気がいたします。それだけです。


● 今もう既にお帰りになった○○委員が言っておられたことですが,今回デフォルトで他の受益者の氏名などを把握することをほかの受益者に認めましょうということにしているんですが,いやそれと逆になぜほかの受益者の名前などが見られることになるんだろうねと,つまり受益者が複数いるんだけれども,何かそこに集団性みたいなもの,あるいは団体性みたいなものが信託においてはあるんだろうか,そういうところに私は若干の疑問があるというようなこともおっしゃっておられまして,それに対しては,私はそれはそれなりに答えはできるのかなとは思ってはいるんですけれども,例えば,今言ったような,つまり受益者間に団体性があるのかというような問いが発せられた場合,どのようなことを考えるべきなのかというようなところ,もし何かございましたら少しお教え願いたいのですが。

● 今のところに関係するかどうかは,直接関係するかどうかはちょっとよくわからないところあるんですけれども,その受益者がほかの受益者の情報を求める必要性というのは,基本的には,ここには全会一致の原則だということが書かれていますけれども,多数決で決める場合には,やはり多数決で決まったことを,受け入れるといいますか,それが強制されることになる以上,その多数決の意見の形勢については,ある程度,やっぱり参加の機会ではないですけれども,働きかけの機会というのが保証されてもしかるべきなのではないかなという感じがちょっとしております。

  それで,実質的には,これ,氏名,名称を必ず知らなければそういう機会が得られないのかどうかという点については,いろいろな制度を設ければ,それにかわるものができるのかもしれないというふうにも思いますし,あるいは,受益者が見られない場合に,ほかの人がそれを閲覧して,代替的なことができるというようなことも制度としてはあり得るのかなという気がしなくはないんですけれども,いずれにしろ,受益者が全くそういった働きかけといいますか,ルートが全くないというのは,ちょっとやっぱり厳しいかなという感じがしておりまして,実は弁護士会で議論したときも,これが全くないというのはちょっと行き過ぎではないかという議論がかなり出ておりましたので,何らかの工夫というものをお願いできないかなと。具体的なあれがなくて申しわけないんですけれども,という気はしております。

● すみません。これも基本的に受託者的な立場と言いますか,営業的な感覚からいきますと,例えばここに書いてある24のところの,デフォルトルールとして氏名または名称及び住所であるとか,受益権の内容と書いてありますけれども,例えばこれ開示するんですけれども,これ買いますかというお話を金融商品でしたら,やっぱり私自身が考えても受益権の内容を開示されるというのは嫌だなという人が結構いるのではないかと思うんですね。


  そうしますと,やはり,逆に当然そういうものは重要だというふうに考える方もいらっしゃると思いますので,ここはやっぱりいろいろな信託商品というものがありますので,デフォルトというのを堅持していただけたらなというふうに思います。


● 大体,御意見が出てきまして,一方で受益者の権利,あるいは受益者たちが集合するという機会を保証すべきではないかというのがある。他方で,幾つかの要素があるんですが,プライバシーとか個人情報の保護の問題,それから信託行為で自由に定められるというのが原則ではないかということ。あるいは受託者としての仕事の円滑というのも,ひょっとしたらあるのかもしれませんが,そういった関係を調整していくということが必要になると思います。


  本日も幾つか出ておりますけれども,その両者を何とか調整する具体的なアイデアとか工夫とかございましたら,ぜひ事務局の方にまた出していただきたいと思います。


  それからもう1つ,任意法規化をどの範囲で認めるのかということが,またこれ大きな問題でありまして,これについては,さらにまた検討していただくということにしたいと思います。


  ほかにこの2つの23,24について,ございますでしょうか。

● 大分以前の議論のとき,信託実体法と業法との関連で,業法において実体法よりも緩めるわけにはいかないという議論が,私うろ覚えであったかと思うんですけれども,もしかしたらこの議論というのは,皆さんの議論はいろいろな側面で議論したかもしれませんけれども,弁護士会的に言えば,民事信託において,だれが受益者か知らないのは変だなと思う反面,○○委員がおっしゃるように,金融商品買ったときに,どこのだれがそれを買っているかというのは別に知る必要もないし,教えたくもないというのはわかりますから,ここではある意味では議論が逆転していて,信託業法の方で,やっぱり金融商品としての方は緩めればいいのであって,ここでの議論はどちらかというと,民事信託的な発想,ですから,受益者多数といってもある意味では少数多数という,複数かもしれないけれども,少数であると,要するに,ぐらいのつもりで議論しないと,この溝は埋まらないのかなと。

  もちろん,民事信託でもという議論はあるかもしれませんし,業法と信託実体法がどちらが緩くてどちらがきついということのもともとの,何か原理原則論が別個あるのかもしれませんけれども,一応,かつてその議論があったことによって,どうしてもこちらがデフォルトルールでなくてはいけない,任意規定でなくてはいけないというのは,まず大前提にあるのが,多少議論の出発点であると,今みたいな議論も多少は役に立つかなと思いついたんですけれども。

● そうですね。信託法と業法との関係を含めて考えるということですが,ここはまず信託法のあり方を考えていくと。その際に,今おっしゃったような,今までと違う発想もあるのではないかという,御示唆だと思いますが。

● 今の点について,簡単にちょっとコメントしますと,必ずしも業法で規制されるべき場合ということと,それから,金融商品等で,受益者の匿名性を求める場合というのは,一致しない場合もあるのではないかなと思いますので,ちょっとそのすみ分けがうまく本当に適応するかどうかというのは,ちょっと慎重に考える必要があると思います。

● 事務局の中では,民事信託につきましてもこのような規定というのは任意規定にする必要があるのではないかというようなことを考えました。


その点につきましては,この19ページ以下に書いてあるようなことなんですけれども,具体的に申し上げますと,受益者の中には仲の悪い人がいて,委託者である親が,子の兄弟の1人については,どういう内容の受益権を与えたかということを受益者間同士では知らせたくないというようなニーズも,もしかしたらあるのではないかと,そうだとすると,こういう規定について,強行規定として,絶対受益者間でだれが受益者になったかとか,その受益者がどういう受益権の内容を持っているのかとかいうのを知らせなければいけないとまでする必要はないのではないかなというようなことを考えた次第でして,そういう意味からは商事信託も民事信託も,任意規定とするのがあるべき姿ではないのかなというふうに考えた次第でございます。


● 基本的に任意規定にするということは大体了解が得られていると思うんですが,それをどこまで徹底できるのか,貫徹できるのかという問題だろうと思います。

それをさらに詰めていただくということにいたしまして。
  ほかにございますでしょうか。
  では次に進みましょう。


● 申しわけありませんが,もう一頑張りで。前回の積み残し分をやってしまいたいと思いますので,恐縮でございますが,いつまでも積み残しておくわけにもいかないものですから。

  差止請求権からでございまして,前回資料の18ページからでございます。
  受託者の違法行為の差止請求権というところでございますが,試案では,提案1のみを示していたところ,賛成意見のみでございました。

ただし,委託を受けた受任者の違法行為について,受益者の受任者に対する差止請求権を認めるべきかについて意見が分かれましたが,この点につきましては,受任者に対する差止請求については,受益者が前面に出るのではなくて,受任者との契約当事者であり,信託財産の管理を含む信託事務処理をゆだねられています受託者の適切な判断に任せることが信託のスキームに適合的である等の理由から,これは認めないこととしたいと考えております。

  次に,新たな提案2にかかわるところでございますが,受託者の衡平義務違反のケースでは,受益者間に不公平が生ずる結果,信託財産全体を見れば損害が生じないものの,一部の受益者には損害が生ずる場合がありますので,損害を受ける恐れのある受益者に差止請求権を認めるべきであるとの意見がございました。

  この意見は基本的に正当であると思われますが,一部の受益者に多少なりとも衡平を欠く損害が生ずれば差止請求ができるとするのでは,信託事務処理の円滑性が損なわれるという恐れがございます。


  そこで,信託事務処理の円滑性の利益の保護と,各受益者の利益の保護とのバランスから,一部の受益者に著しい損害が生ずる恐れがあるときに限って,この受益者に差止請求権を認めることを新たに提案するものでございます。
  以上が第28についてでございます。


  続きまして第41の受託者の交代に伴う法律関係でございますが,パブリック・コメントの結果は試案に総じて賛成意見でございましたので,本提案では試案をそのまま維持しております。


  資料の21ページの2以下でございますが,個別意見を踏まえた検討結果を示したものでございます。

  このうち,最初の(1)のアというところでは,前受託者の任務終了後,権利義務承継前の権限外行為については,取引相手方の保護を図ると。これに対し,権利義務承継後であれば,もはや相手方の保護を図る余地はないという考え方を示しているわけでございます。

  また,資料23ページの(3)におきましては,共同受託者の一部の任務が終了した場合のデフォルト・ルールの考え方について示しているものでございます。


  特に,職務分掌の定めがある場合につきまして,任務の終了していない方の他の受託者は,職務分掌により,権限外の事項であるから,何もタッチしなくてよいというのではなくて,曲がりなりにも受託者である以上は,相続人等にすら課されている義務の内容,すなわち任務の終了した受託者の行っていた事務のうち,信託財産の保管及び事務の引き継ぎに必要な行為くらいは義務づけることを考えていることに御留意いただければと思います。

  それ以外につきましては資料中の説明に譲らせていただきたいと思います。

  続きまして第42の信託財産管理人というところでございますが,まず,基本的に賛成意見が多数を占めておりますが,試案におきまして,共同受託者の一部が欠けた場合にも信託財産管理人の選任を認めておりましたが,この提案では,全部が欠けた場合のみに選任を認めることとしております。


  また,裁判所に対して,受託者の辞任または解任の請求がされたに過ぎない段階でも,信託財産管理人を選任することを認めるかにつきましては,試案では検討事項としておりましたが,この提案では消極的に考えております。

  これらの点についてのみ,簡単に御説明しまして,あとは資料中の説明に譲りたいと思っております。

  まず,試案を改めまして,受託者の全部が欠けた場合に限ることとしたという点でございますが,これは資料26ページのイというところに詳しく書かせていただいておりますが,簡単に申し上げますと,共同受託者の場合におきましては,職務分掌の定めがないときは,受託者の一部が欠けても残りの受託者が信託事務の処理をすればよいので,問題は職務分掌の定めがある場合でございます。


  しかし,職務分掌の定めがある場合におきましても,残りの受託者に対して,任務が終了した受託者の行っていた職務のうち,信託財産の保管及び引き継ぎに関する事務を行う義務は課すことを考えておりますので,そうであるとすると,これに加えて信託財産管理人の選任の余地まで認めておく必要はないと考えられるわけでございます。

  そういうことで,受託者の一部が欠けた場合については,信託財産管理人の選任は認めないというふうに考えを改めたものでございます。


  次に資料の27ページの(3)のところになりますが,試案の(注1)というところで書いていたんですが,裁判所に対して受託者の辞任または解任の請求がされたに過ぎない段階でも,信託財産管理人を選任する余地を認めるかどうかにつきまして,検討事項としておりました。


  この点,パブリック・コメントでは意見が分かれておりますが,1つは,受託者の権限を失わせることになる信託財産管理人の選任には相応に慎重な判断を要しまして,辞任,解任の申立てがあったに過ぎない段階で,この判断をすることは容易ではなくて,相当の審理時間を要すると思われるということがございます。

  そうだとすると,むしろ非訟事件であります受託者の解任の裁判を経た上で,信託財産管理人の選任の要否を判断するというプロセスをとっても,時間的なロスは少ないと思われるわけでございます。


  そういうことで,この問題について,あえて申立てがあった段階で,管理人の選任を認める必要性というか,緊急性というか,そういうことはないのではないかということで,消極に結論しているわけでございます。


  もっとも,このような非訟事件を本案とする保全処分の申請は認められないと,信託財産管理人と同様,職務代行者の選任も認められないと考えておりますが,他方,選任決議の無効確認の訴えですとか,受託者の地位不存在の確認の訴え,これは訴訟事件でございますので,これを本案として,受託者につきまして,民事保全法上の職務執行停止,代行者選任の仮処分の申請をすることは可能と考えられます。


  したがいまして,この場合の職務代行者の権限等につきましては,結局規定を整備する必要があるものと考えているところでございます。


  続きまして,第49の被指定者による受益の拒絶の説明をさせていただきます。


  この提案は,前回までの部会で,受益権は権利の総体であるとの位置づけをとることとした結果を踏まえたものでございます。

  一般的に権利の放棄は自由ですが,放棄の効力は遡及しないと考えられるわけでございます。しかし信託では民法の一般原則と異なりまして,受益者として指定された者は,受益の意思表示をすることなく,信託の利益を享受できることになるわけでございます。

  そこで,被指定者が信託の利益の享受を自己の意思に反して強制されるものではないということを明らかにするために,被指定者は受益を拒絶する旨の意思表示をすることができることと,その効力は第三者の権利を害しない限度で,遡及するということを明文化したものでございます。

  なお,このように受益の拒絶がされますと,被指定者は,既に給付を受けた部分については,不当利得として信託財産に返還することになりますし,被指定者の受益権は,当初から消滅することになりますので,ほかに受益者が指定されない限り,その信託は目的不達成により終了することになると考えております。

  なお,被指定者は,過去の利益は享受した上で,将来の信託の利益のみ拒絶するという選択肢をとることも可能だと考えております。これは,法律的には一般的な債権の放棄というか,債務の免除と,特に異なるところはなくて,将来の受益債権の放棄ないし受益債務の免除と構成されることになると思われますが,いずれにいたしましても,この場合は受益権は将来に向かって消滅しまして,他に新たな受益者が指定されない限り,当該信託はやはり目的不達成により終了することになると考えております。
  以上でございます。


● 全部で4項目ありますが,最初に28の差止請求権についていたしまして,その後41,42をまとめてして,最後に49というふうに進めたいと思います。


  まず,差止請求権について,御意見ございますでしょうか。これは新たに入ったのは,2の公平義務違反の場合ということですね。特にこの御提案でよろしいというふうに受け賜ってよろしいでしょうか。

  それでは,28については,この御提案ということで。
  それでは次に,41と42,受託者の交代,それから信託財産管理人について,御意見お出しいただけますでしょうか。


● 意見というか,確認的なところなんですが,たしか包括承継か個別承継かという議論を以前したときに,これは個別承継であるというような話だったかと思うんですが,41の方で,新受託者が権利義務を選任のとき,就任したときに引き継ぐということで,信託財産の帰属と権利義務がずれるのはやむを得ないというような理解なんでしょうかというような確認です。


  それからもう1つはちょっと違うんですが,3の方で,ノンリコースローンをしていたときで,受託者の交代があったときに,前受託者が固有財産を持って弁済の責任を負うと書かれているんですが,そういう場合は違うという,通常の場合を前提としているのであると,こういうふうな読み方でよろしいのかどうかと,その辺を確認したいと思いました。


● 前者に関しては,信託に関する権利及び義務の承継というのは,信託財産の移転も含めておりますので,権利義務の承継時点と財産の帰属時点はずれないということになると思っております。


● では,権利は移るけれども,もし残っていればそこに対して承継に基づく引き渡しがと,そういう……。

● そうですね。そのときに信託財産の所有権も前受託者から新受託者に移転するということになるわけでございます。
  あと,もう1点は,すみません。3の。


● すみません。つまらない質問かもしれませんけれども,債務の3のところで,前受託者が,ノンリコースローン,信託財産のみを引き当てとする借り入れを信託がしていたときに,承継したときにはその約定どおり,別に固有財産で債務を負わないという理解でよろしいでしょうか。

● それは(注3)の信託財産のみを責任財産とする債務というのと同じということになりますので,限定特約があるときも負わないと。新受託者にのみ移るという理解でございます。


● わかりました。
  42の方でもよろしいですか。
● はい,どうぞ。


● 似たような質問なんですけれども,信託財産管理人はあくまで管理するだけであって,その所有権までは取得しないというような,たしか以前の説明であって,そのとおりかなと思うんですけれども,それでも,管理人として保存行為をするというような,以前の議論の確認なんですが,ということでよろしいんでしょうか。

● そのとおりでございます。


● そうすると,前受託者といいますか,任務を終了した受託者のところに所有権が残っていて,その受託者が取引行為をすると,これは,きょうも随分議論しているところの,重過失がない限りは取引の相手方は保護されるという規律から,全く外れてしまって,所有名義は残っているけれども,本来一切権限がない財産で,なおかつ受託者でもない財産の取引という,それがどう保護されるかわからないんですけれども。

● 資料中に書いたかと思うんですが,任務は終了したけれども,まだ新受託者が選任されていない段階では,所有名義が残っておりますので,その場合には……すみません,信託財産管理人が選ばれてしまった後ですか。

● そうですね。
● そうすると,全く無権限になるわけですね。


● 所有名義は残っているけれども無権限。


● この資料中の説明は,信託財産管理人が選任される前の段階だと,まだ保管の限度での権利義務は残っているので,権義違反ということだったんですが。信託財産管理人が選ばれると,名義人ではあるけれども,全く無権限ということですね。そこはどうなるのか,ちょっと考えさせてください。

● 今の点は,信託財産管理人が選ばれていない場合については21ページに,前受託者がどうなるかというのは出ているわけで,信託財産管理人が選ばれた場合にどうなるのかというのは,今の御質問であったわけですね。


● そうですね。
● 第42の信託財産管理人の(注6)ですが,この職務代行者につきまして,選任の要件について,どのようにお考えになっておられるかということと,その終了時期について,どのようなことを今の時点でお考えになっているのかというあたりをお聞かせいただければと思います。


● 私の方からお答えします。
  まず,職務代行者の選任の要件につきましては,民事保全法23条2項と同じ要件であるというふうに考えております。ですので,それ以上でもそれ以下でもないということになると思いますけれども。
  私がもしかしたら問題意識を理解していないのかもしれませんけれども。

● その御説明ですと,受託者の解任を本案とする仮処分というような御説明だったように思うんですが,この要件が参考になるという理解でよろしいんですか。


● ここの説明のところで書いておりますのは,受託者の解任を本案とするようなものではなくて,例えば選任決議無効の訴えを本案とした場合に,民事保全法23条2項に基く代行者の選任ということになりますので,そう考えますと,民事保全法上の要件に当てはまる。一般の民事保全の話というように考えているんですけれども。


● 私の説明がちょっと不正確だったかもしれないんですが,解任の申立ては非訟事件なので,保全の本案にならないと。これに対して,当初の選任決議の無効確認の訴えとか,地位不存在確認の訴えというのは訴訟事件なので,そういうものを本案とする職務代行者の選任というのは普通の民事保全法23条2項に乗ってやっていくということでございますが。

  要件は,民事保全法と特に変わるところはないというふうに考えております。
● 終了時期についてはいかがでしょうか。


● 終了時期につきましては,例えば本案で結論が出たというものであれば,また民事保全法一般の要件として終了するということになるかと思いますけれども。


● 裁判所の方で実際に審理されるお立場で,今ので大体大丈夫でしょうか。

● この職務代行者というのは,受託者解任の裁判の継続中に,信託財産管理人を選任できないという,間隙を埋めるための制度という理解でよろしいんですか。


● いえ,前はそういう提案をしていたんですけれども,受託者の解任の申立てというのは非訟事件ということになりますので,その非訟事件を本案として民事保全法上の職務代行者というのは選任できないというふうに考えまして,さらに非訟事件を本案として特別の保全処分というものを設ける必要があるのかどうかということも,以前は検討しておったのですけれども,きょう○○幹事の方から説明ありましたとおり,そういうものを結局非訟事件類似のものとして設けたとしても,受託者を解任するという場合の判断とほぼ変わらないということになりますので,そういう形での職務代行者なり,信託財産管理人というのの選任は認めないというように,考え方を改めております。

● そうすると,結局,特別の規律というよりも,民事保全法に乗るようになったということでございますね。
  ほかに41,42についていかがでしょうか。
  大体,それでは,この御提案,これ自体が41については,要綱試案から変わりがないわけですし,42についても若干の修正はありますけれども,今御説明いただいたというようなことで,よろしいでしょうか。
  それでは,41,42については,こういうことで,最後49,被指定者による受益の拒絶についてですが,いかがでしょうか。

● 私が,初歩的なこと理解していないがための発言になるかもしれません。お許しください。


  まず1点は,これは他益信託にかかわることと理解いたしました。そうだとしますと,次に,この他益信託の受益者である第三者は,信託の利益を享受することに確定する方策は特にないように思うんですが,それは必要がないというふうに考えられたのでしょうか。

  享受しない旨の意思表示をすると,そこで決まるわけですが,享受する旨の意思表示は必要ないと。しかし,享受する旨の意思表示をしないままずっといくと,いつでも享受しない旨の意思表示ができるということになりますでしょうか。


● 利益の享受については,意思表示を要しませんので,ずっと黙っていればもらえて,いつでも放棄すれば遡及的に放棄ができるという考え方でございます。


● それはそれで,論理的には一貫しているようなんですが,そして確かに何か不都合が生ずるかと言われると,だれも痛まないのかもしれませんが,何かやや不安定な感じが,直感的にはするんですが。


● 知っていてもらっていてという場合なら,放棄が権利濫用みたいな,放棄と言ってはいけないですね,拒絶の意思表示が権利濫用みたいなことはあり得るのかもなという気はいたしますけれども。

● それはもう,この外で,一般的な民事法の権利濫用の考え方でいくと。
● 特に受益者の受益の意思表示というような文言持ってこない限り,権利濫用でいくしかないのではないかと思います。


● 仮に考えますと,もう一歩進むと,この1の,享受をしない旨の意思表示をすることの放棄みたいなことがあり得るかなと。しかしそれは煩雑かなと,私も固い意見があって申しているわけではないんですけれども,権利濫用の一歩手前か一歩先にはそういうものもあり得るかなと思ったんですが,それは必要ないだろうというお考えですか。

● そこまでは必要ないのではないかと考えております。
● 最初に申し上げた自益信託ですと,それで受益をすることを覚悟というか,当然意図しているから,この規律いらないということだと思うんですが,他益信託の場合にも,それと実質的に同様の場合というのはあるのではないかなというふうに考えたからであります。


● 恐らく,そういうのはあっていいんだろうと思うんですが,ただそれをあらわすほどのものなのかというか,それは一般的に,放棄すると,ある種の権利を行使しないということ,それはあってもいいと思うんですけれども,明記するかというようなところの感覚の問題かもしれませんが。

  つまり受益を拒絶しないという意思表示に,何らかの効力を認めるというのは,あってもいいんだろうとは思いますけれども。


● ちょっと最後まで詰めて考えていないんですが,受託者に立たれる側の方に伺いたい面もあるんですけれども,補償請求権が受益者に対しては,原則できないということになりましたから,問題は生じないのかなと思うんですが,何か受益者にチェリーピッキングと言うんでしょうか,うまくいけばそのまま黙っていて,何かだめになると,ずっとたった後で放棄と言って遡及してしまうと。


  それは,最後は権利濫用で封ずることができるのかもしれませんが,何かちょっとそれが気になったところがあります。
  ですが,ちょっとこれ以上は,具体的な意見があるわけではありませんので,結構です。


● 今の○○幹事のお考えというのは2つがあって,不安定なのがよくないというのと,それから,受益者が選択をして,後になって拒絶することで利益を得るのがおかしいというのと,両面ありますね。
● おかしいですね。そうですね。


● 両方の意味で,もう少し考えた方がいいという御意見かと思いますが,場合によっては,もっと早期に確定した方がいい。つまり,消極的に規定するのではなくて,受益の意思表示の方から規定した方がいいと,そういう御意見ですか。


● いえ,そうではございません。そうではございませんで,パブリック・コメントの中にあったという29ページの下から2つ目のパラグラフの,被指定者が相当の期間にわたって受益者として行動している場合には,放棄できない場合があり得るのではないかというのが1つと,それから,あともう1つは,今既に申し上げたように,信託の利益を享受しない旨の意思表示をすることの放棄というのがあり得るかなという,その2つです。


● すみません。もう1度繰り返させていただきますけれども,あり得ていいんだと思うんですが,それは例えば,ある種の権利を与えたというときに,その権利の放棄ができるというのは,何か当たり前のような気がして,だから要らないのではないかと。

ここであえて受益の拒絶というのを書いているのは,普通の権利放棄ではなくて,遡及的に何か権利を取得しなかったということだから書いているのだと思うんですね。

  今○○幹事がおっしゃっている,享受をしない旨の意思表示をしないということすらも,一般法理の世界で,先々行使しないからというのは,それは当然できるのではないかなという気がするんですが。


● それは要求されると。わかりました。それでしたら結構です。
● ほかにいかがでしょうか。


  では,この49につきましても,今,御指摘をいただきまして,内容がさらに明確になったと思いますので,大体このあたりで。
  どうぞ,○○幹事。

● 大変細かいことで,今ちょっとお伺いをしていて,何となく実質論として若干違和感があるというところはあって,例えば履行請求までしている受益者が,後ほど拒絶の意思表示をすると,いうようなものが,でも禁反言とするほどのこともないのか,後から返してもらっても,別にそうたいして,受託者としては,変えてくる分には手間ではないというようなことでいいのであれば,濫用でもないということで,実質はそれでいいのかなという感じはするんですが,若干,自己の前の行為と矛盾しているという感じがするときに,法定追認的なものが入ってもいいのではないかというのは,何となく理解はできるところ。


  もう1つ,すみません,これ拒絶の意思表示なのか,放棄なのかというところなんですけれども,確かに,さかのぼってやるという分は,最初からなかったことにという意味で,受益の意思表示をしない,拒絶の意思表示をするという説明の方が適うようにも思うんですけれども,他方で能動的な行動をしていた場合に,いわば一たんは権利取得をしたけれども,放棄をするという説明の方がなじむ場合もあるのかなという気がしまして,ただ何か,口座に振り込むというのは口座情報出さないと無理でしょうから,何らかの権利行使的な行為をしていて,しかしそれはなかったことにというのは,これ放棄になじむと思うんですが,それを拒絶の意思表示というふうにしてしまうと,まさに矛盾していないかという話が出そうな気がしまして,すみません,内実に反対しているわけではないのですが,ちょっと若干いろいろ気になるところあるのかなと。どういう説明をするかだけの問題かもしれませんので,何が気になるかまた改めて整理させていただきたいと思いますけれども。


● 言葉遣いの問題とかの関係かなという気もしますが,御指摘を踏まえてちょっとどのように記述するかについては検討したいと思います。

● 権利濫用でいくのか,信託の利益を享受しない旨の意思表示をすることの放棄なのか,それとも自己の先行行為に矛盾するという信義則で否定するのかということの整理をしていく必要があると思います。

  先ほど法定追認ということもおっしゃいましたが,それも1つの構成をとったことが前提になるのかなという気がいたしますので,さらに検討して詰めていただくということでお願いしたいと思います。


  ほかにございますでしょうか。
  それでは,随分遅くなってしまいましたけれども,ないようでしたら,この程度にいたしまして,あと次回。


● では次回,2週間後の18日1時から,またこの会議室でやります。よろしくお願いいたします。
-了-
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第25回会議 議事録

第1 日 時  平成17年11月18日(金)  自 午後1時07分
                        至 午後5時08分

第2 場 所  東京高等検察庁 第2会議室

第3 議 題  信託法の見直しについて
   
第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● では,これから法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。
● それでは,本日席上配布いたしました資料に基づきまして御審議いただきたいと思っております。
  
どの項目からやるかというのは,適宜こちらの方で調整していきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
● では,お願いします。
● では,まず最初に,帳簿作成義務のところから御審議いただきたいと思います。


  それでは,まず内容について,変更というか検討した点について御説明いたしますが,ここでは主として2点について御審議を願いたいと思っております。

  まず,閲覧拒否事由に関しまして,前回会議の提案におきましては,(注1)の③ないし⑥の事由につきましては受益者が複数の信託一般に適用があるとしておりましたが,受益者が複数とはいってもなお個人的な色彩が強い信託があることを理由に,この提案に反対する意見が示されておりました。


  しかし,検討いたしますと,③ないし⑥の事由と申しますのは,いずれも請求者以外の他の受益者の利益を害する内容の要求でございまして,個人的な色彩の強い信託であれば許容されるという筋合いのものではないと思われます。


そして,本当に個人的な色彩の強い信託であれば,委託者が信託行為において閲覧拒否事由を制限するという対応をとることも可能であると思われます。

  これらの事情にかんがみなますと,前回の提案,すなわち受益者が複数の信託であれば,信託行為で除外されていない限り,一律に③ないし⑥の閲覧拒否事由の対象となるという提案を維持したいと考えているものでございます。


  もう1つは,前回の提案におきまして,受益者の同意を得て閲覧対象書類を制限できるとした場合に,このような制限が譲受人に承継されるのかという点が問題となりました。


  この点につきましては,このような制限につきましては,受託者が受益権譲渡人に対して有するに至った一種の抗弁事由でございまして,受益権の譲渡に関する規律に従いまして,譲渡人にも対抗することができることになるというふうに整理しております。

  このように承継されると考えているわけでございますが,開示制限の対象となり得る書類は,この資料にございますとおり,重要でないものですとか,第三者の利益を害する恐れのあるものに限定されておりますし,前受益者が,いわばその後の受益者も代表して閲覧対象の制限に同意しているというふうにも見ることができますので,譲受人の利益を不当に害するものとはいえないと考えるものでございます。

  まずこの点につきまして,御審議をお願いいたします。
● それでは帳簿作成義務等につきまして,主として今の2つの点,説明がございましたが,それを中心にしてその点で,それ以外でももちろん結構ですので,御議論お願いいたします。

● 前回問題提起させていただいたところですので,意見を述べさせていただければと思います。


  まず閲覧拒否事由についてなんですけれども,この③以下の拒否事由についてどう考えるかということですが,前回の受益者が単数か複数かで切り分けるということを維持されるという御提案なんですけれども,若干,具体的に見ると,やややはり問題が残るのではないかという感じがしておる点がございます。


  御指摘いただいている内容の中で,③の受益者の共同の利益を害する目的での請求ですとか,⑤の利益を得て情報を第三者に通報するための請求については,これは個人的な信託の場合にも権利行使を認めるべきではないというのは御指摘のとおりだと思うんですが,他方で④の受益者が信託に係る業務と実質的に競争関係にある業務を営んでいる場合ですとか,あるいは⑥の過去2年以内に利益を得て第三者に情報を通報したことがある者である場合という,この類型については,こういった事情があった場合があるとしても,定型的に拒否事由としていいかどうかということについては,個人的色彩の強い信託の場合には,なお疑問があるのではないかというふうに考えております。
  

例えば④については,今後信託がいろいろな使われ方をしていくということを考えますと,例えば家業の一部を信託して親族を受益者とするということも,あるいはあり得るのかもしれない。


そういった場合に,当該受益者が同業を営んでいるような場合には,むしろ監督の実効を図るという観点からは,権利行使を認める場合が適当な場合もあるのではないかというふうにも考えられます。


  それから⑥については,集団信託でそういった行為をした者であっても,例えば親族間の信託の帳簿を見せてほしいといった場合に,これを定型的に拒否すべきかどうかについては,なお疑問があるように思われます。


  こういった観点から,個人的色彩の強い信託には,③以下を適用することについては,なお問題があるように思われます。

  こういった点から,受益者が単数か複数かで切り分けるというのは,やはりちょっと切り分けの方法としては問題ではないかというふうに考えております。

切り分けの方法について記載いただいております①,③について,御検討いただいておるところなんですけれども,何とかこれを明確化する方向でできないかというのが率直なところです。


  あと,いろいろ申し上げて申しわけないんですけれども,もう1つ切り分けの方法としては,個人的色彩の強い信託を切り分ける方法として,例えば委託者と受益者が同一主体か,または親族関係がある場合とか,そういったところで切り分けるという方法はどうだろうかということも,あまりこなれた案ではないんですけれども,何とかそういった形で合理的な切り分けができないかということを考えております。


  切り分けの基準として,適当な基準が見出せない場合にどうするかということは,これはその先もう1つ考えなければならないことかなという気はしてはおるんですけれども,そういった場合には,やはり拒否事由を広く認める方向ではなくて,閲覧を広く認める方向で規律することを御検討いただけないかなというふうに思います。
  

恐らく,あまり意見を述べる機会がないと思いますので,若干ちょっと補足させていただきますと,この間意見を述べさせていただいてきているところですけれども,やはりこの受託者の情報提供義務というのは,極めて重要なところかというふうに思います。

  信託事務処理の適正確保という観点もありますけれども,さらに一,二点補足させていただきますと,信託の事務処理が受益者の目に触れることによって,信託事務処理自体が改善されていくというような効果というものも期待されるのではないかというふうに思われますし,またこの会議の場では,受託者の萎縮効果ということが論じられることがありますけれども,逆に受益者の,あるいは委託者の萎縮効果ということも考える必要があるのではないかというふうに思われます。


  信託をしたことによって,情報がなかなか出にくくなるという事態があるとすれば,やはりそれは委託者ないし受託者にとっては信託を利用するに当たって,ちゅうちょする1つの理由というふうになりはしないかということが懸念されます。

  こういった観点から,ぜひできるだけ広く認める方向で規律を整理するということを御検討いただけないかと。


  この閲覧請求の問題については,基本的には,最終的に,例えば裁判所で結論がどうなるかということもあるんですけれども,やはり受託者との間で,閲覧の拒否を認めるかどうかをめぐって紛争となること自体が受益者にとっては負担となることですので,こうした事態は可及的に除くような方向での規律をお願いできないかというふうに考えます。
 


 そうした観点からすると,御提案の方向とはちょっと若干違うんですけれども,むしろ規律ができないということであれば,信託法の取り決めとしては①と②を拒否事由とするということで統一するということを御検討いただけないだろうかと。

  広がって考えますと,③以下の事由というのは,集団信託の場合には①の事由を類型化したものとも考えることができると思われますので,むしろこの①の中にも読めるというふうに考えるとすれば,この①と②の事由だけを拒否事由として規律すると。あとはある程度解釈にゆだねていくというような方向もあり得るのではないかというふうに考えております。
  以上が,前段の問題についてです。
  

それから閲覧対象制限についても,長くなって恐縮ですが,一言意見を挙げさせていただければと思うんですけれども,1つ,若干この点については質問があるんですが,この要件の中で,1(2)の書類または当該請求によって受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報の記載された文書ということを,要件というふうに書かれてあります。
 

 これは,御説明の中では受益者の権利の保護,害しないということの理由の中で,対象となる書類を限定しているという記載のところで触れられているところなんですけれども,この書類の対象の限定について,実効確保を裁判所による救済を求めることができるのか,具体的にはこの文書の対象に外れるかどうかということを,裁判所に問うことができるのかとどうかということを,1つ質問させていただければというふうに思います。

  それから制限の承継については,資産流動化での利用や,ライセンス契約の相手方の内容の秘匿の場合には,制限が受益権の譲受人に承継されるとする規律によらざるを得ないというふうに,私も考えます。しかし,これ前回も述べさせていただいたんですけれども,やはりこの第三者の中に,受託者を入れるというのは,やや問題があるのではないかというふうに思われます。
  


流動化やライセンス契約の場合には,こういった制限の承継を認めていくということに合理的理由があると思いますけれども,受託者の利益を害する書類というものについて承継を認めるということについては,やや正当化が難しいのではなかいかというふうに考えておりまして,この点については御検討いただければと思います。
  長くなってすみません。以上です。


● 重要な問題でございます。ありがとうございました。
  今のに関連して,御意見ございますでしょうか。
  ○○委員。


● 今の○○幹事の御意見のところの最終的な,最後の部分のところの,受益者以外の第三者の利益のところの部分について,受託者については排除した方がいいのではないかというような御意見だと思いますけれども,これについては前回も申し上げたんですけれども,まさに信託というのはいろいろな種類のものがございまして,そういうストラクチャーそのもの自体を売りにしているというようなものもありますので,そういった営業上の秘密であるとか,受託者が秘密にしたいことというのも当然のことながらありまして,そういうことのところへのご配慮は,やはりいただきたいなというふうに思っております。

  それと,これも前回申し上げたことなんですけれども,10ページの2のところの帳簿閲覧等と請求の対象の制限の承継についてということで,これについてはこういう形で整理していただいて,規律していただくというのは非常にいいことだろうと思います。

  ただ,受益者が多数の場合については,自益信託で受益権が譲渡される場合以外に,これもこの前申し上げたんですけれども,当初から他益の場合,典型的にいうと年金信託のようなものがありまして,これについての対応といいますか,実務上やはり秘密にしないといけないという部分もありまして,これについては,この規律ではなかなか対応ができないということで,これについては前回も申し上げたんですけれども,受益者代理というところへの報告をして,それで同意をするという形の規律を入れていただけないかということと,あとは,これは○○幹事の方からお話がありましたけれども,他益の信託であったとすると,他益の信託の受益者になるというところの部分で,閲覧の制限に同意しないと入れないというようなことができるのかどうか,それの方についても,認めていただけたならというふうに思っております。
  以上です。

● ありがとうございました。
  いかがでしょうか。


● 私は1点なんですけれども,受益者の同意を得て帳簿閲覧請求を制限した場合ということですが,信託行為で制限している場合の議論では,あくまでここに書いてあるように,個別の受益者との間で合意したというケースという理解でよろしいんですかという質問と,その場合には,その制限というのが承継していくというのは,要するに抗弁として成り立つというのは何となく,ちょっと違うのではないのかなという。
  


当初から信託契約の中で制限されるのは通常の議論ですし,その前段の方の議論でもあると思うので,その場合には初めから制限されていますから,そもそも抗弁ではなくて,そういう制限されたものがくっついた受益権が転々と譲渡されていくというような整理の方が通常ではないのかなと思うんですけれども。

● 確かにその方がわかりやすい気がしますね。
  幾つか,○○幹事,ありますか。


● まず今御指摘のあった,同意があった場合について抗弁になるかどうかというお話ですが,私どもでは,とりあえず受益者の個別の同意でいいのではないかと思っていたわけでございますが,受益権に付随する制限だというふうに考えるとすると,やはり信託行為に定めて,これについて受益者の同意があった場合には閲覧制限ができると。

そういうふうにすれば,受益権に付随する事由というふうに説明しやすいので,承継されると,受益権自体の内容ということになりますので,そこは今お話を伺っていて,そういう考え方も1つ成り立ちうるなという気がしております。ただ,受益者の同意が必要ということについては御異論がないと思うんですが,そこはよろしいでしょうか。

● 個別の同意も要らなくて,信託行為で制限されていれば,それはこの権利だけではなくて,いろいろなものがそうだと思うんですけれども,信託行為の中で受益権の持っている契約上の性質を定めるわけですから,そういうものとして受益権は転々と移転していくものであるというんですから,もともと受益者の同意の議論ではないと思うんですけれども。

  ただ,個別に受益者が同意した場合には,その方に対しては制限するのは当然ですけれども,隠れた同意が転々と譲渡されて,次の方は,もともと信託契約を見たら,フルにディスクローズされることが書いてあったんです。

いや,3代前の受益者が実は制限していましたのですから抗弁ですとは,何となくちょっと違うのではないのかなというふうに思った次第なんですけれども。

● 基本的な考え方は,受益権そのものに伴う制限となっているかどうかということなんだと思いますよね。信託行為でもって制限していれば,まさに信託の中身でもあり,受益権そのものについての制限であるということ,これは承継されて構わないと。


ですから,○○委員が問題にされているのは,信託行為で制限されていなくて個別に制限に同意したような場合ということですね。ここまで承継させなくてはいけないのかどうかという問題だと思いますけれども。

  ここの帳簿閲覧請求権に対する制限というものが一体どういう性質なのかというところは,私もよくわかりませんけれども,補償請求権とかいうのはとにかく完全に外のもの,信託の外の同意だというふうにしましたが,こちらはどの程度のものなのかということですね。


  とりあえず,信託行為で定めた場合には,これは承継されるということで,恐らく異論はないと思いますけれども。


● ただその場合には,信託行為で閲覧請求権を奪ってしまうということになるところが,ちょっと事務局としては懸念があるわけで,信託行為で定めた場合に閲覧請求できなくなるとしてしまって,果たしていいのだろうかと。

  ここは,さらに受益者の同意というのがあるからこそというのを,受益者の利益保護を重視しているところがございますので,そういう意味で言うと,信託行為で定めれば制限できるんだったら,そもそも構造自体が,受益者の保護からすると不足だということになるので,信託行為プラス受益者の同意というのならあり得るかなという気がするんですが,受益者の同意なしというのは,ちょっとまずいのではないかという気がしておりますが。

● そうだったんですか。そういう考えで。
● ちょっと問題の整理の仕方が,私が悪かったかもしれないけれども,これは先ほどから御議論いただいているように,非常に重要な受益者の権利ですので,単に形式的にというか,受益者が知らないところで信託行為で定められただけでは,制限されるのはどうも適当ではないだろうということで,受益者がやっぱり関与しているという形の同意が必要だと。

  それを,しかしどういう形で,またやるか。自益信託であれば信託行為そのものでやろうというのはできますけれども,他益信託なんかの場合に,関与していないのでどうするかというのが第1の問題であり,信託行為の形であらわれないときにどうするかというのが,次の問題ですかね。

● この点は,前回の会議でも私の方から質問差し上げたところなんですが,まず押さえておきたいのは,自益信託の場合は信託行為に書けば,これはその同意があったというふうにみなされて,受益権が譲渡されたとしてもその後に及んでいくということは,これはそういう理解でよろしいんですか。

  問題になるのは,ですから他益信託のときだということでございますか。

● そうですね。自益のときもおっしゃるように,1つの紙に書いてあったとしても,それは信託契約プラスこの受益者の同意が,2つの合意がされていると見ることができると思いますので,自益信託の場合には実質的には問題が生じないと。

  他益のときに,今の○○委員の御指摘を踏まえれば,信託行為で受益者の同意があれば閲覧請求権を制限できますと書いておいて,受益者の同意をとったときに,この制限がかかってくるという理解ができるのではないかと考えているところでございます。


  あと,先ほどの御質問のあった点ですけれども,このように受益者の同意を必要と考えておりますので,それであれば,たとえ第三者が受託者であっても,受託者のノウハウについての制限ということについて受益者がそれを同意していれば,それは別に制限事由になっていいのではないかなというのが,我々の考えでございます。

  あと,重要な情報か否か,あるいは第三者の利益を害するおそれのある情報か否かというのは,これは当然,最終的に訴訟になったときには司法判断の対象になるだろうと考えております。

  あと③以降の事由は,特に③,⑤はいいと言っていただいたんですが,④とか⑥とかの事由はどうかということでございますけれども,例として出されたのが家業の維持とか,そういう場合でございますが,そうすると,そもそも受託者の方で拒否しなければいいわけなので,一般的にはこれが閲覧拒否事由になっていても,閲覧請求があった場合に受託者の方で,これは他の受益者の利益を害する性質がないなということで閲覧させればいいのではないかと思っておりまして,あくまで法律の規律としては,こういうものを閲覧拒否事由とした上で,あとは信託の性質に応じて受託者の判断にゆだねればいいのではないかなという気がしております。

  共同事業を行っている場合とか,あるいは前に悪いことをしたという場合,共同事業の場合というのは,これはやはり他の受益者の利益を必ずしも害さないわけではないと。


やっぱり他の受益者に影響を及ぼすということは考えられますし,⑥は,若干制裁的なニュアンスが出てくるわけでございますが,やはり以前1度こういうことをした者については,なおこの新たな請求によって,他の受益者の利益を害する恐れが,一般的に,類型的に高いだろうというふうに言えると思いますので,この④と⑥の事由についても,他の受益者を保護するという観点から閲覧拒否事由として定めておいた上で,あとは受託者の方の判断にゆだねるということで,信託の類型に応じて対応できるのではないかというふうに考えるわけでございます。

  切り分けは,確かになかなか名案がないということで,単複というのは極めてシンプルなわけでございますが,この資料には,ほかの理由は十分規律として明確ではないと。


  親族関係というお話がありましたけれども,それも決して明確ではなかなかないわけでございまして,何親等以内だったらいいかとか,同居しているのかどうかとか,なかなか名案はないので,やはり単複で分けるということで,この原案維持ということで御承認いただけないかというのが事務局の考えでございます。

● 何か,いかがでしょうか。
  それでは,幾つか御意見もありまして,多少修正する余地がないわけではないかもしれませんけれども,この③から⑥までについては,基本的には受益者複数の場合には,ほかの受益者を害する可能性があるということで入ってはいるわけですけれども,裁判にまでなれば,これは実際には害していないとかとうことでもって,該当しないということでもって判断されるんでしょうけれども,先ほど○○幹事が言われたように,入り口の段階でどうかというところは,確かに重要な問題ですので,あまり萎縮効果というんでしょうか,受託者の方からとりあえずは拒まれるというのは,受益者の保護という観点からすると,問題がないわけではないというふうに私も思います。

  思いますが,しかし同時に,他の受益者を害する可能性があるということであれば,これらの理由,③か,ないし⑥の事由に該当する場合に,拒否できるということについて正当性が,またないわけでもないので,ここら辺は皆さんの御感触をお伺いしたいと思っておりますけれども,これで信託の健全性が図られるというのであれば,それでも許容できるという御意見であれば,この原案で,とりあえずはいってみたいというふうに思いますが。
  ○○委員。

● この③,④,⑤,⑥の,この点ですけれども,実際の運用の仕方がどうなるかにもよるということもあるかもしれませんが,特にこの④ですよね。これ,先ほど○○幹事の方から,受託者が家業の繁栄を考えれば拒否しない選択をすればいいんだというような御説明ありましたが,受託者に問題があると思われるときに,開示請求というのは出る場合が多いわけなので,そうすると,そういう受託者が拒否してしまいますから,そうすると実質的にというところが,どういうふうに規定されるかにもよるかなとも思ったんですが。

  例えばアパートの賃貸業なんていうのは幾らでもある話で,信託財産がアパートだった場合に,アパート賃貸して運用していると。受益者の1人がやっぱり自分がアパート持っていたというと,実質的には競合関係になってしまうんですかね。そうすると拒否されてしまうと。それはやっぱり何か変な感じがあるんですけれどもね。


● そこは,だから実質的にという判断で,当然になるわけではなくてという含みが,この実質的にという言葉に少しあるんだと思いますけれどもね。

● ただ,賃借人の取り合いという競合関係なんでしょうかね。それで見られないというのが,何かやっぱり不都合な感じがしますが。

● もしかしたら,今○○委員が言われたように,この中で比較的問題になりそうなのが,やっぱり④かもしれませんね。


  いかがでしょうか。この④のあたりについて御意見があれば。

● 規範的な概念を少し入れることはできないんですか。ほかのところは,不当な利益を得るとか,ここだけは競争禁止上見せませんという規範になってしまって,ちょっと①,②自体が,ある意味では規範的な要素,不当性とか不適当性というのを基準としていて。先ほど○○幹事がおっしゃったように,それ以下のところは,ある意味では①,②の具体的な形で書いたようにも思われるんですけれども。


そうすると,④だけ,④があらゆる状況においていけないとは思いませんけれども,不当にとか,不当が強過ぎるんであれば,何か競争用に有利に用いるためにとか,何でもいいんですけれども,ちょっと少しだけでも規範的な概念を入れることができないかなと思います。

● 実質的にというのが,ある意味でいえば規範的な要素として。実質的には狭くなる範囲もあれば,広くなる範囲も,○○委員がおっしゃったように,これを根拠に拒む場合もあるでしょうけれども,こんなのは実質的には競争関係にないんだということで,閲覧拒否事由にならないという判断もあり得るわけでございまして,かつ受託者がおかしな人で,何でもこれに当たると言って拒めば,それは最終的には訴訟で争えば,もちろん受益者の方で勝てる場合だって十分あるわけでございまして,受託者がむやみに拒否するというのはほかの理由でも十分あるわけですので,その場合は,最終的には訴訟での解決にゆだねざるを得ないし,それをもって受益者は権利を確保できるという考え方をとることができるのではないかなという気がいたしますが。

  そういう意味で言えば,会社法に倣っているということもあって,これをもって十分規範的な要素も含み,適切な対処が,最終的にはできるのではないかなという気がしております。

● いかがでしょうか。
  これ,会社法は全く同じ文言なんですか。


● 会社法は,請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み,またはこれに従事するものであるというときということですので,同じ文言でございます。

● 基本的にはここら辺は,いずれも会社法に則りながらつくったわけですね。

● 特に受益者が複数の場合は,株主が複数の会社と基本的に似た構造になるのではないかということでございます。


● いろいろ御意見があるかもしれませんけれども,会社法であるルールというのを,ここでも大体同じようなルールを設けるということで入っているものでございまして,さっきの④に関しては,私もちょっと,どこまでこういうことでもって拒んでいいのかという感じはしないではないんですが,実質的にという概念を,それこそ規範的に適用してもらうと。あるいはそういう前提で,この④を考えるということでいかがでしょうか。


  なかなか条文をつくる際に,会社法と違う条文をつくるというのはつくりにくいということもあるかもしれませんが。


● 必要があると思えば会社法とは異なる条文とすることは当然ですが,ここは会社と似た構造にあるのではないかなというわけです。


● それでは,とりあえずはこの原案の方向で少し進めさせていただいて……。
  どうぞ,○○委員。


● ちょっと質問なんですが,受益者複数の場合で全員が一致した場合には,単数と同じように考えてよろしいんでしょうか。


● 全員が一致して何をするわけですか。
● 請求を。
  そうしますと,個人的な色彩の強い場合に,全員が一致することによって,請求できるようになるかなと思ったんですが。


● それでよさそうな気もしますね。
  2人受益者がいて,2人とも請求しているという場合であれば,これは。
● それはいいのではないかと,1人と考えるんだろうなと思います。他の受益者の利益を害するというのが,この③~⑥の趣旨ですから,2人が一致しているんだったら,あとは①,②だけの問題かなというふうに思います。


● ちょっと今の場合も,今○○委員が言われて直ちにみんなそうだろうと思ったと同じように,解釈でそうなるとは思いますけれども,文言としても明確にできるのであれば。


● 条文でどこまで入れるかはこちらで対応させていただきたい,ゆだねていただければと思いますが。


● よろしいでしょうか。
● ちょっと1点よろしいですか。
● はい,どうぞ。


● 先ほど○○委員が御指摘されたことをもう1度確認させていただきたいんですけれども,我々事務局の提案といたしましては,委託者と受託者の合意だけで,帳簿等の閲覧請求権の一部というのを制限するということは適当ではないのではないかという考えのもとに,信託行為の定めプラス当初の受益者の合意というものがあれば,一部制限していいのではないかというように考えておりまして,当初の受益者が合意している以上は,受益権の内容として,そのような帳簿が見られないという権利が受益権の中に発生しているので,それを承継した後の受益者についても,それが及ぶというように考えておりまして,これについては合理的な考え方ではないのかなというふうに思われますのが,まず1点と。


  あと,先ほど○○委員の方から,受益者代理でこの合意というのをすることができないのかというような御指摘がありまして,この点につきましては事務局の中でもいろいろ考えておりまして,受益者代理というのは受益者に対して善管注意義務等の義務を負うという観点からは,合意を受益者にかわって受益者代理がするというようなことをしていいのではないかというようにも思える反面,やはり受益者の合意がなければ,このような重要な権利の制限というのを認めるべきではないのではないかというようなところが,なかなか悩ましいところでありまして,この点につきまして,ここで御審議いただければというように考えております。


  よろしくお願いいたします。
● いかがでしょうか。
● 私の関連のところだけ,一応簡単に。
  ここの規律としては,受益者保護になるから,それはそれでよいと私は思います。


  ただ,ほかではそういうもの出てこないし,あと信託というのは,受託者と受益者が合意しても,それが受益権の中身になるというのは,あくまで個別合意であるということでほかのところはきていると思いますので,ちょっとここだけ特殊な,特別な扱いということでいいのかなとは思うんですけれども。


  何か他に影響すると,知らない間に受益権の内容が,あるとき変更していて,それが信託行為とは別に存在しているというのが,ここだけの規律であればいいんですけれども,ほかのところとの関連でもそういう解釈が出てくるのは,ちょっと心配かなと思うんです。


  ただ,ここでは全然それで構わないと思いますけれども。

● 確かに実質論としては,何かよさそうな気もするけれども,信託の構造論として考えたときどうかという問題ですね。

  ちょっと,少し留保させていただきたいと思いますけれども,信託行為で定められていて,受益者が同意していることについては,これは問題ないと。


しかし,信託行為で書かれていない形で受益者の同意があったというときに,どういう扱いをするかということについては,ちょっとこれは引き続き検討させていただくと。


● やはり,これは個人的な見解ではありますけれども,受益者だけの合意があった場合について,信託行為の定めがない以上は,それは承継されないと。


もちろん自益信託であれば別ではありますけれども,他益信託の場合は,信託行為に書いてあって,かつ受益者の合意がある場合に限って,承継された受益者にもそのような制限というのが及ぶと。


  だから少なくとも受益権を譲り受けた受益者というのは,信託行為を見れば,そのような制限がある信託の受益権を譲り受けたんだなというのはわかるというところで,受益者の保護は図れるのではないかというようには思いますけれども。

  その点につきましては,もう1度検討いたします。

● 今の場合も,信託行為の中に書かれるという,信託行為に書くのは,他益信託であれば委託者と受託者ですけれども,それにプラスして受益者の同意があるという場合には,受益権そのものの制限として承継されて構わないだろうと。恐らく実質的には,そこは御同意いただけるんだと思いますけれども。


  それ以外の場合に承継というのがあり得るかどうかということについては,もうちょっと検討させていただきたいと思います。
  よろしいでしょうか。


● 今,○○関係官がおっしゃったことに,私賛成いたしますけれども,1点ちょっと確認させていただきたいのは,もう既に御議論がなされたことかもしれませんが,承継する場合,受益権が有価証券化されていたときに,有価証券上に,こういった制限がなされているということは必要的記載事項とされることを考えておられるのか。有価証券化されている場合とそうでない場合とで,随分またシチュエーションが違うかと思います。
  

特に有価証券化されている場合には,有価証券上にその旨がやはり書かれていないと,不測の損害と申しますか,生ずる恐れがあるような気がいたしますけれども,この証券化されている場合の承継の扱いについて,コメントいただければ幸いでございます。

● いかがでしょうか。
● 現時点では,ちょっと直ちに考えていなかったところでございまして,また追って返事させていただければと思いますが,○○幹事の御意見としては,そこはやはり載せておいた方がいいということですね。


● ええ。有価証券化された場合には,それは必要的な記載事項とすべきではないかと考えます。

● ほかに。
  ○○幹事。

● 記載の意味内容なんですが,それというのは,受益者の同意が必要であるというふうな実体法規があるとするならば,制限されるというふうに書いてあっても,それは制限されるという意味には解釈されなくて,受益者の同意があるときに制限されるという解釈になるんだと思うんですね。


  そうすると,それが信託行為に書かれているから,譲受人はわかると,そして対抗させてよいということには,やはりならないと思いますし,有価証券化するときに書くとしましても,書いたとしても,それはあくまで同意があったときには制約されるという意味内容でしかありえないのではないかと思うんですが。


● 理論的には,何かそんな感じもするし,難しいですね。
  今の問題は,しかし,有価証券の場合はまたちょっと,基本的には同じ問題だと思いますけれども,とりあえずはさておいて,普通の信託行為の場合に,ただ書いてあっただけでは承継されないだろうと。実質的に受益者の同意があったという。それはそういうことでいいのではないんですかね,しかし。結論は。


  だから,ちょっと不明確にはなりますけれども,例えば受益権を承継した人間からすると,信託行為には一応制限が書いてあると,だけれども実質的に同意がないということを証明できれば,そうしたら閲覧請求できるということになる。ですから信頼したことによる,何か不利益が受益権の承継人に生じるというわけではないと。


● 有価証券が発行されているときに,どういうオペレーションになるか,ちょっと具体的にうまく想定できないんですけれども,次のようになるのであればこうなるのではないかと思うんですが。


  一たん有価証券が,信託が設定されたとともに受益者に渡されると。しかしその後受益者が同意をしたら,その同意は受託者に対してするんだろうと思いますので,そのときにその有価証券に同意が行われたということを,追加して記載するということはできないんでしょうか。そうすると,今○○幹事がおっしゃった問題は,そこで解決するように思うんですけれども。


  しかし,有価証券というのは,その後信託が成立した,信託行為が行われたときの有価証券というものは,記載内容がその後変更できないんだということになると,○○幹事の,恐らく最初の疑問の発端にある,そこで書けるのは閲覧が制限されているということではなくて,同意があったら閲覧は制限されると,その状態しか書けないのではないかということかと思うんですが,その前者の方の,操作というか取り扱いが可能であれば,○○幹事の御提案の問題も解決するように思います。

● ちょっと,有価証券に後から書けるのかどうかとか,よくわかりませんけれども。
  どうぞ,○○幹事。


● 有価証券はわからないんですが,問題は,有価証券になったとしても信託行為になったとしても,共通のところがあるのではないかというふうに考えておりまして,仮に有価証券では逐一書かなくてはいけないということになると,信託行為オンリーである場合に,自分が譲り受ける受益権が,閲覧制限がかかったものであるのかどうかというのは,それはやっぱりわからないわけで,恐らく信託行為等で逐一追加してというようなことは,なかなか,逆に考えにくいのかなと。


  個別対応を,個別同意というのは考えているわけですので,有価証券の場合は,エキストラでということは対応可能であればできるのかもしれませんけれども,大元の信託行為の問題は残るのではないかという気はいたします。


  その際なんですけれども,1つは,記載の内容がどういうふうなものになるのかということで,同意があれば制限される性質のものであるというときも,その同意をだれからとるのかというと,先ほど御説明の中では当初受益者という限定をされていて,文章の中ではそういう限定は必ずしも明確ではないと思うんですけれども,当初受益者の同意があれば,そのような性格のものとして譲渡されていきますということまで記載されていれば,制約が当然自分に,自分が同意していなくてもかかってき得るものであるというところまではわかると。

  そのときの記載は,同意そのものを明らかにしているというよりは,そういうような性格を持った受益権であるということと,譲受人に対しては一種の公示の性格でしょうから,そこは一種の警告の公示になっていて,そのような制限のかかったようなものを,あなたは譲り受けようとしている可能性があるので,実際に,では制限がかかっているかどうかは,当初受益者の同意があったのかどうかにかかってくるわけですので,そこは調べてくださいという,一種のノーティスファイリングみたいな,そういうような機能を,そこで実は,譲受人との関係では持たせているということになると説明せざるを得ないのではないかと思うんですが。
  


ただ,さらに言うと,そうしたときに,そういう当初受益者の同意はないので制限がありませんという説明を受けて購入したところ,実はそうではなかったというような場合にどうなるのか等々の問題はかかってくるように思いますけれども。


● それは,また次の段階の問題として,ただ信託行為に書かれている内容の意味については,私も今の○○幹事と基本的に同じ考え方ですけれども,それによって警告を受けるということですよね。譲受人としては。実際に同意があるかどうかは,その同意があるかどうかを調べて,どちらかということを判断すればいいと。


  少なくとも信託行為に記載されていることを信用したことで,何を信用したかということですけれども,当初の受益者が本当に同意していれば,この制限を受けますよという警告があり,そこまでを信じているわけですね。


実際に同意がなかったので請求できるんだということになれば,これはこれでもちろん受益者にとっては,いずれにせよ受益者としては信頼を害されたということは別に生じないわけで,そういうことで問題はないのではないかという気がいたします。


  ただ,○○幹事が言われた次の問題ですね。記載がそこまでにとどまっているために,つまり受益者の同意があるということまで記載されていないために,受益権を譲渡する人間が,同意があるんですよと言って譲渡したけれども,実はなかったときにどうなるか。


  ただ,これは,また個別の取引の問題として,そういう受益権を譲渡した人間の責任の問題として解決すればいいのではないかという気もいたしますけれども。


● それで,今のような理解が御提案のものであるとしたときに,ここからちょっと確認をさせていただきたいのですけれども,承継も含めて,問題となる同意をする受益者というのは,当初受益者に限るという理解でよろしいんでしょうか。


  仮に,机上の空論かもしれませんが,有価証券でもなくて,何者かに譲渡されていった場合に,当初の受益者は同意しなかったけれども2番目の人が同意したというような場合は,この場合の話ではなくて,実は信託行為の定めプラス個別同意でセットによって,受益権の性格自体を抗弁権つきのものにかえていくというものには乗らなくて,それは単にその人が,いわば閲覧制限,単純に放棄したというだけで,後の人には承継されないと,そういう理解でよろしいんでしょうか。

● 私の説明では最初と言ったかもしれませんが,別に2番目でも3番目でも,譲受人が承諾をすることは可能でして,その場合は,当初の受益者が同意していなければ,それは完全な閲覧請求権があるような受益権であったと。


しかし,譲受人のところで同意が得られれば,そこで,言ってみれば受益権の性質が変じまして,閲覧制限つきの受益権というものになって,それがその後の受益者に転々譲渡されて引き継がれていくということになるのではないかなという気がしております。


  ですから答えを端的に言いますと,別に当初の受益者に限らず,その後の譲受人であってもいいし,そのときに初めて受益権の性質が制限つきになるというふうに考えているものでございます。


● そういう旨を,さらに記載していくことになるのかと思います。
● どこまで記載できるかというのは,一たん引き取って記載するとか,できるのかとかありますので,それは記載事項等の問題がありますので,ちょっとお時間をいただければと思いますが,性質的にはそういうことかと思っておりますが。


● ○○委員。

● 金融商品的に考えますと,まさに有価証券化したものということを前提に物事を考えますと,やはりそういう,途中で同意したり同意しないとか,そういう話になると,非常にややこしい話ですし,そういうものが金融商品として成り立つかというと,なかなか難しいのではないかなというふうに思います。


  したがいまして,やはり信託行為で,一番最初にどういう形になっているかという,この受益権の性格というのはこういうものだということを書いて,もちろん有価証券化した場合には,それを有価証券に書いて,それでも,例えば保有した人については同意したものとみなしますというような形でないことには,なかなか実務上の観点からいくと,回っていかないのではないかなという感じがするんですが。


● 確かに,今の○○委員の御意見はもうちょっと先を行く意見かもしれませんけれども,途中の受益者の同意で制限つきになったりならないというのは,何か不安定な感じはちょっとしますね。


  ちょっとここは検討させていただきましょうか。それでさらに,今○○委員が言われたようなことが可能なのか。特に証券化のときのことにまでは,私も証券となると,本当にはどういうのが一番いいのかというのはなかなかわかりにくいところありますので,ちょっと検討させていただきたいと思います。

  ○○委員。

● 参考になるかどうか,単なる考え方の1つとしてのみお聞きいただければいいんですけれども,今の話お聞きしていますと,やっぱり信託行為で,基本的には帳簿閲覧請求権が制限されるという効力が基礎づけられるんでしょうけれども,しかしその効力の発生が受益者の同意によって,それによって効力が発生するというような構成に近いのかなと思いました。


  それで,受益者の同意というのが,当初受益者ではなくて,とにかく受益者が同意したことによって,この制限というのは効力が生ずるというような構成に近いとしますと,ではどういう要件,条件があれば効力発生を認めていいのかと。


そのときに同意という厳格なものが必要だと考えるのか,今おっしゃったような,もう少しそれを広くとらえるような考え方でもいいのかというような問題の整理になるのかなという気はしたんですが,そんな感じでよろしいんでしょうかというだけです。

● 御指摘のとおりでございまして,今簡単な方法というのは,最初に○○委員がおっしゃった,この受益権を取得した人は,おおよそ同意したものとみなすというやり方ですよね。


それがいいのかどうか,実はよくわからないのですけれども,そういう点も含めて,そういう同意を擬制するに近いものでございますが,それが受益者の利益保護の観点から,果たして可能なのかどうかという点を含めて,その点もちょっと時間をいただいて検討したいと思います。


● 2点だけなんですけれども,今の議論の方向の中で,受益者の同意について若干薄めるといいますか,そういったあれもあるような気がするんですけれども,私はそういう方向には必ずしも賛成しませんが,もしそういう方向で議論をするとすれば,やはり実質のところといいますか,書類をどの範囲で閲覧制限するかということについては,やっぱりきっちり決めていただく。


そこのところで,そこをきっちり決めることによって,保護の実効を図るというようなアプローチが必要なのではないかというふうに感じておりますのが1つと。


  それからもう1つは,実は前回の会議の中で,同意については承継されない場合であれば,○○委員の方から,では同意した場合だけに譲渡をするというようなことは許されるのかといった発言があったかと思うんですけれども,あれはどちらかというと,そういうことはちょっと難しいのではないかというニュアンスをちょっと感じたんですが。

  規律のあり方というか現場のやり取りを考えますと,そういったあり方というのが,ある意味,1つ合理的な解決の仕方としてあり得るのかなという気がしておりまして,理屈づけとしては,本来,要するに譲渡制限もなし得るわけですから,譲渡制限したものを解除する条件として,そういった同意を要件にするということを許容するとか,そういったアプローチがあり得るのではないかというふうに感じております。
  以上です。


● 確かに,今の○○幹事の御意見,もっともな点たくさんありまして,やっぱり同意の意味,それが薄まるのであればルールを明確にしてほしいと--制限の範囲といいますか--ということでございますので,それも含めて,仮に薄めるというような方向の提案をするような場合には,その点も含めて検討したいというふうに考えます。


  それでは,まだ御意見があるかもしれませんけれども,今申し上げたような点を中心に,特に承継の場合について,もうちょっと検討してみたいと思います。
  それでは,次いきましょうか。


● では次は,受託者が複数の信託の問題というところでございます。
  これは,ちょっと詳細に。5点ほど御審議いただきたい点がございます。

  まず,説明資料に基づきまして,説明の(1)でございますが,職務分掌型の共同受託では,この規律によりますと実体法上合有になるわけでございますが,実務上は単独名義で登記・登録をしたり,特に有価証券につき,証券口座を単独名義でしているということへの配慮を求めるという意見がございました。


  しかし,共同受託の場合における信託財産の所有関係につきまして,信託行為の定めをもって任意に規律できるとしますと,各受託者の信託財産に対する共有持分を認めることにもなりかねず,妥当ではないと思われます。

  やはり共同受託の場合の信託財産の所有関係は,一義的に合有と解することが,法律関係の複雑化を避けるためには有益だと考えるところでございまして,公示においても,このような合意という法律関係を適切に公示することが望ましいと考えるものでございます。

  次に(2)でございますが,信託事務の執行の場面における委託につきましては,他の受託者に対する委託を原則として禁止するまでもないと考えられますので,相当な委託を認める一般原則を定めた第22の規律にゆだねることで差し支えないと考えまして,今回の提案からは落としております。


  これに対しまして,重要な信託事務の意思決定については,他の受託者に委託することは原則として禁じられるべきであると考えられまして,これとは発想の異なる一般原則の規律にゆだねることは適当でないと思われますので,ここに3として残しているところでございます。

  次に説明の(3)に関しまして,提案の4の(2)②,アンダーラインの部分に書いておりますが,職務分掌の定めのある共同受託において,一定の要件のもとに取引の相手方を保護する特別の規律を設けることとしております。


一般の共同受託の場合におきまして,受託者の1人が適法な意思決定は得たものの,他の受託者の名前は顕名せずに,自己の名で取引をした場合,あるいは職務分掌の定めのある共同受託の場合において,受託者の1人が,その所掌事務に関して単独で信託事務を決定し執行した場合,いずれも他の受託者は,その固有財産をもってしては責任を負わないのが原則でございます。


  そして,この場合には,他の受託者の名前が出されていない以上,取引の相手方としても,相手となった受託者以外の受託者の固有財産をあてにしてはいないのが通常であると考えられるわけでございます。


  しかし,仮に取引の相手方において,他の受託者も固有財産で責任を負うと考えるのが相当であると認められるような場合には,その信頼を保護する必要もあるのではないかと思われます。


  ところで,今申し上げた例のうち,一般の共同受託の場合におきましては,各受託者はその固有財産との関係でも相互に代理権を授与しているとみなしておりますので,民法100条ただし書きの類推適用によりまして,取引の相手方は,いわば本人というべき他の受託者の固有財産にもかかっていくことができることになりまして,特にこの信託法で規律をするまでもないと思われます。


  これに対しまして,職務分掌の定めのある共同受託の場合におきましては,相互の代理権授与との擬制というのは,信託財産に効果が及ぶ限度にとどめておりまして,他の受託者の固有財産との間でこのような擬制をしておりませんので,民法100条ただし書きの類推適用によって,他の受託者の固有財産にもかかっていけるとすることは困難であると思われます。したがいまして,取引の相手方を保護するために,特に規律を設ける必要があると考えるわけでございます。


  そこで,取引の相手方におきまして,当該取引が信託事務の処理としてされたことと,他の共同受託者が存在することを認識していること,これで顕名があったのと同様になるわけでございますが,これに加えて職務分掌の定めがあることについて,善意・無過失であるということの要件を満たせば,他の共同受託者の固有財産にもかかっていけることとしたものでございます。
  

次に説明の(4)におきまして,従来より問題になっております,合有の信託財産に対する強制執行の方法について論じております。


  パブリック・コメントでは,1つの債務名義でいくべきであるという考え方と,執行手続き上の難点から,共同受託者全員に対する債務名義を取得する必要があるという意見とに分かれておりました。
 

 ところで,職務分掌の定めの有無にかかわらず,共同受託者の1人よる取引の実体法上の効果は,少なくとも信託財産を責任財産とする限度では,他の受託者にも及ぶと考えているわけでございますが,執行手続き上は,合有の信託財産の帰属者である受託者全員に対する執行力が現存していることを明らかにするために,執行文が必要になると解されます。

  その方法としては,受託者全員に対する債務名義を取得して,単純執行文を得るか,あるいは1人に対する債務名義を取得して,他の受託者に対する承継執行文を得るかという,いずれかの方法になると考えられるところでございます。
  

しかし,後者の承継執行文という方法によりますと,債務名義上の債権が信託債権であって,かつ他にこの信託債権に関する共同受託者がいるということを執行文付与機関に証明しなければならず,これは決して容易なことではなくて,結局執行文付与の訴えの手続によらなければならないという可能性が十分あると思われるわけでございまして,それから民法上の組合財産における強制執行についても,組合員全員に対する債務名義を取得しなければならないと解されているところでございます。


  あと,実際の取引相手方の保護の観点から懸念があるという点につきましては,職務分掌の定めがある場合のみでございますが,訴訟の過程で他の受託者がいるということが明らかになることは少なくないと思われまして,それがわかれば相手方としても,他の受託者に対する訴訟も追加して提起することができると思われるところでございます。

  こういう点を総合考慮しまして,単純執行文による方法,すなわち全員に対する債務名義をとって,それは併せてとればいいわけで,必要的共同訴訟ではないと考えておりますが,債務名義を順次とって,単純執行文を得て執行していくということにするのが相当と結論したわけでございます。
 

 最後に(5)でございますが,共同受託者の1人の任務が終了した場合に,これを補充するに当たって,原則として残りの受託者の同意を要するものとすべきかにつきまして,今般新たに甲案と乙案とを提示しているわけでございます。


  これはあくまで,例えば3人が2人になったときに,3人に戻すという場面だけでございまして,また4人にふやすというのは,別途,信託の変更になりますので,全員の同意が必要になると考えているわけでございます。

  このようにもとの状態に戻すときにつきまして,あくまでデフォルト・ルールにとどまるものでございますが,委託者と受益者の合意のみでいいのか,他の受託者の同意も要するのかという点につきまして,いずれをデフォルト・ルールとすべきかにつきまして,御審議をいただければと思います。
  以上です。

● それでは,ここでもいろいろ御議論があるかもしれませんが,よろしくお願いいたします。

● 何点かございまして,ちょっと教えてほしいところもあるんですが,合有の点なんですが,まず,これ財産というのは不動産,動産,それから金銭債権,有価証券もある動産かもしれませんけれども,金銭債権の場合も,ちょっと今まで金銭債権の合有というのはあまり観念したことないんですけれども,不可分債権のような形なんでしょうかという,ちょっとその規律が,これは教えていただきたいという視点なんですが,わかりにくいなということが,まず第1点なんです。


  それと,ちょっと順不同になってしまうかもしれませんけれども,民事信託の場合,受託者が複数の場合というのは,普通は商事信託を観念するかもしれませんけれども,海外,米国の例なんかですと,民事信託といいますか相続等遺言信託等の場合には,例えば弁護士と親族と,場合によっては信託会社,信託銀行がなるという,複数で民事信託の受託をするというケースが多いというふうに聞いておりますので,その場合を考えますと,これはちょっと確認的な視点なんですけれども,4の(1)のところ,2人以上の受託者がその任務に違反する行為をしたことにより損失補てん責任等を負う場合は,各受託者は連帯債務者と
すると。


  これでほぼ明確なのかもしれませんけれども,職務分掌の規律があった場合に,ある人が信託行為,忠実義務とか善管注意義務に違反したときには,他の受託者は連帯責任を負わないと。


それぞれ別々に何か違う違反があったときに,違う違反であってもそこだけくっついて連帯債務になるとか,ちょっと必ずしも文言上は明確ではないので,確認してほしいという意見が弁護士会でもありましたので。

  弁護士会の意見としましては,職務分掌の定めがある場合には,やはりそれぞれが責任を負っているのではないかと。その方が,恐らくよいのではないかという議論がありました。


弁護士は受託者になるケースをちょっと念頭に置いて,受益者の保護という視点が違うのかもしれませんけれども,なかなか自分の責任範囲ではないことまで責任を負うというのはちょっと厳しいのではないのかなという視点で,ちょっと確認していただきたいという視点がございました。それが2点目です。


  それから,幾つかあってすみませんけれども,3番目として執行のところなんですけれども,○○幹事の御説明のように,訴訟の段階で明らかになるかもしれませんけれども,それでも執行したらまだほかにいて,第三者的なものですから請求異議かわかりませんけれども異議が出たと。そうするともう1回訴訟をすると。また債務名義とればいいのかもしれませんけれども,というよりも,執行文付与の訴えを認めることと結局は同じではないのかと。


ですから,執行文付与の訴えを認めるというルートは残しておいていただいた方がよいのではないかと,こういう議論がございました。その辺もちょっと御検討いただければと思います。

  ちょっと幾つかあってすみませんけれども,あと職務分掌の定めがある場合,適格年金の場合には別の議論ですというのが,どこか(注)か何かにあったと思うんですけれども,私の情報が正確かどうかわかりませんけれども,シェアの変更みたいなことが時々行われると聞いておりますけれども。


そうすると,別々の信託ですと,シェアの変更があった場合に,一たんそれが信託を終了し再信託が行われたみたいなものを,擬制的に観念してということになるというのも,何となく現実と違うのかなと思ったりします。その辺は,どちらかというと信託銀行の方のコメントかもしれませんけれども。


  ですから共同受託の場合でも,これだけが唯一の共同受託の規律ではなくて,他にもいろいろのバリエーションがあるし,それが信託の柔軟性ではないのかなというようなふうに思ったりします。


 まだいろいろありますけれども,また思い出しつつ,また。

● ではとりあえず。
  もし今の議論に関連する点がございましたら,まず先に御意見を伺いたいと思います。

  ○○委員。

● 私も,ほかにも何点かあるんですけれども,今の関連する点から申し上げますと,1つは,大きな問題として,共同受託の要件というのがちょっとよくわからないなということで,1を見ますと,1つの信託で複数の受託者であるということは,すべて,例えば共同受託の要件がかぶってくるのかということなんだろうと思います。
 
 先ほど○○委員からもお話あったように,例えば適年のようなものについては,受託者が単独で信託事務の決定及び執行を行い,信託財産を単独で所有している者については,受託者を複数だけれども,この射程外とするというふうに書いてありますので,例えばこの規律が適用されるものというのは,ここでありますように決定が単独で行われるということであるとか,あとは結局信託財産が単独であるというものについては,ここに入ってこないと。というような形の整理の仕方の方が,わかりやすいのかなというふうに思っております。
  


方向性としては,ここに(※2)で書かれている方向性というのは非常にありがたいことだろうと思うんですけれども。


● 2番というのはどれですか。
● 19ページ。
● 最後の適年の話ですか。

● はい。
● ありがたいということと,1つの信託と見るということとの関係は。1つの信託と見なくて……。

● 要するに,適格年金といいますのは,基本的には1つの契約書の中に全部入っているわけですよね。そうすると,これはそうだから共同受託ですよというふうになってしまいますと,この規律が全部かぶってくると。そうすると,いろいろな不都合が出てきますと。


  そうではなくて,1つの契約書に書いてあるんだけれども,でも単独で決定して,単独,分有状態になっているものについては,ここの適用はありませんという話であったとすると,それは大体,いろいろな問題があるんですけれども,8割方の問題はそれで解決されてしまうということですので,そういう意味合いでありがたいことだということです。


● 今までの,共同受託で合有だというルールをそのまま適用されては困る。それを外すという限りでは,この(※2)の方向は賛成するという意味ですね。わかりました。


  いろいろなレベルの議論がありますけれども,先に,やっぱり複数の信託,この基本的な考え方,合有という考え方,それから今のと密接に関連しますけれども,合有というものとは違うタイプの複数の信託というものについて,何を考えるかと。

  これはもうばらばらの信託だというふうに考えて,あとはばらばらの信託としてのルールを,ただ当てはめるだけでいいのか。それとも何か,もうちょっと中間的なものがあった方がいいのかというのが,恐らく基本的な,まず論点だと思いますので,そこについて少し御意見を伺えればと思いますが,いかがでしょうか。


  ここの案は,あくまで合有というふうになるようなタイプの,複数の受託者についてのルールを設けているということだというふうに,私は理解しておりますが。

  いかがでしょうか。
  ではまず,○○委員から。

● 若干,実務的なところで補足いたしますと,以前は,特に年金とかについては,法律レベルではないんですけれども,例えば適格年金であると国税庁の方の所管だったものですから,例えば契約のひな形みたいなものがある程度決められていたというところがあって,そうすると共同受託でなければいけなかったというような特殊事情があったということですね。


  ですから実務上,そっちの一面ではしなければいけないと。一面では実務上は,ここに書かれていたといいますか,現在の法律の規定とはギャップがあったということでしたけれども,今はそういうものがなくなっていますので,そういう意味合いからすると,単独でしてしまえる土壌ができ上がってきたということですので,ただ以前の契約がそのまま移行して,どうこうできるかというのは別の問題だと思うんですけれども,当然信託契約を,これだけ法人とかかわるわけですから,変更するということですので,そこら辺のところも変更して,対応ができるようになるのではないかなというふうに思っております。

● わかりました。
  ○○関係官,どうぞ。
● 今○○委員がおっしゃったこととほぼ重なるところがあるんですけれども,先ほどお話に出ておりました,1つの信託で複数の受託者があるときという点につきましては,当然適格年金信託みたいなものは入らないというふうに考えておりまして,それについては信託契約の解釈,要するに信託財産が単独で所有されており,単独で意思決定をし執行をするというような場合については,複数の信託契約というのが重なり合っているというように考えることができるのではないかというように考えておりまして,そういう観点から,この第34の規律というのは当てはまらないということになると思います。

  それで,適格年金信託のような信託というものを,別個の類型として信託法に書くということもあり得るのではないかとは思うんですけれども,そういうような形で書いてしまいますと,逆に信託の柔軟性を損なうというようなこともあるのではないかというように考えておりまして,そのような観点から,現行法でもあるような,この信託財産の合有となるというような信託についてだけ,共同受託として規律しておけば足りるのではないかというように考えた次第でございます。

  あと,○○委員のおっしゃっておりました,金銭債権がどうなるのかという点につきましては,これは信託財産を合有となると考えます以上は,分割債権にはならないというように考えるほかはないのかなというように考えております。


  あと,職務分掌の定めがある場合につきまして,各受託者が連帯責任を負うというのは適当ではないのではないかというのはおっしゃるとおりでして,これは受託者が任務違反行為をした場合に責任を負うということを前提にしておりますので,職務分掌の定めがある場合には,前提として,ある任務違反行為について,職務分掌の定めのある受託者が2人とも任務違反をしていなければ,連帯責任にはならないということになりますので,職務分掌の定めがある場合には,原則として相互監視義務というのはないので,その受託者だけが負うということになると思います。


  ということなので,例えばAという違反行為をした受託者がいて,Bという違反行為をした受託者がいて,その各受託者が責任を負うからといって,それも連帯責任になるというわけではございません。
  そういう御回答でよろしいでしょうか。


● ○○幹事,どうぞ。

● 2つのタイプの分け方の点なんですけれども,第34に含まれるもので職務分掌の定めがあるものは,信託行為は1つであると,職務分掌の定めがある。しかし職務分掌が行われた後は,職務分掌が行われた限度でですけれども,すべての職務を,もし分掌しているとしますと,独立してそれぞれの受託者が決定,執行すると。


  それと,適格年金について今例で挙げられたような,別々の信託であると。結果はそれでいいんですけれども,1枚の信託契約書に書かれていて,受託者A,B,Cとなっていたときに,どうやって区別するのかというのが,○○関係官のお話ですと,最後の決めどころは,信託財産が合有になるか単独所有かというところにあるようなんですが,それはある意味では効果であって,やはりその前に,信託行為のレベルでどっちなのかというのを分けられないと,論理的にはおかしいのではないかなと思うんですが,それは恐らくすべての事情を考慮してどちらかと分けるのだと思うんですけれども,ややまだ,これできっちり分けられるのかなというところがわかりません。


  それから,それと関連するんですが,あともう1つは,この事務局の提案をよく理解したいための質問ですが,第34の世界に入って職務分掌がある場合に,これは信託財産はあらゆる財産は合有になるだろうと思うんですが,独立で決定,執行できるということは,独立で,単独で処分できるということになりますが,合有財産というのは,本来は恐らく合有者全員の意思によって処分をすることになるんだろうと思うんですが,そこが単独でできるというのは,この職務分掌の定めの中に,ある種の代理権が与えられていて,その他の受託者を本人とする代理権が1人の者に与えられていて,その権限に基づいて1人で処分できると,そういうふうに考えたらよろしいんでしょうか。

● そのとおりです。
● わかりました。


● 最初の方の質問,途中の処分ではなくて,信託財産の合有か単独かというのはむしろ効果であって,信託行為のレベルで何か分けられないかという点はどうですかね。


● その点は,まさにおっしゃるとおりなところがあると思うんですけれども,やはり,事務局の提案としましては,効果という点を前提にして考えていたと。要するに,職務分掌の定めがある受託者が,単独で意思決定をし執行した場合には,信託財産の限度ではその効果が及ぶと。


  それに対して適格年金信託のような場合については,1人の受託者が意思決定をし執行をすると。だけれども,信託財産が単独所有になっているから,他の受託者が合有という信託財産に執行するという問題は起きてこないんだと。


  やはりその効果,確かに,効果で信託契約がどういうものなのかという性質決定をしていいのかどうかという問題点はあるかとは思うんですけれども,なかなかそれ以上にうまい切り分け方はないのかなというような悩みがあるところでございます。


● あともう1つ関連して。申しわけありません。
  職務分掌のところで,私勝手に自分で前提を立ててしまったんですが,これはすべての職務を分掌しても,第34に当たり,職務分掌だということになると考えてよろしいでしょうか。


  ここでもし,何かは分掌できないんだというのを残すと,適格年金タイプと区別できるかなと思ったんですけれども,そうではなくて,すべてを分掌しても,やはり34の世界に入るものはあると。


● そうです。
● わかりました。
● では,○○幹事。

● 今のは入り口の定義の議論。
● どういう意味ですか,入り口というのは。
● ○○幹事,2つおっしゃいましたよね。その中の後半にかかわるものでも,今発言してもよろしいんでしょうか。それとも。


● 構いません。○○関係官も少し答えられたし。
● わかりました。
  分掌のシステムが,先ほど,代理ですかというふうに○○幹事おっしゃって,○○関係官がそうお答えになったんですが,それに関連して幾つかお伺いしたいんですけれども。


  現在の,ここに出てきている提案におきましては,4の(2)の②というのがあって,第三者に対して,債務を分掌に従って行為をして負担したときにも,当然②は,他の受託者の固有財産には相手方はかかっていけないという話になっておりますよね。

他方で,信託財産に対して執行するというときには,共同受託者全員の名義に対する債務名義をとらなければならないということなんですが,それではどうやってとれるんだろうかというのがわからなくて。


  例えばA,B,C3人が共同受託者なんだけれども,Aが職務分掌の定めに従って,ある種の債務を負うという法律行為を行ったというふうにいたしましたときに,A,B,C3人訴えますと,A,B,C3人に対して単なる支払請求という形で訴えを提起していきますと,B,Cは,お前最初の行為時に知らなかっただろうと。

だから俺らは債務を負わないんだと。それは4の(2)の②によるんだというふうに言いますと,B,Cに対する請求が棄却されて,Aに対する債務名義しか取得できないような気がするんですが,B,Cに合わせて,債務者にする債務名義というのはどうやってとれるのかというのをお教えいただければありがたいんですが。

● どうぞ,○○関係官。
● この点につきましては,信託財産の限度においてのみ,その義務を履行する責任を負うというようになっておりまして,債務自体はA,B,C3名とも債務を負担すると。ただし責任財産が信託財産の限度になるというような理解ですので,そういう意味では債務名義はとれると。


  ただ○○幹事がおっしゃるように,相手方にしてみると,取引をした相手方であるAしかわかりませんので,そういう意味では,いざ執行をしてみると,いや実はこれは信託財産に執行してしまったんだと,信託財産がA,B,C3名の合有になっているんだということで,驚いてしまうのではないのかなというようなところはもちろんあるんですけれども,その点につきましてはその訴訟の中で,訴訟告知なりを,当然Aはするであろうと。

  要するに,そういうものをしなければ,信託財産に対して債権者は執行することができなくなるので,結局Aの固有財産に対して執行されるという可能性が高まってしまうというところもありますので,当然そういう訴訟の中で,これは信託債権であって,A,B,C3人の信託財産,合有のものがあるということは明らかになるのではないのかなというような提案が,今回の提案でございます。

● 先ほど私が申し上げたことは誤解であるというのがよくわかりました。ありがとうございました。

  もう1点関連いたしまして,代理ということをもって説明するとしたときに,4の(2)の②というのが,どういうことで正当化され得るのかというのがよくわからなくて。


  実質上としては,A,B,Cの3人が共同受託者で,Aが単独名義で取引をしているというときには,Aのことしか期待していないではないかと,これはよくわかるんですが,代理であるという説明になりますと,B,Cの固有財産にもいけるというのが筋になってしまうような気がするのですが,いかがなんでしょうか。

● それは確かに,一般の代理というふうに考えますと,責任財産が信託財産だろうが固有財産であろうが代理しているというように考えるのが当然でありますので,そのような結論になるんだと思うんですけれども,ここでは信託財産の限度においてのみ代理をするという,いわゆる特殊な法定の代理というような構成で考えておりまして,そういう意味で正当化できるのではないのかなというように考えてはおるんですけれども。


● よろしいですか。
● そうすると,相手に,これは信託事務の執行だよというふうに言ったとすると,Aが。無権代理であると。


● 信託事務の執行だよと言って,その信託財産の限度では,B,Cも責任を負うというところは前提なんですけれども,それはB,Cが固有財産で責任を負わないというところで,無権代理という御質問でしょうか。


● 例えばただし書きに当たる場合なんですが,A,B,C3人が共同受託者で,Aがあることについて単独執行権限を持っていたと。私は実はA,B,C3人が共同受託者の信託の受託者なんだよと。

でもこのことについては僕個人でやっていいんだよねというふうに言って,相手方と取引をした場合には,相手方はこのただし書きの要件を満たすことになりますから,B,Cの固有財産にも執行していけることになりそうなんですが,それは,与えられた代理権を,本当は優越しているということになるんですか。


● その固有財産の限度では,優越しているということになると思います。
● そうすると,そう言ってはいけないんですね。

● そうですね。職務分掌の定めがある受託者である以上は,その信託事務の処理ですというのであれば,これは責任財産が,自分だけが固有財産で負うんですというところまで言わなければいけませんということになるんだと思いますけれども。

● ということは,ちょっとただし書き,もう1個要件が必要だということですかね。


● 受託者側のと。
● 職務分掌は定めがあることについて,善意で過失なかったときと。そうか,わかりました。申しわけありません。どうもありがとうございました。


● ○○委員。
● 確認なんですが,職務分掌の定めがある場合の相互代理権の有無について,最初,○○幹事は,一般の場合と違って,この場合にはないというようにもおっしゃったのかなと思ったんですが,それとの今の御説明との関係を御確認したいのと,もう1つあります。


  相互監視義務がないということを○○関係官おっしゃったと思うんですけれども,それも今の法定の代理があるということを前提としての,相互監視義務がないと考えていいのかどうか。

● 私の説明が不正確だったかもしれないんですが,普通の共同委託の場合は,固有財産に効果が及ぶという意味で代理権があるわけでございまして,この職務分掌のある場合には,信託財産に効果が及ぶ限度で代理権を持っているという意味で,そういう意味で,先ほど○○関係官の方から特殊な代理権と申しましたが,その代理権の向いている先が固有までいくかいかないかという違いがあるというのが前提でございます。


  そういうことで,固有財産までいく方については,普通の民法の代理とかわらないと思うんですが,職務分掌のある場合について固有財産にいくというのが民法の代理の議論では難しいので,こういう特別な規律を設けてきたというところでございます。


  あと,相互監視義務につきましても同じ話かと存じますが,一般の共同受託であれば,相互に代理権を授与し合っているという意味で,相互に監視義務があるわけでございますが,職務分掌のある場合については,信託財産に効果が及ぶという限度でしか代理権がないということで,固有財産間での代理権に基づく相互監視義務,そういうものは出てこないのではないかということで,職務分掌の場合には,受託者間での相互監視義務というのはないというふうに考えているわけでございます。

● ちょっと私も関連してですが,○○委員と同じ,これはきっと,○○委員がまた別のことをおっしゃるかもしれませんが,ちょっともとへ戻って,やっぱり共同受託というのは何のためにやるんだろうかという話があると思うんですね。ちょっとここまで緻密につくられた議論から,一挙にもとに戻るような話で恐縮なんですけれども。

  それは2つあって,1つはやっぱり相互監視なんですね。1人では悪いことするけれども,とにかく英米法でも,やっぱり信託財産の安全ということをまず第1に,信託法というのはずっと昔からはつくられてきて,それが最近いろいろ,安全だけではだめだよという話になってきているわけですから,もともとのルールは,やっぱり共同受託者いっぱい使っているのは,何といっても1位は相互監視という話がある。

  しかし,相互監視で何でも財産を凍結していても意味がないので,やっぱりそれぞれの専門家を雇用して,共同受託者にしておいて,まさに職務分掌でもいいですが役割分担をして,より効率的に運用しようという,これがある種二律背反みたいなところがあるので,この調整をうまくやるというのが,共同受託者のルールをどうやってうまくつくるかという話だと思うんですが。

  そこで,今のような,ちょっと○○幹事の御発言も私が誤解しているのかもしれませんが,こういう職務分掌を役割分担を決めると,もう相互監視がないんだよという話は,やっぱりそういう趣旨ではないんでしょうね。幾ら何でも。つまり職務分掌,役割分担はあるけれども,やっぱり相互監視義務は残るというのが普通の発想だと思うんですね。


  それがしかし,相互監視義務の程度というのが,一定の限度で当然これが少なくなって,ここでも,例えば共同受託者の全員一致で合手的行動なんていう話が,もうなくなってきているのと同じ発想になっていると思うので,職務分掌したら,もう相互監視義務はないんだよと,それが何とかの財産の限度の範囲内であれ何であれですが。とりわけ信託財産については,同じように何らかの関係が残っているというのなら,やっぱり何らかの相互監視義務はちゃんとありますよと。


  アメリカの統一信託法というのではっきり言っているのは,信託違反をやっているようなことに気づいた場合には,当然何か言わないといけないというのがはっきり書いてありますので,相互監視義務が全くなくなるという話はないですねということを,確認しておきたいということです。

● 確かに全くなくなるというか,レベルの問題かと存じておりまして,一般の共同受託であれば,例えばパーフェクトな相互監視義務があって,お互いに注意していて,信託が違反行為があればそれに気づくべきであると。

それに気づかなければ,過失があって連帯責任ということになると思うんですが,職務分掌のある場合にはそこまでの相互監視義務はなくて,ただおっしゃったように,仮に違反行為があることを認知していれば,それは差し止める必要があると。
  

共同受託でもなければ,知っていてほうっておいてもいいわけでございますので,そういう意味でいえば,職務分掌のある場合には,中間的な相互監視義務がかかっているという方が,より正確かなという気がいたします。そういうことで理解しております。

● そうすると,その中間的な相互監視義務に違反したときは,やはり連帯して損害賠償責任を負うということでよろしいわけですか。

● そうです。知っていてほうっておいたら,そこは任務違反行為があったということになります。


● ちょっとさらに関連して教えていただきたいのは,共同受託者で,多数決で行為を決定することができますよね。そこの話が,ちょっと私うまくリンクできていなくて。


多数決で,一番簡単なのは5人なら5人いて,3対2であると。3人で決定したということに対してほかの2人が,これが信託違反になるような行為を決定するんだと,今のような完全に相互監視義務というのがありますので,3対2で負けたからあと仕方がなかったという話では済まなくて,2人は何かしないと,4対1でもそうだと思いますけれども。


  しかし信託違反になるような行為ではないけれども,自分としては信託財産というのはもう少しうまく運用できると思ったけれども,多数はこういう方針でやっているというような場合に,その行為に対する責任関係というのは,これは職務分掌のときと同じような話だと考えてよろしいですか。それとは全然また別の話で,これはもちろん,たまたま4対1,あるいは3対2で決定しただけであって,全体の話なんだと。

● 反対している場合については,原則として任務違反に当たらないというふうに考えておりまして,ですから意思決定に関与しているか,意思決定で賛成しているか,あるいは反対していてもみずから職務執行した場合については,任務懈怠責任を負うと思うんですけれども,意思決定で反対し,かつ執行にも関与していないということであれば,これは責任は生じてこないというふうに理解しております。

● そのあたりは善管注意義務違反の問題でして,反対はしたから直ちに責任を負わなくなるとまで言えるのかどうかというところは,ちょっと問題があるかと思いますけれども,○○幹事申し上げましたとおり,反対をしていれば責任を負う可能性が少なくなるという限度では,そのように言えるのではないかと思いますけれども。

● ○○幹事。


● 相互監視義務と,それから先ほどの○○幹事の御質問とも関係するのですが,もし仮に,この相互監視義務というのが程度が緩和されたものであれ,存在するのだということになりますと,第34の規律が適用される共同受託と,それ以外の複数受託者がいる場合の境界といいますかその区分は,やはり監視義務があるかどうかということに求められることになりますでしょうか。

  先ほど,効果の方から規律を考えられたということがございましたけれども,これまでの議論を伺うと,むしろ相互の監視義務が残っているか否かということが,1つ大きなポイントとなるようにも思われ,実は前田庸先生を座長として商事信託要綱というのを構想いたしましたときには,相互監視義務の有無という点で,単なる複数の受託者がいる場合の規律と,それからいわゆる共同受託者がいる場合の規律を区別するという,そういうことを提案したということがございますので,○○幹事の御質問の繰り返しになりますけれども,もう1度確認させていただければと思います。


● おっしゃるとおり,相互監視義務がかかっているのは非常に重要なメルクマールでございまして,最終的には信託行為の解釈になりますが,信託行為を解釈した結果,共同受益者間に何らかの相互監視義務がかかっているものは,やはりここでいう共同受託になるのではないかというのが,素直な解釈だというふうに考えております。

● どうぞ,○○委員。
● 今の相互監視のところで,相互監視義務は必要だとは思うんですけれども,先ほどちょっと前の発言で,相互監視義務違反があって,ある受託者が違反行為をし,善管注意義務違反をし,何か米国のニューズレターか何かで取り上げられている例だと,使ってしまったとか,あわてて共同受託者がそれを報告し対応したというようなケースがあるとか聞いたことあるんですけれども,最近の。


  そういう場合ですと,片一方で監視義務違反が仮に軽微なものがあったかもしれませんけれども,その下にもう1人の悪質な善管注意義務違反の連帯債務まで負うというのは,何となく,それぞれがそれぞれの義務違反の範囲で責任を負えばいいのであって,ですからその程度がひどくなれば,ある意味では共同不法行為に近づくような形になるかもしれない。お互いに善管注意義務違反があったかもしれない,に近づくと思うんですけれども。

  先ほどの4の(1)で私が確認求めたところの規律の話なんですけれども,今も申し上げたように,相互監視義務違反の違反行為と,監視された側が犯したところの善管注意義務違反とは,それぞれ別個の違反行為であって,損害についても別個に考えるべきだと,4の(1)には,やはり該当しない。


  ですから4の(1)が適用になる場合というのは,ある意味では書かなくても当然,民法の原則の当然みたいな状況なのかなと思うんですが,あえてこう書いてあるところが,やはりちょっとでも違反があると,連帯債務になってしまうのかなというのも,ちょっと思って確認する次第なんですけれども。

● 難しいですね。
  何か,○○関係官,ありますか。


● そのあたりにつきましては,やはり受益者の保護という観点からは,ある任務違反行為があって,それについて一方の受託者が相互監視義務に違反するようなことをやったのであれば,その受益者は連帯責任を負うという方が適当なのではないかというような考え方でして,先ほど私が御説明しましたのは,Aという任務違反行為があって,それに対してBさんは何もその責任がないというようなケースは,当然連帯責任を負いませんよというようなものでしたので,Aという任務違反行為をして,それについて受託者Bが監視義務を怠っているというのであれば,それについてはやはり連帯責任を負った上で,受託者相互間での求償関係の話とすればいいのではないかというような考え方でありますけれども。

● それは厳しいですね。わかりました。

● 少し考え方の対立が今あると思いますけれども,やっぱり相互監視義務がある以上は,その義務違反というのがあれば,やはり連帯責任を生じるというのが原案であり,先ほど○○委員も,恐らくそういう考え方に近い考え方だったんだと思いますね。

  今,議論の中で明らかになってきたことは,職務分掌型であってもとにかく,適格年金型と言っていいかどうかわかりませんけれども,単独の信託が幾つもあるという場合と違って,やっぱりそれなりに相互監視義務,その程度がどのぐらいかはまた別ですけれども,相互監視義務があると。これが,複数の信託や,単独の信託がただ同時に存在しているのとはやっぱり違うということですね。


  その効果,この辺が議論されていると思いますけれども,一応原案,それから先ほど○○委員等が言われたのは,やっぱり相互監視義務を前提とした上での義務違反があれば,連帯責任を負わざるを得ないのではないかと。その点はちょっと重いかもしれませんけれども,一般的には,やっぱりそうなるのではないですかね。


  それはもちろん,分割まではいかなくても,それぞれの義務違反の程度に応じた責任というのは,これは議論としてあり得ると思います。ただ,こういう共同受託の場合に,やっぱりそれなりに,その共同受託によってねらおうとするものとの関係ですよね。○○委員の言われた。

それによってある種の信託が健全に行われることを,やっぱりねらっているということがあるとすると,やむを得ないのではないでしょうかと。○○委員の言われるのもよくわかりますけれども。


● 信託で統一した方が,共同受託者に弁護士がなって,この先信託銀行も出てくると思うんですけれども,信託銀行も金を預かり,多分弁護士とかが不動産の管理を担い,当事者に何も担わせないということはないのかなとは思うんですけれども。

● ですからそのときの……。
● ちょっと,かなり萎縮的な……しようがないのかもしれませんけれども。


● そのときの,信託銀行が片方で財産を管理していて,そのとき,万が一管理の失当というか,あるいは信託違反による損害というのは莫大なものが予想されるとき,もう1人の受託者がどの程度の監視義務を負っているかという,そのレベルで恐らく調整するんだと思いますけれども。


  その義務違反をすることを知っていて,もう1人の受託者がやっぱり見逃しているということであれば,これはやっぱり連帯責任を負わざるを得ない。

  大分議論が煮詰ってきて,いろいろなことが明らかになってきたと思いますけれども。

  ○○委員。
● 確認のためだけの質問なんですけれども,先ほど来から,職務分掌の定めがある場合について理解は深まったと思うんですけれども,職務分掌の定めがない,通常の,どっちが通常がわかりませんけれども,共同受託の場合に,相手方が共同受託者のうちの1人と取引行為をして,かつほかに共同受託者がいることを知らなかったという場合であっても,この場合に,後で他に共同受託者がいるということがわかれば,他の共同受託者に対して,その固有財産にまで責任を追及することができるという理解でよろしいわけなんでしょうかと。


● いかがですか。普通の職務分掌がないタイプの信託の場合。
● それは勝手に自分の名前でやってしまったときですね。意思決定はあったけれども,単独名義でやってしまった。

● そうそう。
● そういう場合,それは相手方において,これは共同受託であって,それを知り,または知り得べきというんですか,民法の100条のただし書きで言うと。本人,実質的には他の受託者が本人に当たると考えられますので,その顕名がなかったかわりに,他の受託者が責任を負うべき場合ということを認識していることを立証すれば,かかっていけるのではないかと考えております。

● 行為時に,他の共同受託者がいるということを相手方が認識していたということが要件になるということですか。


● これが共同受託者であるということを知っているか,または知り得べき場合であったということであればいいのではないかと思います。


● それは要件になるということですね。
● はい。

● やっぱり顕名に相当するようなもの,かわるものが要るという御理解ですね。

  そうすると,やっぱりそれは条文に書かないとだめなのではないですか。

● 代理の場合には御承知のとおり,授権と顕名と法律行為でしたか,授権と法律行為はあるので,顕名がなかったというときなので,顕名のかわりに代理意思を知り,または知り得べき行為だったですか,民法100条ただし書きの要件。だから書かなくてもあちらでいけてしまうのではないかなというふうに思ったんですが。


● ただ,今のパターンで,相手方が他の共同受託者の固有財産にも責任を追及しようという前提で主張してきているというときに,他の共同受託者の方は,いや職務分掌の定めがあったのだということを言うと,固有財産についての責任は原則免れると。


  それに対して,この4の(2)②の二重線が引いてあるところで,他の共同受託者がいることを知っていて,かつその職務分掌の定めについては知らなかったと,過失もなかったということも立証するんでしょうか。そうすると,固有財産に対する責任追及はできるという流れに乗ってくるわけですよね。

  そうすると,何か一連の流れからすると,原則規定が信託法ではなく一般法理だというのでよろしいんでしょうかね。

● 職務分掌の定めがあるときだけは,やはり信託法に書かなければいけないのではないかと思っておりまして,職務分掌がある場合であれない場合であれ,顕名にかわるものとして,代理意思とそれを共同受託と知り,または知り得べきであったと相手が言えば,これは原則として他の受託者の固有財産にもかかっていけると。

  しかし職務分掌のある場合については,受託者の側で,いやこれは職務分掌があるんだというふうに別の受託者が言えば,とりあえず責任は免れるわけですが,これに対して,さらに再抗弁になるんでしょうか,善意,無過失だと,こういうふうに言えば,今度はまた,他の受託者にかかっていけるという構造になるのではないかと思っておりまして,第1段階は民法100条でいけると思うんですが,職務分掌の中に,域に入ってくると,これは信託法に書かないといけないのではないかなと考えているんですけれども。


● 今のでちょっとわかってきた点と,ちょっとわからない点が残るんですが,この二重線が引いてあるところでは,他の受託者が存することを知っていたというのが,少なくとも要件になるはずですよね。

しかしこれは,今の御説明ですと,一番最初の請求をしていく段階で知っていたということが言えれば,それと重なるということなんでしょうけれども,最初の請求をする段階で,知り得べきであったということまで広げるんでしょうかね。


  知り得べきだったというので,責任追及はできるということなんですかね。一応原則としては。そこはいかがなんでしょうか。ちょっとさっき素通りしたところですけれども。

● 民法100条ただし書きでいけると思っていましたので,その知り得べきでもいいかと思ってはいたんですが,そうするとここも同じように並べなければいけないということになりますね。


● 何か,なぜ違うのかという問題が生じはしないかという点なんですが。

● ここのところは,職務分掌の定めがある場合については,原則として1人の受託者で意思決定をして執行をすることができると。第三者が責任財産として期待をしているのは,その職務を実行した受託者であるので,一般の代理と比べて保護する場合というのを限定していいのではないかというような観点から,他の受託者が存することということを知っている場合に限るという形で限定をかけているということを,事務局としては考えていたのですけれども。

● そうすると,立証責任どうなるんでしょうか。最初に知り得べきであったというだけで請求できるというときに,どうすれば受託者免責可能かというところなんですけれども。それはやはり職務分掌が定めがあったということを言えば足りると。

それに対して再抗弁で,自分が知っていたということまでわざわざ言わないとだめなんでしょうかね。かつ職務分掌の定めについては全員無過失だったという。


何かちょっと,何か若干の違和感があるんですけれども。違和感がないでしょうか。


● 他の受託者が存することを知っていたか否かは,職務分掌の主張があって初めてで初めて問題になってくるので,もしフローチャート的にいうと,○○幹事がおっしゃったように,とりあえず知り得べきだったと言って,職務分掌だと抗弁で言われたら,再抗弁で初めて,いや知っていたというふうに言わなくてはいけないという流れになってくると思うんですね。


  それはその最初に知っていたのに,主張しなかったからそうなってしまうわけでございますが,ちょっとそこについては,今○○関係官の方から言いましたように,特に保護をすべき要請が高いときなので,このようにしたということでございますが,ちょっと1度,今すぐにはちょっとわかりませんので,検討します。

● ○○幹事。
● 今のちょっと○○幹事のお答えが,少し疑問が生じてきたので申しわけありません。


  代理に基づいてこの問題を考えるというのは私も賛成なんですが,今の顕名にかかるところは,民法100条のただし書きというのは,私は依拠すべきルールではないのではないかと思います。


なぜならば,実質論を先に申し上げますと,100条のただし書きというのは,これが主張できると,代理が成立しますので,代理人が法律関係から離脱できるということだと思うんですね。


だから,相手方が知り得べきだった場合にも,行為をした代理人は,行為をした人は代理人になるので,離脱ができるということだと思うんです。


  ただこの今第34では,行為をした人間は受託者として固有財産でも責任を負った上で,そして,しかし代理のような関係で,他の受託者との関係が代理あるいは代理類似の問題になると。


そうすると,相手方が知り得べきだったというのは,それ,相手方にある種の責任を求めようとしているわけだと思うんですが,そういう状況があって初めて相手方が,ほかの受託者に対しても,権利行使ができるようになるというのは逆転しているんだと思うんです。


  したがって,代理のように考えるというのはいいんですが,行為者が離脱するという状況がありませんので,100条のただし書きで考えるべきでないと。


  そうするとどうなるかというと,○○幹事の最初の多分御意見と逆の方向に行くんだと思うんですが,ここでは顕名なしで,客観的に共同受託であれば相手方が知っていようが知るまいが,知るべきであったであろうがなかろうが,他の受託者に対して責任追及できるということになるのではないかと思います。


  そうすると,多分理由は少し違うんですが,形式論というんでしょうか,条文の構成だけでいうと,商法の代理が顕名に関して,民法のような要件なしに,顕名のない場合にも代理成立させますので,それに近いものになっていると。商事だからというのではなくて,そういうふうに考えたらいいのではないかなと思います。

● 今ので非常によくわかってきたんですけれども,今の○○委員の御意見に関して,さらに説明を要するであろうというのは,商事ではないけれども,しかしにもかかわらず,なぜ信託の共同受託の場合には,顕名なしでも,当然に他の共同受託者に効果帰属ができるというふうに考えるのかというのは,やっぱり1つは,それでいいともし考えるとするならば,やっぱり説明はつけ加える必要があるのではないかなという気がいたします。それだけです。


● 先ほど何人かが関連して恐らく手を挙げられていたのは,○○委員と○○幹事が……。


● ○○幹事と全く同じでした。
● では○○委員から。


● ちょっと私は,直接関係するんだけれども,どうもちょっと方向が,自分で言うのも何ですが,ピント外れのような感じですが,○○幹事も○○幹事も,それからそれに全面的に賛成する○○幹事も,やっぱりちょっと,私からすると違うような感じなんですが。


  つまりこういう問題は,私が多分勉強不足なんでしょうけれども,アメリカ法ではあんまり問題にならないというのはどうしてかということを考えながら聞いていたんですね。それはやっぱりさっきのことに戻るんですが,共同受託制度というのは何のためにあるのかというと,2つの目的があって,1つは相互監視で,1つは役割分担だというわけですよね。
  

この間が,なかなか緊張関係があるけれども,いずれも結局信託の安全と運用というか,つまり受益者のためという話で出てきているわけですね。今ここで問題になっているのは,取引の相手方をどういう形で保護しようかということを考えて,皆さん物すごく苦労されていて,代理構成であれ何であれという話が,アメリカの信託法というのを私が本当に理解しているかどうかわかりませんが,アメリカの信託法が考えている話で全然ないですよね。

  そうすると,これ一般的に,職務の分掌も何にもなくて,私が受託者の1人です。複数の。それで取引関係に入っていますね。だれかに。相手には全然信託の話もしていないわけです。

共同受託者がこれだけいましてねという話もしていなくて,普通にやっている場合には,だから当然,それで何らかの責任を負う場合には,信託財産で責任を負うだけではなくて,私の固有財産で負うわけですよね。責任を。それは当たり前のことだというだけの話で,あと共同受託者は何の関係もないというのが普通だと思うんですね。

● ただ,共同の意思決定が介在すれば,もちろん責任問えるわけですね。
● 取引の相手方に対してですか。取引の相手方が。
● 実質がそういうものがあれば。背後にね。


● しかし私だけが取引の相手方になっているんですよ。
● わかりました。もしかすると,少し,今ここで信託の大議論まではちょっとしたくないんですけれども,信託についての英米的な考え方というのは,やっぱり非常に,信託のために行為をする受託者にだけ,法人格があって,まさに行為をしているのはその人間だと。


だけれども,信託財産という特別な財産がくっついている。そういう発想なので,それを共同受託の場合にも当てはめていって,少なくとも行為のレベルではそれぞれの受託者の行為というものを考える,そういうことですよね。お互いに信託行為の債権者との関係で共同受託であるということによって,特別な責任は生じないと。

● 共同受託というのは,取引の相手方のための制度ではないから。
● それは1つの考え方なのかもしれませんけれども,恐らく従来の共同受託,日本の共同受託は,そこは連帯責任的に考えてきていて。

● 受益者に対して連帯責任を負うのは当たり前のことですよね。だから相互監視という話が出てくるので。相手方の取引のときでも,これだけの共同受託者でみんなでやっているんですよということをわかっているんならみんなで責任を負うのは当たり前だと思いますけれども,何もなくて私が堂々とやっているというときに……。

● ですからこそその相手方が出てきているのが1人だけのときに,その背後に共同受託者がいないようなときに,そのときに他の共同受託者に対する責任まで追及できるのかと。


できるのであればその理論は何かというのを,○○委員から言わせれば信託の重要な部分ではないということになるのかもしれないけれども,その部分を今議論しているんだと思います。

● いや,わかっているんですけれども。
● ですから,もしかしたら○○委員の意見は,突き詰めれば,そういう場合に行為をしている人間についてだけ責任を負わせればいいということなのかもしれませんが。


● 多分そうなっていると思うんですね。アメリカで。
  こういうタイプのものでかかっていく場合は特に。


● ただ合有タイプで,信託行為の決定については原則として全員が関与するというタイプで,その関与の仕方はいろいろな,さっきの相互代理とかいろいろな形があると思いますけれども,そういう形で実質的には同意していると。だけれども行為に出てきているのは1人だというときに,ほかの共同受託者に対しての責任を問えるかということですね。

● だから,すみません。もうおわかりと思うんですが。
  取引の相手方が,私に対して,私の固有財産にまでかかっていって,それで十分で,その後私はどうするかというと,これみんなで決めたからではないのと。


こっちの方へ私が持っていく話であって,この取引の相手方が何ら期待していない,これら一連の人たちに,何でかかっていけるんだろうという発想になるような気がするんですね。


● そこでさっきから,民法にある顕名しなかったときの本人の責任とか,そういうものとの関連を議論していて,民法には,一応そういうときには本人の責任を追及できる余地があるので,それと同じような解決はどうかというところから,いろいろな議論が,今出発しているんですけれども。

● こういう議論を見たことがなかったものだから,非常に斬新であるということなんだけれども。

● 民法等との整合性も,やっぱりとれるものならとっておきたいということですね。

● 現行法を前提にいたしますと,全員で意思決定をし,全員の名前で執行をするというようになっておりまして,今回のこの提案につきましても,過半数で意思決定をするという意味では現行法は維持してはいないんですけれども,3人の名前で執行するという点では,現行法を維持しているというようなところがあるということを前提といたしまして,なぜこのようにしているのかと申しますと,先ほど○○委員がおっしゃいましたとおり,第三者の側から見て,各受託者の固有財産に対して執行をするということを認めるのは,第三者から見て,受託者が顕名をしているという場合に限れば足りるのではないかというようなことを前提としておりますが,これが果たして,共同で意思決定をしていれば,別に各受託者の名前を原則形態である共同受託の場合にも,出さなくても各受託者の固有財産に対して執行をすると,そこまで第三者の保護というのを図る必要が,果たしてあるのかという点につきましては,今の○○幹事と○○幹事の話を聞いていても,ちょっとどうかなという感じはいたしておるんですけれども,この点につきまして,もう少し審議をしていただけますと助かりますけれども。


● 先ほどの○○幹事の意見には賛成される方がおられたと思いますが,○○幹事はちょっと逆の方向なんでしょうね。


● 仮にそうだとしても,まさに今のような御意見あるわけであって,説明が絶対に必要になってくるであろうというのは,間違いなかろうという気がします。

  仮に,何の顕名に相当するものなく固有財産にいけるという前提とりますと,先ほど言いましたように,それに対して,他の受託者の方は,職務分掌の定めがあるのだということを抗弁として出し,それに対して職務分掌の定めがあることを知らなかっただけではなくて,他の受託者が存することを知っていたというようなことまで,やっぱり言わないといけないのかというのは,やっぱりちょっと要件として違和感があるところかなというのは検討課題としては残るかなと。

  それに対して,最初から他の共同受託者の固有財産にまでいくとするならば,最初からやっぱり知っていたと,そういうものの存在を知っていたということは要件だというと,整合性は出てくるのかなという気はするというのが,私の一番最初の質問とつなげて言うとそういうところですが,やっぱりちょっと,どういう理由に基づいて,全く顕名がなく,かつ知っていたということも要らないと言えるのかというのは,ちょっと問題としては残るであろうということですね。

  信託財産についてはいいと思うんですけれども,固有財産になると,やっぱりちょっと問題が残ると。

● 大変御議論いただきましたけれども,恐らく,ほかにもまたいろいろなバラエティあるかもしれませんけれども,論点は明確になったと思いますので,少し検討させてください。今の点に関しては。


  この共同受託者に関しては,一通り,御意見,今いただきましたけれども……。

  ○○委員が,別なことでとおっしゃっていました。ごめんなさい。

● 別というか,関連してということになるかもしれませんが,職務分掌がある
場合のところのお話なんですけれども,4の(2)の②のただし書きのところの要件なんですけれども,ここの要件で,実際に職務分掌を与えられてやっている方はいいんですけれども,やっていない方の分の救済といいますか,そういうようなことというのは,ちょっと考えられないのかなと。


  例えば,何らかの帰責事由があるというようなことを要件的に追加してもらえないかなということが1つと,あとはそれに関連して,登記についてはまた後で議論があるんだと思うんですけれども,職務分掌とかという場合については,信託目録が残るんであれば,そういうふうなところも記載があるのではないかと思うんですけれども,そういう記載があれば,要するに受託者としては固有財産で責任を負わないというようなことが言えるのではないかなと思うんですけれども,その辺のところをちょっと御検討いただければと思うんですが。

● その点につきましては,検討いたします。


  あと1点,最後にお願いなんですけれども,(注4)の甲案,乙案につきまして,今のところ何も御意見出ておらないんですけれども,事務局としましては甲案のような考え方も十分あり得るのかなというふうに考えておりますけれども,この点につきまして,御意見をいただければ幸いでございます。
● ○○委員。


● すみません。引き続き。
  これについて,乙案でぜひともお願いしたいということでして,やはり,すみません,いろいろな受託者の方々が入ってくるということもありまして,ただ別段の定めがあるということでありますので,どうしてもこだわるという話ではないんですけれども,例えば,これによって業法で強行規定になってしまったと,そういうことになってもあれですので,基本的には,やはり受託者というものの意向を聞いていただいて,やっていただきたいという趣旨で,乙案ということであります。


● ほかにいかがでしょうか。
  3人いたうち1人が減ったときに,もとに戻すのに,残りの受託者の意見を聞かなくてはいけないのかという問題ですね。何か御感触あれば。
  ○○委員。


● これもさっきの相互監視義務と連関していると思います。
  程度が弱いものであるにせよ,もしそれがあるのであれば,乙案もあり得るかなと。

● 今の甲,乙の関係ですけれども,裁判所の選任のときは,結局自分のあずかり知らない受託者が入ってきてしまうわけなんですが,それはもうしようがないというのはあきらめた上で,合意の場合は,何かそことの関係を考えるとしようがないのかなという感じもしないではないんですけれども。感想だけです。


● では,○○委員。
● 同じ方向の意見ではつまらないと。
  委託者が,最初に共同受託者を複数決めているわけですから,そのうちの1人が書けた場合,委託者と受益者が合意すればそれで十分だというふうに,理屈の上では考えられますし,現実的に考えれば,委託者及び受益者は,自分たちに不利になるような受託者を選びたくないわけですから,その際には既に残っている受託者とうまくいくかどうかというのは,当然検討した上で選ぶであろうということなので,この甲案でいいのかなというふうに私は思います。


● なるほど。理論的には十分,あるいはそっちの方がすっきりしているのかもしれません。

  わかりました。これはやはり両方の御意見があるということで,ちょっと最終的な検討は,また次回にさせてください。皆さんの方から御意見があれば,また改めて長い時間をとって議論をすることはできないかもしれませんので,メール等でもって御意見を伺えればと思います。

● 強制執行の件は,いかがでしょうか。
  先ほどの弁護士会での議論を,もう1度繰り返させていただきますと,全員を当事者とするのではなくて,執行文による訴えを認める方向を残していただいた方が,結果的にはわからない人が出てきたらどうするかということの議論なんですけれども,その方がいいのではないのかと。


● 非常に重要な問題で,別にネグレクトするつもりはなくて,休みの後にしようかと思っただけです。
  はい,どうぞ。


● ただ,執行文の訴えというのは,前提として執行文付与機関に申立てなければいけないわけで,そこでの判断,いろいろ異議とか複雑なそういう手続とかもあり得るわけでして,それよりもやはり,組合の場合などの規律の仕方にもかんがみて,各受託者に対して債務名義をとって執行していくというルートさえ認めておけば,あえてそれ以外の複雑な手続のルートを認めるまでの必要はないのではないかなというふうに考えてはおります。


  事務局としては,ここはやはり共同受託者それぞれに対して,債務名義をとって執行していくというルートがオーソドックスではないかなと考えているんですけれども。


● すみません。あまりしつこくなって嫌ですが,ただ取引するときは職務分掌の定めが1人,相手方だけでいいんですよね。取引するときは1人でいいんですけれども,裁判するときはみんなでないといけないというのは,何となく,本来裁判によって担保されているのが取引ではないのかと思いますし。


  あと,どう頭を整理していいかわからないんだけれども,組合の場合にも任意で訴訟担当は認められるという議論があると思うので,あと,大体被告になる場合が事例で,こんな議論しています。


任意訴訟担当だと原告になる事例が趣旨かもしれませんけれども,では原告になって訴えるときにはどうするのかというと,また全員なんですかという抗弁で,実はほかにいるのではないですかみたいなのも,さっきの職務分掌の定めというのは,結構1つの規範として機能しているにもかかわらず,裁判になったときにだけ,全員相手ですというのは,何か整合性がなくて。


  ですから,どちらでもいいのか,結果は同じようにも感じるんですけれども,ちょっとその辺が問題ではないのかというような議論もありましたということを,御紹介いたします。


● 事務局といたしましては,執行文付与の訴えで立証していくのと,その第三者,他の受託者に対して債務名義をとるのとでは,債権者が要する労力については,ほぼ代わりがないのではないのかなというようなことを検討いたしました。


  それに,まず加えまして,一般に信託債権に対して訴訟が提起された場合には,先ほど申し上げましたとおり,被告になった受託者が,自分のほかにも共同受託者がいるんですよと,信託財産がありますよというようなことを言った上で,訴訟告知等をするということがほとんどではないのかなというように考えておりまして,さらにそれに加えて執行文付与の訴えというようなことまでするのが,実際問題あり得るのかなというようなことを考えております。


  この点につきましては,実務の裁判所の方の御意見も聞いてみたいところではあるんですけれども,事務局としてはそのように考えた次第でございます。


● 何かございますか。

● 私の感覚といたしまして,共同受託者に対しまして,訴訟を提起して債務名義をとる過程というのは,通常考えてもそんなに簡単に終わる裁判ではないんだろうと思うんです。


請求原因にしても抗弁にしても,いろいろな事実認定ですとか,法律上の判断入ってくると思われるものが,それが承継執行文の手続に乗せることによって,裁判所の書記官の手続の中で,しかも相手方の言い分を聞かないで出せてしまうというのは,非常に違和感を感じているところでして,あくまで手続保証という観点で,第一次的にせよ,執行文付与機関によって判断を経るということが,少し問題があるのではないかというふうに考えているところです。

● なかなかこれも重要な問題で,皆さんの御意見があればお聞きしたいと思いますけれども,ほかの方の。

● ちょっと確認ですけれども,先ほど説明の中で,訴訟告知をするであろうからという御説明がありましたが,それは要するに訴訟告知をするであろうから,ほかの受託者がそれでわかるので,その受託者相手にまた別個に訴訟を起こして債務名義をとれと,そういう趣旨なんですかね。


● その3人に対して債務名義をとらなければ,信託財産に対しては執行できないというような考え方を前提にしておりますので,そのような形になると思われます。


● 訴訟告知をしておくと,ほかのA,B,CのうちのAだけに,訴訟を起こして,B,Cが訴訟告知されれば,B,Cに対する訴訟が簡単に済むだろうと,そういうレベルのことですね。


● 簡単に済むだろうというと,この内容によるかとは思うんですけれども,一般的に職務分掌の定めがある場合につきましては,そのAという受託者だけが意思決定をし執行をしておりますので,BとかCとかは,その内容については把握をしていないということになりますので,仮にBないしCに対して訴訟をされたとしても,なかなかB,Cとして有意な抗弁等というのが本当に言えるのかなというのは確かに問題としてはあるんですけれども,やはり信託財産が合有という前提をとる以上は,3名に対して債務名義をとると,組合の考え方と同じように整理してはどうかというように考えている次第です。


● この点についても,まだ異なる御意見をお持ちの方もおありだというふうに認識しておりますけれども,とりあえず今の御意見ももう1回踏まえながら,一応検討いたしますけれども,原案を軸にしながら,どの程度今のような方向が取り入れられるのかどうか,もう1回裁判所の御意見も改めてお伺いしながら検討したいというふうに思います。

  それでは,大変時間がかかりましたけれども,やっぱりこの共同受託者の問題は重要な問題であり,恐らくまだ本当は問題は残っているかと思いますけれども,とりあえずここで一たん終えたいと思います。

  時間がないので10分の休憩ということで,お戻りください。

          (休     憩)

● それでは,また再開したいと思います。
● それでは,資料冒頭の方に戻りまして,第13,第39,それから第51というところについて御説明をいたします。


  第13でございますが,ここでは主として3点について御審議いただければと思っておりまして,1つは,差止請求権の創設と範囲に関する問題でございまして,試案の段階では信託の本質である倒産隔離の面での受益者の保護の観点から,破産管財人に対する差止請求権のみを認めておりました。

しかし受益者の保護の観点からしますと,倒産隔離の場面に限らず,受託者不在の間の信託財産の保護のための権能を受益者に与えることが望ましいと考えられます。


  つまり,破産管財人等に限らず相続人や前受託者も,保管すべき信託財産を処分してしまう恐れがあり得るので,これらの者に対する差止請求権を認めることが,受益者の利益保護にかなうと考えるわけでございます。


  そこで,信託財産の保管義務に伴う債権的な正確を基本としつつ,信託財産の保護のための物権的な性格をも具備した特殊な権利として,広く保管義務者全般に対する差止請求権を,受益者に対して認めますとともに,保管義務に伴うことの裏面として,前受託者の保管義務が失われる時点,すなわち新受託者等が事務処理をできるようになった時点をもって,この差止請求権は消滅するものと考えております。

  すなわち受益者不在の間の受益者の差止請求権に関する判決の効力というのは,新受託者等には承継されず,新受託者等は別途所有権等に基づく引渡請求訴訟を提起することができるし,かつ提起しなければならないと。そしてこのような個別的な解決の積み重ねこそが,結局は紛争の解決に資するのだというのが,この資料の趣旨でございます。
 

 もっとも,このような考え方に対しましては,受益者による差止請求権に関する判決の効力が新受託者に承継されないのは,紛争の一回的解決や,信託財産の保護の観点から問題ではないかという指摘もされております。


  そこで,受益者が差止請求訴訟で勝訴した場合には,新受託者等に判決効が拡張されると。その反面,受益者が敗訴した場合には,新受託者は別訴を起こすこともできるとしまして,いわば判決の効力を片面的に拡張してはどうかという主張がございます。


  このような指摘を踏まえまして,どのように考えるべきか御審議いただきたいと思います。

  第2に,この差止請求権は,前述のとおり,基本的には受託者の保管義務,受益者に対する保管義務に由来するものですので,信託債権者には認められないものと考えております。


  第3に,委託者破産の場合の双方未履行双務契約による解除権の問題でございますが,この場合の解除権を制限する規定を設けるべきだという意見が寄せられておりますが,しかし制限に関する明確な要件を定立することが困難であるということや,双方未履行債務の対立状態を解消する手立ても,資料に記載したとおりあるということなども考慮すれば,このような規定を設ける必要はないと引き続き考えるものでございます。

  続きまして,少し飛びまして第51の信託債権と受益債権との優劣関係というところでございます。


  前回会議におきまして,受益債権は信託債権に劣後するという考え方を前提にした上で,その実務上の弊害の有無や,理論的な説明の可否について検討すべしということにされました。
  

まず実務上の弊害についてでございますが,信託債権の劣後特約は有効でございまして,その効力は信託財産の破産手続においても維持されるという手当てをするとともに,すでに発生した受益債権に対する弁済は有効であって,不当利得とはならず,しかも受益債権に担保権を付すことも可能であるなどと考えることによって,実務上の弊害の恐れは排除できるのではないはないかと考えております。

  また,理論的な説明といたしましては,信託債権は信託財産の価値の維持増加に貢献するものであって,かつ信託をコントロールする権利を有してもいないことなどを根拠にして,信託債権が優位になるということができると思っております。

  なお,仮に受益債権と信託債権とを実体法上同順位といたしますと,信託財産が不当に害されることを防ぐためには,受益債権に対して,いわゆる配当規制を併せて導入することが不可欠であると思われるわけですが,このような配当規制を信託一般に導入するといたしますと,信託スキームの硬直化を招くことになりかねず,決して妥当ではないと思われます。


  また,未弁済の受益者の保護という問題がありますが,これは資料中にも記載いたしましたとおり,一般的な規律として信託債権の優先性を否定すべきほどのものとまでは言えないというふうに考えております。


  以上のような考え方を前提に,実体法上,受益債権は信託債権に劣後するということを改めて提案するものでございます。

  以上でございます。
● それでは以上の点につきまして,どうぞ。
  ○○委員から,まず。

● すみません。第51もあるんですが,まず委託者破産についての3番,双方未履行双務契約の解除権について,質問と意見を述べたいと思います。


  この点は従前から,私どもとしてちょっとこだわっているところでございますけれども,改めてちょっと述べさせていただきたいと思います。


  双方未履行契約については,委託者倒産の場合の倒産隔離を図るためにぜひとも規定化をお願いしたいというのが私どもの立場でございますけれども,他方その立法技術上容易でないということも理解しておりますので,いかに解釈等で倒産隔離を実現するかが課題だというふうに理解しております。

  この点,今回も御検討いただいておりまして,この点事務局の努力は多といたしたいと思いますけれども,なおその倒産隔離が十分に図られたと安心するためには疑問も残りますので,その点,隔離主体という観点から質問を行いたいと思っています。3点ございます。


  1つは,これはそもそも論でございまして,大分前の議論のときでも申し上げたことではございますけれども,そもそも委託者と受託者の間の権利義務において,双方未履行で問題となる対価関係,対価性がないというふうに整理ができないかどうかということでございます。


  すなわち今までの事務局の整理に従えば,委託者の債務とすれば費用報酬支払債務,追加信託履行債務,信託財産引渡債務というのがございまして,受託者サイドの債務としては,ここに書いてございますとおり,信託事務遂行債務,残余財産支払債務いうことがございます。


  ですからこの権利らが,それぞれ両当事者で対価性がなく,よって双方未履行契約にそもそもならないと整理できないかということでございます。

考えましたのは,コメンタールによれば,こういう双方未履行契約の解除権という制度の趣旨というのは,法律上並びに経済上,相互に関連性を持ち,互いに対価性な意味を持ち,互いに担保視するべきものであって,民法の同時履行抗弁権と同様,両者の公平を保持するためとされていると。


  委託者と受託者とのかかる対価関係があると言えない場合は,そもそもこういうものに当たらないと解釈できないのかということでございます。


従前にも御質問したかと記憶しておりますけれども,現時点における事務局の見解を改めてお聞きしたいと思います。


  なお,この点考えますと,以上述べた両当事者の個々の債務のうち,信託事務遂行債務については,費用報酬債務と対価関係が一見ありそうにも思えます。


これも何か苦しいところではありますけれども,ただ信託事務遂行債務を考えれば,これは専ら受益者に対するものであるというふうに考えることができますので,そういう意味で,ここで言う委託者と受託者の対価関係と言えないというふうに議論が整理できないかどうかということでございます。

  2つ目は,これは単なる確認でございますけれども,今回受託者の債務からの説明,ある意味では理論武装をいただいたわけなんですが,これは従前の御説明でいただいた委託者債務の説明と,付加的に考えていったらどうかという御提案の趣旨なのかということでございます。

  すなわち,これら2つの考え方と,それからそれぞれに従う実務上の手当てとを,合わせ技であれば倒産隔離が図られるような実務が図られるのではないかというのが,事務局としての御提案の趣旨なのかということを,確認したいと思います。


  3番目でございますが,今回の御説明のことでございます。今回の御説明のことについては,自益信託でも妥当するのかどうかということです。もしそうであれば,実務上は信託事務遂行債務とか,帰属権利の受益者に対するものに対しては,これは受益者に対するものとして組み立ててやれば,倒産隔離は実現可能になると思います。

  これは考えますに,やはり事務局がおっしゃるとおり,実際上もやはり証券化においては対応可能ではないのかなということと思われますので,実効性も高いのかなと。それでとりあえずここの御説明で実務は回るのかなというふうには,私は思っています。


  ただ,ちょっと考えますに,やはり自益信託でもそういうふうになるのかなというのは,ちょっと若干疑問でございますので御質問しているわけなんですが,すなわちこれは,信託契約は委託者と受託者との間で成立するというものであるので,あくまでも委託者と受託者の間の契約で双方未履行性を考えればいいということで,ではそういう債務が受益者に寄せられれば,双方未履行契約性がその契約にはないという,そういう整理だと思います。


  ただよく考えてみれば,自益信託の場合には,同じ人が,方や寄せられた受益権にかかる債務を負っているわけですから,そうすると非常に何かレトリック的に,それで本当にいいのだろうかと。かかる双務性というのは,個人と個人との間では解決されていないのではないのかなという疑問がございます。


  もしこういう1つの契約関係で2つに立場を分けるということが可能であれば,例えば通常の取引であったとしても,権利関係を2つに分けて,契約自由の原則ですから,そして一方の地位,権利を全部寄せてしまえば,残った権利義務関係については倒産隔離が図られると,双方未履行契約の関係にならないというふうに整理されるようなことも可能となっているような気もするんですけれども,果たしてこの考え方でよいのかなというふうに思います。

  今申し上げたのは非常に極端な話なのかもしれませんが,これはそうではなくて,信託だから,つまり委託者と受益者という地位が法律上明確になっているから,ちゃんと委託者の債務というのは消すことができるのであれば,双方未履行性がないと。


よって受益債権であったとしても,御説明があるように,双方未履行契約性を消すことができるということかということでございます。


  決して今回の説明を否定したいとかそういうことではございませんで,本説明をより強固にしたいと,安心して倒産隔離ある信託を使いたいということでございますので,よろしく御見解を賜りたいと思います。


  それで最後でございますけれども,前回も申し上げましたが,いずれにしても解釈で解決するということであれば,これは法律に書かれないものですので,いずれにしても本解釈については後日,立法後,法務省担当者としての解説書で,この点を詳細に明らかにしていただければというふうに思います。

  以上です。

● いろいろ質問が来ましたけれども,いかがですか。
● まず第1点目だと思いますが,信託事務遂行債務,対価的な関係というか,債権債務が双方に対立する関係になるかどうかですね。この信託事務遂行債務が。


○○委員がおっしゃっていたのは,信託事務遂行債務というのは対価的な関係にはないというふうに言えないかということかと思いますが,ただここはやはり一概にはちょっと言いにくいところがありまして,つまり確かに他者に対する,第三者,他益信託を特に前提にしますと受益者に対する給付をしてもらう,させる,そういう債権があり,その債権の報酬をまた支払っているという関係ですので,基本的にはやはりこれはやってもらうから報酬を払っているんだという関係にあると言わざるを得ないのではないかというのが,大原則かと思います。

  ただ現行法と違って,少し話しがかわってきているのではないかという話がありそうでして,それは委託者の地位を後退させたということの影響がどう出るのかなということなんですが,ただそうは申しましても,受託者の解任ですとか,受託者選任するとか,そういった局面においては委託者の権利は残しておりますし,その他裁判所に対する申立て権等々もろもろ,デフォルト状態では残しているということがあり,その前提としては,やはり信託事務を着実に遂行させて,受益者に受益をさせるということについて,委託者の権利を一定限度残しているというふうなたてつけなのではないかなという気がいたします。

  そこまで考えると,一概に委託者について,何らの対価性のある債権が残っていないというふうに言い切れるのかどうかというのは,これはもう解釈論と言わざるを得なくて,そこは解釈次第ですので,どちらでもあり得るのかもしれませんけれども,絶対大丈夫ということが言えるのかというのは,我々としてはどうなのかな……むしろ委託者としての権利義務というものをなくしてしまえば,もちろんそういうような議論はないはずですので,委託者の地位のところで議論いたしましたけれども,信託行為に定めを置いて,信託法上の委託者の権利というものを失わせると,これはもう全然できていいでしょうということについては異論がなかったわけですから,そちらの方に従って,委託者の権利を失わせるということをすれば,恐らくは実務上は問題ない。


  安心してやりたいというのが実務界からの強い要望だと思っておりますので,安心してやる観点からすると,そこまでやっていただければ大丈夫。


これは言えるんだと思うんですけれども,ではその手前どのあたりまで言ったら対価性があるのかないのか言われても,なかなかちょっとお答えは難しいのかなというところであります。


  ただ,絶対に対価性があるというつもりもないんですが,そこは解釈で明らかにできる範疇を超えているかもしれないなというのが,我々の認識というところかと思います。


  それから今回は受託者の債務についての面を取り上げておりますけれども,○○委員が先ほどおっしゃいましたように,補足説明で書いたような委託者側からの債権,こちらの方を失わせるという手立てで,双方未履行双務契約に当たらないと言うことができるというのも,これはもちろん当然の前提と。それに加えて,こちら側についてもこのような考え方ができるのではないか。


  これらの選択を組み合わせることによって,特に資産流動化を初めとした商品スキームにおいて,倒産隔離効を万全なものとするということは,商品設計に若干の影響を与えるかもしれませんけれども,できるのではないかなというような気がしているところでございます。


  それから最後3点目のところの,自益信託との関係をどう考えるかということですが,正直申し上げて,ここもまた解釈論ではないかという気がするんですけれども,確かに委託者と受託者との契約関係を見て,それから受益は第三者にいっているところを形式的にとらえれば,他益型についてはこのような形になるでしょうと。それがたまたま自益だった場合はどうかと。


  それはもう,たまたまそうだったんだから,関係がないということも相当程度言いたくなるんですが,他方でやっぱりそこは実質を見ざるを得ないのではないかと○○委員のような議論があり得るのではないかと言われれば,それはそうかもしれないなという感じがいたしまして,そこはちょっとどちらがいいのか,我々としてもよくわからないなというような感じがするところでございます。


  最後に,法律上規定を設けるか設けないか,これからの御議論かと思いますが,設けないこととなった場合に,この法制審における議論がこれこれこういうふうにされましたということは,もちろん議事録上は明確になっておりますし,それに加えて解説書等の中で,こういう議論がされたということを言っていくというのはもちろん,ここでの議論を一般の人たちに知っていただくというのは1つの重要なことだと思いますので,そういうことは恐らく法務省としてやっていくことになるんだろうなという気がいたしておりますが。

● 1点確認したいんですけれども,先ほど私の方の3番目の質問で,自益信託型についてどうなのかという点について,事務局としては解釈は分かれるのではないかということでございました。


もちろん解釈の問題ですからそういう問題もあろうかと思いますけれども,仮にでは,それは,やはり疑問があるねといった場合に,そうすると例えば今回の事務局の御提案のとおり,信託事務遂行債務とか,残余財産の関する支払債務とかを受益権に寄せただけでは,やはり倒産隔離の問題は完全に消えないということですか。

● 一番典型的に問題になりそうなのは,形式的に考えれば,私は当たらないと思うんですけれども,双方未履行双務契約というような範疇にですね。たまたま受益者が,だけれども委託者と同一人物だったときにどうかと,そういう議論ではないかという気がいたしまして。


  つまり,委託者が多数の受益者のうちの1人でした。たまたま。というような事例をここで想定するのか,それとも先ほど言われたような,よく言うところの委託者兼受益者,1人の委託者が1人の受益者を兼ねていて,受託者1人ですというような一番典型的な自益信託を考えるかで,話はそれは随分違ってきそうな気がいたしますけれども,私が申し上げたのは,1人の受益者が1人の委託者を兼ねている場合どうかと。


実務上はそういう例はあまり想定されていないのかなと思いましたのでそういう答え方をしたんですが,そうではなくて,多数の受益者がいる中でたまたま1人だけという場合は,私はそれは全然話が違うのではないかなという気がしますけれども。

● ありがとうございました。
● なかなか立法化は難しいので,いろいろな解釈,あるいはいろいろなやり方で何とかならないかということについてのやり取りだったと思いますが。
  ○○委員。


● この件ですけれども,やはり流動化,証券化関係者の間からは,信託契約を双方未履行双務契約の解除権の対象にならないようにすることを明確化してほしいという,非常に根強い需要があるわけですが,今の議論ちょっと伺った限り,委託者サイドのことにちょっとフォーカスされていたかと思うんですけれども,もちろんそれは十分よくわかるわけですが,受託者サイドの解除権については,これを排除するような規定を設けることは検討できないのかなと。
  と言いますのは,受託者の破産は信託の終了事由になっておりますし,受託者の民事再生あるいは会社更正は当然に終了事由にはなりませんけれども,受託者の交代の規律等をきちんと設けますので,受託者サイドの解除権を排除することによる弊害というのは,ちょっと素人考えかもしれませんけれども,特に思いつきませんので,委託者サイドの解除権の排除に比べれば,信託法の中での立法化というのはやりやすいような気がするんですけれども,いかがでございましょうか。


● それについてどうでしょうか。
● 受託者倒産の場合の双方未履行双務契約の解除権については,補足説明にも書きましたし,昔部会でも議論したかと思いますけれども,基本的には適用はないはずであるというふうには考えておりますが。


それを明文で明らかにする必要まであるのかと,こちらの方は相当程度明らかで,ほかにも破産法上も,自由財産関係の契約は適用にはならないのは当然ですねと言われているところでもあり,そこまで明確化する必要は果たしてあるのかという感じがしております。

  逆に,委託者の解除権の方は手をつけないということになると,それはそれで変なアンバランスで,委託者の方の解除権は相当広く認められるのではない
かというようなふうに受け取られても困るような気もいたしまして,そこはいずれにしても両方とも解釈論で,ただ解釈の内容というのは,受託者の倒産の場合については基本的には適用はないはずだということで,全く御異論はなかったかと思いますし,委託者の解除権については,もう少し難しい問題あるけれども,ここにあるような手立ては十分に可能であろうというようなことを,我々は今のところ考えているということですが。
● ○○委員。


● この論点で。
  ○○委員と○○委員がおっしゃったとおり,反対ではあるんです。やむなくこういう規定になるような感じしまして。なおかつ排除はできなくて,一応この双方未履行双務契約の適用がある状況になってしまったという後のことを,ちょっと確認したいんですけれども。
  


通常の契約関係と違って信託の場合は,信託との取引が行われている第三者が,この場合は特にあり得ると思うんですけれども,ちょっと上のところに出てきますが,特に責任財産限定特約つきのノンリコースのレンダー,貸主との関係で,この双方未履行双務契約の解除が行使された後はどうなっていくんだろうかと。
 


 取引ですから,信託財産の譲受人との関連というのもあるかもしれませんけれども,一番現実的なところですとノンリコースレンダーはどうなんだろうかとか,あと観念的にはあり得ないのかもしれませんけれども,自益信託の受益権を対価を払って取得した受益者がいる場合,その場合の受益者,何もゼロになってしまうのかもしれませんけれども。


  いろいろな側面で信託との取引関係が生じていると思うんですが,その場合はどういうふうになるのかというあたりを,ちょっと教えていただければと思うんですけれども。

● いかがでしょうか。


● 今の双方未履行双務契約の解除権があった後の,特にノンリコースローンの債権者どう扱うかというのは,○○委員が前から心配されているのはよく存じ上げているので。なかなかどういう帰結になるのかというのはよくわからないところありまして,信託に限らず,ほかにも似たような状況は十分生じ得るんだろうと思います。

  つまり,ほかの契約がたまたま双方未履行双務契約で解除されてしまった場合に,第三者が何らかの利益を持ってその契約に入ってきていたと。1つはノンリコースローンかもしれませんし,もう1つは第三者に譲渡されていたような場合とかあるのかもしれませんが,そのあたりの帰結というのは,一般の破産法の中でも解釈論となっているのかと思いますけれども,今言われた例についてどうなのかというのは,今この場では,ちょっとまだよくわからないようなところはありますが,第三者保護は何らかの形で図られる必要はあるのかなというような気はするところではありますけれども。


  今すぐどうかというのは,すみません,ちょっとよくわからないところありますので。


● 信託の清算になるわけではないんですか。信託の終了,清算という理解では,あくまでない。

● 双方未履行双務契約の解除によって,信託が終了を来すのではないかということですか。

● はい。そうすると清算規定の適用があるという考えもあり得るのかなと。ちょっとわかりません,私もちょっと……。

● ○○委員。
● 何点かあるんですが,今の点にだけ特化して私の意見を申し上げますと,まず53条の管財人の解除権を排除するのは,やはり理論的にはかなり難しいだろうと思います。


53条全体について,どこまでが解除権の対象となる契約かというのは,ここ以外にもいろいろな問題があるのですが,あるいは53条に当たるんだけれども,解除権がないと,この平成12年の最高裁の判決とかあって,確かに議論全体が不明確なのですが,だから変な言い方になりますけれども,ここだけ難しいわけではなくて,全体に難しい業務なんだというふうに考えざるを得ないんだろうと思います。


  ぎりぎりの場面で,やはり解除権は残しておかないといけなない局面というのは,どこかに残る可能性があり,それが絶対ないといわない限りは,やっぱり解除権を排除するという理屈はなかなか出しにくいのかなという気がいたします。


  以上が前半で,仮に解除した場合にどうなるのかという○○委員の御質問ですが,私は信託の終了の規律にいくものだというふうに思っております。

ちょうど信託の契約というものは相対の契約のようでもあり,何か組織をつくる契約のようなものでもあるのですが,その後者の側面に着目しますと,ちょうど会社の設立の場合の規律にやや似てくるのではないかと。結局会社の解散みたいな規律をしていくことになるんだと思うんですけれども,それとのアナロジーで考えられるのかなというふうに私は考えておりました。
  以上です。


● 何となくそういうのが素直な感じの,素人ながらいたしますけれどもね。
  あるいは○○委員が問題にされていたのは……。


● 1つとして信託債権,債務がある以上,支払われますけれども。ちょっと受益権の譲受人は不利ですけれども。

● 確かに。
 

 ほかに,先ほどこの倒産関連では,前回とかわった部分についての説明等がありましたけれども,いかがでしょうか。差止め請求の根拠なり,差止め請求できるもの,そして差止め請求を判決でもってとった場合の,効力の及ぶ人的な範囲ですね。

● 今の,まさに判決効のあたりどうなのかというのは,ちょっとまた手続法の観点もありますので,事務局の方でもう少し検討してみたいなというふうには思っているところです。

● これは私の意見を申し上げるというよりは,議論の整理だけしておいた方がいいかなという程度の話なんですけれども,受益者の差止請求権,これはつまり受託者が解任等でいなくなった場合,それから死亡等で相続人が保管している場合,あるいは破産して管財人がやっている場合,以下破産管財人で代表させていただきますけれども,こういう場合に受益者の差止請求権というのを,理論的にどうやって根拠づけるかというところで,事務局はずっと御苦労されているというふうに拝見しております。
 

 今回は5ページの4行目に書いてあるとおり,保管義務に伴うものという形で整理されているわけで,これが1つのあり方なんだろうと思います。こう考えますと,将来受託者が出てきたときに持つ引渡請求権,物権的な権利とは切り離された存在ということになる。


受益者固有の権限というふうに考える方向に傾きがちであり,果たしてそういう受託者が持っているような物権的な権利とは別に,保管義務からは差止請求権のような権利が導けるかということが理論面で問題となると同時に,受益者が,例えば処分禁止の仮処分か何かかけている。あるいは申立てをしている。

あるいは仮処分命令が出た後に,新受託者が選任されても,実体権が全然違うわけですから,新受託者は受益者が得ていた有利な地位というのを引き継がないということになるんでしょうが,果たしてそれでいいのかどうか。ということが問題になろうかと思います。


  以上の保管義務で整理するのが1つ目の構成だとしますと,2つ目の構成は,新受託者が将来持つべき物権的な権利というのを,受益者が暫定的に保全をするために前倒しで借りてきて使う。訴訟でいうならば,訴訟担当のような,時間的に先行する管理権限を持つという構成が考えうるんだろうと思います。これは,多分もとの案がこれに近かったんだろうと思います。

  こう考えますと,受益者が行使している権利というのは,新受託者が登場するまで,法律に基づいて与えられた質的な一部,新受託者だったら引き渡せと言えるところを,処分するなという形で質的に縮減されて持っている,いわば保全を求めるための権利だということになりましょうから,新受託者が出てきたら,もとの姿に戻って,しかもそれは承継されて,引き渡し請求なり何なりにつないでいけるということになるんだろうと思います。


  受継を説明できる点では,そちらの方がいいわけですが,ただ問題は,そういう訴訟担当のような構成をしますと,一受益者が,仮に受益者がたくさんいて一番訴訟の下手くそな受益者が出てきてそれで負けてしまった場合に,新受託者,あるいはほかの受益者が,損を,敗訴判決の効力を受けるという形で不利益を被らないかということになるわけですが,問題は,だから最後,先ほど○○関係官がおっしゃったように,一受益者が負けたときに,新受託者がなお引き渡し請求できるという説明ができるかどうかにかかってくるということなんだろうと思います。


  特に,私の強い意見を申し上げるというわけではないんですが,問題としてはそういうことなのではないかということであります。
  以上です。

● ○○委員。
● 私も議論の整理だけでして,もし○○幹事のおっしゃっているような方向でいくと,非常に便利でいいなという気はいたします。ですからぜひその方向で検討していただきたいんですが,最後のところの,受益者が負けたときに新受託者がもう一遍やって勝つことができるということを,非常にうまい話なんですけれども,少しうま過ぎるかもしれないので,そこが理論的にうまく説明できるかどうかというところだろうと思います。


  他方で,本日お出しいただきました第1の構成につきましては,○○幹事からおっしゃいましたような弱点と申しますか,差止め請求権の実体的な根拠は何だろうかということが,必ずしもはっきりしないという御指摘だったと思います。


多分この原案というのは,保管義務を前受託者等が負っている。逆に受益者の方から言うと,保管請求権を持っている。それが受託者不在の場合には,受益権を保護する必要性が高まるものですから,差止め請求権にまで強まるというような説明になるだろうと思います。


  そうするとそこでの問題は,受託者不在の場合とは何かということでして,1つの考え方は,就職するまでというのが一番理論的にはすっきりすると思います。


その間は保管義務を負っている。ところが原案は,事務処理ができるようになるときまでということになっておりますので,新受託者が就職後,事務処理ができるようになったときまでの間は,保管義務が果たして観念できるのかどうかという問題が出てくるんだろうと思います。

  ただ,それも受託者不在の場合というものの解釈の仕方によるわけでして,受託者不在の場合というのは,受託者が存在しない状態と,受託者が就職したけれどもいまだ事務処理ができない状態と。いずれにおいても受益権の物権的な保護の必要性が高まるというふうに考えれば,それは何とかなるのではないかと思います。


  そうすると,その先の問題がありまして,新受託者が自己の権限に基づいて引き渡し請求を前受託者に対してしたという場合,あるいは仮処分を申請したというときには,事務処理が既に可能になっているではないか。


とすると,受益者の差止め請求権は,実体上の根拠を欠いて,かつ新受託者の引き渡し請求が認められるまでの間に,時間的な空間があいてしまって,そこが問題ではないかということが次に出てくることだと思います。


  それもしかし,受託者が就職したけれどもいまだ事務処理ができない状態というものの解釈によるわけでして,前受託者が争っている以上は,まだ仮処分申請をしたとしても事務処理ができないというように,もし解釈することができれば,そこは理論的には何とか説明ができるかもしれないというところだと思います。


  結局そうしますと,どちらも理論的な特質があるわけですけれども,実際上考えて,2回訴訟と申しますか,差止めをすることがいいのか,それとも1回で引き継がせる方がいいのかということの実質的な判断。それから,あと実際上の便宜ということになる。そのあたりが大体問題点かなというふうに思っています。


● どうもありがとうございました。
  先ほど事務局の方からも少し説明がありましたけれども,判決があったときにどうなるかということについては,もうちょっと詰めて考えたいということでございます。

  差止請求権の根拠等につきましては,先ほどから2人の御指摘もございましたけれども,なかなか説明の仕方は苦しいところあるのかもしれませんけれども,少しこの範囲を拡張する,請求権延長の範囲を拡張するということに伴って,説明の仕方を工夫しなくてはいけないということからきているものでございます。


  しかし,それで何とか説明ができるということであれば,それはこの点は御承認いただければと思いますが。


● 今,○○幹事と,それから○○委員にまとめていただいたようなところが,理論的にはいろいろあると。ただ,いずれにしても一応は説明は可能だというふうに,我々もちろん思っておりまして,まさにこれも先ほどおっしゃいましたけれども,最後の最後,受益者は,何人かいれば勝つまでずっと訴えが適宜できるというようなのは,非常に受益者保護には資するありがたい考えなんですが,果たしてそれができるのかどうかと,そこだけですね。


  できるのであればやれればいいのではないかというふうに,我々としても思いますので,そこだけちょっともう少し考えさせていただいて,結論をだしていきたいなということでございます。


● では,○○幹事,どうぞ。
● たびたびすみません。

  受益者が特にたくさんいる場合に,1人出てきては負け,1人出てきては負けと,そうすると相手をする破産管財人等はたまらないわけですけれども,こういう場合には,ほかにも例がありますが,口頭弁論を必要的に併合するとか,あるいはその前提として,管轄もし1つに絞れるならば,併合も非常に容易になるだろうとか,そういうところで手当てをしていくことになるのかなというふうに思っていまして,何回も応訴しなければいけない破産管財人等の地位は,一応,どこかでは配慮が必要だろうという気がいたしております。
  以上です。

● ほかの点についてはいかがでしょうか。先ほど13と39,51について事務局から説明があったわけでございますが。

  どうぞ,○○委員から。

● 結論についてどうこうとか反対とかそういう趣旨ではなくて,何度も同じような議論していて申しわけないので,ちょっと手短に質問したいんですけれども,そもそも実体法的にそういう債権の優劣を区別することはいかにというポイントが私の中にはあったんですけれども,聞くところによると,中間法人の基金とか,生保の出資金とか基金とか,そういうのは立法例としても存在するということなんですけれども。


  今回この実体法レベルで規定するとして,どのような規定の仕方になるんであろうかという質問なんですけれども,それぞれの問題になるような側面において返還請求できないとか,基金とか出資類似であれば清算するまで返しませんと言えば済むんですけれども,なかなかそうもいかないので,先取特権みたいな形もあるかもしれませんし,優劣という形で書くのかもしれませんけれど。


  ただ,優劣というような形で実体法上書くと,さまざまな側面において疑義が生じてくるのではないかという懸念もあります。懸念があっても,別にいけないという趣旨ではないんですけれども,この実体法レベルでの,今回取り扱うということの方法,規定の仕方等をお知らせ願いたいということと,それとの関連で,実体法レベルでどういう側面で優劣が登場してくるのであろうかと。


  弁済期において支払いができる場合には,別に優劣の議論ではないですと,たしか解説があったと思うんですけれども,それでは,受益権と信託債権が同時に弁済期が来れば,足りなければ優先するものが払うと,これはこれで簡単な話なんですけれども,倒産する前の話ということで考えると,来るべき将来,不足することが予想されている場合に,受益権に対して支払わないということが,その優劣から来るのかどうかとか,実体法レベルで規律した場合に,どういう側面においてその実体法が適用されるのであろうかというあたり,特に弁済期においては問題ないんだけれども,いつかそうではないときが来る。

  そうするとこれは,いつかが近い将来なのかずっとなのかということになると,またもとの議論に戻ってしまって,最終的に言うと大概と不当利得になるのではないですか議論が登場してしまうかもしれません。その議論をぶり返す趣旨ではないんですけれども,その辺をお知らせ願いたいということと。

  それと反面的な趣旨で,そうすると優先権を持った債権者というのは,受託者に対して一般債権者としての地位以上に優先権としての何らかの法的な権利を取得し,そうするとそれの義務を履行しなかった受託者に対して法的な責任を負うというような,そういう,今までは何か優先劣後というのは反射的なあれで,それは契約で決めますから,何ら優先の方には権利を与えていないようなのが普通の契約条項の取り決めの仕方なんですけれども,ある意味では優先の方にも何らかの実体法的な権利が与えられるようになるかとか,ちょっとその実際にこの優先劣後を規律するという前提においての議論として,その辺をちょっとお知らせ願えればと思います。

● 規定の仕方というのはなかなかどういう例があるのか,これからよく考えていかなくてはいけないなというふうに思うんですが,例えば相続財産破産の局面ではありますけれども,相続債権者の債権というのは,受有者の債権に優先しますというような書き方がされていたりします。


  優先するというふうな書き方をするというのも,もちろん1つあるでしょうし,あるいはここにありますように,劣後するということでおくれるというふうな書き方もあるのではないかなという気がしておりまして,そこは実質の表現の仕方,どういうのがいいのかというのは,また何か御意見があれば教えていただきたいんですけれども。

  その働く局面がどういう局面かといえば,基本的には執行,破産等々,民事裁判手続の中で,配当を受ける段階で,実体法上の優先順位に従うということがございますので,その局面で働くのではないかなという気がしております。


  それで,先ほどおっしゃった恐らく倒産状態というか,支払い不能に近いような状態で,支払ってしまうと偏頗弁済になりますねというような状況でどうしたらいいのかというのは,恐らく,よくわからないのですが,優先劣後構造になっているから出る問題というよりかは,同順位の中で支払い不能になった状態で,一部債権者に支払っていいのかというような話があると思うんですね。


  その局面と,何か劣後させたから大きく変わるのかなというのが,何か,すみません,にわかによくわからず,同じような問題なのではないかなと。


劣後するかどうかにかかわらず,支払い不能,一般的に弁済期より先払えないというような状況だと思いますので,その状態で支払っていいのかというようなことを言われたのかと思いますが,それは優先劣後とは,直接は関係がないような気も,今直感的にはしているところでございます。

● いかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。

● 第51でございますけれども,ちょっと違う論点でよろしいでしょうか。
  優劣についてもちょっと前回から御意見を申し上げているところでございますけれども,前回と同様,私どもとしては劣後という,ここに書かれている方向性で,すなわち優先劣後の範囲意味合いを明確にしてほしいと,整理してほしいという考えでございまして,その観点からしてみれば,今回の御提案の御説明を見ますと議論がその方向性で整理されてきたという印象を持っております。


  ただ2点,ちょっと疑問ございまして御質問いたしますけれども,まず受益債権が弁済期になるなど,当該債権が確定または具体化された場合にどうなのかという話でございます。


この点についても,私は以前,これは同順位ではないのかというふうなことを申し上げたことがございますけれども,ただ本件を見ますと,※1の注からしても,これもこの債権だとしても,他の場合における受益債権と同様劣後するという整理だと理解しております。


  ただこの点を,ぶり返しになりますけれども受益債権での物的責任とか,一般債権との差異はあろうとも,基本的には配当場面とかそういう破産状況になったときに,確定,具体化した債権としては,通常の一般債権と同じ順位ではないのかなというふうに思っていたものですから,若干違和感が残るところでございます。

  これは実務的な感覚からすると,同じエクイティたる株式とパラレルに考えていたわけですが,もちろん株式とも違うわけなんですが,ここの違いがどこから来るのかという,ちょっとこれは,同順位であるということの理屈がないからということなのかもしれませんけれども,逆になぜ確定,具体化された債権まで劣後するのかということについて,理論的な根拠をお尋ねしています。

  従前の御説明でちょっと若干触れられたのかなというふうには思っておりますけれども,ここにも書いてありますように,配当規制があるからこそ一般債権と株式の場合には議論できるわけで,逆にこのような手当てがないのであるから,やはり劣後にすべきだと,そういうような理解でよろしいんでしょうか。
  

ですから1点の御質問としては,確定,具体化した債権は劣後する,理論的な根拠を,改めてちょっと御教示いただければというふうに思っております。


  なお,付言するのであれば,劣後の手当てとして,では逆に配当規制を捨てろというふうに私は言っているわけではなく,有限責任信託の議論は別として,かような規制というのは信託の柔軟性を損なうので,すべきではないということでございまして,この点は事務局の考えと同じだと思っております。

  2つ目の御質問は,もっとも,確定,具体化した債権が劣後するとしたとしても,考えてみれば,実務的に,ではどういうときに問題になるのかなと思ったところ,やはりここの※1に書いた事案ぐらいなのかなというふうに思っておりますので,では劣後するから,違和感があるからということで,結論として同順位であるべきだというところまではこだわりはいたしません。


  ただ1点ちょっと細かい御質問ですけれども,ちょっと確認したいんですが,先ほどの○○委員の御関心にも関係するわけなんですけれども,確定期日に弁済を受けることができなかった受益債権者が相殺をするといったときに,受益債権が劣後債権であることを理由として,他の一般債権者との問題とならないということを確認したいと思います。


  つまり,実際発生したものについての回収場面において,劣後というときの意味合いの話になりますけれども,これは前回の私の関心と重なりますが,劣後というふうに整理した場合に,破産における配当における劣後ということはわかりますけれども,その他の回収手段,これは抵当権をつけるとかいうことも含みますけれども,受益債権者が相殺によって回収する場合には,別段一般債権との関係では問題にならないと。

もちろん信託法の相殺制限の範囲内ということを前提としますけれども。という点を,ちょっと御確認したいと思っています。

  以上です。

● いかがでしょうか。
● まず前者の方の,確定した分について,なぜ同順位になるのかという話ですが,そのもう1歩前に,まず大前提として,受益債権を信託債権に劣後されることについての理論的説明があるんだと思います。


その点については,この資料の中では3の(1)のところで,一応2つの,これまでもずっと指摘されているところでございますけれども,そういった理由を挙げさせていただいていると。

  まずここについて御納得をいただけるかどうかが1つの分岐点だと思いますので,ここで御納得いただかなければ,もちろん○○委員の御質問には入らないわけで,そこは納得いただいているという大前提で,今度入っていきますと,では劣後させなくてはいけないという実体法上の関係にはあるんだと,それは合理的あるというようなときに,では確定して具体化したということの意味ですけれども,例えば配当決議みたいなものをして,具体的に配当額が決定した。それで,そういうことをした瞬間に同順位になる,そういうことを恐らく言われているんだと思います。


  ではそれが本当にいいのかどうかで,そのことと,本当はでも実体法上は劣後させなくてはいけないということとのバランスをどうとるかという問題だと思います。


その点についての1つのバランスのとり方というのが,会社法における配当規制なのではないか。つまり,過大な,上位にいる信託債権者を害するような配当額の決定というのは,いろいろな方策で実際上できない,そういうことにされているのに対しまして,信託法上はそういう手立てをつくらないんだとすれば,同順位にするということまではやっぱりいき過ぎであって,劣後化させるしかない,こういうような結論なのかなと。

  恐らく実務上の,今までの御認識とは違うということは,それはあるんであろうとは思うんですけれども,他方で実務上の認識と申しましても,今まで信託財産の破産というのもございませんでしたし,実際信託が破産状態になるということも,理論的にはいろいろあったんでしょうけれども,現実問題としてはまさに直面したというほどのことはなかった。そういう状態での議論だったということなのかなという気がいたします。

  ただいずれにしてもその大前提は,信託債権に対して受益債権は劣後するんだというところは,そうなんだろうなというところを,お認めいただいた上での話だと思いますけれども,今の点はそういうことになるのかなと思います。

  それから相殺の関係ですけれども,各種の相殺規制,いろいろな法律にありますけれども,そういった中で行われる分には,問題はないということではないかなと思っておりますが,何か間違いがあったら御指摘いただきたいですけれども,とりあえず私はそう思っております。

● ありがとうございました。わかりました。
● ○○委員。
● 違う点ですが,追加の点で,先ほどから議論しているノンリコースローン,この中でも責任財産がいて,特約つきの,貸主ということ出てきますけれども,合理的な解決の方法として,身分が下がって受益債権と同列に扱うという対応なんですけれども,このコンテキストにおいては,それなりに合理性があるのかなという気はしないでもないんですけれども。

  銀行の方々の関心かもしれませんけれども,昨今は通常の事業法人とか個人に対して,住宅,アパートローンや何か,ノンリコースローンをしています。

それは信託のコンテキストではありませんけれども,そういう場合に,その債権の地位が,他の一般債権よりも借主さんが倒産したときに下がるという議論はないと思うんですけれども,こういう信託の実体法,又は信託の倒産という側面だけ,そういうことを規律するということが,他への影響とかあり得るのではないのかというのが,ちょっと私なりに心配といいますか,整合性の議論ももちろん背面であるんだとは思うんですけれども,その辺についてどうかというのと,あとは,ノンリコースローンの特約というのにもいろいろ程度の差があると思うんですけれども,それによってあるとき身分が極めて低い立場になるというのも,なかなか整理として難しいのかなと思うんです。


結論としてはやむないと思っているのでいいので,どちらかといえば質問としては前者の方なんですけれども,それについての御意見いかがかと思うんですが。


● 私の方がうまく理解できているのかどうかわからないですけれども,物的有限責任とかといったところが理由で受益債権を劣後化しているわけではなくて,受益債権劣後化の理由は,ここに書いてありますとおりのところですので,それが一般のノンリコースローンの順位に波及するということはないのかなというふうに思っておりましたけれども。

● 一応切り離して考えたいということだと思いますが。

  ほかにいかがでしょうか。--よろしゅうございますか。なお,いろいろ御議論があるかもしれませんけれども,今確認できたことは,基本的に受益債権を劣後させるという大きな考え方については,一応御理解いただけると。


  これが実体法上の優劣だというときに,どういう場面でもって影響が出てくるかということについては,これはちょっと規定の仕方の問題もあるかもしれませんけれども,一応の考え方については,○○関係官から今説明がありましたけれども,多少解釈論の問題も残されていると思いますけれども,これについては,そういう意味で,すべてここで全部詰め切れているわけではございませんけれども,基本的な考え方をもとにして考えていくということになるんであろうと思います。

  それでは,大変急がせて申しわけございませんけれども,もう少しだけいかせてください。

● 次は,受益者の指定変更権と目的信託のところでございます。

  第60からでございますが,これは一般の受益者指定変更権の問題でございまして,特に受託者がこの権利を有する場合のデフォルト・ルールのあり方について御審議いただければと思っております。


  試案におきましては,受託者以外の者が変更権,指定権を有する場合と,受託者がこの変更権等を有する場合とでデフォルト・ルールを逆転させておりまして,受託者については,遺言によって行使することはできない,かつ,死亡に伴い新受託者に承継されるとしておりました。

  これに対して今回の提案では,あくまでも一般原則の場合と同様に,遺言によって行使することもできますし,死亡に伴い承継されないとすることに改めたものでありまして,このような考え方に変えた理由につきましては,資料中に記載したとおりでございます。


  あくまでデフォルト・ルールに過ぎないものではございますが,このような考え方の妥当性につき,御意見があればお伺いできればと思っております。

  次に,遺言代用信託における変更権等の問題でございまして,この新しい資料で言いますと第61ですね,ここについてでございますけれども,主として次の2点について御審議をいただければと思っております。


  まず遺言代用の信託に関する規律を設けることについて,賛成意見が多数を占めましたけれども,現行相続法体系との整合性に疑問があるという指摘がございました。


しかし,この意見は,具体的には受益権の付与と,遺留分減殺及び特別受益の持ち戻しの対象との整理がついていないということを指摘するものだと思われますけれども,受益権の付与は遺留分減殺や持ち戻しの対象となると考えられますし,その評価も決して不可能ではない。


十分可能であると考えられるのでありまして,遺言代用の信託に関する特則を設けることを否定する理由とはならないと考えております。

  次に,遺言代用の信託におきましては,提案1にありますとおり,委託者が死亡するまでの間は,受益者としての権利義務を有する受益者がいないことをデフォルト・ルールとしておりますが,パブリック・コメントにおきまして,このような制度を設ける以上,委託者が死亡するまでの間は,委託者が受益者としての権利を行使できる等の手当てをすべきであるという指摘がございました。

  今回の提案2におきましては,基本的にこの指摘を容れまして,遺言代用信託の委託者につきましては,提案1により受益者として権利義務を有する者が存しないこととなる間におきましては,受益者としての権利を行使できる者がいない点において共通性を有する目的信託における委託者の権利と同様の権利を委託者に付与することとして,一般の信託の場合よりも,委託者の受託者に対するガバナンスを強化してはどうかと考えるわけでございます。

  ちなみに,死亡後受益者に委託者死亡前から受益者としての権利義務を有することを定められている場合ですとか,他にも権利義務を有する受益者がいる場合は,このような委託者に権利を付与する必要がないわけでございまして,あくまでもほかに受益者としての権利義務を有する者がいないという場合でございます。

  具体的に委託者にどのような内容及び性質の権利を,目的信託と並べて付与するかにつきましては,次の目的信託のところにおいて御説明したいと思います。


  目的信託,第69でございますが,公益信託以外の信託で受益者の定めがない,このような目的信託につきましては,資料中に書きましたとおり,民間資金を導入した非営利活動の受け皿としての機能が期待されるということですとか,資産流動化目的に有用であることなどを理由に,その有効性を支持する見解が多数を占めております。


  そこで今回の提案におきましては,目的信託の有効性を一般に承認した上で,他方におきまして,濫用の恐れやガバナンスの欠如への懸念にも配慮して,まず提案2のとおり,その存続期間,有効期間を設定から20年に限定しまして,さらに提案3のとおり,目的信託の委託者の権利を,一般の私益信託における委託者の権利よりも強化することとしてはどうかと考えるものでございます。


  なお,目的信託における委託者の権利の具体的内容は,別表に詳しく列挙させていただいたところでございますが,要するに一般の私益信託と異なりますのは,第1に,信託行為で制限できないものとされている受益者の権利につきましては,強行規定,すなわちこの表で言いますと「◎」として委託者に付与することとしまして,さらに第2点として,35番以下の通知・報告受領権ですとか,免除・承認権につきましても,これもデフォルト・ルールとして委託者に付与することとしているわけでございます。

  もっとも,受益者の存在を前提とします,例えば配当請求権や受益権取得請求権はもちろん,信託監督人や受益者代理に関する権利,あるいは他の受益者の情報を求める権利などにつきましては,当然のことながらここには入ってこないということになります。


なお,特に,一般の私益信託と異なりまして,目的信託につきましては,詐害信託取消権の要件を緩和するということと,いわゆる信託宣言により目的信託を設定することはできないとしているということにも御留意いただければと思います。
  以上でございます。

● それでは,ここまでの御議論をお願いいたします。
  もちろん,大体よろしいということであれば,あえて寝た子を覚ます必要はないんですが。

  第60はいかがでしょう。どうぞ,○○委員。
● 第60のところの部分でちょっと確認なんですけれども,受益者の指定権等が行使される場合において,効力が発生する時期というのがちょっとよくわからないんですけれども,これはいつ発生する。


● これ,以前の資料には書いておりましたが,受託者以外の者が指定権を行使するときは,受託者に対する意思表示によって,行使しまして,それが到達したときに効力が生ずるということになります。


  あと,受託者自身が変更権を有する場合には,これはその行使によって受益者となる者に対する意思表示によって効力が生ずると。それについては,規律に入れていくということになると思います。

● どうぞ。
● 目的信託についてよろしいでしょうか。

  当省,例えば地域の産業クラスターづくりですとか,あるいは地域の中小企業支援などやっておりまして,そういったところからの要望を聞いていますと,例えばこういうケースがありまして,こういった金の使い方として,ここにパブリック・コメントにはそれで意見の概要ということで書かれておりますけれども,補足いたしますと,例えば大企業が,精密機械ですとか,あるいは計測機械,高価な物をこういった形で利用しまして,例えばある地域の工業団地ですとか,あるいは産学連携とか,そういった形での中小企業者がそれを利用すると,そういう,例えばインキュベーター施設をつくろうと。


  こういう場合について,その当該機械について,これ当然各中小企業では買えないというような場合について,当該地域の特定の企業と,実際に請け負うところについては当該地域の特定の者について委託をして,その人が受託者となって,その当該機械等を信託財産とするような目的信託,これを設定すると,ちょうどそういった地域の,ある程度は限定されているけれども,特定の者には限定されないという,そういった中小企業等の利用のニーズというのにこたえることができるようになるのではないかということが考えられております。

  それから福祉等での利用の例がここに並んでおりますけれども,例えばこれも使い方としては,ある特定の地域の企業が,例えば社会福祉法人等に,一定の金銭ですとか財産的な価値のあるものを信託しまして,その当該社会福祉法人等がいろいろなケア施設ですとか,リハビリ施設等,そういった高齢者ですとか身体に障害のある方,こういった方のケアをするような施設,こういったものについての目的信託,これを設定することで,ある意味ではいろいろと企業の社会貢献,地域への貢献,こういったことのための手段ということでも使えるようになるのではないかという形で,ある程度地域でのいろいろな利用というのが,この目的信託については活用可能ではないかというふうに考えているところでございます。


● 今おっしゃったような使い方が,まさにできるんだろうと思いますね。
  ポイントは,いずれにせよ,公益信託というものが今後できるかどうかわかりませんけれども,それに近いようなものもあるかもしれませんけれども,そこまでいかないようなもので,受益者がとにかくいないというタイプの信託,こういうものの使い道として,今のようなことがあると思います。
  ○○委員。


● 今のことに補足なんですけれども,例えばこういうこともあり得るかなという例なんですけれども,起業なんかを促進するために,業界団体とか経済団体のようなところが,ある一定のお金を出して,基金,信託をつくって,非常に優秀な技術やアイデアを出してきた何か母体に対して,支援をしますよと。
  

そういうような形での,したがって,信託の時点では受益者も決まっていないしあれなんですけれども,そういう形で,今までだと恐らく財団法人か何かの形態をとらざるを得なくなるのかもしれませんが,これは信託という形を使うことによって,容易にやれる。そういう可能性も出てくるかなというように思います。

● 今のようにして,仮に何か給付とか支援を受けるという人が出てきたときに,その人は,決してしかし受益者ではないと。そこがポイントだと思いますけれども,今のような遣い方も十分あると思います。
  ○○委員。


● 以前から導入については賛成なものですから,同じように賛成の意見を述べさせていただきたいんですけれども,例えば,もうここに書いてありますけれども,オープンソフトのソフトウェアなんか,現状は何ら仕組みもなく使っている形ですけれども,十分有効性があると思うんですが,そうすると,期間は長いほうがいいと,幾らでも長ければいいという議論とは違うんですけれども,ソフトウェアの存続期間であればよりいいとは思うんですけれども,これに関しては,どこで区切るのかという,所有権のところから20年と聞いていますけれども,先ほどの事業の場合も,20年後にどうなるのかという議論があると思います。ただ,あるとないとでは全然違うので,これが導入されれば非常に有用だと思います。


  あと流動化の観点ですと,流動化のために入れる必要はないんですけれども,これが入ると,ケイマンのチャリタブル・トラスト代替手段として中間法人を使っていますけれども,中間法人自体も法律が今度かわりますし,本来の姿であるところの目的信託を使ってそれを達するということも可能になります。


  ただ昨今一番ボリュームの多いのは住宅ローンなんですが,その住宅ローンで,一応住宅ローンは30年とかあります。そうすると20年というのは,では住宅ローンの期間として適切なのかという。


ですから20年というのは十分長いんですけれども,一般の取引においては20年以上の取引というのはないはずなんですけれども,美術館にしろ,あと図書館をつくるとかですね。


  目的信託の本来的な姿で何かしようとすると,財団と極めて類似でも非常に軽装備でできるものなので,そうすると,できれば20年がさらに延長できるような形とか仕組みとかもあればと思うんですけれども。

● ここ20年というのは,いろいろなやり方があると思いますけれども,ここで絶対的に終わるというものでは恐らくなくて,ここでとにかく一遍は見直すという,そういうことなんだろうと思うんですね。


ここで前の信託を存続させながら,延長という言い方はちょっと微妙かもしれませんけれども,ある種の延長をするとか,終わる直前に,信託財産を処分するような形で,同じ目的で処分して続けるというようなこともできるかもしれません。

  ただ税の方がどういうことになるのか,ちょっと気にはなっておりますけれども。そういうところの手当てさえあれば,この20年の期間に,とにかく一遍は考慮して,続けるか続けないかをとにかく受託者としては判断しなくてはいけない。


  続けるときには,何かとにかく手を打って続けることが可能なんであろうというふうに思います。

● どういう形になるんですか。
● ここではしたがって,絶対に20年を超えて延長するようなことが一切できないということまで言っているものではないと。20年で一応終わるのが原則ですけれども。あまり言い過ぎるとあれかもしれませんけれども,例えば,これは信託宣言にも関連してくるかもしれないけれども,前の受託者が再信託を,あるいは信託宣言みたいな形で持って再信託をするとか,何かそういう方法もあり得るのかもしれません。


  ここで今,そういうところまですべてだめだと言っているものではないというふうに理解しております。

  ○○委員。

● 目的信託について疑問を呈する立場というのは2つあって,1つは受益者を中核とする伝統的な信託のイメージと違っているではないかという理念の問題が1つある。


  それからもう1つは,これによって何らかの副作用と申しますか,弊害が出てこないだろうかということがあって,他方で,非常にこれは有用な制度であるということで,今回両方の,理念の点は違うかもしれませんが,両方のことを考えた御提案だと思います。

  それを前提として,私自身ちょっとまだ,いいのかなという気持ちはあるんですけれども,仮にこれを前提とした場合に,二,三,御確認というか,御質問したいと思います。


  1つは,先ほど来出ております非営利法人法制との関係ですけれども,この非営利法人法制の中で,非営利で非公益の財団というのが認められるかどうかというのはまだわからないかもしれませんが,仮にそれが認められたとすると,それとこの目的信託との機能分担をどのように考えるのか。


  それから逆に,それぞれについて弊害防止策ということが講じられていると思うんですけれども,それ両者,やはり並び併せて検討する必要があるのではないか。


そうしませんと緩い方に流れていって,かえって制度全体としてうまくいかなくなるだろうと思います。そうしますと,今の○○委員のおっしゃった延長の仕方というのは,これは結構重要な問題になってくると思いますので,そこはさらに詰めていただければいいと思います。


  それからあとは細かい問題ですけれども,詐害信託について委託者だけの詐害意思で判断するということになっておりますが,これは破産における否認の場合も同じと考えてよいかどうかです。


  それからもう1つは,遺留分減殺についてはどうなんだろうか。当事者双方の認識というときに,だれの認識を考えるのか。受託者を考えるのかどうかというあたりです。


  以上です。

● どうぞ。
● まず1つ目の,非営利の財団法人が仮にできた場合の役割分担というお話かと思いますけれども,まさしく○○委員が御指摘いただきましたとおり,非営利の財団法人自体は検討中だと思いますけれども,仮に非営利財団法人の要件として,まだもちろん検討中だとは思いますけれども,何らかの設立時の出資金額規制みたいなものが仮にかけられるとしますと,それ以上の財産がないとあちらの方では設立すらできないということになるかと思いますが,こちらはそういう設立時の財産規制自体はなく立ち上げることができるというような違いは,まず決定的に1つ違うのかなと思います。

  それから法制的な議論ではなくて,機能論的な議論かもしれませんが,仮に財団法人をつくるというふうになりますと,1つ法人をつくって,そこに外からそれを管理できる人,役員のような形,あるいは使用人のような形で連れてくるというイメージになるかと思いますが,この信託スキームを使う場合におきましては,だれかから連れてくるというよりは,あなたの持っている組織体としての機能というものに着目して,あなただからこれをあなたにお願いするというような形で。


  こういったものを仮に法人でやろうとしたりしますと,組織体の持っているノウハウ,組織に化体されたノウハウの人たちを,みんな法人で雇わなくてはいけないという話になるかもしれませんが,そうではなくて,既にそういう有機的なノウハウがある方々のところに,あなただからこの財産をお願いして,一定の目的のために使ってもらうというような使い方で,機能分担というのが図られるのではないかなというふうに,ニーズを伺った中で,そのように感じております。


  それから2点目の,破産の場合も否認の場合も,それはまさしく同じような取り扱いになるのではないかなと思いまして,それから向こうの濫用防止とこちらの濫用防止をそろえなければいけないということなのでございますが,私どもの方は,いわば受託者と言われる人の主観的要件を問題にすることなく,委託者の主観的な意思で常に詐害行為の取消権の行使は可能だというふうにしておりまして,これは,要は債務者以外の者の主観的要件を問題とせずとして取消権を行使できるというのは,なかなか他の法人制度,とりわけ非営利の財団法人とかいったような場合でも,これはないのではないかというふうに思いますし,あちらの方は恐らく法人ですから,期間制限というのはかからないと思いますので,その意味でこちらの方の期間制限があるというのもございます。


  それから会社法の824条並びの規定を設けて,もし仮に,これは直接目的信託に直結する問題ではございませんけれども,不当な信託がつくられたときは,終了することもあるということでございまして,その意味からいきますと,濫用防止措置という限りにおいては,一応私どもなりに万全を尽くしたかなというふうに自負いたしておるところであるかというふうに思います。

● 目的信託も,なお○○委員が言われたように,いろいろ検討しなくてはいけない点はたくさん……。

  どうぞ。先に○○委員,その後○○委員で○○幹事。
● 目的信託につきましては,業界でもちょっと議論したんですけれども,今の○○幹事であるとか,○○委員が言われたような形の目的で設立してやっていくというのは,非常にいいことだろうと思いますし,信託業界の方でもやはりそういうふうに利用すればいいなという意見はあります。


  一方で,全体観からいくと,やはり消極ということで,これは信託宣言と同様にやはり弊害が非常に大きいということで,私は確認しておりませんけれども,議論の中で出たところによると,欧米ではマネロンに使われ始めているということで問題になりかけているというような意見もありましたし。

  それと私自身の疑問としては,目的信託で非営利的というか公益的な形で使われる部分と,基本的に自分の範囲内で使われるもの,例えば以前出ていました,民事信託でペットの信託とかというのがあったと思うんですけれども,それで考えると,基本的には自分のための信託に近いようなものから,要するに,他人の,もう完全に他人に移転してしまったのと同様の信託,それがごちゃまぜになったような状況なのではないかなということで。

  例えば税のこと,これは税の議論をする場ではありませんけれども,例えば公益信託で信託したときには,それが相続財産に歳入されるかどうかというのは以前かなり問題になりましたけれども,基本的には自分の財産から離れているのか離れていないのかというのが,目的信託の場合はよくわからなくて,よくわからないというのは,もちろん目的信託だからよくわからないんですけれども,その辺のところの整理がなかなかつきづらいんだろうなという感じがいたします。

  すみません。方向性として反対ですというほどのことも言えませんけれども,議論している中で,そういう弊害もありましたということだけを,ちょっとお伝えしたいと思います。


● ○○委員が言われたのと共通する面がありますけれども,非営利法人の方にも,恐らく同じような問題があって,そちらでの無条件に全面的に認めるのではないということになると,やっぱり同じような議論を,こちらでもせざるを得ないのかと思いますね。

● みずからのところに近いところであるとすると,委託者が権限を持つというのは,完全に意味がなくて,それは何をやっているのかあまりよくわからない。

弊害の防止ではなくて,委託者が権限を持って委託者がやっていくというのは,弊害防止には何も役に立たないのではないかなというふうに思いますので,ですから絶対だめですという話ではなくて,その辺の整理が,ちょっとついていない状況なのかなというふうに思いました。

  それと,すみません,流動化の関係で,これというのは使えるんですか。委託者が権限を持って,これは強行規定で持つんですよね。それでもそこは割と使いやすいということなんでしょうか。

● 信託宣言に伴って,目的信託を使っている,バミューダとかケイマンとかですけれども,一番,ご存じだと思うんですが,資産流動化法の持分信託が,ある意味では目的信託類似だと思うんですけれども。現行法ですから持分信託にしているんだと思うんですが。

  なおかつ現在の案と言いますか,なおかつそれが妥当だと思うんですけれども,基本的には信託をいじくるとか,受益権をどうこうするのではなくて,監督的機能なので,将来的には格づけ機関がどう判断するかでもいいんですけれども,持分信託についても格づけに元付けはあると,こういうふうに格づけは判断していますけれども,そうするとそれ以上のたてつけになっていれば,これが資産流動化に使われないというわけではないと思うんですね。

  それは使い勝手として中間法人とどっちがいいのかという議論が出てくるかもしれませんし,どっちがよりガバナンスが強いのかという議論もあるかもしれませんけれども。


● そういう観点で,何となく私自身は非常に使い勝手が悪いのかなという感じがして。だから目的信託はやめましょうという話ではなくて,そういうような目的に使うためには,そういうたてつけにした方がいいのではないかなと,逆に思いますし,要するに目的信託というもので,すべてごった煮状態になっていること自体が,有用性ももちろんあるし,弊害もあるしというところの部分で,なかなかちょっと整理がつきづらいのではないかなというふうに思っております。

● なかなか利用目的でもって類型化するというのは難しいところがあると思うんですね。今○○委員もちょっと言われたけれども,やっぱり委託者の利益のためにするものではないと。


そしてまた委託者に権限が残っているのは監督的な権限であるということで,委託者が勝手にできるような信託にはしないということなんだと思いますけれども。


  なお,いろいろ検討すべき点があることはおっしゃるとおりだと思います。
  順番に,では○○委員,どうぞ。


● 公益信託のメリットが逆にあるだけに,実際に目的信託がどの程度使われるのかというのが,疑問だというふうな意見もあるように今思ったんですけれども,それともう1つ○○委員の方がおっしゃられた,自分のために使うのか,純粋に本当に公益的に使うのか,いろいろなものがごっちゃになっているのではないかということもおっしゃったんですけれども,そのあたりについてちょっとだけ,私の考えを述べさせていただきますと,公益信託でも結局は,先ほど税法上の話がありましたけれども,個人の場合ですと,公益信託になれば寄付金控除とかで,税法上のメリットがあると。

  法人の方も損金算入されるとか,それからまた,個人のところは先ほどありましたけれども,相続財産から除外されるとかいうメリットがあるので,やはり目的は公益性であっても,結局はやっぱり自分のためというところも,やっぱりあるのではないかなと。


そういう意味では,公益信託であろうと目的信託であろうと,そこは全然かわらないのではないかなというふうに,まず思います。


  それからもう1つ,公益信託のところのメリットを財団法人と比較したようなものを見ますと,同じ認可が要るんだけれども,運営コストが非常に安いですよと。


信託銀行の方できちんと管理しますから,そんなにコストかからずにできますよというようなところがあるんですけれども,したがってまた,額がそんなに大きくなくても小さな額でも公益信託ができるというようなところが強調されているようです。

  そういったもの見ますと,またさらに目的信託として公益性までないものが,同様に使われるとなると,もうちょっと小さい金額でも使われるので,前○○委員が言っていたようなペット信託とか,あと○○委員の言われているような老後の管理関係の,特になくなった後の自分の墓の管理とか供養とか,そういったもののために使うとか,そういったものも考えられるのではないかなと。

  それからそういったビジネスを,また弁護士さんだけではなくて,事業会社も取り組んでいくということも考えられるのではないかなというふうに思われます。


  さらには,先ほどちょっと○○委員の方でもお話ありましたけれども,起業として,今度は中小企業なんですけれども,オーナーが引退すると,息子に家業を継がせたいと。


しかし親としてあまり長くいると息子が育たないので引退してしまうんですけれども,どうも受け入れ能力とか開発力とか,そういったところにちょっと心配だというときに,ファンドをつくっておいて,息子のために,この会社のために,きちんとすばらしい技術を発明するとか能力を発揮するような人に,そこの中から報奨金を支払うと,そういうような形で使うというようなことも考えられるのではないかなと。

  ということで,民事的にも,商事的にもいろいろいい目的のために使えるのではないかなというふうに考えております。


● ありがとうございました。
  では○○幹事,どうぞ。

● ○○委員は紳士なのでお品がよくおっしゃったんですが,現在の案における20年を超えて存続できないというのは,弊害を防止しようという趣旨で書いてあるのであって,この機会にもう1回考えようという期間ではないと思いますけれども。


  したがって私は,○○委員が先ほどおっしゃったものは,ほとんど脱法行為であって無効ではないかというふうに思います。そのことは記すだけにしても,発言をしておきたいと思います。

● 私が申し上げたのは,財団法人についても同じような意見があるわけですけれども,永久に存続する,信託ですから拘束を受けて存続するわけですが,そういうものについて,財の流通性を阻害するという観点から,公益についてはともかく,非営利の目的での財団法人も含めてですけれども,公益信託とかそういうものについては望ましくないという意見があるわけですね。


  それに対する,そういう立場からこれを理解した場合にはという話です。そういう場合には,財産をもう1回処分するチャンスを与えて,どうするかということを検討すると。これは財団法人についても恐らく同じ制度が,一定の期間にもう1回見直すという制度があり得ると思いますけれども,そういう観点からの説明です。

  これをしかし,目的信託にはもっと積極的な弊害があるので,とにかく20年で一遍つぶせというような,そういう理解をされる方がおられることはあり得ると思います。あるいは○○幹事もそういうことなのかもしれませんけれども。


  ただこの案が,どっちの立場でそれをやっているかということは,別に原案として明確にしているわけではないので,私の個人的な意見を申し上げたということです。


● 別にけんかするつもりもないんですが。
● これも説明のために。
● 1点だけ。
  現在の公益信託にせよ公益法人にせよ,解散時に出資者に戻っていくということにはできないわけですよね。

● 公益法人だとできますね。
● 公益法人だとできるわけですね。
● いや,公益法人というか,条文はありますけれども,実際上そういうものができないということになっていますね。教科書的なもとで,今。


● 目的信託はできるわけですね。
● できると思いますね。
● それはやっぱり,何て言うか……。


● 帰属権利者を定めることは,恐らく。受益者はだめだけれども,帰属権利者はあり得るのではないですか。概念的には。


● そうでしょうね。
● ただそれを認めないというふうにつくることは,まだ可能ですよね。
● そこが,存続を認めていくという際に,存続を認めるということが,例えばシンプル・イズではありませんけれども,いろいろなところの,また目的にそれが動いていくというだけなのか,最後はある種のところに帰ってくるんだけれども,それの期間を自由に延長できるのかということによって,大分イメージが違うんだと思うんですね。

● その点,全く同感です。
  そこはやっぱり,目的信託というものをどういうふうにつくるかということについての,皆さんの御意見に基づいてつくられていくと思いますけれども。これだけではまだ,目的信託についてのいろいろなルールとして,まだ十分なものはすべてここに書き込まれているわけではまだないので,どういうものをさらにつけ加えていくかということを,恐らく議論せざるを得ないというふうに思うんですけれども。


  それからこの四角に囲みの中ではなくて,後の方にも,先ほど私,延長するときは信託宣言という形もあり得るというふうに申し上げましたけれども,設定する段階では信託宣言という形で目的信託をつくることはやめた方がいいのではないかという説明も出ているわけでございまして,それ以外にも幾つかここに書いてございますが。


  無条件で全部認めていいというわけではないということなんでしょう。
  ○○幹事,どうぞ。


● 目的信託についてではあるんですけれども,この中身の詳細というより,今いろいろな利用方法等を伺っておりまして,若干これをどう考えたらいいのかと思うところがございますので,一応こういう問題もひょっとしたらあるのかもしれないということで。


  裁量信託との関係なんですけれども,今例に出されたものの幾つかは,特定の限定された範囲の中の人が使えるようにとか,具体的に,受益者ではないけれども,結局受益ができるという内容のものが,幾つか例としてはあったように思われます。


  そういたしますと,その規律自体としては,実は一定の画された範囲のものから,受託者が適切と思う人に受益させると,いわゆる裁量信託ではないのかと。そういたしますと,目的信託か裁量信託かによって,ここに記されましたような期間ですとか,委託者の地位ですとか,各種の規律が変わってくる。しかも強行規定でかかってくるということになると,いずれをいずれと考えたらいいのかといった問題が出てき得るのではないかという気がしておりまして。

  とりわけ,今回の信託法の改正提案の中では,裁量信託についての規律というのがほとんどないように思われますので,そうしますと,よくわからないもの同士の間で,これをどう認定したらいいのかといった問題が出てくるように思われ,どう考えたらいいのか,目的信託も,ですからそういうものでできるものは,基本的にそれは裁量信託というふうに考えていった方がいいのか,それともまたさらに何らかの切り分けを考えていくのか,ちょっと問題としてはあるような気がいたしましたので,解決の方法も何も持っておらないんですけれども,御留意いただければと思います。

● 個人的な感想ですけれども,裁量信託で受益者がいないということになれば,これは目的信託の方に来てしまうんでしょうけれども,裁量信託で,しかし受益者に選定されたものは受益者であるということになると,受益者としての信託の監督,あるいは終了とか変更も含めて一定の範囲で,受益者がその信託を左右,常にできるわけではないでしょうけれども,できる可能性があって,その部分が単純な目的信託と裁量信託と違うところなのかな。


  それによって,いろいろな使い分け,似てはいるけれども,信託を設定する者からすると,使い分けがなされるのではないだろうかと。


受益者に権限を与えて,受益者の立場からの信託のコントロールというのを認めたいと思えば,裁量信託であって,繰り返しになりますけれども,受益者に選ばれた者は受益者の権限を持っているということなのではないか。目的信託はやはり,受益者,絶対に出てこないんだと。


● ただ,受益者を選ぶかどうか,あるいはどういう受益権を与えるかどうか自体が裁量にかかっているので,そういう人が一体受益者としてのどういう権利を,どの程度で持つのかというのは,今回全く規定がないということですので,それと目的信託との機能分担があるのかどうか。


  それとも,それは裁量信託になった場合はどうなるかはもちろんわからないんだけれども,いずれにせよ委託者が適切に,思うところを設定しというところでいいのかというのがあるときに出てきた場合に,これは目的信託であると認定した方がいいのか,裁量信託であると認定したらいいのかというような問題が出てこないだろうかというのが,問題かなということです。

● 限界は難しい場合があるかもしれませんね,確かに。
  もちろん信託の設定のときの意思によって決まるものだと思いますけれども,やっぱり最低限受益者という者を定める意図のもとでつくられている信託かどうかということなのではないかと思いますが。

  どうぞ。

● 先ほど,若干ちょっと補足でございますけれども,委託者のもとに帰属権利者として最後に財産が戻ってくることもあり得るではないかというお話がございましたけれども,それは現在の公益信託でもあり得ることですし,中間法人とかいうような法制を使ったときでもあり得ることなのではないかなというふうに思いまして。


  それで濫用防止という観点から考えたときには,他のこういったある種財産の独立性を持ってやるような事業なり活動をするときに,どういう濫用防止というか,そういうところでやってはいけないことは,当然これでもやってはいけないわけですけれども,その観点から,どういう措置を講じたらいいかというところで,まず設定時を確保しましょうと。


  それから○○委員から詳細に御説明ちょうだいしたとおり,財産の永久禁止則とかいうような話にひっかからないように,20年を超えて存続できないようにしましょうと。


  それから期中で仮に何か公序良俗違反的なことがあれば,会社法類似の規定で,達成できるようにしましょうと。

  それから何のガバナンスも効かないような財産をつくっては問題だということであれば,監督的な権能について受益者と同様のものを委託者に与えるようにしましょうということで,一応多方面から考えて,一応提示させていただいているということではないかなというふうに思います。


  それで,先ほど○○委員の御指摘で,委託者の権限を行使しても濫用的な防止措置にはならないではないかというようなお話がございましたけれども,それはその受託者と言われる人が,その財産を自分の志として出資した目的に従って使ってくれているかどうか。


だれも受益者みたいな自分のところに牽制を働かせる人がいないということを寄貨として,せっかく財産を拠出した委託者という人の意思を無視して,自分のために,あるいは他の目的のために使っているのではないかということを防止できるという意味においては,それは相応に意味があることであろうというふうに考えているところなのでございます。


  また,ごった煮というお話がございましたけれども,こういう法制を考えますときには,それはお使いになるユーザーの皆様がいろいろ工夫をされて制度発展のために御努力されるというのは,それは当然のことなのでございまして,何か我々が,この目的だけにしか使わせないというような,そういう傲慢な態度で立法に臨むのは不遜ではないかとも思っておりまして。

  むしろあり得るとすると,濫用的な防止措置というものを,どれだけ他のものとの平仄に配慮しながら構築できるかというようなことなのではないかと思いまして,それでパブリック・コメントでもいろいろ,さまざまなニーズが指摘されておりますので,それを踏まえてこのような案を提示させていただいているということではないかなというふうに思います。

● 今の,ちょっと若干先ほど気になっておりますガバナンスのことで,○○委員も御指摘された点ともあれなんですけれども,受益者は要するにガバナンス権を行使することに利害関係を持つと思うんですけれども,委託者は一たん信託をしてしまうと,必ずしもそこに利害関係を持つかというと,やっぱりちょっとそこは落ちるのではないかという気がしていて,それでいき方としては,信託管理人とか信託監督人とかを置くというようなことで,そこを保管するというような考え方もあり得ようかと思うんですけれども,そういった御検討というのはどうなんでしょうかということなんですけれども。

● 信託管理人を置くというのは,当然選任請求権を「◎」にしておるところから明らかなとおり,それはやろうと思えば当然できるという前提で考えておりまして,それで,先ほど委託者というのは,出してしまった以上利害関係はないかと申しますと,恐らくそんなことはないのではないかというふうに思いまして,例えば今例として挙げられたようなものの中で,あるお金を出して,それを何か起業に貢献した方に,その奨励金として出すようなファンドをつくろうというようなときに,その受託者というのがその目的に従わず,他の目的に使ってしまっていたというようなことであれば,それは私が出した用途,私がベンチャー企業を推進しようと思って出した用途について,お金が使われていないということであれば,それは自分の志に歯向かうものですから,そういうときにはそれは当然に違法行為の差止めみたいなことだってできたっていいでしょうし,何か自分のところにお金が戻ってこないと自分は利害関係がないなどという,そんな考え方をとる必要もないのではないかというふうに思っているところなのですけれども。

● 要するに法律的なシステムとして,どういうふうに組み込むかということなのかなという気もするんですけれども,1つ気になりますのは,例えば,長期20年の信託を組んだときに,委託者が亡くなった場合に,その後だれがどういった形で実行あるいは監督できるのかという問題もあるのではないかという気はしますし,強行法規にするかどうかというところは問題あろうかと思うんですけれども,やはり原則として信託管理人をつけるとか,信託監督人をつけるとかいうあり方というのはあってもよろしいのではないかという気が,ちょっとするんですけれども。


● ちょっと時間がないので,このぐらいにさせていただきますけれども。信託管理人を設けるというのは,十分もちろんあり得る制度で,もし現在の法制度のもとでもってこういう信託が,現在規定はありませんけれども,できるとすれば,信託管理人を置くということになると思いますので,その点も含めて,目的信託についてはまだ相当いろいろ詰めなくてはいけない問題があると思いますので,検討させていただければと思います。

  ちょっと最後時間がなくなって申しわけございませんが,きょう目的信託のところまで一応は終えたことにいたしますけれども,なお議論が残っている可能性がありますので,前回最初にちょっとだけ確認のために,前回言い残した点があるかどうかというのをお伺いして,先に進めていきたいと思います。

● では次回は,本日の残りの続きをやりまして,あと新たな資料に基づきまして議論をいただきたいと思います。


  日時は12月2日金曜日で,1時から,今度はいつもの20階の会議室でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
-了-

 

法制審議会信託法部会第16回~20回

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第16回会議 議事録

第1 日 時  平成17年6月3日(金)  自 午後1時00分
                      至 午後6時15分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   信託宣言について
   信託の公示について
   信託の終了原因について
   信託の清算について
   信託財産に係る破産手続の整備について
   裁判所の監督について
   営業信託の商行為性について
   合同運用について
   遺言代用の信託における死亡後受益者の変更権の留保について
   目的信託について
   公益信託について

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● 時間が参りましたので,法制審議会信託法部会を開催したいと思います。
● それでは,今日の進行でございますけれども,終了のところだけ2つ合わせて行いまして,残りは資料の順に1つずつやっていきたいと思っております。

  皆様御承知のとおり,これで二読を終わりまして,次は7月1日と15日になりますが,そこで中間試案に向けての取りまとめ作業をお願いしたいと思っておりますので,今日は何とか最後まで,場合によっては少し時間超過することもあるかもしれませんが,よろしく御協力をお願いしたいと思います。


● それでは,今日は1つずつということですので,1つずつ説明をお願いします。

● それでは,まず最初の,信託宣言についてでございます。
  
これは前回会議における指摘を踏まえまして,新たに3つの案を提案するものでございまして,前回会議におきましては,この信託宣言の当否について,おおむね次のような意見が示されております。


  まず,肯定的な意見といたしましては,流動化取引における資金調達において,時間的・費用的コストを節約できること,あるいは損害保険会社の代理店の手元にある保険料やサービサーの回収金の資金管理スキームに有益であるというような指摘,銀行債権の流動化や事業の信託に資するという指摘,商法上のトラッキング・ストックに類した特定事業部門の切り出しによる資金調達に有益である,受託者の監督の問題については受益者によるチェックがあるのではないか,形式的には委託者と受託者は別法人でも,同一企業グループに属しているケースも多々あるのであり,実質を見た場合には異ならないのではないか,執行免脱は信託宣言だけに特別な問題ではないし,詐害行為取消しや罰則規定などの一般的な法理で解決すべき問題であるというような御意見がございました。

  他方,これに消極的な御意見としては,やはり執行免脱ということが強く言われておりまして,債権者の立場からすると,執行免脱のおそれが懸念される。


契約であれば協力者が必要となるが,信託宣言では協力者を得ずして執行免脱が可能となってしまうのであり,債務者が容易に財産隠しを行えるという事情は,この信託宣言にはどうしてもついて回る問題である。

詐害行為取消権,詐害信託取消権の行使ができるとはいっても,訴訟をやらなければならないというのは手続的に重く,取消権の要件いかんでは,これで解決を図ることは難しい。


これと同種の御意見として,やはり訴訟を行うというのは当事者にとって大きなハードルであって,詐害行為取消権の行使を要することを前提に,その要件や立証責任を緩和するといったことで足りる問題ではないと思われ,一般的に信託宣言を認めることには反対であるといった御指摘がございました。


  これ以外にも,例えば,信託宣言を有効とするとしても,いつ信託宣言がなされたのかが明らかにならないと困る場面が多いのではないかといった御指摘がございました。

  これらの問題を踏まえまして,今回は,新たに3つの案を提案いたしまして,御意見を問うものでございます。
 


 まず,甲案でございますが,信託宣言による信託の設定は,債権者詐害の危険が高いことを理由に原則として禁止した上で,現行法でも理論上,実務上認められております,いわゆる再信託についてのみ例外的に許容するものでございます。


  これに対しまして乙案は,前回会議において,信託宣言による信託の設定が認められることによって,実務上さまざまな活用の可能性があり得ることが指摘されたこと等にかんがみまして,信託制限を例外なく許容することとし,債権者詐害の危険性に対しては,詐害信託取消権等をもって対応すればよいと考えるものでございます。
 


 最後に,丙案は,いわば折衷的な見解でございまして,信託宣言を基本的に許容した上で,債権者詐害の懸念に一定の対処をしようとするものでございます。


ここでは,その対処の方法として,あくまでも一つの考え方としてでございますが,資料中に記載しましたとおり,1つは,信託財産に対する強制執行等の禁止の例外を認める方法,もう一つは,信託の効力発生時期に関する特例を定める方法とを挙げてみました。

  まず,(1)は,委託者の債権者は確かに法律上,詐害信託取消権を有するとはいっても,現実的には常に執行の前に訴訟を提起しなければならないとすれば,その負担は重いとの批判に対応するものでございます。


つまり,信託宣言の場合には,委託者の債権者は訴訟を経ることなく,いつでも信託財産に強制執行をすることができるとしまして,この強制執行を排除するためには,委託者または受託者の側で,当該信託宣言が委託者の債権者を害するものでないことを立証しなければならないとすることによりまして,委託者の債権者による信託財産への強制執行を容易にしてはどうかと考えるものでございます。

  次に,(2)の①でございますが,これは信託宣言による信託設定の効力が生ずる時期に関しまして,受託者と受益者との間の緊張関係,つまり受益者が現実に受託者に対する監督的権能を行使し得る状態に至って初めて信託設定の効力が生ずるとするものでございます。


これは言いかえますと,それまでは信託の効力が生ぜず,委託者の債権者は信託宣言された財産にかかっていけるものとすることによりまして,委託者にとっては,契約に比して信託宣言の方が相手方がいない分だけやりやすく,執行免脱が容易になる等の批判に実質的に対処しようとするものでございます。

  次に,②でございますが,①によりますと,例えば,受益者が不特定または未存在の場合には,少なくとも受益者が確定するまでは信託設定の効力が生じないこととなりますが,場合によっては信託財産の委託者からの倒産隔離の効力が長期間生じないことによる不便もあり得ることにかんがみまして,信託宣言が公正証書によってなされた場合には,①の時期を待たず信託設定の効力が生ずることとするものでございます。


このように,公正証書によってなされる場合には,信託宣言による信託設定の事実及び時期が対外的に明らかにされることになりまして,委託者が信託宣言を利用して執行免脱を図ることは難しくなると考えてよいのではないかと思われます。
 


 以上のような3つの案を踏まえまして,信託宣言による信託設定の可否についてどのように考えるべきかにつき,贈与契約による詐害行為との対比,あるいは担保・執行法制や破産法制の最近の改善内容等も踏まえまして,御審議願いたいと思います。

  以上でございます。
● それでは,信託宣言について御議論をお願いしたいと思います。
  前回の議論をもとに幾つか新しい提案が出ておりますので,それを含めて御議論いただければと思います。


● 前回と重複しないようにお話ししたいと思うんですけれども,流動化という視点からお話をさせていただきますと,流動化において,ある意味では当然のことですけれども,執行免脱ということは法的にあり得ないということを申し上げたいと思います。
  


流動化における信託宣言は,恐らく--恐らくといいますか,確実に,自益信託型となると思うんですね。


したがって,信託財産という財産の形式を考えますと,もともとの委託者といいますか,もともとの所有者の固有財産が信託財産に変わりますけれども,その時点においては,受益権ということで固有財産は保有している。


したがって,委託者の債権者というのは何ら侵害されていないことになりますと,その受益権が譲渡されることによって今度は現金が入ってきますから,したがって,委託者のバランスシート上も何ら,資産の項目が変わっただけでして,何ら変わらない。

  破産法改正の際にも,適正価格の売買であることは必要だと思いますけれども,流動性がない資産が現金に置きかわったからといって,それによって特に債権者が詐害されることはないだろうという方向性で,破産法の改正もなされたと思いますし,したがって,流動化という視点から考えますと,信託宣言が執行免脱になることは,考える必要はないのではないかということを,まず1点,申し上げたいと思います。
 


 それとの関連でもありますけれども,その他,信託宣言には,○○幹事がおっしゃったように多様な利用のされ方があると思うんですけれども,1つは,本来もともと他人のものというんでしょうか,弁護士の預かり金でもそうかもしれませんし,今,おっしゃった保険会社,損保会社の代理店の預かり金もそうかもしれませんけれども,本来であれば他人のものが,現金という形式をとったがゆえに,占有者イコール所有者ということで預けた人に帰属してしまっている。


それを信託宣言ということで本来の帰属者を帰属者として帰属させる。この場合には他益信託型なのかもしれませんけれども。


  その場合も,今度は逆に,執行免脱ということもあり得ませんし,信託宣言をされた方が財政状態が苦しいときに信託宣言をすることによって,本来の受益者が救済されるわけですから,余り執行免脱の点を強調すると,信託宣言の正しい利用というものが逆に阻害されてしまうのではないか。


贈与型のものに関してだけ,執行免脱的な議論というのは登場するのかなと思います。


  それとの絡みで,甲案,乙案,丙案の関連ですけれども,丙案というのは立証責任の転換をした--だけではないんでしょうけれども--というのが大きなポイントかもしれませんけれども,丙案の(1)そのものが,現行の信託法第16条の信託財産の独立の原則を,ある意味では変えてしまう議論でございまして,それは,信託宣言を通常の信託とは違う信託と,要するに,信託宣言によって信託が設定できるだけではなくて,ある意味で違う信託として概念づけるような感じがいたしまして,詐害性云々という議論に関しては,通常の信託と同様に信託宣言においても考えていけば,ほぼ十分なのではないか。

足りない点は,場合によっては様式性とか違うところで議論して,一たん信託宣言によって信託が開始された以上は,通常の信託と何ら異なるものではないということで取り扱うことが望ましいのではないか。

  そうでないと,信託宣言で,仮に流動化でもいいですけれどもした場合,紛争になって,その時点において過去に遡って,信託宣言した,過去のある一時点において債権者を害するものであったかどうかが争点になってしまう。


そういう状況では,恐らく信託宣言をした委託者は財政的にも非常に問題がある場合でしょうから,非常に紛争が紛糾してしまって,逆にそういうものでは使いにくいということで,使われなくなってしまうのではないかという懸念を感じます。


● 結論的には,信託の設定の日を虚偽に遡らせて報告するということに対する何らかの歯どめを置けば,信託宣言を認めていいのではないかと思うのですが,しかしながら,現在予定されているこの信託宣言がどのようなものであるのかについて,2点質問をさせていただければと思います。

  先ほどの○○委員の御発言に関連して,すごく気になったんですけれども,○○委員は,自益信託で,信託宣言で信託が設定される場合をおっしゃったんですけれども,そういうものは認められるのかということなんですね。


これは英米では一般には認められていない信託宣言ではないかと思います。


しかし,もちろん今回,受託者と受益者がイコールになったら即時に信託が終了するのではなくて,ある一定期間は休眠といいますか,受託者がその受益権を再び処分するという前提のもとに,信託の即時終了を起こさないという条文を置こうという話が出ておりますので,場合によっては,設定時にも一時期,3人が一緒になることを認めるということも,あるいは可能なのかもしれませんけれども,何かそのあたりは私は違和感がありまして,どうお考えなのかお教えいただければというのが第1点です。
  


第2点は公示の問題なんですが,例えば,信託財産が不動産であって信託宣言がなされるということになりますと,これは当該不動産が信託財産である旨の登記をしなければならない。


これは単独申請でできるというのが現在の不動産登記法の手続の中にあって,それにのるわけですが,○○委員のお話を伺ったり,あるいはこのペーパー,あるいは○○幹事の説明を伺っておりますと,何か中心になるのは,金銭債権が信託財産として信託宣言がなされるときのような気がするんですね。

  さて,このときどうするのか。もうそれは,「この債権は信託財産である」という一方的な宣言で足りるという見方ももちろんあるでしょうが,債務者に対して「あなたの負っている当該債務は信託財産になった」「信託が設定された」ということを,確定日付ある書面によって通知または承諾をしなければ第三者に対抗できないということも,あり得ないではないような気がするわけです。
  


なぜそんなことを言うかというと,結局,公正証書を要求するということが,日付を遡らせることを妨げる唯一の方法ではないような気がいたしますので,2点目につきまして,解釈論になるのかもしれませんけれども,もしお考えのところがあればお聞かせいただければと思います。

● 御指摘の点,私個人の現時点での考えでございますが,前者につきましては,特に自益,他益を区別して議論していたわけではございません。


  そうしますと,今,○○幹事がおっしゃったように,信託設定当初の段階では3者が同一という自益信託もあり得るわけでございますが,御指摘のとおり,過去の提案で,その場合には一定の時期までにそういう状態が解消されなければならず,したがって,受託者と受益者が同一という事態は解消されるだろうということを踏まえまして,信託宣言が許容される以上は,3者が同一というものも排除する必要はないのではないかと考えております。


  第2点目につきまして,金銭債権の信託宣言につきましては,債務者に対する通知,承諾ということをもって債務者に対する信託宣言の対抗要件,あるいは他の債権者に対する,第三者に対する信託宣言による信託設定の対抗要件ということにするのが平仄の取れた考え方ではないかと考えております。

● 私も,遡らせるのを避けるためにはいいような気がするんですが,通常,信託事務の執行として,第三者に対して債権を取得することになって,第三者が,当該債権が信託事務の執行により生じたものかどうかが不分明である場合に,別に第三者に対して伝えるという制度にはなっていないわけですよね。

つまり,債権というものはそういうふうに,信託財産であるのか固有財産であるのかは所詮,公示されていないんだというふうに見ることもできるような気もいたしまして,そうすると,設定のときだけ必要だということになりますと,今度は設定のときの,日付を遡らせるのを避けるための特別な規律であると考えるのが1つあると思いますし,いや,債権についてもそういった形の公示制度を置くんだというのは,もう一つの考えとしてあり得ると思うのですけれども,ちょっとそのあたりが,公正証書の作成を要求するかどうかに若干関係してくるかと思いましたので,一言述べさせていただきました。

● 我々としても公正証書というのは,日時を確定する必要があると。


遡らせるのはよくないという観点もあって,要求している点が1つございますが,金銭債権が信託宣言された場合につきましては,御指摘を踏まえて,なお検討させていただければと考えております。


● ちょっと今,理論的な問題というんでしょうか,最初から3者一体という形でいいのかどうか,あるいは財産が金銭債権である場合の対抗要件……,信託財産であることの対抗要件なのかな--で,債務者,それから第三者との関係,両方問題がありますが,それと公正証書との関係などが問題となったわけでございますが,いかがでございましょうか。

● 多少違った観点からになるかもしれませんが,信託宣言という場合,具体的にどのような形で行われるのか考えたときに,恐らく流動化の場合には,契約書といいますか,文書がつくられることになろうかと思いますけれども,一般の形で信託宣言という要件を考えたときに,どういうことになるんだろうか。


恐らく口頭で宣言しただけというわけにはいかないと思うので,何らかの要式行為的な要件を定める必要があるのではないかという感じがしております。

それで,債権者詐害の弊害の除去というのは,この要式行為の工夫を図ることによってやるのも一方法ではないかと考えております。


  先ほど来から御指摘がありましたように,恐らくこの信託宣言の債権者詐害の問題というのは,他人を巻き込まずにお手軽に執行不能財産をつくれるという点にあろうかと思いまして,この点を回避するためには,信託宣言を行う際に,第三者,できれば公的ないし中立的な立場の第三者がかかわることが望ましいかと思いますけれども,そういったことと,あと,日付を遡らせることができないようにすることが,先ほど来からありますように,重要なのではないかと思います。

  そうすると,丙案の(2)の②に公正証書ということが言われておりますけれども,これは確かに一方法で,こういった形で制度を工夫していくことが一つの方向なのではないか。


ただ,ここには公正証書としか書かれておりませんけれども,公正証書に限ることなく,同じように第三者がかかわって日付を確定させるというような手段,例えば,法律家がかかわって文書を作成して確定日付を得させるとか,そういったいろいろな工夫があってもいいのではないかと考えております。

  ちなみに,先ほど○○委員からも多少指摘がありましたけれども,丙案の(1)は,信託の安定性という観点からはちょっと問題があるような気がしますし,(2)の①も,恐らく受益者が知ったのはいつかということが争いになると思われますので,やはりちょっと難点があるのかなという気がしておりまして,②の要件を工夫していくことが一つの方法なのではないかと感じております。

● ○○委員の第1点目の御指摘で,流動化の部分での執行免脱というのは起こりづらいのではないかというお話がありましたけれども,流動化を前提にいたしますと,よく起こる類型としては,これはこの前,申し上げたんですけれども,やはり二重譲渡というのが非常に考えられるのではないか。


これは信託宣言ではなくて,普通の今,行われている流動化においても,債権の信託等についてはいつの間にか,もともとになる債権がないのにそれを引当てとしたような形の受益権が発行されていたというようなことが,事故として何例か起こっていると聞いております。


そういう弊害が類型的にあるのではないかということが1点です。
  

もう一点は,この会議は基本的には信託業法について検討する場ではありませんので,その規制内容についてお話しするつもりは全然ないんですけれども,信託宣言という一つの類型を考えた場合に,常に委託者が受託者になるわけですから,例えば民事信託で,個人にファミリートラスト的なものをやるんであれば,それは業の関係外のところにはなりますけれども,それ以外で,例えば営利法人であるとか商人がやる場合については,これは常に「業」ということになってくると思いますので,それはイコール業法の規制を受けることになると思います。

  前回,いろいろな方々から信託宣言のニーズが言われましたけれども,これは多分,ほとんどが信託業に当たるんだろう。

そうすると,例えば事業の信託をある委託者が,例えば信託銀行でも信託会社でもないところがやるということは,それについてどういう規制をしていくのかが常に--その規制の内容をどうするかということを議論するのではなくて,常にそういうことがかかわってくるということを十分認識の上で,御議論いただきたいということが2点目でございます。

● 流動化,証券化の観点から信託宣言を用いる方法として,前回申し上げた例が幾つかあるかと思うんですけれども,その1つが,現に○○銀行を初め一部の信託銀行が,住宅ローン債権を証券化する際にSPCを設けて,一たんSPCに債権譲渡して,SPCを委託者,自らを受託者とする信託を設定して,その信託受益権を譲渡していくといった形の住宅ローン債権の流動化,証券化を行っているところです。

  信託銀行が現にこのような形で住宅ローン債権の証券化を行っている意図としては,恐らく現--そもそも個人に対して住宅ローンを貸し付けた立場で,もともと自ら管理していた貸付債権,住宅ローン債権を引き続き管理し続けたい,受託者として管理し続けたいということにあるのではないかと思います。


そういう意図を最も単純にといいますか,実現させるには,もし信託宣言が可能であれば,SPCをつくってSPCに一たん債権譲渡して,SPCがオリジネーターである信託銀行を受託者として信託設定するというような一連の行為は必要なくなって,行おうとしていたことが実現できるのではないかと思います。
  


このような仕組みでの住宅ローン債権の流動化,証券化は,我が国の信託法とほぼ同じ体系の信託を持つ韓国において,韓国住宅金融公社が行っているところであるかと思います。


  そういった観点から,今回の丙案の(1)に関しては,そのようにオリジネーターが受託者となるような信託を考えた場合に,いわゆる倒産隔離といいましょうか,オリジネーターに対する人的抗弁等を持っている者の影響が及んでしまうということで,好ましくないかと思いますので,丙案の(1)についてはちょっと困るなと思っております。
 

 引き続き証券化,流動化に活用していくという観点からは,特に制約を設けない乙案が最も好ましいのではないかと考えております。


● 実務的な立場から発言したいと思います。
  第1回,第10回で申し上げたことの繰り返しになって申しわけありませんが,本事項に関する銀行界としての意見は内部で分かれておりまして,今の段階でどの案がいいのかは申し上げられません。ただ,その後,追加的な議論も含め,各案についての意見を御紹介したいと思います。


  まず,信託宣言を推進する立場からは,ニーズはいろいろあるよということについては,前回,申し上げたところでございます。


特に銀行債権の流動化については,我が国においては銀行と借入人との関係を維持するというところが非常に重視されておりますので,信託宣言というのは,その手法としてメリットがあるということは申し上げたとおりでございます。


  御参考までにということなんですが,この点について若干付言するのであれば,仄聞するところによれば,欧州では近時,カバーボンドというものが注目されており,例えば,ドイツではファンドブリーフ法というものを制定していると聞きます。

これは信託宣言は直接関係しないという認識でございますが,1つの法によって,銀行,顧客の関係を変えずに一定のオリジネーター倒産リスクを排除した金融商品でございます。

  ここで申し上げたいのは,本商品は直接信託宣言とは関係ないかもしれませんが,やはり他国も,法的インフラということを非常に重要視して,金融の活性化という観点から,こういう法制度を入れるところもある。


よって,我が国も活発な経済活動を支えるためには,実務ニーズに応じた法的インフラを考える必要があるのではないか。


  もちろん,信託宣言だけに限られるわけではありませんが,先ほど申し上げました顧客と銀行とのリレーションということを考えれば,信託宣言というのは,この可能性を秘めているのではないかと思っております。
 

 次に,信託宣言について消極的に考える立場からは,従来から議論されています執行免脱のおそれとか,権利関係が複雑になる,また,ニーズが余り具体的によくわからないにもかかわらず,デメリットが多いのではないかといった議論がございました。


  その両論を考慮して,次に,丙案といいましょうか,何らかの制限を付すことでよいとするという考え方もございます。


ただ,その点,例えばということで,今回の提案について見ますと,先ほど○○委員もおっしゃったとおり,丙案の(1)はいささか問題があるのではないかと思っております。


  と申しますのは,やはり信託の倒産隔離ということの,ある意味,原則が逆転しておりまして,委託者が債権者を害さないという挙証責任を負うことになれば,実務的には,証明を持つということはなかなか難しいかもしれませんし,また,格付機関がそれを認めて高格付けの金融商品を出すことを認めるかどうかについても,ちょっと疑問があります。

そうであれば,実際,信託宣言を認めたとしても使えないものになってしまうおそれがあるのではないかと思っております。

  そこで,丙案(1)の趣旨を確認するための御質問が2点ございます。

  この要件なんですが,主観的要件はないと認識しておりますけれども,この「債権者を害する」ということの中身について,若干御紹介いただければと思います。


  例えば,資産超過であれば十分なのかということ。もし資産超過で十分であったならば,これは皆様方いろいろ議論あると思いますけれども,一緒に抱くという考え方もありますし,いや,そうではないということであれば,やはり実務的には受けがたい要件ではないのかなという議論にもなりそうです。

  次に,先ほど自益信託か他益信託かという話も出てきましたが,現行,あえて(1)のような要件を定めなくても,現行の信託法第12条の詐害信託の規律で十分対応が可能ではないのか。


もちろん要件は若干変えておりますが。そうすると,考え方として,詐害信託というのは自益信託だけを観念しているので,ここであえて信託宣言に関する規律を設けようとしているのか,そこら辺の位置づけがよくわからなかったもので,御質問する次第でございます。


  以上3つの案に対する意見を述べましたけれども,付言いたしますと,別途セキュリティ・トラストが議論されております。


この関係で信託宣言を考えますと,1点検討すべきことが出てくるのかなと思っております。


  と申しますと,いろいろやり方があるとは思いますけれども,例えば,一たん設定を受けた抵当権を受託者が信託宣言をして行う,そして債権者に受益権をばらまくという方式であれば,例えば,実務においては,調達をするときに一たんアレンジャー的な人がアンダーライターとして総額引き受けを行うということもあるわけです。


そうした場合に,では,他人に売却する時点というのは,委託者が受託者になってしまうということもありますので,また,受益者ということも,3者並ぶということもあるんですけれども,そうした場合に,信託宣言の問題が出てこないか。

つまり,信託宣言を認めないと難しくならないかということでございます。

  また,セカンダリーマーケットで,今まで持っていた銀行債権を,では今度,セカンダリーマーケットで売りましょうといった場合に,やはり信託宣言というツールがなければ,そういうことが難しくなるのではないかとも思っておりまして,セキュリティ・トラストの議論においては,この点もあわせて御検討いただければと思っております。

  いろいろ述べましたけれども,最後にお願いでございますが,いずれにしても,現段階においては各--甲,乙,譲歩の丙案ですけれども,いずれの案か絞る段階ではないのではないかと思っておりまして,その点,広く意見を募って判断すべきだと思っておりますので,ちょっと先走った議論で恐縮でございますが,要綱試案を作成する際には各案を併記していただければと思っております。

● 今,○○委員から御指摘があった,債権者を害するとの要件の中身という点でございますが,これは詐害行為取消権の場合と特に区別しているわけではございませんので,例えば,信託宣言をする前であれば資産が十分あったのに,それによって債務超過に陥ったとか,あるいはもともと資産が債務超過にあったわけですが,信託宣言によってさらに悪化したというような,客観的に債権を害する状況を作出すれば当たるものと考えております。
 


 ただ,この(1)の特徴というのは,先ほどから詐害信託取消権でいけばいいのではないかというような御指摘もあったわけですが,前回会議のときに,訴訟をするのが非常に負担だという御指摘があったことも踏まえているわけでして,訴訟しなくてもかかっていけるというところにございます。

  その上でさらに,詐害信託取消権であれば債権者を害することを「知っている」という主観的要件が必要になるわけでございますが,ここは客観的に債権者を害しているか,いないかという状況を問題にするのであって,委託者に詐害の意思があったかどうかとか,そういう主観的な要件も問題にしない。


訴訟をしなくてもいいし,主観的な要件も問題とならないという意味で,詐害信託の取消権をもっては代替し得ない,かなり委託者の債権者にとって有利な規律を設けたつもりでございます。


  ただ,詐害信託取消権ですと,まず信託のスキームを一たん壊した上で,委託者の債権者が信託財産とされていたものにかかわっていくわけでございますので,信託財産の独立性との抵触はないと思うのですが,各委員が御指摘になっておりますとおり,信託があったことを前提にしつつ,委託者の債権者が--その場合,信託財産ですので--信託財産にかかっていけるというのは,確かに信託財産の独立性との観点からの抵触というのは否めないのかなという気がしておりますので,そのような点も踏まえて,丙案については考えていきたいと思っております。


  あと,まだ甲乙丙の各案を絞る時期ではないというご指摘につきましては,こちらでも検討したいと思います。

  あと1点,ちょっと気になっていますのは,○○幹事が,公正証書とか,それ以外の方法もあるだろうということをおっしゃったわけですが,およそ信託宣言をするに当たってはこういう手続的要件が必須であるのかということでございまして,実務上の話を仄聞しているところですと,例えば再信託のような場合についてもすべて公正証書ということになると,これは結構大変であるという話も聞いておりまして,およそ再信託の場合は例外であるのか,それとも,もう信託宣言に当たるものは常に手続的な要件がかぶってくるのか,そこら辺についての御理解について教えていただければと思っております。

● 今の点については,私も詳しいことを存じ上げませんのて,詳しく検討しているわけではないんですけれども,基本的には,こういった第三者が関与する形で何らかの手続的要件を設けることを原則とした方がいいのではないかと,現段階では思っております。

  ただ,実情に応じて弊害除去の措置が合理的な形でとられるのであれば,それは別途の手続なり監督といいますか,方法によることはあり得ようかと思いますので,それは具体的に御検討をお願いできればと思ったりしておるんですけれども。


● 確かに,過去の法務省の通達などでは,そもそも信託宣言ではないというような見解も示されているようですので,そうだとすると,再信託はそもそも信託宣言の範疇外だということで,仮に○○幹事のおっしゃるように,信託宣言については手続的要件がかぶるんだとしても,再信託はその範囲外だという整理もできるかなという気がしましたので,付言させていただきます。指摘を踏まえて検討したいと思います。

● 現実の信託銀行による住宅ローン債権の証券化についてなんですが,先ほど私が説明したような仕組みを用いて,○○銀行が○○銀行の信託勘定の住宅ローン債権の証券化を行ったケースが過去に3件ほどあるかと思うんですが,この場合に,オリジネーターが信託勘定で受託者として保有していた住宅ローン債権が,別の信託財産に変わっているわけですけれども,もちろん,先ほど申し上げたように一たんSPCをつくって,SPCに債権譲渡して,SPCを委託者としてオリジネーターを受託者として信託設定するということをやっているわけですが,もし甲案で改正されるとすれば,この場合のみ信託宣言の方法を用いた,SPCを使わない住宅ローンの証券化を行えると理解してよろしいんでしょうか。

● ○○銀行の例というのは……,今の御説明は,もともとの信託財産をまた別の信託財産にすると理解してよろしいですか。
● はい。

● さっきの再信託にちょっと似ているけれども,再信託の器が最初からあるわけではなくて,新たな独立の信託をつくるということですよね。まさに信託銀行,信託財産でもって信託宣言をする,そういうタイプですね。


  再信託との関係,私も前に民事局長の通達で,再信託は許容されるという結論だけは知っていますけれども,理屈としてまだよく飲み込んでおりませんけれども,なかなか切り分けが難しいところがあるかもしれないけれども,今の○○銀行のは,恐らく典型的な再信託ではないんですよね。


再信託というか,通常やっているやつと。つまり,再信託というのは,○○委員に御説明いただいた方がいいかもしれないけれども,例えば何かマザーファンドみたいな……,もう別に既に信託があって,そこに信託財産が,いわば受益権を取得するというのを信託……


● 再信託といいますよりも,二重信託という言い方の方が当たっているかもしれませんけれども,例えば幾つかあるファンドがあったら,それを集めて1つのファンドに信託というものをつくって,下のファンドが委託者になって合同運用するために1つの信託をつくりますという,ある意味,運用機構の1つというふうに考えていただいたらいいと思いますし,多分そのときに許されたのは,基本的には実質的法主体説みたいなものがベースにあって,結局は,これとこれとは違いますよというのと,最終的には,それぞれのベビーの方,どのような受益者がいるということがあって,それの運用機構の一部分ですよというような位置づけで,基本的には信託宣言がないというようなことになっていたんであろうと思います。


● たしかそんなことだったかもしれません。思い出しました。
  実質的法主体説みたいにして考えて,信託財産自体は受託者とは一応別の利益を代弁しているといいますか,実質的に別の主体であると考えると,典型的な信託宣言とは違ってくるわけですね。委託者が受託者とは別にいるということになりますから。


  ○○銀行のも,あるいはそういうふうに説明しようと思えばできるということですね。


それはちょっと今,再信託とか民事局長の通達がどこまで効力を持つかということを議論してもしようがないというか,もうちょっと一方的な議論をしたいと思いますけれども,あるいは現行法でもできるという理解のもとでされたのではないですか。


● 実際に行われた取引は,信託銀行が一たんSPCに債権譲渡して,SPCが委託者として,信託銀行を受託者として信託設定するという取引です。


● 最初のお話と同じですね。
● そうです。
● そのフローを通る必要はないという。
● はい。

● 今まで信託宣言についていろいろ御議論をいただいておりますけれども,いろいろなレベルの議論があって,1つはニーズのレベル,それから,ニーズがあるとしても,そういうことを認めることのメリット,デメリットというんでしょうか,そういうレベルの議論,さらに3番目には理論的に,○○幹事などから提起された,三者一体というのはそもそも英米の信託でも認めているのか。幾つか議論があると思いますので,さらに幾つか御議論いただければ。


● 先ほど業法との関連が出たもので,一言あれなんですけれども,もちろん,この場は信託法という私法の議論なので,業法的規制をまた別の視点からどういうふうにかけていくか,それはまた別の局面で議論されればいいのではないかと思います。


まず,やはり日本の私法として信託宣言をどういうふうにとらえるのかという議論で考えるべきではないか。

  そう思うと,やはり多様な利用価値というのがあるので,これはやはり認められる方がいいのではないかと思います。
  


それから1つ,業法の観点を言っても仕方ないんですけれども,例えば,事業の信託の局面で,現行法であれば,例えば営業譲渡といったようなやり方をせざるを得ない場合に,もしこの信託宣言が認められると,もっとうまく使える局面があるのではないかと思うんですね。

 例えば,A会社がある事業部門を持っている。その事業部門の事業に対して,B会社が一緒に事業をやりたいというか,ある意味ジョイントベンチャーを組みたい,こうなったときに,現行の考え方だと,多分このA会社のこういう事業を別会社化して,それでA会社とB会社が株主になってやる,そういうような切り出しの方法が1つ考えられるかと思いますけれども,例えば信託宣言が認められれば,A会社が,自分のある事業部門を信託宣言によって信託財産にして,この受益権の一部をB会社に出す。


そうすることによってB会社もこの事業に参画することができる,こういうようなやり方が,利用価値があるのではないか。


そうすると,これは引き続き受託者,A会社の事業として運営されますから,例えば従業員の雇用関係も変わらないし,表向き何も変わらない。


ただ,B会社がこの事業に受益者として参画する余地が出てくるということができるのではないかと思います。


  さらにこれ,場合によっては期間限定を設ける。B会社がこの事業に参画する期間の限定,例えば10年間だよというようなことを設けて,10年間だけ受益権があり,10年後にBは離脱して,またAの単独の事業に戻るというような使い方もできるのではないかと思います。


  例えばこういうような,これはそういう利用価値があるのではないかということなんですけれども,こういうようなときには,しょせんA会社とB会社でやっていることですから,業法的規制というのがどれほど必要なのかなという気もしますので,こういう観点からの利用も考えられるので,ぜひ積極的に考えていただきたいと思います。

● 私も,実務の観点から意見を述べさせていただきたいんですけれども,流動化をやっている立場からすると,この信託宣言については,乙案ということになるかと思うんですけれども,それ以外の立場も当然ございますので,執行免脱を許さないということを考えると,やはり何らか一定の要件で歯どめをかけざるを得ないかなとは思います。したがって,乙案ないし丙案を支持するという形になるかと思います。

  ただ,その場合でも,先ほどから御意見出ていますけれども,(1)にあるように,いきなり信託財産にかかっていけるようなことについては,流動化を考えますと混乱もあるでしょうし,それ以外のケースでも,やはり望ましくないのではないかと思います。

  そういう意味で,(2)の②の公正証書を作成するとか,先ほど○○幹事がおっしゃったような確定日付というのが一番いいのかなと思います。


  ただ,1回こっきりの信託宣言であれば,それで全然問題ないのかなとは思うんですけれども,例として挙げられている損保の代理店の収入の部分とか,私の方で前に申し上げたサービサーの回収金の信託宣言とかいうときに,継続して入ってくるわけです。


そうすると,最初に1回だけこういう設定をしておいて,追加の分はもう全部継続してやられるという形でできるのであれば,全然問題ないとは思うんですけれども,毎回というようなことであれば当然……,毎回とか,余り長期間のあれは認められないといったことになると,ちょっと問題かなと思っているんですけれども,そういうことはないという理解で,1回でよろしいということでいいでしょうか。

● 一遍設定して,その後,追加していくことは,その部分は問題ないと思いますけれども,仮に,さっき○○幹事が問題にされた,委託者と--追加される部分は委託者が違うというふうに考えることはできるかもしれませんね。


でも,仮に委託者,受託者,受益者が同一だという状態ができたときには,恐らくこれは相当な期間内に解消しなくてはいけないということになるので,それをずっと続けることは,恐らくできないということになるのではないでしょうか。


  ただ,損保などの場合ですと,先ほどちょっと言いましたように,一遍,最初に受け取ったお金で代理店が持っているお金を,その段階で信託宣言で信託をつくって,その後,入ってくるお金は送金する人間が委託者だと考えると,信託宣言ではない形でもって信託財産に入ってくるので,そこは何とか解消できるのではないですかね。

● これまで証券化,流動化との関係が出ておりまして,私,おくれて参りましたので,既に出た話題だったら申しわけないんですが,一般的に信託法で信託宣言を認める場合に,委託者兼受託者が自然人である場合にどうなのかということも詰めて検討しておく必要があるのではないかと思います。


とりわけ死亡との関係で,その先どうなるのか,相続法のルールとの関係でどうなるのかということを検討する必要があるのではないか。
 


 一般の信託の場合に比べて,結局は信託宣言でも事実上の違いにすぎないのかなという気もするんですが,さらに私も考えたいと思うんですが,自然人にも及ぶということで,先の問題も検討しておく必要があるだろうということでございます。


● 信託法の中で制度をつくる以上は,法人だけに適用されるとか,そういう制度はつくりにくいところがあって,信託宣言を認めれば,当然自然人についても一応当てはまる。

● まず第1に,先ほど○○委員からニーズあるいはデメリットという幾つかの次元のお話が示されまして,私はニーズの方はよくわからないんですが,伺っておりますと,証券化等でニーズがあると。


  仮にニーズがあるということを前提にしますと,特段信託宣言に対して,これを敵対的にある必要はないのではないかという印象を持ちます。


詐害行為あるいは執行免脱のおそれというのは別にここだけの問題ではございませんし,ここだけで過度にそこを強調するというのは,どうもアンバランスではないかという気がいたしまして,その点から,甲案は,ほかの財産の移転の法制との関係では,やや神経質なのではないかという気がします。

  それに関連しまして,第2点ですが,冒頭の御説明にも,あるいは資料3ページの一番最後の3行にもございますけれども,強制執行法における財産開示制度,あるいは破産法の改正で新規に入ったのは重要財産開示義務ですが,これをどう評価するかですけれども,これは実は余り役に立たないのではないかと思います。
 

 つまり,財産開示制度あるいは重要財産開示義務というのは,その時点でどういう財産を持っているかでありまして,過去どういう財産の移転があったかというのは追いかけない制度であるという整理でつくられていると承知しております。


したがいまして,1年前に不動産だったものが今,なくなっているということは,この制度では出てこない仕切りになっているはずでありまして,したがって,第1点とやや方向が逆のことを言うようですけれども,これは余り頼りにならない。


一般の,これ以外のツールで物を考えるしかなかろうということであります。

  そう考えますと,乙案よりは丙案の方がいいではないかということになるのかもしれませんが,先ほど来,丙案の※についている(1)というのは,これまた過度な委託者の債権者の保護であるというのは先ほど来,御指摘があるところで,詐害性がないことをこの訴訟を受ける委託者,受益者側で証明するというのは,いかにも行き過ぎではないかという気がいたします。


仮にこういう手当てが行き過ぎで,しかし中間の案が考えられないとすると,もういきなり乙案まで戻ってしまうことになるのかもしれません。
  以上が第3点です。

  第4点は,質問でございます。
  この(1)の中にある強制執行,仮差押,仮処分まではわかるんですが,競売というのは何を想定されているのか,ちょっとピンと来なかったのですが,これは担保権の実行なので,もともと委託者が持っていた財産に担保権がくっついていて,信託設定されたことで追及効がなくなるようなタイプのものを想定されている,つまり追及効の,典型的に言うと動産の先取特権みたいなことを考えていらっしゃるのでしょうか。
 


 もし追及効があるなら,こんなことをしなくてもどうせ認められるのではないかと思いましたので,ちょっと御質問させていただきます。


● 最後の点でございますが,正直に言いますと,第16条とかの規律をそのまま持ってきたということで,余り詰めて考えたわけではありません。確かに,担保権がついていればそれで執行すればいいわけですから,ここに入ってこないので。

● 信託設定することで追及効がなくなって,担保権が行使できなくなるタイプのものがあれば含まれるのかもしれませんが,それをお考えだったのでしょうか,それとも,もっと一般的にお考えだったのでしょうかということです。

● 例えば動産売買の先取特権みたいな。そう言われればそうかもしれない。ちょっと考えてみたいと思います。
  


1つ,お伺いしたいことですが,財産開示制度というのは,当然委託者の現有財産が対象ですが,この信託宣言の場合には,委託者,受託者といったって同じ人なので,自分が信託財産として持っているものも開示の対象にするということは,およそ考えられないということでよろしいでしょうか。

● これは強制執行の準備段階ですから,委託者が自分の固有の財産……,これ,財産開示制度の前提となっている債務名義は,委託者に対する債務名義であるとすれば,当然委託者の固有財産だけを開示するということになるのではないでしょうか。

● たとえ受託者が同一人であっても,信託財産と性質を変えている以上はもう対象外なので。


● むしろ信託債権について債務名義があるのであれば,今度は委託者相手に,その信託財産について財産開示をかけられる,そういう整理になるのではないでしょうか。

● 細かい点で恐縮ですが,丙案の(1)について1点だけ。
  今までいろいろな方がおっしゃった,実質論ではなくて形式論でございますけれども,たとえ(1)の強制執行の禁止の例外が認められたとしても,恐らく債権者には詐害信託の取消権自体はあるという理解でよろしいのでしょうか。
 


 恐らくあるということなんだろうと思うんですが,その場合には,実体権としての詐害信託の取消権と,それから詐害的ではないものでない場合を除いて強制執行ができる,これが二重の規律になってしまって問題が生ずる場合もあるのではないか。

例えば,詐害信託の取消権を行使して訴訟して負けた債権者が,なおこの(1)によって強制執行することもできるといった状態になってしまうということで,そのような規律でよろしいのか,そういった二重の規律をすることが適当なのか若干疑問だということでございます。
 


 第2点目も御質問でございまして,乙案であれ丙案であれ,仮に信託宣言を認めた場合に,例えば委託者と受託者が合意すれば何かができる,あるいは委託者と受益者が合意すれば何かができるという,いろいろな場面でそういう規律があり得ると思うんですが,そのような場合の規律について,特段,何といいますか,固有の規律を設けることを今のところ考えておられるのかどうか,ちょっと今,思いついたものですから,伺っておきたいと思っております。


● どうですかね,詐害行為信託と,それから丙案の(1)との関係。


● まず後者の,個別の類型ごとに問題があるかどうかの分析というのは,これまで十分検討しておりませんでしたので,類型ごとに少し検討してみたいと思っております。


  前者については,確かに併存する。そうすると,訴訟物としては別なので,一方で負けても他方でできるということにならざるを得ないとなります。


  解決するとすると,例えば,丙案(1)の方が一般の詐害信託より明らかに委託者の債権者に有利なので,この場合には特別法として,丙案の(1)が優先して,一般の詐害信託取消権はないというような整理ができればと思うんですが,そういう点はいかがでしょうか。

● 今のお話だと,例えば,詐害的な信託の時点では当該債権者の債権が弁済期になっていなかったような場合には,多分,詐害信託の取消権自体はあるんだけれども,強制執行できるのは,例えば5年後であるというような事態が生じ得るので,丙案(1)が優先するというような形の規律は難しいのではないかと考えておる次第でございます。


● わかりました。


● 先ほどからのいろいろな御意見を伺っていても,丙案の(1)というのは,どうもいろいろ問題があるということなので,仮に債権者を保護するにしても,詐害信託の中で多少要件を─これも可能かどうかわかりませんけれども,信託宣言の場合について軽くするとか,そんなことは考えられるかもしれないけれども,制度を別に設けるというのは適当ではないのかもしれませんね。

● ちょっと違う観点から。
  先ほど○○委員から,事業の信託について,例えば営業譲渡であるとかそういったときにも利用価値があるのではないかというお話で,理論的に言ったら確かにそういう部分もあると思うんですけれども,例えば,今,ここで議論しているのは,その範囲というのは全然限定しなくてやるんでしょうかというお話なんですね。


  先ほど○○委員の方から,個人も視野に入れたことを考えないといけませんというお話がありましたけれども,この範囲というのが,もともとは流動化の,ケイマンのチャリタブル・トラスト的なものであったり,直接自分が持っている債権を流動化したいとか,大体その2点ぐらいが主なニーズかなと私は思っていたんですが,要するに,範囲を非常に広げてしまいますと,先ほどの事業ということを前提にすると,果たしてそれだけでOKしてしまっていいんだろうか。

業法で規制する問題ということではなくて,多分,それこそ事業をやるということになりますと,事業についての私法的な規律をきちっと決めてからでないと,そういうことを参入させて果たしていいんだろうかという問題があるので,もしもそこまで視野に入れられているのであれば,この場において私法上の問題として,例えば事業についての信託宣言がなされたときの規律を詰めていかなければいけないのではないかと考えています。

  そういう観点からいきますと,実際の皆さんが思っていらっしゃるニーズ,私は全くの反対派なんですけれども,流動化ということにほぼ限定されているのではないかという気がしますので,それをあえて幅広くとらえなくてもいいのではないかと考えていまして,ここから先はもう全く私の個人的な今回で,業界に戻ったら怒られてしまうかもしれませんけれども,それであるとすれば,それこそチャリタブル・トラストみたいなものをつくるような法制を考えれば,それによって信託宣言が必要だということであれば,それを組み入れた形のものをつくれば,それが私法のものがいいのか業法がいいのか,そこはすみません,私には判断つきませんけれども,そういう観点でやっていってもいいのかなと。
 


 付言しますと,そういう観点で見ても,これは前にちょっと申し上げましたけれども,信託宣言というのはチャリタブル・トラストにとって不可欠なものではなくて,そもそもケイマンになぜチャリタブル・トラストを置いてそこに持っていくのかというと,基本的には,委託者からの倒産隔離と支配権を排除するということと,それと,信託を使うということになりますと当然,受益者からの排除ということになりますので,今,検討されている改正案の中で検討しますと,受益者からの支配を排除する方法はとられていますし,委託者の権利をゼロにすることもできる。


そうすると,あと何が必要なのかといったら,受益者というのをつくるか,つくらないかという話になると思います。


  そうすると,信託終了時点まで受益者を確定しないような信託をつくるか,または目的信託を利用するか,そういうものをつくりましょうというのであれば,この場の議論としてよくわかるんですけれども,そうではないのに信託宣言をしましょうというのが,ずっとお話が出ていたので,私は全然よくわかりませんと。
 


 そうしたら,あえて弊害があるようなものを入れるのではなくて,工夫して,限定して,みんなが有効に使えるものをつくればいいのではないですか,そういうことを以前から申し上げたかったので,今,ちょっと最後に申し上げました。

● ここでの信託宣言というのは,流動化のスキームの中で使えると便利だ,あるいは幾つかの事業の信託というのが例に挙がっておりますけれども,ニーズはニーズとしていろいろなものを挙げていただくと思いますけれども,ここで最後,決め手になるというんでしょうか,信託宣言を認めるかどうかというのは,やはりもうちょっと一般的に,先ほど○○委員が言われたような,個人の信託宣言というものもあり得る,あるいは○○委員が言われた,むしろ業法の適用のないようなというんでしょうかね,そういうところまで視野に入れた上で,一般的な形で信託宣言というものが適当なのか,適当でないのかということを詰めるべきなんだろうと思うんですね。

  その際の一番の問題が,大体これは皆さん共通しているようではありますけれども,信託宣言の一番の問題は何かというところは,やはり債権者を害する可能性があるところだということなので,その点についての手当てが何とか十分できるというときに,さらにあえて信託宣言を積極的に否定しなくてはいけないのかというところが問題なのではないだろうかと思いますけれども,いろいろなお立場もあると思いますので。
  もし新たに何か御意見を伺えれば伺いますが,大勢としては……

● 何か流動化で必要で,ケイマンのチャリタブル・トラストというところに議論が飛びますけれども,先ほどの○○委員の議論でも,例えば,信託銀行でなくてもノンバンクでもいいですし,事業会社でもいいですから,事業会社が今後,流動化をするときに,自ら信託宣言をし,自益信託型で流動化もできるんですよね。

ちょっと議論が,何かチャリタブル・トラストの議論に持っていって違う方に行くという論旨は,何しろ納得できないところがあるということ。

それは立場が違うからあれでしょうけれども,今,○○委員に触れていただいたように,これまで判例で「信託的」と認定されてきたものが幾つもあると思うし,また今後,そういうような事例も出てくると思うんですけれども,そういう解釈論,また,そうなったときの裁判所による認定というのは今後とも重要だとは思いますけれども,当初,信託設定行為ができなくても,人から預かっているもの,他人に渡さなければいけないものを信託宣言ということで自らの債権者から隔離するニーズというのは,掘り起こせば幾らでもあると思うんですね。

  先ほど触れましたけれども,現金の場合,それを担保で現金を渡しても相手のものになってしまいますけれども,場合によってはそういう信託宣言をするとかですね。

ですから,○○委員が流動化に限られて,流動化がチャリタブル・トラスト云々というのは,もう全然そんなことはないし,流動化でも違いますし,今,○○委員におっしゃっていただいたように,かなりいろいろ出てくる。

今までこれがないことによって,紛争になった後に初めて「信託的である」ということで認められてきたものが,ようやく当初の段階で,信託宣言によって正しい形で法的に受益者の保護ができるようになるというような方向性もあると思うので,ちょっと申し上げておきたいと思います。

● 幾つか出された御意見に関係して,私もちゃんと出席できていなくて申しわけないんですけれども,間が抜けたことかもしれませんけれども,(1)が評判がよくなさそうで,しかし,これをやめてしまった一般的な話でいいのか,あるいは何か工夫するのかということに関連して,非常に単純な例で,先ほどから挙がっている例ですけれども,例えば私が100万円の現金を持っていた。

もうちょっと現実的に言うと,A銀行に100万円の普通預金を持っていました。ある日,そのうちの50万円を,Bさんを受益者とする信託を設定しますと私が勝手に宣言するわけですね。


それで有効に成立したときに,私の債権者が,(1)のところで言えば,その100万円の普通預金を差し押さえて取り立てようとした。
  


このときに,○○幹事がおっしゃった,私の信託の設定というのは何の公示も何もなしで,さっき時間が遡るという話が中心だったと思うんですけれども,それに関係なく,私がただ「50万円はBさんのために今日から信託します」と言った瞬間,財産が分離できる,そういう制度が信託宣言という制度なんだと思うんですけれども,何となく,(1)がいいかどうかは別として,何かないと,一般的な詐害信託ですとかでいいのかというのがちょっと気になるんですね。
  

それから,似たような話かもしれませんが,今の例で言うと,今度はその財産債務者というか,銀行に対する対抗要件というんでしょうね,銀行は何も知らされていなくて,私はただ宣言すれば,その瞬間,信託が有効に成立するということだとしますと,もちろん銀行は知らないわけですから,私の債権者がそれを差し押さえてきたときには,銀行は払う。


しかし,そこは,私が一方では異議を言うのか,いずれにしても,銀行は準占有者に対する弁済等で保護はされるんでしょうけれども,非常に困る。実務上,非常に混乱すると思うんですね。

  ということで,恐らく抽象的に言えば2つあって,私がある日,宣言すればそれでいい,今の例で言いますと,半分だけでも幾らだけでも信託を設定できるという制度を設計したときに,何かやはり(1)的なものであって,先ほどのお話ですと,これをやめたとしても,それにかわるものというお話だったと思うんですけれども,では,どういうふうに構想しておられるのか。
 


 それから,それが典型的な金銭債権のような場合に,債務者との関係で,普通預金の場合で言えば銀行との関係で,どうなのか。

  もう一点だけ追加させていただきますけれども,これ,信託宣言が有効だとしますと,信託は成立しますけれども,私は多分,分別管理義務に違反しているんだと思うんですけれども,そのままにして何もしていないわけですから。

そういう場合は,前の信託法第1条の話とも関係してくるのかもしれませんけれども,結局,銀行の方は金銭債権いっぱいついているけれども,債務者の方からしてみれば何も起きていないわけですから,どうしようもないという話なのか。

 その辺,もし整理がなされていたとすれば,復習になってしまったら申しわけないんですけれども,方向観を教えていただけるとありがたいと思います。

● 今,○○委員が挙げられた例で,信託宣言をしたときに口座が○○名義のままで,それで差押えが来たら,そうしたら口座名義もそのままで一方的に宣言したというだけですと,先ほど御指摘されたとおり,何の分別管理もされていませんので,固有財産の債権者,○○委員の債権者に差し押さえられて終わり。


銀行はそれで,差し押さえて債権者に弁済して終わりということになるだけのような気がいたします。


● 今の場合は,だから,信託がそもそも成立していないのか,信託は成立しているけれども対抗できないのか。どっちの整理なんでしょうかということなんですけれども。

● 先ほどからの多くの御意見は,この(1)がよくないという前提で考えているときに,やはり信託は信託宣言で成立する。


ただ,その成立する要件としていろいろな要式行為を要求するか,あるいは債務者に対する通知まで要求するか,そこは幾つかあり得ると思いますけれども,信託宣言で信託が成立するというときには,そういう付加的な要件,行為さえしていれば,そこで成立する。


あとは,分別管理していなければどうなるかという問題は,次の問題ということなのではないでしょうか。


  どんなものがあり得るかですけれども,今のような事例ですと,公正証書で設定するだけではまだ足りなくて,やはり債務者に何か通知が必要であろう,そういう御示唆も含まれていたということでしょうか。


● よくわからないんですけれども,どういうふうにお考えなのかなと。

● 理論的に考えたときに,信託宣言というものは,さっき○○幹事が言ったように,もう要式行為と考えようということで,その要式としては,例えば公正証書作成を要求するというのが1つの考え方なんだと思いますけれども,ただ,それだけでは今の債権の場合に済まない問題があって,債務者に対する通知というものが必要だとなると,それを一体どうやって説明するかですね。


● ついでに,もう一点だけ。
  公正証書を仮に要求しても,要式行為に,公正証書で「私が持っている100万円の普通預金のうちの50万円」というのでいいのかというのもあると思うんですね。

● 要するに,信託の定義のところに戻ってくるかもしれないけれども,財産は,やはりある程度分けなくてはいけないというところの問題かもしれませんね。

債権自体はそのまま全然変わっていない状態で置いてあるので,そういうものを信託宣言でもって「違う財産になりました」と言っていいのかどうか。

  なかなか……。まさにそういうところは,少し理論的な問題として,もうちょっと詰めなくてはいけない問題があるような気がいたします。
  


大分御意見いただきました。大体の意見の分布は,信託宣言,できれば認めていった方がいいのではないかという御意見が多かったと思います。ただ,いろいろ課題もあるということで,今,○○委員が挙げられたような問題,あるいは債権者詐害に対してどう対応したらいいかといった問題も,なお残されております。ここに一応原案として出てきたものでは不十分といいますか,(1)が評判悪かったものですからね,何か代わりのものを考えなくてはいけないかもしれない。
 

 ただ,(1)も,考え次第だけれども,これは結果的にどういう結論になったか覚えていませんか,英米の例を持ち出してあれですが,遺言代用生前信託などでもって設定者が変更権を持っているような信託の場合に,これはもう委託者の財産と同じである,信託は設定しているけれども委託者の財産と同じように考えて,委託者の債権者がそれにかかわっていけるという考え方は十分あり得る考え方ではありますよね。

それと同じように考えるということも1つではありますけれども,ただ,一方で信託宣言の効用というのか,まさに倒産隔離機能をねらって,それをもとにしていろいろな事業なり何かをしていこうというときに,委託者の債権者が比較的自由にかかわっていけるというのは,さっきの遺言代用の生前信託とは,やはり違った状況にあるかもしれないので,もうちょっと検討すべきかと思いますね。

  まだ御意見あるかもしれませんけれども,一応今,方向性は確認させていただきましたけれども,よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,次にいきましょう。

● 続きまして,公示の問題に移らせていただきます。
  第8でございますが,先般,信託法に第3条第3項という規定が入ったわけでございますが,それについての質問をさせていただいているところでございます。
 


 現行法第3条第3項によりますと,株券廃止会社であっても,振替制度を利用していない会社の株式については,株主名簿に信託財産である旨を記載又は記録しなければ信託を第三者に対抗することができないこととされております。

  このような株券廃止会社の株式については,その流通性が乏しいと想定されることにかんがみますと,信託の対抗のためには株主名簿への記載等を要求する現行法第3条第3項を維持することとしても不都合はないとして,甲案を支持する考え方が一方においてあります。

  他方,前回提案いたしましたが,有価証券に関する特例を定めた第3条第2項の方は削除するという提案をしておりまして,これを踏まえますと,有価証券一般については信託の公示を不要とするのであれば,株券廃止会社の株式についても,信託の公示として株主名簿への記載等を要求することとしない方が整合的ではないか,特に不動産に関する信託登記とは異なりまして,株主名簿におきましては,当該株式が複数ある信託のうちどの信託に属するかまでを特定して記載することを要求するのは難しいと思われることにかんがみまして,株主名簿への記載等をもって信託の公示方法としても,信託の公示のみで信託に関する対抗要件を決することとはならず,結局不十分な内容のものにとどまってしまうのではないか,そうだとすれば,この第3条第3項は削除して,株券廃止会社の株式についても信託の公示を要しないとする乙案を支持するという考え方もあり得ると思われます。


  そこで,この甲案と乙案のいずれの考え方が適切かについて,御意見を賜りたいと思っております。
  


なお,ここで仮に甲案を採用しますと,このような形での公示をどのように評価するかについても御意見を伺えればと思います。


  つまり,これは6ページの(注4)にも書かせていただきましたが,信託の第三者対抗要件に関しまして,まず,動産や金銭債権のように特段の公示なくして,実体をもって第三者に対抗できるとするもの,それからもう一つは,ただいまの株券廃止会社の株式のように,受託者の固有財産とは区別される信託財産であるということについてまでは公示を要するとするもの,さらに,不動産のように受託者の固有財産のみならず他の信託の信託財産と区別される信託財産であるということについてまで公示を要するもの,こういう3類型があることになります。

現行制度のもとでは,登記・登録制度のある財産ではあっても信託の公示制度の用意されていないもの,このような種類の財産の公示についてどのように対処すべきかという点について,参考となりますので,御意見を伺えればと思っております。
 


 なお,振替社債や預託株券等についての信託の公示の取扱い,それから不動産の信託登記における登記事項の取扱いの問題につきましては,現在,実務上のニーズを調査中でございまして,事務局内でなお検討を進めているところであるということを付言させていただきます。

● では,これについての御議論をお願いします。
  新しい第3条第3項というのが設けられたばかりですけれども,第3条第2項を落とすこととの関係で,どうするかということですね。

● どちらかということを明確に言えないので,ちょっと控えさせていただこうかと思っていたんですけれども,ここの甲案,乙案という,ここの部分だけに限定いたしますと,基本的には,できるだけ省力化とか効率化を図った方がいいので,基本的には乙案の方がいいのではないかと考えています。


  しかしながら,(注4)に書いてありますように,基本的に信託の公示という制度をどういう形でとらえるのかという問題では,若干業界内でも議論がありまして,多分,もともと第3条第2項を廃止したという観点からいきますと,それと第31条的なものがなくなったということからすると,信託の公示の目的というのは,どの信託財産に属しているかということで,対受託者であるとか対他の信託財産の倒産から隔離するための対抗要件だろうということだと思いますので,そうしますと,②みたいな形のものというのは中途半端な状況になる。

そういう観点からは外してしまった方がいいというのが,多分,理屈からいくとそうだろうと思いますので,そういう意見の者もありますし,とはいうものの,これはちょっと過去からの歴史的な経緯がありまして,昔といいますか,少し前ぐらいですけれども,銀行全体が信用不安になったときに,やはり銀行からの倒産隔離を図るための何らかの手段,対抗要件としての一つの制度があったということが,かなり対お客さんに対しての説明ということでやりやすかった部分もありますので,そういう観点からすると,やはり②的な対抗要件も残してもらいたい。

  そういうことで,非常に煮え切らないんですけれども,どちらがいいとはなかなか言えないわけでございます。
 


 ただし,1つだけ言えることは,例えば,対抗要件としてなくしてしまったとしても,これが信託財産であるという表示の制度は,例えば振替制度の中で残していただきたい。

これは多分,対抗要件という意味合いではなくて,分別管理の部分でどうしても必要なので,そういうところだけ残していただきたいというのは共通の認識なんですけれども,対抗要件のところまでいくのか,そうでないのかというのは,すみません,まだちょっと明確に申し上げられませんが,そういう状況でございます。

● 確かにこれは,公示制度一般をどう考えるか,特に信託財産……,ある信託財産と別な信託財産との区別も明確な公示が,いわば完全な公示だとすると,そこまでいかないような公示ですね。


そういうものをどうするかという問題とも関係しているということだと思います。

  分別管理との関係は,これはあれですか,分別管理義務を実行しているということを示すことができるようなということですね。そういう制度は,やはりあった方がいい。


● また間が抜けた質問だったら申しわけないんですが,ただ,第3条第3項の意味がいま一つ,私,理解ができていないと思うんですけれども,さっきと似たような例で,私がある会社に対して1,000株の株を持っていて,株主名簿に私の名前が記載されています。

そのうちの,例えば500株は信託,つまり私は受託者として持っておりますということを書かないと,第3条第3項の言葉は,これをもって第三者に対抗することを……,その信託をですね─ということだと思うんですけれども,これは発行会社との関係でもそうだという趣旨なんでしょうか。

  ちょっと今,何条になっているのか商法はあれですが,発行会社の方は信託でないということを示せば,例えば議決権の不統一行使を拒むことができるんですね。

ですから,私が1,000株持っている分について,500株についてはイエス,残りの500株はノーという議決権行使をしていったときに,仮にこの制度があって,これを発行会社は拒めるのか。

ちょっと今の条文は,私のこの六法によると第239条の4の第3項なんですけれども,それは別の話で,発行会社との関係には関係なく,第3条第3項というのは信託の公示ですから--という整理をされたのか。


  本質でない質問でしたら結構ですけれども,すみません,もともと第3条第3項の趣旨が私,必ずしもよくわかっていないものですから。


● 確かに,言われてみると発行会社との関係も問題になりそうだけれども。いや,私はそっちは入らないのではないかと思っていたけれども,そういうものでもないのかな。

● すみません,そこはまだ事務局で十分検討しておらないところですので,ちょっとお時間をいただければと思います。


● それでは,少し検討させていただくということで。


● 公示一般という話が出ましたので,それについてお話しさせていただきたいと思うのですけれども,(注4)に関連しまして,あるいは第3条第3項の取り扱いの基底になる考え方としてどうかという点につきましてなんですけれども,1つ,(注4)に書かれているような幾つかの公示制度の中で,②のようなあり方をどういうふうに考えたらよいかというところの評価が問題になっているのではないかと思われます。
 


 先ほど○○委員からは,ある意味,中途半端なやり方ではないかと,そういう点からすると,こういう中途半端なやり方はよくないのではないかという含みを持った御指摘が一方であり,しかし,そうはいっても……という点だったと思うんですが,私自身は,②のやり方というのもかなり有用なものではないかと考えておりまして,不動産登記のような非常に詳細な情報を出すというやり方が唯一の公示の方法ではなく,まず信託財産であるということはわかっていて,それが一体どの信託財産,どういう信託の,あるいは受益者がどうであるのかといった詳細については,そこには明らかにされないけれども,信託財産であるということは明らかになっているので,そこから先はさらなる調査という形のものは十分あり得るし,現行法でもあり得るのではないかと考えております。


  債権譲渡登記なども同様な考え方ではないのかと思っておりますし,それから,少し違う話ではありますけれども,対抗力はそれで付与されるけれども,どういうことが対抗されることになってくるのか自体は調査してみないとわからないというのは,若干不規則ではありますけれども,借地借家法の対抗力などはそういうもので,どれだけ敷金があるのかというようなことは調べてみないとわからないというようなことですから,こういう2型のものというのは,並べてみると中途半端かもしれませんけれども,公示のあり方としてはそれなりに意味があって,もっと積極的に評価されるべきではないかという気がしております。
 

 それから,公示一般については,制度がなければ,信託財産であるということが証明できれば信託であるということを対抗できる,そういう意味では,そんな公示なんてない方が省力化になるという面はあるんですけれども,他方で利害関係人ということを考えますと,当該人の名義になっているものが,一体自分たちがかかわっていける財産であるのかどうかがわかる手がかりというのは,なるべくあった方がいいのではないかと思いますので,むしろ公示は充実させていく方が本来で,ただ,それが「そんなことまでやるようでは,とても実効性がない。負担ばかりが増えて」というふうなときは,やめてしまった方がいいのではないかという気がしております。


  第3条第3項というのは,正直この第3条第3項自体はどういうものかわからないのですけれども,したがいまして,もしこれが実務的にさして問題がない,それほどのコスト増でないのであれば,公示制度としてはあった方がいいのではないかと一方で思う反面,これがどういうふうな運営になっていくのか。

例えば,これをきっかけとして何かを知るというときに,これがきっかけとなるような仕組みになっているのか,だから見ることができるのかですとか,そういったあたりがちょっとよくわからないものですから,第3条第3項自体がどうなのかということは,正直言って,いずれともよくわからないということなのですけれども,一般的な問題としては,個人的にはそのように考えております。

● 私も前半部分については同感といいますかね,ほかの幾つかの公示制度でも,信託財産であることしか公示できないというのが幾つかあるという……


● 信託財産であることの公示ができなくて,普通の所有権の登記・登録しかできないというものがあるわけでございます。信託の登記ができない。


● あ,それがそもそもできないんですね。

● はい。それを導入しようと思っているときに,②型のもの,あるいは③型までいくものとか,そういうものがあり得るなと。


● 信託財産であることの公示はできるけれども,どの信託財産かということまでは公示できない,そういうタイプもありますか。


● それは今のものと,あと振替社債とかそういうものですね。
● 自動車なんていうのは,何でしたか。


● 自動車などは,所有権移転の登録はできますが,信託の登録制度がそもそもない。ですから,②型のものというのは,今の株券廃止会社の株式と,振替社債,登録社債のようなものだと思います。そして新たな制度を導入するときに,②型というのも考えてみるか,②型はやめるかというようなところです。


● しかし,この公示というものは,恐らく○○幹事の御意見,私も賛同するところが多いけれども,公示が簡単にできるものであれば,それはやはりあった方がいいだろう。


ただ,有価証券みたいに全部に公示しなくてはいけないというのは,これはとても現実的でもないし,適当ではないので,こういうものはやめていく,そういう切り分けだとしますと,結局同じことを繰り返して言うけれども,簡単に公示ができるんだったら残したらどうかという御意見でしたね。

● 今の流れと同じような議論なんですけれども,信託の公示というのは対抗関係と必ず結びついている。もともとそういう制度ですから。


だから公示が必要となると,しないと負けるという制度になっていると,やはりいろいろな観点から,やはり公示制度というのは縮小すべきではないかという議論になっていると思うんですけれども,他方で,何人かの委員がおっしゃったように,信託の公示というのは有意義な制度ではないか,こういう議論もあります。


弁護士会でも同じような議論がございまして,ですから,ここでの公示の議論というのは違うんですけれども,公示をできるような制度をつくっていただくけれども,かといって公示しないから負けるわけではなくて,公示しなければ,分別管理が不十分であれば,またそこで争いがあれば,場合によっては識別不能であるというような形で争いになっていくというようなことも,場合によってはあり得るのかなと思います。


  あと,ちょっと間違っているかもしれませんけれども,債権譲渡登記のところで,譲渡原因のところに信託譲渡があったような……,もしかすると動産譲渡も今回それで変わりましたから,それは信託の公示ではなくて,単に譲渡原因の公示なんでしょうが,あれは,ある意味では信託として譲渡しているんですよという,広い意味で皆さんに告知をするような機能は,場合によっては果たしているのかなと。

ですから,それが違うところにチェックされていれば,もしかしてその登記自体が有効ではないということになってしまうかもしれませんけれども,そういう議論を差し置くと,あれは信託の公示制度ではないから,そこで公示しなくても別に負けるわけではないけれども,何らかの形で信託譲渡されているということは見ることができる,そういうような制度というのも他方,全然違う議論なのかもしれませんが,あってもいいのかなと思います。

● そういうこともあり得ますね。
  そういう意味では,不動産も信託を原因とする,要するに登記ですか,信託登記そのものとは違って,ちょうど所有権移転のレベルにおける信託を原因とする登記というのは,あり得るということでしたよね。


違いましたっけ。--だから同じように,そのレベルだけにとどめて信託の情報を提供するということは,あり得る考え方で,不動産登記は別として,ほかの登記制度,あるいは公示制度においてそういう考え方を当てはめていくというんでしょうか,それがあるから……,その後,どうつながるかですね。


あえて本格的な公示までしなくていいというふうにいくかどうかというところでございます。


  いずれにせよ,公示についての基本的な考え方をどうするかということと関係しているのが1つと,それから,この株式会社の株主名簿ですか,この登記というか,そこでの記録ですか,これ自体は非常に簡単なもので,できるということなんでしょうか。先ほど○○幹事が言われた2番目の問題。

● 関連して,○○幹事がおっしゃったことに私も賛成なんですけれども,仮にこの公示制度を維持するとしたら,利害関係人が株主名簿の,少なくともこの部分が見られないと機能しないと思うんですよね。

現在,株主名簿が見られるのは株主と債権者だけで,最近商法がしょっちゅう変わるものですから,私,条文に全く自信がないんですが,この六法によれば第263条ですけれども,そこの手当てを,だからといってほかの部分も見られていいかというのは……,ですから私,ちょっと前からこの第3条第3項というのがいま一つよくわからない--と言ってしまっては申しわけないんですけれども,いずれにしても,先ほどの○○幹事の趣旨に賛成でして,そういうことで言えば,もしこういう制度を維持するというか,つくっていく……,維持なのか何かよくわかりませんが--だとすれば,少なくとも信託についての利害関係人は,その部分は見られることにしないと公示としての意味をなさないのではないかと思います。

● 大体検討すべき論点は出てきていたような気がしますけれども,最後,決断としてどうするかは,やはり株主名簿における記載というものはどういうものであるかということにも大分関係するのではないでしょうか。

● 第3条第3項というのは,発行会社で振替制度を利用していないものとすると,非上場会社である。


そうすると,割と少人数な会社であって,そうすると,そもそも譲渡性もないような場合があって,名義書換会社のようなものも使っていない。


そうすると,果たして株主名簿に書かないと信託であることを対抗できないと言っても,実効性が果たしてどれだけあるのかといった実務的な観点からの懸念は,ないわけではございません。

● 公示制度全体については,まだ今後も議論は続くと思いますけれども,とりあえず今の,現行法の第3条第3項について,今,結論が必ずしも出たわけではありませんけれども,検討すべき課題を明らかにしていただいたので,それを検討した上で考えていきたいということにしたいと思います。

● では,終了原因と清算についての説明に移らせていただきます。

  第61でございますが,これは信託全般に通ずる終了原因を包括的に定めた規律でございまして,前回提案から変更はございません。
  


なお,前回会議では,信託行為の定めにより受託者ですとか受託者以外の者に信託の終了権限を付与する場合において,このような終了権限を信託行為の定めにより無制限に付与することができるか,それとも受益者保護の観点からは,そのような終了権限の付与についても一定の限界があるものとすべきかという点について議論されました。


  この点につきましては,まず,信託行為により信託の終了権限が付与された者がいる場合には,その者の判断により信託が終了する可能性があることは,受益者にとって予見可能であることですとか,終了権限が信託行為によって付与されたものである以上,原則として信託目的に反するような終了権限の行使はできないという,いわば内在的な制約が当然にかかるものであって,この意味においても受益者の保護は最低限図られていると思われるということにかんがみまして,特段の制限を設けずに終了権限を付与する信託行為の定めも許容されると考えているものでございます。

  次に,信託の清算の方に移らせていただきます。
  


これは終了に引き続く清算手続の提案でございまして,前回会議での指摘事項を踏まえた新たな提案内容についてのみ説明申し上げます。


 まず,軽微な点で,太字の3でございますけれども,前回提案においては現行商法等の規定に倣い条件付債権等については常に鑑定人の評価によらなければならないものとしておりましたが,利害関係人全員の同意があれば鑑定を不要とし,合意された金額の弁済をもって足りることを明記いたしました。


  第2に,やはりこの条件付債権の評価という点に関しまして,前回会議において,例えば条件付債権が信託財産の清算手続では8割と評価された場合において,無限責任を負う受託者個人に対する債権としても8割になってしまうのではおかしいのではないかとの指摘がございました。

  この点に関する事務局の検討結果は,資料11ページの1(2)に書かせていただいておりますが,具体的な処理手続について説明する前に,ここでの基本的な考え方を述べますと,信託が終了したからといって,いわば信託外部の関係者である信託債権者に有利,不利の影響が及ぶのはおかしくて,信託債権者の立場は信託終了前と変わるべきではないであろう。

他方,受託者及び受益者は,いわば信託内部の当事者なのであるから,信託の終了に伴い条件付債権が清算される過程で,仮に不利益を被ることとなってもやむを得ないであろう,以上を基本的な発想として考え方の整理を試みたものでございます。

  その上で,まず,原則的な受託者が無限責任を負う信託債権の清算の方法については,次のとおりに考えております。


  便宜上,合計100万円の停止条件付債権が信託財産の清算手続で50万円と評価された場合を念頭に置きますと,まず,①と書いてございますが,受託者と条件付の信託債権者との債権債務関係は,信託の清算手続とは無関係に,従来どおりの内容で続くものと考えます。
  


②として,信託財産の清算手続の方では50万円を受託者に交付して,停止条件の成就,不成就が確定するまで受託者に保管させた上で,残りの財産をもって信託財産の清算手続の方は結了させてしまいます。

  ③といたしまして,受託者は,停止条件の成就,不成就が確定した段階において,この結果に従って,預かっていた保管中の50万円を所持するものといたします。すなわち停止条件が成就した場合には,受託者は保管中の50万円に加えて固有財産から50万円を追加して,100万円を信託債権者に支払うことになります。


信託債権者の立場は,信託財産の清算の前後を通じて変わらないのに対しまして,受託者は50万円を自己負担しなければならなくなりますが,信託財産の清算手続は済んでしまっておりますので,改めて信託財産や受益者に補償請求することはできなくなります。

  一方,停止条件が不成就に確定した場合には,受託者は信託債権者に支払う必要がなくなりまして,信託債権者の立場は,信託財産の清算の前後を通じてやはり変わらないのに対しまして,信託財産の清算手続は済んでしまっておりますので,受託者は,保管中の50万円を改めて信託の清算手続に回す必要はなくて,いわば50万円を利得できるという結論になるものというのが事務局の一つの考え方でございます。
 


 以上に対しまして,受託者が個人責任を負わない有限責任信託債権の場合には,信託財産清算手続の中で直ちに50万円を信託債権者に支払う。

信託債権者は条件成就,不成就を待つ必要はなくて,評価に従って,その信託財産の手続の中で50万円もらうことによって,その弁済はすべて終了し,債権債務関係は一切残らないとしてはどうかというふうに考えているものでございます。

  次に,提案9の方に移りますが,提案9に関しましては,清算受託者の便宜あるいは信託の柔軟性という観点から,保管の継続か競売かの二者択一に限らず,清算受託者としては,適正な任意処分による換価という方法もとり得ることを認めるべきではないかとの意見が前回,示されました。
  


しかし,前回会議でも示唆されたところでございますが,清算受託者としては,まず,清算目的のためであれば信託財産を任意処分して換価する権限を有しております。


これは2の(2)に書いてございますが,そもそもそのような権限を持っております。


しかも,信託終了時には信託財産を換価して,金銭でもって返還するという定めを信託契約に入れるという方法もありますし,仮に信託契約上は現物返還と定められている場合でありましても,例えば腐敗物については別であるというふうに約定の趣旨を合理的に解釈する方法によりまして,さらに場合によりましては,保管費用に要する補償請求権を行使するために信託財産を処分するという方法によりまして,すなわちこのようなさまざまな方法をもって帰属権利者の受領拒否等の事態に対応することは可能であると思われます。

  したがいまして,このような場合には,保管義務軽減のために,この9の手続によるまでもなく,信託財産を任意処分できることが少なくないと思われます。


そうしますと,清算受託者がこの9の手続によらざるを得なくなるのは,かなり例外的な場合に限られると思われまして,このような場合についてまで任意処分の権限を認める必要はないと思われますので,保管の継続または競売の権利,両者どちらでもいいわけですが,これらの権利を認める前回の提案を維持することとしております。


  なお,前回会議においては,この競売のための手続費用はどこが負担することになるのかとの問題も提起されました。


  この競売は,厳密には清算目的のためというよりは,清算受託者の保管義務軽減のために行われるものでございますが,残余財産の給付に向けた清算事務処理の一貫として,清算受託者が信託事務を処理するために必要な費用と言うことはできると思われますので,補償請求権に関する規律に従い,信託財産から償還されることになりまして,その結果,当該信託財産に係る受益者または帰属権利者全員の負担に帰することとなるのが原則だと思われます。
  


といいましても,例えば,特定の帰属権利者が受領拒絶をしている結果として競売に至ったような場合につきましては,この者に対する競売費用相当額の賠償請求権,これは法的には民法第485条の弁済費用増加額の支払請求権と位置づけるものだと思われますが,このような請求権が別途,信託財産に帰属しまして,競売による売却代金からこの拒絶者に給付すべき金額と,この賠償請求金額との差引計算をすることによりまして,最終的には,この拒絶者の負担に帰することになると考えております。

● この信託の終了に関連して,何か御意見があれば伺いたいと思います。

● 終了原因について,若干御意見を申し上げておきたいと思うんですが,この終了原因について,1の(1)の⑥のところが前回も議論となって,今日コメントをいただいているところかと思うんですけれども,この点について,受益者の予見可能性ということが言われております。

この予見可能性ということについては,本当にそうであろうかといいますか,やや慎重に見る必要があるのではないかということを,一言申し上げておきたいと思います。


  オーダーメイドの自益信託等の場合には,恐らく委託者兼受益者が契約内容を慎重に検討しながら作成していくということになりますので,予見可能性は確保されていると言えるんだろうと思うんですけれども,例えば他益信託の受益者や,その受益権の譲受人の場合に,多様性のある信託商品の中で,信託条項の1項目である変更権についてどれほど自覚的にこの受益権を取得することになるのか甚だ疑問であります。


  この記述の中でも,終了権限などの内在的制約とか限界ということが言われているかと思いますけれども,恐らくそういった内在的制約や限界が争いになって検討される場合にも,そういった受益権の取得の実情ということも,その解釈に影響を与えるのではないかと思います。

  終了権限が付与されることが認められるとしても,その権限行使は,場合によっては相当程度限定されたものとなる場合がかなりあるのではないかと思われるところでして,権限付与が認められるとしても,広くこれが認められるかのような記述は,若干慎重にお願いした方がいいのではないかということが,御検討いただきたい点であります。

  それから,この権限行使の限界について,条項上,明確に限界の条項を定めないことにする場合にも,やはり解釈上,その限界についてはある程度の考え方といいますか,そういうことを示す必要があるのではないかと思います。
 


 それから,終了権限を受託者以外の者に付与する場合には,これはやはりどのような者に付与するかということも重要ではないか。


そういった権限を付与される者があるとすれば,これはやはり受託者と同じように忠実義務を負うというような形の規律といいますか,そういったことを検討する必要があるのではないかと感じております。
 


 それからもう一点,これは質問なんですけれども,もし終了権限の行使が濫用的であって問題があるというふうになった場合に,この権限行使はどういうことになっていくのか。

無効になるのかということと,それから,その場合に受益者がとり得る手段について,考えられるとすれば,例えば受託者の解任ですとか,あるいは受託者以外の者が終了権限を持っている場合には,その者の解任とかいうことが考えられるのかもしれませんけれども,もし問題になった場合の対応といいますか,そういった点について,もし御検討されているのであれば教えていただけると助かります。

● もし終了権限行使が濫用的な場合,無効であろうということは,事務局の考えでは終了自体が無効になるのではないか。


濫用的な権限行使であっても,いわば訓示規定にとどまるわけであって,終了自体は有効というわけではなくて,終了自体が無効になるのではないかと思います。


  そうしますと,受益者がどういう方法をとり得るかということですが,無効確認というようなことまでしなくても,終了していないことを前提に,例えば配当の給付請求権を行使するとか。受託者であれば解任するということもできますが,それ以外にも,信託が終了していないことを前提とした受益権の行使ができるのではないかと考えております。

● 終了権限者に受託者と同じ忠実義務等を負わせることができるかどうかは,何か少し難しいかなという感じ……。これはつまり,どういう立場でこの終了権限を行使するかということですよね。


  これは当然に,受益者の場合に終了させる場合だけではなくて,いろいろな場合があるんでしょうし,そんなところが1つ問題なのではないだろうかと思いますけれども,何か御意見があれば。

● 流動化という視点なんですけれども,終了,清算という流れでして,当然流動化でも最後がございまして,ウォーターフォールで終了するわけです。

それがここで言う信託法上の終了なのかどうかという議論はあるかもしれませんけれども,不用意につくった契約であれば終了と書いてあるかもしれませんが,そうすると,清算規定が信託行為とはかなり異なるケースがいろいろ出てくるのではないかと思います。

  ということで,この信託の清算についてはデフォルト・ルール,信託行為に別段の定めがある場合にはそちらでも構わないというような,そういう趣旨なのか,信託の清算というような,ある意味では強行法規的な側面があるのか,どちらかわかりませんでしたけれども,現実的には,信託の終了時まで信託契約の中で書いてございますから,デフォルト・ルール化ということで御検討いただきたいということが1つ。

  あと,後ほどの信託の破産にも絡むんですけれども,清算している過程において,どうも債務超過であるといった状況が生じたときに,商法の議論であれば特別清算に移行することになると思うんですけれども,この場合ですと破産の議論にいくのかどうかということで,破産の方は,認めるか認めないか両方の議論があるかと思うんですけれども,仮に認められる場合というのは,この中でよきに計らうといいますか,何か特別な規定が場合によっては必要なのか否か。


必要であるという主張ではないんですけれども,その辺,どのように考えていらっしゃるのかお伺いしたいと思います。


● ほかに関連してございますでしょうか。


● 先ほどの終了権限の付与された者の義務については,○○委員がおっしゃったように,忠実義務はやや困難ではないかと私も思いますということだけ付加させていただきます。
 


 信託の清算の方の,今回,詳しく説明していただいた条件付債権の取り扱いについて,大変細かいところで恐縮なんですが,これは,評価された条件付債権の弁済自体は受託者に交付するということになりますと,受託者の固有の責任財産になりますので,そうしますと,条件付債権の方はまだ条件成就していないけれども,他の債権者がどんどん押さえてこられるというようなことになるとお考えなのか,それとも何らかの確保措置をセットで御検討になっているのかという点でございます。


  確保措置がないのであれば,私自身は,深くは考えておりませんが,まだ債権者に交付してしまった方がいいのではないかという気がするものですから,その点についてお聞かせ願えればと思います。

● 具体的な措置と言われますと,ちょっとまだ十分検討しておりませんで,ただ,保管してとかプールしてとかいうのは,おっしゃるとおり,混ざってしまいますとほかの債権者がかかってこられて,意味がない。

あくまでこれは,この条件付債権者のための財産として確保されるべきものだというのが前提でございます。その方法については少し検討したいと思いますが,おっしゃるとおり,このような手続をとる以上は確保措置が必要になりますし,もしそれがうまくいかないようでしたら,一気に清算するということもあり得るかなと思っております。

● 私も同じことを申し上げようと思ったので,ちょっと付言しますと,そういう場合には,この御説明書とは違いますけれども,清算事務が結了していないという整理ができるのが,ある意味で従前の法定信託--その部分についてだけ法定信託として,清算が結了していないので,1に従って信託が残っているというような構成もあり得るのかなと思っていたわけです。
 


 いずれにしても,やはりここの確保措置がなされなければ,受託者のクエスションリスクを負うということですので,ちょっと問題なのかなと思ったものですから,つけ加えさせていただきました。


● 一つの考え方かもしれませんね。

  受託者に引き渡すというような表現がどこかに書いてあったので,ちょっと問題になったんだと思いますけれども。ほかの債権者がかかわっていけない,受託者の個人債権者はかかわっていけないような措置は必要だと。


● その措置があれば,このような処置の仕方で良いのかという点はいかがでしょうか。
 


 例えば,仮に条件不成就ですと,言葉は悪いですが受託者が丸得するわけですけれども,それでも確保措置さえできていれば,とにかくプールしておいて,そして結論を見た上でどうするか。


50万円損するか50万円得するか,言ってみれば博打みたいなものでございますが。どちらがいいのか,一気に清算するというのがいいのか。


  議論の過程では,こうしますと結論が長引きますので,いっそのこと,もう信託が終了したときには条件付債権者についても,仮に無限責任であっても一気に清算する方が,一気に解決できていいのではないかといった議論もございましたし,さらに申しますと,無限責任債権者は,常に信託財産にいけると知っているわけではなくて,自分は固有財産にしかいけないと思っていたら信託財産にもいけるとわかったという者,あるいは最初からいけると知っていた者について区別する必要はあるのかどうか。

知らなかった者についてはプールしておくという方法もあり得るにしても,知っていた者については,もう信託財産の清算の過程で一気に清算してしまうということもあり得るのではないかといった話も多少出ておりまして,そもそもどういう考え方が結論としていいのか。


これがよければプールの方法も考えたいと思っておりますが,またそういう御指摘もいただければと思います。

● 仮に私の言うとおり継続するものであれば,余った場合に,例えば受益者にまた改めて返す。これは受託者にとっても面倒なことだとは思うんですけれども,そういうことも可能なのかなという気もしております。
  


それが仮に信託行為で最初から定めていることであれば,それも一つの商品性として歓迎するのかなというふうにも思いました。


● 恐らく受託者のところにいってしまうわけではなくて,また受益者と--受益者というのは帰属権利者ということですね,あるいは分配しなくてはいけないということになりそうな気がしますね。
 

 しかし,○○幹事が説明されたように,そもそもこういう解決でいいのかどうかというあたりが実際の問題として,もうちょっと検討した方がいいかもしれませんね。


  それでは,休みの間にでも,また御意見があれば伺わせていただくことにして,ここで一たん休憩をいたしましょう。
           (休     憩)

● では,準備ができたら始めてください。


● 終了のところで○○委員からお話があったのは,破産のところにも関係するんですが,特に信託債権と受益債権の優先劣後関係についての問題の御指摘ではないかと思われます。

  これはむしろ皆様にいろいろ議論いただきたいと思っているところでございまして,過去の提案では,受益債権の方が劣後するとしておりますが,そこら辺が自由に定められるのか,あるいはそのような規律自体が適法なのかというあたり,もうちょっと皆様の意見を伺ってみたいと思っております。

● ほかに,終了のところに関していかがでしょうか。

● 前回お話ししたことの繰り返しになるかもしれませんけれども,くどいようですが,61の1の(1)の④について,いわゆる58条リスクの話を申し上げました。それについて,これで十分なのかどうかについて,まだ検討の余地があるというお話でございました。

  同じ話をいたしますと,方向性については非常に賛成するわけでございますけれども,なお,このような条項で,ファイナンス目的の場合に,果たして安定的な信託ができるのかどうかについては,格付機関も含め,いろいろな取引当事者間のコンセンサスが出てくると思いますものですから,ここについては,ぜひともパブ・コメ等で意見を聞いていただいて,その上で御判断するのがよろしいかと思っております。

  その際,これも前回申し上げましたけれども,ファイナンス目的ということについて前回の説明でいただきましたけれども,それについては要綱試案等で書いていただきたいということですが,1点だけ加えますと,ファイナンス目的といってもいろいろなタイプのストラクチャーがございまして,また,ファイナンスといっても,例えば真正売買の関係から,これはファイナンスかどうかという話もあるぐらいですから,ある意味で,ここで言うファイナンスというのは非常に広い意味でのファイナンスで,ちょっと具体的に全部記述することは難しいと思うんですけれども,そういうことがわかるように御説明いただければなと,ちょっとお願いしたいところでございます。


● 同じところですので,続けて申し上げさせていただきたいと思います。
 
 私も,裁判所による信託の終了のところで,目的を基準とすることで,本当にこれで明確と言えるかどうかということは,前回,信託の変更のところでも申し上げたとおりでございます。


  仮に目的が不明確であるとした場合には,目的に適合しないと認定するのは非常に困難であって,その結果,裁判所による信託の終了というのは機能しないということでもよろしいのかというあたり,仮にこの要件を維持するとすればということでございますが,そこが1点でございます。


  もう一点は,他の原因によって信託が終了している,実体的に終了しているという場合,特に,例えば目的の達成が不能になって,既に信託が終了しているという場合には,既に実体的に終了していますので,④によって信託の終了の申立てがあったとしても,裁判所はこれで信託の終了を命じるということにはならないのではないかと考えております。


そのようなことでよろしいのかというあたり,若干確認的に申し上げさせていただきたい。よろしいとは思っておりますが,若干確認的に申し上げさせていただきました。


● 前者は,目的に適合しないこととなった場合というのが積極要件となっておりますので,信託の目的の趣旨がいま一つはっきりしないということで,適合しないという認定ができないということであれば,申立て自体は認められないという結論でいいのではないかと思っております。
 


 それから,終了するまでもなく既に達成不能になっている場合は,もう当然終了しているかということでございまして,そういう場合,それにもかかわらず,言ってみれば④の方より①の方が広いわけでして,④は①に含まれるという感じになると思いますが,それでも,確認的に終了を命じていけないのかと言われると,当然そこは①に当たるんだから,裁判所としては④の申立てを却下するということがいいのかどうか,検討してみないとわからないところです。そういう場合は,理由の中で「この信託は目的の達成が不能と認められるので,この申立ては却下する」こういう書きぶりになるという感じでございますか。

● どこまで理由を詳しく書くかというのは,よくわからないんですが,実務的に,具体的に心配しておるのは,まさにおっしゃられたように,目的の達成が不能である。


にもかかわらず,ちょっと心配だから裁判所にというような申立ては,そういう目的で,この裁判所に対する申立てという制度があるわけではないというところを確認させていただきたいということでございまして,もしそういう余地があるのであれば,「他の原因によって信託が終了した場合を除く」といったところで,むしろ要件を明確化していただくことが考えられるのではないかと申し上げたところであります。

● 本来は生きている信託を終了させるのが,④の趣旨からすると,おっしゃる趣旨が妥当するのかなという直感がいたしますが,御指摘の趣旨を踏まえて検討したいと思っております。

● 余り明確にしない方がいいような気もするけれども。
  終了のところは,ほかによろしいでしょうか。
  それでは,ほかにも関連する問題,さっきの受益債権の問題もあるし,先に生きましょうか。

● では,続きまして,信託財産に係る破産手続の整備についてに移らせていただきます。
  


前回会議において各論的に特に問題指摘がなされた事項についての検討結果と,新たな問題提起を示したものでございます。


  4点ほどございますが,まず,前回会議におきましては,手続を設けるべき信託の範囲について,信託債権の責任財産が信託財産に限定されていない場合についてまで破産手続の対象とする必要はないのではないかとの指摘がされました。


この点については,まず,信託債権の責任財産が信託財産のみに限定されることとなる,いわゆる有限責任類型の新たな信託制度を仮に導入することとした場合には,このような信託について,破産手続を導入することには異論がないことを確認したいと存じます。

  その上で,問題は,受託者の固有財産も責任財産となる信託一般についても破産手続を導入する必要があるかという点でございまして,現行法上,いわゆる合名会社につきましても破産制度がありますので,受託者無限責任の信託に破産手続を導入したとしても,制度間のバランスを欠くものではないと思います。
 


 もっとも,前回会議でも指摘がございましたとおり,受託者無限責任の信託と破産制度が果たして相容れるものなのかといった問題が生ずることは,否定できないところであると思われます。

  このような問題点を含むことを踏まえた上で,さらに受託者無限責任の信託についても破産手続を導入すべきか否かということは,契約相手は受託者個人であるにもかかわらず,しかも自己の有する債権が信託債権であることの知,不知にかかわらず信託財産をも引当財産とすることができるという信託債権者の利益がどこまで保護されるべきかという点についての実質的判断にもよるべきものと思われます。

  この点につきましては,有限責任取引の一定の浸透を初めとする現在の信託取引の実情ですとか,信託債権者の合理的な期待内容,さらには今回の信託法改正の全体を通じて見た場合の信託債権者に対する保護のあり方などを総合的に考慮することによりまして,現段階で結論を出すこととはせず,なお引き続き検討していきたいと考えております。

  以上の点につき,その他にも考慮すべき要素,あるいは受託者無限責任の信託について破産手続を導入することの当否自体についても,御意見があれば御指摘いただければと思います。

  続きまして,第2でございますが,前回会議におきましては,事務局より,残余財産の給付を内容とするものを除く受益債権も破産債権に含まれるとの考え方を示しましたところ,エクイティと位置づけられる受益債権がデットと同じく破産債権に含まれるというのは矛盾ではないか,受益債権を破産債権に含めてしまうと,信託財産が債務超過状態になるとの判断が極めて容易になされてしまうことになるのではないかとの問題指摘がされました。


  この点については,まず,株式において,具体的に生じた配当請求権については破産債権となるものと介されていることにかんがみますと,仮に受益債権がエクイティの性質を有するものだとしても,一定の受益債権をもって破産債権と取り扱うことが矛盾であるとまでは言えないと思われます。

そして,破産手続の開始等により信託が終了した場合におきまして,いまだ履行されていない受益債権がどのように取り扱われることになるのかは,信託行為の定め方次第であると考えます。

  ただし,これを資料中の説明に即して,より具体的に検討してみますと,一応次のように言うことができると思われます。

  例えば,まず,破産手続の開始等による信託終了時において,履行期が既に到来している受益債権ですとか,あるいは一定の猶予期間に基づき期間収益を分配することを定めた株式類似の受益権において,期間収益の確定行為が既に行われていることにより発生済みの受益債権,このものについては,株式において具体的に生じた配当請求権と同様に,信託財産の破産手続において破産債権として取り扱われ,破産手続の中で清算されることになると考えます。

  これに対しまして,破産手続の開始等による信託終了時において,履行期が到来していない受益債権ですとか,先ほど言いました株式類似の受益権において,期間収益の確定行為が未だ行われていないことにより未発生の受益債権,こういうものにつきましては,信託の終了をもって消滅し,あとは受益者または帰属権利者に対する残余財産分配請求権が残るのみであるとの信託行為の定めがあること,あるいはそのような趣旨の信託行為であると認定されることが一般的でありまして,したがって,信託財産の破産手続において破産債権として登場してくることはないのではないかと考えられます。
  


さらに,前回会議で挙げられた例に即してもう少し具体的に言いますと,例えば,100万円を管理・運用して毎月末に10万円ずつ10か月間給付するという定めをした信託契約におきまして,1か月経過後に信託が破産した場合においてどうなるか。


弁済期到来済みの当初の1か月分の10万円と,弁済期未到来の残り9か月分の90万円というものについて考えますと,最初の10万円は破産債権となりますが,残りの90万円については,破産により消滅するというのが信託行為の趣旨であると認定されるならば,破産債権とはならないと考えられます。


また,例えば有価証券の投資により,利殖の上で5年後に残額を返還してほしいという趣旨で50万円が信託されたところ,4年目に信託財産が破産したとしますと,この委託者の有する債権は,破産清算後に残額があれば交付されるべき残余財産分配請求権にとどまることが一般であると解されまして,やはり破産債権には含まれないのではないかと考えられます。

  以上によりますと,破産手続の開始により信託が終了した場合において,受益債権は,破産債権としてではなく,破産清算終了後の残余財産の清算手続において登場してくるにすぎない場合が少なくないと思われまして,信託財産が債務超過状態にあるとの判断が容易にされてしまうとの懸念は当たらないように思われます。このような考え方につき御意見を伺いたいと思います。
  

第3に,前回会議におきましては,信託財産に係る破産手続をより簡便なものとする観点から,あるいは信託の破産の場合においては受託者がまだ正常に行為し得る能力がある場合もある上に,信託財産の状況を一番よく知っているはずの者でもあることにかんがみると,「裁判所が選任すれば,受託者も破産管財人に就任することができる」との特別の規定を信託法に設けることも検討に値するのではないかとの指摘がされました。

  しかしながら,この点につきましては,破産管財人の公平・中立性の要請ですとか破産債権者の信頼の確保等の観点からしますと,破産債権の債務者であり破産財団たる信託財産の所有者である受託者本人が破産管財人に就任することが有益であるとは言いがたく,むしろ信託財産とは何ら利害関係のない第三者が破産管財人となって破産手続を進行させることが,破産手続のスキームに適合的であると考えられること,その他,資料に書いた理由によりまして,御指摘に係るような規定を設ける合理性は認めづらいのではないかと思っております。


  最後に,前回会議におきまして事務局より,信託の終了による清算の場合と同様に,信託財産の破産手続においても受益債権は信託債権に劣後することになるとの考え方を示しましたところ,このような考え方によりますと,信託債権者に比べて受益権に対する投資家の方が劣ることとなって,信託を器として利用した流動化の局面などにおいて投資を募ることが困難となるおそれがあるのではないか,会社と異なり,信託では厳格な配当規制が存しないことを考慮するのであれば,受益債権を劣後させるのではなくて,受益債権の弁済についての否認権や詐害行為取消権の活用をもって対処すべき問題ではないか。

あるいは,未発生のものはよいとしても,既に発生した受益債権についてまで信託債権に劣後させるのは行き過ぎではないかなどの観点から,事務局の前回示した見解を疑問視する御意見が示されました。


  この点につきましては,資料17ページの(注)に書いてございますとおり,受益債権に対する関係において,信託債権には共益的な色彩が見られることですとか,否認権や詐害行為取消権の行使にも一定の限界があり得ることにかんがみますと,信託債権を優先するとの事務局の考え方にも一応の合理性があるのではないかと考えるものでもございますが,しかし,この優先・劣後関係,信託債権と受益債権との優先・劣後関係は,先ほども御指摘があったとおり,非常に重要な問題でもございますので,引き続きぜひとも御意見を賜りたいと思います。

● まだいろいろ難しい問題が残されておりますので,いろいろ御意見をいただければと思います。
  いかがでしょうか。

● 全体像ではなくて,いきなり最後のポイントの各論のところなんですけれども,先ほど私から信託の清算のところでコメントいたしました。


それも結局,受益債権と信託債権の関係のところを信託行為で別段に定めた場合に,それがデフォルト・ルールだから信託行為の方が優先的に適用されるのかどうかというところもありましたので,ちょっとその辺だけに絞って質問ないし意見を述べたいと思います。
 


 いわゆる流動化でハイブリッド型というのがございまして,恐らくこの場で既に議論されているのではないかと思うんですけれども,その場合ですと,優先受益権とABL--ノンリコースローンですかね--は契約上,同列に取り扱われておりまして,それは今回の御提案ですと,既発生の部分と将来の部分とに分けておりますけれども,もちろん別にそういうわけではありませんでして,契約当事者間においては,それは同列で取り扱っております。


それが信託の清算とか,信託の破産手続を設けるかどうかの議論ですけれども,仮に設けるとした場合に,そういう局面において,ある意味では身分の違うものとして取り扱われるということ自体が,信託行為の定めとか信託の柔軟性にもとることになるのではないかと思います。

  もちろん,新しい信託法ができて,それが序列が違うんだということが明らかになれば,そのような商品設計はされなくなると思うんですけれども,恐らく今,同列に扱われているというのは,投資家の方で,ローンで投資したいという方と優先受益権で買いたいというような投資家サイドの希望からでき上がっているものでございまして,そうすると,今までできたものが,信託法でこういう規定を設けることによってローンでしか出せなくなる。

それを,いや,ローンでは困るということになって,もう一回SPCに入れてそれを社債型にするとか,また手間をかけることになってしまうということで,今までできたことを,あえてそういうふうにする必要はないのではないか。

  では,その限りにおいてはそのとおりなのかもしれないけれども,一般的な信託債権者が登場したときに一体どうするんだろうか,そういうことがこの間の破産手続の問題だとは思うんですけれども,ABL--ノンリコースローンにおける額面というものは,ある意味では信託財産が減れば,要するに,一般債権者が出ればその分へこむわけでして,ですから,ある意味では額面といいますか,表示上の額面にしかすぎないという側面を持っています。
 

その限りにおいては極めて信託受益権に近いものはございますし,片や社債型の信託受益権というのは元本があり,確定利回りであり,実績配当の信託においてなぜそれが可能かといえば,それは劣後受益権があるから可能であるということでございまして,極めて社債に近い性格を持っている。

ですから,経済的実質においては,単に当事者が勝手にそれを同じだと決めただけではなくて,経済的実質においてもほぼ同じものでございます。

  ですから,これが信託清算のところの,先ほどの弁済の充当のところで,債権に先に充当し,その後に受益権に充当するというところに対しての,デフォルト・ルールでやる必要があるのではないかという発言にもつながりますし,また,この信託に対する破産制度を仮に設けるとしました場合に,その破産原因として債務超過ということを仮に規定する場合に,債務超過の債務に対して,ABLだけを取り上げるのか,場合によっては信託受益権の額面というものも取り上げるのか。

全く違う見方をして,ABLにおける額面というものは,ある意味では信託財産によって幾らでも減額されるものであるということになれば,債務超過のところの債務というものとしては,ABLは認識しない。

  したがって,有限責任信託でも特約付でもいいんですけれども,幾ら一般債権者が増えたとしても債務超過にはならない。


どうしてかというと,ABLの額面が実質減っていくから。ですから,信託財産を超えてしまえば別ですけれども--というようなことで,逆に,そうすれば流動化に対して破産の手続というか,債務超過を倒産原因としたとしても,流動化には実質的に適用がないだろうというような議論にもつながっていくとは思うんですけれども,その辺が不明確なまま,または通常の発想ですとそういう発想はなかなか出てこないと思うので,そうすると,例えば信託財産,100のABLがあって,たまたま1の債務を負ってしまった瞬間に債務超過になってしまう。

でも,実質的にはそれはABLのサイガントでは99で済むわけですから,実質においては債務超過ではないと思うんですね。信託の債務超過が会計的にといいますか,この手続上どういうふうにとられるかということにも結びつくと思うんですけれども。
  


いろいろ申し上げて申しわけないんですが,結論としましては,今,幾つか提案がありましたけれども,それ以上に,信託行為の定めというものを優先的に取り扱ってほしい。


もちろん流動化だけが信託ではございませんから,一般論としての,また,デフォルト・ルールとしてのこういう取扱いというものは,それはそれでいいのかもしれませんけれども,既存のスキームというものが今後とも,信託法が改正された後も,ある程度使えるものであった方が,よりよいのかなという視点からの発言でございます。

● 今の関連で,受益債権と信託債権の優劣関係についてでございますが,まず結論だけ申しますと,私が今,考えているのは,受益債権は信託債権に劣後することもあるということでございます。
 


 以下,付言いたしますと,まず,倒産手続で最も先鋭化します複数の債権の間の優劣関係というのは,基本的に,まず実体法が決める問題である。


それで,今次の倒産法の改正で入りましたとおり,約定劣後のようにですね,当事者の意思で決めることもできる,こういうものだろうと思います。


実体法で決める問題でありますから,倒産固有の問題ではなくて,例えば,どちらかの債権を執行債権として強制執行が始まって,もう片方が配当要求で入ってくるという場合でも同じように生ずる問題でありまして,倒産固有の問題ではないんだろうと思います。

  したがって,最も先鋭化する破産手続の整備のところでこの項目が入っているのは,現象としては,もちろんそれで結構なわけですけれども,問題は破産と切り離して考えるべきだろうと私は思います。
 


 そうやって考えますと,特に一般債権として性質が違うものでなければ,プロラタが原則なんだろうと思いますが,ただ,17ページの(注)にございますとおり,信託債権として扱われるのが信託上の事務処理に関するものに限定される。

その「受益者全体の利益のために支出された費用と同視し得るもの」というものがあるとすれば,全部ではないと思いますけれども,あるとすれば,これは民法の先取特権の共益の費用,これを通じて優先的破産債権のような扱いをし,結果として優先・劣後の関係がつく,こういう説明をすることになるんだろうと思います。

  信託債権がすべてこの共益債権に当たるかどうかはよくわからない,そうではない場合もあるのではないかと考えましたので,冒頭申し上げたとおり,受益債権が信託債権に劣後することもあるだろうし,そうではないときもあるだろう。
 

 それから,今,○○委員からもお話ございました,約束で優先関係を決められるということであれば,約定劣後の約定と認識できる限りでは,破産手続では当事者の合意で優先順位を動かすこともできるだろう,こういうふうに説明することになるのではないかと思います。
  以上が4の受益債権と信託債権との優劣関係です。


  御議論があるのはこの辺かと思いますが,あと2つだけ,ほかの点について簡単なコメントをさせていただきたいと思います。


  1つ戻って,3の受託者が破産管財人となることの当否についてでございますが,結論としては,これ,何も規定を置かないということでよろしいのではないかと思うんですけれども,ただ,この場の議論が,受託者というのがおよそ破産管財人に就任するのは不適当であるということでまとまってしまうとよくないなと思いまして,一言だけ申し上げさせていただきます。
 

 破産規則の第23条第1項では,破産管財人というのは,その職務を行うに適した者を選べということが書いてあって,何か特段の類型の人を排除する仕組みにはなっていないわけですけれども,例えば受託者が,信託財産が危殆に瀕しているというので,いわば事業の立て直しのプロみたいな人が直前に送り込まれて,その人が受託者として頑張ったんだけれども,もう遅くて破綻したというような場合には,その人を破産管財人にすることが適切な場合も恐らくあるだろうと思いますので,この場の議論の結論が,受託者というのはおよそ破産管財人にするのは不適切だということでまとまってしまうと困るなと思いまして,一応議事録に残しておきたいということでございます。


  第3点でございますが,一番最初に戻りまして,そもそも破産手続の整備に係る全体の話でございますけれども,前回の信託法部会資料の9というところで随分詳しく,今年2月ですか,いろいろ論点が挙がっておりますけれども,一言だけ,その手続を組み立てる際の基本的な考え方について私の考えを申し述べますと,信託財産の破産専用の自己完結的な,よりシンプルなものをつくるというのは,恐らく要らないだろう。


つまり,現在の破産法をベースにしながら,あたかも相続財産の破産についてなされているように,個別のところで特則を置いていけばいいだろうと思います。


  別個の自己完結性の手続が必要だという御意見は,ここでもどこかで出てきたような気がするんですけれども,それは恐らく,現在の破産手続は重たいという認識を前提にされているんだろうと思います。

しかし,昨今の破産手続の運用を見ますと,かなり大きい事件でも相当迅速に処理されていると思いますので,先ほど申し上げましたとおり,個別に特則が必要なところだけ,例えば申立権者ですとか破産財団の範囲ですとか,そういうものだけ手当てすればよくて,別個の自己完結的な破産手続をつくる必要はないだろうと思ってございます。


● 3点あるんですけれども,今,○○委員と○○幹事がおっしゃったことにも関係すると思います。

  第1点ですが,優先・劣後。約定劣後はありと○○幹事がおっしゃったこと,私も基本的に,考え方としてそのとおりだと思っているんですけれども,ただ,いずれにしても,原則が平等なのか,原則が劣後しているのかということは決めなければいけないことだと思いますので,会社法で言えば,原則は株式は債務に劣後していますというのが出発点で,これは現在の商法ですと第131条の本文ですけれども,その場合に,債権の方が自分で自発的に約定で劣後していくのはいいんでしょうけれども,下の人が約定で上がるのは,多分だめだと思います。
 


 それから破産法が,約定劣後の規定はあるんですけれども,あれは私の理解では,債権の間,下がるというものはいいと思うんですが,株式と同列あるいは株式より下に下がるという,実務で超劣後と呼んでいた,それにはどうも破産法上の文言が対応していないように思えるものですから,それは解釈問題だと思うものの,そういった点が論点としてはあると思います。

  ただ,いずれにしてもデフォルト・ルールというか,出発点が,もともとイコールなのか優劣があるのか決めませんと,その上で約定劣後はありという話だと思います。それが1点目。
 


 2点目は,○○委員がおっしゃったことと関係するのか関係しないのか,よくわからないんですけれども,つまり,優劣を設ければ新しい秩序になるかという話で,私は流動化の実務を知らないんですけれども,多分,信託については従来は信託債というか,株式会社形式の場合には社債で複層化というんですかね,マルチレイヤー,多層化のキャッシュフローを切り分けてやってきたと思うんですね,株式ではなくて。株式の中に優先・劣後を13種類つくるということはしませんで。


  しかし,信託を使う場合には,信託債というものが今回はありということだと思うんですけれども,従来はっきりしなかったものですから,その代わりと言ったらなんですけれども,受益権を複層化するという使い方をしてきたように思いまして,ですから,どっちにそろえばいいとか悪いとかいうことではないんですけれども,もし今回,信託債というものがありということがはっきりすれば,恐らく受益権というのは流動化の器というか,箱として使われる場合には,株式会社の株式のようになっていくかもしれない。

「かもしれない」としか言えないんですけれども,そこの「信託債」というところとの関係があるような気がするというのが2点目です。

  3点目は,この資料に書いてあるお話で,もともと優劣をつけても,株式会社の株式の場合には株主に--何というんですかね,発生した具体的なというんですかね,どこかに書いてある--配当請求権というのは劣後していない,破産債権で同等でやるという御指摘があるんですけれども,これはそもそもなぜそうかというのが私は疑問でして,今,考えられる答えというのは,それは株式会社は債権者保護のための配当規制をしていまして,配当規制を守って初めて具体的な配当請求権が出てくるはずなんですね。

したがって,配当規制に違反した,現在の条文だと第290条に違反した利益処分決議をしても,具体的な配当請求権は発生しないと私は思うんです。


  したがって,そういう配当規制を前提としているからこそ,具体的に発生したものは同等ということになっているんだと思いますので,ちょっと信託の場合には,それは配当規制を想定しているわけではありませんので,この話は例の有限責任,無限責任も含めて,そう簡単ではないんですけれども,株主は原則は商法第131条で劣後だけれども,具体的に発生したものは同等なんだからというところは,ちょっと注意を要する。そのまま信託には当てはまらないような気がいたします。

● 2に関してでございますが,これも前回申し上げたところでございますが,結局,債務超過概念というのが明確でないというところもありまして,信託の安定性というのがどうなのかというところに若干の疑問があるということの文脈で,もちろん銀行として,債権者の立場からすると,破産をさせやすいというのも1つのメリットでありますけれども,総じてそういうプログラムに入るものとして,想定外の信託の上,破産がある場合には問題になりますので,そこら辺のバランスを考える必要があると思います。
 


 その観点から,第1に,受益債権が破産債権であるということになった場合には,やはり信託が壊れやすいということにもなり得ますので,そういう意味で,やはりエクイティ的な取り扱いにしていただきたいということだと思います。

  もっとも,やはり信託の柔軟性ということもございますものですから,そこら辺,デフォルト・ルールということで考え方が設計できるのであれば,それも一つの手なのかなと思っております。
 


 ただ,第2に,受益債権についても手当てできたとしても,例えば不動産についても,これも前回お話しした例ですけれども,今,一瞬時価が下がった場合に即,債務超過になってしまうということもあり得て,そういった場合でも,予想外の債権者からの破産申立てがある場合にみんなが困ってしまうという状況があるということについて,どうするのかという話でございます。

  そういう意味で,債務超過概念を考え直す必要もあると思うんですけれども,そこで,1つ中で議論が出ているのは,これは商事信託要綱の中で,具体的には第713条の第7項を読み上げますと,前項による債権者の破産申立てに対し,受託者が弁済をし,または相当の担保を供した場合には,裁判所は破産を宣告しないことができるということでございます。


受託者がかかる義務まで負うのかどうかという議論は別途あるかもしれませんが,やはり予想外の場合に,こういう救済手段を置いておくというのも一つのアイデアなのかなと思いました。
  


続きまして,4に関してでございますけれども,受益債権と信託債権の優劣関係でございます。

  ここも,基本的にはデフォルト・ルールということもあるのかもしれませんが,ただ,実務的な感覚からすると,やはり受益債権は信託債権より劣後しているのかなと思っておりますので,原則的な取扱いというのは,そのようになるべきなのかなと思っております。

もっとも,これに対しては,投資家から十分な資金を集めることができるのだろうかとか,債務を負担することを禁止せざるを得なくなるのだろうかという疑問点がこの報告書にも書かれておりますが,前者については,これも実務的な感覚でございますが,そういう懸念はないだろう。後者についても,ストラクチャーの問題であろうと思っておりますので,懸念材料はそんなにないのではないかと思っております。


  続きまして,3番目でございます。これも前回において私から問題提起したところでございます。


その場においてはなかなか賛同がなかったものでございますけれども,少なくとも,先ほど○○幹事からお話があったように,やってもいいなというケースもあるものでございますので,ここでは,多分この報告書もそういう趣旨だと思いますけれども,禁止はされていない,明文に規定をもってできるということは,例えば商事信託要綱にも書いてありますけれども,そういうようなことはしないけれども,逆に否定まではしていないということを確認したいと思います。


  最後でございますけれども,そもそも破産の類型をどうするのかという話で,有限責任信託だけに限るのかということでございますが,これは理論的なことはともあれ,実務的な立場からは,やはり信託が立ち行かなかった場合の最後の出口としての破産制度,ないしは債権者の最終的な回収手段としての破産制度というもの,特に受託者が余り資力がない場合においては,やはり信託財産から回収したいということでございますので,そのニーズはあると思います。
  

例えば,これは保証人付の債権ということもあると思うんですけれども,幾ら保証人がそういう意味で無限責任を持ったとしても,当該債務者は破産制度の対象となるということでございますので,そういう意味で,受託者が無限責任を負っているからといって,通常型の信託類型において破産制度が妥当でないという考えには,必ずしもならないと思っております。

そういう意味で,通常型においても破産制度というのは必要だと思っています。ましてや有限責任類型においては当然必要になると思います。

● なかなか難しいですね。
● ○○委員から2番のお話が出ましたので,ちょっと言及させていただきたいと思います。
  


第9回の本席で私の方からも,受益債権を破産債権に入れるというのは,基本的には違和感がありますと。


エクイティと見るかデットと見るか,そういう問題は別にして,実務的な感覚からすると違和感がありますということと,やはり設定してすぐに債務超過になる可能性も大きいのでというお話をさせていただいて,それに対して今回の規律といいますのが,説明は15ページの②にありますけれども,履行期が来ていないものについては,信託の終了事由が発生したことを解除条件とする債権と位置づけることによって解決を図っていただいているということでして,正直言って,実務的な感覚はちょっと違うかなという感じはするんですけれども,こういう整理をしていただいて,履行期が来ていないものについては破産債権に含まない,そういう結果を生みますので,その結果といいますのは,基本的に実務上,非常にありがたい規律になっておりますので,こういう方向性で検討していただければと考えております。


● この破産の問題,実は弁護士会の方でも議論をしておるんですけれども,なかなか意見が進んでこないというようなことで,難しい問題だなと受けとめております。

  現在の破産法との関係では,法人格がない者に破産能力を認めるという点で,かなり異例ですし,相続財産との関係でも,相続財産は,相続発生時点で財産が固定される状態になるんですけれども,そうではなくて,信託は日々動いているということで,かなりこれまでのものとは異質なものを破産させようとしているんだなという受けとめ方をしておりまして,いろいろ議論があるところで,未だ固まった意見になっていないのが実情です。


  個人的な観点から,何点か意見を述べさせていただきたいと思うんですけれども,まず,第1点,この破産制度を導入する範囲についてですが,これは基本的に有限責任信託,新しい信託類型については債権者保護の観点からということがわかりやすいんですけれども,通常の信託の場合には,債権者保護というよりも,むしろ信託を終了させるメリットですとか,あるいは公正な第三者により信託の最後の処理をするというメリットの方が,むしろ重視されるような場合なのではないかと受けとめております。


  そういったことを考えますと,通常の信託の場合にも破産の手続を整備した方がよいように思いますし,また,例えば受託者が破産した後に信託を処理しなければならないとなった場合に,やはり通常の信託の場合にも,手続がないとちょっと困るのではないかという感じがしております。
 


 他方で,恐らく有限責任信託の方が,破産手続を具体的にどう規律していくかということを考える際には比較的やりやすいのではないかという気もしておりまして,どこまで法律,制度をつくるべきかというところは,ちょっと悩ましい問題かなと受けとめております。

  それから破産原因について,基本的に債務超過を破産原因とするという前提で議論されているかと思うんですけれども,債務超過というのはなかなか難しい議論があるところですし,特に通常の信託の場合には,合名会社等の規律との平仄等も考えると,そこまで破産原因とせずとも支払不能を破産原因とするというような規律でよろしいのではないかと感じております。
 

 関連して,受益債権の取扱いについて,今回,緻密な議論をいただいているかと思うんですけれども,1点気になっておりますのが,残余財産の給付を内容とするものを除くとしている点です。

  この点については,いろいろな信託の類型があろうかと思うんですけれども,信託の中によっては,例えば土地信託で元本収受権を残余財産分配請求権的に構成している場合もあるように思いますが,こういった債権が破産債権から除かれるというのは,ちょっと違和感があるように思います。この点については再検討いただければと思ったりしております。

 それから最後の,受益債権と信託債権の優劣関係について二,三,受益者の立場からということで御検討願えないかという点なんですけれども,信託財産が破産するに至る過程の中で,受託者の地位にあった元受託者といいますか,この方が,恐らく信託財産に費用償還請求あるいは報酬請求をしてくることになろうかと思うんですけれども,これとの関係で見たりしますと,受益者としては,受益者の債権が劣後するというのはどうも納得いかないという感じを持つのではないかと思います。
 


 これは何というか,そういうものであると言ってしまえば,それはそうなのかもしれませんけれども,ちょっとここは慎重に検討する必要があるのではないか。


  また,同じように,「信託債権者」と言っても多分いろいろな信託債権者がおられて,受託者の関連会社が信託債権者として登場してくる場合もかなりあるのではないか。


こういった場合でも,そういったところがみずからの報酬を確保して,あるいは費用の点はしようがないのかもしれませんけれども,確保して,みずからの受益権が劣後するというのは,どうも受益者の立場からすると,どうなのかなという感じがちょっとしています。

  この辺については,恐らくいろいろな御意見や受けとめ方があるところかと思いますけれども,ぜひそういった点も若干御考慮いただければと思います。
 

 この優先・劣後の問題については,弁護士会の中でもいろいろと議論のあるところで,劣後債権にすべきだという意見ももちろんありますけれども,この辺の取り決めについては,ぜひ慎重に御検討をお願いしたいと思います。

● 先ほど,優先・劣後を考えるときにどちらを出発点にするかというのが基本的な問題で,そこをまず決めてからその先を考えるべきだという御指摘があって,その上で,株式会社の場合,エクイティが劣後するのははっきりしていて,ただ,確定した配当請求権などは平等扱いになっているけれども,そのアナロジーも,そのままきかない面もあるかもしれない,それは配当規制などとの関係で違いがあるというふうな御指摘がありました。


  それで,ちょっとよくわからなくなってしまったんですけれども,ここで言っている破産債権になるような受益債権というのは,実はかなり限定されているようなイメージなんですね。

清算時に生じる債務財産の給付の内容とするものは除いていますし,それのみならず,14ページから15ページあたりを細かく検討すると,結局破産債権にならないようなものも相当あるんだというようなことが書かれていることを前提とすると,一体何が残るんだろう,どういうものを典型的なものと想定したらいいのかというのがよくわからなくなってきたんですが,例えば,こんなものを考えると,エクイティに近いから劣後するという議論は成り立たないのではないかと思うようなものも多々あるような気がするんですね。

  例えば配当は,信託の配当を決めた。所在不明だったので実際は配れなかった。それが破産になったら出てきたのでまとめて返さなければいけない。


こういうものが普通の信託債権と比べて劣後するんだろうかというと,何か非常に違和感があると言えばある。


  あるいは,もっとひどいものだと,単に受託者が払い忘れていたというようなケース,後でまた払うんでしょうけれども。


これは受益債権なんだと思うんですけれども,かつ,これは破産債権になる受益債権だと思うんですけれども,こういうものを考えると,何か劣後……,これはもとはエクイティだからというのが余りアナロジーとして成り立たないような,性質決定として余り適正ではないように思います。

  先ほどの,配当規制がない世界と配当規制がある株式会社は違うという議論も,今のようなものに関して,もう既に,ほかの受益者は過去ずっと前に得てしまっているようなものに関しては,やはり余り論点として関係ないような,違いとしては関係ないような気もいたします。

  ですから,破産債権となる受益債権というのは大体どういうものがあるのかというイメージをもう少し固めないと,デフォルト・ルールも設定できないのではないか。


そういうものの中には,実は余り劣後という性格が適切ではないようなものが,実は結構あるのではないかというのが,今の私の印象です。

  ただ,それはもう少しきっちり検討しないとわからないかもしれませんので,結論は留保したいんですけれども,もう一点確認させていただきたいんですけれども,仮にデフォルト・ルールとして設定した場合,どういう形で,そのデフォルト・ルールをどういう手続で変えるかということまで踏み込まないと,適切なデフォルト・ルールの設計はできないと思うんですね。

  例えば,受益債権が劣後するというルールをとった場合には,ほうっておくと劣後するので,さっき言ったような種類の人たちまで劣後するんですが,この人たちを仮に対等にしようと思ったら,だれとの関係で,だれとどう約束すればいいのかがよくわからないんですね。

信託行為で書いたって,そんなの多分だめで,各債権者との関係で,同じところまでおりてくださいというのを個別に約束するとは思うんですけれども,何かそういうものが本当に適切なのかどうか。

原則平等としておくと,劣後するような種類の受益債権について劣後しようと書くことになるんですが,それは信託行為で書けば,多分できると思うんですね。


そうなると,デフォルト・ルールをどっちに設定するかによって,後で適切なアレンジメントをするときのコストが変わってきますので,まずどっちが原則かをネイチャーに応じて決めて,そこから先は適正な手続を考えればいいという手順だけではなくて,設定の仕方でその後の手続が変わって,コストが変わることも念頭において適切なデフォルト・ルールを考えないと,やはり手落ちかなという気がして,それを考えると,ますます何か平等扱いの方が,むしろ適切に,信託行為の中でうまく設定できるという意味でいいのかなという印象を,現段階では持っております。

● 関連するんですが,ちょっと違うポイントで,なおかつ解釈論的な議論なんですけれども,有限責任信託には適用があってもいいのではないか,こういう議論で,それは恐らく,有限責任信託は事業的なものに使われやすいだろうという前提だろうと思うんですけれども,場合によっては,有限責任信託というものはいろいろな,民事信託でも,仮に弁護士等が民事信託を受けようとしたら,固有財産まで引当てにする必要はないと思うので,有限責任信託を使うかもしれませんし,流動化の世界でも,でき上がれば使うかもしれません。

  そうすると,事業をするから有限責任信託ということではなくて,有限責任信託は有限性だからという議論だと思うんですけれども,その中で仮に流動化とか,倒産手続の適用がないためにどうしたらいいかというと,恐らく破産申立制限条項を信託契約の中に入れるだろう,こういうようになると思うんですけれども,この辺は従前の実務でもやっているところなんですけれども,その辺でやや,解釈論的なんですが,確認的なところで,受益者は当初,当事者ではありませんけれども,通常は受益権を分割して投資家に売っていくという形なので,当初の破産申立制限条項というものは,恐らく転々と譲渡していく。

仮に有権証券化された場合でも,そういうものは譲渡していく。実際に社債型の流動化ではそういうふうにやっていまして,解釈論的にそういうものも有効なんだというような議論--どこまで有効かどうかわかりませんけれども--していますけれども,この場合,破産手続の適用を回避したいということを信託行為の中で定めることの有効性みたいなものも,可能であれば法律の中で確認していただけると,それによって破産の適用があるものとないものが,ある程度分けられる。


  とはいっても破産債権者,債権者というのは第三者があらわれるわけですから,そういう身内だけの取り決めではどうしようもないところはあると思うんですけれども,そうすると,そこから先が先ほどからの債権と受益権の優劣の議論になると思うんですけれども,受益権で,先ほど優先受益権で非常に社債に近いものということを申し上げましたけれども,片や監督的機能しかないような受益権もあったりとか,受益権の債権額というものをなかなか確定しがたいというもう一つ別の側面もございます。これはあくまで流動化の世界だけの話なんですけれども。
  

そうすると,これも解釈論的な議論であって,立法論ではないのかもしれませんけれども,制度の中で,仮にABLの債権者は債権者としての身分を取得して分配を受ける。

それで原則に戻って,受益者はあくまでエクイティなんだからということによって,劣後的な分配しか受けられない。


といっても,信託契約の中でお互いにパリパシである,同じ身分であるという約束をしているわけですから,当事者の任意の履行に期待するというよりも,破産管財人なのか受託者の最後の権限として行使するのかわかりませんけれども,もう一度その中で再分配できるような仕組みをとっていただいて,最終的な身分の同じであるというところを確保できるようにしていただけるようなことも,これは契約でやればいいのかもしれませんけれども,そうすると,もう一つ当事者をつくり出す必要があると思うので,そのようなこともぜひ考えていただければと思います。


  ですから,手続の中だけの特約有効性だけでは対応できないことを,分配した後にもう一回再分配するような機能を果たすというようなことです。
  

何か昔,議論したときに,劣後債の議論のところで,アメリカなどではそういうところまで破産管財人といいますか,トラスティがやるような機能を持っているというようなことも聞いたことがありますので,日本の倒産法では,今現在はそういうことは,それは当事者間において勝手にやればいいでしょうという議論なのかもしれませんけれども,そういう制度的な立てつけもあり得るのではないかと思いました。

● 2つ前の○○幹事の発言に関連することで,私の理解が十分でないから生ずる疑問なのかもしれませんが,ちょっとお話しさせてください。


  63について申し上げたいと思いますが,62のところに,恐らく適切な,参照すべきことが書いてあるように思いますので,それを使わせていただきますと,2の(1)の②,③,④というところに3種類の債権が挙がっているように思います。それが63のところでも基本的な構造をつくっているのではないかと理解いたしました。

  そうすると,債務超過を判断するときにどの債権をカウントするかという場合には,②と③を参入して④を外す,これはかなりクリアになったと思うんですが,優劣のところでの対象になっているのが何なのか,ちょっとよくわからないところがあります。

  すなわち,②と③だけを比べていて,その劣後を16ページの4のところで言っていて,④が劣後するのはもう当然のことなのか,それとも,16ページに書いてある劣後に対する反対意見というところで念頭に置いてあるものは,④も②,③と同列にしようとしているのか,その辺の議論が私にとっては少し不透明に思います。

  それから,私自身が優先・劣後を,②,③,④を,3段階にするのか,2段階にしてどこで切るのかというところについて意見を持っていないんですが,あるいは1段階のままというような意見を持っていないんですけれども,優先・劣後については今の点を明確にして事務局から問題設定をしていただけると,もう少しクリアに展開するのではないかと思います。

● ②と③と④の関係につきましては,事務局の考え方といたしましては,②と③の間が主たる争点で,④というのも一応観念できなくはないのかもしれませんが,破産との関係では,破産後の清算というところでしか問題になりませんし,一般の執行の局面などで残余財産というものが出てくることもあり得ないので,そういう意味で,実質的には②と③の間だけ議論すればいいという前提で考えておりました。

● ④が劣後するのは,もう当然であるということですね。
● はい。

● そうしますと,16ページの一番下の方のパラグラフですが,イの(ⅰ)は,よくわからないんですが,こういう意見を私が持っているわけではないんですが,これは④とも同列にすべしという議論なのではないかと思うんですけれども。既発生の配当分だけ同列であればいいということなのでしょうか。

● ただいま検討中です。
● 聞けば聞くほどいろいろ難しい問題があって,どういうふうに規律したらいいのか,ちょっとわかりませんけれども。

● まず,信託財産破産を認める範囲ということとも関連するんですが,先ほど○○幹事の方から,支払不能だけにしたらどうかというようなお話もあったんですが,今,検討しております限りでは,受託者が無限責任の場合に,その破産の原因となる支払い不能というのがどういうことなのか,非常に難しい問題があるのではないかと懸念しております。

要は,そのような場合には,信託財産の支払能力と受託者の支払能力をあわせ持ったような支払能力というものを観念しなければならないのか。

そうだとすれば,そのようなものを算定して,それで債務を支払うことが可能かどうか認定することになるのか。それは極めて困難な場合があるのではないかということを懸念しております。

  さらに申しますと,今回,特約による有限責任債権というものを認めたといたしますと,特約による有限責任債権を支払う能力というのもあわせて検討する必要もあり得るのではないかということになりまして,問題がさらに複雑となるのではないかということを懸念しております。


  相続財産破産につきましては,支払能力が観念できないということから,債務超過のみが破産原因とされておるわけでございまして,信託財産については,もちろん信託財産については支払能力があるという場合がかなり多いだろうということはあり得るとは思いますが,ただ,財産そのものが支払能力があると必ずしも言えない場合もあることをかんがみますと,支払不能を破産原因としない,少なくとも受託者が無限責任の場合には,支払不能を破産原因としないということも考えられるのではないかというふうに,今,考えておるところでございます。


  2点目が,何点か御指摘がありました,破産管財人に受託者を選任するどうかという点でございますが,確かに規則上も,特段禁止されているわけではないというのはおっしゃるとおりでございますが,ただ,例えば破産管財人が選任されたときに,まず真っ先に何をしなければならないかといいますと,破産財団である信託財産を受託者の固有財産から分離することがまず真っ先に必要となるわけでございまして,そのときに,受託者と破産管財人が同一人であるということでいいのかというのが,恐らく裁判所が破産管財人を選任しようとするときに,当然懸念することになるのではないかということでございまして,この点はかなり,もちろん法律または規則上,不可能ではないというのはおっしゃるとおりでございますが,運用上はかなり慎重な検討を要するところではないかと考えておるところでございます。


  最後に,受益債権の優先・劣後の問題でございますが,もちろん実体法の問題でございますので,むしろ実体験の問題として,現在の破産手続と整合的な範囲で御検討いただきたいと考えております。


デフォルトというお話ではございますけれども,それはある意味,信託に限った話ではない問題ではないかと考えております。


● お時間とってすみません。ちょっと劣後合意の点だけ。
  
既に○○幹事も,あるいはそういう含みをお持ちなのかもしれませんし,○○委員からも御指摘があったんですけれども,相対的な特約行為をどこまで認めるかというのは,破産法の改正の際には,絶対的な劣後特約についてはその効力を認めるけれども,相対的な劣後特約については,これは破産手続内では対応しないという判断をし,ただ,破産手続外での効力に影響を与えないという立場をとっていると思われますけれども,今回おっしゃっている特約による処理という話が,それを超えて「特定の債権者との間では」ということであるのだとすると,たとえ全員の合意を取りつけたとしても,破産手続では非常に困難ではないか。

しかし,信託においてはそういう処理をする必要があるということで入れるとしたときにも,もともと破産手続ではおよそ難しいのではないかという判断をしたこととの関係というのは整理が必要ではないかという点は,やはり御留意いただきたく,それを認めるのであれば,明文の規定や手当てが必要ではないかということです。

  それとの関係で,○○委員が御説明になった幾つかの事例を考えますと,ABLと受益権が同列になるといったケースですと,これらについてはどっちも資本性を持ったものであるという,いわば絶対的劣後がされている中では,これは同等ということですから,それはやりやすいんだと思うんですけれども,しかし,そういうふうに,およそ本来はもう受益権というのも劣後的な,資本性を持った性格であるという形でやってしまいますと,ABLとの同列というのは割合に認めやすいかと思いますけれども,その中で社債型の受益権を持ってくるというのは,非常に困難を伴うのではないか。


  むしろ逆に,これは○○幹事もおっしゃった点ですけれども,同列にしておいた上で,今度は劣後するようなものは,それは絶対的劣後ということで破産法第99条第2項による,そういう合意がされているんだという認定は,こちらの方はしやすいという面はあるのかなと。

私自身,受益債権というのは基本的にはむしろ劣後ではないかと考えているのですが,そういう相対的な劣後関係や,いろいろなものをつくり出したいというニーズからすると,今まで伺った限りでは,むしろ一般と同列にした上で,第99条第2項などを柔軟に使っていくということがあり得るのかなと思っております。

● なかなか難しい問題で,私自身は余りまとめる能力がありませんので。
  今,大体の論点は出てきたと思います。何か今の段階でコメントがありますか。

● 優先・劣後関係のお話とか,いろいろ出てまいりまして,結局のところ,信託財産の破産を回避したいというニーズが一般的にありますというのが,実務サイドからの基本的なお話かと思います。


  この点については,先ほど○○委員からも少しお話があったかと思いますけれども,破産回避特約の有効性の議論をここにも持ってこられると,事務局としては考えております。そこまでは申し上げることができるところかなと思っております。

  それに加えまして,先ほど少しお話がございましたが,信託行為に書けば回避できるのだというふうに法律で決めてほしいというところになりますと,私の聞いておりますところでは,破産回避特約の有効性については,基本的には公序良俗との関係が問題になり得るところなので,やはり個別的に見ないとよくないのではないか。

つまり,ディスクローズをどの程度やったかというようなことも,その有効性の議論の中では反映され得るというような御意見もあると伺っておりますので,そういうところからしますと,信託行為に書けば必ず破産申立てできないというふうに法律で書くのが果たして容易なことなのかというのは,ちょっと消極的に考えなくてはいけないのかなと考えております。

  それから,手続開始の申立てをした後に,申立てをした信託債権者--あるいは受益債権者かわかりませんが--に対する弁済を行う,あるいは担保を提供するというふうなことをした場合に,手続を止めていいのか。

前回も,ちょっと難しいのではないかと申し上げましたけれども,恐らく弁済してしまいますと,受託者が補償請求権を持つということになろうかと思いまして,その補償請求権を受託者が放棄するということであれば,もちろんよろしいんですが,そうでもなければ,やはり弁済をして,その債権者を黙らせたからといって,総体的に見ると債務超過状態を脱していないということになりますので,難しいのかなというのが前回申し上げたことでございますが,もう一度申し上げたいと思います。


● 今の,有益費の議論で解決できないのかと。つまり,いわば代払いというのが真に信託にとって有益であれば,その限りにおいて認められるというところで折り合いをつけることができないのか。補償請求権と……

● 必然性が認められる可能性が相当低いのではないかと思いますので,それは難しいのではないでしょうか。
  つまり,優先されることになるのだから考えなくていいということですか。


● 事例としては非常に,何といいましょうか,だれが見ても破産はおかしいというときに,たまたまそういう申立てがあった。

そして,受託者として,そういう債権者は外した方が信託のためになるだろうといったときに,代払いをしてやるのであれば,多分,信託にとっては役に立つと思うんですけれども,多分,御懸念のところは,それが本来ならば払うべきでなくて,一般債権としてカットされる可能性があるにもかかわらず,100のものを100として払ったしまった。


よって,それを全額受託者が信託財産に対して請求するのであれば,もちろん放棄すればそれはともかくとして,全額請求するのは問題ではないのかというふ
うに理解したわけですけれども,そこ……

● 抽象的には,債務超過になっておりますので,債務超過状態であるにもかかわらず破産をさせろと債権者が言うことが信託全体のためにならないからというような議論が,果たしてそう簡単にできるのかということなんですが。

● 2点あると思うんですけれども,まさしく債務超過かどうかは別として,また,債務超過については会計上のこともあって争われるということで,入り口段階で,とりあえず破産手続自体をとめておきたい,それが信託のためになるというときに,こういう制度があったら便利ではないのかという話があると思います。

  2番目に,確かに真実債務超過であったとしても,例えば不動産とか何かで,これは一時的な下落で将来は上昇することが見込まれているということであれば,受託者が100のものを100で払ったとして,100請求したとしても,最終的には,それは有益費の範囲の中で償還されるということであれば,それは理に適ったことではないかと思ったもので申し上げたわけですけれども。

● 今のお2人のやりとりについて,十分なコメントをつける能力はないんですけれども,もし○○委員の御懸念が,短期的な財産の下落でたまたま債務超過になったときを捕まえて,この債務超過もちょっと括弧がつくんですけれども,債務超過になったことを捕まえて,破産申立てがされて開始決定がされることを懸念されているのだとすれば,1つの解決は,やはり資産評価の部分ではないかと思うんですね。

つまり,DCFみたいな手法で,短期的な売り買いの値段が下がったからといって,債務超過を判断するときに資産評価まで一気に下げていいのかというところで解決すべき問題も含まれているような気がしますので,その点だけコメントしておきたいと思います。


● ありがとうございました。
  この問題については今,伺った限りでも非常に難しい問題がたくさん入っておりますので,もう一回整理した形で事務局の方で検討いたします。
  それでは,まだ御議論いただきたい点が幾つか残っておりますので。

● では,合同運用について御説明いたします。
  

まず,提案1に関しまして,合同運用を行うためには信託行為にその旨の定めを要するか否かについては,前回同様,これを必要とする甲案と不要とする乙案とを併記しております。


前回会議において,事務局としては,甲案については合同運用には主として分別管理義務上の問題があるとの観点を示しました,乙案については,合同運用には,分別管理義務上の問題も受託者の権限上の問題もいずれもないとの観点を示しました。
 


 この点につきましては,いずれの案によりましても,実務上は信託契約において合同運用をすることを書いているのが通常だから影響はないだろうという意見が一般的でありましたものの,合同運用の理論的な位置づけあるいは考え方という観点から,まず1つの考え方として,合同運用を行うことは,規模のメリットとリスクの分散という観点から,基本的には信託目的に合致していることは明らかで,当然に受託者の権限の範囲内であると考えられ,かつ当該信託財産に帰属すべき共有持分権または受益権が計算上管理されていれば分別管理義務は果たされていると言えるから,特段の規定は不要であるとして,乙案を支持する見解と,もう一つは,受益権を購入する投資家にとって,適切なリスクの判断を可能とするためには,受託者に合同運用の権限があることが信託契約に明記されているべきであるとの観点から,甲案を支持する見解とが示されたほか,合同運用自体が利益相反行為に当たることもあり得ることにかんがみると,信託行為の定めによって忠実義務の例外に当たることを明示しておく意義もあるのではないかとの趣旨の御指摘もございました。

  しかしながら,甲案を支持する見解のように,受益者によるリスク判断の便宜ということを強調していきますと,合同運用の権限がある旨を信託行為に定めておけば足りるというわけではなくて,取引先を初めとする合同運用の方法に関する適切な情報提供の必要性,ひいては受託者の権限を個別に限定し,その違反については取り消し得るものとすることまでが必要になってくるものとも思われます。
 

 しかし,このような投資家たる受益者保護の観点からの要請は,業法の分野であればともかく民事一般法たる信託法の分野において,合同運用という局面における投資家保護の要請を重視して,受託者の権限に制限的な規定を設けることが適切かという観点については,疑問の余地があるものと思われます。

  また,合同運用を行うことが利益相反行為に当たる場合も当たらない場合もあることにかんがみますと,当該合同運用が利益相反行為に当たるか否かという点については,特に合同運用に限った規定を設けるのではなく,受託者による相殺の場合と同様に,忠実義務に関する一連の規定にゆだねれば足りるのではないかと思われます。

  次に,提案2及び3の本文中の説明は,集団的な投資運用を目的とする信託には,1つは,投資信託のように1信託複数受益者の信託財産が単独運用されているタイプと,もう一つは,貸付信託や合同金銭信託のように,1信託1受益者の複数信託の信託財産が合同運用されているタイプがありますが,この両者は,当事者の選択した法形式にこそ,1つの信託か複数の信託の集合体であるかという違いはあるものの,集団的な投資運用という実態には実質的な違いはないので,両者には同様な規律があるべきではないかとの問題指摘を踏まえた記述でございます。


  そして,実務上の要請とかこれまでの事務局の提案内容にかんがみますと,合同運用タイプの信託における対処の必要性が高いと思われる事項,すなわち運用方法の変更をはじめとする信託契約の内容の変更に関する受益者の意思決定を,個々の信託の受益者の判断のみに委ねるのではなくて,合同運用団に属する信託の受益者全員の合意あるいは多数決によるものとすべきことにつきまして,いかなるアプローチによることが可能かについて検討したものでございます。

  この点に関するアプローチの方向としては,(1)に記載しましたとおり,各信託における信託財産の運用実態に関する一定の客観的な基準あるいは要件を定めて,実質的に1個の信託と評価できるタイプの合同運用信託を選び出し,これについては当事者の選択した法形式の違いという点をいわば乗り越えまして,単一信託・受益者複数タイプの場合と同様の規律を及ぼすということをもって対処するという方向性が1つあります。
 


 もう一つは,(2)に記載しましたとおり,当事者の選択した法形式の違いを重視し,合同運用はあくまでも複数の信託契約の束であるとの理解を前提とした上で,信託の変更に関する別段の定めの活用,すなわち,例えば「合同運用団の運用方法の変更は,同一の運用団に属する受益者全員の合意または多数決によって定めるものとする」というような特別の定めを,それぞれの信託契約に置く方法をもって対処するという方向性とが考えられます。

  しかしながら,前者の,合同運用という実態に着目して受益者複数の単一信託と同様に取り扱う方法につきましては,前回会議でも指摘がありましたとおり,当事者は別々の信託という法形式を選択したにもかかわらず,実態として信託財産が合同運用されているために,例えば,運用方法の変更等の意思決定についても自己の意思のみによっては決められず,他の信託の受益者全員との共同の意思決定を要することになるとすれば,各受益者の予測を著しく害することになり,適切ではないと思われます。
  


もっとも,これも前回会議で示されたとおりですが,各信託契約において,自己の信託の信託財産が他の信託の信託財産と合同運用されることによって集団的な意思決定システムに組み込まれることになる可能性があるということを明記しておけば,予測を害することはないとの反論があり得るものと思われます。

  しかし,当事者があくまでも1個の信託ではなく別々の信託という法形式を選択している以上は,受益者の予測可能性にかかわる事項が信託契約に明記されていれば足りると言うことはできず,さらに,当該合同運用の客観的な実態に関連して,受益者複数の単一信託と同一視するための適切な基準を設けざるを得ないと思われますが,これは後ほど御説明いたしますとおり,相当な困難を伴う作業だろうと思われます。


  一方,後者,すなわち,信託の変更には同一の運用団に属する受益者全員の合意または多数決によるといった定めをそれぞれの信託契約に置くという方法によりますと,これによれば,自己の意思のみによることはできず,集団的な意思決定システムに組み込まれることになることについて,各受益者の予測が害されることになる懸念はないと思います。


  そうしますと,「例外的な信託の変更方法を信託行為に定めることには特に制限を加える必要はない」という信託の変更に関する乙案によりますと,今,言いましたような,合意または多数決によるという定めをそれぞれの信託契約に置くことによりまして,運用方法はもちろん,いかなる変更についても,さらには24ページの(注3)及び別表に書いたとおり,変更以外にも,受益者の意思決定を要するその他の事項についても,同一の運用団に属する受益者全員の共同の意思決定によるものとすることが可能となりそうでございます。

  これに対しまして,例外的な信託の変更方法を信託行為に定めることは不可能である,あるいは一定の限界があるとする甲案や丙案によってしまいますと,合意または多数決によるという定めをそれぞれの信託契約に置くという方法による対処にも限界があることになりまして,そうすると,合同運用されている信託財産の運用方法等の変更について,集団的な意思決定システムを導入する必要があるとの要請にこたえるためには,甲案または丙案の制限が,特に一定の合同運用の場合についてのみ緩和され得ることの合理的な根拠と,そのための客観的基準を設定する必要が出てくると思われますが,このような基準を定めることについては,23ページから24ページで一応の検討を試みたわけでございますが,容易な作業ではないと思われます。
 

 以上のような問題意識を踏まえまして,合同運用に関する規律のあり方について御審議をお願いいたします。

● これも重要な問題だと思いますが。


● まず1点目は,第9回の本席におきまして,一般に利殖を目的とする信託の場合については,合同運用を行うことは,規模のメリットがあるということとリスクの分散を図れるということで信託目的に合致しているだろう,なおかつ権限の範囲内であるというふうに考えられるということと,あとは,合同運用している場合について,これは○○幹事からもお話がありましたけれども,それぞれの信託に共有持分権が帰属しているものと考えられて,その共有持分権が計算上,管理されていれば--多分これは帳簿により管理されていればということだと思いますけれども,分別管理義務が果たされているということで,特段の規律は要らないのではないかと一応主張させていただいています。
  

ただ,今回の規律を見て,それがよくわからなくなりました。


例えば甲案をとった場合に,書くことによって何が解除されているのかというのがよくわからなくなって,分別管理だけの問題が解除されるということなのか,それとも,ここに書いてありますように,例えば,当然忠実義務違反にかかるようなこともあるだろうし,権限にかかるようなこともあるだろう。


ところが,「合同運用しているんですよ」ということを書くことによって,そういうものが基本的に解除されますよということなのか,そうではなくて,ただ単に分別解除義務だけが解除されて,やはり忠実義務違反が起こっていたら忠実義務違反について解除するような形の,信託契約にその旨を書かないといけないのか,その辺がよくわからないので教えていただきたいというのが1点でございます。

  もう一点につきましては,これも第9回の席上で,結局,受益者が複数の場合の意思決定についてと同じような形で,第三者に意思決定を委ねることができるのであれば,例えば単独受益者権的なことは抜きにして,それ以外の合意で行えるような行為については,他人に委ねることですべてできるのであれば,合同運用の場合についても複数受益者と同じような形でやればいいのではないでしょうかということで,これについても意見を述べさせていただきましたが,それについて,果たして規律上,全部そういうことが当てはまるのかどうかをチェックする必要があるだろうというような御指摘もありまして,私どもの方でもちょっと見てみたんですけれども,基本的に,何回も言って恐縮ですけれども,第三者に全部委ねられるということが前提であればまあいいんだろうなということで,これについてはこの前もいろいろと議論がありましたので,その結果どうなるかというのがよくわかりませんけれども,私どもの立場としては,そこで委ねられるというような意見を申し上げていますので,そういう方向でいきますと,これについても特段の規定を設ける必要はないと考えております。


● 私は,1のところはよくわからないんですけれども,余りこだわらないんですけれども,定義なんですけれども,2のところ及び3について,先ほど御説明のように,2に書いてある2つを同様の規律にする場合には,どの範囲でかという非常に難しい問題があるというのは,そのとおりだと思うんですけれども,ただ,やはり合同運用の場合は,単独運用の場合と違ったそういう規律が要るような気がしているんですね。必要ないなら,もちろん必要ないんですけれども。
 

 前にも申し上げたかもしれませんけれども,経済自体を言えば,1つの信託契約,受益権が分割されている場合と,ここに書いていただいているとおり複数の信託契約があれば同じで,それはいいとしましても,それは合同運用の場合には,ファンドは1つのはずですので,そういうふうに考えますと,例えば,そこで信託契約の変更というのを挙げていただいていますけれども,個々の信託契約が1,000本ありますということですと,これ,変更する場合にも,1人が「ノー」と言って999人が「イエス」と言ったときは,もう非常に困るんですね。

その部分を除くと言ってもファンドは1つですから,そこを解散するとか。全部信託契約に決められるではないかということなのかもしれませんけれども。

  そして,実務の話というか,現在の法制度のことを言えば,信託契約の変更については,それでもまだ,業法の話をするとよくないかもしれませんけれども,業法とか特別法が面倒見てくれているので何とか回っているということだと思うんですけれども,この24ページの別表の話になってきますと,今度,信託法が変わって,では忠実義務違反の行為の承認だと。


これは受益者の承認が要りますというか,あれば一定の要件のもとでできます,こうなったときに「はい,1,000本います。50人反対して950人賛成しました」と。


同意をとりに行くのも大変だと思いますけれども,ファンドは1つですから,利益相反行為ですから行為は1つなので,やるか,やらないかしかないんですけれども,例えばファンドの運用に関してある行為をやる場合に。これはやはり困ると思うんですね。1人でもノーと言ったらだめでは。

  では,業法は面倒見てくれるかというと,私,面倒見てくれないと思います。

それは信託の変更だから規定があるのであって,どんどん今後,この信託法が変わって,こういう受益者のいろいろなアクションなり今の例で言うと,忠実義務違反の承認となったときに,それは,ではまた今の業法のような規定を設けましょうかとなると,どうも本末転倒のような気がしまして,やはりそれは信託法の中で手だてが設けられるべきではないかという気がいたします。

  それで,どういう場合が合同運用か,私もよくわからないですけれども,それはともかくとして,ファンドが1つのような場合,それは非常に困難な作業なので最後はどうなるかわからないんですけれども,したがって,信託の変更よりも,私の感覚としては,むしろ24ページの別表の方にそういうものが必要になり,もしそうだとすれば,もちろん信託の変更についても,信託法の中で何らかの手当をし,なおそれに加えて業法なり特別法が,特別の見地からそれをさらに,場合によっては厳格にし,場合によっては緩和するという,そういう体系はあり得ると思うんですけれども,信託法の中で,要るような気がいたします。
 

 もう一点だけですけれども,別表にないものとして,よくこれまで実務でも言われていた帳簿閲覧請求権みたいなものについては,帳簿閲覧請求権の方で手当てがなされていたんだったら,私の見落としですので結構ですけれども,ファンドは1個しかありませんので,とにかく1,000本あって,自分のところだけ1人が見せてくれと言われたので……,ちょっとどうにもならないと思うんですね。したがって,そういうところもできれば規定が,もしまだであれば御検討いただきたいと思います。


● 最初に,○○委員からあった甲案の意義ということですが,我々としては,甲案であれ乙案であれ,合同運用に権限の問題があるという認識はしておりませんので,甲案による場合は,これは分別管理義務を解除するための信託行為の定めということになると思っております。
 

 ただ,書けば間違いなく権限があるということで,いわば当然補強するという意味はありますけれども,それがないと権限の問題が生ずるとは認識しておりません。


  ただ,別途,忠実義務,利益相反行為の問題が生じてきますので,そういうときには,信託行為に定めがあれば,禁止の例外事由という意義が出てくる場合もあり得ると考えております。


  それから,今,○○委員がおっしゃった前段は,もちろん合同運用というものを実質的に1つの信託と見る基準を何とか設定するという方向性は,もちろんあると思うんですが,それと対峙されるものとしては,各信託契約の中で信託の変更の権限は無制限にあるという方向性というのもあり得まして,前者の方向は,一つの十分あり得る考えとは思うんですが,後者では果たしてまずいのかというあたりが,事務局として,正直なところ,お聞きしたいというところでございます。
  


あと,帳簿閲覧請求権については,私の誤解でなければ,これは商法などでは100分の3とかしておりますので,合同運用を一つの信託と見ることによって分母が非常に大きくなりまして,だれもが行使できることにはならないということになるわけでございましょうが,我々の提案では,帳簿閲覧請求権は各自が持っている単独受益者権としておりますので,どのように構成しようが,その1人が見たいと言えば,それは合同運用に供されている財産全体についての閲覧請求権が生じてくるので,そこで1つの信託と見ることによって,閲覧請求権の行使がある程度制約されるという関係にはならないのではないかという印象を持っております。

● 後者には若干技術的な問題があると思うんですが,それは今日は時間の関係で省略しますけれども,前者のお答えの中で,信託契約で定められないかというのは,私もいつも考えているんですけれども,例えば1,000本あるときに,この別表の忠実義務の違反行為の承認を例にとりますと,承認を数えたところ,例えばのところで申し上げますけれども,49%は承認しないと言った,51%の人が承認すると言った。


その場合は承認したものと扱います,そういうものもありということはどうも……,結論がそういう趣旨ならわかるんですけれども,今の一般の承認の規定の方から,そういう定め方が信託行為でできるというのは出てくると考えてよろしいんでしょうか。

● 承認のところは,原則は全員の同意ですけれども,信託行為で定めれば多数決制度を入れることはできるというふうにしております。


  この第三者に権限を付与するというところにつきましても,各信託契約に忠実義務違反行為の承認については,合同運用に供されている全受益者の多数決によるという信託行為の定めを置くことができれば,今,おっしゃった51%の賛成があれば免責されるという規定を定めることはできるのではないかと考えております。


● もう一点だけ。しつこくて申しわけありません。
 

 そういう規定をあらかじめ定めるというなら,私も同じになると思います。

ただ,今の考え方だと,別々の信託契約ですから,1,000本と言っても。もしそういうふうに整理するのであれば,そういう規定を置かないと,今ある,現在の多数決というのは,1つの信託契約の中で多数いる場合の多数決,これは信託行為で決めますということですから,それだけではカバーし切れないと思うんですね。


ですから,信託契約が別々の場合であっても,それぞれの信託契約に例えばそういうものを定めると,1つの信託契約の受益者が,実は「ノー」と言った。

第2の信託契約の受益者も「ノー」と言った。にもかかわらず3,4,5と「イエス」と言ったら,「ノー」と言った人も拘束されますよということ,それを第1,第2の信託契約に定めておけばいいですというところまでいくのであれば,その部分の規定があればいいと思います。


そこまでいけば,ある意味で合同運用を定義しているのと同じことだと思いますけれども,ひょっとすると,テクニックとしてはその方がやりやすいかもしれませんね。立法技術としては。


● 各契約ごとに「ほかの受益者との多数決による」というのを全部置けばという前提で,それが何か問題があるかどうかという点で気になっているわけでございまして,それがもしいいとおっしゃっていただけるのであれば,そういう方法は十分あり得ると思います。

● ○○委員は,必ずしも否定的ではない,むしろそれは構わない……

● その辺はもう実務的な問題だと思うんですけれども。実務がそれで動くのであれば,何か立法技術としては,その方がやりやすいような気がするんですけれども。


何か,どういう場合が合同運用で特別ルールを適用しますかという,そこをどういう場合かを定義しようとしますと,やはり非常に困難になるので,一つ一つ全部信託契約に書いてくださいといって,それで実務が動くんであれば,その方が私は--その方がというか,立法技術としてはやりやすいと思いますので,そこは私は,どちらかにはこだわりません。


● いかがでしょうか。合同運用に関して,その根拠,どういうところに根拠を持ってそれを認めていくかという,重要な問題ではあるんですけれども,大体御議論が……


● 1の甲案なんですが,これはどういったタイプの定めがなされることが予想されるんでしょうか。


つまり,必要に応じて合同運用しますということで認められるのか。恐らくそのときにも,合同運用の合理性ということに善管注意義務というものがかかってくるんだろうとは思うんですけれども,必要に応じて合同運用するという規定で,運用の面については善管注意義務の問題として,一定の制約がかかるからそれでいいんだと思うんですが,先ほどおっしゃった,さまざまなことを多数決で決めるというふうなことが信託契約に規定されているときに,それが,善管注意義務の範囲内で合同運用がなされたらこうなりますというふうな,ある意味でアバウトな,どのような合同運用がなされるかは結局わからないという形のときに有効なのかは若干気になるんですが,有効であると言ってもいいんですかね。

● 必要に応じて合同運用ができるというような定めでも,別にそれで,ここで気にしているのは,損益が個々の信託財産でなくて共通して分配されるというところが,分別管理に問題があるのではないかという観点でございますので,必要に応じて,そういう共同体になるんだよということが書いてあれば,分別管理義務上の問題は,受益者はないと予測できるので,問題ないのではないかと考えておりますので,おっしゃるような柔らかな規定でも,別にいいのではないか。
 

 「必ずやります」とか「どうやります」とか細かく書いていなくても,「本信託においては合同運用の可能性があります」ということが書いてあれば,それでいいのではないかという気がいたします。


● 分別管理義務の解除については,それはそのとおりかもしれませんけれども,先ほどおっしゃったように,いろいろなことを多数決で決めることになりますというふうなことを信託契約に入れたときに,非常に,必要に応じて合同運用しますということだけで,必要に応じて……。


  分別管理義務を解除するために必要な特定と,多数決でいろいろな権利が縛られるというときの特定とが同じなのかというと,私は違うのではないかという気がするんですけれども。
● それは違うと思います。ですから「合同運用します」という規定も置きますが,それだけでは多数決にいかないわけでして,別途「この契約において合同運用されている場合には,これこれの事項については全員一致または多数決で決めます」という条項は別途必要になってくると思います。

● もちろん別途必要ということなんですが,「この信託契約によって合同運用されているときには」というのは,最初に分別管理義務を排除するという,必要に応じてというところで足りるわけですか。


● 恐らく,甲案の言うところの合同運用というのが,単に「合同運用します」と書いてあれば何でもいいよということだとしますと,恐らくそこは,やはり先生が御示唆されているかと思いますが,違うのかなという気がいたしまして,つまり,後ろの方の「意思決定をみんなで一緒にやります」というようなところは,結局のところ,どの信託だということがかなり明確にわからなければ,やはり有効性を認めがたいということになろうかと思いますけれども,それがただ「合同運用します」と書いてあって,その合同運用された先の人たちと結果的に一緒になりますよでは,もう少し何か必要だということになるのではないかなという気がいたします。

● 私は,イメージ的にそういうふうな気持ちを持っているんですが,しかし,本当にそれで実務は回るのかというのも若干気にはなるところでして,○○委員が,書いて有効ならばそれでいいとおっしゃったんですが,特定して書かなければならないとなりますと,本当にそれでいいというふうに○○委員もお考えなのかが若干気になるところなんですが。

● おっしゃるとおり,厳格な意味での特定が必要というほどのことではないんだろうと思いますが,つまり,結局のところ,公序良俗との関係ぐらいしか問題にしづらいのかなとは思うんですけれども,その中でも,およそこれでいいのかというような話と,ここまで書いてあればというような話と,事の性質に応じてと言わざるを得ないのかなと思います。


● どの程度特定しなくてはいけないかというところは,少し難しいかもしれませんね。


● 直接関係ない点ですが,○○幹事が指摘されたので,私,それに関連して重要だと思いますので,直接関連する点もあるのかもしれませんが,時間の関係で1つ申し上げたいんですけれども,法律を書くときの技術の問題点があると思うものですから,私はさっきのように申し上げたんですけれども,今の○○幹事とのやりとり聞いて思ったことですが,合同運用していないのに信託契約が全然ばらばらなものが5つある。私が受託者で。

しかし,この1本に書いておけば,3人がイエスと言ったら全部についてやっていいかというのは,私は疑問に思っているんですね。


  ですから最初,そういうことで言うと,むしろ合同運用の実態がある場合に,2の話をしているんですから,私は。それをした方がいいのではないかといこことを申し上げて,それが非常に定義しにくいのであれば,契約で定めて,それで実務が動くのであれば,それはそれで結構でしょうというふうに流れてきたんですけれども,しかし,やはりそれは合同運用がある場合に限定されるのではないかと思いますが,恐らく契約は何でも書けばいいという話ではなくて,そこはもう解釈問題なのか,あるいは事務局はむしろ割り切っていて,全然違う信託だって一つ一つ全部書いておけば文句ないでしょうというところまでいったりすると,これは私もよく考えていないんですけれども,○○幹事がおっしゃったことは,分別管理義務を解除するための要件と,それからこっちの多数決を認めるというか,共用する,多数決による意思決定を共用する要件は別,全く私もそのとおりだと思いますので,その辺もうちょっと整理ができれば--整理できていないのは私だけなのかもしれませんけれども,ありがたいと思います。


● 後者の方は,少し難しいですね。
  御指摘ありがとうございました。それでは,次に進みます。

● 遺言代用信託におけるところでございます。
  第68でございますけれども,前回の指摘を踏まえまして,まず,提案3についての検討結果を示すとともに,委託者による死亡後受益者の変更権の行使と,信託自体の終了との違いについての考え方の整理を試みました。
 

 まず,前回提案においては,遺言代用信託のうち死亡後受益者以外の受益者が存在しない態様のものについては,受託者に対する監督権権能の欠如を補う見地から,委託者側の監督的権能を強化する特別の規定を設けるべきか否かについて問題提起いたしました。


  この点につきましては,前回会議における指摘を踏まえまして,提案3にありますとおり,この遺言代用の信託についてのみ特別の規定を設けることとはしないとの考え方を採用したものでございます。


  次に,前回会議においては,委託者による死亡後受益者の指定の撤回と信託自体の撤回との理解に混乱が見られるとの指摘がされたことを踏まえまして,両者の関係について,改めて次のとおり整理したいと思います。

  前提として,提案1の定義に基づき遺言代用信託に含まれることとなる信託に特徴的なのは,このような信託が設定された場合における委託者の通常の意思を忖度しまして,次の2点につきまして,一般の信託とは異なるデフォルト・ルールを設けることとしたことにとどまります。


すなわち1つは,死亡後受益者もあくまで信託契約の時点において既に受益者となっている者である以上,本来であれば委託者が一方的にその受益権を奪うことはできないはずであり,しかもこれが信託の変更の意思であるとすれば,本来であれば受託者の同意も必要となるはずであるにもかかわらず,委託者のみの意思で自由に死亡後受益者を変更できるとしたこと。


もう一つは,死亡後受益者の定義に当てはまる受益者については,委託者の死亡時までは受益者としての権利・義務を有しないものとしたことの2点でありまして,この2点以外の事項については,一般の信託と同様のルールが当てはまることになるわけでございまして,その意味で,一般の信託と異なるわけではございません。

  これを信託の終了について申しますと,遺言代用の信託についても,信託の終了については,先ほど説明した信託終了原因の一般原則に従うべきことになるわけでございます。

そうすると,委託者及び受益者が共同して信託終了の意思表示を受託者に対して行うことにより,信託を終了することができるわけでございますが,遺言代用の信託においては,死亡後受益者は委託者死亡時まで権利・義務を有しないとのデフォルト・ルールが別途かかってきますので,結局において,デフォルト・ルールとしては,委託者のみが意思表示をもって,いつでも遺言代用の信託を終了させることができることになります。


  もっともこれは,あくまでも委託者と受益者の共同の意思表示による信託終了の原則の適用例に当たるとの理解でして,遺言代用の信託において,当然に委託者に信託全体の撤回権が留保されているとの理解をしているわけではございません。
  これと厳密に区別されるべきなのは,委託者が死亡後受益者の変更権を行使した場合でございます。


ここで言う変更権の行使には,委託者が一たん死亡後受益者の指定を取り消したことによって,だれも受益者に指名されていない状態が一時的に作出された場合も含まれると解しておりますが,この場合におきましては,当該遺言代用の信託は当然に終了するというわけではなくて,信託契約に別段の定めのない限り,信託はそのまま存続するものと考えております。

  もちろん,この場合においても別途,信託目的の達成,不達成という信託終了の一般事由に該当することがあり得るわけですが,これに該当するかは委託者が死亡後受益者の変更権を行使した際の意図及び事情の如何によるわけでありまして,例えば死亡後受益者以外には受益者がいないにもかかわらずその指定を取り消し,しかも,もはや二度と新たな死亡後受益者を指定するつもりはないというのであれば,目的の達成,不達成に該当することとなる場合もあり得るでしょうし,さらには,このような変更権の行使自体が信託自体の終了の意思表示に相当するのだと解釈,認定される場合もあり得ると思います。
  


しかしながら,委託者としては,本来の信託終了の意思表示をすることが可能であったにもかかわらず,あえてこの方法によることなく死亡後受益者の変更権の行使という方法をとったものである以上,原則としては,信託自体を終了させることまでは意図していないのが通常であると考えるべきだと思います。

● この点について,いかがでしょうか。

● 遺言代用の信託の規律については,基本的にはこの方向性でお願いしたいと思っているんですが,2点ばかり要望事項といいますか,お願いがございます。
  


まず1点目は,この遺言代用の信託につきましては,基本的には遺贈として位置づけられるのか,生前贈与として位置づけられるのか。


  ここの部分については,たしか以前の議論で線引きが困難であるということ,脱法的に使われたりするようなこともあるので,解釈に委ねるのが相当であるのではないか,そんなふうに整理されたように記憶しておりますけれども,ただ,そうしますと,実務上の観点からすると,やはりなかなか使えない。


やはりリスクがある上で,お客様にも説明できないということでありまして。そこで,線引きが難しいということであったとすると,例えばセーフハーバー・ルール的なもので,例えばこういう要件を満たしたら生前贈与ですよ,少なくとも生前贈与ですよといったような,これは規律と言うのはちょっと不自然かもしれませんので,説明文であるとか,そのほかの方法でも構いませんけれども,何らかのセーフハーバー的なルール,線引きが一番いいんですけれども,それができないということであればセーフハーバー的な形のルールを何らかの形で御提示いただけないかということが1点目。


 
 2点目につきましても,この規定とは直接関係はないんですけれども,このところで申し上げるしかないかなということで。
 
 それは受益者連続の部分の検討についてのお願いであります。

  これは皆さん御承知のように,例えば委託者が自分が死亡するまでは自分が受益者になって,それで死亡したときには自分の奥さんが受益者になる。


またその奥さんが死んだら,子供が何人かいて,そのうちの1人が障害を持っている,その人に受益者にならせよう,こういうタイプの信託というのが考えられまして,実際,実務上も相談があるということです。


ただ,なかなか実際,実務上やっていいのかというのが今もよくわかりませんので,やはりお断りすることが非常に多いという状況でございますので,信託法の世界ではできるんだろうなとは思っておるんですけれども,相続法との関係であるとか,そういう連続していったら何年ぐらいまでいいんだろうかとか,その辺の制約,制限というものもあるんだろうなという気もいたしますので,その辺についての規律の御検討もお願いできないかなということでございます。

● まず,遺言代用信託が遺贈なのか死因贈与なのかという点につきましてですけれども,確かに1つは,常に生前行為でありますので,遺贈は,遺言でやるのでちょっと性質が違いますし,それから,死因贈与というのは死亡を効力発生時とするのに対しまして,この遺言代用の信託は生前に既に効力を発生するという意味でも,そこも違うということで,遺贈か死因贈与かと言われると,どちらとも違うという感じがいたすわけでございまして,そういう意味でも,なかなかこれがどちらに当たるかという解決が果たしてできるのか,その場面,場面で解釈によって対応していかざるを得ないのではないか,そういう直感がいたしますが,それにもかかわらず,指摘を踏まえて,事務局の中でももう一度議論したいと思います。

  もう一つは受益者連続の場合で,一般的に,例えば最初の10年間はAで,その次はBでその次はC,こういうのがいいということは問題ないと思うんですが,いわゆるAが死亡したらBでBが死亡したらCという,そういう形の受益者連続というのは,御指摘のとおり,いわゆる後継ぎ遺贈と同様の問題がありまして,後継ぎ遺贈については民法上,原則としては許されないのではないか,相続法秩序を曲げるという観点からそういう議論はされておりまして,他方,信託法のいろいろな教科書を見ますと,信託を使えばいいという議論が大勢かなという気はしておりますが,果たして信託法上有効であって,民法との関係においては問題がないと言えるのかどうかということなどにつきまして,これは非常に難しい問題ではございますが,こちらについては少なくとも慎重に,今後,検討していきたいと考えております。


● 基本的に,ここの考え方は,この遺言代用信託について,委託者が死亡したらそこで受益者が確定するというような,死亡後受益者が確定するような,そういうつくりになっているかのように読んだんですけれども,2に書いてあることなんですけれども,これは死亡した後も権利がまだ不確定な,つまり撤回されるような状態に置いておいて,だれか自分の指名変更権の後継者みたいなものを指定するような種類の,そういう別段の定めはできるのでしょうか。

  そういうことができるかどうかは,ここを見ただけではよくわからないので。


ここは別段の定めができることについて,文言上はかなり狭いものを想定しているように思えるんですけれども,どのぐらい今の点が自由に設定できるのかというのが質問です。

  もう一つは,今,言ったような面倒くさい話ではない世界ですけれども,死亡後受益者を変更する手続,方式については何も規定しないのかということです。


  なぜ伺うかといいますと,これは,実はこのルールとほとんど同じようなルールが生命保険についてありまして,また,それが私から見ると非常によくないルールをとっておりまして,要するに,こことの対比で言うと,ここですと受託者に対して変更を申し出るというのが一番素直かと思うんですけれども,生命保険の方の最高裁判例によると,だれに対して言ってもいい,生命保険の保険契約者はだれに対して言ってもよくて,それによって,当事者間では少なくとも有効に受取人が変更されて,保険会社には対抗できないけれども,後で不当利得関係が生じるみたいなルールになっているんですが,何も規定を置かないでほうっておきますと,ここも同じような解釈をされる可能性が少なからずあって,死亡後受益者の変更については,特に法律では決めていない,したがって委託者が意思表示すればそれでいいんだと。


  さすがに受託者との関係では,それでは困るだろうから,受託者が知らなかったら債権の準占有者に対する弁済のような方法はもちろんあるだろうけれども,当事者間では有効に死亡後受益者が変更されているといった解釈につながりかねないんですが,言うまでもなく,それは遺言代用のシチュエーションを考えると,死亡後の無用な紛争を惹起することになるので,むしろ方式などは限定をかけておいた方がルールとしてはいいと思うんですが,何も置かないと,どうもそう債務者が解釈してくれるかどうかよくわからないような状況,生命保険との対比で言うとですね--と思いますので,場合によっては何か,意思表示の相手方なり方式なりを書いておく方がいいかもしれません。
  

もう一つ,保険でよく問題となっているもう一つの問題は,遺言によって受益者を変更できるかという話で,仮に受託者への意思表示があるなどと言ってしまうと,これ,遺言によって死亡後受益者を変更することが,受益者の変更として可能か。


遺贈の効果としてではなく,変更の効果として可能かどうかというのも必ず問題として起きそうなものですので,可能であれば手当てしておくといいと思います。
  

ドイツのBGBの第三者のためにする契約には,そういう規定も実は置かれていたりするんですけれども,参考にされればと思います。

● 御指摘の2点目,3点目につきましては,確かにここには規律を置いておりませんが,一般的な受益者変更権の行使の規律というのは別途置いておりまして,例えば受益者変更権を持っている者が受託者以外の者であるときは,受託者に対する意思表示をすることによって変更し,新たな受益者になった者に通知するというデフォルト・ルールを置いておりますし,遺言によってできるかというところも,そこでは,受託者はだめだけれども,受託者以外の者が変更権を持っているときは遺言でもできるという規律を置いております。
  


ですからこれは,遺言代用の局面に書いていないことは信託の一般のルールに従うとなると,その規律がかぶってくるというのが答えになります。

  第1点目の理解は,先生の質問の趣旨を私,十分理解しているかどうかわからないので,とりあえず我々の規定の趣旨だけ申し上げますと,これは遺言代用の生前信託契約がされた時点で,受益者にはなります。

受益者とはなるけれども,原則として受益者としての権利・義務がない受益者というものがずっと生じます。


それがデフォルト・ルールでございまして,信託契約で「この死亡後受益者には権利・義務を当初から与える」というふうに書けば,権利・義務を有することになる,そういうふうに2項では定めているというのが我々の趣旨でございます。

● それだと死亡後に,なおかつ死亡後も変更権に服するような形で不動的な状態をつくり出すことができるかどうかについては,2項は何も言っていないという理解……,私もそう読んだんですけれども,それはできるのかできないのかというのが質問だったんですけれども。

● 規律によりますと,死亡すると権利・義務を有しますので,そうしますと,勝手にその権利を奪うことはできないということになりますので,その場合は,委託者が死亡すると,変更権を相続して変更できる者がいればなおこれに服することになりますが,そういう者がいない場合には確定する。

  この場合も,受益者変更権者が死亡した場合の規律を別途設けておりまして,確定するようになっていましたね,委託者が持っている場合は。そうしますと,この場合も,受益者としての権利・義務を有する者として確定すると,もう変えられないということになると思います。

● ○○幹事の御指摘は,御質問の内容については,これは直接触れていないと思いますけれども,そういうものがあった方がいいという趣旨は全然ないんでしょうね。


余り必要ないような感じがしたんですけれども。保険などとの関係で……


● 最初の質問については完全にニュートラルだったんですけれども,死亡後一定の期間とか,だれかに代わりに変更権を持ってもらって,もう少し様子を見てほしいというふうなことを仮に委託者が思ったときに,それを達成する手段がないのではないかという質問だったんですが,今のお答えだと,ないという答えのようなんですが,そこまで厳格にしなければいけないのかなという含みです。
  確定した,決定的な反対というほどの強い意見ではないんですけれども。

● ○○幹事が答えられたように,その場合には,そうすると,死亡後だれがその権限を持っているかという問題を解決しなくてはいけないことになるわけですね。


● もちろん,書いておいた場合です。
● 既に議論されたことの繰り返しなんですけれども,一応弁護士サイドの意見ということで。

  遺言代用生前信託,今度,制度をつくるという方向性は明確なようですけれども,どうしても,民法の方の議論にやや遠慮がちなところがあるような感がいたします。


ただ,民法の方は物権を変えない限り,所有権概念を変えない限り,新しい物権制度をつくらない限り恐らく,あと,先ほど議論された後継ぎ遺贈とか受益者連続型遺贈とかできませんから,まさにこの場といいますか,この遺言代用信託をつくるということは,決して信託でいろいろなプログラムをつくって,あとは民法の世界に「どうぞ」と言ったところで,向こうには議論できる土壌がございませんから,この場での議論ということで,ぜひまず認識する必要があるのではないか。

当然認識されていますし,先ほど○○幹事もそういう観点から検討したいとおっしゃっていましたけれども,民法に戻したとしても,こちらの議論だと思うんですね。

  信託法においては,もはや所有権ではなくて信託受益権ということに置きかわっておりますし,なおかつ受託者が存在していまして,決して死者がああしろこうしろと死んだ後まで言っているわけではなくて,受託者という財産の名義人が存在していて,その中で受益者が連続していくという規律でございますから,ですからこの中で,先ほど○○委員も,では,どの範囲だったらいいんでしょうかということをオープンエンドのクエスチョンとして今後,検討しましょうということでは,この遺言代用生前信託とか,前回議論しましたところの遺言信託とか,結局ほとんど遺言と同じものであって,別に遺言すればいいだけであって,何もそこで信託は必要ないということに帰着してしまうかもしれない議論だと思います。

  したがいまして─これは意見だったですね。○○幹事から既に○○委員の発言に対して回答ありましたけれども,ぜひこの民事信託ということも,今回の信託法改正の中で非常に大きな目玉でございますから,そうすると,民事信託で何があるかというと,こういう時代ですから,高齢者の持っている,特に今の高齢者というのは資産をいろいろ持っていますから,それが世代間においていかに引き継がれていくかということと,引き継がれていく中で,その財産がいかに有用に,または今,持っている方がいかに自分の意思をある程度反映させた形で引き継いでいくかということが,今回の信託法改正に問われているわけですけれども,その辺についても,ここだけで,仕組みをつくるだけであって,あとは民法の相続の世界に投げるということではなくて,この場でぜひ議論していただきたい。

  したがいまして,後継ぎ遺贈類似,また受益者連続信託型ということは重要であるということまでは,恐らく多くの方は賛同していただけると思うんですけれども,その後のこともある程度詰めておかないと,結局できない制度をつくってしまう。


弁護士が依頼されても,こういう制度があるけれども,だれかがどこかで無効という議論をされたときにどう対応するんだろうか。

  なおかつ民法の世界の方では,もともと所有権から発想して,所有権を制限できないではないですかというところから,できないと。

それがあたかも相続法におけるドグマのように議論されているけれども,では,仮に新しい物権ができたとしたら,それでも相続法は否定するのかというと,多分だれもそんなところは議論されていないと思うので,繰り返しになって,しつこいようで申しわけないんですけれども,ぜひそういう点から,前向きに議論していただきたいと思います。


● 大変有益なといいますか,重要な御指摘だと思います。

  大きな視点から見ても,やはり今回の信託法の改正の中で将来のことをに
らんでおくと,民事信託というものが発展すると土壌というものも,この際,この信託ではつくっておきたい。


そういう意味では,この遺言代用生前信託というのはどの程度のものができるか。

今回,第1ラウンド,第2ラウンド,なかなか時間がとれませんでしたけれども,さらに引き続き検討する中で,十分その可能性も含めて,民法の議論との対決といいますか,信託の場面からいろいろ議論するということがとにかく必要になってきて,なかなか難しい議論がたくさんあるとは思いますけれども,もうちょっと集中的にやりたいと考えております。

● 単純な確認ですが,先ほど○○幹事が御質問された点との関係で,死亡後
に変更権の留保のようなものがあり得るかというときに,相続とパラレルに考えますと,自分が死亡した後の受益者というのは,例えば妻にする,妻が死亡すると子にするというような,これがそもそもできるかというような問題ですけれども,仮にできるとして,一応そうしておくんだけれども,妻に変更権を与えておくというようなタイプの遺言代用の信託というのは可能であると理解してよろしいんですか。


● 今この枠組みで,ここに書いてあることでそういうことまで含んで書いてあるかどうかは別ですけれども,遺言代用の信託というものにおける変更権ですかね,受益者の変更権。


これは多少特別なルールには服するかもしれないけれども,変更権の一種で承継させようと思えば承継させることもできると考えれば,今のようなことも可能ではないかと個人的には思います。
 


 ただ,そういうものを可能にするためには,やはりこれ明確にしないと,やはりそんなのだめだという議論が出てきて使えなくなるというさっきの問題になりますので,そういう観点から詰める必要があるのではないでしょうか。

  今日は○○委員がおられなくて,○○委員は,恐らくこの代用の信託についてはおっしゃりたいことがたくさんあるのではないかと思いますけれども--いや,非常に積極的な御意見をいただけると思いますけれども,今日はちょっと御都合でいらっしゃいません。

  いずれにせよ,これは中間試案を出す上での土台でして,また引き続き検討していただきたいと思っております。


● その議論が大切なことは全く否定しないんですが,前回も申し上げたことなんですが,第68の問題なのかということについては一言だけ申し上げておきたいと思います。


  受益者連続ができるかという問題は,別に死亡を始期とする信託でなくても起こる問題であって,しかし,委託者が死亡後にずっとつけて,長い間拘束された状態といいますか,順々に受益者が変わっていくという状態にある財産をしてよいのかという問題,一般の話であって,別にそれが委託者の死亡を始期にするかどうかというのは余り大きな問題ではないと思いますので,第68のコンテキストとはちょっと違う問題だということで御議論いただければと思います。

● それを独立に取り扱っているわけではないので,そういうことで,今ここで議論していただいているんだと思います。そういうことでよろしいでしょうか。


● そこは御指摘のとおり,恐らく新たな項目をこの近くに1個設けて。違うことは十分わかっていますけれども,この文脈でたまたま議論されたので,民事信託の一環としてここら辺に設けようかなと。独立の項目として考えております。


● それでは,次に移ります。
● 目的信託でございますけれども,提案自体は変更ございません。

  目的信託を認めるか否かにおいては,信託における受益者の中核的重要性ですとか,信託制度と法人制度との平仄,受益者がいないことから生ずるガバナンス上の問題,財の固定管理の懸念など,いわば理論的な観点からの分析,検討が必要となることは申し上げるまでもございませんが,現実的な問題として,新たに目的信託を導入することの社会的,経済的ニーズ,需要が果たしてどのぐらいあるのかという観点からの検討も重要であることは否定できないと思われます。

  この点につきまして,これまでの会議におきましては,純粋な公益目的の信託の周辺にある信託の受け皿としての意義が認められるとか,今後のいろいろなニーズを先取りするような新たな制度としての意義はあるのではないかといった指摘もございました。
 


 事務局としては,このような意義についてももちろん評価するものでございますが,目的信託の位置づけ,ニーズを詳細に検討する観点から,資産流動化の取引において目的信託を導入すれば,いわゆるケイマンのチャリタブル・トラストの代替的機能を営むものとして極めて有益であるとの指摘について,(注)において問題提起を行っております。この点につきまして,本日,特に御意見を教えていただきたいと思っております。

  ここ,ちょっと付言いたしますと,例えばSPCの株式につき信託を設定した上で,SPCの発行する資産担保証券がすべて償還された後で初めて受益者が確定することとなるといった前者のスキームですとか,SPCの発行する資産担保証券を保有する投資家の多数を受益者とするといった後者のスキームをとることができると仮定いたしますと,資産担保証券の償還に先立ち信託スキームが解消されて,SPCに対して受益者等の影響が及ぶこととなって,ひいては資産流動化の目的が達せられなくなってしまう,こういうリスクが回避できるようにも思われるわけでございます。


  このような信託スキームを設定することについて,法制上あるいは実務上いかなる問題があるのか,これらのスキームに比べて目的信託はいかなる点において有利であるのか,前述のような信託の設定が受益者の確定可能性ありとして許容されるのであれば,そもそも初めから目的信託としての設定を認めてしまっても大差ないこととなるかなどの諸点について,ぜひとも御意見を伺わせていただいた上で,目的信託のニーズというものをまた判断していきたいと考えております。
  よろしくお願いいたします。
● それでは,今,説明がありましたように,このニーズについてお願いします。


● 実際,これまでのところ,ケイマンで言えばチャリタブル・トラストをよく利用する,最近では中間法人に置きかわってきていますけれども--という大きな,ケイマンでチャリタブル・トラストを使っているというのは過去,また現在の実務ですけれども,では,もう少しグローバルに見たときに,チャリタブル・トラストがSPCの株式保有形態として一番適切かというと,もちろんそういうことはありませんでして,それが事務局からの目的信託の御提案だと思うんですけれども,実際に,日本国内はやや保守的な対応なのかもしれませんけれども,海外のABSですと,チャリタブル・トラストではなくてケイマンのパーパストラストを利用しているというケースが多々ある,このように聞いております。

聞いておるだけではなくて,実際そうだと思います。
  そういうことで,流動化という視点からまず最初に申し上げますけれども,目的信託を導入するということは,まさしくこの目的が資産流動化とか,この当該取引ということで目的がなされるわけですから,まさしく受託者がSPCの株式を保有するに最もふさわしい信託の形態であって,そこでのもともとのチャリタブル・トラストというのは,ある意味では代用的な意味合いにしかすぎない。ですから本来,資産流動化という視点からしましても,目的信託というのは非常に有用であって,現在の,ある意味ではよそで行われている基準,標準でもあるということが言えると思います。


  それから,流動化というのは,ある限られた側面ですけれども,弁護士会での議論ですと,目的信託というのは非公益ですけれども,非公益というのは非常に多様といいますか,非常に幅広い概念ですけれども,現在の公益信託というものが非常に限られているということもありまして,極めて公益に近いんだけれども,公益信託に該当しないような信託というものを遺言の中で遺言信託で設定したい,こういうような希望が結構あるということを弁護士会内部の議論をしたときに出てきました。
 


 具体的には,具体的かどうかわかりませんけれども,やはり自分の財産を処分するわけですから,広くあまねく何々の研究のためということでは,なかなか資産家の方が遺言信託で信託を設定するということはあり得なくて,自分の出身の学校とか,何々のロースクールとか,そういうような限られた,でも恐らく一面においては公益的だと思うんですけれども,そういうような形での信託設定というのを希望する例がある。

ただし,現在においては公益信託という器しか用意されていませんから,そういう形での信託設定はできないということもあって,この非公益的目的信託ですかね,目的信託ということは,もし制度として導入されれば,流動化に限らず,民事信託の分野においても多様に利用されるのではないか,こういうふうに弁護士会のある委員が非常に強く言っておりました。


  そういうことで,流動化という視点でも,本来,世界的な流れの一つの到達点でもありますし,なおかつ民事信託ということにおいても,公益信託の幅がどれほど広がるのか,狭まるのかというこの後の議論にもよりますけれども,非常に有用であるということで,ぜひ導入していただきたいと思います。

  あと,(注)のところの議論ですけれども,現行法において,また,今回の信託法改正において,受益者が最後まで固まらない。この最初の「・」ですけれども,償還時に確定されるような信託というものは,まだ多分,制度としては検討されていないような,私益信託であれば始めから受益者は決まっているわけですよね。ですから現行法でも,また,信託法改正においても,この最初の「・」が可能であれば,これはこれで有用なやり方なのかもしれません。
 


2番目の「・」の投資家多数云々というのは,本来,SPCの株主というのは投資家であるという一つの究極的な側面であるかもしれませんし,なおかつ実際の証券化の世界では,そういうような仕組みもあります。

あと投信などでのエクイティ型では,まずこれと同じということも言えると思うんですけれども,ここで重要なことはガバナンスでございまして,そうすると,ガバナンスの多数投資家,また転々と移転する,変動する投資家が一々行使するというよりも,やはり受託者に任せるというような仕組みの方がよろしいのかな,このように思いまして,多数投資家を受益者とし,受託者に権限を行使させるという,一種のチャリタブル・トラストと同様な仕組みということにおいても,目的信託と同様な機能が達成できないわけはないですけれども,より直截的な制度としては,目的信託ということでつくり上げるということが,恐らく一番望ましいのではないのかなと思います。

  ○○幹事からも御説明ありましたように,中間法人を実際使っているというのも,ある意味では目的信託を使っているのを法人制度に代用しているというような言い方ができると思います。

では,中間法人制度でいいではないかというと,中間法人の場合には,中間法人という器にSPCの株式を入れますけれども,実際には,そこの理事の個人の信頼に最終的には帰着しているわけですね。


そこで変なことをしないという。受託者の場合には,最終的に受託者に対する信頼に置きかわりますけれども,信託制度を利用するということは,信託法の中に受託者の義務とかいうことははっきり書いて,受託者責任ということはかなり制度的にも明確でありますし,恐らく信託銀行とか,業としての信託を担当する方がそこでの受託者になるわけですから,より信頼性の高い制度ができ上がるのではないかと思います。

● 1点だけ補足いたします。


  上の「・」でございますが,現行法のもとでも,受益者が現実に確定していなくても,確定可能性があればいいというのが通説でございます。そうしますと,このようなスキームも現行でもできるというのが我々の考え方でございます。


  ですから,もしこれが,いい制度だとすると,では目的信託なくてもいいのかという問題が出てきます。後段については,ガバナンスの観点から目的信託の方がいいというお話だったと思うんですが,前段についてどういう点が目的信託の方が長所があるのか,あるいは,こちらに短所があるのかというところを教えていただければと思います。


● 回答いたしますと,SPCは証券化の倒産隔離という機能もありますけれども,もう一つは,オフバランスシートの機能を果たすというところもあると思うので,最終的に確定するところの受益者と言っても,恐らく初めから,ケイマン的な発想であればチャリティとか,どこかの慈善団体とかそういうふうになるという前提だとすると,今度は公益信託の議論に絡んできてしまうというのと,そこでもう一回委託者が登場するようだと,ちょっとオフバランスシート,SPCではないのかなと。ただ,倒産隔離的な機能は,議決権をそこで制限することができるので,できないわけではない。
  ちょっと今,思ったことだけの発言なんですけれども。


● 実際の流動化・証券化取引で,ケイマンのチャリタブル・トラストが扱われている事例をちょっと考えたみたんですけれども,恐らくSPC,会社の株式をケイマンの信託会社が信託宣言の方法によって信託設定して,そのSPCは何らかの,そうですね,通常ですと資産を取得して社債なり何なりを発行して,それで償還していくということ。

終了するときは,その会社の残余財産,通常ですと,多分200ドルとか何かそのくらい残すんだろうと思いますけれども,数万円のお金を残して会社を清算して,それを慈善団体ですとか赤十字社といったところに寄附してお終いというような形をつくっているかと思います。


これとほぼ同じことを,信託宣言と目的信託をあわせればなし得るのかなという気がいたします。

  あと,SPCの中立性,倒産隔離性については,例えば資産流動化法で,特定目的会社に関して特定持分信託という制度が用意されているわけですけれども,実際の流動化・証券化取引で社団あるいは法人を器として使う場合には,さまざまな事情があって,ケース・バイ・ケースですけれども,株式会社が使われる場合もあり,有限会社が使われる場合もあり,あるいは中間法人が使われる場合もあり,さらには,会社法成立後は,ひょっとしたら合同会社を使うというようなケースも出てくるかもしれません。

いずれにせよ,現実に用いられている証券化取引で使われる会社は,さまざまな種類があるということですね。


そのさまざまな種類の会社の持分について,それが株式であるのか何と呼ぶのかは別として,こういった形でそのSPCという会社の中立化,倒産隔離性の確保ができるという意味では,歓迎したいと思います。


  (注)のところで,現行法制下で何かできないかということなんですけれども,1つ目はともかく2つ目の「・」については,税務上の問題が発生する可能性が高いのではないか。


すなわち投資家にとって,いきなり受益者ということで何らかの財産を取得することになりますから,投資家が個人であれば所得税,あるいは法人であれば法人税がかかってしまうということで,かなり敬遠されるのではないかという気がいたします。
  


また,1つ目の「・」の場合は,確定する受益者をだれにするかというのは非常に悩ましいところで,流動化,証券化を考えればオリジネーターにすることになるのかなという気がいたします。


それであれば特に問題は,問題はというか,税務上の問題は余りないのかもしれませんけれども,オリジネーター以外の人を受益者にするということであれば,やはり受益者になって受益権をもらってしまう人は税務上の問題が発生してしまうので,だれがなり手があるのかなというのが悩ましいところで,ひょっとしたら,海外のチャリタブル・トラストで受益者を慈善団体とか,どうせ寄附もらっても税金がかからないところにしてあるのは,そういったところにあるのかもしれません。


  何か感想的なコメントになってしまって,すみません。

● 私は,流動化等についてどれだけの需要があるのかは十分にわかりませんし,それをまた妨害しようというつもりもさらさらないのですが,そのように本当に必要な目的信託というものを認めていこうといったときに,本当に信託法にこのような条文を置くことでそれに対応するのがいいのかというのが,何か極めて疑問な気がいたします。
 

 と申しますのは,先ほど出ました半公益といいますか,非私益なんだけれども公益信託としてはなかなか認められないようなNPO的なものをつくろうとか,あるいは資産流動化のための特別目的会社に対応する,株式を信託財産にするようなものをつくろうとか,それはわかるんですけれども,例えば,第69の乙案に書かれているような形で仮に条文化されるとすると,結局,差押不可能定期預金をつくるということですよね。

もちろん,そのつくった時点で債権者詐害の状態にあれば,債権者詐害信託として取り消し得ることになるわけですが,なければ,大丈夫なうちにどんどん目的信託をつくっておけばよいということになりそうな気がするんですね。

もしそういったことを避けようということになりますと,乙案の第2項の「一定の期間」というのを,やはりかなり短くせざるを得ないのではないか。そうなりますと,今度は,先ほど申し上げましたような準公益信託とか,あるいは資産流動化のための目的信託というものの需要に添えない結果になるのではないか。

したがって,目的信託というものを一般的に認めるという形で本当に書けるのかというのは,私は,かなり疑問な気がいたしまして,それならば,資産流動化なら資産流動化のためにつくればいいのではないかという気がするのですが。


● また重要な点でして,なかなか頭の痛いところではあるんですね。ただ,資産流動化だけではなくて,目的信託の,先ほど○○委員が言われた公益周辺的なというんでしょうか,そういうものも視野に入れたときにどうするかということですね。


単に資産流動化のための器だけではないので,もうちょっと信託一般的な問題がないだろうかというのが目的信託をこの中に置くという立場からの考え方なんだとは思いますが。

● 今,○○幹事がおっしゃった差押禁止財産をつくるのではないかという懸念について,ちょっと思うところでございますが,1つは,これは委託者の財産からは離脱している財産でございまして,委託者が差押禁止としながら引き続き利益を享受するという形態のものではないという,委託者の責任財産からは離脱しているので,執行妨害というか,差押え逃れという懸念が果たしてどれだけあるのかという疑問がないわけではないという気がいたします。
  

それから,目的信託という以上は,ある程度目的が具体的に決まっていなければいけないので,そうすると,その目的に従って,例えば信託債権が発生すれば,それについては当然この信託財産となる目的信託の信託財産には,その債権者がかかってこられることになりますので,純粋な意味で差押禁止財産をつくるということには,必ずしもならないのではないか。

そうすると,だからその期間を短くするという議論にも必ずしもつながらないのではないかなという気がしているところでございますが,もし何か誤解があれば御指摘いただければと思います。

● 帰属権利者を委託者にはできないんですか。
● それはできます。

● その間の受益が,信託期間中の受益者への分配によって信託財産がどれだけ減少するかというのは,当該目的財産のつくり方の問題ですから,私は事実上,やはり,差押不可の定期預金をつくることは十分に可能だと思います。


  プラス目的を定めなければいけないんだからとおっしゃるわけですが,目的は完全な私益でも構わないことは,資産流動化に使えるということで明らかなわけですから,例えば私が法律の本をある一定限度購入するという形でつくろうと思っても,私はできるのではないかと思うんですが。

● 私益というところはできるでしょうね。
● 今の○○幹事のお話でございますが,中間法人--今はNPOもありますし中間法人もありますし,ですから中間法人を使ってどこかの……,何でもいいですよね,信託法改正の審議会のためということで中間法人をつくって,そこに基金を入れる。

そういう優良なものもあるし,全然優良でないのもあるかもしれませんけれども,現在の法制度としては,もはやそういう制度を認めているわけでして,要するに,公益法人しかない,または株式会社をつくるしかない,株式会社の場合は代用性はあったかもしれませんけれども─と違って,そうなっている以上,それは別でも構わないんですけれども,ここで目的信託,要するに非公益中間法人型信託というものをつくったからといって,それは執行免脱の要素が極めて強いという議論は,何か制度的にも,もはや許容されているものですし,本当に悪質な,病理的な目的信託の利用があれば,それはそれでいろいろと法的な対応の手段はあるのではないか。

制度そのものがやや病理的なものであるというふうな感覚は全く受けないんですけれども。


● 議論の仕方としては,もうだめなのがいっぱいあるではないかという感じが,私は○○委員の話を聞いていて感じるんですけれども,そういう議論は可能なのか,私はちょっと。
● 中間法人にということですか。

● いえ,そういうわけではないんですが,例えば差押えができない定期預金のような形で悪用しようとすると,できる制度が多々あるというのは,余りあれですよね,また新たに入れるということの理由にはならなくて,だから,○○委員がおっしゃるように,病理的なものに関してはまた別個対処すればよいということは,おっしゃるとおりで,それでよいということならばそれでよいのですけれども,私は,そのような懸念があるということになりますと,やはり「一定の期間」というのを短くせざるを得ないのではないかという気がいたしまして,そうすると,私は,最初に申し上げているように,目的信託を認める,必要な領域において認めることに全く反対しているわけではなくて,一般的な制度にすることによる一定の期間の短さ,それで全体の使いにくさをもたらすということを懸念しているだけであって,その点,誤解がないようにしていただきたいんですけれども,それならば,やはり必要な部分につくった方が合理的なのではないかというだけなのです。しつこくて申しわけございません。


● 期間の問題は,それなりに重要な問題だと私も思います。これは目的信託をどういう形で使うかですけれども,流動化で使うときは,恐らく一定の期間が来るんでしょうけれども,それ以外の,もうちょっと非公益だけれども私的な--私的なと言うと変かな,やはり非公益なんですけれども,受益者がいないという意味では。そこに信託財産を設定して,受益者がいないので,そういう意味では受益者のイニシアチブでもって信託を終了させるということがないような信託が続く。そしてある種の財の固定化が生じるということだと思います。だれも債権者がいないわけではないけれども,債権者がかかっていけないような財産がつくられる。
  


その後,一定の期間が必要なのではないかという議論が出てくるというのは,そういう脈絡ですね。


● 期間のところについて,流動化,証券化の観点から。
  今,日本においては国債とか社債といったものの年限というのは,最長でも30年だろうと思うんですけれども,流動化,証券化に関しては,最近,住宅ローンの証券化が非常に盛んになっておりまして,住宅ローンを裏づけにした証券化商品の最終年限は,35年になっているものが多いです。これは金融機関が個人に住宅ローンを出す場合,通常最長35年で出しているというところに由来しております。
  御参考までに。


● 流動化の方で言えば,ある程度,今のようなものを見越して,何年ぐらいの期間を超えては存続してはならないという形で,仮に目的信託が許容されても,その期間さえ十分気をつければ何とかなるかもしれないという話ですね。

● 議論の仕方なんですけれども,中間法人があって,だから目的信託もいいではないかという議論は,何かちょっと変な感じがします。
 


 中間法人がつくられた本来の趣旨というのは,決して流動化のためにつくられたのではないと思います。

それが結果として,しかしこれにも使えるではないかということで現に使われているけれども,流動化の観点からすると,中間法人というのはあたかも流動化のためのものだというような雰囲気かもしれませんが,決してそうではない。

むしろ目的信託においても,本来,何のために必要なのか,それが仮にほかの目的にも使われるということがあり得るのかというのが筋であって,仮に流動化のためにこそ必要だというんだったらば,流動化の観点から対応すればいいのではないかと思います。

● 新しい中間法人よりも,今,議論されている非営利法人とか,あるいはそこにおける非営利の財団とか,そういうものとパラレルの問題があるということかもしれませんね。これも○○委員がお詳しいと思いますが。
● それは……,今日は次もやるんですか。
● はい,今日は最後ですから。
● では,そこでやります。


● 今の御指摘との関係で,少し気になっているところが,通常の私益信託との関係でして,例えば子供の養育のためにやりたいというときに,未成年者なり,成人でもいいんですけれども--を受益者にして,扶養ですとか教育を受けさせるために信託を設定するというような場合,端的に受益者にしてしまいますと,莫大な債務を負って差押えがかかるというので,目的信託にすればだれも差し押さえてこないと今の使い方は考えられるわけですけれども,そういう,本来私益信託で想定されるようなものを,その部分,何らかの問題があるということで,それも適正なんだというふうに考えるのであれば,私などはそれでいいのかなという感じはしないでもないんですけれども,扶養とかそういう目的であれば。


  ただ,そこの部分がやはり問題であるというときに,目的信託にすれば大丈夫というのは,何か問題があるような感じがいたしますので,何のために必要なのかというときに,一般的な,受益者がいるような形での信託と目的信託の役割分担みたいなものを考えていく必要があるのではないかという気がいたしますので,付言いたします。

● 今のも,法人のところでも同じような議論ができるんだと思いますけれども,まず非営利の財団法人をつくって,実際には利益を享受するような人をそこで想定するとか,ちょうど目的信託を使って受益者ではないけれども利益がそこにいくような形をつくるということですね。

財団法人のときは,そんなものでも構わないのではないかという議論をちょっとしたんですけれども,信託で果たして適切かという問題がありますね。

● ちょっと御賛同を得られるとは思えないんですけれども,先ほど来,目的信託についての有用性と弊害について御議論があったと思いますけれども,これについては,今日の最初の信託宣言についても同様だと思いますので,私自身は,もう目的信託プラス信託宣言で,特別法で1つのものをつくってしまえば,それでいいというふうに考えておりまして,例えばここの公益信託の受け皿の部分については,まだ公益信託の分野で1つ議論というのがあり得るのかなと思っておりますので,そういう方向性でお願いできればと考えております。

● その弊害につきましては,銀行業界の中でも若干の議論はしております。ただ,信託宣言については,受益者が決まっているということですので,最終的な執行が,1回が2回になる,そういう議論がございましたけれども,ただ,執行がどこかの受益者に対してできるということはありますので,そういう意味で,今,○○幹事がおっしゃるような一定期間執行不可能な財産をつくるということとは,ちょっと性質が違うのかなと思っております。

  よって,どちらかというと,そういう詐害的なことが起こり得るのであれば,ここは比較論でございますけれども,信託宣言よりは目的信託の方が悪用の--もちろん2者ということもございますけれども--あるのかなということがあります。

そうしますと,むしろ信託宣言と目的信託を同列の規律にすべきでないかという議論よりも,分けて議論することが必要ではないのかなと思っております。

● 1点だけ,ちょっと気になっているところなんですけれども,通常の私益信託に比べて,目的信託の場合には受益者による監督の可能性といいますか,そういったものがちょっと弱まるのではないかという気がしていて,制度的に,何かそこをちょっと補完するような手当てを検討する必要があるのではないかという気がしています。

  例えば,信託管理人ですとか受託者監督人ですとか,そういったものを活用することも1つ考えられるのかもしれませんけれども,そういった,流動化のことを考えると,強行法規とまでしなければいけないかという問題はあろうかと思いますけれども,そういった手当てがされるような方向に誘導するような規律というものを,ちょっと御検討いただけないかなと思います。

● 受益者がいませんので……,信託管理人のところの規定は今,はっきり覚えていませんけれども,置くことは……


● ガバナンスの問題については,もちろん認識しておりまして,今回の資料には書いていないですが,たしか前に配った資料では,受益者の代表をするという意味の信託管理人ではなくて,別途ガバナンスの観点からの信託管理人というか,そういう制度を設ける必要があるのではないかということは,当然問題意識として持っておりますので,その方向で,設けることとなれば,その方向でも検討していきたいと思っております。

● これは,やはりどうも根本問題が重要な問題であって,流動化の観点からもさらに詰めなくてはいけませんけれども,先ほど○○委員からいろいろ御指摘がありましたけれども,中間法人よりはこちらの方が目的にかなっているという御議論などは,いろいろ参考になるように思います。
  それでは,公益信託も含めて,また。


● それでは,公益信託について簡単にご説明いたします。
  公益信託につきましては,今年の秋以降,当部会において公益信託に関する法改正の内容について本格的に審議いただきたいと思っておりますが,それに先立ちまして,公益信託制度のあり方に対する基本的な骨格となる部分について,改正の方向性についての当面の意見を賜りたいとの趣旨に基づく問題提起でございます。
 


 (前注)に書いてございますとおり,公益信託と公益法人とは類似の機能及び規律を有する制度でありますところ,公益信託法制の改正に当たっては,並行して行われている公益法人法制の改正動向を注視し,その改正の具体的内容が相当程度固まったところを踏まえた上で,公益法人に関する規律と同様の規律を設けることとするかを含めて検討していくことが適当であると考えております。

  このような観点を踏まえつつも,今後,公益信託の規律を考えていくに当たり当面念頭に置いておくべき最も基本的な事項として,次の2点を挙げることができると思われます。

  第1は,公益信託の設定に関し,現行の主務官庁による許可制を維持すべきか否かという点でございます。


  公益法人法制の改正においては,許可主義を見直し,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,一般的な非営利法人について公益性を判断する仕組みを設けることとされております。

この点については,公益法人と異なり,公益信託には法人格がないことですとか,公益法人の許可制について,問題視されているような弊害等については,公益信託では特段指摘されていないと思われること等の事情の違いがあることをかんがみますと,公益法人と公益信託とでは必ずしも平仄を合わせる必要はないとの見解もあり得るものの,類似の機能を有し,類似の規律が採用されている公益信託についても,公益法人の設立に関する規律と平仄を合わせて許可主義を廃止すべきではないかとの見解が有力でございます。

  もう一つは,今の延長線にある問題でございますが,公益信託の監督に関し,主務官庁が監督する旨の現行の規律を維持すべきか否かという点でございます。
  


公益法人法制の改正においては,公益制の判断主体が必要な監督上の措置を講ずるとの方向で制度を検討することとされております。この点につきましても両様の見解が信託についてはあり得るわけですが,公益法人法制の改正内容と平仄を合わせるべきであるとの見解が有力であると思います。

  この2点について,当面の考え方をお聞かせいただければ大変ありがたいと存じます。


  なお,以上のほか,公益信託の終了ですとかその後の財産の帰属先の問題,あるいは(注)において指摘した各論的な問題についても,御意見があれば賜りたいと思ってございます。


● それでは,御意見をお願いいたします。
● 目的信託の議論と公益信託の議論は,当然連続的な議論でして,現在,公益信託が狭いがゆえに,非常に公益性が強いところの非公益的目的信託の必要性がありまして,ただ,では公益信託の幅を広げれば目的信託は要らないかというと,そんなことはなくて,やはり公益信託の幅も広げていただいて,課税の方は課税の方でまた検討されればいいと思うので,公益信託は狭く,場合によっては目的信託ももしかしたら制度的に難しいということになりますと,やはりこれだけの資産,財産の承継ということを考えているときに,有効な形での財産の処分というか,承継ということができなくなってしまうので,今の議論だけからしますと,公益信託の許可主義ということが,やはり問題ではない。いわゆる広げてほしいというような意見です。


● 税務問題は,今,政府税制調査会でやっておりまして,近々報告が出ると思いますが,ここはそれを切り離した形で,制度論なんですけれども,主務官庁制という問題と許可制という問題と2種類の問題があると思います。

  主務官庁制に伴う弊害というのが,例えば縦割り行政に伴う弊害というものをやめるにはどうしたらいいかというので,第三者機関による判定というスキームが出ているんだと思います。

それが公益法人と公益信託とで,現在の主務官庁制に伴う問題が多いのか少ないのかというのは,これは事実の認識の問題で,よくわかりませんので,それに伴ってということになりますが,しかし,法人の方を主務官庁制をなくすのに信託だけ残すというのは,どうも何かうまくいきにくいのではないかなという感じがいたします。

  それからもう一つ,許可制の問題なんですが,公益法人の法制では2段階を考えていて,準則主義で非営利法人を直ちに設立することができて,その上で,第三者機関の判定を受けたものを公益性のある法人と判断しようという,こういう2段階になっていると思います。それを信託の方に持ち込むとしますと,第1段階に相当するものが何なんだろうかということがはっきりしません。
 

 そこで,ひょっとしたら目的信託というのが第1段階であって,その上で,公益性を第三者機関なりが認定したものが公益信託になるという,そういうスキームが考えられます。

しかしながら,目的信託を導入するかどうかについては先ほど来,議論もありましたし,仮に導入するとしても,目的信託に対する規律と,それから公益信託に対する規律とは相当違ってくるのではないだろうか。

非営利法人の上に公益法人を抽出するというのとは,ちょっと違ってくるのではないかという気がしますので,今のような2段階のスキームがうまく組めるだろうか。もし組めないとすると,むしろ一段階にしてしまって,その第三者機関が公益信託の設定について,許可ではなくて,何というんでしょうか,認定というんでしょうか--をするというようなワンステップも考えられるのかなと思います。

  いずれにしましても,公益法人法制の方がどうなるかというのは,まさに今,詰めていらっしゃることだと思いますので,それを見た上だということになると思います。

  あと,細かい点で1つだけなんですが,3番目の残余財産の帰属先について,これは現行の制度を維持しようというような御提案かと思うんですが,現行の制度は,帰属権利者がいないことが前提になっていて,そうすると,委託者が帰属権利者を自由に決めることができるということが前提になっていると思います。

私はそれでいいと思うんですが,公益法人法制の方でそのようになるのかどうか,よくわかりませんで,そことの整合性,バランスというものも問題になるかなと思います。


● 先ほど申し上げましたように,目的信託については必ずしも賛成ではないんですが,それはちょっと置いておきまして,仮に目的信託を入れたときに,チャリティーコミッションみたいなものをつくる制度にしたときに,それは何を意味するんだろうかということが,○○委員のおっしゃったことと関係しているんですが,すごく気になります。
  つまり,法人制度におきましては,第三者機関が認めなければ法人になれないわけであって,法人格を取得できないんですよね。違うんですか。

● 法人格は取得できます。非営利の法人格。
● では,同じなんですか。
● 非営利の法人格を取得できて,あとは税の優遇措置がくっついてくるかとか。

● では,パラレルで考えていいのかもしれないんですが,先ほど○○委員の発言にもありまして,そうかなと思いながら私,聞いていたんですが,仮に税の優遇措置に関してはまた別個の基準で考えて,チャリティーコミッションが考えるのは公益法人の認可の問題である,そしてそれは広く認めていこうという話になりましたら,何を認めるんだろうかというのがすごく気になるんですよね。
 


 もしそれを認めてもらえなくても,目的信託として生き残るわけですよね。そして,今までは,認めてもらうというのは,恐らく受益者が確定していなくても信託として成立することを認めてもらうとともに,税法上の優遇措置を受けられるということを認めてもらうということだったんですが,今度チャリティーコミッションみたいなものをつくったときには,何を認めるのかが気になります。


  2点目,これは小さな話なんですが,全体の規定の仕方なんです。
  公益信託の終了時の規定とか,いろいろな規定というのが,「こういうふうな定めをしておかなければコミッションによって認可されませんよ」という話として規定していくのか,それとも「コミッションで認可されるとこういうふうになりますよ」というふうに規定していくのか,2通りの規定の仕方があると思うんですね。

後者の規定の仕方というのは,ある意味ではすごくおかしいような気がいたしまして,例えば,帰属権利者みたいなものがどこそこになりますという規定が仮にあったとしますよね。


しかるに,私人を帰属権利者として指定している申請が出てきて,それを公益信託としてチャリティーコミッションが認めて,しかし強行規定が適用される結果,帰属権利者が公の主体になるというのは,何か非常に持ってまわったやり方で,変な気がするんですね。

  そうすると,結局,認められるためには何が要件になっているのかという書き方をした方が素直なのではないかという気がいたします。
  後者は全くもって思いつきであり,議論すべきような話ではないと思いますが,ちょっと前者のことが気になります。


● 法人の制度とこっちで本当にパラレルかどうかというのはよくわかりませんけれども,法人の方は,恐らく法人の類型としては,もう非営利法人しかないんですね。

ですから,こっちで言う目的信託,受益者がいない信託というものしかない。あと税の優遇措置がくっついてくるためには,目的が公益であることを認定してもらう,法人の場合ですと。


そうすると,重要なねらいは,課税当局が判断するのではなくて,何とか委員会というところでもって公益性を認めると,税の優遇措置がくっついてくる,それは大体よろしいんですか。税の方は今,議論しているかもしれませんけれども。


  それは後で補足していただくとして,そこにだから公益性を認定するということの独自の意味があると,少なくとも当初は考えておりました。ですから,信託も同じような形がとれるのかどうかということですね。


  もう一つ,さっき気になったのは,仮に信託の方では,やはり公益信託という類型が必要なので,「公益信託」という言葉は積極的に使って信託の中に置いておく,諸外国にも公益信託というのはありますから,ちょっとそこで法人と違う形をとって,ただ,そこで言う公益信託というものについて,さらに2つの考え方があり得て,税の優遇措置と連動するかどうかというのは,これは一応切り離した上で,要するに,プライベートなというか,今で言えば許可主義の,許可を受けない公益信託というものを,とにかく一定の要件を規定した上で認めるという法制度をとるかどうかですね。


  例えば,帰属権利者というのは公益団体とか,要するに私人ではいけないとか,そのルールがいいかどうかは別として,幾つかの要件を定めて,その要件さえ満たしていれば,あとは公益目的で受益者がいないというタイプの信託を認める。

その上で,信託法としてはそこまでやって,あとその信託が本当に税の優遇措置を受けるかどうか,これは外の,先ほどの主務官庁に相当するような何とか委員会とか,そういうものに任せる。そんな仕組みが,考えようと思えば考えられるんですね。

  税のことも含めて,○○委員から補足していただけますか。

● 税につきましては,方向性としては,第三者機関が公益性を認定すると税の優遇をそのまま自動的につけるという方向の議論になっているということは,新聞でも既に報道されているとおりでございます。ただ,最終的にどうなるかは,あと二,三回の審議を経まして,近々正式な形で公表されると思います。


  制度論につきましては,今,○○委員がおっしゃいました,認定されない,認定前の公益的あるいは広い意味での公益的な信託というものをどう位置づけるのか,それをさっき出てきた目的信託の重要な一部分として位置づけるのか,それとも公益信託の予備軍といいますか,準公益信託のようなものを考えるのか。その準公益信託的なものと,それから流動化目的のための目的信託とを一括りにするのか別に考えるのか,そのあたりかと思います。


● ○○委員が最初に発言されたこととほぼ同意見なんですけれども,ちょっとつけ加えたいこともありますので,発言します。


  1と2については,私の意見としては,どちらも主務官庁による許可制は廃止し,そして主務官庁による監督も廃止すべきだと思います。


それに代わるものとしては,公益信託として何を考えるかというところが問題ですが,基本的には,非営利法人法制に付随する公益性認定の仕組みに合わせるべきだろうと思います。

  理由ですが,社団法人とかも非営利法人法制に入ってきますので,一般化すると少しぼんやりぼやけてくるかもしれませんが,具体的に公益信託と比較すべきは,現行の民法上の財団法人だろうと思います。

現行の公益信託と民法上の財団法人は,ほぼ類似する目的のための社会的な存在であって,そして,民事法上の仕組みが違うけれども,他方で主務官庁による許可と監督という点は共通したものだったように思います。


したがって,寄附行為をする者,あるいは公益信託の委託者になる者は,どちらを選ぼうかというのは,基本的に民事法的な規律に着目して,コストの面とか安定性の面とか,そういうことでどちらかを選択してきたのではないかと思います。それはそれで適切なことだったのではないかと思います。

  したがって,民法上の財団法人に代わる制度が,非営利法人制度の中の公益性認定を受ける財団法人型のものになる。

そこでは新設される委員会で公益性認定を受けるということになり,そして監督も,恐らくその認定の更新とかに絡む形で委員会がするというつくりになるのであれば,他方で公益信託については,これまでの縦割り,主務官庁制の許可制,監督制を残しておくというのは,公益信託の委託者,そして財団法人の寄附行為者になる者がどちらを選ぶかというときに,民事法的な規律だけでなく,別の,今までは存在しなかったノイズというんでしょうか,それでどちらが自分の考えていることがより実現しやすいかということを判断しなくてはならなくなって,恐らく今後は,こういう制度がこれまで以上に広く社会で使われることがよいと思いますので,そのためには無用な,あるいは有害な障害になってくるだろうと思います。

  したがって,30ページのところには,公益法人にはいろいろ問題が指摘されてきて,今,改革になっているけれども,それと同様の問題は公益信託には果たしてあっただろうかということでありますが,たとえなかったとしても,制度の平仄を合わせないということが問題になる,そういうふうに考えるべきだと思います。
 


 その次ですが,ここがちょっと○○委員もおっしゃっているところであり,私もよくわからないところなんですが,そうすると,公益的な信託をつくろうとして,受益者は特定していない。


しかし,新設される委員会で公益性認定を受けなかったときに,どうなるのかという問題なんだろうと思うんです。○○委員もおっしゃっていた問題だろうと思うんですが。

  それは,信託としても成立しないというのは一つの答えだと思うんですが,しかし,それは恐らく適当な答えではないのではないかと思います。では,それが第69の目的信託そのものなのかどうかは,目的信託についての私の意見が定まらないのでよくわからないんですが,しかし,公益性認定を受けられなかった信託であって,受益者が確定していないのは,それで信託として無効になってしまう,そういう制度にはすべきではないのではないかと思います。


● 今,最後におっしゃった点につきましては,法人法制の方で非営利財団法人をつくることになるかどうかはまだ決まっていないんだと思いますけれども,それとのバランスも考える必要があるのではないかと思います。


● 非営利財団の方は比較的,これもいろいろな意見があったわけですけれども,広い非営利財団を考える。要するに,ここで言う目的信託的な非営利財団というものと,それから,今,○○幹事が言われたのは,本来,公益的なことをねらっているのであって,そういう意味では,公益とはちょっと違うということを意識しつつ,非営利の目的信託なり,あるいは目的財団,そういうものとはちょっと違うんですね。

ですから,恐らく3つぐらい円があって,認定を受けられるであろう公益信託と,その周辺にあって,公益なんだけれども認定を受けられない,あるいは認定を受けないでやっていきたいという場合もあるかもしれませんね。それからもっと外の,本当の非営利の,公益でない非営利のもの。
 


 どこまで認めるか。財団法人の方もどこまで認めるか,そういう議論がいろいろ関連していて,信託も基本的には合わせた方がいいんだろうと思いますけれども,信託は信託で独自の,許可制とか主務官庁制については,これはもう完全に合わせた方がいいと思いますけれども,どの範囲でもって信託を認めるかということについては,あるいは信託独自の考え方があり得るかもしれない,そんなふうに思います。


● 公益信託,目的信託でもいいんですけれども,事業型ということが考えられると思うんですね。要するに,単に財産を管理して奨学金のように寄附するという単純型ではなくて,何か,財団法人に近いものかもしれませんけれども,私も財団法人の理事やっていますけれども,やはり財団法人というのは寄附行為が変更できないという大きな,致命的な問題も抱えていますから,信託の柔軟性ということは非常に重要ですから,パラレルではあるけれども,信託のよさというものはある。そうすると,財団法人がやっているような事業型ということも考えられるという。
 

 あと,目的信託でも公益信託でもそうですが,その担い手ですけれども,受託者。信託銀行が財産管理機能とか安全性,信用力という意味ですぐれているということは,これまでの歴史が証明するところでありますけれども,公益信託にしろ目的信託にしろ,その内容によっては,場合によっては,あとNPOみたいなところは適切かもしれませんし,ある程度紛争含みであれば--紛争含みと言うと適切ではありませんけれども,法律関係ということにおいては,また個人的な信頼という意味においては,手前みそですみませんけれども,弁護士とか弁護士会というのが適切である,かように思いますから,そういう担い手がどうあるべきかということも,今後の論点としてぜひ検討していただきたいと思います。


● 担い手は,実際問題として非常に重要な問題ですね。
● 公益信託それ自体というよりは,その場合の裁判所の関与という問題について若干申し上げておきます。

  公益法人において監督のあり方がどうなるのか,まだ全く,ある意味で十分詰まっているわけではないので,どのようになるのかわからないということが前提ですが,ただ,公益性の認定を初めといたしまして,やはり公益的な観点からの監督というものがあります。その上は,その部分を裁判所が担うということは,実際上も,それから政策的に言っても不適当であって,そういうわけにはいかないだろうということだけ申し上げておきたいと思います。

  そういう意味で,公益信託における裁判所の関与というものは,なるべく最小限,それがあるとしてもなるべく最小限のものとしていただく必要があろうかなと考えているところでございます。

● チャリティー委員会みたいなものができるのであれば,それということも考えられますよね。


  公益信託についても,まだまだ議論はあると思いますが,何分法人制度の方の影響を非常に受けるもので,こちらで先行するわけにもいかないところがあります。--ということで,このぐらいで一応終えるということでよろしいでしょうか。
  では,今日は長い時間どうもありがとうございました。
-了-

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2016年加工編
法制審議会信託法部会
第17回会議 議事録

第1 日 時  平成17年7月1日(金)  自 午後1時02分
                      至 午後6時49分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   信託法改正要綱試案(案)第1~第42について

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● それでは,法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。
  きょうは,信託法改正要綱試案(案)について,御議論いただければと思います。

  (幹事・関係官の異動紹介省略)
● 本日席上配付の資料が2部ございます。1つは,信託協会の方から「信託法の改正について」という意見書を出していただいておりますので,これにつきましては,その趣旨を簡単に○○委員の方からお願いできればと思います。


● それでは,時間もありますので,ごく簡単にしたいと思います。

  本件のペーパーにつきましては,先ほど○○幹事の方からお話ありましたように,信託協会としての意見を取りまとめたものでございます。


ただ,1点だけちょっとお断りしたいのは,要綱試案での対応というのが間に合いませんでしたので,基本的には二読の資料をベースにしたものでございます。


  内容につきましては,要旨といいますか,結論だけ簡潔に御説明したいと思います。
  

まず1点目は,信託宣言についてでございますが,もう結論だけ申し上げますと,導入に反対したいということでございます。

  2点目,2ページの2の忠実義務のところでございますが,これについては,総論的には規律の外延とか内容について明確化していただきたいということと,各論的には,4のところの利益取得行為の禁止と利益吐き出し責任についての規律というのを不要としていただきたいということでございます。

  次に,3ページのところの3の受託者の有限責任信託の許容についてでございますが,まず1の新たな類型の信託の創設については,法務省の提案に賛成ということでございまして,ただ,①に書いていますけれども,工作物責任のような無過失責任を受託者の固有財産が負担しないこととされるべきであるということと,それと,明示というのは必要だと思いますので,公示制度の導入というのはいたし方ないのかなというふうに考えておりますが,それに当たっては簡便で低コストのものにしていただきたいということでございます。
 


 次に,(2)の既存の類型の信託でございますけれども,これについては法務省の提案に賛成ということでございまして,明確化する意味合いでも規律化していただきたいということでございます。
 

 4ページの4の補償請求権につきましては,これは以前から申し上げていますけれども,受益者から補償を受ける権利を受託者が有することをデフォルトルールとしていただきたいということと,特に補償請求権を信託の外側で締結された従たる契約とするというような考え方には反対であるということでございます。

  次に,5の多数受益者の意思決定における,みなし賛成制度と公告についてということですが,これについては現行の実務も踏まえまして,公告による特別決議事項の賛否を諮ることを信託法上も可能にしていただきたいということと,あと合同運用信託のところの部分についても多数決ができるような形のものにしていただきたいということでございます。


  最後に,5ページの6の不動産の公示制度についてですけれども,これについては,信託法の改正の内容に踏まえまして,特に忠実義務の任意規定化によって,固有勘定と信託勘定が取引ができるような形になりますので,そういうものであるとか,抵当権の信託の解禁等がございますので,これを踏まえたような登記法制にしていただきたいということと,その手続を明確化していただきたいということでございます。
  以上です。

● ありがとうございました。
  それからもう一つ,やはり席上に日本弁理士会知財流通流動化検討委員会の方から,「信託法改正」に関する意見ということで,やはり部会の方に御意見をいただいておりますので,これについては,ここに御出席の方がおりませんので,内容を御紹介することは差し控えさせていただきますが,今後の検討議論の参考としてごらんいただければと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

● それでは,きょうの本来の議題でございますけれども,この信託法改正要綱試案(案)というのを御議論いただくということでございます。きょうの議事の進め方も含めまして,○○幹事から説明お願いします。

● 本日の進め方でございますが,第42番までを議論していただければと思っておりまして,分け方はこちらの方で適宜させていただきますが,基本的には,これまでの提案から変わったところを中心に御説明をさせていただきたいと思っております。


総則関係を最初にやって,信託財産関係をまとめてやりまして,受託者についてはいろいろと議論もあるかと思いますので,これを4つなり5つなりに分けて適宜時間を割り振っていきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

● 予定は5時ですけれども,前回アナウンスしましたように,ちょっと延びることもあるかもしれませんので,その点をお含みおきいただきたいと思います。

  それでは,早速分けて説明してください。

● それでは,総則関係というところでございますが,まず前提といたしまして,まず資料に記載しております★印の関係でございますが,これはこの規律の中で何が強行規定になるのかというものを★で示しているものでございます。
 

 ここでの対象になります事項は,受益者の権利を信託行為で制限できるかにかかわるものと考えておりまして,信託の構造ですとか枠組みに関する事項,例えば第5の受託者の利益享受の制限ですとか,第8の信託財産の範囲ですとか,あるいは第11の受託者の相続財産からの分離ですとか,こういうものについては,そもそも信託行為がここでいう強行規定か,任意規定かを議論する前提を欠くものと考えておりますし,第3の詐害信託のように,第三者の権利に係る事項についても,やはりここでの議論の前提を欠くものだと考えておりまして,あくまで受益者の権利を信託行為で制限できるかという観点から,★を付しているものでございます。

  それからもう一点でございますが,全体を通じてのルールということで,委託者についての書き方でございますが,デフォルト・ルールとして委託者に権利があるもの,例えば第37の受託者の解任・辞任につきましての1の(1)ですとか(4),それから2の(1)と,こういうものにつきましては委託者を明記しておりまして,このようにデフォルト・ルールとして委託者に権利があるものについては文中に「委託者」と明記しております。
  


他方,デフォルト・ルールとして委託者に権利がないもの,すなわち後ほど説明いたします委託者の権利の別表で×とあるもの,信託行為で付与して初めて委託者に権利が認められるものにつきましては,「委託者」というのを明示しておりません。

例えば一例を申しますと,第12の2の第三者異議のようなものですとか,第23の帳簿閲覧請求権のようにデフォルト・ルールとしては委託者には権利が認められないもの。


損失てん補請求権とか,差止請求権,検査役選任請求権なども同じでございますが,そういうものについては「委託者」と書いてありません。


書いていないから絶対だめだというのではなくて,信託行為の定めで委託者に権利を付与すればいいということで,統一的に御理解いただければと思っております。


  以上を前提といたしまして,第1の信託の意義から,前回までの提案からの変更点を中心に御説明いたします。
  

まず,1の信託の意義につきましては,この2つの要素を信託の意義づけとする点について特段の変更はございません。


  2の信託契約の効力というところですが,細かい点ではございますが,前は「信託は」と書いておりましたが,ここを「信託契約は」と直しておりまして,


これは,遺言信託は遺言者の死亡によって受益者となる者の承諾にかかわらず効力が発生しますので,ここから除外されることを明らかにいたしますとともに,前はたしか「当事者の合意」と書いてありましたのを,ここは委託者となるべき者と受託者となるべき者との諾成契約であるということを明らかにすべく,このような書きぶりをしているものでございます。


  それから,第3に信託契約の効力発生時における債務の引受けというところでございますが,これも前は「信託設定の時」としておりました。


ここで申し上げたいのは,債務につきましても,信託の効力発生の当初から信託財産に含めることができるということでございまして,遺言信託で債務を含む包括財産を信託するということもあり得るのでしょうが,遺言信託では受託者が職務を引き受けないと債務が移転しないと思われますので,信託効力発生時に信託財産の一部として債務の移転の効果が生じさせることはできるということが申し上げにくいという事情がございます。


そういうことで,ここは契約と同時にということを強調したいために,信託契約ということで限って明記させていただいているものでございます。


  なお,セキュリティトラストに係る民事執行法とその他の法令との関係につきましては,従来どおり,引き続き検討をさせていただきたいと思っております。


  続きまして,第2でございますけれども,脱法信託の方につきましては従来と変更はなく,訴訟信託の禁止というところにつきましても,現行規定の趣旨を維持するものとするとさせていただいております。


基本的には現行規定の方向で考えておりまして,最終的に当法制審の意見やパブリック・コメントの結果を尊重して決定をすることとしたいと考えているものでございます。


  第3に,詐害信託についてというところでございますが,これは前回の提案では,ただし書きで「受益者として指定されたことを知った当時において」と書いてあります。


前回の提案では,「受益者として指定された者が受益者となったことを知った当時」と,実質的には同じ文言でございますが,このような文言を提示して御意見を求めておりましたところ,特に反対がなかったということなので,それで確定させていただいております。


  続きまして,次のページの2でございますが,これは「この場合において」からの書きぶりに係るところでございますが,この2といいますのは,詐害信託取消権に準じます信託法上の特別の請求権として受益権の譲渡請求を認めたものであるということは,従来より御説明申し上げてあります。
 


 ただし,前回の提案におきましては,債務者の詐害意思を知っている受益者に対して譲渡請求できるという積極的な書き方をしておりましたのを,このように書きますと,債権者側で受益者の悪意の立証責任を負うのではないかという誤解が生じますので,ここでは受益者側で善意の立証責任を負うものであるということを明らかにすべく,ただし書の形で書き直しているというところでございます。


  続きまして,第4につきましては,★印が抜けておりますが,一種,受益者を保護する仕組みの一環でございますので,★印を書き加えておいていただければと思いますが,従来から変更はございません。
  


なお,部内での検討では,例えば未成年者などにつきましては,当事者が未成年者でも受益者としていいと言っていれば,あえて排除をするまでもないのではないかというような議論もございまして,未成年者などにつきましても,不適格者とするべきか否かにつきまして,身分法関係との調整も併せて検討していきたいと思っていることを付言させていただきます。

  次に,第5でございますが,まずこの規制の対象となりますのが固有財産で受益権を取得した場合であることを明らかにする書きぶりとさせていただいております。

前回の会議におきまして,固有財産で取得した場合と信託財産で取得した場合とを区別して考えるべきであるという指摘がありましたことを踏まえ,この記述が現行法9条と同様に,固有財産による取得に関するものであることを明らかにいたしますとともに,ここではこのような地位の兼任状態を許さないという,いわばポリシーを明らかにすることを規定するにとどめまして,信託の終了事由となることにつきましては,別途,第57の1の④と書いてございますが,他の終了事由と併せて信託の終了事由のところに列挙することといたしました。
  


なお,信託財産で取得した場合についてはどうなのかというご指摘も前回ございましたが,仮に全受益権を取得すれば信託財産はゼロとなりまして,一般には目的不達成により終了することになると思われるわけでございますが,なお再売却を予定しているのであれば,終了させる必要もないと思われるわけでございます。

この場合は,自己株式の取得と同様な状態となると思われますところ,そのときの受益権の行使の可否,議決権とか,そのようなものにつきましてどうなるかというものについては,なお検討していきたいと考えております。


  続きまして,信託の公示についてというところでございますが,従来から書き加えたところは(注)の第2文と申しますか,「株券廃止会社の株式に係る公示方法を定めた同条第3項の規定の趣旨は維持するものとする」という点でございます。


前回提案におきましては,現行法の3条3項を維持する見解と削除する見解とを併せて提示しておりましたが,現行法3条3項の公示というのは,確かに信託の登記に比べて,その公示内容には限界がある。


すなわち当該株式が複数ある信託のうち,どの信託に属するかまでは特定できないという限界があるとしても,一定の限度で有用性を認めるべきである。


すなわち,少なくとも当該株式は受託者の固有財産とは異なる信託財産であるということまでは公示できるという点には意義があるという意見が大勢であったと思います。


そこで,現行法3条3項につきましては,これを維持することに結論したものでございます。


  第7の裁判所の監督につきましては,現行法第41条第1項の規定を削除するという方向で,前回より提案の変更はございません。
  とりあえず,冒頭につきましては以上でございます。


● それでは,ここまででいろいろ御意見をいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。
  ○○幹事,どうぞ。


● 最初に恐縮なんですが,いずれも細かい話なものですから,ちょっとお許しいただければと思います。


  まず第1の2なのでございますが,その信託契約という言葉を使った趣旨として,遺言信託等を除くということがあるんだというふうな御説明を伺いました。


そうなりますと,この信託契約という言葉は,契約による信託という意味なんだろうかという気がするんですよね。

信託を設定する契約というふうな債権契約ないしは物権契約みたいなものを考えますと,それが合意によって効力を生じるというのは,ある意味では当然のような気もいたしますので。

そうしますと,遺言信託という言葉との対応関係から言うと,契約信託なんではないかなと。ちょっと言葉が,私の無理解だけかもしれませんが,若干誤解を招き得る言葉になっているのではないかと思います。


  2番目に,信託契約と書いてありますのでその言葉を使いますが,合意によってのみ効力が生じるということと,信託そのものの財産的な,信託財産をめぐる法律関係について効力が生じるというところとの関係なのでございますが,委託者と受託者の合意によって,信託設定契約によって,その所有権が委託者から受託者へ移るということになりますと,占有の移転というものがなくても,信託自体が,当該財産が信託財産になって,信託が発生しそうな気もするんですけれども,場合によっては管理・処分を受託者ができる状態にならなければ,信託そのものの信託財産をめぐる法律関係としては発生していないというふうに考えることもできるのかもしれません。


解釈問題として行えばよい問題なのかもしれませんけれども,立法するに当たりましては,本当はもうちょっと明確化した方がいいような気もしますし,補足説明等をお書きになられることがございましたら,若干その点についても御解説いただければというふうに思います。


  2番目に,第3なのでございますが,これ受託者の善意,悪意は関係ないということででき上がっているわけですけれども,受託者は単なる導管であってパススルーされるからということとは限らないような気がするわけであります。


つまり委託者が悪意,受託者が悪意,受益者が善意という形で詐害信託の取消しがなされないという場合を考えますと,場合によっては,受託者というのは,他の債権者を詐害することに加担したということで不法行為責任を問われる可能性もあるのではないかと思いまして,場合によっては,補足説明等でお書きいただく方がよろしいんじゃないかというふうに思います。

  第5でございますが,続けて申しわけございません。先ほど固有財産の保有する状態のことについておっしゃいまして,かつ信託財産のときはどうかというふうなことで御説明いただきました。


しかしながら,信託財産で保有するという場合には,当該信託財産で保有する場合と,他の信託を信託財産として保有する場合とに分かれるわけでありまして,他の信託の信託財産として保有するという場合は,単なる投資として持っているということですので,説明等の場合に分けてお書きになられた方がよろしいんじゃないかというふうに思います。

  最後に第6でございますが,現行法もそうなのでございますけれども,今まで何の異議も唱えていなかったんですが,信託を対抗できないという言い方が本当に論理的に正しいのかというのがよくわかりませんで,当該財産が信託財産であることを対抗できないと言うべきなのではないかというふうな気がいたします。

これも,その説明等で済む問題なのかもしれませんけれども,若干御検討いただければと思います。
  以上です。


● 特に第1点目は,別な場所でも議論したときに,多少この案でもって明確でないためにいろいろ質問が出たことがありますので,場合によっては,もうちょっと明確にしておいた方がよろしいかもしれません。

ただ,余り議論はしていないので,そこをどうするかですね。第1点というか,第2番目の点ですか,今,○○幹事が言われた財産権の移転に関する問題というのは,ある意味では暗黙の前提にしていたような気もしますし,つまりこの信託契約があっただけで,意思主義的に信託財産の所有権が受託者に移転するものではないというふうに,私などは暗黙の了解をしておりましたけれども,必ずしもこの案でもってそういうふうに理解しない方もおられるかもしれないので,そこを……

● 私はそう理解しない。


● 事務局としては,むしろ諾成契約というところで,意思表示の合致により所有権は移転すると考えております。

その結果,受託者は忠実義務ですとか,信託財産である物の引渡請求権を取得することになります。


  他方,物の管理は確かにできませんので,占有改定というようなものがあれば,委託者に対してしかるべく管理せよということを言えるにしても,原則として,物の管理責任というのは発生しませんし,物の管理を前提とする受益者に対する受益債務の弁済というようなものも生じないと,そのように理解しておりまして,意思主義というところに徹底していいのかどうかというのは,御疑問があるようですので,なお御意見をいただければと思うんですが,事務局側としては,諾成契約である以上は意思表示の合致のみによって,所有権も受託者に移転すると考えておりました。

● 忠実義務,例えば競業禁止義務とか,そういうのがかぶってくるのは当然だと思うんですね,最初の信託契約が設定された段階で。


仮にこれは財産権が移転しなくても,その場合にはこういう場合があるんだろうと思う。


問題は信託財産,どっちみち対抗要件が必要だという場合には,それで解決できるのかもしれないけれども,内部的な義務の問題と対抗要件は要らないような場合ですかね。


● それは物権行為の独自性みたいな,現実の引渡しがあって初めて移転するという……


● それをとるのはちょっと嫌なので,そこはもうちょっと違う説明をしておきたいという気がしますけれども。普通の売買契約の場合にも,純粋に意思主義というのを徹底するわけではなくて,何らかの行為があると,そのときに所有権が移転するという合意をしているという解釈をするので,そういう意味では,その信託財産の管理がなされるときに,信託財産の名義が移転するという考え方も十分あり得るかもしれない。


ちょうど不動産について,所有権が移転するのが登記のときだとか,いろいろな言い方しますけれどもね。


  私の趣旨は,ここに書いてあることでもって,どういう立場を前提にしているかというのは必ずしも明確ではないために,やはりいろいろな議論が出てしまって,いろいろな議論が出ることはいいのかもしれませんけれども,ある意味で誤解に基づいた意見が出てくるというのは困るかもしれないという,そういう趣旨ですね。


ただ,今この条文を見ると,私の理解と○○幹事の理解とも違うということがわかったので。

● 意思表示だけで所有権が移転するのではなくて,やはり別の何らかの管理が可能になる状態に受託者が置かれることによって,初めて所有権が移転するというような合意があるというように解釈認定するということでしょうか。


● 実際上は,対抗要件が必要とする場合が多いでしょうから,不動産だとか,そういうものについては余り問題はないのかもしれません。


つまり,占有は相変わらず委託者のもとにあるけれども,所有権は移転していて,例えば現在の16条みたいな,受託者から倒産隔離の効力が生じるかどうかという問題ですけれども,これも対抗要件を必要とするというのであれば,実際上は余り関係ないのかもしれませんね。

● 恐らく,信託の終了のところでも同じ問題がありまして,終了したときに,所有権が直ちに移転するかどうかという問題については,我々はそこは沈黙しておりまして,解釈にゆだねるというスタンスをとっているわけでございますが。


ですから,2につきましてもこういう書き方をしつつも,所有権移転時期についてはあえて明確化していないという解説もできるわけですが,内々の考えとしては,所有権は直ちに移転すると思っておりましたので,ちょっと御説明させていただきました。

● 確かに,終了の場合,全く同じ問題が生じるんですね。
● ただ,もちろん登記のときに所有権が移転するとの意思表示をすることもできるわけでございますが。


● ここでは,これをすべて一から議論し直してどうするかということを決めるのが目的ではないと思いますので,とりあえず中間試案といいますか,パブリック・コメントを求める上で適切な形で表示されているかどうかということを考えた方がいいと思いますけれどもね。
  

今の点に限りません。今その議論をしましたけれども,ほかの点も含めていかがでしょうか。
  ○○委員。

● 細かいところで1点意見と,もう一つ,御質問,御確認の点がございます。

  1点は,訴訟信託の禁止というところでございますけれども,この中間試案の案というのは,現行法の趣旨を維持するものとするということでございまして,としますと,第2読会で出てきました提案の中で,読み上げますと,「ただし,そのような信託行為をすることについての正当な理由がある場合には,この限りではないものとする」という点が削除されているという,こういう理解でございます。

この点については,一部,弁護士会の代表の方から御意見もございまして議論があるところというのは認識しておりますが,他方,第2読会の方で私の方から削除に対する反対意見を申し上げたところでございます。
 


 したがいまして,ここではその実質内容を議論する場ではないと理解しておりますけれども,いずれにしても,その点について議論が分かれているということでございますので,中間試案で出す段階においては,この点についても一応その選択肢があるということを明記していただければというふうに思っております。

 それから,1点,これは今さらながらの御質問なんですけれども,同じく詐害信託の(注1)のところでございますが,「債権者は,債務者に詐害意思のある限りにおいて常に取消しが可能であるものとする」ということでございますが,これは補足説明で明記していただきたいという趣旨もあるんですけれども,挙証責任が一体どちらにあるのかということが書きぶり自体ではよくわかりませんものですので,その点ちょっと御質問したいということと,明確化していただきたいと思います。

  といいますのも,やはり目的信託の場合,使い方はいろいろ議論があるところでございますけれども,やはりその安定性によっては,仮にチャリタブル・トラスト的なものの使い方があるのであれば,それの詐害性がどれだけ壊れやすいのかどうかということについて,商品としての安定性というところにもつながるものですので,その点ちょっと議論の前提として明確化していただきたいと,そういう趣旨でございます。


● 今,○○委員がおっしゃったのは,債務者の詐害意思の立証責任がどちらにあるかと。


● おっしゃるとおりです。


● 事務局としては,取消権を行使する者が,債務者が債権者を害することを知って信託を設定した場合であるということを立証すべきであるということを書いているつもりでございまして,そこは一般の民法の詐害行為取消権の場合と同じく,債権者側で債務者の詐害意思は立証しなければいけないと。

それに対して,民法で言えば受益者ですか,ここでも受益者になるわけですか,側で自分の善意を立証するという同じ仕組みで考えているわけでございます。


書きぶりとしてはこれでよくて,補足説明で書いておけばということでよろしいですか。


● できればということですけれども,もし自明ということで,ただ単に私の理解不足ということであれば,別に結構でございます。本席において明確化したということで結構でございますけれども。

● 一応,趣旨は今,○○幹事が説明されたとおり,一応明確にしてあるはずなんですが。


  蒸し返すようで申しわけないけれども,さっきのあれは金銭の場合も同じように考えているの,信託財産が金銭の場合。


● 金銭の場合も特に変わるところはないと思っておりますが,どういう点が。

● つまり,委託者が金銭を占有していますよね。それで信託を設定する意思を示して信託契約を締結する。そうすると,金銭についても受託者名義の財産になったということで,倒産隔離されるということですか。


● 金銭については,所有と占有が一致するからという御趣旨……


● というか,意思主義でもって,もう金銭についても所有権は受託者に移転するものだというふうに考えて,それとも占有が残っているので,金銭については所有権は移転しないというふうに考えるのか。


● そこは,金銭は要するにまだ委託者が持っているわけですね。そこについては,金銭の所有権は移転しないのではないかなと考えておりますが,所有と占有が基本的には一致するというところで考えております。


● 特定性があってもね。


● ええ,特定性があっても。


● そうであれば,実質はそんなに違わないのかもしれません。

さっき問題にしたのは,そういう対抗要件を要求しないで財産の移転ができるという財産について,場合によっては債権者を害することになってしまわないかという,そういう問題なので,金銭が恐らく一番問題だと思いますけれどもね。
  ごめんなさい,どうぞ,○○委員。


● ここで申し上げるべきか,後の第68の信託宣言のところで申し上げるべきかなんですけれども,詐害信託のことにつきまして,後の信託宣言を認める場合において,一定の要件のもとで認めるという案が1つ示されておるわけですけれども,そこの中では,詐害行為があった場合については,この第3の通常の場合の詐害信託としての取消しということを行わずに,いきなり強制執行の禁止の例外として対応するという案が注に書かれているわけですね。
  


そこで,実際に同じ詐害行為において,信託宣言の場合とそれ以外の場合で,債権者の取消権の行使について差を設けるということについての何らかの注記なり,補足説明の中などでちょっと言及していただいた方が,ここの問題だけじゃなくて,いわゆる信託宣言における債権者の保護の観点で深い議論ができるのではないかなというふうに思われるんですけれども,いかがでございましょうか。

● そうですね,信託宣言についてはおっしゃるとおり,第68で甲乙丙案と提示しておりまして,丙案については一定の要件として,例えば詐害信託宣言の場合に強制執行を容認するという,しかし,これは1つの提案として書いているわけでございまして,必ずこれをとるかどうかというのがはっきりしませんので,もし,第3の方に書くとすると,信託宣言においては別途考慮の余地があるかを検討するというぐらいのことを書き得るかなと思います。

絶対に緩和するかどうかまだわかりませんので,そのような非常にあいまいな書き方であれば,一応ここに書いておいて,第68も見てくださいねという趣旨を明らかにするということにはしたいと思います。

● ほかにいかがでしょうか。さっき○○幹事が言われた幾つかの点はいかがですか。


信託の公示に関しては,言葉遣いが適当かどうかわかりませんけれども,今まで信託の公示ということで,当該財産が信託財産であることを主張する,あるいは対抗するという言葉,そういう意味で理解はしてきたので,これ自体は恐らく余り誤解はないとは思うんですね。


ただ,言葉の表現として正確さを期するかどうかということだと思います。
  それから,固有財産で取得するという件についての御注意も,これはもっともだと思います。どこかで説明するか,しないかは別として。

● 今の第5の点は補足説明で説明させていただこうかなと思います。
  あと,公示のところの書きぶりについては,検討させていただきたいと思いますが,御趣旨を踏まえて誤解のないような書き方をしたいと思っております。

● 信託契約というのは,信託を設定する契約のことなのか,契約による信託のことなのかということだけ,ちょっとお伺いできればと思うんですが。


● 必ずしも明確な違いがよくわかりませんけれども,仮に遺言信託を除いて,普通の契約でもって信託が設定される場合において,その信託を設定する契約と信託契約とが,どこが違ってくるということになるんでしょうか。


● 信託を設定する契約が合意によって成立しても,信託は目的物の所有権,占有が移るまで発効しない,効力を発しないという規律は十分に可能ですよね。

● それはだれもとっていない,それは僕もとっていないです。

● いやいや,可能ですよね。だから私にとってみると,信託設定契約が合意によって効力を生じるというのはある意味で当然の話であって,問題は,信託が効力をその時点で発生するかということなんじゃないかと思うんですけれども。

● わかります。そのときのまた信託が効力を発生するということの意味が多少多義的であって,そこはさっき私がいったような考え方と,○○幹事が言ったような考え方があり得ると,そういうことですね。

● 少なくとも,遺言信託という言葉とパラレルじゃないんですよね,信託契約という言葉は。契約信託の方が漢字の順番としてはいいんじゃないかと思うんですけれども。余りこだわるわけじゃありません。


● おっしゃる趣旨はよくわかりました。うまく書き切れるかどうかわかりませんけれども,検討していただきましょう。


  ○○委員。
● 表現だけの問題なんですが,第5で固有財産で保有する状態が継続した場合という書き方が,現行の9条に比べると非常に例外的で限定的な場合であるかのように読めやしないかという不安です。


  まず,固有財産ということがここで初めて出てくるわけですが,当然,信託財産か,固有財産かという前提の理解があると思うんですが,初めて見ると,固有財産というのは何だろうか。

そうすると,固有財産で取得した場合に限って信託は存続させない。現行の9条よりも随分限定されたというように理解されると,意見が適切に出ない可能性がありますので,これは9条との関係を明確にしておいた方がいいのではないかという表現だけの問題です。

● その点は誤解が生じないようにした方がいいと思いますので,表現は考えてみたいと思います。
  ほかにここまででいかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。

● 1点,第3の詐害信託の(注2)のところなんですけれども,ここに記載されている内容は,受益者が悪意の場合に,現物を受領している場合に債務者への返還を請求することができるということで,こういう規律は必要だというふうには思うんですけれども,民法424条1項の取消権の行使でこれをするという御説明が若干よく理解できないところがありまして,424条でいくということになりますと,受益者が悪意であることが必要になるということになりますし,この424条の場合でいくときには,そうすると取消しの対象が何になるのかというところがちょっとよくわかりにくいところがありまして,この辺はちょっと御説明いただけると助かるかなと思っておるんですけれども。

● ちょっと私も議論の経緯は忘れたけれども,卒然とこれを読むと,民法424条1項の取消権を行使するということの意味ですね,要するに。それがどういう趣旨だったのかというのが。

● 前回から実質を変えているつもりはないのでございますが,424条でいくときには,当然相対的取消しということなので,別に受託者が善意である必要もなくて,悪意の場合であっても,その受益者に対してその取消権を行使することができて,そのときは仮に信託財産で詐害して設定した物が委託者から受託者のもとにいって,受託者から受益者のところにいっているときは,通常の受益者に対する取消しプラス請求ということで,その委託者のもとに返しなさいということをすれば,現行の枠組みの中で解決できるのではないかというふうに,それであくまで相対的取消しですので,その物が債務者たる委託者のところに戻ってくる。


● すると,そのときには受託者の主観的要件というのは……


● いや,別に現在でしたって,例えば受益者,転得者とあるときに,その転得者に対して取消権をやるときに,受益者が善意である必要はないですよね。


それと同じことではないですか。受益者または転得者が善意であるときはこれにあらずというふうに424条では書いてあるかと思うんですけれども,ただし書で。

● 申しわけありません,私の理解がちょっと十分でないのであればよく考えてみたいと思うんですけれども,そうしますと,取消しの対象というのは信託行為自体を相対的に取り消すと--ごめんなさい,先ほどのあれですと信託契約になるんでしょうか。


● 行為自体ではなくて,信託に伴ってなされた財産の処分を取り消す。


● 恐らく問題は,424条を信託の場合に適用するときに,その要件も完全に424条そのものの要件を要求して,かつ取り消される行為が委託者と受託者との間の行為を取り消すと,そういう形でもって,ここで考えているのかということですよね。今,相対的な取消しというのはわかりますけれども,要件としては……


● 要件としては,民法の規定です。


● 民法の規定そのものの要件で,そのもとでやはり取り消すことは取り消すと,そういうことですか。


● はい。ということが,その物に着目して返すというときには,そういうふうに処理すれば足りるのではないかと。


したがって,2の本文で,以前は受益権の譲渡の請求と,それから現物の返還というふうに書いていたんですけれども,現物の返還の方は民法の方でいけるというふうに書けば,信託法で規定すべきは受益権の債務者への譲渡の請求だというふうに書いておけば,足りるのではないかと。


● 必ずしも,まだ僕の理解がよくわかって--どうぞ,どなたか説明していただければ。


● 先に説明じゃなくて,わからないことを伺ってから説明いただくと。
 

 これ,第3の1は詐害行為取消しの特則で,要するに詐害行為である信託契約を取り消すというもので,2の方は受益権が存続するわけですから,信託契約は取り消さないものだという,そういう位置づけではないんでしょうかという質問なんですが。


● 1の方は,受託者に対して請求することになるかとは思うんですけれども,1に通じて,この取消権が行使された結果として,その信託契約全部がなくなってしまうということではなくて,例えば取消権だって,現行法だって民法第424条第1項に規定する取消権を行うことを得ですから,あくまで被保全債権の範囲でなされた処分を取り消すというところの前提は変わらないわけですから,信託自体を取り消して,委託者であることも,受託者であることも全部なくしてしまいましょうということではなくて,信託に伴ってされた財産処分行為の一部を取り消すという考え方であります。


1の取消権が行使されたときに,その信託契約が全部なくなってしまうということを必ずしも前提にしているわけでもないのだということだと思いますけれども。


● 今ちょっと詐害行為取消しとの関係について,私自身が理解しているところとつき合わせていただきたいのですけれども,先ほどのお話ですと,受託者の悪意を要件としないのは,受託者が詐害行使取消しで言えば受益者になり,受益者が転得者の地位になって,かつ受益者と転得者の双方悪意を民法上は要求されていないからというお話で,もう一つ,この場合の取消しの対象となるのは,信託に基づくいわばその履行前の給付行為の部分であるという御説明だと伺ったんですが。


  まず,前者について言いますと,受託者が詐害行為取消しにおける受益者に当たり,受益者が転得者に当たるという構造自体がそうとらえていいかというのが,信託の場合問題ではないかという点が,1つは理論的な問題としてはあるだろうと。


  さらに,若干一般論的なことを申し上げますと,受益者と転得者の双方悪意は要求しないというようなたしか最高裁の判決があったと思いますけれども,どのくらい確立した判決なのかという問題はあったようにも思います。


それで,私自身はむしろ,受託者の悪意を要求しないというのは,信託の特殊性から,そもそも信託において詐害信託的に,424条的なことをやるときには固有の利益を有しないということで除かれるのかなというふうに理解しておりました。
  


それからもう一つ,信託に伴って,あるいはそれを基礎としてされた給付行為を取り消すということの意味なんですけれども,先ほどのような受益者,転得者の位置づけをした場合なのですけれども,これ私の誤解でなければ,一般的に民法424条の詐害行為取消しの場合は,転得者との関係でも取り消されるのは大もとのところ,債務者と受益者の間のところは取り消されて,それに乗っている転得者が無権利者になるということで,転得者に対する給付行為の部分,受益者から転得者への部分を取り消すということではないように理解していたのですが,仮にそういう理解が正しいとすると,単純に424条パラレルではなくて,やはり特殊な取消しをここで用意しているという説明になるのではないかという気がしたものですから。


● ええ,そういう感じがしますね。
  ○○委員。


● 今の○○幹事の後段との関係ですが,前の文章ですと,信託を設定するために財産の処分をした場合というふうになっていて,取消しの対象はその処分であるということが表現からは受け取りやすくなっていたんですが,今回の案ではそこを簡略化して,処分というのがなくなっておりますので,その結果,信託設定自体が取消しの対象になるのではないかというような理解が出てくるんだろうと思います。


ですから,そこはまず明確にした方がいいと思うんです。

  さて,それを明確にした上で,果たして一体何が取り消されるのかということになりますと,先ほど○○幹事は給付とか履行というようにおっしゃったと思うんですが,信託設定行為と,それからそれに基づいてなされる財産処分との関係が一体何なのか。

特にその信託契約を諾成契約と見た場合に,それに伴ってなされる財産処分というのが,完全に単なる履行なのか,それとも別個の取消しの対象となる独立した契約なのかというあたりがどうもはっきりしないから混乱が生じると思うんです。
  

いずれにしても,問題点を明らかにするためには,もとの文のように,財産処分をということを出しておいた方が,議論の対立点が明らかになるのではないかと思います。


● ○○委員,どうぞ。

● よくわかっていないで質問というか,発言するんですけれども,この受益者として指定されたという表現からすると,これは他益信託だけを意味しているのかなというふうに思えるんですけれども,その辺の確認と,もし仮にそうだとすると,金融商品等では自益信託が使われることがほとんどだと思うんですけれども,自益信託については前段だけで,信託設定時に債務者が悪意ですと,転々と譲渡されている金融商品に対して詐害信託ということで取り消されてしまうのかなと,ちょっとわからなくて質問なんです。

その自益信託,他益信託とか,この自益信託の場合の受益権が転々譲渡されたときの悪意,善意とか,あと自益信託の場合は受益権が分割されますから,その場合の関係とか,その辺をちょっとお知らせいただければと思うんですが。


● ちょっと自益信託の部分が,他益信託を念頭に書かれていることはたしかであるんですけれども,自益信託の場合どうなっていくかというところが少しわかりにくいんですが,いかがですか,これは。

● 自益信託の場合に,そもそも自益信託の設定自体が詐害と認定されることがどれくらいあるかという議論はあったかと思うんですけれども,自益信託の設定自体が詐害的になるときには当然債務者も悪意ですし,受益者も悪意ですから,それは取り消せるということになるかと思うんですけれども。

それが,その受益権が転々譲渡されたときには,その受益権を取得した人が取得した時点において善意か悪意かということで考えていくということになるかと思います。


● すると,この指定されたことを知ったというのは,自益信託も前提として受益権の--当初,委託者兼受益者というのは悪意なんですけれども,必ずそれを譲渡する前提ですから,その受益権の譲受人が譲り受けた時点で悪意かどうかで,個々別々に判断していくという,この条文が適用になっていくということですか。


● はい。
  あと,○○委員から御指摘のあった前回は処分と書いてあったではないかと,今回,信託というふうに書いたことによってという点については,前回から実質を変えるつもりはございませんで,あくまで信託設定のための処分ということで今回も考えていたのですが,やや表現が冗長過ぎたかなと思って,今回信託を設定したというふうに書けば,それでわかるかなと思って表現をちょっとまとめてしまったということでありまして,もう少しわかりやすく書いた方がよろしいということであれば,ちょっとまた検討させていただきたいと思います。

● じゃ,ちょっと表現を検討していただくことにしましょう。
  それでは,次に行きましょうか。

● では続きまして,信託財産関係というところについての説明に移らせていただきます。


  まず,第8でございますが,これは文言自体は前回までと変更ございません。


なお,前回の部会におきまして,通常の信託の運用によって得られた財産が信託財産になるということと,非常に例外的な事態によって得られた代償物が信託財産になるということを同一の条文で規定するとわかりにくいのではないかという御指摘がございました。


この点を踏まえれば,例えば1つの案として,「信託財産の管理又は処分その他信託目的の達成のために必要な行為により受託者が得た財産」というのを第1類型,それから「信託財産の滅失,毀損,その他の事由により受託者が得た財産」というのを第2類型として,別個に提案するということも考えられるわけでございますが,これはかなり法制的なマターでありまして,中間試案,パブリック・コメントの段階でそこまで区別する必要はないだろうという考えのもとに,原案のまま書いているということを付言させていただきます。

  それから,第9,第10,実質本体には変わりないのでございますが,第9の(注)のところで,ここにも財産の分割に関する規律を設けるという注を書かせていただきました。


  前回の提案におきましては,第10の識別不能の局面についてのみ,共有物分割のルールを設けるものとしておりましたが,この共有物分割のルールは第9で共有とされる場合についても必要となりますので,第9の局面でも規律を設けることとしております。


両者の規律内容は,基本的に同じ内容になるかと思われるところでございます。


  それから,続きまして第11は,これは何も変更はございません。御異論はなかったところかと認識しております。
  


第12がちょっとややこしいところでございますが,まず変わったところといいますと,①と②という規律を設けたところでございますが,第12は第31の権限違反行為の取消権のところと密接に関連しておりますので,両者をちょっと絡めながら,まず第10について御説明いたしたいと思いますが,第16回の会議,前回の会議におきまして,第31の信託違反行為の取消しのところで,受託者が信託財産のために行為をする意思を有していることはもとより,受託者との取引の相手方も受託者が信託財産のために行為をしているとの認識を有している場合に限定して第31を規定してはどうかという取りまとめがなされたものと理解しております。

  このような取りまとめを踏まえますと,第31におきましては,後ほど御説明いたしますが,受託者が信託財産のためにした行為で,相手方も当該行為が信託財産のためにされたものであることを知っている場合,すなわち両者とも信託財産のために行為したとの認識を有している場合に限定して規定するものといたしました。
 


 そのような第31においての取扱いを踏まえまして,第12の(3)の①のとおりの手当てを行うこととしておりまして,これは要するに両者とも信託財産のためにと認識していたけれども権限外でありましたというときには第31の取消権の対象となりまして,取消権が行使できないもの,あるいはしないものにつきましては,信託財産にも固有財産にもいける。


すなわち,信託財産に対して強制執行できるという規律を書いているものでございます。


同じ趣旨は前回の提案にも書いてあったかと思いますが,第31条について,両者とも信託財産のためにした行為と認識している場合に限定したことを踏まえたものであるということが,解釈上違ってくるところかと思います。

  問題は②の方かと思うのですが,まず受託者が信託財産に属する財産に関する権利の設定又は移転,これは典型的には信託財産に属する特定物の売買でございますが,このような行為をした場合におきまして,受託者の取引の相手方が,その行為が信託財産のためにした行為との認識を有していないというときには,それが権限違反の行為だという認識についても当然有しないはずであるということになるわけでございます。

  この場合,しかし,当該相手方というのは,その財産が信託財産であるということは認識してはおりませんが,ともかくその受託者が権利者であるところの信託財産に属するその財産を信頼して取引に入ったのですから,その財産に対する相手方の信頼を保護する必要があると思われるわけでございます。


そこで,第12の(3)の②を規定いたしまして,相手方は,この信託財産に属する特定物に対して執行していくことができるということにしたわけでございます。

  これに対しまして,例えば,受託者が信託財産のために借入れをしたんだけれども,権限違反であったという場合につきまして,取引の相手方が,受託者が信託財産のための行為をしたという認識を有していないという場合,この場合におきましては特定物を信頼したわけでもありませんし,信託財産を引当てにすることを信頼したわけでもありませんので,信託財産に対して執行を認めるほどまでに相手方の信頼を保護する必要は必ずしもないのではないかと思われます。

  そこで,②のいわば反対解釈といたしまして,信託財産に属する権利の設定または移転に当たらない場合,例えば今申し上げた債務負担のような場合には,相手方は固有財産にはかかっていけるとしても,信託財産にはかかっていくことができないということにしたというのが,この②の趣旨でございます。
  


それから,あと差押えでございますが,従来より,(1)の信託財産について信託前の原因によって生じた権利,(2)の受託者の権限に属する行為により生じた権利につきまして,もう少し細分化して書くべきか,例えば受益債権ですとか,租税債権ですとか,信託財産による所有者責任に基づく不法行為責任ですとか,設定時の債務の引受けによる債権と,そのようなものについてまで細かく書くべきかどうかという点については,なお検討させていただきたいと思います。


  それから,注のところでございますが,受託者の不法行為について生じた債権について,信託財産にもかかっていけるかという問題は従来よりございまして,信託財産を保護する観点からの否定説と,債務不履行との平仄から取引的不法行為は含むとする説,信託財産が利益を得ているということを重視して事実的不法行為まで含む説など,種々の説が示されておりましたが,この点についてはなお検討させていただきたいというところでございます。


ポイントは(3)の①と②を,特に②を新たに設定したと,こういう場合だけは信託財産への執行を保護するということにしたというところでございます。


  続きまして,第13の受託者の倒産の場合における信託と倒産手続との関係というところでございますが,まずここで説明したいことは3点ございまして,第1は,前回提案におきましては,差止請求権,1の(2)のところでございますが,これを受託者倒産の場合における信託財産の取扱いとして説明しておりました。


破産管財人による処分の差止め,再生債務者等による処分の差止めについて1の(2),2の(2)で提案している点でございます。


このような差止めの制度を設けることについては特段異論がなかったと思いますが,その位置づけを変えたというところにポイントがあるわけでございまして,本来,信託財産の管理・処分は受託者にゆだねられまして,受益者はいわば背後に控えているわけでございますが,現行法は第16条,ここでいうと第12に当たりますが,に相当する個別執行の局面では,受益者が前面に出て異議の訴えにより換価を阻止することが認められております。

  これに準じまして,包括執行としての性格を有する倒産手続の局面におきましても,各受益者が前面に出て差止請求権を行使することによって,信託財産の処分を阻止することができるとすることが整合的でありますので,両者を連続的に位置づけることがこの理解を明らかにするということで相当であると思われまして,第12に続けて,第13のところに差止請求権を持ってきたということでございます。
 


 続きまして,第2に,前回の会議におきまして,信託財産の保護をより実効的なものとする観点から,このような差止めの制度を認めることに加えて,さらに受託者が破産したときには,裁判所が職権で信託財産管理人を選任してはどうかという御指摘がございました。


  しかし,受託者が適切に分別管理を果たしている場合につきましては,必ずしも信託財産管理人を選任する必要はないと思われますが,信託財産管理人を裁判所が職権で選任することとした場合には,無用な費用負担が受益者に及んでしまうということですとか,信託財産管理人の選任は相当な費用を要するものであることにかんがみますと,選任は受益者の意思決定によるとするのが合理的でありますので,これらの観点から,職権で信託財産管理人を受託者破産の場合に選ぶというのは,必ずしも相当ではないというのが事務局の当面の見解というところでございます。

  最後に第3といたしまして,前回の会議で委託者の倒産の場合に,委託者の破産管財人が双方未履行双務契約に係る解除権を行使することができるか否かという問題が提起されていたところでございます。
  

ところで,信託契約に関連した債務のうち未履行状態にあるものとして想定することができますのは,例えば委託者の債務の局面で言いますと,委託者が報酬を支払う旨の定めがある場合が未払いのある場合の報酬支払債務というもの,それから委託者が一定の事由が発生した場合に,追加的に信託財産を拠出する旨の定めがある場合の追加信託義務,あるいは信託契約締結後において,まだ信託財産の引渡しが未了である場合の引渡しに係る債務などを観念することができるものでございます。

  他方,受託者の債務といたしましては,信託事務遂行義務と,あとは法定帰属権利者たる委託者に残余財産を支払う義務というあたりを観念することができるわけでございます。


もっとも通常の信託契約におきましては,委託者が報酬を支払うことですとか,追加信託をするというような特約が締結されることは少ないと思われますし,引渡し未了という観点につきましても,通常の信託契約では締結直後に履行されているだろうと思われますので,これが問題になってくることはまれであろうと思われます。


  また,万が一,これらの債務の未履行状態になりまして,破産法53条1項の適用があるといたしましても,これによって契約を解除することは,相手方に著しく不公平な状況が生じることによって解除権の行使ができないと。最高裁が平成12年判決に出した,たしかゴルフ場会員権に関係する判例で,解除権の濫用ということで排斥した事例があったかと承知しておりますが,そのように解されるところでございます。

  以上を考えますと,多くの場合については,委託者の破産管財人が解除権を行使することはできないと,特段の規定をあえて設けなくても不合理な事態は生じないと考えられるところでございます。

  他方,仮に破産管財人の解除権の行使を一律に禁止するといたしますと,例えば信託財産の引渡しが未了である場合についても解除権の行使が制限されることとなってしまうとすれば,不合理ではないかと思われるわけでございます。
 


 以上の点を踏まえまして,委託者の破産管財人等による解除権の行使につきましては,特段の規定を設けないのが相当ではないかというのが当面の事務局の見解ということでございます。

  続きまして,第14でございますが,相殺につきましては,これも特に変更するところはございません。


ただし,(注1),(注2)というところでございますが,これは従来,受託者の権限違反の行為というところで記載していたものでございますが,ここで問題となりますのは,受託者の権限の有無という問題ではなくて,受託者と相手方との間で取引の効果の帰属先について認識が異なる場合についての問題でございます。


特に相殺の場合には,相手方の相殺の規定を保護する必要が高いと思われるところから,相殺のところに位置づけを変えたわけでございます。
  


ただ,あえて規定を設けなくても,債権の準占有者弁済に関する解釈によって対応可能ではないかという考え方もあり得ると思われますので,規定を設けるか否かについてはなお検討したい。位置づけについては相殺のところに持ってきたということでございます。


  第15につきましては変更ございません。

  第16でございますが,これは従来,部会では甲案ということでほぼ一致した御意見をいただいておりまして,民法187条の原則と,あとは権利濫用などの一般原則にゆだねていけばいいということであったわけでございますが,部内で再検討いたしましたところ,甲案がいけないというわけではなくて,現行法13条に特に不都合な部分がないのではあれば,あえて削る必要までないのではないかという考えもあり得るのではないかと思われまして,そういう観点から,現行法を維持するという乙案と対置させることによりまして,あとは一般の方の意見を聞いた上で最終的に決定したいということで,両案併記になっているというところでございます。
  以上です。


● それでは,ここまでで御議論お願いします。
  ○○幹事。

● 1点だけなんですが,第12の,これはまさに問題だとおっしゃったところなんですが,1の(3)の②なんでございますが,これはある財産が信託財産であるということを第三者に対抗できるということとの関係についてはどのようにお考えでしょうか。


つまり,不動産ですと,もちろん登記がないと第三者に対抗できなくて,登記を見たときには,それは知らない場合でいいのかという問題にも結びつきますけれども,知っているということになるのかもしれませんけれども。動産等で登記登録がなくても信託財産であるというふうに言えるということになりますと,信託財産のためであることを第三者が知らないで当該財産を購入するというふうにいったら,当然に執行できるのかというと,例えば民法192条とかの適用がないとだめなんじゃないかという気もするんですが。


ちょっと私も頭を整理できていないんですが,もし対抗の関係がありましたら,教えていただければありがたいんですが。


● ちょっと対抗の問題が果たしてここで生ずるのかというのは,我々ちょっと十分認識しておりませんで,特定の財産を信用している場合には,その財産についてかかっていけるというのがここでの趣旨と先ほど申し上げましたが,それにつきましては,その財産について第三者に対する信託の対抗要件を備えている必要が,果たして執行債権者の関係であるのかというと,それがちょっとどういう局面で問題になってくるのでしょうか。対抗要件がないと執行できない可能性があるという御趣旨でございますか。


● 違います。対抗要件がなくても,当該財産が信託財産であることを受益者は取引の相手方に対して対抗できるんじゃないか。


そして取引の相手方は,例えば動産なら何でもいいですけれども,特定物の購入契約が信託事務の執行としてなされたものと思っていないわけですから,通常ならば,当該財産に係る受託者の個人的な契約というのはできなくて,受益者は,当該財産は信託財産だから,受託者が--信託財産はされているからいいのか。

● 僕もちょっと似た疑問を持ったので,続けて便乗しますけれども。ここで問題となっているのは,やはり信託財産であることが,むしろ本来であれば対抗できるというんでしょうか,信託財産であることがむしろ当然の前提で,この相手方,第三者に対しても,信託財産であることは本来は主張できるんだけれども,こういう要件,知らないという要件が第三者の方にあると,そうすると信託財産であるにもかかわらず,かかっていけるようになると,そういうことですよね。


● 信託財産であるにもかかわらず,しかも相手方は信託財産のためにしたということは知らなくてもいけると。それは,そのものを信じているからだということでございます。

● ええ,だからある種の善意取得を使うのかどうかわからないけれども,信頼保護ですよね。そういう規定なんだな。


それで,信頼保護だとすると,こういう知らないというだけの要件でいいかどうかという細かい問題はまたあると思いますけれども,これは議論したんだったっけ。知らないということだけでいいのか……

● 知らない場合は保護する必要はないのではないかというような話がございました。


そもそも権限違反についての善意(無重過失)ということを書いておりましたところ,知らない場合には,そんな善意(無重過失)ということを問題にするのはナンセンスであると,そういう御指摘をいただきまして,改めて考え直したわけでございますが。

  それでは,知らない場合は一切信託財産にかかっていけるとする必要はないかなというのが,最初部内では議論したわけでございますけれども,しかし,ある特定の財産を信用して買った人にとってみれば,それが果たして受託者の固有財産であったのか,信託財産であったのかにかかわらず,保護されてしかるべきではないかと。


何の落ち度もないのに,そのものに着目して買った人が保護されないのは,それはちょっとおかしいのではないのかという観点から,特定物の売買のようなものについては,第三者が知らない場合であっても,認識にかかわらず,そのものを引き渡すよう請求することができるというふうにしたわけでございます。
 


 他方,例えば貸し付けたというような場合であれば,それは確かに受託者の財産総体を認識しているかというと,信託財産も受託者の固有財産と勘違いするということもあり得ないではないんですが,やはり保護の必要性という観点からしますと,特定の財産に着目している場合に比べれば,保護の必要性が劣るだろうということで,信託財産に対してはかかっていけないというのがここの考え方で,そういうふうに分けたというのが筋道ではございますが,ちょっと対抗関係というのはちょっと私も理解できないんですけれども。

● 従来のというか,現行法の16条と31条の関係と似ているわけですけれども,債務負担行為みたいのはだめなわけですよね,16条に。


31条の方はもうちょっと広く相手方を保護しているところがあって,その考え方はある意味で発展させている。


典型的には,要するに信託財産の中に入っている,例えば動産を第三者に売却したときに,相手方は特定の財産を買うつもりで買っているわけですね。こういう取引行為が,相手方が信託財産のためにされたものであることを知らないときには……

● 知らなくても。
● 知らなくてもですか。知らなくても,要するにその信託財産に対する債権を持って引渡しを,その当該信託財産についてということなのかな。

● そうですね。当該信託財産に対して,この場合は特定物ですから,引渡し……。


● 要するに簡単に言えば,今のように信託財産に入っている財産を買った人間は……。
  ○○幹事。


● ですから,例えばAさんがBさん所有の動産を占有しているという状態にあって,そのBさん所有の特定動産を第三者Cに売ったという場合ですよね。それで,Cは当該動産のことをまさに当てにしたのだから,当然に所有権が取れるとか,引渡請求ができるとかということにはならなくて,それをCの保護を規定するのが民法192条なわけですよね。

そうすると,そこには一定の要件が係っているわけですが,信託財産であるときには,確かに第三者所有の動産ではなくて,自己所有の動産であるということで,先ほどの192条の典型的な場合とは異なるわけですが,しかしながら,当該財産が信託財産であるということは,登記登録なくして第三者に対して主張できる状態にある。

主張できるというのは,このときに受託者が主張できるというふうに考えますと,わけがわからなくなるんですが,例えば受益者が主張できる状態にあるわけであります。


  そうなると,ここにも本来は192条みたいなものが起こらないとという条文がないと,本来は第三者は保護され得ないんじゃないか。

占有改定による引渡ししかなされていないとすると,判例法理に従いますと,これは保護され得ないんじゃないかというふうに思うわけですし,そうすると,信託だから通常の192条が適用される場面よりも,より保護するということの正当化が何かの形で必要であるということになるんじゃないかと思うんですが。


● ○○幹事の御指摘は,例えば固有財産に対する債権者が,その信託財産たる動産に執行していったときに,通常であれば分別管理していますよと言って,それを証明さえすれば執行をカットできると。


ところが,今回の取引行為のような場合には,信託財産でしたよということを受益者が言ってもだめで,執行されてしまうというところのバランスがとれていないのではないかというような趣旨かなというふうにお伺い申し上げました。
  


それで,それもいろいろと議論をしたわけではありますけれども,まず固有財産に属する債権者が執行していったときには,その債権者は別にその財産を信頼したというわけではないので,そういう場合には証明ということで対抗できるだろうと。


ところが,ともかく信託財産に属するその財産をというものを信じて取引をしたときには,その信頼は保護していいのではないかと。


192条の適用がまさに適用される場合ではないという場面はそのとおりでありまして,ここでの問題は,この財産を預けてくださいと,預けて管理してくださいとお願いしたその受益者と,それからそれを信頼して取引に入った第三者との利益の利益衡量をどの範囲で行うかという問題かと思いまして,これはもう定型的に受託者に対して預けているのですから,それでその財産だということを第三者というのは信じたのですから,その場合には,これを保護していいのではないかと。

現行31条でも,こういう場合は多分取り消せない,今回の我々の提案でも取り消せない。


取り消せないんだけれども,その執行はできないというような状況にするのではなくて,やはり取り消せなくて,取引は所有者たる受託者との間で有効に成立するという考え方をした以上は,それをやはり執行できるというところまでいけないとおかしいのではないかというふうに考えた次第であります。
 


 先ほど座長が御指摘になりましたように,16条と31条がそろっていないというところは,従来から指摘があったことかと思いますけれども,31条で取り消せないとしたもののうち,信託財産を信頼したと。


とにかくもう信託財産にあるその物を信頼したというときには,192条よりもさらに進めて執行できるというふうにしていいのではないかというふうに,前回の議論を踏まえてちょっと考えたということかと思います。


● わかりやすくするために,ちょっと質問させていただきたいんですが,要するに趣旨は大体わかったような気はするんですけれども,そうしますと,紛争が起こったときにだれが何を主張,立証すればよいということになるんでしょうか。

先ほど○○幹事が言われたAさん,Bさん,Cさんで,Cから強制執行していくんだろうとしますと,Cは何を言い,それに対して受益者なんでしょうか,は何を言い,そしてまたそれに対してCは何を言えばいいのかというのをちょっと整理して教えていただけますでしょうか。


  そうしますと,この1の(1),(2),特に(2)と(3)の①,②の意味がわかるんじゃないかなと思うのですが,いかがなんでしょう。ちょっと説明をお願いできればと思います。


● そこに対して僕は答えることはちょっとできませんけれども,前提としてもう1回自分の理解を確かめたいんですが。

  これは,信託財産に対する強制執行ということで,要するに16条に相当する現行の規定の問題ですよね。


一定の債権者がその信託財産に対して強制執行していく。この場合,当該第三者が買った信託財産の範囲を超えて,およそこの第三者はいわば信託財産一般にかかってくる債権があるというふうにみなしている。


だから,その分が192条の問題より少し範囲が広がっているわけですよね。そこで債権者が差し押さえをしてきたときにどうなるかという,そういう状況を扱っているわけですね。その上で何を証明して,どっちが何を言うのかということ……

● 受益者等の異議が問題なんでしょうから,正確に言いますと,やはり受益者からまず何を言えば足りるのか。それに対して強制執行をした人間は何を言えるのかという形で整理していただけますと,わかりやすくなるんじゃないかなと思います。

● そういうことですよね。


● まず,権利者の方から執行していくわけですね,特定の財産に。それに対して,受益者の方が,それは信託財産ですという異議を言うと。異議を言うといたしまして,それに対してしかし……

● 信託財産であるというだけで言えるということは,先ほど○○幹事がおっしゃったように対抗できるということですよね,その限りでは。


● 第三者が執行していって,それで受益者の方で信託財産ですというふうに言ったのに対して,第三者の方で,私は受益者が信託財産のためにした取引で,この財産がそういう契約に基づいて取引に入ったのであって,その財産が信託財産であるということは知りませんでしたということを言うと。


12の1の(3)の②の要件に当たりますよということを第三者の側で主張するということになります。


● もう一度おっしゃっていただけますか,ちょっと聞き逃してしまったので。


● 第三者が執行していって,それで受益者の方でこれは信託財産ですよということを主張したら,もう1回第三者の方で,私は12の1の(3)の②の要件に該当しますということを,その権利を主張する第三者の方で証明する。


● 今のことと,12の1の(3)の柱書きの受託者の権限に属しないというのは,どこに出てくることになりますか。


● それは受益者が恐らくまず言うんでしょうね。これはやはり状況はあれでしょう,従来の31条の状況を前提にしているわけですよね。


信託財産であって,それを処分したけれども,その権限違反の処分であって,そういう意味では本来効力は生じないけれども,従来の31条でも相手方が一定の範囲を……

● 執行してきまして,第三者に言うといたしまして,それは信託財産のためにしたけれども,権限外だと言うとすると,今度,第三者の方で,それはしかし自分は受託者個人に帰属するものと思って買ったんだということを主張するというような仕組みになってくるのではないかと。


● この行動としては12の1の(2)が来るんでしょうね,(2)になるかどうかわかりませんが。


要するに,信託財産だと受益者が主張したときに,第三者の側で,いや,これは信託財産に帰属するような行為が行われたんだということを言えれば,それで大丈夫ですけれども,仮にそれが言えないとすると(3)が出てくるという構造という御説明だったわけですか,今のは。
● はい。


● 恐らくシチュエーションはちょっと違って,相手方が信託財産であることを知っているような場合には権限に属するという言い方をするんでしょうけれども,相手方がそもそも信託財産であることを知らないというときには,権限の範囲かどうかということは恐らく言えないので。

そうすると,3の方に来る。しかし,いずれにせよ,相手方は2を言うか,3を言うかでしょうね。その上で,3の問題として何を言うか……

● 普通の人間にとってわかりやすいのは,(3)の②の部分というのは,多分受託者の固有財産に属するものだと思ったという,信頼を保護するのだという方が,多分普通の人間はわかりやすいんだろうと思うんですね。


それが②のような書き方になっているので,ちょっと頭の中で相当大きい変換をしないとわからないという状況になっているのかなと思います。そうしますと,しかし本当に②のような書き方でいいのだろうかという気はちょっとしないではないですね。

  そして,受託者の固有財産に属するものと信じたんだという言い方をしてきますと,先ほど○○幹事がおっしゃいましたように,これは民法で言うと192条の問題と近い制度として位置づけられるのかなという気がしてくるとなると,本当に善意要件だけでいいのだろうかという問題が,やはりまた浮かび上がってくるような気がするんですが,いかがでしょうか。

● 大分問題点は明らかになってきたと思いますけれども,ほかの皆さんもいかがでしょうか。


  ○○委員。


● 先ほどの○○関係官の説明のときに,分別管理されていることを前提に話があったような気がするんですけれども,分別管理は別に対抗要件ではなくて義務だけですので,別に受託者がぐちゃぐちゃに管理していようが,信託財産は信託になると思うんですけれども,それが議論の出発点が1つあったので少し気になった,それはたまたまそうおっしゃっただけなのかもしれませんけれども。


  あとも,○○幹事がおっしゃられたように,公示との関係が,今192条との関連で持っていくんだと,要するに対抗関係ではないんだという議論に引っかかっているのかなと思うんですけれども。


そうすると,不動産,動産,債権,動産,債権だけで区別すれば,債権なら準占有者弁済の192条だけじゃなくて,議論になっていくのかなとも思いますし,果たしてそういう整理だけではなくて,何かやはり公示制度に対する特例みたいな意味合いがどうも出てきちゃうような気がしますと,そうすると,せっかく公示の方が緩和されたにもかかわらず,結局信託財産というのは受託者が処分することによって,結構保全が図られなくなってしまうというようなところもあってですね。

  あと,もし対抗関係の議論,まだちょっと私はこだわっているのかもしれません。


対抗関係の議論をする場合,通常の場合,対抗というと,債権の譲受人,動産の譲受人でも,差押債権者でも,破産管財人でも同列に扱われますから,この場合だけ,対抗関係で議論する前提であれば,譲受人だけがより優遇されているというような状況も何となくちょっとぴんとこない。


もちろん192条で議論するんだということで全体が整理されれば,それはそれでいいのかもしれませんけれども,という感想めいた意見ですが。


● いかがでしょうか。これは,前からある意味で二転三転している難しい問題の一つだったと思いますけれども。


  ちょっと今恐らくいろいろな問題が関連して,公示の問題,対抗の問題,それから要件もこれでいいのかどうかも含めて,ちょっと今とっさに答えるよりは……


● 次回15日がありますので,そのときまでに,今の御指摘を踏まえて,なお書き直すべきかどうか,ちょっと検討して再提示させていただければと思いますが。

● 非常に難しい,かつしかし重要な問題だと思いますので,慎重に検討した上でもう1回御提案したいということにさせていただければと思います。

● 現行法の解釈の問題として,例えば現行法である財産が信託財産であって,それを権限違反で処分をしましたと。


取引の相手方は,それが仮に特定物だったとして,それは信託財産であるという認識は全くないわけですから,当然,権限外であるということについて悪意(重過失)であるはずもないというような場合には,31条によって当然受益者から取り消されるということはないわけですけれども,この場合,16条の世界にいって,現行法はどういうふうに解されているかといいますと,信託事務の処理というところを厳格に解していきますと,もうこれは執行できないんだということになっちゃうんですけれども,その31条では取り消せなくて,契約自体は有効に成立するんだけれども,その執行はできないということは,現行法ではとりあえずそう考えているのか。


それとも,それは当然の前提として,そういうものは執行できるんだというふうに考えているのか。


現行法はどのように解したらよろしいかですが,それがちょっと明らかにこれまで文献,論文,議論等でされてこなかったものですから,とりあえずこう考えてはどうかということで,③と②というのを想定してみまして,○○幹事がおっしゃられた固有財産のためだと思ったということを書くのが普通,信頼したというのが普通じゃないかとおっしゃられたところは,まさにそれを裏から,だから信託財産のためだと思わなかったというふうに変えてみたということで,実質的におっしゃられたことと同じことと書いているつもりではあるわけですけれども。


● もう1点よろしいでしょうか。次回までに御検討いただいて,解明していただきたいということだけなんですが,取消しが問題になるケースでは,多分強制執行が起こったケースで取消しが問題になるようなケースとしては,強制執行が起こったときに,受益者の側が,これは受託者の権限外の行為であって,実際には取引行為が行われたのかもしれないけれども,それを取り消すと言ってしまえば,第三者の強制執行を行う権利が消滅するということになりますから,これでまさしく異議を述べることはできるんだろうと思うんですね,それは1つのルートとしてあると。

  もう一つが先ほどのやつで,強制執行が来たときに,いや,これは信託財産だと。


だから,強制執行は許されないのだというルートもあるような気がするんですよね,あるような。


そうすると,これは2つが並立するのかという問題をちょっと考える必要があって,本当に取消しのルートは割とわかりやすいんですけれども,先ほどの信託財産だというようなことで異議を述べるというのが,本当に成り立っているのか,成り立っていないのかというようなことをちょっと次回までに御検討いただいて,御説明願えればありがたいなと。


ちょっとそのあたりの整理をきちんとしておきませんと,何か平仄を合わそうとして,返っておかしなことになる可能性もあるかなという気がいたします。

ひょっとすると,相当議論があったところなのかもしれませんけれども,そのあたり,次回にこちらの頭がすっきりするように説明をお願いできればと思います。

● どうぞ,○○幹事。

● なるべく短く済ませますが,○○関係官がおっしゃった問題というのは,まず第1に,登記登録すべき財産に関しては,悪意とか関係なく取り消すことができるということになりますので,そうなりますと,先ほど第12の1の(3)の②というものについて,単なる知らないという話なのか,登記登録があればそれは対抗できて,知っているというふうにみなされることになるのかという問題が出てくるような気がいたします。
 


 次に,じゃ,登記登録すべからざる財産については,31条と16条はおかしいじゃないかという話なんですが,それはおかしいと思うんですね。


結局,処分という言葉の解釈で合わせようとすると,31条の処分というのは占有改定による引渡しなんかはなく,現実の占有が移った場合だけなんだと,現実の引渡しがあった場合だけなんだという解釈論も成り立ち得ないではないんですが,ちょっとそれは余り妥当な解釈だとも思いませんで,それは多分31条と16条は,取り消せない場合には--ごめんなさい,矛盾しているんじゃなくて,取り消せない場合には,私は引渡し請求は16条でできるんだというふうに思います。その点では○○関係官に賛成なんですが。

  そうしたときには,他人の財産を持っていて売買したときには,192条で善意(無過失)という要件とか,占有改定では足りないという要件が係ってくるのに対して,信託財産であるならば,悪意または重過失の場合にだけ限るとか,あるいは現実の占有が移っていない段階でも保護されるというところで,その違いが出てくるわけですが,その違いについて,192条というのはあくまで他人の名義の財産であると。


しかるに,信託に関しては受託者の自己名義の財産であると。だから,違う結論が出てきてもいいんだというふうに説明するか,あるいは合わせるかということが必要となってくるわけであって,○○関係官がおっしゃるように,特定の物を信じた人を保護しなきゃいけませんよねという話は,やはり独立して考えることはできないわけであって,日本の法制度として,いろいろなところに特定の人,特定の物を信用した,特定のものが引当てになるということを信用した第三者の保護の制度があるわけであって,そこともし仮に要件を変えるとするならば,それは何によって正当化されるのかということが,やはり明らかにされる必要があるのではないかというふうに思うわけであります。

● 今の点がまさに問題となる点だと思いますので,それを踏まえて,もう1回整理しておきたいということであります。
  ほかの点はいかがでございましょうか。
  ○○委員から。

● ちょっと1つ,単純な質問なんですけれども,第13の受託者の倒産の場合における部分なんですが,こちらの1の破産のところは★にしてあって,2の再生のところはしていないその意図といいますか,趣旨を御説明いただけますでしょうか。


● ちょっと済みません,こちらの間違いで,これもつけておいていただければということでございます。
● よろしいですか,今ので。
● はい,ありがとうございます。


● 同じく第13の受託者倒産に関連して,先ほどの事務局の御説明がありました委託者及び受託者の倒産があった場合の管財人による解除権について意見を述べたいと思います。


  本論点につきまして,私の方から問題提起をいたしまして議論をいただきまして,また事務局からも,その受託者の倒産に関しましては,検討課題の(8)のところで御説明いただきまして,また委託者の倒産に関しましては,先ほどいろいろ実務の観点及び判例の観点からの御説明をいただいたところでございます。


そういう点からしまして,大体は実務的には安心できるのかなというふうには思っております。


  ただ,これもどこまで追求するのかという話でございますけれども,やはり実務の観点から,その説明だけで十分安心できるのかどうか。


または信託というものについて,やはり倒産隔離というのが主要な要素であるということであるのであれば,ここであえて双方未履行双務契約の解除に関して,破産法の特則になるのかもしれませんけれども,双方未履行双務契約を破産管財人が解除できるという規律は適用されないということを明記してもいいかなというふうに思っております。


これについてはもちろん,いや,そこまで必要ないという,そういういろいろな議論があると思いますものですから,またその要否についても十分この本席においてもまだ議論はされていないと思いますので,そうしますと,この時点では,中間試案のパブリック・コメントのときには,こういう規律の明確化ということについてどうかということも1つ提案として書いていただければとありがたないというふうに思っておるわけでございますけれども。

● いかがでしょうか。先ほど一応この13のもとでどういうふうに考えるべきか,これ直接は触れておりませんけれども,委託者の倒産についてはどういうふうに考えるべきかについての見解は今まで議論してきたところを踏まえながら,先ほどのような説明があったわけですが,さらにもうちょっと明確な形で意見を聞く際に書いた方がいいということですね。


● パブリック・コメントに載せるということ自体は別に問題ないかと思うんですけれども,1点だけ確認させていただきたい点というのは,先ほどこちらから申し上げたのは,基本的には契約による努力で回避可能でしょうと,あるいはさらには,その判例まで踏まえれば,ほとんど大丈夫な場合が多かろうということは申し上げたわけですけれども,他方で,じゃ,完全に解除権を適用除外するということの説明が容易なのかというと,そこはまた倒産には倒産の方の理由といいますか,双方未履行双務契約の解除権を認めた理由というのがあると思いますので,一律に解除権を排除するというのは,説明は容易ではないということも,私どもとしては申し上げたかった点ではあります。

  ただ,それを踏まえてもなお,やはりパブリック・コメントで聞いた方がいいという御趣旨であれば,載せた方がいいのかなとは思いますが。


● 多分2つのレベルだと思います。おっしゃるとおり,大層の話としては,従前の判例等の確認をするという意味で,これ立法的には非常に難しいかと思うんですけれども,明確化,確認的な意味として行うということもあるわけなんですが,もう一つのレベルとしては,先ほど申しましたように,信託というのはその倒産隔離というのが非常に重要なものであるということであれば,あえて破産法の特則として,これについてはかかる解除権というものはもう適用がないということを明確にする。


つまり,従前の判例等,また実務的な議論を超えて,倒産隔離を重視するという立法を創設的につくるということについてどうなのかということを世に問うということが必要ではないのかなという意見でございます。


● 私から言うべきことじゃないかもしれませんけれども,信託もいろいろなところを乗り越えるというんでしょうか,民法とも違うようなルールをつくったり,倒産法関係の破産とか,そういうものの考え方のいわば例外を設けたりするということはもちろん不可能ではないんですが,恐らくなかなか倒産は倒産の方でもって,そういうことでは困るというような強い意見も出る可能性があって,なかなか出しにくいのではないかという感触を持っております。
  ○○幹事,どうぞ。


● 今の点について2点申し上げたいのですが,まず第1点は,解釈上,仮に解除権というのはめったに発生しないと,あるいは類型的に発生しないという解釈論をとるとしても,確かに破産法では,この改正で56条という対抗要件が,賃貸借については53条で適用しないという明文をつくって,この場合にははっきり解除権は発生しませんという規律をしていますので,そういう規定ぶりはないわけじゃないんですけれども,しかし,ほかにも解除権って発生しないんじゃないかと言われている類型のものはあるわけでありまして,そういうものとの対比で,信託契約における委託者破産の場合は解除権が発生しないというルールを,その条文で書くことが,果たして法制上バランスがとれているかということを考えなきゃいけないだろうというのが1つであります。

  それから2つ目は,先ほど御説明があったことの事例のいわば裏返しになるんでしょうけれども,解除権って類型的に発生しないと言っちゃっていいんだろうかと。

つまり契約だけ結んで何もまだ履行していなくて,管財人はどう考えてもこれは負担だと思っていると,委託者の財産状態が悪くて。


こういう場合がおよそないかと言われたら,実際はないのかもしれないですけれども考えられるわけで,解除権を類型的に発生させないということ自体が判断としていいのかどうかだと思いますので,パブリック・コメントに載せて,委託者破産の場合の規律の明確化をする必要があるかどうかを試案本体あるいは補足説明で聞くことがよいのではないかと思いますが,やや慎重に考えた方がいいかなという印象を持っております。
  以上です。

● ○○幹事がおっしゃったとおりだと思っておりますし,私自身は事務局の御説明にあったように,解釈によるということでいいんじゃないかというふうに思っておりますけれども,仮に制約するといたしましても,先ほど例に挙がったようなものは,むしろやはり解除権を認めるべき場合もあるのではないかと思われまして,もし制約するとすると既に現実に引渡しがされて,受託者による運用等が開始しているとか,何かもう一つ限定を付すことになるんじゃないかと思われまして,もし仮にパブリック・コメント等にもその旨を書くとすると,仮にそういうことを置くとすると,どういう限定が必要かというようなことまで聞いていただく必要があるんじゃないでしょうか。だから,繰り返しますが,私は解釈でできるのではないかと思っております。

● 私も○○,○○両幹事に賛成でして,破産法53条については,いろいろなところで例外を認めるべきだという意見があちらこちらへ出てくるわけですが,それを一つ一つ類型化して規律していくということはかなり難しいわけでして,ここでも委託者破産の場合だけを取り出して規律するというのは,どうも全体として見るとバランスがよくないのではないかなと,解釈にゆだねるということでいいのではないかと思います。


● 第12の2の強制執行に対する受益者等の異議というところですが,これ異議を言えるのが受益者と受託者ということで委託者が抜けていますが,それについては先ほどの説明でデフォルトとしてないだけで,入れようと思えば入れられるんだということで,それでいいと思うんですけれども。


  民事信託で受益者が知的障害者のような場合に,もう受益者から異議は期待できないと。


受託者が例えば倒産状態で何もできないというような場合は,やはり委託者が異議を出すしかないということが想定されますので,いずれにせよ,委託者が異議を言えるような形態もちゃんとできるということがはっきりわかるようにしていただく必要があって,この★印が強行規定的なものだってぱっと理解しちゃうと,あれという感じになるんですが,受益者に不利な定めを強要しないという趣旨で,委託者に異議を言えるようにすることが受益者に不利な定めかどうかとか,それをとにかく考えなきゃいかんということになっちゃいますので,何か一言,そういうのもできますよというのを書いておいていただけるといいかなと思ったんですけれども。

● いかがですか。最初の一般的な説明,委託者の扱い方と関係しますけれども。
● 委託者,今ありました2点のうち,恐縮ですが,後の方は委託者に権限を付与するのは当然受益者にも有利だと思っておりますので,あえて書くまでもないのかなとは思いました。
 


 他方,受益者が能力的に問題があるとか,要保護性が強いという場合があるということですが,我々の提案では,後の方になりますが,信託管理人制度の拡充というところで,そういう受益者のためには受託者監督人というような制度を設けることができるということを提案しておりますので,必ずしも委託者にその権限を当然に付与するということにしなくても,原則どおり,信託行為があれば付与することにしておいて,必要がある場合には,このような受託者監督人のようなものを選任すると。

これは選任権者は利害関係人ですよね。利害関係人ですから,だれであっても必要があると思えば選任請求はできるわけですので,そちらをもって対応すればいいのではないかなという気がしておりますので,あえて規律を逆転させるまでの必要はないという気がしております。

● いずれ,もうちょっと細かいレベルで,この試案といいますか,案のところで議論しなくてもいいと思いますけれども,今の場合,成年後見制度を発動させることももちろん……


● だれがということですか。
● 今の受益者について。
● それはできますね。

● そういうことの議論もどこかではされていると思いますが,成年後見の方,私は両方どちらも選択的にできるんだと思いますけれども,成年後見の方で後見人を選ぶということもできるし,今の何でしたっけ……


● 受益者監督人でございます。

● 受益者監督人ですか,そちらを選任することでもできる。しかし,どっちがよろしいかということについては,また第2ラウンドとして,もうちょっとこれから議論した方がいいんだと思いますが。


そういう形で,受益者で自分でみずから権限を行使できない者については,一応制度はあることはあるということだとは思いますが,いかがでしょうか。あるいは何か。


● やはり弁護士会で議論したときも,そういう制度がありますねという議論もあったんですけれども,といっても,通常設定するのは生前,まだ生存中なわけですから,委託者がまさしく自分の障害者の子供,受益者たる子供に対して最もふわさしい監督といいますか,いざというときの権限があることは何も失わなくていいんじゃないかみたいなのが大層を占めたのと,あと手続規定だと思うので,当事者適格の問題があるので,デフォルト・ルールとしての云々という冒頭のお話はわかるんですけれども,ここではっきり書いておかないと,当事者適格なしということを言われてしまうのではないかというふうな議論もございました。

● 確かに,委託者は何といっても,少なくとも,当初--当初からという場合はまたちょっと別かもしれませんけれども,委託者が少なくとも受益者を選んでいるというような場合には,受益者についての一番の利害関係を持っている可能性が高いですから,委託者が出てくること自体は全く問題ないでしょうね。

ただ,デフォルト・ルールといいますか,最初から書いていないとできないということですよね。


● 信託行為で,最初から変更とか,信託行為に書いていないと……


● 委託者の場合は。そこが1つ制約になるかもしれませんね。


● さっき言ったのは,デフォルトで委託者を入れた方がいいと,そうおっしゃっているわけではないのでございますね。


● そうですね。書いておかないと,契約で入れたとしても,手続論としては,契約で入れたから当事者適格が生じるわけではないと。


ですから,信託行為に入れれば,当事者適格ありますことを明文化しておくことが重要なのかなと。


● それはおっしゃるとおりだと思いますけれども,そのあたりは委託者の方の権限のところで,表の形になっているのでよく読みにくいかもわかりませんけれども,その中で別段の定めを置いて権利を行使できますということを注とか表とかで記載しているところでございますので,合わせて読んでいただければわかるということにはなっているかと思います。


もちろんこれ条文ではございませんので,全体としてわかりやすい試案ということにしなくちゃいけないとは思うのですが。


逆に,その委託者を1つずつ書いていきますと,信託行為に定めがある場合に限るというようなこともいろいろ出てきまして,非常に読みにくくなったものですから,とりあえずそういう整理をさせていただいたということでございます。


補足説明の方で記載することは十分可能でございますので,それでよろしいのではないかと。

● よろしいでしょうか。今説明の中にもありましたように,これに関しては,むしろデフォルト・ルールで,つまり信託行為がなくても委託者がいた方がいいんだという考え方ももちろんあり得るのかもしれませんけれども,すべての場合にそれが望ましいかどうかというのは,必ずしも言えないかもしれない。


つまり,最初から知的障害といいますか,受益者自身が自分で権限行使できないような場合には,これは逆に恐らく委託者は自分の権限を留保するような形で入れると思いますけれども,そうでないごく普通の信託において,後から受益者が権限行使できなくなったときに,デフォルト・ルールで委託者が入ってきていいのかというと,そこはまさに委託者と受益者の間の利害の対立の問題として,そう簡単に言えないところはありますよね。
  


ほかにいかがでございましょうか。--よろしいですか。時間もちょうど3時になったので,一たんここで休憩しましょうか。
  それでは,15分休憩いたします。

          (休     憩)

● 時間になりましたので,再開したいと思います。
  また幾つかに区切ってということですので,○○幹事からお願いします。

● では,受託者関係に入りますが,ちょっと1個ずつが割と重たいものですから,信託事務遂行義務から信託事務処理の委託までご説明を申し上げます。


  第17と第18でございますが,これは,これまでは善管注意義務等についてとして両者を含めておりましたが,受託者の信託事務遂行義務と信託事務処理に当たっての注意義務の基準というのは明らかに違う問題でございまして,現行法でも,4条は前者の問題,20条は若干あいまいではありますが,一般的には後者の問題と解されております。


そこで,ここでも明確に分けて規律することが相当だと考えまして,第17と第18と分けているところでございます。

  続きまして,忠実義務等についてというところでございます。


  まず,表題でございますが,1のところで公平と書いてございますが,ここでは従来,公平義務というのを別途取り上げておりましたけれども,一応合わせて書いておりまして,忠実義務に関する1,2,3,4,それから公平義務に関する1,5を合わせて規律しているものでございます。
  

今回非常に丸めて書いておりまして,むしろこれの方がわかりやすいという方もいるのかもしれませんが,まず2の(1)でございますけれども,受託者は,受益者の利益と自己または第三者の利益とが相反する行為をしてはならないものとすると。

これは従来言われておりました,いわゆる第1類型として,自己取引で受益者と受託者間の利益が相反するもの,例えば受託者が信託財産を購入するとか,信託財産に権利を設定するとか,そういうものでございます。


それから第2として,前回まで言われておりました信託財産間取引で,受益者間の利益が相反するもの,受託者が複数の信託財産を受託している場合。それからもう一つが,いわゆる第三者間取引と言われておりましたものでして,そのうちの1つは,受益者と受託者の利益が相反すると。


例えば,受託者が自己の債務のために第三者に信託財産を担保に供するというようなものがありますでしょうし,もう一つが,受益者と第三者の利益が相反する場合。


これは典型的には,信託財産を受託者が直接第三者に安く売ってしまうというような場合とかがあると思います。

  このように,利益の相反関係というのは,受益者と受託者間,受益者と第三者間,受益者・受益者間とあるわけでございますが,それらを全部まとめて,この(1)というところに言い尽くしているつもりでございます。

  それから,3の競合行為の禁止というところにつきまして,(1)が今回のパブリック・コメントでの提案でございますけれども,これも従来は,受益者と受託者または第三者の利益が相反する場合と,それから受益者と受益者間の利益が相反する場合。


後者は,複数の信託を受託して他の信託の計算でやった場合でしょうし,前者の方は,受託者が受益者に信託財産に属するべき機会を奪って,例えば有価証券を購入して利益を得たというような場合が典型だと思いますが,そのようなものをすべて含めて競合行為の禁止というところで挙げているつもりでございます。


  若干,細かいところに入りますと,まず例外の2の(2)の③で,受益者の利益を害しないことが明らかであって,かつ受益者がその行為をすることについて合理的な必要性が認められるときと書いておりますが,これは受益者の利益を害しないことが明らかであるときに,受託者がいつでも自由に自己取引ができるというわけではなくて,受益者の利益を害しないことをもって直ちに自己取引等が許容されるわけではないという趣旨を明らかにするという観点から,合理的必要性という要件をここに書き加えているというところでございます。
  


それから,次に4の利益取得行為の禁止につきましては,これまでどおりの甲乙丙案を提案して,意見を聴取したいと考えているところでございます。

  それから,5の(1)でございますが,これがいわゆる公平義務について規律しているところでございます。例外要件もあわせて,公平義務の観点をここにまとめて書いているということになります。


  なお,ここには書いていない点で1点補足でございますが,受託者が受益者から受益権を取得する行為についてどう考えるかというご指摘がありまして,一方では,受託者の忠実義務は信託事務,すなわち信託財産の管理処分の対象である信託財産にかかわる行為に関する問題であって,受益権に関する取引については忠実義務の問題とはしないという考え方と,受託者と受益者の間における受益権に関する情報量の差異や,受託者は受益者のために行動しなければならないという点を重視すると,受益権の取引についても忠実義務の問題とする考え方がございました。

  この受益権の取得行為が忠実義務違反行為になり得るか,なお検討したいと思うわけでございますが,ただ,この場合,取引の相手方は受益者本人でありますので,当該取引が詐欺等によって取り消される可能性があるというようなことは別といたしまして,受益者本人の同意がある以上,少なくとも真意の同意があれば,忠実義務違反の問題はいずれにしても生じてこないのではないかという気もいたすところでございます。

もし御意見がありましたら,補足説明で書くことかと思われますが,いただければと思うところでございます。

  次に,第20の忠実義務違反等の効果でございますが,これも忠実義務違反と公平義務違反とを併せて規定しているものでございます。


  まず,1の①でございますが,いわゆる自己取引と信託財産間取引は無効とするものとするといたしまして,行為の有効・無効は,第三者の注意や故意過失と無関係に判断すると。


他方,受託者の忠実義務違反等を理由とする損失てん補責任等については,あちらが故意過失があるというのが原則になっておりますので,それと併せて過失責任であろうと。


もちろん立証責任は受託者が負うわけでございますが,過失責任だろうと考えているということを付言させていただきます。


  それから,②は従来どおりでございまして,③につきまして,ここに①の取引に係る信託財産に関する受託者と第三者との取引というのは,直接想定しておりますのは,まず信託財産Aを受託者Bが自己取引で買いましたと。


これは①の取引というところによりまして無効でございますが,そのように無効であるにもかかわらず,その信託財産を第三者に売ったという場合,言ってみれば,転々譲渡のような場合をここで書いている趣旨でございます。

  実は,ここで抜けておりますのは,受託者が信託財産を直接第三者に売ったという場合が抜けているわけでございまして,そのようなものにつきましては補足説明で書くつもりでおりますが,その③のところにもしもやはりきちっと書くべきだということであれば,そのようなことでちょっと書きぶりを改めて,受託者が信託財産を第三者に売却した場合,信託財産について第三者と取引をした場合とか,1の取引に係るという要件をかぶせないような書きぶりを考えていくべきかなと。


補足説明で書くべきか,本文で書くべきかなどについて,ちょっと検討しているというところでございます。これは,3の③でも同じということになります。

  それから,3でございますが,これが公平義務違反の効果について定めたものでございまして,①にあります信託財産間取引というのは,あえて申し上げるまでもないとは思いますが,受託者が複数の信託を受託している場合における他の信託財産との取引ということで考えております。


公平義務違反とは関係のない信託にとってみれば,別の信託の公平義務違反のため無効というのは厳しいのではないかと。


第三者との取引と同様に扱うべきではないかという考え方も示されているところではございますが,この場合,同一の受託者内の取引でありまして,第三者との取引に比べて取引安全の要請が低く,かつ,仮に第三者取引として取り消すべき行為としますと,だれの悪意(重過失)を判断すべきかという問題も生じてくると思われますので,この場合は信託財産間取引についても無効と考えているところでございます。

  最後に,利益吐き出し責任でございますが,これまでと同様,甲案と乙案の両論併記とさせていただいておりまして,難しい問題でございますが,このままパブリック・コメントに付させていただきたいと思っているところでございます。


  次に,分別管理でございますけれども,まず1の細かい点でございますが,これまでは,信託財産は固有財産及び他の信託財産と分別して管理しなければならないものとするとしておりましたが,「信託財産は」という始まりがどうかなという気がいたしましたので,「受託者は信託財産を」という書きぶりに改めているというところを付言させていただきます。


  それから,11ページの2でございますが,これは,これまでは金銭については分別管理義務の例外として位置づけておりましたが,金銭についても,あくまでも分別管理義務の対象ではあって,ただし帳簿管理の方法をもって分別管理義務を尽くしたと考えればよいのではないかということで考え方を改めまして,実質的には変更はないんですが,帳簿をきちっとつけていれば,分別管理をしたことにすると。

分別管理をしなくて帳簿をつけるというのではなくて,考え方を改めたという点でございます。


  次に,第22の信託事務処理の委託についてというところでございますが,まず一番最初,1の出だしでございますけれども,本提案が現行法の自己執行義務につき方針転換をしたものであることが明らかになるように,現行第26条1項に定める自己執行義務を見直しというのをうたったというところでございます。

  次に,「信託行為の定めによる場合」というのを新たに追加しております。

これは信託行為で委託を許容する旨の定めがあるにもかかわらず,例外的に委託が不相当とされる場合がある可能性があるというのでは,現行法よりかえって厳しくなる懸念があるというところの指摘があったことを踏まえまして,現行法と同様に信託法に定めがあれば,常に委託可能であるという趣旨を明記しているものでございます。


  次に,太字の2でございますが,従来は甲案だけだったのでございますが,新たに乙案というものを加えております。前回の部会では,甲案として,選任・監督のみを提示しておりましたけれども,選任・監督だけでなく,すべての責任を負うことをデフォルト・ルールとするのが当事者の意思にかなうのではないかとか,選任・監督に責任を限定し,かつ26条3項を削除するということになりますと,受益者の保護が現行法に比べて後退するのではないかという指摘がされました。

  そこで,受益者としては,第三者に適法に委託した場合であっても,最終的な履行まで責任を負うべきであり,特に第三者が受益者に対し直接に責任を負う旨の26条3項を削るのであれば,それとのバランスから受託者の責任を重くしておくべきであるという考え方もあるというところに照らしまして,甲案のほか,乙案を新たに併記させていただいたものでございます。


  あとは,3については従来どおり,これは削除するということで,2の方で検討したいと考えているところでございます。


● それでは,ここまでで御議論いただきたいと思います。
  ○○関係官,どうぞ。


● 個別論点というよりは,若干一般的な話で恐縮ですので,最初に話させていただきます。


  信託業法を所管している立場としまして,この信託法が柔軟化しまして任意規定化するということは,基本的に望ましいと思っています。


というのは,受益者保護というのが大事であると同時に,信託が自由に使われ,いろいろな形で多様な形で使われて,より取引が発展していくということが,マクロの日本の金融とか経済にとって望ましいことだと思っているからでございまして,そういう前提でお話ししたいんですが。


  信託業法は行政法規でございますので,基本的には,そのルールを定めた場合強行規定になりまして,それに反した人については行政的なサンクションでいくということになるんですけれども,昨今,金融証券で言われている部分のエンフォースは,行政処分でやっても余り効果がないんじゃないか。


特に何らかの形で一般投資家と言われている方が被害を受けたときには,民事的に損害を取り戻せると,あるいは不当に得た利得を吐き出させるとか,そういった形でのエンフォースの方がより効果的だという御意見,それから行政だとリソースが限られているので,十分な被害救済がされないということで,いわゆるプライベートアトーニーというのを日本ではなかなか導入できないみたいなんですが,それもわき見に見て,一般人がそのルールを守っていただくような手段があった方がいいという御意見もあります。


  最初に申し上げたとおり,任意規定化に基本的に賛成で指示しているということでありますので,決してこれでどうこうということではないんですが。

そうしますと,行政のルールがあるから,受益者保護はそっちで図りましょうというふうにはなかなかいかなくて,受益者保護のためには,やはり民事法規で十分なものができた方がいい。


それは商事だけ,あるいは業としてだけじゃなくて,一般のルールも含めて一般法ですので,おのずと業法のようなハイスタンダードなものにはならないと思いますが,そういった考え方で幾つかチョイスが示されているところがあります。


あるいは,信託協会からいろいろな論点が示されていることがあって,個別の話は今後業界調整の後の話なものですからコメントはいたしませんが,全体的な哲学としては,民事的な効果,特に受益者の保護の効果というものを少し念頭に置かれて,いろいろ御指針を賜れると,マーケットの活性化なり,自由化の中で効果があるのではないかというふうに考えている次第であります。一般的な話で恐縮でございます。


● どうもありがとうございました。非常に重要な指摘だと思いますので。今のことは,別に強行法規をふやせということを意味するわけではなくて,そのサンクションとしてのところを十分にせよということにつながる……


● デフォルト・ルールの設定であるとか,あるいはその効果の考慮に当たってということであります。


● どうもありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。


● 弁護士会で議論したところで大きな話だけのところなんですけれども,忠実義務のところで,法令及び信託行為の定めに従いというふうに書いてありまして,例えば信託事務遂行義務ですと信託の本旨に従いと,こう書いてありまして,やはり忠実義務というのは先ほどの御発言でもありましたように,信託の根本みたいなものですから,これは信託行為の定めに従いということよりも,やはり信託の本旨に従いとか,その方がより適切ですし,他との平仄もありますし,なおかつ,信託行為の定めの方は,第19の2の(2)の①の方で信託行為にその他許容する,要するに信託行為の中で具体的に書くこと,また軽減できるような書きぶりになっておりますから,その方がよろしいんじゃないかというような議論がございました。また,私もそう思います。


  それから,これは個人的見解なんですけれども,公平義務と忠実義務,法律によっては一緒に書いてあるものもありますけれども,これを並立的に並べることというのは,単に表現だけの問題なのかどうなのかなというところもあります。

今まで別途の議論として議論してきたところということもありますしというのが第2点目。これはどっちがいいということではなくて,単にそう申し上げるだけなんですけれども。


  あと,以前これが議論になったときも,この目的とか,結構強いんじゃないかというような議論もあったと思うんですけれども,害する意図とか,それぞれ出てきますけれども。


この辺も前回のこの場での議論でも,ちょっと主観的要件が強過ぎるんじゃないかという議論もあったと思うので,何か選択的な提案といいますか,もうちょっと軽めの--軽めといいますか,義務が十分履行されるような提案というのもあってもよろしいのかなということ。

  最後にもう一つ,何度もこの場で議論ありましたし,あと○○委員の方からもこの場でも,また信託法学会の場でもありましたけれども,一般的免除というものはもともと認められるような筋合いのものではないという話もあったと思うんですけれども,その辺はこの提案の中で書くのか,補足説明の中で書くのかわかりませんけれども,柔軟化ということで信託行為を定められる場合は別ですよというところで,一般的免除が認められるようなものではないんだというあたりも必要なのかなと。


それは翻って言うと,先ほどの忠実義務のところを,信託行為の定めに従いというよりも,法令及び信託の本旨に従いとかというふうに変えていくことで,多少はカバーできるのかなというふうに思います。
  とりあえず大きなポイントだけ。

● いずれも重要な御指摘でありますが,皆様の御意見はいかがでしょう。

● 第19,忠実義務等及び第20,忠実義務違反等の効果に関して意見2つと,それからちょっと確認というか,御質問が1つございます。

  先ほどの○○関係官のお話にも関係するわけなんですが,総論として,やはり○○関係官のおっしゃられたこと,個人的には非常に賛同するところがあるわけなんですが,私のこれからの意見というのは,それを踏まえてということになるかもしれませんが,やはりそうしたときには,そのルールの明確化,それから当該ルールの妥当性といいましょうか,過度なルールづけであれば,その実務に効果がありまして,ゆえにバランスのとれた合理的なルール化を目指したいと,そういう意味で,この19,20について本席において議論したところでございます。

  その点,これは前回も申し上げたところでございますが,2点意見ございまして,1つは,総則のところでございますけれども,総則については効力規定とするということを前提とした規定ぶりだというふうに思っております。


そのときに,それを効力規定とするのであれば,例外規定ということを明確化すべきであるというお話を申し上げました。


その点,本件については法令及び信託行為の定めに従いということで,信託行為について別の定めがあるのであれば,それは別のものであると,例外になるというようなことにも読めるとは思うんですが,ただ,例えば19の1の(2)の①,②,③のような例外規定というのが,第1の類型に当たるのかどうかというような,その例外規定の範囲についてまだ明確ではないのかなというふうには思っております。

  また,これも前回の議論と同じことを繰り返すわけなんですが,第19の1と,それから2,3,4,5の関係がちょっと不明確であると。


例えば2のところの頭書きのところに,3の競合行為を除くというふうに書いてございますが,もし1と2以下の関係が,2,3以下に係る部分については1は含まないということであるのであれば,1の受託者の忠実義務等というところで括弧して,2,3,4,5の行為を除くというようなことで,もしそれを意図されているのであれば,それを明確化していただいた方がよろしいのではないかというふうには思っております。

  それから2つ目でございますが,今回,忠実義務とそれから公平義務を一つの規律として整理されたということでございまして,これは私も精査しておらないんですけれども,そういう整理は可能かとは思います。


ただ,やはり前回から問題視と言いましょうか,ちょっと疑問視しています第20の4の利益吐き出し責任ということがどうなるのかということに,今回の整理について不明確になっているということでございますので,その点ちょっと申し上げたいんですが。

  私の理解によれば,従前の議論というのは,その公平義務に関しては,利益吐き出し責任というのは余り明確な議論として出てこなかったと思っております。

今回それを改め,ここの書きぶりでも受託者が第19に違反することにより利益云々というようなことが書いてございますので,これは公平義務違反の場合の場合でも,特則としてその利益吐き出し責任が出てくるというふうな理解でおるわけですけれども,それはこの審議の流れからいかがなものかなというふうには思っております。


もちろんパブリック・コメントでそういう意見を聞くということも正しいかと思うんですが,ただ,そうするのであれば,やはりここの点については,忠実義務の問題と公平義務の問題と別に聞くということも一つの案ではないのかなと思います。

  と申しますのも,公平義務において利益吐き出し責任が出てくるという場面というのは,なかなかちょっとにわかに想起しにくいということもありまして,そういう意味で,そもそもここに一律に規律をするのかどうなのかというのは,ちょっと疑問に思っております。

  最後に,これは質問でございますが,これは前回の議論の不連続性の話でございますけれども,検討課題(10)のところでの忠実義務等の効果のところで,検討課題の(10)の1ページのところでございますけれども,*1のポツ3つのところで,こういう効果も書いてあるわけです。


読み上げますと,第三者が善意(無重過失)である場合,または悪意(重過失)の第三者に対して,受益者が取消権を行使しない場合にあっては,受益者の選択により,第三者間の取引の効果が信託財産に帰属する旨の主張,損失のてん補,原状回復(または利益吐き出し)の請求を行うことができるということでございますけれども,この規律というのは,今回の提案では一体どうなったのかということについて,ちょっとお尋ねいたします。

拝見するところによれば,確かに第20の2のところの②で言えば,信託財産の帰属主張というのは認められているのかなというふうには思いますけれども,その1の場合には書いてございません。


これは当然,無効ということだから書く必要がなかったというのかどうか,ちょっと私にはよくわからなかったところです。


  また,損失てん補とか原状回復,利益吐き出しについてはどう整理されているのかということも併せて,確認のためお尋ねしたいところでございます。
  以上です。

● ちょっと論点がいろいろ今多岐にわたっておりますので,少し集中的にと言いまいりますか,その論点についての議論も少し方向が違う議論もありますので,とりあえず忠実義務,これも余り簡単に整理できませんけれども,順番にやっていきましょうか。


今,一応忠実義務と,それから公平義務を含めた議論がされていると思いますので,そこからいきたいと思いますけれども。順番に1の方から言えば,1については,○○委員が言われた受託者の忠実義務の総論的な規定を設けるということについてのその意味合いということですね。


● これは,我々,効力規定と理解しておりまして,デマケーションとしては2ないし忠実義務,公平義務も入っていますが,2から5までに当たるものはそちらで言って,それに入らないもの,例えば前に挙げている例で言うと,非常に重要な情報利得行為のもの,特に悪質のものについては1でかぶってくるかなと。


その場合は,例外の規定が必要になってくるかなというのはおっしゃるとおりでして,そこをちょっとどうするかというのは検討しなければいけないと思っておりますが,信託行為の定めという書き方をしている限度では,例外の①みたいなものは入っておりますので,あと承認のようなものを書くかどうかとか,その辺はちょっと考えたいと思っております。


● 明確化,補足説明ないしはこの文章でその関係がわかるようにしていただければ,よろしいのかなというふうには思っております。


● これ皆様に,補足説明というのは別途つくということを……

● ちなみに,補足説明は従来配っているような資料をまとめたものを取りまとめますので,200ページ程度のものになると思います。そちらにもちろん解説を書きますので,念のため。


● ということで,この忠実義務1の方はよろしいでしょうか。あとは……
  はい,どうぞ。


● 先ほど1のところで,情報利得行為で悪質なものは含まれると,こういう御説明でしたけれども,これ条文ではないので文言にこだわるのもどうかと思うのですが,信託事務を処理するに当たってという文言は,例えば純粋に自己の営業のために使うときには,およそ信託事務の処理とは無関係にそういう行為がなされていると思いますし,典型的には9ページの4で挙げられているような,その信託財産を利用して不当な利得を得ると。


これも信託事務の処理とは全く関係ない,個人的な事情で行われていることもあるかと思いますけれども。


この忠実義務の射程は,これは信託事務を処理するに当たってという文言とどのような関係にあるのかというのをちょっと御確認させていただければと思います。


● 2,3,これは信託事務処理に当たってということで,4のようなものがもし入るといたしますと,これはおっしゃるとおり,信託事務処理プロパーではないんですが,いわば信託財産ないし受託者の地位を利用してというようなことで,広い意味で言うと,信託事務処理に当たってと考えることもできるのではないかと思っております。


  他方,もうちょっと正直な理由といいますか,表面的な理由は,信託事務を処理するに当たってを書かないとしますと,受託者は受益者のために忠実に行動しなければならないという,言ってみれば非常に間が抜けたような文章になってしまうものですから,何か修飾があった方がいいのではないかということで,信託事務を処理するに当たってはということで,2ないし4も含めているというつもりでございます。


● 決して狭くとらえるつもりではなくて,今の○○幹事が言われたようなものを含めるつもりではあるんですけれども,表現がなかなか難しいということですので。これは少し検討させていただくといたしましょうか。


  それから,○○委員から出ましたこの法令及び信託の定めに従いというところに,信託の本旨というのが入るべきではないかということはいかがでしょうか。


● 第17のところで信託の本旨に従いという文言を使っておりますのは,第17では受託者が処理しなければならない信託事務の内容というのはどういうものなのかというところを問題にしており,その場合につきましては,信託行為に明確に書いてあるものだけではなくて,その裏にある委託者の設定した目的というものに従わなければならないというふうな形にするために,信託の本旨に従いという文言を使っております。

それに対しまして,第18では,信託行為に別段の定めがあるときは,その他の定めに従うという形にして,これは任意規定であるということを明確にしていると。


それと関連いたしまして,第19の1のところにつきましても,信託行為の定めに従いという形にしておりますのは,まさに第17のところでどういう信託事務の処理をしなければならないのかというのが決まった上で,その信託行為の定めに従うと。


要するに忠実かつ公平に行動しなければならないということに関する例外を認めるという趣旨で書いているようなところがありまして,ここで信託の本旨に従いという文言を使ってしまうと,その例外を認めるというのが非常にあいまいになってしまうのではないかというようなことも考慮いたしまして,信託行為の定めに従いという文言を使っているというようなところがありますが,ここのところは前々から,その信託の本旨に従いという文言の方がいいという意見があることは認識しておりまして,信託行為の定めに従いという文言がいいのか,信託の本旨に従いという文言がいいのかにつきましては,議論をしていただければというふうに考えております。


● どうもありがとうございました。ということではありますが,いかがでしょうか。


● 先ほど指摘させていただきました2の(2)の①が,ちょうど17と18の関連,信託行為に許容する旨がある場合ということで,例外だからいけないんですかね。


忠実義務の具体化は2の(2)の①には入っていないということなんでしょうか。何かちょっとリダンダントな……


● 確かに,ここのところの書きぶりも,信託事務を処理するに当たっては,受益者のために忠実かつ公平に行動しなければならないものとするとした上で,ただし,以下の場合には例外を認めるとした上で,①,②の要件を書くという方が明確なのかもしれません。


● ややこしくするだけかもしれませんが,もともと聞きたいと思っていたことなんですが。


  まず,例外の方についてお聞きしたいんですけれども,2の(2)の①もそうですし,ほかのところでも何度か出てくるんですが,信託行為にその行為をすることを許容する旨の定めがあるときというのが例外だと。


この定めがあるときって,どういうものをイメージしておられるかということは,先ほどのことともちょっと関係するんですが,何か明示的な約定を定めておくというようなイメージが,この言葉によって思い浮かぶのかなと思います。

  ただ,例外に関して言いますと,明示の定めが必ずしも明確な形であるとは言えないけれども,当該信託行為の趣旨に照らすと,受益者がそういう行為をすることは許容されるということが法意全体の趣旨からは出てくるという場合も,やはり例外というのは認められるのではないかと思います。

明確にこれはできますということを書いておかない限りはだめだというものでは,やはりないんじゃないかなという気がいたします。


そうしますと,例外の書き方としましては,定めがあるときだけではなくて,定めがあるとき,その他信託行為の目的に照らしてそういうことが許容される場合という書きぶりに本来なるんじゃないかなと思います。


  例外に関してもう少し続けて言いますと,(2)の③なんですが,害しないことは明らかであって,合理的な必要性が認められるときですが,合理的な必要性というのが,信託行為の趣旨と離れて何か客観的に判定できるという趣旨だとするならば,ちょっとそれはいかがなものかなと。


やはり当該信託行為の趣旨から見て合理的だということでないとやはりいけないだろうとしますと,①と③というのは実は同じようなことを,つまりは信託行為の目的に照らして許容されるような場合に当たるのかどうかというふうに統合できるのではないかなという気がいたします。
  


同じことは,次のページの4の(2)の①にも言えますし,そしてまた5の(2)の①及び③も言えるんじゃないかと思います。正当な理由があるときというのは,やはり信託行為の目的に照らして正当と言えるかどうかということがやはり問題でして,何かそれと離れて客観的な正当性というのが問題になるわけではなかろうという気がいたします。


  そうしますと,定めがあるときというのはもちろん入れていただいていいんですけれども,もう少し広く契約の目的から,信託行為の目的から見て許容されるというのが出てくるのではあろうと。


そうしますと,翻って言いますと,一番もとへ戻るわけですが,19の1の法令及び信託行為の定めに従いというのも,何かこの定めというのが明示的なものに限るというような事柄ではなかろうと思うわけですね。


やはりその契約なり,信託行為の趣旨に照らして忠実かつ公平に行動しないといけないというのが,やはり流れからというと自然なのかなという気がします。
  ちょっとだらだら申し上げて申しわけありません。以上です。


● 半分ぐらいは賛成だけれども,ちょっと半分は少し違う意見を持ちます。全体をカバーする方は広くていいんだと思いますけれども,例外の方は,特に2の(2)の①を,ここを信託の本旨まで入れると,なんか少しあいまいになってしまう感じがして……


● ③を統合してというようなイメージなんですが。


● ③はもうちょっと何か限定的なものではないかという感じがしますので,この辺,皆さんいろいろ感触はあると思いますけれども,○○幹事のように1つにまとめたらどうかという御意見もあり得ると思いますし,私はどちらかというと,信託行為でも明確に許容するという場合には,忠実義務の例外になるわけですが,あるいは個別の承諾。


しかし,それ以外は非常に客観的に何か定型的に限定された場合にだけ認められる,許容される,これは③の場合ですね。


ちょっとそういうふうに考えていましたので,ちょっとニュアンスが違った理解の仕方をしているかもしれません。
 

 いずれにせよ,しかし,いろいろこれニュアンスを込めて理解すると,いろ
いろな理解の仕方があり得て,ちょっと皆さんの御意見を伺った方がよろしいのではないかという気がいたします。


  ○○委員の意見は,例えば信託の本旨というのを入れるとしても,19の1のところには入れるけれども,あとの方にはむしろ入れないという御意見なんでしょうか。それとも○○幹事的な御意見だったんでしょうか。


● 心配しているのは,忠実義務が一般的に免除されるとまずいのかなと思ったりするところもありまして,ですから,1の方で信託の本旨ということを入れることによって,大きな意味での忠実義務というのは存在しているんだということを一応高らかにうたっていただいてということで。


ですから,2の(1)のは○○委員のおっしゃるように,限定的にといいますか,明示されている範囲においてのみ軽減されるという理解でよろしいかと思っております。

● ほかに御意見いかかでしょうか。
  ○○委員。


● 19の1の先ほどの○○関係官のお話は,忠実義務の規定が余り不明確になるのは安定性を欠くから,信託行為の定めで限定できる,例外を認めることをはっきりさせておいた方がよかろうという御趣旨だったと思います。


明確化するというのは私も賛成なんですが,しかし,ここに信託行為の定めに従いと書くことで明確になるだろうかというと,かえって複雑になるんじゃないかという気がいたします。


つまり,これを一読しますと,忠実義務という広いものがあって,さらに法令,信託行為の定めにも従ってきっちりやりなさいよというように読めるのですが,ところがそうではなくて,むしろ信託行為で定めれば,何か例外を設けることができるという趣旨だとしますと,2以下との関係が不明確になりますので,むしろ1は一般的な規定であるんだとすると,そこでその例外をわざわざ書くのはかえって混乱するのではないだろうか。むしろ1はより一般的に規定しておいた方がいいのではないかなというふうに思います。


● ほかにいかがでしょうか。

  ○○委員,どうぞ。
● 私おくれて参ったので,一番重要なところをお伺いしていないので,1点,きっとリダンダントな話になって恐縮なんですが,この忠実かつ公平にというので,忠実義務と公平義務をとにかく1つに組み入れたということ,私だけのためにこういうことをちょっとお願いするのは申しわけないのかもしれないんですが,ちょっとお聞かせ願えれば。

  その1項で言えば,法令及び信託行為の定めに従いというのがなくて,とにかく忠実義務の一般理論だよという方が簡明かなという,今の○○委員のおっしゃることの方が私も簡単なような気がしますが。

  ついでにもう1点ですが,これは○○幹事のコメントについてのということなんですが,やはり○○幹事の発想は,これやはり信託契約ですから,契約の解釈の一般理論で,契約の趣旨,目的というので例外というのが出てくるんだという,そういうところから出てきていると思うんですね。


ただ,やはり信託の契約は少し性格が違っていて,明らかに裁量権を一般の場合ですけれども,受託者の方にゆだねて,そのかわり,そのリスクを普通の司法たる,一般法たる,司法的なということですが,信託に関する司法的規定の一般法たる司法のところでできるだけ,先ほどそちらの方からも御発言がありましたけれども,濫用の危険を防ぐような司法のスキームをつくっておくというのが普通の考え方かなと私は思うんですね。


  そうすると,この例外については,やはりまず普通に例外をつくりたいんだったら,明示の規定を入れておきなさいよ。


そうでなければ,重要な事実を開示して受益者の承認を得ておきなさいよ。それでもやはり足りない場合があるので,③で定型的に何のかんのという話だと思うんですが,こういう非常にやはり限定的な話であってというところを強調しておかないと,やはり忠実義務というのも結局単なる契約上の一つの義務であってという話になりかねないような,普通の契約の解釈論で持ってこられるのは,ちょっと信託という契約の趣旨から,それこそ本旨からして少し感触が違うのかなというふうに理解しております。
  ちょっと短くていいんですが,一番初めのところだけ。


● 義務と一緒にするという点ですか。これは一つの大きな問題かもしれないけれども,いかがですか。


● 忠実義務と公平義務というのは非常に似ているというのが事務局の理解でございまして,複数の信託財産がある場合は忠実義務,1個の信託財産で複数の受益者がいる場合は公平義務という理解をしているわけでございます。


  そうすると,その要件とか効果につきまして,確かに公平義務が教科書などでは別途独立に記述されていることは認識しておりますが,その要件,効果につきましてはさほどの違いが出てこないのではないかと理解しておりまして,そうすると,規律としてあえて別個にしなくても,1つのものとしてくくって提案していってもおかしくないのではないかなというところが事務局の理解で1つにまとめているというところでございます。


端的に言うと,若干違うとは言え,法的に区別するような問題とまでの必要性はないのではないかというのが現時点での事務局の理解でございます。

● 先ほど御質問があったと思いますが,そうすると,公平義務違反の効果についてというのも第20に含まれるということなんですね。

● ええ,第20の3ですね,公平義務違反というのは。1つの信託の受益者間の利益が相反する行為の禁止に違反する行為の効果というのが公平義務違反の効果で,ただ,利益吐き出し責任は公平義務にかかわるかというのは,確かに問題があるところでございまして,もしも利益吐き出し責任というのが,受託者が忠実義務を負っているのであって,受託者の責任を重視するという観点を重視いたしますと,公平義務の場合には多分受益者というんですか,受益者間の問題なものですから,受託者が利得を得るというのがちょっと想定しにくいと。


そうすると,果たして利益吐き出し責任というのを公平義務に観念することができるかというのは,確かに一つの問題かなという気はしております。


現時点では明確に排除できるかというまでの自信もないので,このようにひっくるめて書いてあるわけでございますが,4について,公平義務が係るかどうかという問題はちょっとここではあえて触れていないというのはございます。


3は明確に公平義務の問題で,4は,そこはちょっと沈黙しているということでございます。


● 私も今の○○幹事の説明に賛成ですけれども,公平義務の場合に問題となるのは,もちろん1つの信託の中のある受益者とほかの受益者の利益が相反するような場面において,受託者が公平に扱わないで一方の受益者の利益を優遇したという場面ですよね。


したがって,責任としては受託者に責任が生じますけれども,受託者が利益を吐き出さなくちゃいけないような場面というのは,やはり出てこないんじゃないかという感じがしますね。○○委員もそういう御意見だったと思いますけれども。
  


ですから逆に言えば,一緒にしても,その利益吐き出しの問題はそちらにはかぶってこないということになるのかもしれない。


● 結果的にはそうなのかもしれませんけれども,文の明確化という観点から,及び繰り返し言いますけれども,従前の本席における議論の流れからすると,今の段階で公平義務というのを4というところも含めて議論するのが適当なのかどうかということですので,もちろんこれはこれからの議論になるかもしれませんけれども,4に関しては,私としてはその現状,忠実義務のサンクションとして考えて,もしパブリック・コメントでそういう新たなで議論が出てくるのであれば,あわせて議論するという方が,この本席の議論に沿っているのかなというふうに思っているわけです。

● わかりました。あるいは少し説明のところでつけ加えていだたくか,何らかの形で。


  ○○幹事,どうぞ。
● 本当は2に戻らないといけないのかもしれませんが,ちょっと公平義務の関係が出ておりますので,中身を確認させていただきたいだけなんですが。


  先ほど,公平義務違反の効果の中心点は第20の3だという御説明がありまして,このうちの一番典型例とされている自己取引と信託財産間取引というこの例なのですが,公平義務違反で自己取引ですとか,信託財産間取引というのを何だか非常に異例な感じがいたしまして,どういうものを具体的に想定されているか,ここちょっと中身を御説明いただけると。


余り例外的かなと思っておりまして,そうすると,単純に効果の点でもパラレルに置くというのもどうなのかなという気がしているというのが背景にありまして,お伺いします。


● 自己取引というのは,受託者は当然のことながら信託財産の取引をして,受益者が複数いて,受益者間で利益が違う。

例えば,ある受益者は社債によって利益を得ていて,ある受益者は株式によって利益を得ていて,しかし,受託者がその信託財産のうち株式だけについて自己取引をしたということであれば,株式を有している受益者には利益になって,社債を有している受益者にとっては不利益になるというような場合が,公平義務違反の自己取引ではないかなという気がいたしますし……

● 自己取引なんですよね。

● ええ。

● ですから,両方かぶってくるということですね,忠実義務違反でもあり,公平義務違反である。

● 自己取引は忠実義務違反ですから,そうですね。

● 普通,株式というのは,市場から株式を買ってくるとか,第三者と取引するんだけれども,その取引の類型がこっちに有利とか,こっちに不利とか,そういうことじゃないかと思うんですけれども。


● それは非常にわかりやすい例ですね。

● むしろ,そういうのが典型例じゃないかと思ったものですから。ただ,念頭に置かれているのはそういう事例で,したがって,当然忠実義務違反でもあると。


● 自己取引という概念自体が信託財産との取引になりますので,そうすると,忠実義務と確かにかぶってきてしまいまして,その中で受益者が複数いて,受益者間に利益の不均衡が生ずる場合,忠実義務の中で特に公平義務に違反する場合かなと思うんですが。


受益者が1人であれば自己取引ですけれども,受益者が複数いて不利益が生ずるような自己取引は,公平義務違反の自己取引に当たると--にも当たるといいますか,両方にひっかかるという考え方でございます。


● 信託財産間の方は,そうしますと……

● これは,受託者が複数の信託を受託しておりまして,ある信託と別の信託間で取引をするという場合を念頭に置いているわけでございます。第三者との取引と同じようなものでございます。


● それで,特定の受益者がこちらの信託についても受益者であるような場合で,ある信託受益者が複数の信託の受益者を兼ねているような場合は想定しておられるんでしょうか。


● ある信託の受益者が複数いて,その間で不利益が生ずると,ある信託と別の信託--別の信託は別に受益者1人でも何でもいいわけでございますので。その取引によって,A信託の受益者が複数いる場合には,その複数の受益者間で不公平が生ずると。

例えば,今の社債と株式の例で言えば,社債についてだけ他の信託財産と取引をしたことによって,もとの信託財産の受益者間に不均衡が生ずるという場合が,この信託財産間取引という例でいいのではないかなと思っておりまして,受益者が共通な場合を念頭に置いていたわけじゃないんですけれども。


● 具体例はわかりましたけれども,それは信託財産間である必要もなく,自己取引である必要もないのではないかと。それが典型例だとも思えないのですが。

● 例えば,信託財産間,公平義務ですから,1つの信託の間の受益者が--受益者というか,その1人の受託者のもとに--そうか,いろいろな場合があるのかな。


1つの信託でもって受益者が複数いる場合,その受益者間で利益が相反するような行為,これはさっき○○幹事が言われたやつですね。


それから,1人の受託者のもとに複数信託が--しかし,これは複数の信託にしちゃうと,これはやはり忠実義務の方の問題にすべき問題かもしれませんね,そっちは。


  それから,さっき○○幹事が言われた自己取引であり,かつ受益者の一方に利益を与え,他方には利益を与えないという場合が,余りそうたくさんはあり得ないと思いますが,観念的にはあるのかもしれませんが,そのときは○○幹事が言われたように,忠実義務違反であり,自己取引ですから。

同時に,受益者間の利益を公平義務に反するということで,両方のルールがかぶさってくるということは,観念的にはあり得るということなんじゃないでしょうか。具体的にどういう場合が一番いい例かはよくわかりませんけれども,観念的に考えるとあり得るかもしれない。典型例ではない。

● その限りではおっしゃるとおりだと思うんですが,これを一番最初に出してきて,義務違反の効果はこれですと言われることに,やや。

これはそもそも忠実義務とセットにしたことによって出てきたんじゃないかなというところに端を発しておりまして,問題意識はそういうところです。

● また例によってアメリカの話になって恐縮なんですが,やはりアメリカでも,公平義務というのは忠実義務とは別個の意味で,非常に難しい問題だと言われているんですね。


ただ,アメリカの場合は,信託法自体は民事信託から出てきているものだから,やはり民事信託の例でまず悩みを抱えるわけです。


一番典型的なのは,ちょっとここにおられる方にはみんな釈迦に説法になるかもしれないんですが,一番簡単なのは,とにかく信託を設定して,まず収益受益者というのを,普通は例えば配偶者だったりしますが,配偶者が生きている間は収益を,生きている間ちゃんと生きていけるように,生活していくようにと収益を,つまり例えば株式なら配当がそこへちゃんといってというわけですよね。

債権なら,そこから利息が毎月毎月払われてという,この収益がいくという収益受益者というのがいますね。それで,この奥さんが亡くなったときに,子供にとにかく残った元本を全部ぽんとあげるというのが一番簡単な民事信託の原型みたいなものだと思うんですが。


  そのときに,公平義務というのは,1つの信託の中に収益受益者と元本受益者という異なる種類の受益者を抱え込むために,この単純に平等ということが言えなくなる。

同じ収益受益者で,2人いてというなら2分の1ずつでいいわけですよね,何も規定がなければ。ただ,信託行為にこっちに厚くと書いてある,優先劣後が書いてあればそのとおりにするだけの話ですから。

  でも,今みたいな質の違いがあると,3つの点でまず問題になるんですね。

第1点が運用のやり方ですよね。運用の方針を定めるときに,株式で運用すると下がるかもしれない。国債だったらきっと大丈夫だろうというんだと,元本受益者は国債にしてもらいたいんですね,元本だけは絶対大丈夫ですから。

でも,国債の利率が本当に低いときには,やはり毎月の生活費を考える収益受益者の方は,やはり少しリスクが高くてもリスクの高い方へという,これでどっちを選ぶかというので,ここでの公平というのは一体何なんだろうかというのが1つ,まず問題になりますよね。
 


 


それから2つ目に,もう3つはやめて2つにします。2つ目に,例えば信託で運用するその費用というのを,もちろん費用を受益者が費用補償請求権でもちろん回収するし,報酬の方もここの中から回収するんですが,一体元本部分から取るのか,収益部分のところからもらっていいのかというのも,これもまた1つ問題になって,これはこれでまたという話になるんですね。
  

これはやはりなかなか悩ましい問題でという話になっていて,おのずからこういう,この受益者間には利益相反の関係があるわけです。


だから,公平義務というのに一体どういうふうに立ち向かえばいいかというのが難しい問題になるので,それは忠実義務と非常に似てはいると思うんですけれども,その信託財産間の取引と似た面を持ってはいると思うんですが,ちょっと今みたいなシチュエーションを日本で今すぐ考えなければいけないかどうかという問題がまずあるのかもしれませんけれども,余り単純に公平という概念を使っちゃって,忠実かつ公平だというので,その概念自体が今まで実質がないものだから,概念がひとり歩きしてというのも困るかなというような懸念を少し持ったということなんです。

● わかりました。恐らく,今これ最後まで突き詰めて議論するというのはなかなか難しい感じがするんですが,私も忠実義務と,それから公平義務というのは似た義務であるという認識までは共通していますけれども,これまた感触で申しわけないけれども,公平義務の方が多少受託者の裁量性が少し広いかもしれないので,そういう意味では,忠実義務ほど厳しくないかもしれないという感触もちょっと持っていたりします。


  ただ,それを一緒にできるのか,最終的にはできるのかもしれないし,あるいは一緒にするのは適当じゃないのかもしれないんですけれども,そこはなかなか今すぐに決めかねるところがありまして,皆さんもいろいろな御意見があるという感じであります。

  そういうことで,ちょっとこれは時間の関係もありますけれども,今御意見があれば伺うということにして,ここで最後までは詰めないということで御議論ください。

  じゃ,どうぞ,○○幹事。
● 恐縮なんですが,先ほどの3の点で,いずれも自己取引,信託財産間取引に当たるということになると,基本的には忠実義務違反の類型で,しかしながら,忠実義務違反にはならない,要件が足らないということで,その例外に当たるような場合を,この部分が一番意味のあるものとして考えればいいんでしょうか。

● 何か例を挙げていただけるとありがたい。忠実違反にも該当し,それから公平義務の問題にも該当しそうな例で……。


● この3を置くことにどういう意味があるかということで,それで公平義務違反の効果が--10ページ,第20の3の効果のところを置くことがどういう狙いであるのかということでして,自己取引,それから信託財産間取引が無効であるということで,この局面を本文では挙げておられる,3も含めて。


そうしたときに,自己取引や信託財産間取引ということになれば,自己取引,双方代理の類型ですから,基本的に忠実義務違反にいくんだと思うんです。


  そうすると,これがあることの意味は,その類型であるにもかかわらず,忠実義務違反にはならないけれども,公平義務違反がなるがゆえに無効とするということを導きたいのか,そうでなければ,忠実義務違反で常に無効で,そうすると,一方で公平義務違反の効果というのが,このように無効というのがいいかというと,何かちょっと強過ぎるような気もしておりまして,典型的に念頭に置く場面というのは,自己取引とか信託財産間取引ではないだろうと思うものですから,そういうものを念頭に置いたときに,典型例として出される効果がこれ以外にもあると思うんですが,ここでわざわざ入れておくということの意味がどこにあるのかというのがちょっとわからなくて。


● まさに最初に,○○幹事がこの①についてどうかということの御意見を伺いたいということだったと思いますけれども,やはりここで言う自己取引というのに該当しちゃうと忠実義務違反に本当は当たって,そちらで解決すべきだけれども,そこで何らかの理由で無効にならないときに,こちらでさらに重い規制が待っていて,忠実義務の違反では無効にならないようなやつがこっちでなるというわけではないですよね。

● それは,それで救われれば大丈夫だと思っております。


● だから,そうするとやはりここでの自己取引というのは要らないのかもしれないという気もしたけれども。


● 3のところで自己取引というのをあえて入れておりますのは,恐らく公平義務違反の場合と,それからいわゆる忠実義務違反の自己取引の場合とで,行為の外形的な側面は信託財産と固有財産の取引ではあるんですけれども,その例外要件を見てみましたときに,公平義務の観点からいくと,例えば不利益を受ける受益者の承諾を受けてというような要件になっており,あるいは別段の定めを置くときも,公平義務に着目した置かれ方がするだろうと。

そういうところで,例外まで考えますと,同じ行為であっても,これは忠実義務によって無効になる,それからこれは公平義務違反のため無効になる,両方あり得るので,①というので自己取引も入れているのではないかと。

  ここにはちょっと書いておりませんけれども,それとは別に,受託者と第三者が取引をする第三者間取引みたいなものもあって,それはあるとは思っているんですが,ちょっとここでは書いていないということであるんですけれども,もう一度申し上げますと,自己取引の方も公平義務違反だから,自己取引の中で一部無効に帰結してしまわざるを得ないものも一応観念はできると。

その例外要件が違うからということはあり得るのかなと思ってやったんですけれども。

● 例えば,受益者が2人いて,AとBという受益者がいて,信託財産を固有財産に,自己取引だから,受託者が自己取引をしたときに,忠実義務の方の問題だと,ちょっとシチュエーションは違うけれども,その当該受益者の同意があればオーケーだということになるけれども,公平義務の場合ですと,その利益が対立している,例えば両方の受益者の合意がないとだめだとか……

● 忠実義務だと,受益者全員の合意が原則ですし,公平義務だと,不利益を受ける人から,とりあえず承諾をいただければいいという考え方はあり得るんだろうと。


● 利益を受けるね,利益を受ける……。
● 不利益を。
● 不利益を。まさに受益者間で対立するような自己取引がされて,そのときの不利益を受ける方の受益者がと。確かに形式的にはあり得るのかな。

● 形式的な話として,論理的な可能性としてはあり得るかなということでございます。


● 幾つかお話しさせていただきたいと思うんですが,まず,この忠実義務と公平義務の点について,例えば忠実義務の例外要件にはなっている,つまり,信託行為の定めでこういうのはいいですよと書いてあると。

したがって,忠実義務の方は信託行為の定めでクリアするんだけれども,それにのっとって行っていることが,特定の受益者にとって非常に有利になって,ある別の受益者にとっては非常に不利益になると。


このシチュエーションというのは,忠実義務には触れていないけれども,公平義務の違反にはなり得ると。私はそういう意味では,論理的にはあり得る話なのではないかと思っております。


  ちょっとこれ2つ目の話に入るのですが,この受託者による受益権の買取りについてなのですけれども,私は実は一番そういう局面が起こるのは,この受託者が受益権の取得のようなケースだと思っているんです。

ただ,これは忠実義務の範囲には入りませんよという,そういう最初の御説明だったと思うのですけれども,やはり受託者による受益権の取得というのは,本来やはり忠実義務の広い網の中にかけて,あとはその情報をきちんと出すと。


先ほど,民法の一般の原則によっても,それこそ詐欺ですとか,あるいは錯誤等あり得るということでしたけれども,一般的なこの情報提供義務というのは,普通の取引だったらそう簡単には認められないのではないかという,私が誤解しているのかもしれません。

むしろこういったものも含めて忠実義務を構成し,そうやって受託者による受益権の取得を含めたときには,この公平義務の局面で3の①のようなシチュエーションが問題となることが現実にあり得る,


つまりある受益者からは買い取ってやるけれども,別の受益者からは買い取ってやらないと。


そのやり方が非常に不公平であると,そういうシチュエーションがあり得るのではないかと思いますので,ちょっと話が混乱してまいりましたけれども,私の理解では,公平義務というのは,むしろやはり信託義務の処理に際して問題となる局面が中心であるのではないかと。


これに対して忠実義務というのは,信託事務の処理の内と外にかかわらず起き得るという点で,公平義務というのは忠実義務に重なる部分はあるけれども,むしろ善管注意義務の方に近い部分もあると。


そういう忠実義務と善管注意義務のまさに中間的と申しますか,狭間にあるような義務なのではないかと理解しております。間違っているかもしれませんが,私は以上のように考えております。


● 恐らくそういう問題とつながってくるのは,論理的には,だからこういうことがあり得るにしても,無効ということでいいのかという問題にちょっとつながりそうな気がしますね,あるいは損害賠償だけなのかもしれません。
  ○○幹事,どうぞ。


● 今最後に○○委員がおっしゃったことと同じことになってしまうかもしれません,お許しください。


  ○○幹事の疑問を私なりに敷衍させていただくと,10ページの第20の3は,これいずれにしてもちょっとお考え直しいただくことになるんじゃないかと思うんですが,ここで,今も話題に出た受益権の取得とか,それからその運用を,今まで株式と国債半々ぐらいにしていたのを一方に傾斜させた運用方針を変更すると,そういうようなまさに公平義務違反になるような行為についての効果が,この3からはちょっと全然読み取れないというところが,次の場面に検討していただくことなのではないかと思います。


  今のような受益権の取得とか,国債を大量に株式に入れ替えるというのは,第三者の証券会社と取引するわけでしょうから,それが義務違反になったときに,この3では有効になるのか,無効になるのか,無効になるところだけ書いてあるから,有効なのかもしれないんですけれども,そういう解釈をする必要は今ないと思いますので。そこをどっちかお考えいただいて議論の対象にすると,公平義務に対する効果ということが,見通しがよくなってくるんじゃないかと思います。

● わかりました。大体いろいろ御意見が出て,問題点も明確になってきたと思いますけれども。ちょっと公平義務のところは,少し整理をするという形でもう1回議論していただく……

● 確認だけさせていただきたいのですが,自己取引も一応はあり得るという前提で,こちらは無効と書かせていただきました。
  

それから,今,○○幹事から御指摘ございましたように,第三者と取引をした場合の効果というのが抜けておりまして,これは1も同様なのでございます。

1の方ももちろんあり得るわけですけれども,書いていないと。そこは一応補足説明レベルで書こうかなという内部の話だったんですが,やはりよくわからないだろうというのは御指摘のとおりだと思いますので,それも書きたいとは思います。


  ただ,先ほどからそれはまた別に,善管注意義務の系統ではないか。それで,その場合には恐らく利益相反による無効とか,取消しとかということは観念しづらいのではないかということを恐らくおっしゃられているような感じもいたしまして。

ただ,その点につきましては,これまでの公平義務違反についての議事進行というか,議論の中では,どちらかというと無効,忠実義務違反と同じ系統の効果を与えようということではありましたので,どういたしましょうか。

善管注意義務として整理する方向にシフトすればよいのか,あるいは忠実義務として,つまり先ほど私が申し上げましたような無効あるいは第三者間との取引については,恐らく取消しということになろうかと思いますけれども,そういう整理でいくのか。


● これは大問題なのでそう簡単に決められないと思いますけれども,ただ,第三者との取引が取消しまでいくのかどうかというのは,ちょっと気になることは気になるな。


● 信託外の第三者ですか。
● はい,信託外の。

● これは今ちょっと説明がありましたが,それはやはり権限外の行為と,第三者取引は,その取引の安全を図る必要が大きいので,原則有効だけれども取消しができるという規律をかぶせていくと。

● ええ,まさにだから公平義務違反というのが,そこまで強いかどうかということなんですよね。


● 取消権すらもないようなものではないかということですか。
● ちょっとそんな感じもしないではない。いや,ほかのいろいろな御感触があるかもしれませんけれども。
  どうぞ,○○幹事。

● 完全に忠実義務と全く並列にするということが,必ずしも効果の面を見ても適切ではないんじゃないかというふうに申し上げたつもりで,善管注意義務の系統にいけというような趣旨ではもちろんなく,かつ,○○幹事がおっしゃいましたように,忠実義務の類型に形式的に該当するものであって,かつ信託行為の定めで許容されている行為,自己で株式の取引をするとかであっても,特定の受益者により有利になるというようなものであるときには,公平義務の観点から問題視されることがあり得るというような点は,まさにそのとおりかと思いますので。
 

 ただ,先ほどから繰り返しておりますように,忠実義務の系統であるという決定をした上で,まずは自己取引類型を無効にするという立て方が,もともと一番公平義務が典型に置いていたものとはかなり性質が違うのではないかと,そういう局面があるということは了解いたしておりますけれども,それを完全に善管注意義務に持っていけとまでは申し上げているつもりはないものです。

● なかなか扱いが難しいですね。僕も善管注意義務に完全に解消するというわけでもないような気がしているけれども。


ちょっと今結論,方向性もいろいろな議論があるので,ちょっと今ここでまとめ切れませんので,大変申しわけないけれども,ここはちょっと検討させていただくということで,少しいろいろな意見が反映できるような,そういう案にさせてください。


  それからもう一つ,○○幹事から出てきた意見,それから○○幹事からも説明があった受益権を取引する,受益権を取得するというやつですね,受託者。


これはまた本当に大変大きな問題で,アメリカなどでは一応忠実義務の問題に入れた上で,恐らく受益者が同意しているということでもって許容されるんだと思いますけれども,それを入れるかどうかというのはなかなかこれも難しい問題。現に信託実務では,それを今までずっとやってきたということもあって,なかなか難しい問題ではあります。

  ただ,理論的にも両方あり得ると思いますけれども,仮に入ったとしても,これも○○幹事が説明をされましたように,実際には受益者の承諾があるということで,その承諾がちゃんとしたものであれば許容されるということで,実害はないのではないかとは思いますけれども,ここも何か感触があれば,御意見を伺いたいと思いますが。

● やはり信託実務的な観点からいきますと,やはり忠実義務というような理解のもとで全然やってきておりませんので,まさに忠実義務的なところで判断しないといけないのは,みずからが判断しないといけない。みずからが双方の立場に立って判断しないといけないというところが悩みの種で,それを解決するためにはどうするんだろうというときには,一番簡単な方法はお客さんの了解をとりますと。

要するに,相手方との間で契約関係に立ってしまえば,それで--もちろんその情報をちゃんと伝えるとかというものはありますけれども,それがちゃんとした取引でしょうというところがあって,受益権を売買するに当たっては,受益者という1人のちゃんとした人が出てくるわけですから,その人との間で合意してやっていくということですので,実務的な観点からいくと,忠実義務の範囲外というふうに整理していただきたいというふうに考えています。


● わかりました。これは説明の中で……
● これは補足説明の中で,両論あり得るということを書くかなという感じで考えております。


● そのようにさせてください。
  ちょっと大変時間をとってしまいましたけれども,ほかの分別管理と自己執行義務もありますが,ここはいかがでしょうか。


● 済みません,その前に忠実義務のところのまさに利益吐き出しのところでございまして,もう前からずっと申し上げていますので,どうこう言うつもりはございませんが,基本的には丙案を立てていただきたいということでございまして,今までサンクションとして重過ぎるであるとか,外延がよくわからないのでというようなことで反対であるというふうに申し上げていましたので,要するに丙案として特段の規定を設けないものとするというものを立てていただいて,皆さんの御意見を伺いたいというふうに考えております。
● どうぞ,○○幹事。


● 今のところとは違って,忠実義務のところで1点といいますか,幾つかちょっと申し上げたい点があるんですが,競合行為の禁止のところについてです。


  1つは,この競合行為の禁止の(1)のところの要件が,やはりなかなか受益者の立場からすると重いので,受益者の方でこれを使うというのはなかなか実際のところ難しいだろという感じがしております。

  それと,この(1)と(2)の関係なんですけれども,文章を素直に読ませていただきますと,(1)の方で受益者の利益を犠牲にして,自己または第三者の利益を図る目的の行為を禁止して,(2)のところでその例外というような書き方になっておりまして,この書き方を素直に読みますと,(2)で定めると,こういった受益者の利益を犠牲にして,自己または第三者の利益を図る目的ができるかのような印象を受けるんですけれども,ちょっと文章の書き方としてどうなのかなと,ちょっとこういった書き方はやや問題があるのではないかというような印象を受けております。
  それと,競合行為についてもう1点意見を申し上げておきたいのは,競合行為が問題となり得るなり方としては,場面としては2つあるのではないかというふうに思っております。
  1つは,受託者が受益者の利益を奪う場合。これは典型的な競合行為の禁止の場面ということで想定されている,例えば信託財産の取引を行っていたものが,その中で有利な条件とか情報に接したときに,これを固有財産の取引としてやってしまう場合,これは典型的な場面だと思うんですけれども。

  もう一つは,受託者が受益者の利益を損なう場合というのが,信託の場合には出てくるんじゃないかと。例えば,受託者がその信託財産と固有財産の区別をはっきりせずに投資取引を行っていて,そこでマイナスが出てしまったと。そのマイナスを信託財産に帰属させるというようなことをしてしまった場合。これは,商事信託の場合には余り考えられないのかもしれませんけれども,民事信託の場合には十分あり得る話で,こういった行為もある程度目配りをして,こういったことが起こらないようにしておく必要があるのではないかというふうに考えております。
  今の通常の競合行為の場合と違って,信託の場合というのは,要するに取引を行う名義が受託者,信託でやる場合も,固有財産でやる場合も受託者ということになるので,その取引の振り分けといいますか,そういう問題が出てくるわけで,そこで信託の競合行為特有の問題が出てくるのではないかというふうに思っております。

  今の後者の問題について,もし御検討いただいている点があれば教えていただければと思います。もし,その点についても何か御検討をお願いできるのであれば,御検討いただけないかというふうに思っているんですが,何かパブリック・コメントの直前で申し上げて申しわけないんですけれども,御教示いただければ助かります。
  それからあと1点だけ,(注1),(注3)で記載されているこれは情報提供に関する問題ですけれども,以前にも意見を述べさせていただきましたので詳細は述べませんけれども,やはり受益者が権限行使をする際の入り口となる重要な権利ですので,ここに書かれているように,一般的にその情報提供の内容について緩やかにするというのは,やや問題があるのではないかというふうに考えております。
  以上です。
● ちょっと御確認だけさせていただければと思うのですが,固有財産で取引をしてきて,それでマイナスが生じたので,それを信託財産に帰属させるというのは,例えば具体的にはどういう取引が。


● 民事信託の場合には,余り受託者の方が,これは信託財産,これは固有財産というふうに区分けせずにといいますか,余り意識せずに取引をする場合というのがあるのではないかと。そういった場合に,例えば後で損が出たことがわかったと。じゃ,これは損が出たから信託の方にくっつけようとか,あるいは逆に得が出たから固有財産の方にくっつけようとかというようなことが可能になってしまうのではないかという事態をちょっと懸念しておるんですけれども。

● 何か物を買うときに,例えば固有財産で株式を買ったと仮定して,それが固有財産から出ていて,それでその物が入ってきたら,それは固有財産ですよね。それを損が出たので信託財産に押しつけようということであれば,それは自己取引になる……

● 恐らく分別管理がきちんとできている前提であれば,余り問題が出てこないのかなという気もしなくもないんですけれども,分別管理がきちんとされていない場合に,要するにあいまいな形で取引をして,事後的にこの取引はこちら,この取引はこちらというようなつけ方をするという心配がないかということなんですが。
● 一般的にはもちろんある問題だと思いますけれども,今,○○幹事が言われましたように,競合取引の問題なのか,あるいは分別管理の問題なのか,どちらで考えたらいいかという問題がありそうな気がしますけれどもね。御意見自体はわかりましたので,ちょっと今この競合行為の禁止の中にそういうもののルールを入れるというのは,ちょっと難しいような気がしておりますけれども,どこかでそういう説明を加えるということは可能かもしれません。
● それは可能かもしれません。ちょっとこの規定自体をいじるということは,今のところ考えていないというところでございます。
● ただ,もう1点の方の主観的な要件がこれでは厳し過ぎるのではないかというのは,御意見が先ほど○○委員からもございましたし,これはその意見があったということで対応していただくということにさせていただければと思います。
  ほかにもいろいろあったかもしれませんけれども,今これ全部の案をここでもう1回一から見直すというわけはいかないので……
  ○○委員,どうぞ。


● 書き方の問題ですけれども,今,○○幹事の方からあったのと同じ点なんですけれども,8ページの3の競合行為の禁止で(1)と(2)があって,(1)では受益者の利益を犠牲にして,こうこうこうの利益を図る目的を持ってこういうことをしてはならないと。例外に当たれば,そういう受益者の利益を犠牲にして自分の利益を図る目的を持ってやってもいいということになりますが,これはそういう趣旨なんですか。
● そういうときも,そうならないという感じなんだと思うんですけれども。
● もちろん,こういう目的でやることが許容されるというわけではありませんから,違うんだと思いますが……
● 書き方の問題だと思うんです。
● わかりました,表現の問題ですね。
● パブリック・コメントをとる場合に,これだけで妙な反発が出るかなと。
● わかりました。じゃこれは,中身は恐らく同じことを考えていると思いますけれども,表現を少し検討するということで。
  ほかに,それでは分別管理と自己執行義務の関連--自己執行義務といいますか,第22に関連してはいかがでしょうか。
  ○○委員。
● 第22の内容というよりは,むしろ書き方の問題を2点指摘させていただければと思います。
  まず,第22の1で処理を委託する権限で,委託できる場合として信託行為の定めによる場合,または他人に信託事務の処理を委託することが相当な場合と,先ほど申し上げたことと一緒なんですが,相当な場合というのは一体どういうふうにして決まるのだろうというとき,やはりこれは信託行為の目的に照らして相当かどうかというのは決まるんだろうと。先ほどの例外よりは,こちらの方がやはり趣旨としてはすっと来るのかなと思いますので,こちらこそやはり信託行為の定めによる場合,その他信託行為の目的に照らして,他人に信託事務の処理を委託することが相当な場合という書き方の方が適切かなというふうに思います。それが1点。

  もう1点は,2の責任に関する書きぶりなんですが,甲案,乙案あったということで。ただ,乙案の方,それから(2)の方もそうなんですが,証明しなければと証明責任の所在を明らかにしようという書きぶりなんでしょうけれども,実体法の問題ですので,書きぶりはこう露骨に書かなくても,要するに受託者は,乙案で言いますと,信託事務の処理を委託されたものに故意または過失がなければ責任を免れることができるというような書きぶりでよいのではないかなというふうに思います。
  そうしますと,甲案の方も,書きぶりとしては,選任及び監督について過失がなければ責任を免れることはできると。そうしますと,どちらがより適切かという判断をしやすくなるのではないかなという気がします。なんか一方のみが証明しなければという書きぶりというのは,なんかちょっといかがなものかなという気がします。


  それとの関係では,(2)の方も,要するにこれは不可抗力を理由として免責をむしろ認めるという趣旨なんじゃないんでしょうか。ただ,不可抗力免責を認めるためには,1に違反することがなかった場合にも,損失が生じた場合に限るんだということなんじゃないかなという気がいたします。突然何か不可抗力が出てくるというのがちょっとよくわかりにくくて,やはり1の違反に関しては不可抗力免責を認めるんだけれども,こういう場合に,つまり1に違反することがなかった場合でも損失が生じた場合には,不可抗力を理由として責任を免れることができるという書きぶりの方が,私がそう思うだけなのかもしれませんが,少しはわかりやすいのではないかなという気がいたします。
  以上です。
● わかりました。民法の中にも若干似たような規定がたしかあったような気もしたけれども,確かにここだけ証明という問題が出てくると,少し違和感を感じないではないですね。これはちょっと表現を工夫していただくこということにいたしましょう。完全に落とせるかどうかわかりませんけれども,甲と乙案のところはなしでも書けそうな気がしますね。
  それから,今の1の方はどうですか。信託の本旨でしたっけ。
● 目的,どちらでも結構だと思いますけれども,信託行為の目的に照らして相当な場合と,何もなしに相当というよりは,やはりそういうのをつけ加えておく方が明確になるんじゃないかと思います。
● これは目的にするか,本旨にするか,いろいろ選択肢はあるかもしれませんけれども,要するに相当性を判断する基準というものを示した方がいいということですね。これも検討させてください。
  ほかに分別管理の方はよろしい--ごめんなさい,○○幹事。


● 分別管理ではなくて,再委託の方なんですが,第22なんですが,甲案の説明を,このようなことをお書きくださればというふうに思うということであります。つまり,甲案だけ出てきますと,これよほど受益者が不利益を被るかのように見えるんですが,恐らく3つほど話があるんだと思うんですね。1つは,委託先が何か債務不履行をしたということになりますと,委託先に対して損害賠償を請求することというのは,受託者が信託事務の執行内容としてなすべき事柄であって,かつ損害賠償として入ってきた金銭は信託財産になるんだと思うんですね。そういうことは,やはり無用な誤解を甲案について巻き起こしますので,説明には書かれた方がよろしいんじゃないかというふうに思います。
  同じことで2番目ですが,ちょっと話を聞きますと,再委託先との間で,再委託先が非常に低い注意義務を負うというふうな契約にした場合には債務不履行責任をとれなくなってしまうので,先ほどの1で申し上げたことですが。そうすると,その賠償が取れないんじゃないかという意見がちょっとあるようなんですけれども。それというのは,私,委託先の注意義務を不合理に軽減する契約を再委託契約として締結するということ自体が,恐らく善管注意義務違反なんだと思うんですね。そういうことをやはり説明には書かれた方がよろしいんじゃないかというふうに思います。
  3番目なんですが,委託先に対して直接に受益者が責任追及できるかという問題がありまして,これは私は結構難しいような気もするんですが,何か直接いけばよいというふうなことの議論もあったような気もいたします。これは最後のところは解釈論にもなりますので,どらちかに決めうちして説明を書くべきだとは申しませんけれども,甲案については,さまざまな方法がバックアップ措置としてはあるということを補足説明でお書きいただければと思うわけであります。
● そうさせていただきたいと思います。ほかよろしいでしょうか。まだ御意見があるかもしれませんけれども,とりあえず42までいくというのにまだ半分しかきていないというのはどうしたらいいか。
  では,次に行きましょう。
● 第23の帳簿作成義務からご説明致します。
  まず,前回の提案で1の(1)「帳簿」のみとしていたのを「帳簿その他」とした趣旨は,帳簿の作成というのを,例えば民事信託で課されると厳し過ぎるのではないかということで,帳簿またはその他の書類と書いて,必ずしも帳簿ではなくてもいいということを明らかにしたという趣旨でございます。
  それから,1の(2)で,前回提案では「信託事務に関する重要な書類」としておりましたが,ここでは「信託事務の処理に関する書類」といたしまして,それとの関連で,閲覧請求につきましても,受益者はこの(1),(2)の書類を閲覧請求できるということになりまして,重要じゃなくてもいいという点では,受益者の閲覧請求の対象,それから保存義務の対象は広がっているものでございます。

  それから,1の(3)で信託財産の状況に関する書類として,前回提案のありました信託の収支に関する書類を落としておりますが,これも民事信託などでPLのようなものをつくるとなると,ちょっと厳し過ぎるのではないかということで,財産目録に類する信託財産の状況に関する書類のみとしております。
  それから,1の(4)でございますが,これは(3)の書類,信託財産の状況に関する書類は,3の(1)で閲覧・謄写の対象になりますので,その前提として保存義務があるということを明記しております。
  次に,(5)でございますが,これは中間法人法や会社法で裁判所の提出命令に係る制度がございますので,それに類するものをここに新たに導入したということでございます。
  次に,3の閲覧・謄写請求の方でございますが,3の(2)で1(2)の書類というのは,これはさっき申し上げましたように閲覧の対象が拡大していることになります。
  それから,(注2)ですけれども,ここでは信託行為の定め等によりまして,一定の書類を閲覧・謄写請求の対象としないこともできるとするかどうかをなお検討するということで,このような検討事項を設けることは前回と同様でございます。
  ただ,前回におきましては,その対象につきまして,「帳簿,これに関する資料」については常に開示の対象とすると。「信託事務に関する重要な書類」については信託行為で除外できると。言ってみれば,書類の性質に応じた形式的な区分をしていたわけでございますが,今回は,書類の性質というよりは,信託財産の状況に関する書類の作成基礎となった資料のうち重要なものを除きということで,重要なものは書類の性質を問わず,信託財産の状況に関する書類と関連性があるものであれば,すべて見せなければならないこととしております。
  つまり,例えば鉛筆1本を購入したときの帳簿,伝票ですとか,そういう軽微なものについてまでは必要ないということで,信託行為で除外できるものの対象を,書類の性質というよりは重要性によって区分するという提案に改めているところでございます。

  最後に,(注3)のところでございますが,信託財産の合同運用の場合を前提といたしまして,信託行為に定めを置くことを条件に,当該信託の受益者以外の第三者,例えば合同運用されている別の信託の受益者も,他の信託の信託財産を含む合同運用財産全体に関する帳簿等を閲覧できるとするものでございます。
  合同運用形態がとられる場合には,各信託の受益者が自己の信託財産の運用状況を把握しようといたしますと,合同運用財産全体の内容の開示を受ける必要があることになるわけでございますが,本来ならば,他の信託の信託財産に関する部分についてまで閲覧請求できるかは疑問でございます。そこで,信託契約に定めを置くことによりまして,合同運用に係る受益者間については,相互に他の信託の信託財産に係る部分を含む合同運用財産全体の内容の開示を受けることを可能にするという考えに基づくものでございます。
  次に,第24の受益者名簿についてでございますが,1つはただし書で任意規定としている点でございます。受益者の情報を受託者が常に把握できるとは限らないという御指摘なども踏まえまして,前回の問題提起に従い,任意規定としたものでございます。
  それから,(注5)でございますが,受益者名簿につきましても,信託行為等によって閲覧等請求権の制限ができるとするかどうかについて,前回に引き続き検討事項としておいております。
  続きまして,第25の損失てん補責任等でございますが,まず一番最初のところでございますけれども,「受益者が信託財産に関してその任務に違反する行為をした場合」というふうに書きました。前回提案では,「故意または過失により法令または信託行為の定めに違反する行為」としておりましたが,法令違反に故意過失を観念しがたいという御指摘ですとか,ここでは受託者側で帰責事由の不存在を立証すべきであるのに,故意過失と書くと,あたかも請求する側がその立証責任を負うとの印象を受けるということもございますので,「任務違反行為」と改めたものでございます。
  それから,①と②の関係でございますが,前回の提案におきましては,1として原状回復責任,2として損失てん補責任と順序で提案していたものでございますけれども,ここでは,受益者がどちらでも任意に選択して行使できるという,従来も同様な考え方ではございましたが,それをより明確にする観点から,①,②として併記して列挙しているということでございます。
  次に,第26の消滅時効等の点でございますけれども,(注)に書いております利益吐き出し請求権につきましては,その法的性格を分析した上で検討をするべきであるという御指摘がありましたことを踏まえまして,その検討を踏まえた上で規律の整備をするということを明記しております。


  なお,前回の会議におきましては,この場合,委託者または他の受益者につきましては,消滅時効の起算点と,それから除斥期間の起算点がいずれも信託違反行為のときとなってしまうというのが,若干違和感があるのではないかというご指摘もございましたが,この点につきましては,受益者については特に信託違反行為の存在の認識が難しいのに対しまして,契約当事者である委託者とか,いわば仲間内である他の受託者については,受託者の信託違反行為の存在を認識すべき状況にあり得ると言えることから,受益者を保護する観点で,受益者についてのみ信託違反行為があったことを知ったときというように主観的認識を踏まえた起算点としております。その関係で,結果的に受益者以外のものについては除斥期間と消滅時効の起算点が客観的な信託違反行為の時期に一致してしまいますが,受益者保護の趣旨にかんがみて,特に御異論がなければ,このままとしておきたいと考えているところでございます。
  それから,第27,第28は特に変更ございません。
  第29の検査役選任請求権についても特段の変更はございませんので,一たんここで打ち切らせていただきます。
● それでは,ここまで御議論お願いします。
  5時になったら一遍休憩するというので5分ぐらいしか時間ありませんけれども,とにかく貴重ですから,御議論があればお願いします。
  ○○委員。
● 1点,小さなことかもしれないんですが,第24の受益者名簿の作成義務のところは,(注1)で電磁的記録をもってというので書いてありますね。第23の帳簿作成義務で,書類を作成しなければならないというようなことをはっきり書くのが,今どうなのかという気が少しいたしますが。
● この点につきましては統一いたします。帳簿の方につきましても,現在でもe-文書法というのができまして,電磁的記録で作成できるとなっているはずですので,その点は配慮いたします。
● どうぞ,○○委員。
● 第23について,書類のことについてコメントしたいんですけれども,重要な書類というところから,その書類というところに変更があったというふうに認識しているわけなんですけれども。そうした場合,やはり実務の観点からどこまで保存しなければならないのかということでございまして,例えば銀行ではよく同じ書類を幾つも幾つもコピーをしてとか,いろいろな部に来てとか,そういうこともあるわけで。この提案を見ますと,それらを全部保存しなければならないという話にもなりそうでございまして,そうすると非常に窮屈な規律なのかなというふうに思っています。


  その点,もし重要な書類ということが妥当でないという場合でも,やはり必要性の原則とか,そういうところである程度,不要なものは必要でないというような考え方も導入できればというふうに思っています。
  したがいまして,パブリック・コメントの時点では,この書類の内容,その程度について重要なのか,そうでないのかということについての選択肢ないしは補足説明でそこら辺のことについても意見を問うということをしていただければ,ありがたいなというふうに思っております。
  それから,第25に関して,前回,忠実義務のところで質問したつもりでいるんですが,その点について併せて御確認なんですけれども。繰り返しますけれども,忠実義務のところで,検討課題の10のところで2の(1)①,*1の3つ目でございます。例えば自己取引の違反の効果として,損失てん補責任,原状回復とかどうなのかという話でございまして,そこの点について忠実義務の今回のパブリック・コメントの御提案のところでは明示してなかったというわけなんですが,これは第25のところで含まれているという理解でございますかということです。
● そちらの方でできるということなので,あえて明示しなかったということで,受託者に忠実義務違反行為があれば,それが故意過失に基づくものであれば,損失てん補責任を負うということは,この記述を読んで明らかだから書かなかったということであります。
● そうしますと,前回の検討課題の(10)のところで,ポツ3のところの提案というのは,損失てん補責任,原状回復の請求というところが書いてあるんですが,その要件として,第三者の善意(無重過失)である場合とか,悪意(重過失)の第三者に対して受益者が取消権を行使しない場合とか,そういう要件が片やあったわけなんですけれども,今回の第25の提案というのは,そういう要件はないと。
● 故意過失の要件ですか。これは受託者が,故意過失が不存在という立証責任を負うわけでございまして,任務に違反する行為とだけ書いているのは,請求者側である受益者側にはその立証責任はないということを明らかにする趣旨でございます。これは債務不履行責任の本質を持っているものと考えておりますので,受託者側で帰責事由がないという立証が必要となると理解しております。
● 重要な書類の範囲。
● 重要な書類の範囲,全部保存してもらいたいんですけれども,ちょっと重過ぎるという感じでございますか。
● その射程がよくわからないということで,関してというのは,同じ情報を幾つもコピーするということもあると思いますし,また例えばそれを集計するとか,そういうことも含むとも思いますし,ある程度その線引きが必要なのかなというふうに思っておりまして,そこら辺,この書きぶりではちょっと限界が見えないのかなと。そうすると,本質的には,事務的に非常に重い規律にもなりかねないのかなということでございますので,その辺ちょっと御配慮いただければという趣旨でございます。
● わかりました。今これを直すといいますか,そういうことではなくて,そういうことについての意見が出るようにということをしてほしいということですね。
● わかりました。
● それでは,これから10分休憩して,また再開したいと思いますので,よろしくお願いします。

          (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。引き続き御議論いただければと思いますが,いかがでございましょうか。
  ○○委員。
● 第25に関連するんですけれども,これだけじゃなくて大きいポイントといいますか,私だけがわからないことかもしれませんけれども。第25あたりから,信託財産と受託者との間の行為といいますか,ここにおいては受託者が信託財産に対して義務を負う。信託財産といいましても,他の受託者が権利を持つ。あと後ろの,恐らくもうすぐ議論されると思うんですけれども,もう少したつと,受託者の方が信託財産に対して権利を持つという,要するに同一法人格内における権利とか義務の議論が出てくると思うんですけれども。


  例えば,それに対して,受託者の第三者が差押えをできるのか,債権者で行使できるのかとか,要するにそういう信託のやむを得ない部分ですけれども,それをどうやって認識するのか,また考えるかというあたりを,要綱試案のこのところというわけじゃないんですけれども,その補足説明か,それについてどういうふうに考えていくのかというあたりの議論というものが,このあたりで必要なのかなと思って,ちょっと発言させていただいた次第なんですけれども。
● あるいは,もうちょっと具体的な例を御説明いただいた方がよろしいかもしれませんけれども,信託の内部構造,受託者と,それから信託財産あるいはほかの受託者も含まれるかもしれませんけれども。
● 受託者に対する損失てん補等の請求を受託者の義務として認識すれば,信託財産が権利者になると思うんですね。他のところでいけば,受託者が権利者,補償請求とか報酬請求では権利者であって,信託財産が義務者ということになりまして,それは履行される分においては,別にそこに残った後の信託財産だけだと思うんですけれども,履行される前の権利として認識できれば,それを差押えたいと思う債権者もいるかもしれませんし,差押えできないとすると,例えば受託者はその権利を行使しないままいるとか,理論的な議論だけなのかもしれませんけれども。その信託の内部構造について,どうしても一定の権利とかを認識せざるを得ないと思いますし,もしこのままでいけば,それは債権なのかどうかという議論にも結びついていくと思うんですけれども。

● 本来,法人であれば,そこはもうちょっと明確かもしれないけれども,信託であるということで,信託財産といっても受託者名義の財産であり,そういう意味で,受託者が信託財産に対してその権利という形のものを持っているかどうかと,そういうことですね。それに対して,例えば受託者の債権者が差押えしてくるとか,あるいは債権者代理権を行使するとか,そういう問題ですね。
  どこで書くのが一番適切なのかわかりませんけれども,ちょっと私の感じでは,受託者の補償請求権とか,ああいうところで一番明確になるような気もしたんですけれども。あえてここじゃなくても,そちらで書くということでもよろしいんでしょうか。それとも,どこかで……
● この機会に1回議論できればということで,ちょうどここが最初のポイントだったので。
● ここは損失てん補だと思うんですけれども,私としては,この場合も受益者の権利という形で,ただ損失てん補という形で戻す先は信託財産ですので,そういう意味で信託特有の問題がありますけれども,今,○○委員が言われたことは,どちらかというと,受託者が信託財産に対して何か権利を持っている場面で主として問題になるかと思ったんですけれども。
● そうですね,それが一番わかりやすいと思いますね,受託者も債権者という……
● わかりました。今のことについて何か。
● 受託者の債権者が,受託者がそういう債権を持っていることを認識する機会を付与するべきだという話でございますか。
● そうじゃなくて,それを債権として認識して,例えばそれを差押えるとか,そういう法律の理解,理論的な理解,そういう理解でよろしいのかどうか。
● 被差押債権になるかということですね。
● そうですね。同一法人格なので,全部内部関係ですという議論がある反面,信託ですからやむを得ず,受託者と信託財産の間にどうしても権利関係を認識しての議論はしていると思うんですけれども。
● 今まで一般的には,受託者の例えば補償請求権,信託財産に対する補償請求権も,差押えは余り考えなかったかもしれないけれども,代位行使ができるというふうに私なんかは漠然と考えていたんですけれどもね。ただ,厳密には--ただ,代位行使といっても,いろいろ難しい問題があるかな。債権であるということ,受託者の信託財産に対する債権であるということを言わなくても,代位行使などはできそうな気もしますけれども,受託者の権限をただ行使するという意味で。だけれども,差押えだとかいうことになると,ちょっと違ってくるかな,特にね。


  何か御意見ございますでしょうか。恐らく,信託というものについての理解をしてもらうという観点から,今のような問題点といいますか,信託というものはこういうものであるということを書けばいいということなのか,あるいは積極的に,さらに受託者のそういう権利というものは債権者が差押えたり,代位行使できるんだということまで書いた方がいいかというと,どちらでしょうか。
● 実務的といいますか,感覚的には,今まで準法主体説的に権利として認識して契約書をつくったりとかやってきているところもあるんですけれども,それは既存の80年前にできた信託法だからしようがないという議論で来ていたところもあると思うんですね,実務と現実と信託法との乖離であるみたいな。ところが,今般信託法が改正になるわけですけれども,割とそこの部分がどうしてもクローズアップ,理論的にもされるのかなと思うところもありまして,それについて当部会としてはこういうふうに考えているというようなところが,何か理論的に示すことができればわかりやすいと思うんですけれども。
● これはなかなか難しいところで,恐らく意見が一致しない可能性もあるんですけれども,一方では,今のように受託者の権利というんでしょうか,権限というんだったらいいのかもしれないけれども,権利とか債権とかという形で説明しようとすると,受託者の信託財産に対する権利というのは認めるべきではないという意見が一方でありそうな気がするんですね,やはり信託だから。同一の人格内の問題で,単に信託財産をどう管理するかという問題でしかなくて,受託者の権限の問題でしかない。

  だけれども,他方で--他方でといいますか,私は,だから信託はどういうふうに説明すべきかというレベルで議論しようとすると,なかなか議論はしにくいけれども,個別の問題でもって,受託者の補償請求権などが債権者の代位行使の対象になるかとか,差押えの対象になるかとか,そういう問題は十分議論できるし,ここで明らかにできるものはしておいた方がいいような気がします。それをさらにどういうふうに説明するかというのは,恐らくここではなかなか統一できないのではないか,議論はした方がいいと思いますけれどもね。いかがでしょうか。
  ○○委員。
● 本日出させていただいたペーパーのところの部分にもよるんですけれども,基本的に,例えば補償請求権について信託財産を担保にとるとかというようなことも当然イメージをしておりまして,そのときに本当に登記できるんだろうかというようなお話がありまして,そのときの関係というのが,やはり法主体的なことを考えれば当然できるんでしょうけれども,そうでなければ,なかなか考え方として難しいというところがあって。実務的には,やはり担保にとりたい部分も当然ありますので,その辺のところの整理といいますか,実務的な感覚としたらできるというふうに思っておりますので,何らかのそういう方向性が出ればありがたいなとは思いますが。
● いや,私もできるというところはあるんですけれども,どう説明するかというのはなかなか難しいので,そこが躊躇しているという点ですけれども。例えば,先ほど議論した忠実義務のところでも,自己取引というのを--自己取引そのものじゃないかな,あるいは固有財産にいっちゃうから。でも,そうですね,そこで忠実義務,形上,忠実義務の違反になりそうだけれども,信託財産の上に権利を取得するとか,ちょっと今も十分整理できていないけれども,登記が対応していない問題が大分なんかあるような気もしているん


ですけれども。ちょっとあいまいな言い方をして申しわけないけれども。
● 今,登記の話も出ましたけれども,お二方のおっしゃったのは,基本的には補償請求権に限定して考えて,その補償請求権についての,○○委員は担保権の設定を認めてほしいと,補償請求権は債権ではないので,いわゆる担保物権が設定できるかどうかはあやしいところがありますよね。その点について,でも実際上のニーズがあるので対処してほしい,そういうお話だと伺ってよろしいですか。


● 補償請求権にかかわらず,例えば信託勘定間においての貸し借りと言っていいのかどうかわかりませんけれども,そういうものを観念して,例えば投資信託であれば,貸付信託の勘定からお金を貸し付けていると。それについて,投資信託の土地建物を担保にとっているということを実務上観念しながらやっているわけですけれども,そういうことが本当にできるかどうかということも関係しております。
● 今のは恐らく,まさに同じ法主体で契約を結んでいるのかというような話そのものではないかと思いますが,それをパブリック・コメントで聞いた方がいいというのではないですよね。
● そういうことではなくて,そういうことについての方向性,もちろん我々にとったらいい方向性でということですけれども,何らかの議論というものをしていただきたいなと。
● わかりました。それ自体は非常に私も重要であり,興味を持っている問題点でありますけれども,今,○○関係官からありましたように,必ずしもパブリック・コメントで聞く必要はないかもしれない問題なので,どこかで多少信託というものを説明する際に,どこか説明の中でちょっと触れていただくということはあるかもしれませんけれども,そういう扱いをさせていただくということで,とりあえずよろしいでしょうか。議論自体は,この場でもまた,後のテーマでもしていただければと思いますけれども。ちょっと今も,どういう場面が一番問題なのかわかりません。むしろ信託銀行の方がいろいろ御存じだと思いますけれども。さっき言いましたように,登記の関係でもしかするといろいろ,現在のままではうまくいかない問題があるのではないかという気がちょっとあるんですけれども。これもそういう議論はいずれにせよ,信託銀行サイドからはどっちみち意見としては出てくるでしょうから,ここであえてやらなくてもいいかもしれませんけれども,関連するテーマでもし言及しておく必要があれば,コメントしてください。


● 第28について質問したいんですが,今よろしいんでしょうか。
● いいですよ。
● これまでに聞いておくべきことだったのかもしれませんが,第28の趣旨なんですが,法令もしくは信託行為の定めに違反する行為をし云々で,やめることを請求できるというのは,差止めという言い方をすれば差止めなんですが,先ほどの忠実義務の定義からしますと,忠実義務を履行せよという履行請求と見ることもできるのではないかと思います。
  そうしますと,通常の債権債務ですと,債権債務があれば,債務履行請求というのは当然できるということになるはずなんですか,この第28を見ますと,信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときはという限定を加えています。ということは,ここから先は質問なんですが,忠実義務に限らないのかもしれませんが,忠実義務を例にとりますと,忠実義務というのはもう当然あるんだけれども,履行請求というのは当然できるものではない。履行請求というのは,こういう信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときに限って履行請求を認めるんだという趣旨でこれを説明されるのか。それとも,ちょっと差止めに引きずられたためにこういう要件が出てきたのであって,通常の債権債務と同じように考えてよいともし考えるとするならば,当然に履行請求はできないとおかしいということになると。ですので,この趣旨を多分以前説明されたんだろうと思うんですけれども,単に失念しているだけかもしれませんので,ちょっと御説明いただければと思います。
● いかがでしょうか。

● ここで,信託財産に影響が及ぶということ,著しく損害が生ずるおそれがあるときとかぶせておりますのは,権利行使によりまして,それを履行請求と見るか,差止請求と見るかはともかく,他の受益者に対して影響が及ぶだろうと。それによって信託事務が停滞するわけでございますので,そういう観点からすると,常に請求できるというのは問題であるという観点から,法的な性質づけは確かに今,○○幹事がおっしゃるように,履行請求と見る見方もあるんでしょうけれども,受託者の信託事務処理の停滞を,むやみに停滞するのを防ぐ必要があるという観点から,一定の要件を請求者に課しているということでございまして,差止請求と見るか,履行請求と見るかというのは,ちょっとそういう法的な分析というのはどちらもあり得ると思うんですが,趣旨はそういうことでございます。
● 訴えの提起を想定すればそうなのかなと思うんですけれども,ただ,ここにありますように,信託行為の定めに違反する行為をしているときに,信託行為の定めを守れという請求というのは,普通履行請求ではないのかなという気が,最初見たときふっと思いまして,そうすると,この要件設定で本当にいいのかなというのはちょっと気になったということです。
● これは私だけの理解かもしれないけれども,信託の場合に,受益者と受託者というものが直接の契約関係というんでしょうか,そういうのに必ずしもないということもあって,純粋な履行請求なのかどうかというのはちょっとわからない。外国の信託法の中には,しかし履行請求というのを認めるところも,理論的には認めているところもあったように思います。しかし,今申し上げたようなこともあって,履行請求まではちょっと踏み切っていないと。しかし,差止めの方は,やはりこういう要件のもとで損害が信託財産に生じるという場合には,いわば法律の規定に基づいて,この規定があるから差止めが認められるというのが一つの理解の仕方としてはあり得るのかなと思いますけれども。
  ただ,前置きをしましたように,これは私の理解ですので,ほかの理解もあるかもしれません。


  いかがでしょうか。ちょうど株主と取締役の関係ですかね,あれも直接の関係は必ずしもないのと同じかもしれません。
  よろしいですか。さっき議論してきたところと比べると,大体パブリック・コメントを聞く上ではこのぐらいでよろしいかと思いますが。じゃ,先に行ってよろしいでしょうか。

● では,受託者の権限の範囲から,第30から第34までご説明いたします。
  まず,受託者の権限の範囲でございますが,前回,甲案として,「受託者は,信託行為の定めに従い信託財産の管理又は処分その他信託目的の達成のために必要な行為を行う権限を有するものとする」と,それから乙案といたしまして,「受託者は,信託財産の管理又は処分その他信託目的の達成のために必要な行為を行う権限を有するものとする。ただし,信託行為に別段の定めのある場合には,この限りでないものとする」と,両案併記いたしまして,かなり御議論もいただいたところでございますが,結論的には,甲案か乙案かというよりも,その実質といたしまして,受託者の有する権限というのは,信託目的達成のために必要なものについては広く及ぶというのをまず原則とした上で,信託行為において,前回は信託行為に別段の定めとだけ書いてあったんですが,それを信託行為において制限する方向で定めを設けることができるということを明らかにするのが適切ではないかということで,第30というような形でまとめさせていただいたところでございます。
  なお,受託者の行為が権限外であることにつきましては権限違反を主張する側で,取消権を行使するのであれば受益者の側で立証すべきものでありまして,受益者は信託行為が信託目的の達成のために必要なものではないことや,信託行為による制限に違反したものであることなどを主張・立証していくことになると思われることを付言させていただきます。
  次に,権限違反行為の取消しの関係でございますけれども,まず1といたしまして,先ほど第12のところで御説明いたしましたとおり,この規律の適用対象というのは,受託者もその相手方もともに信託財産のために行為をしているのを認識している場合に限定するというまとめに応じまして,ここで1として,受託者が信託財産のためにした行為が,相手方が,当該行為が信託財産のためにされたものであることを知りという要件を付加させていただいております。
  それから,あと細かい点でございますが,(注1)で相手方の主観的要件の証明責任を受益者と相手方のどちらが負うかについては従来と同様,なお検討事項としておりますのと,(注3)のとおり,有限責任の特約をしているような場合でございましても,相手方が個人にいけるかという点につきましても,引き続きの検討としております。
  それから,取消権の消滅につきまして一月または1年というのは,一応ここではこう書いておりますが,特に一月というのは短すぎるというような一般的な指摘がありますこと,それから前回の部会で,取引相手方から,取消権を行使されるかどうかについての催告の規律を設けるべきではないかという御指摘があったことを踏まえまして,この点については,いずれも今後検討していくことを(注2)に記載しております。

  次に,第32でございますが,まず1つ細かい点は,1の(2)で,前回提案におきましては,受託者に信託財産を処分する権限が付与されていない場合というのも,このただし書で任意処分できないということを明記しておりましたが,ここでこれを落としておりますのは,例えば,管理目的不動産を処分するような場合だと思われるわけですが,そのような権限違反行為というのは,結局信託目的の達成の妨げになる場合に含まれるだろうということで,あえて別途書く必要はないと思われ削除しているものでございます。
  次に,大きな点でございますが,受益者から費用の補償を受ける権利について,甲案と乙案を提示している点でございます。この甲案でございますが,これは受託者は原則として受益者に対して補償請求権を行使することができるとするものでございまして,現行法の規律を維持するものでございますが,考え方として,受益権というのは受益者の要する権利義務の総体であって,補償債務は受益者が利益を受ける反面として,当然に負担すべき性質のものとして,受益権の内容として一体として組み込まれると。権利義務と一体のものが受益権だという理解をしているものでございます。
  これに対しまして,乙案というのは,前回,受益権の譲渡というところで提案したものを持ってきたものでございまして,かつての乙案とは違います。ここでの乙案というのは,現行法の考え方を大きく転換いたしまして,受益権というのは権利の総体であると位置づけまして,補償債務を受益権の内容から切り離しまして,補償債務は受益権とは別個の信託外の規約に基づく責任であると考えるものでございます。


  あと,(注1)の点でございますけれども,これにつきましては,甲案によるにせよ,乙案によるにせよ,受託者が受益者に対する補償請求権を有しないことがあり得るわけでありますので,受託者は信託財産から費用の前払いを受けることができるとするとともに,(注3)に書いてございますとおり,一定の手続を経た上で信託を終了させる権限を受託者に与えるという,保護を厚くするということを提案しているものでございます。受託者が費用の補償を受けられないにもかかわらず,信託事務を継続して行わなければならないとするのは酷でありますので,一定の手続のもとに信託財産を終了させると,その前提として,費用の前払いを受益者のみならず,信託財産に対しても認めるということを新たに提案しているものでございます。
  それから,最後に損害補償請求権につきましては,これは前回におきまして,受託者に過失がある場合であっても,過失相殺後の損害については補償を受けられるものとすべく,提案といたしまして,自己に過失なくして受けた損害の文言を改めて単に受託者が受けた損害として提案しておりました。今回は,その趣旨をより明らかにすべく,提案本文の文言としては自己に過失なくというふうに書いておいておりますが,(注4)におきまして,過失相殺後の残額について請求できるということを明らかにして,前回と同様の趣旨を明らかにしているものでございます。

  次に,報酬請求権の方に移りますが,まず(1)のところで①,②とありまして,実はこれまでの提案ではこのほかにさらに1つございまして,「受託者が営業として信託を引き受けた場合」というのがありました。現行法でもそのような規律になっているわけでございますが,後ほど提案いたします営業信託に関する規律によりまして,営業として信託の引受けを行う行為というのは,営業的商行為とみなされまして,その受託者は商法4条によって商人となりまして,この商人が商法512条により報酬請求権を有することは,新たなここの②によって既に明らかにされておりますので,それ以上に受託者が営業として信託を引き受ける場合というのを,ここに挙げるまでの必要はないと考えたものでございます。


  それから続きまして,18ページの信託報酬を受ける権利の行使方法でございまして,ここでも甲案と乙案というのを併記させていただいております。
  まず,甲案でございますけれども,これはやはり報酬債務というのが受益権の内容に一体的に組み込まれると理解する点で,補償請求権の場合の甲案と同じでございますが,ここで補償請求の場合と違うのは,こちらでは原則としては受益者にいけず,信託行為に定めがある場合に初めていけるという意味で,従来の乙案を維持しているものでございます。
  乙案というのは今回新たに挙げた考え方でございまして,先ほどの補償請求権に関する乙案と同様の考え方に基づきまして,受益権は権利の総体であると位置づけまして,報酬債務を受益権の内容から切り離しまして,報酬債務は信託とは別個の,受益権とは別個の信託外の契約に基づく責任であると考えるものでございます。
  最後に,第34,受託者複数の信託でございますが,これは余り変わっているところはないのでございますけれども,1つは,細かい点でございますが,19ページ,太字の3の(1)のところで,やむを得ない事由があれば委託できるというふうに規律しております。前々回の提案では,やむを得ない事由があるときについては,その受託者を除く他の受託者の過半数で決定するという提案をしていたのに対しまして,それでは他の受託者が判断に窮することがあるという理解を前提に,前回の提案では,やむを得ない事由があるときには,その受託者が他の受託者に委託できるという規律を設けることにしてはどうかという問題提起をしておりましたが,これで特段の御異論もなかったので,後者の考え方を維持させていただいたというものでございます。


  それから,次に4のところでございますが,4の(1)で受益者に対する責任というところで,実はこれまでの提案におきましては,受益債務については,各受託者は信託財産のみをもって,その履行の責めに任ずるという旨の規律を置いておりましたが,その趣旨は受益債権について物的有限責任を定めるとした,後ほど説明します第50から当然のものだと理解されますので,ここでは重複して記載することはしなかったというところでございます。
  最後に,(注4)でございますけれども,前回,共同受託者の1人に対する確定判決は,信託財産を責任財産とする限度で,他の受託者にも効力を有するとの規律を設けることを前提にいたしまして,ここの前段に書きましたとおり,1人の債務名義をもって合有財産であります信託財産にもかかわっていけるという考え方をお示ししましたところ,後段に書いてありましたとおり,他の受託者に対する手続保障あるいは執行文付与のあり方,執行文をとるときの問題,また別途訴訟が必要となってしまっては意味がないので,執行力も拡張しなければ意味がないのではないかというような御指摘等々ございまして,そのような批判的な見解と原案を指示する見解と両方あったわけでございますが,この点については非常に難しい問題がありますので,なお検討事項とさせていただきたいということで,留保しているものでございます。
  以上でございます。

● それでは,今の範囲におきましていかがでしょうか。第30から第34までということですが。
  ○○委員,どうぞ。
● 第32の費用等の補償請求権のところでございますけれども,これの2のところの受益者から費用の補償を受ける権利ということで,これは以前からいろいろと議論になっておりましたところの甲案,乙案,以前は民事信託というようなことで丙案もあったと思うんですけれども。
  このうちの乙案のところの部分が,先ほど○○幹事からお話ありましたけれども,受益権の譲渡のところの部分でこういう新しい考え方が取り入れられて,乙案という形になっておりますけれども,これに加えまして,当初の前回提案におけます乙案,これをぜひとも入れていただきたいというふうに考えています。前回の規律のところを見ますと,基本的には受益者から補償を受ける権利を有するものとすると,ただしということでデフォルトルールがどちらなんですかという規定のされ方をしていたわけですので,それによって,甲案,乙案ということで書いたら入るのか,書かないと入らないのか,その違いということがありましたので,我々の方の理解としては,デフォルトルールをどちらにするんだというような理解をして議論をしていたわけですので,これについては前回分の,その案を支持するということではないんですけれども,選択肢として3つの選択肢を入れていただきたいということでございます。
● 要するに,受益者に対するいわゆる補償請求権というのがデフォルトの状態であるかないかという問題と,それからないといいますか,契約をすれば認められるというときのその説明をどうするかというのと,大きく分けるとその2つがあるんだと思いますけれども,○○委員の今の御趣旨は……
● 前回の乙案も残してほしいということですね。
● 私どもの方としては,今,○○委員のおっしゃった前回の乙案というのを積極的に御支持される方が特にいなかったかなということで,3つ書くのもいろいろと複雑になりますので,2つにしたということでございます。この場で前回の乙案がいいのではないかという御指摘があれば入れたらいいと,そういうようなことではないかと思います。こちらはその程度です。
● いかがでしょうか。確かに,この中間試案でもっていろいろパブリック・コメントを聞くという場合でも,ある程度ここでもっていろいろ意見が対立していて,その上で意見を聞くというのが一般的でして,この中で全然支持者もいないときに,そういうのを特に甲,乙,丙という形でその一つの案として出すということは,恐らく今までもやっていなかったんだと思います。そういうことで,ここでやはり前回の乙案を支持するという方がおられれば入るんだと思いますけれども,あとは説明の中で,今ここに書いてある甲,乙を説明する中で,そこから読み取ってもらうということになるんじゃないでしょうか。
● ちょっと補足しますと,かつて甲,乙,丙と提案していたときは,○○委員は甲案だったわけでございますが,丙案は余り人気がなくて,ほとんどの方が乙案だったわけでございます。一体として権利義務があるという前提で,しかし原則なしと。
  ところが,先ほど○○関係官の方が言いましたように,受益の譲渡のところで,新たな今回の乙案を提案したところ,我々の理解としては,従来の乙案を支持していた方々は,基本的に新しい乙案の方がよりベターであるという理解を前提として乗り換えたというか,そうなっているだろうということで,もうこの2案に絞っているということでございますので,そういう理解が正しければ,まあこの2つかなということでいいのではないかというのを,ちょっと補足いたします。

● 私が申し上げたいのは,もう少し基本的なところからいきますと,要するにそもそもあるのか,ないのかというところの部分から考えると,ここで言う甲案,乙案ということになるんだと思うんですけれども,前回の甲案,乙案というのは,あることが前提でデフォルト・ルールをどうするんですかというところの話だったのではないかと思うんですよね。書き方見ていましたら,そういうふうな書き方になっていますので。そういう観点からいくと,乙案を選択しようというような考え方が出てくる可能性も結構あるのかなと。
● あることを前提とするデフォルトという趣旨が,ちょっといまひとつよく理解できなかったんですけれども。
● 例えば,これ乙案をとった場合については,これ条文化するときには全然規律がなくなってしまうということではないんでしょうか。
● それはいろいろ選択肢はあり得るんだと思いますけれども,条文のときの話というよりは,まずは具体的なルールを世の中に問えばいいと思いますが。
● いや,要するにそういうところ,補償請求権というもの自体が世の中から消えてしまうという話になってしまうんじゃないかと思うんですよね。
● それは信託外の特約ということになったとしても,それはやはり信託法の中で,どこかで規定することになると思いますので,全然なくなるということはないと思うんですね,そういう意味では。
● それは規定されるということでよろしいんでしょうか。
● それは,私は信託外の問題であっても,やはり信託法の中に規定しないとわからなくなりますから,つまり特約をすれば補償請求権が認められるようになるということについてですね,それはなくちゃおかしいですよね。
● そうですね,最終的には法制的なことではございますが,わかりやすさという意味ではあった方がいいのかなと。

● ここで言う甲案,乙案のところの私どもが懸念している乙案というのは,今申し上げたところで,要するに日本においての信託法の中で,考え方として補償請求権というものがなくなるんだと,それを一番懸念しておりますので。
● 御趣旨はかなりよくわかりました。じゃ,そのことを踏まえて御意見……
● 場合によっては,3案立てるのが不自然だということであれば,そういうような形の補足での御説明をしていただくとか,そういうことでも別に構いませんが。
● 御意見ありますか。
  ○○委員。
● 今の点ですが,ちょっと別の角度なんですが,甲案の書き方なんですけれども,現行法36条2項の規定の趣旨を維持しという,わざわざコメントが入っているというのが少し,その甲と乙との書き方としては不均衡ではないかという気がします。例えば,4ページの第8ですとか第9においては,現行法の規定の趣旨を維持しということで,もう1つだけの提案を出しているわけです。こういうものとの並びで言うと,現在出ている17ページの甲案,乙案の甲案の方が,むしろこの部会における原案であるかのような印象も与えるかもしれませんから,これはニュートラルにした方がいいのではないかと思います。
● そうですね,当然これはニュートラルにすべき問題だと思いますね。
  ○○委員。
● 考え方としては,○○委員のおっしゃったことと大分重なるんですけれども,信託法の中で補償請求権というのを認めるか,認めないかというところで甲案,乙案というふうになるのではないかという理解をしていて,乙案というのは,そういう意味では補償請求権というのは信託法の中では認めないのではないかというふうに思っているわけです。ちょっと私の理解が不足しているのかもしれませんけれども。
  と申しますのは,そういう意味では,乙案について立てるとしても,そこは補足説明等で説明を十分にしていただきたいんですが,基本的には,信託契約外で行うということであれば,信託法の規律の入る余地が余りないのではないか。例えば,受益権の譲渡と補償債務の移転ということについては別に関係ないよと,または受益権の補償債務の契約としての引受けについて,例えば多数決の原理が働くのかとか,これも多分ないと認識しているわけなんですが。そうしますと,結局乙案というのは,ある意味信託法の中では補償請求権は認めないというようなことだと思うんです。
  そうしますと,多分選択肢としては,そもそも認めるか,認めないかという甲案,乙案という整理になっていて,恐らくやはり認めた方がいいねという甲案の中で,じゃ,どういう選択肢があるかということで,どちらをデフォルトにするかという整理だと思うんですね。そこにおいて,やはりいろいろな考え方があると思うんですが,例えば乙は嫌だけれども,甲も嫌だけれども,原則は甲案的に補償請求権はあった方がいいんだけれども,デフォルトは反対だという方もいらっしゃるかもしれませんので,そういう意見も取り入れるためには,例えば3つ立てるという○○委員のおっしゃるやり方もありますし,または1つの妥協案なのかもしれませんけれども,甲案の説明のところで,どちらをデフォルト化することについてはなお検討するというようなところで,別の角度から意見があれば求めるというやり方もあるのではないかなと思います。
● なかなか難しいな。御意見はよくわかったんですけれども,ちょっと感触としては,信託法の中でまず補償請求権というものが信託法上あり得て,しかし,それを実際に認めるか,認めないかが,そのデフォルトをどっちに設定するかによって違ってくると,そういうことですね。
  私自身はちょっと理解が違っていたのかもしれないけれども,ここで言う乙案というのを認めても,補償請求権について信託法の中に全然規定が出てこないというのは,いろいろな意味で信託法の全体を不明確にするので,仮に説明の仕方としては,信託--要するに受益者の地位に当然伴うような補償請求権あるいは受益者の方からの義務ですけれども,そういうものではないにしても,したがって,契約によって信託外のものとして認めるにしても,何かそれを理解する手がかりというのが信託法になくちゃいけないだろうと考えていたんですね。そうすると,3つというのは余り意味のない,どっちみち信託法には規定があるので,意味のない区別なのかと思ったんですけれども。信託法の中には全然規定が出ないということもあり得るということになると,○○委員や,あるいは○○委員がおっしゃることも一理ないではないという気もしてきたけれども,どうですか。


● 今の段階でどこまでというのは非常にお話ししにくいところがございますけれども,ただ,補償請求権といっても,ここで問題にされておりますのは,受益者に対する補償請求権だと思いますが,信託財産に対しての補償請求権はもちろん残りますと。


受益者に対する補償請求権の関係で,現行のもとでも幾つか規定が置かれているところあるかと思いますが,例えば引換えというか,同時履行といいますか,そういった債務履行関係の条文とか,ああいうところで残すかどうかというのは,今後も議論の余地はあり得るんだろうというふうに思います。


  あるいは甲乙案と,妨げないというふうに書いてございますけれども,こういうような確認的な条文を置くということはもちろんそれは考えられる。ただ,本当に置かれるかどうかは今後の議論だろうとは思っております。


  あるいは,信託法ではないかもしれませんが,信託業法の方では恐らくこのあたりを規制するような規律は置かれるかもしれませんということもあるかもわかりませんし,それはちょっとまだ先の話になるのかなという気はいたします。


● いかがでしょうか。
  ○○幹事。


● もし,御懸念がこの2案併記である場合に,乙案によれば信託法から規定がなくなってしまうということに対してどう考えるかという点にあるとすると,旧来の乙案が復活しても,その点に対する答えが端的に返ってくるかどうかというのはちょっとわからないところがあるんじゃないかというふうに考えておりまして,むしろ御懸念の点がそこにあるのであれば,その部分を補足説明なりで書いていただいて,同意を立てる方がより端的に御懸念には合うのではないかという気はいたします。


  それから,規定が入るかどうかという点ですけれども,もちろんその条文化作業はもっと先のことだと思いますが,あるいは先ほどお話のあった忠実義務の中で,受益権の買取りなどがどう評価されるかという話が出まして,それと同じ局面ではないですけれども,信託事務処理について受益者との間で最終的に補償をさせるという特約を結ぶことが,果たしてその受益者のために行動すべき受託者として許されるのかというのは,あるいは懸念が出ることかもしれませんし,そういった手がかりになるところはやはりあり得るし,考えられることだと思いますので,そこはまだいろいろと考える余地はあるかと思います。

● そこまで入れるとまた難しい気がして……
  どうぞ,○○関係官。

● 済みません,一言だけ。信託業法で,これについての規定が置かれるかどうかというのは,ちょっと私が未熟なだけかもしれませんけれども,やや違和感があると思うんですけれども。原則的には置かれないと考えた方がよろしいんじゃないでしょうか。


● 業法の話については,○○関係官がおっしゃったとおりになるのではないかとは思います。


● 恐らくどこかで規定をするか,しないかで重要な問題,今ちょっと○○幹事が言われたことと関係するんですけれども,こういう特約は全く信託法外の問題であるということにして,そうすると,こういう契約をしたときに,この契約の効力が認められるかどうかも余りはっきりしないと,つまり契約の一般の問題で,場合によっては忠実義務に反するという解釈が将来出てきたりして,認められなくなってしまうかもしれない。


いや,私は個人的には,この補償請求権というのはなくていいんだと思っていますけれども。


しかし,今までのこの議論の中でも,特約があれば,それは認めていいのではないかという議論が比較的多かったということを考えますと,それが完全に一般の契約の問題に解消させられて,それが認められるかどうかも今後の課題であるというのは,もしかすると,相当大きなギャップが現在の実務との間にはあるかもしれないという気はいたしますね。

  何かいいアイデアがあればと思いますが,いかがでしょうか。少なくとも,ここでの中間試案へのまとめ方としては,今のような○○幹事が言われたように,今の乙案というのをとる場合には,今のは引き続いてそういう問題が出てくるということで,それでもいいか--いいかというか,説明を見た上で意見を述べる人たちはそれでいいかどうかということの判断を示してもらいということで,少し丁寧にこの乙案についての説明を書いておくという形で,とりあえずはいろいろな意見は出てくるとは思いますけれども,むしろ今後の実際のまとめ方の問題かもしれません,私が申し上げているのは。


  じゃ,少し言葉を尽くして説明をしていただくということで,乙案をとった場合の可能性,これも確定的に今どういうふうになるというわけでもないので,可能性でしかないんですけれども。


● ○○委員の御意見では,乙案をとったとしても,それは信託法の中に補償請求という概念は残ってもしかるべきではないかと。私も,ここは税の議論する場じゃないんですけれども,全く第三者に対して損失補てんするみたいなことはできないという議論もあるかもしれないんですが,枠の残るということはまた別の議論だと思うんですけれども。


乙をとったら大変なことになるよという補足説明は,やはり乙案支持派としては,乙案でも別に信託法の中の規律として補償請求というのが合意すれば,もう従前と同じように機能するかもしれないということでいいと思うんですけれども。


● 私もそういう意見なんですけれども,ですから,余りこの乙案を説明で脅かすというのはよくないわけで,しかし,乙案をとった場合どうなるかがまだよくわからないということなんで,そこで非常に中間試案の出し方が難しい。


  これはかなり重要な問題だと思いますので,ちょっと今御意見がなければ,少し検討して,次回にもう1回出させてください。よろしいでしょうか。


  それでは,ほかの点はいかがでしょうか。
  ○○委員,その後,○○幹事。


● 34番と22番の関係なんですが,信託事務処理の委託ですね。受託者が複数の場合に,第三者に委託する場合は相当な理由があれば委託できて,ほかの受託者に委託する場合はやむを得ない事情が生じたときに限ると,これはこういう結論になるということでよろしいんですか。

● 第三者の委託というのは,広く委託することが現在の世の中では信託事務の処理に当たって有益だからということで広げたわけでございますが,信託受託者が複数いるというのは,委託者としては複数の受託者にして相互の監視といいますか,慎重な事務処理をしてほしいと。


効率性を念頭に置いていることもある反面,慎重な事務処理を期待しているわけですから,お互いに委託し合って人数が減ってしまったのでは,その委託者の意思に反するということでございますが,信託の受託者間の委託については原則としてだめという現在の規律を維持しているというもので,規律は逆転しております。


● よろしいでしょうか。では,○○幹事。

● 別の点でございますが,第31の1の権限違反行為の取消しでございます。

まず意見を先に申し上げ,実質的な意見を申し上げますと,2行目ですが,相手方が当該行為の信託財産のためにされたものであることを知らない場合には,1行目の場合に当たった場合,すべて有効で取り消せないということになると理解をいたしました。

  もしそうだとすると,例えば信託銀行が信託財産のためにデリバティブ取引をしたと。


しかし,その信託行為で定めている権限に属しないという場合に,相手方である証券会社なのか,銀行なのかわかりませんが,そこが,そのデリバティブ取引が信託財産のためにされたものであることを知らなかった,要するに固有勘定で取引をしていると思っていた。


この場合は全然取り消せないということになって,そのデリバティブ取引で幾ら損失が出ても,信託財産にその効果は帰属するということを意味しているように思います。


  そうすると,先ほどの第12ともしかすると関係するのかもしれませんが,第12はこれ強制執行の問題ですので,もうその損失分を支払っちゃった後に受益者が,いや,これは権限外のデリバティブ取引をしたんだから回復したいというふうに考えたときに,信託銀行ならば固有勘定で回復できるのかもしれませんが,そこでもし足りなかったときに,そういう権限外の取引をした相手方との関係を不当利得にして回復するということが,私は実質的には望ましいだろうと思うんです。


そもそも権限外であるし,相手方は要するに固有財産の取引だと思っていたわけですから,信託財産から支払ったものを取り返すことはできていいんだろうと思うんですね。


それは私の単独意見でありますから,ここで甲案,乙案を立ててほしいとは申し上げませんが,この第31の1の意味するところを,ぜひ補足説明で詳しく書いていただいて,どういう場合は信託財産に帰属し,どういう場合は帰属しないのか。


帰属する場合も,どういう場合に取消しができて,事後的に不当利得という効果が得られるのか。


その本来帰属するけれども,後から取り消せる場合がこの第31の1であると,こういうふうな形で,わかりやすい形で権限外行為についての帰属,不帰属の問題を説明していただけると,もしかすると,私と同じような意見も出てくるかなというふうに思いますので,お願いをいたします。


● 今のデリバティブ取引の帰属という意味が,お使いになれらる方で物権的に帰属とか,債権的に帰属とかいろいろな意味で使われることがあるので,ちょっと誤解を招くといけませんのでちょっと違った言い方になるかもしれないのですが,今のデリバティブ取引の話は,まさしく証券会社は信託事務だとも思っていないわけで,したがって第31の1の要件にも当たらないので,その取消しはすることはできないと。

それで,たとえそれによって証券会社が信託財産に対してデリバティブ取引の--証券会社が賭けに勝ったという言い方も変ですけれども,賭けに買ったとして,それで債権を持つことになりましたというときに,じゃ,先ほど説明いたしました強制執行のところで執行できるかという話になると,ちょっと先ほど○○幹事から要件等について御指摘を受けたところなので,そこは考え直さないといけないかもしれませんが,その実態的な話からいくと,権限に属しない行為であって,(3)に当たって,それで当該行為が信託財産のためにされたものであることを第三者が知らない場合という,その(3)の②に当たって,それが信託財産に属する財産に関する権利の設定とか移転ではないので,結局その信託財産に対して執行することはできなくて,したがって固有財産に対して執行ができるだけだという結末になると。
 


 さらに,その上を超えて,信託財産から勝手に払っちゃったときに,受益者がそれを取り消して,相手方は信託事務だとは思っていないわけですから,権限外だということもおよそ知りようもないわけですが,そのときに果たして受益者が取り消して取り戻させるということまで認める必要があるかというと,この案ではとりあえずそこまでの必要はなくて,そこは受託者と受益者の内部的な関係で整理してはどうかという案なのですが,○○幹事の価値判断もあり得るということは,補足説明で明らかにさせていただきたいというふうに思います。

● 幸い,このバージョンについての私の理解は間違っていないということが今わかりましたが,その上で今のような場合に支払った分も取り替えさせること,あり得るべしだと思いますので,案を立てていただきたいということまでは申し上げませんが,そういう場合にどうなるかということを補足説明の中でわかりやすいように書いていただければと思います。

● これはたしか前の案で,この帰属についての認識の食い違いというんでしょうか,その問題と権限違反の問題というのがちょっと一緒になっていたのを分けて考えた方がいいだろうということで分けた結果,権限違反の方はそれぞれが両方とも信託財産についての取引であるということを前提にした上で権限違反の場合に,どういう場合に取り消せるかという,これは非常にすっきりしたわけですけれども,もう一つの帰属についての食い違いがある場合,この場合をどうするかについてがいろいろな意見がまだあって,○○幹事のような意見とか,ちょっと私もどっちがいいのかまだよくわかりませんけれども,とりあえず整理としてはすっきりしてきたんだと思います。

これをもとにして御意見を伺うということでよろしいでしょうか。その分けたことの意味なども,補足説明の中で少し明確にしていただければと思います。
  ほかは,○○幹事。

● また第34に戻るんでございますけれども,お教えいただきたいんですけれども,これは複数の受託者がいたときには,職務分掌の定めがある場合であっても,常に全信託財産が合有になるというものであると考えてよろしいわけでしょうか。

● 共同受託者の合有に基づいた場合には,職務分掌がある場合であろうが,それ以外の,例えば財産が分属している場合であろうが,合有になるという考え方に基づいております。


● ということは,複数の信託財産があって,それぞれについて単独で何かをするというふうな定めがあるときも必ず合有になっていて,例えば3人共同受託者ですと,3人の名義を連ねて第三者と取引をするということになる。

● 本来は,名前を3人とも出すか,あるいは代表者という名前を出して第三者と取引をすると。それによって,他の受託者全員と信託財産にも効果が帰属するというのが事務局の理解です。

● それはばらばらに,甲財産はAという受託者に属させるということはできないということですか。


● それでもしかし,それが共同受託という合意のもとにただ名義--名義といいますか,所有名義ですか,所有者を例えばとりあえず甲にしておくというようなこともあり得ると。


しかし,それが共同受託の形態である以上は全員の合有になるという理解をしているわけでございますが。


● いや,それは実態と名義を分ける考え方もしれませんが,対抗要件の具備とかをする義務を負っているとすると,単独の名義にすると義務違反になるということなんですか。


● 例えば,ある1人だけが移転登記と信託の登記を備えて,ほかの人たちは信託の登記もないと。それで……


● 私の方で補足いたしますと,○○幹事が申し上げましたとおり,共同受託の場合は信託財産の所有形態は合有となる以上は対抗要件という点につきましても3人の名義という,そこで名義と使っていいのかわかりませんが,そういう形になると思います。


● それとは別に,例えばその3人が財産をいわば分属させるような形でもって名義を別々にすることは,それは合意があればできるということですか。ここで言う共同受託ではないということなのかな。
● そうです。


● ですから,○○幹事の言われたような分属というのがそういうものであれば,ここの共同受託ではないけれども,それはそれで信託契約の内容としてできるということなんだと思いますけれども。いまひとつ釈然としない……。


● いや,よくわかりませんけれども,現行の信託実務と整合的なのかということについて,○○委員とか御意見を伺えればありがたいんですけれども。

例えば,現在の信託銀行の中で,共同受託の形をとって信託財産をすべて資産管理の信託銀行に移転してしまっているという信託銀行が幾つかあると思うんですけれども,それはもはやもうできなくなるということなんでしょうか。

● 僕の理解は,ここで言うある意味で共同受託というものが狭いというんですか,この共同受託ではないと。


しかし,年金だとか,いろいろなもので分属させると,それぞれが通称共同受託とは言っているけれども,それぞれが別々に財産を管理しているというタイプがあるわけですよね。

● いわゆる年金信託において共同受託的な形なんだけれども,それぞれ別々で信託を受託しているような形態のものあります。

それであれば,別に共同受託ではありませんので自由にできると。そういうものが今結構ふえてきています。あとは業務委託契約でもって幹事を決めて事務を執行していくと,そういうタイプのものが1つあります。


  それと,今おっしゃった財産の保管をする専門の銀行がありますので,それに対して財産を移管してというようなタイプの部分については,基本的には共同受託という形になると,そこは思います。


そういう意味合いでは合有という形でもって,逆に言えば,そういうタイプのものは合有という形でやっていかないと,なかなか難しいのではないかなと思いますので,そこら辺のところを御配慮いただいた規定ではないかなというふうに考えておりますが。

● 今のような資産管理をどこかに集中させる,共同受託だけれども,資産をどこかに集中させると,そういうことですね。


● そうですね。ですから,実際には1つの信託銀行しか資産は持っていないと,実質的にですね。


● それは,しかしここの規定で言うと何になるんだ。これは整合的なの,よくわからないけれども,大丈夫なんですか。
● 合有ということ……


● 合有であるけれども,どこかに--つまり入り口でもって,例えば3つの受託者が共同受託者として財産を引き受けるけれども,だけれども,実際にはその中のどこかに財産を集中させると。


合有だけれども,財産をどこかに集中させる。例えば登記なんかも,これはこのもとで可能だということ……

● 例えば不動産を購入すると,保管受託者が不動産を購入しますという場合には,その3人の受託者がいれば,3人の受託者の名義ということになりますので,そういう点では,保管受託者だけの単独名義にするということはできなくなってしまうという点は,共同受託者という形をとればなってしまわざるをえないと思います。


● 例えば,不動産の場合について今現在の実務だけで言いますと,不動産の場合については財産保管銀行に移すということはしておりませんので,ですから,そういう問題で困った問題というのは起きないと思うんです,現時点においては。

  ですから,そういう形で集中しているのは大体有価証券に限定しておりますので,有価証券のところで不都合が起こるということはないと思いますので,実際の実務に影響があるというふうには余り思いませんが。


もちろん,これから先に保管するのが,不動産もすべて保管するというようなタイプのものがもしも出てきたら,それは不都合が出てくるのかもしれませんけれども,ちょっと普通に考えて,そういうものが出てくるのは現状では余り考えられませんので,そういう意味合いでは,そんなに不都合はないのかなというふうに考えていますが。

● 有価証券であっても,3人の受託者の合有ですと。だけれども,どこかに集中的に保管させると,そこで1人の受託者が集中的に保管しているけれども,それは単独の名義のものではなくて,合有財産を1人が管理していると,そういう扱いになるということですよね。

● そこでは,やはり不動産と同じように,名義といいますか,それは3人名義ということに。


● いや,実務もわかっていないのに実務で困るんじゃないですかというふうに私が言うのは変なんですが,皆さんずっと柔軟化してくれ,してくれという話が多かった中で,なぜカストディアン・トラスティとマネージング・トラスティとを分けて共同受託の形態をとるというのが困難になるようなことについて,実務的な問題を感じないのか。それを私の実務に対する理解というものが不十分だからであるというのならば,私全然構わなくて,私,実務をやっているわけではございませんので構わないんですけれども。


本当にマネージング・トラスティとカストディアン・トラスティとを分けてやっていくということが,本当にこの要綱案で可能なんですか。


● 有価証券が1つは集中したときに,その名義というのはやはり3人の受託者の名義なんだけれども,1人が管理しているというふうに見るのか,それとも名義自体も1人の受託者に移せるのか,その違いですよね。


それで実務がどういうことを要求していて,この規定で十分大丈夫だということなのか,もうちょっと緩和してほしいということなのか,そこですね。
  ○○委員。


● 先ほど○○委員は,不動産の場合には合有になっていますという話の後,前回たしか○○関係官の方から合有登記ありますというような記憶があるんですけれども,私が聞いたある信託銀行の方は,土地信託の場合には合有じゃない例もあるような,逆に幹事名義でやっているという話もあったので,先ほどの土地の場合には必ず合有名義とすることがこれの入り口ですということになってしまうと,特定の実務だけなのかもしれませんけれども,その土地信託のある実務とはちょっと違ってくるし,それが先ほどからの議論でも,それは全然違う形での共同受託ですということになると,せっかく信託法改正の中で共同受託という規律を設けているのに,それとは違う規律が法律には書いていないけれども,でも可能だという議論がまたどこかで1回しておかないと,それは結局,個別信託での受託者間における合意にしか過ぎないんだと,決して1つの信託としては認識されないんだということでいいのか,やはり違った意味なのかというところを考える必要が出てくると思うんです。


● いかがですか。


● 私自身が業界で議論していた中で不都合があるというふうな議論がありませんでしたので,こういうふうに申し上げていますが,御指摘を踏まえて,ちょっとそこは検討させていただくということでよろしいでしょうか。

● とてもパブリック・コメントに適しているのかもしれないので,今変えなければいけないわけではなくて,出してみていろいろな意見を……


● そうそう,ここで決める必要は必ずしもなくて,これに対するパブリック・コメントをもらえばいい。


● 弊社でやっている実務において問題はないと思いますけれども,当然いろいろなタイプのところがありますし,○○幹事がおっしゃったように,私どもはちょっとおかしいなと思っていても,そういう形でやっておられるところもそれはあるかもしれませんので,それはそういうことを再度踏まえて,ちょっと検討させていただきたいと思います。

● わかりました。それではこれ,とりあえず今一応これはこれで1つの案になっていますので,これをもとにしてどういう結論になるかという説明を加えていただくことで,コメントとして皆さんにはそれで適当なのかどうかということを御意見いただくということで,○○委員のところも御意見いただければと思います。

● この第33の報酬請求権のところで,1の(2)のところあたりかと思うんですけれども,パブリック・コメントで聞いていただくか,若干問題提起をしていただけないかと思っておりますのが,この相当額の決め方の問題で,これまでの御提案の中で,受託者の方で決められるというような前提で,受益者の方に通知をすればというようなことで来ていたかと思うんですけれども,この報酬の決め方というのは,かなり受託者の利益と,それから受益者の利益が衝突するような側面もあるので,決め方についてはややきちんと配慮した規定が必要なのではないかという感じがしております。


  成年後見や遺言執行でも,後見人の報酬や遺言執行者の報酬の決め方についての規定がありますし,これは裁判所の関与ということになっていると思うんですけれども。


そういったこととの関係ですとか,あるいは営業信託の場合には,恐らく信託契約等で決めている場合が多いんじゃないかというふうに思うんですけれども,そういった中でこういった形で受託者が決めることができるというふうな規律をするのがどうなのかというのがちょっと気になっておりまして,むしろある程度そういった裁判所の関与ですとか,手続的に決定に至るには多少ハードルがあった方がかえって,例えば契約できちんと決めるとかということの要因になっていいのではないかというふうに個人的には考えています。

  そういった関係で,多少これまで補償請求権の陰に隠れてといいますか,ちょっと発言の機会がなかったので申しわけなかったんですけれども,この点についてもちょっと御検討いただけないかというふうに思います。
  以上です。

● 報酬請求権も,ある意味で利益相反の問題で,ただ,報酬請求権というものはその利益相反の1つなんだけれども,例外的に一定の場合に認めるというのが恐らく伝統的な信託の考え方であり,欧米の信託の考え方でもあると思いますので,今の御指摘自体は非常に重要な御指摘だと思います。説明等の中で対応していただくということにいたしましょう。


● 1つ質問なんですが,報酬請求について甲案,乙案というのがありまして,乙案というのは今回初めて。


● 前,受益権の譲渡請求のところに出ていたんですが,それは確かに補償請求権を念頭に置いた書き方をしておりましたが,同じことだろうということで,厳密には初出でございますけれども,受益権を権利義務の一体として見ないで,信託外の契約として報酬請求権も考えるという意味で言えば,補償請求権と統一的な考え方ができるということで挙げているものでございます。


● そうなんですが,報酬請求権について一般的に乙案という意見はあるんでしょうか。


● 補償請求権でも乙案があったので,報酬請求権でも乙案はあり得るのではないかと考えたんですが。


● 関連的にはあり得るかもしれませんが,むしろ補償請求権についてを念頭に置かれて,報酬請求権の方も2本に立てておられて,報酬請求権の方の乙案というのは余りここでは出ていなかったし,むしろ甲案の方が一般的な考え方じゃないかと思うんですが。


● 今回新たに乙案を立てることによって,受益権の中から義務の部分,報酬義務の部分を外して信託外の契約と考える考え方を支持するという考え方も十分あり得るのではないかと思われまして,別途乙案を出してきたところでございます。


御指摘のとおり,部会での議論は補償請求権でしかございませんでしたけれども,補償請求権の中でこの新たな乙案を支持する見解が比較多かったと。

それが結局,受益権を権利性だけにして義務の部分を外すという考え方が適切だという理解を私どもいたしまして,そうすると,その考え方と平仄を合わせるという意味で報酬請求権についても新たに乙案を出しても問題ないのではないかと考えているわけでございます。

● 統一的に理解すること自体が何か一つの判断を含んでいるような気がするんですね。


それで,報酬請求については甲案の方が多分一般的な考え方になるんじゃないかと思うんですが,それに引きずられて,補償請求の方も甲案ということにならないだろうということなんですが。

● 報酬のところの甲案ですと,信託行為に定めがございますと,他益信託において受益者が報酬義務を負うということになります。


他方,費用については費用の補償の方の乙案をとりますと,他益信託の受益者は負わないと。


そうすると,報酬の方は,信託行為に書けば他益信託の受益者は負担するんだけれども,費用は負担しないというのが,どちらかというと,費用と報酬で報酬の方をより保護するべきという判断は余りないのかなということで,こちらの方で勝手に推測してということではございますが,乙案を載せたということなんです。

● 補償請求権と報酬とちょっと違う感じがするのは,補償請求権というのは,本当に予想外の補償請求をされて困るということがあるために,やはり否定的な意見が強いんだと思いますけれども,報酬の方は,これも報酬がどのぐらいかによるかもしれないけれども,ある程度予測可能性があって,確かに○○委員が言われるように,余り甲案で違和感を感じない人が多い可能性はやはりある。


そういう意味で,構造は確かに同じようにすることもできるんだけれども,どうもその最後の実質的な配慮のところが,考慮のところが,ちょっと考え方が実際には違った方を選択する可能性があるということですね。それを受けて,○○委員はちょっと違和感を感じると。

● ええ,そうなんです。補償と報酬とを統一的なものだとすることは一つの選択で,そうすると,報酬について甲をとると,補償も甲をとるのが論理的にそうなるだろうというものじゃないんじゃないか。

甲と乙がたすきがけというクロスする選択もあり得るわけでして,それを答えやすいようにしておきませんと,何か説明によっては両方とも甲あるいは両方とも乙でなければいけないというようになると,ちょっと誘導することになるんじゃないかなという気がいたします。


● 決して我々は同じ甲甲,乙乙というわけではなくて,たすきも十分あり得ると思っていますので,補足説明で気をつけて書くようにいたします。


● そういう理論的な議論ではないんですけれども,乙案のように書くのであればというか,乙案を見て思ったんですけれども,委託者が報酬を払うというケースも,それが非常に便利である。要するに信託財産が不動産だけでキャッシュがないときに,だれが報酬払うのかという,費用のところにも実は絡んでいて,そこでも申し上げるべきだったと思うんですけれども。


何でもそういうのは信託外で合意すればいいという議論は当然あると思うんですけれども,もしそうだとすると,例えば信託行為の中であれば,損金性というのは当然費用の負担ということで認められるべきだとは思うんですけれども,そうじゃないとすると,払う行為そのものが何か贈与みたいな議論に結びつくとか,税の議論じゃないとしても,信託の枠の中で合意できるということが必要だし,またそういう議論を聞いたことがございまして。
  

ですから,乙案があれば,逆に受益者との間,また委託者の間とか入れていただいた方がいいと思いますし,それは同じ議論でさっきも言いましたように,費用のところでも同じように,信託財産を毀損しないでキャッシュをだれが負担するかというのは,当事者は委託者,受益者だけですから,そのどちらかが負担できるようなたてつけがあった方がよろしいのかなと思います。


● 委託者の話はこれまでも出てきたので,それもうまく含めるような形にしないとまずいかもしれないですね。


確かに,またこれ議論をし出すと,さっきの補償請求権の問題と同じでなかなか決着がつきませんけれども,問題点は十分これでわかったと思いますので,少しそれに対応するような説明にしていただければと思います。
 


 ほかによろしければ,次の方へ行きたいと思いますけれども,よろしいですか。--はい。


● じゃ,あとは35番から最後までまいりますが,35番は従来どおりで,書きぶりが若干変わっているだけで,何も変わりはございません。
  第36につきましても,基本的に変更はございません。
 

 第37につきましてでございますが,1点だけでございますけれども,解任のところで,これまではただし書として,1の(1)でございますが,委託者の解任が信託目的に反しないときは受益者のみで行うことができるとの規律を設けることを提案してまいりましたが,このような場合については,委託者と受益者が合意で解任するとか,また信託行為で受益者のみで解任できる旨を定めておけばよいわけであるし,逆に信託行為にこのような定めがない場合にまで,受益者の解任が信託目的に反しないと言えるかは疑問ではないかというような考え方も踏まえまして,この場合を削除しているというところが変わっております。


  それから,次に第38でございますが,これは解任及び辞任以外の受託者の任務終了事由についてということでございまして,これまでは,実は解任,辞任,破産手続の開始以外に受託者の任務終了事由をまとめてきた規律はなくて,ただ任務終了を前提にその後の取り扱いについて定めた規律を置くのみでございましたので,ここでその他任務終了事由を併せて取りまとめて列挙していくことにしたということでございます。


  なお,①は強行規定と認識しておりますので,★がつくと。他方②につきましては,これはただし書が本来あるべきところでございまして,ただし,信託行為に別段の定めがある場合にはこれに従うと。


委任の場合と同じように考えているわけでございますので,ちょっと訂正・補足をさせていただきます。


  続きまして,第39でございますが,これは何点か変わったところがございまして,まず1の(1)と,それから2の(1)と,それから3の(2)と,これはいずれも任務が終了した前受託者とか,あるいは相続人等,それから前受託者ですね,3の(2)も。


それらが通知義務を負うという規律を新たに導入してまいりました。このうち,受益者に対して通知をするといいますのは,前受託者を早期に選任し,信託財産は前受託者の固有財産や,あるいは破産財団にまぎれてしまうというようなことを防止するための措置をとるという利益を保護するために,このような通知をすべきものといたしました。
 


 また,他の受託者に対する通知といいますのは,意思決定や責任の連帯負担など,多くの局面で共同受託者は利害関係が深くございますので,通知をしてその利益を保護するという趣旨でございます。そういうことから,この3つの通知義務を設けてきたということでございます。

  それから,2点目といたしまして,3の(1)でございますけれども,23ページでございますが,これも新たな提案でございまして,受託者破産の場合についてのみ,前受託者の破産管財人に対する信託財産の内容等の通知義務を課しております。

これは,破産管財人というのは前受託者や相続人などとは異なりまして,破産者の財産の管理・換価に当たる者でありますので,信託財産が誤って売却されてしまうおそれが類型的に高いと思われます。


そこで,このような過誤を防止するために,特に信託財産の内容,所在等を認識させる機会を破産管財人に付与すべく,前受託者に係る通知義務を破産の場合には課しているというところでございます。

  それから,3点目といたしまして,費用の償還請求につきましては,2の(3)と3の(4)には規律を置いていますが,1の(2),(3)の場合については置いておりません。


この考え方といいますのは,相続人とか管財人というのは,規律がなければ当然費用償還できないと思うわけでございますが,少なくとも1の(3)の場合には,前受託者の権利義務を有しているわけでございますので,受託者としての費用償還請求権を有すると考えられると思ったからでございます。

  なお,(2)につきましても,権利義務が縮減されるとは言いましても,なお,受託者に類する関係にあると思われますので,あえて補償請求権の規律を置かなかったわけでございますが,(3)と異なりまして(2)は受託者とは言えないという印象もございますので,場合によっては費用償還の規律をやはりここでも置くべきかなという気もいたしますので,御指導を願えればと思っているところでございます。

  あとは,3の(3),3の(4)につきましては,かつては,受託者倒産の場合における信託財産の取扱いについてというところから分けて持ってきたというところでございまして,その片割れは,先ほど受益者から破産管財人に対する差止請求という規律のところにいったわけでございますが,残りがこっちに来たとなっているところでございます。


  第40については,今度は新受託者の選任等につきまして新たに規律を設けたということで,前回までの提案を改めてここにまとめたということ以外に何も変わりはございません。

  第41につきましても,特に何も変わりはございません。なお,24ページの(注2)のところでございますが,1点誤植で2の(1)と書いてありますが,3の(1)の間違いでございます。
  


それから,25ページ,(注6)は新設でございまして,相続人等の事務の引継ぎに関する規定を設けるというのは細かい点でございますが,この4で,前受託者から新受託者への事務の引継ぎに関する規律は前から置いていたわけでございますが,相続人等から新受託者への承継,前受託者が死亡した場合に関する規律が欠けておりましたので,その規律は当然補充する必要があるということで,ここに注記させていただいております。


  あと,第42につきましては,提案本文の変更があったというわけではなくて,前回問題提起していたところについて決め打ったということにとどまるわけでございますが,念のため補足しておきますと,まず信託財産管理人の選任につきましては,前回は承諾辞任とか,特約辞任のときについては除外するという提案をしておりましたが,それに対しては,これをあえて除外する必要もないし,辞任にもいろいろな事由があるだろうという御批判をいただきましたので,今回は改めまして当初に戻しまして,任務終了事由を問わないということにしているわけでございます。


  それから,2の信託財産管理人の権限につきましては,民法103条の権限と同様のものを有するということを前回提案して問題提起しておりましたが,特段異論がなかったので,これを維持したというものでございます。


  それから,3の民法の受任者の義務と同様とするというのもこれと全く同じでございまして,現行非訟事件手続法と同様に,民法の受任者の義務を規定するということにすることとしております。信託財産管理人は名義人となりませんので,受託者と同様の義務とするまでもなく,受任者でいいのではないかというような考え方に基づくものでございます。

  それから,(注1)でございますけれども,裁判所に対して辞任の,または解任の申立てがされた場合について管理人を選任することができるかというものにつきましては,これも前回に引き続きましてなお検討したいと考えております。


前回は積極的な御意見もいただいたところでございますが,なお検討課題としてパブリック・コメントに付したいと思っております。
 

 最後に,(注6)のところの仮処分によって選ばれました職務代行者につきましては,信託財産管理人の権限と同様の権限ということで,これは前回問題提起しておりましたところ,異論はございませんでしたので,そのまま維持するということでございます。
  以上でございます。


● それでは,今のところ第42まで御意見。
  ○○幹事。


● 小さい話で,かつひょっとして申し上げたことがあったのかもしれないんですが,第37の1の(3)の書き方なんですが,これですと,やむを得ない事由があったときにも解任できないというふうな定めもできるということになりますか。


● 我々が想定しておりましたのは,受託者の同意がある場合とか,それから損害については損害賠償しなくても,やむを得ない事由があった場合でなくても損害賠償しなくていいという定めを念頭に置いていたわけでございますが,確かにやむを得ない事由があっても,とにかく受託者の同意を要するんだという定めも許されるのではないかという気がいたします。

そのかわり,(4)で裁判所に対する解任請求をしていくという方向に行くのではないかという気がしているところでございます。


● 解釈論としてはそうかもしれませんが,それの方がいいんですかね。よくあるから,いいのかもしれませんけれども。結構です。どうも済みません,小さい話で。


● ほかにいかがでしょうか。
  ○○委員。


● 細かいことで2点ございます。第36の合併ないしは会社分割の受託者の変更ということですけれども,これは前回の提案では法人ということであったわけですけれども,これが株式会社になっている理由がどうなのかという話です。

考えれば,新会社法においても持分会社の場合は合併とか,そのうちの合同会社の場合には分割とかあるとは思います。

また,今後,公益法人改革でどうなるかわかりませんけれども,公益法人の場合も受託者になって,かつそういう合併とか,変更がある可能性もあると思いますけれども,本提案の場合,株式会社と限定した理由は一体何なのかということです。


別にする理由はないのではないのかなというのがちょっと私の意見でございます。


  それから,2つ目は第39について,通知義務を課したというところが新しいところでございますけれども,その中で,第39の2で受託者の死亡等による任務終了の場合ということですけれども,この場合,ほかの規律と違って通知義務がある場合は,その事実を知っているときはということが入っているわけです。


このような制限をした理由は何なのかという話なんですが,恐らく成年後見とか,保佐人とかいった場合には,そこまで知っている場合があるのかとかというようこともあるので,そこまで義務を課すのは過酷であるというような配慮があったのかなというふうには思っておるわけなんですが。

他方,これはもう価値判断になるわけなんですけれども,法人における清算人というのがその事実を知らないということによって,通知義務をなくすということが妥当なのかどうかということもちょっと疑問に思いますものですから,まさしくここの限定をした理由というのをお尋ねしたいと思います。


● まず,法人,株式会社についてというのはここでは代表的なものとして挙げておりまして,特別法にも会社分割,合併ができる場合はあるようでございまして,網羅的に現時点で調べておりませんので,代表的なものを挙げて,あとは整備で対応していきたいという趣旨で書いているというものです。
 


 それから,あともう一つ,その事実を知っているときというのはおっしゃるとおりで,相続とか,少なくとも成年後見開始とかいう場合については,必ずしも後見人とか,それから相続人がその事実を知っていない可能性があって,そういう場合にも通知義務を課せられるというのは酷であろうということから除外しているという趣旨でございますが,ちょっとこれでは問題があるということであれば,またコメントをいただきたいというところでございますが,趣旨ということであれば,そういうことでございます。

● これが入っていたかどうかは別としても,そういったものであれば,清算人というのはちょっと特異なものなのかなという気もいたしましたので,そこを補足説明等で切り分けていただくような御配慮があれば,ありがたいなとは思います。

● 第42の信託財産管理人なんですけれども,今の御説明,また今までの議論でも,信託財産管理人は受託者ではないということなんですけれども,その場合の財産の名義というのは,辞任した,またはやめた受託者の名義のままにとどまるということなんでしょうかという確認と,場合によっては,それはやはり何かリスクがあり得るケースもあると思うので,受託者じゃなくても信託財産管理人名義にするような規律というのも考える必要があるかどうか,考えてもいいんじゃないのかなと思いますがどうでしょうか。

● とりあえず,名義のところについて私からまず答えておきます。第41の1のところで,信託財産の帰属について書いてございますので,前受託者死亡による場合は法人とみなしますが,死亡以外の場合には前受託者に帰属するものとみなしまして,新受託者が選任されますと権利義務が承継されますので,その時点で,今度は2の(1)のアとイというような場合になって,任務終了事由が解任とか許可辞任の場合には,任務終了の時点にさかのぼって,前受託者から新受託者に所有権も移ると。


  それから,それ以外の場合には,この場合は特約辞任と承諾辞任の場合につきましては,新受託者が選任された場合に初めて移るということで,ですから,新受託者が選任されるまでは,とりあえず前受託者が名義人になっているところは変わらないというところでございます。

  あと,○○関係官の方から補足を。

● 信託財産管理人というのは裁判所が選任する法定の管理人ですけれども,信託財産管理人が信託財産の所有者,名義人になるとすると,例えば所有者責任みたいなものも負う可能性というのが出てきて,そうすると,実際に就任するという人がいなくなってしまうのではないのかなというような感じが直感としてはいたします。


確かに,信託財産の名義というのを前受託者,例えば解任された前受託者においておくのは不適当であるというようなことはもちろんあるんだとは思うんですけれども,それに対する解決の方法として,信託財産管理人に対して,信託財産の所有権を移すというのが実際いいのかなというのはちょっと疑問ではあるんですけれども。


● これ,前受託者のもとで,例えば不動産の信託財産なんかに,何か終了したことの公示というのはできるんでしょうか,前受託者はもう現在は権限がないという。


名義はとにかく残すということですよね。だけれども,受託者としては権限が行使できないようにしておくということが必要だということですよね。

● 受益者等に対する通知義務が新たに課しますので,それを受益者が知って,そういうことをしないように監視するとか,早く新受託者を選ぶとか。

信託財産管理人が選ばれますと,前受託者から新受託者に権限が移りますので,専属的になりますので,前受託者は法律上は何も手を出せなくなる。

名義だけあって手は出せるわけはない。しかし,名義はあることによって,それを例えば第三者に売っちゃって,第三者が善意無過失であれば,権利を取得できるというような懸念かと思いますが,それについてはちょっと今のところ,前受託者の善意に期待しているところでございますけれども,特に手当はないです。

● これもちょっとリスクが全然ないかと言われると,やはりあるような気もするので,何かうまい手当があればいいかもしれませんけれども,いろいろな御意見を伺うということで,原案としては今の点までは書かないけれども,コメントをいただくということにいたしましょうか。
  どうもありがとうございました。ほかにいかがですか。
  ○○委員。

● 聞き漏らしたかもしれませんけれども,37の2の受託者の辞任の(2)というのは,★印はつくんですか。
● ええ,入れるようにいたします。済みません。


● それではこれで終わります。どうも長いことありがとうございました。
-了-

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第18回会議 議事録

第1 日 時  平成17年7月15日(金)  自 午後1時01分
                       至 午後4時10分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   信託法改正要綱試案(案)の補足について
   信託法改正要綱試案(案)第43~第70について

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● 法制審議会信託法部会を開きたいと思います。
  (幹事の異動紹介省略)

● 今日は中間試案公表前の実質的に最終回でございます。次回は○○参考人においでいただきまして御講演をいただくということでございますから,今日が審議をする最終回でございます。


そういうことで,最後までやらなくてはいけないものですから,できるだけ効率的にやるせよ,大分時間がかかることもあるかもしれません。御協力をお願いしたいと思います。


● 本日は,まず,前回第42までやりましたうち,いろいろな御指摘を踏まえて事務局の方で検討し,あるいは提案内容を若干変更した点について,前回の案の補足及び今回の修正事項の補足として配りました資料に基づいて御説明したいと思います。
 

 続きまして,第43以降から適宜,受益者と委託者,変更と終了,民事信託,営業信託,特殊な信託と4つか5つぐらいに適宜分類して進行したいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。


  では、最初は,前回の第42までのうち,御指摘を踏まえてこちらで提案を見直した点につきまして,「補足」と題します資料に基づきまして,その要点だけを御説明させていただきたいと思います。

  まず,第3,詐害信託についてでございますが,この中では,特に線が引いてございますが,(2)を追加した点でございます。
 

 改正要綱試案の前回の案において(注2)として記載していたものにつきましては,その注において記載された考え方を公表するに際しては,もう少し理解が容易になるように記載した方がよいのではないかという指摘がございました。


そこで,1の(2)に本文として記載することとしたわけでございます。

  1の(2)といいますのは,信託された財産を受託者が受益者に対して給付してしまった場合において,その給付された財産を受益者から取り戻すために民法第424条第1項の取消権を行使する際の特則を定めたものでございます。


  第424条第1項を形式的に適用いたしますと,受益者が現実に給付を受けた時点において,善意であるかどうかによって取消権行使の可否が決せられることになると解されかねないわけでございますが,ここでは受益者が受益権を取得したことを知った時点において善意・無重過失--現行法を踏襲して「無重過失」というのを書き加えておりますが--であるかどうかによって,取消権行使の可否が決せられることになるという点を定めているものでございます。


  続きまして,第5,受託者の利益享受の制限において,(注)として「第三者の名義をもって信託の利益の全部を享受する場合についても,同様とする」という文言を付加したいと考えております。


これも前回会議において,受託者が受益権の全部を固有財産で保有すると規律した場合に,現行法が「何人ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス信託ノ利益ヲ享受スルコトヲ得ス」と規定していることに比較しまして,規律の対象が狭くなったと受け取られる可能性があるとの指摘がございました。


  そこで,第三者名義で信託の利益の全部を享受する場合も,現行法と同様に,信託を存続させないとすることを注記したわけでございます。


  なお,この場合におきましては,第三者の名義で受益権を取得することによりまして,受益権の全部を固有財産で取得することの禁止を潜脱しようとするものでございますので,受託者と受益者を兼ねる状態を解消するのに必要な期間が経過しなくても,直ちに信託が終了するものと考えております。


  本来の兼任状態が生じました場合には,その兼任状態が解消されるまでに必要な期間は終了しないとしているわけでございますが,ここで「直ちに終了してしまう」としている点について若干御説明しておきますと,固有財産で取得したとき,一定の期間,存続させておきますのは,転売など正当なニーズがあるからであると考えられます。


そういたしますと,第三者名義で取得するというのは,正当なニーズがあるのであれば,あえてこのようなことはしないはずでありますので,存続させておく意味はないと思われますので,直ちに終了すると考えているわけでございます。


  続きまして,第12,信託財産に対する強制執行等についての補足でございます。

  第12は,前回会議における指摘などを踏まえまして,信託財産に対して強制執行等を行うことのできる権利は実体法的にどのようなものかという観点から,とりあえず整理しましたものでございます。


パブリック・コメントに付すに際しましては,証明責任の点はさて置くといたしまして,強制執行等を行うことのできる権利は何かというのを,まずもって明らかにしようという趣旨で,ここに記述させていただいております。


  すなわち,(1)が,現行法と同じく,信託財産について信託前の原因により生じた担保権等の場合,(2)が,相手方の効果帰属意思の対象を問わず,受託者が信託財産のためにした権限内の行為による場合,(3)と(4)は,いずれも受託者が信託財産のためにしたものの,権限外の行為である場合につきまして,まず(3)が,相手方も信託財産に効果を帰属させることを知っていた場合,(4)が,相手方は受託者が信託財産に効果を帰属させる意思であったことを知らなかった場合について,それぞれ規律しているものでございます。


  これは,結論的には前回の提案内容から実質的な変更はございませんが,前回の指摘に基づきまして,このように同様の結論に至るまでに検討した点などについて,補足して御説明申し上げたいと存じます。


  ここで主として検討の対象となりましたのは,(4)の場合でございます。

  前回も申し上げましたとおり,(4)の場合につきましては,受託者と第三者間の取引の性格,すなわち信託財産について権利の設定または移転をするものであるか否かによって,その取扱いは異なることとしているわけでございます。

すなわち受託者の取引相手方のうち,受託者に貸付けなどをした一般債権者につきましては,受託者のもとにある個別の財産を信頼したわけではないので,信託財産に対しても強制執行ができるとしてその信頼を保護するまでのことはないと考えられます。


そして,それにもかかわらず信託財産に対して強制執行がなされた場合には,受益者が信託財産であることなど必要な証明をすれば,正当な異議として認められることになります。


  これに対しまして,信託財産に属する特定の財産について取引が行われた場合には,取引の相手方は受託者が権利者であるところのその財産を信頼したわけでございますので,このような信頼は,受託者に対する一般債権者の信頼よりも保護に値すると考えられます。


そこで,この取引債権者においては,信託財産に対して強制執行等をすることができるとしたわけでございます。

  ところで,この後者の取引の相手方の信頼を保護するという点につきましては,例えば,寄託における受寄者と取引した相手方については,受寄物たる財産を信頼したとはいいましても,民法第192条等を経由しない限り保護されないということとのバランスが問題となるのではないかとのご趣旨の指摘が前回ございました。


  しかしながら,委託者及び受益者は信託のメリット,信託財産に独立性が付与されることですとか,受託者が所有者であるからこそ行い得る柔軟で実効的な管理処分を受けられることなどのメリットを享受すべく,あえて信託という法律構成を選択して財産を受託者の所有に移したものである以上,寄託者が完全に所有権を留保している受寄物の場合と異なりまして,取引の安全がより優先されることになっても,決してバランスを失するものではないであろうと考えている次第でございます。

  もっとも,以上のような理屈は,信託の公示が整備されていない信託財産,典型的には,動産の場合には適切であると思われますが,信託の登記・登録制度が整備され,現に登記・登録されている信託財産についてまで取引の相手方があくまで信託財産のための取引であるとは知らなかったことを主張,強弁できるとして取引の安全を保護すべきかというのは,別の判断もあり得るところでございます。


  すなわち,このような登記・登録がされている場合におきましては,取引相手方が信託財産のための取引であると知らなかったと主張することは許されないと考えまして,第31の1において取消権行使の可否を論ずる対象とするものといたしまして,第12では(3)の場合に従いまして,受益者が取消権を行使できる場合であるか否か,すなわち当該取引が委託者の権限外の行為であったことにつき取引相手方に悪意・重過失があったと言えるか否かによって,信託財産に強制執行ができるか否かが決せられるとする考え方もあり得ると思われるわけでございます。


  そこで,「相手方が信託財産のためにされたものであることを知っていたとき」という要件との関係で,信託の登記又は登録がある財産につきましては,このような考え方があることについて補足説明で丁寧に論じることとしたいと考えている次第でございます。

  以上が第12についての検討結果の補足説明でございます。
  続きまして第20,忠実義務違反等の効果についてでございます。


  まず,補足説明の1の③と④でございます。前回は③だけ書いておいたわけでございますが,④も追加させていただきました。


③というのは,厳密に言いますと①の取引に係る,すなわちいったん自己取引をしてから受託者がさらに第三者と取引をする形態というのが素直な読み方でございますが,前回の指摘などを踏まえまして,いわゆる第三者間取引,すなわち受託者が直接に信託財産について第三者と取引する形態,例えば信託財産を第三者へ売るとか,自己の債務の担保のために信託財産を債権者の担保に供するような場合なども含まれることを,④として明記したのが第1点でございます。


  続きまして4の,いわゆる利益吐き出し責任の関係についてですが,前の提案ですと損失推定の規律を設ける甲案と,正面から利益吐き出し責任を認める乙案を併記しておりましたが,何の規定も設けないという丙案も設けるべきではないかという指摘が前回ございました。


  しかし,少なくとも競合行為につきましては甲案,すなわち損失推定の規定を導入することがあり得るといたしますと,何も規定を設けない丙案をとることは,結論的にはあり得ないと思われるわけでございます。


会社法におきましても,第356条第1項第1号における競合取引に関しましては,第423条第2項において,甲案と同様に損害額の推定規定が設けられているわけでございます。

そうしますと,丙案というのは結論的にはあり得ないと考えられるわけでございまして,あとは甲案と乙案の適用範囲の問題に収斂されるのではないかと理解いたしまして,ここでは現行の提案のとおり甲案,乙案を併記した上で,その適用範囲についてはいろいろな意見があることを補足説明で対処したいと考えている次第でございます。


  なお,前回の会議におきましては,公平義務の性格づけに関しまして,公平義務というのは信託事務の処理に関して問題となる局面が中心であるのに対しまして,忠実義務というのは信託事務の処理の内外にかかわらず起きる問題であって,公平義務というのは忠実義務と重なる部分はあるけれども,善管注意義務に近い部分もある中間的な義務ではないかという御指摘ですとか,公平義務違反の典型的な場合としては,自己取引などよりも,むしろ市場や第三者といった外部と取引することによって,一方の受益者の不利になる場合の方が典型例ではないかといった御指摘をいただきました。


  ここでは,後者の指摘に対応するべく,4ページの3,公平義務違反の効果のところにつきましても,③のほか④を加えまして,受託者が直接信託財産を外部の第三者と取引する場合も公平義務違反の場合に含まれることを明記するとともに,前者の指摘,すなわち公平義務違反の性格づけにつきましては,これまで当部会におきましては,公平義務は,どちらかといいますと忠実義務の系統として議論されてきたのではないかと認識される経緯を踏まえまして,試案の本文としてはこのままとさせていただきつつ,性格づけについての指摘があったことを補足説明で言及させていただきたいと考えている次第でございます。

 

  続きまして,第32,費用等の補償請求権についてでございます。
  この点につきましては,2,受益者から費用の補償を受ける権利につきまして,従来は,ここに書いてあるもの以外に,かつての乙案というもの,権利・義務が一体としてではあるけれども,原則としては受益者の補償請求権がないという規律を設けるべきではないかという指摘がありました点でございます。


  この点につきましては,旧乙案については部会の審議で特段の支持者がいなかったと理解されるにもかかわらず,一つの案として出すのはいささか不自然ではないかということでありまして,従前の乙案を併記すべきと主張する意見と申しますのは,結局,今回の乙案--新乙案によりますと,信託法上に受益者に対する補償請求権に関する言及がなくなることも懸念されるという御趣旨ではないかと理解されるわけでございます。


そこで,この(注3)にありますとおり,2において乙案を採用した場合には,受託者と受益者との間で個別に費用の補償の合意をすることを妨げない旨などを明文で規定する方向で検討する。


確約はできないわけでございますが,そのような方向で検討することを明文でうたいますとともに,そのかわりといたしまして,旧乙案--甲案の第2案といったものは本文には入れず,しかし,このような見解があることを補足説明で言及するということで対処させていただければと考えております。

  最後に,第38と第39の関係でございますけれども,前回の試案におきましては,現行法第42条と同様に,受託者が解散した場合には,その清算人に信託財産の保管義務を課すとしておりました。


しかし,受託者が解散したことにより任務が終了した場合にも,受託者であった法人は清算法人としてなお存続しておりますので,清算法人自体に保管義務等を課せば足り,その期間たる清算人に保管義務を課す必要はないと考えられます。


  そこで,第39の2から清算人を除くとともに,1に前受託者たる清算法人を含めることといたしまして,それに伴う調整を第38と第39の3で行ったと考えた次第でございます。

  前回の御指摘を踏まえた見直しについては,以上でございます。

● 前回,御議論いただいた部分について,さらに若干の検討を加えたということですが,ここまでのところで,いかがでしょうか。--よろしゅうございますか。

  前回,共同受託者も少し議論になったと思いましたけれども,あれは……。

● 前回の部会の中では,信託財産を合有とすることについて,そのままでいいのかという点が問題になったかと思いますけれども,この点につきましては,補足説明の中で具体的に記載したいと考えておりまして,今回の資料の中には書いていない次第でございます。


● ……ということで,いかがでしょうか。--よろしゅうございますか。今回の要綱試案ということで,これに対していろいろ御意見をいただく。その御意見をいただくようなものとして,ここでの議論が適切な形で反映されているかどうか御検討していただくということだと思いますが。


● 合有のところのお話について,今,富澤さんの方からお話があったように,補足に書いていただくということで結構でございますけれども,もともと「合有」という言葉で1つに括られていたものが,実際上の問題として,登記上の名義はどうなるんだろうかとか,実質的な保管はどうなるんだろうかというところでの解釈について,それぞれの考え方がちょっと違っていたようなところがありますので,できればそこら辺のところを分析していただいて,その上で,補足という形で結構ですけれども,御意見を聞くような形にしていただければと思います。


● では,そういう形の補足説明をしていただくことにいたしましょう。

  それでは,前回の部分につきましては以上でよろしいということでありましたら,今日の議論に入りたいと思います。

● それでは,本日は第43,資料で言いますと27ページから,とりあえず受益者と委託者の点について,主要なポイントと思われる,特に従来の議論からの変更点について簡単に御説明申し上げます。


  まず,第43でございますが,これは特段変更ございません。

  続きまして,第44の信託管理人等につきましては,3点ほど御説明させていただきたいと思います。

  第1点は形式的な点でございまして,1の(1)で「受益者として権利を行使することのできる者がいない信託」と冒頭に書いた点でございます。


  現行実務におきましては,受益者が変動する年金信託などにつきましても不特定の受益者がある場合に該当するとして,信託管理人を選任しておりますが,このような場合につきましては,ある一定の時点をとらえれば受益者は特定していると言えるわけでございまして,新たな制度であります受益者代理を選任すれば足りると考えられるわけでございます。


  そこで,このような趣旨を明らかにするために,現行法の文言を改めまして,「信託管理人が選任されるのは,受益者として権利を行使することができる者がいない場合であること,つまり,年金信託の場合はここに入らないことを明らかにするというものでございます。実質的には,これまでの提案からの変更はないつもりでございます。


  次に,第2点でございますけれども,3,受益者代理の(2)におきまして,前回の提案では,受益者代理に対して「信託の利益を受領する権利その他債権の実現を保全するために必要な権利」を付与することはできないとしておりました。


しかし,これに対しましては,受益者が複数の場合においては,受益者にかわって受益者代理に配当を受領する権限を付与するニーズが,例えば社内預金引当信託などであるという指摘がございました。


そこで,このようなニーズを踏まえまして,受益者代理に対して受益者にかわって配当を受領する権利を認めることとしまして,そのような除外規定は設けないこととしたわけでございます。
 

 前回提案でも,受益者代理が個々の受益者と配当受領に関する契約を締結すればよいのではないかと思っていたわけでございますが,たくさんの受益者と契約を締結するのはなかなか大変なことであって,一括して信託行為で定めることができるとする方が簡便でございますし,しかも,受益者も重畳的に配当受領権を有すると解すれば何ら弊害もないと考えまして,このように提案を改めている次第でございます。

  3点目に,(注1)と(注3)にかかわる点でございますけれども,(注1)におきましては,現行法第8条第1項ただし書の規定の趣旨を踏襲いたしまして,信託行為の定めにより信託管理人または受託者監督人が選任されている場合におきましては,裁判所は信託管理人等を選任することはできないことを明らかにいたしました。


これに対しましては(注3)のとおり,信託行為で定められた信託管理人または受託者監督人につきましては,その権限が変更,すなわち縮小される可能性もあることを考えますと,別途,いわば全権を有する信託管理人等を裁判所が超常的に選任できることを許容すべきではないかという指摘もあり得るのではないかと思うわけでございます。


  しかしながら,7ページの①,②に書いてございますとおり,信託行為で権限を縮小している場合には,その信託行為の定めを尊重すべきであるということですとか,権限が競合すればその判断に窮する場合もある。


法律関係が複雑なものになるおそれがあることなどを考慮いたしまして,(注1)(注3)のとおり重畳的に選任することはできないという方向で提案させていただいているわけでございます。


  続きまして第45,信託行為の定めによる受益者の権利の制限については,特段の変更はございません。


  続きまして,第46の受益権取得請求権につきましては,3点ほど御説明をさせていただきたいと考えております。

  まず,前回の提案におきましては,取得請求権が認められる①から⑥の個別の事由に関しまして,信託の目的の変更については,受益者を害するおそれがあるものですとか,信託の併合または分割についても受益者を害するおそれがあるもの,受益債権の内容が変更であって,受益者間の公平を害するおそれがあるものに係る信託の変更について,受益権の取得請求ができると各論的に記述したことに加えまして,冒頭の方におきましても,変更によって損害を受けるおそれがある反対受益者が受益権取得請求権をすることができるとしておりました。


  しかし,前回会議におきまして,本文と柱書きのいずれにも「受益者を害するおそれ」とか「損害を受けるおそれ」と書くのは重複ではないかという指摘がございましたので,今回の提案では,「信託の変更がされることにより損害を受けるおそれがある受益者」と柱書に書くことにして,①から⑥の方では,いちいちそのようなことは書かないようにしたものでございます。実質には,何ら変更はございません。


  それから,前回の提案におきましては,⑥の「受益者間の衡平を害する」という要件は不明確であって,本文または補足説明で明らかにすべきではないかという指摘がございました。

この点は,受益債権の内容の変更に係る信託の変更がされた場合でございましても,当該変更が信託目的に反しない限りは,一部の受益者に損害を与えるおそれがあるとしても,当該受益者には受益権取得請求権を認めないことを意図しているわけでございます。


したがいまして,例えば信託行為の定めにより受益権が複層化されているような場合におきまして,受益債権の変更により劣後受益者に損害が生ずるおそれがあっても,その変更が信託目的に反するものでない限り,劣後受益者は受益権取得請求権をすることができないことになるわけでございます。

  以上のようなことは,補足説明で記載させていただきたいと考えている次第でございます。

  第3点でございますけれども,これは,前回の提案の(注2)にかえまして,今回,補足資料の8ページで(注2)と(注3)を設けている点でございます。

  特に補足の(注3)の方で,「特別決定事項に係る信託の変更に関して受益者が関与できる場合にあっては,決定に賛成した受益者は受益権取得請求をすることができないものとする」という記載をしている点について,若干釈明させていただきたいと思います。


  受益権取得請求を付与すべきか否かというのは,要するに,信託の変更に関しまして,その受益者に自己の意思を表明する機会があったか否かによって決せられるべきものでございまして,この機会があったのだとすれば,反対意見を表明した受益者にのみ取得請求権を付せばよいと考えられるわけでございます。

しかし,信託の変更に当たりましては,受益者集会の方法による場合であってもその他の方法による場合であっても,その手続については特段の制限はなく,信託行為で自由に定められるものと考えておりますので,いかなる場合であれば意見を表明する機会があったと言えるのかを一律に定めることは困難であると考えられるわけでございます。

  そこで,少なくとも,いわば最大公約数的に,変更に賛成した受益者については,禁反言の原則に照らしましても取得請求を認める必要はないことは明らかであると考えまして,その旨を示したわけでございます。


  実質的には,決議事項について個別の通知をしていれば,反対者しか取得請求権ができないと思われますし,公告や,あるいは第三者の決定による場合であれば,賛成者はできないけれども,それ以外の者はできるということになるのではないかと思うわけですが,この考え方自体は維持しつつ,取りまとめて簡略化して,(注3)として書いてみた次第でございます。


  続きまして,第47,受益者が複数の場合の意思決定についてでございます。
  これにつきましては,まず,形式的な点でございますけれども,前回資料の31ページ,3の(5)におきまして,任意規定として「(1)から(4)までにかかわらず,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めに従うものとする」としているところでございます。


  これは(3)の場合,受益者集会の決議の効力は,すべての受益者に対して効力が及ぶものとするという点までもが任意規定なのかと。


直感的には少し不自然な気がしたわけでございますが,要するに,ここの趣旨は,信託行為の定めにより,受益者の種類ごとにいわゆる種類受益者集会を設置して,当該種類受益者集会ごとに決議を行った上で当該種類受益者にのみ決議の効果が及ぶとすることを許されるという趣旨で明記しているということでございます。


  第2点目は,極めて些細な補足的なことでございますが,やはり31ページの(注1)で,受益者集会の招集手続に関しては所要の規定を設けるという中で,受益者に対する招集通知をするという点につきましては,信託行為の定めにより自由な制度設計を認めるという観点からは,公告による招集通知も認めてよいのではないかと考えているところを付言させていただきます。

  第3点目といたしまして,前回の部会におきましては,受益者から受益者集会の招集請求がされた場合におきまして,その請求がとるに足らない事由であるようなときにも招集しなければならないというのは相当ではないのではないかという指摘がございました。


  しかし,受益者による受益者集会の招集に関する規定は任意規定でございますので,信託行為に別段の定めを置くことによりまして受益者による受益者集会の招集請求を制限することはできると考えておりますので,これによって解決することができると考えているわけでございます。


  なお,裁判所に対して受益者集会の招集請求をすることを認めるかどうかにつきましては,やはり3の(1)のイで「信託行為に別段の定めがない限り」と,任意規定であるとしている点からいたしますと,難しいのではないかと思われるわけでございますが,なお検討事項として補足説明で触れることにしたいと考えております。


  続きまして資料32ページ,第48,受益権の譲渡についてでございますが,2点ほど御説明申し上げたいと思います。

  まず,第38の1の(2)に関する点でございますが,これまでの提案におきましては,信託行為に別段の定めがある場合のほかに,受益権の譲渡が信託の目的に反するときも受益権の譲渡をすることができないと明記しておりました。


しかし,このような場合につきましては,通常,合理的な意思解釈により,信託行為に別段の定めがある場合と認定されるものと考えられますので,これをあえて明記することなく,削った次第でございます。


  それからもう一点,これは32ページには書いていない点でございますが,前回の会議におきまして,受益権の譲渡の第三者対抗要件について,確定日付がある通知又は承諾を要するものとしている点に関しまして,確定日付を具備するのはコストを要するので,しかるべき者が委託者となっていることにかんがみれば,確定日付を不要とすべきではないかとの指摘がございました。


しかし,受託者であるからといっても一般の債務者と比較して恣意的に通知または承諾の時期を遡らせるおそれが定型的に乏しいとまで言うことは難しいと思われますので,このような考え方は採用しておりませんことを付言させていただきます。


  続きまして,第49,受益権の放棄についてでございます。
  これは第32,第33で甲案を採用した場合の1を記載した点,それから,やはり第49で2という場合,第32,第33で乙案を採用した場合の2を記載した点が新たな変更点でございます。
  
その趣旨につきまして,若干補足して御説明したいと思います。

  試案におきましては,受託者が受益者に対して補償請求権または報酬支払請求権を行使できる場合につきまして,第32と第33で御承知のとおり2つの案を提示したことを踏まえまして,第32,第33の甲案,すなわち受益権は受益者の有する権利・義務の総体であるという考え方を採用した場合に関する規律,これが第49の1でございます。

それから,やはり第32,第33のところで乙案,すなわち受益権というのは権利の総体にとどまるという考え方を採用した場合の規律,これが第49の2でございます。これを分けて提示しているわけでございます。
  

第49の1におきましては,受益権の放棄ができる場合に関しまして,ここで【乙案】に加えまして,新たに【甲案】を提示しているわけでございます。甲案は,受益者が受託者に対して受益権の放棄をしない旨の意思表示をしたときに限り,受益権の放棄を認めないものでございまして,【乙案】①のように,信託行為の定めによって放棄できない性質を有する受益権を作出することを認めないものといたしまして,受益権の放棄の可否については自益信託,他益信託というような区別をすることなく,同様の取扱いをするというものでございます。

  これに対しまして,第49の2の方の考え方は,次のようなものでございます。


  受託者の受益者に対する補償請求権等につきましては,受託者と受益者との間の個別の合意によって発生するものとの考え方をとる場合におきましては,受益権は権利の総体と位置づけることになりますので,そうすると,受益権の放棄というのは単なる権利の放棄にとどまることになりまして,これを放棄できることは,義務の放棄を伴うものでない以上,いわば当然のこととして,規律をあえて設ける必要性は存しないということにもなりそうでございます。


しかし,受益者一般についてはそのように言えるといたしましても,信託行為の定めにより自己の意思とは無関係に受益者として指定された第三者につきましては,信託におきましては民法の一般原則とは異なり,受益の意思表示を要することなく当然の利益を享受するとしておりますので,その反面といたしまして,その受益の強制を継続されるわけではないということ,すなわち,信託においても利益であっても放棄できることを明らかにするために,受益権の放棄に関する規律を設ける意味があると考えるわけでございます。


  また,受益者として指定された第三者によって受益権が放棄された場合の効果,すなわち受益者が既に受けた利益はどうなるのかという点を明らかにすることは,他の受益者や帰属権利者との間の法律関係の錯綜を防止することにもなると思われるわけでございます。
 

 そこで,第49の2におきましては,受益者として指定された第三者は受益者を放棄することができまして,その場合の効果といたしましては,その第三者は当初から受益権を取得しなかったものと見なす,すなわち受け取った利益は信託財産に還元されることになって,他の受益者ですとか帰属権利者の利益になることを明らかにしたものでございます。

  なお,これによりますと,今,申しましたとおり,受益者を放棄した第三者が放棄の時点までに受けた利益は不当利得として返還することになると思われるわけでございます。

  以上が第49の変更についての御説明でございます。

  続きまして,33ページの第50につきましては,特段変更ございません。

  それから,第51,受益債権と信託債権の優先劣後関係について,新たに1項目を立てました。

  これまでは,主として破産に関する規律の整備のところで議論をしていただいておりましたが,前回部会において,両者の優先劣後関係について同順位とする見解と受益債権が劣後するとの見解の双方でかなりの議論をいただいたこと,それから,優先劣後関係というのは,信託財産に係る破産手続との関係のみで問題になるものではなくて,終了その他,種々の局面で問題になり得る重要な事項であることにかんがみまして,ここでは新たに独立の項目として取り扱うことといたしまして,しかしながら,両案併記をして意見を問いたいと考えている次第でございます。

  第52でございますけれども,これにつきましては2点ほど御説明をいたします。

  いずれも1の(3)にかかわる点でございますけれども,まず,受益者の所在が不明である場合の基準時につきまして,これを明らかにする観点から,時効期間の経過時が基準時であることを明示することといたしました。


この点につきましては,受益債権の時効援用と忠実義務の抵触を図ることが目的であることにかんがみますと,受益者の所在不明の基準時は時効援用時とするのが合理的であるという考え方もあるとは思うのでございますが,しかし,受益者の所在不明の基準時を時効援用時といたしますと,事後的に真実の権利者であると称する者が請求してきた場合には,時効援用によってこれに対処することが困難となると思われますので,時効期間経過時を基準時とするのが合理的であると考えまして,これを明確化したわけでございます。


  それからもう一点,細かい点でございますけれども,1の(3)で,従来は「通知をしなかったことについて正当な理由がある場合」ということにあわせまして,受益債権が存在しないと信ずるに足りる相当な理由がある場合との例示をしておりましたが,これは同じようなことを書いているということで,削除したわけでございます。


もっとも,これが正当な理由がある場合に該当することについては変更はございませんので,補足説明で,そのような場合も含まれることを例示しておこうと考えている次第でございます。


  最後に,委託者の関係でございますけれども,これは1点だけでございます。

  35ページ,第53の2,委託者の地位の移転でございますが,前回の提案におきましては,委託者の地位の移転に関しまして,これと同様の考え方を提起していましたところ,特段の御異論もなかったものでございますので,そのとおり,全関係者の同意があれば移転することを妨げないことを,2に明記したという点でございます。

  とりあえず,以上でございます。
● それでは,ただいまの委託者の権利のところまでで,御議論をお願いいたします。
  いかがでしょうか。


● まず確認の1点目は,第46の受益権の取得請求権でございますが,先ほど○○幹事の御説明で,前回提案の取得請求権が生ずる受益者の要件について,ちょっと書きぶりが変わっているということでした。


その中で,これはまさに解釈問題になるかもしれませんけれども,私どもにとって非常に重要なところなのでお聞きしたいのですが,個別の通知によって各人に照会がなされた場合については,賛成をした者,それ以外の者,要するに,明確に反対した者について取得請求権を認める,公告についてはだめですよというお話があったと思うんですが,これについては,いわゆるみなし賛成制度と呼ばれる部分についても適用されるのかどうかということです。

  長くなりますので,1つずつ切らせていただきます。

● みなし賛成の場合にも適用されると思いますが,みなし賛成といいましても,現行法でも公告によって,貸付信託法の場合のように,一定期間置いて異議がなければそのまま承認したものとみなすという場合もあるでしょうし,投信法のように,個別に書面を交付するという場合もあるでしょうから,みなし賛成の場合にも適用はあるわけですが,それが今,おっしゃった,個別の通知による場合か公告による場合かによって取得請求権を行使できる者が違ってくる,そういう理解でございます。


● 続きまして,第49の受益権の放棄でございますが,これもすみません,言わずもがなでございますけれども,前回の受益権の放棄の議論の中で,補償請求権というものが信託外の問題で,信託外のところで契約すればそれで認められるということで,それ以外についてはないといったお話だったんですが,これをそのまま踏襲しますと,2の方の案でいきますと,当たり前のことですけれども,信託の中には当然,補償請求権というものはないわけですから,信託外で契約が締結されたものについては信託上の法理で拘束されることはないということでしょうか。


  もうちょっと言いますと,一番最初,補償請求権はどういう形の場合にあるんですかということを合意すると思うんですが,当初の契約が書かれていればそれに常に拘束される,これは当たり前のことだと思うんですけれども,そういうことでいいのかどうかということです。


● 2の場合につきましては,権利ですから,利益を放棄することができるという意味があるということで書いているわけでございまして,別途受益者が受託者と合意することによって負担した義務は,当然に免れるわけではございませんので,ここで放棄できるのは,あくまで権利の部分だけでございまして,当然に,義務の方は放棄できるわけではない。

したがいまして,一たん合意したものについては,免除でもされない限りは引き続き負い続けると理解しているものでございます。


● それはもう完全に一般法の世界でということでございますね。
● はい。

● 3点目は委託者のところで,今まで余り議論がなかったと思うんですが,委託者の権利自体を放棄することは委託者の意思で,多分,特段の制限はないのではないかと考えておりますけれども,委託者が権利を放棄した場合については,例えば委託者,受益者,受託者の3者で合意しなければいけないようなものがあったときには裁判所の方に申立てをしないといけないのか,それとも,それを除く2者間だけで合意して決定してしまっていいものなのか,例えば契約で書けば何らかの調整が図れるものなのか,そこら辺のところをお聞かせいただければ。


● それは,委託者の同意を不要とした信託行為,信託契約の趣旨によるのではないかと思われまして,その趣旨が,あくまで委託者の同意権を行使しない,同意を要しないわけではなくて,ただ行使しないという趣旨であれば,それはやはり委託者から同意を得られない以上,裁判所への申立てが必要となるわけでございますし,委託者の同意をそもそも要しないという趣旨で放棄したのであれば,それは受益者と受託者のみの合意によって,例えば信託の変更などができることになるのではないかと考えているわけでございまして,あくまで信託行為の中での放棄の定め方によるのではないかと考えているわけでございます。

● 当初の信託行為の定め方によって決せられるということで,後から委託者の意思によって決定されるわけではないということですか。放棄の趣旨というのが。


● 当初,信託行為で書いておけば問題ないわけでございますが,そこで書かなかった。そして後から「もう要りません」と言った場合ですね。


それは,やはり放棄の趣旨ではないかというわけでございまして,厳密に言えば信託の変更に近いものでございますが,そこまで言わなくても,委託者の放棄がそもそも自分の同意を不要とするような趣旨での放棄であれば,あと2者だけでできると考えてよいのではないかと考えております。


● もう一点は,要請事項でございます。ここの部分で申し上げた方がいいのか,ほかの部分かよくわかりませんが,合同運用について,この試案を見せていただくと別立ての項目が以前と比べてなくなってしまっているということがありますが,合同運用につきましても,私どもの方の関係からすると非常に重要な事項でございまして,この場においても,例えば信託行為の定めを要件とすべきかとか,要件とすべきとした場合についてはどのような効果が生じるのかといった議論がなされたと思うんですけれども,そういう観点から,何らかの形で別立てで,例えばパブリック・コメントを求めるとか,それがなかなか難しいとすれば,例えば複数受益者の中の一部分で,一般的な形で「合同運用については,こういうふうに考えているんだ」といったことを設けていただけないかということでございます。

● 最後の点につきましては,合同運用,確かに大項目としては消えておりますが,情報入手のところと信託の変更のところでは,これまでの議論の成果を踏まえて記述しているわけでございまして,これに対するコメントをいただければよろしいのではないかと思っておりますが,それでよろしいでしょうか。

● 合同運用というもの自体をどうとらえて,どう考えていくのかというのは一つの重要な問題ではないかと考えておりまして,もう少し一般的にといいますか,変更のところで言及されている部分を敷衍していただくとか,受益者複数のところでもいいと思うんですが,個別の部分に入るということではなくて,もう少し一般的な形で記載いただければと考えておりますが。最終的にはお任せいたしますけれども。

● では,分別管理のところで少し丁寧目に記載させていただくということで対応させていただきたいと思います。


● ほかにいかがでしょうか。

● 第50,51,52に関連して,特に第51なんですけれども,ここで「受益債権」という言葉が登場していますが,この「受益債権」という言葉が何を意味するのかわかりにくいところがありますので,この範囲についてきちんと説明する文を加えておいた方がよろしいのではないかという気がいたします。
  


特に第51において,ここで「受益債権」と言った場合に,株式に例えれば既に確定した配当のようなものだけを指すのか,あるいは残余財産を享受できる部分も指すのかで,かなり違った結論になり得ると思いますので。


● 御指摘を踏まえて,そのような方向でわかりやすく記載するように努めたいと思います。


● 今のこととの関連ですが,「受益債権」という言葉がわかりにくい理由のもう一つに,43ページに「残余財産受益者」という概念が新たに出てきまして,そこで「残余財産の給付を内容とする受益債権」という概念も出てまいります。

このことと劣後的受益債権の関係が必ずしも明確でないようにも思いますので,これも含めて,受益債権には幾つか種類があると思いますから,その順番を明確にしていただければと思います。


● 恐らく,確定したもの,未確定の配当請求権のもの,残余財産分配請求権のようなもの,いろいろそのようなものがあると思うので,そこら辺がわかりやすくなるような記載に努めたいと思います。


● まず,第46につきましては,繰り返しになると思いますけれども,本件についてはセキュリティ・トラスト等,いろいろ重要な問題もありますので,丁寧な説明をお願いしたいということでございますが,とりわけ第46の⑥受益者間の衡平を害するものについて,丁寧な説明をお願いしたいと思います。


  この点については先ほどの御説明もありましたし,従前の資料もございましたけれども,特に1点,例えば信託行為にあらかじめ定められた条件範囲で変更権者が変更を行う場合において,それはあらかじめ関係者が甘受したものであるということなので,受益者の衡平を害さない,よって,特別決定事項ではないと考えられるかどうかについては実務上,重要でございますので,その点について,もし今,御意見があればお伺いしたいですし,その点についての御説明を補足説明でお願いしたいと思っております。


  それから,第51でございます。

  これについては確認したい点と意見がございますが,まず,第51につきましては,そもそも今回,初めての提案ということでございまして,その中で,この提案の中身が一体どういうものなのかということについて,これも同じ話ですけれども,丁寧な御説明をお願いしたいと思っております。


  特に,「同順位」というのが一体何を意味しているのかについて,私自身よくわかっていないところもありますものですから,そこを御説明いただきたいと思っているわけですが,例えば,貸付信託における総合配当率のように,信託利益をあらかじめ定めた場合に,信託決算前に既に信託利益請求権が存在しているということを前提としていて,それについても同順位であると考えるのかということです。


  そうすると,ちょっと私の理解とは違うんですが,つまり,信託利益とはそもそも信託財産から生じた利益相当額から信託費用相当額を差し引いたもの,それから生じるというものですので,ある意味,株式の配当みたいなものでございますので,そうすると,あらかじめ定めたものについてまで同順位であるということは,若干実務感覚から離れているのかなとも思っております。

  乙案にするとしても,例えば,信託終了時の残余財産の給付を内容とする受益債権は除くという,その他のものとしては同順位にするものとか,多分,乙案の中身について何らかの制約をするか,また,乙案について説明する必要があるのではないかと思っております。
  

2つ目に,これは意見にもなるんですけれども,第51に「乙案を採用した場合においても,」云々という注書きがございます。


先ほど申し上げましたように,乙案というのは原則的な扱いとはちょっと違うのかなと思っておりますし,また,認可という観点からは「こういうものもできる」というのもいいかもしれませんが,ただ,実際の原則的な扱いをしようと思った場合,つまり乙案を前提とした場合で,劣後契約を結んでいわゆる劣後関係を確立したいという場合に,信託行為によってそれを可能ならしめるのかということについて,(注)は若干そこにちゅうちょを覚えたような表現になっていることに不安を覚えております。


  すなわち,「劣後特約が一律に効力を有しないことにはならないことを前提としている」と書いてありますが,直截に「当該劣後特約が有効であることを前提としている」ないしはこういうふうに信託法を直すのであれば,そういう劣後特約が有効であることを確認ないしは総説するようなものが必要ではないかと思っております。

  何となれば,通常の劣後特約,これは一般的に有効と考えられていますけれども,あくまでも債権者と劣後となる者との,受益者との合意となりますものですから,そうしますと,すべからく信託債権者と契約しなければならないのかということもありまして,それはなかなか実務的に難しいという話だと思います。

そうすれば,やはり乙案で原則的な劣後関係を結ぶという場合には,やはり信託行為で規定することによって劣後契約が有効であるということにならないと,実務的な対応としては,ちょっと不安が残るのかなと思っておりますので,ここはそういう前提ということをお願いしたい,ないしは確認したいと思っております。


● 何点か御指摘ありました受益債権と信託債権との優先劣後関係について申し上げたいのですが,まず,残余財産の分配を内容とするような受益債権と信託債権との関係,それから,そうではない,その残りの確定した受益債権とよく言われるようなタイプのものとでは,少し取り扱いが違うのではないか。

つまり,残余財産の受益債権との関係は,当然に劣後するという関係ではないかというのは御指摘のとおりだと思います。


  ただ,事務局の方でそこに特に差をつけませんでしたのは,実質的には確かに劣後的な取り扱いにはなると思うんですが,ただ,それはあくまでも,残余財産の分配ということは信託債権者に対するいわゆる清算的なものが終わった後に発生するということから来ているのであって,いわゆる「優先劣後関係」と言うときの優先劣後ではないのではないかと考えたので,特にここでは整理しなかったということでございます。


  ただ,補足説明におきましては,いずれにしましても2つの種類に分けて,その関係を明示させていただきたいと考えております。
  
それから,○○委員から御指摘がございました(注)のところでございます。

  確かに「一律に効力を有しない」と書いているのですが,ここで申し上げたかったのは,劣後特約も一部の債権者との間の劣後特約みたいなものは,破産法などとの関係では必ずしも効力を有しないというか,そのとおりに扱われる余地はない場合があると一般的に言われているところに配慮して書いているものでございますので,そのあたりも補足説明の中では詳しく説明させていただきたいと考えております。

● あと一点補足いたしますが,取得請求権のところで「衡平」という言葉について,信託行為で定められた裁量権の範囲の場合はどうかというお話がありました。
 
 この場合,事務局といたしましては,裁量権の範囲での受託者の行為によって差が生ずるという場合は,ここの衡平を害する場合には当たらないであろう,したがって,取得請求権は発生しないという方向でいいのではないかと思っておりますので,その旨を補足説明で記述していきたいと考えております。
● ほかに,いかがでしょうか。


● まず,第44の受託者監督人について,既に以前の部会で議論はしているんですけれども,受託者監督人が受益者の認められた権利を行使することができるという趣旨--これはこれで構わないんですけれども,これが代理人としてなのか本人としてなのか。この辺は補足説明の中で議論されるのかもしれませんけれども。
  

あと,仮に裁判上も行使できるとなりますと,弁護士会という視点もあるかもしれませんけれども,訴訟信託的な部分もちょっと出てくるものですから,その辺の性格づけというか,定義づけを。制度としては全く反対ではないんですけれども,ちょっと確認したいと思います。
 

 あと,これは確認的なことなんですけれども,第48の「善意の第三者に対抗することができない」民法と同じということで,それはそれで全然問題ないと思うんですけれども,判例上,民法の場合,例えば重過失もこの善意で読み取っていると思うんですが,全体を通じて,「善意」とか「知っている場合」と言う時に重過失をどこまで入れるのか。


場合によって重過失が入っている例と入っていない例があったりしますので,その辺は,なるべく民法の表現に合わせるというところで,あとは解釈論等に委ねるということなのかどうか,全体を通じてもうちょっと,そういうポイントがあり得るのかなと思った次第です。


  3番目は,既に事務局から回答いただいたところとほぼ同意見なんですけれども,先ほど○○委員からあった第51の受益債権の取り扱いの乙案について,やはり信託債権,受益債権というのは,債権であることは,もうこの部会における議論では一貫して通しているわけですから,その内容として,配当受領権ということを1つおっしゃっていましたけれども,それは金銭債権的な性格を有しているところの受益債権の金額的な評価の議論という点もあると思いますが,条件的な面ということもあると思いますけれども,それによって債権があたかも株式のように法的な性格として劣後化するというのは,何か乙案自体がまたわかりにくくなるのかなと思います。


いろいろな考えがあるとは思うんですけれども。ですから,やはり債権である以上は債権としての規律という意味で,乙案,先ほどの事務局からの回答がよろしいかと思います。
 

 前回,前々回でしたか,この辺は当部会で議論して,例えば信託財産の社債というんですか,信託債というものが認められれば,多少この現実的な需要が減るかもしれないという議論もあったかと思うんですけれども,現実において受益権というのが金融商品として,あたかも社債的受益権として流通しておりますし,受益権の監督的機能というのは,単なる債権以上に重要なものだと思いますので,それが場合によっては劣後化するということになりますと,実際に行われている実務にも,逆に悪影響--先ほども実務に悪影響すると言いましたけれども,違う実務に対しては非常に悪影響すると言いますので,その辺はよろしくお願いしたいと思います。


● まず第1点の,受託者監督人の権限行使はだれの名でするかという点でございますが,かつての資料には「自己の名」と書いてあったものもあった記憶がございますが,これは受益者が現存している場合でございますので,受益者の名で行う。したがって,一種の代理人的な形での権利行使になると考えております。
  


そうしますと,訴訟信託のように本人になるわけではないので,訴訟信託のような問題は生じてこないのではないかと考えているわけでございます。


  それから,悪意あるいは重過失の書きぶりが整っていないという点は,まさにおっしゃるとおりでございますが,なぜか信託法は悪意・重過失を明示しておりまして,したがいまして,詐害信託のところですとか取消権のところは,それに倣って「悪意・重過失」と書いておりますし,今,御指摘のあった受益権の譲渡につきましては,一応民法の規定に合わせて「善意」と書いているわけでございますので,提案としてはこのとおり,今までの文言を踏襲して,あとは必要がある範囲で適宜,補足説明で対応するということで御容赦いただければと思っております。

  最後の点につきましては,御意見を踏まえて,第51の整理に当たって検討して,補足説明に反映させたいと考えております。


● 第48と第53かな,受益権の譲渡と委託者の地位の譲渡というか,移転について,これはあるいは受益権が有価証券化される場合の後の方の規定と関係するかもしれませんが,一部で投資家が受益者兼委託者というんでしょうか--になっている場合で,特別法で有価証券化されている場合が多いかもしれませんけれども,受益権が移転されると委託者の地位もついていくというのが普通の取り扱いだと思うんですけれども,現在の要綱試案の考え方は,第48で譲渡したら,第53で「委託者の地位もついていきます」とあらかじめ信託契約に書いておけばそれでいいのか,第53を見ても,何か受託者の個別の同意が要るように思えたりして。
  


あるいは,有価証券化されているような場合にはデフォルト・ルールとして,ただ,これも委託者兼受益者の場合ですけれども,原則ついていきますと。


ただ,信託行為で残したい場合は残すこともできますというようなことは,今の要綱試案では無理なのかというあたりを教えていただければと思います。

● まず,有価証券化された場合について申し上げますと,50ページのあたり,(注2)の一番最後のところに「受益証券の譲渡に伴う委託者の地位の承継に関する規律等を整備する」と。


この中で,○○委員から今,御指摘のあったような当然移転というものができますよという規律を設けますということを書こうかと思っております。


  また,今,申し上げました信託法の定めで委託者の地位も移転できる。これは恐らく問題ないところかと思いますので,それもまた当然,信託行為で書けばいいという前提でございます。


委託者の地位の移転のところにつきましては,特に一身専属的であるということなどを強調されて,委託者の地位の移転ができないというような見解も非常に強いところかと思いますので,その中で最も問題が少ないであろう3者の同意というのを書きまして,これをやれば移転することを妨げないのだと。


そこだけ確認して,もちろん,では,その余の部分が反対におよそ何もできないのかというと,そうではなくて,そこは先ほど申し上げたような話があるという前提でございます。


● 第45と第47の関係についてでございますけれども,先ほどの御説明の中で,例えば受益者集会の決議事項について,任意的な決議事項も認める趣旨であると言われたと思うのですけれども,信託行為に基づいて,何か新しい権利を認めるというような場合に,第45が適用されることになるのかどうか。


表題を見ますと「信託行為の定めによる受益者の権利の制限」この「信託行為の定めによる」というのは,恐らく制限だけにかかると思うのですけれども,この信託行為で創設した受益者の権利,これの制限については第45の射程の外であると理解していいでしょうかというのが第1点目の御質問であります。

● 信託行為で単独受益者権として創設した場合でございますか。そのような権利を単独として付与しているという積極的な意思表示をしている以上は,それを制限することは難しいのではないかと思われるというのが直感的な印象でございますが。

● ここに挙げられていない権利を信託行為で創設したときには,それはもうどのような内容,単独にするのか多数決にかかわらせるのか,それはもうすべて信託行為で自由に決めることができる,そういう前提ですか。


● そこは信託行為の定め次第ではないかという理解でございます。

● 今の御質問は,そのように信託行為である権利を創設したときに,権利の行使方法について定めが置かれていない,そういう信託契約がもしあったときに,そのような受益者の権利の行使の方法,つまり単独受益者権なのか,それとも多数決にかからしめられるのか,それは信託行為の解釈ということになるかと思いますけれども,デフォルト・ルールはあるのでしょうか,それともこれは,もしそういう定めがなかったときにはどのようにして受益者がその権利を行使すればよいのでしょうか。


● 今までの事務局の考えでは,特にデフォルト・ルールを設けるわけではなくて,まさにおっしゃったとおり,信託行為の解釈によるのではないかと考えているところでございます。


  余り明確な答えができなくて恐縮でございますが,信託行為の解釈次第かなという理解でございます。


● 御確認したいのは,そのときに第45がかかってきて原則は単独だということには,もちろんならない,そういう理解でよろしいでしょうか。


● それは,なりません。


● 2点目の御質問でございますけれども,受益者集会の制度と,それから受益者集会制度以外のその他の方法でという点の区別に関する御質問でございますけれども,書面投票制度については所要の規定を整備するということでございます。


それは31ページの(注3)に書いてございますけれども,例えば書面投票ではなくて書面決議というのは,受益者集会の枠の中で,その任意法規性の中で決められることと理解していいのか,それとも,これは受益者集会の枠は超えてしまって,第47の1に戻ってその他の方法になるのか,その点。


  すなわち,書面決議の場合には,場合によっては物理的な集会は開かない,みんなとにかく書面だけで意見を出して,そこで決めてしまう。物理的な集会が必要か,必要でないかという点で,ここの(注3)で想定されております書面による議決権の行使とちょっと違う面があると思いますので,書面決議ということまで受益者集会の任意法規性の中で認められる趣旨かどうかを御確認するとともに,みなし賛成制度についても同じような御質問がありまして,このみなし賛成というのを受益者集会の中に組み込む,任意法規性の中で組み込むことが許容されると解されているのかどうかという点について,御確認させていただければと存じます。

● 御質問の趣旨が十分把握できているかどうかわかりませんが,結論的なところだけ申し上げますと,書面による決議の制度,投票ではなくて決議の制度であれ,みなし承認の方法であれ,そこは受益者集会以外の方法として,いわば総論的に信託行為で定めれば,そのような制度を導入することも可能ではないかと考えているわけでございます。


  あと,我々としては,前の提案では書面による決議制度についても一応の規律を多少設けておりましたが,ここでは一つのサンプルにとどまるわけでございますが,受益者集会の規律のみを定めまして,あと,その中で利用できるものについては,書面決議等についても満意を図っていただきたいという趣旨で考えているところでございます。

● ほかには,いかがでしょうか。

● 第46の受益権取得請求権について,先ほど御意見があった⑥に関しては「受益者間の衡平を害する受益債権の内容の変更」と要件は設定しておりますが,この点については前回の御提案の中で,少数者は多数の決議に従うべきだということで,一理あるかなとも思うんですけれども,他方で,受益者の立場からしますと,この規律によりますと,受益債権の内容が衡平を害さない形であれば,いかように切り下げられても受益権取得請求権を行使できないということで,やや受益者にとって酷なのではないかという気がしております。受益者が,多数決によって受益債権の内容の切り下げを甘受しなければならないリスクを負わなければならないのではないかということで,全体の御議論等あろうかと思いますけれども,できればここについては,例えば「受益債権の内容の重大な変更」とか,そういった形での規律というのは案としてあり得ないかと考えております。
  

これは意見ですが,何らかの形で反映していただけると助かります。
 
 2つ目は質問ですが,第49の受益権の放棄のところで,2の乙案を採用した場合。

御提案の内容は,当初から受益権を取得しなかったものとみなすということになっておりますが,この乙案を採用した場合に,受益者の方で将来のものだけを放棄することはできないのだろうか。その点の可否について教えていただければと思います。


  もう一つ,第53,私益信託における委託者の権利義務等について,これまでの議論の経緯の中で,原則として委託者には監督権限等を与えないことをデフォルト・ルールとするという提案になっておりますけれども,特に弁護士会等で議論をしておりますと,やはり民事信託等の場面では,例えば受益者が未成年ですとか障害者である場合には,むしろデフォルト・ルールとして監督権限があるといった形の規律があった方が助かるといった意見も出されております。

  そこで,そこを合理的な形で,何らかの形で限定して委託者に権限を残すということは考えられないか。


例えば,受益者が未成年ですとか受益者がいない場合とか,あるいは受益者が障害者等の場合に限って,デフォルトとしては監督権限を付与するということは考えられないかということで,そういった点についても,もし可能であれば御検討いただければと思います。


● とりあえず思い当たるところでコメント申し上げますが,まず,一番最初の「衡平を害しない」の解釈については,1度事務局の方で検討して反映させるかどうか考えたいと思いますが,ただ,一律に受益権の内容を不当に切り下げるというのは,場合によっては目的の変更に当たってしまうのではないか,そちらの条項で規律される場合もあるのではないかという気がしております。


  あと,未成年者等につきましては,監督の必要性が高いというのはまさにおっしゃるとおりでございまして,御指摘のとおり,その場合に委託者の権利を残すというのは,一つの方法としてはあり得る選択肢ではあるわけでございますが,では,いかなる場合について切り分けるかというのがなかなか,未成年者ぐらいでしたらわかりやすい,あるいは,例えば目的信託等とか公益信託とか,そういう類型的なものであればいいのでございますが,保護の必要性が高いときには委託者の権利を残すというのは,なかなか切り分けが難しい。

  そういたしますと,他方,御承知のとおり,受託者監督人というような制度も設けておりますので,そのような保護の必要性が高い受益者が出てきた場合には,利害関係人が監督人を選任することによって,委託者にかわってといいますか,委託者が本来やるべきような行為を受託者監督人が行使することによって,受益者を保護するという考え方があり得るのではないかと思うわけでございます。


● 受益権の放棄については,私の理解が不十分だったのかもしれませんが,この乙案を採用した場合というのは,補償請求権というのは信託の外側になるので,それとはリンクしない……

● ここで提案いたしましたのは,自分の意思に反して利益を強制されることはないという原則が民法第537条にありますので,信託行為に定めを置くことによって第三者に利益を強制するのはいかんだろうということを考えておりまして,将来分についてだけ「もうもらいませんよ」というふうにする,それはできるのではないかとは思いますけれども,信託行為で定めて「もう絶対あなたにはこの利益をあげます」ということを書くのは無理でしょうということを書いているんですけれども。


● 先ほどの○○幹事の質問で,受益者集会とか受益者が複数の場合の意思決定方法についてのところなんですが,31ページの(注1)で書いている「所要の規定を整備するものとする」という「所要の規定」は,完全な任意法規として整備するという趣旨ですね。


  そうすると,例えば招集通知を行わない受益者集会というのも構わない。余りひどくなったら,そういうのはそもそも意思決定方法とは言えないからだめといった一般法的な公序良俗,今,何も規定のないような種類の団体の集会というのは,そういうふうに判断されるんですが,そういうふうにやる。


ただ,デフォルト・ルールに則れば,方法としてそれ自体が不適切なものとは判断されないという程度のありがたみのあるデフォルト・ルールを用意する,そういう御趣旨ですね。確認ですけれども。

● そういう趣旨でございます。

● 27ページ,第44,信託管理人等についての2番,受託者監督人の(2)で,「受託者を監督するために受益者に認められた信託法上の権利(第45の別表「受益者の権利」参照)」と書いてありますが,これは28ページの受益者の権利から1番,2番を除いたもの,そういう理解でよろしいんでしょうか。
● そのとおりでございます。

● それから,30ページの(注2)「特別決定事項に係る信託の変更権限を第三者に委ねた場合において,」こういう場合は受益権取得請求権の行使を認めるという記載ですが,これはまだ御説明されていない第54の信託の変更についてというところと関係しますけれども,第三者に特別決定事項に係る信託の変更権限をゆだねることができるかどうかについて,まだ検討するというような位置づけだったような私の記憶なので,ここは「第三者に委ねることができるとした場合」とか,そういうような意味なのかなと思ったんですが,ここは「委ねることができる」という前提をとったということなんでしょうか。


● 今,御指摘の点でございますけれども,変更のところに関係するわけでございますが,後ほど御説明いたします変更の本文では,変更権を委ねることができるということを提案しておりまして,それを前提に書いているのが,この(注2)でございます。


  ただ,第54の変更のところの(注2)で,変更権限を全然付与しないという選択肢はないと思っておりますが,一部制限することもあり得るということを付言しておりますので,そのような場合には,ここの(注2)も当然それに連動して影響を受けてくるということで,一体として読んでいただければわかるのではないかと考えております。


● 受託者監督人の関係で,(1)の②,裁判所が選任する方法のところで「受益者が受託者を十分に監督することができないおそれがある」云々というところ,ここに言う受益者というのは,個々の受益者というよりも受益者全体を見て十分な監督が期待できない,そういうものという理解でよろしいでしょうか。


例えば十分に監督ができないような場合として,後見が必要なケースだとかそのような場合にも,後見人という形ではなく,受託者監督人という形で選ぶことができるということなんでしょうか。

  私としては,そういう個別的な利益を保護するという制度と,それから,受益者全体としての利益を保護する制度というのはちょっと違うのかなと理解しておりましたもので,これは全体としての受益者の利益の保護のための制度--もちろん受益者が1人しかいないときは,それは当然1人だけの受益者の保護ということになるのかもしれませんけれども,そういうものだと理解していたんですけれども。

● 御指摘のとおり,ここで考えておりますのは受益者全部ということでして,受益者が1人の場合は,当然その受益者となります。


● よろしいですか。ほかにいかがでしょうか。それでは,先にいきましょうか。

● 続きまして,信託の変更と終了のところを御説明させていただきたいと思います。

  変更のところでございますが,御説明したい点は2点ほどございます。

  まず,これまでの提案におきましては,3者の合意を要しない信託の変更については太字の2でまとめて記載しておりましたが,ここでは(1)と(2)に分けて規律しております。


  このように区別して規定いたしましたのは,(2)は,受託者の関与なく信託の変更がされる場合でありますところ,これまでの提案のように,受託者に信託の変更の通知がなされる前にも信託の変更の効力が生ずるといたしますと,受託者の利益を害するおそれがあると考えられるからでございまして,したがいまして,受益者と委託者が受託者に対して変更の請求をするという形にいたしました。


その結果の効力の発生については,(注1)にありますとおり,その到達したときに形成的な効力が生ずると考えているわけでございます。


  2点目でございますが,(注2)につきまして,先ほどちょっと御指摘がありましたが,ここで合同運用信託のことについて記載しております。

  これは一定の内容の信託の変更について,例外的に変更の方法の定めを許さないとした場合には,合同運用を行う信託については自由度が相当程度損なわれかねないということを指摘したわけでございます。


その反面といたしまして,例外的な変更方法に対する制限を加えないとすれば,合同運用を行う他の信託の受益者との共同の意思決定制度を導入する旨の定めを個々の信託に置くことによりまして,あたかも一つの信託であるように同様の状態をつくることができると考えておりますことを注で付言させていただいたところでございます。
  続きまして,第55と第56でございます。


  ほとんど実質的な変更はないわけでございますが,ただ1点,非常に細かいところでございますけれども,第55の2の(2)で「第54(2(2)を除く。)」と。


先ほど言いました委託者と受益者で,信託の変更を受託者に請求する場合を除くとしておりまして,信託の分割の場合におきましても同様に,2の(2)を準用から除くという規律を設けております。


  信託の併合といいますのは,同一の受託者に係る複数の信託財産を,1つの新たな信託における信託財産とするものでございますが,受託者の関与がなく信託財産が変わってしまうのは妥当ではないと考えられますので,この2の(2)は除くことにいたしまして,両方で同じ手当てを行っているわけでございます。


  すなわち,請求を受けてというよりは,受託者の方がむしろイニシアチブをとって,合同運用主体となるべきではないかと考えているわけでございます。


  なお,これは単に語句の訂正ということで,将来的になるわけでございますが,ここで強制執行に関する第12の規定を,併合の中でも分割の中でも「第12の1(3)の①若しくは②」と書いてありますのは,先ほど御説明いたしましたとおり,第12の1の(3)及び(4)というように,いろいろなところにありますが,それは当然,全部平仄を整えさせていただく予定でございます。


  続きまして,信託の終了の関係でございますけれども,まず,信託の終了事由につきまして,これは6点ほど御説明申し上げたいと思います。


  第1点目でございますが,これまでの案におきましては,信託を終了させることが信託の目的に反しないことが明らかな場合において,受益者が信託の終了の意思表示を受託者に対して行ったときというのを挙げていたわけでございますが,これを削っているわけでございます。


すなわち,委託者と受託者が共同してでなければ終了の請求はできないということになるわけでございます。


  なぜかといいますと,信託を終了させることが信託の目的に反しないと言えるかどうかは,必ずしも容易に判定できないと思われますので,このような場合には,裁判所に対する終了の申立てによることが合理的であると考えられるからでございます。

  続きまして,これの反面といいますか,④におきまして,受託者が受益権の全部を固有財産で取得した場合についての終了原因の規律を追加しております。


  これは従来,利益享受の制限のところで,前の方で規律していたものでございますが,終了原因になるものであることを明らかにするために,ここに位置づけを明らかにしたものでございます。

  なお,かつての提案では「相当な期間」とだけ書いていたわけでございますが,その趣旨の明確化を図る観点から,「受益者と受託者を兼ねる状態を解消するのに必要な期間を超えて,」と文言を改めているところでございます。


  続きまして3点目でございますが,③にかかわる裁判所に対する終了申立ての点でございますが,これは従来「信託の目的に適合しないこととなった場合」というのを,「信託の本旨」に改めている点でございます。


ここは①と③で同じ「信託の目的」を使っているという点で重複があったわけで,説明がなかなか難しい点でございましたが,ここでは「信託の本旨」と,「信託の目的」よりもやや上位概念であります文言を使うことによりまして,③の場合と①の場合との違いを明確にする。

実質的には,①というのは当然に終了してしまう場合でございますので,その場合はいささか厳格に規律いたしまして,他方,③の裁判所によって終了できる余地は,もう少し柔軟に認めていくべきではないかという考えに基づいているものでございます。
 

 あとは(注1)(注2)(注3)にかかわる点でございますが,(注1)というのは,会社法で解散命令の規定が設けられましたので,それと同様に信託の終了をさせる規律を設けるかどうかを検討したいという点でございます。


  それから(注2)でございますが,これは「受託者の一部が欠け信託財産管理人が選任されている場合の取扱いについては,なお検討するものとする。」と書いておりましたところですが,ちょっと書きぶりを明確化いたしまして,補足説明の方の13ページにございますが,「受託者の一部が欠け,その任務を他の受託者が承継せず,かつ,新受託者が就任しない場合」というように改めて提案したいと思っております。


  その趣旨は,このような場合についても新受託者が就任しないまま1年が経過してしまうと,信託を終了させてしまうのかどうかという点が問題になりますので,この点を検討課題としたいということで,その趣旨は,一部が欠けて他に業務を承継する人がいない場合,したがいまして,形式的には⑤の場合に近いわけでございますが,そのような場合を終了事由として規定すべきかどうか検討課題としたいという点でございます。


  最後に,(注3)でございますけれども,これまでは,信託終了の事由は委託者,受益者または受託者がこれを相手方に通知したとき等でなければ相手方に対抗できないという規律を提案しておりましたが,この1に挙げる終了事由のすべてについて,このような問題が適用されるわけではない。


例えば委託者と受益者が共同して信託の終了の意思表示を受託者にした場合には,3者が当然知っているわけですので,このような規律が適用になる余地がないと思われますので,このような観点から,すべてに適用されるものでもないと考えられますので,規定の整備についてどのようにするかは,なお検討したいということを明記したところでございます。

  最後に,信託の清算についてでございますけれども,これにつきましては,細かい点でございますが,1点だけ補足して説明を申し上げます。

  といいますのは,43ページの5と6の間でございますが,実は,従来はここに清算受託者の信託財産から補償を受ける権利というのがございまして,「清算受託者は,補償を受ける権利に基づき,信託の終了事由が生じた後に受益者又は帰属権利者に帰属した信託財産について強制執行等をすることができるものとする」という規定を置いていたわけでございますが,これを削除したという点でございます。


  従来の提案の趣旨というのは,補償を受ける権利はあるけれども,それがわずかな額である。


他方,信託財産はかなりの巨大な額に上るというようなときには,とりあえずそれを引き渡しておいて,その上で,信託財産としての特定性が維持されている限りは強制執行等を許容するというものでございましたが,そもそも受託者としては,補償請求権,すなわち信託財産に属する権利を有している以上,その弁済を受けるまでは信託財産を引き渡さなくてもいいわけでございますし,また,受託者が受益者から費用等の補償を受けることができる場合には,このような規律に頼る必要はないと思われるわけでございます。


  また,受益者から費用等の補償を受けることができない場合についても,先ほど言いましたように,引き渡さないでいることですとか,あるいは個別の費用の補償につき合意を得てから引き渡す等の対応をすることもできまして,それによって受託者は損害を防止することができると思われますので,この規律については削除したところでございます。


  あとは,第59でございますけれども,信託財産の破産に関する規律の整備につきましては,これまでの審議の結果を踏まえまして,いわゆる有限責任信託を創設する場合には,信託財産の破産を設けることを本文に記載しました上で,それ以外の類型の,いわゆる一般的な信託についても破産制度を設けるかどうかについては,なお検討したいということを注で明記したところでございます。
  とりあえずは,以上でございます。

● ただいまの終了のところまでで,いかがでしょうか。


● 1点目は,信託の終了事由のところでございますが,先ほど○○幹事からの御説明で,終了事由のところで,信託を終了させることが信託の目的に反しないとされるかどうかは,容易に判定可能でない場合が少なくないということで,そこの部分を終了事由から削除されたということですけれども,一方,信託の変更の部分で,委託者の関与を不要とした形で信託の変更を認める際に,信託の目的に反しないことが明らかであるというような形のものを要件として入れられているということが1つと,もう一つは,裁判所が関与する場合につきましても,先ほど「信託の目的に適合しないこととなった場合」を「信託の本旨に適合しないこととなった場合」と変えられたということですけれども,信託の変更については依然,これは甲案に限定していますけれども,信託の目的に適合しなくなることという,ここの部分の平仄といいますか,ここについては特段の意味の変更があるのかないのか,そこら辺のところを教えていただきたいということが1点目です。

  2点目は,信託の清算について,これも先ほど○○幹事から御説明がありましたが,清算受託者の信託財産から補償を受ける権利というのが削除されているということで,ここについてはそんなにこだわりはないんですけれども,信託の結了時に費用の償還請求みたいなものが判明しましたというときに,そもそもこれは取れるものなのでしょうか。

例えば不当利得であったり,そういう理由でもってもともと取れるということなんでしょうか。


それであれば,別に,清算の受託者の信託財産から補償を受ける権利がなくても,それは取れるんだなと思うんですけれども,その辺のところを教えていただきたいと思います。


● まず,信託の終了の方では信託の目的に反しないことが明らかな場合を削った。

しかし,信託の変更の方では,信託の目的に反しないことが明らかである場合には受益者と受託者だけでできるという規律が残っているのはなぜかという点でございますが,ここは終了の方が変更よりも重大な事項であるということで,終了の方の要件を重くしていると理解していただければ結構でございます。

  それから,「信託の目的」と「信託の本旨」という言葉が食い違っているではないかという点がございますが,そもそも変更の方は両案併記という位置づけにとどまるものでございまして,必ずこの文言になると決まっているわけではないんですが,事務局の考え方といたしましては,信託の変更,特に管理方法の変更というのは非常に具体的,ある程度形式的なものでございまして,信託行為に具体的に書かれた信託目的によって左右されてしかるべきものではないか。


これに対しまして信託の終了というのは,信託自体を終わらせてしまうものでございまして,信託の管理方法の変更に比べれば非常に重大な事項でございまして,単に信託行為に書かれている具体的な目的にとどまらず,例えば信託が設定された経緯ですとか,それから関係者をめぐる周辺的な事情,あるいは社会・経済的な事情,判断が難しいことは重々承知の上で,しかし,そのような周辺的な事情も十分考慮した上で決すべきであるのがあるべき姿ですし,恐らく裁判所が認定するに当たっても,そのような周辺的な事情を全部考慮してやるのではないか。


書いてあることに基づいてのみ判断することはないのではないかということで,あえて上位概念である「信託の本旨」という文言を用いているところでございます。


  なお,最後に御指摘がございました,清算についての規律を削ったというところでございますが,確かに,渡してしまった後に債務が発覚するとか発生するとかいうこともあるわけでございまして,補償請求権ですかね。


その場合につきましては,本来渡すべきであったもの以上のものを返してしまったことになるわけでございますから,事務局としては,不当利得を原因として,引き渡された帰属権利者等に請求していくことはできるのではないかと考えておりまして,その点につきましては,補足説明で言及していきたいと考えている次第でございます。


● ここで言う補償請求権というのは,両論で挙がっています信託外のところでの補償請求というようなことを考えているのか,もともと信託財産に求償すべきものがてきていないような状態で渡されるのて,その分については,別にそういう特約がなくても請求できると考えてよろしいんでしょうか。

● 信託財産ですので,受益者の補償請求云々とは直接関係がないと思いますので,その甲案,乙案の問題とは別途,いずれにしてもできるという考えでございます。


● 今の御質問に対するお答えの確認をさせていただきたいんですが,目的と本旨ですか,先ほどの御説明によりますと,目的というのは信託行為に書かれた,ないしは明示された目的というようなニュアンスでお答えになられたかなと,そして本旨というのはもう少し上位概念で,信託行為が行われた経緯などなどからさらにもう少し広く,どういう趣旨で行われたのかというのを指すというようなお言葉のように受け取ったんですけれども,そういう理解で本当によろしいんでしょうか。


  「本旨」とか「目的」という言葉が出てきますのは,契約で言いますと債務のところでして,「債務の目的」という言葉も非常に多義的な言葉ではありますけれども,債務の内容と同義語で用いる場合というのはもちろんありますし,民法というのはそういう書き方をしているわけですけれども,しかし,債務の内容そのものとは別の意味で「目的」というのを使う場合もありまして,これが債権や債務というのは一体何のために,どういう目的で--まさに目標のようなものですね--で行われたのか,それを区別する言葉として使われる場合がある。


  ただ,その場合でも,目的というのはあくまでも契約なら契約の内容になっている目的,個々の当事者の主観における目的というのはもちろんありますけれども,それとは別に,やはり契約の内容になっている目的がどういうものであり,それがまさに債権,債務の内容を規定してくるという理解だと思うんですが,いずれにしましても,「目的」という言葉を使うときには,書かれているかどうかは別として,その契約の内容になっている目的ということなのだろうと思います。


先ほどの御説明は,その目的よりはもうちょっと狭い,「書かれている」というニュアンスなのかなという気がいたしました。


  そして,もう一つの「本旨」というのは,それとは違うと言われましたけれども,この本旨も,やはり契約の内容になっているものでないと考慮されないのではないかと思います。


そういう意味では,先ほど民法で申し上げた内容と区別された「目的」という言葉と「本旨」という言葉の間には,私は,本質的な差はないように思ったのですが,もう少しわかりやすく御説明いただけないでしょうか。


● 今,○○幹事がおっしゃった話と○○幹事の話,非常に難しい話を含んでおりまして,よくわからないところがございますけれども,まず,○○幹事は,先ほど債権,債務の目的というようなおっしゃり方をしたかと思うんですが,私どもはどちらかというと,例えばここで典型的に申しますと,これは「信託契約の目的」と置き換えられる話であり,あるいは「信託契約の結んだ本旨」というようなつもりで使っているのかなという気がしております。そこが1点。


ただ,それで結論において何か違いが生じるのかはよくわからないところもございますが,まずそれが1点でございます。

  そうすると,では,契約の目的といったときにどういったことを念頭に置くのか,あるいは信託の「本旨」か「目的」かで何か違うかというところでございますが,私ども事務局では,基本的には,「目的」と「本旨」は違いがあるのだという前提で考えております。

同質かどうかと言われると,性質的には余り変わらないのかもしれませんけれども,「本旨」の方が,より広いものを含む,つまり,広い内容を含むのだと。


この局面で申しますと,信託の終了というのは,まさにその契約を終わらせるべきかどうかという話でございますので,恐らくはその契約自体,あるいはこの契約の中で,受託者にどういう目的をもって信託財産の管理,処分に当たらせるのかというようなところとは少し違った事情を考慮しないと,その信託を終了させるべきかどうか判断しにくいのかなというようなところがございまして,その意味で,終了につきましては,「目的」というよりは「本旨」という言葉を使っております。


  繰り返し申しますと,信託の目的というのは,基本的には受託者に対してどういうことをさせることによって,何を得ようとしていたのかといった話かと思うんですが,「本旨」と言うのであれば,それよりはもう少し広い事情を含むのではないかと考えているということと,そういう事情も踏まえることが信託の終了の裁判所の判断の局面では必要になるだろう,そういうことかなと思っております。

● 「信託の本旨」とおっしゃっているものも,信託契約の内容であるということは変わりないのですね。
● 契約の内容であるということの……


● 一般的な一方当事者の意図とかそういうものではなくて,両当事者の,あるいは複数の当事者の合意された目的である,あるいは本旨であるという点は変わりはないのですねということです。合意の内容かどうかです。


● 事務局を代表した答えになるかどうか,ここに来るともうよくわからないのでございますけれども,合意というのが,もちろん○○幹事がおっしゃっているのは,信託契約に記載したとかそういう趣旨ではなくて,恐らく契約を実際に締結するに至るまでにどういう事情を説明して,どういうことで受託者が「では,やりましょう」と言ってというようなところをいろいろ考えて,そんなところに全然出てこないような話,出てこないような主観面をもって「信託の本旨」と言うわけではないのだろうということをおっしゃっているんだと思いますが,そうであるとすれば,私は,同じ答えになるのかなと。


  つまり,「信託の本旨」というのは契約の内容になっているという表現をとるべきなのかなという気がいたします。


  すみません,うまい答えになっているかどうか,よくわかりませんが。


● もう補足だけですけれども,非常に微妙な概念の使い方なので,事務局の中では一貫しておられるんだろうと思いますけれども,受け取り手の側で混乱し,あるいは多様な使われ方をしてあらぬ方向へ行く可能性もなくはありませんので,もしこういう言葉遣いを区別してされるのであるならば,やはり慎重に,言葉の説明はきちっとされるべきだろうと思いますし,可能ならば,余り混乱が生じないように統一した方がいいのではないかと個人的には思いますけれども,その程度でございます。


● 「目的」と「本旨」というのは,いろいろなところで苦労する概念でして,基本的には,単に一方当事者の主観的なものではなくて,やはりその信託を設定する……,契約で設定すれば,やはりその両当事者の何らかの意味での合意を本拠にする目的であり,また,本旨だと思うんですね。

  いろいろな場面で使われ方が違うと思いますけれども,信託の終了のあたりが,先ほど信託の本旨も考慮しながらということでしたけれども,例えば,目的が達成できるかどうかなんていうのは,まさにこれは目的であって,本旨とはちょっと違いますね。


そういうところは明確なんですけれども,どこまできれいに明確にできるかといあたりが難しい。
  これはまた○○幹事にいろいろ御意見を伺いながら,次のラウンドできれいにしていきたいと思います。


● 先ほどの○○委員の御質問に対する○○幹事のお答えのもう一つの方なんですが,つまり,払い過ぎていた場合に後から回収できるか,不当利得になるかという問題なんですが,それは第58の6との関係はどうなっているのだろうかという気がいたします。


  と申しますのは,6の最終計算でいきますと,払い足りない場合には,もはや払わなくていいはずなんですよね。にもかかわらず,なぜ払い過ぎた場合だけ取り返せるのだろうか。


計算書類を出して承認をしたら,それで終わりというのが6の趣旨なのではないだろうか,払い過ぎたときだけ取れるというのはおかしいのではないかと私は思います。


  今,ここで解釈論を決めるべきだとは申しませんけれども,必ずしもそういう結論にはならないのではないかということは,一言しておきたいと思います。


● わかりました。6の関係で,確かにそのような考え方もあるということにつきまして,補足説明で付記させていただくということでよろしいでしょうか。
● はい。


● 先ほど○○委員が話されたのは,ここで言っている信託の清算の議論なのかなと。

ある意味では信託契約の内容の議論であって,信託の清算というのはもう一歩後の議論なのではないかなと思います。


ですから,今の○○幹事の発言も,○○委員がおっしゃったシチュエーションというものが信託の清算であれば,承認の議論,出てきますけれども,そうでなくて,信託契約の内容としての信託事務の一環であれば,承認の議論は出てこないのかなと。


  なぜそんなことを申し上げるかといいますと,もともと確認しようと思っていたんですけれども,あと,前回これが議論になったときに,これをデフォルト・ルール化できないだろうかというようなことを申し上げましたところ,事務局の方から,契約の中で信託の終了または信託の清算という法的な決められたものとは別途,契約上の規定として行使すれば,それはそれで済むわけであって,それがない場合,また,そのさらに先にこれが行われる場合の規定だからというような雰囲気ではなかったのかなと思います。


そのときには受益権と信託債権の優劣の議論もあったので,非常に重要な問題かなと思っていたんですけれども。


  それで,同じことの繰り返しになりますけれども,とはいいながら,実際の信託契約の中では「信託の終了」という言葉も使われてきましたし,今後,信託法が改正になれば使いにくくなるのかもしれませんけれども。


  あと,実際にこの清算とは違った形で終了して,契約上の清算といいますかね,清算と言わないのかもしれませんけれども,現務の完了が行われまして,そうすると,基本的に恐らく受益者が,帰属権利者ではないんですけれども,受益者に対して信託財産が交付されるという状況になりまして,そうすると,全く空の信託が最終的に残っているという段階でこの規定が適用になる,こういう理解でよろしいかどうかということと,仮にそうだとしても,その場合には,この規定でいくと,空であっても,やっぱり帰属権利者が要るという理解になり得るのかなと。
 


 そうすると,委託者--あ,違いますね。信託事務の……,何を申し上げようとしたかというと,最終計算の清算のところで,受益者及び帰属権利者に対して承認を求めなければいけないというときの,空ではあるんだけれども,まだ帰属権利者を観念しなければいけないとすると,これでいくと,委託者になるのかなと思うんですけれども,そうすると,またここで,空の信託であっても委託者からの承認がもう一回必要になるというところで,本来,要らない委託者の関与というのが出てきてしまうのかなというあたりなんですけれども。

  今の規定ぶりがいけないとか,何か書いてほしいということではなくて,そういう信託契約の中で,この信託法の規定とは別途,信託の終了についての取り決めをすることについては,それはそれで有効であるというようなこととか,空になったときの帰属権利者というのは,本来どう考えるのか,その辺を補足説明あたりで議論していただければと思うんですけれども。


● ○○委員がおっしゃいましたように,実際上,契約をいろいろ操作することによって,契約の終了事由が生じる前にいろいろなことを整理するという定めがつくられることもあるかもしれません。


ただ,恐らく先ほど○○委員がおっしゃったのは,そういう形をとらないで,純粋にここに普通に乗ってくるようにした場合を言われていたのではないかと思って聞いておりました。


  それから最後,○○委員がおっしゃったような,終了事由が発生する前にいろいろな,実質的な意味での清算的な行為を済ませてしまおうということをやった場合にも,最後に帰属権利者たる委託者が出てきて計算の承認を受けなければいけないのではないか。


それはおっしゃるとおりではあるんですが,他方で,その委託者が出てくるのは法定帰属権利者として出てくるにすぎませんので,指定帰属権利者として適宜の受益者なら受益者なりがというのを定めることになるのではないかという気もいたします。


● 信託の「目的」,それから「本旨」について,追加して意見を述べさせていただければと思います。

  終了の事由として目的云々を当事者に判断させる,これはなかなか難しい話であるということが補足説明の方に書いてあるわけでございますけれども,当事者にとって判断が難しい,当事者がわからないものは裁判所にはよりわからないところでございまして,その場合に,やや危惧しておりますのは,例えば目的あるいは本旨とした場合に,裁判手続上の規範として機能するのかどうかという点が危惧しているところでございます。


  特に,目的にしましても本旨にいたしましても,かなり抽象的なものになり得ますので,例えば「目的」を「こういうふうに考えられる」あるいは「ああいうふうにも考えられる」となりますと,結局,個々の案件で「まあ目的に反するとまでは言えない」というような判断に落ち着いてしまって,せっかくこのような制度を設けたにもかかわらず,制度として機能しないことにならないのだろうか。


特に終了の関係で申しますと,「目的」よりも,より抽象的な「本旨」という基準になっておりますので,それが機能するんだろうかというところが危惧されております。


  ここについては○○委員も先ほど御指摘されましたけれども,その内容の具体化といいますか,そこを御検討いただければと。

  例えば,変更にいたしましても終了にいたしましても,このような手当てが必要とされるような具体的な状況があると思うんですね。

それぞれのそういう状況が生じる類型ごとに,例えばこういう場合,こういう場合といった形の例示でも結構だと思うんですけれども,何か立法の段階でもそのあたりを入れていただく等も含めて,御検討いただければと思います。


● 御指摘の点は検討課題として,補足説明で触れるか,あるいは今後,立法の過程で検討したいと考えます。


● まず,信託の目的と本旨の話に戻りましたので,一言コメントさせていただきたいと思うのですが,特に信託の終了の場合に,信託の目的よりもさらにレベルが高い概念として本旨というのを考えるというのは,例えばアメリカなどにおきましては,一定の節税の目的のために信託を選んだ。

ところが,その後,税制が改正されてしまって,信託契約を締結したまさにその信託の本旨,信託自体そのままやってくれて全く問題ないんですけれども,そもそも信託契約を選んだという,そこの本旨と申しますか,そのレベルで全く目的に適合しなくなったということはあり得るかと思いますので,私としては,言葉をどう使うかということはまた検討する必要があるかもしれませんけれども,
信託契約の内容とはまた別の次元での,何らかの本旨なり何かを観念するということは,意味のあることではないかと思っております。

  第2点目は,信託の変更についてでございますが,これは御要望でございますけれども,信託の変更における4の裁判所に対する変更の請求と,それから受益者集会で決議があった場合との関係について,これまでも申し上げさせていただきましたけれども,この両者の関係についてパブリック・コメントで聞いていただければと思っております。


  すなわち,受益者の意思決定の仕方も,受益者集会からその他の方法まで非常に多様なものがあるのですが,もし仮に非常に機能している受益者集会というものがあるといたしますと,そこで受益者集会が決定したにもかかわらず,他の受益者あるいは受託者等が4の要件を満たしているといって信託の変更を,あるいは裁判所に申し立てる。


例えば,受益者集会で変更しないと決めたときに,受託者がその変更を申し立てることもあるでしょうし,受益者集会の決議で破れた少数者が変更の請求を申し立てるということもあるかと思うのですが,私といたしましては,せっかく受益者集会で自治的,自立的な決定をしたにもかかわらず,そういう局面でまた裁判所に行く余地があるというのは,何となく受益者集会の制度,趣旨との関係で気になる点があります。


  ただ,他方で,受益者集会が大幅に任意法規化されるとともに,その他の方法が認められていますので,そういう意味では,最後は裁判所に頼る途が残されていることも必要だと思うのですけれども,一定の要件のもとで,38ページの(注3)に尽きているかとは思うのですけれども,裁判所に請求するための要件の中で,こういった受益者集会の決議等があった場合についても,ぜひパブリック・コメントで聞いていただければと思います。


● わかりました。
● 第57の1の①は★がついておりませんけれども,これは任意法規と考えてよろしいんでしょうか。

  そもそもこれが提案されたときに,これは現第56条に倣ったものであるという御説明があったと思いますけれども,現行第56条であると,第59条の反対解釈として,強行法規なのかなとも思っておりますし,また,2つ目に,これは本旨か目的かという議論にもつながるかもしれませんけれども,ある意味①というのは当たり前の話なのかなと思っておりまして,仮にこれが,この御提案のように★がつかない任意法規だということであれば,信託の目的達成が不能であったとしても信託は継続するというような信託を認めるのか,ないしは,そういうことを定めれば,それ自体全体が目的であるから目的の拡大がというふうに解釈するのか,そこら辺はよくわかりませんが,いずれにしても,この①は任意法規かどうかを確認したいというのが1点です。


  2つ目は,第59の破産でございますけれども,2つございまして,1点目は確認でございますが,注書きで「一般の信託についても整備するものとするかどうかについては,なお検討するものとする」ということでございますが,これは本文において,新たな信託類型としての有限責任信託を創設する場合において,なお検討するということなのか,仮に有限責任信託を創設しない場合には,この一般の信託ということは考えないのか。

また,これは全く別の問題として一般信託における破産を考えて,そのときの選択肢として有限責任信託の場合のみ定める,定めないという,そういうこともあるのか,どういう場合を想定されているのかをお知らせいただければと思います。

  2つ目は,できれば検討していただきたいというお願いなんですけれども,従前から私ないしはほかの委員からも,簡易的な清算手続を願いたいという御意見があったと思います。


よって,本文の試案として書くのか,補足説明としてそういう意見があったというふうに書くのかは別にして,「簡易的な手続ないしは特別清算に倣ったような手続についても,なお検討する」というようなものをお願いしたいと思っております。


● 最初の御質問は,強行法規でございます。①でございますね。★は,後で訂正します。

  それから,最後におっしゃいました簡易的な清算手続というのは,破産手続の簡易な方法といった御趣旨でございますか。

● 考え方として,もちろん清算手続の一環なのか,破産に関する規律の1形態なのか,また,その間の形態なのか,いろいろ考え方がございますけれども,一つの意見としてあったのは,特別清算に倣った手続ないしはそのような簡易な手続ということでしたから,そのような意見がパブリック・コメントにおいて承知できるように,補足説明,できれば意見として選択していただければありがたいんですが,それは別として,どこかに付言していただければありがたいと思っています。

● 最後におっしゃいました信託財産の破産の関係,簡易な手続を設けてはどうかというお話。


確かに議論がございまして,○○委員から簡易なものをというお話があったかと思うんですが,部会の中では,どちらかというと消極的な意見が多かったということで,本文には入れていないということでございます。


  ただ,おっしゃいましたように,補足説明の中でそういう御意見があったということは触れて,御意見をいただけるような状況にしたいと考えております。

  それから,先ほど聞き落としたところがございますが,注の関係で,一般の信託についてはなお検討しますということにしてあるところの……,すみません,何とおっしゃいましたか。

● 本文に「新たな信託類型として有限責任信託を創設する場合には」と書いてございまして,そこで注書きが出てきているわけですが,そこの関係がどうなのかという話で,あくまでも一般の信託における破産制度を考えるのは,有限責任信託が創設されることを前提としているのか,それとも有限責任信託の創設が,第59の提案でたとえ否決されたとしても,なお通常の一般信託において破産手続を検討することを考えられているのか,そこら辺はニュートラルなのか,そこら辺の御見解をお尋ねしたいということです。


● これは前回ですか,前々回かもしれませんが,部会で御議論いただいたところでございまして,有限責任信託を設ける場合には,破産の制度を設けることについては異論がない。


では,それ以外の場合についてどうするかというのはいろいろ御意見があったので,両様ですということでございます。


  恐らくその中では,有限責任信託を設けない場合でも,信託財産の破産を一般の信託に用意することはあり得る選択肢だろうと思っておりまして,特にそれを否定するつもりはございません。


ただ,そこはいずれにしても,なお検討する事項ということでございますので,パブリック・コメントでの意見照会の結果を踏まえて,秋以降また検討することになろうかと思います。


● 信託の変更の3で,別段の定めがあるときには変更の定めを認めるということで,(注2)で,変更することができる事項の範囲について制限を設けることができるかどうか検討することになっておりますが,制限を設けない場合について,従前の提案ですと乙案になろうかと思うんですけれども,その理解をしたいという趣旨の質問なんですが,その案によりますと,第三者に変更権限を与える規定というのは,一般的には民法の法理に反しない限り有効だと言った後で,その場合の権限行使がどこまで認められるかというのは,またもう一段,別の問題があるというのは第2読会等でも議論があったところかと思うんですけれども,その上で,こういった形の権限行使が認められるのか,あるいは限界に抵触するのかということで3点御質問したいと思います。


  1つは,権限行使をして信託契約の内容を変更するという場合に,契約の同一性がなかなか認められないようなものへの変更はどうなのか。


  2つ目は,信託目的の中で,目的に同一性が認められないものへの変更はどうなのか。

  3つ目が,受益債権を変更する場合で,合理的な理由がこれといってないにもかかわらず受益債権を引き下げるような変更が認められるかどうか。


  例えばこういった3つの点について,権限行使の限界という問題が生じてくるのか,その辺について御教示いただければと思います。


● ちょっと検討したいということですから,休憩後にお答えするということでよろしいでしょうか。

          (休     憩)

● それでは,先ほどの御回答から。

● 先ほどの○○幹事からの点でございますけれども,結局,信託の変更の権限を付与するのも信託行為によるものですから,信託の目的によって拘束されるものであろう。


そういたしますと,例として挙げられました同一性のないものへの変更とか,目的の同一性のないものへの変更というのは無理ではないかと思われます。

それから,受益債権の変更を合理的な理由もないのに一方的に切り下げるというのも,一般的な法理,権利濫用等の法理に照らして,やはり許されないのではないかと思われているというところでございます。


● それに関係して2つ御質問ですけれども,1つは,今のお話ですと,変更権の限界の根拠みたいなものがどこにあるのかということなんですけれども,結局,信託行為の定めによって授権の範囲が限定されるといった考え方になるんでしょうか。


それとも何かまた別の考え方になるのか,その辺の整理を教えていただければということ。


  それから,もし限界があるといった場合に,変更行為の効力についてはどう考えればいいのか御教示いただければと思います。


● 前者のお話,限界というのは,具体的な限界を設けるかどうかを提案にしているわけですけれども,そういうものがなくても,およそ信託行為を付与されるものである以上,終了のところでも議論があったわけでございますが,信託の目的の範囲で行使されるべきものであろうということで,その「目的の範囲で」というのが一種の暗黙の制限かなと考えているわけでございます。


  さらにその中で具体的に制限を設けるかどうかは,いろいろな議論があり得るのではないかと理解しているところでございます。


  それから,仮に違反した場合については,それは変更権限の行使が無効だということですので,変更がされていないものと同様になるのではないか。

したがいまして,関係者は変更がないものを前提に請求していくことができるのではないかと考えているところでございます。


● 今の変更権限の限界あたりの問題について,できればパブリック・コメントの説明の中で多少なりともコメントしていただけると,ちょっと議論がしやすいかと思うので,御検討をよろしくお願いいたします。


● その点は配慮したいと思います。
● 併合と分割について,1つは,例えば新規信託分割(仮称)というのは,後の方で信託宣言についてどういう立場をとるにせよ,これによる信託宣言と同じですよね。これは常に認めるという趣旨でよろしいかと。


  それから,もうちょっと一般的な質問の仕方をしますと,この効力発生時期はいつなのか。


注を見ますと,例えば,分割の方で言いますと「分割をする時期」と書いてあるんですが,これをアナウンスすれば,そのときに財産関係も移動してしまうのか。通常ですと,例えば有価証券の場合には,紙がある場合にせよ,振替制度の場合には口座ということですけれども,紙であれば渡さないと移転しませんし,口座であれば口座の記録を書き換えないと移転しませんけれども,この場合はどうせ受託者名義なわけですから,宣言すればその段階で,A信託から分離してB信託に移ってしまう,その移る時期は自由に決めていいということでよろしいかどうかというあたり。

  もう一点は,非常に細かい点なんですけれども,債権者保護手続を踏む場合の格別の催告というのを仮にしなかった場合には,その効果としてどういうことをお考えなのか。併合とか分割が無効になるということまでお考えなのか。

  これは感触で結構です。私が誤解しているかもしれません。

● まず1点目の,新規信託分割によって新たな……,受託者の中でその信託を分割するのが信託宣言になるかというお話ですが,すみません,ちょっと御質問の趣旨ですが,委託者と受託者が同一である信託を設定するのが信託宣言で,1つの信託財産の中にある信託財産に2つに分けて,A信託をa信託とb信託に分けて,それで受益者は別々に1つの信託に対して受益権を持ち続けるという話になるのですが,それが信託宣言かというのは,委託者は……,受託者が同一……。


● 厳密な意味での信託宣言そのものではなくて,信託宣言を設定するのに非常に近いではないかという御趣旨だったと思いますけれども。


● とにかく受託者の一方的な決定でできる場合があるわけですよね,手続としては。


ですから,受託者の一方的な決定で,いわば委託者の同意も何もなく,もちろん委託者も受益者も何もなく信託をつくり出せる,そういう意味ですね,今,○○委員がおっしゃったような意味で。


  そして,その時期まで選んでいいかというのが関連しての質問です。

● 時期については,差し当たりこの提案では,新規信託分割とか吸収信託分割をする一定の時期を定める定めの中で自由に定めまして,それで,その時期が来たら受託者はそういうような分別管理義務をしなければいけないという義務がかかっていくということになろうかなと。


したがって,それをしなかったことによって何かおかしなことが起きたら,受託者は責任を問われることになっていくのかなと思います。


  それから,債権者保護手続の関係につきましては,これも商法の債権者保護手続とどこまで平仄をとった考え方をするということだと思いますけれども,例えば併合で,債権者を害するおそれがないことが明らかでないにもかかわらず債権者保護手続をしなかったということであれば,原則に帰って無効だと考えるのが論理的であるかなとは考えております。

● いろいろな考え方があるのかもしれません。損害賠償だけで解決するとか,幾つか考え方があるのかもしれませんけれども,原則は無効にするということですかね。


  さっきの併合,分割と信託宣言というのは,恐らく時期が大きな問題で,同じ受託者でというか,右から左に移して違う信託にしてしまうということですから,ある意味で,外からよくわからない。


そういうことで,どの時期に信託が,あるいは別な信託になったのかはっきりわかった方がいいのではないか,そういう含意がおありだったと思います。信託宣言にも共通の問題があると思います。


  ほかに,いかがでしょうか。--よろしゅうございますか。
  それでは,先に進みましょう。


● 続きまして,民事信託に特有なルールというところ,第60からの御説明に移らせていただきます。


  第60は何も変更がございませんので,このままでございます。
  第61も,特に御説明すべき変更点はございません。

  第62でございますが,これは従前の部会で後継ぎ遺贈型の受益者連続の問題についての検討は重要であって,独立の項目として議論すべきではないかという御指摘が多々ございましたことを踏まえまして,新たに独立の項目として,部会での議論はまだ十分されていないことでございますので,とりあえずパブリック・コメントで意見を聴取したいと思っているところでございます。

  一般的に,受益者を複数の者にするのは後継ぎ遺贈型でなければ問題ないわけですが,ここで書いてありますような,夫が生前は自分を受益者とし,死亡後は妻を,妻の死亡後は長男を,まあだれでもいいわけでございますが,そのような第二次的な信託というんですかね,そこのところが後継ぎ遺贈型ということで問題になってくるのではないかと理解しているわけでございます。

  学説を見ますと,後継ぎ遺贈と受益者連続の信託は異なるんだから,民法上,後継ぎ遺贈が無効でも受益者連続は有効であるという考え方と,民法上,無効であるならば信託法上は有効だとしたとしても,結局,最終的には無効と解すべきであるという説があるところでございます。

  民法上,無効と解する説の重要な根拠は,1つは,存続期間を定めた所有権は認められないというものでございますが,しかるに信託法上有効という立場からは,これは,受益権というのは期限を定めることも,あるいは帰属者を変更することもできるのであって,期限付の所有権を創設するものではないという反論があるところでございます。


  一方,民法上,やはり無効であるという立場からは,後継ぎ遺贈というのは相続法上の秩序を意思で曲げるものであって,それは信託の場合であっても何も異ならないんだから,結局,民法でできないものが信託でできるというのはおかしいのではないかということで,無効とならざるを得ないと結論するものだと思われます。

  この点につきましては,まだこれから御議論を,特に9月以降いただくことになるかと思いますが,とりあえず,一つの問題として立てた上でパブリック・コメントに付したいということで,第62とさせていただきました。


  第63,第64は,いずれも相続人の権利・義務が特に重要になるところでございますが,いずれも変更はございません。


甲案,乙案両論併記といたしまして,とりあえず関係者の皆様の意見を聴取したいと思っているところでございます。

  次に,営業信託のところでございますが,第65は変更ございません。

  第66,有限責任信託につきましては,中身自体は何も変更はございませんが,(注1)のところで,この有限責任信託というのは何か一般の方にはわかりにくいのではないかということで,いわば定義的なものといたしまして,取引債権ですとか所有者責任のようなものについては限定される,そうでなくて第709条のような責任については,これは受託者の固有財産も責任を負うということを明らかにして,パブリック・コメントに付したいと思っているところでございます。


  それから,第67,有価証券化のところでございますが,ここの変更点はまとめて1点でございまして,2の(3)と(4)の,受益者名簿の作成と対抗要件のところでございます。


  今回の提案は,記名式の受益証券を発行したときは受益者名簿が要る,無記名式なら要らないというのが1点と,受託者対抗要件につきましては,記名式は受益者名簿の記載であって,無記名式は占有による。第三者対抗要件は,いずれも占有によるというものでございます。


  御承知のとおり,かつては対立する形で乙案として,無記名式でも受益者名簿を作成するとか,あるいは受託者対抗要件としては,無記名式でも名簿の記載によるといったような提案を併記していたわけでございますが,ここでの審議の結果を踏まえまして,従来の甲案に一本化させていただいた次第でございます。


  続きまして,第68から最後まででございますが,まず,信託宣言でございますけれども,甲案,乙案,丙案を併記してパブリック・コメントに付すところは従来と変わりがないところでございまして,重要な問題でございますので,一般の意見をいろいろ聴取した上で,最終的に部会の結論を出していただきたいと思っているわけでございます。


  ただ,ちょっと変えましたのが,(注)の2の最後のパラグラフのところでございまして,これまでの提案におきましては,委託者または受益者が,その信託の設定が債権者を害するものでないことを証明しない限り,委託者に対して信託の設定前に債権を有する者は信託財産に強制執行ができるという形を提示しておりました。


すなわち,債権者の方で委託者に詐害意思があることの立証責任を負うものではなくて,委託者または受益者の方で,委託者の詐害意思がないことを証明しなければならないと提案していたわけでございますが,詐害信託取り消しの場合におけることと平仄を合わせまして,債権者の側に債務者の,委託者の詐害意思についての証明責任を負わせるという方向に提案を改めているというものでございます。

  第69,目的信託も非常に難しい問題でございますが,従来通りの内容の両案併記という形でパブリック・コメントに付したいと思っております。


  第70につきましては,公益法人法制につきましてはある程度方向が定まってきつつあるところでございますけれども,公益信託につきましては,公益法人法制の改正の動向を踏まえた上で,9月以降,慎重に御検討をいただきたい。


  前回の議論では,主務官庁制の廃止というのはおおむねそのような方向ではないかというお話もあったわけでございますが,とりあえず現時点では,まだ十分な審議もしていないところでございますので,パブリック・コメントについては,このような形で付させていただいてはどうかと提案させていただくものでございます。

● それでは,今の範囲について御意見を伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。


● 後継ぎ遺贈について,パブリック・コメントに付するというのは当然のことかもしれませんけれども,今回の補足説明が,両説ある理由を書いている趣旨でそうなっているのかもしれませんけれども,やや「相続秩序に反する」という説明が強くて,当然これに対する反論というのは私が申し上げる必要もなくて,幾らでも考えられるところでして,やはりもうちょっと対等に議論していただいた方がいいのかなと。

  いわずもがなですけれども,民法の秩序というのは,信託そのものが民法の秩序に反しているという議論もあって,別に相続だけの話ではなくなるわけですし,受託者という所有者というのはちゃんと存在していますから,物だけが自然に動いていくといいますか,物に意思が伝わって物が死者の意思を承継していくわけではありませんし。

  あと,そういう理屈だけの議論ではなくて,実際にこれを必要としている障害者の例でも,高齢者の例でも,弁護士として遭遇する相談事例でもいろいろありますから,今回これを認めていただくことが,やはり今回の信託法改正の目玉でもある。


両説あるのは当然わかります。ですから,議論としては,なるべくこれが必要とするような背景とか,その辺もぜひ議論していただきたいし,理屈を言えば,別に遺留分というのは計算できる。


計算は多少困難かもしれませんけれども,相続があるわけですから遺留分は計算できるわけですし,法定相続人に対する法的な期待権というのもあるわけではありませんし。


  ですから,相続秩序というのは非常に強い言葉ですけれども,それを具体的に議論していくと,またいろいろと反論がある。両方に反論があるかもしれませんけれども。ぜひ前向きな形での補足説明であってほしいとお願いします。

  あと,信託宣言のところなんですけれども,私も議論に参加したかつてのところですと,当部会においては,もちろん反対説,慎重説もあったかと思うんですが,大方において非常に前向きな議論であったかと記憶しております。


  提案ですから甲,乙,丙という形で併記されるのはやむを得ないことかとは思うんですけれども,実際に当部会においても非常に前向きな議論でありましたし,それは理屈上も,先ほどの○○委員の議論,理屈上も別にそういうところ,受託者が委託者になるということは理屈上も,あと再信託の議論でももう既に存在しておりますし,ですから,そういう理屈の面ではもう問題ないはずですし,そうすると,実態として信託宣言が必要かどうかというところになりますと,今までの部会の議事録とか,また,今後出る議事録を見れば全部議論されてはいますけれども,これがグローバルなスタンダードですし,実際に,第三者からの預かり金というものを信託宣言によって保護することが受益者のためですし,民事信託的な場合であれば,弁護士の預かり金であればそれは依頼者の保護になりますし,これを否定する必要性はなくて,これがあることによって世の中,非常にスムーズにいくことが今後,幾らでも考えられると思うんですね。もちろんそんなことは今さら議論しなくてもあれなんですけれども。


  ですから,その辺をわかりやすく説明していただかないと,「信託宣言」という言葉自体が信託契約とは全然違うもの。


ところが,実際には先ほどの信託の併合,信託の分割,または再信託のところで,信託契約という形において実際に法的には同じことをやっているわけですから,何か全然違うもの,異質なものを導入しようとしているんだからというところで議論が入っていくと,実際の社会的なニーズというところを斟酌されないおそれもあるのではないか。


そんなことをこの場で申し上げてもしようがないんですけれども,ぜひパブリック・コメントに付すときの補足説明においても,今までの議事録等に反映されているところの,この信託宣言を必要とする社会的な,また今後のニーズ,今後の発展みたいなものをぜひ強く言っていただければ,かように思います。


  あと,若干細かい点で,信託宣言のところで質問がありまして,丙案のときの一定の要件というところで,幾つか要件が書かれておりますけれども,前回の議論にもありましたけれども,自益信託型の信託宣言を考えたときの,当初,委託者兼受託者が信託受益権を譲渡した後の受益者との関係なんですけれども,委託者のところに信託宣言をしてとどまっている場合においては,(注)の2に書いてあるように,もともと同一人格ですから,詐害行為取消しをするまでもなく救済できるというのはわかるんですけれども,受益者のところに行った段階では,もともとのこちらの第3の2と同じ規律に服する,こういう理解だと思うんですけれども,その辺でよろしいかどうか。


  一定の要件というのが,今後,逆に厳しくなり過ぎてしまって信託宣言が非常に,受益者がいつ取り消されるかわからないみたいな状況になると,また使いにくいものになってしまいますから,あくまで受益者が登場した段階では,通常の規律と同じところに服するんだというあたりも,ちょっと確認がてら質問させていただきたいと思います。

● まず,最後のところにつきましては,受益者が登場した段階では,そのとおり,第3の規律に服する。


3者同一の場合,一定期間存続することは認められるわけでございますが,その場合でも,信託財産としての独立性を付与されますので,信託財産にかかっていけるか受益権にかかっているかという点の違いはありますが,実質的には同じであるというのは,おっしゃる趣旨のとおりでございます。


  その後,受益者が出てきたときには第3の2の規律に服するということで,御理解のとおりかと存じます。


  あと,信託宣言につきましては,部会でのこれまでの審議を踏まえて補足説明に反映していきたいと思います。


  賛否両論あったところでございますが,それぞれの主張の根拠となる点,あるいはニーズになる点なども含めて記載していきたいと考えております。
  

受益者連続につきましては,これは我々としては,まだ議論も十分されていないものですから,虚心坦懐に中立的に書いているつもりでございまして,現段階で一方の方向性を押し出して補足説明を書くというのも,なかなかどうかなという気がいたしますが,一方に偏っているように受け取られない表現を心がけていきたいと思っているところでございます。


● 表現の仕方が難しい。


● 1点は,今の後継ぎ遺贈についてですが,第62の書き方だけがほかと違っていまして,「~ものとする」ではなくて,あるいは甲案,乙案でもなくて「どうか」と聞いていますのは,これはまさに審議をしていないからという前提だと思いますので,そこは別に○○委員に反対する趣旨ではないんですけれども,ニュートラルに書く。


もし細かく書いていくとなると,今度は何世代まで認めるかという,細かいその先の議論なども出てきますから,そこはできるだけ意見が出やすいような形にしていただいたらいいと思います。これは一般的なことです。


  もう一つは,もう既に出ているかもしれませんけれども,第60以下について,民事信託を主として念頭に置いた規律関係,あるいは営業信託を主として念頭に置いた規律関係というようにブロックをつくっているわけですが,このブロックをつくったことに何か特別の意味があるのかどうか,今,御教示いただければと思います。


● 御承知のとおり,今まではまとめて提案していたわけでございますが,いささか整合性を欠く順番づけになっていたということで,まず,ある程度意味のあるところをまとめて書きまして,かつ,この我々の信託法の改正というのが決して一部分のみを見ているわけではなくて,信託全般を見渡しているものであるということを一般の方によりよくわかってもらうためには,ある程度,民事信託を中心としているもの,それから商事信託を中心としているもの,それにかかわらず総則的なものと分けて書いた方が誤解を避ける上でいいのではないかということで,あえて章立てをさせていただいたということでございます。

● 将来,法律の中でもこういう形式になるということまでは,含意していない。

● それは,違います。例えば信託宣言などは,もし入れば前の方に来るでしょうし,有限責任信託も,民事でも絶対ないというわけでもないですし,それは必ずしも一致しているものではございません。


あくまでパブリック・コメントに付す場合に,一般の皆様に正しく理解していただくための配慮でございます。


● 重箱の隅を虫眼鏡で見るようなことを言って申しわけないんですが,49ページの第67の2の(5)の関係で,この間,民法が現代語化されたときに,民法第192条に正式な見出しがついて,「即時取得」になったんですよね。新会社法で株券のそれについてどう書いてあるのかは,私,見ていないからわからないんですが……,ですから,やはり「即時取得」なのではないでしょうか。私がどちらがいいと思っているということではなくて。


● 信託法にとっては,もう善意取得……,即時取得でしたっけ。

● ちょっと今,私もこれ調べていて,有価証券のときは「善意取得」と書いている例が多いんですが,これは有斐閣の見出しがそうなっているだけで,必ずしも丸括弧の法律的な見出し,法律の中の一部である見出しではないので,ちょっと御確認いただきまして,あれしてください。

● 確認させていただきます。

● 今の件,商法の第五百二十何条かには見出しはついているはずですので,会社法改正の整備法での商法改正をごらんいただくと何か書いてあるはずだと思います。私,知らなくて申しわけありません。
  それから,○○委員がおっしゃったことに触発されて,私もこの資料をいただいたときにちょっと気になっていたんですが,前回欠席してしまったものですから。


  営業信託と民事信託というふうに分けているんですけれども,私の頭では民事信託も営業信託になるので,例えば信託銀行が後継ぎ遺贈を,こういうものをやるというのは幾らでも今後,期待できまして,その場合は営業信託になると思うんですね。


  ですから,言葉にいちゃもんをつけるという趣旨では決してありませんけれども,ちょっと誤解を招くかなという気がするので,では何か名案はあるかと言われますと,ないんですけれども,一応感想として申し上げておきます。


● 厳密な意味では正確な表現ではないんですけれども,先ほど○○幹事が言われた趣旨,私と少しニュアンスが違うかもしれないけれども,例えば今回の改正においても,余り民事信託について重点的に議論していないのではないかというような意見に対して,この部分などを強調することに意味があるということだと思いますね,1つは。

● そのとおりです。
● 表現が正確かどうかという点は,少し検討してみる余地はあると思いますけれども,何かいい表現の仕方があればお知恵を拝借できればと思いますけれども。--今の○○委員の御意見も踏まえて,ちょっと検討させていただければと思います。


  ほかに,いかがでございましょうか。
● 第66の有限責任信託ですけれども,基本的には,新しい類型の信託について中心に書かれていまして,既存の分については,もちろん注で書いていただいて,御検討いただくというようなことが書いてあるんですけれども,多分この場の議論においては,私個人の認識だけかもしれませんけれども,議論があって,例えば有限責任性を明示するとか,合意するとかといった議論もあって,ある一定の方向性なり対立点が出たように思うんですけれども,そういうことを踏まえますと,1つの案として立てていただいてもいいのではないかと考えております。


  もう一点,先ほど来,出ています民事信託と営業信託のところについても,私自身も何となく違和感を感じておりまして,民事と商事という分け方でもないし,営業,非営業という形でもないので,あとはまさに民事信託--ここで書かれている民事信託というもの自体についても,○○委員が先ほどおっしゃいましたけれども,やはり信託銀行もこれから注力していくようなものでありますので,何となく違和感を感じております。

  とはいえ,私自身も全然いいアイデアがないものですから,その辺のところも御意見を申し上げるにすぎないわけですけれども。


  もう一点,特殊な類型の信託というのは,まさに特殊だからということで入れていただいているのかもしれませんけれども,そのところで,特殊だからここの部分を何とかしましょうというような御意図があるということではないですよね。

● 別に特段の意図があるわけではなく,ほかにうまく入らないからということでございます。

  あと,有権責任信託のところでコメントをいただきましたけれども,部会の審議におきましては,我々の認識といたしましては,今,○○委員がおっしゃった「合意した場合」というのは,いわゆる有限責任特約を結んでいる場合で,今と特に変わらないであろう。


問題は,一方的に一定事項を明示した場合に有限責任になるかどうかというところでございますが,そこについては,審議の過程では決して一義的に決まるものではなくて,賛否両論あったと理解しているわけでございます。


  そういうことで,あえて1項目を立てるということではなくて,なお検討事項として注に落としているわけでございまして,このような,どちらかというと有限責任信託に類型を設ける点に比べると,注の位置づけでいいのではないかと認識している次第でございます。


  あと民事信託,商事信託は,文言が確かに余りよくないという……。例えば「信託の民事的利用」とか書けばいいんですかね。ちょっと考えたいと思いますけれども。


● すみません,余りこだわりませんけれども。

  有限責任の部分につきましては,そこはちょっとこだわりがありまして,基本的には,有限責任というもの自体が認められるかどうかは,もう今の御時世では当たり前のことかもしれませんけれども,それを明確化するのが一番最初に考えたことでございまして,そういう観点からすると,それを前面に出していただきたいというのが1つと,それと,対立があったということは,そういうことが前提にあって対立があってということであれば,例えば甲案,乙案で立てていただいてもいいのかなと。


私どもの方は別に合意でもいいと申し上げておりますけれども,そういう立て方もあるのかなと考えております。


● 今,おっしゃった点は,有限責任特約の効力が果たして信託法上,きちっと認められるのかどうか懸念があるということでございましたら,それは我々としては,特約を結べば物的有限責任の効力が生ずるということについては問題ないと考えておりますので,その点を補足説明できちっと論じていくことで対応したい。


それ以上にということは,ちょっと御容赦いただければという理解でおりますが,よろしいでしょうか。


● 最終的にはお任せいたしますけれども,先ほど○○委員からもお話がありましたけれども,破産のところも問題もありますので,例えば新類型かだめになりましたといったときに,それでそのものもありませんよということになりますと,全く何もないという話で,それでは破産の規定など要らないではないかという話にもなりますので,その辺のところをお含みおきいただきたい。

  あとはお任せいたします。
● しかるべく対応したいと思います。


● 弁護士会の立場として。
  民事信託でも有限責任信託を,弁護士が受託者になる場合は当然使うことを考えておりますから,営業信託のところでこれ入ってくるというのは非常に,整理の仕方がないにしろ,逆に有限責任信託は特殊類型に入れていただいても構わないと思いますので,ぜひ。


そうでないと,なかなか民事信託を弁護士が弁護士業務としてやることは,なかなか難しくなってしまって,それによって弁護士が困るだけではなくて,一般の方も困る状況になり得ると思いますので,よろしくお願いします。


● この辺は,微妙な問題があるんですね。
  ほかに,いかがでしょうか。

● 第68の信託宣言について,若干のお願いでございます。
  丙案に関しましては,前回の議論で丙案の(注)の2の手当てというのが倒産隔離を害するのではないか,従前の場合は特にですね--という意見がありまして,今回,考証責任を転換したという御配慮があったことは非常に評価できることだと思いますが,これでいいかということについては,なお議論があるところだと思います。


  ここは,この(注)のところで「例えば,」と書いてありますので,そこは事務局も御認識だとは思いますけれども,まだ丙案における手当てというのが本席においても,私の認識としては,まだ「これでいい」というものがないという認識でございますので,補足説明のところでは,この点においてはまだいろいろな議論があり得るということを付言していただければありがたいと思っております。


● 事務局としても,まだいろいろな案があり得るなという中で,一つの例示として挙げているということですので,そこはきちっと明示して対応したいと思います。

● ほかに,いかがでしょうか。よろしゅうございますか。--おかげさまで,一通り中間試案に向けては御議論いただいたことになります。まだいろいろ,御議論いただいたものをまた反映させるという作業がありますけれども,これはこちらに一任していただければと思います。できるだけ皆様の御意見を反映させたいというふうには考えております。


● それでは,本日の会議はこれで終わります。
-了-

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第19回会議 議事録

第1 日 時  平成17年7月29日(金)  自 午後1時30分
                       至 午後3時57分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   
   

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● それでは法制審議会信託法部会第19回の会議を開きたいと思います。
  暑い中お集まりいただきまして、大変ありがとうございました。
 

 きょうは、前回あるいは前々回から予告しておりますように、筑波大学の新井教授に信託についてのお考えをお話しいただきまして、その後質疑応答をしたいというふうに考えております。
 
 資料等につきましては、○○幹事の方から配布資料について説明していただけますか。

● 配布資料でございますが、かなりの部数がありますので一つずつは紹介いたしませんが、事前に資料を配付させていただいております。

  それから、本日、○○参考人の方から追加資料といたしまして、この新聞のコピーでございますが、これを配付させていただいているところでございます。
  本日の配布資料といたしましては、以上でございます。


● それでは、これから○○参考人にお話をいただきたいと思いますけれども、時間的な配分はどんなふうに。


● ○○参考人の方からの御講演を1時間半ほどいただきまして、3時をめどといたしまして、そこで若干休憩を挟みまして、あと質疑応答で、一応4時には終了するという見込みでおりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

● それでは、○○参考人お願いいたします。


● ○○と申します。よろしくお願いします。
  ○○幹事の方から最初にここで話をするようにというお話があったときに、私としては大変躊躇いたしました。


といいますのは、私がここで話をしようとしていることは、当然、こちらにいらっしゃる委員の方は御存じのような話ばかりで、余り役に立ちそうもないというふうに考えたからです。


しかし、その後、参事官とお話する過程の中で、とはいうものの、一応今日こういう形で話をする機会があれば、それはそれで意味のあることかなというふうに思い直しまして、お引き受けすることにいたしました。


1時間半という長い時間で、内容的には乏しいものになるかもしれませんが、その点あらかじめお断りさせていただきたいと思います。


  私の話のテーマとしましては、レジュメに掲げましたように、「高齢社会における民事(個人)信託制度の必要性」ということで話をさせていただきたいと思います。

  最初に、ニーズ・活用例というところ、このあたりは簡単にしてほしいという意見と、いや、実はよくここが知りたいんだという意見がありまして、その中間あたりのところでお話をさせていただきたいと思います。


  東京都杉並区の老女失踪事件というのがありました。これは、杉並区在住の高齢の女性がおりまして、資産家なんです。価値のある不動産と多額の預貯金をお持ちでした。


家族構成としては、高齢の女性の方と40代のお子様が1人なんですが、重度の知的障害者。その女性の方は、希望としては3つ希望をお持ちでした。まず第1の希望は、不動産を死ぬまで売りたくない。


悪徳業者などもいますけれども、そういう処分の強制から免れて、死ぬまできちっと持っていたい。2番目の希望としましては、自分が亡くなったら、その不動産を娘に承継させたい。


3番目は、今度娘が亡くなったら、杉並区のお世話になった福祉施設の方に承継させたい、そういう3つの希望をお持ちでした。


  この方の場合はどういうことになったかというと、悪徳業者に財産をだまし取られ殺されてしまったというのが杉並区老女失踪事件でした。
  


このときに、私、杉並区の方から相談を受けまして考えたのが信託の活用ということでした。

  先ほどの3つの希望ですけれども、まず第一の希望である不動産を死ぬまで売りたくない、これは何かいい方法があるかということですけれども、信託を使って名義を変えておく。

信託目的として、死ぬまで売らないんだというふうにしておくという、信託で名義を変えておくこと自体が財産のプロテクトになるというふうに思うわけです。

  2番目の希望ですけれども、知的障害のある娘に財産を承継させたい、そのこと自体は割合に簡単にできるわけですが、承継させたとしても、その娘が財産管理能力はありませんので、今度はその財産が収奪の対象になるということで、第三者にきちっと管理させた上で、利益だけがその娘に行くというスキームはないかということで考えてみると、これも信託が極めて適しているわけです。
  そして、3番目の娘が死んだ後、今度福祉施設の方に財産を承継させたいと
いうのも、いわゆる後継ぎ遺贈ということで、信託を用いればできるというふうに思うわけです。

  それで、私は当時、いろいろなところに働きかけたわけですが、当時バブルのころでして、信託銀行はこの分野は全く関心がないということで、けんもほろろであったということで、私としましては、個人信託制度の必要性を痛感した事件ではあったのです。


そして、ニーズも高いと思っているのですが、まだ実現には至っていないというわけです。


  資料の最初のものですけれども、衆参両議院の方で附帯決議が信託業法の改正に際してついておりまして、それによると、福祉型信託の活用を検討すべきである。


私は、この福祉型信託の原点というのが、まさにこの東京都杉並区老女失踪事件にあるというふうに考えております。もう少しこういう高齢者、障害者のための財産管理の手法として、信託というものがあっていいのではないか。ニーズはあるけれども、まだ実現していないというふうに考えております。


  2番目が、横浜市社会福祉協議会横浜生活あんしんセンター報告書についてお話ししたいと思います。

  この横浜生活あんしんセンターといいますのは、高齢者、障害者の財産管理とか保全を行う社会福祉協議会の中にある独立したセンターです。


そして、成年後見法施行後は、法人後見人として法定後見とか任意後見の業務を行っています。ここで実際に信託のニーズがないかということで検討しましてまとめたのがこの報告書です。これから紹介する3つのケースはすべて実際のケースに基づいています。


  最初のケースが、金銭を受託する場合ということで、この報告書の25ページをごらんください。
 

 金銭を受託する場合ということで、信託銀行は信託された金銭を原資として通常の生活費・療養費等を定期金として支払い、さらに諸事情の変化により臨時の出費の必要が生じた場合には、センターとの相談・協議等に基づき臨時の費用を支払います。


  利用者は脳梗塞のために外出が困難であり、また、妻も痴呆状態のために自分自身では金銭管理が困難な状況です。

  夫婦は現在バリアフリー化した戸建住宅に居住しています。

  子供は長女のみで他の都市に居住しています。

  自宅をお持ちで、年金は夫婦合わせて910万円、預貯金総額4,000万円。

  利用者の意向としては、今後も夫婦そろって自宅で暮らすことを強く希望しています。

  利用者はこれまでに蓄えた資産を有効に活用し、自分や妻の生活費や療養費に充てて安定した暮らしを維持したいと思っています。

  利用者は、自分や妻の病状が変化した場合等の臨時の出費にも対応できるようにするとともに、自分の死後も妻に安定した在宅生活が送れるように手配しておきたいと考えています。


  スキームとしましては、利用者はセンターと任意代理契約と任意後見契約を締結します。これにより、センターは任意代理人となるとともに、任意後見受任者になります。

  なお、妻の意思能力の状況により、センターには妻の法定後見人にもなってもらいます。

  利用者は信託銀行と信託契約を締結し、金銭を信託銀行に信託します。第1受益者を本人、夫の死亡を停止条件として第2受益者を妻とします。


  受託者は夫の生存中は夫に対して、また、夫の死亡後は妻に対して信託収益を支払います。定期金は夫婦の通常の生活支援や療養費等に利用されます。


  事項のうち重要な事項が発生し、定期金では賄えない出費の必要が生じた場合には、受託者はセンターとの相談・協議等のもと臨時の費用を定期金とは別に支払います。


  信託スキームのメリットとしては、任意後見人と信託銀行による高度な安全性を持った資産管理と、円滑な資産の承継の2点が挙げられるというふうに思います。

  これが第1の事例です。


  第2の事例としては、28ページをごらんください。自宅不動産を受託する場合です。

  親の死後の障害のある子供の生活をいかに確保していくか、いわゆる「親なき後」の問題に関する一つの対策として、自宅を信託することが考えられます。

  利用者の状況ですけれども、75歳の利用者と70歳の妻は、長男とともに戸建住宅に住んでいます。

  長男は精神障害者で、地域作業所を利用しています。

  夫婦には他に次男がいますが、次男は既に独立しています。

  利用者は入退院を繰り返し体調に自信がなく、世帯全体の今後について不安を抱いています。

  資産の状況は、自宅をお持ちで、年金は3人合わせて300万円、預貯金・株券等3,000万円をお持ちです。

  利用者の意向としては、自分や妻の死後、長男に確実に資産を承継したいと思っています。

  利用者は、長男に承継した自宅で安定した生活を送ってほしいと考えています。

  スキームの構成ですが、信託契約の締結に際してセンターは任意代理契約あるいは任意後見契約を締結します。

  委託者は受託者に自宅を信託します。同時に、将来の修理・改築に備えて、一定の金銭を信託します。

  信託目的の一つとして、委託者の生存中は自宅を委託者に使用貸借させること、並びに委託者の死後は障害者である子に使用貸借させることを明記します。

  任意後見開始後、センターは、本人の生活維持の一環として自宅の状況、同居人の有無等を随時調査し、必要に応じて受託者に報告します。また、センターは自宅に修繕等の必要が生じた場合には受託者に連絡・相談します。


受託者はセンターとの相談・協議等の上、修繕費等を支払います。

  在宅生活ができなくなり、自宅の確保が不要と判断されるようになれば、受託者は信託事務の一つとして自宅を処分します。

  スキームのメリットとしては、信託することにより自宅の所有権は受託者に移転するため、親なき後においても詐欺等により自宅が処分されることや賃借権の発生により不動産価値の下落を防止する点が挙げられます。また、自宅の現金化が必要になった段階での処分も容易になります。

  これが2番目の例です。


  3番目の例としては、37ページをごらんください。グループホームの信託です。
 
 センターの利用者の中には、「自宅をグループホームにし、子には自分の死後もそのグループホームで生活させたい」という方がいます。グループホーム化した自宅に子を住まわせることについては、横浜市が設置を進めているグループホーム制度の中での活用が考えられます。


それにより、障害者本人の自立を支援し、地域での自主的な援助活動を尊重するという事業趣旨を生かすことができるように思います。

  スキームとしては、不動産管理処分信託を活用することが可能です。

  利用者は知的障害者である子と、自分名義の自宅で生活しています。

  子供にはほかに姉が1人いますが、姉は既に結婚しており、利用者の死後に子の面倒を見ることは困難な状況です。

  資産の状況等は、自宅をお持ちで、年金2人合わせて200万円、預貯金2,000万円という状況です。

  利用者の意向としては、自分の死後自宅をグループホーム化し、障害のある子をそこで生活させたいと考えています。

  子が自宅をグループホーム化するための一連の手続を実施することは困難であるため、利用者はできれば自分の生存中にその手続を終えておきたいと考えています。


  利用者は、自宅のグループホーム化が規格等の関係で困難であれば、子を既存のグループホームで生活させる一方、自宅を活用して子の生活費を確保したいと考えています。


  スキームのメリットとしては、最初に、信託することによりグループホームの所有権は受託者に移転するため、詐欺等により利用者の死後にグループホームが処分されることを防止できること、次に、グループホーム制度を通じて自宅資産を有効活用し、子の生活費を捻出できることが挙げられています。


  これら3つは、現実に横浜市にあったケースに基づいて構想されたスキームであるわけですが、これについても現在に至るまでニーズはあるわけですが、実現しておりません。


  これについては、報告書の45ページをごらんいただきたいのですけれども、生活あんしんセンター所長の山田弁護士がまとめの最後のところに、民間の金融機関とも密接な連携を図りながら、より広い支援ネットワークをつくっていかなければならないと考えているということをおっしゃっているわけですが、現在に至るまで信託とのネットワークというのは実現していないという状況であります。

  その次に、信託銀行の関係のことを見てみたいと思います。

  御存じのように、信託銀行は遺言信託ということでもうビジネスを始めておりますが、遺言信託というのは、実は遺言執行のことが多いというふうに言われております。そういう中で注目されるのが、パーソナルトラストと安心サポート信託というものであります。


  まず、パーソナルトラストというものですけれども、これについては、この資料の「パーソナルトラスト」のしくみのところでしょうか、相続対策の事例、パーソナルトラストを活用した事例というものが出ております。


  これをごらんいただくとわかるのですけれども、障害のあるお孫さんのた
めに信託を活用して、きちっとした財産承継を図りたいというニーズが書かれております。


  このパーソナルトラストは、合同運用して金銭信託という商品に特約をつけているものですけれども、特徴としましては、同意権者というものを置いているという点、それともう一つは、成年後見制度との連携を考えているという、この2つが大きな特徴かと思われます。


そして、成年後見制度については、リーガルサポートとの連携なども図るようなシステムになっているということに注目したいと思います。

  その次に、安心サポート信託について見てみたいと思います。
  これについては、ケースの紹介として、1から5までありますけれども、例えば、ケース2のところで、配偶者が要介護状態になっている。片時も目を離せない。


自分に万一のことがあったら、その後の財産管理はどうすればいいのだろうかというようなニーズ。あるいはケース3のところで、子供が障害のため財産管理が難しい。


今はまだ親が2人がかりで世話をできるが、親が亡くなった後も財産が守られるようにしてほしい。いわゆる親なき後の問題、こういうものが具体的なケース・ニーズとして紹介されています。


  この安心サポート信託も、合同運用して金銭信託という商品に特約をつけることになっておりますが、今度こちらの方は、同意権者ではなくて指図権者という制度を使っているという点に注目したいと思います。


  同意権者、指図権者という違いはあるのですが、基本的には同一のスキームというふうに考えてよろしいかと思います。ただ、不動産は含まないという点にも注目しておきたいというふうに思います。


  いずれにしても、信託銀行の一部にはこういうようなビジネスの展開も始まったということであります。

  その次に弁護士会ですけれども、ここではまず、関西方面のある弁護士法人が信託業法の改正というのを契機にしまして株式会社を設立して、そして信託業法上の免許の取得というのを予定しているそうです。そして、そこでは今私が申し上げてきましたような個人信託を行いたいというような動きがあります。


したがって、弁護士さんが受託者として、業として個人信託業務を行うという動きが実現する可能性もあるというふうに聞いております。


  それから、東京弁護士のオアシスというのは高齢者・障害者の委員会ですけれども、こちらでも、もし可能性があれば、今まで申し上げてきましたような親なき後対策に関する信託を行ってみたいというような意向もあるようです。

  個々の弁護士さんも、私が理解しているところではもう幾つか信託契約を締結して、個人信託を既に受託しているというケースもあるようです。ただし、

これについては弁護士が信託業務を行うということについて、信託業法上どう位置づけるかという問題はまだ未解決の問題として残されているように思われます。


  司法書士業界ですけれども、これは不動産の個人信託のニーズが非常に大きいというふうに聞いております。司法書士業界全体もこの分野に大きな関心を寄せています。


  それで、リーガルサポートという公益社団法人がありまして、これは全国の司法書士3,000名でつくっている社団法人ですけれども、このリーガルサポート自体ができれば不動産の個人信託業務を行いたいということで積極的に考えていたわけですが、御存じのように、信託業法上は株式会社に受託者が限定されているということで、社団法人が免許を取得するという可能性は現在のところはありませんので、参入できないという状況になっております。しかし、その辺の障害がなくなれば、ぜひリーガルサポートも不動産の個人信託を行いたいというふうに聞いております。


  不動産業界ですけれども、これも建物に福祉的な付加価値をつける。福祉的な付加価値というのは、建物の構造を福祉的にするということだけではなくて、例えば介護サービスであるとか医療サービスを入居のときに付加するというようなスキームを考えるときに信託を使いたいというような検討も一部では始まっているように私は理解しております。
 

 今申し上げてきましたように、私の目から見ると少なくとも個人信託のニーズというのは大変大きくて、活用例もいろいろなところにあるというふうに思われます。

ですから、今般の信託法の改正に際しては、ぜひその辺をもっと普及させるような形の措置をとっていただければ私は大変ありがたいというふうに考えております。

  ニーズ・活用例を生み出す社会的背景ですけれども、これは高齢社会の進展ということに尽きます。

  高齢化率というようなことが言われます。これは、65歳以上の高齢者が人口に占める割合ですけれども、7%を超えたのが1970年、わずか24年後の1994年には14%、2014年には25.3%、高齢者人口は3,199万人になるというふうに言われておりまして、こういうような状況は世界の高齢化の中でも類を見ないものだというふうに言われております。


  それに伴って痴呆性とか虚弱高齢者の数はどんどんふえています。2002年には150万人、2015年には250万人、そして2025年には323万人が痴呆性あるいは虚弱高齢者等になるだろうというふうに言われております。

そのほかに、知的障害者が現在でも約60万人、精神障害者は200万人いるというふうに言われています。こういう日本の21世紀の状況を考えると、先ほど申し上げました衆参両議院の附帯決議にあるように、福祉型信託の重要性というのは何人も否定できないのではないかというふうに考える次第です。

  そして、財産管理ニーズの変化ということにも注目したいというふうに思います。


  経済の高度成長、所得の平準化、資産価格の高騰というようなことに伴って、日本の財産管理のバックグラウンドが変わってきたというふうに考えます。


  最初に、フローの面では高齢者の社会保障等が国際的に見ても高い数字に達していまして、大半は一応の暮らしに心配がなくなったことを挙げることができます。

  2番目に、高齢者の持つ資産の価格が高騰し、いつの間にか高齢者の中には相当の資産家が誕生したこと。

  そして3番目に、高齢者の身辺から資産・生計を管理する家族等が減少したことを挙げることができます。つまり、新しい財産管理のニーズが生じているわけです。

従来のように、地縁・血縁に頼らない、第三者による財産管理のニーズというのが今求められていると思います。そして、その一つが信託制度ではないかというふうに考えるわけです。

  海外に転じてみます。
  まず、イギリスにつきましては、デイヴィッド・ブラウンビルという方の資料を用意させていただきました。

  この資料の中では、例えば118ページをごらんいただきますと、無能力、インキャパシティーというのを広くとらえています。

  物理的理由に起因する無能力というのが118ページに書かれておりますが、従来の日本では、意思無能力というときにこういう見方はないのですが、こういうものも広くとらえて無能力というふうに定義し、さらに119ページですけれども、障害を持った子の将来の扶養・介護というものも無能力の中に含めて理解しております。


  そして119ページには、私的家族信託の導入の意義を3点にまとめています。


  119ページの右の方ですけれども、最初に、代々の家族のために財産を適法に設定された信託財産として信託化しておけば、信託化された財産は信託設定者本人の固有の財産から切り離され、本人に関して制定法上の無能力者制度が適用されることになったとしても、その影響を受けることがない。


  2番目に、財産をこのような形で信託財産化しておけば、本人不在の場合や本人が法的無能力者となった場合も、信託財産については、これにかかわらず、引き続き安定した管理運用が確保されることになる。


  そして3番目に、家族信託を利用すれば、信託設定者の意向やその置かれている事情を十分反映した条件を定めた信託を設定することが可能であり、法律上の後見人制度や財産保全管理人制度やEPA、EPAというのは持続的代理権授与制度のことですが、日本では任意後見に相当します。このEPAを利用した場合と比較して、より大きな状況対応力や柔軟性が確保できるということでまとめられております。


  つまり、イギリスでは高齢者・障害者の無能力に備えるための信託というものもあって、実務家が既にこういうのをまとめているということに注目したいと思います。


  アメリカについてですけれども、これはエドワード・ホールバック先生の資料を用意させていただきました。


  82ページをごらんいただきますと、信託が利用される理由ということで、4つほどホールバック先生は挙げていらっしゃいます。

  まず、82ページの方で財産の管理運用ということが挙げられ、85ページで遺言検認手続きの回避、86ページで財産権に制約を付すということ、88ページで節税目的というような信託が利用される目的が掲げられておりますけれども、これらはすべて個人信託の類型に属するということに注目したいと思います。


  そして、ドイツですけれども、これにつきましては北海道大学の藤原正則教授の「ドイツにおける遺産承継」という論文を用意させていただきました。
  196ページをごらんいただきますと、先位・後位相続の紹介がなされています。


  この先位・後位相続という制度の利用によって、家産が家族から遺失することを防止できる。例えば、妻を相続人として、妻の死亡後は息子を相続人とすると遺言しておけば、そこでは妻の生前の処分権は制限されているから、妻に生涯の遺産への収益を保障しつつ、夫は家産を息子に伝えることができるというような説明がなされております。

  ドイツには、成文制定法としての信託法というのは存在しないわけですが、民法上先位・後位相続というものがあって、これは信託的性質を持つものだというふうに理解されております。


  フランスについては、山口俊夫先生の「概説フランス法 上」を用意させていただきました。
  これの540ページをごらんいただきますと、継伝処分の紹介があります。

  継伝処分は原則として禁止されておりますが、例外的に、恵与者の子または兄弟姉妹が継伝義務者とされ、かつ、これらの継伝義務者の現在または将来生まれる子が継伝指定者とされる場合には許される。その倍、継伝指定者は継伝義務者の子で一等親の者に限られ、かつ、男女長幼を問わずすべての子が受益者となるものでなければならないというふうに解説されておりまして、フランスにもやはり成文制定法としての信託法は存在しないわけですが、この継伝処分というのは信託的性質があるというふうに考えられているわけです。


  以上の比較法をまとめてみますと、まず、意思能力喪失者の財産管理として信託が用いられています。障害者の財産管理についても同様です。そして、高齢者の老後生活の保障というものも信託という財産管理制度の大きな利用目的になっています。


つまり、高齢社会の財産管理として信託は既に海外でも利用されているということが言えるわけです。しかし、我が国ではこのような視点が欠落しているように思われるわけです。


  法技術として一つの例を示してみますと、例えば受益者連続の問題があります。コモンローの国、例えばイギリスとかアメリカでは、この受益者連続というのはサクセスベネフィシャリーということで、信託の技術を用いて実現できるわけです。


  信託を有しない大陸の国では、ドイツでは先位・後位相続、フランスでは継伝処分という形で行われるわけですが、日本には今まで信託でこういうことがなされていないのみならず、民法の中にもこういう制度がないということで、全く明文の規定を欠いているわけです。そういう意味では、受益者連続ということに光を当ててみれば、日本は後進国というふうに言ってもよろしいかと思われるわけです。


  次に、分類及び法的基礎に移りたいと思います。
  個人信託はどんなふうに分類したらいいのかということですけれども、まず最初に掲げてある分類は私のテキストにある分類ですけれども、簡単に申し上げておきますと、最初が不動産管理信託ということで、杉並区老女失踪事件で申し上げたように、名義を信託的に移転しておくこと自体が不動産のプロテクトになるということに着目した制度であるわけです。


もちろんこういうものがまだ普及しているわけではありません。法的な問題としては、これが受動信託に当たらないかというような問題があるわけですけれども、こういう活用があります。


  その次の信託利用不動産担保年金式融資というのは、いわゆるリバースモーゲージのことです。リバースモーゲージというのは、高齢者が年金式に資金を獲得して、その資金で本来福祉で受けられるサービスよりも少しレベルの高いサービスを実現したいというときに使うものですが、不動産に抵当権を設定すればこういうような資金は獲得できるわけですが、抵当権を設定するということではなくて、信託を設定する、つまり信託を設定して、その受益権に質権を設定して融資を受けるというような利用方法も可能です。

  抵当権方式と信託方式を利用すると、もちろん私は信託方式がすぐれていると思うわけです。


なぜならば、信託というのは財産管理制度ですので、単なる融資ということではなくて、高齢者がお住まいになる不動産の管理も受託者は行えるということで、利用者には安心感がある。あるいは亡くなったときに清算、場合によっては処分するわけですが、そのときに抵当権方式ということになりますと、これは民事執行法の手続に基づいた処分になるわけですが、信託にしておけばマーケットでの売却ができるということで、信託方式というのがすぐれているわけですが、これはほとんど実現しませんでした。


  リバースモーゲージというのは武蔵野市で始まりまして、武蔵野市から今度世田谷区とか東京の幾つかの区で実用化されるのですが、実用化された折に信託方式も使ったらどうかということだったのですが、ほとんど利用がなされなかったというのは、私としては非常に残念だというふうに思っておりますが、そのうちにバブルが崩壊しまして、金融機関が一斉にリバースモーゲージから後退したということで、最近は非常にこれが低調です。


ただ、一部の信託銀行で最近リバースモーゲージを始めようという動きもあるようですので、そういうようなスキームにまた改めて信託の活用を考えるということも意味があるのではないかというふうに考えております。

  それから、老人ホームの信託。これは老人ホーム自体を設備信託というのを利用してつくるというようなことも考えられるでしょうし、入居者が老人ホームに入るときに信託を用いて、自分の財産とホームに預ける財産を分別するとか、あるいは入居保証金を信託にしておいて、現実に利用した分だけ信託の中から支払ってもらうというような活用方法もあろうかと思います。


  私の分類はそういうような説明でよろしいかと思います。

  2番目の分類として挙げておりますのは、扶養型信託、遺産分割型信託、生前・死亡後連続型信託、事業承継型信託というものです。
  


これは、先ほど紹介しました関西のある弁護士法人が信託会社を設立したいという話を申し上げましたが、そこが行いたいと予定している信託スキームということになります。
  
まず、扶養型信託というものは、委託者が本人、親族その他の関係者の扶養のために財産を信託し、その収益を要扶養者が受け取るというものです。

  特徴としましては、信託財産家ら発生する収益を委託者の指定する受益者に配分する契約であるため、委託者に痴呆が発生したり、事故による意思能力の喪失が発生したり、浪費癖等があっても、信託契約期間中は受益者の利益が確実に保護されるということが挙げられています。


  2番目の遺産分割型信託というのは、委託者の相続発生後、指定された受益者が信託期間中、信託財産からの収益を受け取るというものです。


  この特徴としましては、信託財産から発生する収益を相続発生後、信託期間中は委託者の指定した受益者に配分することができます。遺産分割を遺言、法定相続人による遺産分割、信託が医者の裁量による分割の3つの種類から選択することができ、信託契約終了後は遺産分割に従った財産の帰属が実現します。


また、遺産分割を随時するとか、一定期間凍結する信託も選択できます。さらにオプションとして、配偶者の生存中は配偶者を受益権者とし、配偶者死亡後、子供に信託財産を相続させる信託もあります。

  3番目の生前・死亡後連続型信託といいますのは、生前の扶養型信託と死亡後の遺産分割型信託を連続して受託する商品で、今申し上げた1と2を組み合わせるスキームとなります。


  特徴としては、信託財産から発生する収益を委託者の指定する受益者に生前から死亡後信託契約終了まで配分する契約であるため、委託者は安心して自分の意思を信託会社にゆだね、実行を任せることができるというものです。

  そして、最後の事業承継型信託といいますのは、会社の事業承継者がまだ十分に育っていない場合や事業承継者がまだ決まっていない場合に、信託会社が会社のオーナーが所有する株式を受託し、信託会社が株主として議決権行使を行うことにより、会社の運営を監督する。


信託期間終了後は、オーナーの事業承継者に株式を戻すことにより、事業承継をスムーズに行うというものであります。


こういうものも、もし弁護士法人が設立を予定している信託会社に免許が与えられたということになれば、動き出すものというふうに考えられます。

  3番目の分類が、ここに掲げられているような3つの分類ですが、これはある信託実務家が分類したものであります。
  

まず、自己の行為能力減退に備える信託は、これまで自分で財産管理を行ってきたひとり暮らしの高齢者が、行為能力の減退に備えて、自分のために金銭信託を契約し、存命中の生活や療養・看護費用などの交付が確実に受けられるようにしながら、財産の保全を図る、そういう信託です。


  2番目の「伴侶亡き後問題」に備える信託は、痴呆が進行して行為能力を亡くした妻のために夫が遺言で信託を設定し、自分亡き後も妻が存命中の生活費、療養・介護費用、その他随時に必要となる費用の支払いに不自由しないよう配慮して、妻の一身専属型受益権を構成した上、妻死亡後による信託終了時の残余財産の帰属権者を指定するという信託です。


  最後の「親亡き問題」に備える信託といいますのは、長年にわたり障害の世話をしてきた年老いた母が、自分が先立った後も、これまでどおりこの生活が維持され、かつ財産が散逸することのないように願い、自己存命中の自益型受益権を死亡と同時に子に承継させて、ですから、これは他益型受益権へ転換されることになりますけれども、子存命中に必要な諸経費をすべて信託財産から給付するようにし、子死亡による信託終了時の残余財産を、子が長年世話になった関係者に帰属させるように指定するという信託であります。


  このように、日本でも幾つかの分類があって、実現に向けた相当の検討がなされているということかと思います。

  4番目の分類が、実はABAですけれども、アメリカのバンカーズ・アソシエーションの方の「THE TRUST BUSINESS」というものからとった分類であります。


  これの37ページ以下をごらんいただきますと、個人信託サービスというのは安全、心の平和、支配というものを売る商品であるということが書かれておりまして、39ページのところで、個人信託というのはいろいろなライフステージのさまざまなニーズに応じた信託を提供できるということで、ここに掲げましたような未成年者の保護から帳簿管理・資産管理に至るまでのニーズが個人信託によって満たされるというような説明がなされています。


  分類としては以上のようなことがあろうかと思います。
  そして、法的基礎ということですけれども、どうしても個人信託が意思無能力への対応、あるいは相続後の自己の意思の実現が図れるかということですけれども、これは信託の転換機能と言われることに求めることができると思います。


これは言うまでもなく、信託というのは、委託者が自己の有する財産権を自分の支配権から離脱させることによって信託財産の委託者が持っている属性を消し去るわけですね。


したがって、委託者がもし能力がなくなれば、当然、成年後見制度が発動されるわけですが、委託者の支配権から財産を離脱させることによって、その成年後見制度の適用がないようにする、あるいは信託をしていることによって相続の問題も回避するというのは、すべて転換機能から来ているということが言えるかと思います。


  そして、転換機能の一つとして、私は財産の長期的管理機能というのがあるのではないかというふうに考えております。その中には意思凍結機能、これは何かというと、委託者が信託行為のときに設定した意思というのが、委託者、受益者が意思能力を喪失しても、あるいは死亡しても持続する、そういうのを意思凍結機能というふうにとらえてよろしいのではないか。

  受益者連続機能というのは、信託期間中であれば、受益者を変更して構わない。

  受託者裁量機能、利益分配機能というのは、当然信託の機能としてあるだろうというふうに考えております。

  いずれにしても、法的基礎として信託の転換機能というのはこれからの個人信託を活用する上で非常に重要な視点で、この転換機能こそが信託が個人信託として大いに用いられるべき根拠だというふうに私は考えております。


  以上のことを申し上げた上で、いよいよ立法上の課題ということに移りたいと思います。

  第1点目に、意思凍結機能の承認ということを考えていただきたいと思います。

  意思凍結機能といいますのは、信託の転換機能の一つであるわけです。これは今申し上げたように、委託者または受益者が意思能力を喪失しても信託は持続する。したがって、信託というのは高齢社会における財産管理として有用だということで、私はこういう信託の機能、これは先ほどイギリスの文献でも見たように、もう既に海外の信託の文献の中にも書かれているわけですので、ぜひ、こういう機能を信託の機能として認めていただきたいというふうに考えております。


  ところが、私の見るところ、こういうような視点は本部会においては今まで全く議論がなされていないというふうに理解しておりまして、大変残念に考えております。

  最近、井上聡弁護士がNBLの813、61ページに新しい信託法のイメージというのはビークルとしての色彩にあるというようなことが書かれておりまして、私もこういう見方というのは相当部分妥当するのではないかというふうに思います。


  もちろん信託がビークルとしての性格を持つということは重要なことで、私はそのこと自体はいささかも否定するものではありませんけれども、ただ、信託が個人信託というものの重要性ということを申し上げてきましたので、ぜひ、こういうような信託の持つ意思凍結機能というものについても十分に留意していただきたいというふうに思っているわけです。


ですから、信託におけるビークルとしての色彩ということを強調することだけでは、信託の意思凍結機能は生じてこないということが言えるかと思います。

  この意思凍結機能については、明文の規定は必要ないというふうに思われるわけですが、ぜひ、信託の機能としてこういうものがあるということを何らかの形で議論していただいて、どこかにそういうものを残していただければというふうに考えております。


  ただ、そうはいっても、理論的な課題もあるわけです。それは何かといいますと、信託の意思凍結機能というものをもって受益者保護は十分と言えるのかという問題です。


特に2000年4月に任意後見制度がスタートしまして、任意後見制度とのバランスをどう考えるかという問題があろうかと思います。


  これはどういうことかといいますと、信託の意思凍結機能というものは、信託財産を委託者の支配権から切り離す。そして、受託者は非常に厳しい忠実義務を初めとするいろいろな義務を負って信託財産を管理している。そうすると、受益者保護というものも、信託をすることによって十分に図られるだろうというふうに従来考えられてきたわけですが、任意後見制度の中の議論としましては、任意後見監督人というものが登場してきました。


これはどういうのかというと、本人と任意後見受任者が、本人が意思能力のあるときに任意後見契約をするのですが、そこで締結した代理権が発効するためには、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の選定というのが前提になっています。


つまり、公的機関の関与する監督人の選任というものが、意思能力なき後の代理権の存続の前提だということになって、そういう制度がスタートしたこととのバランスを考える必要があるというふうに思うわけです。そこの点は、信託の議論としてもぜひお考えいただきたいというふうに考えております。

  ただ、民法学会の議論は、この点は私に言わせると非常に無関心でして、民法学会の通説は、いまだに民法111条に依拠しまして、本人が能力あるときに代理人に代理権を授与すれば、それは当然に持続する。


なぜならば、民法111条で代理権の消滅事由とされているのは、本人の死亡のみである。したがって、本人の意思能力喪失は代理権の消滅事由になっていないのだという説明がまだなされておりまして、ほとんどの教科書でそう書かれている。


そのことによって非常に混乱も起こっているということで、きょうお配りした信濃毎日新聞の7月18日の記事というものを用意しておりました。

  任意後見というのは、通常、任意後見を発効する前に任意代理契約というのを結んでおくわけですね。任意代理契約というものがもし任意後見を必要とせず、本人が能力なくなった後も効力が生ずるというふうに考えると、任意後見監督人を選任してもらう必要がないわけです。


一部の業者は、そのことを濫用しておりまして、任意後見契約が非常に有用な制度だということで、言葉巧みにセールストークをもって契約させながら、実は任意後見監督人を選任せず、つまり、公的な監督なしに任意代理の範囲で好き勝手なことをしているというような実態がもう既に生じています。


  ですから、まず一つは、これは本部会とは直接関係ないのですが、やはり民法学会には通説の持つ社会的な機能というものをきっちり認識した上でリツオンすべきではないかということを申し上げたいのと、本部会に対しては、意思凍結機能を機能させるための前提としての受益者保護というものを任意後見制度とのバランスでどう考えるかということをぜひ検討していただきたいというふうに思います。


  具体的に申し上げますと、やはり任意後見監督人とのバランス上、受託者を監督する機関というものが必要かと思われます。そして、それは場合によっては裁判所の後見的関与をつけ加えるというようなことにして受益者保護を図るということが妥当であるようにも思われるわけです。


  いずれにしても、意思凍結機能が信託にあるということをぜひ御留意いただいて、そういう機能が発揮できるような形での御検討をいただければ、私としては大変ありがたいというふうに考えております。


  2番目に、受益者連続機能を承認していただきたいというふうに考えております。


  まず、受益者連続と信託終了による残余財産の帰属権利者指定というものは区別すべきであると考えます。


受益者連続というのは、最初に設定された信託、原信託が継続している真に受益者が交代することをいいます。

残余財産帰属者指定というのは、原信託が終了して、原信託における清算事務が完了した後の残余財産の帰属権者を指定することであって、本来の受益者連続には当たらないと考えます。


信託法63条の受益者は、残余財産引渡手続のために擬制された法定信託における受益者であり、原信託の受益者ではないからです。


  この前提の上で私はまず第1に、原信託における受益者連続は、実現可能、適法かつ公序良俗に反しない限り、信託法1条を根拠に有効と解します。


第2に、信託行為による残余財産帰属者指定は、62条により当然有効であると考えます。

  このように、現行法でも既に受益者連続機能は承認されているというふうに考えますけれども、現在信託法の立法作業を行っている本部会におかれては、ぜひ、立法的にも正面から受益者連続機能を認めていただきたいというふうに考えます。


これは先ほど申し上げたように、既にそういうニーズは我が国にもあり、それを検討したいというような研究もなされているということからそういうふうに申し上げたいと思います。


  しかしながら、受益者連続を阻む要因というものもあるというふうに考えます。

  まず第1が、民法学説においては後継ぎ遺贈というものが必ずしも承認されていないということが挙げられます。

  2番目に、判例においても後継ぎ遺贈の法的効果については統一した見解が出されていないということがあります。


最高裁の昭和58年3月11日判決というのは、後継ぎ遺贈に関して幾つかの解釈の可能性を認めたものの、確定的な結論には至っていないということが言えます。


  そして、一部の学説が、ある類型の受益者を明確に否定しているということがあります。


実務の中にはそういうような強い論調の受益者連続否定論があるためにちゅうちょしているというふうにも聞いております。そのことを少しこれから申し上げたいと思います。


  米倉明教授は、特殊ケースにおいては無効との見解を示されています。米倉教授は、民法上の後継ぎ遺贈が無効ならば、信託の受益者連続も無効となるが、みずからは民法上の後継ぎ遺贈は有効と解するとされた上で、信託の受益者連続も特殊ケース以外は有効と解しておられる。

ちょっと複雑な構成ですが、米倉教授が無効とされる特殊ケースというのは、要するに、契約で設定した信託、生前信託において、自己の死亡を原因として相続人を二次あるいはそれ以降の受益者として連続させるケースのことです。

  米倉説による無効理由は、生前信託により相続人を対象として死因処分をすることが相続分の指定や遺産分割方法の指定に当たり、これらの指定を遺言によらないで実質上実現することは許されないというものです。


この米倉説に対しては反対意見もありまして、私も次の2つの理由から反対であると考えます。


  第1は、民法上の後継ぎ遺贈と信託の受益者連続とは同質のものではなく、民法上の後継ぎ遺贈の有効、無効にかかわらず、信託の受益者連続の有効性は信託法1条により維持されると解されると思います。


すなわち、民法上の後継ぎ遺贈は財産の所有権を遺贈者の意思で連続させるものでありますが、信託の受益者連続は受益権という財産交付請求権を委託者の意思で転換、これは自益から他益です。そして連続、これは他益から他益でありまして、問題となる権利の質が異なると考えます。


  第2に、生前信託によるこのような死因処分は、相続分の指定や遺産分割方法の指定には該当せず、死因贈与に相当する行為と解されると思います。


そもそも自己の死亡を原因として特定の財産を特定の相続人に与える行為は、それが遺言によるものであれば遺贈、契約によるものであれば死因贈与であるというふうに解することができるように思います。

  いずれにしましても、本部会は立法作業を担当しているわけですので、一部学説の立場も十分に尊重しながらも、ぜひ正面から受益者連続機能を認めていただきたいというふうに考えております。

  比較法的には、受益者連続を認めない先進国というのはないということは既に申し上げたとおりです。

  3番目に、rule against perpetuitiesの導入について申し上げたいというふうに思います。

  信託期間を限定するということに関して、我が国信託法には明文の規定はありません。


ただし、これは他益信託一般に必要な原則ではないかというふうに考えます。というのは、特に受益者連続機能を認めることになりますと、信託財産が家族世襲財産となるという不安もあるわけですから、ぜひこのrule against perpetuitiesについては導入していただきたいというふうに思います。


  我が国の実務では、先ほど検討しましたパーソナルトラスト、これでは信託契約期間は原則上限20年、安心サポート信託では上限25年とされています。

民法上の時効期間、賃貸借の存続期間等を参考にして20年とか25年にするのが妥当であるように思われますし、実務上もそれで支障はないというふうに思います。

  ところで、UTCにはrule against perpetuitiesに関する明示の規定はありません。これとの関係で、アメリカのダイナスティトラストについて少し述べておく必要があろうかと思います。

  永続性を否定する従来のコモンローでは、信託を設定したときに、指定された者の死亡後21年を超えない時点で信託が移転されるか、あるいは消滅することが確実である限り有効であるとされています。統一州法委員全国会議が採択した統一法上の永続性についてのルールは成り行きに任せる、ウエイト・アンド・シー、形勢観望とか言ったりしますけれども、そういう選択肢も残しています。


つまり、信託が設定されたき、生存している個人の死亡時から21年を超えない時点で移転されるか消滅することが確実であるか、または信託設定から90年以内に移転あるいは消滅しない場合は、財産の権利は無効であるとしています。

  しかしながら、1990年代の初めに、この永続性に関する従来のルールが注目を集めることになりました。統一州法委員全国会議が信託をより使いやすくする努力をしているにもかかわらず、州では別の方向に進み始めたというのです。


そのジェネレーション・スキッピング・トランスファー・タックスと100万ドルの税控除を採用した結果、サウスダコタ州は、信託の永続性禁止を放棄することになり、サウスダコタ州への信託の誘致活動も始まりました。


連邦免許銀行は、サウスダコタ州に支店を開設し、サウスダコタ州に100万ドルの税控除を使った信託を設定すれば、後に発生する遺産税、エステード・タックスを永久にゼロとすることができるというふうな宣伝を始めました。これがダイナスティトラストと言われるものの始まりです。

  もし100万ドルを10%の複利、40%の税金を想定すると、実質金利は6%となりますけれども、これを運用すると、サウスダコタ州のダイナスティトラストは150年後には62億5,000万ドルに膨れ上がることになります。

すると、直ちにこの利益の上がる信託業務に参入するため、サウスダコタ州に続いて信託の永続性を放棄することをデラウエア、イリノイ、アラスカ及び幾つかの州が決定しました。


しかしながら、ダイナスティトラストが出てきたことに関して統一州法委員全国会議は注目しており、ジェネレーション・スキッピング・トランスファー・タックスの100万ドル控除のための信託については、以下に述べますように非常に懐疑的な意思表示を行っています。
  引用です。


  長期間を考えると、このような信託の管理は大変扱いにくいし費用がかかる。政府の統計によると、結婚した夫婦は平均して2.1人の子供を産む。この仮定を使うと、信託が設定された150年後には信託の受益者となる子孫の数は100人以上となり、250年後には2,500人、350年後には4万5,000人となる。500年後には生存する受益者は、驚いたことに340万人に達するというような根拠を挙げて、ダイナスティトラストについては必ずしも賛成しないというようなことを言っております。

  それで、アラバマ、アラスカが非永続性を放棄しています。デラウエアは不動産の110年を除き放棄、イリノイは信託が永続するという書類が必要だ。あるいはユタ州とワイオミング州は、信託期間は1000年というような規定があるようです。


  いずれにしても、アメリカではダイナスティトラストというのがブームになっているわけですが、ここはアメリカに追随せず、アメリカでも統一州法委員全国会議とかアメリカ法律家委員会が否定的な立場をとっているということですので、しかも、我が国はダイナスティトラストを認めるインセンティブはないように思われますので、ぜひ、rule against perpetuitiesに関する明文規定というものが必要ではないか。


そして、現状の実務にもさしたる支障はないというふうに考えます。

  4番目に、信託管理人制度の強化・多様化について述べます。
  現行信託法8条の硬直性を見直すべきであると考えます。現行信託法8条は、受益者が不特定、未存在のときに信託管理人は置けるというふうになっているわけですが、受益者が特定しているときも信託管理人は必要であるわけです。こういうような形にしていただければと思います。


  受託者が監督する機関、受託者監督人というんでしょうか、これが新たに設置されるということであれば大変望ましい。要綱思案はそういう方向に進んでいるように思われます。


  もっとも、先ほど申し上げ任意後見監督人とのバランスを考えますと、委託者が監督機関を設置することで十分に実効的な監督ができるかという問題が生じます。

とりわけ、受益者が意思能力を喪失した後は、何らかの形で裁判所が関与するか、監督機関を弁護士等に限定する、つまり資格者に限定するというようなことも一案かと思われます。


  さらにはも形式的に監督機関を設置するよりも、受益者の後見人等が信託行為で指定された指図権者あるいは同意権者として受託者をチェックするような体制が最も実効的であるように思われます。


  なお、これは信託と後見との連携の必要性ということになりますので、後で述べたいと思います。

  5番目、個人信託における受託者の義務。
  個人信託における受託者の義務というものは、私の考えでは任意法規化すべきではないと考えます。

これは、高齢者取引における適合性原則あるいは受益者保護というものを考慮してのことです。

  受託者が業法上の免許を取得した業者あるいは弁護士であるということを考えて、受益者の同意があれば、信託財産である、例えば不動産の賃借が可能であるというような解釈をとったときに、果たしてどういう問題が生ずるかということを考えてみます。

  例えば、弁護士が信託スキームの中で受益者の同意を得て信託財産に賃借権を取得するということ、これは忠実義務を任意法規化すればできるわけですが、信託法上それが可能であったとしても、恐らくそういうことをすると弁護士は懲戒を受ける。


今までの懲戒事例をひもといてみますと、それは弁護士の懲戒事由に当たるというふうに私は考えます。そうすると、信託法上許容されていても、弁護士倫理として許されないという問題があります。


したがって、少なくとも個人信託の分野については忠実義務というものは任意法規化する。

個人信託以外の分野はどうするか、それは議論があってもよろしいと思いますが、個人信託の分野についてはそう考えてはどうかと思います。
  

そもそも我が国において忠実義務というのはどれぐらい遵守されてきたのかということを考えてみます。

  既に私はテキストの中で書いているのですけれども、この話をすると常に思い出すのは、JASRAC事件と言われる事件です。このJASRAC事件、つまり日本音楽著作権事件というのはどういう事件かとごく簡単に申し上げますと、日本音楽著作権協会というのは、音楽著作権者の音楽使用料を受託者として徴収管理しているわけです。


これは年間1,000億円ぐらいの信託財産になるんですが、そのうちの77億円分をある受益者に貸し付けをして、その受益者がそのお金で建物を建てて、そしてJASRACがその建物の中に入居したという事件であります。


  これは私の目から見ますと、典型的な忠実義務違反の問題であるわけですが、これが係争した裁判所において、裁判官はこれが忠実義務であるということを最初から最後まで一貫して認めなかったという事実があります。


これは単なる融資の条件の問題だ。当事者が同意すれば、いかような形でも融資ができるんだという形で処理されました。


  したがって、私が見るところ、日本においては、少なくとも裁判所においてはと言うべきなんでしょうか、裁判所を初めほとんど忠実義務というのは遵守されていないというのが実態ではないのか。

  そういう中で、私の申し上げているのは信託一般ではなくて個人信託の分野で申し上げているんですが、個人信託の分野で忠実義務を任意法規化するというのは非常に問題があるのではないか。


私はテキストの中で、忠実義務の死ということを書いているんですが、ぜひそのあたりも本部会において十分に検討していただければというふうに考えております。
  


信託銀行の場合には、銀行勘定と固有財産の双方がありまして、忠実義務を任意法規化してほしいという要請は私は非常によく理解できます。しかし、それは基本的には信託業法とは経営法の問題ということでよろしいのではないか。


個人信託の分野における受託者の忠実義務というのは、やはり強行規定ということでよろしいのではないかというふうに思いますが、こちらの委員の方には異論もあろうかと思われますが、ぜひその辺は検討していただければ、私としては大変ありがたいと思います。

  6番目、7番目、8番目、このあたりは時計をにらみながら少しまとめてお話をさせていただきたいと思います。

  個人信託における受託者の資質としては2つが重要であると思います。
  まず1つは、長期にわたり信託行為の定めに従って適切な財産管理と信託事務を遂行し得る能力を備えた受託者としての財産管理能力、それからもう一つが、受益者の生活状況、健康状況等のきめ細かな見守りができる身上監護者としての保護能力です。


  個人信託においては、これらの受託者としての財産管理能力と身上監護者としての保護能力との連携が必須でありまして、受託者と身上監護者とが綿密な連携をとることによって財産の保全並びに受益者の実需に即した適切な財産給付が可能になると思います。ここに後見と信託とが連携する必要性が出てくるわけです。


  ある信託実務家は次のように述べています。
  高齢者あるいは障害者の生活支援等のために信託が独立して利用されることがあるかもしれないが、しかし、信託が独立して利用されるよりも、本人の生活支援等に関係の深い任意後見制度等と併用される方が効率的に生活支援等がなされるものと思われる。


この意味で、信託は任意後見制度とのバックアップシステムと考えるというのがある信託実務家によって指摘されておりますが、このことはとりわけ信託銀行に当てはまるというふうに考えておりまして、極めて的確な指摘ではないかというふうに考えます。

  それで、後見と信託との連携ですけれども、3つのタイプがあるというふうに考えます。
  

第1の形態としては、財産管理を信託で担い、身上監護を成年後見人等が担当するという形態があります。それぞれの機能と得意分野を生かしながら、互いの不得意分野を補完し合えるということになります。


  2つ目の形態は、財産管理における分担、連携です。大きな財産を信託財産として管理運用し、信託財産から給付された、いわば財布がわりの金銭の管理と、そこからの日常的支払いを後見人等が担当するという連携です。これによって、財産管理に関する後見人等の負担が大幅に軽減できることになります。


  3番目の連携の形態は、信託財産の給付面における連携です。受託者が管理している信託財産からの給付内容について、受益者の後見人等が信託行為で指定された指図権者あるいは同意権者として受託者と協議しつつ、給付の指図や同意を行うという連携です。日ごろから受益者の生活面の三間森を行う後見人等が信託財産の給付指図等にかかわることによって、実需に沿った適切な財産給付が確保できるというふうに思います。


  受託者を担う立場としては、個人信託分野での信託の活用、普及を図るため、親族たる後見人だけではなく弁護士、司法書士、社会福祉関係者など後見業務を担う専門家、実務家との連携、相互補完の事例を数多く積み上げ、被後見人等の身上監護面や生活にマッチしたきめ細かい財産管理や財産給付が可能となる連携モデルをつくっていることが必要であるというふうに考えます。


  立法上の課題としては、同意権者、指図権者の位置づけが重要です。

  同意権者、指図権者は、信託行為によって指定された受益者の後見人等に限定するか、それとも同意権者によって同意権の行使、指図権者による指図権の行使を信託管理人の職務と考えるのか、あるいは受託者監督任の監督に含むものと考えるのか、それとも同意権者を独立した機関として規定するのかという問題があります。


  いずれにしても、既に実務で用いられている同意権者、指図権の位置づけを明確にしていくことが実務のより効果的な運用に資するというふうに考えます。
  そして、法定後見、任意後見、信託の優劣の問題があります。


  まず、法定後見と任意後見との関係ですけれども、これは任意後見契約法の10条の規定がありまして、そこでは、任意後見優先の原則がうたわれています。本人の利益のため特に必要があると認めるときは法定後見が発動されますが、それ以外は任意後見が優先するというものです。


  法定後見と信託との関係はどうでしょうか。任意後見契約10条が類推適用されるということになるのでしょうか。この辺の検討も必要かと思われます。

  任意後見と信託との関係はどうでしょうか。両者の内容が抵触する場合の優劣についての規定は必要でしょうか。あるいは受託者が個人信託を受託する際に、任意後見登記を調査する義務を侵して、抵触を事前に回避するということが賢明な手段ということでしょうか。この辺の検討も必要かと思われます。

  親族後見人が親族等からの批判を受けて法定代理人として信託設定をするということが既に実務上行われているというふうに聞いております。


これは、親族後見人が自己の行っている後見事務の透明性を確保するという必要からです。


親族後見人が信託を設定するという場合、法定代理権と信託との調整が必要になるように思われます。つまり、そこでの信託受託者というのは、法定代理人と複数後見的な関係になるのか、あるいは履行補助者となるのか、その辺の整理も必要かと思われます。


  いずれにしても、法定代理人が信託を設定するというケースはこれからふえていくものと思われます。

そこをスムーズに行えるような規定が必要かというふうに思われます。

  そして、任意後見人がその代理権の範囲内で信託を設定する場合にも同様の問題があると思いますので、これについても検討いただければ幸いです。

  9番目、現行法23条の存置と現行法62条の明確化。
  現行法23条は、個人信託受託者は長期間にわたる財産管理に関して善管注意義務、忠実義務を負うわけですけれども、事情変更への対応というものを受託者に容易に認めるためにある規定だと思われます。


これについては、個人信託の分野では必要な規定だと思いますので、ぜひ、現行法23条のような趣旨を存置していただければというふうに思います。

  現行法62条ですけれども、これは実務上不都合が生じているというふうに聞いております。


これは他益信託による一身専属的受益権とか期限付き受益権が終了した場合の信託行為で定めた帰属権利者の範囲が不明確なため生ずるものです。つまり、原信託の受益者というものを帰属権利者に含めることができるのかどうか。今実務ではそれを特約で決めているようなのですが、62条の趣旨は必ずしもその辺が明確でありませんので、この辺は明確にしていただければ、実務上も大変ありがたいというふうに思われます。


  そして、立法上の課題の最後ですけれども、生前信託と死因贈与・遺贈について述べたいと思います。

  ここでも米倉先生の説をまず紹介させていただきます。
  米倉教授は、契約で設定した信託、生前信託において、自己の死亡を原因として相続人を二次受益者として連続させるケースを無効としています。米倉説による無効の理由は、生前信託により相続人を対象として死因処分をすることが、相続分の指定や遺産分割方法の指定に当たり、これらの指定を遺言によらないで実質上実現することは許されないというものです。

  先ほどの2の受益者連続機能の承認のところで既に述べましたように、この米倉説に対しては反対意見があり、私も先ほど申し上げた理由から反対です。もう一度申し上げたいと思います。


  第1は、民法上の後継ぎ遺贈と信託の受益者連続とは同質のものではなく、
民法上の後継ぎ遺贈の有効、無効にかかわらず、信託の受益者連続の有効性は信託法1条により維持されるものと解されます。


すなわち、民法上の後継ぎ遺贈は財産の所有権を遺贈者の意思で連続させるものですが、信託の受益者連続は受益権という財産交付請求権を委託者の意思で転換・連続させるものであり、問題となる権利の質が異なるからです。


  第2は、生前信託によるこのような死因処分は、相続分の指定や遺産分割方法の指定には該当せず、死因贈与に相当する行為と解されます。そもそも自己の死亡を原因として特定の財産を特定の相続人に与える行為は、それが遺言によるものであれば遺贈であり、契約によるものであれば死因行為であると考えます。

  これは先ほど申し上げたところですが、その次がここでは重要かと思われます。

  死因処分行為の対象となった財産以外の依存の分割を考える場合、その死因処分行為の対象財産と受益者の相続人について、相続分の指定や遺産分割方法の指定があったものとみなして、それ以外の遺産の分割方法を決めることは理解できます。


しかしながら、遺産処分行為そのものを相続分の指定や遺産分割方法の指定と解するのは妥当ではないように思われます。その死因処分行為自体はあくまでも遺贈もしくは死因処分です。


民法は、生前行為による死因処分として、死因贈与を容認しており、これに準ずるものとして相続人を対象とした生前信託による死因処分としての受益者連続及び残余財産帰属者指定を有効と解しています。この場合も、相続人の遺留分減殺に服すべきことは死因贈与の場合と同様であると考えます。
  

生前信託と死因贈与・遺贈については、以下のように明確にしておくことは課税上の関係あるいは民法を援用する際にも必要なことではないかというふうに考えます。

  あと10分で残りのⅤのところをまとめたいと思います。

  Ⅴは個人信託からやや離れるのですけれども、信託法改正に望むことということで何点か述べさせていただきます。

  最初に、信託の実質の尊重ということについて申し上げたいと思います。

  これはどういうことかというと、本部会においては、一体どのような信託類型を普及させたいというふうに考えるのかということが重要ではないかと思われます。

  信託というのは、申し上げるまでもなく、財産権の名義を委託者から受託者に移転し、転換機能を生じさせるというのが信託の本質であるように思われます。


しかしながら、私が議事録を拝見した限りでは、その辺の視点が非常に弱いように思われるわけです。

  先ほど、井上弁護士の本部会の目指すところが、信託のビークル性であるということを申し上げました。それはそれとしてわかるのですが、もう少し本来の転換機能を生かすような場面の検討もぜひしていただきたいというふうに思います。


  その観点から見ますと、例えば要綱思案における第1の2でしょうか、当事者の合意だけで信託の効力が生ずるというのは、名義の移転によって信託が効力を生ずるという従来の信託の理解からは相当隔たっているように思われるわけです。この辺もきちっと整理していただきたいというふうに思います。

  それから、信託宣言を許容するかどうかということについても、委託者から受託者への財産権の移転ということが本当に行われているのかどうか、そこをどう見るかということをぜひお考えいただきたいと思います。


これは目的信託についても同じでして、それから事業の信託、これについても同様な視点から、なぜこれを信託にするのかというような検討が必要ではないでしょうか。


  ところで、不動産の流動化、証券化のスキームで行われている信託というのは、御存じのように、まず信託をして、そしてその信託受益権を直ちにSPCに譲渡するというスキームです。


  なぜ、そこで信託をするかといえば、それは転換機能とは全く関係ないことだと私は理解しております。


1つは、不動産流通税の問題、不動産流通税を回避したいということ。それから、不動産特定共同事業法の適用を回避したいという理由で信託を用いる。


ですから、信託をしたことによって倒産隔離が使用ずるわけではなくて、SPCに譲渡することによって倒産隔離が実現するというふうに私は理解しております。

  そうすると、そのような信託、つまり不動産の流動化、証券化で行われているような信託、これは考えようによっては非常にフレキシブルな信託が既に実務で行われているわけですね。


これ以上さらにフレキシブルに必要があるのでしょうかということを私はお伺いしたいわけです。つまり、いろいろこれから信託を柔軟な形にして、いろいろな信託を普及させたいということなのですが、例えば今申し上げた類型の信託について、果たしてこれが信託と言えるのかどうか、そのあたりの整理もやはりきちっとしていただかないと、ますます信託の本質、私の言うところの信託の実質から離れた信託ということが生じてきて、非常に希薄化されるというような心配を持っております。

  そして、少し順番を変えますが、先に3の濫用への対応というところを申し上げた方がよろしいでしょうか。

  私の見るところ、信託が今濫用されています。これは一部勢力が信託を濫用して、私の目から見ると社会問題になっているというふうに思われるんです。


  当然、こちらは議論の前提として実態の把握をされていると思うんですよね。


つまり、不動産登記法の中で信託を設定しているものから受託者が信託銀行であるものを除けば、それがほぼ濫用のケースとみていい。


これが一体日本でどれくらいあるのか。普通の弁護士さんであれば、一、二件そういう事例は抱えているはずなんです。それが全国に何件あるのか。あるいはサガイ信託の訴訟の件数を把握してもいいと思うんです。そういうように、一部勢力による信託濫用の実態というものをきっちり調査して--もう調査されていると思うんですが、そういうようなケースに基づいて、この濫用についてどう対応するかというようなことも、やはり本部会においてはきっちりとしたポリシーとして出していただく必要があろうかと私は考えております。

  そういう立場から見ると、信託宣言、目的信託、有限責任信託、あるいは受託者の忠実義務の任意法規化というのは、一部勢力にとっては極めて好ましい制度だというふうにも言えると思うんです。


しかも、これは1つの信託の中ですべてできるというふうに理解しております。

したがって、信託宣言で目的信託を行い、有限責任にし、忠実義務を任意法規化する、そういう信託が先ほど申し上げたような信託の実質ということからして果たして可能なのかどうか。濫用の歯どめということとのバランスにおいて、ぜひここのところは検討していただきたいというふうに私としては希望しております。


  それともう一つ申し上げたいのは、任意後見制度が先ほど2000年4月にスタートしたと申し上げました。これは本人が能力がなくなったときに、民法の原則と違って、任意後見監督人が選任されなければ発効しないという制度です。


この制度について、一部の弁護士さんは、これは余りにも重たい制度だ。私的自治の制度からはいかがなものかということでいろいろな批判をされました。


  5年たった今、どういう状況にあるかというと、その重いと言われた任意後見制度すら既に濫用の兆しが見られています。一部の悪質な業者は、任意後見契約を濫用して高齢者を食い物にするというような実態も見られるわけです。


したがって、ぜひともこの濫用の問題というのは真摯に考えていただきたいと思いますし、私は、きょう主として申し上げた個人信託の分野、とりわけ高齢者・障害者が関与するような信託においては、やはり受託者の忠実義務の強行規定化ということは、ぜひその方向で考えていただければ私としてはありがたいというふうに思います。


  少し戻りまして、2番目の商事信託への偏りということであるわけですけれども、この商事信託の必要性はいささかも否定しません。こういう類型の信託があるべきだというふうに私も考えております。


しかしながら、今までの議論は余りにもそこのところに偏り過ぎていたのではないか。


ですから、外部から見ると、ビークル性を取り入れただけの信託法になるのではないかというような危惧もされているわけです。


ですから、商事信託はさらに効率的に普及できるようにすると同時に、それのみならず、やはり信託のいろいろなバランスを考えて、個人信託も公益信託も、あらゆる類型の信託がバランスよく発展できるような形にしていただきたい。


商事信託だけに偏っているというような誤解はぜひ避けるようにしていただきたいというふうに思います。

  そして4番目ですけれども、比較法とのバランスということで申し上げたいのは、私が議事録で拝見してきたところでは、比較法の検討は偏っているように思われます。


これはUTCのみに限定されていたというふうに私は思うのです。

  例えば、今OECDが信託について注目しており作業しております。これは要するに、9・11以降のいろいろな問題、信託の悪用事例にいかに対応するか、オフショアーにおける信託の濫用事例、こういうものに対応するような作業もやっておりますので、そういうものもぜひ参考にしていただきたい。


  それからスイス、これもハーグの信託条約を批准するために信託法を制定しました。


例えば、日本も大陸法国ですので、大陸法国でまさにできたての信託を持っている、例えばスイスのこういう事例も参考にしてみるというようなことも必要ではないかというふうに思うわけです。


  そして、私が見るところ、信託の基本法としては、やはりビークル性だけを強調した信託法というのはやや異例ですので、比較法的にももう少しリーズナブルな線に落としどころを見つけたらどうかというふうに考えております。


日本の信託法の改正は世界的にも注目されています。日本がどういう信託法をつくるかというようなグローバルな影響もぜひ考えて、もう少しいろいろな比較法の検討がなされてもよろしいのではないかというふうに考えております。

  5番目が、信託業法とのバランスということです。
  これは御存じのように、業法の29条1項では、信託財産に損害を与えるおそれがない場合を除いて、自己と信託財産との取引、信託財産と他の信託財産との取引をしてはならないというふうに規定しており、そして業法の29条3項では、そのような取引をした場合には、書面の作成と受益者への交付を義務づけているという規定になっております。


  それで、信託業法の29条と受託者の忠実義務の任意法規化というのは著しくバランスを欠くことになります。


信託法を改正すれば、信託業法についてはさらなる改正があるというふうにも聞いているわけですが、その辺もにらんで、ぜひこの辺は検討していただきたい。


そのときに、ぜひ信託業法と経営法との差異というものに注目すべきではないかと考えます。つまり、信託業法に基づく信託会社は専業義務を負っているわけです。


信託銀行は、銀行業務と信託業務を兼営しているわけです。それで、忠実義務の任意法規化というのは、免許業者であって兼営業者である信託銀行については任意法規化したいという、その気持ちあるいは理屈、実態はよくわかっているつもりです。


しかしながら、専業義務を負う信託会社についてまでそうする必要があるんだろうかというようなあたりも検討する必要はあろうかと思われます。そして、一般の民事信託、とりわけ個人信託の受託者を規制する信託法にとっては、やはり忠実義務の問題、ここのところは厳格に考えていただきたいというふうに私は考えております。


  そして、これは書いてありませんでしたが、6番目として追加で申し上げたいのは、自益信託と他益信託の区別の軽視ということです。

  私が非常に強く感じておりますのは、本部会はいろいろなアイデア、柔軟な思考をして、非常に多面的な展開をしているということではすばらしい議論を展開しているというふうに思うんですね。


ところが、非常にかたくなに拒絶しているものもあるんです。それは何かというと、自益信託と他益信託の区別です。


  私は立場上申し上げますが、この本を自益信託、他益信託の分類に従って展開しているという立場をとっておりますので、これは申し上げざるを得ないのですが、それだけいろいろなところを柔軟にしながら、なぜ、他益と自益の区別だけかたくななまでに拒絶するのか、それが私には理解できない。

つまり、他益信託と自益信託という区別も、それが絶対だとは決して思っておりませんが、一つの有力な考え方ではないのか。例えば、受益者の補償請求権の問題なり受益権の放棄というようなことを考えるときに、一つの考えるヒントにはなり得ると思うんです。


しかし、それをかたくなに拒絶してしまったということでありまして、私としては、今後の展開が非常に楽しみである。それはどういうことかというと、こちらにいらっしゃる先生方が、それほどまでにかたくなに拒絶しましたので、信託法ができた後、自益と他益の区別を御自分の論文なり著書の中で述べることは決してないだろう。

そうなった場合に、一体どうやって信託をうまく分類していくのかなということで大変楽しみにしております。


私はかたくなに拒絶された自益と他益の分類になお固執して今後も議論を展開するという、本来アナログ人間ですので、そういうことをしていきたいということを考えております。

  時間を恐縮して申しわけないんですが、最後に一言。
  いずれにしても、きょうは貴重な時間をいただいて、私のつたない報告を聞いていただいて、心から感謝しております。それで、ぜひ個人信託の有用性というものを信託法の中でお認めいただいて、それが普及できるようなことにしていただければ、私としては大変ありがたいと思っております。
  御清聴どうもありがとうございました。


● 大変どうもありがとうございました。
  それでは、20分まで休憩して、その後質疑応答をしたいというふうに思っております。

          (休     憩)

● それでは時間になりましたので、審議を再開したいと思います。

  ただいま非常に貴重な御報告をいただきました。非常に内容豊かだったと思いますが、この報告につきまして、皆様の方から御自由に御質問、御意見、また○○参考人の方からも御自由に御発言をいただくというふうにしたいと思います。

  ということで、いかがでございましょうか。どうぞ、皆様の方から御自由に御発言ください。


● 1つ確認と、それから1つ具体的な問題についてお教えいただきたいと思います。

  きょうの○○参考人の御報告、非常に明快で有益でありがたいと感謝しております。

  大きなというか確認の問題ですが、個人信託という言葉の意味ですけれども、それはどの部分が個人であることを指しているのかをまずはっきりさせていただいた方が全員が理解を共有できると思います。
  もう一つは別の問題ですので、とりあえず。

● わかりました。では、とりあえず個人信託ということで○○参考人がどういうことをお考えになっているかということですね。

● ありがとうございます。

  個人信託という言葉は、日本語でそう言っているんですけれども、英語で言
うとファミリートラストなりパーソナルトラストということになるんでしょうか。


ただ、パーソナルトラストというのはある銀行が使っていましたので、意識的に避けました。

  それで、要するに、英米で言われているようなことですね、家族間の財産管理であるとか、家族間の財産承継、商事信託とは一応別だという意味で個人信託というふうに理解しているんです。


ですから、明確な定義をするというのはなかなか難しいのですけれども、恐らく委託者とか受益者は家族のメンバーのことがほとんどだろうと思います。


受託者については、もちろん法人もあっていいだろうということで、英語で言えばファミリートラストの意味だというぐらいでお答えになったでしょうか。

● わかりました。どうもありがとうございます。

  もう一つ具体的な問題でございます。受益者連続機能の承認ということをきょう1つ具体的にお示しいただきまして、それは非常によく理解できることでございます。


ただ、○○参考人のお話は、それとrule against perpetuitiesの導入とがセットになっているのではなかろうかと思います。仮にrule against perpetuitiesの導入がないことになった場合に、それでも受益者連続機能を承認すべきか。


承認すべきだとして、別の歯どめが何か考えられるだろうかという点についてお教えいただけますでしょうか。

● 私は、申し上げたように受益者連続とrule against perpetuitiesをワンセットでやるべきだというふうな意見を持っています。そうでないと、結局ずっと続くということになると非常に問題があるというふうに考えます。


  今、○○委員がおっしゃった、もしそうでない場合の歯どめということになると、これは非常にまた難しい話になりますね。例えば、信託目的によって制限するのかというような議論になるのですが、私としてはそこは非常に考えにくくて、要するに、他益信託がずっと継続し、かつ委託者の意思がずっとそれに付着するというのはどこかの時点で切るべきだというふうに私は考えております。


ですから、歯どめよりは、ぜひセットでお願いしたいというふうに考えております。
● どうもありがとうございました。

● 私もちょうど受益者連続の話を伺いたかったんですが、それは飛ばしまして、その1個上の意思凍結機能の承認というところで一言お伺いしたいんですけれども、○○参考人は先ほど、条文化せよという話ではないという話をされたんですけれども、具体的に意思凍結機能を承認するということは、それを正面に置く条文を置かないとしても、他の条文のどんなところにその考え方が響いてきたり、あるいは解釈論のところに響いてくるというふうにお考えなんだろうか。


  例えば、ある設定後の信託条項の変更とか、そういうところに響いてくるんだろうか、どこなんだろうかというのがちょっと気になりましたので、それによって達成されようとしている他の箇所の立法論といいますか、そういうのについてお教えいただければと思うのですが。

● まず、意思凍結機能自体については明文の規定は多分要らないだろう。今、○○幹事のおっしゃったこととの関連で言いますと、1つは監督だと思うんですね、意思凍結機能を持っている受託者の監督をどうするか。

それはさっき申し上げたように、任意後見監督人との関係でどういうふうにバランスをとるかということです。必ずしも任意後見監督人と同じにしなくてもいいんですが、やはり監督ということが必要でしょう。


  もう一つは、長期間にわたりますので、義務をどこまで課し、逆にどう緩和するか。それは長期間善管注意義務を負っているということですと、やはり現行法23条みたいなものも必要と思いますので、そのあたりの規定です。

ですから、直接意思凍結機能の明文規定による承認は要らないとしても、随所に個人信託の意思凍結機能のことを考慮していただいた規定を入れておく。


そして、その説明のところにこういう個人信託にも対応しているんですよというような説明があって、総体として意思凍結機能が認められるということかなと理解しておりますが、それでお答えになりましたでしょうか。

● どうもありがとうございました。

● 私も、いわゆる後継ぎ遺贈型の受益者連続の話とrule against perpetuitiesに関しての質問でございますけれども、今回の要綱思案の62条で御提案がありますように、今回それを認めるべきかという提案がなされているわけです。

  それで、従前は何年にすべきかというのは注意書きで入っていたんですが、今回それが落ちているので、多分補足説明で出てくると思うんですが、ただ、何をすべきかどうかということを考える際に参考までに教えていただきたいということなんですが、○○委員と同じ質問になるかもしれませんけれども、このrule against perpetuitiesがなければどういう弊害があるのかという話ですが、私の理解が不足なのかもしれませんけれども、先ほどの御説明では2つ、つまり1つは、現行民法との平仄の問題と、もう一つは、何年後には非常に多くの受益者が出てきてしまう。

よって、非常に管理とかが難しいという文脈と理解したわけですが、それに加えて、社会的な問題というのがそこにあるのではないかなというふうに思っております。

  といいますのは、某協会でアメリカの信託の御教授が御講演されたのを拝聴したことがあるんですけれども、やはりダイナスティトラストということからわかるように、基本的に大金持ちの一族が、その資産が分散されないようにそういう信託を使っている。


税金とagainst perpetuitiesのルールの緩和と伴って、社会的に二極化がふえているという御指摘があったと思うんです。


そういったことを日本に置きかえて、本籍で信託について議論するときに、こういう法的な話とか実務的な話に加えて、社会的な側面ということも考える必要はあるのではないかと個人的には思ったりもしまして、よって、御質問なんですけれども、この点に関する先生の御意見と、それからアメリカとかほかの国における経験というのを御紹介いただければありがたいと思うんですけれども。


● ありがとうございました。
  御指摘のとおりでして、アメリカのダイナスティトラストというのは一部の富裕層が活用したいと、金融機関もそれにこたえているということで、相当なボリュームのビジネスが展開されているようですが、それに対する批判もあって、法律家はどちらかというと批判的で、その背景にあるのは、まさに今御指摘のあった点でして、資産の二極化みたいなことになるというようなことの指摘があるように思います。


  そのことを申し上げた上で法律論としましても、まず1つは、受益者の数が飛躍的にふえる。

私エピソード的に紹介したこともあるのですが、そのほかに2つ指摘したいのは、1つは、受益者連続というのは委託者、亡くなった委託者の意思が信託財産にずっと付着する。

これは英米ではデッドハンドコントロールというふうに言うんですが、それは民法の体系からするとおかしいわけですよね。やはり所有者が生存していて、その所有権を行使する。


ところが、亡くなった人の意思がある所有権に付着しているというのは理論的にはまずいだろうということが1つと、それから、これは四宮先生の言葉ですけれども、物資の流通を阻害する。つまり、例えば不動産に受益者連続型の信託というものが設定されていて、何十年も何百年も売れないということになると、取引関係の活性化というのを阻害して、これは民法90条に反する。


原理的にはその2つの面からも少し制約すべきで、やはり一定の期間は要るのかなというふうに私は考えております。

● 私が発言するのはあれですが、財産が集中するということに関連しては、日本だと--諸外国もあるけれども、遺留分減殺とか、それは受益者連続を認めても重ねて適用するということはあり得ると思うんですけれども、○○参考人はそこはどういうふうにお考えですか。

● 遺留分の問題……

● 相続という形でもって、受益者連続一般ではなくて、やはり死亡をきっかけにして連続するという形をとると、そこには相続があるので、信託の仕組みによって移転するにしても、遺留分減殺請求権は認めるという考え方があり得るかもしれないと思うんです。


● そうですね。ただ、受益者連続でいったときに、第二次受益者以降のものを全部遺留分減殺でかけられるかという議論は必要かもしれませんね。


● ごめんなさい、私が勝手に。
  ほかにいかがでしょうか。

● ○○参考人が最後の方で濫用のお話がありまして、今回のいろいろ新しいメニューをふやす中で、例えば有限責任信託とか目的信託とか信託宣言、こういうのを組み合わせるとより濫用ができるのではないかという話だったと思うんですけれども、他方で、○○参考人がおっしゃる個人信託を今後進展させるためには、やはり有限責任信託というがあった方がより柔軟な対応といいますか、固有財産で信託債務を弁済するという仕組みから逃れることができるということもありますし、目的信託も、公的信託がどの程度認められるかによって違ってくるかとは思うんですけれども、それでもどうしても公益信託から外れる部分に関して目的信託というのは非常に有用である。

ですから、先ほどの○○参考人が横浜市の事例で最後にどこかに寄与したいということをおっしゃっていましたけれども、あれは公益信託になるので、カバーできればいいんですけれども、仮に公益信託として認定されなくても、目的信託があればできるかもしれないとか、信託宣言も、ちょっと観点が違うかもしれませんけれども、他人の財産を預かっている場合、ただし、預かる行為自体が信託行為とは認定できない場合に信託宣言で、それを自分の信託財産として管理するというような視点で、ですから、どういう制度でも濫用はあるし、現状でも濫用されているし、より柔軟な制度、多様なメニューになれば、よりいろいろ悪用する人はいるかもしれませんけれども、他方において、それ自体が有用に個人信託の分野で利用できるのではないかと思うので、その辺についての○○参考人の御意見と、結局つまるところ担い手の議論ではないのかな--


それだけではないかもしれませんけれども、思うところもありまして、私は弁護士会から来ている弁護士ですから、弁護士が正しいと思いますし、既存の信託銀行も当然ふさわしいと思いますけれども、今後登場するところの信託会社が全部正しいかどうかというのはわからないところもあるかもしれませんが、その辺の担い手についてどう考えるかということと、その辺までを含めて現行の信託法の改正の中で対応するということは現実的に法制度として可能なのか、その辺について、仮に○○参考人が言うような形で信託法の改正がなされたとしても、それによって濫用事例が減るんだろうかとか、民事信託という意味で、高齢者の在宅管理という意味において、それが非常に幅広く利用されて、高齢者にとって非常に有用な制度になり得るのかどうかという、そうすると担い手の議論とか担い手のあり方の議論とか、その辺も関連してくるのではないかと思うんですけれども、その辺についての○○参考人の御意見をお知らせいただければと思うんですが。


● ありがとうございました。
  まず、担い手のことについて言うと、特に私がきょう話をさせていただいた個人信託の分野については、信託法に直接的な規定を盛り込むというのは難しいと思うのですが、ただ、そのことも想定しながら議論していただく必要があるだろう。


それから、今度、信託業法の改正なり兼営法の改正ということもあるんでしょうか、そういうこともにらんだ上でこちらとしては議論を進めていっていただく必要があろうかなというふうに思います。


つまり、株式会社だけに限定されるということで果たして可能なのかどうか、弁護士法人、司法書士法人をどうするか。そのときに、もちろん責任の問題がありますね。

さっき申し上げたように、今度弁護士会が株式会社をつくってやる。そのあたり、弁護士さんが個人でやる場合の担い手の問題と、株式会社組織にする場合、それから弁護士法人にする場合、いろいろなオプションがあると思うんですが、そのあたりをどういうふうにしていくのか。その担い手の類型を選ぶかによって責任の類型も違ってきますので、そのあたりもできればこちらでぜひ議論していただいて、個人信託の基本モデルみたいというんでしょうか、担い手の推奨モデルみたいなものぐらいは置いていただいた方がいいのかな。

ただ個人信託できますよということだと、正直言って私も非常に心配です、いろいろな個人がいますので。ですから、○○参考人がおっしゃったように、担い手のことも考慮しながら、ぜひ検討していただきたいというふうに思います。

  それから、濫用の話ですが、○○参考人がおっしゃったとおりで、どんな制度にも濫用があるのですが、立法するときにやはりそれが可能な限りないようにベストを尽くすべきではないかというふうに思います。


  あとはどういうふうな実務の運用になるかということなんですが、信託宣言にしても目的信託にしても、一番気になるのは、そちらの方はむしろ濫用よりも信託のセオリーですね、信託をどう考えているかというところが私にはよくわからない。


部会の目指すところがよく見えてこない。では、信託宣言で何をやりたいんですかと、私きょう、個人信託でこういう例があるということを申し上げましたけれども、では、信託宣言は何なんだ。

事業信託についてはきのうかおとといの日経金融に出ておりましたけれども、あれが本当に可能なのかという議論です。そういうのを少し詰めてやってみていただいたらどうなのか。


少なくとも日経金融の事業信託で見たところ、あれは信託なのかなと素朴な疑問を持ったのですけれども、そういう議論をざせていただいた上でどうでしょうか、濫用の問題、少し考えてみたらどうかと思いますけれども。


  つまり、信託宣言というのは特に制約はないわけですよね。どんな目的でもいいというのが今こちらのお考えだと思うんですよね、公正証書にするかどうかは別として。


そうした場合の濫用というのはすごくあるのではないでしょうか。それでも倒産隔離なりいろいろな信託のいいところは全部とれるわけですよね。それがほかの法制度との関係でバランスがどうかなという点が気になります。

  お答えにならなかったかもしれませんけれども。
● 私も○○参考人と一部似た感覚を持っていますが、個人信託という分野で、あるいは民事信託と言ってもいいかもしれないけれども--広げるとなると、とにかく担い手もいろいろなタイプのが出てくるし、そういう奏で、そっちは広げたいんだけれども、しかし、広げることによって濫用に誓いものも出てくるかもしれない。


だけど、それを恐れて信託宣言とかそういうのを制約していいのかというと、私の場合はそこは制度として残しておきたいと思うんですけれども、しかし、悩みがあることは確かですね。
  ほかにいかがでしょうか。

● ○○参考人のお話の中に信託銀行についても言及していただいていましたので、若干述べさせていただきたいと思います。

  ○○参考人のお話の中で、ある一定の時期だったと思うんですけれども、こういう個人の信託について、信託銀行は非常に消極的だったというような部分もありまして、確かにそういう部分もありまして、これは結構時代的な背景が大きかったんではないかと思いまして、○○参考人のお話の中で、入れていただいた私どもの安心サポート信託とかパーソナルトラスト、こういったところにもついても、まさにある程度信託銀行、銀行界全体そうですけれども、落ち着いて、これから先どういう形で信託制度なり金融制度を考えていこうかという中で、やはり民事信託といいますか、こういう個人の信託というのは重要であるというふうに理解しておりまして、この部会の中でもぜひとも御検討いただきたいというお話をさせていただきましたので、きょうのお話は非常に心強いお話だったと思います。


  もう1点、非常にありがたいお話といいますか、私ども方でずっと主張させていただいていた信託の弊害について、先ほどもお話がありましたけれども、まさに民事的なところでの信託を前提にする限りにおいての弊害というのは、やはり心配なものがたくさんありまして、それによって信託制度全体の信頼性を失うというようなおそれがありますので、ここについては、これは前から申し上げていますけれども、これはこの場の方々にということですけれども、御検討いただきたいなというふうに思っています。

  その際に、○○参考人にお伺いしたいんですけれども、先ほど、忠実義務を任意規定化するんではなくて強行規定化するというようなお話がありましたけれども、これについては今現在、我々信託銀行がやっているような実務を前提にする限りは、任意規定というのがふさわしいだろうと、そこら辺のところは御理解いただいているということですので、そういうことを前提にする限りにおいて、1つ御指摘されたのが、一般信託法の方で強行規定にして、業法でそれを緩和するというようなお話がありましたけれども、例えば、信託法の中で、この場で検討するわけですから、今、忠実義務を一つの事例として出しましたけれども、こういう塀外的なものを検討するに当たっての類型化といいますか、信託法の一般手法の中での類型なり何なりを考えて、それで例えば民事的な信託についてはこういう規律、商事的な信託についてはこういう規律というような類型化という観点で見て何かお考えはありますでしょうか。

● そうですね、理論的な可能性としてはそれも考えられるのではないでしょうか。

商事信託類型と、例えば個人信託、民事信託類型と分けて、忠実義務なんかも少しそこで差を設けるということはあってもいいかもしれませんね。ただ、立法技術的には非常に難しいのではないでしょうか。


そういう懸念はありますけれども、こちらでそういうような方向を選択するというのも一つのオプションだとは思います。


  私個人としては、信託法と信託業法と経営法、そのあたり、これで一貫して信託制度をサポートしているわけですから、その中で違った類型の義務を違ったように規定するというのが望ましいと私個人としては思っていますけれども、類型別に義務を規定するという、そのあたりがこちらとしては一番リーズナブルな生き方かもしれません。

  お答えになっていないかもしれませんが。
● ありがとうございました。

● ここで余り積極的な議論を展開というかお互いに討論する場ではないのかもしれないけれども、従来、信託銀行は監督規制をされていて、そういう意味で担い手としては安心なので、そこで公益班のところではいろいろ緩くしていても大丈夫だ。


だけど、それをしたい担い手に対する規制がないようなところでは厳しくしないと危ないという議論ですよね、今のはある意味で。それを信託法の中に持ち込んでくるというのは、非常に簡単に言うと、ちょっとこういう言い方は語弊があるかもしれないが、信託銀行に適用されるのは非常に緩くなって、それ以外は厳しいという、何となくちょっと変なことになるのでね。

● 今、担い手という意味合いではなくて、基本的にはまさに信託の種類、類型というようなこと。


● だけど、そうすると民事はあれで、商事は緩いというね……、ここでは余り議論しない。


● 感想めいたことなんですが、学会の縦割りで商法をやっているものですから、商事信託ということについては書いたことがあったんですけれども、きょう○○参考人がおっしゃっていただいたようなことについて書いたことがないものですから、感想を申し上げたいと思うんです。

  ○○参考人から正しく御指摘いただきましたように、商事信託についても改正の必要はあるとおっしゃって、きょうは○○参考人が御報告された分野について、おっしゃっている実質について私も全く違和感がないのみならず、ほとんど賛成であり、ぜひそういう検討がなされるべきだというふうに思います。


  ただ、1点多少違うかもしれないと思いますのは、どこまでを信託法改正でやれるかということでして、実は、私の感覚では、商事信託の観点から信託法改正が求められるのは、現在の信託法が商事信託を阻害している面があって、それを特別法でこれまで緊急避難的に解決してきた面がかなりあるというふうに思っているからです。


例を挙げるまでもありませんけれども、受益権の有価証券化、多数決による信託契約の変更、その他信託法上必ずしも規定はありませんので、特別法でこれまで対応してきた。


今後もそれでもいいのかもしれませんけれども、そうすると、個別に全部特別法をつくっていかなければいけない、あるいは受益者多数の場合について言えば、特別法によってその対応は違っていたりしまして、したがいまして、そういう観点から言いますと、商事信託が今後発展していく上では、ほかにもいろいろな論点はあろうと思いますけれども、信託法をここで改正していただく必要があるという論点がかなり大きい。これは○○参考人も賛成してくださっているという理解。


  今日、○○参考人がおっしゃったことは、私も将来ぜひ実現していただきたいと思うんですけれども、手短に申しますと、私のような法形式よりは機能を重視する感覚からしますと、障害になるのは信託法よりも次の3つだと思います。

  第1は、相続法、代理人・後見法を含めての民法の体系、第2が業法、そして第3が税法だと思います。もうちょっと具体的に申しますと、先ほどの意思凍結、あるいは受益者連続というものを信託にだけ認めて、代理人、相続には仮に認めない。


そういう選択肢をしていいのかどうか。私の感覚では、信託を優遇するような、そして委任・代理・相続ではだめという政策判断というのはいいのかどうか、私は専門ではないのでわかりませんけれども、直感的には機能論者としては両方整備すべきように感じますけれども、その点はわかりません。いずれにしても、そういう問題があります。

  それから、業法の問題は先ほどから出ていますけれども、信託銀行は今でもやれます。


ただ、信託会社になればできるからいいんですが、だれでも個人でもということになりますと、今、業法はないわけでして、仮にいいということになりますと、恐らく委任についても同じ問題があると思うんです。すなわち、きょうお配りいただきました新聞でいいますと、だれでもいいということになりますと、Bさんとここの新聞に書いてあるんですけれども、Bさんが受託者になるというだけの話であって、もしそこに家庭裁判所が選任した監督人のチェックという、新聞の図でこういうものが必要だという議論、これは○○参考人がおっしゃった議論で私も賛成ですけれども、そうだとすると、委任の場合であっても、信託の場合であっても、どちらを利用したとしても、こういう制度が必要になってくる。それはまさに後見制度との調整というふうにおっしゃった。

  したがって、言葉はいいかどうかわかりませんけれども、先ほどもお隣の桜井さんと雑談していたんですけれども、今、投資サービス法とか金融サービス業法という法制度を議論しているように、業法として高齢者財産管理業法というかそういうものが必要になってきて、そういうものがないと、受益者保護という言葉でおっしゃいましたけれども、高齢者・利用者の保護が図れない。


その場合の法形態は、言わば商事信託の方で会社形態と信託形態の両方が--先ほどビークルという言葉をお使いになりましたけれども、つかれるのと同じように、こちらの方では委任形態もあるし、信託形態もある。ただ、どちらの形態をとったとしても、財産管理業をする人に対する業者規制、あるいはここでいう後見規制というんでしょうか、そういうものを横断的に整備しませんと、結局、一方を閉めると他方へ行くということになるように思います類似が両方の問題です。それから3点目に税法の問題があろうかと思います。


  以上が私の雑駁な感想なんですけれども、もう一、二、もしお許しいただければ。

  1つは、信託のニーズということですけれども、なぜ信託が余り使われないのかということで、先ほどリバースモーゲージということがありました。○○委員からは、そのときの時代の背景ということもあるという御指摘がありました。


私は、きょうの個人信託の分野で、なぜ信託が使われないのかというのは、いろいろ法制度上の理由もあると思いますけれども、やはり業法の理由とか税法の理由が大きくて、結局、信託を使うことがよりコストになるから、ほかの形が使われているという、そういう話だと思います。

逆に言いますと、なぜアメリカやイギリス、あるいはその他で信託が使われているかというと、信託を使わない方がよりコストになるというか、信託の方がより合理的であるということではないかと思います。

  一、二例を挙げますと、例えば税ということで言いますと、これは○○参考人の本に書いてありますけれども、特定贈与信託、これはもし税の恩典がなかったら恐らく全く使われないと思います。


つまり、他益信託は贈与税というのは全く英米と反対の考え方でありまして、そういうところが非常に使われなくなっている、もっと一般的に言うと信託が使いにくくなっている大きな理由のように思います。

  そこで、もう1点、例えば信託法を強めますと、濫用というところでの御指摘の実質は私も全く賛成なんですけれども、信託を閉めると、結局信託が使われないので、委任とかがほかへ行くのではないかというのが私の感覚なんです。

そこが非常に悩ましいところで、ですから、忠実に閉めるのであれば、高齢者相手のこういうサービスは委任の忠実義務も--忠実義務とは呼んでいませんけれども、現在の法律はやはり強行法規にしてもらわないと困るというのが私の感覚でして、それは先ほど申し上げました財産管理業法みたいなものでやるのか、あるいは私法のところで横断的にやるのかという、そういう話のような感覚がいたします。


つまり、信託だけを締めつけるとほかへ逃げていかれてしまうので、逆に今度いい信託は、かえって今度は使いにくくなるというのが悩みであるように思います。


これは、これまで商事信託の分野で主として議論してきましたけれども、きょうのお話を伺って非常に難しい話だなという感想を持ちました。
  以上です。

● 何かコメントがありますか。今のは○○委員の御意見だけれども。
● 御指摘ありがとうございました。○○委員らしい御指摘で、大変示唆的でありがとうございました。


  まず、意思凍結機能について、信託だけでやらせるというふうには私も考えておりませんで、コンペティターとしては、例えば任意後見契約というのもあるわけですので、当事者がどちらかを選択するということでいいと思うんです。


ただ、任意後見契約の方は御存じのように裁判所も関与するということになったので、そうすると、信託の方はどうか、完全に私的自治だけでできるかということとのバランスが大切だろうということを特に強調したかった点です。


  民法学会の方は、そういう議論から全く別で、民法のレベルでもそれができるとまだ言っているんですね。ですから、当事者保護という点については、ここに民法学会の主要メンバーがいらっしゃるので、ぜひその点は今後検討していただければ。


ですから、受益者保護ということを考えながら、信託は決してオールマイティだと思っておりませんので、機能的に類似の制度を使ったらどうか。

  それから、担い手というのも、これも非常に重要な点で、おっしゃるとおりです。担い手が育たなければ、結局信託も利用されない。私、個人信託と言いましたけれども、担い手がまだ十分に育っていない段階でどうするんだということがありますので、業法の方でもぜひ担い手、マル適マークのある担い手というものを育成するような形で、ぜひ今後とも考えていただきたい。


ですから、株式会社だけではなくて公益信託、公益法人も入れるとか、NPOはやや問題かもしれませんけれども、一定のレベルに達しているものは担い手としていくというようなこと。


  他方で、法定後見と任意後見は全部裁判所が関与しているんです。信託も今度監督がある。他方、民法の世界という広大な世界があって、それは業者が何の規制もなくできるんですよね。そこが社会全体で見ると非常にアンバランスだなという御趣旨かと思いますし、私も全くそういうふうに思っています。


ですから、そこにどう網をかけていって受益者保護を図るかというあたりが一つ大きな課題かなというふうに思っております。


  ○○委員のお話を聞いて、商事信託と民事信託はそう違いませんよということを一番おっしゃりたかったのかなというふうにお聞きしました。


● ほかにいかがでしょうか。--きょうはいろいろおもしろい、また示唆的なお話をいただきまして大変ありがとうございました。


  比較法的な観点からも、確かにヨーロッパの方は大分いろいろ動いているということは承知はしていたんですけれども、なかなかそこまで目が行き届きませんで、私も余り調べてはいないんですけれども、○○参考人の御研究等がいろいろありますので、そういうのを参考にしたいなどと考えております。


  また、先ほどの忠実義務の任意法規化にするのか強行法規化にするのかというのに非常に典型的にあらわれているわけですけれども、非常に重要な問題提起もございました。


これから後半というんでしょうか、そこでいろいろ検討する際に十分検討していきたいというふうに考えております。
  ということで、若干時間がございませんけれども、特にほかに御意見がなければ、きょうはこのぐらいにしたいと思います。
  ○○参考人、本当にどうもありがとうございました。
● それでは、これで終わります。
 どうもありがとうございました。
-了-

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2016年加工編
法制審議会信託法部会
第20回会議 議事録

第1 日 時  平成17年9月16日(金)  自 午後1時02分
                       至 午後4時41分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   信託法改正要綱試案に関する意見照会集計結果について
   信託の公示について
   裁判所の監督について
   信託財産の範囲について
   信託財産の付合等について
   受託者の相続財産からの分離について
   信託財産に係る混同について
   受託者の権限の範囲について
   合併又は会社分割による受託者の変更について
   解任及び辞任以外の受託者の任務終了事由について
   受託者の選任について
   受益者の利益の享受について
   受益債権についての物的有限責任について

第4 議 事 (次のとおり)

議        事

● ただいまから第20回信託法部会を開催したいと思います。
     (幹事・関係官の異動紹介省略)
  それでは,今日の議事の進め方も含めて,これも○○幹事からお願いします。


● では,本日の議事でございますけれども,まず最初に事務局の方から,今回のパブリック・コメントの集計結果について,資料に基づいて概要を御紹介させていただきたいと思います。


  それが終わりましたら,本日はパブリック・コメントの結果なども踏まえまして,基本的にさほど争いがないであろうと思われる点について御審議の上,この部会での意見を取りまとめさせていただきたいと思っております。
  

その項目をあらかじめ申し上げておきますが,全部で12項目ございまして,1つは,第6の信託の公示について,第7の裁判所の監督について,第8の信託財産の範囲について,第9の信託財産の付合等について,第11の信託財産の相続財産からの分離について,第15の信託財産に係る混同について,第30の受託者の権限の範囲について,第36の合併又は会社分割による受託者の変更について,第38の解任及び辞任以外の受託者の任務終了事由について,第40の受託者の選任について,第43の受益者の利益の享受について,最後に第50の受益債権についての物的有限責任についてでございます。

● それでは,以上のように進めていきたいと思います。
  最初に,パブリック・コメントの関連について○○幹事から説明をお願いします。


● では,パブリック・コメントの結果について,第1から順次御説明していきたいと思います。
  


まず第1,信託の意義についてでございますが,まず1,このa,bの2要件が満たされるものを信託というという点につきましては,圧倒的に賛成意見ということでございます。


  部会の中では,分別管理義務を信託の意義に含めるかどうかという議論もございましたけれども,特にそのような要素を定義に含めなくてもよいのではないかという意見が何件か示されているところでございます。


  続きまして,太字の2,これは信託契約の効力の発生時期についてでございますけれども,これも,信託契約が合意によって成立し,かつその契約により信託の効力が直ちに生ずるという諾成的な契約であることについては,多数から賛成意見をいただいているところでございます。


  補足的意見のところにありますが,そのように,諾成的な契約であるということで異論はない,ただし,財産の移転以前には分別管理義務や帳簿作成義務は生じないということと,給付請求に応ずべき責任財産は存在しないということで,給付義務もないという前提で賛成するという意見が示されているところですが,事務局の考え方も,ほぼこれも同様でございます。


  第3番目に,信託契約の効力発生時における債務の引受けにつきましても,御意見をいただいたところからはすべて賛成意見をいただいているところでございまして,そのように当初から債務の引受けをできるとすることが,社会的資源の活用手段の多様性の観点から望ましい。


あるいは,信託設計後において債務の引受けができるのであるから,信託設定の段階で認めても問題ないということなどが補足意見として示されているところでございます。


  以上のようなところで,第1については圧倒的に賛成意見が多かったという状況でございます。


  次に第2でございますが,まず,1の脱法信託の禁止につきましては,意見をいただいているところからは,すべて賛成意見をいただいているところでございます。


  続きまして,2の訴訟信託の禁止につきましては,やや意見が分かれておりますが,賛成意見の方,すなわち現行法の規定の趣旨を維持するという意見がやや優勢であったかなというところでございます。

  続きまして,第3の詐害信託についてでございますが,これは太字の1の(1)(2),太字の2,(注)も含めまして,意見をいただいたところ,これも圧倒的に賛成意見。○○弁護士会の方から反対意見が述べられていることを除きますと,すべて賛成意見と申し上げていいかと思います。

  若干細かい話でございますけれども,例えば破産法上の否認権についても,これと平仄を合わせた規定の整備が必要であるといった意見が散見されますし,それから,1の(1)の取消しの場合は受託者を被告とするというのが事務局の考え方でございますが,その場合の受益者の権利保障を何らかの方法で講じる必要があるのではないかといった意見も示されているところでございます。


  そういうことで,基本的な信託に関する規律としては,これで圧倒的に賛成意見をいただいたと認識しているところでございます。
  

続きまして19ページ,第4,受託者不適格者についてでございますが,圧倒的に賛成意見が多数でございました。


  第5,受託者による受益権の全部の継続保有の禁止についてでございますが,これも反対意見はございませんで,意見をいただいたところは,すべて賛成意見でございました。


  補足意見ではいろいろと意見がございますけれども,例えば,受託者が受益権を保有している間の権利行使に何らかの制約が生ずるか否かについては,明らかにされたいというような意見も示されているところでございます。


  しかしながら,規律としては,国有財産での保有を継続したら信託は存続させないという規律に賛成するという意見が圧倒的に多数であったところでございます。


  続きまして,第6,信託の公示についてでございます。
  これにつきましても,試案の本文に書いてあるところにつきましては,一部に反対意見があった以外には,(注)の部分も含めて賛成意見が示されているところでございます。


  これにつきましては,後ほどまた改めて御審議いただく予定の項目でございますので,もう少し詳しく御説明の上,御意見を伺えればと思っております。


  第7,裁判所の監督について,24ページでございます。
  これにつきましても,2件の反対意見が示されている以外は大多数から,規定は削除するということでいいという賛成意見をいただいているところでございます。


  これにつきましても,後ほど御審議をいただきたいと思っているところでございます。

  続きまして,第8,信託財産の範囲についてでございます。
  これは,御意見をいただいたところからは,すべて賛成意見でございました。
  後ほど御審議をいただきたいと思っております。

  続きまして,第9,信託財産の付合等についてでございますが,これも本文につきましてはすべて賛成意見。(注)で分割に関する規律を設けること,中身はともかくとして,このような規律を設けることについても,すべて賛成意見でございました。


  これもやはり後ほど議論をお願いしたいと思っております。
  続きまして,第10の識別不能に関する規律でございますけれども,こちらは何件か反対意見もございましたけれども,太字の1,2,3を合わせまして,大多数は賛成意見をいただいているところでございます。


  意見はいろいろとございますが,例えば,識別不能についての共有擬制の場合に,その識別不能だった当時における価額をもって共有とするという規律を提案しておりますところについて,事後的に価額の変動があった場合,それが反映される必要があるのではないかといった意見が何件か示されております。


それ以外につきましては,このように,基本的に共有の擬制をすることにつきまして,圧倒的多数から賛成意見をいただいております。


  続きまして,第11,受託者の相続財産からの分離につきましては,念のため規律を設けるべきではないかという御意見が1件あった以外は,すべて削除することへの賛成意見をいただいているところでございます。


  後ほどこの方向で御審議いただきたいと思っております。
  続きまして,第12,信託財産に対する強制執行等についてでございます。


  1の,信託財産に対して強制執行することができる列挙された権利の中身,それから,違反して強制執行等がされた場合に異議を主張できることにつきまして,御意見をいただいたところからは,すべて賛成意見をいただいているところでございます。


  なお,若干補足的に申し上げますと,この(1)から(4)以外に,前回,補足説明でしたか,それ以外にも,例えば租税債権ですとか信託財産を所有することにより負担する法定の損害賠償債務に係る債権などにつきまして,信託財産に対して強制執行できるといったことを書くべきかというところについては,明確性の観点から書いた方がいいのではないかといった意見が示されておりました。

  それから,この試案の(注)のところで,信託事務処理につき不法行為をした場合について,不法行為に基づく損害賠償に係る債権者が信託財産に強制執行ができるかという問題がございまして,それについては部会でもさまざま御審議をいただいたところでございますが,やはり意見も区々に分かれておりまして,一まとめにできないのですが,大まかに言いますと3種類あって,1つは,取引的不法行為の場合,それから信託財産たる工作物の所有者責任のようなもの,それから事実的不法行為,その中でも,事実的不法行為を過失によって行った場合と,受益者の指図によってそういう行為を行った場合,そのように類型を分けて考えるべきではないかという意見がございました。

  なお,本来強制執行ができない権利に対して受託者が任意に弁済してしまった場合に,不当利得の返還請求を受益者ができるかという問題について,補足説明で付記させていただいたところでございますが,不当利得請求できるとすべきであるという意見が1件ございました。


  続きまして,第13,受託者の倒産の場合における信託と倒産手続との関係についてでございます。


  これにつきましても,太字の1,2,(注1)(注2)をあわせまして,多少の異論もございますが,ほぼ圧倒的多数から,このような規律を設けることに賛成するという意見をいただいたところでございます。


  なお,資料で言いますと38ページになりますが,破産管財人等の双方未履行双務契約の解除権についてというところで,受託者が破産した場合,受託者の破産管財人にはそのような解除権がないということは一致した意見と言って問題ないと思われますが,委託者が破産した場合につきまして,当部会では,あえて規律を設ける必要はない,解釈で十分対応できるということで,ほぼ御意見を一致させていただいたと認識しておりますが,パブリック・コメントの結果を見ますと,38ページに書いてありますように,解除権を明文で規定すべきという意見が幾つか示されているところでございます。

  意見がないところは,部会の結論のように特に規律を設けなくていいということかと思いますが,あえて規律を設けるべきだという意見がかなり示されていたところもございましたということを付言させていただきます。


  40ページに参りまして,相殺に関する規定の取扱いでございますが,太字の1と太字の2につきましては,反対意見はありませんでした。(注1)(注2)の債権者保護規定を設けるかというところにつきましては,若干意見が分かれておりまして,反対という意見も数件示されているところでございます。


  反対といいましても,細かく言いますと,およそ不要というよりは,中身によって,例えば信じるに足りる正当な理由というのでははっきりしないので,善意無過失という要件にすべきではないかといった意見がかなり示されているところでございます。


  そうしますと,およそ規律を設けることに全く反対だという意見はなくて,書き方の問題かという気がしているところでございます。


  続きまして46ページに参りますが,第15,信託財産に係る混同についてでございます。


  これは反対意見は全くございませんで,意見をいただいたところは,すべて賛成でした。後ほどこの方向で御審議をいただければと思っております。


  第16,委託者の占有の瑕疵の承継についてでございますが,規律を削除するという甲案と,現行規律を維持するという乙案を併記させていただきましたところ,これは双方の意見がございまして,分布を見ますと,甲案に賛成する意見,削除すべきというのが5件程度,現行規定を維持するという意見が9件程度ということで,乙案が多数であると言ってよろしいかと思っております。


  甲案につきましては,受託者の独立の占有を認めるべきであって,これを削除するのはそれに資するということ。乙案は,規律を削除してしまってすべて公序良俗,権利濫用等で対応するのは現実に対応できない場合もあり得るので,削除することは好ましくないといった意見でございました。結論的には,乙案が優勢であったということでございます。

  続きまして,受託者関係に移らせていただきます。
  まず,49ページの信託事務遂行義務につきましては,「信託の本旨に従い」という言葉を改めるべきだという御意見を一部いただいた以外は,すべて賛成ということでございまして,逆に,49ページ上から3つ目にありますように,○○弁護士会からは,実質的な意図に沿って,信託事務を処理するという意図を明らかにすべく,「信託の本旨」とすることは妥当であるという意見も示されているところでございます。


  大多数が試案に賛成ということでございます。
  続きまして第18,善管注意義務についてでございます。


  これも,善管注意義務を任意規定とすることについては,多くのところから賛成意見をいただいております。反対意見なり補足意見というのも,任意規定をすること自体に反対というよりは,加重軽減はできる,しかし免除までは許されないことを明記すべきではないかという方向の意見でございます。


  そういう観点からは,事務局としても免除までできるとは思っておりませんので,第18の規律については,大多数が賛成ということでよろしいのではないかと思っております。


  あと若干の補足意見では,例えば,第18に関する具体的な規定も設けるべきではないかといったものもございます。部会のかつての審議では,そこまでする必要はないであろうということを申し上げたと思いますが,やはりそのような具体化も必要という意見も示されているところでございます。


  それから(注)につきまして,現行法第21条を削除するという点につきましては,あった方がいいだろうという意見が一部示されている以外は,すべて削除でいいという意見でございます。


  続きまして52ページから,忠実義務でございますが,まず一番最初,1の規律を設けることにつきましては,反対意見が1件あった以外は,すべて賛成意見でございます。このような規定を設けることは,効力規定として賛成であるという意見でございました。


  なお,54ページの【その他の意見等】にございますが,一般条項である1においても禁止例外規定を置くべきであるという○○の御意見ですとか,1について利益相反取引の禁止の例外規定,他の2,3,4の例外規定に該当するような行為は忠実義務違反にならないことを明らかにしてほしいという○○の御意見がありました。


部会でもそのような御意見は出されているところでございますが,ここでもそのような意見が示されているところでございます。


  それから,太字の2でございますけれども,これは後でちょっと詳しく申し上げますが,基本的にはこのような規律を設けることに賛成である。


  太字の3につきましても,このような規律を設けることに賛成であるという意見が多数であったと言ってよろしいかと思います。


  この資料の中では,例えば55ページに一部反対ということを書いておりますし,57ページ,競合行為の禁止のところでも反対という意見がございますが,特に55ページの一部反対という意見などを全般的に総覧いたしますと,これは規律を設けることがおよそだめだという意味ではなくて,試案では,受益者の利益を犠牲にして第三者の利益を図る目的という主観的な要件を示していたところでございますが,そこは客観的な基準を用いるべきであるといった御意見が何件かあるところでございますし,仮に主観的な目的要件を定めるとしても,その立証責任は受託者側が負うべきであることを明らかにすべきであるといった意見も示されていたところでございまして,そういう観点から,一部反対という意見が結構あったところでございます。

  それから,かつて部会の中で,受益権の取引が利益相反行為になるかという御議論がございましたけれども,それにつきまして資料の55ページ,「受益権に係る取引について」というところに書いてございます。


  これは忠実義務の問題とすべきではないという意見を○○,○○からいただいておりますし,56ページの【その他の意見等】の2つ目では,○○からも,受益権に係る取引については利益相反行為として禁止の対象としないことを要望するという御意見で,意見をいただいたところはすべて,受益権取引は利益相反取引の規律の対象には入らないという意見が示されたところでございます。

  続きまして57ページ,4の利益取得行為の禁止のところでございますが,これは一番幅広く禁止規定を設ける甲案と,およそ規律は不要とする丙案に意見が分かれまして,中間的な乙案という意見はございませんでした。


  甲案,鑑賞料のようなものをとるとかリベートのようなものを受け取ることを禁止するという規律に賛成という御意見が11件ほど,およそ規律は不要であるという丙案が14件ほどございまして,規律を設けないという丙案がやや優勢かなというところでございます。


  甲案に賛成する意見では,申し上げるまでもなく,受益者の保護とか受託者の権限濫用の防止に有用であるという意見を述べておられますし,他方,丙案に賛成する意見では,このような規律を設けると受託者に萎縮的効果を与えることになり,結果として受益者の利益に反するとか,利益相反行為の規律あるいは第14条の信託財産の範囲に関する規律,あるいは忠実義務の一般規定をもって補足することができるので,あえてこのような利益取得行為の禁止の規律を設ける必要はないであろうといった意見でありました。


  それから第5,これはいわゆる公平義務に関する規律でございますが,若干の反対意見があったものの,大多数は,このような規律を設けることに賛成という意見でございました。

  ただ,60ページ【その他の意見等】の一番上にありますように,忠実義務と公平義務の規律は分離して,独立の項目とすることがわかりやすいと考えるという意見が複数のところから示されているところでございます。


  続きまして,忠実義務違反等の効果についてでございますが,まず,太字1の利益相反行為の禁止に違反する行為を無効とした上で,追認できて,第三者が絡むと権限外としての規律に服するというところにつきましては,賛成意見が多かったところでございます。なお,62ページの下に【一部反対】と書いてございますが,この反対というのは,信託財産間取引に関するところでございまして,試案では,信託財産間取引も当然無効としているわけでございますけれども,そこは他の信託の受益者の利益がありますので,取引を無効としないことを要望する,無効とする必要はなくて,第三者間取引に近い取扱いをするのが適当であるという意見が何件か示されているところでございます。

  続きまして,2の,競合行為の禁止及び利益取得行為の禁止というところでございますが,これは有効と見なした上で,いわゆる介入権類似の規律を設けるということで,すべて賛成意見で,あえて言及すべき反対意見,補足意見はございませんでした。


  問題は4番目,いわゆる利益吐き出し責任のところでございまして,甲案は,会社法と類似の損害の推定規定の規律を設けるにとどめるという見解,乙案は,いわゆる利益吐き出し責任を正面から認めるという見解でございますが,65ページに書いてありますように,甲案に賛成という意見が8件。余り数で言うのもよくないんですが,一応数で申しますと,8件。


それに対しまして,利益吐き出し責任の規定を正面から設けるべきだという乙案に賛成する意見も,66ページにありますように8件。バランス的にもいろいろな分野から御意見をいただいておりまして,意見伯仲というところでございます。


  先ほど言いましたように,利益取得行為の禁止については設ける必要がないというのが多数でありましたが,こちらについては,両方が伯仲しているところでございます。


  続きまして,分別管理義務のところでございますけれども,これにつきましては4件ほど反対意見をいただきましたが,賛成意見が多数であったところでございます。反対意見,補足意見の中身は,76ページまで挙げさせていただきましたが,区々に分かれております。


  目につくものを一つ二つ挙げますと,試案の提案では,登記・登録できるものについては,一定の猶予は認めつつも,最終的には必ず登記・登録が必要だということになっているわけでございますが,それはやはり信託行為の定めをもって排除できるとするべきではないかと。


例えば,抵当権付の金銭債権の信託の場合には,被担保債権の分別管理がされていれば抵当権に係る登記は必ずしもしていないこともあるので,その点に配慮してほしいという御意見ですとか,券面のある有価証券については,商慣習に従って預託を行っているので,信託行為に別段定めをしなくても分別管理義務違反にならないようにしてほしいというような意見,実務の現状に照らして,登記・登録できるものは信託行為の定めで外すことを許さないというところについては,少し規律が厳し過ぎるのではないかという意見が何件か示されているところでございます。


  続きまして77ページ,信託事務の処理の委託に移らせていただきます。
  まず1の,現行の規律の方向性を見直して,より委託できる幅を広げるという方向性につきましては,反対意見もありますものの,圧倒的に賛成意見が多いと言わせていただきたいと思います。


  1つ飛ばして,3の,委託を受けた受任者の責任を削るというところにつきましても,81から82ページになりますが,1件反対意見があったほかは,多数の方が,このような規律を削除することに賛成の意見でございます。


  意見が分かれておりますのが,甲案,乙案を併記しているところでございまして,大勢を見ますと,甲案に賛成しているところが乙案に賛成しているところの倍ほどございまして,結果的には甲案の方が,かなり優勢であったと言ってよろしいかと思います。


  主な意見の内容を見ますと,第三者への委託可能性を広げることによって信託事務処理の円滑を図るという観点からは,受託者の責任もある程度限定することが受益者の利益にもかなうのではないかというのが甲案を支持する意見として出されているところでございます。


  他方,先ほど第3項の受任者の責任を削ると申し上げましたが,そこは異論がないといたしましても,それは乙案が前提だという意見も示されておりまして,受益者の権利保護を後退させる事態を招かないためにも乙案に賛成するというような意見が,乙案の側からは示されていたところでございます。


  意見はさまざま分かれておりますが,甲案,乙案ということで言えば,甲案が優勢であったと言わせていただきたいと思っております。


  以上が第22の概要でございます。
  なお,2の(2),1に違反して委託をした場合には,不可抗力を理由として責任を免れることはできないというところについては,反対はありませんでした。


  続きまして,83ページからの第23,帳簿作成義務等についてでございます。

  これは規律自体が細かいのですが,1個ずつ意見をいただいております。総覧いたしますと反対意見は非常に少なくて,少なくとも太字の1,2,3に関する限りは,圧倒的にこのような規律を設けることに賛成だという意見が示されたところでございます。


  (注1)と(注2)(注3)につきましては若干意見が分かれておりまして,87ページ以降にそれぞれ意見の概要を示させていただいておりますが,例えば(注1)につきましては,受益者多数の集団信託に関する限り,会社法と同様の規律を設けることに賛成するという意見が示されておりますし,(注2)については,信託行為による制限を認めることについては相当ではないのではないかという意見が示されております。


また,○○からは,重要なものとそうでないものを分けて閲覧請求の対象を限定するのは望ましくないといった反対意見が述べられているところでございます。


  89ページの「その他について」でございますが,これは情報請求権全般に関する規律のあり方に関係いたしますが,信託財産が金銭債権である場合の債務者のプライバシーの保護ですとか,他の受益者のプライバシーの保護に留意した規律を望むというコメントが付されていたところでございます。


  そういうことで,(注)のところでは若干意見が分かれておりますものの,試案の本文についてはおおむね賛成の御意見をいただいているところでございます。


  それから90ページ,第24,受益者名簿作成義務についてでございます。

  これも多くのところから賛成意見をいただいているところでございます。

91ページにございますように,特に複数受益者がいるときには受益者名簿を作成することを原則とすべきであって,受益者多数の場合で受益者集会などを導入する場合には,必要的に作成すべきだという反対意見はありましたものの,90ページの〔補足的意見〕の一番最初にありますように,自己の情報を知られたくない受益者の存在であるとか,そもそも受託者自身が受益者を把握していない信託類型も存するので,任意規定とすることは妥当であるという意見が大勢を占めている状況でございます。


  (注1)から(注4)につきましては,91ページにございます。(注1)から(注3)までは特に反対といった意見はありませんが,(注4)については,閲覧拒否事由を法定する,あるいは信託行為で制限できるようにすべきかどうかというところについては若干意見が分かれているところでございまして,特に信託行為で制限することについては,91ページの下にございますように,妥当ではないという○○の御意見,また,○○も,受益者名簿の閲覧の利益が勝るので留意していただきたいという御意見。


その下の下になりますが,○○からも,信託行為の定めで閲覧請求を制限できるのは妥当でない。その下の,○○の御意見も同じでございます。


  他方,92ページの上から2つ目ですが,○○,○○からは,濫用的な閲覧を防ぐことができるような適切な制度設計を望む,また,下から2つ目の○○からも,やはり信託行為の定めで制限することを認めるべきであるという御意見が示されておりまして,これは賛否が分かれているところでございます。


  続きまして,第25,受託者の損失てん補責任等についてでございます。
  これは別に反対意見はございませんで,1,2,を含め,こういう規律を設けることにすべて賛成意見をいただいているところでございます。


  (注)の,損失てん補請求権と原状回復請求権の行使のあり方については,なお検討するというところにつきましては,94ページの〔補足的意見〕にございますように,いずれかの満足が得られればその他の請求は認められないという考えもありますし,原則として原状回復が優先されるべきであるといった御意見も示されているところでございます。


  これにつきましては,後ほどまた検討を続けさせていただきたいと思っているところでございます。


  続きまして95ページ,消滅時効のところでございますが,これは太字の1から4まで特に異論はなく,補足説明の中身と同じで,このままでいいのではないかという印象でございます。


  (注)につきましては,利益吐き出し責任のところがペンディングでございますので,消滅時効を設けることについては賛成だという意見が多くございますことを踏まえて検討していきたいと思っているところでございます。


  第27,法人役員の連帯責任についてでございます。
  これも1件反対意見はございましたけれども,本文については,おおむね賛成意見でございました。


  なお,(注)については,やはり時効と同じように,利益吐き出し責任のところについては追って検討することにしておりますが,ここでは連帯責任を課すかどうかというところにつきまして,連帯責任を課すことに賛成という御意見が4か所からありました反面,連帯責任を課すことに反対であるという意見が,やはり4か所から示されているところでございます。


  これも,利益吐き出し責任の規律をどうするかということとあわせて検討していきたいと考えております。

  続きまして,第28,違法行為の差止請求権につきましては,こういう規律を設けることへの反対意見はございませんでした。


  補足的意見の細かいところでは,受任者に対して差止請求を認めるかという問題で若干意見が分かれておりまして,例えば○○はその必要性を認めないと言っておりますが,○○は,できるべきであると言っているところでございます。


さらにその下の○○は,受託者に委ねているのだから受任者に対する差止請求は否定するのが妥当ということで,いろいろ分かれているところでございます。


  続きまして101ページ,第29,検査役選任請求権につきましては,このような検査役選任請求権の規律を設けることに賛成であるという意見が圧倒的多数ですので,その意見に基づきまして,規律の整備を図っていきたいということでございます。


  第30,受託者の権限の範囲につきましても,これは後ほど御説明いたしますが,試案の規律で反対なしということでございましたので,このような方向でいきたいと考えているところでございます。


  第31,受託者の権限違反行為についてでございます。
  まず太字の1の規律の仕方につきましては,意見をいただいたところ,若干分かれておりますが,多くのところがこのようを規律をすることに賛成だと。


103ページの賛成意見の方が104ページの反対意見よりも優勢であったという状況でございます。

  太字の2,取消しの効果が他の受益者にも及ぶというところにつきましては,105ページに示させていただいたように,圧倒的多数がそのような方向に賛成であるということでございます。


  取消権の消滅期間につきましては,太字の3と(注2)にかかわるところでございますが,若干意見が分かれております。


105ページに挙げさせていただいているように,現行法どおりでいいという賛成意見がかなりの件数あるところでございますが,それに対しまして,期間について,短過ぎるということで反対の御意見もかなりの多数,むしろちょっと多いぐらいでございますが,示されたところでございまして,期間をより長くした上で催告の制度も整備するのが妥当ではないかという意見が比較的多いのではないかという感じでございます。


これが太字の3と(注2)をあわせた意見の分布状況でございます。
  それから(注1)と(注2),特に(注1)相手方の主観的要件の証明責任をどうするかというところにつきましては,この審議会でもかなり御議論いただいたところでございますが,パブリック・コメントの結果でも意見が五分五分でございまして,106ページになりますが,受益者が立証責任を負うという見解,これは取引の安全の観点とか,取引当事者ではない受益者が取り消すんだから,詐害信託取消権の場合と同じように受益者が責任を負うべきであるという御意見と,受益者は十分情報を有しないのだから相手方が立証責任を負うべきであるという御意見とに分かれているところでございます。

  (注3)の,民法第117条に類する責任を設けるべきかどうかといったところにつきましては,あえて賛否とはしておりませんが,意見が分かれている状況でございます。


  続きまして,第32,費用等の補償請求権,109ページ以降でございます。

  まず太字の1,信託財産から費用の補償を受ける権利につきましては,(1)から(5)まで,おおむね賛成意見をいただいたところでございます。


ただ,○○と○○から反対意見がございました。この反対というのは,全部についてではなくて,(4)になるんでしょうか,一定の権利に対してのみ優先権を付与するという規定は非常に複雑なことになるということから,そのような規律は望ましくないのであって,優先関係については権利者単位とすべきではないかという御意見が示されておりました。


  次に,太字の2,受益者からの費用償還請求権の問題でございますが,109ページに書いてございますとおり,甲案は本来受益者にいけるという考え方,乙案というのは,特別に信託外の合意をして初めて受益者にいけるという考え方でございます。


  これにつきましては,112ページにありますとおり,さまざまな分野から御意見をいただいておりますが,甲案に賛成と乙案に賛成が同数でございまして,伯仲しているところでございます。


  甲案,すなわち受益者には当然にいけるという案を支持する方からは,利益を享受する受益者がリスクも負担するのが相当であって,補償請求権は信託実務にも根付いていて,それを前提に実務が運用されているということ,あるいは,個別の合意をすると受益者によって補償請求できるかどうか区々になってしまって,公平を害するおそれがあるというようなことが述べられているところでございます。


  これに対しまして,個別の合意をすべきだという乙案の方からは,同意なくして義務を課されることはないのが民法の大原則であるとか,あるいは,そもそも信託というのは受益者に利益を与えるものであるという信託のあり方,それから,特に高齢者,障害者などが受益者になった場合に,当然に請求権があるというのでは問題が大きいというような考え方,あるいは比較法的な考え方などもあわせて,乙案を支持するという意見が出されているところでございます。件数としては,ここは平等というところでございます。

  あと3,4,5につきましては,すべて賛成意見をいただいているところでございまして,基本的に,この試案の規律でよろしいのではないかというのが,このコメントを踏まえた考えでございます。


  (注1)から(注5)につきましても,特にここで言及するようなことはございません。意見はところどころ示されてはおりますが,基本的にこのような方向を御支持いただいたものと認識しているところでございます。


  次に,第33,報酬請求権についてでございます。

  まず1,原則無報酬であるというところにつきましては,全部から賛成意見をいただいたところでございます。ただ,117ページの〔補足的意見〕にございますように,信託行為に額の定めなどがない場合におきまして,受託者が相当な額を決定したときは異議権を受益者に認めて,その場合は裁判所による報酬額の決定の手続を設けるべきであるといった御意見が何件か示されたところでございます。

  それから,2の(2),受益者に対する信託報酬請求権につきましても甲案,乙案を提示させていただいております。甲案は,信託行為をもって信託の一環として報酬請求権がある,乙案は,個別の合意が必要だという考え方でございますが,こちらの方は乙案の方がやや優勢でありまして,受益者の意思を重視して乙案によるべきだという意見の方が,甲案によるべきだという意見よりも数は多かったかなということでございます。

  先ほど言いましたように,補償請求権については平等というか,対等だったわけでございますが,報酬につきましては,特別の合意が必要だという意見の方が優勢であったというのが意見分布の状況でございます。


  2の(1)(3)(4)につきましては特に異論なく,意見をいただいたところからは,すべて賛成意見を示していただいたところでございます。


  続きまして,第34,受託者が複数の信託に関する規律についてでございますが,太字の1から4まで,試案の規律自体は,意見をいただいたところからは反対意見はなかったところでございます。

  試案の本文には書いていないところで若干意見がありましたのが,1つは,共同受託の場合の名義のあり方でございまして,121ページの【その他の意見等】に幾つか出てくるわけでございますが,職務分掌型の共同受託においては単独名義で契約ができて,登記・登録も単独名義でできることを明確にしていただきたいというかなり強い御意見が○○からございましたし,○○からも同じように,やはり単独での公示を望む趣旨の御意見をいただいているところでございます。これが1点目でございます。


  それから,123ページから124ページにわたりますが,これも部会では御議論いただきましたけれども,受託者の1人に債務名義をとることによって,信託財産に対して強制執行することができるかどうかという問題につきましては,意見が2つに分かれております。


例えば,123ページの一番最初の意見であれば,他の共同受託者との関係でも債務名義をとる必要があるという意見が述べられている反面,124ページの上から2つ目,○○でございますが,1人に債務名義をとれば信託財産に強制執行することができるという意見でございます。


125ページの上から2つ目の○○につきましては,やはり全員に対する債務名義が必要だという意見でございますが,○○は1人に対してでいい,相手方からすると,だれがほかの共同受託者かわかりにくいからだというような意見。要するに,賛否入り乱れている状況でございまして,執行法との関係も含めて,なお検討を進めてまいりたいと思っているところでございます。

  続きまして126ページ,第35,受託者の職務の引受けについてでございます。

  これは反対意見はございませんでしたが,回答の相手方が受益者になっているところについては,催告をしてきた者についても常に回答すべきであるという○○の意見もありましたし,後ほど御説明しますが,委託者は受益者に信託設定を通知したくないという利益がある場合があるわけでございまして,ここで受益者に対して常に回答すると,そのような利益を無視してしまうことにもなりますので,その点などを見直した上で,後日改めて提案したいと思っております。

  続きまして,第36,合併又は会社分割による受託者の変更につきましては,若干の反対意見がございますものの,おおむねこのような規律を設けることで賛成という意見でございます。これは後ほど御審議いただければと思っております。


  続きまして,第37,受託者の解任及び辞任についてでございます。

  まず,解任につきましては若干意見が分かれておりまして,賛成意見がかなり多数でございました。131ページを見ますと反対意見がございますが,そこでは,任意の解任を認めるべきではなくて一定の事項を法定すべきである,特に裁判所による解任の請求権についても一定の制約を課すべきだといった御意見が出されているところでございますが,大多数の方からは,いつでも任意に解任できるという方向でいいのではないかという御意見をいただいているところでございます。


  それから,2の受託者の辞任につきましては,反対意見はありますものの,ほぼ一致して,受託者の辞任を制限する現行法の規定を維持する方向でよいという意見をいただいているところでございます。

  続きまして,第38,解任及び辞任以外の受託者の任務終了事由についてでございますが,これにつきましても,御意見をいただいたところはすべて賛成意見でございます。

  これにつきましては,後ほど御審議いただきたいと思っております。
  第39,前受託者等の義務等についてでございます。
  これにつきましても,特にこれといって言及させていただきたい反対意見はありませんでしたので,この方向で,あと若干修正を加えていきたいと考えているところでございます。


  続きまして138ページ,第40,受託者の選任についてでございます。

  これにつきましては,反対意見が1件だけあるんですけれども,1も2も含めまして圧倒的に賛成意見ということで,後ほど御審議いただきますが,その方向でいきたいと考えているところでございます。


  続きまして139ページから,第41,受託者の交代に伴う法律関係についてでございます。

  ここについても,御意見をいただいたところは,すべて賛成意見でありました。なお,1点だけ申しますと,141ページの「2について」というところで3か所から御意見をいただいておりまして,前受託者の新受託者への権利義務承継後に権限外行為を行った場合の善意無過失の相手方の保護の条項,それから契約上の地位の承継があった場合の取引の相手方の保護の条項,かつて審議会で御議論いただいた記憶がございますが,このような規律があった方がいいのではないかといった示唆もあったところでございます。

  続きまして143ページ,第42,信託財産管理人についてでございます。
  これは,(注1)を除いてすべて賛成意見ということで,基本的に選任,権限,義務についてはこの方向でよいとの感触でございます。


  なお,144ページから145ページになりますが,(注1)について,辞任,解任の請求がされたにすぎない段階でも選任を認めるかどうかというところにつきましては,○○,○○,○○からは賛成意見があったのに対しまして,○○は,これには消極的であるという意見が出ているところでございまして,3対1ではございますものの,実務に携わる方の中でも意見が分かれておりまして,第42の規律の中では,唯一意見が分かれていたところでございます。


  続きまして147ページ,第43,受益者の利益の享受についてでございます。

  1と2について,それぞれ1件ずつ反対意見が述べられておりますものの,圧倒的多数は試案の規律に賛成であるということでありました。後ほど御議論をいただければと思いますが,結論的には,この方向でいきたいと思っているところでございます。


  続きまして第44,信託管理人等についてでございますが,これにつきましても,賛成意見がほとんどであったかなというところでございます。


  ただ,反対というわけではありませんが,若干疑問を呈しているところを少しだけ見てみますと,例えば,受益者の一部のみが権利を行使することができない場合にも,その一部の者のために信託管理人を選任することを認めるべきであるという意見が,反対意見という形にはなっておりますが,示されております。


  それから,○○とか○○から,ここは信託管理人の制度と受益者代理の二本立てでよくて,受託者監督人の制度は不要ではないかといった意見が述べられているところでございます。

  あと,権限の中身につきましては,152ページ,153ページに関係してまいりますが,例えば,上から3つ目の○○の御意見で,受益者本人と重畳的に受託者監督人に権利行使を認めるのは疑問であるという意見が示されておりますし,受益者代理につきましては,152ページの下の〔補足的意見〕にございますが,○○から,受益者代理に基礎的事項についての変更の同意権限を与えるべきではないといった意見が述べられております。


  153ページの【反対】の〔補足的意見〕でも,○○から,やはり受益者代理に信託の基礎的な変更の承諾権限を与えることと,信託の利益を受領する権利を与えることに反対するというような意見が述べられているところでございますし,あと,153ページの下の方におきましては,例えば一番下,○○からは,受益者代理に授権された範囲の事項については,受益者本人の権利行使は許されないものとすべきであるといった意見が示されているところでございます。


  今,反対意見を挙げましたが,大多数は試案の内容でいいのではないかという御意見だったということは,念のため付言させていただきます。


  続きまして,第45,信託行為の定めによる受益者の権利の制限についてでございます。

  これは賛成と反対に分かれておりますが,155ページにあります賛成意見の方が,157ページにあります反対意見よりも若干優勢であったかなということで,パブリック・コメントの結果は,原則として単独受益者権は信託行為で制限できないという方向でいいのではないかという御意見の方が強かったという印象でございます。


両方ともに,さまざまな分野から意見をいただいているところでございます。


  なお,(注2)の受益者多数の場合については,信託行為の定めによる制限を認めることをどうするかという点,この場合については,パブリック・コメントの結果を見る限り,むしろ制限を認めてよいのではないかという見解が比較的多数示されているところでございまして,例えば156ページの下から2つ目,○○からは,受益者多数の場合について,一定割合を超える受益権を有する受益者に限って権利行使を認めるなどの特例を設けるべきかという点については,設けるべきであるとの意見が多数を占めたという意見。


やはり同じように,集団的信託については一定の制限があってよいのではないかという御意見。


それから,157ページの【その他の意見等】の直前にございますが,○○の方からも同じように,制限を認めていいのではないかという意見,それから,158ページ冒頭では○○からも,やはり受益者多数の場合については権利行使の制限を可能とする規定を整備されたいという意見がありまして,もちろん反対意見もありますが,受益者多数の場合については制限が必要ではないかという意見が,多数示されているところでございます。

  続きまして,第46,受益権取得請求権についてでございます。

  これを強行規定とするか否かにつきましては,159ページの賛成意見の方が,160ページの反対意見の倍ほどと多数を占めたということで,強行規定とすることに賛成の意見の方が強いと言っていいかと思っております。


強行規定とするのは受益者の利益を保護する観点から適切であるという159ページの○○の意見に代表されているところでございますし,強行規定とするのに反対の意見は,160ページに書いてございますが,信託の柔軟性を害することですとか,換金性の低い信託においては,受益権を取得することは事実上困難であって,結果的に多数決をできないことになってしまうのではないかということです。


一言で言えば,信託の柔軟性を犠牲にしてまで強行規定とする必要はないというのが反対意見でございますが,多数は,強行規定とすることに賛成という意見であったところでございます。


  続きまして162ページ,受益権取得請求が認められる要件等についてでございます。


  これは賛成,反対と書かせていただいてはおりますが,よく読むと,賛成,反対と白黒つけられないところでございまして,いろいろな意見が示されているところでございます。


  例えば162ページの上から2つ目,○○では,受益債権の内容の重要な変更と信託財産の管理・運用方針の重大な変更を加えるべきであると言っておりまして,賛成といっても,これはプラスするというんだから一部反対とも言えるものでございます。

  それから,163ページには反対意見が書いてございますが,〔補足的意見〕の一番最初,○○からは,信託目的の変更と受益者間の衡平を害する受益債権の内容の変更は,削除か定義の明確化を要望するということ。○○も同じように,信託目的については明確化を図ってほしいということですとか,軽微な免責については認めるべきではない。


その下の○○や○○の方からも,衡平を害する受益債権の内容の変更については削除すべきであるということ。その下の○○からの意見は,間接的に受益債権の内容が変更されるものは含まれないと考えてよいのかどうかというように,いろいろ意見が分かれているところでございます。


  また,損害を受ける受益者に限定することについても賛成意見,反対意見が分かれておりまして,164ページの一番上,○○では,損害を受けるおそれのある受益者に限定することには反対すると言っておりますし,165ページの「(注3)について」では,○○や○○からも反対する意見が示されているところでございます。


  他方,166ページ,○○あるいはその上の○○の御意見を見ますと,経済的な損失を被ることのない受益者については認める必要はない,経済的な不利益を受ける者に限られるべきであるということでございまして,要するに,どういう場合にだれが認められるかは,賛否というよりは,いろいろな意見が錯綜しているところでございます。


  続きまして,第47,受益者が複数の場合の信託の意思決定の方法でございますが,本文については,特に目立った反対意見はございませんでして,おおむね賛成の御意見をいただいたところでございます。


  なお,一部から,定足数とか決議要件については強行規定を入れるべきではないかとか,受益者集会や決議の瑕疵を争う訴訟を入れるべきではないかというような意見も示されてはおりましたが,基本的には,規律の任意性,柔軟性を重視した試案の内容がいいのではないかという賛成意見が多数を占めていたという印象でございます。


  続きまして,第48,受益権の譲渡についてでございますが,1及び2につきましては反対意見がございませんでした。

  175ページに参りまして,3についても,おおむね賛成意見でございまして,補足意見として,異議を留めない承諾には抗弁切断の効力を認めるべきではないかといった意見が2件示されましたが,抗弁はそのまま引き継がれるという試案の考え方でいいのではないかという意見が多かったところでございます。


  176ページの第49,これは受益者に対する補償請求権や報酬請求権の甲案,乙案に対応する形で,当然ながら意見が分かれているところでございます。


  第32,第33の規律が決まれば必然的に決まってくるべきものかなという感じがしております。


  ただ,受益権の放棄の効果につきましては,将来的な放棄も可能とすべきであって,常に当初から権利がなくなってしまうとする必要はないのではないかという意見が○○の方から出されているところでございます。


  第50,受益債権についての物的有限責任については,反対意見はないということでございました。後ほど御審議いただきたいと思います。


  第51,受益債権と信託債権の優先劣後関係でございます。
  これは信託債権が優先する甲案と,同順位とする乙案がございますが,結論的には,信託債権が優先するという甲案がかなり多数でございました。


乙案の方は,信託債権も受託者の固有財産も責任財産となるのであるし,同順位とした上で,信託行為で受益債権を劣後する特約を定める方が柔軟なスキームを構築することが可能になるという意見でございましたけれども,素朴に考えますと,やはり信託財産の価値の維持・増加を目的とした信託債権の方が受益債権に優先するのが公平であろうということですとか,信託債権者の地位が同順位となると,信託債権者のリスク管理に重要な変更をもたらしかねないといったことなどから甲案に賛成するという意見が,数で言えば3倍ぐらいで,優勢であったというのがパブリック・コメントの結果でございます。


  続きまして,第52,受益債権等の消滅事項等についてでございますが,試案の本文については,特段の反対意見はございませんでした。


  なお,補足的意見として,○○は184ページの一番上,1の(3)の規律は要らないのではないかと言っているのですけれども,他方,○○からは,支払ったけれども帳簿は10年たったので廃棄してしまった,しかし記録上は債権が残っているという証明がないような場合には,1の(3)の規律をもって時効にできるようにしてもらいたいという意見があるということで,1の(3)の規律をもちろん残した上で,そこについて,そういう場合も含まれるようなことを明らかにすべきではないかという意見が述べられているところでございます。


  続きまして185ページ,委託者の権利義務でございます。

  委託者の権利の中身を基本的に後退させるというところにつきましては,○○から反対意見はありますものの,大多数は,このような方向性でいいのではないかということでございました。


  委託者の地位の移転につきましても,圧倒的多数が,全員が合意した場合に移転するということで問題はないだろうという意見でございます。


  続きまして188ページ,信託の変更についてでございます。

  まず,一番最初,3者の合意で変更できるということについては,反対意見はございませんでした。

  それから2,1の例外を認めることについても,反対はない。一部,○○ですか,明確化してほしいといった御意見もありますが,基本的に,一部の者の合意ないし決定で変更できるという柔軟なスキームを法律上明確にすることについては賛成であるという意見が圧倒的多数であったといえるところでございます。


  3,4につきましては,いささか意見が分かれております。
  まず3につきまして,これは191ページと,197ページの「(注2)について」にも関連するわけでございますが,要するに,例えば信託行為で第三者の変更権限を与えたときに,制限を加えるべきか否かというのがポイントだと思っております。


そういうことで,3と(注2)は一体的にお考えいただければと思っております。

  ここは御意見が分かれておりまして,比較的多くの御意見をいただいているところでございます。


特段の制限は要らないというのが191ページの賛成意見に挙げさせていただいたところでありまして,〔補足的意見〕にありますように,受益者の権利保障はほかで図られているとか,信託行為で変更権限を付与しているんだから予見可能性が保護されているので,あえて制限を設ける必要はない。


  198ページをごらんいただきますと,○○,○○などからも,特に制限を設ける必要はない。○○からも,制限を設けると信託の柔軟性が損なわれるということで,制限は不要という意見がございました。


  他方,191ページに戻りますが,事項を限って賛成するという意見も述べられておりまして,制限を設ける限りにおいて賛成するという○○の御意見ですとか,○○からも受益者は相対的に弱い立場にあるので,変更できる範囲について制限を設けるべきであるということが述べられておりますし,197ページをごらんいただきますと,(注2)についての〔補足的意見〕にございますように,○○からは,やはり一定の制限を設けるべきであるという意見が述べられております。

  しかし,数だけ言いますと,特に制限を設ける必要はないのではないかという意見が,○○や○○,経済的な団体なども含めて,比較的優勢であったかなという印象でございます。


  次に,4の裁判所による信託の変更の問題でございます。

  193ページ以降になりますけれども,これは管理方法の変更に限るという甲案と,管理方法の変更に限らないという乙案がほぼ同数で,伯仲しているところでございます。


  193ページには甲案,狭くする方に賛成の御意見がございますが,○○では,信託行為の規定は多種多様と思われるので,申立人により提示された変更内容の当否を裁判所が判断するのは困難であると言っておられますし,○○では,やはり甲案に賛成する理由として,信託の変更は本来,関係者の自治によるべき問題であって,裁判所の判断になかなか馴染まない変更について対象とするのは現実的ではないといった御意見を述べられているところでございます。


果たしてそのようなニーズがあるのかも明らかでないといった意見も述べられているところでございます。


  他方,変更の範囲を信託の管理・保護に限る必要はないという意見,195ページにありますが,これはやはり裁判所の後見的な関与を期待しているものであって,あえて範囲を限定する必要はないし,デッドロックに乗り上げたときのことを考えると,やはり幅広く変更の権限を認めておくべきではないかということでございまして,特に(注4)に挙げておりますとおり,信託の変更に当たっては,どのような変更をすべきか明示して,それについての許可,不許可を判断するというのであれば,さほど困難な判断を要求するものではないのではないかというのが乙案の賛成意見として述べられていたところでございます。


  意見としては伯仲しておりますので,引き続き御審議をいただく必要がある事項かと存じているところでございます。


  続きまして,第55,信託の併合と第56,信託の分割についてでございます。


  これは特に反対意見といいますか,こういう規律を設けること自体については,信託の併合,信託の分割とも圧倒的多数が賛成意見だと認識しております。


  なお,併合,分割ともに○○から一部反対意見があるわけでございますが,信託の併合や信託の分割について,信託の変更の規律をそのまま準用して裁判所の判断の対象とするのは反対であるということでございまして,規律を設けることについては別に反対ではないのだと思いますが,裁判所の判断対象にはするべきでないという御意見が示されているところでございます。


  続きまして207ページ,信託の終了の方に飛ばさせていただきまして,第57,信託の終了事由等についてでございます。


  これにつきましては,1のcの場合を除きまして特段反対意見はございませんでした。例えば,終了の時期を外部的に公示する必要があるから,その公示手段を検討すべきという○○の御意見ですとか,あるいはdの,必要な期間の判断基準を明確化してほしいといった意見は付記されておりましたが,基本的に,1の規律自体については賛成ということでございます。


  1のcにつきましては,何件か反対意見が示されているところでございます。

それは210ページに書いてございますが,信託の終了の要件として,信託の本旨に適合しないことになったというのは不明確な規定であるという○○の御意見ですとか,○○の方からは,このような規律を設けることは,申立てを排除できる可能性が高いとしても,仕組みの安定性を害するおそれがあるのであって,強行規定としてこのような権利が付与されることには反対であるというような意見が述べられているところでございます。


  そういうことで,1のcについてはそのような反対意見も考慮しつつ,引き続き検討していきたいと思っておりますが,ほかのところについては,おおむね賛成意見が多いというのが全体的な感触でございます。


  続きまして,信託の清算についてでございます。
  これは賛成意見が示されているにとどまりまして,反対意見は特にございませんでした。

  あえて申し上げるとすれば,受託者が長期不在で信託が終了したときの清算受託者については,職権ないしは請求によって選ばれる必要があるのではないかという御意見がございましたのと,2の(1)と3の場合につきまして,214ページにございますように,信託行為の定めがあるときはその定めに従うという文言を追加してほしいという意見が○○,○○から示されております。


賃貸借などについては,そのまま引き渡して清算することがあるということで,信託行為に定めがある場合には,必ずしもこのような清算手続を経なくても許されることを認めるべきだという意見が示されているところでございます。

  217ページの第59,信託財産の破産についてでございます。
  これは,有限責任信託を認めれば破産手続の整備をすることに賛成だという意見が圧倒的多数であります。


218ページの反対意見にございますように,破産の場合,ウォーターフォールに従って弁済すれば足りるのだから規律は不要だという意見が1件ございますが,相続財産の破産に倣った破産手続を整備することに賛成という意見が多数でございました。


  なお,意見が分かれておりますのは,一般の信託について破産制度を整備するかどうかというところでございまして,218ページの「(注)について」にございますが,制度の整備に賛成するという意見と,反対するという意見が相半ばしているところで,パブリック・コメントの結果としては,優劣が決められないところでございます。


  あと,信託財産破産手続の細目につきましては,それほど多くの意見も来ませんでして,特段意見が分かれているといって御紹介するほどのこともないのですが,1点申し上げるとすれば,220ページの「破産手続開始の原因について」のところで,債務超過のみで足りるという見解と,支払不能も含めるべきだという見解に分かれていたところでございまして,ほかのところは,おおむね異論がないといった状況でございます。


  続きまして,第60以降の民事信託に関する規律でございます。

  まず第60,受益者を指定又は変更する権利については,結論的に異論はございませんでした。


  第61の遺言代用の信託につきましては,このような規律を設けることに賛成の意見が比較的多い状況でございますし,第62の,いわゆる後継ぎ遺贈型の受益者連続につきましても,このような信託を有効と考えていいのではないかという意見が多かったところではございますが,他方,反対意見といたしまして,そもそも相続法との調整が十分ついていないこの段階で,民事信託に関する規律を設けることについては反対である,あるいは遺留分等との関係も十分明確ではなくて,なお時期尚早ではないかという意見が,特に61,62あたりについては示されたところでございます。


  続きまして,第63,遺言信託についてでございます。
  遺言による信託の設計ができるということについては,賛成意見が大多数でありました。

  1つ飛んで,3,遺言信託の受託者の選任の請求についても全員が賛成ということで,問題ないと思っております。


  意見が分かれておりますのは,2の相続人の権利義務,甲案と乙案のところでございまして,これは実は第64,237ページの甲案,乙案とも関係してくるところでございます。

  237ページの契約信託の場合で御説明いたしますと,これは承継ありとする甲案の方がかなり優勢でございまして,相続を認める方が自然でありますし,委託者の権利を害することもないだろう。

外したければ信託行為で承継されないとすればよいのではないかということから,契約信託の場合には相続していいのではないかというのが優勢であったと言えます。

  他方,遺言信託の方につきましては意見がほぼ伯仲している状況でございまして,ただいま言いました相続を認める方が便宜であるという意見がある反面,利害関係に着目しまして,やはり遺言信託の場合には,相続人と受益者の利益の対立がより鮮明化しているのであって,承継を認めることは問題ではないかという見解も多くございまして,遺言信託の場合につきましては,意見が相半ばしている状況でございます。

  続きまして,第65,営業信託でございます。

  これは反対意見はございません。○○から,弁護士については営業には該当しないというただし書きを設けるべきであるといった御意見が1点示されておりますので,このような点につきまして検討したいと思っておりますが,この試案の本文自体には異論がないというところでございます。

  続きまして,第66の有限責任信託のところでございますが,これは結構はっきり分かれまして,240ページに書いてございますとおり甲案に賛成の意見が非常に多くて,反対意見は,242ページにありますとおり,少しだけという感じでございますが,反対についても,別の法律において規律すべきであるという内容の反対でございます。

  賛成意見は多数ありますが,民事信託の活用,ビジネス上の利用,不動産の流動化のための便宜,専門性の高い受託者の能力の活用など諸々のニーズ,便宜がある,法人を設立するよりもコストもかからないしというようなことで,賛成意見が圧倒的多数でございます。

  他方(注4),すなわち明示した場合には有限になるという規律についてどう考えるかにつきましては,このまとめにおきましては,244ページに【賛成】【反対】と分けて書いておりますが,これも賛成,反対というよりは,意見全体の流れとしましては,明示という一方的な方法によることは反対である。

しかし,合意を要件とするのであれば問題ないのであって,有限責任特約の合意の有効性を法律上認めてもらうことには賛成であるということで,むしろおおむね一致しているのではないかという気がしております。

賛成,反対とは書いてありますが,全体の印象としては,このような方向でむしろ一致しているのではないかという感じでございました。


  次に,第67,有価証券化のところでございます。
  これは,信託法に書かなくてもいいのではないかという反対意見もございますが,246ページにありますとおり大多数は賛成意見でございまして,(注3)の振替制度を設けること,(注4)の,いわゆる信託債のようなものを発行することを認めることについても,賛成する意見が多かったという状況でございます。


  続きまして,第68,いわゆる信託宣言,委託者と受託者が同一である信託でございますが,これも結構はっきりと色が分かれまして,257ページに書いてありますように,執行妨害のおそれ,信託制度への信頼なども踏まえて反対の見解も若干ございますけれども,253ページにありますとおり,ここでは乙案と丙案をまとめて賛成意見が圧倒的に多数であったという状況でございまして,民事信託の多様な展開,事業上の活用,あるいは同一人のノウハウを活用した事業の展開,民事信託,商事信託を問わず利用価値が非常に高い,貸付債権の流動化などに当たっても非常に便宜であるというようなことで,乙と丙では若干意見が分かれておりますが,導入することには賛成であるという意見が圧倒的多数でありました。


ここは非常に関心が高かったようで,多数の意見が寄せられたところでございます。

  それから第69,目的信託のところでございます。
  これにつきましては意見が若干分かれておりますが,方向性としては,甲案よりも乙案の方が優勢かなと。


件数で言うと2対3ぐらいの感じで優勢かなということでございました。不要だというのは,受益者のための制度であるからであるとか,だれにも処分できない財産がつくられるのは望ましくないという意見でございますが,賛成意見としては,いわゆるチャリタブルトラストの代替的機能として,国内で完結できる資産流動化のスキームが可能になるということ,あるいは,商事に限らず,公益信託に当たらないような非営利信託,民間資金を活用したボランティア活動の受け皿としての潜在的価値が期待されるということで,賛成するという意見が多数を占めているという印象でございます。

  最後に,公益信託についてでございます。
  これは今後の議論になるわけでございますが,試案で提示しております主務官庁制を廃止すべきかどうかというところにつきましては,いただいた御意見の圧倒的多数が,公益法人法制と平仄を合わせる形で主務官庁制を廃止することが相当だという意見でございました。


  ちょっと長くなりましたが,以上が試案についてのコメントの概要でございます。


● それでは,これそのものについて議論することはできませんが,これの扱い方とか,このコメントについて,もし御意見がおありでしたら御発言ください。


● これだけおまとめいただいて,非常に御苦労があったかと思いますが,1点だけ。


  第20の4,いわゆる利益吐き出し責任のところで,先ほどの御説明では甲案,乙案伯仲しているということでございました。この点について私の方から,設問の仕方について,「規定すべきではない」という意見も入れたらどうかということを前回,申し上げた記憶がございますけれども,種々ございまして甲案,乙案という形で提案したところでございます。

しかし,結論として,甲乙以外に「そもそも規定すべきでない」という意見が私が見る限り4件,また,疑問であるという意見も含めれば5団体から来ているところでございますので,そういう意見も有力であったということをテークノートしていただければと思います。


● ほかに,いかがでしょうか。
  意見のまとめ方,ここに書いてあるようなまとめ方についても,これも丹念に読まないと適切かどうか直ちに判断できないかもしれませんけれども,もし御意見があれば伺いたいと思います。
  よろしいですか。

  それでは,パブリック・コメントはこういうものであったということで,今後の議論の参考にしていただきたいと思います。


● 時間の関係がありますので,次の説明だけでもさせていただきたいと思います。

  本日,若干説明することがあるとすれば,信託の公示についてでございますので,公示についてだけ事務局の提案をさせていただきまして,御審議,御結論いただきたいと思っております。


  第6でございますが,結論といたしましては,現行法第3条第1項の規定の趣旨は維持する,第2項の規定は削除する,第3項の規定の趣旨は維持するとの試案のとおりとしたいと考えております。


  まず,第1項でございますけれども,パブリック・コメントで言いますと22ページ,○○から,信託財産を第三者から受託者個人に寄託された財産と類似した関係にあるといたしまして,寄託者による所有権の対抗については所有者であることの証明で足りるとしながら,受益者による信託の対抗については信託財産であることの証明だけでは足りず,公示という格別の行為を要求するのはアンバランスであるとして,受託者の一般債権者に対する関係で公示を要求することには反対であるとの意見が述べられております。

  この意見には傾聴すべきところもあるわけでございますが,取引の安全の確保と信託の濫用防止の観点からは,適切な公示の方法があるのであればその公示を必要とし,これをもって権利関係を画一的に定めることが適切であると思われまして,パブリック・コメントの結果によりましても,これ以外で意見をいただいたところはすべて,第1項の規定の趣旨を維持することに賛成というものでありました。

  そこで,第1項につきましては,このようなパブリック・コメントの結果と,この部会におけるこれまでの審議の結果を踏まえまして,規定の趣旨を維持し,信託,より正確には受託者の有する特定の財産が信託財産に属する財産であることを第三者に対抗するためには,登記または登録すべき財産については,その旨の公示を必要とすることとしたいと考えております。

  次に,現物の有価証券に関する公示方法を定めた第2項と,株券廃止会社の株式に係る公示方法を定めた第3項につきましては,意見として,基本的に試案に賛成しながらも2方向の意見が述べられておりまして,1つは,23ページに記載の○○の意見でございますが,第3項を維持し第2項のみを削除した場合には,株券廃止会社の株式については株主名簿に信託財産たる旨の記載または記録をすることが対抗要件とされる一方で,株券発行会社の株式については,株主名簿への記載または記録が不要になるというアンバランスが生じてしまうから,第3項を維持するならば第2項も,株主名簿等への記載等を対抗要件とするという趣旨を残すべきではないかという意見があると述べられております。


  同じく23ページ,3の直前の○○の意見でございますが,株式に関する公示方法は,株券発行会社と不発行会社のいずれも同様なものとすべきであって,実務的観点を重視して第2項を削除するのであれば,株主名簿への記載または記録の負担を考慮して第3項も削除すべきであるし,信託の濫用の防止の観点から,何らかの公示方法があるものについては公示を要求するとの考えに立てば,第1項と第3項を維持するのであれば,第2項について一定の手当を検討すべきと思われるという意見があったと述べられております。

  しかし,まず第2項につきましては,運用財産を有価証券に投資することを目的とする信託などにおきまして,大量の有価証券が頻繁に売買されることになることにかんがみますと,第2項のような信託の公示方法を要求することは実務上,煩瑣にたえず非現実的であるといえます。


  それから,現物の有価証券の場合につきましては,株主名簿等には株式の移転に係る第三者対抗力は付与されておらず,発行会社への対抗要件が付与されるにすぎませんので,株主名簿等への記載等をもって信託の公示方法とする合理性に乏しい上に,現物の有価証券の場合には,株券廃止会社の株式と異なりまして,物理的な分別管理も原則として可能でございます。


  そうすると,要するに実務上の負担への懸念が大きいという観点と,公示方法としての意義,有効性への疑問があるという観点の双方から,第2項の規定を維持することの相当性は疑問でございまして,加えてパブリック・コメントの結果によりましても,意見をいただいたところのほぼすべてが第2項を削除することに賛成であるということ,それから,この部会におけるこれまでの審議の結果を踏まえまして,第2項の規定については削除することとしたいと考えるものでございます。

  一方,第3項でございますが,対象となる株券廃止会社につきましては,有価証券も発行せず振替制度も利用しないものであることにかんがみますと,通常その株式の転々流通は想定しがたく,株主名簿への記載または記録を要求しても実務上の不都合を生ずるものとまでは言えないと思われるところでございます。

  また,株券発行会社以外の株式会社の株式につきましては,株主名簿の記載が株式の譲渡についての第三者対抗要件とされておりまして,そうすると,譲渡のみならず信託についても株主名簿への記載をもって第三者の対抗要件とすることが望ましいと思われます。


もっとも,この第3項の公示につきましては,当該株式が複数ある信託のうち,どの信託に属するかまでは公示することができないわけでございまして,すなわち信・信間の公示はできないという限界はありますが,少なくとも当該株式が受託者の固有財産とは異なる信託財産であるということまでは公示することができて,すなわち信・固間の公示はできるという点で意義を見出すことができるという御意見をいただいていたところでございます。

  そうすると,要するに,ここでも実務上の負担の懸念は比較的乏しいという観点と,公示方法としての意義,有効性はあるという観点の双方から,第3項の規定の趣旨については維持することが相当でございまして,加えてパブリック・コメントの結果によっても,意見をいただいたところのほぼすべてが第3項の趣旨を維持することに賛成であることと,当部会におけるこれまでの審議結果を踏まえまして,第3項の規定の趣旨については維持することとしたいと提案させていただくものでございます。


  なお,付言いたしますと,信託の登記登録制度のあり方につきましては,登記事項の簡略化ですとか,忠実義務の任意規定化,セキュリティ・トラストに伴う登記制度の整備,あるいは信託の公示制度が存在しない財産についての公示制度の整備についても要望が出されておりますが,この点につきましては,別途所要の見直しを行う方向で検討を進めているところでございまして,追って部会に検討状況をお示ししたいと考えております。

  以上でございます。

● それでは,この点に関して御議論いただきたいと思います。いかがでしょうか。

  全体の方向は,今,○○幹事から御説明いただいたようなことで,この部会でも了承を得ていると思いますけれども,これもまた最後に説明があったように,登記に関しては,要するに,公示は必要だとしても,どの程度の公示をするかについては難しい問題があると思います。


余り複雑で面倒な公示も困る,しかし最低限の内容は公示しなくてはいけない,そこら辺の兼ね合いで,現在の登記の方がいいのかどうか。


これは不動産の場合ですけれども,そんなことは検討しなくてはいけないと思いますけれども,登記はいろいろその管轄といいますか,検討する場所が,またちょっと違うところもございます。


ですから,登記については法務省の中でしかるべく検討していただいたものをこちらに提示していただいて,この場でそれをさらに議論することになるでしょうか。


● 制度そのものについては特にコメントはないんですけれども,以前の部会でも議論になりました,第三者にだれが該当するんだろうなと。

あと,この○○のコメントでも,第16条と第31条の関係をおっしゃっておりまして,それはまた別途議論するということであれば,別にそれはそれでいいと思うんですけれども,この第三者につきましては,恐らく従前の解釈どおりということで,例えば,破産管財人に関しては第三者だとか,差押債権者も第三者だ,こういう議論になるんだと思うんですけれども,不動産の場合ですと背信的悪意者ということで,悪意の人,場合によっては重過失も入るかもしれませんけれども,対抗関係から排斥される状況があると思うんですが,信託の他のところの議論でも,悪意,また重過失を排斥したりしているところもありまして,そうすると,その辺の関係をどうするのか。


  管財人に関しましては,特に認識している場合,通常,受託者はどれが信託財産か公示がなくても認識しているはずですから,そうすると,その受託者の主観を管財人は,場合によっては継承しているというふうにも考えることができますし,不動産の場合ですと何となく,公示すべきではなかったのかなというふうに思ったりするところもあると思うんですけれども,物によっては,あと取引の関連から,煩雑さから公示することを留保するケースがあると思うんですけれども,そういう場合で突然死してしまったような場合,果たしていいのかなという。

  いずれにしても,この第三者制とか,第31条とか第16条との関係について,この場でもいいですし,また,そちらの方で議論してもよいかと思うんですけれども,受益者保護という視点から,特に信託財産が明らかであるような場合をぜひ検討していただければと思います。


● 今の点について,何か御意見ございますでしょうか。

  基本的には,私,個人的に思うには,今のような背信的な悪意者に対しては公示は要らないという考え方は,信託の場合にも適用があるんだろうと思うんですね。


ただ,普通の売買の場合における登記あるいは公示と第三者の関係と,信託における背信的悪意者というのは何かというのは多少--今,詰めて考えていません,抽象的な話ですけれども,違う場合もあるかもしれない。


ですから,信託の特徴を考えながら,そういう背信的な悪意者というものを排除する,そういう議論をするのではないかと思います。


  そうすると,第31条の関係とかいろいろなところで多少関連してくることがあるかもしれませんが,それは今ここで一般的に議論するよりは,それぞれの箇所で議論した方がわかりやすいのではないかと思います。もちろん,ここで議論しても結構ですけれども。
  ほかに,いかがでしょうか。


● 制度そのものについてどうこうということではなくて,賛成なんですけれども,第16条と第31条の関係で,私自身は,第31条的なところの位置づけが非常に低下したと考えていまして,かなり分離してしまったのかなという意識が非常に強かったんですが,補足説明を読ませていただくと,基本的には,少なくとも信託の公示がないと取消しができないというような理解でよろしいんでしょうか。


何となく善意,悪意ということだけで判断するのかなと思っていたんですけれども,どうも最低限のところ公示がないと取消しができないと読めるんですが。


● この試案をまとめるに当たっての補足説明の考え方は,おっしゃるとおり,取消しの可否というのは権限違反についての悪意重過失の有無でございますが,第三者に対して取消権を行使するためには,信託であることを対抗できなければいけないという観点からは,公示が必要である,取消しのために公示が必要だというのが補足説明の考え方でございます。

● そういうことが第3条第1項の趣旨の一部分に入っているということですか。

● 第3条第1項の登記が必要だと。

● 取消しはできるけれども,取り戻せないことがある,そういうことですか。今の第31条の関係では。


● 信託の登記または登録が整備されている財産については,まずその信託の登記があって,信託であることを対抗できるということを前提に,受益者は取消権を行使することができるということです。


● 公示が必要だということですよね,単純に言うと。そこはもうちょっと緩和したのかと思っていたけれども……。

  今の規定が,そういうことですよね。それを緩和するという……,だから,取消しに関しては債権者の差押え等を配慮するのとは違って,登記がなくても善意,悪意だけでもってやる。


ただ,その善意,悪意を判断するときに,公示があれば,もちろん相手方は悪意だということが言いやすいでしょうし,公示がないと,今度は逆に言いにくい,そういうふうに考慮するのかとつい思い込んでいたけれども,そうではなかったのかな。


● 緩和した部分につきましては,現行法においては信託の登記・登録があるときには相手方の主観的要件を考えることなく常に取消しが可能であるところを,登記または登録があるということを前提に,主観的要件を緩和して取消権の行使を議論するというふうにしたということであります。


● この問題自体は,また第31条のところで議論したいと思います。ただ,そういうことも考えないと,公示として一体何を要求していいかということが厳密には議論できない,そういうことですかね。


● いまの点ですけれども,私の理解では,信託財産であるか否かという部分,要するに,その帰属がどうかという部分については公示がなければいけない。


ただ,権限外の行為なのかどうかというところの善意,悪意というのは,登記では見ない,そういう整理でよろしいわけですよね。


● はい。

● ということは,権限外の行為かどうかは登記で見なくていいということですね。

いや,どうするかは別にしてですけれども,役割ということからすると--ということでよろしいですか。

● はい。
● 公示に関して,ほかにいかがでしょうか。


● 実際上,取消しのために公示が必要だということになると,受益者にとってはやや厳しいかなという感じがします。


  あと,今のところで公示を要求するのは,対抗関係の問題ととらえるんでしょうか。


それとは別の,第31条の要件の問題というようなことになっていくんでしょうか。その辺,いま一つすっきりしないところがあるんですけれども。


● 対抗ということの意味ですけどね。
● 厳密な意味の,二重譲渡における対抗というわけではないですが,一種の権利保護要件的な意味の,信託を第三者に主張して,取消権を行使することによって自己の権利を保護するための要件として,信託の公示が必要であると考えているところでございます。

  ですから,今,○○委員がおっしゃいましたように,対抗の意味ということになりますが,信託財産であることを主張して取消権を行使する要件だという意味で言えば,対抗要件として必要だというふうに考えているところでございます。


● どちらかというと典型的な対抗問題ではないような気がしていて,もし論ずるのであれば,第31条の問題として論じた方がいいのではないかというような気がしているんですけれども。


● 議論の場としては,事務局としては,第31条のところで要件として議論させていただければと思っております。

● いかがでしょう。よろしいですか。
  今の問題は,公示として具体的に何を要求するかといった問題とも関係してくるんですね。


さっき申し上げたように不動産登記が一番問題になると思いますけれども,ここではまだ公示の具体的な中身までは十分に詰められていないので,基本的な枠組みというんでしょうか,ここに書いてある限りの方針,これを御了承いただけるかどうかということかと思います。
  よろしゅうございますか。


  そうしたら,この範囲で了承したということで,あと第31条の関係の問題は,またそこで議論していただくことにしたいと思います。

  それでは,ここで休憩いたしましょう。

          (休     憩)

● それでは,再開します。
  これは一つ一つというよりは,余りたくさんはまとめないにしても,適宜まとめて御議論していただくことにしたいと思います。

● それでは,まず第7,裁判所の監督について取り上げたいと思います。

  試案の内容は,現行法第41条第1項の規定は削除するものとするということでございまして,コメントの資料では24ページ,○○と○○からは残した方がいいのではないかという御意見をいただきましたが,大多数からは,削除でいいのではないかという御意見をいただいているところでございます。

  事務局の方でコメントも踏まえて検討いたしましたが,この試案では脱法信託や詐害信託を禁止し,詐害信託の取消しを認めるなどして,信託が不正に利用されることがないような制度的手当てを講じているところでございます。


また,受益者に対しまして検査役選任請求権を認めるとか,受託者に対して信託財産の状況に関する報告義務を課すなどしまして,受益者による受託者の監督がより実効的なものになるように権利の充実・強化を図っているところでございます。

  また,受託者の監督につきましては,受益者に十分な能力といいますか,十分期待できないような場合につきまして,受託者監督人の制度の整備なども提案しているところでございますし,個別に裁判所に権利が認められているところにつきましては,裁判所が請求を受けて適切に権利を行使することによって,受託者の監督ができるものと期待できるところでございます。

  他方,裁判所というのは,通常は信託設定の事実を認識し得ませんので,仮に規律を設けるとしましても,当事者が裁判所に対して信託設定の事実を報告するといったことが必要になると思われますが,それは信託の自由な利用の阻害になるかと思われるわけでございますし,ほかに委任等の規律,法制度などとのバランスからも,裁判所が事務処理を監督するという制度は他に見当たらないところでございます。

  以上のような観点,それから当部会におけるこれまでの審議結果なども踏まえまして,試案のとおり,現行法第41条第1項の規定は削除するものとすることを提案したいと存じます。


● これについて御意見を伺いたいと思います。
  いかがでしょうか。よろしいですか。


  英米の伝統とかいろいろなところからすると,それはその国には裁判所が関与する理由があるかと思いますけれども,我が国においては大体契約と同じように考えていく,司法ルールとして考えていく,そういうもとで,裁判所が一般的に監督するというのは少し異質だろうということだと思います。


● 英米と言われましたので,一言。
  これはつまり,何でも裁判所へ持っていけばいいとは私も全然思っていなくて,しかし,いろいろなところで具体的な事案があった場合に,差止請求であれ何であれ,裁判所に訴えることができますね。


そういう形で,裁判所に係属することは今後もある。そのときに,裁判所の関与の仕方として,この規定を削除すると,例えば差止請求が来たら差し止めるかどうかというような,極めて明示的なというんですか,争点が明らかで非常に限られた範囲の権限しか行使し得ないことに日本ではなるわけですね,この規定が削除されることによって。

  だから,一般的に裁判所の後見的な役割は一切期待しないという宣言であるということですか,信託について。それは契約だから。大丈夫ですかね。


  いや,実際に裁判所にどれだけのことが期待できるかというのは,英米でも,もちろん問題はあるんですが,やはりそれは……,そう言われてしまうと,どうなんだろうか。

特に民事信託というような部分で今後,何らかの可能性があるときに,民事信託で何か事件が起これば訴えることはできる。しかし,そのときの裁判所の関与の仕方は非常に,やはり条文ごとに対応したような限られたものであって,継続的な関与は……。


つまり,英米でも一番初めから,信託が成立しているときからいろいろ関与して,手取り足取りなんていうことはあり得ないわけですよね。何らかの問題が起きたときに,ちょっとこの受託者は危ないのではないかというので,あとしばらくの間だと思いますけれども,ちゃんとやっているかなということを見ておいて,それで手を放すわけですよね。それが後見的な役割ですが,そういうことも一切我が国ではできないということですね,これ。


● 裁判所が積極的に関与する場面については,それぞれ規定を設けて対応すると思いますけれども,それ以外は,一応この私法的なルール,当事者間の私法的なルールに従って,そして,例えば相手方に何か義務違反があると受益者が思えば,受益者は裁判所に訴える,それはもちろん可能ですよね。だけれども,後見的な介入といいますか,後見的な監督をするという意味で裁判所が一般的な権限を持つようには,もうしない。


それは,やはりそういう宣言なんだと思います。これはもう私法的なルールの問題として考える。そして当事者が訴えるようなときに初めて裁判所が出てくる,あるいは裁判所において判断される。


  ○○委員の御懸念もわからないではないんですけれども,以上のようなことで大体対応ができるでしょうし,それから,民法のほかの制度を使っても,本来,弱者を保護するための仕組みはほかにもいろいろあると思いますけれども,そこも結局同じような仕組みで,当事者間の権利・義務の問題としては解決されるけれども,そして,それをもとにして裁判所に訴えることはできるけれども,裁判所の一般的な監督権限のもとで裁判所が介入してくる制度はない,信託においてもそういうものは今後は設けない。

  従来は一応条文があったわけですけれども,今後,落とすわけですから,そういう一つの立場を明らかにするということですね。


● 同じような視点なんですけれども,一般的に民事信託,非営利的民事信託について裁判所の監督というのは,時代の流れでないというのはわかるんですけれども,民事信託で,当部会で議論している中心というのは,やはり成年後見制度に代替するような意味での民事信託とか,あと,現行のやや硬直的な相続に代替するような信託制度,裁判制度で言えば家庭裁判所の管轄下にあるような制度だと思うんです。


ですから,この第7の規定とは別に,特に民事信託--私人間における信託が民事信託でしょうから,まさしく私契約としての民事信託もあるとは思いますけれども,いわゆる当部会で中心として議論してきたような,また,しているような民事信託,要するに今,申し上げたような主に2つの類型の民事信託につきましては,この規定とは別途に所要の規定を整備するとか,そのような視点も必要なのかなと。


それはまたどこかで別に議論するのかもしれませんけれども,そうすれば,今,○○委員がおっしゃったような論点について,裁判所の一定の監督といいますか,かかわりが維持できるのかなと思うんですけれども,その辺についてどのように考えたらよろしいんでしょうか。

● 私の個人的な意見ですけれども,いわゆる任意後見契約の法律がありますけれども,あそこでは一定の段階で裁判所が関与しますので,ああいうふうに非常に限定したものでは,信託制度においても裁判所の関与というのは,もちろん制度として設けることは可能なんだと思います。しかし,それをするかどうかは一つの問題ですし,一般的な監督の問題とは,やはり違う。

  それから,後見契約,あの法律で任意後見がなされる場合は,一定の段階で裁判所が関与しますが,あの法律で言うところの任意後見でもないような,もっ
と一般的な後見というのが民法を使ってあり得ますよね。

こちらは,やはり裁判所が関与してこないので,信託というものを使うときは一体どっちなのかといったことも考えなくてはいけないし,それはそれで問題意識をもって,どこかでもしそういう制度を設けて,つまり信託を成年後見の場合と類似の機能を果たすような制度として使うのが適当だということになって,その場合には裁判所の関与が一定あった方がいいという御議論が多ければ,それはまたそこで考えたらいいのではないかと思います。

● 私の方から,うまく申し上げられるかどうかわかりませんが,裁判所の監督を,確かに一般規定として外しているというのはそのとおりですけれども,他方で,今回,受託者監督人の選任を利害関係人が申立てできるとか,そのほかにも検査役や差止請求権といったことで,受益者,それから受益者に限らず利害関係人の権限なども拡大しておりまして,裁判所は少なくともそのような,拡大された申立てにこたえて活動するという体制,監督行為を行うという体制を整えているという意味におきましては,一般的な職権で監督するということではなくて,むしろもっと実質的に,信託の関係者からの申立てというか,駆け込みというか,そういったものに応じて動く体制は,今回はそれはそれでつくられているのではないかとも考えられるところでして,監督という一般規定を外すということが持っているイメージ的なものはあろうかと思いますけれども,他方で実質的なところも見ていただく必要があるのではないかという感じがいたします。


● 現実で裁判所の監督権限が最もよく行使される局面というのは,私が少し調べた限りでは,信託契約に書いてあるけれども,それと違うことを受託者がしたいと。


しかし,信託を変更している余裕はなかなかないので,裁判所にこういうことをしてもいいだろうか,そうかいう申立てを行う。そういう受託者から裁判所に対してお墨付きといいますか,こういうことをしていいだろうかという承認をもらうといいますか,そういうタイプが多いと思いますけれども,この信託の変更のところで,裁判所に対する変更の請求というのがあって,したがって,多くの場合はここで解決されることになるのではないかと思うのですが,先ほど申したように,非常に緊急を要して変更まで間がない,そのときに,受託者がある具体的な行為をしていいか,いけないかについて裁判所に駆け込んできたときに,この要綱試案の考え方だとどのように扱われることになるのでしょうか。

● これも私限りの個人的な意見ということでお聞きいただければと思いますけれども,今,○○幹事が挙げられた例は,恐らく監督権限の問題とは違うので,変更といいますか,契約関係の変更とか受託者の権限の変更とか,そういうものが緊急を要して本来の手続ではうまくいかないときの,いわば仮の解決というか。


そういうときに,やはり裁判所がそれをやってくれると便利だろう,そういう発想なんだと思うんですね。


  それも信託法の規定の中で,それぞれの問題のところで,変更だったら変更のところである程度柔軟な規定が設けられればいいことなのかと思いますけれども,何かそれを理由に一般的に,今,ここで問題にしている裁判所の監督の権限を残すということにはつながらないのではないだろうかと思います。


  ただ,今,言われたような場面で,裁判所がそういうのを認めてくれると便利なことがあるだろうということは,よくわかります。


● 補足しますけれども,もしもそれが信託目的の達成に必要な行為と言えれば,それは受託者の権限に入ってくるわけでございますが,それを超えてしまう場合には信託の変更になってしまいまして,ただ,試案によりますと,例えば信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるときは,受託者の決定をもって信託の変更ができる。


そうすると,この要件を満たしていると判断できるような場合であれば,受託者が迅速に変更の決定をして,みずから動くことができるのではないかという気がいたしますので,必ずしも裁判所をかませなくても対応することはできるのではないかという気がいたします。


● よろしいですか。今の問題についても,変更のところでまた御議論いただけるとは思いますけれども,とりあえず,この一般的な裁判所の監督ということについては今ここで,これは今後は落とすということでよろしいかどうかということです。


● そのことについての反対ではないんですけれども,ちょっと頭出し的な部分で,先ほどは成年後見制度だとか相続関係で申し上げましたけれども,それ以外のところでの民事信託に対しての何らかの監督的な機能というものは,裁判所である必要はないと思うんですけれども,商事信託であれば信託業法のもとで金融庁の監督下にあると思うんですけれども,それ以外のところになりますと,一応現行の建付けは裁判所ですけれども,これが外れることになりますと,だれも監督できないことになってしまう。監督は必要ではないのかもしれませんけれども。


ただ,そうすると,濫用事例を危惧して民事信託自体が余り活用されなくなってしまうおそれもなきにしもあらずだと思います。


  したがって,第7の議論そのものではないんですけれども,民事信託がより有効に使われるように,「監督」という言葉は適切ではありませんけれども,適切な規律を定めて,それを正しい方向に持っていくような,そうすると,それは民事信託の議論ですから,やはり金融庁ではなくて,普通に考えると法務省ではないかと思うんですけれども,そういうような視点からの議論も今後する必要があるのではないかなと。


この辺はよく弁護士会では議論しているんですが,どのポイントでこういう議論をしたらいいんだろうかというところで,いつも行き詰まってしまうので,ちょうど監督ということが議論の対象になりましたので,一言申し上げたいと思いました。


● 今の御意見はあれですか,さっき○○関係官から説明がありましたけれども,いろいろな問題について受益者等が権限を持っていて,それが規定されているわけですけれども,それで足りないようなものが相当あるかもしれないということですか。


● そうですね,先ほどの,65でしたか,論点とも絡むところなんですけれども,弁護士が今後,民事信託の分野で活躍したい,活躍する,こういうふうに宣言したわけですけれども,他方において信託銀行もそれなりに,また今後とも活躍してほしいと思うんです。

そうすると,その残りの部分ですかね,信託業にも該当しないし弁護士が受託するところの民事信託でもない,それ以外のところというものが,野放図になるといいますか,事後的または個別的側面において,しっかりと信託法の適用に従って行使していけばいいのかもしれませんけれども,それ以外のところに対して何らかの法律の規制,規律というものが必要なのではないか。


  ですから,実態法の議論ではちょっとずれるんですけれども,法制審の最終回のときに,○○が報告された後に○○委員が比較的長目に,そういうものが必要ではないかとおっしゃっていたことを覚えておりまして,その延長線の議論ですけれども。


  ですから,監督という言葉そのものではありませんけれども,商事信託が信託業法の世界であれば,民事信託において弁護士以外の方々が何かやる場合,それを届出をするとか資格要件をつくるとか,また一定の開示義務,報告義務を監督官庁に課すとか,そういう柔軟な制度である必要があるとは思いますが,そういうものがないと,結局すべてが,ある意味では商事信託である,信託業法の世界である,そっちに流れていってしまうのではないか。


  それであらゆる民事信託が信託銀行,また信託会社が救ってくれればいいですけれども,やはり信託業の対象となれば当然ビジネスという視点もありますから,やはりリスクの高いもの,利益が出ないものは恐らく受託の対象になっていかないと思いますし,そうすると,本来,民事信託として必要とされている部分が社会から,信託法には書いてあっても実際には制度として取り上げられていかないこともあるのではないか。

  この辺は弁護士会で繰り返し議論していて,では,そこでは弁護士が活躍するんだというところで話が終わってしまうんですけれども,他方において,弁護士だけにしかできないのかという疑問に対してどう答えるんだろうかというところも絶えず弁護士会の中においてありまして,それに対して現行法の,今回の制度でいろいろ対応はされていますけれども,何か一般的な規律が必要なのではないかという趣旨です。


● 今,お話を伺っていますと,要するに,受託者に対してある種の規制をかけろ,そういうふうに聞こえますけどね。それで,そういう規制から外れるのは,信託業がカバーしている部分は金融庁が監督するので,弁護士はどうなのか,ちょっとよくわかりませんけれども,何も今のお話では監督がないような話だったけれども,その部分も含めて,あるいはそれから弁護士以外の者が民事の信託を受託するときに何らかの監督法があった方がいい,何かそういうように……。


信託法の議論なのかどうかわかりませんけれども。

● 今,出発点になっている第41条第1項の裁判所の監督というのは,やはりどう考えても,これからの信託法に適当ではないという感じがします。

  それで,今,○○委員がおっしゃっている,しかし何らかの監督機関が必要ではないかというのは,1つは,受益者の保護という観点,それからもう一つは,今回の信託法によって,非常に柔軟な制度ができることによって,例えば相続の規律であるというものの例外ができる。


その例外を設けることによってほかの法制あるいは社会の利益をどうやって保護するかということが,多分,問題関心としておありだろうと思うんです。

  ただ,それを何か受託者の監督とか,あるいは行政機関等による監督というのは,やはり筋が違うのではないか。


むしろ各論的な部分で,その部分で一体どういう制度,あるいは社会的利益が損なわれる可能性があるのか,それをどうやって抑えたらいいのかというように個別に考えていったらいいのではないかと思います。


● 私も,この24ページに書かれているように,裁判所に監督機能を期待することは実際上,困難であり現実的ではなく,それから現代にも合わないしどうのこうのという,全くそのとおりだと思うんです。


ただ,英米でも本当に裁判所が監督しているのか。「監督」という言葉なんですけれどもね,何をやっているかというと,やはり違法性判断をしているのであって,妥当性のところまで踏み込んで,「こうやった方が運用がうまくいくよ」なんていうことを裁判官がやっているわけがないんですよね。

  だから,ある意味ではシンボルというのかな,結局イメージかシンボルかという,そういう意味では,○○委員がおっしゃるように,各論のところできちっとやっておけば大丈夫ですよという話はあるんですが,シンボルとしては,やはり何か総論的なところが必要かもしれないと思うんですね。


  ここにあるように,このページですけれども,信託の自由な利用とか信託法の任意規定化というのは私は全く賛成なんですが,そのことと,この裁判所の監督とかいうものに対して,これは合わないんだというのは次元が違うと思うんですね。


これは実体法の問題として,あるいは私法の問題として,これだけの権利義務関係を明確化して「受益者の側にもこれだけの権利が与えられているから大丈夫だよ」というのは,はっきり言うと机上の空論なので,それが実際に動くかという話になって,そのときにはやはり,シンボルかもしれないけれども,最後の駆け込み寺になるものを置いておく方がいいような気がするんです。

ここで外すということに非常に大きな意味を持たせようというのであればということなんですけれども。

  つまり,もはや私的自治であって個人責任ですよと。しかし,信託は--また私,同じことを言いますけれども,何度も言うように,貴重な財産とか権限を人に委ねて,そして自分は監督なんてできない人たちが「お願いします」というものなんですから,そこへ「それは私的自治ですよ」「自己責任ですよ」という話では済まないと思うんですね。


とりわけ典型的に現れるのは,商事ではなくて,いわゆる民事の場面だと思うんですが,そのときに,本当は裁判所でなくてもいいんですが,どこか象徴的な意味でちゃんと守ってくれるんだよという話がないといかんだろうに,この信託法では「こんな権利があなたに与えられていますよ」と。それを行使して……。

弁護士のところへ駆け込むというのが,これから時代なのかもしれませんけれどね,そういう形で。それならそれでという何か手段的な話がないといけないだろうに,その最後のところで裁判所は一般的に何の監督権も--「監督」という言葉がちょっと,本当はイメージが悪いのかもしれませんけれども,「国民を保護する役割は裁判所は果たせませんよという,信託関係については」というのはいかがなものかなと。そういうイメージを与えるということなんですけどね。


● 受益者の権利はどっちみち,侵害があるようなことがあれば,あるいは受託者の行為が違法だと思われるようなときがあれば,これは受益者が権利を行使することはできるわけですね。


今回の信託法というのは,できるだけ受益者の権利を充実させて,受益者の保護を図る,そういう仕組みでできている。ですから,ここで裁判所の監督を残すというのは,そういうものでは保護されないようなときに,要するに,信託法には許されると書いてあるけれども,裁判所が判断して「これはいかん」というものをやめさせる,そういう権限を裁判所に与えるか,そういうことになるのではないか。


それは果たして現在のこの信託法といいますか,これから使っていこうとする自由な信託法の考え方になじむのかどうか。やはり何か基本的な理念のところでぶつかるのではないかという気がするんですね。

  特に受益者の保護が必要であり,受益者の権利行使が十分できそうもないというところは,それはまたそこで制度をいろいろ考えればいいんだと思いますけれども,今ここで問題となっているのは,そういう信託の基本的な性格,当事者間の権利義務関係では解決できないようなところを裁判所に,駆け込み寺として何か設けるかどうか。


  先ほどの○○委員も,別に受託者の規制といいますか,監督を一般的に設けた方がいいということでは恐らくないと思いますので……

● 老人とか障害者といった弱者の保護といいますか。

● 成年後見等で信託が使われる場合について,これも○○のこの間のお話の中でも,もうちょっと考えてくれというようなことはございましたので,これは信託管理人だとかいろいろなところに関係してくると思いますけれども,そこで考えるということで,ここでの一般的な裁判所の監督権限,監督については現行法の規定を削除する方向で考えるということでよろしいでしょうか。

  それでは,そういうことでいきたいと思います。


● では,続きまして,第8から幾つかまとめてやりたいと思います。
  まず,第8の信託財産の範囲でございます。これはコメントで言うと25ページになりますけれども,おおむね賛成意見で,補足的意見が2つほどございました。


  1つは,無償取得した財産であっても信託財産に属することを明記すべきだという意見です。


しかし,信託財産のここの規律というのは,直接の代替物に限られないということは一般的に言われておりまして,信託財産が法主体であると言わなくても,受託者が受託者としての地位に基づいて取得した財産は信託財産になると考えればよいのでありまして,民法第304条の場合とは異なって「その他の事由等により受託者の得た財産も」ということも書いてございますので,この規律によって,無償取得した財産であっても信託財産になるということは十分読めるのではないかと思っております。


  それから,補足的意見のもう一つは,○○から,例えば損失てん補請求権などについても信託財産を構成するものと解されるところ,「受託者が得た財産」との表現になじまないという御意見でございます。

  損失てん補請求権は受益者が債権者でございますし,その請求権が行使された結果でございますが,それは,例えばAという人がいれば受託者であるAが個人であるAから得た財産が信託財産になると考えれば,ここで「受託者が得た財産は信託財産に属する」と表現したからといって問題はないのではないかと思われるところでございます。


  部会の審議におきましても,第14条の関係につきましては特に御異論もないところでございますし,賛成意見も大多数でございますので,この試案のとおり,現行法第14条の規定はその趣旨を維持し,「信託財産の管理,処分,滅失,損傷その他の事由により受託者の得た財産は,信託財産に属するものとする」ということでまとめさせていただきたいと思っております。

  続きまして,第9の信託財産の付合等についてでございます。

  これにつきましては特段反対意見はございませんで,前に御説明申し上げましたとおり,ここでは信託財産と受託者の固有財産ないし他の信託財産との間において付合または混和,加工があった場合に各別の所有者に属するものと擬制して,民法の規定を適用するということは合理的であって,特にこれを改める必要はないということで,部会の方でも御審議をいただいていたところかと思っております。


  パブリック・コメントの結果につきましても賛成意見のみでございますので,この規律につきましても,現行法の第30条の規定の趣旨を維持するということでまとめさせていただきたいと思っております。


  なお,(注)の共有するものとされた財産の分割に関する規律を設けるという点でございますが,これは識別不能になったために共有と見なされる財産も含めまして,この分割手続に関する規律につきましては,別途第10とあわせて提案させていただくということで,こちらは留保するといたしまして,本文につきましては試案のとおり確定させていただきたいと思っているところでございます。

  続きまして,第11,受託者の相続財産からの分離についてでございます。

  これにつきましても,念のためといいますか,規律を置いておく意味があるという御意見はあるのでありますが,受託者が死亡したことによってその任務が終了し,受託者が欠けたときには信託財産は法人とみなす旨の規律を設けることとしておりまして,この場合には,信託財産が相続財産に含まれないことは言うまでもなく明らかであると思われます。


重複的に規律を設ける意味はないと思われますので,試案のとおり,「現行法第15条の規定は,削除するものとする」ということでまとめさせていただきたいと思っております。

  続きまして,第15,信託財産に係る混同についてでございます。

  この点につきましても特段反対意見はない,全員賛成ということでございました。


所有権又は制限物権が信託財産に属する場合又は固有財産に属する場合,時間的な前後も含めまして。


あるいは債権・債務が信託財産と固有財産に属する場合。すべてを含めまして,混同の例外の規律を設けることは有意義であるということは,部会の審議でも異論がなかったと思われますので,その審議の結果,パブリック・コメントの結果も踏まえまして,第15については試案のとおり決定させていただきたいと思っているところでございます。


  とりあえず,以上で切らせていただきます。
● ここまでで,いかがでしょうか。

  ここまでは,今までこの場でも「これでいい」という御意見が出てきましたし,特に反対はなかったと思いますので,よろしいでしょうか。


● 第8の信託財産の範囲について,結論については全く異論がないんですけれども,むしろ内容についての理解ということになるのかもしれませんが,それから,これは利益吐き出し責任のところと絡む議論なので,もしかしたらそちらで議論すべきことなのかもしれませんが,信託財産の範囲と言ったときに,信託財産を利用した得た利益というのは,この規律との関係ではどこまで含まれてくるのか,若干その整理が必要なのではないかという気がしておりまして,そこらあたりのことについてどう考えたらいいのか,もし検討されているところがあれば教えていただけると助かるんですけれども。

● 利益吐き出し責任との関係というお話でございます。御質問の趣旨を私が正しく理解したかどうかでございますけれども,例えば,甲案をとるか乙案をとるかといった話があろうかと思いますけれども,その前提として,例えば競合行為のようなものがあったときに,いわゆる介入権みたいなものを行使した場合についてまず考えてみますと,その場合に,介入権行使前は固有財産であった,行使後は,それは物権的に信託財産に帰属するとなると,行使後は信託財産になるという整理になるかと思います。


  それから,甲案,乙案を別として,仮に利益吐き出し責任みたいな責任を,仮に乙案をとって認めたといたしますと,受益者が,これは一種,受益者が受託者に対する債権的な請求になるかと思いますので,利益を受託者に吐き出しなさいという請求をいたしまして,受託者は固有財産のところにある利益の幾許かを信託財産に分別管理という形で移転しなければいけないという作為債務を負うことになって,その作為債務が履行された結果,信託財産のところに分別管理がされた時点で,それは信託財産に帰属した財産になる,そういう整理になるかなと思います。

● 今,多分,利益吐き出し責任との関係で先の方の議論をいただいたんだと思いますが,利益吐き出し責任が問題になる以前の問題として,どっちにこの財産が帰属しているのかという問題が,多分この信託財産の範囲のところで規律されるのではないかという気がしているんですけれども,例えば更地を信託財産として預かった場合に,これをそのまま保管しておいてくれというのが信託の趣旨であったときに,例えばそこに駐車場をつくって収入を得た場合ですとか,あるいは,そこに建物を建てて収益を得たような場合,利益が何段階か出てくるわけですけれども,例えばこの信託財産の範囲という規律を考えたときに,果たしてどこまでがこの規律によって信託財産の範囲となっていくのか,その辺の外縁がどうなっていくのかがよくわからないところなんですけれども。

● 基本的なお答えになってしまうかもしれませんけれども,駐車場を使って利益を得て,何らかの利益が固有財産に入ってきましたと。


その段階では,その利益が他に信託財産に帰属するということでは恐らくないのではないか。


利益吐き出し責任の追及というものを,受益者が受託者についてしていきまして,それで何かしらの利益が確定されて,それで受託者が幾許かの財産を作為債務に基づいて履行したときに,それが信託財産になるんだというようなことになるのではないかと思います。

● 似たような問題は,いろいろなところで出てきますよね。受託者が権限に反して信託財産を処分して何か代わりのものを得てきたとか。それは権限違反だということで考えれば,受託者が入手した財産は直ちには信託財産に入ってこないわけですが,しかし,そこで受益者が,例えばその権限違反行為を承認して信託財産であると見なすというか,承認すると,信託財産に入ってしまう。


  そういう意味で,確かにおっしゃるように,いろいろ限界的なところでは,果たして信託財産に今,なっているのかなっていないのか,あるいはどういう行為があるとなるのか,そういうのは,非常にわかりにくいところはたくさんあるんだと思います。それは従来の規定でも同じような問題があったわけで,今回も,そういう解釈上の難しい問題はそのまま残るんだと思いますけれども,そういう意味で,先ほど○○幹事が言われたように,この規定を適用したときに,具体的にこういう場合はどうなるのか,そういう問題なわけですよね。この規定自体が理論的におかしいということでは恐らくないと思うんですね。

  そういう難しい問題は,恐らくたくさんあるのではないでしょうか。今の,信託契約に反して土地を駐車場として使って,そのときの利益というのは,これも権限違反で何か取得したのと似ているのではないかと思いますけれども,あくまでそれは権限違反だということで受益者が主張していきたいときには,その利益は--これは私の個人的な解釈が入るかもしれませんが,当然には信託財産に入ってこないのではないかという感じがします。だけれども,いわばその行為を追認することによって信託財産にはなってくる。

● 多分この辺は,もしかしたら裁判例の積み重ねで解決すべき問題なのかなという気もしておるんですけれども,恐らく受益者の方から,この財産の帰属について争っていく場合に,利益吐き出し責任ということではなくて,この帰属の問題で争っていくということが考えられるのではないかという気がちょっとしたものですから。

  その問題と,それから,権限違反の問題といいますと,第31条の取消権や権限の規定との関係では,取消しをしない限り,例えば権限違反で処分した場合にも信託財産に帰属することになるのかなという気がちょっとしておるものですから,ちょっとその辺,私の方も十分整理できていないんですけれども,恐らく将来的に,紛争のあり方としてそういったことが考えられるのかと思ったものですから,質問させていただきました。

● 権限違反の点につきましては,今,御指摘のとおり,この試案の考え方におきましては,取消しがされない限り一応有効で,信託財産に帰属するということですので,そのように物権的に信託財産に帰属させるというふうにしておいた方が当然受益者のためにもなりますし,そういう前提で試案自体は,第31条と,それから第14条の関係は,そういう前提でつくられているのかなと理解しております。

● この規定自体でまだ具体的にはどうなるかというのはわからない場合が出てくると思いますけれども,少なくともここに書いてある限りの規定自体は特に問題ないということであれば,あとは解釈の問題として,恐らくいろいろな場合,さっきの権限違反の場合も含めて,解釈でどうなるかということを明らかにしておくことが必要なんだと思いますけれども,それは解釈の問題の方に委ねるということで,この規定自体はよろしいでしょうか。


  ほかの条文についても,よろしゅうございますか。
  それでは,ここまで一応御承認いただいたということで。


  すみません,これは私の理解がまだあれかもしれませんけれども,ここで承認するということの意味なんですけれども,一応ここに書いてあるようなことでやっていこうという,その大方針が決まるわけですね。

そして実際にこの後,またさらに条文の案みたいなものがもう一回出てくるんでしょうか。そこまでいかないのかな。


● この部会には条文の案まで提示することはなくて,この考え方を踏まえて事務局の方でまた法制的に条文の詰めをしていくことになります。


● 条文までいかないにしても,法制局の審議の中でとか,細かいところで多少修正がされるとか,そういうことはあり得るということでしょうか。


● 今後もし見直しの必要があれば,またそれは当部会の方で。実質的なところは,もちろん議論させていただきますが,ここで御承認いただいた上で,細かな規律の規定の仕方については,もうこちらにお任せいただきたいということでございます。


● ここで承認するということの意味は,そういうことであります。
  それでは,今の範囲まではよろしいということで,次をお願いします。


● 続きまして,第30,受託者の権限の範囲についてでございます。
  試案では「受託者は,信託財産の管理又は処分その他信託目的の達成のために必要な行為を行う権限を有するものとする。ただし,信託行為に別段の定めを設けることにより,当該権限の範囲を制限することを妨げないものとする。」ということで,コメントでは102ページから103ページにあるとおり,賛成意見のみで反対意見はございませんでした。

  受託者の権限が必ずしも管理または処分に限定されるわけではなくて,信託目的の達成のために必要な行為であれば権限を有することを明確にした上で,しかし,委託者の意思を尊重して,信託行為の定めにより制限する方向で定めを設けることは妨げないとすることで,合理的なものと思われるところでございます。

  部会でも,いろいろ議論は従前はございましたけれども,結論的に,このような方向であれば問題はないという御意見をいただけるものと思いまして,このような中身でいかがかということで,この試案のとおりとしたいということで提案させていただきたいと思っております。


  続きまして第36,合併又は会社分割による受託者の変更についてでございます。


  これは,コメントですと127ページからになりますが,何点か異論といいますか,補足的意見をいただいております。
 

 1つは,試案では受託者が株式会社の場合ということを書いておりましたところ,株式会社の場合に限定する必要はないという方向の意見を多方面からいただいたわけですが,それは事務局も当然認識しておりまして,合併,分割の対象が株式会社に限らないのは御指摘のとおりでございますが,試案で網羅的に書くのは生産的とは思われないので,あえて代表的な例として株式会社を挙げたにとどまるわけでございます。

合併または会社分割の場合には任務が承継されることについては,株式会社の場合に限らす,その対象となる法人である限り同様に考えておりまして,試案としては,この株式会社を代表例として挙げるということで,あとは整備で対応していくということで対応したいと思っているところでございます。


  第2点目といたしまして,債権者保護手続の関係で,受益債権を除くのは反対であるという御意見を○○からいただいております。


  考えてみますに,会社において債権者保護手続が必要とされておりますのは,会社財産を唯一の担保とする会社債権者の利益に重大な影響があると思われるからでございまして,そうしますと,物的有限責任,後ほど御審議いただきますが,物的有限責任,信託財産のみが受益債権の責任財産となるという考え方を前提とする限り,会社分割や合併が受益債権の引き当てとなる財産の基礎を害するということは定型的に存在しないと考えられるわけでございます。

そうしますと,多数意見のとおり,受益債権については債権者保護手続を不要ということで,問題はないのではないかと思われまして,部会でもそのような御審議だったかと思いますので,その方向で試案を維持したいと考えているところでございます。


  3番目に,128ページで○○から提案をいただいておりますが,委託者は,合併があれば受託者の任務を終了させることを希望する場合もあると思われるので,信託行為によって別段の定めを置くことができることを認めるべきである。


会社分割の場合についても同じことを書いていただいておりますが,これは後ほど御審議いただきます試案第38,任務終了事由のところで,信託行為の定めをもって任務終了事由を定めることができるとしておりますので,それで対応しているところでございます。

  それから,129ページですけれども,○○から,受益者の同意がない辞任が制限されているのであるが,信託行為に別段の規定がないのに事実上辞任に等しい効果をおさめてしまうのではないか,会社分割の場合にそのようなコメントがされております。

  確かに,合併や会社分割による場合には,形式的には受託者が変更するわけでございますが,包括承継であって,実質的には同一であると言えるわけでございまして,他方,同じ包括承継であっても相続の場合とは異なりまして,一般には,新設合併の設立会社であるとか吸収合併の存続会社,新設分割の設立会社,あるいは吸収分割の存続会社の方が信託事務遂行能力に劣ることはないと考えられるわけでございます。


相続の場合には,必ずしもそうは言えないわけでございますが,合併や分割の場合にはそのように言っていいと思われますので,一たん任務を承継させた上で,あとは委託者と受益者の解任の要否の判断に委ねるという方向性で,不合理とは言えないものと考えますので,合併や会社分割の場合には任務を承継するという規律を設けることでよいのではないかと考えているわけでございます。

  以上のとおり,いろいろ指摘をいただきましたが,いずれも今,申し上げたように,試案のとおりで問題ないと考えておりますので,この試案のとおりということで部会での御審議,御承認を賜れればと存じているところでございます。

  もう一つ,第38,解任及び辞任以外の受託者の任務終了事由についてでございます。

  これにつきましては,コメントで言いますと134ページになりますが,まず,個人の方から,補助開始の審判を受けた場合も終了事由とすべきであるという御意見がございますが,ノーマライゼーションの観点から,補助開始の審判を受けたことは不適格事由にも任務終了事由にもならないと結論したいと考えております。

  それから,○○から,cは個人の場合だけであって,会社については常にbに当たるのではないかという観点から御意見がございました。

  これはおっしゃるとおりでございまして,会社の場合には,破産手続の開始決定を受けますと解散いたしますので,cにもbにも当たることになりまして,仮にcのただし書きのようなものがあったとしても,bに当たることによって当然に任務が終了してしまうということでございます。


その理解については指摘と違わないところでございますが,あとは,わかりやすい信託法をつくるという観点から,規律を実際に策定する過程で考慮すべき事情があれば考慮したいということで,このとおりとすることで御承認をいただければと思っているところでございます。

  以上でございます。
● ここまでで,いかがでしょうか。

  部会では,もちろんこの原案の立場でいこうということになっておりましたが,パブリック・コメントに出てきた幾つかの反対意見について,今,○○幹事から説明があり,そういう対応でいいかということですね。

● 第30ですが,102ページ,受託者の権限の問題については,英米では歴史的な流れの中で,大きく言うと,ずっと昔--つい最近までかもしれませんけれども,原理原則は,受託者の権限というのは極めて限られていて,安全第一だという話になっていて,それではいかんという話になって,この受託者の権限の範囲を広げてきた,こういう理解ですので,その一番最先端のところでこれだというのはわかるんですけれども,2つの点を確認しておきたいと思います。

  これで信託証書あるいは信託条項というのが今度できまして,その中に,受託者の権限については新信託法によるか,あるいは全く何の規定もない場合には,これどういう条文になるかわかりませんが,とにかく管理,処分その他信託目的の達成のために必要な行為を行う権限を有すると書いてあるものだから,だから当該信託目的の達成というので,そこで一つの絞りは,その信託の性格上,出てくるとは思うんですけれども,一般論--だから一般論は言えないかもしれませんが,今まで特に問題になったのは,やはり信託財産の売却権限と借り入れ権限ですね。


それはこの信託……,はっきり借り入れ権限があるとか売却権限があるとか,そういうようなものが一切書いていなくても,この条項で,当該信託の性格を踏まえた上でという1本絞りはありますけれども,できるようになる,こういう考えでよろしいですね。


● それは目的の達成のために必要であれば借り入れることもできまして,あとは受託者の義務の問題に解消されていくのではないか。忠実義務に違反したかどうか,そういう判断になるかと考えております。


● これは念のためなんですけれども,ここで考えられている権限なんですけれども,受託者が行うことというのは大きく分けると2つあって,信託財産の管理・運用の部分,それを安全に保持し,かつ収益を上げるという部分と,収益を上げたものを分配する部分がありますね。


分配の方の権限については,ここでは扱っていない,あるいはそれも含めて,何というか,信託目的の達成のために必要な行為というのに全部包含されるのかを確認しておきたい。


● それも入ると思っておりまして,信託目的が,収益を上げて受益者に利益を分配することを目的としていれば,当然その目的に従って収益活動を行って,その上で収益の分配を行うことは目的達成のために必要ですから,目的がそう定められていれば,当然権限の範囲だと考えております。

● そうすると,裁量信託の話とも絡むんですが,分配の仕方について,今年度についてはこうやって,何というかな,濃淡を,複数の受益者を考えていますから,そういうことも,この一般条項の範囲で,何といいますか,受託者の方で適正に判断すればできるし,場合によっては,この規定は今年はなしというようなこともあり得るということですか。分配についての,実際上は,裁量権を与えるようなことも権限の範囲としてはあり得る。

● 権限の問題としては,あると思います。あとは受託者がそのような分配をしたことが,先ほども申しましたが,受託者の公平義務ですとか善管注意義務の問題として適切であったかどうかという判断になりますので,権限の問題にはならない,違反はないと考えております。

● 英米の権限が広がってきたのは,私の理解が間違っていなければ,前者の方のアドミニストレーションの方でいろいろなことを縛ったりするのはかえっておかしいからという話で分けてあったような気がするんですけれども。


このアドミニストレーションの話とディストリビューションの話は。こういう一般的な条項で,ディストリビューションも含めてどうぞということはなかったような……,ちょっとうろ覚えみたいな話で恐縮ですが,本当にそういう大きな話でいいのかどうか。前者はわかりやすいと思うんですけれども。
  
とりわけ権限の問題というのは第三者との関係があって,こうやって広く認めておけば,権限外,ウルトラバイレスなんていう話がなくなりますのでね,だから,そういう意味でも信託の安全,取引の安全みたいな観点から言えば,これは非常にいいことだと思うんですけれども,あとの方のディストリビューションの範囲の話は対内的な話ですから,そういうところからも要請はないので,こうやってはっきり,それだけ広い裁量権をディストリビューションのところで認めるんだという,民事信託が発展していってですが,そういうことが,将来的な話で夢みたいな話なのかもしれませんが,そういうところまでここへ,もう当然入るんだよと今,言っていいのかどうか。

● 横から口出しするようなものかもしれませんけれども,分配の問題についても,やはり信託目的等で明確になっていれば,それは権限の範囲に入りますと。


だけれども,当然に分配が自由だという結論は,この規定からは出てこない。それはあくまで信託の目的との関係で考えます,そういうことなのではないでしょうか。


  確かにおっしゃるように,対外的に処分するときの権限と,それから内部的な分配というのはちょっと違うような問題があると思いますけれども,ただ,ここで仮に少し権限を,分配の問題まで含めて考えたときにも,分配についてどんな権限があるのか。


それはやはり信託目的によって基本的には決まる。当然にその中で,その上でさらに解釈の問題かもしれませんけれども,この条文に書いてあるようなことしか書いていなかったときに,裁量的に分配する権限が当然に出てくるのかというと,そこは,やはり信託目的が明確でないと,そういうことをしていいということが明確でないと当然には入ってこないのではないですかね。裁量的な分配をしていいという権限までは。


  ○○委員は,それが入ってくるだろうという前提で考えておられるんでしょう,この規定だと。


● いや,わからないんですけどね,本当は。
  ただ,3人の子供がいて--受益者ですね。3人の子供の幸せのためにこの信託を設定します。3人の子供の運命はその年々によってアップス・アンド・ダウンズがありますから,そこで当然に,3人の子供の幸せを考えると,3等分の1だという話にはならんかもしれないでしょう。

● 申しわけありません,○○委員に私から質問させていただきたいんですけれども,信託受託者が信託事務として信託財産を使って第三者と取引をするときには,義務違反があったときの救済と権限違反としたときの救済が異なっていて,義務違反があったという救済だけでは足りない場合があるので,多分,権限外,あるいはその後,取り消すということで信託財産,受益者の利益を回復しようということになるんだろうと思うんですね。


  しかし,受託者の受益者に対するディストリビューションの局面では,義務違反に対する救済と権限外の救済が,今の第三者との取引のような関係に必ずしもならないのではないかなと。したがって,ディストリビューションが義務違反であり,かつ権限外であるからもとに回復させるということが意味を持って登場してくる局面というのは,どんなものがあるんだろうかというところが○○委員の御発言の中でよくわからないところで,もしそこであるならば,内部的な権限の問題--内部的な権限というか,受益者に対する配分のところの権限の問題と,第三者との信託事務としての取引のところの権限の問題を一応分けて考えて,同じ基準でやるかどうかを考え直さなくてはならないというところはわかるんですが,ちょっとその手前のところが私にはわかりかねておりますので,御説明いただけるとありがたいんですが。

● とりあえず私の質問は,この第30が,受託者の権限というのが,さっき私が分けたところの第三者も関係するような,いわゆる信託財産の管理または処分というか,英語で言うとアドミニストレーションという部分ですよね。


そこだけに適用があるのかなと思っていたんだけれども,確認のために,ディストリビューションはまた別ですよねと。信託の本旨に基づいて何かしないといけないというのは,別の義務として当然あるので,そこを何でも権限というところで,権限と義務というのはなかなか難しいですけれども,権限のところで,ここの条文があるからもうすぐ信託目的の達成のために必要な行為として,収益についての何とかというところまで,収益配分についてですが,このところが対象とするというのではないんでしょうねと勝手に思っていたわけですが,そうではないとおっしゃるので--ということだけなんですよ。それ以上のことではないんです。

  権限外と義務違反の話は,ちょっとまた別の話が本当はありますけれども,英米法では,基本的にはそれを区別していませんので。


● 裁量で分配できるかどうかというのは,義務の問題はそこが出てこないわけですよね。そういう権限を与えているかどうかの問題になって。そういう意味では……


● 入れる必要はないような気がしますけどね。収益を分配したり元本を最後に引き渡したりというのは当然の権限であり義務であるというようなものなので,ここへ何か持ってくる必要は,ちょっと私が小さいことにこだわっているのかもしれませんが,本当は前の部分しか考えていなかったのではないでしょうか。


● そっちが中心であることは,確かですね。

  ただ,そのような裁量的な分配の権限があるかどうかという問題を考えると,それは一体どこで解決されるんだろうかというと,それも一種の権限なのではないか。それは当然には与えられないので,やはり権限として明確に与えられないと,そういうものは含まれない,そういう理解なのかと思ったんですが。


● 先ほどから利益の配分の問題とおっしゃられているところの関係で,恐らく弁済するとか引き渡すとか,そういうところをこの権限でとらえようとしているという局面を話されているのではなくて,むしろ信託契約において,あれでしょうか,利益をこういうふうに分配する,例えば受益の内容は年幾ら幾ら,だれだれに払いますというふうに書かれているのが恐らく普通の信託だろうと思うんですが,今の日本では。


ところが,そういう定めが置かれていないときであって,かつ,では利益分配について受託者に任せましょうということが信託契約の内容として認定できない場合であるというときに,なおこの第30で受託者には目的に入っていると言えるのであれば,利益分配に関する決定権限を与えましょうというふうに言うかどうかの問題で,非常に何というか,認定の問題とリンクしているというか,目的から権限を有するんですと,利益分配の権限を有するんですというふうに言える場合というのは,ほとんどニアリーイコールで,契約の内容になっていると言えると考えれば余り差はないのですけれども,ただ,他方で,だとすれば契約の趣旨解釈の問題と言えばいいという感じもして,そういったあたりの問題だと理解してよろしいんですか。ちょっと違いますか。

● そうかもしれません。
● 多少不明確な点がまだ残っているかもしれませんけれども,○○委員が言われたように,本来は,対外的な処分権限のところを中心に考えていることは確かです。


しかし,それ以外のことも,分配の問題についても,今,○○関係官が少し説明されましたけれども,この権限の問題ではないとは言い切っていなくて,やはりそこは一種の権限の問題。ただ,そういう権限が当然に与えられるわけではないと思います。
  ほかに,よろしいでしょうか。


● 第38なんですけれども,この集計結果で申しますと,133から134ページに書かれている,先ほど御紹介がありました○○の御意見についてなんですが,非常に細かい話で,かつ確定的な意見というよりは,もう一回だけ見直そうという話なんですけれども,法人の中でも破産が解散原因になっていない,極めて例外的なものがあります。


そういうものについてはbでは受けられなくて,cで受けるしかないわけで,cを自然人に限ってしまうと,そこが落ちてしまうわけです。


  ただ,私が今,思いつく法人は,多分,受託者には余りならないようなものばかりなので,しかし,どんなものがあるかわかりませんので,事務局におかれてはというか,私ももちろん自分で考えますけれども,破産が解散原因になっていない法人で受託者になりそうなものがもしあるのであれば,この御意見を少し慎重に考えた方がいいかなということです。
  お願いまで。


● その部分はさらに検討していただくことにいたしましょう。
  よろしゅうございますか。
  それでは,次をお願いします。


● では最後,第40,第43,第50でございます。
  まず,受託者の選任についてでございます。
  合意による受託者の選任という規律につきましては,これまでもそのようなものは可能であると解釈されていたのを明確化するものであって,相当であるという意見が大多数でございましたので,それを維持したいと考えております。


  裁判所による受託者の選任につきましても,全員が賛成意見でございました。
  なお,このコメントの138ページから139ページで個人の方から御意見がありまして,受託者の選任に関しては,受益者あるいは明示・黙示の約定のあるときは委託者の申立てにより,信託行為の趣旨に従って,裁判所が関与して決定されるべきであると考えるという御意見がございまして,恐らく常に裁判所が関与すべきだという御意見だと思われるわけでございますが,しかし,私的自治の尊重の観点からは,必ず裁判所への申してを経なければならないとする必要はなくて,委託者と受益者の合意によって選任することができるとすることが相当であると思われますので,この御意見については採用しないことにしたいと思います。

  そういうことで,これまでの部会の審議の状況,コメントの結果を踏まえまして,第40の1,2につきましては試案のとおりで部会の意見とさせていただければと考えているところでございます。


  続きまして,第43,受益者の利益の享受についてでございます。
  コメントで言いますと,147ページからになります。

  この点につきましては何点か御意見がありますので,補足的に申しますが,まず,主な意見の内容,147ページに○○の方から,信託行為の定めによる例外を認めるべきではないという御意見があります。


しかし,受益者として指定された者を保護するために受益の意思表示を必要とする民法の原則と異なりまして,原則として,この被指定者に受益権を帰属すると信託法では考えますし,我々も考えているわけでございますが,この原則は,委託者と受託者の一種の例外規定の設定を許さないというほどまでに強行的に解する必要はないと思われまして,信託行為の中で受益権の意思表示を必要としたり,受益権の帰属の時期を定めれば,それに従うのが相当であると思われます。

  現行法のもとでも同様に解されておりまして,この考え方を改める必要があるとも思われませんので,1については,信託行為の定めによる例外を認める試案を維持したいと考えております。


  それから,147ページの〔補足的意見〕の2つ目,○○からの,受益者と指定された者に受益権を帰属する時期や要件について,信託行為に別段の定めを設けることができるようにすべきであるという御意見につきましては,今,申し上げましたように,できるようにすべきであると考えておりますので,できるようにしたものでございます。


  その下の,○○からは,受託者への財産権移転等の前に受益権が発生し,取得すると解しなければならない理由はさほど存しなくて,受益権の発生時期は,受託者への財産権移転等と同時と解すれば十分と解されるとの御意見がございます。


これは試案の第1,信託契約の効力の発生時期と義務の発生時期に関するものでございますので,詳細はそちらでまた御議論いただくのかと思っておりますが,試案の考え方では,契約による信託は,委託者と受託者の意思の合致があれば財産権の移転がなくても効力が発生し,受益権が発生すると考えておりまして,ただ,信託行為の定めをもちまして受益権の帰属時期を定めることができるものと考えているわけでございます。


  いずれにしましても,財産権の移転がなくても信託の効力が発生し,受益権が発生するという試案の考え方の妥当性については,第1のところで改めて御審議いただくのが適当ではないかと思っております。


  4番目といたしまして,148ページの一番上でございますが,○○から,受益者が受益権取得について既知である場合には,通知が不要であることを明らかにしていただきたいという御意見がありました。この点につきましては,立法でやるのか解釈でやるかはともかくといたしまして,受益者が自分が受益権を取得したことを知っている場合については,通知が不要であるということでいいのではないかと考えております。

  最後に,○○からの反対意見でございますが,受益権を取得したことの通知を不要とするのは反対であって,むしろ受益者に受益権が帰属した時期の定め方を工夫することで対応すべきであって,通知義務は必ずあるものと解釈するのが相当であるという御意見でございます。


これは従前部会でも御審議いただいたところでございまして,確かに通知義務を強行規定とした上で,受益権帰属時期を遅らせるという方法もあるとは思うのですが,これだと委託者としては,通知を避けるためには受益権帰属時期まで遅らせることとせざるを得なくなるわけでございまして,そこまでさせる必要があるのか,委託者のニーズにかなうのかが疑問でございます。


  そこで,受益権帰属時期を遅らせて通知時期を遅らせるというオプションのほかに,受益権取得自体は直ちにさせつつも通知をしないというオプションも可能であるとすることが相当であると思われますので,通知義務を任意規定とすることを提案しているところでございます。

  以上は,何点か反対意見があったところについて事務局の検討結果をお示しいたしましたが,結論的には,大多数の意見がこの試案に賛成しておりますことも踏まえまして,第43の1のとおり,この審議会での御意見とさせていただければと考えております。

  最後に,第50,受益債権についての物的有限責任についてでございます。
  コメントで言いますと178ページになりますが,反対意見はございません。現行法の文言は,「信託財産の限度に於いてのみ」と書いてあって,場合によっては固有財産にもその限度額でいけるというふうにも読めかねないので,そこは不明確であるという判断を踏まえまして,あくまで信託財産のみをもって,信託財産のみが責任財産となるという明確な文言に改めたものでございまして,179ページの〔補足的意見〕にございますように,○○からも,それはそのような方向で明確な文言に改めるべきであるという試案と同様の意見をいただいているところでございます。


  そういうことを踏まえまして,また,記憶では,ここはこの審議会でもこれまで全く御異論もなかったところでございますので,この試案のとおり「受益債権に係る債務については,受託者は,信託財産のみをもってその履行の責めに任ずるものとする。」ということで御意見としたいと考えております。
  よろしくお願いいたします。

● それでは,ここまでについて御意見ください。
  先ほどの受益権の通知,受益権を取得したことを知っている者に対しては通知をしなくても済むようにできるという……,これは解釈または,何ですか,先ほどの説明は。


● 法文に「知っている場合は,この限りでない」と書くか,あるいは単に,ここで通知しなければならないと考えてあれば,当然解釈として,知っていれば通知しなくてもいいだろうというのが出てくると思いますので,それで対応するか,それはお任せいただきたいと思います。


● そういうことでございます。
  いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
  ここら辺までは余り皆さん異論もないところかと思いますので,御意見がなければ,ここまで承認したということにさせていただきたいと思います。
  よろしいでしょうか。
  特に何もなければ,今日はこれで終わりたいと思います。また次回もよろしくお願いいたします。
  どうもありがとうございました。
-了-

3月の相談会と講座のご案内

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え
後援(株)ラジオ沖縄 

日時:令和2年3月27日(金)14時~17時  
場所: 司法書士宮城事務所(西原町)
要予約 電話・HP・メール
問い合わせ先:司法書士宮城事務所(098)945-9268、HP,メール【shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp】
料金:1組3000円

26日(木)は講座です。
家族信託の実例講座その28―家族信託をした人の質問まとめ― です。

法制審議会信託法部会第11回~15回

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第11回会議 議事録

第1 日 時  平成17年3月11日(金)  自 午後1時04分
                       至 午後5時13分

第2 場 所 法務省第1会議室

第3 議 題
信託法の見直しに関する検討課題(8)について(続)
   信託法の見直しに関する検討課題(9)について

第4 議 事 (次のとおり)

議    事

● それでは,今日の部会の審議を始めたいと思います。
  最初に,意見書というものが出ておりますので,これは○○委員から御提出のものですが,これの御説明をいただいた後,また適宜議題を区切って審議していきたいと思います。


● まず,○○委員の方から,このペーパーの趣旨を簡単に御説明お願いいたします。


● 本日,配布資料としてお配りさせていただいた資料ですけれども,これは流動化・証券化協議会準備会合・信託法制及び流動化ビークルワーキンググループによる,信託法の改正に関する意見を取りまとめたものです。内容はかなり多岐にわたっておりますし,ページ数も多いのですけれども,是非御一読いただければと思います。


  多数の論点及び要望事項を挙げておりますが,信託法の改正による対応が望まれる部分については,おおむね前半に記載しております。

また,後半部分に挙げています論点の一部は,法改正ではなくて,解釈,運用ですとか,解釈上の指針の明確化といったことで対応されるべき問題かもしれません。


  また,このワーキンググループですけれども,昨年の7月から何度か会合を持って,こういった意見を取りまとめておるのですけれども,本法制審議会の信託法部会における議論を踏まえたものにはなっておりませんことは御了承ください。


  配布資料の一番最後のページに,このワーキンググループのメンバーの名簿が載っておりますので,そちらもちょっとあわせて御覧いただければと思うのですけれども,流動化・証券化協議会について,簡単に御説明申し上げますと,資産の流動化・証券化という取引は,ここ10年余りで本格的に伸びてきた分野だろうと思います。


また,現実には,大多数の流動化・証券化と呼ばれる取引に信託が用いられていることから,流動化と信託は現代においては非常に密接な関係にあるというふうに言えるかと思います。


  ただ,流動化・証券化という金融取引が非常に大きく伸びてきたといっても,流動化・証券化業界といった業界が存在するわけではございません。


流動化・証券化に携わっている者は複数の業界にまたがって存在しているというのが現実でございます。


つまり,銀行,信託銀行,証券会社といった様々な金融機関に,現在は,ストラクチャードファイナンス部だとか証券化商品部といった流動化・証券化を専門に行う部署が存在するのが一般的ですけれども,金融機関のみならず,様々な業種の事業会社,ノンバンクといった業態の参加者がオリジネーターとして,あるいはアレンジャーとして,あるいは投資家として流動化・証券化市場に参加しているというのが現状でございます。

  また,「流動化・証券化」という言葉とセットで,「倒産隔離」ですとか,「優先劣後構造」ですとか,あるいは「格付け」といった言葉が使われることにあらわれるように,取引の仕組みによって信用リスクを加工するというプロセスを含むということが一つの特徴でございまして,その関係で,多くの研究者ですとか弁護士,会計士等の専門家,あるいは格付会社といった方々も流動化には深く関与しております。


  このように,関係者が様々な業界に散らばって存在しているということから,これまで流動化・証券化に関する様々な課題について,横断的に議論したり,意見を集約する場が余り存在しなかったという現実がございます。


流動化・証券化に携わるもののネットワークを形成する組織が必要とされまして,流動化・証券化協議会という場の設立の検討が準備会合の形でこれまで行われてきたというものです。この4月に,この流動化・証券化協議会は,正式な活動を開始する予定です。

  本日配布させていただいた意見書の内容については,多岐にわたりますので,内容の御説明は割愛しますけれども,是非目を通していただければと思います。よろしくお願いいたします。


● あとは,関連する場所でもって,この御意見など踏まえながら議論を進めていきたいと思います。


  それでは,本日も幾つかの項目について,適宜分けながら○○幹事の方から説明をお願いします。


● それでは,審議に入らせていただきますが,前回積み残しとなっております「第5 受託者の不適格事由について」からはじめまして,「第6 受託者の利益享受の制限について」,「第7 受託者の職務の引受けについて」という3項目にわたりまして御説明をしたいと思います。


  積み残し部分を前半にやりまして,休憩後に善管注意義務以降の新たな部分をやらせていただければという大まかな目安ですので,よろしくお願いいたします。


  それでは,まず受託者の不適格事由でございますが,提案の本文自体は前回の提案から変わるところはございません。


  なお,現行法の解釈としましては,不適格事由に該当する者を受託者として指定した信託は,絶対的に無効であると解されておりますが,前回,資料中におきましては,破産者であることを不適格事由から除外することのほかは基本的に現行の趣旨を維持する旨言及しておりました。


  しかし,これに対しまして,第3回会議におきまして,特に遺言信託の場合において,委託者である遺言者の遺言作成時においては,受託者として指定された者が不適格事由に該当しない者であったとしても,その後,委託者である遺言者が死亡し,遺言信託の効力が発生した時点においては,この受託者として指定された者が不適格事由に該当することとなってしまっている可能性もあるところ,このような場合にまで信託自体を無効とする必要はなくて,むしろ当該信託を生かした上で,かわりの受託者を選任する方向で対処すべきではないかとの御指摘がございました。

このような御指摘を踏まえて改めて検討しました結果が,本資料の16ページに記載しておりますところでございまして,遺言信託については,その効力発生時点において受託者が不適格事由に該当する場合であっても,原則として当該信託は無効とする必要はなく,新受託者を選任して遺言信託の効力を存続させるのが適当であると考えるところでございます。


  しかし,これに対しまして,生前の契約信託につきましては,信託契約時点において受託者が不適格事由に該当するのであれば,当該信託は無効として,新たな受託者との間で再度信託を設定し直せば足りると考えているというところでございます。


  続きまして,次のページの「第6 受託者の利益享受の制限について」というところにつきましての御説明に移らせていただきます。


  これは,現行9条に対応する受託者と受益者の兼任の禁止に関する提案でございます。


  ところで,前回の提案におきましては,単独受託者が全益者である場合には,相当期間内に受益権処分義務を課すこととした上で,共同受託者の一人が全益者である場合にも受益権処分義務を課すか否かにつき,積極・消極の両案併記としておりました。


この2点に関しまして,今回の提案では,受益権処分義務を課すという方法のみをとることをやめますとともに,共同受託者の一人が全益者である場合にも,このような兼任状態を継続することは許されず,これを解消しなければならないことと結論したものでございます。


  まず,<説明>の2に関する点でございますが,今回の提案では,単独受託者が全益者であるという状態が生じた場合には,かかる兼任状態が相当期間内に解消されない限り,当該信託は終了するものとする反面,その解消の方法ないし事由には,何ら制限を設けないことといたしました。

したがって,全益者となった単独受託者といたしましては,信託を終了させたくないのであれば,受益権の全部又は一部の処分をする方法により得ることはもちろんですが,受託者の地位を辞任する方法によることも可能でありますし,更には,今後兼任状態の新たな解消方法が考え出せれば,それによることも可能でありまして,また単独受託者兼受益者の自発的な行為に限らず,相続等の客観的事実の発生による場合であっても構わないことになると考えられます。


  このように,信託が存続し得る場合を受益権の処分に限らず,より広く認めることとし,いわばより弾力的な規律に改めることといたしましたのは,資料17ページの2というところに書いてございますが,第3回会議におきまして受益権の全部を保有していたい場合であっても,その意に反して他人に受益権を譲渡せざるを得ない方法のみしか認められないというのは妥当ではないとの御指摘があったことを踏まえて再検討いたしました結果,信託の観点からは,要するに単独受託者が全益者を兼ねている状態が生じていることが問題なのであって,このような状態さえ解消されるのであれば,解消事由のいかんを問う必要はないと考えたからでございます。

  次に,<説明>の1に関する点でございますが,共同受託者の一人が全益者であるという状態が生じている場合についても,同様に,かかる兼任状態が相当期間内に解消されない限り,当該信託は終了するものといたしました。

このような結論に至りましたのは,第3回会議におきまして,そのような場合には全益者としての立場に基づき,受託者としての自己の行為を常に承認できることになって,受益者に対する忠実義務を負わない受託者の存在を認めることになりかねないこと,あるいは全益者を兼ねない共同受託者が存在することをもって,信託の構造の存在を認めるに足りるだけの監督関係,この監督関係というのは全益者の他の共同受託者に対する監督関係を意図しておりましたが,このような監督関係の存在を肯定できるかは疑問であること,あるいは共同受託者の職務分掌の内容いかんによっては,実質的に判断すれば,単独受託者が全益者であるという場合と変わらないことがあり得ることなどの指摘があったことを踏まえたものでございます。

  なお,実務上は,原信託の受託者が再信託を設定することがされておりますところ,この場合には,受託者が全益者ともなるという問題があることが指摘されております。


しかしながら,この再信託の場合につきましては,17ページの3に記載した理由から,今回の提案に係る規律の適用対象とはならないと考えているものでございます。
  


最後に,「第7 受託者の職務の引受けについて」というところでございますが,これは信託行為において受託者として指名された者に対する就職の諾否につきましての催告権等に関する規定を新たに設けることを提案するものでごさいまして,提案の本文自体は前回の提案から変わるところはございません。


もっとも,第3回会議におきまして,前回の提案本文及びその説明ぶりからは,1の催告権者の中に信託管理人は含まれないとの誤解を招き兼ねないとの指摘がされました。


この御指摘を踏まえまして,資料19ページに記載したような理由から,提案の本文自体は改めないこととした上で,催告権者には信託管理人等が含まれることを説明中において明らかにしたものでございます。
  とりあえず,以上でございます。

● それでは,ここまでで御議論をお願いいたします。
  いかがでしょうか。

  この第5については,契約による設定の場合と遺言信託とで結局結論的には少し違ってくるいうことですね。

● はい。
● 条文としては,後でもうちょっとその点を含めたような条文になる。

● 規定振りについては将来検討いたしますが,考え方自体はこれでいいですかということでございます。


● わざわざ新受託者の選任手続に入らなくてはいけないということになると,多少面倒くさいということで,新たに受託者を委託者の方で定めて,簡単に有効な信託を設定できるようにするという趣旨ですね。

遺言信託の場合は,また逆な考慮があるけれども。
  これは,こんなところでよろしいでしょうか。


● 単純な話ですが,第6の「相当の期間」というの,これはどんなふうに考える……。

要するに,これ以上具体的に定めるのか,抽象的にこのままにするのか,その場合に,これに利害関係を持っている第三者から見て,信託が終了したかどうかの
判断をどうやってするのかという,そういう問題です。

● なかなか具体的な規律は今までも決めにくかったのですけれども,何か御意見ございますでしょうか。
  
恐らく,信託を終了させるためには,だれか利害関係者が信託の終了しているということを言い出すことが通常なんだろうと思いますが,それを抜きにして,具体的にこのぐらいの期間がたつと当然に終了するという点について,相当の期間というものを定義するという形で,終了を明確にするというのがうまくできるのかどうか,なかなかそこは一つ難しい問題があるような気がしますが,いかがでしょうか。

  実務的には,どうでしょうか。

● 裁判所の立場からしますと,何度も同じようなことを申し上げて恐縮ですが,「相当の期間」と言われても,何を基準に,どう判断するのかということすらよく分からないということになってしまいますので,裁判所がどう判断できるかというところは非常に難しいということになるのではないかと。


終了しているかどうかによって信託債権者その他の利害関係人の利害というのは大きく変わってき得るということになると思いますので,ここは何か明確な規律というのを設けていただきたいというのが,まだ個人的な希望という段階ですが,そういうふうに思います。


● これも,「相当の期間」というものの考え方がなかなか……。


基本的な考え方ですけれども,本来こういう状態はあっては好ましくないと,つまり受託者が全受益権を取得しているという状態は好ましくないということであれば,本来,比較的短い期間の間にそういう状態を解消すべきであるというのが基本的な考え方なのでしょうが,ただ解消するために受益権を売却するとか,いろいろな形で解消するときに,どういう手段をとるかによって,また期間といいますか,時間のかかり方が違ったりするので,なかなか具体的な期間を定めにくいということがあるのではないかという気もします。

この辺は,実務の方の感覚も伺いたいと思いますが。


● この「相当の期間」でございますけれども,既に会社法の方ではほぼ同様の概念が使われておりまして,子会社による親会社株式の取得というのは原則として禁じられているのですが,例外に当たる場合は「相当ノ時期ニ……処分ヲ為スコトヲ要ス」というのが211条ノ2第2項に既にございますので,このような会社法の方の議論も若干参考になるのではないかということと,それから,これはちょっと論点が別になって恐縮ですけれども,第6が議論している対象について,ちょっと御確認させていただきたいと存じます。
  


この受託者が受益権の全部を取得するというのは,これはあくまでも受託者が固有財産で取得する場合だけを念頭に置いているのか,それとも信託の計算--と言ったら変ですけれども,信託の計算で受益権を取得するということも含まれているのか。


つまり,後者の場合は,受益権が証券化された場合には信託の計算で受益権を持つということも論理的には可能になり得ると思われますので,この第6の射程について御教示いただければと存じます。


● 私,個人は,必ずしも今の問題を深く考えてはいませんでしたけれども,というか,固有財産で取得するという場合を一応念頭に考えておりました。
  そういう信託で取得するという場合,いかがでしょうかね。

● 私自身は,ここのところの規律というのは固有勘定だけで取得した場合ということを念頭に置かれて規定したのだろうと思いまして,いわゆる再信託だとか二重信託のような状態の場合については,基本的には信託財産で別の信託の受益権を購入するということはよく行われていることですし,それについては基本的には運用の方法の一つとして行われておりますので,それを相当の期間で解消するということになりますと,ちょっと支障が出るということでございますので,そこについては固有勘定に限定していただかないと,なかなか実務上問題があるということだと思います。

● ○○幹事の御趣旨も,それはちょっと別に考えた方がいいということですね。


● むしろ,第6の射程が固有財産による取得だという旨を明確に確認した方がいいのではないかという趣旨でございます。

● 先ほどから出ています「相当の期間」ですけれども,私も実務上の観点からいきますと,ここの「相当」というのはある程度相対的なものだというふうにとらえているのですけれども,そこはよろしいのでしょうか。


  要するに,絶対的に例えば3か月ぐらいにとかということではなくて,例えば財産の種類によっても違いますし,それとその保有する意図というのは,そこがちょっと違うのかもしれませんけれども,例えば全部保有してから何かを変えようとしたり,全益になったところで何かをしましょうというような趣旨でやるときのある一定の要する期間とかいうのがあると思いますので,そこは相対的にということでよろしいのでしょうね。

● 意図まで考慮してというのは,若干そこは微妙かもしれませんけれども,財産等によって違うということは当然あり得るのじゃないかと思いますね。


● まず,最初の○○幹事御指摘の点は,事務局としても固有財産で取得した場合を念頭に置いております。
  


それから,「相当の期間」についていろいろ御議論がございましたが,まずこれは相対的なものであって,財産の種類等は考慮できますが,今,○○委員から言われましたように,意図まで考慮できるかというのは,ちょっと客観性の問題がありますので難しいかなという気はしております。


ただ,相対的なものであるということは,こちらもそのような理解でおります。


  ただ,期間を具体的に法文上決めるというのはなかなか難しいことでございまして,少なくとも事務局としては,「遅滞なく」としなかったのは,受益権を処分したりあるいは辞任するのに若干の期間は要るだろうということで,「遅滞なく」というふうにはしなかったと。


  それから,商法の規定なども考慮して,「相当の期間」というふうに決めたというところまでは言えるのでございますが,それを具体化して,いろいろな事情を例えば法文上挙げるかというのは,なかなか難しくて,やはり諸般の事情を考慮して相当かどうかということで判断していくしかないのではないかなという気がしております。

● この規定の機能の仕方ですけれども,相当な期間を超えて保有していたので終了するというところに使うよりは,恐らく処分させるという行為規範的に使われることが多いのだろうと思うのですね。


しかし,そうは言ってもこういう形の条文を置けば,相当な期間を超えて保有していたときにはやはり信託は終了するということになるのでしょうけれども,ただこれも理論的にはなかなか難しいですね。


ある程度客観的な期間,本来このぐらいの期間でもって相当な期間を超えている,それでまだ保有しているけれども,その後処分したら,やはり何か瑕疵みたいなのが治癒されてもよさそうな気もするのですね。


そういうことで,ここでの「相当の期間」というのがどういう形で実際問題なのかというようなことも,少し考えなければいけないという気がいたします。


  それから,「相当の期間」というのは,これ期間の具体的な定めは難しいでしょうけれども,私のこれまた個人的な感覚ですけれども,やはり1年とか何とかというのは長過ぎる,恐らく1か月とか3か月とか,何かそのぐらいの感覚なのではないかと思いますけれども,これもどの程度処分しやすい財産なのかというようなことも関係くると思います。

● 先ほど,当事者の意図というのはちょっとなかなか難しいだろうというお話がありましたけれども,これ,書いてしまえば何かちょっと変わってくるのでしょうか。信託契約に。


● 書くというのは。


● ある程度信託の形態によっては,かなりの時間取得するような可能性があるような,そういう類型の信託であれば,例えば一般に言う「相当の期間」より長いぐらいの期間を保有することも認めるような形の信託契約でのメリットといいますか……。


● それは,この規定の相当な期間,客観的には相当な期間とされるものを超えて保有していいということを書くということになると,それはこの規定は強行規定だというふうに考えると難しいのでしょうね。

● 相当性を考慮するに当たっての……。


● その判断してもらう要素として書いておくと,多少は影響するかもしれないけれども……。この辺は,少し考えさせてください。


● 信託契約に書いて,だれとだれの話なのか,全部自分になったときの話ですよね。

そうすると,委託者はいるわけですけれども,受益権を私が取得したときには,私は文句は言いませんという,そういう約束になってしまうわけであって,それはちょっとおかしいのじゃないかというのが第1点で,それは感想です。

  第2点は,先ほどから固有財産で取得した場合であるということが前提になっているというふうな話でございましたけれども,○○委員がおっしゃったのは,二重信託であると,つまりある信託の受益権を他の信託の財産として購入するという場合じゃないかと思うのですけれども,そのA信託の受益権をA信託の財産として購入するという場合も,この第6には入ってこないということでしょうか。
  だから,自己株式みたいな話ですね。

● そのときには,受益者というのは何になるのだろうな。受益権を信託財産で買うという意味ですよね。そのときの受益者というのは,どこかにいるのですか。

● 会社法の議論ですと,会社が自己株式を取得した場合に,当該自己株式にどのような権利が認められるのか,どこまで権利が認められるのかということについては,立法上の解決と,それから解釈論にゆだねられている部分がございまして,例えば現行法上は利益配当請求権ですとか残余財産分配請求権はないということが明定されております。

  私の先ほどの質問の趣旨も,もし信託財産自身で受益権を取得するようなケース,これは有価証券化されると本当にそういう場合が生ずることが十分に考えられると思うので,その場合についての規律というのは,もしかしたらまた別途考える必要があるかもしれないということもちょっと念頭には置いていたのですけれども,自己株式の取得と同様に信託財産が受益権を取得した場合に,それに対してどの範囲で権利が認められるかということについては,自己株式との対比でいってもなかなか議論がある難しい問題であり,できればやはり立法的に解決するということが望ましいかもしれません。


● 信託財産の中に受益権が入っていて,受託者が信託財産を管理する上でその受益権をある程度行使できるのでしょうけれども,何か信託全体の目的などがあると,一定の行使の制限がかかっている。


それに対して,固有財産が受益権を取得してしまうと,それは受託者がある意味で自由にできるところがあって,そこはやはりちょっと違うのかなという気はしますね。


● 恐らく,ちょっと比喩的な言い方で恐縮ですけれども,固有財産で信託の受益権を取得するというのは,あたかも会社でいえば取締役がその会社の株を持っているような場合であって,これは現行商法上も全く禁止されているところではございません。規制はされておりません。
  


これに対して,信託財産で受益権を買うというのは,正に会社が自己株式を取得するというケースに当たりますので,その二つは,一応理論的には区別されるべきではないかと思います。

● 御指摘のとおり,自己株式の取得というのと類似する局面がございますので,ここでの規律はあくまでも固有財産で取得した場合を念頭に置いておりましたが,また信託財産で受益権を取得した場合の規律はどうなるかというのは,別途検討させていただきたいと思います。

● ほかの点ではいかがでしょうか。

● 言葉遣いだけのことですけれども。
  二人の共同受託者が,二人で受益権全部を取得したという場合は,この対象にはならないだろうと思いますけれども,ちょっと表現だけ見ると,そこが不明確かなと思いますが。


● そうですね。二人でまたがっているので,一応受益権が分散しているということになるわけですね。入らないのだろうというふうに考えますけれども。


● その場合は入らないと認識しておりますが,提案ぶりが不明確かどうか,検討させていただきたいと思います。


● 確認ですけれども。前回の提案との比較において,この提案というのは受託者の処分義務を課していないということでしょうか。


  例えば,仮の例として,帰属権利者が別にいて,受託者が相当期間に処分しなかったために信託財産が下落したと,そうした場合に,帰属権利者は受託者の処分義務がもしあるのであれば,その違反ということを理由として何らかの損害賠償請求とかすることができるのかという話なのですけれども,この規定ぶりからだけ見れば,それが判然としないものですから,あえて御確認する次第でございます。

● これは,処分義務を課すということは考えておりません。結果的に,処分しない場合に終了するという結果は招きますけれども,前回の提案と違って,義務として処分しなければいけないということではないというふうに提案を改めております。

● 今の御質問との関係で確認させていただきたいのですが,この第6の規律というのは,そういう意味では現行の信託法9条の特則といいますか,例外に当たるという,そのような位置づけでよろしゅうございますでしょうか。

● 9条そのものを改めたということですので,例外というか,9条はなくなります。


● 9条にかわる規律であると。

● はい,そういうことでございます。


● 第5ですけれども,細かなことですし,かつ余り現実的ではないと思うのですけれども,この違反の効果について,生前信託の場合と遺言信託で分けるということなのですが,それに関連して,生前信託で共同受託者の一人について不適格事由があった場合にどう考えたらいいかということと,あと,例えば未成年者というので設定してしまったのだけれども,その受託者が成年になったとか,能力を回復したというようなときに,治癒というようなことがあり得るのかどうかという2点が少し気になっておりまして,もしお考えが明らかでしたらお聞かせ願えればと思います。


● ちょっとロジックはなしに,ただ直感だけ申し上げると,後者の治癒はあってよさそうな気がしますね。


● 決定時点ではまだ未成年だったけれども,ちょっともたもたしていたら成年になったとか,そういう場合ですか。


  民事ですから,改めてやり直さなくても,その人がいいと思ってやったわけですので,治癒ということで有効にしていいのではないかなという気がしております。


  それから,能力を回復した場合も,当初は委託者がその人を受託者としてやったところが,不幸にも当時は能力がなかった,しかし少々期間がたったら能力を回復したというのであれば,当初の委託者の意思にかなうものですので,そこは信託は有効ということを認めて差し支えないのじゃないかなという気がしております。

  あともう一つ,共同受託者の一人が不適格の場合には,何かほかの人にいくか,そのまま単独受託者の信託として有効としていいのではないかなという気が直感的にはしておりますけれども,ちょっと御意見があれば伺いたいですし,なお必要があれば検討したいと思っていますが。


● 共同受託者とかの趣旨によって,そこは有効だけれども,あるいは選任ということが出てくるのかなという気がしたものですから。


● 確かに,相互牽制とか相互干渉を重視すると,一人でもそのまま有効というのは問題かもしれません。一応有効としておいて,追加して選任すると,そういうことでしょうか。


委託者の方から選任請求をするとかですね,そういう方法で複数にするということがあり得るのかなとは思いますが。


● 特別な御意見がなければ,少し先に進んでよろしいでしょうか。
  7についてもよろしいですね。
  それでは,少し先に行きましょうか。


● それでは,次に「第9 信託財産の範囲について」,「第10 信託財産の添付について」,「第11 信託財産と固有財産との識別不能について」を順次御説明をいたします。


  まず,第9でございますが,これは前回の提案と同じく,信託財産の範囲に関する現行法第14条の規定を維持することを提案するものでごさいまして,具体的には,現行法における解釈と同様に,信託財産の文字通りの代位物に限らず,信託財産を引当てとした借入れにより,受託者が取得した金銭等も含まれますし,また受託者が信託事務処理により処分した場合に限らず,法令又は信託行為の定めに違反して信託財産を処分した場合において,受託者が取得した反対給付なども含まれると考えているところでございます。

  次に,第10の「信託財産の添付について」でございますが,これも前回の提案と同じく,信託財産の添付に関する現行法第30条の規定を維持することを提案するものでございます。
  

具体的には,不可抗力ですとか,受託者の分別管理義務違反に起因しまして,ある受託者に属する信託財産と,これと同一の受託者に属する固有財産又は他の信託財産とが物理的に混交し,分割することが社会経済上著しく不利益である場合ですとか,事実上これを弁別することが不可能となったような場合におきましては,各信託財産と固有財産とが各別の所有者に属するものとみなした上で,原則として主たる財産の方に財産全体の所有権が帰属し,所有権を失った従たる財産の方に償金請求権が帰属することになると考えるものでございます。


  次に,「第11 信託財産と固有財産等との識別不能について」というところでございます。

これも,大枠について第3回会議では御異論はございませんでしたが,そのときの審議を踏まえて,次の2点を取り上げ,改めております。


  まず,信・信間の識別不能につきまして,各信託の受託者が同一である場合,こういう場合が往々にしてありそうですが,この場合には,原則として各信託の受益者の協議によって共有財産を分割する旨の提案をしておりました。


  これに対しましては,受益者の協議は特にその人数が多数に上る場合には現実的ではないから,受託者の関与を認めるべきではないかという指摘がございました。


しかし,ここに記載した理由にございますように,受益者間の分割に事実上関与するということであればともかくとして,分割方法を決定するということになりますと,利益相反の典型的な局面でございますし,また利益相反行為の禁止の例外といたしまして,信託行為に定めのある場合や,各信託の受益者の利益を害しないことが明らかである場合には,受託者のみで分割ができるということで,信託事務の円滑な遂行に対する配慮もされていると考えておりますので,今回もこのような受益者間の協議を原則とするということは維持しているというところでございます。


  また,第2点といたしまして,例えば甲信託の受託者Aが有する信託財産Xと,乙信託の受託者Bが有する信託財産Yとが識別不能になった場合に,このような場合は単にAの財産とBの財産とが識別不能になったと見ればよくて,信託法による特段の手当ては不要であるのではないかという指摘がございました。


この点,検討いたしましたが,前回の提案は確かにそのような場合も対象とするかのように読めるのではないかということで,今回は受託者の異なる信託財産間で識別不能が生じた場合は,単に所有者が異なる財産が識別不能状態になった場合と同じく,民法の規律する局面であると。


これに対して,同一受託者の中で識別不能状態が生じたときは,信託法の規律する局面であるという考えのもとに,特に1の(1)とか(4)あたりで,その趣旨がより明確化されるように記載ぶりを変えたということでございます。
  以上で,とりあえず終わります。


● それでは,ここまででいかがでしょうか。


● 第11のところの識別不能のところの規律でございますが,前回のときに先ほどの○○幹事の方からお話がありましたように,信託財産間の受益者が多数に上るような場合についてはなかなか現実に難しいのじゃないかというふうに申し上げましたけれども,それで御検討いただきまして,最終的には,一つは当然別段の定めというものが認められているということと,あとは受益者を害する恐れがないときについては構わないという,(注)のところでそのところの説明も書かれておりますので,実務上,多分この二つがある限りにおいては,大体のところは対応できるのかなと思っておりますので,特段反対するというようなことはなく,賛成したいと思います。

  その中で,ちょっと確認ですけれども,一つは,信託契約で書くときのイメージなのですけれども,ある程度抽象的なものでいいのかどうか,例えば「受託者が公正と判断する割合及び方法により分割する」とかいうふうに書かれた場合,この程度でもいいのでしょうか。済みません,ちょっと仮定の話なので申し訳ないのですけれども。


  そういうことと,もう一つは裁判所の方に分割を請求するに当たって,例えばですけれども,数百人ぐらい受益者がいるときには,要するに協議をすることなく,非常に現実の問題としては難しいので,裁判所に直接請求ができるかどうか,この二つを確認したいのですけれども。

● まず,前者の御質問につきましては,信託行為の定めということがあれば,利益相反行為の禁止の例外になるということですので,そのぐらいの定め方でも受益者は受託者がやるということが分かりますので,いいのではないかなという感触を持っております。

  それから,受益者が多数いてというときで,民法の共有物分割の判例でも,実際に協議をしなくても,およそ協議をする意思がないというようなときには「協議調わざるとき」というふうに解していいという解釈がございますので,その範囲がどこまで及ぶかということですが,400人いるから直ちに当たるのかどうか,ちょっとそこら辺は解釈問題ですので,たくさんいたら常にいきなり裁判所に行けるというのか……。意向を聞いてなかなか難しそうだったぐらいの話ではないかという気がいたします。

● 別にそんなにこだわるものではありませんけれども,そこは常識の範囲内で考えていくということであれば……。


● 今の点について,ちょっと質問させていただきたいのですが。

  通常の共有物の場合ですと,その分割や持分の割合云々などについて,約定によって何かを決めるという場合には,共有者間の合意によって決めるということなのだろうと思うのですね。

そうしますと,今,信託行為に別段の定めを置くということによって,何が行われたことになるとお考えなのでしょうか。

  要するに,それによって,信託行為の約定を置くことによって,なぜ分割なり何なりができるようになると考えるのかという点の正当化の理由はなんなのでしょうか。その点について,ちょっと御説明いただければと思います。

● 今の点でございますが,信・信間の信託財産が混合したときにどう分けるかという話でございますけれども,基本的には信託財産というのは受託者が管理処分する対象でございますので,受益者の意向を直接聞くというのは非常に例外的な場合かと思います。


この場合に,受託者ではなくて受益者の意向を聞かなくてはいけないというのが出てくるのは,基本的には利益相反に当たるからであるというのが私どもの考え方ですので,その利益相反の桎梏というのを取り除くということをしていただければ,受託者が決めることになるのだということなのではないかというふうに思っております。

  つまり,直接受益者が共有者であるということからここの話がスタートしているということでは,一応はないという前提なのですが。

● 関連してよろしいでしょうか。


  この1と2ですが,2の方は分割の方法について信託に別段の定めがあるときは,定めることができるというふうになっているのですが,1の方は,これは強行法規であるという前提での理解ということでよろしいのでしょうか。


  つまり,別段の定めができるのは,分割のこの方法についてであって,1の識別財産の割合ですとか,そういった問題については強行法規であるという理解でよろしいのかどうかということですけれども。

● ここは,受益権の物権的救済という観点もございますので,強行的なものだということで事務局は理解しております。

● そうすると,信託行為に割合について別段の定めを置いても,それは効力はないということになるのでしょうか。

● はい,そこは信託財産と固有財産の価格の割合によるということですので,信託行為で別に定めを置いても,それはだめではないかというふうに考えます。

● 2の(1)のアの②,「受益者の利益を害しないことが明らかである場合」ですが,この明らかであるかどうかについて,受益者が異議を述べてきたときにはどういうことになるのでしょうか。


このままですと,いつまででもそれを争えるという可能性があって,かえって不安定かなという気もするのですが。

● どんな異議でもいいというわけではないのだとは思いますけれども,しかし異議があるということは,利益を害しないことが明らかであるとは言えないという可能性があって,そういう意味で争えるかと。

  手続の安定性という観点からも多少疑義があるということですね。
  ほかによろしいでしょうか。


● まず,第9のところから。ちょっと言いっぱなしになるかもしれませんが,一言だけ申し上げたいと思うのですが。

  確かに第9というのは,法律家的には問題のない規定ではないかというふうに思います。


しかし,この現行法の14条でしたか,ここの条文というのは,すごく適用範囲が広い条文で,信託の受託者が通常の取引行為をして普通に運営していると,そのときに取得した株式とか不動産とかが信託財産になるというのもこの条文によって説明するし,管理が悪くて,というよりは,違反で売却してしまった,そこで金銭が入ってきたりかわりのものが入ってきた,そのものが当然に信託財産になることによって救済されるというのも14条とか第9によるわけですし,燃えてしまったという場合の救済についても,それが信託財産になるという,オートマチックに信託財産になるという救済が第9によって与えられるわけですね。

  法律家としては非常によく分かるものなのですが,もし仮に,より分かりやすい信託を作るという観点からしますと,通常の信託の運用によって信託事務の執行によって得られた財産が信託財産になるという話と,非常に例外的な,ないしは好ましからざる事態によって得られた代償物が信託財産になるというのを,本当に同一の条文で規定していいのかというのは,何か問題になるような気がします。

  これは,前回申し上げないことを急に今申し上げて大変恐縮なのですが,もし御検討くださるようなことがありましたら,お願いしたいというのが第1点です。

  第2点は,先ほどから出ております第11の問題でございますけれども,いま一歩私も理解できていないところがありまして,あるいは説明中におっしゃったのかもしれないのですが,私が聞き漏らしているだけかもしれないのですが,ある種の株式が1万株なら1万株ある,それは実は6,000株が信託財産であって4,000株が固有財産であると。

しかし,一応株券に番号がついていて特定性があるというときに,じゃ6対4だよねと。


あるいは,6,000株を信託財産にしまして,場合によっては分別管理しましょうなんていうのは,2の(1)のアの②でできる。


つまり,受益者の利害を害しないことが明らかであるという場合にできると。どういうことによってできるという理解でいいのかというのが,第1点です。

  第2点は,ある不動産が信託財産部分と固有財産部分が一緒になった,というか,一つの不動産中にあると。

これは,通常の共有ですと,6対4の共有ですと,ある単独の共有持分権者が全体を売却するということはできないですよね。


自らの持分だけを売却できるということになります。


そうではない,共有状態を解消しようということになりますと,これは分割をしたり,ないしは共有者の連名で第三者に売却をしていくということになると思うのですが,ただある不動産が6対4の信託財産と固有財産の共有になっているというときには,受託者は売ってしまえばいいのかなと思ったりするのですね。

売ってしまえば,金銭になって,6対4になって,そうすると(1)のアの②になって,1億円で売れたとしますと6,000万円と4,000万円に分けるということになると。


  不動産が,例えばそういうふうになっているときに,売却するということ自体は,禁じられるのかどうなのかということについてもお聞かせいただければと思うわけであります。
  ちょっと長くなりましたが……。

● 9の方は,確かにおっしゃるように信託義務違反で処分がされたようなときに,何かかわりの財産が入ってきた。


今のところ,14条でも--14条からそれは余りはっきりしないけれども,そういう場合の財産も信託財産に一応入ってくるというふうに考えられていると思いますけれども,その場合の信託財産に入ってくるというのは,何かある種の担保みたいなものなのですね。

損失てん補とかあるいは原状回復はともかくとして,損失あるいは受託者に対する損害賠償請求権が一方であって,受益者からすると損害賠償の方を選ぶのか,あるいは入ってきた財産の方がどうもよさそうだというのでそっちを選ぶ,そういう意味である種の担保みたいなところがあるので,本来の正当な処分行為によって入ってくるのと少し違ってもいいのかなという気はしないではないのですけれども,しかし違いを設けるとして,何か具体的な違いを明らかにしたような条文が必要なのかどうかですね。

● 法律家的には不要なんだと思うのですよ。規律は多分同じでいいと思うのですけれども,それを一つの条文でやっているのが本当に分かりやすいのかというのが若干私には気になると,それだけの話です。

● あるいは,説明のところでも少し注意すべきことかもしれません。また少し検討してみたらと思いますけれども。


  もう一つの,11の方はどうですか。あるいは9の方についても何か御意見がありましたら……。


● 9につきましては,今の○○幹事の御指摘と,○○委員の御意見なども踏まえまして,説明文中で書くか,あるいは規律をもう少し分けて書くかというところは検討させていただきたいと思っております。


  それから,11に関して2点御質問があったのですが,一つは1万株のうち6,000株と4,000株が分かれているときに,2の(1)のアの②でいいかというのは,これは分別管理義務を果たしているわけですし,受益者の利益を害しないことは明らかである場合だとして,受託者は,この6対4の割合で分けることができるということで,この規律の適用対象だと考えるところでございます。


  それから,あと,では不動産だった場合には,これは受託者は売ってしまえばいいじゃないかとおっしゃった点につきましては,これは確かに売ってしまえばいいのではないかというのがこちらの考えでございます。


ただ,売るに当たっては,もちろん受託者が善管注意義務のもとで,かつ,権限の範囲内でという縛りはかかりますが,売ったことによって金銭になれば,それを6対4で分割するということでいいのではないかという考えでございます。

● ほかにいかがですか。


●  最後の不動産の問題ですが,今の話は,例えば10分の6と10分の4の共有持分になっていて,一方が固有財産で他方が信託財産,そういうような事例なんでしょうか。


それは,そもそも識別不能の話なのでしょうか。その問題とは別にというお答えだったという理解でよろしいですか。

● 識別不能ではないと。やり方としてはそういうやり方でもいいかなと。


● 識別不能には当たらない。共有持分権が財産になっているから,識別可能であると。その例なんですか,不動産の例は。


● はい。


● そうすると,株式が1万株あって,それを一つのプールと考えたときに,それと共有持分という考え方は……。やはり1株1株に番号があって個性があるととれないので,ということなんですか。


● 株式は識別不能になる……。どれに帰属するか分からないということで,識別不能になるのではないかなと思ったのですが。不動産1個というときには,識別不能というのでしょうか。

1個のものなので,およそどの物がだれに帰属するか不明になったという識別不能の定義から外れてしまうのではないかなという気がいたしました。

● 共有持分権というものがはっきりして,共有持分権を信託財産である,固有財産であるというふうに言えるのならば,識別不能ではないというふうに仮に仮定したときに,2の(1)のアみたいなのが働く場面……。1の(1)ですかね。


● 補足させていただきますと,今,○○幹事がおっしゃったのがここで言う識別不能ではないのではないかというふうに申し上げましたのは,言われていた例が二つの不動産が一つになったということをおっしゃっているのかなと思いまして,それですと添付そのものの方なんですが,こちらの方は複数の財産が,複数の財産であるにもかかわらず,帰属が分からなくなったというのを11の識別不能だと呼んでいるという前提でおりましたので,それが違うと。
 


 つまり,1万株の株の方は株自体は1万個あると,その間で帰属が分からない,ですからこれは11の識別不能ですと。


それに対してこちらの方は,不動産ですか,一つになっているわけですので,それは識別不能というよりは添付ですか,現行法であるあちらの問題なのかなという気がしております。


● 二つの不動産があって,そのどちらが信託財産でどちらが固有財産か分からなくなったというふうにおっしゃいましたけれども,そのときには共有になるのでしょう。1の規律によって。違うのですか。甲不動産,乙不動産とあって……。


● 今,実は幹事がおっしゃられた例を取り違えていたのかもしれなくて,それだと申し訳ないのですが,物理的に1個になってしまったというような話ではないわけでございますか。不動産が一つになったというのは。


● ある不動産が共有であるという,それだけの話なんですが。


● 一つの不動産が共有状態になっていると。


● 二つというか,複数の財産があって,固有財産がどれか,信託財産がどれかというのが分からない状態,これがここで言う識別不能。


● 甲不動産,乙不動産とあったときに,1の(1)の規律を入れたときに,6対4だと仮定しますと,甲不動産も6対4,乙不動産も6対4,共有になるわけでしょう。
● そうですね。


● そうすると,もうそれで……。


● 1の規律でそうなるわけね。

● そうすると,もはや2は働かないのですか。識別不能性がなくなることによって。


● 1によって一応共有という形でもって処理されたときに,それを分割するときの規定が2なんだというふうに理解していたけど。


● だから,1の規定によって6対4の共有になった場合と,最初不動産が6対4の共有であるというのと,違うのですか。同じですよね。


● 分割させるという点においてはね。


● とりわけ,2を利益相反の問題が中心なんだというふうに考えるならば,そこに違いがあると思えないですけれどもね。
  いや,どこかで大きな勘違いをしているのかもしれないので……。


● およそそれは,今,共有物の分割の問題ですね,共有持分権が信託財産になっているときの話一般にすべてかかるのじゃないかということですね。


● それだと,つまり2の方法によって分割しましょうという話は,確かにおっしゃるとおりで,1によって生じた共有だけではないという理解が正しいのではないかなという気がいたします。


つまり,これは共有物の分割に関して利益相反を具体化したような条文ということになりますので,そういう意味ではおっしゃるとおりなのではないかと。
  御指摘をちょっと取り違えていたようで,失礼いたしました。

● 今,○○関係官がおっしゃっていただいたとおりだと思います。したがって,第11の2というのは,識別不能の中の具体的な手続ルールというか,出口のルールだけでない位置づけをした方がいいように思われるということになるのじゃないでしょうか。

  ただ,ずっと識別不能から出発して出口を考えていたので,別の入口から入って共有になる場合が,本当にこの識別不能の第11の2の出口でいいのかどうかというのは,今すぐにはよく分からないのですけれども,出口としては別の入口から入った共有の出口があり得るだろうということなのだろうと思います。


● 今,○○幹事が言われたように,一般的な識別不能から始まったのじゃない共有状態のときに,その共有状態を解消する方法としてこれでいいのかどうかということについては,もう一回そういう観点から検討しなければいけない。

● 添付というのが○○関係官がおっしゃったようにありますのとともに,それから恐らく固有財産と信託財産両方の資金を使って何か一つの物を購入するとか,そういう抽象的な問題はあり得ると思うのですけれども,難しいことを考えなければ可能だと思いますので,そういうことによって共有状態というのは生じ得るのだろうと思います。

● そういう観点から,少しもう一回検討してください。
  それでは,ここまでよろしいでしょうか。
  では,先に進ませていただきます。


● それでは,第12から第14まで,これは基本的には信託財産の独立性に関するものでごさいますので,まとめて御説明をしたいと思います。


  まず第12でございますが,信託財産が受託者の相続財産に属しないことを規定した現行法第15条の規定を削除することを提案するものでございまして,前回提案から変更はございません。


すなわち,受託者の死亡から新受託者の選任までの間の信託財産の所有者についての規定のない現行法と異なりまして,この間の信託財産を法人とみなす旨の規定を設けることとした場合,なおこのような規定を設けることについては第6回会議においては特段異論がなかったと思われますが,これを前提といたしますと,信託財産が受託者の相続財産に含まれないことは明らかと言えるから,削除するということでございます。

  次に,「第13 信託財産に対する強制執行等について」というところでございますが,これは信託財産に対してかかっていける債権の類型を限定し,信託財産の独立性を確保する規定でありまして,その提案の本文自体は前回提案と変わるところはございません。

  ここで問題となるのは,受託者が信託事務の処理につき,不法行為を行った場合において,損害賠償債権者が信託財産にかかっていけるかという点でございます。


第3回会議では,少なくとも受託者の過失によってなされた不法行為に係る損害賠償請求権については可能という考えを示しましたところ,信託事務処理上の不法行為につき,債務不履行構成であれば信託財産にかかっていけるが,不法行為構成であれば信託財産にかかっていけないのでは均衡を失することですとか,受託者が不法行為を行ったリスクの負担については,その故意・過失にかかわらず,被害者ではなくて信託財産,最終的には損失てん補請求を受ける受託者が負担するのは公平であるということから積極的な御意見と,他方,受託者の資力によっては受益者が信託財産に対して受託者から十分な求償を受け得ない場合があり得るので,信託財産の独立性,ひいては受益者の利益を害するおそれがあるから,より慎重な配慮が望まれるとして,消極的な意見とが示されております。


  この点につきまして,資料中にも記載しましたが,法人の理事や組合員が不法行為を行った場合には,被害者は,法人財産や組合財産に対してかかっていけると考えられていることとの整合性等も考慮しつつ,いかなる結論をとるべきかというところを御審議いただければと思っております。

  次に,第14の「受託者倒産の場合における信託と倒産手続との関係について」というところでございます。


  第14につきましては,大枠について御異論はございませんでしたが,前回の御審議を踏まえまして,次の2点を取り上げております。

  まず,一般に破産管財人等は双方未履行双務契約の解除権を有するわけですが,受託者が破産した場合には,その破産管財人が双方未履行双務契約の解除権を行使することにより,信託契約を解除することが可能か否かという点が議論がございました。

  審議の中では,その理由はいろいろございましたが,結論としては皆様,信託契約については双方未履行双務契約の解除権の規定は適用されない,すなわち解除することはできないというお考えであったかと存じます。

こちらでも検討いたしましたが,信託財産は破産財団に属しないとしておりますので,信託契約はいわば自由財産関係の契約に類似するということができます。


そこで,以前の会議で御示唆もいただきましたとおり,双方未履行双務契約の解除権の規定は適用されないものと整理することになるのではないかと考えております。

  また,この点は,再建型の手続においても変わりがないと一応整理できるのではないかということで,その旨記載しております。
 


 ただ,他方で再建型については管財人が受託者の職務を行うなどの点において,別の考慮をすべきではないかとの御指摘などもおありかもしれませんので,御意見をちょうだいできればと思うところでございます。


  次に,第2点といたしまして,再生手続又は更生手続におきましては,受託者の職務等を管財人が行うこととしておりますが,その報酬についてどのように考えるべきかという御指摘がございました。
  

この点,検討いたしましたが,資料にも記載しておりますとおり,まず信託財産の管理処分は再生手続又は更生手続上の管財人が行うべき職務そのものでございますので,その対価はいわゆる管財人報酬に含まれまして,管財人はこれを受けることになると思います。

他方で,受託者の固有財産に属する信託報酬の請求権は,再生債務者財産又は更生会社財産に属する財産でございますので,機関としての管財人は信託財産から報酬を受けることができることとなりまして,報酬として受けた金銭は再生債務者財産又は更生会社財産に属することになります。


このように,管財人報酬と信託報酬という二段階の構造になるのではないかと考えておりますので,この点も御意見をちょうだいできればというところでございます。


  その他は,前回説明で記載していたものを,ゴシック体の本文のアステリスクで記載しているところでございます。
  以上で,とりあえず終わります。


● それでは,ここまでで御意見いかがでしょうか。


● 信託財産に対する強制執行のところですけれども,これについては第3回のときでもちょっと意見として申し上げましたけれども,不法行為を行った場合に,信託財産にかかっていけるかどうかということですけれども,この前の議論で,取引的な不法行為とかについては,正に債務不履行との関係で議論を聞いていますとそういうことかなという感じはするのですけれども,やはり一般的な不法行為の場合,余り例としてふさわしくないかもしれませんけれども,例えば不動産を建設するような形の信託事務をやっている際に,誤って人を傷つけてしまったとか,そういうような場合について信託財産に果たしてかかっていっていいのだろうかと。


やはりこれについては,受託者個人の責任としておさめた方が,そこら辺は相当なのじゃないかなという意見を持っております。


● 今,13の不法行為のところですね。なかなか,これも大きな考え方のところで,どういう考え方をとるかということとも関係すると思いますけれども。


  単純に法人と比較すると,不法行為がすべて法人財産に帰属するわけではなくて,信託の場合も同じように,事業の執行につきとか,いろいろな制約はあるわけですけれども,それでも事故型というのでしょうか,今のような建設する際に受託者の過失があるけれども,それによって生じた損害というのは,いわば第三者に事故として生じたようなものである,取引とは関係ないという場合ですね。
 


 私も,ある程度信託財産にかかっていけるべきだと思うのですけれども,どういう制約が適当なのかというところは,ちょっと悩んでいるところです。

今のような取引的な不法行為と事故的なものと,うまく分けることができれば,それも一つの考え方だと思いますけれども,取引的不法行為とそうでないというのと分けるのが,今の事例は比較的簡単かもしれませんけれども,なかなか境界線は難しいかもしれない。


  これは,○○委員は御意見があったと思いますけれども。


● ○○委員がおっしゃっているように,一般的な債務関係におけるところの信託財産への掴取力みたいなところとの権衡があるので,日本の場合,一層難しいと思いますね。
  


アメリカの場合は,とにかく今度の統一信託法典では,今までにない規定を入れて,受託者の責任をこの点でも限定しようとしたのですが,それは,いわゆる故意・過失が受託者に認められない場合,厳格責任があるようなものであれば信託財産にかかっていけるという話なので。

今日ここで議論されているのは,当然受託者個人にしかいけないという部分なんですね。


だから,日本で今議論されている話とは少し落差というのですか--少しだけではないと思いますが,スタートラインが少し違うので,比較するのも難しいような状況だと思います。


● 私自身も悩んでいるところですけれども,求償関係も視野に入れて,最終的にも過失があって,受託者に,例えば信託財産が一遍責任を負うにしても最終的には受託者が責任を負うべき場合であるというようなときになると,何か信託財産に責任を負わせるというのは余り適当じゃないのかもしれないという気もしますし,逆に今度,受託者にも過失があるけれども,信託財産のために行った行為で,観念的には従来の議論からすると求償権はそういう場合でもあるのかもしれませんけれども,むしろ内部的な負担の問題としては求償権を制限して,信託財産の方で本来負担すべき場合であると,法人の場合にも求償権を制限する議論がありますけれども,それと同じように考えて,信託財産の方で負担すべき場合であるということになると,信託財産のところまでいけるというのがよさそうな気がしますし,なかなか悩ましいところですね。


  これ,アメリカの信託法は確かに無過失責任の場合に受託者に対する責任を負わせるのも適当でないし,日本でいえば工作物責任みたいな場合ですね,そこで信託財産について責任を負わせるという規定になっていることはおっしゃるとおりだと思いますけれども,普通,受託者に過失がある場合についても,今度の統一信託法典は信託財産にいけるようにしたのじゃなかったでしたっけ。


● ちょっとそれは,私の理解ではやはりいけない。やはり信託財産には,基本的にはいかないで,伝統的なルールは受託者の個人責任という話でしたから,それをまず契約の方では信託財産による,責任財産は信託財産ですよということを明らかにして取引をすれば,それは受託者の個人財産のところには行かないという,まずそこで一つルールができますね。

不法行為の方は,故意も過失もないような厳格責任についてまでは受託者--だから,伝統的なルールを維持するのはどうかという話で,その場合だけは信託財産へという話にしたので,だから信託財産へいける事例を,アメリカの信託法典というのも従来から比べればふやしているけれども,日本のように普通の取引では当然いけるのだというところからまずスタートしているところと,スタートラインが甚だしく異なっているわけですね。


● 何か御意見があればと思いますが,まだちょっと私も十分詰めていないのですけれども,もしかしたらこの問題は,受託者の個人的な責任の問題とも少し比較しながら議論していかなければいけない問題なのかもしれないという気がいたしております。

ちょっとまだ,どういうところに問題点があるかもまだ私も考えていない,単なる思いつきですけれども,例の受託者の責任制限とか,そういうこととも多少影響する問題かもしれないし,どこかでもう一回,すべての問題を少し関連させて議論した方がいいのかなということだけ思っています。

● 幾つかの要素を考えていく中の一つとして,不法行為によって得た利得が信託財産に含まれる場合とのバランスも考える必要があるかなと思います。

● そうですね,分かりました。
  それでは,この点についてはちょっとまだ少し詰めるべき点があるということで,更に検討させていただくということで……。

● この今の条文のまま置いておきますと,これはどういう解釈になりますのでしょうか。これは,不法行為は一切含まれないという解釈になるのか,それとも,そうとは限らないのか,いずれなんでしょうか。御趣旨としては。


● これは,従来の解釈を16条のもとでどうしていたかということともちょっと関係しますね。そこははっきりしていませんからね。

● あともう一つ,ついでに言いますと,余り関係ないですが,言葉だけの問題ですが,例えば商法23条で名板貸しの責任について,「取引ニ因リテ生ジタル債務」について名板貸し人が連帯責任を負うと,そんな条文があるのですが,「取引ニ因リテ生ジタル」の解釈に,取引的不法行為に基づく損害賠償請求権を含むとか含まないとか議論があって,判例は含むと言っているみたいなのですけれども,ほっておきますと,この条文はむしろ取引的不法行為みたいなものを含む条文として起草されているようにも読めるし,何かちょっと出発点だけ確認したかったのですけれども。

  具体的に細かく書けなかった場合が,どういうルールになるかということにかかわるものですから。

● この文章自体は事務局でつくりましたので,それなりの何か一つの考え方はあるかもしれませんけれども,繰り返しになりますけれども,従来の信託法16条のもとでも全く同じ問題があったわけですから,ここでは議論として不法行為の場合について書いてありますけれども,一応文言自体は従来の信託法の条文とほぼ同じことを書いておりますので,そこは解釈によってということを考えているのじゃないかと思います。

● 従来も,この文言に当たらないという,信託事務の処理につき生じたる権利に当たらないというような解釈はありましたが,その背後には,そもそも不法行為について信託財産は責任適用はないという価値判断があって,この文言の解釈をそれによって言っているのじゃないかなという気がいたしております。


  ここは,文言をどうするかというか,価値判断としてそもそも信託財産に対して責任を負わせるべきかどうかということをまず考えたいと思っております。

前回の審議会の議論は,大きく分けて肯定説と否定説がありまして,さらに肯定説の中でも,取引的不法行為に限るのか事実的不法行為も含むのかという点で,例えば,利益とかリスクの分配というところを重視しますと,取引的不法行為に限らないし,過失も含むと。

しかし,債務不履行との平仄ということを重視すると,どうも取引的不法行為に限るし,場合によっては故意に限るということになるように思われます。つまり,否定説・肯定説の中での広義説と狭義説という三つぐらいの分け方ができるのかなという気がしております。

● 第14の方について,ちょっとコメントさせください。


  第14の方の説明文の中で,双方未履行双務契約の解除規定が適用されるかどうかという話なのですけれども,私は受託者破産の場合のみならず,会社更生,民事再生の場合においても,解除規定は適用されないというルールを作るということに賛成したいと思います。

  また同様に,ここでは受託者の場合を述べているわけですけれども,委託者の場合においても同様に,委託者破産,あるいは会社更生,民事再生の場合を含め,双方未履行双務契約の解除規定は適用されないということにしてはどうかなというふうに思います。

  本日,最初に配布されています流動化・証券化協議会の意見書の6ページのBの1にこの問題を取り上げているわけですけれども,特にアセットバックド・ローン,ABLと呼ばれるようなスキームの,ABLあるいは信託借入れと呼ばれるようなスキームの流動化スキームにおいては,とにかく信託が解除されたり終了しないということが非常に重要でございまして,委託者ないし受託者の倒産によって容易に解除され得るとすれば,これは取引の予見可能性を損なうことになるかと思いますので,ほかに支障がないのであれば,受託者のみならず委託者の倒産の場合においても,信託契約が双方未履行の双務契約とされて,解除の対象になることがないような手当てがあった方がいいのではないかなというふうに考えております。

● ○○委員の後半の委託者の倒産の話について,同じ趣旨で述べたいと思いますが。

  そもそも双務契約かどうかという問題提起については,私の方から第3回の会議で,倒産時の双方未履行解除権が生じないかどうかということを問題提起したわけでして,その点については本審議でも議論をいただき,また今回の資料でも御説明をいただきまして,非常にそれは有り難いと思っております。

  ただやはり,特に流動化などを考えますと,倒産隔離は受託者の倒産のみならず,委託者からの倒産というのも非常に重要でございます。

これは,例えば先般の破産法の改正で,いろいろ委託者からの倒産隔離という観点で,一種の関連してということですけれども,相当価格売買の否認の特例を設けて,なるべく委託者のオリジネーターからの倒産リスクを解除していこうという方向性もあるわけですから,それに加えてここでも明確にしていただければと思います。

  また,民事信託においても,やはり委託者のその後の破産等によって受益者に影響が及ぶということであれば,安定的な信託とは言えないと思いますものですから,よって,やはり実務上は委託者の倒産の場合も解除権の対象外であることが望ましいというふうに考えるわけです。

  それで,本点についても受託者倒産と同様,まずその解釈ないしは機能の整理によって解決できないかというふうに思うわけですが,この点,第3回の審議の事務局の御見解では,双務契約ではないとは言い切れないということだったかと思います。

  では,どう考えるべきかということですけれども,これは議論のたたき台として私見を述べさせていただきますと,委託者が帰属権利者でなければ,受託者倒産の議論と同様に,信託財産が破産財団の外にあると整理され,結果として倒産隔離が図られるという議論になろうかとは思います。

ただ,委託者が帰属権利者の場合というのは,なお疑問が残るということになろうかと思います。

ただこの場合,例えば委託者が全部の帰属権利者ということであれば,経済的には解除権を認めてもよい思われますが,例えば一部の帰属権で,受益権も一部持っているとかいうことも含みますけれども,この場合,当該一部の解除ということで全部信託が壊れてしまうということは,やはり問題が残ると思います。

  とすれば,他の整理が必要になるかと思うわけですけれども,これもまた私見ですが,第3回で申し上げたことを若干敷えんいたしますと,例えばこう考えることができるのじゃないかということで御紹介したいと思うのですが。


  例えば,信託を委任の性質を有する部分と,それから財産移転を有する部分に概念的に分けて,信託の存続に関するものについては後者,つまり財産権の移転がもう信託設定の際に終わっているということで,その分については双務未履行にはならない,双務未履行があったとしても,報酬請求権とかそういうことで,どちらかというと委任に当たる管理の部分であるから,解除権にたとえ服するとしても,管理部分であって,それはちょっとこれはどうかとは思いますけれども,例えば更迭の問題にも収斂されるということであって,いずれにしても委託者が倒産しても信託は壊れないというふうに考えられないかどうかということです。

  ほかにもいろいろな考え方がございますけれども,是非ともこの点について御意見の整理を願いたいなというふうに思っております。


  仮に,もし解釈上は困難であるということであれば,やはりお願いとしては,立法的に解決するということも御検討いただきたいなというふうにも思っております。

● 解除の対象にならないということについては,大体御賛同はされているのだろうと思いますけれども,なお皆さんの御意見を……。


● 2点ございますが,まず14の53条の解除権の話ですけれども,受託者破産の場合に,53条の解除権の適用がないというのは,これはそれでよろしいのだと思うのですが,この30ページの説明の書きぶりですと,委託者破産の場合に53条が及ばない説明がなかなか難しくなるのかなと思います。

  現在のところの私の試論,つまり試みの論としては,やはり委託者破産の場合に53条が働くというのは何かおかしくないかなという気がしまして,解釈でやるとすれば,近時判例法で種々展開されております解除権を制約する法理がいろいろな形で働いてくるということがあるのかもしれません。

ただ,それで不明確だということであれば,あるいは立法が必要だということになるのかもしれません。


この辺はまだ引き続き考えられると思いますが,いずれにしてもこの30ページの上の方に書いてあるのですが,2の①について書いてある理由だけですと,委託者破産の場合に53条の適用がないことは説明し切れないのかなという気がしております。以上が第1点です。

  それから第2点ですが,同じく30ページの「3 ②について」の,これは前回の私が申し上げたところに関係するわけですけれども,この説明を読ませていただきまして,整理としてはこういうのでいいのかなと。

つまり,いったん受託者の固有財産から共益費用として上がっておいて,あと受託者の固有財産は信託報酬の請求権を持つというふうな二段階の構成でいいのだろうと思います。

  前回,管財人報酬という形でお話をしましたが,それで説明もそういう話に合わせて,管財人報酬に合わせて書いてありますけれども,結局信託財産の管理に必要な費用は,全部多分入ってくることになって,前回はその一つの例として管財人報酬を取り上げたのであって,管理に必要な費用は多分全部入ってきて,同じような説明が当てはまることになるのじゃないかと思いますので,その点はつけ加えさせていただきたいと思います。

● 恐らく,余りここは対立点はないのだろうと思いますけれども,説明の仕方,あるいは信託法の中でどこまで規定できるのかとか,そういう問題があるのだと思いますね。

● ○○委員から,先ほど委託者の破産の場合に,破産管財人の解除権というお話がございまして,双方未履行の双務契約と言えるかどうかというので,一つは報酬がという話がありました。


ただ,報酬については信託財産からというのが,少なくとも今度の新しい提案ではそういうことになっているということでして,報酬は委託者が負担するという意味で双務契約になるということはないのかなという感じがしております。
  


それとは別に,先ほど少しおっしゃっていたかと思いますが,帰属権利者としての権利,これがあることによって双務契約と見られるおそれがあるのではないかというのが主たるお考えということでよろしいのでございましょうか。

● 前者の場合でも,仮に信託行為等で委託者が報酬を払うといった場合に,同じような問題が起こるのではないかとは思うのですけれども。


● それが,つまり債務引受けみたいなものを第三者がした場合と見るなどして,それは双務契約というよりかは信託契約の外側でやったのだというふうに整理することも可能かなと思いますが。
  そういったあたりを御懸念されるということですね。


● そうですね。


● 具体的な中身について,念のため確認させていただきたいのですけれども。
 


 委託者の倒産の場合で,同じ資料の第1の「信託の定義等」のところで,「信託契約の効力」ということがございまして,合意によって効力が発生する,その際には信託財産の引渡しというのはその後ついてくるということですから,信託契約自体がまだ財産を引き渡さない段階でなされているという場合に,その場合についてもやはり双方未履行双務契約であるということで解除の対象にはならないということも手当てをすべきなのかと。

  それから,追加して出すというような約定になっていたような場合どうか。

財産権の移転関係自体が履行されてないというところも含めて,解除権を排除すべきなのか,そこはいいということなのか,ちょっとそこだけ少し確認させていただければと思います。

● 先ほどの○○委員の御意見だと,追加のやつは別として,当初の設定の段階でまず最初に移転していないようなときは,これは双務未履行と言われてもしようがないだろうと。


● それは,もちろんできればということがありますけれども,そこまではちょっと難しいかなというふうには思っております。


● そこも含めて,じゃもうちょっと検討していただきたいと思います。


● あわせて検討いたします。

● よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,もうちょっと先まで進めさせていただきたいと思います。


● では第15から第17までを御説明申し上げます。

  まず相殺でございますけれども,資料の32ページになりますが,まず<説明>の2,3に関する点から先に御説明いたしますと,これは前回提案におきましては,この資料の33ページの1(2)ですとか,2にありますとおり,信託の債権と信託外債務,固有財産あるいは別の信託に属する債務について,受託者から法定相殺をすること,及び相殺契約を締結することがいずれも原則として禁止されることを明示していたことに関するものでございます。


前回の提案は,このような相殺は,受託者と受益者の利益相反関係が生じる典型的な場合と考えられることから,定型的に原則相殺禁止に当たる類型であるということを明らかにする処置でありまして,受託者の忠実義務の内容を相殺の場面で具体化した場合の考え方を明らかにしたものでございましたが,第3回会議におきましては,相殺の規律の中で,利益相反行為の禁止に関する規律を提案すると,両者の関係が不明確になるおそれがあるとの指摘がございました。

  そこで,今回の提案では,このような指摘ですとか,あるいは前回の提案内容には明示されておりませんが,信託債務と固有財産に属する債権との受託者からの相殺につきましても,固有財産からと信託財産からとの競合貸付けがされている場合など,結局は利益相反行為の禁止に関する規律によらざるを得ない場合があり得ることなどを踏まえまして,資料の32ページの2,3に記載しましたとおり,考え方自体は前回提案の内容を維持しつつも,実際の条文化に当たりましては,受託者が行う法定相殺及び相殺契約につきましては,相殺が問題となる場面であるとはいえ,いずれも受託者の行為に関するものであることを中心的にとらえまして,受託者の利益相反行為の禁止に関する規定の方に一本化することを明らかにすべく,相殺に関する提案の内容にはあえて含めないことといたしました。

ただし,今回の提案の1において,ただし書として,受託者の承認というものを含めておりますが,これも利益相反行為の規律に関連する受託者の行為ではありますものの,受託者の行う相殺については利益相反行為の規律に従ってその効力が定まることが比較的明らかであると考えられることに比べまして,第三者からの相殺が効力を生じない場合においても,受託者がこれを承認することによって相殺の効力を生じさせることができるかについては,利益相反行為の禁止の規律からは必ずしも明らかではないと考えられますことから,これができるとの考え方をとることについて,実際に条文化するか否かはともかく,ルールとして明示しておくことが妥当であると考えたからでございます。
  


次に,資料31ページの1に関する点でございますが,これは信託債権と信託外債務,例えば固有財産における債務につきまして,第三者が法定相殺をした場合に受託者がこれを承認した場合の相殺の効果と,承認前に自働債権であります信託債権を差し押さえた債権者の差押えとの優先関係に関するものでございます。

  この点に関しましては,前回提案時には,相殺の効果は相殺適状時にさかのぼり,差押えにも優先するとの説明をいたしましたが,債権譲渡と相殺の優先関係に関する平成9年の最高裁判例との関係を検討する必要があるとの指摘がございました。


そこで,再検討いたしました結果,最高裁の事案も本件の場合も,いずれも本来効力が認められない行為が事後的に有効となる場合である点において共通するものであること等にかんがみれば,同様に解すべきものと考えられますことから,前回提案時の説明を改めまして,差押えが優先することになると考えるものでございます。
以上が,相殺に関する変更点の説明でございます。
  

次に,「第16 信託財産との混同について」でございますが,これは信託財産と固有財産との間では混同が生じないことを規定した現行法第18条,それから第22条第2項の規定の内容を,解釈上のみならず明文上も広げ,ある信託財産とこれと同一の受託者に属する固有財産又は他の信託財産との間では,物権の混同も債権の混同もおよそ生じないことを明文化することを提案するものでごさいまして,前回提案から変更はございません。
  

それから,第17の「委託者の占有の瑕疵の承継について」ございますが,これは受託者が委託者の占有の瑕疵を承継する旨を規定した現行法第13条の規定を削除することを提案するものでごさいまして,前回提案の方向性を進めるものでございます。


  現行法の趣旨は,信託を利用して占有の瑕疵を治癒するという濫用の危険をあらかじめ定型的に排除しておくとの観点から,民法第187条の特則を設けたものと思われますが,受託者が一律に委託者の占有の瑕疵を承継するとの,いわば硬直的な規定を設けるよりは,民法の原則を前提とした上で,信託の濫用の危険に対しては,受益者の主観的態様等も考慮した上で,脱法信託ですとか公序良俗等の規定によって柔軟に対応できることとする方が望ましいと考えるものでございます。
  以上で終わります。


● それでは,ここまででお願いします。


● 相殺のところでございますけれども,相殺の方の規定につきましては,基本的な方向性については賛成ということですが,2点ばかり確認させていただきたいと思います。
  

一つは,現行の実務では貸付信託とかの損失補てん契約のある信託につきましては,第三者と相殺に係る契約を締結してもいいですよということを信託契約の方に書いた上で,それで第三者との相殺についての--相殺の予約契約ですけれども,それを締結して,第三者に預金保険事故が発生時に予約の完結権を与えるというような形のものをやっているのですけれども,信託勘定で借入れを行っている第三者からの相殺についての予約完結権が行使される前に,信託債権者から差押えがあっても……。


済みません,相殺が差押債権者に優先するというふうに考えていいかどうか,それをちょっと確認させていただきたいと思います。これが1点目です。

  もう1点は,第8回の会議で,受益債権というのが他の信託債権に常に劣後しますというようなお話がありましたけれども,ある信託で,他の信託債権がある場合でも,ここで言う2番の相殺ができるのかどうかということで,多分これはできるのだと思うのですけれども,その場合は受託者が承認を行うというような要件が入っていますので,そのときに承認を行ってしまうと,債権者が損害を受けたというような形で,受託者が損害賠償請求を受けることがあるのかどうか。この2点,ちょっと確認させていただきたいと思います。


● ちょっと後の方はよく分からないけれども,最初の方は,いわば相殺の契約が最初からあるという場合ですね。
  最初から相殺の契約があって,それが利益相反行為には当たらないという場合に,改めて受託者の承認というのは必要になるのですか。


● 必要ないと思いますので……。


● 相殺が勝つのじゃないですかね。


● 1のところの規定というのは,基本的に法定相殺のところの部分のことを考えていて,相殺契約についてはここの中から外れてしまったところでの話ということ。

● 利益相反行為の禁止の例外に当たれば相殺契約はできますので,ここに書いてあることとは違います。


● 後者の方は,直ちにはよく理解しなかったけれども,2との関係ですか,受益債権……。ごめんなさい,十分理解していなくて。どこを問題とされたのでしたっけ。

● 例えば信託の受益権があって,その人に対してお金を貸していましたというようなときに,先方から,要するに債務者の方から相殺の申出があって,そのときに基本的には普通の一般債権が別にある場合については,劣後するということであったとしたら,相対劣後する債権であっても,果たしてそれ相殺してもいいのかどうか。

  多分,何かそれはできるのではないかなという気がするのですけれども,ただ相殺するに当たって受託者が承認するというふうな要件が入っていますので,それによって,受益者ではなくて第三の信託の債権者を害することが起こり得るのではないかなと思うのですけれども,そのときに承認を与えたということで債権者の方から何らかの形で損害賠償請求を受けるとか,そういうようなことはあるのかなと。


● そうですね,信託債権者一般と受益債権を持っている者とでもって,受益債権の方が劣後するというふうに考えたときの話ですね。

  直ちに結論は出ないけど,まず相殺がだめだとは恐らく言えないですよね。受託者が承認したという条件が入るために,その責任を問われるかということですけれども……。
  どうですかね,ほかに何かちょっと御意見があれば……。


● 難しい問題にかかわるので自信がないのですけれども,受益債権者が持っている受益債権がどれだけの量であるのかという問題にかかわってくるように思うのです。


信託債権の方が優先しなければ困る場合というのは,要するに十分に信託財産がない,信託の負っている債務を弁済するだけの財産が信託財産,積極財産にない場合に,そういう問題が生ずるのだろうと思うのですね。


そうすると,そのときに果たして受益債権が相殺をするに足るだけのものがあるのかどうかということが問題になってくるのではないかと思うのです。


  ただ,常にリアルタイムで評価をして,受益債権というものの経済的価値とともに,いわゆる法律上の額面というのでしょうか,それが出さないようなタイプの信託がもしあるとすると,おっしゃっているような問題が出てくるのだと思うのですが,常に抽象的にはその段階でのいわゆるバランスシート上の純資産に当たる部分を受益債権は表象しているものなんだというふうに考えるならば,そこに額があるならば信託が負っている債務の債権者を害するような相殺というのにはならないし,信託が負っている債務の債権者を害するような相殺になる場合には,受益債権はゼロだから,結局相殺の意思表示をしても空振りなんだということになる,それが基本なのではないかなというふうに思います。

したがって,承認を与えたがゆえに損害が生じているじゃないかというような問題には,本来はならないのではないかと思います。

● 相殺ですからね,現実にお金を受益者に渡すわけではないので,受益権の価値がその場合には,いわば信託財産が足りないために債権者の方が持っていった残りしか受益権がないというふうに考えると,受益権との相殺をしても,債権者が害されることはないと。


そういうふうに整理できれば,問題ないのかもしれませんね。
  とりあえずは私も納得したけれども……。


● 今おっしゃっていた純資産の額で変動するというのは,例えば金銭債権の額面そのものが変動するということになるわけでしょうか。


つまり,その時点で裁判をしようと思ったときに,私が持っている債権というのは金幾ら幾らですと,支払えという前提として,認識するその債権の内容そのものが変動するということですか。


● 実質的にはそうではないかと思うのですが,ただ余計なことは言わない方がいいのかもしれませんが,会計年度があって,年度末にある一定の操作,というか,作業をした,手続をした上で,受益債権の額を認識して,しかしその後生じた財産の減少というものを,今のような場合にどういうふうに反映させるのかという問題はあるのだろうと思うのです。そこはよく分かりません。

● それは,信託の受益債権一般にそういう性質があるというお話なのか,あるいは合同運用なんかを典型例とするような,期間収益を計って受益の内容を定めるという契約がされている場合にはということなのでしょうか。


  つまり,ある時点においてある種の財産,株式を渡しますというような債権が仮にあるとた場合には,純資産額で決めると申しましても恐らく決め難いのではないかと思いますし……。


● 揚げ足をとるようですけれども,そういうときには相殺はどういう形で問題になりますでしょうか。


● それでは相殺はできないということです。
  ただ,○○幹事が先ほどおっしゃったのが,受益債権一般の性質として変動するというお話……。


● 限定を付して,相殺が問題になるような場合の考え方の基礎に置いたらどうかというにとどめておいてください。

● よく理解できないのですが,受益債権が,例えば額が決まった,毎月なり毎年なり幾ら払うという受益債権で,しかし流動性が低くて今は払えないので,そこで受託者の固有財産の方から受益債権を払うということはあり得るわけですよね。

この相殺の2の局面というのは,固有財産からの支出で相殺をするという話ですから,受託者が相殺ではなくて,自分の現金で受益債権をとりあえず月々払わなければいけないので払ったと,だけどその段階で流動性の資産だけじゃなくて,取った後もばあんと下落していて,信託財産の方の借入金も実は払えないような状態であったというような局面が問題なるかと思うのですが,そのときに,月々幾ら払う,毎年幾ら払うという受益債権であったときに,総財産全体からするともはや払えないのだから,受益債権のこの金額は切り捨てられるということは,やはりないのじゃないかという気がするのですけれども。そうだとすると,相殺はやはり額面で起こり得る話ではなかろうかと。


  その場合なのですけれども,結局その後どうなるのかを考えますと,固有財産から支出しているわけですから,信託財産に対して求償権が立つと。


この求償権と,それから受益債権代位構成でいく可能性があり得るわけですけれども,そのときに例の受託者の求償権の優先関係がどうなるのかということで,もとの債権者に対して,支払いをすることによって求償権を取得した場合には,もとの債権者の地位と同じ立場に入るという仕組みにしているのではないかと思いますので,そうすると求償権自体は受益債権者と同じ立場でしか行使できないということになるのだとすると,そもそも受託者が信託財産から取っていくときに,既に劣後するという形になるはずで,もしそうだとすると,受益債権の相殺を認めたことによって,信託債権者より優先してより取っていけるという地位が認められるわけではないので,その意味で損害賠償というような話にはならない,そういう説明になるのじゃないかと思ったのですが。
  


ただそこは,求償権の優先関係等についての規律が決まらないと,この関係で例えば代位的な構成と求償権本体と二本立てみたいに考えて,こっちは同列でいくのだみたいなことになると,劣後するものに払うことによってより優先的な債権をつけているということになり得ますので,損害賠償の話は出てき得るのかと思いますが,そうでない扱いをするのであれば,そこの問題はないのじゃないかと感じたのですが。


● 恐らく,劣後する方の債権を優先的に弁済するという関係にはしないというふうに理解していましたけれどもね。今の,○○幹事の話のとおりだと思いますけれども。

● 受益債権が求償権に変わるだけで,順位は変わらないという話ではないでしょうか。

● なかなか複雑な問題なので,もう一回求償関係の問題も含めて考えたいと思いますけれども。


  どうも先ほどのお二人の意見は,多少違った局面を問題にされてはいますけれども,少なくとも債権者を害するような形でもって弁済されることはないだろうということでは一致しているのではないかと思います。


  ほかの点も考えなければいけないので,少し今の局面に関連してもうちょっと検討してもらうことにいたしますけれども,ほかの点についてはいかがでしょうか。

● ちょっと相殺から離れてしまって申し訳ありません。混同ですが,難しいことではないと思うのですけれども,今日の早い方でありました第6との関係について,ちょっと申し上げたいと思います。

  先ほど,○○幹事から,信託の受益権を当該信託財産が取得したらどうなるかというような話がありましたが,それは恐らくこの第16で混同によって消滅しないというものに当たらないので,本則に戻って混同によって消滅するという原則的な規律のもとに置かれるのではないかなと思います。


しかし,先ほど○○幹事が繰り返し注意を喚起してくださったように,有価証券化しているような場合には,また別の考え方があり得るとすると,信託財産の中に当該信託の受益権が,極端な場合ですと全部入ったままになってしまうという場合に,恐らく第6と同じような,あるいはより強いものなのかもしれませんが,規律を設ける必要が生じてくるのではないかと。何かそういうことになるのではないかと思います。


  第6については,先ほど御検討してくださるということでしたが,第16との関係で今のような位置関係になるのじゃないかなと思います。御参考になれば幸いです。

● 今のは気がつきませんでしたけれども,16との関係ですね。
  さっき言われたように,信託財産でもって受益権を取得したときというのは,本則に戻るのかな。

● 債権及び債務の場合という,第16の2。債権・債務そのものではないのかもしれませんが,信託受益権というのを債権あるいはそれに準ずる権利としますと,それに応じて受託者が負っている義務というのは,ここで言う債務又はそれに準ずるものになろうかと思いますので,それが固有財産で受益権を持っているときにはこの第16の2の考え方に基づいて混同しないと。


しかし,それを全部持っている場合には,そのまま放置するのは,正に第6の説明にあるような理由で適切ではないので,相当期間で終了するという効果を与えることによってそれを解消させようとしていると,そういうふうに位置づけられるのではないかと思います。

● 固有財産でもって受益権を取得した場合の話ですか,今のは。


● 最後に申し上げたのはそれで,しかし当該信託財産で受益権を持っている場合というのは,第16で混同によって消滅しないというのに当たらないのだろうと思います。

● 後の方から言うと,信託財産で受益権を取得した場合には,そもそも混同の原則に入ってこない。

受益権というのが何に対する権利かということでもありますけれども,信託財産に対する権利,というか,信託財産を引当財産として受託者に対して請求できる権利だというふうに考えると,信託財産が取得したからといって,債権・債務が混同している状態が生じているわけでもないのじゃないかという気がするのですね。

● 分かりました。混同になるというところから出発するというのは……。


● 信託財産で取得した場合にはね。
  ただ,そういうふうに今度考えたときに,では固有財産で取得した場合はどうかと。今までは混同に当たるか考えていなかったのだけれども,今の説明からすると,今度こっちは混同になりそうな気もしてきて……。


● 私は,強いて言うならば第16のような考え方で,固有財産が持っている場合には消滅しないと。

● 結論はいいのですけれども,その説明の仕方としてね。
  どなたか御意見があれば……。
  ちょっと説明の仕方は検討させてください。結論はおっしゃるとおりでよろしいと思いますけれども。--よろしゅうございますか。
  ではここで休憩いたしましょうか。

  (休     憩)

● それでは再開したいと思います。
  


あと資料11の方ですね。それでは,これも○○幹事の方からお願いします。
● それでは,まず善管注意義務と分別管理義務,それから信託事務処理の委託というところの三つにつきましての御説明をしたいと思います。

  まず,善管注意義務でございますが,前回提案から特に変更はございません。

  なお,第4回会議におきまして,受益者の立場からすれば善管注意義務に関する個別的な規定も設けた方が望ましいのではないかという意見も示されました。

しかしながら,第1回会議と第4回会議で御説明したことにも関連いたしますが,まず善管注意義務の個別具体的な内容は,信託目的,信託条項その他の当該信託に係る諸事情によって異なり得るところを,どこまで具体的な内容の規定を設けるべきかについては,明確な基準にならないということ,それから信託に特有の柔軟性を生かして今後様々な新形態の信託スキームの発展があり得ることからしても,個別具体的な内容の規定を設けることについては,そもそも限界がありまして,かえって信託スキームの発展の足かせにもなりかねないということ。


更に,受益者の利益の観点からいたしましても,個別具体的な規定を設けることは,かえって善管注意義務の内容がその点のみに集約されるかのように制限的に解釈されるよすがとなるおそれもありまして,このような危険を招くよりは,むしろ一般的な規定を設けるにとどめた方が,様々な信託スキームの内容に応じて柔軟かつ適切な注意義務を受託者に課すことが可能となり,受益者の利益にも資するのではないかと思われることなどにかんがみまして,受託者の善管注意義務については,やはり一般的な規定を設けるにとどめ,それ以上に個別具体的な内容の規定を設けることとはせず,解釈に委ねることが相当と結論したものでございます。


  続きまして,第21の「分別管理義務について」でございますが,これも前回の提案から実質的な変更はございません。
 


 なお,実務的な観点から,第1回会議におきましては,どのようにすれば分別管理義務が果たされているのか規定上明確であった方が望ましいとの意見がありまして,更に第4回会議におきましては,提案の規律ぶりからは信託の登記・登録をすべきこととされている財産については,常に必ず登記・登録をしなければならないようにしか読めないが,受託者とされるべきものが経済的苦境に陥ったときには,遅滞なく信託の登記・登録をすることが約されているのであれば,なお分別管理義務が果たされているのであるとの趣旨が,規定上も明確になることが望ましいとの意見もございました。

  しかしながら,信託財産の種類ごとの具体的な分別管理義務の履行の在り方について,私法上の基本法たる信託法において,一々規律を設けることは,際限もなく困難であると言わざるを得ず,信託法上の規律としては提案内容にとどめ,登記・登録の具体的な意味内容が常に必ず登記・登録をすべきというわけではなく,指摘のような趣旨にとどまること,あるいは登記・登録すべきこととされていない信託財産については,当該信託の性質に応じて最善の状態で分別管理すべきこととする場合のその最善の状態がどのようなものであるかにつきましては,いずれも解釈によって対応することが望ましいと考えるものでございます。

  また,第4回会議におきましては,信託財産間においては,信託行為の定めがなくても分別管理を要しないという例外を認めてほしいとの意見もあることが紹介されましたが,受託者個人の債権者から信託財産を隔離することのみならず,受託者が複数の信託を受託している場合には,ある信託の信託財産を他の信託の信託債権者から隔離することも,信託制度の中核をなすものと考えるものでごさいまして,たとえ信・信間におきましても分別管理義務の例外を認めるためには,信託財産が金銭でない限り,信託行為の定めを要するものと考えております。


  なお,前回資料で,要検討事項としておりました信託財産に帰属する債権を固有財産に帰属する債権等とあわせて被担保債権とする担保物権を取得すること等についての規定を設けるものとするかという点につきましては,忠実義務との関連で検討することとしたいと考えております。

  それから,第4回会議で指摘のあった預託株券や振替株式等の取扱いについては,信託の公示と関連して,追って検討することとしたいと考えておりますことを付言させていただきます。

  最後に,「信託事務処理の委託について」というところにつきまして御説明をいたします。


  第22でございますが,これは第三者に対する信託事務処理の委託に関しまして,現行法26条より広く,相当な場合には可能とすることを基本に据えつつ,第4回会議における事務局の提案,及びこれに対する批判を踏まえまして,更に新たな修正案を提示するものでございます。


  まず,1につきまして,5ページに,前回の提案が書いてありますが,前回提案から,「ただし,信託行為に別段の定めがある場合には,この限りでないものとする。」を削除いたしました。


  この点に関しまして,第4回会議におきましては,他人の信託事務の処理を委託することが相当な場合であるか否かの判断に当たりましては,信託契約における委託者と受託者との合意内容,これは委託された信託事務の内容からも明示的又は黙示的に認められ,あるいは合理的な意思解釈が可能な場合もあると思うわけですが,このような合意内容が極めて重要な意味内容を持ってくると思われる,そうすると相当な理由の有無と別段の定めとは大幅に内容的に重なるのではないか,しかるに,本文で「相当な場合」という要件を書き,ただし書で「信託行為に別段の定めがある場合」という要件を書くと,両者の関係が分かりにくくなるのではないかとの指摘がございました。


このような指摘は正当と思われますので,今回の新たな提案におきましては,信託事務処理の委託に関する別段の定めの有無及び内容,これは委託の可能性をより緩めているものと狭めているものと両方向あると思われますが,このような別段の定めの有無及び内容も,相当性の判断の一環として考慮されるべきものであると位置づけ,ただし書を削除することとしたものでございます。


  信託行為における定めの内容が,委託の相当性の判断においてどのように考慮されるかについての事務当局の考え方の一端につきましては,4ページの上の方に記載したとおりでございます。


  続きまして,2でございますが,これは前回提案から変更はございません。

受託者としては,善管注意義務のもとではあれ,自由に第三者に信託事務処理を委託できるというわけではなくて,委託することが相当な場合であることを要するのでありますから,このような要件をクリアして,適法に委託がなされたものである以上,受託者の責任を原則として選任監督責任に限ったとしても不合理ではないこと,他方,相当な場合でもないのに,違法に委託がなされた場合には,既にこの点において受託者の義務違反があるわけでありますから,受任者の故意・過失の有無にかかわらず,かかる違法な委託と因果関係のある損害については責任を免れないというべきこと,以上の考え方を明文化したものでございます。

  ただし,受託者の責任が選任監督責任であるというのは,委託が適法になされた場合の委託者,受託者の通常の意思を推測したデフォルト・ルールにとどまるものでございますので,具体的な事案に応じまして,委託者,受託者の属性ですとか,信託事務の内容と委託された事務の内容との比較対照などから推測される委託者の通常の期待内容,あるいは委託者,受託者間の合意内容,すなわちどこまで約束していたかなどの事情によって変動すべきものと思われます。

したがって,これらの事情によりましては,受託者は,最終的な履行まで責任を負うべきであり,すなわち受任者の故意・過失についてまですべて責任を負うべき場合,逆に受託者としては適切な受任者に依頼すれば足り,すなわち選任責任にとどまるような場合,あるいは受任者に選択の余地はなく,あとは監督責任といってもせいぜいモニタリング責任にとどまるような場合などもあり得ることになると思われるところでございます。


  最後に,3につきましては,前回提案のうち,第三者たる受任者の責任に関しては,何ら規定を設けないという方の案を提案するものでございます。

  受託者の責任に関しましては,会議当初にお配りいたしました報告書のみならず,前回提案におきましても何ら規定を設けないという今回の提案のほかに,6ページに書いてございますが,受任者が信託事務処理の全部又は重要な一部であることを知って委託を受けた場合には,受託者と同一の責任を負うことを原則としつつ,正当な理由があれば,受託者は,受任者との間でこの責任を減免する特約を締結することができるとの案も併記してまいりました。

しかし,後者の案に対しましては,第1回会議及び第4回会議におきまして,理論的な観点から,受任者に対して,委託契約に直接の相手方たる受託者を超えて,その背後にある受益者に対する責任までも負担させるためには,委託を受けた事務が信託事務であることを受任者が認識しているというだけでは足りず,職務の一部を受託することを通じて,自らも受託者としての任務を分担するのだという,いわば客観的にも主観的にも受託者と受任者が共同受託に類するような積極的な関係が認められることが必要ではないか。

また,実務的な観点からも,受益者と相対しているのは受託者の方であるから,委託先の責任についても受託者が前面に立って追求していくのが実務感覚に適するという意見ですとか,重要な一部とか受託者と同一の責任という内容は不明確であるなどの種々の問題点が指摘されたところでございます。


  このような指摘を踏まえて検討いたしました結果,そもそも不明確な内容の責任を,単なる受任の認識のみをもって負担させることは,受任者に対する萎縮効果を招き,信託事務の効率的な処理のためにも有益ではないと観念されることを考慮いたしまして,受任者の受益者に対する責任の規定は設けないことといたしました。

  その結果,受任者の責任内容は,受託者との委託契約によって定めるべきこととなりまして,現行法と異なり,受益者としては,この委託契約の中に,例えば受任者は信託財産に生じた損失をてん補する責任を受益者に対しても負担するといった条項があることによって,受任者に対して直接に受益者が責任を追及することができる場合,このような条項はいわば第三者のためにする契約としての性質を有するものと見て,ここで第三者にあたる受益者は契約から生じる利益を享受して,受任者に対する責任追及をすることができると解することができると思われるわけでございますが,委託契約の中に特別の条項がない場合には,受任者に対する責任を追及することはできなくなると思われるわけでございます。


  そこで,このような結論をとることは,受益者の保護の後退につながりはしないかとの懸念があり得るわけですが,しかし受益者の利益は資料の5ページに記載しましたとおり,その責任の内容に応じまして,受託者がしかるべく受任者の責任を追及し,あるいは受益者が受託者に対して善管注意義務違反の責任を追及することによって,遺漏なく図ることができると考えるものでございます。
  以上でございます。

● それでは,ここまでで御議論をお願いします。

● 幾つかあるのですけれども,まず確認の質問をさせていただければと思います。


  第22の「信託事務処理の委託について」の部分で,3ページの一番上の1で,「信託事務処理の委託をする権限」で,「相当な場合には,他人に委託をすることができるものとする」とされているわけで,この点について現行法で言われていることとの関係で,これをどう理解されているかという点についての質問ですが,現行法では信託法26条の解釈として,26条が適用されるような,いわゆる代人というものと,現行法26条が適用されない類型である狭義の履行補助者というのでしょうか,手足として使うようなものですね,この二つを分けて,26条が定めているのは代人についてであって,その狭義の履行補助者は26条は適用されない,つまり狭義の履行補助者はいつでも使ってよいと,そのかわりに受託者は,狭義の履行補助者の行為についてはすべて責任を負うのだというような議論が行われていたかと思います。


この新しい第22の説明において,この代人と狭義の履行補助者の区別というのは,今後も維持されるという前提で考えておられるのでしょうか。それとも,そうではないとお考えなのでしょうか。この点をまずお聞かせいただければと思います。


● 御指摘の点につきましては,そのような区別は維持するものと考えております。
  


若干敷えんいたしますと,ここでは信託事務処理の委託に当たる,何が委託に当たるかというのは,原則として定義は設けないということで,例えば専門家に委託する場合,あるいは運送業者に委託する場合,それから例えば中央集中的なカストディーに委託する場合,これも本条の適用対象からは外しません。

  しかし,そのような独立性のある法主体に対して委託する場合は本条の適用対象と考えますが,独立性がない狭義の履行補助者,典型的には会社の使用人ですとか,そういうものにつきましては,本条の適用対象からは外れるわけでして,その辺については受託者は全責任を負うと,そういう独立性のある法主体である受任者につきましては,本条の適用対象になる。このような区別で考えているものでございます。

● つまり,狭義の履行補助者というのは,常に利用することができるという前提で,それ以外の信託事務の処理を委託することというのは,本来は常にできるわけではないのだけれども,そのような委託をすることが相当な場合にはできると。


そのかわり,相当な場合という,特別な場合なのだから,選任監督の責任に限定するというのが御趣旨だということですね。


● そういう流れでございます。

● これは,第1回のときから指摘させていただいていることで,そして第1回で言われていたことに比較しますと,これははるかによくお考えになったロジックかなというふうには思うわけですが,その上で,しかしなお本来の質問といいますか,意見を述べさせていただきますと,他人に信託事務の処理を委託することが相当な場合には,いろいろな場合があり得るだろうと思うのですが,そういう場合に,常に選任監督について責任を負うというので本当にいいのだろうかというのが聞きたいポイントなのですが。
 


 要するに,委託者ないし受益者の方から見ますと,受託者自身が信託事務を行うのではなくて,他人を使うということは別にあってもいいだろうと,そして信託事務の性格からすると,そのような他人を使うということは合理的な理由があるし,使ってもよいだろうという場合に,そういう場合に常に選任監督についてのみ責任を受託者が負うというだけなのかというと,きっとそうではなくて,他人を使ってもいいけれども,それはその受託者が使われた他人の行為についても責任を負ってくれるからそれで構わないのだというふうに考えるというのがあり得るだろうと思いますし,そして先ほどの御説明の中も,そういう可能性自体は排除されていなかっただろうと思うのですね。


そういった点から見ますと,この2の(1)のデフォルト・ルールという言い方をされましたけれども,本当にこれでいいのだろうかというのが,今なおちょっと私,よく分からないところでして,他人を使うことが相当な場合に常に選任監督の責任に限定されるというよりは,むしろ--言い方がなかなか難しいのですけれども,他人を使ってよく,かつその他人を選び,かつ監督するということをその受託者にゆだねたような場合には,正に選任し監督することについて過失がある場合についてのみ,その受託者というのは責任を負うということにとどまる。


  つまり,他人を使ってよいかどうかということだけではなくて,その受託者に他人を選び,かつ監督することを委ねるというのですかね,そういう信託行為・信託契約である場合に,初めて選任監督についてのみ責任を負うというデフォルト・ルールが出てくるのかなというふうに私自身は理解していました。

そういう観点からしますと……,これ,どう書くかというのは本当に難しいというのはよく分かるのですけれども,あくまでも基準になるのはどういう信託契約が行われたかということであり,そしてその信託契約に基づいて,受託者に何がゆだねられたか,そのゆだねられた内容が他人を選び,かつ監督するということにとどまるというような場合であれば,選任監督上の過失に限定されると。

そうではない,他人を使ってもよいということだけであるとするならば,本来はその受託者が信託事務を遂行しないといけないわけでして,何か免責される,減責されるような理由というのは直ちには出てこないのじゃないかなという気がいたします。

  ちょっとまとまりのない表現で申し訳ありませんが,以上です。

● ○○幹事の場合,どちらを……。今の,他人を使っていい場合,原則はむしろ選任監督だけでなくて,それ以外の全部の責任を負うと。法定代理人の場合の復代理の場合と同じ。あれがむしろ受託者の場合はデフォルトであると,そういう考え方ですね。

● 一番分かりやすいのは,例えば請負人が下請を使うというのは,民法で言われているところ--解釈論にすぎませんけれども--からしますと,仕事の完成が目的なのであって,だれを使って仕事を完成するかというのは,二次的な事柄であると。

したがって,下請というのは使ってよいのだと。丸投げまでいくとちょっと問題ですけれども,下請というのは使っていいのだと。

そのかわり,下請人が実際に行った行為によって債務不履行状態が発生したというような場合については,その故意・過失については全部責任を負うのだというような説明方法がとられているのですね,請負に関しては。

これが,本来からするとデフォルト的な理解であって,つまりこれこれこういうことを頼んだ,その際に他人を使うということはいいかもしれないけれども,そのかわりにその行為については全部責任を負うと。
  


ただ,単に他人を使うというだけではなくて,他人を選任し,監督するということのみを引き受けたのだと言えるようなタイプの契約の場合については,正に契約上,その範囲で責任が限定されるというのが出てくるのかなと。というのが,一応の理解です。

● 御趣旨はよく分かりました。

  基本的には契約の趣旨によって決まるけれども,その場合のいわばはっきりしないときのデフォルトは,むしろ今の請負の下請みたいなので,選任監督だけでなくて,すべてについての責任を負うというのがデフォルトであるべきではないかと。


● もう一言だけ,念のためにつけ加えますと,例えば海外のカストディアン等を使うというようなことが,当然に想定されているような契約ですと,適切なカストディアンを選任し,監督もできるのかどうか,やや怪しいですが,必要な範囲で監督を行うというようなことが,その契約の趣旨から出てくるであろうと思われるので,こういうタイプの契約については選任監督上の過失に責任は限定されるのかなと思うのですが,しかしそういうタイプの契約でないような場合についてまで,常に同じようにデフォルトとしてこう言えるかというと,ちょっと疑問かなと。

● これは,なかなか難しい問題で……。

● 今の○○幹事の御指摘との関係で,ちょっとこの資料の読み方を教えていただきたいのですが。
 


 1項で「相当な場合」と定義されていますけれども,これは,2項と連動する可能性があるかどうかなんですね。つまり,選任監督のみ責任を負うことを前提にすれば,「相当な場合」とは言えないけれども,全責任を負うという形での委託をするのであれば「相当な場合」に当たるといった形で,相当性の判断が委託の形態によって左右される可能性があると考えていいか,1項はもう最初に決まって,独自に決まるということなのか。

  もし連動すると考えるのであれば,実は○○幹事が言われたことはかなり解釈論でいろいろな対処ができるようになり得ると思うのですけれども。

● これは,少なくとも条文ではないけれども,考え方として今のような連動するような考え方をとるのか,切り離して考えるかという問題ですね。

● 一応事務局としては,切り離して考えておりまして,委託できるかどうかという問題と,責任というのは別の問題であると。


  相当な場合であれば委託できるとして,委託したときにどのような責任を負うかということになると,いろいろ御指摘のように当事者の意思内容,特に契約内容によって定まるものであって,委託したときの責任が選任監督でいいというような合意であれば,それは選任監督責任だけれども,最終的な履行まで責任を負うべきだというような合意内容であれば,それは全責任を負うし,選任だけでいいというような合意であれば,選任責任にとどまるということで,相当性の判断と責任とは連動しないということでどうかという考えでございます。


  もちろん,連動するという考え方もあり得ますが,分けて考える方が明確ではないかということで,とりあえずそのような考え方でおります。

● 今の○○幹事の御説明のところで,ちょっと確認なのですけれども。
 


 先ほど,○○委員の方から紹介がありました流動化・証券化協議会の意見書の12ページ,13ページにもちょっと触れてあるのですけれども,債権の流動化等であれば信託法もビークル,箱として考えておりまして,基本的に信託のスキームを使うだけで,実際はオリジネーターであるクレジット会社等が債権回収等の業務は最初から行うように仕組まれているわけですね。

そういったときに,18の受託者の善管注意義務の問題にも関係するのですけれども,信託銀行さんの方に過大な責任を負わせる,例えば債権回収を受託しているクレジット会社が信託事務の受任を受けているというふうに考えますと,この間改正された信託業法の中では,その委託をする信託銀行について,最終的にそこの委託者の方の不始末については責任を負わないといけないということもありますし,そもそも委託するときに,的確な遂行能力とか分別管理をきちんとやらないといけないというようなところを見られるということになって,かなり重たい実務上の要請がオリジネーターの方に来てしまうと。

  それと,実際上何十万件,何百万件という債権回収が,オリジネーターは自分の業務とそのサービサーとしての業務としてやっているわけですけれども,それを信託銀行さんの方で管理するというのは,実務上できないわけでございます。

そういった中で,選任の責任と,今の監督の責任というところで,特に選任自体はこれはせざるを得ないわけですからこれ自体はもう外すわけにはいかないのですけれども,監督の方の責任で,過去のというか,今までの考え方の中では,監督の責任についても例えば免除するとか,そういう形にしないと,先ほど言いましたように信託銀行の方にいろいろな責任が発生してしまうので,やっていただけないような問題というのも発生しかねないということがありますので,例えばこの信託法の中で,今説明がありましたように選任と監督のところを分けて,例えば監督責任についても負わないというような,そういう定めとか,そういったものについても有効なのかどうなのか,そのあたりについても,そういう定めが可能なのかどうなのか,そのあたりをちょっとお伺いしたいと思います。


● 先ほどの○○幹事とはちょっと逆といいますか,何を結局デフォルトにするかという問題だと思いますけれども。
 

 事務局の説明はまた後であると思いますけれども,基本的には,これは信託契約で受託者の責任を決めることができて,一方で--この原案をもとにすれば--重い責任,つまり選任監督についてだけでなくて,すべての責任を負わせるようなこともできるし,選任についてだけ責任を限定するということもできると。

ここは,選任監督についての責任を負うというのがデフォルトで,重くする方と軽くすることができると。


そういう案ですので,今の○○委員の御質問のような中身は,できるというのが前提だと思います。

  その上で,しかしどこら辺をデフォルトにしたらいいかというのが,一つの難しい問題なのじゃないでしょうか。デフォルトというのは,その責任の中身を,ですね。


○○幹事が言われたようなところにするのか,ここに書いてある原案のようにするのか,あるいは更に,逆に選任だけを責任を負うというのをデフォルトにするか,そこら辺ですね。

  何か,ほかの御意見はございますでしょうか。


● 今のに関連した話なのですけれども,狭義の履行補助者という位置づけですけれども,これは別段の定めで定めて,そういう形にするというわけではないのですね。


もともとその状態が狭義の履行補助者という形態,例えば受託者の支配下にあるようなものとか,そういうようなものをイメージされているのでしょうか。

● 履行補助者は,一応ここの規定とはまた別に,いわゆる履行補助者の過失の理論でもって考えるという前提です。


● そういうことでよろしいわけですね。
  それで,現在の御提案でいったら,デフォルトとしてはそういう本当に狭義のものは別にして,選任監督責任だけを負うということが今の御提案の趣旨だということですね。


● そうですね。

● 基本的には○○幹事と同じような趣旨の発言になると思いますが,選任監督に責任を限定して,それで26条3項に当たる規定を削除するということになりますと,この5ページに正しく書いてあるとおり,受益者の保護が現行法と比べて後退すると思います。


それでいいのかどうかという問題なのかと思うのですが,この下に「しかしながら」ということで三つほど,そうではないのだということが書かれていますけれども,やはりこれは,それぞれ説得力に欠けるというか,これが後退させるのだけれども,それでもいいという判断がないと,なかなかこれでいいということにはならないのではないかという感想を持っております。


  これをどうしたらいいのかというのは大変難しい問題だと思いまして,ちょっと私もよく分からないところがありますけれども,これらは既に比較法的な考察とか,そういうのは十分された後の結論ということでよろしいのでしょうか。その辺,ちょっと確認を……。


● 比較法的な研究は,もちろん大分いたしました。


  それから,今の○○委員の御意見というのは,関連はするけれども二つの点にわたっていると思いますけれども,一つは現行法上も26条の2項に当たるところで,選任監督についてのみ責めに任ずという形になっておりますけれども,これを○○幹事が言われたように,これに限らないすべての全面的な責任を負わせるのが原則であるべきではないかという,そういう御意見と,それから26条3項の,これは委託を受ける第三者といいますか,先ほどの説明の中では「受任者」という言葉を使っていましたけれども,それの責任を受託者と同一にするというこの26条3項の規定,これを削除していいかどうかという問題と,二つあったと思いますね。


  ちょっと,26条3項の方は,関連はしますけれども,ちょっとまたこれは少し別な点を考慮しなければいけない点ですので,とりあえずはまずは先に26条の第2項に相当する部分,受託者の責任としてどうあるべきかということを御議論いただければと思いますけれども。


● 今の点ですが,この問題は信託としてどういったものを想定するかによって,多少イメージが違ってくるのかという印象を持っておるのですけれども,少なくとも今後一般の民事信託が広がっていくということを考えた場合には,やはり一般の民事信託の場では受託者の責任としては選任監督だけではなくて,もう少しきちんとした責任を負うというふうにする方が,一般的な考え方に沿うのじゃないかなというふうな印象を持っております。


  それから,この御提案の趣旨の内容についてですけれども,恐らく問題となってきますのは,受任者のところで何か,受任者が故意・過失によって信託財産に損害を与えたような場合に,受益者の立場から受託者に対して責任を問うというような,損害賠償請求をするとか,そういった場合が考えられるのだと思うのですけれども,そういった場合に,この規律の仕方ですと,責任を追及する場合には委託が相当でないということを主張する場合と,それから委託が相当であるとしても,選任監督に問題があるという主張をする場合というのが多分考えられるのだろうと思います。

具体的にそういったことをとっていくということを考えた場合に,受益者の立場から非常に気になりますのが,立証責任の問題でして,こういった相当性ですとか,あるいは選任監督の点についてどちらが立証しなければならないのか,これがもし受益者が立証責任を負うという前提で考えられますと,非常に受益者にとっては酷なことになるのではないかと。


基本的に,その信託の関係では,情報が受託者の方に集中しているということがありますし,それからそもそも受託者が受益者に対して善管注意義務,あるいは忠実義務を負って信託事務を処理すべき立場にあると,それからその内容としてある程度説明義務等,情報提供の義務を負っているということを考えるのであれば,その辺の立証責任については,これは受託者の側に,こういった規律をするとしてもあると考えるべきではないかと思うのですけれども,その辺についてもし御検討されていることがあれば教えていただきたいということです。

● 立証責任の点につきましてですが,基本的なこの委託についての考え方にも関係するわけですが,我々といたしましては,従来の法律の考え方を改めまして,原則として委託はできるのだと,ただ相当でない場合はできないということで,方針を変えております。

ですから,提案の文言はこう書いてありますが,ただ今申し上げた考え方をストレートにあらわすといたしますと,「受託者は第三者に対して信託事務処理を委託することができる,ただし次に挙げる場合はこの限りでない」として,「相当と認められない場合」,あるいは「信託行為で禁じられている場合」,こういう書き方になるのかなと。

  そういたしますと,この方針に忠実にいくといたしますと,相当な理由の有無の立証責任というのは,現行法ではもちろんこれは受託者の側が抗弁として負っているわけですが,やはり受益者側で請求原因として相当な理由がなかったことというのを主張立証するという方向でいくのが筋ではないかと思います。

そして,事務局としては,この方針転換ということを譲るというのはなかなか難しいことでございまして,立証責任の点についてはやはり相当の理由がなかったというのを受益者が言わざるを得ないというところは動かしにくいのではないかと思います。その反面,選任監督責任ではデフォルトとしてですが,軽いというのであれば,そこは多少の変更というのはあり得るのかなと思いますが,立証責任については今のようにいくべきではないかと考えているところでございます。

● そうしますと,受益者の立場からすると,厳しいなという印象を持ちますが,もしそのような形で立証責任を考えるのであれば,これはこの後のテーマということになろうかと思いますけれども,例えば23の帳簿作成義務のところにおいては,その受益者の方がきちんとそういったことをチェックできるような形での,これは後のテーマかと思いますけれども,そういった規律をお願いしたいというふうに思います。

● そこは配慮いたします。

● 基本的なところからいきますと,やはり信託の現代化ということからしますと,特に商事信託というものを前提にする限りにおいて,信託事務が非常に高度化しているということがありますので,これはもう委託しないとどうしようもありませんねというところからは,原則として自己執行義務よりもどちらかというと他人に任せた方がいいだろうというところから,多分その考え方が出発しているのだろうなと思います。

  とは言うものの,何でもかんでもというところではないので,「相当な」というところが入ったのだと思います。


当然,他人に委託するということを大原則にする限りにおいては,やはり選任監督責任というのがデフォルトになるということだろうと思います。


ただ,反面,受託者の義務が軽くなったかというと,果たしてそうかどうかはよく分からないところがありまして,やはりその反面,善管注意義務というのはどうしてもかぶってくるのではないかなというふうに思っておりますので,受益者保護にかなわないということも一概に言えないのじゃないかなというふうに考えております。


したがいまして,今回の御提案に,2番のところについても賛成というふうに考えております。

● 1番の「相当な場合」ということについて,質問といいましょうか,意見になるわけですが。

  私の理解では主に相当な理由と,それから信託行為,記載すべきというところとの関係の整理の結果,「相当な場合」ということに吸収されたというふうに理解しているわけです。

ただ,実務的な考え方としては,信託行為に書いたとして,それが否定されるということになりますとこれは非常に苦しい立場に置かれますものですから,できると書いたとしても,それが相当な場合でないというふうに言われないような保証が欲しいというふうに思っているわけです。

  この点,今回の提案の説明では,4ページの1の御説明の最後の方に,定めがあっても,「その他の事情によっては,極めて例外的に……相当な理由がない」というふうに書かれているわけで,私の理解でいえば事務局はそういうことは余り可能性はないよというふうに思っているわけで,そこは推測するに,仮に例えば民法90条のような公序良俗とか,錯誤であるとか,そういったときにはそういうデフォルト・ローは働かないよという話というふうに理解しています。


もしそうであるのであれば,ここであえてこういうふうに説明するのはある意味でミスリーディングであって,何とならばそういった一般法理によって信託行為に書いたことが否定されるということは,ほかの規律においてもあり得るわけでして,そうするとあえてここで書かずに,信託行為で書かれたことはやはりここもデフォルト・ローということで,原則は認めてほしいというふうに思っております。

  その観点から,例えば記載ぶりの話,先ほど事務局からこういう記載ではどうかという例を示されたところではございますけれども,それについて,例えばこうしてはどうかというふうに思うのですが。

  例えば,「受託者は,信託行為に別段の定めを置く場合,その他,他人に信託事務処理を委託するのが相当な場合には」ということで,一応信託行為によって別段の定めがあるということを真っ正面から書いてほしいというふうに思っているわけです。


● 私も,この22の1につきましては検討が必要ではないかと思っております。


信託法の現行の26条1項は,信託行為に別段の定めがあれば委託することができるということを定めてあるのに比べて,一見すると,もちろんこの「相当な場合」の解釈にもよりますけれども,規制が逆に強化されたかのように読めるので,やはりこの信託事務の処理を委託するというのは,○○委員も御指摘されましたけれども,専門化・分業化が進む世の中にあって,むしろ事務を委託することの方が受益者の利益を促進する,こういう世界的--しかも信託だけではない,いろいろな分野でアウトソーシングというのが進んでいる中で,この信託事務処理の委託について現行法よりも厳しくするような提案を,現代化の中で行うことには,大きな違和感がございます。
  

もう少し具体的に申しますと,信託契約に書いてあったときに,私は権限の行使の問題と,委託の権限を与える条項の有効性,無効性のレベルの議論は別に考えるべきであると考えておりまして,例えば「信託事務を委託することができる」と,そういう条項があったときに,実際にある委託をしたときに,これは委託自体が注意義務違反だったと,相当でなかったと,こういう整理をすべきであって,受託者に委託の権限を与えることと,それからその権限を不適正に行使した場合の責任とを区別して考え,ここでは信託契約に基づき,あるいは相当な場合に受託者に一般的にそういった委託権限が生ずるわけですけれども,それを行使するときの責任というのはまた別で,それは専ら注意義務違反で損害賠償の話になると。


このように,権限の問題と,それから繰り返しになりますけれども権限を注意義務に反して行使した場合とを区別することによって,もう少し,特に第22の1については見直す必要があるのではないかと。
  


また,2についても,選任のところで注意義務が生ずるのは当然だと思いますけれども,監督というのはやはり場合によっては非常にコストが高くなって,何のために委託していたのかコスト倒れになってしまうということも考えられないではないと思いますので,この監督責任については,もちろん一般的にはあると言えるとは思いますけれども,その具体的な内容についてはケース・バイ・ケースなのではないかという印象を持っております。

● 確かに,1の方では事務局の案も別に現行法より狭める意図があったわけではなくて,広げるつもりだったので,今おっしゃったように現行法のもとでも……。

● 信託行為に別段の定めがあっても,例外的にだめな場合があるというのは,私はそこは狭くなっているように感じたのですが。

● 恐らく,ちょっと表現が適切じゃなかったのかもしれませんけれども,信託行為に別段の定めがあれば,現行法と同じように原則としてもちろんそれは構わないと。


それが狭められるというよりは,○○幹事が言われたように権限行使の仕方がまずいとか,あるいは……。実際上は,ほとんどないのだと思いますけれどもね。

  これが公序良俗に反するようなこともないでしょうから,ここの部分は恐らく今の御意見のとおりでよろしいのじゃないでしょうか。

● 今の1の点については,私もちょっと疑問を感じているところがあったので,フォローする方向になるだろうと思うのですが,言いたいことが一つあります。
 

 多分一番大きいポイントは,「相当な場合」というのでかなり工夫してお書きになられたと思うのですが,この「相当な場合」の意味がもう一つよく分からなくて,信託契約とは外にあるような,外在的な,客観的な考慮から,相当か相当でないのかを決められるというニュアンスが出てくるために,信託契約で何を書こうがだめだと言われる場合が出てくるというのが懸念のもとではないかなと思います。
 


 これを理論的に考えますと,信託事務の処理を他人に委託することができるかどうかを決める基準は,やはり信託契約に内在的に決まらないとおかしいだろうと思います。

要するに,こういう事務の処理を委託するから,こういう事務の処理の委託を,しかもこういう趣旨で委託するのであれば,他人は使っていいですよねと,でもこういう事務を受託者に委託するというその趣旨からすると,ほかの人間を使うというのは許されませんよねと。


つまり,あくまでも決め手になるのが,やはり信託契約の趣旨によるというふうに考えるべきではないかと。

信託行為の中で,明文でどう定めたかということももちろん重要なのですけれども,あくまでもその契約の趣旨から見て許されるか許されないかで決めるべき事柄ではないかなと思います。


ですから,あえて表現を選ぶとするならば,要するに他人に信託事務の処理を委託することはできるのだけれども,それが当該信託契約の趣旨に反するような場合にはできませんという書き方というのが,多分一番ふさわしいのではないかなと思います。

● 長くなって恐縮ですが,比較法的な話と,ちょっと概念的な話なんですけれども。


  この18のところに善管注意義務というのがあって,これについては細かな規定は置かないのだということなのですが,私の理解では,アメリカでもどこでもいいのですが,この22で問題になっているのは自己執行義務という形で,かの国でははっきり別な義務として立てられていたものが,それからここでもそうしようとしているのですが,自己執行義務はないのだよという形で覆そうとしているわけですね。

その結果,どうなったかというと,アメリカではプルーデント・インベスター・ルールの中に入れ込みましたから。


プルーデンスというのは注意義務なんですね。だから善管注意義務なんでね,結局のところは。そういうふうに彼らはもう頭中で考えていて,私も実はそう考えている。


  そうすると,この信託事務の処理についての1というのも,信託事務の処理を委託することが相当なものかどうかは,正に善管注意義務の判断ですね,今,○○幹事がおっしゃったように,当該信託の--「本旨に従い」と前のところはそういう表現ですけれども,それにのっとって委託が適当なのかどうかという判断になる。

  2のところも,その後選任及び監督について責任を負うのがデフォルトですが,どういう形で監督をすれば,選任すればいいのかも,やはり善管注意義務の話になるので,そうすると○○幹事がおっしゃったような1と2はリンクしていますかというと,リンクしているに決まっているのですね,結局のところは。

それぞれ別個に分けたところで,リンクしているといえばリンクしている。善管注意義務なんですから。

  ただ,それで自己執行義務はやめて,善管注意義務一本にして,しかも善管注意義務もアメリカではデフォルト・ルールですから,ただそれは相当に今までのルールからすると,えいやっと飛び越えているわけですね。

実務に合わせているので,実務上はそんなにえいやっじゃないのかもしれないのだけれども,法理上はもう大逆転ですので,それでこの統一信託法典では,だから次のような点でちゃんと注意を払わないといけないのだよと。

これは選任監督の中身を少し詳しくしているだけなのですけれども,代行者としてだれを選任するか,それからその後ただ選任するだけではなくて,選任して,あなたには信託の趣旨,目的に従ってこういうようなことをやってもらいたいのですよという委任の条件と内容をちゃんと定めるということが受託者の責任ですよと。


  三つ目には,定期的に検査しなさいとまで書いてあるのです。


しかしそれがデフォルトだから,最後のところで要望書にも出ていますが,ああいう特別の場合には監督は実際にはできないとか,そういうのでここは外しておきましょうということはできると思うのですけれども,更に統一信託法典でいうと,委任された任務を果たす受任者の方には,その委任の条件を遵守するよう合理的な注意を払う義務があると一応は書いてあるわけですよ,この法典の中に。


えいやっとやって,もちろんこれは現代の信託のところでは委託をした方がむしろ受益者のためにもなるのですよということですけれども,やはりそれは濫用する危険もあるというので,そういう形で少し--少しかどうか分かりませんけれども,やはり受益者の不安というのを解消するような手を打っていると思うのですが,ちょっとここの中身は結局のところそんなに違わないのかもしれないけれども,やはり弁護士の先生が懸念を覚えるような感じを,私も少し覚えているのです。

じゃ,どうすればいいのかいうのは,なかなか難しいことだとは思いますが。
  ちょっと感想だけ申し上げました。

● 長くなって本当に申し訳ないのですが,1点だけ質問をさせていただければと思います。というのは,積み残された質問の答えをお聞きしたいというだけなのですが。


  証明責任で,1についての証明責任は,先ほどのお答えで分かったわけですけれども,2の(1)についての証明責任というのは,どのようにお考えなんでしょうか。


  受託者から更に委任を受けた受任者に善管注意義務違反があって,その責任を問うというようなパターンで考えた場合。


● その場合,受任者が債務不履行がありましたと,それに対して,今度こちらは抗弁の方で,選任監督責任を果たしたということを受託者の方で言っていくのではないかと考えているところでございます。


● そうしますと,義務違反があったということは,受益者の方が主張立証する必要があると。


● 受任者の義務違反ですよね。


● いや,受任者の義務違反というよりは,正確に言いますとあくまでも受託者が善管注意義務を負っていて,ただその善管注意義務を履行する上で,受任者を選任し,そしてその受任者がこの善管注意義務を実際に履行することになり,しかしその受任者が善管注意義務の違反に当たるような行為を行ったということを言えて,初めて信託契約上の善管注意義務違反が基礎づけられると。


● 請求原因が立つということになると思います。


● ということですか。

● はい。

● それで,つまり受任者の義務違反というのは,今言われたような意味での義務違反というのは,証明しないといけない。


● こちらの請求原因ですとそうなります。


● しかし,それに対して,いや,選任監督上の義務を尽くしていたのだというのが抗弁で出てくるということになるのでしょうか。


● そうなると考えております。


● ただ,そうしますと,先ほどの話に若干戻るのですけれども,この種のケースでは選任監督上の義務に別に契約上限られているわけでも何でもなくて,そうではなくて,あくまでも受託者が自ら自分の選んだ受任者の行為についても責任を負うのだというタイプの契約なのだというのは,どういう形で出てくるのでしょうか。

● それは,選任監督以上の,最終的な履行まで責任を負うというような契約がされている場合。

● 私の理解からすると,それは本来デフォルトなんですけれども,新たに信託事務を委託したのであって,その新たに善管注意義務違反があるのだから責任を問うというのが請求原因として出てくるわけなので……。


● それは抗弁が立たないというか,抗弁が主張できなくなる。

  全責任を負うということですね。その場合には,それは受任者の故意・過失というか,債務不履行責任を争うことはできると思いますが,受託者側が何か注意義務違反はなかったというような抗弁というのは,できないのではないかということになると思います。デフォルトにすれば,ですね。

● そちらをデフォルトにすれば……。

● デフォルトでなくても,そういう約定があればということで。


● しかし,本来のデフォルトが,自分の選んだ者の行為についてもそうやって責任を負うのだというと,先ほどの請求原因が立つというのは,むしろすごく理解しやすいですね。


それに対して,抗弁として,いや選任監督に限るというような趣旨でこの信託契約というのは行われたのだと,かつ自分はその選任監督上の義務は尽くしているのだというのが抗弁に立つというのは,証明責任の分配からすると非常にすっといくなと私は思うのですが。

● それは,○○幹事のお考えだとそうなります。


● そちらがデフォルトだという場合には,何か証明責任の分配,うまくいかないのじゃないかというのが一番お聞きしたかったことです。


  そもそも,なぜ請求原因で先ほどのような善管注意義務違反の事実を言えば請求が立つのかということ自体が,ちょっと分かりにくくなりはしないでしょうか。


デフォルトは逆の方がいいのじゃないかなと。理論的にもそう思いますし,証明責任の分配からいっても素直かなと。

● 証明責任の問題が絡んでくると,ちょっとよく分からないけれども,この原案の立場でいったときに,選任監督だけでなくて,要するに受任者のところ,第三者のところに義務違反といいますかね。


何かの過失があって損害が生じた場合には,およそもう免責を認めない,受託者の免責を認めませんというもの,それは証明責任の分配から難しいということですか。


● デフォルトを事務局がおっしゃっているようにすると,ちょっと何か説明をもう一つ二つつけ加えないと,すっといかないなという……。


  デフォルトはあくまでも全部責任を負うのだと,ただ信託契約の趣旨からすると,選任監督上の義務を尽くすことに限られる場合があるのだという説明をすると,抗弁にうまく立ってくるということです。


● 分かりました。ちょっとその証明責任の分配も含めて,今日も大分その点に御議論がありましたので,その観点からももうちょっと詰めたいと思いますけれども。
  


何か逃げるようで申し訳ないけれども,実体法のルールとしてどうかという点についてももうちょっと御意見,もしおありであればいただければと思いますが。

  それから,3の点,先ほど○○委員からは御意見がありましたけれども,受任者というのですかね,第三者,事務委託をされた第三者の責任についても現行法を削除するのは適当でないという御意見がありましたけれども,これについてももしどなたか御意見があれば……。

● 3につきましては,第4回のときにも申し上げましたけれども,そのときには甲案・乙案という形で,今残っている部分が乙案ということだろうと思いますけれども,これにつきましては,やはり受託者が--そのときにも申し上げましたけれども--前面に立ってすべて解決するというのが非常に実務感覚に適合した考え方ですので,これについては賛成したいと考えております。

● この場合も,現行法は確かに26条の3項がありますけれども,第三者がどういう理由で受託者と全く同じ責任を受益者に対して負うのかという,その理論的根拠って必ずしも明確じゃないのですね。


確かに受益者にとっては有り難いことは確かなんですけれども,そこがやはりネックの一つだと思っていますけれども。


● 私も,3についてはこの案,つまり削除するということに賛成の立場から申し上げたいのですが。


  第4回でも申し上げましたけれども,「知って」ということについては意味の不明確さもありますし,また知るか知らないかということの偶然の結果として,受益者が救われるか救われないかということで左右されるのはいかがかなと思っております。


やはりそもそも論のことを考えますと,信託の基本的な構造というのは受託者が前に立ってということであれば,あえてここで第三者,受任者の義務ということを定める必要はないのではないかというふうに思っております。

● もちろんこれもケース・バイ・ケースで,さっきの資産流動化でオリジネーターがすべてを実際上やっているというようなときには,何かそのときには責任を負わされてもよさそうな気もいたしますけれどもね。これは,契約の趣旨によってそうなるということなのだと思いますけれども。

● 1に関しまして,信託行為に別段の定めがある場合というものの位置づけというのが問題になっているのですが,希望なのですけれども,整理のときに信託行為に別段の定めがあるというものの在り方について,もうちょっと具体的に整理をしていただければというふうな気がします。
 


 というのはどういうことかというと,例えば投資判断を第三者に委ねるという場合に,最初から信託行為においてある特定の投資顧問会社を指定して,「○○投資顧問の判断に従うものとする」と書いている場合がまず第1に考えられますね。


第2に,「投資については,適切な投資顧問会社を選任し,その指示に従わなければならない」と書いて,これは選任のところが裁量があるわけですが,選任をすべき義務というものは存在していると。


第3に,「投資判断については,投資顧問会社に委ねることができる」というあれが考えられますね。


そして第4に,何も書いていないというのがあって,それぞれによってやはり出方が違うような気がするのですが。


  私が整理して,こうじゃないかというふうに申し上げられれば,それはそれでいいのかもしれないのですが,私もちょっとよく分からなくて,もう少し具体的な信託行為の定め方に……。

● 2番目と3番目が対象になるのじゃないでしょうか。1番目は,もう信託行為でもって投資判断もほかにゆだねているわけですよね。それは,ここの対象とはならないのじゃないでしょうか。

● ならない。監督も関係ないと。


● それはもう,信託行為でもって,権限というか,投資判断を投資顧問業者に与えている。受託者の責任,というか,受託者が選んだ第三者ではない。

  その場合にも,もちろん信託行為の中でもって監督責任というものを受託者に与えるということは,義務として負わせるということはあり得ると思いますけれどもね。


そこは信託の設計そのもので,すべて決まるのじゃないでしょうか。

  ですから,○○幹事の2番めと3番目,「選ばなくてはいけない」でしたか,それとも「選ぶことができる」でしたか。


● そうですね,だから2番目に関しまして,選ばなければいけないというふうになっているときには,1って働かないのですよね,多分。1のルールというのは。


● そういう意味では,選ばなくてはいけない……。確かにそうですね。

● そのときも,しかしながら選任及び監督についてのみ責任を負うと。

● そこはだから,責任の問題はまた別に生じ得る。選任監督のみがいいのか,そこの中身で……。


● もちろんそれはそうだけれども,今の原案を前提にした場合には違うということですが。
  済みません,ちょっと十分に整理ができていないのですが。


● 一応,今お話を伺った限りでは,2番目,3番目が対象になるというふうに思います。


● ここの第22の3についてでございますけれども,先ほどの御発言との関係から申しますと,むしろ3のところはやはり少なくともフィデュシャリー・パワーの一端を担っているということを知っている者については,フィデュシャリー・デューティーを負わせるのが一環するのではないかと。


すなわち,受託者はむしろ自己に与えられたフィデュシャリー・パワーをほかの者に委ねることが,信託全体の利益にとってプラスになるという,そういう前提であれば,ここはむしろ機能的にとらえて,フィデュシャリー・パワーを行使する者については基本的に受託者と同等の責任を与えると。この方が,理論的には一貫するのではないかと思っております。


● 今の3についてですけれども,私もできればそういうふうにした方がいいとは思うのですけれども,もしこの事務局の御提案のような形でいった場合に,なおちょっと心配が残るのが,受託者の方が前に出るのがというふうにおっしゃっていただいて,それはそうだろうとは思うのですけれども,受託者がなかなか動いていただけない場合に,じゃ受益者はどうしたらいいのかというところがちょっと心配がありまして,例えば受託者が委託した先が受託者の関連会社であったりして,なかなか責任の追及がしにくいといった事態が生じた場合に,受益者が何ができるのかということを考えたときに,例えば債権者代位権みたいな形で,受託者が受任者に対して持つ請求権を行使するというこが考えられなくもないのですけれども,本当にそれできるのだろうかという気もちょっとしておりまして,これもし御提案の趣旨のような内容で検討されるのであれば,そういった受託者の持つ権限行使といいますか,そういった代位権的な行使的な制度というのも,ちょっと御検討いただくことはできないだろうかということを一言お伝えさせてください。

● それは,基本的にはできるのだというふうに私は個人的に考えていますけれども,むしろ問題は,受託者と受任者ですね,第三者との間の契約の内容によっては,受任者が責任を負う,軽減するような特約が入っていたり,そういうときにどうなるか。


債権者代位でいくと,なかなかできないわけですね。


● 3の点について,本当に一言。

  現行の26条3項の理論的な理由がよく分からないという○○委員の御指摘に対してですけれども,現行法26条3項がどういう考え方でできているかというのはかなり明白でして,それは26条2項で例外的な場合ではあるけれども選任監督上の責任に限られるべき場合があると,受託者の責任が。


そういう場合には,その責任限定を補う意味で26条3項を置き,受任者がその部分については受託者と同等の責任を負うというふうに言えたと。


つまり,26条2項と3項は抱き合わせでできた規定だということです。

  そうしますと,今回の御提案というのが,26条2項では選任監督上の過失に限定し,しかし3項を外すというのは,もとの立法者の考えとは正反対の立場をとろうとしているという認識は,まず持つ必要があろうと思います。

つまり,○○幹事のおっしゃったような意味で26条3項が位置づけられるというのももちろんあることはあるわけですけれども,やはり2項をどうするかということと連動しているという側面が,やはり無視できない点だろうと思います。

● ○○幹事の意見は全部一貫していると思いますけれども,そういう意味で,だれかがとにかく責任を負わなければいけないというあれですね。


● 今の点について,信託実体法とは関係ないのですが,信託業法の観点からコメントしたいと思うのですけれども。
  


お話というのは,改正信託法において基本的にはアウトソーシングが認められることの一方,これは信託業法22条ですけれども,行為規制がかかって,基本的には受任者に対して信託の内容についての開示であるとか,またそれをした場合に,原則としては受託者と同様の責任を持つという形になっております。


そこで,この結果一体どうなっているかというと,非常に現場では混乱といいましょうか,非常に萎縮効果的なものが起こっていると私は思っています。

  ただ,この信託業法に関していうと,一応解釈上事務ガイドラインでも明確になっていると思うのですけれども,例えば運送会社とか,ある意味裁量がないものについては及ばないとという話でございますので,そこはある程度切れているわけですが,ここで何を申し上げたいかと申しますと,二つありまして,一つは,仮に当初案に戻りますと,やはりそういう信託業法で一応対象外とされているような運送会社とか倉庫会社とか,そういうところまでも同じような義務が生じてしまうというようなことになっている,それはいかがなものかという話と,それから二つ目には,これはそもそもの話で信託業法自体もこの信託法の現代化,いわゆるデフォルト化等の柔軟化に伴って,やはりこの22条自体も見直ししていただきたいというふうに思っております。


● ちょっと,議論が大変隔たりがあって,なかなかうまくまとめることはできませんけれども,○○幹事の方から何か……。


● 今,いろいろいただいた指摘を踏まえて検討いたしたいと思いますが,二,三点言っておきますと,まず代位の構成については,そういうのもあり得るかとは事務局でも考えておりましたが,問題点としては○○委員がおっしゃった受託者と受任者の間の契約で制限されることとか,あと無資力要件をどう考えるか,それから受益者としては,受託者のみならず受任者の資力まで当てにしていいのか,そこら辺の問題については検討する必要があるかなと考えております。

  それから,○○幹事がおっしゃったのは,やはり受任者の責任は設けるべきではないかと。


あと,それは○○幹事もおっしゃった2項と3項のバランスというのと一致するのかと思いますが,その御趣旨は,ただ知っているだけではなくて,共同受託者と見られるような場合だということなのでしょうか。


共同受託者だったら当然注意義務とかを負うわけですが,この受任者ではなくて共同受託者と見てしまうということなのか,受任者ではあるけれどもやはり注意義務を負うような者がいるのではないかという御趣旨なのかというところあたりにつきまして,御教示いただければと思います。


  あと,業法的な観点からの御指摘については,そこは信託法の見直しとあわせて信託業法も見直すということですので,必ずしも業法的な規制を前提に,こちらが見直すということにはならないということで御了解いただければと思いますが。

● 先ほど,フィデュシャリー・パワーということを申し上げまして,この第22は信託事務処理の委託なのですけれども,やはり私がこのフィデュシャリー・デューティーを負う受任者というのは,運送業者や倉庫業者のことは全く念頭に置いておりませんで,むしろフィデュシャリー・パワー,これを日本の概念に持ってくるときに,どのように観念し直せばいいのかというのは問題があると思いますけれども,要するに信託事務処理を委託されたすべての者がこの責任を負うとは考えておらずに,日本でいえば重要なというような,ある程度限定された範囲で責任を負うようなイメージで先ほどは申し上げました。


● もちろん,私もそう理解していますけれども,なお「重要な」と言うと,例えば恐らく信託にとっては財産の管理というのが非常に重要なので,例えば預託機関とか,そういうのが何か入ってきそうな気もしますけれども,逆に,しかしフィデュシャリー・パワーということになると,裁量的な,投資の判断なんかするのは恐らく入ってくると思いますけれども,ただ管理していると言うと入ってきそうもないので,そこら辺の範囲を○○幹事はどう考えられているのか,ちょっと不明だったのですけれども。


● 私,預託機関への預託は,これは管理の形態というふうに考えるべきであって,そういう意味ではフィデュシャリー・パワーの問題ではないのではないかと理解しております。

● 大変いろいろ御意見をいただきました。恐らくもう一回,事務局に少し今の意見をもとにして案を考えてもらうということになると思いますので,またこれは御議論……。やはり相当重要な問題ですので,もう一度ちゃんと議論したいと思っております。


● 分別管理のことでよろしいでしょうか。
● 分別管理,どうぞ。


● そもそも論の話になって,立ち戻って恐縮でございますけれども,2点ほど確認したいことがあります。


  まず1点目でございますが,預金についてどう考えるべきなのかという話でございます。これについては,通常の預金となると金銭債権ということになりますので,この提案になりますと,多分①の規定になるのかなというふうに思っておりまして,よって信託行為に別段の定めがなければ,分別管理が必要であるというふうな理解だと思っております。


ただ,立法論として,預金とかコールとか,いわゆる技術化的なものというものについて,ほかの金銭債権と同じような取扱いをするべきなのかどうかということもあるのかなというふうに思っております。


  例えば,そういうことの観点からすると,この預金というのは②の「信託財産が金銭であるとき」のこの「金銭」というものに当たると考えて規律するというのも,一つの考え方なのかなと思っております。
  


これを考えるときに,実務的な話で非常に恐縮なのですけれども,では預金等の金銭債権における分別管理というのが一体どういうものなのか,その実体を踏まえてどうあるべきなのかということを考えるべきだと思うのですけれども,考えますに,その金銭債権というのは物理的に分別管理はできないと思っております。


よって,識別不能の問題は別に生じると思いますが,それはちょっと別として,そもそも概念上分別管理はできないから,かような義務は生じないのだというふうな考え方が一つあると思いますし,またもう一つの考え方としては,受託者における財産の帳簿とかで,信託財産であるということ等,何らかの管理ができるならばそれで十分であるという考え方があるかと思います。


  仮に,後者の場合に,更に言うと,では具体的にどういう分別管理で足りるのかということが実務上非常に気になるところでありますけれども,そこで例えば預金債権の場合,例えば預金口座を別にするなど,債権として別のものにしておく必要があるのかどうかということが関心があるわけです。

この場合,例えば普通預金,1個の債権と考えられるとされていますけれども--異論はあるかと思いますが--そうした場合に,複数の信託を一つの普通預金にまとめると,例えば信託口という形でまとめた口座を設定する,それを利用するということは無理なのかどうかということが議論の論点になると思います。
  

また,更に言うと,預金通帳などが出てくるときに,これは物理的な預金証書があるわけですけれども,ではその物理的な証書をやはり分別管理するところが出てくるのかと,いろいろ考えることがあるわけですけれども,そういったことを考えると,金銭債権についてはどう考えるのか,とりわけ預金みたいな現金に近いものということについて,特例的なことを,つまり②のようにするのかどうかということについて,まだ私の方では整理はできておりませんけれども,どう考えるべきかについて事務局の考え方がおありであれば,お聞きしたいところでございます。

● 御指摘のありました金銭債権についてでございますが,まず事務局の考え方でございますが,金銭債権は金銭ではないので,②に当たらない。


したがいまして,①で原則どおり分別管理を必要とする,信託行為に定めがない限り分別管理を必要とすると。


  それは,最善の状態ということでございますが,そこで御論考などには債権は二つにするべきだというようなものもございますけれども,事務局としては,そこは債権は一本でいいと,しかし帳簿上信託財産と固有財産の出所を明らかにしておくことによって,分別管理義務が果たされるというようなのが事務局の理解でございます。

● 何らかの形で分かればいいという話。

● まず帳簿で分かればいいと。


● それであれば,実務的にも非常に柔軟な対応ができるというふうには思いますけれどもね。


● 従来から,債権の場合には,分別がそういう形でできるという意見の方が多かったと思いますけれども,それを一応ここでも引き継いでいるということですね。


● 変な話ですけれども,預金口座を分けて,預金通帳を別にしておくという,そういうところまでは金銭債権の性質からするとあえてする必要はないということ,そういう理解でよろしいのでしょうか。

● 事務局の理解としては,分別管理としてそこまでする必要はないということで理解しております。

● 分別管理としてどの程度のことをすべきかという問題,今のように次の問題としてもう一つあるのでしょうね。


原則として分別しなければいけないとなったときに,どういう形で分別するかという問題で。


債権の場合には,帳簿さえ明らかになっていれば,他方の,例えば固有財産と一緒であっても,固有財産全部持っていくということはできないので,そういう意味で分別管理としての目的は,帳簿さえちゃんとしていれば目的は達するという理解ですね。


● 済みません,分別管理についてもう1点。御質問というか,コメントでございますが。


  ①の規律の中で,登記・登録すべきもの,不動産とかについて一時的な登記
猶予が認められるかどうか,それを法文上明確に書くべきなのかどうかということでございますけれども,その点については先ほどの事務局の御説明では,解釈論によるということでございましたけれども,ただ実務的なニーズからすると,やはりそこは何らかの形で明確にしていただきたいなというふうに思っているわけです。


  それを申しますのも,ちょっと私の理解の混乱なのかもしれませんが,ここで言う分別管理と,それから登記・登録という公示ということの関係がもう一つよく分からないわけですが,やはり①の規律というのが登記・登録すべきものについては登記・登録すべき--最終的には登記・登録すべきものであるということでございますので,そうするとやはり登記・登録というのは,分別管理の必要条件であるというふうに考えているのかなと思っているわけですけれども,ただ考えてみますに,分別管理の機能というのはいろいろあるわけでして,例えば不動産の場合に,特定性機能ということだけ考えれば,あえて公示をする必要はないと。

識別不能になってしまうとか,そういうこともないわけですから。


そうしますと,あえて分別管理というところで登記・登録まで必要なのかどうかというところも,そもそもの問題として,ちょっと疑問には,というか,私の理解ができないのかもしれませんけれども,あるわけですが。


  ちょっと話が混乱しましたけれども,もとに戻って,やはりそういった理解の問題もいろいろな考え方も出てきましょうので,実務的にはやはり一時的に猶予できるということであれば,それは何らかの形で明確にしていただきたいなというふうに思っております。

● 今の点の関連してなのですが,分別管理というのは固有財産と信託財産を金銭債権の場合には一本でいいというお話でしたけれども,今日出てきた強制執行の禁止との関係で,固有財産の部分だけ差し押さえるということ,固有財産に対して受託者の債権者が差押えしていったときに,どこまでいったら差押えの競合を受けるかとか,それに関連して第三債務者は供託義務を負うかとか,分からないわけですね,第三債務者には。


つまり,一本の金銭債権なんだけれども,途中までが固有財産で,そこから先は信託財産だというときに,その境目というのは分別管理している人しか分からないわけですけれども,小口の差押えが何本か来たときに,どこまでいったら差押えの競合が起きているのかということが分からなくなってしまわないかということが,技術的には問題になりそうな気がします。


  今突然お話を伺って思いついたことなので,問題意識としてあるいは生煮えなのかもしれませんが,技術的にはちょっと詰めておいた方がいいのじゃないかなと思うのですけれども,もし今何かお考えがあれば……。

● 手続的には,例えば信託財産と固有財産を一緒にして貸し付けて,金銭的な割合は分かっているというときに……。


● 第三債務者が分かっているという前提ですか。


● 第三債務者にも割合が分かっているかという意味ですか。


● はい,分別管理している人にしか分からないのじゃないかという……。


その境目が常にこうやって動いているのだとすると,あるいは総額が動いてするとすると,いわば一本の金銭債権には二つのいろいろなものがあって,どっちがしたか,それは受託者の債権者というのは固有財産の部分にしかかかっていけないというときに,しかし差押えの競合があるかとか,あるいは供託義務を負うかとか,第三債務者にそれが分かっていないと困るのじゃないかというのが私の問題意識なんですが。


● 第三債務者が全部供託してしまえば,これまた問題はない。


● もちろん権利供託はできるけれども,義務供託の場合ですね,差押えが競合しているというので。
 

 あるいは,その前提として執行法の149条ですが,差押えを足していったら,その全額を超えるためには全部に差押えの効力が及ぶという規律があるわけですが,それはどこから発生するのかとかいうようなことがどうやって決まるのかということが,ちょっと今,一本でいいというふうに伺った瞬間,ちょっと気にはなったのですけれども。

● 執行法の方まで必ずしも考えていませんでしたけれども,また第三債務者の方の供託まで十分考えていませんけれども,単純には固有財産と信託財産の中から仮に50・50でもって,それ一本にして貸し付けているときに,その債権が受託者の固有の債権者に差し押さえられたというときに,全部は差し押さえられないということを受託者が簡単に言えれば,そうすればいいのかなと思ったのですけれども,そういうわけではない。

● 信託財産の方に申立てをして,それが及んでいるのでいるのであれば,今日やった第三者異議みたいなことで処理するのだと思いますけれども,固有財産の中でどういう取り合いになるのかということは,手続的に明らかにならないと困る場合が出てくるのじゃないかということです。


  もうちょっと私も整理してみますけれども,少なくとも第三債務者の供託義務あたりは,ちょっと問題になりそうな気がします。

● 必ずしも十分フォローしていませんけれども,ちょっと第三債務者の方の供託の関係とか,そういう問題はもうちょっと考えてみたいと思います。
  


それから,これは登記・登録ができる財産で,不動産なんかの場合,登記をしないという,一定の期間猶予しているというような場合も,場合によっては--場合によってはというか,信託財産であるということの登記をしていないので,仮に受託者の財産になっている,それがために受託者の債権者が差押えに来たと。

  これはしかし,対抗の問題が入ってくるので余りいい例じゃないのかな。

  責任の問題と両方ごっちゃにしているかもしれませんけれども,私が言いたかったのは,たとえここでもって一定の猶予がされていても,そのために債権者が本来信託財産である財産を差し押さえて,そしてまたそれが結果的に信託事務を執行する上で障害となって受益者に損害を与えるというようなことが生じると,受託者の責任というのは何か生じるような気もしているのですね。


そういう意味で,ここの分別管理の問題と,それから後で出てくる責任の問題,分別管理義務を尽くさないというか,分別管理がされていないときの責任の問題というの,その問題はもうちょっと整理しなくてはいけないだろうという気がしています。

  これは,また後の方でもって議論が出てきますけれども,とりあえずは今の○○幹事の点については,何か事務局の方で御意見は……。

● どこまで差押えの範囲が及ぶのかとか,しかし信託財産,固有財産全部に及んで受益者が異議を言うというスキームでもおかしいでしょうし,ちょっと検討させていただきたいと思います。

● 多分,どこかで第三者異議をかませないとうまくいかないような気がするのですが,それで全部うまくいくのかどうか,ちょっとよくまだ分からなくて……。
  済みません,こちらでも少し考えてみます。


● 全部に及んで,受託者が第三者異議を言うとか,そういうスキームもあるとは思いますけれどもね。第三債務者には分からないのですから。


● そこも前提にしなければいけないですね。


● 前提として,預金債権についてはどういう法律関係になっているということなのですか。準共有。


● 準共有だと考えて……。


● なかなか,預金についていろいろ議論があるけれども。
  それから,ちょっとこれは前回の提案と少し表現が変わりしたけれども,前回の提案は信託財産について信託の登記の後で「登録ができない場合に」となっていたのを,今度は「登録をすべきこととされていないもの」というふうにちょっと変わりましたけれども,例えば今度法人の動産でしたか,登録ができるようになりますね。


しかし,そういうものはここに入らないという趣旨ですか。

  そういうことなのだろうと思いますけれども,受益者からすると,分別管理をすることによって信託財産がとにかく守られて,分別管理するということが基本的に,あるいはそれを最大限尽くすということが受益者の利益になるときに,信託行為でもって別段の定めをすればともかくですけれども,今の場合,動産については結局全然しなくていいというルールになるわけですね。

● 動産については,物理的な分別管理は当然しなければいけませんが,そもそも信託の登記が整備されておりませんので。


● そうか,今度は信託の登記はできないのか。分かりました。
  よろしいでしょうか。


● 済みません,2点ありまして,1点目はもう先ほどから議論になっていますけれども,登記・登録を外せるようなことも認めていただけるような規律にしていただきたい。


それが無理であれば,どこかで明らかにしていただきたいということ。○○委員の御意見と同じです。

  2点目は,○○幹事からも御説明がありましたけれども,根担保のところの部分を,前回は入っていましたけれども今回外されたと。


この御趣旨というのは,基本的には忠実義務の問題なのでということで,私どもも基本的には忠実義務の問題だろうなと,共同根担保にとったものでどういう形で弁済するのかが一番なので,そういう問題だろうと思うのですが,その前の問題として,要するに共同で担保をとっているということについて,これは基本的には分別管理事務上の問題はないのですよということで外されたのか,それとも,これはやはり分別管理上の問題だから,契約に書きなさいということで外されたのか,そこら辺のところ,ちょっとお聞かせいただきたいと思うのですが。

● 事務局側としては,そこは分別管理義務上は問題がないということで,忠実義務の問題に収斂して考えたいということでございます。

● 今までは,信託の実務ではどっち--どっちといいますか,信託行為の中にちゃんと書いているのですか。


● いえ,書くことはないです。


● 書くことには,障害というか,実務上の障害はありますか。


● 業法で,「担保を取得することがあります」というようなことは書けると思うのですが,どういう状態でというのは,やはりどういう勘定がどういう形で担保を取得するかというのが非常に分かりづらいところですので,それを明示するというのは難しいのです。

  今までは,基本的に担保権というもの自体が,どちらかというと債権に付着しているようなものというふうな認識がありましたので,余り強く認識されなかったのですが,これからは担保権自体が信託財産というような位置づけになりますと,そうするとそれの登記なんかどういうふうに考えるのだろうとかという問題も出てきまして,そこら辺について別途公示のところの方で議論させていただけたらなというふうに思っております。


● 確かに今のお話を伺っていると,分別管理のところ,完全に外して大丈夫なのかという感じがしないではないけれども,もう一回改めて,さっきの担保の信託なんかとも絡めて議論を……。


● 出所は分かっているのですよね。根担保のうちの被担保債権というのでしょうか,それが信託財産の分がどれだけで,それから固有財産の……。


● 根で設定するときには,どこの勘定からどれだけ出るかというのは全然分からない。


● 担保はちょっと問題なんですね。債権の方は問題ないかもしれないけれどもね。


● 何も置かないと,ちょっと……。忠実義務が非常に問題だと思っておりますが,分別管理上全く問題がないかというと,特約ぐらいはあった方がいいのかなという気もいたします。ちょっと検討させてください。


● よろしいでしょうか。
  まだここもいろいろ議論がありそうですけれども,時間的に……。
  帳簿はできますね。

● では,「第23 帳簿作成義務等について」につきまして,説明いたします。
  
前回の提案からの相違点は2点あります。

  第1は,受託者が保存義務を負う書類及び受益者が閲覧・謄写請求権を有する書類につきまして,前回の提案ではいずれも帳簿と「信託事務に関する重要な書類」としておりましたのを1の(3)におきまして,受託者が保存義務を負う書類は,前回提案どおり帳簿及び信託事務に関する書類にとどめたのに対しまして,受益者が閲覧・謄写請求権を有する書類につきましては,3(2)のとおり,「帳簿,これに関する資料又は信託事務に関する重要な書類」というように広げる方向に改めたことでございます。
  


これは,受託者が保存義務を負う場合の書類については,これを余り広げると受託者の負担が重くなることが懸念されるのに対しまして,受益者が閲覧・謄写請求権を有する書類につきましては,あえてこれを狭める必要はないと思われるという実質的理由に加えまして,例えば現行商法におきましても,商業帳簿等の保存に関する36条におきましては,「商業帳簿及其ノ営業ニ関スル重要書類ヲ保存スルコトヲ要ス」と規定しているのに対しまして,株主の帳簿閲覧請求権に関する293条の6におきましては,「会計ノ帳簿及書類」と規定していることなどを参考としたものでございます。


  第2に,資料8ページのアステリスクに関する事項でございますが,これは第4回会議におきまして,複数の受益者が存在する信託において,受益者がどこまでの書類を閲覧できるのかという点についての問題提起があったことを踏まえて検討したものでございます。
  

帳簿等の閲覧請求権につきましては,強行規定として提案しておりましたが,信託の当事者である委託者や受益者が一定の書類を開示しないことを望んだ場合には,これを許容すべきとも思われまして,信託法に関する論考の中には,特に書類の性質を問わず,受益者自身が同意している場合には,このような制限あるいは放棄を許容してもよいという記述があるものも見受けられます。

  そこで,帳簿等閲覧請求権によって保護される受益者の利益とのバランスを図りつつ,このような制限を認めることが可能ではないかという考えもあり得るということにつきまして,賛否を含め,ご意見を伺えればと思います。
  以上でございます。


● 特に,最後に○○幹事が説明された部分が大きなところだと思いますけれども,いかがでしょうか。

● 最後のアステリスクのところについて,意見を述べたいと思います。
  基本的にはこの方向でお願いしたいということでございますけれども,前回もちょっと述べたかもしれませんが,やはり他の受益者から情報をのぞかれたくないということもございますし,また信託財産について適切に保護すべき情報があると思います。


例えば,住宅ローンの証券化などを考えますと,対象の金銭債権の債務者情報,例えば資産内容であるとか家族構成とかいうことのように,個人情報を含む場合は,やはり信託行為の定めにより制限するのが妥当だと思います。

  また,不動産証券化においては,対象不動産のテナント名であるとか延滞率等の,ある意味で同様のセンシティブ情報のほか,賃料その他賃貸条件のような,営業秘密という情報もあるでしょう。


このようなことを考えますと,やはり閲覧対象からはデフォルトで外すことができるということが妥当だというふうに思っております。


  ちょっと,質問が二つありますけれども,一つは,ここで言う,この本則であります「信託事務に関する重要な書類」というものが一体何なのかということですけれども,保存義務とか閲覧対象になるものですけれども,私の理解では現行法でこういう書きぶりはないということですので,この範囲をここで明確にしておく必要があると思います。

最終的には司法によって判断されるとは思いますけれども,例えば「信託事務に関する」とか,例えば「重要な」ということについて,具体的な事例をもって補足説明等で,少なくとも立法担当者としての見解が明らかになればなというふうに思っております。

  例えば,その対象については,受託財産に関する資料であるとか,受託者が作成した稟議書などの意思決定書類,極端なのは交渉対話記録というものが対象になるのか,また重要に関していうとどういうものが重要なのか,その判断基準が一体何なのか,どのぐらいのものが重要なのかということについて,一定の指針を示していただければ有り難いというふうに思っております。

  2点目の御質問ですけれども,若干テクニカルな話なのですが,3の(3)の①とかに「目的で請求が行われたとき」ということの規律がございますけれども,これはそういうおそれがあると受託者が感じたときに,そもそもおそれがあるということでこの理由に当てはまるのかどうか,また当てはまるということであれば,それの挙証責任がだれにあるのかということについてお尋ねしたいと思います。


● 前者,この何がこの重要な書類に当たるかというのは,商法などでも教科書での解釈によられているところでして,法文上これを明らかにするということは困難だと思います。


あとはせいぜい解説の中で,主要なものについて触れることができるかどうかという程度で検討したいと思っております。

  あと,拒否事由でございますが,立証責任が受託者側にあることは明らかでございます。

おそれというのは,これは規定上は「おそれ」ということを書いておりませんので,やはり相当な理由というのはいわばおそれでございますが,この要件に当たるということを受託者が相当な理由でもって判断すると,おそれというよりは相当な理由があると判断した場合には,初めて拒否できるということで,答えとしてはおそれはだめだと,相当な理由があればいいと,こういうことでございます。


● この帳簿作成義務について,まずアステリスクのところですけれども,これについてはこういった形で最初から除外できるというふうにするのはちょっと問題ではないかと考えております。

特に,この解説の中で挙げられておりますけれども,信託契約書につきましては,今回の立法の過程の中では,柔軟性を確保する観点から,信託行為に別段の定めを置くことによってデフォルト・ルールを外すというようなところが随所に見られ,そういった全体像からすると,受益者は結局信託契約書を見ないことには,どういった権利義務を自分が取得しているのか,負っているのかということを正確に把握することができないというふうに思われます。


したがって,この信託契約書については,こういったことで見られないようにするというのは,やはり問題が大きいと思います。


  特に,もし訴訟等になったような場合には,これは恐らく文書提出命令との関係では,いわゆる法律関係文書というふうにおとりになるのではないかと思うのですが,こうした文書について,閲覧・謄写について制限をするというのはかなり違和感もあるところですので,これは慎重に検討をお願いしたいと思います。

  それから,説明の中では,自己が受益者であることを他に知られたくないという意思があるのではないかということが述べられていますけれども,信託契約書については,少なくとも契約書の作成の仕方によって工夫の仕方があり得るのではないかと思われますし,またほかの書類についても,個人情報については一部を隠して閲覧・謄写に供するというようなことも検討されてよろしいのではないかというふうに思われます。

  それから,内容の異なった受益権を付与した場合に,他の受益者が有する内容を知られたくないと思う場合について記載されているのですけれども,これについてもそういった場合を許容する場合には,これが濫用的に用いられるということもあるのじゃないかということが懸念の声として出ておりまして,そもそもこういった内容の異なった受益権についても,きちんと受益者の監視監督といいますか,そういった機能を発揮させるということの必要性をむしろ考えるべきではないか,あるいはそういったことを制度として持つことによって,そういう濫用的な用い方がされないような形に持っていくべきではないかというふうに思います。
  


帳簿の閲覧について,全体的なところでちょっともう一言申し上げておきたいのですけれども,3の(2),(3)のところで,これは前回の議論の中でも,商法の規定を下敷きにして制度設計をされたという御説明があったかと思いますが,信託の受益者の地位と株主の地位というのはかなり違うということも一応念頭に置くべきではないかというふうに考えております。

信託の受益者というのは,信託契約関係の当事者ですし,受託者はその信託の受益者に対して忠実義務を負っておるという関係にもあります。


信託事務の処理の内容として,当然一定の説明義務も受益者に対して負っているという関係に恐らくなるのだろうと思います。


そうしますと,これと,株主等の立場というのは大分様相を異にするのではないかというふうに思われます。


そういったことの質の違いということも考えますと,やはり受託者が受益者に対して情報を提供する責任といいますか,義務については,これはきちんとできるだけ情報提供がうまくいくようにすべきではないかと,そういった観点から,この(2)と(3)で理由を明示して,かつ拒絶事由を挙げるという規律をしているということについては,やや厳し過ぎるのではないかという感想を持っております。

特に,これは集団信託の場合にはこういった規律が必要であるかなというのは分かるような気もするのですけれども,一般の民事信託とか,あるいは個別の例えば土地信託やなんかの場合を考えた場合に,こういった規律をすることが果たして妥当なのだろうか,一般の民事信託の場に,一般の人たちの感覚に合うのだろうかということを考えますと,ちょっと疑問がございますので,是非この辺は慎重に御検討いただけないかというふうに考えているところでございます。これについて,御検討,よろしくお願いいたします。


● 今の点で,2点ほどお伺いしたいのですが。
  一つは,受益者の情報入手権を重視するという観点から,制限するのはどうかという点に関してですが,これは,受益者自身が同意している場合でもだめということでしょうか。


信託行為で定めている場合は問題があるとしても,受益者が自分でいいよと言っている場合も果たしてだめなのかというあたりをどうお考えになるかというのが1点でございます。


  それからもう一つ,3の(2)と(3)が厳し過ぎるという御意見でございましたが,ここは「理由を明示して」というのは,別に裏付け資料がある必要はなくて,とにかくどういう理由かということを主張だけすればいいということでございますし,相当な理由があって拒むというのは,これは受託者の立証責任でございまして,確かに株主と受益者は違うという,同視しているわけではないのですが,必ずしも厳し過ぎるということはないのではないかと思っておりまして,どういう点が厳しいのか,具体的な規律の中身でおっしゃっていただけると助かりますが。

● まず,後者の点ですけれども,理由を明示するといった場合に,どこまで言わなければいけないのかという問題だろうというふうには思うのですが,例えば土地信託やなんかの場合で,受益者で実質的に自分が持って--土地信託でも不動産の信託でもいいのですけれども--管理をゆだねた場合に,自分のゆだねた財産がどういう状況になっているのか知りたい,確認したいということで,その程度の理由で構わないということであれば,これは余り問題ないかなというふうに思いますし,でも逆に言うと,そうすると「理由を明示して」ということをわざわざ条文にうたう必要があるのかなというふうに考えておるところで,そういった点から,その程度であれば問題ないと思いますし,逆にそれ以上の,商法なんかは具体的な理由を明示しろというふうに規律されていると思うのですけれども,そことの関係,商法と同じような形で理由を具体的に明示しろということになると,ちょっと厳し過ぎるのではないかという感じを持っているというところと,それから前者の受益者の同意については,これは同意のとられ方だと思うのですけれども,もちろん受益者がその内容をきちんと理解して,了解しているということであれば,それは許容されることだろうとは思うのですが,それが一般の権利放棄の場合と同じで,あえて条文で規律をすることもないのではないかというふうに考えておるのですけれども。

● 解釈の中で対応して,あとは信義則とか公序良俗の問題ではないかという御趣旨ですね。一律に,解釈上も否定されるわけではないということですね。


● はい。
● ごもっともな点もありますので,検討したいと思いますけれども。
 

 私も,個別のといいますか,民事信託とか土地信託とか,そういう場合については例えば3の(3)の中の①から⑦までの中の幾つかは,やはり該当しない,そういうものについては当てはまらないという場合があるのだろうと思うのですね。


特に,ちょっといろいろあるけれども,⑦なんていうのは一般的な規定なので該当するかもしれませんけれども,ちょっと実際には解釈,当てはめの問題になると思いますけれども,集団信託でないような場合には拒否できる理由というものは相当制約されるのだろうというふうに思います。
  ほかに,御意見……。


● 受託者の情報提供義務,受益者から見れば帳簿等の閲覧・謄写請求権はやはり受益者に対して与えられている,特にいわゆる共益権的な権利,監督権的な権利を行使するための基礎となるものですので,その制約はやはり慎重に考えるべきではないかと思っております。

特に,例えば信託事務に関する重要な書類について,一切見ることができないというのは,重要な書類であるのにもかかわらずアクセスできないというのは,受益者の立場からすると非常に問題で,むしろこの3の(3)に挙げられております拒絶事由をもう少し見直すことによって,先ほど挙げられた幾つかの例がこの拒絶の理由にうまく入らないというようなものがあるときには,拒絶事由の方を見直すと,こういう考え方で進んでいくのが筋ではないかと思います。

  特に,8ページの下から9ページの冒頭にかけて挙げられている部分については,受益者が自分が受益者であることを知られたくないという部分は,確かにそういう利益もあるかとは思いますが,他方で,例えば少数受益者権が認められていて,ほかの受益者に声を掛けて一定の持分割合に達するというような場合には,やはり必要性がある場合もありますので,一律にこういう利益だけで情報請求権を制約するということには,私も若干疑問があるように思われます。

● 私は,信託法といいますか,信託といいますか,これは信託行為と信託契約という私的自治の枠組の中で行われるということが多分ネイチャーなんじゃないかなというふうに思いますので,自由度の高い設計ができるようになっているというのが原則であるべきじゃないかなと思う次第です。


したがいまして,余りこういうものも開示しなければいけない,ああいうものも開示しなければいけないというよりは,信託--信託といっても本当にいろいろなものがございますので,その信託のそれぞれ性格,あるいは受益者がだれになるかというようなことも含めた上で,それはそれぞれの信託契約,信託行為の中で適切に定められていくというふうに考えるべきであって,法律上の扱いといいますか,デフォルト・ルールといいますか,そういうものとしてはおおむねこういう内容のものでいいのではないかなという気がします。

● 私も,○○委員の方からお話がありましたとおり,私的自治にゆだねられるのが一番いいのだろうと思うのです。


ただ,先ほど来お話に出ておりますように,例えば投資信託の受益者の方に対して,果たして開示しなくていいのかどうかとかいうような問題から,そういう観点から見る場合であるとか,正に一般の民事信託としてどうなのかという観点から見ると,やはり何らかの歯どめが必要なような気もします。
  

ただ,私どもが今扱っているような集団性のある信託ということを前提にする限りにおいては,やはりこの規律というのはぎりぎりのところかなというふうに考えていまして,これよりも受託者側にとって厳しいものが入りますと,やはりなかなか実務上対応が厳しいなというふうに感じておりますので,基本的には原案というものに賛成というふうに考えております。

● これ,信託法全体にわたることですけれども,商事で,かつ集団的な信託と,それから民事というのでしょうか,あるいは土地信託のような個別性の強い信託と,すべてにわたる一般法を議論しておりますので,なかなか難しいのですね。

この問題も,正に先ほどから幾つか御意見がありましたように,土地信託などについては果たしてこのルールでいいのかどうかというのは,若干私などももうちょっと検討した方がいいのではないかという点を感じてはおります。


しかし,集団信託になると,今,○○委員が言われたように,こんなところかなとも思いますので,そこら辺はほかの規定にも共通する問題ですけれども,どこら辺でどういう折り合いをつけるのか,あるいはデフォルト・ルールにして--集団信託とそれ以外とを分けるというのは,なかなかこれもテクニカルには難しいところがあって,どのぐらいになると集団信託なのかとか,なかなか線が引けないので,そこで苦慮しているわけですけれども,今,大体の御意見は出てきたと思いますので,そういう御意見を踏まえながら更に検討させていただければと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,本日はこれで終わります。
─了─

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

2016年加工編


法制審議会信託法部会
第12回会議 議事録

第1 日 時  平成17年3月25日(金)  自 午後1時00分
                       至 午後5時00分

第2 場 所 法務省第1会議室

第3 議 題
信託法の見直しに関する検討課題(9)について(続)
   信託法の見直しに関する検討課題(10)について

第4 議 事 (次のとおり)

議    事

● 時間になりましたので,法制審議会信託法部会を開催したいと思います。
  (委員の異動紹介省略)
  それでは,今日の審議ですが,またいつものように幾つかに区切って御審議をいただきたいと思います。その区切り方等につきましては,また○○幹事から説明をお願いします。


● それでは,本日の題目でございますが,以下のとおり四つに分けたいと思っております。


  まず最初に,前回の積み残しでございますが,受託者の損失てん補責任とその消滅時効の問題につきまして,御審議をいただきたいと存じます。
  

続きまして,受託者の忠実義務と公平義務の問題について,それから,引き続きまして受託者の補償請求権と報酬請求権の問題につきまして御審議をいただきたいと存じます。


  最後に,受益者の差止請求権・検査役選任請求権,法人役員の連帯責任の問題という四つの区分でやっていきたいと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。


● では,お願いいたします。

● それでは,最初に前回の積み残しとなっております受託者の損失てん補責任等と,その消滅時効等につきまして,提案の内容を御説明申し上げます。
  

まず,第24の原状回復責任及び損失てん補責任に関する提案でございますが,これは基本的な考え方は前回提案から変更はございません。


  以下では,前回提案に対する指摘事項を踏まえまして,事務局において更に検討した事項について,2点御説明いたします。


  まず,前回提案におきましては,原状を回復するには著しく多額の費用を要するときは,原状回復責任を負わないこととしておりましたが,第4回会議におきまして,ここで問題とすべきは費用の絶対額の多寡ではなくて,原状回復によって増加する信託財産の価値と,原状回復に要する費用との相対的な多寡であるとの指摘がされたことを踏まえまして,その旨を明らかにいたしますとともに,請負人の担保責任に関します民法634条1項を見ますと,「仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は,請負人に対し,相当の期間を定めて,その瑕疵の修補を請求することができる。ただし,瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分な費用を要するときはこの限りでない」という規定がありますのも参考にいたしまして,「原状の回復を要する程度が大きくないときであって原状の回復をするには過分の費用を要するとき」との文言に改めました。


  その結果,原状回復に要する費用が回復される価値に比して過分とは言えない場合はもちろん,たとえ原状回復に過分の費用を要するときであっても,信託目的を達成するためには,信託財産に生じた不具合を是正すべき要請が高いときには,なお原状回復が義務づけられることになるものでございます。
 

 第2に,我が国の損害賠償体系は金銭賠償を原則としているにもかかわらず,信託においては原状回復を原則とすることは果たして妥当であるかという問題を解決する必要があることにつきましては,かつてより指摘してきたところでございます。

  この点につきましては,第4回会議におきまして,信託の受託者は経済的な価値を扱っているのではなくて,信託財産そのものを,その態様まで含めて受託しているというのが基本的な在り方であることに関連しているのではないかとの指摘がございました。

このような指摘を踏まえまして,信託において原状回復責任を原則として考えることの当否について検討したところが,資料の12ページに記載したところでございます。

  すなわち,請負人の担保責任に関する規定に見られますように,契約の性質等によりましては,当事者の救済方法として,金銭賠償ではなくて,原状回復責任の方を基本にとらえることも可能であると解されるものでございます。


これを信託について見ますと,受託者は,信認義務の内容といたしまして,単に受託財産の経済的な価値を維持すべき義務を負うというにとどまらず,むしろ信託財産の態様を,信託目的の達成のために必要な形で管理すべき義務を負うものと解するべきであって,かかる義務に違反して信託財産に不具合を生じさせたときには,金銭賠償をすれば足りるというわけではなく,むしろ原則としては,本来の信託目的の達成が可能となるように,信託財産をもとの状態に戻すべき義務,すなわち原状回復義務を負うことになると解すればよいのではないかと考えるものでございます。平たく言うと,要するに金の問題ではないという考え方をするものでございます。
  以上で第24についての御説明を終わります。

  続きまして,第26の消滅時効等についての提案内容について簡単に御説明いたします。

  これは受託者に対する原状回復請求権,損失てん補請求権,それから仮に認めることとした場合の利益吐き出し請求権の消滅時効期間,除斥期間及びその起算点に関し提案するものでございます。
  

前回の提案を踏まえた検討事項のうち,信託行為の定めをもって委託者にもこれらの請求権を付与することとした場合の起算点につきましては,受託者の信託違反行為のときといたしましたが,その点を除きまして,ほか2点につきまして,いずれも前回からの指摘にかんがみた検討結果の概要を説明したいと思います。

  まず第1点といたしまして,損失てん補等請求権の消滅時効の起算点及び消滅時効の期間につきましては,資料の指摘事項3②,③と書いてございますが,米国統一信託法典との対比に基づく指摘の内容を踏まえまして,消滅時効の起算点については客観的な信託違反行為のときからではなくて,受益者が信託違反行為を知ったときから起算することとした方が受益者の保護に資すること,それから客観的な信託違反行為のときから進行する除斥期間の規律もあわせて導入することによりまして,受益者が信託違反行為の存在を認識しない限り,損失てん補等請求権が消滅時効にかからず,法的安定性を害するという弊害が,相当程度解消されるであろうこと,それから損失てん補等請求権の基本的性質を,債務不履行責任と位置づけることからすれば,債務不履行に基づく損害賠償請求権の場合と同様に,その消滅時効期間を10年間とすることが民法の規定と整合的であること,営業信託におきましては,消滅時効期間は商法522条により5年間に短縮されるので,営業信託の実務にも支障がないと思われること,以上のような諸事情にかんがみまして,受益者が有する損失てん補等請求権につきましては,その消滅時効は,受益者が信託違反行為があったことを知ったときから10年間,除斥期間につきましては信託違反行為のときから20年間とすることとしたものでございます。

  
次に,第2点といたしまして,第4回会議におきましては損失てん補等請求権の消滅時効の援用に当たりましても,受益債権の消滅時効の援用の場合と同様に,受益者に対する通知を必要とすべきかとの問題指摘がございました。

  この点につきましては,資料15ページ以下の4に詳しく理由を記載しておりますが,結論として,受益債権の消滅時効と同じような通知というものは不要であると解するものでございます。


理由を申し上げますと,受益債権というのは信託における基本的な受益者の権利であります上に,原則として受益者による受領を要しますので,受益者に対して権利行使を促し,これを時効消滅させることについても慎重を期するという仕組みをとることが合理的であると考えられます。
  


これに対しまして,損失てん補等請求権は,受益者の本来的な権利というわけではなくて,受託者に対する責任を追及するものでごさいまして,しかも受益者の行為がなくても受託者のみで履行することが可能であると思われますので,受託者が自身のみでできるはずの履行をすることとはせず,受益者に通知して,自己に対する責任追及を促すという仕組みをとることに不自然な感があります上に,消滅時効期間の起算に当たりまして,受託者の信託違反行為の存在を知ったことを要件とする以上,消滅時効の援用の際に改めて権利の存在及び内容を通知して,権利行使の機会を再度確保してやるまでの慎重な手続を経る必要性はないと考えられるからでございます。

  その結果,損失てん補等請求権の消滅時効及び除斥期間につきましては,時効の援用権者,各起算点及び期間につきまして信託法上に規定を設ける以外には,民法の規定が援用を含めまして適用されることとなると解するものでございます。
  以上で終わります。

● それでは,前回の積み残しの第24,それから第26,これについて御議論いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。
  大体,この辺はそれほど大きな対立点もなかったようには思いますが。

● 1点だけ。検討をお願いしたい点なのですが。


  損失てん補責任等を請求し得る者として,委託者については「信託行為に別段の定めがある場合に限る」というふうにされておりますが,委託者の方で恐らくこういった責任追及が必要な場合というのは,例えば親族関係の信託で,受益者が幼少の場合ですとか,あるいは受益者が未存在ですとか,不特定の場合ということになるのではないかと思われます。

こういった場合に,信託行為に定めがない場合に,損失てん補責任を追及し得ないというのは,ややちょっと不都合ではないかというふうに思われます。


したがいまして,この別段の定めをすればいいということになるのかもしれませんけれども,今後一般の民事信託の普及ということを考えた場合には,できるだけデフォルト・ルールとしてはそういった規定がない場合にも不都合がないようにしていただけると助かるかと思います。


したがいまして,先ほど申し上げた場合について,規定の工夫をしていただけないかというのが意見です。よろしくお願いいたします。


● 普通は,そういうときには信託管理人というのを定めるということで,信託管理人が受益者の権利を守るのだと思いますけれども。まあ,そういう問題があるというのが一つ。

  それから,委託者にデフォルトのルールとして当然にそういう権利を与えるというのは,信託の構造からどうかという問題があって,そういう意味でここでは少し慎重な立場をとっているわけですが,これについても何か御意見があれば……。
  あるいは,○○幹事の方から何か。

● それについては,○○委員が今おっしゃったような問題点がありつつ,御指摘につきましては受益者の不特定又は未存在の場合一般に通ずる問題,あるいは委託者の権利をどこまで認めるかという問題に関連するところと思いますので,関連のところで検討したいと思います。


● 細かい話で,かつ提案について賛成とか反対とかいう話ではないのですが,実務的な観点から第26についてコメントを一つです。


  除斥期間ですが,20年ということになっておりまして,これが長いか短いかというのは正しく判断の話だと思っておりますけれども,第23の帳簿保存義務というのが10年というふうになっておりますので,片や除斥期間20年ということになりますと,もちろん挙証責任の云々という話で,必ず受託者が帳簿を20年まで持たなければいけないかということはないわけですけれども,10年と20年の乖離というのをどう考えたらいいのだろうかと。保守的な受託者であれば,結果として20年帳簿を持たないといけないのではないかという懸念の声が一部あったということについて,御報告したいと思います。

● 除斥期間の場合には,これは一律に20年で切ってしまうので,逆に言えば帳簿はなくても切れるというところに意味があるのかもしれませんね。
  ほかに,御意見ございますか。

● 読み方なのですけれども,「故意又は過失により法令又は信託行為の定めに違反する」というふうに記載されているのですけれども,法令違反に関して,過失とか故意を議論するというのはなかなか観念し難いのではないかと思うのですけれども,これはかかり方としては法令違反は別であって,信託契約違反について故意・過失ということなのでしょうかという質問と,これは信託契約に対する債務不履行責任ですから,立証責任という観点からしても,ここではそこまでの,分配はまだ議論する前の話なのかもしれませんけれども,損害賠償請求する立場,また損失てん補請求をする立場の受益者が,自ら受託者の信託行為違反があるにもかかわらず過失まで立証責任を負うというのはちょっと過重ではないのかと,そんなふうに感じるのですけれども,いかがでしょうか。


● ごもっともな御意見のような気がしますが。
  法令については余り議論しなかったけれども。


● 法令の中に,故意・過失を要件としている場合があるのではないかという観点から書いているところでございますが。


● 通常の法令違反は,当然ある意味では過失ということ。法律の不知ということは,過失ということもできますので。
  債務不履行責任との関連では,どうなのでしょうか。

● これは,債務不履行責任という性質だと基本的に位置づけておりますので,受託者側で故意・過失がないという,帰責事由がないという立証が必要になるのではないかと考えているところでございます。

● 第26について,説明だけのことなのですけれども,2点ございまして,受益者に対する事前の通知を要件とする必要はないという結論についての説明は,受領が不必要だということと,それから本来の債務ではないのだという,この2点があったと思うのですが,他方で12ページでは,損失てん補責任の性質として,これは受託者の債務の内容として内在しているという点を強調しておられます。

そこが少し違うんじゃないかなという印象があるということです。それから,受領の有無で区別するというのも必ずしも決定的ではないのではないか。


むしろ,信託違反を知って,受益者が放置したという,その懈怠があるのだから忠実義務違反を問うこともなくなると,そんな説明がオーソドックスといいますか,伝統的な考え方かなという気がいたします。以上が1点。

  それから,もう1点は,第26の3と4なのですけれども,前回から出ていた問題ですが,委託者,あるいは他の受託者については,起算点は消滅時効も除斥期間も同じになるわけですね。

これは,他の法制と比べてみると,少し変わっているのではないかと。ほかは,主観的要件を加味したものが時効の起算点になって,客観的なものが除斥期間の起算点になるというのが多いと思うのですけれども,これが一致していることについて,少し説明をしておいた方がいいんじゃないかなと思います。
  以上,2点です。

● 前者の御指摘の説明文につきましては,ちょっともう一度整合性を含めて検討したいと思います。
  後者は,起算点がずれているのがおかしいのではないかという御指摘であれば,受益者については知ったときから,他の受託者とか委託者につきましては客観的な行為のときからということになっておりますが。


● そうではありませんで,委託者,それから他の受託者については,消滅時効の起算点も除斥期間の起算点も同じときから始まるというのが,ほかの法制との関係では少し特色があるのではないかということです。


● 今のは,受益者以外の者の損失てん補請求権の消滅時効の起算点を,こういうふうに客観的に定めた結果としてそうなってしまったわけですね。


● そうです。


● 多くの場合,確かに消滅時効の場合と除斥期間とで起算点が違うということはあると思いますけれども。

  ただ,必ずしも一緒になっていてだめだというわけではなくて,ほかに何か御提案はございますか。消滅時効の方の起算点を変えるわけですね。


● 消滅時効について,主観的要件を入れるということもあり得るかなとは思うのですけれども,そうした場合には,今度は受益者に比べて時効期間を少し短くするというような調整もまた出てくるかもしれませんで,かえって複雑になるから,これはこれで仕方がないかなという気もするのですが。

● こちらとしては,受益者については特に保護の要請が強いので「知ったときから」としましたが,ほかのものについてはそこまでの必要性がないでしょうし,他の受託者であれば,より信託違反行為の存在を認識してほしいという要請が強いからという気がいたしまして,客観的な時点からでいいのではないかと。むしろ,受益者についてだけ特に遅らせているというのが基本的な発想でございます。


● ちょっと私,よく分からないのですが,第26に関して14ページの説明で,損失てん補等請求権というのは,原状回復請求権及び損失てん補請求権並びに利益吐き出し請求権というものを含んだ言葉として使っているということなのですが,この利益吐き出し請求権のときの消滅時効の在り方というのが,ちょっと私,細かいところまで今頭の中で詰まっていないのですが,分かりにくいところがあるような気がするのです。

つまり,受託者がある忠実違反行為によって利益を上げたというときに,例えば受益者側で,それは信託行為としてなされているというふうに主張すれば,得られた利益というのは信託財産そのものであって,そこには時効なんて観念する余地はないのですよね。そこにある財産が信託財産になるわけですから。


  これに対して,これは忠実義務違反である,おまえはそれで利益を上げて,そこに財産がある,だからそれを吐き出せという請求の形をとりますと,これで消滅時効にかかるという形になるわけですが,この利益吐き出し請求権というものをどういうふうに位置づけるのか,追認をする,一部追認みたいな形で,物権的な救済を受益者に与えると,つまり自分のためにやっていたのだということの主張を許さないというタイプの,そういうふうな性格を持った救済方法として位置づけていくのか,それともいずれにせよ自分のためにやった限りにおいては,そこに信託財産にするという行為が必要であって,そこにおいては消滅時効というものは観念できるというべきなのか。

私は,前者であるということも十分にあり得ると。つまり,受託者の側で,これは自分のためにやったのだということを言うことは許さないということは十分にあり得ると思いますし,また追認ができないかというふうにいいますと,できるような気もするわけです。

そうしますと,消滅時効で利益吐き出し請求権も当然にこれと同じ,原状回復請求権や損失てん補請求権と同じ規律にのるのだよというふうに説明するのは,もうちょっと利益吐き出し請求権の性格を詰めてからにした方がいいのではないかという気がいたします。

● ただ,今の問題は恐らく時効についてだけではなくて,もっと一般的に利益吐き出し請求権とそれから信託違反行為を追認してというのでしょうか,それは信託財産であるということを主張する,その二つの権利の関係,そういう問題にどうもかかわってきそうですね。時効だけでおさまるような問題ではないような気がしますが,どうですか。

● 御指摘のとおり,とりあえず債務不履行というのですか,受託者の忠実義務違反の類型だということで大ざっぱにひっくるめてしまっておりまして,御指摘のとおり利益吐き出し請求権については忠実義務のところでいろいろとまた,そもそもそういう責任を認めるべきかどうか,どういう性格かというところは詳細な御議論いただく必要がございますので,その御議論を踏まえた上で,改めて同じ消滅時効の規定にのせることができるかどうか,再検討いたしたいと考えているところでございます。

● 考え方をちょっと教えてほしいのですけれども。


  この原状回復の方は,受託者のもとに戻るということですね。損失てん補は,信託財産に対する損失てん補というと,損害賠償請求--義務があるのも受託者ですけれども,それが請求するのも受託者ということで,信託財産に帰属するということなのでしょうか。


何となく考え方として,受益者という理解もできるのではないかと思うのですけれども。

  もう一つ,似たような大きい議論として,違反をした受託者のもとに戻るという--ほかのところでも議論されているのかもしれませんけれども,違反した受託者が自らに損害を賠償するというところの考え方とか,何か違反者に対してそういうことでよろしいのかなと思うわけですけれども,その辺の考え方をちょっとお知らせいただければと思うのですが。


● そこは,確かに受託者の所有名義に係るものが信託財産でございますので,御懸念はあるかとは思うのですが,一般的な議論といたしましては,原状回復にせよ損失てん補にせよ,信託財産に戻すと。

ですから,場合によってどういう行為が必要かと。要するに受託者の固有財産から信託財産に戻すというのは一種の形成的なというのですか,外部的な行為がどこまで必要かと,そういう問題はあるとは思うのですが,いずれにしても戻す対象は信託財産というところは変わりがないと考えております。

● そうすると,受益者はこの議論とはまた別に,自ら損害があれば自らの損害を一般法理として請求できるということになるのでしょうか。


● 415条の損害賠償責任は,できると考えております。


● 受益者自身が自分に損害賠償せよという,そういう権利のことをお考えですか。


● 場合によっては,ですね。


● そこは,本当はなかなか難しい問題が信託についてはあると思いますけれども,一般論としては,この信託の枠組の外の問題として,一般法理であり得るかもしれない。


● 原則はどちらに。

● 原則は,ここに書いてある規定のルールに従うわけですけれども。
  ちょっと別な話に関係するかもしれませんが,受益者自身が債務不履行責任とか,場合によっては自分の受益権を侵害されたというので不法行為による損害賠償とか,いろいろな権利を行使する可能性があるのですが,それがどこまで認められるかというのは,なかなか難しいですね。


信託財産自体を専属的にといいますか,専ら管理しているのは受託者で,受益者の損害というのは,基本的には受託者が--受託者自身の義務違反がある場合はちょっとまた別ですけれども,一般論で申し上げますと,受託者がいろいろ権利を行使して信託財産に戻すことによって受益者の損害というのは回復されるというふうに考えると,受益者自身がどこまで請求できるかというのは,結構難しい問題があるような気がしますね。


  ただ,今,○○委員が言われたのは,受託者の義務違反の場合を前提に考えられている。

● そうですね,ですから受託者に戻すのが原則だと考えます。ただ,違反した受託者に戻すということは,なかなか……。そうすると,受益者という考え方も場合によってはあり得るのかなと思った次第です。

● どうしても受託者が信用できないということであれば,受託者の解任とか,そちらで対処するのかなと。とりあえず財産は,信託財産に戻すということで考えております。

● よろしいでしょうか。

● ○○委員が最初に発言されたことに関連するのですけれども,損失てん補責任の「故意又は過失」というのが原状回復責任の要件に加えられているというところについて,ちょっと一言発言させてください。
 


 これが,受託者が負う責任の一般的な規定になると思うのですが,受託者が負う義務には様々なものがあって,例えば今日これから予定されている忠実義務とか,あるいはその中に入る利得,取得行為の禁止とか競合行為の禁止とか,そういうものが入ってきます。


こういうものに,果たして「故意又は過失」という要件を追加的に必要とするのかどうかというところは,答えを持っているわけではないのですけれども,少し細かな検討を必要とするのではないかと思います。

  それから,ばかな話になってしまうかもしれないので,そうであればすぐに撤回しますけれども,善管注意義務というのは重要な問題としてあって,善管注意義務というのは注意のレベルの問題だと言っておりますので,そういうときに法令でデフォルトのルールが定められていて,そして信託行為でもそれを動かすことは可能だとしているのだろうと思うのですが,果たしてそういう問題を,この第24の1のここに書かれている方向で要件を拾い出していったときに,どういうふうに当てはめていくのか,面倒な問題があるのではないかと思います。


それは,やはり一つは「故意又は過失」というのが,趣旨は分からないではないのですけれども,原状回復責任を負う場合の一般的な要件として書き込まれたというところに起因するのではないかと思います。


したがって,例えば受託者が運用をするようなタイプの信託で,十分な調査とか情報収集とかをせずに運用した結果,損害が生じたので,そのときにではどういうふうに考えるのか,「故意又は過失」が要るだろうというような議論になるということはそのとおりだと思うのですが,何かうまく「故意又は過失」というのが必要となる局面というのは必ずしも全部に及んでいなくて,その一部なのではないかなという感じがいたしますので,少しここはなお検討を要するというふうに考えていただけると有り難いと思います。私も,引き続き考えてみます。

● 忠実義務の方はまた後で議論になると思いますけれども,無過失責任と見るかどうかという問題がありますので,○○幹事がおっしゃるとおりだと思うのです。


  善管注意義務の方に関して,これについても「故意又は過失」が及ぶ場合と及ばない場合があるという,そういう御趣旨ですか。

● 信託事務を遂行する義務というのが善管注意義務のところの最初にありまして,それには「故意又は過失」というのをかけていくことになるのだろうと思うのですが,ただその次の項に,善管注意義務の注意のレベルについて定めているので,それが過失のところに当てはまって,そのレベルをデフォルト・ルールとして定めているものとして位置づけるのか,それとも法令の定めというところに当たるのか,あるいはそれを変更している信託行為の定めがあった場合に,そこをどういうふうに「故意又は過失」によって法令又は信託行為の定めに違反した場合というのをどういうふうに読んでいくのかというのは,やや多くの要件が競合して入り込み過ぎているのではないかなという感じがいたします。
  


基本的にそういうのが無過失責任になるだろうということで言っているわけではないのですけれども,幾つかの競合し得る要件が,何か全部書いておけばどれかに当たるだろうというような感じをちょっと受けるということでございます。

● 善管注意義務というもの自体をどういうふうに位置づけるかということで,たしかこの場か,あるいはどこか別の場所だったかで議論いたしましたが,それとも少し関係する問題ですね。
  一般論としてはこれでよさそうだけれどもという……。


● 一般論として,説明の最初のところの「故意又は過失」が必要となるというのは,忠実義務のような問題を除けば,一般論としてはそれはそれでいいのだろうと思いますが,しかしそれを表現しているときに,こういう形でいいのかどうかというのは,ちょっとまだ整理し切れていないのではないかなと思います。

● では,それはもうちょっと検討させていただきます。


● 私も,第24の損失てん補責任についてですが,結論はよろしいのですが,整理だけをお願いしたいということです。


  この原状回復責任の免責要件として,今回,先ほど一つはありましたけれども,二つ挙げておられて,「原状の回復が著しく困難であるとき」というのを一つ明確に挙げて,もう一つが「原状の回復を要する程度が大きくないときであって,原状の回復をするには過分の費用を要するとき」と。


後者については参考にされたのが請負の規定でして,これは正におっしゃるとおりでこれで結構かとは思うのですけれども,請負に関しましては,明文で規定されていますのは正に瑕疵が重大ではなくて,過分の費用を要するときのみなんですね。

  それで,それだけかといいますと,実はそうではなくて,修補請求に対して修補義務の履行が不能であると,履行不能であるといえるときには,やはり修補義務の履行は免れるということになる,解釈上間違いなくそうなっていると思うのです。


その際の履行不能というのが,物理的に不可能だというだけではなくて,もう少し広くとらえられているというのが民法の解釈論だろうと思います。

  としますと,今回挙げられました「原状の回復が著しく困難であるとき」という第1のものが,これは履行不能の御趣旨で挙げておられるのかそうでないのかというのは,ちょっと整理をした上でお考えいただいた方がいいのかなという気がいたします。それだけでございます。

  これでよいのだろうと思うのですけれども,書く必要があるのかどうか,あるとしてどう書くのかというのをちょっとお考えいただきたい。民法にもかかわってくるところですので,ということです。

● 「原状の回復が著しく困難であるとき」と書いたのは,正に御指摘のとおりの趣旨でございます。


ちょっと幅広く,履行不能をとらえているということでございますが,それとあわせて「特別の事情」ということを重複して書く必要があるかどうか,検討したいと思います。


● それでは,第24,それから第26についてまだ御議論があるかもしれませんけれども,一通り御議論いただいたということで次に移りたいと思います。

● それでは,第19の受託者の忠実義務と利益吐き出し責任のところについて御説明いたしますので,どうぞよろしくお願いいたします。ちょっと長くなりますが,御容赦ください。

  今回の資料の最初のところからになりますが,全体的な枠組をまず御説明しておきますと,実は前回の提案では,大まかに申し上げまして受託者の忠実義務に関する総則的な規定,利益相反行為の禁止規定,利益取得行為の禁止規定と分類しておりまして,更に利益相反行為については受託者が複数の信託を受託していたか否かで分け,権限行使上の競合行為,あるいは信託の機会の奪取行為という場面につきましては,利益相反行為に当たる場合と利益取得行為に当たる場合がある,こういうようなデマケーションをしておりました。

  これに対しまして,今回の提案でございますが,まず総則的規定がございまして,それから利益相反行為の禁止規定,利益取得行為の禁止規定がございまして,そのほかに競合行為の禁止規定,これは3ということになりますが,これを受託者が複数の信託を受託している場合か否かを問わず,独立の禁止類型と挙げております。

  さらに,利益相反行為,2になりますが,これにつきましては,受託者が複数の信託を受託しているか否かという切り口ではなくて,信託外の第三者を相手にする行為かそうではないのか,内部的なものが2の(1),第三者を相手にするのが2の(2)と,このような切り口で分けているものでございます。

  なお,今回の提案におきまして,競合行為の禁止については信託外の第三者を相手にする行為でありまして,かつ,受益者の利益を犠牲にする目的がございまして,更に受益者との利益相反関係があるということを要件にしている点におきましては,信託外の第三者を相手方とする利益相反行為に関する2の場合に包摂されると考えることも可能かと思います。
  


しかし,それにもかかわらず,独立にこの競合行為の禁止という類型を挙げましたのは,まず第1点として,競合行為というのは比較的ありがちな顕著な行為類型であって,取り上げるに値するということ,それに加えまして,競合行為は第一次的には信託財産にではなくて受託者の固有財産への効果帰属が問題となる点におきまして,第一次的には信託財産への効果帰属が問題となる利益相反行為とは異なる特色を有すると思われること,あと付随的にではございますが,例えば商法においても利益相反行為の禁止と競業行為の禁止とは別々に規定していること,このような点などを考慮して,独立に競合行為の禁止という類型を取り上げたものでございます。


  以上のようなデマケーションを前提といたしまして,まず忠実義務違反に関する各類型について,前回の提案に対する指摘等を踏まえて更に検討した点について,順次簡単に言及してまいります。
 


 まず,1の総則的規定でございますが,これは信託の利用の拡大に伴い,2ないし4の具体的な規定ではとらえ切れない忠実義務違反行為があり得るとの指摘を踏まえまして,訓示規定との位置づけを改め,効力規定と考えるものでございます。

効力規定と解することによりまして,資料13ページの(注1)というところに書いてございますけれども,受益者の利益を害しないものの違法性の高い行為,例えば信託財産の負担により取得した非公知の情報による一定の利得行為,このようなものを禁止の対象とできるメリットがあるのではないか。


その反面,2や3の場合と同様に,禁止の例外を明らかにする必要が出てくるのではないかといった問題が生じてくると思われます。

  次に,2の利益相反行為の禁止に関しましては,7ページから8ページの<説明>の2の(1)ないし(3)に記載したとおりの検討を加えております。


  まず,7ページの(1)記載の点でございますが,いわゆる信託財産・信託財産間の取引につきましては,その行為の実体が民法の双方代理に類似することにかんがみまして,受託者の主観的意図を要件に含めていた前回の提案を改めまして,自己取引の場合と同様に,受託者の主観的意図を問うことなく,客観的に判断して利益相反状態を生ずるのであれば,当該行為は,原則として無効となる,追認されなければ無効となるものと整理することといたしました。
 

 なお,前回会議では,受託者側からも無効を確定する手段の必要性が指摘されまして,要否を含め検討することとしておりましたが,この点につきましては資料14ページの(注4)というところに記載させていただきました理由から,このような受託者側から無効を確定する手続規定は設けなくてもよい,追認するかどうかということを請求すればよいということですが,そのように結論いたしております。


  次に,7ページの(2)記載の点でございますが,利益相反行為の効果のうち,先ほど説明した点に関係いたしますが,行為の有効性につきましては,受託者の主観的意図を問わず,客観的に判断して決せられるべきものと考えております。

  他方,受託者の損失てん補責任等の問題につきましては,先ほど御説明しましたように一般の場合は過失責任と整理しておりますが,特に忠実義務違反の場合に限っては,ここに書いてございますように,無過失責任とする考え方,過失責任とする考え方,第三として自己のために利益相反行為をした場合は悪性が強いので無過失責任,第三者のために利益相反行為をした場合には過失責任といういわば折衷的な考え方のいずれが妥当か,あるいはそれは責任の内容,すなわち損失てん補,原状回復か利益吐き出しかということによって異なるべきかということを問うているものでございます。

  最後に,利益相反行為の禁止につきまして,受益者の利益を害しないことが明らかであるときとの例外要件を設けることに伴いまして,受益者に対する透明性を確保する観点から,この場合,受託者は受益者に対し,原則としてその行為について重要な事実を通知すべき義務を課すことといたしました。


この通知と,利益相反行為の先後関係につきましては,14ページの(注6)に記載してございますが,両様あり得ると,先に通知してから行為をすることもあるでしょうし,行為をしてから通知するということもあると考えております。

  なお,信託行為の定め又は受益者の承諾がある場合ですとか,市場を介している場合など,受託者において利益相反取引がされたことを認識し得ないやむを得ない事由がある場合,このような場合には,このような通知義務を例外的に負わないこととしてよいのではないかと考えるものでございます。


  なお,付随的に,15ページの(注8)でございますけれども,これは受託者と受益者間の受益権の取引に関しまして,判例・学説上伝統的には忠実義務の問題ではなくて,せいぜい公序良俗の問題として無効になる場合があるにすぎないと解されてきておりましたが,これに対して前回会議におきましては,一定の場合,例えば信託財産の中に将来非常に価値のあるものが含まれているが,受益者がそれを知らないという状況のときに,受託者は受益権を安く買い取ってしまうというような行為は,忠実義務違反行為,利益相反行為の問題と考える余地があるのではないかという指摘がございましたので,この点についてこのような考え方をとるべきか,御意見を伺いたいというものでございます。
  


次に,「3 競合行為の禁止」でございますが,これは8ページから9ページの<説明>3の(1)及び(2)に記載とおりの検討を加えております。
  

まず(1)ですが,これは競合行為の位置づけに関するものでごさいまして,今回の提案においては独立の禁止類型として挙げることとしたこと,先ほど説明申し上げたとおりでございます。


  次に,(2)でございますが,禁止される競合行為に当たるための要件として,「受益者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図る目的」を加えていることに関しまして,むしろ米国統一信託法典のように,当該競合行為が信託に属すると見るのが適切な機会を利用したものか否かという客観的基準によるべきではないかとの指摘を踏まえて検討したものでございます。
  

結論といたしましては,客観的基準のみによるときは,禁止されるべき競合行為の範ちゅうをしかるべく限定することができず,過剰な規制に陥るのではないかとの観点から,主観的要件をも加えることが相当と判断するものでございますが,御意見を伺えればと考えております。

  なお,付言申し上げますと,これも前回指摘があったことでございますが,受益者の利益と第三者の利益とが相反する場合につきましては,利益相反行為の禁止であれ競合行為の禁止であれ,受益者の利益を犠牲にして第三者の利益を図る目的があることを忠実義務違反の要件としております。

しかし,仮に,この目的要件を満たさないために忠実義務違反に問われない場合におきましても,別途,善管注意義務違反に問われ得る場合があることがあることを,13ページ(注3)のとおり確認するものでございます。

  なお,9ページの末尾には「(注4)」と書いてありますが,「(注3)」の誤植でございますので,御訂正をいただければと存じます。忠実義務違反と善管注意義務違反はあくまで別個に考えられるということを確認させていただいたものでございます。
  

次に,「4 利益取得行為の禁止」に関しましては,10ページの<説明>4に記載したとおりの検討を加えております。

  まず,前回の提案でございますが,3類型設けまして,信託財産を利用して利益を取得する行為,例えば預かった土地の上に建物を建ててもうけた,信託財産であるダイヤを展示してもうけたと,こういう場合でございます。

それから,信託事務の処理に当たって利益を取得する行為,リベートなどを受け取ったというようなことでございます。


それから,信託財産に係る情報を利用して利益を取得する行為,この三つを禁止の対象の候補として挙げておりました。


このうち,特に③番目の情報利用行為につきましては,禁止対象となるべき行為,すなわち情報の内容を適切に限定しないときは,規制の内容が漠然となって受託者に困難を強い,翻って信託事務処理にも過度の萎縮効果を与えかねないこと,しかるに情報というのは抽象的なものであって,そもそも定義した上で限定を加えるといったことも困難であるという指摘がされました。


  このような指摘にかんがみまして,今回の提案では,利益取得行為の禁止の対象からは情報利用行為を外すことといたしまして,5ページに記載のとおり,これを外した甲,乙,丙の3案を提示するものでございます。


ただし,情報利用行為につきましては,それを一般的に利益取得行為の禁止の対象とすることは外しますが,信託に係るいかなる情報の利用行為をも忠実義務に抵触しないとまで考えているわけではなくて,特に違法性の強い信託情報の利用行為につきましては,別途忠実義務の一般原則に関する1の規律を効力規定と解することによってつかまえることができるのではないかと考えることは,先ほど申し上げたところでございます。

甲案ないし丙案のいずれが妥当か,あるいは情報利用行為についての今申し上げたような考え方が妥当かなどにつきまして,是非とも御意見をいただきたいと思っております。

  次に,前回の提案では,禁止の原則規定の方では利得の性質について特に限定を加えず,例外規定の方で正当な理由がある場合を除外しておりました。これに対しまして,今回の提案では,禁止の原則規定の方で不当な利益であることを積極要件とすることに改めたものでございます。


  なお,前回会議では,「正当な理由」という要件の内容をより明確化すべきとの指摘がありまして,このような指摘は不当な利益であることを要件とした場合にも同様に当てはまると解されますが,今後不当性の要件の明確化につきましては,例示を挙げることなどによって努めていきたいと考えているところでございます。

  続きまして,要件の話はいったん終わりまして,次に忠実義務違反行為の効果に関する提案について,御説明を続けさせていただきます。効果につきましては,11ページからということになります。


  まず,利益吐き出し責任の根拠に関する分析を除きますと,基本的な考え方につきましては前回提案から変更はなく,11ページの<説明>5に記載したとおりでございます。


  なお,利益相反取引の場合における第三者との間の取引の効果が信託財産に帰属するものとするか否か,換言しますと,無効な自己取引を追認するか否かということは,受益者の権利でございますし,信託違反行為の取消権も前に申し上げましたが受益者のみの権利であると考えておりますところ,競合行為ないし利益取得行為の場合におけるその取引の効果を固有財産から信託財産に引っ張ってくる,帰属させるというような行為,このような効果を生じさせる権利につきましても,当該行為の効果帰属の所在が信託財産か固有財産かを決定する基本的な権限として,受益者のみの権利であると考えているものでごさいますが,では受益者が複数いる信託において,この権利の行使が単独でできる権利であるのか否か,あるいは受益者間において選択が異なる場合にはどちらが優先するか等の問題につきましては,ここに限らず,例えば損失てん補と原状回復など,種々の場面で問題になりますので,別途受益者複数の問題のところなどで検討したいと考えているところでございます。
  

最後に,利益吐き出し責任について取り上げているところにつきまして,若干御説明を申し上げたいと思います。

  まず,受託者にこの責任を認めるか否かというのは,結局忠実義務違反の予防による受益者の保護の要請をどこまで認めるかにあるところ,その規律の在り方としては,資料6ページの5において,あくまでも実損による損失てん補を原則としながら,忠実義務違反による利益の額を損失の額と推定することによって損失の金額の立証を容易ならしめる規律を設けるにとどめるべきとする甲案と,それから正面から利益吐き出し責任を認めまして,忠実義務違反による実損を超える額の利益を受託者が得ている場合には,その利益の返還までも受託者に義務づけるべきとする乙案とを提案していることは前回と同様でございます。

  なお,この乙案におきましては,利益吐き出し請求の請求権者には信託行為に別段の定めがある場合の委託者を含むということが書き漏れておりますので,追加して訂正申し上げます。
 


 ところで,前回の提案におきましては,利益吐き出し責任を正面から認める今回の乙案を採用するとした場合の法的根拠についての検討はとりあえず置きまして,このような乙案をとることによって受益者の保護が甲案に比して具体的にはどのように強化されることとなるかという実際的な観点から3点ほど考えまして,一つは善管注意義務のもとでの損失てん補責任の規定によっても損失としては把握し切れない受託者の利得部分についても,その吐き出しを請求できることとすべきか,それから実際に受託者の利益に相当する金額の損害は信託財産に生じていないという反証を受託者に認めないこととすべきか,更には利益取得行為の禁止も認めるのであれば,その実効性を確保するためには,受益者による損失がないとしても受託者の利益を吐き出させることとすることが不可欠ではないかなどについて検討する必要性があるとの指摘をさせていただきました。


  これに対しまして,今回の提案では,このような実際的な観点からの検討に加えまして,利益吐き出し責任の法的な観点からの検討の視点を明らかにしたつもりでございます。


そして,資料12ページ以下の<説明>において示しました事務局の考え方を端的に申し上げますと,利益吐き出し責任の法的根拠といたしましては,不当利得の問題としてとらえる考え方,あるいは準事務管理の問題としてとらえる考え方などがございますが,受託者と受益者間には信託という一定の法律上の原因が存在することにかんがみますと,法律上の原因が存在しないことを前提とする不当利得や事務管理の問題としてとらえることが必ずしも適切な結論を導かないのではないか,むしろより端的に,利益吐き出し責任は受託者の債務の内容であるとして,すなわち信託における受託者の債務は,信託行為に定められた範囲を超えて信託財産を使ったり,受託者としての地位を利用したりすることによって,仮に信託財産に損失が生じていなくても利益を得てはならず,仮に受託者に利益が生じた場合には,それを信託財産に帰属させなければならないということを債務の内容として含むものと構成して,解決すべきではないかと考えているものでございます。

その上で,利益吐き出し責任を正面から認めるべきかにつきましては,今回の資料に記載しましたとおり,信託における受託者に,かかる重い債務,すなわち利益取得行為を独立の違反類型として規律した上で,利益相反でとらえ切れない受託者の利益を吐き出すべき義務,あるいは利益取得行為の類型を独立して規律しないこととしても,なお損失てん補プラス善管注意義務違反ではとらえ切れない更なる受託者の利得を吐き出すべき義務,このような重い義務を課し得るだけの十分な立法的根拠があると言えるかという理論的な側面,それから前回の資料に記載したところでございますが,受託者にかかる重い債務を課すこととしてまでも忠実義務違反を予防して,受益者の利益を保護すべきか,それとも吐き出すべき利益の程度いかんによっては,受託者に過度の萎縮効果を招き,信託財産にとってもかえってマイナスではないかなどの実際的側面,このような両面からの検討が必要となると思われます。


  この点につきましては,これまで必ずしも十分な御議論のなかった部分ではないかと認識しているところでございますので,本日は是非とも詳細な御審議をいただければと願うところでございます。

  最後に,第20の受託者の公平義務でございますが,公平義務につきましては,忠実義務の類型と考えておりますのであわせて説明させていただきます。


  前回も申し上げましたとおり,公平義務の位置づけにつきましては,一人の受託者が複数の信託を受託している場合の複数信託間の利益相反が忠実義務の問題,一つの信託の中に複数の受益者がいる場合の複数受益者間の利益相反が公平義務の問題であると整理しておりますところ,前回会議で指摘されましたとおり,一つの信託の中に二人の受益者なのか,二つの別々の信託なのかということは容易に互換性のある相互に代替的な法律構成の違いにすぎないと考えられますことから,忠実義務と公平義務とは基本的に同じルールに服するのが適当ではないかとの観点のもとに,改めて整理を試みたものでございます。

  このような観点から,まず第1に公平義務の例外要件といたしましては,基本的に忠実義務の例外要件と同じ規律を設定することといたしまして,受託者がその行為を行うことについて,正当な理由があるときと判断した場合には,その行為について重要な事実を事前又は事後に,不利益を受けるおそれのある受益者に通知しなければならないといたしております。

  それから,公平義務に違反した場合の効果に関するアステリスク3におきましては,忠実義務に関する規律と同様に,固有財産と信託財産間で行ういわゆる自己取引の場合,それからいわゆる信・信間取引の場合を今回は追加いたしますとともに,3番目といたしまして受託者が受益者を含む第三者との間で行う行為については,受益者か受益者以外の第三者かで区別することなく,同様に取引の安全を図る必要があるものと考え,原則として有効との規律をすることを提案しております。


  なお,(3)では,受託者の主観的要件を問わず,客観的な見地から公平義務違反を認定した上で,正当な理由があるときは例外要件として外すとの形式をとっておりますが,仮に忠実義務に関する規律と平仄を合わせるのであれば,ここは受託者の主観的目的,すなわち特定の受益者の利益を害して第三者の利益を図る目的というようなものを要件とした上で,正当な理由をもって例外要件とはしないという規律とすることも考えられるのではないかと思うところでございます。


  最後に,例外要件の一つたる「正当な理由があるとき」とは具体的にどのような場合であるのかとの指摘が前回ございました。


この点は,抽象的に申し上げますと公平義務違反の有無はあくまで形式的に判断するとの立場に基づき,形式的には公平義務に違反するけれども,他の諸事情を考慮すれば実質的には違反しないという場合を救済することを意図したものでございます。

この中には,例えば20ページの(注)の①のとおり,いわば一つの行為を横断的に見て実質的に公平に反しないと考える場合と,それから②のように,いわば複数の行為を縦断的に見て実質的には公平に反しない場合とがあると考えるものでございます。
  以上で説明を終わらせていただきます。

● この忠実義務のところは非常に重要な問題ですけれども,なかなか全体像をつかまえることも非常に難しいところですので,是非御意見をいただきたいと思いますけれども,私自身も何度か読んでいて時々混乱してくることがあるのですけれども,大きな分け方として,第1の総則的な規定がありますね。

あくまで大きな分け方として。次は利益相反と言われるもので,そこでの利益相反は従来と違って非常にいろいろな効用が入ってきますけれども,基本的には受益者の利益が何らかの形で侵害されるというタイプをすべて利益相反として入れているということですね。


● はい。


● そして,競合行為というのは,利益相反の中の一つの特殊な場合ということですね。


● そういうことです。

● そして最後,利益取得というのは,今度は受益者には損害がなくて,専ら受託者が何らかの形で利益を取得する,そういう理解でよろしいですか。


● はい,そのような分類で結構でございます。


● ということで,私もそれなりに大きな枠組のところは……。だんだんテーマが大きくなってきたものですから。


● 重要なところですので,ちょっと長くなりますが。

  まず,全体の大きな問題が一つと,あと個別の問題3点,申し上げたいと思います。


  まず,全体の大きな問題のところですけれども,前回の御提案の方と比較しまして,先ほど○○幹事の方からも御説明がありましたけれども,枠組が変わったということで,この点については非常に分かりやすくなったかなというふうな感じを持っております。


その分かりやすくなった中で,全体を通して見ますと,忠実義務違反の類型として4番のところの利益取得行為というものが果たして必要なのかどうかというような感じを持っております。

  例えば,例の13というのがありますけれども,これについては今検討されている信託法の中では,権限外行為についても信託財産に帰属するのですよということになっておりますので,受益者が受けた収益というのはそもそも信託財産に帰属するというような考え方もあるのではないかと,そうするとそれを受託者がとってしまっているということですので,基本的に信託財産に損失が生じているということも考えられるのではないかと。

  一方,例の14につきましても,リベートを受け取っているということですけれども,リベートの相当額だけ不動産の売却金額がふえたと,本来ならふえたのが減ってしまったというようなことも言えますので,これについても信託財産に損失が発生しているという考え方ができるのではないかと。


ということを考えますと,4の利益取得行為という類型については,基本的には2の利益相反行為に,場合によっては3の競合行為の類型にほとんど入ってしまうのではないかなというふうに考えられます。


  仮に,4の利益取得行為について,今申し上げたような形で整理が可能であるとすれば,利益相反行為又は競合行為についての違反の効果として,物権的な救済であるとか債権的な救済というのが用意されて可能になっておりますので,実質的に考えるとこれは利益吐き出しになっているのではないかというふうに考えられます。


そうしますと,あえて5のところの利益吐き出しというような規定というのは要らないのではないか,実質論から考えると,利益相反だけで考えていって,その違反の効果というものを考えると,わざわざ類型として分けなくても,全く同じような効果があるのではないかというふうな感じがしております。


  忠実義務違反の効果につきましては,2の利益相反行為と3の競合行為について,固有財産に存在します取引の対価であるとか利得が信託財産に帰属するものとして,さきに申し上げた物権的な救済であるとか,あとは債権的な救済であって,我々の実務で考えますとかなりこれ,重いサンクションなんじゃないかなというふうに考えております。

  それに,またプラスアルファするところの,例えば中間最高値のところの部分での吐き出しをせよとか,これについては余りにも重いんじゃないかなというふうに考えておりまして,今申し上げたような利益相反という形の類型にした上で,それの効果をもって利益吐き出しにかえるというか,そういうような考え方ができるのではないかなと思います。

  このような整理を行った場合については,現行実務で想定されるところでいきますと,今申し上げたように利益相反と競合行為,これで大体おさまるのかなという気がするのですが,どうしても捕捉し切れないような非常に悪性の強い場合,悪性の高いようなものがあった場合については,この1の総則的な規定ですけれども,これを効力規定として使うというようなことも考えられるんじゃないかなと考えております。これが全体の大きな問題でございます。

  次に,個別の問題でございますが,これについては2の(1)の②のところの部分ですけれども,これは信託勘定間の利益相反行為の要件のところで,受託者の主観的要件が削除されているというところでございますが,このような取引については,基本的には信託財産と固有財産との間の取引と同じようなものだろうなと,基本的には相手方がないような,内部取引だということだと思いますので,今回の提案の方がバランスがとれているのではないかなと思いまして,これについては異論はございません。


  次に,2の(3)のイの受益者の利益を害しないことが明らかであるときに,受益者に対して重要な事実を通知するという御提案ですけれども,これについても学者の先生方から,必要性について御説明があって,これについても理解ができますので,異論はございません。

  ただ,これについてはちょっと業法の問題かもしれないのですけれども,例えば受益者がプロであるような場合であるとか,あとは投資信託のように受託者が受益者の名前とか所在を知らない,分からないような場合,そんな場合であるとか,あとは委託者であるとか委託者から委託を受けた指図権を持ったような人が指図するとか,それで利益相反になってしまうような場合ですけれども,そのような場合については,例えば通知義務というのはそういう人がするのではないかとか,そういう実務の観点から見ると細かい問題があります。


そういうような問題については,アステリスクの5のところで,電磁的方法であるとか公告による通知の方法であるとか,また信託行為の定め又は受益者の同意により通知の省略が提案されておりますので,これとあわせてもう少し検討を加えていただければなというふうに考えております。


  あと,先ほどちょっと出ておりましたが,7ページの2の(2)の説明のところの利益相反行為として受託者が損失てん補等の責任を負担する場合についてですけれども,やはりこれについては前にも主張させていただきましたが,②の過失責任とすることが自然ではないかなというふうに考えております。
  ちょっと長くなりましたけれども,以上でございます。

● 利益の取得禁止というところですね,これが一つの問題点だったわけですが,これ,仮に○○委員がおっしゃったように利益相反の中に結局は解消されるのではないかというふうに考えたときに,利益吐き出し責任の5として今甲案と乙案が出ていますが,甲案であればおかしくないということになりますか。

● 今申し上げたところからすると,整合するかもしれませんが,特段こういう形のものも設ける必要もないのかなと思っておりますが。


● ほかに,御意見ございますか。


● 実務の立場からコメントしたいと思います。


  議論がたくさんありますので,まずは総論的なこと,それから今回位置づけが変わりました1の総則規定について,まずは述べたいと思います。


  結論から言いますと,効力規定化するということについては,なお検討ということだと思います。
  

まず,全体的な印象を申しますと,実務者としては,これは全体の規定ぶりというのが非常に分かりづらいということです。


先ほど○○委員がおっしゃられたように,前回の提案よりは比較していいのかもしれませんけれども,なお分かりづらいかなというふうに思っております。


そういうことで,検討段階においてはやはり分析して検討すべきだと思いますけれども,法文化する段においては,やはり分かりやすい文章といいましょうか,使われやすい文章にしていただきたいと思っております。

  これがなぜ分かりづらいのかということは,各論にもいろいろ述べたいと思いますけれども,まず一般規定の効力化というところで分かりづらくなっているということを述べたいと思います。


  まず,1の忠実義務があるかどうかということについては,これはもちろん一般規範としては疑いのないということと思いますし,また別の問題になるのかもしれませんが,公法規範でありますけれども,改正信託業法においても,今般「信託会社は,法令及び信託の本旨に従い信託財産に係る受益者のため忠実に信託業務を行わなければならない」というふうに明確化されたところでございます。


しかしこれは,私法上の効力規定をここでこういう形で行うことについては,なお次の点をあわせて考える必要があると思っておりまして,問題提起を主に2点したいと思っています。
 


 まず第1点は,ここで規定化された2から4,つまり利益相反,競合行為,利益取得行為の3類型と,それから1の一般規定との関係が不明確にならないのかということです。


先ほどの御説明では,漏れがある場合にこれの適用をするということでございますけれども,すなわちまず2から4の行為については,この1の規定と排除する排除されない関係にあるのかどうかということです。

例えば,競合行為の禁止に当てはまりますといった場合に,抽象的には競合行為ということに当たるわけですが,実際3で規定されている要件の中に一つ落ちていたものがあった場合,例えば競合行為の類型なのだけれども,その主観的な要素がなかったとか,又は免責といいましょうか,禁止の例外に当たった場合に,これはもう3の規定で一応閉じているわけだから,もう1の規定は適用がないというふうに考えるのか,いや,そうじゃない,3の類型に当たらないという場合であったとしても,やはり最終的には1がキャッチオールとして,先ほどの説明では違法性の高いものということが出ましたけれども,そういうものは適用されるのだということなのかどうかということがよく分からないということです。


  仮に,情報利用規定についてここで説明されておりますけれども,違法性が強いものはというものが入った場合に,ではどういうことが1の類型に当たるメルクマールなのかどうかということが明確にならないのではないかということです。

  例えば,これは4の類型になるわけですけれども,4の類型であったとしても,ここに規定がないということで排除されたと思ったところ,ではそれが違法性が強いということを一つのメルクマールとして,では1の類型になるということになると,ますます,1と,2から3の関係がよく分からないということです。


こうなりますと,やはり実際の受託者の立場からすると,萎縮効果が出てくるのでよろしくないのかなというふうに思っております。

  それから,第2に,そういったあいまいさを残してしまうと,利益吐き出しルール,制定されるかどうかとは別の問題として,もしこれが制定されるのであれば,なお萎縮効果が強くなるのではないかなと思っております。


そのために,御説明にもありましたけれども,では1の類型を効力規定化するとしても,それではやはりこれをもっと明確化するべきではないかという話になると思うのですけれども,こうした場合に,もし1の類型をもっと明確化した場合に,また同じ2から4のような細かな議論が出てきて,結局その議論が循環してしまうのではないかと。

また,禁止の例外を書いた場合に,それも同じような議論が出てくるのではないかということになりますので,非常に1の規範というのを効力規定化するということは余りよろしくないのではないかなという気がしております。

むしろ1の規定を規定化するよりも,2から4の規定が過不足ないかどうかということを検証するという方がまず先ではないかのかなと。

又は,それで漏れるものがあるのでは,その漏れるものを別の類型として出すのがいいのではないかなというふうにも思っております。

  それから,最後に御質問が1点ございますけれども,1について,「法令又は信託行為の定めに従い」ということですけれども,これは基本的には信託行為でデフォルト化を認めているという話だというふうに理解しているのですけれども,これは忠実義務の程度を減らす,縮減するということも可能だということを考えているということでしょうか。


そうした場合に,2から4との関係というのがどうなるのか,正しく2から4における禁止の例外のところでデフォルト化ということもうたわれていますけれども,それとの関係というのがどうなるのかということも,同じような文脈において1と2から4の類型があいまいであるということの問題が出てくるかなと思っています。


  ちょっと長くなりましたが,以上です。


● 1にどういう意味を持たせるかという点で,これは前から議論にあったと思いますね。

● まず第19の1を効力規定とするというのは,これはこういう種類の条文だったら当然のことかなと思います。


ただし,今,○○委員がお話しされたように,2,3,4に当たらない場合でも,それに近いようなやつが1に当たるとか,そういうような話になりますと,これは2,3,4の定め方の問題かなと思います。

要するに,現段階で分かっているもので,具体的にできるものはできるだけ具体的に規定する,それ以外で現段階で分からなくても,やはり忠実義務違反ということでそこにかけて妥当な結果を導くことができる道は残しておく,そういう考え方が基本的に必要なのかなと思います。

  それで,特に4,5に関して若干更に意見をつけ加えたいのですが,4の「利益取得行為の禁止」のところで,先ほど○○委員の方からもお話がありましたような情報利用の関係ですが,これは特に違法性が強い場合は,場合によっては1に当たるのではないかというような,そういう記載もありますけれども,それについてはそういうものがあると現段階で具体的に判断されるならば,それは4の(1)の甲案に①,②と二つありますけれども,前回のクールでありましたような情報取得によって不当な利益を取得する行為というのを,もうちょっと限定的に何か入れるような工夫ができないかということを考えております。
  


例えば,「不当な利益」というのは相当限定されるはずなのですね,具体的な情報利用行為によって利益を得たって,それが不当であるかというと,むしろ不当でない場合は幾らでもあると,そこらあたり限定されますし,更にそれ以上にもうちょっと限定する方法があれば,ここに入れた方がいいのではないかと考えております。

  それから,利益取得行為の禁止で,禁止をして,次に5の利益吐き出し責任の方にいきますけれども,禁止をした以上は,取得した利益を吐き出させるという制度にしないと意味がないということで,5では当然のことながら乙案になるはずだというふうに考えます。

  ここで,具体的に乙案というか,利益を吐き出させる根拠として,13ページの方に,先ほどの御説明でこれは信託の場合の受託者の債務の内容ということで説明するというお話で,それは確かに分かりやすい考え方で賛成いたします。


更に,何でそれが債務内容になるのかという根拠として,13ページの上から8行目あたりから三つほど根拠が書かれていて,「当事者の合理的な公平感に合致するからなのか」とか,その下にいくと,「効率的な財産の利用を生じさせるからなのか」とか,更にその下に,「信託においては……特に課すこととしなければならない必要性があるからなのか」と,三つほど根拠として考えられることをここに書かれていますけれども,このうちの3番目の信託の場合,特にこういう利益吐き出し責任というのを課す必要があるということに関連して,具体的なお話を一つだけさせていただきたいと思うのですが。

  この信託を原因とする不動産の所有権移転登記は,司法書士が行うわけですけれども,それに関する情報は,したがって司法書士のところに集まりますが,これは弁護士を介した伝聞ですけれども,司法書士会の役員の話として,信託を原因とする不動産の所有権移転登記を扱うと,事件屋的な人間が信託の受託者として登場するケースが複数出てきている,高齢者とか認知障害の人とか,そういう人がうまい話に乗せられているとか,あるいはだまされているのではないかと心配していると,そういうような話が最近の話として伝わってきておりまして,そういう場合に利益吐き出し責任を明確に規定しないと,抑制できないのではないかというふうに考えます。

信託の場合,所有権が移ってしまうわけですから,こういう事件屋的な人にいいように利用されても,損害のてん補しか請求できないといことでは,抑制できないということだと思います。したがって,利益吐き出しを規定する必要性は,特に信託の場合あるのだと考えております。

● 今の○○委員の意見と違うところもあるのですけれども。


  先ほどから御発言されている方は,信託銀行が行っている商事信託を前提とされていると思うのですけれども,信託法である以上,民事信託ということも当然対象となりますし,民事信託の場合で考えるべきこととしましては,今の○○委員のお話に近いところがあるのですけれども,やはり悪質な受託者ということと,善良な,又は無知な受益者という視点も必要だと思います。それが,この辺の議論に大きく影響してくると思うのですけれども。


  まず,信託行為の定めが必要であるといいましても,受益者は信託行為に関与することはできませんから,やはり一般規定として忠実義務というものは必要でありますし,それは効力規定であることも当然といいますか,受益者救済のためには必要だと思いますし,なおかつ信託行為の定めというよりは,やはり信託の本旨というふうにしていただかないと,信託行為自体にはほとんど大したことは書いてないという状況もあり得るかと思います。

  それとの関連で,忠実義務一般についての適用除外規定はここでは議論されていないようですけれども,当然のことながら忠実義務一般についてないというような例外規定を設けることはあってはならないと,かように思います。

そうでないと,受益者の保護という視点から,信託法自体がデフォルト・ルールとして救済できないことになってしまうかと思います。
  


あと,大きい話だけということに限りますけれども,およそ受託者の違反行為,違法行為というものはすべて利害的には受益者の利害に反しているわけでして,それを一般的に利益相反行為だというふうにとらえてしまって--そこまでおっしゃっているとは思いませんけれども--細かい議論をしないというのは,せっかく議論を詰めているわけですから,やはり細かい議論はしていくということだと思います。

ただし,それだけでは必ずしも全部フォローできない,要するに利益相反行為とか競合行為とか利益吐き出し責任とかいうだけではまだフォローできない。


先ほど,違法性が高いとおっしゃっていましたけれども,違法性があればそもそも違法性の多い少ない,高い低いということを議論をせずに,忠実義務違反であると思いますし,違法性までいかなくても,本来受託者として不誠実な行為,不適切な行為というものは,経済的に見積もれなくても,忠実義務違反であると,信託行為に定めがなくても受益者としては救済措置が認められるべきではないのかと,かように思います。

● 私も大きな問題について少しと,あと,小さくはないと思いますが,論点二つについて申し上げます。


  今まで,お話を伺っていて,○○委員の御意見は,1から5まであるわけですが,1,2,3があれば4と5は要らないだろうという御意見だったと思います。


○○委員の御意見は,2と3と4を充実させて,1は外そうという趣旨だと理解しましたが,どちらにも反対であるということです。
  


ごく簡単に言えば,今まで我々の信託法には22条というのがあって,それが忠実義務だというふうに言われていたのですが,非常に中身が薄いものであった。

今回,ちゃんとした忠実義務の規定を置こうということなので,そういう意味でこの前の提案以上に非常に今回の提案はよく考えていただいたものだと理解していて,非常に手厚いものになっていると思うのです。


○○委員がおっしゃるように,あるいは○○委員もそういう趣旨だと思いますが,重複する部分があって,それぞれの項目で賄えるものと賄えないものというのがはっきり分からないようなことになっているのですが,私の考えは,今回は重複は害をなさずということかなと思っているのです。
 

 それで,1については,やはり信託の要ですので,我が国のこれから参入しようとしてくださる信託の世界へ,しかも受託者として入ってこようという方たちが,信託というのは何だろうかというのが分かって入ってくるかというと,それはやってみないと分からないという話になるので,やはり忠実義務というのが本当に要ですので,この1を落としては何の新しい信託法かということになり,それを訓示規定ではなくて,あとは裁判所の裁量のところは信頼することになると思いますけれども,やはり効力規定としてまず高らかに宣言する必要があるだろうというふうに思うわけです。

  あと,2,3,4と,それから1というのが,1がオーバーオールで2,3,4がそれを分解しているのだと私も理解しておりますが,4も結局2に入るのではないかという○○委員の御意見は,そう言ってしまえばそうだということなのですが,今回,きちんとお考えになっていただいた5の利益吐き出し責任をどういう形で法律上説明するかというのは,日本ではなかなか現実の問題としては難しくて,今回のように4を書いておくことによって,5の乙案に結びつけるというのは非常に卓見であって,やはり信託の債務の内容としてこういう利益取得の禁止というものがあるから,こういう利益吐き出し責任が出てくるというふうにつなげるのは,非常に分かりやすい気がするわけです。


私は,本当は政策論としてこういうものが必要だというふうには考えておりますけれども。

  それから,甲案では,実際のところ日本の損害概念というのをどんどん薄めていくだけで,そのことによる悪影響だってあるし,また実際に甲案をとったときに,反証を許すようなケースがあるとか,あるいはそれで賄えないような,乙案でないとだめなようなケースというのは現実に出てきそうな気がしますから,やはり乙案でいくべきだと思うのですが,そういうことを考えると,重複はあるのかもしれませんが4を置いておくということには非常に大きな意味があるだろうと思います。

  あと,2点だけですが。
  ここで5ページ目の「利益取得行為の禁止」のところで,甲案,乙案,丙案と一応列挙してありますので,私の考えだけを申し上げれば,丙案は今言ったことですが論外として,甲案,乙案で,これは結局信託関係を利用して受託者が利得を図ってはいけないという,忠実義務の基本のようなことをただ書いてあるだけのものを,更に日本では信託財産を利用する場合と信託事務の処理に当たる場合と,それからもう一つ情報の話があるわけですが,そういう形で細分化して精密に考えているということだろうと思いますけれども,具体的な事案によってはどれもいけない場合があるということだろうと思いますので,乙案を採用した場合に,甲案の②のようなケースは,これはもう禁止行為に当たらないのだという反対解釈がない限りは,それもまた第1項目のところで救うことはあり得べしということになるのかもしれませんが,そうでない限りは,私にとっては本当はどれでもいいのですけれども,普通に考えればやはり甲案でいった方がいいかなというふうに考えております。

  それから,7ページの過失責任,無過失責任という考え方も,結局日本における過失の考え方がどれだけの意味があるかということに帰着するのだろうと思いますが,一応これは参考になるかどうかはともかくとして,英米では,この忠実義務については無過失責任だというふうに考えているということだけ付言いたします。


● いろいろ御議論いただきましたが,今のところこの1の総則的な規定,これを置くことの是非と,それから……。

● 1点,これは言葉じりをとらえているようで問題かもしれないのですが,○○委員が,萎縮効果ということをしきりに言われる。この問題だけは,萎縮効果を持たせるべきです。一言,ちょっとつけ加えたいと思います。

● 目指すところは○○委員と同じだと思うのですが。つまり,よい信託を広げたいということで,ではいかによい信託受託者を参入させ,悪い信託受託者を排するかということでして,私の発言は,どちらかというとよい信託受託者をなるべく多く参入させたい,その中で不要な萎縮効果のあるものはなるべく排除したいという,そういう観点で申し上げております。

  その中で,ちょっと先ほどの話を,○○委員の御意見を踏まえてもう一度お話ししますと,基本的に1の効力要件化ということについては,別にそれに対して絶対反対かというとそうではないのですが,ただ結局整理の仕方の話と,それから利益吐き出し責任の萎縮効果が強いということがあれば,1ということについてそのまま効力要件化するというのはなお疑問が出てくる,そういう話でございます。

  利益吐き出しルールの話を,なぜ萎縮効果というふうに見ているのかというところから御説明した方がよかったのかもしれませんが,その点,基本的には受益者に対する保護と,裏返すと受託者に対する監督,抑制効果ということになると思うのですけれども,それについては基本的には○○委員もおっしゃられましたように,一定の物権的な救済も図られるわけですし,また損害賠償とかああいう法制もありますので,それ以上のものが本当に必要なのかどうかということでございます。

  あと,ほかの法体系との平仄と,前回この場で吐き出しルールというのは日本の法制度に合うのかどうかということを問題提起いたしましたけれども,それについては今回一応の御説明はいただいておりますが,例えば委任という制度ということとの平仄から考えたとしても,私は委任の制度というのは信託と比べると所有があるかどうかということの違いだと思っておりまして,所有を持っているということからこの利益吐き出しルールというものが出てくるのかどうかというのはよく分からないところですが,ただ委任とパラレルに考えるとしても,ここで民法646条のいわゆる受取物引渡し義務ということを言われておりますけれども,ここでさえ「委任事務ヲ処理スルニ当リ」というふうに限定されておりますし,また受け取った金銭ということでその範囲,また物の対象というものが限定されて,いわんや中間最高価格まで返済を求められるということではないということでございます。

そういったときに,この信託というものを新しくつくっていくときに,今までの委任との平仄において,過度に受託者に責任を負わせるということであればどうなのかという話でございます。


  例えば,レベルの話として,では甲案はどうなのか,乙案どうなのかという話になると思うのですけれども,甲案ということであれば,結局いわば損害てん補の延長上になるということで,乙案と比べれば現行法と近しいというふうに思いますけれども,これも一つの利益考量だと思いますが,その点また同じように隣接的な法制度を見ますと,商法266条というのが例に引かれておりますが,これも競業取引のみということになります。

信託の場合には,これは競業取引だけではなく,忠実義務一般に及ぼすという話ですから,その忠実義務というのは今議論しているように非常に広い概念でございますから,そこの外延が明確にならないと非常にそういう意味で萎縮効果が出てくるということになろうかなと思っております。


  また,乙案になりますと,これは言わずもがなかなと思いますけれども,やはり制裁的なもの,また予防的な監督と,一見いいようなものに見えますけれども,やはり1の総則規定,また2から4のその範ちゅうを考えますと,やはり受託者の観点からすると,厳しいものがあるのかなと思っております。


● 私は,基本的には先ほど○○委員がおっしゃったのと同じ方向を考えております。


ただ,と言っても別に見た目ほど対立しているというか,白熱しているというよりも,大体同じ方向を目指しているのだと思いますが,1から5のうち,1をなくす,あるいは効力要件でなくすということはやはり適当ではない,むしろ○○委員がおっしゃったように,2,3,4との関係については,2,3,4の規定ぶりで多分決めていくことができるだろうと思います。

  その上で,2点コメントがありまして,その2,3,4について禁止の例外規定として,「信託行為の定めでその行為をすることが許容されているとき」というのがすべてに入っているわけですが,「その行為」というのは一体何なんだろうか,この定め方によっては随分広い例外が設けられることになって,かえって不安定になるのではないか。

あるいは,その決め方として,例えば2ページに(2)の②というのがありますが,「受益者の利益を犠牲にして当該者又は他の第三者の利益を図る目的をもって,受益者の利益と相反する行為」をするということを事前に書いておけばいいのか,あるいは不当な行為をするということを事前に書いておけばいいのかというようなのは,どうも何か変な感じがいたします。

むしろこの例外規定を信託行為の定めで書くといたしましても,例えば3ページの(3)のアで申しますと,①と②にそれぞれ「その行為」という言葉が出てくるわけですが,②で出ているような「その行為」という具体的な行為をイメージすべきではないか,あるいはそう規定すべきではないかと考えます。
  

それからもう1点ですが,13ページの利益吐き出し責任の乙案についての根拠が幾つか書かれているわけですが,ここに含まれているかもしれませんけれども,私が思いますには,信託制度というある意味では危険な,所有権を移すという意味で危険な制度があるけれども,なおこれはいい制度なのだと,有用な制度であって,世の中の役に立つというその制度に対する信頼感を高めるという意味でも必要ではないかと思います。


● ○○委員の第1点,初めの方でおっしゃったことの補足的なことのみを申させていただきたいと思います。


1でいいますと,「法令又は信託行為の定めに従い」というのが入っていて,そして例外規定の中で「信託行為の定め」云々というのが何度も出てくる,この平仄の問題で1点だけですが。


  もう一つ,もし指摘するとしますと,4の「利益取得行為の禁止」で,どの案--丙案は別ですけれども,甲案であれ乙案であれ,「不当な利益を取得する行為」というのが挙がっております。


こういう形で絞りをかけろというのは本当に結構だと思うのですが,ただ「不当な」というのが一体何を基準にして判断されるべきかというその基準の根幹に当たるのが正しく「法令又は信託行為の定めに従って」これは不当と判断されるのかされないのかということに,今の1から4までの流れだとすると,そう読むのだろうと思います。


としますと,「不当な」というところで信託行為の定めというのが考慮され,しかし例外で定めで許容されているときというのは,いかにもちょっと両方で基準が同じものが出てくるというのはおかしかろうと,やはりこのあたりを整理する必要があると私も思います。

  その上で,○○委員のおっしゃったことが非常に重要でして,信託行為の定めで書いていればいろいろなことが忠実義務違反でなくなったりしていくということが,本当にこのルールを定める趣旨なのかどうかということを考えましたときに,法令はともかくとしまして,「信託行為の定めに従い」というのは一体何を言おうとしているのか,言葉としてはさっき○○委員だったでしょうか,何人かの方が御指摘されていたと思いますけれども,その信託を一体何のために行うのかというその信託行為が行われる目的なり趣旨なりからして,これはやはり忠実義務違反に当たる当たらないというのがまず第1に判断されていくべきなんだろうかなと思います。

そうしますと,1の書きぶりを少し考える必要があろうかなという気がいたします。
  

そしてもあくまでもそういう信託行為が行われる趣旨からすると,一見すると忠実義務違反のあたり,例えば「不当」に当たるけれども,しかし例外としてどういう場合があるかというときに,信託行為そのものではないのだけれども,その後重要な,例えば6ページの一番上にありますように「重要な事実を開示して……承認を得た」というような事情があるので,例外的に許されるのだよというのは平仄が合っていくのかなという気がいたします。


  補足にすぎませんけれども,以上です。

● 私の方は,全体的な御提案の枠組についてはこういった考え方で賛同したいと思うのですけれども,2点。
 

 一つは,受益者に対する情報提供の関係と,それから利益吐き出し責任について若干意見を述べさせていただきます。

  まず,今しがた議論されたこともあるいは関係するのかとも思うのですけれども,受益者の立場から見たときには,本来こういった忠実義務違反の規定については強行法規できっちり定めていただくと一番安心できるということになろうかとは思います。


ただ,信託の柔軟性という観点から,やはりこれはデフォルト・ルールというふうに定めるというのが基本的な方向であろうかと思いますが,そういった場合にも,やはり受益者の立場からすると,いわば受託者と受益者の利害が対立する可能性がある行為が行われるような場合には,きちんと説明をしてほしいといいますか,きちんと情報提供を得たいということはあろうかと思います。

やはり受益者が何も分からないところでそういった取引がされるということは,そういった状況というのは作るべきではないのではないかというふうに思われます。
 


 そういった観点から,この御提案の中では3ページの(3)のイのところで,禁止の例外について,③の場合について「重要な事実を通知しなければならない」という規律が御提案されていますが,これについては是非こういった規律をきちんと定めていただきたい。

  それから,この御提案の中では③の場合についてだけ提案がされておりますが,例えば①の場合,これは恐らく信託行為の中にどれだけ具体的に規定がされているかということにもかかわるかと思うのですけれども,信託行為の定めが抽象的である場合には,やはり重要な事実の開示というものは,これは受益者に対してするという規律が必要ではないかと。
 


 ②については,この「重要な事実を開示して」というのがこの中に入っておりますので,これに含まれるかと思いますけれども,そういった点の御検討をお願いできないかというふうに思います。

  それから,今の点につきましては,いわゆる利益相反行為の禁止に関する部分ですけれども,それでは競合行為の禁止ですとか,あるいは利益取得行為禁止の場合にはどうなのかということについても,これもやはり情報提供の問題については是非御検討いただけないかというふうに思います。

  それから,御提案の中では,このような通知については信託行為の定めか,あるいは受益者による同意がある場合には省略することができるというふうにしてはどうかという御提案がされていますけれども,やはりこれはそういった形でこれを外すというのは慎重であるべきではないかと思います。

基本的に,こういった情報については,恐らく受託者からの通知が,受益者がこういった情報を得る入口になるものと思われます。


この情報提供がないと,基本的には受益者の方でこういった取引について知り得る機会というのがなかなか難しいのではないかと,受益者としてはこういった通知が行われることによって,あるいは信託の内容といいますか,これをチェックする,あるいは疑問がある場合には帳簿閲覧請求権や説明請求を通じて信託事務処理の適正化のための手段を講じることができるということになるのではないかと思います。


こうした観点から,この情報提供については,是非きちんとした定めをお願いしたいと考えております。


そうしたことをすることによって,恐らく受託者の方々もきちんと情報提供しなければならないということで,いろいろな行為の適正化というのが図っていくことができるのではないかと思いますし,またそういった情報提供が行われることによって,受益者の方も,信託についての信頼をすることができるということになると思いますので,是非ここはひとつよろしくお願いしたいと思います。

  それからもう1点,利益吐き出し責任の方ですけれども,これは御提案の中で5ページの例13が挙げられておりますけれども,例えばこの事例についてどう考えるのかということなのかというふうにも思います。

  この例13の中で,更地として管理すべき土地に受託者が建物を建ててしまったというようなことが挙げられていますけれども,これは例えば御提案されております甲案ですとか,あるいはこれまでの伝統的な議論の中では,なかなかこれについて受託者が得た利益を吐き出させるということは難しいのではなかろうかというふうに思われます。

損害賠償の考え方でいった場合には,恐らく信託が適正に行われた場合に,受益者が得べかりし利益というのが損害ということに基本的には考えられるのではないかと思うのですけれども,そうした場合に,信託行為が当初予定していない建物を建てて,利益を得るというところまで損害に通常含められるかというと,これはなかなかちょっと難しいのではないかと思われます。

その利益を受託者に得させることが妥当かどうかという問題があるのだと思いますけれども,やはりこれは信託の関係ですから,受託者が信認を得てこの土地の管理をしている以上,そこで行われるものについてはやはり信託財産に帰属させるというのが通常の考え方に合うのではないか,そうでないと,やはり受益者の立場からすると,自分がゆだねている土地を受託者が勝手に使って利益を得た,それが受託者に帰属するというのはどうもやはり納得できない結果になるのではないかと思います。

  それから,1点,この御説明の中で,準事務管理の考え方について,これを立法化した規定として特許法102条等が挙げられていますが,これは若干規定の趣旨を御確認いただけないかと思うのですが。
 

 一般にお聞きしているところでは,特許法102条等の規定は,むしろ準事務管理の考え方を取り入れてない規定というふうに理解されているのではないかと思われます。

したがいまして,若干御説明が再度御検討いただけないかと思うのですけれども,準事務管理とそれから特許法との関係の議論の整理でいいますと,一つは恐らく準事務管理の考え方というのは理屈の説明としては乙案の根拠となり得るものではないかと思うのですが,逆に特許法102条との関係でいうと,特許法102条等がとっていない準事務管理の考え方を信託法においてとることができるのかどうなのか,そういった観点からの整理が必要なのではないかと。

信託法においては,先ほど申し上げましたように特殊な関係が受益者,受託者の関係であるわけですから,それを根拠に御提案の趣旨に沿った形で,やはり乙案として根拠づけということが可能なのではないかと思いますし,そういった規律をしていくべきなのではないかと思います。

  それから,1点つけ加えさせていただきますと,やはり乙案を採用することによって,受託者が信託違反の行為をする可能性がかなり低まるということはあるのだろうと。

逆に,これを甲案とかあるいは一般法理に委ねるということになりますと,やはり信託違反行為を誘発する可能性というのは高まるのではないか,この点については先ほど萎縮効果がいいという話もありましたけれども,そういうことよりも,信託行為の適正を図るという観点から,乙案をとるべきだと考えます。


● 繰り返しの面もあるのですけれども,私も少し補足をさせていただきたいと思います。


結論といたしましては,○○委員や○○委員,○○委員,○○幹事がおっしゃったような形で,1については訓示規定ではなく,一般的な通常の規定という形で考えるべきであり,また4,5については規律を設けるべきだという考え方を持っております。

  1については特に加えて申し上げることはありませんけれども,ただ通常の規定だとすると,例外規定についても検討すべきだという○○委員の御意見は,やはり検討すべきなのだろうと思います。


  4と5につきましてですが,これも既に御指摘あるところですけれども,最初に○○委員から御指摘のあった例13や例14のような問題事例について,2や3で受けられるのではないかという御指摘に対しては,直前に御指摘がありましたように,特に例13は非常に難しいであろうと。土地自体の賃料相当額というようなものは,これは取れると思いますけれども,店舗を自分の財産とお金で建立したときに,それ自体を信託財産とするということは非常に難しいと思いますし,その店舗の賃貸借契約によって上げる利益というのは,これは受託者が固有財産を貸しているだけだという構造になると思われますので,そうしますと2や3で入れるのはかなり難しいのではないかと思われます。

もともと更地として管理すべきであるということだとすると,競合行為というふうに言うことも非常に困難であると思われますし,また例14につきましても,確かにリベートのようなものはかなりそれで実は売却代金が下がっているのではないかということはあるかもしれませんが,しかし廉価売却であるということであれば,もう忠実義務違反以前にそれ自体が適正ではないということになると思いますので,問題なのはそこそこ市価であるというようなときにどうかという場合に問題となってくると思われますので,この部分というのはたとえ損失についての推定規定を入れたとしても,非常に難しいのではないかと思っております。

逆に,これが2や3で含まれ得るのだとしますと,むしろそちらでいったときの2や3の要件の解釈が広がり過ぎて,特に例えば競合行為の禁止などで「受益者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図る目的」という非常に限定され,一定の配慮を示されているところが,こういうものもこの要件に当たるのだということになりますと,かえって2と3の規律の意味を没却することにならないかというふうに思われますので,これが問題事例であって,やはりこのような場合に利益の取得を認めるべきではないというふうに考えるのであれば,別途4のような規定が要るのではないかと思っております。


  また,既に例13につきまして○○幹事が御指摘あったところですけれども,これを損失の方で持ってくるというのはやはりちょっと難しいのではないかと,推定規定を入れたとしても難しいのではないかと考えておりますので,5についても利益吐き出しということをするのであれば,乙案の方が適合的ではないかと考えております。

  問題は,その際の説明ないし性質ということで,今回の資料で非常に詳細に書いていただいておりますけれども,不当利得,それから準事務管理とその信託の本来的な性質ないし内容からという三つの考え方が出されておりまして,これはただ幾つか次元のある問題だろうと思います。


  不当利得,準事務管理について申しますと,現在の考え方,しかもその主流となるような考え方から容易に導けるような結論となるかという意味で,これを基礎にできるかという話と,この性質は根本はどこかというようなのはまた違ってくる話ではないかと考えておりまして,例えば不当利得でいきますと,現在の類型論からした場合に,法律上の原因について当てはまるような類型があり得るのかという点を考えると,欠落があるのではないかと私自身は考えておりますけれども,しかしながらその場合の利益を返還させるというのが,不当利得的な性質を持つのか,つまり不当な利得であって許されないということを持つのかというと,またそれは別の考え方もあり得るところだと思いますので,少し次元が整理の中でも異なるのかなとは思っておりますが,ただ私個人はこの資料で御提案,それから御説明いただいたような形で,信託そのものに内在するというか,正に中核であるような性質のものであると考えておりまして,もともと信託の定義からいたしましても,その財産権等を移転しながら利益だけは取得しない,自己の利益を図る以外の目的を持って財産を管理運営していくと,しかしその財産権の主体は自分にあるというのが信託の特色であり,しかも昨年の私法学会での御報告によりますと,それが責任財産を裏打ちする点でもあると。


信託財産の責任財産としての独立性も,受託者の固有の債権者がそれにかかっていけないのは,およそ受託者自身が利益取得できないからという説明もあるわけですし,この利益も取得しないというのは,何と言っても信託制度の根幹であって中核であると考えておりますので,それをいかに確保するかというのが,先ほど○○委員のお言葉をかりると制度への信頼という意味でも,この信託制度をきっちりつくっていくためにはこの部分が手当てされないといけないのではないかと思っております。


  隣接制度とのバランスということで,これ自体は非常に議論のあるところで,委任についても同様だという考え方も少なくないということですから,信託だけと言い切ることは問題だと思いますけれども,しかし少なくとも信託においては,ということは言えると思いますし,○○委員がおっしゃった委任とは所有があるかどうかだけが違うのではないかということでしたけれども,しかしそれ自体が非常に重要なことで,所有権がいっていながら利益取得ができないということをいかに確保するかというのが信託においては非常に重要になってくるということがあると思われます。もちろん,ほかにも指図の問題ですとか,既に指摘された点はあるかと思いますが,少なくとも信託においてはということは言えるかと思います。

  あと,ちょっと細かいところを更に少しだけお話しさせていただきますと,通知の点ですけれども,8ページ,それから本体自体は3ページの(3)の「禁止の例外」ということで書かれておりまして,大変細かい問題で恐縮ですけれども,「受託者が自己取引がされたことを認識し得ない場合などのやむを得ない事情がある場合には通知義務を負わない」という点ですが,やむを得ない事情と言われると,通知できないこともやむを得ない以上は通知義務は課されないという一般論としてはそうかもしれないのですが,例として挙がっている自己取引がされたことを認識できなかった場合というのは,通知義務をおよそ免除する場合というよりは,知ったら速やかに通知すべきだという形で働くのではないかと思われまして,具体例との関係でもう少し検討する必要があるのではないかと考えております。

  長くなって恐縮ですが,もう1点,萎縮効果についてですけれども,これはもちろん当然それが前提に入っているわけですけれども,およそこういう行為をするなという規律ではなく,あくまでそれをするときには信託行為にきちんと定めがあるか,受益者の承認を得るかをしてからやってくださいということですので,萎縮効果というときにも,もちろん機動性はある程度含まれるとは思いますけれども,一般的に禁止しているというわけではないということも改めて強調させていただきたいと思います。


● 先ほど言えばよかったことを,一つだけ。結局,また○○幹事が言われてしまったので補足になってしまいますけれども。
  


最後の利益吐き出しに関する問題で,準事務管理,不当利得等との関係で,○○幹事の方からも御説明があったところの補足です。

  ○○幹事だったかが多分おっしゃったと思いますけれども,この問題に関しては準事務管理に類するような形でとらえやすい問題ではないかとおっしゃったのは,ほかの問題と比べますと確かにそのとおりかなという気はいたしますけれども,やはり主観的には本人である受益者のためにやっているとは言えない行為であるということ,例えばリベートのようなものが本当に受取物と言えるかどうかなど考えますと,かなり異質な側面があるというのは従来から言われているとおりのところなのですが,むしろ問題の位置づけだけを言いたいのですが,問題の位置づけとしては,要するに受託者がこういった行為を通じて受け取った利益が,一体だれに帰属させるべきか,だれに割り当てるかというところがこの問題の本質でして,そしてもしこれが受益者に割り当てるというルールが確立しますと,これは正しく不当利得に当たると言っても全然おかしくない行為になる。

つまりは,本来ならば受益者に割り当てられた利益が侵害されたということですから,正に侵害利得の類型に当たっているのですね。


ただ,従来は,侵害利得というのはそういうものだというのはよいとしても,一体こういった利益をだれに割り当てるかというところが必ずしも明確ではないというのでずっと争われてきたということだと思います。


○○幹事の御説明も,よく読むと多分そういうことが書いてあるのだろうと思います。問題の本質はそこにあると。


  ですので,ここからは先ほどの○○委員等の御指摘につながるのですが,やはりこの信託の問題に関して,こういった忠実義務違反によって受託者が受け取った利益をだれに割り当てるか,このルールをはっきりさせようと,これはやはり受益者に帰属させるべきものとして確立させましょうと,その理由は何かというときには,何度ももう既に指摘されておりますように,信託というのは要するに他人の財産を受託者が,名義は別として運用しているわけであって,そこから利益を受託者が得るというのはおかしい,本来はその利益の帰属先である受益者等に帰属をさせるべき性格のものだ,信託というのはそういう制度として信頼されるものにしようという立場決定をすれば,受託者ではなく受益者にこの利益の帰属割当てルールを作る,そうすると侵害利得と言おうが何と言おうが,信託法で明文のルールとしてこの吐き出し請求権というのが位置づけられる,そういう位置づけになるのだろうと思います。


そういう意味で,構成の問題でこれは準事務管理でもないし不当利得でもないというような問題ではなくて,正に割当てルールをこういう形でつくりましょうかどうかという問題で,私自身はこの信託法の制度趣旨からいって,やはり受益者に帰属割当てをするというルールを明確にした上で,この吐き出し請求権を認めるべきではないかというふうに個人的には考えております。蛇足にすぎませんが。


● まず,ちょっと確認なのですが。
  これは,現行法の9条にかわるものであって,9条はなくなるのでしたか。私,資料を持ってくるのを忘れたので。

● 受託者の利益享受の禁止に関する……,あれは別途規定を設けますが。


● 別途残るわけですね。結局,この規定の性格が,先ほど○○幹事から御指摘がありましたように,例えば受託者の個人債権者が信託財産を差押え得ないということが,当該財産からは受託者は利益を得られないのであるということによって基礎づけられているというふうに考えたときに,そのこと自体の最終的な確保というのは,9条類似のものによってなされるのか本条によってなされるのかというのがちょっと気になるのです。

  と申しますのは,本条に関して申しますと,先ほどから何人かの方が御指摘になられておられますように,信託行為に規定があればいろいろここに書いてある制約は免れることができるという形になっているわけですが,じゃあ信託行為に書かれていれば自由にそこから利益を取得できるのかということになりますと--利益を取得できるというのは,お金をもらえるということではなくて,例えば自己取引を何の制約もなくできるのかということになりますと,先ほどの○○幹事の責任財産に関する一つの考え方の説明からしますと,受託者の債権者が差し押え得ないということの根拠がなくなってくるのですね。

そうなりますと,ここに言う「信託行為に別段の定めがあるとき」というのには,やはりおのずから限界があるはずであって,そのあたりのことはまずはっきりさせなければならないのではないかという気がいたします。

それが第1点でございます。したがって,書けばよいという雰囲気を醸し出すのはよくないと思います。

  2番目でございますが,先ほどから1の忠実義務の一般規定というのを置くべきか置かざるべきかという話がございまして,結論からしますと私は置くべきであると思うのですが,ただこれが置かなければどうなるのかということになりますと,大きな違いが出てくるとは私には思えないのですね。


と申しますのは,1を置かないという考え方というのは,2,3,4で個別具体的に規定されている禁止行為に反しない場合には,そもそも違反にはならないというふうな前提になっている,そういう考え方が前提になっていると思うのですが,受益者に損害をこうむらせるような行為をするということは,別に2,3,4に,あるいはそれで自己が利益を得て,それによって不当なことをしてしまうということになりますと,2,3,4に直接に当てはまらなくても,それは善管注意義務違反には十分なり得るわけであって,1を外せば2,3,4がやっていることだけが禁止の対象になるかというと,私はそうではないと思います。


  では,1があるのと2,3,4に外れるものは善管注意義務の規定で対処するのと,どこが実定法的には違いが出てくるのかというと,これは結局5が適用されるかどうかのところだと思うのです。

つまり,利益吐き出し請求という話を忠実義務違反に特殊な効果であるというふうに考えますと,善管注意義務違反であるという話で処理をいたしますと,5の利益吐き出し責任というものは適用されないのに対して,1も含めた忠実義務違反であるといたしますと,5の利益吐き出し責任がかかってくるということになるわけです。


そこは重要な点であろうかと思うのですが,しかしそうなりますと,これは違いが結構大きいわけであって,忠実義務違反であるか,それとも善管注意義務違反の解釈の問題の中に入れられるのかというのは,かなり明確な区別ができないと,それこそ萎縮効果を招く可能性があるのかもしれない。


つまり,キャッチオールだからほわっとした定義で1はいいだろうということにはならないのではないかというふうに思うわけであります。

  そうなりますと,今度は1は置くべきだというふうに申しておりながら,何か矛盾するよようなことを言うかもしれませんけれども,「忠実に信託事務を処理しなければならないものとする」という条文で本当にいいのだろうか,一般規定を置くということの必要性というのは,私は一般規定を置く必要はあるという立場におりますけれども,忠実義務ということの定義というものが法典外在的に存在していて,それを前提としながら忠実にしなければならないというふうに置くべきなのか,それとももうちょっとダウンして,専ら受益者の利益を図るために行動しなければならないとか,自己又は第三者の利益を図らず,受益者の何とかをしなければならないという規定にするのか,もう少し私は内容を明確化した方が,5の適用範囲が明確になるという面があるのではないかと思います。

● 大分いろいろな御意見が出ておりまして,そろそろ休憩の時間に入りますので,また休憩の後,御意見いただきたいと思いますけれども,今までの大きな問題点は,一つは1にある総則的な規定。

これは,いろいろな形の御意見ございましたけれども,これ自体が適当でないという御意見は恐らく余りないのではないか,本来信託であって,受託者は忠実義務を負うという原則自体は,恐らく皆さん大体御承認いただいて,ただ○○委員も,また後で補足していただきたいと思いますけれども,2,3,4,5との関係で明確でないのではないかということで,そうすると,1自体については,私の曲解かもしれませんけれども,そんなに御異論がないのかもしれないという気がいたします。ということで,1の問題点。

  それから,2,3,4,特に4あたりの効果の問題,それから忠実義務を外すときのいろいろな要件,信託行為でもって広く定めることができるのかどうか,それから5の違反の場合の効果,こういった問題点については更に御意見を伺いたいと思いますが,ちょっと白熱した議論を中断して申し訳ございませんけれども,少し休憩に入りたいと思います。
              (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。


● 私が最初に問題提起したことについて議論が出ておりますので,ちょっとまとめた話として再度申し上げたいことがあるのですけれども。
 


 確認ですけれども,私の1に関する趣旨というのは,別に効力規定化そのものについて反対しているというわけではございません。


ただ,やはり2から4の範ちゅうとの関係が不明確なので,1の範囲が逆に不明確になるのではないかと。


また,1の規範としても,要件,またその例外--デフォルト化がどこまで自由なのかどうかということも含みますけれども--が不明であると。

そうであるのであれば,5に関して非常に適用が拡大するかもしれないので,そうした場合に萎縮効果があるのではないかという,そういう議論です。


  5に関して,特に前半の議論では乙案の議論が出てきたと認識しておりますけれども,この点について私の意見を述べたいと思います。


  基本的には,前半で述べたことなのですけれども,5の利益吐き出し責任を認めるかどうかということについては,信託をどうすべきなのか,信託の設計の問題,それから信託をどう広げるべきなのかどうか,ちょっと政策的な話としてどういうものにするか,どういう広がりを持たせるのか,そのためには現行法規制度の親和性,委任との関係であるとか,そういうところに大きな違いが出てこないのか,そういったところが大きなポイントだと思っております。
 


 その観点から見ますと,前半で出ていた議論をお聞きしていますと,なおちょっと疑問がありますので,その点についてお話ししたいと思うのですけれども。

  すなわち,先ほどの議論では,主にこの事例の13ないしは14では,不当利得とか損害賠償とかでは説明できない,よってこういう乙案のような規律を設けるべきたというような議論が多かったかなと認識しております。

十歩譲って,ないしは百歩譲ってかもわかりませんけれども,譲ったとして,もしそういうことで必要であると,つまりそういうことをやはり利益を吐き出せと,それについては現行法規では難しいので,そういう規定を設ける必要があるというふうにしたとしても,私のそもそもの疑問は,ではなぜそういう必要なものだけを切り出して,それを規律しないのかということでございます。
 

 先ほど,冒頭に事務局による乙案の性質決定の説明として,不当利得とか事務管理とか,そういう議論,新たな考え方,つまりそういうふうに行う債務であるというふうに私理解したわけですけれども,もしそういう考え方を使えるのであれば,例えば例13ないしは14の類型を出して,正しく受託者がそういうことをしてはならず,かつそれをした場合に,信託財産に引き渡す義務を負う,そういうものが信託の義務であるというふうに規定する,つまり5を規定せずに,2から4のところでそういうふうに規定すればいいのではないかと。
 


 なぜそういうことを申し上げるかというと,不用意な--不用意と言うとまた問題ありますけれども,不必要に5の場面が出てくるのではないかと。


例えば,競合行為の禁止について,これについて必ず利益吐き出し責任を持ってこなければならないのかということでございますけれども,もちろんそういう場合もありましょう。

ただ,例えば競合行為というのも,そもそも競合行為かどうかということについてまずは受益者の利益を犠牲にしてということでございますので,犠牲でないものについては入らない。

1で引っ掛かるかどうかは別としてあるのですけれども,仮に犠牲にしたというときにもいろいろな犠牲の仕方があって,多分1円でも犠牲にした場合にも勢い3の類型に当てはまって,よってこの規律が出てくるということはどうなのかなと思います。
 

 例えば,いろいろな競合行為があると思いますけれども,その競合行為を実際やったとしても,受託者が利益を得たその利益の中身は,もうちょっと犠牲の部分から成り立ってくるものもあるかもしれませんが,おのずからのエクスパティーを使った能力であるとか努力であるとか,そういうものが関連してあった,ある場合もあるかもしれません。

又は,当該行為における取引というのが,非常に競争的な市場であって,よって別に受託者が自らの資産で固有財産としてやったから犠牲が出てきたということも言えるのかもしれませんけれども,別にそうしなかったとしても,ほかのマーケット参加者が同じような取引をするわけで,いずれにしても信託財産に余り変わらなかったということもあり得ましょう。

そういったような場合でも,やはり5の規律を入れるのかどうかという話がありますものですから,1ないしは2から4までに当てはまったからといって5で救えるというような決め方はどうなのかなというふうに思っています。


  よって,やはりここではもう一度そもそもの規律の是非を御検討いただきたいということと,それからもう一つ,十歩,百歩の話になれば,外延が明確でないからこういう議論が出てくる,萎縮効果という議論を出さざるを得ないわけでして,その外延を,甲案,乙案いずれにしても明確にした上で,議論をしていただければなというふうに思っております。これが大きな1点でございます。

  ついでで恐縮ですけれども,同様な考えで2と3の話をしたいと思うのですけれども。
 


 先ほど,○○委員から,競合があってもいいのではないかという話がありました。


そういう考え方もあろうとは思いますけれども,2と3に違いがあるというのは,含む含まないということもあるわけですが,本当は違いがないということなのかもしれませんけれども,効力が大きく違うという話があります。

そういう意味で,そういう関係にあると,ある程度あいまいな関係であるというふうにしたとしても,実務の観点からすると,有効か無効かが違うということであれば大きな違いになってくるということでございます。

そこにおいては,やはり外延というものを明確化する必要があるのではないかというふうに思っております。

その点,ちょっと私の理解不足かもしれませんけれども,今の提案の中身はまだまだ不明瞭なものがあるのではないかというふうに思っております。

● 今までそれほど議論になっていない点を簡単に申し上げますと,ちょっと調べてこなかったのですが,証取法の中に短期売買,ショートスイング・プロフィットの規定があったかと思うのですが,法制的な背景等はもちろん違いますけれども,仮に証取法という政策的な視点からの規定だとしても,利益を帰属させるというのは現行法上もあるのではないかという……,一応御参考までに,それが第1点。
  

あと,これもどの法律とは指摘できればよかったのですが,ちょっとすぐには分からないのですけれども,法律の中に忠実義務がありますと一般的に規定されているものがあると思うのですね,ですから先ほどから効力規定か云々かという議論がありますけれども,法律に忠実義務があると書いてある場合に,それ自体が意味がないというのは,余りにも変な議論ではないか,もちろん先ほどから議論してそれ以上細かい議論というのは当然必要ですけれども。という,これも御参考までですけれども。


  あと,実務をやっていて,契約の中に忠実義務がありますと,こう書いてある契約書も結構ありまして,ですからその契約上の条項自体が「信託契約に従い」と書いてあって,信託契約を見ると「忠実義務があります」と書いてあって,そうするとそれが訓示規定になってしまう,効力ない,それも何か変な気がいたします。


もちろん,先ほどから申し上げているように細かい議論というのは当然必要だと思いますけれども。

  あと,利益の帰属のところですけれども,法的な性質云々ということで先ほどから非常に民法的な難しい議論が続いているのですけれども,準事務管理的とでもいいましょうか,そういうふうに考えたとき,ここから先は余り議論されてなくて,先ほど○○委員が少し指摘されていましたけれども,別に事務管理であるときに過失の要件とは関係ないのではないかと,本来プロフィットは帰属すべきところに帰属するわけですから,過失要件というものは果たしてここで契約責任のような--要するに,責任があるから帰属するという議論ではないのではないかと。

責任の方は,債務不履行責任ということで損害賠償責任の方で担保すればよろしいわけでして,あくまで損害賠償責任とは違う意味においてこのプロフィット,利益の帰属ということを議論していると私としては理解していますし,乙案,この中でもそういう提案がされておりますから。

ということで,過失の議論というものは余り議論されていなかったので,過失というのはこんな必要ないのではないかと。

  その際に,株式の売買と市場取引を例に挙げて,市場取引のときに場合によってはということがありましたけれども,例として市場取引の場合は別に信託の受託者に限らず,一法人であっても一個人であっても,同じ日の同じタイミングに売って買えば,もしかしたら自分で買って自分で売っているかもしれませんけれども,そういう市場取引が一つの例になるというのは必ずしも妥当ではないのではないかと思います。だから,過失が必要だとかいう議論というのは,ですね。


  あと,もう一つ,今まで議論されていなかったポイントで,なおかつこの検討課題の9ページのあたりにどう考えるかということで指摘されている点で,目的を判断の基準とするか否か,何らかの制限は必要なのではないかという議論,今まで続いてきたようですけれども,現在の「受益者の利益を犠牲にして」,多分これは「かつ」で読むのでしょうか,「かつ」だとしますと,「自己又は第三者の利益を図る目的」,ここまで立証して利益相反行為をとらえ,なおかつ利益相反行為まで立証してということは,せっかく忠実義務という本来信託の本質に迫るものを議論して,その一貫としての重要なポイントとしての競合避止義務とか利益相反に対する責任というのを規定している以上,やはりこれはちょっと強過ぎる規定ではないのかと思います。

どういう規定が適切かということはもちろん必要かもしれませんけれども,恐らく利益相反行為ということだけで十分であって,受託者の方はそれがちゃんと利益相反行為ではないのだということを主張立証することによって責任を免れていくというのが,本来妥当なことだというふうに思います。

● 今,無過失責任の問題ですとか,求償責任も含めてどこまで証明すべきかという問題などについて新しい御意見がございました。関連していかがでしょうか。

● 先ほど,4と5について不要じゃないかというふうに申し上げていろいろな御批判をいただきましたが,先ほど○○幹事の方からお話がありましたように,例えば13のところで1番,2番,3番で救済できないという解釈であるとすれば,それは済みません,私自身の考え違いですので,ここの13番については私は救済すべきかなというふうな考え方を持っております。


  それについて,利益取得行為というものを立てないことには救済できないということであるとすると,ちょっと考え方はもう一度検討しないといけないのかなと考えております。

  私自身が懸念していますのは,まず利益取得行為というのがあって,そういう概念があって,なおかつ利益吐き出しの責任という概念を設けると,そうするとどこまでなんだという部分がありまして,先ほど申し上げたように物権的な形の救済があって,債権的な救済もありますというと,一般的に救済したらいいなと私はぼやっと考えて,ほとんどのところが救済できるのだろうなというふうに思っているわけです。


それ以上の,例えば利益相反行為であったとしても,利益吐き出し責任があるのですよといったら,あとはやはり考えられるのは,先ほど申し上げたように,では中間最高値までとって,受益者の選択によってそこまでの利益を吐き出せというところまであるのでしょうかという懸念があるわけです。

  先ほど,○○委員にもお聞きしたのですけれども,英米では裁判所の裁量でそこら辺のところがかなりの範囲があるいうことですけれども,日本においてはなかなかそういう裁量ということもいかないとすれば,やはり際限というのが,どこまでやれるのかというのが非常に我々にとって懸念材料ですので,その辺のところの考え方を一つ整理していただくということをもって,再度検討したいと思います。

● いろいろな御意見いただきまして,問題となっている論点についてはかなりどういう形で対立しているかということが明らかになってきたように思います。


特に,利益取得行為の禁止のルール,これを立てることの意味,それからそれと密接に結びつく利益吐き出しの責任について,範囲を明確になるように限定してくれないと困るという御意見が,受託者などの実務を経験されている方からは出てきましたし,これらにの点についてはもうちょっと,そういう厳密な定義なり範囲の確定なりができるのかどうかについては,事務局の方でもって少し検討してもらいたいと思いますけれども,今まで対立が激しくあったように思われていた問題について,かなり共通の理解も得られてきたように思います。

これについては,再度また事務局に検討してもらうことにして,とりあえず皆様の御意見……。


● 今まで全く議論になっていなかったごく瑣末な点で,1点だけ申し上げたいと思います。

資料でいいますと4ページのアステリスク9というところでございまして,特別代理人の選任という点について,ごく軽く資料で取り上げているのみというところでございまして,このようなところで御発言申し上げるのも若干気が引けるところではございますが。

  こちらの方に,幾つか現行法にある例というのが書かれております。法人の理事,親権者,社債管理会社がそれぞれ利益相反行為をする場合というものでございます。


ただ,こちらの方を若干見てみますと,今こちらに書かれている例というのは,まず法人の代表者又は親権者が利益相反行為について代理権を失うということを前提としまして,ほかに代表者がいないですとか,あるいは本人が無能力者であるという理由によって,有効に意思表示ができる者がいないという場合ですとか,あと社債管理会社の問題につきましては,社債権者集会によって特別代理人の選任については意思決定自体はされていると,ただ社債権者集会自体が法的主体となることができないことから,特別代理人を選任するというような事例のように思われます。

いずれも,本来その行為によって利益を害される者の同意を得る必要があるとされている場合に,代理人を選任することによって同意を省略すると,ショートカットさせるような制度ではないと思われます。
  


この点,今回の提案においては,利益相反行為については受益者の同意がある場合にはこれが許されるというふうにしておるわけですが,その点と,特別代理人の制度の導入との関係が若干不明確ではないかと思っておりまして,その点,現行法にある特別代理人の制度とは若干異質な制度ではないかなという点が気になっております。


ちょっとこの点,もし引き続き今後にでも検討されるのであれば,是非慎重な検討をお願いしたいということでございます。


● それでは,一応このテーマについては終わりたいと思います。


● 公平義務については何かございますでしょうか。
● 公平義務の方はいかがでしょうか。

● 公平義務の部分につきましては,本文については特段の異論はございませんが,アステリスクの3の公平義務に違反した場合の効果のところですが,これについては不利益をこうむった受益者の救済という観点から,(1)のような固有財産との取引のところの部分については結構理解できるのですが,(2)の信託財産と他の信託財産との間で行う行為のところの部分について,信託財産間において無効とするのは,ちょっと公平義務と関係のない信託にとってみたら,通常の取引であったにもかかわらず,別の信託の公平義務の是正のために無効になってしまうということですので,この辺についてはちょっと解決策としてバランスを欠いているのではないかなという感じがいたします。


この場合には,(3)の第三者との取引と同じような取扱いの方がいいんじゃないかなという感じがいたします。


● おっしゃりたい御趣旨はよく分かりました。
  ほかにございますでしょうか。


● 別段の定めが信託行為にある場合というのを,もし一般的な解除ということで公平義務なしという契約を認めてしまいますと,受益者としては非常に戸惑ってしまう,またもちろん受益者は信託契約に関与できませんという視点がございますから。

もちろん,商事信託においてそういうことがあるとは思いませんけれども,民事信託を前提としたときにはあり得るのではないかと思います。
 

 したがって,一つの考え方としましては,先ほどからの「別段の定め」の議論のときに出てきましたように,具体的にどういうシチュエーションにおいて公平義務が担保されないのかというような具体的なところまで明示し,一種の説明的な規定になるのかもしれませんけれども,その上で解除されるというふうにする必要があるのではないかと思います。


ほかの義務と同じですけれども,一般的な解除規定というのは,信託の受託者という視点からしますと適切ではないのかと思います。

● そうですね,「この信託では公平義務はないものとする」なんていう規定は,やはり適当じゃないでしょうからね。


  これは,この問題に限らずいろいろなところに恐らく出てくる問題なので,もうちょっと注意しながら議論していきたいと思います。


  それでは,忠実義務と公平義務につきましては,一応ここでとりあえず終えまして,次の部分に移りたいと思います。


● それでは,次は,補償請求権と報酬請求権の方を先に御説明させていただきたいと思います。資料でいいますと28ページ以降でございます。


  補償請求権につきましては,前回の提案からの変更点を含め,次の5点について説明を申し上げたいと思います。


  まず第1に,大きな変更点といたしまして,資料30ページの<説明>1に記載しましたとおり,2の受益者から補償を受ける権利に関しまして,従来の甲案,乙案に追加いたしまして丙案を加えた点でございます。

念のため申し上げますと,受益者に対する補償請求権が原則としてあるのが甲案,原則としてないのが乙案,原則としてはありますが,受託者が報酬請求を受ける権利を有する場合,又は,受託者が信託の引受けを行う営業をするものである場合,このような要件を満たす場合には,原則として補償請求権なしとするというのが丙案でございます。


  甲案,乙案が受益者に対する補償請求権の有無を信託行為の定めの有無によってのみ規律しようとしているのに対しまして,丙案というのは信託報酬の有無,あるいは受託者の属性を決定要素に含めて考えるものでございます。


  この丙案のうち,信託報酬請求権のみによって区別する考え方というのは,信託報酬には信託財産を超える損失が生じるリスクは受託者が引き受けることの対価の趣旨も含まれていると解することによりまして,受託者が係る趣旨の信託報酬請求権を有している以上は,特に定めのない限り補償請求権はないと解するものでございます。


  これに対しまして,受託者が信託業者であるか否かによって区別する考え方といいますのは,このような受託者につきましては自ら信託行為において受益者に対する補償請求権を有することを定めることが可能なはずであって,受益者に対する補償請求権を当然に付与する便宜を与えるまでの必要はないという考えに基づくものでございます。


  受益者に対する補償請求権のデフォルト・ルールをどうするかにつきましては,当部会においても見解の対立が大きい分野の一つでございますので,今回,新たに加えた丙案も含めて御意見をいただければと思います。


  第2の変更点は,やや細かい点でございますが,受託者の固有財産による信託債務の弁済について,法定代位と同様の法制をとる1(3)に関しまして,前回の提案では,債権者に通知しなければ債権者に対抗することができないとしていた点でございます。

この点につきましては,弁済後において受託者にかかる通知義務を課すのは,信託債権者の利益を保護するためにすぎず,仮にこれに違反した場合には損害賠償責任が受託者に生ずるということにすぎないと思われまして,対抗問題が生ずる場面ではないと考えられますので,31ページの<説明>,あるいは提案本文にございますとおり,単に「債権者に通知しなければならない」と改めたものでございます。


  さらに,この代位の点に関しまして,前回の提案におきましては,債権者が係る弁済を受けるよりも前においても,民法第504条の場合と同様に,「担保保存義務等を負うものとするか,その要件はどのようにすべきかについては,なお検討する」としておりました。

  この点について検討を加えましたのが,31ページの<説明>3でございまして,事務局といたしましては,民法第504条によりますと,債権者に担保保存義務が課せられるのは,弁済をするについて正当な利益を有する者がある場合であることを要しますところ,信託の受託者は,ここで言う「正当な利益を有する者」には当たると思われるわけですが,債権者にとっては受託者に対する債務が,単なる受託者個人の債務であるのか,それとも受託者による代位の可能性のある信託債務であるのかが必ずしも明らかでないと思われますので,受託者が債権者に対して,当該債務が信託債務であることを知らせることによって,初めて債権者は民法第504条の担保保存義務を負うことになると考えるものでございます。

  なお,代位の件に関しましては,以上の2点のほかに,信託財産に設定していた信託債権者の担保権,例えば抵当権について弁済し,受託者への移転の付記登記をいかにするか,自分の財産についての付記登記をいかにするかという問題がありますところ,この点につきましては28ページのアステリスク1のとおり,前回提案に引き続きましてなお検討いたすものといたしまして,後日,信託財産の公示方法など,登記全般の問題となるところにおきまして,あわせて検討の結果をお示ししたいと考えております。


  第4に,信託財産について競売手続が開始された場合の配当要求手続に関しましては,前回の提案におきましては,実体法上補償請求権は一般先取特権とみなすという方法と,権利の存在を証明することによって配当要求できる等の手続上の例外的な規定を設ける方法とを対峙させておりました。この点につきましては,前回限りでの御意見を踏まえまして,28ページのアステリスク2のとおり,後者,すなわち手続上の例外的な規律を設けるという方法をとることで整理を進めていきたいと結論したものでございます。

  最後に,補償請求権の優先性に関しましては,前回の提案におきまして受託者の支出した費用が必要費又は有益費に該当する場合にのみ優先性を認めることを提案いたしましたところ,32ページの①,②に記載いたしておりますとおり,優先性を認めないと信託財産の経済状態が芳しくない場合には,受託者としては,補償請求権が担保されないようなおそれのある立替払いはせず,あるいは信託終了の結果を招くことにもなりかねず,かえって受益者に不利益ではないか,あるいは信託継続のためには受託者に立替払いの義務があるとされながら,優先権を認めないということになりますと,受託者としては対応に窮するのであって,酷ではないかなどの指摘がございました。


  しかしながら,この点につきましては,32ページに記載してございますけれども,受益債権に対して補償請求権を優先すべきとの理由とはなり得たといたしましても,他の信託債権に対してまで優先する理由とはなり得ないと思われること,補償請求権が満足されない蓋然性が高いことを理由とする信託の終了に当たりましては,受益者に対して履行催告や通知などの手続的保障がとられること,あるいは一般的には受託者には立替払いをし,あるいは立替払いを前提とする信託債務を負担してまで信託を継続すべき義務を負うものではないと考えられることなどにかんがみまして,このような反論が可能であると思われるところでございます。


  やはり補償請求権の優先権を認める実質的な根拠といいますのは,当該支出の共益性にあるものと思われますので,前回提案どおり,補償請求権の優先性が認められるのは,その原因となった支出が必要費又は有益費に当たる場合に限られるとの提案を維持することとしたものでございます。

  以上が補償請求権についての規律の提案の内容でございます。
  最後に,報酬請求権でございますが,これは非常に細かい点が2点直っただけでございまして,すなわち1(2)におきまして,信託報酬額の相当性に関する受益者への通知の内容につきまして,前回の提案では,「信託報酬の額又は算定方法について,これを相当とする理由を明らかにして」とあったところでございますが,この点を「信託報酬の額及びその算定根拠」と改めたこと,それから信託報酬の支払時期に関します3(1)におきまして,「受託者の任務の終了後」とありましたのを,「信託事務を履行した後」と改めたこと,この2点だけ変更したものでございます。

  なお,信託報酬請求権につきましても,実質的には必要費,有益費に当たる部分を除く純粋な利潤部分については優先権を認めないという事務局の提案に対しましては,35ページに記載のとおり,受託者の職務には,信託財産の価値の維持,増加に資するという共益的な側面があるから,優先権が認められるべきではないかとの指摘がございました。

この指摘によりましても,しかしながら実質的に共益性が認められる範囲,すなわち必要費,有益費に当たる部分を除いて,それ以外の利潤部分についてまで優先権を認める根拠とはならないと考えまして,従来の提案を維持しているものでございます。
  以上で終わります。

● それでは,今までのところで御意見いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

● 2点,意見を申し上げます。
  1点目は,「信託財産から補償を受ける権利」のところでございますが,信託財産から補償を受ける権利につきましては,第2回と第5回の会議におきまして,原案に賛成というような少数の意見はあるけれども,受託者として債務を負担するときに優先権が認められないとやはりいろいろなところで逡巡してしまうので,信託事務の円滑な運営に支障が出ますということで,優先権を現行法どおり認めていただきたいというお話をしてきたわけですけれども,ただ2回,5回のところで学者の先生方からいろいろと御意見を聞いて,現行法においても基本的にはそういうことではないのだよと,○○幹事だったかもしれませんけれども,御意見もいただきまして,業界内でもいろいろ議論いたしまして,基本的には信託債権者との関係というものにもかんがみて,原案でやむを得ないのかなというふうに考え直しております。

  一方,受益者から補償を受ける権利につきましては,第2回,第5回会議と同様,デフォルト・ルールとして認められるべきであるということで,甲案ということに賛成したいと思っております。
 


 これは,2回,5回で申し上げて非常にくどいようですけれども,そもそも信託というのは受託者は受益者のためにいろいろな義務とか責任を負って一生懸命信託事務処理をしますと,それで受益者はその損益を受けるというのが大原則であろうというふうに考えておりますので,当然最終的な帰属というのは受益者が受けるのだろうと思っています。

  特殊なケースとして,これもこの前申し上げましたけれども,信託財産がマイナスになるというのは非常にまれなケースだと思うのですけれども,考えられるのは二つ。


一つは,管理の失当,もう一つは非常に不可抗力な大きな天災等の事故があったときということだと思います。

  1点目については,もともとリスクコントロールするのは受託者のところですので,当然それによって管理の失当があったら受託者が責任を負うということだと思いますので,それで責任を負うと。


2点目につきましては,やはりこれはそもそも論からいって受益者が責任を負うべきなんだろうなと,受益者の利益のために職務を遂行する受託者が,過失もないのに生じた費用を負担するという,その合理的な根拠というのはなかなか見出せないということがございまして,前回に引き続き甲案支持ということでございます。


● この点について,いかがでしょうか。


● ただいまの第2点目に関連することでございますけれども,受託者の受益者に対する補償請求権は,私は乙案,つまり信託行為に受益者から補償を受ける権利を付与する旨を定めない限りはないと,このように考えるのがむしろ合理的ではないかと思っております。

  その理由は,まず○○委員もおっしゃいましたように,受託者は信託財産を管理運用するわけですけれども,最近いろいろな信託も出てまいりまして,むしろリスク管理が重要であるという,場合によっては信託財産がマイナスになるということもあり得るわけであります。

そのリスクを管理する際に,やはり管理者である受託者に基本的に責任を集中させた方が,リスク管理が一般的にいうとうまくいくのではないか。


逆に申しますと,結果的に穴があいたから受益者にといったところで,受益者にそのリスクを事前に,どのように回避する手段があるのか,このような回避手段のための方法等,具体的なプロセスを考えますと,やはり原則としては受益者に対する補償請求権はないこととしておき,信託行為に定めておけば,それによって一種の注意を喚起することが可能になるわけですので,場合によっては受益者の方で手を打つということが可能になるわけです。

  特に,民事信託だけではなくて商事信託の方に話を発展させますと,やはり信託で一番広く使われるものは,投資の対象としての信託であり,現に我が国はそうなっていると思いますけれども,投資対象がマイナスになるということは,これはもう投資商品としては非常に,不適格とまでは申しませんけれども適切ではない。


したがって,この民事信託,商事信託,いずれにしても,補償請求権はデフォルトとしてはないと,このように考えることがむしろ合理的ではないかと思いますので御発言させていただきました。

● 今の○○委員の意見と近いところがあるのですけれども。結論は丙案の方かと思うのですけれども。
  


金融商品といいますか,証券化とか最近使われている管理型の信託においては,投資家は社債型受益権,資産流動化法でもそう言っていますけれども,社債型受益権ということで社債と同様な商品として購入しているわけでして,なおかつ,信託契約,信託行為に投資家は当然関与できませんから,それがデフォルト・ルールとしてたまたま信託契約に書いてなかったことによって,あるとき請求が来ると。


非常に抽象的な議論かもしれませんけれども,それでもそれが必要だという議論なのでしているのですけれども。

  というのは,管理型の信託については何十兆と報道されていますし,今後信託を利用しようという正しく信託法の改正の議論において,受託者の受益者に対する補償請求権の行使を原則認めるという議論自体が,今までそういう議論が強かったのでそのとおりだと思うのですけれども,やはり変な議論ではないのかなと。


信託そのものからの議論もそうですし,今日における信託の利用という視点からもそのように思います。


  他方,ですから信託契約に書く書かないというよりも,商事信託--すべての領域ではないかもしれません,土地信託みたいなものを考えたときは違うのかもしれませんけれども,今日主流を占めているところの商事信託とでも言うのでしょうか--においては,ですから,年金等も入るのかもしれませんね。


年金等で,もし年金加入者が受益者というふうに認識されるときに,そこに請求がいくと,これ自体だれも認識していない話でして,ですから一般的な意味においての商事信託においては,そもそも丙案とでもいうのでしょうか,属性によって補償請求権はないのだという本来の信託の姿というのは,通常ではないのかなと思います。


  他方,民事信託になりますと,民事信託として何を念頭に置くかということによって違うかもしれませんけれども,弁護士の業務としては親亡き後の子の信託とか,要するに高齢者とか身体障害者とか,親が先に亡くなった場合の子供の扶養とか,そういう形で民事信託が利用されるということが今後考えられますけれども,そういう場合において子に請求するというよりも,信託財産にわざわざ手を付けずに,適切なところから補償を受けるということも場合によっては必要かもしれません。

ただ,それが絶対必要という意味ではなくて,1の信託財産から本来補償を得ればいいわけでして,何も知らない受益者,先ほどちょっと議論したような悪質な民事信託を考えるときに,何も知らない受益者が信託にした方がいいと言ったところ,多額の補償請求されたということにもなりますものですから,属性といっても民事信託の場合には補償請求があらゆる場合にあってもいいのだとまではもちろん言い切っているつもりではございません,より細かい議論が必要だと思うのですけれども,ただ丙案のような形て,やはり原則ないのだと,商事信託においては原則ないのだということで,あとは例外的なことを考えていくということが適切なのではないかと思います。

● 私も,この問題については何度か発言していて,同じことを申し上げるようで恐縮ですが,28ページの第2項の「受益者から補償を受ける権利」のところですね,○○委員がおっしゃるのも,日本のこれまでの信託のことを考えると,現行法として36条があるわけですから,そういう考えも理解し得るのですが,そもそも信託とはというそもそも論で始められると,ちょっとやはり異論があって,そもそも信託とはと,日本の信託とはという御趣旨だとは思いますが,「日本の」というのを外してしまって,信託とはという話にしてしまいますと,受益者から補償を受ける権利というのが受託者に認められ,かつ報酬についてもこれはいくことができるわけですね,後の方で全部準用していますから。


報酬についても受益者からと。そして利益の存するところに損失ありという,極めてもっともらしい原則が正に信託のそもそも論だよと言われると,実際にアメリカの信託法学者もイギリスの信託法学者もびっくりするわけですので,彼らの信託がそもそも信託なのかということで居直ることもできますけれども,どうなんだろうかという感じがするわけです。


  今までの36条は,私の勝手な理解では,設定当時に,信託のその点については理解していないために入った条項であり,しかし現実に何の問題もなかったのは,特に戦後ですが立派な信託銀行に限って受託者になれるという,そういう体制をとってきたから今まで何の問題もなくて,空理空論のところで,こうなった場合はどうなるのだろうという議論が行われただけで済んでいたと思うのですが,繰り返しますが,信託事業というのが今後いろいろな形で広がるという話になってくると,この機会にそれを見直す必要が出てくると思うのですね。


  次の話は,少しこれも概念論ですが,代理と組合と会社と信託という話で,しかもリスクとかロスのところだけで比較をしてみようかと思っているのですが,通常の代理は,ここにおられる方には釈迦に説法で,ただ私だけが間違ったことを言う可能性があるわけですが,つまり効果は,というか,この場合はロス,リスクの方だけを考えますけれども,本人に帰属するということなので,今度,今この信託法の改正で問題になっている受託者について,有限責任というようなことを認めた場合,しかもこの補償請求権というのをこういう形で残すと,先ほど○○委員は別の文脈でどこまでいくか分からないということですが,この補償請求権のリスクというのは受益者にとっては突然,しかもどこまでいくか分からないという意味では無限責任ですので,受益者に無限責任があって,受託者には責任が限定されているというような形の信託がもしこれからできるとすれば,それは信託ではなくて代理ですね。


ロスの面からだけ見れば,ということですけれどもね。

  それから,そうじゃなくて,現行のように受託者もいろいろなリスクを負っているのですよと,無限責任を負っているのですと。


同じように,だから受益者だって負ってもいいでしょうというのは,無限責任を負って,無限責任を負っているのが二人いるというのは,私の考えだと普通には,アメリカでいえばパートナーシップ,日本でいえば組合ということになると思うのです。


業務執行はこの人だけやるかもしれませんが,特に何の特約もない場合には,ロスがみんなに及んでくるという形だと思って,それはやはりある意味では信託ではないですね。組合である。


  もう一つ,会社の話をしますけれども,会社は御存じのように株主について有限責任を認めていて,この信託のところだけで受益者のところへ無限責任というのが出てくるというのがちょっと政策論として問題,投資とか商事のところで特に問題になると思うのですが,もう一つ信託のところに戻って,信託がそもそも信託たるゆえんというのは,信じられないことに受託者が無限責任を負い,受益者は責任を負わない,有限責任ですけれども,期待していた受益権が実際に信託がつぶれてしまって,なくなってがっかりしたというだけの,そういうリスクはありますけれども,そういうものが信託なので,だからこそおもしろいというのでしょうか。

そういうようなスキームにやはり意味があって使われるのだろうと思うのです。一つの証拠には,やはり受益者の同意がなくても,とにかく受益権が発生するのだというふうに,これは日本でも英米でもそうなっていて,それはどうしてそんなことが可能かというと,受益者の方にはロス,リスクがないのですよという話なら,この話は分かるわけですね,同意なんか要らないでしょうという話になるということですね。


  結局,受託者にリスクもあるかわりに裁量権をゆだねて,専門家としてとにかくいろいろなことをやってもらおうというためには,この受益者のところからはとにかくリスクはないのだという仕組みをつくっておかないといかんのじゃないかと思って,これは私はやはり考え方の問題ですが,忠実義務と並んでここの補償請求権について受益者のところにいく--報酬の方も同じですけれども--というのをなくすということが,少なくともデフォルトとしては当然乙案になるわけですけれども,乙案でなければならないというふうに私としては信託の,いわば人の言葉をかりて言えばそもそも論からして,この乙案で今回はいってもらいたいというふうにお願いしたいと思います。

● 私も,結論を申しますと,この甲,乙,丙という3案,とりわけ今回丙案も出していただいて,事務局の御苦労というが大変忍ばれるのですけれども,やはり乙案が適切ではないかと考えております。


  言い方を変えますと,とりわけ甲案は制度化が非常に困難ではないかというふうに考えておりまして,私,この問題,発言させていただくのは初めてですので,ちょっと重複もあるかと思いますけれども,少しお時間をいただければと思います。


  まず,そもそも任意規定の在り方としてどういうものが適切かということですけれども,任意規定の在り方については,現在のところは恐らくは多数の人が考えるものがどうであるかという考え方と,制裁的な考え方,情報を出させるための任意規定という両方の考え方があるかと思いますけれども,いずれからいたしましても,結論として乙案のような形になるのではないかと。

  多数の当事者がどう考えるかというときに,典型例をどういうものを考えるかですけれども,商事信託につきましては既にもう御指摘がございましたように,現在の主流である投資や年金において,これを多くが受益者にかかっていけるというのが普通だというのは,そういうふうに考えられないということはこの場で一致を見ていることだろうと思われます。

それについて,逐一信託行為で負わないということを書いていくというようなこと,またそういう情報を出させるということに意味があるかというと,その意味もないと思われますので,そういった商事の利用についてはやはり乙案にならざるを得ないだろうと。

  民事信託の方ですけれども,民事信託としてどういうものを考えるかというときに,これもまた最も典型的な例として考えられるのは,有能な受託者と,残念ながらそうではない,それだけに保護に値する受益者のための信託ということですから,リスク管理の点,保険等も含めてそういう点からしても受益者に対して,最終的な責任を負わせるというのが多数の当事者であれば考えるものとして合理的かというと,そうでもないでしょうし,また情報を出させるという点からしても,そうではないというふうに考えられますので,そういたしますと一般的な任意規定の在り方と信託の典型例ということを考えたときには,乙案にならざるを得ないのではないかと。


  2点目は,比較法の観点との関係ですけれども,比較法の観点から甲案のような考え方が異例であるということは,○○委員が繰り返し御指摘になっているところです。


  問題は,現行法との関係で,日本の信託法は現在そうなっているのではないかということについて説明をしておく必要があるのではないかと思いますので,この点を補足させていただきたいと思うのですが,現行法36条がどういうような規律であるのかというのは,また更に詳細を踏まえる必要があるとは思うのですけれども,これはやはり3項というのは非常に大きいもので,常に放棄ができると,もともとは必ずしもはっきりしないかもしれませんけれども,受益権の放棄さえしてしまえば,全面的に責任を免れるというものが想定され,また大本になったイギリスなどもそうではないかという指摘もあるようでございます。


そういたしますと,現行法というのは受益者が補償責任を負うような形になっていながら,その実質は具体的にそれが問題となった段階でいつでも選択できると,負わないことも選択できるというような形を規律しているわけで,それを今回の改正の中ではその部分をかぎ括弧つきの合理化しようというので,いったんいわば受益者たる地位を引き受けたというようなときには,それまでに発生したものは負うというような考え方が出されているわけですので,それとのセットですけれども,もしそういう考え方を受益権の引受けないし放棄との関係でとるのだとすると,これはやはり甲案というのは現行法からもかなり,現行法の受益者の地位よりもずっと厳しいものにしてしまうというものですから,そういうような規律を提案することになるのであって,その点はやはり問題ではないかと。その正当化というのは難しいのではないかと思っております。


  それから3点目で,しばしば挙げられる利益の帰すところ損失もまた帰すべきであるという一般論なんですけれども,これもきちんと調べていないのですが,そのルールだけでこの問題が規律できるのかということでして,局面は違いますけれども,例えば不法行為の715条,716条などですと,利益が帰しているところ常に損失も帰すというような立場はとっていないわけで,指揮命令関係があるという場合であるからこそ責任を課すという,もう一つの段階があって,ただその根底にはどういう考え方があるのかというときに,説明原理として出てくるというものではないかと思いますので,利益を得ているような人は常に最終的な損失も帰すべきなんだということが民法一般のルールであり,直接にここで解決を導くようなルールとして使えるのか,考え方として使えるのかというのは,もう一つステップが要るのではないかと。

かえって指図等を全然していないような場合にも,損失を帰すことができるというのは,異例だというふうにも考えることができるように思われますので,その一般的な考え方の当てはめについても,なお検討する必要があるのではないかと思います。

  最後,4点目で,丙案についてですけれども,丙案は非常に工夫のされた考え方だと思うのですが,この考え方によりますと,有償でない,報酬がないような場合であって,かつ営業等はしていないような場合には,この場合にはなお受益者に対して補償請求ができるというのがデフォルトであるということなのですが,どういった場合がそういう場合に当たるのかということで考えていきますと,例えば友人の弁護士さんに自分の子供のことを頼むとか,そういうような場合なんかが入ってくるのかと思います。

無償であって,別に営業として引受けをするような立場でもないとしますと。


ただ,そういったときに信託財産で賄うに足りなくなったというときに,子供にかかっていける,あるいは高齢者にかかっていけるとか,そういうのが果たして適切なのかというと,最初の話に戻ってくるわけですけれども,報酬を得ているような人はリスクも引き受けていると,営業でやる人には分かっているはずだというような,それ自体としてもそうだと思うのですが,ではそれ以外の場合は正当化できるかというと,それはやはり困難ではないかと思われまして,それとの関連でこの2の(5)のアステリスクの3の「補償を受ける権利が認められていない場合についても……終了に関する規律を設ける」というのは,私はこれが非常に重要だと思っておりまして,義務を課すかどうかとは別に,しかし促すような形でこの部分を検討してくれるのであればまだ続けていけるけれども,というような提案ができるような形にしているということが重要で,逆に言うとそこまでの限りでいいのではないかというふうに考えております。


  さらに,多少細かいことですけれども,資料の記述のところについて最後の最後に申し上げますと,30ページの<説明>の1の2段落目,「甲案及び乙案は」と書かれているところの5行目から,「特に,乙案においては」ということで,乙案の問題点が指摘されております。

信託財産ですとか,それを売却することによって得た金銭によって費用のすべてを賄わなければならないときに,引受けの際の事情等によってはそういう認識を有する機会が存しないおそれが否定できないというふうに書かれているわけですが,これは甲案であるときには受益者がそれは全部分かっていてという状態になるわけで,しかも受益者についてはもちろん受託者がこういうことですよという説明ですから,受託者の認識をもとに受益権をとるかとらないかという話をするわけで,受託者についてなかなか機会がないのであれば,受益者については一層ないというふうにも感じますので,この部分の記述というのは,甲案をベースにされた丙案を導くための一つの根拠として出されているものというふうに推測しますけれども,非常に甲案に偏った視点ではないかと考えております。


● この点について,何かもしありましたら……。

● 補足で1点だけ。
  先ほど,○○幹事の方から,現行法の36条3項のところの解釈として,常に放棄できるという考え方もありますというお話でしたけれども,私自身は基本的に債務超過状態になっているようなものについては,特に自益信託についてはそれは放棄できないというふうに考えておりますし,学説上も多分そういうふうに考えられている方もいらっしゃると思います。ということだけを,ちょっと申し上げたいと思います。


● 放棄の問題と密接に関係しているということは確かだと思いますね。


● 一言だけですけれども。
  この補償請求権については,通常信託をした場合には,受託者の方としても信託財産の範囲内でこれをやるべきだというふうに考えているのが通常ではないかと。


受益者の方も,そのように考えているのがむしろ通常ではないかと思います。


  信託財産の管理ということからすると,やはりどちらかというと,受託者としては信託財産の範囲内できちんと管理運営をしていくというのが本来的な在り方で,それがむしろ義務というふうに考えられてもいいのではないかと個人的には考えております。


そういった観点からすると,受託者の責任なり,そうした義務という観点からすると,これは乙案を原則とすべきというふうに考えております。


● 1点だけ,補足的なことですが。
  


私も乙案がいいと思うのですけれども,その理由の一つとして,受益権の放棄,これは最初信託を受けるかどうかという段階で放棄あるいは承認をする判断をする際に,書かれていると判断が適切にできるだろうと,そういう観点からも書くことが原則だということでいいと思います。

● それでは,この問題については恐らく御意見があると思いますので,また後で戻ってくるかもしれませんけれども。


● 済みません,違う論点で2点でございます。
  一つは,第2回及び第5回で繰り返し申し上げたことですけれども,この資料でいきますと32ページの優先性について,有益費,必要費に限られるということでございまして,要は立替払いについて優先権は認められないという話で,これは繰り返し申し上げましたけれども,かつ,事務局として非常に御検討いただいたということは非常にありがたいと思っておりますが,結論としては消極扱いということで非常に残念に思っているわけでございます。
 


 ここに書かれている理由はもちろん分からないわけではないのですけれども,私から申し上げたことは,結局ここも同じ話で,こういう信託でよろしいのですかという話になってくると思います。


もちろん,義務としてやらなければいけないことはやらなければいけないのですけれども,受益者のことをおもんぱかって立替払いをする,それによって信託も維持されて,よって受益者も満足するし,信託債権者もほぼ満足する場合が多いだろうといったときに,そういう立替払いをすることにちゅうちょされるような規律を設けるのはどうかという話で申し上げたわけです。


もちろん,そういうことが難しいということであれば,基本的にはそういう信託になると,結局親切な信託ではなくなるという,義務さえあればいいという信託になる,そういうものを我々は追求しているのだというふうな理解でいるのかなと思った次第でございます。
 

 仮に,これを認めた場合でも,これは第2回目でも申し上げたことでございますけれども,そうしたときに,やはり必要費,有益費の定義が明確でないと,同じようなちゅうちょの問題が出てきますものですから,ここは是非とも解説等で明確化していただきたいと思っております。


殊に,必要費と有益費の違いについても,やはり明確にしなければならないわけで,これは範囲が違ってくるわけですから,ただ実務上は何かで申し上げたかもしれませんけれども,なかなか区分がしづらいところもあり得ましょうから,そこもあわせてなお検討していただきたいというふうに思っております。

  それから,また違った論点で,今回加わった論点で,担保保存義務の話ですけれども,これは債権者の立場から申し上げると,ここでも31ページのところで考慮はされていますけれども,要するに債権者がこの債権が信託財産にかかるものものかどうかということを知っているかどうかということです。


もし知らなければ,かかる義務を負わすと非常に酷だと思っております。


よって,こういう義務を仮に置くとしたとしても,少なくとも債権者がそういう状況を知っているということを確保できるような状態でないと,債権者にとって困った事態になるのではないかと思っております。

  そこで,ここでは規律の在り方としては本文のところで「知らせた場合」とか,そういうことが書いてございませんが,ただ先ほどの事務局の御説明では,たしかそういうことを前提としたような議論だと理解していますけれども,そういった知らせたという場合を前提にしていただきたい。

かつ,これも有限責任信託のところでも同じような議論をしたと思うのですけれども,やはり確実に知らせるということを配慮していただきたいという意味で,例として,書面で知らせた場合とか,そういうところの御配慮もいただきたいかなというふうに思っております。


● 受益者に対する補償請求権,先ほどから御意見がありますように大きな争点の一つでございます。先ほどからの議論にありますように,今度丙案というのが出てまいりまして,これについての御意見も伺っているわけでございますが,賛成される方,反対される方がございました。

  これは,こういう言い方をしては申し訳ないけれども,例えば信託銀行等の
受託者の立場からすると,今のところ丙案的なことは--丙案的なというか,商事の信託については,少なくとも受益者に対する補償請求権はなくてもいいというようなお考えだったのではないかと。

● 商事信託においては,例えば投資商品については今までもお話があったように,基本的に補償請求がいったりしては商売になりませんので,そういうことは全然考えておりません。


投資信託等についても,基本的にはこれは書くという方法で対処は可能ではあります。

● 商事信託法要綱なんかでも,商事の信託に関しては少なくともこういうルールで,信託銀行もそんなに不満ではないというふうに私なんかは理解していたのですけれども。そういう意味では,一々書くというのではなくて,デフォルトのルールとしてね。


  ただ,民事の信託まで含めて議論しますと,先ほどから若干また別な御意見もあったかと思いますけれども,ただ民事の信託においても,信託というのが……。
 

 先ほどちょっと,委任との比較,別な忠実義務との観点で委任との比較がございましたけれども,補償請求権についても委任契約との比較などは若干気を付けなくてはいけない点だとは思いますけれども,信託というのが単に財産の名義を受託者に移すだけではなくて,私の個人的な理解かもしれないけれども,基本的に信託というのは,受益者は指図をしない,委任の場合には受益者は指図をするというのが基本的な性格で,そこが非常に大きいのだと思うのですね。

したがって,信託の場合には受益者が指図をすることもできない,特別に権利を与えれば別ですけれども,そういう状況のもとで受託者が全面的に責任を持って管理する制度なので,したがって何かの場合,損失が生じたような場合にも受託者が一応責任を負うと,責任というのはリスクを負担するという意味での責任を負うというのを,何人かのさっきの御意見にちょっと私の個人的な意見もつけ加えたいと思います。


  いずれにしても,ただこれは大きな争点であり,ここでもって一気に決着をつけるというつもりはございませんけれども,更に御意見等があれば……。


● ちょっと違った角度から。直接,甲,乙,丙の話ではないのですが。
  


一つは,補償請求権の優先性についてですが,先ほど○○委員の方から,前回これが問題となったときに○○幹事の方から説明があって,現行法でも優先権というのはないのだなというのが分かったので,その点は構いませんというふうにおっしゃったのですが,私は○○幹事が前回説明されたとおりであろうというふうに思っております。

  何を説明されたかと申しますと,幾ら受託者に優先権を認めても,受託者自体は信託債権者に対して自ら債務を負っているわけですから,信託債権者と競合する場面において,信託財産に対してどちらが優先権を持っているかなんていうことを議論したってむだなんですね。

そこから先に取れたって,個人資産も含めて信託債権者に対して弁済しなければいけないわけですから。

ですから,私は現行法が根本的におかしいというふうに思っていて,何を考えているのかさっぱり分からないというのが現行法の理解なんです。


  私は,そこがポイントなのであって,そこに○○委員も納得されたと思うのですが,しかるに,説明は,先ほど○○委員がおっしゃったように共益性云々の話で言っているのは,私はどうかなと。

説明の仕方として,そもそも優先権を認めるという法制度というのが,率直に言うと論理的にあり得ないということを理由にすべきなのではないかというのが第1点であります。

  第2点は,直接甲,乙,丙案について口を挟むわけではないのですが,個人的に私も原則は乙案でいいのだと思うのですけれども,乙案をとったときのバランスの問題というのがやはりあると思うのです。


つまり,この第35の1のところで,一応信託財産から補償を受ける権利というのを持っていると,しかしながら(2)で,「信託目的の達成の妨げとなる場合又は受託者に信託財産を処分する権限が付与されていない場合」には求償を待ちなさいという話になっていて,私は乙案をとったときにはちょっとこれはかわいそうじゃないかという感じがするのです。


乙案をとる限りにおいては,マイナスになるというふうな危険があるときには,すぐに信託の事務の履行というものを停止できる,そしてどんどん立替払いしたものについては取れるというふうにしてあげなければ,履行は継続しなさいと,もちろん信託を終了するという道はあるのですが,それはそれなりの手続をとらなければいけないので大変なわけでありまして,そういうふうな終了について簡易な道がないと仮に仮定したときに,信託は継続しなさい,補償請求権については信託財産から取るのも我慢しなさい,しかるにマイナスになったときには受益者に対しては言えませんというのは,少しバランスを欠いているのではないか,乙案をとるときには1の(2)のところの若干の緩和が必要なのではないかというふうに思うということを1点申し上げておきます。


● 今のは,重要な御指摘ですね。
  ほかに,御意見ございますでしょうか。意見の分布は,大分明確になってきたと思いますけれども。
  優先性については,○○幹事の御意見だとおよそ認めるのはどれについても意味がないと,そういうことになりますか。今,必要費,有益費についてだけは優先性を認めるということもあり得るわけですけれども。


● しかし,優先するというのは信託債権者に対しても優先するのですか。しかるに,信託債権者に対しては,個人財産も含めて……。

● 結局,意味ないということになるのでしょう。例えば,税金なんかが典型的には……。税金はちょっとあれかな。
  いずれにしても信託債権者は受託者に対してかかっていけるのだから,だから信託財産の取り合いのときに優先性を認めても……。


● そこはそうなんじゃないかと思うのですけれども,もちろん信託財産に責任限定特約を締結しているということになりますと,これは別になるのですが,責任限定特約を締結しているにもかかわらず,いったん有益費とかそういう必要費というものを自己の財産から支弁するという行為をするというのが,私には多少矛盾があるような気がするのですが。

つまり,自分のポケットは使えませんと,信託財産から支弁いたしますと,私の固有の財産からは支払いませんというふうに言って,しかし支払ったときに,優先権というのは,かなり非常に特殊な場面を念頭に置くことになるのではないかなという気がしますが。


● この案は,そういうのが有益費等であるような場合には,優先的な権利を認めていいだろうということになるのだろうと思いますけれどもね。

● ○○幹事の最後の方の御意見にちょっと違うことを申し上げることになるかもしれません。


  必要費,有益費,ちょっとこれいいか悪いかは十分まだ意見を持っていないのですけれども,意味がないことはないのだろうと思うのです。


すなわち,必要費,有益費に限ってですが優先性を受託者の固有財産に認めることは,受託者の固有債権者,受託者の個人債権者との関係で意味を持つと。

すなわち,必要費,有益費に限っては信託財産の中で信託債権者が割合的に弁済を受けるのではなくて,そこは固有財産にまず移して,固有財産に対して債権者は,受託者の個人債権者と信託債権者とそろいますので,そこで割合的に弁済をしなさいということで,その部分は個人債権者もかかっていける原資になるというところで違いがあるだろうと。


それは,現行法についてもそういうふうな説明ができるのだと思います。したがって,その範囲を費用全部ではなくて,有益費,必要費に限るというのが今回の御提案だと思いますので,無意味ではないので,その当否を考えていくべきなのだろうと思います。

その当否を考えるのは,妥当ではないかと私は思います。しかし,そこについては十分うまく今理由を述べることはできませんが,無意味ではないということは強く申し上げたいと思います。


● 今まで議論に出ていなかった認識のところで,受益権の放棄と非常に密接に関連があると,もちろん放棄の議論をする場ではないのですけれども,私の理解ですと自益信託には受益権の譲受人が放棄できないような方向の議論があったと思うのですけれども,やはりそれだと,仮に乙案だとしても,信託契約に書いて,投資商品というのは自益信託形式ですから,そうすると放棄もできないという議論になってしまうので,それはちょっと問題ではないかと思います。
 

 あともう1点,ここは議論できていなかったかと思うのですけれども,受益権が有価証券化された場合ですけれども,有価証券化された場合でももともとの信託契約に求償権ありと,補償請求ありと書いてあると,やはり受益者は義務を負うという理解になってしまうとすると,そもそも有価証券--政策論ではなくて,やはり有価証券という視点からしても,何か素直に受け入れられないことだと思いますし,有価証券に何を書くのか,そもそも受益権は単なる権利ですから,その有価証券の券面の書き方とか,信託契約そのものを受益者はどういう形で常に見る権利を持っているのかということ自体にも影響してくると思います。

特に有価証券化された場合には。ということで,乙案というのが一般的に妥当な議論なのかもしれませんけれども,常に信託契約に書けばいいのだというだけでは,やはりまだまだ信託法を有効に利用しようとするときには不十分なのではないかと思います。

● 今の点,1点だけ補足いたしますけれども,事務局の提案では,有価証券化された場合につきましては,補償請求権,報酬請求権,ここの規律にかかわらず認めないものとするという提案はしておりますので,念のために1点補足させていただきます。


● 恐らく,それは合理的な内容でしょうね。


● 今まで,補償請求権については乙案に賛成するという対応をとっていましたけれども,この問題に関連して,弁護士が一般の法律事務として,有償で信託の受託者になるということがこれからあるのではないかと考えていますが,そういう受託者の立場で見ても,乙案となるのがやはりいいのかなと考えております。

ただし,先ほど○○幹事の方からお話があったように,1の(2),要するに信託財産を処分してかけた費用を回収する道が制限されていると。

これが余りきついと,やはり受託者となる場合を自分で想像してみるときついかなという感じがいたしますので,○○幹事の御指摘は大変もっともなことだと思いました。


● この点は重要な問題点で,信託財産が処分できるようにならなくては困るという問題と,それから仮に信託財産は処分してはいけないというようなタイプの信託であれば,やはり信託は終了するという方向が簡単にできないと困るということですね。
  

大体の御意見の分布は分かりましたし,また○○委員,まだなお御意見あるかもしれませんけれども,よろしいでしょうか。

  それでは,次のテーマに行きましょう。


● では,最後の差止請求権,検査役選任請求権と,それから受託者が法人である場合の理事の責任について,簡単に御説明をいたします。


  まず,第30の差止請求権の規律でございますが,これは受託者の将来の信託違反行為に対する差止請求権に関する提案ということになります。
 


 まず,前回の提案に比べまして,提案自体を改めた点でございますが,これは<説明>の1のとおり,差止請求権者に他の受託者を加えることとした点でございます。

これは,受益者保護の観点からは,他の受託者も差止請求権者に加えることが複数受託者間の相互監視義務の実効性を確保するとともに,事後的な救済手段として損失てん補請求等が認められている以上,事前の救済手段としても差止請求権を認めることは適当だと考えられるからでございます。

  なお,21ページの末尾及び(注2)に記載しておりますけれども,他の受託者の差止請求権については,特に要件を軽くすべきではないかという指摘もあり得るところでございますが,この点について御意見があれば伺いたいと思っております。

  以下では,提案の文言自体は改めませんが,前回会議での指摘を踏まえまして検討した点につきまして概略を御説明いたします。全部で4点ほどでございます。
 

 まず,一つは<説明>の2に関しまして,差止請求権の態様としては,あくまでも受託者の将来において行おうとしている信託違反行為,これは法律行為のみならず,無効な法律行為に基づく履行行為のような事実行為も含むものでございますが,その将来の行為の差止めというものでございます。

それにもかかわらず,提案のような文言を採用しておりますのは,受託者が信託違反行為を継続している場合があることを考慮したことなどによるものでございます。
 


 次に,<説明>の3に関しまして,前回会議におきましては,複数受益者の受益権の内容に差異があるような場合においては,差止請求を受けた受託者が判断に困るおそれはないかとの指摘がされました。

この点につきましては,受託者としては,差止請求権の厳格な要件が満たされているか否かを善管注意義務のもとで判断すべきであり,これは通常の信託事務処理の場合と何ら異なるところはないのでありまして,差止請求の局面においてのみ受託者に判断の困難を強いるとの指摘は当たらないと考えるものでございます。


  次に,<説明>の4に関しまして,前回会議におきましては,受益者の受任者に対する差止請求権をも認めるべきではないかとの指摘がされましたが,受任者に対しましては直接の契約関係にある受託者がしかるべき権利行使すべきであって,受益者としては受託者に対する監督権行使をもって自己の権利の擁護を図るべきであると考えるものでございます。
 

 最後に,<説明>の5に関しまして,前回会議では,差止請求権の濫用を防ぐために,裁判所は,受託者の請求により差止請求者に担保の提供を命ずることができるとの規律を設けてはどうかとの指摘がされました。


この点につきましては,資料23ページに記しました現行商法における合併無効の訴えですとか,株主代表訴訟,そのほか被告の請求により悪意の提訴者に担保の提供を命ずる規定は商法に多数存在いたしますけれども,このように商法におきましてこのような規定があるのは,恐らく総会の存在を前提にこのような訴訟類型について類型的に濫訴のおそれが高いと想定されるのに対しまして,信託における差止請求権にはこのような特殊事情があるとは思われませんし,商法においても差止請求権には被告取締役に担保請求を認める規定は存しておりません。


その他,保全であれば民事保全法により担保の提供を命ずることができますし,本案であれば請求を認めないという方法もありますので,今回の提案でも担保提供に関する制度を設けることは提案しておりません。以上が差止請求権でございます。


  次に,第31の検査役選任請求権でございますが,これは前回の提案から特段の変更はございません。

  なお,前回会議におきまして,裁判所は,検査役の報酬を決定する手続のみならず,検査役を選任する手続においても「受託者の意見を聴取しなければならない」とすべきではないかとの指摘がございました。

しかし,報酬は,選ばれた以上は必ず決定することを要するのに対しまして,選任についてはそもそも明らかに濫用的な申立てであって,およそ受託者の意見を聞くまでもなく,選任を要しないというような場合もあり得ることにかんがみますと,裁判所が選任の要否を判断するに当たって義務的に受託者の意見を聞かなければならないとするのは,硬直的に過ぎて妥当ではないと思われます。

そこで,裁判所は,検査役選任手続に当たりまして受託者の意見を聞くか否かは,現行法であれば非訟事件手続法11条の趣旨に従いまして,裁判所の職権による裁量的判断にゆだねればよいと考えるものでございます。
 


 最後に,第32の法人役員の連帯責任ですが,これも変更はございません。すなわち,本条は受益者保護のための規定でございますので,対象となる責任は受託者の受益者に対する責任,典型的には損失てん補や原状回復の責任であること,理事等が受託法人の任務違反行為に単に関与しただけでは責任を負わず,受託法人の違反行為について自ら悪意又は重過失があるときにのみ責任を負うものであること,以上のような点を明らかにしたものでございます。


● それでは,ここまででお願いいたします。


● それでは,差止請求権と検査役の選任請求について申し上げます。
  


まず,1点目の差止請求権につきましては,今回は他の共同受託者の差止請求というのが提案として入っているわけですけれども,これについては損失てん補請求であるとか,原状回復請求とか,それとの平仄から基本的には特段の異論はございません。


  あと,職務分担型の共同受託の場合につきましては,23ページの(注1)のところで,特段の事情がない限り,他の受託者が信託違反行為の差止めをしなかったとしても,相互監視義務に基づく責任を問われることはないというような説明がありますので,これについても賛成しておりますが,ただ1点だけ,年金信託等で見られます財産分属型の共同受託につきましても,やはり基本的には相互監視というのはやっておりませんので,ここについても基本的には職能分担型と同じような形で,相互監視がないという形で差止請求をしなくても善管注意義務違反にはならないという形のことを明らかにしていただきたいということが1点です。
 

 次に,信託事務の受任者の行為に対する差止請求でございますが,これについては22ページの<説明>の4のところにあるとおり,現行法の26条3項を削除して,受任者の過失による損害は,受託者による責任追及によって回復するというふうに私ども主張しておりますので,それとの平仄から,ここにおいても差止請求の対象外の行為というふうに整理されるべきだと考えております。
 

 それと,次に検査役の選任請求ですけれども,これについては第5回の会議で非訟事件手続法の129条の2で取締役と監査役の陳述聴取というのが規定されているから,同じようにしてくださいというお話を申し上げましたら,今般,基本的には裁判所が職権をもってするし,通常聴取されるであろうから,必要が特にないのではないかというお話がございました。

それで別にこだわるつもりはないのですけれども,通常されるのだったら規定していただいてもいいのかなということをちょっと申し上げたいということでございます。


● 今のお話にもありました,受任者の差止請求の可否の点について御意見申し上げたいのですけれども。


  これは,前回の中でも受任者の行為についてどうかという議論があったかと思いますけれども,やはり受益者の立場からすると非常に心配なところです。

受託者が単独で違反行為を行った場合にはとまる,ところが受託者が例えば委託によって受任者とともに行為をした場合とか,あるいは受任者を利用して行為を行った場合,あるいは受任者が違反行為を行おうとしていて,それに対して受託者が適正な権限行使をしていただけないような場合には,やはりそういう場合であっても受益者としては何とかして違反行為はとめたいと考えるのが通常だろうと思います。


  この点に関しては,記述の中で,「受益者等による信託事務処理への介入は最低限度にとどめるべきではないか」という御指摘がありますが,これは正常な信託が行われているような場合には,正に御指摘のとおりだと思うのですが,法令違反,信託行為違反が行われようとしている場合には,むしろ受益者の権限行使が期待される場面なのではないかというふうに思われます。
  


具体的に,どういった制度を作るのがいいか,あるいはどういった態様を考えるのがいいかということが問題になろうかと思うのですけれども,26条3項を削除するという前提では,なかなか容易ではないと思いますけれども,信託の重要な部分については26条3項の規律を維持するということも一案かというふうに,個人的には思います。

これがない場合には,じゃあ受託者の権限について受益者が代位行使を何らかの形でするのかと。


ただ,これも前回もちょっと議論がありましたけれども,どうも十分ではないと。そうしたことからすると,何らかの形で規律を設けるということを是非御検討いただけないかというふうに,重ねて思います。

  あと,もう一つのアプローチの方法としては,受任者に事務処理を委託する場合の責任の規律について,こういった受任者の違反行為が行われにくいような規律の仕方,比較的受託者にある程度の責任を負っていただくことになるのかと思いますけれども,そういった方向からのアプローチも考えられるのかなと思いますけれども,できればこれは基本的には何らかの形でとまるような制度というものを御検討いただけないかと考えております。


● 受任者の問題はなかなか重要な問題だとは思いますけれども。この差止請求権の根拠をどこに求めるかとも関係してくると思いますけれども。
  これは,今のところ差止請求権の根拠については説明はなかったかな。

● 特に説明はしておりません。考え方としては,そもそも受益者と受託者の間には契約的な関係があるから,当然に固有的な権利としてあるという考え方もありますが,それですと一定の要件のもとにこれを限定したという方向になります。
  

他方,こうやって法定で特に付与したという考え方もあるかと思いまして,ちょっとどちらかというのは決め打ちしているわけではございません。


● 純粋な質問でございますが,第30の差止請求権で,ある行為が差し止められた場合に,その行為が事実行為の場合,法律行為の場合,両者あり得るというお話でしたが,法律行為の場合に,その差止めに違反して契約が結ばれた,信託財産に属する重要な財産が処分されたというような場合は,この差止めによって特に影響を受けるのか,あるいは受けずに,単に,第34ではないかと思いますが,受託者の権限違反行為等の問題として差止めがなされていたかどうかは,差し当たって実体法上影響はなく判断されるという構造になるのか,もし事務局としてお考えがありましたらお教えください。


● 対外的効力につきましては,やはり行為の効力に影響しないと解さざるを得ないということになりますので,損害賠償請求権の問題にとどまると。あとは,おっしゃるとおり取消権を行使するかどうかという問題になってくるかというのが基本的な認識でございます。

● ほかの受託者からの差止請求については,要件を少し軽くしたらどうかという御意見もあり,それについても皆様の感触を伺えればということでしたけれども。
  この原案自体は,そこは差を設けていないわけですね。

● とりあえず設けていませんが,これは設けない方がいいかなというわけではなくて,とりあえずそっちの方を出しているだけで,両案併記と思っていただいていいかと思いますが。

● 両案併記ということですと,対案と申しますか,他の受託者の方が行使の要件を緩やかにするという案についてですが,裏返しに言うと,受益者の方がより重くなるということになると思うのですが,差止請求権の根拠ともかかわりますけれども,受益者の方が重いという説明がなかなか難しいのではないかという気がいたしますが,理由をお聞かせいただければと思います。

● そこまで考えていなくて,おっしゃるとおり確かにそういう見方としては非常におかしいと思いまして,ここでは単に他の受託者についてはここに書いてありますような理由をもちまして軽く認めた方がいいのではないかという,素朴な観点から御指摘させていただいただけで,そのようにおっしゃられますと,ちょっと反論のしようがないという感じもいたします。

● いろいろな派生するところがありそうな気がしますね。つまり,受益者の方が重いというのをどう説明するかという問題と,先ほど○○委員からありましたように,ほかの受託者--これは義務とされると困るという場合があると思うのですけれども,しかし軽い要件でできるということになると,何か義務みたいなものが発生してこないとは限らない。


● ○○幹事がおっしゃったことと関係するのですが,差止請求権の違反の問題ですけれども,私法上の効力には一切影響がないということになりますと,差止めがいったんあって,それに違反してそういった行為をした場合と,差止めなくそういった行為をした場合と,結局同じということになりますよね。

つまり,いずれにしてもそれは信託行為の定めに違反する行為なわけですから,損害賠償請求権を最終的には引き起こす行為ですから,この第30に従って差止めが起こらないでやった場合にも,損害賠償というのは発生しますよね。


差止請求権の行使があって,差止命令が出たあとに違反して行った場合も,これは同じということになりそうなのですが,それは一つとして同じという規律にするというのもあり得ないではないような気がするのですが,私は,違うんじゃないかなという気がするのです。

  どう違うのかというと,恐らく受託者がやってはいけない行為というのは二通りあり得て,それは権限内なんだけれども,それは不当であると,善管注意義務違反でもいいですし,忠実義務違反でもいいのかもしれませんが,例えば有価証券を処分するという権限は持っているのだけれども処分の仕方が悪いという場合と,無権限であると,先ほどある財産について処分の権限はそもそも与えられていない場合というふうな話が書いてありましたけれども,そういうふうな無権限でやるという場合とが違うのではないかと。


  そして,差止めの命令が出るというのは,仮にそれが権限内の不当な行為であるという場合でも無権限と同じに扱うというような効果は発生するのではないか,そして,発生しないということになりますと,何かいかにも裁判所侮辱罪がない法制度のもとでは,何をやったのかよく分からないことになってしまうので,何か私法上の効力に結びつける解釈論が必要なのではないかという気がするのですが。
  ○○幹事の趣旨を,私が曲解しているのかもしれないのですけれども。


● 理論的にはおもしろい問題だけれども。
  ○○幹事は,何に結びつけると。私法上の効果ということになると,無効ぐらいしかないわけですが。

● だから,やはり無権限で無効なんでしょうね。権限を剥奪するということになるのではないかと。そうしないと,いずれにしても定めに違反する行為を行うわけですから,別に何でもなかったという話になってしまうような気がするのですけれども。


● これは,商法なんかの方でも規定があるのだと思うのですが。


● 実は,先ほど言いました商法の差止請求権に関する規定を参考にさせていただいてものでごさいまして,例えば商法の教科書を拝見いたしますと,「仮処分違反につき悪意の取引の相手方に対しては会社は無効を主張できるとの見解がある。

この見解は,その仮処分に取締役がその行為をなす権限を制限する効力があると解するのであろうが,現行の民事保全法上,仮処分そのものにそのような効力があるか極めて疑問である」とされておりまして,行為の効力には影響しないと解さざるを得ないという一つの見解。東京高判にもあるようでございますが,そのような見解がとられております。
 

 ○○幹事の指摘は,確かにそういう点もありまして,事務当局としては,行為の効力には影響しないとしても,では,やってしまうのはまずいということであれば,例えば解任をすると,しかし解任は時間がかかるので更にまずいとすれば,例えば職務執行停止の仮処分とか,そういう問題はあるかと認識しておりまして,たしか信託財産管理人のところで前にそういう提案をしてはおりましたが,ちょっとそのような方策があり得るかどうかというのは,その信託財産管理人のところなどでまた検討したいと思っておりますが,当面の事務局の見解といたしましては,やはり行為の効力,権限を制限するというのは難しくて,その他の方法で職務執行停止する等によらないと難しいのではないかというのが,今の考え方でございます。

● そういうことで,もうちょっと商法の方の考え方なども比較しながら検討していきたいと思います。


● 民事保全法上の効力がないという問題と,実体法の中で差止請求権をわざわざ規定するというのとはかなり違う話であって,民事保全法からそのような効力が引き出せないというのは,理由になっていない……。


  別にそれは,○○幹事に対する批判なのか,当該教科書に対する批判なのか……。


● 仮処分の違反ということですから,差止請求権を本案でやったときに,それに違反したときというのは,ちょっとまた確かに別の問題かという気はいたします。


今のは,あくまで仮処分違反の効力という説明でございましたので。
  確かに御指摘のとおりですので,検討したいと思います。


● 一通り御議論いただいたかと思いますけれども,よろしゅうございますか。


● 先ほど,○○委員の方から御指摘のありました,検査役選任の場合の意見聴取でございますが,本来であれば会社の場合にどうしているかというあたり,お調べした上でお答えすべきなのかと思います。

そういった詳しいところは次の機会にでもと思いますが,恐らく聞かないということであるとすれば,先ほど○○幹事がおっしゃったように,聞くまでもないという場合のほか,ひょっとしたら聞いてしまってはまずいのではないかというような場合もあり得る。


  例えば,非常に受託者が怪しげなことをやっているということが明白であるような場合というのを考えますと,その受託者の意見を聞くということによって,受託者に対して対策を立てる間を与えてしまうという場合もあり得るということだろうと思います。

場合によっては,証拠書類の破棄,隠匿といったことも含めてということがあるかもしれませんので,そういったところからもある程度意見聴取ということについては柔軟性のある規定というのが必要になってくるのではないかなと思っております。

  具体的なところは,また新しい会社法においてどうなっているかというあたりも本来確認すべきだったかと思うのですが,そういったあたりも踏まえてなお御検討いただければと思っております。


● ちょっと非常に基本的なことで恐縮でございます。質問で,32の法人役員の連帯責任のところで,「法人の理事又はこれに準じる者」というのは,基本的にどういうふうに考えればよろしいのでしょうか。

● 「準ずる者」ですか。教科書などでの例を見ていただくしかないと思うのですが。


● 何か基本的には会社であれば代表取締役と,準ずる者は取締役みたいな解説があったやに思うのですけれども,どういうところでどこまでなのかなというのがちょっと疑問になったものですから。


● それはまた説明事項かとは思いますが,必要があれば説明中に書くように検討したいと思います。


● この法人の理事というのは,民法の概念というか,民法に使っているような言葉ですけれども,民法の場合には確かに理事というのは原則代表権があって,密接に絡んでいるのだけど,会社なんかの場合ですとどういうふうに当てはめて考えたらいいのかというのは,ちょっと分かりにくいですね。


つまり,代表取締役というのがいて,普通の取締役がいるというときに,そもそもそういう場面で法人の理事というのはどこまで含むのかというのも余りはっきりしないような気がしますね。
  感覚としては,どうなんですか。普通の取締役も責任を負うべきだというのは,厳し過ぎるという感じがしますか。


● 基本的には,代表訴訟の形の対象になる人みたいな意識でもって我々実務上は考えていましたけれども。


● これもちょっと少し調べた上で,また検討します。


● まとまらなくて質問なのですけれども。
  先ほど,○○幹事からの御回答で,法律行為の場合には詐害行為取消権を受益者は行使するというような御回答でしたか。


それは,民法上の詐害行為ということになると,また要件とか違ってくるかと思うのですけれども。

というふうに思って,法律行為についても正しく現に信託契約違反,また法令違反の法律行為をしようとしている場面においては,事前であれば差止めがあっても,詐害行為取消しとは必ずしもパラレルじゃないような気もしますし,また全然違う議論ですけれども,詐害信託の議論のように,相手方の善意重過失か何かを要件として,法律行為についての効果についても,何か違った手当てをするとかいう議論もあってもいいのかないのか,ちょっとその辺,何か御説明いただければと思うのですけれども。

● ちょっと私の説明が不十分だったかもしれませんが,まずとりあえず先ほどの説明の前提では,仮処分によっては権限を奪えませんので,それによって法律行為の効力は何か瑕疵を見るわけではありませんが,それが例えば義務違反行為であった場合には,権限違反という問題が出てまいりまして,それに対しまして現行法でいえば31条に当たります法律行為の取消権,あちらの規定でございまして,詐害行為の問題とは全然別だと考えております。

● よろしゅうございますか。
  それでは,本日の会議はこのぐらいにしたいと思います。どうもありがとうございました。
─了─

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第13回会議 議事録

第1 日 時  平成17年4月8日(金)  自 午後1時01分
                      至 午後5時22分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   受益債権についての物的有限責任について
   受託者の有限責任の許容について
   受託者の権限について
   受託者の権限違反の行為等について
   受託者の解任・辞任等について
   合併又は会社分割による受託者の変更について
   受託者の任務終了事由と倒産手続の開始について
   受託者が欠けた場合の取扱いについて
   受託者の交代について
   受託者倒産の場合における信託財産の取扱い等について

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● ただいまから信託法部会を開催します。
  いつものように,幾つかに分けて説明してまいります。
  ○○幹事の方からお願いします。

● 今日の進行でございますが,大きく4つに分けてさせていただきたいと思っております。

  まず,受託者の解任・辞任等について,合併等について,任務終了事由と倒産手続の開始について,受託者が欠けた場合の取扱いについて,受託者の交代について,ここまでをまず一まとめにしてさせていただきます。
 

 あと3つに分けると申しますのは,1つは,第42の受託者倒産の場合における信託財産の取扱いというところで,差止めという新しい提案をしております。あとは有限責任の問題が一まとまり,権限と権限違反行為についての問題が一まとまりということで,全部で4つでございます。


  まず,第37の受託者の解任・辞任等に関する提案から御説明させていただきます。


  提案内容につきましては,前回の提案から変更はございません。

  具体的には,まず,解任につきましては,委託者と受益者の合意により,いつでも自由に受託者を解任できるものとしたこと。


ただし,受託者の不利な時期に解任されたときは,委任に関する民法第651条第2項の趣旨に従い,受託者に損害を賠償しなければならないものとしたこと。


しかし,以上はいずれもデフォルト・ルールでありますので,一定の事由がある場合に解任を制限したりとか,受託者の同意を要すべきものとしたり,あるいは解任時期にかかわらず損害の賠償を不要とするなどの特約も許されること。


さらに,合意による解任ができない場合に備えまして,現行法第47条の趣旨に従いまして,受託者に任務違反等の重要な事実があるときには,受益者又は委託者は裁判所に対して受託者の解任請求をすることができるとしたことなどでございます。


  辞任については,信頼を受けて就任した受託者が自由に辞任できるとすることは相当ではないとの考えのもとに,辞任方法を特約辞任,承諾辞任,許可辞任の3つの場合に限る現行法第43条と第46条の趣旨を維持するものとしております。
  

新受託者の選任につきましては,委託者と受益者の合意により選任できることを明確化するとともに,利害関係人が新受託者の選任を裁判所に請求できるとする現行法第49条の趣旨を維持しております。
  以上が第37でございます。


  続きまして第38の合併又は会社分割による受託者の変更についてという提案でございます。

  これも提案内容は,前回の提案から変更ございません。
  若干具体的に申しますと,法人または株式会社が合併し,又は会社分割された場合におきましては,債権債務関係のみならず契約上の地位も含めて,新会社に全部あるいは部分的に包括承継されることになりますので,法人又は株式会社が受託者であった場合についても,受託者の任務は終了せず,新会社にそのまま任務が包括承継される。

この場合におきまして,受益者や信託財産に責任を限定された信託債権者は,商法上の債権者保護手続の対象とはならないものとすることなどを提案するものでございます。
  

続きまして,第39の受託者の任務終了事由と倒産手続の開始についてでございますが,これも前回提案と異なるところはございません。

  要するに,受託者について破産手続が開始した場合には,原則として受託者の任務は終了しますが,「破産手続の開始が任務終了事由とならない」との別段の定めを置くことも許容されるとする趣旨でございます。


  続きまして,第40の受託者が欠けた場合の取扱いについてでございます。

  これは,受託者の任務終了事由の発生により受託者の全部が欠けることとなった場合におきまして,新受託者又は信託財産管理人が事務を処理することができるようになるまでの間,信託自体は継続することになる観点から,だれが,いかなる内容の義務を負うことになるかについて提案するものでございます。
 

 まず,提案の1でございますが,これは前回提案から変わるところはございません。

すなわち自然人である受託者の死亡,審判による後見開始,審判による保佐開始,または法人受託者の解散─なお,合併の場合等に関しましては,先ほど言いました,任務が終了せず新法人に承継されるということを提案しておりますが,それを除く,法人受託者の合併等以外の事由による解散による任務終了の場合には,それぞれ相続人又はその法定代理人,成年後見人,保佐人又は清算人が,いわば緊急避難的に信託財産の保管と事務の引継ぎに必要な行為,この2つを行うこととするものでありまして,基本的に現行法第42条第2項と同じ趣旨でございます。

  次に,提案の3でございますが,これは,前受託者が任務終了しながらもなお,原則として,広く受託者の権利義務を有することとなる場合でございます。
  

ところで,前回提案におきましては,1による任務終了の場合と解任による場合を除いて,辞任による場合,信託行為に定めた任務終了事由の発生による場合は,すべてこの3の類型に含まれることとしておりました。


これに対し今回の提案では,辞任のうち現行法第43条に相当する特約辞任と承諾辞任の場合に限って,3の類型に含むことと改めております。


  これは,次に申し上げます提案4の場合と異なりまして,特約辞任又は承諾辞任の場合につきましては,受託者側に非違事由,あるいはやむを得ない事由,換言いたしますと信託事務遂行上の支障となる事由があったとは原則として考えられないわけございますので,受託者の管理を排除するまでの緊急性に乏しく,むしろ受託者としての権利義務を認め,信託事務の処理を継続させることが受益者の利益になると考えられますので,現行法第45条の趣旨を維持することとしたものでございます。

  これに対しまして,提案の4でございますが,これは前受託者が原則として3の類型よりも狭く,信託財産の保管,信託事務に関する計算及び事務処理に必要な事務引継ぎを原則として行うにとどまることとするものでございます。

  ところで,前回提案におきましては,解任による場合のみが4の類型に当たることとしておりましたが,今回の提案では,解任による場合に加えて許可辞任の場合,信託行為に定めた任務終了事由の発生による場合も4の類型に含むこととしております。

  このように変更いたしましたのは,前回提案の下では,例えば信託行為で定めた一定の解任条件が成就したような場合につきまして,これは果たして解任による任務終了の場合に当たるのか,それとも信託行為に定めた任務終了事由の発生による任務終了の場合に当たるのか,前回提案ですと,それによって3か4か変わってきますので,どちらなのか判然としないと思われました。


それで,改めて提案内容を見直したわけでございますが,その結果,受益者,委託者側のイニシアチブで受託者を解任した場合,あるいはやむを得ない事由があることを事由に受託者が裁判所による許可を得て辞任した場合,あるいは信託行為においてあらかじめ定めておいた任務終了事由が成就した場合のいずれにつきましても,原則として,受託者にその信託事務処理を継続させることは妥当ではなくて,最低限の事務処理を除いて受託者の管理を排除することが,信託当事者の通常の意思に沿うものと考えるに至ったものでございます。

  なお,第6回会議における指摘を踏まえまして,提案の3及び4におきまして,前受託者が有する権利義務の内容は,いずれもデフォルト・ルールであることを記述上も明確にしております。


具体的には,3では「信託行為に別段の定めがない限り」という文言が入っておりますし,4につきましては,16ページの頭に「④その他信託行為に定めた事務」と書いてありまして,デフォルト・ルールであることを明らかにしているわけでございます。

  これは,任務終了後の受託者がいかなる権利義務を有するかにつきまして,ニーズに応じて信託行為により定めることを排除する必要性はないと考えるからでございます。

  最後に,第41の受託者の交代について御説明申し上げます。

  これは現行法第50条から第55条に対応いたしまして,受託者の交代に伴う信託財産の帰属,信託に関する権利義務の承継,新受託者への事務の引継ぎなどにつきましての提案でございます。


  提案内容につきまして,資料中,20ページの<説明>の冒頭を見ますと,受益者に対する補償請求権に関して新たに19ページの丙案を書きました。


前回,丙案については支持が少なかったのですが,前回提案したこととの平仄を合わせるために今回も丙案を書いたというにとどまります。


その他,資料中には特段の変化はないと記載してはおりますが,実は,実質的には修正と言うべき点が2点ほどありますので,まず,その点について御説明したいと思います。


  まず第1に,任務終了により受託者の全部が欠けた場合につきましては,先ほど御説明いたしました受託者の任務終了に関する第40におきまして,前回の提案を改めまして,前受託者が引き続き受託者の権利義務を有するのは特約辞任と承諾辞任の場合に限ることといたしましたので,これと連動する形で,第41の提案1の(3)及び提案の3におきまして,特約辞任と承諾辞任のときのみ信託財産管理人または新受託者就任の時点をもって信託財産の所有権を含む信託に関する権利義務が新受託者に承継されるものと見なすこととしております。


1の(3)のイをごらんいただきますと,「新受託者は,信託財産管理人又は新受託者が就任した時に」権利義務を承継する。それまでは受託者としての権利義務をずっと持っているからという理由でございます。
  


これに対しまして,それ以外の場合,例えば解任等の場合には,まさに任務終了時,すなわち解任時,許可辞任のとき,その他任務終了事由が発生したとき─死亡ですとか後見開始ですとかそういうことですが,そのときに,このような承継が新受託者にされたものと見なすこととしております。


1の(3)のアをごらんいただきますと「任務が終了した時に」権利義務を承継するという形,新受託者が選ばれますと,任務終了時に遡って権利義務の承継がされたと見なす,このように移転の時期を定めています。


  第2に,共同受託者の一部が任務終了により欠けた場合につきまして,前回提案では,やはり任務終了事由によって承継時期を区別するかのような提案内容となっておりましたが,他に受託者がいる場合には権利義務の承継時期を遅らせる必要はないと思われますので,特約辞任,承諾辞任の場合を含め,すべての任務終了事由について,原則として任務終了事由の発生時に直ちに他の受託者に対する承継がされることとしております。

太字の2をごらんいただくと,そのような記述になっているわけでございます。


  なお,第6回会議におきまして,かつて提案した信託継続中の受託者の受益者に対する補償請求権行使の要件の方が,今回の任務終了後の前受託者の受益者に対する補償請求権行使の要件よりも緩やかになっていることについて,疑問が提示されました。

この点につきましては,任務終了後の場合と異なり信託継続中の受託者につきましては,信託目的達成の妨げになる場合や信託財産を処分する権限が付与されていない場合には,信託財産に対する補償請求権の行使が制約されるという提案をしておりますので,それだけ受益者に対する補償請求権の行使を認める必要性が相対的に高いと考えられることに鑑みまして,両者の要件について差異を設ける提案を維持しているわけでございます。
 


 具体的には,19ページの4の(5)で「(1)又は(2)の権利を行使することによっても補償を受けられない場合に限り」と,ここまでいかないと,補償を受けられないと判明しないと補償請求できませんが,通常の補償請求の場合ですと,その蓋然性が高い場合であればいけるということで,緩いわけでございますが,先に申し上げましたような違いがあることに鑑みまして,このように提案内容を異ならせているということでございます。
  以上で一応の説明を終わらせていただきます。

● ただいまのところまでの議論をお願いします。


● 第37の4ですが,委託者又は受益者からの裁判所に対する解任請求のところで,信託の種類によっては,委託者からの解任請求が必要とされる状況というのはあるかとは思うんですけれども,流動型の信託で,投資家の知らないところで,軽微といいますか,与り知らぬところで受託者が解任されることに対する懸念がなきにしもあらずと思います。
  

したがいまして,これは信託行為に別段の定めがあれば委託者の解任請求権はないといった例外規定も含み得ると読むこともできない─3の例外は1と2だけですから,裁判所に対する解任請求をデフォルト・ルールとして考えることはできないでしょうか。


● 第37の4と言われましたか。


● はい。受託者の任務違反のときに「委託者又は受益者」という……。だれに解任請求権があるかという論点です。

● 事務局といたしましては,裁判所に対する解任請求権というのは,基本的に委託者にも付与されるという位置づけにはしておりますが,他方,訴訟契約のようなものを信託行為の中で定めておけば,それによって裁判所に対する請求権を遮断することは可能かなという考えでおります。

● その辺,実務的な感覚はわかりませんけれども,先ほど言われたのは,受益者あるいは投資家でしょうか,そういう方が知らないところで,言い換えれば,委託者の方のイニシアチブで解任されるのはどうかということですか。

● はい。現実的にそういった作業かどうかは別として,格付け的な視点からも,この受託者が扱うところの投資商品はという観点から格付けもされているかと思うので,ですから,一たん投資商品化した後は,委託者の関与はなるべく排除したいと考える次第です。


● ○○幹事から今,説明がありましたように,何をデフォルトにするかなんでしょうけれども,契約でもって委託者からの─それはしかし,契約ではだめなのかな。裁判所に対する請求権ですからね,だめですかね。

● 委託者の権利がどこまでかというのは,また後日,検討いたしますが,基本的に,裁判所に対する請求権はあるというのがまず前提でございまして,その上で,しかしながら,今,申しましたように,訴訟契約のようなもので,恐らく委託者と受託者が信託行為で,委託者には受託者の裁判所に対する解任請求権がないことを定めて,訴訟上主張すれば,現在の考え方では,それによって請求が排斥されるのではないかと思います。

● 今,○○幹事から申し上げたとおり,訴訟契約のようなものとしての効力が認められるだろうという限度でございます。


その結果どうなるかというのは,学説はいろいろ,争っているところはあるのですけれども,そのような契約の効力が有効であることは間違いないわけです。


その結果,格付け上も,そのような委託者の申立ては無視されるのが普通ではないかと,今のところ考えております。


● それは,受益者の場合も同じですか。つまり,受益者が受益権取得時にそういった訴訟契約を締結すれば,受益者からの解任請求も排除され得るということでございましょうか。


● 受益者は信託契約の当事者ではございませんが,別途,個々の受託者と契約したという場合でございますか。


それだと,その契約がどこまで公序良俗に反しないかという問題はともかく,任意にやれば有効と言わざるを得ないのではないかという気がいたします。


● 「別途」とおっしゃいましたけれども,もちろん,極端に言えば受益証券に書いた場合にどうなるかという問題もありますし,それ以前の,第1次的な売り出しの段階で,例えば三面契約などで信託が設定されて受益者が定まるといったことになりますと,その中に書いておけば,それで受益者の解任請求権もなくなるのかという感じがいたしまして,そうすると,何か歯どめがないと,訴訟契約が締結されればよいということにはならないのではないかという気がするのですが。

● あらかじめ信託行為に書いておいて,それを受益者が承知の上で受益権を取得したわけだから,その効力が及んで解任請求が解除される,そういう筋書きになるのではないかということですよね。


● それは第2の筋書きで,第1の筋書きとしては,受益権を取得する際の,例えば証券管理でもいいんですが,最初に自益信託として委託者がすべての受益権を取得して,それから販売される形をとってもいいわけですが,そのときに,例えば三面契約をとって受託者を契約当事者に加えた形で受益証券を売却すれば,その売買契約の中の情報の効力によって,そういうことが起こり得るのではないか。

  さらに受益証券の中に記載した場合どうなるかという問題は2番目にありますが,1番目の問題の方が,よりプリミティブな問題として存在するかと思います。

● おっしゃるとおり,プリミティブに考えると,それで請求権が排除されることになりかねないんですが,受益者に対する解任請求権というのは監督の非常に重要な権利の1つでございますので,何らかの制限が必要かなという気もいたします。1度検討したいと考えております。

● もちろん根本的には委託者,これはもとの条文の何条でしたか,現行法でも委託者が入っていまして,そういう意味では現行法と変わらないわけですが,果たしてこの場合,委託者が出てくるのがいいのかどうか,新しい信託法のもとで見直す必要があるのかもしれませんね。
  

委託者はどっちみち信託契約の当事者になるから,委託者の権限を入れようと思えばいろいろな形で入れることもできるでしょうし。

  では,この点はもう少し検討するということで。
  ほかに,いかがでしょうか。
  第37は前回と変わっていないわけで,先ほどのような問題点はなお検討するとして,大体よろしいでしょうか。
  --第38以下は,いかがでしょうか。

● 第38について2点御質問なんですが,1点目は,この受益者に対しては,合併とか分割の通知とか公告とか,そういうものがいくというか,その対象になる--公告の場合は対象というのはないのかもしれませんが。
  

2点目は,この受益者には,合併とか分割無効の訴えの原告適格は与えられるのでしょうか。


● そこはまだ検討しておりませんでしたので,今の御指摘を踏まえて検討して,お答えしたいと思います。


● 合併無効みたいなものは……。どうなんですか,こういうのも,やはり規定がないと。


● 現在の商法第415条に,たしか「合併を承認せざる債権者」とか書いてあるはずなんですが,これはそもそも保護手続の対象にならないような人は一体どういうことになるのかといったことなんですけれども。

● 受益者も受益債権を有する者ですので,言葉を読めば入るんですが,御指摘のとおり,受託者が合併しても信託債権者は特に害されることはないだろうということで,債権者保護手続から外しております。


そうすると,合併無効の訴えというのも,どうもそれとの連動では難しくて,むしろ不服があれば合併後の受託者に対しての解任請求という形でいくのかなという気もしております。


  しかしながら,合併無効の訴えの適格になるかどうかは検討はいたしますが,少なくとも解任という形,自由に解任できますので,一たん合併は仕方ないな,しかしやめさせようということになるのかなということはあり得ます。

● 第38のところで,これは第27の物的有限責任の議論とも絡んでしまうんですけれども,受益者の第19条の債務に係る債権というものは,信託行為の中で,委託者と受託者の間で受益者に対する権利ということで,信託元本とか収益以外のいろいろな取り決めをした場合の債権のようなものは,特に入らないという理解でしょうか。


● 受託者の固有財産におけるものは入らないと考えております。あくまで信託財産を責任財産とする信託債権がここでの対象でございます。

● 受託者の破産手続開始の場合の記述について,信託行為に別段の定めがある場合に任務を継続するというのはいいかと思うんですけれども,一般に,受託者が破産したときは通常時に比べて信託財産が危うい状態にあると言えるのではないかと思います。


信託行為,信託契約をする際に,受益者はこれにかかわることができないことを考えますと,こういった信託行為で受託者の任務継続を認める場合にも,現実的に破産となった場合には,それを受益者に知らせる手だてがあってもいいのではないかと思いますので,そういった点も御検討いただけないかと思います。

● 受託者が破産したことを,受託者自らが,あるいは破産管財人が受益者に通知するという制度ですね。その点については考えてみたいと思います。

● 先ほどの○○委員からの問題提起に対して,御考慮いただくときに考えておいていただきたいことなんですけれども,1も2も債権者保護手続などから外しているのは,第19条の債務に係る債権に限定されておりますので,受託者が個人として莫大な責任を負うシチュエーションがあり得ますので,そういう種類のもの……,つまり,債権者保護手続から外しているのはそれだけですので,合併その他,組織再編についての債権者の地位を考えるとき,そうではない部分を無視していいかということがポイントだということだけ付加させていただければと思います。


● では,第39もよろしいですね。
  第40は,いかがでしょうか。

● 第41にも若干入りますが,第40の今回の御提案によりますと,先ほど○○幹事からのお話では3と4に該当する枠組みを変えているということですけれども,この点については,実務的な観点からして余り違和感がないのかなという気がいたします。

  ただ,4のところで,例えば受託者が悪くないのに解任される場合も当然あるわけでして,そのような場合について,例えば信託債務の弁済であるとか補償請求,これが当然,この規律によるとできません。


ただ,今回の御提案に,④その他信託行為に定めた事務というのが入っていますので,もちろん書けばいいというお話かもしれませんけれども,非常に書きづらい部分もあります。

  この部分の変更というよりも,これを受けて第41なんですけれども,例えば信託財産管理人が選任された場合に,信託財産管理人との間でうまくいかなくて,強制執行をかけたいということもあるのではないかと思うんですが,その場合において,自分の財産に強制執行をかけるようなことになりますので,この辺のところがどうなのか。

できるものなのかどうか。できなければ何らかの手当てをお願いできないかということでございます。

● 御指摘のような問題は事務局も認識しておりまして,信託財産管理人が被告になるとはいっても,勝訴判決をとっても,実際に信託財産がまだ前受託者,自分の名義にとどまっている限りは強制執行できるのではないかという問題がありまして,2つ考えられるのですが,1つは,とにかく新受託者を選んで名義を移して,そして承継執行文でやってくれと。補償請求を受けるために新受託者を選任するという嫌味はありますし,時間もかかりますが,ともかくそういう手当てもあるでしょう。

  しかし,それでは余りにもおかしいので,むしろ端的に,前受託者がまだ名義を持っている段階でも強制執行できるという規律を考えるという手だても一つの選択肢としてはあると思います。
  


かつて補償請求のところで検討しておりましたのは,配当要求については,普通は自分名義の財産に配当要求はできないけれども,例外的に信託財産について強制執行手続が開始された場合には,そこに補償請求権の行使のために配当要求できるという規律を設けるという提案をしておりまして,それとの関連で,ここでも極めて例外的にそのような手当てをすることも考えられますが,いずれにしても,かなり稀有な事例の1つでございますので,そのためにそこまでするかという点,まだこちらでも,どういう手だてをしたらいいか十分考えておりませんので,関係当局とも相談の上,なお検討したいと考えております。

● 第40は,今,○○委員が言われた問題のほかに,先ほど説明があったように3と4のところで切り分けの仕方が少し変わったわけですね。これもそんなに違和感はないのかもしれませんけれども。
  大体よかろうという御感触なんでしょうか。
  --それでは,第41はどうでしょうか。ここら辺は,かなり細かい問題が多いのですが。


● もしもう確認が済んでいたらお詫びしますけれども,第41の2等にある「承継する」という意味なんですけれども,不動産の場合などは,登記を経由しなくても対抗できるということでしょうか。
 

 関連して,有価証券の場合に,今後のことを考えると社振法がいいと思うんですが,社振法上の口座の振り替えはしなくも対抗できるのか,それから,例の公示ですね,社振法で言うと第75条,信託の受益者が口座において記載または記録をしなければ第三者に対抗できないというのがあるんですけれども,こういうこととの関係はどうなるのか。

● 細かい議論をした記憶は私もありませんが,いかがでしたかね。


● まず,御指摘のあった社振とか保振の関係につきましては,実は公示一般の問題を後日扱いますので,そこで対応させていただきたいと思っております。


  登記を経るという点につきましては,承継とは書いてありますけれども,やはりここは公示を具備することが必要ではないか。所有者が変わるわけですので,それに即した移転登記が必要になってくるのではないかと考えております。

● 今の○○幹事のような考え方ももちろんできるわけですけれども,法律上,移転しているんだと考えると,対抗要件がなくてもいいという考え方もあり得るかもしれませんね。


● 受託者の交代が包括承継か特定承継かよくわからないということは事務局も考えておりまして,しかしながら,ずっと登記なしというわけにもいかないのではないかという気がしまして,登記はするのではないか。


特に,合併とか分割の場合は任務が承継されるという形をとっておりますが,一般的な受託者の交代の場合には任務終了して新たに受託者が就任するという形をとっておりますので,そういう意味で言うと,包括承継というよりは,一たん断絶があるということで,登記による移転の公示が必要ではないかという気がいたしております。


  なぜ合併の場合と交代の場合で分けているかといいますと,合併の場合には,まさに任務等が一括して包括承継されるのに対しまして,交代の場合には新受託者が有限責任の限度でしか責任を負わない。

前受託者は責任を無限で負うというように責任の中身に違いもございますし,それから,合併とか分割の場合には受託者のイニシアチブでやるだけで,受益者がそこに関与することは考えにくいんでございますけれども,受託者の交代の局面ですと,任務終了,新受託者の就任のあたりで受託者の関与があり得るであろうということで,第38の場合と第41の場合では違うのではないかと考えております。


そうしますと,少なくとも第41の場合には,一たん交代といいますか,やはり終了,就任という行為が入るので,公示が必要だと。

  その関係でいきますと,合併の場合はどうかということですが,それはやはり交代の場合にも登記がある以上は,そこは特定承継的に考えて,合併,包括承継の任務分割の場合にも,受託者が新たな人になった,変更があったことについて公示があった方がいいのではないかというのが今のところの考えでございます。


● 公示があった方がいいんでしょうけれども,任務が終了した前受託者は権限がなくなるわけですね。


したがって,あり得ないのかもしれないけれども,例えばそこで前の受託者が権限なしで処分をする。そのときは,いわゆる受託者の権限違反の問題ではなくて,およそ権限がない者が処分している。

● どこか別のところで議論があったかと思いますが,例えば複数受託者がいて,そのうちの受託者が全く権限がないのにやってしまった。

それは,どちらかというと権限外行為として,後ほど説明いたします権限外行為の規律に従っていけばいいのではないかというのが個人的な感じでございます。


● いろいろな問題に関連しそうですね。


● 包括処分,例えば不動産の場合は,登記なくてというのはわかりやすい気もしないではないんですけれども,債権の場合ですと対抗要件を具備しなければいけないということですね。

また,譲渡禁止特約とか譲渡制限特約があった場合に受託者の交代が困難になるとか,もし事業型の信託を考えたときに,ライセンスとかそういうものの承継ができなくなるということですね。


受託者の交代で全信託財産が移っていくわけですから,あえて特定承継と結論づけると,やはり幾つか問題が生じる場面があるのではないかと思います。


● 債権の場合も含めまして,もう一度こちらで検討させていただければと思います。


● ほかに,いかがでしょうか。--よろしいですか。大体のところはよろしいという御判断だと思います。細かいことでまだいろいろありましたら,また後で御指摘ください。
  それでは,次にいきましょうか。

● 第42の受託者倒産の場合における信託財産の取扱い等についてでごさいます。
 

 まず,提案1は,前回提案と変わるところはございません。すなわち信託財産は破産財団を構成いたしませんが,便宜上の観点から,破産管財人に対して信託財産の一時保管義務を課すものでありまして,現行法第42条第2項の趣旨を維持するものでございます。

  次に,提案2でございますが,これは受益者等が信託財産を確保するための手段につきまして,前回提案では,破産管財人に対する信託財産であることの確認の訴えという形式をとっておりましたが,これを,破産管財人に対する信託財産の処分の差止請求の形式に改めることを提案しているものでございます。


  ところで,前回提案におきまして,このような確認の訴えの形式をとることを提案いたしましたのには何点か理由がございまして,まず1つは,受託者が破産した場合には一時的に受託者が不在となることがありますが,その間に,破産財団である受託者の固有財産に混入してしまった信託財産を破産管財人がうっかりといいますか,売却処分してしまうおそれがあることに鑑みますと,信託財産の倒産隔離をより実効的なものとする観点からも,受益者には信託財産を確保するための手段が認められる必要性があると考えられます。

  他方におきまして,受益者は信託財産について所有権等の物権を有していないことに鑑みますと,破産管財人に対する物権的請求権を観念することは困難でありまして,受益者による信託財産確保のための権限を法定することが相当であると思われます。

  もっとも,その結果といたしまして,受益者に対してまで信託財産の引渡しを認めるのは,信託においては本来,受託者が信託財産の管理・運用をすべきものであることに鑑みますと行き過ぎであって,妥当ではないと考えられます。


  このような諸点を考慮しまして,前回は確認の訴えの形式を法定することを提案したわけでございますが,その上で,受益者による確定判決の効力は,新受託者及び信託財産管理人に対してもその効力が及ぶこととして実効的なものとするとともに,その前提といたしまして,受益者複数の場合には当該財産が信託財産であるか否かを全受益者間で合一的に確定しておくことが必要となりますので,訴訟告知あるいは必要的共同訴訟とする等の手続的保障措置をとることによって,他の受益者にも確定判決の効力が及ぶものとすることを併せて提案していたわけでございます。
  以上は前回の提案でございます。

  このような提案をしましたところ,前回の会議におきましては,このような手続的保障措置は,受益者が多数に及ぶ場合には実務上ワークしないのではないか,また,破産管財人による信託財産の処分を速やかに阻止するには判決の確定を待っていては間に合わず,保全処分を仕組む必要があると思われるが,そのためには確認訴訟を本案とする等の形式では困難ではないか等を中心とする批判的な御指摘をいただきました。

  そこで,今回の提案におきましては確認の訴えという形式を改めまして,各受益者が破産管財人に対して信託財産の処分の差止請求権を有することを法定することといたしました。

これは,個別執行の場面におきましては,現行法第16条において,異議の訴えにより各受益者に信託財産の換価を阻止することが認められていることに準じまして,包括執行としての性格を有する破産手続の場面におきましても,各受益者に差止請求権を認めることによって信託財産の処分を阻止する機能を営ませることを意図したものであります。


この局面では,受益者が前面に出てきてもいいであろうという判断でございます。

  このように,差止請求権という形式をとることによりまして,受益者に差止請求権を被保全権利とする仮処分を経て,破産管財人による信託財産の処分を速やかに阻止することが可能となると思われますし,新受託者,信託財産管理人あるいは他の受益者に対する判決効の拡張の問題も回避することができることになりまして,前回会議でいただきました問題点の指摘がおおむね解消されることになると考えているわけでございます。
  以上でございます。

● この点はかなり変わりましたので,御意見をいただきたいと思います。

● そもそも論をさせていただきますと,破産管財人の信託との関係での第三者性とか,あと,仮に第三者性を認めるとしても,信託の公示との関連で,どの程度のことを要求するのかという議論もあると思います。

要するに,破産管財人は,どういう制度をとろうとしても利益相反的な地位に立つことは明らかでございまして,御提案自体,信託財産管理人が任命されるまでの間のことであるのは了解しているんですけれども--ということで,倒産関連の実務家の方とも,この辺どうあるべきかということで少し議論しました。

  破産管財人を任命すると同時に信託財産管理人を職権で任命するような--信託財産管理人ですから,もともと違うところの提案自体が,任命できるんですけれども,破産管財人の任命と信託財産管理人の任命との時間的間隙を制度的にも極限まで減らして同時にすることによって,差止請求の議論とか,その他,破産管財人がある財産以外に,果たして債権者のためなのか信託なのかといった判断に迷わなくて済むようにする意味においても,信託財産管理人を同時または非常に近接した時期に任命するような制度的手当てをするような方向があってもいいのではないかという意見です。


● おっしゃるような考え方はあり得ると思いますが,差止請求権を認めるのと信託財産管理人を直ちに--常につけるんであれば,もう差し止めの問題は生じないのかもしれませんけれども,どちらがよろしいという御意見ですか。

● どちらかというと,差止請求は訴訟法的にも細かい議論に入っていく可能性がある。


また,受益者の差止請求については,手続的な議論とは別に実効的な議論としても,「管財人が処分しようとする時」をどうやって把握するのかとか,なかなかわかりにくいのではないか。


その2つの面から,どちらかというと,とにかく初めから信託財産管理人を,破産管財人が当初,任命されるがごとく裁判所の職権で任命されれば,その間において,どれが信託財産でどれが固有財産かということで分別されていくのではないか,このような議論なんですけれども。

● 今のは大変合理的な意見だと思います。本来は,これは裁判所の方がどうやってできるかという問題かなと思うので,裁判所の方の御意見を伺いたいと思
います。


● まず,確認させていただきたいのは,破産を管轄する裁判所において,破産手続開始決定と同時に信託財産管理人を選任する,そういう御趣旨だと伺ってよろしいでしょうか。

● 信託財産の管財人は,東京で言うと20部ですか。何か大阪だと9の……,あ,8部ですか。特に同じ裁判所ということですね。

● 非訟の事件を扱う裁判所と倒産事例を扱う裁判所が分かれているということもあるんですけれども,それ以前の問題として,もしこういう立法をする場合には,信託の受託者について,破産をするときには,裁判所は破産法のコンテキストの中で破産手続開始決定と同時に,破産管財人の選任ですとか債権届出期間の指定ですとか,そういった同時処分がいっぱいあるんですが,それと同時に信託財産管理人についても選任しなければならない,そういった御趣旨だと伺ってよろしいでしょうか。

● 具体的な制度提案としては,そういうことです。
  要するに,信託財産が破産申立ての際にわかっているとき,その時点で信託財産管理人を選任すれば,その後の混乱はかなりの程度防げるのではないだろうかという提案です。

● 仮に破産管財人兼信託財産管理人というようなものを構想する場合に,信託財産で信託の公示を欠くものがあった場合に,その人はどういう行動をとるべきなのか。

● 「兼」ではなくて,別の人ですということですね。

● そうすると問題は,今,おっしゃるとおり,裁判所がそれを把握できるかという問題に尽きるということでしょうかね。

● そうですね。後でわかるケースも当然あるかとは思うんですけれども,当初わかっている状況において,信託財産管理人が任命されるまでの間,破産管財人にある一定の職務を負わせるよりも,信託財産管理人が当初から任命されてもよろしいのではないかという議論です。


● その限りで,非訟事件の管轄がずれるというか,横出しになるというか,そういう感じになるんでしょうかね。つまり,信託に関しては信託固有の管轄の裁判所があるわけですけれども。

● 何か,大阪では同じ部が……。


● それ以前に,多分,破産事件の管轄と信託に関する事件の管轄自体がずれている可能性があるという点が問題なのではないかと思われます。そこはやり方次第かもしれませんけれども,その点が問題になり得るかと思います。

  もう一つは,先ほど○○委員もおっしゃったとおり,実際に,破産の手続開始決定をする段階で信託財産があることを把握できる場合もあるし,把握できない場合もあり得るかもしれない。


破産手続の実務の観点から言って,信託財産があるかどうかを申し立てあるいは開始の段階で常に気をつけていなければならないということがどれぐらい生じるのかといったあたりが,問題になるとすれば問題になるのかなという気はいたしますけれども,今の段階では,もうちょっと検討してみないとわからない。
  

ただ,破産管財人を2人選任するようなものだと考えれば,実務上,絶対できないことではないのかなという気は,個人的にはいたします。


● 破産管財人の選任と同時に信託財産の管理人も破産事件を担当する裁判所が選任するとして,その場合には,第42の2に係るような差止請求権は要らないという御趣旨でしょうか。


ダブッても別に構わないのではないでしょうか。


● そういう例外的なというか,間隙ができる事例がどうしてもあると思うので,恐らく制度的には,受益者保護のために必要ではないかと思うんですけれども,真っ向からこれがどうしても必要だということで議論すると,実効性とか,手続的なところでかなり細かい議論が必要となってくるのではないかということで,議論が急展開したというのが1つなんですけれども。


● 御趣旨はよくわかります。ただ,特に破産が債権者申立ての場合に,債務者に関する情報が申立て段階で十分裁判所に伝わらないことは十分考えられるので,全件御提案のような形で処理できることが保障できるならともかく,信託財産管理人の選任がおくれるとか,あるいはその事情がわからない場合のために,御提案のようなことをとるにしても,差止請求権は残しておく方が穏当ではないかという気がしたということです。

● 信託財産の管理人を同時に選ぶことについては,もうちょっと裁判所サイドからの検討をお願いしたいと思います。
  ほかに,いかがでしょうか。

● 今,若干出ていたと思うんですが,差止請求というのは処分するときまでしかできないんですか。


もしそうだとすると,知らなかったらやりようがないので,例えば処分しようとするときには2週間前までに通知・公告するとか,何かそういう規定を置いておかないとどうしようもないのではないかと思うのですが。


● 信託財産であることがわかっていながら処分する場合は,恐らくそういうことを設けてもいいのかもしれませんけれども,破産管財人の方は,信託財産であることがわからないで処分している場合もあるかもしれないですね。

● これは解釈論になるのかもしれませんけれども,そういう場合であれば,仮にわかっている場合には2週間前に受益者に通知しなさい,そういうルールであれば,わからなかった場合には受益者も知らなければとめようがないわけですから,これは事後的な無効とかいうことを認めざるを得ないのではないでしょうか。

  いずれにしても,少なくともわかっていて処分する場合は何らかの通知等がないと,せっかく受益者の保護が与えられていても,気がつかないことになるのではないでしょうか。

● 受益者の立場からすれば,それ自体はもっともな気がしますけれども,どうですか。

● 素朴な疑問ですが,破産管財人としては,わかっていたら処分できないのではないかと思うのですが。


これは破産財団に入っている財産ではなくて信託財産であることがわかっているにもかかわらず処分するというのは,違法な処分行為であって,およそ許されない行為ではないかという気がいたします。

ただ,逆にわからずに処分するということはあり得て,そのときに受益者はわからないではないかという問題は確かにあると思うんですが,わかっていたら手出しできないはずではないかという気がいたしますが。


● それは全くおっしゃるとおりだと思うんですけれども,もしそういうふうに整理するのであれば,むしろ財産を処分するときには受益者に通知するということにでもしませんと,受益者はどうしたらいいんですか。

差止請求制度というのは,制度としてはいいと思うんですけれども,結局,実際問題として全然行使できないのではないでしょうか。


● 実効性を持たせるために,どうしたらいいかという御提案だと思いますけれども。


● おっしゃるとおりかと思います。我々の仕切りとしては,わかっていたら処分できないはずで,わからずにやってしまったときに受益者はどうするんだということで,そうしますと,たまたま受益者にわかればできるだろうから,少なくとも制度としての意味はあると思うんですが,わからないでやられたときに,どうするんですかね。


それは別途,管財人の責任を追及するとか,不当利得を請求するとか,何か事後的な対応をせざるを得ないのかなという気がいたします。

● わかっていて処分すれば,おっしゃるとおりだと思うんですけれども,私は,よくわからないけれども処分するということだと思うんです。それが1点。
  


それから,今,おっしゃったように事後的に,事前にどうしようもないような場合に事後的な何かの手当てがあるということであれば,それはそれで一つの制度だと思います。

● 実際の適用の仕方のイメージは余りよくわかりませんけれども,要するに,破産管財人が管理している財産ですから,前受託者の固有財産であるか信託財産であるかですよね。


信託財産の可能性があるけれども,よくわからないというので,要するに,全財産が恐らくそういうふうになってきてしまうんでしょうけれども,その財産を処分するときに,全部の受益者に何らかの通知をしなくてはいけないというのは現実的なのか,感覚としてよくわかりませんね。

● 破産管財人というのは当然,財産を処分することを仕事としている者であって,そういう意味では,財産を処分することについては破産の関係の債権者なりには全く別に,通知しないで処分をやっているということですし,特に受益者が多数に上る場合もあり得ることも考えると,財団と思っている財産すべてについて受益者に通知をすることは,破産管財人にとって余りにも大きな負担になることは間違いないのではないかという気がいたします。

● 何らかの形で実効性を持たせるようにした方がいいというのも,おっしゃるとおりだと思うんですけれども。


● 信託財産に属するかどうか,仮に属することが明らかであっても,信託の公示がないといった状況もあると思うんですね。


なおかつ信託の公示としてどの程度を要求されるかとか。だからここの,これは条文ではありませんから要旨なんでしょうけれども,信託財産に属する財産としては認識しているけれども,信託の対抗要件を具備していない財産とかですね,そういう場合とか,それは今後の解釈論に委ねられるとすると,差止請求をする側も,処分する破産管財人も結構窮地に陥って,どうしたらいいのかわからない状況になるのではないか。
 

 ですから,わかっていて処分するというのは,公示がないからわかっていて処分するケースもあり得るのではないかと思います。


● 破産管財人の第三者性との関係で,非常に問題が大きいところだと思います。

● ○○幹事に教えていただきたいんですが,破産管財人が処分するときは,多くの場合,裁判所の許可が必要になるのではないかと思います。


そのときに信託財産であることがわかっていれば,当然そのことを裁判所にも言わなければいけない。


そうした場合に裁判所は許可しないのではないかと思うんですけれども,いかがでしょうか。

● おっしゃるとおりでございまして,破産管財人側から出された資料等によって信託財産であることがわかれば,裁判所は当然許可しないと思います。

ただし,一定額--100万円以下の動産等については,今回の破産法改正と破産規則の制定によって,その許可が不要となっておりますので,そういった破産管財人の裁量に委ねられている部分については,裁判所の許可によるチェックは及ばないことになろうかと思います。

● そうしますと問題は,今,おっしゃった裁判所のチェックを逃れるような部分について,どう対応するかということになるでしょうか。


● あとは,許可の段階で,信託財産であるという認定がどこまでできるかというところであろうかと思います。


● 同じような問題で,第三者の立場はどうなるかという話なんですけれども,善意取得者が生じた場合,すなわち信託財産が有価証券とか動産であった場合に同じような論点が出てくるのではないかと思っております。

その際,今までの議論に合わせて,差止請求自体が善意取得を遮断する効果がないのであれば,例えば執行官保管とか,そういう制度をつくる必要があるのかどうかという議論にも及びそうな気がしております。

ただ,この点については,恐らく財産取得者と受益者と,どちらをおもんばかるかという判断もあると思いますので,この点についても御整理いただければありがたいと思っております。

● 執行官保管は先程お話した仮処分というところででもできますので。それ以外にどういう制度というのは,もうちょっと検討しないと必要性などもどこにあるのかすぐには分かりませんが。


● 今,差止請求権について別に否定的な意見があったわけではなくて,こういうものは受益者の保護としていいのではないか,そういう御意見だったと理解しました。

ただ,それを実効性あらしめるためには,ほかにもいろいろ手当てをしないと意味がないのではないかという御意見で,通知をするというのもその御提案の1つであるということです。

  それから,差止請求権以外に受益者の保護としては,信託財産の管理人みたいなものを早急に選任するという御提案がございました。

受益者の立場の保護としてどういうことをしたらいいかということは,引き続き事務局の方で総合的に検討してもらうことにしたいと思います。

● 第39で,破産手続が開始したときは受託者の任務が終了するわけですが,完全になくなるのかという話です。

現行の破産法を私,十分理解できていないのかもしれませんけれども,破産者は財産について,破産管財人に対して何も言わなくてもいいんでしたっけ。

どんな財産があるかということ。そういう義務は破産法上は存在していないんでしょうか。


  もし破産法上そうだと仮定しても,信託財産が破産財団に属していないとなりますと,今度は破産財団に属さない財産についての話になりますので,これまでの破産法の考え方で律することができるのか,まだ頭の中が整理できていません。

  そうしますと,今までいろいろなされてきた議論の前提として,破産管財人に対しての説明義務みたいなものを観念する必要はないのかということも,併せて御検討いただければと思います。

● 破産法上,何かというお話ですが,破産者の説明義務が第40条に新しくできる,そのお話でございましょうか。


● ええ,第40条を見つけられなかっただけなんですが,第40条であったとして--破産に関し必要な説明ということでございますので,何でも含まれていると言えばいいのかもしれませんが,例えば,第41条の重要財産開示義務に対するものに関しましても,これは破産財団に属する財産についての義務として観念されているんだと思うんですね。

そうすると,信託に関しては「これは破産財団に属さない財産ですよ」という説明を考えなければいけないわけであって,それは現行の破産法の条文の解釈によってできるのか,それとも信託法に,破産によって任務が終了した後にもなお残存する義務としてそういったものを規定した方がいいのか,私,にわかに判断できなかったものですから,破産法の規律と併せて御検討いただければと申し上げた次第です。


● 任務が終了しているので--ゼロになっているかどうかわかりませんけれども,受託者としては,そういうことを言う義務がありそうな気がしますね。

それはまさに信託財産を管理していて,それを保護しなくてはいけない立場にあった者の義務として。


それは破産法との関係で,破産管財人に対してうまく言えるようなことになっているのか,そこは私,わかりませんけれども。

● 御指摘の点,破産法の射程がどこまでかというのは検討いたします。
  思いつきですが,受託者にそういう説明義務を課すことができるのであれば,それは一方では破産管財人に対して,他方で受益者に対してもそのような説明を課すことができれば,先ほど○○委員がおっしゃった差止請求を実行する方向にもつながるのではないかということで,有益なご指摘だと思います。

● ほかに何かお気づきの点,ございますでしょうか。--よろしいですか。
  それでは,次にいきましょうか。

● 続きまして,権限の問題をさせていただきたいと思いますので,第33の受託者の権限と,第34の受託者の権限違反の行為等について御説明申し上げます。

  まず,受託者の権限について,資料7ページからでございます。

  提案内容は,前回と同じでございますが,提案の趣旨をもう一度かいつまんで御説明申し上げます。


  まず,現行法第4条に「受託者ハ信託行為ノ定ムル所ニ従ヒ信託財産ノ管理又ハ処分ヲ為スコトヲ要ス」とある点から見ますと,受託者の権限が信託財産の管理または処分に限られるようにも読まれかねませんので,そうではなくて,受託者は,広く信託目的の達成のために必要な行為であればできる権限を有することを,文言上,明確になるようにいたしました。

  他方,受託者は,信託目的の達成のために必要な行為であれば,これを行い得るとはいいましても,例えば利殖を図ることを目的とする信託における投資対象の財産についての限定がある場合,あるいは共同受託の場合において,信託事務の処理に当たっては共同受託者全員の承諾を有するという制約がある場合,これらはいずれも受託者の権限に対する制限であるという理解を前提といたしまして,この趣旨を明らかにするための規定ぶりとして,甲案と乙案の2案を併記したものでございます。


  ここでの問題は,信託行為の定めと申しましても,信託目的も形式的には信託行為の定めに含まれますので,意味がダブッてしまうのではないかという懸念があることでございまして,このような懸念をなるべく解消すべく,甲案は「信託行為の定めに従い」との文言を用いることによりまして,意味がダブッてはいなというニュアンスを出したものでございまして,乙案は,ただし書きとすることにより,本文の信託目的とただし書の信託行為の定めとは意味がダブっていないとのニュアンスを出したものでございます。


  甲案の方が何となく,印象ですけれども,ちょっと縛りが原則かかっている。乙案は,ぼんと広いけれども,ただしちょっと狭めるよという,気持ちの違いかなという気もしますが,理論的に御検討いただければと思います。

  それから,※の点でございますが,一方におきまして,借入れや信託財産に対する担保権の設定などの行為は,信託財産を毀損しかねない行為であるという性質にかんがみますと,それにもかかわらず,緊急のために必要があるときは借入れ等を行うこともできる旨を確認的に規定しておくべきであるという考え方もあるでしょうし,あるいは,このような行為については信託財産を害する危険性がありますので,特別に規定を設けて規制しておくべきであるという考え方もあると思います。
  しかし,他方におきまして,規制対象となるべき行為を技術的に特定することが困難である--デリバティブなどですね。

あるいは借入れといっても,では物を購入したときに債務を負った場合は,信用取引を行うときはどうかとか,そのような場合につきまして,結局特定することが困難であると考えられることにも鑑みますと,不明確な規定によって過剰な規制に陥りかねない危険を冒すよりは,善管注意義務や忠実義務などの規定に委ねる方が望ましいという考え方もあり得ると思います。


  このような種々の方向の考え方があり得ることを踏まえまして,借入れ等の行為につきまして,特別な規定を設けるべきか否かを問うものでございます。

第5回会議に引き続きまして,甲案,乙案のいずれの書きぶりがよいかという点,併せて※の点について御審議をいただければと思います。


  続きまして,第34でございますが,これは受託者の権限違反行為の取消しに関する現行法第31条ないし第33条に対応する提案でございます。

  まず8ページ,提案1の①と④でございますが,これは前と同じでございます。その要点をかいつまんで申しますと,現行法と同じ点といたしましては,まず,取消権行使をとるとしたこと,それから,取消権者を受益者のみに限るとしたこと,第三者側の保護要件としては善意(無重過失)を要するとしたことでございまして,他方,現行法と異なる点といたしましては,取消しの対象を処分行為に限らないとしたこと,取消しの可否について登記登録を問題にしないとしたこと,信託の本旨についての違反という基準を用いないとしたことが挙げられます。

  このうち前回提案時からさらに検討を加えた点といたしまして,まず,前回提案時においては,取消権者の範囲につきまして,現行法と同様に受益者のみとすべきか,それとも受益者の利益を可及的に図るという観点から,委託者,実際に権限外行為をした受託者自身,共同受託の場合の他の受託者についても含めるべきかについて,要検討事項であるとしておりました。

今回の提案におきましては,資料の9ページ上段に記載させていただきました理由から,取消権者につきましては当該信託に最も大きな利害関係を有する受益者の判断に委ねるべく,受益者に限ることとしているものでございます。

  また,信託の本旨についての違反という現行法の基準を用いないこととの関連では,第5回会議におきまして,受託者の善管注意義務違反の行為についても取消しの対象に含めることとすべきところ,受託者の権限に属するか否かという基準,あるいは切り口によるときは,それが困難になるのではないかといった御趣旨の議論があったかと存じております。


しかし,この点につきましては,受託者の信託事務遂行義務のような,いわば内部的な関係を規律する局面とは異なりまして,信託外の第三者との,いわば対外的な関係を規律する局面におきまして,信託の本旨という柔軟性のある基準を用いることとするときは,取消権を行使し得る範囲,すなわち対外的な効果帰属の有無が問題となる範囲が不明確となって,取引関係の安定性を害するおそれが大きいと思われることに鑑みますと,やはり取消権を行使し得る範囲を画する基準としては,受託者の権限に属するか否かという,より客観的な基準を用いることが適当であると思います。

  そして,受託者の善管注意義務違反の行為が取消権の対象となるか否かにつきましては,抽象的に決することは困難でありまして,具体的事情のもとにおける当該義務違反の内容,程度に応じ,権限違反とまで言えるか否かについての事例判断とならざるを得ないのではないかと考えているわけでございます。
  


なお,第三者の保護要件に関しましては,事務局といたしましては現行法下の解釈と同様に,基本的に幅広い権限を有する受託者の行為が権限に違反するものであることを第三者側において認識することは容易ではないと思われることに鑑みまして,受益者側において第三者の悪意・重過失を立証すべきと考えているわけでございますが,第5回会議におきましては,実際に取引に関与していない受益者が立証責任を負うのは酷ではないかとの御指摘がなされたこともありまして,改めて御意見があれば伺いたいと思っております。

  以上に対しまして,提案1の①と③は,現行法と同様に取消権構成をとることとしたのを踏まえまして,受益者複数の場合の特則を定めた現行法第32条,取消権の消滅期間を定めた現行法第33条に,それぞれ相当する記述を設けることを新たに提案するものでございます。


  なお,現行法第33条では,取消権の消滅期間を一月,それから1年としているわけでございますが,これについては余りにも短過ぎるとの批判がありますので,これをいかなる期間とすべきかについて御意見を伺えればと思います。

  ちなみに,信託法改正試案ですと,民法第126条の取消権と同じように5年と20年にしておりますし,民法の詐害行為取消権ですと2年と20年としておりますが,このような点も参考にしていただきまして,御意見があれば,ぜひとも伺いたいと思っております。


  最後に,提案の2でございます。
  これは権限違反の局面とは若干異なるわけでございますが,前回提案時にも指摘いたしましたとおり,現行法には,受託者と第三者との間での取引の効果帰属先についての認識が異なる場合に関する規定がないために,受託者の認識によって決せられることになると解されますが,このような考え方は取引の安全の観点から問題があり得るということに関しまして,相殺の局面に関してのみ,第三者からの相殺禁止の例外として,第三者の正当な信頼を保護する内容の記述を設けることを提案するものでございます。
 


 具体的な提案内容につきましては,資料の本文あるいは説明を御参照いただければと思うわけでございますが,ここで,第三者の信頼を一般的に保護することまではせず,あくまでも相殺の局面に限って保護する規律を設けることとしている趣旨でございますが,信託財産の安全を確保すべき要請もあることに鑑みますと,第三者の信頼を一般的に保護することまでは行き過ぎであると考えられるわけではありますが,相殺の局面におきましては,第三者としては既に引き当てとなる債権債務のあること,当てがあるということを前提にいたしまして,受託者との間でさらなる債権債務関係に入ったものでありまして,いわば,新たな債権債務と相殺とを一体として,債権を請求されたときの決済に充てるべきものと考えていると見ることができると思います。


  このような点におきまして,相殺の局面は,民法第478条の準占有者に対する弁済の場合と類似の法律関係にあると言うことができますので,全く新たに債権債務関係に入るよりも,第三者の信頼を保護すべき必要性が高いと思われまして,このように,相殺の例外の取り扱いを規律してはどうかと考えるわけでございます。

  なお,第三者の保護要件といたしまして,提案では「信じるに足りる相当な理由」と民法第110条と同様の文言を用いておりますが,既に申し上げましたように,ここの規律では第三者の信頼一般を保護するわけではなくて,あくまでも相殺の場合についてのみ,準占有者弁済と同様の考え方から第三者を保護しようとする趣旨でございますので,民法第478条と同様に,第三者の善意無過失,すなわち信託財産または固有財産に帰属すると信じたことと,それについて過失がなかったことを要するとの趣旨であると御理解いただければと考えております。
  以上で説明を終わらせていただきます。

● それでは,今の範囲で御議論をお願いいたします。

● まず,第33については両案併記されておりまして,違いがよくわからないところもあるんですが,信託の管理事務の適正確保の観点からは,甲案の方が望ましいのではないかと感じております。

  この規律の仕方によって,局面によっては立証責任が変わってくる場合があり得るのか,あり得ないのか,その辺について,もし御検討されている点があれば教えていただければと思います。
 

 それから,第34の受託者の権限違反の行為については,第三者の主観的要件と立証責任について若干意見を述べさせていただければと思います。
 

 受益者が第三者の悪意・重過失を立証するという御提案があるんですけれども,それをやらないと信託財産を取り戻すことができないというのは,やはり受益者の立場からすると負担が重いと思います。

例えば,不動産の管理,賃貸を目的として当該不動産を信託に付した場合において,受託者が同不動産を処分してしまった場合に,受益者の側としては,そういった受託者と第三者の取引には全くかかわっていないわけですから,不動産の処分の事実を知った時点では,その事情は全くわからない。

では,それを関係者に聞いてみようということで,受託者に聞くことになるのかと思いますけれども,その場合に,権限違反を行った受託者の協力が十分得られるか,あるいは受託者の説明義務や帳簿閲覧請求権に関してよほどの整備がないと,受益者の方で有効な情報を得ることはなかなか難しいのではないか等々を考えますと,やはり受益者の立証という点では重いのではないかと思われます。

  翻って,こういうふうに,権限違反の場合に受益者の方で信託財産を取り戻しにくいとなると,受益者としては,よほど信頼できる受託者でないと信託を利用できないことになりかねない。そうすると,かえって民事信託等,一般の利用を狭めることにならないかが懸念されます。


  前回の御提案の御説明の中では,民法の表見代理あるいは理事の代理権の制限に関する規定,虚偽表示の第三者保護規定等に鑑みて,民法第54条の規定と場合が似ているので,この規律に従ったらどうかという形で主観的要件の御提案がされていたかと思うんですけれども,民法第54条では,一応その判例上は--その後もし変更があれば御指摘いただければと思いますけれども--取引の相手方の方に善意の立証責任があるとされているのではないかと理解しております。


  また,ほかの表見代理や虚偽表示等の立証責任と,主観的対応の中身を見たとしても,例えば,表見代理の場合には相手方の過失を立証すれば足りるという記述になっておりますし,虚偽表示や詐欺の場合には第三者側が善意の立証となっていて,そういった規定との関係から言っても,受益者の方に悪意,重過失を立証せよというのは,やや違和感を感じるところです。

  商事信託の場合には,会社法の規制に従って悪意,重過失の立証責任という発想が出てくるのはよくわかるんですけれども,民事信託の場合には果たしてそれでいいのか,そういった場合に受益者の方に酷にならないかということは御検討いただけないかと思います。


  こういった観点から,もし悪意,重過失という主観要件とするのであれば,これは第三者側に立証責任ということを御検討いただきたいですし,もし立証を受益者側にさせるのであれば,主観的要件については,むしろ過失を立証すれば取り消しを主張できるというような規律についても併せて御検討いただけないかと思います。


  もし,この主観的要件について悪意・重過失として,かつ立証責任について,取引安全の見地から受益者に課すことを維持すべきだということであれば,受益者の権限違反行為が生じにくいような他の規定の整備はぜひお願いしたいところです。

つまり,損失てん補責任ですとか忠実義務,特に帳簿閲覧等請求権の規定で,受益者の監督権限が行使しやすいといいますか,きちんとそれができるような制度としていただくことを特にお願いしたいと思います。

  今のは1の関係ですけれども,2について1つだけ質問します。

  2の(イ)(ロ)について,主観的要件について先ほど若干御説明がありましたが,この「信じるに足りる相当の理由がある場合」というのはいつの時点で考えるのか,もし御検討されている点があれば教えていただければと思います。


● 御意見にわたる部分については御議論したいと思いますけれども,今の質問事項については,いかがですか。


● 質問のうち最後の点,立証責任の時期については,これは相殺に供すべき債権ないし債務関係に受託者が入ったときということで,一般に記名式定期預金がある場合の貸付けなどで議論されているわけでございますが,それと同じで,例えば受託者が貸付けをしたときとか受託者が借入れをしたときの時点をもって,相手方の信頼に相当な理由があったかどうかを相手方が立証することを考えているわけでございます。


  あとはおおむね御意見だったと思いますが,第33の甲案,乙案で立証責任についてどうかというのは,今まで余り考えていなくて,どちらの書きぶりがいいかを中心にしていたわけでございますが,甲案ですと,恐らく「権限内」と主張する方が信託行為の定めの範囲であることを立証することになるでしょうし,乙案ですと「権限外であった」と主張する方が別な定めがあったことを立証するのではないかというのが,文章からも素直ではないかという感じがしております。


● 今の甲案,乙案,どういう意味を持つかについて重ねての御質問ですが,これは第34の方で,権限違反の行為が実際に行われた場合を想定しますと,受益者の方から言うべきこととしては,本来,信託財産に属することと,処分を受けた者が占有しているなり公示を有しているなりということを言えば足りるわけであって,そうすると,処分を受けた側の人間としては,これは権限違反の行為でも有効だというのが前提ですから,多分,受託者等から「処分を受けた」と言うだけでいいのではないかと思います。

  そうすると,構造上,受益者が「これは権限の範囲外の行為である」と主張,立証する必要が出てくると私は理解しました。
 

 その場合に,甲案,乙案なんですが,権限の範囲外であることを主張,立証しようとしますと,要するに,受益者としては「目的達成のために必要な行為とは言えない」と言うか,あるいは「信託行為に別段の定めがあって,そこからするとできない行為である」そのどちらを言うことになるんだろうと思います。


そうしますと,乙案が何か妙な案でして,むしろ甲案の方が素直なのかなと。

つまり「信託行為の定めに従うとこれはできない行為だ」と言うか,あるいは「目的達成に必要な行為とは言えない」どちらかを言えばいいという形になる……。

ちょっと先ほどの御説明が,権限外の行為であることを主張,立証する必要が受益者の側にあることを前提にしますと,何かもう少し説明が要るのかなと思いました。

  もう一点,先ほどの意見に重ねて言いますと,今の場合に「権限の範囲外だ」と言うだけでは全然だめでして,取り消すことをしないといけない。

その際に,悪意あるいは重過失まで主張,立証する必要があるのかという点ですけれども,考え方としては,現行法ですとそうなのかもしれませんけれども,考え方としましては,権限の範囲外の行為は確かに有効ではあるけれども,原則として取り消すことはできるべきものだという考え方はあり得るだろうと思います。


ただ,取り消すことは原則としてできるけれども,相手方が善意だった,あるいは過失がない,あるいは重過失がないと言うかどうかは別としまして,相手方の方で,つまり処分を受けた側でそのような事由を述べることによって取消しを阻止することができるという考え方も,十分に考えられるのではないかと思います。


権限外の行為は原則取消可能だというルールを立てるのは,立証責任の公平という観点以前の問題としても言えるのではないかという気がいたします。


● 前段の点ですが,先ほどの私の説明を改めさせていただきたいと思います。
  


今の御指摘を踏まえて考え直したのですが,やはり権限外であることを主張する方が立証責任を負うという前提で甲案,乙案どちらがいいかお考えいただければということで,改めさせていただきます。失礼いたしました。

● 証明責任の点は既にクリアされたので,1点だけ,実質が違う可能性がある本当に些細な点を申し上げますと,乙案のような書き方をしますと,信託目的の達成のために必要ないことをやれるということを信託行為に書けるかのような含みが出てくるという意味で,今までも乙案の方が評判悪いですけれども,今までの意見に加えて,テクニカルにも甲案の方が自然かなという気はします。

  もし言われていることが,目的等にかなり抽象的なものがあって,具体的なものでそれに縛りをかけるようなことを念頭に置かれている限りは,甲案の方が自然だと思います。

● 甲案,乙案の差がそれほどないという前提ですと,余り差はないのかもしれませんけれども,商事信託の場合には,いずれにしても信託行為で詳細を規定されると思うので,民事信託を前提に置いての議論の方が,甲案,乙案の選択のときにはより適切ではないかと思います。

  その場合には,今後,弁護士が高齢者の財産管理とか,親なき後の子の財産管理という形で関与することがあると思いますし,また,弁護士でなくても,まちのボランティアの方が何らかの形で関与することがあると思うんですけれども,そのときに,信託行為自体が要式性があるわけではなくて,また,そういう場合は期間的にも相当長いタームで考えることになると思うので,受託者の違反行為,責任は,善管注意義務とか忠実義務違反というところで問うことができますし,また,第34で議論しているところの権限違反行為でもとらえることができますから,もし乙案の方が受託者としての裁量に基づいて最も適切な行動がしやすいものであるという理解が正しければ,特に民事信託という側面においては,受託者にもう少し自由度を与えた方がよろしいのではないかと思います。


  乙案が余り評判よくないということに対しての反論的な意味合いなんですけれども。


● 自由度を与えるというのは,乙案の方がいいだろうという御趣旨ですね。


● そうですね,乙案の方が広いであろうと。要するに,信託目的が「このために最善を尽くしてくれ」ということであれば,場合によっては不動産を処分することもあり得ると思うので。

● ○○委員が民事信託のことを言われましたけれども,商事信託におきましても,当然のことながら受託者の自由度が高い方がいいので,そういう観点からは乙案の方がいいのかなという気もします。


もちろん,何らかの問題があるということであれば考え直しますけれども,それよりも,もともと我々の方で一番気にしていますのは,※のところに出ています借入れのところでございまして,補償請求の部分の規律がどうなるかまだ決まっておりませんけれども,どうもなかなか難しいということであるとすると,資金繰りを安定的に供給するためには,基本的には常に借入れできるような体制にしておかないと,信託事務を円滑に運営できないというところがありますので,基本的に,もちろん信託の目的の範囲内においてですけれども,信託行為に書かなくても借入れ等の資金調達ができる,そういう形にだけはしていただきたい。


  もちろん甲案でもそういう解釈はできると思いますけれども,そういう観点から乙案の方が整合的かなと思って,前回も乙案と申し上げたんですが,甲案でもそれができるということであれば,それはそれで構いません。

● ○○幹事からも,ほかの方からも御意見がありましたように,乙案の場合はそういうものが入ってきて,信託目的達成のために必要な行為ということで,入るという解釈が素直に出てきそうですけれども,甲はちょっと狭い感じがしないではないですね。

  ○○幹事が言われた,信託行為の別段の定めというのが乙案に入っていて,これが目的の範囲を超えてもできると使われると困るというのは,確かに形式的にはあり得るかもしれないけれども。


本来,信託目的が明確であれば,その範囲内でしかできないと考えれば,信託目的と信託行為の上下関係は明らかになりそうな気がしますよね。

  書きぶりとしてどちらがいいかという問題と,○○委員が指摘されましたように,借入権限について,この2つの案との関係でどう考えるか,あるいは,そのことを考慮したときにどちらの方がいいかという問題点についても御意見をいただければと思います。

● 先ほど○○委員が言われた民事信託の関係なんですけれども,信託行為に書かれていない場合に比較的いろいろなことがやりやすいということで,乙案の方が望ましいという見方もなるほどなと思うんですけれども,他方で,書かれていない場合に,そこで受託者も一応考えるというか,場合によっては受益者と相談した上でやるということを確保することが大事な場合もあり得るのではないかという気がしていて,民事信託の場合に,乙案,甲案どちらがいいかというのは,いろいろな見方で局面があり得るのではないかという気がするんですが。

● 受益者が子供とか高齢者という前提ですから,受益者が自分で財産管理できるときにわざわざ受託者が財産管理するという前提での議論は,余りしなくてもいいのではないかと思います。民事信託で何を観念するかによって全然前提が違うんですけれども。


● 御議論の中にもありましたように,商事の信託を念頭に置くのか民事の信託を念頭に置くのか,また,それぞれについていろいろなタイプがあり得るので,なかなか難しいんですけれども,一般的な考え方としてどういう立場をとるかということですね。

  今までは,甲案の方が評判がよかったんですか。

● 前は乙案をおっしゃっていた方が1人いただけで,ほとんど議論はなかったので,改めて今回,結論をいただければと思っているんですが。


● 先ほど○○幹事がおっしゃったことに関係するかもしれないんですけれども,確認の意味で。


乙案のただし書は,狭める方だけではなくて広げる方も含んでいるという趣旨ですか,もともと。

  言葉を変えて言えば,狭める方だったら,そういう書き方が可能ですよね。本文に対して信託行為でこれをさらに--「てにをは」はともかくとして,制限してもいい。


ただ,もちろんその制限は,善意の第三者にどうなるのかというのは別ですけれども。

● 今までの御議論を正確に覚えていないけれども,例えば借入れの権限などを入れるために,わざわざこのただし書を乙案のもとで使う,そういう議論ではなかったような気がしますね。狭める方向で議論していたのではないんですか。

● 事務局といたしましては,この乙案というのは,言ってみれば本文が最大限書いてあって,これより広げることは考えにくいので,気持ちは狭める方です。


文言だけ見れば,もちろん広げる方もあるんですが,本文との関係では狭める方だけと御理解いただければと思います。


● お一人しか主張がなかったと言うけれども,乙案で,今のようにただし書の方を狭める趣旨であれば,そんなおかしくないような気もするけれども。


● 別にこだわるつもりはないんですが,単に狭め方が広い,狭いではなくて,いろいろなタイプの権限の行使の仕方についての制約みたいなものがあるので乙案の方が書きにくいとすると,甲案の方が書き方としては自然なんですね。

だから,乙案で狭めるというのはあり得るんですけれども,狭い議論ではない部分のことを考えると,乙案でそれをやるのは難しいかなという印象は持っております。

  ただ,これは純粋に技術的な問題ですが,サブスタンスの方が狭めるという前提であれば,甲案,乙案,実質的には余り差はないと思います。

ただ,それを強調しますと,○○委員や○○委員が言われたことは,乙案をとったからといって何一つ解決されるわけではないということにもなってしまうんですけれども,むしろサブスタンスをまず固めていただければ,あとは自然な文言をとればいいだけだと思います。


● 先ほど○○委員が信託の借入れの議論をされていましたけれども,商事信託でもあるし,本当に商事信託でデリバティブ云々というのは信託行為に書くべきことだと思うんですけれども,民事信託の場合,何らかの形で受託者が立て替えなければいけない。

自分で立て替える分には別に構わないのかもしれませんけれども,それを借入権限がない限りは借り入れられなくて,不動産を扱っていて,その不動産が修繕とか万が一のときに,場合によっては資金が必要だと思うんですね。

そのときに,甲・乙案の差が余りないのであればいいと思うんですけれども,こういう立法過程での議論等も踏まえると,やはり信託行為に,特に借入れなどは書いていなければいけないかもしれないという保守的な解釈が出る。

受託者になった方は責任をとりたくないかもしれませんから,そういう保守的な解釈に立った場合は,信託が幅広く利用されようとすることに対して制約的になっていくのではないか。

  ですから,借入れを絶対するなとかデリバティブをするなというのは,やはり信託行為の中で,遺言信託であれば遺言の中で借入れはしてはいかん,あくまでも不動産の管理の中でやればいいとか書けばいいのかもしれませんけれども。
  


これはどういう信託を念頭に議論するかによりまして,絶対乙案がいいというわけではないんですけれども。


● 甲案と乙案の違いがあるかどうか,具体的にお伺いしたいのですけれども,例えば,受託者に一定の投資権限を与えて株式には30%まで投資していいという中で,31%の投資をしてしまった場合,甲案だとそれはもう権限がないことになるのに対し,乙案では,全体の信託契約の趣旨,目的にかんがみ,それくらいの権限はあるという解釈があり得るのかどうか。

それとも,その辺の実質は全く変わらず同じなのか,その点を御確認させていただければと思います。


● そこは,どちらも権限外になるのではないか。実質は変わらないと理解しております。

● 実際の年金などではあり得ないことではないと私自身,認識しているんですけれども,それは意図的云々ではなくて,計算の仕方とか時差の問題とかいろいろな要素がかみ合って,例えば今の1%,大幅に違うものをやるのはあれかもしれませんけれども,あり得るのではないかと思うんですね。

今の1%だけではなくて,いろいろなポートフォリオで細かい指示がどこまであったか。

  要するに,信託行為自体に要式性があって,きっちり紙に書いてあればいいかもしれませんけれども,電話等のやりとりにおいて何らかの設定をしたときに,それが違反だったかどうかとか,それはかなり紛争性があると思うし,それが権限外ということで取引の第三者にまで影響してしまうと,信託と取引する相手方はかえって不都合で,不都合でもいいではないかというと,今度,信託の運用の方にかなり影響を与えてしまうのではないかと思うんですけれども。


● 今の前提は,○○幹事の挙げられた例で言えば,30%以内でしか投資ができないことが信託として明確になっている,あるいは信託行為で明確になっている場合の話ですね。○○委員が言われたのは,仮にそういう場合であっても,ちょっとオーバーしたぐらいについては,少なくとも対外的な権限の問題としては救済がないかと。

  ですから,甲案,乙案の比較の問題ではありませんね。

● ちょっと違うかもしれません。


● ○○委員がおっしゃったこと自体は,また一つの問題だという気はいたします。特に対外的な権限との話ではね。1%を超えた部分については,それは取消しの対象になってしまうかということになると……。
  


ただ,これは取消権の要件の問題である程度は解決できるのかもしれない。相手方の悪意・重過失とかいうところの要件で,権限外であっても取消しの対象にならない場合がある。

● 甲案,乙案,どちらがすぐれているということには考えても結びつかないんですけれども,途中で議論があった幾つかの事柄について,一言発言させてください。

  目的達成のために必要な行為を,乙案をとった場合には別の定めで広げることはないだろうという御意見が幾つかあったように思いますので,実務の方々への質問なんですけれども,私が推測するに,そうではないのではないかと思います。

目的のために必要と裁判所が判断するかどうかはわからないけれども,したがって,これこれはできる,これこれはできる,これこれはしてよい,権限を与えるというのを信託行為の中で定めるというのは,あらかじめ受託者が何ができるかを明らかにしておくためにはあるのかなと思います。


他方で,もちろん目的達成のために必要だと客観的に考えられる行為であっても,この信託ではそれはやってはいけないと委託者,受託者間の信託行為であらかじめ定める場合もあろうかと思います。

そしてこの第33の,先ほどの○○幹事の言葉を使うと,サブスタンスとしては,やはりどちらも承認すべきではないかと私は思います。

  したがって,甲乙どちらがいいかというところには必ずしも結びつかないんですけれども,途中での御議論に対しては,やや疑問,異論がございます。

● 広げる場合の方が問題なんでしょうけれども,信託行為で個別に「こういうことはできる」と書くことによって,恐らく信託目的の解釈が広がっているのではないかという気がするんですよね。


だから,信託目的はここまでだけれども,その範囲を超えていろいろなことができるというのは,何かおかしな感じがするんですが。


● 最後はそうなるんだろうと思うんです。信託行為に明らかに逸脱しているけれども,書いてあるからいいというのか,それとも,具体的に信託行為に定めがあるから,そこまで目的に含まれているかというのは先生のおっしゃることなのかもしれませんが,しかし,具体的にそれが争いになったときに,先生のおっしゃっているようなソフィスティケートされた議論をするよりも,別段の定めに定められている,まさにそれに当たるんだから,これは権限内ということになるのではないかと思うんです。

  だから争い方としては,さらに,しかし,書いてあるけれども,文言上は確かに当てはまるようだけれども,信託全体の趣旨から見ると,やはりそれは外れるのではないかとか,そういう議論はあり得るのかもしれませんが,まさに信託行為の別段の定めを置くというのは,1つは,やはりそういうことをあらかじめ考えて,将来のトラブルを防ぐためにやるのではないかと思いますので,それはなるべくスムーズに,問題解決のときに使えるように考えるのがいいのではないかと思います。


● よくわかります。

● どちらがいいというわけではなくて,今のように広げる方向もあり得るとしたときに,それがどういう意味を持つか,またちょっと証明責任の話をしますと,「別段の定めがある場合には,この限りでないものとする」には2つあって,制約する方向と広げる方向と両方あり得ると考えたときに,先ほど言いましたように,受益者の側としては,権限の範囲外の行為だと言わないといけないわけですね。

その場合に,さっきも言いましたように「目的達成のために必要とは言えない」と言うか,あるいは「必要かもしれないけれども,別段の定めがあってこれはできないことになっている」と言うか,どちらかだと。

その限りでは,本文ただし書になっていますけれども,どちらについても受益者の側がいずれかに当たることを主張,立証しないといけないわけですけれども,ただ,恐らく広げる方向もあり得るとなりますと,考え方としては,受益者の方は「これは目的の達成に必要とは言えない」と--これを広げればまた別なんですが,限定的に考えますと「必要とは言えない」と言うのに対して,むしろ処分を受けた相手方の方が「いや,別な定めがあるではないか,だからこれは権限の範囲内なのだ」ということを,また主張,立証することになるのかなと。


わかりやすく考えると,恐らくそうなるのかなという気がいたします。


  そうしますと,これは規定の書き方がすごく難しくなるんですが,制約する側か広げる側かによって,別段の定めの立証責任の所在が変わってくるのではないかという気がいたします。


すごく書きづらいだろうなとは思いながらも,しかし,ここは立場決定の問題ですから,いろいろお考えの上,決めるべきことかと思います。


● 甲案,乙案については,今の証明責任の問題も含めていろいろ検討したいと思いますが。

● 御検討の際に,信託行為を委託者が決めるというイメージでいくか,それとも受託者が実際には決めるというイメージでいくかで変わってくるのかなという気がするんです。


  受託者が実際に信託行為を決めるということですと,受託者の権限を限定するという意味で甲案の方が親しみやすい気がするんですけれども,委託者だということだと,そのままでいくと乙案になるだろう。


そうすると,民事信託を考えると,それは委託者が書くのだから乙案でということが,多分,○○委員などのイメージとしておありだろうと思うんですけれども,理屈の上ではそうかもしれないんですけれども,実態が本当にそうなのだろうか。
 

 どういう信託をイメージするのかと関係してくると思うんですが,どちらの案をとった場合に,どういう当事者の行動に結びつきやすいかという面からの検討も必要かなと思います。

● もう十分御指摘が出ていると思うんですけれども,確認の意味でベーシックな点をもう一遍発言させていただきますと,どういう類型の信託を考えるにせよ,信託についてどういうルールを考えるかが今,問題だと思いまして,○○幹事がおっしゃったように,もし別段の定めをすれば目的達成のために必要でない行為もできるという立場をとるのであれば--それを俗に広げると言っているんですけれども,甲案では読めないですよね。

ですからその場合には,サブスタンスの問題として言えば,甲案をとるのか乙案をとるのかで全然違うと思います。

  私は,実際の効果という意味では信託のタイプによって違うと思うんですけれども,どういう類型であれば,今ここでは,信託というものについての受託者の権限をどう考えるかが問われているんだと思いますので,どちらかでいくのかはっきりさせた方がいいように思います。

● おっしゃるとおりですね。


信託目的と信託行為の定めの関係とか,これはしかし,本来,信託目的--いや,そう簡単に言ってはいけないな。


信託目的が一応上のものであって,それを具体化するのが信託行為であって,そういう意味では,信託目的の範囲を超える行為を定めるというのは何か私は理解しにくんだけれども。

  それはともかくとして,いろいろな御指摘がございました。


最終的にはどちらの方が--これはまだ条文という形ではありませんけれども,条文として書いたときにどういうものが好ましいのかという観点から,もうちょっと文言については詰めておきたいと思いますけれども,さらに検討しておかなくてはいけない点があれば御指摘いただきたいと思います。


● 先ほど信託目的と信託行為についてというお話が出ていましたけれども,実務上からいきますと,信託目的というのが,確かに信託の目的をあらわした形で信託目的という箇所に入っているかがはっきりしていなくて,信託のタイプによっては,ただ単に形式的なものだけ書いてあって,結局その信託がやるべきこと的な話は全体の条文,信託行為を全部見て,その中で読み取るといったこともあるのではないかと思いますので,「信託目的」という言葉の使い方も,「信託目的」という言葉のところに出てくる話なのか,全体の文意から読み取るものなのかというところの決定も必要ではないかと思います。


● それは先ほど申し上げたように,個々の条項を見て,信託行為に別段の定めがあっていろいろ書いてあれば,それを見て信託目的も一緒に解釈するんだろうと思いますね。--わかりました。


  それでは,これはまだまだ御議論があるかもしれませんけれども,切りがないところもありますので,第33についてはそういうことで。


  第34の方もまだ重要な問題がございます。ただ,時間が中途半端なので,これから15分間休憩して,引き続き第34を御議論いただきたいと思います。

          (休     憩)

● そろそろ時間になりましたので,再開したいと思います。
  (関係官の異動紹介省略)
  それでは,先ほどの続きをしたいと思いますけれども,第34,受託者の権限違反の行為等について,若干は御議論いただきましたけれども,なお御意見があれば。

● 4点ほどあるんですけれども,第1点は,悪意・重過失の立証責任がどちらにあるかというのは,まだ確実に決まっていないのかもしれませんけれども,仮に受益者側にあると仮定したときに,善管注意義務違反の行為であるということについて,当該第三者が悪意であるということまで立証できたとするにもかかわらず,なぜ当該第三者を保護しなければならないのかがよくわからないんですね。

  つまり,善管注意義務違反があったことについて,知らなかったことを第三者に立証せよというのは,何となく酷である。

権限内であることが言えればそれでいいはずであるというのはわかるんですけれども,善管注意義務違反であるとわかったということまで受益者側で立証できたのに,なお取引の安全のためにと言う必要がどこにあるのかがよくわからない。
 

 4点あると申しましたけれども,内的には大体関係しておりまして,第2点目は,9ページの<説明>のところで民法第644条が挙がっているところでございます。

民法第644条のことが書かれていながら「対外的効果帰属については,単純に受任者の代理権の範囲内にあるか否かで考えることとされ,」と書いてあるのが私にはよくわかりませんで,つまり,第644条の受任者の義務内容が規定してあるところは,別に代理権が付与されていることを直接前提にしているわけではなくて,また,委任によって代理権が発生したと考えましても,そういう通常の場合でありましても,代理として法的効果が本人に帰属する範囲と,代理人が委任を受けている受任者であるとして行動できる範囲,そして,それにかかった費用を求償していける範囲はおのずから異なる別の話であって,ここを代理の範囲内にあるかどうかで考えるというふうに続けるのはいかがかと思います。


  仮に,それでも代理と密接な関係があるではないかと言われると,まことにもっともでありまして,その限りではおかしくないんですが,その代理と密接に関係があることを前提としてこの案を考えたときに,代理に関しまして権限外でありますと,それは無権代理であって,保護される側が正当の理由を主張,立証していかなければならないことになるわけで,仮に受益者側で悪意・重過失を主張,立証していかなければならないと仮定しますと,それは代理ならば代理権濫用と言われるタイプのときの立証責任の分配であって,そうなりますと,これは権限の範囲内であっても自己又は第三者の利益を図るためといったことで行えば,本人への行為の効果帰属を否定することができるわけであって,やはりここでも,善管注意義務違反などというものを一応範囲の外に出したということにいたしますと,やはり悪意・重過失の立証責任を受益者側に課するのは無理がある,ないしは他の法制度の部分との間でアンバランスがあるのではないかと思います。


  第3番目は,自分も全くわからないことをこれから申しますので恐縮ですが,大上段の話であります。取消しの効果というのは何なんだろうかという話なんですね。

  もちろん,ある不動産が第三者に対して処分された。

それが権限の範囲内である,範囲外であることが問題となって,取り消すという話になりますと,これは当該売買契約が効力を失うんだと思います。


もちろん相対的取消,絶対的取消といった話がさらにあるかもしれませんけれども,一般的には,当該売買契約が効力を失って,信託財産に戻るんだと思うんですが,ところが,権限範囲外の行為というのは,そういった不動産を売却するといった信託財産を逸失させる行為とは限らないわけであって,単純に,何らかの契約をするようなものもいろいろあるわけであります。

  その場合に,仮に信託財産に責任を限定する特約があったりする場合を考えますと,場合によっては,第三者としては,取り消された方が有利な地位に着く。


つまり,あるいは相殺もそうかもしれません。


信託の業務の執行であるということになりますと,さまざまな制約が相手方の権利の内容にも及んでくるのに対して,取り消されて,それが仮に受託者個人と行った行為であるというふうに性質が転化されますと,かえって有利になるということもあるのではないか。
  

今はちょっと思いつきで申し上げただけなんですけれども,取消しによってどうなるかについて,お考えがあればお聞かせ願いたい。


私個人としては,現行法の第31条が処分行為に限ってそういう規律をしているのには,一定の合理性があるのであろうとなお考えているわけであって,それは信託財産の逸失行為だけを対象としているととらえることができるのではないかと思うわけであります。
 


 第4番目は,実は第33に若干戻るような形になるんですけれども,第33における「信託の目的達成のための」という話を厳格に解しますと,いずれにせよ,権限外とされる範囲はかなり広くなってくるわけであります。

そうなりますと,これは私が今まで申し上げていることと逆の立場からの発言になってしまうかもしれませんけれども,全体としては,第34の規律は,相手方の保護とか取引の安全を図ろうという形ででき上がっているのに対しまして,第33について厳格に解しますと,いずれにせよ,安定的だとは言えない法制度になるのではないかと思うわけです。

  これに対しては,第33によって定まる権限というのは一般的,抽象的に定まるものであって,あるときにある行為をするに当たって,それが適切でない,ある時点におけるある具体的な行為が目的を達するのに適していないと判断されたとしても,それは善管注意義務違反等々の問題であって,権限としてはそれが否定されるわけではない。


権限というのは,もっと抽象的に定まるのだというのが恐らくは正しい回答になるんだと思いますけれども,もし仮にそれが正しい回答だとすると,本当に第33において,目的によって権限を縛ることに何らかの実質的意味があるのか。


  つまり,例えば30年にわたって子供を扶養するために信託を設定するといたしましても,それは通常では,ある不動産が信託財産であるときに,30年にわたって扶養しようということになりますと,これは賃貸をするなりして安定的な収入を得た方がいいということになって,土地の処分権限は否定されることになるのかもしれません。

しかし,場合によっては,土地は値下がり傾向だから売却をして何かに変えた方がよいとか,あるいは今現在,大変困っているので,それを救うためには土地を売却した方がよいという場合もあるかもしれません。


そうなりますと,目的からは,土地の処分権限というのはなかなか否定しがたいような気がするんですね。


  抽象的に「その目的を達成するために必要な行為」ととらえた場合に,本当に第33が権限を制約する法理として働くのかという問題が,第34の前提にもなお存在しているのではないかと思います。


● いろいろな論点がありましたが,それぞれ難しい問題だと思います。全部一遍にはなかなか議論できないと思いますけれども,順次議論していただければと思います。


  そうですね……,一番最後の方が記憶に鮮明に残っているので。

  要するに,目的によって権限が確定されるのか,されないのかという問題ですよね。

これはいろいろな場合があるんでしょうけれども,要するに,抽象的な目的を定めても,それによって直ちに権限が定まらないという意味での権限が定まらないという問題もあるんでしょうけれども。
  

ただ,○○幹事のお話,一番問題となりそうなわかりやすい例としては,当該信託においては信託財産を処分する権限があるのか,ないのかというのが比較的わかりやすい例で,例えば,ある特定の家屋とかこういうものを維持するために,それがそれなりに価値があるので,古い建物だし,維持するために信託を設定しているんだといったときは,これはその値段がどうであれ,とにかく維持することが目的なんですから,その信託においては当該家屋を処分することはできない。


1つぐらいしか今すぐには例が思い浮かびませんけれども,かように目的によって権限が定まる場合もあるのではないかと一番最後の問題については思うんですが。

  2番目,3番目あたりは少し難しい問題なので。
  第1番目の問題は前から○○幹事が主張されている点だと思いますけれども,善管注意義務違反というものが権限に全然関係なくていいのか,簡単に言うとそういう問題ですか。


受託者が善管注意義務違反の行為をしていることを相手方が知っているようなときに,善管注意義務の問題は権限に関する問題ではないから,第三者との取引の効力に影響を及ぼさないというのは適当でない,そういう御趣旨ですよね。


● そうですね,1番,2番あわせてそうであると言っていただいても構わないかと思います。


● これはいろいろ御議論があるところだと思いますけれども。

  私自身も,善管注意義務違反の問題は全く権限と関係ないとは必ずしも思っていなくて,場合によっては,善管注意義務違反というのはある種の重要な権限と結び付くことがあるんだと思います。


ただ,どういう善管注意義務違反が権限に結びつくのか,あるいは相手方が知ってさえいれば,どんな軽い善管注意義務違反であっても,今度は逆に権限外のことになるのかとか,そういうふうに考えると,どうもそう簡単ではないような気がして,そこで,権限の問題はやはり権限の問題として,善管注意義務違反の問題と切り離して考えたらどうかというのがここでの原案なんだというふうには理解しています。これは私の理解です。

● その立場は非常によくわかるんですが,その立場が実効的といいますか,実際的であるためには,第33の規律によってしかるべく権限の範囲が制約される。客観的にですね。

それがあると,そう言えると思うんですよ。第33によって権限範囲が制約されているんだから,それを超した行為をどうするかをまず問題にしようと。

  最後に申し上げたことは,第33の規律によって権限というものがある程度,まずは小さくなると言えるのかということなんですが,もしそれが,第33の規律では権限範囲をある程度狭めるといった効果がもたらされないとなりますと,結局,第34は野放し的になりかねないような気がするので,第33と第34は,その意味ではすごく密接に関係していて,第33がどれだけ実効的に縛れるかということと関係しているのではないかと思います。


● 第33で問題にされているのは信託目的による制限であって,信託行為による制限は構わないわけですね。

● そうです。


● 信託目的というのは抽象的な場合もありますので,これで直ちに,客観的に権限が明らかになるということは,そう多くはないんだろうという気がします。ちょうど法人の目的と同じようなものだと思いますけどね。


  ただ,では全然意味がないのかというと,必ずしもそうではないので,そういう意味で,ここでは一応,信託目的によっても権限が画される場合があると。

ただ,それが明確でなければ,つまり目的の範囲に入るのか,入らないのか,そういうことがよくわからなければ,これは逆に権限外であることが主張できなくなるのではないですかね。


  信託目的についてはそうですが,ただ,甲案,乙案はさらに,甲案であればさらに明確ですけれども,「信託行為の定めに従い」ということなので,そこでは非常に明確な権限が定められていることがある。


その点,乙案の方が少し明確ではないのかな。甲案でいけば,少なくとも受託者の権限を画することになってくる。
  こういうのが第33についての理解ですけれども,ほかの皆さんはいかがでしょう。あるいは事務局の方で。

● 善管注意義務違反については,御指摘のような問題があり得ると思います。

すべてがセーフというわけではなくて,教科書などでは「重大な」といった規律もしております。

それはまた何が重大かという問題になってきますけれども,善管注意義務違反によってもケース・バイ・ケースで,場合によっては取消しの対象になるであろうという理解をしておりまして,一律に善管注意義務違反だったらどう,忠実義務違反だったらどうという理解は難しいだろうということですので,この文言でも,善管注意義務違反の程度によっては権限外というところに昇華してくることはあり得ると事務局は認識しております。
 

 ただ,どんな軽微な善管注意義務違反でもいいかというと,それはさすがに,100万円で売るものを105万円で売ったら権限違反かというと,そこは難しいのではないか。


しかし,100万円のものを1万円で売ったら,これはちょっと問題があるのではないかとか,そういう程度問題かなと認識しているところでございます。

● 先ほど○○委員が言われました--ちょっと違うのかな,30%のところを1%超える,そういうのが軽微な違反なわけですけれども,この30%というのは権限の問題として書かれているので,○○幹事の言われる善管注意義務違反の問題とちょっと違うかもしれませんけれども,かように,非常に軽微なものについては,幾ら相手方が知っていても,それをすべて取消しの対象にすべきだということになるのかどうか,少し問題があるような気がします。


● その限りでは全くそのとおりだと思いまして,私も,非常に軽微な善管注意義務違反まですべて取消しを認めろと言っているわけではないつもりなんですが,そうしたときの立法の技術といいますか,仕方の問題として,善管注意義務違反というのは曖昧である,しかるに権限は客観的に決まる,したがって,権限に属しない行為についてだけ取消しの対象としようという流れでいっているにもかかわらず,大きな善管注意義務違反だったら「さすがにそこまでは権限がないだろう」という非常に実質的な概念だとすると,実は客観的には決まっていないわけであって,それは現行法における信託の本旨に従わざる処分というものに,かなり近づいているのではないか。

  私自体は,それが悪いことだとは思わないわけであって,○○幹事の説明はそのとおりだと私も思うわけですが,そうすると,ここの説明等において客観性が大切なんだ,権限外のときだけやるんだということを余り強調しますと,今後そういうふうな,ある意味では明らかに本旨に反し,相手方がそのことを十分に認識していた,ある意味では通謀的なものであるという場合にも,形式的に権限内であるならばそれで構わないという話になってしまわないか。

その辺をもう少し,第34の言葉の問題あるいは第33の権限の問題として考えることができないだろうかということであります。

● 重大な善管注意義務違反という形でもって,どういう場合が権限の問題に入り込んでくるのか明確でないために,せっかく客観的な基準をつくってもグズグズになってしまうという問題があることは私もわかります。


● グズグズになっていいという立場なんです。


● 仮に客観性を維持するという立場からすると,完全には維持できないのかもしれないけれども,重大な善管注意義務違反をもうちょっと限定して,○○幹事はさっき権限濫用タイプと言われましたけれども,そういうものについては,これは権限があるという前提で,しかし,権限濫用と言えるような,受託者が自分の利益を図るためにやっているような場合が典型でしょうけれども,そういう場合には,やはり相手方が知っていれば効力を否定しようというところでは,単なる客観的な権限の問題に尽きないものが入ってくる。そのぐらいはあってもいいのかなという感じはいたします。

● 今の御議論の前提で,言うまでもない自明の,しかし教科書的なことの確認だけさせていただければと思います。

  先ほど○○幹事がおっしゃいました「重大なものであれば権限の問題になる場合もあり得るであろう」という説明と,民法や商法で従来言われていることとの関係がどうなるのかという点の質問なんですが,今,○○委員からも御説明ありましたように,権限濫用の問題に関しましては,昔からずっと議論のあるところで,主として忠実義務を想定しているんだと思いますけれども,内部的な義務違反があった場合に,それは権限外の行為と見るのか,見ないのかという議論がずっとございまして,何が問題かといいますと,つまり,忠実義務を守ることが権限の範囲を画していると見るのか,見ないのかという議論がずっとあるところで,一部の有力な考え方は,忠実義務に従うということは権限の範囲を画しているのだ,したがって,そのような義務違反の行為があった場合には,これは権限濫用の問題ではなくて権限外の問題だという考え方があるわけですけれども,御承知のように,通説的な判例を含めた見解は,やはり内部的な義務は権限とは別だと。

権限というのは内部的な義務とは別に,客観的に決まるべきものだという前提で,権限外か,権限内だけれども義務違反,権限濫用だという仕分けを一応してきたと思うんですね。

  ただ,この議論の主たる場面というのは,権限の範囲がかなり包括的な場面を想定してきただろうと思います。


会社の場合もそうでしょうし,あるいは法定代理などを想定しているとはいえ,しかし,通常の一般的な代理についても同じような考え方を民法でもとってきたんだろうと思うんですね。

それがいかん,おかしいという御主張が○○幹事には若干あるのかなと思いますけれども,しかし,その理論は置いておいて,信託については重大な善管注意義務違反の場合には権限外だと簡単に言って大丈夫なのか。


やはりもう少し整合的な説明を併せてつけ加えないと波及するのかなという気がいたしました。
  もう自明の前提だとは思いますけれども,念のため。

● 理論的にはなかなか難しいところなんですけれども,ただ,流れとしては結局,忠実義務違反行為は権限外になるんでしたよね。これは前回,前々回でやったのかもしれないけれども。
● 忠実義務違反は……
● 明確になる。

● ……と考えておりますけれども,ただ,例えば商法などでは,一般的な忠実義務に反したら直ちに権限外ではないけれども,自己取引などに違反した場合は権限外とか,忠実義務だから常に権限外と言えるかというと,全くそこも,本当に一律に決めていいかちょっと疑問があるところでございまして,そうしますと,結局,権限外ということについて客観性を余り強調するのはどうかという○○幹事の指摘は,まさに我々としても痛いところでして,信託目的というのも,ある意味では多少あいまいなところもありますし,そもそも信託事務遂行義務も「信託の本旨」という言葉を入れて膨らませているわけでして,それに対応する権限というのも,ある程度の膨らみがあるでしょうし,重大なものかどうかということで,ある程度の基準ができてくるということになると,権限の内外というのは信託の本旨よりは客観性がある気がいたしますが,極限的には,どうしても事例判断によらざるを得ない。
 

ただ,今,○○委員が言われましたように,忠実義務は,善管注意義務違反に比べれば,基本的には権限外という可能性が強いだろうと認識しているところでございます。


● 理論的には難しい問題がたくさんありますけれども,もう一つ○○幹事の言われたことがありましたね。

取消しの効果というのは結局何だろうということで,場合によっては,取り消された方が相手方にとって有利であるという……。
  


これは受託者に責任がある,そういう前提での話ですね。常にあるとは限らないので。

● ○○幹事の指摘とかみ合っているかわからないんですが,我々のここの取消しというのは,前から言っているように絶対的取消しだと考えておりまして,信託財産にも効果が帰属しなくなりますし,固有財産にも効果が帰属しないという意味で,行為の効果がすべて消えるというのが,ここでの取消しの効果と我々は認識しております。


それが御疑問に答えているかどうかはともかく,そういう取消しの効果と考えているところでございます。


● よくわからないまま発言して大変恐縮なんですけれども,それというのは,受託者が主観的に「信託事務の執行である」という気持ちをもってしたら,外形的に判断したときには,それが信託事務の執行であるといった形をとっていなくても必ず信託事務の執行としてのみの性格を有し,仮にそれが権限の範囲外であって,相手方がそれを重過失で,例えば知らなかったという場合には,形の上では,受託者個人がただ単に受託者の名前で借入行為をしようとしているという形なんだけれども,しかし,全く当該契約の効果は失われてしまうことが前提になっているんですよね。

● はい。


● そうなんですかね。
  結局そうすると,受託者が「いろいろあるけれども,これは自分のためにやった」と一言言えば,これは自分のもののことになるんですかね。余りうまく言えませんで,すみません。

● 前から○○幹事が気にされている点だったと思います。


この会議で前に議論したのか,あるいはほかのところで議論したのかわかりませんけれども,つまり受託者が,主観的には自分に効果を帰属させるつもりだけれども,外形的には信託事務のために行っているという……。

● 本来は逆なんですけれども。つまり,受託者の信託事務の執行形態というものは,信託財産に責任を限定する特約を締結する等々のことをしない,つまりアズ・トラスティという形でしない限り,受託者個人の名前で出て,相手方とある一定の法律行為を行うにすぎないわけですよね。


それが信託事務の執行としての性格を取り消されたということになりましても,それはただ単に,受託者の個人的な契約としては存続すると考えるのが筋なのではないかと私は思うのですが。
  


またそのバリエーションとして,それではアズ・トラスティと言った場合はどうなるのかという問題が出てくるんですけれども。

● わかります。完全に人格が違う代理の場合と違って,信託の場合には受託者が,いわば行為者であって,信託のための行為であるという性格が消えると本来の受託者個人としての--受託者個人の名前で取引しているわけだから,それが復活するというのか,生きてくるのではないかということだと思います。

● ○○幹事の御指摘されている問題に全面的には答えられないんですが,一部に対応する形で発言させていただきますと,第34の1の①に書かれていない前提があるのかもしれないと思います。

  といいますのは,①で,この要件に当てはまって取り消すことができる場合というのは,受託者が主観的にといいますかね,受託者の意図として信託事務処理として行った行為で,かつ--そこは多分,○○幹事も前提にしていると思うんですが,もう一つがよくわからないんですけれども,かつ相手方である第三者も受託者の行為が信託事務処理として行われていることを知り,しかし,受託者の権限に属しないことを知っていた場合--ちょっと重過失は落とします--そのときには取り消すことができるのであって,第三者が信託事務処理として行われていることを知らなければ,たとえ権限に属しないことを知っていても,まさに固有財産で取引をしていると思っていたというときには,取り消せないだろうというのがおっしゃっていることの一部ではないかと思うんですが,それでよろしいですか。


● そうです。


● その場合に取り消せるのか,取り消せないのかというところを,まず考えないといけないんだろうと思うんです。


この1の①から解釈でどちらかというのではなくて。どういう解決が望ましいのかを考えないといけないと思います。


  それは,ちょっと十分に考えていないんですけれども,○○幹事の意見にも私も賛成……,今のところ,賛成したいと思います。
  事務局がそうであるのかないのか,私もお伺いしたいと思います。


● 前回の説明資料でその点を論述してあったのですが,受託者の取引の相手方が,受託者の信託事務の遂行として相手方と売買していると認識している場合であれば,信託財産に対して売買代金に係る債権を執行できるという期待は保護に値するにしても,取引の相手方が,受託者が信託事務の遂行として当該相手方と取引していると必ずしも認識していない場合にまで,当該相手方の信頼を保護して取引の効果を信託財産に帰属させる必要はないのではないかという指摘もこれまであったところでございます。

  結論だけ申しますと,相手方が信託財産だと認識していないときは,これは取消しはできなくて,取引の効果は信託財産に帰属して,信頼は保護されるということであります。

  そのようにする妥当性はどういうことかなのですが,例えば,受託者に対して既に財産が交付されて,受託者もこれについて信託財産の中から支払の全部または一部を履行している場合ですとか,受託者に既に交付された財産が信託のために用いられている場合には,既に得た財産はもう信託財産に帰属させるとした方が問題の解決には資するのではないかと思われます。

  御指摘の懸念というのは,主として受託者が自らの債務を全く履行していなくて,取引の対象となった財産が信託のために用いられていなかったという限定的な場面で問題になるにすぎないのではないかと。

それから,取引の相手方が受託者の行為は信託の事務の遂行であることを必ずしも認識していない場合でも,受託者の行為が権限内の行為であれば相手方は信託財産に対して執行することが可能であるところを,こういったケースと先ほど申し上げた権限違反の行為がなされたケースとでは,相手方の認識状況,すなわち受託者の行為が信託事務であるかについての認識状況ですとか,それから,相手方が交付した財産は信託のために用いられているんだという点については全く同様であるにもかかわらず,たまたま受託者が行った行為が権限外であった場合には信託財産について執行することができないというのはバランスを失しているのではないか等々から考えまして,先ほど申し上げたような結論でどうかという考えを前回は述べさせていただいたところであります。


● 誤解のないように補足いたしますと,相手方が信託として取引していると認識している場合であろうが,相手方が信託として取引していると必ずしも認識していない場合であろうが,その場合は取り消せないというのが前回の我々の考え方でございまして,その理由は今,説明がありましたけれども,権限内であれば効果が帰属するなら,権限外であっても同様な結論をとっていいのではないか。

確かに権限外であるということであれば,受益者の利益は害されそうであるけれども,他方,取引の相手方も権限外であることについて善意無重過失で保護されるということもあると,保護される場合と保護されない場合とで結論を異ならせるような理由はないのではないかというのが前回の提案の説明でございます。

● 確認のための質問なんですが,代理の場合で言いますと,相手方が,本人ではなくて代理人に対して法律行為をしたので履行せよとか何か言ってくる場合には,代理人としては,いや,自分は代理人として契約をしたんだ--民事の場合ですと顕名をしたということを言えば,その履行請求は拒むことができるんだろうと思います。

  それともし同じように考えるならば,権限の範囲内かどうかは別として,これは受託者個人としてやったことではなくて信託事務の履行としてやったんだ,あなたもそれを知っていたでしょうということで,先ほどの代理と同じような履行請求なり何なりを免れることができる可能性を認めるかどうかというのが,多分,○○幹事あるいは○○幹事がおっしゃっているようなことなのかなと一瞬思ったんですが,その点はいかがなんでしょうか。

つまり,取り消せるかどうかではなくて,権限の範囲外だということで取り消せるというのは,ルールとしてはある。


しかし,それ以外に今,言いましたように,いや,これは信託事務の履行としてやっているわけであって,あなたもそれを知っていたでしょうというようなことで免責があるのかという点は,いかがなんでしょうか。そこを併せて説明いただくと,わかりやすいかと思います。

● 信託ということを認識している場合は,その信頼を保護して信託財産に効果は帰属する。


信託の取引であることを認識していない場合であっても,権限外について善意無重過失であれば,やはり信託財産に効果は帰属するというところで,同じように考えているということでございます。

● 私は○○幹事のより,むしろ相手方も,受託者の方も信託事務処理とは考えていなかった場合には,これはもう信託財産にはかかっていけない。そこは代理と同じように考えるんだろうと思っていたんだけれども,違いますか。


● 受託者も思っていない場合,それは信託財産にいかないのではないでしょうか。
● いかないでしょうね。


● 受託者は思っていた,相手も思っていたんであれば,いく。受託者は思っていた,相手は信託とは思っていなかったというときでも権限内であればいくんだったら,権限外であっても善意無重過失ならいく,そういうような話でございますが。

● 仮に相手方が信託事務だと思っていなかったから,その場合,信託財産に帰属しないんだといっても,例えば信託財産に属する特定物の売買などをしたときには,どちらにしろ信託財産に帰属すると考えて執行できると考えていかないと,話の辻褄が合わなくなるのではないかとも思ったのですが。


● もう一度言い直しますと,さっき私が申し上げたような問題は別にあるとして,今の問題に即して言いますと,代理の場合ですと,代理人が代理行為を相手方と行った,にもかかわらず本人に履行請求が来たときに,これが本人のための代理行為として行われているのであれば本人は履行を拒むことはできないわけですけれども,代理行為として行われたわけではない,民事ですと顕名がないということであれば,もちろん履行する必要はないというようなお話が出てくるわけです。


それに対応した問題だという位置づけで,しかし,先ほどの御説明ですと,権限の範囲内かどうかでこの問題は一律に扱わないと不公平になる,そういう御理解なんでしょうか。

● 今,○○幹事がおっしゃったように,効果意思というんでしょうか,代理士と同じように受託者にも信託事務を処理しているという……,効果意思が必要だというところは同じでございます。そこから先が,権限内外とか認識によって区別しないと。

● 受託者の側で……,代理人行為説みたいな発想ですね,一種の。


● 効果意思は必要ということです。受託者側ですね。
● そこで決めるということですね。
● 第一義的には,そこで決めます。

● 権限内の行為の場合のときに,相手方が当該取引が信託事務の執行であると思っていても思っていなくても,いずれにせよ信託財産に対して執行していけるんだ,だからという話なんですが,そこは「だから」なのかというのがよくわからないところであります。

  つまり,信託事務の執行行為であるというときに,信託財産に対して相手方が執行していけるというのが,どのようなメカニズムによって起こっているのかということなんだと思うんですね。

それは,受託者が当該取引に信託事務の執行であるという色をつけたからという理屈で考えますと,それはそのとおりで,受託者が行為時に色をつけたならばそうなるんだということになってしまうんだと思うんですけれども,やはり私は,それほど単純な話ではなくて,受託者はもちろんそういう主観的な意図をもって色をつけたわけだし,それで,相手方がそれを色をつけて信託事務の執行であると考えていた場合には,その信託財産が引当てになると考えたであろうと思われますし,仮に信託事務の執行であると思っていなかったと仮定した場合には,受託者の行為によって色がついたからというんではなくて,やはりそこは利益衡量の問題で,相手方に信託財産に対する執行を認めてよいのか。

それは信託事務の執行としてなされている話であって,かつ権限内のものなんだから,受益者にそれによって信託財産から直接とらせても,受益者に損失をこうむらせるものではない,だから相手方に信託財産に対する執行を認めよ,そういった利益衡量の判断の中でなされている話ではないかという気がいたします。

  受託者が色を塗ったからである,それだけの理由によって信託財産への執行が認められるに至るんだということになりますと,今の○○幹事等の御説明のとおりであろうと思うんですけれども,そこは私は,疑う必要があるのではないかと思います。


  そして,実質的に考えたときに,確かに権限内の場合には執行を認めたってだれも困らないわけですけれども,権限外のときに執行を認めてあげる必要が,相手方をそこまで保護する必要はないし,他方,受益者はそれによって損失を被るわけですから,必要性がないと私は思います。

● 権限外の場合はだめなんでしょう,信託財産。


唯一違っているのは,受託者はとにかく,今,色をつけるという言い方をされたけれども,信託事務の処理として行っている。


相手方は,そういう意図ではなかった。そのときに,権限外であれば,やはり信託財産にはかかっていけないけれども,権限内であれば信託財産にかかっていけるとするか……,やはりだめだと。


● 権限内であれば,それはできていいんですけれども……。


● 相手方は,そういう意図で取引しているわけではないから。


● それはそうですけれども,現在の建前でも,信託事務の執行の場合には,信託財産に対して執行していけるとなっているわけですよね。


別にそこを今,変えるべきであるといった主張をするつもりはないんですが,権限外の場合であって,かつ○○幹事は,権限外の場合で,相手方がそれが信託事務の執行だと知らない場合も,悪意または重過失ならば保護が断ち切られるんだ,取消しの対象になるんだとおっしゃいました。

それは理屈の上ではそのとおりなんですけれども,当該取引が信託事務の執行であると思っていない人が,なぜそれが権限外であることについて悪意または重過失であるということがあり得るのかというと,それは基本的にはあり得ない話ですよね。

  そうすると,悪意または重過失の場合には保護されないんだからバランスがとれているでしょうという話にはならなくて,当該取引が信託事務の執行であることを知らない第三者は,受託者が色をつけたときには,当該取引が信託事務の執行であると意図したときには常に保護され,その取り消しは行われないことになるというのが現実的な整理だと思うんですね。そして,その必要はないのではないかと思うんですが。

● 仮に○○幹事の立場をとると,ほかの問題もいろいろ入っているけれども,幾つかの枠組み,権限外かどうかという言葉は残すとして,要件としては何が,あるいはこの原案から何を外すことになるんですかね。

● それは恐らく○○幹事がおっしゃったことに関係しているんだと思いますけれども……

● 意味をつけ加える。要するに,これが適用される前提条件を明確にするということですよね。
● そうですね。


● とんでもない思い違いをしているかもしれませんが,受託者も当然信託事務のつもりでやる前提で,相手方も信託事務だと思っていた。

その信託財産に属するものを何か売りましょうという処分行為をして,それで権限外であることについて相手方は善意(無重過失)であったというような場合は,現行法だって別に,これは有効に信託財産に帰属するわけですね。

その前提があるとすると,ここはちょっと分かれるのかもしれませんが,信託事務であることは認識していて,だけど権限外であることまではわからなかったという第三者と,まさか後ろに信託というものが構えているとは知らずに,これは多分,普通に取引しているんだろうなと思っている第三者が登場して,したがって,善意(無重過失)かというようなことを調べようもないわけですけれども,そういう第三者が登場したときに,後者の方が,突然外から「ごめん,これ信託財産だったのでアウト。さようなら」と言われて,その取引の安全というのは考えなくていい,前者の方は考えるべきだということになるのかどうか,そこのバランス論が……。

私は,前者が保護されるなら後者だって当然保護されるのではないかと考えたのですけれども。

● 私も当然だと思います。だからこそ,現行法第31条は処分に限定しているんだと思います。

  今,特定物の売買の話を出されるので突然そうなるわけであって,例えば,何でもいいんですけれども,借入行為でもいいかもしれませんが,そういったものを,特定物の売買だけがかなりの特殊性を持っているのが,現行法が処分行為という概念を入れて第31条の適用範囲を制限している理由ではないかと私は考えているんですが。

  では,借入行為をした場合に,なぜ執行ですね,これは受託者個人で借りていると思っている第三者が,その信託財産に対して執行していけるということになるのかが私にはわからないんですけれども。

  ですから,ちょっと私,バランスを判断するときの例として,特定物に係る売買契約その他,処分行為がかなり特殊なものではないかと思うんですけれども。

● 論点整理させていただければと思うんですけれども,この権限違反の行為についての扱いとして,ここで提案されている第34が適用される場面が,今,問題になっているわけですけれども,一番問題ないのは,受託者の方も,これは信託事務の処理,そういう行為として,これは処分だけではなくて処分以外の行為であってもいいと思いますけれども,行っている。


相手方も,信託事務の処理として行われているという前提で,しかし,権限外であったというときにどういうふうに保護するかというのが,第34の問題である。

  ここは仮にそういうふうに限定して,先ほどから,受託者の方が信託事務の処理のつもりで相手方がそうではなかったという例などが挙がっていますが,ちょっとそれについては別に--最終的にまたこの中に組み込むかもしれませんけれども,後者についてどういうルールで,どういうふうに解決したらいいかというのは独自に検討して,それで,最終的に第34と統合させて考えるのか,あるいは別個何かルールを考えるのか,そういうふうに分けて議論した方が,どうも生産的なような気がするんですね。
 


 今,第34の中にすべてを入れて議論すると混乱する可能性があるので,そういう議論の仕方はいかがでしょうか。それ自体は,○○幹事は別に反対はされないだろうと思いますけれども。

● 今の整理に賛成です。
  その上で,もう時間がないので相殺のこととも絡めて申し上げたいんですが,よろしいでしょうか。

  結論的には,相殺の問題についても,今の「別に考える」という中で取り上げていただければいいのではないかと思います。


今回のこの相殺の取り扱いについて,今の議論をお聞きしながら感じた問題が3点ほどあるんですが,1つは,相当の理由があったときにはというような主観的要件を課しているけれども,しかし,その中身は善意(無過失)であるとおっしゃっていた。

そうすると,何か正当な理由の方が自然な感じがするのに,なぜあえて「相当」という言葉を使っているのか。

  2番目に,2の①では(イ)と(ロ)という2つの類型を挙げているのだけれども,2の②では1つの類型しか挙げていなくて,逆に言うと,1つが落ちていることになる。これはなぜなんだろうか。


  3番目に,これは冒頭に○○幹事がおっしゃったことですが,基準時が債権発生時か相殺時かについて,これは債権発生時であるとおっしゃって,そうなると思うんですが,であれば,この時期を明確にした方がいいのではないかと思います。


そうしますと,時期を明確にすると,これは債権発生時における信頼の保護ということですから,それを債権の準占有者に対する弁済から持ってくるのはやや迂遠な感じがいたします。


つまり,債権の準占有者に対する弁済から,預担貸しを通じてここに至るわけですが,その債権の準占有者と預担貸しの関係について周知の議論がありますし,さらに,預担貸しとここでの状況が同じかどうかについても問題があると思います。

  今,出てきた議論との関係では,取引の効果帰属がどちらにあるのかということと,むしろ関連してくるわけでして,取引の効果は帰属しないけれども,なお相殺を認めるという,何か隙間みたいに埋めている感じがするんですが,実はそれは,さっき○○委員がおまとめになりました「別個考えてみる」という中で論じられるべき一側面ではないかと思います。

● 既に違うところで議論されているのかもしれませんが,まず基本的なことを1つ教えていただきたいと思います。


  「受託者として」ということを明示しなくても,内心の主観的意図だけでよいという議論がすべての出発点でして,現行法もそういう解釈なのかもしれませんけれども,通常,信託銀行が取引するときでも--貸付信託の場合しないかもしれませんけれども,それ以外の場合ですね。


流動化でも民事信託でも,「受託者として」ということを明示しないことが,それでいいんだ,それ自体が受託者としての義務違反にもなっていないところが,それがあったとしてもという議論で根本的な解決にはなりませんけれども,少なくともそういうことを明示する義務があるということになれば,取引の相手方の保護としても「では,あなたの権限は何ですか」というところで次のステップに入れると思うんですけれども,それ自体もう根本的に必要ないんだというところから始まると,心の中で何を考えていたんだろうかとか,相手方も何を考えていたんだろうかというところで何かわからなくなるというところを疑問に思っていまして,法律論ではなくて常識的な議論になってしまいますが,その辺をどうとらえるのかということ。


  あと,ちょっと違いますけれども,ちょっと前の議論で,動産云々というのは信託の公示の議論であって,他人物売買をしたみたいなところだけれどもというような解決なのかなと。


要するに,信託自体,準法主体説ではないという前提でのすべての出発だと思うんですけれども,何かもうちょっとわかりやすい割り切り方で議論していかないと,この議論は発展していきがたいのではないか。

準法主体的な,でも自分でやる以上は受託者としてという顕名をして,そして効果意思はこっちに帰属する,しないときには自分としてやったんだというふうに認識するとかですね。

そして,こっちで執行するときには対抗関係としてとらえるとかいうふうに割り切っていかないと,議論としてもついていきがたいところもあるし,権限の議論についても,取引の相手の立場だったりするとなかなかついていきがたいところがあるといいますか。


  ちょっとまとまっていませんけれども,何かもうちょっと割り切った整理が出発点としてあった方が,いろいろな問題点が解決しやすいのではないかと思った次第です。

● 前半の部分は,受託者としてという意思を表示しなくても,現在,取引もされているし,その場合にどう考えるかという問題として,私,さっきは○○幹事がさっき議論されていたことに少し賛同したので少し矛盾しているかもしれませんが,そこは完全に代理と同じではないところが多々あるんだろうという気がするんですね。


受託者がとにかく取引をしているわけですけれども,それは受託者として行為をしていれば,もちろん信託財産に効果は帰属するけれども,それを明確にしていないといいますか,そうではない地位で取引をしていたときに--ごめんなさい,そうではないというのはちょっと変だな。
  

代理だと代理人が本人に効果を帰属させるけれども,権限がない場合があって,代理人にも効果が帰属しない,本人にも効果が帰属しない,そういう場合が生じるんですけれども,信託の場合,それを認めていいのかどうか,ちょっと疑問がなくはないんですね。


信託の場合には,信託財産に効果が帰属するか受託者個人に帰属するか,どちらかと考えるべきではないかということも私は前提として考えているんですけれども,いずれにせよ,その部分についてどういう共通の理解をするかが余り明確ではないことが問題だということですね。

● そういう,顕名しないときには,いずれも可能なんだということが議論の出発点になれば,それはそれで。


● その出発点も含めて,帰属の問題については,最後は権限違反の問題にもかかわってきますけれども,ここで言う権限違反の問題とは別に考えてみたらどうかというのが先ほどの御提案なわけです。

  今,○○委員が指摘されたようなことも含めて,出発点から少し考え直したいということですね。

● 私は相殺について,先ほど○○委員がおっしゃったことと若干関係して意見を述べたいと思います。

  前半の○○幹事の意見に反するようなことを申し上げることになると思いますが,要は,相殺する場合の相手方の保護を重視すべきではないのかということなんですが,そこで,いえば善意無過失の挙証責任というのが,この御説明であれば,例えば①のロでは債務者にあると整理されていると思います。


理屈的な話は別として,実務的な話としては,例えば受託者がいまして,銀行取引をしている。


銀行は受託者からお金を預金として受け入れて,金を貸しているといった状況で,仮にその預金が信託財産から来た場合はどうなのかという話なわけですけれども,仮にそれが後で相殺できないとなると,これは銀行にとっては非常に問題だと。

  先ほど○○幹事の御説明の中で,相殺がなぜ特別に2として切り出されるかというと,やはり相殺というのは金銭の取引に関する引当財産になるということで,非常に保護されるべきだという価値判断があったと認識しているわけですけれども,やはり相殺の期待は実務的に非常に大きいですし,逆に,もしそれができないということであれば,繰り返しになりますけれども,例えば銀行としては,お金を受け入れるときに「あなたは一体だれの立場としてやっているんですか」と聞かなければならない,そういう煩雑さが実務的な問題として出てくるのではないかということでございます。


  ○○幹事は,民事信託について考えると非常に酷ではないかといったことをお話しされましたけれども,第三者と受益者との引っ張り合いのときに,どちらを保護するのかという価値判断だと思うんですけれども,その価値判断レベルの話としても,やはり第三者を保護するべき方に傾くのではないかということです。


  理由は2点ございまして,1つは,先ほど○○委員がおっしゃられたことですけれども,法律的にどうなのかは別として,べき論としては,受託者が「この資産はだれのものである」と明確にすべきではないのか。


それをしないのは,やはりその責任を第三者に押しつけるわけではなくて,受託者に受託者を通じて受益者ということになりますけれども--に負ってもらうのが妥当ではないのかということです。
 


 2つ目は,それにつながるんですけれども,第三者と,それから,かかる受託者が適正に開示をしなかったことに連なる受益者と,どちらを保護するかというと,やはり直接受益者と受託者との関係が,委託者と違って信頼される関係にはございませんけれども,ただ,グルーピングとしては,やはり受託者,委託者,受益者と,それから第三者というふうに分かれるわけですから,どちらを保護するかと考えれば,やはり第三者の方に傾くのではないか。


そう考えますと,やはり挙証責任ということも基本的には受益者が負うべきではないのか。それは,①の(ロ)についても同じことではないかと思います。


● 第三者の保護に関しては,第34の①の場面で問題となっているようなところで,第三者保護をどういうふうにするかという問題があるわけですが,先ほどの御提案は,その問題と相殺の問題とは一応切り離して議論したらどうかということなんです。

  相殺の問題というのは,先ほどの私の整理で言えば,当該行為--受託者が相手方と行った行為が一体どこに帰属する行為なのか余りはっきりしていないときに,相手方をどうやって保護するか。


相殺の例が典型ですよね。相手方が信託銀行というか,銀行本体に預金をしているときに,信託銀行から貸し付けを受けた。


それが信託財産から貸し付けられているのか,つまり受託者として貸し付けているのか,固有財産として貸し付けているのか,それがよくわからない。そういうときの相手方からの相殺を保護しよう,そういう御趣旨ですよね。

  これは先ほどの整理で言えば,どこにその行為の効果が帰属しているかについての相手方の誤解あるいは信頼を保護するという問題で,これと典型的な権限違反の問題とは一応切り離して整理して,もう一回御提案したらどうかということです。


● ○○委員がおまとめになったような形で検討することが適切であると考えるのですが,その検討の際に御留意いただきたい点を1つだけ申し上げさせてください。


  具体的には,相殺についての取扱いの,例えば①の(ロ)ですけれども,「信託事務により生じたものであると信じるに足りる相当の理由がある場合」という話と,権限違反か,権限外かどうかといったことに関連して,このあたり,一体どういう概念を持っているのか整理する必要があると思います。

  もともとこれは効果帰属の問題としてとらえられていると思うのですが,例えば(ロ)の局面というのは,信託財産に属する債権を第三者が,実は固有財産に属するものであるにもかかわらず,信託事務により生じたものであると信じるということで,第三者の主観からすれば,どちらも信託債権・債務ということで相殺するような局面だと思うのですが,そういったものについて,権限外かどうかということとは別概念であり,ここでそれを区分けした場合に,既に議論がされていますけれども,別途権限外かどうかというのが立つのだとすると,なお権限外であるということがあり得ると思います。

  信託事務として借り入れるんだろうと思っていたけれども,でも,そういう権限がないことはわかっているといった場合があり得るわけですが,そういったときの取消しがさらにできるのか。

  これまでのお話ですと,1の場合は効果帰属の面で,少なくとも受託者が信託財産の方の効果帰属であると決定している場合を前提にしているということですが,2の想定されている場面というのは,そこが,そもそも受託者はそうではないとされているときですので,取消しとの関係を整理していくときに,取消しができるのか。

できないとすると,一方で非常に問題ではないかと考えるのですが,できるとしたときに,その効果がどうなるのかということで,これも既に議論になっているかとは思いますが,こういった場合も,およそ絶対的に効果がないということでいいのかどうか。
  この点も一つの具体的な問題として御検討いただければと思います。


● 御指摘のとおり,1の問題と2の問題と,ちょっと性質が違うものをとりあえず取りまとめて提案しているところでございますが,今後,分けて検討の対象としたいと思っております。
 


 ただ,○○委員がおっしゃった基本的な構造というのは,我々の認識としては,やはり受託者が信託財産の所有者であって,受託者がした行為の効果は,もちろん受託者には帰属するわけですけれども,現行の信託法第16条で,特に「信託事務ノ処理ニ付生シタル権利ニ基ク場合 」については信託財産にもいけるというところを前提に議論してきておりまして,特に「これはおかしい」ということがあれば別として,なかなか基本的な構造ということは,こういう前提でいろいろ組み立ててきていることを御理解いただければと思います。

● それは十分理解しています。
  その場合に,権限の議論といいますと,ある受託者が持っている財産というのは,信託の公示は別として,通常取引するときには,その方が一切権限を持っていると逆に認識--だから権限の議論になるのですけれども,そういうところが出発点になり得るのか。


だから,権限はかなり広くとらえるところから,逆に制限的に議論していかないと,権限を持っていて自分名義なんだけれども,実はこれは信託財産でしたというところで,善管注意義務とか,別に開示されて公開されていないところの信託契約の中の規制とかが出てくる,そこの整合性がちょっとと思った次第です。

● 大分御議論いただきましたけれども,ある程度整理の仕方については,その中身はまた別として,大体御了解いただいたと思います。この点はなお検討させていただきたいと思います。
  それでは,次にいきましょう。

● では,最後に受託者の有限責任に関する問題について御審議をいただきたいと思います。


  一番最初の資料,第27と第28でございます。


  第27は,現行法第19条に相当する規定の見直しでして,提案内容は,前回から変更はございません。

現行法第19条の趣旨につきましては,受益債権の場合については,信託財産に対してのみ執行できるということ。


換言しますと,信託財産のみが責任財産となることを規定したものであると解されておりますところ,その趣旨を明らかにすべく規定ぶりを改めた,物的有限責任であることを明示したということでございます。


  続きまして,第28は,受託者の有限責任性を原則とする信託に関する提案でございます。
 


 まず,提案1でございます。これは前回は提案2としていたのを1にしたわけでございますけれども,信託取引上の債権に基づく履行責任に限らず,例えば民法第717条の所有者責任など法定の原因による無過失責任も含めて,責任財産が信託財産に限定されることとなる新たな信託の類型の創設を,このような物的有限責任を認めるにふさわしいと思われる債権者保護手続・措置を設けることとあわせて提案するものでございます。
  


第5回会議におきましては,このような新たな類型の信託を創設することの当否について審議をいただきましたが,財産の独立性を確保した上で,柔軟な制度設計のもとに所有と経営の分離を図ることが可能となりまして,資料3ページの冒頭に記載いたしましたとおり,種々のビジネスを初めとする目的でのニーズに応えることができるのではないかとの観点から,総論として賛成との意見が多数を占めたものと認識しております。


  そこで,今回の提案におきましては,受託者が有限責任となる新たな類型の信託を設けることを前提に,債権者保護の措置としてはいかなる規律を設けることが適当かを問うものでございます。
  


すなわち,提案におきましては,1の(2)※1のア,イ,ウとありますとおり,大別して3点。1つは信託財産の確保,もう一つ,イは受託者の第三者に対する責任,ウとして予見可能性の確保のための措置を設けてはどうかとしております。

  このうち,アの信託財産の確保のための措置としましては,商法の配当規制に関する規定などを参考に,いわゆる財産分配規制と,違法な財産分配がなされた場合の受託者及び受益者の責任についての規律を設けることを提案しております。

  この分配規制をかけるに当たって基準となる額につきましては,とりあえず,アの①のとおり「一定の金額」とのみしてありますが,この金額としていかなるものを要求すべきかについては,さまざまな考え方があり得るところですので,御意見を伺えればと思っております。
  


また,予見可能性確保の措置といたしましては,ウでございますが,受託者と取引をする場合には,この新たな信託類型の信託の受託者であることを明示することによって,取引相手方に責任財産が信託財産に限られることを了知させることとしております。

このほか,投資事業有限責任組合に関する立法例などに倣いまして,当該信託が新たな受託者有限責任類型に属する信託であることについての予見可能性を作出する手段といたしまして,登記等の公示制度を設けることの当否について御意見を伺えればと思っております。

  なお,事務局といたしましては,有限責任類型の信託における債権者保護措置としましては,この提案に書いてありますア,イ,ウをもっておおむね足りるのではないかと思っておりますが,なおほかにも検討すべき措置があれば,ぜひとも御指摘をいただければと思っております。


  次のページ,2でございますが,これは受託者の無限責任を原則とする既存の原則形態の信託におきまして,受託者が信託取引をするに当たり一定の事項を明示することによって,取引上の債権については信託財産のみを有限責任とすることとする規律を導入することに関するものでございます。


  第5回会議におきましては,資料5ページの最後に書いておきましたが,基本的にかかる規律を導入するとの方向で御提案しましたところ,部会での議論によりますと,賛否両論が相半ばしたものと認識しております。

そこで,今回提案1のように,種々の債権者保護措置のもとに,原則として,債権の種類を問わず信託財産のみの物的有限責任とする信託の類型を新たに創設することを前提とした上で,さらに提案2に係るような規律を導入することとすべきか,仮に導入することとした場合には,いかなる債権者保護措置を設けることとすべきかについて,御審議いただければと思います。
  以上でございます。

● それでは,御議論いただきたいと思います。


● 新たな信託の類型と既存の類型,2点意見を申し上げたいと思います。
  まず,1点目の新たな信託の類型でございますが,これにつきましては,第5回の会議でも申し上げましたが,有限責任性を原則とすることからしまして,ビジネスを行う上で柔軟に意思決定できるということも併せまして,非常に魅力を感じているということで,方向性としては賛成です。


ただ,これについては既存の制度とは別立ての形で創設していただきたいということでございます。


  あと,これも第5回の会議で,受託者の不法行為についての有限責任性について議論があったと思いますけれども,一般の不法行為につきましては,当然,受託者の故意,過失によって起こりますので,これについては受託者が責任を負わないといけないと考えておりますけれども,例えば工作物責任等の無過失責任につきましては,これは受託者が責任を負わないような形態にしていただきたい。


この点が,新たな類型の信託の特徴ではないかなと思っておりまして,これが2の既存の有限責任の信託との大きな相違点であろうと思いますので,ぜひともお願いしたい。

  あと,※1の債権者の保護策につきましては,先ほど申し上げたように,特別の類型である前提にいたしますと,基本的な方向性としては,この程度の保護策は必要なのではないかと考えております。


  ただ,①の「一定の金額」というのが,先ほど○○幹事から意見をということでしたけれども,よくわからないところでございまして,この一定の金額というのは,絶対額として法定されるような性格のものなのか,それとも,例えば純資産等の割合で幾らぐらいといった形で決められるようなものなのか,それとも,例えば指摘1に委ねられて信託契約に書くというようなことで決められるようなものなのか,その辺のところをお教えいただきたい。

  それによっては,例えばその額が非常に硬直的で過大なものであるとしますと,やはり実務上なかなかたえられないなという部分もございますので,場合によっては,ここは反対させていただくこともあるのではないかと思います。


  あと,登記等の公示の制度なんですけれども,これも先ほど述べたように,特別の取引関係にない人に対しても影響を与える制度であるとすると,やはり何らかの公示制度は必要ではないかと考えております。

ただ,当然その姿勢は理解いたしますけれども,簡便で低コストな形のものをお願いしたいと考えております。

  もう一つは,2番目が既存の類型の信託でございますが,この信託につきましては,信託の取引が特約のないデフォルトの状態では,そもそも無限責任であることを前提に,特定の信託の受託者である旨と,特定の信託に係る信託財産に責任が限定される旨,これを明示したときに有限責任の世界に入っていくということでございますので,これについては,アメリカにおきましては当然アズ・トラスティということだけで有限責任となるというところの平仄から考えても,あとは日本の今までの実務慣行等を考えた場合においても即した規律ではないかと思いまして,基本的には提案に賛成したいと思います。


  ただ,有限責任を明示することによって,一方的に有限責任にさせられるであるとか,債権者として交渉が不利になる懸念があるといった御意見もありましたので,そういうことであるとすれば,我々としては,明示すれば入ってくるといったことに特にはこだわりません。


基本的には合意でも,そこのところは構いません。私どもの方としては,既存の有限責任特約が締結されれば受託者の固有財産に対して強制執行等ができなくなる,これは現行の実務でございますけれども,これが踏襲されて明示的に認められるということが一番必要なわけでして,それに基づいて,お互いの合意によって柔軟に,自由に有限責任の制度を利用していくことができればいいなと考えております。


  その際に,契約に当然のことながらいろいろな縛りが入るということで,現行においてもいろいろな縛りが入っておりまして,債権者保護が図られていると思いますけれども,ただ,何もないというのもどうかと思いますので,前回,法務省からの提案がありましたように,受託者の第三者に対する責任というものぐらいは最低限入れておいて,これは結構柔軟な規定であると思いますので,そのほかの部分についてはお互いの合意によって契約で入れていくという形にすればいいのではないかと考えております。


● 私の方からは,後者の既存の信託の有限責任化についてコメントを申し上げます。


  以前,この件に関しまして2つの資料を配付させていただいたかと思います。

1つは,2月25日の会合で配付させていただいた「国際銀行協会による信託の法定有限責任制度の導入に関する意見」という資料,あと3月11日の会合で配付させていただいた「流動化・証券化協議会準備会合による信託法改正に関する要望事項」,こちらの紙なんですけれども,まず,国際銀行協会のペーパーの趣旨から説明いたしますけれども,こちらの立場は,既存の類型の信託に関しての,明示による有限責任化に関しては基本的に反対ということでございます。

理由としましては,このような提案により,債権者側が責任財産限定特約といったものに,これまで同意することがあったのに,債権者側の同意が不要で受託者側からの一方的な表示あるいは通知により有限責任化が可能になるということが,これまで築かれてきた取引の枠組みに悪影響を与えるのではないか。


あるいはまた,有限責任化に伴うリスクを十分理解していない債権者が,これまでどおり,受託者の固有財産も責任財産になっているんだといったことを前提として取引を行って,損失を被る可能性であるとか,あるいはリスクがあることを理解したとしても,それを把握することが容易ではないといった可能性があるのではないかと考えています。

  こういった制度を導入することによって,むしろ信託財産との取引を行おうとする者が減少して,結果的に,例えば年金等の運用においてヘッジコストが増加するといった可能性もあり得るのではないかと考えております。

  あと,海外での事例として英国の事例を紹介しているんですけれども,イギリスでは,従来,対受託者あるいは対信託財産での債権者が,有限責任になっているわけですけれども,これは債権者の権利の保護が十分ではないという議論が続いているという事例を紹介しております。


その中で,97年及び99年に出されたトラスト・ロー・コミュニティのレポートを紹介しております。

  引き続き,英国においてはこの件,すなわち有限責任であるがゆえに債権者の権利の保護が十分ではないではないかという点については,引き続き議論が行われている状況だそうです。

  次に,流動化・証券化協議会のペーパーの方ですが,こちらの9ページ,5のところに責任財産限定特約の有効性の明文化という要望事項があるんですが,こちらの趣旨は,流動化・証券化実務で行われているような,責任財産を信託財産に特定した貸出しというんでしょうか,受託者側から見れば借入れですね。

この合意が有効であることを明確化してほしいという趣旨でございまして,これが必ずしも信託法のどこをどう改正しろといった内容にはなっていませんで,必ずしも信託法の改正という形で対処すべき問題ではなくて,むしろ解釈の定着ですとか,あるいは場合によっては倒産法とか,そういった分野の問題であるかもしれません。

  現行実務において,責任財産を信託財産に限定するという合意のもとに,ローンという形で,アセット・バックト・ローンと呼ばれる場合が多いと思うんですけれども,行われているわけですけれども,流動化・証券化実務の観点からは,それが有効であることが確認できればそれでいいのかなと考えております。
  

また,責任財産限定特約を置きつつも,これが合意によって特約という形になっていますので,受託者の責任が限定されないような場合を当事者の合意によって,個々の契約において特定しているところでございまして,一律に,信託法において受託者が固有財産でといいますか,個人責任を負担する場合を規定してしまうのは,むしろ弊害があるのではないかという気もしております。

  したがって,合意により受託者の責任の範囲を確定するといったことが,実務の観点からも望ましいんではないかと考えております。

  したがって,第28の後半の提案,通常形態の信託に関しましては,一義的には廃案にすることを希望いたしますし,あえて入れるのであれば,「明示して」ではなくて「合意して」という形で御検討いただきたいと考えております。

● 私は,原案に対して方向性としては歓迎する立場で,前回も同じようなことを申し上げたんですけれども,ただ,その個別論として,問題提起を差し上げるという意味でお話ししたいと思います。

  まず,第1の類型でございますけれども,前回もどういう必要性があるのかという点について問題提起して,それについて一部御回答がありましたが,ただ,いま一度内部で検討したところ,本当にビジネスニーズがあるのかというと,それほどあるのかなという感じでございました。そのことについて,まずは御報告したいと思います。

  いずれにしても,選択肢を増やすという意味では,こういう類型を1つ置くことは有意義だと個人的に思っておりますけれども,仮にそうした場合に,では,どういう要件にするのかというところで,ここで議論が出てきますように,債権者保護制度をどうすればいいのかという話が議論されるところでございますけれども,この点について意見を述べさせていただきますと,まず,ア,イ,ウの話なんですが,アについても,やはり一定の財産分与規制が必要ではないかと思っております。


ただ,具体的にどういうものが必要なのか,規模等いろいろございますので,そこがなかなか悩ましいところかなと。

新会社法には300万円という基準があるようでございますけれども,そのような金額も,一定の意味はあるかもしれませんけれども,一定硬直的なのかなとも思っておりまして,まだ悩んでいるところでございます。

  イについては,必要かなと思っております。

  ウについてでございますが,やはり一定の公示制度は必要であるかと思っております。


具体的にどういうものが必要なのか考えますと,LLP--今,上程中でございますけれども--との平仄を考えますと,やはり登記というのがあればいいのかなと思っています。


  ただ,先ほど○○委員の御発言もあったように,やはりこれは簡便で安価なものが望ましいと思っています。

  このほかにどういうものが必要なのかということですが,これは前回の議論でも出てきましたけれども,やはり開示だと思っております。


計算書類というのが会社法のことと並べてもいいのかもしれませんけれども,一定の書類の債権者に対する開示があるといいのではないかと思っております。


  ただ,そのときに,前にも若干述べたことがありますけれども,会計基準が信託においては余り明確でないと認識しておりますけれども,もし開示をするということであれば,どういう会計基準が妥当なのかも併せて議論する必要があるのかなと思っております。
 
 1については,以上のとおりでございます。


  既存の類型でございますけれども,これも私の方から,特に「明示して」というところで御議論を差し上げたところでございます。


  業界内で議論したところ,いろいろな意見がございまして,原案に賛成という意見もございましたし,やはり「明示して」というところは問題があるかなという意見もございます。

その中で,前回の意見を繰り返し言いますと,「明示して」ということの問題点は2つありまして,1つは少なくとも事実上,曖昧になってしまうということ。


2つ目には,交渉機会を事実上,失ってしまう。


あるいは後出しじゃんけん的なところで,契約直前に言われても困ってしまうということもございますので,やはり何らかの明確性,証言を要求するとか,そういうことが必要である等を申し上げたところでございます。


  その意見に敷衍して考えますと,先ほど○○委員から合意ということが出てきましたけれども,それも私,個人的にはいいのかなと思っています。


アメリカの例をお引きになったわけでございますけれども,アメリカのユニフォーム・トラスト・コードですか,コントラクトの中でアズ・トラスティと書いたときにはということでございますので,そういうものも1つ参考になるのではないかと思っております。


  あと,それで足りるのか,2の(2)のところでほかにどういう債権者保護が必要なのかということでございますけれども,これは,やはりどういう交渉機会があるのかというところによるのかなと思っています。
 

 例えば,合意ということで,十分に交渉機会があるのであれば,やはり開示とかそういうところも決めていくことができる。

そうでないのであれば,やはり一定の,強行法規的なものも含むかもしれませんけれども,債権者保護の規定が必要になってくる。


とすると,結局は1と非常に近くなってくるのかもしれない。とすると,よくよく考えると本当に必要なのかしらということもあるのかなとも思っております。

  そこで,まだ私自身,結論はないんですけれども,やはり1と2の平仄と,それからどういうときに使うニーズがあるのか,それから交渉機会のことを総合的に勘案して決定すべきことだと思っております。

● 結論として,1も2も提案どおり,債権者保護については別途述べますけれども,必要だと思います。


  その理由をお知らせしますと,まず,有限責任信託,1の方ですけれども,やはり80年に1度の信託法改正という視点からしますと,また,これまでの議事録等を見ましても,事業型の信託ということも考えていらっしゃいますし,あと,証券化の分野でいけばWBS--事業の証券化が似ていますけれども,また,先ほどどなたかおっしゃっていましたけれども,土地信託においても工作物責任のようなことがあり得るというような,商事信託の分野においても当然必要な領域だと思いますし,私は弁護士からの委員ということで,民事信託の分野においても,善意の受託者がたまたま預かっていた不動産において何らかの責任を負うという状況は,逆に信託が使われなくなるような状況になるのではないか。


もちろん選択肢の1つですから,これを使わないことも自由なわけですから,ですから,今後のことも考えて,特に必要だと思います。


  弁護士会の議論でよく例として挙げられるのが,阪神・淡路大震災の際に,破産管財人が管理していたビルといいますか,処分対象だったビルが倒壊しそうになったということで,倒壊の撤去費用をだれが負担するんだということがあった。


ですから,決してあり得ない話ではなくて,建物等を受託者として扱った場合,崖が崩れた等の多少の過失がある工作物責任とは違って,地震とかいろいろな状況において,こういう信託制度がないと,そういうものを受託者として預かることは民事信託において極めて難しいという議論になってしまいますから,制度としては必要ではないかと思います。

  あと,先ほど○○委員がおっしゃいましたけれども,信託会計を前提としての信託財産確保のための措置というのが全体的な流れ,ある意味では会社法的な発想だと思うんですけれども,その辺を新たに制度化するということであれば不可能ではないかもしれませんけれども,信託会計というのは実質慣行会計かもしれないし,もちろん信託契約の合意でも自由に設定できるし,それは信託の収益を計算するための基準であって,もともと配当をするための原資とか,ちょっと趣旨も違ってきますから,恐らく信託財産を確保するための措置というのは,受託者に対する何らかの規制とか措置みたいなことを考えると--その具体的な案は何もないんですけれども,ここで余りがんじがらめに信託財産の確保の措置ということを使ってしまいますと,例えば300万円という議論は,非常に高額な物件であれば300万円でも足りないかもしれませんし,小さな民事信託を管理するときに300万円ということになると,受益者は全然配当が受けられないことになるかもしれませんし,また,商事信託的なものを考えると,将来的に資産が出ても,その時点における財産がなければ受益者に配当もできないことにもなってしまいますから,ですから,ここは信託の柔軟性をぜひとも確保していただきたい,かように思います。


  あと,先ほど議論になっている後者の方,契約における責任財産限定特約の有効性なんですけれども,やはり現状,流動化等においてこれは頻繁に使われておりますけれども,ごく数年前まで,その有効性については疑義があるとも言われていましたし,これは法律上,ぜひ確認していただきたいと思います。
 

 それが明示なのか,契約なのかという議論がございますけれども,少なくとも取引に入る--IBAの意見書は内容としては非常に読みごたえのあるものではありますけれども,基本的な疑問として,取引に入る自由を持っているわけでして,そこは気の毒な消費者等を対象とした議論ではありませんから,取引に入る自由の中で,また,受託者との間で自由に契約ができる,また信託財産についての開示を求めるとか,受託者の責任,受託者に対するコメラナンズとか,場合によっては受託者の信託財産を担保にとるとかですね。


ですから,取引に入ろうとしている第三者の議論なもので,なおかつかなりアームズレングスの取引ができる当事者の議論なものですから,細かいところの議論は,なかなか説得力があるところもあるんですけれども,だからこの制度が要らないというのは,やはり信託制度の中で責任財産限定特約を明確にするという趣旨においては,やはり必要ではないかと思います。


  また,そもそも論として,先ほど来のテーマのときにも確認させていただきましたけれども,受託者として,別に事業行為者として入るわけではなくて受託者として入るところで,受託者の併存的な,連帯債務的な責任が生じてしまうのかもしれません。理屈上。
  

ただ,実質的に考えると,やはり信託の債務であって,本来,受託者が固有財産--民事信託的には先祖代々の固有財産等で負担しなければならないものではないはずであって,要するに,受託者となることによって本来,信託だけが負うべき債務を受託者の固有財産まで,包括根保証の議論ではありませんけれども常時負担していかなければいけない制度--これはもう,制度の立てつけとしてしようがないのは理解しますけれども,それに対しての出口を法的に明確にする必要は,やはりあるのではないかと思います。

  ただ,他方において,債権者保護のための方策がその場合には必要であるという議論が強く出てしまいますと,何もない現状の方がかえっていいのではないかという議論にもなると思いますので,この辺はぜひとも,特に契約でステップを決めるということですから,柔軟に,特に民法では,債権者保護のための方策というのは受託者に対する何らかの義務といいますか,受託者としての責任ということで対応すればよくて,会社法的な発想を少し取り入れての,受益権に対して収益の分配をしてはいけないとか,そういう最低資産,純資産のような発想でしたら,くれぐれも入らない方が信託の柔軟性は確保できるのではないか,かように思います。

● 私は,債権流動化の関係から述べさせていただきます。
  

今の○○委員のお話とほとんど重なると思うんですけれども,現状,債権の流動化の実務の中では,契約の中で,受託者の有限責任についての条項を設けて対応しているのが実情でございます。


ただ,これについて特に問題が起きているということではなくて,かなり安定的にやれているのかなとは思いますけれども,先ほど○○委員がおっしゃいましたように,若干疑義があるという意見もございまして,今回,このような形で明確に受託者の有限責任を規定していただけるということであれば,さらに債権流動化の安定に資するのかなと歓迎しております。

  ただ,実際に,現状,契約の中で安定的に取り扱われているという状況の中で,例えば新たな類型の信託の中では※1のアからウまでの債権者保護手続が検討の俎上に乗っているわけでして,例えば最初に書いてありますような,受託者に一定の金額を超えての支払いをさせないといった規定が考えられているようですけれども,これについては,債権の流動化の中では,例えば信用補完,流動性補完のためのさまざまな措置が講じられておりまして,それはスキームに応じた形でつくられておりますので,これを法律の中でかなり固定的にされるようなことであれば,やはり先ほどお話ありましたように,信託の柔軟性が損なわれることにもつながりますし,スキーム自体うまくいかないこともあり得ると思われます。

  したがいまして,ここについてまだ具体的な検討をきちんとやっているわけではないので,今日詳細にコメントはできないんですけれども,このあたりの債権者保護のあり方については,そういった点を考えていただいて,慎重な御検討をお願いしたいと思います。

● 1番の新たな類型の信託につきましては,ぜひこれを導入していただきたいと思います。
 


 今回の信託法の改正の中で,事業についても信託することを認めようかという方向で,今,検討されていますけれども,それが一歩進んだ形でできる,やりやすくなるという意味では,やはり受託者が有限責任になるということが非常に重要なことで,それによって事業信託,いろいろなケースが考えられると思いますけれども,いろいろな形での信託を使って新しい事業に入ってくるということが,よりやりやすくなるのではないかと思います。

  当然,有限責任ということになりますと,債権者保護手続みたいなものを考えなければいけませんけれども,それはこちらで,今回提案がなされていますア,イ,ウということであれば,債権者保護手続が十分図られているということになって,受託者有限責任にしても弊害はないのではないかと思います。

● 恐らく補足の御意見もあると思いますけれども,今,賛成の御意見が多かったので,ちょっと。


  私,必ずしも反対というわけではありませんけれども,少し違った観点から個人的な御意見を申し上げたいんですが,私は,この有限責任の信託というのはもちろんあって構わないと思っているんですが,しかし,この信託法の中にうまく入るのかどうかは気になっています。

  ビジネストラストということを典型的に考えると,ちょっと違うタイプの信託で,信託の1類型とはちょっと違うのではないかとも思っているんですが,ただ,信託法の中に入れることもできなくはないと思います。

その際の考え方としては,この信託は,先ほど○○委員も言われたように,個人も使える,民事の信託としても使えると考えれば,これは信託一般法の中に入っても構わないと思いますけれども,もしこれが法人にしか使えないんだということになると,果たして信託一般法の中でそういうのがいいのかどうか,ちょっと気になっております。そういうことで,これを入れるんであれば個人も使えるということ。
 

 それから,公示制度というのはあった方がいいと思いますけれども,その公示のところで法人に限定するということになると,また困りますので,そういう意味では公示のところも注意する。

  いろいろな利用があると思いますけれども,将来,公益信託などについても個人が受託するという場合があり得て,公益信託ですからなおさら,フィーを当てにして信託をやるわけではないので,信託財産だけで処理する,責任はそこに限定するということも意味があると思いますので,そんな点を考えたらいいのではないかということです。


  もう一点は,受託者の不法行為責任,基本的には受託者が,工作物責任は別として,第709条の責任,それから使用者責任も入るんだろうという気がしますけれども,そういうところは受託者が不法行為責任を負う。

同時に,この有限責任信託の場合には信託財産が責任を負うことになるんだと思いますが,この信託財産も責任を負うというところは--そうではないのかな。


いいんですね--これは一般の信託の方で議論があって,まだ決着がついていないと思いますけれども,受託者の不法行為があったときに信託財産にかかっていけるのかということについては,○○委員が反対されていると思いますし,何人かほかの方も反対されていると思います。

  そのこととの関係で,つまり一般の信託と有限責任信託との間の今の理論的な違いというか,そろえてしまえばいいんですけれども,あるいはそろえないときにはどう違うのかとか,なぜ違うのか,そこら辺の整理をする必要があるのかなという感じがいたしました。
  個人的な意見を表面に出して,申しわけございません。


● 2番の,既存の類型の信託の有限責任化について補足させていただきます。
  


○○委員がおっしゃったように,責任財産限定特約の有効性の明確化という点では大賛成です。

ただ,私がこれに関して問題だと考えていますのは,受託者が明示して取引をした場合に有限責任になるというところが問題だと考えておりまして,これが合意あるいは契約であれば何の問題もない。

責任財産限定特約,これは実際に行われていますけれども,合意によって成立しているからこそ,アームズレングスといいますか,責任財産を信託財産に限定する見返りに,例えば信託財産に関する情報を債権者側に提供せよといった条件交渉ができるわけで,それを合意の内容に盛り込むことができる。


結果的に,自然に債権者保護的な枠組みが個別の取引においてつくられていくわけですけれども,受託者側の一方的な明示によって一律有限責任化ということになれば,○○委員がおっしゃったようにそういった交渉の機会を奪うことにもなりますし,もちろん債権者としては取引に入らないという選択肢がありますので,こういったことでリスクがあるということで,取引を萎縮させてしまうような効果すらあるのではないかという気がいたします。


  したがいまして,私,既存の類型の信託の有限責任化,現状の提案については廃案にするか,「明示して」の部分を「合意」と申し上げましたけれども,基本的には変わりないんですが,責任財産限定特約について,もし信託法の方で何らかの手当でより明確化できる--現状であれば,ただ単に私的自治の原則でそういう合意がなされているんだからいいんだろうということですけれども,それ以上のコンフォートが得られるようなことができるのであれば,それについても賛成したいとは思っております。

● ○○委員及び○○委員に関連することで,先ほど言い忘れたことをコメントいたします。
 


 そもそもこの法律を信託法の中に入れるのかということですけれども,業界内の議論では,ある意味,民法と,今,国会に出ています有限責任事業組合契約法ですか,LLP法のように,たとえ1の類型をつくるとしても,同じ信託法の中に法定して入れるべきなのか,それとも別にするのか,そういう議論があったことを御報告したいと思います。

  なんとなれば,従前から一方で我々は柔軟化,柔軟化と申し上げておりまして,今回こういう強行法規的なものが必要だと言っておりまして,やはり有限責任ということになった場合に,債権者保護ということが出てくるわけですので,そういう意味で,通常の信託と相容れないものがあるのではないか。


  また,実際の債権保護手続を考えますと,いろいろな細かいことも規定化しなければならないわけですので,そうすると,落ち着きというところなのかもしれませんけれども,主観的なものかもしれませんけれども,たとえつくるとしても別の法体系にした方がいいのではないかという意見もあったことを御報告したいと思います。

● やや水を差すようですけれども,むしろ意見のバランス的に申し上げたいと思います。

  私自身は,1の創設は非常に難しい問題ではないかと考えております。<説明>のところに,第5回会議においてこういった積極的な評価がされたと書かれておりますけれども,私自身はかなり消極的な,ネガティブな評価もあったと理解しております。

  理由は幾つかあるかと思いますが,1つは,やはり一般信託の制度との異質性ということが,どうしてもあるのではないか。


今,○○委員から,法律の形式として一般信託法とは別形式にならざるを得ないのではないかという御指摘がありましたけれども,法形式とは別に,理論的な体系化というか,その観点からしても,かなり違うものではないかと考えております。

  どういうことかと申しますと,信託の場合の責任財産のあり方ですけれども,私,個人的に理解するところでは,もともと信託というのは受託者のみが法人格を持つ主体として,受託者個人として行動し,その行動に基づく各種の結果,責任財産自体は受託者の固有の責任財産で全面的に負おうとするのはもちろん一般の場合と全く同じで,法人格を持った主体が自分の財産をもって責任財産とする。

ただ,信託になっている場合は,信託財産がいわば守られている形で,受託者の名義になっているにもかかわらずかかわっていけない。

もともと歴史的に申しますと,信託事務処理に関する債権であってもかかわってはいけない,受託者の有する求償権的な権利の代位構成によってしかいけない,いわば奥の院に守られているような,そういう構造であったのではないかと考えております。

  それがしかし,直接にかかわっていることを日本の信託法は認めているわけで,さらにそこに責任財産限定特約の形で,当事者が合意するなら信託財産に直接かかわっていけるということがあるのであれば,固有財産にはかかわっていけないことを合意ベースでやるならいいでしょうというところまで来ている状態で,これをさらに,およそ受託者の固有財産は責任財産とはならないという信託を一般法理としてつくり出すのは,もともとの信託制度からすると,もう劇的な転換。


そういう意味では非常に異質なのではないかと考えております。

  それが必要である,ニーズがあるときに,それにどう応えていくかということは別途あって,そういうニーズのためにこの信託という器を使えないかというのは十分理解できるところですけれども,そうだとすると,一般の信託法の中でごくごく一般的な制度としてこれをつくる,法形式はどうあれ,これをつくるということではなくて,そのニーズに応じた「こういうものであるから」という形でつくっていくことになるのではないか。

もし1のような創設を考えるとすると,そういった方向であるべきではないかと思います。

  LLPができているではないかということですけれども,LLPは,私自身は非常に例外的な制度であると考えております。

法人格に伴う責任財産というのは非常に重いものではないかと考えており,構成員課税を実現したい,ベンチャー育成のためにそういったことをしたいという要請があって,そこから,そういう範囲においてどういうものがつくれるかという検討ではなかったかと理解しておりますので,アメリカ法などを見ましても,現在の受託者の地位をどう考えるかというときに,それが信託財産の管理人に近い制度になっているという指摘はありますけれども,それは逆に言うと,もともとは信託財産の管理人にすぎないということではなくて,そうではないというのが本質にあるからではないかと理解しております。


  ですから,それをやるのであれば,一般的につくるのであれば,むしろもう法人とかそういう制度を利用するのが筋ではないかという考え方を持っております。


  そういう見地からいたしますと,非常に一般的な,限定のない対象ですとか目的の限定のないものとして1をつくるとすると,むしろ1との割り振りというのは,1がプリフィクストメニューで,2はカスタムメイドでといったことになるのではないか。

むしろ取引債権者にとって,有限責任信託ですという一言さえ言えば,もう有限責任になってしまうというようなタイプで,なぜならそれは債権者保護の措置が全部用意されているからということになるのに対して,2の類型は,これは合意ベースで好きなようにつくってくださって構わないと。

それで,2の問題が出てきたときの一番最初は,こういった責任財産限定特約の効力がそのまま認められるのかということに問題があったわけですから,そこの合意は合意ベースでやってくだされば大丈夫です,そのためのいろいろな保護措置は,それも自分たちで考えてくださって結構です,そういうようなタイプになるか,それとも,1は非常に限定された,特別な,異質の制度であるという位置づけでつくっていったときに,最低限何が必要かということで考えていくことになるのではないかと思います。

● ○○幹事のおっしゃったことをもう一度陳述します。それが第1点。
  第2点目は,これは非常に細かい話なんですが,債権者保護手続のイについて確認させていただきたいんですが,これは受託者が民法第709条の要件を満たしている行為を行った,つまり,民法第709条に基づいて受託者にその責任を追及していくことが妨げられる条文ではないんですよね。
● それはそのとおりです。


● ですよね。これは商法にも規定があるのであれですけれども,こう書きますと,何か責任が,普通の過失の場合には負わないような感じがしてしまうんですが,そうではないということを確認させていただければ,それで結構です。

● ここは両方併存するという理解です。


● 繰り返しみたいなんですけれども,前回,総論的に1について賛成だったというおまとめをいただいたんですが,必ずしも,信託法の中につくることについてはそうでもなかったのではないか。きょう御欠席の○○委員,あるいは○○委員などが,信託法の中に置くことについては非常に積極的な反対意見を述べておられたように思っております。
  それぞれ理由は違っていたかもしれませんが,さらに先ほど○○幹事が詳しく説明されたようなことも踏まえますと,現実のニーズにこたえる必要はもちろんあるとしても,それは別途できるのではないか,信託法の中に入れると,かえってそのニーズにも応えにくくなるのではないかという気もいたします。
  非常に細かいことをあと1つつけ加えますと,1の(2)のアの①で「一定の金額を超えて,受益者に対して受益債務の弁済をすることはできない」とあるんですが,受益債務の弁済をできないというのは一体どういう意味なのか,私はよく理解できないんです。債務があるのに弁済してはいけないのか,債務がそもそもないのか,債務がないんだったら,それは信託行為で決まっているのではないかと直感的に思いまして,恐らくこれは,財産運用規制の一般的なものをここに持ってきたから何かはっきりしないようになっているのかなという気もいたしまして,そういうことも踏まえますと,この制度については別途独自に考えていくのがいいのではないかという気がいたします。
● 1につきましては,(3)のところで補償請求権について規定されております。原則として請求できないことになっておりますけれども,逆に,信託行為に別段の定めがある場合にはできるという規律になっているのではないでしょうか。受益者の立場からしますと,受託者が有限責任である場合に,受益者の方に信託財産を超えて請求があるということはやはり納得がいかないのではないか。
  それと,これが認められる場合には,例えば信託債権者がいる場合に,信託財産に対してかかわっていった場合には,必ずしもその債務の全額を回収できない場合に,例えば受託者から立替払い等を受けて,それを費用償還できるといった形になるとすれば,実際上,そこで優先弁済を受けるという問題が出てしまうのではないか。こういった点も含めて,(3)の,別段の定めを許すかどうかについては慎重に御検討いただけないかというのが1点です。
  もう一点は,先ほどちょっと出ました工作物責任との関係で,この点については意見というよりも疑問なんですけれども,この有限責任信託や特約を定めた場合に,それによって工作物責任の責任が限定されるのかどうかについては,工作物責任との規定との関係で,どういった読み方をすればそうなるのか,あるいはならないのかについて,もし今日は時間がないということであればまた別の機会でも結構ですけれども,御教示いただければと思います。
● 今の工作物責任の責任限定というのは,1の話ですね。
● はい。
● 2の方は同意といいますか,不法行為責任はそうならないということだったと思います。
● ○○幹事,○○幹事,○○委員という著名な民法の先生が,そもそも信託の根本に反するとおっしゃっているところが,実務家としては「そうかな」と思うところがございまして,今回の議論の中でも,あたかも--準法主体説みたいな議論はしませんけれども,あたかも信託財産に対して受託者が請求権を持つとか,あたかも信託財産に対する債務を負うとか,そういう形で,決して完全な契約説的な発想では議論しては--従前からもそうですし,特に今回の信託法改正の議論においては,そういった前提でいろいろな議論を,本日の議論でもいろいろあったと思います。


  ですから「信託の根本は受託者の名義であって」というところが,そもそもこの80年に1度の大改正であったとしても変えられないというのは,民法の先生方はそうおっしゃるかもしれませんけれども,必ずしも説得はされなかった。
  それから,事業型の信託については別でいいでしょうと。確かにデラウェアのとか,ビジネス・トラスト・ローとかありますけれども,私も先ほど申し上げましたように,民事信託,公益信託において,あたかも包括根保証のように受託者が連帯債務を負うという今の信託法の立てつけをきっちりと制度的な手当てをし,信託の公示をし,それによって新しい類型をつくりましょうということに対しては,そこまでやったとしても民法の,また信託法の根本原則に反するんだというのは,○○幹事に一生懸命お話しいただいても必ずしも説得はされなかったということだけ残しておきたいと思います。

● 恐らく基本的な考え方のところで対立しているんだと思いますけれども,今のお話で申しますと,例えば受託者が連帯債務を負うというとらえ方自体が,信託の場合はそうではない,むしろそうではないところから出発し,そういうものとして制度がまず展開しているのではないか。
  それから,ここだけではなく,いろいろなところで法人との比較がされておりまして,組織法制の一環として信託がとらえられていますけれども,そういう考え方もあり得ると思います。それはしかし唯一の考え方ではないですし,そういう法人パラレルのとらえ方自体にも非常に問題があるのではないかと私自身は考えておりますので,この原案に対しては,そこの基本的な部分に対して疑問を呈しているということで御理解いただければと思います。
● 信託の一般議論との関係で言うと,四宮教授の「信託法」などで,まさに信託財産に実質的に法主体があるかのように扱って,ですから信託財産の債務だとか信託財産の権利だとか,そういうことで議論を進めているわけですけれども,いつごろからなんでしょうか,むしろ最近の信託法の研究者には,そういう考え方に否定的な考え方を主張される方が多くて,むしろ法主体は受託者自身にあって,信託財産というのは受託者が管理している財産にすぎない,そういう立場に--私からすると,そういう発展方向でいいのか少し疑問はあるんですけれども--そういう考え方,つまり受託者に法主体がある。○○幹事が言われたのもまさにそういうことで,確かに伝統的な信託の考え方なんですけれども,そういうものからすると非常に違和感を感じるということではないでしょうか。
  一般論は,もう余りここではいたしませんけれども。


● 信託というのはそもそも何なのかという議論になると,私,不勉強でわからないんですけれども,これだけ世の中が劇的に変わっている,経済環境等も短期間ですごく変わっている,こういう世の中のニーズに対して,やはり法制度も利用しやすい,利便性の高いものを準備していく必要があるし,そのニーズが現にあるのではないかと思います。
  ですので,信託とはそもそもこういうものだという議論も大切だとは思いますけれども,清水の舞台から飛び下りるというか,そういうようなところも持っていただいて,ではきちんとした,一方で債権者保護手続のような手当をしていけば,そういうものは乗り越えていけるのではないだろうか,ちゃんと利用価値の高いものを設計できるのではないかといった視点から考えていくことも必要なのではないかと思います。


● 制度が必要かというのと,それに「信託」という名前をつけなければならないかというのは別問題だと思うというのが第1点。
  第2点目は,○○幹事がおっしゃったことが極めて重要なところを突いているような気がして,もし仮にこういう制度をつくるとしたときに,工作物責任なども制約されるんだよというのが皆さんの前提になっていたんですが,ここの規律だけでは,実は工作物責任の制約は起こっていないのではないかと思うんです。もし仮に,私は「信託」という名前をつけることには反対ですが,もしつくって工作物責任も制約しようとするんだったら,何か別の条文がどこかに必要なのではないかと思います。


● ○○幹事が言われた別段の定めによって補償請求権が入っていいのかという点も,先ほどどなたも応対されませんでしたけれども,かなり問題がありそうな気がしますね。
● 私のこれまでの信託の理解ですと,受託者の有限責任を認めることは,有限責任組合に有限責任を認めるよりはよほど理論的に説明しやすいのではないかと思っていたのですが,逆に,組合であるにもかかわらず組合員に有限責任が認められる根拠を,ぜひ教えていただければと思います。

● 確かに,組合の場合も有限責任をというのは,なかなか説明しにくい気がいたしますね。


  先ほど○○幹事は多少信託の方に焦点を合わせて発言されたので,組合の場合に多少政策的な観点があり得るということだったのかもしれませんけれども,あくまで政策的な観点であって,理論的にああいうものがそう簡単にできるかというと,そこはやはりそんなに簡単ではないでしょうね。


  ただ,あそこは一応民法の組合と,切り離してはいないけれども,特別法で強引にやったという……。ちょっと言い過ぎですか。


● 私は門外漢なのでわからないんですが,多分,組合の場合には,やはり組合員がいて何らかの定めがあり,責任財産もありというようなところで,組合とはいえ一種法人に近いところ,組織に近いところがあるというのが,まず一つの前提になるのではないかという気もしたんですが,そうではないんでしょうか。

● それは,組合員という人がいるからということですか。財産があるということであれば,信託でも組合でも同じなんですけれども。


● 1点だけ事務局の原案の確認をさせていただきたいんですが,数字で財産分与規制を設けるといったことは,1の類型のものを認めるとそれは信託になるのか,別の類型にするのかはともかく必要だと思うんですが,前提として,例えば計算書類の精度とか,あるいは計算書類の適正さを確保するある種の精度ですね,株式会社ほどガチガチのではないと思いますけれども,この①は,そういったものを全部前提とした上での提案なのか。それによって,全然その後の想定の仕方が変わってきますので。

  ここで幾つか挙がっている,中間法人法も有限責任組合法も,いずれも計算書類の精度があって,なおかつ期間的なものを加えている,そんなものもパッケージの信託として一応法定されているのかどうか,確認させてください。

● 計算書類につきましては,そういうきちっとしたものを前提として考えておりますが,それ以外の機構的な責任担保の制度まで用意しているかというと,そこはまだ検討しているところでございます。

● いろいろ御意見は出たと思いますが,なおまだ新しい議論としておっしゃっていないことがあればお聞きしたいと思いますけれども。--よろしゅうございますか。


  この制度は,半数ぐらいの方は望ましいという御意見であり,そういう意味で,今後さらに検討していきたいと思います。2と1との関係とか,1の中の仕組み,2の仕組み,まだいろいろ検討することがあるかと思いますので,また次のラウンドで進めていきたいと思います。


  もしほかに御意見がなければ,きょうはこのぐらいにしたいと思いますが,よろしゅうございますか。
  では,これで終わります。
  どうもありがとうございました。

─了─


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第14回会議 議事録

第1 日 時  平成17年4月22日(金)  自 午後1時02分
                       至 午後5時02分

第2 場 所  法曹会館 高砂の間

第3 議 題
   受託者が複数の信託に関する規律について
   信託財産の管理人について
   受益者の利益の享受について
   受益者を指定又は変更する権利について
   信託管理人等について
   受益者名簿について
   受益権の放棄について

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● これから信託法部会を開催したいと思います。
  いつものように,幾つかに区切って事務局の方から説明をいたしますので,その点につきまして○○幹事からお願いします。


● まず最初に,皆様の席上に「信託法の改正を検討されるに当たり投資信託に与える影響からご留意頂きたい事項について」というペーパーが置いてあるかと思います。


これは本日付で社団法人投資信託協会から,この部会での検討に当たって,参考資料としていただきたいということで事務局にいただいたものですので,今後の議論にお役立ていただければと思います。


  それでは,本日の議論の順番でございますけれども,一番最初が受託者複数の問題,その次が信託財産管理人の問題,それから信託管理人の問題,それから受益者の利益の享受についてと受益者を指定,変更する権利,それから受益権の放棄の問題を3つまとめてやりまして,最後に受益者名簿ということで,よろしくお願いいたします。


  それでは最初の,受託者が複数の信託に関する規律について,御説明をいたします。


  今後,信託の利用が進みまして受託者が複数の信託も増加することが予想されることにかんがみまして,受託者が複数の信託について,信託財産の帰属形態,信託事務処理の方法,受託者の責任などに関する規律の整備を提案するものでございます。

  前回の提案からの主要な変更点を中心に,御説明申し上げます。
  まず,提案の3になります。受託者間の信託事務処理の委託の関係で3点ほど御説明いたします。
  

第1に,前回の提案では,共同受託者による信託事務の処理につきまして,原則として受託者の過半数で決定するものとした上で,不在,病気その他のやむを得ない事情があるために信託事務の処理に関与することが困難な受託者があるときには,受益者保護の観点から,信託事務の停滞を避けるために,その受託者を除いた共同受託者の過半数で意思決定できるということを提案しておりました。


  これに対しまして,第6回会議におきまして,この例外要件のもとでは,特に取引の相手方から見た場合に,いかなる場合に残りの受託者だけで意思決定できるのかが基準として不明確ではないかとの指摘がなされました。

このような指摘を踏まえまして,残りの受託者としても,この例外要件に該当し当該受託者を意思決定から除くことができるか否かの判断には確かに困難を伴うと思われますので,この例外要件をなくしますとともに,他方,受託者の一部に信託事務の決定に関与できない事情が生じた場合にも,信託事務処理が停滞しないようにする配慮はやはり必要であると思われますので,3の(1)のとおり,受託者は,やむを得ない事情がある場合には他の受託者に対して信託事務の決定を委託することができるとすることで,解決を図ることとしてはどうかと問うものでございます。

  もっとも,この場合におきましても,委託が可能となるやむを得ない事情がある場合に当たるか否かは,やはり不明確ではないかとの問題指摘はあり得ると思うのですが,そもそもある受託者を意思決定から除外してしまうこととなります前回の提案に比べれば,今回の解決方法は,委託を通じて少なくとも形式的には受託者全員による意思決定という形が維持されることに加えまして,委託の過程において,ある受託者にやむを得ない事情があることが明らかになることも考えられますので,取引の相手方の保護にはより資することになるのではないかと,事務局としては考えているところでございます。

  第2に,受託者間において信託事務の決定の委託が禁止されますのは,重要な信託事務に限ることとしました。


軽微な信託事務の決定についてまで委託できないとすることは,共同受託者による円滑な信託事務の処理に支障を来し,委託者の合理的な意思にも沿わないと考えられるからでございます。


  なお,何が重要な信託事務に当たるかにつきましては,当該事務の信託財産に与える影響や委託者の合理的な意思などを勘案して,事案ごとに決すること
になると思われます。


  第3に,信託事務の執行の局面につきましても,過半数の意思決定に基づく信託事務の執行につきましては,原則としては各受託者が執行権限を有しておりますものの,信託行為において,共同受託者を代表して執行権限を有する受託者が定められている場合もあり得ることをかんがみますと,そのような代表受託者に不都合が生じた場合にも,信託事務処理の円滑を図る必要があると思われます。


  そこで,このような場合を想定しまして,信託行為に定めのある場合はもちろん,このような定めがなくても,やむを得ない事情が生じた場合には,信託事務の執行についても他の受託者に委託することができるとの規律を設けることを提案いたしております。これが3の(2)でございます。


  次に,提案4の(2),共同受託者の第三者に対する責任の関係で,5点ほど説明をいたします。


  第1に,共同受託者の場合における,信託事務の執行によりまして各受託者の固有財産と信託財産が責任を負担する関係でございますけれども,まず,職務分掌の定めのない一般の共同受託の場合におきましては,ある受託者と他の受託者とは相互に執行上の代理権を授与しているものと見なしますので,まず第1といたしまして,ある受託者が共同名義で執行した場合につきましては,顕名を伴う有権代理といたしまして,全受託者の固有財産と信託財産のすべてに効果が及ぶと考えております。
  

これに対しまして,第2としまして,ある受託者が共同名義を出さずに単独名義で,自分だけの名前で執行した場合につきましては,顕名を伴わない無権代理となりまして,その受託者の固有財産のみに効果が及ぶようにして,ほかの受託者の固有財産はもちろん,信託財産にも効果は及ばないと考えているものでございます。

  すなわち,前回の提案では,この後者の一人だけの名義で執行した場合につきましても,他の受託者の固有財産には効果が及ばないが信託財産には効果が及ぶとしておりましたが,この見解を改めまして,信託財産にも他の受託者の固有財産にも効果が及ばないと考えるものでございます。
  

次に,職務分掌の定めのある共同受託の場合におきましては,分掌された職務の限度で独立に信託事務を決定し,執行できるわけでございますので,ある受託者が単独名義で執行した場合であっても,その受託者の固有財産のほか信託財産にも効果が及ぶと考えているものでございます。

  今,申し上げましたことを前提に,第2といたしまして,前回の提案におきましては,共同受託者の固有財産が負担する債務につきましては,原則として分割債務になるとの考え方を示しておりましたところ,民法においても分割責任の原則は慎重に認定すべきと考えられていること等に照らしましても,共同受託者の固有財産が負担する責任は連帯責任とする考え方もあり得るのではないかとの指摘がなされました。

  この指摘を踏まえて改めて検討いたしましたところ,共同受託の場合におきましては,各受託者が共通の信託目的のもとに共同して信託事務処理の決定を行い,他の受託者を代理するという形で,信託事務の執行も共同して行うものであることにかんがみますと,共同受託者は信託事務の処理によって,第三者に対し,固有財産で負担する債務について連帯責任を負うこととするのが相当と考えられます。

そこで,前回の提案を改めまして,現行信託法第25条後段の解釈と同様に,信託事務の処理により共同受託者が第三者に対して債務を負担したときは,共同受託者は固有財産をもって,連帯して弁済の責任を負うことと提案を変えたものでございます。

  第3といたしまして,信託事務処理による債権を有する信託債権者が,各受託者の固有財産及び信託財産に対して執行していくための方法についてでございます。


第6回会議におきまして,固有財産に執行するための債務名義と,信託財産に執行するための債務名義とは同一であるべきであって,信託財産に執行するためには受託者全員に対する債務名義を揃える必要があるとか,ある受託者に対する債務名義をもって信託財産に執行していった場合において,合有財産であることを理由に当該受託者あるいは他の受託者らが異議を主張できるとすれば適当ではないのではないかなどの見解が示されました。


  このような意見も踏まえまして,今回の提案におきましては,以下のように考えております。


  すなわち,信託債権者としましては,ある受託者に対する債務名義をとることによって,その受託者の固有財産はもちろん,共同受託者の合有に属する信託財産に対しても,その所有名義の如何を問わず執行できること,ただし,信託財産に対して執行できることとするための前提といたしまして,資料2ページの※4にございますとおり,共同受託者の1人に対する確定判決は,信託財産を責任財産とする限度で,他の共同受託者にも効力が及ぶ旨の規定を設けることとしてはどうかと問うものでございます。
 


 なお,このように確定判決の効果が拡張するとの規定を設けることの相当性に関する実質的な理由でございますが,これは資料7ページの注にも書いてございますが,受託者は,信託財産について固有の利益を持っていないから,信託財産を責任財産とする限度で他の受託者に確定判決の効果を及ぼしても個人的な損害が発生するとは言えないことであるとか,共同受託者間には相互に連絡関係があると考えられますので,ある受託者に対する訴訟提起,確定判決の効果を他の受託者に及ぼしても酷とは言えないと思われることなどによるものでございます。

  第4に,資料の6ページの末尾におきまして,一番最後のパラグラフでございますが,職務分掌の定めのある場合に関して「他方で,提案1により信託財産は共同受託者の合有となるとしているから,このような場合にも,信託財産を引当財産とする責任の限度では,他の受託者に対して効果を及ぼす必要があると考えられる。


(この点に関し,いかなる規律を設けることとするかについては,その要否を踏まえ,なお検討する。)。」とある点に関しまして,その趣旨を若干敷衍して御説明しておきたいと思います。

  職務分掌の定めのない一般の共同受託におきましては,受託者は共同で意思決定をし,相互に執行の代理権を授与しているものと見なしますので,ある受託者が職務を執行することにより第三者に対して信託債務を負担した場合には,当該受託者によって代理された他の受託者も第三者との間で契約関係に入っており,固有財産レベルにおいて受託者全体が連帯責任の根拠となる債務を負っているので,信託財産レベルにおいても実体法的にも受託者全員について信託財産も責任財産となる,そして手続法的には,先ほど述べましたように,受託者の1人に対する債務名義の効力が信託財産を責任財産とする限度で他の受託者にも拡張するようにすることにも違和感がないように思われます。

  これに対しまして,職務分掌の定めがある場合につきましては,各受託者は,分掌された職務の限度で独立して職務を執行することになりますので,ある受託者が職務を執行することにより第三者に対して信託債務を負担した場合には,当該受託者のみが第三者との間で契約関係に入っていると見るべきであって,固有財産レベルでは,当該受託者のみが責任の前提となる債務を負っていることになりそうでございます。

  しかし,職務分掌の定めがある場合でも,信託財産を責任財産とする限度では実体法的にも他の受託者に効果を及ぼす,すなわち債務を負担しているものと考える必要があると考えられますところ,その説明として,1つは,特別の規定を設けずとも信託財産は合有財産だからということで足りるのか,それとも,もう一つの考え方としまして,特別な規定を設けて,この場合,他の受託者は固有財産レベルでも,いわば責任なき債務を負うことを擬制する必要があるかという点について検討する必要があると思われるというのが,ここで書いている趣旨でございます。

  最後に,以上の改善点のほか前回提案時からの積み残しといたしまして,また資料の2ページに戻りますが,※2におきまして,第三者に対する信託債務に関し,過半数による信託事務の決定に反対した受託者が固有財産をもって責任を負うべきか否かにつきまして,ここに書いてあります両様の考え方がありますところ,いずれが適当かという御意見をいただきたいと思っております。
  以上でございます。

● それでは,ここまででお願いいたします。
  いろいろ理論的にも難しい問題が入っていると思いますが,いかがでしょうか。


● 抽象的に議論するとわかりにくいので,私なりに現状における共同信託というのはどういうものかなと思って,3類型考えてみました。


  1つが土地信託の例だと思うんですが,ある土地を受託者が共同受託する。


この場合,登記法上,単独名義しか認められていないがゆえに,ある特定の信託銀行の名義になりますけれども,それでいい場合と,実質,本当に合有であるような場合があるのではないか。これが恐らく一番わかりやすい共同受託のケースだと思います。
 

 それ以外に,よく本などで紹介されている年金の場合は,私の理解が間違っているかもしれませんけれども,ある適格退職年金等をシェア割りするような形で,それぞれの信託銀行が運用していく。


この場合も,合有という概念を観念することは,それはそれでいいのかもしれませんけれども,恐らくお互いの信託銀行間において,その運用の内容とか詳細については関知していないのではないか。


事務を管理しているところの代表受託者は,信託事務としては知っているでしょうけれども。

  その場合に,合有概念ということでいろいろな論点に絡んでくるということなんですけれども,例えば,今,最後の方でお話がありましたように,既判力が信託財産に及ぶかどうか。

固有財産に関しては及ばないが信託財産に関しては及ぶという議論がございましたけれども,そういう場合,職務を分掌しているからという議論だと思うんですが,果たしてそれでいいのかどうか。

  3つ目の類型が,資産管理専門銀行というシステムを担当しているところ,要するに,ある信託銀行は事務周りのみ,別の信託銀行が資産管理といいますか。

ですから,先ほど申し上げました年金のシェア割りをするような場合とは違って,完全に信託財産をある信託銀行のみが管理しているような場合。


これも共同信託で行っている信託銀行もありますし,再信託ということで,全然違った法律構成で全く同じことを行っている銀行もある。


この場合も,事務周りのみを行っている信託銀行に,合有ということで,あえてその信託財産に対する権利を認めるべきか否か。

  こんなふうに3つを分けて,実際には各論のところだと思うんですけれども,今,幾つか御提示のありました御質問とか論点の主眼ですけれども,例えば,前回ちょっと議論になりました,ある共同受託者の1社が倒産した場合,第三者性とか信託の公示が必要か否かという論点があったと思います。


信託の合有概念であった場合,たまたま登記という観点からある特定の信託銀行の外見を呈していたとしても,まさしく実質においても合有であるものに対して,果たしてその信託銀行の破産管財人の固有財産と……,破産管財人が第三者性を持っていて,信託の公示がないからということで固有財産と同じ扱いになっていいんだろうかと考える反面,2番目と3番目の類型であるところの年金の場合とか資産管理会社の場合には,それぞれ年金を管理している銀行が倒産した場合,またシステムを持っている銀行が倒産した場合においては,今まで単独受託者の場合で議論したのとほぼ同じような発想で考えてもよろしいのではないかと思うところです。


  あと,既判力の議論がございましたけれども,これも同様でして,やはりこの3つの類型,特に最初の類型とあと2つの類型において分かれるのではないか。

特定の信託銀行が運用している信託財産に対してのみ既判力が及ぶと考えるのが適切な場合と,まさしく共同受託している土地のような場合であれば全体に対して及ぶ,なぜならそれは合有であるから,こういうような考え方もできるのではないか,かように思った次第です。

  そういう議論を,今の御提案では職務分掌ということで恐らく切り分けていらっしゃると私は理解していますし,それによって多くの問題点が解決できると思うんですけれども,どうしても,そういう3つの現実的な状況を踏まえて議論しないと,それぞれの論点について考え方がある場合においては,こういう考え方が妥当かもしれないけれども,別の場合においては違う考え方が妥当かもしれないというように分かれていくのではないかと思ったので,最初に発言させていただきました。


● 具体的に考えるきっかけを与えていただきましたが,今の御意見についていろいろな補足……,実務的な感覚から。

● 基本的には,○○委員がおっしゃったような3つの形態はもともとイメージしていまして,それについて,この規定に照らし合わせて,私どもの考え方としては,全般的な方向性についてはほぼこれでいいのかなと理解しています。

  その中で1点,確認なんですけれども,先ほどの財産分属型というところの形態については,ここで言う職能の分担というか,職務分掌型という類型の中に入れてしまっていいということですよね。


何となく,以前は3類型で考えていたのがいつの間にか2類型になったような感じがするんですけれども,そこは,それでよろしいんですよね。

● 財産分属型も,この職務分掌の中に入るものと,我々としては考えております。


● 先ほどの○○委員の問題提起も,職務分掌ということで全部ちゃんときれいにといいますか,ここに書いてあることで大丈夫か,そういう御質問でもあったわけですね。

● 今の御議論で財産分属型というのは,○○委員のおっしゃった類型では,年金とかの話のことをそう呼んでいらっしゃるんですか。

● 私は,そのつもりで申し上げました。

● それは職務分掌の1つであるということなんですか。つまり……

● それらも含んで。

● ……ということは,その場合は信託財産は合有ではない。


● いえ,職務分掌の中での合有で,その合有である共同受託の中で,職務分掌のある場合とない場合に分かれるという記述でございますので……


● いえ,したがって,各信託銀行が年金の信託においてばらばらに信託財産を帰属させている形は,そもそも「合有である」という記述に乗ってこないわけであって,その「財産分属」の意味なんですが,当該財産の処分,管理等をする権限が分属しているという話なのか,その財産の所有権がばらばらになっているという話なのか。


  後者ですと,これはそもそも合有ではないわけですから,これに入ってこないわけですよね。そ


うなると,○○委員が「年金の場合」とおっしゃったのは,そもそもここにのってきていない類型なのではないかと私は考えていたんですが,そのあたりの言葉の問題を確認させてください。


● 我々としては,権限が分属している場合が合有になるという理解でございまして,そもそも所有権自体が分属している場合は合有の前提を欠くことになりますので,ここの類型に入ってこないことになります。

● 確かに今まで,議論の途中では,所有権レベルでも完全に分属しているタイプが年金などにもあって,それは意識はしていたんですけれども,ルールをつくる際に,私も余り細かい経緯まで記憶がありませんけれども,今のやりとりの中であったように,所有権レベルで分属しているのは分掌型ではないという……,これはどの段階でそうなりましたっけね。前回もそうでしたっけ。

● 私の方から補足いたしますと,我々としましては,年金信託についてもここで言う職務分掌の定めの中に入ると理解しております。


確かに現在の年金信託の取り扱いは,A信託銀行がある信託財産を持っていて,B信託銀行がある信託財産を持っている,そういう形をとってはおりますが,信託財産自体は,共同受託の場合はすべて合有という形をとった上で,権限自体が分かれている,そういう形で実質的には対応できるのではないかと考えております。


● 所有権レベルで完全に分かれているようなものは,この共同受託という形にのせて一緒に扱おうとするとお互いに縛りが強くなり過ぎて,もうちょっと各受託者の間で割り当てられた財産については自由に行動できるようにした方がいいので,ここからむしろ落としたということでしたかね。

● 結局それは,現在の年金のそういうふうな,いわゆる共同受託と言われている複数受託者の契約解釈の問題ということなんですかね。


つまり,ばらばらにやっているときに,各信託銀行にそれぞれの信託財産が単独帰属していると認定するならば,そもそも第43の1に入ってこないわけですから,これにのってこない。

しかるに現在の実務のあれを考えると,これはそれぞれの割合で分掌はしているけれども,それぞれが全部合有になっていると考えてもいいのではないかという話ですよね。
  その理解について,信託銀行には異論はないんでしょうか。

● 現行実務において年金の信託の形も2つありまして,全く本当に別の契約という形にしているものもありますので,それは多分このレベルにはのってこないお話で,そうではなくて,いわゆる共同受託と呼ばれている一つのものとしては,この規律にのっかって一応チェックしてみたところ,とりあえずワークするのではないかと考えております。


● 今までの年金実務のもとで行われていた,いわゆる共同受託というのがどっちのタイプかというのは,恐らく余り明確でなかった点があったと思うんですね。

○○委員は理論的に整理されたので,今,2つのタイプがあり得るということでお話しされましたけれども,今後もしこういうルールができると,そこがもっと明確になって,この共同受託のルールにのせたくないタイプについては,とにかく所有権レベルで分属していると。


所有権レベルでは合有だったけれども,それ以外のいろいろな権限のレベルで職務分掌型にすることもできて,それはこれにのりますよ,そういう使い分けがされることになるんだと思います。その上でさらに,これでいいかどうかという問題がまたあると思います。

  それから,所有権が分属する型については,これは共同受託ではないけれども,全然……,あとはもう契約レベルの問題なんですかね。


もし各受託者が何らかの連携をするとね,帳簿をつけるとか。ちょっとそこは私,言い過ぎですけれども,皆さんの実務的な感覚なり,お聞かせいただければ。

● ちょっと確認したいんですけれども,私が申し上げた3番目の類型ですね,ちょっと説明が悪かったかもしれませんけれども,新聞等で報道されて,多分,日本で大きい2つの,マスタートラスト銀行とかJTSBとかありますが,そちらの方は分属する信託財産すらない信託銀行が存在する形になるんですけれども,でも,今の○○委員のお話のように,その信託契約の中で,とはいいながらもこれは合有なんだ,こういうふうに観念すれば共同受託に入っていく,そうでなければ全然違ったものになっていく,こういう理解なんでしょうか。

● 今,マスタートラストで再信託という形でやられているようなものも,再信託ではなくて共同受託の形をとっていて,そのときの財産の帰属の仕方を,当事者間で「合有なんだ」と。そこは強引にできるのかどうかわかりませんが,合有だとすることも可能な気がしますね。

  そのときに,しかし,ここに掲げたルールがすべて適用されると困るのか,困らないのか,そういうのが次に問題になってくるんでしょうか。


  --いや,これは個人的な意見ですので,事務局なりほかの方は違った理解をされているかもしれませんけれども。


● 事務局としましては,マネージング・トラスティとカストディアン・トラスティの関係についても検討はしたのですけれども,このような提案内容で一応は整理できるのではないかという理解でおります。
 

 例えばマネージング・トラスティとカストディアン・トラスティという形で,一律に信託財産が一方の受託者になっているものであればわかりやすいかと思うんですけれども,例えばマネージング・トラスティが信託財産の一部を持っていて,もう一人のカストディアン・トラスティもまた一部持っているといったものも,年金信託以外にも今後あり得るかなと考えておりまして,ここで言う職務分掌の定めという形で規律することによって,そういうものも含めた広い意味での規律が1つできるのではないかと考えております。

● 今の場合も,全体として見ると,とにかく合有財産として信託財産はあるという。だから,合有というものを今までより柔軟に認めていくという考え方につながるのではないでしょうか。

● 今の話につながるのではないかと思うんですが,財産について,公示制度があるものがあります。不動産ですとか,有価証券もそうではないかと思うんですが,そのときの合有の公示について,どういうふうにお考えになっているのか伺いたいと思います。


  不動産登記には合有というのはなくて,組合を例にして考えると,恐らく共有の登記をすることになるんだろうと思いますが,しかし,今のマネージング・トラスティとカストディアン・トラスティのようなものも緩やかな合有と考えた場合に,共同所有の形で公示されるのであれば「これは信託だから合有だ」という議論はあり得ると思うんですが,どっちになるんでしょうか,カストディアン・トラスティの単独名義になったときに,しかしそれは,この第43の考え方からすると1個の信託行為で始まっているので,合有である,そういう議論になるということをお考えなんでしょうか。


● 先ほど○○委員が言われた最初の問題ともちょっと関係……,私の理解が誤っていなければ,土地信託などで共同受託なんだけれども,どれか1つの信託銀行の名義にしているということですよね。

● はい。


● だけれども,これはほかに共同受託者がいるので,○○委員の先ほどの御意見だと,実質的には合有と考えた方がいい場合があるだろうと。


● もしそれが動産とか金銭の共同受託であれば--そういうものがあるかどうかわかりませんけれども,まさしく合有というものが出てくるんですか。


● 金銭とかは公示制度が,占有という公示もあるのかもしれませんが,名義を厳密に観念する公示制度がありませんので,「それは合有だ」と言って,それに基づく法律構成を組み立てていくことは可能だと思いますので,適切ならばそれでよろしいんだろうと思います。

しかし,もう少し名義という観点が公示制度にしっかり結びついているものについて,単独名義になっているにもかかわらず「合有」と言って処理した方がいい場合があったとしても,果たしてそれを合有という共同所有の一形態に,一たん性質決定をした後で処理をするのが望ましいのかと考えると,私は,今のところは躊躇がございます。

● 所有権のレベルで,実質は合有だけれども登記がうまく対応していない,それが1つの問題ですけれども,○○幹事が言われたのはむしろ次の問題で,例えば権限などについては,意思決定の仕方とか代表の仕方とか,そういうものは表示の仕方ね,不動産の登記の仕方に関係なくこのルールを適用しようと思えばできなくはないけれども,それが果たしていいのかどうかということですよね。

例えば単独名義で不動産について,ある受託者が名義されているときに。


● そうですね。


● 事務局から補足いたしますが,まず,共同受託の場合,所有名義も合有という登記はできるものと理解しております。所有権移転の後ろに「(合有)」と記載されます。また,通常の共有と異なり,持分も登記されません。
 

 その上で,しかし単独名義になっている場合もあるではないかというのはおっしゃるとおりでして,そこは事務局として,個々の受託者の単独名義になっている場合について,あるいはある受託者の単独名義になっている場合について,それが本当に実態上も別々の所有に属している場合であれば,この規律は当てはまらないですし,ある受託者の単独名義になっていても,信託行為でほかにも受託者がいる。その解釈としては合有だという解釈がとられていると考えれば,それはこの規律が当てはまる。


そこがどちらかというのは,先ほど議論もありましたけれども,それは信託行為の解釈によって,この規定が適用される合有か,そうではなく別々の所有か決まってくるのではないかと考えております。


● 要するに,単独名義で書かれていても,当事者の意図が合有であってその実質があれば--実質があればというのはつけ加えていいかどうかわかりませんけれども,合有であれば,例えば意思決定の仕方,あるいは代表の仕方というのは,このルールにのせることができるということですね。

● 私,実務をすべて知っているわけではありませんけれども,私の存じ上げている範囲内では,土地信託に係る,要するに不動産にかかわるようなものについては,基本的には,単独名義で登記することはほとんどない。


特別な事情があるものは別ですけれども,基本的には,単独名義で登記しているものはほとんどないと思います。

● そうすると,先ほどの合有といいますか,共同受託者の名前だけを掲げたという形の登記ですね。


それだったらば,それで実質と登記が一致しているので,実務的には,そういう合有登記をすればいいということで対応できるわけですね。


あとは例外的に,当事者としては合有にする意図であったけれども,登記だけは対応していないというときにどうなるのかという問題でしょうか。
  ほかに,いかがでしょうか。


  今の問題も,つまり合有という所有関係が反映して,このいろいろなルールが出てくるのか,あるいはこういう形で処分,権限を行使しようという方の合意が,合意と所有権の問題をある程度分けて考えることができて,しかし一般に共同受託というときには所有関係が合有で,その上にのっかるいろいろな権限の行使の仕方も,それなりに共同性があるものになっている。

だけれども,分けることができるのかどうかというところが理論的にはね,おもしろい問題だと思います。

● 確認的なことなんですが,少し前の研究会で,どうも名義がAという人なのにBもCも受託者ですという信託があることに非常に抵抗感がありまして,それは実際にもあるし,ニーズもあるということであれば余り言う必要もないかなと思っていたんですけれども,どうも法律関係が,そういう意味では確認でいいんですけれども,Aという人の名義で,今,○○幹事がおっしゃった不動産が登記されていて,実は信託行為によればBもCも受託者ですというときに,例えばAが倒産したような場合には,BやCはそれをよこせと言えるのか。管財人との関係で。受益者は言えるんでしょうけれども。それがどういう関係になるのかが……。

  比較して言う場合は,BとかCは受託者ではなくて,例えば単なる受任者としておきましょうか。


そうきれいにいくものなのか,いかないものなのかというのがいま一つ釈然としない。もうちょっと具体的に御質問すべきなんですけれども,ここでの考え方は,要は,登記の例で言えばA単独で登記されていても,ここでの規律の適用があるかないかは信託行為で決まるんだ,そういうふうに割り切っておられるわけですよね。


  ですから,その点を確認させていただければいいのかもしれませんけれども,ほかのBとかCというのはどういう権利,義務を持つのか。

ここで規律されている限りではいいんですけれども,第三者との関係ではどうなのか,そういう問題があるように思うんですけれども。

● 重要な問題提起ですね。
 

 私は,これは個人的な意見ですが,むしろ登記名義がなくてもAにもBにも受託者としての権限を与えてもいいかもしれないということで申し上げている,まさに○○委員が言われたように全く逆なタイプといいますかね,本当はそれはよくなくて,そういうものには受託者としての権限を与えられないという考え方もあるかもしれない。
  どうですか。

● 6の(2)あたりに関係してくるのかと思うのでございますが,任務が終了した場合には,原則としてほかの受託者に権限が承継されることになりますので,今,○○委員がおっしゃったABCという例で,Aが破産したとなりますと,Aは任務が終了するというのが原則でございます。


そうしますと,B,Cは既に合有者として所有権を持っていますので,Aに名義があるのであればB,Cの名義に移すようにという請求ができるのではないかと思っておりますが。

● ABC間ではそうだと思うんです,ここで決めていることですから。そうすると,確認なんですが,それは第三者にも言えるということですね。


A名義の登記のままでAが倒産したときに,B,Cは6の(2)に従って「今は自分が受託者になりました,だから登記名義を移してください」と第三者に対しても,第三者という表現は正確ではないのかもしれませんけれども……

● 破産管財人に対して。
● ええ。
● それは言えると思っておりますが。

● 今の説明ですが,私はさっき,所有のレベルと権限のレベルを分けるということで,名義がなくても受託者としての地位を与えていいと思っていたんですけれども,ただ,ほかの債権者に対する対抗の問題は,やはり何か,対抗要件と言うとちょっと大雑把ですけれども,何かないとまずいのかなという気もちょっとしていた。今の説明はもうちょっと割り切って,いや……。
 

 だけれども,ここはいろいろな考え方がありそうですね。
  何か御意見ございましたら。


● ○○委員も少しおっしゃっていた判決効の拡張の問題ですけれども,いろいろ代理権構成とかを考えておられるので,それなりにある程度考えておられるところがあるのはわかるんですが,ただ,実務的な観点からいくと,最初の判決をとるときに全く手続保障がされていなかった共同受託者に対して判決効を及ぼす根拠として,共同受託者相互が密接な関係にあること,あるいは受託者固有の利害関係がないことが掲げられているわけですが,それのみをもって十分かは非常に疑問があるのではないかと考えております。

  例えば組合については,組合員相互の連携というのは当然あるんでしょうが,判決効は原則としては拡張されないこととなっている。そういったこととの平仄で,どうかということはあるのではないかと思われます。
  

それから,受託者に固有の利益がないということではございますが,例えば共同受託者が不適切な訴訟行為,訴訟の追行を行った結果,敗訴したといった場合において,共同受託者相互が緊密に連携されていることが前提となって信託財産に執行が可能だということにはなるんでしょうが,そういった形で信託財産が最終的に執行の対象となることについて,共同受託者に善管注意義務というような責任は本当にかかってこないのかという意味で,本当に固有の利益が全くないと言えるのかどうかも疑問な点はあるのではないかと考えられるところです。

  一方,第三者の方なんですが,第三者はそもそも共同受託者の一方のみを相手方として訴訟を行っていて,もとから他の共同受託者名義の財産を引き当てとするという期待があったとは言えないのではないか。

いわば,たまたま他の共同受託者名義の財産が存在するというのは,言ってみれば望外の利益ではないか。


そういう意味では,少なくとも共同受託者,固有必要的共同訴訟とは言わないまでも,やはり当初の債務名義の取得の際に何らかの手続保障があることが必要なのではないかと思われます。

  それから,実務上の問題について申し上げますと,仮に判決効を拡張した場合には,恐らく共同受託者,仮にAとしますと,Aに対する債務名義がまず取得されて,それについて共同受託者Bがいるということで,承継執行文を付与してくれと第三者がその付与の申し立てをするといった制度設計とすることを恐らく法務省はお考えなのではないかと思うわけですが,承継執行文の付与というのは,文書によって明白に証明されるものについてされると思われます。

この場合,承継執行文の付与に何が必要かと考えますと,恐らく信託事務処理としてされた債務であることと,Bが共同受託者であること,この2つを証明しなければならないことになろうかと思われますが,これを通常執行の現在の実務で行われていますように文書によって明白に簡潔に証明していただけるかとなると,非常に疑問があるところでございます。


  さらに,これは確認的にということではございますが,共同受託者の1人に対する確定判決は,信託財産を責任財産とする限度で他の受託者にも効果が及ぶと書いてございますが,そういった承継執行文を付与するときに,別に責任財産が書いてあるわけではございません。


承継執行文にも債務名義にも責任財産が何かということは書いていないということでございますので,結局,それをもって共同受託者Bに対する強制執行が行われるときには,債権者が何を差し押さえるかによるんですけれども,公示されているような財産であれば,裁判所は前もってそれが固有財産か信託財産かわかりますから,それでもって強制執行するかどうか判断することもありましょうが,そうでなければ,通常は裁判所はそこを判断できずにまず差し押さえなりをする,しかる後,異議によって争っていただくほかないということでございます。


  そういった形で,共同受託者はその固有財産についてもある程度,一定のリスクを負う結果になるとは思われますので,そういった結果になることについて,当初の債務名義取得の際から共同受託者において手続保障がなくてもよいのかという観点から,やはり再検討していただく必要があるのではないかと考えております。

● 第1点ですけれども,先ほど○○委員の挙げられた,共同受託者がA,B,CといてAの単独名義になっている不動産があるとして,Aが倒産したときに,Aの管財人との関係でB,Cは信託財産だということを言えるかということですが,とにかくB,Cの名義では信託の登記はなかったということなので,B,C名義の登記がないので管財人に対抗できないという場合とのバランスは本当にとれているのか。


やはり何か公示がないと,管財人に代表されるところのAの一般債権者との関係で,信託の公示がない場合,一般との平仄がとれるのかどうか,私もまだ自信がないところであります。

  第2に,今,○○幹事がおっしゃった点に重なるんですけれども,共同受託者の1人に対する確定判決は,この他の共同受託者にも効力が及ぶ。


その根拠として,お互いに代理権を持っている--代理というのか,自己名義で行使できる管理・処分権なのか,この辺はいろいろな考え方があろうと思いますが,この考え方の前提は,恐らく共同受託者間に非常に緊密な関係があって,お互いどの場面で切っても任意的訴訟団体と認められるような強い関係を想定しておられるのではないかと思います。


それで説明はできるんでしょうけれども,実態として,そういう当然にお互いに訴訟担当を認め合っているような関係があることが前提にできるのかどうか,そこが私はよくわからないわけです。
  

それから3つ目に,これも○○幹事が指摘された点に大きく重なるんですが,この資料7ページには,債務名義上の債務者,確定判決の上での被告債務者と執行対象財産の名義がずれる場合が幾つかあるわけですが,執行法第27条第2項で,簡単に承継執行文が出ないとなると,結局執行文付与の訴えをしなければいけなくなる。


それは結局,ほかの受託者に対してもう一回給付訴訟をやるのと同じ手間なわけで,既判力が拡張されるとしても,執行力の拡張がなければ多分,意味がない議論ではないかと思いますので,本当にこういう手当てで十分なのかどうかということですね。


  今の第3点に関連して,4つ目と言うのかどうかわかりませんが,判決以外の債務名義の場合にどうするんだろうかということが問題になろうかと思います。


  例えば,共同受託者が被告になって訴訟が起きて,和解をした。その和解調書についてどう考えるかを考えておかないと,2ページの※4だけでは多分,手当てし切れない。


同じように規律しないと多分,意味がないと思うんですけれども,つまり,判決だと拡張されるけれども和解だとほかの受託者にいけないというのでは意味がありませんので,それをどう規律するかを考えておく必要があるのではないかということです。

● 訴訟法の手続的なことはよくわかりませんけれども,何か事務局の方で。


● 手続的な点で御指摘をいただきました。
  事務局の考えているのは,例えば,ある受託者の訴訟追行が非常にまずかった。


それによって信託財産にも執行されて,信託財産が非常に害を被ったということであれば,その場合は第27条の責任を追及していくしかないのかなとか,それからあと,承継執行文で対応できるかどうかは,やはり確定判決の効力が拡張される以上は承継執行文で対応していくことになって,どういう場合に執行文が付与されるかよくわからないところもありますが,承継についても判断できるだろうと考えたものでございます。

  それから,○○幹事がおっしゃったように,債務名義は,責任財産が書いていない。


だから,例えばAに対して債務名義をとって,その承継執行文をとって,ではBの固有財産にいったらどうかというときについては,御指摘を踏まえて検討したいと思っております。


  なお,判決以外の債務名義の場合も同様に考えておりまして,例えば,Aに対する債務名義の効力がB,Cにも拡張されることになるのではないかと思います。


  ただ,1人に債務名義をとって,信託財産全部にいけるというのは難しいとしますと,では必要的共同訴訟にするのか,それともA,B,Cに対する個々の債務名義をとって,そして3本揃えて信託財産にいくのか,そういう方法の可能性というのにまた回帰しなければいけなくなるわけでして,この提案にかかっているやり方には問題があるというのは御指摘のとおりかと思いますが,逆に「では,こういうやり方でやったらいいのではないか」というのがあれば,ぜひ御指摘をいただければと思うんですが。

● 判決と執行のあり方については,いろいろ場合分けして考えないといけなくて,私は今,それについては発言しませんが,○○幹事がおっしゃった--その前に○○委員もおっしゃいましたが,○○幹事の1番目の話は,A名義単独で登記されているという話になっていましたが,信託の登記はあるという前提ですよね。

したがって,破産管財人等は,それが破産財団に含まれないということは,そもそも対抗される地位にあるわけですので,B,Cの名前が出ていなくてもB,Cに移っていくというのは,他の債権者との関係でも,そんなに不当ではないと思うということだけ。

● 破産とか差押えについては,まさにそうだと思うんですね,私も。

ただ,ちょっと考えたのは,むしろ倒産だとかいう場面ではないときに,まだAが倒産しないときに何か問題が生じないか。


さっきから考えていても余りいい例がないんですけれども,例えば,信託財産が毀損されたことを理由とする損害賠償請求の訴えを提起するといったときに,Aのところに名義があるので,Aという受託者が提起できるのは当然だと思いますけれども,名義を持っていない他の受託者がそういうことをできるだろうかとか,そんなことがさっき気になって,考えていたんです。


  この辺は,もうちょっといろいろお考えいただきましょうか。
  小さい問題なんですけれども,ちょっと私が気になったのは,前回の案と今回の案で違っているところで,やむを得ない事情で共同受託者の1人で受託者としての権限を行使できないときに,何という部分でしたっけ,ほかの……,「委託できる」か。

  その「委託できる」ということの意味なんですが,要するに,残った人たちでただ決めてくれということなのか,それとも権限を行使できない受託者が自分の分の権限を……,例えば残り2人受託者がいるときに,どちらか一方に自分の権限を委託するとかですね。


そうすると,A,B,Cがいるとして,Cが権限を行使できないのでBに委託するという形にして,Aが1票,Bが2票といった形になるのか,あるいは最初に言ったように,Cが権限を行使できないのでA,B間でとにかくやってくれということで,1・1でやるのかですね。


  従来のやり方は明確だったんですけれども,今回のでは一体どっちになるのか,それとも意思によってどちらにでもできるのか。

● 事務局のとりあえずの考え方としては,委託をすることによって,例えば今の○○委員のお話ですと,CがBに委託したというときであれば,AとBが1票ずつになるのではないかと考えております。Aが1票,Bが2票になるのではなくて,1対1。

● 実質は,やはり残りでやってくれということですね。
● はい。
● ほかに,いかがでしょうか。


● 1点目は,共同受託者の1人が第三者に対して不法行為を行ったような場合ですけれども,これは取引的な不法行為と一般的な不法行為がありますけれども,この場合については,他の共同受託者は固有財産で連帯責任を負うのか否か。

  2点目は,先ほど来お話が出ているかもしれませんけれども,訴訟を受ける場合ではなくて訴訟を提起する場合の話で,共同受託者の1人が信託事務の執行の一環として訴訟を提起しますと。


その場合について,全員が一応参加して行わないといけないのか,それとも執行行為をする人だけでいいのか。


その場合,職務分掌がある場合とない場合,それによって違いがあるのかどうか,その辺のところを教えていただければと思います。


● 難しい問題ですね。

● まず前段の御質問で,共同受託者の1人で不法行為をしたときに,ほかの受託者はどうなるかというところは,こちらとしては,信託だから共同受託者も重い責任を負うということはなくて,一般の民法の理論で考えていけばいいのではないかと考えております。


したがいまして,他の共同受託者も第三者に対して責任を負うべき故意,過失ないし違法性が認められるかどうかを個別に判断していけばいいのではないかという考えでおります。
 


 ですから,絶対責任がないとは言いませんが,共同受託者だから常に責任を負うわけではないということでございます。


  それから,訴訟,執行の方法でございますが,まず簡単な方で言えば,職務分掌のある場合は単独で事務執行ができます。


したがいまして,訴訟提起,それに基づく強制執行も単独でやっていけていいのではないか。


他方,職務分掌に定めのない場合には,全員の名義を出して職務を執行することが原則でございますので,そうすると,訴訟の局面,執行の局面で結局,全員の名義を出してやるということは,そこは必要的に共同してやらなければいけないのではないかと理解しております。

● まず,今の話の関係ですが,債務不履行の場合に,全くかかわっていない共同受託者にも連帯して責任を負わせるという考え方をとるとすると,同じ行為が債務不履行にもなるし不法行為になるというのは時々あることですけれども,不法行為だって結局同じことになるのではないかという気がちょっとします。
  


それから,先ほどの判決効の拡張の問題と関連してくるわけですが,そういうこともあるので,判決効の拡張で,ほかの共同受託者に対する手続的保障がないこの考え方は,やはりいろいろなところでつかえてしまうのではないかという懸念を感じます。

  それから,特に執行の方で,○○幹事が説明された承継執行文のことは,本当に現実的に債権者の立場で執行するんだということを考えた場合には,まず無理ではないかという感じがいたしますので,方向として,この方向をさらに細かく考えて,突き詰めていってうまくいくかどうか,ちょっと難しいなと。感想なんですが。

  特に,この名義ですね。例えば不動産が信託財産であるような場合に,先ほどのように,合有の登記もできるし実務も複数の名前で登記していますよということだとすれば,そういった状態を,そうではない方向でできるようにするふうに動くのではなくて,信託の一番基本は財産の移転というところがスタートですから,そこをもとに考えていった方がいいのではないかという気がしました。


  債権者の立場で執行ということを考えると,少なくともA,B,Cと3人いて,そのうちA名義でだけ登記されている場合に,B相手に訴訟なんてやりたくないという感じですので,やはり名義には入れないと,多分その先のことが,障害が大き過ぎて見通しが立たないという感じになるのではないかという気がいたします。

● 債務不履行と不法行為の連帯というか……


● 今の○○委員の意見に賛成なんですけれども,ただ,今の議論にのっかっていくと,職務分掌の定めというのは非常に重要なポイントだと思うんですが,取引の相手方,取引の相手方ではない不法行為を受けた被害者たる第三者とか,職務分掌の定めをどうやって認識できるのかということと,あと,職務分掌の定めというのは信託契約の中にいろいろ書いてあって,どこまで言うと,この大きなメルクマールとして職務分掌の定めがあってということで権利関係とかいろいろ分かれていくのかというのは,非常にキーワードにはなると思うんですけれども,それが公示性とか,あと内容においての明確性というのはどの程度なのかが極めて重要な概念になるように,ちょっと疑問に思ったというか,質問として,どの程度のものをもって職務分掌を定める--年金の場合ですとほぼ明らかですけれども,そうではない,さまざまな類型になっていくと,土地信託のような実質型なのか,そうではないのか分かれていくのかなと思ったんですけれども。


● 何か今ここで答えられることはありますか。


● 「職務分掌の定め」という言葉は包括的なものであって,これがどういうものを意味しているのかという問題点があることは,事務局としても認識しております。


年金信託みたいなものですと,○○委員もおっしゃるとおり明確であるということですが,ほかについてどの程度まで法律の中で明確にできるのかについては,今後も考えていきたいと考えております。
  もう一点,職務分掌の定めがある場合について,こういうふうに特出ししている理由の1つなんですけれども,例えば第三者から見ますと,職務分掌の定めの場合には,当該受託者が独立して執行することになっておりますので,取引の相手方というのは,その当該受託者しか出てこない。

そうすると,債務名義をとるときも,やはりその受託者に対してしか目が向いていないということですので,やはりその場合に,他の受託者に対しても債務名義をとらないと,信託財産が合有であることを理由に執行できないというのは,やはり第三者の方に酷なのではないか。


仮に他の受託者に対して債務名義をとらなければならないとした場合にも,結局,他の受託者は,違う一方の受託者がやっている職務を認識していませんので,結局,認諾するというようなことしか考えられないのではないか。

そうだとすると,一方の受託者に対してとった債務名義をもって,その他の受託者にも効力が及ぶとしてもいいのではないか。


少なくとも職務分掌の定めがある場合には,そういうふうに考えられるのではないかと事務局としては考えています。

● いろいろな問題点があることはよくわかりましたので……

● 反対の見解が多かったので,○○関係官に賛成であるという見解も1個出しておきたいので述べさせていただきますと,おっしゃるとおりだと思うんですね。
 


 かつ,Aが単独なら単独で出てきているんだから,Aの財産しか当てにしていないじゃないかということはあり得るんですが,それは日本の信託法全体の枠組みに大きくかかわってきていて,単独受託者のというか,信託財産というものがいつも一切当てにできない財産であるというふうになれば,それはよくわかるんですが,日本の信託法の枠組みとして,信託事務の執行により生じた債権者であるならば信託財産を差し押さえ得るとなっていることとの関連から言うと,単純に,Aの名前しか出ていないんだから期待はしなかったはずだという理屈は通らないのではないか。


皆さんおっしゃるような執行法上の難しい問題があって,まだまだクリアしなければいけないことがたくさんあるというのは,もうおっしゃるとおりだと思うんですけれども,価値判断としては,私は事務局の原案に賛成であるということを一言だけ述べさせていただきます。

● 一言だけ。今後,お考えいただく上でということなんですけれども,私の感じでは,A,B,Cで合有の登記がなされている場合と,Aだけで登記がなされている場合とはやはりちょっと違うような気がするということで,Aだけで登記がされていてA,B,Cにこの実態がある,あるいは信託契約がある場合に,先ほど若干御議論がありましたが,B,Cの方から第三者に物を言うときは,確かに破産管財人と,それから処分があったような場合とか,場合分けはいろいろあると思いますけれども,常に言えるというのは若干抵抗があるんですね。
  


しかし,逆に第三者の方から実態を主張して,AだけではなくてB,Cの共同受託なんだということが立証できれば,それは第三者の方からBもCも受託者ですという主張は認めていいというのは,私は基本の発想にあっていいと思うんです。
 


 その意味で,難しい--とつい言ってしまいますけれども,手続法の議論は詰めていかなければいけませんけれども,A名義だけで登記されていても,Aに対する債務名義を得ればあるいはB,Cにも拡張はありという発想はありなのかなと思うんですけれども,逆に,先ほど○○委員がおっしゃったことかもしれませんけれども,A名義だけで登記されていたとき,何らかの事情でBが信託事務を執行していた。


したがって,実務は余りないのかもしれませんけれども,B名義に債務名義をとった。

それでAにいけるかと言われると,またこれもよくわからないなという感じがするものですから,いずれにしましても,総体的に場合分けして提示していただければ手がかりになります。

● いろいろな御意見,ありがとうございました。
  この点は,今,いろいろ出されました御意見を踏まえまして,さらに検討していきたいと考えております。


● それでは,次にいきましょう。
● 続きまして,第44,信託財産の管理人についての御説明に移らせていただきます。

  今後,信託の利用が進みますと,受託者が欠けた場合に関する信託財産管理人の需要も高まることが予想されます。そこで,現行法では,信託法第48条と非訟事件手続法に若干の規定のみを有する信託財産管理人につきまして,その選任されるべき場合,権限及び義務,任務終了事由等に関しまして規律の整備を提案するものでございます。


  これも前回の提案からの主要な変更点を中心に御説明申し上げます。
  まず,提案1の信託財産管理人の選任との関係で,3点ほど御説明いたします。

  第1に,信託財産管理人が選任される場合につきまして,前回の提案では,受託者の全部または一部が欠けた場合であれば,その任務終了事由を問わないこととしておりました。


しかし,前回会議において事務局の方から,第40の受託者が欠けた場合の取扱いについて提案いたしましたとおり,特約辞任及び承諾辞任の場合には,受託者は原則としてそのまま受託者としての権利・義務を有し続けることとしましたので,これらの場合には,信託財産管理人の選任の要件である,「信託財産を保護するために必要があると認められるとき」という要件が定型的に欠けることになるのではないかと思われ,したがって,信託財産管理人を選任できるとする必要はないと考えたわけでございます。


  もっとも,特約辞任や承諾辞任の場合も,ここで言う「任務が終了し,受託者の全部又は一部が欠けた場合」に含めた上で,「信託財産を保護するために必要と認められるとき」という要件を満たすか否かで一律に判断していく方がよいという考え方もあり得ると思います。


  そこで,細かい点ではございますが,提案の1及び※3に書いてありますとおり,信託財産管理人を選任できる場合から,特約辞任及び承諾辞任の場合を除くことの当否を問うものでございます。


  第2に,前回の提案では,受託者が欠けた場合だけではなくて,職務を執行することが困難または不適当な受託者がある場合にも,信託財産の保護の観点から相当な場合には,信託財産管理人の選任の余地を認めることとするか否かについて検討することとし,検討の対象とする場合として,受益者が多数のため受託者を迅速に解任することが難しい場合ですとか,受託者が委託者及び受益者の同意を得られないため直ちには辞任できない場合などを挙げておりました。

  しかしながら,第6回会議におきまして,受託者としては,職務の執行が困難な事情が生じた場合には,原則として他人に信託事務の委託をすることができる反面,みずからは,その他人に対する選任監督責任を負うはずであるが,裁判所の監督に服することとなる信託財産管理人を選任してもらうことによって,みずからは責任を免れることまでも認めることが果たして必要なのかという問題指摘がされました。

  もっとも,他方におきまして,現に裁判所に対して受託者の許可辞任あるいは解任の申立てまでがされている場合におきましては,それにもかかわらずその受託者に信託事務処理を継続させ,あるいは選任監督責任を果たすべきものとすることが適当でない場合があることも無視できないと思われます。
  

そこで,このような相反する要請を調和する観点から,今回の提案におきましては,受託者について,職務の執行が困難または不適当な事情が生じたことのみをもってしては信託財産管理人を選任できる場合とはならないとした上で,11ページの※1にありますとおり,さらに裁判所に対して受託者の許可辞任または解任の申立てまでもがされた場合には,信託財産の保護のために必要があると認められるときには,信託財産管理人を選任することもできるとすることの当否について問うものでございます。

  なお,御参考までに,米国統一信託法典によりますと,裁判所は,受託者の解任の申立てについて最終的な決定を行うまでの間などに,信託財産または受益者の利益を保護するために必要とされる適切な救済を命ずることができるとされておりまして,この適切な救済の中には,特別受認者と言われる者を選任し,信託財産をこの特別受認者のもとに移して信託の管理・運営を命ずることや,受託者の職務の一時停止を命ずることが含まれるとされております。
 


 受託者に対して解任の申立てがされた場合に信託財産管理人の選任の余地を認めることは,このような統一信託法典の考え方との親和性があるようにも思われるところでございます。

  第3に,資料16ページ(注2)に記載いたしておりますが,信託財産管理人の選任の要件をどのように定めましても,これとは別個に民事保全法第23条第2項の要件を満たせば,受託者についても職務執行停止,職務代行者選任の仮処分が認められることとし,職務代行者の権限についても,信託財産管理人と同一とするなどしてはどうかという考え方を問うものでございます。
  


次に,提案2に戻りますが,(2)の信託財産管理人の権限についてでございますが,前回の提案では,信託財産管理人は臨時の受託者であるとの位置づけから,信託財産管理人の権限は前受託者と同一であるとした上で,不在者の財産管理人や相続財産管理人の場合などに準じまして,民法第103条に定められた権限を超える行為をする場合には裁判所の許可を受けなければならないものとし,必要があると考える場合には,信託財産管理人は,このような裁判所の許可を受けなければならない義務があるものと考えておりました。

  この提案に対しましては,第6回会議におきまして,信託財産管理人の権限をより拡大すべきであるとの意見と,より限定すべきであるとの意見との双方向の見解が示されておりました。


  そこで,改めて考えてみますと,信託財産管理人は,受託者が欠けた場合に信託財産保護のために,あくまでも一時的に選任されるものにすぎず,裁判所によって選任・監督され,信託財産の名義人ともならず,固有財産で責任を負うこともないなど,受託者とは大きく性格の異なるものであることにかんがみますと,信託財産管理人の権限を受託者の権限と同様とすることは適当ではないと考えられます。


  他方におきまして,取締役の職務代行者のように,原則として常務まで行う権限を有しているとしてしまうと,取締役と比較して受託者の事務が幅広いことが予想されるにもかかわらず,信託財産管理人に常務まで行わせることは適当とは言い難いように思われます。

  そこで,今回の提案におきましては,信託財産管理人は,臨時の受託者であるというよりは裁判所が選任した法定の特殊な財産管理人であると位置づけた上で,原則として,民法第103条に定められた権限を有するにとどまり,裁判所が必要であると考える場合にはこれを超える権限を付与することができますが,信託財産管理人には,原則としてこのような許可を求める義務まではないとの考えに改めたものでございます。


  このような考え方の当否について,意見をお尋ねしたいと思っております。
  

次に,提案3の信託財産管理人の義務でございますが,これも前回の提案では,信託財産管理人は臨時の受託者であるとの位置づけから,受託者の義務に関する規定を準用するものとした上で,受託者との性格の相違から生ずる差異につきましては,信託財産管理人の義務に関して特例を設けることによって対応してはどうかとの考えを示しておりました。


  しかしながら,第6回会議で指摘されましたとおり,このように考えますと,受託者固有の義務とは何であり,しかるに,信託財産管理人についてはそれをどこまで外すことができるのか,あるいは委任や代理,その他の制度における管理人はどうなるのかといった困難な問題に直面します上,先ほど申しましたとおり,信託財産管理人の位置づけやその権限が受託者に比してかなり縮小された性格のものであることにかんがみますと,信託財産管理人については,現行の非訟事件手続法の規定と同様に,委任における受任者の義務を準用するにとどめることが適当であると思われ,その旨の提案に改めたものでございます。その当否について,御意見を伺えればと思っております。


  最後に,細かい点でございますが,提案5の信託財産管理人の任務終了事由につきましては,辞任,解任,新受託者の選任の場合のほかに,信託財産を保護するために必要があると認められる事情が消滅した場合を新たに選任取消事由として,5の(3)の②として挙げているものでございます。

  以上で終わります。
● それでは,信託財産の管理人について御議論をお願いいたします。

● 極めて抽象的であることはわかるんですが,やはり受託者の全部または一部が欠けたときを前提としているということは,信託財産管理人というのは受託者--極めて抽象的,形式的であって実質は伴わないんだと思うんですが--になるという理解でよろしいのかどうかということ。
  


これが何に関連してくるかといいますと,弁護士等が信託財産管理人に任命されることもあるかと思うんですけれども,何らかの形で違うところに受託者を認識するという前提ですと,信託財産管理人として,管理人であるということだけですべてできるのかもしれませんけれども,例えば受託者が破産している場合の不動産についての信託の公示をするといったことが必要になってくると思うんですけれども,そのときにしっかりと権限が与えられていないと,これで十分なのかもしれませんけれども,信託の登記をするための手続の問題とか,場合によっては受託者のところに行って信託財産を預かるような行為とか,現実的にはもう少し対応が必要になるのかなと思ったりしたのと,形式的,抽象的にも受託者になるということであれば,包括承継なのかもしれませんけれども,その「信託財産管理人になった」ということによって,みずからが預かる財産として保存行為を粛々と行っていけばよいのではないのかな,かように思って,その辺でも多少分かれてくるのかなと思っての質問なんですけれども。


● 信託財産管理人の立場でございますが,事務局としては,受託者と同一ではなくて,あくまで新受託者が選任されるまで,前受託者がいなくなって新受託者が選任されるまでの一種つなぎ役であるという位置づけでございますので,受託者と同一の権限まで有させる必要はない。


したがいまして,この提案では,民法第103条に定めておりますような保存行為ですとか,あと権限の性質を変ぜぬ範囲内において利用,改良を目的とする行為,それだけできればいいのではないかと考えております。

  例えば登記をするということであれば,保存行為ということでいいと思いますし,もしもそれ以上に何かやる必要があるということであれば,そこは信託財産管理人を裁判所が選任するに当たって,第103条を超える権限を付与する許可を与える,そういう交渉というんですかね,選ばれる人との間で裁判所と意見交換をしていただいて,それらの許可を付与してもらうことによって対応していくことになるのではないかと思っております。


● 辞任による場合が除外されている点についてなんですが,辞任にもいろいろありますので,「やめてくれ」「わかった。では辞任する」「あんたには頼みたくない」そういう辞任もありますので,これをあえて除外しなくてもいいのではないかという気がいたしますが,いかがですか。


● そうですね,本当にいろいろなことがあり得ますね。


● ここは,提案では※3にありますとおり,裁判所が許可辞任した場合は含まないで,特約辞任と承諾辞任の場合を含んでいる。


ここは,辞任にいろいろな事情があることはもちろんかと思いますが,その権利・義務の関係だけで言いますと,前回提案いたしましたとおり,特約辞任,承諾辞任は前受託者と同一の権利・義務を負っているという立てつけをとっておりますので,そうすると,あえて信託財産管理人を選ぶまでの必要はないのではないかということで,除外しているということでございます。

  もちろん,それにもかかわらずというか,そうはいっても,辞任といってもいろいろな事情があるんだから,とりあえず含めた上で,保護の必要があるかどうかで判断していくべきだという考え方ももちろんあると思いますので,そこら辺についてはどちらがよいかという御意見を伺えればと思っております。

● もちろん,権利・義務についてはそれを前提で,この「信託財産を保護するために必要があると認められるとき」というところで判断すればいいのかなというのが私の意見です。

● 信託財産管理人の権限のところで,先ほど○○幹事から選任時に民法第103条を超える権限を行使することの許可をするというようなお話がありました。


確認なんですが,この許可は選任時にしなければならないという前提なのでしょうかというお尋ねです。


  信託財産管理人が何を許可していいのかというのは,許可を求める義務はないというところが資料に書いてはありましたけれども,裁判所から見ても,必ず選任時にこういう行為を許可しなければならないという形で信託財産管理人を選任しなければならないとなりますと,選任時において,この信託はどういう信託で,この人を選んで,この人にどういう許可をするかというのをすべてワンセットで判断しなければならないということなのか,それとも,むしろ選任後も含めて信託財産管理人と相談しながら,そういった許可を適宜与えていくというようなことをお考えなのかというのが,御確認させていただきたかった点です。


● その点は後者でございます。選任時に付与するという場合があるのかなと思って言っただけでございまして,むしろ今の話ですと,事務処理の過程に当たって許可が必要だということになれば,裁判所が途中で許可をするということは,もちろんあり得ると考えております。


● 先ほどの辞任のところで若干補足意見なんですけれども,例えば受託者に非違行為があって,本来は解任すべきだけれども辞任の形をとっている場合ですとか,あるいは,例えば受託者が事故に遭って,実際上,仕事ができない。

しかしながら,辞任の形をとるというような場合も世の中によくあることではないかと思いますので,やはりそういった場合も考えますと,辞任についても入れた方がいいのではないかと思います。

  もう一点なんですけれども,14ページの真ん中あたりのところで,民事保全法第23条の職務代行者の選任について,こういった制度を利用すればどうかということが問われているんですが,弁護士会等で議論している中では,この手続が,やはり裁判所を説得するのがかなり大変である,手続として重たいので,やはり職務代行者の選任というよりも,※1にあるような形で,この裁判所に対して辞任,解任の申し出がされた場合には,その同じ裁判所で選任していただくのがいいのではないかといった意見がありましたので,それもお伝えしたいと思います。

● 先ほどの御説明で,もう既に検討された上での御提案だと思いますので,私が今さら言うのはどうかと思いますけれども,確認の意味で発言させていただきます。

  それは,民法の受任者の義務にしたということで,何か義務を軽くしたというふうに聞こえたんですけれども,受任者の義務の方が受託者の義務より軽いのかどうかということ自体,議論の対象にはなると思うんですけれども,私が気になるのはその理由でして,信託財産の名義にならないというのが1つと,あとは,つなぎであるし,権限も限定されていると口頭での御説明と,ここに書いてある,あと裁判所の監督というか,選任,監督ということが書いてあるんですけれども,名義人にならないというのは,先ほども議論がありましたように,共同受託でAだけ名義人でも,BもCも受託者の義務を負うと思うんですね,


今度の姿の信託法によっては。ですから,名義人にならないから受託者の義務を負わないということには,恐らくならないと思うんですね。


  次に,権限が限定されているというのは,これは選任,監督の裏腹ですし,つなぎであることからいっても,暫定的なものであることは確かだと思うんですけれども,それは権限の範囲が限定されているので保存行為と言っていいのかもしれませんけれども,原則は。

その範囲において行ったことについての義務の深さというか─が受任者でいいという意味なんですけれども,ですから,これは結局受任者の義務でも十分なのかもしれない。

そんなに受任者の義務と受託者の義務が違うとは思わないんです。


  例えば,受託者がやめた。そこで,信託財産に金銭とか何かがあって,預金でもいいですけれども,そういうものを預かったりするわけですよね,さっきの保存行為で。


やはり分別管理してもらわないと困るのではないかと思うんですけれども,それが「いや,それは民法の受任者だって分別管理義務があります」という答えであれば,最初におっしゃった軽くした方がというか,軽くとはおっしゃらなかったと思うんですけれども,その方がちょっとどうかなと思うし,「いや,分別管理義務はないんです」と言うと,私は,やはりそれはつなぎであっても,信託財産をお預かりするなら分別管理義務は負っていただきたいと思うんですね。
  


ですから,何か誤解しているかもしれませんし,議論の結果,決まったことであれば申しわけありませんでしたけれども,ちょっとその辺は受託者と,類推適用と言うと……,何と言ったらいいんですかね,受託者と同等の義務でいいようにむしろ感じたものですから。それは受任者の義務でも同じ答えになるのではないかとも思うんですけれども,念のため。


● ここは,果たして受託者の義務と受任者の義務がどこまで違うのかというところがよくわからないという点がございますので,果たして受託者の義務を準用する,あるいは受任者の義務を準用するのでそんなに大きな違いがあるのか。


むしろそこは,あえて難しい議論をするまでもなく,非訟事件手続法が委任の規定を準用するとしているのでそれを踏襲しておけばいいのではないかというぐらいの考え方でございます。


とりあえず受任者の義務ということで考えておいて支障はないのではないかというぐらいのところでございます。


  ですから,いや,それはまずいんだ,ぜひ受託者とすべきだという御意見があれば,それはそれでまた検討させていただきたいと思っておりますが,どのように違うのかというところがそもそもちょっとよくわからないということがございますし,受託者ではないんだから受任者でいいのではないかという,ほかの制度もありますしというようなソフトランディングをさせていただいたわけでございますけれども。

● 確かに,先ほどは財産の名義がなくても受託者たり得るということは議論になりましたけれども,それは原則的な形というわけでは必ずしもないので,財産名義がなければ受任者というのが自然だろうというくらいの考え方で来ているんだと思います。


● 1点だけ確認させていただきたいのですが,あるいはできた後の解釈問題かもしれませんけれども,11ページの2の(2)にあります信託財産管理人の権限で,ただし書の方で裁判所が付与する場合ですけれども,かなり個別的な付与なのか,あるいはかなり包括的な権限付与もできるのか。

 

 例えば幾らまでの行為だったらできる,どんな行為でも,それは賃貸借でも売買でも構わないというような包括的なこともあるのか,それとも,この行為に限って権限を付与する,保存行為を超えるものをしていいということをお考えなのか。


かなり包括的なものができるようなことを考えておかないと不便ではないかと私は思うんですが,その辺はいかがでしょうか。


● 特に考えていたわけではないんですが,ここは不在者財産管理人とか相続財産管理人の場合がどうなっているかというところにもよりますが,結論的には後者で,別に包括的でも構わないものと考えております。そこは裁判所の裁量かなと思っております。


● 1点だけ確認なんですが,信託財産管理人というのは,信託を終了させる権限が民法第103条の権限として読み込めるかどうかという話でございます。
  


なぜこういう質問を差し上げるかというと,これは後ほど議論します信託管理人,また受託者監督員等の話にもつながってくるわけですが,当該管理人を行う担い手がどれだけ広がるかということにも関係しているのではないかということでございます。要は,一たん就任して抜け出せないということになってしまうと,なかなかなり手もないのではないか。


  

この提案では,確かに辞任というのがございまして,正当な理由があるときには辞任できるという話ですが,ただ,例えばですが,この信託財産管理人というのは,先ほどの御説明では一時的なものである,つなぎであるということだったわけですが,ただ,予想に反してずるずるとこういう状態が続いて,受託者もなり手がない,本当にない。

それで,もう信託の目的にあたわざるような状況になってしまうのかどうかもわからない。


または,その間に信託の財産がなくなって債務超過に陥ってしまうといったときに,やめることについて別に正当な理由があるわけではないが,信託自身をやめさせる必要があると信託財産管理人が判断した場合に,これが終了ないしは破産の申立てができるのかということです。


  細かい話で言うと,破産に関して言うと,第63のところで申立権者という記載がありますが,この前回の議論では,具体的には検討課題第7の5ページですか--にこういうことがありました。


信託財産の管理,処分を行うものとして,受託者または信託財産の管理人が存在する云々ということで,受託者の権限を持つというベースでは,恐らくこれは,例えば破産の申立権はあると考えていたように思うわけですが,では,今回の提案で,いわゆる民法第103条ベースの受任者という権限になったときに,狭まったのかどうかは別として,本当にこういう終了または破産申立てをすることができるのかどうかわからなくなったもので,お尋ねいたします。

● まず,前受託者の任務終了から1年以内に新受託者が選任されなかった場合につきましては,信託は終了するというような提案を第61の信託の終了のところでしておりますので,少なくとも信託財産管理人は,ずるずるいったとしても1年で任務が終了することになるということは言えるのではないかと思います。

  また,信託終了についての裁判所に対する申立権は,現在の我々の提案ですと,委託者,受益者または受託者としておりますので,確かにおっしゃるとおり,信託財産管理人が固有の権限として裁判所に対して終了の申立権を有しているわけではないとなっておりますが,現在我々が考えているところですと,先ほど○○幹事からお話がありましたとおり,裁判所と信託財産管理人が相談しながら,その権限の付与等をしていくということですので,必要があると認められる場合には,信託の終了についても裁判所の方から権限として与えることができるのではないかと考えております。


● 緊急性のあるもの,1年未満の場合には,やはり裁判所の許可を得て裁判所とともにやっていく,そういう運用を行うということですか。


● そうですね。当然には民法第103条には入らないと思いますし,当然の権限とはならないと思いますが,そこは許可を得てということです。


● 信託の登記の関係で,先ほど,信託財産管理人が保存行為として登記できるという話を○○幹事の方からされたと思うんですけれども,登記の申請人というのは登記名義人でなければならないとされておりまして,信託財産管理人は登記名義人ではありませんので,登記名義人でない信託財産管理人が保存行為として登記を申請できるということは,今までの登記実務でそれを認めた例はないので,信託財産管理人についても何らかの形で,ある場合には登記の申請をしなければならないといった必要性があるのであれば,何らかの対応をしなければならないのかなと思うんですけれども,現在の登記の実務では,信託財産管理人について,直ちに登記の申請を認めるというふうではないと思いますので,その点をつけ加えさせていただきたいと思います。


● どうしても必要ということであれば,何か対応しなくてはいけないということですね。
  それでは,信託財産の管理人については,このぐらいでよろしいでしょうか。


● 先ほどの登記についての件でちょっと気になるんですが,もし仮に登記をするとなったときに,名義人はだれになるんですか。

● 名義人は,前受託者ですね。そこは所有者ですので。
● それは,任務は終了しているんだけれども……。


● 所有権自体は残っていまして,新受託者が選ばれると,場合によっては戻しますということです。


● なるほど。わかりました,結構です。
● それでは,時間が中途半端だけれども,次の説明ぐらいまでは。


● そうですね,第47の信託管理人等については,また複雑なところですので,先に説明させていただきます。


  これは,現行法第8条の定める信託管理人制度を拡張し,その役割に応じて異なる3類型の制度を設けることを提案するものでございます。

  前回の提案におきましては,現行の規定について不特定または未存在の受益者がある場合に限って信託管理人を置くことができるとするのは,受益者保護の観点から狭過ぎるのではないか,信託管理人の権限に関する記述が不明確ではないかなどの指摘があることを踏まえまして,信託管理人を選任できる場合を,受益者が不特定・未存在の場合に限らないとすること,信託行為による選任,裁判所による選任,受益者による選任の3つの選任方法を認めること,いずれの選任方法による場合も信託管理人の権限は特に排除されていない限り受益者の権利全般,すなわち単独受益者権と意思決定権限の双方に及ぶこと等を骨子とする提案をしておりました。

  しかし,この前回提案に対しましては,第7回会議におきまして,特定の受益者が存在する場合に選任される信託管理人と,受益者が不特定・未存在の場合に選任される信託管理人とは異なる性格を有するのではないか,受益者が多数の場合に裁判所による信託管理人の選任を認める必要はないのではないか,受益者が信託管理人を選任できるというのは不適当ではないかなどの指摘がなされたところでございます。

  そこで,今回の提案では,前回に引き続き受益者の保護を重視する観点から,信託管理人制度について改めて全面的な見直しを行いまして,まず,受益者が不特定・未存在の場合に受益者を保護するための信託管理人制度,それから,受益者が特定・現存する場合に受託者を監督して受益者を保護するための受託者監督員制度,それから,受益者が特定・現存する場合に全部または一部の受益者にかわって受益者を保護するための受益者代表制度,いずれも仮称ですけれども,この3つの制度類型に分類して創設することを改めて提案するものでございます。


  まず,提案1の信託管理人でございますが,これは受益者が不特定・未存在の場合におきまして,自己の名をもって信託に関する受益者の権利全般,単独受益者権及び意思決定権限の双方を含みますが,これを行使するものと位置づけておりまして,現行法第8条の信託管理人と同じ趣旨でございます。
 


 なお,受益者が不特定・未存在である以上,信託管理人と受益者の権利行使の競合という問題は生じ得ませんので,この点に関する規律は設けておりません。


  次に,受託者監督員でございますが,これは受益者が特定・現存する場合におきまして,受託者の監督をより実効的なものにすべく,当該受益者のために,原則として共益的な権利である単独受益者権のみを当該受益者と重畳的に行使するものと位置づけております。

  なお,このような受託者監督員につきまして,信託行為による選任のみならず裁判所による選任を認めている趣旨でございますが,信託におきましては信託財産の所有権を受託者に移転しますので,受託者の権限濫用に備えた受益者保護のためのスキームを充実させておく必要性は,一般的に高いと言えますところ,受益者が受託者を十分に監督することができない事情が新たに生じた場合において,信託行為の変更の手続のみをもってしては的確に対応できなくなるおそれがあることにかんがみますと,裁判所による選任の方法も認めておくことが受益者保護の観点から相当であると思われます。

  もっとも,第7回会議で指摘がありましたところですが,受益者保護のための制度を設けるに当たっては,民法の成年後見制度や保佐制度等との関連も問題になり得るところでございますが,この受託者監督員の制度は本人の権利を制限するものではなく,むしろ,単独受益者権に限ってではございますが受益者と重畳的に,権利を行使することを認めるものでございまして,信託の受益者に特に厚い保護を与える必要性があるという観点からこのような民法とは異なる性格の制度を信託法上,設けることとしても,矛盾,抵触等の問題はないと考えるものでございます。

  以上のような考え方の当否について,御意見を伺いたいと考えております。
  次に,受益者代表でございますが,これは受益者がやはり特定・現存する場合におきまして,受益者の全部または一部にかわって信託に関する受益者の権利,すなわち単独受益者権と意思決定権限の双方を行使するものと位置づけております。

  この受益者代表は,単独受益者権を行使することもできるものとして提案しておりますが,むしろ受託者に対する監督上の必要性を要件としないでこの類型を設けることを提案しています主眼といいますのは,特に受益者が多数に上る信託におきまして,共同受益者による意思決定及びこれに基づく信託事務の処理を円滑に行うことができる手段を設けることを通じまして,いわば間接的に受益者の利益を保護しようという点にございます。

  そのような意味におきまして,この受益者代表というのは受託者に対する信託法上の監督機関というよりは,複数受益者の代表者という性格が強いものであるとも言えるかと思います。


  この受益者代表につきましては,受託者監督員の場合と同様に,受益者が特定・現存する場合でございますので,そもそも受益者代表の権限から外れることとなります(2)ア①ないし③の信託行為をもって除外した場合ですとか,あるいは配当受領権のようなものを除きまして,やはり受益者との権利行使の競合関係が問題となります。


  この点につきましては,まず,単独受益者権につきましては,権利の重要性や緊急性にかんがみまして,前回の提案からは除外していた損失てん補等請求権や信託違反行為の取消権も含めて重畳的に権利行使できるものとするということ。


他方,意思決定権限につきましては,これを重畳的な権限としたのでは,意思決定内容が異なる場合に受託者としては判断に窮することが予想されまして,せっかく信託事務処理の円滑性確保のために受益者代表制度を設けることとした趣旨に反したこととなるおそれがありますので,受益者代表のみが専属的に権限を行使できる,すなわち受益者代表だけで意思決定できるものとすることを提案しているところでございます。
  以上についての当否について,御意見を伺えればと考えております。
  

さらに,この受益者代表につきましては,今回,信託行為による選任を認めるにとどめまして,裁判所による選任を認めないとすることに提案を改めております。


これは,第7回会議での指摘を踏まえまして再検討いたしました結果,受益者が多数に上る信託での信託事務処理の円滑化については,信託行為において多数決制度を採用し,あるいは受益者代表を設けるなどの私的自治による自主的な解決にゆだねるべきであって,受益者の意思決定権限を吸収してしまうこととなる受益者代表を裁判所が選任することは適当ではないと思われたからでございます。


  なお,前回の提案におきましては,信託の基礎的な変更,例えば信託行為の変更ですとか信託の終了などに関する受益者の意思決定権限については,受益者が特定・現存する場合には,信託管理人ではなく受益者が行使するものとすることが相当ではないかとの指摘があることをお示ししましたところ,この指摘につきましては,今回の提案に係る受益者代表についても同様に当てはまるところだと思います。
  前回の提案の際には,事務局といたしましては,契約自由の原則に照らせば,このような意思決定権限を第三者に与えることも可能であることにかんがみますと,第三者に与えることもできるんだから前回の提案ですと信託管理人に対して,かかる意思決定権限を専属的に委ねることも可能であるとした上で,受益者の保護については別途,反対受益者の受益権取得請求権に関する規律をもって対応してはどうかとの考え方を一応示したところではございますが,反対の考え方も示されたところでございまして,なお引き続き御意見を伺いたいと思っております。

  最後に,前回の提案におきましては,受益者による信託管理人の選任に関する規律を設けるか否かについては要検討事項としておりました。


この点につきましては,委託者の意思をも反映して,信託行為の定めによる場合であればともかくとして,受益者の意思のみによって受託者監督員または受益者代表を選任できるとするまでのニーズがあると思われないことですとか,第7回会議において,受益者の意思による選任を可能としてしまうと訴訟信託と類似の問題が生じるおそれがあるとの指摘があったことを踏まえまして,今回の提案からは,受益者による選任というものは削除しておりますが,その考え方の当否について御意見を伺えればと思っております。
  とりあえず,以上でございます。

● それでは,議論が途中になるかもしれませんけれども,しばらく御議論いただければと思います。いかがでしょうか。


● 全般についてなんですけれども,まず,第7回の御提案と比較いたしまして,信託管理人というものが,現行法と同じ役割を持つ信託管理人と,受託者を受益者と併存的に監督する受託者監督員,それと単独受益者権を除いて受益者の権利を専属させる,まさに受益者の代表としての受益者代表というんですか,この3つに役割を分割させたことについては,基本的にはその考え方は理解できるわけですけれども,実務上を考えてみますと,特に現在の信託管理人の利用のされ方というところから考えますと,信託管理人と受益者代表との狭間がよくわからない部分がありまして,場合によっては不都合なところが出てくるのではないかと若干の懸念をしております。


  例えばということですけれども,現行法のもとで考えますと,年金信託等につきましては,受益者が不特定であると認識して信託管理人という形のものを置いておりますけれども,今般の提案では,それと同様に考えて信託管理人を置くのか,それとも,同じように考えたら受益者代表になるのか,その辺のところが1つよくわからない。

  それと,分析して考えると,年金の場合は特定している人もいると,不特定と言うと……。


そうすると,併存させないといけないのかといった考え方もありますし,例えばそれは兼務させることができるのか,その辺もあろうかと思います。

  あと,信託管理人の選任後,受益者が特定する,当然不存在のものが存在するということは当然あるわけですけれども,そのときに信託管理人が職務を遂行できるのかどうかが問題になると思います。


現状の実務でいきますと,例えば社内預金引当金信託とか顧客分別金信託というのがあるんですけれども,その場合については,信託管理人が元本受益権を行使して信託財産をまず受け取って,それを確定した受益者に分配していく,そういう役割を負っているわけですけれども,その職務が遂行できないことになりますと,そういうことができないということで,これは信託契約に書けばいいということであれば,それはそれでもいいのかもしれませんけれども,その不特定・未存在というものをすごく厳格に解すると,実務上ちょっと苦しいところが出てくるのかなと思っております。


  それでは,信託管理人ではなくて受益者代表だと考え方を変えてみますと,3の(2)のアの②で,受益者代表の権限のところから信託の利益を受領する権利というのが排除されていますので,みんなのかわりに信託財産を受けるといったことができなくなりますが,このタイプの信託というのは割とこれから増えてくるのではないかと思いますので,その辺の不都合があるのかなと思います。


  ただ,ここは別の契約を締結すればいいという考え方もあると思いますけれども,どうもここの書き方は強行規定的な感じがしますので,ここら辺のところが強行規定的に入ってしまうと,ちょっと困ることになりますので,この辺の御対応をお願いしたいと思います。


● 何点にもわたる御意見でしたが,いかがでしょうか。
  


年金信託が非常にわかりやすいんですが,ああいうのは一体どこに入るんだろうかということですね。私もそれはちょっと疑問に思っていたんですけれども。

● 1つは,先ほど○○委員がおっしゃったとおり,この3つの類型がどういう関係になっているのか,実務的な観点からするとちょっとわかりづらいということでございます。

例えば,極端な話,この3つの制度を同時に入れることが可能なんでしょうか。


例えば,特定の学校の卒業生のために信託をします。将来の卒業生のために,これはまだ決まっておりませんので,信託管理人を選任する。


そして卒業生全体のためには受託者監督員を入れます。そして,例えば卒業生のうち特定の一部の人,例えば外国に行ってみずから権利を行使できない人のために受益者代表を置くといったことが一応想定されているような,つまり,この制度は重畳的なものと併存的なものとして設置するものと想定されているのかどうかといったことがわからないということでございます。

  2つ目に,先ほどの私の担い手の話につながるわけですけれども,すなわち第47と関係し得るわけですが,これらの責任について2つございまして,1つは,この責任については基本的に民法の委任の規定を準用するということでございますが,これはデフォルトなのか,または裁判所が選任する場合に,その点について変更を行うことができるのかということでございます。


例えば重過失のみに限るとか,そういうことができるのか。

  と申しますのも,やはりいろいろな信託のタイプがございまして,特に事業信託で今回,入れようとしているとか,また再生ファンドであるとか,非常に裁量が多い,高度な判断を要求されるものが今後,出てくるかなと思っております。


他方,そういうものは非常に裁量が多いだけに責任が重いということになりますと,ある程度責任を明確化ないしは限定化しないと担い手が出てこないかなと思っております。


  また,例えば金融商品的なものになりますと,受益者代表において複数の投資家で証券化を行うときに,集団的な権利行使をするためには便宜的に,あたかもローンマーケットにおけるシンジケーションのように,エージェントという形で受益者代表を置くことも考えられると思うんですが,そういうエージェントの今のプラクティスというのは非常に機械的でございまして,例えば意思結集のために質問状を出して,賛成票があればその賛成票に従って,それに対して行為する。その行為については免責されるといったことがございます。


  よって,受益者代表といっても,すべて任されるというのも非常に酷なこともございますので,そういった,ある程度のプロセスを経て,その後は免責されるというタイプもあるものですから,そういう余地を,ここの権限ないし義務というところでデフォルト化できないものかどうかということでございます。
  


2つ目に,これも第47と関係するわけですけれども,報酬と費用償還請求権のお話なんですが,これは受託者の補償請求権のところで議論したことがそのまま置きかわるのかどうかという話ですが,すなわち費用償還請求権について,優先権がここでもあるのかどうか。この御説明書では,そこまで言及がないように見えますけれども,そこがどうなのかということです。
 

 仮にそういう優先権があった場合に,では,受託者とこれらの新たな3類型の先取特権間の優先関係がどうなのかという細かい問題も出てきていると思っております。
  総論的なところで,3つ御質問いたしました。


● これはまだまだ議論しなくてはいけない点がたくさんありますが,少し休憩してから再開したいと思います。
            (休     憩)

● 時間が参りましたので,再開したいと思います。
● それでは,先ほど○○委員と○○委員からお話があった件について,お答えしたいと思います。


  まず,年金信託のようなものは1なのか3なのかどうもはっきりしないというお話がありました。結論的には,これは我々としては3の類型だと考えております。


1の信託管理人の類型で,不特定・未存在の場合というのは,典型的には,例えばこれから行われる大会の優勝者が受益者として指定されているときですとか,あるいはこれから産まれてくる子供などを念頭に置いておりまして,受益者複数の年金信託につきましては,その一定の時点をとらえますと受益者が特定しているとも見られますので,受益者が不特定または未存在の場合という類型には含まれてこないと考えております。


  ただ,「不特定」という言葉で,今,申し上げたような意味まで表せるかどうかについては,今後なお検討はしていきたいと思っておりますが,仕切りとしては,そういう理解でございます。
  

それから,信託配当と申しますか,受領権について支障が生ずるのではないかという御指摘がありましたが,ここは我々としては,先ほど○○委員からも御示唆がありましたとおり,信託外でそのような受領権を与える契約を,従業員と例えば受益者代表の間ですればいいのではないかということで,ここで受益者代表というのは,単独受益者権,あるいは複数受益者の場合の意思決定権をかわりに行使する,それによって受益者の便宜に資するという,いわば共益性を有する立場に立つものでございまして,その中に,信託行為をもって純粋に自益的な配当受領権を行使できるということを持ち込むのは,いささか異質なことを持ち込むことにもなって,妥当ではないのではないかと考えております。

  やはりこの点は,書いてはございませんが,別途契約をすればそれによって配当受領権を受益者代表は行使することができるという理解でいいのではないかと考えております。


  なお,誤解でなければ,先ほど受益者不特定・未存在の場合について,現行の信託管理人については配当受領権があるのではないかというお話があったかと思いますが,解説書などを見てみますと,信託管理人については,やはり配当受領権というものはないのであって,その場合の受益者に供すべき信託利益については,受託者が保管しておくべきではないかというような記載がございますので,信託管理人についても受益者代表についても,我々としては,信託行為で配当受領権を付与することは考えられないと理解しているところでございます。


  あと,特定・現存した場合はどうなるかということでございますが,これは,任務終了事由についてはざくっと書いてあるだけでございますけれども,受益者不特定・未存在という場合が事務局の提案で言う信託管理人の選任要件でございますので,特定・現存するに至った場合には,何らかの手続を踏むかどうかは別として,任務終了事由になるだろうと考えております。

そうしますと任務終了してしまいますので,それ以降は権限を行使できないことになると思います。


  ただ,信託行為をもって信託管理人を定めている場合については,例えば特定・現存する場合においては信託管理人の任務が終了するという立場に立った場合には,今度は受益者代表として権利を行使できるんだというようなことを書いておけば,切り換えることはできるのではないか。信託行為の定めによるときは,そのような手当をもって対応することができるのではないかと考えております。

  それから,○○委員から御指摘がありました3点でございますが,まず,3つの関係は併存的かどうかということでございます。


  これは,1の信託管理人は受益者が不特定・未存在の場合で,2,3は受益者が特定・現存する場合ですので,1と2・3は併存しない。2と3は併存し得るということですので,例えばある特定の受益者について,受益者代表も選び受託者監督員も選ぶということも,信託行為で定めれば可能と考えております。


  もちろん,裁判所による場合には少し,保護の必要があるときとか要件がありますので,重複して選任する場合はないのではないかと思いますが,信託行為で定めれば,重複して定めることはできるだろうと思います。
  あと,誤解でなければ,例えば産まれてくる前の子供と産まれている子供といったときはどうかということですが,産まれてくる前の子供については,例えば信託管理人を選ぶ。


そして産まれている子供には受益者代表を選ぶ。それは1つの信託だけを見れば重複しているわけでございますが,ある特定の人を見た場合には1人しかいないわけですので,やはり制度の重複ということは,ある特定の受益者についてはないという理解でございます。

  それから,責任はデフォルトかどうかという点については,これは信託行為で定めている信託の受益者代表ですとか受託者監督員については,軽減はできるのではないかと思っておりますが,裁判所の選任についてできるかどうかというと,なかなか難しいと思います。裁判所の方から御意見を伺えればと思うところでございます。
 

 最後に報酬,費用の関係でございますけれども,費用についての優先権という話だったかと思います。


  これは結局,必要費・有益費,信託財産の価値増殖につながるものであれば優先権があるという理解でございますので,信託財産管理人は非常に認めやすいわけでございますが,信託管理人は受益者のかわりに単独受益者権とか信託の意思決定権を行使するのであって,ちょっと局面として信託財産の価値増殖ということが考えにくいなと。


万が一あって,それはやはり原則どおり必要費・有益費であれば優先すると言えそうでもありますが,しかし,債権者との関係まで優先すると言えるかどうか,価値増殖ということを言えるかどうか,なお考える余地があるかなという気がしております。

  報酬につきましては,信託債権者よりは劣後するのではないか。


しかし,社債に関する規定などを見ますと,受益債権よりは優先するのではないか。

受託者の権利と報酬の権利の優先関係については,ちょっとまだこちらは十分検討しておりませんので,また今後検討していきたいというところでございます。
  とりあえず,以上でございます。


●いかがでしょうか。引き続き議論をお願いいたします。


● 今,○○幹事から御回答をいただいたところで,再度確認……,ちょっと聞き漏らしたんだろうと思うんですけれども,信託の利益を受領する権利について,信託管理人については,例えば現行法においても,多分,法律上の問題として受領する権限はありませんということだろうと思うんですけれども,別にこれは,信託契約に書いた場合においては受領できると。

現行法にもそうだし,今,御提案されている信託管理人においても,そこは受領できるということでよろしいのかどうか。

  同時に,受益者代表について,ここで排除していますけれども,信託契約に書けばそれは認められるということなんでしょうか。

それとも,それとは別の概念として,別のところで契約を締結していないとだめなのか,そこら辺のところを再度お願いいたします。


● 信託行為などで定めると,どこまでできるかですよね。


● 割と最近の,例えば財産を保全するようなタイプの信託は,一括して信託管理人が受け取って,それをそれぞれの保全するところの受益者に対して分配するという形のものが増えてきておりますので,信託管理人の役割というのは,そういう意味合いでかなり重要な部分がありまして,そういうタイプのことを考えると,やはりどうしても必要なものですから。

● 今の例ですと,年金みたいな場合もあり得る。要するに,むしろ受益者が決まっているという……


● 年金というよりも,一括して,例えば……

● 多数の受益者等がいる場合ですね。

● そうですね。多数いて,その委託会社が倒産したらその財産を--例えば従業員の預金を保全するための信託等の場合において,例えば委託者が倒産しました,そのお金を一括して信託管理人が一たん受け取って,それぞれの従業員の預金に応じた形で分配していく。


その場合は,そういうコントロールする人が必要になってきますので。

● これは私の個人的な感想ですけれども,もし信託管理人がそうやって信託財産を受け取るといった形になると,少なくとも現行法は,信託管理人について受託者と全く同じほど強い義務などを負わせていないので,やはり適当ではないのではないかという気がするんですね。

財産を受け取って,また受益者に渡さなくてはいけないわけですから,倒産隔離はもちろん,結局,受託者とほぼ同じルールが信託管理人に適用されないと問題ではないかと思って,そういう意味で,信託財産そのものの給付を受けるのは適当ではないのではないかと思っているわけですけれども,しかし,いろいろな考え方があるかもしれませんね。

● ○○幹事からありましたので。
  信託管理人等の責任の範囲を,裁判所の選任による場合にいろいろ動かす,デフォルトにすることができるかというお話でしたが,一般的には,裁判所が選任する種々の機関というのは権限,義務,責任が法定されていて,それがワンセットとなったものを選ぶということではないかと思っています。

例えば,破産管財人を選ぶときに,否認権を行使すると大変だからこの破産管財人については否認権を行使しなくてもよいといった選任ができるかというと,やはりそれは破産管財人というものの趣旨からして問題ではないかということになってしまうのではないかと思われます。

  そういった義務と責任が一件一件ごとに変わり得るとなりますと逆に,裁判所が選ぶ立場になりますと,この信託管理人については,このぐらいの責任でということを逐一考えなければならなくなって,今度は選ぶ方で渋滞してしまうことにもなりかねないという面もあるのではないかと思った次第でございます。個人的な感想でありますが。

● ○○委員からお話があった配当受領権の問題の理解の仕方でございますが,○○委員の御質問は年金信託が念頭で,我々は,年金信託については不特定・未存在ではないと仕切ったわけでございますが,現行法は第8条しかないので,これも信託管理人と言ってやっているんだろうということで,我々の提案で言えば,年金信託の信託管理人というのは受益者代表の仕切りの中で考えていくことになるんだろうと思います。

  その上で,では,この受益者代表に信託行為をもって配当受領権を与えることができるのかというと,それは先ほどちょっと申し上げましたが,やはり制度趣旨から見て,そのような純粋に自益的な権利を受益者代表に信託行為をもって付与するのは適当ではないだろうという理解でございます。

ですから,もしもそういう必要があるのであれば,これはいわば信託の枠外において,個々の従業員と受益者代表の間で別途,受領できるという契約をしてもらえばいい。
 

 現行法では信託行為でやっているということでございますけれども,我々の提案のもとでは,年金信託の場合についてはそのようなやり方をとっていく方が適当ではないかという理解でおります。

● 1つは先ほどの,信託行為の定めで受領権者を定められないかという話。


それは確かに「受益者代表」という言葉遣いをすると,受益者代表の観念からは外れるような気もするのですが,より一般的に,ある種の給付をするのに,この人に給付をするということでその債務者--この場合,受託者ですが--の債務が理解されたことになるということはあり得るわけでありまして,一般論としては別段,労働基準法のように,本人に対して金銭を渡さなければならないとなっているわけではないと思うので,妨げることはできないのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。


  第2点は,先ほどから裁判所により選任された管理人等について,責任を弱めることはできないのではないかという話なんですが,できないというのは,私は,そのとおりだろうと思います。

  しかし,それでは信託行為の定めによる場合は自由にできるのかといいますと,私は,そうも言えないのではないかと思います。


もちろん,信託行為の定めによってするときにはできるという考えもあり得るんですが,できるとするならば,信託行為の定めによって信託管理人等が選任されていてもなお,裁判所が信託管理人等を選任することがあり得ると考えなければおかしいのではないかと思うんですね。

つまり,選任されているから裁判所は選任しないというのは,その人が完全に守ってくれるという状況にあるからでありまして,それが責任が弱められていることによって受益者の利益を守ることができないとなりますと,今度は信託行為によって定められているんだけれども,なお裁判所が選任するというふうに考えなければならないのではないか。
  こちらは意見ですが,述べておきたいと思います。

● 既存の信託管理人として年金の例が挙がっていますけれども,私が認識しているものとして,流動化の中で,信託管理人を置いているものがあるんですね。

ちょっと特殊なスキームかもしれませんけれども,住宅ローンの証券化で,それが他益信託構成をとっていて,他益信託の受益権は実質担保になっています。

不特定という認識だと思うんですけれども,受益者を取りまとめる立場としての信託管理人。


  それはそれとして,今後の展開はちょっとわかりませんけれども,セキュリティ・トラストの議論があったと思います。


場合によっては,セキュリティ・トラストの受益者を取りまとめるような趣旨での信託管理人というのも,この場合,信託管理人ではなくて受益者代表になると思うんですけれども,そういうような使われ方もあるのではないかと思います。
  


そこからなんですが,そうすると,では,信託契約の定めに従って何が論点になるかというと,やはりどの程度,基礎的な変更というのは「基礎」の概念によりますし,また,それもできるという理解がいいのかどうかというのはありますけれども,場合によっては信託契約を変更するような状況が出てくるかもしれませんし,または受益者間において利害が対立しているときですね,受託者みずからだけでは判断できないときに,受益者代表ということで判断するような状況もあるかと思うんですね。
  


ですから,そういうセキュリティ・トラスト的な視点からすると,先ほどからの議論の中で,受益者代表が信託行為によって,どこまで何ができるのかという議論が中心だったかと認識していますけれども,信託行為の中で定めることによって,ある程度柔軟に対応できるようにしていただいた方が,そういう意味においての使われ方においては,恐らく紛争を未然に不防いだりとかできるのではないかと思います。

● 先ほどの○○委員と○○幹事のやりとりで,ちょっと私,よく理解できていないのかもしれませんけれども,配当を受け取って渡すというようなことが,なぜいけないのかというのが私にはよくわからない。
 


 信託財産そのものを管理し始めると確かに受託者になるということで,これはニワトリと卵の話なので,それなら受託者と同じに動かしたらどうでしょうかという,さっきの信託財産管理人と同じような話になるのかもしれませんけれども,受益者代表を定めておいて,信託の配当というんですかね,何にせよ,受領して渡しますというニーズは結構あるように思うんですよね。

そのときに,それは制度の趣旨に反します,ですから外でやってくださいというのは,制度を変えようとしているときに何かちょっと気持ち悪いなと。


外でやってくださいと言うなら,「中でやっていいけれども,こういう条件を満たしてやってください」という制度にした方がいいような感じを持ちます。

● 受益者代表というのは受益者の利益そのものを,信託行為で設定するので個々の受益者の合意はないかもしれないけれども,受益者の代表として受領できておかしくないではないかということですよね。
  いかがでしょうか。


● 事務局といたしましては,信託行為に書くということのみをもって受益者から配当を受ける権利を吸収することができていいのかどうかいう点を問題にしておりまして,先ほど事務局の方からありましたとおり,信託行為の外で,各受益者の個別の同意をもって代理受領権を信託管理人ないし受益者代表に与えることは当然あってもいいと思うんですけれども,ここで問題としておりますのは信託行為に書くだけで,いわゆる他益信託の受益者から配当を直接受ける権利を奪っていいのかどうか,そういう点に問題があるのではないかということでございます。

● そうしますと,私がちょっと誤解していました。
  

私は,信託行為において受領権を与えてもいいのではないか,そのニーズはあるのではないかと申し上げたんですけれども,その場合には,ですから併存するというつもりでいたんですね。


奪われるのではなくて。個々の受益者は受領権は持ち続けるけれども,まとめて受け取りますということは信託行為に書いてもいい。ですから,ちょっとカテゴリーを読み間違えていたのかもしれません。

● 受益者自身がどういう権限をなお持ち続けるのかということとも関係するんですよね。


  ここら辺は理論的に,必然的に「こうならなくてはいけない」というものではないので,皆さんのいろいろな御意見を伺った方がいいと思いますけれども。

● いつも同じことを申し上げて恐縮なのですけれども,受益者代表の権限に関しまして,特に基礎的変更に係る権限についてなのですけれども,これまでの御議論では,基本的にそういった重大な変更については受益者全員の合意が必要であると。


しかし,受益者集会を設けた場合には,例えば特別決議で行うことができる,こういう前提で考えてきたと思うのですけれども,例えば信託行為の定めの中で,一部,その3分の2まで達しない,例えば10%なり20%なりの受益権を持つ者を受益者代表に決めておいて,その者が信託の基礎的変更についても決定するとなると,先ほどの,受益者全員の合意が必要であるとか受益者集会の特別決議が必要であるというルールにやや矛盾するかのような感じを受けるのですけれども,これはどのように説明がなされるのでしょうか,お聞きできればと思います。


● 今の点に関することなんですが,やはり基礎的な変更を受益者代表が比較的自由にできるとなると,これはやはり受益者の立場からすると,予測の範囲外と言うとあれですけれども,受益者の合理的な予測から外れたこともなし得ることになってしまうのではないかと懸念します。

受益者のある程度の予測可能性を確保するという観点からすると,やはり受益者代表の方が基礎的な変更権まで持つというのは,やや問題ではないかと思います。
 


 特に,この受益者代表は,御提案の中身ですと忠実義務ではなくて善管注意義務を負うという形になっていますので,忠実義務を負わない受益者代表にそこまで広い権限を与えていいのかなと考えています。
  その点,意見申し上げます。


● ある種の共通する問題ですけれども,受益者代表にどこまで強い権限というんでしょうか,与えていいのかという問題ですね。
  何かありますか。


● ○○幹事と○○幹事の御指摘は,我々としても,そういう問題があるということで,むしろこの審議会の場で,どこまで権限を与えるべきかぜひ御議論いただきたいと思っているところでございます。
  

一応事務局の方で示している一つの考え方は,変更権限なども受益者代表に与えていいのではないかという方の理由からいたしますと,1つは,第三者に変更権限も与えられるんだから,受益者代表に変更権限を与えることがなぜ妨げられなければいけないのかという点がございます。

  それから,それによって不利益を被る受益者というのは出てくるわけでございます。


そこは変更の内容にもよりますけれども,受益権取得請求権の方をもって保護することでバランスをとっていくという考えでいいのではないかというのが積極説からの理由でございます。

もちろん反対説もあり得ると思いますので,ぜひともより一層御議論いただければと思います。


● 第60の,反対受益者の受益権取得請求権の議論ともつながる話だと思いますけれども,やはり私としては,信託行為である程度書いたものについては,デフォルト化は認めていただきたいと思います。


そういう信託を前提に権利・義務関係に入ってきたものでございますので,基礎的な変更とかそういうものはございますけれども,そういうものを含めた信託行為だということで,そういう権限も受益者代表に委任できるといったことを基礎にするのが適当ではないかと思っております。


  次に,反対者に対する受益権取得請求権の話で,これも第60の議論と同じになりますけれども,やはりそこについてもある程度,強行法規化は避けるべきではないか。


もちろん,そういう必要があるのであれば,そういうふうに信託行為に書けばいいのではないかと思っています。


そこは議論の対立があるところだと思うんですが,1つ,何といいましょうか,創造的なといいましょうか,前向きな話として,そういう受益者代表に対して信認が置けない状況になった場合に,個別の受益者が自分の分について,受益者代表の権限を取り消すことができればいいのではないかと思っているわけです。
  


この説明ではそこら辺がよくわからないので,逆に御質問したいところでありますけれども,確かに,この説明書の中では受益者代表を解任するといったことが書いてありますが,これはどちらかというと,受益者代表自身,いえば当該対象になっている受益者全員との関係で,解任とかいうことをイメージしているのではないかとも読めるんですね。


ただ,個別の受益者にとってもうこの代表は認められないということであれば,もちろん遡及効はないということだと思いますけれども,その後,発生する行為について自分で行使する,代表には任せないといったことができるのがいいのではないかと思っておりますので,その点について御質問したいと思います。

● 今までいろいろな問題が出てきましたけれども,受益者の権限が完全に残っていれば,受益者代表を定めた場合。


そうしたら,積極的に権限を行使する必要性が出てきたときに各受益者が自分で権限を行使すればいいので,それなりに保護の手段が与えられているわけですけれども,ある程度専属的に受益者代表に権限を与えてしまうとなると,余り強い権限を与えるのはどうかという問題が出てくるわけですね。
  


それから,仮に受益者代表権限を個別に奪うことができるとなりますと,これもある程度は解決になるんでしょうけれども,いろいろな複雑な問題も出てくるような気がいたしますし。
  何かございますか。

● ここでの解任というのは,受益者代表の立場自体を奪ってしまうことを考えておりまして,個々の受益者ごとに解任するというのは問題があるのではないか。


というのは,ここで受益者代表を認めておりますのは,単独受益者権ということもありますが,信託事務処理の円滑化ということがありまして,意思決定権限を代表して行使することによって信託事務処理を円滑にしていきたいというのが主眼の1つでございます。


  そうすると,受益者の1人がその者との関係で受益者代表を解任することができるとしますと,結局もとの木阿弥といいますか,その人の合意とほかの受益者代表の合意とが必要になってくると,結局,信託事務処理の円滑化に資さないことになってきますので,制度を認める趣旨からすると,一たん選んでおきながら受益者ごとにばらばらに解任できるというのは問題ではないかという気がしているところでございます。ですから,そういう制度は今のところ考えていないということでございます。

● ちょっと関連するかどうかわからないんですが,基礎的変更の話に戻るかもしれませんけれども,大体これ,受益者がどのぐらいの数のことを……。
  


ロジカルには両論あると思うんです。10人,20人ならという場合と,何万人といて,例えば今,兼営法の第5条の3で処理している合同運用金銭信託,これの契約を変更しましょうと。


現在,大臣が認可して終わりと。「文句ある人は言ってきてください」と言って,文句のある人が言ってきたときにどうするかは法律に書いていない。

こういうのは多分,廃止してほしいと思うんですけれども,そういう兼営法第5条の3も引き取って,何万人といるようなものをここでも考えるのか,そういうのはやはりあっちでやってくれ,信託法の方では余り……,さらにそういう特別法が,場合によっては大臣の認可だというようなものはありなんだという前提で物事を考えているのか,それによって設計が違ってくると思うんですけれども。

● 年金信託の場合に,今の信託管理人,新しい提案で言うと受益者代表になりますけれども,年金信託の場合だと過去の退職者が含まれますから,個々の年金によって違うと思うんですけれども,かなりの数ではないかと思うんですね。

  恐らく,ここは違うのかもしれませんけれども,年金信託契約というのはそんなに詳細が書いていないことも多いと思うので,解釈論とか,新たに決めなければいけないこととか,たまにはあり得ることだと思います。


そのときの,今の○○委員の投資信託もそうですし,年金の場合も,やはりかなりの数を念頭に置いて,信託の効率性といいますかね,効率化,それからあと,受託者監督員と重複した議論になってしまうかもしれませんけれども,やはり数が多いということになりますと,逆に受託者の方が楽になるというんでしょうかね,少数の対立関係であればしっかり通知されるところを,しっかりした人が信託管理人になることによって,実質この受託者監督員と同様な役割も果たせるのかなと思います。

● 重複してしまったら申しわけございませんが,1つは,先ほど○○幹事の方から,1人について取り消すと円滑化に支障があるという御指摘で,それはまことにそうだと思うんですが,他方で,25ページの3の(1)で「受益者の全部又は一部のために」選任できるとなっておりまして,幾つかの利害グループごとに複数の受益者代表があり得るという制度設計かなと考えておりますので,そんなにこだわらなくていいのではないかという気がいたしました。
  

もう一つ,言葉遣いなんですが,「受益者代表は,受益者以外の者がなることも可能である」と26ページの※6に入っております。そうすると,「代表」という言葉が適当かなという気がします。


というのは,代表というのはみんなの代表だからいいではないかという気がするんですが,それ以外の者にならせるということだと,むしろ「代理」と言う方が実態に即して明確になるのかなという気がいたします。

● ごもっともな御意見のような気がしますね。


● 先ほど○○委員とか○○委員からおっしゃっていただいたように,信託の実務からしますと,やはり何万人とかというスキーム,特に受託者側から提供しているような集団のスキームというか,「こういう形で運用したいんです」と提供しているもの,そういうタイプについては,基本的には受託者の方がリーダーシップをとっていろいろな変更をしていく,それに対して受益者の方がのっていくか,のってこないかといったことではないかと思いますけれども,その際に当然,勝手にやってしまうということではなくて,受益者の代表をする受益者代表という人であるとか,多分次回議論されると思いますけれども,受益者複数の場合の意思決定方法というのがあって,それによって決せられる。

  それについては非常にいろいろなパターンのものがありますので,それに応じた形のものが受け皿として必要だろう。

そういうことからしますと,やはり基本的には受益者代表という人に決定してもらって,それが基礎的なところに当たるものについても,集団スキーム的なものについては,やはりそういう形でないとなかなか対応できないということではないかと思います。

  すべてのタイプの信託がそれに当たるかどうかはよくわかりませんけれども,数万とか数十万とかということもありますので,そういうことについては対応がなかなか不可能ではないかと思います。

● 今,いろいろ御意見がありましたように,受益者の数がどのぐらいの信託を考えるか,あるいは受益者と受託者の間で何が問題となっているか,給付が問題となっているのか,あるいは監督的な権限の行使が問題となっているのか,変更の際の同意とか承諾が問題となっているのか,そういうことによって微妙に違うような気がするんですね。


  その問題と関連して,この受益者代表の権限が専属的な権限なのか,あるいは受益者にも権限が残っているのかとか,どうも皆さんの御意見では,受益者代表というところにもうちょっと議論しなくてはいけない問題がある。


  また,これも皆さんの御意見,みんな同じ方向というわけではなくて,両方の御意見があったと思いますので,そこら辺を少し整理して,もう一度議論していただく機会があるのではないかと思いますけれども,いかがでしょうか。受益者代表の点についてはもう少し検討するということで,ほかのテーマでなお御議論があれば伺いたいと思いますが,よろしいですか。


● 先ほどから議論に出ている点,1つは,この受益者代表で想定している受益者の人数はどのぐらいかというのは,特に制限はなくて,何万人でも別にいい,特に制限はないと考えております。

  それから,今,○○委員から,一部の受益者について選べるではないかという御指摘がありました。

それは私,さっきちょっと言い忘れたんですが,確かにそう書いてあります。ただ,ここで一部というのは,後ろの(注4)にも書いてありますが,種類受益者のようなものを考えておりますので,個々の受益者が「やはりやめた」というのは,ちょっと行き過ぎではないかという気がしております。

● もう一点。この受益者代表が一部の受益者のために選ばれた場合は,その受益者代表は選んだ受益者に対してだけ注意義務等を負うことになるのか。

逆に,その人が非常に働き過ぎてその他の受益者が害されたようなときには,その他の受益者はその解任等,何か打つ手があるのかどうか,その点をお教えいただければと思います。

● ほかの受益者からの解任請求は,難しそうだな。


● 選んだ母体ではないかなという気がしております。十分詰めて考えていないので検討させていただきますが,やはり母集団たる,例えば種類受益者に対して注意義務を負い,その者が解任権などを有するということではないかと思います。

  では,ほかの人が困ったときどうするかという問題は確かにございますので,1度考えてみたいと思います。

● 今日は余り議論がありませんでしたけれども,受益者の間の利害の対立があるときに,今の例は利益相反するものではなくて,選ばれたのは特定のグループからですから,そういう意味ではほかの受益者からの権限がないので,単純な利益相反とは少し違うかもしれませんけれども,しかし,一方のグループの利益を守ると,あるいは守り過ぎるとほかのグループの不利益になる可能性がある。

そういう意味では,広い意味では利益相反的な行為が行われる可能性があって,そういうものをどういうふうに調整したらいいかというのは,この受益者代表とか,信託管理人もそうですけれども,結構難しい問題があるのではないかと思っています。


  ただ,法律構成からすると,今の○○幹事の御指摘は,そのグループから選ばれたというか,信託行為で定める場合もあるでしょうけれども,なかなかほかのグループからの解任とかいうのは難しいけれども,善管注意義務も難しいですかね。


なかなか難しい問題ですね。ちょっと今,とっさにいい解決がないけれども。


  それでは,もしほかに御意見がなければ,この信託管理人等の問題は,私としては非常に重要な問題だと思っております。


これからいろいろなタイプの多数の受益者の信託が出てきて,また,今,申し上げたようにその利害が非常に錯綜している場面があって,そういうときに単純に,ただ代表者を定めればいいという問題でもない。

そういうことで重要な問題ですので,これは皆さんの御意見を踏まえてもうちょっと検討させていただければと思います。

● では,残りの説明を全部やってしまいますので,よろしくお願いいたします。
  受益者の利益の享受と受益者変更権,それと受益権の放棄,あと受益者名簿でございます。

  まず,第45の受益者の利益の享受について御説明いたしますが,これは前回の提案からの変更点についてのみ御説明いたします。2点ほどでございます。
  


まず,提案2の被指定者に対する通知でございますが,このような通知をする趣旨は,受益者が受託者を十分に監督できるようにするためでありますので,通知すべき内容は,信託が設定された事実ではなく,受益権取得の事実であるといたしました。

その上で,委託者の中には被指定者に対して受益権取得の事実を知らせたくない者もあるとのニーズに配慮いたしまして,原則としては,受益者が受益権を取得した場合には受託者が遅滞なくその旨を通知すべきものとした上で,このような通知の要否自体,あるいは通知自体,いずれについても任意規定と改めております。


  そこで,通知をすることを望まない受託者としては,受益権取得時期をおくらせることにより通知時期をおくらせる方法と,そもそも通知義務自体を信託行為で排除する方法との選択肢があることになります。

  次に,前回の提案におきましては,遺贈における利害関係人の催告権に関する民法第987条の規定が,遺言信託のみならず生前信託にも類推適用されるべきであるとの有力な見解があることにかんがみまして,受託者その他の利害関係人は被指定者に対し,相当な期間を定めて,受益権を放棄するか否かを明らかにすべき旨を催告することができ,被指定者がその期間内に意思を表示しないときは,受益権を放棄できないものとするとの規律を設けることを提案しておりました。


  


しかしながら,第7回会議での指摘などにかんがみますと,催告に関する明確な合意を受託者と受益者の間でしたような場合であればともかくといたしまして,法律上の規定をもって受益権を放棄しない旨の明確な意思表示がないにもかかわらず,催告期間の経過をもって受益権を放棄できないものとし,その結果,受益者が多大な補償請求権の行使を受けるかもしれないリスクのある地位に立たされることとなる可能性を認めることは,受益者保護の観点から相当ではないと考えられます。

  そこで,今回の提案におきましては,催告権に関する提案は撤回することとしておりますが,その当否について御意見を伺えればと思っております。

  次に,第46でございます。
  これは今後,遺言代用信託をはじめとする民事信託の分野において特に有効に活用されることが期待される受益者指定権者,または受益者変更権者を有する信託の法律関係を明確にすることを意図する提案でございます。
 

 ここでは,今,申しました「受益者の利益の享受について」において通知に関する提案などを改めたことなどに相応いたしまして,提案3についてのみ内容を改めております。


  具体的には,受益者指定権の行使の場合には,被指定者は受益の意思表示をすることなく受益権を取得するとした上で,通知すべき内容は受益権取得の事実であるとともに,受託者による通知義務は任意規定であるとしております。(1)と(2)がそうでございます。


  また,受益者変更権を行使する場合には,受益権喪失の効果は直ちに生じるとともに,受益権取得の効果は,やはり受益の意思表示をすることなく生じるものとした上で,通知すべき内容は受益権喪失の事実または受益権取得の事実であるとし,受託者による通知義務は,やはり任意規定であるとしております。

(3)(4)がそういうことでございます。
  続きまして,第51の受益権の放棄について,御説明させていただきます。

資料の36ページからでございます。

  これは受益権の放棄につきまして,受益権を放棄できる受益者の範囲や受益権を放棄した場合の効果に関して,前回の提案に引き続き規律の明確化を図るものでございますが,前回の提案から大きく2点,変更点がございますので,順次説明してまいります。

  第1の変更点でございますが,前回の提案では,自己の意思によって利益,不利益を受けることとなった者,いわゆる自益信託における当初受益者につきましては,受益権を放棄できないことをデフォルト・ルールとしていたのに対しまして,今回の提案におきましては,受益者は信託の類型を問わず,原則として受益権を放棄できることにデフォルト・ルールを転換してございます。

  このように変更いたしましたのは,前回の提案におきましては,いわゆる自益信託については受益権を放棄できないことを原則とし,いわゆる他益信託につきましては,受益権を放棄できることを原則とする内容の提案をしてはおりましたが,第7回会議において指摘を受けまして,また,事務局としても問題を認識しておりましたとおり,経済実態としては,自益信託と他益信託との間には実質的な相違がない場合も多く,それにもかかわらず受益権の放棄に関する規律が大幅に異なるのは相当ではないと考えられるからでございます。
 


 このように,デフォルト・ルールとしては受益者は信託の類型を問わず受益権を放棄できることとした上で,例外的に放棄できなくなる場合を定めております。

  1つは,自己の意思によって受益者となった者につきましては,1の(1)の①にあります信託行為に別段の定めのあるとき,または②にございます受託者に対して受益権の放棄をしない旨の意思表示をしたときでございます。
  


これに対しまして,自己の意思によらずに利益,不利益を受けることとなった者,従来の言葉で言えば,いわゆる他益信託における当初受益者につきましては,②の受託者に対して受益権を放棄しない旨の意思表示をしたときに限って,受益権が放棄できなくなるわけでございまして,信託行為をもって受益権を放棄できない旨を定めることはできない。


仮に置いたとしても,この当初受益者との関係では無効であるとしております。


  このうち信託行為の定めのあるときを例外といたしましたのは,この場合には,放棄できないということが受益権の内容に含まれることになる,換言いたしますと,受益権自体がそのような性質の受益権,いわば放棄できない性質を有する受益権となると考えられるのに対しまして,受託者に対して受益権を放棄しない旨の意思表示をしたときを例外といたしましたのは,この場合には受益権自体の性質に影響があるわけではございませんが,当該信託から生ずる利益及び不利益を十分に認識した上で,受益権を放棄しない,あるいは当該信託から生ずる不利益を引き受ける旨の意思表示をしたにもかかわらず受益権を放棄できるとするのは,禁反言の原則に反すると考えられるからでありまして,両者の発想は異なっているものでございます。


  以上を再度まとめて申しますと,受益者は原則として受益権を放棄することができますが,例外的に信託行為で放棄できない旨の別段の定めがあるとき,または当該受益者が受託者に対して受益権を放棄しない旨の意思表示をしたときには,もはや放棄できないこと,それから,放棄できた場合の効果といたしましては,原則としては,放棄の時点までに生じた原因に基づく責任のみを負うことになるが,例外的に自己の意思によらずに受益者となったものについては,一切責任を負わないものとするというものでございます。

  第2の変更点でございますが,前回の提案では,一たん受益権を放棄することができない受益者が生じた場合には,その後,当該受益権が転々譲渡されたとしても,いずれの受益者も原則として受益権を放棄できないこととなる旨の規律を提案しておりましたのに対し,今回の提案では,受益権の譲渡があった場合に関する規律は特に設けないこととした点でございます。
  


前回の提案に対しましては,第7回会議におきまして,今後,金融商品として受益権が販売されていくことを考えた場合には,だれかが受益権を放棄しないとの意思表示をしたら,その後の受益者は一切放棄できなくなるという規律が適切か疑問であるとの指摘がされたことを踏まえまして,受益権の放棄の可否は,個々の受益者ごとに例外に当たる事由があるかどうかを決すればよいとの考え方に改めたものでございます。


  したがいまして,例えば信託行為の定めをもって当該信託における受益権を放棄できないとした場合には,放棄できないことが受益権の内容に含まれることとなるものと考えられまして,転々譲渡されるのは,このような放棄できない性質を有する受益権でありますので,自己の意思によらずに受益者となった者は別といたしまして,みずからの意思によってこのような受益権を譲り受けたいずれの受益者も,受益権を放棄できないことになると考えられます。
  

これに対しまして,ある受益者が受益権を放棄しない旨の意思表示をしたにすぎない場合には,禁反言の効果は信託外の属人的な効果を有するにすぎず,転々譲渡されるのはあくまでも,いわばさらな受益権でありますので,当該受益者から受益権を譲り受けた者は,別途受益権を放棄することができるものと考えております。
  以上が受益権の放棄についての提案内容でございます。


  最後に,受益者名簿について簡単に説明させていただきます。
  資料の33ページ,第50でございますが,これは受益者が複数の信託の一般化にかんがみまして,株主名簿ですとか有限責任中間法人の社員名簿の規定に倣いまして,受益者名簿の作成義務,記載事項,閲覧・謄写請求権とその例外等に関する規律の創設を提案するものでございます。
  


これも前回の提案からの変更点を中心に御説明申し上げます。
  まず,受益者名簿の作成義務等に関する提案1についてでございますが,第1に,受益者名簿の作成については,前回の提案では,受益者が複数の場合である以上は作成が義務的であるとの提案をしておりましたが,第7回会議におきまして,信託の類型によっては受託者が受益者の個人情報を把握していないものがあり得ること,受益者の中には,他の受益者に個人情報を知られたくないと考える者があり得ること等の事情が指摘されました。

そこで,このような指摘を踏まえまして,今回は,信託行為で定めれば受益者名簿の作成を要しないものとすることができるとの提案に改めることとしておりますが,その当否につき問うものでございます。
  


第2に,受益者名簿の法定記載事項につきましては,前回の提案では要検討事項としておりましたが,受益者の権利行使や,受益者の保護のために最低限必要な情報を明らかにするという観点から,※1に書いてございますが,受益者の氏名または名称及び住所,受益者の有する受益権の数,受益者が受益権を取得した日とする考え方につき,その当否を問うものでございます。
  


この提案内容は,現在,国会審議中の会社法案における株主名簿の記載事項の内容とも合致したものであることを付言申し上げます。


  なお,前回の提案におきましては,一定の場合について,受益者名簿に対して一定の法的効力を付与することの可否について,なお検討するものとしておりましたが,この点については受益者集会のところで検討させていただく予定でございます。


  次に,受益者名簿の閲覧・謄写請求権に関する提案2についてでございますが,第1に,閲覧・謄写請求権者がだれかということにつきましては,受益者の個人情報保護等の観点から,この提案に挙げた受益者,信託行為に定めがある場合の委託者,信託管理人,受益者集会の招集権者,それから書面決議の実施権者に限ってはどうかと考えるものでございます。

  なお,信託管理人を閲覧・謄写請求権者に含めるのは,保護の対象である受益者について正確な個人情報を知る必要があると考えらることによるものですので,同様に受益者保護の観点から設けられます受託者監督員あるいは受益者代表についても閲覧・謄写請求権者に含まれるものであると考えていることを補足いたします。

  第2に,前回の提案より引き続き,受益者名簿の閲覧・謄写請求権の重要性と受益者の個人情報保護の重要性との調整という観点から,※3の①から⑦の拒否事由を法定することを提案しておりますが,これは資料34ページの⑦の次に書いているところでございますが,例えば信託行為に定めのある場合,またはさらに加えて受益者の同意がある場合には,閲覧・謄写請求権自体を制限することができるとする考え方もあり得るところでございます。

  このような考え方については,既に信託事務に関する重要な書類,帳簿等の閲覧・謄写請求権のところでも同様な問題提起をして,いろいろ御意見をいただいたところでございますが,受益者のプライバシー保護の要請は受益者名簿の方がより高いと思われることにもかんがみますと,このような制限ができることとする方向性をとることは十分あり得ると思われます。

  また,そもそも受益者名簿の作成義務自体を任意規定としている以上は,閲覧・謄写請求権の制限についても信託行為で柔軟に決定できるというのが一貫しているようにも考えられます。この点についていかに考えるべきか,御意見を伺いたいと思ってございます。
  以上でございます。


● 幾つも論点が分かれておりますけれども,どこからなりとも御議論をお願いいたします。

● 受益権の放棄の点について,意見を述べさせていただきたいと思います。
  第51のところですけれども,御提案の内容からしますと,受益者が責任を負う内容には恐らく3類型あるのではないか。


1つは,受益権放棄により,放棄の時点までに生じた責任は免れ得る。


2つ目として,受益権放棄により,放棄の時点までは責任を負うが将来の責任は免れ得る。


3番目として,受益権を放棄することはできず,将来の責任をも免れることはできない,この3つになろうかと思いますが,御提案の内容を見ますと,まず,信託行為により受益者として指定された者については,原則として,その放棄の時点までに生じた責任も免れることになっておりますけれども,放棄しない旨の意思表示をした場合には,将来の責任も免れることはできないとなるように思われます。

そうすると,この場合には,中間的責任といいますか,放棄の時点まで責任を負う類型の責任というのは余り想定されていないように読めるんですが,そういった理解でよいかどうか,これは1つ質問です。


  それから,原則として,受益権者は放棄の時点までの責任は負うとされているようです。

これはもちろん補償請求権について,デフォルト・ルールとしてどういったことを想定するかにもよろうかと思いますけれども,御提案の内容では,被指定者でない場合と受益権の譲受人については,恐らくこれに該当することになるのではないかと思われます。


そういった場合に,自益信託の場合には問題ないと思うんですが,受益権の譲受人にこのような責任を負わせる場合には,従前からの議論でも指摘されているところですけれども,譲受人が正確な認識のもとに受益権を譲り受ける必要があるということが重要になろうかと思います。

  この点については,業者がその受益権を販売する場合には業法規制によることが考えられると思うんですけれども,一般民事信託の場合にこういった点をどういうふうに確保していくかについては,若干心配があるところです。
  


個人的には,そういうような認識を確保するとの観点もあって,例えば負担付受益権ですとか,あるいは一定の責任を負う受益権等の名称を付した受益権類型を考えてもいいのではないかという気もしますけれども,いずれにしても,そこのところの手当てといいますか,そこを検討する必要があるのではないかと思います。

  関連して,これはむしろ受益権譲渡の問題なのかもしれませんけれども,民事信託を考えた場合に,責任を負担した受益権譲渡をどういうふうに考えるのか,負担付債権の譲渡と考えるのか,あるいは契約上の地位の移転と考えるのかがよくわからないところなんですけれども,その辺の整理も多少必要なのではないかと感じております。


  それから,放棄できない場合として,規律の中では(1)の①と②が示されています。


この②につきましては,放棄しない旨の意思表示に当たって,受益者は間接無限責任を負うんだということを正確に認識している必要があろうかと思います。


この点は前回の議論でも意見としてあったところかと思いますけれども,「受益権を放棄しない旨の意思表示」ということになりますと権利の放棄という印象を受けて,責任の負担といいますか,そういったことが文章の表現上からはなかなか理解しにくいのではないか,誤解を与えるおそれがあるのではないかという懸念があります。

ですから,むしろこういった場合には端的に「責任を負う旨の意思表示」という形での規律を考えるべきではないかと思います。

  それから,①の信託行為に定めがある場合については,これも御説明の中で,私の理解が十分ではなかったのかもしれませんが,譲受人の場合どうなっていくのか御説明いただけると助かります。
  

譲受人の場合にも,これはかなり重い責任を負うことになりますので,やはりきちんと権利の内容を理解して譲り受けることが,もし信託行為によって責任を負わされることになるのであれば,それは重要なことになってくるだろうと思います。


やはりこの受益権の放棄の問題については,受益者が責任を負担するということに関する問題ですので,受益者が,他人が行った契約ですとか自分が関与しない契約ですとか,あるいは法律の規定によって予想外の重い責任を負わされるという事態は,やはり可及的に防ぐ必要があると思います。ですから,この点についてはぜひ慎重な御検討をお願いしたいと思います。


● 多岐にわたっておりましたけれども,極めて基本的な問題ではありますので,いろいろな御意見を伺いたいと思いますが,今の論点に関して御意見ございますでしょうか。

● 第51の内容を確認させていただきたいのですけれども,1つは,1の(1)の①の規律がどういうふうに働いていくのかということでございます。


  先ほどの御説明によりますと,他益信託,自益信託は分けず,自益信託型でとらえようとしていたものは②によると。


そういたしますと,1の(2)の被指定者というのは,自益信託の場合も含めた,およそ一般的に受益者として指定された者を言うことになるのだろうと思います。


他方,37ページでは,譲受人については個々の受益者によって決すれば足りると書かれておりますので,ちょうど○○幹事から御質問がございましたけれども,(1)②の立場の承継者だけではなくて,(1)①の受益権の承継者についてもこの理由は当てはまると思われます。そうしますと,被指定者以外にどういう人が出てくるのか。


  言い換えますと,ここがすべての人がそうなのだ,すべての受益者がそういうことになってくるんだとしますと,(1)の①が必要なのかがからないということです。

可能性としては,2の局面で分けられておりますので,この前提として,受益権に放棄不可能な性質の受益権として信託行為で設定されたものと,そうでないものというふうに分けることが2で意味を持ってくるのかと思われたのですけれども,これもまた○○幹事の御質問の内容ではあるのですが,(1)の②の受益者についてはそもそも放棄ができないことになっていますから,2にはいかない。


つまり「放棄をしたときは」という話にはならないと考えられますので,そういたしますと,2の(1)と(2)が分けられているのは,(2)というのはもともと信託行為において受益権の性質として放棄できないとされていたものについては,しかし,被指定者と譲受人は個々別々に判断として放棄ができて,そのときにはすべて免れる。


それに対して(1)が発動するのは放棄ができる場合ということになって,放棄ができる受益権となったときに放棄する場合には,およそそれまでの原因に基づく責任は免れることができなくて,放棄できないと信託行為で設定されたものについては,すべて免れることができる,そういう趣旨なんでしょうか。

  何か大変誤解しているような気もしますので,まず中身を明らかにしていただければと思います。


● 最初に,私もよくフォローしなかったけれども,この「被指定者」の意味が自益信託の場合も含むのかということを言われましたか。

● 御説明では,含まないという御説明だったと思います。


つまり,自益・他益では分けないという問題設定でございましたので,みずからを受益者とする信託行為をしたときも,私自身は被指定者ということになり,ただ,そういう場合は②の意思表示をするであろうという御説明ではなかったかと思うのですが……

● ちょっと説明がまずかったのかと思いますが,あるいは文言自体が不明確なんですが,ここで言っている被指定者というのは,いわゆる他益信託の当初の被指定者,受益者だけでございますので,自益信託の受益者はここに入っていないという理解しております。


ですので1の(2)は,他益信託の当初受益者については,信託行為で「放棄できない」などと書いてもだめですよと。しかも,2の(2)で,放棄すれば全責任を負いませんという規律という整理をしております。

● わかりました。
  そうしますと,自益信託,他益信託の区別は維持した上で,自益か他益かでは直ちに分けず,2段階目の基準として,そこはやはり入ってくるということですね。

● 自分の意思によらずに利益,不利益を受けた人は1の(2)に当たりまして,そして2の(2)に当たるということの立てつけをしております。

それを昔は他益信託と言っていたようですが,我々の理解では,みずからの意思によらずに利益,不利益を受けることはないので,そういう人は自由に放棄できるし,放棄した場合は全責任を負わないことができるという考え方をとっているわけでございます。

● くどくて申しわけないのですが,自益,他益の概念とは違う概念をここで導入されたという……


● 実は同じなんですけれども,言わないだけです。


● 違うと言うとね,かえってまた難しくなってしまう。ただ,そういう言葉は使わないという。


  それから,受益権の譲渡があった場合を含めて一遍に議論するとまた複雑になるので,譲渡がない段階の問題と,それから譲渡があった場合とで分けて考えた方がいいと思いますが,その上で,この中身はいかがでしょうか。


● 私も,第51の(1)の①で信託行為に別段の定めがある場合は放棄できないというのが,信託行為にどういう……。


先ほどの説明を伺っていたら,次のように理解できる。

間違っているかもしれないんですが,信託行為に「受益権は放棄できない」とまず書いてあって,かつ受益の意思表示があった場合にはこれに当たると理解したんですが,そういうことでしょうか。


まず,これが今の自益,他益のお話とは関係なくて,一般的な話だと理解できるのかどうか。


  もう一歩だけ進んで,そうすると,「放棄できない」と書いてある信託行為でぼやっと受益の意思表示をしてしまうととんでもないことになるということだと,先ほどの○○幹事の危惧に共鳴するところがある。


しかし,そういうものが全部……。この1の(1)の①の信託行為に別段の定めがあるときの説明をもう一度伺えるとありがたい。


● 信託行為での定めについて我々が想定しているのは,「受益権を放棄できない」と書いてあった場合,この定めに当たるという理解でございます。
  

その場合にはそういう性質の受益権になるので,そういう受益権を譲り受けた者は,みずからの意思で譲り受けているわけですから,その者については一切放棄できなくなるということでいいのではないか。


受益の意思表示云々は関係なくて,受益の意思表示がなくてももちろん受益者にはなり得るわけですが,それだけでは放棄できないことにはならない。


ただ,信託行為で「この受益権は放棄できない」と書いてあれば,そういう受益権を取得したことによって放棄できない立場になるということです。

● その効果は,2の(1)へ行くんですね。
● 2の(1)ですね。

● 今のお話は,譲り受けの場合を想定しているようですが,譲り受けた以前のことは何の関係もないとは言えなくて,譲り受けた時点以前に生じた原因に基づく責任は免れなくなるということなんですね。


● そうですね。仮に放棄できてもですね。今の前提として,信託行為に定めがあったら放棄できないので。


● わかりました。そうすると,そこは私が全然理解が足りないんだと思います。
  ああ,そもそも放棄ができないんだからね,最初は。2へ行かないんですね。

● 2は,放棄できる場合。

● そうすると,繰り返しになりますが,それは○○幹事がおっしゃったように「受益権の放棄」という意味がどの程度わかっているかという……


● そうです。放棄したときにどういう効果が発生するかがね。いろいろな場合がある。


● あと簡単なことなので,ほかの項にいっていいですか。

● ちょっと私,○○幹事が中間的なものと言われたのが……。3つあって,中間のはないのではないかと言われたような気がしたんですが,違いましたっけ。先ほど最初に整理した冒頭のところでしたけれども。


● 最初にお伺いしたのは,信託行為により受益者として指定された者は受益権を放棄できるとなっていますが,この人が(1)の②の意思表示をした場合には,もう放棄できなくなるということになりますと,2の(1)で規律されている,放棄の時点までに生じた原因に基づく責任は負うんだという場合は出てこないのでしょうかということ。

● 放棄できなくなるわけですから,2にいかないことになります。他益信託だから,信託行為で「放棄できない」とはできないけれども,自分で「放棄しない」と言ったらそれは放棄できませんので,もう2にいくまでもなく,全責任を負うことになります。

● そういった場合でも,中間的な放棄ができるまでは負うということもあっていいかなと思ったりもしたんですが,そういうのは,この規律の中には入っていない。

● 将来のものだけ免れるということがあり得るのではないかということですか。放棄までに生じた原因に基づく責任は負うけれども,そこから先,将来……


● そういうことは考えなくていいんでしょうかということ。
● そういうのもあるのではないかということですか。
● はい。


● 我々の理解では,一たん受益権を放棄しない旨の意思表示をしてしまえば,それによって一切放棄ができなくなりますので,放棄までの原因であろうが将来の原因であろうがすべて負うという一応の考え方を示しているところではございます。


● ○○幹事の御意見は,放棄しないという意思表示をすると,それ以後の不利益は全部享受する。だけれども,それまでのやつは責任を負わないといったことがあってもいいだろうということですか。


● それまでのものについては負うといった責任の負い方もあるのではないか,そういうことは考えなくてよろしいんでしょうかと。

● あ,そっちは負うんですね。


● 問題意識としてあるのは,要するに,受益権の放棄という枠組みで考えているので,そういった,ちょっと穴が開くようなことになってしまうのではないかという気がしていて,要するに,責任要素のどこまで負います,どこまで負いませんというような意思表示というような形で定めれば,むしろわかりやすくなるのではないかという意見なんですが。

● これは一定の時間がありますから,どこまでの責任を負うか,そっちの方から整理した方がいいだろう,そういう御趣旨ですね。


● 関連してお伺いしますが,2の(2)で遡って責任を免れることになった場合に,その被指定者が受益権を既に一部,利益を受けていたという場合はあり得るんでしょうか。


そして,その場合に,それを返還するということになるんでしょうか。それとも,そもそも利益を受けるということはないという発想なんでしょうか。


● それは不当利得として返還義務を負うのが原則だと。信託行為で特に書いていない限り,責任を免れるかわりに受け取った利益は返還しなければいけないと考えております。

● 放棄はできる,だけど受けた利益は返す。そうね,両方あり得るかもしれないけれども,不当利益で返すというのが一つの考え方ですかね。


● そうすると,○○幹事のおっしゃった真ん中というのは,ないという発想になるわけですね。


最初からゼロか,それともずっと責任を負うかという二者択一だという理解でよろしいわけですね。確認だけですが。


● とにかく放棄できる場合……,この放棄を基準にして考えると,放棄できる場合には,2の(2)の場合であればすべてを免れるわけですからね。


そういう意味では二者択一といいますか,オール・オア・ナッシングになってしまう。片や放棄ができないということになれば,全部責任を負う。

● 関連するところでもあるんですけれども,私が仮に受益者になって判断を求められたときに,やはり信託財産があり,でも無限責任があるというところで判断できかねる状況があると思うんですけれども,前のところでも議論されていたようですけれども,負担付遺贈の場合の免責のような,または総則における限定承認のような,ですからここでの議論に条件付放棄とか--限定放棄と読むのか知りませんけれども,オール・オア・ナッシングではなくて,放棄に対して何らかの条件等をつけることも,恐らく民事信託の前提なのかもしれませんけれども,どういう信託を前提にするかわかりませんけれども,状況に応じて必要なのではないかと思いますし,そういう趣旨ではないのかもしれませんけれども,検討いただきたいと思うんですが。

● 今の前半部分は非常に重要なことで,後半も関係するんでしょうけれども,とにかく受益者が何をすればどうなるか,明確になることが重要ですよね。


少なくともそういう趣旨からこれはできているわけですけれども,そういう問題,つまり,何をすればどうなるかということが明確になっていることと,それから,いろいろな場合があるので,中間的なというんでしょうか,今,条件付と言われましたけれども,そういうようなものをうまく組み込むことができるのかどうかということと,2つ問題点があるような気がします。しかし,両者に多少相反するところもあるのかなという気がしないではない。

● でも,やはり無限というのは怖いですから,信託財産の範囲内というのは,制度的には民法の中に存在しているわけですよね。


遺言信託でも,信託財産はあるけれども片や債務もある。そのときに限定承認的な,限定放棄のようなものがあってもそんなに違和感はないような気がします。

● それは,特に利益を享受している場合に意味があるんですかね,場合によって。要するに,信託財産の範囲ということは……。受益者の補償請求権などを行使されたときに,そういう抗弁を出すわけですね。

● はい。

● 確認させていただきたいのですが,今,おっしゃっていた限定承認に近いようなものは,信託がもちろん始まった後に,事後的に受益者の側から一方的にやる,受託者との契約の制度ができるのはよくわかるんですけれども,それは受益者の一つのオプションとして,常に保有させるべきものなんでしょうか。


つまり,責任は負わないけれども地位はなお保持するに近いような。


● 補償請求のところの議論とも絡んでしまいますけれども,前々回の議論に従えば,信託行為に「補償請求あり」と書けば,恐らく補償請求ありと。


一方的に利益のみ享受するのはある意味で不当,不適切ではないかという議論は,それなりに説得力があると思うんですけれども,受益者の立場に立って,信託財産はあるけれどもよくわからない,今の時点で顕在化していて,それだけということになれば,恐らく経済的にも計算できるわけですけれども,よくわからないという前提での放棄を求められるわけですから,ですから,遺贈の場合と同じように,信託財産または既に利益を受けていればそれを吐き出す責任があるかもしれませんけれども,あくまで信託から得たメリットの範囲内においてのみ債務を負いますと。
  


だから,放棄なのかわかりませんけれども,条件的なそういう言い方があっても,そんなに不自然ではないのではないか。もちろん,債務と信託財産が明確に算出されている状況においては……

● 前提は,やはり受益者に対する補償請求権の問題と密接に絡んでいるんだと思いますけれども,それがなければ,もう全然問題ない。


補償請求権があるときに補償請求されてきて,あるいはその危険性があるときに,受益者の方でどうするかということですね。放棄をするのか。

しかし,放棄すると信託の利益が享受できなくなってしまうから,願わくば安全といいますか,何とか信託がプラスでやっていけるのであれば利益は享受したい,信託の給付も受けたい。


だけれども,そうすると今度は補償請求権がついているので,万が一のときには請求されて困るというので,条件付,限定承認付的な,何なんですかね,万が一補償請求をされるような状況であれば放棄していたという,そんなあれですよね。
  


それは受益者にとってはありがたいけれども,どういうふうに構成したらうまくいくのかな。


● 今おっしゃる話は,例えば,これまでに受益者として既に給付を受けていて,あるいは将来も受ける,そこを限度として責任を負うといったオプションを用意してはどうかということでしょうか。
● そうですね。
● ですから,具体的に求償がどのくらいかかってくるかはわからないので,少なくとももらったものは吐き出します,だけれども,それ以上は負わない。だけれどもそれ以下の,ダウンサイドのリスクはとりませんといった責任の負い方がないかということですか。
● そういう提案です。


● 今の点に関連して,どういうものをイメージするかなんですけれども,株主有限責任みたいなものをイメージすれば,信託行為であらかじめ……,結局これは○○幹事がおっしゃったように,放棄という切り口ではなかなか切りにくいのかもしれないんですけれども,信託行為であらかじめ,将来給付はいただきますと。

今おっしゃったようにもらったものを吐き出すなら要らないんですけれども,信託財産までは失います,これは合意します。


しかし,それを超えては失いません,来るものはいただきます。これは株主の世界なんですけれども,そういう内容に合意することも,合意というか,あらかじめ決めておくのに合理性があるのではないかということですよね。

  これは,株式会社と競争するような場合には,当然そういうスキームにしないと競争が成り立ちませんので。

さらに超えて,今,○○幹事のお説によると,もらったものまでは返します,だけれども,それに追加して払うのは勘弁してくれという類型も,もう一つあるかもしれない。

ですけれども,恐らく○○委員がおっしゃったその名前のところで,株式会社的類型というか,そういうものもあっていいのではないかというのは私は正論だと思うんですけれども,放棄というテクニックを使って組み合わせると,何か三重にも四重にも書かなければいかんように思うものですから,ちょっと放棄というところで,どこまでいけるのかなという課題を投げかけているように思うんですけれども。

● ○○委員の第1段階のは,むしろ正当なやり方は,やはり補償請求権がないという形をとるのが一番いいわけですよね。


だけれども,信託条項の中に補償請求権はあると明記されている。そのときに,どうしたらいいか。


補償請求権があると書いてあって,補償請求権がないような効果を導くというのは,やはりなかなか難しいかもしれないので,やはり何か放棄というものをかませないと,どこかで放棄という行為を入れないと,補償請求権は行使されてしまうのではないかという気がするんですね。前提は。

● そういう発想に立つと,やはり条件付ということで,次の何かを入れないと。


● それがうまく入るのかどうか,さっきから考えていたんですけれども。


● 今の話は私は,○○委員と一緒なのかどうかわかりませんが,補償請求権の定め方のオプションの問題ではないかと思います。
  


私は,本当にこれが理解できているのかどうか,すごく不安になってきたんですけれども,これ,受益者になるよという意思表示をするということと,受益権を行使しない旨の意思表示をするというのは異なることなんですよね。

● 異なります。

● 異なるものであるということが前提になったときに,○○委員の質問に対する回答がよくわからなかったんです。と申しますのは,放棄をしたら今までの受益分が不当利得になると。

● 放棄をすると,全責任を免れるかわりに受益者の地位を失うということですね。

● 遡及的にですか。
● 遡及的に。
● それは2の(2)の場合ですよね。
● 他益信託の場合ですね。
● 2の(1)のときには遡及しない。
● それは,放棄の時点までに生じた原因の責任を免れないので,遡及しないですね。

● 2の(2)は遡及するということは,被指定者は一たんは「受益をします,私,指定されているみたいですね,これは結構ですね」といって受け取るんだけれども,その後,遡及的な放棄をするということですか。


● いわゆる他益信託の受益者については,とりあえずはもらえるので受け取ったけれども,後からよく聞いたらリスクもあるということを十分認識して,「それなら放棄しましょう」ということで放棄することができます。

そして放棄した場合には,2の(2)にいきまして,遡及的に責任も免れるかわりに受け取ったものも返さなければいけないのではないかという理解をしているところでございます。

● さっき,ちょっと小さい声だったかもしれないけれども,私は「そういう考え方もありますね」という言い方をしたんですが,返還しなくてもいいという可能性もあり得るとは思うんですね。


従来の受益権放棄のときは,もしかしたら利益は返さないと考えていたのではないかという気もするけれども,どうですかね。

● もちろん,それは将来に向かっての放棄だったと思いますけれども……
● あ,それは将来に向かってのね。

● ええ。ですから,そういうものを放棄と呼ぶのだったらば,一たん受益の意思表示をしても,遡及的にその受益の意思表示を取り消すことができるという話であって,「受益権の放棄」という言葉で呼ぶこと自体がかなりミスリーディングな感じがするんですが。


● わかります。要するに,受益者の地位を取り消す,遡及的に取り消すという意味での受益権放棄と,もう責任を負いませんというか,これから負いませんというのか……

● 逆に「受益をしません」でいいんですが,将来にわたってもうやめてしまいますという話とは,かなり違う話ですから。


● ここら辺は,確かに従来からいろいろな議論があるところで,受益権の放棄の効果の問題として,いろいろな考え方がある。○○幹事もどこかに書いておられたと思うけれども。


  ここでは,とりあえず事務局としては一つの考え方に基づいてできているということだけですが……。


● 先ほど○○委員がおっしゃった限定承認的な形というのは,基本的に契約に書いて,放棄なのか補償請求なのかは別な問題として,契約に書いた形であれば問題はないんですけれども,法定化という形になりますと,何となく受託者にとっては踏んだり蹴ったりということになりますので,そこら辺で,ちょっと御勘弁いただきたいなという感じがいたします。
  


それと,1点確認なんですけれども,受益者全員が放棄したときのお話なんですけれども,その場合には当然,信託が終了して,法定帰属権利者に信託財産が帰属するという形になると思います。


その場合は,第62のところで規定されていますけれども,法定帰属権利者は放棄ができないといった規定がありますので,受益権の権利,義務は委託者に帰属したままになります。


その場合,補償請求というのが--これはまだ決まっていませんけれども,認められている,法律なのか契約なのかは別にして認められている場合については,法定帰属権利者というのはデフォルト状態で,要するに,放棄ができないと考えてよろしいんでしょうか。

● 事務局の理解としては,補償請求権があるかどうかにかかわらず,法定帰属権利者は放棄できないという理解です。


補償請求権があったら放棄できるのではないかという御指摘かもしれませんけれども,そういうことはなくて,補償請求権があっても放棄できないという理解でございます。

● 委託者ですからね,もともと自分の財産だったわけで,そういう一つの考え方があり得ると。


  受益権の放棄については,どうもまだもう少し整理しなくてはいけない問題がありそうなので,また議論するとして,ほかの論点についてはいかがでしょうか。もう時間が余りないものですから。

● これはここの論点だけではなくて,まず,第45と第46について質問しておきたいんですが,ここだけではなくて全体の関係があって,今のところもそうですね。


結局,補償請求権のデフォルトルール化をどうするかという話と密接に関連している。

  第45では,2に「ただし,信託行為に別段の定めがある場合には」云々とあるんですが,この問題はアメリカの信託法でも,「あなたが受益者だよ」といった受益者への通知のところ,あるいは説明義務というのか,情報に関連する義務のところで強行規定になっている部分があり,それについての反論,批判がありという,なかなかアメリカでも難しいんですが,ここは,この信託行為に別段の定めがある場合には--これはだから全体としての情報提供義務の話との関連なのですが,とにかく受益者が受益権を持っていることを知らなくても構わないという全体構造の中でこうなっていると理解するんですか。これが第1点です。

  次は,第46の受益者を指定または変更する権利について,特に変更する権利の話なんですけれども,信託行為の変更の提案の中にデフォルト・ルールがありますね。

ここには受益者を変更する権利というのは,一応「受益者を変更する権利はだれそれにあります」と信託行為に書いておかないとだめでしょうから,そういう意味では信託行為に一種,デフォルトではなくて,何か書いてあるというだけなんですけれども,そこで,一般に信託行為の変更のときには,私が批判している,これからもそうかもしれないんですが,受託者の利益を害さないといったような要件があったんですけれども,この受益者の変更権についてはそういうことは一切考えないで--ありそうもない話ですが,今まで受益者が1人でした,これからは100人にします。構わない。

それは信託行為の変更でも,ここで意思表示があればいいということで,これは特別な話なんですよということなのかということです。


● まず最初の御質問は,結局,任意規定にしたことによって受益者だということを認識していない受益者が出てもいいということになるのかということですが,そこは委託者の意思にかんがみて,そういう事態も仕方がないなと。

受益者が知らないうちに,意思表示なく受益者になっているわけですが,それを知らないでいる受益者が存在することを許容したということになります。


  また,受益者変更は,信託行為の変更でももちろんやることができるんでしょうが,この場合,特に第三者なり受託者にこういう変更権を与える場合があり得るだろうというか,特に多いだろうということから,特にここに規律を設けているということでございます。

● 1人が100人になると受託者の負担は増えるかもしれないけれども……
● 構わないんですか。


● やむを得ないのではないでしょうか。構わないというか,限界を設けるのも難しいと思います。
● それ自体はいいのかもしれないけれども,当然かかる費用みたいなものは請求できるんでしょうしね,別の問題として。


● 信託行為の変更ですから,信託行為を変えることが当然明らかになっているということですよね。


● 恐らくさっきの質問は,そういうふうに受益者変更権があって,その権利を行使することが全く無制限にできていいのか,受託者などにいろいろ影響することもあるのではないかという。

● 受益者変更権者の義務みたいなことが前回も議論になりました。


最低限信託目的には拘束されるでしょうし,あとは信託時変更権を付与した委任における受任者としての義務というものはかかってくると思うんですが,では,およそ無制限に変更できるかどうか,あるいは変更にそれ以外の縛りがあるかどうかというと,ちょっと具体的に,では何人以上に増やしていいかといった縛りは思い当たらないということでございますので,目的だけの縛りで「受益者の人数を増やし過ぎてはいけない。」と言えるかというと,そういうふうに一義的には言えないのではないかという気がします。

● 何か一般的な原則,権利濫用とかいろいろなものがかかってくるとは思いますけれども。

● 第50の受益者名簿について,信託の本質的な議論とは違うところで,時間がないところで恐縮なんですけれども,これは注意した方がいいのかなということで一言申し上げたいと思います。


  提案のように受益者名簿の作成義務,それから受益者名簿の閲覧・謄写の請求権を強行法規化する場合は,今からいうことについては問題ないわけですけれども,任意化した場合の問題点ということで,個人情報保護法を考えないといけないのかなと考えております。

  あくまでも個人の場合で,受託者が個人情報取扱事業者の場合ですけれども,御承知のとおり,個人情報保護法では原則として本人の同意のない第三者提供が禁止されているんですけれども,この受益者等からの閲覧請求,謄写請求というのは,個人情報保護法でいう第三者提供に当たると考えられるのではないか。もしそうだとするならば,強行規定があれば今の解釈では法令に基づく場合に該当しますので,同意なく提供できることになるわけですけれども,そうでない場合については,法律上の規定があったとしても,必ずしも個人情報保護法の第23条第1項第1号ですか--の適用除外にはならないという解釈がかなり有力でございますので,そうなると,特に有価証券化した受益証券等について名簿化するとなりますと,その収集自体は問題ないと思うんですけれども,他の人たちに開示するというところで,ちょっと問題になってくるのではなかろうか。
 

 かなりの部分で,同意をとっていけばよろしいわけですから,できなくはないかと思いますけれども,有価証券化等を考えますと相当難しいので,これは,必ずしも私が強行規定化することに賛成ということではないことは申し上げておきますけれども,そのあたりも考えて,ここは最終的な整理をしないといけないのではないかと考えまして,発言させていただきました。

● 「法令に基づく場合」というのは,今の吉元委員の解釈よりは広いと思いますが,そちらの方がもしかしたら専門で,有力だとおっしゃるから,私は有力でないと思いますけれども,私の方の関係では,宇賀先生などに聞いてももう少し広くて,これがあれば根拠としては大丈夫と解釈できると思います。


● そういう解釈を明確にしていただければ,それでいいと思います。
● これが法律上の根拠になるかどうかということですね。
● まず,第45のところで,受託者に対する通知の趣旨は信託の設定された事実の通知であると説明されているんですけれども,先ほど私の発言に対して○○委員もおまとめいただいたように,これは補償請求との絡みで,やはりもう少し説明義務を尽くすといいますか,信託の内容,特に「受益権」と言いながらも実は債務の部分もあるんだという,その具体的債務の内容についても知らせるといった趣旨ではないか,このように思います。
 

 それから次は,今,○○委員が議論していたところの変更権とか受益者の指定権ですけれども,弁護士会における議論では,前回も議論されているようですけれども,執行免脱等の関連から,濫用といいますか,悪用といいますか--されることに対して,何らかの,どういうのがいいのかというのはありますけれども,目的とか何らかの規律を1つ入れていただきたい。


何が適切かはわかりませんけれども,一般的に,信託というものは指定権,変更権があるんだということだけですと,場合によっては執行免脱的なことに使われる,また,それ以外の濫用に使われるのではないかという危惧があります。

  3番目は,受益者名簿なんですけれども,信託行為の定めを置けば不要であるというような,柔軟性という視点からは必要なのかもしれませんけれども,片や受益者集会というものも今回の信託法の改正では議論されておりますから,受益者名簿がなくて受益者集会をどうやって機動的に運用するんだろうかということがあります。
 

 ですから,受益者集会を開く可能性がある信託においては,やはり受益者名簿の作成は,必要ではないか。


● 最後の点,全くごもっともだと思います。
  これはどこかに規定がありませんでしたっけ。受益者集会の方か。


● 受益者集会の方でも,特に受益者名簿については規定はなくて,単に有価証券のところで,無記名証券とする場合にはつくらなくてもいいといった規律を設けるかという提案をしておりますが,またそれは受益者集会のところで,受益者名簿の効果のみならず受益者集会があるときは,そもそも強行規定であるというふうにすべきかどうかという点も含めて,検討したいと思います。

● 1点目は,利益の享受のところでございますが,これにつきましては第7回の会議で,2の受益者の被指定者に関する通知義務をデフォルト・ルールにということでお願いしまして,そういう規律にしていただきましたので,これについてはぜひとも維持していただきたいということでございます。


  あと,通知を要する事項というのが,先ほど御説明ありましたように,被指定者が受益権を取得した事実であるということ。これについては,基本的には異論はございません。

  また,利害関係人の被指定者に対する催告権に関する提案を削除したことについても,基本的には賛成でございます。


  もう一点は,受益者名簿ですけれども,作成義務の方と,それから閲覧・謄写請求ですね,これについても両方とも基本的には任意法規化の方向でという形の規律にしていただきまして,これも前回,第7回でお願いしたところでございますので,非常にありがたく思っておりまして,これもぜひとも維持していただきたいと思います。

  これについては前回も申し上げましたけれども,基本的に,物理的になかなかできない部分がございまして--物理的にできないというのは,受益者名簿の作成ができないタイプの信託がございますので,これについては,基本的には任意法規化していただかないと,実務上かなり厳しいものがあるということを御理解していただきたいと思います。
  


あと,これはそういう意図ではないと思うんですけれども,御説明の中には個人についてのみ書かれていますけれども,基本的には,機関投資家とかは基本的には自分の投資の手法やノウハウを知られたくないということもありまして,個人だけではなくて法人についても,やはりこの規律を生かしていただきたいと考えております。

● 名簿を物理的につくることが難しいというのは,例えばどんなことでしょうか。


● 投資信託等につきましては,販売会社が基本的には受益者の名簿を持っておりまして,それを営業上の観点から,なかなか見せてもらえないという部分がありますので,基本的には受託者として,各受益者がどこにいて,どういう名前なのかを知らないということになるんですよね。


● それは投資信託の仕組みとの関係もありますね。


● 今の○○委員のお話ですが,そうすると,受益者集会がある場合には強行規定ということも困るということですか。

● そうですね。
● それについて,○○委員の方から何か御意見はありますでしょうか。


● 受益者集会がある場合でも……
● 今のお話ですと,物理的につくれないんだから,受益者集会がある場合には強行規定というのも困るという。

● それは,どうやって受益者集会を……。ですから,○○委員がおっしゃることはわかるんですけれども,その場合の受益者の意思決定というのは,受益者集会ではない違う方法をとるとか,そっちの議論がないと何か……,そっちもわかるけれどもこっちの……

● 集まってくださいという形ではなくて,何らかの多数決ということはあり得るのではないかと思うんですけれども。


● 今おっしゃったことは,先ほど○○委員がおっしゃったような投信法の中の枠組みで今,対応しているわけですよね,受益者集会ではなくて。

ですから今後は,今の枠組みになるか,全く違う枠組みになるのかわかりませんけれども,そういう枠組みで対応するんであって,受益者集会を開かなくても受益者の保護にはちゃんとなるんだというような議論が片やあることによって成り立つ議論なのではないか。


今後は受益者集会はやりますということになると,やはり受益者名簿がないことには集会が開けないような気がするんですけれども。

● そこは実務上,何らかの工夫の余地があるのかもしれませんが,申し上げたいのは,基本的に現行実務を踏襲して考えますと,そういうことは極めて難しい面があるということです。


● 今のは,○○委員がまとめられたけれども,信託法そのものとしては,受益者集会があるときに名簿がなくていいとは言えないけれども,投信法の方で仕組みを設けているのであれば,投信法の方で特別ルールをつくってもらうということなんでしょうね。わかりました。

● 最後に1点だけ補足でございますが,1つは,先ほど○○委員から通知の内容について,受益者となったことだけではなくて内容についても通知すべきではないかという御指摘がありましたが,ここは仕切りとしては,受託者が通知すべきはあくまで受益者となったという事実だけであって,それ以上の受益権の内容については,逆に受益者側から説明請求権等を行使して知ることができるからよいのではないかというのが事務局の考え方でございます。
 

 あと,受益者が何人になってもいいのかという,先ほど○○委員からお話があった点,ちょっと今,内部でいろいろ話しておりまして,もう一つの考え方としては,受益者指定権というのはそもそも信託行為に淵源を有するものであるから,信託行為で定められている場合に初めて受益者を増やすことができるんだということで,目的のみならず信託行為の制限がかぶっているという考え方も確かにあり得るなと思いますので,結論はまだこれから検討いたしますが,そのような考え方もあるということを補足させていただきます。

● 時間が足りなくて申しわけございませんけれども,一応一通り御議論いただいたことにしたいと思います。
  それでは,これで終わります。
  どうもありがとうございました。
─了─

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第15回会議 議事録


第1 日 時  平成17年5月20日(金)  自 午後1時14分
                       至 午後5時20分

第2 場 所  最高検察庁大会議室

第3 議 題
   信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限について
   受益者が複数の信託の意思決定方法について
   受益権の譲渡について
   受益権の有価証券化について
   受益債権等の消滅時効について
   私益信託における委託者の権利義務
   契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務について
   信託行為の変更について
   信託の併合(仮称)について
   信託の分割(仮称)について
   反対受益者の受益権取得請求権について
   遺言信託について

第4 議 事 (次のとおり)
議        事

● ちょっと遅れましたが,まだいらしていない方もおいおい来られると思いますので,これから法制審議会信託法部会を開催したいと思います。
  いつものように幾つかに分けて行いますので,初めに○○幹事から,進行方針について説明をお願いします。


● 本日の進行でございますが,最初に,信託の変更,併合,分割に関する問題をさせていただきます。


それから信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限と,受益者複数の信託の意思決定方法の問題をしまして,3番目に,反対受益者の受益権取得請求権の問題をさせていただきます。


その後,私益信託における委託者の権利義務とそれから遺言信託の問題,最後に受益権の譲渡,有価証券化,受益債権等の消滅時効の問題ということで,全体を5つに分けてさせていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

● では,お願いします。
● では,まず第57になりますが,信託の変更の問題から御説明させていただきます。


  これは,信託の事後的変更が必要となった場合におきまして,柔軟かつ迅速に変更が可能となるような規律を提案するものでございまして,提案項目ごとに重要な検討事項を含んでおりますので,順次説明してまいりたいと思います。
  

まず,前回提案の1及び2,今回提案の1及び2と同じでございますが,これは,合意による信託の変更については原則として委託者,受益者,受託者の3者の合意を必要としつつ,例えば,受託者の利益を害しないときには受託者の合意が不要となるとの規律等を提案しております。


  これに対しまして,前回会議におきましては,受託者の利益を独立に取り上げること自体が妥当ではなく,受託者は委託者の意思,すなわち信託目的を実現する道具にすぎないのであって,信託の変更について受託者の合意を要件とすべきではない,それにもかかわらず受託者の合意を要件とするときには,信託の変更の場面において受託者が自己の固有の利益を主張することを容認することにつながり,受託者の忠実義務に明らかに抵触することになるのではないかとの指摘がされました。

  しかし,受託者の善管注意義務,忠実義務につきましては,当初設定された信託行為の枠組みの範囲において履行されるべきものであって,受託者が自己の関与しない信託の変更によって,当初予定していた以上の義務を負わされることになるのは酷ではないか。

もっとも,受託者の辞任を容易に認めればよいのではないかとの指摘もされましたが,受託者の辞任を容易に認めてしまいますと,委託者や受益者としては代わりの新受託者を選任する時間的,費用的コストを要するのでありまして,受託者が信託の変更を契機として容易に辞任できるとの制度設計は,決して望ましくないのではないか。

また,仮に原則として受託者の合意は不要としても,結局,営業信託の受託者であれば,信託の変更のためには受託者の合意を必要とする旨の特約を設けることになるでしょうから,いわば素人の受託者のみが自己の関与しない信託の変更によって新たな負担を負うことになってしまうことになりかねず,均衡を失するのではないかなどの問題点を指摘できると思われます。
  

以上の点から,今回の提案におきましても前回の提案と同様の,3者の合意を原則とする案を提示するものでございます。


  なお,前回申し上げましたとおり,ここでの「受託者の利益」と申しますのは,固有の利益ではなくて,「受託者が善管注意義務違反や忠実義務違反に問われることなく,適切に信託事務を処理し得る利益」と考えていることを改めて申し述べさせていただきます。

  次に,前回提案3,通知に関する点でございますが,これは前回は,強行規定としまして,変更内容の通知は,変更の効力が生ずる日の前日までにしなければならないとしておりました。

しかし,そもそもこの通知は変更の効力自体に影響を及ぼすものではなくて,いわば信託の変更がされることについて当事者に警告を与えるとともに,判断の適正を担保するという趣旨にとどまるものであったことに加えまして,常に事前の通知をしなければならないとしますと,必要以上のコストが生じたり,事前の通知に拘泥する余り変更のタイミングを失するなどのおそれもございます。

  そこで,今回の提案におきましては,通知は変更してから事後的に遅滞なく行えば足り,しかも通知義務自体がデフォルトルールであって,信託行為の定めにより通知自体を不要としたり,受益者が多数に及ぶ場合には,個別の通知をしなくとも,公告をもって対処するなどの方法をとることも許されるとの提案に改めるものでございます。

  次に,前回提案4におきまして,信託行為において受託者,特定の第三者あるいは受益者に信託の変更権限を与えることも有効であることを前提に,その変更権限に一定の制約を加えるべきか否かというレベルでの提案をしておりましたところ,前回会議におきまして,そもそもこのような授権行為自体が有効かという,いわば出発点のレベルから問題提起がされました。


そこで,今回の提案におきましては,信託行為をもって特定の者に変更権限を授与することの可否につきまして,全面的に否定する甲案,全面的に肯定する乙案,原則として有効だが一定の限界があるとする丙案の3案を併記して,御意見を問いたいと考えております。

  ただし,学説を拝見いたしますと,信託行為をもって特定の者に信託条項の変更権,英米法ではパワー・オブ・アポイントメントと言うのだと思いますが,これを与えること自体は否定されていないようでもございまして,これを一切否定する甲案は,資料29ページの例に示しましたとおり,実務上の要請にかなわないのではないかとの懸念がございます。


  最後に,今回の提案5は,裁判所による信託の変更に関して2案を提案しているものでございます。
  まず,甲案は,現行法第23条にあります「受益者ノ利益ニ適セサルニ至リタルトキ」という要件を「信託の目的に適合しなくなることとなったとき」と改めた点を除いて,現行法を維持するものでございます。
  


これに対しまして乙案は,受益債権の権利の内容まで裁判所が変更できるとすることについては躊躇されるものの,信託行為の当時予見することのできない特別の事情によって変更の必要が生ずるのは,信託財産の管理方法のみに限られるわけではないと思われることに配慮したものでございます。

すなわち,30ページの例に挙げました多数決制度の導入ですとか自己執行義務の緩和など,いわば管理条項にはとどまらないものの,分配条項には達しない,中間的な信託運用条項とでも言うべきものにつきましては,一定の要件のもとで裁判所による変更を許容するものでございます。

  確かに,多数決の導入ですとか自己執行義務の緩和という点につきましても,委託者の目的ですとか第三者に対する委託の相当性の有無などについての実質的な判断が必要になるわけでございますが,受益債権の内容を裁量的に変更できることに比べれば,その判断はなお容易ではないかと思われるわけでございます。

しかるに,裁判所による乙案のような事項の変更も許されないとすれば,信託当事者の私的自治で対応できない限り,当該信託は目的不達成により終了せざるを得ないことになると思われまして,受益者の利益にかなわないことになってしまうのではないかと懸念されるわけでございます。

  なお,前回会議におきましては,現行法第23条にある「受益者ノ利益ニ適セサルニ至リタルトキ」の要件についても,より明確化すべきではないかとの指摘がされました。

この点につきましては,法文上,対応可能な限度として「信託の目的に適合しなくなることとなったとき」と改めることを提案するものでございます。

  これは,例えば受益者が多数の信託におきましては,受益者の利害はそれぞれ異なり得ることに鑑みますと,総受益者の利益に適合するか否かは必ずしも明確ではないのに対しまして,委託者の定めた信託の目的については,受益者の多寡にかかわらず一義的に明確なはずであって,判断基準としては,より明確ではないかと考えられるからでございます。

  以上の諸点,特に信託行為をもって特定の者に変更権限を与えることの可否及び範囲の問題,それから,ただいま申し上げました裁判所による信託の変更の範囲の問題を中心に御審議いただけるとありがたいと存じます。


  続きまして,信託の変更の特殊類型として,信託の併合と信託の分割の問題について御説明いたします。
 


 定義は前回の資料に書いたとおりでございまして,今,申し上げましたとおり,いずれも信託の変更の特殊類型であると考えられますが,現行法上は規定もなく,いかなる手続によるべきかが明らかではないために,手続を明確化するためのルールを設けることといたしました。

  第58,第59とも,前回提案からの検討点は共通して2点でございますので,あわせて御説明いたします。
 

 まず第1は,前回会議における指摘を踏まえまして,信託の併合,分割の手続において明示すべき事項はデフォルトルールであることを,分類上,明らかにしたものでございます。

その結果,例えば信託の併合ですとか吸収信託分割の場合におきましては,他の信託の内容を明示しないことも可能になるわけでございます。


もっとも,その場合には,受益者としては,このような信託の併合や吸収分割には同意することが困難となり,結局,提案に係る併合や吸収分割が実現できなくなる可能性が高くなるだけのことだと思われるわけでございます。
  

第2に,前回会議におきまして,信託の併合や分割が会社の合併や分割に例えられるべきものであるとすれば,会社の合併無効の訴えや分割無効の訴えに準ずる制度を設けるべきではないかとの指摘があった点についてでございます。

  確かに,このような制度を導入することとすれば,法的安定性には資することになると思われます。


しかし,他方,会社の合併や分割のように法人格をまたぐ場合と異なりまして,信託の併合や分割につきましては,いずれも受託者という同一の法人格の内部で行われるものでありまして,第三者から見ますと契約相手方が変更されるわけではなく,それだけ第三者に対する影響は少ないと思われます。


また,仮にこのような制度を導入するとしても,会社のように合併または分割の登記をもって訴訟提起期間の起算日とする場合と異なりまして,登記の予定されていない信託の併合,分割の場合には,どの時点をもって訴訟提起期間の起算点とすべきかが難しいといった現実的な問題もございます。

  以上のような問題点を考慮しても,なお無効の訴えの制度を設ける必要性が高いと言えるかどうかにつきまして,御審議をいただければと思います。


  なお,第59に関して,36ページの※に記載してございますが,信託の分割によって信託債権者を信託財産によって切り分けることに関する規定を設けるか否かについては,そのニーズを踏まえて検討したいと考えておりまして,実務上,このようなニーズが存するかにつきまして,前回会議に引き続き御教示をいただければと存じます。
  以上で終わります。


● それでは,変更から今,説明があったところまで御議論をお願いしたいと思います。
  いかがでしょうか。

● では,変更について3点申し上げます。
  基本的には前回申し上げたことでございますので,簡単に申し上げます。
  まず1点目は,3番の変更の通知のところでございますが,先ほど○○幹事からお話がありましたように,「効力を発する前日までの通知」というのを「遅滞なく通知」と変更していただいた点と,あと大きな点で,強行規定からデフォルトルール化していただいたという点につきましては,前回この場でお願いした点でもございますので,非常に歓迎しておりまして,ぜひとも維持をお願いしたいと考えております。


  2点目は,4の,信託の変更に係る別段の定めを置くかどうかというところでございますが,これについても前回申し上げたとおり,変更権をだれかに与えることも含めて,特段の制約を行わない乙案を支持したいと考えております。
  


3番目は,5の,信託行為において予見することができない特別の事情が生じた場合の特例についてでございますが,これはもう実務上の観点から見た場合については,当然その管理方法以外についても,これも○○幹事からお話ありましたけれども,いろいろな局面で判断に困ったり,デッドロックに乗り上げたりするようなことが考えられまして,そのときに裁判所の関与する変更というものがあればいいなということで,そこの範囲についてはできるだけ広ければありがたいと考えております。したがいまして,これについても乙案を支持したいと考えております。
  


ただ,ここに括弧書きで「(受益債権の変更に係るものを除く。)」と書いてありますけれども,先ほどの御説明によりますと,例えば分配事項的なものを除くというような御趣旨だと思うんですけれども,ちょっとそこら辺は読みづらいところがございますので,工夫をお願いしたいと考えております。

● 2番目について御質問が1つと,4番目,5番目についてコメントを申し上げたいと思います。
  基本的には,前回会議において申し上げたことでございまして,基本的には任意規定化を追求していきたいという立場から申し上げるわけでございますけれども,まず,2に関しての質問でございます。
 


 ウとエについては受託者の関与しない変更もあり得るという話でございますが,これ自体も信託行為において任意化できるのかどうかということでございます。

例えば,受託者に柔軟な対応ができないのを承知で無理に受託者に依頼したような場合には,受託者サイドからすると,信託行為で,受託者の同意がない限り変更できないと規定したいところもあるのではないかと思っております。
 


 また,これは受託者の利益を害することが明らかという基準が必ずしも実務上,明確でないということもあって,受託者からすれば,この内容を個別具体的な事案に応じて定義ないしは縮小・拡大する必要性もあるのではないかと思っております。
 

 また,ここで言う受託者の利益というのは,先ほどの御説明では,専ら受託者としての立場の義務を追求する観点から定義されるという御説明でございましたけれども,仮に,例えばこの変更があった場合に,受託者個人としての報酬,ないしは前回も申し上げましたように,例えばシステムの投下とか人員の拡大であるとか,どちらかというと受託者個人の損益に影響を及ぼすようなことがあった場合に,やはり受託者のサイドからすれば,ある一定の限度をあらかじめ持っておきたい。


または,そういうことを条件として信託の受託者として当初,応じたいというようなニーズがあるのではないかと思ったものですから,この御質問を差し上げる次第でございます。


  次に,4番目の甲乙丙案でございますけれども,これは先ほど○○委員からも御発言がありましたけれども,乙案を支持したいと思っております。


もちろん,信託の柔軟性を高めること,それから,契約自由の原則,これにはいろいろ議論があるかもしれませんけれども,やはり実務サイドからは,乙案がよろしいのではないかと思っております。


  加えて,実務的にも,例えばどうしても専門家に頼みたいというようなこともあるわけでございますので,そこにおいて,あえて一定の限度を置くことが必要なのかという疑問もございます。
 


 最後に,5でございますけれども,これについてはまだ結論は出ておりませんが,今のところは両論あるのではないかと思っております。

先ほど○○委員から,信託受託者の立場からの御意見があったかと思いますけれども,ただ,その受託者の立場を思った場合に,例えば乙案が採用された場合に,受託者の管理能力を超えた変更が認められる場合もあって,このような場合に,簡単に辞任ができるのであればともかくとして,それができない,または適当でない場合に,対応困難な場合も生じるのではないかという懸念もあるのではないかと思っております。

  他方,受益者等の立場からすれば,やはりデッドロックに陥った場合に柔軟な対応ができる。それもいろいろな場合において対応できる。

信託終了というのは一つの手ですけれども,それが不適当でないという場合には,第三者機関による公正な判断を確保して幅広に対応できる,そういう枠組みができるのが望ましいという考え方もあるのではないかということで,両論あるのではないかということでございます。
  以上です。

● 御指摘の点,御質問ありましたウ,エにつきましてもデフォルトでして,受託者の同意を必要とすることを定めることは可能だと考えております。


● 変更権を第三者に与えるというあたりについては,ほかにいかがでしょうか。
 

 これは,受託者に変更権を与えた場合に,受託者がその権限を行使するについては,受託者としての一般的な義務というのは当然のことながらかかってきますよね。

● はい。それはかかってきますね。


● 第三者に権限を与えたときに,その第三者のいろいろな義務というのは。

● それは,もちろん善管注意義務とかそういうものはかかりますけれども,それはあくまでも委託者との関係でございますので,例えば受益者との関係での義務というのは委任からは出てきにくいので,別途何らかの制限を課すべきか,そこは基本的に自由でいいかという観点からの質問でございます。

● そこはちょっと,全く受託者でない第三者に権限を与えた場合の一つの問題だろうという気がしますね。
  いかがでしょうか。


● 今の変更の問題について,意見を述べさせていただければと思います。
  以前に述べさせていただいたことと重複するところもあるかもしれませんけれども,甲乙丙ある中では,丙案を支持する立場から意見を述べたいと思います。


  先ほど来,乙案を支持する意見が出されておりますが,乙案の解説の中にも,民法の一般原則に照らして相当でないと考えられる信託行為の定めについては効力が否定されると記載されております。

例えば,この受益権取得請求権の原因事由として幾つかの点が挙げられておりますけれども,こういった信託の目的の変更でありますとか,あるいは受益権についての重大な変更がある場合には,やはりこういったものを第三者あるいは受託者に委ねるのは,この一般原則にも抵触する場合が相当出てくるのではないかと思われます。

  そういった観点から,「民法の一般原則」といった言葉が使われていますけれども,この変更権の定めについて限界があるんだということについては,乙案とした場合でも前提となることでしょうし,また,そういった無効となる場合といいますか,効力が否定される場合がある程度,類型的に把握できるものであれば,やはりそれは規定の中にきちんと定めておいた方がよろしいのではないかと思われます。


  特に,一般民事信託の場合を考えますと,法律のその規定を見て,何でもできると勘違いするといったことが起こっても困りますので,どういった場合認められて,どういった場合に認められないかということについては,やはり一定の基準といいますか,そういったものはきちんと定めておいた方がよろしいのではないかと考えております。


  それから,信託の柔軟性ということがずっと言われてきておりまして,これは私も基本的には賛同するところですけれども,ただ,やはり信託の変更というのはかなり,何といいますか,信託の内容が変わるということで,受益者にとっては影響の大きいところですし,受益者の予測可能性という点も重要であろうと思います。


  それから,普通の契約関係においては,やはりその契約は拘束力をもって守られるべきものというのが原則であろうかと思います。


ですから,こういった原則に対して例外を認める場合には,やはり契約自由というのは一方でありますけれども,他方で契約の拘束力といいますか,私的自治といいますか,そういったものと表裏の関係になってあるものだと思いますので,そういった観点からは,ある程度きちんとした規律を設けるべきではないかと思います。

● その限界をどういうふうに設定したらいいかというあたりが,なかなか難しいわけですね。
 


 いろいろな観点から議論ができるんでしょうけれども,一方で,信託の変更そのものの問題とは違うと思いますけれども,裁量信託というんでしょうか,これは信託自体を変えるわけではなくて,信託の枠組みそのもので受益者等を事情に応じていろいろ変更することができるというタイプの信託というのがあって,これは欧米などでも一般的に認められている。

例えば,子供たちに受益権を与えていろいろ給付するわけですけれども,事情の変更によって,ある子供については当初よりも多く与えなくてはいけない,ある子供については要らなくなった,そういうときに,まさに受益権の中身を実質的には変えるわけですけれども,それはもう信託全体として,その受託者--の場合が多いでしょうけれども,受託者に裁量権限を与えて受益権の中身を変えることができるような信託をつくっておく。

これは,理論的にはここで言う信託の変更そのものとは違うのではないかという気がするんですけれども。

  信託の変更というのは,今の裁量信託とオーバーラップはしますけれども,信託の変更というのは,狭い意味で考えると,当初こういう信託として予定していたものが,その仕組みではうまくいかないという事情のもとで,信託の枠組み自体を変えてしまう。

ただ,実際上さっきの裁量信託と紙一重ですよね。そうすると,その枠組みを変更するということも,ある程度認めていいのかもしれない。


裁量信託というものがあるぐらいだから認めてもいいかもしれないけれども,その限界はどこまでがいいのか,どうも私もいま一つはかりかねているところです。

  先ほどちょっと質問の形でいたしましたけれども,受託者だからいいというわけではありませんけれども,受託者に権限が与えられているときには,一応信託法上のいろいろな義務でもって拘束は加えられていて,それによって受益者が保護される形になっていますけれども,完全に別な第三者だということになると,信託法のいろいろな義務が及んでこないために,ちょっと受益者の保護が薄いのかなと。

そういうものをちょっと関連して,いろいろ柔軟にも考えてみたんですけれども,やはり相変わらず,限界をどこら辺にするかがどうも難しいというのが私の感想です。


  何か御意見いただければと思います。

● 遅れてきまして御説明を伺っていないので,重複するかもしれませんが,今の○○委員のお話とも関連して。
  


29ページに乙案についての御説明がありまして,一般的には,信託法上は有効だとして,しかし,それを限定するものがあるとすると,より基本的な民法の一般原則による限定。


それ以外に,信託法以外の法律において何らかの限定をすることがある,この2種類の限定を加えることを考えていらっしゃるんですが,民法一般の原則というのは大体わかりますが,信託法以外の法律における縛りというのは,具体的にどういうことを考えていらっしゃるんでしょうか。

  それによって,今の限界についての線引きについても示唆が得られるのではないかと思うんですが。

● 特に「この法律」というのを,今,具体的に念頭に置いているわけではないんですが,例えば消費者保護に関する法律などで,受益者を保護するというような一定の法規範があれば,それが一つの縛りになってくるのではないかといったことが考えられるわけでございます。

● そうすると,信託法の基本法的性質というものが曖昧になってきて,それと別に消費者保護などが働いてくるということだと思うんですが,むしろそれを信託法の中に取り入れられる部分はないんだろうか。


それがあるとしたら,そこが線を引く要因になるかなという気がするんですけれども。

● そうですね,できるだけ--というか,どこまでできるかは別として,何か信託の法理の中でうまく限界が見つけられればいいと思います。


● まさしく今の点に重ねてできる質問なので,よかったと思っているんですが,消費者保護に関する法律とおっしゃいましたけれども,より一般的な法として消費者契約法があって,消費者契約法の内容規制に関する一般条項である第10条で,契約内容の変更権限を特に契約の相手方に付与するといったタイプの条項が,少なくとも消費者にとってはどのような契約内容になるかわかりませんので,不当条項の一例として挙げられることが少なくないだろうと思います。

  つまり,この点についてはもちろん争いの余地がかなりあるところだろうと思いますけれども,仮に消費者契約法第10条が一般条項として適用される可能性があるとするならば,ここから先は質問ですけれども,この消費者契約法第10条とここでの議論との関係は,どのように理解すればよろしいのでしょうか。
  


もう一つ,つけ加えて言いますと,29ページに書かれてあることの読み方なんですけれども,信託行為で別段の定めをすることができる場合に,別段の定め自体の効力の問題と,別段の定めに従って実際に行われた変更が不当なものか,不当でないのかという問題があって,この29ページの甲案の「こういう例があるではないか」ということでお書きになっているものは「こんな変更だったら問題ないでしょう」というタイプで,どちらかというと,後ろの方を考えておられるんですが,29ページの下の方になりますと,定めの効力の話になっていて,ちょっと混線があるのかなという気がしないではありません。

  ですので,定め自体の効力を否定する可能性というのは,実は先ほどの消費者契約法第10条の話でして,その問題と,定め自体は包括的に定めて,それ自体は仮に無効としないとしても,実際に行われる変更によっては何か規制をかけてくることがあり得るのかというあたり,ちょっとわかりにくい質問で恐縮ですが,2点,お聞かせいただければと思います。


● 明解な御指摘だったと思いますけれども,何か今の段階で。

● 消費者契約法の解釈につきましては,「受益者」というのが直接出てきていないので,直ちに適用されるかどうかわからないところでございますが,おっしゃるとおり変更についても,一つの考え方は消費者契約法的な縛りがかかって,それが変更の限界を画するという考え方は当然あると思っております。

  ただ,もう一つは,後で議論になるわけですが,消費者保護というような精神を,変更権限の制約という方向ではなくて,その変更を踏まえた受益権取得請求権を強行的に,一定の場合に認めるという方向で生かしていくこともできるのではないかと考えておりまして,事務局としては,変更権限は幅広く認めつつ,受益権取得請求権を強行的に認めるという方向での解決をすることではいかがだろうかと。


今,○○幹事や○○幹事がおっしゃった点も踏まえて,そういう解決の方向で御納得いただくことはできないかというのが一つの回答でございます。
  

2つ御質問とおっしゃいましたけれども,1つしか思い当たらなかったので,失念しているところがありましたらおっしゃっていただければ。

● 今の点につなげたもう一つの質問ですけれども,仮に乙案をとるとしますと,信託法にはどう書くんでしょうか。つまり「別段の定めができます」ということを明確に書くおつもりなのか,それとも何も書かないで,しかるべき解説書などに「デフォルトです」とお書きになるか。書き方によって,消費者契約法第10条との関係をどう見るのかという点が問題になるかなと思います。


  消費者契約法は,あくまでも消費者契約に関する一般法ですので,他の特別な法律で別段の定めがあるときは,そのルールによるというようなことがあるのかなと思います。

不当条項について,本当にそう言えるのかということが次の問題としてあることはあるんですけれども,それとの関係で,信託法でどういう書き方をされるのかというのは,法律間の関係という意味で気をつけておく必要があるのかなと思います。

● 書き方としては,1の3者の変更が原則だというものに,特則という形で「別段の定めを設けて変更権限を付与することができる」というような書き方をしていくのかなというのが,現時点での考えでございます。

● それによって,消費者契約法との関係では,少なくとも信託法ではこのような条項は有効であるということを,法律自体が宣言したと見られるということなんでしょうか。

● そうですね,信託法としては有効で,ちょっとその関係はつまびらかではないですが,一種の特別法ですか,消費者保護の観点からの特別法の縛りがまた別途,その変更権限にかかってくるかもしれない。それは信託法の外の話だという感じがいたします。

● あとは,せいぜい公序良俗のような一般法がかかってくるだけだという御理解ですか。

● 公序良俗とか,あるいは消費者保護,監督的な規制が別途かかってくるのではないかという考えでおります。その消費者保護のような精神も信託法に書き込む,そこまでは予定しておりません。

● さっき,2点目の質問は何かということでしたが,要するに,「別段の定めをすることはできる」と信託法で書いて,実際の信託行為で,これこれの事項については,例えば受託者ないしは第三者にその変更権限を与えるという条項が書かれる。

その条項の効力は,今の観点からすると有効だということで,それで終わりですよね。


● それで終わりでございます。
● それで,実際に行われた変更が不当なものか,不当でないかというようなお話は,受託者との関係では,忠実義務違反の問題はあるけれども,変更そのものの効力は維持されるという御理解ですか。

● それは維持されると考えております。あとは責任の問題だと思います。
● わかりました。

● 議論を整理するための御質問ですけれども,先ほどの議論の中で,要は民法の一般原則だけで十分なのかどうかということで,言葉を変えれば,信託法独自の制限をする必要性があるのかどうかということでございますけれども,例えば,個々の変更行為において委任をする,通常の民法上の委任をするといった場合と比べて,本件のように,信託行為であらかじめ決めておくこととどこが違うのかということでございます。

  一応包括的に,かつ受益権が譲渡された場合にはそれもくっついていくという話でございますので,必ずしも個々の委任とは同じではないことはわかりますけれども,そこを信託独自の制限をする必要性がどこまであるのかということでございます。


  また,ちょっと逆の立場からの御質問ですけれども,仮に個々の委託をした場合に,民法ならば委託ではできる。

だけれども,信託においてこのような委託をした場合に,信託法の特別な法理でもって民法の委託行為が制限され得るのかどうかということも疑問になったりいたします。


  議論の整理のために,教えていただければと思います。

● 今の点に関しては,民法でもって,全く信託という枠組みがないところでどういう委託契約をするか,これはもう民法だけの問題だと思いますけれども,信託でもって基本的に受益者に何か利益を与えて,その利益を保護するために受託者にいろいろ義務などを負わせている,そういう構造があるときに,それを前提として別途,委託者との間の契約でもって自由にそれを変更させるような権限を与えるのが適当なのかどうか。

そういう意味では,やはり信託法の基本的な枠組みとの関係で多少制約があるかもしれない,そういうことですね。


● いろいろな点を考えると,個々の取引というのはいろいろあるわけですから,信託法ゆえに,その制限をしなければならないという事由があるのかどうか。

● ですから先ほど,必ずしも信託法の内部にそういう制約を設けることは─検討した方がいいけれども,具体的にどんな制約があるかということについては,今のところまだ抽象的な議論しかされていませんけれども,信託法内部の問題として制約があるかもしれないというのは,繰り返しになりますけれども,やはり信託で受益者に基本的に受益権を与えている構造のもとで,それを何か別の--と言うと変だけれども,もともと設定行為のときに決めるわけですけれども,それを奪えるような構造が果たしていいのかどうかということですね。
 


 さっきの消費者契約法との関係は,一たんこういうものが有効だということは宣言して,もう不当条項の問題にはなり得ないということではないんでしょう。やはりもう一回……,どうですか,○○幹事。

● 消費者契約法第10条のみだとしますと,理解の仕方はいろいろあるだろうと思いますけれども,任意法規に反して一方当事者に不当に不利で,信義則に反してということで,仮に善意に解すれば,乙案でこう定めているということは,法律自身が少なくとも一方当事者に不利でないし,信義則に反しないものだという性質決定をしたというぐらいにしか理解できないのかなと思います。
  


消費者契約法第10条自体の特別法というのは,ちょっと考えにくくて,不当条項に当たらないという立法者の判断と読むしかないのではないでしょうか。


そんな読み方で本当にいいのかと言われると,すごく心配にはなるんですけれども。

● 私の説明が非常に不適切だったと思うんですが,私の考えていたのは,あくまで信託法としては授権できる。


しかし,授権の有効性というのは民法の公序良俗とかもありますし,場合によっては消費者契約法の精神から,そのような授権が一種の公序良俗に反するものとして外的に無効になることはあるという意味で,世界が違うといいますか,一般法が信託法,特別法が消費者契約法みたいな理解をしているわけでございます。

● ちょっとさっきのと違って,消費者契約法によってさらに制約されることがあり得るという……。

● あり得ます。

● ただ,消費者契約法第10条が一般条項なので問題なんですけれども,しかし,何が第10条に該当するような条項かということを,もう少し類型化して挙げるという作業が行われつつあると思うんですが,そのときに契約内容の変更権限を,少なくとも契約の相手方に付与するというような条項は,第10条の典型的な不当条項の一例であるという解釈が仮に確立しているとなりますと,これとの関係は,今の御説明だとすごく難しくなるのではないでしょうか。

● そこがどうもさっきから,消費者契約法との関係で,乙案のような条項を設けたことの意味をどう理解するかが難しい問題ですね。

● 一般的に,変更権限を少なくとも相手方に与える条項は不当条項だというのは,必ずしも根拠のない解釈論ではなくて,比較法的に見ても不当条項の例としてよく挙げられる例の1つですので,やはりそれとの関係はもう少し詰めておく必要があるのではないかと思います。


● ○○幹事の御意見は,もうちょっと詰めた方がいいと思っていますけれども,ただ,ちょっと逆のことを言うかもしれませんけれども,他方で,信託という契約における当事者というんですかね,それが一体何なのかということ。


受託者に仮にそういう権限を与えても,受託者というのは当然には,契約関係における対立的な当事者というわけでもないところもあるものですから,そこが難しい。


そういうことを考慮して,信託においてこういうふうにだれかに与えるのは,契約の構造のもとで相手方に与えるのとは違う,そういう意味で,一般的に有効だという理解の仕方もあり得るかもしれませんね。

  しかし,ちょっと……
● ちょっとよろしいですか。
  ○○幹事から申し上げたことの補足にすぎないかもしれませんが,例えば消費者契約法第10条,○○委員も今,御指摘になられたとおり,契約の当事者でない受益者について,消費者契約法の第10条がどういうふうに適用になるかというのは,例えば,これが第三者のためにする契約だったらどうなるのだとか,そういうことを調べたのですがよくわかりませんでした。
 

 したがって,現時点でどういうふうに適用になるかは率直に言ってわからないのですが,仮に何か適用になると考えたときにも,消費者契約法第10条といいますのは,その契約が公序良俗,民法の第1条第2項とか一般原則で判断するときに,契約の一方当事者が消費者であれば,それが公序良俗に反するか否かを判断する際にそういうものを斟酌して,それで無効とすることもあるよという規定かなと思っておりまして,例えば,第三者に変更権限を委ねるときの受益者が仮に法人だったりしたような場合には,それは,信託法においてそれが無効になるといったことではないのだと思うのですね。
 


 したがって,先ほど○○幹事が申し上げたそれが信託法上は有効だと判断されるという意味は,例えば法人とか,仮にこういう行政法規なかりせばあったであろう状態。


例えば,消費者契約法は民法のほかにあるわけですから,民法があって消費者契約法があるように,信託法があって消費者契約法的な法律があると考えれば,この消費者契約法的な,行政法規的な法規がなかりせば有効だというようなものだって考えられて,そういうものは,信託法の上においては有効だと考えていけばよいのではないか。

  それで,仮にこういう行政法規が適用になると考えて,一方の受益者が消費者というような弱い人たちですねというようなことで考えれば,一般原則との関係で,そういうものは無効だということもあり得るということかなと。


  したがって,それは信託法のほかの法律が,信託法がとりあえず,こういう信託法案に別段の定めで置くことができますよという世界を開放した上で,その際ほかの行政法規でどういうふうに制限を加えていくかというのは,また別の法律において考慮されるべき問題だというのが乙案の考え方かなと理解しておりましたが。

● 消費者契約法は,必ずしも行政法規というわけでもないのでね。
● 行政法規というのは,ちょっと言い過ぎかもしれませんが。


● ただ,さっき私が言おうとしたのは,例えば,普通の自益信託で信託銀行に投資としてお金を委託するというタイプで,それを消費者が委託するということになると,これはもう典型的な消費者契約のパターンなので,恐らくそういうところで一番シビアに消費者契約法第10条との間の相克というのが出てくるんだと思うんですね。


  それと違って,民事信託のタイプかもしれないけれども,子供たちの間で財産を分配するために受託者が親から頼まれて管理しているなんていうことになると,これはまた消費者契約法の世界とは少し違うかもしれないということで,消費者契約法が関連するタイプの信託と,余り関連しないタイプとの信託があるのではないかとちょっと感じます。


● 信託の変更のところで,消費者契約法第10条との関係がどうなるかというのは,前から考えていたんですが,まず当事者の問題で,受益者と受託者は普通の契約関係にはないので,そこだけで,消費者契約法第10条はそもそもかなり適用されにくい関係にあるのではないかと思っているんですね。
  


それから,信託行為で「別段の定めがある場合は」という例外を設けた場合に,消費者契約法第10条の不当条項の規定で,要するに,何も書かない任意規定と比べると,ちょっとまた適用の関係で,別個の1つの,法律で別段の定めを認めているという方向の評価がされると,やはりその適用がされにくい方向にいくことだと思います。

  かつ,受益者の立場からすれば,自分の知らないところで信託の変更がされてしまうような条項が入っている場合に,それを原則として受け入れなければならないのかどうか,そういう問題を考えれば,受益者と受託者の間では直接契約関係がなくても適用されるんだ,そういうふうに消費者契約法第10条のあの規定を信託の世界で読みかえた規定をつくればはっきりして,しかも,受託者が事業者で受益者が消費者の場合にはそうするというふうにすれば,かなりはっきりするのではないかとは思うんですね。

  ですから,何らかの形でこの乙案というか,結果的には丙案がいいと思うんですが,その場合,制限のつけ方として,やはり事業者対消費者の契約の場合の限定が何か考えられないか。

それは,消費者契約法第10条と同じ結果をここに当てはめるというふうに信託法で手当てしないと,消費者契約法第10条自体が適用されない。その前の形式的なところで排除されてしまうのではないか,そんなふうに考えます。

● 今,消費者契約法との関係が出ていますが,もう少し一般的に考えた場合にどうなるのかということなんですが,一般論として,契約の効力として内容が確定しているということが1つあると思うんです。

それを一方当事者が,あるいは第三者が自由に変更できるということになると,内容の確定性との関係が問題となってくるだろう。

その場合の対応の仕方としては,内容が不確定であるがゆえに無効になるという考え方と,それとは別に,有効なんだけれども確定の仕方によって,それが濫用にわたるときはその効力を認めないという2つの方向が比較法的にもあるのではないかと思うんです。

  この場合に,もし有効とした上で濫用を限定するという発想でいった場合には,何が濫用かの基準として,例えば今の消費者契約法の発想も出てくるでしょうし,さらに根本的に言えば,信託の構造というものがそれを画する基準になるのではないかというような,より一般的な整理の仕方もできると思います。


● 今のは,いわば変更権を行使する段階で制限がかかってくるというふうに理解しましたけれども,必ずしもそういう意味ではありませんか。内容が不確定になるので無効になるとおっしゃった方の問題点が残されていると思いますけれども。


● もともと内容が全く確定していなくて,「何かいいものをあげる」という合意は,契約としては効力がない。


一応「何かをあげる」とした上で,あげる内容は一方的に,自由に変更できるとなると,それ自体効力がないという対応も可能であろう。

しかし,そうではなくて,一たんそれを有効とした上で,その決定の仕方が濫用的な場合はその効力を奪うという方向もあるわけでして……


● やはり権限行使の段階での話ですね,後者は。

● そうですね……。段階というよりも,特にフランスでは,もともと代金を決めていない契約は無効だというのがあったんだけれども,それを一方的に無効にするのではなくて,濫用の問題だというように変わってきたということがありまして,それをヒントに考えてみたわけです。

● 私も乙案に賛成の立場から,○○委員のお話について意見を述べたいと思うんですけれども,○○委員が想定されているケースとはちょっと違うのかもしれませんが,流動化の場合で,実務上,乙案のような規定があった方がいいと望むのは,今,お話になられているような,かなり広い権限といったものを望んでいるわけではありません。


要するに,受益者の同意を取りつけるのは実務上,非常に大変だというところはもちろんあるんですけれども,今までの信託契約の変更例などを見ましても,具体的な変更の必要性が出てきたとき,想定していなかった事態になったときに,受益者の利益に適合することが明らかかどうかといったところが,やはりこれ,いいのではないかという議論と,いや,ちょっとでも利益に抵触するようなことになると問題になるのではないかということで,やはり委託者と受託者の間でかなり議論になってしまうということがあるわけですね。

  その中で,今までであればかなり慎重を期して,受益者も含めて合意するというような形でやっているわけですけれども,そこのところが明確な範囲,ある程度の裁量権があれば,もっと安心してこれを使えるなといったことがあるので,乙案のような形を非常に望んでいるということでございます。
 


 したがって,今,問題になるような幅広い権限というのは望んでいないし,○○委員が書かれた現代信託法にも,余り広い権限を認め過ぎると当然,受益者はこれを利用しないだろうということが書いてございますけれども,当然そういう事態,後から市場によって規律されるところもございますし,流動化の場合は当然,受益権について格付とかそういったものを付与しておりますので,そういったところで余りにも広いものがあれば,当然受益権が不安定なものになるわけですから,当然これは許されない。


したがって,そういう市場とか格付の圧力によって大きな権限を与えるということには当然ならないと思われますので,そういった場面も想定していただいて,ここの議論を進めていっていただいたらいいのではないかと思います。


● 結論はちょっと違うところもあるんですが,論点は今の○○委員と近いです。
 

 そもそも論のところで,一応3者合意となっていますけれども,多数当事者の契約変更をどうするか,実務でよく問題になりますけれども,この場合,受益者は一種の第三者のためにする契約の当事者のようなところがありますから。


ただ,1の例外としては,ある意味では2が一つの現実といいますか,委託者に絡むところは委託者の同意が必要でしょうし,基本的には受託者と受益者の間でできるという,2がどちらかというと現実的な原則に近いのかなとおります。


  ですから,2が書いてあることによって多くの問題は解決できるのかなと思う反面,この2の要件の中で,信託の目的ということが一つのメルクマールになっていますけれども,以前にも議論されているようですけれども,実際の信託契約の中で,信託目的というのは非常にシンプルに書かれているだけでして,それを信託契約と全体ととらえてしまうと,ちょっとでも直すと,今度は信託の目的に反するのではないかと。


ですから,解釈論といいますかね,現実的に変えようとするときに,2の原則といいますか,当事者の括りとしての原則は,ある意味では2が現実的だし,民法の原則にも反していないのではないかと思うんですけれども,他方において,2で書いてある要件のところの目的とかいうところで,今,○○委員がおっしゃったように,信託行為に別段の定めが必要になってくるのではないかと思います。

 やはり○○委員もおっしゃったように,実際にはそういうことをしないでしょう,マーケットの目もありますからというのは,そのとおりだと思うんですけれども,一方的に受益者の利益--という,また非常に曖昧な概念を持ってきてしまうと今,言ったことと矛盾するかもしれませんけれども,丙案で一定の限度というのを,今,○○委員がおっしゃったような,ある意味で信託法上の常識的な限度を設ければ,今,議論したことの多くは解決できるのかなと。
  


もちろん,そこに何らかの限度を設けることによって,また解釈論が分かれてしまって,結局,全当事者の同意が必要だとか。


実際に流動化などで信用補完分を入れかえるといったときに,例えばキャッシュに入れかえるといったときに,全く価値としてはその方がいいかもしれませんけれども,しかし,それを好まない人もいるかもしれないとかですね。


ですから,どうしても信託契約の変更が必要な場合というのは出てくるんですけれども,ただ,その場合でも受益者の利益とか,違う何らかの要件をうまく持ってくれば,ある意味では,乙案と丙案の議論というのは究極的には同じところに到達するのかなと感じたんですけれども。


● 先ほどの○○委員のお話に対してですけれども,○○委員がおっしゃったような弊害が起こり得るんだろうなということはよくわかるんですけれども,基本的には,我々の求めているのは,やはり基本的には自由な設計といいますか,理念的なものが非常に大きな要因でして,弊害がある部分について,当然取り除く工夫はしないといけない。

それについて,例えば典型的な例でいくと,受託者が事業者で受益者が消費者だというんであれば,それはもう典型的な業法の問題になろうかと思いますので,一番懸念される部分というのは,そういう部分で排除されるような話だなという気はいたします。


  あと,だれに授与するかという部分を抜きにしますと,内在的なところで変更内容をどうするかという部分については,先ほど○○幹事が「委託内容による」と言われましたけれども,これは以前,聞いたことがあると思うんですけれども,多分それは信託契約,それも多分,上位概念である信託目的というものに,契約の内容ですから,そこに拘束されるとすれば,信託目的に拘束されることにもなるのではないかと考えております。
 

 そういうこともありまして,考え方としては,一つの整理の仕方というのはあるのかなと思っております。


● 今のは,○○委員の発言も結論的には少し似ているところがあると思いますけれども,簡単に言えば,信託目的による制約みたいなものはかかるということですよね。


それは一つの考え方だと思いますので,もうちょっとここら辺は書けるかもしれませんが。

● 遅れて来て申しわけありません。もしかしたら既に御議論なされているか,あるいはもう既に決着している問題かもしれませんが,私も非常に重要なポイントだと思っておりますので,発言させていただければと思います。

  まず第1に,この信託の変更権を,例えば第三者なり,あるいは英米ですと,多分,一番念頭に置かれているのは委託者に変更権を留保しておくということだと思うのですが,その前提として,信託の撤回権というのはどう考えられているのか,まず御確認させていただければと思います。
  


信託契約の中で定めておけば,もちろんもう撤回だって自由だという前提で,それとのつながりで信託の変更権というのも出てきているのか,あるいは信託,いわゆる英米の撤回可能信託というのは,この議論の中ではどう扱われているのか。


もし仮に撤回可能信託まで認めるという趣旨ではないとすると,私は,信託の変更権を第三者に与えれば,それは決めれば自由でしょうという話では必ずしもないのではないかと理解しております。

  その場合,また2つ考え方がございまして,変更権はとにかく権利として第三者にあるんだという場合は,恐らく受託者は,変更権の行使が受益者に何らかの不利益を与えるときには,やはり信託をディフェンドする義務があるのではないか。


そうすると,そこでまた非常に難しい問題が生じて,変更権の行使と,それから受託者が信託を守る義務との間でさまざまなコンフリクトが生ずると思われますし,他方,もう一つの考え方としては,この変更権というのが本来,受益者に帰属するものなのだけれども,受益者から授権されている。


  そういう意味では,むしろ受益者的な立場でこの権限を行使するんだ,こういう2つの考え方に分かれようかと思いますけれども,当然には認められないという前提に立った場合は。


そのときには,この御提案は2つの方向のどちらを指向されているのか,あるいは全く別の考え方なのか,ぜひ教えていただければと存じます。

● 前段の,信託の撤回権の問題につきましては,変更権の延長といいますか,それも認めている,視野に入れていることでございますので,信託を撤回することを委託者が留保することも十分可能ではないか,信託行為で定めればできるのではないかと考えております。
 
 あと後段は,すみません,どういう点でございましでしょうか。恐縮ですが。


● この変更権というのがまさに権利としての性格を持っているとしたら,その権利の行使と,あと,受託者としては受益者を守る,信託を守るという義務があると思いますので,それとの関係と整理するのか,あるいは,変更権というのは本来受益権から生じていて,受益者から委託というか,受託されているものだと。


逆に,変更権の行使に当たって何らかの注意義務がかかると考えられているのか,あるいはそのどちらでもないのか。

● 必ずしも受益者に対する注意義務とは考えにくいので,その変更権をだれが与えたか,あるいは変更権を与えられた趣旨によって,その変更権者が行為するに当たっての注意義務の相手方は決まってくるのではないか。

  そうしますと,今の御質問の答えとしては,端的には,それは場合によるとしか言えない。常に受益者の方を向いていなければいけないとは言えないのではないかと考えております。

● いろいろ重要な問題提起があったと思いますけれども,ここで変更ということでイメージしている中身が,どうも人によって少し違うかもしれない。
 


 変更の主なる場面というのは流動化のときで,○○委員が例を挙げられましたけれども,いろいろな事情で変更せざるを得ない。


そのときに,いちいち受益者の同意を得ていたのではなかなかできないし,そういうものを,あるいはその変更のための要件のところでも,限界的な場合もあるかもしれないから,そういう意味で,簡単に変更できる--というのはちょっと語弊がありますけれども,必要な変更ができるようにしておきたいというのが1つであったと思います。

  こういう場面での変更と,○○幹事が言われたような撤回まで含めた場合の変更とは,ちょっと需要が違うかもしれませんよね。同じ要件で果たしていいのかどうか,ちょっと気にはなりますね。
  


そのほかにもあったかもしれません。そもそも変更権というものがどういう権限といいますか,○○幹事が言われたように,受益者の方から来るのか,あるいは委託者の方から来るのか。受託者固有というのは,本当はないんだと思いますけれども。委託者か,あるいは受益者ですかね。


  そんなふうに,どうもこの変更が問題となる場面が違うために,議論もいろいろなところに向いていますし,なかなか「こうあるべきだ」という姿も見えてこないのかなという感じがしますが,引き続き示唆をいただけるような御意見があれば。


  あるいは,この点だけに集中しないで,裁判所の変更のところの問題も,今の議論にも関係していると思いますので。

● 今回2点として,要件を目的の関係にしたということと,それから,乙案というものが新たにできたという点があるんですが,いずれも問題点があると思っておりますので,御指摘させていただきたいと思います。
  


まず,乙案でございますが,裁判所による変更の範囲として明らかに無限定かつ広過ぎるということで,反対せざるを得ないと考えております。


前回は,財産分配の方法に拡大するかどうかが検討課題とされておりましたので,実体権にかかわるかどうかという観点から申し上げておりましたが,今回の案によりますと,受益債権の変更を除くあらゆる事項が対象となりえる。

信託行為において,いろいろなことが何でも設定できるとすれば,受益債権の内容にかかわらない限り,すべてが変更し得るということになるわけですが,それでよいのでしょうかということを申し上げたいと思っております。

  例えば受託者の義務の範囲,報酬請求権や補償請求権の範囲といったもの,一つ一つ何が信託行為で任意的なのかというところを私,検討したまいったわけではありませんが,強行法規に反しない限り,何でもかんでも裁判所の判断によって変更できてしまう。

非訟手続でございますので,当事者には手続保証もされていないということでございまして,そのようなことは裁判所にとっては若干,本当にそんなことでよいのかという印象を持っております。


  例えば,こちらの資料の例でございますが,予想されなかった技術の進歩があった場合の自己執行義務の緩和ですとか,予想されなかった決議事項が生じた場合の多数決制度の導入というものが挙げられておりますが,これらについても,真に裁判による変更が必要なものかということについて,極めて疑わしいのではないかと考えております。


  例えば,前者につきましては,そもそも今回の法改正においては,相当な場合に他人に委託できることにしておりまして,あえて信託において自己執行義務を課した。


さらに,これを合意によらずに変更する必要性が一体どこにあるかがわからないということでございます。

  また,自己執行義務の緩和は,受託者の責任の範囲を選任・監督責任に限定するという意味では,実体権の変更といった観点からも,本当にそれでいいのでしょうかということを申し上げたいと思っております。

  さらに,実務的な観点から申し上げますと,当初,信託行為の当時,予想されなかった技術の進歩ということでございますが,信託行為の当時にどのような技術を想定して自己執行義務を課したかといったことを,どうやって判断できるのか。

先ほど○○委員からも御発言がありましたとおり,信託目的等についても簡略にしか書かれていない。


ましてや自己執行義務を課した理由などが書いてあるはずもないということでございまして,そのような,この自己執行義務の問題だけを見ても,本当に機能するのだろうかということについても極めて疑問に考えております。


  次に,後者の決議事項の問題でございますが,これにつきましては,信託管理人についての審議のときに申し上げたことと同じでございますが,受益者の内部的な意思決定の方法を裁判所が定めること自体,おかしいのではないか。


そのような制度の例がほかにあるのか。会社との比較で言いますと,会社の意思決定の方法を,裁判所が突然定款を変更して変えてしまうというようなことがあっていいのだろうかということでございます。

  こちらにつきましても,当初予想されていた決議事項というのが何かということについても,かなり実務上も問題があるのではないかと考えておるところでございます。
  


そもそも契約を裁判所が当事者のイニシアチブによらずに変更すること自体,ある種,異常な事態であるということを,まず前提に考えていただく必要があるのではないかと考えております。


多数当事者の契約においてデッドロックに陥るということは,他の契約類型においてもあり得ることでありまして,信託だけ,なぜということを考えております。


  現行法の管理方法の変更というものが要らないというまでの根拠も,実際に事件がないものですから,ないわけではございますが,管理方法の変更以上に変更の範囲を拡大するのであれば,どのような局面で裁判所の関与が真に必要なのかということについて,やはりもうちょっと,具体的なニーズがあるかどうかということも含めて根本的に検討をお願いする必要があるのではないかと考えておるものでございます。
  

次に,「信託目的に適合しないとき」という要件の問題でございますが,確かに,資料などを見ましても,終了との関係で相応の明確性を有しているとの評価を得たという記載がございます。

ただ,今回の提案も拝見いたしまして,改めて考えてみますと,目的を判断の材料とすることについても問題はあるのではないかと考えておりますので,指摘させていただきたいと思います。

  つまり,信託目的に適合しないということを判断基準とする場合には,信託目的の範囲をどういうふうにとらえるかが問題だということになるわけでございます。


前回,終了との関係で御説明がありましたのは,子の学資に充てる目的で信託をしていたところ,当該子が進学せずに就職したというような場合が目的に適合しなくなった例だというふうに御説明を受けました。


ただ,この場合には,学資目的というものが,ある程度明確な目的であるということが前提であったのではないかと考えております。


  例えば「収益を上げること」といった非常に抽象的な目的である場合には,目的に適合しないかの判断も不明確なものとなったり,あるいは,目的が非常に幅広くとらえられるので,それに適合しない場合は稀であるといったように,判断のぶれが生じてくる場合もあるのではないかと考えておるものでございます。
  

特に信託財産の管理方法の場合について考えてみますと,信託目的が「収益を上げること」のみであるような場合では,例えば,現在の管理方法Aでは収益が上がらないが,他の方法Bであれば収益が上がるといった理由で管理方法の変更が申し立てられる。

そのような場合に,裁判所が投資判断のようなことをして変更の可否を判断することとなるのか,そういった裁判所の判断として,適切な対象なのかといったことも含めて,もう少し御検討いただければと考えている次第でございます。


● 裁判所の変更についても,やはり要件の方は明確に書いてありますけれども,どこまで変更できるかについての意見はいろいろあり得ると思います。
  


契約とどこが違うのかなどというのは,根本的な問題。契約とは,やはりちょっと違うところがあるのではないかと思いますけれども,いかがでしょうか。


 ここに限定しないで,先ほど○○幹事から説明のありました合併の方まで含めて,御意見いかがでしょうか。


● 確認したい点なんですが,併合,分割というのは,あくまで同じ受託者,「1つの受託者内における」と書いてあるんですが,これ,違う受託者間ということは考えていらっしゃらない,または,それをやるときには信託の変更--変更でもなかなかできないかもしれませんけれども,その辺はどういうお考えでしょうか。

● ここで考えている併合,分割というのは,あくまで同一受託者の中でございまして,受託者をまたぐ場合は,それを組み合わせて信託の受託者の変更の手続をすればいい。

両方一体としてやって,受託者も変えつつ信託の併合も合わせるということは,もちろん両方組み合わせればできますけれども,ここで考えている原則は,あくまで1つの受託者の中で分ける場合を念頭に,資料を作成させていただいております。当事者の変更と組み合わせればいいだけではないかと。


● 要するに,そうすればできるということですね。


● はい。なお,付言しますと,裁判所の件につきましては,おっしゃるとおり,裁判所としてはなかなか判断が難しいという点は,理解できるところでございます。

しかし,デッドロックになったときに何らかの改善措置はないか。特に信託法においては,裁判所の関与がほかの契約類型とは異なって認められているところを発展的に,乙案のような形で根づかせることができないかという観点で,乙案を提示させていただいているわけです。

  ただ,「信託の目的に適合」では,なかなか不明確だと。この前のお話ですと,「受益者の利益に適合」という要件でも,なお不明確だと。では,逆にどういう要件だったらいいかというのをぜひ出していただけると,こちらとしては助かるのですが。

● それは,なぜ裁判所による判断が必要なのかというところから導かれるべきものであって,そもそも裁判所がそれを云々して,裁判所自身が裁判所にとって都合がいいからというところで要件を提示するというものではないのではないかと考えております。


● 信託財産の管理方法については,現行法でも認められておりまして,少なくともこれは維持していいのではないかというコンセンサスはあると思いますが,この要件は,今,現行法では「受託者の利益に適合」云々ということになっておりまして,これはそのままでいいのか,これについてはどのようなお考えでいらっしゃるかという点ですが。


● それ自体も不明確であるということは,前回ときに申し上げたはずでございます。


● 不明確だったら,どうしたら明確になるかという……,事務局としてもいろいろと考えているところでございますが,裁判所側の意見として,では,どういう要件だったら判断がしやすいんだろうかという,何かこちらに教えていただける点があると非常に助かるんですが。


● そこは,少なくとも最高裁判所の,当局の内部では全く検討しておりません。


個人的にはいろいろ考えるところもありますが,ただ,先ほど申し上げましたように,なぜ裁判所の関与が必要なのか,一体この制度はそもそも何なのかということをまず考えないと,要件というのも出てこないだろうと考えております。

  例えばでございますが,信託財産が非常に急速に毀損しているような場合に,その毀損をとめるために必要な場合というような形で例えばの要件を仕組むことはできるわけですが,それは,例えばほかの法制度などを見て,そういうものが,例えば倒産などで保全処分とかそういったものの要件を見て,それに類したものを考えることはできるわけですが,しかし,それは本来,裁判所が提示するものではなくて,何のために管理方法の変更が必要なのかということがあって,まずそこから導き出されるものかと思いますので,そういう意味で,裁判所から要件を御提示するということ自体,不適切なのではないかと申し上げているものでございます。

● わかりました。
  あと範囲の問題につきましては,また御議論を踏まえて検討したいと思いますが,○○委員もちょっとおっしゃいましたように,範囲の問題と行使の問題は別に考えることもできるのかなという気がしておりまして,確かに授権の範囲については,もちろん目的に反するものはだめだとか,消費者契約法の精神ですとか,それが反映される公序良俗とかの問題はあると思うんですが,それは非常に仕切りが難しいとすると,授権の範囲については信託法上は特に制限はしなくて,あとは一般的な規定に縛りを委ねるというようなこともあり得るのではないかという気がしております。
 


 他方,行使につきましてもやはり問題になるわけでして,目的に反する行使,あるいはそもそも忠実義務を全部なくしてしまうというような行使の仕方,あるいは公序良俗に反するような行使の仕方というのもあって,それについてもまた別途,その行使自体が無効という考え方もあるでしょうし,行使の局面については,私が冒頭ちょっと申し上げましたが,そのようなものは非常に受益者の利益を害するということで,変更を無効とする選択肢のほかに別途,受益権取得請求権の方での解決というのも行使についてはあるのではないかと思いますので,一つの選択としては,範囲は信託法上は無制限で,行使については,受益権取得請求権を強行的に入れていくというような解決策もあり得るのではないかというのが事務局として考えているところでございます。


● 私,前回この問題をやったときにどういう意見を述べたか全然記憶にありませんで,全く前回と違うことを申し上げるかもしれませんけれども,先ほどから問題になっております裁判所による変更の話で,現行法の第23条というのは,もう言うまでもないことかもしれませんけれども,当事者間による変更方法についてクリアな規定がないところに裁判所による変更方法があるわけで,当事者による変更方法が定められた後に5としてこういうものが置かれるというのは,恐らく現行法とは大分性格が異なるものになるんだと思うんですね。
 

 それでは,何のために5を置くのかという話なんですが,先ほどから,デッドロックに乗り上げたときとか,説明の文書によりますと,当事者間で容易に調整がつかないときというふうに書いてあるわけなんですが,その状況のもとに裁判所が介入することを認めるためには,受託者や受益者や委託者といった変更の当事者になる─これは2のところで,当事者は場合によって異なるわけですが,当事者になる人たちが,信託目的というものを考慮しながら変更に応じなければならないという義務を措定するということがないと,できないのではないか。


つまりこれは,自分がどう思おうが自分は勝手なことを言えません,信託目的というより崇高なものに従って,それに適合するんだったらそういうふうな形で合意をしなければならない。


それにもかかわらずしないものだからうまくいかないというときに,裁判所が強制的にやるというふうに考えなければならないと思うんですね。
 


 しかし,本当にそういう義務があるのかということになりますと,これは疑問でありまして,疑問どころか,○○幹事が先ほどおっしゃった,例えば第三者が変更権限を持っていて,その人はどういったことのためにやらなければいけないのかというときに,目的に従ってということにはなるのでしょうから矛盾はないのかもしれませんけれども,そういう人に専権が与えられているときに,果たしてその人の交渉方法がおかしいといって裁判所に請求できることになるのか。

目的というものをより崇高なものとして置いて,そちらに従わなければならないということになりますとできそうなんですが,本当にそうなのか,私はかなり疑問な気がいたします。

  結論から申しますと,やはりこれだけ柔軟な形で変更権限を認めて,かつ,そのときの判断について義務性を認めないのならば,5の規律は置けないのではないかという気がしてならないんです。
  


ひょっとして私,こういう発言をしようと思いながら,ひょっとして前回,私は5を置くべきだと言ったのではないだろうかみたいなことを思って,ちょっと心配になっているんですけれども,議事録は匿名でしかございませんので発言させていただきました。


● 理論的なことではなくて,今後,もし民事信託に弁護士が関与することになったときに,受益者の捕捉とか受益者間における何らかの,本来,信託とは違うところでの争いとか,または,今日の議論に遺言信託における相続に足る委託者の地位というのがありますけれども,もし仮にそういうふうに,本来,利害関係にある当事者が委託者として登場するとかいったときに,信託は確かに1契約類型かもしれませんけれども,信託法がこうやって議論されるほどのものですから,他の1契約にしかすぎないということは全くなくて,そういうような紛争案件で,本来どう見てもいろいろな要件,信託の目的にも受益者の究極的な利益にも資するような状況のときに,やはり裁判所の後見的な役割を期待できる制度であった方が,ほかの契約でも当事者間の紛争があれば紛争するんだからというよりも--の方が,恐らくいいのではないのか。裁判所が困るということはあるかもしれませんけれども。

  ちょっと類型は違いますけれども,実際に非訟事件手続法というのがあって,私,借地非訟をやっておりますけれども,信託が実際に多く使われるようになれば,紛争の類型とか,また,それに対して裁判所としてどういう方から--借地非訟の場合には鑑定人という形で意見をとりますけれども,どういう方からどういう意見をとったらいいかとか,抽象的議論をしていると何でもかんでもとなってしまいますけれども,実際に民事信託ということであれば,この説明には商事信託の例が書いてありますけれども,ある幾つかの民事信託の類型を考えることはできますから,その中での紛争形態というのも考えることができると思うので,そうすると,多少判断基準等が出てくるのではないか。
 

 ですから結論的には,理屈云々よりも,裁判所の後見的解釈というのは,信託においては今後とも維持されるべきだと思いますし,なおかつ信託法改正においては,今回の乙案のような形で,従前の法律よりも多少なりとも明確になっている。


より何か基準を明確にするのは,今後の信託の使われ方とか手続の進展に委ねればよろしいのではないかと思います。


● 借地非訟の点がありましたので,その関係で1点だけ申し上げますと,借地非訟については長い歴史があり,借地についての紛争の歴史があって初めて,「契約を裁判によって変更しない」というのが民法の原則であるにもかかわらず,現在のような形になっているのではないかと思うわけでございます。
  


信託については,実際にそういうことが現在起こっているのだろうかということでございまして,そういう意味で,それだけの立法事実があるのかということを申し上げたいと思っているものでございます。

● 理論的ではなくて実際的なことを考えろということなんですが,やはり理論的なことを考えざるを得ないので,借地借家法の問題に関しましては,これは当事者が給付の均衡をとった形での契約条件にしなければならない,こういう義務を措定して,例えば賃料増減額請求権というものを認めてあれするわけですよね。


この信託において,だれとだれとの給付の均衡がとられることになるのかとなりますと,ちょっとこれは借地借家のときの話とは一緒にできないのではないかと思います。

  もう一つ,後見的な話が出ました。これは極めて重要な話だと思うんですね。


かつ,私が思いますに,第23条で念頭に置いていたのは,まさにそういうふうな後見的な話が第1と,もう一つは,だれの目にもこういうふうにすればよいのは明らかであるという形なのに,その変更する手続がないのでできない。

しかし,勝手にやることはできないので裁判所の許可を求めるというふうな場合なんだと思うんですね。


後者に関しては,手続ができたならそれでいいではないかというふうなことは,私がさっき申し上げたとおりですが,前者に関して後見的な介入をすべき場合というのがあるのかがポイントになるんだと思います。
  

そうなりますと,これ,2のエなんですよね。だけれども,2のエというのも,考えようによってはちょっとおもしろいところがございまして,つまり,この受益者というものに,例えば未成年者でもいいですし何でもいいですが,生活保持のために給付を受けるという人を位置づけたといたしますと,受益者が「私の生活を守るのが信託の目的なんだから,給付額を増やすということはとってもいいし,かつ受託者の利益は害さないんだからいいではないか」といって勝手に変えられるということになりそうなんですが,ここら辺が結局,裁判所の関与がどういうふうに効いてくるのかというのが最後,生きてくるところかなという気がしていまして,受益者が本当に勝手に変えられるんだろうか,それとも受益者が裁判所の許可を得て変えることになるのだろうか。

  後見的な場合に,その必要性があり得るのではないかと○○委員がおっしゃるのは,全くそのとおりだと思うんですが,そのあたりをもうちょっと詰める必要があるのではないかと思います。

● 今,出てきている問題は,まず,立法事実としてそういうニーズがあるのかという話で,ここは私もよくわからないところです。


  したがって,少し別の観点から今の点,この57の5を考えてみたいのですが,先ほど○○幹事からお話があったのは,非訟事件ということで徹底すると,裁判所は新しい法律関係を形成することになる。これが果たして裁判所の役割として適切か,そういうお話であったかと思います。

  私も,まるっきり白地で預けられたら裁判所も困るだろう。これ,ずっと継続的にその信託を見ているわけでもなく,民事雑事件としてポンと上がってくるものについて,いちいち内容を精査して適切な法律内容を形成するというのは,確かに非常に大変なことだろうと思いますが,資料30ページの下2行ぐらいから31ページの上3行ぐらいに書いてあることは,理念的には全然違うことを書いてありまして,今,○○幹事から「許可」という言葉が出てきましたが,まさにそうなのではないか。


  変更申立てをする場合には,まず変更の内容を申し立てろ。それについて裁判所は,許可をするか,しないかだけだと。

もしかしたら,ほんのちょっとのところで一部認容みたいなことをするかもしれませんが,基本的に,違うベクトルをつくり出すことはしないで,それについて認めるか,認めないかだけだと。

別な言い方をしますと,当事者は何となく変更の申立てをして,あと裁判所が白地からつくるという姿ではなくて,当事者がなされるべき裁判内容を限定する権能を持っている,いわば処分権主義的な発想で制度をつくり,裁判所はそれに特化するか,しないかだけだ,そういう仕組みだとすると,白地から法律関係を形成していくという問題は極小化していくんだろうと思います。
 


 もちろん,そういう許可,不許可だけだって大変だというお話はあるかもしれませんが,そういうものになりますと,ほかの実定法規の中に特定の法律関係だけ切り出して裁判所に許可を求めるというような類型のもの,例えば,会社法案はどうだったかよく覚えていませんが,社債権者集会の決意の認可みたいなものとか,ああいうものはあったような気がしますので,そういうものが増えてくるのがいいかどうかはわかりませんけれども,少なくとも30ページの下2行から31ページの上3行ぐらいまでは,今,議論されていることについて1つ解決の道筋を示すものではないかなと拝見する次第です。

● 根本的なところでの問題提起がされておりまして,これにも恐らくこたえる形でもって提案せざるを得ないんだろうと思います。
  


2のところでもって,かなり簡易な形で変更できるようなルールになっている。


その上で5がどういう意味を持つかということですね。いろいろな御意見もあったと思いますし,ここで2当事者,例えばイなどですと--アか--ですと,一応受益者と受託者の合意が必要なわけですけれども,しかし,やはりこれがいろいろな理由でもってできない場合が考えられて,そういうときに5が機能する。


ただ,そのときは,なぜ5が機能していいのかということについて説明が必要だ,そういう御意見だったと思います。なかなかこれも簡単には答えにくい,難しい問題であるような気がいたします。

  これは私の個人的な意見ですけれども,ある種の,この規定は「予見することができない特別な事情」という,ちょっと広い要件で書いてあるかもしれませんけれども,やはりある種の緊急性といいますか,もちろん当初から予見はできなかったし,それから現在,ほうっておくとどんどん財産が目減りするとか,そういう緊急性のあるもとで,しかし合意がうまく形成できない,そういうときに機能すべきものとして位置づけることができるのではないかと思います。もうちょっと理論化は必要ですが。

  これ自体についての根本的な疑問が出ているところでありますので,もうちょっと検討した方がいいと思います。

● 5についてですけれども,考え方としまして,最初,○○幹事が言われたところとの関係をあえて言えばということなんですが,57の1で,あくまでも合意がある場合に変更ができるのであって,2の例外というのも,合意を形式的な意味で要求する必要がないときには緩和してよいという趣旨だろうと思います。

  それに対して5というのは,やはり基本的には事情変更の原則をベースにした考え方でして,事情変更の原則の要件を満たすことによって,合意の有無にかかわりなく契約の改訂権限ないしは解除権が発生すると考えますので,1,2とは別系統のものとして,やはり5というのは位置づけられる。


それだけに,要件をもうちょっとしっかり特定する必要があろうとは思いますけれども,位置づけとしては,そういうものだと思います。

  その上で,先ほど来のお話で甲案,乙案というのが出ていますけれども,これ,事情変更の原則についての議論との関係では非常に,学者風に言いますとおもしろい議論が出ているところでして,といいますのは,従来の事情変更の原則で契約改訂を認めた裁判例というのは,ほとんどない。


少なくとも最高裁レベルで全然ないわけではありますけれども,理論としては認められると言ってきている。

  そのときに,どう考えているかといいますと,事情が変更した結果,今この変更した状況下あるべき契約内容というのは,ある種,決まっている。


それを裁判所が読み取って「これが契約内容です」というのを確定するという考え方をとっているんだろうと思います。そして,借地借家の問題などでも,第32条等でも同じことを考えているんだろうと思います。要するに,ある種,確認的なものを考えているのではないかと思います。

  そして,甲案というのもやはりその延長線上にある考え方でして,「こういう状況下ではこういう信託行為の内容」というふうに,もう変わっていると考えるべきで,それを確認して宣言するだけだと。


そこまで裁判所に要求されたら非常に困るというのはよくわかるところではありますけれども,考え方としては,そうだと思います。

  乙案の変わっている点といいますのは,この考え方を必ずしもとっていないということだと思います。


  つまり,一定の要件を満たしたときに,一方当事者が--当事者かどうかは別として,一方当事者が契約なら契約の改訂提案権というんでしょうかね--を持つと考えて,改訂提案権に基づいて改訂を提案して,裁判所は,あくまでもその実体権である改訂提案権の当否のみを判断するというような構造になっているんだろうと思います。

改訂権限までを一方当事者に与えるわけではなくて,提案にすぎないのかもしれませんけれども,これは多分,比較法的に見ればすごくユニークな制度を導入しようとされているところで,ただ,ユニークだからだめだというのではなくて,むしろ客観的に何か契約内容が,この状況下でこうなっているのを確認するという考え方自体が,ちょっと問題があるところで,しかも,それを裁判所に委ねるのはより一層問題ではないか。


それに対して,こういった形であくまでも当事者のイニシアチブに委ねて,その当否のみを裁判所が判断するというのは,あり得る一つの考え方かなという気はいたします。

  そういう意味では,評価に値するところではないかなとは思いますけれども,ただ,この要件が本当にこれでいいのかというあたりは,もう少し絞る余地なり何なりはあるのかなという気がいたします。
  


さらに言えば,ここには何もありませんけれども,いきなり一方当事者が裁判所にこういう内容で改訂せよというような請求を立てるのが本当に望ましいのかという面もあって,もう少し手続的なところなども含めて要件設定を考えていく--書くならば考えていく余地があるのかなという気がいたします。
  非常に研究者的な,突き放したような言い方になって申しわけないですけれども,問題としては,そんな感じかなという印象です。

● 私も,これは基本的には事情……,少なくとも現在の法律は事情変更の原則を信託の場面で認めたものであると思いますし,この新しい提案も,基本的にはそういう線に乗っているものだと思います。

  先ほどから幾つか出てきた意見は,契約の場合にはこういうものがないのに,信託だけなぜあるのか。


それに対して,今,○○幹事が言われましたように,契約については,法律の中になくても,一般論としては事情変更の原則というものが認められていて,そういう意味では,契約の分野でも事情変更の原則というのはあるんだ,契約を改訂するという効果をもたらす事情変更の原則はあるということで説明されたのであろうと私は理解いたしました。

  それでいいんだと思いますけれども,もう一つ,やはり信託の場合だけさらにもう少し広くというんでしょうか,こういうものを設けることの意味は,○○委員がさっき言われたことと少し関係するのかもしれませんけれども,やはり信託の場合には,必ずしも契約の当事者ではなくて,受益者が利益を受けているので受益者と受託者が合意するという形で変更する,そういう枠組みにはなっておりますけれども,変更,改訂についての交渉をするのに受益者が常に一番適した人間かどうか。

特に「交渉する」という意味での一番適した人間かどうかというのは,必ずしもはっきりしない。いろいろな受益者がいる場合に,そういう能力がない受益者もいるかもしれないし。


  したがって,信託の場合には,合意で変更するというのは意外と難しい場合もあって,だからこそまた,信託については5のように,裁判所が改訂をするということが特別にというか,契約よりはプラスアルファで重要性がある,そのような説明もあるのかもしれません。
  


大分御議論いただきましたけれども,何かここら辺でまとめて……,大体いろいろな論点は尽きたかと思いますので。
  合併の方は,いかがでしょうか。


● 1点だけ。今まで言っていなかったことを今,言うのも恐縮なんですが,やはり2のイとエというのが何か,卒然と読みますと,受託者は勝手に……

● 単独でできるやつね。

● 単独でできる。受益者も勝手に単独でできるという感じがしまして,もちろん--これならば,まさに書いておくべきなんですよね。


受託者はこういうふうに変えられるという話を。これは信託行為に書いてもいないときの規定ですよね。そのときに,受託者ができる,あるいは受益者ができるというのも何か妙な感じがするんですよね。


  まさにこれ,反しないで,かつ受益者の利益に適合するということなんだという,かつ,ここは多分,予見することができない事情があったということが多分,必要になるような気がして,イとエの許可を与えるという制度で裁判所の許可というのは,何といいますか,模様替えできないものだろうかという気がいたします。


● それはそれで1つ考えられるかもしれません。現在の甲案,乙案はちょっと違うところもありますが。


  それでは,大分御意見いただきましたので,また争点を明確にする形で整理した上で,今後も検討していきたいと思います。


  この問題で大変労力を使ったと思いますので,まだ早いかもしれませんけれども,休憩にしましょうか。それで鋭気を養った後で再開したいと思います。

          (休     憩)

● 再開したいと思います。
  それでは,次へいきましょうか。

● 引き続きまして,信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限と,受益者複数の信託の意思決定問題と,それから受益権取得請求権の問題をあわせて,御説明いたします。


  最初に,第48でございますが,前回提案におきましては,権限違反行為に対する取消権以外の単独受益者権については制限を許されず,取消権についてのみ制限の可否が問題となり得るとしておりました。

この点につきまして,今回の提案では,後で述べます受益者多数の信託について特例を設けるべきか否かという点を除きまして,前回会議における意見ですとかその後の検討を踏まえまして,取消権についても単独行使に対する制限は許されないとすることを提案するものでございます。

  その理由は,資料の1,2ページに記載しておりますが,一般的には,権限違反行為の抑止という観点からは,取消権の行使を優先すべきであって,少数の受益者による濫用的な取消権行使に対しては,権利濫用等の一般法理により対処することも可能であることですとか,受益者間の意見対立や信託事務の停滞のおそれ,あるいは権利濫用のおそれを過大視して単独受益者権の制限を認めるのは,受益者保護の観点から妥当ではないと考えられるからでございます。
  

これに対しまして,資料2ページの注に記載しておりますが,受益者が多数の信託については,別途の考慮の余地もあり得るのではないかと思われます。

  典型的には,受益権が有価証券化されている信託の場合におきますように,受益者が多数の信託におきましては,相互に緊密な関係にはない価値観の多様な受益者が大量に参入してくる可能性がありまして,受益者間におきます意見対立のおそれですとか,差止請求による信託事務停滞のおそれ,あるいは濫訴による信託財産の減少のおそれ,すなわち濫訴に対応した訴訟費用が信託財産に求償されるということによって,信託財産が減少するおそれなどは,受益者が少数の信託に比べて類型的に高いと言うことができそうだと思います。

  このような観点からしますと,受益者が多数に及ぶ信託については,信託違反行為の是正に係る単独受益者権について,一定の制限を認めることも許容できると考えることもできるのではないかと思われます。

  そこで,次に問題になるのは,当該信託が受益者が多数の信託と言えるか否かのメルクマールをどこに設けるかという点でございますが,この点については,ある程度の明確性と実質性が求められるところでして,ただいま例示いたしましたとおり,例えば受益権が有価証券化している信託か否かという点をメルクマールとしてはどうかと考えるわけでございます。
  以上の点につきましての御審議をお願いしたいと思います。


  次に,受益者が複数の信託の意思決定の方法というところでございます。

  これは,信託行為に定めを置くことにより,受益者の全員一致にかえて多数決による意思決定を可能とすること,契約締結の行使のコストと削減等の観点から主要な意思決定方法として受益者集会や書面による決議について標準的な規律のセットを提供することを主眼とする提案でございます。
 


 以下におきましては,前回の会議における指摘などを踏まえて事務局において検討した事項のうち,特に重要と思われるものに限って御説明申し上げます。


  まず,前回会議におきまして,信託法に定めのある事項以外の事項については多数決をもって決定することができるのか,できるとした場合には,その決議方法はいかなるものかとの指摘がされました。


  この点につきましては,4ページの提案(1)②に書いてございますが,信託行為に定めを置くことによって,信託法に定めのある事項以外についても多数決で決定することができる--「任意決議事項」と書いてございますが,このようなことを明記しますとともに,その場合の決議方法につきましては,2の(2)のイに書いてありますとおり,信託法又は信託行為に定めのない限り,普通決議によるものとしております。


  次に,議決権の算定基準につきまして,前回提案におきましては,デフォルトルールとしては頭数により,1受益者につき1議決権としておりましたが,今回の提案では,5ページの提案2の(2)のアに書いてございますとおり,デフォルトルールとしては,各受益者の有する受益権の個数によって算定することとしております。

前回の提案は,受益権の金額や価額を基準としたときには算定に窮するおそれがあるのに対しまして,受益権の頭数については算定が単純かつ容易であるということに鑑みたものでございます。

  しかし,同じ1人の受益者でも,受益権を多数有する者の方がこれを少数有する者よりも大きな発言権を有するのが公平かつ常識的であることは多言を要しないと思われますが,受益権の個数については,なお算定することが可能であると思われることにかんがみまして,デフォルトルールとしては,いわば持分に相当する受益権の個数をもって議決権の算定基準としてはどうかとの考え方に改めるものでございます。


  最後に以前より問題となっております受益者集会の決議方法等について,受益者保護の観点から何らかの強行規定を設けるべきか否かという点に関する,事務局の現時点での考え方について御説明申し上げます。
  


前回の提案におきましては,受益者集会の招集手続,例えば通知期間を短縮するとか,個別の通知ではなく公告で足りるとすることですとか,決議方法,例えば見なし承認決議を採用すること,あるいは決議要件,例えば定足数や可決要件など,あるいは受益権の種類に応じた種類受益者集会を設けること,これらについて2案提示しておりまして,信託行為で自由に定めることができ,それに伴う少数派受益者の不利益については受益権取得請求権をもって対処するという考え方と,受益者保護の観点から一定の限度で強行規定を導入し,あるいは種類受益者集会の制度を設けるべきであるとの考え方,この両方があるとの考え方を提示いたしましたところ,前回会議においても,これに対応する両様の見解が示されております。


  この点につきまして,なかなか難しい選択ではございますけれども,信託行為の定めによって第三者や特定の受益者に意思決定権限を付与することを原則として可能であると--先ほど議論になりましたが,これを可能であると考えることを前提とすれば,受益者集会に関する規律において強行規定を設けることの意義は疑問であるということ,それから,例えば受益者集会の定足数について強行規定を導入したとすれば,かえって決議が成立しにくくなって信託事務処理が停滞し,受益者にとって不利益となる事態も想定されるということ,あるいは一定の事項に限定されている種類株式の場合と異なりまして,受益権につきましては信託行為によって多様な種類,内容の受益権を自由に創設することが可能でございまして,種類受益者集会を設けるといいましても,その類型化の基準は不明確であって,現実的には困難であること等の事情に鑑みますと,受益者集会の招集手続,決議方法,決議要件,種類受益者集会の要否等については信託行為による自由な定めを許した上で,後ほど御説明します受益権取得請求権を一定の範囲で強行規定とすることによって,少数受益者の保護を図るという方法によることが現実的かつ適当ではないかと現時点では考えております。
 


 なお,前回の提案においては,株主総会決議取消の訴えに類似した制度を設けることを提案しておりました。

  ところで,株式会社の場合におきましては,招集通知の時期及び方法ですとか定足数や決議要件などについて,厳格な強行規定が存在するわけでございまして,法律においてこのような厳格な要件を課している以上,これが遵守されたか否かを裁判所が事後的にチェックできるとすることが,終始一貫したスキームのあり方だと言えると思われます。
  

これに対しまして受益者集会につきましては,既に述べましたところですが,事務局の現時点の考え方,すなわち決議要件等について,信託行為による自由な定めを許すというわけでございますと,いわば入り口において自由な定めを設けて認めているにもかかわらず,出口において裁判所による判断という厳格な規制を課すのは整合的ではないと思われるわけでございます。


そこで,今回の提案におきましては,決議取消の訴え等の制度を設けることは不要ではないかと考えているものでございます。


  以上の諸点,特に受益者集会の決議に関する強行規定の要否の点を中心に,御審議をいただけるとありがたいと存じます。


  続きまして,第60,反対受益者の受益権取得請求権の提案について御説明申し上げます。


  受益者全員の合意する事項について,多数決による意思決定を認める場合ですとか,特定の者に対して信託の変更に関する権限を与える場合におきましては,多数派受益者の意思や第三者の決定に拘束されることとなる受益者に対して,合理的な対価を得て当該信託から離脱する機会を認めることが公平にかなうと考えられることに基づく提案でございます。

  以下,前回会議における指摘を踏まえて事務局において新たに検討した事項について,順次御説明を申し上げます。
  


まず,受益権取得請求権に関する規律を強行規定であるとする点についてでございます。
  前回会議におきましては,「信託の柔軟性を強調して任意規定とすべき」との意見と,「少数派受益者への公正な配慮を強調して強行規定とすべき」との意見と双方の見解が示されました。

この点につきましては,資料ですと39から40ページに書いてございますけれども,受益権取得請求権が認められる主体及び要件を限定した上で,その限度では多数決制度を採用することの前提とする必要最低限の規律であると考え,強行規定であるとの見解を維持したものでございます。

  第2に,受益権取得請求権を付与される場合に当たる信託の変更の内容につきまして,前回提案におきまして,受益債権の内容を変更する場合というのを挙げていたところ,その外縁が不明確であること等を理由とする反対意見が示されました。

  この点につきましては,確かに同一内容の受益債権の内容が変更されることによりまして,一部の受益者ではなくすべての受益者が,その有する受益権の数に応じて一律に不利益を被るような場合,あるいはもともと受益債権の内容に差異のある場合において,信託の変更が,そのような差異を反映したものであるにとどまる場合などにつきましては,不利益を被る受益者に受益権取得請求権を与えて保護するまでの必要性はないものと思われます。
  

そこで,もともとの受益債権に存した内容の差異の有無,程度を超えて信託の変更により特定の受益者にのみ不利益を生じさせた場合に限って,当該受益者に受益権取得請求権を付与すべきであるという考え方をとることとしまして,これを表現すべく「受益債権の内容の変更であって,受益者間の衡平を害するおそれがあるもの」という要件を設けてはどうかと考えるものでございます。

  さらに,受益権取得請求権が認められる場合をしかるべく限定するという観点からは,一つの案ではございますが,ここで言う「受益債権の内容の変更」とは,受益債権の内容を直接変更する場合,例えば配当率を減少するような場合でございますが,そのような場合に限られるのであって,信託条項の変更によって間接的に受益債権の内容が変更される場合,例えば株式と社債の投資についてのポートフォリオを変更するような場合は含まれないものとしてはどうかとの考え方を示しております。
 


 もっとも,当該変更が受益債権に対する直接的なものか,間接的なものか判断が微妙な場合もあり得るといたしますと,今回の提案では前回と異なりまして,受益債権の変更によって受益権取得請求権が認められる場合を,変更一般についてではなく,受益者間の衡平を害して特定の受益者についてのみ不利益が生ずる場合に限っていることをもって満足し,それ以上に,受益債権に対する直接的な変更か,間接的な変更かを問わないという選択肢もあり得ると思われるところでございます。
  

第3でございますが,受益権取得請求権を行使できる受益者については,前回提案においては,一律に「決議に賛成した受益者以外の受益者」としておりましたが,決議に反対する機会が個別の通知によって与えられている受益者についてまで,賛成しさえしなければ取得請求できるとの広い保護を与える必要はないものと考えられます。そこで,今回の提案におきましては,37ページの※2に書いてございますが,よりきめ細かく,変更内容についての事前の通知の有無によって,取得請求権を有する受益者に当たるか否かを分けることといたしました。

  なお,この権利を行使できるのは,当該変更によって損害を受けるおそれがある受益者に限られることを明記しております。


  第4といたしまして,受益権取得請求権が発生する場合において,一たん変更の意思決定がなされたにもかかわらず,事後の状況から判断して受託者が変更を中止できるとするための条件を設定することに関しまして,前回の提案におきましては,信託の変更の箇所において,合意の主体を明らかにしないまま「条件を明らかにしなければならない」とのみしておりました。

この点に関しまして,前回会議におきまして,受益者と受託者が合意の当事者となる場合以外の変更の場合はどうなるのかとの疑問が提起されたことを踏まえまして,今回の提案においては,変更に関与すべき当事者のみで合意または決定すれば足り,受託者の関与を必須とする必要はないと考えるものでございます。
  

なお,前回会議におきましては,受益権取得請求権の原資を信託財産とするか固有財産とするかにつきましては,信託の変更に際して受益者と受託者との間で合意すべき事項であると説明しておりましたが,今回の提案においては,合意または決定することができるとしていますので,その主体の如何とは別の問題として,このような合意または決定がされなかった場合の原資等についてはどうなるのかという問題がございます。

  この点につきましては,デフォルトルールとしては原資は信託財産であり,ただし,受託者も関与した合意がなされれば,一部または全部を受託者の固有財産ともできること,そして,受益者において受託者の固有財産を原資とする合意をし,あるいは変更の中止に関する合意または決定をすることが可能であったにもかかわらず,これをしなかったものである以上,受託者としては,いかに多数の受益権取得請求権が行使されてこようとも,信託財産をもってこれに応じればよく,その結果として信託財産の規模が縮小し,信託の継続が困難または不可能となったとしても,注意義務違反の責任に問われることはないと考えてはどうかと思われます。


  最後に,手続的な点について2点だけ補足して申し上げます。


  第1に,前回の提案におきましては,受益権取得請求権の通知期限,請求期限,裁判所に対する申立ての期限などの手続的な進行に関するメルクマールとして,効力発生日という概念を用いることを提案しておりました。


しかし,変更を中止するか否かを受益権取得請求権に係る出えん総額の多寡によるとしたときには,結局,当事者の協議または裁判所の決定を経て取得に要する総額が判明することによって,ようやく最終的に変更を中止するか否かが確定することになるわけでございまして,後日の中止の可能性を含みながら事前に効力発生日を決定しておくというのは背理でございまして,効力発生日をもって手続進行上のメルクマールとすることはできないと思われます。

  そこで,今回の提案では,※10に書いてありますとおり,効力発生日については種々の場合があり得ることを認める一方で,信託の変更の合意または決定がなされた日をもって「合意日」との概念を用いることとし,その後の手続的な進行については,この合意日を始期として順次,一律に定めていってはどうかと考えるものでございます。
  

もう一つでございますが,今回の提案におきましては,受託者は合意日以降に反対受益者に対し決議または決定内容等を通知しなければならないものとしておりますが,一部または全部の受益者に対する通知を怠った場合についての法的処理いかんという問題がございます。
 


 この場合,通知を怠った受益者との関係でのみ受益権取得請求ができる最終日を動かすといたしますと,結局,裁判所に対する価格決定の申立てができる期限についても受益者ごとに動かすことになってしまいまして,裁判手続の一律性,安定性の要請から妥当ではないと思われます。

  このような観点から,通知を怠った場合には変更が無効となるとの考え方を38ページの※6で示しておりますが,これをより正確に申し上げますと,通知を怠った瑕疵の程度によりまして,瑕疵の程度が小さければ変更自体は有効とした上で,通知を怠った受益者との関係でのみ損害賠償をもって対処することとし,瑕疵の程度が大きいときには,そもそも変更自体を無効とせざるを得ないのではないかという考えを示したものであることを付言させていただきます。
  以上でございます。

● それでは,ここまでの議論をお願いいたします。


● まず,48について簡単に申し上げます。

  信託事務に関する重要な書類及び受益者名簿の閲覧・謄写権ということがございますけれども,これは一応別なものであるという理解ですか。


そのように,2ページにどのように考えるかが検討の課題として挙がっておりますけれども,一応そこは,この48の規律とは別のものとして考えていただきたい。


すなわち,これは先般の議論のように,基本的にはデフォルトルールとしておきたいということを申し上げたいと思います。

  それから,49の複数の信託意思決定の方法についてでございますけれども,これについては,前回の会議において私の方から問題提起しました任意決議事項であるとか,決議方法のデフォルト化であるとか,あと議決権のデフォルトの原則がどちらであるのかということについて非常に御配慮をいただいておりまして,これは歓迎したいと思っております。ぜひともこの方向性を維持していただきたいと思っております。
  

片や60の買取請求権についてでございますが,これは前回の会議におきまして,基本的には,49の議論とともにデフォルト化を追求していきたいという立場を申し上げましたけれども,これはいろいろな意見があるということで,やはり受益者に対する一定の保護のバランスの問題が重要だと思っておりまして,そこには一定の限界があるのかなとは思っております。

  その観点からして今回の提案は,先ほど必要最小限のものを残すという御説明がありましたけれども,その方向性としては評価できるものではないかと思っております。これで十分なのかどうかは,まだ留保させていただきたいんですが。

  そこで,これも前回,一番大きな問題として問題提起しました1の(1)の6の受益債権の内容でございますけれども,ここも一定の制限を加えていただいたということでございまして,方向性としては歓迎したいと思っております。
  

ただ,やはりこの内容がメルクマールとして非常に明確なのかということについては,若干の疑義がございます。


これは,やはりその中身,精神に鑑みまして,「衡平」という言葉をどうしても使わざるを得ないという御苦労も理解できるところでございます。

つまり,やはりこういうものは,いろいろな状況に応じて判断されるということでございますものですから,こういう言葉が出てくるのかなと思っておりますけれども,ただ,やはりその解釈の基準について一定のコンセンサスをとる,ないしは明確化することが実務的には必要なのかなと思っています。

  その点,この御説明のところで41ページを中心に,先ほども御説明ありましたけれども,例えば信託債権の内容の変更というのは直接的なものである,つまり信託条項の変更により間接的なものというのは含まないであるとか,例えば優先劣後の構造を当初からとっていたものについては,その構造を前提とした差異は当たらないと,41ページの下のところから読み取れると私は認識しているんですけれども,そのようなことについて,この場においてももちろんコンセンサスをとれればと思っていますし,また,法文上に反映できるならば反映していただきたいですし,そうでなければ,少なくとも中間試案の補足説明等において具体的な事例,いろいろな事例も含めて明確化していただきたいと思っています。
  

できれば事務局の方から,この衡平というところについて,いろいろなパターンについての御議論があったと思っておりますけれども,それについて一部御紹介していただければ,この衡平という中身がより明確になるのではないかと思っておりまして,もしそういう事例を御開示いただけるのであれば,ぜひともお願いしたいと思っております。

  最後に,受益権取得請求権が発生した場合に,それが信託財産に限られるのかどうか,ないしは受託者個人の負担になり得るのかという論点について御説明がありましたけれども,私はちょっと理解ができなかったわけなんですが,基本的にはデフォルトとして信託行為に定めることができる,つまり,ある意味,信託財産に限るということを書けば,受託者個人の負担にはならないというようなことができる,そういう理解でよろしいんですか。
 


 そうした場合にでも,例えば,特に不動産信託等,信託財産が部分的に処分できないものについて,片や一部の取得請求者が出てきた場合に,支払期日が決まっているわけですから,その結果として,事実上,受託者がいわば立替払いの形で金銭を出さなければならない場面も出てくるのではないかと思っております。

第1に,そのような立替払いということもデフォルトというところで,そういう換価できない場合には支払いはできないと決められるのかどうか。第2に,もしできないとするのであれば,その立替えをしたものは,これは前回の補償請求権の議論と同じでございますけれども,有益費,必要費ということで全額かつ優先的に回収できるのかということについて,事務局の御見解をお聞きしたいと思っています。

● いろいろ質問もありましたけれども,少しまとめて御意見を伺ってからにしましょうか。

● まず,48の信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限でございますが,基本的には受益者多数の場合についてということですけれども,こういう場合については基本的には,複数の種類に分かれているものも当然ございまして,その中には単独受益者権の行使を想定していないような受益者もあるのではないか。


また,受益者の権利の濫用の防止とか,また競合する他のビークルとの平仄であるとか,あと,やはり効率性を一番重視しないといけないような信託,そういうタイプの信託もあるのではないかと思いますので,そういう観点から,やはり単独受益者権を制限する方がいいものもあるのではないか。

そういう場合については,御提案の一部にありますけれども,その制限の内容を信託行為に書いて,受益者の実質的な了解を得た上で制限を行うといったことがあってもいいのではないかと思っています。
 

 ただし,何でもかんでもいいということではなくて,その制限については,やはり慎重にしなければいけないといった考え方も持っていまして,例えば,別途のバランス策が講じられているような信託,例えば前回御提案がありました,受託者監督員が選任されているようなものに限定するとか,あとは単独受益者権の範囲についても,取消権であるとか差止請求権であるとか,損失てん補の請求であるとか,そういうものを限定するとか,あとはそれを組み合わせるとか--すみません,「こういう形がいいですよ」という提案,提示が今,できないんですけれども,何らかの工夫によって,その辺の組合せを行って制限することも必要ではないかと考えております。


  もう一点,先ほど○○委員からもお話が出ていましたが,信託事務に関する重要な書類の閲覧・謄写請求権を信託行為の定めにより制限することにつきまして,帳簿閲覧請求,こちらの方はどうしても仕方がないのかなという気はしているんですけれども,この重要な書類については,いろいろな種類の書類がございますし,範囲をなかなか明確には言えないということもありますので,受託者の営業上のノウハウであるとか,あとは,例えば取引先との間の契約であったりすると,営業上のノウハウだけではなくてプライバシーにかかわるようなことが流出してしまうおそれもありますので,1つは,閲覧の拒否事由が明記されておりますので,これで対処できるという考え方もあるとは思いますけれども,信託契約の定めを置くことによって受益者との間のトラブルを避けるということもありますので,そういう方向で御検討いただければと思っております。

● 単独受益者権の制限等については,まだいろいろ御意見があるところだと思いますけれども,いかがでしょうか。


● これ特約で,実際には自益信託が多いでしょうから,当初,委託者兼受益者であるところの当事者が特約で制限することは,訴訟契約でもOKであるということからすると,構わないということなんでしょうか。
  

それでも,その受益権が点々と譲渡されたときには,また別途合意が必要だという議論なのか,場合によっては,そういう特約であるから構わないという議論もあり得るのかなということが1つ。


  あと,排除となると確かにいけないのかなと思うんですけれども,合理的な,または正当性のあるような制限まで一切合切いけないという--書きぶりからすると,そういうふうに読めないこともないんですけれども,そうすると,場合によってはちょっと強いのかなと。


  それで,それに対する例外が多数の場合ということで,その多数の議論の仕方にもよると思うんですけれども,先ほどの御説明によりますと,有価証券化が一つの事例であって,他の例を特におっしゃらなかったんですけれども,今後,有価証券化がほとんどのケースで使われるようになれば,それで済むのかもしれませんけれども,現状ですと--現状,資産流動化は有価証券化できますけれども……,何だ,違うな。


ちょっと言い方を変えます。有価証券化しないようなものも多数であり得るのかなと思うので,ですから,その多数のとらえ方によると思います。


  多数の他の例,それが適切かどうかわかりませんけれども,自益信託を分割してというようなことが他の法律にありますけれども,要するに,分割予定の受益権の例などが,別の一つの多数ということのとらえ方の例ではないかなと。
  48に関しては,以上のような意見を持ちました。

● 閲覧・謄写請求権について,意見を申し上げるのがなかなか難しいところもあるんですけれども,1つ確認したいのは,今回,信託の柔軟化を図るという前提のいき方からすると,情報提供の義務といいますか,責任というのは,やはり重要であろうと思います。

ですから,例えばこういった情報提供の義務を緩めるのはかなり慎重にやらないと,一部のニーズにこたえるがためにかなり広くこの制限を認めるということになると,やはりこの情報提供の義務が持っている意義が失われてしまうのではないかということを強く懸念いたします。

  前回,この義務に関しては会社法の議論とは違うのではないかと申し上げておいて会社法を引き合いに出すのは,ちょっと気が引けるところではあるんですけれども,会社法の議論でも,定款自治というようなことで柔軟化が図られた方で,公正さとか透明性ということが言われているかと思います。


これは恐らく,適正化ですとか効率化ですとか高度化のためには,そういった公正さ,透明性が重要だという認識も含むような議論なのではないかと思います。

信託においても,やはりそのような観点を重視して制度を考えるべきではないかと思います。

  それで,この制限を考えるときにどういった形で,これ,個人的には本則において制限することはできないという考え方をとるべきではないかと思いますけれども,ただ,多数の場合に,ある程度こういったことを制限することはあり得ることかというふうには確かに思います。

ただ,そこにおいても幾つか考えなければならないと思うのは,1つは,信託契約書について見られないということになると,これはやはり受益者としては困ったことになるだろう。


それから,基本的には説明の請求ができることになっていると思うんですけれども,この説明請求ができなくなるというのは,やはり困るだろうということで,ある程度要件を課して,一定の数があるものとかそういったものに限定するということは,あるいはあり得るのかもしれませんけれども,そういったことができなくなるというような形での制限のつけ方というのは,やはりまずいのではないかと考えております。

  ですから,この閲覧請求権,情報提供の問題に関しては,ぜひ慎重な規律といいますか,そういったことで御検討いただければと思います。

● 重要な御指摘であると思います。
  さっき出てきた幾つかの御質問に対して,お答えしますか。

● では,記憶のある範囲で順次お答えいたしますが,最初に,第48について,自益信託の場合に,特約をすれば単独受益者権を制限できるのかという点については,委託者としての権利についてはそのようにできると思うんですが,それには吸収されない受益者の権利については,御指摘があったように,受益権が譲渡される可能性などもありますので,そのように,あらかじめ信託行為で放棄することによって受益者の権利がないと--個人的に放棄するのは構いませんが,それによって受益権がない,受益権に基づく受託者に対する監督がない受益権が発生すると考えるのは難しいのではないか。


そういう意味で言えば,個別の放棄はいいですが,一体的な放棄はできないのではないかと考えております。

  それから,○○委員から御指摘があったうち,衡平とはどんなものを考えているのか,議論があったかというと,言ってみればこれは,みんなが損するなら仕方がないでしょうと。

1人だけ抜け駆けをするのはだめだけれども,ある特別な1人が損する場合は,その人は保護してあげればいいのではないかというのが基本的な考え方で,それを,この「衡平」という文言を使っているわけでございまして,先ほど申し上げましたように,例えば,同一内容の受益債権の内容を変更することによって一部の受益者が不利益を被る場合は,その人が請求できる。

他方,すべての受益者が,その有する受益権に応じて不利益を被るような場合はだめであるというようなことですとか,もともと受益債権の内容に差異がある場合において,変更がその差異を反映したようなものであるときは,これは並行的に差がふえるわけですから,それは全員だめだと。そういった考え方を文言に反映させているつもりでございます。

  ですから,補足説明等でそこら辺をもう少し丁寧に書くべきであるということであれば,それは対応できるかと思いますが,文言としては,こういう感じかなと考えているところでございます。


  それから,取得請求権ができないという信託行為の定めができるかということでしたでしょうか。

例えば,事務局の考えとしては,取得請求権は強行規定ですので,信託行為で一律に,その信託においては取得請求権があらゆる受益者にないということを定めるのは難しくて,ある特定の受益者が個人的に放棄するのは構わないわけでございますが,およそその財産の性質によって取得請求権がないというような信託を設けることはできないのではないかと思います。


  そういうときに,では,受託者が代わりに払ってやったときの補償請求権はどうなるのかということでございます。

それは今まで余り考えてはいなかったんですが,恐らく,債権の性質をもって考えるというのが前の考え方だとしますと,受益権取得請求権というのも一種,受益債権であろう。


そうすると,これは普通の信託債権よりも劣後してしまうのではないかという気がするところでございまして,受益債権は,例えば信託の終了の局面でも,信託債権があって受益債権があって,残りが残余財産帰属請求権にいくという規律をしておりますので,受託者にはちょっと酷なようですが,代位弁済をした場合に取得する取得請求権というのは,受益債権に準じて劣後するのではないかというのが個人的な考えでございます。

  ただ,それは,換価できないものについて代位弁済するからでありまして,こういう場合は,もうそれはそれによって,中止の要件を定めていれば中止すればいいわけですし,冒頭に言いましたように中止の要件を定めていない場合には,もうそれは,どうするんですかね,取得請求権に応じることによって信託財産がなくなり,もう信託が終了せざるをえないということかなという気がいたしますけれども。
 

 とりあえず,記憶のある範囲ではその限度でございます。ほかに何かありましたら,また。


● 一番最後の点で,もしそうであるのであれば,受託者にとってちょっと酷な場面もあり得る--もちろん工夫の余地はあるかと思いますけれども,その点について何か工夫があるかどうかという点について,なお検討していただければと思っております。

● 1点目は,反対受益者の受益権取得請求権の(1)の①で「信託の目的の変更であって,受益者を害するおそれがあるもの」という要件となっております。

こちら先ほど御説明を聞き落としたのかもしれませんが,「受益者を害する」というのは経済的利益を害するという趣旨でしょうか。


問題意識としては,目的の変更というような場合に,商事であればともかく民事のような場合に,経済的利益自体は変わらないけれども,やはりこの信託にとどまることは困るというような場合はないのか。


そういったものを,「受益者を害する」という要件をどう解釈すればよいのか,ちょっと疑問に思ったところでございます。
  


もう一点は,受益者間の衡平というところでございますが,最終的には,取得価格の決定の手続のときに裁判所が何を判断すべきかということともかかわるんですが,前提問題として,やはり取得請求権があるかどうかということを判断せざるを得ないようにも思われるんです。

そのときに,衡平を害するかどうかというところで,実体的な請求権の有無自体をまず判断しなければならないということになりますと,決定の手続についてもかなり重い負荷がかかってくるのではないかなというところで若干懸念をしているものでございまして,可能であれば,何かもうちょっと明確なメルクマールがないのかどうか考えていただきたいというのがコメントでございます。

● なかなか具体化も難しいところがあるんですよね。
● 前段の御質問でございますが,ここは経済的な利益と考えておりまして,結局,取得請求権という金で解決する話ですので,信託の受益者を害するというのは,あくまで経済的な利益を害するおそれのつもりで書いているということをお答えさせていただきます。

● 今の「経済的な利益」というところに関連して,もう少し広い話をさせてください。


  第60の反対受益者の受益権取得請求権を強行規定にするために,いろいろ工夫をされたというふうに,拝聴して理解をいたしましたが,しかし,それにしては成立要件が厳し過ぎると思います。


  具体的には,ちょっと小さなところから言いますと,損害を受けるおそれというのが第60の1の(1)の柱書きにありながら,かつ幾つかは6号までの中に重複して入っているというところを,まず指摘したいんですけれども,そこはうまく整理したとしても,やはり基本的に,この強行規定としての受益権取得請求権は,損をする人には出ていってもらえるという思想になったんだろうと思うんです。


しかし,本来あるべき姿は,損をするかしないかにかかわらず,基盤となる重要な法律関係,受益者が置かれているですね。

その変更に対して反対の者は出ていっていい,そして,それに対する対価は公正な価格で補償すべきだ,その立場があるべきではないかと思います。
 


 比較すべき対象としてどういうものが適当なのか,よくわかりませんが,現行の会社法,現行の商法の反対株主の株式買取請求権,あるいは建物区分所有法の建てかえのときの,何というんでしょうか,私は建てかえには参加しないから買ってくれというもの,どちらも損をするから出ていっていいですというのではなくて,そういう方針に反対だからというふうに仕組まれている制度だろうと思いますので,ここも,全体として柔軟な信託の中で,強行規定としてどういうふうに残せばいいかというところに御配慮があったことは理解しておりますが,しかし,これでは狭過ぎるだろうと思います。
  

とりわけ今,○○幹事からお話があったことに対する○○幹事のお答えであるところの,1号の受益者を害するおそれ,経済的な損害だというお話がありましたが,例えば,社会的責任投資ですか--という投資の受益者だったけれども,もうそういうことは考えずに自由にやるんだというときに,自由にやって,あなたは損をしないから出ていけないというのでは,やはりおかしいのではないか。


そういうふうに変えるのは構わないと思いますが,今までの信託だから受益者として入っていたけれども,そういう重要な基盤となる法律関係の変更に対しては出ていっていい,それをやはり強行法的に保護すべきではないか。

私の考えでは,それが多数決で問題を解決できるということに当然に伴うべき保障措置ではないかと思います。

● 今の○○幹事の意見に全く賛成で,同じようなことなんですが,先ほど,ポートフォリオを変える場合は,受託者間の衡平を害するものではないから当たらないといったお話がありましたが,例えば私募投信など,リスクレベル1のものを,これからはリスクレベル5の運用をしますと言われて,それではたまらんから自分はやめたいと言っても買取請求ができないというのは大変困る話ですので,やはり要件が狭過ぎるという結論は,全く賛成です。
 

 理屈の面でも,全員の合意を要すべき事項を多数決でいいとしたこととセットで出てくる反対受益者の取得請求権ですから,反対した人が請求できるとしてもらわないと,制度としてはおかしいと思います。

● 先ほど来,出ています反対受益者の受益権取得請求権の成立要件のところでございますけれども,これは前回からいろいろと工夫していただいて,それに対して,まだ非常に狭いのではないかとか,不明確ではないかといった御意見が出ていますけれども,受託者的な立場というか,営業の受託者的な立場からいくと,これを規律していっても,多分,明確にしていくのは非常に難しいのではないかなと思います。


そうしますと,結局のところは,反対受益者についての買取請求をやるというようなことに実務上はなるのではないかと思っておりますので,その目安になるようものを今,御提示いただいておりますので,もちろんもっと工夫していただいて,明確化を図っていただく必要があると思うんですけれども,なかなかそれ以上突っ込んでいくのは難しいのではないかなという心証を持っています。

  ただ,1点だけ確認させていただきたい事項がございまして,成立要件のところについては,第49の,受益者複数の場合の意思決定方法における受益者全員の合意事項という,これ別表になっているところがあるんですけれども,この中の信託行為の変更に関するものだけが抜き出されているような感じがいたしまして,その他の部分については,1つは,取得請求権は不要だという理解のもとで入れられていないのか,それとも,また別の規律を考えられているのかというような感じもしますので,その辺のところを教えていただきたいと思います。
  


あと,※2の反対受益者の範囲についてですけれども,この規律によりますと,事前の個別の通知を行いますと,反対の意思表示をしない場合には,定足数に入れた上で賛成したものと見なすという,いわゆるみなし賛成制度をとった場合でも,反対の意思表示をした人だけに取得請求権を認めると理解しているんですけれども,これでよろしいんでしょうか。


  あと,通知ではなくて公告でみなし賛成制度をとることも可能であろうかと思いますけれども,この場合には,ある一定の期間内については,すべての受益者に取得請求権を認めるというようなことに最終的にはなってしまうのではないかと思いますが,それはそういう理解でいいのか。

  そうであるとすれば,みなし賛成制度というのは我々の方からずっと要望していた件ですので,これが認められるということについては非常にありがたいなと考えております。
  


ただ,さらにつけ加えて言わせていただくと,同様の考え方で公告についても認めていただけたらなと思っております。


公告を行った場合には,決議そのものには賛成したこととなる受益者にも取得請求権が発生して,ある一定の期間内については,すべての受益者に取得請求権を認めることになってしまうので,何となく違和感があるという感じがいたします。

  あと,※6の通知ですが,ここについては公告でもいいと思っているんですけれども,それでよろしいでしょうかということでございます。

  それと,前回の本席におきまして,受益者複数の意思決定方法については,自由度を高めるためにデフォルトルールにどうしてもしてくださいというお話をして,その代わり,先ほど来,出ていますように,受益者保護というのは反対受益者の取得請求権を強行法規化するということで,これについてはもうやむを得ないと私どもは考えております。


  ただ,とはいえ,これも前回申し上げたと思うんですけれども,流動化等で信用補完をするためのオリジネーターがあり,劣後受益権を保有しているような場合,これで取得請求をやってしまうとストラクチャーが瓦解してしまうというようなことがあります。

これで実務上の工夫をしないといけませんねというのと同時に,法制度の手当てもお願いできませんでしょうかとこの前,申し上げました。

これについては先ほど○○幹事からもお話が出ていますけれども,受託者と受益者との間の相対での取得請求権のあらかじめの放棄といいますか,こういう形態である程度は対応できるのかなと思っていまして,これについても基本的には,「公序良俗に反しない限り」といった限定がつくんだと思いますけれども,この辺のところ,条文上に書くような話ではないかもしれませんけれども,明確化していただけたらなと思っております。


● 第60のところで,もう既に議論されているかもしれませんけれども,弁護士会で議論したときに,この受益権を受託者が取得するのではなくて,他の受益者が取得するようなケースを認めてもいいのではないかみたいな議論が出まして,考えてみると,これは取得請求権だから,多分自己株式の取得のようなことを前提としていて,その後に受託者はそれを消却するのか,場合によっては他に譲渡するのかもしれないですねみたいな議論をしました。
  

その取得請求の法的性質というんでしょうかね,ですから,まだ受益権はそのままとどまっていて,その受益権がさらに,要するに,信託の一部解除ではないのかどうかということをお伺いしたい。


  それから,今,○○委員がおっしゃったことと関連するのかもしれませんけれども,受益債権の内容変更で,衡平を害しない場合。

当然濫用,悪用でなければそういう形になって,反対請求が起こらなくて済むのかと思うんですけれども,種類受益権集会の議論が他にあるのか何か,ちょっとわかりませんけれども,ある種類の受益者の受益債権の内容については一定の変更をする,それは一律に適用があるというときに,ただ,他の種類との関連でどうのと言うと,結局この衡平を害するという議論が出てきてしまって,取得請求が出てきてしまって,その信託自体のキャッシュフローとかマネジメントが非常に混乱するというようなこともあると思うので,その辺も含めて,強行法規性ということで一切変更できないということになると,いろいろな問題が出てくるケースもあるのかなと。


  ですから,基本的な原則としてこういうことであってもよくて,ただ,それぞれの商品とか信託の特性に応じて多少のバリエーションを認めるような記述が何かあっても,かえって紛争を事前に防止できるのではないかと思いました。

● 先ほど来,第60の要件について,この限定では狭過ぎではないかということについて私の意見を述べたいと思います。

  先ほど述べたとおり,基本的には最小限の要件を立てるべきではないのかという話でございまして,もしその商品,その信託の内容に応じて取得請求権がやりやすいようなハードルをつくりたいというのであれば,※4に書いてございますように,基本的に受益権取得請求権の付与のことをそこで書けばいいということでございますので,信託の柔軟性から考えますと,ここでは最低限のことを書けばいい。

  これは先ほど会社法の議論が出ていましたけれども,やはり信託独特における政策的な判断だと思っておりまして,そこを考えますと,その柔軟さに加えて,やはり信託の継続性であるとか受益者同士の一団性等を考えますと,強行法規性というのはできるだけ制限した方がいいのではないか。そして,必要であればデフォルトということで加えればいいのかなと思っております。


  あと,受益者を害するおそれということで,○○委員からリスク1からリスク5という話がございましたけれども,この点については私も,受益者を害するおそれがあるものについて,衡平と同等に,なお現実には不明確だという思いはあるわけなので,そういう意味で,衡平と同様に明確化を,明文化ないしは補足説明等で御説明いただきたいとは思っております。


  ただ,先ほどの事例だけ考えますと,リスクが変わっていくということは,①であれば信託の目的の変更ということもあわせて考えれば,現行提案の案であったとしても,「害するおそれがあるもの」ということで受益者は保護され得るのではないか。

何となれば,実際にリスクが高くなれば害するおそれがあるわけだからということで,この内容であっても一定の保護は図られるのではないかと思っております。


この「害するおそれ」ということについて,何か解釈とか御議論があれば,御開示いただければありがたいと思っております。

● 幾つか御質問をいただいた中で記憶があるものですが,○○委員がおっしゃったのは,これは受託者ではなくて他の受益者が買い取ることを認めてもいいのではないかという御質問ですね。

● そうです。一たん受託者が自己株式の取得のように買って,それを一回転売する,そういう前提での議論なのかどうか。


● それはできると思います。一たん受託者が買った後どうするかというのは,それは別に受益権を処分するということでもいいし,消却してしまう形でもいいですし,そこら辺は信託行為の定め方次第ではないかという気がしております。

  それから,○○委員の質問の中で,まず,一番最後におっしゃったのは,※6は公告でもいいかという点でございますが,これはやはり個別に通知をすることが重要だと考えております。

公告では反対受益者に対する通知をしたことにはならないのではないかというのが現時点での考えでおります。

  ※2についても公告ではどうかということですが,これも個別の通知をすることこそ反対の機会を付与するための重要な礎になるんだという考えに基づいておりますので,たとえ内容を含んだものであっても,公告によって反対の機会を付与したことにはならないのではないか。


そうしますと,公告したというだけでは,なお積極的に賛成した者以外は受益権取得請求権を行使できるのではないかと考えているところでございます。
  もう一つは,1の中が信託の変更の場合だけのように見えるとおっしゃいましたか。最初,ちょっと聞き忘れたんですが。


● 信託の変更以外の,例えば忠実義務違反の行為の承認であるとか,解任とか新受託者の選任とか,そこら辺の部分が複数受益者の決議のあれになっているんですけれども。

● 受託者の変更等につきましては,これは積極的に付与しておりません。というのは,誰が受託者かによって受益権の中身が変わるわけではないという考え方でございますので,例えば受託者が更迭されたことによって変更請求,取得請求は生じないという考えでございます。


  あと,忠実義務を解除するとかというのは,それは信託の変更ではなくてですか。忠実義務をなくしてしまうわけですか。


● はい。違反があったときに,当然のことながら,承認すれば免責されますけれども,その意味合いの承認であるとかですね。

● 承認したときに,その承認に反対の人に取得請求権があるか。
● はい。


● 例えば受託者が信託違反行為をした。それに対して受益者が損失てん補請求権を有しましたという場合に,受益者の多数決によって免除するというようなケースもあるかとは思うんですけれども,ここではそういうものまで含むという趣旨ではなくて,信託の変更で,例えば受託者の責任を軽くするとか,譲渡性を制限するとか,そういう重大なものに限って,原則としては,強行規定として反対受益者の取得請求権を認めようというふうな提案でございます。

● ……ということは,全く今ここに書かれているものに限定して,反対者の取得請求権の要件というのは考えればよろしいわけですか。


● そのとおりでございます。
● 極めて細かい点なんですが,先ほどの話を,例えば中間試案とかそういう形で書く際に,個々の受益者というのは自らの受益権の価値が減少するとか,あるいは受けられるべき給付が受けられなかったことによって,不法行為とかそういうことの損害賠償請求権というのは存在するわけですよね。

信託法上の損失てん補とかそういうものはない,請求しないと決めれば,それに拘束されるという話ですよね。


  多分それは,どこかに明示していただかないと,絶対にないんだと信託業界は主張し出すと思います。不法行為法上はあるんだということは,はっきりさせておいてほしいと思います。

● わかりました。
  ほかに,よろしいでしょうか。大きな枠組みについては,それほど御異論はなかったと思いますけれども。
  それでは,次にいきましょうか。

● すみません,今の第49についてちょっと。
 
 集会の話なんですけれども,2点ほどございまして,これは私の実務家としての感触的な部分もあるんですけれども,デフォルトルールとしての集会手続規定というのは法律にあってもよいのではないか。


そうでないと,信託契約で詳細な手続規定を毎回書くようになったりとか,それぞれによって違ってきたりとか,ですね。


それと,手続規定があれば,場合によっては決議取消の訴えとかそういうものも可能だということであれば,デフォルトルールとしての,それにのっとった場合には,裁判所に対して決議取消しとかそういうものができる,そういう選択肢もあって,なおかつ,そうすれば信託契約ごとにバリエーションがあったりとか,受益者が個々に細かいチェックをしたりとか,場合によっては決議に瑕疵があってもそれは争う手段がなかなか見出せないといったようなことにならなくて済むのではないか,そんなふうに思ったことが1つ。
  


あと,デフォルトルールとしての個数なんです。これもいろいろ検討された結果,出てきた議論のようですけれども,デフォルトルールで書いていないから,個数といっても,なかなか信託契約の中で個数を認定するというのは難しいのではないか。

既に議論された結果の個数という議論のようではありますけれども,流動化法とか議論が出ていたと思うんですが,元本基準とでも言うんでしょうかね。

恐らくこういうところは社債型の受益権をイメージしての議論だと思うので,そうすると,元本基準,持分基準みたいなものがまだ例としてもあってもよいのかなと感じました。

● 先ほどの私の質問の,受益者を害するおそれがあるものについて何か議論があるか,御説明いただければという話で,繰り返しになって恐縮ですけれども,とりわけ先ほどのリスクが変わるというときに,一つの考え方としては,期待利益は変わらないわけだから害さないという考え方もありますし,もちろんリスク幅が多くなるわけだから害するという考え方,いろいろ考え方があると思います。


そのときに,具体的にどういうふうにお考えなのかという,この点について,今この場においてコンセンサスをとっておいた方が,恐らく次の議論の役に立つのかなと思っております。

  すなわち,もしそれが「おそれがある」ということであれば,恐らくは,先ほど○○委員がおっしゃったような懸念への回答になるかもしれませんし,そうでないのであれば,また別の議論が出てくるだろうと思いまして,それゆえに,この「害するおそれがあるもの」の具体的な中身,またイメージが重要になるのではないかと思っております。

● そこは抽象的に,やはり「害するおそれがあるもの」でないと取得請求権を認める必要はないだろうということで,要件を被せているというぐらいのことでございまして,具体的にはいろいろな場合があり得るというぐらいのことでございますが。


● これはむしろ皆さんの方でいろいろ御議論いただく……。


一応こんな基準でどうかということで御提案申し上げているので,これだとこんなものも入って具合が悪いとか,そういうことがあればまた基準を考える。

また事務局の方でも少し考えるということではあると思いますけれども,今の段階では,そういう抽象的な基準だということですね。


● 第49に関しての質問なんですけれども,これは任意規定として,具体的なイメージを教えていただきたいんですが,例えば,5ページの(2)議決権の数・受益者集会の決議のイで,「信託行為に別段の定めがない限り,普通決議によるものとする」これは要するに別段の定めというものが,これは定足数ではなくて,議決権について別段の定め,こういう趣旨なんでしょうか。

● いや,定足数でも別にできますし,決議要件でもできると思います。もちろん2分の1以上ですが,それ以上にしたければ特別決議でもできると考えております。

● 別段の定めというのは,例えば2分の1を増やす方向でしかないということですか。

● 決議要件は,過半数ないと……
● 決まらないですね。
● 2分の1がミニマムだと思っておりますから,それを増やすことはできるということです。

● ちょっと細かいところで恐縮ですが,第49で,まず1点目は,受益者集会の招集の請求のところです。


  ※5ですけれども,今般の提案でいきますと,一部の受益者からの請求によって,例えば受益者集会を開いて協議するまでもないような,こう言ったら悪いですけれども非常につまらないような事項についても,すべて受益者集会が招集されることになってしまいまして,受益者集会を開催しますと当然費用がかかる。

それがすべて受益者の負担になるということがありますので,たしかこれ,前回の御提案では裁判所の許可というのが入っていたのではないかと思うんですが,今回これが入っていませんので,許可だけということではないんですけれども,例えば裁判所の許可といったフィルターを通すとか,あとは,議案が否決された場合の費用は,例えば請求した受益者が持つとか,そういった弊害防止策みたいなものが要るのではないかと思っております。

  それと,※6の受益者の正確な個人情報が把握できない場合ですけれども,これについては前回も申し上げましたように,受託者が把握できない場合も結構ありますので,公告による招集はぜひとも認めていただきたいと思っております。
  

それと,9ページの下の方になりますが,信託行為の定めによって議決権のない受益権をつくることができるかということにつきましては,受益者集会の制度設計を信託行為の定めに委ねるというような考え方でやるとすれば,当然,議決権のない受益権をつくることも可能ではないかと考えられますし,実務的な観点から見ましても,受益権を複層化した場合について,先ほどもちょっと申し上げましたけれども,例えば流動化における信用補完のためのオリジネーターが持っているような劣後受益権であるとか,今度は逆に,ほぼデッドに近いようなもの,こういった受益権であるとか,あとは収益受益権で本当にわずかなものしかもらえないようなもの,こういったものについては議決権のないような形にしてもいいのではないかと思いますので,その方向で御検討いただけたらと思います。


● ありがとうございました。
  まだいろいろ御意見があるかもしれませんけれども,大きなところでは御賛同いただいていると思います。なお,今日議論が出た点についてはさらに詰めたいと思いますけれども,何か答えておくべき点がありますか。よろしいですか。
  では,まだ少し残っておりますので,次に進みたいと思います。


● 次は,委託者の関係と,遺言信託の関係についての御説明に移らせていただきます。


  まず,第55でございますが,提案内容は,前回提案と変わるところはございません。本日,特に御意見を伺いたいのは,22ページの(注2)に記載させていただいておりますが,委託者の地位の移転に関する規律を明確化すべきかという点でございます。

  現行法には規定がなくて,学説上は,一定の類型の信託や自益信託に限って例外的に移転ができるという見解と,そもそもできるという見解とがあるところでございます。
 


 事務局といたしましては,23ページの(注3)に書いてございますとおり,委託者の属人的な要素を強調するとしても,受託者や受益者の同意がある場合ですとか,スキームの維持のために委託者の地位の交代が効率的な場合においては,委託者の地位の移転を否定すべき合理性も必要性もないのではないか。

委託者の地位には,移転に値する経済的な価値がないとまで言えるかは疑問であり,少なくとも地位の移転を否定すべき根拠とはならないのではないかなどの観点から,委託者の地位の移転は,原則として一般的に可能と考えることが相当ではないかと考えているものでございますので,御意見を伺いたいと思います。
  


次に,第56の方でございますが,これは委託者の相続人の権利・義務に関しまして,前回と同様に,両案を提示しているものでございます。

  もっとも前回会議におきまして,結論としては,委託者の相続人は,原則として信託法上の権利・義務を承継しないとする乙案の考え方が大方の支持を得たと認識しております。


しかし,事務局としては,乙案をとることについてはなお,24ページの説明2以下に記載したような種々の問題点があると認識しております。

  この懸念を敷衍して申し上げますが,第1に,乙案のように委託者の地位の相続性を原則として否定した場合の問題点といたしまして,まず,前回会議で指摘されましたように,委託者の相続人は報酬支払義務の方は相続することとなっても,受託者の信託違反行為等を是正する権利の方は相続しないことになりますし,自益信託の場合にも,受益者の地位の方は相続するけれども,この受益者の地位には吸収されない委託者独自の権利については相続しないことになりますが,このような結論は,信託当事者の合理的な意思に合致するものと言えるかどうかという問題がございます。

  2点目といたしまして,委託者の地位には,信頼関係に基づく属人的要素が相当程度あることは否定できませんが,委任とは異なり,信託は信託当事者の死亡によっても終了しないことに照らしますと,相続性を否定する根拠として,委任と同様の観点から,委託者の地位の一身専属性を強調することは困難ではないかという感じがいたします。
  

3番目といたしまして,前回会議におきまして,委託者の相続性を認めた場合の弊害として,法律関係が錯綜するということも挙げられましたが,相続による法律関係の複雑化のおそれは,信託の委託者の場合に限った問題ではございませんし,そもそも信託行為によって相続人の関与を排除するなどの対応が可能ではないかという点も指摘されるところだと思います。
 

 第2に,この信託行為による対処が可能であるという点に関しましては,前回会議におきまして,乙案のように相続性を否定した上で,特に必要があれば信託行為をもって相続人に一定の権利・義務を認めればよいではないかとの方向性が示されております。


しかし,このように,信託行為をもって相続人に一定の権利・義務を認めるという点につきましても,前回会議でも指摘がございましたが,そもそも理論的に,これは信託行為によって相続人による権利・義務の相続を認めるというものなのか,それとも,相続性は否定した上で,信託行為に定める範囲において委託者の地位の全部ないし一部の譲渡を認めるものなのかという問題がございます。
 

 相続を認めるものだとしますと,相続人の関与のないまま,被相続人たる委託者と第三者たる受託者の合意のみで相続財産の範囲を決めることができることになるわけですが,そういうことが相続法上,果たして許されるのであろうか。

これが委託者の地位の譲渡,これはいわば相続人を第三者とする,第三者のためにする契約だと思うのですが,これを認めるものだとしますと,相続性を否定しながら譲渡性を認めるというのは矛盾ではないのか。

むしろ先ほど申しましたように,相続人の関与による弊害に対処できる方法があるのであれば,相続性の有無の範囲に関するこのような複雑な議論にあえて立ち入るまでもなく,一般原則どおり,相続は許されると原則に従った上で,信託行為の定めをもって相続人の関与を排除することができれば足りるのではないかと思われるところでございます。


  以上を踏まえまして改めて,甲案,乙案のいずれが適切か御審議いただきたいと思っております。
  


同じ問題が,第67の遺言信託でもございます。46ページでございますが,相続人の権利・義務につきまして,やはり両案を提示しております。

  なお,信託は遺言でもできるということは明記するつもりでおります。その上で,相続人の権利・義務が問題になるというところでございます。


  遺言信託における遺言者の相続人の権利・義務の問題につきましては,法律構成上も,理論的にも結論的にも,基本的には契約信託の場合と同じように考えれば足りるのではないかということを,この資料の冒頭から書いているところでございます。
 

 すなわち,遺言信託の場合におきましては,確かに信託の効力発生時点においては,委託者たる遺言者は既に死亡して不在ではありますが,教科書などを見ますと,やはり遺言者が委託者であると考えられておりまして,したがって,法律上は契約信託における場合と同様に,遺言者は委託者としての権利・義務を一たん取得した上で,この権利・義務を相続人が相続することとすべきか否かと法律構成することができると考えられます。


  もっとも,契約信託の場合に比べまして,遺言信託の場合には,委託者の相続人と受益者の利害対立というのはより直接的でございますので,遺言信託における相続人には受益者の利益のための権利行使の可能性は一層期待できず,委託者の権利・義務の相続を認めるのは不適当ではないかとの指摘もあり得ます。

この点につきましては,生前信託においても委託者の死亡を効力発生時期とする死因贈与類似の信託設定も可能であることですとか,生前信託であれ遺言信託であれ,委託者において仮に相続人が関与することに不安があれば,信託行為をもって相続人が有する権利を排除していくことが可能であることなどに鑑みますと,委託者の権利・義務の相続性の有無に関するデフォルトルールを定めるに当たりまして,契約信託と遺言信託であえて異なった結論をとることを必要とするほどの違いとまでは言えないとの反論もあり得ると思われます。


  ところで,前回の会議におきましては,遺言信託というのはそもそも相続人の意向を排除するところが大きいとの指摘がありましたほか,契約信託の場合と遺言信託の場合とで特に取り扱いを異にするのはおかしいとの観点から,相続人には権利・義務が原則としてないとする乙案が大方の賛成を得たものと認識しておりますが,相続性を否定した上で,特に必要があれば遺言をもって相続人に一定の権利・義務を認めればよいとする見解によりますと,これを相続と見るのか,それとも,委託者としての権利・義務を原始的に付与するというのは特殊な行為と考えるのか,相続人としては,このような権利・義務を有することを免れるためには,相続でない以上,相続放棄とは言えないわけでして,どうしたらいいのだろうかというような困難な問題が生ずることが懸念されるわけでございまして,このような観点から,やはりこちらについても改めて,甲案,乙案のいずれが適当か御審議いただきたいと思っております。

● かなり理論的な問題があると同時に,もちろん実際的な考慮も必要な点です。いろいろ御意見が対立する可能性がありますが,いかがでしょうか。


● 第56で甲案をとるというのは極めて論理的だと思うんですが,遺言信託に関しましては法的に同列に議論しなくてもよいのではないか。それについては両論ありということで,既に議論されていますけれども。
  


というのは,遺言信託というのは,まさしくその名前が物語るように,相続法の議論なんですね。


ですからある意味では,遺言において遺言執行者がいる,遺言信託においては受託者がいるという規律というのは,別にそれはそれで,デフォルトルールをどちらにするかというだけの議論なのかもしれませんけれども,特におかしくないのではないかという議論と,そういうふうに申し上げる背景としましては,今後,遺言信託がさまざまな形で利用されていく過程において,今,御報告がありましたように,委託者というのはもう必ず,遺言信託をするということは,法定相続とは違ったことをするということですから,信託類型として,初めから利害が反する方が委託者になっているということがデフォルトルールになるわけですから,第56の議論との論理的整合性から,契約に書けばよかったのかもしれないけれども書いていないときに,あえて紛争性を惹起するような類型をデフォルトルールとして残す必要がどこまであるのかなと,弁護士会でも議論したところです。


  あと,ただいまの御説明で明確なんですけれども,書き方として,第56の方は「原則として」という言葉が入っているんですが,第67の方は,今の報告の中ではデフォルトルールで信託契約の中に書けばいいという話だったと思うんですが,「信託行為で別段の定めがない限り」といった形にはなっていないので,表現ぶりではありますけれども,ちょっと気になったところです。
  


あともう一点だけ。以前議論されているようですけれども,後継ぎ遺贈が相続法上,または物権との議論でできるかできないか。

多分できないという議論だと思うんですけれども,他方において,遺言信託においては,過去の議論ですと,それは受益者の変更権との両方の組み合わせによってできるというような議論のようですけれども,遺言信託は,まさしく相続法の1類型としての信託法の中の取り扱いですから,その後継ぎ遺贈に類似するところの,何というんですかね,○○委員の本にもちょっと触れてありますけれども,その辺も議論として明記していただくことが,ある意味では,「遺言」ではなくて「遺言信託」をあえてするというところの意義として出てくるのではないか。

そうでないと,遺言と遺言信託は結局遺言で済んでしまうという議論に相変わらず引きずられてしまうのではないか,かように思ったところです。
● 質問なんですが,第56と一番最後のところで,まず一括して考えてみようということですけれども,これも,とりあえずまず第一段落はアメリカの話。
  


アメリカでは,今の議論と重なっていると思いますが,アメリカにおけるいわゆる民事信託の利用法は,相続からの隔離というか,相続のところへいかないために信託をというのが,この二,三十年の間,極めて発展してきたということになっていると思うんですね。

だから,相続制度をどう考えるかというのと非常に密接に関連しているので,なかなか難しくて,アメリカはアメリカの相続制度に物すごくいろいろな意味で欠陥があるので,そういう形で使っているのだと。


我が国の民事信託というのがどういう形で発展するのか,これは今後を見てみないとわからないので,現状の相続法との関係が非常に重要だというのはわかるんですが,アメリカでも1点だけ相続人が出てくるところがあります。

  1点だけというのか,もしかしたら私がいろいろなところで見落としているかもしれないんですけれども,つまり,いわゆる復帰信託というやつですけれども,日本で言えば帰属権利者ということになりますが,いざ長い期間の後で信託が終了してしまって,受託者として「これはどうしたらいいだろう」というときに,信託条項に何も書いていない場合ですけれども,何も書いていない場合は復帰信託という形になって,どこへいくかというと,委託者に戻る。

委託者が生きていなければ委託者の相続人に戻るということで,ここで初めて出てくる。これ以外は多分,出てこないような仕組みをとっていると思うんですね,アメリカでは。

  ここで,例えば第56の甲案なら甲案でもいいんですが,今のお話だと,委託者の相続人は原則として承継するんだけれども,信託条項で一切承継しないと書けばいいというような御趣旨なんでしょうか。

それで,同じことがこの遺言のところでも,遺言で信託を設定しておいて,それで,この信託に関係しては相続人は一切関係ないものとする,こうやって書いておくと相続の方にいかないということになるんでしょうか。それは我が国の相続法の--いやいや,私きっと説明がわかっていないと思うので,その点をもう一回はっきり御説明いただけますか。そういうことが可能なのかどうか。


● とりあえず申し上げますと,それは相続できるかできないかというよりも,相続人に権利・義務を与えるかどうかという観点の問題でして,相続者の有無を信託行為で決めるということではございません。

● それで,第三者のために契約だとか……,相続を介しないで相続人に権利を与える意思表示をするという説明の仕方をさっきしたんですね。


● 相続人に与えないための条項というのを,どういう形で。


● 例えば「信託の変更は,受託者と受益者の同意ですることができるものとする」というようなことを信託行為で書いておけば,相続人の関与は排除できますので。それは相続を認めないというよりも,関与を直接的に外すというやり方。

● つまり,大きく相続とは関係ないようにするよという1条項を入れるのではなくて,一つ一つ書いておけということなんですか。

● それは「委託者の権利は有しないものとする」と書けば,包括的に排除できるんだろうと思うんですが。「相続できないものとする」と書くのは,それは難しいのではないかと思います。

● そのときに,今の書き方なんですけれども,私の相続人は,私が今,委託者なんだけれども,「委託者の権利を承継する者にはならない」と書いておけば,遺言信託である生前信託であれ,第56であれ,排除できるんですか。
● 「承継」という言葉を使うと,まずいんでしょう。
● 「承継」はだめ。では,権利を……
● 承継するとかしないとか,そういったところを信託行為でいじるのは相続法の観点からして問題があるというのは,そのとおりなんです。


  そうではなくて我々は,先ほどから○○幹事からも申し上げておりますけれども,信託の変更については委託者が関与しない,あるいは信託の併合でもよろしいんですけれども,そういうものに委託者は関与しないということはできますので。
  


それでは,それを一個一個書かなければいけないのかと先ほど言われましたけれども,それは契約書の書き方の問題であって,その契約書の趣旨から言って,変更もできません,併合もできませんというのをバッとまとめて書くことはできる。それはできるんですが,では,それは何を決めているかというと,相続する,しないというのを決めているのではなくて,あくまでも委託者死亡後における委託者の地位をどうするかを個別的に,信託の任意規定として書いているというふうには説明はできると思います。


  ただ,それはあくまでも相続するか,しないか決めているのではないと言わざるを得ない。

● それでいいんですけれども,やはり個別に書かなければいかんのですか。うまく一文で書けるような表現があるんですか。
● 「委託者の権限を与えない」とかね。
● 「委託者の権限を与えない」と書けばいいんですか。

● いや,何か書き方はありそうですが。
● 「委託者の権限は,甲の死亡により消滅する」と書けば,それで終わりだと思いますが。


● それはもう一切権限を消滅させてしまうんですね。
  その相続をさせるかどうかという構成の問題と,今,○○委員が最初の方に言われましたけれども,私もどっちがいいかと迷っている問題は,やはり信託のいろいろな権限ですね,これを与えてもいいのかどうかという問題と,それから,法定の帰属権利者というのがあって,相続を一切否定して,そうすると法定の帰属権利者の地位も,どうも飛んでしまうような感じがするんですよね。だけれども,英米でもそこは残しておく。--というと,それはどうしたらいいだろうかというのが,相続を否定した場合に残る問題でしょうね。

● 消滅するといっても,同じようになくなってしまいますよね。
● 「それを除いて」とか言えば……。


● 委託者の地位というのは分割して承継というのはできなくて,まとめなければいけないんでしょうか。


私は,ポイントとしては,やはり監督権能は初めから締結に期待できないし,逆にいろいろと邪魔されるだけみたいだけれども,帰属権利者というのは経済的な信託の終了のときの枠組みだと思うんですけれども。

● まさに私も,実態としてはそういう監督的な権能,特に遺言信託の場合などは,それは相続人に与えないというのはいいと思う。

ただ,法定の帰属権利者の地位は残っていてもいいのかな。本当に,相当長い年月がたってから戻ってくることはあるかもしれませんけれども,それにしても,別に国庫にいく必要はないだろうということで,行く先がないときにも戻ってくる。それをうまく両立させる法律構成ができればいいのかなと思っていますけどね。
  ○○委員は,その両立させるというのは。

● まさしく遺言信託という類型である以上,ここだけの特別規定があっても,他の信託と同じレベルで議論しなくてもよろしいのではないかなと思ったんですけれども。


● それは1つ,もう思い切ってそういうふうにしてしまうということでね。
  ほかに,いかがでしょうか。
 


 先ほど遺言信託の場合に,私,実質は,やはりその場合にも一たんは相続するんだというのが何か嫌な感じもするんだけれども,といって帰属権利者の地位を飛ばしてしまうのもどうかと思うので,なかなか苦しいところですけれども。

  論理的に,本来は,やはり突き詰めると相続しかあり得ない,それが先ほどの説明ですよね。

● そういう構成しか考えにくいのではないか。非常に特殊な単独行為なものですから。


契約であれば,契約上の地位の移転という説明ができるんですけれども,あるいは相続というのができるんですけれども,遺言の場合には契約上の地位でもないですし,相続以外にはちょっと説明がつきにくいからということでございますが。


  ただ,生前信託と遺言信託では利害対立の状況が大分違いますので,そういう観点から,○○委員がおっしゃったように,仮に契約信託では甲案だとしても遺言信託では乙案ということもあり得るかなという気はしております。それは,あくまで利害対立を重視しているからでございますけれども。

● 理論的な説明はちょっと飛ばしてということになるのかな。もう遺言信託というのはそういうものなんだという……。

● 問題の整理は余りついていないんですけれども,○○委員がおっしゃったように,やはり性質の違うものがあるのではないかという感じがしていまして,財産の帰属関係の話は,まさに相続にも馴染むもので,最後に戻ってくる帰属権利者としての主体というのは,そういう点から考えられるんだと思うんですけれども,適正な信託をチェックする,そして当初設定者としてのそれへの関心の観点から見ていくという地位は,どうもある仕組みの中で監督等ですとか運営等についてかかわっていくという地位で,それは相続とは馴染まないと言うこともできるのかなと。

  ただ,そうしますと,委託者の地位の中で恐らく3つぐらいに性質が分かれてきて,財産の最終的な帰属として残っている地位と,信託の中で監督的なことをやっていく,変更等,あるいは終了等,それからもう一つは当初契約の当事者の地位というのがよくわからないのですが,詐欺取り消しですとかそういうような話がどうなるか。


それから遺言信託のときも,例えば遺言によって信託が設定された場合に,その財産を受託者に引き渡す義務を負う立場というようなものは,これは当初契約における履行をする地位と考えると,そこは相続人が継承して,だけれども,一たん渡したものについて,変更などについて同意をするかというのは,また違う地位かと思われるんですが,その3つがそれぞれ分かれることに伴う複雑さもあって,それをどう考えたらいいのかというところも気になっております。


  もう一つ,ただ,遺言信託と契約信託を全く同じに考えなければいけないのかというと,相続するという構成もできなくはないという説明ではないのかという感じがしているわけですが,それとの関係で,今度は逆に,信託行為に書けば委託者が留保できる権能が幾つか設けられていると思うんですけれども,遺言信託でそういうことを書くことが想定されるかどうか,非常に細かい問題なんですが気になっておりまして,当然,相続人にかかっていけるものならば,そういうものを書くことに意味はあるんですけれども,そうでなければ,そういうものを書いてもそれは全く無意味な記載で,無効というような,そういう理解でよろしいんでしょうかね,そちらは。


● 今の○○幹事のお話は,遺言信託の場合に,財産的な地位は別として,遺言者の相続人には信託法上のいろいろな権能がいかないことを原則として,ただ,場合によっては与えることもあり得るのをどう考えるかということだったと思いますけれども,そういうことですよね。

● その考え方を詰めると,契約信託の場合も実はそういうことになるのではないかという感じはしているんですけれども。

● それでできるのであればということですね。
● はい。

● ちょっと関連して,思いつきですけれども,やはり相続が入ってくると,なかなか難しいことになる。


生前信託だって,委託者は「私」ですが,相続人というのはいっぱいいるんですね。


急にその人たちみんなが委託者の地位を相続して,何だかんだと入り込んでくることを「私」が考えているかというと,普通は考えていないと思うので,この2つを分けないで,できるだけ簡明にした方がいい。しかし,相続法という怖いものがありますよね。強行法。

ですから,やはり○○幹事のような発想でやれるんだったら,そういうものに,つまり「相続」という言葉を使わないで,原則はというか,別段の定めがない限り,まさに「別段の定めがない限り,委託者が有していた信託法上の権利は,委託者の死亡とともに消滅する」そう言ってしまっておいて,あと帰属権利者の方は,帰属権利者の規定のところに「帰属権利者は,委託者である。委託者死亡のときは相続人のところへいく」と書いておけば,それはそれでもう別の話になってという,そういうことの方が簡明なのではないかと思うんですけれども,しかも相続法とも喧嘩もしないし,どうでしょうか。

  ちょっと思いつきだけですので,いろいろな点が問題はあると思いますが。


● 理論的な説明としては,委託者の契約上の地位--○○幹事はそれにも2つぐらい意味があるとおっしゃったけれども,単純化して,委託者のいろいろな監督権を含むという意味での地位というのは,任意的な譲渡はあり得ていいかもしれないけれども,本人が死亡すれば,一身専属性なのかな,そういう意味で消滅させる。


だけれども,帰属権利者としての財産的な地位は,それは財産的な地位なので,相続されると言ってもいいのかもしれない。これは○○委員も,相続でも構わないわけですね。帰属権利者の方は1人でなくていいわけだから。


● 帰属権利者が受益者とどう違うかといった話に,最後また戻ってくると思うんですけれども,財産的な権利がもう都度あるんだよと言ってしまうと,そこから何らかの監督権能が発生するような気がしますけれども,それはしないんですか。


● そこは,だから監督的な地位と財産的な地位とを分ける。


● それなら,財産的と言ったって,本当にあるかないかわからない帰属権利者のところだけで書いておけば。

● 法的な帰属権利者ですから,もう一番割り切れば,もともと本来,当然に委託者にいくというものでもないので,こういう場合の遺言信託の場合というか,委託者にいくと書いてあるわけだけれども,それも,相続などを介した場合には,法律の定めがあるから委託者の相続人とかそういうところにいくんだという理解をすれば,相続を介しないで帰属権利者に財産を与えることも不可能ではないかもしれないですね。

● 委託者たる地位を,例えば遺言の中で,もしかしたら法定相続人の中で長男は立派だといえば,長男に委託者たる地位を与えるとか,場合によっては,全然流動化とは違いますけれども,受益者に委託者たる地位を承継させるとか,ちょっとデフォルトルールではない議論になってしまいますけれども,それは可能という理解ですか。


● それはできますね。


● 相続されないという前提をとった上でも,それはやろうと思えばできるということですね。


● 仮に乙案をとった場合も,できると思っております。


● 恐らく今の議論の全般的な状況というのは,仮に契約でやる場合につきましても信託は信託であるので,普通の契約とは少し違うところがあって,委託者の地位というのは一部相続されないというのが妥当なんだということかと思いまして,それは確かに,アメリカにおける遺言あるいは遺産の承継との絡みでの使い方であれば,私はよくわかるところはございますけれども,他方で,今の我が国における使われ方を見ますと,もちろんそういうものは余り主流ではありませんので,一体どちらをデフォルトにするかというときに,やはり日本の状況をデフォルトにした上で,アメリカ的な使い方にももちろん対応できるのだというところを重視していく。

  特に,遺言のかわりということですと,よく考えて契約をつくると思いますので,先ほども一個一個置くのですかということもございましたけれども,それを期待することがそんなに難しいことなのかということはあると思いますし,いずれにしても,むしろ日本の状況を見た方がいいのではないだろうかというのが一つの発想としてはあるところでございます。

● 私もおっしゃるとおりだとは思うんですけれども,ただ,日本で,例えば自益信託が主流ですねと言うと,委託者の方はいなくても,受益者の方は当然相続という話になりますから。

受益権の方は。だから,余り心配ないのではないかとは思うんですが。日本のような状況を前提にしても。

● それはそうなんですが,委託者の地位というのはなくなってしまうので,いい。

それで多くの場合は問題ないかもしれませんけれども,個別に見て本当に問題がないと言い切れるかというのもございますし,他益信託が,余り日本ではないかもわかりませんけれども,だれかのためによかれと思って他益信託を行ったんだけれども,それが受益者と受託者との間でなかなか正常にはいっていないというときに,自分の親がやった信託があって,その相続人などが,あれを何とかしてあげたい,あるいは受託者がとんでもないことをしているので介入してあげたいというようなこと,それをあえて否定しにかかるようなことを言わなくてはいけないのかどうかでございます。

● 相続人が入ってきてうまくいくというのが……


● 大変細かいことを申し上げて恐縮ですが,○○委員がおっしゃったことに関連しまして,例えば,私が生前に信託を設定していて,死亡すると仮定しまして,受益権に非常に財産的な価値があるのは認識していますから,遺言をしようと思えば遺言をして,ある特定の子供に取得させるといったことはすると思うんですね。


では,そのときに,自益信託の委託者の地位があるではないか,委託者の地位について何か手当てをすることが期待されるかというと,なかなかそれは一般的には期待できないというのが第1点。

  第2点に,それが相続の法理によって承継されるのではないのだとしますと,では,どういうふうにしたらいいのか。

つまり,恐らくある特定の相続人に受益権を帰せしめるということになりますと,その人が単独で委託者たる地位を持たないと,委託者たる地位は共同相続されていろいろな人が行使するけれども,受益者たる地位が1人で持っているというのは,当事者の意思に反するような気がするんですよね。

  ですから,例えば自益信託のときには受益権……,自益信託も後から変わりますから軽々には言えないんですが,ちょっと片方は相続の法理ではないのだということを強調すると,つまり,委託者の地位に関しては相続の法理ではなく承継されていくのだということを強調すると,ちょっとまずいときが起こるかもしれないので,では相続の方にしろと私は言っているわけではなくて,何か手当てが必要なのではないかという気がします。
  ○○委員の発言に触発されて,ちょっと考えたところですが。

● 私は,基本的には○○委員のに近いかもしれないけれども,受益権の相続さえ認めれば,普通の問題は恐らくそれで解決する。


先ほど補足の説明がありましたように,しかし,受益者がうまく行動できないときに委託者が出てきてと言うんですけれども,それは何か,もちろんそういう善意の委託者ばかりではないし,出てくることの弊害を考えると,やはり委託者が出てくるのは適当でないだろうという気がします。

  ただ,もし委託者の相続人というのが出てきてよさそうな場面があるとすると,これは委託者にどういう権限を与えるかですけれども,唯一公益信託,要するに受益者がいないタイプの信託で,信託を設定した人が死亡して,その後,公益信託に何か口出しをしたいというか,少し管理をしたいというときに,その相続人が出てきてもおかしくはないかもしれない。


  ただ,それもどこまでそれを認めていいのかというのは,財団法人であれば拠出者というのはもう一切手を引くわけだし,ちょっと危惧を感じるところですね。


  いろいろ御意見はあるところですが,いろいろなレベルで対立していまして,理論的に相続を認めるか認めないかというところの問題と,もうちょっと実質的なレベルで,少なくとも遺言信託については別に扱った方がいいのではないかとか……。


  もうちょっと整理しますか。何か収斂するというような状況ではないですよね。

● 整理のために1点だけ申し上げますと,先ほどの○○幹事の発言に関連いたしまして,例えば契約信託を設定した場合の詐欺取消の権限と。

この話は,やはり委託者の地位の問題と明確に区別して考えるべき話であって,ここで言っている委託者の地位というのは,設定された信託という一つのスキームから発生する権利・義務の問題であり,詐欺取消しの問題というのは信託設定契約の問題であるというふうに仕分けをしないと,それも一遍に「委託者の地位」という言葉でやろうとすると,何か混乱が生じるのではないかと思います。
  

もちろん,○○幹事の発言の中で,信託設定契約の契約上の地位というものは共同相続されて,委託者の地位は1人に相続されて,またここで分離が起こるのは変だという話もインプリケーションとしてはあるのかもしれませんが,一応その点は区別して整理をしていただいた方がよろしいのではないかと思います。

● 仮に相続に乗るとして,2つがそれぞれ違う相続法理になるのはおかしいと思いますね。片方は相続を否定して,片方は認めるというのはあり得ると思いますけれども。


● おっしゃるとおりです。

● 私も○○幹事と同じ性格の発言で,○○幹事の発言の中で強調したいところが1点ありますので,最後に少し時間をください。


  遺言信託のときに,相続人は受託者に対して信託財産を引き渡さなければならない。


それはもう,いかにしてもそのとおりであって,ほかの解決はないと思うんですね。


その点を根拠にして,遺言者の相続人に委託者と同様の権利・義務を与えるということに広げてしまうという議論がもし第67のところにあるとすると,それは違うだろうと思います。


引渡義務は,もうどういう立場をとってもそれはあると言わなければ,そもそも成り立たない話だろうと思います。

● 単に整理するだけの話なんですが,多分3つの層があって,1つは,相続法理との整合性をどう考えるのか。


2番目が,いずれにしてもデフォルトですので,実際上の支障がどの程度あるのかという問題。


3番目に,委託者の権能の位置づけがあると思うんです。委託者の権能の評価について,どうも積極的に評価するのと,そうでない,わずらわしいというのと両方あって,そこが一番の対立点だと思うんです。

  多分,2番目と3番目は一緒に考えられるのではないか。つまり,委託者の権能をプラスに評価するにしてもマイナスに評価するにしても,それをデフォルトで外すときに,どういうふうにしたら外せるかということを詰めていけばいいだろう。ただ,第1点の相続法理との整合性ということは,これは常に問題になりますので,そこは生かしておくことになると思います。


● どうもありがとうございました。
  これはいろいろな御意見があるので,中間試案のときには恐らく甲案,乙案という形で幾つか出した上で,また御意見を伺うことになると思います。
  それでは,これはそのぐらいでよろしいでしょうか。

● それでは,最後に受益権の譲渡と,有価証券化と,それから受益債権等の消滅時効につきまして,続けて御説明致します。


  譲渡については,るる書いてございますが,伺いたいのは1点だけでございます。
  


補償請求権の構成に関して14ページで甲1案,甲2案,乙案を提案しているところでございますが,これは従来の受益権の放棄等の提案にもかかわるものでございまして,いわば新たな提案,乙案を含んでおります。


  甲案は,補償債務等は,受益者が利益を受ける反面として負担すべき性質のものと理解し,その有無は法律上の規定または信託法の定めを通じて,受益権の内容に一体的に組み込まれ,受益権の移転に伴って補償債務等も移転すると考えるものでございます。

  甲1案というのが,現行及びこれまでの事務局提案の考え方を基本的に踏襲し,譲受人を保護するために,受益権の放棄に関する規定を別途設けることが不可欠になると考えまして,譲受人が受益権を放棄しない限りは補償債務等を負担することになるとともに,受益権譲渡については受託者の承諾を不要とすることを見返りとして,譲渡人にも一定の限度で補償債務等を負わせるというものでございます。
  

甲2案というのは,前回会議において,譲受人は,個別に同意をしない限り受益の限度でしか補償債務を負担しないという限定承認類似の考え方が示唆されたことを踏まえまして,譲受人は,受益の限度,すなわち信託財産の限度でしか補償債務等を負担せず,それ以上に個人的債務を負担させるためには当該受益者との間で個別の同意を要するとし,あわせて受託者を保護する観点から,譲渡人は,譲渡の前後を問わず補償債務等を負担するというものでございます。

 

以上に対しまして,新しい提案が非常に新たなのが乙案でございまして,これは補償債務等を受益権の内容から切り離しまして,補償債務等は受益権とは別個の,信託の外側の契約に基づく責任であって,あくまでも受託者が個々の受益者との間で個別に契約を締結することによって,当該受益者が負担することとなる責任に止まりまして,受益権の移転に伴って移転するという性質のものではないと考えるものでございます。


受益権譲渡人は,一たん補償債務等を負担する内容の契約を締結したものである以上は,譲渡後に生じた費用等についても,その補償責任を免れるものではないと考えるものでございます。
 


 乙案によりますときは,受益者は信託の利益を当然に享受できるとすることの説明が容易になりますし,権利・義務とが同居することから,受益権の放棄という困難かつ特異な問題が生じてしまうことも回避することができまして,法律行為の単純化を図ることができる上に,自己の意思に反して債務を負担することはないという一般原則にも忠実であるという観点からすれば,相応の合理性もあるのではないかと思われますが,御意見を伺いたいと思っております。

  次に,有価証券化のところにつきましては,提案5,6の甲案,乙案の両案併記につきましての御意見を伺いたいということでございます。
  


一言で言いますと,甲案というのは,株式型受益証券と社債型受益証券を分けて考えて,受託者がそれを必要に応じて発行することによって適切な規律が導かれるのではないかというものでございます。
  

乙案は,しかしながら,デットとエクイティは違うのであって,やはり受益権というのは,その権利行使の可能性が社債に比べれば多いのであるから,それを重視して受益者名簿は両方の場合に設けるべきではないかというふうな考え方を提示しているものでございます。

  最後に,消滅時効については特段の変更はございません。


● 譲渡の方の補償請求権は,いろいろ議論があるかもしれません。いかがでしょうか。

● まず,第52の受益権の譲渡における補償請求権等の取り扱いでございますが,乙案が新たに出ております。


  乙案につきましては,信託財産の管理・処分に伴って発生しました補償請求権について,信託の外側で処理する,そういう考え方のものでございまして,これは今までの考え方とは大きく違うということで,理屈の面からも実務感覚からも,非常に大きな違和感を感じております。

  また,受益者に対する補償請求権の規律のほかに,お話しありましたけれども,受益権の放棄に関する規律もなくなる可能性がありまして,これについても,やはり相当ではないと考えております。
  


あと,受益権が,プラスではあってもマイナスはないというお話になりますので,当然,現行法と大きく前提が変わることになりますので,受益権の譲渡に係る税制上の取り扱い,要するに,導管性みたいなものもなくなってしまうのではないかという懸念もあります。したがいまして,乙案に対しては強く反対したいと思います。

  続きまして第53の,受益権の有価証券化でございます。

  これについては,5の受益者名簿の作成につきましては,これは前回申し上げましたけれども,投信のような,販売会社を通した販売形態をとるものについては,受託者が受益者を知らないような状況になっておりまして,無記名証券を発行した場合においても受益者名簿の作成が義務づけられております乙案には,ちょっと賛成できない。


すみません,これは物理的にできないので,賛成できないということでございます。

  また,6につきましても同様で,乙案については受益者名簿の設置を前提とした規定でありますので,乙案についてはとれないということで,両方とも甲案を支持したいと思います。
  

あと,信託財産を引当てとする債券の発行につきましては,現行実務上,信託において借入れを行っている例が多数ありまして,借入れよりも資金調達についてメリットがある。

例えば,資金調達が多くの人間に対して低利で行えるといったメリットが十分にあると思われます。

具体的には,設計につきましては,これ「社債」と言ってしまいますと,例えば取締役会での決議が必要だとか,そんなふうになってしまいますので,そんなものではなくて,信託行為に記載されている場合には受託者の判断で発行できるような,要するに,信託の制度の中にあるような形の規律で創設できないかなということです。

  引当財産につきましては,信託財産のみを引当にするものに限定してもいいのではないかということで,例えば受託者の信用力を要するようなものにつきましては,別途保証という形のもので付加することもできますので,信託財産のみを引当てとするというような形でもいいのではないかと思っております。


● 記録のためにということで,私が申し上げることは,もう言わなくてもいいようなことではあるんですが,第52の,○○委員は現行法と,それからそれぞれのお立場から乙案絶対反対ということだったんですけれども,やはり(注3)(注4)をあわせて読むと,やはり受託者の立場にもいろいろな形で配慮があって,非常に合理的な感じがすると申し上げたいと思います。乙案について。

● 第52の甲案,乙案についてですが,まだ明確な意見を持つものではございません。ただ,新しい乙案というのは,やはり○○委員がおっしゃったように,少なくとも受託者の立場からすると,ちょっと違和感があるということでございます。

  それから,前回の会議において私が申し上げた懸念,すなわち,いわゆるチェリーピック的な,詐害的に使われる,例えば証券化の中でSPCに受益権があって,その受益権がマイナスになるときに,結局その受益権だけを出して,いえばもう何もない空のところに補償債務だけが残っているというような状況も考えますと,よくない使い方も出てくるのかなという気がいたします。
 

 それから,第53について内部の議論を簡単に御案内しますと,細かいことですけれども,受益者名簿の有無についてはいろいろ議論があるところでございますけれども,今,保振制度とか振替制度との関係も議論があると思いますけれども,仮に受益者名簿をつくるべきだというようなことがあった場合には,やはり今の保振制度における名義人の土地制度とかいうことのインフラを整えなければ,実務は回らないのではないかという意見があったことを紹介いたします。

● 補償請求権についての乙案は,ようやく今までの議論が反映されたものとして,非常に意義深いものと思います。本来の信託の姿に戻ったということと,あと,先ほど○○委員がおっしゃったように,決して受託者の方が保護されていないわけではなくて,それなりに考慮されていますし,あと,今後,有価証券化したときに補償請求権がないという議論もされていますから,ある意味では,そちらで一つの議論としての決着がついているのかなと思います。
  


信託銀行の方としては,今まで持っていた権利がなくなるということで,非常に危機感を感じるというのは感覚的にはわかりますけれども,制度の改正の議論をしているわけですから。
  あと,全然違ったことを2点ほど申し上げます。

  指名債権譲渡に倣って,受益権譲渡についてもこういう制度を設けようということだと思うんですけれども,あえて制度を明記するということは,ある意味では指名債権とはまた違ったといいますか,指名債権と同じであれば,ある意味では規定しなくてもいいわけですから。

そういうところで,多少指名債権譲渡に関連するところの制度改善があってもいいのかなと思ったりしました。

  それは何かといいますと,有価証券化すれば問題なくなるんでしょうけれども,信託受益権の転々譲渡をするときに,現状においてもそういう仕組みになっていると思うんですが,いちいち確定日付をとるという問題といいますか,確定日付をとるのは,私の記憶が間違っていなければ,教科書的に言えば債務者と譲渡人が通謀して日付をずらすかもしれないというような議論だったかと思うんですけれども,この場合,受託者というのは定型的に,そういうことをしない方が受託者になっているはずですから,受託者に対する通知,また受託者の承諾ということで,第三者対抗要件的なものも具備している。信託法の教科書の中にはその辺も,記憶の彼方ではあったと思うんです。


  いろいろな提案があるかと思うんですけれども,指名債権ではないんだという議論をしている以上は,多少指名債権譲渡に絡むところの問題点,論点というのも制度改善の議論があってもいいのかもしれないと思いました。
  

あと一点,全然違うことも申し上げますと,これも私の経験なんですけれども,この説明の中で,信託財産を引当てとする債券の発行についてのニーズとか,具体的な構造の提案はなかったようだという話だったんですが,米国などでも,信託財産が債券を発行した例を実際に見たことがあります。

信託財産が発行したというのは法律論としては間違っていまして,細かく見ると当然,受託者の債権なんですけれども,やはり信託財産債権ということで,受託者の社債というような─法的にはそうなんでしょうけれども,全く違った形,雰囲気のものだったことが記憶にあります。

  したがって,先ほど○○委員がおっしゃったように,既存の法律でも別に何々信託銀行・信託財産限定特約をつけて出せばいいのかもしれませんけれども,制度として考える場合には,信託財産債というのがあってしかるべきですし,実際に海外の市場ではそういうものが出ております。

● 第52の,今,話題になっている乙案についてですが,私は,乙案にそれほど違和感は持たなかったんです。ただ,それを前提とした上で,さらに細かいことを検討する必要があるのではないかと思います。


  そもそも乙案は問題にならないということですと,細かいことを議論する意味もないかもしれませんが,二,三あります。

  1つは,乙案をとった場合に,受益者に意思能力がないときなどは,その信託の利益を享受することと,それから補償契約の効力が発生することとの間にずれが生じないだろうか。そのずれを,何かあらかじめ手当てしておく必要はないだろうかということです。

  もう一つ,15ページの(注4)ですけれども,信託契約書の中で2つのことを決めておけば,それで補償請求ができるようになるということ,そうなると思うんですが,その場合に,当初の受益者は譲渡後も責任を負い続けるという制度だと思います。


それ自体は,どうしても受益者にとって非常にリスクになることですので,そのことを特に注意喚起する必要があるのではないかということです。


● 今の点に関連して,最初の点なんですが,乙案によった場合に,例えばこういうことは可能かということで,あるいは第9条は任意規定と考えていいかということなんですけれども,特定の受益者が補償債務について,その負担約束をすることを条件として受益者の地位を有することになるというふうに信託行為で書くことは有効と考えてよいかという点。○○委員の御発言との可能性で,確認したいということです。


  もう一つ,(注3)(注4)関係なんですけれども,(注4)について御指摘の点は,譲渡とともに,例えば放棄をしたような場合,どういうことになるかという点もあわせて問題になるかと思います。つまり,最初からセットになっているときに,セットだろうというふうに考えて,譲渡すればないのではないかと思うという問題は,放棄のときもあり得るかと思われますので,あわせてということがもう一つ。
  


それと(注3)についてなんですが,私は,(注3)の考え方は非常に適切ではないかと考えておるのですけれども,具体的な中身について,前払い等を受けられないときに信託を終了できるという,この構成で,さらに細部には,直ちに終了にいくかどうかという点は,1点,受益者なり委託者なり,補償義務は負っていないけれども信託の終了を望まないときに,もう少しチャンスを与えるみたいなことはさらに考えられるだろうということ。
 


 それから,(注3)は乙案の場合にのみ考えるべき事項なのかというのも少し気にはなっておりまして,甲案的な処理をとるときも組み合わせて考えられることではないかという気がしておりますので,付言いたします。


● 乙案について,それなりに可能ではないかという意見も多かったと思います。さらに検討しなくてはいけない点は残っているとは思いますけれども。


● 今おっしゃった条件付の信託設定は,可能と考えております。
  あと一点,○○委員がおっしゃったチェリーピッキングというのは,補償債務が生じそうになったら,譲渡して免れるという意味ですか。


● はい。
● それだとすると,仮に乙案では,一たん補償債務を負担するという合意を譲渡人がしていれば,譲渡しても免れませんので,おっしゃるチェリーピッキングみたいなことはできないというのが乙案の考え方になってまいります。譲渡したことによっても補償債務は免れませんので,その後に生じた債務についても負担し続けるということなります。

● とすると,いいものだけ取り出す者が出てくるという,ある意味で,詐害的な営業譲渡のように,例えばSPCが受益権を持っている。それで,何か補償債務を負いそうだということであれば,その受益権だけを移して補償債務だけは残しておくということも,あり得るということで,いわゆる詐害的な譲渡みたいなことが生じるのではないかという話なんですけれども。


● それはあるかもしれない。補償債務が具体的に発生する前に受益権自体を売ってしまうというわけですよね。


● チェリーピッキングという言葉は間違いかもしれませんが,クリーニングみたいなものだと思うんですけれども,いわゆる債務を置いてきて,いいものだけを取り出すということが,この乙制度ではできるのではないかということです。

● 確かにそういうことはあり得るのかもしれないけれども,ただ,基本的には補償債務自体は,受益者というよりは信託財産でもって填補されるということで,詐害的な取引がどれほど意味があるのかというのは,疑問がないわけではないと思います。
  ただ,おっしゃることは,抽象的にはあるかもしれない。

● あと,○○幹事がおっしゃった指摘につきましては,終了に当たっての手続的な整備は,恐らく同じように入れていくと思いますが,ほかの点については,ちょっと検討させていただきたいと思います。

● ほかに御意見ございませんでしょうか。
  まだ御意見があるかとも思いますけれども,期日があと2回ですね。今までの中で,まだ論じ足りない点がございましたら,事務局の方に書面等でお送りいただければ,反映できるものは反映することにさせていただければと思います。
  もし御議論がなければ,本日はこれぐらいにしたいと思います。
─了─

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

]

法制審議会信託法部会第6回~第10回

2016年加工編 

                      法制審議会信託法部会

                        第6回会議 議事録

第1 日 時  平成16年12月3日(金)  自 午後1時00分

                       至 午後5時00分

第2 場 所    法務省第1会議室

第3  議 題

   信託法の見直しに関する検討課題(4)について

第4 議 事   (次のとおり)

                              議    事

● それでは,1時になりましたので,法制審議会信託法部会を開催したいと思います。

  今日もたくさんのテーマがございますので,適宜区切って説明してまいりたいと思いますけれども,これについて,では,○○幹事からお願いします。

● それでは,今日の進行についてでございますが,まず,全体を六つに分けてやりたいと思います。1番最初は,受託者の解任・辞任等に関する前回の積み残しの問題があります。

続きまして,資料で言いますと第40,第41になりますが,受託者が欠けた場合の取扱いと受託者の交代の問題をやらせていただきまして,3番目に,第44でございますが,信託財産の管理人の問題を扱いたいと思います。

そのあたりでいったん休憩といたしまして,4番目に,受託者が複数の信託の問題,5番目に,受託者が倒産した場合の問題,最後に,委託者の問題と遺言信託の問題ということで,全体を六つに分けてやりたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

  それでは,早速,受託者の解任・辞任の問題,それから合併・会社分割による受託者の変更問題について,概要を御説明したいと思います。

  まず,第37でございますが,これは,受託者の解任・辞任及び新受託者の選任に関する提案でございまして,提案内容は信託法制研究会報告書の記述とほとんど変わるところはございませんので,簡単にその趣旨を再び申し上げたいと思います。

  まず,1ないし4というのは,受託者の解任に関する提案でございます。

このうち,1ないし3というのは,受託者を交代させるためにいったん信託本体を終了させてしまうというのでは余りにもロスが大きいということから,特約のない限り,委託者と受益者の合意をもって,理由の有無いかんを問わず受託者を解任できることとし,解任された受託者に損害が生ずれば,別途その損害はてん補するとしたものでございます。

  2というのは,このような受託者の損害のてん補につきまして,委任に関する民法651条2項の規律に倣ったものでございます。

もっとも,ここで言います「不利な時期」ですとか「損害」の意味につきましては,民法の解釈上もいささか判然としないところがあるようでございますので,ここでは,民法の解釈に委ねるべく,民法651条2項の文言をそのまま引用するにとどめているところでございます。

  最後に,4でございますが,このような合意による解任ができない場合に備えまして,受託者がその任務に違反したことその他重要な事実があるときにおける委託者又は受益者の解任請求権を認める現行法47条の規律を維持したというものでございます。

  次に,5でございますが,これは,受託者の辞任に関する提案でございまして,信託は受託者に対する信頼関係を基礎といたしますので,受託者が勝手に辞任することができないとするのが委託者及び受益者の意思に合致すると考えられます。

現行法43条,46条におきましては,受託者が辞任できる場合というのを3点,すなわち,信託行為に別段の定めがある場合,受益者及び委託者の承諾がある場合,それから,やむことを得ない事由があるために裁判所の許可を得た場合に限っておりますが,提案におきましてもこの規律を維持したものでございます。

  最後に,6,7でございますが,これは,新受託者の選任に関する提案でございます。

現行法49条は,利害関係人が裁判所に対して新受託者の選任を請求することができると規定しております。

提案では,7におきまして現行法49条の規律を維持することとした上で,私的自治の観点からは,裁判所の関与を経ずとも,委託者及び受益者の合意によって新受託者を選任することが可能であるということを明らかにすべく,その旨を6で明文化したものでございます。

  続きまして,第38の「合併又は会社分割による受託者の変更について」という提案について簡単に御説明いたします。

  まず,受託者たる会社が合併した場合につきまして,現行法42条1項によりますと,「受託者タル法人カ解散シタルトキ」に当たり,受託者の任務が終了することとされております。

しかし,会社の合併の場合には,新設合併であれ,吸収合併であれ,消滅会社の契約上の地位は存続会社にすべて包括承継されることになるわけですので,消滅会社の方が受託者であった場合においても,契約上の地位である受託者の任務が合併により消滅してしまうと解する必要はなくて,やはり存続会社の方に包括承継されて引き継がれると解すればよいものと考えられます。

そこで,1の第1文では,このような考えに基づきまして,現行法を改める規律を設けることを提案するものでございます。

  また,現行法につきましては,株式会社であった受託者が会社分割され,信託財産が設立会社あるいは承継会社の方に移転された場合におきまして,受託者たる地位はどうなるかが明らかではございません。

しかし,この点につきましても,会社分割は合併の場合に類似しまして,被分割会社の営業を新会社に部分的包括承継させるものでございますので,新会社に移転される営業の中に信託が含まれている場合には,受託者の任務もこれとあわせて新会社の方に包括承継されるものと解すればよいものと考えられます。

そこで,2の第1文で,このような考え方を明記した規律を設けることを提案するものでございます。

  なお,受託者の合併の場合であれ,会社分割の場合であれ,信託行為自体は,受託者が変わるということ以外には変わりございません。

すなわち,信託財産は,信託の併合の場合のように信託行為自体が変更されて他の信託財産と統合されてしまうわけではなくて,あくまで独立性を保ったまま新たな受託者のもとに承継されるにすぎないものでございます。

したがいまして,信託財産のみを責任財産とする債権,つまり受益債権ですとか前回の会議で説明いたしました有限責任債権につきましては,合併又は会社分割自体による信託財産の承継によってその利益を害されるものではないと考えられます。

そこで,1及び2のそれぞれ第2文とアステリスクの2のとおり,これらの債権につきましては,商法上の債権者保護手続の対象とはならないというふうにしたものでございます。

もちろん,受益者の有する債権でありましても,いわゆる受益債権ではなくて,受託者の固有財産に対する損害賠償請求権のようなものにつきましては,商法上の債権者保護手続の対象となるものと考えられます。

  以上でございます。

● それでは,第37と第38について,いかがでしょうか。いずれも,受託者がいわばそこで交代するというような場面ですが。

● それでは,第37,第38について,2点申し上げたいと思います。

  まず,1点目の第37の受託者の解任・辞任のところの受託者の解任についてでございますが,解任について信託の終了の要件と一致させるということについて,これがまあ自然だろうと。

それと,この規定は当然任意規定ということでございますので,受託者の承諾というのを要件の一つに入れてもいいということもございますので,基本的には原案に賛成というのが多数ではございますが,一方で,現行法において,解任というのが,任務の懈怠があって,任務の違背があって,なおかつ裁判所の許可が要ると,そういう状況のもとで解任されるということと,あと,今回の規律で第40の4の解任されたときの受託者の権利義務のところの書きぶり等を見ますと,ほとんど何もできないような状況になっていると,そういうところから,ちょっとある程度心象的なところなのですけれども,もともと終了するよりも解任の方が非常に重いのではないかというような意見もありまして,そういった意味合いで反対するという意見であるとか,あと,経済的な効果でいきますと,例えば,信託財産に対して補償請求権を持っているような場合に,信託財産を売却してそれに充てようというような状況のもとで,いきなり解任されてしまいましたと,そういうようなときに,信託財産管理人が選任されるまでの間の,例えば信託財産が相場物であったような場合については変動リスク,そういうのを負う可能性があるということで,ここについてもちょっと慎重な検討をいただきたいというような意見がございました。

ただ,前半に申し上げたように,多数的な意見としては,原案でいいのではないかというようなことでございます。

  次に,第38の合併又は会社分割による受託者の変更のところでございますが,合併と会社分割の際に受益債務が商法上の債権者保護の対象とならないこと,この部分につきましては,実は私自身,会社の合併と分割,両方とも経験いたしておりまして,この部分で非常に悩みまして,兼営法と信託法と商法,この関係というのがよく分からなかったということで,いろいろな解釈論を立ててやっていったのですが,そういうことがこの規律によってすべて解消できるかなということもありまして,非常に実務に即した有り難い規定だなというふうに考えております。

それとあわせまして,ここでアステリスクの1と2に書いてありますように,減資のときとか法定準備金の減少の際の問題であるとか,信託の有限責任の債務についても同様の規律を是非とも入れていただきたいというふうに考えております。

  それと,本席の議論にはなじまないことかもしれないのですけれども,この規律がもしも入れられるとしますと,当然,業法と兼営法というのが変わってくると思います。

その際に,あわせて--今は,信託兼営銀行,要するに銀行と呼ばれるところが営業譲渡をやるときの話なのですけれども,現行の銀行法からいきますと,営業譲渡のときには商法の債権者保護手続と同じような手続をしなさいというふうになっているのですね。

実際に,譲渡する営業の対象になっている分については多分更迭の手続になるのだと思うのですが,営業譲渡の対象になっていないところの営業に係る債権の債権者であるとか,営業を譲り受ける方の債権者であるとか,それに対しても債権者保護手続をとりなさいという規律になっておりまして,ここで言われているような規律が採用されるというふうになりますと,ここの部分についても,同様の理屈で債権者保護手続というのは必要でなくなるのではないかというふうに考えておりまして,多分この信託法の中に入れるというのはそぐわない話だと思うのですけれども,この点についてもちょっとテークノートしておいていただけたらなと思います。

● 第37の方に関しては,今の御発言に少しありましたように,従来の規定との比較で言いますと,信託の終了と受託者の解任というのは少し違ったルールになっておりまして,今回,それを終了の方に少し合わせている。

そうしますと,解任に関しましては,受託者からすると従来より解任されやすくなっているというところがあるわけですね。ここら辺をどう見るかというのが一つの問題だということです。

  それから,第38の方は,これはちょっと,債権者保護手続の対象としないところがポイントなわけですが,今の御指摘にありましたように,兼営法とか銀行法とか,いろいろなところと関連しておりまして,問題自体は非常に複雑なところがあるのだろうと思います。

この辺についても,いろいろお詳しい方がおられると思いますので,もし御意見をいただければと思いますが,いかがでしょうか。

● 今の点に詳しいということではなくて,細かいことなのですけれども,第37の解任・辞任のところで,2の規定で,不利な時期の解任の場合に損害を賠償しなければいけないという部分ですが,これは,先ほど,民法の考え方に委ねるというような御説明をいただきました。

36ページの下の方に,2の趣旨として,受託者が報酬を頼りにしている場合というのを最初に挙げておられるのですけれども,民法の解釈としては報酬の定めとは切り離しているのではないかなと思います。

信託法の教科書の中では報酬と結びつけているのもありますが,恐らく民法の考え方からいくと,委任の不利な時期というのと報酬の支払いというのは別のことではないかと。

とりわけ,第36の「報酬請求権について」というところの3の(2)で,中途終了の場合に割合的な報酬が支払われるということもございますので,ここで報酬を最初に出してくるというのはかえってミスリーディングではないかという気がいたします。

● 確かにそういう面がありますね。

● 補足いたしますが,確かに資料には報酬が前面に出ておりますが,私が口頭で説明したところでは一歩引いているというのは,○○委員からも御指摘がありましたが,例えば,信託の教科書を見ますと,信託行為において受託者に対して一定期間報酬を支払うべきことを定めた場合に,その期間中に信託を解除したときは,委託者や相続人は受託者に対し損害賠償として残存期間に対する信託報酬の支払いをしなければならないというようなコンメンタールの記載ですとか,あるいは四宮先生の教科書にも,受託者の損害として,報酬の減少というのが例として挙げられているのですが,他方,「注釈民法」などを見ますと,有償委任であっても,その中途解約の場合に,不利な時期における解除の損害賠償として報酬を請求し得るものではないというふうに解されておりますので,そういうこともあって判然としないというところで,民法の規定に委ねるということにしたいと思っておりますので,この点は,御指摘のとおり,報酬を前面に出すことについては控えるべきかなと考えております。

● ほかに,いかがでしょうか。

● 私もそれほど詳しくはないのですけれども,○○委員がおっしゃられた点についてちょっとつけ加えさせていただきますと,金融機関の場合の破たん処理の中で受託者が交代するというときに考えなければならない法律として,預金保険法132条の信託業務の承継における受託者更迭手続の特例ということがございます。

これについても,同じく,あわせて検討しておく必要があるのではないかというところをちょっとテークノートしていただきたいというふうに思います。

● 先ほど,銀行法とか,そういうほかの法律との関係のことを指摘されたわけですが,私もよく分かりませんけれども,信託法でここに書いてある債権者保護手続の対象にしないということがどういうインパクトを持つのかというのは,恐らくここではなかなか決めかねるのですかね。

やはりそちらの,銀行法だったら銀行法の解釈の問題として解決されるのではないかという気がいたしますけれども,どうなんでしょうか。むしろ○○委員がこれは一番お詳しいし……。

● 多分,商法のところを修正するために今回の信託法によって規律されるというのは修正が可能だと思うのですけれども,当然,銀行法という一つの特別法のところを信託法でもって修正というのはできないことだと思いますので,基本的には,銀行法であるとか--多分,業務上の問題からすると,兼営法のところで特例を認めていただいて,ここにあるような規律で,受益債務についてはその対象としないというようなことの規律を設けていただくのが,一番有り難い方法ではないかというふうに思います。

● それでは,ほかに,今の第37,第38はよろしゅうございますか。大体御賛同いただけたということでしょうかね。

  それでは,先に行きましょう。

● それでは,先ほど御説明いたしました順序に従いまして,第40と第41,受託者が欠けた場合の取扱いと受託者の交代についての説明に移らせていただきます。今回お配りした資料でございます。

  まず,第40の方でございますが,これは,受託者が欠けた場合の取扱いに関する提案でございまして,現行法で申し上げますと42条2項ですとか45条に相当する規律についてでございます。

  なお,報告書では,信託法48条の信託財産管理人の選任に関する規律もここであわせて提案しておりましたが,この部分については,第44においてまとめて御提案することとしたいと考えております。

  まず,1の(1)でございますが,これは,受託者の死亡,解散,破産手続の開始などによりまして受託者の任務が終了した場合には,現行法42条2項の趣旨を維持しまして,新受託者,信託財産管理人又は信託財産法人の管理人が事務の処理をすることができるようになるまで,相続人,清算人,破産管財人等に信託財産の保管及び引継ぎに必要な行為をする義務を課すものでございます。

これは,受託者の任務終了によりまして信託財産に不測の損害が生ずることを回避するため,いわば緊急避難的に保管義務を課すものでございます。

  次に,1の(2)でございますが,これは,相続人等が信託財産の保管等のために支出した費用につきましては,新受託者,信託財産管理人又は信託財産法人の管理人に対して請求することができることを規定したものでございます。

  なお,信託財産管理人等は,その固有財産で責任を負うものではないと考えられますので,このような費用償還請求につきましては,信託財産のみをもって負担することになると考えております。

  次に,2でございますが,これは,現行法44条は削除するという提案でございます。

特定の資格を有する者を受託者とすることとされた信託におきましては,受託者となった者がその資格を喪失したときにはその任務が終了するということになりますが,これは,信託行為において受託者の任務終了事由を定めたものと解すれば足りると考えられるからでございます。

  なお,信託行為にそのような定めがある場合につきましては,次の3の規律によることとなります。

3と4でございますが,これは,1の(1)に該当しない場合,すなわち,辞任ですとか任期の満了,解任などによりまして受託者の任務が終了した場合には,信託財産を管理する者が不在となる事態を避けるために,新受託者等が事務の処理をすることができるようになるまで,前受託者に引き続き信託財産の管理をさせるものでございまして,現行法45条の趣旨を維持しつつ,その適用を拡大したものでございます。

  ただし,4でございますが,解任の場合には,前受託者に信託財産の管理を行わせることは望ましくないという事情もあると思われますので,その権利義務を,信託財産の保管と信託事務に関する計算及び信託事務の処理を行うのに必要な事務の引継ぎというこの3点,2ページの4の①から③のものに限定して弊害が生じないようにしているところでございます。

  なお,この第40の提案全般に言えることでございますが,共同受託者の一人又は数人についてその任務が終了した場合におきましては,ここで言う「受託者が欠けた場合」には該当しないものとしております。

その場合には,前受託者が有する信託に関する権利義務は他の受託者に帰属することになるからでございます。

ただし,提案では,これはあくまでデフォルト・ルールでございますので,他の受託者が前受託者の権利義務を承継しないということも,信託行為でその旨を定めればあり得ることになるわけでございますが,その場合につきましては,後ほど第41にて改めて説明いたしますが,結論的には,ここでの規律に準じた取扱いをすればよいのではないかと考えているところでございます。

  では,続きまして,第41の受託者の交代の方に移らせていただきます。

  第41でございますが,これは,受託者の交代に伴う信託財産の帰属,権利義務の承継,事務の引継ぎ等に関する提案でございまして,現行法では50条から55条に相当するものでございます。

基本的には現行法の趣旨を変更するものではなく,むしろ,現行法の規定からは明らかではない点を明確にしようとするものでございます。

  まず,1でございますが,これは,受託者の全員につきまして任務が終了した場合の信託財産等の承継に関する規律を提案するものでございます。

  まず,(1)でございますが,受託者の任務終了事由が生じた後,新受託者が選任されるまでの間の信託財産の帰属者を明確にするものでございます。

現行法50条1項を見ますと,新受託者が選任されたときに,前受託者の任務終了時にさかのぼって前受託者から新受託者に信託財産が承継されたこととしております。

この規律は,新受託者が選任される限りにおいては特段の問題を生じさせないわけですが,前受託者の任務終了事由が生じた場合に必ず新受託者が選任されるとは限りませんので,例えば新受託者が選任されないまま信託が終了するということもあり得るわけでございます。

そうしますと,前受託者の任務終了事由が生じた後に信託財産がだれに帰属するかについて明確にする必要があると考えるものでございます。

  現行法では,前受託者の任務終了後に信託財産がだれに帰属するかにつきまして明文の規定を置いてはおりませんが,先ほど言いました50条1項の規律からいたしますと,新受託者が選任されるまでは前受託者に信託財産は帰属しているものと解するのが自然であると思われます。

もっとも,前受託者が死亡したという場合には,もはや前受託者,死者に信託財産が帰属しているとすることは適当ではないと思われますし,かといいまして,受託者の相続人に信託財産が帰属していると解することも,信託財産が前受託者の相続財産に含まれないという原則に照らせば,適当ではないと考えられます。

  そこで,(1)では,信託財産は,新受託者が就任しない限り前受託者に帰属することを明らかにするとともに,前受託者が死亡したという場合には,相続人のあることが明らかではない場合における相続財産の規律を参考にいたしまして,信託財産をもって法人と擬制するということにしております。

  次に,(2)でございますが,これは,(1)ただし書によって存立した信託財産法人につきまして,新受託者が就任したときには,当初から存立しなかったとみなすものでございます。

もっとも,このように当初から存立しなかったものといたしますと,信託財産法人の管理人,すなわち信託財産法人の機関として信託財産の管理権限を行使する者の行為の効果が信託財産に結局帰属しないということになると解されかねないおそれがございます。

そこで,新受託者が就任するまでの間に法人の管理人がその権限内で行った行為は,新受託者が就任したとしてもその効力を失わないということにしたものでございます。

  なお,報告書におきましては,信託財産法人の管理人の制度の詳細についてはなお検討事項としておりましたが,信託財産法人の管理人というのは,受託者が不在の間における臨時の信託財産の管理者であるという点におきまして信託財産管理人と共通する性格を有すると言えますので,6ページのアステリスクの1に記載しておりますとおり,その権限義務等につきましては,後ほど説明いたします信託財産管理人と  同様にすることを提案するものでございます。

 次に,(3)でございますが,これは,新受託者が就任した場合には,前受託者の任務が終了したときにさかのぼって新受託者は前受託者より信託に関する権利義務を承継したものとみなすと規定するものでございまして,現行法50条1項の趣旨を維持するものでございます。

  ところで,現行法は,新受託者が前受託者から承継する対象を信託財産としておりますが,前受託者が信託事務処理に当たって第三者と締結した契約についての契約上の地位ですとか信託債務についても承継の対象となるということを明確にするために,「前受託者より信託に関する権利及び義務を承継」するものと書いているところでございます。

ここで「信託に関する権利及び義務」としておりますのは,前受託者が固有財産のみで有し,あるいは責任を負担する権利や義務は承継しないということを含意しているものでございまして,例えば,いわゆる受益債務であれば,新受託者が承継する対象に含まれると思われますが,損失てん補債務のように前受託者がその固有財産のみで負担する債務は含まれないと考えております。

また,当然のことではございますが,前受託者が固有財産として有します補償請求権や報酬請求権も承継の対象には含まれないと考えております。

  なお,資料12ページの(注2)に記載してあるところでございますが,新受託者というのは,当然に,すなわち契約上の地位の譲渡とは異なりまして,取引相手方の同意がなくても前受託者の地位を承継するということになりますと,受託者の契約の相手方の権利を害することにもなりかねません。

この点は,後に説明いたします3の規律で提案いたしますように,新受託者が選任された場合にも,前受託者は任務終了時までに生じた債務については新受託者と併存的に負担するとすることによって,かなりの程度解決されることになると思われます。

ただ,継続的な取引契約における当事者の地位も当然承継されるといたしますと,取引の相手方に想定していない不利益を強いることもあり得ると考えております。

例えば,無限責任の信託取引で,特に受託者の信用力を当てにしていてもやむを得ないと言えるような場合など,取引相手方を特に保護すべき事情がある場合には,受託者が交代したことをもって取引の相手方に解除権や損害賠償請求権が生じるというような規律を設けるという考えもあり得るかと思われますが,この点につきましては特に御意見を賜れればというふうに思っております。

  続きまして,2でございますが,これは,受託者が複数の信託におきまして受託者の一部の任務が終了した場合の規律に関するもので,現行法50条2項の規律をほぼ維持しております。

ただし,次のような原則,すなわち,共同受託者の一部の者の任務が終了した場合には,当該者が受託者として有する権利義務は,任務の終了していない方の受託者に帰属し,任務の終了していない他の受託者のみで信託事務を処理するという原則,このような原則を画一的に適用いたしますと,その任務の内容いかんによっては,他の受託者に酷な場合等の不都合が生ずるおそれがあると考えております。

そこで,2におきましては,信託行為に別段の定めを置くことができるものといたしまして,現行法に比して柔軟に対処できるように手当てしております。

ここで言う信託行為の別段の定めといいますのは,例えば,信託行為の定めによりまして共同受託者のうちの特定の受託者が信託財産の単独名義を有するとした上で,信託財産の名義を有する受託者の任務が終了した場合には,任務の終了した受託者から新たに就任する受託者に直接信託財産の名義を移転することを定めるというようなことですとか,あるいは,職務分掌の定めのある信託におきまして,一方の受託者の任務が終了したとしても,他方の受託者がその任務を承継しないことを定めるというようなことが考えられます。

  なお,この後者のような定めを設けた場合でございますが,これは,資料13ページの(注3)というところに書かせていただいておりますが,共同受託者のうちの一人の任務が終了した場合,例えば,運用を行う受託者と保管を行う受託者とがいる場合におきまして,保管を行う受託者の任務が終了した場合には,後任の受託者が選ばれるまでのいわばつなぎ役を務める者,今の例で言いますと信託財産の保管をすべき者を定めておく必要があると考えられるところでございます。

この点につきましては,先ほど第40の最後で述べましたように,第40の規律を準用することが適当だと考えておりますが,この点につきましても御意見をいただければと考えております。

  次に,3でございますが,これは,受託者の交代時におきまして前受託者及び新受託者が負担すべき責任の範囲などについて提案するものでございます。

(1)でございますが,これは,前受託者の任務終了時に現に存した債務のうち固有財産でも責任を負うものにつきましては,受託者の交代後も前受託者が債務とともに責任も負い続けるというものでございます。

また,前受託者が共同受託者の一人である場合には,前受託者が固有財産でも責任を負担していた部分の債務については引き続き責任を負い続けるというものでございます。

  (2)でございますが,これは,前受託者の任務終了時に存在する信託財産に属する債務につきましては,新受託者は信託財産の限度において責任を負うとしたものでございます。

  以上申しましたものは,いずれも現行法52条3項の規定の趣旨を維持するものでございます。

  なお,今申し上げましたことのいわば反対解釈といたしまして,前受託者の任務終了時には存せず,任務終了後に生じた債務,例えば利息債務ですとか所有者責任による債務,あるいは信託財産管理人の負担した債務などにつきましては,これは新受託者が固有財産で負担するというふうに考えております。

新受託者は,その就任に当たりまして,信託債務の存在を認識して引き受ける以上は,その負担を課しても酷ではないというふうに考えるからでございます。

  次に,4は,前受託者の費用,損害の補償又は報酬の支払いを受ける権利に関するものでございます。

(1)及び(2)では,前受託者に費用,損害の補償又は報酬を支払う必要がある場合には,例えば,任務終了前に費用を支出し,損害を受けたものの,その補償を受けていない場合ですとか,任務終了後に信託債務の弁済を行った場合ですとか,こういう場合におきましては新受託者又は信託財産管理人等から補償を受けるというふうにしているところでございます。

なお,現行法第54条1項を見ますと,前受託者が補償請求権又は報酬請求権に基づいて信託財産に対して強制執行できるというふうに規定してるわけでございますが,このような規定がなくても前受託者は新受託者に対する債務名義を取得いたしまして,新受託者の所有に係る信託財産に執行することができるというふうに考えられるわけでございます。

また,現行法におきましては,受託者の任務終了後は補償請求権の優先権は失われると解されておりますが,信託財産に関する補償請求権の優先性の根拠は,支出者の属性ではなくて,債権の発生原因そのものに求めておりますので,前受託者の補償請求権の信託財産に対する優先権は任務終了後においても効力を維持すると考えております。

  次に,(3)でございますが,これは前受託者が補償請求権等を行使するために前受託者に信託財産の留置権を認めるものでございまして,現行法54条2項の規律を維持するものでございます。

  それから,(4)と(5)でございますが,これは前受託者が受益者から補償を受ける権利の行使に関するものでございまして,受益者に対する補償請求権の有無ですとか,あるいは受益者に対する補償請求権行使の順序につきましては,先日御提案申し上げました補償請求権一般に関する規律と同様の規律を提案しているものでございます。

  最後に,5でございますが,これは,前受託者の任務終了後における計算義務,それから事務の引継ぎを行う義務,みなし承認及び承認の効果などにつきまして提案しているものでございます。

  現行法55条との違いは,まず,引継ぎの相手方として新受託者のほか信託財産管理人を加えたこと,受益者の立会いを要しないとしたこと,それからみなし承認に関する規律を新たに設けたということがございます。

  なお,この規律の対象となります前受託者というのは,先ほど説明申し上げました,辞任若しくは任期の満了等により任務が終了した前受託者又は解任により任務が終了した前受託者というものを考えております。

これに対しまして,42条2項の規定する信託財産の保管義務者,相続人ですとかそのようなものですが,そういう者にも計算義務があるとの解釈も存します。

しかし,このような臨時の信託財産保管義務者の行う計算と,前受託者の課された計算義務における計算の範囲・程度は異なると考えられます。

すなわち,臨時の信託財産保管義務者の行う計算は,前受託者が残した資料,信託財産から残存信託財産の内容の報告程度で足りると解されるのに対しまして,前受託者の行う計算は,当初の信託財産から事務引継ぎに当たり引き渡す信託財産への変遷が明らかになるようなもの,すなわち,過去の事務処理までさかのぼって信託取引の内容が明らかになるようなものまで作成することを要し,そのような内容の報告であればこそ,計算承認に責任解除の効果が付与されてしかるべきであると思われるからでございます。

 以上で終わります。

● なかなか複雑な部分でございますけれども,いろいろ理論的には問題がありますので,御議論いただければと思います。

  簡単に言えば,要するに,受託者が交代するときに,すぐ新しい受託者がそこで選任されれば,それでもいろいろ複雑な問題がありますけれども,そう問題はないのですけれども,すぐに新しい受託者が選任されるとは限らず,前の受託者と新受託者の間に一定の期間があると,そんなことからいろいろ複雑な問題が生じているということでございます。

  いかがでございましょうか。

● 第40の4について,先ほど○○委員も軽く触れられたことでございますけれども,それに敷えんしてお話ししたいと思います。

ここで,受託者の解任の場合には,受託者の権利義務というのは3点に限られるということでございますけれども,この点についてもデフォルト・ルールでよいのではないかという意見を述べたいと思います。

  実務のニーズにおいては,今後,信託業法の改正により受託者の担い手が拡大するものですので,そういうことを踏まえまして,やはり信託契約において,特に商事信託においては,あらかじめ第37の規律に従って解任のルールを決めておくことが考えられます。

例えば,受託者の格付が一定以下に下がった場合に受託者を交代させるということがあると思います。

こうした場合に,実際には,予防的に,完全にその信任関係が崩れる前にある一定の解任をしておこうと。

その後,新受託者が選任されるまで,なお,解任を前提とするけれども,一定の受託義務ということはやらせておこうと,こういうニーズがあると思います。

特に不動産信託の場合には,修繕であるとか賃料の収受であるとか,考えようによっては保存行為あるいは改良行為も必要だと思いますけれども,それは間断なく実行される必要があると思います。

そこにおいて,もう一つ,管理制度というのがありますけれども,そこまで移行するのもまた実務的にも困難だと思いますので,そうしたときに ,新受託者がこの3点の行為しかできないということになると,やはり実務的に難しいのではないかというふうに思っております。

  したがいまして,やはりここも,第37,理論的にも解任の手続自体がデフォルト・フォールになるわけですので,この解任の場合の受託者の権利義務,その残った受託義務についてもやはりデフォルト・ルールで任意に決められるということにしたらどうかというふうに思います。

● 今のは,第40の4に関してですね。

  ほかに。

  よろしいですか,○○幹事。

● 確かに,委託者,受託者がそれで合意していれば,これにプラスする方向というのはあり得ると思います。逆に,これを減らすというのはちょっと難しいということですので,片面的な強行規定といいますか,そういうことであれば,まあそれでいいのかなという感じがしております。

● ほかに,いかがでしょうか。かなりテクニカルな問題もたくさんあるのですが。

● 第41に移ってよろしいでしょうか。

  受託者の交代のところでございますが,基本的には,受託者の交代の規定をいろいろと盛っていただいておりますが,おおむね賛成の方向ということでございます。

  その中でも,(注3),(注4)というのを,先ほど○○幹事の方からもお話がありましたけれども,職務分担型の共同受託が一般化してきたときには,こういうような規律が必要になるのではないかと思いますので,そういう方向でお願いできたらなというふうに考えております。

  ただ,少数意見なのですけれども,ここの2のところの規律,それと,後のところで議論されることになっていますけれども,第43の共同受託のところの規律でございますが,この二つの部分は,現在ここで検討されております法改正の以前に設定されたものについては適用されないという形での整理をお願いしたいと。

そこについては多分経過措置の問題で,後になって議論されるのだと思うのですけれども,特にここの部分についてはそういう形での御対応をお願いしたいという意見もございましたので,あわせてつけ加えておきます。

● 特に気になっている部分はどこでしょうか。今の場合。

● 例えば,受託者が複数いて,それで解任になりましたというときに,その信託財産が--例えば,3人受託者がいて,一人が解任されましたと。それが,その二つのところに信託財産が行くというのがデフォルト・ルールで,契約があればそれは別に構いませんよということなのですけれども,多分そういう契約体系に今はなっていないと思うのですね。

そうすると,いきなり新法ができたときにそういう状況になってしまうと,対応ができなくなるということではないかと思います。

● 恐らく,それはそう対応すべきだと思いますね。

  ほかに,この辺はいかがでしょうか。

● 第40の1の(1)なのでございますが,そこに,引継ぎの事務処理をする人として,受託者の相続人,清算人,破産管財人,成年後見人又は保佐人というのが並列的に並んでいるわけですが,破産管財人というのは,今まだ御説明いただいていない第42とか第39のところとも密接に関連しますし,そもそも破産管財人について第三者性というのを認められると仮定しますと,例えば信託財産に公示がないといったときに,成年後見人や相続人は,公示がないことを理由にして,この財産は信託財産でないというふうに言う権利は持っていないと思うのですが,それに対して,破産管財人というのは持ち得るわけですよね。

もちろん,解釈論として,持ち得ない,やはり破産管財人もそのまま受託者の権利義務を引き継ぐだけであって,仮に公示が欠けていてもそのことについて主張はできないのだというのもあり得るかもしれませんが,それは恐らくは一般的な破産法のほかのところの解釈と整合性が出なくなると思うのです。

そうなりますと,破産管財人というのはもうここの第40から外してしまって,別の,受託者の破産の特別な条文というところに入れ込んだ方がいいのではないかという気がするのですが。

ちょっと私が十分に理解できていないだけかもしれませんが。

● 確かに,破産管財人というのは受託者のその他の債権者の利益を代表するところでもあり,ただ,事実上信託財産を管理しやすい立場にもある,そういう意味でちょっと二面性があるわけですね。確かに,おっしゃるのも一つの……。

● なお考えなければいけないと思いますが,現段階では,今の○○幹事のような解釈論はむしろとらないということになるのではないかと思います。

破産管財人が第三者性を持つのは,破産財団を管理する機構としての地位であって,ここではそうではなくて,いわば事務処理を引き継ぐというのですか,保管し,引継ぎに必要な行為をするだけの地位ではないかと思いますので,換価して清算する対象ではない財産について第三者性はないというふうに解釈することになるのではないでしょうか。

● 恐らく受託者のそういう事務を引き継ぐわけですが,しかし,同じ破産管財人が,受託者の債権者の利益というか,破産管財人としては利益を代弁しなければいけないというので,○○幹事が例を挙げられたように,信託財産について公示がなかったときにどういう行動をとるべきかと,そういうところが恐らく問題なのだろうと思いますけれども。

  あるいは,○○幹事の方で何か。

● 確かに,破産管財人は事務の引継ぎとかをする義務があるわけですが,恐らく,最初に○○幹事がおっしゃった趣旨は,公示がないものについてどうするかという御趣旨かと思いますので,そうすると,やはり,私もそんなに破産に詳しいわけではないのですが,公示がない財産については,破産管財人はそれを破産財団だと主張することが,受託者の債権者の利益を代弁するという立場からはあり得るのではないかという気がいたしますので,やはり第三者性というのは否定できないような気がいたします。

  そうしますと,これは第42の1のところで破産管財人については特出しして規律を書いているわけでございますが,この中では唯一,このような二面性のある立場に属する者だということで,特別に規律を特出しするという考えもあり得るかと思うところでございますが,まだ事務局の中で,この破産管財人を特別に別途規律すべきかどうかとかいうところまで詰めているわけではございませんが,直感的にはそういう印象でございます。

● 恐らく,この第40でもって積極的に第三者性を否定したというわけではないということなのですね。

ですから,○○幹事のような--○○幹事御自身の積極的な御意見ではないのかもしれませんけれども,仮に第三者性を否定するということがあったときに,それで破産との関係は大丈夫なのかということはどうでしょうね。

● 受託者の管財人が第三者性を持つのは,受託者の固有財産が破産財団になって,それとの関係だと思うのです。

信託財産というのは,要するに実質的には自分のものではないわけですから,ここに書いてあるとおり,正に保管をし,事務の引継ぎに必要な行為をするだけであって,人の財産を預かっているだけですから,その局面では第三者性の問題は出てこないのではないかと思うのです。

先ほど申し上げたのはそういう趣旨なのですが。

  ですから,矛盾するところではない,つまり,この原案のままでも別に構わないのではないかというのが,私の今日の段階での理解ですけれども。

● 前のときにちょっと議論がありましたが,破産管財人というのは一方的に受託者の固有債権者の利益ばかり図ってはいけないのであって,中立的な立場にいなければいけないとすると,例えば,今,○○幹事のおっしゃるのは,公示がなくても,それが信託財産である以上は,これは信託財産だというふうに認めなければいけない,いや破産財団だなどという主張をしてはならないという趣旨が破産管財人に課されていると。

● そうです。固有財産の中で対抗要件のないものが相手方にあれば,それは第三者として頑張らなければいけない義務を負うわけでしょうけれども,信託財産を保管,引継ぎするための必要な行為をするだけだったら,これはただ受託者としての事務の引継ぎをやっているだけではないかと,そういう理解になるのではないでしょうか。

● 実は,私,現行法の解釈論については,今,○○幹事のおっしゃったものと同じ立場をとっているのですが,必ずしも私がそう思っていることをみんなもそう思っているということではなかったような気がするのですね,現在。

  私の解釈論の基礎というのは,相続人,清算人,管財人,後見人と,こういうふうに並べられていて,一人だけ第三者で,そもそも公示がないときに信託財産性というものを否定できるというのはおかしくて,ただ単に受託者の義務を引き継いでやるだけだろうと,それが並行に並んでいるのだろうというふうに私は現行法は解釈しているのですけれども。

  いずれにせよ,そのあたりのところは現行法の解釈論として明確になっていたわけではないような気がいたしますので,そういうふうなあいまいなものをそのまま引き継ぐよりも,第三者性を否定するのか--「第三者性」という言葉がいいかどうか分かりませんけれども,公示がないと,公示の欠缺というものを主張し得ないというふうに解するのか,それとも,やはり主張し得るというふうに解するのかというのは,これを機会にやはり明らかにしておいた方がいい問題ではないかというふうに思います。

● それは確かにそうですね。

● 私も,○○幹事の方の感覚に賛成します。

  やはり信託法というのは,こういう利益相反的な状況あるいはそのおそれがある場合に対して敏感であるべきであって,○○幹事の言うことも分からないではないですけれども,結局,本当のところで問題になるのは,これは信託財産である,固有財産であると頭の中でクリアに分かれて,しかもそれが現実にはっきりしている場合は何の問題もないでしょうけれども,現実には,これはどうなんだろうという話が問題になってきたときに,あんたどうするのと言われるわけですよね。そのときに,こちらの利益もある,しかしこうやってこういう立場もあるというのが正に利益相反的な状況なので,やはりそういうのを一緒に並べておくのはいかがなものかという感触です。

● ほかにも何か御示唆をいただければ。

  確かにそういう両面はあるのですけれども,現実問題としては,恐らく破産管財人に事務を引き継がせるということは必要なんだと思いますけれども,そのときのルールですね,どういう考え方に基づいて,破産管財人としては何をしなくてはいけないか,その指針を明らかにするということだと思いますが。

  条文にするときに,破産管財人については別にするということももちろんあり得るし,ここら辺は,また事務局の方で検討してもらうということでよろしいでしょうか。

● 実質に関することはなくて,複数の規定相互間の関係についての理解をお伺いしたいというものであります。

  先ほどいたしました第38の合併又は会社分割における受託者の変更と,今の第41の受託者の交代の関係について,少しお伺いさせてください。

  第38の方は,任務を承継するというのが基本的な考え方になろうかと思います。

そして,第41の方は,任務がいったん終了し,新たな任務を新しい受託者が負うという形で対比・対照できるのではないかと思います。

しかし,第41の方も,信託行為の変更がない限り,新受託者が負う任務は旧受託者が負っていた任務と基本的に同一の内容になるのだろうと思います。

しかし,そこを,旧の任務は終了し,新の任務が新たに成立というか,発生というか,創設されたと考えることの具体的な意味が何かあるかどうかということを伺えればと思います。

それは単に,第38の世界では,第41の新受託者への事務の引継ぎ等,あるいはその前提としての新受託者の選任が必要ない,そして,特に分割の場合では受託者の法人格が変わるわけですが,そのときに新受託者への事務の引継ぎ等がないということを意味していると考えれば足りるのか,それとも,それに加えて,一つの任務が承継されるのと,いったん任務が終了して新たな任務が成立するという第38と第41との違いが何かもう少し実質的な意味を持つのか,お教えいただければと思います。

● なかなか難しいですね。

  ○○幹事御自身はどうお考えですか。

● 私は,同じなのかなと。

  そうすると,任務が承継するというのは,第38のところで一つ強調していただいたところですけれども,それ自体は,任務が終了しないということを意味しているにすぎないのかなと感じたところですが,いかがでしょうか,○○幹事。

● おっしゃったように新受託者の選任云々ということだと,債務の承継なんかが,場合によっては,包括承継ですと全部移転するのが,この受託者交代の規律ですと有限責任の限度しか承継しないというようなところが違うのかなという気がいたします。

  ただ,我々が前から分からないのは,この受託者の交代というのはいわゆる包括承継なのか特定承継なのかというところがちょっと分からなくて,もし特定承継だったら,登記の問題とか第三者性の問題が出てきますが,包括承継でしたら,例えば登記をしなくても二重譲渡の問題等は生じないので,もしも包括承継的に受託者のことを考えるのですと,微細な点は違うとしても,おっしゃるとおり,余り第38の規律とは違ってこないと。

  むしろ,そこら辺をどう考えているのかというところを教えていただければと思っているところです。

● 引き続き考えてきます。ちょっと今はよく分かりません。

● ここら辺は余り議論の蓄積があるところではないので,むしろ,これからどう考えていったらいいかという観点から御議論いただければと思いますけれども。

● これも質問で,申し訳ありませんが,先ほど,恐らく○○委員のお話の中に営業譲渡の話が少し出てきたと思うのですが,信託財産を含む営業譲渡を信託銀行なり信託会社がするときは,これは第41の世界で考えると。

● そうですね。任務終了して,新たな受託者と,そういうことになります。

● そして,そのときに信託財産とか権利義務とかを移転するけれども,それが特定承継なのか包括承継なのかというようなことが……。

● それはそういうことですね。

  ただ,恐らくそれは民法上の債務引受け,債権譲渡と同じような話なので,そう考えると,特定承継なんでしょうかね。

でも,特定承継だと,対抗要件を具備していなければいけないんでしょうか,前受託者から交代した新受託者は。

そうしないと,前受託者から譲渡を受けた人に対抗できないとかいうことになるのも不自然な気もいたしまして,よく分からないところでございます。

● ちょっと違う話ですけれども,第41の「受託者の交代について」のところで,4の「前受託者の補償を受ける権利等」というところ,これは多分,前の受託者の受益者に対する補償請求権のところとも同じ議論がここで持ってこられて,甲案,乙案というふうに7ページの方で分けられていると思うのですが,書きぶりが若干違うので,その辺,何か異なって扱う趣旨があるのかという質問なのですが。

  例えば,この(5)に,「(4)の権利は,(1)又は(2)の権利を行使することによっても補償を受けられない場合に限り,行使することができる」というふうに書いてあって,12ページのこの説明の方を見ますと,12ページの上から7行目ですか,「新受託者等が信託財産を責任財産とする補償請求に応じない場合」という書き方になっているのですね。

ですから,この応じないとき,責任財産として信託財産があるのだけど補償請求に応じないよという場合も含まれてしまうような書き方になっていて。前のところでは,「弁済に不足する」とか,そういう条件だったと思います。この辺はいかがでしょうか。

● ちょっと私は気がつかなかったけれども,そんなに違える趣旨はなかったかと思いますけれども,どうですかね。

● (5)の書きぶりですが,ここが書きぶりが違うというのは,実は事務局でも少し感じてはいたところでございますが,さほど積極的な理由でもないのでございますけれども,一般的な補償請求権の局面では,信託財産の維持を図るべき待機義務というものもかかっておりますので,より受益者に行きやすくしてあげた方が受託者のためではないかと。

しかし,この局面では,もはや信託任務が終了しておりますので,より受益者に行ける場合を限定していいのではないかというようなニュアンスで考えているところでございまして,繰り返しますと,信託継続中の補償の方がより受益者に対しても行けてしかるべきではないかということをにおわせていると言えば言えるということでございます。

● 余り別に解しない方がいいかなというのが私の意見でございます。

● 別にというのは,どちらかにそろえるという意味ですか。それとも,積極的にどちらかにそろえた方がいいと。

● それは,前の補償請求のところの記載の方が受益者に行きにくいのではないですか。

● 前は,「補償請求権の弁済に不足する場合,又は弁済を受けることができなくなる蓋然性が高い場合に限り」ですから,危なっかしかったら行けるという意味で言えば,より行きやすいのです。

● 受けられないというのは,もっと厳しいということですね。

● 判明しないとだめなので,厳しいです。

● では,さっきの補償請求に応じないというのは,あれはまたちょっと違うと。

● そこら辺の書きぶりは余り詰めていませんが。

● そういう意味では,○○委員の御意見は,こちらにそろえた方がいいと。

● そうです。

● ほかに,いかがでしょうか。--よろしゅうございますか。

  あるいは事務局の方で,この点は是非聞いておきたいという点がありますか。

● 先ほど申し上げました(注2)のところでしょうか,かつての研究会でも議論になりましたが,当事者が交代したときに,相手方の,特に継続的契約取引の相手方に対して何らかの保護措置を与えるべきか。

一般的な有限責任取引であれば,受託者が変わったからといって保護してやる必要は乏しいと思うのですが,特に信託の受託者の資力を当てにして契約をしていたような状況が認められるときには,何らかの,解除権とかが発生するという考え方をとる余地があるかどうかというあたりの御意見がもしあればというふうに思っているところでございます。

● 私は,一般的なルールにゆだねておいていいのではないかなという印象を持ちました。

特に,受託者の固有財産を当てにしているのであれば,それに対応するような特約なりを結ぶという方法もあるでしょうし,そういう特約を結んでいない場合に,受託者が交代したという場合であっても,一般的な,例えば期限の定めがない場合には,解約申入れをするとか,あるいは不安の抗弁を主張するとかということで対応できるかなと思います。

  それからもう一つは,特別の契約類型を切り出すということは実際上はなかなか難しいのではないかなという印象を持ちまして,結論としては,一般ルールにゆだねていいのではないかと思います。

● もう一つは,13ページの(注3)のところで,先ほど○○委員もおっしゃっていましたが,共同受託者のうちの一人の者が任務を終了したと。

そうすると,名義は当然,残りの方に行きますが,任務についても行く,しかしそれが酷な場合については任務は行かないということで並立はしておいて,しかし,ここの(注3)の提案では,そういう場合には,事務引継ぎをする者は,第40の規律のように,例えば前受託者がそのままとりあえずやるとか,あるいは共同受託者の一人の者が破産した場合には破産管財人がやるとか,そういう規律を持ってきてはどうかということを提案しているところでございますが,それについてはこのような考え方をとるということで,特によろしゅうございますでしょうか。

● まあ,そんなに不合理なルールではないと思いますので,特に御反対がなければ……。では,そういうことにいたしましょう。そういうことにいたしましょうというのは,皆さんの大方の賛成は得られたということですね。

  では,次に行きましょうか。

● では,続きまして,信託財産の管理人の説明,第44に移らせていただきます。

  信託財産管理人とは,受託者が欠けた場合におきまして受託者のかわりに信託財産を管理する者を言いますが,現行法のもとでは,信託財産の管理人を選べる場合というのが限られておりまして,一つは,46条で,受託者の辞任を裁判所が許可した場合,それから47条で,裁判所が受託者を解任した場合,それでこれらの場合には,裁判所は受託者がいなくなったことが分かりますので,裁判所が職権で信託財産管理人を選任するとしております。

  この規律に対しましては,信託財産管理人の選任を今の二つの場合に限定することは信託財産保護の観点から狭きに失するのではないかという指摘ですとか,あるいは,信託財産管理人の法的地位につきましては特に規定がありませんので,その地位が不明確ではないかという批判がございます。

  ところで,信託がこれからますます使われるようになりますと,受託者が欠けることも今より増えることが予想されますので,一時的な信託財産の管理者として信託財産管理人の必要性も高まることが予想されます。そこで,信託財産管理人に関する規律の整備を提案したものでございます。

  以下,簡単に各提案内容を御説明申し上げます。

  まず,1でございますが,これは,信託財産管理人が選任される場合について検討したものでございます。

この選任につきましては,大きく分けて3点ほど,現行法の規律を改めておりまして,その3点といいますのは,一つは,受託者の任務終了事由に限定を設けず,信託財産管理人の選任余地をずっと広げたということ,第2点といたしまして,受託者の全部が欠けた場合だけではなくて,一部が欠けた場合にも選任の余地を認めたこと,3番目に,職権で裁判所が選任するのではなくて,利害関係人による請求があった場合に選任されるとしたことでございます。

  特に,第2点目の,受託者の全部だけではなくて,受託者の一部が欠けた場合にも信託財産管理人の選任の余地を認めたという点について御説明いたします。

  先ほどのお話にも重複してまいりますけれども,第41の2で提案いたしましたとおり,共同受託者の一部が欠けた場合には,欠けた受託者の権利義務は残りの受託者が引き継ぐことになるのがデフォルト・ルールでございます。

しかしながら,信託行為によって運用を行う受託者と管理を行う受託者が定められている場合などには,残りの受託者に対して欠けた受託者の事務を引き継がせることが,信託財産保護の観点から適当ではない場合も想定されるところでございます。

そこで,受託者の全部が欠けた場合ではなくて,一部が欠けた場合にも,信託財産保護の観点から必要があると認められるときには,裁判所が信託財産管理人を選任できることを明らかにしたものでございます。

  なお,受託者の一部が欠けた場合,全部が欠けた場合に信託財産管理人の選任の余地を認めるということにつきましては,これは任務が終了した場合を前提としているわけでございますが,信託財産の保護の観点から言いますと,信託財産管理人を選任する必要があるのは必ずしも受託者が欠けた場合に限られないと考えられるところでございます。

このような観点から,33ページのアステリスクの1と,38ページの(注1)というところでございますが,ここで,受託者の任務が終了した場合だけではなくて,「受託者の一部又は全部について,職務を執行することが困難又は不適当な者がある場合」,例は38ページに三つほど詳しく書かせていただきましたが,そのような場合にも,信託財産管理人が選任される余地を認めてはどうかという点について考え方を示しているところでございまして,このような考え方の当否について,是非とも御意見を賜れればというふうに思っているところでございます。

続きまして,2でございますけれども,これは,信託財産管理人の権限について検討しているものでございます。現行法では信託財産管理人の権限が明確ではございませんので,その点の明確化を図ろうとするものでございます。

  信託財産管理人は,新たな受託者が選任されるまでの間,受託者にかわって信託財産を管理処分する者ですので,信託財産管理人の権限は任務が終了した受託者と同一であるとすることが適当だと考えられるところでございます。

しかし,他方で,信託財産管理人は暫定的に置かれるものであり,しかも,受託者とは異なりまして,その固有財産では責任を負わないなどの違いがありますので,前受託者と同一の権限を自由に行使できるとすることは相当でないとも考えられます。

そこで,2の(1)におきましては,信託財産管理人は  前受託者と同一の権限を有するとしつつも,民法103条の定める権限,すなわち,「保存行為」ですとか,「目的タル物又ハ権利ノ性質ヲ変セサル範囲内ニ於テ其利用又ハ改良ヲ目的トスル行為」,このような行為を超える権限を行使する場合には裁判所の許可を受けなければならないとしております。

  また,信託財産管理人が選任されますのは,前受託者や受託者の相続人等に事務処理を委ねることが適当ではないという場合ですので,選任された場合におきましては,前受託者等が有していた権限は信託財産管理人に専属するということが相当であると考えられます。そこで,(2)におきまして,このような趣旨を明らかにしているところでございます。

  さらに,現行法上は,信託財産管理人が選任された場合の信託財産に関する訴訟の帰趨が明らかではありませんので,(3)におきまして,信託財産に関する訴えにおきましては,信託財産管理人が選任されれば,その者が原告又は被告になるということを明らかにしております。

  次に,3でございますが,これは信託財産管理人の義務について検討するものでございます。

  信託財産管理人は,新受託者が選任されるまでに置かれる臨時の受託者としての性格を有しますので,信託財産管理人が負う義務につきましては原則として受託者と同様であるとすることが相当であると,先ほども申し上げたところでございます。

しかし,他方で,33ページのアステリスク3に記載いたしましたとおり,信託財産管理人は裁判所によって選任され,信託財産の所有者にはならないなど,受託者とは異なる性格を有しますので,例えば,信託財産管理人が第三者に対してその事務を自由に委任できるとすることは相当ではないと考えられます。

そこで,40ページの(注6)に記載いたしましたとおり,信託財産管理人がその職務をかわって行う者を選任するためには裁判所の許可を受けなければならないというふうにしております。

  なお,このほかにも,受託者と異なる規律を設ける必要があるか否かにつきましては,なお検討したいと思っておりまして,その趣旨は,38ページの上の方に書いてあるとおり,例えば利益取得行為の禁止に関する義務を課さないこととしてはどうかとか,こういうことを今後検討していきたいと考えているところでございますが,何か御指摘があれば,是非とも賜りたいというところでございます。

  続きまして,4でございますが,これは,信託財産管理人がその職務を行うため必要と認めるべき費用については,信託財産の中からその前払い又は支出額の償還を受けることができるといたしまして,また,相当な報酬につきましても信託財産の中から受けられるというように,規律の明確化を図っております。

  また,信託財産管理人の任務終了事由につきましては,40ページの(注7)に書いてございますけれども,受託者の許可辞任,すなわち裁判所の許可を得ての辞任に関する規律に準じた辞任の規律,それから解任,これは受託者の解任と同じような並びでございますが,そのような規律を設けるほか,その臨時的な地位にかんがみまして,新受託者が正式に選任された場合にも任務が終了するというようなことを定めて,規律を整備していきたいと考えているところでございます。

  以上でございます。

● それでは,信託財産管理人というのについて,いかがでしょうか。

● 1の「信託財産の管理人の選任」のところでございますが,現行法と比較いたしまして,許可辞任のときであるとか,解任を許可したとき,それ以外のものにも認めるということについては賛成だと。特に,受託者の一部が欠けた場合にも認めるということについては,結構使い勝手がよくなったのではないかなというふうに  考えておりまして,賛成いたします。

それと,先ほど○○幹事からもお話がありましたが,アステリスク1のところの,「受託者の一部又は全部について,職務を執行することの困難又は不適当な者がある場合にも」認めると,こういう場合も結構出てくるのではないかと思いますので,これについても是非ともお願いしたいというふうに考えております。

  それと,これは法定化する話では全然ないのですけれども,こういう規律が法定化された際には,信託財産の管理人の選任というのをより迅速にするというようなことが一番重要ではないかと思いますので,直接は関係ないのですけれども,是非ともお願いしたいと思います。

● 現在は余り使われることはないんですかね。これからこうやって少し広げると,それなりに使い方が便利になってくると思いますので,更に一層使われるようになりますが,そういうことを考えたときに,こういう権限ですとか義務ですとか,こういうことでいいのかどうかというあたりの御感触をいただければと思いますが  。

● 権限や義務の本体の問題ではなく,33ページの1のアステリスクの1で書かれている点なのですけれども,こういう対処が必要な場合も出てくるかなという気はしているのですけれども,(注1)のところで,38ページ以下に挙げられております例えば第1の例や第3の例,第1ですと,受託者にやむを得ない事情が生じて,自らは職務を遂行できないという場合,あるいは,辞任するような事情があるのだけれども,その手続に時間がかかって,やはり自ら職務をとれないというような場合は,現行法のもとですと,やむを得ない事由があるということで,他人に事務を委託するという形で処理をしていたのではないかと。

それは,受託者の責任において選任と監督を行う形で対応していたということになるかと思うのですけれども,そういうふうにこの信託財産管理人を入れるということは,そこの部分を,受託者の選任・監督の責任のもとに対応するということではなく,利害関係人のイニシアチブによって裁判所の選任・監督によるというものとするということを含んでいるのかどうか,その関係が少し気になっておりまして。

それとも,相変わらず受託者は本来自分で手当てをすべきで,そこが適切にされないと善管注意義務違反というような話になってくるのか,ちょっと整理として気になりますので,お考えを聞かせていただければと思います。

● 信託管理人をだれのイニシアチブで選ぶかという,そういった基本的な原則に関連する問題かと思いますけれども。

● やはり,裁判所が選んだ場合には裁判所が監督することになるのではないかという気がしておりますので,信託財産管理人の場合には裁判所で,おっしゃったような委託の場合には受託者が選任・監督ということで,ちょっと主体は変わってくるというのが今の考えでございます。

● よろしいですか。

● ですので,現行法の下ですと,それも含めてすべて受託者の責任でやるというお話ではなかったかと思うのですが。

● だれが申立てをするかとか,そういう点ですね。特に,職務を執行することが困難,不適当であるという場合には,自分でやるのではなくて,周りの利害関係人が申し立てるという形になるので,言ってみれば,受託者本人からするとその意思に反してということもあるかもしれないし,そこら辺は少し難しい問題を含んでいるかもしれませんね。

● 十分調べてはおりませんが,やはり,イニシアチブをとったのが利害関係人であるといたしましても,裁判所が選任している以上は裁判所が選任--まあ,選任は当然ですが--監督するのではないかという感じがいたしますけれども。

● その部分については何ら疑問を挟んでおりません。

● 恐らく,現行法での信託財産の管理人というのは,そもそも今までの受託者というのが解任されたり,要するにもう受託者ではないという状態で選任されるので,これはもう利害関係人が選ぶので全く問題ないわけですね。

だけど,このようにアステリスクの1のように広げると,一応受託者として存続しているけれども,職務を行うことができないというので,自分が選んでほしいというのだったら問題ないけれども,そのときにほかの利害関係人が信託財産管理人を選んでくれと申し立てるということがどうかという,そういう問題ですね,○○幹事が言われているのは。

  どうですか。

● 一度検討して,後で御回答させていただきたいと思います。

● 広げることによって少し新しい問題が入ってきたということは十分我々としても理解しているというふうに思いますけれども,ではどういうふうにしたらいいかということについてもうちょっと検討してもらうということにしましょうか。

● 信託財産管理人の権限についてなのですが,また私が御説明を聞き落としているだけだと大変恐縮なのですけれども,これは,基本的に民法103条に定められた権限の範囲内でやればいいのだけれども,超えることもあり得るよねという話なのか,それとも,前受託者,任務が終了した受託者がやるべきであったことはすべてやるという義務があって,しかし,そのやるという際に民法103条の範囲を超える場合には裁判所に聞かなければならないという趣旨なのかということなのですが,仮に後者だとしたときに,果たしてそれは可能なのか,妥当なのかという感じがするわけでありまして,まず,可能なのかということから考えますと,信託の受託者の権限とか権限行使の態様というのは,この御説明の途中にも出てまいっておりますけれども,信託財産の所有権を有しているというところと密接に結びついているわけでありまして,例えば,信託財産を売却をするというときも自分の名前で売却するわけですよね。

しかるに,信託財産管理人というものはではどうやって売却できるのかというと,当然には代理権限が与えられているというふうには読めないような気もいたしますし,代理権限を与えられているというときも,ではだれの代理人なのかということになりますと,それもよく分からないのですね。

前受託者が例えば欠けた場合なんて考えますと,その前受託者の代理人というわけでもないといたしますと,これはよく分からない。そこらあたりのことについてどうお考えなのか,どう考えるべきなのかということをお教え願いたいというのが,1点。

  2点目,簡単な話ですが,先ほど出ました38ページの(注1)の問題なのですが,第3というのは本当に可能なのかというのが,読んでいて若干気になるのですが。

つまり,受託者は同意がなければ辞任できないのだけれども,すぐに解放してやることが必要な場合もあると。

それはいいのですが,解放してやるという条文というのはあるのでしたっけ。つまり,私は同意がないから辞任できないけれども,解放を受けるだけの事情があるので,私はもうしなくていいというふうに認めてくれと言わなければ,その人は義務を負い続けることになるような気がするのですが,解放すべきときに解放するということが本当にできるのかということについてお教えいただければと思うのですが。

● ○○幹事の第1点と同じ点なのですが,1点だけ,○○幹事の御質問に追加して,私も一緒に,同じ問題ですので,聞かせていただければと思いますが。

  私も,このただし書の制約が場合によっては信託の価値を毀損する場合があるのではないかと。

すなわち,103条に定められた権限ではやや狭過ぎる場合があるような気がいたしまして,この信託がいろいろな商事目的のようなものも含まれているということにかんがみますと,例えば商法の70条ノ2におけます業務代行者の権限のように,この商法の条文では「会社ノ常務ニ属セサル行為」という制限を付しておりますけれども,もし商事目的,様々な目的の信託があることを前提とするのであれば,通常の信託の当該信託事務の処理に属する行為かどうかという,そういう基準を採用することも考え得ると思うのですけれども,なぜ民法103条に定められた権限に限定しているのかというのを,○○幹事の御質問と関連して,ついでにお聞きできればと存じます。

● まず,信託財産管理人の権限の御質問の関係でございますが,ここはやはり原則として信託財産管理人がその前受託者と同一のことができるというわけではなくて,裁判所が命じた範囲でできるのであると。

ただ,それが103条に定められた権限を超える場合については初めて許可が要ると,こういうような考え方によっているところでございます。

  民法28条の不在者の財産管理人と同じ規律と,あと現行法でも同じような解釈がとられているということでございますので,それに基づいてそのような制限を設けたということでございます。

  それからもう一つ,○○幹事の方からありました任務の解放の話でございますが,これは,前受託者が解任された後,任務を解放されるためには,信託財産管理人の選任があってそこで初めて任務が解放されるということになるかと考えているところでございます。

● ○○幹事の御意見は,むしろ,こういう規定を置いても本当にできるのかというような御趣旨だったような……。

そもそも処分権限がない,というか,信託財産の帰属しない信託財産管理人に例えば処分をするということができるのだろうか,前受託者と同じようにと,そういうことですね。

単純に考えると,裁判所の許可によって,先ほどの○○幹事の挙げられた商法70条ノ2ですか--○○幹事と○○幹事とは,ちょっと方向が違うのですね。

むしろ逆なのですね。同じ問題を論じてはおられるけれども。

だから,こういうような規定が商法70条ノ2のような規定なのだと,まあ,それが適当かどうかは別として,そういうふうに考えれば,裁判所の許可によって特別に処分はできるようになるということなんでしょうかね。

● それによって処分権限のようなものが付与されるということですね。

● まあ,そうですね。

● 信託財産管理人の権限は,先ほど言いましたように専属することになりますので,そこで責任を免れるということになります。第44の2の(2)で,「前受託者の権限は,信託財産管理人に専属」いたしますので,そこをもって切りかわるという趣旨でございます。

● よろしゅうございますか。

● 私からは,権限に対応する義務についての質問をさせていただきたいのですが,権限の部分がぶれますと,それに応じてまた変わってくるという問題はあって,ちょっと連動していると思います。

お話しいただいた中で言いますと,33ページ及び38ページの上の方で,義務を若干軽減する可能性があるのではないかという点についてですが,考え方はよく分かるところではありますけれども,若干整理を幾つかしておく必要があるのではないかなと思います。

  まず,権限の方で103条が一応ベースラインになりますと,保存行為あるいは性質を変ぜざる範囲での利用改良行為に仮に原則として限定されるとして,どのような場合にこの利益取得行為というのが考えられるのか,どういう例を想定してこのような形でお書きになっているのかというのをまずお聞かせいただきたい。

  それから,もう一方では,「103条に定められた権限を超える行為をするには,裁判所の許可を得なければならない」となっていて,裁判所が必要と認めて,これこれこういうことをせよということが命ぜられた場合に,なおかつ義務はやはり軽減されるというお考えなのか,それはどういうふうに考えておられるのかというのがもう一つの質問です。

そして,一番最後に,恐らく一番よく考えておかないといけないポイントといいますのは,受託者の義務について新たな規定を置くというのが,そして具体的な内容としては忠実義務以下いろいろな御提案をしていただいているわけですけれども,これは信託の受託者固有の義務であって,信託の受託者以外についてはこのような義務が当然に当てはまるわけではないという考え方を恐らくは前提にしておられるのかなという感覚があるのですけれども,これはいろいろな考え方があるところでして,人の財産を管理する人間については一般的にこれこれこういう義務があって,信託法にはその考え方があらわれているというような考え方もあり得るであろうと思われます。

そうしますと,こういう形で,受託者とは異なる,若干義務を軽減するというようなことをもし書くとしますと,信託の受託者固有の義務というのはどの範囲で,それ以外については一体どういう義務が一般的にはあり得るのかということまで視野に入れて,軽減するかしないか,あるいはどこまでするのかということを考えていく必要があるのではないかなと思います。それが第3点目です。

● なかなか難しい問題ですね。確かに,原案は比較的区別してというのでしょうか,忠実義務とか信託本来の義務は受託者の義務であって,それ以外の例えば信託財産管理人になると,当然にはそういう義務が及んでこないという考え方ではあるのですけれどね。

● まず,利益取得行為はどういうものを想定しているかといいますと,例えば信託財産を保管している中で知った情報を利用して利得を得る行為ですとか,あるいは信託財産の処分行為をする過程で何らかのリベートを受け取るとか,そういう行為というのがあり得るのではないかという気がいたします。

  それから,裁判所の命令を受けてやったときには義務が軽減されるのかということですが,裁判所の命令があった場合にはそういう行為をする権限及び義務が付与されるわけですが,それに基づいてやるべき注意義務がそれによって軽減されるという感じはいたしませんので,やはり,義務は付与されるけれども,やるべき注意義務の基準というのは変わらないのではないかという感じがいたします。

  それから,もう一つおっしゃったのは,どこまで受託者の義務が信託財産管理人に付与されるか,これは正に我々がどこまでと考えたらいいのかなというところを皆様に伺いたいところでございまして,ここに書いてありますように,例えば自己執行義務といいますか,信託事務処理の委託に関しては,義務ととらえるかどうかはともかく,少し性質が違うのだろうなという気はいたしますが,忠実義務のようなものにつきましては,信託財産管理人といっても,基本的には受益者に対して忠実に義務を執行すべき義務があるでしょうし,善管注意義務もやはり当然,裁判所の選任によるとはいえ,かかってくるというような気がいたしますので,確かに受託者を念頭に置いて我々は義務を提案いたしておりますが,その多くのものは,信託財産管理人というのは臨時の受託者であるということにかんがみますと,及んでくるのではないかなという気がしております。

むしろ,どこを落としていいのかというところをお伺いできればというふうに考えております。

● これはまたアメリカの例の紹介なので,参考までにということなのですが,アメリカで,いわゆるフィデュシャリーという概念を立てておいて,受託者が典型ですけれども,それ以外の人,今お話に出たような人の財産を管理しているような人が一般的にフィデュシャリーだという話になって,ある判例があるのです。

それは遺言執行者なのですけれども,英米の相続制度だと,遺産をとりあえず遺産管理人あるいは遺言執行者のところへ預けるような形になっている。

それで,もちろん,その間というのは短期を想定しているわけですね。

その遺言執行者,遺産管理人は銀行が行うこともできますので,受託者が銀行になっている場合もあるので,同じように財産を預かっているよというのと比較ができるのです。

  それで,これが問題になった判例というのがあって,そこでは,今,○○幹事がおっしゃったように忠実義務等の一般的な義務はかかってくる。

したがって,片方は利得を図っていいよという話はない。

ただ,受託者の方は,プルーデント・インベスター・ルールというので,今の考え方では,むしろ積極的な財産運用を--ただ持っていればいいよという話ではなくなっていますね。

やはり普通にプルーデントに,場合によっては財産を管理・運用もするのだと,そういう話がデフォルトで出てきていますけれども,こちらの一時的な預かりという人たちは,同じ銀行でも,本当に低利か何か,とにかくただ安全にという話で持っていればそれで十分だという話になっていて,そういう違いがあるということを明言している判決があります。御参考までに。

● 確かに,そういう臨時の財産管理人である信託財産管理人などについては今の遺言執行者と似たような地位にあって,積極的に財産を運用するというような義務は恐らくかかるべきではないので,おっしゃるとおりのところはありますね。

  ただ,やはり問題は忠実義務,これは基本的に及んでいくのだというふうにしたときに,利益吐き出しの部分だけは違いますよと。

ここら辺は,感覚としては分かるけれども,理論的に説明しようとすると,どういうふうに言ったらいいかというところはもうちょっと詰めなければいけないのかもしれませんね。

● 信託法のことだけ考えていればいいのかもしれませんけれども,仮に,ここで例として挙げられていますように利益取得行為の禁止については課さないとなりますと,例えば,他の領域,一番分かりやすいのは委任者ですね,これも,委任者についてはこのような形での利益取得行為の禁止というのがかかるのか,かからないのか,少なくとも利益の吐き出しというのは認められないということになるのか,あるいは法定代理人だったらどうなのかなどなど,こういう区別をすることによって何かほかの問題を考えるときの手掛かりになる可能性もありますので,少なくともそこまでよく考えた上で決めるべきだろうなと,そういう問題だということだけは申し上げて  おきます。

● これは,○○幹事,何か一言あるんじゃないですか。

● いや,別にありませんが,○○委員が感覚的には分かるんだけれどねとおっしゃったのが感覚的には分からないなというのが私の感想だと。吐き出しは全員にかかるだろうなと。

● 同じ責任といいますか権限といいますか,役割が小さいので余り重い責任を負わすべきではないというぐらいの感覚です。私も○○幹事と同じように,同じ責任だから同じようにかぶるのかなというふうにも思いますけれどね。

● 全く同じ,その感想というところなのですけれども,先ほど,権限との関係がやはり重要だという御指摘があったと思いますけれども,利得禁止のところの利得禁止という行為規範自体は当然--利得禁止のところで挙がっていた話というのは,信託財産を活用して不当な利得を得るという話ですとか,わいろを取るとか,情報を利用するとか,そういうことだったと思いますので,そういうことをしてはいけないというレベルでは当然だと思うのですけれども,そもそも権限や監督等の関係でそういうことができる権限を与えられているのかというのと,かつ,これは裁判所の選任監督がかかって逐一許可にかからしめられるというような行動であるときに,こういうルールを必要とするような管理人なのかというと,そこがそうではないのではないかというところが,感覚的にということの内容なのかなというふうに私は理解しておりましたが。

● そもそも,そういう裁量権限の幅も狭いし,その範囲内でもって……。

● 権限がなければ悪いことをしないというのは,極めてナイーブな発想に思えますが。チャンスがあるというだけで十分なわけですから。権限だけの世界なら信託法は要りません。

● 恐らく○○幹事が言われようとしたのは--私が代弁する必要はないけれども--この信託財産管理人は,少なくとも103条の範囲を超える行為については一々裁判所の許可が必要で……。

● だから,許可をとらないでやればいいじゃないですか。

● それは完全な違反の問題になって,そっちはその問題として処理すればいいということなのではないですか。

つまり,忠実義務などが典型的に問題になるように,一定の権限の範囲内なんだけれども受益者に損害を与えるような行為があったときに,それを忠実義務違反として一定の責任を負わせようと。

そもそも,そういう場面に至る前に,信託財産管理人については狭い範囲の権限しか与えられないので,権限の中でもって受益者の利益を害するような行為が行われるということがないのではないかということなのではないですか。

  済みません,勝手な代弁をして。

  ○○委員がおっしゃることはもちろんそのとおりで。ですから,権限の範囲外のことをやればね。

● もしかしたら,私の方がナイーブに過ぎるのかもしれない。

● 恐らくそんなに違うわけではないと思います,考え方として。

  よろしゅうございますでしょうか。皆様のいろいろな御意見は大体分かったような気がいたしますけれども。

● 済みません,事務局の方から,一,二点,教えてほしいことがあります。

  信託財産管理人の権利義務の点につきましては,御承知のとおり,現行法の非訟事件手続法71条ノ6というところでは,委任の規定をむしろ準用してやっているわけでございますが,我々の提案では,受託者と同一の議論ということで,権利も基本的には受託者と同じ方向の権利ということになっておりまして,この点について何か御意見があれば,是非教えていただきたいという点がございますが,いかがでしょうか。

● 委任の規定を準用しているというのは,受託者そのものではないので,やはり信託法のいろいろな権利義務が当然に及んでくるわけではないと。それで,一番近いのは委任だろうということで,委任になっているのですかね。

● だと思いますが。

● まあ,単純な委任よりは,やはり受託者に近づけてというような方がそこはいいような気がしますけれども,どうでしょうか。

● ○○幹事がおっしゃったことに関連して申しますと,委任の規定を準用することにしてしまうというのは,ソフトランディングなんですよね,恐らく。

受託者の規定を準用して何かを外すということになりますと,それは通常の管理人には適用されない規定なのだという何か実質的な判断をするということになるわけですが,委任の規定を準用するというのは,民法の委任の条文の解釈によるだけであって,それについては一切触っていないという話になる可能性があるのだと思いますね。

  もう一つ,権限の範囲という問題はまた別個の問題としてもちろんあるわけで,委任の規定を準用したからといって権限の範囲が定まるわけではなくて,それは,その受託者の権限の範囲であるという規定はあったって,別に委任の規定を準用することの妨げになるわけではないと思いますが。

ある意味では議論を先送りするための一つの方法なのかなとは思いますが。

● そういう点もちょっとあるかもしれないですね。

  まあ,もうちょっと検討するということでよろしいですか。

● もう1点,よろしいでしょうか。

  最初に○○委員がおっしゃいましたことですけれども,欠けた場合だけではなくて,困難又は不適切な者がある場合についても認められるといいだろうというようなお話があったかと思いますが,そういう場合に,この注の中で書かせていただいております例えば職務執行停止・代行者選任の仮処分とか,そういうものとの重複ということがあり得るわけですが,それはどちらの方がよいというか,両方あった方がいいのか,何かそこら辺の御意見というか,御感触はあるのでしょうか。

● これは,信託の方のこういう新しい制度を設けると,一般的な制度である職務執行停止の仮処分とか,そういうのが排除される関係にはならないのでしょうね。

● それは,民事保全法がある以上はできるので。

  ただ,民事保全法があるのだから管理人の処分は要らないというような考えもあるでしょうしと。

  やはり,民事保全法だけでは足りないというか,要件がまず違いますので,権利関係に争いがあるとか,保全の必要性というあたりは違ってまいりますので。

まあ,必要性あたりは全くないのに信託財産管理人を選ぶということはないと思うのですけれども,要件が多少違うので,別に両方あっても問題はないということもあり得ると思いますが,何か,いい点,悪い点というか,御指摘があれば後日でも結構でございますので,また教えていただければというふうに思います。

● そうですね。実務的な感覚からの御意見をまた後でいただければと思います。

  それでは,この点についてはこれでよろしいでしょうか。

  それでは,ここで休憩にいたしましょう。

            (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。

  最初に,先ほど来議論されていた何点かにつきまして,○○幹事の方から補足の説明があります。

● 先ほど御質問がありました,○○幹事,それから○○幹事の関係で,事務局で休憩時間中に検討したことについて御回答したいと思います。

  一つは,○○幹事がおっしゃったのは,私,先ほど十分に理解できなくて失礼いたしましたが,欠けた場合以外の,例えば職務を執行することが困難な事態について,例えば辞任する事情があるとか,解任する事情というときについて,現行であれば,第26条第1項で「已ムコトヲ得サル事由」がある場合に当たるとして,受託者が第三者を選んできて,しかし,その後,選任監督責任を負うはずであると。

しかし,今回の我々の提案であると,受託者は,こういうときに信託財産管理人の選任請求をすれば,あとは裁判所が選任監督の責任をとってくれるので,責任を免れるということになるのではないかと。

そうするとバランスを欠くのではないかという御趣旨だということで認識いたしまして,ここまでの私が申し上げたところは事務局と同じ考えでございまして,やはり受託者が選任請求をすれば,受託者はその後責任を免れるということになると考えております。

  ○○幹事の御質問の趣旨は,それが果たしてどういう根拠に基づくのかというところかと思うのですが,実はそこは,検討しましたが,なかなか名案が見つからないというところでございまして,果たして,第26条の規律による場合と,この信託財産管理人の選任請求による場合とで受託者の責任が違っていいのか,違ったとしてそれがどのような根拠に基づくのかというところにつきましては,もう少々時間をいただいて検討させていただければと思いますが,以上のようなことでよろしゅうございますでしょうか。

それから,先ほど○○幹事,それから○○幹事もちょっと関係してお尋ねがありました信託財産管理人の権限の関係でございますが,私は先ほどちょっと不正確なことを申しましたけれども,信託財産管理人の権限というのは,この提案にございますように,前受託者と同一の権限を有するということが原則でございますので,同じものを引っ張ってくるということになります。

ただ,それが,我々の提案では,103条を超えるようなものについては行使に制約がかかっている,裁判所の許可というような条件がかかっていると。

103条の範囲内であれば同じように権限行使していいわけですが,そういうものについては裁判所の許可を条件とする意味において,権限はあるけれども,その行使の仕方に制約がかかっているというような理解の仕方をしているということで説明し直させていただきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。

● よろしいですか。

  ○○幹事,もし何かあれば。

● それで権限はよろしいのですが,その権限をフルに使って前と同じ状態を保つというのが信託財産管理人の義務なのか,それとも,103条に定められた権限を超える場合には裁判所の許可を得なければならないというところに端的にあらわれているように,基本的には保存行為だけを行って,どうしても必要な場合に103条を超えた行為を行うというのが行為規範なのかという点については,いかがでしょうか。

  ○○幹事は,それに対して,広く,前と同じような行為をさせるということが大切なのではないかというお立場を示されたわけですが。

● 御質問の点につきましては,恐らく,権限がある以上は義務もあるというふうな考えに基づきまして,やはり前の受託者と同じような権限を行使すべき義務もあるのではないかという気がいたしております。

したがいまして,103条を超えるようなものをしなければならないということになりましたときは,裁判所の許可を得るべき義務も管理人は負うというふうに考えるところでございます。

● なかなか難しいところですよね。

基本的な考え方は,今,○○幹事の説明にあったとおりだと思います。

  それで,この臨時的な,というのでしょうか,次の受託者が選ばれるまでの信託財産管理人の時期というのでしょうか,どのぐらいの間こういう臨時的な状態なのかとか,その間に従来と同じような信託行為ができないと--信託行為というか,受託者の行為ができないと信託財産に対して損害を与える可能性もあるし,そういう意味で基本的に前受託者と同じ権限をという考え方だというふうに理解しますけれども。

● 一見すると重そうですが,利害関係人として嫌だったら,新受託者の選任請求をすればよいという気もいたします。そうすれば責任は免れます。

● まだ幾つか御意見があるかもしれませんけれども,一応,問題点といいますか,考え方はある程度明らかになったと思いますので,次のテーマの方に移ってよろしいでしょうか。

● では,続きまして,第43の「受託者が複数の信託に関する規律について」,いわゆる共同受託者といわれている問題でございますが,そちらの説明に移らせていただきます。

現行法で言いますと24条,25条に当たるところでございます。少々複雑ですので,ちょっとお時間をいただいて御説明させていただきます。

  信託におきましては,1個の信託行為により複数の者が受託者として選任されることがあるわけですが,現行法では,受託者が複数の信託に関しましては,ただいま申しました2個の条文だけがあるわけでして,信託財産の帰属,事務処理の方法,受託者の責任について規定を置いているのみであって,十分であるとは言い難いところでございます。

そこで,受託者が複数の信託に関する規律の整備を比較的詳細に提案するものでございます。

まず,1でございますが,これは,共同受託の財産関係について検討しております。

  信託財産は,受託者に所有権が移転しますが,受託者は信託財産を自由に処分できないなど,信託目的に拘束された財産であると言うことができるかと思います。

そして,受託者は信託財産に対して固有の利益を有していないと考えられますので,各受託者は信託財産に対して持分を有しておらず,その結果,各受託者は信託財産の分割請求をすることもできず,持分の譲渡もできないなど,共同受託者による信託財産の所有形態は,民法上の共有とは異なる性格を有すると考えられます。

  このような内実を含む概念として,信託法上,「合有」という概念を用いることには意味があると考えられますことから,共同受託者による信託財産の所有形態は,今のような内実を含むものということで合有であるとして,現行法の規律を維持するというふうに考えております。

  なお,このように共同受託者による信託財産の所有形態を合有と考えましたときには,信託行為の定めにより共同受託者間で職務分掌の定めがある場合についてどのように考えるべきかが問題となりますが,ここでは,資料の23ページ以下に記載いたしましたような理由から,信託行為の定めにより,受託者間で職務分掌がされている場合においても,やはり信託財産は合有となる,名義を有する受託者と,名義を有しない受託者との合有になると考えるものでございます。

  次に,2でございますけれども,これは,共同受託者による信託事務処理の方法について検討したものでございます。

  共同受託者の信託事務処理に関しましては,一つは,事務処理に必要な意思決定をだれがどのように行うかという対内的な職務執行の問題と,決定された事項の執行をだれがどのように行うかという対外的な職務執行の問題について,それぞれ分けて検討する必要があると思われるところでございます。

  現行法のもとでは,この点につきまして,いずれも信託行為に別段の定めがない限り全員一致という規律を設けているわけですが,このような規律に対しましては,効率的な事務処理の観点から妥当ではないということなどの批判がされておりますので,このような批判を踏まえまして,信託事務処理について規律の合理化を検討したものでございます。

  まず,2の(1)でございますが,これは,共同受託者による原則的な信託事務処理の在り方に関して明らかにしております。

  まず,アの(ア)でございますが,これは,信託違反行為の防止を図りつつ効率的な信託事務処理を実現するという観点から,信託事務の処理は,信託行為に別段の定めがない限り,共同受託者の過半数で決定するというふうにしております。

  また,(ア)のただし書では,不在等の一定の事情がある場合には,当該事情の存する限りにおいて,信託事務の処理は残りの受託者の過半数で決定することができるとしております。

  次に,このように共同受託者の過半数で決定された事項について,対外的な執行行為が必要とされる場合に,だれがどのように執行すべきかという点でございますが,これは,25ページの(イ)に書いてございますとおり,信託行為の定めにより複数の受託者が選任されている場合には,各受託者は相互に代理権を授与されているものとみなすことによって,受託者は,決定された事項について,それぞれ単独で対外的な執行をすることができるということにしております。

したがって,対外的な執行行為をする受託者は,一つは,意思決定をしたすべての共同受託者の名において取引をするという方法とか,第2に,受託者の代表である旨を明示して取引をする,このような方法で執行行為をすることによりまして,信託財産に効果が帰属するだけではなくて,各受託者の固有財産にもその効果が帰属することになります。

  他方で,対外的な職務執行を行う受託者が,第三者との間で自己の名のみにおいて取引をした場合には,当該行為の効果は信託財産には帰属しますが,他の受託者の固有財産には帰属しないということになると考えております。この点は後ほどまた御説明をするところでございます。

  なお,以上は,過半数の賛成に基づいて行われた職務執行の効果でございますが,これに対し,過半数の賛成がないにもかかわらずなされた信託事務処理の効果については,19ページのアステリスク1のところに記載いたしましたとおり,受託者の権限外行為と同様に考える甲案と,共同代表取締役が単独で行為をなした場合と同様に,原則として無効であるが善意無過失の相手方は保護されるというように考える乙案とが考えられるところでございます。

  続きまして,イの保存行為でございますが,保存行為につきましては,信託行為に別段の定めがない場合にも各受託者が単独で行うことができることとしております。

これは,保存行為につきましては,その性質上迅速な処理を必要とするものが多く,過半数で行わなければならないとすることは適当でないと考えられますし,単独で保存行為を行うことができるとしても,受益者の利益にこそなれ,受益者を害するおそれは少ないと考えられるからでございます。

  続きまして,(2)でございますけれども,これは信託行為に受託者間の職務分掌の定めがある場合について検討するものでございます。

  現行の信託実務におきましても受託者間で職務分掌の定めをされることがあると伺っておりますが,このような職務分掌の定めがある場合につきましては,委託者は,各受託者が分掌された職務の限度において独立して事務を処理することを期待していると考えられます。

したがいまして,信託行為の定めにより受託者間で職務分掌をすることができること,及び,各受託者が分掌された職務の限度において単独で意思決定をし,かつ対外的な職務執行を行うことができることということを,この(2)において明らかにしております。

  続きまして,3は,共同受託者の責任について検討したものでございます。

  まず,(1)でございますが,これは受益者に対する責任でございまして,大別いたしまして,アの受益債権に関する責任と,イの信託違反行為をした場合の損失てん補責任とが考えられます。

  このうち,アの受益債権に対する受託者の責任でございますが,この受益債権に対する責任というのは,信託財産のみをもって履行の責めを負うとする内容の物的有限責任であるということは前回御説明いたしましたところでして,このことは共同受託者の場合にも同様に当てはまると考えられるところでございます。

そこで,アでは,受託者が複数の場合においても,受託者が受益者に対して負う受益債権についての責任が物的有限責任であることを確認的に明らかにしております。

  次に,イでございますが,これは,共同受託者の全部又は一部が信託違反行為をした場合における他の受託者の責任について検討するものでございます。

受託者の損失てん補責任等は,信託違反行為について故意又は過失のある受託者に対して信託財産に生じた損失等をてん補させるものですので,これらの責任を負う受託者は当該違反行為に関与した受託者に限ることが相当であって,信託違反行為に全く関与していない受託者にまで連帯して責任を負わせることは相当ではないと考えられます。

そこで,イにおきましては,信託違反行為に関与した受託者,具体的には意思決定又は対外的な執行行為をした受託者が連帯責任を負うということを明らかにしております。

  次に,(2)でございますが,これは,受益者以外の第三者に対する共同受託者の責任についてのものでございます。

  共同受託者の第三者に対する責任には,一つは信託財産を引当てにする責任というものと,もう一つは固有財産を引当てにする責任とが考えられるところでございます。

  まず,信託財産を引当てとする責任の方でございますが,信託財産は共同受託者の合有となりますので,受託者が信託事務の処理をすることによって信託財産に属することとなった債務は,信託財産を引当てにする責任という限度で共同受託者の合同債務となるものと考えられます。

そして,そのことは,受託者が共同して信託事務を処理した場合であるか,あるいは信託行為に職務分掌の定めがあり各受託者が単独で事務を処理した場合であるかを問わないと考えられます。

したがいまして,例えば,信託行為に職務分掌の定めがある場合におきまして,受託者Aの信託事務処理によって生じた信託財産に属する債務に係る債権を有する債権者,信託債権者は,受託者Bの単独名義となっている信託財産にも執行していくことができるというふうに考えられます。

これに対しまして,第三者に対して共同受託者が固有財産で負う責任につきましては,これから述べるような方向で考えております。

  まず,複数の受託者が共同して信託事務を決定している場合におきましては,各受託者は相互に代理権を授与されているとみなされますので,対外的な職務執行を自らするか否かにかかわらず,意思決定をした受託者は取引相手方に対して責任を負うものと考えております。

ただし,過半数の意思決定に反対した受託者も固有財産で責任を負うのかが問題となるところではございまして,この点につきましては,20ページのアステリスク2のところに記載しておりますが,反対者は対外的な責任を負わないとする考え方と,対外的責任は負うものとし,あとは内部的な損失分担の問題で処理するという考え方とがあり得るところでございます。

  次に,各受託者が保存行為を行った場合におきましては,保存行為を行う限度において各受託者は相互に代理権を授与されているものとみなされますので,保存行為を実際に行ったか否かにかかわらず,各受託者は保存行為の相手方に対して責任を負うものと考えております。

これに対しまして,信託行為に職務分掌の定めがある場合におきましては,各受託者は分掌された職務の限度において独立して事務を処理することになりますので,当該職務を行った受託者のみが第三者に対して固有財産で責任を負うことになると考えております。

  要するに,1番目と2番目の場合におきましては,すなわち,意思決定が過半数で行われた場合と,それから,保存行為の場合には,各受託者全員が固有財産をもって責任を負うけれども,職務分掌の定めがある場合には,職務を行った受託者のみが固有財産をもって責任を負うという違いが出てくるわけでございまして,このような帰結につきましては,21ページのアステリスク3のところで具体例をA・B・Cで挙げておりますけれども,そこに示されているところを後で御覧いただければ,提案の内容が具体的にお分かりいただけるかと思います。

  次に,4でございますが,これは,共同受託における受託者間の信託事務処理の委託について検討したものでございます。

ここでは,各受託者は,信託行為に別段の定めがない限り,他の受託者に対して信託事務処理の委託をすることはできないとしております。

信託行為で複数の者を受託者に指名した委託者の意思といたしましては,複数の受託者が関与することによって慎重な意思決定がされることを期待していると考えられますので,それにもかかわらず受託者が他の受託者に対して自由に委託をすることができるというのでは,慎重な意思決定の実現という委託者の合理的意思が害されますので,特に定めのない限り,委託できないという規律を設けているところでございます。

  それから,5でございますけれども,これは,共同受託の場合における受託者に対する意思表示の効力について検討したものでございます。

  受託者に対する意思表示には,一つは受益者の受託者に対する意思表示,(1)でございますが,もう一つは取引相手方などの第三者の受託者に対する意思表示,(2)でございますが,が考えられるところであります。

  まず,(1)につきましては,信託行為で複数の者が受託者に指名されている場合には,受託者間には相互に連絡関係があると考えられることなどを考慮いたしまして,受益者が受託者の一人に対して意思表示をすれば,特にだれかに対して意思表示をしてほしいというような信託行為の定めがない限り,その効果は他の受託者にも及ぶとしております。

  それから,(2)でございますが,第三者は受託者のだれか一人に対して意思表示をすれば,その効果は他の受託者にも及ぶとしております。

  これに対しまして,職務分掌の定めがある場合でございますが,これについては(2)のただし書に書いてあるところでございますけれども,各受託者は独立して職務を執行しておりますので,各受託者は他の受託者がだれとどのような取引をしているかは通常は認識し得ないと考えられるところでございます。

そうだとしますと,これらの場合におきましては,取引の相手方は実際に取引をした受託者に対して意思表示をしなければ,その意思表示の効果は及ばないものと考えることが相当であると考えられます。

そこで,ただし書におきましては,信託行為の定めにより職務分掌がされている場合におきましては,第三者は取引をした受託者に対して意思表示をしなければならないということを明らかにしております。

  最後に,6でございますが,これは,共同受託者の一部について任務が終了した場合には,残存者を受託者として存続させても,当事者の意思に反しない場合にはその方が便宜なので,これを認めようとしたと,いわゆる残存者の原則といわれる考え方を敷えんしたものでございまして,信託行為により複数の者が受託者として指名された場合において,当該者の一部が信託の引受けを拒絶し,又は引受けをすることができなかったときには,信託財産は原則として引受けを承諾した他の受託者に帰属するとしております。

共同受託にする目的の一つは,だれか一人が欠けても,それで信託を終了しないようにさせるということにもあるということを考慮して,このような規律を設けたということでございます。

  以上で説明を終わります。

● それでは,この複数の受託者について,御意見をいただければと思いますが,いかがでしょうか。 

  現行の規定と比べると,先ほど説明がありましたように,この職務分掌の場合については積極的に条文で明確にするということで,現在でも合意である程度はやっていたかもしれませんけれども,合意だけですとちょっと不安定ですので,そういう意味で規定を設けるということでございます。

● 今回の御提案につきましては,例えば財産の分属型の共同受託,例えば年金信託なんかによくあるのですけれども,そういったものの場合を想定しますと,ある受託者が債務を負担した場合に,それによって別の受託者が単独名義で所有している信託財産にかかっていくと,そういうところでは若干違和感があるなという感じがいたしますが,そこについても,例えば財産を限定する特約をつけるとか,そういうことで十分に対応できるのではないかと思いますので,基本的にこれはこれでいいのかなというふうに考えております。

  そのほかの部分につきましては,基本的にいろいろと実務上の御配慮をいただいておりまして,それぞれについて実務がワークするような形で御検討いただいているように思いますので,賛成したいと考えております。

● 非常に細かいことで恐縮なのですが,共同受託者の責任のところが結構難しくて,私も十分に理解できていないところがあるのですが,例えば,共同受託者のうちの一人で,ある財産の名義人であると,しかしながら他に共同受託者がいて,その人は別の財産の名義人になっているというときに,どのような形で債務名義をとって,どのような形で執行していくのかというのが,いま一歩,私,イメージがわかない。

実体的な責任関係はこうなるというのはまだ分かるのですけれども,ちょっとイメージがわかないところがあるのですが,もしその御検討あられましたら,お教えいただければと思うのですが。

● 執行の仕方については,原則としては,先ほどの特に信託財産に対して執行していくという場合につきましては,これは合同ということで,合有債務ということになりますので,固有必要的共同訴訟であって,受託者全員に対して訴えを起こして,債務名義をとって,それに基づいて信託財産に執行していくというやり方が一つ考えられるかと思います。

  あと,組合の規律についての説明を参考にいたしますと,もう一つの方法,これも二つありますが,一つは,例えば各受託者に対してそれぞれ債務名義をとって,例えば3人なら3人分債務名義をとって,それを三つまとめて信託財産に執行していくというのが一つあるようでございます。

もう一つの考え方は,不可分債務と同じように考えまして,ある一人の受託者に対して,信託財産全部にかかっていけるというような債務名義を取得することができるという考え方もあると聞いております。

 この点につきましては,むしろ,どのような執行をしていいのかというところ,特に,受託者が全員の名前を表示して,それによって信託財産と各受託者の固有財産全部に執行していけるという場合におきまして,信託財産に対して果たしてどのように執行していけるのか,それから,各受託者の有する固有財産についてどのように執行していけるのかという執行の方法について,もう少し我々も検討したいと思っておりますが,何かお知恵をいただければと考えているところでございます。

● いかがでしょうか。

● 何か私に考えがあってということではないのですが,ある財産の名義上の帰属人が,自己の名前である債務を負ったということになったときに,固有財産に対して執行していくときの債務名義と,信託財産に対して執行していくときの債務名義はかなり違ったものを用意しなければいけないというのは,何となくおかしいんじゃないかという感じがすると。

そこら辺をうまく処理できるような形で実体法的にも仕組まなければいけないのかなという気がしたものですから,もし検討の結果があられましたらというつもりで伺わせていただいた次第です。

別に何か考えが私にあったわけではございません。済みません。

● 各受託者の固有財産に行く限度であれば,それは恐らくその受託者に対してだけ債務名義をとればいいと思うのですが,もしも,最初に言いましたように,信託財産に対してかかっていくのは固有必要的共同訴訟であるということになりますと,今,○○幹事がおっしゃったように債務名義のとり方が違ってくるというおそれはありますので,もし同じにするのだとすると,不可分債務だとか,あるいは,債務名義を複数とって合わせて執行していくというようなやり方の方が手間は省けるという気はいたしますが。

● この問題については余り考えていないのですけれども,組合の話を少しここに使うことができるならば,大まかには次のように考えます。

  ○○幹事のおっしゃったのと大体重なるのですけれども,一つ違う点は,訴訟と執行を分けて考える必要があるのだろうと。

執行の局面で複数受託者の信託財産に対して執行するときには,複数受託者全員に対する,それこそ債務者としている債務名義が必要だと。それはある種の固有必要的な執行になるのだろうと思います。

  しかし,その執行をするために必要な債務名義をそろえるために訴訟を--まあ,ほかの方法でも債務名義はとれるのかもしれませんが,確定判決で債務名義を取得するところを考えた場合に,その訴訟が要するに固有必要的共同訴訟なのかどうかというところは考え方が分かれるのだろうと思います。

共同で起きたときには類似必要的共同訴訟という考え方もあるのかもしれませんが,それぞれ別々に,訴訟は複数の受託者一人ずつに対しても起こせるという考え方もあろうかと思います。

  そして,○○幹事の話につなげるならば,固有財産をねらう場合も,信託財産をねらう場合も同じ債務名義になって,その債務名義の中を見て信託の債務であるということが明らかであれば,信託財産に対しても,そろえばできるけれども,信託財産であるということがその債務名義の中で明らかにならなければ--これは複数であることの問題ではなくて,一般の問題ですけれども--信託財産には強制執行できないと。

しかし,固有財産に対しては,判決の理由のところで,いかなる債務であっても固有財産には強制執行できると,そういうことになるかなと思います。

  二つに分けるというところを申し上げたいと思いまして,それから,分けた上で判決をとるとり方が二つ考え方があろうかと思うのですが,どちらが望ましいのか,あるいは組合とそろえるとすると組合がどうなのかというのはまだちょっとよく分かりません。

● なかなか難しい問題ですね。組合自身についても余りはっきりしていないところがあるのでね。

● 私,非常にジェネラルな質問をしてしまったものですから,いろいろ難しいことになってしまっているような気がするのですが,私がひどく気になっているのは1点だけで,共同受託者の中にAという人がいて,Aが信託財産のある種のものについて自己名義で登記をしていると。

しかしながら,実体法的には,A,B,C3人が共同受託者だったならば,そのA,B,Cの合有であるというのがございますね。

そして,Aは受託者として第三者と取引をして,債権者Gという者が登場したと。GはAに対して支払えという訴訟を起こして,判決をとったわけなのですが,そのときに,A名義になっている財産を差し押さえていったら,いや,これは信託財産だというふうに言われたと。

いや,でもA名義でしょう,私,Aに対する債務名義をとっているんですよというふうに言ったときに,なお,これは合有なんだという実体法的な効果を差押債権者に対して言っていけるだろうかどうなんだろうかという話で,結局,A名義の財産を差し押さえるときに必要な債務名義は,A,B,C3人を名あて人にした債務名義なのか,それとも,Aを名あて人にした債務名義で足りるのかというのが,ちょっと急には分からなかったものですから--急にというか,時間をかけても分からないかもしれませんが--お聞きした次第だったのです。問題を特定いたしませんで申し訳ございませんでした。

● 信託債権者,信託に対してそもそも持っている債権者がどういう形で判決を取得するかという問題と,それから,今,差押債権者のことを言われましたか。

● いえ,信託債権者が債務名義をとって差押えをしたという事例です。

● 不動産であることを考えると,そのとき個人の名義で登記されていても,やはり信託の登記がされているということなんでしょうね。

だから,そういう形で信託財産であることが分かる。

だけど,ほかに受託者がいるかどうかというのは登記で分かるのかな。共同受託者の一人であるかどうかというのは。

● 受託者も信託原簿の方には書かれるはずですので,信託原簿を見れば……。

● とにかく,一番最初の出発点は,○○幹事が言われたことが比較的穏当な考え方だと思いますけれども,債務名義をとるときの名あて人の問題と,執行のところを一応分けて,その判決をとるところは,これは○○幹事の問題とつなげると,受託者個人の責任も一方で発生しているときに,同じ判決でもって両方行けないとおかしいような気がするのですね。

一方で信託財産の方にかかっていこうという場合と,受託者個人の責任を追及する場合で債務名義をそれぞれ別にとってこいというのは,ちょっとやはり合理的ではないので,そうすると,どっちにも行けるという形の判決あるいは訴訟がなされるべきだと。

あと,財産に行くときにはまた別な考慮で考えればいいというのが,大筋としてはよさそうな気がしますけれどね。

  何かございますか。

● 実体的には,先ほど議論が出ておりますように,もちろん権限の範囲で顕名をちゃんとした場合ですが,信託財産にも固有財産にも効果が及んでいるというのが前提といたしまして,ではどういうふうに判決をとって執行していくかということにつきまして,確かに債権者が債務名義を2種類とらなければいけないというのはいかんせん負担が大きいということになると,恐らく,一つの考え方は,A,B,Cがいれば,A,B,C3人に対する必要的共同訴訟としてその債務名義をとって,信託財産にも行けるし,それに基づいて固有財産にも行けるとするか,あるいは不可分債務のように考えて,例えばAならAに対する債務名義をとれば,A個人の固有財産にも行けるし,しかし信託財産にもそれをもって不可分的に行けるというふうにするか,どちらかでいかないといけないかなという気はしております。

ただ,どっちがいいのかとか,あるいはこの考え方自体が正しいのかというところは,ちょっとまだ十分検討したわけではございませんので,もし御指摘があれば,いただければ。

● 今,最後に○○幹事がおっしゃったのには,もう一つ考え方があると思うのですが。

訴訟は複数の受託者一人一人に対して起こせると。それで,その債務名義一つだけならば,固有財産にしか強制執行できないと。

しかし,全員に対する債務名義がそろえば,そして,信託が原因になっているといいますか,信託の取引だということが明らかな債務名義が複数の受託者全員そろえば,そこで初めて信託財産に対して強制執行することができると。

ですから,不可分債務と言わない第3の解決があるのではないかなと。私は,それが適切な解決ではないかなと思いますが,しかし十分には自信がありませんので,三つ目の選択肢としてあり得るということだけ,発言をさせていただきたいと思います。

  それで,今のことと関連するのですが,一つ別なことなのですけれども,○○幹事のおっしゃったことについては,私,答えを持っていないのですけれども,正にそれに直接関連するのですが,第43の2の(2)の職務分掌がなされているときにも,これは1の合有というのは維持されていると思うのです。

そうすると,その職務分掌のときの取引の相手方,債権者が差押えをしようとするときに,財産の名義の問題が最後に出てくるのかもしれませんが,私としてスペシファイしたいのは,そのときにも,やはり基本的には複数の受託者全員に対する債務名義がそろわないと信託財産に対して強制執行できないということになるように思うのですが,それは実質的にうまく動くのでしょうか。

職務分掌の一番極端なものですと,22ページの④の例ですけれども,不動産と債権と有価証券を分けているときに,不動産に関する取引の相手方というのは,受託者はその職務分掌している人のみと見ていることもあり得るわけですね。

不動産の場合には信託原簿を見ればいいのかもしれませんが,有価証券とか債権になりますと,何かその受託者さえつかまえて信託財産に対して強制執行しようというふうに考えるのがどうも自然かなと思うのですが,そこが,受託者全員に対する債務名義をそろえないといけないということになるならば,やや,私は違和感が残るように思います。

● 今のも,しかし,職務分掌でもって,だれか単独の受託者の名義でもって登記されていても,なお合有だということを言ってしまうと,同じことになってしまうのですね。同じというか,○○幹事の最初の原則どおり,3人の。

● この書き方ですと,1が残りそうですので,ですから,残すのが不適切な場合があるのではないかなと。

● 残さないようにするとすると,どうするんですかね。合有のところをまた外すのですか。

● いや,そこが……。

● なかなか難しいですね。

  何か御意見があれば。

  ○○委員のは受託者の側からなので,相手方の債権者の立場からとはちょっと違うので,御意見が特にこれについてはないかもしれないけれども。

  何かありますか。

● 先ほど○○幹事がおっしゃったのは,債務名義を集めて執行するという方法ですが,今のお話ですと,その方法はしかし職務分掌のときにはいささか現実味がないということだとすると,○○幹事御自身の推薦パターンというのは,やはりだれか一人に集めてとったら不可分債務という考え方がいいということでございましょうか。

● 今の視点からの簡明な解決は,その財産は職務分掌を受けたその受託者の信託財産という解決が簡明だと思うのですね。しかし,それは多分,いろいろなところに派生するのだろうと思うので,ちょっと自信を持ってはそれを推奨の解決と申し上げられない。

● おっしゃる趣旨は,それは合有ではなくて。

● そうですね。

● 単独処理になってしまうと。

  そこは,やはり合有というやり方にしておりますが……。

● だから,合有であっても,合有だという主張ができるのかというのは分からないのですが……,あ,やめましょう。動産や債権ですとできますからね。

  だから,自分に対する債務名義で自分名義の財産を差し押さえられているときに,信託債権者ではない人に対してこれは信託財産であると言うのは,異議事由,抗弁事由になると思うのですけれども,そして,それに対して,いや,私は信託事務の執行に関連する債権を持っているのであるというふうに相手方が言ったときに,なお,それはそうなんだが,形式的には合有なんだから,債務名義がこれでは足りないという更なる抗弁が本当に認められるのが妥当なのかというのがちょっと分からなくて,そんなのは不要なんじゃないかなと思うのですが。

それをまた実体法上どういうふうに仕組むかと言われますと,何か名案があって発言しているわけではありませんので,申し訳ない次第なのですが。

● 単独で執行できるというふうにしてしまえばいいのでしょう。

● まあ,そうなんですが。

● 不可分債権と。先ほどの説明によると。

● 第43の2の(1)のアの「保存行為以外の信託事務」のただし書のところですね,「不在,病気その他のやむを得ない事情があるために,信託事務の処理に関与することが困難な受託者があるときは」というところの特則について,実務家の観点から意見と質問があるのですけれども。

 これは19ページの下の甲案,乙案の話にも及ぶことなのですが,受託者の立場からについては○○委員からお話がありましたけれども,片や取引者等の観点から,この例外があった場合に,実際にその代理権が本当にあるのかどうかということを確認する必要が出てくると思います。

そうしたときに,このただし書の「困難な受託者があるときは」ということのメルクマールというのが私にはちょっと不明確だなということがあります。

不在,病気ということであったとしても,何らかの意思決定ができるとか,電話をかけるとか,そういった場合には,もちろん内容によっては処理することができる場合もありますし,外部から見て実際に受託が困難かどうかということは非常に見えにくいということがあると思います。

  そもそも,なぜこのただし書の除外規定をこういう形で置いたのか,ここの多数決のルールを,こういう,実際にできない,困難であるということとしたのはどういう理由なのかということを次に質問したいわけですけれども,考えるに,意思決定ですから,単純に意思を表示することができることを要件とすればよろしいわけだと思いますけれども,ここで,そうではなくて,いわゆる受託処理能力ということをメルクマールにしたのはどういうことなのかと。

考えてみるに,ある意味,そういう人は信託事務処理に要する意思決定に責任を持てないわけだから,一種特別利害関係人だということで配慮するということなのか,又は,そもそもそういうことに対して不適格なのかということで,そういう理屈づけはあるかもしれませんけれども,いずれにしても,この(イ)のところで,何らかの意思決定ができるのであれば,単独で他の受託者を代理することができるのであれば,取引としては,その意思決定の内容が正しいのであれば,別にその当該受託者が処理能力があるかどうかということは無関係であるということも考え得ると思います。

そうしたときに,どうしてこういうメルクマールを置いたのかということがちょっと分からなくなったわけです。

  なぜこのような疑問かといいますと,もとに戻りますけれども,この甲案,乙案のところで,特に甲案で「重大な過失により知らなかったとき」ということがあるわけですけれども,取引相手方としては,例えば共同受託者の一部だけの者が来て,この者は困難だから,我々の決定で過半数とったから取引してくださいと言われたときに,重大な過失の内容は幾らでもありますけれども,一応の調査等をしなければならない場合もあると思います。

そうしたときに,この困難な状態というのが一体どうなのかということを検索しなければいけないこともあると思いまして,そこで,実務上,そのメルクマールが不明確であれば取引に差し障るのではないかなというふうに思っております。

  あと,非常に瑣末な話になるかもしれませんが,実務的には重要だと思うのですけれども,そうしたときに,今度は登記面ですけれども,実際に不動産を処理するときに,登記としては,一部を除いて過半数であるということを証明する書類を出す必要が出てくるのかどうかと。

もしそういう書類が必要だということになると,今度は登記実務からすると非常に困難な書類をつくらざるを得ないという,そういう状況もありますので,そこら辺をどう手続上乗せていくのかということが,検討すべき論点なのかなというふうに思います。

● なぜ「困難な受託者」を入れたかということでございますが,これは,「信託事務の処理に関与することが困難」ということですから,意思決定ができれば,困難なこの事情に当たりませんので,意思決定もできないような事情があるときにはということでございますけれども,そういう前提で,何か更に,もしもそれでも解釈上不明確だと言われれば……。しかし,このぐらいの条文を設けることはあるのではないかと思いますが,意思決定には関与できれば,この場合には当たらないという趣旨でございます。

  登記実務上の話はちょっとよく分かりませんが,何かその書面が要るということはちょっと想定し難いのですが。要するに,甲案であれ,乙案であれ,有効に契約が成立していれば,それに基づいて登記を請求するだけの話でありまして,共同受託者の過半数の意思決定があったかどうかというようなことを,あるいは困難な受託者がいたので残りの過半数でやったかというようなことを何か書面で証明しないと移転登記ができないとか,そういうことはちょっと……。登記実務には詳しくないのですが,そういうことは普通はないのではないかと思いますけれども。

  もしもそれで問題が生ずれば,訴訟で移転登記の紛争になるというだけでございまして,単に普通の移転登記請求をするだけではないかなという気がいたしますけれども。共同申請するか,あるいは判決による申請をするということになると思いますが。

● 何かございますか。

● 私も詳しくは調べていないのですけれども,これで信託財産が売却されたような場合は,受託者が登記義務者となって,買主の方が登記権利者となって共同申請ということになるのですけれども,登記簿上,受託者が仮に3人登記されていれば,その3人全員が登記義務者として申請しなければなりませんので,そのうちの二人しか申請人になっていないと,登記はやはり難しいと思うので,その3人のうちの一人欠けた人については代位をしてやるとか。代位であれば,代位原因があることを証明する書類なり何なりをつけていただかないと,登記としては受けられないと思いますので,こういう契約が成立したからそれでいいということではないのではないかなというふうに認識しておりますが。

● ただ,2の(1)のアの(イ)のところで,実体法上は少なくとも代理することができるというふうになっているわけですけれども,その代理権が当然実体法上あるということをもって3人のうち二人しか登記していないという場合でも,やはり登記実務上は3人の共同申請であるということですか。

● 実体法上代理権があるということが明らかであって,その代理権があるのであれば,その代理権があるということを証明するものをつけていただかないと,登記の方では,本当に代理権があってやっているのかというのが分からないので。

● そこで代理権があるかどうかを確認する場合に,過半数で決定しているかどうかということの証明が必要になってくるということだと思うのですけれども,そこで私の問題提起というのは,やむを得ない事情のあった場合にその者を外したといったときに,その証明というのはなかなか難しいのではないかという,そういうお話です。

● 分かりました。もう少し検討させていただければと思います。

  便乗するようであれですが,甲案,乙案につきましてはどちらがいいかとか,何かお考えはございますでしょうか。

● ちょっとこれは組合せがございまして,実務上の観点から,余り過大なものはよろしくないなというのがございますけれども,少なくとも過失要件というのは外してほしいなというのがございます。

● 甲案の場合ですね。

  これは,31条と同じような規律を設けているわけで,しかも重過失ですから,過失要件というか,悪意に準ずるようなものということですが,これでも問題がありますか。

● 必ずしもそういうわけではございませんけれども,そもそも困難な状態というのは一体どうなのかということが分からないうちに,では一体どういう注意義務というのが出てくるのかということが分からなかったものですので,ちょっと御質問したわけでございます。

● ほかに,いかがでしょうか。

● この共同受託者の責任の中で,受益者に対する責任のところで確認をしておきたいのですけれども。

  共同受託者のところで--今日は,もう当たり前ということになっていて,余りそこは触れられていないと思いますけれども,従来,共同受託者については,合手的行動の義務というのでしたっけ,とにかく全員一致でというので,相互監視というか,間違ったことをしないようにという極めて消極的な態度がとられていたのが,今回はそうじゃないですよということですよね。

まず過半数ルールというのをつくり,それは分掌のない場合であって,分掌がある場合には,それぞれのところでちゃんと一人ずつでやれますよという形で,信託財産の管理運用をやりやすいようにという方に一歩を踏み出す,あるいは二歩も三歩も踏み出すということになると,共同受託者の間の責任の関係がどうなるのだろうかという話で,やはりバランスのとり方というのがあるような気がするのですけれども。

  ここで受益債権についての責任の方はいいのですけれども,後の方の損失てん補責任のところで,これは,まず二つ確認なのですが,分掌してある場合は,実際には,分掌してあるので,相互監視なんていうことは難しいと思うのですね。

だから,これは本当に机上の空論なのかもしれませんけれども,しかし理屈の上では何らかの監視義務というのはやはりあるんだよということなのかどうか。

  二つ目は,過半数ルールのところで反対すれば,もう責任はないような感じで読めるのですけれども,しかし,明らかに--もちろん反対もするけれども,明らかにこれは多数派が信託違反行為だという場合には,もちろんそれ以上のアクションに出る義務はあるのだと。

その義務に出ないで反対だけしておきましたよというので責任を免れることはない。

これは善管注意義務かどこか別のところで書いてあったかもしれないのですけれども,ちょっと確認をしておきたいのですが。

● 御質問の趣旨について十分に理解できているかどうか分かりませんが,お答えします。

  まず,職務分掌があった場合でございますけれども,その場合には,分掌された職務の限度で独立して職務を執行することになりますので,ある受託者による職務執行が信託違反行為とされた場合については,当該受託者のみが責任を負うことになるのではないかというふうに考えております。

それから,意思決定に反対した者が損失てん補責任を負うかどうかというところでございますけれども,損失てん補責任というのは,御承知のとおり,故意過失による場合の責任でございますので,基本的に反対の意思を表示した受託者というのは,それについて特に故意過失がないと評価されるのが普通ではないかと。

特に明々白々な違反行為について,認識していながら放置していたというようなときは,特段の事情があって責任を負うということもあり得ると思うのですが,原則として,意思決定に反対していれば過失がないというところで,こちらの損失てん補責任の方は切れるのではないかという気がしております。

過失があるという理由では切れないというのは第三者に対する債務の方でして,こっちの方は悩ましいところでございますが,損失てん補責任は,意思決定に反対していれば責任がないという結論を導き出しやすいのではないかという気がしております。

● そういう普通のケースと,今おっしゃられたように,反対だけではやはりそれでは過失があるよという場合はあり得るということですね。

● 特段の事情があれば,あり得ると思います。

● だから,同じことは前者についても言えますね。分掌してあっても,たまたま私が了知する範囲に入ってきたというわけです,その人がとんでもないことをしていると。

だから共同受託者はやはり放っておけないということは,常識と言えば常識なのですが。

● 職務分掌されておりましても,絶対に責任がないというわけではなくて,やはりそこは,特段の事情があれば,過失があるということで責任を負うということはあると思います。あくまで過失責任の場合についてはそのような構成が可能かと考えております。

● 前に差止めのところも少し議論したと思いますけれども,あれは,ほかの共同受託者に差止めの権利を与えるかどうかというのは今後検討するというふうになっているのでしたっけ。

● 前に問題提起はしましたが,その点は今後なお検討するということで考えております。

● まあ,そういうのもちょっと関係しますね。

  よろしゅうございますか。

● また細かいことなのかもしれないのですが,確認させていただきたいのですが,第三者に対する債務の受託者の責任の在り方のところで,固有財産による責任の負い方が分割責任なのかどうかということでして,こちらの資料は,基本的に分割責任であるということを前提に書かれているのだと思います。

特に資料の26ページの記述などは,そういう前提で3段落目の「なぜなら,」以下などが書かれているのではないかと思うのですけれども,一方で,A,B,C3者の受託者が,A,B,Cの名で意思決定もして,そして対外的に行動して負う債務が分割ということが果たして適切なのかというのはちょっと気になっておりまして,分割債務の原則は,民法上原則といっても,認定は非常に慎重にというふうに言われておりますし,民法上の組合の分割責任ということについても立法論的にはいろいろ議論があるようでございますので,分掌もしていなくてA,B,C3者で意思決定をしているというときに,固有財産の責任の在り方が分割でいいのかどうか,念のために,この時期にもう一度確認させていただきたいのですが。

● この固有財産の責任が分割か連帯かというのは,事務局内でもいろいろ検討はいたしましたけれども,そこは基本的には民法の原則に委ねるということで,ここでも金銭債権だから分割というふうに考えているわけでして,債権の種類によりましては不可分債務になるようなこともあるかと思います。

ただ,どのようなものについて可分で,どのようなものについて不可分になるかというのは,正にそれは,信託法の世界というよりは,民法で共同で債務者になった場合にそれが分割になるのか連帯になるのかというところに合わせて考えていきたいというふうに考えております。

● 金銭債務であっても,受託者として共同で行って債務を負っているというときには,それゆえに一般的に金銭債務で分割債務になるとしても,違う種類ということがあり得るのではないかというふうに,ちょっとそこが疑問に思っているのですけれども,そういう考え方はとらないということですか。

● それは,民法でそういう考え方もあるのであれば,とり得るかと思いますが。

  例えば,何か連帯の意識が当事者間にあったような場合ということですか。

● はい。

● 普通は,金銭債務であれば分割になってしまうと思うのですが,私,どういう金銭債務が連帯債務になるのか,不可分債務になるのかというのは,ちょっと……。不可分的に負った対価としての債務とか……。

● 単純な借入れについて。

● それはなかなか……,やはり分割になってしまうのではないかなという感じで考えておりましたけれども。あくまで全員として表示した場合でございます。そういう場合には,分割でもそれは相手も分かっているので,いいのではないかということで,分割債務になるという民法の原則に従うべきではないかという考え方でございます。

● どこまで民法の原則でどうなるかということも余りはっきりしないところもありますけれども,仮に信託目的で借入れした場合,そのときの受託者の個人の責任がどうなるかですよね。

● おっしゃる趣旨は,こういう共同受託の場合については,民法の原則を離れて,やはり連帯,金銭についても連帯にするのが妥当ではないかと。

● それが民法の原則を離れているかどうか自体,そこは理解が別途あり得ると思うのですけれども,信託財産に関する事務処理ですとか保存ですとか,そういうもののために借入れを3者が意思決定をして,共同で,行為者としても名前を出してやっているときに,単純に分割なのかという,そういう疑問なのですが。

  さらに,そこからすると,名前を出さなかったときに--名前を出すということは分割にするということなので,名前を出さなかったときは違う処理だというところにつながっていきますので,大もとが違ってくると,そこの処理も違うように思うものですから。

  ただ,全く疑問のないところなのであれば……。

● そんなことはありません。テークノートさせていただいて……,ちょっと難しいところですので。

  まあ,直感的には,みんなでやっているんだからみんなでというのもあり得るのかなという気はいたしておりますが,いかんせん,民法の一応の原則が金銭債務は分割となっておりますので,そちらによるのかなと考えておりましたけれども,共同受託の場合についてなお考慮を働かすべきかどうかというところについては,もう少し検討を深めたいというふうに思っております。

● 恐らく,民法とちょっと違うかもしれないのは,民法の場合は,3人が一緒に,連帯ではないけれども,3人がいて借入れをするというと,分割の原則が適用されてもいいのかもしれないけれども,ここは信託で,借入れの目的が最初から一つ,その信託のためというふうに一つに限定されているので,そういう一つの目的のために3人が借入れという--3人というか,その中の一人が全員の名前を出して借り入れたと,そういうときには,場合によっては,まあこれは民法の原則の問題として,そっちの方でも連帯……,まあ不可分なのかな。

● 性質上の不可分性ということはいかがですか。

● そういうのが可能性がないわけではないだろうという感じはするけれども,私も自信がないな。

  普通の民法の場面とちょっと違う信託の構造ゆえに。

借り入れて何に使うかという,その借入れはすべて信託のために使うという点が普通の民法の世界とちょっと違う点があって,民法の原則を適用するのだけれども,連帯というか,不可分……,連帯は推定しないとすると,不可分ですかね……。いや,反対がありそうだから。

● 近い問題ですけれども,確認の質問だけさせていただきます。

この第三者に対する債務,20ページの部分ですね,対外関係で考え方はこれでいいのかどうかの確認だけなのですが,信託財産に対して行く場合と固有財産に対して行く場合があって,信託財産の方はまあ分かるわけですけれども,固有財産に対して行けるかという問題に関して,実際に行為をした者に対するのもいいのですが,実際の行為をしていない者の固有財産に対してかかっていく前提として,どういう債務名義をとればいいのかというときに,これを見ていますと,過半数の意思決定を行い,かつ他の受託者の名前を挙げた代理をしているということが言えるか,あるいは,保存行為であり,かつ他の受託者の名前を出した代理行為をしているか,どちらかである場合に限って,実際に行為をしていない者たちの固有財産にもかかっていけるという理解でよろしいのでしょうかということですね。

  もし仮に本当にそうだとすると,(ウ)の,職務分掌されている場合に固有財産で職務を執行した受託者のみが固有財産で責任を負うというのは全くそのとおりなのですが,職務分掌している場合に,先ほどの二つの場合があり得るのかと。

つまり,実際に行為をしていない者の固有財産にかかっていく場合というのが,過半数の意思決定プラス代理,あるいは保存行為プラス代理というときに,職務分掌の問題というのは,言わずとももう当然なのかなという感じがちょっとしたので。

ただ,前提が間違っているかもしれないので,確認だけさせていただければということです。

● 前提はそのとおりの理解でございます。

 その原則からすると,職務分掌の場合も自明ではないのでしょうか。

● むしろ,ほかの人の,全員の固有財産に行くべきではないかと。

● というか,先ほどの二つの要件がある場合にのみ,二つの場合にのみ他の受託者の固有財産にかかっていけるとするならば,このルールさえあれば職務分掌の場合はもう言うまでもなく当然行けないはずではないかなと。

  ですから,結論はそのとおりなのですけれども,言うまでもないかなという感じがしただけで。言うとかえって混乱してきますので,質問だけさせていただいただけです。

● おっしゃる趣旨は,恐らくそういうことかなと。職務分掌の場合はいろいろなところに取り出しておりますので,なるべく規律を書いた方が分かりやすいかと思いましたが,御趣旨としては,(ア)と(イ)でそういうことであれば,(ウ)はなくても自明かなという気はいたします。

● 恐らく先ほどの問題があるというのは,そのとおりなのですが。

● 大分議論が錯綜しておりまして,私も混乱してきたのですけれども,今日の整理は,信託財産との関係では合有であって,合有的債権債務関係があるということから何か話があるように理解しておりました。

ところが,固有財産については,共有的債権債務関係を前提として,それで分割になるのか連帯になるのかというような話になっているように思います。

ところが,信託財産についても不可分債務であるというような可能性の検討がされたりもしておりまして,恐らく,その合有という概念がかえって混乱を来しているのではないかなというふうにも思います。

特に,組合との比較をする際に,組合の方を合有と見るのか見ないのかというところでも議論があると思いますし,それから,今回の案では,持分がないということと,合有ということとをくっつけているようですけれども,そこも必ずしも論理必然ではないだろうと。そうしますと,今日出たような議論を整理する際に,最終的に合有ということでも結構なのですけれども,合有的債権債務関係ということを前提にしてしまうと,かえって整理しにくいのではないかなというふうに思いました。印象だけです。

● そこはもうちょっと検討した方がいいかもしれませんね。

  ほかにも若干まだ残っておりますので,特に御意見がなければ,このぐらいでよろしいでしょうか。

  それでは,次の項目に行きましょうか。

● 次は,第39と第42の倒産関係のところについての御説明をさせていただきます。

  まず,第39は,任務終了事由と倒産手続の開始の関係でございまして,現行法では42条1項に対応するとともに,受託者の不適格事由を定めた現行法5条にも関連するものでございます。

 42条1項によりますと,受託者に破産手続が開始したときは当然の任務終了事由となるものと解されておりまして,しかも,5条におきまして,破産者であることは受託者の不適格事由とされておりますので,破産手続の開始にもかかわらず任務が終了しないとの特約は有効ではないと解されるものと思われます。

しかし,第3回会議のときに提案いたしましたが,受託者の不適格事由から破産者を除くことといたしますと,受託者につき破産手続が開始されたとしてもその任務を終了させないという特約を置くことは許容されてよいものと考えられます。そこで,民法の委任に関する653条--資料には「654」と書いてあったかと思いますが,「653」でございます--の解釈と同様に,破産手続の開始をもって原則として任務終了事由としながら,任務が終了しない旨の別段の定めを信託行為に設けることを許容するという提案をするものでございます。

 なお,破産手続の開始の場合とは逆に,再生手続等の再建型倒産処理手続が開始されたとしても,現行と同様に当然に任務終了事由となるわけではございませんが,信託行為の定めをもって任務終了事由とする,信託行為の定めで任期とかを定めるのと同じように考えるわけでございまして,その定めによって任務終了事由とすることは可能であると解するものでございます。

  次に,第42の「受託者倒産の場合における信託財産の取扱い等について」,資料14ページのところからの説明に移らせていただきます。

  このポイントでございますけれども,2点ございまして,第1は,42条2項と同様に,受託者の破産管財人に信託財産の保管義務及び信託事務の引継ぎ義務を課すものとしたこと,これは先ほどからいろいろ議論になっているところでございます。

第2に,受託者破産の場合において,明文の規律をもって,受益者にも一定の限度で信託財産を確保するための手段を付与することとした点でございます。

  まず,第1の点でございますけれども,受託者について破産手続が開始された場合を考えてみますと,17ページの(注1)に記載いたしましたとおり,先ほどからいろいろ議論がある点でございますけれども,受託者の破産管財人は受託者の固有財産に係る債権者の利益を代表するものであるから,信託財産との関係では,登記・登録をもって対抗されるべき第三者,こういう意味で少なくとも第三者に当たると解される上に,信託財産は破産財団に属しませんので,本来,受託者の破産管財人の権限の及ぶところではないと思われるわけでございます。

しかしながら,そうしますと,信託財産を管理すべき受託者が不在となってしまうことからの不都合がありますので,この不都合を解消するためのいわば便宜的な観点から,1の(1)のとおり,破産管財人に対して,あくまでも一時保管の限度にとどまる義務のみを課すことを提案するものでございます。

  次に,第2の信託財産確保の手段の点でございますが,破産手続の開始によりまして受託者の任務が終了し,受託者の全部が欠けることになった場合には,新受託者の選任がされるわけでございますが,この任務終了後,選任までの間は,旧受託者の破産管財人が信託財産の保管義務を負うことになるわけでございます。

しかし,信託の中心的な機能である受託者の倒産からの隔離機能の問題となる場面であることに加えまして,信託財産が名義上は受託者の財産であるがゆえに,受託者の固有財産,つまり破産財団と一体なものとして取り扱われやすいということを考慮いたしますと,受益者にも信託財産を確保するための手段を認めることが望ましいと思われるところでございます。

この点につき,学説上は,受託者破産の場合については受益者が取戻権を有するとの解釈が有力でございますが,受益者は信託財産について所有権等の物権を有するものではございませんので,一体いかなる権利に基づいて,いかなる訴訟を提起できるのかが不明でありますし,信託財産の管理運用は受託者にゆだねられるのが信託でございまして,受益者が信託財産を自己の手元にとどめ置く筋合いのものではございませんので,信託財産の受益者への引渡しまで認める必要性があるかは疑問でございます。

  そこで,2の(1)のとおり,受益者は,新受託者が選任されるまでの間に限ってでございますが,破産管財人を被告として,当該財産が信託財産であることの確認の訴えを提起することができる旨の明文規定を置くことを提案するものでございます。

  なお,この確認の訴えの関係では,受益者が複数の場合をいかに規律すべきかがむしろ問題になりまして,14ページの2の(3)のところに書いてございますけれども,一つは,単独の訴訟提起権プラス他の受益者への訴訟告知の枠組みをとるという甲案,それから,複数受益者の必要的共同訴訟とする乙案とが考えられるところでございます。

甲案による場合には,しかし,送達以外の方法による特別の訴訟告知の方法を認めない限りワークしないのではないか,乙案によるときは,事実上,受益者全員による訴訟提起は困難ではないかというような問題点があることにつきまして,16ページから17ページに書かせていただいたところでございます。

  以上で終わります。

● それでは,この倒産関係に関して,いかがでしょうか。先ほど少し,関連することを議論していただきましたが。

● 今,二つポイントがあると言った第2点の方ですね。第1点の方は先ほど既に出てきまして,これはつけ加えることはございませんので,第2点の方について何点か申し上げます。

御提案の理由は非常によく分かるのですが,まず,問題になる局面というのは,特に,破産管財人がこれは信託財産ではなくて固有財産であると言って例えば処分しようとしているときではないかと思うのですが,一番シビアに問題になるのは。

  一つ目の問題ですけれども,新受託者とか何かが選任されるまでの間に訴えを起こせるということですけれども,事実上間に合わないのではないかと。判決が確定しない限りは既判力を生じませんから。というのが一つ。

  それから,それに関連して,二つ目の問題点ですが,こういう確認の訴えで仕組むとして,何か保全処分というのは観念できるのだろうかと,処分禁止みたいなですね。

多分,そういうところまで手当てしないとワークしないのではないかと。

だから,確認訴訟を本案とする処分禁止の仮処分みたいなことが考えられるかどうかという,今まで余り考えたことがない問題を考えなければいけないような気がします。

  以上はワンセットの問題です。

  それから,甲案,乙案に関してですが,乙案は非常に重たいなと。

特に,甲案,乙案共通の問題ですが,受益権が有価証券化されていてどこに行ってしまっているか分からないような場合には,どっちにしてもワークしない,甲案も乙案もワークしないということが考えられないかなというのが気になるところでありまして,例えば公告で済ますとか……。

単独で提起できて,公告をして,入ってきた人はおいでというあたりぐらいまでしないと,ワークしない,もしこういう仕組みを作るのであればワークしないのかなというのが,受けた印象です。

しかし,公告だけでほかの受益者の手続保障は足りるのかというと,これまた,会社関係の訴訟を考えれば,足りるような気もするのですが,それと同じように考えていいのかどうかはちょっとよく分からないところです。

● いかがですかね。なかなか……。

  さっきの,確認訴訟でもって処分禁止の仮処分というのは,私もちょっとよく分からないけれども。何かそういうものがないと,とにかく間に合わないということですよね。それは確かに何か迅速な手続というのは必要かもしれませんね。

● 今の意見に関連することなのですけれども,同じく第42の2のことなのですけれども,ちょっとこれは知識不足で恐縮なのですけれども,直截に給付訴訟を申し立てるという枠組みがつくれないかどうかということなのですけれども。

  例えば,その状況として,破産管財人が財団のものと思っている,それでそれを確認すると。

その制度を設けること自体はよろしいのですけれども,やはり直截に,破産管財人から,今後生じるところの,選任されるところの信託財産管理人ないし新受託者に対してそれを渡せというような訴訟ということを展望することができないのかと。

現行法でできないのであれば,そういう訴訟を可能とするような枠組みを,どうせ確認の訴えということができるのであれば,この機会にここで定めることができないのかということを,質問といいましょうか,コメントしたいと思います。

二つ目は,甲案,乙案という話ですけれども,この資料の中身を見ますと,やはり困難であるということがありまして,17ページの第2段落目にありますけれども,信託財産管理人を選んだらどうかとかいう話がありましたけれども,むしろそういうことは必要でない,それより以前にやりたいということですので,円滑な提起をしたいということの観点からは,やはり乙案というのは非現実的であって,少なくとも甲案ということであります。

そして,甲案であったとしても,やはり告知というのは非常に難しいという観点からは,○○幹事がおっしゃられた公告とか,そこら辺の手続にして簡易にすべきだというふうに思います。

● 直截な給付というのも,私もよく分からないけれども。まだ給付すべき相手がいないわけですよね。

● それは厳しいのではないかと。受益者に対する給付というのは,また新受託者に戻さなければいけないのでおかしいですし,新受託者が選ばれれば,その人は直接所有権に基づいて給付請求できますが,まだだれがなるか分からないけれどもというのは,ちょっと……。

● 実務的には余り考えられませんけれども,嫌がる破産管財人に対して確認訴訟があったとしても,なお抗する場合には給付訴訟でワンショットでやれるので便利ではないのかということでございます。

● 御指摘の中では,特に迅速な手続が必要だというのは正に皆様のおっしゃるとおりだと思いますので,そこは考えてみたいと思いますが,引き渡すというのは……。せいぜい保全処分で執行官保管にするかとか,その程度のことぐらいしか考えられないのかなという気はいたしますけれども。

● 受益者多数の方はどうですかね。

● 甲案,乙案というお話ですけれども,私どもの信託銀行ということをベースに考えますと,どうしても,どちらもどうしようもないのかなと。要するに,両方ともワークはしないのだろうということだろうと思います。

  もちろん,時限性の問題があって,信託財産管理人を選任してとかという方法を基本的に考えられているのだと思うのですけれども,基本的に,受託者が破たんしたときの受益者保護というか,信託財産の確認の訴えというのはこうあるべきだよというのはやはり法律できちっと書いていただいて,それがワークするという形でないと,私ども,受託者としてお客さんなり受益者に説明するに際して,こういうことで安心なんだよということは,この状態だったら言いづらいかなという感じがいたしますので,何らかの手当て,先ほど来出ております,例えば公告--もちろん,問題があることも承知はしておりますけれども,公告をするであるとか,もう少し……,例えば,迅速に,信託財産管理人が,訴えが起こされたらすぐに選任されて,何らかの形で手当てできるとか,そういうことをちょっと御検討賜れればというふうに思います。

● 課題は比較的明確なんだけれども,なかなかうまい手段が見つからないという,そういう問題ですね。なお検討させていただくことにいたしましょうか。

  よろしいですか。もし御意見がなければ,次に行きましょうか。

● では,最後に,委託者と遺言信託の関係のところに移らせていただきます。

  まず,第55でございますが,これは,私益信託における委託者の信託上の権利義務に関する提案でございまして,第2回会議で御説明したところから基本的には変わっておりません。

すなわち,法律関係の当事者としての委託者の地位を強調して,信託関係における各種の権利義務を認めるといたしますと,法律関係を錯綜させ,委託者と受益者との間に意見対立が生じ,受託者による信託事務の円滑な処理にも支障を来すおそれがありますところ,このような問題を解消するためには,原則として,信託の利益を直接享受する受益者に判断権を委ねるのが合理的であると考えられることから,信託関係の当事者としての委託者の地位は後退させることとしております。

  具体的には,46ページの別表に記載しましたとおり,デフォルト・ルールといたしましては,信託の監視・監督的権能としては,受託者,信託管理人,信託財産管理人の選任,解任,辞任に関する権利,すなわち委託者との合意あるいは裁判所に対する申立権など。

  それと,利害関係人にも認められる権利として,提案済み,あるいは今後提案予定である,別表に書いてある五つほどの権利。

  あとは,信託行為の変更,信託の併合,分割,終了など,信託の枠組み自体に重大な影響を与える行為については,信託目的に反しないことが明らかな場合を除いて,委託者にも同意権又は裁判所に対する申立権を付与するとしております。

  それから,31番の,信託終了時の残余財産につき指定された帰属権利者の存しない場合には,その帰続権利者となるということ,この点を提案しているものでございます。

なお,「第62の4(2)」と書いてありますが,「第62の5」でございますので,訂正させていただきます。

  なお,別表記載の個別の権利のうち,いずれを委託者に認められるデフォルト・ルール,ここで言うと丸というふうにするかということは,非常に重要ではございますが,更に,第2回会議でいただいた御指摘の関係で,次の2点について付言申し上げます。

  第1は,ただいま概括的に説明した別表の一番右の欄に丸とある権利につきましては,デフォルト・ルールとしてではございますが,原則として委託者に付与することとしている点でございます。すなわち,第2回会議におきましては,デフォルト・ルールとして委託者の権利をゼロとするところから出発してはどうかという御意見もありましたが,そのような考え方はとらないという提案でございます。

  第2に,別表にペケとある権利についても,委託者が信託行為によって留保すれば,その権利を委託者に認める,すなわちプラスする方向が認められることにつきましては,第2回会議で説明したところでございますが,第2回会議におきましては,これとは逆の方向の指摘といたしまして,別表に丸とある権利については,委託者に最低限度認められるべき権利とする趣旨なのか,それとも,これらの権利についても委託者が信託行為で放棄することができるのかについて質問がなされました。

  この点の検討結果が,42ページのアステリスク1,アステリスク2,それから45ページの(注6)に書いてあるところでございまして,委託者は,信託の監視・監督的権能,あるいは信託の基礎的な変更に関する権利としてデフォルト・ルール上認められている丸の権利につきましても,裁判所に対する申立権も含めて,信託行為の定めをもって放棄することができる,すなわちマイナスあるいはゼロとすることも可能であることを提案するものでございます。

  続きまして,第56の相続人の権利義務の方についての説明に移らせていただきます。

  これについては,甲案と乙案というのを,47ページで,対比しております。

  甲案というのは,委託者自身が信託行為の定めをもって相続人の関与を排斥しない限り,委託者の相続人は委託者が有していた信託法上の権利義務を承継するという考え方でございます。

  その根拠は,47ページから48ページに記載してありますとおり,委託者と受託者間の個人的信頼関係を重視して委託者の権利を一身専属的なものとまで考える必要はないということ,合併などの包括承継の場合との平仄,それから,先ほど申しましたとおり,委託者の信託法上の権利を現行法よりも縮小することを提案している上に,信託行為において,そもそも委託者の権利を放棄し,あるいは相続人の関与を排除する旨の定めを設けることも可能であるというようなことを理由とするものでございます。

  これに対しまして,乙案でございますが,委託者の相続人は,法定帰属権者としての地位と報酬支払義務について信託行為に別段の定めを置いた場合を除いて,委託者が有していた信託法上の権利義務は承継しないという考え方でございます。

  その根拠は,48ページに記載してございますけれども,主として,承継を認めると委託者の地位を有する者が多数になって法律関係が複雑化することを懸念するものでございます。

ただ,この考え方によるときは,委託者の相続人とはいいましても,委託者と無関係の第三者と異ならない地位を有するにとどまる,言ってみれば友達と変わらないということになりますので,例えば,信託債権者以外の者による信託財産に対する強制執行について,信託行為の定めをもってしても相続人に異議申立権を付与することができなくなってしまうのではないかというようなおそれがあり,不適当ではないかという指摘があり得るところでございます。

  なお,念のためでございますが,乙案によった場合でも,委託者に利害関係人として認められている権利につきましては一律に否定されるわけではなくて,権利の性質ですとか,その相続人の立場に応じた,利害関係を有すると言えるか否かについての個別的な判断によるものと思われることを付言いたします。

  最後に,第67の遺言信託についての説明に移らせていただきます。

  遺言によって遺贈はできることは民法964条に定めておりますが,信託では,財産権の名義の帰属と実質的な利益享受者とが分裂する点におきまして一般の遺贈とは異なるので,遺言をもって信託を設定することが可能であるか疑義が生じ得ないではないと言われております。

そこで,現行法2条の趣旨を維持して,契約による信託の設定のほかに,単独行為である遺言による信託の設定も可能であることを注意的に明らかにするものでございます。

  なお,ここで特に御審議いただきたいのは,遺言信託における遺言者の相続人に付与すべき権利義務についてでございます。

遺言は遺言者の死亡したときにその効力が生じますので,遺言信託におきましては委託者は当初から不在でございまして,委託者の地位の相続ということも観念し難いと考えられますので,遺言者の相続人が委託者としての権利義務を承継するとは言い難いと思われます。

そこで,契約による私益信託における相続人の権利義務の場合とは異なりまして,相続による承継ということではなくて,遺言者の相続人に原始的に権利義務を付与すべきか否かが問題となるわけでございます。

  もっとも,権利義務の原始的付与と申しましても,義務の方でございますが,これは,信託行為の定めをもって相続人に信託報酬支払い義務を課すか否かということでありまして,あくまで信託行為の定め方の問題であって,法律に基づく遺言者の義務の付与という問題ではないように考えられます。

  そこで,問題となりますのは,先ほど御説明いたしました,信託に対する監視・監督的権能及び基礎的な変更に関する権利並びに信託終了時の法定帰属権者としての地位を原始的に付与すべきであるか否かという問題であると思われるわけでございますが,ここでは,このような点に関しまして,甲案と乙案の両案を提示しております。

  甲案でございますけれども,遺言者の相続人に対し,生前信託の委託者が有する権利と同様の権利を付与するものとするものでございます。

これは,信託に関して委託者が有していた利害,例えば信託目的が達成されるか否か等を保護するためには,当初より委託者が不在である以上,かわりに,遺言者の相続人に委託者が存していたならば,有していた権利を付与することがふさわしい。

言いかえますと,委託者の有すべき権利を行使できるものがだれもいないとするよりは,委託者に最も近い立場にあるその相続人にこの権利を付与した方がベターであるというふうに考えるものでございます。

遺言者の相続人と受益者との間で利害が対立することによる弊害につきましても,資料に書いてございますような理由でさほど懸念するには及ばないか又は,対処可能ではないかと考えるものでございます。

  これに対し,乙案は,遺言者の相続人に対しまして,法定帰属権利者の地位を除いて,生前信託の受託者が有する権利と同様の権利を付与しないとするものでございます。

受益者と遺言者の相続人とは相対立する利害関係にございますので,遺言者の相続人に適切な権利の行使を期待することは困難であると考えるものでございます。

 なお,利害関係人につきましては個別の判断によるべきであるというところは先ほどと同様でございますが,付言させていただきます。

  以上で終わります。

● それでは,今の三つの点につきまして,いかがでしょうか。

● この問題はやはり非常に大きな問題だと思うのですね。これは,相続というものと信託というものをどう考えるか。今,余りないというか,ほとんどない民事信託というのの将来の発展可能性を残すのか,それとも残さないのかぐらいの話だと思うのですね。

  とりあえず,コメントというか,私の意見だけ申し上げますけれども,まず申し上げるのは,相続人との関係のところですが,生前信託と遺言信託とで取扱いを異にするのはおかしくて,簡単に言うと,乙案ですね。とにかく。

つまり,英米において信託はいろいろな理由で使われていると思いますが,民事信託のところで使われている理由の大きなものの一つは,相続人から切り離そうという話ですから,ここで,自分が死んだ後,相続人がまた出てくるというような話は,本当はそういう意味での信託の真髄に反するような話ですね。だから,やはりこれは全然切り離してしまうと。

ただ,もちろんこれはデフォルト・ルールですから,委託者が相続人の中でこの人だけは信頼しているという人がいれば,信託条項に何らかの形で,この人にはこういう権限を残しておきたいと書いておけばいいだけの話でありますから。

  それで,すぐにそういう形の信託がいっぱい出てくるかどうか分からないですが,ここでルールを決めてしまうのが将来の発展可能性を--特に甲案をとる場合ですけれども--閉ざすような気がするものですから,一言だけ,コメントします。

● 3点,続けて。

  まず1点目,第55の「私益信託における委託者の信託法上の権利義務について」ということですけれども,この部分につきましては,先ほど○○幹事の方からお話がありましたけれども,別段の定めで現行法における権利まで付加することもできるし,逆に引くこともできるというふうな形で御提案いただいておりますので,ファミリー・トラスト的なものから流動化の信託まで,幅広く利用しやすいものではないかということで,非常に歓迎しております。

  ただ,その場合のデフォルト・ルールの在り方のところなのですけれども,これについては,実際,ちょっと業界内で意見とかも分かれておりまして,多数派の方は,信託関係が錯綜するとかいうことから,基本的には原案の方がいいのではないかということなのですけれども,一部からは,ファミリー・トラスト的な信託の場合についてはやはり委託者の意向を非常によく聞かないといけないということもありまして,この別表の権利についてはすべてデフォルト状態で付与していただけないかというような意見も少数意見としてございました。

  次に,第56の相続人の権利義務のところですけれども,これにつきましては,やはり法律関係が錯綜するということもございますので,乙案と。

  第67のところにつきましても,遺言信託というのはそもそも相続人の意向を排除するというようなことが大きいと思いますので,これについても乙案ということで,受託者に対する監視のところにつきましてはまたこれから御提案があると思うのですけれども,信託管理人のところとかが大分整備されておりますので,そういう形で対応すればいいのではないかというふうに考えております。

● 私も,第67,第56についての甲案,乙案の話についてですけれども,○○委員,○○委員と同じく,乙案を支持するという立場から意見を申し上げたいのですが,つけ加えるのであれば,銀行において一番法律的な問題が出てくるのは預金の相続でございまして,かように日本において相続間の紛争というのは多いということでございます。

今現在,遺言信託というのは余りないと。

もちろん,民事信託ということもないわけですけれども,商事信託といいましょうか,銀行が行うこと,遺言信託もできる信託銀行はありますけれども,ただ,実際に量的には英米と比べたらもちろん余りないわけでございまして,実際にやっているとしても,遺言の作成であるとか遺産整理であるとか,狭義の遺言信託と言われるものでございます。

これを発展させていこうということであれば,やはりそういう事実上トラブルが生じるということを避けていきたい,安心して使えるような遺言信託を作るということであれば,やはり乙案を採用すべきではないのかなというふうに思っています。

  ○○委員がおっしゃるとおり,デフォルト・ルールということでございますので,当該委託者ないしは遺言者が特に望むということであれば,そのように設計すればいいということだと思います。

● ほかに,御意見いかがでしょうか。

  ○○委員は,要するに第56,第67とも乙案の方がいいという御意見ですね。

● はい,そうです。

● 別に甲案支持ということではないのですが,乙案をとった場合にどういう関係になるかということを確認したいのですが。

 第56の方が分かりやすいと思うのですが,第56で乙案をとった場合は,これは,しかし,一定の権利義務についてはなお相続人が取得するということになっていますね。帰属権利者としての地位等々。

そうしますと,それは何によって取得するのでしょうか。特定承継なのか,あるいは原始取得するのか,それと相続放棄との関係はどうなるのかと,そのあたりを確認させていただければと思います。

● 確かに,何によって帰属権利者の地位を取得するか。もしかしたら,極端な意見は--いや,○○委員が言われるのかもしれないけれども,それも与える必要はないという意見が出てくるのかもしれないけれども。

● いえいえ,そんなことは申しません。

  法定帰属権利者というのは,一番最後に終了してしまって,しかもだれもいない場合に仕方なくという形ですので,本当は信託の枠外みたいな話ですから。

復帰信託ですので,それはしようがないでしょうというだけの話ですから。まあ,それにどういう理屈をつけるかというのが難しいんだよと言われれば,それはそれまでのことですけれども,まあ大した問題ではないと私なんかは思うのですけれどね,向こうでもそうやっているんだし,というだけの話です。

● でも,やはり承継ではなくなるんでしょうね。信託法の法制の中で,もうだれも受益者あるいは先順位の帰属権利者がいないときに,最後は無主物にしないで,少しは関係ある委託者の相続人にと。

● そうですね。何十年もたって,何で国庫に帰属させないんだという感じもあるのかもしれませんけれども,英米でも。

まあ,向こうでは黙示の意思説というのをとっているのですけれども,結局のところは。だから,結局読み込むんですよね。そこのところだけは読み込む。

● 委託者の意思として。

● そうですね。

  まあ,でも,本当に擬制された,推定された意思という……。擬制と推定は同じなのかな。

  仕方がなくというだけの話なんですね。

● 擬制というか,委託者の意思だというふうに言えば,結局,信託行為の中で黙示的な意思として最後の帰属権利者だという考え方なんですね。

確かに,理論的な説明はしにくいところがあるけれども……。

  ○○委員も,御意見としては乙案の方が適当だという御意見ですか。

● いえ,甲と乙,どちらも相続によって承継するのかなというふうに思いまして,そうだとすると,あとは範囲を実質的に考えればいいにすぎないのかなという印象を持ったわけです。

● それはそうですが,しかし,甲案でいくと,排除するものを列挙していくわけですね。

● どの範囲で排除するかというのは,これは次の段階の問題で,まず,何によって承継するのかということがはっきりしませんと,議論しにくいなと思ったのです。

多分,そういうことを言うと,○○委員から,そんなことはないんだというような御批判をいただくと思うのですが。

● なかなか難しい問題ですけれども,何を承継するのか,何が最後相続人に行くのかというのは先に決めていって……。

● ただ,ここは,報酬支払義務も承継するというふうになっていますよね。

しかし,それは,相続人が相続放棄すれば承継しないことになると思うのです。

だとすると,承継するのはやはり相続によって承継するのではないかと思いまして,だとすると,結局は範囲の問題かなというふうに思ったわけですが。あるいは,そういう考え方自体が何か間違っているのかもしれませんけれども。 

● よく考えているわけではないのですが,相続で対象の一身専属性を広く認めるというような説明もできるでしょうし,政策的にこの部分についてはいわば特定の承継者を決めているのだけれども,その承継者自体が相続人という地位に依拠しているので,したがって,相続放棄をすればもはや相続人ではない以上,承継者たる資格もないという,いずれの説明も可能ではないかという感じはしておるのですが,説明としましては。

  それで,ちょっとまた違う話かもしれませんが,中身としては乙案でもよろしいのかなと思うのですが,その際気になりますのは,先ほどから,報酬支払義務だけは継承させるというところで,そういたしますと,報酬支払義務がかかっているときに,やはり相続人というのは,その義務者として,受託者がきちんと事務をやっているかということについてかなり利害を持つということが考えられるのですけれども,その際に,報酬義務だけは負って,あとは,一般の利害関係人としての職務の引受けの催告権とか,こういうことだけでいいのか,その部分も結局は委託者がそこまで考えて書くでしょうということに期待していいのかというのはちょっと気になるところです。

  もう一つ,これはむしろ前提事項として確認したいのですけれども,相続人に行くというような手当てがないとしますと,委託者としては,わざわざ自分にある程度監督権を留保したときに,自分が監督権を行使できなくなったときにどうなるだろうということを考えたときに,ほかの人に任せたいということがあるかと思うのですが,その際に,可能性としては,自分の権能を授権するような形にするというと,地位を移転するということが考えられるかと思うのですが,それはいずれも可能という前提でよろしいでしょうか。

個別に権限を授権していく,与えていくということも,まとめてこの監督権を含めた委託者の地位を移転する形で,自分の思う人に権限を引き継いでもらうということが可能であるという前提であるかどうかということなのですけれども。

● これも私の個人的な意見だけれども,相続の方は否定しても,その否定する理由が仮に一身専属性,委託者のところだけにとどまるという一身専属性だとしても,権限をだれかに引き継いでもらうというのはまた別なもので,本来,一身専属性といっても,相続と譲渡なんかはちょっと違うのではないかという感じがしていますけれども。

  しかし,○○幹事が言われたように,一つの問題であることは確かですね。

  まあ,ここは,どういう前提でもって全部が組み立てられているか,まだ余りそこまでは踏み込んでいないと思いますけれども,どうでしょうかね。

● 委託者の地位の移転はできると思いますが,複数の人にそれぞればらばらにということでございますか。例えば,Aの権利はこの人,Bの権利はこの人と。

そこは何か,一人の人ならいいけれども,ばらばらにそれぞれの権利を,代理ではなくて,地位の移転ができるかというと,ちょっとどうかな,難しいかなという気がいたしますけれども。

● 信託行為で定めておけばいいのでしょうか。委託者が留保できるような権限について,これは自分ではなく,Bに行くという。

● まとめてだれかに行くと。

● いえ,この権限はBというふうに,別々に。そこはやはりできないと。

● 例えば,生前,委託者の権限を幾つかに分散するということは信託行為でできるはずですよね。それは今だって,例えば指図権だけ取り出してだれかに与えるという形で。

● そうすると,その後の処分によっては,しかし,できないと。

● ただ,できるといっても何か限度があるかもしれないけれども。

例えば,取消しの関係の権限だけはだれだれとか,書類閲覧請求権はだれだれとか,そういうのはちょっと余りにナンセンスだと思うし,それはできないというか……。しかし,あえてそれをやれば,だめだとも言いにくいのかもしれませんけれどね。

  ですから,基本的には,委託者が信託行為で定めれば,その権限をいろいろ分散することも不可能ではないのではないでしょうか。

  いや,分かりません,私の個人的な意見ですけれどね。

  ほかに,何か。民法等の一般的な原則にかなり関係する問題かもしれませんので。

● 既に出ている話の繰り返しかもしれませんが,乙案をとった場合に,報酬支払義務のほかに,例えば監督是正権限をある程度パッケージにして相続人に与えるということを信託行為で決めるとすれば,有効というお考えでしょうか。

● それは有効だと思います。

● しかし,なぜそれができるかというところが,やはり乙案をとったときにはやや難しいかなと思います。

○○委員がおっしゃった,相続なのかどうかということなのですけれども。

相続財産の範囲を被相続人と第三者との間で自由に定めることができるということの一例になるのだろうと思うのですね。

それは,全部外に出してしまうのか,まだ少し手元に置いておくのかということだから,手元に置いておけば,相続の規律で被相続人から相続人に承継されるのかもしれないのですけれども,何か,相続財産の範囲を被相続人と第三者との間の契約でというか,法律行為で決めるというのはどうも余り例がないかなというふうに思います。

  あと,○○幹事がおっしゃったようなことは,あるいは指図を第三者に与えるというようなものは,その指図の権限を,受ける方との間の,そこでちゃんと権限の移転に関する当事者間の合意があれば,それはそれで一定の範囲では可能だと思うのですが,相続人の意思的な関与がないままに,相続人に,権利であれ,取得されるというのは,第三者のためにする契約とか,何かそういうのを使わないといけないのではないかなというふうに思います。

あるいは相続と言うか。相続と言うと,先ほど申し上げたような問題が残っているのではないかなと思います。

● 何か相続の根本原因にまで来て,意外と難しい問題になってきましたけれども。

  特定の人間に承継させるというのはいいんですかね。相続人という形で一般的に承継させるのが,相続の原理からするとおかしいということですね。

● 特定の人に承継させるというのは,遺贈で承継させることはできると思うのですが,信託行為で特定の人に承継させることが信託行為の当事者である委託者と受託者との間でできるのかというところに,私はまだ少しこだわりがあります。

● ここでは,恐らく遺贈という形をわざわざとらないでやるという場合は考えられるでしょうからね。

 なかなか理論的に難しいところがあるかもしれません。

  まあ,仮に甲案をとっても,実質上同じようなことができるのであればいいのですが。

● 実質的には乙案の方がいいのだろうなとは思いますが,乙案をとったときに,これはデフォルト・ルールであって,信託行為で変えられるという,そこの命題がほかのところの問題とは少し違うように思います。

● だから,先ほど方式と中身の話をしたけれども,中身としては乙案でねらおうとしているところがよさそうだと。だけどうまく説明できるかという問題ですよね。

● 今の○○幹事のおっしゃった点については,検討したいと思います。

  もう一つ,乙案で,乙案の方が大勢な感じでございますが,気になっておりますのは,このペーパーにも書いてございますが,裁判所に対する申立権みたいなものを相続人に付与すると勝手に信託行為に書いて,それによって申立権を付与する,言ってみれば訴訟提起権というのを第三者に契約で付与するということは難しいのではないかなという気がするのですが,そうしますと,乙案をとった場合にはそういう点でも何か難しい問題が生ずるのではないかと。

信託行為の定めによって,例えば第三者異議権を付与することができるのかというあたりが疑問があるところでございまして,その点からどのように考えたらいいのかというところを御教授いただければと思っておりますが。

  甲案でしたら,外せばいいわけですけれども,乙案ですと,さっき言いましたように,相続人というのは言ってみれば赤の他人と同じようなものであると。

それで,赤の他人に,あなたには訴訟提起権がありますよと契約で書いたら,じゃあ訴訟提起権があるということになるかというと,それはちょっと難しいのではないかということで,範囲の問題に加えまして,そういう付与できる権利も限定されてくる可能性があるのではないかというところが気になっておりますが,いかがでしょうか。

● これは,さっき○○委員がおっしゃったことを私が理解しているのかということなのですけれども,これは,例えば「信託管理人」という言葉が出ている。信託管理人に好きな相続人を入れ込んでおけば全然何の心配も要らないということになるのですか,今の話は。

もしそうなら,方法はある。相続人ということにこだわる必要はないのであって,相続人全部にこういう権限を与えようという人はないと思うのですね,デフォルト・ルールでこういうルールがあったときに。相続人の中のだれかだと思いますから,それを信託管理人にしておけばいい。

● そうやれば対応できると思います。

● いろいろ御意見が出ましたが,ちょっと法律構成,それから結論の点も含めて,ある程度皆さんの御意見の方向はそれなりに出ているようですけれども,なお詰めなければいけない点もあると思いますので,また第2ラウンドで御議論を……。

● 1点だけよろしいですか。

  これは今日がいいチャンスなのかどうか,よく分からないのですけれども,英米での民事信託の使われ方で典型的な形は,今,生前信託と遺言信託と両方ありますが--とにかく一つまず受益権を設定して,典型的には配偶者。

配偶者が生きている限りは,こうやって,受益権がありますよと。配偶者が死んだ後は,今度は息子ですよとか,娘ですよという話をつくりますね,こういう形で。

今度,こういう日本の信託法改正の中で,特に遺言信託の形でそういうような枠組みを作るということができるかどうかは,民法上のそれこそ相続法理でどういうことが認められているかということによって決まるので,直ちにそうはならないのか,あるいは……。いや,どういうことなのか,ちょっと教えていただきたいだけなのですが。あるいは,生前の場合もそうです,もちろん。

● 生前の場合で言えば,それは連続の受益者を定めるということですよね。それはできるということで。

● 遺言の場合は。

● 遺言といっても,遺言の信託ですよね。だから,信託として連続の受益者を定めるということは,少なくとも信託の問題としては構わないということになるのではないでしょうか。

それで,あとは相続法,要するに遺留分だとかそういう問題が関係してくれば,それはまた別の問題として……。

いや,分かりません,そこまで言い切っていいのかどうか。少なくとも,ここは,遺言信託という形で遺言で信託を設定することができるという話で,今のように,どういう形の受益者の決め方をしなくてはいけないのかというのは,またどこかで……,連続受益者はやるのでしたっけ。テーマにはないのですか。

● 受益者変更とか,そのあたりで。

● そこら辺と少し関係すると思いますけれどね。

  まあ,今ので結論が決まったわけではないと思いますけれども,お考えいただくということにいたしましょうか。

  では,特に御意見がなければ,今日はこのぐらいにしたいと思いますけれども,どうも長いことありがとうございました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年加工編

法制審議会信託法部会

                        第7回会議 議事録

第1 日 時  平成16年12月17日(金)  自 午後1時00分

                        至 午後5時10分

第2 場 所    法務省第1会議室

第3  議 題

   信託法の見直しに関する検討課題(5)について

第4 議 事   (次のとおり)

                              議    事

● それでは,法制審議会の信託法部会第7回の会議を開きたいと思います。

  お忙しいところお集まりいただきまして,ありがとうございました。

  それでは,いつものようにたくさんの論点がございますので,これを適宜幾つかに区切って議論していきたいと思います。その議論の区切り方も含めて,○○幹事の方から説明をお願いします。

● それでは,本日の議論の進行でございますけれども,テーマは全部で10項目ございますが,次のとおりに分けさせていただきたいと思います。

まず最初に,受益者の利益の享受と受益権の放棄の問題をあわせて行わせていただきます。

次に,受益者を指定又は変更する権利の問題を行わせていただきます。3番目に,信託管理人の問題を行わせていただきます。

この辺りで休憩かと思いますが,その後,第4番目といたしまして,信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限,それから受益者が複数の信託の意思決定方法と受益者名簿の問題を行わせていただきます。

最後に,第5といたしまして,受益権の譲渡,有価証券化,受益債権等の消滅時効の問題というように,全体を五つに区切って進めさせていただければと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。

● それでは,最初のセッションから説明をお願いします。

● それでは,早速,受益者の利益の享受と,受益権の放棄につきまして御説明いたします。

  まず,第45でございますが,これは信託行為により受益者として指定された者の利益享受に関する提案でございます。

  現行法第7条は,信託行為により受益者として指定された者は,受益の意思表示をすることなく,その信託から生じる利益を享受する旨規定しております。

この規定は,契約当事者以外の者がその契約から生じる利益を享受するには,その者による受益の意思表示が必要であるという民法の原則を修正したものであると考えられております。

信託では,不特定の者や未存在の者が信託行為により受益者として指定されることがございますが,このような者に対して受益の意思表示を求めることは困難又は不可能であると考えられます。

また,例えば,重度の障害をお持ちの方のように,自ら意思表示をすることが困難な方が受益者として指定されている場合には,受益者が受益の意思表示をすることなく信託から生じる利益を享受できるとすることによって,その受益者の保護に資し,かつ,信託を設定した委託者の意思にもかなうものと考えられます。

  このような点にかんがみまして,1におきましては,信託行為により受益者として指定された者は,信託行為に別段の定めがない限り,受益の意思表示をすることなく,その信託から生じる利益を享受することができるものといたしまして,現行法第7条の規律を維持することとしております。

  もっとも,このように措置した場合には,自らの関与なく信託から生じる利益を受け,又は不利益をこうむる者が生じ得ます。

この点につきましては,次の受益権の放棄のところで詳しく御説明いたしますが,これらの受益者に対して受益権を放棄する機会を与えた上で,放棄の効果を遡及させることによりまして,自己の意思に反して利益又は不利益を強制されることがないような解決を図ることが可能ではないかと考えております。

  次に,2でございますが,これは受託者の通知義務に関する提案でございます。

信託行為により受益者として指定された者は,自己の意思によらずに受益者となることがあり得ます。

このような場合には,当該受益者に対して自らを受益者とする信託が設定されたことを認識させることが,受益者として有する各種の権利行使の機会を確保することにつながり,受益者の実効的な権利保護の観点からも相当であると考えられます。

  そこで,2におきましては,受託者が,信託行為により受益者として指定された者に対して,当該者を受益者とする信託が設定された事実を通知しなければならないとしております。

  もっとも,信託行為により受益者として指定された者が自らを受益者とする信託が設定されたことを知っているような場合にまで通知義務を課す必要はないと考えられますので,ただし書におきましては,このような場合においては受託者は通知義務を負わないということにしております。

  なお,ここで,受託者が受益者として指定された者に対して通知しなければならないのは,受益者として指定されたという事実,すなわち受益者となったという事実でございまして,受益権の内容などの信託行為の具体的内容等についてまで通知の対象とは考えておりません。

といいますのは,信託行為の内容等につきましては,別途,受益者が受託者に対して説明を求める権利などを認めておりますので,受益者がこれらの権利を行使することによって必要な情報を入手することは可能であると考えているからでございます。

  次に,3でございますが,これは,受託者その他の利害関係人が,信託行為により受益者として指定された者に対して,相当な期間を定めて,受益権を放棄するか否かについて意思表示をすべき旨を催告できるとしたものでして,遺贈義務者その他の利害関係人の催告権,民法第987条でございますが,これと類似の規律を受託者その他の利害関係人に対して認めることとしたものでございます。

  これも次に説明いたしますが,信託行為により受益者として指定された者は受益権を放棄することができまして,受益権を放棄した場合には,放棄の時点までに生じた原因に基づく責任も免れることを提案しております。

このように,信託行為により受益者として指定された者が受益権を放棄した場合の効果が遡及することとした場合には,当該受益者が受益権を放棄するか否かが確定するまでは,信託事務によって生じる責任を最終的にだれが負担することになるのかが判明しないことがあり,その場合には,当該信託に関して利害を有する者が不安定な地位に立たされるおそれがあるということになります。

  この点,遺言信託におきましては,遺贈に関する民法第987条の規定が準用されまして,利害関係人が受益者  --受遺者になりますが--に対して受益の承認又は放棄をすべき旨を催告することができるとの解釈が有力でございまして,遺言信託以外の信託の利害関係人にも同様の催告権を与えることが,受益の拒絶を認めることによって生ずる不安定な状態を除去するとの観点から相当であると考えられます。

 そこで,3におきましては,遺言信託,生前信託ともに,受託者その他の利害関係人が,信託行為により受益者として指定された者に対し受益権を放棄するか否かについて確認する手段として,催告権を与えることとしております。

  その上で,受益者として指定された第三者が催告に対して自己の意思を明らかにしない場合には,受益権を放棄することができなくなることとしております。

すなわち,このような第三者は受益の意思を要しないで受益者となっておりますので,受益者であるという現在の状況を拒絶する旨の意思表示をしない以上は当該状況を受け入れたものとみなすことが合理的であるとの考えに基づくものでございます。

  もっとも,このように措置することにつきましては,受益者への補償請求権等の行使が認められている場合がある信託におきましては,催告に対して意思表示をしなかったことから直ちに受益権の放棄ができなくなるとするのは当該受益者にとって酷であり,受益者への補償請求権の行使が認められているか否かによって効果に差異を設けてはどうかなどの指摘がされているところでございます。

そこで,この3の規律の要否やその効果の在り方については是非とも御審議をいただければと考えております。

  以上で受益者の利益の享受についての説明は終わらせていただきます。

  次に,第51の「受益権の放棄について」というところの説明に移らせていただきます。

  現行法の第36条第3項によりますと,補償請求権に関する第36条第2項の規定は受益者が受益権を放棄した場合には適用されないとしておりまして,受益者が受益権を放棄することができることと,受益者が受益権を放棄した場合においては補償請求権の規定の適用がないことを明らかにしております。

この現行法の規律に対しましては,受益権を放棄できる受益者の範囲が明確でないために解釈上疑義が生じているとの指摘や,受益者が受益権を放棄した場合の効果に関して,補償請求権の規定の適用がないというにとどまるために取扱いが定かではないといった指摘がされております。

そこで,このような指摘を踏まえまして,受益権の放棄に関する規律の整備を提案したものでございます。

  まず,1の(1)でございますが,これは,信託契約締結時におきまして委託者が受益者の場合,すなわちいわゆる自益信託の場合には,委託者兼受益者は,信託契約に別段の定めがない限り受益権を放棄することはできないとするものでございます。

委託者兼受益者は受託者との間で自己の意思に基づいて信託契約を締結した上で受益者となったのですから,委託者兼受益者が受益権を放棄して自由に当該信託から生ずる法律関係から離脱することを認めることは,受託者を始めとする利害関係人に対して不測の損害を与えることにもなりかねず,公平の見地に照らしても妥当ではないと考えられるところでございます。

そこで,委託者兼受益者は信託契約に別段の定めがない限り受益権を放棄することはできないとしております。

  次に,1の(2)でございますが,委託者兼受益者から受益権の譲渡を受けた者についても受益権を放棄することができないとするものでございます。

委託者兼受益者が受益権を譲渡したか否かによって受益権放棄の可否が左右されるとした場合には,受託者を始めとする利害関係人に対してやはり不測の損害を与えかねないものと考えられます。

そこで,委託者兼受益者から受益権の譲渡を受けた者も受益権を放棄することができないものとしております。

  次に,2の(1)でございますが,これは,いわゆる他益信託の場合には,信託行為により受益者として指定された者は原則として受益権を放棄することができるとするものでございます。

先ほど受益者の利益の享受のところで御説明しましたが,他益信託で信託行為の定めにより受益者として指定された者は受益の意思表示をすることなく受益者となりますので,自らを受益者とする信託が設定されたことを知らないまま受益者となることがあり得ます。

自己の意思に反して利益や不利益を強制されることはないという原則に照らしますと,このような受益者については信託から離脱する機会を与えることが相当であると考えられます。

そこで,信託行為により受益者として指定された者は受益権を放棄することができるものとし,例外としまして,信託から生ずる利益・不利益を十分認識した上で,受託者に対して受益の承認,すなわち言葉を変えれば受益権を放棄する権利の放棄ということになりますが,そのようなことをした場合には,当該者はもはや受益権を放棄することができないことを確認的に明らかにしております。

 また,前受益者が受益権を承認している場合にまで譲受人に放棄を認めることは,先ほど申しましたとおり,受益権の譲渡の有無によって受益権の放棄の可否が左右されることになりまして,信託関係者に不測の損害を与えることになりかねず,また,譲受人が自ら受益を承認した場合には受益権の放棄を認めないとしても,当該者は不測の損害をこうむることはないと考えられます。

そこで,2の(2)では,信託行為により受益者と指定された者から受益権の譲渡を受けた者は,前受益者が受益を承認し,又は自ら受益を承認した場合には,信託行為に別段の定めがない限り受益権を放棄することはできないとしております。

  最後に,3でございますが,これは受益権の放棄の効果に関する提案でございます。

  受益者が受益権を放棄できる旨の信託行為の定めを置いた当事者の意思としましては,受益権を放棄した受益者は,既に発生した信託債務に係る責任については責任を免れませんが,将来発生する責任については免れ得ることを意図していると考えるのが公平の見地から妥当かつ合理的であると考えられます。

そこで,(1)におきましては,信託行為に別段の定めがない限り,受益権を放棄した受益者は放棄の時点までに生じた原因に基づく責任を免れることはできないものとしております。

  他方で,先ほど申しましたとおり,信託行為により受益者として指定された者の中には,自らを受益者とする信託の設定に全く関与していない者もあり得ますので,そのような者が受益権を放棄した場合には,既に発生した信託債務に係る責任等についても免れるとすることが妥当であると考えられます。

このような観点から,(2)では,信託行為により受益者として指定された者が受益権を放棄した場合には,既に発生した責任も免れる,つまり何らの責任も負わないとしております。

そして,この場合には,受益者として指定された者には受益権は遡及的に帰属していなかったことになりますので,仮に当該者が信託から生じる利益を受領していた場合には,信託行為に別段の定めがない限り,不当利得として,受領した信託の利益を返還する必要があると考えられます。

なお,補足いたしますと,以上の提案は,受益権を放棄できる受益者の範囲及び放棄の効果につきまして,信託設定の時点においていわゆる自益信託か他益信託かによって明確に区別した規律を設けることを提案するものでございます。

しかし,これに対しましては,理屈としては理解し得るものの,経済実態としては自益信託,他益信託の間に相違がない場合が多い,例えば,いずれも実態は自ら出捐して利益も得ているわけですが,合同金信は自益信託で,証券投資信託は他益信託であるということになりますし,また,いずれも企業が委託者となって従業員の生活保障を図るものでございますが,厚生年金基金信託は自益信託で,適格退職年金信託は他益信託であるといった具合でございますが,このような状況にもかかわらず規律が大幅に異なるのは相当ではないのではないかという指摘もございます。

この点につきましてはなお検討したいと考えておりますが,何か実態を踏まえた適切な規律の在り方があるようでございましたら,是非とも御審議,御意見を賜れればと存じます。

● それでは,今の二つの問題につきまして御議論いただければと思いますが,いかがでしょうか。

● この問題はやはり非常に重要だと思うのですね。信託のイメージという,だれのための信託かということを常に私も繰り返し申し上げているので,この受益者の利益の享受で,受益権の放棄だという話ですから,そこに一番関係があるところなので,ここは重要だと。

これを前振りにして,まず第1点は,最後に○○幹事がおっしゃったことと密接に関係する話だと思いますが,第45の受益権の利益の享受の部分と,受益権の放棄の部分というのは,これは基本的に任意規定なのだろうか,強行規定なのだろうかという話がやはりあると思います。

原則は,「信託契約に別段の定めがない限り」というような文章が入っているのは,当然これは任意規定だという話になりますから,大体任意規定なのかなと思って--ちょっと問題を自分の頭の中で整理して,受益権の発生の話ですね。

受益者となるかどうかについては,そういうものが書いてないので。特に通知義務のところですけれども,ないですよね。

だから,これはやはり強行規定なのかなというふうに思って聞いていたのですが,強行規定にする必要があるのかどうかというのは,これは非常に大きな問題だと思います。これが第1点です。

  二つ目の方が本当は私にとっては重要なのですが,ダイコトミーの話がありましたよね。

いわゆる自益信託の場合と他益信託の場合というので,こんなふうにはっきりルールを異にしていることというのをどういうふうに評価しているかというと,一つの反論は,日本における経済実体として,自益か他益かというのは極めてテクニカルな話だけであって,実体をあらわしていない。

だから,こういうような概念的な装置を使っても意味がないのではないかと。これは一つ重要な点だと思います。

  これは英語にならないんですね,「自益信託」,「他益信託」というのは。それに当たる英語はないですから。

日本の学者の中には,これが一番重要な分類だというふうにおっしゃる人もいますけれども,英米では通用しない話だというのは,実際には,自益であり他益である場合が,民事信託の場合ですけれども,相当にある。

つまり,共同受益者の一人になっていてというケースが,生前信託の場合は典型的にはそうなんですね。

だから,今,私の頭の中では民事信託を考えているのですけれども,まず自分が受益者にもなり,しかし,その後,ほかの家族,配偶者,子供が受益者になる,それで連続的になっていくというような仕組みを考えた場合に,自分が受益権を放棄することができないというのは何だかおかしいのですね。

受益権を放棄することをすれば,ほかの人たちのためになりますから。だから,そういう自益か他益かというダイコトミーではなくて,それが複合される,自益アンド他益というケースの方を想定して彼らはルールをつくっているのです。

だから,そういう意味から言っても,この二つの区分というのは,日本での今ある経済的なというか取引のための信託ということを想定すれば,それはそうかもしれない。

しかし,将来起こるような,英米と同じような形の民事信託が発展するのかどうかというのはこれから見ないといけないけれども,そういう形の信託になった場合に,このようなことをやっているとちょっと困るんじゃないかというのが二つ目です。

  それに関連させて,結局,強行規定,任意規定のところに話を持っていこうと思っているのは,私は,こういったものを強行規定にする必要はなくて,それぞれがきちっとしたリスクの引受けが本当になされているような取引関係のところであれば,それはそれでいいと思うのです。

  ちょっと,最後,何か疲れてしまって,うまくまとまらないのですが。

  済みません,後でもう一回,発言の機会があればと思いますが,一言だけ。

いわゆる他益信託の場合で,私の考えは,とにかく本来は受益者にリスクを負わせるようなものは信託ではないと思っているのです。それが原則なんですね。

ただ,自益信託の場合については,こういうような定めをするということには理解できる部分があるのですが,いわゆる他益信託の場合で,○○幹事は,図らずもか,意識的にか分かりませんが,当該者が受益を承認した場合には信託行為に定めがない限り受益権を放棄することはできないものとするというのは,受益権の放棄の放棄だというふうにおっしゃった。

それだったら,この受益の承認ということの意味が,後の注のところでも問題になっていますよね,一体これは何なのだと。

という話なので,はっきり信託行為の中で受益者が受益権の放棄はもはやできないことにするということをうたって,そこへチェックして,それでリスクを引き受けるというならともかく。という形で,極めて限定した話にした方がいいと私は感じました。

● この問題は,○○委員が言われたように,だれが基本的にリスクを負うべきかという,簡単に言えば現在の36条みたいな問題ですけれども,そういう補償請求権の有無と密接に絡んでいるわけですよね。

少なくとも理論的には区別できますけれども,デフォルトのルールが何になるかによって大分意味が違ってくるので。

そういう観点から,今,御質問があったのだと思いますけれども,また後で議論させていただくとして。

● 私の方は,第45の「受益者の利益の享受について」という部分について申し上げたいと思います。

  ここの規律につきましては,1の「受益権の取得時期」というところの記載については,現行法を踏襲ということですので,まあこういうことだろうなというふうに思います。

 2と3につきましても,受託者が受益者について通知をするのだろうなというところはありますし,催告もするのだろうなと,そういう意味合いでは割と自然に入ってくるのですが,ただ,例えば2であれば,通知義務という形で義務化されているということと,催告権という形で催告したことによっての効果が生じると,こういうことになりますと,はたと考えるところが出てきまして,それに関して若干の質問と意見をということなのですけれども。

  まず,質問の方なのですけれども,これは非常に基本的な質問でお恥ずかしいのですけれども,ここで言う通知義務の相手方と催告の相手方なのですけれども,この受益者というものの能力といいますか,意思能力と行為能力というのはどういうふうに考えたらいいのかというのが一つあります。

例えば催告の方で考えますと,やはり行為能力がないといけないんじゃないかなと。

その場合に,ぱっと考えてよくある信託のパターンとして,民事的な信託で考えますと,おじいさんが孫に受益権を与えて給付しましょうといったときに,親に対して--済みません,行為能力というふうに考えると,未成年の場合は親に対して催告すると。

そうすると,親と子供との関係からすると利益相反関係になりますので,特別代理人みたいな形の選任が必要になってくると。何かここまで大掛かりなものが必要なのかなというのが一つ。

ただ,リスクがあるのであれば,これは仕方がないのかなと,自問自答ですけれども,そんな感じがいたします。

  ただ,通知義務というところで考えますと,果たしてこういうような義務というところまでのものが必要なのだろうかという気がいたします。

先ほどのシチュエーションでいきますと,多分おじいさんは親に対して教えたくないというのが普通ではないかなということですので,例えば未成年の子供の親が親権者であって,その人に対してしか通知できないとすれば--要するに通知したくないなというようなパターンというのは多いと思うのですけれども,そのときの対応ができないかなという感じがしまして,これが非常に異例なところだったらいいのですけれども,こういうような信託というのは割とよく考えられるのではないかと思いますので,ここら辺について通知義務というのはどうしても外せないものなんだよということであるとすれば,すべてデフォルト・ルールにしていただけないかなということです。

  ここの部分につきましては,後から議論の対象になります第46のところにも通じる部分がありますので,ここの部分についても同様の対応をお願いできればということでございます。

● 私の意見も○○委員とほぼ同じなのですけれども,それにつけ加えるという意味で,まず第45に関しての通知義務に関するお話と,それから第51についての若干の質問ということです。

  まず,第45につきましては,やはり通知義務というのはデフォルト化できないかということでございます。

  まず最初に,そもそも通知義務の有無ということについてのデフォルト化ということでございますが,これは,先ほど○○委員がおっしゃられたとおり,民事信託だったとしても,遺言信託で,先ほどは親に知らせたくないということもあったと思うのですけれども,そもそも本人に知らせたくないと。

例えば,私が死ぬまでは頑張って勉強してほしいと。もしこれが,実質上遺産が承継されるのであればもう努力することができないからということで,死ぬまで,ぎりぎりまで知らせたくないというニーズは意外と多いのではないのかなというふうに思っております。

そういったときにもあえて通知義務という形でしてしまえば,そもそもそういう遺言信託のスキーム自体が壊れてしまうことがあるのかなというふうに思っております。

  また,商事信託の場合でも,例えばエスクローにおいて,よく第1受益権,第2受益権という形で設定しておいて,ある条件が成就した場合に第1受益権の支払いがなくなって,第2受益権が発生するという場合がございます。

その第2受益権が多数の場合において,今度は受託者としての身勝手な話かもしれませんけれども,非常に事務コストが高い,かつ,そういうニーズが余りないという場合に,あえてそこまでする必要があるのかというような商事信託はあるのではないかというふうに思っております。

  そこで,これは質問もあるわけですけれども,ここで言う「指定された者」というものの概念自体が,一応受益権として確定している,特定しているという場合であったとしても,実質上経済的な効果があらわれたくないという場合においてもやはり知らしめるというのは不合理な場合もあるわけですので,そういう意味においても,通知義務というのはデフォルトとしておいた方がいいということもあるということでございます。

  それから,細かい話ですけれども,二つ目の通知義務者の任意化ということですけれども,特に当初,第46の問題は別として,最初の場合,仮に受益者保護の観点から何らかの通知が必要であるというふうにしたとしても,第45の,特に設定の場合においては,別に受託者がその指定された者に対して通知をする必要はないのではないかと。

委託者が直接通知した方がいいこともあるし,その方が便宜ということもあると思いますので,仮に通知義務は必ず必要であるというふうにしたとしても,通知義務者がだれであるのかということはなお検討の余地があるのではないかというふうに思っております。

  続きまして,第51の話ですが,これは質問ですが,先ほどの○○幹事の御説明及び部会資料の39ページから40ページにかけてのことでございますが,承認する場合に,「信託から生じる利益及び不利益を十分に認識したうえで受益を承認した場合」というふうに書いてございます。

最初の質問は,まずこれは要件なのかということです。次に,十分に認識していなかった場合に一体どうなるのかという話です。

3番目に,これが一番大事なのですが,だれがその説明責任を負うのかということです。

これは,まだ確定的に受益者になっていない者に対する受託者の善管注意義務ないしは忠実義務という話になるのか,そこら辺の理屈の話も含めて,ここの記述をなぜ「十分に認識」にしたのかということをお伺いしたいと思います。

仮にこれが例えば商事信託で,かつ金融商品云々ということであれば,それは業法の問題なのかなというふうにも思ったものですから,あえてこういう質問をいたす次第でございます。

● それでは,順次,可能な範囲でお答えいたしたいと思います。

  まず一番最初に,○○委員の方からございました,第45の規律が任意規定かどうかというところ,あるいは受益権の発生時期というところについてお答えしますと,受益権の発生時期は信託行為を設定したときであって,かつ受益の意思表示を要しないでというところは,これは基本的には任意規定でいいのではないかと。

○○委員もそれでいいのではないかとおっしゃっていただけたかと思いますが,任意規定でいいのではないかというふうに考えております。

もちろん,受益者の利益保護という観点もございますが,やはり信託を設定している委託者の意思にかなう,受益の意思を要しないで受益権を享受できるとする方が委託者の意思にかなうという点を重視しておりますので,委託者が受益の意思が必要だというふうに設定したのであれば,それを尊重していけばいいのではないかと考えているところでございます。

  もう一つの点は後で御説明するといたしまして,○○委員の方からございました通知の相手方につきましては,もしも相手方が能力が足りない方のような場合には,代理人ですとか,あるいは信託管理人に対して通知をするのであろうと思うところでございます。

  あと,○○委員とも重なりますけれども,デフォルト・ルールとできないかというところにつきましては,なかなか難しい問題がございまして……。

難しいというのは,できないという意味ではなくて,どちらがいいのかというふうに事務局では考えていると。

あくまで受益者の保護につながるという観点からすると,やはり強行規定的に考えた方がいいわけですが,しかし,今おっしゃったように,委託者の中には一定の時期が来るまで言いたくないというニーズは十分あるだろうと,それはやはり尊重する必要がある場合は幾らでもあるかと思います。

したがいまして,そのように信託行為で定めれば,基本的には任意規定ということで,通知義務を受託者に課す必要はないのではないかなという気がしているところでございます。

  ただ,その場合におきましても,全く通知しないでいいかどうかという点が一つございまして,これは○○委員からもございましたけれども,受託者がする必要はないだろうというのは,それはそうかと思いますので,その場合には委託者がすると。

更にそれを強行規定とするかどうかという点は問題でございますが,最初に私が言いましたところにかんがみますと,そこも委託者が信託行為で任意規定としているのであれば,必ず委託者が通知しなければならないというところまで強行規定にしなくてもいいのではないかというふうに,現時点では思っているところでございます。

  したがいまして,結論的には,全体的に任意規定であるということでいかがかと思いますが,もしも御意見があれば,是非とも,ここは受益者保護の観点にもつながりますので,伺いたいところでございます。

  それから,○○委員から御質問のありました(注1)の関係で,利益・不利益を十分認識した上でという点は,これは要件というか,それが前提条件だというふうに考えておりまして,認識しないでいた場合はどうかというと,それは結局,受益権の承認,いわば放棄権の放棄という効果が発生しませんので,また放棄できるというか,放棄の権利が奪われないということになると考えております。

  なお,だれが説明責任を負うのかという観点でございますが,これはやはり受託者ではないかと考えているところでございまして,確かに確定的な受益者にはなっていないとおっしゃられましたが,しかし,第45で説明しましたように,意思表示をしなくても,将来地位を失う可能性があるとはいえ,受益者になるわけでございますので,やはりそのような者に対して善管注意義務及び忠実義務を負う受託者が説明をするというのが筋ではないかと考えるところでございます。

  最後に,一番難しいのが,○○委員が御質問というかお話しになられました,自益・他益の区別の当否というところでございまして,実はこれは事務局としても困っているところでございます。

御承知のとおり,受益者に対して補償債務を負うかどうかという規律がどうなるかというのがやはり一番大きなところでございますので,それとの関係が決まらないと,ここについても議論がしにくいという点があるわけでございますが,私どもとしましては,自益・他益というのが確かに形式的な区別になってしまいかねないという点は懸念しているところでございまして,何か,例えば自ら利益を得ている者は放棄できないとか,そういう実態を踏まえた規律があれば,その方が本当は望ましいとは思うわけでございますが,なかなかそのような規律を明文的にすることもできないということもありまして,一応,自益・他益,しかも信託設定時で分けているというところで落ち着かせているところでございます。

ただ,ここは是非とも,ほかの先生方からも,よりよい規律の仕方があれば,御意見をいただきたいというふうに思っているところでございます。

  とりあえず,以上でございます。

● 先ほど○○委員が,生前は自分で,その後他人にという例を挙げられましたけれども,そういう場合をこれは必ずしも念頭に置いていないかもしれませんけれども,考え方によっては,自分を受益者にしている部分は自益信託であって,その後の2番目の,連続受益者の次のは他益信託だという形で適用することはできないわけではないかもしれませんね,形上は。

● 経時的にではなくて,同時的な場合ももちろんあるのですね。

  それで,○○委員がおっしゃってくださったように,これが問題になるのは,結局,受益権が権利的なところでだけであれば何の問題もなくて,もっと簡単な規律でできるところが,補償請求権という--補償義務というのですかね,逆に言えば,義務を伴う受益権だという話が日本ではあり得るので,そうすると非常に慎重にならざるを得ないということなんですよ。

だから,あそこのところが本当にクリアになって,補償請求権というのが,ほとんどの場合というか,本当にビジネスで,いわばジョイントベンチャーでやっているのだというような話,一種信託というスキームを利用しているだけであって,という話であれば,それはまたそれで別のスキームがちゃんとできると思うのですが,一般の信託においては補償請求権というのがどうなのかというのが根本的な疑問としてあるものだから,さっきのような話になる。

  もう一言だけ追加。第45の方が任意規定で,第51の基本のところは強行規定なのですね。第45についても,ほかの方と同じように私も確かめたかったので,2と3のところですね,さっきは言葉足らずで,通知義務と何とかについては,今おっしゃったように,これは任意規定だというふうにお考えだということですか。

● それは任意規定で……。

● 議論が残るけれども,一言だけ言うと,アメリカでも非常に大きな議論があって,ここで言うところの通知義務は米国統一信託法典では強行規定にしたのだけれども,採択した州ではそれを外している例が随分あるのです。ですから,非常に難しい問題だということはあるけれども,一応任意規定だと。

  第51の方は強行規定なんですよね。

● これは「信託行為に別段の定めがない限り」と,事務局としては任意規定だと考えておりますが。ですから,自益信託でも放棄できるということを信託行為に書いてあれば,放棄できるという形になります。

● これは任意規定でしょうね,恐らく。

● 分かりました。

● また議論があれば,後で伺うとして。

● 受益権の放棄の問題について,意見を述べさせていただきたいのですが。

  現行法に比して,今回の御提案の趣旨というのは,かなり費用償還請求が受託者の立場からしやすくなるという規定になっているというふうに受けとめております。

今,○○委員からありましたように,基本的に,規定の在り方が,間接的に受益者に無限責任を負わせる場面が増えるという規定になっているものですから,これは一般の人が商品として買う場合にはかなりのハイリスク商品になるのではないかというふうに受けとめられます。

そうするとすれば,もし一般の市民にこういったものが売られるということを想定されているのであれば,やはりこういった制度設計には慎重であるべきと考えます。

  それから,受託者の信託の運営という観点からも,信託の運営というのは信託財産の範囲内で行われるというのが本来的な在り方ではないかというふうに思います。

そうした運営が確保されるという観点からすると,制度設計の在り方としては,受益者に対して費用償還請求が行いやすい制度よりも,行いにくい制度を設計した方がいいのではないかというふうに思われます。

受益者の方に請求しやすいということになれば,どうしても管理が甘くなってしまうということは,これはあり得ることではないかということで,このような観点から,やはり受益者に対して簡単に費用償還請求ができるような制度設計というのはしない方がいいのではないかというような感想を持っております。

 このような観点からしますと,御提案になっておられますように,広く受益者に対する費用償還請求権を認めるような制度設計とか,あるいは将来的な受益権の放棄についても制限できるという制度については,やはりにわかには賛成できないものがあります。

仮にこのような制度をするのであれば,先ほど○○委員からも多少御意見があったやに思いますけれども,やはり受益者がリスクの負担といいますか責任の負担というものをきちんと認識できる形でないと,こういった責任を負わせるというのはまずいのではないかと。

そういった観点からしますと,受益権の放棄という形でこういった責任を課すよりも,やはりここはきちんと間接的な無限責任を課すのだというようなことを承諾するといいますか,そういった制度設計が本来あるべき形なのではないかというふうに思います。

● 今のも非常に根本にかかわる問題だと思いますけれども,若干私の理解を申し上げますと,第1には,デフォルト・ルールとして受益者に対する費用償還請求権というものを認めるのか認めないのかと。

仮に認める,多少この辺は認めた場合のことを考慮しながらできているルールがあると思いますけれども,いずれにせよ,認めるか認めないか。

 しかし,いずれもデフォルト・ルールですから,受益者に対する補償請求権を認めない場合にも,信託行為でもって認めるというタイプのもあり得るわけですね。そのときにこれらの規定がどうかというのが,また2段目で問題になる。

  恐らく今の○○幹事のは両方を念頭に置いておられると思いますけれども,両方ある意味では関連するものですから,先ほどから議論になっている,補償請求権のところのイメージが決まらないとなかなか議論がしにくいというところは確かにあるのですね。

ただ,補償請求権をどうするかについては重要な問題ですので,少し先延ばしして,皆さんの御意見をいろいろ伺ってから決めたいと考えていますので,ちょっと分かりにくい点があるのではないかと思います。

● 細かい点を2点と,一つ大きい点なのですが。

  細かい点は確認みたいなことなのですが,一つ目は,今お話がありました受益権の放棄の強行法規性ですが,第51の1は任意規定ですけれども,2は強行規定ですよね。

(注3)がある本文に書いてあるとおり,「これに反する信託行為の定めは許されない」ということですから,放棄しないというこの原案は,他益信託において放棄しないというふうに定めることはできないと。

これは確認です。それを前提に意見を申し上げます。

  二つ目の細かい点は,○○委員がおっしゃっているように,もう論点は出尽くしていると思いますけれども,私法のルールとしては,私の理解では,(注1)にある,利益・不利益を分かっていれば,いわばリスクが移転する,分かっていなければ移転しないということですから,それでいいと思いますね。

そういうふうに決まれば,業法などでは,説明しなければならないという義務を課すことがあって,それに違反すれば,行政処分とか,そういうものになるということです。

私法のルールでは,それはこうなる,こうなればああするというか,要は要件・効果ですから,ここでの考え方はそういう考え方,どういう考え方でどういうルールを定めるかということが問題だと思います。

  以上が小さな点です。

  大きな点は,○○幹事も○○委員もおっしゃっていることで,私は○○委員のおっしゃっていることに実質的には非常に近いのですけれども,多少違った表現で若干申し上げます。もう論点は出尽くしているかもしれません。

  私も,従来から,自益・他益というのは,そういう理屈は理屈として成り立ち得る理屈だとは思いますけれども,やはり非常に形式的でテクニカルではないかというふうに思ってきました。

  ○○幹事が既に御指摘されましたように,日本では,年金信託,運用型の信託,これらは,経済実態から言えば,年金であれ運用であれ,投資家というかお金を出す人がいて,その人へ運用益,あるいは年金の場合には年金の給付がなされる。

その仕組みをどう作るかというのは,必ずしも信託の仕組みだけが使われてきたわけではありませんで,年金の場合で言えば,保険会社も運用してきているわけですから,保険の仕組みも使われているわけです。

  いずれにしても,そういう中で,信託を使う場合に,自益という形を使うものもあれば,他益という形を使うものもある。

もう一つ違ったタイプとしてつけ加えるならば,流動化型と呼ばれているものでも,他益でつくっているものもありますし,自益でつくっているものもあります。

  例えば,証券取引法を適用するために,金銭債権信託と言っていますけれども,証券取引法2条2項1号という有名な類型がありますけれども,わざわざ自益にして,それはなぜわざわざ自益にするかというと,委託者兼当初受益者をもって証券取引法上のみなし有価証券の発行者にして,そこに証券取引法上のディスクロージャー義務をかけると,こういう構造をつくり出すために,言ってみればテクニカルに,本来なら他益でも自益でもいいはずなのですけれども,私法上の仕組みから言えば,それをわざわざ自益につくっているという例があるわけです。

  したがって--という言い方がいいかどうか分かりませんけれども,自益・他益という区別は,少なくとも今行われているものについては,この放棄という点について説明が非常につきにくい。もしルールを分けるとしますとですね。

  それで,実態はというと,よく外国で使われる言葉ですけれども,○○委員や私がよく使っている,「ディールかギフトか」という言い方をするのですけれども,信託の仕組みの原因関係というのでしょうか,「商事か民事か」と言ってもいいのかもしれませんけれども,これが,ギフトというか贈与であって,受益者が何かただでもらうというような類型のものと,私が言いましたように,商事の場合,多くは,受益者となる者というのは実質的な経済的出捐をしているのですね。

それを投資と呼んでもいいかもしれませんけれども。したがって,それに見合った利益なりリターンを受け取ろうとする。

年金の場合でも運用の場合でもそうです。これを分けた方がよくて,最初に,もし線引きが自益・他益以外の線引きだとすると,利益をどうこうという話があったのですが,私は,本質的なのはむしろ,もしも今の言葉を使うとすれば,ディールなのかギフトなのかという気がします。それが一つの区分の基準になるように思います。

  もう一つの区分の基準は,何度も出ていることですが,利益を受ける話なのか,マイナスの義務を負う話なのか。費用償還でも,信託財産でカバーされる範囲なら恐らくいいと思いますけれども,それを超えて追加出資義務を負うという話になりますと,放棄という意味はそれを追わないという意味ですから,単に増えるプラスをもう結構ですというのとは,少なくとも経済実態としては側面が違うということが言えるかと思います。

  そういうふうに考えますと,ではどうしたらいいかということなのですけれども,私の感想で自信はありませんけれども,実質論で言うと,ディール,すなわち,投資家というか受益者となる,譲受人の場合もありますけれども,実質的な出捐をするような場合には,これは先ほど○○幹事もおっしゃったことですけれども,いわゆる有限責任と我々が呼んでいる,つまり追加出資義務は負わないという線を引くのが基本的な考え方ではないかと思います。

ただ,例外的な類型として,例えば土地信託のような場合には,当事者間で,共同事業というのでしょうか,利益も分け合うしリスクも分け合いますと,そういう特約というか契約があってもいいと思いますけれども,一般的な運用型や年金型のものについては,基本的には,信託以外の法形式のものはすべて,匿名組合であれ,有限責任組合であれ,それから株式会社であれそうですけれども,出資者の有限責任というのは法律上のルールになっていますから,原則はそういうことでいいと思います。

細かいことを言えば,金融商品の世界には,追い証というのでしょうか,後から追加義務を負うものもあるし,私法上の法形態で言えば組合形式の出資組合もありますので,いろいろ例外はあり得ると思いますけれども,基本的な考え方としては,若干の例外的な場合を除くと,基本的には契約で定めるけれども,デフォルト・ルールは有限責任であり,場合によっては有限責任を強行規定とするという考え方ではないかと思います。

  これに対して,民事というかギフトの場合ですけれども,これは普通は利益が来るだけで,恐らくマイナスになって追加出資という話は,まあ費用償還がどういう場合になされるかにもよりますけれども,余りないとは思うのですけれども,しかし,この資料にも書いてあるのですけれども,全然知らないところで自分が物をいただくような場合であっても,やはりそれは放棄する自由はあるでしょう。

それは全くそのとおりだと私は思います。特に日本の場合には,余計なことですけれども,税制なども,他益ならば贈与,自益ならそうでないというのが基本的な考え方で,特定贈与信託でしたか,要するに特別な社会政策上の理由がある場合だけ免税にしているという,そういう影響もありますので,ですから具体的に言いますと,財産が他益で来ても,キャッシュ・フローはないけれども税金は納めなければいけないということになっていますので,まあそれは付随的な理由ですけれども,いずれにしても,利益を受けても,やはり受けたくないという事由は当然あってしかるべきだと思いますので,民事の方はやはり原則は放棄オーケーであろうという気がいたします。

  それで,そうだとしますと,どういうふうにルールを設けたらよいかということなのですけれども,いろいろなつくり方があるのですけれども,一つは,もちろん,放棄という概念を使わないで組み立てるということも,費用償還プラスなんかで考える,利益の放棄とかで考えるということもあるかと思いますけれども,もし現行法との連続性を重視するのであれば,放棄は原則できることにしておいて,先ほど言いました,商事のある種の類型のものについて実質有限責任を認めるような形でのみ線を引いておく,つまり,放棄はできるのが原則だけれども,制限もしていいけれども,その制限の限界をうまく書ければ書くというようなのも一つのアプローチだと思います。

一言で言えば,やはり自益・他益というのはちょっと,これは○○委員がおっしゃったことだと思いますけれども,見誤るおそれがあって,それを使って全部書いていくと,何かうその上にうそを書いていくと,最後はうまくおさまるようなルールが書けるような気もするのですけれども,まだこの段階で私も名案はありませんけれども,もうちょっと違った概念を使ってうまく妥当なルールが書けるような気がしています。

● たくさん重要な問題点が指摘されたと思います。

  ディールとギフトの区切り方の問題ですけれども,例えば,ある人が出資というのでしょうか,お金を出して,自分が受益者になる,自分が対価としての受益権からの利益を享受するという場合には,これは○○委員の言われたディールの方に当たるのですね。

その受益権を自分自身が享受しないで,だれか別な人間に与える,そうすると,他益信託の形ですけれども,そのときの受益者というのは,確かに自分自身は払っていないけれども,○○委員のあれだとギフトになるわけですね,そのときに。

● そうなのですけれども,例えば証券投資信託の仕組みなのですけれども,形の上だけ言いますと,委託業者と呼ばれている会社が,出資というか,信託受託会社にお金を渡すのです。

それによって投資信託が成立するのです。そして,その受益権を分割して,直接,いわゆる投資家に売るわけです。

しかし,委託会社はお金を出してギフトしているという実態はないのですね。

それはどういうことかというと,当初,他益信託というテクニックを使っていますけれども,投資家からお金を集めて,その集めたお金を委託会社は受託会社に渡しているのです。

ちょっと時間的な順序として,したがって,信託がいつ成立したか,信託が成立するそれまでどういうのか,いろいろ細かい法律問題は別途ありますけれども,それもそもそも他益信託と構成するから生じる法律問題なのですけれども,まあそれは立ち入りませんけれども。

  ですから,今,○○委員のおっしゃったあれで言いますと,私がディールと呼んでいるものというのは,だれかお金を出して人に利益を帰属させるという類型は含まなくて,それはそういう意味で答えはイエスなのですけれども,多くの運用型のものというのは,合同金信でもそうですけれども--合同金信というのはもちろん委託者兼受益者になっていますけれども--証券投資信託の場合でも,形はといえば委託会社がお金を出していますけれども,お金は自分が出して人に与えているのではなくて,実質的には受益者が出しているということなのです。

ですから,そういうものとギフトというのは,世代間承継が一番典型的だとは思いますけれども,お金を出すという類型はほとんどなくて,財産管理して,そのベネフィットを,伝統的な英米における民事信託だと思いますけれども,子供とか次の世代の人に承継するという,そういう類型です。

● 私は,この区別自体はそんなにたくさん議論しなくてもいいのかと思いますけれども,ちょっと十分私が理解していないせいもありますけれども,今のように,委託者に相当する人が自分の持っている財産というか,土地だとかそういうのをだれかに信託でもって与えると,これはある意味で一種の贈与の違った形だと思いますので,こういうのは典型的なギフトなんでしょうね。

  ただ,委託者が金銭でもって出資はしているけれども,金銭をいきなり受益者に与えるのではなくて,いったん受託者に信託という形で運用してもらって,その利益が別な人間である受益者に帰属するという形をとると,これは形上は,要するに自益信託の形でもって委託者が自分でその信託からの利益を享受するタイプと余り変わらないような気がするのですね。つまり,他人にその信託の利益を与えるか,あるいは出資した自分自身が享受するかというのは余り変わらないような気がして,だから,○○委員,むしろこういうのはディールでいいのですか。

● いや,もう同じことを言っていると思うのです。私は,自分が出資して他人に利益を与えるというのはないと思います。

したがって,結論は○○委員がおっしゃっているとおりで,ディールなのですけれども,ないというのはどういうことかといいますと,証券投資信託以外の例を例にとってもいいのですけれども,実質的な出捐をする人がいまして,年金の場合で言いますと,自益信託の場合でもいいと思いますが,厚生年金基金という仕組みがどうなっているかといいますと,受益者となる人,結局,年金基金が委託者兼受益者になるわけですけれども,それは基金に法人性がありますから,ですから,それが出していて,その利益はというと,これは自益信託という形ですけれども,実質的には受給者なのですけれども,しかし,お金はもともとどこから出ていますかと言われたら,それは受給者というか,加入者と企業がどのぐらいの割合を出すかという問題はありますけれども,実質的な出捐をしている人がそこにいるわけですね。

  では企業から見ればそれは寄付しているのかというと,もしそういう議論をしていけば,それはそうではなくて,それを企業と見るかどう見るかという問題はありますけれども,働いた対価として払っているわけですから。

ディールというジャンルにおいては,ある人が出して,そのベネフィットを自分ではなくて他人に帰属させるというのは,形式的にはあるのですけれども,実質的にはそういう類型はなくて,そういう意味で,ディールかギフトかというのは非常に--○○委員がおっしゃろうとしているのは,あの類型というのはすべてディールに含めていいというふうに私は思います。

● この区別は,区別自体に,ここでそれを延々と議論するわけにはいかないと思いますけれども,先ほど○○委員が言われたように,どういうルールをそれに結びつけるかということとつながるとなると重要な問題だと思いましたので,ちょっと言及しましたけれども。

● ○○委員も○○幹事も,私の思いをもっと上手に言葉に変えて下さっているので,本当に有り難い。

  それで,○○委員のおっしゃっていることは,今,ディールとギフトという話は出ましたが,ディールですら受益権を放棄することができるというのがデフォルト・ルールですよということをおっしゃっているので,そこが一番--つまり,余りディールとギフトというのをこの場合は区別しなくてよいというところの方が重要なので,その点だけは確認をしておきたい。

  もう一つ言うと,39ページのところで,そうじゃないよと。自益信託については,ここの真ん中の文章で,委託者兼受益者が自分で設定しておきながら自由に後から離脱することは,「受託者をはじめとする利害関係人に不測の損害を与えることにかねず」と。

不測の損害を与えることには絶対ならないでしょう。

受託者は信託契約の当事者なのですから。だから,これをこういう形でデフォルト・ルールだということにして,しかし原則はこうですよとうたってしまうのは,これが何より受託者のための信託だということをはっきり出したいということ以外のものではなくて,「公平の見地に照らしても妥当ではない」というのも,受託者サイドに立っているだけで。受託者は絶対に不測の損害にはならんのですよ。ということなんですね。

 だから,デフォルト・ルールはやはり受益権を放棄することができるということに商事の世界でも普通はなっているでしょうというところを○○委員が強調してくださったので,それは非常に私は共感するところです。いわんや民事をやという。

● 根本的な話ではないところで,かつ,私の単なる聞き逃しかもしれないのですが,第45の3の催告権で,その期間内に応じなければ受益権を放棄することができないという話と,第51の受益を承認するということとの概念の関係というのはどうなっているのでしょうか。

● これも非常に重要な問題ですね。

● 今の御指摘ですが,直接的な関係ではないのではないかと。

といいますのは,第45の3というのは,催告して返事がないと承認とみなすということでございまして,これは積極的な意思表示がないわけでございます。

第51の方は,自らがリスクを知った上でそれを承認するという能動的な意思表示がある場合ですので,両方はちょっと局面が違うのではないかという気がいたしますが。

● しかし,第45の3の効果は,受益権の放棄ができなくなるということですよ。

● 効果は同じになりますが。

● そうすると,催告に応じて,このときには内容のリスクとかの説明がなくても,答えなくても,受益権の放棄ができなくなると。

● 失礼しました。当然のことながら,その催告の中で,どういうリスクがあるかということは十分伝えた上で,その上で何も意思表示をしないと,この提案では承認とみなされるということですので,受託者としてやるべき,あるいは催告者としてやるべきことは同じ,リスクの提供というか説明ということにはなります。

それで,その効果も同じでございますが,受益者がやることが異なりまして,第65の3では,無視すると承認とみなされますということでございます。

● その議論には2点疑問があるわけでありまして,先ほど,受益者であることのリスクの説明義務はだれが負うのかという話につきまして,受託者という話が出たわけですが,第45の3は,受託者その他の利害関係人に与えられている催告権でありまして,受託者がその説明義務を負うという第51のところと必ずしも整合的ではないのではないかというのが,第1点です。

  第2点は,第51のところで述べておりますような,リスクを引き受けるというふうな,受益権を放棄する権利を放棄するという積極的な行為は,自益信託・他益信託の問題はともかくとして,リスクを十分に分かった上で受益権を放棄する権利を放棄するという意思表示をしたならば,それは放棄できなくなるだろうと私も思います。

しかしながら,それは,催告期間内に催告をしなければそういうサンクションを課すことができるかという問題とはやはりかなり違うのではないかという気がするのですが。

● 前段でおっしゃいました点は,御指摘のとおり,第51であれば受託者が説明義務があるのに,第45の場合はどうかというのは,確かにちょっと整合性を欠くような嫌いがありますので,そこは検討させていただきたいと思います。

後段でおっしゃいました点でございますけれども,正におっしゃるところを私が最初にちょっと申しましたが,我々として果たしてどちらがいいのかというふうに迷っているところでございまして,一応ここでは現状を追認するという形で,無視したら承認とみなす,放棄ができなくなるとしたわけでございますが,しかし,それはやはり受益者にとって酷ではないかと。

特に遺贈の場合であれば,あれはたしか遺贈の限度で責任を負うという形に,承認とされても,なるわけでございますけれども,こちらの方では,原則として,もしも補償債務を負うような信託の設定がされていれば,それによって受ける利益を超えてまで責任を負うということにもなり得るわけでございまして,より一層受益者に対しては酷ではないかという懸念もあるところでございます。

ですから,ここは果たして受益権を放棄することができないとするのがいいのか,それとも,この場合には,受益権を放棄した,あるいは受益権を承認しなかったものとみなすのがいいのかというあたりにつきましては,正に問題視しているところでございまして,御意見をいただければと思いますが,今の○○幹事の御意見は,どちらかというと,この場合にはむしろ受益権を承認しなかったとみなした方がいいのではないかというふうに理解させていただいてよろしいのでございましょうか。

● かつ,先ほどの説明義務者の問題もあるのですが,受益権を放棄する権利を放棄するというのと,期間を区切られて何かするというのとはかなり性格が違うものであって,受益しなかったことになるというのならまだよろしいのですけれども,その間に,大丈夫です,それじゃ受益者になりますというふうに言えば,受益権を放棄する権利を放棄するという効果まで導けるのかというと……。

もちろん,信託から生じる利益・不利益を十分認識した上でそういう承認行為を行うという要件を当てはめれば,それはそれでよいのかもしれませんけれども,私は,第51のところにこのような規律があるのであるならば,第45の3の規律自体が不要なのではないかという気がいたします。

● 今の点は非常に重要な問題ですね。

● 今までの御意見の単なる整理だけかもしれませんけれども,二つの問題があって,実態としてどういう信託の場合に無限責任を負わせるのかという問題で,その切り分け方として,自益か他益かとか,あるいはディールがギフトかとか,あるいは,今日の御提案の中では,49ページに証券化されている場合は別だというような切り分けもある。ということで,まず,どういう類型について認めるかという問題が一つあると思うのです。

  もう一つの問題は,リスクの移転をどういうふうにしてするかということがあると思います。

  そこでいろいろなのが出ているのですが,幾つかの違った問題があって,受益者の能力が限定されているから何らかの手続的な保護が必要だと。

それは,例えば意思表示の受領能力をどういうふうに考えるのかとかいうこととも関係しまして,民法第98条の適用だけでいいのか,それ以上必要なのかという問題があると思います。

それから,行為能力の問題とは別に,例えば消費者である場合に,消費者契約法4条の2項のような不利益事実の不告知というような発想もあり得るのではないか。

更に,いずれでもないとしても一般的に説明義務を課すということがあり得るのではないかと。どうも手続的にどの時点でリスクを移転するのかについてもいろいろな考慮要素があると思うのです。

  大きく分けてその二つの問題があるのですが,その根っこにあるのは,なぜ無限責任を負担させることができるのかということがどうもよく分からないのです。

何となくそれが前提になっているようなのですけれども。負担をさせることが可能であって,それを幾つかに分けたりして,一定の場合にはさせる,させないというような考え方ですが,むしろ,そもそもなぜ負担させることができるのかという,そこがもし明確になれば,ではこの場合には負担させようというような逆の発想になるんじゃないかなというふうに思います。

● 先ほどの議論にも関連することですが,まだ考えがまとまっていないわけなのですけれども,信託から生じる利益及び不利益を十分認識した上ということで,先ほどの○○委員のお話にもつながるのですけれども,要件・効果という話なのですが,仮に忠実義務ということで手続義務が発生しているということであれば,それを履行しなかったという場合は,単に債務不履行ということで,損害賠償というようなことで,受益者となった者が受託者に対して損害賠償請求をすればいいという話になるのではないのかなと思っています。

例えば,私法上の契約の中で,十分に利益を説明して認識した上で回答しなかった場合の効果として,効果があらわれないと,これは当然,同意を得たか得ていないかという,そういうレベルの問題はあるわけですけれども,説明義務をいったん与えておいて,それの効果を発生させないということが,ほかの法体系と比べてどうなのかというのがちょっと分からないわけです。

むしろ,先ほど○○委員がおっしゃられたように,それは例えば消費者保護法であるとか,又は業界の金販法であるとか,そういうところで整理されて,それなりのペナルティーを与えるというふうに整理した方がいいのではないかなというふうには思っているわけなのですけれども。

  余りまとまった考えではないわけですけれども,ちょっとコメントいたします。

● 非常に大きな枠組みとしては,どういう場合にどうするかは別として,デフォルト・ルールが受益者の有限責任になるか無限責任になるか。

もちろん,放棄はどっちもあり得るのですけれども,特に補償請求権との関係で言うと,無限責任の場合には放棄というのがセットになって,一定の場合に受益者が放棄すると,その利益が守られるというのでしょうか,要するに無限責任をどこかで打ち切ることができる,恐らくそういう構造がまず大きくあるわけですね。

そのときに,さっきからの繰り返しになりますけれども,どこをデフォルト・ルールにするかによって後の問題が微妙に変わってくるという問題があります。

ただ,いずれにせよデフォルト・ルールですから,仮に有限責任だというのがデフォルト・ルールになっても,無限責任を信託行為で設定する場合があり得て,そのときまた,放棄はどうするか,その放棄のための要件というのは,今問題になったように,どういうことを説明して放棄できるようにするかということにつながってくるのだと思います。

その全体の構造について今いろいろ御議論いただいているところだと思います。

● これは,端的にこの要件というのは明文化されるわけですか。それとも,当然,私法上の考え方として,こういう認識をした上でなければそのような効果が発生しないというふうに読み込むということですか。

● 仮に条文に書かなかったとしても,恐らくそういうことが読み込まれた要件になるのではないでしょうか。

● 条文化するかどうかということはともかくといたしまして,十分なリスクの説明をしない場合には,承認という効果を生じさせることはできないということで,書かなくても当然前提要件になるということでございます。

● 錯誤無効とか,そういう法理とはまた違った法理でやるということですか。

そんなことを知ってなかったからこうしたんだよと,そういうものではなく,正しくこういう規範があって,この規範に反したからその効果が発生する,発生しないという,そういうことですか。

● 錯誤無効というか,承認という効果が生じないという意味で言いますと,その承認自体が錯誤と言えば言えるかなと思いますが,いずれにいたしましても,説明義務に違反した場合には損害賠償責任が問えるか否かというような話ではなくて,やはり説明義務を果たさない場合には承認という効果を認めることはできないというふうに考えているところでございますし,その方が受益者の保護には資すると。

損害賠償責任を問えるということよりは,やはり放棄できるという方が恐らくはるかに受益者の保護には資するというように考えているところでございます。

● この第45の3ですけれども,私も先ほど○○幹事との間でもって議論になりましたけれども,○○幹事がさっき言われたのは,この段階での承認という問題と,放棄という問題は恐らく別な問題で,この催告期間が何も意思表示がなくして徒過したときに,受益権を一応承認したものとみなされるけれども,しかし放棄はまた別ですよと,放棄はまた後からできますと。最後に言われたのはそういうことでしたか。

● ○○委員がおっしゃった問題とも関係するのですが,結局,受益の承認というものをどこまでドラスチックなものとしてとらえるかということだと思うのです。

  これは,リスクを完全に理解した上で,マイナスが出たらそれは支払いますという意思表示であるというふうに言って,そしてそれはそういう意思が特別に表明されたからそういった効果を生むのだ,そういった義務を受益者が負うようになるのだと,こういうふうに解しますと,やはりなかなかそれは認められないという方向になってきて,そう催告をして,何日間以内に答えよというふうにせっつけるような話ではないだろうという感じがするわけですね。

  それに対して,そうではなくて,受益権の承認というものがあれば自然にそういうふうな効果が発生するんだよと。

もっと類型的な話で,場合によっては,それはこんなリスクがあるとは思いませんでしたというのは正に錯誤の問題として処理されるようになるかもしれないけれども,受益者になりますという定型的な意思の中に含まれているものとして一応は考えていくんだよというふうになりますと,非常に軽いものになって,こういう催告とかにもなじむ形になると思うのです。

  私自体は前者のように理解していて,かなり分かった上で,ここの場合は引き受けるというふうに言った場合にそういう義務を負うのだと考えていますので,そうすると,やはり催告などという制度にそもそもなじまないのではないかというふうに申し上げたわけであります。

● 恐らく,受益権を承認するというときに,少しレベルの違う承認というものがあるのですね。

● そういうふうに考えてもいいのかもしれませんけれども。

● これは,例えば,信託設定してすぐに最初の段階でもって放棄するかどうかということを催告して,信託設定の段階でもう既に受益権を放棄させるようなことができるという,そういうことになるんですかね。

● 設定の段階で催告することも,この規律を維持すれば,できるということになります。

  事務局としても,受益の承認というのは大ごとであると,○○幹事のおっしゃる前者の方の考え方だというふうには考えておりまして,それであるからこそ,十分な利益と不利益の認識が必要だと考えているわけでございます。

  それにもかかわらず,いつまでたってもそのような責任を負うのかどうかというのが分からないということになると,先ほどちょっと御批判もありましたが,関係者にとっては不安定であるということから,この催告という規律を設けたということでございまして,私が勝手に思うところでございますが,○○幹事の御趣旨からすると,催告は認めるけれども,意思を表示しないときは承認しなかったものとみなすということでは足りないということになるのでしょうか。

● むしろ承認じゃないの,単なる催告の場合には。

● いえ,承認してしまうと,放棄……。

● 放棄をできなくなるような承認というのは,もっとちゃんと内容を,リスクなどを与えた  ……。

● ○○委員の放棄二元論と,○○幹事の放棄一元論とのあれですが,放棄一元論の質問として回答いたしますと,おっしゃるように放棄とみなすということでもよろしいのかもしれません。

  それと,ついでに言わせていただければ有り難いのですが,今,自益信託,他益信託という切り口での問題点が指摘されているのですが,それも確かに問題だと思うのですけれども,仮に放棄する権利を放棄するということの受益権の承認というものを結構大ごとのことだととらえましたときに,自益信託で最初につくった人,当初受益者が承認をしたから,その後は当然に承認の効果が続いていくんだよと。

これは,他益・自益と分けているから何かすごく違和感がありますけれども,結局,当初受益者であろうが,途中の受益者であろうが,だれかが承認したら,その後はずっと承認になるというだけの規律だと私は思うのですけれども,そこが本当にそれでいいのか。

それは,本当に金融商品として受益権が販売されるというふうに考えたときには,金融商品の販売にかかわる規律だけで本当にいいのか,それとも信託の問題としてそこは考えていかなければならないのかというところが実際には問題なのではないかということを,ちょっと一言だけ申し上げておきます。

● ちょっと混ぜっ返すような話になってしまうかもしれませんが,受益者に対する補償請求権があるという前提でこの辺が考えられているので,それ自体がどうもやはり信託の議論としてすごくおかしい。

日本の信託法ではおかしくないのでしょうけれども,○○委員がいつもおっしゃっているようなことで,すごくおかしい感じがして,例えば,受益者が無限責任を負うのだというのを信託行為で設定できるという前提でずっと議論が来ていますけれども,それも私は実はついていけなくて,受益者が無限責任を負うことを承諾したら,その受益者は無限責任を負うという,そういうレベルで考えていただくと,それと今の承認とか放棄とか,もう一段上のレベルの意思表示がないと,やはり受益者は無限責任を負うのは酷ということになってしまうのではないかというふうに考えています。とりあえず私の考えはそういうことです。

● 先ほどから繰り返しているだけですけれども,仮にデフォルト・ルールでもって,原則として受益者に対する補償請求権がない,だけど信託行為で定めれば補償請求権が発生するという考え方は,これは恐らく○○委員も--私が勝手にそんたくしてはいけないかもしれないけれども--特約で定めれば,それはしようがないだろうというぐらいはお考えなのだと思いますけれども,これは確認しないと。後でまた議論します。

  そうすると,信託行為のレベルでもって補償請求権が書かれてしまうと,これは従来の議論は,それはしようがないといいますか,その場合には補償請求権は発生するでしょうということを一応前提に議論してきたのですね。

 それで,今の○○委員の御意見は,信託行為でただ書くだけでも足りないのではないかと。無限責任を負うというのであれば,そのこと自体についてのもっとはっきりした承諾がなくてはいけない,そういう御意見ということでしょうか。

● はい。

● いろいろ御意見をいただきました。まだもうちょっと詰めなくてはいけない問題,特に補償請求権との関係でまだ議論があると思いますので,また全体をどこかでまとめて議論できるチャンスがあるといいと思います。

● 議論を余り継続するつもりはないのですけれども,もともとこの放棄のところは,今回は私も意見を言わないでおこうと思ったのですけれども,それは基本的に,先ほど来出ておりますように,受益者に対する補償請求権というものがどう決まるかによって,例えば先生方がおっしゃるような形で,もともとデフォルト・ルールとして受益者に行けませんということであるとすると,変な話,せめてこれぐらいのことはやってくださいよという話になりますし,それが逆転すると,私どもの方は,やはりもっと手当てをお願いしますというような話になりますので,基本的には,やはりそちらの方を詰めていただいてということでないと,なかなか私どもの方としても意見が申し上げられないかなという感じがいたします。

● せっかく1回だけ機会をいただいたので,二つだけ。

  ○○委員のおっしゃるように,私は--○○委員は,こういう極端な場合というのですか,全部書いてあってというところまでは樋口は否定しないだろうとおっしゃる。

それはそうなのですけれども,それは英米的な感じで言うと本当は信託ではないのですね。パートナーシップですから。

共同事業だという話で,双方リスクを負いますよという,そういう枠組みになりますので。

受益者に無限責任を課しているような信託というのは本当はないと私は思っているのです,英米では。だから,○○委員のおっしゃるような感じの方が私は近いのです。

  それから,○○幹事がおっしゃった,いったん承認したら後どんどん行くというのも,これは本当に金融というかそういうのとして大丈夫なんだろうかという点についても共感します。

● 二,三点補足いたしますが,先ほどから議論を伺っていますと,事務局の提案は補償請求権を前提に,受益者に酷な規律を前提にしているのではないかというようなお話があって,気にしているところでございますが,事務局としてはあくまで中立でございまして,どちらがデフォルト・ルールになるかというのは,全くまだこれから議論したいと思っているところでございます。

 ただ,○○委員が何度もおっしゃっておられますように,いずれにしてもデフォルト・ルールでございますというのが一応の考えでございますので,そうすると,仮に原則補償請求がないとしても,デフォルト・ルールですので,特約で定められれば,そのときには当然このような規律は必要になるだろうということで提案しているということを,是非とも御理解いただきたいと思います。

  あと,いったん承認したら後ずっと放棄できないのは酷ではないかというのは,事務局としてもそういう問題意識は持っておりまして,以前には,そういう場合は担保責任の規定で当事者間で処理すればいいのではないかということも申し上げたことはございますが,それに対してはいろいろな御批判もいただきまして,そのような,担保責任であるのか,あるいは,先ほど○○委員がおっしゃったように,そういう場合は個別的に承諾したら責任を負うというふうに個々に決めるべきなのか,そこら辺につきましても,なお,今日いただきました御指摘を踏まえて検討したいというふうに思います。

● それでは,次のセッション,「受益者を指定又は変更する権利について」の説明をお願いします。

● それでは,続きまして,第46の「受益者を指定又は変更する権利について」を御説明いたします。

  信託行為により受益者として指定された者は,受益の意思表示を要することなく当然に受益者となる等につきましては,先ほど御説明いたしましたとおりでございます。

この規律によりますと,原則として信託設定後は委託者等が受益者を変更することは許されないということになります。

ただし,現行法や第45の提案におきましても,信託行為で別段の定めを置くことは許容しておりまして,これによりますと,信託行為で受益者変更権を自己又は第三者に与えている場合には,当該権利の行使によって受益者の受益権を失わせることができるものと解されます。

このような別段の定めは,遺言代用の信託を始め,主として民事信託において有効に活用することができると考えられますが,現行法のもとではその法律関係が明確ではありませんので,その明確化を提案するものでございます。

  まず,1及び2でございますが,これは受託者以外の者による受益者指定権等の行使を定めるものでございます。

  ここで,受益者指定権及び受益者変更権について特に定義を設けておりませんが,受益者指定権とは,受益者が受益権を放棄した場合,あるいは受益権が受益者の一身に専属していたときに受益者が死亡した場合,これらの場合において信託存続中に受益者が存在しない場合に,新たに受益者を指定する権利と考えておりまして,変更権というのは,受益者が存在しているにもかかわらず,その受益権を剥奪して別人を新たに受益者と指定する権利と考えております。

  まず,1でございますが,これは,受託者以外の者が受益者指定権等を行使する場合においては,受託者に対する意思表示によってするものとして,その行使方法を提案しております。

その結果,指定権等の行使の効果は,受託者に当該意思表示が到達したときに生ずることになります。

  次に,2でございますが,受託者以外の者が受益者指定権等を行使する場合におきましては,遺言によってもすることができることを提案するものでございます。

他方,遺言による受益者指定権等の行使の効果は,遺言の効力発生時,すなわち,受益者指定権等を有する者が死亡したときに生ずることになりますが,遺言は,相手方のない一方的かつ単独の意思表示でございますので,受益者指定権等を有する者が死亡してから受益者指定権等が行使されたことを受託者が知るまでに一定の期間を要し,その間に受託者が,これらの権利行使がされていないという前提のもとで,従前の受益者であった者に対して信託から生ずる利益を交付すること等が考えられるところでございます。

そこで,このように遺言によって受益者指定権等が行使された場合の特殊性を考慮しまして,この場合におきましては,その内容が受託者に通知され,又は受託者がこれを知っている場合でなければ受託者に対抗できないものとして,遺言の存在及び内容を知らない受託者の保護を図ることとしております。

  次に,3は,受託者以外の者によって受益者指定権等が行使された場合の受託者の通知義務に関するものでございます。

  まず,(1)は,受益者指定権が行使された場合における通知義務について提案するものでございます。

指定権が行使されることにより新たに受益者として指定された者は,信託行為により受益者として指定された者と同様に,信託の利益を共有することに関して意思表示を要しないということになります。

その場合におきまして,受益者として有する各種の権利,これは配当を受ける権利にとどまらず,受託者に対する監督権能なども含むわけでございますが,このような権利を行使する機会を確保するためには,指定された者に対して受益者であることを認識させることが必要であると考えられます。

そこで,第45,先ほど説明しました「受益者の利益の享受について」と同じように,受託者の通知義務を提案するものでございます。

  (2)は,受益者変更権が行使された場合の通知義務について提案するものでございまして,変更権が行使されることによって受益者としての地位を失う者は,受益者変更権が行使されるまでは,将来にわたって受益者としての信託の利益を享受し得ることについて期待を有していると考えられます。

そこで,受益権を失ったことについての通知義務を受託者に課すことによって,    この期待が実現しないことを認識させ,地位を失った者が不測の損害をこうむることを防止しようとするものでございます。

  なお,この場合におきましては,新たに受益者として指定された者に対しても通知をすべきことは,先ほど説明したところと同様でございます。

次に,4でございますが,これは指定権者又は変更権者が死亡した場合に関する提案でございまして,指定権者が死亡した場合におきましては,信託行為に別段の定めがない限り,信託は終了するものとしております。

  それから,(2)でございますけれども,変更権者が死亡した場合につきましては,現在受益者である者に確定的に受益権が帰属するとしております。

もっとも,信託行為において後継の受益者変更権者の定めをしている場合や新たな受益者変更権者の選任方法が定められている場合には,受益者は確定しないとしているところでございます。

  最後に,5でございますが,これは受託者が受益者指定権者又は受益者変更権者である場合の特則に関する提案でございます。

  まず,(1)は,受託者が受益者指定権等を行使する方法に関するものでございまして,これは,受託者が自己に対して意思表示をするという1の規律によることができませんので,これとは別に規律を設けることといたしまして,まず,受益者指定権等の行使につきましては,新たに受益者となる者に対して意思表示をすべきであるというのが①でございますし,それから,変更権の行使につきましては,②のとおり,地位を失うものに対して意思表示をするというふうにさせていただいたところでございます。

  (2)につきましては,原則として,先ほど言いましたとおり,指定権等の行使は遺言ではできるわけでございますが,受託者が指定権者等である場合につきましては,遺言によってはできないということを明記したものでございます。

  (3)でございますが,これは,受託者が受益者指定権等を有する場合において,その受託者が受益者指定権等を行使せずに死亡した場合に関する提案でございます。

このような受益者指定権等の行使というのは,信託事務処理の一環であると考えられますので,このように受託者が死亡した場合には,受託者の交代に関する規律に従いまして,新たな受託者がその受益者変更権を承継するというふうに考えられると思います。

したがいまして,この場合には,先ほどの受託者以外の者が指定権を有する場合と異なりまして,受託者が死亡したとしても信託は終了しませんし,死亡した受託者が変更権を有する場合においても,受益者はこれによっては確定しない,新たな受託者がまだ指定権ないし変更権を承継しているからであるというふうに考えるものでございます。

  最後に,(注)において書かせていただきましたのは,受益者変更権の濫用防止について検討したものでございまして,信託行為により裁量的に受益者指定権等を行使できることとし,その指定権等を行使することによって受益者となった者から対価を得ることは,受益権を分割して譲渡することと同様の経済的な利益を享受しているとも考えられます。

そこで,このような指定権等の行使によって経済的利益を得られるという地位をいかに捕捉するかという問題があると思われます。

  この点に関しましては,例えば米国統一信託法典を見ますと,委託者が撤回又は変更権を留保している場合のような撤回可能信託の財産は委託者の債権者の債権の引当てとなると規定されておりますが,この提案では,受益者指定権等を有する者がいる場合においても,あくまで信託が設定されております以上は信託財産は受託者の所有財産であって,これを指定権等を有する者の財産として取り扱うことは難しいのではないかと言わざるを得ないと思われます。

  そこで,受益者指定権自体を経済的価値のある権利と認めて,これを差し押さえることができるとするか,あるいは,このような考え方が困難であれば,受益者となった者から対価を得ることが容認されているような受益者指定権を有する者は,実質的には信託による利益を享受している者,すなわち受益者であると考えまして,そのような者が享受している利益を受益権と認めて,それを差し押さえるというふうに考えることもできるのではないかと。

そうしますと,それ以上に受益者指定権等の濫用的行使を制限する規定を設けるまでの必要はないのではないかというふうにも思われるところでございますが,この点について御意見をいただきたいというふうに考えているところでございます。

● それでは,今の第46の問題について,いかがでしょうか。

  それなりに合理的な内容であると,大体そういう御理解でしょうか。

● 細かい話で恐縮ですが,2点ございます。

  一つは,先ほどの第45と同じ話なのですけれども,ここにおける通知義務というのも同じようにデフォルト・ルールというふうに考えていいのかということです。

もっとも,これは受託者が意思表示を受けなければ発生しないという場合もありますので,そうしますと,当然のことながらということがあると思いまして,そこはちょっと確認ということで,これがデフォルト・ルールなのかということを御質問したいと思います。

  もう一つは,第三者として受益者指定権を受けた者というのは,濫用の話でございますけれども,先ほど債権者からの差押えということで濫用防止するというお考えの披露があったと思いますけれども,そもそもこの指定権者というものが何らかのそれ以外の義務というのをだれかに持っているのかどうかということです。

ちょっと観念しにくいのかもしれませんけれども,何かしらの忠実義務等を負っていて,よって,何らかの不当な,わいろ等の対価を得た場合にそれを罰せられる規律があるのかどうかと。

信託の信頼性を維持するという観点からは何らかの規律があった方がいいのかなというふうには思いますけれども,他方,そういうふうに指定したのが悪いということなのかもしれませんし,又は,先ほどの提案で十分な規律であるということなのかもしれませんけれども,この点,どうお考えなのかということをお尋ねしたいと思います。

● 3の通知義務につきましては,これもやはり同じように,デフォルト・ルールでいいのではないかなという気がいたしますけれども。

指定された者に対して通知をする義務という話は,先ほどと同じ平仄を合わせる考え方で書いておりますので,あちらも先ほど説明しましたようにデフォルト・ルールでございますので,こちらもデフォルト・ルールでいいのではないかという考えでございます。

● 次に,だれがその通知義務を負うかということですけれども,先ほど,第45の場合には,別に委託者でもいいのではないのかという議論があったと思うのですけれども,この場合はそれでもいいのかと。

● この場合も,信託行為でそのように定めていれば,委託者でもいいのではないかと思われます。

● 受託者が意思表示を得た,到達があったということをもって変更権の要件としているわけですけれども,その事実を確認するかどうかというのは別として,それは委託者が別途通知をすれば,それで足りるという話ですか。

● それは受益者の権利行使の確保という観点でございますので,いつこの効力が発生するかという問題とは別として,だれかが通知すればいいということで,デフォルト・ルールでいいのではないかというふうに考えているところでございます。

  失礼ですが,もう1点は何でしたでしょうか。

● 指定権者の規律として,何らかの義務を負っているのかどうかという話,だれかに義務を負っているかという話ですけれども。

● 個人的な考えですけれども,これは信託の枠組みの中で信託行為でもってつくられるので,そういう意味では,信託の目的とかそういうものにはやはり拘束されるのだろうと思うのです。

そういうことで,やはり一定の義務というのはあるのだと思います。いろいろな受益者指定権の指定の仕方というものも,かなり狭い枠をはめている場合もあれば,非常に広い裁量権が与えられている場合もありますけれども,最低限,信託目的というものには拘束されるだろうと。

  ただ,私の感じでは,そのときに指定権者がどういう義務を負うかというのはなかなか難しそうで。

これが,受託者が指定権を持っている場合であれば,恐らく受託者の義務の中で解決するのでしょうね。ところが,第三者だということになると,これはどうなるんですかね。

● だれに対してというところは,ちょっと今,○○委員の話の前としまして,事務局の考えとしては,これは変更権,指定権を有しているのは委託者であるので,委託者と委任の関係に立つのではないかということで,委託者に対して受任者としての義務を負うのではないかと考えております。

ただ,権利をどのように行使すべきかというのは,これは,その委任契約の中でどこまでの裁量権が変更権者ないし指定権者に与えられているかということで,一義的には決まらないのではないかと。

やはり譲渡した契約の定め方とか信託行為の定め方によって異なるのではないかなという気がいたします。

● 私の理解では,この第46というのは,英語で言えばパワー・オブ・アポイントメントというのを,初めて--多分初めてなんでしょうね--日本のこの信託法の中に入れてみようと。

どうも英米ではそういうものが信託と組み合わせて使われているらしいと。私も英米についてよく分からないところがいっぱいありますけれども,そのうちの一つでもあるのですね。

  今日出てきた中では,まず,自分にとっての課題ということですけれども,二つ。

  一つは,この5のところで,話で聞くと,どちらかというと,このパワー・オブ・アポイントメントを持っている人は受託者以外の人の方が多分一般的だと思うのですが,受託者であってはいけないかというと,きっとそうでもない。

そこで,この5のところで,受託者が受益者を指定したり何なりという話になると,すぐ問題になるのは,とにかく自分のかいらいを受益者にしておいて,こことここの間に正に信認関係があるのだけれども,結局受託者が好き勝手にできるわけですよね。

ここの信認関係,信認義務,フィデュシャリー・デューティーをどうやって担保するのかという課題が向こうだってあるはずだというのが一つ。

  二つ目が,今ちょっと話に出ていたのですが,そのホルダー・オブ・パワー・オブ・アポイントメントという人たちにどういう義務があるかという話ですね。

ここでは,「受益者となった者から対価を得ることは」なんていうことで,対価を得ることが前提となっているような感じでもあるのですけれども,一般的には,まあそういう表現ではないのかもしれませんが,やはり今のは委任契約があるでしょうという話なので,そういう委任関係は向こうでは大きな意味ではフィデュシャリーですから,フィデュシャリー・デューティーの一部であることは間違いなくて,フィデュシャリー・デューティーを負っていますよということは間違いないと思うのです。

その中身で,受託者の負うフィデュシャリー・デューティーと,このパワー・オブ・アポイントメントのホルダーが負っているところの信認義務というのがどの程度違うのかという話だと思います。

  最後にもう1点だけつけ加えて,今度は(注)のところで,これはちょっとあいまいな言い方で申し訳ないのですが,このパワー・オブ・アポイントメントを持っている人は,アメリカでは割に重い義務があるらしいのですね。

ここで全部当該者が享受している利益を差し押さえることができるかどうかというところまでは,ちょっと私,分からないのですが。

  それから,これから言うことも意味が分からない。税法上はもうパワー・オブ・アポイントメントのホルダーの間でも,税法上の何かの負担がかかってきてもしようがないように思われているという話をちょっと聞いたことがあるのです。これはもう伝聞だけなので。

  二つの課題ではなくて,三つ目の課題まで申し上げて,コメントとします。

● 受益者を指定又は変更するその行使の方法について,1点御質問させていただきたいと思うのですが。

  この第46の1では,受託者に対する意思表示によってするというふうに方法が厳格に限定されておりまして,4の(1)のところで,指定権を行使せずに死亡したようなときには信託は終了するという非常にドラスチックな重い効果と結びついております。

私がやや疑問に思いましたのは,受託者には通知していないのだけれども,指定権者の意思としては明らかである,だれかを指定するということが明らかである場合に,単に受託者への通知を対抗要件にとどめずに,効力要件としているかのように読めるのですけれども,そのようにした理由はなぜでしょうかということを1点お聞かせいただければと存じます。

● ここで効力要件というふうにいたしましたのは,まず一つは,もし対抗要件としますと,相手方のない意思表示のようなことになりまして,一体いつ効力が発生したか分からないという点が一つあります。

それから,対抗要件とすると,受託者は,利益を例えば変更前の受益者に給付してしまうような場合がありまして,そうしますと,受託者は対抗されないからよいのですが,前受益者と新受益者との間では紛争が生じ得ます。

そのような観点からも,一体いつ受益者の地位が交代されたのかということがはっきりすることが適当であり,受託者に対する意思表示ということをもって,いつ効果が発生したかを明確にするのが妥当ではないかということで,対抗要件ではなくて,効力発生要件という規律にしたわけでございます。

● よろしいですか,○○幹事。

● 御説明は分かりました。

● 先ほども少し議論に出てまいりましたが,9ページの一番下から10ページにかけての(注)について,質問なのですけれども。

  この指定権というのは一種の形成権だということになるのだと思うのですが,9ページの(注)の見出し,「受益者変更権の濫用防止について」,あるいは,10ページの中ほどの,「そこで,」で始まる段落に書いてある中身を読みますと,その問題意識は,指定権行使の濫用防止をどうするかというようにも読めますが,しかし,例えばその上の,「しかしながら,」で始まる段落,あるいは,最後の,「この点に関しては,」の段落を読みますと,指定権自体,あるいは指定権を有する地位というのでしょうか,これが経済的な価値のある権利なんだから差押え可能じゃなきゃおかしいじゃないかというようにも読める。どちらに焦点がある話なのかよく分からないなというのが質問の第1で,仮に後者としますと,その他財産権等差し押さえることになるのだと思うのですが,一体どういうふうになるのか,差し押さえた後どうなるのか,全然イメージがわかないので,もし何かお考えがあれば教えていただきたいというのが2点目です。

● まず第1点目は,確かにタイトルは濫用防止で,しかし,ねらいは差押えになっておりますが,一つ言えるのは,ここでやりたいことは,受益者変更権者が自らの利益を得るような,言ってみれば差押え対象となるような財産をつくり出すことによって不当な利益を得るようなことを防ぎたい,不当な利益を得られる地位を捕捉することができれば結局濫用も防げるのではないかということで,濫用防止のための方策としては,差押えができることであればいいのではないかと考えたわけでございます。

もちろん,濫用してはならないという規定を設ければ,それは一つの方法でございますが,それに違反した場合にどうなるかということがございますので,それよりはむしろ,そのような受益者変更権自体,あるいはそのような権利を有するという地位を差し押さえることができれば,結局濫用によって得られる利益がなくなりますので,濫用もされなくなるのではないかというように考えているところでございます。

● 第2点は第1点をクリアした後の話ですので,あれなのですが,そうしますと,今のお話は,受益者変更権を有する者に対してだれかが債務名義を持っている場合だけ濫用防止ができるということになるわけでしょうか。

しかし,お話を伺っていますと,そういうシチュエーションに限らず,一般的に広く,ここで言うところの濫用を防止する必要があるのではないかという気がいたしますが。

● 確かに,差押えとなると債務名義がないとできませんので,御指摘のとおり,債務名義がないと濫用防止はできないわけですが,債務名義がない場合については,結局そういう場合には受益者変更権者に対する債務名義をとればいいのではないかなという……。やや乱暴な言い方ですが。

● しかし,だれも債権を持っていなければ,債務名義のとりようもないわけですし,その債務名義の基礎になる権利というのは,信託とは全く関係のない債権なわけですよね,普通は。

何かないと裁量権をコントロールできないというのは,何かえらくターゲットの狭い話のような気がするのですが。

● 説明の中にも書いてございますが,ここでのねらいは,強制執行ができないような経済的価値のある権利を容認したくないということでございますので,債務名義もない,何ら債務を負っていないような変更権者であれば,それをどのように行使して利益を得ても,別にだれも害されないのではないかという気がいたしますが。まあ,一つの考えでございますけれども。

● 今の○○幹事の御質問との関係での関連ですが,「差し押さえることができると考えればよいと思われるが,どうか」というふうに締めくくっておられるのですが,法務省として何かしようと思っておられるのでしょうか。

● 受益者指定権自体がもしも差押え可能なその他財産権といえるとしますと,譲渡命令か何かで債権者が自分で譲渡を受けて,それで受益者変更権を行使して自分の債務者を受益者にして,その受益権を差し押さえていくというような方法があるのかなと。

● いや,そういう,方法としてどうこうというものではなくて,要は,何か立法的にこう解決しようというおつもりで書いておられるのか,こういうふうに解釈できるので裁判所はよろしくねというふうにおっしゃっておられるのかということなのですが。

● ただ,とりあえず濫用防止という観点から解釈論としてこういうことがということになられたわけですけれども,立法の形にならないということであれば,そこは全く闇の中ということで,だれがそういう解釈を伝えていくのかという問題で,結局この部会での内輪の議論で終わってしまうのではないかという気はいたします。

● 今のお話なのですけれども,(注)の意味自体が私自身は必ずしも分かっておりませんで,先ほどの説明やこの文案を読みますと,何が問題かというと,強制執行できない財産権をつくり出すということで,差押禁止財産をつくり出すことが問題ではないかというような問題意識のようにも思われ,そうであるとすると,信託行為によって与えられた指定権の適切な行使がされないという話とはやはり全然別ではないのかと。

それから,その後の方--後の方と申しますのは,差押禁止財産のようなものをつくり出すのが問題で,そうだとすると,差押えできるようにすればそれでいいじゃないかという点についてなのですが,○○幹事から御質問があった,差し押さえた後どうなるのかという話で,財産権として十分活用して,例えば売ってしまうというようなことになりますと,この指定権を行使する人は別の人が行使するということになるのかどうか,そういうような考え方をとった場合に,4で,この指定権を有する者が死亡したときというのは基本的に終了する,これは多分,個人的な信頼に依拠しているから,この人だけに行使させるのが適切だという考え方にのっとっているのだと思うのですけれども,差押えできて,ほかの人が権利者となっても構わないのだという説明はどう整合していくのかというのが疑問に思われますので,お考えをお聞かせ願えればと思います。

● こういうことができないかという意見なのですけれども。

このできる場合は,もしかしたらかなり限定されるのかという気がするのですけれども,例えば債権者が受益者指定権を代位行使するということがもし可能であれば,それを代位行使して受益者を確定した上で受益権を押さえるということはできないでしょうか。

● ちょっと関連している問題ですね。

● 代位行使という方法も考えたことがありますが,それよりはむしろ,代位行使される権利を持っている者の財産と認めて直接押さえていった方が簡明ではないかというような考えもありましたし,代位行使となると,もとの被代位債権が条件つきであるような場合については機能しないというような問題もありますので,そのような方法は直截的ではないだろうということで,それは落としています。

  あと,○○幹事のおっしゃった点は十分考えていないところでございまして,確かに死亡の場合には相続されないということですが,あとは変更権者が変わった場合,やはりちょっと……,変更権を与えられた趣旨にもよると思いまして,もしそれがある者の一身専属的なもの--通常はそうだと思うのですが--だとすると,譲渡命令というか,第三者が取得した場合は難しいかなというのが答えになりまして,そうすると,受益者変更権を押さえるというのは難しいということで,これはまた考え直したいというふうに思います。

考えたところといいますのは,受益権を行使して利益を得られるような者はもう受益者と同視できると考えて,受益権を差し押さえると。

事務局としては,そのような利益を得る地位を差し押さえたいという気持ちがあったわけでございますが,漠然とした地位ということでは執行の対象財産にならないので,受益権という形にすれば差し押さえやすくなるのではないかと考えられましたので,このような考え方も示したわけでございます。

あくまで,これが事務局の案というよりは,今,試行錯誤の過程でございますが,いかがでしょうか。

● もし御意見があれば,どうぞ。

● きちんと問題を把握していないかと思うのですが,受益権とみなして差押えができるとすることと,しかし,その内実が受益権そのものに転じるかというと,あくまで指定権ということで,かつ,指定権の行使者というのがこの個人に限定するというところが変わらないのであれば,その問題は残るように思うのですが。

● 形だけ受益権としていても,実は変更権であるとなると,最初におっしゃった問題が出てくるということですね。

● ですから,受益権とみなすということは,逆にそこを取り払って,別にだれが行使してもいいというふうにして,ただ相続だけは排除するという,そういう説明なのかと思いますけれども。

● もう一度検討したいと思いますが,むしろ端的に,受益者変更権を濫用してはならないというような規定を設けるしかないかなというところでしょうか。

● なかなか,ちょっと規定の仕方はまた難しい。また,今のような濫用してはならないという規定でどういう効果が生じるのかも,もうちょっと詰めなくてはいけないと思いますけれども,少なくとも指定権の問題として考えたときに,だれかほかの人間が強制執行を介して行使できるというのは,指定権の趣旨からするとちょっとおかしいような気がしますね。

  これはもうちょっと詰めて,また議論していただくということにしましょう。

● ちょっと今までの議論とは違いまして,第45の方でお聞きした方がよかったかもしれないのですが,共通するのですけれども,通知義務との関係でこの効果はどういうふうにお考えなのかということの確認です。

一つ考えられますのは,今日の資料の53ページの受益債権の消滅時効がいつから始まるかで,「受益者として指定された者が受益者となったことを知った後でなければ」とありますので,これと結びついているのかなというふうにも思ったのですが,そういう理解でよろしいのか,あるいはそれ以外にも何か効果をお考えなのか,確認ですが。

● いえ,ここは通知をすることによって受益者になったということを認識させるということをねらっているにとどまるものでございまして,それ以外に特に効果が生ずるというものではないと考えておりますが。

● 時効とは関係するという理解でよろしいのでしょうか。

● 時効の通知とはまたちょっと別でございます。時効の通知につきましては,あれは忠実義務の言ってみれば消極的な解除の必要性という観点から……。

● そのこととは違いまして,53ページの第54の1の(1)。

● 起算点の関係ですか。そちらにつきましては,起算点に絡む問題かというふうに考えておりまして,通知を受けて受益者と知った時点が起算点ということになります。

● そうしますと,通知を受ける側の資格とか能力とかというのは何かお考えになっていらっしゃいますでしょうか。

● もし能力に欠けるような者であれば,その代理人が通知を受けてということになるのではないかと思います。

● よろしいですか。

  このテーマについて,まだ御意見があれば。--よろしいでしょうか。

  それでは,ここで休憩をさせていただきます。

            (休     憩)

● それでは,再開させていただきたいと思います。

  それでは,信託管理人についてでございます。

● それでは,信託管理人についての説明に移らせていただきます。第47でございます。

  信託管理人とは,受益者のために自己の名をもって信託に関する受益者の権利を行使し,それにより受託者の職務執行を監督する者でございまして,現行法は第8条において信託管理人に関する規律を設けております。

この現行法の規律に対しましては,不特定又は未存在の受益者がある場合に限って信託管理人を置くことができるかのような規律となっているのは,受益者保護の観点から狭きに失するのではないかとの指摘ですとか,信託管理人の権限や義務等に関する規律が不明確ではないかなどの指摘がされております。

今回の提案は,これらの指摘を踏まえまして,信託管理人に関する規定の整備を提案するものでございます。

  まず,1ですが,これは信託管理人の選任に関する提案でございます。

  このうち,(1)は信託行為の定めに基づく信託管理人の選任,(2)は裁判所の決定に基づく信託管理人の選任,(3)は受益者の意思に基づく信託管理人の選任について,それぞれ提案しております。

  現行法の規律からの主な変更点といたしましては,まず,信託行為に定めを置いた場合には,受益者が不特定又は未存在の場合に限られることなく信託管理人を置くことができることを明らかにしたこと,2点目といたしまして,裁判所は,受益者の不特定又は未存在の場合に限らず,受益者を保護するために必要があると認められるときには,利害関係人の申立てによって信託管理人を選任できるとして,裁判所による信託管理人の選任の余地を広げたこと,他方で,裁判所が職権で信託管理人を選任するとはしないとしたこと,それから,資産流動化法の権利者集会によって受益者の中から代表権者を選任することが認められることを参考にいたしまして,受益者の意思に基づく信託管理人の選任を認めたことなどが挙げられるかと思います。

  このように措置した理由につきましては,資料の13ページ以下に記載しておりますので,説明は省略させていただきますが,受益者の保護という役割を果たす信託管理人の地位の重要性にかんがみまして,今回の信託法改正の一つの柱であります受益者保護の観点から,信託管理人を置くことができる局面を拡大していることを付言させていただきます。

  次に,2でございますが,信託管理人の権限等に関する提案でございます。

  (1)は,信託管理人が有する権限について検討しております。

ここでは,信託管理人は原則として,信託に関する受益者の権利のうち①から③までを除いた権利について,自己の名で行使できるとしております。

  なお,権利のうち①から③までの権利を除外しましたのは,資料の15ページ以下に記載したとおりですので,説明は省略させていただきます。

  次に,(2)は,信託管理人による権利行使と受益者による権利行使の関係について検討したものでございます。

  現行法のように受益者が不特定又は未存在の場合に限って選任を認めた場合には,権利行使の主体である受益者が存在しないことになると考えられますので,信託管理人が専属的に受益者の権利を行使するという提案は,当然のことを明らかにしたにすぎないことになると考えられます。

  これに対しまして,受益者が特定又は現存する場合にも当該受益者のために信託管理人の選任を認めるとした場合につきましては,信託管理人による権利行使と受益者による権利行使の競合・抵触という問題が生じ得ます。

ここでは,資料の16ページに記載しましたような理由から,信託行為に別段の定めのない限り,信託管理人が選任された場合には信託管理人が受益者の権利を専属的に行使するものとしております。

ただし,受益者に付与した権利のうち,帳簿等の閲覧謄写請求権,説明を受ける権利,検査役選任請求権,差止請求権,それから裁判所に対する各種の申立権につきましては,信託管理人に加えて受益者にも権利行使の機会を与えることとしております。

  なお,アステリスクの2に記載しましたとおり,信託行為の変更や信託の終了など,信託の基礎的変更に関する受益者の決定権限については,受益者が特定・現存する場合には,信託管理人ではなく,受益者が行使することが相当ではないかとの指摘がされております。

この点につきましては,契約自由の原則に照らしますと,信託行為の変更や信託の終了等に係る受益者の関与に関する規律も任意規定であって,これらの決定権限を第三者に対して委ねることも可能であると考えておりますことからしますと,信託管理人に対してこれらの決定権限を専属的に委ねることも可能ではないかと考えているところでございます。

もっとも,信託管理人がこれらの権限を専属的に行使することを認めますと,信託管理人と受託者とが通謀などをすることによりまして受益者の権利が害されるおそれがございます。

  そこで,受益者の保護をいかに図るかが問題となりますが,この点につきましては,信託管理人が信託の基礎的な変更に関する意思決定をする場合には各受益者に対して事前の通知を要するとした上で,決定に対して反対の意思を有する受益者に対しては受益権の取得請求権を認めることによって保護を図ることが可能ではないかと考えておりますが,このような考え方の妥当性につきましては是非とも御審議をいただきたいと思っております。

  それから,3は信託管理人の義務に関する提案でございまして,現行の非訟事件手続法によりますと,裁判所が選任した信託管理人について,民法の委任に関する規定が準用されるとしております。

ここでは,裁判所が選任した信託管理人については今の規定を踏襲し,更に,信託行為の定め又は受益者の意思に基づいて選任された信託管理人についても同様な法的地位に立つことを明らかにしております。

  ただし,アステリスクの3に記載したところでございますが,信託の基礎的な変更に関する決定権限について信託管理人に専属的に行使することを認めた場合には,信託管理人の義務は委任の受任者と比べて厳格なものとすべきではないかという考え方があることを踏まえまして,信託管理人の義務及び責任に関する規律の在り方については,信託管理人の権限の問題ともあわせて,なお検討したいと考えております。

  最後に,(注3)から(注5)でございますが,これは信託管理人に関するその他所要の規定の整備に関するものでございまして,(注3)は,現行法に規定のない信託管理人の不適格事由について,(注4)は,信託管理人の報酬等に関する規律について,(注5)は,信託管理人の任務終了事由に関する規律について,それぞれ検討しております。

  現行法の8条3項によりますと,裁判所は事情により信託財産の中から相当な報酬を信託管理人に与えることができるとしまして,更に,非訟事件手続法では信託管理人の解任及び辞任に関する規定を設けておりますが,これらは,規定の文言上,いずれも裁判所が選任した信託管理人に関する規定であると考えられます。

  したがいまして,信託行為の定めに基づいて選任された信託管理人についてはどのような規律が適用されるのか明らかではないと言うことができますし,また,今回の提案のように受益者の意思に基づく信託管理人の選任を認めた場合には,そのような信託管理人についても新たに報酬等の規定を設ける必要があると考えられます。

このような観点から,報酬等の規律及び任務終了事由等の規律につきまして,検討の方向性をお示ししておりますが,これらの点につきましても,御指摘があれば承りたいと思っております。

● それでは,信託管理人について御議論をお願いします。

● それでは,何点か申し上げます。

  まず,1点目は総論的なお話なのですけれども,現行法の信託管理人の制度と比較して適用範囲がかなり拡大されているということでございますので,この点については,受益者保護という観点から,また信託事務を円滑化するという観点からも非常にいい制度であるというふうに歓迎しております。

 ただ,何点か意見がありまして,まず,12ページのところのアステリスクの2,先ほど○○幹事からも御説明がありましたけれども,信託管理人が信託の基礎的な変更に関する意思決定をする場合に,各受益者に対し事前の通知を要するとした上で,反対した受益者に対して取得請求権を認める,それによって保護を図るというようなことが書かれておりますけれども,ここの部分につきましては,信託業界といたしましては,信託の基礎的な変更の内容が本当に重大なものである限りにおいてはやむを得ないなという少数の意見はあるのですけれども,やはり信託事務処理を円滑化するためには,こういう取得請求権というのを認めるのはいかがなものかというような意見が大勢を占めております。

  それと,先ほどの18ページの(注4)のところなのですけれども,この(1),(2),報酬と費用償還請求権のところなのですけれども,ここの部分については信託財産から支出すると。

報酬については,信託行為に定めがある場合というふうに書いていますけれども,信託財産から支出するというふうにされておりますけれども,この場合,これらの請求権といいますのは,基本的に信託財産に限定されるようなものなのか,それとも固有財産にもかかっていくというものなのか,それと,信託財産に対する他の請求権との優劣というのがあるのかどうかというようなことをちょっと考えまして,御意見をお聞かせいただきたいと。

基本的には受益者に関するものでございますので,受益者が得る権利と同列でいいのではないかなというふうに基本的には考えていますけれども,そこら辺のところはいかがでしょうかということです。

  あと,この場面での議論ではないのですけれども,この信託管理人の報酬と費用のところを検討するに当たって,信託財産管理人であるとか,検査役であるとか,後ほど出てきます受益者集会の費用,ここら辺のところについても同様の問題があると思いますので,この場というよりも,今御検討をされているところがあれば,お聞かせいただきたいということでございます。

● まず,取得請求権についての御意見ということですが,信託というのはあくまで,会社のような法人組織と違って,基本的には契約によって定められる,契約自由の原則が働くものであると,しかしながら,やはり受益者の保護の観点からは,契約自由の原則について一定の歯どめが必要ではあって,それは意思決定の方法等に関して強行規定を設けるというような解決の方法もあるとは思うのですが,そうではなくて,反対受益者の保護という点を確保することによってバランスをとっていこうというのが大きな方針でございますので,あらゆる変更というわけではないのですが,コアの部分については強行的に受益権取得請求権を認めざるを得ないというスタンスでございます。

  それから,債務の責任財産の問題でございますが,これは現時点では,いわゆる有限責任債権といいますか,信託財産に対して責任が限定されるものだというふうに考えております。

ただ,この場面ですが,受益者集会のところで触れておりますように,流動資産が信託財産にないような場合を考えまして,とりあえず受託者に費用を負担させて,受託者が求償するというようなスキームを設けるということも,選択肢としては,この信託管理の場面でもあり得るかなというところでございます。

 それから,優劣の問題につきましては,まだ十分検討しているわけではございませんのでとりあえずの感触でございますけれども,まず,信託管理人は受益者のために選任される者であるということにかんがみますと,信託債権者の債権と比べてはその優先性は低いというのが原則かというふうに思っております。

  なお,受益債権との関係でございますけれども,社債管理会社の規定なども参考にいたしますと,信託管理人の報酬は,受益者の受益債権よりは優先していいのではないかというふうに考えております。

恐らく一番関心のございます受託者との関係につきましては,受益債権が受託者の債権には劣後するということにかんがみますと,信託管理人の報酬も受託者の債権に劣後するという考えもあるかと思いますが,この受託者の債権と信託管理人の報酬との優先劣後関係というのはなお検討したいというふうに思っているのが今の状況でございます。

  とりあえず以上でございます。

● ほかに御意見,いかがでしょうか。

● 信託管理人の裁判所による選任というあたりについて,いろいろお聞きしないといけないことがあるかなというふうに思っております。

  先ほど,○○幹事の方からは,受益者の保護という,正にそのための制度であるというお話がありましたが,○○委員の方からは,信託の円滑な執行というお話がありました。

  この裁判所による選任というところで要件がありまして,「受益者の全員又は一部の権利を保護するために必要があると認められる場合」というふうにあるわけですが,全員なのか一部なのかによって実はこの制度はかなり色合いが違うのではないかという気がしております。

つまり,受益者の一部の権利を保護するためということであれば,当該受益者という感じがいたしますが,受益者が複数いる場合の全員ということになりますと,各受益者が本来行使し得た権利を受益者全員の利益のために制約して信託管理人を選任するということですので,当該個人である受益者の保護というところがむしろ落ちて,全体の利益あるいは信託の円滑な執行という,本当はそういう話なのではないかという気がしておりますが,その点いかがかということを含めて,そもそも,この「保護するために必要がある場合」というのは一体具体的にどういう場合を想定しておられるのかといったあたりをまずお聞きしたいと思っております。

● 現行法では,不特定・未存在ではありますが,ここは,特定・現存する場合であっても保護する必要性があるという例示といたしましては,例えば精神又は身体に重度の障害がある者が受益者として指定された場合とか,受益者が多数に上って受益者による円滑な意思決定が困難又は不可能である場合,このような場合を挙げることができると思われます。

● 今の○○幹事のお答えを前提として,このような場合に裁判所による選任というのが本当に必要なのか,あるいは法制度として相当なのかといったあたりについて,かなり疑問がありますので,御意見を伺いたいと思っている次第でございます。

  まず,例えば最初の,一部の権利を保護するためということで重度の障害というようなお話がありましたが,その場合には民法上の制限能力者の制度との関係がどのようなものになるのかという点について,学者の先生方を中心として御意見を伺いたいと思っている次第でございます。

  というのは,民法の原則としては,本来権利は自分で行使できるものだけれども,そういう民法上定められた一定の場合には,後見人なり保佐人がつくというような形でその権利をかわって行使するという前提になっているはずでございます。

そうすると,もし,例えばそういう本来成年後見によって図られるべきところについて信託管理人が選任されるということになりますと,そういう民法の原則から若干外れたところで信託固有のいわば法定代理の制度というのを認めることになりはしないかということでございます。

もしそうであるとすれば,裁判所としては,こういう事件が来たときにだれが扱うかということも含めて検討すべきということになるかもしれません。

そういう意味では,非常に民法の原則との関係でも大きな問題があるのではないかというふうに考えております。

  仮に,民法の原則よりもうちょっと広いところで,こういう一部の権利の保護のために必要があると,もしそういう議論であるとすれば,本当にそういうことが許されていいのかと。

例えば,民法では,重度の精神障害がある場合というところで成年後見というのが定められているわけですが,そこを超えて,例えば重度の身体障害がある場合に,裁判所が決定によって,この人は重度の身体障害があるから,この人が権利を行使するのは相当ではないと言って管理人を選任するというような制度が本当に今の民法の秩序の中であり得るのかというようなところが疑問であるということでございます。

  次に,多数の受益者がいる場合に,全員のために選任するという場合であるとしますと,受益者が多数であって円滑な意思決定ができないということであるとすれば,そこは受益者が多数の場合の意思決定の方法というところを後に定めて,法定多数決というような概念も取り入れて検討がされるところであるというふうに理解しております。

そういうところで裁判所が管理人を選任することによって問題の解決を図ろうとするというのは,ほかにそういった例があるのかどうかというのを私は存じていないということになろうかと思います。

何かありましたら,是非教えていただきたいなと思っておるところでございます。

言ってみれば,本来直接民主制でみんなでやっているところに,裁判所が突然,大統領みたいな人を置くというような制度なのかなと,資料だけ見ますと,そういうふうな理解もしてしまうところなのですが,そういう制度がほかにあるのかどうかといったあたりを含めて,教えていただければと考えております。

● なかなか難しい,根本的な問題を提起されたように思いますけれども,いかがでしょうか。

● 今のお話の横に並ぶような話だと思いますけれども,受益者が不特定・未存在の場合に信託管理人を必要とするというのはよく分かるのですが,受益者が特定して,現にいるという場合に,こういう形の人を選ぶことが果たして受益者の保護になるのかというところが疑問だと考えております。

 特に,受益者が選べるというところが一番抵抗のあるところですが,受益者が,いつでも,信託管理人の名前で裁判を起こせる人を選ぶことができるのだということになりますと,訴訟行為をさせることを主たる目的として信託管理人を選ぶこともできてしまいまして,訴訟信託と類似の問題が出てくるのではないかということを懸念いたします。

  それから,そういう場合に,具体的な例はちょっと想像しにくいですけれども,信託管理人と取引をした第三者が受益者に対する抗弁を信託管理人に対抗できるかとか,いろいろ複雑な問題が出てくるということが,とりあえず理屈の上では考えられます。

任意的訴訟担当の場合によく問題になる例ですが,そういう論点も出てくるというふうに考えております。

  資産流動化法第193条が,一部の受益者を代表権利者として権利の行使を委任することができるという制度を設けている,それをここで引いていますけれども,これは,とにかく受益者の一部の人が代表になる,しかもその権利の行使を委任するというものですから,こういう,その人の名前で何でもできる,受益者としての行為を受益者ではなくて信託管理人という名前で何でもできるというのを,現に受益者がいるのに設けるという制度というのは,受益者の保護という観点からもプラスになるとは思えないという意見です。

● 一連の議論に関連しまして,私も,裁判所の介入という観点で,これは基本的にはデフォルト・ローにしていただきたいという観点から,商事信託について言及したいと思います。

 個人に関しても,先ほど○○幹事がおっしゃられたとおり,やはり具体的なイメージとして権利制限者等の制度以外にどういう使い方があるのかなというのがよく分からなかったわけですが,私の場合は,それに加えて商事信託のことをお話ししたいと思います。

  つまり,複数受益者がいる場合で,例えば不動産信託で優先劣後がある場合において,一部の受益者のために信託管理人が裁判所の選任を受けて設置された場合にどういう問題が起こるかという話ですけれども,やはりこれは,利益がある意味で対立する場合がある判断について信託管理人が行うということになりますので,それは妥当なものなのかどうかということでございます。

一応,提案の中では,最低限の権利,帳簿閲覧権等は残しておくという話なのですけれども,商事信託の場合は指図権とか大きな権限というのも持っているわけですから,そういった場合に,かかる権限自体も一人一人に任せてしまうと,それも利益相反という状況であるのかどうなのかという問題があるわけです。

これに関して,この提案では,一応,管理人の規律というのは委任ということしか置いていないということですので,そもそも,委任というのは,利益状況が違う者両方からの委任ということでございますので,それはなかなかワークしないのではないかというふうに思っております。

  もう一つ考え得る話として,この提案にも,複数の信託管理人も可能であるというふうに書いてあるわけですが,具体的にどういう話になるのか分かりませんが,例えば優先受益権のための信託管理人と劣後人のための信託管理人ということが制度上認められるのかどうかというのも質問したいところでありますけれども,仮にそうだとしても,ここに書いていますように,実際の判断は過半数で決すべきという話になっていますから,そこで単純に頭数で決めていいのかどうかということも出てくるのではないかという話です。

● この信託管理人というのは,先ほどから問題になっているように,どういう理念のもとで考えるかと。

一方で,これは,受益者の方がいろいろ権利を行使する場合に不便な場合があって,そういう意味では受益者の利益を守るところもありますけれども,逆に,権利行使ができるような受益者が混じっているような場合,あるいは,先ほど○○幹事が言われたように,何らかの別な方法でもって受益者の利益を,法定代理人などを使って権利行使ができるような場合に,多少,受益者と信託管理人の間の利益の衝突というのでしょうか,そういうものもあり得るので,それがために非常に難しい制度なのですね。

  更にいろいろな御意見をいただけると有り難いと思いますが,いかがでしょうか。

  あるいは,これまでの問題について,幾つか……。

● それでは,とりあえず事務局で答えられる範囲でお答えしたいと思います。

 まず,○○幹事の方からあった,民法にかかわるという大きな問題でございますけれども,例えば,精神上の障害があることによって,法定代理人の制度,民法第7条のようなものがある場合があるではないかという御指摘でございますが,ここは選任権者が限定列挙されておりまして,それに比べますと,裁判所に対する選任というのは利害関係人ということで,やはりその実情に応じた柔軟な選定ができるのではないかというメリットが信託管理人にはあるのではないかという気がいたします。

  それから,身体に障害がある場合にはこのような法定代理人の制度というのが使えないと思われますが,例えば特別障害者扶養信託における受益者についても,なかなか自己の意思に基づいて信託管理人を選任することもできない,難しいのではないかと考えられますので,身体に重大な障害がある場合についてもやはり信託管理人の制度というのがあった方が機能するのではないかという気がいたします。

  それから,不特定の受益者が多数に上るという場合でございますが,実は現行法でも,受益者が不特定の場合にはどういうものが当たるかといいますと,例えば年金信託のように受益者が次々に変動するという場合も入るという解釈が有力でございます。

これは,しかし,ある一定の時点をとらえれば受益者は特定しているわけですが,その変動するということを見て不特定と言っているのではないかと。

その本質は何かというと,恐らく,そのように受益者が次々に変わるということになると,受益者の意思決定を円滑にし,受益者を保護するという観点から,信託管理人がいた方がいいのではないかという価値判断があるような気がいたします。

そうしますと,結局,不特定という中に,このように特定しているけれども受益者が変わるというような場合があることにかんがみますと,それは保護の必要性が高いからであると。

そうすると,受益者が多数に上っていて意思決定が困難で,保護の必要性が高いという場合も,実は現行法でも認められていると言えば言えるのではないかというような気がするところでございます。

  なお,信託管理人のような制度がほかにあれば御指摘願いたいということですが,たしかに指摘することは難しく,例えば,委任等の制度にはないのですが,それは信託というのが,御承知のとおり,受託者に名義まで移すという特性がありまして,だからこそ受託者の監視というのが非常に重大なテーマになっておりまして,であればこそ,委託者や受益者はもちろん,裁判所,あるいは信託管理人という制度がいろいろ設けられているのだと思われます。

そういう点にかんがみますと,実は,事務局の提案では,委託者の権限というのはどちらかというと縮小傾向で考えておりますし,報告書にございますが,裁判所の監督,現行法では非営業信託については信託事務の監督ができるわけですが,それについても後退させてはどうかという提案をしております。

そうである以上は,やはり信託管理人の制度をより一層充実させる必要があるわけでございまして,逆に言いますと,信託管理人の制度が軽微なものになると,それだけ,例えば委託者あるいは裁判所の監督をもっと強めるべきだという方向に回帰するのではないかとも考えられるところでございます。

  なお,法定代理人との間で権限が重複した場合はどうかという点は,事務局の提案では,権利を保護するために必要があるときには選べる,逆に,権利を保護するために必要がなくなれば裁判所は一種の選任決定の取消しができるというような案を提示しておりますので,権限が重複するというおそれはないのではないかと。

後で法定代理人が選ばれれば,取消し決定をすればいいし,初めに法定代理人がいれば,そもそも保護の必要性がないのであるから,そもそも信託管理人は選ばれないという問題になってくるのではないかという気がするところでございます。

  以上が,とりあえず○○幹事の御質問に対するお答えということでございます。

  それから,○○委員の御質問は,受益者による選任の問題でございまして,これは,我々といたしましても,受益者の意思に基づく信託管理人の選任というのが果たして必要かという点につきましては,11ページのアステリスク1のところに書いてありますように,疑問がないわけではない。

単に代理人を選べばいいのではないかと。

代理人を選べば,訴訟信託とかそういうおそれもなくなると思いますので,そのような点につきましては,なおこちらとしては検討したいというふうに思っているところでございます。

  むしろ気になりますのは,受益者間の争いに例えば裁判所が巻き込まれてしまうのではないかというようなおそれがあるところでございますが,それは選任のところで,選ばれる受益者の意思を聞くことによって,自分の意に反した信託管理人が選ばれるおそれはなくなるであろうというようなことによって担保することができるのではないかという気がしているところでございます。

  それから,最後に○○委員がおっしゃった,利益相反関係があるような場合があるではないかと。

確かにそのような場合もあり得るかとは思うのですが,そういう場合につきましては,例えば特別代理人を例外的に選任するというような方策によって対応することもできるのではないかと思われるところでして,例えば商法ですと,社債管理会社の場合に,社債権者と社債管理会社の利益が相反する場合には特別代理人が選べるというような規律がございまして,こういうものも参考になるのではないかと思いますが,なお御意見をいただければと思います。

  とりあえず,事務局としては,いろいろな議論をいただく前提としまして,とりあえずの考え方を述べさせていただきました。

● 若干だけ補足させていただきたいと思うのですが。

  今,○○幹事の方から,選任権者が違うというお話がありましたが,選任権者が違うからこそ,民法の原則との関係で大きな問題があるのではないかということが申し上げたいということでございます。

要は,契約上の利害関係人から,そういった法定代理人の選任を請求するというような制度を認めるということについて問題がないかという趣旨で御質問しているということになります。

  身体障害者についても,正に民法上は保護の規定はないのですが,それがないということは,基本的には民法は自ら意思決定するということを前提としていると。

福祉の問題等はあるかもしれませんが,それは,この信託法上の裁判所の信託管理人の選任というところでそこを考慮するということになるのかどうかといったあたりが問題になるのではないかと考えているということでございます。

● おっしゃるところはもっともなところもあるという気がいたします。

半面,確かに,法定代理人につきましては選任権者が制限されておりますが,これは恐らく,法定代理人というのは本人にかわってあらゆる代理権を取得するからだという気がいたしまして,それだけ権限が広い気がいたしますが,ここではあくまで信託の局面での管理人,いわば範囲が狭いわけでございまして,そう

いう観点からいたしますと,仮に選べる選任権者が利害関係人ということで広いといたしましても,やれる範囲が信託にかかわるものに限られている面で調和されているのではないかという気がするというのが1点でございます。

  それから,もう一つはどのような質問でしたでしょうか。

● 身体障害者というのは,正に違うところで,違う趣旨からのお話なのではないでしょうかということです。

● 確かに精神障害の場合とは局面が違いますが,やはりここは受益者の保護という趣旨をより強調しまして,こういう場合も一つの例として,裁判所による選任によって解決できるのではないかという気がしているというところでございます。

● 私,制度そのものに賛否ではないのですが,身体障害者の問題につきましては,成年後見制度の導入に際して,身体障害者を対象にしろという意見も一時期出たわけです。

それに対して,それは自己で代理人が選任できるのだからと,かえって裁判所等が介入するということに対しては,自己決定権の侵害の問題があるという話になった。そこでいったんそういうふうな価値判断がなされているわけなので,制度が悪いというよりも,身体障害者の問題を例として出されるのは適切ではないと私は思います。

● 分かりました。

● 考慮した方がいいかもしれませんね。

● はい。

● ほかに御意見,いかがでしょうか。

● 私は,一般論といたしましては,受益者が多数あるいは複数存在するような信託が我が国に現実にたくさんあって,しかも受益者に受託者のコントロールをする十分な能力あるいは時間があるとは限らないという状況のもとで,こういった,信託管理人制度を現行よりも少し拡充してガバナンスの観点から位置づけるということは,基本的には望ましい方向なのではないかと思うのですけれども,若干疑問点もございますので,その点について教えていただければと思います。

  まず第1点は,一部の受益者のために信託管理人を選任することができるということが,信託行為の定めと裁判所による選任においては可能とされているわけですけれども,信託全体,全受益者,あるいは非常に抽象化された全受益者のための信託管理人制度というのは,非常に分かりやすいと申しますか,理解できるところがあるのですけれども,一部の受益者のために,こういった権限を有する信託管理人制度が必要なのかどうかと。

やはり,信託全体を一つと見て,その信託全体,あるいは全受益者のために行動すると,こういう制度設計の方がむしろ分かりやすいような気がいたしましたので,一部の受益者のための信託管理人制度を御提案されている理由について教えていただければというのが第1点でございます。

第2点は,信託管理人の解任についての規律でございますけれども,特に受益者による選任がなされたときには,受益者がそれこそ変更される可能性もありますので,基本的には現在の受益者の意思を問うというのが,本当に受益者のための信託管理人制度であろうかと思います。

解任についての規律は,19ページのところで,まだ注の段階でございますけれども,例えばこの19ページの(2)の②を拝見いたしますと,信託行為等で別段の定めをすれば解任についても自由にルールを設定できる,そのような読み方ができますけれども,しかし,受益者が選任する場合には,やはり解任も受益者が,しかも合理的な,できる限り総意を反映するような方法で解任をしなければ,本当の受益者のための信託管理人制度とはなり得ない可能性があるのではないかということを懸念いたします。

第3点は,信託管理人の権限でございますけれども,重大な基礎的変更--基礎的変更も,確かに重大であるものとないものとあると思いますけれども,とりわけ重大な基礎的変更については,やはり信託管理人の権限から外しておく必要があるのではないかと。では重大な基礎的変更とは何かと言われると,直ちにはお答えできないわけですけれども,第47の2の(1)の①から③はやや狭いのではないかという印象を持っております。

  以上,3点について質問とコメントをさせていただきました。

● 一部のところをなぜ認めているかという点でございますが,これは,例えば,委託者の意思によって定められる信託行為の定めによる場合には,特定の受益者についてだけ特に保護の必要性が高くて,例えば複数受益者がいるけれども一人だけ未成年であるとか,そういうような場合を考えますと,その一人のためだけに選ぶという余地を認めてやってもいいのではないか,そこまで全員でなければだめだというふうに厳格に規律する必要はないのではないかと,信託の柔軟性という観点から一部を認めているというのが,(1)の趣旨でございます。

 それから,裁判所による選任につきましても同じような話でございまして,やはり複数受益者の中の一部についてのみ特に保護の必要性が高い者がいる場合において,それがいるのに全員のために選んで,かつ,我々の提案ですと,選ばれると権限が相当程度吸収されますので,そのような者を全員のために選ぶよりは,やはり保護の必要性が高い者についてだけ選ぶ方が,その受益者のためにもほかの受益者のためにもなるのではないかという観点で一部というのを置いているというのが,とりあえずのお答えでございます。

  あと,コメントということでございますけれども,19ページの(2)の②の解任のところでございますが,これは恐らく,選任行為に別段の定めがある場合は自分たちで決めているのだからいいのではないかとして,信託行為で解任を制限しているときもやはりそれはおかしいのではないかという御趣旨かと思いますので,それはそういうことも言えると思われる半面,これは前からの私の疑問でもあるのですが,信託行為に書いてあって,それを承知の上で受益者になっているのだから,それはある程度は仕方がないのではないかという気が前からしているところはございまして,確かに信託行為の設定には関与できない受益者ではありつつも,それを知った上で受益権を取得して,承認もしているということになると,それが制限されるということも甘受していると言えないのかなという疑問がございます。

もっとも,だからといって受益者を軽視しているわけでは全くないのですが,そのようなことも考えられるのではないかということでございます。

  あと,重大な基礎的変更についてはやはり信託管理人の権限から外すべきではないかというのは,これは我々も,どこまで信託管理人の権限とすべきかというのは,ここのアステリスク2のところにるる書いてありますとおり,前から非常に重要な問題かと思っているところでございまして,御指摘も踏まえて検討したいというふうに思っておりますが,とりあえずは,事前の通知と受益権取得請求権の強行規定化ということをもって,しかも契約の自由とのバランスという観点からはそのぐらいあればいいのではないかなと思っているところでございますが,それは御意見として承りまして,検討したいと思います。

● 先ほどの,一部の受益者を保護するために,いわば一部の受益者だけを代表する信託管理人を設けることができると。

私は,これは個人的な意見ですけれども,そういうのができるという方が本当はいいのではないかというふうに思っております。説明は,先ほど○○幹事が言われたとおりですが。

  信託行為でもって定める場合は余り問題ないと思いますけれども,特に裁判所の場合,全員についての信託管理人しか選べないと。

本当の理由は,一部の受益者が権利行使が十分できないというのが理由で,その当該受益者のためだけでなくて,全体について選ばなくてはいけないというと,これはまた先ほどの○○幹事の疑問にぶつかってくると思いますけれども,なかなか難しいのではないかという感じがちょっとしています。

 本当は恐らくその延長線上にある問題でしょうけれども,私も,受益者全員が一応権利行使はしようと思えばできるけれども,多数いるために意思決定などが不便だということから,裁判所にその中のだれかが信託管理人を選んでくれというふうな申立てができるという趣旨もこの案には含まれているのですか。

● そういうのも,保護の必要がある一類型ではないかという考えでございます。

● 多くの場合は,恐らく多数の受益者がいるときは,最初に信託行為の中でもって信託管理人を定めて,これは委託者の意向によって定めて,それによって機能するのだと思いますので,実際上は裁判所が選ばなくてはいけないという場面は余りないとは思いますけれども,今のような,全員が一応権利行使ができるという集団信託のときに事後的に裁判所がだれかの請求で選ぶというのは,なかなか難しい場面があるかもしれませんね,裁判所としては。まあ,これはもうちょっと検討させていただけると……。

  それから,効果のところも非常に難しい問題で,どの程度権限を吸収させてしまうのかということで,○○委員の先ほどの御意見もありましたし,○○幹事の御意見もありましたし,これもまだ少し検討の余地があるのではないかと思っています。

ただ,なかなか切り分けが難しいので,うまくこういうものを,つまり①から③まで,一応これを外したものがありますけれども,それに類するものとしてうまく切り分けるものがあれば,それは可能かもしれませんね。そんなところも少し検討して……。

● 事務局としては,重大な信託の基礎的変更が入るかどうかぐらい……。

あとはちょっと思い当たりませんが,そこのところが問題でございまして,○○幹事もおっしゃいましたように,なかなか切り分けが難しいという問題とかございますし,やはり契約自由の原則なのだというところを強調しますと,それを知って受益者は入ってきているわけであって,しかも信託管理人の選任も,信託行為にあれば受益者は分かっているわけで,裁判所が選任する場合は裁判所がそこら辺はおもんぱかってくれるでしょうし,受益者が選ぶ場合というのは,これは信託行為に定めがなければ受益者全員の合意ですし,信託行為で多数決がとられている場合にも特別多数でないと選べないというようなことになっておりまして,そのような慎重な手続で選ばれた信託管理人については,反対受益者には受益権取得請求権をもって手当てをするということで足りるのではないかというのが今の考えでございます。

● ちょっと細かい質問なのですけれども,この信託管理人というのは法人もなれるという理解でいいのかということです。

  具体的に言うと,この信託管理人というのはどういう人が就任するのかというイメージがわかないわけで,一部,現在でも,年金信託の場合にはどこかの人事部長がなるとか,そういうのはあると思うのですけれども,広く信託が使われた場合に,ある意味信託管理人のなり手,担い手というのが,専門業者なんかが出てくるとは思いませんけれども,継続的なことも考えれば法人が適当な場合もあると思うので,法人も認めるという余地を残すということの確認ということです。

 二つ目に,先ほどの,一部のためにということと,○○幹事からの特別利害関係人を選任してはどうかという議論につながるわけですけれども,いったん信託管理人になって,全員のために,ないしは一部のためにということであったとしても,その一部の中で利益相反があった場合に,その救済策として,先ほどのお話では社債管理会社の特別代理人のようにしたらどうかという御提案がありましたけれども,その者の身に立ってみれば,やめたいというのもあるのではないかなというのもあるのですが,ただ,この御提案を見ると,辞任に関しては,基本的には,裁判所の選任を経た信託管理人であれば,やめるということは想定されていないというような理解でいいのかということですけれども。

では仮に,やめないけれども,そうしたら特別代理人ということであるのであれば,例えば引いておられた社債管理会社の特別代理人と同じであれば,それによれば社債権者の集会の請求によりと書いてありまして,非常に困った判断を迫られても,自分だけでは特別代理人を選んでくれというふうには言えないという話ですから,そこは柔軟に,信託管理人の動きやすいように制度設計をお願いしたいということです。

● 法人は信託管理人になれると考えておりまして,これは,19ページのところなどを御覧いただきますと,例えば任務終了事由として,法人である信託管理人が解散したときは任務終了すると,我々もそのような前提でございます。

  あと,私の誤解かもしれませんが,裁判所が選んだ信託管理人は辞任できないというわけではなくて,これはあくまで注のレベルでございますが,正当な事由があれば,裁判所の許可を得て辞任できると。ほかのところに似たような規定があったかと思いますが。

● 許可を得てということですか。

● そのような要件はかかっておりますが,辞任ができないわけではないということでございます。

● 法人も可能なのだと思いますけれども,だれが信託管理人になるかという現実の問題というのは結構難しい問題があることは御承知だと思いますけれども,これは特別なルールは何も書いてありませんけれども,例えば,受託者と関係があるような者はやはり外れるとか,それから微妙なのは,年金信託などでもって,委託会社の総務部長だとかそういうのがなるタイプですね,これも一概に排せないところもあるけれども,果たして受益者の利益を代表する者としてはそれで適当なのかどうかというようなことは,これはなかなかルールが決めにくいので,条文にはなりにくいと思いますけれども,こういうルールを考える際の前提の問題としてはちょっと頭の隅に置いておかなくてはいけないのではないかという気はいたします。

  ほかに。

● 主として質問をさせてください。

  第47の1(3)の「受益者による選任」の性格についてであります。

  こういう規定を置くことについては,必要ないのではないかという指摘も御紹介されているところでありますが,私の意見としては,受益者が多数いるような場合に信託管理人を置くことによって信託全体が円滑に運営されることになり得るという点については意味があると思います。

そして,必ずしも(1)のように信託行為に定めがなくとも,受益者のイニシアチブで信託管理人を置けるという可能性が開かれるというのは,適切ではないかと思います。

 その上で質問なのですが,この(3)を置く意味なのですけれども,これがもしなかった場合には,仮に受益者が全員そろってある人を信託管理人に選びたいとしても,信託管理人選任の要件としては(1)と(2)の二つの制度しかないとすると,受益者だけの選任行為では信託管理人にはならないと。

せめて可能なのは代理人であって,要するに受益者の代理として権利行使をすることはできるけれども,2の権限のところに出ていますけれども,自己の名で受益者の権利を行使するということが私的自治の一般ルールの世界ではできないと,そういうことを意味していると考えたらよろしいでしょうか。

● (3)がない場合どうなるかということでございますが,まず一つは,(1)の信託行為の定めというところに関係いたしまして,そういう場合は受益者が信託行為の変更を合意する,あるいは請求して信託行為の変更によって信託管理人を定めてやるという手当てはあります。

しかし,それよりも直截的に受益者が選任できた方がよりストレートではないかと。

どういう場合に信託行為の変更ができるかという問題はさておくといたしまして,いったん信託行為という,そのような迂回路を通るよりは,ストレートに選べればいいのではないかというのが,1の(3)を置いた理由でございます。

あと,(2)でございますが,これは確かに,今,○○幹事がおっしゃった例,複数受益者がいるときに意思決定が円滑にいかない問題があるということをもって,保護の必要性と先ほど私ちょっと言いましたが,それと見れば,裁判所が選任するという手だてもあり得るわけでございますが,しかし,裁判所という経路を通らずに受益者自身が直接選ぶことができていいのではないかと,そういう観点から,ほかで代替できないわけではないのですが,やはりよりストレートに,受益者保護の観点から,自ら選ぶルートを残したというのが,(3)を置いた趣旨ということになります。

● 申し訳ありません,私の質問が必ずしもクリアでなかったわけですが,今のお話の前提に,次のような考え方があるかどうかという形で質問させてください。

すなわち,(3)がなかった場合に,受益者が信託管理人を選んで,そして2の(1)のような権限を与えたとしても,それは法的にはサポートされないという考えが前提にあるからこそ1の(3)を置き,1の(3)がなければ,今,○○幹事が御説明いただいたように,1の(1)か1の(2)を経由しなければならないと,そういうものとして信託管理人というのはあるのだということでしょうか。

● 今おっしゃった趣旨は,こういう(3)を置かなければ,でも受益者は全員で代理人を選べるではないかと。

ただ,代理人ですと,ここで言う自己の名をもってというようなことができませんので,やはり自己の名をもって権利を行使できるというのが信託管理人であると,一種信託の機関的な位置づけになってまいりますが,そのような信託管理人という制度を置く以上は,やはり受益者がこういう選任行為をもって信託管理人を選べるという規律がないと難しいのではないかということでございます。

 ただ,代理で足りるのではないかという御意見もあり得るとは思いますので,そこは1のところでどうされるかというのは,ちょっと……。

● 実質的には代理で足りるけれども,形式的には代理とは違うものとして信託管理人を置いていると。

● その点はもちろんそうですね。ただ,それを私的自治でもって,こういう規定がなくてできるかどうかということですよね。

● はい。

● 何かできてもよさそうな気がするけれども……。

● 今の点でございますけれども,受益権の中には,「共益権」というふうに会社法の者は言っておるのですけれども,いろいろ受託者を監督・是正するような様々な権利が認められておりまして,それらをごそっと代理人に出すことができるのかどうかということについては,そんなに簡単な話ではないと思います。

したがって,やはりこういった信託管理人の制度は代理だけでは非常に難しい部分があるのではないかというふうに,会社法の観点からは考えられるのですけれども。

● それはまた,要するにどの程度の権限を移すかという観点からの問題点ですね。

  ○○幹事が言われたのは,いわば自己の名をもって権利行使するような人間を,受益者たちが合意して自由に私的自治の範囲でつくれるかということですよね。

  恐らくそれは若干争いがあるのではないかという気がするのですね。

できるという考え方もあるかもしれないし,そういうものはできない,特に訴訟なんか自己の名でもって提起できるわけですから,そういうものは問題だという御意見もさっきありましたし,そういう意味で,(3)のような規定があった方が明確だということなんじゃないでしょうか。

● 細かなことなのですけれども,報酬ですとか費用償還なんかの規律も代理とは違ってくるということがありますが,そういうものをセットとして別途作るかということが問題なのかと思います。

● そうですね。

● 私,一つ感想と,ちょっと私の読み方が足りないのでしょうから,一つ質問を。

 感想の方は,信託管理人という制度は今まで公益信託等に日本で使われていて,これがまた英語で訳せない概念というか,「信託管理人」ってどう訳せばいいのかといっても,向こうにはないわけですよね。公益信託についてすらないわけで,だから日本特有なので,すごく面白い。それを今度,公益信託どころか,もっと広く拡充しようというわけですから,一層面白い話だと思うのですね。

  それは一体何のためなのか。今までも,信託管理人というのは何なんだという話がどうしてもあって,○○幹事がおっしゃったように,実はやはり受託者の方の便宜で,複数の受益者がいる場合に一人にまとめておくと本当に助かるねという部分が相当にあるのかなと。

それが結局は受益者全体の利益にもなるのだというふうにハッピーにつながればいいけれど,ということかなと思っています。かなと思っていますというのは,少し疑問が残っているという意味ですが。

  質問の方は,そういう背景のもとになのですが,受益者による選任のところが特にそうかな。

結局,これは一体どうやって選任するかというと,私が分かっていないのだと思いますが,24ページの表を見ると,受益者全員の合意,34ページを見ると特別決議ということですね。

かつ,信託管理人の権限としてはこういうものだという話で並んでいるので,24ページのところを見ると,各受益者単独で受益者は権利行使できますよというのがずっと並んでいますね。

そのうちの一部は信託管理人がいてももちろん単独でできますよということだけれども,ある部分については各受益者単独ではできなくなるということですよね,信託管理人を置くと。本当にそれでいいのかなという感じがあるということだけです。

  今の話で,14ページから15ページにかけて,とにかく受益者全員の合意が必要だというふうに,第48の別表の方の何とかという最初の方のところが維持されていて,それで,「円滑性の確保や受益者の一部による権利の濫用の防止」,全員で同意して選任しておいて,一部の権利濫用を阻止するためだというのが,私は--まあ,そういうこともあり得るのかなとは思いますけれど,理屈の上でこういう話になるのだろうかという……。

それは一番最初の感想のところへ戻ってきて,本来の目的は,やはり信託事務処理の円滑性の確保というところへ結局戻ってくるのかなというところへつながる話です。

  ちょっと私の理解が足りない部分だけ教えていただけますか,さっきのところで。

● ○○委員に私が教えるような能力はないのですが,どの点でしょうか。

● まず,全員なのですか。

● 全員ですが,しかし,これは,多数決がなければ全員ですね。しかし,多数決の制度を設ければ,原則特別決議。

しかも,それも,我々の提案ですとかなり自由ですから,過半数という制限はかかるにしても,2分の1とかでもあり得ると。少なくとも3分の2で選べますので,3分の1は反対しているということはあり得るわけでございます。

● あり得て,その受益者単独という権利の一部がなくなってしまうわけですか。

● なくなってしまうものがあります。それが吸収されるということになります。

● そこは,先ほどから問題にしている点ですね。

  また繰り返して申し訳ないけれども,裁判所が受益者全員のために選任するというときに,一応,例えば多数決を導入しているような集団信託というのでしょうか,そういうときには多数決でやる道はあるけれども--まあ,そういうときは裁判所は選ばないと思いますけれども--それを通らないで,一部の受益者が裁判所の選任を求めてくるなんていうのは,一応この制度に乗っかったときにも,やはりそれはだめだと。

● 請求はできますが,保護要件というところに引っ掛かってくるかと思います。

ですから,例としては挙げましたが,現実問題として,全員一致しかないときはともかく,多数決制度がある中で,更にこの信託管理人の請求があったときに,果たして裁判所が選ぶことになるかというと,それはケース・バイ・ケースでしょうが,なかなか難しい問題があるという気がいたします。

● 大分長い時間をとりましたけれども,やはり非常に重要な問題の一つですので,御議論いただきました。なお残っている問題については,更にいろいろ検討させていただきたいと思います。

  それでは,次の方に移りたいと思いますが,いかがでしょうか。

● では,第48から第50までを説明をさせていただきます。

  まず,第48は,受益者が複数の信託において,信託行為に定めを置くことを条件として,受益者が単独で行使できる権利について,単独行使の制限を認めることの可否について検討したものでございます。

  複数受益者による意思決定に係る事項としては,一つは受益者全員の合意を要する事項と,もう一つは各受益者が単独で意思決定できる事項とに分けられますが,全員の合意を要する事項につきましては後ほど説明することといたしまして,ここでは,単独で意思決定できる事項について,信託行為に定めを置くことにより単独での権利行使を制限することを認めるべきか否かを問題とするものでございます。

  資料の21ページ以下では,単独受益者権,すなわち,24ページの別表で,「受益者による権利行使の方法(原則)」欄におきまして,「各受益者単独」と記載したものにつきまして,単独行使の制限を認めるべきか否かについて,順次検討しております。

  結論的には,信託違反行為の第三者に対する取消権については,単独行使の制限を認めることも検討の対象となり得るのではないかという観点から,制限を認めるという甲案と,認めないという乙案の両案を併記しております。

 なお,信託違反行為によって信託財産に損失が生じた場合においては,受益者は原則として原状回復を請求するか損失てん補を請求するかを選択することができるわけですが,各受益者が受託者に対し単独でこれらの請求をできるとした場合には,例えば,ある受益者は原状回復を請求し,ある受益者は損失てん補を請求すると,このような場合には受託者としてどのような対応をとればよいのか判断に迷うこと,あるいは判決になればその内容が矛盾・抵触することが想定されますが,この問題につきましてはなお検討したいと考えているところでございます。

  続きまして,受益者が複数の信託の意思決定の方法について御説明いたします。

  第49でございますが,第2回会議の際にも申し上げましたように,現行法は,制定当時,主として受益者が単数の信託を想定していたと考えられますので,受益者が複数の場合の受益者による権利の行使の在り方について適切な規律を置いているとは言い難い状況にあると思われます。

他方で,現行の信託実務におきましては,受益者が複数に上る信託も多く見られますので,今回,受益者が複数の信託について適正な規律を設けることを提案しているものでございます。

  1の(1)でございますが,これは,複数の受益者がある場合においては,信託行為に定めを置くことを条件として,受益者全員の合意にかえて,受益者の多数決をもって意思決定をすることを認めたものでございます。

34ページの別表にありますとおり,受益者の権利というのは,単独で行使できるものと全員の合意を要する事項とに分けられますが,ここで問題になりますのは全員の合意を要する事項の権利行使についてでありまして,常に受益者全員の合意を要するといたしますと,複数の受益者による権利行使は困難なものになると思われます。

そこで,複数の受益者による合理的な意思決定の機会を確保しつつ,信託事務処理の円滑性も図るという観点から,信託行為に定めを置くことを条件として,受益者全員の合意を要する事項の全部又は一部について多数決をもって決定することを認めております。

  なお,いかなる事項を多数決の対象とするかは信託行為の定めにゆだねられることになると考えております。

  また,このように多数決での意思決定を認めた場合におきましては,どのような方法で決議を実施することを認めるかが問題となりますが,(2)におきまして,信託の特徴の一つであります柔軟性を確保するという観点から,決議の方法については,各信託の設計,すなわち信託行為の定めに委ねるものとしております。

  次に,2でございますが,受益者集会制度の創設に関する提案でございます。

  先ほど申しましたように,多数決制度のもとにおける決議の方法につきましては各信託の設計に委ねるわけでございますが,契約コストの削減等の観点からは,複数受益者による意思決定の方法及び手続についてデフォルト・ルールを明らかにしておくことが有意義であると思われます。

そこで,主要な方法の一つであると考えられます受益者集会についての規律の創設を提案しております。

  まず,(1)は受益者集会の招集に関する提案でございまして,招集権限は,信託行為に別段の定めがない限り,受託者と信託管理人が有するとしまして,また,受益者集会は,必要が認められた場合に随時招集されることとしております。

そのほか,正当な理由がないのに招集権者が集会を招集しない場合には,アステリスク1のとおり,受益者による集会招集請求権等に関する規律を設けることを検討しております。

  (2)でございますが,これは受益者による議決権の数及び受益者集会の決議方法に関する提案でございまして,①では,原則として受益者がそれぞれ1個の議決権を有することを定めております。

また,②では,受益者集会の決議方法を明らかにしておりまして,すなわち,受益者集会の決議方法につきましては,商法の規定なども参考に,いわゆる普通決議と特別決議を設けるものとしております。

  このように措置した場合におきましては,特別決議を要する事項と普通決議で足りる事項との振り分けが問題となりますが,これは,34ページ別表の「決議の種類」欄に記載しましたとおり,信託の基礎的変更に関する承認及び受益者にとって特に重要であると考えられる意思決定,具体的には信託管理人の選任に関する同意権でございますが,これについては特別決議を要するものとし,それ以外の事項は普通決議で足りるものと考えております。

  もっとも,先ほどより何度も御説明しているところにかかわりますが,信託におきましては,契約自由の原則から,信託行為の変更や終了など基礎的変更に係る承認権限につきましては特定の者に委ねることも可能であると考えられておりますので,信託行為に定めを置くことによって,特定の受益者に対してこれらの承認権限を与えることも可能であると考えられます。

このような信託の柔軟性にかんがみますと,特別決議事項と普通決議事項の振り分けですとか,あるいは定足数につきましては信託行為で自由に定めることができるとするのが相当ではないかと考えられるところでございます。

そして,このように決議の方法や定足数につきまして自由に定めることができるとした場合におきましては,少数派の受益者を適切に保護する必要が生じると考えられますが,この点につきましては,反対受益者の受益権取得請求権に関する規律を整備することによって妥当な解決を図ることが可能ではないかと考えているところでございます。

  もっとも,このように契約の自由を前提とした見解に対しましては,受益者集会という合議体での決議を法定する以上は,受益者保護の観点から,一定の限界,すなわち強行規定を設けることが必要ではないかとの指摘がまたあり得るところでございます。

そこで,アステリスク5に記載しましたとおり,決議要件等につきまして一部強行規定を設けることとするか否かにつきまして,なお検討したいと思っておりますが,契約自由の原則から自由に制度設計できるということの適否につきまして,是非ともこの場でも御審議を賜れればというふうに思っております。

次に,(3)は受益者集会の効力に関する提案でございまして,すべての受益者に及ぶということを明らかにしております。

ただし,信託におきましては,種類の異なる受益者が存在することがありますので,受益者集会で決議した内容によっては受益者集会の効力が特定の種類の受益者に損害を与えることがあり得ます。

この点につきましては,まず,種類受益者保護の観点から,受益者集会の決議は種類受益者には及ばないとすべきであるという考え方があり得ると思います。

もう一つは,契約自由の原則によれば特定の受益者に対して決定権限を委ねることも可能なので,異なる種類の受益者が存在する場合において,受益者による決議の効力がどのように発生するかについても信託行為の定めに委ねることとするのが相当であり,それに伴って生じ得る不都合につきましては,受益権取得請求権を一部強行規定として認めることで解決すれば足りるという考え方があると思います。

そこで,アステリスク7のとおり,種類受益者の保護に関して規律を設けるべきか否かにつきまして,なお検討するものとしておりますが,この点につきましても是非とも御審議をいただければと思います。

  (4)は,受益者集会の費用に関する提案でして,信託財産から負担すると,共益的な費用と見て,そのように考えているところでございます。

  次に,3は書面による決議に関する提案でございまして,受益者による多数決の方につきましては,信託行為で自由に定めることができますが,決議を必要とする事項によっては書面による決議が利用されることも多いのではないかと思われます。

そこで,書面による決議が採用された場合についての一つのサンプルとして,契約コストを削減するという観点も踏まえ,デフォルト・ルールを明らかにすることとしております。

  以上で受益者集会の説明を終わります。

次に,第50の「受益者名簿について」の説明に移らせていただきます。

  まず,1は受益者名簿の作成義務に関する提案でございます。現行法の39条,40条の規定では,受託者は受益者名簿の作成義務を課されておりません。

しかし,信託におきましては,受益者が複数となることがありますが,権利の行使に当たって受益者全員の合意が必要な事項については,各受益者は権利行使に当たって他の受益者の個人情報を知る必要があり,このような場合におきましては,受託者に受益者名簿の作成義務を課すことが,当該信託に関係する者,特に受益者にとって便宜であると考えられます。

そこで,1では,受益者が複数の場合におきましては,受託者が受益者名簿の作成義務を負うこととしております。

  なお,記載事項につきましては,アステリスク1のとおり,なお検討したいというふうに考えております。

 次に,2は受益者名簿の閲覧・謄写に関する提案でございまして,先ほど申しましたとおり,受益者に認められた信託法上の権利の中には,受益者が複数の場合においては全員の合意が必要となるものがありますので,受益者がこれらの権利行使をするに当たりましては,前提として,各受益者が他の受益者の正確な個人情報を知ることができるようにする必要があると考えられます。

このような観点から,受益者は,理由を明示して受益者名簿の閲覧・謄写を請求できるというふうにしております。

また,信託管理人は受益者を保護するために置かれるものですので,保護の対象である受益者の正確な個人情報を知ることができるようにするという観点から,受益者と同様の権利を有するものとしております。

  さらに,受益者集会制度や書面による決議の制度が採用されている場合におきましては,受益者集会の開催や書面決議の実施に当たりまして,決議を行う受益者に関する正確な情報を知ることができるようにする必要があると考えられますので,このような観点から,(2)では,受益者集会の招集権者又は書面による決議の実施権者は受益者名簿の閲覧・謄写請求権を有するとしております。

他方で,これらの者につきましては,集会の招集又は書面による決議の実施のために必要があると認められる場合に限って名簿の閲覧・謄写を認めれば足りると考えられますので,提案におきましては,その旨を明らかにしております。

  なお,受益者名簿の閲覧・謄写に関しましては,受益者の個人情報や受託者の営業秘密を保護する観点から,帳簿等の閲覧・謄写の場合と同様に,受託者は,①から⑦で列挙した正当な理由がある場合には受益者名簿の閲覧・謄写を拒むことができるとする方向で規律を整備する方向で考えております。

● それでは,今の範囲で御議論いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

● 今のところの最初の,「信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限について」という部分なのですけれども,結局,ここの表だけを見ると,やはりそう簡単には制限できないよというふうなニュアンスで語られているのが--さっきの続きなのですけれども,信託管理人が選任された場合には,そのうちの幾つかについて,なしになるのですね。

それだとどうかなということなのですけれども,今の私の狭い経験で言うと,私は,ある公益信託の運営委員会の委員というのをやっておりまして,会議になると,そこへ信託管理人の方が出てこられます。

それは,その信託銀行の関係の弁護士さんなんですね。だから,これで新しい制度を拡充していくのはいいのですけれども,そうすると,私が受託者であれば,やはり信託管理人を置いておきましょうよということになりかねない,現状の実務を。

今のところ,それで問題があるかというと,何ら問題がないのですけれどもね。

誤解を生むようだと困りますから。そうなのですけれども,しかし,今はそうだけれども,これが広がっていってどうだろうかという話にはなるので,この各受益者単独というところを,この幾つかの点だけですから,信託管理人のところへ全部行ってしまうということにする必要が本当にあるのだろうかというのが私の疑問です。

● 御意見はよく分かりました。先ほどの問題と関連する問題ですね。

 それから,今言われた,信託管理人というのはどういう人間がなっていいかという問題も恐らく今の問題には本当は入っていて……。

  公益信託だから余り問題ないのでしょうね。まあ,それも問題はあるかもしれないけれどね。いや,ちょっと言い過ぎました。

  ほかに。

● 私は,第49の受益者が複数の信託の場合の意思決定方法について意見を申し上げたいと思います。

 今回,全員合意ということの現行法にかえて多数決制度を導入されるということについては,非常に賛成でございます。

  ただ,その中で,債権の流動化というところで考えまして,質問が一つと,要望が一つございます。

  一つは,この第49の2の(2)の「議決権の数・受益者集会の決議」というところで,「受益者は,信託行為に別段の定めがない限り,それぞれ1個の議決権を有するものとする」ということなのですけれども,別段の定めがあるということがあればまた別なのでしょうけれども,基本的に考え方をお尋ねしたいのは,債権の流動化では,すべての受益権が同じではない,幾つかの受益権のグループに分かれているというところがあります。

一般的には優先的受益権とか劣後的受益権,それからオリジネーターが持っている売主の劣後受益権というようなものがあると思うのですけれども,そういったときに,基本的にどういうふうに考えたらいいのかということと,これは後の取得請求権のところにもちょっとかかわってくるのですけれども,その際にどういうふうに考えたらいいのかなということがあります。

御承知のとおり,商法では,普通株式のほかに,優先株式,劣後株式があって,通常は普通株式のもとに意思決定がされるということになって,特定の場合に優先株式等が議決権を持つというつくりになっているのですけれども,債権流動化の場合は普通株式に該当するようなものがないということが一つあるので,そういった質問をさせていただきました。

  二つ目に,次の26ページに書いてございますアステリスク5のところなのですけれども,債権者集会や書面決議とは別に,そもそも決議の方法及びその要件についても信託行為で自由に定めることができるものとするということについては,非常に賛成でございます。

ただ,この場合,その反対として,自由に信託を設計する当然の少数の受益者の保護という観点から,何らかの強行規定をもって少数受益者を保護しないといけないのではないかという考え方が示されておりまして,それは一般的にはしようがないのかなというふうに思っております。

  しかしながら,先ほども申し上げましたけれども,債権の流動化のときに,受益権の種類がいろいろございますので,そういったときに,もともと差がある受益権があって,そのときまでそういった種類の受益権を保護する必要がないケースがあるわけですね。

したがって,そういうものまで強行規定という形になってしまうと,非常にスキームがつくりにくくなってしまう可能性はないのかなと。

  これについては全然詳しく検討しておりませんので,杞憂にすぎないのかもしれないですけれども,例えば,反対する受益者の受益権取得請求がされるという中で,幾つかの受益権がなくなってしまう,例えば優先部分がなくなってしまうとか,実際にある程度の時間がたっていきますと,だんだん劣後部分の方が極めて大きくなってしまって,優先部分は全体からすると受益権としては非常に少ない,劣後の部分だけがまだたくさん残っているとか,そういったものもありますし,また,劣後受益権もいろいろなパターンがありまして,スキーム自体の中で劣後という形で--その中では当然順番を決めたりはしているのですけれども,当社の例なんかでは,オリジネーターが持っている受益権,複数のスキームの中に発生している劣後受益権をまたまとめまして,それを更に優先部分と劣後部分に分けて売却するなどするわけです。

そうすると,またその中での関係もかなり複雑になってきますので,強行規定という形で一律の保護というものを決めた場合,そのあたりにかなり影響が来るのではなかろうかというふうに懸念をしております。

これについては,これから詳しく検討したいなというふうに思っておりますけれども,そのあたりはいかがなのかなということで,思いつきなのですけれども,受益権がすべて平等の場合はこれで構わないと思うのですけれども,受益権について差がある場合については別段の定めがあるというようなものがあれば,うまくいく可能性はあるのかなというふうな感想も持っております。

● これは○○幹事の説明の中にもありましたけれども,いろいろな種類で,かつ優先・劣後の関係があるような,そういう受益者の種類があったようなときにどういうやり方でやるかと。結構難しい問題なのだろうと思いますけれども。

● まず,一つは,それぞれ1個の議決権でいいか,受益権の種類はいろいろあるではないかという御指摘ですが,そこは30ページのところにも書かせていただきましたが,そのように受益権の内容が均一でないからこそ,細かな類型の違いに応じて議決権の数を法律で一律に調整するというのはなかなか難しいと。

それであるからこそ,デフォルト・ルールとしては1受益者1議決権というよう

にさせていただいて,あとは,微妙な違いに応じて議決権を変えるのは信託行為に任せたいというのが,ここでの考え方でございます。

  それから,受益権取得請求権につきましては,これは我々は強行規定と考えておりますけれども,先ほど言いましたが,あらゆる変更ないしは基礎的な変更につきまして常に取得請求権が認められるというわけではないと。

どういう場合に取得請求権が認められるかというのは,正にこれから検討したいと思っているところですが,恐らく,実質的な変更に当たるような場合というような,そんな感じの要件になってくるかと思いますが,そうすると,そもそもの受益権の中である程度劣後していたものについて,それが多少変わって劣後がもっと劣後するようになったとか,その程度の話であれば重大な変更には当たらないが,優先していたものがいきなり劣後するとか,それはさすがに重大な変更とか,そのような実質的な判断というのが可能になるのではないかというふうに考えておりますが,その点を,御指摘なども踏まえつつ,また,これについては次回会合以降で検討する点でございますので,御指摘があれば,また後日でもいただければというふうに思います。

● 第48,第49,第50,3点意見を申し上げたいと思います。

  まず,第48の単独受益者権の制限のところでございますが,これについては,甲案,乙案というふうに提示がございますので,基本的には,私どもの業界としての多数意見は甲案ということです。

それ以外は乙案かというと,そうではなくて,基本的には信託の柔軟性を確保するという観点から,信託違反行為の第三者に対する取消権だけではなくて,ほかの単独受益者権についても信託行為の定めによって制限ができないかと,そういう少数意見がございました。

  実際の多数派の甲案の方の理由なのですけれども,これは22ページのところにも書いてありますけれども,実際に受益者が多数いますと,当然,それぞれの受益者にとって得なのか損なのか,それはいろいろ評価が分かれるということでございますので,あと,濫用ということもやはりどうしても出てくるものでございますので,信託行為によって制限を認めてもらいたいということでございます。

  次に,第49の受益者が複数の意思決定方法のところでございますが,ここの部分につきましては第2回に意見を申し上げましたが,引き続き,受益者が複数の意思決定方法として,多数決が導入されたということと,その方法について,先ほど来出ていますけれども,信託行為の定めで自由に設計できると,ここの部分については従来から要望していた部分でございますので,賛成だということでございます。

  ただ,これも先ほど○○委員の方から出ていましたけれども,アステリスクの5のところで,それに伴う不都合についての対応につきまして,決議に反対する受益者に取得請求権を認めるという形のものであるとか,ほかの強行法規を求めるという点につきましては,信託の特色であります柔軟性をちょっと阻害するようなことも出てくるのではないかということで,業界の意見の大勢としては,それについても,強行法規化というのは勘弁していただきたいというところでございます。

ただ,一部の意見としては,とは言うものの,何らかの制限はやはり必要なのではないかというような意見もございました。

  あと,複数の意思決定方法につきましては,これは多分後で議論されることになりますけれども,合同運用の信託についても適用される部分があると思いますので,そのときにまた御議論いただければいいと思いますけれども,そういう問題があるということをテークノートしていただければと思います。

あと,第50の受益者名簿のところでございますが,これが最近になっていろいろと議論が錯綜していまして,意見としては,1の名簿の作成義務の規律と,2の閲覧・謄写請求,このいずれも基本的には強行規定であるということだろうと思いますが,これをデフォルト・ルールにしていただけないかということでございます。

  まず,1の方なのですけれども,第2回の会議のときにちょっと申し上げたのですが,例えば投資信託というものを考えた場合に,受託者は基本的には受益者を把握していないというようなことがございまして,これから先以降いろいろな信託が出てきたときに,把握できないものもかなり出てくるのではないかと。

ということは,受益者名簿というのは果たしてつくれるのだろうかというのが,ちょっと余り自信がなくて……。

例えば,投信ということで限定して考えますと,当然,投信法という特別の法律がありますので,そこで緩和するという方法が一つあると思います。

それと,無記名証券が大半でございますので,例えば無記名証券については名簿を設けないという方法もあるかもしれません。

あと,第53の提案5で言う甲案ですか,これをとればいいというようなお話かもしれませんけれども,それ以外に,信託業法も変わりまして,受益権の販売業者というのが出てきて,受益者との関係は専らその販売業者が相対する,そして受託者と受益者の距離があいていくというような種類の信託もあるのではないかと。

その場合に,どこまで受益者名簿というものを作成できるか,そこら辺のところは,今後の展開次第によっては,できないようなものもあるのではないかということがありまして,基本的にはここはデフォルト・ルールにしていただけないかということでございます。

2の閲覧・謄写請求のところですが,当然,名簿がないとできないというのが一つあります。

それと,よく株主名簿とパラレルに言われますけれども,株主名簿というのは基本的に社会的に閲覧できるのだということが認知されておりますが,信託の名簿につきましては,基本的には,現行法で言ったら見れませんので,見れないものだということを前提に組み立てられています。

その中で,法律が変わったら当然考え方も変えるのだというお話かもしれませんけれども,例えば私が個人的に考えても,横のつながりを重視して,権利行使するために横のつながりを知りたいということで名簿の閲覧をするのと,プライバシーの観点から自分のことを知られたくないというのと,そのどちらに重きを置くのかというところではないかと思いますが,今の一般のお客さん,受益者の方々に聞いてみたら,多分,知られたくないという方も結構いらっしゃるのではないかなと。

そういう観点から,やはり一律に決めてしまうのではなくて,信託ごとにデフォルトという形で対応していくのがよろしいのではないかなと思います。

  あと,ここの規律につきましては,基本的には賛成なのですけれども,強行規定ではなくて,デフォルト・ルールにというところでございます。

● 第49で,総論的な意見と,質問を二,三,それと第50で質問を一つお願いします。

  受益者集会に関する強行法規を採用すべきかどうかという話についてでございますけれども,これについては,第2回で私が申し上げましたとおり,基本的にはデフォルト化を追求すべきであるということでございます。

  その意見をもう1度繰り返したいところでございますけれども,もちろん,先ほど○○幹事がおっしゃられたとおり,信託の重要なところである信託の柔軟性であるから自由ということもありますけれども,考えてみますに,もう一つ,1の(2)で,そもそも多数決についての方法というのは,別に受益者集会に限らず,書面その他の方法によって行うことができるということが書いてあります。

そうしますと,書面その他の方法については別に規律がないということですので,ここで平仄を考えますと,受益者集会を選んだときに,勢い団体性の議論が入ってきて,かつ,ある意味セットとしてやってくると。仮に定足数であるとか特別決議ということの意思決定に関することだけであればいいとしても,先ほどから出ています反対者の取得請求権というのもセットで出てくるということを考えますと,その他の方法によって行うことと,受益者集会との乖離が非常に大きいのではないかと思います。

うがった見方をするのであれば,例えば,「その他の方法」というのを,自治的に,受益者集会の方法と同じようなその他の方法でやると,ただし反対者の取得請求権はないものとして,独自の受益者集会でない集会を行うというのも,1の(2)であれば可能なような感じがしますので,そうしますと,2の強行法規を維持する意味がどこまであるのかということを思います。

  あとは,仮に強行法規であるということを前提とした場合の若干の御質問なのですけれども,ではどこまでデフォルトなのかということでございますが,1の(1)の中で,基本的な決議事項の場合というのは,この表によって判断すべきだというふうになっているわけですが,これ以外の事項というのもあるとは思うのですけれども,この場合に,これはそもそも受益者集会の決議事項になるのかどうか,また,その場合にそれが普通決議なのか特別決議なのかということが判然としないわけなのですけれども,例えば,セキュリティー・トラストが出てきた場合に,では担保物を買いますというようなことがあると。

一つの考え方は,これはもう信託そのものの変更ということで,信託行為の変更ということで第57の規律によるというような形で出てくるのかもしれませんけれども,片や,例えば担信法で言う担保の変更ということで何らかの決議に付すという考え方もあるとは思うのですけれども,私が申し上げたのは単なる一例でございますけれども,このような,この項目に想定されないようなものがあった場合に,その会議体ではどういうふうに扱うのかということを御質問させていただきたいと思います。

  二つ目は,決議の方法なのですけれども,いわゆるみなし賛成ということが可能なのかどうかということでございます。

株式会社の場合では,御案内のとおり,例えば,賛否を問うて,何も書かなかった場合には賛成とみなすというのを書くというようなことが行われておりますけれども,それに加えて,非常に自由な会議体ということを目指すのであれば,例えば,極端な話,返送しなかった場合は賛成とみなすというようなことも可能ではないのかというふうにも思います。

先ほどの1の(2)の中での「その他の方法」という,いわゆる私的自治の,会議体でない場合にはそういうことも可能なのかなと。

契約法の考え方からしても,あらかじめそういうふうに決めておけば可能ではないのかなというふうには思うわけですけれども,では受益者集会の場合にそういう方法が認められるのかどうかということです。

  それから,議決権で何を1票とするのかということについて,これは余り絶対的な意見を持っているというわけではないのですけれども,質問があります。

やはり多様なニーズに応じるためにデフォルト化賛成ということで,ここに書いてありますとおり,基本的には一人1票でいいであろうと。

商事信託の場合にはいろいろなニーズがあるわけだけれども,基本的にはそういうのは信託行為で決められるわけだから,それで対応すればいいだろうということで,基本的にはデフォルト・ルールを前提とし,ただし原則は一人1議決権というふうに整理されていると理解しております。

  ただ,考えるに,その原則自体,本当に一人1議決権でいいのかどうかということがございます。

恐らく,民事信託の場合で特別な場合,どちらを--つまり,持分権に応じて1議決権と考えるのか,一人と考えるのかということについてはいろいろな判断があり得るとは思うのですけれども,私は,民事信託であったとしても,いろいろな金銭的な,経済的なことを目的とした信託ということが多いと思いますので,民事信託としても原則は何らかの持分ということを想起して,それを単位とするということが望ましいのではないかと。

  そこで質問なのですけれども,ここで一人1議決権とした理由といいましょうか,例えばこういう場合にはやはり一人1議決権にしなければ不便だな,また,当事者の意思からしてその方が合理的だなというような具体的なものがあるのかどうかということについて,最後の質問とさせていただきたいと思います。

  それから,第50の受益者名簿については,簡単な質問一つでございますけれども,基本的には,先ほど○○委員からお話がありましたように,これもデフォルト化ということを希望したいとは思うのですけれども,1点確認したいのは,正当な理由によって拒絶することができるということなのですけれども,これはどういう事項を名簿に載せるのかにもよりますけれども,仮に多様な情報を名簿に載せるということになった場合に,やはり理由によっては,開示の内容,また範囲を限定することもできるのではないかというふうに思っているのですけれども,それがそうなのかということについて確認したいというふうに思っています。

● 第48の単独受益者の制限について,信託違反の取消権について意見を述べさせていただきます。

  今回の御提案は,従前出ております取引の安全と,今回は少数受益者権の取消権の濫用に配慮して御提案されているかと思われますけれども,この制度を作るに当たっては,信託違反行為の抑止という点も是非御検討いただきたいというふうに思っております。

  すなわち,信託違反行為の効力が否定されにくい制度のもとでは,信託違反行為の抑止力が弱まるのではないかというふうに懸念しております。

もちろん,受託者の忠実義務等の規定は存するわけですけれども,抑止効果として一番効力を持つのは,やはり信託違反行為の効果が否定される現実的可能性があるという場合。

こうした制度のもとの方が抑止効果が働くのではないかと思います。

受益者の立場からしますと,信託違反行為の効果が否定されにくいということになりやすいという場合には,もともと受益者が信託目的を基本的に前提として受益権を享受するということにしたにもかかわらず,この範囲外の行為によって負担ないし損害を負わされることになりまして,これは,受益者の立場からすれば,不測の負担を負わされるということになってしまいます。

こうした観点ですとか,あるいは紛争の防止・予防や信託への信頼確保という観点からも,信託違反行為の抑止というのは重要な課題であろうと思われますので,是非,この観点からの制度設計をお願いしたいと。

  このような観点から,甲案,乙案提示されておりますけれども,乙案に賛成する意見を述べたいと思います。

  なお,個人的には,従前述べさせていただきましたけれども,悪意重過失の立証責任についても,制度設計に当たってあわせて考えるべきではないかというふうに考えております。

これとの組み合わせの中でこの単独受益権の制限をどうするかということについても検討すべきかと考えております。

● 今言われた点は,現行の信託法というのは,たくさん受益者がいる場合というのはいろいろな場合があるのでしょうけれども,取消権についてだけはわざわざ32条が入っているというのは,恐らくそういう趣旨でできたのだと思います。

ただ,この規定ができた当時は,そんなにたくさんの集団信託というのは考えていなかったので,集団信託についてはどうするかという問題はなおあるような気がいたしますけれどね。

  以上,幾つか質問等について,ここでちょっとまとめて,○○幹事から。

● では,可能な範囲でお答えいたします。

  まず,受益権取得請求につきましては,受益者集会であればかかるのに,書面その他の方法ではというお話があったかと思いますが,我々の考えでは,いかなる方法をとろうとも,取得請求権は強行規定としてかかるという理解でおりますので,受益者集会だったら取得請求権があるのに,ほかの方法だったらないということはあり得ないというふうに考えております。

 次に,書いていない事項があったときにどうなるかと。我々としては一応網羅しているつもりでございますが,もし漏れている事項があるとすれば,御指摘を是非,また後日でもいただきたいのですが,基本的に自由に信託行為で設計できるという前提をとりますと,そもそも受益者集会の事項にするかどうかが信託行為で定められればいいということになりますので,漏れている事項があるとして,それを受益者集会の対象とするかどうかというのも信託行為で決めていただければいいのではないかというふうに思っております。

それから,いわゆるみなし賛成で,これは,兼営法にあるものですとか,投信法とか,いろいろな法律があるかと思いますが,かねてより問題になっていたところでございましたが,現在の我々の考えといたしましては,そこをどのような方法をとるかというのも,あくまで多数決を前提として,そのもとでの方法というのは信託行為で定めればいいということですので,多数決の前提である上で兼営法のみなし承認のような規律を設けることも,信託行為で定めれば可能であるというふうに,現時点では考えているところでございます。

  それから,議決権について,一人1議決権よりは,受益権の持分で決める方がいいのではないかというような御指摘が,デフォルト・ルールの定め方としてありましたが,その不都合というのは,例えば受益者全員の一致が必要とされる場合,仮にその持分が,ほかの人は全部1万円だとして,一人だけ1円だという場合でも同一といたしますと,その1円の人がノーと言えば権利行使は認められないということになるとやはり不都合であって,一人1票とする方が合理的ではないかというような考え方に基づいたものであるという点を答えさせていただきます。

  あと,取消権の行使について,これは御質問というよりは御意見ということでございますが,確かに,なるべく違法な行為を取り消した方が監督権の行使に資するという観点も全くそのとおりかと思います。

ただ,監督権の行使の方法としては取消権が一番ドラスティックではございますが,その他に,例えば,利益吐き出しはともかくといたしまして,損失てん補ですとか原状回復というような方法もありますので,そのような方法は単独として認めております。

更にその取消権についてもプラスアルファ単独にすべきかどうかというところについては,いろいろな考え方があるかなという,直感的にですが,そういう気がしております。

いずれがいいかというのは,ちょっとまだ分からないというふうに言わせていただきます。

  あと,受益者名簿を一部隠していいかどうかというのは,余り検討していなかったところでございますが,少なくとも現在言えますのは,⑦の請求によって必要と認められる限度を超える請求が行われたときは,見せないことができますので,受益者ごとに区切って,Aの受益者の受益者名簿だけ見ればいい場合には,Bのところは目隠しをして,Aの部分だけ見せればいいということは可能というか,そうすべきであると。A,Bとも見せないのではなくて,少なくともAは見せなければいけないが,Bは隠すことはできるということになると思いますが,更にAで例えば名前だけ見せて住所は隠すとか,そういうのができるかというと,それでこの受益者名簿の閲覧請求権を認めた趣旨にかなうのかという点,疑問がないわけではございませんが,まだ未検討でございますので,御指摘を踏まえて,今後検討させていただきたいと思います。

● ほかに。

● その他の方法によってということが,取得請求権を逃れるようなことができるかという話を御質問したわけですが,それは強行法規だからできないという話なのですが,そういたしますと,例えば,31ページの(3)からの説明の中で反対受益者の取得請求権云々という議論というのは,これはいわゆる1の(2)の,「その他の方法」というところの記述でもあるということで,そうしますと,その「その他の方法」の中で,ほかの受益者集会の規範というのも,「その他の方法」の類型の自由な決め方の中にやはり強行法規的なものが入ってくる余地があるということでございますか。

● はい。どの限度で強行法規かというのはともかくとして,どのような方法をとったとしても,それはやはりそれによって,例えばその方法によって変更されて実質的に害される受益者がいれば,反対受益者が取得請求権を行使できるという点,コアの部分は強行法規であると。方法にかかわらないというふうに考えています。

● 一言で言うと,1の(2)の「その他の方法」というのは,完全なデフォルト・ルールではないと。

● そう定めることはデフォルト・ルールですが,その内実として,受益権や取得請求権がかかるというところは強行的であるという考え方でございます。

● そうすると,私の意見としては,それもデフォルト・ルールにしていただきたいというのがあります。

● 第49について発言させていただきたいと思いますが,受益者が複数の場合の意思決定方法として受益者集会制度を導入するということは,特にディールを中心とする日本の信託の現状を考えると,大変適切な方向ではないかと思うのですが,ただ,説明の中でも出てまいりますように,例えば,「契約自由の原則を踏まえて」という箇所が何か所か出ておりますけれども,この受益者集会による意思決定というのは本来契約の限界があるところから出てきているわけで,あらかじめ事前に決めることができないから,どう決まるか分からないけれども,こういう方法で決定しましょうという制度ですので,契約自由のアナロジーでこの集会制度を規律するというのは,やはり非常に疑問があると思っております。

  もう少し具体的に申しますと,例えば手続的な規定,それから情報に関する規定,それから,少数派あるいは反対派だけではなくて,そもそも出席しなかった人も拘束されるわけですので,そういう人も決議に拘束されるような合理的な手続,情報,それから少数派,反対派,あるいは参加しなかった者の保護について,かなりの強行法規がないと,逆に受益者保護のための受益者集会制度が本来の趣旨に反するものになってしまうのではないかという気がいたします。

特に,そういう観点からいたしますと,種類受益者集会制度のようなものはやはり強行規定として定めておく必要があるのではないかと考えております。

  逆に,会社法の方でも,株主総会の決議の瑕疵を争う訴訟というのは,会社法上争われている類型で最も訴訟が多い。

そういう意味では非常にトラブルになりやすい面があるかと思います。

そういうときには,やはりある程度きちんとルールを定めておいて,逆に決議の効力についてはある程度の効力を高めるという方向も一つあり得ると思いますので,強行法規性を認めるかわりに決議の効力について少し安定的な制度にするといった選択肢も一つあり得るのではないかと思っております。

  それから,受益権の取得請求権についてですけれども,これも本来,受益者による意思決定によって,より健全かつ効率的な信託の運営を目指していると思いますので,取得請求によってかえって信託の基礎が揺らいでしまったり,信託がうまくいかなくなるということになったのでは,これはもう元も子もない話ではないかと思います。

そういう観点からすると,やはり受益権の取得請求というのは,やはりよほど限られた限定的な場合にのみ認められるものであって,本来の趣旨,集団的な意思決定によって恐らく合理的な決定がなされるだろうと,こういう決定を可能にする限りにおいて限定的に認めるべきではないかと思っております。

  それから,第50の方の受益者名簿について,一言だけ申し上げさせていただきたいと思います。

  受益者名簿を必ず作成しなければならないということは,特に受益者集会制度を採用していない信託においてはないと思うのですけれども,そのときは,逆に,受益者に対して一定の情報を通知するための公告についての何らかのルール,あるいは信託についての何らかの情報を伝えるための仕組みについて検討する必要があるのではないかと。

逆に,受益者名簿を作るのはコストがかかると思いますけれども,そういった公告等もなかなか大変な場合もあるかと思いますが,最近はIT化の進展等で,ホームページ等も利用してそういった公告を行うということもあり得ると思いますので,その後には柔軟に考えることができるのではないかと。

受益者名簿は,そういう意味では必ずしもつくらなければいけないというものではないというふうに私も思います。

  以上,ちょっと長くなって恐縮ですけれども,3点についてコメントさせていただきました。

● この受益者集会というのは,確かに合理的な意思決定をするための制度としてつくられているので,そこが契約自由で何でも自由になって,かえって合理的な意思決定ではないということになると,意思決定自体が効力を争われる可能性が出てくると,そういう御発言だったと思いますけれども,それなりに重要な御指摘だと思いますね。

これもまだ幾つか検討すべき点が残っていると思いますので,今のような御指摘も踏まえて考えていきたいと思っています。

  それから,第48でしたか,甲案,乙案というのが出ていまして,これも,今までのところ,両方の御意見が出ております。

こういう二つの案が出ているところについては,いずれだんだん集約して決定していかなくてはいけないわけで,今日は時間が余りありませんので,皆さんの御意見を伺うということはいたしませんけれども,基本的には皆さんの御意見を伺いながら,それに沿いつつ決まっていくということだと思いますので。ここは審議会ですから。ということで,皆さんの御意見を積極的に御発言いただければと思います。

本来,もう一つセッションが残っているのですが,今日は途中でいろいろ時間をとってしまったために,全部予定どおりできませんでしたけれども,これで終わりたいと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年加工編   法制審議会信託法部会

第8回会議 議事録

第1 日 時  平成17年1月14日(金)  自 午後1時00分

                       至 午後4時44分

第2 場 所    法務省第1会議室

第3  議 題

   信託法の見直しに関する検討課題(5)(続き)について

   信託法の見直しに関する検討課題(6)について

第4 議 事   (次のとおり)

                              議    事

● それでは,時間になりましたので,法制審議会信託法部会を開催したいと思います。

  どうもお忙しいところお集まりいただきまして,ありがとうございました。

   (関係官の異動紹介省略)

● 本日は,具体的な議題に入る前に,事務当局の方から,当部会の審議スケジュールの変更について皆様にお諮り申し上げたいと思います。

  当部会の審議スケジュールにつきましては,昨年10月1日に開催されました第1回会議の冒頭におきまして,事務当局より,信託法の改正についての関係法案を本年の臨時国会に提出することを目途として,本年2月中に要綱試案を取りまとめた上でパブリックコメント手続を行い,その結果も踏まえて,本年7月までに要綱案を決定すること等をお諮り申し上げて,部会の御承認をいただきました。

  その後,当部会におきましては,このスケジュールに基づきまして,昨年は合計7回にわたり会議を開催いただきまして,多岐にわたる論点について,順調かつ精力的に御審議をお進めいただいてきたところでございます。

  もっとも,今般の信託法の全面改正に当たりまして検討を要する事項は,これまでの御審議からも明らかなとおり,極めて複雑かつ多岐にわたるものでして,実務界に与える影響の大きさにかんがみましても,拙速に陥ることなく,引き続き慎重かつ綿密な御審議をいただくことが適当であると考えております。

  そのほか,公益法人制度の見直し状況や関係法令の整備の必要性などにもかんがみまして,事務当局といたしましては,当初の審議スケジュールを改め,信託法の改正についての関係法案の提出時期につきましては,平成18年の通常国会を目途としたいと考えております。

  なお,このようなスケジュールの変更に伴いまして,当初のスケジュールでは本年3月に行うこととしていましたパブリックコメントの手続につきましては,私益信託部分を中心として本年6月ごろに行うこととし,その後も私益信託部分を中心に審議を進めまして,他方,公益信託部分につきましては,公益法人制度改革における作業の進捗状況をも踏まえまして,本年の秋以降に本格的な審議を行っていただくことを予定しております。

また,当部会における信託法改正要綱案の決定は本年の年末か年明けに,法制審議会総会における要綱の決定,法務大臣への答申は,来年2月ごろとなることが見込まれるところでございます。

  最後に,部会の開催頻度につきましては,これまでも月2回の審議をお願いしまして,相当の御負担をおかけしているところでございますが,信託法の改正項目が相当多数に上ることが見込まれることにかんがみますと,今後も差し当たり毎月2回の割合で隔週金曜日に部会を開催する必要があると考えております。そこで,当部会のとりあえず本年7月までの具体的なスケジュール案を,本日席上配布させていただきました。

  なお,具体的な審議事項及び本年9月以降のスケジュール案などにつきましては,今後の審議状況等を踏まえつつ,改めて提案申し上げていくこととしたいと存じております。

  委員・幹事の皆様には引き続き多大な御負担をおかけすることとなりますが,よろしくお願い申し上げたいと存じます。

  以上のとおり,お諮り申し上げます。よろしくお願いいたします。

● そういうことですので,半年延びたというようなところがありますので,大変でございますが,よろしくお願いいたします。

  ちなみに,9月以降の日程についてはこれから具体的に決まっていくのだと思いますけれども,曜日は大体金曜日というふうに理解してよろしいですか。

● はい。

● 皆様のいろいろな日程調整などあると思いますので,曜日は大体金曜日を中心とするというふうに御理解ください。

  それでは,ここで何か御質問等ございますでしょうか。--よろしいですか。

  それでは,本日の審議に入りたいと思います。

  今日も幾つかのセッションに分けて審議していただきたいと思いますので,その分け方等につきましても,○○幹事からお願いいたします。

● 本日も,大きく四つに分けて議論させていただきたいと存じます。

  まず最初に,前回積み残しました受益権の譲渡,有価証券化,消滅時効についての御審議をお願いします。

2番目に,信託行為の変更,併合,分割につきましての御審議をお願いしたいと存じます。

3番目に,反対受益者の受益権取得請求権についての御審議をお願いしたいと存じます。

最後に,信託の終了原因と信託の清算についての御審議をお願いしたいと存じます。

  なお,本日は所用がございまして,5時より少し前に終わるように見込んでおりますので,どうぞ御協力をお願い申し上げます。

● それでは,第1セッションからお願いします。

● それでは,早速,「第52 受益権の譲渡について」というところから御説明を申し上げたいと存じます。

  現行法上,受益権の譲渡に関する法律関係は明確ではございませんが,学説上は,受益権は指名債権に準ずるものと理解した上で,その譲渡性を原則的に承認し,対抗要件についても指名債権に準ずるものと解する見解が有力でございます。

  もっとも,受益者は権利のみならず補償債務や報酬債務をも負担し得べき地位にあることから,このような特殊性にも配慮しつつ,受益権の有価証券化に関する規律を整備する前提としても,受益権の譲渡に関する一般的な規律を明らかにすることが適当であると考えるものでございます。

 なお,以下におきましては,受益者が信託行為に基づいて有する権利義務の総体としての地位を「受益権」ということとし,他方,受益者がかかる受益権に基づいて信託の利益を受ける債権を「受益債権」と呼んで区別することとしております。

  まず,1でございますが,これは受益権の譲渡性に関する提案でございます。

1番目として,受益者は原則として受益権を自由に譲渡できること,2番目としまして,受益権の譲渡については受託者の承認とか承諾は必要としないこと,3番目に,ただし,受益権の譲渡がその性質に反するとき,信託行為に受益権の譲渡禁止の特約があるとき,あるいは受益権の譲渡が信託目的に反するときには,例外的に受益権の譲渡ができないことなどを規律したものでございます。

  次に,2でございますが,これは,受益権譲渡に関する対抗要件につきましては,ゴルフクラブ会員権の譲渡に関する判例なども参考といたしまして,指名債権の譲渡に関する民法467条の規律に準じまして,受託者に対する通知又は受託者の承諾をもって受託者対抗要件とするとともに,確定日付のある証書による通知又は承諾をもって受託者以外の第三者対抗要件とするものでございます。

  次に,3ですが,これは受益権譲渡における受託者の抗弁事由に関するものでございまして,受託者は,通知又は承諾があるまでに譲渡人たる旧受益者に生じた事由をもって譲受人たる新受益者に常に対抗できることとし,通知はもちろん,異議をとどめない承諾にも,民法468条のような抗弁事由喪失の効果を持たせないとするものでございます。

  次に,4でございますが,これは,受益権の譲渡に受託者の承諾を要しないこととしたことのいわば見返りといたしまして,受託者対抗要件たる通知又は承諾までに既に旧受益者に発生していた補償債務又は報酬債務につきましては,受益権の譲渡後も譲渡人が譲受人とともに併存的に債務を引き受け,弁済の責任も負うことを原則といたしますとともに,旧受託者の債務の負担につき信託行為に別段の定めのある場合には,受託者は,善意の譲渡人に対してはかかる特約に基づく不利益を負わせることはできないとするものでございます。

  なお,提案では,通知又は承諾があるまでに生じた債務につき併存的責任を負うということをデフォルト・ルールとしておりますが,例えば債務の発生直前に受益権の譲渡がなされる場合などを想定しますと,受託者保護の観点から,例えば通知又は承諾があるまでに生じた原因に基づく債務,あるいは通知又は承諾後一定期間内に生じた債務のようなものにつきまして併存的責任を負うことをもってデフォルト・ルールとすべきであるか,それとも,受益者の債務はせいぜい二次的債務であることや,受託者としては譲渡制限特約や併存的責任を広げる特約で対処できることなども考えますと,デフォルト・ルールとしてそこまで併存的責任を広げることはやはり適当ではないか,いろいろな考え方があり得るところでございますので,御意見があれば是非とも御教示を賜れればと存じます。

  なお,以上はいずれも受益権の譲渡に関する規律でございますが,一般の契約におきましては契約上の地位の移転と契約の一部である指名債権部分の譲渡とが別個に観念されますように,受益権の譲渡とは別に,受益債権の譲渡を観念すべきかについて検討を試みましたのが,44ページ以下の5の記述でございます。

  ここでは,考え方の一例といたしまして,甲案と乙案とを併記しております。

  このうち,甲案でございますが,これは,一般の契約を類推しまして,受益権が契約上の地位,受益債権が契約に基づく指名債権に相当するものと考え,受益権の譲渡とは別に,受益債権の譲渡のみ行うこともできると考えるものでございます。

 なお,この考え方のもとにおきましても,受益債権の譲渡の範囲には制限がないとする考え方と,個々の受益債権のすべて,あるいはこれに相当する受益債権の総体を譲渡することは,受益債権を有しない受益者を認めることになるから許されないとする考え方とがあり得るところでございます。

  これに対し,乙案でございますが,これは,株式についての考え方を類推いたしまして,受益権が株式に,受益債権が基本権たる配当請求権と支分権たる具体化した配当請求権に相当するものと考えまして,具体化した支分権たる受益債権を除いては,受益債権の譲渡のみを行うことはできず,常に受益権の譲渡として行う必要があると考えるものでございます。

  この点につきまして,資料47ページの(注6)におきましては,更に折衷的な考え方も示させていただいておりますが,受益権の譲渡と受益債権の譲渡の関係については,譲渡のみならず,差押えの局面におきましても問題となることが考えられますので,条文化の要否はともかくといたしまして,考え方をいかに整理すべきかにつきまして御審議をいただけると有り難いと存じます。

  以上が,受益権の譲渡についての提案でございます。

  続きまして,第53の受益権の有価証券化につきましての提案に移らせていただきます。

  資産流動化目的での信託など,信託を利用した金融商品の市場の活性化のためには,受益権の流通性を高める必要があるとの観点から,貸付信託法,投信法,資産流動化法などの特別法のみならず,一般法である信託法におきましても受益権の有価証券化を認める規定を設けるべきであるということが指摘されております。

そこで,必要的にではなく,あくまでも信託行為に定めた場合ではございますが,受益権についての有価証券--すなわち受益証券でございますが--を発行できることとした上で,受益証券の類型,譲渡の方法及び効力,受託者及び第三者への対抗要件などにつきまして規律の整備を図ろうとするものでございます。

  まず,受益証券の法的性質につきましては,権利の流通性を高めるという目的から,いわゆる講学上の無記名証券とすること,その上で記名式と無記名式の双方を発行できるとすること,株式と同じく有因証券でありまして,その表章する受益権の内容は証券の記載ではなく信託行為によって定まること,また,無記名証券であるという性質にかんがみまして,受益権の譲渡には譲渡の合意とともに受益証券の交付を要すること,受益証券の所持人にはいわゆる資格授与的効力が付与され,善意取得を認めること,以上につきましては第2回会議でも御説明したとおりでございます。

また,法律関係の複雑化を回避すべく,証券化された受益者の地位が譲渡された場合には原則として委託者の地位も移転いたしますが,委託者の地位を固定し,受益権のみを流通させるタイプの信託も考えられますので,信託行為をもってこの原則が適用されないものとすることも可能としていることも,第2回会議において御説明したところでございます。

  そこで,以下におきましては,第2回会議以降,事務当局におきまして更に検討を進めた事項につきまして,2点,御説明を申し上げたいと存じます。

  まず第1は,資料の5及び6に記載しておりますとおり,受益者名簿の作成の要否及び受益証券の譲渡の対抗要件につきまして,報告書に記載しておりました案を甲案といたしまして,新たに乙案というものも提示した点でございます。

  従来の甲案でございますが,これは,記名式の受益証券については株式に類似した取扱いをするものでありまして,無記名式の受益証券については無記名社債に類似した取扱いをするものでございます。

具体的には,記名式についてのみ受益者名簿の作成を要するものとした上で,対抗要件につきましては,受託者との関係では,記名式については受益者名簿の記載又は記録により,無記名式につきましては券面の占有によるものとし,他方,第三者に対しましては,記名式,無記名式を問わず券面の占有によるとするのが,甲案でございます。

  これに対しまして,乙案でございますが,これは,記名式,無記名式いずれについても受益者名簿の作成を必要とした上で,対抗要件につきましては,受託者に対しては,記名式,無記名式を問わず受益者名簿の記載又は記録によるものとし,他方,第三者に対しましては,記名式につきましては,受益証券の占有のほか,券面への氏名または名称の記載を要するものとし,無記名式については券面の占有によるものとするものでございまして,資産流動化法の174条1項・2項と同様の取扱いをするものでございます。

  この乙案というのは,受益者に対しましては,信託の類型を問わず,受託者に対する各種の監督権能や信託行為の変更・信託の終了に関与する権限が認められていることにかんがみますと,その権利行使の機会を確保することを重視して,記名式,無記名式を問わず,受益者名簿の作成を要するとするものでございます。

  これに対し,甲案でございますが,これは信託の類型によって,例えば投資信託など,基本的には配当を受領するにとどまり,それ以上に法律上認められている各種の権利の行使が実際にされることは少ないと考えられる社債タイプの信託商品と,配当を受領する以外に権利の行使もある程度想定できる株式タイプの信託商品とが考えられること,常に受益者名簿の作成を要するとした場合の受託者の負担への懸念,あるいは券面への氏名の記載を要求するのが手続的に煩雑であることなどを考慮しました上で,株式タイプの記名式と社債タイプの無記名式のいずれの受益証券を発行するかについては,受託者の合理的な選択に期待しようとするものでございます。

  次に,受益証券が譲渡された場合に原則として委託者の地位も移転することは先ほど申しましたとおりですが,証券の譲受人が証券発行者たる受託者に対する権利のみならず義務までも承継するのは相当でないと考えられることから,委託者の義務,例えば報酬支払義務などにつきましては承継されず,受益者が補償支払義務や報酬支払義務を負担することも認めないこととしまして,これらについては信託行為に基づく例外的な定めも許容されないことと結論したものでございます。

  なお,受益権の有価証券化につきましては,更に進めまして,受益権を振替制度の対象としてペーパーレス化を図る実務上のニーズがあることが第2回会議などで指摘されております。資料49ページのアステリスク3に記載しているところでございまして,一般の受益権も振替制度の対象とすることにつきましては,今後検討していきたいと考えているところでございます。

  また,同じく資料の52ページ,(注1)記載のとおり,実務上,信託財産を引当てとした債券発行を認めるニーズがあると言われておりまして,第2回会議におきましても,信託財産を引当てとする債券発行ができると好都合ではないかと考えているという御意見もございました。

この点につきまして,一体具体的なニーズがどういうものか,このような債券発行を認めることのメリットはどこにあるのか,受益権の複層化によって対応できないということがあるのか,などにつきましてもう少し御教示いただけると有り難いと存じております。

  以上が,受益権の有価証券化についての提案内容でございます。

  最後に,第54といたしまして,受益債権等の消滅時効についての提案に移らせていただきます。

  なお,あらかじめ申し上げますけれども,56ページの(注1)に記載したところでございますが,「受益権」とは,受益者の有する権利義務の総体,すなわち受益者の地位を言うものであると整理しておりますので,契約上の地位たる受益権自体ではなくて,そこから生ずる「受益債権」,すなわち信託の利益を受ける債権の部分が消滅時効にかかるものとして規律を設けることとしております。

そして,預託金会員制ゴルフクラブ  の施設利用権の消滅時効と会員権の消長に関する平成7年9月5日の最高裁判決も参考にいたしますと,消滅時効の援用によって受益債権が消滅した場合には,受益債権を基本的な構成部分とする受益権ももはや包括的な地位としては存続し得なくなると考えられまして,その結果,ほかに受益者がいるような場合ではない限り,受益権すなわち受益者が不存在となって,当該信託は目的不達成により終了し,その結果,行使可能となる帰属権利者の残余財産分配請求権もまた時効消滅した場合には,信託財産は信託の拘束から完全に解かれて,受託者の固有財産に帰属することになると整理していることをあらかじめ付言申し上げます。

  提案内容の1でございますが,これは,受益債権の消滅時効の時効期間とその起算点,それから受託者が消滅時効を援用するに当たっての手続的要件,更に受益債権の除斥期間に関する提案でございます。

  まず,(1)でございますが,受益債権の消滅時効に係る時効期間につきましては,受益権が民法167条2項の「債権又ハ所有権ニ非サル財産権」に当たる性質を有するものであるとしまして,20年とする見解もございますが,ここでは,資料54ページの①ないし③に記載した理由から,「債権」に係る消滅時効に関する規定に従うものといたしました。

その結果,例えば通常の民事信託における受益債権の消滅時効期間は民法167条1項によりまして10年となり,営業信託における受益債権の消滅時効期間は商法522条により5年となるというふうに考えられます。

更に,前回,受益者の利益の享受というところで申しましたとおり,受益者は特段の意思表示を要することなく当然に信託の利益を享受することになりますことを踏まえまして,受益者自身が受益者となったことを知らないままに消滅時効が進行してしまう弊害を回避するため,受益者として指定された者が受益者となったことを知った後でなければ消滅時効が進行しないこととしております。

  次に,受託者が受益者の受益債権について消滅時効を援用することは,その受益者の利益の犠牲のもとに他の受益者や帰属権利者が利益を得ることが考えられますので,受託者の負担する忠実義務に抵触することになることが考えられます。

そこで,受託者の忠実義務を確保する観点から,受託者が受益債権の消滅時効を援用するためには,(2)のとおり,原則として時効期間の経過後におきまして,一定の猶予期間を置いた上で,受益債権の存在等を受益者に通知することを要し,猶予期間内に受益債権の請求がなかった場合には,これをいわば消極的な同意とみなして,忠実義務が解除され,消滅時効を援用することができることとするものでございます。

  なお,このような受託者の通知義務につきましては,(3)のとおり,例外を設けることとしております。

 最後に,(4)におきましては,受益債権は,受益者がこれを行使できるときから20年の経過をもって除斥期間にかかり,消滅することといたしました。

これは,(1)のとおり,受益債権の消滅時効の起算点を受益者の主観的認識にかからしめておりますので,受益者が自己が受益者となったことを認識しない限り,いつまでたっても受益債権が消滅時効にかからないこととなる弊害を回避しようとするものでございます。

  なお,除斥期間の場合,受益債権は,受託者による援用の意思表示を要することなく,客観的な期間の経過をもって当然に消滅することとなり,援用が忠実義務に違反するかといった問題が生じませんので,忠実義務違反の解除の要件たる(2)の通知といったことも必要ないことになると考えております。

  次に,2でございますが,これは,信託終了後の残余財産の引渡請求権に関しましても,受益債権と同様に,一定の期間の経過をもって消滅時効又は除斥期間にかかること,受託者が消滅時効を援用するに当たっては原則として受益者に対する一定の通知を要することなどを規律したものでございます。

● それでは,受益権の譲渡から受益債権等の消滅時効のところまでの間で御議論いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

● 第53の有価証券化と第54の消滅時効のところについて,若干の御意見を申し上げたいと思います。

  まず,有価証券化のところでございますが,第2回の席上におきまして,受益権の有価証券化につきましては振替制度を利用できることを前提にしてお願いしたいということを申し上げていましたが,現在も当然同様の意見でございますので,是非ともお願いしたいということです。

  あと,各論的なところでですけれども,受益証券の受託者の対抗要件のところでございますが,第2回の席上におきまして,無記名のものについても受益者名簿のところを対抗要件にしていただきたいというふうに申し上げまして,なおかつ,前回の席上で,受益者名簿が作成できない場合もありますと,ちょっと矛盾したようなことを申し上げております。

実際,ちょっと困っておりまして……。ただ,特に受益者名簿についてはやはり作成できないということもあるのではないかということもかんがみまして,非常にわがまま的な話で言いますと,場合分けするような対抗要件というのができるのであれば,そういう形でお願いできないかということでございます。

  2点目は,先ほど○○幹事の方からもお話がありましたけれども,信託財産を引当財産とする債券の発行,これについても,現状,当然やっておりませんので,どこまでのニーズがあるかは分かりませんけれども,やはり大量な資金を調達する場合であるとか,複層化を明確にするような場合,そういう必要性からニーズはあるのではないかなと思います。

先ほど,何かそれ以上の理由はというようなお話がありましたけれども,もう想像にすぎませんので,なかなか明確なことは言えないのですけれども,やはり受益者の権利を要しないような債券というものができるというのは,そこは違うところではないかなというふうに考えております。

  次に,消滅時効のところにつきましては,総論的には,今は規定がございませんので,こういう規定を設けていただくということについては賛成ということでございますが,実務的なところに落として考えますと,これはひょっとしたら実務家の方が工夫してやらなければいけない部分ではないかと思いますけれども,2点ほど問題があるので,ちょっと申し上げたいと思います。

  1点目は,例えばという話ですけれども,貸付信託で15年間たったものがありますと。5年間が満期ですので,要するに消滅時効期間を過ぎたようなものがあって,その通知を持ってお客さんが来られたと。

そのときに,どうも残高がないようだと。

要するに,払い出しの伝票等については割と短期間でなくしてしまいますので,その人に払い出ししたかどうか分からないけれども,元帳については割と長期間残っておりますので,残高があるかないかというのは大体分かりますと。

ところが,その人に払ったかどうかは分からないという状況がありまして,こういうときに時効を援用して払いたくないというのが,時効制度を導入していただきたいというニーズのうちの一つ,大きなニーズのうちの一つなのですけれども,そういうことを前提にした上で,この規律に置きかえてみますと,ちょっと不都合がありまして,援用する際に,残高がありませんので,通知というのは当然しておりません。

ということになりますと,「受託者が受益債権が存在しないと信ずるに足りる相当の理由がある場合」というのが要件になっていますので,結局,その人に対して払い出しをしたような伝票類がない限りにおいて,なかなかそんな証明もできないと。

ということになりますと,実際には時効を援用するというようなことが非常にやりにくいのではないかというふうに思われます。

ここら辺については,何か実務上の工夫をして対応しろというようなお話かもしれませんけれども,法的な手当てで何らかの対応をお願いできるのであれば,御検討をお願いしたいということが1点でございます。

  もう1点ですけれども,55ページの一番下の「もっとも,」以下のところですけれども,ある受益権が消滅時効で消滅した場合に,「当該受益者へ給付されるはずであった信託財産は,他の受益者又は帰属権利者が存する場合には,これらの者へ給付されることになる」とされています。

この場合に,ある受益権の消滅時効の満了の時点と,援用して消滅したその間に受益者がその信託から出ていったときには,その受益者を追っかけていってもう一回分配しないといけないと。

時効の場合には遡及する形になるでしょうから,時効の満了した時点まで戻って考えると,そこから後に出ていった人に追加で分配しないといけないというような不都合があって,それはなかなか実務上厳しいのかなというふうに考えておりまして,これにつきましては,例えば「帰属権利者」というのを別に設けて対応するという実務上の対応もあるのではないかということですけれども,実際に,例えばそれを「受託者」というふうに書いて果たして書き切れるかというような問題もございますので,これも実務上対応すべき問題かもしれませんけれども,何らかの法的対応ができるのであれば,御検討いただければなというふうに考えております。

● ちょっと細かい問題ではあったかもしれませんけれども,一つは,この時効の方で言えば(3)のことですか。元帳はあるけれども,伝票はもう捨てられていて,そういうときに時効を援用したい,だけど支払ったということまでの証明はできないので,だから正に時効を援用したいわけですね。そのときに,(2)の方でもって通知をすれば,それでいいわけですね。

● いえ,通知をすれば,その人は残高があると思って来られていますので,じゃあ払い出ししてくださいというふうに多分言われるのではないかと。

● そのときに争いが生じるというのが困ると。

  それで,それに対して,証拠はもうないのでということですね。しかし,それは正に時効の機能みたいなものだという気もしますけれどね。

● 今おっしゃられていたところは,恐らく,(3)では,「(2)の通知をしなかったことについて正当な理由がある場合」というのが基本的な要件になっておりますので,そちらの方に果たして当たるのかどうかということなのだと思います。

先ほど,相当な理由があるかどうかというふうに言われましたけれども,この要件では,正当な理由があるかどうかというふうに考えるのだと思います。

  それで,残高については確認できるけれども,払ったかどうかは分からないというのが,果たして通知をしなかったことについて正当なのかどうかということで判断がされるということ……。

● 残高がその元帳上ない限りにおいては,その人に対して通知をするということはあり得ないと思うのですね。

● ということになりますと,通知をしなかったとしてもしようがないのではないか,つまり,その銀行の処理体制として相当なものであるという前提のもとで,残高しか分からない,それで残高がないということで通知をしないのはもうしようがないのだというふうに言われるのであれば,それが「正当な理由がある場合」と判断され得る可能性もあるのではないかという気はいたします。

 それから,私の方から言わせていただくのがよろしければ,後の方で言われた消滅時効についての問題ですけれども,恐らくは,他の受益者とか帰属権利者とかがいる場合にどうするかという話だったかと思うのですが,その場合は受託者が当然に取れるというふうにはやはり言い難いのではないかと。

つまり,例えば,100万円の債権が3人に,受益者が3人いますというときに,そのうち一人分が時効消滅しましたと。

そうすると,実質的には,100万円分の信託財産が余るわけですが,その100万円分はやはり帰属権利者に行くべきものと言わざるを得ないのではないかという気がいたします。

そうすると,ではその100万円分をその帰属権利者に渡さなければいけない,ところが帰属権利者は今どこにいるかよく分からなくなっているというようなことは,恐らく実務上はあり得ることだろうとは思うのですが,やはりそのあたりは,もしそういうことが問題になる,そういうタイプの信託であれば,契約の定め方の中で多少努力していただくということを考えざるを得ないのではないかなという気がしております。

● そこは再度こちらの方で検討したいと思います。

● ほかに,いかがでしょうか。

● 今の関連なのですが,今の御説明の中で,(3)の「正当な理由」の問題だというふうにおっしゃったのですけれども,先ほどの○○委員の御疑問は,弁済したというふうに思っているわけですから,弁済したと信ずるに足りる相当な理由がある場合だと理解していたのですが,そうではないのでしょうか。

と申しますのは,弁済した受託者がその後どういうことをすべきか,弁済の証明はしなくてよいけれども,債務不存在の相当理由の証明ができるという状態になっていれば,それで正当な理由があるというふうにつながるのかなと思ったのですが,そういう理解ではないのでしょうか。

● 債務不存在の相当理由の方も当たりますが,そのほか「正当な理由がある場合」というのが根本的な要件であるということを申し上げただけで,今,○○委員がおっしゃったように,「正当な理由」のうちの例示として,ここでは今二つ挙げておりまして,受益者の所在不明というものと,弁済したと信ずるに足りる理由がありますということを二つ例示しているわけですけれども,その例示の言うところは,結局は,「正当な理由」があるのかどうかというところだということを申し上げたかったということです。

今の局面で○○委員がおっしゃった話をどこに落ち着けるかということで言えば,「相当の理由がある場合」なのかもしれませんが。

● 最初に○○委員がおっしゃった点でございますが,無記名式の受益証券の場合については場合分けで対抗要件を認めてはどうかという,その場合分けというのは,無記名式の受益証券につきましても,場合によっては受益者名簿をつくっているし,場合によってはつくらなくて,つくっている場合は受益者名簿への記載を対抗要件とする,つくっていない場合はそれを対抗要件としないと,そういう場合分けという趣旨でございますでしょうか。

  そうすると,無記名式の受益証券につきましても更に2類型認めるということになりますと,例えば甲案をとると,記名式の場合と無記名式の場合二つということで,3類型の受託者対抗要件を認めるということになりますが,事務局としては,果たして3類型も認める必要があるのかなと。

むしろ,受益者名簿がつくりにくい場合があるのだったら,それは無記名式にして,受益者名簿を不要とする形にしていってしまえばより簡明ではないかと,そのような感じもいたしておりますので,御検討いただければと思います。

● ほかの点,いかがでしょうか。

● 先ほど御説明があった中で,第53の(注1)のところで,借入れを必要とするような場合,流動化なんかの場合でもあり得るとは思うのですけれども,その場合,債券発行を認めるニーズがあるのではないかということで,検討したらということで御説明があったかと思うのですけれども,先ほど○○委員がおっしゃられたように具体的にどういうものができるというのが念頭にあって申し上げているわけではないのですけれども,実際にこのようなものができることについては,選択肢が増えるということで大変賛成なわけですけれども,現実問題として,債券発行ということで,例えば社債を例にとりますと,株式会社など,当然,発行主体というのは法人格がないと我が国の法制では認められないと思うのですけれども,この場合については,どういうことを念頭に置かれて,これが可能ではないかというような意見があるのか,そのあたりをお知らせいただけたら有り難いなと思って,ちょっと質問させていただきました。

● 恐らくこれは,事務局の方がいろいろなお考えをお聞きしたいという部分だと思いますけれども。

● 学者の先生方に,もしよろしければ,お伺いしたい。

● 先ほど○○委員もおっしゃっていた,第53の(注1)に書かれていたような信託財産を引当てとした債券の発行ですね,これが認められたら,証券化・流動化の観点からはフレキシビリティーが高まって便利だなという気はいたします。

現に,信託財産のみを引当てに受託者が借入れを行う信託借入スキーム--ABL,アセット・バックド・ローンというふうに呼ばれる場合が多いですけれども--が広く用いられていることは御存じのとおりだと思いますけれども,ローンにかえて社債類似の債券という形をとれるということは,フレキシビリティーが増すのかなと。

  例えば中小企業金融であっても,中小企業であれば株式会社ですから,社債を発行できるわけですけれども,あえて融資せずに,私募債を発行させるというような方法もとられていますし,また,会社ですと一応株式会社と特定目的会社しか社債発行できないという形になっていますけれども,医療法人,学校法人といったところも,証取法上の有価証券にならない債券を発行して資金調達しているという現実もございますし,便利になるのではないかなという気はいたします。

○○委員のおっしゃっていた,ではほかの類型の債券は発行体が法人ではないかという,そこら辺のテクニカルな難しさというのはあるのかなという気はします。

  それと,第53の5と6のところ,受益者名簿と,有価証券の形にした受益証券の対抗要件についてなのですけれども,これも,既存の社債とか,あるいは株式との整合性を考えれば,5,6とも,何となく甲案の方がすっきりするような気がするのですけれども,かといって,乙案であれば絶対に困るというようなことはないのかなという気はいたしております。

● 先ほどの,信託財産を引当てにして受託者が債券を発行するというのですかね,これは,信託そのものとしては別にそれを制約するような理屈はないのだろうと思いますけれども,ほかのいろいろな法制との比較だとかいうことがネックになってくると,それなりに必要性が高いということが言えないと,そちらの方に働きかけが難しいという,そういう関係なのではないでしょうか。

ですから,いろいろそういう必要性があるのかどうかと。

  それから,(注1)にも書いてありますように,受益権の複層化ということでもって同じようなことができるのか,できないのかとか,そういうことを御検討いただければということだと思います。

  これについては,引き続き今後もいろいろ御意見をいただければと思いますが,ほかに,この譲渡の関係,消滅時効の関係はいかがでございましょうか。

● 若干細かくなるわけですが,第52と第53でコメントがございます。

第52については二つございますけれども,基本的に第52の規律というのは選択肢をふやすということもありますし,流通を円滑にするという点でも賛成な立場でいるわけなのですけれども,個別論として御質問があるのですが,この考え方で,基本的に受益権というのを指名債権とみなして,同じ規律を入れようというふうに考えておられるのですけれども,一つ,非常にテクニカルな話なのですけれども,譲渡登記によって対抗要件具備ということができるのかどうかということです。

これは立法論の話で,必要であれば,そのようにほかの--譲渡特例法を直すかどうかという話だと思うのですけれども,少なくとも現行法は指名債権というふうになっていますので,受益権の性質を指名債権と決めておかなければ,譲渡特例法というのは当然には適用にならないのかなというふうに思っておりますので,その点について,事務局として譲渡特例法を改正するところまで念頭に入れているのか,又は,そもそもそういう対抗要件具備というのは考えていないということなのかということをお伺いしたいということが一つ目です。

  二つ目は,同じく指名債権の規律ということで,善意の第三者に対する保護ということでございますけれども,流通性を確保するためにはかような規律が必要だということは分かるわけですが,これはちょっと難しいとは思うのですけれども,実務的なニーズに応じては,そういうことを必要としないというものもあるのではないかというふうに思っていることで,そこで御見解をお聞きしたいということです。

  すなわち,例えば,典型的な流動化スキームの場合に,不動産を信託に入れて,受益権をSPCに入れましたと。

それで,SPCが証券を発行するといった場合に,このSPCが有する受益権というのは,これはもう動かさないということが前提になっていると思うわけですが,そのときに,SPCの管理の関係でその受益権が第三者に移ってしまうといった場合に,ある意味,このスキームの安全装置,例えば,今までは受益権というのはそういう規律がなかった,善意の第三者の保護にあずかるという,そういう規律がなかったということで安心していたわけですが,この規律が導入されたことによってそのスキーム自体の安定性というのが若干落ちるのではないかなという懸念がしております。

もちろん,実務においては,そうさせないというような別途の手当てをすればそれで足りるという考え方もあるかもしれませんけれども,そういった規律というのは本来デフォルト・ロー的なこともできるのかなというような感じもいたします。

  もう一つは,これも細かい話になるわけですが,その対象について,第52の1の(2)を拝見しますと,「別段の定めをした場合又は受益権の譲渡が信託の目的に反する場合には,適用しないものとする」と。

「受益権の譲渡が信託の目的に反する場合」というのも,善意の第三者には対抗できないものの範ちゅうに入れているわけですが,ここは若干テクニカルな御質問になるかもしれませんけれども,現行民法466条の1項と2項との関係を見ますと,どちらかというと,「信託行為において別段の定めをした場合」というのは2項の柱書きの範ちゅう,「受益権の譲渡が信託の目的に反する場合」というのは1項の範ちゅうだというふうに思っておりまして,民法においては2項において第三者の保護手続があるということと私は理解しているのですけれども,間違いがあれば御指摘いただきたいのですが,ただ,この御提案を見ますと,両方とも第三者の保護規定があるというふうに読めるわけですけれども,この点はそういう理解でいいのかどうかということを確認したいと思っております。

  それから,第53について,有価証券化ということでございますけれども,これも非常にテクニカルな話でございますが,仮にこの有価証券化ということをなされていくと,他の法律との関係があいまいになるということがあるのではないかという点で,関連法規の見直しの必要性ということを申し上げたいと思います。

  すなわち,例えば,合同運用金銭信託の受益権というのは基本的には有価証券ということで,実務においては,有価証券化したいから現行法ではそういう投信法を使っているということ,特に委託者非指図型投資信託でございますけれども,ただ,この一般法規たる信託法において有価証券化ということが図られますと,この一般法規化ということで規律された有価証券なのか,投信法で言う有価証券なのかということが非常に見分けづらくなるのではないかと。

片や一方は基本的にはレギュレーションが低い,片やレギュレーションが高いというところで,そこのレギュレーターから見た規律というのがあいまいなのではないかという懸念を感じております。

ゆえに,この点について,関連法規の御検討も必要ではないかというふうには思っております。

● これも,すべて直ちに答えられるようなものなのかどうか分かりませんけれども,答えられる範囲で。

● まず,第1点目にお話しされました,譲渡特例法に乗るかどうかという点でございますが,ここでは,受益権につきましてはあくまでも指名債権に準ずるものと考えて,対抗要件については,ゴルフ会員権の場合と同様に民法467条などの規定によっていこうという考えにとどめているわけでございます。

受益権というのは,債権の部分のみならず義務なども含む一種の包括的な地位と考えておりますので,ここの債権譲渡特例法に乗るような指名債権ではないと考えております。

したがいまして,少なくとも現行の譲渡特例法を前提とする限り,登記をもって対抗要件とすることができるような債権には当たらないというのが,我々の理解でございます。

これを改正するかどうかというのは,まだそこまで考えておらないところでございますけれども,当面,ここまで対象にすることは考えていないというふうにお答えさせていただきます。

  それから,SPCの受益権の譲渡が第三者に対抗できないということについて,しかし善意の第三者には対抗できるという規律を設けているのは不都合だというようなお話だったかと思うのですが……。

● 不都合な場合もあるのではないかというコメントです。

● ここは,受益権の譲渡性を原則として我々は考えておりますので,やはり,仮に当事者間で譲渡制限の特約をしたとしても,それは第三者に対抗できないというのが一律にかぶってくるのではないかなと思うわけですが,もう少し,実務上,譲渡性があっては困るというような債権の切り出しとかが明確にできれば,それは「性質に反する」というようなことになってきて,そもそも譲渡性が奪われるということが言えると思うのですけれども,「性質に反する」ということまで言えないと,善意の第三者には対抗できないという規律から逃れるのはなかなか難しいのではないかという気がいたしております。

  もう一つ,目的に反するという点と,別段の定めという点,それと民法の関係でございますが,私の理解が間違いでなければ,民法の466条では,性質に反するときはできないと。

それは1の(1)の方で書いているところでございます。

(2)の方は,別段の定め又は信託の目的ということで,信託の目的に反する場合は,実質的にはほとんど譲渡禁止特約がある場合と解することができると思いますので,この二つにつきましては,466条の2項に準ずるものとして,それは第三者に対抗することができないというふうに考えているところでございます。

やはり,性質に反するときは譲渡できないというような規律,それは差押えも許されなくなるわけでございますが,そのような受益権というのもどうしてもあるだろうということで,ここで(注5)ですか,性質が譲渡を許さないような場合というものの例を挙げさせていただきましたが,こういうものも,譲渡禁止特約ですとか信託の目的に反する場合ではカバーし切れないものが残るだろうと。

こういう性質に反するものについては,そもそも譲渡もできないし,差押えもできない場合が残るだろうという考えに基づきまして,最終的には,466条と同じような二つの区分を設けているというところでございます。

 とりあえず,以上のとおりでございます。

● 受益権の有価証券化の話なのですが,有価証券化が必要な場合というのは確かにあって,実務上の需要はあるのだと思うのですけれども,先ほど○○委員が後半でおっしゃったことにも関係するのですけれども,いろいろな法律というのは,この場合にはこういう必要性とジャスティフィケーションの論理によって有価証券化というものを認めようというのがあって,それである種の法律によって,この場合は有価証券を発行できますとか,できませんとか,この場合はこういう権利を有価証券にできますというふうな,いろいろな法律があるわけですよね。

しかるに,信託である,そしてその受益権であるということが,有価証券化ということを認める包括的な正当化根拠になり得るのかというと,私は,何も発見できないような気がするのですね。

つまり,例えば,流動化でこういうふうな場合に有価証券化というものが必要である,だから有価証券の発行を認めましょう,受益権を有価証券化するスキームを認めましょうと,こういう論理はよく分かるのですけれども,およそ信託においては受益権は有価証券化できるのかというと,例えばおじいさんが孫を受益者として信託を設定する,そういうときにも有価証券化できるわけですよね,この条文で言えば。

しかし,なぜそこに,有価証券を発行できるという……。どうせその場合にはしないじゃないかと言われればそれまでなのですが,やはり有価証券を発行することによって様々な--まあ,流通性が高まるというのはいいことばかりではないわけで,やはり何らかの正当化があって初めて認められるというのが日本の法制度ではないかというふうに私は思うのですが,違うのかもしれませんけれども,そうすると,信託法の中に,およそ有価証券を発行できるという条文を置くのはいかがかという感じがするのですけれども。

● かなり根本的な問題提起がありましたけれども,いかがでしょうか。あるいは,ほかの委員の御意見も。

● 今,○○幹事がおっしゃられたように,一定のニーズがあって有価証券化が図られるというのが多いというのはおっしゃるとおりなのかとは思うのですが,一番典型的な有価証券というと,例えば手形とか小切手とか,あるいは金銭債権一般に認められているということで,そこから先,使うかどうかというのは選択にゆだねられるということになります。

信託の受益権についても同じような整理をすることが,美しくはないのかもしれませんけれども,一応は可能なのかなというような気もいたすのですが。

● 手形というのは金銭債権を証券化するのだというふうにとらえれば,確かに今のような説も可能であり,信託の場合も似ているではないかという,そういう説明だったと思いますが。

● これは私だけの理解だということです。だから,ひっきょう独自の見解であるという典型的なものなのですけれども。

  我が国において受益権というのは,通説としてというか,つまり債権ですね,結局のところは。

債権の譲渡というのはいろいろな面倒があって,債権債務関係を引きずっていますから。

しかし,英米では受益権というのはプロパティーですから,日本語で言えば物権ということになるのだと思いますけれども,つまり,自分のものなのですから,自分のものを譲渡するのは簡単だよという話になっているので,譲渡するかどうかはともかくとしてですが,非常に簡単なんですね。

ところが,日本ではそういうことはとれない。それで,せめて証券化という話にすると譲渡が容易になるのかなというのが,私の理解です。

● 金銭債権を手形にすればいいと言えば,それはそうなのかもしれませんが,譲渡一般を認めるということは,第52のところで出ているわけですよね。

私が問題としているのは,なぜ有価証券化を認めるのかという話であって。

手形小切手の場合もそうじゃないかというふうにおっしゃったわけですが,それはいろいろな歴史的な説明とか,金銭債権になっているとか,いろいろな手形小切手法の教科書にも書いてあるような説明とかできると思うのですね。

でも,受益権の内容というのは千差万別であり得るというときに,なぜ信託の受益権であるということから有価証券化が認められるというところで説明の論理が書けるのかというと,何か書きにくいんじゃないかなという気がするというだけで,別にそれで納得できるような論理があったり,論理はないかもしれないけれども必要なとき以外は使わないからいいじゃないかということの中でそうなるというのならば,それはそれで仕方がないのかもしれませんけれども,必ずしも納得はできないような感じがします。

● 有価証券化のメリットはいろいろ挙げられると思いますけれども,基本的には,有価証券化した場合には,証券の所持人に有価証券が発行されていなかった場合に比べてより強い保護があるという点には異論がないのではないかと思います。

例えば,権利の推定が働くですとか,譲渡の際の効力が強まる等々。そういう意味では,一言で言うと,受益者の保護という観点から見ると,受益権が有価証券化されていることは,もちろんマイナスになる場合も決してないとは言えないと思いますけれども,一般的に言えば有価証券化は受益者の利益に資するとい

うことは言えるのではないかと思われますので,私は,有価証券化を,選択的に,しようと思えば認めるというのは,特に受益者保護を中心的なテーマとする信託法においては充分に考えられることではないかと思います。

● ○○幹事の指摘された点は二つありまして,特別法ではなくて信託法に置くということの意味がどうかということと,具体的な場合以外に一般的に受益権の有価証券化を認めることがいいかどうかという2種類の問題が含まれていると思うのですけれども,一般的に受益権の有価証券化を認めるとして,その意味が受益者の保護であるという今の○○幹事のお話があったのですけれども,そのことは,逆に言うと,証券化されていない場合には受益者の保護がより少なくてよいというふうにならないかという懸念を若干感じます。

特に,例えば49ページの米印1のところで,証券化されている場合には,受益者に対する補償請求権,報酬請求権の行使を認めないということが出ているのですが,これは一体なぜなのかと。証券化から導かれることなのか。

だとすると,証券化されていない場合にはそういうことがなくてもいいのではないかという反作用があり得ないだろうかということが若干気になります。

としますと,○○幹事がおっしゃった受益者保護ということは,より一般的に考えるべきではないのかなという気もいたしますが,いかがでしょうか。

● この証券化,先ほど○○幹事が,受益者の保護になるのだという言い方をされて,そういう視点もあるかと思って感心して伺っていたのですけれども,やはり,どういう信託をここで想定するかとか,受益者の地位との関係,いろいろなことを考えながら,果たして証券化の道を開いていいのかどうかということを考えなければいけないのだろうと思うのです。

  最初の○○幹事の質問からは少し離れた視点かもしれませんけれども,例えば,不動産などが信託財産になっていて,受益権を発行して,それが証券化されて,これは積極的にそれを肯定する意見の方が多いかもしれませんけれども,その受益証券を転々流通することによって不動産という財産は善意取得が可能な財産に変わっていく,むしろそこにこそメリットがあるので,受益証券というものを発行させるべきだという意見もあるかもしれませんけれども,不動産というものがそういう形で変わってしまっていいのかという逆の考え方もあるかもしれないし,証券化というのは便利な面があることは確かだと思いますけれども,最終的にこういう一般的な形でもって認めていいかどうかということについては,やはりいろいろなことは考えなくてはいけないのだろうという気がいたしますね。

● 全く別の論点でよろしいでしょうか。

  第52の受益権の譲渡について,ゴシックのところではなくて,むしろ説明の部分に出てくる,「受益債権」という概念の中身について御質問させていただきたいと思います。

  具体的な例を挙げて御質問したいと思うのですけれども,そもそも,この受益債権というのは43ページの(注2)の前の部分で定義されておりまして,「受益者が信託行為に基づき信託の利益を受ける債権」,これを受益債権と定義されております。

  それで,46ページの【ケース1】を例に挙げて御質問させていただきたいと思うのですが,「受託者は,受益者Aに対し,10年間,毎年1月1日に,一定額の金銭を支払う」と。この,毎年1月1日に一定の金額100万円を受ける権利,これを10年間,例えば10人別々に譲渡すると。

そうすると,これが受益債権の譲渡というのでしょうか,例えば,もしそうした場合に信託財産が5年で全部なくなってしまったとすると,6年目以降にこの受益債権を受けた人というのは,だれに対してどういう権利を主張することができるのか。

すなわち,信託法の19条にございます,信託財産に受託者の責任の範囲が限定されるという信託財産との物的相関関係というのが受益権の非常に大きな特徴とされてきたと思うのですが,この「受益債権」という概念を持ってきたときに,物的相関関係との関係はどうなるのか,あくまでもその限定は付された特殊な債権として譲渡されていくというふうに理解されているのか,それとも,もうちょっと純粋な,受託者に対する債権として観念されているのか,これが具体的な一つの質問でございますけれども。

  要するに,私は,結論としては,この44ページの甲案の考え方を推し進めていくということは,今の受益権の物的相関性との関係で慎重に考えるべき側面があるのではないかと考えましたので,あわせて意見を述べさせていただきました。どうかよろしくお願いいたします。

● 受益債権を譲渡すると本来の受益権の譲渡以上のことができるというのは,何かおかしな気がしますから,私も,物的相関関係という枠は残るのではないかという気もしますけれども,どうですか。

● 【ケース1】で,10年分の各毎年払われるべき金銭債権を譲渡する,これは我々の考えで言うと受益債権の譲渡ということになるのは,おっしゃるとおりでございます。物的相関関係は残ると考えています。

  それで,5年たったところでなくなってしまったらどうなるかということでございますけれども,そこら辺,余り明晰に考えていたわけではないのですが,やはり受益権とは異なる,あくまで債権だということといたしますと,なくなってしまった場合には,もはやそれは履行不能ということにならざるを得ないのではないかという気がいたします。

そこはやはり受益権の譲渡と受益債権の譲渡との違いではないかなという気がいたします。

  そういう観点からすると,甲案が不適当であるということであれば,我々はまた,ここの甲案と乙案のどちらが適当かというところも是非ともお伺いしたいところでございますので,そこが甲案が不適当であるというのであれば,検討したいと思います。

● 空になってしまった場合には,受益権を譲渡した人に責任が追求できるのですか。

● そうですね,旧受益者に対して債務不履行責任なども追及していくということになるかと存じます。

● もちろん,信託財産が減ったことについて受託者に過失があれば,責任が追及できるような場合があれば,それはまた別の問題があるかもしれませんけれども。

  さっき○○委員が言われた,証券化との関係での補償請求権,あるいは受益者の方からすれば補償の義務の関係ですけれども,証券化する場合には,途中の受益者等に補償の義務だとか報酬支払いの義務がなくなって,証券を持っている者だけが責任を負うというのでいいのだと思いますけれども,その一般原則,証券化されていないときの一般原則である第52の方ですけれども,これもなかなか,自分で考えていて,どういうのが一番いいのかよく分かりませんが,受益権が証券化されないで何度も何度も譲渡されたときに,いったんでも受益者の地位にあった者は,その前の段階でもって発生していた補償請求権ないし報酬請求権については常に連帯的な責任を負うと,そういうことにこれはなるのでしょうね。

少なくとも,この文言からすると。例えば,補償の義務というふうに受益者の方から見たときに,途中いったんでも受益者になっていて受益権を享受したような人間についてはそれでもいいのかもしれないけれども,享受もしないでまた譲渡していったというような場合もあるかもしれないし,この一般原則はこれで本当にいいのかどうかというのは,さっきお話を聞きながら,あるいは○○委員の意見を聞きながら気にはなったのですが,まず,考え方として,ここではどういう前提で,今のような場合--転々されていった,第52の例えば4ですけれども--を考えていたのかなと。

● 転々流通したときに,各譲渡人,譲受人というのがどういう責任を補償債務との関係で負うかということですか。

● 特に途中のね。

● 一応,ここでは,途中の人も責任を負って,その後更に譲渡した場合でも責任は負い続けるほかないのではないかというふうに考えています。

  そのあたりはなぜかと申しますと,結局のところ,債務があるにもかかわらず,受託者,債権者の立場になりますが,債権者の同意を得ないで譲渡できてしまうというふうにしておりますので,その見合いとして併存的責任を課すほかないかということにしたものですから,残らざるを得ないということになると考えています。

  逆に言えば,譲渡するときに,受託者との間で合意をするというか,承諾を得て,補償債務部分については私はもう負いませんというようなことを個別にとるということで対処するほかないのかなというのが,とりあえずのここでの整理ということでございます。

● ここでの原案は,そういう考え方をとっているということですけれども。

● ○○委員のお話の続きで,繰り返す部分が多いかもしれませんが。

 これは,第35,第36をどう仕組むかにかかわりますし,それから受益権の放棄についてどうするかという,多分この三つが相互にかかわるので,どうもよく見えないのですが,しかし,すべてを受益者側に不利な形でこれが落ち着くとしますと,受託者の地位は相当強くなるだろうというふうに思います。

だれからでもというのですか,受益権の譲渡があると,それを奇貨として--という言い方はおかしいかもしれませんが,資力のある現受益者,前受益者,元受益者,だれかからか持ってくると。

それで,ずっとそれが信託会社に対して補償請求権が上回っていて,赤字の信託の受益権がずっと動いたのならば,それはそれで,そういうものを転々流通したという言い方もあるのかもしれませんが,補償請求権だけは請求権として残っていて,信託財産がずっと減っていくということもありますよね。

そうすると,ある段階での受益者が持っていたときは黒字の信託だったのが,それが赤字になったら,前の者も,まだ補償請求権として弁済されずに残っていたので,そこについてもある種の求償を受けてしまうというようなことにもなりかねない。

ルールの方もはっきりしていないし,今のようなケースはレアケースなのかもしれませんが,ルールの方がいずれも受益者に不利な形になって,そして考えられるケースを想定すると,何か受託者のための信託というようなものがこの局面においては想定できるような形になってきてしまうように思います。

 それで,どこで歯どめをかけていくかということになるのだろうと思うのですが,第35,第36をどう仕組むかというのが一つの大きな選択だろうと思いますが,ここで現行信託法に近い形で残すとすると,やはり別のところで手当てをしていかないといけないだろうと。

第35,第36で受益者の義務を現行法と原則・例外を転換するならば,こういう問題を置いておかれていても,そう困った問題は生じないのではないかと思います。

 したがって,全面的にはうまく答えられないのですけれども,一つだけ申し上げることができるかなと思うのは,この第52の中での話なのですけれども,受益権の譲渡は自由だと,ここから出発していて,これはそれでいいと思うのですが,しかし譲渡禁止特約も認められると。

したがって,4の問題が生ずるような,受益者に対する補償請求権を受託者が確保しておきたいと,それが意味のあるような信託であると,土地信託のようなのがその一つの例だというふうに多分比較的広く理解されていると思うのですが,そういうものについては,受益権について譲渡禁止特約を入れておいて,そして,受益者の側で,事業から離脱したいというようなときに,その受益権の譲渡をするときには正にそこで禁止特約がありますから,今,○○関係官が御説明になったように,受託者の承諾・同意を得ずして受益者が交代するということを防げますので,そこでまた更に既発生の補償請求権についてどう処理するかというようなことを取り決めるような形で解決できるのではないかなというふうに思います。

● 今,○○幹事が言われたように,第35,第36との関係が一番根本的に重要なのでしょうけれども,仮に第52の範囲で考えるときに,そう一般化できないかもしれないけれども,そんなに受益権を享受しないで譲渡したような人間というのは,受益権を放棄したようなものだという場合もあり得るかもしれないという気もちょっとしますけれどね。

これは無償で譲渡する場合もあるかもしれないし,対価を得て譲渡する場合もあって,いろいろなのがあるので,そう簡単に言えないかもしれないけれども,第52の範囲内でどんなことが考えられるかというときの一つの考え方になるかもしれませんね。

  ほかに,この三つについて,もしなければ。

● 細かい話になるかもしれませんけれども,確かに,受託者のサイドから見ると,連帯債務になったときに選択肢がふえてしまうと,これは受託者のためであるということはあると思うのですけれども,仮にその対案として,一つの規律として,最終的に受益者となった者にのみ補償請求権等を請求できるとなった場合に,今度は受託者は,ある意味チェリーピッキング的なことを受益者サイドからされてしまう。

例えば,受益者がいまして,実際にふたをあけてみて,これは信託財産がほとんどなくて補償請求権が出てくるというマイナスのものだと分かった瞬間に無資力の者に渡してしまえば,受託者は,そういうある意味詐欺的なといいましょうか濫用的なことによって,結局補償請求権を追及する手段を失ってしまうということもありますので,そこの点についてもし御検討されるのであれば,受託者サイドの問題としてもバランスをとった検討をする必要があるというふうに思います。

● 濫用的なのは,恐らくまたそれなりに対応の仕方があるのだと思いますけれども,やはり,一つの根本的な問題は,仮に補償請求権というのがあったときに,受益者がそういう支払いの補償をする義務の根拠が一体何なのかということも関係していて,信託の場合には,受益者であるという--つまり,補償請求権というのは,単純な普通の債権債務の債務みたいなのとはちょっと違って,受益者であるがゆえに負っている債務だというふうに考えると,現在の受益者が負うというのはそんなにおかしくないのだろうと思うのですね。

ただ,今のような濫用的なことがあれば,これはまた別途対応した方がいいと思いますけれども。まあ,途中の中間の受益者が全部負うというのはどうかなというのは,素朴な疑問としてあるような気がします。

  これは,第35,第36は非常に大きな問題なので,またそちらでもって総合的に,全体的な--恐らく一つ一つ取り出して議論すべきではなくて,やはり全体として議論しなければいけないと思いますので,そういう場を必ず設けたいと考えております。

  それでは,今の三つについてはこのぐらいでよろしいでしょうか。また時間がありましたら御議論いただきたいと思いますが。

  では,次に行きましょう。

● では,本日用にお配りした資料に基づきまして,まず,信託行為の変更,それから信託の併合,分割について,一括して提案内容の概略を御説明したいと存じます。

  まず,第57は,信託行為の変更についての提案でございます。

  趣旨でございますが,信託の設定後の事情の変更に対応して迅速かつ柔軟な信託行為の事後的変更を可能とすべく,委託者及び受益者の利益を適切に保護する内容のデフォルト・ルールを設けようとするものでございまして,このように,現実に即した具体的かつ詳細なルールを設けることの合理性については,第2回会議においても御支持をいただいたところと理解しております。

  まず,1でございますが,これは,私的自治の観点から,委託者,受託者及び受益者全員の合意があれば,裁判所の関与を必要とせず,信託行為を自由に変更できること,すなわち,信託財産の管理方法はもとより,信託財産の分配方法,更には,1ページから2ページのアステリスク1の乙案にあるような,信託の目的の変更ですとか,受益者にとって不利益な内容の変更も,三者の合意があればなし得るということを明らかにしたものでございます。

  続きまして,2でございますが,これは,変更の内容いかんによっては,常に信託当事者三者の合意又は裁判所に対する申立てを要するとした場合には無駄な手続的・時間的コストがかかるおそれがあることにかんがみまして,信託当事者の利益に配慮しながら,柔軟な変更手続を設けようとするものでございます。

  なお,アないしエ以外に,理論的には,委託者のみによる変更ですとか,委託者及び受託者による変更という場合があり得るわけでございます。

例えば,委託者の当初の目的は受益者に対する生活費の定額割賦給付であったものの,受益者の緊急ニーズから残額一括給付に変えるような場合が想定されます。

しかしながら,このような場合には受益者の側から信託行為変更の申出があると思われますので,あえて受益者の合意を不要とする特例を設けなくとも,1によります三者の合意ですとか、あるいは2のウによります委託者と受益者の合意によって変更を行えば足りるものと考えられますので,あえて委託者のみによる変更あるいは委託者及び受託者による変更という場合分けは設けなかったものでございます。

  なお,念のため,信託の目的を変更するというような場合に該当することになれば,委託者,受益者,受託者の合意を必要とするのが原則になると考えられます。

  ところで,この2につきましては,第2回会議において,何点か問題指摘がなされました。

  まず,「信託の目的に反しないことが明らかであるとき」ですとか,「受益者の利益に適合することが明らかであるとき」といった要件は,実務上ワークし得るだけの明確性を備えているかという御指摘がございました。

確かに,受託者としては,かかる要件を充足したと言えるかの判断に窮し,慎重を期して,念のため1の三者間の合意をとりにいくという事態も想定されるわけですが,事務局といたしましては,このような要件を充足していることが明白な場合もあり得る以上,少なくともその限度では変更手続の簡易・柔軟化に資していると考えられますし,法律上のデフォルト・ルールの規定としてはこれ以上の明確化を図ることは困難であり,あとは信託行為における別段の定めによる実務上の工夫をもって対処せざるを得ないと考えているところでございます。

  次に,この要件に違反した場合の効果でございますが,例えば,2の場合におきまして,複数受益者の一部の受益者の利益に反するにもかかわらず,受託者が信託行為を当該受益者に無断で変更したような場合には,かかる変更はすべての信託関係者との間で無効と言わざるを得ず,変更内容に不服のある受益者は,当該変更が無効であることを前提問題として,受託者に対して給付請求等をすることもできるでしょうし,また,確認の利益がある場合であれば,信託行為変更の無効確認訴訟を提起することもできるのではないかと考えております。

  さらに,より理念的な問題としまして,1において,信託行為の変更には受託者の同意を必要とし,更に2のウ,エなどにおきまして,「受託者の利益」を要件として前面に出すといたしますと,あたかも受託者が信託行為の変更に当たって自己の利益を顧慮することを容認するかのような印象を与え,不適当ではないかとの指摘もなされました。

しかしながら,原則として辞任の自由のない受託者としては,当初受託した信託行為の内容とは異なる新たな内容の信託行為について,善管注意義務や忠実義務のもとで受託者としての職務を適切に果たしていかなければならなくなるわけでございますので,そのような責務を十分に果たすべき受託者の同意ないし利益を信託の変更に当たって考慮することは,受託者による信託事務の適切な処理を期待する観点からも不合理とは言えないと考えるものでございます。

したがいまして,ここで言う「受託者の利益」とは,受託者の個人的な利益のことではもちろんなくて,受託者が善管注意義務や忠実義務違反に問われることなく適切に信託事務を処理し得る利益というようにとらえるべきものと考えております。

  次に,3でございますが,これは,2によりまして信託行為の変更に関与しないこととなる信託当事者に対して変更の内容をあらかじめ了知させることによりまして,変更の効力発生前における反対の意思表明の機会を保障し,あるいは変更の効力発生後における不服申立てや反対受益者の受益権取得請求権の行使の必要性があり得ることを予告しておこうとする趣旨でございます。

したがいまして,受益者に対する通知は,信託管理人が選任されていない限り,各受益者に対して個別になすべきことになると思われます。

もっとも,この通知は変更の効力発生要件ではございませんので,2の要件に合致している限り,通知を怠ったとしても変更自体の効力に影響があるわけではなくて,ただ,通知を怠った受託者の注意義務違反の責任が問われるにとどまることになるというふうに考えております。

  なお,通知の時期に関しまして,かつてお配りしました報告書におきましては,単に「あらかじめ」としていましたのを,ここでは,「信託の行為の変更の効力が生じる日の前日までに」というふうに改めております。

これは,通知を受ける者の利益保護の観点から,変更の正に直前に通知するようなこととなる事態を避け,通知から変更までに少なくとも1日間は猶予を設けようという趣旨でございます。

  次に,4でございますが,これは,1又は2にかかわらず,信託行為において,特定の者--これは委託者であり,あるいは受益者であり,受託者である場合もあるでしょうし,それ以外の第三者である場合もあると思うのですが,このような特定の者に変更権限を付与することも可能であるということを明らかにするとともに,この場合におきまして,変更権者としては,変更内容に従って信託事務処理をすることになる受託者に対して,変更の効力発生に先立って,変更内容をあらかじめ通知しておくことが必要になると思われますところ,このように通知を受けた受託者は,3の場合と同様の趣旨から,変更の効力発生日の前日までに受益者及び委託者に対して変更内容を通知すべきこととしたものでございます。

  ところで,このように変更権限を特定の者に付与することにつきましては,第2回会議の場におきまして,その者の変更権限に一定の制約を課すべきではないか,例えば受益者の保護ですとか信託の目的あるいは本質に反するような変更まではできないとすべきではないかといった指摘がされたところでございます。

そこで,ここでは,甲案といたしまして,信託行為が定めた変更権者が存することは,信託行為の当事者たる委託者と受託者はもちろん,信託行為の内容を了知しているはずの受益者にとっても明らかなのであるから,変更権限の内容に制約を設ける必要はないという甲案の考え方,これに対し,乙案といたしまして,変更権限を無制限とするのはやはり不適当であるという観点から,後ほど第60で説明しますが,反対受益者の受益権取得請求権が強行的に付与されるべき内容の変更まではできないとの制約を設けるべきであるという考え方,甲案,乙案を併記して御審議をいただきたいと考えております。

  なお,乙案というのはあくまでも制約内容の一例を示したにとどまりまして,これとは別の制約方法が適当であるならば,その点についてもあわせて御審議を願えればと存じます。

  次に,5でございますが,これは,信託当事者による信託の変更において,変更の内容が反対受益者の受益権取得請求権の発生原因となるような場合,したがいまして,2のイの受益者の利益に適合することが明らかであるときは当然除かれることになるわけでございますが,このような場合におきましては,変更の内容とあわせて,変更を中止するための条件をも合意するか,あるいは決定すべきものとしたところでございます。

 その趣旨は,反対受益者の受益権取得請求権の多寡,あるいは変更当時の経済情勢やファンドの運用状況によりましては,予定どおりに変更を実施することが信託の運用を著しく損ないかねないことになる事態も想定し得るわけですので,このような場合には,受託者は,いったんなされた合意又は決定にもかかわらず,善管注意義務及び忠実義務のもとで信託を存続させていくためには,あらかじめ設定された条件に従えば変更を中止し得ることとしまして,受託者が判断に窮する事態から救済しようという趣旨でございます。

  御参考までに,変更に当たって想定し得るプロセスを述べますと,例えば受益者から変更を打診する場合には,受益者側において変更内容と中止の条件とを決議した上で,受託者と合意するか又は受託者に通知するということになるでしょうし,一方,受託者から変更を打診する場合には,受託者側において変更の内容と中止の条件とを決定した上で,受益者と合意するということになると考えております。

  なお,以上はあくまでも1又は2の場合であることが前提でありまして,4の場合につきましては対象としておりません。

これは,信託行為でどのような定めがなされることになるかを予想することが不可能でありますので,変更時の中止の条件をあらかじめ信託行為に定めておくことですとか,あるいは受託者の善管注意義務の一般的解釈などによって対処せざるを得ないと考えているからでございます。

  6は,信託行為の変更に当たっての裁判所の関与の在り方について問題提起するものでございます。

ここでの事務局の当面の問題意識は,裁判所による変更の対象を,現行法のように信託財産の管理方法のみに限るか,それとも米国統一信託法典のように分配条項まで含めるべきかという点が中心でございまして,資料の5ページに詳細に示させていただきましたように,いろいろの考え方があり得るところでございます。

この点についての審議状況を踏まえた上で,更に手続的規定や判断基準の整備等も後に検討していきたいというふうに考えております。

  なお,信託財産の管理方法以外の変更が常に信託目的の変更に直結するわけではないと考えておりますが,信託当事者による合意の場合と異なりまして,裁判所が信託目的を変更するような変更をすることはできないという限界があるということ,裁判所に対する変更の申立てには信託行為の当時予見することのできない特別の事情があることが必要ですので,信託行為において事情変更に応じた手当てがされている限りにおいては,予見不能性,すなわち申立ての要件は欠けることになると思われるということを付言させていただきます。

  続きまして,第58の信託の併合についての提案でございます。

  ここに言う「信託の併合」でございますが,1の定義にございますとおり,ある信託行為に係る信託財産と,他の信託行為に係る信託財産とを新たな信託行為における信託財産とすることを言いまして,信託行為の変更の一形態と考えております。

このように,信託の併合は会社の合併に類似するものでございまして,信託の管理コストの削減ですとか,資本の集合によって効率的な投資が可能となり運用の自由度も増すといった,いわゆる規模のメリットが図られることなどの点で有益であると考えられます。

現行法には信託の併合に関する規定がないため,信託行為の変更と信託財産の併合の手続によらざるを得ないようにも考えられますが,ここでは,実務上のニーズにかんがみまして,信託の併合に関する独立の手続的規定を設けようとするものでございます。

  まず,2の(1)でございますが,これは,信託の併合に当たりまして各信託の受益者に対して提供すべき情報を明らかにしたものでございます。

総じて言いますと,受益者において,提案されている内容の信託の併合比率を始めとする併合条件を知ることによりまして,併合の利害得失を分析し,当該併合を承認するか否か,あるいは反対受益者の受益権取得請求権を行使するか否か等の判断材料を提供しようとするものでございます。

次に,2の(2)でございますが,先ほど申しましたように,信託の併合も信託行為の変更の一形態であることから,信託行為の変更に関する規律を準用するものでございます。

もっとも,極めて大規模な信託が極めて小規模の信託と併合される場合におきまして,信託行為の変更の特則として,第57の2のイで述べましたように,「受益者の利益に適合することが明らかであるとき」というふうな要件にはまって,大規模信託の受益者の同意は不要と言えるか,あるいはこの場合をもってこのように言うのは難しいかという問題がございまして,株式会社の簡易合併に類似するような特別な規定を別途設けるべきかにつきましては,なお検討する必要があると考えているところでございます。

  2の(3)以降は,信託の併合と信託債権者に関する提案でございます。

  まず,2の(3)でございますが,これは,併合対象となる双方の信託財産の運用状況によりましては,各信託の信託財産に対する債権者,殊に責任財産が信託財産に限定されている信託債権者にとっては多大な悪影響を受けることともなりかねないということにかんがみまして,会社の合併の場合と同様の債権者保護手続を設けることとするものでございます。

  これに対しまして,2の(4)ですとか,あるいは資料9ページの最後の(注)というところでございますが,これは,このような債権者保護手続が必要以上に重厚な手続となることを回避するために一定の例外を設けようとするものでご

ざいます。

  最後に,2の(5)でございますが,これは,信託の併合におきましては,会社の合併の場合と同様に,各信託に係る権利義務が併合後の新たな信託に包括承継されることを明らかにしたものでございます。

  続きまして,第59の信託の分割の提案でございます。

  ここに言う「信託の分割」でございますが,2類型考えておりまして,一つは,1の(1)にございますように,便宜的に「単純信託分割」と命名しておりますが,ある信託行為に係る信託財産の一部を,新たな信託行為における信託財産とするものでありまして,株式会社の新設分割に類似するものでございます。

具体的には,11ページ,12ページのケース1から4に相当するものと考えております。分割後において受託者が共通するか否か,それから,受益者が分割後の双方の信託財産の受益者となるか否かによりまして,ケース1からケース4までの4通りがあるかというように考えております。

  もう一つは,1の(2)の定義におきまして,便宜的に「吸収信託分割」と命名しておりますが,ある信託行為に係る信託財産の一部を,これは既に存する他の信託行為における信託財産の一部とするものでありまして,株式会社の吸収分割に類似するものでございます。

具体例として,13ページのケース5,6というものを挙げさせていただいております。

受益者が双方の財産に行けるか,それとも分かれるかという点で二つに分けて例示しております。

  信託の分割というのも信託行為の変更の一形態と言うことができまして,信託財産の効率的な運用を図る上で有用な場合があると考えられます。

現行法には信託の分割に関する規定がありませんので,信託行為の変更と信託財産の分割の手続によらざるを得ないとも考えられますが,信託の併合の場合と同じく,実務上のニーズにかんがみまして,信託の分割に関する独立の手続的規定を設けようとするものでございます。

  まず,2の(1)と3の(1)でございますが,これは,信託の分割に当たりまして信託の受益者に対して提供すべき情報を明らかにしたものでございまして,信託の併合の場合と同様に,受益者において,提案されている内容の信託の分割条件を知ることにより,分割の利害得失を分析し,当該分割を承認するか否か,あるいは反対受益者による受益権取得請求権を行使するか否か等の判断材料を提供しようとするものでございます。

  次に,単純信託分割に関する2の(2)と,吸収信託分割に関する3の(3),2の(2)を準用する3の(3)でございますが,これは,信託の分割も先ほど申しましたとおり信託行為の変更の一形態であることから,信託行為の変更に関する規律を準用するものでございます。

  それから,2の(3)と3の(2),(3)というのは,信託の分割と信託債権者に関する規定でございます。

まず,単純信託分割に関する2の(3)と,吸収信託分割の場合にこれを準用する3の(3)でございますが,いずれも,信託の分割におきましては,分割前の信託財産に対する債権者は,信託の分割後はいずれの信託財産に対してもかかっていけるということを明らかにしたものでございます。

  もっとも,その例外といたしまして,11ページのアステリスク1のところに記載しましたとおり,信託債権者を信託財産によって切り分けることに関する規定を設けるか否かについては,そのニーズを踏まえながら検討したいと考えておりますので,実務上このような切り分けをするニーズが存するか否かについて,是非とも御教示をいただきたいというふうに考えております。

 最後に,吸収信託分割のみに関する3の(2)でございますけれども,これは,吸収信託分割の場合におきまして,既に存する信託財産間で一部移転が行われる点において信託の併合の要素が含まれていることにかんがみまして,信託の併合の場合と同様に,分割前の双方の信託財産に対する債権者に対し,債権者保護手続とその一定の例外を規定したものでございます。

  以上で終わります。

● この絵の見方ですけれども,例えば11ページで言えば,小さい黒丸が受益者ですね。それから,白丸で中にAと書いてあるのが信託財産で,大きい四角が受託者ということですね。

● そういうことでございます。

● 併合,分割より前の,信託行為の変更というのも大きな話なので。

  私が前に申し上げたこともちゃんと取り上げていただいて,それに一定の配慮をいただいたというふうに今の御説明は理解しておるのですが,それでもなお十分分からないところがあって。

 この第57の1のところで,今まで私自身も全然不思議に思っていなかったのです。

委託者,受益者,受託者というのがとにかく信託の三者ですから,それで合意すればもちろん信託行為の変更もできるよ,終了もできるよと,当たり前の話だと思っていたのですが,2の方を見ていくと,翻って,どうなんだろうと。

委託者と受益者と受託者を,あたかも--これは結局のところは,もともと日本では信託も単なる契約だと考えているから,契約当事者としてこういうことに関与するのは当たり前だという発想でできているのだと私は思うのですけれども,やはり信託は違うのだというふうに考えていただいた方がいいと思うのです。

  だから,これも本当は,委託者と受益者が合意すれば受託者は信託行為の変更をすることができる,当たり前のことですよね,そこへ合意の当事者として受託者を出す必要は全くないような……。

受託者というのは信託財産を管理しているわけですから,その管理内容であれ何であれ,委託者と受益者がこう言ってきたのだと,そうすれば受託者はそれに従うというだけの話のものをこうやって三つ並べるというのは,やはりおかしいというような気がするのです。

  それが,2のところで,「受託者の利益を害しない」というような形で顕在化するものだから,この前も申し上げて,しかし,今日のお話では,この「受託者の利益」というのは受託者の個人的な利益ではないと。

そして,勝手に信託行為が変更されて,それでも受託者としてとどまらざるを得ないと--ちょっと私,全部書き切ることができないというか,覚えられなかったのですが,もう一回繰り返していただけると有り難いのですが,新たな信託のもとで善管注意義務や忠実義務を果たすのが難しくなる場合があろう,そういうものを受託者に課すのは酷ではないかと。

そういうものを果たせなくなれば,それは信託の不利益になりますよね。

  だから,私が例1としてまず考えたのは,変更された新たな信託では善管注意義務の内容が非常に高度であって,例えば私が受託者ですが,私が今まで投資したこともないようなところへ投資せよというようなことを言われても,私は困りますと。

そんなことを押しつけられたのでは本当に困るということなのですが,困らないかもしれないのですね。

  今のような例を考えておられないのかもしれないのですけれども,もう一回,ちょっと私の枠組みを……。

  今,善管注意義務の話が一つ,それから忠実義務を果たすことが難しくなる場合というのは,ちょっと私,想像ができなくて,これは教えてもらいたいのです。これは後の話です。

善管注意義務の方は,今のような形で私が想像するには,今までにないような,自分の能力を超えるような投資の方法とか何とかかんとかと言われたら,それは困りますねということなのですが,しかし,方法は二つありますよね,その場合ですら。

  第1の方法は,我々は自己執行義務の変更というのを大胆にやることに多分なるのですね。

そうだとすると,とりあえず,それでも,樋口,あんたやれよと受益者と委託者がおっしゃるのであれば,私は,自分の能力を超えているのだけれども,能力のある人を見つけますよ,それでそこへ委託してやってもらいますということで,善管注意義務の履行はできそうな気がするのですね。

  でも,そういうことがもしできないなら,第2の方法は,辞任のところでは,今のところは43条から46条  をそのまま残すというのですが,そのまま残すのの中には,「已ムコトヲ得サル事由アルトキハ受託者ハ裁判所ノ許可ヲ受ケ其ノ任務ヲ辞スルコトヲ得」と書いてあるのですから,そういう方法をとってやめることができそうなのですね。

あるいは,本当はもう少し辞任を容易にするという選択肢も,今立法作業をやっているのですから,あり得るような気がするのですね。

  だから,「受託者の利益」というのが,今日のお話では,この前,もしかしたら私がそもそも誤解していて,受託者の個人的利益をこんなにはっきりしてくるようでは信託の本質という点から問題なのではないかということを強く申し上げたのですが,そうではないというふうにおっしゃってくださったので,もうそこで満足すべきなのかもしれませんが,更にもう一歩,これは,私が「受託者の利益」の意味というのを十分分かっていないところがあって,ちょっと教えていただければ有り難い。具体的な例で示してくださると有り難い。

● では,「受託者の利益」という方があるいは答えやすいかもしれないので,まずは……。もう一つはもっと根本的な問題ですから。

● 「受託者の利益」というのも決して答えやすいわけではないのですが。

  ここで,例えばどういう場合に受託者は困るかといいますと,善管注意義務は,○○委員がおっしゃったとおり,自分の能力に余るような信託財産の管理運用方法の変更がなされたときに困るだろうという気がいたしますし,忠実義務は,確かに,まじめにやっていればいいんじゃないかということに変わりないと言われればそうなのですが,例えば,もともとは自分が投資していた先について,信託行為の変更によってそこに投資するというような変更がもしされたときには,投資先が競合して,忠実義務の問題というのは生じてくるのではないかなというような気がいたしております。

そういうときに義務に従った行動をとれなくなるということが,ここで言う「受託者の利益」に反する場合に該当するのではないかなというような感じがいたしております。

● 済みません,「受託者の利益」というのはこういうものだというふうにさっきおっしゃったものをもう1回読み上げていただくことと,それから,今の忠実義務の方は,正に委託者と受益者がそういうふうに言ってくれたのだから,忠実義務違反はもはやなくなるわけですね。

● 受益者が言ってきた場合で,受託者が従ったということですね。

● ええ,忠実義務にならない例外の典型みたいなものだから。

それでも,実際にやってみると,どうしたらというので困る例はあり得るとは思うのですけれども,一応大きな意味では,そこまでおっしゃるなら,もはや忠実義務違反は私にはありませんという話になるので,大丈夫なような気もするのですね。

  定義的な,「受託者の利益」とはこれだというのをもう1回だけ。

● 定義というか,私がいわば独自の見解を申し上げているだけなのですが,この点につきましては,「受託者の利益」は,原則として辞任の自由がないというのが我々の前提でございますので,当初受託した信託行為の内容とは異なる新たな内容の信託行為についても,善管注意義務や忠実義務のもとで受託者としての職務を適切に果たしていかなければならなくなる,そのような責務を十分に果たすべき受託者の同意ないし利益を信託の変更に当たって考慮することは,受託者による信託事務の適切な処理を期待するという観点からも不合理とは言えないと考えられる。

したがいまして,ここに言う「受託者の利益」とは,受託者の個人的利益のことではなくて,受託者が善管注意義務や忠実義務違反に問われることなく,適切に信託事務を処理し得る利益というふうに考えているというところでございます。

  あと,辞任の自由を認めた方がというお話は,これはかつてもいろいろ議論があったわけでございますが,ここでは,信頼というのは,別に受託者が受益者を信用しているわけではなくて,受益者が受託者を信用しているという,言ってみれば片面的な形になっておりますので,受託者に対するガバナンスなどの観点からも,委託者や受益者が受託者を自由に解任できるというのは,信頼をしている方からの解任なのでいいと思うのですが,逆に,信頼されている方が自分で自由にやめるというのはそれとパラレルにはいかないということもありまして,受託者には辞任の自由は原則ないということで通しているということも付言させていただきます。

● 今の問題と密接に関係しますけれども,○○委員の意見のもう一つ,いわば1に相当する部分ですか,根本的に,変更というものについて。

● 1の方でございますか。三者の合意としているのはおかしいという。

  ○○委員が先ほどおっしゃったのは,委託者と受益者の合意に基づいて受託者がやればいいじゃないかということですが,先ほど私申しましたけれども,二者がいいからといって,できないこともあるだろうと。

やはり,そういう能力という観点から,受託者の意向というのもこの場に反映させるべきではないか,それは当然,自己の利益というよりは,善管注意義務,忠実義務のもとで事務処理をし得るという自分の能力にかんがみて,誠実に合意に関与するということは認めていいのではないかということで,三者の並立にしているということでございます。

● 私,○○委員のおっしゃることに80パーセント賛成で,20パーセント反対なのですが,反対なのは,受託者が困る場面というのは結構あるだろうというところが反対であって,○○委員のおっしゃるような形では処理できないだろうと思うのです。

  ただ,そもそも三面契約としてでき上がっているわけではなくて,委託者が信託を設定して,受託者が引き受けるという形ででき上がっているわけですから,三者の合意と書くのはやはり余りよくないのではないかと思うのですね。

そうすると,やはり,委託者と受益者の合意による,そして受託者の同意を得なければならないというふうに書き分けるべきであって,本当に細かい技術的な話ですが,やはり精神は違うので,三者並立よりも,二人の人が受託者の同意を得て変更を行うという形の方が何かいいんじゃないかなという気がするということだけです。それが賛成の方の話です。

● 実質は,今の○○幹事のことは非常によく分かるわけですけれども,そもそも信託の構造が何かという観点からすると,なかなかそこは難しい問題があって,契約によって設定された信託のそもそもの当事者はだれかとか,形式的に考えるとこれはやはり委託者と受託者であるとか,そういうふうにもなりかねないので,なかなか単純にはいかないところもありますね。

ただ,実質は,○○幹事のような形でやればそんなに弊害はないと私も思いますけれども。

● おっしゃったように,委託者と受益者の合意をもって受託者が同意するというスキームというのは,正に理念的には我々が考えていたとおりでございまして,おっしゃるとおりかというふうに思っております。

  ただ,事務局の方として教えていただきたいのは,このように三者の合意としておりますのは,受託者から積極的に変更の提案もできるという趣旨も含まれているわけでございますが,もしも受託者は同意ができるとすると,消極的に同意はできるけれども,積極的に変更の提案はできないということになるのではないかと。

その点につきましての懸念というのがありますので,そういうことはないのか,それともそれでも構わないのか,この問題につきましての御見解を是非ともお教えいただければというふうに思います。

● 私が答える立場にいるとも思えませんが,受託者が,例えば,受託者の負う善管注意義務の範囲において,変更した方がよい,変更した方がより信託の目的を達することができると思うときに提案をすべきであるという義務を考えるというのは十分にあり得ることだと思うのですね。

しかし,提案をして,直した方がいいですねというふうに言うという話と,自らが直すことの当事者になるかというのは別問題なのではないかなという気がします。

  が,おっしゃることもよく分かりますし,それよりも,○○委員がおっしゃったこともよく分かりますので,単純に受託者の同意とすればいいじゃないかというふうに言ったのは,考えがまだ浅かったというふうに思いますけれども。

だから,○○委員がおっしゃったように,そもそもの信託の設定の在り方というのをどういうふうにとらえるかというところと平仄を合わせて書くようにしないといけない--まあ結論はないわけですが--ということで御勘弁をいただければと思います。

● いろいろと考慮しなければいけないような問題がありそうなので,これについては引き続き検討させていただいたらよろしいのではないでしょうか。

● 受託者の利益に関して受託者の同意が必要かという今の議論についての話で,受託者サイドの意見としてお話ししたいのですけれども。

 もちろん,この制度の必要性というのは,事務局がおっしゃられた,受託者の善管注意義務,忠実義務を真っ当に確保するためという点もあろうかと思います。

ただ,考え方にもよると思うのですけれども,受託者個人としての利益もある程度おもんぱかっていただくことはできないのかということでございます。

  これは理由が二つありまして,一つは,正しく実務的には契約というふうにとらえているわけですけれども,そうした場合に,契約を一方的に変えられてしまうということは,実務感覚からは非常にかけ離れているということでございます。

  二つ目は,これは補償請求権ということにも関係し得るわけですけれども,例えば,変更を求められましたと,やれるかやれないかというと,やれますと,ただし莫大な長期投資が必要ですと。

例えば,やれるのですけれども,人を新たに雇わなければいけないですよと,ただ,その信託自体はすぐ終わります,他方,人をいったん雇った場合にはなかなかやめられませんといったときに,結局,その補償請求権の金額いかん,どれぐらいでつけるかということにもよると思うのですけれども,信託が終わった後にそういう負担を受託者として負い続けてしまうことになる。

それで,もし補償請求権を全部負わなければ,結局は信託受託者の個人の損失になってしまうという場合もあろうかと思います。

そうした場合に,やはりそういうことは受託者の担い手として萎縮効果を及ぼしてしまうこともあり得ますので,そこら辺を考えますと,そういう御提案があったときに受託者の同意を得るということを原則としていただきたいというふうには思っております。

● ○○委員のお話とほとんどかぶってしまうのですけれども,非常にレベルの低い話になってしまうのですけれども,理念的に言いますと○○委員のおっしゃることというのは非常によく分かるのですけれども,本当に現実の問題として考えた場合に受託者として対応できるかという,先ほど○○委員からお話があったようなこともありますし,非常に困難な場合があります。

  例えば,信託行為,信託契約一つとってみても,当然,商品を開発してお客様に提供するということからすると,受託者のリスクというのはもちろんいろいろと勘案するわけですけれども,お客様にとってどういう効果があるのだろうかということをある意味どんどん練った上で何らかの対応をしていくということをやっていくわけですけれども,それで一つの商品ができ上がって,提供すると。

そういう中で突発的な形で変更を求められるということについて,どこまで対応できるかというと,そういうのはレベルの低い受託者なのだと言われてしまえばそれまでなのですけれども,なかなか対応は難しいのかなというのと,もう一つは辞任のところについて,確かにおっしゃるとおり辞任というのを緩めてという部分もあるかもしれませんけれども,これも現実の問題としてとらえた場合には,そういうところで辞任したときに,受けてくれるところが本当にあるのだろうかという--これも本当にレベルの低い話なのですけれども--ところがあるので,実務上からいくと,やはりかなりしんどい話かなと,そういうことを分かっていただきたいと。

● 今までのお話と少し関連しますが,若干異なると言えば異なる問題なのですが。

  第57の1,2を今お話しされていたのですが,その下の4に正にかかわる問題だと思いますが,「信託行為に別段の定めがあるときは,当該定めに従うものとする」と。

別段の定めの例としましては,3ページ以下に,特定の第三者等々に変更を委任するような定めも許容されると。

これは本当にいろいろなパターンがあり得るところだろうと思います。

当事者のだれかに委ねるという場合もあるでしょうし,第三者,それもいろいろな第三者があるだろうと思いますが,そのあたりについては最初の御説明の中でも御指摘されていたところです。

そして,これについては甲案,乙案というのがあって,甲案ですと,最初から別段の定めが分かってやっているのだから,どういうことになったとしてもそれは仕方がないでしょうと。乙案は,それではやはりまずいので,限定を加えようというようなお話だったと思います。

  これは,広い意味での契約といいますと,契約内容の変更権限を当事者のどちらかないしは第三者に委ねるというような契約がそもそも効力を認められるべきものかどうかということ自体からして既に大きい問題があろうかと思います。

特に,消費者契約に相当する場合,つまり,一方は事業者で他方は消費者だというような場合ですと,消費者契約法の10条,不当条項規制の一般条項ですが,その一般条項に当たる代表例の一つが,正に変更権限を他方当事者ないしは一方当事者と密接に関連する者に委ねるというような条項だろうと思うのですね。

そういう意味で,この4で,「別段の定めがあるとき」と,そしてその例として,一方当事者ないしは第三者に委ねるような定めがそもそも有効かどうかということ自体,やはり気にする必要があるのではないかなと思います。

 そして,いろいろあるうちの一つの例として,例えば受託者に変更権限を委ねるというような定めが最初からあるとしたような場合に,それが果たして有効なのかと。

有効だとして,もちろん受託者は善管注意義務,忠実義務を負っているわけでして,それを履行しないといけないわけですけれども,客観的に見ればその義務に違反しているような変更をした場合に,その変更自身は効力を認められるのか,認められるけれども善管注意義務違反,忠実義務違反の責任が問えるというふうに考えるのか,それとも,やはりそれはちょっと迂遠なことであって,そもそも変更の効力が認められない,ないしは,そもそもこういう定め,受託者に変更権限を委ねるような定め自体が無効なのだというような考え方もあり得るだろうと思うのですが,そのあたりはいかがお考えなのでしょうか。

● 私も同じ問題意識を持っていまして,契約で空白部分を第三者に委ねるということはあり得ると思うのです。

例えば代金を第三者に決定させるとかですね。それから,紛争が生じたときに第三者の判断に解決を委ねるということもあると思うのです。

ただ,ここは,積極的に合意したことを新たに第三者に変更させるという権限を与えるものですから,どうも今まであった例とは違うのではないかということで,○○幹事のおっしゃっていることと同じ問題意識を持っています。

● 非常に根本的な問題で……。

● 我々としては,正にそういう,権限を与えることはできるという前提のもとにどうするかというレベル,第2段階の議論をしていたところでございまして,そもそもそういう権限を与えることができるかどうかというところも正に皆様方の御議論もいただきたいというところでございまして,いろいろな文献などを見ておりましても,そこのところを書いたものは余りないという気がいたしております。

  ただ,そもそもそういう権限を与えるのは,いったん決めたものを変更して受益者の不利になるおそれがあるのではないかという観点からとられるのであれば,例えば乙案のようにするのであれば,仮に第三者に変更権限を与えていても,このような縛りがかかっているのであれば,それをあえて無効とまでしなくてもいいのではないかなというような感じがいたしますので,無効とするぐらいだったら,乙案というのも十分あり得るかなと。

  ただ,御指摘の趣旨からすると,甲案というのは問題が多いというような感じが,今のところ,事務局としてはいたしております。

● 甲か乙かというと,乙の方がもちろんいいと思うのですけれども,そもそもこういう変更権限を第三者あるいは当事者の一方に認めるということが可能なのかということが根本的な問題提起としてあるわけですね。

  そこで,むしろ,具体的にどういう場合を想定しておられるのかということから考えていった方が解決に近いのかなという気がするのですが。

大上段に第三者に変更権限を認めると言うと非常に大きな話になりますので,こういうことが問題なのだということをお教えいただいたらいいかなと思いますけれども。

● 少し考えてから答えた方がいいかもしれませんね。

  では,ちょっとここで休憩にしましょうか。

            (休     憩)

● それでは,再開の時間になりましたので,お席にお戻りください。

  それでは,先ほど非常に難しい問題を提起されましたので,それについて,○○幹事の方でお願いします。

● 休憩時間中に考えてみたのですけれども,例えばどういう例があるかといいますと,アメリカなどでは割と使われていると思うのですが,例えば,子供が3人ぐらいいまして,そのときの経済状況に応じて配分額を決めてくださいと。

それで,その変更権というのを受託者に与える。

これは,裁量信託になると思うのですが。もちろん,その子供たちのことをよく知る第三者に与えてもいいですけれども,そういう者がその時々の状況を見て適宜配分額を変更できると,このような変更権限を第三者に与えるということが一番想定される場合ではないかなという気がいたしております。

  今のは民事信託ですけれども,他方,商事信託でどういう場合があるかというと,これはなかなか我々としても適切な例というのが思い当たらなくて……。

仄聞したところによりますと,例えばポートフォリオを決めると。例えば投資先,運用先なんかを決めるときに,ある第三者がその時々の経済状況に応じてベストと思われるところを決定すると。

これは変更というよりは,その時々に信託行為の中身を決定していくというような形をとっているというようにも伺っておりますが,考え方によっては一種の変更とも言えるのではないかと思われるところです。

もちろん,それは無制限というわけではなくて,少なくとも,今言ったような,そのときの経済情勢を見て,受益者の利益に最も適合するとか,ある程度の縛りがかかっているのかと思います。

余り実務で使われているかどうかということはよく分からないのですが,商事信託でもそういうことは考え得るかというふうに思います。

  そもそも変更権限を与えていいのかどうかという問題になってまいりますと,しかし,契約の世界,あるいは信託のこれまでの使われ方などを見ましても,第三者に変更権限を与えること自体が許されないというのは,ちょっとそこまで言うのは一般的には難しいのではないか。

やはり,そのときの設定の状況とか周囲の状況などを見まして,変更権限の付与がそもそも公序良俗違反で無効になるとか,あるいは,ここで言いますと乙案的なもののように,無制限ではなくて,委託者の設定した目的とか受益者の利益という観点からの制限のかかった変更権限までは付与されるけれども,それ以上はできないというような,いったんオーケーとした上で絞るというようなやり方という方が現実的ではないかなというように考えられるところです。

● この点につきましては,更にもうちょっと考えていきたいと思いますけれども,今の○○幹事の答えに関して,何か更にもし御質問があれば。

● 先ほどの,商事で信託というお話ですけれども,当然,現行実務においてはありませんので,こういうことがありますよという御紹介はできないのですけれども,ぱっとイメージするに,やはり我々が持っているノウハウよりも高いレベルであるとか,特に,例えば知財の関係の信託等で,法的な問題であるとか,ほかに技術的な問題,そういったものについて我々では分からないような形で,もう完全に例えば弁護士さんなり弁理士さんとかにゆだねてしまった方がいいような場合というのが出てくるのではないかなというふうに考えております。

 そういうこともありまして,信託制度自体の柔軟性を確保したいという観点から見て,先ほどの甲案,乙案からいくと,やはり甲案を支持したいというふうに思っています。

  弊害というのは当然出てくるのだと思いますけれども,これについては,契約で書いているでしょうというのが一つと,これから先,第60のところで議論があると思いますけれども,反対受益者の取得請求権を強行規定として確保するというところでもって弊害を防止する,受益者救済を図るという手段があると思いますので,自由度を高めるという意味合いから,甲案ということでお願いしたいというところです。

● ○○幹事のおっしゃったようなことで,私,十分に理解できると思っていますが,この第57の4について言うと,○○幹事がおっしゃるような懸念にも非常に共感することがあって,これから申し上げることは今後何度か申し上げようと思っているので,もう二度と繰り返すなと言われても困るのですが。

  つまり,アメリカでは,信託行為に別段の定めというので,例えば受託者に変更権を認めている場合だってあるわけです。それが一番典型的な形では,裁量信託というようなものですから。

ただ,英米法の場合はやはり歴史的なバックグラウンドがあって,最後はエクイティーの裁判所。

つまり,何を言いたいかというと,この信託法の見直しで我々ずっとやってきていて,何度も耳にする言葉が,「デフォルト・ルール」というものですね。

基本的なものをここで書いておいて,しかしあとは契約でいかようにでもなるんですよ,別段の定めでいかようにでもなるんですよというので,その半面は非常にいいことだと思っているのです。

やはり信託の自由というのは契約の自由に通ずるところがあって,それでないと信託はいろいろな形で発展していかない。

しかし,今,アメリカの例えば統一信託法典で任意法規化ということが強く言われているのは,彼らの世界では,それでも後ろにエクイティーの裁判所が常にあって,例えば一つ判例を挙げるとすれば,ある信託条項で受託者にアブソリュート・ディスクレッションを上げると書いてあるのですね,はっきり。

それに対して何の制約もないとまで書いてあるのです。しかし,紛争になりますね。

それで裁判所に行くと,アブソリュート・ディスクレッション,絶対的な裁量と書いてあってもだめですよというようなことを言ってくれるわけです。

これは,信託というのは単純な契約ではないですからという話をやってくれるのですね。

  日本でそういうバックグラウンドがあるだろうかということを翻って考えると,やはり我々はそういうような何百年間の歴史というのは持っていない。

書いてあるからという話で,契約だという話で。完全な商取引のときは,私はそれでいいと思っているのです。

商人対商人,プロ対プロという話はそれでいいと思っているのですが,それが波及していって,先ほど例に挙がった消費者であれ何であれというところへ行って,信託というのはそんなものなのかというふうな風評,評価がなされるような事態が出てくることはやはり非常に問題だと思うのですね。

それは商事信託にとっても問題であると思うので,そういう意味で,日本としては,この4についても何らかの制約をつけざるを得ないような形になっても仕方がないのかなと思っていますが。

● この信託全体を通じて共通する問題ですけれども,一方で商事信託で,またその中でも,いろいろ最先端ので,いろいろ充当性といいますか,融通性を持たせた方がいいというタイプのものから,商事で信託はあっても消費者相手に使う信託であるとか,あるいは,現実にはまだそんなにないわけですけれども,ファミリー信託的なものと,いろいろなものを含んでいるために,なかなか,どこにデフォルト・ルール的なものを置いたらいいかというのを常に考えていかなくてはいけないのですね。

  この問題につきましても,先ほどいろいろ御意見が--多少両極端的な御意見がありますけれども,どこか中間的といいますか,それなりに合理性のあるところに落ち着くように,これからまた議論していきたいと思いますので,そういうことでよろしいでしょうか。

● 甲案,乙案ということで出ているのですけれども,議論の中では,この甲案,乙案については,要するに特定の者に権限を付与する場合の権限の限定ということで議論がされているようなのですが,私もどちらかというと,甲,乙で言うと乙の方がいいのではないかと思うのですが,この指示する場合だけの限定で足りるのかというのがちょっと気になっておりまして,特に,乙案に書かれている目的を変更する場合ですとか,あるいは第60の記載の内容の変更というのは信託の根幹にかかわる部分だと思いますので,これについては,基本的に1とか2とかの規律によるというふうにすることを検討するべきではないかと思うのですが,その点も含めて御検討いただければと思います。

● 今のは,もちろん三者が合意すればいいわけでしょうけれども,信託行為の別段の定めでもって例えば目的の変更ができるというのは困るではないかと。

つまり,特定の人に権限を与えた上での話ではなくて,一般的に,この変更できるときのその変更できる中身について,信託行為に別段の定めを設けて信託目的の変更もできるという形の規定を設けるのは問題があると,そういう趣旨ですね。

● 別のところですけれども,変更のところで2点,あと分割のところで1点です。

  変更のところの第1点目につきましては,これは3,4の通知義務のところでございますけれども,多分これは強行規定だろうと思います。

これの前の段階においては,通知義務だけだったと--「あらかじめ」という言葉が入っていたかもしれませんけれども,こういう形で「前日までに」というものが入りますと,やはりかなり窮屈な感じがいたします。

例えば,2とかでいくと,軽微な変更というのも結構あるんじゃないかなと。

軽微な変更の場合については,例えば,次の通知なり,お客さんに対して通知しているところの一部分に盛り込ませた方が費用面も非常に安く済むであるとか,非常に多数の受益者であったとしたら公告で済ますとか,そういうこともあっていいのではないかと。

もちろん,重要な変更である場合においてはそういうことはいけないと思いますし,原則としては,前日までにするということを普通はすると思うのですけれども,ただ,こういう形で強行法規で決められてしまうと,かなり窮屈な感じがします。

したがいまして,デフォルト・ルールにしていただけないかというのと,そういうことが難しければ,例えば前日という部分だけカットしていただくとか,そこら辺のところをちょっと御検討をお願いできないかなというのが1点目です。

  2点目につきましては,6のアステリスク2の裁判所の関与のところにつきましては,結構いろいろな問題があるということのようですけれども,実務においては,信託財産の管理方法以外でも,やはり当初予見できないような状況でデッドロック状態になるということも十分に考えられますので,最終的な救済といいますか,そういう手段として裁判所の関与というのを認めていただけたらなというふうに思います。これが2点目です。

  もう1点は,分割のところでございますが,併合と分割につきましては,現行法に規定のない中で結構実務上もやっておりまして,併合も受託者の合併とかに伴いましてやっていますし,分割につきましては,流動化のところで,不動産を一つの信託に入れて管理信託をやっておいて,その一つずつを物権化して流動化していくというようなことも結構ありまして,分割というのも割と盛んに行われつつあるというような状況です。

  そういう中で考えますと,ここのアステリスク1にも書いてあるのですけれども,その場合については,やはり信託債権というもの自体が,分割の場合,分割するもとの信託と,分割した先の信託,両方にかかっていくというところについて何らかの債権者保護手続をとることによってその片一方の方に寄せると,そういう制度というのは御検討されるということですけれども,ここら辺のところ,簡便に,なおかつ確実にできるような方法の御検討をお願いしたいということでございます。

● 同じことの繰り返しで恐縮ですけれども,ちょっと○○委員には恐縮なのですけれども,反対のことを申し上げたいと思うのですが。

  今日の議題の第57から第60は特にそうですし,前回の複数受益者の意思決定方法のところもそうなのですけれども,全体的に実務的な感覚からいきますと,今の信託法に対比しますと,非常に窮屈な,重い信託法になりつつあるのかなという面が否めないと思っております。

例えば分割とか併合とかいう点においても,今でも実務的に行っておりますけれども,後で御質問したいと思うのですけれども,この第58,第59の規律というのは強行法規のところが大きいとは思いますけれども,そうした場合に,現行対法とくらべて,デフォルト化というのがだんだん後退しているという面もあるのではないかなというふうな印象を持っております。

  もう一つの話としては,この場というのは信託一般法の在り方を議論する場であるわけですけれども,受益者への保護であるとか,特定の信託類型における保護の在り方であるとかいった場合には,やはりそれなりの法体系において別々に検討すべきところもあるのではないかと。

すなわち,信託一般法の場合もありますし,信託業法ないし資産流動化等の個別特別法とか,また,今議論されております投資サービス法等の一般規制法とかいうところで規律されるべきというところはあるとは思うのですが,私の印象からすると,本来ならそれら業法等で規制すべきものが,この一般法に入っているところもあるのではないかなというふうに思っております。

  この観点で個別論点についてのコメントを差し上げたいのですけれども,そういう意味で,第57の4に関しましては,甲案が妥当だというふうに考えています。

  あと,第58,第59の信託の併合等について,確認をしたいのですけれども,そもそもこの規定というのは強行法規であるのかということです。

  具体的には二つあるわけですけれども,一つは,例えば,そもそも信託の併合,分割を認めない信託というのはつくれるのかどうかということです。

つまり,信託契約において併合禁止,分割禁止を定めておくことは有効かと。

もっとも,考えてみますと,概念的には信託併合等も信託変更の一部であるということでしたので,手続を1回やるのか2回やるのかは別として,当該禁止を含めた信託行為自体も第57の規律によって変更することが可能であるということであるから,余り実務的に議論する実益はないのかなとも思いますけれども,第58,第59の在り方として,全体的に強行法規かどうかということをお尋ねしたいというのが一つです。

  二つ目に,仮に強行法規性が全体的にどうかということは個々具体的に検討すべきだということになった場合に,第58の2の「信託の変更手続」の例えば(1)でしたら,アからカまで開示しなければならないとか,いろいろありますけれども,これが強行規定なのかどうかということです。

実務においては,こういうある意味法定化されたものを意識せず,ある程度契約という概念の中でやっていたわけですけれども,その対比から言うと窮屈になっているのかなというふうには思っております。

もっとも,債権者の立場からすると,これだけの債権者保護手続ということがあるわけですから,非常にいい制度だということもあるわけで,ここは非常に矛盾したことを申し上げているわけですけれども,そもそも概念の整理として,個別の手続等についても強行法規なのかどうかということを確認したいと思っております。

● まず,○○委員がおっしゃった,通知が強行規定かどうか。これは,質問というよりは,そう理解しておられるというお話でしたが,これは,受益者の利益をどこまで図るかという制度的な観点から通知義務を義務づけたものでございまして,我々としては強行規定であるというふうに考えております。

  「前日までに」では厳しくて,「あらかじめ」にしてほしいというのは,どう違うのかよく分からないのですが。

● 「あらかじめ」というのではなくて,通知義務だけなら,例えば事後的なものとかいうのも認められると思いますので。

● ここの通知義務というのは,事前にすることによって初めて,変更自体に対して効力発生前に不服を言わせる機会を保障するという趣旨がございますので,「あらかじめ」であれ,「前日までに」であれ,それは我々としては特にこだわらないというか,まあ「前日までに」がいいと思っているわけですが,事後でもいいかというと,ちょっとそこは,そもそも通知をする趣旨に反してきますので,難しいのではないかなと。

事後に通知するのは,ある意味では当たり前といいますか,変更された中身を受託者や受益者に,こういう信託になりましたと言うのはむしろ当然の報告義務だというふうに考えておりますので。

ここは,通知というのはもう少し意味合いが違うのではないかというのが,とりあえず事務局の理解でございますが,御指摘を踏まえて考えてみたいとは思っております。

  それから,分割の場合の債権者保護手続につきましてはどのようなものにするか,これは,特に独自のものを考えているというよりは,普通の商法上の債権者保護手続の併合のようなものと,また個別催告のようなものを考えておりますが,具体的な手続につきましては,検討していきたいと思っております。

それから,○○委員がおっしゃった点,2点ですが,まず,そもそも併合,分割ができないような信託行為の定めをすることはできるかということにつきましては,それはいいのではないかと思っておりまして,御自身がおっしゃられましたように,そのような禁止の定めをそもそも三者の合意とかで解除した上で更に併合する,それもまた可能でございますが,もしも,いったん信託行為の中で,この信託は分割できませんよとか,併合できません,あるいは変更できませんもあるのでしょうが,そう書いてあったら,いきなりそれに違反して併合,分割,変更することはできない。

いったん解除してというプロセスを経るべきかと考えております。

  それから,併合,分割に当たっての受益者に対する併合条件の通知とかそういうところでございますが,ここも,受益者が要らないと言うのであれば,あえてしなくていいのではないかなと。

ちょっとそこはまだ十分検討しておりませんし,受益者の保護の観点からするともう少し強いものかなという気もしてはいる半面,受益者が要らなければ要らないのではないかという考え方もございまして,そこは御指摘を踏まえて検討したいと思っております。

●  ○○委員の先ほど言われた,非常に小さな変更で,明らかに利益に反することはないだろうというようなものについては,場合によっては通知の仕方の方でも解決できるのではないでしょうか。

さっきの,どこかに公示すればいいというのであれば,それはそれで解決するわけですね,事前であっても。さっきの御発言はそういう御趣旨ではありませんでしたか。

● そうですね。今は通信手段とか通知手段というのは結構いろいろとありますから。

● 個別にやれと言われると大変だけれども。

● そういうふうに前日までで個別にと言われてしまうと,結構困る部分というか,窮屈だなということで,そこも何らかの御配慮をと。

● ちょっとこれを見ていて,基本的にはこれでいいのだけれども,この通知の持つ意味というのは,事前に異議がある人がいるかもしれないから,事実上反対するというか,自分の意見を表明するチャンスを与えようということで,それはそれで結構なのですけれども,これは一応,第57の2のアからエまでの要件を満たされていた場合には,結局変更は効力を生じて……。

● 通知はしなくても。

● ですから,通知をしないで,効力が発生して,先ほど,通知をする義務の違反という問題は生じるかもしれないと言われたけれども,しかし,それも何か損害賠償とかいうものが生じるわけでもないでしょうね。

この要件が満たされて,変更ができるのだという前提で考えると。

● そうですね。結果的に不利益がなかったわけですから。そうすると,違反は違反ですけれども,損害がないという……。

● 私が最初にこれを読んだときには,そういう変更ができるかどうかの要件は第57の2に書いてあるので,この要件を満たせば変更はできるわけですが,その変更の効力が発生する時期を通知にかからしめているのかと思ったのですけれども,そうではないのですか。

● そうではありません。

● だとすると,さっきのように,通知をしなくても効力は発生し,その義務違反を問おうと思っても,実際上は余り何もないと。

● まあ,そういうことになりますね。

  あくまで受託者の判断が適正かどうかをチェックするという趣旨がありますので,結果的に適正であれば,それは別に構わない。例えば株式の場合でも,新株発行の場合に公告を怠っても,結局,差止事由がなければ有効になるのと同じような話になるかなという気がいたしますけれども。

● ほかに,よろしいでしょうか。

● 2点申し上げたいのですが。

  まず1点は,第58,第59の併合と分割に共通の問題だと思いますけれども,先ほど,株式会社の合併等になぞらえてというお話がございましたが,仮にそういうふうに考えますと,それぞれの無効の訴えみたいなものを仕組む必要が出てくるのではないかと。

形成訴訟として仕組んで,だれが原告で,対世効が出てというようなことまで考える必要があるのかどうか,御検討いただきたいというのが第1点です。

特に,受益権について有価証券化されて流通しているような場合には,対世的な,画一的な処理を行う必要が出てくるのではないかなという気がいたします。

  第2点は,第57の信託行為の変更の6の米印の2,先ほどから何回か出ていますが,裁判所が変更をするという話ですが,私は,ここについては,5ページのあたりに,もう少し広げられないかということが,最後の「しかしながら,」以下の段落で出てくるわけですが,慎重に考えた方がいいのかなという気がしております。

 現行の信託法は裁判所の関与というのを幾つか定めておりますけれども,多くは,何かをしようとするのに裁判所の許可が要ると。

つまり,何かしなければいけないことがあって,だれかから提示されて,それに対して裁判所が許可をするという形のものが多い。

8条でしたか,信託管理人を選ぶというときには,だれを選ぶかというので幅がありますけれども,しかし,信託管理人を選ぶかどうかということはオンかオフかしかないわけですが,この現行法23条というのは,そういう意味では随分幅の広い,裁判所がしなければいけない判断の幅が広いものではないかと。

更にこれを広げるというのは,非常に慎重であるべきだと思います。

  つまり,別の言い方をしますと,この私的な財産管理に許可みたいな形で公権的に関与するというのを超えて,積極的に内容を形成するということまで裁判所の権限あるいは義務とするのが適当なのかどうか。

更に別の言い方をしますと,財産関係で何かデッドロックに乗り上げるというのは,ほかのシチュエーションでは幾らでもあると思うのですが,信託についてだけそういうことを設けるのは果たして適当なのかどうかということです。

  先ほど○○委員から,最後はエクイティー・コートが控えているというのが英米の信託であるというお話がございました。

そういうことができないと,信託というのはそんなものかという風評が立つというお話がございました。

一面それは真実だと思いますけれども,その半面で,裁判所による変更によって不利益を感じる人にとっては,裁判所はこんなことにまで関与してくるのかという風評が立つという側面も必ずついて回るということも考える必要があるのではないかと思います。

それぞれの国で司法制度に伝統がございますので,もちろん,これで世の中を変えていこうということは議論としてはあり得ると思うのですけれども,踏み出すときには,二歩三歩踏み出すのではなくて,半歩ずつぐらい踏み出すという考え方もあると思いますので,それとの関係で23条の見直しを考えるべきではないかというのが私の意見でございます。

● 御指摘になりました無効取消しの訴えにつきましては,検討いたしたいと思いますし,裁判所の変更の範囲につきましては,是非ともまた皆様の御議論をいただきたいというふうに思います。

● そうですね。もうちょっと具体的に,どういう場合に必要なのかということも検討しながら考えていきたいと思います。

● 先ほどの○○幹事からの御意見と同趣旨でございまして,第2回の部会で申し上げたこととも重なることが多いということでございますが,非常に多様な形態がある信託において,一方,裁判所が信託に関与してきたという,そういった伝統においては非常に乏しいということがございます。

若干,統計などもざっとだけ見たのですが,平成11年から15年まで,裁判所が信託に関する非訟事件といたしまして--訴訟ではなくて,こういった信託行為の変更ですとか受託者の解任等全部含めまして,非訟事件の数と申しますと,全国で大体5件から10件程度という状態が続いているという状況でございます。

そういったことで,現在のところ,裁判所にとって信託というのは非常になじみが薄いというのが実情でございます。

  そのような中で,今回,信託について法改正ということで,信託行為の変更ということで裁判所が信託行為の変更をすることができる,変更後の信託行為というものを裁判所が定めることができるということになりますと,裁判所にとっては非常に不安が大きいということになります。

受託者から変更の請求があることもあれば,受益者から変更の請求があるということもあり得るものでございますし,裁判所はその当事者の主張に拘束されずに信託行為を変更することができるということが多分非訟事件の基本的な建前ということになってしまうと思いますので,そこを裁判所が決めてしまうということで本当にいいのかということに尽きてしまうのではないかというふうに考えておりまして,現在の裁判所,今までの裁判所の在り方からすれば,非常に消極的に考えざるを得ないのではないかというふうに考えているところでございます。

  したがいまして,現在ございます信託の管理方法の変更につきましても可能な限り要件を明確化していただきたい,判断基準を明確化していただきたいというのを第2回の部会の際にも申し上げたところでございまして,この点は,先ほど○○幹事の方から,今後検討するというお話がございましたので,是非お願いしたいというふうに考えているところでございます。

  一方,財産の分配についての変更ということになりますと,こちらはもう受益権の内容そのものを裁判所が変えてしまうということになりまして,そのようなことを,合意を前提とせずに裁判所が判断してしまってよいのかという意味では,やはり消極ということになるのではないかというふうに考えているものでございます。

● 現在の規定のもとでも大変な難しい問題があるということだと思いますけれども,確かにこれは,範囲を余り広げ過ぎるのには非常に慎重でなければいけないという点があると思いますけれども,少なくとも管理方法の変更については,先ほどの5件ですか--先ほどの5件というのは,必ずしもこの23条の関連ではなくて,もっと……。

● 要は信託に関する事件ということでございまして,信託に関する非訟事件全部を加えてということでございます。

ひょっとしたら,何かほかのものと一緒になっているとかいったことがあって若干数が増えるということもないわけではないと思うのですが,信託に関する事件として裁判所が統計をとっているものとしては,年間5件から10件ぐらいで推移しているというところでございます。

● ちょっと私の個人的な意見も入るので,申し上げるのが適当かどうか分かりませんけれども,ある種の事情変更の原則ですよね,これは。

事情変更の原則というのは,実体法のルールがあっても実際上はなかなかできなくて,要するに,変更されたということで当事者が変更してしまって,あとは裁判で争えというのも,これも本当は事情変更の原則としては余り適当ではないと私は思っているのですが,たまたま信託にはこういう形で裁判所が関与して事情変更の原則を行使できる規定があるので,本当はうまく使えればいいと思っているのですけれども,5件といいますか,更に実際には少ないのかもしれませんけれども,まあ,いろいろ問題点があることはよく分かっております。

● 簡単なことで,質問でございます。

  第58と第59の併合,分割ですが,だれがこれをするかという点についての質問です。

どちらも第57を準用しているので,先ほど議論があったところですが,原案のままですと,原則は三者の合意,そして,第57の2も当てはまるので,それぞれに当たると3人いなくてもいいということで,併合と分割はできると,こういうふうに理解しましたが,それでよろしゅうございますでしょうか。

● はい。

● あと,もう一つです。

  併合には債権者保護手続が入っておりますが,この債権者保護手続の対象債権者には受益者は含まれないということですか。

● 受益者は含まれないと考えております。自ら変更に同意しておりますし,かつ受益権取得請求権もありますので,入らないということで考えております。

● 分かりました。ありがとうございます。

● 第60のいわゆる証券化の58条リスクについて敷えんして述べようかと思ったのですけれども,今お話が出ましたので,一言だけ申し上げます。

証券化という,全体からすると非常に一部の部分かもしれませんが,その観点からすると,やはり同じ文脈において裁判所の介入リスクというのはできるだけ減らした方がいいと思います。

その観点からすると,このアステリスク2の中での検討ということで裁判所の関与の可能性を拡大しているということについては,やはり消極的に解すべきではないのかというふうに思っております。

現に,今お話にありましたように,そんなにニーズもないようでございますし,証券化の観点から,ちょっとどうなのかなというふうに思っております。

● この第57から第59までの,信託行為の変更,併合及び分割,この三つの規律の関係について,質問,あるいは意見を述べさせていただきたいと思います。

  基本的に,まず第57の1で,委託者,受益者,受託者の合意によると。恐らくこれは現行の信託法でも,解釈論においてはこのような考え方が通説であろうかと思います。

したがって,2以下で三者の合意がなくてもいい場合等があるのは,むしろ規制緩和になるというふうに理解しておりまして,先ほどの○○委員の,このルールが入るとむしろ規制が強化されるというのはどういう御趣旨なのか,つまり,今までの分割とか併合というのはどうやってやってきているのかというのをまず教えていただきたいというのが,第1点の質問でございます。

  それから,それとの関係で,信託の分割と併合につきましては,信託行為の変更についてのルールがそのまま適用されておりまして,いわばそれに上乗せする形で債権者保護手続がついていると。

これは,この債権者保護手続についてどう考えるかという点なのですけれども,確かに,会社法との対比で申しますと,定款変更については債権者保護手続はないのですが,合併,分割等については基本的には債権者保護手続があると。

  ところが,この信託行為の変更も,考えようによっては債権者を非常に害する信託行為の変更というのが十分に考えられるわけでございますし,特に資本制度による流出の抑制がありませんので,場合によっては,信託行為を変更して,受益者に全財産を一挙に分配してしまうことにするということすらできる可能性がある。

しかも,それを信託行為の変更という形でやられてしまうと,受託者は信託行為に従ったとおりにやっているだけだということにもなりかねないので,特に受託者の責任が有限となった場合には,債権者保護手続というのはむしろ信託行為の変更についても考え得るのではないかと。

そして,信託行為の変更について,もし仮に債権者保護手続が入れられるとすると,アメリカの統一信託法典等は,信託の併合と分割については一般的な信託行為の変更よりもむしろ緩やかにそれを認めてあげましょうと。

実務上のニーズも非常に多いということは,これはアメリカでもそうでありますので,むしろ信託行為の変更よりもやや受託者の権限を広げる形で,いわば更に規制を緩和するというのがアメリカ法の状況ではないかと理解しております。

それがちょうど第57から第59までの提案は逆になっておりますので,その点についてやや違和感があると申しますか,どのように考えたらいいのでしょうかというのが,質問ないしコメントでございます。

● 先ほど○○幹事の方から御質問がありましたので,お答えしたいと思います。少々言葉足らずのことがあるかもしれませんが,その点については釈明したいと思いますけれども。

  私の申し上げたのは,まず第1点に,御案内のとおり,信託の特徴というのは,信託の柔軟化ということを非常に重視すべきではないかということで,デフォルト・ローということをその点で追求すべきではないのかという話でございます。

  確かに,おっしゃられたとおり,現行法と比べますと,現行法ではかかる変更等の規律に関して規定がないという点で,今回,それをある程度,利害調整のバランスを考えつつ,可能とするという枠組みを立てたという点では非常に評価できることだと思います。

  ただ,この点は,実は次の第60,受益者取得請求権でコメントを差し上げようと思ったのですが,第58,第59の話で先ほど,○○幹事の方から御回答がありまして,必ずしも強行法規ではないというふうな御回答でしたので,よろしいのですけれども,例えば信託の分割ないしは併合において,私も現状というのをすべてを知っているわけではないのですけれども,基本的には,契約当事者の間で合意をしてかかる変更手続等を行うという話でございます。

そのときに,仮にこの第59の提案の中の手続として,2の(1)のように,「次に掲げる事項を明らかにしなければならない」というようなことを立てた場合には,その点においては,少なくとも現状と比べては規制強化--というと言葉がちょっと悪いかもしれませんけれども--になるのではないかと。

  ゆえに,もし緩和するということであれば,できるだけ,不要な,ないしは信託の内容に応じて必ずしも必要ないというものであれば,それは基本的にはデフォルト・ローというふうにして,もし内容によって規制が必要であれば,それは業法等で規制しておくべきではないのかという趣旨で申し上げたわけでございます。

● ○○幹事が最初,信託行為の変更においても債権者保護手続が必要な場合があるのではないかということを言われて,私も,責任限定特約なんかがついている場合にはそういうことが大いにあり得ると思います。

 ただ,仮におよそ一般的に信託行為の変更のときに債権者保護手続を設けるとしても,どういう場合に要求するかというのはなかなか難しくて,ちょっと今記憶がはっきりしておりませんけれども,これは責任限定特約のところに何か入れましたっけ。

● いえ,入れていません。

● あるいは,そこでそういうのが必要かどうかというのを検討するということはあり得るのではないでしょうか。

● 変更の場合にはやはり債権者保護手続が必要ではないかというのは,○○幹事のお書きになったもののみならず,いろいろなところで指摘がされているところでございますので,その点についての事務局のとりあえずの現時点の考え方をお示ししたいと思います。

もちろん,御指摘を踏まえて,なお再検討はしたいと思っております。

  ただいま○○委員もおっしゃいましたとおり,変更の場合というのは,変更によって重大な影響を受ける者もいれば,そうでもない者もいるのではないか。

例えば,物権的な引渡請求権を有する者であれば,変更されても特に影響を受けませんし,無限責任債権者であれば,受託者の固有財産も引当てになっておりますので,それが充実してさえいれば特段の影響はないであろう。

これに対しまして,今御指摘がありましたように,有限責任の債権者であれば,信託財産の状況次第によっては重大な影響を受けることがあるのではないかというふうに考えられます。

このように,利害関係人が影響を受ける場合というのが多様でありまして,その利益状況を完全に仕切るということがなかなか難しいということですとか,あるいは,この三者の合意で変更できるというルールを設ければ,利害関係人も契約で特に手当てをしない限り,自らの関与なく変更されるということが予測できるわけですので,そうであれば,必要であれば自ら個別の契約で,変更には自分の同意が要るとか,そのような手当てをすることもできるのではないかということも考えまして,デフォルト・ルールとしては,三者の合意のみでできるとしたということでございます。

  なお,株式会社との比較でございますけれども,これも,合併,分割,資本減少などの場合には債権者保護手続がございますけれども,変更と類似の定款変更の場合にはそういう手続がないということにも考慮しているところでございます。

  では,なぜ合併,分割の場合に保護があるのだということ,米国統一信託法典と比べて平仄が合わないではないかということで,そこも検討はしたいと思っているのですが,とりあえず,その理由といたしましては,ただいま申しましたように,信託行為の変更につきましては関係者に与える利害に多種多様なものがあって仕切り難いということに比べますと,併合,分割の場合というのは,我々の意識としては,相対的に利害関係人に与える影響が大きいのではないかというふうに考えられることですとか,それから,商法では,合併ではそういう債権者保護手続が必要とされていることなどとの平仄などにもかんがみまして,規律が逆転しているといいますか,提案のようになっているということでございます。

● この点,○○委員がおられると,一般の変更と合併等の場合とのバランスということでよくおっしゃっておりましたので,また御意見を伺えると思いますので,またいつか別な機会にでも御意見を伺うことにいたしましょう。

  それでは,次の問題にも関連いたしますので,少し先にいかせていただければと思いますが,よろしいですか。

  では,次の第60に。

● それでは,続きまして,第60の反対受益者の受益権取得請求権について説明させていただきます。

  まず,1の(1)でございますが,受益者の多数決をもって信託行為の変更に関する承認決議をした場合における,受益権取得請求権の成立要件等について検討したものでございます。

  今回の信託法の改正におきましては,信託行為に定めを置くことにより,受益者が多数決によって意思決定をすることを認めてはどうかとの提案をしたところでございます。

  このように,多数決をもって信託行為の変更を承認することができるとした場合には,自己の意思に反して変更された信託行為の内容に拘束される受益者が生ずることになりますが,信託行為の変更の中には受益者の利害に重大な影響を及ぼすものがありますので,そのような場合につきましては,変更に反対の受益者に対して受益権取得請求を認め,合理的な対価を得て当該信託から離脱する機会を与えることが,受益者保護の観点から相当であると考えられます。

  このような観点から,1の(1)のアにおきましては①から⑦まで挙げた,ここでは「特別決定事項」ととりあえず命名しておりますが,これにつきまして受益者の承認決議がされた場合には,決議に賛成した受益者以外の受益者,換言しますと決議に賛成の意思を表示しなかった受益者には,受託者に対して自己の有する受益権を公正な価格で取得することを請求できることとしております。

 ここでは,このように,主体を,決議に反対する旨の意思を表明した受益者ではなくて,「決議に賛成した受益者以外の受益者」といたしておりますのは,信託におきましては信託行為の定めにより多種多様な多数決の方法を採用できますので,信託行為で採用された多数決の方法によっては,受益者が変更に反対する旨を決議に先立って表明することが事実上困難な場合が想定できますが,このような場合にも反対の意思を表明しなければ取得請求できないとすることは,受益者保護の観点から相当ではないと考えたからでございます。詳細は,16ページのアステリスク4でも書いているところでございます。

 なお,受益権取得請求の規律は,その性質上,受益者に不利な形での別段の定めを置くことが許されないという意味での強行規定と考えておりますので,一体いかなる場合に受益権取得請求が認められるかを明らかにする必要があると考えております。

 この問題につきましては,とりあえず①から⑦の事項を挙げた上で,軽微な変更の場合にまで受益権取得請求権を付与する必要はないという考えのもとに,ただし書をもって,受益者を害するおそれのないことが明らかである場合を除外することを提案しておりますが,資料15ページの最後のアステリスク1に記載しましたとおり,いかなる事項について承認決議がされた場合に,受益者に対して取得請求を認めることとするか,例えば,受託者の忠実義務を解除するようなものについては,信託の本質に反するからそもそもできないと考えられますが,忠実義務を緩和するようなものについてはこの①から⑦には当てはまらないと思われますので,このようなものも取得請求権が発生すると考えるべきかなど,是非とも御議論をいただければと思っております。

  また,受益者による取得請求は,信託財産の規模の縮小をもたらすほか,受託者の信託事務処理の円滑を損なうおそれもございますので,その期間は合理的な期間に限定することが相当であると考えられます。

  このような観点から,(1)のイでは,反対株主の買取請求権の規律を参考といたしまして,受託者は,決議賛成者以外の受益者に対して,特別決定事項に関する信託行為の変更の効力が生ずる日の例えば20日前までに決議内容を通知しなければならないといたしまして,これを受けて,(1)のウでは,通知を受けた受益者は,効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに取得請求をしなければならないとしております。

次に,1の(2)でございますが,これは「特別決定事項の変更権限を有する者」,多数決ではなくて,変更権限を有する者によって変更の決定がされた場合における取得請求権の成立要件を検討したものでございます。

  先ほど説明しましたように,信託行為に定めを置くことによりまして,特定の者に信託行為の変更権限を付与することができると事務局は現時点では考えておりますが,仮に先ほど信託行為の変更のところで申しました,変更権限に制限がないという甲案を採用しますと,特別決定事項につきましても変更権を付与できるということになります。

ちなみに乙案ですと,そもそも変更権限がないので,こういう問題は生じてこないということになります。

甲案をとった場合につきましては,承認決議がされた場合と同様に,自己の意思に基づかずに変更後の信託行為の内容に拘束される受益者が生じ得ますので,そのような変更に反対する受益者に対して受益権取得請求の機会を認めて,合理的な対価を得て信託から離脱する機会を与えることが,受益者保護の観点から相当であると考えられるところです。

  このような観点から,決定権者が特別決定事項について,受益者に不利益となる方向で変更する旨の決定をした場合につきましては,各受益者は受託者に対して受益権取得請求をすることができるとして,受益者の保護を図ることとしております。

取得請求期間に関するイ及びウにつきましては,先ほど説明した場合と同様の規律を設けることとしております。

なお,若干付言いたしますと,決定権者が変更決定をした場合には,受託者に対して変更内容及び効力発生日を通知することになりまして,通知を受けた受託者は更に,今度は各受益者及び,場合によっては委託者に対して,変更内容等を通知することになります。

  そこで,イでは,「受託者は,各受益者に対し,効力発生日の【20日前】までに,その決定の内容を通知しなければならない」としておりますので,決定権者が受託者に対して決定内容を通知する場合には,受託者が各受益者に対して当該期限までに通知することができるように効力発生日を定めなければならなくなると考えているところでございます。

  次に,「2 受益権の取得価格の決定等」でございますが,まず受益権の内容のことですけれども,これは原則として信託行為で自由に定めることができますので,受益権の取得価格について,客観的な決定基準を法定することは困難であると考えられます。

そこで,反対株主の株式買取請求権に関する規律を参考といたしまして,受益権の取得価格は,請求する受益者と,請求に応じて取得する受託者との間の協議によって決定するのを第一次としております。

  さらに,協議が調ったとしても,合理的な期間内に代金の支払がされなければ意味がないと思われますので,例えば効力発生日から例えば60日以内に代金の支払いをしなければならないとしております。

ただし,信託財産に流動資産がないような場合には,60日以内に代金の支払いをすることが困難な場合も想定されますので,そのような場合には,受託者が裁判所に対して相当の期限の許与の申立てができることとしております。

  以上のとおり,受益権の取得価格につきましては協議によって決定されることになりますが,協議が調わないことも考えられますところ,このような場合におきましては,受益者保護の観点から,公平な第三者が受益権の取得価格を決定することが適当であると考えられます。

そこで,2の(2)におきましては,受益権の取得価格の決定につきまして一定期間内に協議が調わない場合には,受益者は一定期間内に裁判所に対し価格決定の申立てをすることができるとしております。

なお,受益権取得請求権が行使された場合の原資でございますけれども,これを幾らまでは信託財産からか,幾ら以上は固有財産からとするか,固有財産からとする場合には信託財産に求償することとするか否かなどにつきましては,先ほど信託行為の変更のところで,御説明しましたとおり,受託者,受益者間で合意すべき事項になるものと考えております。

  最後に,「3 受益権取得請求権の失効等」でございますけれども,前段は「1の決議又は決定に基づく行為がされなかったときは,その効力を失うものする」としているわけでございまして,例えば信託行為の変更につきまして,受益者の決議があったものの,委託者又は受託者がその変更に反対した場合には結局変更ができなくなりますので,こういう場合が含まれると考えております。

  2の(2)につきましては,先ほど説明いたしました,取得請求の手続上の期間的な限定に違反した場合には,当然ながらそのような請求権は失効するということを記したものでして,これによって法律関係の早期の明確化が図られるものと考えております。

  以上でございます。

● それでは,御意見を。

● 先ほどの話に関連することですが,デフォルト・ルール化の推進化という観点から意見を述べたいと思います。

  まず,この第60という規律は,基本的には強行法規だと理解しています。

これは,アステリスク2の反対解釈からしてもそうだと理解しているのですが,それを前提にしてお話したいのですが,よろしいでしょうか。

 それならば,やはり信託の柔軟性ということを考えるのであれば,ここは強行法規とすることは疑問でございまして,先ほどの○○幹事のお話の延長ではありますが,私の立場からすると,どうせ緩和するのであれば利益調整のことも考えるけれども,信託行為の多様性を認める必要があるわけなので,基本的には任意化ということを推進すべきではないかと思っております。

 例えば不動産信託において,取得請求権ということが認められるのであれば,仮に取得請求権が一部であってもそれが行使されたときに,当該信託財産においては金銭というのはないわけですし,換価することが非常に難しい話であるわけですから,その場合,実質的には当該少数反対者のために,例えば全体の信託にとってはよい変更をしようとしていても,それができないということもあり得るのかなと思っております。

もちろん,これが全部の信託においてもそうなのかということではないわけですけれども,信託内容によっては取得請求権を認めない,又は自由なアレンジを認めるような信託というのを認めてもいいのではないかと思っております。

  これは総論ですけれども,個別の論点で二つございまして,一つは1の(1)のアの⑤でございますけれども,「受益債権の内容を変更する場合」の中身でございます。

  仮に,1の強行法規化を仕方がないとしたとしても,⑤を除いた①から⑦というのは非常に大きな変更であるわけですから,このような事項があってもよかろうということだと思いますが,⑤というのは「受益債権」と書いてあるわけなのですが,「受益債権の内容を変更」というのがどういうところを意味しているのかというのが,まず不明確であると思います。

また,その解釈によってそれが広がるのであれば,いかなる信託行為の変更であったとしても,結果として受益債権の変更に間接ないしは実質的に影響し得るのであれば,もしこの取得請求権が発生するという解釈を許すということであれば,実務上やはり大きな影響があるのではないかと思います。

  この点,投資家保護の観点からどうなのかということで申し上げたいと思うのですが,例えばデット投資ということであれば,このような保護まで必ずしも必要ないのではないかと思っております。

例えば法制度でいえば,担保附社債信託法の制度において,担保の変更を行うということを考えていきますと,確かに特別決議というプロセスは法定化されておりますけれども,では決議がなされた場合に,基本的には全体を拘束しているという話で,そこにおいては反対決議者の買取請求権,償還請求権になるのでしょうか,というものは認めていないという話でございますので,このバランスからするとどうなのかなと思っております。

  また,契約の世界,シンジケーションの世界も,これはセキュリティー・トラストもございまして,やはり信託法に設けないといけない話だと思っておりますけれども,それを例に取り上げますと,シンジケーションにおいてもエージェント行為,エージェントにおいてある程度の権限を与えているということがございます。

エージェントは,全債権者を代理していろいろな権限を行使するという場面がございますが,そういうアレンジは,基本的には自由な契約で決めているということでございます。

ただ,実際的には,日本ローン債権市場協会,「JSLA」と言われているのでございますが,そういうところで標準契約を出しておりますが,それを見ても,別に多数決のことが書いてあったとしても,反対があったからといって当該反対者に対して買取請求権等を付与しているというわけではございません。

  このような実務感覚からすると,必ずしも取得請求権というのを認めるということがミニマムな保護なのかどうかということについて疑問でございますので,よってこの点についてはデフォルト・ルール化ということを望みたいと思います。

  次に,1の(2)の特別決定事項の話でございますけれども,ここも同様の文脈の話になるわけなのですが,例えばファミリーの信託であったとして,おじさんに権限を与えていましたといったときに,こういう使い方もされるのではないか。

すなわち,おじさんが子供のためによかれと思って変更した,子供はそれに反対した,そうすると本当はおじさんは長期的に運用したかったのに,いきなり子供がそのときに大金をつかむということも,この規律からするとそういうことにもなりそうでございますが,やはり信託の設定においてそういうようなことを使われたくないということであれば,やはりそこは設定時において,こういう取得請求権は認めないというアレンジメントは認めていいのではないかと思っておりますので,強行法規化というのはどうなのかということでございます。

  それを敷えんして,実効性という観点から申し上げますと,2でございますが,実際に取得権が請求された場合に,こう言っては恐縮なんですが,本当に裁判所が対応していただけるのかというところがございまして,例えば非常に極端な話ですが,これは60日の期限を設定しておりますけれども,例えば不動産信託で処分に非常に時間がかかる,通常不動産流動化の場合はテール・ピリオドということが言われまして,実際に売ると決めてから2年ぐらいとか,いろいろと期間がございますが,長期間を設定しているわけですけれども,そうした場合に,59日目に延期しましょうという申立てをして,翌日裁判所が許可してくれるのかどうか,もし許可がおりなくて,あと1週間かかりますと言われたときに,その間,受託者はある意味で債務不履行の状況になるわけですけれども,そういう結果を生み出すようなことをこの規律が認めようとしているのかということを考えますと,やはりそもそもそういうものは取得請求権を認めなくてもいいのではないかということにもなると思っております。

● 根本的な問題なので,ここでも十分検討していきたいと思います。

● ○○委員のところとかなりかぶっている部分もございますけれども,4点ばかり意見を申し上げます。

  まず1点目は,受益権の取得請求権のところでございますけれども,これは先ほどの特別決定事項の決定権限を有する者のところで,それは自由度を認めてほしいということで,そのかわりに取得請求権というのは強行規定やむなしと申し上げましたが,ここの部分については,信託契約であるとか信託制度そのものの柔軟性というのはやはりできるだけ確保したいというのが一つありまして,ただその弊害というのが必ず出てくるということですので,その弊害を防止するための受益者保護策というのはどうしても強行規定で必要だろうということで,そこの部分についてはやむなしというのが,全体としてはやむなしという方向があります。

  あと,個別の問題として,先ほど○○委員からもありましたが,①から⑦のところの文をずらっと見て,⑤だけやはり異質かなということで,ほかの重要度からしますと余りにも一般的な書き方がしてありますので,この前に,例えば「重大な」とか,そういうのを入れていただいて,なおかつ説明文の中に,こういうようなものは含めませんよとか,もちろんただし書で「受益者を害しないことが明らかであるとき」と書いてありますが,こういう趣旨であるとすれば条文上の形の手当てもお願いしたい,解説上の手当ても,そこら辺のところをお願いしたいというのが2点目です。

  3点目につきましては,当初の御提案では,取得請求権を取得できる者につきましては「決議に反対した受益者」というところを,今回につきましては「決議に賛成した受益者以外の受益者」,これはどういうものかというと,「反対の意思を積極的に明らかにしていない受益者」と書かれておりますが,こういう受益者の中には,変更の内容を承知しているけれども意向を表明しなかったという人も当然いると思いますので,そういう人にまで取得請求権を与えるのだろうかという疑問が少しあります。そこは,ちょっと与え過ぎかなという感じがいたします。

  4点目につきましては,これはまた第57のところと同じなのですが,イのところの通知義務ですけれども,ここら辺については通知しなければいけないというのは,ここについては多分軽微なものは余りないと思いますので,通知はしないといけないと思うのですが,20日間とかいうふうに限定されますと,緊急を要するような場合というのは対応できないということもあるかもしれないので,デフォルト・ルールにしてくださいというお話ではないですが,何らかの対応をお願いできないかなということでございます。

  それと,一番最初に,受益権の取得請求権については方向性としては賛成だと申し上げましたけれども,それはそうなのですが,実務上いろいろと考えると,例えば信用補完をするための劣後受益権とか,そういうことを考えたら,それについて取得請求を認めてしまうと信用補完はどうなるのかなということもちらっと考えたりして,これは実務上いろいろと工夫して対応していくことかもしれませんけれども,方向性としては取得請求自体は強行法規ということでいいのですけれども,いろいろと法制度上の問題としても,又は実務上の工夫としても考えていかなければいけないのかなと思っております。

● 今,多少ニュアンスが違う点がありますけれども,二つ御意見をいただきました。

 ただ,先ほどの第57のところで議論したことと非常に関連していまして,やはり入口というのでしょうか,最初のところを自由にするのか,少し狭めるのかということに関係しているわけですね。これについては,いかがでしょうか。

● 最後に○○委員がおっしゃったこととは違うのですが,第60についてよろしいでしょうか。

 ○○幹事が口頭でおっしゃってくださった中に,取得請求権を受益者が行使した場合に,その取得請求権が固有財産に属するか信託財産に属するかという問題については,ルールを定める必要はないだろうということでまとめられたのだろうと思います。

その理由は,その前提に,広い意味での併合,分割を含む信託行為の変更が必ずあるから,その中で少数の反対者からの取得請求権が行使された場合には,どちらで買い取るかということを決めなければならないし,決めることによって対応できるだろうということと理解いたしました。

  そういたしますと,強い意見ではなくて,大丈夫かなという疑問を少し申し上げたいのですが,第57の1とか2のアとか,これでいったときには,おっしゃるように必ず受益者,受託者が変更の当事者でありますので,決め忘れるということはあるかもしれませんが,合理的な当事者であれば,それもあわせて決めるということが考えられますが,第60の特別決定事項というものの分類と,信託行為の変更についての2のところの分類とがうまくかみ合っているのかどうかがよく分かりませんで,これがすべて2のアに入るならばよろしいのだろうと思いますが,もしイやウやエになってしまって,信託行為の変更が受託者,受益者のどちらかが欠けてしまう形で行われると,もう一つ別個の合意が必要になってこないかなということが気になりました。

  既にうまく解決されているのかもしれませんが,いかがでございましょうか。

● そういうことも起こりそうな感じがしますね。

● 第57の5のところで,条件を決めると,この中で一体幾らを信託財産から出すか,幾らを固有財産から出すかということを決めることができるわけでございます。

そして,5では1又は2のア,ウ,エの場合をすべてカバーしておりまして,もちろん,今,○○幹事がおっしゃったように,1とか2のアの場合は合意で決めればいいと思うのですが,ウとかエの場合などにおきましても,この場合は受益者とかが決定して,受託者は決定自体には関与してこないわけでございますが,その中で別途,やはり合意しなければいけないということになってくるのではないかと私どもとしては考えておりまして,そうであればその中で決めていけばいいのではないかと思われるところでございます。

● 分かりました。

  5は,場合によっては変更の当事者だけでなくて,受託者も加わった形でこれを決めると。

● しかし,うまくワークするかどうか。

  もし,デフォルト・ルールが必要ということであれば,これは今おっしゃったような1とか2のアの場合以外の場合は,原則として「信託財産から」というのを書いておいて,ただしこういう合意ができる場合は合意によって決める,こういうのもあるなと思ってはおります。

● その方が安全かなという感じがいたしましたので。

● 5だけでいこうと思ったのですが,ちょっと検討してみたいと思います。

● 分かりました。

● ほかに,いかがでしょうか。

● まず第60で,反対受益者に受益権取得請求権を認めることについては,信託法の一般ルールとしては,私としては,やはり強行規定として必要なのではないかと考えております。

 その理由は,まず第一に,やはり第57の1が原則的なルール,つまり委託者,受託者,全受益者の合意が必要である,これが議論の出発点であると思いますので,いわばその原則を破って多数決原理を取り入れる場合には,少数派に対する公正な配慮が必要であると。

  私益信託を今念頭に置いているわけですけれども,私益,経済的な目的のために設定された信託においては,少数派に対する公正な配慮というのはこのような受益権取得請求権という形であらわれるのが当然ではないかと思われるのが,第1点であります。

  第2点は,確かに,全体にとって利益となる基礎的変更を行おうとしているわけですけれども,このときにやっぱりある種のハードルを課しておくことが,本当にプラスになる基礎的変更を行うためのチェックポイントとなり得る。

したがって,ある程度のコストはやはり覚悟していただいて,それにもかかわらずプラスがあるんだと。

そういう意味では,一定のハードルを課すというのは,私は,合理的な制度なのではないかと思っております。

  ただ,どんな信託においても反対受益者の受益権取得請求権が必須かというと,それこそ受益者がプロのような場合には,これは別途検討する必要があると思いますけれども,冒頭に申し上げましたように,信託法の一般ルールとしてはやはり強行法規として課しておくべきで,あと業法,特別法等で外すことはあり得べしということではないかと思います。

  長くなって恐縮ですが,もう一点だけコメントさせていただきたいと思うのですが,1の(1)のアの⑤,先ほど○○委員が御指摘された点なのですが,私も,受益債権の内容を変更する場合に,一律に反対受益者の取得請求権が認められるというのは,何か非常に違和感がありまして,みんなで我慢しようというときに,それで多数決原理を入れて決めたときに,自分は嫌だ,抜けるというのは,⑤については違和感があるわけです。

  これは,前回の部会のときに申し上げさせていただきましたが,やはり受益者集会制度の中に種類受益者集会制度のようなものを設けて,クラスが分かれていて,あるクラスの受益者が害されるときに当該受益者集会で反対をした者に対しては,こういった取得請求権を与えるという制度として仕組む方が合理的であって,⑤はやや一般的過ぎるのではないかという印象を持っております。

● ⑤については,私も,一体どんなものが具体的に入ってくるのかが分かりにくかったのですが,これはどんな場合を……。

● 例えば受益債権の期限を,半年後だったところを10年後にするとか,あるいは利率を大幅に下げるとか,具体的にはそういう場合を想定しておりまして,今①から⑦の中で,⑤だけ非常に広いような印象があるというのはおっしゃるとおりかと思いますが,そこはただし書で,多くの場合は外れていくのではないかという認識のもとに⑤を入れているところではございます。

● 典型的には,受益者の利益が絶対的に減るのかどうか分からないけれども,期限が延びるとか,そういう形の不利益をこうむる場合ですね。

  若干広過ぎる感じもしますが,議論の余地があるかなと。

● 1点だけ確認したいのですが,私が前に申し上げたことですが,受益債権に対して直接変更を加える場合と理解してよろしいのですか。

つまり,直接は加えないけれども,信託行為を変更し,結果として受益債権の弁済が変わり得るといった場合は含まないと,こういう理解でよろしいのですか。

● これは,受益債権で考える……。

● 直接,受益債権を変更すると。

● 受益権の内容が変わることによって受益債権が変わる場合は当然入ってきます。

● 区別は難しいですよね。

  例えば投資の対象を変えて,長期的には値上がりするかもしれないけど,現在配当に回せる利益が少ないというものに投資したときに,受益債権が減ると

いうような例ですよね。

● おっしゃるとおりです。

  そういう場合を想定しているのか,想定していないのかという話ですが。

● そういう場合も入ってくる……。

● 入ってくると。

● と,我々としては思っておりますが。

● ちょっと広範囲なのかなというのが私の意見です。

● これは,皆さんの御意見もあるので,少し検討させていただきましょうか。

  この受益権の取得請求権自体を認めるかどうか,これをデフォルトにするかという,そこがまずは一番大きな問題点ですけれども,先ほどから両方の御意見が出ておりますが,どちらかというと,こういう限られた範囲で一応必要なのではないかという御意見が多かったような気がしますけれども,ほかに何か御意見があれば。--よろしいですか。

● 通知をここで要求しているという点では先ほどと同じなのですが,通知をしなかった場合について何か私法上のサンクション等があるかというと,それはないという前提なんでしょうか。

通知しなかった場合の効果ですね,あるいは通知に遺漏があったとかおくれたとか,そういうことです。

● 十分な検討しておりませんが,一つは受託者の責任ということがあるでしょうし,あとは通知をしなければ,結局支払請求権の期限が到来せず,失効しないで,いつまででも行使できるような事態になるのではないかという気がいたします。

● ただ,第60の1の(1)のウ,「受益権取得請求は効力発生日の【20日前】の日から効力発生日の【前日】まで」という,通知にかかわりない書き方になっていますので。

● そこは,通知を当然しなければいけないと思います。

御指摘の書き振りだと客観的に時期が決まってしまっておりますので,検討したいと思いますが,私の個人的な理解では,やはり通知で当然効力発生日も明らかにされているので,その20日間という期間が設定されると思っておりますので,何も通知がなければ,このように期間を制限して受益権取得請求権を失効させるということはできないのではないかと思われます。

● そういう意味では,さっきの第57とちょっと違った点があるわけですね。

  それでは,まだ未了の意見が残っておりますので,いずれまた,もうちょっと詰めていきたいと思います。それでは,本日はこれで終わります。どうもありがとうございました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年加工編

                        法制審議会信託法部会

                        第9回会議 議事録

第1 日 時  平成17年2月8日(火)  自 午後1時03分

                      至 午後4時56分

第2 場 所    法務省第1会議室

第3  議 題

   信託法の見直しに関する検討課題(6)(続き)について

   信託法の見直しに関する検討課題(7)について

第4 議 事   (次のとおり)

                              議    事

● それでは,定刻になりましたので,始めさせていただきます。

  実は,今回は○○部会長が御都合でお出ましになれません。そこで,部会長代理という制度がありまして,部会長代理は部会長の指名によるということに規則上なっているそうでございます。

そこで,私が○○部会長から図らずもその指名を受けまして,本日,議長の役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

   (委員の異動紹介省略)

  それでは,○○幹事の方から,本日の資料等についての御紹介をお願いいたします。

● 本日席上に配布しております「現行信託法第11条(訴訟信託の禁止)の改正についての意見書」という資料がございます。

これは日弁連の方から参考資料として本席で配布していただきたいという資料でございますので,その趣旨につきまして,○○委員の方から簡単に御説明いただければと思います。よろしくお願いいたします。

● 法務省作成の検討課題と題する資料を,その度に日弁連の方にはこちらから渡しておりまして,その中で,特に信託法第11条の改正の関係では日弁連が密接な関係があるということで,それを受けて検討されまして,その結果が,今,席上に配布されている,信託法11条の改正についての意見書です。

これについては,次回にこれがテーマの一つに入ってくると伺っておりますので,そのときに御覧の上,議論していただければと思います。今日は簡単に項目だけ御紹介させていただきます。

  まず,結論としては,信託法11条の関係で「正当理由ある訴訟信託」という例外を設けること,これについて反対をするという結論でございます。

  第2では,まず1で法務省作成の「検討課題(1)」と題する資料中の「説明」において示された見解の要約が書かれていまして,2がこの見解に対する日弁連の意見ということです。

 この日弁連の意見は全部で7項目ありまして,(1)から(7)までですが,(1)は,信託法第11条の立法趣旨の理解について,この資料中の見解に書かれている立法趣旨とは違うところがあるのではないかという指摘でございます。

  (2)は,このような正当な理由がある場合というのを訴訟信託の例外として設ける立法事実がそもそも存在しないのではないかということが書かれています。

  (3)では,この資料中の見解の方は,任意的訴訟担当が許容される場合があることを,正当な理由のある場合という例外を設ける理由にしているところ,その任意的訴訟担当が許容されることが,この正当な理由がある場合という例外を設ける理由にはならないのではないかということが書かれています。

そもそも次元が違うとか,あるいは,訴訟法上,任意的訴訟担当自体が未解決の困難な問題をたくさん抱えているので,それが許容されるからといって,そちらの方向からこの訴訟信託の許容される範囲を考えるというのは,アプローチの方法としては妥当ではないのではないかということ。

  (4)は,手続上の問題として,ちょっと複雑な事態になる場合というのを幾つか想定して書かれています。

  (5)は,信託法10条と信託法11条の関係について,資料中の見解の方では,信託法10条を総則的な規定,信託法11条を具体的事例に関する規定として位置づけているけれども,両者は並列的なものなのではないかと。

それで,信託法10条の方に例外的に認められる場合があるとしながらそういう例外規定を設けずに,11条の方にだけ例外規定を入れるというのはバランスを失するということが書かれています。

 (6)は,正当理由による例外を許容することの合理性がないのではないかと。

正当理由という例外を法律で書くという場合には,例えば判例の蓄積があるとか,あるいはそれなりの類型化が具体的になされているということが必要ですが,信託法11条の場合は,そういう具体的な類型化等まだ何もなされていないということ,それから,正当性ということが入ることによって概念の誤解あるいは拡張が見られて,実際上問題が起きるのではないかという,そういう懸念です。

  (7)が,信託法11条にこういうただし書をつけなくとも特に困らないということが書かれています。

  大体内容は以上のとおりです。

● ありがとうございました。

  では,このテーマにつきましては次回の会議で扱いたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

● それでは,今日もまたいつものように幾つかに区切って進行したいと思います。

  それでは,進行も含めて,お願いいたします。

● それでは,本日の進行でございますが,前回積み残しました信託の終了原因と信託の清算の問題,それから,今回の資料に書いていございます,信託財産に係る倒産手続,裁判所の監督,営業信託の商行為性,合同運用,遺言代用信託の問題を順次やっていきたいと思います。

信託の終了原因と清算をまずまとめまして,その後は各項目について一つずつ順番にやっていくということとさせていただきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。

● そういうことですので,最初は二つということになりましょうか,お願いします。

● それでは,第61と第62の問題につきまして,順次,資料の内容を御説明いたしたいと思います。

  まず,第61の信託の終了に関する提案でございますが,現行法にも定めのある信託の終了原因につきまして改めて整理を試みた上,一括して列挙するとともに,信託の終了に伴う信託の清算以外の効果について規律したものでございます。

提案内容は第2回の部会で提示した内容とほぼ同じでございますので,詳細な説明は割愛させていただきまして,第2回部会にて提示した内容から変更した点についてのみ説明をいたします。

  まず,1点目は,1の(1)の④というところでございまして,裁判所の命令による信託の終了というところでございますが,前回の提案におきましては,「信託行為の当時予見することのできない特別の事情により信託を継続することが受益者の利益に適合しないこととなった場合において」としておりました。

これを,「信託行為の当時予見することのできない特別の事情により信託を継続することが信託の目的に適合しないこととなった場合において」と変更しております。

  このように変更した理由でございますが,これは,26ページの末尾の(注)にも書いてありますとおり,例えば,ファイナンス目的の信託におきまして,この規定による中途での信託終了が認められる可能性をできる限り排除するためのものでございます。

  この規定は,現行法の58条に対応しまして,裁判所に対する信託終了の申立権を認めた規定で,当事者の合意等によって信託を終了させることができない場合におきまして,裁判所の判断で信託行為を終了させた方がよい場合があるという判断に基づきまして,現行法から申立要件,申立権者を変更して,信託法制研究会報告書に記載したとおり提案していたものでございますが,第2回会議における御意見を踏まえまして,申立要件を今回更に変更して提案したものでございます。

  報告書の記載におきましては,裁判所に対して信託の変更を求める申立要件と同じような要件として,「信託行為の当時予見することのできない特別の事情により信託を継続することが受益者の利益に適合しないこととなった場合」には裁判所が信託を終了し得るとして,受益者の利益に重点を置いた要件としておりました。

この要件におきましても,現行法に比べまして信託の終了が認められる可能性はかなり減じられていると考えられますが,更に裁判所の判断による信託終了のリスクを回避するには,信託行為にて想定し得る状況についての定めを設けて予見不能との要件を排除することが必要でありました。

しかし,今回の提案のように改めることによりまして,継続することが信託の目的にかなう場合,裏返しますと中途で信託を終了することが信託の目的に適合しないファイナンス目的の信託,あるいは資産流動化のための信託というようなものにつきましては,裁判所による信託の終了の要件を満たさないことになるのではないかと考えているものでございます。

  このように要件を変更することにつきまして,御意見をいただければと考えております。

  もう一つ,第2回会議で提案した内容からの修正点は,1の(2)と(3)の規定を追加した点でございます。

この規定は,1の(1)の⑥の信託行為の定めによりまして受託者あるいは受託者以外の者に信託の終了権限を付与する場合に,この終了権限の行使は相手方のある意思表示によることを定めるものでございます。

このように新たな提案をする理由は,信託の終了権限の行使による効力発生時期が明確になる規律とする必要があると考えたからでございます。

なお,規定として提案してはおりませんが,資料の25ページで⑥に関しまして問題提起をいたしましたとおり,信託の終了権限を信託行為の定めにより受託者又は受託者以外の特定の者に付与する場合に,これらの者に対して信託の終了権限を無制限に付与することは可能か否か,前回,信託の変更について無限定の権限を付与していいかどうかという問題を議論させていただきましたが,それと同様な問題が信託の終了の局面でもあるということを指摘したものでございます。

  この問題につきましては,一つの考え方は,信託行為において何ら制約のない終了権限を付与された者が存する限り,信託は終了権限を有する者の判断により終了する可能性があることは明らかであって,受益者の享受し得る利益はその限度で制限されるということは受益者に予見可能であるということ,しかも,信託の変更の場合には,いかなる変更がなされるか正に多様で,予見不能であるのに対しまして,信託の終了の場合には,信託はいつかは終了するものでございまして,その効果も一義的で明確であると考えられること,更には,信託の終了は,信託の変更の場合と異なりまして,受益者に対して新たな内容の信託に関与せざるを得ないという負担を負わせるものではないことなどを理由として,特段の制限を設ける必要はない,すなわち,信託の終了については制限不要という考え方があると思います。

もう一方,受益者保護の観点から,一定の場合には受託者又は受託者以外の者の終了権限について制限がかかるという規定を設ける必要があるという考え方もあるかと思います。

この点につきましても御意見をいただければというのが,ここの25ページに書いた趣旨でございます。

  続きまして,第62の信託の清算の説明に移らせていただきます。

  信託の終了事由が生じた後におきまして,その当時に存した信託財産に属する債務の弁済を済ませた上で残余財産が生じた場合には,これを受益者等に移転する必要がございます。

ここでは,このような信託のいわば清算手続につきまして,受託者,受益者その他信託財産に関して利害関係を有する者の権利義務の内容をより明確化・合理化する観点から,提案を行うものでございます。

  なお,信託終了の効果としまして,信託終了事由が生じた場合において受益者又は帰属権利者へ信託財産がいつ移転するかという問題があることは承知しておりますが,この提案におきましては,信託財産の移転時期を明確にする規定を設けることは困難であると考え,特段の規定を設けることとはしておりません。

したがいまして,所有権移転時期につきましては,現行法と同様に,解釈に委ねることになるものでございます。

  まず,提案の1でございますが,これは,信託の終了事由が生じた後も清算目的の範囲内において信託が存続することを規定するものでございます。

  現行法の解釈といたしまして,信託の終了事由が生じた場合において,信託終了事由が生ずる前の信託,すなわちいわゆる原信託が存続するという見解と,新たにいわば復帰信託が生ずるという見解とに分かれておりますが,ここでは原信託の延長と位置づけることとしております。

信託の終了事由が生ずることによりまして,信託目的遂行のための管理処分を中止し,信託財産を受益者又は帰属権利者に早期に引き渡す義務が生ずるという点におきまして受託者の職務内容に変化は生じますが,しかし,受託者又は受益者の権利義務等に関する信託行為の定めは従前と同様に効力を有することとするのが適当であると考えられたため,このように原信託の延長と位置づけたものでございます。

  なお,現行法では,信託の存続する期限につきまして,63条におきまして,「信託財産カ其ノ帰属権利者ニ移転スル迄」としておりますが,信託財産に属する債務を弁済し,残余財産の引渡しを行って,最終計算の報告を行うまで,受託者としての義務を負うべきものと考えられますので,信託財産の移転時期と信託存続の期限は切り離しまして,清算事務の結了,すなわち,残余財産の引渡しを行って,最終計算の報告を行うまで,信託が存続するものと考えているものでございます。

 次に,2でございますが,これは,信託の終了事由が生じた以後の受託者,この提案ではこれを「清算受託者」と命名しておりますが,この清算受託者の職務及びその権限に関する規定を提案したものでございます。

  まず,(1)は①から④までございますが,これは清算受託者の職務内容でございまして,法人の清算人の職務とほぼ同様のものとしております。

 次に,(2)でございますが,これは,清算受託者は,信託行為で排除されていない限り,清算目的に必要な権限を有することを確認的に定めるものでございます。

例えば,財産の管理のみを目的とする管理信託におきましても,清算手続における債務の弁済のために信託財産の処分が必要となる場合には,当然に清算受託者は信託財産を処分する権限を有することになるものと考えております。

  次に,3は,信託財産に属する債務の弁済に関するものでございます。

  清算受託者は,職務遂行のために債務の弁済等を速やかに進めなければならない場合があると考えられますが,清算受託者が弁済すべきこれらの債務の中には条件付債務も含まれると考えられます。

しかしながら,条件付債務につきましては,条件が成就するまでは当該債務を消滅させるのに妥当な金額が明らかではない場合があると考えられますので,商法125条4項などを参考にいたしまして,清算受託者が条件付債務等を弁済する場合におきましては,裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済しなければならないとしたものでございます。

  なお,弁済期が未到来の債務につきましても,清算受託者は速やかに弁済しなければならない場合があると考えられますが,債権者との関係におきましては,期限の利益に関する民法第136条の規律によるべきものと考えまして,ここでは特段の規律を置くことはしておりません。

  次に,4でございますが,これは,受託者は信託財産に属する債務及び確定した未履行受益債務を弁済しなければ,残余財産の給付を内容とする受益債権を有する受益者又は帰属権利者に対して信託財産を引き渡すことができないとするものでございます。

信託財産に属する債務及び未履行受益債務を弁済しなければ,残余財産の給付を内容とする受益債権を有する受益者等の権利の内容が確定しないと考えられるからでございます。

  もっとも,これは信託債権者等の利益保護のための制限でございますので,弁済に必要な財産を留保した場合ですとか,あるいは,ここには明示的に記載していませんが,信託債権者の同意がある場合には,信託財産に属する債務の弁済前でも受益者に対する弁済等をすることができるものと考えております。

  次に,5でございますが,これは信託財産の帰属に関する提案でございまして,残余財産は,信託行為によって指定された残余財産の分配を受ける受益者又は指定帰属権利者に帰属するものと考えております。

ただし,これらの者の指定がない場合には,残余財産は,現行法と同様に,委託者に帰属することとしております。

  さらに,例えば,帰属権利者が有する残余財産引渡請求権が時効消滅するなどして帰属権利者が存しないこととなった場合には,残余財産は受託者の固有財産に属するものとしております。

現行法のもとでは,受託者の固有財産に帰属し受託者は完全権者になるという見解と,受託者が完全権者となるわけではなく無主物になるという見解がございますが,受益債権の消滅時効に関するところでも御説明いたしましたとおり,現行法は,信託財産は受託者の所有に属することを建前としておりまして,固有財産と信託財産の区分は,このような建前を前提としつつ,信託財産に関する対内的・対外的法律関係を律するために存するにすぎないものであるというふうに考えられますことからすれば,帰属権利者の不存在によって当然に残余財産が無主物になるとすることは困難と考えられますので,受託者が完全権者となると考えております。

  次に,6でございますが,これは帰属権利者の権利に関する提案でございます。

  (1)では,帰属権利者は,信託の終了事由が発生する前は受益者としての権利義務を有さず,信託の終了事由発生後に受益者としての権利義務を有するものとしております。

現行法のもとでは,帰属権利者は信託の終了事由発生前においても受益者としての権利の行使が認められるとする解釈もございますが,帰属権利者は,本来的に信託から利益を享受するものとされた受益者への給付が終了した後に残存する財産が帰属する者にすぎませんので,信託の終了後においてのみ,受益者としての権利及び義務を認めることとしたものでございます。

  (2)でございますが,これは,帰属権利者の利益の享受及び権利の放棄につきましては,受益者の利益の享受及び権利の放棄に関するのと同様の規律とするものでございます。

  なお,委託者が帰属権利者となる場合には委託者が受益者となる場合の規律,委託者以外の者が帰属権利者となる場合には委託者以外の者が受益者となる場合の規律それぞれに整合する内容となると考えております。

  ただし,放棄に関しましては,(3)のとおり,委託者が受益者である場合には,信託行為で別段の定めがある場合には受益権を放棄することはできるとしておりましたが,委託者が帰属権利者である場合におきましては,帰属権利者としての権利義務の放棄は認めないとしております。

これは,委託者は,法定帰属権利者として補償債務を負わないことを信託行為で定めることができますし,また,委託者自らについて残余財産の帰属先とすることを望まない場合には,信託行為で第三者を帰属権利者と指定することができるわけでございます。

そうだといたしますと,自らを帰属権利者として指定した場合,あるいは帰属権利者を指定しなかった場合には,帰属権利者としての権利義務の放棄までこの時点で認める必要はないと考えるものでございます。

  次に,7は,清算受託者の信託財産から補償を受ける権利に関するものでございます。

  信託終了後に受益者又は帰属権利者に対して受託者が交付した信託財産,ここで言う「信託財産」には受益者に交付する財産と帰属権利者に交付する残余財産を双方含むものと考えておりますが,この信託財産につきまして,受託者は補償請求権等を満足するために強制執行等ができるとするものでございまして,現行法第54条を準用する現行法第64条の規律を維持するものでございます。

先ほど申しました2と4の規律から明らかなとおり,受託者は補償請求権を有している場合には信託財産を留保することができるわけですが,例えば留保する財産の価値に比して補償請求権の額が極めてわずかであるというような場合には,受益者等に財産を移転することが合理的だという場合があり得ると考えております。

このような場合には,信託財産としての特定性が維持されている限り,補償請求権に基づく強制執行等を引き渡してもできるとするものでございます。

  なお,現行法第64条は,現行法第53条も準用しておりますが,これは,資料の33ページの(注5)に記載いたしましたとおり,この第53条を準用する規定,これは強制執行を開始していれば信託財産を引き渡しても続行できるという規定だと承知しておりますが,この規定はもう不要ではないかと考えております。

  それから,8でございますが,これは,最終計算の承認及びその効果に関する規定でございます。

  まず,(1)は,現行法第65条前段と同趣旨でございますが,現行法では,最終計算をして「受益者ノ承認ヲ得ルコトヲ要ス」とされておりますが,これでは,受託者として果たすべき注意義務を尽くして承認を求めているにもかかわらず受益者が承認しないという場合にも,なお承認を求め続ける必要があるというように考えられかねないという指摘がございます。

そこで,信託の終了事由が生じたときの受益者及び帰属権利者の承認を求めなければならないと,逆に言えば,承認を得ることまでは要しないとするものでございます。

  (2)は,最終計算承認の効果を定めるものでございまして,これは,現行法第65条後段において準用しております第55条2項と同趣旨でございます。

もっとも,受益者等が積極的に承認を行うことは期待し難い面もございますので,受託者が承認を求め,1か月を経過するまでに異議がなかった場合には,計算が承認されたものとみなすこととしております。

1か月という期間につきましては,商法第133条ですとか,破産法第89条第2項などを参考にしたものでございます。

  最後に,9の清算受託者の信託財産の競売権に関する提案でございます。

信託の清算におきましては,残存する信託財産を受益者等に引き渡すことになるわけですが,受益者の所在が不明である等の理由により引渡しを行うことができない場合もございます。

そこで,商事売買の売主あるいは倉庫営業者に認められておりますように,このような場合には,信託財産を競売して金銭化し,これを保管することを清算受託者に認めることによりまして,管理にかかる負担を軽減することを可能とするものでございます。

このような,清算目的の観点からではなく,管理義務軽減の観点から受託者に換価権限を認めることにつきましては,先ほどの2の(2)というところ,受託者は清算のために必要な一切の行為をする権限を有するという清算目的の規定で読み込むことは困難と思われますので,別途に明確に管理義務軽減のための処分権限の規定を設けたものでございます。

  なお,信託終了時には信託財産を金銭で返還することとされております金銭信託のような場合,あるいは,原信託において受託者に信託財産の換価権限があり,したがって原信託の延長である信託終了事由発生後の清算受託者にもこの換価権限が引き継がれるような場合におきましては,清算受託者はその権限に基づきまして信託財産を売却等することができると考えられますので,あえてこのような規定に依拠する必要はないということを念のため付言申し上げます。

● それでは,二つの項目がありますので,順に進めたいと思います。

  まず,信託の終了原因について,前の第2回に比べて幾つかの変更点があったということも含めまして,どうぞ御自由に御議論をお願いいたします。

● 第61の1の(1)の④のところなのですけれども,これは,私,以前も申し上げたことがあるかもしれませんが,こちらの説明資料の26ページの(注)のところに書いていただいたように,現状,現行法の58条があるがために信託の終了のリスクがある,裁判所が信託の終了を命ずる可能性があるということで,現状の58条は「受益者カ信託利益ノ全部ヲ享受スル場合ニ於テ」という条件がついておりますので,言いかえれば受益者が一人の場合においてということになっております。

したがって,証券化・流動化取引で信託が用いられる場合で,信託が終了しては困るような場合,例えば資産流動化法における特定持分信託であるとか,あるいは受託者が信託財産を引当てに借入れを行うアセット・バックド・ローンと呼ばれるような取引においては,形の上で二人以上の受益者を置くことによって58条の解除命令のリスクを排除しているというのが現状でございます。

したがいまして,こちらに書いておりますような方向で変更される,すなわち,要件のうち受益者が一人である部分がなくなるということは,かなり関係者の抵抗というものが予想されるのですが,一方,終了が認められる要件がかなり厳格化されている,すなわち,「信託を継続することが信託の目的に適合しないこととなった場合」というような要件を御提案されているということと,申立てを行える者を限定しているという,この2点から,この方向で改正されたとしても,それを前提に流動化・証券化取引を組成していくべきではないかなというふうに整理しております。

● この58条リスクというのは前から御意見をいただいていたところですけれども,ほかにございますでしょうか。

● まず,第61の全体観でございますけれども,おおむね御提案の方向で賛成ということでございます。

  特に2点ありまして,1点目は,先ほど○○委員の方からお話のあった,58条リスクというのが,前回御提案の「受益者の利益に適合しないこととなった場合」とかという,まあ,この場合でもかなりの部分排除できるのかなというふうに考えていたわけですが,今回の御提案で更に,「信託の目的に適合しないこととなった場合」というような記載になっておりますので,これについては歓迎すべきものではないか,若干①との関係が分かりにくいなというような感じはあるのですけれども,58条リスクという観点からいたしますと,歓迎できるものではないかというふうに考えております。

もう1点は,1の(1)の⑥のところでございますが,これは,先ほど○○幹事の方からも御説明がありましたけれども,25ページ上段のなお書のところに書いてありますように,「「信託行為に定める終了事由」には,信託の終了権限を信託行為の定めにより受託者又は受託者以外の特定の者に付与する場合を含む」ということでございまして,この権限を行使する場合においては受益者保護ということを考えないといけないのだろうと思いますが,これについては,先ほど御説明がありましたが,信託行為の変更と同様に,信託行為にもともと書いてある以上,当然終了する,ある権限を持った人がそういう意思を表示すれば終了させると,そういうことを予見できますので,その点については何らかの保護が図られるのではないかということと,あとは,変更と違って,これも先ほどお話がありましたけれども,新たな負担を強いられるというようなことがありませんので,これについては特段の制限を設けるべきではないというふうに考えております。

● 今の○○委員の御意見の中で,一つ御質問といいますか,第61の1の(1)の①と④の関係が少し分かりにくいという点がありましたけれども,その点,御説明いただけますでしょうか。

● おっしゃる趣旨は,恐らく,信託の目的に適合しなくなった場合というのと,信託の目的が達成不能の場合の食い違いというか,そこが微妙ではないかという御趣旨かと思います。

  二つほど例が考えられるかと思うのですが,確かに微妙ではございますが,例えば,会社の業績に貢献があった者に対して報奨金を付与するという信託があって,信託元本が1,000万円で,1回あたり褒美で50万円を与えますというようなことを決めていたとします。

ところが,非常にひどいインフレが起こりまして貨幣価値が100分の1になったと。そうすると,結局5,000円しかもらえないわけでして,5,000円でももらえれば有り難いということで,目的達成不能とまでは言えないと思うのですが,それを与えてより士気を高めるという目的に適合するかというと極めて疑問であるという意味で,目的達成不能とは言えないけれども,目的に適合しないとは言えるのではないかと,一つ極端な例ですが,考えられます。

  また,例えば,子供が大学に進学したときに学費に充当するために信託を設定していたとしたところ,子どもは大学に行かないで就職してしまったという場合があるかと思います。

こういう場合でも,子供は学校をやめてまた就職するかもしれないと,そういう可能性がある限りにおいて目的達成不能とは言えないのですが,信託設定の意図が,大学進学を望んで,その結果,卒業して職を得るということを考えていたのであれば,就職してしまったというのは,目的には適合しないということで言えるのではないかと。

  そういう意味で,目的達成不能と,目的の適合・不適合というのが若干の食い違いがあるのではないかと,二つほど,こんな例を考えているところでございます。

● ○○委員,よろしいでしょうか。

● はい。

● それでは,ほかに。

● いわゆる58条問題というかリスクについて,第2回の審議において発言したのでございますけれども,その発言の方向性の御検討をいただきまして,ありがとうございました。

  ただ,方向性については非常に御配慮も見られておるわけですが,かつ,また,私,そのときには,国家の介入を外すようなデフォルト化ということも考えられないかという趣旨のことを申し上げたのですが,考えてみますに,完全に国家の介入を回避するということは法技術的に難しいかなという気もいたしますので,このように制限していくということは一つの方向としてはあるのかなと思いました。

ただ,○○委員も議論されたわけなのですけれども,実際に証券化・流動化においてこの問題が本当に解決できるのかということで,○○委員はそれでよろしいのではないかという御発言と私は認識しているのですが,ただ,なお,やはり証券の流動化においてはプレーヤーがいろいろございますものですから,その実務のインパクトにかんがみて,格付機関等の意見を徴した上で,最終的に私としての考え方を整理したいかなというふうには思っております。

ちょっとこの段階では,これについて賛成かどうかということについて,発言は留保させていただきます。

  そこで,2点ほど御質問があるのですけれども。

  一つは,第2回においても発言したわけですが,やはりできるだけ申立ての事由を減らすという観点で,申立権者,これも現行法と比べて大分制限的になっているということはございますけれども,この御提案では,委託者,受益者,受託者が申立人と,三者が掲げられているわけです。

私は第2回のときに,委託者ということは不要ではないのかというようなことを発言した記憶がございます。

これは,今回の信託法の全体の流れの中で委託者の地位又は権限というのが全体的に低くなっているということでございまして,そういうことを考えますと,これはデフォルト化でも結構なのですけれども,物によっては委託者の申立権というのが不要又は不適当の場合があるのではないかということでございます。

よって,ちょっと御質問なのですが,委託者ということを外すということが検討の余地があるのかということが1点でございます。

  2点目は,これは非常に細かい話でございますが,○○幹事からの御説明にもありましたように,今回の修正として,「信託の目的」ということに変えましたという話なのですが,他方,ここの文章の書きぶりとしては,第57,この資料の2ページでございますが,現行法でもございますが,信託の管理方法についての変更の規範というのがございまして,ここでは,「受益者の利益」と書いてあります。

ここと第61との違いというのはこの整理でよろしいのかどうかということです。

逆に第57で議論すべきだったのかもしれませんが,第57の6のところも「信託の目的」に変える必要はないのかどうかということをいま一度確認したいということでございます。

● 前者の,委託者は不要ではないかとおっしゃる点は,前,たしか,委託者の権限をどこまでにするかと,ゼロから出発してはどうかというようなお話もあったかと思いますが,事務局といたしましては,原則として,このような裁判所に対する申立権のようなのは,デフォルトルールではありますが,まず委託者にありとした上で,しかし信託行為において委託者の権利を外すことはできるということで,ゼロからは出発しなくて,原則与えますが,委託者が自分で信託行為で終了の申立権はないというふうに定めることはできると考えておりますので,そういう位置づけにとどまるといいますか,そこまではいけるということでございます。

  それから,第57と第61の関係というのは,第61の方で58条リスクの問題を可及的に回避する観点からどうしたらいいかということに知恵を絞った関係で,ちょっと平仄というようなところまでは思い至らなかったのですが,御指摘を踏まえて再検討いたします。

直感的には,続けていくものと終わるものとで要件が多少違うということはあってもいいのかなという気がいたしますが。

● まず,先ほど出ております58条リスクについて,私自身は流動化についてはかかわっておらないのですが,流動化にかかわっている弁護士の方から意見を聞いてきておりますので,お伝えしたいと思います。

  御提案の中で,提案内容で出されておりますけれども,(注)の中で一番最後のところに,「裁判所による信託終了の申立てが認容されることはないものとも考えられるが,どうか」と問われておりまして,ないというところまでは言えないけれども,裁判所により信託が終了される可能性というのは,御提案内容によれば,相当程度低まるのではないか,あるいはかなり低まるのではないかというのが,流動化実務をやっている弁護士の意見です。

そういった観点から,万全とは言えないけれども,提案の趣旨によれば,格付機関にもかなり好感されるのではないかというような意見が寄せられております。

  それから,1の(1)の⑥,終了権限の問題について,若干意見を述べたいと思うのですが。

  この御提案の文章の中で,受託者等へ終了権限を無制限に付与できるかということが提起されておるのですが,こういった規定がもし信託行為の中に盛られた場合に,仮にその信託行為あるいは信託法に制限規定がない場合であっても,果たして無制限な終了権限が認められることになるのだろうかということについては,若干疑問があります。

継続的な契約関係の中では,解除権留保がされている場合にも,やむを得ない事由を必要とするであるとか,あるいは信義則違反や権利濫用の法理によって一定程度限定解釈がされているというのが一つの解釈の行き方なのではないかと考えられます。

そうしますと,仮に制限規定がない場合でも,額面どおり無制限な終了権限が認められるということにはならないのではないかと思われます。

  それから,二つ述べられております,特段の制限を設ける必要があるかどうかという点についてですけれども,特段の制限を設ける必要がないという考え方の根拠として,受益者の予見可能性ということが述べられておりますけれども,受益者の予見という観点からしますと,一番重要なのは,信託に具体的にどのような事態が生じたときに終了ということになり,どのような事態が生じない限り契約関係が存続されるのかという点であろうかと思います。

権限者の権限行使にゆだねられると,いつそれが権限行使されるのか分からないということでは,やはり受益者の予見可能性という観点からは問題があるのではないかと思われます。

こういったことを考えますと,受益者の予見を何らかの形で確保できるような規律というのがやはり必要ではないかと考えられます。

  具体的にどういった規律が考えられるのかということは,ちょっと検討しなければいけないとは思うのですけれども,例えば終了事由について信託行為で定め得るとすることについては,これはいいと思うのですけれども,その定め方について,例えば,具体的な内容を定めるべきであるというようなことを要求するとかそういうことを盛り込めば,あるいは予見可能性を確保できるのではないかと考えております。そういった観点からの検討をお願いできればと思います。

  それから,前回出ておりました信託行為の変更のところでも,信託の柔軟性,デフォルト化ということが議論されておりましたけれども,このことについて一言申し上げておきたいと思います。

  信託の柔軟性という観点からすると,それを図ることは非常に重要な要請だというふうには理解しておりますけれども,信託を作る段階と,いったんできた信託の維持といいますか継続性の観点という段階と,おのずと柔軟性のレベルというのが違ってくるのではないかという気がしております。

つまり,信託の組成の段階で柔軟性は広く認められるべきであるけれども,いったんできた信託については,信託の安定性の確保といいますか契約の拘束力の確保という観点から,ある程度それを維持するという観点が必要になるのではないか,こういった観点からの配慮というのも必要になるのではないかと考えております。

個人的には,信託への信頼を高めるという観点からは,信託の安定性,契約の拘束性に配慮した制度設計が行われるべきではないかと考えておりますけれども,こういった観点からも御検討いただければと思います。

● 最後の点は,より大きな問題を御意見いただいたと思いますが,ほかにございますでしょうか。

  第61の1の(1)の④で,「受益者の利益」というのを「信託の目的」に変えることについては大体賛成意見が出ているようですけれども,あるいは,この第61に関しまして,ほかの点でも。

● 先ほどの○○幹事のお話とも共通した話なのですけれども,信託行為の変更と信託の終了のところで第三者に権限を委ねるというところのお話なのですが,ちょっとよく分からないところがありまして……。

  そのゆだねられた者は,だれのために,どういう観点から動くのかというのは,多分それは受益者のためだろうなというふうには思っているのですけれども,それが例えば受託者にゆだねられた場合については,受託者としての義務というのが課せられていますので,その受託者の義務の範囲内といいますか,義務を果たしてそれを履行していくということなのか。

それと,それが第三者の場合についてはその制限がないわけですから,そうすると,いわばだれから委託……。

委託というのもちょっと変な話だと思うのですけれども,そういった関係がちょっとよく分からないものですから,その辺のところをお教えいただければと思いますが。

● おっしゃるとおり,どちらの場合も,恐らく第一義的には受益者の利益をおもんぱかるということになるかと思います。

  ただ,「信託の目的に適合」というと,受益者だけではなくて,委託者の意思というのも考える必要が出てくるのかなというのが,まず一つ,ちょっと違うかなという気がいたします。

 それから,受託者が指定権者であれば,当然,忠実義務とかがかかってきますので,信託法上の義務を履行するという観点から,変更するについても相当程度の実質的な制限がかかり得るという気がしますけれども,第三者の場合には,委託した人との委任関係に基づいて,受益者の利益を図りつつ,委任の趣旨に反しないように変更するのかなと,抽象的にはそういう感じで考えております。

● そうしますと,信託行為にだれそれというふうに書かれた場合については,その信託行為から授権されているということですので,それは,その信託行為から来る信託目的的なことに拘束を受けてやるということなのでしょうか。

● 信託目的に従ってやるというのが委任の趣旨ということになるので,その信託目的も考慮してやるということになるのではないかと思いますけれども。

● 二つございまして,一つは,もう既に今のやりとりで大分分かってきたのですけれども,簡単な方から一つ確認させていただきたいことがございます。

  この終了原因についてということで,「信託行為に定める終了事由が発生したとき」の中には,第三者等に終了権限を付与したときが含まれるということなのですが,これは,委託者自身が撤回権を留保するという場合もこれで規律を対応するという趣旨でよいか。これは確認させていただきたいということです。

● そういう趣旨でございます。

● もう一つは,今ちょうどお話しになっております,第三者,だれかに終了権限を付与した場合にそれがどういう意味を持つのかということなのですけれども,記述自身は25ページに説明のあるところですが,私自身は,今のやりとりで既に明らかになったのかとは思うのですけれども,終了権限は信託行為によって付与されておりますので,権限としてどこまで与えられているかというのは,やはり信託行為の解釈によるのだろうと思われます。

どういう趣旨でこの人に権限が与えられているのかということになると思いますので,そうしますと,全く何も特に書かれていない場合に当然に,信託の目的に反しても終了させていいということを与える趣旨かというと,それはむしろそこまでは普通は与えないということになって,内在的制約というものが当然かかるのではないかというふうに思っております。

ですから,逆に,それを与える場合には,明示に,そういう場合でも終了させる権限を与えるというような記述があって初めてそれが可能で,それで,更にそういうものを認めてよいかという問題はあるのだと思いますけれども,これは実際にどういう場合に権限が与えられるのかというのは正直分からないのですが,例えば,信頼できる第三者に信託についてチェックをしてほしいと。

それで,具体的に何かを書きますと,例えば,信託目的に適合するかどうかというようなことをめぐって争いがあるようなときにこの人の判断でやってほしいというようなことはあり得るのかと思われまして,そうすると,かなり一般的な記述で終了権限を与えるような信託行為の定めも認めていいのではないかというふうに思っております。

その点,変更と終了はやはり違うという面はあるかと思いますので,それは25ページに関して意見ですけれども,申し上げます。

● そうすると,25ページのところでは一般的な書き方でよかろうということですね。

● はい。ただ,それが25ページに書かれているような完全無制限説と解釈されるかというのは,それはまた別の話で,もう一つハードルがあるだろうということです。

● ほかに,第61について,よろしいでしょうか。

● 御意見を伺って,2点ほど補足いたします。

  一つは,○○幹事がおっしゃった,変更といっても公序良俗とか限界はあるだろうということで,恐らく,終了であれ変更であれ,そういう一般条項的な制限というのはかかってくるだろうという気がしております。

  その上で,ここでは,信託の変更について,例えば,反対受益者に受益権取得請求権が生じるような場合については制限を課すという考え方もあり得ることを指摘しましたが,このような明示的な制限を果たして終了の場合にまで課すべきかどうかというところを問題提起しているというところでございますので,また御意見をいただければと思っております。

 それから,これは一般的な実務に疑問を呈するわけではないのですが,受益者を二人にして58条リスクを回避するという御発言がありまして,ただ,受益者というのは別に一人ではなくても,二人でも,その二人が全部の利益を合わせて享受していればいいというような解説をしているものもございまして,果たして受益者を二人にすることによって58条リスクを全面的に回避できるのかというところにつきましては,どうもよく分からないところでございます。

もしもこの疑問が必ずしもおかしくないといたしますと,現在の提案というのは,なるべくリスクを排除するという観点から,より実務には芳しい提案になっているのではないかという気がしておりますので,念のため,一言申し上げさせていただきました。

● それでは,第62に進みます。後でまた戻っていただいても結構ですが,第62の信託の清算について御意見をいただけますでしょうか。

● そんなに強い意見というわけではないのですけれども,まず,当然のことだと思うのですけれども,この「第62 信託の清算について」というのは基本的には強行規定ということだと思うのですけれども,これの3の「債務の弁済」のところで,常に裁判所の選任した鑑定人の評価に従わなければいけないというふうに書いてあるのですけれども,信託の場合についてはいろいろなものがありますし,かなり軽微なものもあるのではないかなという感じがしまして,そういう観点からいくと,ちょっと窮屈かなというような感想といいますか,そういった感じを持っています。

  あと,ちょっとお聞きしたいのは,こういうような規定があったとしても,要するに関係者全員が合意していれば,別にその合意した金額で清算してもいいということでよろしいんですよね。

● ほかの利害関係人というか,ほかの債権者の関係がありますので。関係者全員というと,委託者,受託者,受益者,当該債権者と……。全部ですか。

● イメージとしては非常に少人数のものをイメージしていますので,そういう場合については……。

● 全員が合意すればいいのではないかという気がいたしておりますが。

● それは,債権者全員が把握できているという前提ですね。

● はい。

● 関連してでございますけれども,1点だけ確認させていただきたいのが,ここの「条件付債権」や「存続期間が不確定である債権等」というのには,受益者が有する権利,受益者が例えば受益権の内容として数年後に幾らもらえるとか,そういった金銭的権利もすべてこの条件付債権等に含まれるという前提でこれを考えておられるのか,そういうものではなくて,ただ受益者は信託財産を信託行為等の定めによって返してもらうだけであると,そういう理解で書かれているのかというのを1点確認させていただきたいと思います。

  それから,○○委員がおっしゃったことは,裁判所としても,というか個人的には同感なところがあるのですが,多分,世の中,清算会社はいっぱいあるのでしょうけれども,鑑定人を選任した事件というのははるかに少ないというのが現実としてはあるのだろうなと。

裁判所がそういうことを言うのはちょっとよくないのですけれども,そういったこともあり得ようかなと。

ただ,信託の場合で説明がつくのであれば,任意的な規定とするということも一応考えられるのではないのかなという気はしたというところでございます。

● 第2点は御意見ということで,第1点について,いかがでしょうか。

● 期限が未到来の場合には,やはり条件付債権として,評価という方向に行くのではないかなという気がいたしますけれどね。

● ただ,受益者は,言ってみれば本来の債務が弁済された後の持分を最後に返還してもらうというような,株主的な立場にもあると。

● そういう人もいますね。

④に当たる人もいますし,③に当たる人もいますしということですよね。

残余財産の分配を受ける受益者と,そうではなくて普通に定期的に配当を受ける受益者と,両方のたぐいがいて。

残余財産の分配を受ける受益者というのは,残った部分を受けるだけですからよいとしても,前者もいる場合には,やはり評価ということになってくるんじゃないかなという気がいたしますが。

● 受益者に,帰属権利者的な受益者と,その前の受益者というのがあって,今の○○幹事の御質問は,従来の受益者ということですか。既に発生している受益債権。

● 受益債権の中で既に確定しているものがいわば信託債務として取り扱われるということは多分間違いないのだろうと思うのですけれども,それ以降将来にわたって例えば配当を受ける権利というのは,例えば株主であればそういう配当を受ける権利はあるわけですけれども,会社が清算されたときには,そういったものを債権として評価してもらって弁済されるというだけではなくて,残余財産から分配を受けるというのが株主であろうと。

そうであれば,受益者の取扱いというのはこの清算の中ではどうなるのかなというのがちょっと疑問に思ったというだけのことでございます。

● 今,○○幹事がお話しになっていることというのは,恐らく何回か前に,受益権の譲渡のところで少し事務局の方でペーパーにしたためたところと若干関係するのかなという気もしておりますが,恐らく,今までの実務上の考え方で一番強い考え方というのは,受益権と受益債権の関係というのは株式と非常に似ているというふうに理解するという考え方があったかと思います。

その考え方に沿って信託の受益権というのを作るのであれば,恐らく今言われたような,つまり株式と全く同じような結論になるということになるのかなという気が,事務局の方ではしております。

  ただ,必ず株式と同じように受益権あるいは受益債権の関係を把握するかというと,そうではなくて,信託も契約の一種ですので,いろいろな受益債権のつくり方というのはあるということではないのだろうかという気がしております。

つまり,信託契約の時点から給付の内容が確定した受益債権というのを作ることができる,その意味でちょっと株式と違うようなタイプのものもできるということではないかという気がいたします。

● 3点あるのですけれども。

  一つは,条件付債権とかいう,今話題になっているものなのですけれども,これは,当該債権が信託財産のみを引当てにするものに限られているのでしょうか,それとも,より一般的になるのでしょうか。

より一般的だと,私はおかしいと思うのですね。

受託者が個人で無限責任を負っているというものが,信託が清算されるというときに勝手に8割になったり9割になったりするというのは妙ではないかという気がいたします。

  2番目は,先ほど出ております受益債権の話なのですけれども,私は,3のところには当然に入らないのだろうと考えていたのですが。それは○○関係官のおっしゃったことと必ずしも矛盾するとは限らなくて,結局,当該受益権の内容が信託の趣旨に従ってどう決められているかという問題に尽きると思うのですが。

10年間給付を受けるというふうな受益権の内容であるというときに,そもそも7年でやめられるのかという問題があって,ところがもはや信託の目的を達成することはできないという話になって,7年で終わると。

それは致し方がないというふうな話でありますと,それは受益権は7年で終わってしまうだけなのではないかという気もいたしまして,10年もらえるはずだったのだから鑑定評価をしてというのがどういう場合に起こるのかというのは私にはよく分からなくて,これは一般の債権者の話ではないかというふうに思うというのが2点目です。

  3点目なのですが,これは今までとちょっと毛色が変わる問題でありまして,残余財産の帰属のメカニズムというものについてお考えがあれば,お聞かせ願いたいということでございます。

4のところを読みますと,そこには,「残余財産の給付を内容とする受益債権」という書き方がしてありまして,残余財産がそういう受益者ないしは帰属権利者に行くというメカニズムというのを,給付を目的とする債権だといえば,それはもちろんそうなのですけれども,何か給付行為というものがあって初めて行くという感じがするのに対して,5の(1)を見ますと,「残余財産は……帰属するものとする」と書いてありますね。

例えば,特定物が1個残っていて,かつ,帰属権利者が一人だけであるというときに,それは,信託の終了というものが起こって,清算,まあ債権者が先ですから弁済が済んでからということになるかもしれませんが,それで自動的にその帰属権利者に所有権なら所有権というものが帰属するというのか,それとも,そこで清算人ないしは受託者から帰属権利者に対する給付みたいなものがあって初めて帰属するのか。

もし仮に後者であるとしたときには,それは,日本民法が物権行為としての引渡しというのを観念していないということと整合的なのかという話について,もしお考えがあれば,お聞かせいただきたいということでございます。

● 第1の点につきましては,たしかに,信託の清算において8割になることによって受託者個人に対しても8割になるというのはおかしいというのは,おっしゃるとおりかと思いますが,反面,評価の対象はあくまで信託にかかってくる部分だけだというような分け方ができるのかどうかというのは一つ気になっているところでございます。御指摘を踏まえて検討したいと思います。

  それから,3点目の所有権移転時期の問題でございますが,これは,御意見が分かれているところでして,物権行為独自論に近いような,引渡しによって初めて移転するという考えもあれば,終了によって意思主義のもとで当然移転しているはずだという考えもあるところと承知しております。

  事務局といたしましては,給付行為ないし引渡行為という行為が必要であるということは前提としておりますが,それが所有権移転に連動しているかどうかという点につきましては沈黙しているわけでございまして,いつ移転するかという点につきましては,あえて規定を設けず,解釈にゆだねたいというところでございます。

● 今の整理というか確認なのですけれども,既発生の受益債権というのと,それから,33ページの下から5行目ぐらいに,「残余財産の給付を内容とする受益債権を有する受益者」というのと,それから,それと別に,受益者が帰属権利者と指定された場合というのとありそうな感じがするのですが,それぞれ違ってくるのでしょうか。

あるいは,今後もし整理していただくとすると,そういった点も整理すると議論が分かりやすくなるかなというふうな……。まあ,これは印象ですが。

 それから,所有権移転時期については解釈に委ねるということでよろしいでしょうか。

  ほかに。

● 1点質問させていただきたいと思います。今の点とも若干かかわるのですが。実質にかかわる問題というよりは,言葉だけかもしれないのですが。

  信託の存続と言われることの意味なのですが,現行法で言いますと63条が正にその規定でして,資料で言いますと29ページの真ん中あたりですけれども,「信託財産カ其ノ帰属権利者ニ移転スル迄ハ仍信託ハ存続スルモノト看做ス」という規定が置かれていると。

それが,この29ページの真ん中を見ますと,そうではなくて,信託の終了事由が生じた後でも存続し,結了までは存続するというふうに扱うと。

これは,現行法ですと,あくまでも財産の所有権なら所有権の移転,財産の所在に合わせて信託の存続というものを語ると。

そういう意味では,信託の中心的な効果といいますか側面を財産の帰属に見た上で信託の存続というのを語っているかなと。

その意味では,賛成するかどうかは別として,分かりやすいのですが,今回の御提案ですと,財産の所有権の所在とは別に信託が存続するというような形になっているのかなと思うのですね。

そうすると,存続するということの意味というのをどういう意味でとっておられるのだろうなというのがちょっとよく分からなかったもので,御説明をいただければということです。

 ちょっとぼやっとした質問で申し訳ないのですが,存続を語ることにどういう意味があるのかと。

● 確かに,信託というのは財産が中心だという意味で考えますと,財産がなくなったのに信託が残るというのはどういうことかという問題意識は当然おありかと思いますが,ここで事務局が考えておりましたのは,なお受託者として忠実義務,善管注意義務に従って,引き渡した後も,最終計算をして報告をするというところまでの受託者の義務が存続するだろうと。

信託が終了してしまうと,受託者の義務ということも観念しにくくなりますので,受託者をしてなお忠実義務,善管注意義務等に従った事務処理を最後までさせたいということもありまして,清算事務の結了まで信託の存続を認めているということでございます。

 私,現行法に疎いのですが,現行法ではどう解釈されているという前提なのでしょうか,その点は。

● 現行法は63条でございますが,条文そのままですと,移転したところで,あと何か残っていても信託自体は終了していると読まざるを得ないように,規定としては見えますので。

解釈としては,もちろん,我々と同じような,信託財産を引き渡した後もちゃんと受託者としての義務をもって報告まですべきだということになるのかもしれませんが,我々の提案では,それをより明確にするべく1の規定を持ってきたということもございます。

● 現行法の63条については解釈が分かれているということは共通の前提として,その上で新たに明確化したというのが事務局の御提案だと思います。

  もし,更に何か,○○幹事の方で,こうしたらどうかというふうな御意見がございましたら。

● 論理的には信託自身は終了するけれども,なお残る清算のための義務というのは存続するのだという説明はもちろん可能だろうとは思いますし,そうではなくて,「存続」という言葉を非常に広げて,財産自体はなくなっているけれども,その財産の取扱いを除く,財産の帰属を除く部分については効果はなお存続するということを含めて「信託の存続」と語っているのだと,そういう意味では,信託によってどういう効果が出てくるかということの理解をやや広げておられるのかなという気がしたというので,ちょっと質問させていただいたということです。

● 今の点でも,あるいはほかの点でも。

● ほかの点でございまして,非常に細かい点で恐縮でございますけれども,9の「競売の権利」というところでございまして,清算受託者は,受益者等が信託財産の受領を拒んだ場合には信託財産を競売することができると。

これは商法にある規定でございまして,その趣旨はよく分かるのですが,ただ,ここは清算というコンテクストであるということを考えると,保管し続けるか競売かという二者択一ではなくて,このような場合には清算受託者が信託財産を換価することができるという権限を与えてもよろしいのではないかなと思った次第でございます。

● 今の点に賛成ということで発言しようと思っていたのですけれども,やはり信託の柔軟性ということを考えますと,また実際の競売という手続の重さ,ないしはその競売の手続が本当に妥当かどうかということを考えると,清算受託者の適正な処分によって換価するということもできるのではないかと思います。

1点,そういう意味で確認なのですが,9のタイトル自体は「競売の権利」ということになっておりますけれども,9の(2)になりますと,「競売をすることを要するとともに」と書いてございますので,これはもう義務ということですよね。

そうであれば,やはりそういう処分をするということ自体の選択肢をふやしてほしいということです。

● 事務局といたしましては,競売手続は最近割と迅速・簡便になっていると思うのですけれども,それはともかくといたしまして,競売という手続でやることが一番公正な価格により処分できると考えまして,ここでは,ほかの規定の例にも倣って,「競売」という文言を書いているところでございます。

  ただ,御指摘を敷えんすれば,競売費用に満たないような価値のない財産とかいうものもあるかと思いますので,その点につきましては,商法の所在不明株主の株式の処分のように,原則競売,例外として,市場価格があるものは市場価格で,あるいは市場価格がないものについては裁判所の許可をもって競売以外の方法によって売却するというような方法というのもあり得るかとは思いますが,受託者限りで処分して果たして公正な処分ができるのかというあたりが……。

確かに忠実義務がかかっていますので,それに従ってやれば問題ないという考え方もあるでしょうが,果たして本当に競売じゃなくしてしまっていいのかというあたり,なお考えさせていただければと思います。

いや,絶対競売なんかよりも受託者に任せれば安心だというような御意見があれば,是非また御指摘いただければ有り難いと思いますが。

● 受託者に任せれば安心だというふうに私は思っていないのですが,ただ,9の競売の権利というのが働く場面というのが極めて狭いということは,もうちょっと解説中で書く方向の方がいいんじゃないかと思うのですね。

つまり,例えば,(3)に,「腐敗その他損傷しやすい物」というのがございますけれども,これは,仮に表面上は信託終了時には現物をもって交付するというふうに書いてあったとしましても,腐敗しやすいものを現物をもって交付するという義務が課されているというふうには普通は考えられなくて,これは,すぐに渡せないときには処分して金銭で渡すということは当然にその信託の終了時に予定されたことであって,できるのだという話になると思いますし,ほかのところでも,信託行為の解釈によって,現物ではなく,処分をして金銭で渡すことも可であるということは十分にあり得ると思うのですね。

それがどうしてもなくて,どうしても現物で渡すというふうにしか信託行為が解釈できない,しかし現物の保管にはなかなか費用がかかって耐えられないというときに処分をするということなのですが,ここの処分だって,非常に冷たく考えますと,例えば不動産が手元にあると,その不動産を引き渡そうと思うのだけれども相手が受領しないと-動産の方がいいですね-これは保管費用を取れるわけですから。

かつ,保管費用はその信託財産から取るしかないと仮定しますと,これは報酬を取得する度に売却だってできるんじゃないかと思うのですね。ほかの条文によって。

ですから,本当にこういう自助売却的なものが必要になる場面というのは狭くて,普通の場合には受託者が自らの裁量で売却して金銭で交付すれば足りるのだということは明らかにした方がいいのではないかと。

  はっきり申し上げますと,今までの御心配は誠にごもっともなんだけれども,その御心配が起こるような場面は,まあ本当はないんじゃないかなという気がするということでございます。

● ちょっと○○委員に教えていただきたいのですが,自分で処分するという場合,かえって不安ということはないですか。

どこかにオーソライズしてもらっていた方が安心だということにはならないですか。

● もちろん双方あると思いますけれども,受益者のためということを考えれば,競売という手続を待たずに処分した方がよいのではないかということだと思います。

もちろん,その一つの方法として,処分の方法をあらかじめ信託行為の中に定めておくと。

もって,それを続けていけば,もちろん別途の善管注意・忠実義務が出てきますけれども,原則としては,それに従えば受託者としては特段の責任を負わないというやり方もあるのではないかと。

もちろん,これは物の中身いかんによって,腐りやすいもの,腐りにくいもの,処分性のあるもの,いろいろあると思いますから,それはその当該信託の中で個々に決めていけばいいのではないかと。

  私の発言の趣旨というのは,ここの9に書かれているように,一元的に受託者の義務として定めてあって-もちろん①の場合においてはということですけれども-かつ,その方法が競売と。

実際にはその競売のやり方というのは実務においてはいろいろ簡易的なことが行われるということは私も認識していますけれども,それのほかにもいろいろなやり方を認めてはどうかという,そういう趣旨でございます。

● 信託行為の中に書いてある,あるいは解釈で相当程度賄えるのではないかという御発言もあったわけですけれども,この点については。

● もう1点だけ。

  義務というふうに書いてあるとおっしゃる点ですが,(2)で「要する」と書いてあるのは,これは競売をするには催告をすることを要するという趣旨でございまして,競売するかどうかは自由ということでございますので,決して競売を義務化しているわけではありませんので,そこは念のため付言させていただきます。

● ほかに,第62について。

● 先ほど議論になりました,28ページの9,「競売の権利」のいわば自助売却権ですが,細かい話なのですけれども,この競売のための手続費用の負担というのはどうなるのでしょうか。

● 手続費用は信託財産から取るということになると思います。

● 状況が違うのかもしれませんが,自助売却という点で言うと,民法の497条でしょうか,競売代金の供託という項目があって,このもろもろの費用については,非訟事件手続法の83条から81条に飛んで,81条の3項ですか,債権者負担だと書いてあるのですが,これとは違うという仕切りですか。

● やはり信託事務処理に必要な費用というふうに考えますので,費用の補償として信託財産から行くということになるかと考えております。

● 28ページの9の(1)の②の方は,まあそういうことかなと思うのですけれども,①でも同じですか。

つまり,特定の人間がわざわざ受け取らないというときに,全体に負担を課していいのかというのが疑問の実質なのですけれども。

 ②はしようがないですね。これはみんなで負担するしかないと思うのですが。

● 事務局としては,先ほど言いましたように費用の補償ということで考えておりましたが,受益者が複数いるときに一人の受益者のこういうことで全体の負担がおかしいと言われると,確かにそうですが……。

そうしますと,例えば特約で受益者に行けるとか,そういう特約次第になってしまいますね。

● 要するに,デフォルトは何だろうということですね,特約がなければ。

● 事務局としては,御質問には十分答えられないわけでございますが,デフォルトとしては信託財産というふうに考えてしまっておりました。

● こちらでも引き続き考えさせていただきます。

● これは,民法497条と,それから,さっき御紹介のあった商法524条と,少しずつ規律の仕方も違っておりますので,またそういう点も踏まえて御検討いただければと思います。

  ほかに,第62について,いかがでしょうか。

  それでは,第61,第62,特にございませんようでしたら,次に進みたいと思います。

● では,続きまして,第63の信託財産に係る倒産手続の問題につきましての御説明に移らせていただきます。

  現行法では,信託財産をめぐり倒産状態が生じた場合に備えた制度というのは設けられていないわけでございます。

しかし,第2回会議でも申し上げましたとおり,信託財産に責任が限定された有限責任信託債権を制度上も認めることとする場合には,信託債権者間の公平な弁済を確保するために,信託財産の倒産処理手続を整備する必要性は高まると言えます。

さらに,事業活動形態での信託の利用をより円滑に進める観点からも,信託財産に係る倒産処理手続を整備することが望ましいという指摘もございます。

これらを踏まえますと,信託財産に係る倒産処理手続を設けることが望ましいとも考えられるところでございます。

信託法制研究会の報告書では,以上のような諸点にかんがみまして,信託財産に係る倒産処理手続の整備を検討するものとしておりましたが,第2回会議におきましては,結論として,このような手続を設けることについては賛成する御意見が多かったと認識しております。

  もっとも,信託財産の破産手続を新たに創設するか否かを決定するに際しまして最も重要な要素は,言うまでもなく有限責任信託債権の導入にありますところ,御承知のとおり,有限責任信託債権の導入につきましては,事務局案として,一般信託と,有限責任を原則とする特殊な信託に分けることなどを提案しておりますが,現状ではまだ大方の一致を見るには至っておりません。

そのため,信託財産に係る破産手続を整備するといいましても,そもそもそれは有限責任を原則とする特殊な信託に限られるのか,それとも一般信託にも導入するのか,あるいは破産原因をどのように考えるかなどの,制度の正に入口論については議論を行いにくい状況にあると考えております。

  しかしながら,部会における議論を拝見しておりますと,現状では,何らかの形で有限責任信託債権の導入を行う方向での御意見が強いようにも思われたことから,信託財産に係る破産手続を整備することを提案しまして,また,入口論を一定程度棚上げにせざるを得ないものの,ある程度議論を進めていただく必要があると思われることから,資料の2ページ以降に記載しましたとおり,幾つかの論点につきまして一応の検討を試みたところでございます。

  まず,2でございますけれども,信託財産に係る破産手続を整備することを前提としまして,各論的な事項として問題となると思われる事項につきまして,順次検討を試みていったものでございます。

  まず,(1)の「破産手続の対象となる信託の範囲の限定の要否」についてでございますが,これは報告書や第2回会議におきましても,破産手続の対象を信託一般とはせずに,例えば事業目的とする信託に限定すべきか否かについて問題指摘していたところでございます。

この点につきましては,資料の3ページ上段に記載いたしました理由から,破産手続の対象となる信託の範囲を限定する必要はないという考え方を提案するものでございます。

  次に,(2)の「破産手続開始の原因」でございますが,これは,破産法15条,16条におきまして,いわゆる人的会社を含む一般的な破産手続の開始原因としては債務者の支払不能が得られ,ただし,いわゆる物的会社につきましては,債務者の支払不能のほかに債務者の債務超過をも破産手続開始の原因に加えられておりまして,それに対して,他方,破産法223条によりますと,相続財産については債務超過のみが破産手続開始の原因になっているというようなことの対比から,信託財産について破産手続の開始の原因をいかなるものとすべきかという問題を提起したものでございます。

  この点につきましては,資料の3ページから5ページに書いてありますアというところ,それから(注4)というところに関連してまいりますが,受託者の無限責任を原則としながらも,一定の事項を明示した場合には信託財産のみが責任財産となるとの規律を仮に設けることとした場合には,信託財産のみの債務超過をもって破産手続開始の原因になるとする見解と,信託財産の債務超過をもって破産手続開始の原因とならないとする見解との両様があり得ると考えられます。

これに対しまして,受託者の有限責任を原則とする新たな信託類型,言ってみれば「リミテッド・ライアビリティー・トラスト」というようなものを創設した場合におきましては,信託財産の債務超過をもって破産手続の開始の原因となることというのを書いてございます。

  それからもう一つ,4ページのイの「支払不能について」というところに書いてございますが,上のいずれの場合におきましても,相続財産と異なり,信託財産につきましては,財産以外の要素を考慮してその弁済能力をはかること,すなわち支払不能を観念することができ,少なくとも支払不能については破産手続開始の原因となると考えられるのではないかと整理しているところでございます。

  次に,(3)の「申立権者」というところですが,これは,信託財産を引当てとする債権者のほか,信託財産の管理処分を行う者として,受託者又は信託財産管理人等に破産手続開始の申立権を与えることとしてはどうかという考え方を提案するものでございます。

  次に,(4)の「申立期間」でございますが,これは,法人破産の申立期間に関する破産法19条の規定に準じまして,信託の終了後であっても,残余財産の引渡し又は分配が終了するまでの間は申立てができるとする考え方を提案するものでございます。

  次に,(5)の「破産財団の範囲」でございますが,これは,相続財産の破産に関し,破産財団の範囲を規定した破産法229条の規定に準じまして,信託財産に属する一切の財産をもって破産財団にするとの考え方を提案するものでございます。

  次に,(6)の「破産債権の範囲」というところでございますが,これは,破産法2条5項,すなわち,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって財団債権に該当しないものとする規定に準じまして,信託債権であって財団債権に該当しないものを破産債権とすること,それから受益債権もこの定義に当たりますので破産債権に含まれること,これに対しまして,6ページの(注6)に記載しておりますとおり,帰属権利者又は受益者の有する残余財産分配請求権については,その性質上,仮に破産清算後に残余財産があれば,信託の清算手続において分配がなされることになること,すなわち破産手続外で分配がなされることになること,以上の考え方を提案したものでございます。

  それから,(7)の「信託債権者と受益者との間の優先順位」でございますが,これは,6ページの下段になりますが,そこに書いた理由から,信託財産の破産手続におきまして,受益債権は破産債権に含まれ,破産手続に参加できるものの,破産配当手続の中では信託債権に劣後させるべきこととなるとの考え方を提案するものでございます。

 次に,(8)の「受託者の権利」でございますが,まず,信託財産が破産したときに受託者と破産管財人との権限関係はどうなるのかという点につきまして,第2回会議でも議論が及びましたが,これは,7ページの(注7)というところに書かせていただきましたとおり,破産手続の開始によりまして,破産財団に属する信託財産の管理処分権は受託者から離れ,破産管財人に専属することになると考えられること,その上で,受託者が有していた信託財産又は受益者に対する補償ないし報酬請求権については破産管財人に移らず,受託者自身が破産財団につき破産管財人に対して請求できるということを提案しているものでございます。

  次に,(9)でございますが,受託者の債権者の地位というところでございますが,これは,全部の履行をする義務を負う者が数人ある場合等の手続参加に関する破産法104条などの規定に準じまして,信託財産に責任が限定されない信託債権者は,信託財産に係る破産手続及び受託者に係る破産手続の双方に対して,その有する債権の全額をもって参加することができるという考え方を提案するものでございます。

  次に,(10)でございますが,これは,破産手続におけるいわゆる否認権の行使に関しまして,信託財産の破産においては,相続財産の破産と同様に,破産者に当たる概念が存しないことから,受託者等がした行為をもって破産者がした行為とみなすとの考え方を提案するものでございます。

  最後に,(11),それから(注8),(注9)でございますけれども,これは,現行信託法27条の規定する受託者の損失てん補責任その他受益者の有する受託者に対する監督的権能につきましては,信託財産の破産手続が開始された場合には,破産管財人が専属的にこの監督的権能を行使するということになるとの考え方を示したものでございます。

  以上の諸点にわたる提案についての御意見のほか,他に検討すべき課題があれば,あわせて御指摘をいただきたいというふうに思っております。

  なお,冒頭に申し上げるべきだったかと思うのですが,委員・幹事の皆様からは,破産を簡易にした手続を設けることも検討に値するのではないかという御意見もいただいたところでございますが,ここでは,そのような御指摘は踏まえつつも,資料1Pの(注2)に記載した理由から,信託財産に関する破産手続を,法人格がないという点で共通していると見られます相続財産に関する破産手続に倣って整理することを試みたものでございます。

  最後に,3でございますが,これは,報告書や第2回会議でも言及いたしましたが,事業活動のビークルとして信託の需要が今後更に進展することも考えられますことから,信託を存続させつつ信託が営む事業活動の継続を図るべく,信託財産に係る再建型の倒産処理手続についてもこれを整備すべきかについて問題提起したものでございます。

もっとも,この点は,専ら再建型の処理手続まで整備する必要があるかというニーズの有無・程度にかかわる事柄であると考えられますものの,当該受託者のもとにおいて信託事業の再生を図ることにはこだわらず,ともかくも信託が営む事業活動自体の継続を図ることを重視するのであれば,あえて再建型の手続まで設けなくとも,信託財産に係る破産手続の中で営業の継続を図りつつ,事業の譲渡を行うことによって対処することができるのではないかと考えられるところでございまして,現状において果たしてどの程度のニーズがあるのかにつきまして,是非とも御意見をいただければというふうに思っております。

  とりあえず以上でございます。

● それでは,3時ぐらいをめどに休憩が入ると思いますので,とりあえず,まず御意見をいただきまして,休憩後にまた再開したいと思います。

  第63について,いかがでしょうか。

● まず,総論としてなのですけれども,今回の御提案のような破産の手続を導入するということについては,一足飛びに破産に至るのではなくて,例えば特別清算のようなものを入れていただけないかとか,もうちょっと軽目のものを入れてもらえないかというような意見もあったのですけれども,大勢は,やはり債権者から見た信頼性,安定性といいますか,そういう観点から,破産の手続を導入することについて賛成という方向でございます。

  あとは各論でございますが,破産手続開始の原因のアの債務超過のところなのですけれども,今回の御提案では,受益債務が債務超過の計算の際の債務に入るということですけれども,どうもここのところが若干違和感があるということでございます。

  このことに関しまして若干質問がありまして。ちょっとよく分からないので。

  簡単な例でいきますと,例えば,100万円を管理運用して毎月末に10万円ずつ10か月間給付するというような契約の信託を設定したとしますけれども,そのときに,例えば,1か月たったところで10万円の給付の時期は来ているのだけれども,まだ払っていませんというものと,その時点においてあと残っているのが,9か月間10万円ずつですから,90万円残っていますけれども,ただ,これは信託契約で約束された支払いということですけれども,この分と,あとは,全く支払いの時期とか金額とかが書いていないような,要するに利殖してくださいという形で渡されたようなもの,この三つについて,要するに債務超過の中の債務に入るのかどうかということをお聞きしたいのと,その三つが,先ほどの議論にちょっとプレイバックしてしまいますけれども,普通の信託債権に劣後するのかどうか,それをちょっとお教えいただきたいと思います。

● 先ほど言いましたように,受益債権は破産債権に入るということからいたしますと,確定未払いの10万円はもちろん入りますし,あらかじめ信託契約で発生して,ただ期限が到来していない90万円,これも入ると思います。

  最後におっしゃったのは,支払時期も金額も不明で,ただふやしてくださいというのですか,それは債権かどうかよく分からないのですが,それも残余財産分配みたいなものなんでしょうか。

これを受益債権と位置づけることができれば,評価をして,破産債権に入っていくのではないかという気がいたしますけれども。

● そこまで入るということになりますと,設定した段階でかなりの部分の債務があるという状況になってしまって,例えば,それが株式等の価格の変動を受けるようなものになっていた場合についてはすぐに債務超過になってしまうというようなおそれがありますので,ここの部分については,受益債務ということを債務超過の金額に入れるということについて御検討いただけないか。

  また,そういうことがちょっと位置づけとしてはおかしいということであれば,例えば,債務超過というもの自体が破産の原因になるということですけれども,そこら辺のところの御検討をいただけないかということでございます。

● 1点申し上げ忘れましたけれども,劣後かどうかという関係につきましては,受益債権は信託債権に劣後すると考えております。

● 完全に確定していても,支払時期が来ていてもということですか。

● 劣後すると考えています。そこは清算の局面でも同じでございますけれども,配当規制のようなものがない信託については,一般債権に比べて受益債権は劣後すると考えておりますので,その上で御指摘を踏まえて検討いたしたいと思いますが,受益債権が債務超過に当たってどのように評価されるかと。

請求額丸々考慮されれば破産に行きやすいということになりますが,その半面,破産手続によって受益債権の公平な弁済は図られる。

他方,信託の延命といいますか,終了させたくないということからいたしますと,例えば契約によって,受益債権の額は信託財産の額が縮減することによって縮まるのだというような契約を設けておけば,あるいは,その破産債権額,債務超過に当たって考慮する額の評価に当たって,劣後するという点を考慮して低く見積もるということができるのであれば,直ちに債務超過に至ることもないのではないかと思います。

  あと,受益債権と同額の信託財産しかないということは普通なくて,もうちょっとバッファーといいますか,余裕がある信託財産を持っていることが普通であって,多少債権があろうが,費用がかかろうが,それによって債務超過に直ちになるという事態は少ないのではないかというような気もするところでございますが,いずれにいたしましても,何をもって破産原因とするかというところも含めまして,御指摘を踏まえて今後また検討していきたいと考えております。

● 一番最初に○○幹事の方から御説明があったように,有限責任信託という新しい制度を認めるかどうかによって随分これの意味が違ってくると思うのですが。

  三,四年前に破産法改正のときに,やはりこの信託の破産というのを作るかどうかというのが議題になって,結局,有限責任という制度ができるかどうかが決まらないのでとりあえず見送ると,そういう経過があったと思うのですが,それとの関係でいくと,今回のこの御提案が,破産手続の対象となる信託の範囲を限定する必要性に乏しいと考えられるということは,もう全部を対象にした提案になっていて,私も,有限責任信託というものならば破産というのは観念できる,必要性もよく分かるのですが,受託者無限責任というのがある場合の破産手続というのは,大変難しい,いろいろな問題が生じてきて,果たしてうまく制度ができるのだろうかという懸念を持っております。

  それから,特に範囲の問題として言うと,当事者に明確な信託の合意がなくて,個別の事実関係というか契約関係を全部組み合わせるとこれは信託と評価できる,そういうような場合というのが現に判決で認められた例もありますけれども,そういうような場合もやはりこの破産手続に乗るのだということになってくると,そもそもそれが信託なのかどうかというところと,破産というところと,入口のところで大変な争いになってもめてしまうというおそれもありますので,とにかく範囲の限定の問題は非常に重要な問題だというふうに考えております。

● それはおっしゃるとおりで,もちろん,ここでは有限責任信託というのを前提とはしないで,御自由に御議論いただいてよろしいと思いますけれども,確かに一般的に言うと頭の体操みたいな非常に難しい問題がいろいろあると思いますが,今日はそれも含めて御意見を出していただければと思います。

● もちろん,有限責任信託を設ければより必要性が高いという問題もございますが,事務局として限定の対象とすべきかどうかと考えておりますのは,事業を目的とした信託に限るかどうかという視点からでございまして,結論的に,事業目的でなくても債権というのは幾らでも発生する可能性はありますし,入口のところでもめてはおかしいということで,事業目的の信託には限らないという切り口でございますので,有限責任信託かどうかという点で切り口を設けているわけではないというところは,念のため御留意いただければと思います。

● 第2回の会議において,簡易な手続が望ましいという発言をした立場から申し上げます。

  確かに,公平性の観点からは破産手続の一律的な適用が望ましいということもあるわけですので,ここら辺はなかなか議論が難しいところだと認識しております。

ただ,一律に本当に破産法の導入がいいのかどうかということについてはなお疑問があるところで,そこで質問が2点あるわけです。

  一つは,これも第2回で申し上げましたけれども,なかなか理論的には難しいかもしれませんが,破産制度の対象とならない信託ということを概念することができるのかどうかということです。

  例えば,信託行為の中でそういうことを定めていればできるのかどうかという話なのですが,そこはなかなか難しいかもしれません。

ただ,実務的な話としましては,例えば債務超過ということで破産が申し立てられて信託が壊れてしまい得る,それも一部の債権者から申立てがあったときに壊れてしまうということもあるわけですが,実際のいろいろな信託の中で,一時的に債務超過になったとしても,将来は通常の受益者に対する配当ができ得るというものもあるわけで,そうしたときに,大多数の受益者はよろしいけれども一部の債権者が壊してしまうということを認めるのかどうかという話を考えたときに,やはり破産手続とはならないような信託を設定するニーズがあるのではないかと思います。

  せめての話なのですが,例えば,商事信託法要綱を見ますと,これは全く違う解決方法だと思うのですけれども,そういったときに,一部の債権者に対して弁済をすることによって破産手続を回避することもでき得るというふうな理解をしておりますけれども,そういった,破産の手続を導入するとしても,出口みたいなものを検討する余地がないのかどうかということもあると思います。

  二つ目は,これも第2回で申し上げたところなのですけれども,DIPというような考え方があるのかどうかという話でございます。

  先ほどの○○幹事の御説明の中で,7ページの(注7)のところで,信託受託者の整理というのは,基本的には,破産管財人が管理処分権を専属するというところで整理したということでございますので,基本的には,受託者が処分権限を持つということは想定していないと認識しています。

DIPというのは,これは再生型にはある概念だと思いますけれども,破産についてはないと認識しているわけですが,なお,この前も申し上げましたけれども,信託の場合には,受託者がまだ正常に行為し得る能力がある場合もあるわけですから,また受益者の立場からしても,一番取引の内容を知り得る立場として受託者が引き続き権限を持ち続けるということが適当な場合もあるわけですので,やはり一つの選択肢としてDIPというのを検討されてもいいのではないかと思います。

もちろん,いろいろな,受託者の補償請求権の問題であるとか,忠実義務の問題であるとかあるわけですので,例外は認めてもいいわけですけれども,この点,やはり商事信託法要綱を見ますと,選択肢だということだと理解しているのですけれども,受託者は破産管財人となることができるということがそのときには提案されておりまして,それは検討に値するものだというふうに思っております。

● 休憩との関係がありますので,○○委員の御意見をいただいて……。

● 1点目は同じなので,よろしいですか。

● では,続けてお願いいたします。

● 私の方も,○○委員のおっしゃられますように,信託一般について破産手続を設ける必要が果たしてあるのかというところで同じような意見を持っておりますので,あわせて申し上げさせていただきたいと思います。

御説明にありましたように,信託が事業を目的とするものであれば,これはまあ必要なのかなというふうに思うわけなのですけれども,一般の信託,特に流動化の場合を想定しますと,従来,例えば特債法のもとでSPCを使って流動化しているときに,社債を発行するに当たって優先劣後構造とかを持ってやっておったわけですけれども,同じSPCに譲渡するときに,そこの中での個別の格付を維持するために,他の資産に強制執行できない,若しくはSPCの役員等に対しての,若しくは債権者の方に倒産の申立てをしないという条項を認めさせる,そういう特約を設ける形で対応しておったわけですけれども,今回,信託の方に,信託財産について破産手続が認められるような場合,先ほど○○委員がおっしゃられましたような倒産手続の申立てをしないという信託契約を有効にできるということであれば,これでも構わないのですけれども,そうではない場合については,かなり流動化の実務の中で混乱を生じせしめるのではないかという懸念があって,そういうものが可能かどうか,そういうところまで考えておられるのかどうなのかをまずお尋ねしたいと思います。

  特にそういうふうに申し上げないといけないのが,実際にそれができないということになって,破産手続に入った場合,先ほどから,信託債権の方が受益債権より優先するということですけれども,それ自体も若干問題があるのですが,更に,その受益権の中でも優先的受益権と劣後的受益権というふうに分かれて,かつ,その優先的受益権についても幾つかの,これは非常に大切で,どういう形で売っていくかということにも関係するのですけれども,様々な形で区別が設けられまして,その中で格付等もとっていっていると。

トリプルAのものもあるし,シングルA,トリプルB程度の,そういった優先の部分でもそういう区別があるわけですけれども,こういったものが破産手続の中で実際どういうふうな形で評価されていくのか,破産債権として評価されていくのかというところが非常に複雑になってきますし,法律で破産手続の中で決めることではなくて,実際は破産の手続の実務の中で決める形にはなるのでしょうけれども,非常にそのあたりが不安定になってしまうのではなかろうかと。

そういった懸念もありますので,先ほど冒頭に申し上げました特約みたいなものの有効性というのが考えられる余地がどの程度あるのか,そのあたりについてお尋ねしたいと思います。

● それでは,いったん休憩ということにいたします。

            (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。

  休憩前に○○委員,○○委員からいただいていました御質問で,一般に破産を認めるとしても,商事信託法要綱の713条にあるような形での弁済を認める方法でなくすることはできないかとか,あるいは,そもそも特約を事前に設定しておくことはできないだろうかということ,それから,DIP型を選択肢として認め得るかといったような御質問だったと思いますが。

● では,順次お答えしていきます。

  まず,今ございました,一部弁済したら破産がとまるのではないかという点につきましては,いったん破産が始まった以上は,しかしながら破産債権者以外の全関係者の利益にもなるということが考えられますので,一部の債権者に弁済することによって破産手続がとまるということは難しいのではないかと考えております。

  それから,両委員から御質問がございました,破産手続の対象としない信託,換言すれば,破産申立てをしない特約の有効性という観点でございますが,  このような申立ての特約の有効性につきましては,法人についての破産と信託の破産を特に区別しているわけではございませんので,法人についての破産の場合の議論はこちらでも妥当するのではないかと考えております。

  最後に,DIP型というか,受託者が信託財産の破産手続を遂行するということはどうかという御見解でございましたが,事務局といたしましては,やはりそれは難しくて,信託財産が破産した以上は,信託財産破産についての破産管財人が必ず選任されて,受託者からその者に権限が全面的に移行するという手続をとるというところを現在考えているところでございます。

● 私の確認したいことは,それでしたら,確かに破産を一律に導入するということであればそういう結論になったとして,次の質問としましては,では,この信託の破産制度を作るときに,その破産制度の例外的な条項を入れることを検討する余地があるのかどうかということです。

通常の破産法を導入します,ただ信託においては破産法の何々は適用しないものとするとか,ないしは,例えば破産管財人は受託者が務めることができるものとするというような特別の規定ということを手当てすることができるのかどうか。法技術的にということですが。

● 今おっしゃったのは,破産法改正をここでやろうというわけじゃなくて,信託法の方で何か対応できないかということですね。

● はい。

● 今,○○委員がおっしゃいました,受託者を破産管財人に選任することができるというような明文の規定を設けるかどうかという話で,法技術的に難しいという話はともかく,その前の問題として,そういう条文を設けることによって本当に合理的な話になるのかどうかというのは一応はあるのだと思います。

つまり,受託者というのは一部の債権者のための立場ですし,恐らくは補償請求権みたいなものもございますので,利益相反的な立場に立ち得るという関係にございます。

そういう方を法律上明文で管財人になれるというふうに-破産法自体にそういう条文はもちろんないわけですけれども,そういうことをするのがいいのかどうかというのは,やはり慎重に考えないといけないのではないかというふうには思っておりますが。

● 一律に認めるというわけではなく,例えば,裁判所の関与によってそういう利害関係がないという場合において,かつ受益者のためになるのであれば,受託者が管財人になれるという余地を残すというような特約を検討する余地がこの場においてあるのかどうかという話なのですけれども。

もちろん,ある意味判断の話ですので,そういう規律を導入する必要があるのかどうかということはこの場で議論しなければならないわけですけれども,そういうことを前提に今後議論を続けていくということが可能なのかどうかという話なのですが。

● 済みません,特約を設けるというふうに今おっしゃったかと……。

● 特約というのは,信託法の特則として破産法の例外を認めることが立法的にできるのかどうかと。また,この場においてそれを議論する余地があるのかどうかという話です。

● 議論する余地は恐らくあるだろうと思います。問題は,それが可能かどうかという話で,今,○○委員がおっしゃった御意見についてもまた検討する必要はあるかと思いますけれども,直ちに可能であると申し上げるわけにはいかないと思います。

● 何点か申し上げたいことがあるのですが,とりあえず,今の受託者を管財人とする特約についてだけ申し述べ,それについて議論が収束したら,またほかの点についてお話を申し上げたいと思います。

  そもそも何で破産管財人が置かれるのかといえば,公平・中立な,裁判所が選んだ機関が財産を公平・適正に分配すると。

確かに手続的には軽くはないわけですが,先ほど出たDIP型とも関係しますけれども,そこで大事なのは,やはり公平・中立だと裁判所が判断をするという要素がありまして,最近非常に多いですけれども,特に会社更生なんかで顕著ですが,経営破たんをして,しかし経営破たんする直前にいわばターンアラウンドのために入った取締役なんかがいると。

これをそのまま管財人に据えたらいいじゃないかという議論は会社更生法のときも随分しましたが,やはり裁判所が選任し,裁判所が監督するという体制が大事だということで,会社更生法の67条3項ですが,裏から,責任がない人はなれますよということにしたわけで,あれは確認的な規定だと言われていますので,裁判所がこの受託者が管財人としてふさわしいと思えば管財人にすればいいだけの話で,それ以上の資格は,破産法の中で例えば弁護士でなければいけないとかですね。

冗談みたいな話ですが,破産者だって破産管財人になれるということですから,その人が適切だと思えばそれを選ぶだけのことで,ただ,それは,繰り返しますが,裁判所が適切であると判断したことが大事なのであって,あらかじめだれかとだれかの特約でできるということではなかなかないのだろうと。

それはほかの倒産手続における手続機関と同じで,裁判所が真っ白いところから判断しますよということにならざるを得ないのではないか,ここだけ外す理由はなかなかないのではないかと思います。

  とりあえず今の点についてはそれだけで,もし時間がありましたら,また別の点についてお話しさせていただきたいと思います。

● 今の点,御専門の○○幹事からのお話で,まあそういうことかなという気もするのですが,更に○○委員としてはまた御検討いただいて……。

● はい。

  特約ということにまだこだわっているわけではなく,結果として受託者が裁判所の判断によって管財人になれるという余地があるということをここで確認できれば,それでいいわけですが。

● それは,一般論としては特に限定はないということでしょうか。

● 今度,破産規則で,ふさわしい人を選ぶと。たしか会社更生における調査委員なんかと違って,利害関係がちょっとでもあるとだめということではないと。

適切な,わずかに利害関係があってもいいと。だから,そういう意味では,先ほど補償請求権の話が出てきましたけれども,それがいわば管財人としての公平・中立を奪わない程度の利害関係であれば,そこは排除しないということではないでしょうか。

● よろしいでしょうか。

● 今のは,私も現行破産法の解釈論を十分存じ上げないのですが,破産債務者も管財人になれるのですか。

● さっき○○幹事が,破産者も破産管財人になれると,冗談のようなとおっしゃった点ですね。

● そういうのはだめなんじゃないですか。

● それで,これは債権の債務者は受託者ですから,第三者性を持った人がなるという例を挙げてもだめなので,破産債務者そのものが管財人になれるかという問題ではないかと思うのですが。

● 確かに第三者なのかよく分からないですが,例えばへんぱ弁済を否認するなんていう場合は,自分がやった行為を否認しなければいけないわけですね。

もう利害関係の典型みたいな状況で,それはない。先ほど,一般的な資格の問題としては半分冗談で申し上げましたが,自分の事件はさすがに定型的に無理なんじゃないでしょうか。

● 無理ならば,受託者はなれないんじゃないでしょうか。つまり,この破産手続における破産債権者はだれに対して債権を持っているのかというと,債務者名義は受託者ですから。

● ○○幹事がおっしゃるとおりで,法律的には確かに債務者は受託者であり,それ以外の人であるというわけにはいかないのは確かなのですが,ここでは,信託財産をかなり独立のものというふうに取り扱うことができるという,そういう前提で特別に信託財産の破産制度というのを考えましょうという話でございまして,そういう意味では,受託者というのは,もしかすると,破産者自身というよりかは,連帯保証している立場にある人というような-実質論においてということで,法律的といいますか,法律行為の当事者としてはもちろん債務者と言わざるを得ないところはあるのですが,ここでは,破産者に類するような立場は,どちらかといえば信託財産であると言わざるを得ないところがございますので,そこを重視すれば,受託者が破産管財人になるということがおよそおかしい,議論の余地がないということではないのかなという感じで考えております。

● 説明の仕方には全く反対ですが。

というのは,保証人的立場とか,債務者は信託財産であるとかというふうな説明の概念はすべてに対して反対ですが,私は,具体的には,受託者が破産管財人になるということが認められておかしくはないというふうに思います。

ただ,それは当然に認められるんだよねという話ではなくて,本来は破産債務者だから認められないんだけれども,この例に関しては特別に破産債務者たる受託者も便宜の面等から破産管財人になれるという制度をあえて置いたのだというふうにすることは全然差し支えないのではないかと思っているのですが。

● この点が大きな問題になると思っていなかったものですから,余り深くは考えてこなかったのですが,破産手続の実務という点で言いますと,破産手続というのは,普通は管財人が選任され,一方,債務者側で説明義務を負う者がいて,管財人がその破産者から説明を聞いて,財産状況を調査し,債権を調査し,配当するというのが破産手続だと思っておりました。

そういう意味で,そういう説明をすべき破産者と,その説明を受けて調査をする破産管財人が同一人である破産手続を観念するというのは,今の破産手続の実務を前提とすれば,かなり違和感があると言わざるを得ない面はあるのではないかなというふうに思っております。

破産手続においては,債務者の側はもう破産してしまっているので,それから債権者の理解を得ようとか,そういったインセンティブというのは働かないというのが通常だと思います。

そういう意味で,第三者である破産管財人がついて,それが手続を遂行するというのが本来の姿ではないかなというふうに思っておりまして,今の議論で,○○幹事が,政策的にそういった新しい制度を設けることは不可能ではないとおっしゃったのですが,実務の観点から見ますと,破産手続の適正な遂行という面から言うと,かなり違和感があるのではないかというふうに思うということでございます。

● これは破産法の根幹にかかわるようなことでしょうから,ここでこれ以上議論を続けてもなかなか難しいかもしれませんが,欠格事由になるのか,特約が可能なのか,あるいは裁判所の選任というので配慮できるのか,いろいろ問題があるかと思います。

● 今の点について,一言だけ。

  先ほど,会社更生法の67条3項を挙げましたが,それは再建型の特質というのが大きゅうございまして,事業を再建するには,やはりかなり人に依存するというのでしょうか,今までの経過をよく知っている人を選ぶということであって,破産の場合には余りそういう配慮が要らないのかもしれないです。

ですから,質が違うのではなくて,いわば量というか,運用レベルの問題で,どっちがしっくりくるかといえば,再建型で従前の経緯をよく知っている,それを生かして今後の事業の再生をしていかなければいけないというような再建型については,まだ,いわゆるDIP型というのでしょうか,なじみやすいと思うのですが,破産の場合には,やはり厳格な公平性というのを追求するという方向で……。

  ただ,これは何か質が違うというか,だんだん色が濃くなったり薄くなったりというような話だと思いますので,理屈ですっぱり割り切れるのかどうかはよく分かりません。

  それから,先ほど出ている御意見について,幾つか,私が考えているところを申し述べさせていただきます。

 債務超過を信託財産の破産についての破産原因とすることについて幾つか御意見が出て,特に,立上げのときにお金が入ってきて,しかし立上げのために費用がかかって,立ち上げた瞬間は,じっと見たらそれは債務超過じゃないかという御指摘が冒頭ございましたけれども,それは資産評価の問題ではないかと思うのです。

つまり,動き出してすぐ,単にピースミールで財産の評価をするのではなくて,動き出した事業の将来収益なども勘案してゴーイングコンサーン・ベースで資産の評価をして,それでなお債務超過があったら,それはもうしようがないですね。

それはしばらくは様子を見なければいけないかもしれませんが,そういう傾向が強いというのであれば,それは破産に持ち込まざるを得ない。

それは,債務超過を破産原因にした趣旨,つまり,傷が広がらないうちに財産を解体し,弁済をして,その債権者の損失を防ぐということから言えば,ほかの制度との並びで言えば,ゴーイングコンサーン・ベースでも,レギュレーション・ベースでも,どう評価しても債務超過だったら,これはもうしようがないんじゃないかと。

そういうものとしてみんな物的会社を位置づけている以上は,ほかと並べるのであれば,債務超過も破産原因にせざるを得ないのではないかと思われます。

  それから,先ほど,無限責任という制度と破産という制度がなじむのかという御指摘がございまして,これはなかなか奥の深い問題だと私は思いますが,現行の中で見ますと,合名会社・合資会社について,無限責任の会社なのに破産というのが想定されているということを想起すべきだろうと思います。

ただ,非常に難しい問題が生ずることは確かなので,この点はかなり,リミテッド・ライアビリティー・トラストみたいなことを考えずに,もっと広げるとすると,いろいろな難問が出てきそうな気がいたします。

  それから,先ほどのDIP型とも若干関連しますけれども,破産法以外の簡易な清算方法は考えられないかということですけれども,これはもちろん考えられると思います。

政策でどこまでぎりぎりやるかということで,いろいろな仕組みはつくれると思いますが,もし破産法以外の簡易な方法という御意見のベースが,破産手続自体が遅い,あるいは無用に厳格であるということだとすれば,その懸念は大分減っているのではないかなと。

実務の運用は,例えば5年前と今と全然違って,改正前はここまで柔軟な解釈ができるのかと思うぐらいですね。

それを法律をかけたみたいなところもあるような気がいたしまして,そこはあとは立法事実の問題で,どこがどう不都合なのかということの各論もした方がいいのではないかという気がいたします。

およそ倒産手続と位置づける限りは,どんな手続であれ,債権の個別的な権利行使の禁止というのは要は倒産手続の本質ですので,手続を設ける以上はつくらざるを得ない。

先ほどSPC型の話が出ましたけれども,どっちみち1回はキャッシュフローがとまる話になってしまうのではないかと思います。

それすらない簡易なものというので,逆に,欠乏した責任財産に対する債権者の権利行使を個別にしないで,集団的にして公平に財産を分配するというのができるのかどうかですね。それを考えるべきなんだろうと思います。

  いろいろ申し上げましたけれども,以上でございます。

● その簡易な手続については,一体現行の破産手続のどこがネックになるということなのかまた具体的に御指摘いただければと思います。

  ほかに。

● 信託財産について破産手続が入ることに特段の反対ということではないのですけれども,ただ一方で,何かちょっとぴんとこないなという感じを持っているのですが。

  例えば,事業を目的とする信託という制度ができたときに,恐らく,信託を受けて事業を行っている者は受託者ということになるんじゃないかなと。

対外的には,すべてその受託者が行っている事業行為というふうに見えるのではないかなと思うのですね。

にもかかわらず,受託者とは別に切り離した信託財産の部分だけの倒産手続を考えるというふうにしたときに,事業として取引の相手方から見ると,恐らく受託者しか見えない。

いろいろな,例えば契約名義上も受託者としてしか登場しない。だから,当然,受託者という会社と取引をしていたと思っていたら,実は信託財産といいますか信託部分と取引をしていたというようなことにならないだろうかと。

そうすると,例えば,この取引の相手方から見ると,会社と取引するに当たっては,その会社が信用できる先かどうかというのは必ず事前に見るわけですね。

受託者のBS・PLを見て,ああ,この会社は立派だと思っていたら,実は自分が取引していたのは信託財産であって,それはぼろぼろだったということになっても,そこは全然公開もされ-まあ,それは今後の制度設計の問題かもしれませんけれども,信託財産というものが独自に何らかの公示をされるという制度というのは,多分,信託の枠組みの中ではつくりにくいかなと。

信託というのは,やはり受託者として対外的に行為をしているところに特徴があるように思うので。

  ですので,そういう観点で,例えばこの事業目的のものに倒産手続を入れるのはどうかということになっても……。何か理念としては分かるのですけれども,受託者と信託財産の区別というのはどんなふうに考えていくんだろうかというような観点から,ちょっとどうかなと思います。

● 確かにおっしゃるとおり,一般的な信託,受託者が無限責任を負って,受託者の信用というのもある程度関与されているものについてまで破産手続を入れるべきかどうかというのは大きな問題があると思いますが,他方,どのような信託類型について破産手続を入れるべきかという問題がございまして,いわゆる有限責任信託という特殊な類型を認めれば,それは受託者個人の責任財産とかいうものは基本的に度外視されて,かつ,信託財産について一種の公示制度というのも整える予定でおりますし,そのようなものになりますと,信託財産の法人格は認めるわけではございませんが,やはりそこは責任財産が限られるものとして何らかの公平な弁済手続が必要な気がいたしますし,あと,一定の事項を表示したときには有限責任になるというような制度を仮に入れたとしますと,それも相手にとっては,これは信託財産が相手だということが分かるわけでございますので,そのような形態のものを入れたときには,それについては,有限責任信託ほどではないにしても,何らかの破産手続というのを設けることは,少なくとも検討に値するのではないかという気がしております。

● もう1点追加して申し上げますと,信託財産の破産において,信託財産を換価して信託の債権者に対して弁済をするという手続はとりますが,これは,これまであった無限責任の債権者との関係で,その弁済が終わって,例えば100万円の債権なのに60万円しか信託財産からは配当がもらえなかったと。

そのときに40万円の部分が当然に債権として消滅するかというと,もちろんそういうことはございませんで,40万円の部分は,それはそれで残って,受託者に対して,つまり固有財産に対して強制執行できるという関係は残ると,そういうつもりで整理しておりますので,破産手続が入ったことによって相手方の信頼がいきなり害されるということはないのではないかという気がしております。

● その前提として,どういう信託を想定するかということともかかわっていると思います。

  ほかに。

● 債務超過の概念について私が触れたところ,○○幹事の方から,こういう考え方があるよという御紹介があったのですけれども,その点について,2点ほど,意見ではなくて,コメントなのですけれども。

  一つは,今,信託の会計というのがどうなっているのかといいますと,物の本なんかを見ますと,信託慣行会計と言われるものがあって,どういうことかというと,通常の法人が行っている会計とは違った,つまり,具体的なルールが明記的にはないわけですので,信託としては保守的に,それが慣行化しているわけですけれども,ある意味独自の会計をとっているということです。

とすると,通常の法人で観念している債務超過概念ということとまた違ってくるのではないかと。そこをどう考えるのか,今後,会計ということを見直す必要になるのかどうかということも含めて整理する必要があるのかなというふうに思いました。

  二つ目に,ゆえに,実際に破産申立てがあったときに,受託者の立場からするとどうしたらいいのかという話なのですが,一つの考え方としては,やはり信託受託者としては信託を守らなければいけないと。

確かに信託会計上はプラスになっているけれども,ひょっとして将来の収益とかいろいろ考えると債務超過かもしれないと,そう訴えられているといったときに,では受託者としてはどういうふうな立場で,どういうふうな方向で考えなければいけないのか。

ひょっとして,信託を守るためにこれは資産超過だよということを強弁すること自体が受益者に対する義務違反なのかもしれないというように思うわけでして,そうしたときに,これは枝葉の議論なのかもしれませんけれども,受託者はある意味板挟みになるようなことになるのではないかなというふうに思いました。

● ○○幹事,何かございますか。

● では,一言だけ。

  私も会計のルールはよく分かりませんけれども,技術的なところはともかく,本質的には債務超過の判断基準は多分変わらない。

申立て時に,そのときの財産状況を示す非常貸借対照表をつくらせて見るというのが筋だろうと思います。

どの資産をどう表現するのかについては各論がいろいろあると思いますが,本質的には多分変わらないものではないかと私は思います。

  それから,今おっしゃったのは多分債権者申立ての場合ですね。

債権者申立ての場合に受託者としてどう行動すべきかですが,これは多分一律には言えないのだろうと思います。

それは,今早く破産手続に入った方が結局債権者全体の利益を図れるということであれば,資産超過であることを無理やり証明するというのはかえって善管注意義務に反するでしょうし,本当にまだこの信託は,一般的な言い方をすると,破産させる意味がない,むしろその方が有害だと思ったら,それは債務超過ではないということを言うとかいうことになるのだろうと思います。

それは結局,今ここで自己破産の申立てをするかどうかというのと全く同じ判断構造ではないかと。

自己破産の申立てを今した方が債権者の利益が守れると思ったら,それをあえてしないことは善管注意義務違反になるのと同じことではないかと思います。

● このほか,事務局の方から幾つか,御意見をいただきたいという点が出ておりまして,7ページのあたりですが,受託者の地位に関して,受託者が補償請求権で破産手続に参加できるかとか,同じページの下の方ですけれども,否認権の適用についてどうかとか,それから8ページですけれども,損失てん補責任はどうかと,こういった点について御意見をいただければと思いますが。

● 7ページの(9)のところの②として書かれているところなのですけれども,全部義務者が複数いる場合になぞらえて問題を考えるというこの発想というのは,法人格はないけれども,やはり,信託財産という一つの全部義務者と,信託財産を除いた受託者の財産という全部義務者がいるという,こういった雰囲気なんじゃないかなと思うのですね。

しかるに,もし仮にこれを,債務者というのはあくまで受託者であると,しかし,ある債権者は特定の財産に対してしか執行できる地位を持っていない,他方,すべての財産について執行できる地位を持っている,他の財産に対しても執行できる地位を持っているという人がいるとしますと,この破産法104条とか231条の問題なのか,それとも民法の394条に近いシチュエーションなのかというのが,どちらかといえば,民法394条の,抵当権者がいるときにその抵当権の目的以外の財産について執行がなされた場合の抵当権者の地位というものに近いのかなという気もします。

ぴったりでないことは重々承知しているのですけれども,必ずしも全部義務者のことで考えるのが妥当とは限らないのではないかと。

 かつ,もう1点だけ申し上げますと,私,これは不勉強で恐縮なのですけれども,やはり責任財産限定特約の一般の場合と整合性を持った処理をする必要があると思うのですが。責任財産限定特約のある人について執行のときにどうなっているのかというのは,私,十分に存じ上げませんので,お恥ずかしい話なのですけれども,基本としてそういうことも考えなければいけないのではないかということだけ申し上げておきます。

● ほかにも,事務局からの御質問が6ページにあります。とりあえず清算型について御意見をいただきたいと思います。

● 今触れなかった点ですが,よろしいですか。6ページの(7)の優劣関係なのですけれども。ちょっと間が抜けた質問というか感想なのですけれども。

私,本当に受益債権が劣後するという整理でいいのかというのは,やや自信がないのですね。なぜ自信がないと思うかというと,その理由がよく分からないということもあるのですけれども,直感的に言いますと,例えば,多数の投資家から信託の仕組みを使ってお金を集めましょうと。

集めた投資家に,あなたの出していただいたお金に対して返すものは全部劣後しますと,こういう仕組みというのは余りほかにないと思うのですね。預金であれ,保険契約であれ。

  それで,なぜそうするとこういう理屈になっていくのかというのは,もちろん,多数の投資家からお金を集める器として信託を使う場合だけを考えているわけでは決してありませんので,ここは信託法の基本の議論をしているわけですけれども,先ほどの御説明ですと,例えば株式会社の場合には,株主に対する配当支払請求権というのが,必要な総会決議等を経て具体的に確定して,発生したと,その場合には発生したものについては劣後はしなくて,それはもう債権ですので同等なのだけれども,まだ未発生というか,そういうものについてはもちろん劣後するわけですけれども,そういう区別がこちらではできないので,受益債権については,既に発生しているもの,例えば毎月5万円ずつ払っていきますということが既に全部確定して発生していたとしても,株式会社の株主よりもより悪く,ここで言うと信託債権には劣後しますという御説明。

その理由はというと,配当規制がないというのが一つ挙げられたと思うのですね。

その配当規制がないというのはそのとおりなのですけれども,果たして配当規制に代替するものがないこととのいわば引換えが劣後ということになってしまうのかどうかというところは,論理的に必ずしも結びつかないように思うのですね。

(7)の①に書かれている理由というのは,信託事務に基づいて利益が行くのでしょうというのは,これは委任でも何でも同じだと思いますし,②が今の点に関係するのですけれども,そうすると,配当規制に代替するルールというのは,多分それは否認とか詐害行為取消しとか,そういうものであるように思うのですね。

②を厳格に言うと,というか,信託の受益者は,一遍も配当を受け取っていなくても,やはり劣後するわけですよね,今の御提案は。ですから,ちょっとそれでいいのか。

  ちょっと観点を変えて言いますと,私が例えば多数の投資家からお金を集めて何かやろうと思ったときにどうするかということですけれども,これですと,信託で,あなたは受益者ですというのでは,ちょっと集めにくいですよね。

その後,借入れとかいろいろなことをすることが仮に許容されているとしますと。

  そうすると,例えば,第1に,その集める受益債権に物上担保をつけますと。担保付社債みたいにですね。これはそういう根担保がつけられるかどうかという問題は別途ありますけれども,そもそも物上担保というものを受益債権につけられるということを前提にお考えなのか,その場合にこの優先劣後関係との関係はどうなるのかと。

  それから,2番目の例として,もしそれがうまくいかないなら,もう受益債権ではなくて,信託債というか,社債のように信託債権として投資家からお金を集めざるを得ないですよね。

さもないと受益債権ですから劣後してしまうわけですから。それでも,もちろん,受益権はだれかが持っていて,私なら私自身が持って,関係会社か何かが持っていてという仕組みになるとしても,どうも,せっかく信託が使われる話がおかしなところに行きそうな感じがある。

もう1点だけですけれども,間接的な影響ですが,もしこれが信託法のルールだということになりますと,投資家保護とかそういう観点から,特別法では,結局,借入れはもちろんのこと,債務負担というのを禁止していくことになると思うのですね。

さもないと,投資家,すなわち受益者の債務,投資家が受け取るキャッシュフローに対する権利というのは一番劣後してしまうということになるからなのですね。

それが信託の将来にとっていいことなのかどうなのかというのはやや疑問で,何か常識的にはこれでいいように私は思うのですけれども-これでいいという意味は,受益権というのはエクイティーだというのですか,余り表現はよくないのですけれども,最後残ったものはもらえるのだというようなことでいいように思うのですけれども,果たして発生したものも含めて全部劣後しますということを言い切ってしまっていいのかというのは,もうちょっと慎重な検討が要るように思うものですから,よく考えて物を言っているわけではないのですけれども,何となく,もう少し詰めてみた方がいいような気がいたします。

● 御指摘を踏まえて,また検討いたしたいと思います。

● それでは,清算型について,御意見……。

● 7ページの補償請求権のところと,先ほどの全部義務者のところも少し関係するかと思いますので。

  受託者が,補償等の請求権が既に発生しているようなものについて破産手続に参加することができるというのは,それでよろしいのではないかと。

強制執行等がかかったときにも,そこから取れる,そこに参加していけるような手続を講じるということだったと思いますので,同じような形でよろしいのではないかと思っております。

相続財産のときも,たしか相続人と被相続人との間で混同による消滅の例外規定が設けられていると思いますので,そういった処理も参考になるのではないかと思われます。

  こういう求償権的な-求償権という位置づけをすること自体問題なのですけれども,更に申しますと,少し私の方で気になっておりますのは,破産手続開始後にどうなるかということで,信託財産について破産が認められ,手続を遂行するとしますと,固有財産からの弁済にどういう影響を与えるかということで,強制執行等の禁止が固有財産に対しても及ぶのかどうかという点はもう一つ問題としてあるのではないかと思われます。

これが及ぶとしますと,任意の弁済はどうかという問題があり,いずれにいたしましても,固有財産から破産手続開始後に弁済を受けたというような場合には,本来的には信託債務であるということからしますと信託財産が最終的に負うものだということになると,いわば求償的な話が出て,受託者の固有の債権者のためにその部分を取り返してくるというような問題が生じます。

  そうしますと,先ほどの全部義務者のところの話にかかわってまいりますけれども,私自身は,信託というのはやはり受託者こそが法人格一つだということを強調すべきだとは思いますけれども,責任財産の独立性の面ではある程度二面を持つということを意識せざるを得ないのかなというふうに思っておりまして,およそ固有財産から破産手続開始後弁済を受けるという道が遮断されているのであれば,もうそこで問題は解決するかと思いますけれども,それが遮断されないのであれば,こういった処理が必要になってくるのではないかと思います。

  それで,不足額責任主義との,民法394条型の関係ですと,本来は信託財産から取るというのが信託債権者だとすると,正に信託財産の方からこそ取れるというような形にしなければいけないはずですので,ちょっと不足額責任主義とは違うような考え方になってくるのかと。

それから,責任財産限定特約付の処理との均衡というのも考える必要はあるとは思うのですが,責任財産限定特約の場合は,やはり固有財産と考えられるものも含めてまとめて倒産処理をするという局面ですので,固有財産的なものに当たる,本来は責任財産であるものとないものとがあって,両方から受けてくるということ,破産手続外にある財産から受けてくるというような問題が出てこないのかなというふうに思いますので,更に慎重に考える必要があるのではないかと思います。

● その点も,御指摘を踏まえてなお検討いたしたいと思います。

● それでは,8ページの3とあります再建型の手続の整備についてですけれども,もし御意見がございましたら。

● 先ほどの,再建型ではない方の破産手続とも関係するのですけれども,受益者に対してもこういった破たん処理手続へのトリガーを与えるということとの関係で,他方,信託契約の変更,受益者集会制度の導入等々,受益者については信託の将来,運命についてのある程度の意思決定権を与えて,それでいわば内部的といいますか自治的に解決する道も与え,それをむしろ広げていく方向にあると思うのですけれども,もし私の理解が間違っていなければ,例えば,約定どおりの弁済を受けられなかった受益者は,そういった信託契約の変更等の努力をするまでもなく,破たん処理手続を申し立てることができるということにもしなりますと,むしろこの再建型というのは非常に必要になってくるのではないかという気がいたしております。

  逆に言いますと,私は,やはりどうしても,受益者に対してトリガーを引く権利を与えるというのが,これはむしろ前半の論点にかかわりますけれども,やや分かりづらいところがありまして,そうすると,これまでの受益者に対しては,単なる債権ではないので,いろいろ,受託者に対する情報権を始めとして,意思決定等に参加する権利,いわばコントロール・ライツと言われるものをむしろ拡充する方向で話を進めてきたのではないかと思っておりまして,そのときに,6ページの説明で言いますと,ここだけ債権説が非常に顔を出してきて,受益債権も債権であるということが言われているのですけれども,むしろエクイティーとデットを区別して,信託債の発行を正面から認めることとするということも一つ考えられると思いますし,もしそうしないということであれば,この再建型の倒産処理手続は非常に必要なのではないかという気がいたします。

ちょっと誤解があるかもしれませんが,むしろ御教示いただければ幸いです。

● これは,理屈で信託財産に係る再建型手続が要るとか要らないという問題ではなくて,どこまで仕組むかということだと思います。論理的にあってはいけないとか,なければならないというものではないのだろうと思います。

  それを前提にして考えますと,まず結論から申しますと,私は,そうは言いながらこれは作る必要は余りないのではないかということなのですが,まず,再建型手続の整備の必要性というのが,事業の継続のためだということであれば,この(注11)に書いてあることが正しく当てはまるのだろうと思います。

実際,例えば民事再生手続でも,手続内で営業の全部又は重要な一部を非常に迅速に譲渡して事業の再建を果たしているというのが最近の倒産実務の傾向でございますので,営業譲渡を使った事業譲渡ができるのであれば,更にそれに加えて,論理的にはもちろん可能なのですけれども,そこまで仕組む,信託についても再建型手続を仕組む意味がどのぐらいあるのかなという気がします。

そんなにしょっちゅうあることなのかということですね,簡単に申しますと。

二つ目に,これは非常に細かい話ではあるのですが,6ページの(7)に書いてあるとおり,信託債権と受益債権について実体法上優先順位がついているという理解を仮に前提としますと,再生計画を決議するときに必ず組分けをしなければいけないことになります。

これは,民事再生の手続を作るときには,手続構造を簡易にするということで,組分けという仕組みは一切設けないという-その場の細かい例外はありましたけれども,常に組み分けが入ってくるというのは,再建型手続としては非常に重たいものになるんじゃないかなと。

あるいは,信託債権は全部満足される,100%弁済を受けるのだけれども,受益債権は100%弁済を受けないときに,そういう議決権を与えるかどうかとか,非常に細かい議論が必要になって,手続構造がいたずらに複雑になるような気がいたします。以上が第2点です。

  仮に再建型まで作る必要がないのだということを前提にしますと,次のようなことを考えないといけないことになろうかと思います。

株式会社については,その営業の全部又は重要な一部を譲渡するときには株主総会決議の特別決議が必要だということになっていますが,仮に,同じような営業譲渡をする場合に受益権集会の特別決議みたいなものをを仕組むということを考えるのであれば,さっき言ったような,上の方の債権者は全額弁済を受けられるけれども第2順位は100%弁済が受けられないという場合に,議決権はどうするかと。再生法の43条ですが,代替許可みたいな仕組みまで仕組むのか。

早く営業譲渡をするのが大事なわけですから,そういうことを考える必要があるのか。

あるいは,完全に破産に寄せてしまって,現行の破産法だと,営業譲渡するときに別に裁判所の許可だけでできて,債務超過なのか何なのか関係なしに,支払不能だけで入った場合でもなっていますが,あるいはそういう仕切りにしてしまうのか。

後者の方が,より今の破産の制度と親近性が高いと思いますけれども。

というわけで,破産で営業譲渡を早くするということができるのであれば,それに加えて別途再建型まで仕組む必要は,論理的にはないとは言いませんけれども,低いのではないかなというのが私の印象でございます。

● いずれも,受益権,あるいは受益者の位置づけということともかかわっていると思いますが。

  では,簡単に。

● 事務局の方は,どちらかというと○○幹事と同じような発想で考えていたわけでございますが,○○幹事がおっしゃられた,トリガーを受益者に与えるということから再建型を認めた方がいいというのが,ちょっと私にはいま一つぴんとこなかったところもあるのですが,できればもう少し……。

● これは私が誤解しているのかもしれませんが,例えば信託債権者がいないような場合であっても,非常に優先的に組成されている受益権に対する支払いが滞ったと,そしてその支払不能が破産原因になると,その受益者は申立てをできるのではないかと理解したのですが,それはそういうことはない……。

● そういう可能性もあるのではないかと思います。

● そうだとすると,外部の者はだれも迷惑を受けていないのに,その一人の優先受益者がもう破産だと言うと,破産手続に移行することになると思うのです。

ところが,その信託全体で見れば再建させられる可能性は大いにあると,そういうシチュエーションは出てくるのではないかというのが私の認識だったのですが。

● 恐らく,債務超過の判断は,これは先ほど少し話がございましたけれども,ゴーイングコンサーン・バリューで考えるかどうかというのも若干は影響するのかなという気がいたしますが,片や,仮に受益者についても公平弁済というのがやはり重要だということになるのだとしますと,破産は必要だというふうな……。

● ただ,そこで言われている受益者間の公平な分配というのは,何も破産だけではなくて,清算の場面でも妥当する話だと思いますので,そういう意味では,信託債権者と受益者との間の利益調整と,受益者間の利益調整との問題が二つあって,一応,私のエクイティーの理解だと,受益者の問題というのはむしろ後者の問題,受益者間の分配の公平の問題として処理されるべきではないかというふうに思いましたので。

  もしかしたら,ちょっと誤解をしているのかもしれませんけれども。

● そうしますと,受益者間の公平というのはエクイティーで,受益者同士で処理すればいいというのは,もうほとんど破産は要らないのではないかというのに近いと思ってもよろしいでしょうか。

● いえ,破産は,もし信託債権者がいなければ,それは清算手続で,信託の清算の中で行えばいいのではないかということですけれども。

● よろしいでしょうか。

● 再生手続の実務的なニーズに関しては,残念ながら網羅的な調査をしておらないので,確定的なことはお答えできませんけれども,ただ,これは内部での議論の話になるかもしれませんけれども,それほど実務的なニーズはないのではないかなということが,今のところの印象でございます。

  それはなぜかというと,先ほど○○幹事からも御指摘のとおり,(注11)のところで営業譲渡で対処できるのかという話もありましたし,また,考えてみますに,通常,再生,例えば銀行を再生させなければいけないというときには,その従業員であるなり周りの利害関係人なりを見て,やはり社会的に再生を起こすことが必要であるというようなことがおもんぱかられるわけですけれども,このような場合,通常の場合は従業員が独自に雇われていることも余り想起されないので,そういうことをおもんぱかる必要もないのではないかということでございます。

  ただ,さきの議論の中で事業信託ということが議論されましたけれども,そこでどのような広がりがあるのか,どのようなニーズがあるのかということが次のステップで議論が出てくるかもしれませんけれども,その中で,やはり必要であるということであれば,また別だと思いますので,そこは基本的には事業信託との絡みでニーズを勘案して考えていけばいいのではないかなというふうには思います。

● それでは,よろしいでしょうか。

● では,続きまして,裁判所の監督と営業信託を続けて御説明いたします。

  まず,第64でございますが,現行法第41条第1項で,非営業信託に係る受託者の信託事務は裁判所の監督に属する旨規定されております。

 この条項が置かれた理由につきましては,制定当時の信託法案説明書を拝読いたしますと,「信託事務ニ付テ特ニ裁判所ノ監督権ヲ認ムル所以ノモノハ固ヨリ信託ノ本質ニ起因シ受託者ノ権限ノ大,従テ濫用ノ弊代理,委任ノ比ニ非サルヲ以テナリ」ということが挙げられております。

更に,「信託の制度の運用に当たっては,裁判所の監視と判断のもとに置くことにより,信託の不正な利用を抑制することをねらったものと思われる。」との立法過程に関する研究成果も見られるところでございます。

  確かに,信託では,信託財産の所有権が委託者から受託者に移転しますので,非営業信託を裁判所の継続的な監督のもとに置くことは,信託な不正な利用の抑制や,受託者による権限濫用の防止のためには有用であるようにも考えられます。

  しかしながら,まず,裁判所は通常,信託設定の事実を認識し得ませんので,裁判所が継続的に受託者の信託事務を監督する旨規定しても実効性があるとは言い難いですし,また,裁判所による監督の実効性を確保する観点から当事者が裁判所に対して信託設定の事実等を適宜報告しなければならないとすることは,信託の自由な利用の阻害にもつながりかねないと思われます。

  そもそも,現行法が非営業信託を裁判所の監督のもとに置くとしたのは,信託の不正な目的のために利用されるなど,信託及び受託者に対する信用が低かったという制定当時の状況を反映したものであると考えられますが,このような要請は現在では相対的に低いものと考えられます。

そして,信託の不正な利用に対しましては,脱法信託や詐害信託の禁止等の規定の適用によって排除することができると考えられますし,今回の信託法改正においても,委託者,受益者その他の利害関係人に対して受託者の信託事務処理に対する監督是正権を付与することとしておりますので,受益者らがこれらの権利を適切に行使することによって受託者の監督は十分可能であって,これに加えて裁判所が非営業信託を継続的に監督するまでの必要性ないし合理性はなく,委任等の他の法制度とのバランスからも適当ではないのではないかと考えられるところでございます。

  また,現行法は米国等の扱いに倣ったものとされておりますが,米国での信託に対する裁判所の関与の在り方については近時変化が見られるようでございまして,例えば統一信託法典を見ましても,裁判所は,その管轄権が利害関係人により,また法律の規定により発動される限度で信託の管理に介入することができるですとか,信託は裁判所による命令のない限り継続的司法監督に服さない旨規定がございます。このような米国での変化は,我が国の信託法の改正においても参考になるのではないかと思われるところでございます。

  以上申し上げたような点を総合的に考慮いたしまして,今回の提案では,非営業信託に係る受託者の信託事務を裁判所が継続的に監督するとの規律を採用しない,すなわち,現行法第41条第1項の規定を削除することを提案するものでございます。

  なお,念のためでございますが,(注)にも書きましたとおり,この提案は,信託に対する裁判所の関与を全く認めないとするものではございません。

すなわち,受益者らの申立権の行使に基づく裁判所の個別的な関与は認めるわけでございますが,それを超えて裁判所の一般的・継続的な監督までは認めないということを提案するものでございます。

  続きまして,営業信託のところ,第65に移ります。

  第65は,信託の引受行為を商行為とする現行法第6条の趣旨を維持し,商法第502条に1号を付加するのと同様の効果を有するものでございます。

営業として信託の引受けを行った場合には,当該引受行為はもちろん,これに基づく信託の事務処理全体が商業的色彩を帯びると考えられるからでございます。

営業として行った信託の引受行為が商行為とされる結果,営業として信託の引受けを行った受託者は商法第4条によりまして商人となりますので,当該受託者には商人に関する規定が適用されまして,また,その受託者がその営業のためにした行為は附属的商行為となり,商行為に関する規定が商法第503条により適用されるということになります。

例えば,信託報酬の支払義務,受益債権の支払義務は,商行為によって生じた債務に該当し,商事法定利率,あるいは商事時効等が適用されることになります。

 なお,会社が営業として公益信託を引き受けた場合,実務上は,当該信託を営業信託と考え,商行為に当たると考えておりますが,公益法人が営業としてではなく信託を引き受けた場合には,どのような信託を引き受けた場合であっても商行為にはならず,受益債権の消滅時効等の扱いが異なるのは問題がないかといった指摘もございました。

しかしながら,同様のことは,同じ内容の売買等の契約を商人が行うか非商人が行うかでも生じ得るのでございまして,取引主体の違いによって結果が異なることは不合理とは言えないと考えているところでございます。

  以上が,営業信託についての説明でございます。

● 少し性格の違う問題ですので,順に御議論いただきたいと思います。

  まず,「第64 裁判所の監督について」ですが,いかがでしょうか。41条1項の規定は削除すると。もちろん,一切関与を認めないという趣旨ではないということですが。

● 結論に異論があるわけではないのですけれども,御説明の箇所について,2点。

  一つは,米国の状況ということでございまして,裁判所の関与の在り方が変わってきているというのは確かだと思いますけれども,信託というのは常に一般的・継続的に裁判所の監督のもとで行われる仕組みだという性質は変わっていないのだろうと思います。

ただ,現実に照らして,その具体的発現の仕方に変化が出ているということだろうと思います。

ただ,そういう状況がそのまま日本に当てはまるかというのはまた別の問題ですので,アメリカの理解の仕方について少し留保が必要なのかなというふうに思います。

  それから,当初の41条の規定の趣旨との関係での御説明で,信託の不正な利用を抑制することを目的としていたという点,現在ではそういう懸念はないだろうということなのですが,今まではなかったろうと思うのですけれども,他方で,信託業法の改正によっていろいろな主体が受託者として登場するということによって,むしろ懸念が復活するということも言われておりますので,この第64自体についてどうということではなく,一般的にはそういう懸念もありますので,例えば,特に個別の裁判所による監督の在り方のところでは,やはりそういう面は留意する必要があるのだろうと思います。

● 41条1項の削除自体はいいけれども,しかし,主体の多様化にかんがみて個別の手当てを更に検討すべきだと,こういうことですね。

この41条1項の削除自体について,御異論は特にございませんでしょうか。

  それでは,○○幹事の御意見を踏まえて更に検討するということで。

  続きまして,「第65 営業信託の商行為性について」,いかがでしょうか。

  これも特に御異論はございませんでしょうか。首を振っていらっしゃる委員・幹事の方が何人かいらっしゃるようですので……。

  では,特にないようでしたら,先に進めたいと思います。

● では,続けて,第66,合同運用の方に移らせていただきます。

 信託におきましても,信託財産の効率的な運用の見地から複数の信託契約に係る複数の信託財産について合同運用がなされておりまして,例えば,ある信託に属する金銭と他の信託に属する金銭とを合わせて第三者に利息付で貸し付けたり,あるいは収益を生ずる資産を購入し,あるいは投資目的で再信託契約を締結するなどの例があると聞いております。

現行実務で利用されているものとしては,貸付信託,合同運用金銭信託等が挙げられているところでございます。

  まず,1でございますが,これは,いかなる要件のもとで受託者が各信託財産を合同運用できるものとするかについて,甲案と乙案の2案を提示するものでございます。

このうち,甲案は,合同運用のためには信託行為においてこれを許容する別段の定めがあることが必要であるとする考え方でございます。

この考え方は,合同運用には分別管理義務と抵触を来す面があるものととらえるために,合同運用を行うためには信託行為において合同運用ができる旨の定めがあることを要すると解するものでございます。 

  このように甲案が合同運用を分別管理義務の問題と位置づけることの根拠は,分別管理義務の趣旨につきまして,信託財産の倒産隔離を図ることのみならず,各信託に属する財産について生じた損害は当該財産のみが個別に負担すべきことを確保することにもあるととらえているところにあると考えられます。

そして,各信託に属する財産につきまして,これが個別運用されている場合とは異なり,合同運用されている場合には,合同運用財産について生じた損害は各財産を拠出した各信託財産が案分して負担することになりますので,損害の個別負担ではなく案分負担という結果を招くことになる合同運用は分別管理義務の例外に当たるものであると整理することになると考えられます。

  これに対して,乙案でございますが,これは,合同運用のためには信託行為においてこれを許容する明示的な定めがあることは要しないとする考え方でございます。

甲案と異なり,合同運用をもって分別管理義務上の問題があるものとはとらえておりません。

  もっとも,別途受託者の権限の問題については検討する必要がございますが,合同運用を行うことが受託者の権限の範囲内であることは必要というわけでございますが,受託者の権限に関しましては,かつて第5回会議で扱われました「受託者の権限について」というところで,「受託者は……信託財産の管理又は処分その他信託目的の達成のために必要な行為を行う権限を有する」という幅の広い規律を提案しておりまして,このような柔軟な権限規定のもとでは,規模の利益を追求し,リスクの平準化を図ることができるという点において,受益者の利益に資する合同運用につきましては,信託行為にあえて明示的な定めを置かなくとも,「信託目的の達成のために必要な行為」に当たる場合には,当然に受託者の有する権限の範囲内に含まれるとするのが合理的であると考えられます。

そこで,結論として,合同運用を行うことができるとするためには特段の規定は要しないと解するものでございます。

  乙案が合同運用に分別管理義務上の問題がないと考えますのは,14ページの(注4)というところにも書きましたけれども,分別管理義務の趣旨は,究極的には信託財産の管理の局面において倒産隔離を図ることにありまして,信託財産を合同して処分することまで禁止する規範ではないととらえた上で,まず,各信託財産が合同運用財産について有する共有持分権,又は再信託契約に基づき有する受益権が計算上区別されていれば,倒産隔離は図られ,分別管理義務も果たされていると考えられることですとか,あるいは,合同運用は,信託財産と他の信託財産又は受託者の固有財産との場合に限らず,信託財産と第三者の財産との場合もあり得ますところ,この最後の場合,第三者の財産が入る場合については分別管理義務の問題として整理されてはいないと思われることにかんがみますと,そもそも分別管理義務の問題として整理することには疑問があると考えられることなどを理由とするものでございます。

以上の甲案,乙案につきまして,あるいはほかにより適切な考え方があれば,御審議をいただければと思います。

  次に,2でございますが,これは,複数の信託契約に基づく信託ではあるものの,各信託財産が合同して運用されており,実質的な一個の信託であるとの評価が可能である場合には,一つの信託契約に基づく信託に複数の受益者が存する場合と同様の取扱いをすることが合理的である,こういう指摘があることを踏まえたものでございます。

  仮にこの考え方が妥当としますと,実質的に一個の信託であるとの評価が可能である信託を選別するための要件はいかなるものか,あるいは,いかなる規定について一つの信託契約に複数の受益者が存する場合と同様の取扱いをすることが合理的であるのかということを踏まえつつ,このような考え方に基づく制度を設けることの当否について御審議をいただければと考えております。

 最後に,3でございますが,これは,理論的には,合同運用団をもってあえて複数受益者の存する一つの信託と同視する必要はなく,あくまでもその法形式どおりに,複数の信託契約に基づく複数の信託財産,受益者の束であるという前提をとったといたしまして,その上で,実務的に,この考え方に従った場合には不都合があると指摘されている場面について,本当に不都合があり,対処すべく何らかの規定を設ける必要があると言えるのかについて検討を試みたものでございます。

  まず,第1点の前段でございますが,これは,合同運用財産全体に関する信託帳簿の閲覧請求権を各信託の受益者に認めた場合には,信託事務の円滑な遂行の支障となったり,請求者以外の受益者の利益が害されかねず,かかる弊害に対処する必要があることにかんがみ,閲覧請求権については,合同運用団を単位とした一つの信託に複数の受益者が存するものと解する必要があるのではないかという問題指摘でございます。

これは,閲覧請求権を少数受益者権とする,例えば商法に倣って総受益権の100分の3以上を要するというようなことにするのであれば,合同運用団全体を一つの信託とみなすことによって分母を飛躍的に増大させることによりまして,受益権の保有要件を満たす受益者が著しく減少するという効果があると考えられます。

しかしながら,かつて提案いたしましたとおり,受益者の信託帳簿閲覧請求権を単独受益者権とするのであれば,結局,どのように分母をふやしましても,いずれの受益者も自由に閲覧請求権を行使できることに変わりはないので,このような考え方を維持する限りにおいては,実益の乏しい議論ではないかと思われるわけでございます。

  また,第1点の後段でございますが,これは,合同運用団全体を一つの信託と解することができない限りは,信託帳簿を一個作成するのみでは足りず,信託契約の個数に応じた複数の信託帳簿を作成しなければならなくなるのではないかという問題指摘だと思われます。

この点につきましては,15ページの(注5)に書きましたところですが,信託帳簿の作成義務については,合同運用財産全体についての帳簿は作成せざるを得ず,他方,これを作成すれば,この帳簿をもって各信託に係る信託帳簿とすることができ,各信託ごとに更に帳簿を作成する必要はないと考えられますので,実務上格別の不都合が生ずることはないと思われるということを書かせていただいたものでございます。

  次に,第2点は,例えば,合同運用財産につきまして,運営方法の変更,すなわち個々の信託契約における信託の変更を要する場合などを考えてみますと,合同運用団を単位とした一つの信託に複数の受益者が存するものと解すれば,受益者が複数の信託に関する規律,例えば多数決制度を導入することができて効率的ではないかという問題指摘でございます。

この点につきましては(注6)に書きましたが,かつて第8回会議で取り扱いました「信託行為の変更について」において提案しているところによりますと,信託行為の変更に関する方法を定めた規定は任意規定でございまして,例えば,各信託契約において,合同運用団の運用方法の変更は同一の合同運用団の受益者全員の多数決による決議に基づき行うものとするというような別段の定めを設けることによって対処可能であるようにも思われますが,このような信託行為における別段の定めに委ねることとした場合の不都合の存否も勘案して,この点はなお検討したいと考えているところでございます。

  最後に,第3点は,合同運用信託の受託者が受益権を取得したとしても,現行法9条に定める受託者の信託利益享受禁止の原則に抵触せず,信託が終了しないものとする実務上の要請がありますところ,合同運用団を単位とした一つの信託に複数の受益者がいるものと説明することができるとすれば,受託者が共同受益者の一人になった場合にすぎないと解することができ,9条に違反するものではないということになって,実務の必要性にかなうのではないかという問題指摘でございます。

この点につきましては(注7)に記載したとおりでございますが,第3回会議で取り扱いました「受託者の利益享受の制限について」で提案しているところによれば,単独受託者が単独受益者から受益権全部を取得したといたしましても,相当な時期に受益権の全部又は一部を処分すれば信託を終了しないということを明らかにするのであれば,合同運用団をもって一つの信託とみなさなくても不都合は生じないのではないかと考えられるところでございます。

  以上のような諸問題についての考え方,その他検討すべき事項があれば,あわせて御意見,御審議をお願いしたいと思います。

● それでは,合同運用について,大きく分けて三つの問題点があるわけですけれども,どこからでも御自由に御発言いただきたいと思います。

● それでは,2点。

  1点目でございますが,一つ目の丸の問題でございますが,これについては,乙案を支持ということでございます。

  一般に,利殖を目的とする信託の場合につきましては,合同運用を行うことが,規模のメリットとリスクの分散という二つの観点から,基本的には信託目的に合致しているということと,あと,当然,権限の範囲内であると考えられますので,信託契約に明示的な定めを置く必要はないのではないかと。

また,合同運用をしている場合については,それぞれの信託に,これは説明文の中に入っていましたけれども,共有持分権が帰属していると考えられますし,その共有持分権が計算上管理されていれば,言いかえますと帳簿により管理されていれば,分別管理義務というのは果たされているのではないかと思われますので,特段の規定は設けなくてもいいのではないかということで,乙案支持ということでございます。

  2点目は,二つ目の丸と三つ目の丸ということでございますけれども,私の方から,第3回の本席におきまして,「第6 受託者の利益享受の制限について」という部分と,第7回目の「第49 受益者が複数の信託の意思決定方法について」というところで,複数の信託契約ではあるけれども合同運用によって一つの信託であると評価できるものについては特別の規定をお願いできないかというような主張を行わせていただきましたけれども,その後いろいろと検討しました結果,ここについては考え方を変えております。

  実際,実務上懸念していましたのは,先ほど御説明がありましたけれども,受託者の利益享受の制限の部分について,新しい規律によりますと,受益権全部を取得したとしても相当期間保有できるというようなことであるとか,あとは,複数受益者の意思決定の問題につきましても,基本的には契約に書くことによって対応ができると。

逆に,書く・書かないというところでの自由度が増すというところがございますので,基本的には特別の規定を設けていただきたいというようなことを申し上げましたが,ここの部分については撤回いたしまして,こういう規定のないような形でお願いできないかということでございます。

● ほかに。

● 一番最初の甲案,乙案のところですけれども,これは甲案の方に賛成いたします。

  例えば,受益権の販売という形で多数の人からお金を集めるような場合を想定しますと,この受益権を買うという立場からすれば,買う段階でそれを買うかどうかを判断するわけですから,その段階では,信託行為で,将来はこういう規模でやりますよとか,これとこれが一緒になる可能性がありますよとか,そういうのが明示されていないと判断のしようがない。

受益権を買った後で,それが知らないところで,別のところと合同でこうやってこんな規模になっているという,そういう全くそれに対するリスクを負担する覚悟のないリスクがかぶってくることもありますので,信託行為の明示が必要と考えます。

● 今,甲案,乙案,それぞれ意見が出たわけですが,ほかにいかがでしょうか。

● 質問なのですが,仮に甲案となった場合に,例えばその甲案のとおりに履践しなかった場合の効果というのはどうなるのでしょうかということです。

  本件に関しては,ちょっと私の意見はないわけでして,ただ,実務においては信託の場合は書いているというわけですので,まあどちらでもいいのかなというふうには思います。

ただ,実際に○○委員がおっしゃったとおり,いわば投資家保護の観点もありますし,他方,自由な規律を求めるために,こういうものはあえて必要ない,必要なときに入れるべきであって,ないしは信託業法であるとか投資ルールの中で決めるべきであるという考え方もあろうと思うのですけれども,それを考える前に,そもそも,これを置いたとして,それを守らなかった場合の効果ということについてどうお考えなのかということをお尋ねしたいと思います。

● 今のは,甲案の考え方をとった場合に,その違反があった場合ということだろうと思います。

甲案というのは,結局,信託行為に定めを置きましょうというだけしか書いておりませんが,一応,ここに掲げましたところでは,その背景にあるのは,基本的には分別管理義務の問題が控えているからであるという考え方だろうかと思います。

その考え方によりますと,これは結局,分別管理義務違反そのものでございますので,分別管理義務に違反した状態で損害が生じたときにどういう責任を負うのかと。

今の信託法ですと,28条に俗に無過失責任といわれる規定があったかと思いますが,そういう規定がかかるような状態になるというようなことではないかと思います。

  あるいは,全く逆に,乙案のように権限の問題にも関係するのではないかという考え方も一応あり得るのかなという気はいたしまして,つまり,合同運用の権限がありますよと書かない限りは合同運用の権限はないという趣旨であるとすると,結局は権限違反の問題になりますので,取消しとか何とかという話になるのかなと。

 恐らく,○○委員がおっしゃったのは,どちらかというと権限の問題で整理した方が話はつながりやすいのかもわかりません。

それはよく分かりませんけれども,分別管理の問題というふうに考える,あるいは権限の問題として考える,一応両方あり得るのではないかなというのが……。

● そうしますと,私なりの整理をすると,一見甲案の方が受益者保護にたけているというふうに見えたとしても,今さっきの御説明によれば,甲案によれば受託者に対する損害賠償請求権にとどまって,本質的な,こんな信託は認められないという取消しまでは認められないと。

むしろ乙案の方が取消しができるということである-もちろん,いろいろな場合があって,どっちがいいか悪いかということは一概に言えませんけれども,乙案をとった場合に取消しができるという余地を残すという意味で,乙案の方がいいという考え方もあるという,そういう整理になるということですか。

● 一概にどうだというのは,今おっしゃったように言いにくいところではありまして……。

分岐点としては,まず,権限違反あるいは権限の問題として合同運用をとらえるかどうか,ここで一つ分岐点がございますし,更に分別管理上も問題があるかと,二つ分岐点があって,ここでは,もともとほかの研究会がございましたが,そちらの研究会の方で指摘された考え方ということで一応二つ挙げておりますが,分岐点は2掛ける2で4になるのかなという気はいたしますけれども。ですから,一概に甲案なら,乙案ならと言うと,ちょっと語弊があるかもわかりません。

● 確かに2種類の問題があって,それから更に,結果としてはどちらの方がどういう利益を保護できるかということとかかわってくるのだと思いますけれども,今の○○委員の御意見の中で,いずれにしても信託行為に書くのだから実務では余り影響ないというふうなことだったのですが,その点は,○○委員はいかがでしょうか。

● 基本的にはほとんど書いていると思いますので,実務上の影響はないと思うのですけれども,基本的な合同運用についての考え方というところからすると,やはりそういう-例えば利殖ということを目的にする限りにおいては,基本的に,それこそ規模を追求して,そのメリットと,リスクを分散するというような観点からすると,まあいい方向に行くのだろうと思いますし,そういう権限はそもそもあるのだろうということですので,あえてそこは書く必要がないのではないかということと,あと,合同運用の状態というもの自体を考えたときに,共有というものは今まで余り考えられてこなかったのではないかと思うのですけれども,共有状態というもの自体がそもそも認められると,そういうことを分かっていただきたいというか,そういう状態にしていただきたいというようなことで,乙案支持ということを申し上げた次第です。

● そうすると,実務上の便宜というよりも,むしろ考え方として認めてほしいということですね。

● 私も余り実益のあるコメントではないのですけれども,どちらをデフォルトにするかという問題で,実際は余り困らないでしょうということだと思うのですけれども,考え方ということで1点。(注2)に関連するのですけれども。

信信間を合同運用する場合はどうか,そして,しかし固有財産と合同運用するというのは,これは(注2)だけを読みますと,その合同運用を続けていった後の状況次第では忠実義務の問題が生じますよというふうに読めるのですけれども,固有財産と合同運用するということ自体がやはり忠実義務の問題ではないかと思うのですね。

したがって,例えば乙案のような考え方をとる場合には,もうこれは忠実義務の例外規定であって,合同運用に関する限りはこの法律の規定がそれを認めているのだという理解にすべきではないかと思います。

甲案をとる場合には,ここで言う信託契約に書いた,信託行為に書いたということをもっていわば忠実義務を解除するというふうに解釈できますので,そこの問題はないと思うのですけれども。ちょっとそういう点が考え方のレベルであるように思います。

  実際どうするかは,運用目的の場合には,実際問題としては合同運用しないと動かない話だとは思うのですけれども,デフォルトルールがどちらであるにせよ,恐らく実益はないので,そこは実務的に詰めていただければと思います。

  もう1点,ついでによろしいですか。甲,乙以外で。

  これは○○委員がおっしゃったことで,私,過去,大学の授業等で欠席してしまっていますものですから,大きな誤解をしているかもしれないのですけれども,先ほどの○○委員の御発言を伺っていますと,分割して多数の受益者がいる場合には,多数決というのでしょうか,前の方でやったようなルール,現在の信託法ではなくて,新しいルールを設けた方がいいけれども,ここで問題になっているような場合,すなわち信託契約が複数ある典型的な場合は不要ですと,なぜならばそれは信託契約で定めることによって対応できるからですというふうに聞こえたのですけれども,私がこの第66を読ませていただいた限りにおいては,二つ目の丸のような提案というのはどのように考えるべきかというか,提案ではないと思うのですけれども,確かに,14ページに書かれたように,どういうように線引きをするかというのは,仮にこういうルールを設けるとすると物すごく難しい問題はあると思うのですけれども,ただ,もし○○委員がおっしゃったようなことであれば私も心配はないのですけれども,本当にそうなのかというのがちょっと心配なのです。

  つまり,どういうことかというと,多数決等で定めてよろしいというのは,受益者が複数いるときに,その過半数とか3分の2とかで決めてもいいですということを議論しておられたのではないかと思うのですけれども,そうだとすると,今は受益者以外の人の意思で決めますというのがここの問題になるのですね。

例えば,100本信託契約がある場合に,受益者は一人なのですけれども,1本1本は,あなたの意思では決まりませんよと。

物事を決めるときには,ほかの67人か何かの意思で,内容はそれぞれいろいろありますけれども,あなたの信託契約も決まりますよということをここの信託契約で決めていいということを前提での御発言だと思うのですけれども,もしそうであれば私も心配はないのですけれども,果たしてそうなのかはちょっと疑問です。

  現在,例えば信託約款の変更というのが,兼営法の5条の3に基づく手続等ありますけれども,これは,1本1本あって,しかし集団的信託約款というか内容は全部同一であって,本来は一人一人の同意があって変更すべきものを特別法でああいうルールを設けているにすぎないと思うのですね。

ですから,信託行為で書いておけば,その受益者-一人しかいないわけですけれども-の割合に関係なく,ほかの人の意見で決めますということも議論されて,そういうものをもって多数決ということであったならばいいのですけれども,○○委員がおっしゃった前提のところが確認されているかどうかが,もし私が欠席していたときに議論されていたのだとすれば

申し訳ないのですけれども,一応発言させていただきます。

● 今,○○委員がおっしゃった,ほかの信託の受益者の同意というようなことも別の信託の信託行為で書けるかということでございますが,事務局の方のこれまでの提案では,例えば信託行為の変更などの局面でも,第三者,あるいはもちろん受益者でもいいですけれども,第三者に対して変更権を与えるということも信託行為で定めることができると。

  そういうことからいたしますと,第三者,例えば別の信託の受益者,A,B,Cという同じような運用をしている他の受益者の意思も合わせて信託行為の変更を定めることができるというように信託行為で定めれば,そういうことも許されるのではないかと考えられまして,結局,信託行為でそのような権限を与えられる者が,同一信託の中でなくても,外部の者であっても,信託行為でそういう授権はできるというところは,信託行為の変更一般の場合であっても,このような合同運用の他の信託がいる場合であっても,同じように信託行為で決められるのではないかということで,それとの並びで,我々としては,ある信託行為で他の合同運用に供されている信託財産の受益者との共通の意思決定で定めることができますというような規定を設けることは,可能ではないかと考えているところでございます。

● もう1点,先へ進めて,例えば利益相反行為があるものに同意をするような場合というのはどうなんでしょうか。

信託行為に,他の受益者の-他のというのはどう特定するのかよく分かりませんけれども,100本あるうちの他の67本の者-全部均等ではありませんけれども-が同意すれば,それで結構でございますというようなことでよろしい……。信託行為の変更は分かりましたけれども。

● ○○委員が今おっしゃった点に関しましては,これまでの部会での議論の状況について申し上げますと,少なくとも信託行為の変更だけでございましたので,忠実義務違反に対する同意というところはもちろん任意規定でという話はございますけれども,そこのところでの信託行為による別段の定めがどこまでという議論は恐らくまだこの部会ではされておりません。

● そうすると,もうちょっと考えなければいけないということかと思いますけれども,より一般的に言えば,まだいろいろな場合がありますよね。

今,二つ典型的な場合を挙げただけでして。多数決で決める必要があるのではないかと。

複数の場合に,分割されている場合に。ですから,そうだとすると,もうこっちは何も要らないよと○○委員のように言い切ってしまっていいのかどうかが私はかえって心配になってきまして……。

  もうちょっと,幾つかのケースというか,ひょっとするとすべてのケースについて詰める必要があるのではないでしょうか。どうも信託行為の変更は不要そうなのですけれども,今の御説明を伺いますと。

● 恐らくおっしゃるとおりで,受益者が同意をして意思決定をしますというようなのは幾つかパターンがございますし,あるいは委託者が入ったりというのを他のところで網罪的に整理しておりますので,そのあたりについてということかなというふうに思います。また検討するということかと思います。

  それから,今,こちらの考えとして申し上げましたけれども,まだ信託行為の変更の部分についても方向性が決まったということではもちろんございません。

● いずれまた変更のところでも御議論いただけると思いますが。

● 今の点に重ねて,一つ質問なのですが。

  そこで前提にされていますのは,実質的に1個の信託であるとの評価は可能であるということで,そして,そのような信託を選別するための要件を検討する必要があると。

正にそのとおりなのですが,必要がある,どう考えましょうということをお聞きになっているだけだろうとは思うのですが,大体どういうものを想定されているのかというのがちょっと分からないもので,議論のしようがないということもあろうかと思います。

  考え方といたしましては,いろいろあるだろうとは思うのですけれども,一番問題が生ずるかなと思いますのは,客観的に見て何か基準を立てて,これは同一だから1個のものとして扱うというのが何か外からふってわいてくる,それによって,個々の受益者としては,自分は1本だと思っていたところが,まとまった扱いを受けることになると。それが,今の○○委員の一番大きい問題を生む原因なんだろうと思うのですね。

  ですから,やはり,何が1個の信託であると評価するかという,その規準を語らないと進まないんじゃないかなという気がいたします。

何か想定されているものがあるならば,お教えいただきたいですし,それも全部オープンなのだということであれば,今後の課題かなというところですが。

● 具体的な例としては,ここの2のところに,例えば貸付信託とか合同運用金銭信託と,こういう実務でやっているものが典型的に想定しているものでございますが,こういう例は例といたしまして,ではどういう要件を設けるかというのは特に想定しているものはございませんで,そこについてオープンに議論をしていただければという趣旨でございます。

● 今の点につきましては,私自身は,契約に分かるように書いていればそれがそうなんだろうなというふうに思っていたのですが,そういうことでもないのでしょうか。

例えば貸付信託であってもそうですし,合同運用でもそうですけれども,それは契約があって,その契約に入ってくる人からすると,ある一定の範囲内のものは一つの運用団として運用されるのだろうなということが分かりますので。私はそんなイメージでいたのですけれども,そういうことではないのですか。

● 逆に言うと,信託行為に書いていないとだめだということですね。

● はい。

● 恐らくそういう切り口も-つまり,結局のところ当事者がどう思ったかにかからしめるという考え方かと思いますが,そういうのもあるのではないかという気もいたしますが,それは結局のところ,実は一つの信託であるという契約を結ぶのと変わらないか,あるいは,この2で言いますと,この考え方自体は,以前御指摘を受けてというところはございますけれども,当事者が1個の信託になりますというふうに書かなくても,一つの信託であるという扱いをすることに合理性がある局面というのは多いのではないかということでこういった発想が出てきているんじゃないかなという気がいたしますので,そういうふうに解しますと,当事者がどう書いたというよりは,先ほど○○幹事がおっしゃったような,外部的に客観的要件を決めてという方が,何となく発想自体からはなじみがあるのかなという気はいたします。

この提案をされる方からすればということかと思いますが。

● 今の点に関連して。

  余り細かい話はどうかと思うのですけれども,私も今の点は気になっていまして,もし線を引くとすると,合同運用だから特別だということなんですよね。

そうすると,それを合同運用しますと書いてあれば,実際にされなくてもこの中に入ってくるのか。

それから,乙案なんかをとると,仮に何も書いていなくても,勝手にといっては何ですけれども,必要の限りで合同運用できるわけですから,これは書いてあるものを基準にすることはできないわけですし,仮に一部だけ書いておくこともできるわけですから,やはり書いてあるものを基準には恐らくできない。

基準にしていいというルールを書けばいいのですけれども,書かない限りにおいては,現在提案されているような形での線引きは恐らくできないということだと思うのです。

  それから,全部書いたところでということだけで決められるかというと,これも,横の運用もあれば,並列的なものと,それから縦の再信託を含めての直列的なものもありますので,これまた書き方によってなかなかややこしい問題が出てくるような感じもするのですね。

  他方,もう実態でというのは,もうもともとの発想が,これは実態が合同運用ならそうじゃないですかという,実質から出発した提案だと思いますから,その意味では全く正しいのですけれども,それを法律にどう書くかという非常に難しい問題があるものですから,そうすると,どうしてもある程度,信託契約に書いてくださいというテクニックを使うとか,何かをやはり経由しなければいけないという,そういう問題だと思います。

  何か,全然意見もなくて,問題の所在だけ言っていて,大変申し訳ないのですけれども。

  それで,多数決のところの資料を拝見しますと,表があって,前の方の資料ですけれども,部会資料7か何かで,やはり,「多数決による意思決定の可否」が「可」と書いてあるのがたくさんありますよね,ほかにも。

先ほどの例以外にも。ですから,例えば信託の併合・分割の合意権,受託者の辞任に対する承諾権,受託者の解任……  。

私,表だけしか見ていませんので,何か間が抜けているかもしれませんけれども。ですから,全部やっていかないとまずいんじゃないでしょうかね。この合同運用の場合について今の問題をどう考えるかということを検討するためには。

● そうですね。更に具体的に,できるだけケースをすべて網羅するような形で検討するということが必要だろうと思いますし,それはまた今後,引き続き検討するということになると思います。

● 1点だけなのですが,当事者意思の問題が出ておりますので,一言だけ申し上げますと,当事者意思が合同運用にあったからといって,複数受益者の規律に関して適用されるという当事者意思があるというふうには言えないわけであって,合同運用されるという意思が,定型的に,すべてのものを一緒に持ってくる意思を持っているとは言えないわけですので,結論から申しますと,すべてのことについて書かないとだめなんじゃないかと思うのですけれども。

● 実体的にどういうふうに切るかということと,それから,それが外から見たときに明確に区別できるかと,多分,論理的には2種類あると思うのですが,それが実はもう切れないかもしれないということでしょうか。

  この甲案,乙案について,それぞれ御意見が出ておりまして,実務的にはそれほど変わらないかもしれないけれども,しかし投資者保護というようなことを考える必要があるのではないかと。

更に,忠実義務との関係,分別管理との関係を検討すると。更に,この一つ目,二つ目の丸を通じてより分析的に考えていくべきだというような御意見をいただいております。

  15ページに,具体的な問題として,信託帳簿の閲覧等々についての事務局からの質問もあるわけですが,もしこの点について御意見があれば。

あるいはほかの点でも結構ですけれども。もう時間が近づいておりますから,今日は合同運用までしかできませんけれども。

● もう1点だけ,よろしいでしょうか。

  かねがねから,私,疑問に思っていた点を,ちょっと今の点に関係するので,簡単に申し上げさせていただきたいと思います。

 今回,信託法の改正の方で手当てがされるのかもしれないのですけれども,それは信託業法とか-信託業法も今度変わりましたけれども,この部分は変わってないと思うのですけれども,兼営法とかがある部分でして,受託者-今で言えば信託銀行ですけれども-が合併をしたり分割をしたりする場合なのですけれども,こういう合同運用,例えば合同運用金銭信託が行われていたとしまして,そこで一人が文句を言うとどうなるかということがありまして,これはどうもよく分からないのですね。

  よく分からないというのはどういうことかといいますと,信託法の合併というのは解散と同じ扱いに現在はなっている。

受託者の更迭が起きるかどうかということなのですけれども,業法の方は特別規定になっていまして。ですから,原則は,引き継がれると。

A信託銀行さんがやっていた合同運用金銭信託は,A信託銀行がB信託銀行と合併すれば,B信託銀行が存続会社だとしますと,それはB信託銀行に引き継がれるというのが普通の,そういうふうに規定は書いてあるのですけれども,ただ,問題は,その中で一人の人が合同運用金銭信託で反対したらどうなるかというと,よく分からないのですね。

どうもその部分についてだけ受託者の更迭-今の言葉で言うと更迭というか,交代と言ってもいいと思いますけれども-が起きるというふうに読まざるを得ないのか。

しかし,それは余り現実的でないことは明らかですよね。1,000人いて,999人の部分についてはB銀行が引き続き受託者でございます,しかし残りの一人の分については,一体どうするのか知りませんけれども,新しい受託者を選ぶのか何か,とにかく合同運用しているからです。

  これはちょっと例として申し上げただけで,そういう場合も,契約であらかじめ決めておくことによって対応できるということであれば誠に結構だと思うのですけれども,もしそういう問題があるとすると,その線の引き方は非常に難しいのですけれども,少なくとも非常に典型的な合同運用の場合-というのでしょうか,うまい表現ができませんけれども-については,やはり何らかの知恵がないと,実際は分からないまま推移するということになるのではないか。

そういう意味ではちょっと改善が必要なのではないかと思います。ひょっとすると特別法の方の問題なのかもしれませんけれども。

● ほかにございませんでしょうか。   それでは,これで閉会いたします。

PAGE TOP