加工 商業登記受託促進研修会第2部

日本司法書士会連合会

第2部4.変更登記・組織再編編

4-1 期間計算の基礎知識

(1)概説

法定の期間の定めに違反すると

◆ 決議取消しの原因

◆ 手続の無効原因

◆ 会社法や一般法人法に期間の計算方法の規定はない

◆ 期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う(民法138条)。

その他、発信主義、到達主義、擬制到達についての確認も必要

(2)会社法の期間の定め方

会社法の期間の定め方については、いろいろな表現がある

1〇日前まで、〇週間前まで、〇月前までのように「~前まで」とするもの

国税徴収法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000147

(公売公告)

第九十五条 税務署長は、差押財産等を公売に付するときは、公売の日の少なくとも十日前までに、次に掲げる事項を公告しなければならない。ただし、公売に付する財産(以下「公売財産」という。)が不相応の保存費を要し、又はその価額を著しく減少するおそれがあると認めるときは、この期間を短縮することができる。―以下略―

20日以内、0週間以内、0月以内のように「~以内」とするもの

民法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

附 則 (令和四年一二月一六日法律第一〇二号) 抄

(施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

3〇箇月を下ることができない(会社法449条2項等)

4効力発生日から6箇月間(会社法182条の6第2項等)

5定時株主総会の日の〇週間前の日から〇年間(会社法442条1項・2項)

6株主総会の日の2週間前の日(会社法782条2項)

7受領した日から〇週間を経過した日(会社計算規則124条1項1号イ等)

8株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過したとき(会社法225条1項)

9株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日(会社法228条1項)

10定時株主総会の終結の日後5年を経過する日まで(会社法440条3項)

※「経過した日」とは、特定の日を指し、「経過したとき」は、「時」ではなく「とき」とされていることから、「経過した場合」という意味であり、「経過した日以後」を意味する

(みずほ信託銀行証券代行部「企業再編手続ガイドブック」199頁、商事法務、2007年)。

(3)現時点から将来に向けての規定例

現時点から将来に向けては、次のようなものがある

1基準日を定める場合には、基準日から3箇月以内(会社法124条2項)

2議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合(会社法304条)

3株主総会の日から3箇月間(会社法310条6項、311条3項)

4選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法336条1項)

5定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては、2週間)前の日から5年間(会社法442条1項1号)

6吸収合併契約等備置開始日から吸収合併等がその効力発生日後6箇月を経過する日まで(会社法782条1項)

7効力発生日から60日以内(会社法786条1項)

8株主総会等の決議の日から3箇月以内(会社法831条1項)

(4)現時点から遡るものの規定例

現時点から遡るものとしては、次のようなものがある

1        当該基準日の2週間前まで(会社法124条3項)

2        当該行為の効力が生ずる日の1箇月前まで(会社法219条1項)

3        株主総会の日の2週間前まで(会社法299条1項)

4        総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6箇月前から(会社法303条2項)

5        株主総会の日の8週間前まで(会社法303条2項)

6        株主総会の日の3日前まで(会社法313条2項)

7        株主総会の日の2週間前の日(会社法782条2項)

8        効力発生日の20日前まで(会社法785条3項)

9        効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで(会社法116条5項等)

(5)直ちに、速やかに、遅滞なく(期限) 会社法では、遅滞なくが多い。

◆ 「発起人は、第1項各号に掲げる事項について変更があったときは、直ちに~」(会社法59条5項。その他会社法条文内に28か所の規定)

「遅滞なく」に比べて、一切の遅滞が許されず、また、「速やかに」に比し急迫の程度が高い(法令用語研究会「有斐閣 法律用語辞典[第5版]」763頁、有斐閣、2020年)。

◆ 「株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかに~」(会社法325条の6 。その他会社法条文内に1か所の規定)

「直ちに」、「遅滞なく」に比し中程度の近接性を求めるもので、「できるだけ」、

「できる限り」などを付けて又はそのままで訓示的な意味で用いられる(法令用語研究会「有斐閣 法律用語辞典[第5版]」664頁、有斐閣、2020年)。

◆ 株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない(会社法440条1項。その他会社法条文内に98か所の規定)。

→時間的即時性を強く表す場合に用いられる語であるが、「直ちに」とは異なり、正当な又は合理的な理由による遅滞は許されるものと解されている。(法令用語研究会「有斐閣 法律用語辞典[第5版]」781頁、有斐閣、2020年)。

→「速やかに」は、訓示的な意味で用いるので、遅滞があった場合にも直ちに違法ということにはならないが、「直ちに」と「遅滞なく」は、遅滞があった場合には、違法の問題にまで発展することが多い、といわれる(石毛正純「法制執務詳解≪新版Ⅲ≫」629頁、ぎょうせい、2020年)。

期間の起算点について

◆ 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、初日不算入(民法140条)

2月1日(午前零時を除く)から1箇月間の場合、2月2日から起算する。

◆ ただし、その期間が午前零時から始まるときは、初日参入(民法140条但書)

2月1日(午前零時から)から1箇月間の場合、2月1日から起算する。

◆ 原則として、「通知」や「催告」の起算点は、到達した日(民法97条)

  意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

◆ 「〇週間前までに~通知を発し~」とするものは、発した日(会社法299条1項等)

→株主総会招集通知、各種会議体の招集通知等(発信主義・到達主義・到達擬制)

・期間の満了点について

◆ 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間はその末日の終了をもって満了する(民法141条)。

→2月1日(午前零時を除く)から1箇月間の場合、3月1日の終了をもって期間が満了する。

◆ 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する(民法142条)。

→2月21日(午前零時を除く)から1箇月間の場合、3月22日の終了をもって期間が満了する。

◆1月2日・3日は「その他の休日」に該当する

  東京法務局商業登記研究会編「商業法人登記速報集」330頁、日本法令、1996年

◆12月29日~31日は「その他の休日」に該当しない(最判昭43年1月30日民集22巻1号81頁、最判昭43年9月26日民集22巻9号2013頁、最判昭43年4月26日民集22巻4号1055頁)

◆ 民法142条の「休日」というのはそれほど厳格な意味でなく、すべての一般的な休日を指すものとして解してよい。たとえば土曜日、12月29日~31日、1月2日、3日などもこれに入りうると考えてよいという見解(我妻榮ほか「我妻・有泉コンメンタール民法ー総則・物件・債権ー〔第8版〕」287頁、日本評論社、2022年)

◆ 土曜日は「その他の休日」に該当しない(森・濱田松本法律事務所「新・会社法実務問題シリーズ・8 会社の計算(第2 版)」203頁、中央経済社、2015年)

◆ 土曜日も「休日」に該当するものとして取り扱うのが実務対応としては安全(内田修平「実務問答会社法第21回 組織再編と期間計算」73頁、旬刊商事法務2166号)

◆ 土曜日を休日扱いとする法令手形法第87条及び小切手法第75条の規定による休日を定める政令(昭和58年政令第147号)(12月31日も休日扱い)、民事訴訟法95条3項(1月2日・3日、12月29~31日も休日扱い)

◆ 現時点から遡る期間の計算について、民法142条を類推適用することは適当でない。

1大阪株式懇談会「会社法 実務問答集Ⅱ」(商事法務、2018年)41頁

2内田修平「実務問答会社法第21回 組織再編と期間計算」73頁、旬刊商事法務2166号(逆算による期間計算において、形式的な民法140条以下の適用を否定)

◆ 「効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで」とする規定効力発生日の前日が休日である場合に、民法142条が適用されるとする見解と、適用されないとする見解とがある。

→適用されると考えた方が、実務上安全ではないか。

記文献1は適用される、2は適用されないとする見解

◆ 「効力発生日の20日前までに通知しなければならない」とする規定

通知を発した日と効力発生日を算入せず、その間に20日が存在する必要がある。(松井信憲「商業登記ハンドブック[第4版]」243頁、商事法務、2021年)

◆ 暦による計算について、週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は暦にしたがって計算する(民法143条1項)。

  本年2月1日(午前零時)から1箇月といった場合は、2月28日の終了で満了する。

◆ 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応答する日の前日に満了する(民法143条2項)本年2月1日(午前零時を除く)から1箇月といった場合は、2月2日が起算日となり、最後の月である3月の起算日に応答する3月2日の前日(3月1日)の終了で満了する。

◆ 月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する(民法143条2項但書)。

  12月31日起算日の2箇月後の応当日である2月31日は無いため、2月末日となる。

(7)期間計算の仕方の具体例―「日」をもって―

「日」をもって定められている場合の具体例

◆ 請求があった日から5日以内に~(会社法366条3項)  

→本年2月1日に請求があったとすると、2月2日から起算して5日間となる、2月6日の終了が満了の時となるため、2月6日までとなる。

◆ 効力発生日から30日以内に~(会社法786条2項)

→本年2月1日が効力発生日だとすると、初日を参入するので(効力発生日の午前零時に効力が生じるため)、2月1日から30日目の日である3月2日の終了が満了の時となるため、3月2日までとなる。

◆ 「20日前の日から~」(会社法785条5項)「20日前までに~」(会社法116条3項)

→「~前の日」は当該日、「~〇日前までに~」は、当該日の前となり、当該日の前日となる。効力発生日が本年2月28日の場合、20日「前の日」は、2月8日、20日「前までに」は、2月7日となる。

(8)期間計算の仕方の具体例~「週」をもって~

「週」をもって定められている場合の具体例

◆ 株主総会の2週間前までに~(会社法299条1項)  

通知の発信日と会日を算入せず、その間に2週間以上あるという意味(大判昭和10 年7月15日民集14巻1401頁)。本年2月17日が株主総会の日であれば、2月2日午後12時までには発送を完了させる必要がある。

◆ 定時株主総会の日の1週間前の日から5年間(会社法442条1項)、株主総会の日の2週間前の日(会社法782条2項等)  

招集通知の発送日と計算書類等の備置開始日との間に1日の差があるところ(旧商法では平仄がとられていた)、実務的には招集通知の発送日に計算書類等の備置きを開始することが安全という見解もある(みずほ信託銀行証券代行部「企業再編手続ガイドブック」199頁、商事法務、2007年)。

(8)期間計算の仕方の具体例~「週」をもって~

「週」をもって定められている場合の具体例

◆ 計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日までに、●●に対し●●の内容を通知しなければならない(会社計算規則124条1項等)。

  計算書類の受領日が2月1日の場合、4週間目は、3月1日午後12時が満了の時となりますが、経過した日までとあるので、その翌日である3月2日中に通知(到達主義)すればよい。

◆ その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には~(会社法366条3項等)

2月1日に請求があった場合、2週間目は、2月15日午後12時が満了の時となる。このような期間の場合も、民法142条の適用はあると考えられる(みずほ信託銀行証券代行部「企業再編手続ガイドブック」199頁、商事法務、2007年)。

(9)期間計算の仕方の具体例~「月」「年」をもって~

「月」をもって定められている場合の具体例

◆ ただし、●●の期間は、1箇月を下ることができない(会社法449条2項等)。

           1箇月を下ることができないとは、1箇月以上の期間があればよいが、1箇月未満では足りないという意味である(江頭憲治郎「株式会社法 第8版」(商事法務、 2021年)730頁、森・濱田松本法律事務所「新・会社法実務問題シリーズ・8会社の計算(第2版)」202頁、中央経済社、2015年)。

「年」をもって定められている場合の具体例

◆ 株券喪失登録の翌日から起算して1年を経過した日に無効となる(会社法228条1項等)。

株券喪失登録日が2月1日の場合、翌日の2月2日から起算して、翌年の2月1日で満了することとなる。株券が無効となり、名義書換の効力が生じるのは、その翌日の2月2日となる。

(10)期間計算の仕方の具体例~その他~

「効力発生日後●箇月を経過するまでの間」としている場合の具体例

◆ 効力発生日後6箇月を経過する日までの間(会社法782条1項等)。

  効力発生日の翌日の午前零時が起算点となる。効力発生日が本年2月1日の場合、8月1日の終了に満了する(みずほ信託銀行証券代行部「企業再編手続ガイドブック」201頁、商事法務、2007年)。

「●年継続して●●しない場合」としている場合の具体例

◆ 5年以上継続して到達しない場合(会社法196条1項等)。

最初の不到達から5年継続して到達しなかった場合を意味する。したがって、招集通知の発送日から2~3日後から5年間の期間を計算することとなる(みずほ信託銀行証券代行部「企業再編手続ガイドブック」201頁、商事法務、2007年)。

(1)登記期間の計算の方法

登記期間の計算は民法の期間に関する規定を適用する

◆ 登記期間の計算は、民法の原則に従う(大正8・12・13法曹会委員会第1科決議(大7)第175号、森本滋=山本克己「会社法コンメンタール20ー雑則(2)」242頁(松井秀征)商事法務、2016年)。

◆ 2週間の末日が日曜日にあたるときは日曜日は登記所の休日であるから、その翌日をもって期間の満了するものと解するのを相当とする(大決大10・9・29民録27・1556)。

◆ 株式会社の設立の登記は、その本店の所在地において、次に掲げる日のいずれか遅い日から2週間以内にしなければならない(会社法911条1項)。

1設立時取締役の調査終了日

2発起人が定めた日(午前零時から起算する場合かどうか

→1月1日と定めた場合、1月13日の24時まで。

◆ 前項の規定にかかわらず、第57条第1項の募集をする場合には、前項の登記は、次に掲げる日のいずれか遅い日から2週間以内にしなければならない(会社法911条2項)。

1 創立総会の終結の日

2        第84条の種類創立総会の決議をしたときは、当該決議の日

3        第97条の創立総会の決議をしたときは、当該決議の日から2週間を経過した日

4        第100条第1項の種類創立総会の決議をしたときは、当該決議の日から2週間を経過した日

5        第101条第1項の種類創立総会の決議をしたときは、当該決議の日

◆ 持分会社の設立の登記をなすべき期間については、会社法に規定がない(会社法912 条、913条、914条)

  定款の作成後、「相当の期間内」になすべきものと解される(森本滋=山本克己「会社法コンメンタール20ー雑則(2)」290頁(今泉邦子)商事法務、2016年)

◆ 会社において第911条第3項各号又は前3条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、2 週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない(会社法915条1項)。

1 効力発生日(定款変更の効力発生日を別に定めた場合を含む)の場合は、初日参入(午前零時から起算するため)

2 募集株式発行の払込期日の場合は、払込期日の前日までに出資の履行をした株主の場合は初日参入となり、払込期日の当日に出資の履行をした株主の場合は初日不算入となると考えられる。

◆ 会社法915条1項の規定にかかわらず、第199条第1項第4号の期間を定めた場合における株式の発行による変更の登記は、当該期間の末日現在により、当該末日から2週間以内にすれば足りる(会社法915条2項)。

  払込期間の満了点は、当該期間の末日の午後12時となるから、「当該末日から」とあるのは、当該末日の翌日から起算して2週間以内と考えられる。

(1)基準日について

◆ 「期日」は、一般には、一定の日(特定の日)を意味するもので、ある法律行為の効力の発生や消滅等を、一定の日にかからしめる場合等に使用されます(橋本副孝ほか「新版会社法 実務スケジュール」1頁、新日本法規出版、2016年)。

  基準日も一定の日であるから、休日の場合に翌日となることはない。

◆ 基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から3箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない(会社法124条2項)。

  3月31日を基準日とした剰余金の配当において、6月30日が日曜日となる場合で実際の支払開始が7月1日となる場合、効力発生日は6月30日とし、支払開始日を7月1 日と決議してよいかとの設問に対し、3箇月以内に「会社から交付を受ける」意味に解する場合と「配当決議がなされる」意味に解する場合とで別れるとしつつ、6 月30日までに配当決議を実施していればよいという見解(大阪株式懇談会「会社法実務問答集Ⅰ(上)」147頁(前田雅弘)商事法務、2017年)。

(2)基準日の設定方法

◆ 株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の2週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときは、この限りでない(会社法124条3項)。

遡って計算するケースとなる(参考:会社法299条1項)。定款に基準日を定めれば基準日公告を行わなくてもよいことから、基準日を定款で定めれば、1日で株式分割を行うことも可能とする見解もあるが(相澤哲ほか「論点解説 新・会社法」187頁、商事法務、2006年)、東京地判平成26年4月17日(アムスク株主総会決議取消請求事件)では、基準日公告に代わる定款の定めについて「当該定款の定めは、基準日の2週間前までに存在することが必要であると解するのが相当である」と判示し、東京高判平成27年3月12日(アムスク株主総会決議取消請求事件控訴審判決)においても同様に解されている。

(1)取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人の任期

◆ 取締役・会計参与の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない(会社法332条1項、334条1項)。

◆ 監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員であるものを除く。)についての第1項の規定の適用については、同項中「2年」とあるのは、「1年」とする(会社法332条3 項)。

◆ 監査等委員である取締役の任期については、第1項ただし書の規定は、適用しない(会社法332条4項)。

※ 任期満了の規定(会社法332条7項・334条・336条4項・338条3項・402条8項等)補欠・増員規定については説明省略

(1)取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人の任期

◆ 指名委員会等設置会社の取締役についての会社法322条1項の規定の適用については、同項中「2年」とあるのは、「1年」とする(会社法332条6項)。

◆ 監査役/会計監査人の任期は、選任後4/1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする(会社法336条、338条)。

◆ 執行役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結後最初に招集される取締役会の終結の時までとする。ただし、定款によって、その任期を短縮することを妨げない(会社法402条7項)。

  任期の起算点である選任時とは、事実行為としての株主総会の選任決議を意味し、選任決議の効力発生時期を遅らせても、それに左右されない(相澤哲ほか「論点解説 新・会社法」286頁、商事法務、2006年)。

(2)任期満了後の後任者の予選が認められる期間

任期満了後の後任者の予選が認められる期間

◆ 一般的には、前任者の任期満了までの期間が比較的短く、予選につき合理的理由があり、かつ、その期間中に新株発行等により株主の権利に著しい変化がないような場合には有効であるとされ、例えば、就任日の1箇月程度前に予選決議をすることは差し支えないとされている(昭和41年1月20日民事甲271号回答、登記研究221号46頁)。

照会事例は2箇月前の予選決議であった。また、上記登記研究221号48頁において、「取締役の予選がされてから、現在の取締役が退任するまでの間に新株発行が予定されている等株主にいちじるしい変動を生ずることが予測される場合とか、期間が6箇月以上にもわたる等相当長期の場合には、取締役を予選することが許されないのではなかろうか」と解説されている。

(2)任期満了後の後任者の予選が認められる期間

任期満了後の後任者の予選が認められる期間

◆ A株式会社を吸収合併存続会社とし、B株式会社を吸収合併消滅会社とする吸収合併を行うため、両者は吸収合併契約を締結し、平成19年6月20日に開催されたそれぞれの定時株主総会において当該吸収合併契約の承認を受けた。A社は当該定時株主総会において「X氏(B社の現任取締役のうちの1名)を本件合併の効力発生日(平成20年4月1日)付けでA社の取締役に選任する」旨の選任決議をすることができるか。これが可能な場合、A社における取締役Xの任期は、どの時点から起算することになるか。

このような決議には、通常合理性があるものと解されるため選任可能であり、選任決議時から起算する(相澤哲「Q&A会社法の実務論点20講」58頁、金融財政事情研究会、2009年)。なお、このように決議の内容(選任)に条件又は期限を付した場合、その条件又は期限に合理性がある限り有効であると考えられるところ、合理性の判断は、実質的な判断を要し、役員の選任に係る登記申請等の場面において当該選任決議の有効性について争いの生ずる余地があることに留意すべきであると解説されている。

変則事業年度の場合

3月決算の会社が臨時総会で、9月末決算とし当期を18箇月決算とした場合

◆ 2007年1月10日の臨時総会において、上記定款変更決議を行った場合、2006年6月の定時総会で選任された、会計監査人の任期はいつ満了するか。

  事業年度の変更の効力が生じた日(定款で特段の経過措置がない限り、2007年1月10日)に会計監査人の任期が終了するため、これを前提として、2007年1月10日の臨時株主総会で新たな会計監査人の選任(再任を含む)が必要となる(相澤哲編著「Q&A会社法の実務論点20講」56頁、金融財政事情研究会、2009年)。

  考え方のポイント

1.会計監査人を選任(重任)した後に事業年度を変更した場合には、選任時からその事業年度の終了までを任せていないことになるから、変更後の事業年度が選任後1年以内に終了しないときには、当該事業年度の変更の効力が発生した時点で退任する(桜庭倫「東京法務局における商業・法人登記の相談事例の紹介等(上)」11頁、登記研究770号)。

2.みなし再任の規定は定時株主総会となっている(会社法338条2項)。

12月決算の会社が定時総会で、3月末決算とし当期を15箇月決算とした場合

◆ 2020年3月の定時総会において、上記定款変更決議を行った場合、2019年3月の定時総会で選任された、監査等委員である取締役の任期はいつ満了するか。

 2020年3月総会の終結の時に任期が満了するため、これを前提として、2020年3月の定時総会において役員等の選任決議の上程が必要となる(渡辺邦広「実務問答会社法第39回 事業年度の末日の変更に伴う変則事業年度と役員等の任期」46頁、旬刊商事法務2221号)。

  考え方のポイント

  • 変則事業年度を15箇月とする定款附則の定めは有効(会社計算規則59条2項)。

会社計算規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010013

(各事業年度に係る計算書類)

第五十九条 1項略

2 各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書の作成に係る期間は、当該事業年度の前事業年度の末日の翌日(当該事業年度の前事業年度がない場合にあっては、成立の日)から当該事業年度の末日までの期間とする。この場合において、当該期間は、一年(事業年度の末日を変更する場合における変更後の最初の事業年度については、一年六箇月)を超えることができない。3項略

2.設問の場合、2020年1月1日に開始する事業年度は、2020年12月31日ではなく、2021年3月31日に終了することとなる。

3.選任後2年内に終了する事業年度のうち最終のものは、2019年1月1日から同年12月31日までの事業年度となる。

12月決算の会社が定時総会で、3月末決算で当期を15箇月決算とした場合

◆ 前記と同様の条件の場合で、2020年3月総会で新たに選任される会計監査人又は同総会で再任されたものとみなされた会計監査人の任期はいつ満了するか。

  当該定款附則において同総会で選任又は再任されたとみなされる会計監査人の任期を本変則事業年度に関する定時総会の終結の時までとする旨の規定が定められれば当該定めは有効と考えられる(渡辺邦広「実務問答会社法第39回 事業年度の末日の変更に伴う変則事業年度と役員等の任期」47頁、旬刊商事法務2221号)。

  考え方のポイント

1.変則事業年度を認めないとする帰結は相当でないと考えられる。

2.初年度である変則事業年度についてのみ、株主総会の意思の下に会社計算規則が許容する範囲で1年を超える任期を認めたとしても会社法の趣旨に反しない。

3.株主総会の意思を明確にする観点から、定款附則に、当該株主総会で選任又は再任されたものとみなされる会計監査人の任期を、変則事業年度に関する定時株主総会の終結の時までとする旨の規定を設けておくことが望ましい。

12月決算の会社が定時総会で、3月末決算とし当期を15箇月決算とした場合

◆ 前記と同様の条件の場合で、 2020年3月の定時総会で選任される、監査等委員でない取締役の任期はいつ満了するか。

  当該定款附則において同総会で選任される監査等委員でない取締役の任期を本変則事業年度に関する定時総会の終結の時までとする旨の規定が定められれば当該定めは会計監査人の場合と同様に有効と考えられる(渡辺邦広「実務問答会社法第39回事業年度の末日の変更に伴う変則事業年度と役員等の任期」49頁、旬刊商事法務2221号)。

  考え方のポイント

1.会計監査人の場合と同様の考え方となる。

2.監査等委員でない取締役の任期が1年とされている趣旨に照らし、株主総会の意思の下に会社計算規則が許容する範囲で1年を超える任期を認めたとしても会社法の趣旨に反しない。

公告・通知

(1)概説(官報掲載までの事務フロー)

事前準備 掲載日程の確認・公告原稿の作成

内容チェック 掲載申込み・校正原稿のチェック

掲載     公告掲載

事前準備 掲載日程の確認・公告原稿の作成

◆        掲載日を決める(前述のとおり、正確・安全に期間計算を行う)

◆        掲載予定日から逆算して申込期限を確認

◆        ゲラ拝(校正原稿の確認)は必ず行う(ゲラ拝あり・なしで日程が若干異なる場合もあり)

◆        会社が原稿を作成する場合は、申込前に司法書士側でチェック

内容チェック 掲載申込み・校正原稿のチェック

◆        申込手続の実施

◆        申込みは取次所にて行う(全国どこでも可。取次所を通して申し込む)

→インターネット上から申込みは可能。その後のやり取りは、各取次所。

https://www.gov-book.or.jp/koukoku/

◆        料金は会社に直接支払ってもらう方がよい

◆        ゲラチェック、修正があれば連絡

◆        訂正公告については、後述及び松井信憲「商業登記ハンドブック〔第4版〕」246頁、商事法務、2021 年を参照。

◆ 掲載 公告掲載

◆        掲載紙は掲載日に発送(早ければ翌日到着)

◆        内容はインターネット版官報で当日確認可(無料)

◆        登記に使用する場合は、司法書士が掲載紙を預かる

◆        申込みはFAX、メールいずれか確認

公告の内容、枠or行、登記の添付書面、掲載紙

決算公告、枠、×、号外

合併公告など(決算公告別掲載)※1  行、○、本紙

合併公告など(BS要旨同時掲載)※1 枠、○、号外

株券提供公告※2、行、○、本紙

定款変更等通知公告※3、行、△、本紙

解散公告、行、×、号外(行の場合は、通常本紙、通常より長い。)

※1 合併等組織再編、資本金の額の減少など(いわゆる債権者保護手続)

※2 株式譲渡制限規定の設定など

※3 株券を発行する旨の定めを廃止する場合など(登記の添付書面になるものもある)

法務省HP

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html

9 インターネット版官報は、官報に代わるべき添付書面情報として利用することができます。

枠組公告と行公告

枠組公告 ⇒ 掲載料金 1枠あたり 33,787円(税抜)

申込みから掲載までの所要日数:2週間前後

行公告 ⇒ 掲載料金 1行あたり 3,263円(税抜)

申込みから掲載までの所要日数:1週間程度

本紙と号外

◆        「行公告=本紙掲載」,「枠組公告=号外掲載」が原則

◆        解散公告は例外的に「行公告、号外掲載」⇒ 掲載までに時間がかかる(要注意

Cf.外国会社の日本における代表者の退任公告は本紙掲載

(1)概説(日刊新聞紙掲載までの事務フロー)

事前準備 掲載日程の確認・公告原稿の作成

◆        掲載日を決めることやスケジュールの確認については、官報の場合と同様

◆        掲載紙ごとに代理店が存在するため、前もって掲載紙の代理店を検索し、入稿~掲載までのスケジュールを確認する

◆        日刊新聞紙は平日に休刊日が存在するものもあるため、掲載日について代理店に事前確認する。

◆        例:日刊工業新聞の場合は、掲載日の8営業日前までに申し込み必要、遅くとも申し込みから2営業日内にゲラ・見積書のご連絡、掲載日の4営業日前(当日17:30)までに最終校了が必要となる。当該掲載紙は郵送される。

内容チェック、掲載申込み・校正原稿のチェック

◆        申込手続の実施(申込方法・必要書類・支払方法・掲載紙の入手方法の事前確認)

◆        ゲラチェック、修正があれば連絡

掲載     公告掲載

◆        掲載紙の当日分購入が必要な場合は忘れず購入する(代理店によって取扱い不明)

◆        登記に使用する場合は、司法書士が掲載紙を預かる又は購入しておく

(1)概説(電子公告調査依頼の事務フロー)

事前準備 公告日程の確認・公告原稿の作成

◆        公告調査開始日を決めることやスケジュールの確認については、官報/日刊新聞紙の場合と同様

◆        公告調査会社は5社存在する(2022年12月現在)ため、必要書類、事務フロー、サービスメニュー、費用などから調査会社を検討する

◆        例:電子公告調査株式会社の場合は、公告調査開始の4営業日前までに申し込みが必要となり、申し込み後、調査会社にて登記情報を取得され、公告内容について精査される。また、公告期間や根拠条文についてアドバイスいただけるとのこと。掲載日の翌日零時から1時間に1回の掲載チェックを実施される

(初日不算入・民法140条)。

内容チェック 調査申込み・調査の事前チェック

◆申込手続の実施(申込方法・必要書類・支払方法・報告書の様式の事前確認) ◆事前チェック、問題があれば連絡

掲載 電子公告掲載/調査開始

◆調査報告について、電磁的記録又は書面で交付を受けるか事前にお客様に確認しておく

登記に使用する場合は、司法書士が調査報告を預かる

 (1)概説(訂正公告)

◆ 株式の譲渡制限のための株券提供公告において、商号を「クイン商事株式会社」とすべきところ、「タイン商事株式会社」と誤って公告した後、後日訂正公告をなし、訂正公告後1箇月を経過して登記申請があった場合には、これを受理して差し支えない(昭和44年8月15日民四733回答、登記研究262号71頁)。

◆ 株式の譲渡制限に関する規定の設定による変更登記申請書に添付された「公告をしたことを証する書面」により、株券提供期間が1箇月に満たないことが明らかである場合には、改めて1箇月を下らない期間公告をし直さなければ、当該申請は受理できない(昭和41年12月23日民四772号回答、登記研究231号65頁)。

◆ 官報公告に印刷誤りがあった場合において、誤った公告がされてから合理的な期間内(関係者が直ちに訂正の申し入れを行い、官報に正誤表が掲載されるのに必要な期間内)に当該公告が訂正されているときは、原稿誤りの場合とは異なり、当初から正しい公告がされたものとして取り扱って差し支えない(平成14年7月30日民商1831号回答、登記研究658号202頁)。

(2)決算公告

2月27日(月)        定時株主総会/原稿作成          ※1

2月28日(火)        公告申込          ※2

3月16日(木)        決算公告掲載日          

1、株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後「遅滞なく」、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない(会社法440条1 項)。

2、電子公告制度が広く利用される以前は、上場会社において、定時株主総会の翌日に決算公告が掲載されるように、※2の公告申込が※1の定時株主総会の前に行われるスケジュールであった。

3、公告申込から公告掲載日までのスケジュールについては、各媒体の代理店に確認が必要である。

4、決算公告については、電子公告調査を要しないが(会社法941条)、公告は必要である。

5、決算公告掲載後、連続して各種公告(減資、組織再編等)を入稿する場合にも、各媒体の代理店にスケジュールの事前確認が必要である。

1、     会社法116条1項各号の行為(発行する全部の株式の内容として譲渡制限を設ける場合、ある種類の株式の内容として譲渡制限又は全部取得条項を設ける場合、ある種類株式の内容として会社法322条2項の別段の定めがある場合に株式の併合等により種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合)をしようとする株式会社は、当該行為が効力を生ずる日の20日前までに、同項各号に定める株式の株主に対し、当該行為をする旨を通知しなければならない。前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる(会社法116条3項・4項)。

2        会社は、組織再編の効力発生日の20日前までに(新設型組織再編においては、株主総会の決議の日から2週間以内に通知が必要であり、買取請求期間は通知・公告から20日間である。なお、株主総会の前に通知も可能。)、株式買取請求の対象となる株式の株主に対し、当該組織再編を行う旨並びに相手方会社・設立会社の商号及び住所等を通知し又は公告しなければならない(会社法785条3項・4項・797条3項・4項・806条3項・4 項・816の6条3項・4項)。

3        決議日と公告掲載の順序は問われないため、決議前に通知・公告を実施することも可能である(相澤哲ほか「論点解説 新・会社法」544頁・663頁、商事法務、2006年、相澤哲=細川充「新会社法の解説(15)組織再編行為〔下〕」39頁、旬刊商事法務1753 号)。

4        吸収型再編については、効力発生日までに株主総会等の決議、株式等買取請求手続、債権者保護手続がいずれも終了していることが必要となっている(会社法750条・752 条・759条・761条・769条・774条の11)。

5        新設型再編については、登記日=効力発生日となるため、事前に効力発生日の特定ができないことから、登記の要件として、株主総会等の決議、株式等買取請求手続、債権者保護手続がいずれも終了していることが必要となっている(会社法922条・924条・925 条)。

6        新設型組織再編手続において、株式買取請求権を行使しようとする株主が株主総会の承認決議における議決権を有する場合、行使された株式買取請求権が適法なものであるか否かは、当該承認決議(承認決議における反対の議決権行使)を待たなければ確定しないことから、新設型組織再編における株式買取請求権の行使期間は、行使期間満了前に承認決議が終了するように(同日でも可)設定する必要がある。したがって、株式買取請求権に係る株主宛の通知・公告も承認決議日の20日前よりも前に行うことができない(「質疑応答7857新設型組織再編行為に係る契約・計画の承認決議の翌日から20日を経過しないで申請された当該新設型組織再編行為にかかる登記の可否」219頁、登記研究715号)。

7        組織再編手続では、消滅株式会社において吸収合併等又は新設合併等により交付を受ける財産に持分等が含まれる場合(会社法783条2項・804条2項)、吸収分割において分割会社が簡易分割の要件を満たす場合(会社法784条2項・805条)、略式合併等における特別支配会社の場合(会社法785条3項かっこ書・797条3項かっこ書)について、取得条項付株式・新株予約権においては、取得手続における一定事項の通知・公告をした場合(会社法170条3項・275条4項)について、株主等への通知・公告が不要となる場合がある。

8        株主に対して通知しなければならないとする規定には、公告をもって通知に代えることができるとしている規定が多くみられるが(会社法116条4項等)、自己株式取得の際の取得事項通知(会社法158条2項)、事業譲渡の際の通知(会社法469条4項)、吸収合併等の際の株主通知(会社法785条4項・797条4項)、株式交付の際の株主通知(会社法816条の6第4項)については、公告によって通知に代えることができる場合が限定されている。

9        振替株式の発行会社(上場会社)では、株主等への通知(会社法116条3項・158条1項・168条2項・169条3項・170条3項・172条2項・179条の4第1項・179条の6第4項・181条1項・195条2項・201条3項・206条の2第1項・240条2項・244条の2第1項・469条3項・776条2項・783条5項・785条3項・797条3項・804条4項・806条3項・816条の6第3 項の通知)について、公告によることが強制されており(社債、株式等の振替に関する法律161条2項)、買取口座の公告も必要となる場合がある(社債、株式等の振替に関する法律155条2項)。

10     具体的な通知の内容を示したうえで、株式買取請求権を行使しうる株主全員から期間短縮や権利放棄の同意を得ることにより、(ⅰ)株式買取請求権の行使期間を短縮し、短縮後の期間に対応した時期に通知・公告を行うことも許されると解すべきとする見解(土手敏行「商業登記実務Q&A(4)」99頁、月刊登記情報554号)、(ⅱ)株式買取請求権を放棄して株主等への通知・公告が不要となると解されるとする見解がある(辰巳郁「実務問答会社法第8回 吸収合併における株主に対する通知・公告の期間短縮・省略と簡易合併・略式合併」43頁、旬刊商事法務2127号)。

11     逆算による期間計算の場合は、基本的に「丸〇日」や「丸〇箇月」を置く必要がある(内田修平「実務問答会社法第21回 組織再編と期間計算」76頁、旬刊商事法務2166 号)。

12     電子公告により午前零時から公告を開始する場合には、公告日を「丸1日」として計算に入れることができるため(相澤哲編著「Q&A会社法の実務論点20講」222頁、金融財政事情研究会、2009年)、公告日から効力発生日の前日の間(両日を含む)で、「丸〇日」、「丸〇箇月」が確保されていれば足りる(内田修平「実務問答会社法第21回組織再編と期間計算」74頁、旬刊商事法務2166号)。

13     機関決定は、組織変更及び吸収型組織再編については効力発生日の前日まで、新設型組織再編及び会社法116条の場合は、登記の前までに実施が必要となる。

14     株式譲渡制限規定の設定に係る株主総会の決議後その効力発生前に、募集株式の募集行為を行い増資の効力が生じた場合には、募集株式の発行による変更登記は受理されるが、株式譲渡制限規定の設定の登記は受理されない(松井信憲「商業登記ハンドブック[第4版]」246頁、商事法務、2021年)。

15     株式譲渡制限規定の設定に係る株主総会決議後、募集株式の募集決議を行い、株式譲渡制限規定の設定の効力の発生後に増資の効力が生じた場合には、株式譲渡制限に係る事項が通知されていない限り(会社法施行規則41条)、募集株式の発行による変更の登記は受理されない(松井信憲「商業登記ハンドブック[第4版]」246頁、商事法務、2021年)。

※1 公告申込から公告掲載日までのスケジュールについては、各媒体の代理店に確認が必要である。

※2 逆算による期間計算の場合は、基本的に「丸〇日」や「丸〇箇月」を置く必要がある。なお、通知は到達主義のため、この時期に通知が到達していることを想定して通知を発することとなる。

※3 電子公告の場合は、午前0時から調査開始となるため、20日前の日(上記例の場合、2月8日)の調査開始でも問題ない。

(4)株券提出の通知・公告

株券提出に関する通知・公告のスケジュール

◆ 会社法219条(株券の提出に関する公告等)株券発行会社は、次の各号に掲げる行為をする場合には、当該行為の効力が生ずる日(第4号の2に掲げる行為をする場合にあっては、第179条の2第1項第5号に規定する取得日。以下この条において「株券提出日」という。)までに当該株券発行会社に対し当該各号に定める株式に係る株券を提出しなければならない旨を株券提出日の1箇月前までに、公告し、かつ、当該株式の株主及びその登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならない。ただし、当該株式の全部について株券を発行していない場合は、この限りでない。

1        株式譲渡制限の定めを設ける定款の変更          全部の株式(種類株式発行会社にあっては、当該事項についての定めを設ける種類の株式)

2        株式の併合 全部の株式(種類株式発行会社にあっては、併合する種類の株式)

3        全部取得条項付種類株式の取得 当該全部取得条項付種類株式

4        取得条項付株式の取得  当該取得条項付株式(想定外事由の場合は効力発生日との関係で要注意)

4の2 対象会社による特別支配株主の株式等売渡請求の承認  売渡株式

5        組織変更 全部の株式

6        合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)        全部の株式

7        株式交換 全部の株式

8        株式移転 全部の株式

(4)株券提出の通知・公告

※1 公告申込から公告掲載日までのスケジュールについては、各媒体の代理店に確認が必要である。

※2 通知は到達主義のため、余裕をもって計画したほうが安全である。

※3 逆算による期間設定の場合は、基本的に「丸〇日」や「丸〇箇月」を置く必要がある。

※4 電子公告の場合は、午前0時から調査開始となるため、1箇月前の日(上記例の場合、2月28 日)の調査開始でも問題ない。

(5)株券廃止の通知・公告

◆ 会社法218条(株券を発行する旨の定款の定めの廃止)株券発行会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとするときは、当該定款の変更の効力が生ずる日の2週間前までに、次に掲げる事項を公告し、かつ、株主及び登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならない。

1        その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する旨

2        定款の変更がその効力を生ずる日

3        前号の日において当該株式会社の株券は無効となる旨

株券発行会社の株式に係る株券は、前項第2号の日に無効となる。

第1項の規定にかかわらず、株式の全部について株券を発行していない株券発行会社がその株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとする場合には、同項第2号の日の2 週間前までに、株主及び登録株式質権者に対し、同項第1号及び第2号に掲げる事項を通知すれば足りる。

前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

第1項に規定する場合には、株式の質権者(登録株式質権者を除く。)は、同項第2号の日の前日までに、株券発行会社に対し、第148条各号に掲げる事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

※なお、必要となる通知や公告を期限前に実施していれば、株主総会決議により直ちに株券廃止の効力を生じさせることも可能と解されている(松井信憲「商業登記ハンドブック[第4版]」262頁、商事法務、2021年)。

※1 公告申込から公告掲載日までのスケジュールについては、各媒体の代理店に確認が必要である。

※2 株主総会の招集通知と会社法218条1項の通知を兼ねて実施する例が多いと思われる。

※3 逆算による期間設定の場合は、基本的に「丸〇日」や「丸〇週間」を置く必要がある。

※4 電子公告の場合は、午前0時から調査開始となるため、2週間前の日(上記例の場合、2月14 日)の調査開始でも問題ない。

債権者異議申述催告・公告のスケジュール

1        資本金・準備金の額の減少手続(会社法449条・627条)、組織再編手続(会社法779 条・799条・781条・789条・810条・816条の8)、持分会社における各種手続(会社法635条・670条)では、それぞれの規定において、債権者が異議を述べることができる場合は、「一定の事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、債権者が異議を述べることができる期間は、〇箇月を下ることができない。」としている。

2        定款所定の公告方法を官報以外の公告方法(時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙又は電子公告)と定めている場合には、官報に公告することに加え、定款所定の公告方法により公告をした場合(いわゆる「二重公告」を行った場合)には、知れている債権者に対する個別催告を省略することができる。

債権者異議申述催告・公告のスケジュール

3        会社分割を行う場合の分割会社の不法行為債権者に対する個別催告(会社法789条3項、 810条3項)、合名・合資会社が消滅持分会社となる合併・会社分割の手続(会社法793 条2項)、合名・合資会社が株式会社となる組織変更手続き(会社法781条2項)、合同会社の持分払戻額が当該合同会社の純資産額を超える場合(会社法635条3項)では、二重公告をすることで、知れたる債権者に対する個別催告を省略することができない。

4        個別催告は到達主義となるため、期間計算を行う場合には、到達すべき時期を想定しつつスケジュール策定を行う必要がある。

5        二重公告のそれぞれの掲載日又は官報公告掲載日の翌日と電子公告調査開始日とが異なることで、それぞれの異議申述期間が異なることとなっても、2つの公告のすべての期間を異議申述期間としてとらえていれば、債権者にとって不利益はなく問題ないと考えられる(土井万二「債権者保護手続における二重公告について」10頁、月刊登記情報591号)。

6        定款所定の公告方法を官報と定めている会社が二重公告を実施する場合には、公告方法を官報以外に変更する必要があるが、この公告方法変更登記は、債権者保護手続の公告がされるまでに申請すべきとされている(堀恩惠「合併制度の整備に係る商法等の改正に伴う商業・法人登記事務の取扱い〔上〕」26頁、旬刊商事法務1477号、亀井愛子『実務相談室 合併における「知れたる債権者」に対する各別の催告の省略の可否』37 頁、旬刊商事法務1481号)。

7        新設型組織再編については、登記日=効力発生日となるため、事前に効力発生日の特定ができないことから、登記の要件として、株主総会等の決議、株式等買取請求手続、債権者保護手続がいずれも終了していることが必要となっている(会社法922条・924 条・925条)。

8        吸収型組織再編については、効力発生日までに株主総会等の決議、株式等買取請求手続、債権者保護手続がいずれも終了していることが必要となっている(会社法750条・752 条・759条・761条・769条・774条の11)。

9        公告方法を官報としていて決算公告を実施していない会社が、債権者保護手続において決算公告と貸借対照表の要旨を同時公告した場合(損益計算書の公告が必要となる大会社の場合を除く)、現状の登記実務では、催告書に記載する「計算書類に関する事項」は、「年月日付官報(号外第〇号)〇頁」としてよいと判断されているが、公告の内容と催告の内容との間に差異があることは想定されていないため、先になされているものの内容に、後でされるものが合わせなければならないとする有力な説(弥永真生「コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則[第3版]」765頁、商事法務、2021年)もあるため、安全に実施するのであれば、催告書にも貸借対照表の要旨を記載するか、決算公告を債権者保護手続公告より先に実施したうえで、催告書に記載する「計算書類に関する事項」を、「年月日付官報(号外第〇号)〇頁」と記載する方法を検討する必要がある。

10     組織再編の場合には、債権者保護手続にかかる公告と同時に株主等への公告も併せて実施するかどうかについてもあらかじめ確認しておく(電子公告は調査会社と検討)。

11     資本金・資本準備金の額の減少の効力発生日を変更する場合(会社法449条7項)は、株式会社の内部規律に従い、業務執行の決定機関により定めることが可能(株主総会決議も必要とされていない)であり、この場合には、特に変更の公告等を行う必要はない

(相澤哲ほか「論点解説 新・会社法」543頁、商事法務、2006年)。

12     組織変更及び吸収型組織再編手続において、効力発生日を変更するためには、変更前の効力発生日の前日までに、変更後の効力発生日を公告しなければならない(消滅会社等のみの規定だが、存続会社等でも必要とする見解もあり)(会社法780条・781条・790 条)。なお、変更後の効力発生日が変更前の効力発生日の前の日となる場合には、変更後の効力発生日の前日までに公告をする必要がある(森・濱田松本法律事務所編「新・会社法実務問題シリーズ・9組織再編(第3版)」347頁、中央経済社、2022年)。また、株式交付の変更後の効力発生日は、株式交付計画において定めた当初の効力発生日から 3箇月以内の日でなければならず(会社法816条の9第2項)、株式交付の効力発生日や申込みの期日を変更した場合には、株式交付親会社は、直ちに、申込者に対して通知しなければならない(会社法774条の4第5項)。

13 組織再編手続において、債権者保護手続である公告や個別催告を実施した後、効力発生日までの間に、対価、資本金・準備金に関する事項、承継対象債務の変更があった場合に、一定の事項の場合には、それぞれ債権者保護手続をやり直すことが必要となる場合があるとする見解(内田修平「実務問答会社法第27回組織再編の条件等の変更と債権者異議手続」58頁、旬刊商事法務2185号)。

※1 公告申込から公告掲載日までのスケジュールについては、各媒体の代理店に確認が必要である。

※2 催告は到達主義のため、郵送の場合は余裕をもって計画したほうが安全である。

※3 掲載日の翌日(3月1日)起算の1箇月の応当日(4月1日)の前日に期間が満了する。

※4 電子公告の場合は、午前0時から調査開始となるため、3月1日の調査開始、3月31日の調査終了として問題ない。

※1 公告申込から公告掲載日までのスケジュールについては、各媒体の代理店に確認が必要である。

※2 登記実務で認められる方法を採用した場合、公告掲載内容を確認してからの催告書送付となる。

※3 催告は到達主義のため、起算日については余裕をもって計画することが望ましい。

※4 催告が2月28日に到達したことを前提とした期間計算である。

(7)電子公告

◆ 会社法における時的な概念である「公告の日」(会社法170条1項2号等)とは、電子公告による公告をする場合にあっては、電子公告の公告期間中のいずれの日をも指すのではなく、電子公告を開始した日を指す(相澤哲「Q&A会社法の実務論点20講」216頁、金融財政事情研究会、2009年)。

◆ 会社法940条1項では、会社がすべき公告に係る規定を4つの類型に区分した上、それぞれの類型についての電子公告の公告期間を規定している(詳細は前記文献参照)。

◆ 前記文献における「●日前までの日」、「●週間前までの日」、「異議申立期間の初日までの日」などとしている電子公告期間の初日は、当該期間の初日の午前零時から電子公告による公告を開始する場合にあっては、当該日を含むこととなる(相澤哲「Q&A会社法の実務論点20講」216頁、金融財政事情研究会、2009年)。

◆ 株券又は新株予約権証券の提出期間は各行為の効力発生日までであるが(会社法219条 1項・293条1項)、株券を発行する旨の定款の定めを廃止する場合とともに、登記申請手続との関係上、電子公告による公告は効力発生日の前日まで継続すれば足りると解されている(相澤哲「Q&A会社法の実務論点20講」221頁、金融財政事情研究会、2009 年)。

◆ 電子公告採用会社が公告方法を電子公告以外に変更した場合、計算書類についての電子公告は継続する必要があるが、変更後の公告方法で当該計算書類の公告を行うことにより、それ以後、当該計算書類についての電子公告を行わないことも許容されるとする見解、②吸収合併消滅会社の電子公告について、吸収合併の効力発生後は、電子公告を継続する必要はないとする見解がある(渡辺邦広「実務問答会社法第57回公告方法の変更または吸収合併と計算書類の電子公告」58頁、旬刊商事法務2277号)。

(1)スケジュール案の作成

組織再編スケジュール案の作成における主な検討事項

1        機関決定(簡易又は略式手続の採用可否)

2        株主等通知(株式又は新株予約権の買取請求手続が想定されるか否か)

3        株券提供公告等(現実に株券が発行されているか否か)

4        債権者保護手続(二重公告を実施するか否か)

5        事前備置書類の備置

6        登記申請(吸収型再編と新設型再編)

7        事後備置書類の備置

8        関連するその他法令(許認可、労働法、金商法、独禁法など)及び取引所規則等の要件

9        登記・登録を要する資産等の名義変更の手続及び締結済契約等の見直し

※1 上記2~4の各種手続を行う順序については定めがないため、同時並行も含め自由に設定可能である。

※2 実務上は、各種契約・計画の確定時期を可能な限り遅く設定することが望まれるため、まず希望する効力発生日を確定させ、そこから債権者保護手続の必要期間を逆算して、事前備置書類の備置開始日を調整して機関決定のスケジュールも含め各種日程を定めている。

(2)効力発生日

◆ 効力発生日は、確定日を定める必要があり、一定期間のうちで「存続会社の代表取締役が定めた日」と定めることはできない(相澤哲ほか「論点解説 新・会社法」703頁、商事法務、2006年)。

◆ 当事会社が組織再編の効力発生日だけでなく、効力発生の時間を定めることは、組織再編契約の組織法的な側面に反せず、当事会社間の合意として有効であるという見解(黒田裕「実務問答会社法第42回Ⅰ吸収分割の効力発生時間の指定」87頁、旬刊商事法務

2230号)。

◆ 効力発生日における効力発生時を、承継会社が分割対価を支払ったときと定めることはできないという見解(黒田裕「実務問答会社法第42回Ⅰ吸収分割の効力発生時間の指定」89頁、旬刊商事法務2230号)。

(2)効力発生日

◆ 「吸収合併の効力発生日を●月●日とする。この日までに●●が終了していなければ、吸収合併の効力は生じないこととする」という定めは可能であるが、「吸収合併の効力発生日を3月3日とする。この時刻までに●●が終了していなければ、3月4日とする」という定めはできず、別途効力発生日の変更手続きを要するという見解(森・濱田松本

法律事務所「新・会社法実務問題シリーズ・9組織再編(第3版)」345頁、中央経済社、2022年)

◆ 複数の吸収型組織再編を並行して行う場合、効力発生日を同日としつつも組織再編相互間の先後関係を定めることもできるという見解(森・濱田松本法律事務所「新・会社法実務問題シリーズ・9組織再編(第3版)」345頁、中央経済社、2022年)。なお、株式交付については、効力発生日において譲渡人から給付を受けた株式交付子会社の株式の総数が下限の数以上であることをもって、効力が生じることとなり、他の吸収型再編の効力発生時期(効力発生日の午前零時)と異なる。

5-1 概説

◆ 印紙税法2条では、「別表第1の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。」としており、同法3条では、「別表第1の課税物件の欄に掲げる文書のうち、同法第5条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。」としている。

◆ 印紙税法別表第1には、課税物件表が定められており、1号から20号まで課税物件と定義、課税標準と税率が定められている。課税文書には、不動産の譲渡に関する契約書や請負に関する契約書、合併契約書などが規定されおり、紙でそれらの契約書を作成する場合には、所定の印紙税が課せられることとなり、文書の作成者は、印紙税を納める義務がある。

◆ 電子的に作成された文書(電磁的記録)であって、その文書に課税物件表に掲げられた課税事項が記載(電磁的に記録)されていたとしても、書面としての文書の作成がない限り、印紙税の課税の対象とはならない(佐藤明弘「令和3年7月改訂印紙税実用便覧」214頁、法令出版、2021 年)。

5-1 概説

◆ 印紙税法(印紙による納付等)第8条 課税文書の作成者は、次条から第12条までの規定の適用を受ける場合を除き、当該課税文書に課されるべき印紙税に相当する金額の印紙を、当該課税文書の作成の時までに、当該課税文書にはり付ける方法により、印紙税を納付しなければならない。

2 課税文書の作成者は、前項の規定により当該課税文書に印紙をはり付ける場合には、政令で定めるところにより、当該課税文書と印紙の彩紋とにかけ、判明に印紙を消さなければならない。

◆ 印紙税法施行令(印紙を消す方法)第5条 課税文書の作成者は、印紙税法第8条第2項の規定により印紙を消す場合には、自己又はその代理人(法人の代表者を含む。)、使用人その他の従業者の印章又は署名で消さなければならない(その他、印紙税法基本通達64条・65条も参照)。

◆ いずれも、印紙税法別表第1の課税文書の欄に掲げられていないため、課税対象とならない。ただし、文書の内容に課税文書に該当する文言(例えば第17号)が示されている場合は、課税対象となりえるため注意を要する。

◆ いずれも、印紙税法別表第1第17号の非課税文書である「営業に関しないもの」に該当するため、課税対象とならない(印紙税法基本通達別表第1第17号文書32、国税庁タックスアンサー「会社がその本業以外の行為に関連して作成する受取書」

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/19/22.htm)。なお、金融機関が発行する上記領収証については、課税対象となる。

◆ 株券等は課税文書に該当する(印紙税法別表第1第4号)。

◆ 次に掲げる券面金額(券面金額の記載のない証券で株数又は口数の記載のあるものにあつては、1 株又は1口につき政令で定める金額に当該株数又は口数を乗じて計算した金額)の区分に応じ、1 通につき、次に掲げる税額とする(印紙税法別表第1第4号)。

500万円以下のもの 200円、500万円を超え1000万円以下のもの 1000円、1000万円を超え5000万円以下のもの 2000円、5000万円を超え1億円以下のもの 1万円、1億円を超えるもの 2万円

◆ 印紙税法別表第1第4号の課税標準及び税率の欄に規定する政令で定める金額は、当該株券に係る株式会社が発行する株式の払込金額(株式1株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいい、払込金額がない場合にあっては、当該株式会社の資本金の額及び資本準備金の額の合計額を発行済株式(当該発行する株式を含む。)の総数で除して得た額)(印紙税法施行令24条)。

◆ 印紙税法施行令第24条第1号に規定する「払込金額」とは、次に掲げる株券の区分(一部抜粋)に応じ、それぞれ次に掲げる金額が該当する(印紙税法基本通達第4号文書8)。

(1)・(2)・(4)記載省略

(3) 会社法第199条第1項《募集事項の決定》に規定する募集株式(株式を発行するものに限る。)に係る株券 同項第2号《募集事項の決定》に規定する募集株式の払込金額

◆ 印紙税法施行令第24条第1号に規定する「払込金額がない場合」に該当する株券は、例えば次のもの(一部抜粋)が該当する。(印紙税法基本通達第4号文書9)

(1)株式の併合をしたときに発行する株券、(2)株式の分割をしたときに発行する株券、(3)株式の無償割当てをしたときに発行する株券、(4)~(6)記載省略、 (7)株券の所持を希望していなかった株主の請求により発行する株券、(8)株券喪失登録がされた後に再発行する株券、(9)取得条項付新株予約権の取得と引換えに交付するために発行する株券、(10)持分会社が組織変更して株式会社になる際に発行する株券、(11)合併、吸収分割、新設分割、株式交換又は株式移転に際して発行する株券

◆ 印紙税の課される定款は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社及び相互会社の設立のときに作成される原本に限られる(印紙税法基本通達第6号文書1 )。

◆ 株式会社又は相互会社の定款のうち、公証人法第62条ノ3第3項(定款の認証手続)の規定により公証人の保存するもの以外のものは、非課税である(印紙税法別表第1第6号の非課税物件)。

◆ 公証人の認証を要しない合名会社、合資会社及び合同会社の定款を数通作成した場合についても、そのうちの原本1通のみが課税の対象になり、その他のものは課税されない(国税庁「課税される定款の範囲」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/24/01.htm)。

◆ 組織再編によって設立された株式会社・持分会社の定款に関する論点。

◆ 変更定款に関する課税関係は、印紙税法基本通達第6号文書2を参照。

◆ 合併契約書又は吸収分割契約書若しくは新設分割計画書は課税文書に該当する(印紙税法別表第1 第5号)。事業譲渡契約書は、課税文書に該当する(印紙税法別表第1第1号)。

◆ 株式交換契約書、株式移転計画書、株式交付計画書、組織変更計画書は課税文書に該当しない(印紙税法別表第1第5号参照)。

◆ 吸収分割契約書に記載されている吸収分割承継会社が吸収分割会社から承継する財産のうちに、例えば不動産に関する事項が含まれている場合であっても、当該吸収分割契約書は第1号の1文書(不動産の譲渡に関する契約書又は営業の譲渡に関する契約書)には該当しない(印紙税法基本通達第5号文書3 )。

◆ 印紙税法別表第1第5号文書の効力発生日の変更契約書は、第5号の課税文書に該当する(横田宏

「令和3年6月改訂 印紙税取扱いの手引」424頁、清文社、2021年)。

加工商業登記受託促進研修会第1部

商業登記受託促進研修会第1部 日本司法書士会連合会

1.登録免許税の基礎知識編

1ー1商業登記と法人登記

(1)商業登記

商業登記の意義

商法、会社法または商業登記法の規定に基づき商人の組織等について商業登記簿にする登記

商業登記規則(登記簿の編成)第1条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=339M50000010023

商業登記簿は、登記簿の種類に従い、別表第1から第8までの上欄に掲げる各区に区分した登記記録をもつて編成する。

主体での分類

個人商人、未成年者、支配人、会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)

(2)法人登記

法人登記の意義

・会社以外の法人について、それぞれの法人の設立根拠法に基づき、各種法人登記簿にする登記

・統一した法律根拠法なし

設立根拠法による分類

社団法人・財団法人

組合等登記令の別表に記載のない法人

組合等登記令の別表に記載のある法人

独立行政法人等登記令の別表に記載のある法人

・組合等登記令

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=339CO0000000029

(2)法人登記|一般社団法人・一般財団法人

設立根拠法(実体法)と登記手続法令(手続法)が同一

法人名、設立根拠法(実体法)、登記手続法令(手続法)

一般社団法人、法人法、法人法(法登規)

一般財団法人、法人法、法人法(法登規)

※法人法 = 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法48号)

※法登規 = 一般社団法人等登記規則(平成20年法務省令48号)

実体法             手続法

法人法301条(一般社団法人の設立の登記)

一般社団法人の設立の登記は、その主たる事務所の所在地において、次に掲げる日のいずれか遅い日から2週間以内にしなければならない。

一 省略二 省略

2 前項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。省略

一般社団法人等登記規則2条(登記簿の編成)

一般社団法人等の登記簿は、登記簿の種類に従い、別表第1又は第2の上欄に掲げる各区に掲げる区分した登記記録をもって編成する。

2 前項の区には、その区分に応じ、別表第1又は第2の下欄に掲げる事項を記録する。

【コラム】株式会社と社団・財団法人の準用関係

法人法330条により、大部分を商業登記法を準用法登規3条により、大部分を商業登記規則を準用

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律

(商業登記法の準用)第三百三十条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000048

条文摘要 

1条の2会社法人等番号

50条商号【名称】の登記に用いる符号

61条1項 定款の定めがなければ登記すべき事項につき無効又は取消しの原因が存することとなる申請については、申請書に定款を添付

61条4項 設立(合併及び組織再編による設立を除く。)の登記は、設立時取締役【理事】が就任を承諾したことを証する書面に押印した印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付取締役【理事】の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書に添付すべき取締役が就任を承諾したことを証する書面に押印した印鑑についても同様

61条5項 取締役会【理事会】設置会社における前項の規定の適用については「設立時取締役【理事】」とあるのは「設立時代表取締役【理事】」

【コラム】株式会社と社団・財団法人の準用関係

61条6項 代表取締役【理事】の就任による変更の登記の申請書には、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付しなければならない。

ただし、当該印鑑と変更前の代表取締役【理事】が登記所に提出している印鑑とが同一であるときは、この限りでない。

①株主総会【社員総会】の決議によって代表取締役を定めた場合

議長及び出席した取締役【理事】が株主総会【社員総会】の議事録に押印した印鑑

②取締役【理事】の互選によって代表取締役【理事】を定めた場合取締役【理事】がその互選を証する書面に押印した印鑑

③取締役会【理事会】の決議によって代表取締役【理事】を選定した場合

出席した取締役【理事】及び監査役【監事】が取締役会【理事会】の議事録に押印した印鑑(※法人法95条3項で押印者の別段の定めが可能)

(理事会の決議)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000048

第九十五条 1項、2項略

3 理事会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した理事(定款で議事録に署名し、又は記名押印しなければならない者を当該理事会に出席した代表理事とする旨の定めがある場合にあっては、当該代表理事)及び監事は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

61条7項 本人確認証明書

61条8項 登記所に印鑑を提出した代表取締役【理事】の辞任の登記は、辞任を証する書面に押印した印鑑につき市町村長の作成した証明書の添付。又は、登記所に提出した印鑑での押印

81条の2 役員等につき、旧氏の併記の申出

(2)法人登記 組合等登記令の別表に記載がある法人

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=339CO0000000029

組合等登記令第1条(適用範囲)

別表の名称の欄に掲げる法人の登記については、他の法令に別段の定めがある場合を除くほか、この政令の定めるところによる。

別表の名称に記載(84種類)

・登記事項

目的及び業務

名称

事務所の所在場所

代表権を有する者の氏名、住所及び資格

組合等登記令プラスαの登記事項

資産の総額

存続期間又は解散の事由を定めたときは、その期間又は事由

別表の登記事項の欄に掲げる事項(プラスα)

(※各法人固有の登記事項)

設立根拠法:医療法第43条

医療法人は、政令【筆者注:組合等登記令】で定めるところにより、その設立、従たる事務所の新設、事務所の移転、その他登記事項の変更、解散、合併、分割、清算人の就任又はその変更及び清算の結了の各場合に、登記をしなければならない。

(2)法人登記―組合等登記令の別表に記載がない法人

株式会社、社団・財団法人、組合等登記令対象法人以外に法人は存在するか?

宗教法人設立根拠法:宗教法人法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000126

宗教法人法52条(設立の登記)

宗教法人の設立の登記は、規則の認証書の交付を受けた日から2週間以内に、主たる事務所の所在地においてしなければならない。

2 設立の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。

一 目的(第6条の規定による事業を行う場合には、その事業の種類を含む。)

二 名称

三 事務所の所在場所

四 当該宗教法人を包括する宗教団体がある場合には、その名称及び宗教法人非宗教法人の別

五 基本財産がある場合には、その総額

六 代表権を有する者の氏名、住所及び資格

七規則で境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物に係る第23条第1号に掲げる行為に関する事項を定めた場合には、その事項

八規則で解散の事由を定めた場合には、その事由

九公告の方法設立根拠法に登記手続法令も規律その他、事業協同組合(中小企業等協同組合法)が該当

(2)法人登記 独立行政法人等登記令の別表に記載のある法人(参考)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=339CO0000000028

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 (JAXA)

独立行政法人通則法

9条(登記)独立行政法人は、政令で定めるところにより、登記しなければならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000103

独立行政法人等登記令

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=339CO0000000028

2条(設立の登記)

独立行政法人等の設立の登記は、その主たる事務所の所在地においてしなければならない。

2 前項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。

一名称

二事務所の所在場所

三 代表権を有する者の氏名、住所及び資格

四 独立行政法人及び国立大学法人等にあつては、資本金

五 代表権の範囲又は制限に関する定めがある独立行政法人にあつては、その定め

六 独立行政法人北方領土問題対策協会にあつては、基金

七 別表の名称の欄に掲げる法人にあつては、同表の登記事項の欄に掲げる事項

(3)課税対象

法人は登録免許税適用法人ではない

登録免許税・・・第三者に対する対抗要件を備える等、その権利が保護される利益に着目して課税

登録免許税は、別表第1に掲げる登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定及び技能証明について課する。

登録免許税法 別表第1(抜粋)

1不動産の登記(不動産の信託の登記を含む)

2船舶の登記

5 工場財団等

9 動産譲渡又は債権の譲渡若しくは質権の設定の登記

法人登記の規律なし

租税法律主義(憲法84条)

会社又は外国会社の商業登記(相互会社及び外国相互会社の登記並びに一般社団法

24人及び一般財団法人に関する法律の規定によってする一般社団法人(公益社団法人を除く。)及び一般財団法人(公益財団法人を除く。)の登記を含む。)

25特定目的会社の登記

26投資法人の登記

27有限責任事業組合契約の登記(LLP)

28投資事業有限責任組合契約の登記(LPS)

28の2 限定責任信託の登記

29個人の商業登記(※未成年者・後見人の登記を含む)

登録免許税法別表1・24(抜粋)

登録免許税は、別表第1に掲げる登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定及び技能証明について課する。

(一)会社・一般社団法人、一般財団法人

登記の事項、課税標準、税率

イ 株式会社の設立の登記(新設合併・組織変更・新設分割の設立を除く)

資本金の額×1000分の7(計算した税額が15万円に満たないときは15万円)

ロ 設立の登記合名会社・合資会社・一般社団(財団)法人の申請

件数 1件につき6万円

合同会社の設立の登記

ハ (新設合併・新設分割・組織変更・種類変更による設立を除く)

資本金の額×1000分の7(計算した税額が6万円に満たないときは6万円)

ニ (株式会社吸収合併・合同会社の資本金の増加の登記吸収分割による資本金の増加を除く)

増加した資本金の額×1000分の7(計算した税額が3万円に満たないときは3万円)

ホ 合同会社の設立の登記新設合併・組織変更・種類の変更による株式会社又は資本金の額×1000分の1.5(新設合併により消滅した会社等の新設合併等の直前における資本金の額として財務省令で定めるものを超える資本金の額に対応する部分については1000分の7)計算した税額が3万円に満たないときは3万円

登録免許税法別表1・24(抜粋)

登録免許税は、別表第1に掲げる登記、登録、特許、免許、許可、認可、指定及び技能証明について課する。

(一)会社・一般社団法人、一般財団法人

登記の事項、課税標準、税率

ヘ 増加の登記吸収合併による株式会社・合同会社の資本金の増加した資本金の額

1000分の1.5(吸収合併により消滅した会社の吸収合併の直前における資本金の額として財務省令で定めるものを超える資本金の額に対応する部分については1000分の7)(税額が3万円に満たないときは3万円)

ト 新設分割による株式会社・合同会社の設立の登記  

資本金の額×1000分の7(計算した税額が3万円に満たないときは3万円)

チ 吸収分割による株式会社・合同会社の資本金の増加の登記  資本金の額増加した資本金の額×1000分の7  (計算した税額が3万に満たないときは3万円)

ヌ 新株予約権の発行による変更の登記

申請件数

1件につき9万円

ル 支店・従たる事務所の設置の登記

支店・従たる事務所の数1か所につき6万円

ヲ 本店(主たる事務所)・支店の移転の登記  

事務所の数1か所につき3万円

登録免許税法別表1・24(抜粋)

(一)  会社・一般社団法人、一般財団法人

登記の事項、課税標準、税率

ワ 取締役会、監査役会、監査等委員会・指名委員会等又は理事会に関する事項の変更の登記

申請件数1件につき3万円

取締役、会計参与、監査役、会計監査人、指名委員会等のカ 委員、執行役、社員(※持分会社)理事、監事、評議員に関する事項の変更の登記  

申請件数1件につき3万円(資本金の額が1億円以下の会社・一般社団法人等については1万円)

ヨ 支配人の選任の登記・その代理権の消滅の登記

申請件数1件につき3万円

レ 会社・一般社団法人等の解散の登記

申請件数1件につき3万円

ソ 会社・一般社団法人等の継続の登記

申請件数1件につき3万円

ツ 登記事項の変更、消滅又は廃止の登記(上記以外)

申請件数1件につき3万円

ネ 登記の更正の登記

申請件数1件につき2万円

ナ 登記の抹消の登記

申請件数1件につき2万円

登録免許税法別表1・24(抜粋)

(二)外国会社・外国相互会社の登記 省略

(三)会社・一般社団法人等の清算に係る登記

登記の事項、課税標準、税率

イ 清算人・代表清算人の登記

申請件数1件につき9,000円

ロ 清算人(代表清算人)の職務執行者の停止、その取消、変更又は清算人(代表清算人)の職務代行者の選任、解任、変更の登記

申請件数1件につき6,000円

ハ 清算の結了の登記

申請件数1件につき2,000円

登記事項の変更、消滅、廃止の登記

ニ (これらの登記のうちロに掲げるものを除く)登記の更正の登記、登記の抹消

申請件数1件につき6,000円

(2)定額課税

申請件数、本店・支店の数を基準に登録免許税が定められているもの

論点

登録免許税法別表における同一区分の扱い(数個の登記)は?

結論

1件の登記として登録免許税を納付

根拠     昭和29年4月2日民甲866号通達 (登記研究79号42頁)

登記事項が時を異にする場合でも可能

• 例:令和5年2月1日商号変更、2月10日の目的変更を同一申請(大正11年11月10日民事4841号民事局長回答

具体例免許税根拠、結論、備考

商号変更、目的変更、(ツ)、同一区分 

商号変更、取締役の変更、(ツとカ)、同一区分ではない         

商号変更、取締役会設置会社の定めの廃止、(ツとワ)、同一区分ではない     

監査役変更、監査権限の廃止、(カ)、同一区分

取締役会廃止、監査役廃止、(ワとツ)、同一区分ではない     

支店設置、支店廃止、(ルとツ)、同一区分ではない、設置は支店数基準、廃止は申請件数基準

支配人の辞任、選任、(ヨ)、同一区分取り扱わない(昭和42年7月22日民甲2121号、登記研究237号114頁)【例外】財貨の流通があるときは、資本金の額等に一定の比率を乗じた税額を算定。ただし、最低税率の定めあり

ポイント

その税額の基準となる額 = 課税標準額

課税標準額×税率=登録免許税

具体例 課税標準額、税率、根拠

株式会社の設立の登記、資本金の額、1000分の7、24号(1)イ

株式会社の資本金の額の増加の登記、増加した資本金の額、1000分の7、24号(1)ニ

吸収合併による株式会社の資本金の増加の登記、増加した資本金の額、100分の1.5、24号(1)ヘ

増資により、発行済株式の総数が増加するが、別途、登録免許税は不要

端数処理

課税標準額に1,000円未満の端数

端数切り捨て(国税通則法118条1項)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000066

税額に100円未満の端数

端数切り捨て(国税通則法119条1項)

課税標準が1,000円未満

1,000円として計算(登録免許税法15条)

【具体例】3,015万9,500円の増資(すべて資本金の額に計上)

3,015万9,000円

1000分の7

21万1,113円

21万1,100円

課税標準額                  税率                登録免許税

最低税額

具体例  課税標準額      計算式  計算額             最低額

株式会社設立   1,000万円     ×7/1000      7万円  <15万円

株式会社設立   3,000万円     ×7/1000      21万円>15万円

合同会社設立   500万円        ×7/1000      3万5,000円<6万円

合同会社設立   1,000万円     ×7/1000      7万円>6万円

増資     300万円        ×7/1000      2万1,000円<3万円

増資     2,000万円 ×7/1000         14万円 >3万円

(4)定率課税と定額課税の同一申請の計算方法

それぞれの登記について登録免許税を合算

登録免許税法18条

(2以上の登記等を受ける場合の税額)

同一の登記等の申請書により、別表第1に掲げる登記等の区分に応じ2以上の登記等を受ける場合における登録免許税の額は、各登記等につき同表に掲げる税率を適用して計算した金額の合計金額とする。

特例有限会社の株式会社移行(資本金変動なし)と目的変更

登記事項、登録免許税、根拠

有限会社の解散、3万円、24(一)レ

株式会社の設立、3万円、税法17条の3、24(一)ホ

目的変更、※課税なし(設立に内包されていると考える。

合計6万円

増資・同一管轄内の本店移転・商号変更

登記事項、登録免許税、根拠

増資分、3万5,000円、24(一)ニ 定率課税

本店移転、3万円、24(一)ヲ 定額課税

商号変更、3万円、24(一)ツ 定額課税

合計     9万5,000円

  • 現金納付(納付書)の方法

登録免許税法第21条

方策 税額に相当する金銭を納付書を添えて提出

提出先 日本銀行・金融機関・国税の収納を行う税務署

貼付 領収書(原本)を登記申請書に貼付

(2)電子納付

歳入金電子納付システム(登録免許税法第24条の2)

•電子情報処理組織を使用して登記の申請をする方法による納付の特例

ATMを利用した方法(ペイジー)

•ATMのメニューの中から「税金・各種料金の払込み」を選択

•通知された納付情報の収納機関番号を入力

•事前に金融機関に登録

•申請用総合ソフトを利用の場合は電子納付画面の「納付」ボタンを利用して各金融機関のインターネットバンキングにアクセス

インタ―ネットバンキングを利用した方法

登記・供託オンライン申請システムの解説(法務省HP)

https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/cautions/charge/charge.html

•手数料の納付状況は、処理状況一覧画面の納付情報で確認

•電子納付を利用できる時間は、各金融機関のシステムで確認

•手数料合計金額が11桁を超える場合は、電子納付不可

(2)電子納付

連件申請の電子納付に係る一括納付の取扱いが可能に

対象•電子納付

•書面申請や領収書・印紙納付は対象外

時期•令和4年12月19日~

留意点•申請時に一括納付の希望を選択

•連件の1件目に対し、合算した納付情報が発行

•連件申請内に無税や免税の申請があっても可能

従来の連件申請としての範囲の登記が対象

•一括納付希望後に収入印紙で納付することも可能

(3)印紙納付

登録免許税法22条

条文上の原則

•管轄登記所の近傍に収納機関が存在しないために現金納付が困難であると(地方)法務局長が認め、これを当該登記所に公示した場合

•登録免許税が3万円以下であるか、または税額の3万円未満の端数の部分を納付する場合

•このほか、印紙により納付することに特別の事情があると登記機関が認めた場合

実務上の取扱い

• 昭和45年12月8日民事三発958号依命通知(登記研究 278号 70頁)

「特別の事情があると認められる場合には、(省略)登録免許税を印紙によって納付することができるが、右の特別の事情が認められない場合でも登録免許税相当額の印紙を申請書にはり付けて申請された登記の申請を、商業登記法の規定によって却下するのは、相当ではない。

結論

•事実上、無限定で印紙納付が認められている

(2)特定創業支援事業証明書

創業希望者、創業して間もない人を支援するための国・自治体によるサポート事業「産業競争力強化法」に基づく支援事業

•セミナーや勉強会への参加

株式会社・・・資本金×0.35% (最低額7.5万円)

合同会社 資本金×0.35% (最低額3万円)

合名会社・合資会社 3万円 (通常6万円)

設立における登録免許税軽減(半減

日本政策金融公庫の新規開業資金融資の低利率

日本政策金融公庫の新創業融資が受けやすい

自治体の助成金や補助金の利用範囲の拡充

•創業計画書の作り方の指導

•専門家の派遣

※対象でない自治体もあり支援事業の受講を修了

 「特定創業支援事業の支援を受けたことの証明書」

1還付理由

•申請が却下された場合(登録免許税法第31条1項1号)

•申請が取り下げられた場合(同条2号)

•登録免許税を過大に納付したとき(超過額)(同条3号)

•再使用証明の還付(同条5項)

2対象

•領収書、収入印紙、電子納付

3留意点

•代理人が受領することも可能

•委任状必要(平成21年3月31日法務省民二第844号)

•代理受領の委任状につき、登記申請の際の委任状に代理人の還付金受領権限が記載されているものでもよい(平成26年5月9日法務省民二第272号・商事課長依命通知、登記研究 805号178頁。)

•申請人に国税の未納がある場合、還付金は未納付の国税に充当される委任状記載事項:「登記に係る還付金を受領すること」

却下事由(商業登記法24条)

一 申請に係る当事者の営業所の所在地が当該申請を受けた登記所の管轄に属しないとき。

二 申請が登記すべき事項以外の事項の登記を目的とするとき。

三 申請に係る登記がその登記所において既に登記されているとき。

四 申請の権限を有しない者の申請によるとき。

五 第21条第3項に規定する場合において、当該申請に係る登記をすることにより同項の登記の申請書のうち他の申請書に係る登記をすることができなくなるとき。

六 申請書がこの法律に基づく命令又はその他の法令の規定により定められた方式に適合しないとき。

七 申請書に必要な書面(第19条の2に規定する電磁的記録を含む。)を添付しないとき

八 申請書又はその添付書面(第19条の2に規定する電磁的記録を含む。以下同じ。)の記載又は記録が申請書の添付書面又は登記簿の記載又は記録と合致しないとき。

九 登記すべき事項につき無効又は取消しの原因があるとき。

十 申請につき経由すべき登記所を経由しないとき。

十一 同時にすべき他の登記の申請を同時にしないとき。

十二 申請が第27条の規定により登記することができない商号の登記を目的とするとき。

十三 申請が法令の規定により使用を禁止された商号の登記を目的とするとき。

十四 商号の登記を抹消されている会社が商号の登記をしないで他の登記を申請したとき。

十五 登録免許税を納付しないとき。

還付通知書

•登録免許税の過誤納があるときは、登記を受けた日から5年以内に、請求することが可能(登税31条2項、登税施行令31条2項)

•領収証書又は印紙について再使用の証明を受けた場合、その領収証書、又は印紙を再使用しないこととなったときは、その証明の日から1年以内に、再使用証明を無効とするとともに、登録免許税の還付を受けたい旨の申出をすることが可能

•特定創業支援事業の支援を受けたことを失念し、通常の税率による設立を了した場合には、すでに納付した登録免許税の還付は不可

登記官から所轄税務署長に通知(登録税31条)

•商業登記等事務取扱手続準則第76条(別記48号様式)

(2)再使用証明

収入印紙または領収証書が対象(電子納付は再使用の概念なし)

趣旨

• 都度、還付手続をとることは煩雑

• 商業登記等事務取扱手続準則第77条(別記50号様式)

取下げの日から1年以内

再使用証明をした登記所に申出書を提出

領収書・印紙を張り付けた用紙の余白に

「再使用できることを証明する」旨の文言

(2)再使用証明

1補正のための取下げ

• 登記の申請を却下しなければならない場合であっても、登記官が相当と認めるときは、事前にその旨を申請人又はその代理人に告げ、その申請の取下げの機会を設ける(商業登記準則40条4項)

2申請意思の撤回

撤回に係る委任状が別途必要(昭和29年12月25日民事甲2637号通達、登記研究 87号 33頁)

3留意点

•登記の完了、申請の却下の決定があるまでは、いつでも申請の取下げ可

(商業登記準則54条2項)

•数個の登記の申請がされた場合に、一部の取下げも可(商業登記準則54条8項)

•取下げが不動産登記の印紙の場合、商業登記に再使用することも可

同じ登記所において使用(登録免許税法31条3項)

(1)設立類型

設立行為

形態、単独

完全子会社設立、完全親会社設立

類型、通常設立、新設分割、株式移転

留意点

•設立登記申請日が会社設立日になるため、法務局が開庁していない土日祝日は選択できない

•日付のバックデートが当然にできない

•債権者異議手続等が必要な類型については、時間がかかる

•組織再編のスケジュールについては、後半の組織再編を参照

•法人の届出印の作成についても考慮

•グループ再編としての位置付けの場合、新設分割や株式移転のスキームによることも

(1)設立類型

圧倒的に発起設立が多い

発起設立

定款の作成(26条)

定款の認証(30条)

設立時発行株式に関する事項の決定(32条)

出資の履行(払込)(34条)

設立時役員等の選任 (38 条)

設立時役員による事項の調査(46 条)

本店所在場所の決定

設立時代表取締役の選定

設立登記申請

募集設立

定款の作成(26条)

定款の認証(30条)

設立時発行株式に関する事項の決定(32条)

出資の履行(払込)(34条)

設立時募集株式に関する事項の決定(58条)

設立時募集株式の申込み(59条)

設立時募集株式の割当(60条)

設立時募集株式の引受け(62条)

設立時募集株式の払込金額の払込(63条)

創立総会における役員等の選任(88条)

設立時役員による設立事項の調査(93条)

本店所在場所の決定

設立時代表取締役の選定

設立登記申請  

(2)設立時発行株式に関する事項(32条)

•発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数(各発起人ごとに記載)

•設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額

•成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項

設立時発行株式に関する事項が「定款」に記載してあるか否か

ある→ 充足

ない→発起人同意書

問題意識

定款は、公証人の認証を受けなければ効力を生じない(30条)

定款に発起人を記載。効力が生じないとすると発起人の定めも未確定ではないか?

認証後でなければ、払込ができないのではないか?

1 時期

• 設立時発行株式の引受「後」、遅滞なく出資に係る金銭の全額払込み(34条)

2例外

• 定款認証日であっても払込金額が記載された定款又は発起人全員の同意書の作成日よりの日付をもって払い込まれた事実が判明する払込も可(昭和31.5.19民四第103号回答。登記研究103号29頁。)

3 さらに例外的(救済的)処置

•条文上、設立時発行株式の引受後の払込となっているが?

払込時期の緩和(例外的・救済的措置)

令和4年6月7日規制改革実施計画(閣議決定)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/p_index.html

(5.個別のスタートアップ・イノベーションより)

• 株式会社発起設立時の出資に係る払込みの時期について、設立時発行株式に関する事項が定められている定款の作成日又は発起人の同意があった日前に払込みがあったものであっても、発起人又は設立時取締役(発起人からの受領権限の委任がある場合に限る)の口座に払い込まれているなど当該設立に際して出資されたものと認められるものについて、設立登記申請の4週間前など近接した時期のものであれば、出資に係る払込みがあったものと認めることとする。

令和4年6月13日株式会社の発起設立の登記の申請書に添付すべき会社法第34条第1項の規定による払込みがあったことを証する書面の払込みの時期について(令和4年6月13日民商286号)通知

•預金通帳の写し又は取引明細表その他払込取扱機関が作成した書面に記載された払込みの時期については、設立時発行株式に関する事項が定められている定款(商業登記法第47条2項1号)の作成日又は発起人全員の同意があったことを証する書面(同条第 3項)に記載されているその同意があった日後に払込みがあった場合はもとより、

•その前に払込みがあった場合であっても、発起人又は設立時取締役(発起人からの受領権限の委任がある場合に限る(平成29年3月17日民商第41号通達参照。登記研究 833号 147頁。))の口座に払い込まれているなど当該設立に際して出資されたものと認められるものであれば、差し支えない。

払込取扱場所(34条)

払込みは、発起人が定めた銀行等(銀行(銀行法2条第1項に規定する銀行をいう。)、信託会社(信託業法第2条第2項に規定する信託会社をいう。)その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の払込みの取扱いの場所

可否、備考

○株式会社ゆうちょ銀行、昔の郵政公社は不可

○外国金融機関の本店、施行規則7条・銀行法47条

○信用金庫、施行規則7条

○農業協同組合、施行規則7条

○ネット銀行、銀行法4条1項

邦銀の海外支店、平成28年12月20日民商179号。登記研究 832号 172頁。

払込があったことを証する書面(商業登記法47条2項5号)

すでにある残高でもよいか→不可

振込でなければならないのか→入金でもよい

発起人各自での入金が必要か→複数人まとめても可

複数回分けての入金でもよいか→可能

資本金の額よりも多い金額の入金は→可能

発起人が法人の場合、代表取締役個人口座は→不可

発起人毎に口座への入金は→可能

当該預金通帳の口座名義人の範囲について

原則・発起人

例外・設立時取締役

発起人から払い込みの受領を委任した旨の書面をあわせて添付記載例 「出資の払込を受領する権限を設立時代表取締役○○に委任」

例外

外国居住の例外

発起人及び設立時取締役の全員が日本国内に住所を有していない場合の特

例として、発起人及び設立時取締役以外の者であっても差し支えない

平成29年3月17日民商第41号通達)。

募集設立の場合には払込保管証明書を金融機関で発行してもらうことが必要

払込を証する書面には押印の有無の審査を要しない

令和2年7月17日(閣議決定)

「経済財政運営と改革の基本方針2020」

• 書面・押印・対面主義からの脱却等

書面・押印・対面を前提とした我が国の制度・慣行を見直し、実際に足を運ばなくても手続できるリモート社会の実現に向けて取り組む。このため、全ての行政手続を対象に見直しを行い、原則として書面・押印・対面を不要とし、デジタルで完結できるよう見直す。また、押印についての法的な考え方の整理などを通じて、民民間の商慣行等についても、官民一体となって改革を推進する。行政手続について、所管省庁が大胆にオンライン利用率を引き上げる目標を設定し、利用率向上に取り組み、目標に基づき進捗管理を行う。

平成3年1月29日民商10号「会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて」(通達)

• 第4 押印既定の見直し

法令上,押印又は印鑑証明書の添付を要する旨の規定がない書面については,押印の有無について審査を要しないものとする。

※申請書・商業登記規則61条4項(就任承諾)、6項(選任担保の議事録)、8項(登記所に印鑑を提出した者の辞任)については押印規定を維持

(4)取締役・監査役の選任

出資の履行が完了した後に選任(38条)

役員の記載

定款に定められている場合

出資の履行が完了した段階で設立時役員に選任されたものとみなす(38条4項)

定款に定められていない場合

発起人は、出資の履行が完了した後、遅滞なく、設立時役員を選任(38条1項)

(5)現物出資

金銭以外の財産を出資すること

1メリット

• 会社が必要としている財産を発起人が所有している場合、端的に取得することが可能

2デメリット

•検査役の調査が必要(時間と費用がかかる)

•検査役調査不要の例外規定あり(合同会社は常に不要)

3定款記載事項(28条1号)

• 出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額、その者に割り当てる株式の数

4規定の理由

• 現物出資の目的財産の価額を過大評価し、他の株主持分の希釈化を阻止するため

•いつ、検査役の選任を申し立てるのか?→公証人の定款認証後遅滞なく(33条1項)

•選任された検査役は、必要な調査を行い、調査報告書を裁判所に提出

(5)現物出資

現物出資の検査役がいらない類型

33条10項、備考

1号 現物出資の目的財産の定款に定めた価額の総額が500万円を超えない場合

全体の価額× 自動車200万円 有価証券400万円

2号 市場価格のある有価証券であり、定款に定めた価額 が、その市場価格を超えない場合

原則、市場価格の算定は、公証人の認証の日における最終市場価格

3号 目的財産の定款に定めた価額が相当であることにつき、弁護士等の証明を受けた場合(不動産である場合には、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価

証明者:弁護士・弁護士法人、外国法事務弁護士、共同法人、公認会計士・監査法人、税理士・税理士法人)※資格者である旨の証明書は不要

定款認証の機能

認証地

会社の本店の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の所属公証人(公証人法62条の2)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=141AC0000000053

紛争予防機能、不正な起業を抑止する機能、実質的支配者を把握する機能。

•不明瞭な規定の防止

•面前認証による心理的抑止

•暴力団員・国際テロリスト関与の否定

•定款に沿わない行為の防止

•なりすましによる起業の防止

•マネー・ロンダリングの防止

規制改革実施計画(令和4年6月7日閣議決定)

規制改革推進会議

共通課題対策WG

スタートアップ・イノベーションWG

人への投資WG

医療・介護・感染症対策WG

地域産業活性化WG

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_01startup/221111/startup02_agenda.html

実態調査中

規制改革の内容

法務省は、定款認証時の不正抑止の効果やマネー・ロンダリング防止の効果が定量的に把握されていないことを踏まえて、公証人や嘱託人を対象として、定款認証に係る公証実務に関する実態を把握するための調査を行った上で、当該結果を分析し、定款認証が果たすべき機能・役割について評価を加えるとともに、その結果に基づいて、定款認証の改善に向けて、デジタル完結・自動化原則などのデジタル原則を踏まえた上で、面前での確認の在り方の見直しを含め、起業家の負担を軽減する方策を検討し、結論を得た上で、必要な措置を講ずる。

定款認証の手続のコスト

•手続の所要時間

•予約が取れずに待った時間

設立手続全体に要する金銭的コスト

•設立手続全体の費用

•その内訳

今後の手続コストの削減の方策

•Web認証の利用率、理由

• その他手続全般の改善点

面前での定款認証のスケジュール

1定款案の連絡

法令に沿っているか

2実質的支配者申告書案の連絡

不正な起業の抑止等

3認証日の予約

公証人との日程調整

4定款作成・認証の委任

委任状と定款合綴

5定款の電子署名

電子署名の用意、定款認証日前に申請

6オンライン申請

電子署名の自認

7公証人面前での認証

8費用の精算(クレジット払い)

9定款・実質的支配者申告書の受領

電子媒体・紙媒体

公証人手数料令35条の改正

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405CO0000000224

令和4年1月1日からの公証事務運用(令和3年12月10日付)

変更された背景規制改革実施計画(令和3年6月18日閣議決定)

会社設立時の定款認証に係る公証人手数料について、起業促進の観点からその引下げを検討し、必要な措置を講ずる。

→資本的規模の小さな会社に係る定款認証の手数料をその規模に応じて引き下げることに

従来

定款認証の手数料5万円

改正後

成立後の株式会社の資本金によって金額が変更

認証費用は、定款記載の資本金等の額

定款記載の資本金の額

1号 資本金100 万円未満のもの 3万円

2号     100万円以上300万円未満のもの 4万円

3号 前2号に掲げる場合以外のもの 5万円

ポイント

資本金の額の記載がなければ、「設立に際して出資される財産の価額」

• 一般社団法人の定款認証の手数料は、公証人手数料令35条により5万円

その他費用、費用額、根拠条文、備考

電子定款、収入印紙不要

電磁的記録の保存、300円、41条の2

同一情報の提供、700円、41条の3

紙謄本代、枚数×20円、41条の4、認証文頁込み

事象、定款認証費用

具体例

•定款 資本金75万円定款 資本準備金75万円→3万円

具体例

•定款 設立に際して出資される財産150万円

発起人同意 資本金75万円、資本準備金75万円→4万円

具体例

•定款 設立に際して出資される財産の最低額50万円

発起人同意 資本金50万円→5万円(注:3号に該当)

(3)テレビ電話を利用した認証手続

オンラインでの定款認証制度の創設(平成31年)

社会的背景

•未来投資戦略2018年(平成30年6月15日閣議決定)

•より効果的・効率的な定款認証手続の実現及び利便性の向上

•「株式会社の設立手続に関し、一定の条件の下、本年度中にテレビ電話等による定款認証を可能に」

指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令の一部改正(平成31年法務省令第4号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413M60000010024

•平成31年3月5日公布

•平成31年3月29日施行

法令    

要旨•嘱託人が指定公証人の面前において行う行為を映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法(FaceHubというテレビ電話ソフト)によってする

•Skype、zoomの使用は不可

•電磁的記録の認証の付与についても、電気通信回線により嘱託人に送信してすることが可能

難点

• 電子署名された委任状を送信する方法による必要があったため、電子証明書の普及が進んでおらず、送信が事実上、難しい

(3)テレビ電話を利用した認証手続

オンラインでの定款認証制度の課題の克服

再改定  •指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令の一部改正(再改正)令和2年5月1日公布•令和2年5月11日施行

要旨

•発起人の実印の押印された紙の委任状と、当該委任者の印鑑証明書を郵送する方法も可能に

•原始定款をオンラインで受領するか、紙ベースで返送されるか選択可能

•パソコン使用の場合には、Google Chromeを事前にインストールスマートフォンの場合には、FaceHubアプリのインストール

手続

1. 定款案、実質的支配者申告書案(定款作成代理を行う場合は、司法書士の電子署名など)の連絡

2. 認証日の予約(認証費用の事前連絡)

3. 必要書類(委任状・印鑑証明書等)を事前に郵送(紙謄本や申告受理証明書が必要の場合、返信用封筒を同封)

4. 公証人がテレビ電話用のURLを嘱託人にメール送信

5 認証費用について事前に振込み

6 公証センターに、登記・供託オンライン申請システムから、電子定款の認証申請

6. 認証日当日に画面越しに顔写真付き身分証明書(会員証と、運転免許証など)の提示による自認

7. 認証後、定款データのダウンロード(紙媒体での返送も可能)

実質的支配者申告書については、法人の銀行口座開設の際に必要になることが多い

社会的背景

•昨今、法人の実質的支配者を把握することにより法人の透明性を高め、暴力団員等による法人の不正使用(マネー・ロンダリング、テロ資金供与等)を抑止することが国内外から求められている

対象•株式会社一般社団法人•一般財団法人

ポイント

•公証人法施行規則13条の4の新設(平成30年法務省令26号)平成30年10月12日公布•平成30年11月30日施行

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324M50000001009

内容•定款認証を行う公証人に実質的支配者の氏名・住所・生年月日、当該者が暴力団員又は国際テロリストに該当するか否かを申告

実質的支配者となるべき者が、暴力団員又は国際テロリストに該当(該当するおそれがある)場合、嘱託人又は実質的支配者となるべき者に必要な説明をさせなければならない

公証人法施行規則第13条の4第1項第2号に基づく嘱託人の申告の方法等について(照会)

令和3年7月1日付日公連第18号

•嘱託人と実質的支配者となるべき者が異なる場合、嘱託人は、実質的支配者が暴力団員等に該当するか否かを証明する必要はない

•実質的支配者となるべき者が作成したその旨の表明保証書を提出することも可能

•公証人連合会HP参照

株式会社が発起人である場合の定款認証の際の実質的支配者の認定根拠資料

令和4年6月7日(閣議決定)「規制改革実施計画」(28頁)

• 法人設立手続の迅速化・負担軽減

・定款認証時における実質的支配者の申告の際に公証人が嘱託人に提出を求める資料に関し、株主名簿に代えて株式会社が発起人である場合における実質的支配者の認定根拠資料としては当該株式会社の議決権数上位 10 名の株主又は議決権割合が3分の2に達するまでの株主のいずれか少ない方の株主を対象として作成される株主リスト(商業登記規則(昭和 39 年法務省令第 23 号)第 61 条第3項参照)等をもって足りるものとする運用を全国統一的に実施する。

FATF対応定款認証制度に関するQ&A(問31)

•発起人が法人である場合などの実質的支配者の認定根拠資料としては、どのようなものが考えられるか。

•従前は株主名簿の提出を求めることもあったが、株主が多数いる場合に嘱託人に不必要な負担を課すものであるという批判を招いた。また、会社法上、株主名簿の閲覧、謄写の請求権があるのは、株主及び債権者とされており(会社法125条)、一般に公開されているものではなく、個人情報保護の観点からも問題がある。このような株主名簿の性質を考慮すると、発起人が法人である場合の実質的支配者の認定根拠資料として、株主名簿にこだわるべきではなく、むしろその提出を求めることが不適切となる場合がある。

•実質的支配者の認定根拠資料となる書類は、当該会社のしかるべき立場の者が作成名義人となっており、所要の事項(実質的支配者である株主の名前・住所、保有株式数、議決権割合など)が記載されているもので足りる。

具体的書類:上申書、報告書、陳述書、株主リスト

(1)その他手続の流れ

取締役・監査役による設立手続の調査(46条)

設立時取締役(設立時監査役)は、その選任後遅滞なく、調査しなければならない。

会計監査に限定した監査役にはこの調査義務はない

•現物出資がない限り、この書類は登記の添付書類にならない調査事項

1号検査役の調査のいらない現物出資、財産引受の価額の相当性

2号現物出資の弁護士等の証明書が相当であること

3号出資の履行が完了していること

4号上記のほか設立手続が法令又は定款に違反していないこと

設立起算日は、発起設立による会社法第46条第1項の規定に基づく調査が終了した日か、発起人が定めた日のどちらか遅い方。

登記懈怠のないことの確認が必要(911条)登記の事由 令和●年●月●日発起設立の手続終了

(1)ファストトラック(優先的処理)

• 「登記・法人設立等関係手続の簡素化・迅速化に向けたアクション・プラン」に基づく会社の設立登記の優先処理について(平成30年2月8日民商第19号通達、登記研究 864号104頁)

社会的背景•世界最先端IT国家創造宣言(平成25年6月14日閣議決定)国のIT化・業務改革の推進や起業の促進等の観点から、法人設立に必要な各種手続の簡素化・迅速化が強く求められる

ファストトラックの対象• 株式会社の設立、合同会社の設立、新設合併・新設分割・株式移転によるものを含む

時期•平成30年3月12日~

内容•申請の受付日の翌日(オンライン申請において別送書類がある場合には書面の全部が登記所に到達した日の翌日)から起算して、原則として3日以内に完了

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00110.html

  • スーパー・ファストトラック・オプション

内容・定款認証と設立登記のオンライン同時申請が可能

時期・令和3年2月15日

対象○ 株式会社、✖合同会社 (※定款認証不要のため )、✖一般社団法人 ・一般財団法人

要件(定款認証)

•定款認証と 設立登記のオンライ同時申請がされたこと

・テレビ電話を使用した認証であること

要件(登記申請)

添付情報がすべて電磁的記録により作成されいること(完全オンライン)

•※就任承諾書等への電子署名が必要

•補正の必要がないこと

•設立時役員等が5人以内

•登録免許税の電子納付利用

効果•同時申請のから24時間以内に電子定款の認証とも設立登記を完了

通常の設立手続の流れとの差異に注意

1 発行株式の引受け(定款又は発起人全員の同意)

2出資の払込

3設立時取締役等の選任

4定款認証以外の手続完了

5定款認証・設立の同時申請

留意点

•申請できる士業:弁護士・司法書士(行政書士を除く)

•オンライン同時申請がされた定款は、遅くとも当日中に公証人の認証手続を完了する必要

•実務的には、午後3時ころまでを推奨

•同時申請がされた日に定款が認証されないと、登記申請は却下(定款認証自体は、有効なものとして維持)

•オンライン申請は定款認証の予定日前に行うことはできない

(1)解散の端緒

株主総会の決議によることが多数

1        存続期間の満了(471条)

2        解散事由の発生

3        株主総会の特別決議

4        合併(当該株式会社が消滅する場合に限る)

5        破産手続開始の決定

6        解散命令

7        解散判決

8        一定の営業に係る免許等の取消し(銀行法40条・保険業法152条3項)

(2)解散原因

解散をもって事業年度が終了(494条)

清算事務年度の開始 (※合同会社では、同様の規定なし)

例:3月決算の会社が令和4年12月31日に解散した場合解散時期は、月末や事業年度に合わすことが望ましい

当初事業年度

清算     当解 年           初散 度           決時 開           算期 始           期

3月31日

12月31日・解散時期

1月1日・清算年度開始

3月31日・当初決算期

12月31日

1月1日から12月31日が清算事業年度

(3)期限付解散決議と存続期間

期限付決議の有効性を認めつつ、存続期間との異同に留意

趣旨• 期限付解散決議自体は、公示の対象にならず、債権者に不測の損害を及ぼすおそれ

原則• 数ヶ月も先の一定日時に解散する旨の解散決議は、期限付解散決議ではなく、存続期間の定め(昭和34年10月29日民事甲第2371号回答、登記研究145号 27頁。

留意点・会社法上、変更の登記及び解散の登記にいずれも2週間の猶予期間が設けられていることに鑑みれば、当該株主総会決議日から解散日が2週間以内とされているものであれば、取引の安全を図るという会社法の趣旨に必ずしも反しないと考えられ、期限付解散決議に係る解散の登記を受理して差し支えない。

12月1日に、12月31日を解散とする決議をした場合

存続期間の定めと解する

登記事由 令和5年1月1日存続期間の満了により解散

株主総会のほか、下記の組み合わせ(477条)

1清算人

2清算人+監査役(公開会社又は大会社)

3清算人+清算人会

4清算人+清算人会+監査役

5清算人+清算人会+監査役+監査役会

留意事項

•取締役会設置会社が、清算人会設置会社に移行しなければならないわけではない

•会計参与、会計監査人又は委員会(指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社)を置くことは不可

→会計監査人・会計参与は、解散と同時に退任

•清算開始段階で「公開会社」又は「大会社」であった場合、監査役を置かなければならない(477条3項)

合併、破産手続開始の決定による解散の場合を除き、清算人による清算が必要(478条)

1定款の定め

2株主総会の決議

3清算開始時の取締役

•これらにより清算人となる者がないときは、裁判所が選任した者

(解散命令又は解散判決によって解散した場合には、常にこの方法による)

•解散前に任期満了又は辞任により退任した取締役が存在する場合(346条)、株主総会で清算人を選任せず、かつ、定款に清算人に関する規定がなかった場合には、権利義務取締役の全員が清算人(昭和49年11月15日民四5938号、登記研究 325号 68頁。)

代表清算人

清算人会を置かない場合

1各自代表(483条)

2定款の定め

3株主総会の決議

4定款に清算人互選の定めを設け、清算人の互選

清算人会を置く場合

・清算人会で選任(489条3項)

(5)登記事項

株式会社と特例有限会社の異同

清算人が1名の場合

株式会社 清算人氏名 代表清算人住所・氏名

特例有限会社 清算人住所・氏名

清算人が複数の場合

株式会社 清算人氏名 代表清算人住所・氏名

特例有限会社 清算人住所・氏名 代表清算人氏名

会社法928条、整備法43条2項

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000087

 (登記に関する特則)

第四十三条 1項略

2 特例有限会社の清算人の登記については、会社法第九百二十八条第一項第一号中「氏名」とあるのは「氏名及び住所」と、同項第二号中「氏名及び住所」とあるのは「氏名(特例有限会社を代表しない清算人がある場合に限る。)」とする。

解散の際の検討事項

定款変更の検討

•清算手続中も譲渡制限規定の効力が維持されるため、その承認機関の変更をすることを要する

•解散と同時に譲渡制限規定を変更しないことが解散登記の却下事由に該当はしない(登記研究708号177頁)

本店移転の有無

•営業所を借りていたが、清算結了にむけて代表者個人の住所またはその他の所在地に本店を移すことはないか

特別清算申立ての義務(511条)

債務超過の疑いがあること

破産手続申立ての義務(484条)

•財産がその債務を完済するに足りないことが明らかとなったとき

解散・清算人就任登記の添付書類

定款

•清算人会設置会社の定めの有無を確認するため

•定款で定める者が清算人となる場合には、その定めを確認するため

•特例有限会社取締役が法定清算人となる場合に定款に別段の定めがないことを確認するため(消極証明)

•清算人会設置不可(整備法33条1項)のため、株主総会決議で解散決議

・清算人を選任する限り、定款の添付は要しない

株主総会議事録

•解散決議、清算人の選任のため株主リスト

• 提出者は、清算人

就任承諾書 •• 商業登記規則商業登記規則6161条条47項の適用なく、市町村長の作成した証明書の添付は不要項に基づく本人確認証明書の適用なし

登記委任状 • 委任者は、清算人

印鑑届書 • 印鑑証明書の徴収は必要

その他  • 婚姻等により氏を改めた清算人、代表清算人、(商業登記規則81条の2) 旧氏をも登記するよう申出可能

登録免許税(その他の事由と同時に申請する場合)

解散•3万円 (一)ㇾ

清算人選任•9,000円(三)イ

代表取締役住所変更•1万円 (一)カ ※(三)ニの登記事項変更 (6,000円)に該当しない

商号変更•3万円(一)ツ ※(三)ニの登記事項変更 (6,000円)に該当しない

(1)解散後の規律の適用の有無

適用不可

•        自己株式の取得(但し、無償による自己株式の取得は可能)

•        計算書類の公告

•        資本金(準備金)の額の減少

•        剰余金の配当

•        株式交換・株式移転・株式交付の当事者となること

•        特別支配株主の株式等売渡請求の対象会社となること

•        合併存続株式会社、分割承継株式会社となること(474条)

•        監査役の任期の不適用(491条、336条)

適用可 

•        商号の変更

•        本店移転

•        募集株式の発行(487条2項)(※資本金が増えない点に留意)

•        募集新株予約権の発行

•        支配人の選任

•        支店の設置

•        社債の発行

個別催告

•「知れている」債権者への個別催告(499条)

•官報のほか、定款に定める公告方法による(ダブル公告)、個別催告の省略は不可(組織再編との違い)

債権者保護手続

公告

•官報

•会社が定める公告方法ではない

•官報販売所に申込みについては、後述

•解散公告は、旧商法では、3回必要だったが、1回でよいことに

•2か月間の除斥期間(2か月の期間計算については後述)

【官報公告案】

解散公告

当社は、令和○年○月○日開催の株主総会の決議により解散いたしましたので、当社に債権を有する方は、本公告掲載の翌日から2箇月以内にお申し出下さい。

なお、右期間内にお申し出がないときは清算から除斥します。

令和○年○月○日

○県○市○丁目○番○号

○○商事株式会社代表清算人 法務太郎

個別催告書案

令和○年○月○日債権者各位

○県○市○丁目○番○号

○○商事株式会社代表清算人 法務太郎債権申出のご催告

拝啓 時下ますますご清栄の段慶賀申し上げます。

さて、弊社は、令和○年○月○日開催の株主総会において、同日をもって解散いたしました。これまで債権者各位より賜りましたご愛顧に感謝いたすとともに、今後とりおこなわれます清算手続において速やかに債務の弁済をなしご迷惑のかからぬよういたす所存であります。

つきましては、令和○年○月○日までに同封の債権申出書をもって、貴殿の弊社に対する債権をお申出頂きたくお願い申し上げます。なお、上記期間内にお申出がないときは清算から除斥されます。

敬 具

(ご参考)

会社法の規定に基づき、債権者各位に、このような催告をすることになっております。不明な点につきましては、弊社●●部(電話××-××××―××××)までご連絡頂きたく存じます。

個別催告書案

債権申出書

令和 年 月 日

○県○市○丁目○番○号

○○商事株式会社

代表清算人 法務太郎 殿

債権者の表示

(住所)

(氏名)

(電話)

(担当者の部署・氏名)

令和○年○月○日現在において、貴社に対して下記のとおり債権を有しているので、その旨申出ます。

債権の表示

1.債権額

(元本額)

(利 息)

(損害金)

2.債権発生の年月日及びその原因

債権者保護手続期間中の取扱い

会社視点                    

公告・催告開始の翌日から2か月間は、債務の弁済不可(500条)

債権者視点

債権者の裁判上、裁判外問わず、個別権利行使は許容せざるを得ない

•実務上、解散前に債務の弁済によって対処することも

•債権者の平等が阻害されるような場合には留意が必要

清算人の職務(481条)

・現務の結了

・債権の取立て

・債務の弁済

・残余財産の分配(金銭以外の現物を交付することも可能(504条1項1号))

(3)少額債権弁済

少額債権弁済の申立て

意義

•債権申出期間中は、裁判所の許可を得てする場合を除き、債務の弁済をすることができない(500条2項)総債権者に対する公平な弁済を保障する趣旨

•債権者が清算株式会社に対して強制執行を禁ずる趣旨ではない

管轄

•清算株式会社の本店所在地を管轄する地方裁判所(会社法869条)

申立人 

•清算株式会社清算人が2名以上あるときは、その全員の同意が必要

要件

•公告及び催告したこと上記期間内(2か月)であること弁済しても他の債権者を害するおそれがないこと

•弁済期にあること

中小企業では、解散前にある程度、会社の規模縮小のため、弁済等が行われていることもあり、当該手続の利用が積極的に行われている状況ではない

(4)清算事務の終了

清算事務終了後に決算報告書(清算事務報告書)作成

• 株主総会(普通決議)での承認(507条3項)

• 清算結了の添付書類に「決算報告の承認があったことを証する書面」(商登法75条)

• 清算結了 登録免許税2,000円決算報告書の必要的記載事項

1債権の取立て、資産の処分その他の行為によって得た収入の額

簿外の債務がないか(連帯保証人)

2 債務の弁済、清算に係る費用の支払いその他の行為による費用の額 継続的提供契約が締結のままではないか

3残余財産の額  支払税額がある場合、税額・控除後の額

1株当たりの分配額(分配完了日)

種類株式発行会社は株式の種類ごと

4債権放棄証書の必要性

・清算過程における債権債務の取立や弁済について、逐一それらを証する書面の添付は求められていない

・清算結了の決算報告の承認総会時に、負債が残っていることが書類上判明する場合には、債権放棄証書を株主総会議事録の「附属書類」として添付

(4)清算事務の終了

留意事項

•債権者に対し公告・催告をしたことを証する書面の添付は要求されていない

ただし、解散から公告手続に要する2ヶ月の期間が経過した日以後でなければ、清算結了の登記は受理されない

(昭和33年3月18日民事甲572号通達)

帳簿資料保管者について

•清算結了の時から10年間、清算人は、清算株式会社の帳簿等を保存(508条1項)

•旧商法では、必ず裁判所に対し保存者の選任の申立をする必要があったが、清算人以外が帳簿資料の保管者となる場合を除き必須ではなくなった(改正前商法429条)

清算結了後に財産が見つかった場合

•残余財産がある限り、会社の法人格は消滅しておらず、残余財産の分配その他の清算手続を履践

•清算人は、清算結了の登記の抹消及び清算人就任の登記を申請し、登記官は、登記記録を復活して、これらの登記を行う(昭和45年7月17日民事甲回答参照

解散から10年経過後の登記記録の閉鎖

•登記官の職権での抹消(商業登記規則81条1項1号)

•清算結了していない旨の申出

(5)解散後の手続

会社継続

要件

株主総会の特別決議

•みなし解散が適用された会社にあっては、その後3年以内に限る(473条)

•残余財産分配後も清算手続の終了により清算中の会社が消滅するまで可能(最判昭和59年2月24日)

効果

• 解散前と同様に営業取引をなす権利能力を回復

•遡及的に解散がなかったことになるのではない

•解散前の取締役が復帰するのではなく、新たに選任する必要あり

加工担保法制の見直しに関する中間試案のたたき台第2案⑵

担保法制部会資料 26

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00173.html

目次

(前注) …………………………………………..2

第1 個別動産を目的財産とする新たな規定に係る動産担保権の実体的効力 …………..3

1 担保権の効力の及ぶ範囲 …………………………..3

2 果実に対する担保権の効力 …………………………..4

3 被担保債権の範囲 …………………………………4

4 担保の目的物の使用収益権限 ………………………..4

5 使用収益以外の設定者の権限 …………………………4

6 担保権者の権限 …………………………………..5

7 物上代位 ………………………………………..6

8 その他 …………………………………………6

9 根担保権 …………………………………..7

第2 個別債権を目的財産とする譲渡担保の実体的効力 …………..8

第3 集合動産・集合債権の担保化 ………………………….9

1 動産の集合体に対する新たな規定に係る動産担保権の設定の可能性 ………………..9

2 集合動産を目的とする担保を設定した設定者の権限 ……………………….. 10

3 集合動産の構成部分である動産の設定者による処分 ………….. 10

4 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限 ………. 13

5 担保価値維持義務・補充義務 ……………………… 13

6 集合動産を目的とする担保権における物上代位等 ………………. 14

第4 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等 …………….. 14

1 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等(2の留保所有権の場合を除く。) ……….. 14

2 留保所有権の対抗要件等 ……………………………. 15

第5 新たな規定に係る動産担保権と他の担保物権との優劣関係 ……………. 18

1 動産質権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係 ………… 18

2 先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係 ………….. 18

3 一般先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係 ……….. 18

第6 債権譲渡担保権の対抗要件等の在り方 …………………. 18

1 債権譲渡担保権の対抗要件等 ………………………… 18

2 債権譲渡担保権相互の優劣 …………………… 19

3 一般先取特権と債権譲渡担保権との優劣関係 ……………… 19

第7 動産・債権譲渡登記制度の見直し ………………………… 20

担保法制部会資料26

(前注)

1 動産を目的財産とする非占有型の担保制度や債権を目的財産とする担保制度の規律を設ける方法としては、①債権債務を担保する目的でされた一定の類型の契約を適用の対象として、その契約の効力を定める方法(以下「担保目的取引規律型」という。)、②質権、抵当権等と並ぶ担保物権を新たに設ける方法創設す方法(以下「担保物権創設型」という。)が考えられる。

担保目的取引規律型は、仮登記担保契約に関する法律(以下「仮登記担保法」という。)が「金銭債務を担保するため、その不履行があるときは債権者に債務者又は第三者に属する所有権その他の権利の移転等をすることを目的としてされた代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約その他の契約で、その契約による権利について仮登記又は仮登録のできるもの」の効力等について民法等の特則を設けているのと同様の方法である。動産や債権を目的財産とする担保法制についてこのような方法で規定を設ける場合は、例えば、債務を担保する目的で動産の所有権を移転する契約、債務を担保する目的で動産の所有権を売主に留保する売買契約の効力等について民法等の特則を設けることが考えられる。動産や債権を目的財産とする担保取引としては、現行法においては、債務を担保するため動産の所有権を移転したり(動産譲渡担保)、留保したり(所有権留保)するなどの取引形式が用いられており、このような形式との連続性がある点で実務上も受け入れられやすいと考えられる。

担保物権創設型は、抵当権や質権等と並ぶ新たな担保物権を創設するものであるから、この方法によって設けられた規定は、債務を動産譲渡担保する目的でや所有権を移転する留保の形式が用いられた取引(譲渡担保)などには、直接には適用されないことになる。

しかし、そうすると非典型担保が残ることになり、担保取引に関する法律関係を明確化するという点では不十分な結果となりかねない。そこで、担保物権創設型による場合には、担保物権を創設するだけでなく、債務を担保する目的で動産の所有権を移転する契約、債務を担保する目的で動産の所有権を売主に留保する売買契約などの担保取引については、新たな担保物権を設定する契約とみなすなどの規定を併せて設ける必要がある。

担保物権創設型についてこのようなみなし規定を設けるとすれば、担保目的取引規律型と担保物権創設型は規定の方法の違いにすぎず、ほぼ同様の実質を規律することができるとも考えられる(ただし、動産譲渡担保は形式的には目的財産である動産の所有権を移転する契約であるから、例えば民法第178条が適用されることになる。これに対して新たな担保物権を創設し、対抗要件を引渡しとする場合には、同条は当然には適用されないから、別途規定を設ける必要がある。このように、同じ実質を実現するとしても、必要となる規定が異なる場合がある。)。

2 この中間試案においては、①と②のいずれによって規定を設けるかは法制的な観点からの検討に委ねることとし、担保取引に関する実質的なルールの内容についての試案を示すこととし、特段の言及のない限り、担保目的取引規律型によるか担保物権創設型によるかは中立的に表現することとしている。ただし、債権は現行法上も質権の目的となり得るため、担保物権創設型による場合には、債権質と区別された新たな担保権を創設する必要性自体が問題となり得る(新たな担保権を創設するのではなく、債権質に関する規定を修正するにとどめることもあり得る。)。そこで、この中間試案においては、債権を目的とする担保に関するルールを示すときは、差し当たって担保目的取引規律型によることを前提としてルールの内容を示すこととしている。

このような観点から、担保取引によって債権者が得ることとなる権利を指す用語として、「新たな規定に係る担保権」という文言を用いる。①の方法特による動産を目的財産とする場合について言及する際は、「新たな規定に係る動産担保権」という。

「新たな規定に係る動産担保権の設定」とは、担保物権創設型によれば、新たに創設されることになる動産担保権を設定することをいい、担保目的取引規律型によれば、債務を担保する目的で一定の類型の契約を締結すること(例えば、担保目的で動産の所有権を移転する取引を「契約を締結すること)をいう。

「留保所有権」「債権譲渡担保」「債権譲渡担保権」など、担保目的取引規律型を前提とする表現を用いる場合もある。「留保所有権」とは、売主が売買代金等を担保するために所有権を留保する取引(以下「所有権留保(売買契約)」と呼び、譲渡担保いう。)によって債権者が得る権利をいう。「債権譲渡担保」とは、担保「目的で債権を譲渡する取引をいい、「債権譲渡担保権」、所有権留保とは、債権譲渡担保によって債権者が得る担保を「留保所有権」と呼ぶ。新たに規定を設けた場合の「譲渡担保」「所有権留保」と区別して、特に現行法における「譲渡担保」「所有権留保」について述べる場合は、「現行法の譲渡担保」などと呼ぶ権利をいう。

 (説明)

分かりやすさの観点から表現振りを改めたものである。なお、本文2では、債権を目的とする担保権について、担保目的取引規律型による場合の債権譲渡担保権に関するルールのみを中間試案に記載する理由を追記している。また、本文2では、中間試案における用語について、担保物権創設型、担保目的取引規律型それぞれの立場から意義を明確にしておくことが望ましいものについて記載している。

第1 個別動産を目的財産とする新たな規定に係る動産担保権の実体的効力

1 担保権の効力の及ぶ範囲

新たな規定に係る動産担保権は、目的物に従として付合した物及び設定との先後を問わず設定者が目的物に附属させた従物(注1、2)に及ぶものとする。

ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について民法第424 条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでないものとする。

(注1) 本文において担保権の効力が及ぶとされる物をどのように表現するかについては、「付加一体物」という表現を用いることの可否も含めて今後検討する。

(注2) 設定後に附属させられた従物については解釈に委ねるべきであるとの考え方がある。

(説明)

部会資料21 から実質的変更はない。なお、従物に及んだ主物に対する担保権の効力と従物に設定された担保権との優劣については、補足説明に記載することを予定している。

2 果実に対する担保権の効力

新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、その担保する債権について不履行があったときは、目的物の果実から優先弁済を受けることができるものとする。

(説明)

部会資料21 から変更はない。

3 被担保債権の範囲

新たな規定に係る動産担保権は、元本、利息、違約金、担保権の実行の費用及び債務の不履行によって生じた損害の賠償を担保するものとする。

ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでないものとする。

(説明)

部会資料21から実質的変更はない。

4 担保の目的物の使用収益権限

新たな規定に係る動産担保権は、その内容に使用収益権限を含まず、設定者が目的物の使用収益をすることができるものとする。

(説明)

部会資料21 から変更はない。

5 使用収益以外の設定者の権限

⑴ 新たな規定に係る動産担保権は、同一の目的物の上に重複して設定することができるものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権の設定者が担保権者の同意なく目的物を真正に譲渡すること(注1)ができるかどうかについては、次のいずれかの案によるものとする。

【案1.5.1】担保権者の同意なく目的物を真正に譲渡することができるものとする(注2)。

【案1.5.2】目的物を真正に譲渡することはできないものとする(注3)。

(注1)ここで、「目的物を真正に譲渡する」は、担保権を消滅させる形で目的物の完全な所有権を譲渡することではなく、担保権を存続させたままで、設定者の有する権利(担保目的に制限された所有権を除いた所有権又は担保権に制約された所有権)を譲渡することを意味する。担保権者35 の同意を得てその担保権を消滅させ、目的物の所有権を譲渡することができることは当然の前提としている。

(注2)【案1.5.1】を採る場合であっても、所有権留保という類型を設けるときは、所有権留保については【案1.5.2】を採るという考え方もあり得る。

(注3)このとき、担保権者の同意を得て、「担保権を存続させたままで設定者の有する権利を移転すること」ができることを前提とする。

⑶ 新たな規定に係る動産担保権の設定者は、目的物の占有を第三者に妨害されるおそれがあるときはその第三者に対する妨害の予防を、目的物の占有を第三者が妨害しているときはその第三者に対する妨害の停止を、目的物を第三者が占有しているときはその第三者に対する返還を、それぞれ請求することができるものとする。

(説明)

⑵において、「目的物を真正に譲渡する」の意義等を(注)に記載した。また、⑶において、設定者が妨害予防請求ができることを明示することとした。

6 担保権者の権限

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、その担保する債権について不履行があるまでは、目的物を第三者に譲渡すること(目的物の完全な所有権を第三者に移転させること)ができないものとする(注1)。

(注1)新たな規定に係る動産譲渡担保権の被担保債権を譲渡することに伴う場合に伴って被担保権者が有する権利が移転することは、この限りあるが、これは別の問題ではないある。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権について、他の債権の担保とすることができるもの(以下「転担保」という。)する。

⑶ 新たな規定に係る動産担保権については、順位の変更、担保権の譲渡・放棄及び順位の譲渡・放棄(以下「新たな規定に係る動産担保権の処分」という。)及び順位の変更(新たな規定に係る動産担保権の処分と併せて「新たな規定に係る動産担保権の処分等」という。)の全部又は一部をすることができるものとするか、これらのうち一部をすることができるものとする場合、その範囲をどのように考えるかについては、引き続き検討する(注2)。

(注2)できるものとする範囲については、実務上のニーズや公示の観点から、引き続き検討する。

⑶ ⑵でできるものとされた新たな規定に係る動産担保権の処分等の対抗要件等については、次のとおりとする。

ア(ア) 新たな規定に係る動産担保権の処分は、債務者に当該処分を通知し、又は債務者がこれを承諾しなければ、これをもって債務者、保証人、担保権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないものとする。

(イ) 新たな規定に係る動産担保権の処分は、登記をしなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

(ウ) 担保権者が数人のために新たな規定に係る動産担保権の処分をしたときにおける処分の利益を受ける者の権利の順位は、新たな規定に係る動産担保権の処分についての登記の前後によるものとする。

イ 新たな規定に係る動産担保権の順位の変更は、登記をしなければ、その効力を生じないものとする。

(説明)

本文⑴について、「目的物を第三者に譲渡すること」の意味内容が不明確であるとの意見があったことから、これを明記することとした。

本文⑵については、部会資料25 及び前回の議論内容を踏まえて、新たな規定に係る動産担保権の処分等の一部に限ってすることができるものとする考え方を併記することとし、新たな規定に係る動産担保権の処分等の対抗要件等についての記載を本項に移すこととした。

7 物上代位

⑴ 新たな規定に係る動産担保権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使することができるものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、⑴に基づいて金銭その他の物に対して権利を行使するときは、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならないものとする。

⑶ 新たな規定に係る動産担保権に基づく物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣関係について、次のいずれかの案によるものとする。

【案 1.7.1】物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣は、⑵の差押えがされた時点と、その目的債権を目的財産とする担保が対抗要件を具備した時点との前後によるものとする。

【案1.7.2】物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣は、物上代位を生じさせた目的物元物に設定された担保権が対抗要件を具備した時点と、その目的債権を目的財産とする担保が対抗要件を具備した時点との前後によるものとする(注)。

(注)原則として【案1.7.1】の規律によるが、目的債権を目的財産とする物に設定された新たな規定に係る動産担保権の設定について登記がされたときは、譲渡登記の時点を基準とする(引渡しのみの場合には物上代位が優先する)という考え方がある。

(説明)

本文⑶の(注)について改めて整理を行った。すなわち、新たな規定に係る動産担保権については、対抗要件が必ずしも明らかでない場合もあるため、原則として【案1.7.1】の規律によることとしつつ、当該担保権の設定について登記がされたときは、登記の時点を基準とする考え方がある旨を明記することとした。他方で、目的債権を目的財産とする担保権については、登記まで求めることとするのは過大とも考えられることから、譲渡登記の時点を基準とすることとはしていない。

8 その他

民法第296 条(担保権の不可分性)及び第351 条(物上保証人の求償権)の規定を新たな規定に係る動産担保権について準用するものとする。

(説明)

部会資料21 から変更はない。

9 根担保権

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の設定は、【一定の範囲に属する】不特定の債権を担保するためにもすることができるものとする。

⑵ 極度額を定めることの要否については、引き続き検討する。

⑶ 個別の被担保債権について譲渡や債務の引受け、債権者又は債務者の交替による更改があった場合について、譲渡された債権などについて対して担保権を行使することができないものとする。

⑷ 元本の確定前に根担保権者又は債務者について相続開始、合併又は会社分割があった場合について、次のような規定を設けるものとする。

ア 元本の確定前に根担保権者又は債務者について相続開始があった場合には、次のいずれかの案によるものとする。

【案1.9.1】根担保権者又は債務者について相続が開始したときは、担保すべき元本は、確定するものとする。

【案1.9.2】次の(ア)から(エ)までの規定を設けるものとする。

 (ア) 根担保権者について相続が開始したときは、根担保権は、相続開始時に存在する債権及び相続人と設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に取得する債権を担保する。

(イ) 債務者について相続が開始したときは、根担保権は、相続開始時に存在する債務及び根担保権者と設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に負担する債務を担保する。

(ウ) 上記(ア)(イ)の合意については、後順位の担保権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。

(エ) 上記(ア)(イ)の合意について相続の開始後6か月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始時に確定したものとみなす。

イ(ア) 根担保権者について合併があったときは、根担保権は、合併時に存在する債権及び合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に取得する債権を担保する。

(イ) 債務者について合併があったときは、根担保権は、合併時に存在する債務及び合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。

(ウ) 設定者は、根担保権者又は債務者について合併があったときは、合併があったことを知った日から2週間かつ合併から1か月以内に、担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし、債務者について合併があった場合で、債務者が設定者であるときは、この限りでない。

(エ) (ウ)の請求があったときは、担保すべき元本は、合併の時に確定したものとみなす。

ウ(ア) 根担保権者を分割をする会社とする分割があったときは、根担保権は、分割の時に存在する債権並びに分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。

(イ) 債務者を分割をする会社とする分割があったときは、根担保権は、分割の時に存在する債務並びに分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。

(ウ) 設定者は、根担保権者又は債務者を分割をする会社とする分割があったときは、分割があったことを知った日から2週間かつ分割から1か月以内に、担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし、債務者を分割をする会社とする分割があった場合で、債務者が設定者であるときは、この限りでない。

(エ) (ウ)の請求があったときは、担保すべき元本は、分割の時に確定したものとみなす。

⑸ 根担保権の全部譲渡、一部譲渡(注)については、これを公示するための制度を設けることができるか否かを含めて、引き続き検討する。

(注)分割譲渡については、これを公示するための制度を設けることができるか否かのほか、極度額の設定の要否と関連して、引き続き検討する。

⑹ 債務者又は設定者が破産手続開始決定を受けたこと、設定から一定期間経過した後に設定者の請求があったことなど(注1)(注2)を被担保債権の元本の確定事由とするものとする。

(注1)担保権者等による実行の着手を元本確定事由とするか否かについては、実行に関する規律(後順位担保権者による実行の可否及びその場合の先順位担保権の消長等)や集合動産を目的とした担保の規律との関係も踏まえて、引き続き検討する。

(注2)元本確定事由に関するその他の規律については、根抵当権に関する規律を参考にして、引き続き検討する。

(説明)

部会資料25 及び前回の議論内容を踏まえて、本文⑷アについて、【案1.9.1】を併記することとした。その他の部分に変更はない。

第2 個別債権を目的財産とする譲渡担保の実体的効力

1 前記第1の2(果実に対する担保権の効力)、3(被担保債権の範囲)、5(使用収益以外の設定者の権限)⑴、6(担保権者の権限)⑴、7(物上代位)、8(その他)及び9(根担保)は、債権譲渡担保権にも適用されるものとする。

2 債権譲渡担保権が設定され【、債務者対抗要件が具備され】た場合、①第三債務者は設定者に対し弁済をすることが制限され、②設定者は、担保権の目的財産である債権について、放棄、免除、相殺、更改など当該債権を消滅させる行為をすることができないものとする。

3⑴ 債権譲渡担保権について、転担保、担保権の譲渡・放棄及び順位の譲渡・放棄(以下「債権譲渡担保権の処分」という。)及び順位の変更(債権譲渡担保権の処分と併せて「債権譲渡担保権の処分等」という。)の全部又は一部をすることができるものとするか、これらのうち一部をすることができるものとする場合、その範囲をどのように考えるかについては、引き続き検討する(注)。

(注)できるものとする範囲については、実務上のニーズや公示の観点から、引き続き検討する。

⑵ ⑴でできるものとされた債権譲渡担保権の処分等の対抗要件等については、次のとおりとする。

ア(ア) 債権譲渡担保権の処分は、債務者に当該処分を通知し、又は債務者がこれを承諾しなければ、これをもって債務者、保証人、担保権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないものとする。

(イ) 債権譲渡担保権の処分は、登記をしなければ、これをもって第三債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

(ウ) 債権譲渡担保権の処分は、その登記がされたことについて第三債務者に登記事項証明書を交付しなければ、これをもって第三債務者に対抗することができないものとする。

(エ) 担保権者が数人のために債権譲渡担保権の処分をしたときにおける処分の利益を受ける者の権利の順位は、債権譲渡担保権の処分についての登記の前後によるものとする。

イ 債権譲渡担保権の順位の変更は、登記をし、かつ、その登記がされたことについて第三債務者に登記事項証明書を交付しなければ、その効力を生じないものとする。

(説明)

本文3⑴については、部会資料25 及び前回の議論内容を踏まえて独立して項目を設けることとした。また、⑵については、債権譲渡担保権の処分等の対抗要件等についての記載を本項に移すこととした。

第3 集合動産・集合債権を目的とする担保権の実体的効力の担保化

1 動産の集合体に対する新たな規定に係る動産担保権の設定の可能性

新たな規定に係る動産担保権は、種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲(以下「特定範囲」という。)に属する動産の集合体(設定後に新たに動産がその集合体に加入(個別動産が特定範囲に新たに入ることをいう。)をすることが予定されているものを含む。)を一括して目的とすることができるものとする(注)。

(注)集合体として一括して担保権の目的となるためには、単に複数の動産によって構成されているだけでなく、経済的又は取引上の一体性など、一体として扱うことを正当化するための何らかの要件が扱われるための適格性に関する何らかの要件(経済的若しくは取引上の一体性又は「取引上の社会通念に照らし、構成部分が変動しても集合体としての同一性を維持して存続すると認められる」ことなど)を必要であるというとする考え方がある。

(説明)

部会資料25 及び前回の議論内容等を踏まえて表現を改めた。

2 集合動産を目的とする担保を設定した設定者の権限

新たな規定に係る動産担保権の目的物が特定範囲に属する動産の集合体であって、設定後に新たに動産がその集合体に加入することが予定されているもの(以下「集合動産」という。)である場合における設定者の処分権限や担保権者の権限について、次のような規定を設けるものとする。

⑴ 設定者は、通常の事業の範囲内で、集合動産の構成部分である動産について、担保権の負担のないものとしての処分をし、又は集合動産から逸出(特定範囲に含まれていた個別動産が、事実の問題として特定範囲から出ることをいう。)をさせる権限を有する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、その定めに従う。

 ⑵ 設定者が⑴の権限の範囲(以下「権限範囲」という。)を超えて集合動産の構成部分である動産について、担保権の負担のないものとしての処分をし、を処分し、又は逸出をさせるおそれがあるときは、担保権者は、その予防を請求することができる。

(説明)

部会資料25及び前回の議論内容等を踏まえて表現を改めた。

3 集合動産の構成部分である動産の設定者による処分

⑴ 設定者が、その権限範囲を超えて、集合動産の構成部分である動産を、担保権の負担のないものとしての処分をした場合に、当該処分を受けた者が、その動産が担保権の目的物であることを知らないで、かつ、知らないことに過失がなかったときには、民法第192 条の適用によって保護されるものとする(注1)。

⑵ 設定行為に設定者の処分権限について別段の定めがない場合において、設定者が、集合動産の構成部分である動産を、通常の事業の範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、その処分が設定者の通常の事業の範囲に含まれると信じるについて正当な理由があるときは、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとする。

⑶ 設定行為に設定者の処分権限を制約する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲内で、かつ、制約された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、制約された権限範囲を超えていることを知らなかったとき(注2)は、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとする(注3)。

⑷ 設定行為に設定者の処分権限を制約する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲及び制約された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、設定者による当該処分が通常の事業の範囲に含まれると信じるについて正当な理由があり、かつ、制約された権限範囲を超えることを知らなかったとき(注2)は、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとする。

⑸ 設定行為に設定者の処分権限を拡大する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲及び拡大された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、設定者による当該処分が通常の事業の範囲又はその拡大された権限範囲に含まれると信じるについて正当な理由があるときは、その動産についての担保権の負担のない権利を取得するものとする。

⑴ 設定者が、通常の事業の範囲内で、かつ、権限範囲を超えて、集合動産の構成部分である動産を処分した場合については、次のいずれかの案によるものとする。

【案3.3.1.1】 処分を受けた者は、その動産について権利を取得するものとする。

【案3.3.1.2】 処分を受けた者は、設定者による処分が権限範囲を超えていることを知らなかった場合には、その動産について権利を取得するものとする。

【案3.3.1.3】 処分を受けた者は、設定者による処分が権限範囲を超えていることを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がないときは、その動産について権利を取得するものとする。

⑵ 設定者が、権限範囲を超えて、かつ、通常の事業の範囲を超えて、集合動産の構成部分である動産を処分した場合については、次のいずれかの案によるものとする。

【案3.3.2.1】 処分を受けた者は、設定者による処分が通常の事業の範囲であると信じていた場合には、その動産についての権利を取得するものとする。

【案3.3.2.2】 規律を設けず、処分を受けた者は、即時取得が成立するときに限り、保護されるものとする。

⑹ 前記2⑴及び3並びに⑴から⑸まで及び⑵で処分を受けた者が集合動産の構成部分である動産について権利を取得しない場合に担保権者のとり得る手段については、引き続き検討する。

(注1)集合動産から逸出をした動産の処分については別異に考えるべきであるという考え方がある。

(注2)知らなかったことにつき過失がないことが必要であるという考え方、重過失がないことが必要であるという考え方がある。

(注3)相手方が権利を取得するために、目的物が集合物から逸出をすることが必要であるかどうかについては、引き続き検討する。

(説明)

1 前記2のとおり、集合動産を目的とする新たな規定に係る担保権の設定者は、原則として、通常の事業の範囲内又は当事者が定めた権限の範囲内で、構成部分である動産の処分権限を有する。本項の本文は、設定者がその範囲を超えて、担保権の負担がないものとして構成部分を処分した場合に、その相手方が担保権の負担のない権利を取得するかどうかについての規律を設けようとするものである。通常の事業の範囲や当事者が合意した権限範囲との関係で、行われた処分がどのように位置づけられるかについては、次のようなパターンが考えられる。

A:通常の事業の範囲に含まれているが、当事者が合意によって制約が加えられており、合意された権限範囲には入っていない。

B:通常の事業の範囲に含まれており、当事者間で合意された権限範囲にも含まれる。

C:通常の事業の範囲内に含まれていないが、当事者が権限範囲を拡大する方向で合意しており、合意された範囲に含まれている。

D:通常の事業の範囲に含まれておらず、当事者が合意した範囲にも含まれていない。

2 具体的な規律内容

本文⑴は、権限外で処分が行われた場合についての原則を明らかにしたものであり、設定者の権限を超えた処分がされた以上、原則として第三者は権利を取得することができないが、即時取得が成立する場合には第三者は担保権の負担のない権利を取得するというものである。

本文⑵は、設定者の処分権限について別段の定めがない場合(したがって、設定者が通常の事業の範囲内での処分権限を有する場合)に関するものである。この場合に、通常の事業の範囲を超えた処分(上図のC、D)がされたときでも、相手方がその処分が通常の事業の範囲内でされたと信じる正当な理由があるときは、相手方は担保権の負担のない権利を取得するとするものである。正当な理由があるときとは、そのように信じるについて過失がないという趣旨である。法律上のデフォルトルールとして、設定者が通常の事業の範囲内では処分権限を有することとされているため、権限内で処分がされたと過失なく信じた相手方を保護しようとするものである。

本文⑶は、当事者間で設定者の処分権限について別段の定めがされ、設定者が、通常の事業の範囲内よりも狭い範囲でのみ処分権限を有するとされた場合に関する規定であり、通常の事業の範囲内で、当事者が合意した権限を超えた処分がされた場合(A)を扱っている。

 通常の事業の範囲内では設定者は処分権限を有するのが原則であり、これに加えられた制約は第三者にとっては認識しにくいものであるから、当事者としては、その処分について設定者が権限を有すると信頼してもやむを得ない。そこで、この場合には、当事者の合意した権限を超えている場合でも、即時取得に必要な主観的要件を緩和して相手方を厚く保護することが考えられる。そこで、本文⑶では、当事者の合意によって制約された権限を超えていることについて相手方が善意でさえあれば、相手方は保護されることとしている。これに対しては、無過失が必要であるという見解や、無重過失が必要という見解も主張されているため、これらを(注)に記載している。

本文⑷も、本文⑶と同様に、当事者間で設定者の処分権限について別段の定めがされ、設定者が、通常の事業の範囲よりも狭い範囲でのみ処分権限を有するとされた場合に関する規通常の事業の範囲 当事者が合意した範囲A B CD定であり、通常の事業の範囲を超え、かつ、当事者が合意した権限を超えた処分がされた場合に関するもの(D)を扱っている。この場合、その処分が通常の事業の範囲内でされたと信じる正当な理由があるときは、相手方の信頼を保護してその処分が通常の事業の範囲内でされたのと同様に扱い(本文⑵と同様)、その上で、通常の事業の範囲というデフォルトルールに加えられた制約は相手方にとって認識しにくく、通常の事業の範囲内にあると正当に信頼した者は、合意による権限を超えていても相手方には処分権限があると信頼するのが通常であるから、本文⑶と同様に、合意による権限を超えていることについて善意でさえあれば、相手方を保護して担保権の負担のない権利を取得することとしている。

本文⑸は、本文⑶⑷とは逆に、設定者の処分権限を拡大する別段の定めがある場合についての規律であり、通常の事業の範囲及び拡大された権限範囲を超えた処分がされた場合に(D)、相手方が、設定者による当該処分が通常の事業の範囲又はその拡大された権限範囲のいずれかに含まれると信じるについて正当な理由があるときは、その信頼を保護しようとするものである。

4 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限

⑴ 譲渡担保の目的債権が債権発生年月日の始期及び終期並びに債権発生原因等特定範囲によって特定され、特定された範囲に現に発生していない債権を含むもの(以下「集合債権」という。)である場合においては、設定者は、通常の事業の範囲内で、その特定された範囲に含まれる債権の取立て【、譲渡及び相殺、免除その他の債権を消滅させる行為】をする権限を有するものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときはその定めに従うものとする。

⑵ 設定者が⑴の権限の範囲を超えて取立て【、譲渡、免除等】をした場合の譲受人及び第三債務者の保護に関する特別の規定を設けないものとする。

(説明)

本文⑴の集合債権の要件について、表現ぶりを改めた。

なお、本文⑴の「取立て」には取立金を利用する権限まで含まれることについては、補足説明に明記する予定である。

5 担保価値維持義務・補充義務

前記2⑴及び4⑴に規定する場合について、担保価値維持義務や、特定された範囲に含まれる動産又は債権について担保権の負担のないものとしての処分が処分がされ、又は逸出をさせたときの補充義務に関する規定(注)を設けるか否かについて、引き続き検討する。

 (注)例えば、「新たな規定に係る動産担保権の目的財産が集合動産又は集合債権である場合には、正当な理由がある場合を除き、設定者は、通常の事業が継続されれば当該集合動産又は当該集合債権が有すると認められる価値を維持しなければならない」という趣旨の規定が考えられる。

(説明)

二読資料から変更はない。

6 集合動産を目的とする担保権における物上代位等

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の目的物が集合動産である場合には、当該担保権は、設定者が通常の事業を継続している間は、特定範囲に含まれる動産の売買、滅失又は損傷によって設定者が受けるべき金銭その他の物に対し、行使することができないものとする。

⑵ 前記⑴につき、次のような例外を設けるかは、引き続き検討する。

ア 当事者が別段の合意をした場合

イ 権限範囲を超える処分がされた場合

⑶ 第三者が特定範囲に含まれる動産を滅失又は損傷させた場合における担保権者独自の損害賠償請求権については、特段の規定を設けないものとする。

(説明)

部会資料21から変更はない。

第4 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等

1 新たな規定に係る動産譲渡担保権(又は新たに創設する担保権。以下併せて「動産譲渡担保権等」という。)の対抗要件等(2の留保所有権の場合を除く。)

 ⑴ 新たな規定に係る動産譲渡担保権の対抗要件

ア 個別動産を目的とする新たな規定に係る動産譲渡担保権(以下「個別動産担保権」という。)の設定は、当該個別動産の引渡し(占有改定を含む。以下同じ。)がなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

イ 集合動産を目的とする新たな規定に係る動産譲渡担保権(以下「集合動産担保権」という。)等(以下「集合動産譲渡担保権等」という。)の設定は、その構成部分であるとして現に存在する動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。この場合には、当該設定後に集合動産に加入した個別動産に及ぶ当該担保権の効力についても、第三者に対抗することができるものとする。

ウ 個別動産担保権又は集合動産担保権を目的とする動産譲渡担保権等の設定については、登記をすることができることとし、登記がされたときは、目的物である個別動産又は集合動産の構成部分であるとして現に存在する動産について引渡しがあったものとみなすものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産譲渡担保権相互の優劣

ア 同一の個別動産又は集合動産ついて数個の個別動産譲渡担保権が設定されて競合したときは、その順位は、原則として、当該担保権について対抗要件を備えた時これをもって第三者に対抗することができるようになった時の前後によるものとする。

イ 同一の集合動産に数個の集合動産担保権が設定されて競合したとき(その一部が重なり合って競合する場合を含む。)は、その順位は、原則として、集合動産担保権について対抗要件を備えた時の前後による(注1)。

ウ 集合動産に一個の集合動産担保権が設定されており、その設定後に、個別動産担保権が設定された個別動産が加入したときは、集合動産担保権(が当該個別動産に及ぶ効力)と個別動産担保権との順位については、原則として、次のいずれかの案によるものとする。

【案 4.1.1】個別動産担保権について対抗要件を備えた時と集合動産担保権について対抗要件を備えた時の前後による。

【案4.1.2】個別動産担保権について対抗要件を備えた時と当該個別動産が集合動産に加入した時の前後による。

アからウまでにかかわらず、登記により対抗要件を備えた新たな規定に係る動産譲渡担保権は、占有改定により対抗要件を備えた新たな規定に係る動産譲渡担保権等に優先するものとする(注2)。

(注1)集合動産担保権の設定後に集合動産に加入した個別動産(加入時に、当該個別動産を目的とする個別動産担保権は設定されていない。)があるときであっても、集合動産担保権同士の競合が問題となる場面においては、設定後に加入した個別動産についても、その順位は、原則として、集合動産担保権について対抗要件を備えた時の前後による。

(注2)集合動産譲渡担保権に限ってエの規律を適用する考え方がある。

(説明)

部会資料 23 では、担保目的取引規律型及び担保物権創設型の双方を包含する形で「動産譲渡担保権等」と定義していたが、分かりにくさもあったことから、「新たな規定に係る動産担保権」とし、実質的ルールの異なる留保所有権の場合を除くこととした。

本文⑴イについては、集合動産の構成部分である個別動産が現には存在しないものの、近いうちに存在することとなるのが確実といえるような場合にも、集合動産を目的とする新たな規定に係る動産担保権の対抗要件を具備する余地を認めるべきとの意見があったことを踏まえて、「その構成部分である動産」という文言に修正することとした。また、本文⑴イについて、集合動産を目的とする新たな規定に係る動産担保権の設定についての第三者対抗要件の効力が、当該設定後に集合動産に加入した個別動産にも及ぶ旨を明記した。

本文⑵では、部会資料 25 及び前回の議論内容を踏まえて新たな規定に係る動産担保権が競合する場面とその規律を整理し、ウにおいて設定時説と加入時説を併記することとした。

2 留保所有権(又は新たに創設する担保権のうち目的物の売買代金債権のみを被担保債権とするもの。以下併せて「留保所有権等」という。)の対抗要件等

⑴ 留保所有権の対抗要件の要否

留保所有権を第三者に主張するために対抗要件を必要とするかどうかについては、次のとおりいずれかの案によるものとする。

ア 目的物の代金債権を担保する留保所有権(以下「狭義の留保所有権」という。)は、これを第三者に主張するために対抗要件を必要とするかどうかについては、次のいずれかの案によるものとする(注1、2)。

【案4.2.1.1】目的物の代金債権を担保する留保所有権(以下「狭義の留保所有権」という。)(又は新たに創設する担保権のうち目的物の売買代金債権のみを被担保債権とするもの。以下「狭義の留保所有権等」という。)は、これを第三者に主張するために、特段の要件を必要としないものとする(注31、2)。

【案4.2.1.2】狭義の留保所有権等を含む)留保所有権等は、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

イ (目的物の代金債権及び)目的物の代金債権(注1)以外の債権を担保する留保所有権(以下「拡大された留保所有権」という。)は、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする(注2)。

(注1)動産を購入するための資金の融資に基づく債権など、目的物である動産と密接な関連性を有する一定の債権を被担保債権とする留保所有権についても、狭義の留保所有権に含める等と取り扱う考え方がある。これに関連して、このような密接な関連性を有する一定の債権を被担保債権とする動産譲渡担保権が設定された場合には、当該動産譲渡担保権についても、狭義の留保所有権と同様に取り扱う考え方がある。

担保物権創設型によると、目的物の代金債権【及び上記債権】を担保する新たな規定に係る動産担保権について、狭義の留保所有権と同様に取り扱うことが考えられる。

(注2)担保目的取引規律型による場合には、狭義の留保所有権以外の留保所有権(以下「拡大された留保所有権」という。)は、動産譲渡担保権等と同様に取り扱うものとする。

(注2)留保所有権については、登記できるとすることが考えられる。

(注3)【案4.2.1.1】によっても、(代位弁済等により)目的物の売主以外の者が狭義の留保所有権を有する場合には、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする考え方がある。

 ⑵ 留保所有権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

【案4.2.2.1】狭義の留保所有権等は、他の新たな規定に係る動産担保権に当然に優先するものとする(【案4.2.1.1】を前提とする。)。

【案4.2.2.2】留保所有権等と競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、これをもって第三者に対抗することができるようになった時の前後によるものとする(【案30 4.2.1.2】を前提とする。)。

ア 【案4.2.2.3】留保所有権と競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、留保所有権が目的物の代金債権以外の債権を担保する限度では、原則として、これをもって第三者に対抗することができるようになった時の前後によるものとする(注4)。

イ ただし、留保所有権は、【【案 4.2.1.2】によると引渡しがされていることを前提として、】等がその目的物の代金債権を担保する限度では、他の競合する新たな規定に係る動産担保権に当然に優先するものとする(注5、6)(【案4.2.1.2】を前提とする。)(注3、4)。

(注4)この場合には、前記1⑵エと同様のルール(登記優先ルール)を採用することが考えられる。

(注5)なお、拡大された留保所有権について、目的物の代金債権を担保する部分と目的物の代金債権以外の債権を担保する部分がある場合には、これと競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、本文⑵イにより目的物の売買代金を担保する限度では拡大された留保所有権が優先し、それ以外の部分については、原則として、それぞれが対抗要件を具備した時の前後による

ものとなる。

(注6)他の新たな規定に係る動産担保権に優先するための要件として、一定期間内に登記を備えることを求める考え方がある。

(注3)【案4.2.2.3】を採る場合には、留保所有権等がその目的物の代金債権を担保する限度で競合する新たな規定に係る動産担保権に優先するためには、留保所有権等について第三者対抗要件を備えていることが必要(ただし、競合する他の担保権の対抗要件具備より後でもよい。)となる。

(注4)【案4.2.2.3】を採る場合には、拡大された留保所有権と競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、本文⑵により目的物の売買代金を担保する限度では留保所有権が優先し、それ以外の部分については、原則として、それぞれが対抗要件を具備した時の前後によるものとなる。【案4.2.2.1】を採る場合の拡大された留保所有権の取扱いも、同様とすることが考えられる。

(説明)

留保所有権の登記できる範囲を明確化するなどの表現の見直しを行ったほか、部会資料から実質的変更はない。なお、狭義の留保所有権について登記を要求する意見があったが、(注6)の記載で足りるものと考えられ、特段の追記は行っていない。

3 新たな規定に係る動産担保権の処分等の対抗要件等

⑴ア 新たな規定に係る動産担保権の処分は、債務者に当該処分を通知し、又は債務者がこれを承諾しなければ、これをもって債務者、保証人、担保権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないものとする。

イ 新たな規定に係る動産担保権の処分は、登記をしなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

ウ 担保権者が数人のために新たな規定に係る動産担保権の処分をしたときにおける処分の利益を受ける者の権利の順位は、新たな規定に係る動産担保権の処分についての登記の前後によるものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権の順位の変更は、登記をしなければ、その効力を生じないものとする。

(説明)

実体的効力に項目を移すこととした。

第5 新たな規定に係る動産担保権と他の担保物権との優劣関係

1 動産質権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

⑴ 動産質権と新たな規定に係る動産担保権とが競合する場合は、動産質権については設定時(引渡時)を基準とし、新たな規定に係る動産担保権については第三者に対抗することができるようになった時を基準とし、優劣はその前後によるものとする。

⑵ 動産質権と留保所有権とが競合する場合は、動産質権については設定時(引渡時)を基準とし、第4の2⑵と同様に取り扱うこととする。

⑵ 狭義の留保所有権は、その目的物の代金債権を担保する限度では、特段の要件なくして競合する動産質権に優先するものとする。

2 先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

⑴ 先取特権と新たな規定に係る動産担保権は競合するものとし、その優劣関係については新たな規定に係る担保権を民法第330 条に規定する第1順位の先取特権と同一の効力を有するものと取り扱うものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権者については、民法第330 条第2項前段の規定を適用しないこととし、担保権設定時に第2順位又は第3順位の先取特権者があることを知っていたとしても、これらの者に対して優先権を行使できるものとする(注)。

(注)動産質権についても、民法第330 条第2項前段の規定を適用しないようにすることが考えられる。

3 一般先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

雇用関係の先取特権を含む一般先取特権に、新たな規定に係る動産担保権に対する一定の優先権を認めるかについては、担保法制全体に与える影響も考慮しつつ、新たな規定に係る動産担保権に優先し得る一般先取特権の範囲(雇用関係の先取特権に限るか、その他の一般先取特権にも優先権を認めるか)、新たな規定に係る動産担保権の範囲(その目的物の性質等によって区別するか)、優先権の具体的な内容、優先権を行使するための要件等を引き続き検討する。

(説明)

本文1⑵については、動産質権と留保所有権とが競合する場合の優劣関係の基準については、新たな規定に係る動産担保権と留保所有権とが競合する場合と同様に取り扱うべきことを明記した。その他は部会資料23から変更はない。

第6 債権譲渡担保権の対抗要件等の在り方

1 債権譲渡担保権の対抗要件等

⑴ア 債権を目的とする譲渡担保権(以下「債権譲渡担保権」という。)の設定は、設定者から第三債務者に対する通知又は第三債務者の承諾(以下「通知又は承諾」という。)がなければ、これをもって第三債務者に対抗することができないものとする。

イ 債権譲渡担保権の設定は、確定日付のある証書による通知又は承諾がなければ、これをもって第三債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

⑵ア 債権譲渡担保権の設定については、登記をすることができることとし、登記がされたときは、第三債務者以外の第三者については、確定日付のある証書による通知があったものとみなすものとする。

イ 債権譲渡担保権の設定の登記がされたことについて設定者又は担保権者が第三債務者に登記事項証明書を交付して通知をし、又は当該第三債務者が承諾をしたときは、当該第三債務者についても、確定日付のある証書による通知があったものとみなすものとする。

2 債権譲渡担保権相互の優劣関係

⑴ 同一の債権について数個の債権譲渡担保権が設定されたときは、その順位は、原則として、これをもって第三者に対抗することができるようになった時の前後によるものとする。

⑵ 登記により対抗要件を備えた債権譲渡担保権と、通知又は承諾により対抗要件を備えた債権譲渡担保権との優劣関係について、特別の規定を設けないものとする(注)。

(注)登記により対抗要件を備えた債権譲渡担保権は、通知又は承諾により対抗要件を備えた債権譲渡担保権に優先するものとする考え方がある。

 3 一般先取特権と債権譲渡担保権との優劣関係

雇用関係の先取特権を含む一般先取特権に、債権譲渡担保権に対する一定の優先権を認めるかについては、第5の3と同様に、引き続き検討する。

3 債権譲渡担保権の処分等の対抗要件等

⑴ア 債権譲渡担保権の処分は、債務者に当該処分を通知し、又は債務者がこれを承諾しなければ、これをもって債務者、保証人、担保権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないものとする。

イ 債権譲渡担保権の処分は、登記をしなければ、これをもって第三債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

ウ 債権譲渡担保権の処分は、その登記がされたことについて第三債務者に登記事項証明書を交付しなければ、これをもって第三債務者に対抗することができないものとする。

エ 担保権者が数人のために債権譲渡担保権の処分をしたときにおける処分の利益を受ける者の権利の順位は、債権譲渡担保権の処分についての登記の前後によるものとする。

⑵ 債権譲渡担保権の順位の変更は、登記をし、かつ、その登記がされたことについて第三債務者に登記事項証明書を交付しなければ、その効力を生じないものとする。

(説明)

本文2について、債権譲渡担保権についても登記優先ルールを採用する考え方があることを(注)に記載した。

また、本文3について、一般先取特権と債権譲渡担保権との優劣関係の問題を引き続き検討する旨を明記することとした。

なお、債権譲渡担保権の処分等の対抗要件等については、実体的効力に項目を移している。

第7 動産・債権譲渡登記制度の見直し

1 同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を一覧的に公示する仕組みの導入の要否

【案 7.1.1】同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を一覧的に公示させる仕組みは、設けないものとする。

【案7.1.2】新たに関連担保目録制度を導入し、同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を関連担保目録にできる限り一覧的に公示させるものとする。

2 新たな規定に係る担保権の処分等を登記できるようにすることの要否及びその範囲並びにその公示方法

新たな規定に係る動産担保権の処分、新たな規定に係る動産担保権の順位の変更、債権譲渡担保権の処分及び債権譲渡担保権の順位の変更(以下「新たな規定に係る担保権の処分等」という。)を登記できるようにすることの要否及びその範囲について、実務上のニーズや公示の分かりやすさの観点等を踏まえて、引き続き検討する。その上で、登記できるとされた新たな規定に係る担保権の処分等の公示方法については、以下のとおりとする。

【案7.2.1】新たな規定に係る担保権の処分等に関する登記を、例えば個々の動産・債権譲渡登記に付記するような形でできるものとする(【案7.1.1】を前提とする。)。

【案7.2.2】関連担保目録に登記された動産・債権譲渡登記に係る新たな規定に係る担保権の処分等のみを登記できることとし、当該新たな規定に係る担保権の処分等に関する登記は関連担保目録上に行うものとする(【案7.1.2】を前提とする。)。

3 登記をすることができる動産若しくは債権の譲渡人又は新たな規定に係る担保権の設定者の範囲登記をすることができる動産若しくは債権の譲渡人又は新たな規定に係る担保権の設定者の範囲を、商号の登記をした商人にも拡大することについて、引き続き検討する。

(説明)

部会資料23 から変更はない。なお、登記手続に関するより詳しい説明は、補足説明に明記する予定である。

加工 担保法制部会資料25 担保法制の見直しに関する中間試案のための検討メモ

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00167.html

1 新たな規定に係る担保権の処分等について(部会資料21 第1の6⑵及び⑶、第2の1に5 ついて)

部会資料21 の第1の6⑵及び⑶に、以下の案を併記することについて、どう考えるか。

新たな規定に係る担保権についての転担保、順位の変更、担保権の譲渡・放棄及び順位の譲渡・放棄については、その一部に限ってできるものとする(注)。

(注)できるものとする範囲については、実務上のニーズや公示の観点から、引き続き検討する。

(説明)

部会資料23 では、登記することができる新たな規定に係る担保権の処分等について、公示の分かりやすさの観点から、一部のものに限定する案を示した(部会資料23 第7の(説明)3参照)。また、電子記録債権法(平成19 年法律第102 号)は、電子記録債権を目的とする質権について、順位の変更(同法第39条)及び転質(同法第40条)のみを認めており、質権又はその順位の譲渡又は放棄を認めていない(同法第36 条において民法の規定が準用されていない)。これらを踏まえると、実体法上、新たな規定に係る担保権の処分等をすることができるものとするかどうかについても、その一部に限ってできるものとする案を設けることとするのが相当と考えられるため、これを併記することを提案するものである。

なお、できるものとするか否かについては、

①実務上のニーズがあるか(例えば、ニーズがあると指摘されているものとして、順位の変更など)

②(物的に編成されていない動産・債権譲渡登記においても)公示を適切に行うことができるか(公示を比較的適切に行えると考えられるものとして、例えば、転担保、担保権の譲渡・放棄(=他の担保権の存在が問題とならない担保権の処分))などを参考に検討することが考えられる。

根担保権の元本の確定前に根担保権者又は債務者について相続があった場合について(部会資料21 第1の9⑷ア、第2の1について)

部会資料21の第1の9⑷アに、以下の案を併記することについて、どう考えるか。

根担保権者又は債務者について相続が開始したときは、担保すべき元本は、確定するものとする。

(説明)

部会資料 21 の第1の9⑷アでは、根担保権者又は債務者について相続があった場合について、根抵当権と同様に、相続の開始後6か月以内に合意の登記がされた場合に限り、相続人が相続の開始後に取得する債権/債務を担保することを提案していた。しかし、動産・債権譲渡登記においては、債務者は登記事項とされていない上、登記できる譲渡人も(商号登記をした商人に拡大しない限りは)法人に限られるため、債務者について相続があった場合を念頭において合意の登記のような制度を設ける必要性は乏しいと考えられる。また、自然人である根担保権者又は債務者の相続人との間の新たな債権を根担保権によって担保しなければならない必要性は高くないと考えられる。加えて、「合意の登記」のようなものを動産・債権譲渡登記に設けることにより、公示が分かりにくくなるおそれもある。

以上を踏まえると、端的に、根担保権者又は債務者について相続が開始したことを元本確定事由とすることも考えられることから、これを併記することを提案するものである。

関連 民法398条の8、398条の10。昭和46年10月4日付け民事甲第3220号民事局長通達、昭和46年12月27日付け民事三発第960号民事局第三課長依命通知。登記研究312号P43からP47、319号P50、369号P81、370号P72、533号P156、559号P152、649号P195、795号P104。

3 集合動産を構成する動産の「逸出・加入」及び「処分」の概念等について(部会資料21 第3の1から3までについて)部会資料21 第3の1及び2の「加入」とは、「個別動産が、種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された集合体の範囲(以下「特定範囲」という。)に新たに入ること」をいい、同2の「逸出」とは、集合物を目的とする担保権が及ばなくなるという法的な効果をいうものではなく、「集合体の特定範囲に含まれていた個別動産が、事実の問題として特定範囲から出ること」という趣旨で用いているが、そのような理解でよいか。また、これらの趣旨を表す文言としてよりよいものはあるか。

また、同2及び3の「処分」を「担保権の負担のないものとしての処分」と改めた上で、これを「集合動産の構成部分である個別動産の所有権を、新たな規定に係る担保権の負担がないものとして第三者に移転させること」をいうものと考えて良いか。

(説明)

部会資料21 の第3の1から3までの「逸出・加入」及び「処分」の概念について、集合動産に関する論点を検討する前提として、その意味内容についての認識を共有しようとするものである。なお、「逸出・加入」の用語については、集合動産の特定に当たり、場所的要件を不要とする、又は柔軟化する考え方によると、必ずしも当てはまらない場合もあり得るが、分かりやすさの観点から、「逸出・加入」に統一することとしている。また、「処分」については、分かりやすさの観点から「担保権の負担のないものとしての処分」という名称に改め、その意味内容を明記している。いずれも他の論点を議論する前提として認識を共有する趣旨で記載したものである。

4 集合動産の構成部分である動産を設定者が処分した場合における第三者保護(部会資料21第3の3⑴及び⑵について)

部会資料 21 第3の3⑴及び⑵の記載を、次のとおり修正することについて、どう考えるか。

⑴ 設定行為に設定者の処分権限を制約する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲内で、かつ、制約された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、制約された権限範囲を超えていることを知らなかったときに限り、その動産について権利を取得するものとする(注1)。

(注1)これに加えて、知らなかったことにつき過失がないことを求める考え方がある。

⑵ 設定者が、通常の事業の範囲及び権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとして処分をした場合については、当該処分を受けた者は、設定者による当該処分が通常の事業の範囲であると信じていた場合には、その動産についての権利を取得するものとする(注2)。

(注2)この場合において、当該処分を受けた者が、設定者による当該処分が通常の事業の範囲であるとは信じていなかったとき(例えば、設定者による処分は通常の事業の範囲を超えているが、拡大された権限範囲内であると信じていたときや、そもそも集合動産譲渡担保権等が設定されていたことを知らなかったときなど)は、即時取得が成立するときに限り、保護されることになると考えられる。

(説明)

⑴について、ここで問題となる別段の定めを「処分権限を制約する別段の定め(処分権限をデフォルトルールから狭める定め)」に限定することを明記している。なお、部会資料21では、「処分を受けた者は、その動産について権利を取得するものとする」案(部会資料 21の【案 3.3.1.1】)や、「処分を受けた者は、設定者による処分が権限範囲を超えていることを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がないときは、その動産について権利を取得するものとする」案(部会資料21 の【案 3.3.1.3】)を併記していたが、第13 回部会の議論では、「処分を受けた者は、設定者による処分が権限範囲を超えていることを知らなかった場合には、その動産について権利を取得するものとする」案(部会資料21の【案 3.3.1.2】)に支持が多かったことから、これを本文に記載することとし、部会資料21 の【案 3.3.1.3】を(注)に記載することとした。なお、「処分を受けた者は、その動産について権利を取得するものとする」案(部会資料21 の【案 3.3.1.1】)については、悪意の者を保護すべき実質的理由もないことから、本文には記載しないこととした。以上の整理について、どう考えるか。

 ⑵について、当該処分を受けた者の主観に応じて第三者保護の規律を分けることを提案している。すなわち、設定者が、通常の事業の範囲及び権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合については、当該処分を受けた者は、設定者による当該処分が通常の事業の範囲であると信じていた場合には、その動産についての権利を取得するものとし(この場合には、即時取得の要件を緩めることになる。)、それ以外の場合(例えば、設定者による処分は通常の事業の範囲を超えているが、拡大された権限範囲内であると信じていたときや、そもそも集合動産譲渡担保権等が設定されていたことを知らなかったときなど)については、原則どおり即時取得の規律によることになると考えられる。

このような整理が適当かについて、御意見を伺いたい。

5 動産譲渡担保権等相互の優劣について(部会資料23の第4の1⑵について)

次の⑴及び⑵を前提として、⑶の場合の規律について、どう考えるか。

⑴ 同一の個別動産に数個の個別動産譲渡担保権等が設定されて競合したときは、その順位は、原則として、個別動産譲渡担保権等について対抗要件を備えた時の前後による。

※いわゆる登記優先ルールの適用あり。

⑵ 同一の集合動産に数個の集合動産譲渡担保権等が設定されて競合したとき(その一部が重なり合って競合する場合を含む。)は、その順位は、原則として、集合動産譲渡担保権等について対抗要件を備えた時の前後による。

この場合において、集合動産譲渡担保権等の設定に集合動産に加入した個別動産(加入時に、当該個別動産を目的とする動産譲渡担5 保権等は設定されていない。)があるときであって、集合動産譲渡担保権等同士の競合が問題となる場面においては、設定後に加入した個別動産について、その順位は、原則として、集合動産譲渡担保権等について対抗要件を備えた時の前後による。

※いわゆる登記優先ルールの適用あり(登記優先ルールの適用範囲をこの場面に限定する考え方がある。)。

⑶ 集合動産に一個の集合動産譲渡担保権等が設定されており、その設定後に、個別動産譲渡担保権等が設定された個別動産が加入したときは、集合動産譲渡担保権等(が当該個別動産に及ぶ効力)と個別動産譲渡担保権等との順位は、次のいずれの立場によって決するのが相当と考えるか。

【甲案】個別動産譲渡担保権等について対抗要件を備えた時と集合動産譲渡担保権等について対抗要件を備えた時の前後による(設定時説)。

【乙案】個別動産譲渡担保権等について対抗要件を備えた時と当該個別動産が集合動産に加入した時の前後による(加入時説)。

※いわゆる登記優先ルールの適用あり

(説明)

前回の部会では、個別動産譲渡担保権等が設定された個別動産が集合動産譲渡担保権等が設定された集合動産に加入した場合の優劣の基準について議論が行われたが、いわゆる加入時説と設定時説の対立が問題となる場面設定をより明確にした上で、改めて問題提起するものである。

まず、

①個別動産譲渡担保権等と個別動産譲渡担保権等が競合する場合

②集合動産譲渡担保権等と集合動産譲渡担保権等が競合する場合

について、原則として対抗要件具備の先後により順位を決することに争いはない。なお、集合動産譲渡担保権等の設定後に(個別動産譲渡担保権等が設定されていない)個別動産が加入した場合であっても、集合動産譲渡担保権等同士の競合が問題となる場面では、設定後に加入した個別動産を含めて、上記②と同様の規律により順位を決すべきことになる(この場面で設定時説と加入時説の対立が問題となるわけではない。)。

これに対し、③個別動産譲渡担保権等と集合動産譲渡担保権等が競合する場合

すなわち、個別動産譲渡担保権等が設定された個別動産が、集合動産譲渡担保権等が設定された集合動産に加入した場合には、設定時説と加入時説の対立が問題となる。上記を前提に、設定時説と加入時説のいずれを採用すべきと考えるか。

なお、登記優先ルールは、上記①から③までのいずれについても適用されることになると考えられる(登記優先ルールの適用範囲を限定する立場によれば、上記②の場合に限って適用されることになる。)。

6 留保所有権の対抗要件等(部会資料23 の第4の2について)

部会資料23 の第4の2の記載を、分かりやすさの観点から、次のとおり修正することについて、どう考えるか。

2 留保所有権の対抗要件等 ※以下では留保所有権の対抗要件等に関する実質的規律について記載するものであり、担保目的取引規律型又は担保物権創設型の立場から厳密な記載を行うものではない。

 ⑴ 留保所有権の対抗要件の要否

ア 目的物の代金債権を担保する留保所有権(以下「狭義の留保所有権」という。)は、これを第三者に主張するために対抗要件を必要とするかどうかについては、次のいずれかの案によるものとする(注1)。

【案4.2.1.1】狭義の留保所有権は、これを第三者に主張するために、特段の要件を必要としないものとする(注2)。

【案4.2.1.2】狭義の留保所有権は、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

イ (目的物の代金債権及び)目的物の代金債権(注1)以外の債権を担保する留保所有権(以下「拡大された留保所有権」という。)は、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする(注3)。

(注1)動産を購入するための資金の融資に基づく債権など、目的物である動産と密接な関連性を有する一定の債権を担保する留保所有権についても、狭義の留保所有権に含める考え方がある。

これに関連して、このような密接な関連性を有する一定の債権を被担保債権とする動産譲渡担保権等が設定された場合には、当該動産譲渡担保権等についても、狭義の留保所有権と同様に取り扱う考え方がある。

(注2)【案4.2.1.1】によっても、(代位弁済等により)目的物の売主以外の者が狭義の留保所有権を有する場合には、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする考え方がある。

(注3)留保所有権についても、登記できるとすることが考えられる。

⑵ 留保所有権等と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

ア 留保所有権と競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、留保所有権が目的物の代金債権以外の債権を担保する限度では、これをもって第三者に対抗することができるようになった時の前後によるものとする(注4)。

イ 留保所有権は、【案4.2.1.2 によると引渡しがされていることを前提として、】目的物の代金債権を担保する限度では、他の新たな規定に係る動産担保権に当然に優先するものとする(注5、6)。

(注4)この場合には、前記4の1⑵ウと同様のルール(登記優先ルール)を採用することが考えられる。

(注5)なお、拡大された留保所有権について、目的物の代金債権を担保する部分と目的物の代金債権以外の債権を担保する部分がある場合には、これと競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、本文⑵イにより目的物の売買代金を担保する限度では拡大された留保所有権が優先し、それ以外の部分については、原則として、それぞれが対抗要件を具備した時の前後によるものとなる。

(注6)他の新たな規定に係る動産担保権に優先するための要件として、一定期間内に登記を備えることを求める考え方がある。

(説明)

留保所有権の対抗要件等について、分かりやすさの観点から、表現振りを修正したものである(担保目的取引規律型又は担保物権創設型からの厳密な記載ではなく、実質的な規律内容を記載することとした。)。

実質的な規律内容に変更がある点として、(注2)で代位弁済等により目的物の売主以外の者が狭義の留保所有権を有する場合に対抗要件の要否についての規律を変える考え方があることを明記した。また、部会資料23 の【案4.2.2.2】では、前記の「加入時説」と採ることを前提に、留保所有権が目的物の代金債権を担保する限度であっても、当然には優先しない(原則どおり、対抗要件の先後による)案も提示していたが、当然に優先する立場を支持する意見が多かったことから、これを本文から削ることとしている。

なお、(注6)として、他の新たな規定に係る動産担保権に優先するための要件として、一定期間内に登記を備えることを求める考え方を明記することについて、どう考えるか。

〇〇県〇〇市〇〇町1-1-1全部事項証明書: The certification of all recording matters. (土地):The land.
表題部:The heading section.
(土地の表示):The description of the land. 調整
: The prepared. 令和〇〇年〇月〇日
: The prepared date. 不動産番号
: The real property number. 12345567890123
地図番号
: The map number. A11―1 筆界特定
: The parcel boundary demarcation.       余白:The blank.
【所在】
: The location. 〇〇県〇〇市〇〇町〇〇  余白: The blank
①地 番
: The parcel number.
②地 目
:The land category
(current state of the Land) ③地  積 ㎡
:The parcel area (area of the Land) 原因及びその日付
: The cause for recording and date thereof.
【登記の日付】:The recording date.
9999番3 宅地
: The presidential land.     :100.00㎡ ①9999番1から分筆
: Subdivision of the Parcel Number.9999-1.
【令和〇〇年〇月〇日】
所有者:
The owner.
〇〇市〇〇丁目〇番〇号 E: The name and address of Owner.

 権 利 部(乙区): The rights section (The section B).(所有権以外の権利に関する事項): Matters concerning the owner.
順位番号
: The rank number. 登記の目的
: The purpose of recording. 受付年月日・受付番号
: The recording date and number. 【権利者その他の事項】
: The holder of rights and other particulars.

付記1号

付記2号 根抵当権設定
: The revolving mortgage.
令和〇〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号 略
the scope of claims to be secured and the maximum amount;
債務者: The name and address of obligor .
○○県〇〇市〇〇丁目〇番〇号:
E
根抵当権者:The name and address of obligor .
○○県〇〇市〇〇丁目〇番〇号:
A銀行
1番根抵当権変更
:The modification of revolving mortgage No. 1. 令和〇〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号 原因:
When and for what cause obligor was acquired.
令和○年〇月〇日相続: The Inheritance date.
債務者:The names and addresses of debtor’s heirs
○○県〇〇市〇〇丁目〇番〇号:B
○○県〇〇市〇〇丁目〇番〇号:C.
1番根抵当権変更
:The modification of revolving mortgage No. 1. 令和〇〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号 原因The date of agreement.
令和○年〇月〇日合意
指定債務者 B
※下線のあるものは抹消事項であることを示す。
The underlines indicate delated matters. The filing Number:00000000000 (1/1)                  

これは登記記録に記録されている事項の全部を証明した書面である。
: This document evidences all of the entries made in the registry.

(〇〇地方法務局管轄)〇〇Legal Affairs Bureau.

〇〇年〇〇月〇〇日 Date
〇〇Legal Affairs Bureau   登記官 〇〇  Registrar’s name: 〇〇

※下線のあるものは抹消事項であることを示す。
Underlines indicate delated matters. Filing Number:00000000000 (1/1)                   

加工担保法制の見直しに関する中間試案(案)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00173.html

加工

担保法制部会資料 27

目次

(前注) …………………………. 5

第1章 担保権の効力 ………………..  6

第1 個別動産を目的財産とする新たな規定に係る動産担保権の実体的効力 .6

1 担保権の効力の及ぶ範囲 ………………… 6

2 果実に対する担保権の効力 ……………….. 6

3 被担保債権の範囲 ………………………. 6

4 担保の目的物の使用収益権限…………….. 6

5 使用収益以外の設定者の権限 …………….. 6

6 担保権者の権限 …………………………. 7

7 物上代位 ………………………………. 8

8 その他 ………………………………… 8

9 根担保権 …………………. 8

第2 個別債権を目的財産とする譲渡担保の実体的効力 ………. 10

第3 集合動産・集合債権を目的とする担保権の実体的効力 ……. 11

1 動産の集合体に対する新たな規定に係る動産担保権の設定の可能性 …. 11

2 集合動産を目的とする担保を設定した設定者の権限 ………… 11

3 集合動産の構成部分である動産の設定者による処分 ……….11

4 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限 ……….12

5 担保価値維持義務・補充義務 ……………………12

6 集合動産を目的とする担保権における物上代位等 ………….13

第2章 担保権の対抗要件及び優劣関係 ……………… 13

第4 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等 ………….13

1 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等(2の留保所有権の場合を除く。) … 13

2 留保所有権の対抗要件等 ……………………… 14

第5 新たな規定に係る動産担保権と他の担保物権との優劣関係 ………. 15

1 動産質権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係 …………. 15

2 先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係 ………. 15

3 一般先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係 …….15

第6 債権譲渡担保権の対抗要件等の在り方 ……………….. 16

1 債権譲渡担保権の対抗要件等 …………………… 16

2 債権譲渡担保権相互の優劣関係 ………………………….. 16

3 一般先取特権と債権譲渡担保権との優劣関係 …………………… 16

第7 動産・債権譲渡登記制度の見直し ……………………….. 16

第3章 担保権の実行 ……………………………………. 17

第8 新たな規定に係る担保権の実行方法 ……………………. 17

1 新たな規定に係る担保権の各種の実行方法 …………………… 17

2 新たな規定に係る担保権の私的実行における担保権者の処分権限及び実行通知の要否 ………………………….. 17

3 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等 ………. 18

4 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等 ……….. 19

第9 新たな規定に係る担保権の目的物の評価・処分又は引渡しのための担保権者の権限及び手続 …………………. 20

1 評価・処分に必要な行為の受忍義務 ……………… 20

2 実行完了前の保全処分 …………………….. 20

3 簡易迅速な目的物の引渡しを実現する方法 ………………. 20

 4 実行終了後に目的物の引渡しを実現する方法 ……………….. 20

第10 同一の動産に複数の新たな規定に係る担保権が設定された場合の取扱い … 20

1 劣後担保権者による私的実行の可否及び要件 ………….. 20

2 優先担保権者の同意なくされた劣後担保権者による私的実行の効果 …. 21

3 新たな規定に係る担保権の私的実行に当たっての他の担保権者への通知 ……. 21

4 担保権者間の分配方法についての合意内容の通知 …………. 21

第11 集合動産を目的とする担保権の実行について …………… 22

1 集合動産を目的とする担保権の実行の手続 ………………. 22

2 実行後に特定範囲に加入した動産に対する再度実行の可否 ……… 22

3 集合動産の一部について実行がされた場合に固定化が生じる範囲….. 22

第12 新たな規定に係る担保権の競売手続による実行等について…….. 22

第13 質権の実行方法に関する見直しの要否 …………………… 23

第14 所有権留保売買による留保所有権の実行 ……………….. 23

第15 債権を目的とする担保権の実行 ……………………….. 23

1 債権譲渡担保権者による債権の取立て ……………………. 23

2 債権質権者及び債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否…… 24

3 担保の目的財産が金銭債権である場合に担保権者が取り立てることができる範囲 24

4 担保の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、担保権者が請求することができる内容 …………………. 24

5 担保の目的財産が非金銭債権である場合の実行方法 ………….. 25

6 直接の取立て以外の実行方法 …………………………. 25

7 集合債権を目的とする担保の実行 ………………………. 25

第4章 担保権の倒産手続における取扱い ………………….. 25

第16 別除権としての取扱い ……………………… 25

第17 担保権実行手続中止命令に関する規律 ……………………. 25

1 担保権実行手続中止命令の適用の有無 ………………………. 25

2 担保権実行手続禁止命令 ……………………………. 26

3 担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期の終期 ……… 26

4 担保権者の利益を保護するための手段 …………………… 26

5 審尋の要否 …………………………………….. 26

6 担保権実行手続中止命令等が発令された場合の弁済の効力 ………… 27

7 担保権実行手続取消命令 …………………… 27

第18 倒産手続開始申立特約の効力 ………………………. 28

第19 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力 …. 28

1 倒産手続の開始後に生じた債権に対する担保権の効力 ………… 28

2 倒産手続の開始後に取得した動産に対する担保権の効力 ………… 28

第20 担保権の実行がされた担保目的財産に係る費用の負担 ……….. 29

第21 否認 ………………………………………. 29

第22 担保権消滅許可制度の適用 …………………………. 30

1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用 ………………….. 30

2 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用 …….. 30

第5章 その他 ……………………………… 30

第23 事業担保制度の導入に関する総論的な検討課題 …………. 30

1 事業担保制度導入の是非 …………………………….. 30

2 事業担保権を利用することができる者の範囲 ………………. 31

3 事業担保権の対象となる財産の範囲 ……………………. 31

第24 事業担保権の効力 …………………………….. 31

1 事業担保権の設定 ……………………………….. 31

2 事業担保権の対抗要件及び他の担保権との優劣関係 …………. 31

3 事業担保権の優先弁済権の範囲(一般債権者に対する優先の範囲) …. 31

4 事業担保権設定者の処分権限 ………………. 32

5 一般債権者が差し押さえた場合の担保権者の保護 …………… 32

第25 事業担保権の実行 ………………………… 32

1 実行開始決定の効果 ………………………………. 32

2 事業担保権の目的財産の一部に対する実行及び個別資産の換価の可否 ………. 32

3 裁判上の実行による事業譲渡における債務の承継の可否 ………….. 32

4 他の債権者及び株主の保護 …………………………… 33

5 換価の効果 …………………………………… 33

6 被担保債権以外の債権の扱い …………………………… 33

7 事業継続による収益の中間的な配当 ……………….. 34

8 事業担保権の裁判外の実行 ………………………….. 34

第26 事業担保権の倒産法上の取扱い …………………….. 34

1 別除権及び更生担保権としての取扱い …………………. 34

2 担保権実行手続中止命令の適用の有無 …………………….. 34

3 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する事業担保権の効力 ………. 34

4 破産法上の担保権消滅許可制度の適用 …………………… 34

5 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用 ……….. 35

6 DIP ファイナンスに係る債権を優先させる制度 ……………… 35

第27 動産及び債権以外の財産権を目的とする担保 ……………..  35

第28 ファイナンス・リース ……………………………… 35

1 ファイナンス・リースに関する規定の要否及び在り方 ………….. 35

2 対抗要件 ………………………………………… 35

3 実行方法 ………………………………… 35

4 倒産法上の取扱い ……………………………….. 36

第29 普通預金を目的とする担保 …………………………. 36

1 普通預金を目的とする担保権設定及び対抗要件具備 …………… 36

2 普通預金を目的とする担保権の実行 ……………………. 36

3 普通預金を目的とする担保権の倒産手続における取扱い ………… 37

 第30 証券口座を目的とする担保 ……………………. 37

(前注)

1 動産を目的財産とする非占有型の担保制度や債権を目的財産とする担保制度の規律を設ける方法としては、①債務を担保する目的でされた一定の類型の契約を適用の対象として、その契約の効力を定める方法(以下「担保目的取引規律型」という。)、②質権、抵当権等と並ぶ担保物権を新たに創設する方法(以下「担5 保物権創設型」という。)が考えられる。

 担保目的取引規律型は、仮登記担保契約に関する法律が「金銭債務を担保するため、その不履行があるときは債権者に債務者又は第三者に属する所有権その他の権利の移転等をすることを目的としてされた代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約その他の契約で、その契約による権利について仮登記又は仮登録のできるもの」の効力等について民法等の特則を設けているのと同様の方法である。

参考

登記研究 847号 69頁  2018年9月 登記研究編集室「【資料】 仮登記に関する先例要旨総覧(4)」

登記研究 747号 1頁  2010年5月 横山 真弓:法務省民事局商事課商業法人登記第二係長(前法務省民事局商事課商業法人登記第三係長)「 【論説・解説】 動産譲渡登記制度を活用した集合動産譲渡担保の実務」

 動産や債権を目的財産とする担保法制についてこのような方法で規定を設ける場合は、例えば、債務を担保する目的で動産の所有権を移転する契約、債務を担保する目的で動産の所有権を売主に留保する売買契約の効力等について民法等の特則を設けることが考えられる。動産や債権を目的財産とする担保取引としては、現行法においては、債務を担保するため動産の所有権を移転したり(動産譲渡担保)、留保したり(所有権留保)するなどの取引形式が用いられており、このような形式との連続性がある点で実務上も受け入れられやすいと考えられる。

 担保物権創設型は、抵当権や質権等と並ぶ新たな担保物権を創設するものであるから、この方法によって設けられた規定は、動産譲渡担保や所有権留保の形式が用いられた取引などには、直接には適用されないことになる。しかし、そうすると非典型担保が残ることになり、担保取引に関する法律関係を明確化するという点では不十分な結果となりかねない。そこで、担保物権創設型による場合には、担保物権を創設するだけでなく、債務を担保する目的で動産の所有権を移転する契約、債務を担保する目的で動産の所有権を売主に留保する売買契約などの担保取引については、新たな担保物権を設定する契約とみなすなどの規定を併せて設ける必要がある。

 担保物権創設型についてこのようなみなし規定を設けるとすれば、担保目的取引規律型と担保物権創設型は規定の方法の違いにすぎず、ほぼ同様の実質を規律することができるとも考えられる(ただし、動産譲渡担保は形式的には目的財産である動産の所有権を移転する契約であるから、例えば民法第178 条が適用されることになる。これに対して新たな担保物権を創設し、対抗要件を引渡しとする場合には、同条は当然には適用されないから、別途規定を設ける必要がある。このように、同じ実質を実現するとしても、必要となる規定が異なる場合がある。)。

2 この中間試案においては、担保取引に関する実質的なルールの内容についての試案を示すこととし、特段の言及のない限り、担保目的取引規律型によるか担保物権創設型によるかは中立的に表現することとしている。ただし、債権は現行法上も質権の目的となり得るため、担保物権創設型による場合には、債権質と区別された新たな担保権を創設する必要性自体が問題となり得る(新たな担保権を創設するのではなく、債権質に関する規定を修正するにとどめることもあり得る。)。そこで、この中間試案においては、債権を目的とする担保に関するルールを示すときは、差し当たって担保目的取引規律型によることを前提としてルールの内容を示すこととしている。

 このような観点から、担保取引によって債権者が得ることとなる権利を指す用語として、「新たな規定に係る担保権」という文言を用いる。特に動産を目的財産とする場合には、「新たな規定に係る動産担保権」という。

 「新たな規定に係る動産担保権の設定」とは、担保物権創設型によれば、新たに創設されることになる動産担保権を設定することをいい、担保目的取引規律型によれば、債務を担保する目的で一定の類型の契約を締結すること(例えば、担保目的で動産の所有権を移転する契約を締結すること)をいう。

 「留保所有権」「債権譲渡担保」「債権譲渡担保権」など、担保目的取引規律型を前提とする表現を用いる場合もある。「留保所有権」とは、売主が売買代金等を担保するために所有権を留保する取引(以下「所有権留保(売買契約)」という。)によって債権者が得る権利をいう。「債権譲渡担保」とは、担保目的で債権を譲渡する取引をいい、「債権譲渡担保権」とは、債権譲渡担保によって債権者が得る権利をいう。

登記研究 686号 1頁 2005年3月植垣 勝裕:法務省民事局参事官、高山 崇彦:法務省民事局付、中原 裕彦:法務省民事局付、坂田 大吾:法務省民事局付「【論説・解説】
「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律」の概要」
第1章 担保権の効力

第1 個別動産を目的財産とする新たな規定に係る動産担保権の実体的効力

1 担保権の効力の及ぶ範囲

 新たな規定に係る動産担保権は、目的物に従として付合した物及び設定との先後を問わず設定者が目的物に附属させた従物(注1、2)に及ぶものとする。

 ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について民法第424 条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでないものとする。

(注1) 本文において担保権の効力が及ぶとされる物をどのように表現するかについては、「付加一体物」という表現を用いることの可否も含めて今後検討する。

(注2) 設定後に附属させられた従物については解釈に委ねるべきであるとの考え方がある。

2 果実に対する担保権の効力

 新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、その担保する債権について不履行があったときは、目的物の果実から優先弁済を受けることができるものとする。

3 被担保債権の範囲

 新たな規定に係る動産担保権は、元本、利息、違約金、担保権の実行の費用及び債務の不履行によって生じた損害の賠償を担保するものとする。

ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでないものとする。

4 担保の目的物の使用収益権限

  新たな規定に係る動産担保権は、その内容に使用収益権限を含まず、設定者が目的物の使用収益をすることができるものとする。

5 使用収益以外の設定者の権限

⑴ 新たな規定に係る動産担保権は、同一の目的物の上に重複して設定することができるものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権の設定者が担保権者の同意なく目的物を真正に譲渡すること(注1)ができるかどうかについては、次のいずれかの案によるものとする。

【案1.5.1】譲渡することができるものとする(注2)。

【案1.5.2】譲渡5 することはできないものとする(注3)。

(注1)ここで、「目的物を真正に譲渡する」は、担保権を消滅させる形で目的物の完全な所有権を譲渡することではなく、担保権を存続させたままで、設定者の有する権利(担保目的に制限された所有権を除いた所有権又は担保権に制約された所有権)を譲渡することを意味する。担保権者の同意を得てその担保権を消滅させ、目的物の所有権を譲渡することができることは当然の前提としている。

(注2)【案1.5.1】を採る場合であっても、所有権留保という類型を設けるときは、所有権留保については【案1.5.2】を採るという考え方もあり得る。

(注3)このとき、担保権者の同意を得て、「担保権を存続させたままで設定者の有する権利を移転すること」ができることを前提とする。

 ⑶ 新たな規定に係る動産担保権の設定者は、目的物の占有を第三者に妨害されるおそれがあるときはその第三者に対する妨害の予防を、目的物の占有を第三者が妨害しているときはその第三者に対する妨害の停止を、目的物を第三者が占有しているときはその第三者に対する返還を、それぞれ請求することができるものとする。

6 担保権者の権限

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、その担保する債権について不履行があるまでは、目的物を第三者に譲渡すること(目的物の完全な所有権を第三者に移転させること)ができないものとする(注1)。

(注1)新たな規定に係る動産譲渡担保権の被担保債権を譲渡することに伴って担保権者が有する権利が移転することはあるが、これは別の問題である。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権について、他の債権の担保とすること(以下「転担保」という。)、担保権の譲渡・放棄及び順位の譲渡・放棄(以下「新たな規定に係る動産担保権の処分」という。)及び順位の変更(新たな規定に係る動産担保権の処分と併せて「新たな規定に係る動産担保権の処分等」という。)の全部又は一部をすることができるものとするか、これらのうち一部をすることができるものとする場合、その範囲をどのように考えるかについては、引き続き検討する(注2)。

(注2)できるものとする範囲については、実務上のニーズや公示の観点から、引き続き検討する。

⑶ ⑵でできるものとされた新たな規定に係る動産担保権の処分等の対抗要件等については、次のとおりとする。

 ア(ア) 新たな規定に係る動産担保権の処分は、債務者に当該処分を通知し、又は債務者がこれを承諾しなければ、これをもって債務者、保証人、担保権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないものとする。

(イ) 新たな規定に係る動産担保権の処分は、登記をしなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

(ウ) 担保権者が数人のために新たな規定に係る動産担保権の処分をしたときにおける処分の利益を受ける者の権利の順位は、新たな規定に係る動産担保権の処分についての登記の前後によるものとする。

イ 新たな規定に係る動産担保権の順位の変更は、登記をしなければ、その効力を生じないものとする。

7 物上代位

⑴ 新たな規定に係る動産担保権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使することができるものとする。

 ⑵ 新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、⑴に基づいて金銭その他の物に対して権利を行使するときは、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならないものとする。

⑶ 新たな規定に係る動産担保権に基づく物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣関係について、次のいずれかの案によるものとする。

 【案 1.7.1】物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣は、⑵の差押えがされた時点と、その目的債権を目的財産とする担保が対抗要件を具備した時点との前後によるものとする。

【案1.7.2】物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣は、物上代位を生じさせた目的物に設定された担保権が対抗要件を具備した時点と、その目的債権を目的財産とする担保が対抗要件を具備した時点との前後によるものとする(注)。

(注)原則として【案1.7.1】の規律によるが、目的物に設定された新たな規定に係る動産担保権の設定について登記がされたときは、登記の時点を基準とする考え方がある。

8 その他

 民法第296条(担保権の不可分性)及び第351条(物上保証人の求償権)の規定を新たな規定に係る動産担保権について準用するものとする。

9 根担保権

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の設定は、【一定の範囲に属する】不特定の債権を担保するためにもすることができるものとする。

極度額を定めることの要否については、引き続き検討する。

個別の被担保債権について譲渡や債務の引受け、債権者又は債務者の交替による更改があった場合について、譲渡された債権などについて担保権を行使することができないものとする。

⑷ 元本の確定前に根担保権者又は債務者について相続開始、合併又は会社分割があった場合について、次のような規定を設けるものとする。

ア 元本の確定前に根担保権者又は債務者について相続開始があった場合には、次のいずれかの案によるものとする。

【案1.9.1】根担保権者又は債務者について相続が開始したときは、担保すべき元本は、確定するものとする。

【案1.9.2】次の(ア)から(エ)までの規定を設けるものとする。

(ア) 根担保権者について相続が開始したときは、根担保権は、相続開始時に存在する債権及び相続人と設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に取得する債権を担保する。

(イ) 債務者について相続が開始したときは、根担保権は、相続開始時に存在する債務及び根担保権者と設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に負担する債務を担保する。

(ウ) 上記(ア)(イ)の合意については、後順位の担保権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。

(エ) 上記(ア)(イ)の合意について相続の開始後6か月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始時に確定したものとみなす。

イ(ア) 根担保権者について合併があったときは、根担保権は、合併時に存在する債権及び合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に取得する債権を担保する。

(イ) 債務者について合併があったときは、根担保権は、合併時に存在する債務及び合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。

(ウ) 設定者は、根担保権者又は債務者について合併があったときは、合併があったことを知った日から2週間かつ合併から1か月以内に、担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし、債務者について合併があった場合で、債務者が設定者であるときは、この限りでない。

(エ) (ウ)の請求があったときは、担保すべき元本は、合併の時に確定したものとみなす。

ウ(ア) 根担保権者を分割をする会社とする分割があったときは、根担保権は、分割の時に存在する債権並びに分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。

(イ) 債務者を分割をする会社とする分割があったときは、根担保権は、分割の時に存在する債務並びに分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。

(ウ) 設定者は、根担保権者又は債務者を分割をする会社とする分割があったときは、分割があったことを知った日から2週間かつ分割から1か月以内に、担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし、債務者を分割をする会社とする分割があった場合で、債務者が設定者であるときは、この限りでない。

(エ) (ウ)の請求があったときは、担保すべき元本は、分割の時に確定したものとみなす。

⑸ 根担保権の全部譲渡、一部譲渡(注)については、これを公示するための制度を設けることができるか否かを含めて、引き続き検討する。

(注)分割譲渡については、これを公示するための制度を設けることができるか否かのほか、極度額の設定の要否と関連して、引き続き検討する。

⑹ 債務者又は設定者が破産手続開始決定を受けたこと、設定から一定期間経過した後に設定者の請求があったことなど(注1)(注5 2)を被担保債権の元本の確定事由とするものとする。

(注1)担保権者等による実行の着手を元本確定事由とするか否かについては、実行に関する規律(後順位担保権者による実行の可否及びその場合の先順位担保権の消長等)や集合動産を目的とした担保の規律との関係も踏まえて、引き続き検討する。

(注2)元本確定事由に関するその他の規律については、根抵当権に関する規律を参考にして、引き続き検討する。

第2 個別債権を目的財産とする譲渡担保の実体的効力

1 前記第1の2(果実に対する担保権の効力)、3(被担保債権の範囲)、5(使用収益以外の設定者の権限)⑴、6(担保権者の権限)⑴、7(物上代位)、8(その他)及び9(根担保)は、債権譲渡担保権にも適用されるものとする。

2 債権譲渡担保権が設定され【、債務者対抗要件が具備され】た場合、①第三債務者は設定者に対し弁済をすることが制限され、②設定者は、担保権の目的財産である債権について、放棄、免除、相殺、更改など当該債権を消滅させる行為をすることができないものとする。

3⑴ 債権譲渡担保権について、転担保、担保権の譲渡・放棄及び順位の譲渡・放棄(以下「債権譲渡担保権の処分」という。)及び順位の変更(債権譲渡担保権の処分と併せて「債権譲渡担保権の処分等」という。)の全部又は一部をすることができるものとするか、これらのうち一部をすることができるものとする場合、その範囲をどのように考えるかについては、引き続き検討する(注)。

(注)できるものとする範囲については、実務上のニーズや公示の観点から、引き続き検討する。

⑵ ⑴でできるものとされた債権譲渡担保権の処分等の対抗要件等については、次のとおりとする。

ア(ア) 債権譲渡担保権の処分は、債務者に当該処分を通知し、又は債務者がこれを承諾しなければ、これをもって債務者、保証人、担保権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないものとする。

(イ) 債権譲渡担保権の処分は、登記をしなければ、これをもって第三債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

(ウ) 債権譲渡担保権の処分は、その登記がされたことについて第三債務者に登記事項証明書を交付しなければ、これをもって第三債務者に対抗することができないものとする。

(エ) 担保権者が数人のために債権譲渡担保権の処分をしたときにおける処分の利益を受ける者の権利の順位は、債権譲渡担保権の処分についての登記の前後によるものとする。

イ 債権譲渡担保権の順位の変更は、登記をし、かつ、その登記がされたことについて第三債務者に登記事項証明書を交付しなければ、その効力を生じないものとする。

第3 集合動産・集合債権を目的とする担保権の実体的効力

1 動産の集合体に対する新たな規定に係る動産担保権の設定の可能性

新たな規定に係る動産担保権は、種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲(以下「特定範囲」という。)に属する動産の集合体(設定後に新たに動産がその集合体に加入(個別動産が特定範囲に新たに入ることをいう。)をすることが予定されているものを含む。)を一括して目的とすることができるものとする(注)。

(注)集合体として一括して担保権の目的となるためには、単に複数の動産によって構成されているだけでなく、経済的又は取引上の一体性など、一体として扱うことを正当化するための何らかの要件が必要であるという考え方がある。

2 集合動産を目的とする担保を設定した設定者の権限

  新たな規定に係る動産担保権の目的物が特定範囲に属する動産の集合体であって、設定後に新たに動産がその集合体に加入することが予定されているもの(以下「集合動産」という。)である場合における設定者の処分権限や担保権者の権限について、次のような規定を設けるものとする。

⑴ 設定者は、通常の事業の範囲内で、集合動産の構成部分である動産について、担保権の負担のないものとしての処分をし、又は集合動産から逸出(特定範囲に含まれていた個別動産が、事実の問題として特定範囲から出ることをいう。)をさせる権限を有する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、その定めに従う。

⑵ 設定者が⑴の権限の範囲(以下「権限範囲」という。)を超えて集合動産の構成部分である動産について、担保権の負担のないものとしての処分をし、又は逸出をさせるおそれがあるときは、担保権者は、その予防を請求することができる。

3 集合動産の構成部分である動産の設定者による処分

⑴ 設定者が、その権限範囲を超えて、集合動産の構成部分である動産を、担保権の負担のないものとしての処分をした場合に、当該処分を受けた者が、その動産が担保権の目的物であることを知らないで、かつ、知らないことに過失がなかったときには、民法第192 条の適用によって保護されるものとする(注1)。

⑵ 設定行為に設定者の処分権限について別段の定めがない場合において、設定者が、集合動産の構成部分である動産を、通常の事業の範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、その処分が設定者の通常の事業の範囲に含まれると信じるについて正当な理由があるときは、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとする。

⑶ 設定行為に設定者の処分権限を制約する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲内で、かつ、制約された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、制約された権限範囲を超えていることを知らなかったとき(注2)は、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとする(注3)。

⑷ 設定行為に設定者の処分権限を制約する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲及び制約された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、設定者による当該処分が通常の事業の範囲に含まれると信じるについて正当な理由があり、かつ、制約された権限範囲を超えることを知らなかったとき(注2)は、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとする。

⑸ 設定行為に設定者の処分権限を拡大する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲及び拡大された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、設定者による当該処分が通常の事業の範囲又はその拡大された権限範囲に含まれると信じるについて正当な理由があるときは、その動産についての担保権の負担のない権利を取得するものとする。

⑹ 前記2⑴及び3⑴から⑸までで処分を受けた者が集合動産の構成部分である動産について権利を取得しない場合に担保権者のとり得る手段については、引き続き検討する。

(注1)集合動産から逸出をした動産の処分については別異に考えるべきであるという考え方がある。

(注2)知らなかったことにつき過失がないことが必要であるという考え方、重過失がないことが必要であるという考え方がある。

(注3)相手方が権利を取得するために、目的物が集合物から逸出をすることが必要であるかどうかについては、引き続き検討する。

4 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限

⑴ 譲渡担保の目的債権が債権発生年月日の始期及び終期並びに債権発生原因等によって特定され、特定された範囲に現に発生していない債権を含むもの(以下「集合債権」という。)である場合においては、設定者は、通常の事業の範囲内で、その特定された範囲に含まれる債権の取立て【、譲渡及び相殺、免除その他の債権を消滅させる行為】をする権限を有するものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときはその定めに従うものとする。

 ⑵ 設定者が⑴の権限の範囲を超えて取立て【、譲渡、免除等】をした場合の譲受人及び第三債務者の保護に関する特別の規定を設けないものとする。

5 担保価値維持義務・補充義務

 前記2⑴及び4⑴に規定する場合について、担保価値維持義務や、特定された範囲に含まれる動産又は債権について担保権の負担のないものとしての処分がされ、又は逸出をさせたときの補充義務に関する規定(注)を設けるか否かについて、引き続き検討する。

(注)例えば、「新たな規定に係る動産担保権の目的財産が集合動産又は集合債権である場合には、正当な理由がある場合を除き、設定者は、通常の事業が継続されれば当該集合動産又は当該集合債権が有すると認められる価値を維持しなければならない」という趣旨の規定が考えられる。

6 集合動産を目的とする担保権における物上代位等

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の目的物が集合動産である場合には、当該担保権は、設定者が通常の事業を継続している間は、特定範囲に含まれる動産の売買、滅失又は損傷によって設定者が受けるべき金銭その他の物に対し、行使することができないものとする。

⑵ 前記⑴につき、次のような例外を設けるかは、引き続き検討する。

ア 当事者が別段の合意をした場合

イ 権限範囲を超える処分がされた場合

 ⑶ 第三者が特定範囲に含まれる動産を滅失又は損傷させた場合における担保権者独自の損害賠償請求権については、特段の規定を設けないものとする。

参考:最判平成13年11月22日民集55巻6号P1056

登記情報 689号 15頁  2019年4月 白石大:早稲田大学大学院法務研究科教授「日本登記法研究会 第3回研究大会報告 「動産・債権譲渡登記の未来」」

第2章 担保権の対抗要件及び優劣関係

第4 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等

 1 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等(2の留保所有権の場合を除く。)

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件

ア 個別動産を目的とする新たな規定に係る動産担保権(以下「個別動産担保権」という。)の設定は、当該個別動産の引渡し(占有改定を含む。以下同じ。)がなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

集合動産を目的とする新たな規定に係る動産担保権(以下「集合動産担保権」という。)の設定は、その構成部分である動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。この場合には、当該設定に集合動産に加入した個別動産に及ぶ当該担保権の効力についても、第三者に対抗することができるものとする。

 ウ 個別動産担保権又は集合動産担保権の設定については、登記をすることができることとし、登記がされたときは、目的物である個別動産又は集合動産の構成部分である動産について引渡しがあったものとみなすものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権相互の優劣

ア 同一の個別動産に数個の個別動産担保権が設定されて競合したときは、その順位は、原則として、当該担保権について対抗要件を備えた時の前後による。

イ 同一の集合動産に数個の集合動産担保権が設定されて競合したとき(その一部が重なり合って競合する場合を含む。)は、その順位は、原則として、集合動産担保権について対抗要件を備えた時の前後による(注1)。

ウ 集合動産に一個の集合動産担保権が設定されており、その設定に、個別動産担保権が設定された個別動産が加入したときは、集合動産担保権(が当該個別動産に及ぶ効力)と個別動産担保権との順位については、原則として、次のいずれかの案によるものとする。

【案4.1.1】個別動産担保権について対抗要件を備えた時と集合動産担保権について対抗要件を備えた時の前後による。

【案4.1.2】個別動産担保権について対抗要件を備えた時と当該個別動産が集合動産に加入した時の前後による。

エ アからウまでにかかわらず、登記により対抗要件を備えた新たな規定に係る動産担保権は、占有改定により対抗要件を備えた新たな規定に係る動産担保権に優先するものとする(注2)。

(注1)集合動産担保権の設定後に集合動産に加入した個別動産(加入時に、当該個別動産を目的とする個別動産担保権は設定されていない。)があるときであっても、集合動産担保権同士の競合が問題となる場面においては、設定後に加入した個別動産についても、その順位は、原則として、集合動産担保権について対抗要件を備えた時の前後による。

(注2)集合動産担保権に限ってエの規律を適用する考え方がある。

2 留保所有権の対抗要件等

⑴ 留保所有権等の対抗要件の要否

留保所有権を第三者に主張するために対抗要件を必要とするかどうかについては、次のとおりとする。

ア 目的物の代金債権を担保する留保所有権(以下「狭義の留保所有権」という。)は、これを第三者に主張するために対抗要件を必要とするかどうかについては、次のいずれかの案によるものとする(注1、2)。

【案4.2.1.1】狭義の留保所有権は、これを第三者に主張するために、特段の要件を必要としないものとする(注3)。

【案4.2.1.2】狭義の留保所有権は、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

イ (目的物の代金債権及び)目的物の代金債権(注1)以外の債権を担保する留保所有権(以下「拡大された留保所有権」という。)は、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする(注2)。

(注1)動産を購入するための資金の融資に基づく債権など、目的物である動産と密接な関連性を有する一定の債権を担保する留保所有権についても、狭義の留保所有権に含める考え方がある。

 これに関連して、このような密接な関連性を有する一定の債権を被担保債権とする動産譲渡担保権が設定された場合には、当該動産譲渡担保権についても、狭義の留保所有権と同様に取り扱う考え方がある。

 担保物権創設型によると、目的物の代金債権【及び上記債権】を担保する新たな規定に係る動産担保権について、狭義の留保所有権と同様に取り扱うことが考えられる。

(注2)留保所有権については、登記できるとすることが考えられる。

(注3)【案4.2.1.1】によっても、(代位弁済等により)目的物の売主以外の者が狭義の留保所有権を有する場合には、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする考え方がある。

⑵ 留保所有権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

ア 留保所有権と競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、留保所有権が目的物の代金債権以外の債権を担保する限度では、これをもって第三者に対抗することができるようになった時の前後によるものとする(注4)。

留保所有権は、【【案4.2.1.2】によると引渡しがされていることを前提として、】目的物の代金債権を担保する限度では、他の新たな規定に係る動産担保権に当然に優先するものとする(注5、6)。

(注4)この場合には、前記1⑵エと同様のルール(5 登記優先ルール)を採用することが考えられる。

(注5)なお、拡大された留保所有権について、目的物の代金債権を担保する部分と目的物の代金債権以外の債権を担保する部分がある場合には、これと競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、本文⑵イにより目的物の売買代金を担保する限度では拡大された留保所有権が優先し、それ以外の部分については、原則として、それぞれが対抗要件を具備した時の前後によるものとなる。

(注6)他の新たな規定に係る動産担保権に優先するための要件として、一定期間内に登記を備えることを求める考え方がある。

 第5 新たな規定に係る動産担保権と他の担保物権との優劣関係

1 動産質権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

⑴ 動産質権と新たな規定に係る動産担保権とが競合する場合は、動産質権については設定時(引渡時)を基準とし、新たな規定に係る動産担保権については第三者に対抗することができるようになった時を基準とし、優劣はその前後によるものとする。

⑵ 動産質権と留保所有権とが競合する場合は、動産質権については設定時(引渡時)を基準とし、第4の2⑵と同様に取り扱うこととする。

2 先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

⑴ 先取特権と新たな規定に係る動産担保権は競合するものとし、その優劣関係については新たな規定に係る担保権を民法第330条に規定する第1順位の先取特権と同一の効力を有するものと取り扱うものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権者については、民法第330条第2項前段の規定を適用しないこととし、担保権設定時に第2順位又は第3順位の先取特権者があることを知っていたとしても、これらの者に対して優先権を行使できるものとする(注)。

(注)動産質権についても、民法第330 条第2項前段の規定を適用しないようにすることが考えられる。

3 一般先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

雇用関係の先取特権を含む一般先取特権に、新たな規定に係る動産担保権に対する一定の優先権を認めるかについては、担保法制全体に与える影響も考慮しつつ、新たな規定に係る動産担保権に優先し得る一般先取特権の範囲(雇用関係の先取特権に限るか、その他の一般先取特権にも優先権を認めるか)、新たな規定に係る動産担保権の範囲(その目的物の性質等によって区別するか)、優先権の具体的な内容、優先権を行使するための要件等を引き続き検討する。

第6 債権譲渡担保権の対抗要件等の在り方

1 債権譲渡担保権の対抗要件等

  • ア 債権を目的とする譲渡担保権(以下「債権譲渡担保権」という。)の設定は、設定者ら第三債務者に対する通知又は第三債務者の承諾(以下「通知又は承諾」という。)がなければ、これをもって第三債務者に対抗することができないものとする。

イ 債権譲渡担保権の設定は、確定日付のある証書による通知又は承諾がなければ、これをもって第三債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

⑵ア 債権譲渡担保権の設定については、登記をすることができることとし、登記がされたときは、第三債務者以外の第三者については、確定日付のある証書による通知があったものとみなすものとする。

イ 債権譲渡担保権の設定の登記がされたことについて設定者又は担保権者が第三債務者に登記事項証明書を交付して通知をし、又は当該第三債務者が承諾をしたときは、当該第三債務者についても、確定日付のある証書による通知があったものとみなすものとする。

2 債権譲渡担保権相互の優劣関係

⑴ 同一の債権について数個の債権譲渡担保権が設定されたときは、その順位は、原則として、これをもって第三者に対抗することができるようになった時の前後によるものとする。

登記により対抗要件を備えた債権譲渡担保権と、通知又は承諾により対抗要件を備え債権譲渡担保権との優劣関係について、特別の規定を設けないものとする(注)。

(注)登記により対抗要件を備えた債権譲渡担保権は、通知又は承諾により対抗要件を備えた債権譲渡担保権に優先するものとする考え方がある。

3 一般先取特権と債権譲渡担保権との優劣関係

 雇用関係の先取特権を含む一般先取特権に、債権譲渡担保権に対する一定の優先権を認めるかについては、第5の3と同様に、引き続き検討する。

 第7 動産・債権譲渡登記制度の見直し

1 同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を一覧的に公示する仕組みの導入の要否

【案7.1.1】同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を一覧的に公示させる仕組みは、設けないものとする。

【案 7.1.2】新たに関連担保目録制度を導入し、同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を関連担保目録にできる限り一覧的に公示させるものとする。

2 新たな規定に係る担保権の処分等を登記できるようにすることの要否及びその範囲並びにその公示方法

 新たな規定に係る動産担保権の処分、新たな規定に係る動産担保権の順位の変更、債権譲渡担保権の処分及び債権譲渡担保権の順位の変更(以下「新たな規定に係る担保権の処分等」という。)を登記できるようにすることの要否及びその範囲について、実務上のニーズや公示の分かりやすさの観点等を踏まえて、引き続き検討する。その上で、登記できるとされた新たな規定に係る担保権の処分等の公示方法については、以下のとおりとする。

 【案7.2.1】新たな規定に係る担保権の処分等に関する登記を、例えば個々の動産・債権譲渡登記に付記するような形でできるものとする(【案7.1.1】を前提とする。)。

 【案7.2.2】関連担保目録に登記された動産・債権譲渡登記に係る新たな規定に係る担保権の処分等のみを登記できることとし、当該新たな規定に係る担保権の処分等に関する登記は関連担保目録上に行うものとする(【案7.1.2】を前提とする。)。

3 登記をすることができる動産若しくは債権の譲渡人又は新たな規定に係る担保権の設定者の範囲登記をすることができる動産若しくは債権の譲渡人又は新たな規定に係る担保権の設定者の範囲を、商号の登記をした商人にも拡大することについて、引き続き検討する。

第3章 担保権の実行

第8 新たな規定に係る担保権の実行方法

1 新たな規定に係る担保権の各種の実行方法

 新たな規定に係る担保権の実行は、次に掲げる方法であって担保権者が選択したものにより行うものとする。

① 担保権者に被担保債権の弁済として目的物を帰属させる方式(帰属清算方式)

② 担保権者が目的物を処分し、その代金を被担保債権の弁済に充てる方式(処分清算方式)

③ 民事執行法第190 条以下の規定に基づく競売

2 新たな規定に係る担保権の私的実行における担保権者の処分権限及び実行通知の要否

 新たな規定に係る担保権の担保権者が私的実行として目的物の所有権を自己に帰属させ、又は第三者に処分する権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案8.2.1】

⑴ 新たな規定に係る担保権の担保権者が私的実行をしようとするときは、被担保債権について不履行があった日以後に、設定者に対し、担保権の私的実行をする旨及び被担保債権の額を通知しなければならないものとする。

⑵ ⑴の通知が設定者に到達した時から1週間が経過したときは、担保権者は、後記3に従って目的物を自己に帰属させ、又は後記4に従って第三者に対して目的物を処分することができるものとする(注)。

(注)1週間の猶予期間を設けず、担保権者は⑴の通知が到達した時に目的物の処分権限を取得するものとする考え方がある。

【案8.2.2】

 被担保債権について不履行があったときは、担保権者は、後記3に従って目的物を自己に帰属させ、又は後記4に従って第三者に対して目的物を処分することができるものとする。

3 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等

 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等については、次のいずれかの案によるものとする。

【案8.3.1】

⑴ 担保権者が帰属清算方式による私的実行をしようとするときは、担保権者は、設定者に対し、目的物の所有権を担保権者に帰属させる旨、被担保債権の額、担保権者が評価した目的物の価額及びその算定根拠の通知(以下「帰属清算の通知」という。)をしなければならず、担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、帰属清算の通知に加えてその差額の支払又はその提供(以下「清算金の提供等」という。)をしなければならない。

 ⑵ 担保権者が帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をしたときは、被担保債権は、その時における目的物の客観的な価額の範囲で消滅し、設定者は、その後に被担保債権に係る債務を弁済して担保権を消滅させることができない(注1、2)。

⑶ 担保権者が帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をした時における目的物の客観的な価額が被担保債権額を超えるときは、担保権者は、設定者に対し、その超える額に相当する金銭を支払う義務を負う(注1、2)。

⑷ 担保権者は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をしたときは、⑴に基づいて担保権者が通知した目的物の評価額と被担保債権額の差額の支払と引換えに、設定者に対して目的物の引渡しを請求することができる。

⑸ ⑴に基づいて担保権者が通知した目的物の価額が、目的物の種類、性質等を考慮して担保権者が通常把握すべき当該目的物に係る事情に照らして著しく合理性を欠くものであるときは、⑵から⑷までの効力は、生じない。

【案8.3.2】

⑴ 【案8.3.1】の⑴から⑶まで及び⑸と同じ。

⑵ 担保権者は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をしたときは、目的物の客観的な価額と被担保債権額の差額の支払と引換えに、設定者に対して目的物の引渡しを請求することができる。

⑶ 【案8.3.1】の⑴に基づいて担保権者が通知した目的物の価額が、目的物の種類、性質等を考慮して担保権者が通常把握すべき当該目的物に係る事情に照らして著しく合理性を欠くものであるときは、⑵並びに【案8.3.1】の⑵及び⑶の効力は、生じない。

(注1)設定者の受戻しの機会等を確保するために、被担保債権の消滅時期、清算金算定の基準時及び設定者が目的物を受け戻すことができなくなる時期を、帰属清算の通知及び清算金の提供等がされた時から一定期間が経過した時とする考え方がある。

(注2)設定者の受戻しの機会等を確保するために、設定者は、被担保債権が消滅した後においても、担保権者に対して目的物を引き渡すまでの間は、被担保債権が消滅しなかったものとすれば支払うべき額を支払うことにより、目的物を受け戻すことができるものとする考え方がある。

4 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等

 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等については、次のいずれかの案によるものとする。

 【案8.4.1】

⑴ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分したときは、被担保債権は、その処分時における目的物の客観的な価額の範囲で消滅し、設定者は、その後に被担保債権に係る債務を弁済して担保権を消滅させることができない(注1)。

⑵ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分したときは、担保権者は、設定者に対し、その旨、処分時における被担保債権の額、担保権者が評価した目的物の価額及びその算定根拠を通知しなければならない。

⑶ 設定者は、目的物の処分を受けた第三者からその引渡しを請求されたときは、担保権者が⑵の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えてその差額の支払)をするまでは、目的物の引渡しを拒むことができる。

 ⑷ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分した場合において、その処分時における目的物の客観的な価額が被担保債権額を超えるときは、担保権者は、設定者に対し、その超える額に相当する金銭を支払う義務を負う。

【案8.4.2】(注2)

⑴ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分したときは、被担保債権は、その処分時における目的物の客観的な価額の範囲で消滅し、設定者は、その後に被担保債権に係る債務を弁済して担保権を消滅させることができない(注1)。

⑵ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分した場合において、その処分時における目的物の客観的な価額が被担保債権額を超えるときは、担保権者は、設定者に対し、その超える額に相当する金銭を支払う義務を負う。

 ⑶ 設定者は、目的物の処分を受けた第三者からその引渡しを請求された場合において、その処分時における目的物の客観的な価額が被担保債権額を超えるときは、担保権者がその差額の支払をするまでは、目的物の引渡しを拒むことができる。

(注1)設定者の受戻しの機会等を確保するために、被担保債権の消滅時期、清算金算定の基準時及び設定者が目的物を受け戻すことができなくなる時期を、目的物が処分された時から一定期間が経過した時と第三者が目的物の引渡しを受けた時のいずれか早い時とする考え方がある。

(注2)【案8.4.2】についても、担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分したときは、担保権者は、設定者に対し、その旨、処分時における被担保債権の額、担保権者が評価した目的物の価額及びその算定根拠を通知しなければならないものとする考え方がある。

第9 新たな規定に係る担保権の目的物の評価・処分又は引渡しのための担保権者の権限及び手続

1 評価・処分に必要な行為の受忍義務

 新たな規定に係る担保権の被担保債権について不履行があった場合において、担保権者が目的物の評価又は処分に必要な行為をしようとするときは、設定者は、これを拒むことができない(注)。

(注)設定者は、受忍義務に加えて、目的物の評価のために必要な情報を提供する義務を負うものとする考え方がある。

2 実行完了前の保全処分

 新たな規定に係る担保権の被担保債権について不履行があった場合において、設定者又は占有者が、目的物の価格を減少させる行為若しくは実行を困難にする行為をし、又はこれらの行為をするおそれがあるときは、裁判所は、担保権者の申立てにより、次に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずることができるものとする。

 ⑴ 設定者又は占有者に対し、価格を減少させ、若しくは又は実行を困難にする行為を禁止し、又は一定の行為をすることを命ずること

⑵ 設定者又は占有者に対し、執行官への引渡しを命ずること及び執行官に目的物の保管をさせること

⑶ 設定者又は占有者に対し、占有の移転を禁止することを命じ、その使用を許すこと

3 簡易迅速な目的物の引渡しを実現する方法

 新たな規定に係る担保権の被担保債権について不履行があったときは、裁判所は、【担保権者が帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)又は第三者に対する目的物の処分をするまでの間/目的物の評価又は処分のために必要があるときは】、担保権者の申立てにより、清算金の見積額を供託させて、設定者又は目的物の占有者に対し、目的物を担保権者に引き渡すべき旨を命ずることができるものとする。

4 実行終了後に目的物の引渡しを実現する方法

 裁判所は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をした担保権者又は目的物の処分を受けた第三者(以下「担保権者等」という。)の申立てにより、設定者又は目的物の占有者に対、目的物を担保権者等に引き渡すべき旨(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超えるときにあっては、その超える額に相当する金銭の支払と引換えに目的物を担保権者等に引き渡すべき旨)を命ずることができるものとする。

第10 同一の動産に複数の新たな規定に係る担保権が設定された場合の取扱い

1 劣後担保権者による私的実行の可否及び要件

 新たな規定に係る担保権が同一の動産について複数設定されているときは、担保権者は、優先する全ての担保権者の同意を得た場合に限り、私的実行をすることができるものとする。

2 優先担保権者の同意なくされた劣後担保権者による私的実行の効果

 前記1の同意なくされた劣後担保権者によ5 る私的実行の効果については、次のいずれかの案によるものとする。

【案10.2.1】 前記1の同意なくされた劣後担保権者による私的実行は、その効力を生じないものとする。

【案10.2.2】 劣後担保権者が前記1の同意なく帰属清算方式又は処分清算方式による私的実行をしたときは、劣後担保権者又は第三者は、優先担保権の負担のある目的物の所有権を取得するものとする。

3 新たな規定に係る担保権の私的実行に当たっての他の担保権者への通知

新たな規定に係る担保権の担保権者又は設定者が私的実行に当たってとらなければならない手続については、次のいずれかの案によるものとする。

【案10.3.1】 新たな規定に係る担保権の担保権者は、私的実行に着手したときは、遅滞なく、その設定者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えている全ての者に対して、その旨の通知をしなければならないものとする。この場合において、その通知は、【通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所/あらかじめ登記所に届け出た連絡先】に宛てて発すれば足りるものとする。(関連担保目録制度を導入しない【案7.1.1】を前提とする。)

【案10.3.2】 新たな規定に係る担保権の担保権者は、私的実行に着手したときは、遅滞なく、その担保権に係る動産譲渡登記の関連担保目録上においてその担保権に【関連する/後れる】担保権を有する者【(私的実行に着手した担保権者の担保権が動産譲渡登記を備えていないときにあっては、その設定者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えている全ての者)】に対して、その旨の通知をしなければならないものとする。この場合において、その通知は、【通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所/あらかじめ登記所に届け出た連絡先】に宛てて発すれば足りるものとする。(関連担保目録制度を導入する【案

7.1.2】を前提とする。)

【案10.3.3】 設定者は、新たな規定に係る担保権の担保権者から私的実行をする旨又は私的実行をした旨の通知を受けたときは、遅滞なく、【劣後担保権者/その他の担保権者】に対してその旨の通知をしなければならないものとする。

4 担保権者間の分配方法についての合意内容の通知

 後順位の担保権者が優先する担保権者の同意を得て私的実行をしたときは、各担保権者の被担保債権は、目的物の客観的な価額の範囲でその優先順位に従って消滅する。ただし、各担保権者間にこれと異なる合意が成立した場合において、劣後担保権者が、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)の到達又は第三者への目的物の処分後遅滞なく、設定者に対してその合意の内容を通知したときは、この限りでない。

第11 集合動産を目的とする担保権の実行について

1 集合動産を目的とする担保権の実行の手続

集合動産を目的とする担保権の実行について、次の規定を設けるものとする。

⑴ 集合動産を目的とする担保権の私的実行をしようとするときは、担保権者は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)又は第三者への目的物の処分に先立って、設定者に対し、担保を実行する旨を通知しなければならない。

⑵ ⑴の通知が設定者に到達したに集合動産に加入した動産には、担保権の効力は及ばない。ただし、その動産が⑴の通知が到達した時点で集合動産の構成部分であった動産と分別して管理されていないときは、この限りでない。

⑶ ⑴の通知が設定者に到達したときは、設定者は、その時点で集合動産の構成部分であった動産の処分権限を失う。

⑷ ⑴の通知は、設定者の承諾を得なければ、撤回することができない。

⑸ ⑷の撤回は、⑴の通知の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

2 実行後に特定範囲に加入した動産に対する再度実行の可否

 集合動産を目的とする担保権の担保権者は、実行の時点で存在する構成部分である動産全部について実行をしたに新たに特定範囲に加入した動産に対して、当初の担保の効力が及んでいるものとして再度の実行をすることはできないものとする(注)。

(注)プロジェクト・ファイナンス等の現在の実務に影響を与えることがないか、事業担保等の他の制度との関係にも留意しつつ、引き続き検討する。

 3 集合動産の一部について実行がされた場合に固定化が生じる範囲

 前記1⑴の通知の到達による前記1⑵及び⑶の効果は、その集合動産全体について生じるものとし、ただし、その通知において、【所在場所により特定された範囲/種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲】を実行の対象として指定したときは、この限りでないものとする。

第12 新たな規定に係る担保権の競売手続による実行等について

1 新たな規定に係る担保権は、民事執行法第190 条以下の規定に基づく競売によって実行することができるものとする。

2 新たな規定に係る担保権の担保権者は、設定者に対する他の債権者が申し立てた動産に対する強制執行手続及び他の担保権者が申し立てた担保権実行としての動産競売手続において、配当要求をすることができるものとする。

3 新たな規定に係る担保権の担保権者は、その担保権者に劣後する他の担保権者又は一般債権者がその目的物を差し押さえたときは、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができるものとし、ただし、目的物の価額が手続費用並びに第三者異議の訴えを提起しようとする担保権者の債権及びこれに優先する債権の合計額を超えるときは、この限りでないものとする(注)。

4 【執行官/差押債権者又は担保権者】は、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続に係る動産の差押えをしたときは、遅滞なく、その執行債務者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えている全ての者に対し、その旨を通知しなければならないものとする。この場合において、その通知は、【通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所/あらかじめ登記所に届け出た連絡先】に宛てて発すれば足りるものとする。

5 強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る担保権の帰趨については、次のいずれかの案によるものとする。

【案12.5.1】 強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る担保権は、売却により全て消滅するものとする。

【案12.5.2】 強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その申立てに係る担保権者の担保権、配当要求をした担保権者の担保権及びこれらの担保権に劣後する担保権は、売却により消滅するものとし、買受人は、その余の担保権の負担のある目的物の所有権を取得するものとする。

(注)劣後担保権者又は一般債権者が集合動産の構成部分である動産を差し押さえた場合に、同様の規律を適用するかどうかについては、更に検討する。

第13 質権の実行方法に関する見直しの要否

 動産質権について流質契約の有効性を認めるか否かについては、次のいずれかの案によるものとする。

【案13.1】 目的物の価額が被担保債権額を超える場合にその差額を清算させるなどの設定者の利益を保護する措置をとるとともに、民法第349 条を改正し、動産質権について流質契約の有効性を認めるものとする。

【案13.2】 動産質権について流質契約の有効性を否定する民法第349 条を維持するものとする。

第14 所有権留保売買による留保所有権の実行

所有権留保売買による留保所有権の実行方法として、第8の3及び4の帰属清算方式及び処分清算方式による私的実行並びに第12 の民事執行法の規定に基づく競売を認めるものとする。

第15 債権を目的とする担保権の実行

1 債権譲渡担保権者による債権の取立て

債権譲渡担保権者は、その目的である債権を直接に取り立てることができるものとする。

2 債権質権者及び債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否

⑴ 債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.2.1.1】

ア 債権譲渡担保権者が実行をしようとするときは、被担保債権について不履行があった日以後に、設定者に対し、担保権の実行をする旨及び被担保債権の額を通知しなければならないものとする。

イ アの通知が設定者に到達した時から1週間が経過したときは、債権譲渡担保権者は、前記1に従ってその目的である債権を直接に取り立て、又は後記6に従って実行することができるものとする(注)。

(注)1週間の猶予期間を設けず、債権譲渡担保権者はアの通知が到達した時にその目的である債権の取立権限を取得するものとする考え方がある。

【案15.2.1.2】

 被担保債権について不履行があったときは、債権譲渡担保権者は、前記1に従ってその目的である債権を直接に取り立て、又は後記6に従って実行することができるものとする。

⑵ 債権質権者の取立権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.2.2.1】 ⑴について【案15.2.1.1】を採用する場合には、これと同様とする。

【案15.2.2.2】 ⑴についていずれの案を採用するかにかかわらず、現在の規律を維持する。

3 担保の目的財産が金銭債権である場合に担保権者が取り立てることができる範囲

⑴ 債権譲渡担保権者は、譲渡担保の目的が金銭債権であるときは、その全額を取り立てることができるものとする。

⑵ 民法第366 条第2項を改め、質権者についても、質権の目的が金銭債権である場合には、その全額を取り立てることができるものとする。

4 担保の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、担保権者が請求することができる内容

⑴ 債権譲渡担保の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期よりも先に到来する場合に、債権譲渡担保権者が請求することができる内容については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.4.1.1】 譲渡担保の目的である金銭債権の弁済期が到来したときは、債権譲渡担保権者は、被担保債権の弁済期が到来する前であっても、目的債権を直接に取り立てることができるものとする(注)。

【案15.4.1.2】 譲渡担保の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期に到来したときは、債権譲渡担保権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができるものとした上で、第三債務者は、対抗要件を具備した担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができるものとする(注)。

(注)第三債務者が担保権者に対して弁済した場合において、担保権の実効性を確保するためのその金銭の処理方法については、引き続き検討する。

⑵ 債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期よりも先に到来する場合に、質権者が請求することができる内容に5 ついては、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.4.2.1】 ⑴について【案15.4.1.1】を採用する場合には、民法第366 条第3項を改め、これと同様とする。

【案15.4.2.2】 ⑴について【案15.4.1.2】を採用する場合には、民法第366 条第3項を改め、これと同様とする。

5 担保の目的財産が非金銭債権である場合の実行方法

 担保の目的財産が非金銭債権である場合に、譲渡担保権者は、弁済として受けた物について【譲渡担保権(新たな規定に係る担保権)/動産質権】を有するものとする。

6 直接の取立て以外の実行方法

⑴ 債権譲渡担保権者は、目的債権を直接取り立てる方法によるほか、帰属清算方式又は処分清算方式の私的実行をすることができるものとする。

⑵ 債権譲渡担保権を民事執行法第193 条の規定に基づく債権執行によって実行することができるものとするか否かについては、引き続き検討する。

7 集合債権を目的とする担保の実行

集合債権を目的とする担保の私的実行については、特別な規定を設けないものとする。

 第4章 担保権の倒産手続における取扱い

第16 別除権としての取扱い

 破産手続及び再生手続において、新たな規定に係る担保権を有する者を別除権者(破産法第2条第10 項、民事再生法第53 条)として、更生手続において、新たな規定に係る担保権の被担保債権を有する者を更生担保権者(会社更生法第2条第11 項)として、それぞれ扱うものとする。

登記研究 799号 25頁 2014年9月 藤原勇喜:藤原民事法研究所代表「【論説・解説】倒産法と不動産登記をめぐる諸問題 ―破産法を中心として―」

第17 担保権実行手続中止命令に関する規律

1 担保権実行手続中止命令の適用の有無

⑴ 新たな規定に係る担保権の実行手続(私的実行手続を含む。⑵において同じ。)を民事再生法上の担保権実行手続中止命令(同法第31条)の対象とする。

⑵ 新たな規定に係る担保権の実行手続を会社更生法、会社法及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律に基づく担保権実行手続中止命令(会社更生法第24 条、会社法第516 条及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第27 条)の対象とする。

⑶ 債権質権の実行手続(私的実行手続を含む。)を⑴及び⑵の手続の対象とする。(注)

(注)契約による質物の処分を可能とする場合には、当該処分を⑴及び⑵に規定する担保権実行手続中止命令の対象とするかも問題となる。

担保権実行手続禁止命令

⑴ 再生手続において、新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】を実行手続の開始前に発令される担保権実行手続禁止命令の対象とする。(注1)

⑵ 新たな規定に係る担保権についての再生手続における担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令の要件は、現行の担保権実行手続中止命令と同様とする。

⑶ 更生手続、特別清算手続及び承認援助手続において、⑴と同様に、新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】を対象とする、実行手続の開始前に発令される担保権実行手続禁止命令の規定を設けるものとする。(注1)

⑷ 新たな規定に係る担保権についての更生手続、特別清算手続及び承認援助手続における担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令の要件は、現行の担保権実行手続中止命令と同様とする。

 ⑸ 債権質権の【実行手続/直接取立てによる実行】を⑴及び⑶の手続の対象とする。(注2)

(注1)担保権実行手続禁止命令の対象となる手続に関しては、担保権実行手続中止命令と担保権実行手続禁止命令とを区別しない形で法制化すべきという考え方がある。

(注2)契約による質物の処分を可能とする場合には、当該処分を⑴及び⑶に規定する担保権実行手続禁止命令の対象とするかも問題となる。

3 担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期の終期

 担保権実行手続中止命令又は2に規定する担保権実行手続禁止命令のうち、新たな規定に係る担保権の私的実行に係るものについては、被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければならないものとする(注)。また、債権質権の取立てに係る担保権実行手続中止命令又は2に規定する担保権実行手続禁止命令についても同様の規定を設けるものとする。

(注)新たな規定に係る動産担保権については、被担保債権に係る債務の消滅後も、担保目的動産が担保権者に引き渡されるまでの間設定者による担保目的動産の受戻しを認めつつ、被担保債権に係る債務の消滅時と担保目的動産の担保権者への引渡し時のいずれか遅い方を担保権実行手続中止命令等の終期とすべきという考え方がある。

4 担保権者の利益を保護するための手段

担保権実行手続中止命令及び2に規定する担保権実行手続禁止命令は、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができる。

5 審尋の要否

 新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】(注1)に対する担保権実行手続中止命令及び2に規定する担保権実行手続禁止命令は、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなく発することができ、ただし、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなくこれらの命令を発したときは、裁判所は、発令の後に(注2)担保権者の意見を聴かなければならないものとしてはどうか。

(注1)動産質権及び債権質権などの実行手続をも対象とすることが考えられる。

(注2)担保権者の意見を聴くべき時期の定め方(直ち5 に、速やかに、遅滞なくなど)については、引き続き検討する。

6 担保権実行手続中止命令等が発令された場合の弁済の効力

 債権譲渡担保権の実行に当たって担保権者が担保目的債権の取立権限を取得したが、その後に担保権実行手続中止命令又は2に規定する担保権実行手続禁止命令が発令された場合の弁済の効力等に関して、次のいずれかの案によるものとする。(注)

【案17.6.1】担保権実行手続中止命令又は担保権実行手続禁止命令が発令された場合にも、第三債務者が担保権者に対して弁済することは妨げられないものとする。

【案17.6.2】担保権実行手続中止命令又は担保権実行手続禁止命令が発令された場合において、第三債務者がこれらが発令されたことを知っていたときは、担保権者に対する債務消滅行為の効力を設定者に対抗することができないものとする。この場合において、第三債務者は、担保目的債権の全額に相当する金銭を供託して、その債務を免れることができるものとする。

(注)債権質権に基づき担保権者が担保目的債権の取立権限を取得したが、その後に担保権実行手続中止命令又は2に規定する担保権実行手続禁止命令が発令された場合の弁済の効力等に関して規定を設ける必要があるかどうかについて、引き続き検討する。

7 担保権実行手続取消命令

次のような担保権実行手続取消命令の規定を設けることについて、引き続き検討する。

 ⑴ 裁判所は、集合動産を目的とする新たな規定に係る担保権の実行通知がされた場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがない(注1、2)ときは、実行通知の効力を取り消すことができるものとすること(注3)

⑵ 裁判所は、債権譲渡担保権が設定された場合における設定者に対する取立権限の付与が解除された場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがない(注1、2)ときは、取立権限の付与の解除の効力を取り消すことができるものとすること(注3)

(注1)再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めることや、担保を立てさせることなどをも要件とすべきという考え方がある。

(注2)担保権実行手続取消命令について、担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令に関する4と同様に、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができることとするかどうかについては、条件違反があった場合の効果などを踏まえて、引き続き検討する。

(注3)担保権実行手続取消命令が発令された場合における第三債務者による弁済の効力に関して、6のような規律を設けるべきかについては、引き続き検討する。

第18 倒産手続開始申立特約の効力

1 設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に(注)新たな規定に係る担保権の目的物を設定者に属しないものとし、又は属しないものとする権利を担保権者に与える契約条項(新たな規定に係る担保権の目的財産を設定者の責任財産から逸出させることになる契約条項)は、無効とする。

2 設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に設定者が新たな規定に係る担保権の目的物の範囲に存する動産をの処分等する権限や担保権の目的物の範囲に存する債権をの取立て等する権限を喪失させる契約条項を無効とする旨の明文の規定を設けるかどうかについて、引き続き検討する。

(注)再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立て以外を理由に⑴に規定する権利を担保権者に与える契約条項を無効とする旨の規定を設けるべきかどうかについては、引き続き検討する。

第19 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力

1 倒産手続の開始に生じた債権に対する担保権の効力

 将来発生する債権を目的とする債権譲渡担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、当該担保権の効力が、管財人又は再生債務者を当事者とする契約上の地位に基づいて倒産手続開始後に発生した債権に及ぶか否かについては、次の4案のいずれかによるものとする(注)。

【案19.1.1】 倒産手続が開始された後に発生した債権にも無制限に担保権の効力が及ぶ(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。

【案19.1.2】 倒産手続が開始された後に発生した債権には担保権の効力が及ぶが、優先権を行使することができるのは、倒産手続開始時に発生していた債権の評価額を限度とする(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。

【案19.1.3】 倒産手続が開始された後に発生した債権であっても、担保権者が担保権を実行するまでに発生したものには、担保権の効力が及ぶ(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。

【案19.1.4】 倒産手続開始後に発生した債権には、担保権の効力は及ばない(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ既発生の債権について、倒産手続の開始によって取立権限を失う。)。

(注)目的債権の取立権限や目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限等何らかの基準によって場合分けをし、それぞれについて異なる規律を適用するという考え方がある。

2 倒産手続の開始後に取得した動産に対する担保権の効力

 集合動産を目的財産とする新たな規定に係る担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、当該担保権の効力が、倒産手続開始後に管財人又は再生債務者が当事者となった契約に基づいて取得した動産に及ぶか否かについては次の3案のいずれかによるものとする。

【案19.2.1】倒産手続が開始された後に取得した動産には担保権の効力が及ぶが、優先権を行使することができるのは、倒産手続開始時までに取得した動産の評価額を限度とする(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産につ5 いて、倒産手続の開始によっては、処分権限を失わない。)。

【案19.2.2】倒産手続が開始された後に取得した動産であっても、担保権者が担保権を実行するまで(実行通知が設定者に到達するまで)に取得したものには、担保権の効力が及ぶ(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によっては、処分権限を失わない。)。

【案19.2.3】倒産手続開始後に取得した動産には、担保権の効力は及ばない(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によって処分権限を失う。)。

第20 担保権の実行がされた担保目的財産に係る費用の負担(本項は、第19、1において【案19.1.1】を採用した場合の試案である。)

 将来発生する債権を目的として債権譲渡担保権が設定されている場合において、設定者について倒産手続が開始された後に目的債権を発生させる費用(注)を設定者が支出し、当該担保権の実行が行われたときの規律については次の2案を引き続き検討する。

【案20.1】当該債権譲渡担保権が設定された債権のいずれかについて担保権の実行(担保権者による取立てを含む。)が行われた場合、当該債権の代価又は弁済として受けた金銭等から、担保権者より先に設定者(管財人又は再生債務者)が当該費用の償還を受けることができる。

【案20.2】当該目的債権について担保権の実行(担保権者による取立てを含む。)が行われた場合、当該目的債権の代価又は弁済として受けた金銭等から、担保権者より先に設定者(管財人又は再生債務者)が当該費用の償還を受けることができる。

(注)目的債権を発生させる費用の内容については、引き続き検討する。

第21 否認集合動産又は将来発生する複数の債権を目的とする新たな規定に係る担保権において、個別の動産や債権等が次のような態様で担保権の目的の範囲に加入した場合、これを偏頗行為否認の対象とすること(注1)について、引き続き検討する(注2、3)。

⑴ 通常の事業の範囲を超えるなど、客観的に異常な動産又は債権の担保権の目的の範囲への加入

⑵ 専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われたなどの設定者の主観的要件を満たす(注4)動産又は債権の担保権の目的の範囲への加入

(注1)偏頗行為否認の対象とするのではなく、実体法上担保権の効力が及ばないこととすべきという考え方がある。

(注2)偏頗行為否認の対象とする場合に、設定者の支払不能等に関する担保権者の主観的要件を不要とすべきであるという意見がある。

(注3)加入後に個別動産や個別債権の処分等が行われた場合に、それを否認の成否において勘案すべきかどうかについて、引き続き検討する。

(注4)設定者の主観的要件に加えて、担保権者の主観的事情を要件とすべきであるという意見がある。

第22 担保権消滅許可制度の適用

1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用

  •  新たな規定に係る担保権について、破産法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

 ⑵ 担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての「担保権の実行の申立て」(破産法第187 条第1項)として、私的実行を認めるかどうかについて、次のいずれかの案によるものとする。

【案22.1.2.1】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認め、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額についての要件を課さない

【案22.1.2.2】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めるが、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額(注1)は、担保権消滅許可申立書に記載された売得金(破産法第186 条第3項第2号)の額以上である必要があるとする。

【案22.1.2.3】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めない(担保権者は、競売手続の実行の申立てによるほか、買受けの申出(破産法第188 条第1項)により対抗することとする。)(注2)。

(注1)帰属清算方式及び処分清算方式のいずれの場合でも、清算金の発生又は被担保債権の消滅の効果は、担保目的物の客観的な価額を基準として生ずることになること等を踏まえ、帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額を基準とするかどうかについては、引き続き検討する。

(注2)対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めるが、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額を、担保権消滅許可申立書に記載された売得金の額に5パーセントを加えた額以上である必要があるとするという考え方がある。

2 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用

新たな規定に係る担保権について、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とするものとする。

第5章 その他

第23 事業担保制度の導入に関する総論的な検討課題

1 事業担保制度導入の是非

事業のために一体として活用される財産全体を包括的に目的財産とする担保制度(事業担保制度)を設けるか否かについて、引き続き検討する。

2 事業担保権を利用することができる者の範囲

⑴ 事業担保権者となり得る者の範囲については、制度の趣旨が適切に発揮されるためには適切なモニタリングや経営支援の知見等が必要であることや、経営への不当な介入を防ぐ観点から、金融機関などに限定する方向で、その具体的な範囲を更に検討するものとする。

⑵ 事業担保権を設定することができる者については、個人を除外して法人等に限定する方向で、組合による設定を認めるかなどその具体的な範囲については、設定を公示する手段の有無にも留意しながら更に検討するものとする(注)。

 (注)個人事業者がその事業用の財産に事業担保権を設定することも認めるという考え方がある。

3 事業担保権の対象となる財産の範囲

⑴ 事業担保権は、原則として、のれん、契約上の地位(注)、事実上の利益などを含む、設定者の有する全ての財産に及ぶものとする。

 ⑵ 当事者の合意によって一部の財産に事業担保権が及ばないようにすることができるかどうかについては、その旨の公示の可否などに留意しつつ、更に検討する。

(注)労働契約について何らかの特別な考慮が必要であるとの意見がある。

第24 事業担保権の効力

 1 事業担保権の設定

 事業担保権の設定契約に当たって必要な手続的要件については、事業担保権の設定による影響を受け得る者の利害にも配慮しつつ、更に検討する。

2 事業担保権の対抗要件及び他の担保権との優劣関係

 ⑴ 事業担保権の設定は、商業登記簿に登記しなければ、第三者に対抗することができないものとする。

⑵ 物的に編成された登記登録制度がある個別財産について事業担保権の効力が及ぶことを第三者に対抗するための要件として、商業登記簿への登記で足りるものとするか、登記登録をしなければ事業担保権の効力が及ぶことを第三者に対抗することができないものとするかについて、引き続き検討する。

⑶ 事業担保権と他の約定担保権との優劣関係については、対抗要件の先後によって定めるものする。

⑷ 事業担保権と先取特権との優劣関係について、引き続き検討する。

 3 事業担保権の優先弁済権の範囲(一般債権者に対する優先の範囲)

 労働債権や商取引債権は、無担保であっても一定の範囲で事業担保権の被担保債権に優先することとし、具体的にどのような範囲の債権を優先させるか、各債権に分配する額をどのように算出するか、優先させる債権への分配額を実行開始後に随時弁済することができるかなどについて、引き続き検討する。

4 事業担保権設定者の処分権限

 事業担保権が実行される前の段階において、事業担保権設定者がどのような範囲で事業担保権の目的となっている財産を処分することができるかについて、①事業担保権の目的である財産の処分一般について何らかの制約を設けるか、②事業担保権の目的である財産のうち一部について処分権限を制約するか、③後順位の担保権の設定に制約を設けるかなどの点を引き続き検討する。

5 一般債権者が差し押さえた場合の担保権者の保護

  事業担保権が及ぶ個別の財産について設定者の一般債権者が強制執行を申し立てた場合や、当該財産について抵当権等の担保権を有する担保権者がその実行を申し立てた場合に、事業担保権者がどのような手段を取り得るかについて、引き続き検討する。

第25 事業担保権の実行

1 実行開始決定の効果

⑴ 事業担保権の実行開始決定がされたときは、その目的財産の管理処分権は裁判所の選任する管財人に専属するものとする。

⑵ 管財人は、善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならないものとする。

 ⑶ 管財人は、債権者に対し、公平かつ誠実に、⑴の権利を行使し、実行手続を追行する義務を負うものとする。

⑷ 事業担保権の実行開始決定がされたときは、設定者の個別財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、事業担保権に劣後する担保権の実行等の手続は事業担保権の実行手続との関係で失効するものとし、事業担保権に優先する担保権は、事業担保権の実行手続によらないで行使することができるものとする(注)。

(注)事業担保権の被担保債権に先立って弁済を受けることができる一般債権に基づく強制執行及び仮差押えは、失効しないものとする考え方がある。

2 事業担保権の目的財産の一部に対する実行及び個別資産の換価の可否

 ⑴ 事業担保権の裁判上の実行手続において、事業担保権の目的財産の一部のみを対象として実行手続を開始することはできないものとする。

⑵ 管財人が設定者の通常の事業の範囲を超えて個別資産を換価するには、裁判所の許可を得なければならないものとする。

 3 裁判上の実行による事業譲渡における債務の承継の可否

 管財人は、裁判上の実行により事業譲渡をする場合において、事業の買受人に対し、事業担保権の被担保債務に先立って弁済を受けることができる債務その他のその債務の承継によって債権者間の衡平を害しないと認められる債務を承継させることができるものとする。

4 他の債権者及び株主の保護

⑴ 管財人は、裁判上の実行により事業譲渡をするには、裁判所の許可を得なければならないものとする。

⑵ ⑴の事業譲渡について、会社法上の株主総会の決議による承認を要しないものとする(注)。

(注)会社法上の株主総会の決議による承認に代替する手続の要否及び内容については、引き続き検討する。

 5 換価の効果

⑴ 事業担保権の目的財産は、代金の支払があった時に買受人に移転するものとする。

⑵ 事業担保権の実行としての事業譲渡による許認可等の承継については、次のいずれかの案によるものとする。

【案25.5.2.1】 ⑴の場合において、買受人は、その承継に関し他の法令に禁止又は制限 の定めがあるときを除いて、その事業に関する行政庁の許可、認可、免許等を承継するものとする。

【案25.5.2.2】 事業担保権の実行としての事業譲渡による許認可等の承継について、規定を設けないものとする。

包括承継などの構成によって、契約上の地位を相手方の承諾なく移転させることができる制度を設けるか否かについて、引き続き検討する。

6 被担保債権以外の債権の扱い

  •  実行手続の実施に必要な費用などの一定の債権を共益債権とした上で随時弁済することができるものとする(注)。

(注)共益債権とする債権の具体的な内容については、引き続き検討する。

⑵ 実行手続開始前の原因に基づいて生じた債権の扱いについては、次のいずれかの案によるものとする。

【案25.6.2.1】 実行手続開始前の原因に基づいて生じた債権については、実行手続開始後は、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができないものとした上で、実行手続の中でその有無及び額を調査して確定し、これに対して配当する手続を設けるものとし、ただし、その債権を早期に弁済することにより実行手続を円滑に進行することができるとき、又はその債権を早期に弁済しなければ事業の継続に著しい支障を来すときは、裁判所は、管財人の申立てにより、その弁済をすることを許可することができるものとする。

【案25.6.2.2】 実行手続開始前の原因に基づいて生じた債権のうち、事業担保権の被担債権に先立って弁済を受けることができる債権は、実行手続によらないで、随時弁済するものとし、その余の債権については、【案25.6.2.1】と同様とする。

【案25.6.2.3】 実行手続開始前の原因に基づいて生じた債権は、実行手続によらないで、随時弁済するものとし、ただし、設定者に破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがあるとき又は設定者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときは、裁判所は、管財人の申立てにより、決定で、【【案25.6.2.1】/【案25.6.2.2】】と同様の扱いに移行させるものとする。

7  事業継続による収益の中間的な配当

管財人は、事業担保権の実行としての事業譲渡がされる前において、事業の継続によって得られる収益を中間的に配当することができるものとする。

8 事業担保権の裁判外の実行

  事業担保権の実行方法として、事業担保権者が設定者の同意なくその事業を譲渡することができる裁判外の実行手続を設けないものとする(注)。

(注)事業担保権の設定者による事業譲渡にも前記4⑵、5⑵などの裁判上の実行手続の規律と同様の規律を及ぼすか否かについては、引き続き検討する。

 第26 事業担保権の倒産法上の取扱い

1 別除権及び更生担保権としての取扱い

 破産手続及び再生手続において、事業担保権を有する者を別除権者として、更生手続において、事業担保権の被担保債権を有する者を更生担保権者として、それぞれ扱うものとする。(注)

(注)事業担保権について、再生手続との関係では、手続外での行使を禁止し、手続内において目的物の換価及び配当を行うこととするべきという考え方がある。この考え方を採る場合においては、配当方法に関してどのような規律を設けるべきかなども問題がある。

2 担保権実行手続中止命令の適用の有無

事業担保権を民事再生法等の担保権実行手続中止命令の対象とする。(注)

(注)担保権実行手続中止命令の効果については、引き続き検討する。

3 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する事業担保権の効力

 倒産手続開始後に発生した債権や、倒産手続開始後に管財人又は再生債務者が当事者となった契約に基づいて取得した動産について、事業担保権の効力が及ぶものとする。(注)

(注)倒産手続開始後に発生した債権や、倒産手続開始後に管財人又は再生債務者が当事者となった契約に基づいて取得した動産についても事業担保権の効力は及ぶものとしつつ、優先権を行使することができるのは、倒産手続開始時における担保目的財産発生していた債権又は倒産手続開始時までに取得した動産の評価額を限度とすべきという考え方がある。

4 破産法上の担保権消滅許可制度の適用

事業担保権について、破産法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

5 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用

事業担保権について、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

6 DIP  ファイナンスに係る債権を優先させる制度

 事業担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、いわゆるDIP ファイナンスに係る債権を事業担保権の被担保債権に優先させる制度(DIP ファイナンスに係る債権をを被担保債権とする担保権を事業担保権に優先させる制度を含む。)を設けるかどうかについて、引き続き検討する。

第27 動産及び債権以外の財産権を目的とする担保

 動産及び債権以外の財産権を目的とする新たな規定に係る担保権について規定を設けるか、動産や債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する規定と共通する規定としてどのようなものがあるか、どのような範囲で独自の規定を設けるかについては、個々の財産権の性質等も考慮しつつ、引き続き検討する。

第28 ファイナンス・リース

1 ファイナンス・リースに関する規定の要否及び在り方

 次のような特徴を有する契約において利用権を設定した者が有する権利を担保権として取り扱うものとする規定を設けることの要否、その具体的な要件や方式について、引き続き検討する。

① 利用権設定者が利用権者に対し、目的物の使用収益を認容するものであること

② 利用権者が利用期間に利用権設定者に対して支払う利用料の額が、目的物の取得の対価、金利その他の経費等相当額を基に算出されていること

③ 利用権者による目的財産の使用及び収益の有無及び可否にかかわらず利用料債権が発生すること

(注)いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リースについては金融の目的であるとみなすとの考え方もあり得るが、厳密な定義が可能か否かも含めて、検討する。

2 対抗要件

 利用権設定者は、特段の要件なく、利用権に設定した担保権を第三者に対抗することができるものとする方向で、引き続き検討する。

3 実行方法

 ⑴ 利用権に設定した担保権の実行方法(注)として帰属清算方式による私的実行を認め、この方法による場合の実行方法は、利用権設定者は利用権者に対して利用権を消滅させる旨の意思表示をしなければならないものとするほか、新たな規定に係る担保権の帰属清算方式による実行と同様とする。

⑵ 利用権に設定した担保権の実行方法(注)として処分清算方式による私的実行を認め、この方法による場合の実行方法は、新たな規定に係る担保権の処分清算方式による実行と同様とする。

(注)実行方法についての規定を設けず、利用権設定契約の解除のみを認めるという考え方がある。

4 倒産法上の取扱い

⑴ 利用権設定者を、破産手続及び民事再生手続における別除権者(破産法第2条第10 項、民事再生法第53 条)として、会社更生手続における更生担保権者(会社更生法第2条第11 項)として、それぞれ扱うものとする。

⑵ア 利用権に設定した担保権の実行手続を民事再生法上の担保権実行手続中止命令(同10 法第31条)の対象とする。

イ 現行の担保権実行手続中止命令(民事再生法第31 条)に加えて、担保権の実行手続の開始前に発令されるものとして、担保権実行手続禁止命令の規定を設け、利用権設定型担保権の実行手続をその対象とする。

⑶ 利用権者についての倒産手続開始の申立てによって利用権者が利用権を喪失するという効果をもたらす特約の有効性については、私的実行が可能な他の担保権に関する規定と同様の規定を設けるものとする。

⑷ 利用権設定型担保権を、破産法、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

 第29 普通預金を目的とする担保

1 普通預金を目的とする担保権設定及び対抗要件具備

⑴ 普通預金を目的とする担保権(注)について、以下の規定を設けるかどうかについて引き続き検討する。

ア 普通預金債権を目的とする担保権の設定がされた場合における当該担保権の効力は、設定後の預金口座への入金部分に及ぶ旨の規定

イ 普通預金債権を目的とする担保権の設定について対抗要件が具備された場合には、対抗要件具備の預金口座への入金部分についても第三者に対抗することができる旨の規定

⑵ 普通預金債権を目的とする担保権の設定の有効要件又は対抗要件として、普通預金口座に対する担保権者の支配(コントロール)等の要件を必要とするかどうかについては、特段の規定を置かないことする。

⑶ ⑴の規定を設ける場合には、設定者が法人であるときに限って普通預金債権を目的とする担保権を設定することができるとする等、普通預金債権を目的とする担保権を設定することができる場合を限定することについて、引き続き検討する。

(注)規定を設ける場合における担保権の種類については、引き続き検討する。

2 普通預金を目的とする担保権の実行

普通預金債権を目的とする担保権の設定にかかわらず、預金開設銀行は、差押えがあるまでは、設定者による預金の払戻しに応ずることができる旨の規定を設けるかどうかについて、引き続き検討する。

3 普通預金を目的とする担保権の倒産手続における取扱い

⑴ 普通預金債権を目的とする担保権について、預金残高の増加を否認の対象とするかどうかについて引き続き検討する。

⑵ 普通預金債権を目的とする担保権の、倒産手続開始後の預金口座への入金部分に対する効力について引き続き検討する。

第30 証券口座を目的とする担保

証券口座の担保化について、特段の規定を置かないものとする。

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