[加工]前東京大学法科大学院客員准教授・判事山岸秀彬「法律行為の解釈と法解釈の交錯―定款の解釈をめぐる裁判例を題材として―」

前東京大学法科大学院客員准教授・判事山岸秀彬「法律行為の解釈と法解釈の交錯―定款の解釈をめぐる裁判例を題材として―」

東京大学法科大学院ローレビュー第17巻(2022-12発行)

http://www.sllr.j.u-tokyo.ac.jp/17.html

注釈は、本文中の番号はそのままにしていますが、出所は省略しています。

Ⅰ.はじめに

Ⅱ.定款の解釈方法

Ⅲ.法律行為の解釈方法

Ⅳ.法解釈の方法

1 文理解釈

2 体系的解釈

3 歴史的解釈

4 目的論的解釈

Ⅴ.定款の解釈が問題となった裁判例の検討

1 最一判平成22年4月8日民集64 巻3号609頁

⑴ 事案の概要

⑵ 第一審による定款の解釈

⑶ 第二審による定款の解釈

⑷ 最高裁による定款の解釈

⑸ 若干の検討

 a 法律行為の解釈の観点から

 b 法解釈の観点から

2 東京地判令和3年6月7日判時2504号102頁

⑴ 事案の概要

⑵ 裁判所による定款の解釈

⑶ 若干の検討

a 法律行為の解釈の観点から

b 法解釈の観点から

Ⅵ.法律行為の解釈と法解釈の交錯

Ⅶ.おわりに

私は,2020年度から2021年度まで,東京大学法科大学院の裁判所派遣教員として,「民事実務基礎」と「民事事実認定論」の講義を担当してきた。これらの科目は,要件事実及び事実認定が民事訴訟におけるいわば車の両輪であることを踏まえて,これらについて,典型的な紛争解決手続である民事訴訟手続と共に学修することで,理論と実務の架橋を図ることを目的とするものである。

このうち,要件事実論については,民事実体法の解釈が要件事実の整理に直結するものであり,理論と実務の繋がりを理解しやすい分野であると思われる。他方で,事実認定論については,弁論主義や二段の推定等の民事訴訟法の理解が前提とはなるものの,多くの法科大学院生にとっては,理論自体をゼロから学修するものであるという印象が強いように見受けられる。また,私自身,事実認定論の導入に際しては,事実認定は基本的には経験則の適用の問題であって,私たちが法理論を離れて日々の日常生活において行っている事実認定と異なるものではないといった説明をしてきた。

こうしてみると,事実認定論において,理論と実務の架橋を図るというのはどういうことかについては,思い悩むところが多い。中村治朗元判事は,「絶対的真実の発見なるものは,その真実性を裏づける客観的なテストを欠くが故に,論理的に不可能であ」るとして,事実認定は弁証的論証の典型であるとしており2),突き詰めると,事実認定は,弁証的論証であるという点において法解釈と共通し,この点において法解釈に関して積み重ねられてきた理論が応用可能なものであると見ることができるかもしれない3)。

この点を,具体的かつ網羅的に論じることは私の能力の限界を超えるものであるが,定款の解釈が問題となった裁判例を検討してみることで,法律行為の解釈という事実認定の問題と,法解釈の問題とが交錯する一場面を素描してみたい。

Ⅱ.定款の解釈方法

最初に,社団の定款の解釈方法をめぐる学説の状況について見ておきたい。

定款の解釈方法をめぐっては,定款の性質発起人を拘束するのみならず,その後に入社した社員や会社の機関をも拘束するものであり,そうした作用・機能に着目すると会社の「自治法」(法規)たる性質を有する。

定款について,前者の法律行為たる性質を重視すれば,定款の解釈は,原則として法律行為の解釈方法によるべきということになり4),当事者がいかなる法律行為をしたのかという事実認定の問題に帰着することになろう。他方で,定款について,後者の法規範たる性質を重視すれば,定款の解釈は,法の解釈と同一の原理によるべきということになり5),法解釈の方法が問われることになろう。わが国においては,後者の見解が通説的な見解であるようであるが,ドイツにおいてはより精緻な議論が展開されているようである6)。すなわち,ドイツにおける議論では,定款の解釈について,原則として法律行為の解釈方法によるべきとする見解も,法人という物的構造等と抵触する限りでは,民法の契約に関する解釈原則は考慮されないとしており,他方,定款の解釈は法解釈の方法によるべきとする見解も,定款中の個人法的規定については,個別的契約の解釈と異なる取扱いを受けないとしている。このようにして,出発点にこそ差があれ,結論には大きな隔たりはないとされているのである7)。

前記のとおり,定款が,法律行為たる性質と自治法たる性質との二面性を有することからすると,定款の解釈手法に関する両説のいずれかが誤りであると断ずることはできないように思われる。その際に,両説からの結論に大きな隔たりがないというのは,両説が相互に他方の説に親和的な修正を受けるからなのであろうか。そもそも,両説が念頭に置くところの法律行為の解釈方法,法解釈の方法とはどのようなものなのか,そこから立ち返って考えてみる必要があるように思われる。

Ⅲ.法律行為の解釈方法

それでは,まず,法律行為の解釈方法がどのようなものかから見ていくことにしよう。

一般に,法律行為,特に「契約における意思表示の解釈においては,両当事者が表示に現実に付与した意味を,まずもって探究するべきである。その意味を確定したうえで,両者の付与した意味が一致していれば,その意味どおりの内容で意思表示,ひいては契約の成立を認める」とする見解(付与意味基準説)8)が通説とされ,これによれば,当事者の共通の主観的意味が表示の客観的意味に優先されることになる。民法(債権関係)の改正に際しても,このような通説的見解に従って,「契約の内容について当事者が共通の理解をしていたときは,契約は,その理解に従って解釈しなければならないものとする」との規定を設けることが検討されていた9)。

上記の通説的な理解によれば,例えば,売主Aと買主Bが,タバコ1000カートンの売買契約を締結した場合において,通常は,タバコ1カートンは10 箱入りパックを意味するから,上記売買契約における表示の客観的意味は,タバコ1万箱の売買ということになる。これに対して,A及びBがいずれも,主観的には,タバコ1カートンは12箱入りパックを意味すると考えていたときは,当事者の共通の主観的意味に従い,タバコ1万2000 箱の売買契約が成立したものと解釈すべきということになる10)。

そして,このような当事者の共通の主観的意味が何であったかは,事実認定の問題であり,売買契約書の文言は,当事者の主観的意味を強く推認させる証拠となるであろう11)。

さらに,契約書の文言を離れて,例えば,契約締結にA 及びB の間でどのような交渉がされていたのか,契約締結時に売主A が交付したのがタバコ何箱であったのか,契約締結後に納品数が過剰であったとして売主Aが返還を求めたことがあったのかといった事情も,当事者の主観的意味を推認させる間接事実として機能することになると考えられる。

なお,上記の設例は,いかにも教室事例であり,現実の紛争においては,契約書の文言からは必ずしも自明とはいえない事態が生じていることが多いと思われる。そのような場合には,広義の解釈として,法規範(任意規定と慣習)ないし契約の趣旨に則した補充がされることになり(裁判例においては,これを「当事者の合理的意思解釈」として認定しているものが多いように思われる。),場合によっては,当事者の合意内容が不適切と判断される場合に,裁判所が当事者の合意を修正して別の内容に置き換えることもあるとされる12)。

Ⅳ.法解釈の方法

次に,法解釈の方法とはどのようなものなのだろうか。法解釈の方法をめぐっては長年の論争もあり,複雑な様相を呈しているが13),伝統的な法解釈の技法としては,①文理解釈,②体系的解釈,③歴史的解釈及び④目的論的解釈があるとされており14),この分類に沿って順に簡単に見ていくことにしたい。

1 文理解釈

文理解釈とは,「法規の文字・文章の意味をその言葉の使用法や文法の規則に従って確定することによってなされる解釈」であり15),明治時代半ばから後期にかけての法典整備の初期段階においては,問題となる条文の文理解釈の手法が主流であったとされる16)。

ただし,その後,わが国の法解釈においては,いくつかの原因により文理解釈があまり重視されてこなかったとの指摘がされている。

その原因の一つが,1910 年代の学説継受の影響である。この頃,わが国の民法は,「個々の規定の母法にかかわりなく,いわばドイツ法学の鋳型にはめこまれることになった」とされ17),ドイツ法に従って,解釈が再構成されることとなった。民法415 条の「責に帰すべき事由」が,過失責任主義に従い,「故意・過失又は信義則上それと同視すべき事由」を意味するものと解釈されてきたのはその例とされる18)。ほかにも,不法行為の成立要件について,伝統的学説は「違法性」を要件としており,これは民法709 条の「権利侵害」の要件を,ドイツ法学の影響の下で違法性要件に読み替えたものであるとされている19)。こうした学説継受を通じて,日本流の概念法学が完成したとされ,その特色について,星野英一博士は,「条文の文字や立法趣旨をあまり考慮せず,持ち込んだ『理論』をあたかも法律そのものであるかのように説いて,そこからより具体的な帰結をひき出している」と評しているのである20)。

わが国において文理解釈が軽視されてきたもう一つの原因として,我妻栄博士の理論の影響も指摘されている。すなわち,前記のようなドイツ法の学説継受による日本流の概念法学は,末弘厳太郎博士によって批判され,末弘博士は,法規範は一定の社会関係を想定してこれを規律するものにすぎず,法規範が想定していない社会関係については裁判官の全人格的な判断による法創造がされるべきであると主張した21)。そして,我妻博士は,このような末弘博士の議論を受けて,裁判官による法創造が恣意的なものとならないようにするため,客観的な指導原理に基づく法的判断がされるべきであることを主張し,具体的な指導原理の攻究のためには「社会生活の実証的研究」が必要であると論じた22)。このような(制定法ではなく)「社会生活の実証的研究」に基づく法解釈の姿勢が,制定法の拘束力の軽視の姿勢につながったと分析されているのである23)。この制定法の拘束力の軽視の姿勢は,文理解釈の軽視と言い換えても良いことのように思われる。

もっとも,実務的には,文理解釈の手法は相当に重視されているように感じられ,文理解釈の重要性をめぐっては,研究者と実務家との間には若干の温度差があるようにも感じられる24)。なお,アメリカにおいては,スカリア元連邦最高裁判事が主唱した,文理解釈を徹底する「テキスト主義(Textualism)」が大きな影響力を有している。テキスト主義は,必ずしも政治的な保守主義と結び付けられるものではないが25),三権分立の建前を尊重する見解として重要であり,こうした見解が実務家(裁判官)により唱えられていることを含めて興味深い。

2 体系的解釈

体系的解釈とは,「ある法規と他の関係諸法規との関連,当該法令・法領域あるいは法体系全体のなかでその法規が占める地位など,解釈の対象たる法規の体系的連関を考慮しながら行われる解釈」である26)。

このような体系的解釈は,論理解釈とも呼ばれるものであり,民法起草者である梅謙次郎博士や富井政章博士自身,条文の字句のみに拘泥する場合には立法目的に反する場合があるとして,条文の文言だけでなく,「法律全体の構成,各規定の相互関係,立法の理由その他立法当時の状況,継受された母法など」を参照してその意味内容を明らかにする論理解釈の手法を提唱していたとされている27)。

このような体系的解釈には,目的論的判断が含まれ得るし28),上記の梅博士や富井博士の見解は,歴史的解釈をも含ませるものともいえるので,体系的解釈と歴史的解釈及び目的論的解釈とは一部重なり合うところがあろう29)。また,行政法解釈の方法として使われる「仕組み解釈」も,体系的解釈の一方法ということができるのではなかろうか30)。

3 歴史的解釈

歴史的解釈とは,「法規の成立過程,とくに,法案・その理由書・立案者の見解・政府委員の説明・議事録など,いわゆる立法資料を参考にして,法規の歴史的意味内容を解明することによってなされる解釈」である31)。

星野博士は,学説継受による日本流の概念法学に対する反省から,文理解釈・論理解釈と並んで,立法者・起草者意思の探求も基礎作業として行うべきであると論じている32)。

実際,法解釈に当たっては,衆議院及び参議院の法務委員会における質疑内容,法制審議会ないしその部会における議論や法務省等の立案担当者による解説資料等が参照されることは,実務上よく行われているところであろう。

ただし,何が立法者意思であるのかを確定することは容易ではない。国会における個々の質疑内容が直ちに立法府の意思を体現しているとはいえないであろうし,法制審議会における議論や立案担当者の解説に至っては,立法府の意思とは直接には関係のないものである。こうしたこともあり,歴史的解釈は,唯一の正しい解釈方法とはいえないとの批判がされている33)。

アメリカの連邦最高裁の判例においても,法規の文言があいまいである場合に,立法者意思を参照することは許されるが34),立法者意思を一義的に認定できない場合にはこれを参照することはできないとされている35)。

また,先に述べたテキスト主義の論者も,文言の原意を探求するために立法者意思を探求することはあり得るとするものの,文理解釈が明白であるときには,立法者意思は無関係であるとしており36),歴史的解釈は補充的な解釈手法であると位置付けているものと思われる。

もっとも,法律行為の解釈の場面においては,事実認定の手法を通じて,当事者の合理的意思解釈が行われているのであり,このことと同様に,法解釈の場面においても,立法資料等を通じて立法者意思を認定するということが行われて良いと思われるし37),さらに現実の社会的条件等をも参照しつつ,立法者の合理的意思の探求が行われるということもあって良いことのように思われる38)。

4 目的論的解釈

目的論的解釈とは,「当該法令の趣旨や目的・基本思想あるいはその法令の適用対象である問題領域の要請などを考慮しつつ,それらに適合するように法規の意味内容を目的合理的に確定する解釈」であるとされる39)。

ここでは,利益衡量論とそれに対する批判が重要であるように思われるので,それらについて触れておきたい。

わが国においては,戦後,裁判官による法解釈が主観的価値判断に過ぎないのではないかということが議論され,来栖三郎博士は,「何と法律家は威武高なことであろう。常に自分の解釈が客観的に正しい唯一の解釈だとして,客観性の名において主張するなんて。しかし,また,見方によっては,何と法律家は気の弱いことであろう。万事法規に頼り,人間生活が法規によつて残りくまなく律せられるように考えなくては心が落着かないなんて。そして何とまた法律家は虚偽で無責任なことであろう。何とかして主観を客観のかげにかくそうとするなんて」という有名な一節を著した40)。また,川島武宜博士も,「法的価値判断はどのようにしてなされるか……それに対する第一の答は,法的感覚である」が,「価値判断が法的感覚のみに基いてなされる場合には,それぞれの価値判断は,その出発点となった法的感覚のちがいを反映して異った結論となり,主観的な『見解の相違』として対立するだけで,客観性を主張する根拠が明白ではない」と論じている41)。

利益衡量論は,このような議論を踏まえて,価値判断の合理化手法として提唱された手法である。

利益衡量論を最初に提唱したのは加藤一郎博士であるとされ,加藤博士は,「最初の判断過程では,既存の法規を意識的に除外して,全く白紙の状態で,この事件をどう処理し解決すべきかをまず考えてみたい」,として,その際に,実質的にどういう利益に重きを置くべきかという利益衡量を行っている42)。このようにみると,加藤博士は,文理解釈・体系的解釈や歴史的解釈を離れて,いわば裸の利益衡量を提唱するもののようにも思われる。加藤博士は,「法的判断は,常識に捉われてはならないが,常識に反するものであってもならない。法律家は,それについて,素人と同じ実質的判断の次元で議論をし,素人を実質的に納得させることができるのでなければならない」として43),上記のような利益衡量を正当化しているように思われる。

これに対し,星野博士は,「法律の解釈である以上,独り言ではなく,関係者に対する説得であり,条文との関係を説明する必要がある。このさい,いきなり価値判断のみを述べるのではなく,文理上はこうなるがこれこれの理由でこう解するのがよい,とか,立法のさいはこういう状況を前提とし,このような価値判断のもとに作られたが,状況がこう変ったり,社会一般の価値判断がこう変ったので,別個に考える必要がある,というように説明するのが説得力があると思われる」としており44),先にも見たとおり,文理解釈,体系的解釈及び歴史的解釈を踏まえた利益衡量を行うべきであると論じている。

ただし,星野博士は,「以上の作業は,現在における解釈にとって,必要なことではない。現在どう解するかは,専ら現在における価値判断の問題である」として,究極的には,法解釈は専ら利益衡量に基づき行うべきであると主張している45)。

こうしてみると,加藤博士も星野博士も,利益衡量に基づく目的論的解釈を優先させるべきであるとする点で共通すると考えられるが,星野博士は,客観的な価値のヒエラルヒア(序列関係)が存在するとしており,そのために,利益衡量に基づく価値判断は客観的たり得ると主張した点で,加藤博士の利益衡量論と大きく異なるとされている46)。

以上のような利益衡量論は,実務家には大きな影響力を有しており,広く浸透している。実務家の法解釈は,あくまでも妥当な解決を導く手段に過ぎないということがいわれ47),利益衡量論が説く「結論志向的手法は,実務的にもなじみの深い思考方法であり,今後も有力かつ不可欠な方法であり続けることと思われる」とされているのである48)。また,客観的な価値のヒエラルヒアが存在するという星野博士の見解は,裁判の客観性を希求する裁判官にとっては魅力的な見解であるということがいえるだろう。

ただし,利益衡量論については,制定法の拘束力を無視するものであり,民主制の観点からも大きな問題であるとする批判があるとされている49)。アメリカにおけるテキスト主義の立場は,正にこのような批判を踏まえて,利益衡量に基づく政策的判断は,立法府の役割であって司法の役割ではないという点を強調するものである。

また,価値観の多様化が指摘されている現代社会において,どのような利益をどのように重み付けして考慮すべきであるかというのは常に悩ましい問題であるように思われ,客観的な価値のヒエラルヒアを見出すのは極めて困難であるように思われる50)。

平井宜雄博士は,ある価値には対立する価値が常にあるから,客観的な価値のヒエラルヒアはあり得ずコンフリクトしかあり得ないとして,星野博士に対する批判を展開しつつ,そのような絶対的な正しさの有無にかかわらず,主張-反論-再反論のプロセスを相互に批判可能な形で行うことで,生き残った弁明が客観性を獲得するのであるという「議論」論を展開した51)。これは,前記Ⅰで述べたとおり,法解釈が弁証的論証であるということを全面的に展開してその方法論を提示したものと見ることができる52)。

Ⅴ.定款の解釈が問題となった裁判例の検討

ここまで,法律行為の解釈と,法解釈の方法とをかいつまんで見てきたが,これを踏まえつつ,定款の解釈が問題となった2 件の裁判例を検討することとしたい。一つが最一判平成22 年4 月8 日民集64 巻3 号609 頁であり,もう一つが東京地判令和3 年6 月7 日判時2504 号102 頁である。いずれも,医療法人の定款の解釈が問題となった事案であるが,以下においては,それぞれ事案の概要と裁判所による定款の解釈を見た上で,当該解釈が,法律行為の解釈及び法解釈の方法の観点からどのように見ることができるのかを検討したい。

 最一判平成22 年4 月8 日民集64 巻3 号609 頁

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=80092

⑴ 事案の概要

Yは,昭和32 年に,Aが442 万5600 円,その妻であるB が20万円を出資して設立された医療法人であり,A及びBはその社員であって,ほかにY への出資者はいなかった。すなわち,Yの設立当時におけるその純資産額は,462 万5600 円であった。Yの定款は,社員はその死亡によって社員の資格を失う旨を規定し(6 条),「退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる」(8 条)と規定していたところ(下線は筆者),A は昭和57 年に死亡し,Bは平成13 年に死亡して,いずれもY を退社し,子であるXがA 及びB の遺産を相続した。A 及びB の死亡による退社当時,Y の純資産額は,少なくとも4 億7110 万1049 円であった。

そこで,X は,A 及びB の死亡退社に伴うY に対する出資金返還請求権を相続したと主張して,Y に対し,4 億7110 万1049 円の支払を求めるなどした。

⑵ 第一審による定款の解釈

第一審53) において,争点は多岐にわたったが,X は,Y の定款8 条によれば,退社した社員は,その出資額に応じて出資金の返還を請求することができるところ,Y の純資産は4 億7110 万1049 円を上回るから,A 及びB は,Y に対し,「その出資額に応じ」,Y の純資産の合計100%である同額の返還を請求することができると主張した。これに対し,Y は,医療法人は,その非営利法人としての性格から,利益配当が禁じられているところ,その趣旨からすれば,出資社員が退社したときの出資金返還請求権の金額は,出資金額の限度(すなわち,A につき442 万5600 円,B につき20 万円)とするべきであるなどと主張した54)。

第一審判決は,上記の争点について,定款8 条の規定のほか,同じくY の定款33 条が,Y が解散したときの残余財産は「払込出資額に応じて分配するものとする」と定めていること(下線は筆者)を認定した上で,「このような定款の定めの文理に照らすと,被告……にあっては,出資をした社員は出資額に応じた法人の純資産に対する出資持分を有するものとし,出資持分を有する社員が退社したときは,当該社員は被告……に対して出資持分に相当する資産の払戻しを請求することができることとしたものであるというべきである」と判断し,この点に関するX の請求を認容した55)。

⑶ 第二審による定款の解釈

これに対し,第二審56) は,Y の主張を認め,X の請求は,A の出資金返還請求権が時効消滅していることを前提に,B の出資額の20 万円の限度で認容すべきであるとした。

裁判所は,平成18 年法律84 号による改正前の医療法(以下「改正前医療法」という。)について,「医療法人が存続してその開設する病院等を経営する限り,医療を提供する体制の確保を図る(〔改正前〕医療法1 条)ために,医療法人の自己資本を充実させ,剰余金の利益処分を禁止しているのであり(同法54 条)……医療法人に対して出資をした社員が退社した場合に剰余金及びその積立金の全部又はその一部を払い戻す行為も禁止していると解するのが相当であり」,Y の定款も同法の趣旨を踏まえて解釈する必要があるとして,Y の定款8 条は,「定款の文言上は基本財産並びに剰余金及びその積立金を含む総資産について持分の返還ないし払戻しを定めているかのように見える部分があるが,定款の全体の定め及びその趣旨にかんがみれば,そのようなことを定めたものと解することはできないのであって,『出資額に応じ』とは,社員の出資額が格別に異なることを想定した上,退社する社員が返還ないし払戻しを請求することができる出資は当該社員が出資した額とする旨を明らかにしたものにすぎないというべきである」と判断した57)。

⑷ 最高裁による定款の解釈

最高裁58) は,改正前医療法44 条,56 条等に照らせば,「同法は,社団たる医療法人の財産の出資社員への分配については,収益又は評価益を剰余金として社員に分配することを禁止する〔改正前〕医療法54 条に反しない限り,基本的に当該医療法人が自律的に定めるところにゆだねていたと解される」とした上で,Y の「定款33 条の『払込出資額に応じて』の用語と対照するなどすれば,本件定款8 条は,出資社員は,退社時に,同時点における被上告人〔注・Y〕の財産の評価額に,同時点における総出資額中の当該出資社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を請求することができることを規定したものと解するのが相当である」と判示し59),原審(第二審)を破棄した。

⑸ 若干の検討

a 法律行為の解釈の観点から

本件において裁判所が行った定款の解釈が,法律行為の解釈手法によったものなのか,法解釈の方法によったものなのかは必ずしも明らかではない。最高裁判決についての調査官解説は,前記Ⅱにおいて見た学説の状況を紹介しているものの,最高裁がいずれの見解に立つものであるかについては言及していない60)。

ただし,最高裁判決の参照条文には民法91条が掲げられており,少なくとも定款は契約に類するものであるとの理解が前提にあるようには思われる。そして,最高裁判決及び第一審判決の説示を見ると,本件定款の文言の解釈に専ら依拠しており,このことは,定款の解釈は法律行為の解釈方法によるべきであるとする立場からは素直に理解できるもののように思われる。すなわち,Y は昭和32 年設立の医療法人であり,設立者であるA 及びB が既に死亡していることからすると,定款の文言を離れて,設立者であるA及びB の共通の主観的意味を認定することは困難であろう。そうすると,第一審当時,既に作成から50 年近くが経過しており,その作成者の供述等が得られない本件においては,定款の文言に専ら依拠して事実認定を行うというのは自然なことであると理解できるのである。

これに対し,第二審は,結論は第一審及び最高裁と反対となっているが,第二審による定款の解釈についても,法律行為の解釈方法をとったものと捉えることが可能である。なぜならば,法律行為の解釈は当事者の共通の主観的意味によるといっても,強行法規に反する合意は認められないとすれば,当事者の共通の主観的意味を,強行法規と抵触しないように合目的的に解釈することも許されると思われるからである61)。第二審が,改正前医療法が退社社員に対する剰余金の払戻しを禁止していると解した上で,定款の文言を解釈しているのは,このような法律行為についての合目的的解釈を採用したものと見ることができるだろう。

このように,第一審判決から最高裁判決までを,法律行為の解釈の枠内で捉えると,第二審と最高裁との判断の相違は,強行法規たる医療法の解釈の差異が影響したものと考えることができる。前記のとおり,第二審は,剰余金の配当を禁止する改正前医療54条62) によれば,実質的には剰余金の分配に当たるような出資金払戻しも止されていると解釈したが,最高裁は,上記の医療法の規定は,社員の退社時における出資金の返還を規制するものではなく,この点については定款自治に委ねられていると解釈しているのである。

b 法解釈の観点から

もっとも,第二審と最高裁との判断のより根本的な違いは,両者を法解釈の方法論の文脈に位置付けるとより明確になるのではないかと思われる。

この点,第二審は,その説示からも明らかなとおり,定款の解釈については,文理解釈や体系的解釈に拘泥することなく,その趣旨及び目的等を踏まえて目的論的に解釈すべきであるとの姿勢をとっているように思われる。そして,このような第二審の目的論的解釈は,改正前医療法54 条の規定に加え,次のような医療法人を取り巻く状況をも考慮すると,より説得的に感じられるところである。すなわち,改正前医療法は,持分の定めのある社団たる医療法人の設立を認めており,Y もそのような医療法人であったが,かねてより,持分の定めのある医療法人においては,退社による払戻額が高額となるため,医療法人の存続そのものが脅かされる事態があるとの指摘がされていた。そこで,厚生労働省の「医業経営の非営利性等に関する検討会」は,平成16 年6 月22 日付け報告書において,医療法人制度の趣旨に照らし,社団医療法人は持分のない法人に移行することが望ましい旨を報告し63),平成18 年法律84 号による改正後の医療法(以下「改正後医療法」という。)は,定款において残余財産の帰属すべき者を定める場合は,国,地方公共団体,医療法人等から選定されなければならないとして(改正後医療法44 条5 項),医療法人の解散時に出資者に対して残余財産の分配をすることは許されなくなり,同法施行後は,持分の定めのある社団たる医療法人の設立は認められないことになったのである。こうした,本件当時から存在した立法事実や政策目的に照らすと,第二審のような解釈は,これらに応えるものであり,法解釈の方法について目的論的解釈を重視する立場からは,歓迎すべき判断ということになるかもしれない64)。

これに対し,最高裁は,第二審のような解釈手法を否定した。最高裁は,前記のような立法事実や政策目的自体は否定していないが,定款の文言からその意味内容が明らかな場合には,(立法事実や政策目的はともかく)これに忠実に解釈すべきであるとの姿勢を貫いているように思われる。そして,文言解釈に当たっては,問題となっている定款8 条の文言に着目することはもとより,他の定款の条文にも目を向け,定款全体の構成,その中での各条項の関係にも着目している。すなわち,最高裁は,Y の定款33 条が,解散時の残余財産の分配について「払込出資額に応じて」分配すると規定しており,同文言が(出資額を限度としない)出資割合に応じた分配を規定していることが明らかであることを指摘した上65),定款8 条と33 条で同じ「出資額に応じて」との文言が用いられていることも考慮すると,定款8 条の「出資額に応じて」との文言も,(出資額を限度としない)出資割合に応じた分配を規定したものであると解釈すべきであるとしたのである。

このような最高裁の定款解釈の手法は,文理解釈に加えて体系的解釈を重視するものであり,これらの解釈手法を目的論的解釈よりも優先させる姿勢を見て取ることができるのではないだろうか66)。

ただし,最高裁が目的論的解釈に目を瞑っているわけではないことは,法廷意見からは必ずしも明らかではないものの,宮川光治裁判官及び金築誠志裁判官の各補足意見には表れている。すなわち,昭和25 年8 月9 日医発521 号厚生省医務局長発各都道府県知事あて通知「医療法の一部を改正する法律の施行について」に添付された定款例(モデル定款)は,その9 条において,Y の定款8 条とほぼ同様に,「社員資格を喪失した者は,その出資額に応じて払戻しを請求することができる」と規定していたところ,昭和32 年12月7 日総43 号厚生省医務局総務課長回答は,上記のモデル定款と同様の定款の規定がある場合に,出資が現物でされた場合の払戻しについて,「退社社員に対する持分の払戻は,退社当時当該医療法人が有する財産の総額を基準として,当該社員の出資額に応ずる金銭でなしても差し支えないものと解する」としていた(下線は筆者)。このような状況も踏まえ,金築裁判官の補足意見は,「本件定款のような規定を持つ医療法人における退社した社員の財産上の請求権については,租税上の取扱いを含めた長年にわたる行政実務及び多くの裁判例を通じて,退社時の法人財産評価額に対する出資割合に応じた金額の請求権を意味するものと解されてきた。医療法人の存続を優先的に考える見地からの原判決のような解釈は,その意図は理解できなくはないものの,今卒然とこうした解釈を採用することは,本件定款と同様の規定を有するきわめて多くの医療法人の出資者等に対し,予期せざる重大な不利益を及ぼすおそれがあり,著しく法的安定性を害するものといわざるを得ない。私が,原判決を支持できないと考える最大の実質的な理由は,ここにある」と述べているのである67)。

以上のとおり,第二審と最高裁の結論の相違は,法解釈の方法として,文理解釈及び体系的解釈と目的論的解釈とのいずれを重視すべきであるかという姿勢の違いが表れたものと見ることができ,また,目的論的解釈に際して,いかなる利益を考慮すべきかという点の違いが表れたものと見ることもできるように思われる68)。

 東京地判令和3年6月7日判時2504号102頁

⑴ 事案の概要

事案の概要は,次のとおりである。すなわち,Y1は,昭和56年に,X1の兄である理事長C が1 億4698 万0225 円,X1が1 億4698万0224 円を出資するなどして設立された医療法人であり,Y1 の設立当時の出資持分は,X1 及びC がそれぞれ約40%,X1 及びC の兄弟であるD が約19%であり,この3 名の出資持分が約99%を占めていた。

Y1 の定款には,次のような規定があった(下線は筆者)。

「第7 条 社員は,次に掲げる理由によりその資格を失う。

一 除名

二 死亡

三 退社

2 社員であって,社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し又は品位を傷つける行為のあった者は,社員総会の決議を経て除名することができる。

第8 条 前条に定める場合の外やむを得ない理由のあるときは,社員はその旨を理事長に届け出て,その同意を得て退社することができる。

第9 条 社員資格を喪失した者は,その出資額に応じて払戻しを請求することができる。」

X らは,平成29 年9 月14 日頃,Y1 に対し,同月16日付けでY1 を退社する旨を通知したが,理事長C が,X らの退社に同意したことはない。

かかる事実関係の下で,X らは,定款8 条の「前条に定める場合の外」との文言からすれば,理事長C による同意がなくとも,Xらの退社は定款7条により有効であると主張し,同日当時のY1 の総資産額である14 億7496 万4181 円を基準に,出資金の払戻しを請求した。これに対し,Y1 は,理事長C による同意がない以上,X らの退社は認められないと主張した。退社が認められる場合の「出資額に応じ」た払戻金額は,前記の平成22 年最判が判示したところであるが,その前提としての退社が認められるかという点に関し,再び定款の解釈が問題となったのである。

⑵ 裁判所による定款の解釈

裁判所69) は,定款8 条の「『前条に定める場合の外』との文言を形式的に解釈し,同条及び同7 条1 項3 号の『退社』は別異の概念であって,同号の『退社』については理事長の同意は要件ではないと解する場合には,原告らは本件通知をもって退社したこととなると考えられる。もっとも,上記解釈によれば,『退社』について理事長の同意を要する場合(同8 条)とこれを要しない場合(同7条1 項3 号)が生ずることとなり,本件定款における『退社』の概念の統一が損なわれることとなるところ,本件定款においては,社員の一方的意思表示による退社と,理事長の同意による退社とを殊更に別異の概念として区別するような規定は見当たらないことからすれば,同8 条の『前条に定める場合の外』との文言のみをもって,同7 条1 項3 号の退社は,同8 条の退社と別異の概念であると直ちに認めることは相当ではない。そうすると,本件定款において,一方的意思表示による退社が許容されているか否かについては,同7 条1 項3 号及び同8 条の文言のみに形式的に依拠するのではなく,その内容を合理的に解釈して適用するのが相当である」とした70)。

その上で,裁判所は,次の3つの理由を挙げて,本件定款8 条は,「『前条に定める場合の外』との文言にかかわらず,同7 条1 項3号に規定する退社についての手続を定めた規定であると解するのが相当である」と結論付けた。すなわち,①まず,「本件定款において,退社の手続について規定するものは本件定款8 条のみであり,このほかに社員の一方的意思表示による退社の場合の手続を定めた規定は見当たらない。そうすると,同7 条1項3 号により社員の一方的意思表示のみによる退社が認められると解する場合には,その手続については何らの定めがないこととなり,同8 条において,退社するためのやむを得ない理由,理事長への届出及び理事長による同意という厳格な要件を課した意義は,およそ失われることになる」というのであり,②また,「本件定款は,被告Y1 設立に当たって定められたものであり,前記……のとおり,被告Y1 設立時,その出資持分は,C 及び原告X1 がそれぞれ約40%を有し,D が約19%を有していたところ,このようにごく少数の者が多額の持分を有しているときに,被告Y1の存立が直ちに危うくなるような,社員による自由で一方的な意思表示による退社及びこれに伴う持分の払戻しを認容する規定を置いたとは俄かに考え難い」というのであり,③さらに,「かねてより,医業については安定的な継続が必要であるにもかかわらず,出資持分のある医療法人においては,出資持分の払戻請求によりその存続が脅かされる事態が生じることが懸念され,そのため平成19 年以降は出資持分のある医療法人の新設はできないこととされており,既存の出資持分のある医療法人についても,出資持分のない医療法人に円滑に移行できるようにするためのマニュアルが厚生労働省により作成・整備されていることが認められる」というのである71)。

⑶ 若干の検討72)

a 法律行為の解釈の観点から

本判決も,前記の平成22 年最判と同様,定款の解釈方法について,法律行為の解釈の方法によるべきか,法解釈の方法によるべきかを明言していない。そして,本判決についても,上記のいずれの見解からも説明が可能であるように思われる。

法律行為の解釈という観点から見ると,本判決は,オーソドックスな事実認定の手法をとるものとして理解することができるだろう。すなわち,前記⑵の理由の①は,定款の文言が強い証拠力を持つことを前提に,その定款の文言をその字句のみならず定款の構成を基に探求するという点を重視しているように読める。

その上で,本判決は,当事者の共通の主観的意味の探求という視点から,定款作成者であるX1,C 及びD らの意思を,設立時の出資比率が上記3 人のみで約99%であったという間接事実から推認しようとしている(前記⑵の理由の②)。

現在の医療法人を取り巻く事情(前記⑵の理由の③)をどのような位置付けの事実として考慮したのかは,判決文からは必ずしも明らかではないが,これを設立当時の定款作成者の意思を推認させる事後的な間接事実と位置付けることも可能であるように思われる。

こうしてみると,本判決は,直接証拠たる定款の文言に加えて,定款の作成当時及び事後的な間接事実も総合して,定款作成者の共通の主観的意味内容を認定したものと見ることができるように思われる。

b 法解釈の観点から

また,本判決は,法解釈の方法を採用したものと捉えても,その手法をオーソドックスに適用しているもののように思われる。

まず,本判決は,文理解釈を出発点としているが,文理解釈によれば定款の全体的な構成が極めて不自然なことになるとして,次いで体系的解釈による正当化を試みている(前記⑵の理由の①)。

そして,定款作成者であるX1,C 及びDらの意思の推認(前記⑵の理由の②)については,立法者・起草者意思を探求する歴史的解釈の手法をとるものと見て取ることができるだろう。なお,法解釈において,立法者意思を確定することは一般に困難なことであるが,定款については,その作成経過が立法に比して単純であることから,その起草者意思を認定しやすいという面があるように思われる。

さらに,現在の医療法人を取り巻く事情(前記⑵の理由の③)については,こうした体系的解釈及び歴史的解釈から導かれる結論が,目的論的解釈とも整合しているということを指摘するものと捉えることができるように思われる。

こうしてみると,本件判決は,法解釈の方法論に従って,文理解釈,体系的解釈,歴史的解釈及び目的論的解釈を総合して結論を導いたものと理解できるように思われるのである。

そして,説示において,まずは文理解釈を踏まえた体系的解釈を基本に据えていると考えられることからすれば,本判決についても,前記の平成22 年最判と同様,法解釈の手法としては文理解釈及び体系的解釈を重視するものと見て取ることができるように思われる。

なお,本件におけるY1 の定款は,モデル定款と同一ではなく,定款8 条の「前条に定める場合の外」という文言は,モデル定款の文言に付加されたものであった。そうすると,本件においては,定款8 条のような文言を採用したのはY1 固有の事情ということになり,法的安定性については考慮する必要がなかった事案であると思われる。

・・・遺言の解釈と似ている箇所があるように感じます(定款作成者の本意を総合的に考慮するなど。)。しかし、自然人ではなく法人であること、単独行為ではなく契約に近い解釈がなされること、法人の種類によっては判決の医療法など政策的な考慮が必要になることが異なる箇所だと思います。

Ⅵ法律行為の解釈と法解釈の交錯

ここまで,定款の解釈が問題となった2件の裁判例を検討してきた。これらの検討を通してみると,定款の解釈について,法律行為の解釈の方法をとったとしても,法解釈の方法をとったとしても,結論が変わるわけではないように思われ,それは,異なる両者の方法論が修正を受けて相互に歩み寄る結果というよりは,そもそも両者の方法論がほとんど共通するからであるということができるのではないだろうか。

事実認定においては,要証事実について直接証拠がある場合,まずはその証明力を検討すべきことになろう。特に,当該直接証拠が,契約書等の類型的に信用性が高いと認められる文書である場合には,(当該文書に形式的証拠力があることを前提に)特段の事情がない限り,その記載どおりの事実を認定すべきことになる73)。ただし,訴訟に至る事案においては,多くの場合,かかる特段の事情の存否が問題となるから,事実認定に慎重を期すためには,当該直接証拠のみならず,他の間接証拠から認められる間接事実をも総合して判断するのが相当であると考えられる。そして,間接事実に関しては,法律行為以前や法律行為当時の事情から要証事実の存否を推認することができるのはもちろん,事後的な事情から遡って要証事実の存否を推認するという場合もあろう。

このように,事実認定において,直接証拠たる類型的信用文書を重視する姿勢は,法解釈において,制定法の拘束力を重視し,その文理解釈及び体系的解釈を重視するべきであるとの姿勢と共通するのではないだろうか。

また,直接証拠に加えて,間接事実からの推認をも行うという点も,文理解釈・体系的解釈に加えて,歴史的解釈及び目的論的解釈を行うという法解釈の手法と共通するもののように思われる。歴史的解釈は,法律行為以前や法律行為当時の間接事実からの推認とパラレルに考えることができようし,目的論的解釈は,事後的な事情からの推認とパラレルに考えることができるだろうが,事実認定において,こうした事前・当時・事後の間接事実を総合して当事者の合理的意思解釈が行われていることとの対比からすれば,法解釈においても,歴史的解釈及び目的論的解釈を総合して立法者の合理的意思74) の探求が行われていると見ることもできるだろう。

こうしてみると,文理解釈・体系的解釈を基本としつつ,歴史的解釈及び目的論的解釈をも考慮して法解釈を行うという方法は,事実認定に慣れ親しんでいる法曹実務家にとっては,極めて自然な解釈方法であるということがいえるのではないだろうか。

以上のような,安易なアナロジーに対しては,いくつか批判も考えられる。

一つには,法律行為の解釈と法解釈の方法とは飽くまでも異なるという批判があるだろう。

そもそも,法律行為の解釈においては,当事者の主観的意味内容の認定が問題となるのに対し,法解釈においては客観的意味内容が問題となるという点で両は異なるという考えもあろうが75),当事者の主観的意味内容といっても,それが争われる場合には,これを直接覚知することができない以上,客観的な証拠等によって認定する必要があるのであり,解釈に当たり,主観を重視するのか客観を重視するのかという点が,法律行為の解釈と法解釈との本質的な差異となるとは考え難い。

より本質的には,特にいわゆるハードケースにおける法解釈に際しては,文理解釈・体系的解釈や歴史的解釈から導かれる結論と,目的論的に妥当と考えられる結論とが異なる場合が生じ得ることとなり,そのような場合に目的論的解釈を優先すべきであるというのが法解釈のあるべき姿であって76),この点において単純に直接証拠を重視する事実認定と法解釈とは根本的に性質を異にするという考えもあるかもしれない。

確かに,法律行為の解釈において,契約後の事情変動等の事情を殊更に重視して,直接証拠たる契約書の内容や契約締結当時の事情から導かれる解釈と異なる解釈を採用するというのは,通常は考え難いことであろう。

もっとも,具体的に妥当な事案の解決を図るためには,法的構成を柔軟に考えるとともに,事実認定にも操作を加え,擬制的な事実を認定することも許されるという指摘がなされていることにも留意する必要があろう77),

例えば,前記Ⅲの教室設例でいえば,契約当事者が,当初は,タバコ1 カートンは10箱入りパックを意味するものとして,タバコ1000 カートン(1 万箱)の売買契約を締結したのであったが,売主の従業員が誤ってタバコ1万2000 箱を納品し,その後,売主も買主も,タバコ1 カートンを12 箱入りパックと解する余地もあったと思い直してそのままにしたという場合,契約の変更や追認といった法的構成をとるまでもなく,当初からタバコ1万2000 箱についての売買契約が成立したものと評価できる場合もあり得るのではなかろうか。

また,そのような教室設例を離れて,まさにハードケースといい得る事例において,擬制的な事実認定が行われたといい得る事例として,「共同相続人の1 人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは,特段の事情のない限り,被相続人と右の相続人との間において,右建物について,相続開始時を始期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される」とした最三判平成8年12月17日民集50巻10号2778 頁を挙げることもできるのではないかと思われる。

以上のとおり,最初のあり得る批判に対して一応の応答を試みたところで,もう一つ考えられる批判としては,法律行為の解釈も法解釈も,いずれも弁証的論証という点で共通するのであるから78),その方法論が抽象的な類型のレベルで共通するのは当たり前のことに過ぎないという意見もあるかもしれない79)。

しかし,方法論(解釈技法)を類型化した上で,その類似性を見出し,法律行為の解釈と法解釈のそれぞれの場面において,その各技法がどの程度重視されているのかを比較検討して分析してみることは,事実認定及び法解釈の双方の精度を高めていく上で有益なのではないかと思われる。

多くの民事訴訟事件においては,法解釈が争われることはなく,専ら事実の有無及びその評価が争点となる。そして,事実認定については既に優れた論考が数多く発表されており,事件類型ごとに事実認定に際して考慮すべき事情を整理・紹介するものは,実務家が経験則を獲得・補充するに当たって極めて有用なものとなっている。もっとも,個別の事案にはそれぞれの特殊性があることからすると,そうした整理に依拠するだけで直ちに正しい事実認定ができるということにはならないだろう。裁判官が,個々の事案の解決に際し,当事者が納得する適切妥当な事実認定を行い,ひいては司法に対する国民の信頼を獲得・維持するためには,法解釈についての学修及び研究を通じて培った方法論を応用して,事案の個別の事情を踏まえた認定を説得的に論証することが必要であり,そのような論証は,法解釈について共通の方法論を身に着けた実務家及び研究者による建設的な批判の対象になるものと考える80)。

なお,事実認定においては,直接には覚知し得ないとはいえ,絶対的真実が存在し,裁判官は,かかる絶対的真実の解明を目指して事実認定を行っている。そうであるとすると,法解釈において,事実認定と同様のアプローチを意識することは,裁判官にとって,客観的な法解釈を目指すよすがともなるのではないだろうか。

Ⅶ.おわりに

一般に法曹実務家は法解釈に関心が薄く,研究者は事実認定に関心が薄いということが指摘されている。しかし,実務家として,法解釈の方法に関心を深めることは,事実認定の精度を高めることにつながるかもしれないし,そこに事実認定論における理論と実務の架橋のヒントがあるのかもしれない。

本稿は,そのような期待をもとに,東京大学法科大学院の3 年生を対象とした勉強会において発表した内容を,その際の参加者の皆さんとの議論を踏まえて大幅に修正して執筆したものである。もとより文責は私が負うものであるが,先輩教員として指導助言を下さった石田佳世子判事と,勉強会に参加して貴重な議論を提供してくれた和泉里佳さん,林載允さん,大井俊哉さん,完山聖奈さん,柴崎英之さん,清水理桜子さん,成政優太さん,吉沢健太郎さんに心から感謝を申し上げたい。法科大学院が,引き続き理論と実務の架橋を果たす場であり続けることを強く願っている。

* 脱稿後に次の情報に接した。まず,前記Ⅴ2で紹介した東京地判令和3 年6 月7 日判時2504 号102 頁は控訴されたが,控訴審において和解が成立したようである。また,山本=中川・前掲注13) の続編として,民商法雑誌において「法解釈の方法論Ⅱ」の特別企画が始まっている。その一編である西内康人「民法の解釈――紛争解決と社会統制の関係を巡る理解の試み」民商法雑誌158 巻3 号102 頁(2022)は,その末尾の脚注において,本稿末尾の脚注と同じ文献に触れているが,これは面白い偶然である。(やまぎし・ひであき)

参考

登記研究 715号 185頁 平成19年3月30日 法務省民商第811号 民事局商事課長通知 〔五六七二〕良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて

登記研究 832号 147頁 平成28年9月1日 法務省民商第132号 民事局商事課長通知 医療法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて

登記研究 833号 134頁 平成29年3月7日 法務省民商第36号 民事局商事課長通知 医療法の一部を改正する法律等の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて

商業登記のオンライン申請において利用できる電子証明書に関するQ&A(Ver.3.0) (試訳)

Q&A regarding electronic certificates that can be used in online applications for commercial registration (Ver. 3.0) (Trial translation)

令和2年9月30日September 30, 2020

令和4年 11 月 26 日(改訂)November 26, 2022 (Revised)

令和5年3月 23 日(改訂)March 23, 2023 (Revision)

日本司法書士会連合会商業登記・企業法務対策部

Q1 電子署名とはどのようなものでしょうか。

Q1 What is an electronic signature?

A1 電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号、以下「電子署名法」という。)第2条第1項では、「電子署名」とは、「電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

  • 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
  • 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。」

と定められています。

A1 The Act on Electronic Signatures and Certification Business (Act No. 102 of 2000, hereinafter referred to as the “Electronic Signature Act”) Article 2, Paragraph 1 defines “electronic signature” as “an electromagnetic record (a record made by an electronic method, a magnetic method, or any other method not recognizable to human perception, which is used for information processing by a computer. The same shall apply hereinafter). (i) A measure taken with respect to information that can be recorded in a record (meaning a record made in a form that is not recognizable by human perception, such as a magnetic form or a form that is not recognizable by human perception, and that is used for information processing by computers; the same shall apply hereinafter) that meets all of the following requirements

(i) The measure is taken to indicate that said information was prepared by the person who took said measure.

(ii) The information is such that it can be verified whether or not it has been altered.

The following is stipulated.

端的に言えば、株主総会議事録等の電磁的記録(データ)に、その作成者の電子証明書を付することを、電子署名といいます。

Simply put, attaching an electronic certificate of the creator to an electromagnetic record (data), such as the minutes of a shareholders’ meeting, is called an electronic signature.

Q2 電子証明書には、リモート署名とクラウド型電子署名というものがあると聞きましたが、それぞれの内容を教えてください。

Q2 I heard that there are two types of electronic certificates: remote signature and cloud-based electronic signature.

A2 リモート署名とは、事業者のサーバに、利用者の署名鍵を設置及び保管をし、利用者が当該事業者のサーバにリモートでログインした上で、利用者自らの署名鍵で電子署名を行うものをいいます。

A2 Remote signature means that the user’s signature key is installed and stored on the server of the business, and the user logs in to the business’s server remotely and digitally sign the document with the user’s own signature key.

   クラウド型電子署名とは、立会型ともいわれ、事業者が利用者の指示を受けて、事業者自身の署名鍵で電子署名を行うものをいいます。クラウド型電子署名に関し、電子署名法上の位置付けについて、令和2年7月17日、法務省・総務省・経済産業省が下記の見解を示しております。

問2 サービス提供事業者が利用者の指示を受けてサービス提供事業者自身の署名鍵による電子署名を行う電子契約サービスは、電子署名法上、どのように位置付けられるのか。

・近時、利用者の指示に基づき、利用者が作成した電子文書(デジタル情報)について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行うサービスが登場している。このようなサービスについては、サービス提供事業者が「当該措置を行った者」(電子署名法第2条第1項第1号)と評価されるのか、あるい は、サービスの内容次第では利用者が当該措置を行ったと評価することができるのか、電子署名法上の位置付けが問題となる。

・電子署名法第2条第1項第1号の「当該措置を行った者」に該当するためには、必ずしも物理的に当該措置を自ら行うことが必要となるわけではなく、例えば、物理的にはAが当該措置 を行った場合であっても、Bの意思のみに基づき、Aの意思が介在することなく当該措置が行われたものと認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はBであると評価することができるものと考えられる。

・このため、利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化を行うこと等によって当該文書の成立の真正性及びその後の非改変性を担保しようとするサービスであっても、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はサービス提供事業者ではなく、その利用者であると評価し得るものと考えられる。 ・そして、上記サービスにおいて、例えば、サービス提供事業者に対して電子文書の送信を行った利用者やその日時等の情報を付随情報として確認することができるものになっているなど、当該電子文書に付された当該情報を含めての全体を1つの措置と捉え直すことよって、電子文書について行われた当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には、これらを全体として1つの措置と捉え直すことにより、「当該措置を行った者(=当該利用者)の作成に係るものであることを示すためのものであること」という要件(電子署 名法第2条第1項第1号)を満たすことになるものと考えられる。

(法務省HPより https://www.moj.go.jp/content/001323974.pdf

法務省HPによると、商業登記のオンライン申請において添付書面情報に利用可能な電子証明書として、多数の電子証明書が定められています。その詳細につきましては、以下のURL をご参照ください。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html#05

Q3 A2に記載の電子証明書により電子署名された電磁的記録は、商業登記の添付書面情報として利用することができると聞きましたが、この場合、これらの電子署名・電子証明書はいわゆる実印相当と考えてよいのですか。

Q3, I heard that electromagnetic records digitally signed with electronic certificates mentioned in A2 can be used as attached document information for commercial registration. In this case, can these electronic signatures and electronic certificates be considered equivalent to so-called real seals?

A3 商業登記の添付書面情報においては、リモート署名とクラウド型電子署名は、実印相当ではなく認印相当と扱われることが一般的です。

A3 In general, remote signatures and cloud-based electronic signatures are treated as the equivalent of a certified seal, not as the equivalent of an actual seal, in the attached document information for commercial registration.

   なお、令和2年6月12日付法務省民事局商事課事務連絡によると、法令の規定により添付書面に押印した印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付しなければならない場合には、添付書面情報としての電磁的記録にリモート署名とクラウド型電子署名は利用することができないとされています。

Q4 電子署名・電子証明書が有効であることを確認することはできますか。また、誰の電子署名・電子証明書であるかを確認することもできますか。

Q4 Is it possible to confirm that a digital signature/digital certificate is valid? Can I also check whose digital signature/digital certificate it is?

A4 いずれもできます。

   リモート署名とクラウド型電子署名の両方とも、基本的には、Adobe社のAcrobat Reader を利用して確認します。電子署名された添付書面情報を開き、画面左側に「署名済みであり、すべての署名が有効です。」と表示されていれば、電子署名が有効であることを確認することができます。

A4Yes, it is possible to check the validity of a digital signature and digital certificate.

   Both remote signatures and cloud-based digital signatures are basically verified using Adobe’s Acrobat Reader. You open the attached document information that has been electronically signed, and on the left side of the screen you should see “Signed, all signatures are valid.” on the left side of the screen.

   電子証明書の有効性の確認について、画面右上の「署名パネル」をクリックすると、左側に署名者の情報が表示されます。更に詳細な情報を表示すると、電子証明書の有効性等の情報が表示されます。リモート署名の場合には、添付書面情報に記名されている者が署名者になりますので、署名者と電子証明書に搭載されている情報が一致するか、当該電子証明書が失効していないかを確認します。

   クラウド型電子署名の場合には、電子証明書に搭載されている名称等は事業者名になります。そこで、署名のプロパティ画面を開き、「理由」を確認し、添付書面情報に記名されている者が関与しているか否かを確認します。

また、署名のプロパティ画面で「署名者の証明書を表示」をクリックすると、証明書ビューアが表示され、発行者が表示されますので、法務大臣の定める電子証明書と同一であるかどうかを確認することができます。

   クラウド型電子署名の方法によって電子署名が付与された電子証明書の具体的な確認方法については、P.10~P.18のとおりとなります。

なお、電子証明書とは別にタイムスタンプというものがあります。電子証明書は「誰が」

「何を」を証明する機能があるのに対し、タイムスタンプは「いつ」「何が」を証明する機能がある点で用途が異なります。このタイムスタンプにより、電磁的記録がいつから存在したかを確認することができます。

Q5 電子署名後に添付書面情報が変更や改ざんされている場合、それを確認することはできますか。

Q5 Can I check if the attached document information has been changed or altered after it has been electronically signed?

A5 できます。  

 (1)が変更や改ざんのない電子署名された添付書面情報における、電子署名の情報画面になります。一方、電子署名が付与された後に添付書面情報が変更や改ざんされると(2)のような署名パネルの情報画面となり、変更や改ざんのあったことが一目でわかるようになっています。

なお、株主総会議事録や取締役会議事録等、印鑑提出者とそれ以外の者が同一の電磁的記録に電子署名を行う場合には、先にクラウド型電子署名をした後に商業登記電子署名、公的個人認証サービス電子署名又は特定認証業務電子署名(以下「商業登記電子署名等」という。)により電子署名を行うことが好ましいと考えられます。これは、商業登記電子署名等をした後、クラウド型電子署名をしようとした場合、電磁的記録をシステムにアップロードした段階で、当初した電子署名がリセットされることがあるためです。なお、署名パネルを開くと電子署名が追加された旨が、その他の変更として表示されますが、電磁的記録自体の改ざんには該当しません。

(2) 変更や改ざんのある場合

Q6 オンライン申請ではなく書面による申請を行う場合であっても、クラウド型電子署名がされた添付書面情報を利用することができますか。

Q6, Can I use the attached document information with cloud-based electronic signatures even if I submit a written application instead of an online application?

A6 できます。

   改正された商業登記規則が令和3年2月15日から施行され、書面申請の場合に申請書に添付する電磁的記録にも、リモート署名やクラウド型電子署名が利用可能となりました。

 A6: Yes, it is possible.

   The revised Commercial Registration Regulations came into effect on February 15, 2021, allowing the use of remote signatures and cloud-based electronic signatures for electromagnetic records attached to applications in the case of written applications.

Q7 商業登記のオンライン申請において、電子署名された添付書面情報をCD-R等に格納して提出することはできますか。

Q7 In an online application for commercial registration, is it possible to submit electronically signed attached document information on a CD-R, etc.?

A7 できます。

   商業登記規則第102条第2項ただし書において、添付書面情報の送信に代えて、登記所に当該「書面」を提出し、又は送付することを妨げないとされています。

A7 Yes, it is possible.

   The proviso of Article 102, Paragraph 2 of the Commercial Registration Rules states that it is not precluded to submit or send the “document” to the registry office in lieu of sending the attached document information.

この「書面」には、商業登記法第19条の2の申請書に添付する電磁的記録も含まれることから、オンライン申請の場合においても添付書面情報をCD-R等に格納して提出することは可能です。

もっとも、オンライン申請の趣旨を踏まえると、情報が大容量となりオンライン送信ができないといった格別の事由がある場合を除き、司法書士としてはオンライン送信によることが望ましいと考えられます。

Q8 依頼者からクラウド型電子署名がされた就任承諾書に代わる電磁的記録が送付されてきましたが、商業登記の添付書面情報として利用することはできますか。

Q8 My client sent me an electromagnetic record in place of the letter of acceptance of office with a cloud-based electronic signature.

A8 商業登記規則第61条第4項及び第5項に該当する就任承諾書に代わる電磁的記録以外であれば、商業登記の添付書面情報として利用可能です。

A8 If it is not an electromagnetic record in lieu of a letter of acceptance of office that falls under Article 61, Paragraphs 4 and 5 of the Commercial Registration Rules, it can be used as attached document information for commercial registration.

   商業登記の添付書面情報に利用されたクラウド型電子署名は、実印相当ではなく認印相当の扱いとなるのが一般的です(A3参照)ので、設立時取締役及び再任を除く取締役(取締役会設置会社の場合は代表取締役)の就任承諾書に代わる電磁的記録に利用することはできません。

   なお、商業登記の添付書面情報として、就任承諾書に代わる電磁的記録に、公的個人認証サービス電子署名又は特定認証業務電子署名をした場合には、商業登記規則第61条第7項に定める役員の本人確認情報は添付する必要はありません(商業登記規則第103条)。公的個人認証サービス電子署名に係る電子証明書の有効性検証については、日司連公的個人認証有効性確認システムをご活用ください。

Q9 商業登記の添付書面情報にされた電子署名について、資格者代理人としてどの程度までの確認が求められますか。

Q9 To what extent is a qualified representative required to verify the electronic signature made on the attached document information of a commercial registration?

A9 添付書面情報の署名欄記載の者と電子署名の署名者の同一性、電磁的記録の改ざんの有無、電子証明書の有効性について、特に不審な点がないかどうかを確認すれば足りると考えられます。

A9 It is considered sufficient to confirm the identity of the person whose signature appears in the signature field of the attached document information and the signer of the electronic signature, whether the electromagnetic record has been tampered with, and whether there is anything particularly suspicious about the validity of the electronic certificate.

Q10 株主総会議事録や取締役会議事録に代わる電磁的記録の作成者が、登記所に印鑑を提出している代表者である場合、当該代表者の電子署名としてクラウド型電子署名をして作成された当該電磁的記録は、商業登記の添付書面情報として利用することはできますか。

Q10 If the person who created the electromagnetic record in place of the minutes of a general meeting of shareholders or minutes of a board of directors is the representative who has submitted his/her seal to the registry office, can such electromagnetic record created with a cloud-based electronic signature as the electronic signature of such representative be used as attachment information for commercial registration?

A10 できる場合もあります。

   商業登記の添付書面情報の作成者が、登記所に印鑑の提出をした者である場合、当該添付書面情報にする電子署名については商業登記電子署名に限る旨を定めていた商業登記規則第36条第5号及び第102条第6項が削除されました。

In some cases, yes.

   Article 36, Item 5 and Article 102, Paragraph 6 of the Commercial Registration Rules, which provided that if the person who created the attached document information for commercial registration is the person who submitted the seal to the registry office, the electronic signature to be used for such attached document information shall be limited to the electronic signature for commercial registration, have been deleted.

このため、登記所に印鑑を提出した者が、作成者として電磁的記録にクラウド型電子署名をしている場合でも、その電磁的記録は、商業登記の添付書面情報として利用することはできます。例えば、管轄外本店移転を行う際の定款変更にかかる株主総会議事録や、本店所在地を定めた取締役会議事録(取締役決定書)に代わる電磁的記録がこれに当たります。

ただし、法令の規定により添付書面に押印した印鑑につき市町村長の作成した証明書が必要な場合や、法人が法務局に届出た印鑑を押印しなければならない場合には、添付書面情報としての電磁的記録には、実印相当の電子署名を利用しなければならないとされています。

However, in cases where a certificate prepared by the mayor of the municipality is required for the seal affixed to the attached document in accordance with laws and regulations, or where a corporation must affix a seal registered with the Legal Affairs Bureau, an electronic signature equivalent to a real seal must be used for the electromagnetic record as attached document information.

したがって、代表取締役の選定にかかる株主総会議事録及び取締役会議事録(取締役決定書)に代わる電磁的記録については、クラウド型電子署名の利用ができない場合もあります。詳しくはQ12を参照ください。

Q11 令和2年6月12日付法務省民事局商事課事務連絡によると、クラウド型電子署名については、「添付書面情報の作成者が印鑑提出者である場合及び法令の規定により登記の申請書に添付すべき書面に押印した印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付しなければならない場合を除いた添付書面情報についてのみ利用可能」としていますが、具体的にどのような書面が該当しますか。

A11 次のとおり整理できると考えられます。

【クラウド型電子署名の利用が認められる添付書面情報】

添付書面情報
■株主総会議事録 ■取締役会議事録 ■取締役決定書 ■Minutes of the General Meeting of Shareholders ■Minutes of Board of Directors Meetings ■Decisions of Directors
■発起人決定書 ■就任承諾書(法令の規定により市町村長の作成した証明書を添付しなければならない場合を除く。) ■辞任届(作成者が印鑑提出者である場合を除く。) ■本人確認証明書 ■株主リスト ■資本金計上証明書 ■払込みがあったことを証する書面 ■株主総会招集期間短縮の同意書 ■失権予告付催告の期間を短縮する場合の総株主の同意書 ■現物出資がされた場合の弁護士等の証明書(商業登記法第56条第3号ハの書面) ■取得請求権付株式の取得の請求があったことを証する書面 ■新株予約権の行使があったことを証する書面 ■組織再編、資本金の額の減少等の場合において、債権者に対して各別に催告した旨を証明した書面 ■外国語で作成された添付書面情報の翻訳文書(作成者が印鑑提出者である場合を除く。) ■Statement of Decision of Promoters ■ Letter of Acceptance of Office (except in cases where a certificate prepared by the mayor of the municipality must be attached pursuant to laws and regulations) ■ Letter of resignation (except when the person making the letter is the person submitting the seal) ■Certificate of identification ■List of shareholders ■Certificate of capitalization ■Document certifying that payment has been made ■An agreement to shorten the period for convening a general meeting of shareholders Consent of all shareholders in the case of shortening the period of notice of forfeiture Certificate from an attorney or other legal representative in the case of contribution-in-kind (document stipulated in Article 56, Item 3(c) of the Commercial Registration Law) ■Document certifying that a request for acquisition of shares with put option has been made Document certifying that the subscription rights to shares have been exercised ■A document certifying that separate notice was given to creditors in the case of reorganization, reduction in the amount of capital, etc. ■Translated documents of the attached document information prepared in a foreign language (except in cases where the preparer is the person submitting the seal)
■募集株式の引受けの申込みを証する書面  ■A document evidencing an offer to subscribe for shares to be offered
■募集新株予約権の引受けの申込みを証する書面 Document evidencing an offer to subscribe for offered stock acquisition rights
■募集株式の総数引受契約を証する書面 ■募集新株予約権の総数引受契約を証する書面 Document evidencing agreement to subscribe for the total number of shares to be offered Document evidencing the subscription agreement for the total number of offered stock acquisition rights

【クラウド型電子署名の利用が認められない添付書面情報】

■定款(設立時に公証人が認証したものを添付する場合を除く)

■就任承諾書(法令の規定により市町村長の作成した証明書を添付しなければならない場合。)

■辞任届(作成者が印鑑提出者(印鑑を届け出ていない会社では「代表取締役」)である場合。)

■株式申込証の添付省略の代表者証明書

■代理人によって登記を申請する場合の委任状

■Articles of Incorporation (unless the articles are certified by a notary public at the time of incorporation, in which case they must be attached)

■Assumption of office (when a certificate prepared by the mayor of the municipality must be attached in accordance with the provisions of the law.)

■ Resignation form (if the person making the form is the person submitting the seal (or the “representative director” in the case of a company that has not registered its seal)).

■Certificate of representative omitting the attachment of the certificate of application for shares. ■A letter of attorney when applying for registration by proxy

Q12 代表取締役の選定に係る取締役会議事録に代わる電磁的記録には、誰がどの電子署名をすれば、商業登記において利用可能な添付書面情報となりますか。

Q12 Who and which electronic signature is required for the electromagnetic record in lieu of the minutes of the board of directors meeting regarding the selection of the representative director to be the attached document information that can be used in the commercial registration?

A12 以下のとおりとなります。

  • 登記所に印鑑を提出している者が出席している場合

登記所に印鑑を提出している者が取締役会に出席している場合には、その者は取締役会議事録に代わる電磁的記録に商業登記電子署名等をする必要があります(A9参照)。

この場合には、他の出席役員については、クラウド型電子署名による電子署名をすることで足ります。

  • 登記所に印鑑を提出している者が出席していない場合

登記所に印鑑を提出している者が取締役会に出席していない場合には、出席役員が公的個人認証サービス電子署名又は特定認証業務電子署名で、取締役会議事録に代わる電磁的記録に電子署名をする必要があります。

A12: The following is required

(1) When a person who has submitted his/her seal to the registry office is present

If a person who has submitted his/her seal to the registry office is present at the board of directors meeting, he/she is required to electronically sign the electromagnetic record in place of the minutes of the board of directors meeting (see A9).

In this case, it is sufficient for the other attending officers to electronically sign the minutes using cloud-based electronic signatures.

(2) When a person who has submitted his/her seal to the registry office is not present

If a person who has submitted his/her seal to the registry office is not present at the board of directors meeting, the attending officer must electronically sign the electromagnetic record in place of the minutes of the board of directors meeting by using a public personal certification service electronic signature or a specific certification service electronic signature.

     株主総会や、定款の定めに基づく取締役の互選により代表取締役を選定した場合も、上記の区分に従い、株主総会議事録や互選書に代わる電磁的記録に電子署名をしたものが、商業登記において利用可能な添付書面情報となります。

Q13 Q12 の取締役会を書面決議により行った場合には、取締役会議事録に代わる電磁的記録に、誰がどの電子署名をすれば、商業登記のオンライン申請における利用可能な添付書面情報となりますか。

Q13: If the board of directors’ meeting in Q12 was resolved in writing, who and which electronic signature is required to sign the electromagnetic record in place of the minutes of the board of directors’ meeting, and which electronic signature is required to be the attached document information that can be used in the online application for commercial registration?

A13 以下のとおりとなります。

  • 登記所に印鑑を提出している者が議事録作成者となる場合

登記所に印鑑を提出している者が議事録作成者となる場合には、取締役会議事録に代わる電磁的記録に商業登記電子署名等をすれば、当該電磁的記録は、商業登記における利用可能な添付書面情報となります(A10参照)。

この場合、他の役員は、電子署名をする必要はありません。

  • 登記所に印鑑を提出している者が議事録作成に関与できない場合

登記所に印鑑を提出している者が議事録作成に関与できない場合には、同意の意思表示をした取締役全員が、公的個人認証サービス電子署名又は特定認証業務電子署名で取締役会議事録に代わる電磁的記録に電子署名をしたものが、商業登記において利用可能な添付書面情報となります。

A13: The following is required

(1) When the person who has submitted his/her seal to the registry office is the person who prepares the minutes

If a person who has submitted his/her seal to the registry office is the person who prepares the minutes, if an electronic signature, etc. is made on the electromagnetic record in place of the minutes of the board of directors, the electromagnetic record will become available as attached document information for the commercial registration (see A10).

In this case, other board members are not required to electronically sign the record.

(2) Cases where the person who has submitted his/her seal to the registry office cannot participate in the preparation of the minutes

If the person who has submitted his/her seal to the registry office is unable to participate in the preparation of the minutes, the electronic signatures of all directors who have expressed their consent to the preparation of the minutes by using an electronic signature of a public personal certification service or a specific certification service will be the attached document information that can be used in the commercial registration.

     また、議事録作成者が公的個人認証サービス電子署名又は特定認証業務電子署名により電子署名した議事録に代わる電磁的記録及び他の取締役が公的個人認証サービス電子署名又は特定認証業務電子署名をした同意書に代わる電磁的記録を合わせたものを、添付書面情報としても差し支えないと考えられます。

Q14 取締役会に出席した取締役及び監査役が、同内容の議事録に代わる電磁的記録に別個に電子署名をし、複数の取締役会議事録に代わる電磁的記録がある場合、これらの取締役会議事録に代わる電磁的記録の全てを、取締役会議事録に代わる電磁的記録として、商業登記のオンライン申請における添付書面情報とすることはできますか。

Q14: If a director and a corporate auditor who attended a board of directors’ meeting sign electronically separately on an electromagnetic record in place of the minutes of the same meeting, and there are multiple electromagnetic records in place of the minutes of the board of directors’ meeting, can all of these electromagnetic records in place of the minutes of the board of directors’ meeting be considered as the electromagnetic records in place of the minutes of the board of directors’ meeting and used as the attached document information in an online application for commercial registration? A14: No. If there are multiple electronic records replacing the minutes of the board of directors, can all of these electromagnetic records replacing the minutes of the board of directors be used as attached document information in an online application for commercial registration?

A14 できません。

従来の登記実務では、登記申請の添付書面となる取締役会議事録について、取締役会議事録を数通作成し、各議事録に一部の取締役が記名押印し、全ての議事録を合わせて全取締役の記名押印が揃う方法による議事録の作成は適法でない(昭和36年5月1日民事四発第81 号民事局第四課長事務代理回答)とされています。

このことは、取締役会議事録が電磁的記録により作成されている場合であっても同様と考えられます。したがって、複数の取締役会議事録に代わる電磁的記録に一部の役員が電子署名をし、その全ての電磁的記録をもって、商業登記のオンライン申請における添付書面情報とすることはできません。

A14: No, it is not possible.

In conventional registration practice, it is not legal to prepare minutes of board of directors meetings, which are attached to an application for registration, by preparing several sets of minutes of board of directors meetings and having some directors write and seal their names and seals on each set of minutes so that all the minutes together have the names and seals of all the directors (Civil Affairs Bureau, No. 4, May 1, 1961, Civil Affairs Bureau, No. 81, Acting Assistant to the Director of the Fourth Section, May 1, 1961). (Civil Affairs Bureau, No. 81, May 1, 1961, Answer by the Deputy Director of the Fourth Civil Affairs Division).

電子証明書の確認方法

1.①(クラウドサイン)の電子署名の確認方法

可視署名がある場合

定款作成の委任を受けて作成された電子定款について、テレビ電話を利用して公証人の認証を受ける場合

株式会社・一般社団法人・一般財団法人

日本公証人連合会

令和2年5月11日からテレビ電話による認証制度がさらに便利になります。

https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/20200501.html

スケジュール

1、全て電子申請を行う場合

(1)定款案、実質的支配者になるべき者の申告書、発起人の印鑑証明書・本人確認情報を、管轄の公証センターにメール送信。公証人とテレビ電話会議の日程調整。

(2)定款完成後、公証センターから、定款認証費用、書面による同一の情報の発行費用、CD発行費用、申告受理及び認証証明書費用などのお知らせ。

(3)定款認証費用などを振込。

(4)定款完成後、2つのPDFファイル(定款,定款作成委任状)を法務省の専用ソフトを用い、オンラインで送信。

(5)公証人と嘱託人がテレビ電話会議で、本人確認。

(6)公証人から、電子定款が返信される。その他の書面による同一情報などは、レターパックで返送される。

2.書類郵送+テレビ電話認証

(1)定款案、実質的支配者になるべき者の申告書、発起人の印鑑証明書・本人確認情報を、管轄の公証センターにメール送信。公証人とテレビ電話会議の日程調整。

(2)定款完成後、公証センターから、定款認証費用、書面による同一の情報の発行費用、CD発行費用、申告受理及び認証証明書費用などのお知らせ。

(3)定款認証費用などを振込。

(4)管轄の公証センターへ、定款と定款作成委任状(発起人が押印)、発起人の印鑑証明書・本人確認情報を郵送。

(5)定款完成後、定款PDFファイル(士業者が電子署名)を法務省の専用ソフトを用い、オンラインで送信。

(6)公証人と嘱託人がテレビ電話会議で、本人確認。

(7)公証人から、電子定款が返信される。その他の書面による同一情報などは、レターパックで返送される。

実質的支配者になるべき者の申告について、記名(署名)押印は誰が行うのか?嘱託人とは?

嘱託人・・・公証人に直接依頼する人。発起人(社員)が直接依頼する場合は、発起人(社員)、定款を士業者が作成代理し、記名押印(電子署名)して公証人に直接依頼する場合は、士業者。

本人申請・・・発起人(社員)全員・発起人(社員)の代表者。

代理・・・定款に、作成代理人(士業者)が記名押印(電子署名)すれば士業者。

・実質的支配者となる者の申告書ではなく、直接表明保証を利用する場合

利用場面の想定

発起人が1人の場合

発起人が多数、遠方にいて、それぞれに直接作成して欲しい場合

・なお、公証センターによって取扱いが多少違うこともあるようなので(例えば司法書士代理でも発起人が実質的支配者の一覧図に記名押印でも可能など、代理の問題?)、初めての公証センターでは、事前に確認が必要です。

株式会社の定款で、設立時取締役1名、設立時代表取締役1名を定めた後、設立登記申請で取締役を増員する場合

過程

・定款で、設立時取締役1名、設立時代表取締役1名を定めており、定款認証完了。

発起人1名、設立時代表取締役である設立時取締役。取締役会非設置会社。

定款の代表取締役の選定機関は、株主総会。

・定款認証後、発起人から、設立時取締役を2名増やしたいとの要望。

考えたこと

・取締役や代表取締役は、定款の絶対的記載事項ではないため(会社法27条)、発起人が出資の履行完了後に、決定で選任可能だと考えられるが(会社法38条、40条)、代表取締役の選定について、発起人の決定書に、定款への言及が必要な感触。

結果

発起人決定書に、定款で設立時代表取締役である設立時取締役については定めたいる。設立時代表取締役でない設立時取締役については次の者を選任する、と記載。

設立時代表取締役でない設立時取締役の就任承諾書には、【発起人の決定日付】の発起人の決定により設立時取締役に選任されたことを記載。

設立時代表取締役である設立時取締役の就任承諾書には、【定款作成日付】定款の定めにより設立代表取締役、設立時取締役に選任されてことを記載。

参考

矢部博志「会社法施行後における商業登記実務の諸問題」登記情報536号4頁

磯崎 哲也『起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと 増補改訂版』 第6章 資本政策の作り方

資本政策の位置付けとサイクル

→現金の回り方の計算書・予定書→株主価値→資本政策→事業計画→

資本政策表に必要な情報

・発行済株式の総数(会社法37条)

・株主名(会社法50条、102条、121条、124条、209条、282条、会社計算規則2条3項20号など)

・株式の種類(会社法2条、106条、107条、245条など)

・資金調達の額(会社法445条など)

・出資比率・持株比率(会社法121条、商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則など)

資本政策の策定手順(設立後3年の企業が、3年後に上場を目指す場合)

・上場時の時価総額の検討
・時価総額と前提条件の1売買単位金額から上場時発行済株式数を検討
・上場時の、公募株式数の検討
・上場時の、売出株式数の検討
・公簿増資前における、発行済株式数の検討
・上場時売出株式数の検討
・公簿増資前の、発行済株式数の検討
・株式分割幅の検討
・従業員持株会への割当方式数と、ストックオプション付与株数の検討
・上場前の資金調達の検討
・安定株主比率の検証
・上場基準を充たしているかの確認

株主構成、持ち株比率のチェックポイント

□必要となる資金がちゃんと調達できるか?(企業価値や株価は適正か?)

□上場後も安定した株主構成となるか?

□創業者や投資家の苦労に報いるだけのキャピタルゲインは出るか?

□上場基準は満たしているか。

□創業者以外の者・法人で50%を超える割合の株式を持つことになる場合、単独で株主総会普通決議を行うことが出来なくなる(会社法309条1項)ので、考えることが必要。

□上の50%と同じく、3分の1を超える割合の株式を持つこととなる場合、単独で株主総会の特別決議を行うことが出来なくなる(会社法309条2項)ので、考えることが必要。例:(募集事項の決定)会社法199条2項など。

□投資契約における拒否権

会計の持株比率への影響

・外部投資家の持ち株比率が20%、40%、50%を超える場合の影響・・・持分法適用会社となり、出資を受けた持分を投資した企業の決算に反映させる可能性、連結決算が必要な企業に該当する可能性が出てくる。

参考
日本公認会計士協会
連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の取扱い
https://jicpa.or.jp/specialized_field/post_701.html

財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則8条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338M50000040059_20210924_503M60000002061

連結財務諸表原則第4.8
https://www.fsa.go.jp/p_mof/singikai/kaikei/tosin/1a902f5.html

会社計算規則2条3項26号

ストックオプション(新株予約権、会社法236条~)

・発行量(会社法238条1項1号)、発行済株式の総数並びに種類及び数に対する比率。

・誰に渡すのか、何人に渡すのか(会社法241条から246条。)。

・多数の人に分散している場合に、数名に集めることは出来るか(会社法254条から266条。)。

・ストックオプションを行使する資金を、調達することは出来るか(会社法246条。)
・大きな問題とならないとされる量は、発行済株式の総数並びに種類及び数の10%から20%。

参考・税制適格ストックオプション
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1540.htm

・企業価値を、設立時資本金の額から何倍になった、という視点だけで考えない。目的のために、いつ、いくら必要なのか、そのために今どの位の価値で評価されることが妥当なのか調整。

・共同創業者や家族が株主の場合の、けんかの危険。

分からなかったところなど

□持ち株比率が上場後も安定した株主構成となるか、の安定とは?創業者、または設立時の株主がが過半数を持っている状態?その他にもありますか?
・・・みらいワークス、カラダノート
あるっちゃある。
創業者の範囲を広げる。資産管理会社、上場時に薦められる。Iの部。取引先(株式の持ち合い)。財団法人(奨学金関係など)で、資産を減らしたうえで、配当を原資にする。
研究開発型スタートアップだと、持ち株比率は減る(ユーグレナなど。)。

分からなかったところなど

□上場時の新株予約権の割合は、10%位が目安の根拠(山岡 佑『実践スタートアップ・ファイナンス 資本政策の感想戦』P272など)

・・・日本の慣習、米国20%あり。VCに抵抗感があるので、説明が求められる。説明出来れば良い。過渡期。メルカリなど。
https://signal.diamond.jp/articles/-/1583

欧米型のストックオプションは、優先株調達のステージごとに、調達直前の株式数にストックオプション用の株式数が新たに追加された上で、1株あたりの価格が決められる。そしてそれがステージごとに繰り返される。つまり、調達時のプレマネー時価総額に、ストックオプションの発行が織り込まれている(潜在株式によって時価総額は変わらない)ということだ。投資家にとってみると、潜在株式が多いほど投資時の株価が下がるので、そのステージのストックオプションは多いほどよい。起業家は、ステージごとにストックオプションの量が設定されるので、採用計画に合わせてオプションの付与計画も建てやすい、という具合だ。その結果、欧米では総発行株式数の20〜25%のストックオプションが発行されるのが通常だ。

参考
・2019/08/14株式会社Coral Capital Yohei Sawayama
「国内スタートアップの資金調達相場レポート「Japan Startup Deal Terms」2019年夏版をリリースします」https://coralcap.co/2019/08/deal-terms-2019summer/
・(一社)日本経営調査士協会 監修 「IPO・内部統制の基礎と実務(第3版)」2017年、同文館出版
・経済産業省「スタートアップの成長に向けた ファイナンス に関するガダファイナンス」2022年4月
・金融庁「コーポレートガバナンス・コード【基本原則1-3.資本政策の基本的な方針】」
・明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科木村哲「ベンチャー企業の株式価値評価のための期待リターンと資本政策の研究」
・FoundX Review「共同創業者間での株式の分け方 (Michael Seibel)」
・山岡 佑『実践スタートアップ・ファイナンス 資本政策の感想戦』2021年、日経BP
・2021年6月15日日本証券業協会「非上場株式の発行・流通市活性化に関する検討懇談会」報告書

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