相続に関する法律 韓国


相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より
第5 部 韓国法

序言

1960 年の韓国民法の制定と施行によって、それまでの相続関係に適用されていた旧慣習は以後、効力を失い、人の死亡により発生する権利義務の承継に関する法律関係は韓国民法第5 編の規定によることとなった。立法起草者の考えは、親族・相続編の入案は「現行親族相続慣習法を古来の淳風良俗は弊風とならない限り、維持・助長すると同時に、時勢に相応しくない因習は揚棄することで、…修正・成文化すること」であった1。これと同様な趣旨で、親族相続編の内容について、日本民法及び他の近代民法の影響がわりと少なく、これは伝統的な慣習と民主主義の理念を妥協する過程から生まれた結果ともいわれる2。


しかし、これに対しては、韓国民法典を制定する当時にはまだ韓国固有の相続法制に関する的確な研究や認識が欠けていた時期であったから、その結果、韓国の相続法には朝鮮時代の法慣習や日本式の制度、近代式の制度が混在されているという指摘も存在する3。韓国相続法に関する様々な観点の違いが存するが、一般的に韓国の相続法の特徴及び比較法的位置づけに関しては、次のように説明することができる4。


韓国民法の制定が「ヨーロッパの諸国と日本及びその周辺国という限定的な観点から行われたものではあるが、一般的に比較法的作業の結果である」という韓国民法全体に関する評価5は、相続法においても正しいといえる。包括承継主義及び当然承継主義、相続債務に対する責任、共同相続の形態、遺言など死因処分の内容と形態、遺留分などに関する相続法の規定は確かに、日本民法を通じてフランス民法の構造に倣ったものであると評価することができるだろう。しかし、その詳細な事項及び相続順位、配偶者の相続、財産分離などに関しては、韓国の立法者が独自的に案出した規定も含まれており、ドイツ民法、日本民法、中国民法などの規定に倣ったものも少なくないので、一概にどちらかの一つの国の相続法を継受したとはいいかねる。

 


従来、比較法学では、相続法は各国の慣習・価値体系などの影響で、固有の独自性を持つため、規定・制度の内容又はその機能を比較する研究の対象とはあまり望ましくないという認識があった。しかし、世界のあらゆる流れから私法の統合というテーマで、従来債権法や動産物件などを中心に統合がなされているなか、相続法においても比較法的な観点から配偶者の相続権や寄与分、遺言制度、遺留分などの制度には認識を共通しているところもある。
そのことから、今回の報告書は、現在の韓国の相続法の制度の概要をまとめてみるという
ことと、その中からなされている様々な議論や実務の解釈を確認することに報告書の重点をおいたものである。今の韓国相続法の特徴を把握するためには、とりあえず韓国相続法の規定の内容が基礎となるべきであるので、その規定内容をともに掲げることにした。なお、その規定、又は制度そのものや内容に関する様々な議論がなされているので、韓国民法の解釈という側面からその議論の内容や根拠などを説明しておいた。

 


さらに、実際の規定と学説上の議論をふまえて、実務、とくに判例において、どのような判断や解釈が行われているのかも紹介することとした。各論点については、韓国と日本において共通する点もあるがそうではない点もあるので、重要な論点については日本と異なる部分を、できるだけ考慮して書くことにした。
以下の内容は大韓民国民法典(相続編)の構成と体系に従って作成したものである。

第5 編 相続
第1 章 相続
第1 節 総則(997 条〜999 条)
第2 節 相続人(1000 条〜1004 条)
第3 節 相続の効力(1005 条〜1018 条)
第1 款 一般的な効力
第2 款 相続分
第3 款 相続財産の分割
第4 節 相続の承認と放棄(1019 条〜1044 条)
第1 款 総則
第2 款 単純承認
第3 款 限定承認
第4 款 放棄
第5 節 財産の分離(1045 条〜1052 条)
第6 節 相続人の不存在(1053 条〜1059 条)
第2 章 遺言
第1 節 総則(1060 条〜1064 条)
第2 節 遺言の方式(1065 条〜1072 条)
第3 節 遺言の効力(1073 条〜1090 条)
第4 節 遺言の執行(1091 条〜1107 条)
第5 節 遺言の撤回(1108 条〜1111 条)
第3 章 遺留分(1112 条〜1118 条)


第1 章 相続

1 相続の意義

1 相続の開始原因

韓国民法997 条(相続開始の原因) 相続は死亡によって開始する。
韓国民法は財産相続の開始原因として死亡のみを規定している。相続開始の時期は相続人の資格・範囲・順位・能力を決する基準時になるのみならず、相続に関する権利の除斥期間や消滅時効の起算点にもなる。また、相続の効力発生、相続財産あるいは遺留分算定の基準として重要な意味を持っている。ここでの死亡には失踪宣告、認定死亡、不在宣告が含まれる。それぞれ失踪宣告の場合には失踪期間満了時、不在宣告の場合には不在宣告の審判の確定時に死亡したことになる。また、認定死亡は家族関係登録簿に死亡と記載されることによって死亡が推定されるが、この場合、家族関係登録簿に記載された死亡の日時に相続が開始されると解される。他方、韓国民法30 条によって同時死亡と推定される者の間には相続が開始されないとする。

ポリー
「韓国には家族関係登録簿というのがあるのですね。家族単位ではなく、個人別に家族関係を登録しています。2007年に戸籍制度はなくなりました。本籍という言葉がなくなりました。戸籍謄本などは、どこかに保存されているようです。

 なお、戸籍については、1912年朝鮮民事令、1921年共通法、1945年ポツダム宣言受諾、1952年平和条約発効、などにより日本との関係があります。」

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相続に関する法律 韓国②
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


2 相続開始の場所と費用

韓国民法 998 条(相続開始の場所)相続は被相続人の住所において開始する。
998 条の2(相続費用)相続に関する費用は相続財産の中から支弁する。
韓国民法は相続開始の場所についても被相続人の住所において開始すると定めている。相続費用には租税、あらゆる公課、管理費用、相続財産の管理のための訴訟費用6が含まれる。葬式費用は直接には相続に関する費用ではないが、被相続人のための費用であるとして相続費用と解される7。


2 相続人

相続人とは被相続人の相続財産を包括的に承継する資格を有する者である。この相続人となる一般的な資格を相続能力という。権利能力のある自然人なら国籍を問わず相続能力を持つが、法人には相続能力が認められない。相続法は相続人の種類と順位を画一的に法定しており、被相続人は原則として、法律の定める相続人の種類や順位を変えることはできない。韓国は近代相続法の歴史がそれほど長くないし、国民の意識においても遺言が普遍のことではない。したがって、ドイツのように被相続人が遺言で優先的に相続人を定めたり、排除したりすることはできない。


ポリー
「韓国では法定相続が原則なのですね。遺言でできることも少し制限されています。」

このように、韓国は遺言で相続人を指定することができないから、遺言相続を認めていないと評価する見解もあるが、民法では、直接相続人指定に関する規定を設けているわけではないが、遺言の自由を認め被相続人が遺言で財産を自由に処分することができるので、韓国においても法定相続と遺言相続とが両方とも認められているといわれるのが一般である8。韓国相続法が定める相続人は血族相続人と配偶者があり、相続におけるその順位は次のようである.


1 相続の順位

(1) 血族相続人

韓国民法1000 条(相続の順位) ①相続においては次に掲げる順位に従って相続人となる。
1.被相続人の直系卑属
2.被相続人の直系尊属
3.被相続人の兄弟姉妹
4.被相続人の4 寸以内の傍系血族

②前項の場合に同順位の相続人が数人であるときは最近親を先順位とし、同親などの相続人が数人であるときは共同相続人となる。

③胎児は相続については既に生まれたものとみなす。

血族相続人には1000 条による順位があり、先順位の血族相続人があれば後順位の血族相続人は相続できない。まず、第1順位の血族相続人は被相続人の直系卑属である(1000 条1 項1 号)。
直系卑属には被相続人の子であれば性別、年齢、国籍、長男・次男、既婚・未婚などは問わない。


ポリー
「長男、次男、既婚、未婚とことわり書きしているところが他の国と少し違うところだと思いました。」


さらに嫡出子であるか非嫡出子であるかも問わず、同じ順位で相続権を持ち、相続分にも変わりはない。養子の場合には親養子でない限り養親を相続するともに実親をも相続する。親養子の場合には実親との親族関係が終了するため養親のみを相続する。寸数が同じ場合には同順位で共同相続人となる。被相続人の子(先順位の直系卑属)が相続開始以前に全部死亡したとき、被相続人の孫子女が代襲相続するのかそれとも本位相続するのかについては韓国民法には明示的な規定がないため、学説上の争いがある。

判例は「被相続人の子が相続開始以前に全部死亡した場合、被相続人の孫子女は本位相続ではなく代襲相続する」9として代襲相続説を支持している。それによると孫は親の代わりに相続するため親の相続分のみを相続し、先順位直系卑属の配偶者も相続できる。胎児の場合には1000 条3 項によって相続能力が認められる。次に第2順位の血族相続人は直系尊属である(1000 条1 項2 号)。直系尊属ならば父系であるか母系であるかは問わない。
離婚した父母も相続権が認められる。寸数が異なる場合には最近親が優勢し、同順位の相続人が多数であるときは共同相続人になる。未婚の孫が死亡した場合、相続開始以前にその父母が既に死亡し先順位の直系尊属がいないとき、祖父母が相続する場合がある。そのとき、祖父母は代襲相続人となるか、本位相続人となるかについても争いがある。これについては、代襲相続に関する韓国民法1001 条が直系尊属には代襲相続権を認めていないため、祖父母の相続は代襲相続ではなく本人相続でしか解されないとされる。


つまり、先順位の直系尊属がみんな死亡した場合、次順位直系尊属が本位相続する。例えば、未婚の孫が死亡したが、その孫にとって父系には祖父のみ生存しており、母系には祖父と祖母ともに生存しているとき、3人はそれぞれ3分の1の割合で孫(被相続人)から本位相続する。第3順位の血族相続人は兄弟姉妹である(1000 条1 項3号)。韓国民法は親族の範囲において父系と母系との差別を削除し、相続の順位や相続分に関しても男女あるいは父系・母系の差別を削除したことに照らして、1000 条1 項3 号の「被相続人の兄弟姉妹」とは父系か母系かを問わないと解すべきであるとしている。さらに、判例は異姓同
腹の兄弟姉妹(半血の兄弟姉妹)もこの規定による相続人であると判示した10。第4順位の血族相続人として4 寸以内の傍系血族も相続人となるが(1000 条1 項4 号)、彼らには遺留分権は認められない(1112 条)。いずれも、先順位の相続人があるときは、後順位相続人は相続できないのは先述した。


ポリー
「韓国の相続法は1990年、1979年、1960年、1912年と改正されています。」


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淑明女子大学 郭 珉希

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(2) 配偶者

韓国民法1003 条(配偶者の相続順位) ①被相続人の配偶者は第1000 条第1 項第1 号と第2 号の規定による相続人がある場合にはその相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。

②第1001 条の場合に相続開始以前に死亡又は欠格した者の配偶者は同条の規定による相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。
韓国民法 1009 条(法定相続分) ②被相続人の配偶者の相続分は直系卑属と共同で相続するときは直系卑属の相続分の5 割を加算し、直系尊属と共同で相続するときは直系尊属の相続分の5 割を加算する。
韓国法において被相続人の配偶者は常に相続人となる。配偶者の相続順位は被相続人の直系卑属と同順位で共同相続人となり、その直系卑属がいないときは被相続人の直系尊属と同順位で共同相続人となる。被相続人の直系卑属と直系尊属ともにいないときには、被相続人の兄弟姉妹と共同相続することなく、被相続人の配偶者が単独相続人となる。配偶者の相続分は直系卑属と直系尊属と共同で相続するときは5 割加算する(韓国民法1009 条3 項)。韓国において配偶者の相続法上の地位に関しては最近、多様な観点から生存配偶者の相続法上の地位を強化しようとの傾向があり議論が盛んになっている。


ポリー
「配偶者と、亡くなった相手方の兄弟姉妹が同時に相続するというのは原則としてないのですね。」

この問題はそもそも相続の趣旨及び相続法の存在意義、夫婦財産制度のあり方との関係や平均寿命の増加のような社会現状の変化など、様々な論点と絡んでいる重要な問題であるのでまとめて議論することにしたい。

2 代襲相続

韓国民法1001 条(代襲相続) 前条第1 項と第3 項の規定により相続人となるべき直系卑属あるいは兄弟姉妹が相続開始以前に死亡したとき、又は欠格者となったとき、その者の直系卑属がある場合にはその直系卑属が死亡又は欠格した者の順位に代わって相続人となる。
韓国民法1003 条(配偶者の相続順位) ②第1001 条の場合に相続開始以前に死亡又は欠格した者の配偶者は同条の規定による相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。


韓国法において代襲相続とは、相続にとなる被相続人の直系卑属又は兄弟姉妹が相続開始以前に死亡・欠格した場合、その者の直系卑属や配偶者が死亡・欠格した者の順位に代わって相続人となることをいう。代襲相続は、代襲者固有の権利として直接被相続人から相続することであるとされる。被代襲者は相続人となるべき被相続人の直系卑属あるいは兄弟姉妹である。したがって規定上、相続人になるべき被相続人の配偶者を被代襲者とする代襲相続は認められない。例えば、被代襲者の配偶者が代襲相続の相続開始以前に死亡又は欠格者になった場合、その配偶者に改めて被代襲者としての地位を与えることはできない11。韓国民法が定める代襲原因は相続開始以前の死亡と相続欠格のみであり、相続放棄は代襲相続にならない。


ポリー
「日本とほぼ同じですね。」


例えば、第1 順位の相続権
のある直系卑属と配偶者がみんな相続権を放棄した場合には孫が被相続人の直系卑属として相続人(本位相続)となる12。被代襲者の直系卑属又は配偶者は代襲相続人となる。胎児は相続順位については既に生まれたものとみなすので、被代襲者の死亡・欠格当時の胎児のみならず、相続欠格後相続開始当時に胞胎の胎児も代襲相続できる。代襲相続人となる配偶者は法律上配偶者でなければならない。但し、被代襲者の死亡後再婚した配偶者は、再婚によって姻戚関係が消滅するため、代襲相続権を失う(登記例規694 条)。代襲相続人に改めて代襲原因が生じた場合、代襲相続人の直系卑属は再代襲相続人となるが、前述したように被代襲者の配偶者は代襲原因が生じたとしても再代襲相続人とはならないと解するのが判例である。


ポリー
「夫の親が亡くなった場合、夫が先に亡くなっていると妻も相続することがあるのですね。」


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ポリー
「相続欠格はこわいのでとばします。相続人の排除規定は日本と違いありません。」

3 相続欠格

韓国民法1004 条(相続欠格事由) 次に掲げる者は相続人となることができない。
1.故意に直系尊属、被相続人、その配偶者又は相続の先順位若しくは同順位にある者を殺害又は殺害しようとした者
2.故意に直系尊属、被相続人とその配偶者を傷害し死亡するに至らせた者
3.詐欺又は強迫によって被相続人の相続に関する遺言し又は遺言の撤回することを妨げた者
4.詐欺又は強迫によって被相続人に相続に関する遺言をさせた者
5.被相続人の相続に関する遺言書を偽造・変造・破棄又は隠匿した者
相続欠格とは相続人に一定な法定事由が生じた場合、特別に裁判上の宣言を待たず、法律上、当然にその相続人の資格を剥奪することである。韓国民法1004 条は五つの事由を定めている。
とくに、1004 条1 号においては、財産相続の先順位あるいは同順位の胎児を殺害したことも相続欠格に当たる。しかし殺害の故意以外に相続に有利だろうとの認識は要しないとするのが判例である13。相続欠格事由に当たる場合には法律上当然相続人としての資格を失うのであり特別な手続きは要らない。相続開始以後に欠格事由が生じた場合であっても欠格の効果は相続開始時に遡及する。相続欠格者は同時に受贈欠格者であるため遺贈も受け取れないが、被相続人が生前贈与することは妨げない。相続欠格制度は被相続人の意思とは無関係で法律上当然生ずる効果であり、韓国法においては被相続人の意思に基づき法定相続人の資格を剥奪できるような制度はない。

3 相続回復請求権

1 韓国民法999 条の立法趣旨

韓国民法999 条(相続回復請求権) ①相続権が僭称相続権者によって侵害されたときには相続権者又はその法定代理人は相続回復の訴を提起することができる。
②第1 項の相続回復請求権はその侵害を知った時から3 年、相続権の侵害行為があった時から10 年を経過したら消滅する。
韓国民法999 条には相続回復請求権の意味と短期の消滅時効について定められている。韓国民法が定める相続回復請求権とは僭称相続人によって相続権が侵害された場合、相続権者又はその法定代理人が相続財産の回復を請求できる権利を指す。


実はこのような僭称相続人が事実上相続している場合であっても真正相続人の相続権が剥奪されるわけではない。相続財産に関して真正相続人は持分権に基づく相続財産の個々の物件について物件的請求権を行使し、その妨害や排除を請求すればいいことであろう。それにもかかわらず、韓国民法が相続回復請求権を別の規定として立法した理由ないし相続開始請求権とは何のための権利なのかが問題になる。この条文の立法趣旨については一般に次のように説明している。まず、第1に、相続が開始され相当な期間が経過したにもかかわらず、事実上相続した者に対する返還請求をいつまでも全面的に許容するとすれば、当事者の間に若しくは第三者との関係において、その権利義務関係に混乱が生じうる。
相続回復請求権の短期除斥期間を定めることで相続に関する法律関係を早期に確定しなければならない必要がある。

第2に、共同相続人が相続財産の全てを完全に把握するとは通常できないから、999 条の相続回復請求権制度を通じて相続財産を一々列挙することなく、侵害者に対し一括して回復請求を行うことができる。第3に、個別的な権利に基づいて相続財産の返還を請求する
場合には、通常相続人はその権利が元々被相続人に属されていたということを立証しなければならない。しかし、この規定による相続回復請求なら、元々その権利が被相続人の権利であることを前提としてその承継を争うのであるから、被相続人の権限を別に立証することなく請求できるので立証責任が軽減されるという。この場合、真正相続人は被相続人の死亡、自分の相続人資格、当該財産が相続財産であることのみを立証すれば足りるという。以上の理由から相続回復請求制度の存在意義があるとされる。

2 相続回復請求権の性質

それでは、相続回復請求権をどうのような権利と解するのか。学説は、相続回復請求権の性質について次のように争われてきた。まず、相続回復請求権は相続権に基づいて相続権の侵害排除と相続財産の全体の回復を求める特別な権利として個々の財産に対する物件的請求権とは異なる包括的な権利であるとする独立権利説がある。これに対して、相続回復請求権とは相続財産を構成する個々の相続財産に対する個別的・物件的請求権の単なる集合にすぎなく、相続財産の包括承継の原則によって便宜上一個の請求権として構成されただけの権利であると捉える集合権利説とに分かれている。前者によると、相続回復請求権は相続財産に属する個々の財産に対する物件的請求権とは異なるから、相続回復請求に適用される短期除斥期間は個別的な物件的請求権の行使には適用されない。これに対し、後者の見解によれば、個別的な相続財産に対する物件的請求権と相続回復請求権とは法条競合の関係にあるとする。すなわち、相続回復請求の場合には物権的請求権の行使ができなく、さらに相続回復請求権の除斥期間が経過したときには個別的な物権的請求権も行使できないとする。他方、判例は相続回復請求権の性質につき直接に言及はしていないが、「個々の相続財産に対する返還請求や登記抹消請求も相続権の侵害を理由とする相続回
復請求の訴に当たるとして、短期除斥期間に関する民法999 条が適用される」とした14。つまり、相続財産に対するある権利の行使が相続権の侵害を原因としている限り、その請求原因を問わず相続回復請求の訴に当たると解すべきであり15、この場合、短期除斥期間の適用あり16としているのである。このことから、韓国の判例は、集合権利説に近い意見を述べているともいえるだろう。

ポリー
「韓国では、相続回復請求権が実際に利用されているのでしょうか。」

3 相続回復請求権の行使

(1) 請求権者:真正相続人

相続回復請求者はその相手方と被相続人をともにする相続人又はその法定代理人である。したがって、真正相続人と僭称相続人の主張する被相続人が異なる人である場合には、真正相続人の請求原因が相続により所有権を取得したことを前提にしているとしても、これを相続回復訴とはいえない17。真正相続人が死亡した場合、相続回復請求権は相続権から派生した権利であるがゆえに、真正相続人の死亡で消滅する。そして、真正相続人の相続人には相続回復請求権が承継されるのではなく、自分の固有の相続権が侵害されたとして固有の相続回復請求権が取得され、除斥期間も新しく起算される。相続分譲受人や包括受贈者も相続人と同じ地位にあると解されるため、彼らも相続回復請求権者であるとしている18。相続開始以後に認知された婚姻外の出生子も、認知の効力は遡及するとの根拠で、相続回復請求権を行使することができる。但し、相続開始以後に認知された子が共同相続人の場合、既に共同相続財産が分割・処分されたならば、他の共同相続人に相続分に当たる価額を請求できるが(1041 条)、この価額支給請求権もまたその実質においては、相続回復請求権と異ならないので本条の短期除斥期間が適用される。

(2) 請求の相手方:僭称相続人

韓国民法には「僭称相続人」という言葉は使われているが、その意味については定められていない。但し、実務上僭称相続人であるかどうかは非常に重要な問題であって、韓国の大法院は僭称相続人とは次のようであると判示している。「相続回復請求権の相手方となる僭称相続人とは正当な相続権を有しないのにかかわらず財産相続人であるように信じさせる外観を持っている者を意味する」とか「相続人であると称し、相続財産の全部若しくは一部を占有している者を指す」19としている。韓国法において僭称相続人には相続権侵害意思があることを要しない。なお、善意・悪意、過失などを問わず、客観的な相続権侵害の事実のみあれば僭称相続人である。
僭称相続人から相続財産を譲受した第3取得者や僭称相続人の相続人も相続財産を占有している以上相続回復請求の相手方となる。

問題は、共同相続人間にも民法999 条の消滅時効を適用できるか、換言すると共同相続人を僭称相続人といえるのだろうかである。この点に関して、判例は原則、共同相続人間にも僭称相続人であることを理由として消滅時効を主張しうるとしている。詳しくは、「共同相続人の一人又は数人が相続財産のうち自己の本来の相続分をこえて相続を原因とする占有あるいは登記をしている場合」や、「共同相続人の一人又は数人が他の共同相続人の相続権を否定しながら自分だけが相続権があると主張して相続財産を占有・支配し、真正共同相続人の相続権を侵害している場合」には民法999 条の適用のある僭称相続人であると判示している20。通説も同じである。但し、相続財産が不動産の場合、その名義がいまだ被相続人あるいは共同相続人の全員の名義であったならば、単に一人の共同相続人が相続財産の全部または一部を占有・管理しているという事実のみでは相続権の侵害は認められないと解するのが通説・判例である。


さらに、相続財産が共同相続人の一人の名義で登記されていたとしても、それが登記名義人の意思とは無関係になされたものだという特別な事情があるときには、その登記名義人を僭称相続人とはいえないとする21。なお、それが特定の権原によって占有・登記したものであった場合には当然僭称相続人となるわけではない(判例22・通説)。

他方、相続人でもない者が偽造の戸籍謄本をもって相続登記をしたという事実があってもその者が民法999 条の僭称相続人であると判断することはできないとした23。この判決の意義は、書類を偽造した者を僭称相続人の範囲から除外することで民法999 条の短期除斥期間の適用を排除し真正相続人を保護しようとしたことにある。


(3) 相続回復請求権の行使の効果

相続回復請求権は裁判上・裁判外でも行使できる(通説)。相続回復請求を認容する判決が確定されたなら、僭称相続人は相続財産を真正相続人に返還しなければならない。僭称相続人から相続財産を譲受した第三取得者も相続財産を占有している以上、相続回復請求の相手方となることは前述したとおりであるが、善意取得や時効取得により保護されることを妨げない。なお、僭称相続人に債務を返済した第三者も債権の準占有者に対する返済を主張し有効に債務を免れることも可能である。

4 相続回復請求権の消滅

相続人は相続開始後相続回復請求権を自由に放棄することができるが、相続の開始以前に予め放棄することはできない。相続回復請求権は民法の規定により除斥期間の経過によって消滅する。
すなわち、相続権を侵害された事実を知った時から3 年、侵害行為があった時から10 年が経過した時は相続回復請求ができない。その期間は除斥期間と解するのが通説である。相続権の侵害を知った時とは真正相続人が自ら自分が相続人であることを知り、かつ自分が相続から除外された事実を知った時をいう。最初の相続権の侵害行為があった時から10 年が経過したが、その後、新しい侵害行為があった場合にはどうなるのだろうか。これについて判例は、僭称相続人の侵害行為があった時から10 年が経過した以後にたとえ第三者が僭称相続人から相続財産に関する権利を取得するなどの新しい侵害行為があったとしても、相続回復請求権は除斥期間が満了したため消滅したと解すべきであるとした。したがって真正相続人はもう第三者に対しその登記の抹消などを求めることはできないし、これは真正相続人が僭称相続人に対して除斥期間内に相続回復の訴を提起して勝訴判決を受けたとしても異ならないとした24。除斥期間によって相続回復請求権が消滅する場合には、真正相続人はその地位を失い僭称相続人は相続人としての地位を得ることになる。つまり、相続回復請求権が除斥期間の経過により消滅した場合には、僭称相続人は相続開始日へ遡及して相続人としての地位及び相続財産に関する所有権を確定的に取得することに
なる25。


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第5部 韓国法
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各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
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4 相続の効力

1 相続財産の包括的な承継

韓国民法1005 条(相続と包括的権利義務の承継) 相続人は相続開始の時から被相続人の財産に関する包括的な権利義務を承継する。但し、被相続人の一身に専属したものは、その限りでない。
相続では相続開始の時から被相続人の財産に属する一切の権利義務が相続人に承継される。韓国民法1005 条は具体的な権利義務を特定することなく財産関係が一体として相続人に相続されると定めており、これを包括承継という。したがって、相続法上の相続財産とは、相続人が被相続人から承継する財産法上の客体として、被相続人の積極財産のみならず消極財産も含まれる。
なお、まだ権利・義務として具体化されてないあらゆる法的地位も含まれる。但し、被相続人の一身に専属したものは承継されない(1005 条但書)。一身専属的な権利義務にどのようなものが含まれるのかという問題は実は結構難しい問題である。

(1) 物権など

物権は原則として相続財産に含まれる。相続による物権の承継は法律の規定による物権変動であるから、相続登記は要しない(187 条)。物権が相続されるとしても、但し、合有持分、農地農地受分配権などは一定な制限がある。

例えば、合有者の相続人は合有者の地位を承継することはできない。例えば、合有者が死亡した場合、残存合有者が2 人以上であるなら残存合有者の合有になり、残存合有者が一人であるときは残存合有者の単独所有となる26。

なお、相続により農地を取得した者が実は農業を営んでいないときは、その相続農地のうち、1万m2 以内の範囲でしか農地を所有することができない(農地法7 条1 項)。農地受分配権者27が死亡したとき、その農地も相続の対象になるが、相続人となるべき者が農家あるいは農地の耕作によって生計を営んでいる財産相続人でなければその農地受分配権は相続できない28。


ポリー
「実際に農業を営んでいない方には、相続の際に取得のストップをかけておくという考え方はありだと思います。」


他の物権と異なり観念的な占有権が相続されるかどうかが問題になるが、韓国民法193 条は「占有権は相続人に移転する」と明示的に規定している。この際、相続人が現実的に相続財産に対する占有を取得したかどうかは問題にならない。但し、占有権の相続には相続分に関する規定は適用されないので29、共同占有には相続分というのがない。なお、特許権、商標権、著作権のような知的財産権や鉱業権・漁業権30なども原則として相続される。


(2) 債権・債務及び債権法上の地位

(a) 債務

債務は原則として相続される。しかし、人格権や親族法条の権利・義務のような非財産権、一身専属的な債務、委任契約における当事者の地位や雇用契約における勤労者の地位のような個人的な信頼に基づく継続的な法律関係においての当事者の地位は相続されないというべきである。
保証債務については、通常の保証債務及び保証人の地位はその責任の範囲が確定されているので、相続の対象となる。継続的な保証の場合には保証期間と保証限度額の定めがなければ相続されるとすべきではないが、相続開始の以前に既に生じた具体的な保証債務は相続される31。


ポリー
「韓国でも保証債務は相続されるのですね。」


(b) 賃借権

債権及び債権法上の地位について、相続されるかどうかが問題とされているのは賃借人の賃借権、損害賠償請求権、離婚による財産分割請求権、生命保険金請求権、退職金・遺族給与などがある。
賃借権については、賃借権も価値のある財産権(債権)であるから、賃借権が相続財産に含まれることに関してはあまり異論がない。但し、同居者の住居生活の保障のため、韓国の住宅賃貸借保護法には賃借権の承継に関する特別規定が設けられている。例えば、賃借人が死亡したがその相続人がいない場合、住宅で家庭共同生活を営んでいた事実婚の配偶者に死亡した賃借人の権利・義務の承継を認めている(住宅賃貸借保護法9 条①)。


なお、正当な相続人がいる場合であっても賃借人がその相続人と家庭共同生活をしていない場合には、家庭共同生活をともにしていた事実婚の配偶者と2 寸以内の親族とが共同に賃借人の権利・義務を承継すると定めている(同法9 条②)。

ポリー
「実際に生活している方を優先させるのですか。」
すみれ
「浮気して、亡くなった方が悪いかも知れないから難しいところだよ。賃貸だったらいいのかもしれないけど。」

賃貸借関係から生じた債権・債務は賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。賃借
人の承継権者は賃借人の死亡後一ヶ月以内に、賃貸人に対する反対の意思表示をもって賃貸権承継を放棄することもできる(同法9 条③)。

(c) 損害賠償請求権

通常の損害賠償請求権一般が相続財産に含まれることには異論がない。しかし、生命侵害による損害賠償請求権(財産的損害賠償請求権及び精神的損害賠償請求権)が相続の対象となるかについては議論がある。特に、被相続人が即死した場合に即死者の損害賠償請求権を即死者の相続人が相続できるのかが問題となる。なぜなら、被相続人の損害賠償請求権が発生する段階では、請求権者たる被相続人が死亡しているからである。即死した者、すなわち、死者に損害賠償請求権を帰させることができないのではないかという疑問から始まる。

否定説は死者には損害賠償請求権が帰属できないことからその相続性が否定され、とりわけ、死亡者(被相続人)の精神的損害賠償請求権は一身専属的権利であるから相続人に相続されるわけがないとする32。したがって、遺族は固有の損害として損害賠償請求権を取得すると考えるべきだとする。これに対し、韓国の通説と判例は、被害者の財産上の損害である逸失利益であろうが、精神的な損害としての慰謝料であろうが、一旦、死亡者に帰属し再び相続人に承継されるとして、いずれも相続性を認めている。さらに、判例は「精神的損害に対する慰謝料請求権は、被害者がこれを破棄あるいは免除したという特別な事情がない限り、生前に請求意思を表示する必要もなく、原則として相続すると解するのが相当である」と判示した33。

(d) 離婚による財産分割請求権・生命保険請求権

離婚による財産分割請求権については、離婚後死亡した場合と、離婚訴訟及び財産分割請求を併合した訴訟中に死亡した場合とが問題とされる。前者の場合の財産分割請求権は請求の意思を表示したかどうかを問わず、当然、相続されるが、清算的な要素のみ相続されるだけで扶養的な要素は相続されないという。後者の場合には、財産分割請求権は離婚を前提とするものであるから、死亡による婚姻解消の場合には財産分割請求権が発生しないのでその相続性は認められない。
したがって、離婚訴訟中、当事者が死亡したときには、離婚訴訟と併合した財産分割請求も離婚訴訟と同時に終了するというのが判例である34。

生命保険金請求権において、生命保険金とは保険契約に基づき、被保険者が死亡することによって指定された受取人(保険受益者)に支払われるものである。したがって、生命保険金あるいは生命保険金請求権は原則として被相続人の相続財産とはいえない。そもそも相続人が保険受益者に指定されていたとしても、保険受益者たる相続人の取得した保険金請求権は契約の効力によるものであって、相続によるものではない。これは相続人の固有財産となり、相続財産には含まれない35。


このように、生命保険金は相続財産には含まれないこととなるが、相続人が保険受益者
として保険金を受け取った場合、共同相続人の特別受益として評価されるというのが通説である。


ポリー
「相続財産に含まれなくても贈与として評価されるなら結果として同じですね。」


なぜなら、被相続人による保険料支給の対価が保険金請求権であるから、その受益者が共同相続人なら、これは被相続人からの贈与あるいは遺贈に当たる無償の財産移転にほかならないからである。他方、保険受益者が相続人ではなく第三者である場合にも保険金請求権は相続財産に含まれない36。しかし、保険契約者が自分を保険受益者として指定した場合には、保険金請求権は相続財産に含まれる。


(e) 退職金・遺族給与など

退職金については、勤労者が生存中退職して既に受け取った退職金は当然相続財産に含まれる。
死亡退職金については特別法によって定められている。ここでいう死亡退職金とは私企業の勤労者や公務員が死亡した場合に、使用者が遺族に対して支払う退職金のことである。通常、死亡退職金については法令や企業の定款でその受領者の範囲や順位を定めている。私企業の場合、勤労基準法施行48 条以下の趣旨に照らして企業の死亡退職金の規定は使用者と勤労者との間に締結された第三者のための契約の性質を有しているものと解される。なお、公務員の死亡退職金に関しては、法律によって受領権者の範囲と順位が決されるものとして遺族の固有の権利として取得するのである。したがって死亡退職金や遺族給与は相続人の固有の権利として捉えるべきであって相続財産には含まれないという。香典や弔意金は相続分に応じて共同相続人に贈与されたものとして考えるべきだというのが判例であって相続財産ではないとする37。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

2 共同相続

(1) 相続財産の「共有」の意味

韓国民法1006 条(共同相続と財産の共有) 相続人が数人あるときは相続財産はその共有とする。
韓国民法1007 条(共同相続人の権利義務の承継)共同相続人は各自の相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
韓国民法は相続の効果として前述した相続財産の包括的な承継(1005 条)に加えて、共同相続(1006 条及び1007 条)について規定している。共同相続とは数人の相続人が被相続人の財産を共同で承継することである。つまり、民法1006 条が「相続人が数人あるときは相続財産は共有とする」と定めているので、共同相続人は各自の相続分に応じて財産を承継するわけであるが、共同相続財産を分割する前には相続財産を共有することになる


。この「共有」の意味ないし法的性
質については議論上争いがある。民法1006 条の「共有」が財産法上の「共有」を意味しているのか、それとも、「合有」を意味しているのかの問題である。このような見解の実益あるいは違いは、簡単にいうと、個々の財産に対する持分処分の自由を認めるかどうか、分割の遡及効と関連して相続債権・債務の規律方法(韓国民法1015 条)にあるといえる。


通説と判例38は、相続財産の共有は本来の共有を意味するとして、共同相続人は個々の相続財産に対する物権的な持分を保有するので、個々の相続財産に対する持分の自由処分ができるし、相続債権・債務が不可分的なのもであれば共有関係にあることになるが、可分的であれば分割債権・分割債務となると説明している。
韓国民法1015 条(分割の遡及効)相続財産の分割は相続開始の時に遡及してその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

(2) 債権・債務の共同相続

債権・債務の共同相続については、不可分であるか可分であるかによって議論がなされている。
まず、不可分債権・債務につき、不可分債権は相続財産分割までは共同相続人全員に不可分的に帰属される。共同相続人各自は共同で又は単独で全ての共同相続人のために全部の履行請求ができる(韓国民法40 条)。但し、受け取った給付を相続分に応じて分給しなければならない。不可分債務も各共同相続人に不可分的に帰属され、共同相続人の各自はその債務全部を履行する責任を負う。


したがって、債権者は共同相続人の一人や全ての共同相続人に対し同時あるいは順次に
債務全部の履行を請求することができる。可分債権・債務については、通説・判例の取る共有説によると、可分債権・債務は相続開始と同時に共同相続人に相続分に応じて分割・承継されるという(分割債権関係説)。要するに、可分債権・債務は相続財産分割の対象とはならない。例えば、金銭債務が共同相続された場合、相続財産の分割対象となるかについて判例は次のように判示している。「金銭債務のように給付の内容が可分の債務が共同相続された場合には、これは相続開始と同時に当然に法定相続分に応じて共同相続人に分割して帰属するので、相続財産分割の対象とならない」39とした。これに対して、少数説ではあるが合有説は、相続債権が可分債権であっても不可分債権と同じく共同相続人の全員に帰属されると解すべきであり、相続開始と同時に当然分割されるのではないと主張する。相続債務が可分債務の場合も同じである。つまり、可分債務に対する相続財産の分割は対内的な関係において各自の負担部分として分割されるとの意味にすぎないし、債権者との関係においては債権者の同意がない限り、依然として不可分債務を負担するされている。連帯債務は給付の性質上不可分的なものであるので、各共同相続人は本来の債務と同じような連帯債務を負担する。

(3) 共同相続財産の管理及び処分

共同相続財産の管理については民法上共有の規定を類推適用する。共同相続財産を処分するためには共同相続人の全員の同意が必要である。しかし、個々の相続財産に対する持分及び全部の相続分は処分できる。

3 祭祀財産の特別承継

家制度や戸主制度は韓国の相続法改正により廃止された。ところで祭祀財産の承継は祭祀相続であり、従来、戸主相続の効果として認められていたのが、未だ民法に残っているのである。そこで、この祭祀財産の相続をどのように捉えるかが問題となった。

つまり祭祀財産の承継の法理と相続の法理とを別の制度として捉えるべきかということである。学説は祭祀財産の承継は相続とは区別すべきだというのが通説である。この見解によると、祭祀財産は相続財産に含まれることなく、相続分割の対象にもならない。さらに相続を放棄した者や相続人でない者であっても祭祀主宰者として祭祀財産を承継することができるとされている。


ポリー
「韓国もお墓とか仏壇の承継は独立して残ったのですね。」


判例は祭祀財産の承継を相続と全く異なる制度として捉えるべきではなく、本質的には相続に属する制度として相続の特例であると考えるべきだとしている40。大法院はこのような考え方に基づいて祭祀財産の承継の場合にも相続回復請求権の短期除斥期間が適用されるとする。さらに、憲法裁判所では、相続財産の中、一定の範囲の祭祀財産を祭祀主宰者が承継すると定めた民法1008 条の3 が祭祀主宰者ではない他の相続人の相続権若しくは財産権を侵害するのではないか、宗孫ではない女子相続人や祭祀主宰者とならなかった他の相続人の平等権を侵害するものではないかというのが問題になったことがある。


これに関して、憲法裁判所は「韓国民法1008 条3 の立法目的は正当であり、祭祀財産
を承継すべき者は「戸主」や「宗孫」ではなく、「実際に祭祀を主宰する者」として原則として共同相続人の協議によって決められ、協議によって宗孫以外に次男や女子相続人も祭祀主宰者となることができる」などの理由で合憲の判断を下した。
韓国民法1008 条の3(墳墓などの承継) 墳墓に属する1 町歩以内の禁養林野と600 坪以内の墓土たる農地、族譜と祭具の所有権は祭祀を主宰する者が承継する。


韓国民法1008 条の3 は墳墓に属する1 町歩以内の禁養林野と600 坪以内の墓土たる農地、族譜と祭具の所有権は「祭祀を主宰する者」が承継すると定めている。ここでいう「祭祀主宰者」とは先に述べたように「実際に祭祀を主宰する者」と解される。戸主制度が廃止された現在の韓国民法においては、「祭祀主宰者」が従来の戸主承継人を意味しているのか事実上祭祀を主宰する者を意味しているのかは、少なくとも判例によって明らかになった。


但し、祭祀財産の承継権者を「相続人」に限定すべきであるかは問題である。これに関して民法の明確な定めがないからである。ここで判例は、「共同相続人の中に宗孫がいる場合には宗孫が祭祀主宰者となるのが原則であるが、宗孫に祭祀を主宰できない特別な事情がある場合にはこの限りでない」41として、祭祀財産の承継権者たる祭祀主宰者は相続人でなければならないとしている。


他方、相続放棄者も祭祀財産を承継できるというのが通説である。祭祀主宰者の決定方法についても民法の規定がない。大法院は「共同相続人間の協議で決定し、協議できなかったときは、祭祀主宰者の地位を維持できない特別な事情がない以上、亡人の長男が祭祀主宰者となり、共同相続人に息子がいないときは亡人の長女が祭祀主宰者となる」42としている。ともかく、祭祀財産に限っては、相続財産のように分割して相続するのになじまず、あくまで死者のお祀りを最も適切に行う者が承継すべきだからである。このように、祭祀財産の承継は一般の相続財産と異なり、祭祀を主宰する者が特別承継する特別財産といえる。このことから、祭祀を主宰する者が、相続人として他の一般相続財産を承継する際、祭祀財産の承継は相続分や遺留分の算定に当たっては考慮すべきではないとされる。


ポリー
「祭祀財産が分割して相続するのになじまず、というのはわかります。」


民法の定める祭祀財産とは、墳墓に属する1 町歩以内の禁養林野、600 坪以内の墓土の農地、族譜と祭具である。禁養林野とは先祖の墳墓があるか設置する予定で伐木が禁じされ樹木を養うための林野を指す。暮土の農地とは田畑が含まれその受益をもって墳墓管理と祭祀費用に充当される農地のことである。族譜と祭具については内容的にさほど問題はない。他方、遺体・遺骨が祭祀財産であるかについては韓国法では遺体や遺骨は埋葬されてなくても墳墓と一体のものとして当然、祭祀財産に含まれる。したがって、遺体・遺骨は祭祀財産に準してその祭祀主宰者に承継される43。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
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法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


5 相続分

1 相続分の概念

一般に相続分とは共同相続人が包括的な相続財産に関して持っている権利・義務の割合を指す。
もっとも、韓国民法上の相続分という用語はこのような意味のほかにも、様々な意味がある。例えば、抽象的相続分、具体的相続分、相続財産の分割の以前の相続人の地位としての相続分がそれである。第1 に、抽象的相続分とは共同相続人の各自が相続財産を構成する被相続人の権利・義務を承継する割合、言い換えれば、相続人の取得する相続財産の総額に対する分数的な割合をいう。韓国民法1007 条(共同相続人の権利義務承継)・1009 条(法定相続分)における相続分とはこのような抽象的相続分を意味する。これに対し、第2 に、韓国民法1008 条(特別受益者の相続分)・1008 条の2(寄与分)においての相続分は具体的相続分を意味する。具体的相続分とは、相続財産の総価額から抽象的相続分率を乗じて算定した金額、つまり、相続人が具体的に取得する額のことである。最後に、相続財産分割の以前に各相続人が相続財産の全体に対して有している包括的な権利ないし法律上の地位そのものを意味する。韓国民法1011 条の相続分とはこのような意味の相続分である。

2 指定相続分

相続分の決定に関して、韓国民法1009 条及び1010 条は法定相続分のみを定めている。つまり、被相続人が遺言で共同相続人の「相続分」44(これを指定相続分という)を定めることができるのかについては規定がない。このことから学説は、指定相続分を認めるかどうかについて争われてきた。まず、韓国相続法には指定相続分に関する規定がなく、しかも、遺言は法定事項のみを認めているので、現行民法上、指定相続分を認めることはできないとする否定説がある。これに対し、通説は次のような理由で指定相続分あるいは遺言相続分を認めている。すなわち、韓国民法上、遺言による包括遺贈が認められており、包括遺贈は第三者のみならず共同相続人に対してもできる。この際、包括受贈者は財産相続人と同一な権利義務があるから、結局、共同相続人に対する包括遺贈は一種の指定相続分として捉えることができるという。但し、相続分指定的包括遺贈があったとしても、相続債務には影響を及ばさないとされている。したがって、被相続人の債権者は相続分の指定にも関わらず、共同相続人に対して法定相続分に応じる請求ができると解される。

3 法定相続分

被相続人による相続分の指定がなければ、相続分の決定は民法1009 条に従って法定相続分によることになる。韓国民法が定める法定相続分は次のようである。
韓国民法1009 条(法定相続分) ①同順位の相続人が数人あるときは。その相続分は均分とする。

②被相続人の配偶者の相続分は直系卑属と共同で相続するときは直系卑属の相続分の5 割を加算し、直系尊属と共同で相続するときは直系尊属の相続分の5 割を加算する。

③削除(1990.1.13.)
韓国民法1010 条(代襲相続分)①第1001 条の規定により死亡又は欠格した者を代襲して相続人となるものの相続分は、死亡又は欠格した者の相続分による。

②前項の場合、死亡又は欠格した者の直系卑属が数人あるときは、その相続分は死亡又は欠格した者の相続分の限度において第1009 条の規定に従って定める。第1003 条第2 項の場合にも同様とする。
同順位の相続人間には均分平等相続の原則を貫いている。配偶者の相続分は直系卑属・直系尊属より5 割を加算し、代襲相続人の相続分は被代襲者の相続分に従うということは前述した。他方、2005 年の民法改正の際、扶養相続分(いわゆる、親孝行相続分)というのを新設しようとの主張があったが、立法には至らなかった。その代わり、扶養による相続分の増加は1008 条の2の寄与分規定の改正によってある程度反映されることになった。
例えば、法定相続分の規定によると相続総額を100 として具体的な相続分の計算は次のようである。

夫が死亡した場合
妻(1.5)
3/9×100
長男(1)
2/9×100
長女(1)
2/9×100
次男(1)
2/9×100
婚姻した長男が
死亡した場合
父(1)
2/7×100
母(1)
2/7×100
妻(1.5)
3/7×100
代襲相続
(父の死亡)
母(1.5)
3/9×100
長男(被代襲者)(1)
妻2/9×100×3/5
子2/9×100×2/5
長女(1)
2/9×100
次男(1)
2/9×100


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

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4 共同相続人間の相続分の公平な調整

さて、指定相続分・法定相続分が決まったからといって、各共同相続人の具体的に取得できる相続分が最終的に確定するわけではない。共同相続人間の公平を図るために民法は「特別受益者の相続分」と「寄与分」に関する規定を設けている。まず、「特別受益者の相続分」を設けたのは、共同相続人の中に特別受益者がある場合、法定相続分に従って他の共同相続人と特別受益者が均分相続することになると、特別受益者は二重の利益を得ることになり、これは共同相続人間の公平に反するからである。そして、共同相続人の中に被相続人を特別に扶養したかあるいは被相続人の財産の維持又は増加に特別に寄与をした者がいるときは、相続分の算定においてその寄与や扶養を考慮すべきである。このような「寄与分」制度もまた共同相続人間の実質的な公平を図るためである。

結局、法定相続分が定められていても、特別受益や寄与分といつ制度を通じて、共同相続人間の相続分の調整原理に基づいて具体的な相続分が確定することになるため、実際に
共同相続人間の相続財産分割によって配分される割合は、法定相続分と異なる割合になることとなる。

(1) 特別受益者の相続分

韓国民法 1008 条(特別受益者の相続分)共同相続人中に被相続人から財産の贈与を受け、又は遺贈を受けた者があるときは、その受贈財産が自分の相続分に達しないときはその不足部分の限度内で相続分がある。

(a) 特別受益者の特別受益
特別受益者の相続分に関しては韓国民法1008 条は比較的に簡単な条文で定めている。ここでいう特別受益とは、被相続人から生前贈与や遺贈として受けたもので相続分の前渡し(先給)45とみなされる利益のことである。共同相続人の中にこのような特別利益を受けた者は、他の共同相続人との公平を図るために、特別受益が自分の相続分より少ないときは、その足りない部分の限度内のみで相続分があるとしている。つまり、このような特別受益は相続分の一部であるから、各共同相続人の具体的相続分の確定に当たっては、生前贈与分や遺贈分が計算上戻されることになる。したがって、特別受益者は一応、特別受益の返還義務を負うというが、これはあくまで計算のための仮想の合算(返還)にすぎない。このような返還義務を負う特別受益者は原則として共同相続人のみである。共同相続人の直系卑属、配偶者、直系尊属が被相続人から贈与や遺贈を受けたとしても、原則としては共同相続人は具体的な相続分算定における特別受益者としての返還義務は負わない46。相続を放棄した者も他の相続人の相続分を侵害しない限りで、返還義務は負わない。代襲相続の場合は、代襲相続人が共同相続人となる場合には当然返還義務を負うが、特別利益を受ける当時相続人の地位を持っていたかは問わない。

被代襲者が特別受益を受けたときは、代襲相続人が実際の経済的利益を受けた場合にのみ返還義務を負うと解するのが通説である。
包括的な遺贈については、包括受遺者が法定相続人であるかにより、相続順位上、第2 順位以下の者として包括遺贈を受けた者が共同相続人となった場合には返還義務を負担する。
韓国民法上、返還すべき特別受益とは、生前贈与と遺贈がある。生前贈与の返還範囲については民法の定めはないが、制度の趣旨に照らして「相続財産の前渡しとして評価できるような特別な贈与」に限る。これまで学説や判例上、特別な贈与と判断してきたのは、例えば、婚姻費用、生計の資本としての贈与、巨額の婚姻式費用、他の共同相続人と異にする高等教育費(留学資金など)がある。しかし、扶養料や生活費、慣例的なお土産、お小遣い、その他の財産譲渡や債務免除は特別利益ではないとする。遺贈の場合については、その目的を問わず、返還の対象になる。
但し、遺贈の場合には相続開始の時、まだ相続財産の中に含まれているので、生前贈与のように相続財産に加算する必要はない。生命保険金や死亡退職金は相続財産ではなく、共同相続人の特別受益と解するのが通説である。


(b) 具体的相続分の算定

韓国民法には特別受益者の具体的な相続分の計算方法については詳しい定めがない。特別利益は相続分の一部であるから、特別受益者の具体的相続分は次のように決められる。まず、被相続人が相続開始の時において有している財産の価額にその特別利益(生前贈与)の価額を加えたものを相続財産とみなして、それに各共同相続人の法定相続分率を乗じて法定相続分の価額を算出する。この際、相続財産の評価は相続開始の時を基準にしているので、特別利益(生前贈与)の価額の評価も相続開始の時の価額が基準となるというのが通説である47。そして、算出された各共同相続人の法定相続分の価額から特別受益者の特別受益(生前贈与と遺贈)の価額を控除する計算方法による48。その残額を特別受益者の相続分(具体的相続分)とするということである。他方、具体的相続分の算定の基礎となる「被相続人が相続開始のときにおいて有している財産」には相続債務、すなわち、消極財産は含まれないというのが通説と判例49の態度である。つまり、相続財産の中の積極的財産の総額を意味しており、相続債務は民法1009 条に従って共同相続人に分担される。具体的な相続分の算定の結果、特別受益が相続分に足りない場合には、足りない部分の限度で相続分を受け取ることができる。これに対し、特別受益が相続分を超えていたとき、超過
特別受益者の具体的相続分はゼロになるが、その超過分を払い戻さなければならないかについては少し議論がある。これは、韓国民法の制定当時は、但し書きとして「特別受益者の相続分に関して、受贈財産が相続分を超えた場合にはその超過分の返還を要しない」という規定があったが、1977.12.31.の民法改正によってこれが削除されたからである。通説は1977 年の民法改正でこの但し書きが削除されたのは遺留分制度が導入されたからであって、超過分を返還させようとする趣旨ではないとして否定説をとっている。もし特別受益者の特別受益が本来の相続分を超えていたという事実だけで、遺留分の侵害を問わず、常に返還義務があるというのは、被相続人の意思をあまりにも制限しすぎることになるから不当だとする。判例は下級審ではあるが、超過分は遺留分の侵害がある場合のみ返還すべきであるとしている。特別受益と遺留分との関係では、遺留分には韓国民法1118 条によって1008 条が準用されるので、特別受益は遺留分には劣後する。したがって、特別受益は遺留分を侵害することができなく、遺留分との関係では実際に特別受益が返還される場合もありうる。これまでの内容を整理すれば次のようである。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
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※特別受益者があるときの具体的相続分の算定方法
① 具体的相続分=(相続財産価額+生前贈与)×法定相続率-(生前贈与+遺贈)
② 相続財産分配額=具体的相続分÷各共同相続人の具体的相続分の総合×(相続財産-遺贈額)
③ 相続利益=相続財産分配額+生前贈与+遺贈
④ 消極財産は特別受益を考慮せず法定相続分の割合で共同相続人が負担
(2) 寄与分
韓国民法1008 条の2(寄与分) ①共同相続人の中に相当の期間において同居・看護その他の方法により被相続人を特別に扶養し、又は被相続人の財産の維持又は増加について特別に寄与をした者があるときは、相続開始の当時の被相続人の財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第1009 条及び第010 条により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
②前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭法院は、前項に規定する寄与者の請求により、寄与の時期・方法及び程度と相続財産の額その他の一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
③寄与分は相続開始時の被相続人の財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
④第2 項の規定による請求は第1013 条第2 項の規定による請求があった場合又は第1014 条に規定する場合にすることができる。

(a) 寄与分制度の意義と他の制度との関係

寄与分制度は、共同相続人の中、被相続人の財産の維持や増加に寄与し、又は特別に被相続人の扶養した者があるとき、相続分の算定においてそのような寄与あるいは扶養を考慮することで、共同相続人間の公平を図るために、1990 年の韓国民法の改正により新設されたものである。特別受益制度と趣旨をともにするが、寄与分は特別受益に優先して考慮されるというのが通説である。


したがって、寄与分を算定してこの価額を控除した相続財産に基づいて特別受益者の相続分が決まることになる。他方、寄与分は相続財産の価額から遺贈の価額を控除した額を超えることができないので(1008 条の2)。また、遺贈は遺留分に劣後するという関係にある。ここで、寄与分と遺留分との関係では、どれが優先して考慮されるかが問題となっている。言い換えると、問題は遺留分を侵害する寄与分を認めることができるかに帰する。これに関して、韓国民法では、寄与分と遺留分との関係を直接に定める規定はないが、民法1115 条が遺留分返還請求権の対象に寄与分を規定していないことから、遺留分が寄与分に劣後するというのが通説である。元々遺留分制度は被相続人の遺産処分の事由を制限するための制度であり、寄与分は共同相続人の協議で決められるか又は家庭法院の審判によって決せられるにすぎなく、被相続人の意思によるものではないので寄与分を遺留分によって制限するのは妥当ではないという。さらに寄与分は本来寄与者に帰すべき財産が被相続人の財産に含まれているだけで、本質的には遺留分の返還対象とはならないからである。

通説によると、遺留分算定の基礎財産は寄与分を控除したものであるとされる。寄与分を被相続人が遺言で指定することができるかについては、遺言は法定事項に限ってすることができるので、寄与分を指定した遺言は無効である。

寄与分の請求は寄与をした相続人がすることであり、相続財産分割の請求があるとき、相続財産分割後に認知又は裁判の確定によって共同相続人となった者が価額請求することをしたときにすることができる。このような請求なくして寄与分のみを定める審判を請求することは不適法であるとして却下される。


(b) 共同相続人の寄与行為

特別受益者の相続分と寄与分制度は「共同相続人間」の相続分の公平な調整制度であるので、共同相続人たりえない者の寄与は評価されない。例えば、事実婚の配偶者、共同相続人ではない包括的受贈者などは寄与分権利者ではないとされる。相続欠格者や相続放棄者も寄与分の権利を主張することができない。かえって、共同相続人が自分の寄与ではなく、その配偶者の寄与を主張することもできない。他方、多数説によると、代襲相続人は自分の寄与のみならず、被代襲者の寄与も主張できる。


ここでいう「特別な寄与」とは、相当の期間において同居・看護その他の方法により被相続人を特別に扶養し、又は被相続人の財産の維持又は増加について特別に寄与したことである。簡単にいうと、被相続人に対する「特別な扶養」あるいは被相続人の「財産の維
持又は増加に対する特別な寄与」が必要である。第1 に、「特別な扶養」というのは2005 年の民法改正により挿入された要件である。相続財産の分割における寄与分の考慮は、寄与行為に対する対価としての意味をもっているので、共同相続人が既に寄与行為に対する相応の対価を得ていたり、法律上の義務が存在しその義務に基づいて寄与したのであるならば、寄与分として評価されるべきではないだろう。そこで、法律上の扶養義務のある共同相続人の通常の扶養は特別な寄与と評価されるわけではないが、扶養義務の順位、扶養の時期・方法に照らして「特別な扶養」として寄与分が認められる場合もありうる。判決には、成年の子が扶養の存否やその順位に関わらず長期間にわたって父母と同居し、生計維持のレベルを超える扶養をしてきた場合、扶養の時期・方法及び程度に照らして特別な扶養として寄与分に考慮すべきであると判断したものがある50。他方、相続人の被相続人に対する特別な扶養が認められたときは、それだけで民法上の寄与分の請求の要件を満たしたことになる。特別な扶養により被相続人の財産の維持や増加に寄与する必要はない。つまり、扶養と相続財産の維持や増加との間に因果関係がなくても、特別な扶養
という事実だけで寄与分の請求ができるということである。第2 に、民法上「特別な寄与」として定められているもう一つの要件は被相続人の財産の維持又は増加に対する特別な寄与である。
例えば、労務の提供や財産上の給与などであるが、配偶者の家事労働は特別な寄与とは評価されない。但し、最近、寄与分制度は、被相続人の死亡時、夫婦財産制度のあり方と関わって、夫婦財産の清算という観点から配偶者の地位を強化するに活用できる制度として学説上、注目されている。

ポリー
「寄与分は実際に使われているのでしょうか。学説上注目されるのは良いと思うのですが。」


(c) 寄与分の決定

寄与分の決定はまず共同相続人の協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、寄与者の請求により、家庭法院が寄与分を定める。寄与分は法定相続分の修正要素であって相続財産分割の前提問題なので、寄与分請求は相続財産分割請求がある場合のみ提起できるとされる。寄与分審判請求は相続財産分割事件が法院に継続中でしかすることができない。なお、相続財産の分割後に認知された子が共同相続人となって価額支給請求するとき(1014条)にも寄与分の請求ができる。しかし、寄与相続人は遺留分返還請求訴訟で、民法による寄与分の決定がなされる前には、相続財産の中から、自分の寄与があることを根拠にその寄与分の控除を抗弁として主張することはできない51。相続財産分割請求がないものの遺留分返還請求があったという事由だけでは、寄与分決定請求は許容されないとしているのである52。共同相続人たる寄与者は、他の共同相続人の全員を相手方にして寄与分を請求しなければならない。


寄与分は遺贈を超えることができないので(1008 条の2③)、相続開始の時に有している被相続人の財産価額から遺贈の価額を控除した残額を超える寄与分は認められない。具体的には被相続人の相続財産価額から寄与分を控除したものを相続財産とみなし相続分を算定する。寄与分が定められた後には、譲渡や相続の対象となるが、寄与分決定の前は、譲渡はできないが相続は肯定される。寄与分の放棄も可能である。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

5 相続分の譲渡と譲受

韓国民法1011 条(共同相続分の譲受)①共同相続人の中にその相続分を第三者に譲り渡した者があるときは、他の共同相続人は、その価額及び譲渡費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

②前項の権利はその事由を知った時から3ヶ月、その事由のあった日から1 年以内に行使しなければならない。


ポリー
「日本では1ヶ月以内ですが、韓国では少し長いです。」


共同相続人は相続開始の後、相続財産分割前にその相続分を自由に譲渡することができる。これを相続分の譲渡というが民法上にはその要件や効果に関する条文は存在しない。「相続分の譲渡」とは「相続財産分割の前に積極財産と消極財産とを包括した相続財産の全部に対して共同相続人の持つ包括的相続分、つまり相続人の地位の譲渡」を意味する53。ところが、相続分の譲渡により第三者は包括的な相続人としての地位を得ることになるので、第三者は相続財産の分割に参加しなければならないこととなる。そうなると、他の共同相続人の利害に重大な影響を及ぼすことになりかねない。


そのことで、民法1011 条は、第三者に相続分の譲渡がなされた場合、他の共同相続人は、譲渡を受けた第3 者が財産管理や財産分割に介入するのを防ぐため、その第三者に価額及び譲渡費用を償還して、その相続分を譲り受けることができると定めている。これが、「共同相続分の譲受」である。韓国民法上の共同相続人の「譲受権」という用語は実は「取戻権」を意味している。このような譲受権はその事由の知った時から3 ヶ月、事由のあった時から1 年以内に行使しなければならない。譲受権を行使して第三者に譲渡された相続分が取り戻された場合、その相続分の帰属については、全ての共同相続人に帰属されるという共同帰属説が通説である。他方、相続分の譲渡があったとしても相続人(譲渡人)は相続債務を免れることはできない。
この場合、譲受人もまた相続人としての地位を取得するものであるので、譲渡人たる相続人と譲受人は、相続債務を併存的・重畳的に引き受けると解する(通説)。

6 相続財産の分割

1 意義

韓国民法条1012(遺言による分割方法の指定、分割禁止)

韓国民法268 条(共有物の分割請求)①共有者は共有物の分割を請求することができる。しかし、5年以内の期間で分割しないことを約定することができる。

②前項の契約を更新するときは、その期間は更新した日から5 年を超えることができない。

③前2 項の規定は第215 条、第239 条の共有物には適用されない。

相続財産分割54とは相続開始によって生じた共同相続人の間の共有関係を終了させ、相続分に応じてこれを配分することで各自の単独所有と確定するための包括的な分配手続きを指す。近代の相続法理によると、共同相続人は原則として、いつでも相続財産分割を請求することができる(1013 条)。

しかし、韓国法においてこのような相続財産分割の自由は次の二つの場合に制限さ
れる。被相続人の遺言による相続財産の分割の禁止(1012 条)と、共同相続人の全員の協議による相続財産分割の禁止(268 条)がそれである。このような制限は相続財産の分割が永久に禁じられるのではなく、実質的に一定な期間、分割が延期されるだけである。相続財産の分割は共同相続人の関係を共有から単独所有への確定の手続きといえるので、相続財産の分割に当たっては、まず、相続財産に対する共同相続人の間に共有関係が存在しなければならない。そのうえ、共同相続人が確定されていて、前述したような相続財産分割の禁止がないことが必要である。

2 分割の当事者

(1) 共同相続人

原則として、相続を承認した共同相続人の全員が相続財産の分割の当事者である。しかし、共同相続人ではないが、包括的遺贈を受けた者と相続分の譲受人は、相続人と同一な地位を有するので相続財産分割の請求権者となる。共有持分を譲受した場合には、相続分の譲渡ではなく、共有持分の譲渡にすぎないから、共有持分の譲受人は相続財産分割請求はできないが共有物分割請求をすることになる。相続財産分割請求権は一身専属権ではないので、共同相続人の債権者による分割請求権の代位は許される。胎児は相続順位については、既に生まれた者とみなす(1000 条3 項)が、相続財産分割においてどのように捉えるかが問題となる。


例えば、新生者と推定される胎児や被相続人により認知された胎児が分割の当事者となるかということが問題である。韓国の判例は、胎児は胎児としている間には権利能力を有しないので、相続財産分割において胎児(法定代理人も含め)は参加することができないと判断している。民法1000 条3 項は、実際に生きて出生した場合は相続が開始された時期へ遡って出生したとみなすにすぎないという。結局、胎児が生きて出生したとしても胎児を除いてなされた相続財産分割が遡及して無効となるわけではなく、1014 条を類推適用して価額返還請求を認めることになる。これに対し、多数説は胎児である間であっても1000 条3 項により権利能力を有するとみて、共同相続人となり少なくとも理論的には法定代理人を通じて相続財産分割に参加することができるとしている。

(2) 相続人としての地位(発生・消滅)が争われている者

韓国民法1014 条(分割後の被認知者などの請求権)相続の開始後認知又は裁判の確定により共同相続人となった者が相続財産の分割を請求しようとする場合、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしたときは、その相続分に相当な価額の支払いを請求する権利がある。
相続人の地位の消滅を争っている者は、その相続人としての地位の確定前に相続財産分割がなされるときは、分割協議に参加させるべきである。例えば、新生否認の訴や新生子関係存否確認の訴が継続している者、相続欠格者・認知や婚姻又は(入養)養子縁組の効力が争われている者などは、一応相続財産分割手続きに参加する。但し、その者が相続人でないことが後に確定されれば、既になされた分割協議は無効となるとされる。これとは反対に、相続人としての地位の発生が確定される前に、相続財産分割がなされる場合はどうなるのか。この問題について、韓国民法1014 条は一応、分割の協議からその者を除いて分割できることを前提にしている。


もっとも、分割後に認知や裁判によって相続人の地位が確定されたなら、認知の遡及効などによって相続開始の時から共同相続人の地位を持っていたことになるわけである。しかし、認知又は裁判の確定の前になされた共同相続人の分割その他の処分を無効にして、再分割をしろということになると、第三者に不測の損害を与えることもありかねない。


このことは、認知の遡及効を制限する趣旨にも反するので、再分割は許されないとしたのである。但し、被認知者などの相続権を保障するため、1014 条により価額の支払いを請求できると定めているのである。この規定による請求権者となるのは、例えば、被相続人の死後に認知された者や被相続人との離婚無効あるいは破養(離縁)無効の訴訟によって無効が確定された者、被相続人に対して父を決める訴訟を起こし、その地位が確定された者は、裁判が確定される前は財産分割続きに参加できないが、確定後、その相続分に応じる価額の支払いは請求できる。ここでの価額支給請求権の性質は、相続回復請求権の一種であって短期除斥期間が適用される55。分割又は処分された相続財産から生じた果実は価額
算定の対象ではない56。

さて、価額支払い請求の相手方は他の共同相続人である。後順位相続人は韓国民法860 条(認知の遡及効)における保護される第三者ではないので、表現相続人にすぎなく1014 条の共同相続人でもない。したがって、後順位相続人が参加した相続財産分割は無効となり、民法1014 条も適用されないと解するのが通説と判例である。例えば、相続財産分割後、認知の訴によって相続人となった被認知者がある場合、被認知者より後順位の相続人である被相続人の直系尊属若しくは兄弟姉妹などは、被認知者の出現と同時にその相続権を遡及して失うこととなり、民法860 条の但書のいう認知の遡及効の制限により保護される第三者でもない57。しかも、後順位の相続人の相続財産分割は無効であって、民法1014 条も適用されないから、被認知者は後順位相続人に対し価額支払い請求権のみを請求できるということにはならない58。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

3 分割の対象となる相続財産

分割の対象たる相続財産とは被相続人が残した財産の中、一身専属的な権利義務を除くものである。あらゆる積極財産・消極財産が含まれるということは既に述べたとおりである。相続財産の共有の性質及び相続財産分割の性格や機能に照らして、相続財産の中から相続財産分割の対象から外されるものもあるので、相続財産の範囲と相続財産分割の対象とが必ずしも一致するとはいえない。

つまり、相続財産の分割というのは、共有状態のものを各共同相続人の単独所有に確
定するための手続きであるので、共有状態にないものについては、たとえ相続財産であっても相続財産分割の対象とならないことになるからである。前述したように、金銭債権などの可分債権・債務は相続と同時に法定相続分に応じて共同相続人に当然に分割され承継されるのであり、相続財産分割の対象とならないと解するのが多数説と判例である59。

判例60には金銭債務が共同相続された場合、相続財産分割の対象とならない相続債務に関して分割の協議があったならば、その協議は免責的債務引取の約定の実質を持っていると判断したものがある。したがって、債権に対する関係においてその約定をもって他の共同相続人が法定相続分に応じる債務の一部若しくは全部を免責するには、民法454 条のよる債権者の承諾が必要なのであって、ここに相続財産分割の遡及効を定めている1015 条は全く適用されないと判断した。


他方、相続財産ではないが、分割の対象となるかどうかが問題となるのが代償財産と相続開始後に相続財産から生ずる受益である。代償財産とは相続開始から相続財産分割まで相続財産の売却、滅失などによって代わりに受けた金銭その他の物件を指す。韓国では、このような代償財産と受益は元々相続財産に含まれるものであるから、相続財産と等しく分割の対象になるとされている。
さて、相続財産と相続財産分割の対象を評価する時点については、二つの場面の目的が異なっているので、その評価時点も異にする。相続財産を評価する場面では、特別受益や寄与分を財産的に評価して具体的な相続分を算定するのが目的である。相続開始時点での特別受益や寄与分を算定すべきなのであるから、相続開始時点で相続財産や特別受益、寄与分などを計算し、具体的相続分を算出することになる。これに対し、相続財産分割を行う場面では、その分割時点で存在している相続財産を分配することが目的である。ここに、多数説と判例は、相続財産分割とは共同相続人の共有財産に属する相続財産をその相続分に応じて公平と合理的であるよう分配する制度であるとした上で、相続財産分割手続きは、将来を向けて新しい権利若しくは法律関係の形成す本質的な目的とするものとしている。つまり、相続開始の当時に遡って過去の権利や法律関係の確認を目的とするものではないと判断している。したがって、相続財産分割の対象は分割する時に現存するものに限るという分割時説を支持している61。


4 分割の方法

韓国民法1012 条(遺言による分割方法の指定、分割の禁止) 被相続人は遺言で相続財産の分割方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、相続開始の時から五年を超えない期間を定めてその分割を禁ずることができる。
韓国民法1013 条(協議による分割)①前条の場合を除き、共同相続人はいつでも、その協議で相続財産の分割をすることができる。

②第269 条の規定は前項の相続財産分割について準用する。
韓国民法269 条(分割の方法)①分割の方法に関して協議が調わないときは、各共有者は、法院にその分割を請求することができる。
②現物で分割することができないとき、又は分割によって著しくその価額を減損させるおそれがあるときは、法院は、物件の競売を命ずることができる。

(1) 指定分割

被相続人は遺言で相続財産の分割方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託することができる。この際、分割方法の指定は共同相続人の全員に対して又は相続財産の全部に対してする必要はない。相続財産分割方法の指定は必ず遺言でしなければならないので、生前行為による分割方法の指定は効力がなく相続人は被相続人の意思にこだわらない62。分割方法の指定について、被相続人(あるいは指定受託者)は分割の手段や特定財産の帰属、分割の指針などを指定することができる。

問題は相続人の具体的相続分を変える指定をすることができるかである。学説は、指定受託者が相続人の具体的相続分を変えるような指定をするのは無効であるが、被相続人自らそのような指定をすることはできるという。そのような指定は相続財産分割方法に当たる
と当時に遺贈の性質を持っているものとして有効である。しかし、この場合であっても他の相続人の遺留分を害することはできない。包括的受遺者あるいは共同相続人は被相続人が遺言で指定を委託できる第三者ではない。被相続人自らの遺言による分割方法の指定とは異なって、委託された第三者が分割方法を指定するときは、その分割方法は各共同相続人の法定相続分に従うべきであり、特定な相続人にその法定相続分を超える財産を分配することはできない。


(2) 協議分割

共同相続人は遺言による分割方法の指定や第三者への委託がある場合を除き、いつでもその協議で相続財産の分割をすることができる。論理的には、その協議に先立って相続を単純承認する必要があるが、分割協議は相続財産の処分行為に当たるので(1026 条1 号)、相続人の資格で分割協議に参加した者にはその参加によって単純承認の効果が生じる63。


相続財産の協議分割は共同相続人間の一種の契約であるから、共同相続人の全員が参加しなければならなく、一部の相続人だけの協議分割や共同相続人の意思表示に代理権がない場合には無効である64。共同相続人の全員の合意があれば、協議の方法と内容には制限がない。相続財産分割協議には、民法総則編の意思表示に関する規定が適用され、この規定によって、無効・取消が認められる。また、相続編における重大な手続き違反によって無効や取消となりうる場合がある。例えば、相続財産分割手続きに無資格者が参加していたり、共同相続人の一部を除外して分割が行われたりした場合などには、なされた協議は無効となる。


このとき、共同相続人は相続回復請求ではなく、分割無効の確認及び再分割請求をすることができる。分割協議が無効あるいは取消となった場合には再分割すべきであるが、無効の分割協議によって動産を取得した第三者は善意取得することに妨げない。
問題となっているのは、相続財産分割協議を詐害行為として債権取消権の対象とできるかである。
これについて、債務超過の債務者が相続財産分割協議をし、その結果、取得した財産が具体的な相続分に相当に過小なものであったなら、債権取消権の対象となる詐害行為になりうると判断しているのが判例である65。先に述べたように、相続財産分割協議も一種の契約であるので、共同相続人の全員が分割協議を合意解除することができる。相続財産の分割協議が合意解除された場合、その協議によって変動した物権は当然にその分割協議がなかった状態に戻されるが、民法548 条1 項但し書きの規定が適用されるため、その解除の前に分割協議から生じた法律関係に基づいて新しい利害関係をもって登記・引渡などで完全な権利を取得した第3 者の権利は害することはできない66。

(3) 調停による分割

共同相続人の間に分割協議が調わないときは、各共同相続人は、家庭法院に分割審判を請求することができるが、この際、当事者は審判に先立って調停を申請すべきであり(家事訴訟法2 条1 項のマ類、家事非訴事件として調停前置主義が適用(同法50 条1 項))、調停を申請せずに審判を請求した場合には、家庭法院は特別な事情がない限り、職権で調停に回付する。相続財産分割の調停申請又は審判請求があるとき、家庭法院、調停委員会又は調停担当判事は事前処分をすることができる(家事訴訟法62 条1 項)。事前処分としては、相続財産管理人を選任する処分などがある。なお家庭法院は、相続財産分割審判事件を本案事件とする仮差し押えまたは仮処分をすることができる(家事訴訟法63 条1 項)。調停は、当事者の共同相続人の協議に基づくものであるので、実質的には、調停専担判事又は調停委員会の斡旋による協議分割ともいえる。調停が成立し、調停調書が成立した場合に、その効力に関しては、家事訴訟法59 条1 項が「調停又は確定調停に代わる決定は裁判上和解と同様の効力がある」と定めている。


これに既判力を認めるかについて、判例は無制限既判力説を支持しているが、相続財産分割と比べると、相続財産分割に関する家庭法院の審判には既判力がないものの、調停調書に分割審判よりも強い効力を与えるのは問題であるとの批判がある。

(4) 審判による分割

相続財産分割の協議が調わないとき、審判によるが、韓国民法によると、相続財産分割の審判は家事非訴事件として調停前置主義が適用されるため調停が先立つ(1013 条2 項による269 条の準用)。調停でも分割協議が成立しない場合には、共同相続人は家庭法院に分割審判を請求することができる。相続財産分割請求訴訟は、家庭法院の専属管轄に属し職権主義が適用される。なお、分割の訴えは必須的共同訴訟となるので、共同相続人全員を共同被告とし、共同相続人の一部に対する取下げは効力を生じない。共同相続人の中に相続人の抛棄、承認のための考慮期間の間には相続人の地位が確定されないので分割審判を請求することができない。さて、被相続人が共同相続人の一人に全財産を遺贈する遺言をした後死亡し相続が開始されたが、他の共同相続人が相続財産分割審判を請求したときは、その分割審判請求には遺留分返還の意思も含まれていると解することができるのだろうか。これに関しては、相続財産分割審判と遺留分返還請求はその要件及び効果を異にしているので、当然含まれているとはいえないとするのが一般である。


分割
審判請求があるときは、家庭法院は、当事者が寄与分の決定を請求することができる1 ヶ月の期間を定めて告知することができる。その指定の期間を経過して請求された寄与分決定請求は、これを却下することができる(家事訴訟規則113 条)。


分割の一般的な基準に関しては、直接の規定はないが、あらゆる事情を考慮して判断すべきである。審判によって相続財産を分割するためには、まず共同相続人が相続財産に対して有する具体相続分を確定しなければならない。具体的な算定方法については、前述した内容と後に掲げた表を参照されたい。具体的な相続分を算定し、分割方法を検討するためには、相続財産と特別受益財産の適切な評価が先行されるべきである。寄与分若しくは特別受益などの算定を通じて具体的相続分を定めるための相続財産の評価は既に述べたように、相続開始時を基準とする。これに対し、現実的に相続財産を分割するための相続財産の評価は相続開始時ではなく、相続財産分割時である。

相続財産分割審判において、相続人の範囲や相続財産の範囲などの相続財産の先決問題が確定していなければ分割しようがない。ところが、分割審審判の前提となる相続人や相続財産の範囲等に関する判断は、訴訟事項であるため、訴訟(民事訴訟)によって確定しなければならない。これについて、学説は相続財産分割審判の手続きの中で、先決問題として相続人や相続財産の範囲などの実体的権利義務関係についても判断することができるという。つまり、相続財産分割審判で、先決問題となっている相続人や相続財産の範囲などについて争いがある場合でも、共同相続人全員に特別な異議がなければ分割審判手続きの中で解決することができる。しかし、そうでなく、共同相続人の間にその問題に関して深刻な争いのある場合には、いったん相続財産分割の手続きは取り下げて、訴訟による判断を待って確定してから、相続財産分割審判を起こし直すしかないだろう。

相続財産分割審判を棄却した審判に対しては、請求人が、分割を命じた審判に対しては、当事者又は分割される財産に制限物権を有している法律上の利害関係人は、直時抗告することができる。とりわけ、審判請求が認容された場合にも、その分割の方法二関して不服があるとき直時抗告できるというのは特徴である。直時抗告期間の経過あるいは抗告の放棄・取り下げ、抗告審の終局裁判によって確定される。確定された分割審判の効力については、既判力はないが形成力と執行力はある。
韓国における相続財産の分割審判における判断の流れは次のようである。

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相続に関する法律 韓国⑫
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
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5 相続財産分割の効果

(1) 遡及効

韓国民法1015 条(分割の遡及効)相続財産の分割は相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

相続財産が分割されれば、共同相続人間の共有状態が、相続開始の時に遡ってその財産が既に相続人の単独所有であったことになる。例えば、相続財産の分割の協議により共同相続人の一部が固有の相続分を超える財産を取得することになったとしても、これは相続開始の時に遡って被相続人から直接に承継されたと考えるべきであり、他の共同相続人から贈与されたものだとみなすべきではない67。実務では、相続登記と関わって、被相続人から買収した不動産が協議分割によりその共同相続人の一人の名義で相続登記がなされた場合、他の共同相続人がその持分所有権移転登記の手続きを行う義務があるかについて議論がある。大法院は、協議分割により共同相続人の一人の名義で相続登記がなされた場合、協議分割の遡及効によって、他の共同相続人は当該の不動産を相続したとはいえないし、現在の登記簿上の名義人でもないので登記義務者となるわけでもないから、その不動産に対する持分所有権移転登記の手続きを履行する義務もないと判断している68。


相続分割の遡及効で第三者の権利を害することはできない。ここの第三者とは、相続財産分割の以前に利害関係を結んだ者を意味し、善意か悪意かは問わないが、民法の定める権利変動の成立要件と対抗要件を備えたものでなければならない。学説と判例はさらに第三者の範囲を広げて、分割後登記前に利害関係を有している善意の第三者も含まれるという69。


(2) 共同相続人の担保責任

韓国民法1016 条(共同相続人の担保責任)共同相続人は、他の共同相続人が分割によって取得した財産について、その相続分に応じて、売主と同じく担保の責任を負う。
韓国民法1017 条(相続債務者の資力に対する担保責任)①共同相続人は他の相続人が分割によって取得した債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。

②返済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については返済をするべき時における債務者の資力を担保する。

韓国民法1018 条(無資力共同相続人の担保責任の分担)担保責任のある共同相続人の中に償還の資力のない者があるときは、その負担部分は求償権者及び資力のある他の共同相続人が、それぞれの相続分に応じて分担する。ただし、求償権者の過失によって償還できなかったときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。

7 相続の承認と放棄、相続人の不存在

1 相続人の相続拒否の自由

(1) 相続の承認と抛棄の立法趣旨

相続人に包括的に承継される相続財産には、権利だけではなく、義務も含まれているので、これを強制的に相続させることは望ましくない。したがって、韓国民法は、相続人に相続するかどうかについて選択権を付与することによって相続人を保護している。相続の「承認」と相続の「抛棄」70がそれである。相続の承認とは、相続の効果を拒まないと宣言することである。このような相続の承認には、権利・義務を全面的に受け入れる「単純承認」と、承認はするものの、被相続人の債務と遺贈による債務は相続財産の範囲内で返済するだけで、相続人の固有財産をもって責任を負うことにはならない「限定承認」とがある。相続の抛棄とは、相続開始のとき発生した権利・義務の承継を相続開始にさかのぼって消滅させようとする相続人の意思表示のことを指す。承認・抛棄はどれでも相手方のない単独行為であり、相続人の行使上の一身専属権である。
承認・抛棄は相続開始後(相続開始事実を知ってから3ヶ月以内)に行使できるので、相続開始の前の抛棄は認められない。判例によると、相続人の一人が、被相続人の生前に相続を抛棄することを約定したことがあっても、相続開始後に民法の定める手続きと方式に従って相続の抛棄をしない以上、相続開始後にあらためて自分の相続権を主張することが権利の濫用又は信儀則に反するとはいえないとして、正当な権利行使と判断したものがある71。


(2) 考慮期間
韓国民法1019 条(承認・抛棄の期間)①相続人は相続開始があったことを知ったときから3 ヶ月以内に単純承認又は限定承認、放棄をすることができる。ただし、その期間は利害関係人又は検事の請求によって家庭法院がこれを延長することができる。

②相続人は第1 項の承認又は放棄をする前に相続財産を調査することができる。
③第1項の規定に関わらず、相続人は相続債務が相続財産を超えたという事実を重大な過失なく第1 項の期間内に知らず単純承認(第1026 条の規定によって単純承認した者とみなす場合を含む)をした場合にはその事実を知った時から3 ヶ月以内に限定承認をすることができる。
韓国民法1020 条(制限能力者の承認・抛棄の期間)相続人が制限能力者であるときは、第1019 条第1 項の期間は、その親権者又は後見人が相続の開始があったことを知ったときから起算する。
韓国民法1021 条(承認・抛棄期間の計算に関する特則)相続人が承認又は抛棄をしないで第1019 条第1 項の期間内に死亡したときは、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったとこから第1019 条第1 項の期間を起算する。


韓国民法1022 条(相続財産の管理)相続人はその固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、単純承認又は抛棄したときは、この限りでない。
韓国民法1023 条(相続財産の保存に必要な費用)①法院は、利害関係人又は検事の請求によって相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。

②法院が財産管理人を選任したときは、第24 条から第26 条までの規定を準用する。
韓国民法上、このような相続人の相続拒否の自由は、期間によって制限される。詳しくいうと、相続人は、相続を承認するか抛棄するかを相続開始の事実を知ったときから3 ヶ月以内に決めなければならない(1019 条)。これを「考慮期間」と呼ぶ。相続人はこの期間中に相続財産を調べることができる。相続人の積極的な選択がないままこの期間が過ぎてしまったときは、単純承認したものとみなされることになる(1026 条2 号)72。学説と判例は、民法1019 条1 項の考慮期間を除斥期間と解している73。韓国民法1019 条1 項は、「相続の開始があったことを知ったとき」を起算点としているが、これについては、見解が分かれている。通説及び判例は、相続人が相続の開始の事実を認識し、さらに自分が相続人となったことを認識したときを意味するという(相続人地位人認識説)。相続人が相続財産を認識したかどうか、相続の承認・抛棄制度を認識していたかどうかは、1019 条1 項の期間の進行に影響を及ぼさない。


つまり、判例は、相続人が相続開始のことは認識したが、自分が相続人となったことを知らなかったときは74、考慮期間は進行しないと解するが、ひるがえって、相続開始及び相続人となった事実は知ったが、相続財産の存否や相続の承認・抛棄制度の存在を知らなかったときは、1019 条1 項の期間の進行には妨げないと判示している75。これに対して、少数ではあるが、相続開始があったことを知ったときとは、相続開始の事実と自分が相続人となったことを知って、かつ積極・消極の相続財産の存在を知ったときから起算すべきであると解する見解もある。これによると、相続人の承認や抛棄を考慮できるような積極・消極財産の存在を知らなかったら、考慮期間は起算されないとする。起算点に関する特則としては、相続人が制限能力者である場合(1020 条)、承認・抛棄しないで死亡した場合(1021 条)がある。

2002 年に新しく設けられた1019 条3 項は、単純承認の擬制による違憲性を立法的に解決したものとされる。つまり。考慮期間が過ぎた場合であっても、相続人が、「相続債務が相続財産を超えること」を重大な過失なく知らなかったときは、その事実を知った時から3 ヶ月以内に再び限定承認をすることができると定めたのである。


ポリー
「法律で3ヶ月の例外を認めたのですね。」


他方、利害関係人又は検事の請求により家庭法院は考慮期間を延長することができる(1019 条但書)。考慮期間中に当事者の責任のない事由で期間延長請求ができなかったときは、その事由がなくなったときから2 週間以内に延長請求ができる。
(3) 承認と抛棄の取消しの禁止
韓国民法1024 条(承認・抛棄の取消の禁止)①相続の承認及び抛棄は、第1019 条第1 項の期間内でも、これを取消すことができない。
②前項の規定は、総則編の規定により取消しをすることを妨げない。しかし、その取消権は追認することができる時から3 ヶ月、承認又は抛棄の時から1 年内に行使しなければ、時効によって消滅する。
韓国民法1022 条(相続財産の管理)相続人はその固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、単純承認又は抛棄したときは、この限りでない。
韓国民法1031 条(限定承認と財産上権利義務の不消滅)
相続の承認及び抛棄の取消は考慮期間内でも取消すことができないが、民法総則編の規定による取消を妨げない。日本民法919 条4 項は、限定承認又は抛棄を総則編により取消しをするにはその旨を家庭裁判所に申述することを定めているが、韓国民法にはそのような規定はない。相続人が限定承認するときは、相続人の被相続人に対して有していた権利義務は消滅せず、相続財産の管理義務も存続する。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


2 相続の承認


(1) 単純承認

韓国民法1025 条(単純承認の効果)相続人が単純承認したときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
韓国民法1026 条(法定単純承認)次に掲げる事由のある場合には、相続人が単純承認したものとみなす。
1.相続人が相続財産について処分行為をしたとき。
2.相続人が第1019 条第1 項の期間内に限定承認又は抛棄をしなかったとき。
3.相続人が限定承認又は抛棄をした後に相続財産を隠匿し、不正消費し、又は故意で財産目録に記載しなかったとき。
韓国民法1027 条(法定単純承認の例外)相続人が相続を抛棄したことによって次順位相続人が相続を承認したときは、前条3 号の事由は相続を承認したものとみなさない。
相続人が単純承認をしたときは、相続人の固有財産と相続財産が混同され、相続人は相続債務について無限の責任を負うことになる。単純承認の効果が確定すれば、限定承認若しくは抛棄の申告が受付されても効力がない。ただし、特別限定承認(1019 条3 項)の申告は受理することができる。一定な事由のあるときは、単純承認したものと看做される(法定単純承認1026 条)。


(2) 限定承認

韓国民法1028 条(限定承認の効果)相続人は相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを条件として、相続を承認することができる。
韓国民法1029 条(共同相続人の限定承認)相続人が数人あるときは、各相続人はその相続分に応じて取得する財産の限度においてその相続分による被相続人の債務と遺贈を弁済することを条件として、相続を承認することができる。
韓国民法1030 条(限定承認の方式)①相続人が限定承認するには、第1019 条第1 項又は第3 項の期間内に、相続財産の目録を添付して法院に限定承認の申告をしなければならない。
②第1019 条第3 項の規定により限定承認をしたときは、相続財産中に既に処分した財産がある場合には、その目録とともに提出しなければならない。
韓国民法1031 条(限定承認と財産上権利義務の不消滅)相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対する相続人の財産上の権利義務は消滅しない。
韓国民法1032 条(債権者に対する公告、催告)①限定承認者は、限定承認をした後5 日以内に、一般相続債権者と遺贈者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその債権又は受贈を申告すべき旨を公告しなければならない。この期間は、2 ヶ月以上でなければならない。
②第88 条第2 項、第3 項と第89 条の規定は前項の場合に準用する。
韓国民法1033 条(催告期間中の弁済の拒絶)限定承認者は、前条第1 項の期間の満了前には、相続債権の弁済を拒むことができる。
韓国民法1034 条(配当弁済)①限定承認者は、第1032 条第1 項の期間が満了した後に、相続財産をもって、その期間内に申告をした債権者と限定承認者が知っている債権者に、それぞれの債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権のある債権者の権利を害することはできない。
②第1019 条第3 項の規定により限定承認をしたときは、その相続人は相続財産において残っている相続財産とともに既に処分した財産の価額を合わせたものをもって第1 項の弁済をしなければならない。ただし、限定承認をする前に相続債権者や遺贈者に対して弁済した価額は既に処分した財産の価額から除外する。
韓国民法1035 条(返済期前の債務などの返済)①限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
②条件のある債権又は存続期間の不確定な債権は、法院が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。
韓国民法1036 条(受贈への返済)限定承認者は、前2 条の規定に従って相続債権者に弁済を完了した後でなければ、遺贈者に弁済をすることができない。
韓国民法1037 条(相続財産の競売)前3 条の「規定に従って弁済するために相続財産の全部又は一部を売却する必要があるときは、民事執行法に従って競売に付さなければならない。
韓国民法1038 条(不当な返済などによる責任)①限定承認者が第1032 条の規定による公告若しくは催告することを怠り、又は第1033 条から第1036 条までの規定に違反してある相続債権者若しくは遺贈者に弁済をすることができなくなったときは、限定承認者は、その損害を賠償しなければならない。第1019 条第3 項の規定に従って限定承認をしたときに、その以前に相続債務が相続財産を超えたことを知らなかったことに過失のある相続人が相続債権者若しくは遺贈者に弁済をしたときも、同様とする。
②第1 項の前段の場合、弁済を受けなかった相続債権者又は遺贈者は、その情を知って弁済を受けた相続債権者又は遺贈者に対して求償権を行使することができる。第1019 条第3 項の規定に従って限定承認をしたときは、その以前に相続債務が相続財産を超過することを知って弁済を受けた相続債権者又は遺贈者があるときも、同様とする。
③第766 条の規定は、第1 項及び第2 項の場合について準用する。
韓国民法1039 条(申告をしなかった債権者など)第1032 条第1 項の期間内に申告をしなかった相続債権者及び遺贈者で限定承認者に知られなかったものは、相続財産の残余がある場合にのみその弁済を受けることができる。ただし、相続財産について特別担保権があるときは、この限りでない。
韓国民法1040 条(共同相続財産とその管理人の選任)①相続人が数人あるときは、法院は、各相続人その他の利害関係人の請求により共同相続人の中から、相続財産の管理人を選任することができる。
②法院が選任した管理人は、共同相続人を代表して相続財産の管理及び債務の弁済に関する一切の行為をする権利義務がある。
③第1022 条、第1032 条ないし前条の規定は、前項の管理人について準用する。しかし、第1032 条の規定に従って公告する5 日の期間は管理人がその選任があったことを知ったときから起算する。
限定承認の方式については、日本民法とほぼ同様であるが、韓国民法1029 条は、相続人が数人あるとき、各相続人はその相続分に応じて取得する財産の限度でその相続分による被相続人の債務と遺贈を返済することを条件として相続を承認することができると定めているので、必ずしも共同相続人全員が共同して限定承認する必要はない。これは、限定承認の意思表示は共同相続人全員が共同してのみなすことができる日本民法923 条と異なる点である。限定承認をするためには、考慮期間内に(1019 条1 項又は3 項)、相続財産目録を添付し法院に限定承認の申告をしなければならない。限定承認の効果は、次のように三つの効果があると説明されているのが一般である。

第1 に、限定相続人は、物的有限責任を負うこと、第2 に、限定承認があるときは、相
続財産と相続人の財産の分離があること(1031 条)、第3 に、限定相続人は相続財産管理義務があるということである。限定承認をした相続人は、相続債務などが相続財産を超えても相続財産の限度内において弁済する責任を負うのみで相続人自分の財産をもって弁済することはない。しかし、このように相続財産の限度内で有限責任を負うということは、責任の範囲が相続財産に限定されるという意味にすぎないので、限定承認をする相続人は相続債務などの全額を承継することとなるが、債務と責任が分離され相続人の固有財産が相続債務などの(強制執行)責任財産となるわけではないということである。したがって、限定承認者は債務の全額を承継するのであるから、相続債権者は、限定承認者に対し相続債務の全額の履行を請求する訴訟を提起することができる。この場合、相続債務全額の支払いを命ずることとなるが、限定相続人が相続により取得する相続財産の限度で支払いすべき旨の留保付判決を下すことになるとされる。限定承認の申告があって、法院が限定承認申告を受理すれば、被相続人の債務に対する相続人の責任は相続財産に限定され、その相続相続債権者は原則として相続人の固有財産に対して強制執行することはできない76 77。

しかし、韓国民法は、単純承認しとものとみなされる場合(1026 条3 項)を除いて、
限定承認をした相続人の処分行為自体を直接的に制限する規定をもうけていないため、限定相続人の相続財産処分行為が当然に制限されるとはいえない。しかも、限定承認だけで、相続債権者に相続財産に関する優先的な地位を与える規定もないので、限定承認があった場合、相続債権者が相続財産に関して、限定承認者から担保権を取得した固有債権者に対して優先的な地位を主張することはできないとしたのが判例である78。この場合おいて、その優劣は民法上の一般原則によるべきであるとする。


韓国民法は、相続人が限定承認をしたときは、被相続人に対する相続人の権利義務は消滅しないと定めているが、これは、混同による権利消滅の例外を規定したものと解されている。この規定は、被相続人と相続人との権利義務だけでなく、被相続人と相続人が同一の権利義務を第三者に対してもっといる場合にも適用される。なお、相続人が被相続人の保証人となったときも適用されるので、相続人が限定承認をしても相続人の保証債務は存続する。限定承認による清算手続きについては、日本民法とほぼ同様である。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
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3 相続の抛棄
韓国民法1041 条(抛棄の方式)相続人が相続を抛棄しようとするときは、第1019 条第1 項の期間内に家庭法院に申告しなければならない。
韓国民法1042 条(抛棄の遡及効)相続の抛棄は、相続開始の時にさかのぼってその効力がある。
韓国民法1043 条(抛棄した相続財産の帰属)相続人が数人ある場合に、相続人が相続を抛棄したときは、その相続分は他の相続人の相続分の割合に応じてその相続人に帰属する。
韓国民法1044 条(抛棄した相続財産の管理義務の継続)①相続を抛棄した者は、その抛棄によって相続人となった者が相続財産を管理するまで、その財産の管理を続けなければならない。
②第1022 条と第1023 条の規定は、前項の財産管理について準用する。
相続の抛棄については、民法にその方式と手続きが法定されているので、これに従わなければその効力がない79。相続の抛棄は、相続人の法院への単独の意思表示で、包括的・無条件的にしなければならない。したがって、相続抛棄には財産目録の添付や特定の必要がなく、たとえ相続抛棄書に相続財産の目録を添付したとしても、その目録に記載された不動産及び記入漏れた不動産の諸般事情に照らし合わせて相続財産を参考資料として例示したものにすぎないと判断される以上、抛棄の当時、添付された財産目録に含まれていなかった財産の場合であっても、相続抛棄の効力が及ぶというべきである80。相続人が数人あり、その相続人の一人が相続を抛棄した場合、抛棄した相続分の帰属については、韓国民法1043 条が、他の相続人に相続分の割合で帰属されることを定めている。

日本民法にはない規定であるが、相続の抛棄には遡及効があるので始めから相続人とならない結果(日本民法939 条)、韓国民法の定めるのと同様になるはずである。

4 相続財産の分離

韓国民法1045 条(相続財産の分離請求)①相続債権者又は受贈者、相続人の債権者は、相続開始の時から3 ヶ月以内に相続財産と相続人の固有財産の分離を法院に請求することができる。
②相続人が相続の承認若しくは抛棄をしない間には、前項の期間の経過後も、財産の分離を法院に請求することができる。
韓国民法1046 条(分離命令と債権者などに対する公告、催告)①法院が前条の請求によって財産の分離を命じたときは、その請求者は5 日以内に一般相続債権者及び遺贈者に対し、財産分離の命令があったこと及び一定の期間内にその債権又は受贈を申告すべき旨を公告しなければならない。その期間は2 ヶ月以上でなければならない。
②第88 条2 項、第3 項、第89 条の規定は、前項の場合について準用する。
韓国民法1047 条(分離後の相続財産の管理)①法院が財産の分離の命じたときは、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
②法院が財産管理人を選任したときは、第24 条から第26 条までの規定を準用する。
韓国民法1048 条(分離後の相続財産の管理義務)①相続人が単純承認をした後でも、財産分離の命令があったときは、相続財産について、自分の固有財産におけるのt 同一の注意をもって管理しなければならない。
②第683 条から第685 条までの規定及び第688 条第1 項、第2 項の規定は前項の場合について準用する。
韓国民法1049 条(財産分離の対抗要件)財産分離は、相続財産の不動産については、これを登記しなければ、
第三者に対抗することができない。
韓国民法1050 条(財産分離と権利義務の不消滅)財産分離の命令があったときは、被相続人に対する相続人の財産上の権利義務は消滅しない。
韓国民法1051 条(弁済の拒絶と配当弁済)①相続人は第1045 条及び第1046 条の期間満了前には、相続債権者及び遺贈者に対して弁済を拒むことができる。
②前項の期間満了後に、相続人は相続財産をもって、財産分離の請求又はその期間内に申告した相続債権者及び遺贈者に、それぞれの債権額又は遺贈額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
③第1035 条から第1038 条までの規定は、前項の場合について準用する。
韓国民法1052 条(固有財産からの弁済)①前条の規定による相続債権者及び遺贈者は、相続財産をもって全額の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有財産から弁済を受けることができる。
②前項の場合に相続人の債権者は相続人の固有財産から優先弁済を受ける権利がある。
5 相続人の不存在韓国民法1053 条(相続人のない財産の管理人)①相続人の存否が明らかでないときは、法院は第777 条の規定による被相続人の親族その他の利害関係人又は検事の請求によって相続財産管理人を選任し、遅滞なくこれを公告しなければならない。
②第24 条から第26 条までの規定は、前項の財産管理人に準用する。
韓国民法1054 条(財産目録提示と状況報告)管理人は相続債権者若しくは遺贈者の請求のあるときは、いつでも相続財産の目録を提示しその状況を報告しなければならない。
韓国民法1055 条(相続人の存在が明らかになった場合)①管理人の任務は、その相続人が相続の承認をした時に終了する。
②前項においては、管理人は遅滞なくその相続人に対して管理の計算をしなければならない。
韓国民法1056 条(相続人のない財産の清算)①第1053 条第1 項の公告があった後3 箇月以内に相続人の存否を知ることができないときは、管理人は、遅滞なく、一般相続債権者と遺贈者に対して一定な期間内にその債権又は受贈を申告すべき旨を公告しなければならない。その期間は、2 ヶ月以上でなければならない。
②第88 条第2 項、第3 項、第89 条、第1013 条から第1039 条までの規定は、前項の場合について準用する。
韓国民法1057 条(相続人捜索の公告)第1056 条第1 項の期間が経過しても相続人の存否を知ることができないときは、法院は管理人の請求によって、相続人があるならば一定な期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。その期間は、1 年以上でなければならない。
韓国民法1057 条の2(特別縁故者に対する分与)①第1057 条の期間内に相続権を主張する者がないときは、家庭法院は被相続人と生計を同じくしてた者、被相続人の療養看護に努めた者その他の被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、相続財産の全部又は一部を分与することができる。
②第1 項の請求は第1057 条の期間の満了後2 ヶ月以内にしなければならない。
韓国民法1058 条(相続財産の国家への帰属)①第1057 条の2の規定によって分与されなかった財産は、国家に帰属する。
②第1055 条第2項の規定は、第1 項に準用する。
韓国民法1059 条(国家帰属財産に対する弁済請求の禁止)前項1 項においては、相続財産から弁済を受けなかった相続債権者若しくは遺贈者があるときでも、国家に対してその弁済を請求することはできない。
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8 韓国相続法における生存配偶者の地位

1 現行韓国民法(相続編)における配偶者の地位

(1) 相続順位
韓国民法1003 条(配偶者の相続順位) ①被相続人の配偶者は第1000 条第1 項第1 号と第2 号の規定による相続人がある場合にはその相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。
②第1001 条の場合に相続開始以前に死亡又は欠格した者の配偶者は同条の規定による相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。
韓国民法の規定によると被相続人の配偶者は被相続人の直系卑属と同順位で共同相続人となり、その直系卑属がいないときには被相続人の直系尊属と同順位で共同相続人となる。被相続人の直系卑属と直系尊属ともにいないときには、被相続人の配偶者は単独相続人となる。

(2) 相続分

韓国民法1009 条(法定相続分) ①同順位の相続人が数人あるときはその相続分は均分とする。
②被相続人の配偶者の相続分は直系卑属と共同で相続するときは直系卑属の相続分の5 割を加算し、直系尊属と共同で相続するときは直系尊属の相続分の5 割を加算する。

③削除(1990.1.13.)

配偶者の相続分は被相続人の直系卑属あるいは直系尊属の相続分の5 割を加算する(直系卑属の相続分:配偶者の相続分=1:1.5)。ここでの相続権のある配偶者とは法律上の配偶者でなければならず、婚姻中でならば、別居中であるか、事実上離婚状態であるかなどは問題にならない。
離婚訴訟中の場合も同じである。重婚の配偶者も法律上の配偶者であることには間違いないので、重婚が取り消されない限り相続権がある。但し、このような場合、その相続分は重婚配偶者のそれぞれが1.5 の割合で相続するのではなく、他の共同相続人の相続分を侵害しないように、法律上認められる配偶者の相続分である1.5 の相続分を重婚配偶者の二人が各1.5 の2分の1 である0.75 の割り合いで分けて相続するとされる。問題は取消事由のある婚姻関係にある夫婦の一方が死亡し相続が開始された後、その婚姻の取消判決が確定した場合、既になされた配偶者の相続権の効力である。これは婚姻取消の効力に遡及効があるのかの問題であり、特に重婚配偶者の一方が死亡した後に重婚が取り消された場合に重要な問題になる。


学説は相続人資格喪失説と相続
人資格維持説に分かれているが、判例は婚姻取消には遡及効がないとして生存(重婚)配偶者の相続権には影響を及ばさないと解している。つまり、婚姻取消の場合、韓国民法824 条は「婚姻の取消の効力は遡及しない」と定めているだけで、財産相続等に関して遡及効を認める規定がない限り、婚姻中に夫婦の一方が死亡しその配偶者に相続が開始された後に婚姻が取消されたとしても、既になされた相続関係が遡及して無効となったりその相続された財産が法律上原因なしで取得したもの(不当利得)となるとはいえないと判断した81。他方、事実婚の配偶者は相続権はないが、特別縁故者として被相続人の財産について分与請求をすることはできる。但し、このような分与請求権は相続権とはいえない。

2 現行配偶者相続制度の問題点

韓国において配偶者相続制度は、夫婦財産制度の清算が先になされる外国の相続制度と異なり、相続法においてのみ保護される。配偶者の相続分は、共同相続人の相続分に5 割を加えたものになるが、ここには次のようないくつかの問題点があると指摘されてきた。

(1) 相続分の問題―配偶者の相続分の可変性

現行民法1009 条(法定相続分)2 項は「被相続人の配偶者の相続分は直系卑属と共同で相続するときは直系卑属の相続分の5 割を加算し、直系尊属と共同で相続するときは直系尊属の相続分の5 割を加算する」と定めている。この規定によると、配偶者の相続分は血族相続人より5 割加算はされるが、頭割りによるので、必ずしも被相続人の相続財産に対して相続分が2分の1 が確保されるわけではない。例えば、被相続人の直系卑属が1 人であれば配偶者の相続分は60%であるが、直系卑属が2 人の場合には約43%、直系卑属が4 人の場合には約27%となる。このように、今の韓国民法の規定は、共同相続人の数が多くなればなるほど、配偶者の相続分が減少するという非常に大きな問題があることが以前から指摘されてきた。

 

(2) 夫婦財産関係の清算と配偶者相続分

韓国民法が制定されたときから現在に至るまで、夫婦財産関係に対する韓国国民の視覚には大きな変化があった。このような変化を端的に表しているのが、1990 年の韓国民法改正により導入した離婚時の財産分割請求権である(839 条の2)。判例によると、「財産分割制度は、夫婦が婚姻中に取得した財産を夫婦の実質的な共同財産とみなした上で82、一方の配偶者が所得活動をなさず家事と育児を担った専業主婦であっても、相手方の配偶者の財産取得(若しくは維持・増加)に寄与したと評価され、その財産に潜在的な共有持分を持っているものとみなす制度である」としている83。


したがって、財産分割は、無償の贈与とは性質を異にしており、元々夫婦の各自に属すべきであったものを婚姻の解消に当たって各自の分を各自に帰属させるという意味を持っ
ている。このように、現在韓国民法においては、離婚による婚姻の解消のとき、夫婦の間の実質的な共有関係が清算されうる離婚時の財産分割請求権が認められている。ひるがえって、死亡による婚姻の解消のときには、生存配偶者は血縁相続人とともに、被相続人の財産を相続するのみで、配偶者の財産に対して実質的な共有持分に基づく清算を請求することはできない。しかし、相続人の財産の中には、死亡した配偶者(被相続人)の財産のみならず、生存配偶者の財産も含まれているものの、生存配偶者がその財産に関して自分が持っている持分を請求することができないということは、離婚時の財産分割とは異なり、つじつまが合わないのである。

しかも、上記で述べたように、現在の韓国民法上、配偶者の法定相続分によると、共同相続人が多数あればあるほど、生存配偶者の相続分は少なくなり、場合によっては、実際に被相続人の財産に対して生存配偶者が持っている共有持分より少ない額を相続分として受け取るしかない場合もありかねない。
今日では、直系卑属が被相続人の相続財産の形成に実際に寄与することはあまりないという現実を考慮に入れると、直系卑属が相続人として受けるべき相続分は、形式的にも実質的にも被相続人の財産であって、さらにそうである。

要するに、被相続人の財産とされるもの中には、生存配偶者の財産に属すべき財産も含まれているにもかかわらず、その財産の維持・増加になんの寄与もしていない直系卑属に、その財産が相続されてしまうという結果になりかねない。このような場合、生存配偶者は、被相続人の財産からは、せいぜい自分の実質的な共有自分を相続分として受けるか、それとも場合によっては、それにも至らない部分を相続することとなり、ほぼ相続分というまでもない額を受けるしかない。そのことから、現在韓国の多くの学説は、「夫婦財産関係の清算」という観点から、離婚により婚姻が解消されるときと、配偶者の死亡により婚姻が解消されるときとの結果が違ってくるのは不当であると批判してきたのである84。1990 年の民法改正のときに導入された離婚時の財産分割制度が、婚姻中に取得した財産を夫婦の実質的な共有財産とみなすという前提にたっている以上、離婚によって婚姻が解消されるときのみならず、死亡によって婚姻が解消されるときにも、夫婦の実質的な共有関係を清算して、そもそも各自のものを各自に帰属させるのが論理的に貫いているからである。このように、夫婦財産制度と配偶者相続とは密接な関係にあり、法定夫婦財産制度のあり方は配偶者相続の問題において非常に重要な意味を持つといえる。つまり、夫婦一方の死亡による婚姻解消時にも夫婦財産関係の清算が認められるべきであるなら、配偶者の相続分のみならず他の共同相続人の相続分も変わってくるわけである。したがって、韓国において至急な問題は、配偶者の相続分の形式的な調整というよりは、「法定夫婦財産制度」の改正が必要であるとの主張がみられるようになったのである。

(3) 生存配偶者の生活保障の強化の必要性

韓国の通計庁の2012 年出生死亡通計によると、2012 年人口1000 名中、死亡者数267.3 名当たり死亡当時の年齢が70 歳以上の場合は、172.5 名であって全体の約65%に及ぶという。このように超高齢化に進行している韓国の事情に照らして、被相続人の平均年齢が高くなるにつれて相続開始の時に第1 順位の被相続人の直系卑属の年齢も高くなったということを意味する。したがって、もはや扶養請求権を有していない直系卑属への相続による扶養の必要は少なくなり、むしろ、年齢の高い配偶者の扶養の要請が相続法において考慮すべき重要な問題となっているといえる。つまり、子女が自発的に被相続人の生存配偶者を扶養しない限り、生存配偶者の生計手段といえるのは、夫婦別産制度下の韓国においては自分名義の財産を除いて、配偶者(被相続人)の死亡による相続財産しかない。現行の韓国の相続法は、このような現実を反映するには非常に不十分なものだという批判がある。

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相続に関する法律 韓国⑯
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


3 配偶者の相続権の改善・強化に関する韓国の議論

(1) 配偶者の相続分の画一的な強化議論

従来、韓国において配偶者の相続権の強化というのは、パラレルに相続分の強化という方向で法律の改正や学説上の議論がなされてきたといえる。比較法的にも相続分や相続順位の強化は、配偶者の相続法上地位を強化するための普遍的な方案として主張されてきたのである。まず、実際に行われた韓国の立法の変遷をみても、配偶者の相続権に関しては、制定を含め3回(1960 年、1977 年、1990 年)の相続法の改正には、配偶者の相続分を増加させようという方向と目的があったのである。従来又は現在までも学説は、配偶者の相続分を増加すべきであるという主張が多い85。

例えば、配偶者の相続分を、共同相続人の数を問わず、確定的に2 分の1 にするか、少なくとも3 分の1 は保障できる規定を設けるべきであるなどが主張された。しかし、現在の学説は、形式的な相続分の引き上げではなく、次の議論でみるように、夫婦財産制度との連携や死亡による婚姻の解消時の清算の仕組みという前提から、合理的な相続権の地位の強化が求められている。
なぜなら、配偶者の相続分の形式的な引き上げは、婚姻の期間が長く継続されてきた場合にはそれほど問題ではないが、婚姻の期間がわりと短かったときにまで、配偶者であったという地位から多くの相続分を認めることは、韓国国民の法感情には相応しくないという批判が強くなったからである。
それにもかかわらず、配偶者の相続分を現行法より引き上げて、直系卑属と共同相続するか直系尊属と共同相続するかを問わず、一定の範囲内で(例えば、「相続財産の3 分の2」)取得できるように改正するのが妥当だという主張も依然として有力である86。その根拠は、次でみる夫婦財産制度と配偶者相続制度とを連携すべきとの議論は、「公平な清算」という観点からはもっとも望ましいともいえるが、相続においては、離婚時の財産分割と異なって、「法律関係の明確性」あるいは「法的安定性」がより重要な要請である。


そして、そのような要請は、相続において一層強調すべきものであるとした上で、共同相続人間の紛争をもたらすような相続法の改正は望ましくないとする。そこで韓国民法1009 条の2 項のみを改正し、被相続人の配偶者の相続分は相続財産の3分の2と定めるべきだと主張する学者も少なくない。もちろん、このような見方は、配偶者が相続財産の形成に実際に寄与したと評価できないとき、例えば、被相続人が再婚であったり、婚姻の期間があまりにも短かったりしたときにまで、画一的に適用するのは不合理であるとの批判を免れない。

これに対して、アメリカのように婚姻期間によって配偶者の相続分を異にするか87、婚姻前の合議(prenuptial agreement)のような一種の相続契約を法定すればいい88という提案もなされている。しかし、このような制度は、韓国の法体系や国民の法感情に照らして
あまりにも違和感がある。むしろ、相続分を形式的に引き上げたとしても被相続人は遺言の自由があるので、いくらでも適用の画一性や硬直性を避けられるので、それほど問題を大きくする必要はないとする。つまり、法定相続分をあげることだけで、配偶者の相続法上の地位を強化することができるし、遺言をより活用できるきっかけともなりうるという肯定的な効果も期待できるという。これが、最近にもこのような学説が相当に支持されてきた理由である。

韓国では、2014 年現在、法務部の民法(相続編)改正特別分課委員会(委員長:中央大金相容教授)は今年1 月15 日に「配偶者の先取分制度」の導入を目指す相続法改正試案(以下、改正試案)を法務部に提出した。改正試案の主な内容は次のようである。
相続法改正試案1008 条の4(配偶者の先取分) ①被相続人の配偶者は婚姻期間中に増加した被相続人の財産の5 割を他の共同相続人に優先して先取分として取得する。
②先取分が公平でない場合には、共同相続人の協議によって先取分を減額することがで、協議に至らなかった場合には家庭法院は婚姻・別居期間及び事由を考慮し減額することができる。


ポリー
「先取分はどこかで聞いたような。韓国でも相続法の改正作業を行っているのですね。」


当初、法務部は、以上のような配偶者の相続分を強化する内容の民法1008 条の4 と008 条の5 を、今年の2 月に立法予告する予定であった89。しかし、この改正試案に対する批判及び反対が案外強かったため、法務部は同年2 月に改正分課委員会を再招集し、現在2014 年9 月)に至るまで検討中である。法務部の立法案に対する反対が強かった理由は、先ほど指摘したように、相続制度の本質に反するとか、血縁相続人と配偶者間の紛争の助長、再婚や婚姻期間の考慮なくして画一的な相続分を引き上げたり、先取権の付与をしたりすることに対する懸念があったからである。

なお、韓国経済のもとともいえるいわゆる、「財閥」の企業承継の現実と配偶者相続分
の先取権とは合わないという指摘もあった。

 


(2) 配偶者の相続分と夫婦財産関係の清算及び夫婦財産制度との連携改正議論

今の韓国社会では、夫婦財産制度の改正に関する議論が盛んになっている。議論の核心は、2(2)でみたように、韓国民法上の法定夫婦財産制度である夫婦別産制度が、夫婦の実質的な平等を図っていないという問題意識から始まる。例えば、夫婦が婚姻中に協力で取得した財産であっても所有名義が誰かによって夫婦の一方の財産として推定される。一番問題となっているのが住宅の名義であって、韓国では国民の感情上、一応夫の名義にしておく場合が多い。この場合、離婚するときは別として90、そのまま一方の配偶者が死亡してしまったときには、その財産形成においての配偶者の寄与は、ほぼ評価されず、相続財産として法定相続分の割合に応じて他の共同相続人と共同相続することになる。このような不合理を解決するために夫婦財産制度の改正を前提として配偶者の相続分を強化しようとする学説が現れた。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


(a) 法定夫婦財産制度の導入と配偶者相続制度との連係

先に述べたように離婚時の財産分割制度と配偶者相続制度との不均衡という韓国の現行の夫婦別産制度の問題点を解消するためにスイス、ドイツなどの制度に倣って夫婦財産制度の改正に基づく提案が主張されている。とりあえず、婚姻中には取引の安定と迅速性を考慮し、夫婦各自の経済的独立性を守るためには、原則として現在の夫婦別産制が適用されるのは認めている。ただし、ここには一定の制限があるが、夫婦の一方が婚姻中に正当な理由なく、重要な財産(例えば、住宅)を処分しようとするには事前に配偶者の同意を要するとされる。


ポリー
「スイスやドイツが参考にされているのですね。」

そして、婚姻が終了又は解消したときは、夫婦の一方は、原則として他の一方が婚姻中に取得した財産の半分について分割を請求することができるという提案である91。この際、財産分割の割合は、具体的な事情によって増減できる。このようにして、配偶者の死亡による婚姻の解消のときにも、離婚によって婚姻が解消される場合と同様に、夫婦財産関係の清算が相続に先立ってなされるべきであると主張している。詳しくは、死亡による婚姻解消のとき、生存配偶者は、一種の相続債権者として、他の共同相続人(例えば、直系卑属などの生存配偶者を除く共同相続人)に対してその財産の分割を請求することになる。


現行法によっても、相続財産の分割は共同相続人との協議により、協議に調わなかったときは当事者の請求によって家庭法院が定めるようにとなっているので(1013 条)、死亡による夫婦関係の清算もそのように処理すればいいとしている。多くの場合には、夫婦財産
関係の清算と相続財産分割協議は同時に行われることになるだろう。このような見方の一つとして具体的な改正案も提案されている92。
韓国民法1009 条(法定相続分) ①同順位の相続人が数人あるときはその相続分は均分とする(現行法と同様)。 ②被相続人の配偶者の相続分は、相続開始のときにおいて被相続人の特有財産に第839 条の2 により定められた剰余財産の分割分を加減したものを相続財産とみなして、次のように定める。

1.被相続人の直系卑属と共同相続するときは、相続財産の2 分の1
2.被相続人の直系尊属と共同相続するときは、相続財産の4 分の3
第839 条の2(財産分割請求権)①協議上離婚した一方は、他の一方に対して、婚姻中に取得した剰余財産について同等な割合で分割を請求することができる。

②第1 項の財産分割に関して協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭法院は当事者の請求により、当事者の一方が婚姻中に協力によって取得した剰余財産を同等な割合で分割し、その分割方法はその他の事情を参酌して定める。
しかし、このような見解には、相続開始の当時、被相続人名義の財産と実際に相続の対象となる財産の範囲が必ずしも一致するとはいえないので、相続財産の範囲が曖昧であるという問題がある。離婚時の財産分割の場合には、常に対立当事者が存在するわけであって、分割対象となる財産の範囲に争いがあれば、裁判手続きによればいいことである。しかし、相続の場合には必ずしもそうではない。相続においては、常に裁判手続きによるとは限らないにもかかわらず、この改正案によることになると、むしろ、共同相続人の間に法的紛争を誘発することになりかねない93。そのことから、この改正案が法定夫婦財産制のモデルとしているドイツ民法が、死亡による婚姻解消時には剰余財産の有無を問わず、相続財産の一定の割合を配偶者相続分としているのも、このような問題があったこそであるという指摘94がある。

(b) 婚姻中の夫婦財産分割制度の導入を前提とする方案

韓国では2006 年に、法務部家族法改正特別分科委員会の成案した民法改正案が国会に提出されたが、この中には配偶者の法定相続分を調整する内容が含まれていた95。この改正案は、配偶者の相続分の強化のほかに、「婚姻中の財産分割制度」の導入を前提としているのが特徴である。
婚姻中の財産分割制度の立法趣旨は、現行の財産分割請求権は離婚を前提としているので、将来の財産分割請求権の行使が顕著にできなくなる恐れがあるなどの、離婚せずに婚姻中にも財産の確保が必要な一定な事由があるときは、財産分割請求ができるように制度を設けるべきであるということにある。実際に国会に提出された改正案は次のようである。


韓国民法1009 条(法定相続分) ①同順位の相続人が数人あるときはその相続分は均分とする(現行法と同様)。
②被相続人の配偶者の相続分は相続財産の5 割とする。但し、第831 条の3 に従って婚姻中財産分割を受けた場合には同順位の共同相続人と均分として相続する。


③削除(1990.1.13.)
第831 条の3(婚姻中の財産分割請求権)①夫婦の一方は、次の各号の事由があるときは、婚姻中にも家庭法院に財産分割を請求することができる。


1.夫婦の一方の同意又はその同意に代わる決定なく他方が第831 条の2 の第1 項又は第2 項の行為をしたとき
2.他の一方が正当な理由なく扶養義務を相当な期間に履行しなかったとき
3.第839 条の2 に従う財産分割請求権の行使が顕著に困難になる恐れがあるとき
4.夫婦が正当な理由なく2 年以上別居しているとき


②第1 項の財産分割に関してはその性質に反しない範囲で第839 条の2 の第2 項の規定を準用する。
③夫婦の一方は第1 項の各号に該当する事由のあることを知ったときから6 ヶ月あるいはその事由のあったときから2年が経過したときは、第1 項による財産分割を請求できない。
この改正案は、これまでの配偶者の相続分の強化、ことに共同相続人の数を問わず2分の1 として確保できるようにした政府レベルの公式案であるということに意義がある96。改正委員会によると、婚姻中の財産分割制度を導入によって現行法上の相続分を再調整することを目指して、共同相続人の数を問わず一定の割合の相続分を確保し、配偶者の相続法上の地位を強化するためであると説明している。しかし、被相続人の直系卑属(子女)が一人の場合、婚姻中に財産分割をしていない配偶者は、相続分が2 分の1(50%)となり、現行法による相続分3 分の2(60%)よりも少なくなるという問題がある97。


以上のように、配偶者の相続法上の地位の強化の問題を、夫婦財産制度との関連のもとで解決しようとする見方は、比較的法観点からみても確かに意味のある議論であるのは間違いないのであろう。しかし、生存配偶者と他の共同相続人との間に紛争をもたらすおそれがあるし、これまでの韓国の制度、とくに夫婦財産制度の全体的な見直しや、分割されるべき財産の立証や分割の割合(持分)などに関して複雑な実務的な問題が起こりうるという問題があるのは否めない。

(c) 夫婦共有財産の半分を配偶者の先取分として法定する方案
最後に、2006 年には、夫婦が婚姻中に取得した財産は一応、共有財産として扱うという前提で、配偶者の相続分を先取分として確保しようとする改正案が議員案として国会に提案されたことがある。
韓国民法1009 条(法定相続分)①同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は均分とする。(現行法と同様)
②被相続人の配偶者は、夫婦の共有と推定される財産の半分を先取分として請求することができる。
韓国民法830 条(夫婦財産の権利帰属)①夫婦の一方が婚姻前から有していた財産と婚姻中に相続、贈与によって取得した財産は夫婦一方の固有財産とする。

②固有財産の増加分と婚姻中に取得した財産及びその増加分は夫婦の共有のものと推定する。
③共有のものと推定される財産が登記又は登録を必要とする場合、名義を有していない一方は相手方に対して共有に関する登記又は登録を請求することができる。


この改正案は、夫婦共有財産制度の導入を前提として、夫婦共有のものと推定される財産の半分を配偶者の先取分として法定することで、離婚の場合のみならず相続においても夫婦共同体の実質による清算を図っているということに意味がある。しかし、現行法の夫婦別産制とは異なり、夫婦共有財産制度は取引の安全と夫婦の経済的なと独立を害する恐れがあるという指摘がある98。
さらに、配偶者相続の場合、夫婦共有のものと推定される財産がない場合には、配偶者は共同相続人と均分相続することになるから、むしろ、今の現行法の定める配偶者の相続分より少なくなるのも問題として指摘されている。なお、実務上、配偶者と共同相続人との間に先取分の対象となる財産の範囲について紛争が起こりやすいというのも問題である。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
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法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

(3) 配偶者の寄与行為を寄与分の算定に考慮(法定)する法案

2007 年7月に61 人の議員が提案した民法改正案(廃棄)では、離婚時財産分割の割合は50%とし、被相続人の配偶者にして被相続人の婚姻中に取得した財産について、均等な割合で寄与分請求のできる配偶者の寄与分を新設しようとの主張があった。この改正案によると、被相続人の配偶者は相続財産の中、均等な割合で算定した寄与分を優先して取得し、あまりの相続財産について共同相続人と均分で相続することとなる。実際に提案された立法案は次のようである。
韓国民法1009 条(法定相続分)①同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は均分とする。(現行法と同様)


②被相続人の配偶者は、相続財産から被相続人が婚姻中に取得した財産について均等な割合で寄与分の請求をすることができる。
韓国民法839 条の2(財産分割請求権)①協議上離婚した者の一方は、他の一方に対して財産の半分の分割を請求することができる。

これは、離婚時財産分割において、均等に婚姻中の取得財産を分割のと同様に相続の場合も婚姻中に取得した財産に寄与した事実を十分考慮しようとする点で意義がある。しかし、寄与分制度は、共同相続人の中、被相続人の財産の維持や増加に寄与し、又は特別に被相続人の扶養した者があるとき、相続分の算定においてそのような寄与あるいは扶養を考慮することで、共同相続人間の公平を図るために、1990 年の韓国民法の改正により新設されたものである。したがって、寄与の程度を考慮せずに一律に配偶者に均等な割合の寄与分を認めるのは制度の趣旨に相応しくないという批判99がある。なお、婚姻期間中に新しく取得した財産がなければ、配偶者の寄与分は認められないので、結局、このような場合には、共同相続人と均分相続することとなり、むしろ現行法より配偶者に不利になるとの指摘もある。


(4) 生活の基盤となっている財産の確保
配偶者の相続権の強化は、相続分や相続順位などによる保障という観点ももちろん意味があるが、今の韓国社会においての現実的な要請を十分に考慮に入れるなら、そこにはフランス法のような住宅や今までの生活をともにしてきたことに基づく財産の用益権の確保などの配偶者の生活の実質的な保障が求められる。


もし、韓国民法の改正においてそのようなのコンセンサスがあるとなると、配偶者の相続権の改善・強化の中核な権利として念頭に置くべきは、生存配偶者が被相続人の死亡のときに有していた生活基盤と生活の諸条件をその後の余生を通じて安全に確保できるようにすることである。


しかし、今の韓国の相続法全体において法定相続分や財産分割制度、夫婦財産制度のあり方などを考えて、配偶者の生活保障の具体的な態様をどうするかという問題に入ると、その具体的な姿を決めるのは相当難しいことであろう。

 


例えば、住宅のように、生存配偶者の生活の基盤になる財産については、完全な所有権をみとめることにするか、それともせめて生存までの用益権を認めることにするか、相続法上の遺留分権や寄与分の制度によるものとして強行性を付与するものにするか、それとも、とくに住宅を中核とする生活基盤と生活水準の維持保存保障できるような、相続財産に対する一個の債権的な権利のよるべきかなど、様々な問題がある。このような規定の仕組みをとるには、フランス法のように複雑な規定になるおそれがあるが、そこまで相続法が複雑となる必要があるかという批判もありうる。

4 結論

配偶者の相続分に関する議論と夫婦財産制度とは密接な関係にあり、その夫婦共同財産の清算という観点からみても夫婦財産制度との関係を考慮に入れなければならない。単なる相続分の強化という見方ではその理論性と問題の的確な分析に欠けることになるだろう。しかも、議論の方向が形式的な「相続分」の強化・増加の議論に向かうのは本来の相続制度の存在意義や制度の趣旨(血族相続人と配偶者との利益の衡量)、現在社会の意識や事情の変化、紛争の妥当な解決への要請からも望ましくない。したがって、夫婦財産制度と配偶者相続権とは連携して考えるべきである。さて、配偶者の相続権に関する議論の正当性は、夫婦共同財産の一方の死亡による合理的な清算にもあるが、現在の社会の要請は、相続における配偶者の住居権ないし生活保障の必要性の方にもあるといえる。ただ、これには韓国民法の全体の構成や体系などを、十分に考えて理論的・実務的な検討をなすべきだと思う。最近まで、このような多様な観点からの配偶者相続権の強化を目指す立法上の議論が、法務部をはじめとして多くの学者からなされているので、近いうち、その立法的な成果が得られると思う。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
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法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

9 相続と相続税

1 韓国の相続税の義務者と算定方式

相続税とは自然人の死亡をきっかけとして無償に移転される財産を課税物件としてその取得者に課税する租税である。相続税の納税義務者は、「相続人」(民法1000 条・1001 条・1003 条及び1004 条による相続人のことをいい、民法1019 条第1 項従って相続を抛棄した者及び1057 条の2 の特別縁故者を含む)又は「遺贈者」(死因贈与を受けた者を含む受遺者)である(相続税法3条1 項)。


相続法条の相続人は、民法上の相続人だけでなく、受遺者、死因贈与の受遺者を含む。
原則として、自然人である個人が納税義務者となるが、例外的に胎児及び法人も相続税の納税義務者となりうる。ただし、相続税法は、受遺者が営利法人である場合には、納付する相続税額を免除することにしているので(同法3条但書)、法人として遺贈において相続税の納付義務を負うのは、非営利法人と相続税法によって非営利法人とみなされる法人格なしの私団・財団・その他の団体に限る。他方、寄与分に関しては、寄与分として認められる財産があっても、共同相続人との協議あるいは法院の審判によって確定する寄与分の内容によって相続人間の相続分のみが異なることになるにすぎなく、その全部が相続税の課税の対象となる。これに関しては、寄与分の実質を無視することであるとの批判があるが、配偶者の控除を始めとして、相続税法上のあらゆる控除に関する規定は、そもそも相続財産に対する相続人の寄与を考慮して定められたものが多いから寄与分に相続税を賦課することのは妥当であるという。さらに、寄与分は相続人間の協議によって決められることが原則であるから、もし相続人の自由な意思によって寄与分を決めることで相続税を回避する手段として悪用されるおそれがあることから、現行法は寄与分は相続税から控除しない。

相続税の課税方式は、一般として遺産税方式と遺産取得制方式とがある。韓国は、相続然及び贈与税法によって、遺産税方式によるものであるとされる。相続然及び贈与税法(以下、相続税法という)1 条1 項によると、相続が開始されたとき、被相続人が居住者である場合には全ての財産、非居住者である場合には国内にある全ての財産について相続税を賦課する旨を定めている。

なお、同法13 条1 項は、相続税の課税価額を相続財産の価額に相続開始の前の一定の期間内の
贈与財産を加算した金額から、公課金などを控除した金額とすることを規定している。このように、相続税の課税価額を被相続人を基準にして算定し、共同相続の場合にも相続財産を相続分の分割前の総相続財産額に超過累進税率を適用して税額を算出する構造をとっていることから、遺産税方式を採択していると評価される。但し、同法3 条は、このように計算された税額の納付に関しては、「相続人又は受贈者がこの法によって賦課された相続税について相続財産の中、各自が得たかあるは得るはずの財産を基準にして、大統領令の定める一定の割合に応じて相続税を納付する義務がある」と定めていることから、分割前の相続財産についての税額を原則として共同相続人各自の相続分に応じて配分計算し、各相続人がその配分された税額を納付することにしたのである。この場合、共同相続人は、それぞれの受けた財産を限度にして連帯納付責任を負う(同法3 条4 項)。なお、韓国の相続税法は、非相続人が資産を取得してから相続当時までに生じた資産価値の増加分については、原則として非課税方式をとっている。

2 相続税の算出方式

韓国の相続税法上、具体的な相続税の税額算出方式は次のようである。まず、相続財産から非課税減免財産を除外した財産が課税財産となり(相続税法7 条、12 条)、これに公課金、債務、葬式費用を除いたものが課税価額となる(同法13 条、14 条)。課税価額から、あらゆる控除を控除した後の金額が課税標準であり(同法18 条から24 条まで)、その課税標準に税率を適用したものが算出税額となる(同法25 条から27 条まで)。現在相続税法上の税率は、最低10%から最高50%までの5段階の累進課税されることになっている(同法26 条)。この算出税額に税額控除を適用したものが申告税額である(同法28 条から30 条、67 条)。その算出公式は次のようである。

(1) 相続税の課税価額

相続税課税価額の基礎となる相続財産とは、民法1005 条とは異なり、相続財産の価額から消極財産である債務を控除したものである。なお、民法上の相続財産とならないものが相続税における相続財産としてみなされるものがある。生命保険金又は損害保険の保険金、被相続人が信託した財産、退職金・退職手当・年金またはこれと類似なもので被相続人に支給されるべきものが被相続人の死亡によってその相続人と相続人以外の者に支給されたものなどがそれである(相続税法7 条、9 条、10 条)。非課税減免財産には、例えば公益事業に出捐財産があり、その財産の出捐を受けた者が公益事業の目的に使用することを条件として相続税課税価額に算入しない(同法16 条、48 条5 項、6 項)。公課金、葬式費用、債務は、相続財産の価額から除かれる(同法14条)。また、法12 条は、非課税財産を規定しているが、例えば、民法1008 条の3 の祭祀財産などは課税対象から除外される(同法12 条)。


ポリー
「みなし相続財産というものですね。信託も入っていますね。」


(2) 課税標準と算出税額

課税価額から相続税法上のあらゆる控除を控除すれば課税標準を算出することができる。これを相続控除というが、ここには、基礎控除(同法18 条)、配偶者相続控除(同法19 条)、その他の人的控除(同法20 条)、一括控除(同法21 条)、金融財産の控除(同法22 条)、災害損失控除(同法21 条)、同居住宅の相続控除(同法23 条の2)がある。特に、韓国に配偶者控除は1961 年に導入され、その控除額は増加し1991 年から1996 年までは、結婚年数を考慮して配偶者控除を行った時期もあった。


しかし、1997 年に相続税法及び贈与税法が全面改正され、現在は、結婚年数を考慮する制度は廃止された。配偶者控除額は、最大30 億オンを限度にして配偶者の相続分がな
くても5 億オンを控除する制度を採択している。そのことから、韓国は、遺産税の課税方式であるものの、取得課税方式のように配偶者の控除限度を設定し、全額控除は認めていないと評価される。これらを控除して算定される課税標準に税率を適用することで、算出税額を定めることができる。税率は、韓国においては累進税率が適用され、それぞれの段階の税率については、相続税法26 条が最低10%から最高50%までに5 段階で定めている。


(3) 申告税額と申告納付税額

算出税額から再び贈与税額の控除(同法28 条)、外国納付税額控除(同法29 条)、短期再相続の税額控除(同法30 条)などの税額控除がなされる。これが、申告税額である。申告税額から10%の控除(同法67 条)や納付方式による控除(71 条、73 条)が適用された金額分が申告納付税額となる。
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第2 章 遺言

1 意義

遺言とは遺言者が自分の死亡と同時に法律効果が発生することを意図して、一定の方式に従ってなされる相手方のない単独行為である。

民法上の遺言は民法の定める方式に従ってしかできない要式行為であって、方式に反する遺言は無効である。それだけでなく、遺言は法定事項に限ってできる。韓国民法がそれぞれの箇所で定めている遺言事項は、(a)財団法人の設立、(b)新生否認、(c)認知、(d)後見人の指定、(e)親族会員の指定、(f)相続財産分割方法の指定又は委託、(g)相続財産の分割の禁止、(h)遺言執行者の指定又は委託、(i)遺贈などがある。遺言事項に違反する遺言もまた無効である。

韓国民法1061 条(遺言適齢)満17 歳に達しない者は遺言することができない。
韓国民法1062 条(制限能力者の遺言)遺言については、第5 条、第10 条、第13 条の規定は適用しない。
韓国民法1063 条(被成年後見人の遺言能力)①被相続人は意思能力が回復された時に限って遺言することができる。


②第1 項の場合、医者が心身回復の状態を遺言書に付記して署名捺印しなければならない。
遺言に関しては遺言者に遺言能力があることが必要である。遺言も意思表示なのであるから、意思能力のない者のなした遺言は無効である。しかし、遺言能力は満17 歳と定められており、制限能力者の遺言については1062 条が未成年者(5 条)、被成年後見人(10 条)、被限定後見人(11条)の行為能力制限に関する規定も適用しないと定めている。遺言も法律行為の一種ではなるが、遺言の趣旨は遺言者の真意を尊重することにあるので、遺言者に意思能力さえあればいいとされている。被成年後見人は意思能力が回復された場合のみ遺言できる。

2 遺言の方式

韓国民法1060 条(遺言の要式性)遺言は、本法に定める方式に従わなければ、効力が生じない。
韓国民法1065 条(遺言の普通方式)遺言の方式は、自筆証書、録音、公正証書、秘密証書又は口授証書の5 種類とする。
韓国民法1066 条(自筆証書による遺言)①自筆証書による遺言は遺言者が、その全文と年月日、住所、氏名を自書し、これに捺印しなければならない。
②前項の証書に文字の挿入、削除又は変更するには、遺言者がこれを自書し捺印しなければならない。
韓国民法1067 条(録音による遺言)録音による遺言は遺言者が遺言の趣旨、その氏名と年月日を口述しこれに参加した証人が遺言の正確なこととその氏名を口述しなければならない。
韓国民法1068 条(公正証書による遺言)公正証書による遺言は、遺言者が証人2 人以上が参加した公証人の面前で遺言の趣旨を口授し、公証人がこれを筆記し読み聞かせ、遺言者と証人がその正確なことを承認した後、各自署名し又は記名捺印しなければならない。


韓国民法1069 条(秘密証書による遺言)①秘密証書による遺言は、遺言者が筆者の氏名を記入した証書を厳封捺印し、これを2人以上の証人の面前に提出して、自己の遺言書であることを表示した後、その封書の表面に提出の日付を記載し、遺言者と証人が各自これに署名し又は記名捺印しなければならない。
②前項の方式による遺言封書はその表面に記載した日から5 日以内に公証人又は法院書記に提出してその封印上に確定日字印を押さなければならない。


韓国民法1070 条(口授証書による遺言)①口授証書による遺言は疾病、その他の急迫な事由により前4 条の方式によることができない場合、遺言者が2人以上の証人の参加でその1 人に遺言を趣旨を口授し、その口授を受けた者がこれを筆記し読み聞かせ、遺言者の証人がその正確なことを承認した後、各自署名又は記名捺印しなければならない。
②前項の方式による遺言はその証人又は利害関係人が急迫な事由の終了した日から7 日以内に法院にその検認を請求しなければならない。


③第1063 条第2 項の規定は口授証書による遺言には適用しない。
韓国民法1071 条(秘密証書による遺言の転換)秘密証書による遺言が、その方式に欠ける場合は、その証書が自筆証書の方式に適合するときは、自筆証書による遺言とみなす。
遺言は法定の方式によらないものは無効である。民法が遺言の方式を厳格に定めているのは遺言者の真意を明らかにすることによって、法的紛争や混乱を予防するためであるから、法定の要件と方式に従わない遺言はそれがたとえ遺言者の真正な意思に合致するものであっても、無効である100。韓国民法1065 条から1070 条までは遺言の方式として自筆証書、録音、公正証書、秘密証書又は口授証書の5 つの方法を定めている。それぞれの内容と特徴は次のようである。
証書作成者作成方法 検認の手続 確定日字 参加する証人の数
署名
記名捺印
自筆証書 遺言者 自書
発見後
遅滞なく請求
不要 証人不要 捺印
録音
遺言者
証人
口述
録音
発見後遅滞なく請求
不要 1 人 不要
公正証書 公証人 口授作成 不要 不要 2 人
遺言者
証人
公証人
秘密証書 遺言者
記入
厳封
発見後遅滞なく請求
提出日から5 日以内
2 人以上
遺言者
証人
口授証書 証人の一人口授の筆記
急迫な事由の終了から7日以内
不要 2 人以上
遺言者
証人
遺言の証人については、民法1072 条が定めている。つまり、未成年者、被成年後見人及び被限定後見人、遺言によって利益を得る者とその配偶者と直系血族は証人とならない。公証証書による遺言には、公証人法の定める欠格者は証人になることができない。共同遺言に関しては韓国民法にはそれを禁ずる規定がないので、共同遺言もできるとされる。


ポリー
「録音も、夫婦共同で遺言することも認められているのですね。一番どれが利用されているのでしょうか。録音の遺言は、日本の裁判所も検認してくれるようです。」

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

3 遺言の効力
1 一般的な効力

韓国民法1073 条(遺言の効の力発生時期)①遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
②遺言に停止条件のある場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときはその条件が成就した時からその効力を生ずる。

遺言は死因行為であるので、遺言者が死亡した時から効力を発生する。但し、遺贈を受ける者は遺言の効力が生じた後にその効力を断ることができる。遺言が条件付きであるとき、停止条件付遺言は、その条件が遺言者の死亡後に成就したときから効力を生ずる。解除条件付遺言については、民法には定めはないが、そのような遺言も可能であり、条件の一般法理に従い条件が成就したらそのときから遺言の効力を失うと解する。遺言によって認知することもできるが、遺言で婚外者を認知するときは、遺言執行者は家族関係登録簿などに関する法律に従ってその就任したときから1 ヶ月以内に認知届けを出さなければならない。遺言認知による効力は遺言の効力発生時、すなわち、遺言者の死亡時というのが多数説である。

2 遺言の撤回と無効・取消

韓国民法1108 条(遺言の撤回)①遺言者は、いつでも、遺言又は生前行為により、遺言の全部又は一部を撤回することができる。
②遺言者はその遺言を撤回する権利を放棄することはできない。

韓国民法1109 条(遺言の抵触)前後の遺言が抵触又は遺言後の生前行為が遺言と抵触するときは、その抵触する部分の前の遺言は、これを撤回したものとみなす。
韓国民法1110 条(破毀による遺言の撤回)遺言者が故意に遺言証書又は遺贈の目的物を破毀したときは、その破毀した部分に関する遺言はこれを撤回したものとみなす。
韓国民法1111 条(負担付きの遺言の取消し)負担付きの遺贈を受けた者がその負担義務を履行しない時は、相続人又は遺言執行者は、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、法院に遺言の取消を請求することができる。

遺言者はいつでも、遺言又は生前行為により遺言の全部又は一部を撤回することができる。遺言者の最終の意思は尊重すべきであるということから、遺言撤回の自由が認められるのである。
遺言を撤回する方法は、遺言者の意思による「任意撤回」と法定の要件を満たしたら撤回があったものとみなされる「法定撤回」がある。まず、任意撤回については、必ずしも遺言による必要はなく、生前行為で撤回することもできる。遺言者は撤回する権利を放棄できないので(1108 条2 項)、遺言者の遺言撤回の自由は剥奪されない。次に、法定撤回については、1109 条と1110 条
が遺言の抵触と破毀による撤回の二つを規定している。また、遺言の抵触には二つの場合について規定がある。

第1 に、前遺言と後遺言とが抵触するときのことで、抵触部分について前遺言が
撤回したものとみなされる。第2 に、遺言と遺言後の生前行為とが抵触するときも、前遺言が撤回したものとみなされる。ここでいう抵触について、判例は、前の遺言を失効させなくては遺言後の生前行為が有効とならない場合のことであって、単に法律上又は物理的な執行不能となるような場合のみにとどまらず、後の行為が前の行為と両立せしめない趣旨のもとにさなれたことが明らかであれば抵触に当たるとした101。抵触の範囲や存否は前・後の事情を合理的に考えて、遺言者の意思が遺言の一部でも撤回しようとしたのであったか、それともその全部を不可分的に撤回しようとしたものかを、実質的に執行の不能となった遺言の部分との関わりのもとで、慎重に判断すべきである。意味する。破毀による遺言の撤回については、遺言者が故意に遺言書又は遺言の目的物を破毀したときは、その破毀した部分の遺言は撤回したものとみなされる。遺言の撤回がなされると最初から遺言がなかったこととなる。但し、遺言を撤回した後、またその遺言の撤回を撤回した場合、前の遺言が復活するのかについては、韓国民法には規定がないので、学説上争いがある。


遺言も法律行為であるので、法律行為一般の無効事由があれば無効となる。また、法定の遺言の有効要件に違反している場合にも無効となる。遺言の重要部分に錯誤がある場合や詐欺・強迫の場合による取消も適用される。遺言者の撤回権と別に取消権を認めるのは遺言者の死亡後や意思能力の喪失の場合に実益がある。特に、遺言者の死亡後に、遺言の取消権は相続人が相続し、相続人が取消権を行使することになるだろう。負担付きの遺贈を受けた者がその負担義務を履行しない時は、相続人又は遺言執行者は、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、法院に「遺言の取消」を請求することができる(1111 条)。

3 遺贈

(1) 意義

遺贈とは、遺言者が遺言によって自己の財産の全部又は一部を他人に与える無償の単独行為である。

遺贈と死因贈与は、両方とも死因行為という点には違いがないが、形式が単独行為なのか
契約なのかが異なるだけであるため、死因贈与には遺贈の規定が準用される。遺贈の規定の中で、単独行為の性質に基づく規定、例えば、遺贈能力、方式(1065 条から1072 条まで)、承認と放棄(1074 条、1075 条)、包括的受贈者の地位に関する1078 条などは準用されない102。韓国民法上、遺贈には包括遺贈及び特定遺贈及、負担付遺贈があるが、日本民法の964 条のように、包括遺贈や特定遺贈の意味を定める規定はない。その但書の定める「遺留分に関する規定に違反することができない」という遺贈と遺留分の関係に関しても少なくとも明文上にはない。遺贈の当事者として、まず、受遺者となるものは、遺贈により利益を受ける者である。受遺者は遺言の効力が生じる時に権利能力がなければならない。胎児と相続欠格者については1000 条3 項と1004 条が受遺者に準用される(1064 条)。受遺者がその要件を満たさない場合には遺贈の効力は生じないので、遺贈の目的の財産は相続人に帰属する。しかし遺言者が別段の意思を表示したときはその意思に従う。次に、遺贈のもう一人の当事者は、遺贈を履行する義務を負う者、つまり、遺贈義務者である。遺贈の目的の財産の譲渡義務は遺言者の死亡後に執行されるため、遺言者は遺贈義務者ではない。遺贈義務者は、例えば、相続人、遺言執行者、包括的受遺者、相続人のない財産管理人などのことであろう。遺贈義務者である相続人は数人あるときは、その相続分に応じて遺贈義務を負う。


ポリー
「遺贈と死因贈与は単独の行為か契約か「だけ」の違いなのですね。家族の間で行われることが多いので、そういう表現になるのでしょうか。」


(2) 包括遺贈

韓国民法1078 条(包括的受遺者の権利義務)包括的遺贈を受けた者は相続人と同一の権利義務を有する。
包括遺贈とは、積極財産と消極財産とを包括する相続財産の全部または一定の割合を遺贈の内容にする処分行為である。これに対し、特定遺贈とは特定の具体的な財産を遺贈の内容にする処分行為であって、特定遺贈においては消極財産は承継されない。包括的遺贈であるか特定遺贈であるかの区別については、通常は相続財産に対する割合の意味でなされたものは包括遺贈、そうではないものが特定遺贈となるが、遺言公正証書などに遺贈した財産が個別的に表示されたというだけでは特定遺贈と断定すべきではなく、相続財産がすべていくらかを審理して他の財産がないと認められる場合には、これを包括遺贈と判断することができるとした判例103がある。


包括的
受遺者は相続人と同一の権利・義務を包括的に承継する。したがって、遺言の効力の発生と同時に相続財産の全部又は一定の割合を当然に承継するのであって、遺贈義務者による遺贈の履行を要しない。包括的受遺者が数人ある時又は相続人があるときは共同相続関係にあることになる。
包括遺贈の承認と放棄には、遺贈の承認と放棄に関する民法1074 条から1077 条までが適用されるのではなく、相続人のそれと同様に、相続の承認と放棄に関する民法1019 条から1044 条までが適用される。判例は、相続人の相続回復請求権及びその除斥期間に関する民法999 条もまた包括的遺贈の場合に類推適用するとしている104。しかし、包括的受遺者と相続人は次のような点では違いがあるとされている。

(a)相続能力のない法人であっても受贈能力がある。(b)包括的受遺者は遺留分権や相続分譲受け権を有しない。(c)包括遺贈には代襲相続の規定は適用されず、遺言者の死亡の前に包括的受遺者が死亡したときは遺贈は失効する(1089 条)。

(3) 特定遺贈
民法遺言の効力の節の規定の殆どは特定遺贈に関する内容を規定してる。韓国民法上、特定遺贈に関する規定の内容や解釈においては日本民法のそれとあまり異ならないので、以下では関わる韓国の規定のみをまとめておくことにとどまりたい。

(a) 特定遺贈の承認と放棄
韓国民法1074 条(遺贈の承認・放棄)①遺贈を受ける者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈を承認又は放棄することができる。

②前項の承認及び放棄は遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
韓国民法1075 条(遺贈の承認、放棄の取消禁止)①遺贈の承認及び放棄は取消しをすることができない。
②第1024 条2 項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。
韓国民法1024 条(承認、放棄の取消禁止)①相続の承認及び放棄は第1019 条第1 項の期間内でも取消しをすることができない。
②前項の規定は総則編の規定により取消しをすることを妨げない。
韓国民法1076 条(受贈者の相続人の承認、放棄)受贈者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄することができる。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
韓国民法1077 条(遺贈義務者の催告権)①遺贈義務者その他の利害関係人は、相当な期間を定め、その期間内に承認又は放棄をすべき旨を受贈者またはその相続人に催告することができる。
②前項の期間内に受贈者またはその相続人が遺贈義務者に対して催告に対する確答をしないときは、遺贈を承認したものとみなす。

(b) 受贈者の果実取得権と費用償還請求権
韓国民法1079 条(受贈者の果実取得権)受贈者は、遺贈の履行を請求することができる時からその目的物の果実を取得する。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
韓国民法1080 条(果実受取費用の償還請求権)遺贈義務者が遺言者の死亡後に、その目的物の果実を収取するために必要費を支出したときは、その果実の価額を範囲内で果実を取得した受贈者に償還を請求することができる。
韓国民法1081 条(遺贈義務者の費用償還請求権)遺贈義務者が遺贈者の死亡後に、その目的物について費用を支出した場合には第325 条の規定を準用する。
韓国民法325 条(留置権者の償還請求権)①留置権者が留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還を請求することができる。

②留置権者が留置物について有益費を支出したときは、それによる価額の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、法院は所有者の請求によりその償還について相当の期間を許与することができる。

(c) 担保責任と物上代位、第三者の権利の目的である財産の遺贈
韓国民法1082 条(不特定物遺贈義務者の担保責任)①不特定物を遺贈の目的とした場合において、遺贈義務者はこの目的物に対して、売主と同じく、担保の責任を負う。

②前項の場合において、目的物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は瑕疵のない物件をもってこれに代えなければならない。
韓国民法第1083 条(遺贈の物上代位性)遺言者が、遺贈の目的物の滅失、毀損若しくは占有の侵害によって第三者に対して損害賠償を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものとみなす。
韓国民法第1084 条(債権の物上代位性)①債権を遺贈の目的物とした場合において、遺言者がその受け取った物件が相続財産中に在るときは、その物件を遺贈の目的としたものとみなす。
②前項の債権が金銭を目的とした場合において、その受け取った債権額に相当する金銭が相続財産中にないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものとみなす。
韓国民法第1085 条(第三者の権利の目的である物権又は権利の遺贈)遺贈の目的である物件又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは、受贈者は遺贈義務者に対してその第三者の権利を消滅させるべき旨を請求することができない。

韓国民法第1086 条(遺言者が別段の意思を表示したとき)前3 条の場合に、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
韓国民法において、遺贈の物上代位や債権の遺贈の物上代位の場合に、それぞれ、遺贈者の有する損害賠償請求権、又は遺言者が受け取った物件や金額が遺贈の目的と看做される(1083 条と1084 条)。この点はただ推定するのにすぎない日本民法999 条と1000 条と違う点である。なお、韓国民法には、遺贈の目的物の付合や混和(日本民法999 条2 項)についてはその定めがない。さらに、韓国民法1086 により遺贈の物上代位と債権の遺贈の物上代位には、遺言者の別段の意思が優先することが定められているが、日本民法には、物上代位の場合に限っては、このような但書が条文上には定められていないのが異なる。


(4) 負担付遺贈
韓国民法1111 条(負担付きの遺言の取消し)負担付きの遺贈を受けた者がその負担義務を履行しない時は、相続人又は遺言執行者は、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、法院に遺言の取消を請求することができる。
韓国民法1088 条(負担付遺贈と受贈者の責任)①負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。


②遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は財産分離によって減少したときは、受贈者はその減少の限度において、負担した義務を免れる。
負担付遺贈の受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。負担付遺贈の受遺者が遺贈を放棄した場合、負担の利益を受ける者が自ら受遺者となることができるかについては韓国民法上の規定はないので学説上の争いがある。負担付遺贈の目的の価額が限定承認や財産分離請求によって減少した場合に負担義務を免れる。遺留分返還請求による減少については、規定はないが、そのときも負担した義務を免れるというべきであろう。


ポリー
「韓国では、負担付き遺贈は実際に効果があるのでしょうか。」

(5) 遺贈の無効・取消
韓国民法1087 条(相続財産に属しない権利の遺贈)①遺言の目的である権利が遺言者の死亡のときにおいて相続財産に属しなかったときは、遺言は効力を生じない。ただし、遺言者が自己の死亡のときにおいてその目的
物が相続財産に属しなかったときであっても、遺言の効力を生じさせる意思であったときは、遺贈義務者はその権利を取得して受贈者に移転する義務を負う。
②前項の但書において、その権利を取得することができないとき、又はその取得に可分の費用を要するときは、その価額を弁償することができる。
韓国民法第1089 条(遺贈の効力発生前の受贈者の死亡)①遺言は遺言者の死亡以前に受贈者が死亡したときは、その効力を生じない。
②停止条件付きの遺贈については、受贈者がその条件の成就前に死亡したときはその効力を生じない。
韓国民法1090 条(遺贈の無効、失効の場合と目的財産の帰属)遺贈がその効力を生じないとき、又は受贈者がこれを放棄したときは、遺贈の目的の財産は相続人に帰属する。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

4 遺言の検認と執行

1 意義(遺言の検認・執行)

韓国民法1091 条(遺言証書、録音の検認)①遺言の証書又は録音を保管した者若しくはこれを発見した者は、
遺言者の死亡後、遅滞なく、法院に提出して、その検認を請求しなければならない。

②前項の規定は、公正証書や口授証書による遺言については適用しない。
韓国民法1092 条(遺言証書の開封)法院が封印のある遺言証書を開封するときは、遺言者の相続人、その代理人その他の利害関係人の立会がなければならない。
民法1091 条の遺言証書の法院の検認は遺言証書の形式、態様などの遺言の方式に関する全ての事実を調査・確認して相続開始後の偽造、変造、隠匿、破毀などのおそれを防止するために定められたものである。遺言の検認手続きは一種の検証手続き、あるいは証拠保存手続きであるので、遺言内容の真否やその効力などのような実体法的な効力を判断するものではない。したがって、判例105は、民法1092 条が定めている遺言証書の開封手続きは封印のある遺言証書の検認には必ず開封が必要であるからその手続きを規定したまでであって、適法な遺言であれば、このような検認や開封手続きを経てなくとも遺言者の死亡によって直ちに効力を生ずると解すべきだと判断したことがある。韓国民法は、検認や開封手続きの違反に対する過料などの制裁も定めていない。

2 遺言執行者

遺言の検認とは別に、遺言の執行とは、遺言の効力が発生した後、遺言に表示されている遺言者の意思を実現する行為若しくはその手続きのことである。このような執行行為若しくは執行手続きを担う者が遺言執行者である。

(1) 遺言執行者の地位と決定

韓国民法1101 条(遺言執行者の権利義務)遺言執行者は遺贈の目的である財産の管理その他の遺言の執行に必要な行為をする権利義務がある。
韓国民法1103 条(遺言執行者の地位)①指定又は選任による遺言執行者は相続人の代理人とみなす。
②第681 条から第685 条まで、第687 条、第691 条及び第692 条の規定は遺言執行者について準用する。
韓国民法682(複任権の制限)①受任人は委任人の承諾又はやむをえない事由がなければ、第三者にして自己に代わり、委任事務を処理させることはできない。


②受任人が前項の規定によって第三者に委任事務を処理させた場合には、第121 条、123 条の規定を準用する。
韓国民法1098 条(遺言執行者の欠格)制限能力者と破産宣告を受けたものは、遺言執行者となることができない。
遺言執行者の地位は民法の規定によると相続人の代理人としての地位を有する。したがって、遺言執行者は相続人の代理人として相続財産を善良な管理者の注意をもって任務を果たすべきであり、相続人に対する報告義務や金銭消費の責任などを負う。

なお、1103 条2 項の682 条の準用によって、遺言執行者には原則として複任権も制限される。遺言執行者は遺言訴訟に必要な訴訟手続きにおいて法定訴訟担当者として当事者適格を有しており、その範囲では、相続人は当事者適格がないというのが一般である106。遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産に対する処分権を喪失することになるはずであるが、韓国民法はこのような内容の規定は設けていない。
制限能力者と破産宣告を受けた者は遺言執行者となることができない(1098 条)。
韓国民法は遺言執行者の決定について、指定遺言執行者、法定遺言執行者、選任遺言執行者の三つの方法によることにしている。

(a) 指定遺言執行者
韓国民法1093 条(遺言執行者の指定)遺言者は遺言で遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
韓国民法1094 条(委託による遺言執行者の指定)①前条の委託を受けた第三者はその委託があったことを知ってから、遅滞なく、遺言執行者を指定して、これを相続人に通知しなければならないし、その委託を辞そうとするときは、これを相続人に通知しなければならない。
②相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定めて、その期間内に遺言執行者を指定することを委託された者に催告することができる。その期間内に指定の通知がなかったときは、その指定の委託を辞退したものとみなす。
韓国民法1097 条(遺言執行者の承諾、辞退)①指定による遺言執行者は遺言者の死亡後に、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを相続人に通知しなければならない。
②選任よる遺言執行者は、選任の通知を受けてから、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを法院に通知しなければならない。
③相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定めて、その期間内に承諾するかどうかを確答すべき旨を、指定又は選任による遺言執行者に催告することができる。その期間内に催告に対する確答をしなかったときは、遺言執行者が就任を承諾したものとみなす。


指定による遺言執行者は、遺言者の死亡後に、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを相続人に通知しなければならない(1097 条2 項)。指定の委託を受けた者がある場合に、韓国民法は、まず、委託を受けた第三者はその委託があったことを知ってから、遅滞なく、遺言執行者を指定して、これを相続人に通知しなければならない。しかし、相続人は、指定の委託を受けた者が遺言執行者を指定するのをいつまでも待っていられるわけにはいかない。そもそも、「指定又は選任遺言執行者の就任の承諾・承諾」については、1097 条があって相続人(その他の利害関係人)は催告権を有するが、「指定の委託を受けた者の委託の承諾・辞退」を問う催告権は規定がない(1097 条、特に同条の3 項)。そこで、韓国民法は、相続人その他の利害関係人は、その者に対して、「遺言執行者を指定するかどうか」を確答すべき旨の催告をすることができるした上で、相当の期間内に指定の通知がなかったときは、その「指定の委託を辞退したもの」とみなすと定めている(1094 条2 項)。この規定があることによって、相続人その他の利害関係人は、指定された遺言執行者又は指定を委託された者の就任の承諾のみならず(1097 条3 項)、指定を委託さ
れた者に対して、指定権の行使の可否を問うことで、委託の辞退とみなす催告権を有することになる。なお、相続人は、1094 条による指定の委託を受けた者の辞退の通知を待たずに催告権を行使することができる。


(b) 法定遺言執行者
韓国民法1095 条(指定遺言執行者がない場合)前2 条の規定によって指定された遺言執行者がないときは、相続人が遺言執行者となる。
韓国民法は、指定遺言執行者がないときは、直ちに、家庭法院による選任執行者が遺言執行者となるのではなく、一応、相続人が遺言執行者となる法定遺言執行者の制度を設けている。これは、指定遺言執行者がないとき、又は死亡、欠格、その他の自由で遺言執行者がなくなったときは、利害関係人の請求によって家庭法院が遺言執行者(選任遺言執行者)を選任するまでの間に、時間的間隙があるので、それを埋めるために、法律で相続人を遺言執行者とみなしたのである。
(c) 選任遺言執行者
韓国民法1096 条(法院による遺言執行者の選任)①遺言執行者がないとき、又は死亡、欠格、その他の事由によってなくなったときは、法院は利害関係人の請求によって、遺言執行者を選任しなければならない。
②法院が遺言執行者を選任した場合には、その任務に関して必要な処分を命ずることができる。
韓国民法1097 条(遺言執行者の承諾、辞退)②選任よる遺言執行者は、選任の通知を受けてから、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを法院に通知しなければならない。
③相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定めて、その期間内に承諾するかどうかを確答すべき旨を、指定又は選任による遺言執行者に催告することができる。その期間内に催告に対する確答をしなかったときは、遺言執行者が就任を承諾したものとみなす。
選任よる遺言執行者は、選任の通知を受けてから、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを「法院」に通知しなければならない。民法1096 条による法院の遺言執行者の選任は、民法1098
条の遺言執行者の欠格事由に該当しない限り、当該法院の裁量に属する問題である107。
韓国民法1105 条(遺言執行者の辞退)指定又は選任による遺言執行者は、正当な事由があるときは、法院の許可を得て、その任務を辞することができる。
韓国民法1106 条(遺言指定者の解任)指定又は選任による遺言執行者にその任務の懈怠があるとき又は正当ではない事由があるときは、法院は、相続人その他の利害関係人の請求によって、遺言執行者を解任することができる。
(2) 遺言執行者の任務
韓国民法1099 条(遺言執行者の任務の着手)遺言執行者がその就任を承諾したときは、遅滞なく、その任務をお行わなければならない。
韓国民法1100 条(財産目録の作成)①遺言が財産に関するものであったときは、指定又は選任よる遺言執行者は、遅滞なく、その財産目録を作成し、相続人に交付しなければならない。
②相続人の請求があるときは、前項の財産目録の作成に相続人を立ち会わせなければならない。
韓国民法1102 条(共同遺言執行)遺言執行者が数人ある場合には、任務の執行はその過半数で決する。ただし、保存行為は、各自がこれをすることができる。
韓国民法1104 条(遺言執行者の報酬)①遺言者が遺言でその執行者の報酬を定めていない場合には、法院は、相続財産の状況その他の事情によって指定又は選任による遺言執行者の報酬を定めることができる。
②遺言執行者が報酬を受ける場合には、第686 条第2 項、3 項の規定を準用する。
韓国民法686 条(受任人の報酬請求権)②受任人が報酬を受けた場合には委任事務を完了してからではないと、これを請求することができない。但し、期間によって報酬を定めたときは、その期間が経過した後にこれを請求することができる。
③受任人が受任事務を処理する間に受任人の責任のない事由によって委任が終了したときは、受任人は既に処理した事務の割合に応じる報酬を請求することができる。
韓国民法1107 条(遺言執行費用)遺言の執行に関する費用は相続財産の中から、これを支払う。
韓国民法1103 条(遺言執行者の地位)②第681 条から第685 条、第691 条及び第692 条の規定は遺言執行者に準用する。
韓国民法691 条(委任終了時の緊急処理)委任終了の場合に、急迫な事情があるときは、受任人、その相続人あるいは法定代理人は委任人、その相続人又はその法定代理人が委任事務を処理することができるまでにその事務の処理を継続しなければならない。この場合については、委任の存続と同一の効力がある。
韓国民法692 条(委任終了の対抗要件)委任終了の事由はこれを相手方に通知したとき又は相手方がこれを知ったときでなければ、これをもって相手方に対抗することができない。


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相続に関する法律 韓国第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

第3 章 遺留分

1 意義

相続に関して、被相続人の自己の保有する財産につき、死後の処分をどうするかという決定権を保障しようというのが遺言制度である。これに対し、遺留分制度は、被相続人の遺言による相続財産の処分の自由を制約し、一定な範囲の相続人に一定な割合の相続財産を確保することができるようにした民法上の制度である。

実質的に、被相続人の財産の中には、相続人、とりわけ、配偶者の財産が混在されることもあり、相続人が被相続人の財産形成に一定部分寄与していることもある。遺言による被相続人の財産処分さえなかったならば、相続できたのであろう財産に対する相続人の権利を一部確保できるように保障する必要がある。しかも、被相続人の死後に相続人の生活保障を全く無視してよいわけではない。


したがって、被相続人の遺言処分の自由と相続人の保護とを調整する必要があって民法上設けられた制度が遺留分制度である。この調整手段として一定な割合で相続人に留保された相続財産に関する抽象的・基本的権利、若しくはその地位を遺留分権と呼ぶ。なお、このような遺留分権という権利又は地位から、遺留分を侵害する遺贈及び贈与があったとき、受贈者に対して遺留分の不足分の返還を請求できる具体的・派生的な権利が遺留分返還請求権なのである108。

2 遺留分権利者と遺留分の算定
1 遺留分権利者と遺留分の割合
遺留分権利者とその遺留分の割合は次のようである。
韓国民法1112 条(遺留分権利者と遺留分)相続人の遺留分は次の各号による。
1.被相続人の直系卑属はその法定相続分の2 分の1
2.被相続人の配偶者はその法定相続分の2 分の1
3.被相続人の直系尊属はその法定相続分の3 分の1
4.被相続人の兄弟姉妹はその法定相続分の3 分の1
遺留分権利者は、被相続人の配偶者、直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹として、相続開始の時に相続権のある相続人であるから、相続欠格・相続放棄により相続権を失った者には遺留分権もない。胎児は生きて生まれれば遺留分権利者となるし、代襲相続人も被代襲相続人の遺留分の範囲内で遺留分権を有する。


2 遺留分の算定
韓国民法1113 条(遺留分の算定)①遺留分は被相続人の相続開始の時において有した財産の価額にその贈与財産の価額を加算し債務の全額を控除して、これを算定する。
②条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は家庭法院が選任した鑑定人の評価に従ってその価額を定める。
韓国民法1114 条(算入される贈与)贈与は相続開始前の一年間にしたものに限り第1113 条の規定によりその価額を算定する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、一年前にしたものについても、同様である。
遺留分は被相続人の相続開始の時において有した財産の価額にその贈与財産の価額を加算し債務の全額を控除して、これを算定する(1113 条1 項)。したがって、遺留分算定の基礎となる財産の確定には、「相続開始の時に有した財産」、「贈与財産」、「債務」が算定要素となっている。

(1) 相続開始時の財産
遺留分は被相続人の相続開始の時において有した財産の価額にその贈与財産の価額を加算し債務の全額を控除して、これを算定する。遺留分算定の基礎財産とは、「被相続人が相続開始の時において有していた財産」の価額に「贈与財産」の価額を加算して債務全額を控除した財産のことである。遺留分算定の基礎財産は相続財産そのものではない。ここでまた、被相続人が「相続開始の時において有していた財産」には積極財産、遺贈財産、贈与の対象ではあるがまだ履行されてない財産などがあり、相続財産を構成しない財産、例えば、祭祀財産は含まれない。遺贈財産は相続開始の時に現存する財産として扱われる。なお、贈与の目的物とはいえまだ履行されてなかった財産は相続開始の財産に含まれる109。

(2) 贈与した財産
算入される贈与の範囲については、(a)相続開始前の一年間にした贈与、(b)当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなした贈与、(c)共同相続人の特別受益が含まれる。相続開始前の一年間の贈与が原則となっているのは、いくらでも過去に遡ってしまうと取引の安全を害するおそれがあるからである。ここでの贈与は、贈与契約が相続開始前1年間に締結された場合を指しており、履行が相続開始1年間になされただけの場合は含まれない。しかし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることをしてなした贈与の場合は、1年前の贈与であっても算入される110。「共同相続人の特別受益」も民法1008 条及び1118 条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるので、すべて返還すべきである。


この特別受益には、民法1114 条が適用されないがために、共同相続人の中に被相続人からの贈与により特別受益を受けた者があるときは、その贈与が相続開始前の1 年間にしたものかどうか、当事者双方が損害を加えることを知ってなしたかどうかを問わず、すべて遺留分算定の基礎財産に算入される。これを、法定相続の場合とパラレルに考えると、異なる点がある。法的相続の場合には、具体的相続分を算定するに当たり、特別受益と寄与分というのが法定相続分の修正要素として考慮される。しかし、個別的遺留分の算定に当たっては、特別受益は返還されるが、民法1115 条では遺留分返還請求権の対象
に寄与分は規定していないことから、寄与分は返還されないとされるのが通説である。そもそも遺留分制度は被相続人の相続財産の処分の自由を制限するための制度であるのに対し、寄与分は共同相続人の協議又は家庭法院の審判によって定められるものであって被相続人の意思によるものではないので、遺留分をもって寄与分を制限するのは望ましくないからと説明している。したがって、遺留分算定の基礎財産を算定するに当たっては、そもそも寄与分を控除して計算する(相続財産から除外する)ことになるので、寄与分がいくら過渡に定められたとしても、寄与分による遺留分の侵害の問題は生じない。

(3) 控除される相続債務

遺留分算定において債務を控除するのは、遺留分制度というのは現実に取得しうる相続財産(純取得分)の一定割合を遺留分権利者に留保する制度であるからである。ここには、私法上・公法上の債務、相続財産に対する費用、遺言執行費用、葬式費用などが含まれる。相続債務がある場合には、実際に侵害された遺留分額(返還されるべき遺留分額)を算定するにあたっては、相続債務分担額を加えることとされる。

(4) 遺留分額と返還されるべき遺留分(侵害された遺留分額)

遺留分権利者の留分額は以上のように算定された財産価額に、民法1112 条の定める各自の遺留分の割合を乗じた額となる。遺留分の割合は、被相続人の直系卑属と配偶者の場合には、法定相続分の2 分の1、被相続人の直系尊属と兄弟姉妹には、法定相続分の3 分の1 である。これに基づいて、遺留分権利者が返還請求できる額は、その不足分である(1115 条)。詳しくは、民法1113 条と1114 条によって算定された遺留分額から当該相続人の得た相続財産額を控除し、その残額に相続債務分担額を加えた額が返還請求の対象となる遺留分額である。
3 遺留分返還請求権(遺留分の保全)

韓国民法1115 条(遺留分の保全)①遺留分権利者が被相続人の第1114 条に規定する贈与及び遺贈によってその遺留分に不足が生じたときは、不足した限度でその財産の返還を請求することができる。
②第1 項の場合、贈与及び遺贈を受けたものが数人あるときは、各自の遺贈の価額の割合に応じて返還しなければならない。
韓国民法1116 条(返還の順序)贈与は遺贈を返還した後でなければ、これを請求することができない。
韓国民法1118 条(準用規定)第1001 条、第1008 条、第1010 条の規定は遺留分について準用する。

1 意義
遺留分返還請求権とは、遺留分に不足が生じた場合、不足した限度で贈与又は遺贈の目的となった財産の返還を請求する権利である。遺留分返還請求権の法的性質については、形成権というのが多数説である。


多数説によると、遺留分返還請求権は遺留分侵害行為の効力を消滅させる形
成権であるため、遺留分返還請求権を行使すると、遺留分を侵害した遺贈や贈与が失効となるから、遺留分返還請求権者は物権的請求権をもって目的物返還請求をすることができるという。判例の態度は明らかではないが形成権説に立っているようにみえるものが多い。但し、判例には、遺留分返還請求権の行使は、侵害する遺贈や贈与行為を指定しその返還を請求する意思表示で足りるし、それによる目的物の移転登記請求権若しくは引渡請求権を行使することとは異なり、目的物を特定する必要はないと判断したものがある111。


ポリー
「韓国でも日本と同じく、遺留分を請求したら権利が生じるのですね。」


2 遺留分返還請求権の行使

(1) 返還請求の当事者

遺留分返還請求権は遺留分権利者及びその承継人である。遺留分権利者の債権者が遺留分返還請求権を代位行使できるかどうかについては、学説上様々な議論がある。通説は遺留分返還請求権が一身専属権ではないことから、債権者代位権の客体となるとしているが、判例は行使上一身専属権と把握して特別な事情がない限り、債権者代位権の客体とはならないとした112。他方、返還義務者は遺贈または贈与を受けた者及びその承継人である。遺留分返還請求権の行使により返還されるべき遺贈又は贈与の目的となった財産が第三者に譲渡されたとき、その譲受人に対してもその財産の返還を請求することができるかが問題となっている。判例は、その譲受人が譲渡当時に遺留分権者を害することを知ったときには、その譲受人に対しても財産の返還を請求することができるとしている113。

(2) 返還の範囲と方法

遺留分返還請求権の行使は裁判上・裁判外でも行使することができる。返還の順序は、複数の遺贈や贈与がある場合には、遺贈を先に請求し、それでもまだ遺留分が満足されない場合に贈与の返還を請求することになる(1116 条)。死因贈与と遺贈とがある場合には、その順位がどうなろかについては、詳しい議論はないが一般に同順位であるとされる。遺贈や贈与者がそれぞれ多数あるときは、どの場合でも受贈の目的物の価額の割合に応じて返還する(1115 条2項)。


韓国
民法には、1115 条2 項と1116 条以外には返還の範囲や順位を定める詳しい規定がないので、それが問題となった様々なケースに関しては、実務上、解釈や判例によって解決するしかない。判例によると、「贈与又は遺贈を受けた他の共同相続人が数人あるときは、民法の定める遺留分制度の目的や同法1115 条2 項の規定趣旨に照らして、遺留分権利者はその他の共同相続人の中で贈与又は遺贈を受けた財産の価額が自分の固有の遺留分額を超過する相続人に対して、遺留分額を超過した金額の割合に応じて返還請求をすべきである」と判断したものがある114。なお、共同相続人と共同相続人ではない第三者が被相続人からそれぞれ贈与又は遺贈を受けた場合には、「民法1115 条2 項の趣旨を考慮して、他の共同相続人の中で、各自の受贈財産などの価額が自己の固有の遺留分額を超えている相続人のみに対して、侵害された遺留分額を超過した金額の割合に応じて返還請求をすべきであるとした上で、共同相続人と共同相続人ではない第三者がある場合には、その第三者にはそもそも遺留分というのがないので、共同相続人は自己の固有の遺留分額を超えた金額を基準とし、第三者はその受贈価額を基準として、各金額の割合に応じて返還することができるとした判例もある115。


返還の方法についても、直接に定める規定はないが、「その財産の返還」を請求すると規定している1115 条の文言の趣旨に照らして、現物返還が原則となる116。しかし、現物による返還ができない場合には価額返還するしかない。

(3) 返還請求権行使の効果

遺留分権利者によって返還請求がなされた場合、返還義務者は遺贈又は贈与された財産そのものを返還しなければならない。果実については、現物による返還が原則である以上果実も返還されるべきであるが、学説は、一般に返還請求がなされた以後の果実が返還対象となるとしている。
返還請求によって相手方の相続人が受分の遺留分額を超えて取得した遺贈や贈与は遺留分権を侵害する限度でその効力を失う。遺留分返還請求権の行使は相続財産の分割と別に行うことができるが、具体的な遺留分返還請求権の実現のためには相続財産分割の手続きとともに行う必要がある。

3 遺留分返還請求権の消滅
韓国民法1117 条(消滅時効)返還の請求権は遺留分権利者が相続の開始及び返還すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1 年内に行使しなければ時効によって消滅する。相続開始の時から10 年を経過したときも同様とする。
遺留分返還請求権は返還の請求権は遺留分権利者が相続の開始及び返還すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1 年内に行使しなければ時効によって消滅する。また、相続開始の時から10 年を経過したときにも時効で消滅する。返還の意思表示を期間内にすればいいので、その結果生じる返還請求権の行使は民法1117 条の期間経過後でも構わない。

4 遺留分権の放棄

遺留分の抛棄については、日本民法と異なり、韓国民法上には規定がない。日本民法043 上によると、相続の開始前であっても家庭裁判所の許可があれば抛棄できると定めているが、韓国の解釈では、相続人は遺留分権を予め抛棄することはできず、実際に抛棄したとしても無効である117と解するのが一般である。その根拠は、韓国民法において相続の事前抛棄は許されないし、被相続人が圧力をかけて遺留分権の事前抛棄を強要するおそれがあるからである。それに、相続開始前の遺留分権はまだ具体的な権利とはいえない一種の期待権にすぎないからである。相続開始後には、遺留分権は具体的な財産権であるので、遺留分返還請求権のみならず、これを包括する遺留分権そのものを放棄することもできる。但し、遺留分権を放棄したとしても相続人の地位を失うことはない。問題は、共同相続人の一人が遺留分権を放棄したとき、放棄者の遺留分が他の共同相続人の遺留分に帰属するのかにある。日本民法は明示的にその1043 条2 項が他の共同相続人には影響を及ぼさないとしているが、韓国にはそれに関する規定がないので、学説は次のように解している。通説は、遺留分権利者が遺留分を放棄した場合には、そもそも、その遺留分権利者は存在しなかったことになり、遺留分額が再算定されるため、共同相続人の遺留分の放棄
は、結局、他の遺留分権者の遺留分額に影響を及ぼすとしている。他方、遺留分の放棄は債権者取消権においての詐害行為とはならない。

相続に関する法律 台湾



第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より
第1 章 はじめに

中華民国の民法親族編と相続編はともに、1931 年5 月5 日(台湾では1945 年)から施行され
ている。そのうち、親族編は、この十数年間で、もっとも頻繁に改正されている法分野であり、
今日に至るまで、すでに16 回にも及んでいる。この法改正は、言うまでもなく、経済成長、産業
構造、家族の形態ないしライフスタイルの変化などの社会的要因が背景となっているが、その中
でも特に指摘すべきことは、1987 年の戒厳令解除である。台湾では1949 年5 月20 日から1987
年7 月15 日まで、38 年間もの長期にわたり戒厳が施行され続けた。戒厳令の解除により、政治
的には民主化が進み、集会・結社の自由が認められたため、女性団体による積極的な活動が可能
となり、その力が親族法改正を実現させたと一般的に評されている1。現実に、親族編の16 回の
法改正は、戒厳中には1985 年の1 回のみであり、残りの15 回はすべて戒厳令解除後に生じたも
のである。


番人
「親族に関しては、十数年間で16回の改正か。すごいね。」


それとは対照的に、相続編は1985 年、2008 年、2009 年6 月(この二者は同様の理念に基づく
ものであるため、以下では一括して論じることとする)、および2009 年12 月、2014 年1 月の5
回の改正を経るに止まっている。従来から高い注目を集めていた親族編とは異なり、相続編に対
する社会的な関心は低い2。2008 年と2009 年6 月に行われた限定承認を原則とする法改正を除け
ば、相続編の条文には変動が多くなかったが、関連する他の制度、例えば夫婦財産制や家事事件
手続に関する法律が大きく変わったため、相続法の解釈や適用にも少なからず影響を及ぼしてい
る。これは台湾の相続制度を理解するためには不可欠な前提である。

したがって、第二章ではまず台湾における相続の基本原則、すなわち法定相続人、相続分、遺
産共有、遺産分割、遺言および遺留分を紹介してから、第三章では関連する諸制度の改正が相続
に与える影響および最近の立法の動向を整理し、第四章では今後の課題を述べ、結論に代えさせ
ていただくこととする。


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相続に関する法律 台湾②
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

第2 章 相続制度の概要

1 法定相続人と相続分

1 現行法の規定

台湾法における法定相続人は、血族と配偶者の二種類である。まず、血族相続人について、民
法1138 条と1139 条に規定が置かれている。すなわち、1138 条は、「遺産相続人は配偶者を除き、
左の順序で定める。一、直系卑属。二、父母。三、兄弟姉妹。四、祖父母」3であり、1139 条は、「前
条で定めた第一順位の相続人は、親等の近い者を先にする」である。血族法定相続人の法定相続
分について、第1141 条は「同一順位の相続人が数人いる場合、人数に応じて均等相続する。但し、
他の法律で定める者はこの限りでない」と規定している。
次に、第1144 条は配偶者が常に法定相続人であることを定めている。すなわち、「配偶者は互
いに遺産相続の権利を有する。その相続分は左の規定により定める。

一、第一一三八条で定めた
第一順位相続人と同時に相続するときは、その相続分は他の相続人と相等しい。二、第一一三八
条で定めた第二あるいは第三順位相続人と同時に相続するときは、その相続分は遺産の二分の一。
三、第一一三八条で定めた第四順位相続人と同時に相続するときは、その相続分は遺産の三分の
二。四、第一一三八条で定めた第一から第四順位の相続人がいないときは、その相続分は遺産の
全部」である。
上述の規定に基づいて計算した結果、各人の法定相続分は以下の通りである。

(1) 直系卑属

被相続人に子が二人、孫が二人いる場合、1139 条により二人の子が相続人となり、それぞれの
相続分は遺産の二分の一である。直系卑属が配偶者とともに相続するとき、配偶者の相続分は直
系卑属と頭割りで計算する。例えば、被相続人に子二人と配偶者が存在した場合は、配偶者の相
続分は遺産の三分の一である。すなわち、直系卑属が配偶者とともに相続するときは、配偶者の
法定相続分は固定的ではなく、直系卑属の人数によって変わることになる。

(2) 父母

父母のみが相続人であるときは、父と母の各人の相続分は遺産の二分の一である。父母と配偶
者が共同相続するときは、配偶者の相続分は遺産の二分の一であり、父と母の各人の相続分は遺
産の四分の一である。つまり、配偶者が父母とともに相続するとき、その法定相続分は固定的で
ある。

(3) 兄弟姉妹

相続人が兄弟姉妹四人である場合は、各人の相続分は遺産の四分の一である。相続人が配偶者
と兄弟姉妹四人である場合には、配偶者の相続分は二分の一と定まっており、兄弟姉妹全体の相
続分は二分の一であるから、各人の相続分は八分の一である。

(4) 祖父母

相続人が父系と母系両方の祖父母である場合は、各人の相続分は遺産の四分の一であり、父系
と母系両方の祖父母と配偶者が共同相続する場合に、配偶者の相続分は遺産の三分の二であり、
祖父母全体の相続分は三分の一であるため、各人の相続分は一二分の一である。


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相続に関する法律 台湾③
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

2 法定相続分に関する疑問および対応

配偶者の相続分および血族相続における均分主義の定めは、完全に安定したものではない。社
会環境の変化につれ、それに対する疑問は当然に提起され始めている。

(1) 配偶者の相続分について

1975 年に司法行政部の民法研究修正委員会は、民法の改正を目標として、いくつかの改正のポ
イントを提出した。その中で、「配偶者と直系卑属が共に相続する場合は、その相続分は固定すべ
きか(例えば配偶者は二分の一を取得。残りは子に分ける)」という問題が提示された4。しかし、
その後、1976 年に、行政院長(司法行政部は行政院に属する)がこの改正案に反対していたため、
改正作業は中断した5。現在まで配偶者の法定相続分に関する条文が改正されたことはない。とは
いえ、1985 年に夫婦財産制に剰余財産分配請求権を導入したことにより、配偶者の死亡にあたっ
て生存配偶者が得られる財産は実質的に増加することになった。これについては第3 章の1でさ
らに詳述する。

(2) 均分相続と農地細分の問題について

1975 年に司法行政部長が中国国民党中央常務委員会に対して、「民刑法の改正にあたって政策
上考慮すべき問題」を報告した際に、従来から貫かれてきた均分原則に関する疑問が農家相続と
の関連で提起された。すなわち、「民法は遺産相続について均分相続を採用している。例えば、農
民の甲には子5 人がいる。甲の死後、その耕地は5 等分に分割されて、5 人の子に相続される。
この制度は農業社会では公平で合理的であるが、現代工業社会では、農業が既に機械化されたた
め、均分相続による過小の農地面積は機械化を妨げる。先の例のように、農地を過度に細分化す
ることは、耕作に不利な影響を与える可能性がある。


したがって、英米国家のように遺産は遺言
で自由に処分すべきだと主張する者がいる。なぜなら、そうすると、農地の細分化が避けられる
のみならず、子は遺産に頼ることができず、その独立の精神を養うことができるからである。し
かしながら、現行法の均分相続を支持する者は、遺産の自由処分がわが国の社会通念に合わない
こと、そして被相続人が不公平な自由処分をする場合は相続をめぐる紛争が起きやすいことを理
由として、法の改正に反対する。総じていえば、現行相続制度の下で、如何に農地の相続及びそ
の経営問題を扱うべきかに関しては、更なる研究が必要である」6というのである。

このように、民法の均分相続制度を改正することに反対する力が強いので、結局、民法ではな
く、特別法において、分割の規制と単子相続の促進に関する規定を設置するという対応が採られ
た。具体的には、1973 年農業発展条例22 条に一定面積以下の耕地の分割と共有への変更を禁止
する規定、23 条に農地の単子相続を奨励する規定がそれぞれ設けられた。


しかし、農地の細分化
ないしは農業の零細化の問題は一向改善されていない。1970 年には家族あたりの農場の平均耕地
面積は0.82ha であったのに対して、1980 年には0.79ha へと低減した7。農場の規模拡大を図り、
相続による細分化を防ぐため、1980 年に農業発展条例23 条が次のように改正された。すなわち、
農地がまとめて一人の(自作能力を有する)相続人に相続または贈与され、且つ農業の経営が継
続される場合には、遺産税または贈与税、および五年分の固定資産税(原文は「田賦」。収穫され
た作物で現物徴収)を免除すること、さらに、当該相続人が現金で他の相続人に補償することを
要する際には、国が10 年以上の低利子ローンの申込に協力することを定めている。

しかし、2000 年に状況が一変し、上述した零細化防止に関わる条文はすべて撤廃された。この
ことも社会背景と密接に関連している。すなわち、1990 年代末にWTO の加盟予定とグローバルの
波が台湾の農業を襲った。国民経済における農業の比重の低下、農家の高齢化、及び農業科学技
術の進展など、新しい社会や経済環境に対応するためには、農業の市場競争力を高めなければな
らない。すなわち、効率的な経営・管理と新たな資本と技術の導入、言い換えればある程度の市
場原理を働かせる必要がある。そのため、市場メカニズムを著しく阻害する「自作農だけが農地
を所有できる=農地農有」という伝統的な農地政策には、疑問が投げかけられた。結局、「農地農
有」政策は緩和され、「農地が農業の使途に利用される=農地農用」という方針だけが残されるこ
ととなった。2000 年に行われた法改正で農家相続に及ぼす重要なポイントは、分割制限の撤廃と
免税の優遇の拡大(単子相続の条件の撤廃)の2 点である。言い換えれば、農家相続に特別な配
慮をする条文は、すべて取り除かれた。


番人
「台湾の農業はどうなるんだろう。」


以上の法変遷を、均分相続の原理が農業経営の要請を上回ったと把握することができない。そ
もそも所有と経営の不分離を原則とする自作農主義を前提としないのなら、均分相続による農地
の所有権の細分化と農業経営の要請とは必ずしも矛盾しないはずである。台湾法の特徴は、かつ
ての厳格な自作農主義を緩和し、農業法の立法で所有と経営の分離を認めたため、(自作農主義の
下での)均分相続と農業経営の対立構図が崩れたことである8。したがって、民法における均分相
続の原則は現在まで無傷で維持されてきたのである。

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相続に関する法律 台湾④
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

2 遺産共有

被相続人の死亡の時点から相続が開始し、当然に相続財産は共同相続人に帰属することとなる。
さらに、台湾法は日本法と同様に、包括承継の原則に基づいて、相続開始の時点から、相続人は、
被相続人の財産に属した全ての権利義務を承継する(中華民国民法第1148 条1 項)。しかし、仮
に相続人が複数である場合には、もともと被相続人一人に属した権利義務関係は、複数の相続人
にどのように帰属するのか、つまり、共同相続の法的状態が問題となる。本節においては、この
相続開始後の第一段階ともいえる「遺産共有」の状態、具体的には、台湾の遺産共有の性質と権
利行使の方法について論じたい。

1 遺産の合有

共有という団体内部の結合関係の強度は、それに属する各共有者の持分の処分権及び分割請求
権の有無などに依存する。ドイツでは、民法における様々な共同所有の形態を、三類型―共有
(Miteigentum)・合有(Eigentum zur gesamten Hand)・総有(Gesamteigentum)―に分けて説明
している。この概念を自国に輸入し、既に存在した共同所有団体に当てはめ、その類型にあるべ
き法律効果を画一的にその団体へ適用するという解釈方法論については、疑問を提起する論者も
ある9が、ここでは説明の便宜のため、とりあえず遺産共有の形態をドイツ流の理論を借用して分
類する。


番人
「共有、合有、総有ってドイツ産だったのか。」

中華民国民法1151 条は、「相続人が数人あるときは、遺産分割の前においては、各相続人は遺
産全部に対して公同所有関係にある」と規定している。では、この「公同所有関係」は共有、合
有または総有のいずれに該当するのであろうか。
台湾の代表的な教科書によれば、公同所有とは、法律の規定または契約により公同関係となっ
た数人が、公同関係に基づいて一物の所有権を共有することである。公同所有の主な事例には、
組合財産、未分割の遺産、および祭祀公業の三種類がある10。個々の公同所有関係の強度は異な
るが、共通点もある。すなわち、各公同所有者の権利は公同所有物の全部に及ぶこと、各公同所
有者は潜在的な持分しか有しないこと、公同所有物の処分と他の権利の行使は、公同所有者の全
員の同意を得べきであること、公同所有関係の存続中は、各公同所有者は公同所有物の分割を請
求できないこと、などである。


次は、合有と総有の定義をみてみる。合有においては、各共同所有者は、目的物に対する管理
権能と収益権能とを留保する。すなわち、持分権を有する。しかし、主体の間に、例えば共同し
て一つの事業を営むというような、共同の目的があり、共同所有は、この共同目的達成の手段と
されている。したがって、各共同所有者の管理権能は、この共同目的達成のための規則によって
拘束され、その共同目的の存続する限り、各共同所有者は、持分権を処分する自由もなく、また
分割を請求する権利もない。

ドイツ民法は、組合財産・夫婦共有財産・共同相続財産について、
これを合有と定めた11。一方、総有では、共同所有者の持分が潜在的にも存せず、持分の処分や
分割請求が問題にならず、各共同所有者は目的物に対して使用・収益権を有するのみである。要
するに、所有権に含まれる管理機能と収益機能とは全く分離し、各共同所有者は、共有における
持分権をもたない。最も団体的色彩の強い共同所有形態である12。

日本における総有の代表例は、
慣習上見られる入会権のほか、慣習上の物権(温泉権)と権利能力なき社団の財産もそうである
と説明されている13。


台湾における分割前の遺産には、各相続人は具体的な持分を有しないが、潜在的な持分を有す
るので、合有に該当するものだと考えられる。台湾の民法物権編における公同共有(合有)の規
定、すなわち827~830 条は、遺産にも適用が可能である。但し、遺産が一般の合有財産と異なる
のは、もともと合有関係の法理によれば、各共有者は合有関係の存続中は、共有物分割を請求で
きないはずである(民法829 条、682 条1 項)が、1164 条は、「相続人は何時でも遺産分割を請求
することができる。但し、法律上に別段の規定があるか、又は契約に別段の約定があるときは、
その限りでない」と定めている。この規定の趣旨は、遺産の合有関係を永久に維持する意味はな
く、合有関係によって経済流通が阻害されること防ぐためのものだと言われている14。
遺産合有の規定について、批判がないわけではない。合有関係の下では相続人は相続財産につ
いて自由に持分を処分することができず、取引の安全を害する恐れがあるというのである15。し
かし、相続編が施行されてから現在まで、該当する条文は変更されなかった。次は合有の下での
法律関係を検討する。

2 債権と債務の共同相続

遺産分割前に、共同相続人は遺産に対して合有関係にあるため、共同相続人は相続債権・債務
についても当然に合有関係となる。

(1) 債権

遺産分割前に、各共同相続人は遺産に対して合有関係にあるため、共同相続人は相続した債権
について具体的な持分を有しない。したがって、相続債権は金銭債権のような可分債権か不可分
債権かにかかわらず、遺産分割前には合有債権と考えざるを得ない。この相続債権の合有状態に
ついて、実務上最も多く見られる争いは、共同相続人が共同して相続債務者に対して弁済を請求
しなければならないのかということである。すなわち、訴訟上、これを必要的共同訴訟と解し、
共同相続人全体が原告となるべきか、または不可分債権の規定16を類推し、共同相続人の一人が
全体のために弁済を請求できるか、という問題である。学説は後者の見解に賛成し、すなわち、
相続人の一人が相続人全体の利益のために、債務者に対して相続人全体へ弁済請求できると主張
している17。その根拠としてはドイツ民法第2039 条18が挙げられている19。

(2) 債務

相続債務は、合有財産に属するため、合有の債務であると同時に、相続債権者の保護及び共同
相続人間の公平を図るために、民法の規定によって、連帯債務でもある。すなわち、1153 条は、
「(1 項)相続人は、被相続人の債務に対して、相続により得た遺産の範囲内において、連帯責任
を負う。(2 項)相続人相互間においては、被相続人の債務に対して別段の約定がある場合を除い
て、その相続分に応じて負担する」と定めている。共同相続人は相続債務に対して連帯責任を負
うため、民法債編の連帯債務に関する規定(272~282 条)は相続債務にも適用される。


(a) 対外関係

民法273 条1 項を適用すると、相続債権者は共同相続人の一人・数人または全体に対して全部
または一部の給付を請求することができる。問題は、債務が性質上、不可分である場合に、債権
者は連帯債務を理由として共同相続人の一人に対して起訴すれば足りるのか、または合有のため、
共同相続人全体を被告とすべきなのか(必要的共同訴訟)である。実務上は、賃借不動産の明渡
義務がしばしば問題となる。最高法院51 年20台上字第1134 号判例は、必要的共同訴訟説に立っ
ている。すなわち、「上告人は契約満了を理由として、賃借人の相続人に対して不動産の明渡を請
求したが、相続人であるA を被告としなかった。原審がこれを当事者適格に反するとして、上告
人の訴えを棄却したことは適法である」と述べ、相続人全体を被告とすべき必要的共同訴訟説を
支持している。

(b) 内部関係

民法1153 条2 項は、共同相続人の内部の債務分担割合を規定している。この条文によれば、共
同相続人間ではその「相続分」に応じて債務を負担するため、連帯債務者が「人数」に応じて(平
等の割合で)連帯債務を分担すると定めた民法第280 条本文のルールは、相続債務には適用され
ない。


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相続に関する法律 台湾⑤
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


3 共同相続財産の管理、使用収益と処分

相続財産は共同相続人の合有に属するゆえに、民法物権編における「公同共有」(合有)に関す
る規定は相続財産に適用される。合有物の管理、使用収益と処分に関わる最も重要な条文は、民
法828 条2 項における「820 条、821 条、826 条の1 の規定は、公同共有に準用される」という規
定21、および同条3 項における「公同共有物の処分及びその他の権利行使は、公同共有者全体の
同意を得なければならない」という規定である。

(1) 所有権に基づく権利の行使

民法821 条は、(狭義の)共有における所有権に基づく請求について、「各共有者は、第三者に
対して共有物の全部について所有権に基づく請求をすることができる。但し、共有物回復の請求
は、共有者全体の利益に基づいてのみ行うことができる」と定めている。2009 年の物権編改正前
は、現在の828 条2 項の準用規定がなかったため、合有財産の所有権に基づく請求には、821 条
の多数決が準用されるのか、または旧828 条2 項(現行法の828 条3 項)の全体行使の原則が適
用されるのかが問題であった22。現行法は、明確に821 条の準用を認めており、すなわち合有に
おいて所有権に基づく請求を各共同所有者で単独で行えること、つまり、かつての通説の主張を
取り入れている。

(2) 管理と使用収益

合有の相続財産の管理と使用収益には、上述した828 条2 項により、共有の820 条の規定が適
用される。したがって、相続財産の管理と使用収益は、相続人の人数および潜在的な持分の多数
決により行われる。また、裁判所は一定の要件の下で、相続人の管理と使用収益に干渉し、管理
と使用収益の方法を変更する権限を持つ23。

(3) 処分

828 条3 項は、「公同共有物の処分及びその他の権利行使は、公同共有者全体の同意を得なけれ
ばならない」と定めている。

(a) 共有物の処分――共有者全体同意の原則

共同相続人は、合有関係の下で、持分(相続分)が潜在的なものにすぎないため、相続財産を
構成する個々の財産に存在する自己の持分を処分することができない。当然ながら、(自己の持分
を超えて)特定の財産を処分することもできない。ただ相続人は他の共同相続人全体の同意(授
権)を得れば、特定の財産を処分することができる。

(b) 全体同意原則の緩和――不動産の場合

土地法は、民法の「公同共有者全体同意の原則」に関する特別な規定を設けている。すなわち、
土地法第34 条の1 第1 項は「共有土地又は建築改良物の処分、変更、および地上権、永小作権、
地役権又は不動産質権の設定をする場合は、共有者の過半数のおよびその持分合計の過半数の同
意をもってしなければならない。但し、その持分合計が三分の二を超えるときは、その人数は計
算に入れない」とし、同条5 項は「前四項の規定は、公同共有に準用する」と定めている。これ
によって、共同相続人が相続財産に属する不動産を処分する場合には、全体の同意を得なくてよ
いとされた。土地法の適用により、相続不動産の処分(分割は別)は多数決で行ないうるのに対
して、通常はその価値が不動産より安価な動産の処分は、かえって共同相続人全体の同意が必要
である。この結果がアンバランスだという理由で立法的な検討を要すると主張した学説もある24。

(c) 相続分の処分

特定の財産の処分ではなく、共同相続人が自らの相続分そのものを一括して処分することがで
きるか。法律上の明文の規定と判例は存在しないが、学説は、相続分の処分は認められないと解
している25。

(4) その他の権利行使

民法828 条3 項の「その他の権利行使」は、優先購買権の行使、時効利益の放棄がこれに該当
し、共同相続人全体の同意を要する26。


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相続に関する法律 台湾⑥
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


4 共同相続財産の登記

相続財産を構成する不動産は、共同相続人の合有に属しており、各共同相続人は具体的な持分
を有しない。土地法73 条1 項は、「土地の権利を変更する登記は、権利者および義務者が共同で
申請しなければならない。義務者がないときは、権利者が申請する。それが相続登記であるとき
は、各相続人は全体の相続人のために申請することができる。但し、その申請は、他の相続人の
相続放棄又は限定承認の権利に影響を与えない」と定めている。土地登記規則120 条は、「相続人
が二人以上いる場合に、一部の相続人は他の相続人と共に相続登記を申請することができないと
きは、その中の一人または数人が全共同相続人の利益のために、被相続人の土地について公同共
有の登記を申請することができる。全共同相続人の同意を得た場合に、共有の登記を申請するこ
とができる」と規定している。すなわち、土地法73 条1 項の「相続登記」は「公同共有の登記」
(合有の登記)であり、相続人全員の同意がなくても、共同相続人の一人の単独で可能である。


最高法院69 年台上字第1166 号判例は、「土地の相続登記については、土地法第七三条の規定によ
り、すべての相続人は全体の相続人のために申請でき、訴訟上請求する必要がない…本件被上告
人は上告人に対して相続登記の登記協力を請求したが、これは上告人に対して一般の共有に関す
る登記を求めたのであろうか。仮にそうではなく、ただ合有の登記で足りるならば、なぜ原審は、
上告人の四分の一の持分を被上告人に登記移転せよと命じたのか。被上告人の請求は不明瞭であ
る。原審が釈明権を行使しその補充を促しておらず、直ちに被上告人の請求を容認し勝訴判決を
下したことは違法である」と述べて、土地法73 条の「相続登記」(合有の登記)を相続人の一人
で行いうると明言している。

5 日本との比較

遺産を構成する個々の財産に対する共同相続人の権利についていえば、日本では共同相続人は
自らの相続分を自由に処分でき、しかも、遺産の一部(可分債権と債務)は相続分に応じて共同
相続人に分割帰属する。そのため、遺産の結合は比較的ルーズである。これに対して、台湾では
共同相続人は自由に相続分を処分できず、共同相続人に分割帰属することがないため、遺産は比
較的団体性と結合性が強い。次に、第三者との関係についていえば、日本の共有説の下では遺産
を対象とする商品の交換が円滑に行われ、取引の安全が保護される。他方で、台湾の合有説の下
では持分の処分が禁止されおり、取引の安全が妨げられると思われるが、不動産の登記に公信力
があるため、取引の安全はそこで配慮されることになる。


番人
「登記に対する信頼が厚いですね。」


合有である遺産共有の法律状態は、暫定的・一時的な状態にすぎず、永続的な安定したものと
はいえない。次には遺産分割手続が必要となる。すなわち、相続財産を構成するどの財産が、ど
の相続人に帰属するかは、最終的には遺産分割手続で確定される。但し、遺産分割の際に、考慮
すべき要素は極めて多岐にわたる。単に民法の定めている法定相続分に従い分割すればよいとい
うわけではない。そのため、遺産分割の過程で、本来の法定相続分に修正を与えうる様々な要素
を丁寧に検討すべきである。法定相続分に対する修正とは被相続人の遺言による処分である。遺
言自由の大原則に基づき、確かに被相続人は自由に遺言によって、法定相続分の内容と異なる処
分を行うことができるが、その自由には「遺留分」という制限がある。遺留分は、一定範囲の法
定相続人に留保すべき最小限の相続財産であり、「相続の法定原則に対する被相続人の意思による
攻撃を法定原則の側からいわば巻き戻すためもの」27とも言われている。よって、遺産分割の過
程で配慮しなければならない「遺言による財産処分」を検討する前に、「遺言による財産処分」に
制限を加える「遺留分制度」を検討する。


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相続に関する法律 台湾⑦
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

3 遺留分

台湾民法の遺留分に関する規定は1223 条~1225 条までの3 ヵ条であり、ゲルマン・フランス
型の遺留分制度に属すると一般的に考えられている28。その理由は、民法は法定相続主義を採用
して、全ての法定相続人に遺留分を与える。法定相続人はその相続人の資格に基づいて遺留分権
を有する。すなわち、法定相続権は遺留分権の基礎である。したがって、相続欠格または相続放
棄した相続人は相続開始時に相続権を有しないことになるので、遺留分権も有しない。次に、遺
留分は遺産の一部であり、遺産の上に存在するものであるから、遺留分が侵害された場合、返還
請求の目的は原則として遺産の現物に限られる。

1 遺留分権利者

台湾民法1223 条によれば、法定相続人の全ての者が遺留分権利者である。それには、被相続人
の直系卑属、父母、兄弟姉妹、祖父母及び配偶者が含まれている。

2 遺留分の率

遺留分権利者の遺留分の率は、被相続人との関係の親密度によって異なる。民法1223 条によれ
ば、直系卑属、父母及び配偶者はその相続分の二分の一であり、兄弟姉妹、祖父母の遺留分はそ
の相続分の三分の一である。したがって、遺留分の前提として、まず相続分を計算しなければな
らない。法定相続人とその順位が、11 で述べたとおり、1138 条、1140 条、1141 条、1144 条に
規定されており、これらの条文に基づいて計算した結果として、各人の遺留分は、以下の通りで
ある。

(1) 配偶者

配偶者が単独相続するとき、その相続分は遺産の全部であり、遺留分は遺産の二分の一である。
配偶者が被相続人の直系卑属、父母、兄弟姉妹、祖父母と共同相続するときについては、次に検
討する。

(2) 直系卑属

被相続人に子A・B・C 三人がいる場合、A・B・C それぞれの相続分は遺産の三分の一である。
遺留分は三分の一の半分、すなわち遺産の六分の一である。直系卑属が配偶者とともに相続する
ときは、配偶者の相続分は他の相続人と頭割りで計算する。例えば、被相続人には子三人と配偶
者がいる。配偶者の相続分は遺産の四分の一であり、遺留分は遺産の八分の一である。他の子の
相続分も遺留分も配偶者と同様である。

(3) 父母

父母のみが相続人であるとき、父と母の各人の相続分は遺産の二分の一であり、その各人の遺
留分は遺産の四分の一である。父母と配偶者が共同相続するとき、配偶者の相続分は遺産の二分
の一であり、父と母の各人の相続分は遺産の四分の一である。そして父と母の各人の遺留分は、
相続分の二分の一であるため、遺産の八分の一である。

(4) 兄弟姉妹

兄弟姉妹の遺留分は上記の者と異なり、相続分の三分の一である。相続人が兄弟姉妹四人であ
る場合に、各人の相続分は遺産の四分の一であり、遺留分は相続分の三分の一であるため、遺産
の一二分の一である。相続人が配偶者と兄弟姉妹四人である場合には、配偶者の相続分は二分の
一、兄弟姉妹全体の相続分も二分の一であるから、各人の相続分は八分の一である。その遺留分
は二四分の一である。

(5) 祖父母

祖父母の遺留分は相続分の三分の一である。相続人が父系と母系両方の祖父母である場合に、
各人の相続分は遺産の四分の一であり、遺留分は遺産の一二分の一である。父系と母系両方の祖
父母と配偶者が共同相続する場合に、配偶者の相続分は遺産の三分の二であり、祖父母全体の相
続分は三分の一。各人の相続分は一二分の一で、遺留分は三六分の一である。


3 遺留分の計算

遺留分額を算定する方法について、民法1224 条は「遺留分は、第一一七三条により計算した相
続すべき遺産の中から債務額を控除して計算する」と定めている。第1173 条29は遺産分割の際に、
相続開始時の遺産額に特別受益額を加える規定である。したがって、1224 条によれば、「遺留分
算定の基礎となる財産」の計算方法は、(ⅰ)被相続人が相続開始時に有した財産に、(ⅱ)特別受
益財産を加え、さらに(ⅲ)債務額を控除する、ということになる。
次に、各遺留分権利者の遺留分額の計算について、1224 条によって算出した「遺留分の基礎と
なる財産」に基づき、さらに1223 条に規定された一定の率を乗じた結果、各人の遺留分額が出て
くる。

4 遺留分の減殺

1225 条は、「遺留分権利者は、被相続人のなした遺贈によってその得べき額に不足を生じたと
きは、その不足額に応じて、遺贈財産を減殺することができる。遺贈を受けた者が数人いるとき
は、その得た遺贈の価額に比例して減殺しなければならない」と規定している。つまり、遺留分
権利者が現実に被相続人から受けた利益が、その遺留分額に達しないときに、はじめて遺留分侵
害があるとして、遺留分権利者は遺留分減殺をすることができる。また、遺留分が不足している
(=遺留分が侵害される)とき、遺留分権利者が減殺請求するか否かはその自由に委ねられる。

(1) 遺留分侵害額の計算

問題は、「遺留分権利者の現実に被相続人から受けた利益」とはどのようなものかである。この
点について、民法は直接の規定を用意していないし、学説も詳しく論じていない。しかし、通常、
「遺留分権利者の現実に被相続人から受けた利益」とは、被相続人から受けた特別受益30の価額
や遺贈の価額のほか、相続によって現実に得た財産(遺産分割で得た財産)もそれに含まれる。

(2) 遺留分を侵害する法律行為の効力

遺留分を害する法律行為は、当然無効なのか、あるいは一応有効であるが、遺留分権利者から
の減殺を受けてはじめて効力を失うか、という問題がある。判例(最高法院58 年台上字第1279
号判例)と通説31は、遺留分を侵害する法律行為は無効ではなく、ただ遺留分を侵害した遺贈が
減殺の対象となるにすぎない、と主張している。

(3) 減殺権の法的性質

減殺権は財産権であることについて、学説上は異論がない。つまり、減殺権は一身専属の権利
ではないため、相続ないし譲渡することが可能であり、遺留分権利者の債権者も代位行使できる32。
減殺権の性質については学説が分かれているが、判例33と通説34は物権的形成権説である。

(4) 減殺の対象

民法1225 条は、「遺留分権利者は、被相続人のなした遺贈によってその得べき額に不足を生じ
たときは、その不足額に応じて、遺贈財産を減殺することができる。遺贈を受けた者が数人いる
ときは、その得た遺贈の価額に比例して減殺しなければならない」と規定しており、遺留分減殺
の対象は一見すると、遺贈だけであると思われる。もっとも、民法1187 条は、「遺言者は、遺留
分の規定に反しない範囲内において、遺言をもって自由に遺産を処分することができる」と定め
ており、通説によれば、「遺言をもって遺産を処分する」ことには、遺贈に限らず、相続分の指定
と遺産分割方法の指定なども含まれる。そのため、遺贈、相続分の指定と遺産分割方法の指定は
遺留分減殺の対象となる。また、贈与者の死亡と伴って効力を生じる死因贈与もまた遺留分減殺
の対象とされている。したがって、減殺の対象は、終意処分に限定され、(特別受益を含むもの)
生前処分には及ばない。

(5) 減殺の行使

遺留分減殺権の行使は、物権的形成権説を採った以上、それは受遺者や受贈者に対する権利者
の一方的な意思表示であり、しかも裁判外でも行使できると解されている。この点において台湾
と日本は同様である。

(6) 減殺権の消滅の期間

日本民法には遺留分減殺請求権の消滅時効(1 年、1042 条を参照)を定める明文があるのに対
して、台湾には条文上は規定がない。様々な見解が存在するが、判例(最高法院103 年台上字第
880 号判決)と通説35は、減殺権の性質が相続回復請求権のそれに類似することを理由として、相
続回復請求権の消滅時効(2年と10 年、民法1146 条)が類推適用されると解している。

5 日本との比較

これまで、台湾の遺留分と遺留分減殺請求の制度の概要を論じてきた。台湾の法定相続人は、
すべて遺留分を有する。これに対して、日本では兄弟姉妹は法定相続人であるが、遺留分権を有
しない。台湾の条文は、遺留分を「相続分の何分の一」という文言で規定している。そのため、
遺留分を不可侵的な相続分とみるのが一般的である。また、日本法と比べると、台湾法には価額
弁償の規定がなく、現物返還が原則であり、且つ相続開始前の遺留分放棄という制度も存在しな
いため、よりフランス・ゲルマン型の遺留分に近いといえる。


番人
「兄弟姉妹には遺留分がないんだ。」

台湾の判例通説によると、遺留分減殺請求権の法的性質は、物権的形成権であり、日本・フラ
ンスとはあまり違いがない。しかし、減殺請求の対象である処分の法的性質において、台湾と日
本とでは差異が生じる。比喩的にいえば、両者は同じ刀物(遺留分減殺請求権)を有していても、
切断する対象(減殺請求の対象)がそもそも異なるので、同じ結果が出てくるはずはないと考え
られる。次の4は、減殺請求の対象、すなわち法定相続分の変更を伴う遺贈などの終意処分につ
いて分析していく。


番人
「台湾でも遺留分の請求の方法も、日本と同じで相手に請求した時に効力が発生するんだ。」


4 遺言による財産処分

台湾民法1187 条は、被相続人は遺留分に反しない限り、遺言により自由に遺産を処分すること
ができると定めている。これは日本民法964 条の規定に類似しており、「遺言による財産処分」と
は何かについて明言していない。台湾の学説は、「遺言による財産処分」とは何かについてまった
く触れておらず、ただ「遺言事項」を定義しているだけである。すなわち、通説によれば、遺言
事項は、監護人の指定、遺産分割方法の指定・指定の委託、遺産分割の禁止、遺言の撤回、遺言
執行者の指定・指定の委託、死亡退職金を受給する遺族の指定、寄付行為、遺贈、相続分の指定
である36。その中の、遺贈、相続分の指定、及び遺産分割方法の指定は同様に被相続人の遺産の
配分に関する指示であり、しかも遺留分減殺請求の目的となる37ため、本稿では遺言による財産
処分という概念で一括する。この三者は確かに概念的には区別されているが、具体的な状況の下
で、例えば、「遺産の中の甲土地はA に分配する」という処分は、一体特定物の遺贈なのか、また
はA の価値が法定相続分を超えたため相続分の指定に属するのか、あるいは遺産分割方法の指定
かは必ずしも容易に判断できないと考えられる38。以下は台湾の判例と学説の見解を考察するが、
結論を先取りすれば、かつての裁判例は確かに学説の指摘通り三種類の遺言による財産処分を特
に区分せずに取り扱っていたが、最近公表されたいくつかの最高法院の判決は、三者の違いを明
確に意識し、学説が想定していなかった遺言による財産処分の効力を認め始めている。

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相続に関する法律 台湾⑧
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

1 遺贈

遺贈について台湾の民法には1200 条から1208 条までの明文の規定が存在する。

(1) 遺贈と認定される処分

例えば、最高法院86 年度台上字第2864 号判決では、遺言で「遺産の中の甲、乙土地をA(被
相続人の孫)に遺贈する」と明確に記載されている場合には、これを裁判所は特定遺贈と認定し
ている。受遺者と遺贈者との関係から観察すれば、遺贈は確かに法定相続人でない者に対するも
のが多いが、法定相続人への処分を遺贈と解している判例も一定数は存在する39。

(2) 遺贈の法的効力

遺贈の法的効力について、台湾の民法は物権変動につき形式主義を採り、不動産の物権は登記、
動産の物権は引渡しがその効力発生要件となっているため、判例(最高法院86 年台上字第550 号
判決)と通説40はともに遺贈は債権的効力しか有しないと考えている。

(3) 遺贈の登記手続

不動産が遺贈の目的である場合には、まずは相続人が相続登記を経由し、その後に登記移転権利
者である受遺者が、登記移転義務者である相続人と共同で、遺贈目的物の移転を申請することと
なる。これは土地登記規則の123 条1 項に明文の規定がある。

2 相続分の指定

被相続人は法定相続分と異なる割合の相続分を指定することができ、これは相続分の指定と呼
ばれている。相続分とは、各相続人の遺産に対する割合的な持分であるから、観念的には相続人
でない者は相続分の指定を受けることができない。台湾の民法には相続分の指定に関する明文の
規定がおかれていないが、判例と学説41はその存在を肯定している。

(1) 相続分の指定と認定される処分

典型的な相続分の指定は、相続人につき、遺産の何割とか、何分のいくつを与えるという処分42
であろう。しかし、台湾の判例は、遺言で遺産の全部または特定の遺産を、特定の相続人に単独
で相続させる処分(つまり割合的な処分ではないもの)をも、相続分の指定として認めている。

(2) 相続分の指定の法的効力

相続分の指定は、本来は相続人の遺産の取り分に対する割合的修正であるため、具体的に遺産
の中の何を取得するのかは遺産分割手続を経ないと決まらない。遺産分割によって特定の遺産が
特定の相続人に帰属することが確定するまでは、相続分は理論的には遺産に対する割合的な持分
である。また、台湾における遺産共有が合有(民法1151 条明文)であり、相続分は潜在的・抽象
的な持分にすぎず、個々の財産に対する具体的な持分ではないため、受益相続人は遺産に属する
特定の財産の持分を第三者に譲渡することができない。これは合有を採用した以上は当然の帰結
であり、日本の状況とは異なっている。

相続分の指定が物権的なのか債権的なのかは、上述の譲渡できないという特徴だけからは決定
することはできない。台湾の学説はこの点について全く論じていないが、以前筆者は、個々の財
産に対する持分を処分できないという性質、また、当然ながら個々の財産の処分もできないこと、
さらに、遺産に対する持分の第三者への一括処分も認められないと解されることから、相続分の
指定は物権的な効力を有しないと主張した43。しかし、2011 年最高法院判決(100 年度台上字第
1747 号判決)は、相続分の指定が遺贈とは異なり、時効にかからないという解釈を採用している。
さらに、登記実務は、遺言により相続分の指定を受けた受益相続人が、被相続人より先んじて死
亡した場合に、その指定された相続分がその直系卑属によって代襲相続されると解している(2003
年8 月29 日の法務部解釈法律決字第920036217 号)。これに対して、遺贈では代襲受遺は原則と
しては認められない(台湾民法1201 条)。相続分の指定と遺贈には、以上のような効力の相違が
あるから、相続分の指定は物権的効力説により親和的である。

(3) 相続分の指定の登記手続

土地登記規則の第120 条第1 項によれば、共同相続人の一人は相続人全員の利益のために、単
独で不動産の合有の登記を申請でき、また、共同相続人全員の同意があれば、共有の登記も申請
できる。その際に、同法第119 条第1 項の書類、すなわち戸籍謄本および相続関係図等を提出す
る必要があるが、これには遺言が含まれていないため、登記官は相続分の指定を知ることができ
ない。そのため、第120 条第1 項の相続登記は必然的に法定相続分の割合に等しい合有の登記と
いうことになる。しかし、内政部の1992 年6 月20 日の台(81)内地字第8181523 号解釈は、相
続分の指定の登記は遺贈の登記に関する共同申請主義と異なると解し、受益相続人が遺言および
他の必要書類を提出すれば、単独で登記を行うことができるとしている。これは日本法の相続分
に関する解釈と同様の結果となる。


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相続に関する法律 台湾⑨
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

3 遺産分割方法の指定

台湾民法第1165 条第1 項は、被相続人が遺言により遺産分割方法を定めることができると規定
している。

(1) 遺産分割方法の指定と認定される処分

台湾の通説によると、分割方法の指定とは、現物分割、換価分割、代償分割等の方法である。
その対象としては遺産の全部はもちろん、遺産の一部について分割方法を指定してもよいとされ
ている44。また、遺産分割に参加できる者は相続人に限られているから、遺産分割方法の指定の
受益者は相続人であろう。
遺産分割方法の指定を認定するのにあたって、裁判例は、一部の遺産に対する処分と一部の相続
人に対する処分を肯定し、緩やかな基準を適用している。例えば、台湾高等法院93 年度重家上字
第8 号判決は、共同相続人が5 人の事案であるが、遺言は、すべての家屋と土地はA に相続させ
るものの、動産については言及していなかった。しかし、A に与える不動産の価値が法定相続分
を超えたため、この処分は相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定とされた。

(2) 遺産分割方法指定の法的効力と登記手続

遺産分割方法の指定は二種類あり、効力や登記手続には相違点がある。その一つは共有帰属指
定型であり、例えば、遺言者が、遺産中の甲不動産を相続人であるX とY に半分ずつ相続させる
というものである。このような処分は、最高法院82 年台上字第2838 号判決によれば、権利移転
効を有せず、指定どおりの登記を実現するためには他の共同相続人の同意が必要である。


もう一
種類の遺産分割方法の指定は、単独帰属指定型であり、すなわち、特定の不動産を特定の相続人
に取得させるものである。最高法院97 年度台上字第2217 号判決は、被相続人の死亡時に当該遺
言が効力を生じ、その定めた遺産分割方法のとおり、受益相続人が直ちに不動産所有権を取得し、
当該不動産はもはや合有の遺産とはならないため、受益相続人によって単独所有の登記が認めら
れると判示している。換言すれば、このような遺産分割方法の指定の目的物の物権が遺産から離
脱し直接に受益相続人に帰属することとなる。

4 小括

以上の1~3 の内容を表1のようにまとめてみた。
<表1 省略>

遺言は、それ自体の真正性もさることながら、たとえそれが真正の遺言であっても後の遺言と
矛盾する、つまり撤回される可能性があるという、常に不確実性を伴うものである。遺言を用い
れば単独で登記名義を自らに移転できるという相続分ないし単独帰属型の遺産分割方法の指定は、
受益者でない共同相続人を害する恐れがある。すなわち、受益相続人が素早く目的物の登記を得
て、第三者に売却した場合に、後に遺言が無効と判明しても、(登記の公信力により)第三者が
善意で登記を信頼した限りは物権を取得することができるため、他の共同相続人は目的物の返還
を主張しえず、受益相続人に対して損害賠償を請求することしかできない。


したがって、台湾に
おいて遺言の危険さと強力な遺言による財産処分で被害を受ける可能性のある者は、共同相続人
に限られており、取引上の第三者は登記の公信力によって守られているため、被害者とはなりえ
ない。言い換えれば、遺言による受益者は、場合によっては相続人より優位であるが、第三者と
の関係では登記がなければ何も主張しえない。日本では法定相続分、相続分の指定、分割方法の
指定における受益相続人は登記なしに第三者にも権利主張できるため、第三者の保護が問題とな
っているが、台湾ではそれは特に懸念されていない。


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相続に関する法律 台湾⑩
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


5 遺産分割

相続開始後の遺産共有状態は、遺産分割が行われるまでの過渡的なものであり、相続人は、分
割を禁止する特別の定めがない限り、いつでも自由に遺産分割を請求することができる(台湾民
法1164 条)。

遺産分割の対象となる財産については、台湾は日本よりその範囲が広いといえる。すなわち、
日本において、可分債権と債務は共同相続人に相続分に応じて分割帰属し、遺産分割の対象とな
らないのみならず、特定遺贈などの目的物は受遺者に移転し、これも概念上、遺産分割の対象と
ならない。これとは対照的に、台湾では、可分債権と債務は相続人に分割して帰属せず、特定遺
贈にも物権的効力がないため、これらのものは全て遺産分割の対象となる「財産」にとどまる。
次に、遺産分割の方法について、台湾の学説は疑問もなく「遺言による分割方法の指定」、「協
議分割」と「裁判分割」の三種類あると述べている46。台湾の民法相続編においては、遺産分割
の方法に関する規定があるのは、「分割方法の指定」についてだけである(1165 条1 項)。その他
の分割方法に関しては、物権編の共有に関する規定を準用する必要がある。830 条第2 項は「公
同共有物分割の方法は、法律に別段の定めがある場合を除いて、共有物分割に関する規定によら
なければならない」と規定している。遺産も公同共有物に属するため、遺産分割の方法は、この
条文に基づいて一般的な共有物分割の規定が適用される。すなわち、共同相続人は、まず協議の
方法によって遺産分割を行い、協議により分割方法を定めることができないときにはじめて、裁
判所に分割の裁判を提起することができる(824 条)。

6 台湾の相続制度の特徴

本章で述べてきた内容を今一度整理する。相続開始後、相続人が複数の場合に、遺産はまず相
続人の共有に属する状態となる。中華民国民法は、かつての兄弟の同居共財の状況に鑑みた上で、
相続開始後の遺産をなるべく一体として保つべく、この段階の遺産の法的性質を合有と定めてい
る。合有における持分が抽象的なものであるため、共同相続人は遺産に属する個々の財産につい
て具体的な持分を有するわけではなく、それを処分することはできず、また遺産全体の相続分を
処分することもできない。このことは遺産の一体性の維持に有利であるが、反面、迅速な処分が
必要な場合、例えば、相場が高価な時に株式を処分しようというときは、合有の状態は不便であ
る。

番人
「兄弟姉妹を含めて家族が同居していることが多かったのかな。」


合有の状態を解消するためには、遺産分割の手続が必要であるが、遺産分割の基準は法定相続
分のみではなく、被相続人による意思表示(相続人に遺贈・相続分の指定・遺産分割方法の指定)
がある場合はそれが優先する。ただし、これらの意思表示が遺留分を侵害するなら、遺留分権利
者は減殺を請求することができる。実際に、遺言に対して調査した結果、台湾の遺言受益者は、
ほとんど法定相続人であり、第三者の割合が少ない47。すなわち、遺留分減殺請求の当事者は、
多くの場合は両方とも共同相続人である。遺産の合有および債権的効力しか有しない遺言による
財産処分は、遺留分減殺請求を含む相続に関する紛争を遺産分割まで凍結させる。遺産分割の手
続では、法定相続分・被相続人の遺言による財産処分・遺留分の問題を総合的に斟酌し、一括し
て解決することができる。これに対して、遺言による財産処分には物権的効力がある場合には、
遺言受益者は、他の共同相続人の協力を経ずとも単独で不動産の登記名義を自らに移転すること
ができる。この場合には、当該目的物がすでに受益者の単独所有物となり、もはや合有の遺産に
属さないため、遺留分権利者は、遺産分割手続を経ず、直ちに当該目的物に対して遺留分減殺請
求権を行使することが、理論的には不可能ではないが、台湾の判例(最高法院86 年台上字第2864
号、88 年台上字第572 号、91 年台上字第556 号判決)は、減殺請求により取戻した財産が合有の
遺産に復帰し、遺留分減殺請求権者が遺留分に相当する遺産を取得するためには、やはり遺産分
割を経由しなければならないとしている。換言すれば、遺産分割は、遺留分減殺請求の前提とな
る手続であり、そこで遺留分の問題の解決が期待されている48。


実体法のみならず、手続法上も同様の結論が導きだされる。すなわち、2012 年6 月1 日の家事
事件法施行前から、台湾では遺産分割事件も、遺留分の減殺請求に基づいた物の返還請求または
共有物分割の事件も、地方裁判所の管轄である。そのため、遺産分割の裁判の中で遺留分減殺請
求の意思が示されれば、取り戻された部分が観念上遺産に復帰し、遺産分割の対象となる。新竹
地方法院94 年家訴字第27 号判決(遺産分割事件)は、このような扱いの具体例である。すなわ
ち、被相続人は生前、係争土地を被告(子の1 人)に遺贈するという公正証書遺言を作成した。
被相続人には7 人の子がいる。係争土地の他には、めぼしい遺産がない。相続開始後、係争土地
は「合有」の相続登記を経た。遺贈を受けていない原告ら(他の6 人の子)は、遺産分割の訴え
を提起した。訴訟の中で、原告らは遺留分減殺請求を理由として、係争土地を、被告に8/14、原
告の各々に1/14 の持分で分割するよう求めた。裁判所は、まず民法第1164 条を根拠として、原
告らの遺産分割請求権を肯定した。次に、被告は、「遺贈の目的物」が遺産の一部ではなく、遺産
分割手続で分配すべきではないと抗弁したが、裁判所は、本件の受遺者が共同相続人の1 人であ
るから、遺贈の目的物を遺産分割の対象財産とすることは妥当であるとしている。したがって、
原告らの遺産分割の請求は認められた。この判決は、「遺産分割手続によって遺留分が保護される」
見解を採用した実例である。

日本の状況は異なっている。日本では遺産分割事件は家庭裁判所の調停審判による解決が必要
であり、遺留分減殺請求事件については地方裁判所の共有物分割訴訟の手続が必要である。さら
に、遺留分権利者が受遺者に対する減殺請求により取り戻した財産は、減殺請求者と受遺者の物
権法上の共有関係に属すると判例49が解しているため、遺産分割手続で遺留分に関する問題は処
理できず、別個の民事訴訟で決着させるほかない。言い換えれば、日本では遺産分割の審判で共
同相続人間の紛争をまとめて解決できないゆえに、別途で地方裁判所で遺留分減殺請求に関する
訴訟を提起する必要がある。
次の第3 章では、相続以外の制度の改正が相続に与える影響および最近の立法の動向について
述べる。


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相続に関する法律 台湾⑪
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


第3 章 最近の立法の動向

1 生存配偶者の保護——夫婦財産の清算に関連して

第2 章12(1)では、配偶者相続分に関する規定について、1975 年に疑問が提起されたことに言
及した。その後、配偶者相続分は修正されてはいないが、剰余財産分配請求権の導入およびそれ
が夫婦一方の死亡時に適用されうるという解釈により、実質的に生存配偶者の保障が図られてい
る。

1 剰余財産分配請求権の創設(1985 年)

1985 年の民法改正の際には、夫婦財産制の剰余財産分配請求権に関する1030 条の1 が新設さ
れた。すなわち、「(1 項)聯合財産関係が消滅したときは、夫または妻が婚姻関係存続中に取得
し、現有する原有財産から、婚姻関係存続中に負担した債務を控除した後に、剰余があるときは、
双方の剰余財産の差額は、平均で分配しなければならない。ただし、相続またはその他無償で取
得した財産は、この限りでない。(2 項)前項の規定による平均分配が明らかに公平を失するとき
は、裁判所は、その分配額を斟酌して減少することができる。(3 項)第一項の剰余財産差額の分
配請求権は、請求権者が剰余財産の差額があることを知った時から二年間行使しないことによっ
て消滅する。聯合財産関係消滅のときから五年を経過したときもまた同じである」となっている。
その立法理由は、内助の功に対する公平な評価であるといわれている。


当時の台湾の法定夫婦財産制は、「聯合財産制」と称し、スイスの(当時の)法定夫婦財産制で
ある財産併合制(Güterverbindung)に類似しており、夫婦財産の管理・用益・処分権が夫にある。
夫婦一方の死亡は、1030 条の1 の「聯合財産関係が消滅したとき」に該当すると解されるため、
剰余財産分配請求権が発生し、まずは夫婦財産の清算を経てから、残りの財産は相続財産として、
民法相続編のルールにしたがって、生存配偶者と他の相続人に相続されることとなる。この解釈
は学説に広く支持されている。下級審裁判例は分かれており50、最高法院はまだ判決を下してい
ないが、最高行政法院は相続税の前提問題として、死亡時の剰余財産分配請求権を肯定しつづけ
てきた51。このように、生存配偶者の保護に関して、夫婦財産法的な解決と相続法的な解決の両
方を認め、配偶者相続分を引き上げずに問題が解決された。


番人
「台湾の家族関係の法律はスイスを参考にしたんだ。」


2 一身専属性の付与(2002 年)

2002 年には夫婦財産制が大きく改正され、具体的には、かつての「聯合財産制」が廃除され、
代わりに「夫婦別産制」が法定夫婦財産制となった。ただし、1030 条の1 の規定する剰余財産分
配請求権はなお維持されている。つまり、法定夫婦財産制は、婚姻関係中の夫婦別産制と解消時
の剰余財産清算という二本柱から構成されている。


1030 条の1 は削除されずに存在しているが、若干の修正が加えられた。本来、1030 条の1 の下
で、仮に死亡者が剰余の少ない配偶者であれば、死亡配偶者は、生存配偶者に剰余財産の分配を
請求する権利があり、この権利は相続される。これにより、死亡配偶者の相続人は、生存配偶者
に対して剰余財産の分配を請求することができる。これは、夫婦財産の清算という性質からは、
自然的な結論といえる。しかし、一部の論者は、剰余財産の分配はあくまでも夫婦間に限られる
べきであり、夫婦以外の第三者が剰余財産の分配により利益を得ることに強く反対している。こ
のような見解もあって、2002 年民法改正では1030 条の1 第3 項が追加された(議員立法)52。そ
れによれば、「第一項の請求権は、譲渡又は相続されることがない。但し、既に契約によって承諾
された場合、或いは既に起訴された場合はこの限りでない」のである。立法理由は、「剰余財産分
配請求権は夫婦の身分関係に基づいて生じるものであるため、夫婦の一方が死亡したときは、剰
余財産分配請求権はその相続人に相続されるべきではない。また、夫婦の離婚後、一方の債権者
は代位して他方に対して剰余財産分配請求権を行使してはならない。その他、夫婦のいずれもそ
の期待権を他人に譲渡してはならない。…」と述べ、本項の趣旨が剰余財産分配請求権の相続性
と譲渡性(移転性)を否定することにあると明言している。


この一身専属性とは何を意味するのかについては、これまでは必ずしも詳細に検討されてはい
ない。すなわち、夫婦間の剰余財産分配の請求権・義務を、扶養請求権・扶養義務と類似するも
のとして、権利も義務も相続されないと理解すべきなのか、あるいは、剰余財産分配の請求権・
義務を慰謝料請求権・義務と類似するものとして、権利が相続されないものの義務は相続される
と捉えるべきなのかがここでの問題である。その結果、剰余の少ない配偶者(権利者)が死亡し
た場合に、その相続人は、確かに剰余の多い生存配偶者(義務者)に対して、夫婦財産の清算を
主張できなくなる。逆の場合すなわち剰余の多い配偶者(義務者)が死亡した場合に、剰余の少
ない配偶者(権利者)が、死者の相続人に対して剰余の分配を主張できるかは定かではない。
いずれにせよ、学説53はこの「一身専属権」の規定を強く批判している。その理由は以下の通
りである。

(1) 取引の安全を害する。剰余の少ない被相続人の剰余財産分配請求権が相続されないと、相
続債権者の弁済を受ける機会は減ってしまう。その他、相続の場合のみならず、離婚の場合もま
た、剰余財産分配請求権を有する配偶者と取引した第三者は、債権者代位権(民法242 条)と詐
害行為取消権(244 条)を行使できず、取引の安全を害する54。
(2) 剰余財産分配請求権は、夫婦の共同生活における協力により生じたものであるが、財産権
であることは否めない。法定財産制の解消前には、それは停止条件付きの債権であり、性質上は
財産権である。そのため、それを行使及び帰属上一身専属的な権利として定め、あたかも非財産
的な損害賠償請求権のように扱うことは、妥当でない55。その他、「身分関係に基づいて生じる」
請求権もまた、必然的に一身専属的であるわけではない。例えば、民999 条の定める結婚の無効
または取消によって発生する財産上の損害賠償請求権は、条文上、一身専属権となっていない。
1056 条離婚による財産上の損害賠償も同様である56。
(3) わが国が参考としたスイス法とドイツ法は、剰余共同制において、剰余財産分配請求権の
一身専属性を認めていない57。

3 一身専属性の削除(2007 年)

以上のような学説の反対を受け、2007 年には1030 条の1 第3 項の一身専属の規定が削除され
た。その理由は、剰余財産分配請求権は確かに夫婦の身分に基づいて生じたものであるが、その
本質が財産権であり、一身専属性を有さないということである。さらに立法説明では、一身専属
の解釈を採ると、剰余の少ない被相続人には剰余財産分配請求権があるものの、相続されず、そ
の相続人にとっては不公平であり、また、一身専属の故に、剰余の少ない配偶者(すなわち債務
者)の債権者が、代位して、剰余の多い配偶者に対して分配請求権を行使できず、不当であると
指摘されている58。


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相続に関する法律 台湾⑫
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

4 一身専属性の復活(2012 年)
ところが、2007 年に削除された3 項は、驚くべきことに5 年後の2012 年にまた復活した。立
法理由は再び剰余財産分配請求権が夫婦の身分に基づいて生じたものであることを強調し、次に、
裁判所が夫婦間の協力程度によりその金額を調整することができるという同条2 項の規定に基づ
き、この権利が夫婦「自身」に密接に関係し属人性を有するから、一身専属的であり、他人に譲
渡できるような財産権ではないと述べている59。当然ながら、民法の研究者はほとんどこの改正
に反対している60。


番人
「研究者が反対しても改正されたんだ。他の人たちはどうだったんだろう。」


5 小括

剰余財産分配請求権を一般的な権利として捉え、かつ夫婦一方の死亡時にその発生を肯定する
ならば、それは確かに生存配偶者の保障に資するといえる。しかも、婚姻関係存続中に形成され
た財産のみが清算の対象となるので、この保障の仕組みは、(日本法のような)単純な相続的構成
と比べれば公平である。問題は、台湾の現行法は、第三者とりわけ債権者が夫婦間に介入するこ
とをあまりに危惧し、この権利の相続性・譲渡可能性をすべて否定してしまい(義務の相続性・
引受可能性は不明であるが)、結局は、(少なくとも)夫婦の中で剰余の少ない一方の配偶者の死
亡に際して、その相続人は、剰余の多い生存者に対して財産の分配が主張できなくなる。このよ
うな法改正は、夫婦財産の公平な清算を阻害しており、不当である。改善の方法としては、この
ような一身専属の規定を再び削除するか、あるいは、せめて剰余財産分配請求権の相続性を肯定
し、移転性のみを否定すればよいであろう61。

2 限定承認を原則とした法改正

21 世紀に入ってからの相続編におけるもっとも重要な法改正は、2008 年と2009 年6 月に行わ
れた。その契機は相続債務の問題である。すなわち、相続放棄や限定承認の手続きをせず、多額
な債務を相続してしまった未成年の相続人が多数存在し、その救済が急務であると認識され、立
法府は相続編の一部改正に踏み切った62。ただ、2008 年の改正は、無能力または制限行為能力の
相続人(当時の民法1153 条2 項)、および相続開始後に初めて責任を生じた保証債務(同1148 条
2 項)に限り、限定責任が適用され、内容的には中途半端なものであったため、施行されてから
間もなく再改正を余儀なくされた。次に2009 年の改正は、もはや相続人や相続債務の種類を問わ
ず、完全なる限定責任の原則を導入し(現行法1148 条2 項)、しかも、相続人が特別な手続をし
なくても限定責任を主張できるという法改正である。このような過激な改正は、多くの疑問と困
難を残している。例えば、本来、限定承認のために、相続人は一定期間内に相続財産の目録を作
成して裁判所に提出し、限定承認の旨を申述しなければならないが、現行法は、これを不要とし
たため、将来、遺産の範囲や相続債務の範囲について争いが生じやすくなるのであろう。そのた
め、研究者は厳しい批判をしている63。


番人
「何もしなければ、限定承認になるんだ。もらったものの限りで借金とかは支払うんだ。」

3 家事事件法の施行

2012 年6 月1 日に、台湾において家事事件法が施行された。これまでの家事事件手続は、一部
は民事訴訟法(例えば、婚姻訴訟事件、親子訴訟事件など)に、他は非訟事件法(例えば、子の
氏の変更事件、不在者財産管理人選任事件など)において規定されていた。このように審理に関
する法規が異なる法典の中に散在すると、相互に関連性のある家事事件でも、異なる裁判官が異
なる手続きで審理するようになりがちであり、裁判所の人的資源を浪費し、ひいては判決が互い
に矛盾するといった状況になりかねない。よって、婚姻や親子関係に関する家事訴訟手続きと家
事非訟手続きを家事事件法にて統合し、法律の併合によって家族をめぐる紛争や相関する他の家
事事件をより適正に、より迅速に解決並びに包括処理できるよう取り計らうとともに、子の利益
の最大化及び家庭の円満化を図ることを目的として、家事事件法は制定された。同法は、全200
条から構成され、「総則」、「調停手続」、「家事訴訟手続」、「家事非訟手続」、「履行の確保及び執行」、
「附則」等六編によって規定されている。同法はソーシャルワーカーの立会い、手続監護人、家
事調査官、手続の併合、仮処分制度、履行の確保、子の引渡し及び子との面会交流の強制執行等
の新たな制度も創設した。
家事事件法3 条によって、家事事件は、甲、乙、丙、丁、戊の5類型に分かれている。このう
ち、甲類、乙類、丙類は「家事訴訟事件」と呼ばれ、家事事件法37 条によって、家事訴訟手続の
適用対象となる。また、丁類と戊類事件は「家事非訟事件」と呼ばれ、家事事件法74 条によって、
家事非訟手続の適用対象となる。分類の基準は、(1)争訟性の有無、(2)当事者或いは関係者が有
する手続きに対する処分権の範囲、(3)裁判所の職権・裁量権による介入の必要性である。
この5類型の事件とそれの分類基準を合わせて、以下の<表2>で示すこととする。
<表2 省略>
表の左から争訟性が高く、右に行くにつれ争訟性が段々下がっていくことになる。続いて、争
訟性がある甲類、乙類、丙類の三つの事件において、表の左にある甲類事件は、表の右にある丙
類事件より、裁判所の職権・裁量権による介入の必要性が強いので、当事者の有する手続きに対
する処分権の範囲が狭くなる。そして、家事非訟事件である丁類と戊類事件について、表の左に
ある丁類事件は、表の右にある戊類事件と比べると、丁類事件は当事者の有する手続処分権が少
ないので、裁判所の職権・裁量権による介入の必要性がより強くなる。
相続に関する事件は、家事事件に分類されるため、家庭裁判所(原文:家事法院)に管轄され
る。そのうち、相続回復、遺産分割、遺留分、遺贈、遺言書真正の確認等は、丙類事件すなわち
訴訟手続による(家事事件法3 条3 項6 号)。まあ、相続放棄、相続人の不存在、遺言執行者の選
任等、争訟性が少ない事件は、非訟的な丁類事件に属する(同法同条4 項9、10 号)。さらに、家
事事件における包括処理の必要性に鑑みて、手続の類型分化または請求権の差異により、当事者
が複数の訴えを起こさなければならなくなることで、当事者に不本意な出費や裁判の矛盾がもた
らされないようにするため、家事事件法は、併合審理・併合裁判を広く認めている。すなわち、
同法41 条1 項は、「複数の家事訴訟事件または家事訴訟事件と家事非訟事件が同一の事実上及び
法律上の原因に基づくときに、当事者は、一つの家事訴訟事件について管轄権を有する家事法院
に申し立てることができ、民事訴訟法53 条と248 条の制限を受けない」と定めている。したがっ
て、遺産をめぐる相続人間の紛争は、現在では包括的に家庭裁判所に管轄され、一つの手続で解
決されることとなる。

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相続に関する法律 台湾⑬
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


4 相続関連税制の改正

台湾の遺産及び贈与税法によると、経常的に台湾内に居住している国民は、その台湾内外の全
遺産および贈与した財産について、遺産税および贈与税が徴収され(1 条1 項、3 条1 項)、経常
的に台湾外に居住している国民および国民でない者は、その台湾内の遺産および贈与した財産に
のみ、遺産税および贈与税が徴収される(1 条2 項、3 条2 項)。
遺産税の納税義務は、遺言執行者、相続人および受遺者、遺産管理人の順で課される(6 条1
項)。贈与税の納税義務者は、原則的には贈与者である(7 条1 項本文)。遺産税は、被相続人が
死亡した日の課税財産の時価(課税遺産総額)から、免税額と控除額を引いた課税遺産額が税率
に乗じて算出される(13 条)。贈与税もこれに類似し、贈与者が贈与をするときの課税財産の時
価から、免税額と控除額を差し引いた課税贈与額が税率に乗じて算出される(19 条1 項)。
2009 年1 月には遺産と贈与税率に関して重大な改正が行われた。改正前の税率は、課税遺産・
財産の総額が高ければ税率も高くなる累進課税方式が採用されていた。例えば、課税遺産総額が
60 万元以下である場合は、税率は2%であり、課税遺産総額が60 万元を超え、150 万元以下であ
る場合には、税率は7%であった。なお、相続税の最高税率は、課税遺産総額が1億元以上であ
る場合の50%であった。贈与税についても、相続税と同様に累進課税方式が採用されており、同
法19 条によると、贈与税の最高税率は、課税贈与総額が4500 万元以上である場合の50%であっ
た。これに対して、2009 年1 月23 日からは、累進課税方式が撤廃され、遺産・贈与の総額を問
わず、一律に10%の税率が適用されることになった。税率のみならず免税額も改正され、2009 年
1 月23 日から、遺産税の名税額が、700 万元から1200 万元へ(18 条1 項)、同時に贈与税の免税
額も、100 万元から220 万元に引き上げられた(22 条)。

法改正の目的については、遺産税・贈与税の税率を下げなければ国民の資金が海外に流出する
ことが避けられず、減税により、財産を多く持っている人々の資金を台湾へ移動させ、台湾の経
済を活発化させることができると説明されている64。これに対して、減税措置に反対する論者は、
今回の減税措置は高額所得者のためだけの政策であり、正義に反するのではないかと批判してい
る。
生存配偶者の保護についていえば、遺産税には配偶者が400 万元の控除額を有する(17 条1 項
1 号)ほか、配偶者間の贈与は、全額が非課税財産である(20 条1 項6 号)。


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相続に関する法律 台湾⑭
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


第4 章 今後の進展

1 相続編改正案

2011 年に法務部は新たな相続法(全般)改正草案65を行政院に提出した。現在はまだ行政院内
にあり、立法院に送付されておらず、可決の目処はついていない。いずれにせよ、当該草案は、
これまでの判例の見解を明文化し、紛争を減少させることを目標としており、家族の多様化や高
齢社会に対応するものではない。その改正のポイントは、以下のようにまとめることができる。
まず、推定相続人の廃除方法について、現行法では被相続人の意思表示のみでよく、争いを惹起
しやすいため、草案は、遺言、書面、録音、録画等の真意が確認しやすい方法によるべきである
と定めている。次に、草案は、相続回復請求権の消滅時効に関しては、現行の2 年と10 年から、
相続財産を侵害された事実を知った時から15 年へと改めている。第三に、遺言による遺産分割禁
止期間を、最長10 年から、5 年へと短縮した。第四に、自筆証書遺言以外に筆記が必要な遺言に
ついては、自筆のほか、パソコンまたは他の機械によって製作される書類も効力を認められる。


第五に、口のきけない者と耳が聞こえない者のため、遺言方式中の「口述」には、通訳による申
述または自書をも含めると明文で規定した。第六に、遺言における親族会議の役割を、すべて裁
判所に移行させることである。
この草案は、世帯規模の縮小、家族連帯の弛緩、人口構造の高齢化が進んでいる台湾の社会の
変化を視野に入れたものではない。そのため、残された課題は、第3 章の1で述べた配偶者の剰
余財産分配請求権の一身専属化が、生存配偶者の保障にとっては不利であるほか、以下の2では
さらにいくつかの問題を指摘しておきたい。

2 残された課題

1 遺言の増加と遺留分の検討

法律の条文は変わっていないものの、遺言慣行を見る限り、相続の実情は確実に社会の変化と
共に変わってきている。まず、遺言の絶対数及び死亡人口に対する割合は確実に上昇している。
一般の自筆証書遺言と代筆遺言等の数ははっきりしないが、公証人を経由した公正証書遺言およ
び(自筆証書遺言と代筆遺言等に関する)認証を経た遺言の数に関しては、明確な統計資料があ
る。<表3>で示されたとおり、遺言の絶対数は、11 年の間にすでに3.6 倍にも増加している。
それに加えて、この数の毎年の死亡人口に対する割合も徐々に上昇してきているから、台湾社会
における遺言利用者は増えつつあると言ってよいであろう。
<表3 省略>
また、第2 章の4で検討したように、遺言による財産処分の内容を実際に観察すれば、遺贈・
相続分の指定・遺産分割方法の指定の区別が不要だったという伝統的な学説のイメージを超え、
最近の裁判例と登記実務では、徐々に異なった類型の遺言による財産処分が形成され始めている。
このことは、法定された均分・共同相続というルールが被相続人のニーズに合致しなくなり、そ
の結果、被相続人が積極的に遺言を用い遺産配分の内容と方法を変えていることを意味すると推
測できる。その際に、現在の(特に兄弟姉妹にまで与えられる)遺留分制度は、再検討の余地が
あるのであろう。

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相続に関する法律 台湾⑮(終)
第6部 台湾法
国立台湾大学 黄 詩淳
各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

2 寄与分

次に、共同相続人のうち、被相続人の療養看護や財産の維持と増加に特別な寄与をした者に対して、遺産分割の際に評価すべきなのかという問題がある。中華民国民法立法当時、1930 年に開かれた国民党中央政治会議では、この問題が取り上げられたが、寄与分の条文化は否定された。
その理由は、「親族らは、同居する場合に共同で家産を維持する責任を負い、家産分割後でも、依然として互いに助け合い、協力し合う義務を有する」ため、仮に法律が相続時に子の寄与を評価し、報償を認めてしまえば、親族間の紛争を招きかねない66からである。この考え方について、現在から25 年前に、研究者は、それが個人人格の独立と平等に反し、相続財産の合理的な配分を妨げるものであると批判していた67。その後、一部の学説は、それに賛同し、日本法を参考として寄与分制度を導入すべきであると主張している68が、主流を形成するに至らず、前述した2011年法務部改正草案では取り上げられてはいない。しかし、家族形態の多様化に伴い、共同相続人全員は必ずしも同程度の寄与をするわけではない。相続の実質的な平等を図るためには、やはり日本や韓国のように寄与分制度を導入すべきであろうと考えられる。

番人
「寄与分は、介護ではお金以外にプラスの面はないと思ってるのかな。


3 生存配偶者の居住権の保護

例えば、相続人が配偶者と子2 人で、相続財産が居住している建物のみの場合には、法定相続分どおりに相続し遺産分割すると、当該建物を売却する必要が生じ、配偶者が建物から退去する事態となりかねないとして、生存配偶者の居住権の保護は、日本では盛んに議論されている。これに対して、台湾では、居住権の保護に関する議論は、ほとんど見られない。その理由はいくつかあると考えられる。まず、上述したとおり、配偶者間の贈与が非課税財産であるため、配偶者の居住に配慮する建物の所有者は、生前にいつでも税金を課されずに当該建物を配偶者に移転することができるからである(ただし、相続の開始前2 年以内に配偶者が被相続人から贈与により財産を取得した場合に、当該財産は遺産と見なされ、課税遺産総額に算入される)。次に、生存配偶者が子(共同相続人)の母であれば、遺産分割のため生存配偶者の住居が売却されるという事態はほとんど生じない。それは、台湾の社会では「父母が生存すれば、子どもが家産を分割してはならない」という伝統的な認識が浸透しているからである。


番人
「いい伝統だと思うけどな。父母が生存すれば、子どもが家産を分割してはならない。それと現代的な税の保護。」

また、遺産分割(ないし共有物分割)の方法として、2009 年の物権法改正の際に、824 条3 項により全面価格賠償が認められるようになったため、具体的な遺産分割の事件において、例えば、建物を生存配偶者に帰属させるとともに、当該生存配偶者が他の共同相続人に持分の価格を賠償することが可能となった69。以上のような諸要因からであろうか、相続にあたる生存配偶者の居住権を保護する必要性は台湾では特に注目されていない。


すみれ
「長いよ。」

⑮不動産を相続したら、まず登記(仮訳)


If you succeed the real property, the register first.

登記をせずに放っておくと、権利関係が複雑になる。

If you leave the registry undone, the right become complex.

たとえば、被相続人の残した不動産について、相続人A、B、Cの間でAが相続するということで話し合いがうまくまとまったので、安心して放置しておいたら、相続人の一人であるCが亡くなってしまったというケースは意外と多くあります。

For example, the heirs leave the registry that is the ancestor’s real property undone because A, B and C agreed that A inherits. There is the unexpected many cases that C dies at that time.

この場合、ただ話し合っただけだったとしたら、Aの名義に登記するためには、亡くなったCの相続人D,E、Fを加えてもう一度協議をしなければなりません。

In this case the talk about inheritance while C was alive disappeared, you agreed only, you should talk the ancestor’s real property over with B, D, E and F to register.

この協議がうまくまとまらないうちにBが亡くなってしまったら、Bの相続人G、H、I、Jも協議に加えなくてはなりません。そうこうしているうちにAが亡くなってしまったら・・・

B died, too when you don’t talk the real property over with B, D, E and F. You should talk the ancestor ‘real property over with G, H, I, J, D, E and F . In the meantime, if A die…….

長い間登記を放置しておくと、相続権のある人が次第に増えて、遺産分割協議が整うことが難しくなります。登記手続に必要な書類も多くなり、不動産をめぐる法律関係をさらに複雑にさせます。

If you leave the registry undone for a long time, the heir increase steadily. So, agreement to divide inheritance become difficulty. You should prepare the form more for the registry. The right of the real property become more complex.

参考I reference.
司法書士アクセスブック
よくわかる相続
日本司法書士会連合会


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6代目 三遊亭 楽太郎「死神」聞きました。

 

参考

平成28年3月2日法務省民ニ第154号

⑭不動産を相続したら、まず登記(仮訳)

⑭不動産を相続したら、まず登記(仮訳)
If you succeed the real property, the register first.

相続によって不動産を取得した場合、それが自分のものであることを他人に主張するために登記をするのであり、登記しなければ罰せられるというわけではありません。

If you succeed the real property, you register to assert your real property to the third parties. You don’t penalty without succession registration.

「相続権のある私たち以外に遺産が行くわけがない」と考える人もいるようです。しかし、これで本当に大丈夫でしょうか。

The person thinks the estate isn’t transferred from us to the third parties because we have inheritance. Is the thinking all right?

不動産をめぐる相続問題は、とかくスムーズにいかないことも多くあります。つまり登記をしておかないと、後々、困ることが起きるのが不動産相続の常識と考えておいたほうがよいでしょう。

The inheritance of real property doesn’t go smoothly at the most. So, If you don’t registry, you may have difficulty.


参考I reference.
司法書士アクセスブック
よくわかる相続
日本司法書士会連合会


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焼き芋ありがとうございました。

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