検索用情報の申出

法務省 検索用情報の申出について

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00678.html

法務省 検索用情報の申出に関するQ&A(令和7年4月7日現在)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00700.html

目 次

1 登記申請と同時にする検索用情報の申出(同時申出)について

2 令和7年4月21日時点で既に所有権の登記名義人である者がする検索用情報の申出(単独申出)について

3 メールアドレスについて

Q&A(令和7年4月7日現在)

1 登記申請と同時にする検索用情報の申出(同時申出)について

(Q1)以前に検索用情報の申出をしましたが、その後に別の不動産の所有権を取得しました。この所有権の移転の登記の申請をする場合でも、同時申出をする必要があるのでしょうか。

(A1) そのとおりです。

(Q2)以前に検索用情報の申出をしましたが、その後、申出をした不動産の他の共有者の持分(所有権)を取得しました。この持分(所有権)の移転の登記の申請をする場合でも、同時申出をする必要があるのでしょうか。

(A2) そのとおりです。

(Q3)同時申出をすべきとされている登記申請において、同時申出をしなかった場合には、登記申請は却下されるのでしょうか。

(A3) 登記申請は却下されませんが、検索用情報の申出は、所有者不明土地等の主要な発生原因である住所等変更登記の未了への対応に必要不可欠の手続ですので、申出をするよう登記所から連絡をさせていただきます。

(Q4)住所変更登記の申請書に検索用情報を併せて記載する方法により申出をすることはできますか。

(A4) 申出をすることはできません。

 住所変更登記をする不動産について検索用情報の申出をしていない場合には、別途手続(単独申出)をしていただく必要があります。この手続は、「かんたん登記申請」のページから、「検索用情報の申出」の手続を選択いただき、画面上の案内に従い、必要事項を入力いただくことなどにより、Webブラウザ上でかんたんに申出ができます。

 なお、申請書に検索用情報を併せて記載することで申出をすることのできる登記は、以下のとおりです。

 ・所有権の保存の登記

 ・所有権の移転の登記

 ・合体による登記等(不動産登記法第49条第1項後段の規定により併せて申請をする所有権の登記があるときに限ります。)

 ・所有権の更正の登記(その登記によって所有権の登記名義人となる者があるときに限ります。)

(Q5)所有権の移転の登記と無関係の不動産を申請書に記載する方法によって、その不動産について申出をすることはできますか。

(A5) できません。

 その不動産につき検索用情報の申出をしていない場合には、別途手続(単独申出)をしていただく必要があります。この手続は、「かんたん登記申請」のページから、「検索用情報の申出」の手続を選択いただき、画面上の案内に従い、必要事項を入力いただくことなどにより、Webブラウザ上でかんたんに申出ができます。

2 令和7年4月21日時点で既に所有権の登記名義人である者がする検索用情報の申出(単独申出)について

(Q1)登記簿上の住所が古いままになっている場合に単独申出をする場合、登記簿上の住所と現在の住所のどちらを申出書に記載すればよいでしょうか。

(A1) 現在の住所(住民票上の住所)を記載してください。

 なお、この場合、令和8年4月1日以降、登記所から登記簿上の住所を現在の住所に変更する登記をしてよいかを確認するメールが送信されますので、変更登記をしてよい旨の回答をしていただければ、順次、登記所において登記簿上の住所を現在の住所に変更します。    

(Q2)戸籍の附票の写し等の提出の要否についての詳細を教えてください。

(A2) 登記簿に記録されている氏名・住所に変更があり、その変更の経緯を住基ネットで確認することができない場合には、変更の経緯を確認することのできる書類(戸籍の附票の写し、戸籍の証明書、本籍の記載のある住民票の写し等)の提出が必要になります。

 この書類の提出の要否は、各住所等によって異なりますが、その変更日が平成22年10月5日以降であれば、原則として、書類の提出は不要となります(平成22年10月5日以降であっても、登記簿に記録されている住所・氏名とのつながりが確認できない場合には、追加で書類の提出をお願いする場合があります。)。

 また、その変更が同一市町村での転居や氏名変更であれば、変更日が平成22年10月5日より前のものであっても、平成14年8月5日(住基ネット稼働日)より後であれば、書類の提出が不要となる場合があります。

 具体例は以下のとおりです。

<ケース(1)>

平成22年9月30日:A市を転出、B市に転入

平成22年10月10日:B市を転出、C市に転入

平成27年10月10日:C市を転出、D市に転入

⇒通常、登記簿上の住所がA市の場合にはA市→B市の住所変更を証する書類の提出が必要であるが、登記簿上の住所がB市、C市、D市の場合には不要

<ケース(2)>

平成15年10月10日:A市X町からA市Y町に転居

平成22年10月10日:A市を転出、B市に転入

平成27年10月10日:B市を転出、C市に転入

⇒通常、登記簿上の住所がA市X町、A市Y町、B市、C市のいずれであっても書類の提出は不要

<ケース(3)>

平成10年10月10日:氏名を甲某から乙某に変更

平成15年10月10日:氏名を乙某から丙某に変更

平成22年10月10日:A市を転出、B市に転入

平成27年10月10日:B市を転出、C市に転入

⇒通常、登記簿上の氏名が「甲某」の場合は甲某→乙某の氏名変更を証する書類の提出が必要であるが、登記簿上の氏名が「乙某」「丙某」の場合には書類の提出は不要

3 メールアドレスについて

(Q1)メールアドレスを持っていない場合は検索用情報の申出をすることはできないのですか。

(A1) メールアドレスを持っていない方については、オンラインで申出をする場合には「その他事項欄」に「登記名義人につきメールアドレスなし」のように入力していただき、書面で申出をする場合にはメールアドレス欄に「なし」と記載いただければ、申出をすることができます(その場合、令和8年4月以降に登記官が職権で住所等変更登記を行うことの可否を確認する際には、登記名義人の住所に書面を送付することを想定しています。)。

(Q2)親族等のメールアドレスを申出書に記載してもよいですか。

(A2) 申し出ることのできるメールアドレスは本人のみが現に利用するものに限られますので、親族等のメールアドレスを申出書に記載することはできません。

 なお、メールアドレスを持っていない場合には、メールアドレスの申出は不要です(この場合の申出書への記載方法はQ1参照)。

(Q3)検索用情報の申出をした際のメールアドレスを利用しなくなったので、職権で変更登記をしてよいか確認される際に送信するメールの宛先を別のメールアドレスに変更してほしいのですが、どうすればよいですか。

(A3) 「かんたん登記申請」のページから、「不動産の登記名義人として検索用情報を提供した方はこちら」を選択いただき、次の事項を入力することで、変更することができます(再度メールアドレスを変更する場合も同様です。)。

(1)変更前のメールアドレス

(2)変更後のメールアドレス

(3)認証キー(※)

※検索用情報の申出手続が完了した際に送付されるメール(件名:【法務局】申出手続完了のお知らせ)に記載された10桁の番号です。

 なお、認証キーを失念した場合には、最寄りの登記所において、次の事項を記載した申出書を提出するとともに、運転免許証、個人番号カード等の登記名義人本人であることを確認できる身分証明書を提示することにより、メールアドレスを変更することができます。

(1)申出人の氏名、住所及び出生の年月日(外国人の方については、ローマ字氏名も記載してください。)

(2)申出の目的(メールアドレスの変更)

(3)変更前及び変更後のメールアドレス

(4)申出人の電話番号その他の連絡先

(5)申出の年月日

(6)登記所の表示

検索用情報の申出に関する質疑事項集令和7年3月12日現在

第1 検索用情報同時申出・単独申出共通

1 登録免許税

問1 検索用情報の申出については、登録免許税が課されないとの理解でよいか。(施行通達第2部第2、第3関係)・・・御理解のとおり。

2 申出をする氏名・住所等

問2 申出をする氏名、住所等については、住民票に記載又は記録されたものを意味するとされ、また、これらは新法第76条の6の事務の処理に当たり、住基ネット情報を検索するためのものであるため検索用情報管理ファイルに正確に記録する必要があるとされていることから、住民票の表記のとおり検索用情報管理ファイルに記録する必要があるとの理解でよいか。(施行通達第2部第1の2、第2の1(2)、第3の2(1)イ関係)・・・御理解のとおり。

問3 住民票に本国漢字氏名と通称名の記載がある者が、通称名を氏名として登記する(登記されている)ケースについては、通称名及び通称名に係る氏名の振り仮名を申し出ることになる(本国漢字氏名や本国漢字氏名に係るローマ字氏名の申出は不要)との理解でよいか。(施行通達第2部第2の1(2)、第3の2(1)イ関係)・・・御理解のとおり。

3 電子メールアドレス

問4 書面により提供された電子メールアドレスに判読困難な文字があった場合、どのように対応すればよいか。(施行通達第2部第2の1(3)、第3の2(1)イ関係)・・・窓口や電話等により申出人に確認することが相当であり、メールアドレスの振り仮名を求めることを要しない。

問5 電子メールアドレスを有しているが事情により親族等の電子メールアドレスを申し出たいといった相談があった場合には、どのように対応すればよいか。(施行通達第2部第2の1(3)、第3の2(1)イ関係)・・・申し出ることのできる電子メールアドレスは本人のみが現に利用するものに限られる旨を説明する必要がある。

もっとも、電子メールをほとんど利用しておらず、職権による住所等変更登記をすることについての了解を得るための電子メールに気付かない可能性があるといった事情がある者については、電子メールアドレスを有しない者と同視できると考えられることから、電子メールアドレスを有しない旨を申請情報(申出情報)の内容とするよう案内して差し支えない。

問6 電子メールアドレスも電子メールアドレスを有しない旨も申請情報(申出情報)の内容とされていない場合、どのように対応すればよいか。(施行通達第2部第2の1(3)、第3の2(1)イ関係)・・・電子メールアドレスは、職権による住所等変更登記に係る意思確認及び回答を簡易・迅速に行う観点から重要な情報であり、規則第158条の39第1項においても「申し出るものとする。」(単独申出にあっては「明らかにしてしなければならない」)と規定されていることを踏まえ、次のような取扱いをすることが相当である。

①申請人(申出①申請人(申出人)又は代理人に対して電子メールアドレスを申し出るよう促す。

②上記①の促しに応じない場合又は電子メールアドレスを有しない旨の回答があった場合は、申請書(申出書)の余白にその旨を記載した上で、登記を実行し、電子メールアドレス以外の検索用情報を検索用情報管理ファイルに記録する。もっとも、申請情報(申出情報)の内容等から電子メールアドレスの提供を拒否する意思が明らかである場合(「メールアドレスを提供したくない」旨が申請情報の内容とされている場合等)や法定代理人によって登記申請(申出)がされた場合には、上記①の促しをすることなく、登記の実行及び検索用情報管理ファイルへの記録をして差し支えない。

問7 複数人(共有者)が検索用情報同時申出をした場合で、それぞれが同じ電子メールアドレスを申し出た場合、施行通達第2部第2の1(3)の「所有権の登記名義人となる者のみが現に利用するもの」でないことが明らかであることから、申請人又は代理人に修正を求めることが相当であると考えるがどうか。(施行通達第2部第2の1(3)関係)・・・御理解のとおり。

4 申出手続完了通知書

問8 申出手続完了通知書は、申出人の便宜のために交付するに過ぎないものであることから、地紋紙を用いず、登記官の押印を要しないものと考えるがどうか。(施行通達第2部第2の6(1)、第3の18関係)・・・御理解のとおり。

第2 検索用情報同時申出

1 申出をすべき場合

問9 過去に検索用情報の申出をした者が、当該申出に係る不動産とは別の不動産の所有権を取得したことに伴い所有権の移転の登記の申請をする場合等においても、改めて検索用情報同時申出をする必要があるとの理解でよいか。(施行通達第2部第2の1(1)関係)・・・御理解のとおり。

問10 過去に検索用情報の申出をした者が、当該申出に係る不動産と同じ不動産の他の共有者の持分を取得したことに伴い所有権の移転の登記の申請をする場合においても、改めて検索用情報同時申出をする必要があるとの理解でよいか。(施行通達第2部第2の1(1)関係)・・・御理解のとおり。

問11 検索用情報同時申出をすべきケースであるにもかかわらず、申出がなかった場合(電子メールアドレスを除く検索用情報が申請情報の内容とされていなかった場合)はどうすればよいか。(施行通達第2部第2の1(1)関係)

○促しの際に説明すべき制度趣旨の例

所有者不明土地が社会問題となっているため、令和8年4月1日から、氏名・住所の変更日から2年以内に変更登記をすることが義務付けられるとともに、この義務の負担軽減のため、所有者が変更登記の申請をしなくても、登記官が住基ネット情報を検索し、これに基づいて職権で登記を行う仕組みが開始されます。

ただし、登記官が所有者の住基ネット情報を検索するためには、所有者から氏名・住所のほか、生年月日等の「検索用情報」をあらかじめ申し出ていただく必要があります。

そこで、上記の職権で登記を行う仕組みの開始に先立ち、令和7年4月21日から、所有権の移転等の登記の申請の際には、所有者の検索用情報を併せて申し出る(申請書に記載する)ことが必要になりました。

なお、仮にこの申出をしない所有者の氏名・住所に変更があったときは、御自身において、その変更の登記を申請する必要があります。

検索用情報の申出は、所有者不明土地等の主要な発生原因である住所等変更登記の未了への対応に必要不可欠の手続であり、規則第158条の39第1項においても「申し出るものとする。」と規定されていることを踏まえ、次のような取扱いをすることが相当である。

  • 申請人又は代理人に対して申出をするよう促す。

②上記①の促しに応じない場合には、申請書の余白にその旨を記載した上で、登記を実行する。もっとも、申請情報の内容等から申出を拒否する意思が明らかである場合(「検索用情報の申出はしない」旨が申請情報の内容とされている場合等)には、上記①の促しをすることなく、登記の実行をして差し支えない。

なお、オンライン申請の場合、検索用情報同時申出の対象の登記の申請様式に㋐氏名の振り仮名又はローマ字氏名、㋑出生の年月日並びに㋒電子メールアドレスの入力欄及び「検索用情報の申出の対象外である」のチェック欄を設け、当該欄にチェックを入れない限り、㋐又は㋑を入力せずに申請しようとするとエラーとなる仕様とし、申出漏れを防止することとしている。おって、上記①の促しは、電話のほか、オンライン申請の補正通知機能等により、左記のように制度趣旨等の説明と併せて行うことが望ましい。

問12 検索用情報同時申出と同時にされる登記申請が委任による代理人によってされる場合、当該代理人の権限を証する情報については、委任状において登記申請に係る委任がされていれば足り、申出に係る独立した委任がされている必要はないとの理解でよいか。(施行通達第2部第2の1(1)関係)・・・御理解のとおり。もっとも、当該委任に基づいて申請情報の内容とする電子メールアドレス等の検索用情報については、申請人から代理人に確実に伝達されていることが前提となる。

2 出生の年月日等を証する情報

問13 出生の年月日の記載がないものは、出生の年月日等を証する情報として認められないとの理解でよいか。(施行通達第2部第2の3(1)関係)・・・御理解のとおり。なお、戸籍の附票については、令和4年1月11日に出生の年月日が記載事項として追加されたが(令和元年法律第16号による改正後の住民基本台帳法第17条第5号)、これ以前の戸籍の附票が住所証明情報として提供された場合には、別途出生の年月日が記載された住民票の写し等を提供する必要がある。

問14 申請情報の内容とされた検索用情報と出生の年月日等を証する情報の内容に表記ゆれ等がある場合、準則第36条第4項の例により、補正の対象とすることなく、出生の年月日等を証する情報の内容のとおり記録すればよいとの理解でよいか。(施行通達第2部第2の3(1)関係)・・・御理解のとおり。

問15 出生の年月日等を証する情報に氏名の振り仮名の記載がない場合、特段の疑義がない限り、申請情報の内容である氏名の振り仮名のとおり検索用情報管理ファイルに記録して差し支えないとの理解でよいか。(施行通達第2部第2の3(1)関係)・・・御理解のとおり。なお、仮に住民票に記載された氏名の振り仮名と申請情報の内容に一部不一致があった場合には、施行通達第2部第4の1(4)のとおり、定期的に行う住基ネットへの照会結果に基づき更正することを想定している。

問16 出生の年月日等を証する情報については、基本的に登記申請の添付情報として提供される住所を証する情報と兼ねられることになることから、添付情報の表示(規則第34条第1項第6号)として「出生の年月日等を証する情報」などと申請書に記載する必要はないと考えるがどうか。(施行通達第2部第2の3(1)関係)・・・御理解のとおり。

問17 検索用情報同時申出と同時にされる登記申請について、住所を証する情報の提供に代えて住民票コードが提供された場合(規則第36条第4項)、出生の年月日等を証する情報として住民票の写し等を提供する必要もないとの理解でよいか。(施行通達第2部第2の3(1)関係)・・・御理解のとおり。

問18 検索用情報同時申出について、却下の定めがないのはなぜか。(施行通達第2部第2の3(1)関係)・・・申出情報の内容に不備があったとしても、基本的に、登記申請に係る住所証明情報と兼ねることのできる出生の年月日等を証する情報により正しい検索用情報が明らかであることから、申出のみ却下することが想定されず、また、申出に対する応答に行政処分性はないと考えられるためである。なお、登記申請に係る住所証明情報として出生の年月日の記載がないもの(令和4年1月11日以前の戸籍の附票の写し)が提供された場合には、登記申請に補正することができる不備があった場合と同様に補正を求めることが相当である。また、この場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申出人がこれを補正しないときは、申請書の余白にその旨を記載した上で、申出がされなかった場合と同様に登記を実行することとなる。

3 検索用情報同時申出に関するその他の取扱い

問19 検索用情報同時申出における立件は、どのようにして行うのか。(施行通達第2部第2の4(1)関係)・・・登記申請の調査と並行して検索用情報が提供されているかどうか(検索用情報の申出がされているかどうか)を確認の上、登記申請の調査完了と併せて検索用情報同時申出の立件を行うことを想定している。このため、検索用情報同時申出の立件は、登記申請の受付と異なる日に行っても差し支えない。

問20 登記申請が取り下げられた場合には、検索用情報同時申出も取り下げられたものとみなされるとの理解でよいか。(施行通達第2部第2の5(2)関係)・・・御理解のとおり。

問21 電子メールアドレス等、登記記録に記録されない検索用情報については登記申請に係る登記完了証に記載されないとの理解でよいか。(施行通達第2部第2の6関係)・・・御理解のとおり。

第3 検索用情報単独申出

1 申出ができる場合

問22 検索用情報単独申出をすることができるのは、現在の所有権の登記名義人のみであり、その他の者(仮登記の登記名義人、所有権以外の登記名義人、表題部所有者、担保権の登記における債務者、信託の登記における委託者、受託者等)については対象とならないとの理解でよいか。(施行通達第2部第3の1関係)・・・御理解のとおり。

問23 他人の依頼を受けて、業として検索用情報単独申出に関する手続を代理することができる者は、弁護士又は司法書士に限られるとの理解でよいか。(施行通達第2部第3の1関係)・・・御理解のとおり。

問24 国内に住所があるときに検索用情報の申出をした後、国外に転居し、更に国内の別住所に転居をした者は、検索用情報単独申出をする必要はあるか。(施行通達第2部第3の1関係)・・・そのような場合でも、職権による住所等変更登記の対象とすることを想定しているため、検索用情報単独申出をする必要はない。

2 検索用情報申出情報

問25 次のように、所有権の登記がされた日の検索用情報と申出日の検索用情報が異なる場合があり得るが、検索用情報申出情報の内容とすべき検索用情報はいずれか。(施行通達第2部第3の2(1)関係)

  • 所有権の登記日

氏名 法務太郎

氏名振り仮名 ほうむたろう

住所 A市B町

出生の年月日 平成5年5月5日

②検索用情報の申出日

氏名 民事太郎

氏名振り仮名 みんじたろう

住所 X市Y町

出生の年月日 平成5年5月5日

・・・②の検索用情報(申出日の検索用情報)を検索用情報申出情報の内容とする必要がある。

問26 検索用情報単独申出の申出先とすることのできる登記所の具体例を説明してほしい。(施行通達第2部第3の2(2)関係)・・・甲がA登記所の管轄物件a及びB登記所の管轄物件、bの所有権の登記名義人である場合、甲は、A登記所又はB登記所に対し、a及びbについてまとめて申し出ることができる。他方、aのみについてB登記所に申し出ることや、bのみについてA登記所申し出ることはできない。また、乙がC登記所の管轄物件、c及びD登記所の管轄物件dの所有権の登記名義人である場合、乙は、D登記所に対し、D登記所の管轄物件dについての検索用情報同時申出と同時に、cについて検索用情報単独申出をすることはできない。

問27 検索用情報単独申出を受ける登記所の管轄区域内にある不動産について、検索用情報申出情報として不動産番号に続けて管轄登記所名が記録されている場合であっても、補正を求める必要はないと考えるがどうか。(施行通達第2部第3の2(3)関係)・・・御理解のとおり。

3 検索用情報申出情報の作成及び提供

問28 検索用情報同時申出の対象とならない登記の申請と検索用情報単独申出とを1件の申出書(又は申請書)で行うことは認められず、それぞれ別の申請書と申出書の作成及び提出を要するとの理解でよいか。

また、検索用情報同時申出の対象となる登記の申請情報の内容に当該登記申請の対象でない不動産を含めることにより当該不動産について併せて申出をすることも認められず、当該不動産については登記の申請書とは別の申出書を作成して、検索用情報単独申出をする必要があるとの理解でよいか。(施行通達第2部第3の4関係)・・・いずれも御理解のとおり。

4 検索用情報申出情報

問29 「申出人となるべき者が申出をしていることを明らかにする市町村長その他の公務員が職務上作成した情報」の提供は、身分証明書の写し(身分証明書に記載された情報を記録した電磁的記録を含む。)により行うものされているところ、電子申出においては身分証明書に記載された情報を記録した電磁的記録(身分証明書をスキャンしてPDF化したもの)を送信する方法又は身分証明書のコピーを別送する方法により、書面申出においては身分証明書のコピーを提出する方法により行う必要があるとの理解でよいか。(施行通達第2部第3の5(2)関係)・・・御理解のとおり。

問30 身分証明書に記載された氏名又は住所が登記簿上の氏名若しくは住所又は検索用情報申出情報の内容である氏名若しくは住所と合致しないものであったとしても、所有権の登記名義人の検索用情報を証する情報として提供される戸籍の附票の写し等や住基ネット情報から、氏名又は住所のつながりが確認できるものであれば認められるとの理解でよいか。(施行通達第2部第3の5(2)関係)・・・御理解のとおり。

問31 国民健康保険、健康保険、船員保険及び後期高齢者の被保険者証、国家公務員共済組合及び地方公務員共済組合の組合員証並びに私立学校教職員共済制度の加入者証についても、令和6年12月2日付け法務省民二第1676号民事局長通達を踏まえると、番号法等の改正前の規定により効力を有する間(当該期間の末日が施行日から起算して1年を経過する日の翌日以後であるときは、施行日から起算して1年間とする。)は、「申出人となるべき者が申出をしていることを明らかにする市町村長その他の公務員が職務上作成した情報」として認められるとの理解でよいか。(施行通達第2部第3の5(2)関係)・・・御理解のとおり。

問32 具体的にどのようなケースで検索用情報を証する情報として戸籍の附票の写し等の提供が必要になるのか。(施行通達第2部第3の5(6)、(7)関係)

○戸籍の附票の写し等の要否に係る具体例

<ケース①>

平成22年9月30日:A市を転出、B市に転入

平成22年10月10日:B市を転出、C市に転入

平成27年10月10日:C市を転出、D市に転入

⇒ 通常、登記簿上の住所がA市の場合にはA市→B市の住所変更を証する書類の提出が必要であるが、登記簿上の住所がB市、C市、D市の場合には不要

<ケース②>

平成15年10月10日:A市X町からA市Y町に転居

平成22年10月10日:A市を転出、B市に転入

平成27年10月10日:B市を転出、C市に転入

⇒ 通常、登記簿上の住所がA市X町、A市Y町、B市、C市のいずれであっても書類の提出は不要

<ケース③>

平成10年10月10日:氏名を甲某から乙某に変更

平成15年10月10日:氏名を乙某から丙某に変更

平成22年10月10日:A市を転出、B市に転入

平成27年10月10日:B市を転出、C市に転入

⇒ 通常、登記簿上の氏名が「甲某」の場合は甲某→乙某の氏名変更を証する書類の提出が必要であるが、登記簿上の氏名が「乙某」「丙某」の場合には書類の提出は不要。・・・検索用情報申出情報の内容である所有権の登記名義人の氏名又は住所が登記簿上の氏名又は住所と合致しない場合であって、住基ネットによってそのつながりを確認することができない場合には、そのつながりを確認することのできる書類(戸籍の附票の写し、戸除籍謄抄本、本籍の記載のある住民票の写し等)の提出が必要になる。

住基ネット情報の保存期間は、平成27年10月5日から消除後「5年」から「150年」に延長されたことから、変更の日が平成22年10月5日以降であれば、通常、当該書類の提出は不要であるが、住所地の市町村の住基ネット接続日等によって異なり得る。また、保存期間の起算点は消除日であることから、その変更が消除を伴わないもの(同一市町村での転居、氏名変更)であれば、平成22年10月5日より前のものであっても、その変更が平成14年8月5日(住基ネット稼働日)より後であれば、当該書類の提出が不要となる場合がある。具体例については左記のとおりであるが、上記のとおり例外もあり得る。

問33 住基ネットで確認できない住所の変更が、地番の変更を伴わない行政区画の変更によるものである場合、登記申請と同様、当該変更を証する情報の提供は不要との理解でよいか。(施行通達第2部第3の5(6)、(7)関係)・・・御理解のとおり。

問34 住基ネットで確認できない住所の変更を証する戸籍の附票等が廃棄されている場合には、住所変更登記の申請と同様に、提供された検索用情報により特定される者(申出人)が所有権の登記名義人と同一人であることを確認することができる他の書面(登記済証等)によることも認められ得ると考えるがどうか。(施行通達第2部第3の5(6)、(7)関係)・・・御理解のとおり。

5 電子申出

問35 検索用情報単独申出において、電子申出は電子署名及び電子証明書の提供が、書面申出は押印が不要とされているが、司法書士が代理人として申出をする場合には、司法書士法施行規則第28条第1項又は第2項に基づき、電子申出においては司法書士の電子署名及び電子証明書が、書面申出においては職印の押印が必要となるとの理解でよいか。(施行通達第2部第3の6(2)、9(1)関係)・・・御理解のとおり。

6 書面申出

問36 検索用情報申出書又は検索用情報申出添付書面が普通郵便で送付されたり、これらを入れた封筒の表面に検索用情報申出書又は検索用情報申出添付書面が在中する旨の明記がなかったりしても、登記の申請の場合と同様、そのことをもって却下したり補正を求めたりする必要はないとの理解でよいか。(施行通達第2部第3の10関係)・・・御理解のとおり。

7 立件等

問37 提出された申出書類に不備がある場合でも、準則第31条第3項の例により、施行通達第2部第3の13(1)の手続を省略して申出人又はその代理人にこれを返戻する取扱いはしないとの理解でよいか。また、申出を却下するものとされている場合であっても、準則第31条第4項の例により、登記官が相当と認めるときは、事前にその旨を申出人又は代理人に告げ、その申出の取下げの機会を設けることができるとの理解でよいか。(施行通達第2部第3の13関係)・・・いずれも御理解のとおり。

8 検索用情報単独申出の取下げ

問38 書面申出については、申出書への押印は不要とされているため、取下げに当たっては、運転免許証等の本人確認書面の提示を求めるなどして、取下書を提出した者が申出人本人であることを確認する必要があると考えるがどうか。また、取下書の提出は、郵送の方法によることもできるものと考えるが、この場合には本人確認書面の写しの添付を求めるのが相当と考えるがどうか。(施行通達第2部第3の16関係)・・・いずれも御理解のとおり。

第4 検索用情報管理ファイルに記録された事項の変更等

1 申出に基づく電子メールアドレスの変更・削除・新規登録

問39 施行通達第2部第4の1(1)イの「公務員が作成した証明書であって、当該所有権の登記名義人と申出人が同一の者であることを確認することができるもの」には、どのようなものが該当するのか。(施行通達第2部第4の1(1)イ、(2)イ関係)・・・附属書類の請求に際して附属書類が自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類である旨を証する書面(令和5年法務省民二第537号民事局長通達3(1)参照)と同様、次のものが該当する。

①運転免許証、個人番号カード、旅券等(当該申出人の氏名及び出生の年月日の記載があるものに限る。)、在留カード、特別永住者証明書又は運転経歴証明書のうちいずれか一つ以上。

②国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合若しくは私立学校教職員共済制度の資格確認書(書面によって作成されたものに限る。)、介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、基礎年金番号通知書、児童扶養手当証書、母子健康手帳、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳又は戦傷病者手帳であって、当該申出人の氏名、住所及び出生の年月日の記載があるもののうちいずれか二以上。

③前記②に掲げる書類のうちいずれか一以上及び官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに準ずるものであって、当該申出人の氏名、住所及び出生の年月日の記載があるもののうちいずれか一以上。

おって、前記①から③までの書類に記載された氏名又は住所が検索用情報管理ファイルに記録されている氏名若しくは住所又は申出書に記載された氏名若しくは住所と合致しない場合には、氏名又は住所のつながりを確認できる戸籍の附票の写し等の提出が必要となる。

問40 電子メールアドレスの変更、削除又は新規登録の申出において、申出書への押印は基本的に不要との理解でよいか。また、申出書に実印を押印し、その印鑑証明書を添付することにより、郵送により申出をすることもできるとの理解でよいか。(施行通達第2部第4の1(1)イ、(2)イ関係)・・・いずれも御理解のとおり。

問41 電子メールアドレスの変更、削除又は新規登録の申出について、代理人による申出は認められるのか。(施行通達第2部第4の1(1)、(2)関係)・・・手続の性質上、基本的には所有権の登記名義人本人によることを想定している。

もっとも、代理人の氏名等をも申出書に記載した上で、代理権限を証する書面(申出人の押印及び印鑑証明書付き)を添付して代理人から申出があった場合には、申出書の内容に応じて検索用情報管理ファイルに記録されているメールアドレスの変更、削除又は新規登録をして差し支えない。

問42 施行通達第2部第4の1(1)カの電子メールが届かない旨の申出については、電話等の適宜の方法によりすることができるとの理解でよいか。また、この場合には、申出事件の特定及び本人確認のために必要な情報(申出年月日、提供した検索用情報の内容等)及び正しい電子メールアドレスを聞き取った上で、検索用情報管理ファイルに正しい電子メールアドレスを記録することが相当であると考えるがどうか。(施行通達第2部第4の1(1)カ関係)・・・いずれも御理解のとおり。なお、この場合には、登記の申請情報に軽微な誤りがあった場合と同様、同時申出における申請書及び保存用同時申出書又は単独申出における申出書に正しいメールアドレスを記載することが相当である。

問43 当初の電子メールの送信後二月を経過してから電子メールが届かない旨の連絡があった場合には、申出書による電子メールアドレスの変更の申出をするよう案内する必要があるとの理解でよいか。(施行通達第2部第4の1(1)カ関係)・・・御理解のとおり。

2 所有権の登記名義人として記録されている登記記録を特定するために必要な事項に変更があった場合

問44 既に検索用情報管理ファイルに記録されている者が新たに別の不動産の所有権を取得した場合、当該不動産についての検索用情報管理ファイルへの記録は検索用情報同時申出に基づいて行うこととなり、施行通達第2部第4の1(3)は適用されないとの理解でよいか。(施行通達第2部第4の1(3)関係)・・・御理解のとおり。

問45 検索用情報管理ファイルに記録されていない者が所有権の登記の抹消により再び所有権の登記名義人となる登記の申請は検索用情報同時申出の対象ではないため、この場合に登記の抹消により再び所有権の登記名義人となった者は、当該登記の完了後に検索用情報単独申出をしない限り検索用情報管理ファイルに記録されないとの理解でよいか。(施行通達第2部第4の1(3)イ関係)・・・御理解のとおり。

第5 その他

問46 検索用情報の申出制度の施行に伴い、登記簿の附属書類の閲覧事務にどのような影響があるか。・・・

1.検索用情報同時申出について

本申出は、登記の申請情報に検索用情報を含めて行うことになるため、当該登記の申請書の閲覧請求に影響が生ずることになる。

(1)申請人以外の者がする附属書類の閲覧請求(法第121条第3項)について本請求は「正当な理由があると認められる部分」に限って閲覧が認められるものであるが、申請情報の内容である検索用情報のうち、出生の年月日及び電子メールアドレスについては、一般に「正当な理由がある」とは認められないため、申請書の他の部分の閲覧について正当な理由があると認められる者に当該申請書を閲覧させるときは、出生の年月日及び電子メールアドレスを閲覧できないようにする措置(マスキング用テープの貼付等)を講ずることが相当である。

(2) 自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類の閲覧請求(法第121条第4項)本請求には「正当な理由」の要件はないことから、閲覧に際して前記(1)のような措置を講ずる必要はない。

2.検索用情報単独申出について

本申出は、登記の申請から独立した申出であり、検索用情報申出書及び検索用情報申出添付書面は登記簿の附属書類に該当しないため、法に基づく閲覧請求を行うことはできない。

不動産登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(令和7年3月3日付け法務省民二第373号通達)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00678.html

法務省民二第373号

令和7年3月3日

法務局長殿

地方法務局長殿

法務省民事局長

( 公印省略)

不動産登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)

不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和7年法務省令第1号。以下「改正省令」という。)による改正後の不動産登記規則(平成17年法務省令第18号。以下「規則」という。)の規定に基づく不動産登記事務の取扱い(令和7年4月21日施行)については、下記の点に留意するよう、貴管下登記官に周知方お取り計らい願います。

なお、本通達中、「法」とあるのは不動産登記法(平成16年法律第123号)を、「令」とあるのは不動産登記令(平成16年政令第379号)を、「準則」とあるのは不動産登記事務取扱手続準則(平成17年2月25日付け法務省民二第456号当職通達)をいいます。

第1部 改正省令の趣旨

民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号。以下「改正法」とう。)による改正後の法(令和8年4月1日に施行されるもの。以下「新法」という。)において、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所(以下「住所等」という。)について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、住所等についての変更の登記(以下「住所等変更登記」という。)を申請しなければならず、当該申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処するとされた(新法第76条の5、第164条第2項)。また、新法第76条の5の規定は、その施行日(令和8年4月1日)前に所有権の登記名義人の住所等について変更があった場合についても適用することとされ、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日又は当該施行日のいずれか遅い日から2年以内に、住所等変更登記を申請しなければならないとされた(改正法附則第5条第7項)。

加えて、これらの申請義務を履行するための簡便な方策として、登記官は、所有権の登記名義人の住所等について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、住所等変更登記をすることができるが、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限るとの仕組みが新設された(新法第76条の6)。

この仕組みは、所有権の登記名義人が自然人である場合において、登記官は、あらかじめ所有権の登記名義人から住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)第30条の7第4項に規定する機構保存本人確認情報(以下「住基ネット情報」という。)を検索するための情報の申出を受けた上で、定期的に、当該情報を用いて同法第30条の9の規定による住基ネット情報の提供を求め、その結果、所有権の登記名義人の氏名又は住所について変更があったと認めたときは、所有権の登記名義人の了解を得た上で、職権により変更登記をするものである。

改正省令は、新法第76条の6の規定の施行に先立ち、令和7年4月21日から職権による住所等変更登記の前提として必要な申出を可能とすること等により、同条の趣旨の早期実現を図るものである。

第2部 改正省令の施行に伴う不動産登記事務の取扱い

第1 検索用情報管理ファイル

1 法務大臣は、所有権の登記名義人(自然人である者に限る。以下同じ。)についての次に掲げる事項を記録する検索用情報管理ファイルを備えるものとされた(規則第158条の38第1項)。

(1) 氏名

(2) 氏名の振り仮名(外国人(日本の国籍を有しない者をいう。以下同じ。)にあっては、氏名の表音をローマ字で表示したもの(以下「ローマ字氏名」という。))

(3) 住所

(4) 出生の年月日

(5) 電子メールアドレス

(6) 所有権の登記名義人として記録されている登記記録を特定するために必要な事項

また、検索用情報管理ファイルは、所有権の登記名義人ごとに電磁的記録に記録して調製するものとされ、検索用情報管理ファイルに記録された情報の保存期間は、永久とされた(規則第158条の38第2項、第3項)。

2 前記1(1)から(4)までに掲げる事項は、登記官が、新法第76条の6の事務の処理に当たり、所有権の登記名義人の住基ネット情報を検索するためのものである。

前記1(5)に掲げる事項は、登記官が、当該住基ネット情報により、所有権の登記名義人の氏名又は住所について変更があったと認めた場合に、所有権の登記名義人に対し、職権により住所等変更登記をすることの了解を得るための連絡を行う際に使用するためのものである。

前記1(6)に掲げる事項は、登記官が、所有権の登記名義人の氏名又は住所についての変更の有無を確認するに当たり、当該所有権の登記名義人の登記簿上の氏名又は住所を確認する際や、その確認結果に基づき、職権による住所等変更登記をする際に使用するためのものである。

当該事項には、所有権の登記名義人として記録されている登記記録に係る不動産の不動産所在事項等が該当する。

したがって、これらの事項は検索用情報管理ファイルに正確に記録する必要がある。

3 検索用情報管理ファイルに各所有権の登記名義人についての前記1(1)から(6)までに掲げる事項が新たに記録されるのは、次の場合である。

(1) 登記の申請人が後記第2の申出(検索用情報同時申出)をした場合(規則第158条の39)

(2) 所有権の登記名義人が後記第3の申出(検索用情報単独申出)をした場合(規則第158条の40)

第2 検索用情報同時申出

1 申出をすべき場合

(1) 所有権の保存若しくは移転の登記、合体による登記等(法第49条第1項後段の規定により併せて申請をする所有権の登記があるときに限る。)又は所有権の更正の登記(その登記によって所有権の登記名義人となる者があるときに限る。)を申請する場合において、所有権の登記名義人となる者(これらの登記の申請人である場合に限る。)が国内に住所を有するときは、これらの登記の申請人は、登記官に対し、当該所有権の登記名義人となる者についての次に掲げる事項(以下「検索用情報」という。)を申請情報の内容として申し出るものとされた(規則第158条の39第1項)。

ア 氏名

イ 氏名の振り仮名(外国人にあっては、ローマ字氏名)

ウ 住所

エ 出生の年月日

オ 電子メールアドレス

(2) 前記(1)アからエまでに掲げる事項は、いずれも住民票に記載又は記録されたものを意味する。

もっとも、外国人については、住民票に前記(1)アの事項(片仮名で表記された氏名)の記載又は記録がない場合があり得るが、当該事項は登記事項でもあることから、この場合でも申し出る必要がある。

なお、外国人であって、ローマ字氏名が住民票に記載又は記録されていない者については、日本の国籍を有する者とみなして前記(1)イを適用するものとする。

(3) 前記(1)オに掲げる事項は、所有権の登記名義人となる者のみが現に利用するものを意味する。

なお、所有権の登記名義人となる者がこれを有しない場合において、「電子メールアドレスなし」の振り合いによりその旨を申請情報の内容としたときは、当該事項の申出をしないこととして差し支えない。

おって、複数の電子メールアドレスを申し出ることは認められない。

(4) 申請人でない者が所有権の登記名義人となる前記(1)の登記の申請(代位による前記(1)の登記の申請等)については、申請人でない所有権の登記名義人となる者についての検索用情報を申請情報の内容として前記(1)による申出(以下「検索用情報同時申出」という。)をすることはできない。

なお、申請人でない所有権の登記名義人となる者は、当該登記の完了後、後記第3の申出(検索用情報単独申出)をすることができる。

2 検索用情報を申請情報の内容とする方法

前記1(1)により検索用情報を申請情報の内容とする場合には、令第3条第1号に掲げる事項(申請人の氏名及び住所)に続けて当該申請人である所有権の登記名義人となる者の他の検索用情報を記録するものとする。

ただし、外国人のローマ字氏名については、申請人の氏名に括弧を付して記録するものとし、これを規則第158条の31第1項の規定による申出(登記申請に伴うローマ字氏名併記の申出)としても取り扱うものとする。

3 出生の年月日等を証する情報

検索用情報同時申出をする場合には、当該所有権の登記名義人となる者の前記1(1)イ及びエに掲げる事項を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報( 以下「出生の年月日等を証する情報」という。)をその申請情報と併せて登記所に提供しなければならないとされた(規則第158条の39第2項)。

(1) 出生の年月日等を証する情報の内容

出生の年月日等を証する情報は、基本的に、検索用情報同時申出に係る登記申請の添付情報として提供される所有権の登記名義人となる者の住所を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(令別表13の項添付情報欄リ、同28の項添付情報欄ニ、同29の項添付情報欄ハ、同30の項添付情報欄ハ)と兼ねることができ、これに氏名の振り仮名の記載又は記録がない場合でも、便宜、これを出生の年月日等を証する情報に該当するものとして取り扱って差し支えない。

(2) 提供方法

出生の年月日等を証する情報の提供方法は、検索用情報同時申出に係る登記申請の添付情報の提供方法の例によるものとする。

なお、令附則第5条第1項の例により出生の年月日等を証する情報を記載した書面を提出する場合には、当該書面に記載された情報を記録した電磁的記録を提供することを要しない。

(3) 提供の省略

電子申請の申請人が検索用情報同時申出をする場合において、その者が規則第43条第1項第1号に掲げる電子証明書(登記官が前記1(1)イ及びエに掲げる事項を確認することができるものに限る。)を提供したときは、当該電子証明書の提供をもって、出生の年月日等を証する情報の提供に代えることができるとされた(規則第158条の39第3項)。

なお、提供された規則第43条第1項第1号に掲げる電子証明書に氏名の振り仮名の記録がない場合の取扱いは、前記(1)と同様とする。

(4) 出生の年月日等を証する情報を記載した書面の原本の還付

出生の年月日等を証する情報を記載した書面の原本の還付については、規則第55条の例によるものとする。

4 立件等

(1) 登記官は、前記1(1)により検索用情報に係る情報が提供されたときは、申出立件事件簿に立件の年月日及び立件番号を記録するものとされた(規則第158条の39第4項)。

なお、立件番号は、代替措置等申出(規則第202条の4第1項)に係る立件番号と共通の発番体系により1年ごとに更新される番号を付すものとする。

(2) 登記官は、前記(1)の記録後、検索用情報同時申出に係る登記申請の調査、記入、校合等と並行して、検索用情報同時申出の調査、仮登録、本登録等をするものとし、それぞれの対応する事務の取扱者が異なる場合には、適宜の方法によりその旨を明らかにするものとする。

(3) 登記官は、前記(1)の記録後、後記5(1)の検索用情報管理ファイルへの記録を行うまでの間に、別記第1号様式により、立件の年月日、立件番号、検索用情報同時申出に係る申請の受付の年月日及び受付番号、不動産の不動産所在事項、検索用情報等を記載した書面(以下「保存用同時申出書」)を作成し、検索用情報管理ファイルへの記録完了まで登記の申請書等と共に管理するものとする。

なお、保存用同時申出書は、検索用情報管理ファイルへの記録後、後記第5の2のとおり申出立件関係書類つづり込み帳につづり込むものとする。また、保存用同時申出書の写しを登記の申請書等とともに申請書類つづり込み帳につづり込むなどの方法により、登記の申請と検索用情報同時申出の関連を明らかにするものとする。

5 検索用情報管理ファイルへの記録

(1) 登記官は、検索用情報同時申出があった場合において、当該検索用情報同時申出に係る申請に基づく登記をしたときは、職権で、申出のあった所有権の登記名義人についての検索用情報及び登記記録を特定するために必要な事項を検索用情報管理ファイルに記録するものとされた(規則第158条の39第5項)。

(2) 前記(1)の登記の申請を却下したときは、当該検索用情報同時申出も併せて却下されたことになる。この場合において、当該登記の申請を却下する決定書に当該検索用情報同時申出を却下する旨を記載する必要はなく、当該検索用情報同時申出の却下に係る決定書を別に作成することも要しない。

6 申出手続が完了した旨の連絡

(1) 登記官は、検索用情報管理ファイルへの記録を完了したときは、当該記録に係る所有権の登記名義人の電子メールアドレスに宛てて、次に掲げる事項を記録した電子メールを送信するものとする。

ア 申出手続が完了した旨

イ 立件の年月日及び立件番号

ウ 不動産番号

エ 後記第4の2の法務大臣の定めに規定する認証キー

オ 申出を受けた登記所の表示

ただし、電子メールアドレスの申出がなかった所有権の登記名義人については、別記第2号様式により前記アからウまで及びオに掲げる事項を記載した書面(以下「申出手続完了通知書」という。)を交付するものとする。

この申出手続完了通知書の交付は、検索用情報同時申出に係る登記申請に係る登記完了証の交付又は登記識別情報の通知を所有権の登記名義人又は申請代理人に対して書面で行う場合には、これらと併せて行うものとし、いずれも電子情報処理組織を使用して行う場合には、所有権の登記名義人から送付の方法による交付の求めがあったときを除き、登記所において申出手続完了通知書を交付するものとする。

なお、申出手続完了通知書の送付の方法による交付に関する取扱いについては、規則第182条第2項及び同条第3項において準用する規則第55条第7項から第9項までの例によるものとする。

(2) 登記官は、前記(1)ただし書にかかわらず、当該所有権の登記名義人が、検索用情報管理ファイルへの記録完了の時から三月を経過しても、申出手続完了通知書を受領しないときは、当該所有権の登記名義人に対し、申出手続完了通知書を交付することを要しないものとする。

なお、この場合には、当該申出手続完了通知書は適宜廃棄して差し支えない。送付の方法により申出手続完了通知書を交付する場合において、当該申出手続完了通知書が返戻されたときも、同様とする。

第3 検索用情報単独申出

1 申出ができる場合

国内に住所を有する所有権の登記名義人は、登記官に対し、当該所有権の登記名義人についての検索用情報を検索用情報管理ファイルに記録するよう申し出ることができるとされた(規則第158条の40第1項)。

2 検索用情報申出情報

(1) 検索用情報単独申出において明らかにすべき事項

ア 前記1による申出(以下「検索用情報単独申出」という。)は、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならないとされた(規則第158条の40第2項)。

(ア) 所有権の登記名義人の検索用情報

(イ) 代理人によって申出をするときは、当該代理人の氏名又は名称及び住所並びに代理人が法人であるときはその代表者の氏名

(ウ) 申出の目的

(エ) 申出に係る不動産の不動産所在事項

イ 前記第2の1(2)又は(3)の取扱いは、前記ア(ア)についても同様である。

ウ 前記ア(ウ)の申出の目的については、「検索用情報の申出(順位番号後記のとおり)」の振り合いにより明らかにした上で、前記ア(エ)の「不動産の不動産所在事項」に続けて所有権の登記名義人として記録されている各登記記録の順位番号を明らかにするものとする。

(2) 検索用情報単独申出の申出先登記所

検索用情報単独申出は、申出に係る不動産の所在地を管轄する登記所の登記官に対してしなければならないとされた。ただし、異なる登記所の管轄区域にある二以上の不動産について検索用情報単独申出をするときは、当該検索用情報単独申出は、当該不動産のうちいずれかの不動産の所在地を管轄する登記所の登記官に対してすることができるとされた(規則第158条の40第3項)。

(3) 不動産番号の取扱い

前記(1)ア(エ)にかかわらず、不動産番号(申出を受ける登記所以外の登記所の管轄区域内にある不動産について申出をする場合にあっては、不動産番号及び当該申出を受ける登記所以外の登記所の表示)を検索用情報申出情報(前記(1)アに掲げる事項に係る情報をいう。以下同じ。)の内容としたときは、前記(1)ア(エ)に掲げる事項を検索用情報申出情報の内容とすることを要しないとされた(規則第158条の40第4項)。

この申出を受ける登記所以外の登記所の管轄区域内にある不動産について申出をする場合には、「○○法務局管轄」の振り合いにより、検索用情報申出情報の内容である不動産番号に続けて記録するものとする。

(4) 検索用情報申出情報の内容とする事項

検索用情報単独申出においては、前記(1)ア(ア)から(エ)までに掲げる事項のほか、次に掲げる事項を検索用情報申出情報の内容とするものとされた(規則第158条の40第5項)。

ア 申出人又は代理人の電話番号その他の連絡先

イ 検索用情報申出添付情報(後記5(1)に掲げる情報をいう。以下同じ。)の表示

ウ 申出の年月日

エ 検索用情報申出情報を提供する登記所の表示

3 検索用情報単独申出の方法

検索用情報単独申出は、次に掲げる方法のいずれかにより、検索用情報申出情報を登記所に提供してしなければならないとされた(規則第158条の40第6項)。

(1) 電子情報処理組織を使用する方法(以下この方法による申出を「電子申出」という。)

(2) 検索用情報申出書(検索用情報申出情報を記載した書面をいう。以下同じ。)を提出する方法(以下この方法による申出を「書面申出」という。)

4 検索用情報申出情報の作成及び提供

検索用情報申出情報は、所有権の登記名義人ごとに作成して提供しなければならないとされた(規則第158条の40第7項)。

5 検索用情報申出添付情報

(1) 検索用情報単独申出をする場合には、次に掲げる情報をその検索用情報申出情報と併せて登記所に提供しなければならないとされた(規則第158条の40第8項)。

ア 申出人となるべき者が申出をしていることを明らかにする市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(当該情報を記載した書面の写しを含む。)

イ 代理人によって申出をするときは、当該代理人の権限を証する情報

ウ 前記2(1)ア(ア)に掲げる事項(所有権の登記名義人の検索用情報)(電子メールアドレスを除く。)を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)。ただし、所有権の登記名義人に係るものであることを登記官が確認することができる当該事項を検索用情報申出情報の内容としたときを除く。

(2) 前記(1)アの書面には、①運転免許証(道路交通法(昭和35年法律第105号)第92条第1項に規定する運転免許証をいう。以下同じ。)、個人番号カード(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号)第2条第7項に規定する個人番号カードをいう。以下同じ。)、旅券等(出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)第2条第5号に規定する旅券及び同条第6 号に規定する乗員手帳をい

う。ただし、当該申出人の氏名及び出生の年月日の記載があるものに限る。)、在留カード(同法第19条の3に規定する在留カードをいう。)、特別永住者証明書(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成3年法律第71号)第7条に規定する特別永住者証明書をいう。)若しくは運転経歴証明書(道路交通法の一部を改正する法律(令和4年法律第32号)による改正後の道路交通法第105条の2第1項に規定する運転経歴証明書をいう。)又は②国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合若しくは私立学校教職員共済制度の資格確認書(書面によって作成されたものに限る。)、介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、基礎年金番号通知書(国民年金法施行規則(昭和35年厚生省令第12号)第1条第1項に規定する基礎年金番号通知書をいう。)、児童扶養手当証書、母子健康手帳、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳又は戦傷病者手帳であって、当該申出人の氏名、住所及び出生の年月日の記載があるものが該当する。

なお、前記①又は②の書類(以下「身分証明書」という。)の性質上、その原本を登記所で保管することは相当ではないことから、前記(1)アの情報の提供については、身分証明書の写し(身分証明書に記載された情報を記録した電磁的記録を含む。以下この(2)において同じ。)の提供により行うものとする。

また、個人番号カードの写しを提供する場合にあってはその裏面を除くものを、国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合若しくは私立学校教職員共済制度の資格確認書又は健康保険日雇特例被保険者手帳の写しを提供する場合にあっては保険者番号及び被保険者等記号・番号(国民健康保険法(昭和33年法律第192号)第111条の2第1項に規定する被保険者記号・番号等、健康保険法(大正11年法律第70号)第194条の2第1項に規定する被保険者等記号・番号等、船員保険法(昭和14年法律第73号)第143条の2第1項に規定する被保険者等記号・番号等、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)第161条の2第1項に規定する被保険者番号等、国家公務員共済組合法(昭和33年法律第128号)第112条の2第1項に規定する組合員等記号・番号等、地方公務員等共済組合法(昭和37年法律第152号)第144条の24の2第1項に規定する組合員等記号・番号等又は私立学校教職員共済法(昭和28年法律第245号)第45条第1項に規定する加入者等記号・番号等をいう。)が記載された部分を除くものを、基礎年金番号通知書の写しを提供する場合にあっては基礎年金番号(国民年金法(昭和34年法律第141号)第14条に規定する基礎年金番号をいう。)が記載された部分を除くものを提供するものとする。

なお、身分証明書の写しについては、電子申出をする場合における電子署名や書面申出をする場合における記名押印、署名は不要である。

(3) 後記6(2)のとおり、電子申出において送信する前記(1)イの情報には、作成者の電子署名を要しない。

また、書面申出における同情報を記載した書面には、作成者の押印又は署名を要しない。

(4) 委任による代理人によって検索用情報単独申出を行う場合には、前記(1)イの情報には、検索用情報単独申出についての具体的な委任事項がその内容とされていることを要する。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・検索用情報の申出に係る一切の件

・検索用情報の申出の補正・取下げ、添付情報の原本還付に係る一切の件

・申出手続完了通知書の受領

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(5) 法人である代理人によって検索用情報単独申出をする場合において、当該代理人の会社法人等番号を提供したときは、当該会社法人番号の提供をもって、当該代理人の代表者の資格を証する情報の提供に代えることができるとされた(規則第158条の40第9項において準用する規則第37条の2)。

なお、代理人の会社法人等番号を提供する場合には、検索用情報申出情報の内容である「代理人の名称」に続けて記録して差し支えない。

(6) 前記(1)ウ本文の情報には、①検索用情報申出情報の内容である所有権の登記名義人の検索用情報(電子メールアドレスを除く。後記(7)において同じ。)が記載された住民票の写し等に加え、②検索用情報申出情報の内容である所有権の登記名義人の氏名又は住所が登記簿上の氏名又は住所と異なる場合にあっては、当該所有権の登記名義人の氏名又は住所について変更があったことを証する戸籍の附票の写し等が該当する。

(7) 前記(1)ウただし書の「所有権の登記名義人に係るものであることを登記官が確認することができる当該事項」には、検索用情報申出情報の内容である所有権の登記名義人の氏名及び住所が登記簿上の氏名及び住所と同一である場合にあっては、検索用情報申出情報の内容である検索用情報と合致する住基ネット情報を登記官が確認することができるものが該当する。すなわち、検索用情報申出情報の内容である検索用情報を用いて住民基本台帳法第30条の9の規定による住基ネット情報の提供を求めることにより、当該検索用情報と合致する住基ネット情報を登記官が確認することができるときは、前記(6)の情報の提供を要しない。

検索用情報申出情報の内容である所有権の登記名義人の氏名又は住所が登記簿上の氏名又は住所と異なる場合にあっては、①検索用情報申出情報の内容である検索用情報と合致する住基ネット情報及び②当該所有権の登記名義人の氏名又は住所について変更があったことを確認することができる住基ネット情報を登記官が確認することができるものが該当する。すなわち、検索用情報申出情報の内容である検索用情報を用いて住民基本台帳法第30条の9の規定による住基ネット情報の提供を求めることにより、①及び②の住基ネット情報を登記官が確認することができるときは、前記(6)の情報の提供を要しない。

6 電子申出の方法

(1) 電子申出における検索用情報申出情報及び検索用情報申出添付情報は、法務大臣の定めるところにより送信しなければならないとされた。ただし、検索用情報申出添付情報の送信に代えて、登記所に検索用情報申出添付書面(検索用情報申出添付情報を記載した書面をいう。以下同じ。)を提出することを妨げないとされた(規則第158条の40第10項において準用する規則第158条の8第1項)。

(2) 前記(1)本文により送信する検索用情報申出添付情報(前記5(1)ウ本文の情報に限る。)は、作成者による規則第42条の電子署名が行われているものでなければならないとされた(規則第158条の40第11項において準用する令第12条第2項及び規則第158条の40第12項において準用する規則第42条)。

なお、前記(1)本文により送信する検索用情報申出情報については、電子署名を要しない。

(3) 前記(2)の電子署名が行われている検索用情報申出添付情報を送信するときは、規則第43条第2項の電子証明書を併せて送信しなければならないとされた(規則第158条の40第11項において準用する令第14条及び規則第158条の40第12項において準用する規則第43条第2項)。

7 電子申出において検索用情報申出添付書面を提出する場合についての特例等

(1) 前記6(1)のただし書(いわゆる別送方式)により検索用情報申出

添付書面を提出するときは、検索用情報申出添付書面を登記所に提出する旨及び検索用情報申出添付情報につき書面を提出する方法によるか否かの別をも検索用情報申出情報の内容とするものとされた(規則第158条の40第10項において準用する規則第158条の9第1項)。

(2) 前記(1)の場合には、当該検索用情報申出添付書面は、検索用情報単独申出の立件の日から二日以内に提出するものとされた(規則第158条の40第10項において読み替えて準用する規則第158条の9第2項)。

(3) 前記(1)の場合には、申出人は、当該検索用情報申出添付書面を提出するに際し、規則別記第4号の3様式による用紙に次に掲げる事項を記載したものを添付しなければならないとされた(規則第158条の40第10項において読み替えて準用する規則第158条の9第3項)。

ア 立件番号その他の当該検索用情報申出添付書面を検索用情報申出

添付情報とする申出の特定に必要な事項

イ 前記6(1)ただし書(いわゆる別送方式)により提出する検索用情報申出添付書面の表示

8 電子証明書の提供による提供の省略

電子申出をする申出人が検索用情報申出情報又は委任による代理人の権限を証する情報に規則第42条の電子署名を行い、当該申出人の規則第43条第1項第1号に掲げる電子証明書を提供したときは、当該電子証明書の提供をもって、前記5(1)ア及びウに掲げる情報(申出人となるべき者が申出をしていることを明らかにする情報及び所有権の登記名義人の検索用情報を証する情報)の提供に代えることができるとされた。ただし、同ウに掲げる情報(所有権の登記名義人の検索用情報を証する情報)については、登記官が所有権の登記名義人の検索用情報(電子メールアドレスを除く。)を確認することができるものを提供したときに限るとされた(規則第158条の40第13項)。

9 書面申出の方法

(1) 書面申出をするときは、検索用情報申出書に検索用情報申出添付書面を添付して提出しなければならないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第158条の10第1項)。

なお、検索用情報申出書に押印することを要しない。

(2) 検索用情報申出書に記載する文字は、字画を明確にしなければならないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第158条の10第2項において準用する規則第45条第1項)。

(3) 検索用情報申出書につき文字の訂正、加入又は削除をしたときは、その旨及びその字数を欄外に記載し、又は訂正、加入若しくは削除をした文字に括弧その他の記号を付して、その範囲を明らかにしなければならないとされた。この場合において、訂正又は削除をした文字は、なお読むことができるようにしておかなければならないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第158条の10第3項)。

(4) 申出人又はその代理人は、検索用情報申出書が2枚以上であるときは、各用紙に当該用紙が何枚目であるかを記載することその他の必要な措置を講じなければならないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第158条の10第4項)。

10 検索用情報申出書等の送付方法

(1) 検索用情報単独申出をしようとする者が検索用情報申出書又は検索用情報申出添付書面を送付するときは、書留郵便又は信書便事業者による信書便の役務であって当該信書便事業者において引受け及び配達の記録を行うものによるものとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第158条の11第1項)。

(2) 前記(1)の場合には、検索用情報申出書又は検索用情報申出添付書面を入れた封筒の表面に検索用情報申出書又は検索用情報申出添付書面が在中する旨を明記するものとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第158条の11第2項)。

11 受領証の交付の請求

(1) 書面申出をした申出人は、検索用情報管理ファイルへの記録が完了するまでの間、検索用情報申出書及びその検索用情報申出添付書面の受領証の交付を請求することができるものとする。

(2) 前記(1)により受領証の交付を請求する申出人は、検索用情報申出書の内容と同一の内容を記載した書面を提出しなければならないものとする。

(3) 登記官は、前記(1)による請求があった場合には、前記(2)により提出された書面に検索用情報単独申出の立件の年月日及び立件番号並びに職氏名を記載し、職印を押印して受領証を作成した上、当該受領証を交付するものとする。

12 検索用情報申出添付書面の原本の還付請求

(1) 検索用情報申出添付書面を提出した申出人は、検索用情報申出添付書面の原本の還付を請求することができるとされた。ただし、当該申出のためにのみ作成された委任状その他の書面については、この限りでないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第55条第1項)。

(2) 前記(1)本文により原本の還付を請求する申出人は、原本と相違ない旨を記載した謄本を提出しなければならないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第55条第2項)。

(3) 登記官は、前記(1)本文による請求があった場合には、調査完了後、当該請求に係る書面の原本を還付しなければならないとされた。

この場合には、前記(2)の謄本と当該請求に係る書面の原本を照合し、これらの内容が同一であることを確認した上、前記(2)の謄本に原本還付の旨を記載し、これに登記官印を押印しなければならないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第55条第3項)。

なお、当該原本還付の旨の記載は、準則第30条の例によるものとする。

(4) 前記(3)により登記官印を押印した前記(2)の謄本は、検索用情報管理ファイルへの記録完了後、申出立件関係書類つづり込み帳につづり込むものとされた(規則第158条の40第14項において読み替えて準用する規則第55条第4項)。

(5) 前記(3)にかかわらず、登記官は、偽造された書面その他の不正な検索用情報単独申出のために用いられた疑いがある書面については、これを還付することができないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第55条第5項)。

(6) 前記(3)による原本の還付は、申出人の申出により、原本を送付する方法によることができるとされた。この場合においては、申出人は、送付先の住所をも申し出なければならないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第55条第6項)。

(7) 前記(6)の場合における書面の送付は、前記(6)の住所に宛てて、書留郵便又は信書便の役務であって信書便事業者において引受け及び配達の記録を行うものによってするものとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第55条第7項)。

(8) 前記(7)の送付に要する費用は、郵便切手又は信書便の役務に関する料金の支払のために使用することができる証票であって法務大臣が指定するものを提出する方法により納付しなければならないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第55条第8項)。

(9) 前記(8)の指定は、告示してしなければならないとされた(規則第158条の40第14項において準用する規則第55条第9項)。

13 立件等

(1) 登記官は、前記3(検索用情報単独申出の方法)により検索用情報申出情報が提供されたときは、申出立件事件簿に立件の年月日及び立件番号を記録するものとされた(規則第158条の40第15項において準用する規則第158条の39第4項)。

なお、立件番号は、代替措置等申出の立件番号と共通の発番体系により1年ごとに更新される番号を付すものとする。

(2) 登記官は、書面申出により検索用情報申出情報が提供されたときは、前記(1)により申出立件事件簿に記録をする際、検索用情報申出書に立件の年月日及び立件番号を記載しなければならないとされた(規則第158条の40第16項)。

具体的には、検索用情報申出書の1枚目の表面の余白に別記第3号様式及び別記第4号様式による印判を押印して該当欄に立件の年月日及び立件番号を記載し、又は別記第5号様式若しくは別記第6号様式による検索用情報単独申出の立件の年月日及び立件番号を記載した書面を貼り付ける方法により記載するものとする。

(3) 前記(2)により押印した印判又は貼り付けた書面には、立件、調査、仮登録、本登録等をした都度、該当欄に取扱者が押印するものとする。

(4) 電子申出にあっては、申出ごとに印刷した検索用情報単独申出の立件の年月日及び立件番号を表示した書面(以下「電子申出管理用紙」という。)に前記(3)に準じた処理をするものとする。

(5) 登記官は、検索用情報単独申出があったときは、遅滞なく、申出に関する全ての事項を調査するものとする。

14 検索用情報単独申出の却下等

(1) 登記官は、次に掲げる場合には、理由を付した決定で、検索用情報単独申出を却下しなければならないものとする。ただし、当該検索用情報単独申出の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申出人がこれを補正したときは、この限りでないものとする。

ア 申出に係る不動産の所在地が当該申出を受けた登記所の管轄に属しないとき(二以上の不動産についての申出にあっては、当該不動産の所在地がいずれも申出を受けた登記所の管轄に属しないとき。)。

イ 申出の権限を有しない者の申出によるとき。

ウ 検索用情報申出情報又はその提供の方法が規則により定められた方式に適合しないとき。

エ 検索用情報申出情報の内容である不動産が登記記録と合致しないとき。

オ 検索用情報申出情報の内容が検索用情報申出添付情報の内容と合致しないとき。

カ 検索用情報申出添付情報が提供されないとき。

(2) 登記官は、前記(1)ただし書の期間を定めたときは、当該期間内は、当該補正すべき事項に係る不備を理由に当該検索用情報単独申出を却下することはできないものとする。

(3) 登記官は、検索用情報単独申出を却下するときは、別記第7号様式に基づき、決定書を作成して、これを申出人に交付するものとする。

ただし、代理人によって検索用情報単独申出がされた場合は、当該代理人に交付すれば足りるものとする。

(4) 前記(3)の交付は、当該決定書を送付する方法によりすることができるものとする。

(5) 登記官は、検索用情報申出添付書面が提出された場合において、検索用情報単独申出を却下したときは、検索用情報申出添付書面を還付するものとする。ただし、偽造された書面その他の不正な検索用情報単独申出のために用いられた疑いがある書面については、この限りでないものとする。

(6) 前記(1)から(5)までのほか、検索用情報単独申出の却下に関する取扱いについては、準則第28条の例によるものとする。

15 検索用情報単独申出の補正期限の連絡等

検索用情報単独申出の補正期限の連絡等に関する取扱いについては、準則第36条の例によるものとする。

16 検索用情報単独申出の取下げ

(1) 検索用情報単独申出の取下げは、次のア及びイに掲げる検索用情報単独申出の区分に応じ、当該ア及びイに定める方法によってしなければならないものとする。

ア 電子申出 規則第158条の17第1項において準用する規則第39条第1項第1号の例により電子情報処理組織を使用して検索用情報単独申出を取り下げる旨の情報を登記所に提供する方法

イ 書面申出 検索用情報単独申出を取り下げる旨の情報を記載した書面を登記所に提出する方法

(2) 検索用情報単独申出の取下げは、検索用情報管理ファイルへの記録完了後は、することができないものとする。

(3) 登記官は、検索用情報申出書又は検索用情報申出添付書面が提出された場合において、検索用情報単独申出の取下げがされたときは、検索用情報申出書又は検索用情報申出添付書面を還付するものとする。

ただし、偽造された書面その他の不正な検索用情報単独申出のために用いられた疑いがある書面については、この限りでないものとする。

(4) 前記(1)から(3)までのほか、検索用情報単独申出の取下げに関する取扱いについては、準則第29条の例によるものとする。

17 検索用情報管理ファイルへの記録

登記官は、検索用情報単独申出があったときは、職権で、申出のあった所有権の登記名義人についての検索用情報及び登記記録を特定するために必要な事項を検索用情報管理ファイルに記録するものとされた(規則第158条の40第17項)。

なお、申出に係る事項が検索用情報管理ファイルに既に記録されている場合でも、当該申出に基づき、検索用情報管理ファイルに記録されている事項を更新して差し支えない。

18 申出手続が完了した旨の連絡

前記第2の6の取扱いは、前記17による検索用情報管理ファイルへの記録を完了した場合についても同様とする。

第4 検索用情報管理ファイルに記録された事項の変更等

1 登記官の職権による記録事項の変更又は更正

登記官は、検索用情報管理ファイルに記録された前記第1の1に掲げる事項に変更又は錯誤若しくは遺漏があると認めるときは、職権で、検索用情報管理ファイルに変更後又は更正後の当該事項を記録するものとされた(規則第158条の41第1項)。

同項に基づく具体的な事務としては、次のようなものがある。

(1) 申出に基づく電子メールアドレスの変更又は削除

ア 検索用情報管理ファイルに電子メールアドレスが記録されている所有権の登記名義人は、前記第2の6(1)又は第3の18により送信された認証キーを失念したことなどにより後記2の方法により当該電子メールアドレスの変更又は削除をすることができないときは、登記官に対し、当該電子メールアドレスの変更又は削除をするよう申し出ることができるものとする。

イ 前記アによる申出は、次に掲げる事項を記載した書面を登記所に提出するとともに、運転免許証、個人番号カードその他の公務員が作成した証明書であって、当該所有権の登記名義人と申出人が同一の者であることを確認することができるものを登記官に提示又は提出してしなければならないものとする。

(ア) 申出人の氏名、住所及び出生の年月日

(イ) 申出人が外国人であるときは、ローマ字氏名

(ウ) 申出の目的

(エ) 電子メールアドレスの変更を申し出るときは、変更前及び変更後の電子メールアドレス

(オ) 電子メールアドレスの削除を申し出るときは、削除を求める電子メールアドレス及び電子メールアドレスを有しない旨

(カ) 申出人の電話番号その他の連絡先

(キ) 申出の年月日

(ク) 登記所の表示

なお、前記(ウ)の申出の目的は「電子メールアドレスの変更」又は「電子メールアドレスの削除」の振り合いによるものとする。

おって、登記官が当該証明書の提示を受けた場合の取扱いは、準則第33条第5項の例によるものとする。

ウ 前記アによる申出は、所有権の登記名義人として記録されている登記記録に係る不動産の所在地を管轄する登記所以外の登記所の登記官に対してもすることができるものとする。

エ 登記官は、前記アによる申出があったときは、職権で、検索用情報管理ファイルに記録された当該所有権の登記名義人の電子メールアドレスの変更又は削除をすることができるものとする。

オ 前記エの変更をした登記官は、後記2の法務大臣の定めに規定する認証キーを記載した書面を申出人に交付するものとする。

カ 検索用情報の申出(検索用情報同時申出又は検索用情報単独申出をいう。以下同じ。)を受けた登記所の登記官は、前記第2の6(1)又は第3の18の電子メールの送信後二月を経過するまでの間に、申出人である所有権の登記名義人から当該電子メールが届かない旨の申出があった場合等において、その原因が登記官の過誤又は提供された申請情報若しくは検索用情報申出情報の内容である電子メールアドレスの誤りであると認めるときは、検索用情報管理ファイルに更正後の電子メールアドレスを記録した上で、当該電子メールアドレスに宛てて再度当該電子メールを送信するものとする。

(2) 申出に基づく電子メールアドレスの記録

ア 検索用情報管理ファイルに電子メールアドレスを除く検索用情報が記録されている所有権の登記名義人は、登記官に対し、当該所有権の登記名義人の電子メールアドレスを検索用情報管理ファイルに記録するよう申し出ることができるものとする。

イ 前記(1)イからオまでの取扱いは、前記アによる申出についても同様とし、この場合に提出する書面に記載する申出の目的は、「電子メールアドレスの新規登録」の振り合いによるものとする。

(3) 所有権の登記名義人として記録されている登記記録を特定するために必要な事項に変更があった場合

ア 登記官は、合筆の登記や合併の登記等に際し検索用情報管理ファイルに記録されている所有権の登記名義人の氏名及び住所を職権により記録した場合及び分筆の登記等により検索用情報管理ファイルに記録されている所有権の登記名義人の氏名及び住所を移記・転写した場合には、検索用情報管理ファイルに記録されている所有権の登記名義人の氏名及び住所が新たに記録される登記記録に係る不動産の不動産所在事項等を前記第1の1(6)の事項として検索用情報管理ファイルに記録するものとする。

イ 登記官は、検索用情報管理ファイルに記録されている所有権の登記名義人が所有権の移転の登記等により前記第1の1(6)の事項に係る不動産の所有権の登記名義人でなくなったときは、その旨を当該事項として検索用情報管理ファイルに記録するものとする。

また、当該不動産の所有権の登記名義人であった者がその後の所有権の登記の抹消により再び当該不動産の所有権の登記名義人となったときは、その旨を前記第1の1(6)の事項として検索用情報管理ファイルに記録するものとする。

(4) その他

新法第76条の6の施行後は、前記第1部の住基ネット情報に基づき、登記官が検索用情報管理ファイルに変更後又は更正後の検索用情報(電子メールアドレスを除く。以下この(4)において同じ。)を記録することを想定している。

このため、所有権の登記名義人においては、検索用情報管理ファイルに記録されている検索用情報に変更があったとしても、その旨を登記官に申し出ることを要しない。

2 所有権の登記名義人による電子メールアドレスの変更又は削除

検索用情報管理ファイルに前記第1の1(5)に掲げる事項(電子メールアドレス)が記録されている所有権の登記名義人は、法務大臣の定めるところにより検索用情報管理ファイルに記録された当該事項の変更又は削除をすることができるとされた(規則第158条の41第2項)。

また、法務省のホームページで公開された当該法務大臣の定めにより、当該変更又は削除は、次に掲げる事項を登記・供託オンライン申請システムに送信して行う必要があるなどとされた。

(1) 検索用情報の申出において所有権の登記名義人が提供した電子メールアドレスに宛てて登記官が送信した認証キー(10桁の番号、記号その他の符号であって、登記官が検索用情報の申出に基づいて検索用情報管理ファイルへの記録をする際に付したものをいう。以下同じ。)又は検索用情報の申出において所有権の登記名義人が電子メールアドレスを提供していない場合において、その後に当該所有権の登記名義人が提供した電子メールアドレスを検索用情報管理ファイルに記録したときに登記官が当該所有権の登記名義人に交付した書面に記載された認証キー

(2) 現に検索用情報管理ファイルに記録されている電子メールアドレス

なお、当該変更又は削除は、当該所有権の登記名義人が直接行うものであることから、これに関する登記官の事務は生じない。

第5 帳簿の取扱い

1 申出立件事件簿

申出立件事件簿には、従前の事項に加え、検索用情報の申出の立件の年月日その他の必要な事項を記録するものとされた(規則第27条の2第1項)。

2 申出立件関係書類つづり込み帳

申出立件関係書類つづり込み帳には、従前の書類に加え、検索用情報の申出に関する書類を立件番号の順序に従ってつづり込むものとされた(規則第27条の2第3項)。

なお、当該書類には、検索用情報同時申出に係る出生の年月日等を証する情報を記載した書面及び保存用同時申出書、検索用情報単独申出に係る検索用情報申出書、検索用情報申出添付書面及び取下書、検索用情報の申出に係る事件を処理するために登記官が作成した書類並びに前記第4の1(1)ア又は(2)アによる申出に関する書面が該当する。

ただし、登記申請の添付書面と兼ねられた検索用情報同時申出に係る出生の年月日等を証する情報を記載した書面については、申出立件関係書類つづり込み帳につづり込むことを要しない。登記申請に係る事件を処理するために登記官が作成した書類であって検索用情報同時申出に係る事件の処理に用いたものについても同様とする。

なお、電子申出に係る電子申出管理用紙その他の書面については、権利に関する登記の電子申請に係る電子申請管理用紙その他の書面の例により申出立件関係書類つづり込み帳につづり込むものとする。

第6 経過措置

規則中検索用情報の申出に関する規定は、規則附則第3条第1項の規定による改製を終えていない登記簿(電子情報処理組織による取扱いに適合しない登記簿を含む。)に係る申出については、適用しないとされた(改正省令附則第2項)。

第7 その他

前記第1から第6までのほか、検索用情報の申出に関する事務の取扱いについては、その性質上適当でないものを除き、権利に関する登記の申請に関する事務の取扱いの例によるものとする。

別記第1号(第2部第2の4関係)

保存用同時申出書

立件年月日 :

立件(申出)番号:

本件の受付年月日:

本件の受付番号 :

物件情報

検索用情報

別記第2号(第2部第2の6、第3の18関係)

申出手続完了のお知らせ

申出された検索用情報についての登録手続が完了しましたので、お知らせします。

不動産番号:

立件番号 :

立件年月日:

法務局 出張所

以上

別記第3号(第2部第3の13関係)

第号

立件

(申出)

令和年月

別記第4号(第2部第3の13関係)

受付調査仮登録

本登録情報更新通知

別記第5号(第2部第3の13関係)

受付調査仮登録本登録情報更新通知

別記第6号(第2部第3の13関係)

受付調査仮登録本登録情報更新通知

郵送

年 月 日立件(申出)

第 号ー ー

窓口

年 月 日立件(申出)

第 号ー ー

符号

符号

別記第7号(第2部第3の14関係)

日記第 号

決 定

住所

申出人

令和何年何月何日立件第何号検索用情報単独申出事件に係る検索用情報単独申出は、(申出に係る不動産の所在地が当該申出を受けた登記所の管轄に属しない(二以上の不動産についての申出にあっては、当該不動産の所在地がいずれも申出を受けた登記所の管轄に属しない)/申出の権限を有しない者の申出によるものである/検索用情報申出情報又はその提供の方法が不動産登記規則により定められた方式に適合しない/検索用情報申出情報の内容である不動産が登記記録と合致しない/検索用情報申出情報の内容が検索用情報申出添付情報の内容と合致しない/検索用情報申出添付情報が提供されない)ため、これを却下する。

令和 年 月 日

法務局 出張所

登記官 職印

市民と法152号2025年4月

市民と法152号2025年4月、(一社)民事法研究会

https://www.minjiho.com/search/g107194.html?srsltid=AfmBOoqr_PTsMpjja9unz9hW32dIde_aS8swm_6RVKd4G5nnbNHgxWp8

大論公論 「原点」――あるべき司法書士として働く――

 全国青年司法書士協議会会長 加藤 圭

 今、司法書士が社会にとって必要とされているのか、境界線に立っている。

【論説/解説】

・現代相続における司法書士の役割についての研究―時代に合致した司法書士による手続支援モデルの構築と提案―

 日本司法書士会連合会司法書士総合研究所業務開発研究部会主任研究員・司法書士 石田光曠、研究員・司法書士 平野次郎、研究員・司法書士 村上 毅、研究員・司法書士 小坂和義、研究員・司法書士 宮澤智史

 英米法採用国・・・管理清算主義。

 大陸法採用国・・・当然承継主義(実務では管理者による事実上の管理清算型相続手続き)。

 報酬基準の法定。日本版相続証明情報の提案。遺産分割協議への専門職の関与の仕方。生前対策としてエンディングノート普及の必要性。日本版代表者登記制度の導入提案。ファシリテータとは、舵取り役・仕切り役。

・AI技術・弁護士法・司法書士法から照射される士業の制度的正当(統)性の根拠と課題―自己決定権とパターナリズムの相克・情報の非対称性の観点からの省察―

 日本司法書士会連合会司法書士総合研究所司法・司法書士制度研究部会主任研究員・司法書士 木曽雄高

 弁護士法、司法書士法は国家が父権的に市場に介入することを趣旨として法律であり、情報の非対称性を解消という機能を有している限り、正当性を見出すことが出来る。

 Aiが法的権利義務帰属主体になり得るかについて・・・経済的な補償は可能かもしれませんが、身体の拘束が不可能なので難しいと感じます。

・会社秘書役制度に関する調査と法定手続の不遵守是正の提言

 日本司法書士会連合会司法書士総合研究所商業登記制度研究部会主任研究員・司法書士 神沼博充、研究員・司法書士 坂本佳弥子、研究員・司法書士 岩本直也、研究員・司法書士 齊藤詩織、研究員・司法書士 岩﨑 諭

 イギリスの会社秘書役は、会社法改正により、取締役の補助者から、会社の業務管理に係る総責任者的な位置づけに機能・責任が拡大。

https://www.gov.uk/limited-company-formation/appoint-directors-and-company-secretaries

 オーストラリア、香港、シンガポール、マレーシアにおける会社秘書役の紹介。

 日本に会社秘書役を置く場合のイメージとしては、会計参与の法的手続版。

・大深度地下使用法の現状と課題

 島根県立大学名誉教授 平松弘光

大深度地下の公共的使用に関する特別措置法

https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000087

【特集】国土安全保障と土地法

Ⅰ 企画趣旨

  大阪公立大学教授 久末弥生

国土交通省 WISENET(ワイズネット)2050

https://www.mlit.go.jp/road/wisenet_policies

Ⅱ 縮小社会に適応する地域空間管理法制と法的課題―老朽危険空き家対策を素材として―

  上智大学教授 北村喜宣

 民法の公法化、土地基本法の改正、空家等対策の推進に関する特別措置法の制定。指導、勧告、命令を受けた者が死亡した場合の効力。長屋。市区町村長の申立てによる成年後見制度の利用に代わる、民事訴訟法35条の特別代理人制度の利用検討。

Ⅲ 遊水地地役権の展開と課題

  拓殖大学教授 奥田進一

特定都市河川浸水被害対策法

https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000077

 明渡執行の考え方と諸問題

 元大阪地方裁判所執行官 櫻井俊之

土地の特定

原則・・・土地上に境界標識が存在する場合は検尺を基に見取図を作成。境界標識等が存在せず土地の境界が執行場所を特定した図面を添付。

例外・・・法務局に目的土地と同一の地積測量図が存在する場合は図面等添付不要。基点からの距離が示されていない地積測量図は検尺して見取図の作成。

未登記建物

家屋番号・・・未登記と記載。

相続・今昔ものがたり(46)――事例で読み解く相続実務――

 法制史学会会員・司法書士 末光祐一

〔付録〕相続の欠格(その3)

 家督相続人の不選定の場合に新民法附則25条2項が被相続人の死亡時にさかのぼって新民法が適用されるとき、その新民法の規律がどこまで適用されるのか。

登記研究35号P30、昭和25年10月7日民事甲第2682号民事局長回答、家督相続人不選定と旧民法中の数次相続。

信託契約書から学ぶ民事信託支援業務(11)反社条項と FATF 勧告(1)

 司法書士 渋谷陽一郎

 日司連ガイドラインの作成経緯が公開されていないこと。日本司法書士会連合会「民信託支援業務の執務ガイドライン」と「司法書士及び司法書士法人の業務のマネー・ロンダリング及びテロ資金供与に関するガイドライン」の関係。

令和6年4月17日財務省「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」

月刊登記情報2025年4月761号

月刊 登記情報2025年4月(761号)

https://store.kinzai.jp/public/item/magazine/A/T

法窓一言 士業への災害復興法学のすすめ

銀座パートナーズ法律事務所、弁護士・気象予報士・博士(法学) 岡本 正

 罹災証明書。被災者生活再建支援金、災害弔慰金、自然災害債務整理ガイドライン。

戸籍の氏名の振り仮名の公証化について

法務省人権擁護局調査救済課長(前法務省民事局民事第一課長) 櫻庭 倫

 戸籍法第十三条 戸籍には、本籍のほか、戸籍内の各人について、次に掲げる事項を記載しなければならない。

一 氏名

二 氏名の振り仮名(氏に用いられる文字の読み方を示す文字(以下「氏の振り仮名」という。)及び名に用いられる文字の読み方を示す文字(以下「名の振り仮名」という。)をいう。以下同じ。)

3号以下略。

 戸籍法・・・氏名の振り仮名を戸籍の記載事項とすること。振り仮名は一般的な読み方、現に使用・社会的に通用している読み方である必要があること。振り仮名を変更しようとするときは、原則として家庭裁判所の許可を必要とすること。

 戸籍法施行規則・・・氏名の一般的な読み方に利用することが出来る文字、記号の範囲の定め。一般的な読み方であることの審査方法。振り仮名の変更があった場合の戸籍への手続き。

 審査に関する法務省民事局長通達・・・振り仮名として認められる具体例、認められない具体例。

法制審議会だより

法制審議会民法(成年後見等関係)部会、第13回・第14回会議を開催

編集部

https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003007_00008

任意後見制度、法定後見制度の開始・終了に関する検討事項。

逐条解説 スタートアップ向けモデル原始定款_v1.1 第3回

BAMBOO INCUBATOR司法書士チーム有志

石本憲史/川井秀一/笹野隼人/佐藤大輔/松本光平/丸山洋一郎

新連載

 取締役の員数は下限規定。取締役選任決議における累積投票の廃除(会社法342条)。取締役の任期について、会社法339条2項の損害賠償の額の算定に関する考え方。定款変更した場合における会社法339条2項の類推適用の要件。業務の執行(会社法348条)について。決算月と創業融資の関係。一年一期。

 取締役会非設置会社の期中配当条項。資本金の額が100万円未満の場合と100万円以上の場合における、資本準備金に組み入れる要件。

スタートアップ支援 第1回 大学発スタートアップ支援の基礎~一般的なスタートアップ支援との差分から考える

BAMBOO INCUBATOR

千葉直愛/丸山洋一郎/原 大介/浅岡陽介/加藤淳也/柳田 駿

 事業の類型。法人設立のタイミング。GAPファンドの活用可能性考慮。共同研究契約締結のタイミング。大学の現役教員が株主・取締役になる場合の利益相反の考慮。スタートアップを志す場合は株式会社。新株を発行することが出来ない合同会社は、選択肢に入らない。補助金助成金、融資の活用検討。知的財産権の取扱い。

「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」の考察~身元保証業界の健全な発展に向けて~ 第2回

株式会社あかり保証/清水勇希/谷口陽輔/渡邉慶太郎/上内紀裕/東田仁美

 ガイドライン違反に関して罰則はなく、事業者への自主規制という性質。関係各所との連携・役割分担が重要とされていること。今後の課題として、事業者が死亡届の届出資格者に含まれるかの検討、事業者の認定制度の検討が挙げられていること。

全国高齢者等終身サポート事業者協会準備委員会

https://www.senior-supportass.com

チェックリストの中に、利用者への重要事項説明書の交付が記載されていること。株式会社あかり保証は、契約書を公正証書にしている。預託金の管理方法・管理状況について、利用者と共有できる体制を整備すること。預託金を事業者の運転資金等と区分するため、株式会社あかり保証は、利用者ごとに預託金を信託口座で管理している。

商業登記規則逐条解説 第28回

土手敏行

商業登記規則

(登記事項証明書等の交付の請求の方法)

第百七条 第百一条第一項第八号の規定により登記事項証明書又は印鑑の証明書の交付の請求をするには、申請人等は、法務大臣の定めるところに従い、次の各号に掲げる事項に係る情報(印鑑の証明書の交付の請求にあつては、当該情報に第百二条第一項に規定する措置を講じたもの)を送信しなければならない。

一 この規則の規定により申請書に記載すべき事項

二 登記事項証明書の交付を求めるとき(第四号に規定するときを除く。)は、登記所で交付を受ける旨

三 印鑑の証明書の交付を求めるとき(第五号に規定するときを除く。)は、登記所で交付を受ける旨及び印鑑カード番号

四 登記事項証明書の送付を求めるときは、その旨及び送付先の住所

五 印鑑の証明書の送付を求めるときは、その旨、印鑑カード番号及び送付先の住所

2 代理人によつて前項の規定による請求をするときは、法務大臣の定めるところに従い、その権限を証する書面に代わるべき情報(印鑑の証明書の交付の請求にあつては、当該情報にその作成者が第百二条第一項に規定する措置を講じたもの)を併せて送信しなければならない。

3 第百二条第三項、第四項及び第五項第一号の規定は、第一項の規定により印鑑の証明書の交付の請求をする場合に前二項の情報と併せて送信すべき電子証明書に準用する。

4 第一項の規定による請求については、第二十二条第二項(印鑑の証明書の交付の請求にあつては、印鑑の証明書の送付を求める場合(以下「印鑑の証明書の送付の請求」という。)に限る。)、第二十八条第二項及び第三十三条の規定並びに第二十九条の規定中申請書への記載に関する部分は、適用しない。

5 第一項の規定により登記事項証明書の交付を受けようとするとき(登記事項証明書の送付を受けようとするときを除く。)は、法務大臣の定める事項を申告しなければならない。

6 第一項の規定による印鑑の証明書の交付の請求(印鑑の証明書の送付の請求を除く。)についての第二十二条第二項の規定の適用については、同項中「前項の申請書を提出する場合」とあるのは「第百七条第一項の規定により印鑑の証明書の交付を受けようとする場合」と、「印鑑カード」とあるのは「法務大臣の定める事項を申告し、及び印鑑カード」とする。

7 第百一条第一項に規定する方法により登記事項証明書又は印鑑の証明書の交付の請求をする場合において、手数料を納付するときは、登記官から得た納付情報により納付する方法によつてしなければならない。

 オンラインによる登記事項証明書、印鑑の証明書の交付請求、受取方法の定め。

(氏名等を明らかにする措置)

第百八条 情報通信技術活用法第六条第四項に規定する氏名又は名称を明らかにする措置であつて主務省令で定めるものは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定めるものとする。

一 第百二条第一項の規定による登記の申請、第百五条の二第一項の規定による住所非表示措置等の申出、第百六条第一項の規定による印鑑の提出若しくは廃止の届出、第百六条の二第一項の規定による電子証明書による証明の請求、第百六条の三第一項の規定による電子証明書の使用の廃止若しくは電子証明書の使用の再開の届出、第百六条の四第一項の規定による識別符号の変更の届出、第百六条の五第一項の規定による電子証明書による証明の再度の請求又は前条第一項の規定による印鑑の証明書の交付の請求 当該署名等をすべき者による第百二条第一項に規定する措置

二 前条第一項の規定による登記事項証明書の交付の請求 申請人等の氏名又は名称に係る情報を入力する措置

 登記事項証明書、印鑑証明書の交付請求を行う場合の氏名・名称の記載に関する定め。

目で見る筆界の調査・認定事例

第12回 登記所備付け地積測量図により筆界を認定した事案

富山地方法務局砺波支局長、角間隆夫(日本土地家屋調査士会連合会業務部協力)

 隣地所有者が筆界の確認に応じない場合でも、登記所に筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図が備え付けられ、境界標が現地に存在し、各境界標を測量した結果や関係する他の土地の所有者等も境界標が示す位置を筆界点と認識しており、隣地所有者と立会いや筆界確認情報の提供がなくても筆界関係登記を処理して再分筆の登記をした事例。

リスクベース・アプローチに基づくマネロン対策⑽―“司法書士ガイドライン”から考える―

司法書士 末光祐一

 疑わしい取引の判断を行う指標として、犯罪による収益の移転防止に関する法律8条1項から3項まで。

3項の詳細として、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則

https://laws.e-gov.go.jp/law/420M60000F5A001

(法第八条第三項に規定する主務省令で定める方法)

第二十七条 法第八条第三項に規定する主務省令で定める方法は、次の各号に掲げる特定事業者の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める方法とする。

一 法第二条第二項第一号から第四十四号までに掲げる特定事業者 次のイからハまでに掲げる取引の区分に応じ、それぞれ当該イからハまでに定める方法

イ 特定業務に係る取引(ロ及びハに掲げる取引を除く。) 前条第一号に規定する項目に従って当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法

ロ 既に確認記録又は法第七条第一項に規定する記録(以下ロにおいて「取引記録」という。)を作成し、及び保存している顧客等(ハにおいて「既存顧客」という。)との間で行った特定業務に係る取引(ハに掲げる取引を除く。) 当該顧客等の確認記録、当該顧客等に係る取引記録、第三十二条第一項第二号及び第三号に掲げる措置により得た情報その他の当該取引に関する情報を精査し、かつ、前条第一号に規定する項目に従って当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法

ハ 特定業務に係る取引のうち、法第四条第二項前段に規定するもの若しくは第五条に規定するもの又はこれら以外のもので法第三条第三項に規定する犯罪収益移転危険度調査書(以下単に「犯罪収益移転危険度調査書」という。)において犯罪による収益の移転防止に関する制度の整備の状況から注意を要するとされた国若しくは地域に居住し若しくは所在する顧客等との間で行うものその他の犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案して犯罪による収益の移転の危険性の程度が高いと認められるもの イに定める方法(既存顧客との間で行った取引にあっては、ロに定める方法)及び顧客等又は代表者等に対する質問その他の当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認するために必要な調査を行った上で、法第十一条第三号の規定により選任した者又はこれに相当する者に当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認させる方法

二 法第二条第二項第四十七号から第四十九号までに掲げる特定事業者 次のイからハまでに掲げる特定受任行為の代理等の区分に応じ、それぞれ当該イからハまでに定める方法

イ 特定受任行為の代理等(ロ及びハに掲げる特定受任行為の代理等を除く。) 前条第二号に規定する項目に従って当該特定受任行為の代理等に疑わしい点があるかどうかを確認する方法

ロ 既に確認記録又は法第七条第二項に規定する記録(以下ロにおいて「特定代理等記録」という。)を作成し、及び保存している顧客等(ハにおいて「既存顧客」という。)のために行った特定受任行為の代理等(ハに掲げる特定受任行為の代理等を除く。) 当該顧客等の確認記録、当該顧客等に係る特定代理等記録、第三十二条第一項第二号及び第三号に掲げる措置により得た情報その他の当該特定受任行為の代理等に関する情報を精査し、かつ、前条第二号に規定する項目に従って当該特定受任行為の代理等に疑わしい点があるかどうかを確認する方法

ハ 特定受任行為の代理等のうち、当該特定受任行為の代理等に係る取引が法第四条第二項前段に規定するもの若しくは第五条に規定するもの又はこれら以外のもので犯罪収益移転危険度調査書において犯罪による収益の移転防止に関する制度の整備の状況から注意を要するとされた国若しくは地域に居住し若しくは所在する顧客等との間で行うものその他の犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案して犯罪による収益の移転の危険性の程度が高いと認められるもの イに定める方法(既存顧客のために行った特定受任行為の代理等にあっては、ロに定める方法)及び顧客等又は代表者等に対する質問その他の当該特定受任行為の代理等に疑わしい点があるかどうかを確認するために必要な調査を行った上で、法第十一条第三号の規定により選任した者又はこれに相当する者に当該特定受任行為の代理等に疑わしい点があるかどうかを確認させる方法

2項略。

中小企業とともに歩む企業法務のピントとヒント第72話 各種法人基本のキ~③学校法人~

司法書士法人鈴木事務所、司法書士 鈴木龍介

 文部科学省 私立学校法の改正について(令和5年改正)

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiritsu/mext_00001.html

学校法人会計基準

https://laws.e-gov.go.jp/law/346M50000080018

実務の現場から 相続登記義務化から1年を経て

司法書士 田口真一郎

 依頼者に対する過料要件(令和5年9月12日民二第927号通達)の伝え方。

 戸籍証明書の広域交付(戸籍法120条の2)が郵送請求、代理人による請求を認めていないこと。

登記研究925号令和7年3月号

登記研究925号令和7年3月号、テイハン

https://www.teihan.co.jp/search/g17615.html

【論説・解説】■商業・法人登記制度をめぐる動向と展望(1)

福岡法務局長 土 手 敏 行

はじめに 福岡管区の登記の状況

 未成年者登記は全国で1件、後見人登記は全国で0件。

1 オンライン(QRコード)申請のすすめ

 法務局にとっては、オンライン申請・QRコード申請の場合、記入処理が早くなる。

 書面申請の場合の登記完了予定日の案内は、那覇地方法務局が先に実施した。

 役員全員解任の登記申請があった場合の法務局の対応として、早期に処理するわけにはいかない。

2 商業登記電子証明書は商業・法人登記の最成長株

 商業登記電子証明書の有効性確認件数は、2023(令和5)年で約2億2,500万件。発行件数は約35万7,000件。手数料については印鑑証明書と同程度の費用になるよう計画。

■民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続人申告登記関係)(2)

東京地方裁判所判事(前法務省民事局付) 森 下 宏 輝、法務省民事局民事第二課補佐官 河 瀬 貴 之、法務省民事局民事第二課補佐官 太 田 裕 介

 既に中間の相続に係る事項が所有権の登記に付記されているときは、その事項を相続人申出事項の内容とすることを要しない(不動産登記規則158条の19第1項3号括弧書き)。

 中間相続人の最後の住所として中間相続人の最後の本籍を相続人申出等情報の内容としたときは、本籍を中間相続人の最後の住所とみなして差し支えないものとされている。

 必ずしも現在戸籍でなくて良い。

 戸籍謄本等に記載されている被相続人と所有権の登記名義人との同一性を証する情報については、所有権登記の登記名義人の登記記録上の住所が当該戸籍謄本等に記載された本籍と異なる場合で被相続人の住民票の写し又は戸籍の附票を提出することができないときは、「所有権の登記名義人と戸籍謄本等に記載された被相続人とは同一である」旨の申出人の上申書をもって同一性を認めて差し支えない。

 申出人の住所が外国である場合の取扱い。

■「商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(通達)」の解説

法務省民事局商事課法規係長 大 村 健 祐

はじめに

 商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(令和6年7月26日付け法務省民商第116号法務省民事局長通達)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html

第1 本通達の趣旨

第2 登記事項証明書等の記載事項に関する特例に係る改正

第3 電気通信回線を使用して提供することに適しない情報に係る改正

 代表取締役等住所非表示措置の申出を併せてすることができる登記の申請における就任の登記には代表権付与の登記も含まれる。

 本店所在場所における実在性を証する書面の記載例、受任した登記申請についての打合せのために本店所在場所に往訪した際に、本店所在場所において当該株式会社が実在する旨を確認した、など。

 本人確認証明書として、通達に挙げられている住民票の写しや住民票事項証明書等以外であっても、商業登記規則61条7項に規定する本人確認証明書であれば、添付書類として認められると考えられる。

 閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められるときの例として、第三者から株式会社を所有権の登記名義人とする不動産の登記事項証明書等を添付した上で、株式会社の清算が未了である旨の情報提供があった場合など。

ポイント解説■基礎から考える商業登記実務(第7回)

横浜地方法務局法人登記部門首席登記官 山 森 航 太

ポイント:合同会社の業務執行社員の加入及び代表社員の就任による変更の登記について(その1)

1 はじめに

2 社員の加入の類型

3 新たな出資による業務執行社員の加入及び代表社員の就任の登記

 合同会社では、社員の氏名又は名称は登記事項ではないため、総社員の同意書のみでは、社員の全員が同意しているかどうか明らかとならない場合もあり得るが、商業登記実務上は、社員全員の氏名又は名称を証するために定款を添付することは要しないとして取り扱われている(民事月報61巻号外「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて」(解説編))。

 総社員の同意により新たに加入する社員に係る定款の変更をする場合の当該同意すべき社員には、いまだ合同会社に加入していない新たに社員に加入しようとする者は、原則として含まれない。

 合同会社の社員が法人である場合における、業務執行社員を定める同意の意思表示は、法人の代表者が行う。法人の職務執行者が行うことはできない。

 合同会社の社員が法人である場合における業務執行社員による代表社員の互選の意思表示は、当該法人の職務執行者が行う。代表社員の互選の主体を業務執行社員ではなく社員と解する立場からは、互選の意思表示は法人の代表者が行う(民事月報61巻号外「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて」(解説編P503)。

■商業登記倶楽部の実務相談室から見た商業・法人登記実務上の諸問題(第130回)

一般社団法人商業登記倶楽部 最高顧問・名誉主宰者、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート理事、日本司法書士会連合会顧問、神 﨑 満治郎

251 事業協同組合の解散手続について

中小企業等協同組合法

https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000181

(清算人)

第六十八条 組合が解散したときは、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除いては、理事が、その清算人となる。ただし、総会において他人を選任したときは、この限りでない。

2 第九条の九第一項第三号の事業を行う協同組合連合会が第百六条の二第四項又は第五項の規定による第二十七条の二第一項の認可の取消しにより解散したときは、前項の規定及び第六十九条において準用する会社法第四百七十八条第二項の規定にかかわらず、行政庁が清算人を選任する。

(解散後の共済金額の支払)

第六十八条の二 共済事業を行う組合は、総会の決議、第百六条の二第四項又は第五項の規定による第二十七条の二第一項の認可の取消し又は第百六条第二項の規定による解散命令により解散したときは、共済金額を支払うべき事由が解散の日から九十日以内に生じた共済契約については、共済金額を支払わなければならない。

2 前項の組合は、第六十二条第一項第四号に掲げる事由により解散したときは、その解散の日から共済契約の期間の末日までの期間に対する共済掛金を払い戻さなければならない。

3 第一項の組合は、同項に掲げる事由により解散したときは、同項の期間が経過した日から共済契約の期間の末日までの期間に対する共済掛金を払い戻さなければならない。

(会社法等の準用)

第六十九条 組合の解散及び清算については、会社法第四百七十五条(第一号及び第三号を除く。)、第四百七十六条、第四百七十八条第二項及び第四項、第四百七十九条第一項及び第二項(各号列記以外の部分に限る。)、第四百八十一条、第四百八十三条第四項及び第五項、第四百八十四条、第四百八十五条、第四百八十九条第四項及び第五項、第四百九十二条第一項から第三項まで、第四百九十九条から第五百三条まで、第五百七条(株式会社の清算)、第八百六十八条第一項、第八百六十九条、第八百七十条第一項(第一号及び第二号に係る部分に限る。)、第八百七十一条、第八百七十二条(第四号に係る部分に限る。)、第八百七十四条(第一号及び第四号に係る部分に限る。)、第八百七十五条並びに第八百七十六条(非訟)の規定を、組合の清算人については、第三十五条の三、第三十五条の四、第三十六条の二、第三十六条の三第一項及び第二項、第三十六条の五から第三十八条の四まで(第三十六条の七第四項を除く。)、第四十条(第一項、第十一項及び第十三項を除く。)、第四十七条第二項から第四項まで、第四十八条並びに第五十三条の二並びに同法第三百五十七条第一項、同法第三百六十条第三項の規定により読み替えて適用する同条第一項並びに同法第三百六十一条第一項(第三号から第五号までを除く。)及び第四項、第三百八十一条第二項、第三百八十二条、第三百八十三条第一項本文、第二項及び第三項、第三百八十四条、第三百八十五条、第三百八十六条第一項(第一号に係る部分に限る。)及び第二項(第一号及び第二号に係る部分に限る。)並びに第五百八条の規定を、組合の清算人の責任を追及する訴えについては、同法第七編第二章第二節(第八百四十七条第二項、第八百四十七条の二、第八百四十七条の三、第八百四十九条第二項、第三項第二号及び第三号並びに第六項から第十一項まで、第八百四十九条の二第二号及び第三号、第八百五十一条並びに第八百五十三条第一項第二号及び第三号を除き、監査権限限定組合にあつては、監査役に係る部分を除く。)(株式会社における責任追及等の訴え)の規定を、監査権限限定組合の清算人については、同法第三百五十三条、第三百六十条第一項及び第三百六十四条の規定を準用する。この場合において、第四十条第二項中「財産目録、貸借対照表、損益計算書、剰余金処分案又は損失処理案」とあるのは「財産目録、貸借対照表」と、「事業報告書」とあるのは「事務報告書」と、同条第三項、第五項から第十項まで並びに第十二項第一号及び第三号中「事業報告書」とあるのは「事務報告書」と、同法第三百八十二条中「取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)」とあるのは「清算人会」と、同法第三百八十四条、第四百九十二条第一項、第五百七条第一項並びに第八百四十七条第一項及び第四項中「法務省令」とあるのは「主務省令」と、同法第四百七十九条第二項各号列記以外の部分中「次に掲げる株主」とあるのは「総組合員の五分の一以上の同意を得た組合員」と、同法第四百九十九条第一項中「官報に公告し」とあるのは「公告し」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。

(種類)

第三条 中小企業等協同組合(以下「組合」という。)は、次に掲げるものとする。

一 事業協同組合

一の二 事業協同小組合

二 信用協同組合

三 協同組合連合会

四 企業組合

(組合等の設立の登記)

第八十四条 組合の設立の登記は、その主たる事務所の所在地において、第二十九条の規定による出資の払込みがあつた日から二週間以内にしなければならない。

2 前項の登記においては、次に掲げる事項(企業組合の設立の登記にあつては、第三号に掲げる事項を除く。)を登記しなければならない。

一 事業

二 名称

三 地区

四 事務所の所在場所

五 出資一口の金額及びその払込の方法並びに出資の総口数及び払込済出資総額

六 存続期間又は解散の事由を定めたときは、その時期又は事由

七 代表権を有する者の氏名、住所及び資格

八 公告方法

九 第三十三条第四項の定款の定めが電子公告を公告方法とする旨のものであるときは、次に掲げる事項

イ 電子公告により公告すべき内容である情報について不特定多数の者がその提供を受けるために必要な事項であつて法務省令で定めるもの

ロ 第三十三条第五項後段の規定による定款の定めがあるときは、その定め

3項、4項略

■逐条解説不動産登記規則(54)

元法務省民事局民事第二課地図企画官 小宮山 秀 史

第104条 分筆に伴う権利の消滅の登記

不動産登記規則

https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018/#Mp-Ch_3-Se_2-Ss_2

 (分筆に伴う権利の消滅の登記)

第百四条 法第四十条の規定による権利が消滅した旨の登記は、分筆の登記の申請情報と併せて次に掲げる情報が提供された場合にするものとする。

一 当該権利の登記名義人(当該権利が抵当権である場合において、抵当証券が発行されているときは、当該抵当証券の所持人又は裏書人を含む。)が当該権利を消滅させることを承諾したことを証する当該登記名義人が作成した情報又は当該登記名義人に対抗することができる裁判があったことを証する情報

二 前号の権利を目的とする第三者の権利に関する登記があるときは、当該第三者が承諾したことを証する当該第三者が作成した情報又は当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報

三 第一号の権利が抵当証券の発行されている抵当権であるときは、当該抵当証券

2 甲土地から乙土地を分筆する分筆の登記をする場合において、法第四十条の規定により乙土地について権利が消滅した旨の登記をするときは、分筆後の甲土地の登記記録の当該権利に関する登記についてする付記登記によって乙土地について当該権利が消滅した旨を記録しなければならない。この場合には、第百二条第一項の規定にかかわらず、当該消滅した権利に係る権利に関する登記を乙土地の登記記録に転写することを要しない。

3 甲土地から乙土地を分筆する分筆の登記をする場合において、法第四十条の規定により分筆後の甲土地について権利が消滅した旨の登記をするときは、分筆後の甲土地の登記記録の当該権利に関する登記についてする付記登記によって分筆後の甲土地について当該権利が消滅した旨を記録し、当該権利に関する登記を抹消する記号を記録しなければならない。

4 第二項の規定は、承役地についてする地役権の登記がある甲土地から乙土地を分筆する分筆の登記をする場合において、乙土地に地役権が存しないこととなるとき(法第四十条の場合を除く。)について準用する。

5 第三項の規定は、承役地についてする地役権の登記がある甲土地から乙土地を分筆する分筆の登記をする場合において、分筆後の甲土地に地役権が存しないこととなるとき(法第四十条の場合を除く。)について準用する。

6 登記官は、要役地についてする地役権の登記がある土地について分筆の登記をする場合において、当該分筆の登記の申請情報と併せて当該地役権を分筆後のいずれかの土地について消滅させることを証する地役権者が作成した情報が提供されたとき(当該土地を目的とする第三者の権利に関する登記がある場合にあっては、当該第三者が承諾したことを証する情報が併せて提供されたときに限る。)は、当該土地について当該地役権が消滅した旨を登記しなければならない。この場合においては、第一項第二号、第二項及び第三項の規定を準用する。

登記研究430号P173、1983年10月30日質疑応答【六三三一】要役地地役権の抹消方法について

■民事信託の登記の諸問題(42)

渋 谷 陽一郎

第296 会社との比較で考える信託

第297 信託の終了前後と受益者の登記

第298 実質的支配者という側面からの受益者の重要性

第299 残余財産の帰属に関する信託法182条

第300 残余財産受益者とは何か

第301 残余財産の帰属権利者とみなし受益者

第302 残余財産受益者は信託期間中からの登記事項なのか

第303 信託法90条1項2号と2項の適用問題

第304 受益者として権利を有しない状態とは何か

第305 権利を剝奪された委託者の場合との比較

第306 残余財産受益者の表示

 P108、信託設定当時、信託行為の定めを以て信託法182条1項1号の「残余財産受益者」を定めた場合、その者も、信託設定の当初より受益者として登記する必要があるのだろうか。・・・信託法182条1項1号の残余財産受益者と信託法2条6項の受益者を同様に扱う規定がないことから、登記する必要があるとはいえないと考えます。

【資 料】会社法施行下で使える登記先例――実務の便覧――(18)

登記研究715号P168、平成18年4月5日法務省民商第873号民事局商事課長通知「従業員又は代理人の宣誓供述書に領事等が認証したものが添付された外国会社の登記の申請の受理について」

登記研究737号P183、2009年7月30日【質疑応答】〔七八九五〕外国会社の日本における代表者に関する登記について

登記研究532号P121、平成3年12月24日法務省民四第6201号民事局第四課長通知「配当可能利益の資本組入れによる変更の登記の更正について」

 裁判所からの嘱託による抹消の登記による。

登記研究719号P156平成19年12月3日法務省民商第2584号民事局商事課長通知「募集株式の発行による変更登記によって資本金の額を誤って少なく登記した場合の抹消及び変更の登記について」

登記研究719号P158平成19年12月3日法務省民商第2586号民事局商事課長通知「募集株式の発行による変更登記によって資本金の額を誤って多く登記した場合の更正の登記について」

 債権者保護手続きの有無。

登記研究719号P159平成19年12月14日法務省民商第2722号民事局商事課長通知「管轄外からの本店移転の登記後旧本店所在地においても登記がされていた登記の更正又は抹消の申請があった場合等の取扱いについて」

 更正の登記申請における添付情報。

登記研究779号P115平成24年4月3日法務省民商第898号法務省民事局商事課長通知「登記の抹消の申請書に添付すべき書面について」

 無効の原因があることを証する書面の作成者と、登記申請書の作成者が異なる場合。

 登記研究498号P31昭和29年12月28日民事甲第2764号民事局長通達「本店移転の決議無効確認判決による登記の嘱託の取扱について」

登記研究498号P21、1989年7月30日発行、柳田 幸三:法務省民事局第四課長、渋佐 愼吾:法務省民事局付、竹田 盛之輔:法務省民事局第四課補佐官、門田 稔永:法務省民事局第四課補佐官、井内 省吾:法務省民事局第四課係長、藤部 富美男:法務省民事局第四課係長【第一部 論説・解説】 株式会社に関する先例をめぐって(24)

登記研究273号P67昭和45年7月17日民事甲第3017号民事局長回答「清算人職務代行者選任登記の受否について」

登記研究300号P62昭和47年7月26日民事甲第3036号民事局長回答「取締役および監査役の選任決議無効の判決確定による嘱託登記の受否について」

 表見取締役。

登記研究719号P159平成19年12月14日法務省民商第2722号民事局商事課長通知「管轄外からの本店移転の登記後旧本店所在地においても登記がされていた登記の更正又は抹消の申請があった場合等の取扱いについて」

登記研究838号P127、平成29年6月13日法務省民商第98号民事局商事課長通知「職務執行停止の仮処分命令又は職務代行者選任の仮処分命令の申立てが取り下げられたことによる職務執行停止又は職務代行者選任の登記の抹消が嘱託された場合の受否について」

登記研究677号P146平成16年3月31日法務省民商第952号民事局長通達「商業登記規則等の一部を改正する省令の施行等に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて」

 電子証明書の有効時点。

登記研究746号P143、2010年4月30日【質疑応答】〔七九〇九〕「合同会社の設立の登記のオンライン申請において添付書面情報とされる電子定款に係る電子証明書の有効性について」

【法 令】不動産登記規則及び法務局における遺言書の保管等に関する省令の一部を改正する省令(令和7年2月14日法務省令第2号)

・本人確認書類

【訓令・通達・回答】

▽商業・法人登記関係

〔6256〕新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律等の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて【解説付】(令和6年9月2日付け法務省民商第130号法務局民事行政部長、地方法務局長宛て法務省民事局長商事課長通知)

令和6年度司法書士総合研究所研究発表大会

令和6年度司法書士総合研究所研究発表大会

「ドイツにおける相続手続き―専門家の果たす役割-」

平成国際大学 小西 飛鳥

Ⅰ.はじめに

(1)相続制度の意味の変化

民法制定時:相続が遺族の生活を支えるためのもの

⇒現在:ドイツでも高齢化が進み、相続人は自分の収入を確保

「家族の絆の維持」のため

社会保障の充実により、遺産は必ずしも必要ない。

近年の傾向:慈善団体への寄付の増加

例えば、「国境なき医師団(Médecins Sans Frontières)」などへの寄付は税制上の優遇措置あり。

https://www.aerzte-ohne-grenzen.de/spenden/spendenservice/spenden-steuerlich-absetzen#:~:text=Ihre%20Spende%20von%20bis%20zu,den%20Freistellungstext%20(%C2%A7%2050%20Abs.

(2)相続における専門家の関与

不動産取引-公証人の関与⇒当事者の望む契約の締結及び履行の確保

相続では?

Ⅱ.ドイツの相続

1.ドイツの相続制度の概要

*法定相続(BGB1924条以下)

https://www.buzer.de/1924_BGB.htm

第1順位の血族相続人(子、孫、ひ孫)、配偶者:配偶者4分の1、血族相続人4分の3

第2順位の血族相続人、配偶者(父母、被相続人の兄弟姉妹):配偶者2分の1、血族相続人2分の1(1931条1項)

第3順位の血族相続人(祖父母)、配偶者:配偶者2分の1、祖父母2分の1(1926条3項)

祖父母よりも遠い血族、配偶者:配偶者のみ(1931条2項)

※法定夫婦剰余共同制の場合、配偶者の法定相続分を4分の1増加させる(1371条1項)。

※生存配偶者の相続分を拡大することについての議論あり。法改正が行われるかは不透明。

2.紛争予防のために活用されるべき制度

(1)遺言(BGB1937条、1941条)

特に公正証書遺言の作成:すべての相続人が理解しやすい内容にすることが重要

*相続における紛争予防の効果

ドイツ:約30%←財産保有者は遺言する傾向あり。弁護士や税理士に相談して遺言書を作成。

他方、多くの人は「自分には財産がないから遺言書は不要」「法定相続で十分」と考える傾向あり。

*共同遺言:配偶者の一方の死亡後に、生存配偶者が共同遺言で定めた相関的処分に拘束される(BGB2271条2項)

*自筆証書遺言の保管制度の存在

https://www.sommerrechtsanwalt.de/informationstexte/aufbewahrung-von-testamenten.html

(2)生前贈与

*相続税回避のため:配偶者は50 万ユーロ、子供は40 万ユーロ、孫は20 万ユーロまで非課税

メリット:10年ごとに非課税枠をリセットできる。

例えば、祖父が孫に生前贈与を行う場合、

10年ごとに200,000ユーロまで非課税で贈与可能

(3) 遺産分割の計画を事前に立てておく

*不動産や事業の相続について、どのように分配するのかを事前に決めておくことが重要

*家族内で相続について話し合うこと も、トラブル防止に役立つ。

3.相続開始後の相続手続き

(1)相続人の義務

①相続が発生すると、相続人は「相続税申告」を行う義務

②相続財産の分割が完了するまで、相続人は共同で財産を管理する義務

③相続人が負債を相続した場合、特定の期限内に「相続放棄」を申請可能

遺産分割が早期に行われないと、「相続財産の管理が困難になる」ケースが増加⇒「相続争いを未然に防ぐための対策」が重要視

① 生前贈与を活用する

② 遺言書を明確に作成する

③ 専門家(弁護士・公証人)と相談する

⇒これらの対策を講じることで、相続トラブルを回避することが可能

(2)遺産分割協議

*遺産:相続共同体で管理。その性質は合有(BGB2032条1項)

不動産が含まれる場合:原則として公証人(Notar)の関与が必要。

ただし、相続人間の調整により相続権の離脱(Abschichtung)が行われる場合、公証人の介入なしで手続きを進めることができる(判例法)。

https://deutsches-erbenzentrum.de/themen/erbengemeinschaft-aufloesen/abschichtung-erbengemeinschaft

例:345 人の相続人が大規模な相続共同体(Erbengemeinschaft)となっている場合

⇒1人が相続共同体から離脱したいが、代わりに不動産を取得したいと希望

⇒他の相続人がそれに同意すれば、その人は不動産を取得。

⇒その価値が相続財産の一部として考慮され、その人は相続共同体から離脱できる。

*「不動産に関わる取引には常に公証人が関与すべき」という原則を崩すものとして批判あり。Joachim弁護士、この手続きは自体は問題なく、合理的。

*遺産分割協議が調わない場合⇒訴訟:裁判官による和解の試みあり。

相続争いは感情的な要素が絡むため、裁判官が解決できないケースもある。

その場合、長期間にわたる紛争となることもある。

*紛争が生じる場面

①相続財産の規模が大きい場合。

②「再婚による家族構成の複雑化」

例えば、夫が再婚し、前妻との間に子供がいる場合

③子供たちが財産分配について異なる考えを持っている場合

例えば、「長男が親の家を相続したい」と思っていても、「次男や娘は現金を相続したい」と考えている場合

④「相続の対象が不動産である場合」争いがより激しくなる傾向。不動産は簡単に分割できないため。

⇒4人の相続人がいる場合、家は4人の名義で登記される又は4人のうちの1人が家を相続する場合、代償分割する必要あり。

相続人同士で合意が得られない場合、「Zwangsversteigerung(強制競売)」 が行われる

※強制競売:裁判所を通じて不動産を売却し、その売却代金を相続人に分配する手続き

ただし、強制競売では通常、市場価格よりも安い価格で不動産が売却される⇒相続人にとっては不利になることが多い のが実情。

このため、可能であれば相続人同士で自主的に合意し、不動産を分割する方が良いとされている。

(3)相続証明書(BGB2353条以下)

*相続人の相続権、相続分についての証明書

*相続証明書の有効性

相続証明書を取得した後、新しい遺言書が発見された場合→既存の証明書は無効になる可能性

不正な手続きで相続証明書を取得した場合→後に裁判で無効とされることがある。

そのため、相続証明書を取得する際は、「すべての相続関係を慎重に確認すること」が重要。

※公正証書遺言があると、Erbscheinが不要な場合

例:遺言書が明確に「長男が唯一の相続人である」と記載されている場合など、相続手続きを簡略化するのに役立つ。

4.相続に関与する専門家

(1)弁護士

*相続に関する相談業務

*相続をめぐり紛争が発生した場合、相続人を代理して交渉・訴訟を行う

*遺産分割協議を通じて、相続人間の合意を形成

(2)公証人

*相続に関する相談業務、紛争に発展した場合は受任できない。

*遺産に不動産が含まれる場合、必ず公正証書にしなければならない

*遺言書の作成

*相続証書の発行

*不動産の相続登記

※専任公証人

弁護士兼公証人 弁護士としての経験を積んだのち、公証人試験に合格する必要あり

※公証人は、共同相続人の申立てに基づき、遺産分割の仲介をする制度(Gesetz über dasVerfahren in Familiensachen und in den Angelegenheiten der Freiwilligen Gerichtsbarkeit

(家庭事件及び非訟事件の手続に関する法律、FamFG)§363ff.)の利用

Mainz の元公証人(Litzenburger氏)によればほとんど使われていないとのこと。

Hannoverの弁護士(Joachim氏)もあまり利用されていないとのこと。

その理由:公証人には、当事者を強制的に手続きに従わせる権限がないため。

Joachim氏によると、これまでに23回経験があるが、成功したケースでは、公証人が優れた能力を持ち、かつ相続人それぞれが法律の専門家の助言を受けていた場合。

しかし、多くの人は公証人が手続きを主導してくれると期待して、最初は協力的に参加するのですが、話し合いが進むにつれて、やりたくないと言い出すことが多く、手続きが破綻することが多い。

→結果として、多くのケースでは、結局裁判所に持ち込まれることになる。このような問題を抱えた合有関係は、最終的に全く解決されず、そのまま次世代に引き継がれてしまうことがよくあるとのこと。

(3)税理士

*非課税枠

配偶者は50万ユーロ、子供は40万ユーロ、孫は20万ユーロまで非課税

⇒相続税が生じることはよほど遺産が高額でない限りない。あまり関与する必要がない。

相続税の課税についての議論(政治)

「相続財産はすでに課税された所得から成り立っているのだから、相続税を課すのは不公平」との主張

「富の格差を是正するために、大規模な相続には高い税率を適用すべきだ」との主張

*家族経営の企業(Familienunternehmen)の相続に対して、税制上の優遇措置が取られている。

その理由:「相続税が高すぎると、企業を維持できなくなるため」

特定の条件を満たせば、企業の相続税を大幅に軽減可能。ただし、一定期間(通常5〜7年)は事業を継続する必要あり。⇒この仕組みにより、家族経営の企業が次世代に引き継がれることを促進。

5.その他(保険制度)

(1)権利保護保険(Rechtsschutzversicherung)

私生活分野に加えて職業上の分野、交通事故関連の分野をカバーするオプションあり。

私生活分野:労働法関連、税務関連、犯罪被害者のための保障、相続関連

*相続関連の基本保障(2015年頃から提供)

・弁護士費用を1000ユーロまで、追加の補償をつけることで2500ユーロまでカバー

・加入割合:具体的な数字は不明。かなりの人が加入し、利用度も高いとのこと。一般的にはトラブルが生じやすい分野の一つとの説明(保険会社)

・法的な争いをカバーするためのもの:遺言書の作成等も含まれる。

・一部の保険では24時間対応の法律相談ホットラインが利用可能。このホットラインでは、まず弁護士に相談し、実際に訴訟が必要かどうかの判断を仰ぐことが可能。

・年間保険料・自己負担なし: 319.47 ユーロ、150ユーロの自己負担あり: 221ユーロ- 250ユーロの自己負担あり

*相続保険(Erbschaftsversicherung)

・相続に伴う費用(相続税や弁護士費用など)をカバーするために、生前に加入できる保険

・一般的ではないが、いくつかの保険会社が提供

基本的には、生命保険と似た仕組み⇒保険加入者(被相続人)が一定期間保険料を支払い、相続が発生した際に、受取人(相続人)が保険金を受け取るという形・保険を利用することで、相続人が相続税の支払いに困ることを防ぐことができる。

・しかし、相続保険の支払額も相続税の対象となる⇒保険金を受け取ることで、かえって相続税の負担が増える可能性あり

・税務対策をしっかり考えた上で加入することが重要

Ⅲ.おわりに

(1)相続開始前から専門家が関与することの必要性

*遺産分割について事前に計画を立てる必要

*相続開始時にどのような問題が生じる可能性があるのか、ないのかの判断

⇒遺言をしたほうが良いかの判断

*相続が開始後、速やかに必要な専門家へ繋がることが可能

(2)相続開始後

*あらかじめ計画を立てていなかった場合、この時点から専門家が関与。

*遺言等で専門家との繋がりがある場合は、予定していた専門家へ連絡。

(3)専門家の関与の実現

*制度の周知

*専門家の数の充実:どの町にも存在する、身近な存在となること。

*保険等の活用も検討

AI技術・弁護士法・司法書士法から照射される士業の制度的正当(統)性の根拠と課題――自己決定権とパターナリズムの相克・情報の非対称性の観点からの省察―

日本司法書士会連合会司法書士総合研究所司法・司法書士制度研究部会主任研究員・司法書士 木 曽 雄 高

1 目 的

本研究の目的は、生成AI などを活用したリーガルテックが登場した現代において、弁護士や司法書士を中心に士業に係る業法的規制のあり方を検討すること。

はじめに、弁護士法を題材にとって、非弁行為該当性に関する従前の判例・裁判例の状況を概観する。そのうえで、弁護士法の法目的、保護法益について確認し、さらに司法書士法の法目的も確認したうえで、両法の父権主義(あるいは「パターナリズム」以下、便宜両用語を併用する)的な業法的規制としての位置づけを確認する。

士業の業法的規制の根幹にパターナリスティックな規制の意志があることを見出したうえで、次にこうした父権性がいかにして正当化されうるのかについて、経済学における情報の非対称性の解消に関する議論、倫理学における自己決定に関する議論を参照しつつ検討する。

次に、AI の現状に関する議論を瞥見する。対話型AI などが発展してきたが、使用するうえでの限界も存在する。たとえば対話型AI は、文章の要約などの、事象の真偽を問題としない場合には有用である一方、事象の真偽を弁別できるわけではない。最も尤もらしい、すなわち「最尤」の回答を抽出することには⾧けている一方で、正誤判断、オープンワールドにおける考慮要素の発見能力などに課題があるものとみられる。

AIの現状を踏まえ、業法的規制の父権主義的性質の正当化根拠から照射して、AIは士業業務にいかなるかかわり方が求められるのかを吟味する。

最後に、AIと士業のあるべきかかわり方を検討する中で明らかになった、士業の業法的規制の正当性の根幹にかかわる自己決定権とパターナリズムの衝突・調整の問題について、少なくとも司法書士業界が議論の欠缺を抱えていることを指摘して結びとする。

なお、本稿では具体的なリーガルAIの技術や運用の現状に検討を加えることはしない。

これらは日進月歩の技術であり、近視眼的具体論に言及するほどに議論の陳腐化を早めるからである。以後の議論においては大まかに、法律相談に対する応答、法的文書のリーガルチェック、契約書や訴状その他許認可申請関係書類やそれらの添付資料の起案などを行う対話型AI 等を想定しておかれたい。

・・・父権主義的性質、司法書士業界が議論の欠缺を抱えている、という箇所が分かりませんでした。

2 士業制度とAI

(1)士業の業法的規制

(A)従来の議論(帰納的アプローチ)

まず、弁護士法における非弁護士に対する取締りについて規定した、同法72 条の解釈をめぐる裁判所の判断を網羅的・帰納的に分析した結果見えてくる、裁判所の判断枠組みについて言及する。

弁護士法72 条の解釈に関しては、従来、事件性必要説(注1)と事件性不要説(注2)の対立があるとされてきた。

しかし、たとえば事件性不要説を徹底するならば、契約締結などの法律行為の代理がすべて弁護士の独占業務と解されうることになりかねない。あらゆる法律行為の代理につき弁護士の選任が強制されるとの解釈に帰結しかねず、規制の範囲が広きに失する。社会の実状とも整合しない。

翻って、事件性必要説を徹底した場合、紛争性のない裁判手続などについては弁護士以外の手続代理を一般に容認する帰結となる。これは弁護士法および司法書士法の規制の趣旨を形骸化させ、また潜脱させることとなる。

以上のように、両説とも徹底するには重大な不都合がある(注3)。

最高裁判例並びに下級審裁判例は、上記の各説のような二項対立では整理し得ないものであり、以下のような整理がされうる。

第1に、裁判所や検察庁における手続代理のような事象に関しては、事件性の有無を問題とせず、弁護士法72 条への抵触が認められうる。

第2に、私人間の法律行為の代理については、立退交渉や債権の取立て、交通事故の示談のような権利義務関係の対立が存続した場合、権利義務関係の対立を経て一定の合意をみた場合などについては、弁護士法72条への抵触が認められる。他方、権利義務関係の対立を経ない法律行為の代理、あるいは使者としての行為については、同法に抵触しないものと解する傾向が一貫してみられる。

以上のように、弁護士法72 条に抵触するか否かの基準は、受任した事務の内容によっても異なることを、判例・裁判例からみてとることができる。

従前の判例や裁判例から、弁護士法による規制についての裁判所の解釈は、社会の実状に即しかつ社会秩序の維持に必要かつ相当な範囲で行われてきたことがわかる。

ここまでは、弁護士法の規制の対象についての帰納的アプローチからみえてくる、規制の趣旨と射程についての議論であった。裁判所の判断を網羅的に、俯瞰的にみると、弁護士法による非弁護士の取締りという規制は、社会の実状に即した形で行われてきたということがわかる。社会の実状に即した妥当な規制、換言すれば主権者である国民が是としうる内容の規制が求められることは、言を俟たない。

以下ではこの前提に立って、別の視角から士業の業法的規制について検討を進める。具体的には、弁護士法と司法書士法を例にとり、その法目的から演繹的にその業法的規制の趣旨を概観していく。

(B)弁護士法や司法書士法を例にとった士業の業法的規制の趣旨(演繹的アプローチ)

弁護士法72 条の保護法益について検討。最判昭46・7・14 刑集25巻5号690頁。依頼者や相手方が不利益を被るような「不公正」で「非円滑」な手続の温床となる、法的専門能力の低い者による拙劣な事案処理および弁護士であっても懲戒を受けるような事案処理を抑止すること、であるといえる(注4)。

ここで司法書士法の法目的、司法書士の使命として規定された内容にも簡単に触れておく。

司法書士法1条では、「司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする」と規定する。

「国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与する」という文言において、リーガルサービスの品質を司法書士制度によって担保することが含意されていることは、弁護士法と同様であろう。

以上から、弁護士法や司法書士法は法律サービスの品質を保障するために、国家が父権的に市場に介入することを趣旨とした法律であるといえる。

市場への父権的な介入による規制は、いかなる観点から正当化されうるのだろうか。

以下では、経済学における情報の非対称に関する議論、倫理学における自己決定権に関する議論からの基礎づけを試みる。

(2)情報の非対称の解消という観点

以下では、情報の非対称性の是正が市場における資源配分や富の分配の前提として必要であるとする経済学における議論を参照し、この議論が士業制度の存在の正当化根拠となりうることを導出する。

(A)アカロフの「レモン市場」のインパクト

伝統的な経済学においては、完全競争と完全情報を前提とする一般均衡モデルが構築されてきた。

しかし、現実経済においてはこうした前提が必ずしも充足されるわけではない。特に「完全情報」という前提に関しては、情報の入手可能性の程度や入手費用が重要な役割を果たすとされる。この点に注目して発展した分野が「不完全情報の経済学」(Economics of Imperfect Information)であった(注5)。

特に、ジョージ・アカロフの「レモンの市場―品質不確実性と市場メカニズム―」は、情報の非対称という問題を取り扱った研究の嚆矢として極めて有名である(注6)。

たとえば、売り手が売り物の品質について情報を有し、買い手はその情報を有しない状態を、情報の非対称という。非対称に情報が偏在する市場の例として、たとえば中古車市場を考える。こうした市場において、買い手は個別の中古車の品質についての情報を有し.ないがゆえに、全体の統計的な情報に依拠して判断せざるを得ない。個別の中古車について情報を有する売り手は、品質の劣るものを市場に供給する誘因を有し、その結果として市場そのものが縮小するおそれがあると、アカロフは指摘する(注7)。上記の主張に際してグレシャムの「悪貨は良貨を駆逐する」という格言を援用し、それを洗練し精緻化させていく試みを行っている。アカロフは、情報の非対称の解消のために国家の介入の必要性を説き、いくつかの施策を提言する。この効果を有する施策の例として、医師や弁護士の資格制度の存在を挙げている(注8)。

以上は、市場での適切な意思決定を行うためには、情報の対称性の確保のために国家等による父権的な介入が必要となるということを示唆する。

情報の非対称性の解消が資源の効率的な配分と市場の維持に資するものであり、そのために国家の市場への介入が求められることは、アカロフ、さらに彼と主張を共にしたスティグリッツらの研究により示されている。

情報の非対称性の解消に資する制度は、われわれの周囲にも存在する。金融商品販売法、特定商取引に関する法律(以下、「特定商取引法」という)、消費者契約法や、宅地建物取引業法などの業法にいても政策として顕現しているといえよう。士業における業法的規制もまた、こうした視座からその規制の正当性の根拠を見出すことができるのではないか。

以下、具体的に検討する。

(B)リーガルサービスの現場に照射しての検討

リーガルサービスの質の保障について検討する。まずは適切な手続遂行の保障ができるか、すなわちサービスの提供者自身が適切な品質を保持しているかが議論の対象となろう。

アカロフがその論文において例示した資格制度は、サービス提供主体の質を担保し、もってそうした品質を有するという情報を買い手=依頼者に提供する機能を有した。

売り手=サービス提供者自身の品質情報のみならず、売り手が提供する商品である法的手続等についても、同様に考えることができよう。手続選択(依頼者の自己決定)のための情報の提供の保障のために、専門家による説明責任が観念される。複数の選択可能な手続の中からどれを選ぶかという、自己決定権の適切な行使の礎となる情報の非対称の解消という意味合いである。

たとえば、依頼者から以下のような相談があった場合、法律の専門家はどう答えるだろうか。

「私はAという土地を買おうと思っているが、A土地の隣地を通行して隣の隣の土地にある資材置き場にアクセスしたい。A土地の隣地の使用権原としてどのようなものがあり、本件の場合どの使用権原を設定するのが理想的か」。

考えうるものとして、一般的に地役権、賃借権、地上権、共有持分、分筆して所有権移転などさまざまな選択肢があげられよう。これらの選択肢の⾧所・短所を、当事者の意向や周辺事情も聞く。

こうした場面で、われわれ専門家には、前述の宅地建物取引業法や特定商取引法などのような、特定の説明義務が明示的に存在するわけではない。しかし、専門家責任の一環としての説明義務や、専門家のベストプラクティスとしての説明が(法的義務とまではいかないにしても)要請されることが考えられる。弁護士法や司法書士法などによる能力担保が、こうした専門家による依頼者への情報の提供、それによる選択可能な手続に関する完全情報状態への近似化を促進し、下支えしうる。

管見の限りではあるが、情報の非対称性の是正という切り口から士業などの専門家の説明責任(法的なもののみを指すのではなく、ベストプラクティスを志向する道義的責任レベルのものまで広く含めて)について精緻に分析されたものは、見出すことができなかった。今後、経済学の観点からもこうした分析がされることが期待される。

(C)小 括

以上、情報の非対称性の解消が、一般均衡モデルの前提となる「完全情報」状態に近づけるためには必要となる。そのためには国家による一定の介入が求められる。

情報の非対称性の解消のための施策として、わが国では消費者契約法その他の説明義務を一方当事者に課する法制は寄与するものといえる。より広い射程で見渡すと、弁護士法や司法書士法などの専門家の品質を担保するための業法的規制も、こうした文脈からその父権的介入を正当化しうることが示唆される。

(3)倫理学における自己決定権という観点

以下では、医療の分野における患者の自己決定権に関する議論を参照しつつ、士業においても依頼者の自己決定権の保障が、士業制度の正当化根拠となりうることを示す。

(A)自己決定権に関する議論

主に医療の分野などにおいて広く議論されてきた、倫理学における自己決定権の観点から、業法的規制の正当化根拠を見出す作業を行う。

医療の場面においては、医師が医学について圧倒的に多くの情報と知見を有し、患者はそうではない。ここにも一種の情報の非対称状態が存在している。古くから、医学的知見を有する医師は、どういった治療がなされるべきかについて父権的に決定して患者を従わせる傾向が強くあったという。それが患者の人間の尊厳を侵犯するものであるとして、患者の権利運動が、特に1970年代以降大きな広がりをみせてきた(注9)。こうした潮流の中で、患者に対する説明と患者の同意に基づく医療行為、すなわちインフォームド・コンセントの保障が、基礎づけられていった。

医療の場面においては、インフォームド・コンセントは単に専門家がメニューを並べて患者に決めさせることのみを指さない。そこでは、①どこまで詳細に情報提供をするのか、

②その内容は医師の裁量で決められるのか、③不確定要素のある情報はいかに提供すべきか、などという問題が生じる(注10)。

特に①などはがん告知や余命宣告などの問題を含むものである。人間の尊厳、生命倫理と直結する場面であるからこそ、こうした論点が顕現しやすい。医療の現場において、インフォームド・コンセントや患者の自己決定権に関する議論が豊富になされてきた由縁が、ここにある。

(B)士業の執務の場への適用

司法書士や弁護士をはじめとする士業においても、専門家の側に知見や情報が偏在している点は同様である。また、士業と依頼者の関係が委任契約を原則とするところからは、その契約の原理上、受任者は委任者の意思に従って行動すべきであり、すなわち受任者の行為の正当性は委任者の自己決定に依拠するものといえる。

依頼者の自己決定権の適切な行使のためにも、その判断材料となる事情を、個別の事案の周辺事情まで含めて勘案し、依頼者に説明して判断を仰ぐことは、専門家として求められる(これも必ずしも法的義務のみを指しているのではなく、取引関係等を円滑に進行させるためのベストプラクティスという意味合いも含む)。士業専門家制度による能力担保は、適切な自己決定権の行使のための機会の保障として必要であるといえる。

もっとも、士業の存在の正当性の根拠の一つとして自己決定権の保証が極めて重要ではあるものの、その単一原理のみに基づいて正当性の基礎づけが貫徹できるかどうかは、検討の余地がある。依頼者の自己決定権の保障ではなく、一定のパターナリズムのほうがなじむ場合も存在する可能性はある。

自己決定権の保障と並んで、パターナリズムを士業の業務行為の正当性の根拠とする局面の存在可能性やその範囲についての議論は、後述のとおりAI の技術進歩が予想される将来において、士業の存在につき市民社会の承認を得続けるうえで重要な課題となりうる。

この点については、結論で詳述する。

(C)小 括

法的な手続選択等には、その手続や制度自体についての専門的な知識を要する(注11)。

さらに、周辺諸制度との連関、リスク・ベネフィットの見積もり、依頼者を拘束する義務の内容の把握、個別の事案が抱える周辺的考慮事情の有無など、本人の適切な自己決定のための判断材料が広大な外延をもつことが想定される。

本来自己決定権とは、医療専門家と患者の間での知識の偏在に起因する不均衡の是正のための議論として展開されてきたものである。しかしその裏側からみると、本人が自己決定権の適切な行使のために専門家の支援を要すると自己決定した場合(自己決定のために専門家に依頼するという自己決定をする、という、根幹の部分の自己決定である)には、その自己決定支援者となるべき専門家については、十分な能力担保が求められるともいえる。

適切な自己決定権の確保、適切な法的サービスの遂行という観点から国家が必要最小限の父権的介入をする手段として、専門家制度と業法的規制を定位することができる。

言い換えるならば、専門家制度という品質保証があることによって、さまざまな情報を専門家から得て自己決定をしたい依頼者にとっては、一定以上の品質をもつ自己決定支援者を得る機会の均等がもたらされることになる(注12)。弁護士や司法書士の業法的規制を例にとるならば、たとえば資格試験制度による能力担保、弁護士会や司法書士会による執務レベルの向上、懲戒権の確保、非弁護士、非司法書士への刑事罰の適用による排除などがこれにあたる。

もっとも、医療現場でも問題になるように、患者(依頼者)の自己決定権と、専門家のパターナリズムが衝突する場面も想定される。自己決定権によらず、パターナリズムが専門家の業務行為の正当性の根拠となるような場面の存在可能性やその範囲についての議論は、士業等の専門家制度の存在の正当性、説得性を社会に承認させるうえで必要である。

AIとの関連では、こうした議論がいかに説得的に展開できるかが焦点となるが、この点は後述する。

(4)AIのありようと権利義務――現状のAI の性質

以上の士業専門家制度の基礎づけを念頭において、リーガルAI などが出現した現在、士業専門家との関係でAI がどこまでの役割を担うべきかについて検討していく。

先述のとおり、本稿では日進月歩の技術であるAI の具体的な技術や運用の現状に検討を加えることはしない。

本研究に際して、理化学研究所の中川裕志先生(注13)にインタビューを行い、AIの現在の能力やポテンシャルについてうかがう機会を得た。以下、このインタビューから得られた知見の中から、検討のために必要な部分をピックアップしていく。もっとも、以下のAIの能力・特性は現時点でのものであることは留意すべきである。AIの日進月歩の開発の中で、これらの前提が覆される可能性はある。

(A)AIの学習の方向性は教師となる側の人間に依拠する

AIに法的な判断(あるいはその補助)をさせるうえで、法が前提とする正義原理や自由主義、人権や立憲主義といった近代法治国家が前提として有する価値をその基礎とさせる=学習させる必要がある。

こうした学習はしかし、AI が単独で行うものではない。それを教える教師役の教授の方向性によって、大きく結果を異にする。実際に過去の実験において、学習の方針によってはナチズムを礼賛する趣旨のアウトプットを繰り返す学習をしたAIも存在するという。

(B)オープンワールドにおける問題発見能力

AIとは若干離れた例であるが、スポーツにおけるVAR(Video Assistant Referee)では、限定されたルールと判断材料(スポーツの場合は映像資料など)の中でルール抵触性が判断される。法的紛争の中でも、物理的な状況から判断する交通事故などは、状況判断だけであればVARに近い性質の判定が可能かもしれない。しかし現実世界の多くは、決められたルールと考慮要素のクローズドワールドであるスポーツと違う。

たとえば、遺産分割をめぐる紛争の場合、生前の不均衡がどれほどあったかなどの⾧い前日譚=コンテクストが存在するだろう。また、単に交通事故といっても、道路形状や事故形態のみならず、事故時点での天候や運転者の健康状態(例:薬剤の服用による副作用の可能性)など、事故という事象を起点にさまざまな考慮要素に論点が広がる可能性がある。

このように、現実の法律が適用される場面はスポーツの場と異なり、考慮要素が無限の因果関係=オープンワールドの中に位置づけられる事象である。

統計的・確率的に最尤法的な回答を出力するAI は、入力された情報を基に出力する能力に⾧けるものの、依頼者とのディスカッションの中で新たな問題、考慮要素を発見することを苦手としているという。

(C)AI が自由主義を侵食する可能性

先述の自己決定権に関する議論でもみられたように、自由という概念には、自らが自らのことに関して決定権を有し、その結果を引き受けるというものが含まれる(注14)。

自由とは、意思決定過程の煩雑さや苦しさを経て実現された結果を享受する(ネガティブな結果の場合は引き受ける)という動態を指す。この意思決定の煩雑さをAIに委託して外部化することで、委託した人は煩雑さから解放される。反面、委託先であるAIが算出した回答を自らの決定として行使するため、人間はその結果を引き受けねばならない。すなわち、AI による意思決定の短絡は、AI の出す結論への人間の従属を意味する。これを民主主義における意思決定のレベルまで引き上げると、AI は民主的意思決定過程を侵食する存在となりうる。

経済的意思決定のAI による短絡化でさえ、その結果に人間が拘束される限りにおいて、意思決定の短絡化による安楽と引き換えに、人間がAI に経済的自由を売り渡すということと捉えることができる。

(5)AI による法的助言その他の法律事務の可否の検討

(A)AI の権利義務主体性という観点

以上の対話から得られた知見・示唆を踏まえて、士業の業務をAI が行うという事象について検討する。まず、AI が弁護士や司法書士などの士業専門家と並んで、独自の専門家として存立しうるかという点を検討する。

前提として、AIがまず法的権利義務の帰属主体たりうるかが検討されねばならない。AIが固有の権利義務帰属主体であり得なければ、専門家責任の帰属主体たる独立した専門家として振る舞うことは原理的に不可能だからである。

(a)自由の制限という観点からの社会的受容可能性

AI が法的な権利義務の帰属主体となりうるかは、究極的には社会・主権者がそれを許容するかにかかっている。筆者は、社会は容易にはこうした事態を許容しないであろうと考える。AIが権利義務主体となるということは、以下の状態を意味する。

① AI が自己決定を行う(法的決定を行い、意思表示をする)

② AI が当該意思表示の法的結果を引き受ける(責任を負う)

特に後者(②)、すなわち責任を負うことの可否が問題となる。AI に債務不履行・不法行為・不当利得等の責任追及をする際、AI からどこまで抗弁されることを許容できるのか。

逆に、AIから自然人が責任追及されたときに、自然人はどこまでAI に抗弁し得て、どこまで請求を拒絶できるのか。

われわれの社会の総意としてAI の権利義務帰属主体性を許容しうるか否かは、端的にAIが人間との紛争の相手方となることを許容できるか、と換言することができよう。こうした状況をにわかには受け入れがたいという人が多いのではないだろうか。人間の権利を制限し義務を課する権能を人間以外に認めることは、人間の自由の抑圧に等しいからである。

AI に人間のエージェントとして選択を委ねる行為は、自由の喪失と引き換えにその重荷から解放されるという目先の利益がある。しかし、AI を人間と対等な権利義務帰属主体として社会に迎えることに、人間自身の負担軽減などのメリットがあるのか、容易には想像しがたい。

以上から、AI が自律的な権利義務帰属主体となることを、社会は容易には許容せず、許容するとしても時間を要するであろうと考えられる。

(b)技術的な観点からの指摘

以上は、今後のAI の発展も見据えた⾧い時間軸で、AI に権利義務帰属主体性を付与することの意義と社会からみた受容可能性についての検討であった。次に、AI をめぐる法技術や実際の運用の観点から、その適否・要否について検討する。以下では、現時点での法解釈・法技術についての議論を概観し、AI が権利義務帰属主体となることの要否について検討する。

この検討に際して示唆を得られるのは、AI が法人として存在しうるかという議論である。

AI を自律的な権利義務帰属主体とするための法技術としての法人化という議論は存在する。

しかし、法解釈上の議論や実際の運用上の実益の観点からは、そうした主張に距離をおく言説のほうがより説得的である。以下、確認していく。

アメリカの改訂統一LLC 法(RULLCA)の解釈論として、法技術的にはAI のみによって構成・運営される法人を作出することが可能であるとする主張が存在する(注15)。しかしこれは、法制度の抜け穴を押し広げることでこうした議論を展開することが可能だと主張するものである。実際に、この論者の論文では、法条起草時の見落としを突いていることが示唆されている(注16)。

上記被引用者の議論は、立法者・主権者である市民が積極的にAI のみによる自律的な法人を法制度として要請し起草された法案についての議論ではない。法の抜け穴を突けばそうした法人も設立可能ではないかという試論である。自律的なAI 法人の必要性という立法事実や、立法者意思という民主的正統性をもたない議論であるといえる。以上、AIを自律的な法人として成立させようとする議論の先鋒となる論客の議論を瞥見した。しかしそれは、民主的正統性という基礎づけをもたないものであった。法技術の必要性の吟味を欠き、社会による要請や受容可能性を前提としておらず、説得力が弱い。

AI 法人といっても、内実は多義的である。たとえば、上述の想定のように人工知能そのものに自己決定権を認め、その法的効果を帰属させる主体として容認するというものもあれば、単に人工知能を保有資産とするビークル(投資媒体)としてのみ扱うという意味合いのものもありうる。研究、開発、運用されている人工知能がすべて自然人の人格の模倣を志向するわけではないという技術的な状況からは、むしろ後者の法人の在り方を議論することが現実的であろうという指摘もある(注17)。

また、AI が何らかの取引行為を自動的に行う場合でも、それは究極的には自然人のエージェントとして当該自然人のために行われることが想定される。そうであればAI は単に自然人の意思決定の短絡のためのツールにすぎない。そうした役割に限定されるならば、独自の権利義務の帰属主体たる必要はないのではないか、との指摘もされる(注18)。権利義務帰属主体は、あくまで自然人で十分であるという指摘である。

(c)小 括

AI に独自の権利義務帰属主体としての地位を認めるには、社会がそれを承認することが必要となる。しかし承認への社会的な障壁は大きい。AI と法律に関する技術的な議論を参照しても、AI の権利義務帰属主体性について、社会的要請を迂回した議論もみられ、説得的とはいえない。AI を法的権利義務帰属主体とする必要性は、現段階では低いものとみられる。

もっとも、⾧足の進歩を遂げ続けるAI 技術において、「現段階」という議論の前提が変わることは想像される。

しかし、技術的な障害が克服されてもなお、AI が人間のエージェントではなく一個の自律的な経済活動の主体となり、かつそれらが人間を相手に法的紛争をすることについては、社会が容認することへのハードルが高い。人間以外の主体に対等な立場で人間の自由を制限する権能を与えることにつながるからである。仮に社会がこれを容認したとしても、それまでには相当の時間を要するのではないかと思われる。

(B)他のソリューションの可能性

以上のとおり、現在の状況下では、結局AI は独自の権利義務帰属主体、より端的には責任の主体とはなり得ないと想定される。

つまり、リーガルAI は弁護士等の士業と同格の独自の責任主体として助言を行い得ない。

すると、AI が行った助言の責任は、以下の方法で処理するしかない。

① 利用者の自己責任に帰する

② AI のサービス提供者の責任に帰する

ここに至るまでに、弁護士法や司法書士法という業法的規制の趣旨と、その正当化根拠について検討してきた。振り返ると以下のようになる。

士業に対する業法的規制は、サービスの品質の保障のためのものであり、ひいては適切な法的サービスが提供されるべきという社会法益の観点から必要とされる。

さらに、士業の品質維持をすることは、依頼者の適切な判断を促進し、一面において情報の非対称性の解消、それによる経済的妥当性の追求に資することが示唆される。

他方、倫理学的観点からも、むしろ品質保証がされた専門家による自己決定支援制度を確保するという父権主義的な制度が、逆説的ながらも依頼者の自己決定権の保護に資するといえる。いわば自己決定権の確保のための必要最小限の父権的介入の要請がある、ということになる。

以上に引き寄せると、前者(①)(リーガルAI の判断の結果を利用者の自己責任に帰着させる)については、前述の業法的規制の趣旨を無に帰する行為であり、採用し得ない。

国家のパターナリスティックな介入によるサービス品質の維持こそが業法の趣旨だからである。

後者(②)について検討する。AI の提供者が責任を負うとすると、それが弁護士等の士業であるか否かが問題となる。もし士業以外がリーガルAI を提供することを容認すると、結局業法的規制をした趣旨がないがしろとなる。リーガルAI の提供者自体が、業法により法的サービスの品質維持を義務付けられ、かつその能力が担保された主体であることが求められる。

弁護士等の士業の関与のあり方も検討されるべきである。たとえば弁護士法人等が法的助言等を行うAI の提供主体であるというだけで、個別の相談、応答内容について弁護士がチェックしない体制であれば、実質的に業法的規制の趣旨は達成されえないものと考えられる。個別の相談等の事案について、AI のアウトプットを依頼者に提示する前に士業がチェックを行い、監修してから開示するという作業までが求められると解すべきであろう。

(C)AI の特質に関する議論からの補強

先述のインタビューにおける知見から、上述の議論の方向性を補強することができる。まず、AI はその強化学習に際して、教師データの出来・不出来に成⾧が依存する点が問題となる。AI が間違ったアウトプットをした際に、それを誤りと指摘して正しい解を与え、学習を行わせるには、正誤判断できる人間が教師役となることが必要となろう。弁護士や司法書士などの士業業務を行うAI であれば、当該士業らの専門家が教師役となることが求められる。

オープンワールドにおける無限の因果関係の中から考慮要素を発見する能力は、人間の独壇場といえる。AI が出力した回答を見て、専門家が必要な考慮要素を欠いていると判断した場合には、それを付加して再検討する必要がある。こうした点でも、士業専門家自身による個別のチェックが必要となるだろう。

最後に、AI による自己決定の短絡化が自由を侵食するという点については、以下のような指摘が可能であろう。自己決定という、場合によっては煩雑で困難を伴う行為について、能力担保のされた、かつオープンワールドにおける問題発見能力のある人間が支援することは、どこまで専門家に説明を求め、どこから先を自分の考えで決めるかを、依頼者と専門家のディスカッションをとおして決めることを可能にする。人間が意思決定支援に参与することで、自由とその短絡化のせめぎ合いの中での妥協点・調整点を見出す作業を可能にするといえる。これは士業等の専門家制度の核心的役割でもある。

しかし、以上のようなAI の技術的な限界が解決されていけば、業法的規制の正当性の前提が見直されることはありうる。特に最後に述べた自由権とAI という問題に我々が直面したとき、士業という父権主義的な社会制度が自己決定支援のために存在するという根源的な矛盾と相克は、白日の下に晒されることになろう。

(6)総 括

以上から、AI により出力される法的助言などの法的サービスは、そのサービスの帰結に対する責任主体性という観点からみても、現時点でのAI の能力という切り口からみても、専門家自身がスクリーニングをしたうえで提供することが求められるというごく当たり前の結論に至る。

以上、経済合理性や自己決定権の観点から基礎づけられる業法的規制の趣旨、さらにAIの有する特性に照らすと、専門家の監督の下で使用されたり、専門家の業務補助のために使われたりするものは容認されうる。しかし、それを逸脱するAI によるサービスは、現時点の技術的状況からみても、法の趣旨に違背するものであり、当然に取締りの対象となるべきといえる。

他方で、こうした技術的制約が克服されれば、議論の前提は崩れる可能性がある。士業業務がAI に蚕食されるシナリオとして、少なくとも以下が考えられる。

一つは、AI が法的権利義務帰属主体となって、自律的に法的助言などの法律事務等を行うものである。しかし先述のとおり、これには市民社会による受容への高いハードルがあると思われる。

いま一つは、AI の法的助言等のリーガルサービスの帰結について、依頼者の自己責任とする、または士業ではないサービス提供者が責任を負うものである。士業専門家に比肩する自律的かつ適正な学習能力、オープンワールドでの問題発見能力など、士業専門家による監督すらも不要となるほどの能力をAI が獲得した場合には、社会はAI サービス提供者が士業専門家であることを不要と判断する可能性がある。

より現実的なシナリオは後者といえる。司法書士をはじめとする士業専門家が、伸⾧するAI の能力を前にしてもなお、その存在の必要性を社会に対して説得的に主張できるかが問題となる。市民社会に対してその存在を承認させる説得性という点で、少なくとも司法書士が抱える問題点について、以下の結語で指摘する。端的にそれは、依頼者の自己決定権とパターナリズムの拮抗する場面で、いかにして、いかなる解を選び取るか、という問題である。

(注1) 三浦透「判解」最判解刑平成22 年度129 頁

(注2) 日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法〔第5版〕』(弘文堂、2019 年)617 頁。

(注3) 詳細については、木曽雄高「弁護士法72 条における『一般の法律事件』『法律事務』の意義についての一考察(1)~(4)――私人間の法律行為の委任・代理の可否の観点を中心に」本誌124 号(2020 年)35 頁以下・125 号(2020 年)20 頁以下・126号(2020 年)36 頁以下・127 号(2021 年)38 頁以下参照。

(注4) 木曽・前掲(注3)(1)●頁。

(注5) 酒井泰弘「非対称情報と市場経済のワーキング――リスクの経済思想の視点から――」彦根論叢374 号(2008 年)53 頁以下。

(注6) 「レモン」とは、品質に問題のある中古車を意味する語である。日本人の感覚でいえば、「渋柿」のようなものであろう。

(注7) Akerlof, G. A. (1970) “The Market for Lemons: Quality Uncertainty and the Market Mechanism,” Quarterly Journal of Economics, Vol. 84, at 488.

(注8) See Akerlof, supra note 7, at 500. もっとも、ここで念頭においているのは「売り手」に当たる医師や弁護士自体の「品質」の問題であり、彼らが提供する手続判断のメニューの情報の完全な提供という、本稿で議論する問題とはやや論点が異なるであろうことは留意されたい。

(注9) 鈴木利廣「人権としての自己決定権」日本保健医療行動科学会年報13 号(1998 年)49 頁。

(注10) 鈴木・前掲(注9)52 頁。司法書士や弁護士などの士業専門家と依頼者の関係は、その規律する原理上、受任者である専門家の行動が依頼者の自己決定権に基礎づけられるべきである。他方、医療現場と比べると、その射程や検討すべき事項については、医療現場におけるものから一定の改変・調整が必要な部分が出てくることも予想される。

(注11) AI がこうした専門知識を提供することで専門家が不要になるという議論が想定される。しかし、これは後述のとおり、AI の学習上の課題、オープンワールドにおける問題発見能力の課題などから反論可能である。

(注12) 専門家制度がなければ、まさにアカロフが指摘したように、品質の低劣なコンサルタントがはびこり、こうした「悪貨」により「良貨」が市場から駆逐され、自己決定のための適切な品質のサービスを受ける機会が保障されない、スラング的な言い回しだが「アドバイザーガチャ」が発生することになる。

(注13) 理化学研究所・革新知能統合研究センター・チームリーダー、東京大学名誉教授。

(注14) 自由の意義については本来、ロック、ルソー、カントに代表されるように多義的に語られるが、ここでは便宜的にルソーの『社会契約論』などで主張される、民主主義の統治構造の文脈の中で語られる自己統治という意味での自由の含意から示唆を得た、自己決定と自律という観念を用いて議論を進めている。

(注15) Shawn Bayern, The Implications of Modern Business-Entity Law for the Regulation of Autonomous Systems, 19 Stan. Tech. L. Rev. 93 (2015).

( 注16) Shawn Bayern, Of Bitcoins, Independently Wealthy Software, and the Zero-Member LLC, 108 Nw. U. L. Rev. 1485 (2014), at 1497.

(注17) 斉藤邦史「人工知能に対する法人格の付与」情報通信学会誌35 巻3号(2017)19 頁以下。

(注18) 技術的なソリューションからの有用性の有無について検討したものとして、中川裕志「AI の法人化に関する考察」人工知能学会全国大会論文集(2024)参照。

3 結語――検討の過程で見えてきた司法書士業界自体の問題点

弁護士や司法書士を中心に、士業の現場にAI がどのような形でかかわるべきか、業法的規制の趣旨、情報の非対称性、自己決定権、AI の現状の特性という観点から検討してきた。

AI とのかかわり方という光源を司法書士業界に照射して図らずも露見したのはしかし、士業専門家としての立ち位置、その行為の正当(統)性の根拠づけに関する議論の不足である。

本項の論理構造を先に述べておく。士業制度の正当(統)性の根拠の一つに自己決定権の保障があるが、同時にその限界も想定しうる。依頼者が客観的にみて自己に不利益な選択をしようとする場合などにおける、自己決定権の保障と専門家のパターナリズムの相克の場面である。しかし、この二原理の相克・調整に関する議論は尽くされているとはいえない。このことは、専門家の執務の現場における二原理の調整を困難にする。結果、依頼者との対話を経ない専門家の主観的性向に依拠した結論先行型の(手続選択などの)決定がされることが懸念される。専門家ごとの不明瞭なプロセスを経た決定の差は、情報の非対称性として市場構造に悪影響を及ぼすことが考えられる。また、依頼者の自己決定権が保証されるべき範囲が曖昧になり、依頼者にとっても納得感の乏しい手続選択が行われうる。

自己決定権の保障領域の不明瞭性、市場の情報の非対称性は、士業制度の正当(統)性の根拠を危殆化させる。さらにAI 技術の進展は、こうした士業制度の説得力の相対的低下を招くおそれがある。

  • 士業専門家の存在の正当化根拠としての情報の非対称性の解消と自己決定権

まず、士業制度の正当(統)性の根拠に関する議論状況を顧みる。たとえば、司法書士などの士業専門家の依頼者への情報提供行為が、情報の非対称性の解消という観点からいかに要請されるかという点は、さまざまな論文検索をする中でも、管見の限りまだ議論がほとんど白紙の状態であることがわかった。もっとも、経済学的な検討というのはいくぶんニッチな検討課題といえるかもしれない。

他方で深刻なのは、たとえば司法書士はその業法である司法書士法において「国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与する」と高らかにうたってはいるものの、その使命が依頼者の自己決定権に基礎づけられたものなのか、あるいは国家によって専門家に与えられたパターナリスティックな権威・権限に基づくものなのか、十分な議論された形跡がないことである。

(2)自己決定権原理の外延とパターナリズム原理との相克

自己決定権とパターナリズムの相克という想定すべき状況について、医療現場の議論、司法書士の現場での仮定事例をそれぞれ検討する。

司法書士行為規範においては依頼者の自己決定権を包含するものとして、10条で「司法書士は、依頼者の意思を尊重し、依頼の趣旨に沿って、その業務を行わなければならない」と規定している。問題は、自己決定権の尊重という原理はどこまで敷衍可能で、それと拮抗しそれを制限するパターナリズムという外在的な原理が存在しうるのか、存在するとしたらそれはどこまで依頼者の自己決定権を制限しうるのか、という点である。試みに司法書士法の使命規定の創設をめぐる議論や、過去の論考(注19)などを渉猟した。その結果、これも管見の限りでは、使命規定の基礎づけとしての司法書士の社会的役割などについて議論はされているものの、使命が自己決定権とパターナリズムという対立する二原理とどういった関係にあるのかについて、明快な議論はいまだ見出せていない(注20)。

問題となるのは、依頼者が自らの権利を毀損することも厭わない自己決定をした場合である。「国民の権利の擁護」を使命とする司法書士は、どこまで自己決定の結果を実現すべきか。あるいは依頼者の権利擁護、自由かつ公正な社会の実現のために、パターナリズムに基づいてそのような自己決定を否定すべき場合は存在するのか(注21)。

こうした問題意識の希薄さは、士業の活動分野とも無関係ではあるまい。

司法書士をはじめとした士業が直面する現場は、生命や人間の尊厳が問題となる場面もあるものの、医療現場と比べてその頻度は少ないと推察できる。士業のフィールドが、医療、健康、生命にかかわる分野以外の、経済的利益や社会秩序などにかかわる広大な領域を有することからすれば、当然の帰結といえる。臨床の場で直面する問題のシビアさの差が、こうした議論状況の大きな差を生んだと推察することはできる。

だが、臨床現場の過酷さの差は、議論の欠缺を正当化する根拠とはなるまい。

依頼者の自己決定権と専門家のパターナリズムの衝突と調整、いずれがわれわれの業務をいかに基礎づけるのかは、整理されずに積み残されてきた課題だと思われる。

客観的にみてハイリスク、あるいは不利益な自己決定を依頼者がしたい場合に、専門家がどう対応すべきかについては、医療現場における事象を中心に応用倫理学などにおいて検討されてきた。この分野では、すでに多くのハードケースが現実のものとなってきたからである。

医療の場面においては、いわゆる「エホバの証人輸血拒否事件」(注22)などが有名である。患者本人の意思に反して輸血を行うことの是非が議論された事案である。名古屋高等裁判所の判決については、患者の自己決定そのものに対する「人格的利益」を保護すべきとしたものだとするとらえ方がある。他方で、問題を「患者の自己決定権」と「生命の価値」(これは父権主義的に第三者が当人の生命を保護する行動に出るべきという原理)の対抗の中におき、両者の較量をしたとするとらえ方もある(注23)。

われわれ士業の執務場面においては、生命などの重大な価値の衝突が起こる場面も想定されるものの、経済的な価値の衝突の場面などを視野に入れて幅広く想定していく必要がある。

相克する自己決定権とパターナリズムの根底には、それぞれ以下のような価値が横たわっていることがわかる。自己決定権の根底にあるのは、本人の意思でありその幸福追求権である。パターナリズムの根底には少なくとも、他者からみた客観的な本人の利益(注24)と、社会にとっての利益の二つが存在する。

自己決定権とパターナリズムの二原理の相克から、士業をはじめとした専門家に求められるものは次のように表現できる。すなわち、依頼者の自己決定権の保障のみならず、自己決定権、依頼者の客観的利益、社会全体にとっての利益などのさまざまな観点から、より望ましい解は何かを苦闘しつつも導き出すという弁証法的思考力である。依頼者の自己決定を保障しつつも、依頼者からは死角にあるさまざまな正義原理(依頼者の客観的利益や社会にとっての正義等)をも考慮しつつ判断することこそが、専門家の存在意義であるといえる。

もっとも、この部分まで代替可能なAI が出てくる可能性は依然ある。しかし、情報の非対称性の低減、自己決定権の保障すらAI には困難な現状においてこそ、専門家はそれらを超越したより高次元にある自己決定権とパターナリズムの調整という能力まで含めて、可能な限り自らの存在意義を市民社会に主張し、その代替不可能性をもってこれを説得することに尽力すべきである。

(3)自己決定権とパターナリズムの対立の具体例

客観的にみれば非合理的でも、依頼者の自己決定としてはその選択をしたいという場面は、容易に想定されよう。端的には、絶対に負けるはずの訴訟を、やらねば気が済まないからやる、という依頼者はいることだろう。不動産登記の場面でも、たとえば売主の真正性、真正売買と所有権の確実な移転に疑義がある場面でも、あえてそれを了解のうえで買主が取引を進めるよう指示する場面が想定できないわけではない。

以下のような例を考えてみる。売主の本人性や売却意思の確認の結果、売主が真正な所有者であり買主が所有権の引渡しを受けられる確率が90%、物件価格が500万円だったとしよう。買主は売買対象物件の隣地を所有しており、対象物件を生活上必要とする事情があったとする。売却を受けられるチャンスがあるのなら可能な限りそれに乗りたいと考えている。買主にとってこの土地を購入することにより得られる経済的効用は1000万円であったと仮定する。

もし10%の確率で売主が所有権を移転できず、その場合に買主が500万円を失うリスクがあったとしても、残りの90%の1000万円相当の効用を得られる可能性があるのであれば、この取引の買主にとっての期待効用は850 万円であり十分にペイする、という判断になるかもしれない(注25)。

この場で、われわれはどう判断を下すべきだろうか(注26)。

われわれは日々、適正な職務の遂行のために、人・物・意思を厳重に確認して業務を行う。一方において、たとえば公簿反映という観点からは、正確な公簿が維持されることが公益上必要であるといえる。依頼者の意思に反してでも厳重に本人確認を遂行し、一分たりともリスクがあるのであれば登記すべきではないという、父権主義に基礎づけられた行動をとるかもしれない。その場合、10%でも真正な公簿反映をできないおそれがあるのであれば、取引の受任を拒絶すべきという判断になりうる。

他方で、期待効用850万円の取引を、われわれがその父権主義的価値観に基づいて拒否することは、経済的に合理性を有しないという指摘も可能である。これは、買主の主観的な効用に基づく自己決定をないがしろにしてはならないという、自己決定権の保障の観点から導出しうる結論である。

われわれの人・物・意思の確認という「職責」や、「国民の権利の擁護」や「自由かつ公正な社会の形成」とは聞こえはいいのだが、はたしてこれらはどういった場合にどこまでパターナリズムに基づいて行うことが容認され、あるいは依頼者の自己決定権にかしずくべきものなのだろうか(注27)。

司法書士という制度自体を必要最小限度のパターナリズムとして容認するのみであって、その具体的な実務においては自己決定権が最大限保障されるべき、ととらえるのであれば、あるいはわれわれが従前行ってきた人・物・意思の確認作業の徹底(注28)は、依頼者の自己決定権との関係で修正を迫られるかもしれない(注29)。

(4)議論の欠缺がもたらす制度への信頼の毀損のおそれ

われわれは、執務における判断の正当性(あるいは正統性)の根拠という根幹の部分の議論をせずに、砂上に「司法書士の使命」という楼閣を築いてはいないか。これを指摘するのは、本稿の主題であるAI との関係で、こうした議論の欠缺こそが司法書士制度にとって致命的なダメージとなりうると考えるからである。

たとえば、われわれはある場面では士業専門家のパターナリズムに基づき依頼者の意向と相克する、耳の痛い直言をすることがありうる。他方で、依頼者の自己決定の問題として突き放さざるを得ない場合もある。こうした行為の一つひとつが、説得的な根拠を欠き、場当たり的に、個々人の曖昧で首尾一貫しない判断に基づいて行われたとすれば、それは依頼者からの信頼を失い、市民社会の総意が「士業よりAI のほうがマシ」と判断する状況を作出するかもしれない。

卑近な例をあげるならば、不動産取引の場面で、売主の意思確認をどこまでコストをかけて行うか、という問題がある。

100万円程度の僅少な額の不動産の売買で、売主が、直接面談をするのに交通費だけで20万円以上かかる遠方に居住しているとする。ある司法書士が、買主に対して、売主と面談のうえ意思確認を行わねばならないと主張したとする。この意思確認等は誰の利益のために行われ、コストは誰に承認・負担されるべきで、それはどのように正当化されうるのだろうか(注30)。

仮に依頼者の自己決定権の保障という原理に基づくならば、どこまでどういった意思確認・本人確認を誰の利益のために行うかについて依頼者に説明し、その依頼者の自己決定を経るべきである。説明すべき対象の「依頼者」も売主・買主のいずれなのか、売主への意思確認コスト負担者がどちらなのか等によって議論が細分化する。

・・・売主の近隣司法書士事務所とzoomなどで面談し、本人確認情報法のICチップのスクリーンショットを送信してもらう、という方法が取れないのかなと思います。最終責任は、登記申請をする司法書士が持ち、内部の責任分配は司法書士間の委任契約書で定めます。なお、日本の業法規制だけでなく、犯罪収益移転防止法令に基づく国際黄的な要請ではないかと思います。

司法書士のパターナリスティックな判断に基づくべきというのであれば、そのコストは誰が負担すべきで、その判断の正当性の根拠は奈辺にあるのか、明確に説明できねばなるまい。

しかし実際の現場では、こうした調整・考慮が必ずしも行われているとは限らない。ある司法書士は対面以外まかりならずと主張し、他の司法書士によれば犯罪収益移転防止法上の非対面取引における最低限の本人確認以外(あるいはそれすらも)行わずとも結構などと、ばらばらの対応が生じうる。

判断に自己決定権やパターナリズムなどの論理的な基礎を伴うのであれば、依頼者に対して説得的である。しかし、こうしたばらばらの判断が、論理的・説得的な根拠なく、各専門家の主観的性向などに依拠して場当たり的になされるのであれば、それこそが問題である。依頼者のために必要な各選択肢の⾧所・短所についての情報が十分に開示されず、適切な自己決定を阻害することになりうるからである。

専門家の間で判断が異なることは当然ありうる。しかし、その判断の過程が不明瞭で、専門家の主観的性向などに依拠した非論理的なものであれば、各専門家が提供するサービスの質の情報に関する情報の非対称化を招く。これは低劣なサービスが市場で優勢となる温床となろう。グレシャムが発しアカロフが引用した警句のとおり、「悪貨は良貨を駆逐する」状態を惹起する。

制度的な基礎(パターナリズム)や当事者の選択(自己決定)を伴わない一貫性のない状況は、依頼者の自己決定が保証されるべき範囲をロジカルに画することなき手続判断を招く。保障されるべき自己決定と、それを制限する依頼者のための客観的利益や公益といったパターナリズムとの利益衡量を経ない判断は、依頼者の納得感を阻害する要因になろう。

以上いずれも、情報の非対称性の低減、自己決定権の保障(およびその制限原理とのロジカルな調整)という士業制度の正当(統)性の根拠を震撼させるに十分である。

他方で、AI が前述した弱点を克服し、より助言者としての能力を獲得した場合、以上のような問題点を抱える士業は、AI との比較で相対的に劣位におかれていくことになる。

依頼者にとって判断の根拠や帰結が釈然としない専門家より、AI のほうが安定的で理路整然とした判断が得られる状況に至れば、市民社会によって後者が選択される可能性は増す。

(5)市民社会に対する士業専門家制度の説得性

冒頭で述べたように、たとえば弁護士法72 条の解釈における議論で裁判所は、総じてみれば「社会の実状」に即した判断をしてきた。司法が下してきた多くの判断を集合知としてみると、「社会の実状」に解が収束したと表現することができる。実物の士業の振る舞いが一貫性を欠く非論理的なものととらえられ、他方でAI による専門的助言がより効果的であるという「社会の実状」が生じればどうだろうか。司法の判断など待たずよりドラスティックに、立法を通して社会の実状に沿ったルールをつくることは、主権者の当然の権利行使としてありうる。AI の発展によるその弱点の克服の反射的な効果として、士業が社会においてその居場所を失うことは十分に考えられる。

AI が権利義務の帰属主体となりうるか、AI は士業の監督下においてのみ法的助言等に駆使されるべきか、などの論点を検討してきた。前述のように、弁護士や司法書士などの士業の監督の下でのみ法的な助言や法的な書類起案を行うAI が駆使されるべきという方向性は、現在の社会の実状からすれば短期的には妥当な結論であろう。

しかしこの方向性は、適正な法律サービスの提供という社会法益の観点からのパターナリズム(資格制度による規制等)と、それによってもたらされる依頼者の自己決定権の保障の、二原理の調整・協調によってこそ、依頼者および社会にとって最良の成果が得られるというストーリーを前提として成立しうる。自己決定権と、依頼者の客観的利益、社会全体にとっての利益などのさまざまな観点から、より望ましい解を、依頼者の主観的視座より広い視野で導き出すことが専門家の役割である。この導出のロジックを確立し、かつ市民社会の承認を得ることが専門家には求められる。

少なくとも司法書士についていえば、二原理の調整方法が十分に整理されていないにもかかわらず、その存在が一定の説得力を、幸運にも市民社会に対して依然有しているというのが現状であろう。しかし今や、AI というわれわれが比較されるベンチマーカーが登場したのである。

⾧い目でみれば、詰まるところ市民社会がいかなる選択をするかにかかっている。市民がわれわれを首尾一貫しない頼りないもの、煩わしいもの、役に立たないものとして不要としたときには、にべもなくAI に置換される可能性は存在する。それは、司法書士などの士業制度が、今まで述べてきた情報の非対称性の解消や、自己決定の支援者としての有用性その他の正当(統)性の根拠を失ったと判断された瞬間を指す。

われわれの業務が依頼者の自己決定と社会法益の両方の実現のバランスの中でいかに有効に機能するのか、そのためにどこまでがパターナリズムに、どこからが自己決定権に基礎づけられるべきなのか、きちんと整理した議論がされねば、司法書士という社会インフラの必要性を市民に承認し続けてもらうことは、今後難しくなろう。

(注19) 阿部健太郎「全青司はなぜ司法書士制度を研究するのか?」月報全青司450号(2017 年)2頁以下においては、使命規定創設に至るまでの動きなどが総括されている。

(注20) たとえば横断論文検索サイトであるCiNii〈https://cir.nii.ac.jp/〉においてフリーワードで「司法書士」と「自己決定」、書誌限定で「月報司法書士」や「市民と法」と「自己決定」と打ち込んで論文検索をしても、こうした課題を扱った論文は(制限行為能力者の自己決定権の問題という論点は出てくるものの)発見できない。

(注21) 旧司法書士倫理についてであるが日本司法書士会連合会司法書士執務調査室倫理部会編「『司法書士倫理』解説・事例集〔平成27 年度改訂版〕」(2015 年)93 頁以下では、自己決定権について議論がみられる。しかしここで取り扱っているのは、自己決定権を尊重して適切な聴取りと説明をすべきという、自己決定権とパターナリズムの相克という問題「以前」の事象に過ぎない。

(注22) 名古屋高判平2・10・31 高民集43 巻3号1頁。

(注23) 議論の概観のために、野畑健太郎「判例における『患者の自己決定権』の再考」白鳳大学法科大学院紀要創刊号(2007 年)149 頁以下。

(注24) 本人は自らの生命を損なってでも信仰を守って輸血拒否をしたいと願うのに対して、他者が客観的に生命を維持するほうが利益が大きいと判断した場合、自己決定とパターナリズムの相克が生じる。

(注25) 経済的効用とは当事者の主観によるものであることを考えると、自己決定の基礎として重要なファクターであることはいうまでもない。なお、期待効用は〔0.1×(-5,000,000)+0.9×(10,000,000)=8,500,000〕により求められる。

(注26) 資金洗浄等のおそれはないものとする。これは仮定事例であり、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、「犯罪収益移転防止法」という)上の本人確認などの無粋なノイズはいったん排除して検討されたい。

(注27) 司法書士法の改正案が国会の場で審議された過程をみても、こうした議論がされた形跡はみられない(第198 回国会衆議院法務委員会第21 号(2019 年)参照)。

(注28) これらがパターナリズムに基礎づけられたとすると、ではそのパターナリズムの正当化根拠は何なのかという議論がなされなければならないことはいうまでもない。

(注29) しかし、たとえば商業登記の場面で、役員の退任登記など、登記申請当事者(代表取締役等)が反対の意思を示しても、退任する当事者の意思確認が要請される場合はありえよう(法的義務についての議論に限らず、ベストプラクティスも含めての意味である。法的責任についての議論は、東京地判平23・3・7判例集未登載)。相続手続に関しても、遺産分割協議に際して、どの範囲の相続人への意思確認が望ましいか/必要であるかは、各事案の辿ってきた経緯などによって異なるだろう。自己決定権の保障という原理も万能ではなく、この単一原理に依拠するのも危険といわざるを得ない。

(注30) 依頼者等の本人確認等に関する規程基準5条において、「意思確認の方法」について、1項1号で「事務の依頼を受けるにあたり、自然人たる依頼者又はその代理人等に対し面談をする方法」と、2号で「前号の規定にかかわらず、合理的理由がある場合には、依頼者等の本人確認書類の原本又は写しを取得するとともに依頼者等に対し電話をし、本人固有の情報を聴取するなどして本人であることの確認を行った上で確認を行う方法、その他これに準ずる方法であって、司法書士の職責に照らし適切と認められる方法」と規定される。本規程では、面談を原則としつつ、面談によらない「合理的理由がある場合には、……職責に照らし適切」な方法をとるべきとしている。「合理的理由」の勘案に際して、意思確認を受ける者の相手方当事者の自己決定(どこまで意思確認にコストをかけるか)は参酌されうる。その一方依頼者が自己決定を下した方法による反対依頼者への意思確認をするとして、そこに「職責に照らし適切」な方法という制限が加えられることになる。これは一方依頼者の自己決定権の行使に対するパターナリスティックな制限原理として働くといえる。この父権主義的な制約原理は、どこまで依頼者の自己決定を抑制(抑圧)することが可能なのだろうか。また、そのパターナリズムの正当性の根拠は何か。特に、後者については「それが司法書士の職責だからだ」というのは循環論法にほかならない。トートロジーに陥らない固有の正当性の根拠が必要といえる。

不動産取引における司法書士の分担的な関与と責任

日本司法書士会連合会司法書士総合研究所、不動産登記制度研究部会

司法書士による立会

 従来(一括型)

取引の一連の流れを連件申請として、同一の司法書士に委任し対応することが一般的

 最近(分担型)

取引の一連の流れ(連件申請)を、複数の司法書士や事務所が分担的に対応するケースが増えている

(➀名変➁抹消③移転④設定の4連件のケース)

②の抵当権抹消のみを担当する司法書士

①住所変更と③所有権移転を担当する司法書士

④の抵当権設定登記のみを担当する司法書士

※ 分かれ方式のについては、日本司法書士会連合会不動産登記法改正等対策部「『分かれ取引』の実務上の留意点」月報司法書士627号78-79頁(2024)を参照ください。

変化の理由(部会における仮定)

 一同に会する立会(一括型)→非対面取引への移行(分担型)

 一括型方式同一司法書士による人的担保

 分担型方式社会情勢の変化と技術の進歩

 コロナ禍における非対面取引の許容

 マイナンバーカードの普及

 電子署名の検証環境の整備

 当事者出頭主義の廃止とオンライン申請の普及

※ デジタル技術を活用した決済については、当部会「不動産登記制度から見た取引DXシステムの構築と司法書士の役割」THINK 司法書士論叢会報第121号(2022年)を参照ください

検討にあたっての基本的な視点

手続き全体での最適化

 登記手続のデジタル化の流れ

 デジタル化時代の隔地者間取引における司法書士の役割→「人・物・意思の確認を中心とした決済(立合)モデル」→「司法書士の分担的な関与の場合における責任」

 デジタル化、業務の細分化・分担化の進展にあたって解決すべき課題

 今後のあるべき司法書士像について

(2)オンライン申請の利用促進

 特例方式の導入(平成20年1月11日登記令改正)

当分の間、当該書面を登記所に提出する方法(いわゆる「特例方式」)により添付情報を提供することができることとした(令附則5 条1項)。

 資格者代理人方式の検討(平成29年頃)

権利の登記についても調査士報告方式同様の資格者

代理人が添付情報を電子化し申請する方式の導入検討

添付情報の確認権限等の問題点が指摘され見送り

(3)デジタル庁設置

令和3年9月1日デジタル庁設置

令和3年11月9日デジタル臨時行政調査会設置

令和4年6月デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン決定

令和4年7月から令和6年6月までの2年間を集中改革期間とする工程表、見直し方針を決定

令和5年6月一括法成立

令和5年10月デジタル臨調を廃止し、デジタル行財政改革会議設置へ

(4)マイナンバーカードの普及

令和6年9月末時点発行枚数は1億枚を上回り、人口に対する割合は80%超

令和3年2月日司連は公的個人認証有効性確認システムを構築

有効性の検証を行うことができる環境整備

※ マイナンバーカードに登載された電子署名については、電子署名自体の有効期間は最長5年であり、電子署名のタイムスタンプの有効期間は最長10年

2 デジタル化と司法書士の役割

(1)不動産登記制度の趣旨

 不動産登記制度の目的

不動産の物権変動を公示することによって、安全な不動産取引に資すること

 日本の登記制度

実体法をフランスに、手続法をドイツに由来対抗要件主義の登記制度。登記官には形式的審査権しか認められおらず、公信力はない。

 アメリカやイギリスの制度

譲渡証書による不動産取引、証書の謄本を登録所の登録簿に編綴することで公示、登録簿は人的編成取引は権原調査を必須とし、保険制度(権原保険)

も利用

(2)司法書士制度の趣旨

• 司法書士による立会が始まったのは高度成長期に入った頃から

• 社会的要請の変化(高度成長期→現在)

迅速に登記手続を処理から正確性と最新性の確保へ

• 司法書士の責任

近年は、実体的な判断に踏み込む注意義務を認める傾向

(3)不動産取引における司法書士の役割

 日本の不動産登記制度

対抗要件主義を採用し、公信力や登記官の実質的審査権はなく、不動産売買では登記義務もない

 司法書士による担保

申請者本人の意思表示を確認し、実体的な判断をし、実体関係を正確に登記情報に反映→デジタル化事態でも社会的要請に変化はない

• 登記情報をデータとして利活用を想定した場合、実体関係の公証をする(専門家)制度が必要では

司法書士の注意義務

(1)司法書士による調査・確認

 木茂理論=登記公証主義

不動産登記を証拠保全手続としてとらえ、司法書士の立会による人、物、意思の確認を提唱

• 司法書士の委任契約上の義務

(加藤新太郎「司法書士の専門家責任」51頁による分類)

① 登記必要書類の指示、持参を促すべき義務、

②登記書類保管義務、③登記書類調査義務、

④登記申請意思調査・確認義務、⑤本人同一性確認義務、

⑥説明・助言義務、⑦登記申請手続履践義務

(2)登記申請代理の特質➀

• 大審院昭和19年2月4日判決

同一人が登記権利者、登記義務者双方の代理人となっても、民法108条本文並びにその法意に違反するものではない。

• 最高裁昭和43年3月8日判決

弁護士が登記申請の双方代理をしても、特段の事由がない限り、弁護士法25条1号には違反しない。

(2)登記申請代理の特質➁

• 最高裁昭和53年7月10日判決

司法書士が、当事者双方から委任を受けた場合、当該委任契約を解除して、登記完了前に、一方当事者の求めに応じた書類等の返還について、反対当事者の同意等特段の事情がない限り、委任契約上の(登記書類保管)義務として書類等の返還できない。

• 仙台高判平成9年3月31日

解除が認められる特段の事情についは「登記原因たる契約の成否ないし効力に関して契約当事者間に争いがあって、登記を妨げる事由があるとの登記義務者の主張に合理性が認められ、かつ司法書士としても登記義務者の主張に合理性があると判断するのに困難はないと認められるような事情がある場合も含まれる。

(3)立会業務と連件申請

• 不動産取引の立会とは

担保権の抹消、所有権の移転、担保権の設定等の実体関係及び代金の授受の確認、必要書類の受領及び登記申請が同一日に行われ、登記については「連件処理」の取扱いとして法務局に申請する業務。

→大阪地裁昭和63年5月25日判決(公知の事実)

・同一の司法書士による一括型から複数司法書士が関与する分担型決済も増えてきている→責任の所在が不明確になりがちでは。

4 司法書士による確認

(1)司法書士によるによる確認

1. 職責による確認=「人・物・意思」の確認

①実在性の確認②同一性の確認

③適格性の確認④意思の確認

2. 犯収法上の確認=取引時確認

①本人特定事項②取引を行う目的

③個人は職業④法人は事業の内容

⑤法人の場合は実質的支配者

3. 不動産登記法上の本人確認情報

申請人が申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために必要な情報(法72条)

→司法書士が法的権利変動に関して前提事実を確認し、公証するような役割を持つべきか?

(2)複数司法書士の関与の場合の確認義務

1. 司法書士の確認義務(書類の真否の確認)

①依頼者から書類の真否確認を特に依頼された場合

②当該書類の偽造・変造が一見明白である場合

③専門的知見等に照らしてその真否を疑うべき相当な理由がある場合

2. 複数司法書士による立会業務への関与と確認

「分かれ方式」や「分担型方式」

登記申請は「連件処理」の取扱いとする一連の登記手続として行うことが確保

複数の司法書士が関与することにより、その責任の所在が不明確になりがち

→決済バイト、決済ヘルプの問題

3. 東京高裁令和元年5月30日判決

同一物件について複数の売買が転々となされたうえで全てを同一日に決済し、それぞれの売買に別の司法書士が関与した事案

(判旨)前件の登記手続き代理する司法書士がいる場合においては前件の登記手続書類の真否等については前件の登記手続きを代理する司法書士が責任を負うものであって、後件の登記手続きのみを代理する司法書士には、特段の委任を受けている場合を除き、前件の登記手続きを代理する司法書士と同様に、前件の登記手続書類の真否などについて調査確認すべき義務を負うと解するのは相当ではない

4. 最高裁判所令和2年3月6日判決

連続する不動産売買において、複数の代理人が関与して登記がなされた場合、後件申請の委任を受けた司法書士が、前件申請について申請人となるべき者による申請であるかの調査等が問題となった事案

(判旨)調査等注意義務は、委任契約によって定まるものであるから、委任者以外の第三者との関係で同様の判断をすることはできない。司法書士の職務の内容や職責等の公益性と不動産登記制度の目的及び機能に照らすと、委任を受けた司法書士は、委任者以外の第三者が登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し、このことが司法書士に認識可能な場合において、第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているときは、第三者に対しても、上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負い、これを果たさなければ不法行為法上の責任を問われることがあるというべきである

(3)デジタル化時代の本人確認

1. 「eKYC」による本人確認

司法書士の職責に基づく本人確認となり得るかは検討が必要

2. 資格者代理人による本人確認情報を提供する場合は直接面談が原則。例外として一定の条件のもとウェブ会議システム等の面談を認めている。

①対面の面談と変わらない意思疎通ができること。

②施設側の要請に基づくものであり、感染拡大防止等、直接面談できない合理的理由があること。

③面識がない場合には、事前に身分証の原本の提示を受けること

④同一施設内(資格者代理人は施設に現に赴く)でかつ、施設の職員又は申請人の家族の同席の下で行われること

3. 職責によるほか人確認の場合の検討

eKYCによるオンラインを用いた本人確認について、対象者の容貌を撮影し、写真情報との一致性の確認を行う過程は、「同一性」「実在性」だけでなく、「適格性」の判断に資する環境下であると考えられる。

連続した事件について、委任契約の当事者ではない第三者に対して、司法書士の本人確認義務も本人確認を行う権限が法的に認められ得るのかについては検討が必要である。

(4)横断型委任契約の検討

1. 複数の司法書士が分担的に手続に関与する場合、依頼者に対し依頼内容や責任の範囲を明確にすることが当然求められる

2. 司法書士行為規範23条

司法書士は、事件を受任するにあたり、依頼の趣旨並びに報酬及び費用に関する事項を記載した契約書を作成するように努めなければならない。

3. 執務における意識改革の必要性

報酬等の計算が単純であり、受任から業務完了までが短期間である場合など、合理的な理由があれば契約書を作成せずに受任することが許容→依頼内容や報酬、責任の範囲の明示のため契約書作成が必要なのでは?

研究報告

多様性の時代の相続手続における司法書士の役割について~諸外国との比較研究から見えてきたこと~

2025年3月22日

司法書士総合研究所業務開発研究部会、司法書士総合研究所業務開発研究部会

メンバー紹介

主任研究員石田光廣(兵庫会)、研究員平野次郎(大阪会)、研究員村上毅(京都会)、研究員小坂和義(奈良会)、研究員宮澤智史(⾧野会)、所⾧末廣浩一郎(広島会)

当研究部会の研究活動履歴

2015年世界の不動産所有制度の調査研究開始

2016年日本の不動産所有の特異性と所有者不明問題の唯一性の発見

アメリカ・ランドバンク制度の調査発表

2017年提言論文「時代に合致した不動産所有のカタチと制度」発表

2018年イギリスの登記制度の調査発表

日本版ランドバンク制度の提言発表

2020年論文「世界の制度との比較から所有者不明土地問題の本質と対策を考える」発表(土地総合研究2020秋号)

2021年衆議院法務委員会所有者不明土地問題に関する民法改正について参考人意見陳述

2023年世界の相続制度に関する調査開始

【世界と日本の土地所有制度比較のおさらい】

何故、日本だけで放置空き家や所有者不明土地問題が増加するのか?

・・・台湾などでもあるようです。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2501_06ai/250313/ai02_agenda.html

 要因1 世界で類を見ない土地の「物理的細分化」と「権利的分散化」の進行(不動産所有制度の違い)

 要因2 一般所有権と土地所有権の区別と二元性(重層性)

 要因3 公共の福祉からの土地活用計画、都市計画の存在

 要因4 土地の共同所有観の違い

 要因5 (不動産を含めた)相続手続制度の違い

根本的な問題や課題を明確にしないまま、相続登記の形式的義務化や相続土地国庫帰属申請制度をスタートさせたが、大丈夫なのか?

そこで今度は、世界の相続制度と手続実務の様子を調べてみた

世界の相続制度の比較

 英米法(イギリス・アメリカなど)

管理清算主義

 大陸法(フランス・ドイツなど)

当然包括承継主義

 日本法

仏、独を参考にした当然包括承継主義

遺産は誰のもの?

 管理清算主義(英米法) 被相続人(財団化) →管理が必要→ 裁判所が管理の下、管理者を選任(プロベイト制度、専門職の早期かつ総合的な関与)

 当然包括承継主義(大陸法) 相続人(包括的かつ合有的な遺産共有状態) → 共有財産の管理が重要→ 事実上の管理者が必要(早期かつ一元的な専門職の関与)

 日本相続人(単純な遺産共有状態) → 管理意識が低い? → 部分的かつ個別的な専門職の関与

世界における相続手続実務の共通点

(1)法定相続人と遺産および生前手続の調査並びに特定手続

(2)遺産分割を待たずに、清算手続の履行

① 債務の支払い

② 財産分与

③ 遺言などの生前手続の履行

(3)遺産分割

① 遺産の確定と分割手続の履行

(4)相続人の一部または全部に不満ある場合は、調停手続に移行

相続手続の専門職の存在と共通した役割

 相続手続の初段の法律専門職は、ワンストップ

イギリス相続裁判所→ ソリシタ(事務弁護士)

アメリカ相続裁判所→ 弁護士(事務弁護士)

フランスノテール(公証人+司法書士)

ドイツノタール( 同上)

一定期間内に、相続証明書作成しなければならない。

※ 相続証明書の内容は、法定相続人、遺産目録(特に、不動産の内容)、遺言書の有無等

相続手続の初段の法律専門職は、訴訟法務を担当しない法律

専門職

全相続人に対し、中立性を担保(法律要請ではない)

 相続手続の初段の法律専門職は、遺産(債務も)の調査を担当する(遺産目録の作成)

不動産も預金等も名寄せ制度が充実しているcf. 戸籍制度

 相続手続の初段の法律専門職は、遺産分割を待たずに清算手続を担当する

フランスやドイツにおいても、事実上の管理清算型手続を履行債務の支払いだけではなく、財産分与や遺言などの生前手続の履行も含むこれにより初めて「遺産」が確定相続手続の初段の法律専門職は、相続登記申請も担当する相続登記の履行義務は専門職にある

 相続手続の初段の法律専門職は、相続税申告手続も担当するそれにより、相続税の非課税扱いを実現

 相続手続の初段の法律専門職は、遺産の管理も担当する

空き家等の管理も可能

相続手続の初段の法律専門職は、遺産分割の進行を担当する

遺産分割が整わない場合は、調停制度に移行

訴訟法務の資格を持つ法律専門職(弁護士)にバトンタッチ

※フランスでは、当初の手続専門職が裁判所から調停役に指名されるケースがある

遺産分割の基準(原則)は?

 日本民法第906条の様な規定がある国は、日本だけ!?

「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」

※ この条文は、昭和22年改正で新設。当時は「遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の職業その他一切の事情を考慮」とされていたところ、昭和55年さらに改正され、相続人について考慮すべき事情の例示として「職業」のほかに「年齢」と「心身の状態及び生活の状況」が加えられたのである。

⇒ 我妻栄編『戦後における民法改正の経過』民法906条について、「均分相続に対する攻撃の矛先をそらす手段」と解説戦前までの家督相続制度を許容するため?

日本でも、法定分割を原則とすべき!?

世界の法定相続制度≠ 日本の法定相続制度

清算後の残存遺産を対象

相続発生時の財産分与

法定相続人の見直し

遺留分の見直し

世界では、法定分割制度をどう思っているのか?

先日、ドイツから来た旅行者夫婦に話を聞く機会があったので、紹介する。

現代日本の相続事情と課題

 相続手続は家族内の手続専門職の関与は任意かつ部分的

 遺産分割の対象遺産は、相続発生時の全財産清算の主体があいまい

 相続人が複数いる場合の遺産分割協議の基準が不明瞭かつ誤解も多い

 相続手続における専門職が、ワンストップではない

 税務手続と分割手続の区別と優先順位があいまい

 相続財産に関する情報があいまい(遺産目録作成基準が不明瞭)

 調査、調整段階と紛争段階の区別があいまい

 家族関係の多様化

 遺産の多様化

国民の自主的行動だけに任せられる時代ではない!

そこで、家事代理権を持たず、紛争代理人のイメージが少ない法律文書作成の専門職司法書士が、相続手続における初段の「手続窓口」として、国民から認識してもらえるような活動と行動をすべき!

司法書士によるファシリテート型相続手続支援モデルを構築し、提供してはどうか

司法書士によるファシリテート型相続手続支援モデルの提案

 ファシリテータとは…人々の活動が容易にできるよう支援し、事がうまく運ぶようにリードする舵取り役。

・・・現にそれに近いことを具体的事案に応じて行っていることがあるので、言葉にすることで注目され、業務が窮屈にならないのかなと感じました。

 本モデルの目指す手続の姿…遺産分割の当事者である各法定相続人に対し、正確な情報を提供し、中立的な立場でヒアリングを重ねながら全員の意見・主張を引き出し、合意形成を困難たらしめる課題があれば相続人全員が理解、共有し、遺産分割協議の成立に伴走する法的サービス

ファシリテート型相続手続支援モデル

①法定相続人の確定・遺産と債務並びに生前手続の正確な把握

②場のデザインのスキル(①の適切な共有)

③対人関係のスキル(相続人の意向を発散させる傾聴)

④構造化のスキル(③の可視化と整理、収束)

⑤合意形成のスキル(遺産分割の決定)

⑥効率的な相続手続の履行

ファシリテーション4つのスキル

①場のデザインのスキル

一部相続人から依頼を受け、相続人目録、遺産目録を作成した後に行う他の相続人へのファーストコンタクト。

一般にファシリテーションは、対面での議論を前提としているが、多様化した現在の相続手続において相続人全員が一同に会しての協議というのは現実的ではない。そのためファーストコンタクトの方法としては、手紙を想定する(追って電話、メール等を併用)。

相続実務において、ファーストコンタクトは一部相続人から発信されることが一般的ではあるが、中立的法律専門職が作成した情報を提示されることで、安心と信用に繋がることが期待される。

②対人関係のスキル

傾聴、応答、質問などのコミュニケーションの段階。ファシリテーターは、しっかりとメッセージを受け止め、心の底にある本当の思いを引き出していかなければならない。

まずは開かれた問い(オープンクエスチョン)で自由に話してもらい、その中で確認したい事項をイエスノーで答えられる閉じた問い(クローズドクエスチョン)を使って掘り下げていく。

ファシリテーターが勝手に解釈や判断をせず、再確認のひと手間を惜しまず、意見を発散してもらうことを重視したい。

③構造化のスキル

議論を分かりやすく「見える化」する思考系のスキル。

相続人それぞれの意見が出揃って、合意できる点、対立している点を整理していく場面であり、ここが相続人間の利害調整の出発点になる。

ファシリテーターは相続人自らがベターな遺産分割案を見いだせるよう支援。

相続人から案が出てくれば、それを文書化する。文書化することによって、自分の意見を客観視でき、複数案あればそれを見比べることができる。

④合意形成のスキル

各人にとっては必ずしも最良の案ではなくても、相続人全員が支持できる案を作り出していく段階。

ここでのファシリテーターの役目としては、出揃った相続人のそもそもどうしたいかという欲求をもとに、お互いが合意できることを合わせていくこと。それぞれの前提、目的、優先順位、解釈の違い等を基準として、合意点を積み上げ、対立を解消できる案を柔軟に考え、皆が納得できる解決策を粘り強く探すことが大事である。

多様な視点が対立軸を検討する機会となり、それを経た合意は、意思決定の質が高く、相続人の納得感も高いものになっていく。

ADRとの違いについて

 ADR…紛争が顕在化している当事者二項対立構造を前提に、調停、調整する技法

 ファシリテーション…紛争顕在化以前

複数当事者の意思、意見等を整理し議論を進行する技法。

本モデルの目指す遺産分割における支援とは、あくまで紛争性が明確になる前の段階まで、あるいは誤解等による紛争性を予防するための手段である。

ファシリテート型支援モデルと非弁行為

 初動相談時の相続人間の状況の場合分けにおいて検証する

① 既に相続人間で話合いがなされ遺産分割方針が概ね決まっている

② 相続人間に何ら対立はないが遺産分割内容が未定である

③ 相続人の中に⾧年又は全く連絡の行き来がなく遺産分割の意向が全く分からない者がいる

④ 相続人間で遺産分割方針について又は感情的なことで対立が生じていることが顕在化している

家事代理権を持たない法律家司法書士だからできること

中立的な立場で、相続人間の対立が生じない状況の中での相続手続の支援

少なくとも遺産分割協議において、司法書士は弁護士とは違った法律専門職能として、一部の相続人の代理人ではなく、紛争を予防するため、相続人全員のための合意形成支援を

弁護士とは明らかに違う事務的法律専門職能としての存在意義を

【最後に】本提案が目指すもの

 専門職のワンストップ化(チーム化)による効率的な手続と確実な手続の実現

法定相続人の確定→ 遺産と債務並びに生前手続の正確な把握(特に不動産に関して)

 ファシリテータ専門職(中立的進行役)の関与による各相続人への適切な連絡→ 情報に対する不信感の払しょくと円満な遺産分割の実現

 ファシリテータ専門職(中立的進行役)の関与による効率的な相続承継手続の履行(特に、不動産遺産の適切な相続登記の実現)

 ファシリテータ専門職(中立的進行役)の関与による相続手続の⾧期化防止

【最後に】相続手続における司法書士の存在意義の確立

 事務的法務と訴訟法務の区別と中立的手続関与意義の重要性の確認

 弁護士と司法書士の役割分担の確立と周知

 10年後の司法書士のために不可欠なトライ&チャレンジ

司法書士がAIの仕組みを知る必要性

日本司法書士会連合会司法書士総合研究所司法書士業務DX推進研究部会

研究員髙木祥光(東京会)

注意

 今回の発表はAIの使い方ではありません。

 AIの仕組みについてです。

 登録免許税の計算程度の算数が出てきます。それを超えるものは出てきません。

 説明では、何となく理解してもらうことを優先し、厳密さを犠牲にしています。

 もし、より高度な議論がしたい場合は連絡ください。

 議論のレベルによっては、大学の理系学部の一般教養程度の数学が必要になります。

自己紹介

 平成25年司法書士試験合格

 平成28年司法書士登録(東京会新宿支部)

 令和3年司法書士会連合会司法書士総合研究所司法書士業務DX推進研究部会研究員

ただし、司法書士は副業

 本業はアクチュアリー業(保険数学) 日本アクチュアリー会準会員

保険は統計学に基づいて、商品開発やリスク管理を行っている。

保険会社は金融庁が監督されているため、金融庁(財務局)へ提出する書類の作成している。

 以前は、大学で理論物理の研究者(博士(工学) 東京大学)を約10年間していた。

「何故、司法書士がAIの話をしているのか?」ではなく

「何故、お前は司法書士をしているのか?」が正しい認識。

DX部会のメンバー

 主任研究員𠮷岡淳一(埼玉会)

司法書士業務におけるデジタル技術の調査研究

 研究員上垣隼人(兵庫会)

AIと司法書士業務に関する調査研究

 研究員松永賢一(埼玉会)

DFFT(Data Free Flow with Trust)に関する調査研究

 研究員三浦真弘(神奈川会)

国内外のリーガルテックの調査研究

 主にデジタル関係について、月1回ペースで議論を行っている

本日のアウトライン

 AIによって今後どうなるか

 AIの仕組み

 AIで登記申請は可能か

AIの登場で考えらえる最悪の事態

 何処かの誰かが登記申請可能なAIを開発し、

 国会議員や中央省庁の官僚に働きかけ、なんやかんやあって、正式に採用されたが、

 蓋を開けてみれば、AIの性能が酷く、

 登記記録が汚れ、取引の安全を担保できなくなってしまい、

 不動産取引に多大な費用が掛かるようになる。

 もし、AIの性能が素晴らしければ申請はAIを使用して、司法書士は相談業務に徹すればよい。(煩わしい書類の確認作業から解放される)

最悪の事態にしないために

司法書士ができること

 「何処かの誰かが登記申請可能なAIを開発」

ここはどうしようもない。開発自体の禁止、差止め等は自由権の侵害。

登記申請行為の代理をするとなれば、司法書士法違反になるかもしれない。

 「国会議員や中央省庁の官僚に働きかけ、なんやかんやあって、正式に採用され」

ここを止める必要がある。

 どうやって?最悪の事態にしないために

司法書士ができることその2

 「国会議員や中央省庁の官僚に働きかけ、なんやかんやあって、正式に採用され」

を止めるとき、

 「反対!反対!!反対!!!」

「紙の印鑑証明書が...」

等と主張しようものなら、

 司法書士は

「既得権益に群がる寄生虫」と見做され、信用を失う。

昨今の状況を踏まえるとSNS等が炎上する。

最悪の事態にしないために

司法書士ができることその3

 正しい知識、経験、実績に基づいて意見を表明する必要がある。

 ここで言う正しい知識、経験、実績はAIについてのものでなければならない。

 どの程度が必要か?

AIの研究者、技術者が味方になってくれる程度

 もし、「150年以上の実績が...」等とアピールすれば

司法書士は

「世の中に、昔ながらを理不尽に押し付ける老害」と見做される。

最悪の事態にしないために

司法書士ができることその4

 理想は、司法書士が司法書士業務分野のAIについては最先端であり、そのことが世間に認知されていて、付け入るスキを与えないこと。

 そもそも、一般人に登記申請AIを開発しようという気を起こさせない。

 政治家や官僚に話を持っていっても、

「司法書士がやっているから司法書士と一緒にやって」

と興味を持たれず、相手にされない。

 となれば良い。

司法書士がAI開発する時の最大の問題

 司法書士はAIについて、圧倒的情報弱者

何が問題か? 情報格差があると深いところでの会話が成立しない

司法書士がそのことに気付かない

 AI開発の場合、AI自体が発展途中の技術であるためコミュニケーションの質が成果物の質に直結する

・・・予算計上により、登記申請AIを開発すればよいのではないかと思います。

情報弱者であることによる弊害

 人は解らないもの、知らないものに対して、必要以上に万能感、恐怖心を持つ、または無関心になる生き物。

例万能感‥ 太陽信仰(天照大神等)

恐怖心‥ 死後の世界(黄泉平坂、黄泉の国等)

 AIについてわからない、知らない場合、正確な情報を得ることができない。

 そのため、正しい判断が出来ず、迷走する。

 また無関心の場合、我関せずとなり、気づいたときには手遅れ。

解決策は

 ただ一つ

正しく知り、理解すること

chatGPTの意味

 Chat 「雑談、おしゃべり」

 Generative 「生成的な、文を生成する」

 Pre-trained 「事前(pre)に、訓練された」

 Transformer 「変化させる人、変圧器」だが、ここでは深層学習モデルの名称

そもそもAIとは

 AIは「函数(かんすう)」である。

 教科書には、「関数」であるが、『函』数の方がニュアンスが合っている

 「函」はハコという意味。但し、差し込み口があるハコ。例ポストに投函する。

「箱」は蓋が付いているもの。例弁当箱

AIの問題その1 ハルシネーション

 ハルシネーション(hallucination、幻覚のこと)

AIがもっともらしい誤情報を出力すること。

 原因その1 学習に用いたデータに誤情報が含まれている

例えば、政治家の出生地等

 原因その2 次に続く単語の確率を計算して文章を作成しているだけなので、なんとなくそれらしい文章になってしまうことがある

 このことをAIが嘘をつく、AIが暴走するという人がいる。

そもそもAIは現在、掛け算、足し算を延々と行っているだけ。

嘘をつくという故意を持ちようがないし、暴走することもない。

AIに難癖をつけたい人が、嘘をつき、暴走しているだけ。

AIは無機物であって、敵にも味方にもなりえない。要するに使い方次第。

AIの問題その2 学習データ

AIの学習に、自分の書いた文章が承諾なしに使用される。著作権の問題

 最近は学習データの枯渇の問題が提起されている。

別のAIを用いて学習データを作成することもある。

 個人情報やクレジットカード番号等はまったく含まれていないデータで、単体ではまったく悪用する方法がないデータでも、大量に集まれば悪用される可能性がある。

→ 民事訴訟のIT化

 国防は、これまで、陸、海、空であり、最近、サイバー攻撃も注目されているが、5番目の防衛としてデータも含まれる可能性がある。

AIの問題その3 情報漏洩

 故意重過失なく使用しているにも関わらず、機密情報が漏洩する可能性がある。

 ChatGPT等では、利用者が入力した文章はAIの学習に使われることある。

AIの問題その4 AIの中身の公開

 AIの中身はどこまで公開されるか

ChatGPTの中身は公開されていない。あくまで推測。

 AIの計算方法は今のところ論文として公開されている。

但し、すべてが論文になっているかは不明、また、今後ずっと公開されるとは限らない。

 学習データについても同様。

 サービスによっては、AIの出力をそのまま出力しているとは限らない。

中国はインターネットの検索結果を制限しているという話があるが、

AIの出力AI開発の世界

 世界中で行われているため進行がすごく速い

「半年前はちょっと古い」が研究者の体感らしい。

 常に注視していないとあっという間についていけなくなる。

 ここではChatGPT(Transformer)の解説をしたが、違う方法もたくさんある。

違う方法があっという間にTransformer に取って代わることも有り得る。

 昨今言われるAIブームの終了は、AIの終了か?

答えは否。

終了するのは、AIへの投資のブームであって、研究は続く。

ノーベル賞の研究は約50年前のものであり、ずっと続いていた。

を恣意的に加工しない保証はない。

登記申請AIを考えてみようその1

 まずは登記記録を解説するAIを開発する。

 これは比較的容易なのではないか?と私は思っている。

理由何処に何が記載されているのかが明確で

学習用データが用意しやすいから。

 利用者は、一般の人を想定している。

そもそも公示が目的なのだから、一般人が読めなければ意味がない。

「現在の所有者は?」「不動産番号を教えて?」「抵当権はあるの?」

に答えられるだけでも意味はあると思う。

登記申請AIを考えてみようその2

 登記申請AIはそもそも必要か?

 登記は確定した権利を登記記録に反映させる行為

確率で行えるものではない。

 AIという高尚なものでなくてもよいのでは?

多分、無理。

登記申請AIを考えてみようその3

 最初から最後まで1つのAIで行うことは、現段階ではおそらく不可能と思う。

ここで1つのAIとは、1つの函で行うという意味。

 情報収集のAI,申請書を作成するためのAI,申請書と現登記記録を照合す

るAI,登記記録を要約するAI等、複数のAIを組み合わせる。

本人確認と意思確認

 現状では、本人確認、意思確認は人の手に頼らざるを得ない。

 人間が行っても100%完璧はあり得ない。

そのため、AI(デジタル等も含む)にのみ100%を要求すること

は理不尽、非合理的であるという主張があっても不思議ではない。

むしろ、AI(デジタル)と人間を合わせて100%を目指すべきという議論になるかもしれない。

(資格者代理人方式のときも同様の議論があり、業界内部の結論が出ず、立ち消えた。)

 ここまでやれば少なくとも故意重過失はないという法律、判例、世論が出来れば、

AIでも本人確認、意思確認は可能となる

 問題があったとき、損害賠償(要するに金で解決)は、人間の場合も、AIの場合も変わりはない。

改めて登記申請AIを開発する理由

 AI研究では、ドメイン特化のAIを開発するということが盛んに言われている。

ドメイン特化とは、ある業種特化という意味。

よく挙げられる分野は、金融、医療、法律。

つまり、カネになりそうな、かつ、学習データが用意しやすそうな分野である。

 不動産業界が金の成る木だと思われれば、参入してくることは容易に想像できる。

 AIは対岸の火事ではない。何かのきっかけで巨大資本が潤沢な資金と技術を携えて

やってくる。

そのとき、司法書士が駆逐されるのか、主導権を握るのかはこれから次第。

私の思うAIの最大の問題点

 「理解」がない。この一言に尽きる。

 そもそも「理解」とはどういう現象なのか?

何があれば、人は理解していると感じるのか?

 AIと対話(?)をしていると、研究者時代にあまり出来の良くない学生と話して

いるのと同じ感覚になる。そういう学生はだいたい数学が出来ない。

 数学は再現性が100%の学問であり、理解していれば、原則、間違うことはない。

(ストレスが無い場合)

ストレス(時間制限、正解へのプレッシャー等)があれば当然ケアレスミスはする。

AIはストレスが無いはずだが、共通テストですら満点ではない。

 自身の体験では、わからないことを考え続けていると、「ああ、こういうこと

か!!」と分かる瞬間がある。その後は、「こんな当たり前のことが何故分からな

かったのだろう」と自己嫌悪になる。

 「ああ、こういうことか!!」のとき、脳で何が起きているのかがわからない。

脳で起きていることを数式で表現できればAIが理解を獲得できるかもしれない。

まとめ

 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という諺があるように知ってしまえば大したことはない。

 司法書士行為規範第4条

「司法書士は、常に、人格の陶治を図り、教養を高め、司法書士としての品位を保持する。」

教養を高めることを怠ると、

「既得権益に群がる寄生虫」

「世の中に、昔ながらの理不尽に押し付ける老害」

に成り最後にその1 知ることは無限に可能か

 知るためには、それに応じた知識や能力が必要

 司法書士は何故、法律の専門職なのか?

大元の情報源である条文(立法担当者の解説、法制審議会の議事録等を含む)を現実に落とし込める。

もし間違った情報があっても間違いと気づくことができる。

 司法書士は、AIの大元の情報源から情報を得ることが可能か?

AIの情報源は論文、プログラムのソースコード等。

これらを読み込むには数学が必須。

 大元の情報源に接することが出来ないと、手垢のついた情報しか知ることができない。(間違い、偏りに気付けない。)

 手垢のついた情報を基に見解を述べることは、司法書士の品位を保持しているといえるか?下がってしまう。

最後にその2 連合会への提言

 AIについて司法書士(執行部)全員が知る必要はないし、

すべてを知る必要もない。ただし、知っている人、知っていることは多いほうが望ましい。

 意思決定をするためには、正しい情報に基づく必要がある。

「幽霊」を見て発せられた情報を基にしてはいけない。

情報の真贋の判別が可能か?

 行動し、実績、経験が無ければ司法書士業界は駆逐される。

特に連合会が「口だけ評論家」では未来はない。

 AIは他人事ではない。連合会こそが行動しないと社会の害悪になる。

資格者代理人方式の時の二の舞は避けるべき

 AI開発にはGPUサーバーの利用は必須。利用方法はサブスクが主なため、予算の使用方法も現状に合った形にアップデートすべき

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