自民党「令和4年度税制改正大綱」

令和3年12月10日自由民主党 公明党

https://www.jimin.jp/news/policy/202382.html

P34・P35 住宅用家屋の保存登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を2年延長する。

・ 次の特例の適用対象となる住宅用家屋の要件について、築年数要件を廃止するとともに、新基準に適合している住宅用家屋(登記上の建築日付が昭和57年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合している住宅用家屋とみなす。)であることを加えた上、その適用期限を2年延長する。

1 住宅用家屋の所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置

2 特定の増改築等がされた住宅用家屋の所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置

3 住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記に対する登録免許税の税率の軽減措置

P36 相続に係る所有権の移転登記等に対する登録免許税の免税措置について、次の措置を講じた上、その適用期限を3年延長する。

1 適用対象となる土地の範囲に、市街化区域内に所在する土地を加える。

2 適用対象となる土地の価額の上限を100万円(現行:10万円)に引き上げる。

P45 2信託に関する受益者別(委託者別)調書について、「信託財産の価額」の欄に記載すべき相続税評価額の算定が困難な場合には、見積価額を記載しなければならいこととする。(注)上記の改正は、令和5年1月1日以後に提出すべき事由が生ずる調書について適用する。

 不動産登記法の一部改正により創設される相続人申告登記等の職権登記について、登記官が職権に基づいてする登記に対する登録免許税の非課税措置を適用する。

 登記等を受ける者は、登記機関が指定する納付受託者に納付を委託する方法(クレジットカード等を使用する方法)により、登録免許税を納付できることとする。この場合において、納付受託者が登記等を受ける者の委託を受けた日に登録免許税の納付があったものとみなして延滞税に関する規定を適用するほか、納付受託者の納付義務、帳簿保存義務、納付受託者の指定の取消し等について所要の措置を講ずる。

P92 固定資産税に係る登記所から市町村への通知事項の拡大等 

1 民法等の一部を改正する法律により不動産登記法が改正され、登記簿に登記される事項が新たに追加されること等に伴い、次の措置を講ずる。

イ 登記所から市町村への登記情報に係る通知事項に所有権の登記名義人の死亡の符号等を追加する。

ロ 登記所から市町村への登記情報に係る通知事項にDV被害者等の住所に代わる事項を追加する。

ハ 固定資産課税台帳に記載されている事項について市町村が証明書の交付等をする際に、DV被害者等の登記簿上の住所が含まれている場合は、当該住所に代わる事項を記載しなければならないこととする。(注)上記イの改正は民法等の一部を改正する法律附則第1条第3号に定める日から、上記口及びハの改正は同条第2号に定める日から、それぞれ適用する。

2 市町村は、固定資産課税台帳に記載されている事項について証明書の交付等をすることにより、人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれがあると認められる場合等においては、一定の措置を講じた上で、証明書の交付等をすることができることを明確化する。

3 その他所要の措置を講ずる。(注)上記2及び3の改正は、令和4年4月1日から施行する。

 不動産取得税に係る登記所から都道府県への通知等 

1 登記所は、市町村に対して登記情報を通知した場合は、都道府県に対しても当該登記情報を通知しなければならないこととする。

2 不動産を取得した者が、その登記の申請をした場合は、都道府県に対する不動産取得税に係る申告又は報告を不要とするほか、所要の措置を講ずる。

3 上記2の場合においても、不動産取得税の賦課徴収に必要があると認めるときは、都道府県知事は不動産を取得した者に、不動産取得税の賦課徴収に関する事項を申告又は報告させることができることとする。

4 都道府県が住宅及び住宅用地に係る特例措置の要件に該当すると認める場合は、不動産を取得した者から申告がなくとも当該特例措置を適用することができることとする。(注)上記(4を除く。)の改正は令和5年4月1日から、上記①の改正は令和4年4月1日からそれぞれ適用する。

加工 法制審議会担保法制部会第3回会議(令和3年6月8日)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00070.html

資料

部会資料2-2 部会資料2の補足(第2、5関係)

部会資料3 担保法制の見直しに向けた検討(2)

委員等提出資料3-1 担保法制の見直しに関する意見】(冨髙裕子委員提出)

会議用資料  法制審議会担保法制部会委員等名簿

法制審議会担保法制部会第3回会議 議事録

第1 日 時  令和3年6月8日(火)自午後1時30分至 午後5時28分

第2 場 所  法務省第一会議室

第3 議 題  担保法制の見直しに向けた検討(1),(2)

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○道垣内部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会担保法制部会の第3回会議を開会いたします。本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。

○笹井幹事 新たにお送りしたものとしまして,部会資料2-2「部会資料2の補足(第2,5関係)」と部会資料3「担保法制の見直しに向けた検討(2)」がございます。これらにつきましては,後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。また,今回は,前回お配りした部会資料2「担保法制の見直しに向けた検討(1)」についても使用いたします。

  次に,事務当局から準備した部会資料のほか,委員等提出資料3-1として,「担保法制の見直しに関する意見」と題する一枚紙を配布しております。こちらは冨高委員から提出されたものでして,内容につきましては後ほど冨高会員から御紹介いただく予定です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  それでは,本日の審議に入りたいと思います。

  本日は前回の積み残しの物上代位のところからなのですけれども,委員等提出資料3-1というのが提出されております。冨高委員から提出していただいておりますけれども,全体に関わる事柄ですので,今日の個別的な問題に先立って御意見を伺えればと思います。冨高さん,お願いいたします。

○冨高委員 ありがとうございます。審議の冒頭,貴重なお時間を頂戴し,感謝申し上げます。本意見書は,既に基本的には今まで申し上げてきたことでございますが,この間,我々の傘下の組合などから懸念の声などもあることから,改めて意見書の形で提出させていただきました。

  まず,私ども,この部会に参加させていただく中で現場の声も聴いておりますが,実態として,特に中小企業が倒産する直前等においては動産や債権が譲渡担保として活用されており,在庫を処分することで労働者の賃金債権を確保するはずであったものが,担保とされてしまったために賃金債権回収がままならないといった事態が現場では多く起こっていると聞いております。

  1番に記載のとおり,2003年に成立しました「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」の衆参両院の附帯決議の中では,労働債権と他の債権との調整について,労働者の生活の保持に労働債権の確保が不可欠であることを踏まえて,検討して所要の見直しを行うことが決議されており,参議院の附帯決議にはILO173号条約の早期批准についても言及されています。先ほども述べたように,既にこの2回の部会でも述べておりますが,労働者の賃金債権は一般先取特権がありますけれども,担保や公課債権に劣後するので,賃金債権確保が容易でないことは先ほど申し上げたとおりでございます。したがって,この附帯決議に基づく見直しの検討は不可欠で,その議論を尽くした上で動産債権に対する担保権の設定に係る議論を行っていただきたく記載をしております。

  また,倒産等による未払賃金は,国の制度で未払賃金立替払事業もございます。しかし,この制度はあくまで国による賃金の立替え払いで,立て替えた後には当然のことながら国は使用者に対して求償を行いますが,実際には2019年の立替え払いの総額約86億4,000万円のうち求償によって回収された債権額は非常に低くなっております。これが今後,動産や債権にも担保権が設定されますと,さらに回収が難しくなり,この未払賃金立替払事業本体に与える影響も大きくなるのではないかと考えられます。既にご意見として出ておりますが,他の制度の波及,影響についても同時並行で検討していただきたく,改めて意見書として提出させていただいた次第です。ありがとうございました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。冨高さんからの御説明につきまして御質問がございましたら,お願いいたします。

  差し当たってはよろしいでしょうか。全体に関わることであり,例えば,倒産のときの担保権の効力を弱めると,それは一般債権者のためであると言ったりすることがあったりするのですが,一般債権者との関係だけでなく,他の権利者ないしは先取特権者とのバランスをどういうふうにしてとっていくのかという問題です。それは,各担保権の実体的効力を考える際に極めて重要な点だろうと思います。そういう点を個別的な場面の議論において念頭に置きながら進めていければと思いますので,そのときにも冨高さんからも更に補足的な御意見を伺えればと思いますし,また,皆さんにおかれましても,それを踏まえて御議論をいただければと思います。

  それでは,そういうわけで,全体のこととして扱わせていただくことにいたしまして,部会に基づく議論に入りたいと思います。

  まず,前回からの積み残しとなっておりました部会資料2「担保法制の見直しに向けた検討(1)」について議論を行いたいと思います。

  まず,事務当局から部会資料2の「第2 個別動産を目的とする担保の実体的効力」の5と6と,それを補足する部会資料として2-2というものが今回出ておりますので,それを説明していただくことにしたいと思います。

  2-2について私から一言申し上げますと,前回,物上代位の話をするに当たって,物上代位というのは,例えば担保の目的物が売却されたり,あるいは滅失したり,いろいろな場面に問題になってくるわけですが,そうなりますと,担保の目的物について,そもそも例えば売却権限があるのかとか,ないのかとか,売却したときにはどういう法律関係になるのか,そういうことの決定ないし議論を抜きにして物上代位について独立に語るというのは難しいのではないかという御意見を頂いた次第です。それは誠にごもっともであるとは思うのですが,かといって,それを確定的に決めてしまうということが現段階でできるわけではなく,その前に,物上代位一般についても意見分布といいますか,皆さんの御意見を伺うことも重要かと思います。そこで,前回の御指摘を受けまして,例えばこういうふうな実体的な効力というのが考えられるだろうというところを示し,それを踏まえながら,それについても意見ももちろんあっていいわけですが,主にはそれを踏まえながら,物上代位の問題について少し,第一読会といいますか,最初の意見の分布といいますか,皆さんの御意見を伺うということにしたいと思いまして,部会資料2-2というのを,補足として今回,事務局の方から提出していただきました。それも含めまして,その御説明をお願いいたします。

○笹井幹事 部会資料2の18ページ「5 物上代位」につきましては,前回既に御説明したところですけれども,少し時間も経ちましたので,簡単に振り返りたいと思います。

  現在の譲渡担保の物上代位につきましては,売買代金債権や損害保険金請求権に物上代位権を行使することができるというような裁判例があることを踏まえ,部会資料の5の本文においては,動産を目的とする担保権について,物上代位に関する民法304条と同様の規定を設け,その手続として差押えを必要とする,という提案をしております。

  本文の(3)は,物上代位を認めた上で,目的物の代償物がほかの担保の目的財産となっていた場合に,当該ほかの担保と物上代位との優劣について取り上げたものです。同様の問題は先取特権と抵当権についても既にある問題で,それぞれ判例がありますけれども,そこで示された優劣の基準が先取特権と抵当権とで少し異なっているということもありまして,仮に動産を目的とする担保権に関して規定を設けるとすると,どちらの方に倣った規定とするのか,見解が分かれておりますので,両論併記の形でお示しをしております。

  以上が5でございまして,次に23ページの「6 被担保債権の範囲」につきましては,質権に関する規定に倣って,被担保債権の範囲に関する民法346条と同じような規定を設けることを提案したものでございます。

  以上が部会資料2ですけれども,これに加えまして,今,部会長から御紹介いただきましたが,部会資料2-2を準備いたしました。

  これは,前回の御指摘を受けまして,設定者がどんなことができるのかということを検討したものですけれども,考えられることといたしましては,目的物の真正譲渡,それから,物上代位とは直接関係ないかもしれませんけれども,後順位の担保権の設定が考えられるところかと思います。担保取引としての実質からすれば,設定者による真正譲渡でありますとか,あるいは後順位の担保権の設定を認めてもよいのではないかとも思われますけれども,特に,担保目的での所有権の移転ですとか留保に関して規律を設けるというようなタイプの規定の設け方を念頭に置いた場合には,最初に担保目的での譲渡がされ,これについて対抗要件も具備されたという状況の下で,なぜその後に設定者が重ねて真正譲渡をしたり,あるいは担保目的で譲渡したりすることができるのかについて理論的にどのように説明するのかが問題になると思います。

  このほか,真正譲渡,それから,重ねて担保権の設定ということに加えまして,賃貸をするとか,あるいは物権的請求権としての妨害排除なり返還請求なりをする,これも物上代位とは直接は関係ないかもしれませんけれども,そういった物権的請求権の行使,あるいは不法行為に基づく損害賠償請求権などが問題になってくるかと思います。賃貸ですとか物権的請求権の行使,それから保険への加入などは,設定者がすることができるということでよいのではないかと思っておりますが,不法行為に基づく損害賠償については,御承知のように現在の譲渡担保について見解が分かれておりまして,特に担保目的での所有権の移転を規律するというタイプでの立法を考えた場合にどうなるのか,それは現在の譲渡担保と同様に考えるのではないかと思いますけれども,そこが現在,見解が分かれているという状況かなと考えております。

  私の方からは以上でございます。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  それでは,今の御説明を踏まえまして,5,6の,あるいは補足資料についてでもよろしゅうございますけれども,御意見を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

○亀井幹事 中小企業庁の亀井です。御指名ありがとうございます。

  まず,この物上代位の問題というのは,第1の3で論点提供された,どのような担保に関する規定を設けるのか,ですとか,担保の目的財産の範囲と関わる問題として検討されるものでしょうか。例えば,動産,その代金債権,そしてその果実といったものも含めて,あらかじめ担保権に取ることができるという制度を採った場合,この場合でももちろん物上代位というのがあり得ることは否定しませんけれども,物上代位の問題は,担保権はどのように設定できるのか,担保権を設定できる目的財産は,種類等を含めどのような範囲で取れるのかという問題と絡めて検討する必要があるように思いました。

  あと,もう一つ,部会資料2-2の「担保権設定者による行為の効力」の「1 設定者による目的物の譲渡」について,(1)が新しい担保権を創設する方式を採った場合,(2)・(3)が担保目的取引規律型を採る場合のことを述べられていると理解をしておりますけれども,(3)については,この新しい担保物権を創設する方式を採った場合についても検討する必要がある論点のように思いました。具体的に言うと,この即時取得の適用の可能性について,譲受人が善意無過失である場合には即時取得できるのだと,取引をした方は,担保が付いていないものを取得できるのだというような御説明がありますけれども,これは中小企業庁の研究会でも議論になったテーマでして,事業の範囲外でお取引をした場合には,この譲受人が,登記なのかファイリングなのかは分かりませんけれども,この担保に取られているかどうかを確認しない場合には過失が推定されるというような制度にすべきではないかというような議論がありました。事業を担保に取った場合に,その担保権者を保護するという趣旨で,そういった制度を採用すべきではないかという議論がございましたので,是非そういった点についてもこの場で御検討いただけたらと思います。

  私からは以上です。ありがとうございました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。2番目のところの御意見につきましては,処分の効力というのを考える際にもう一度検討したいと思います。前半におっしゃった事柄なのですけれども,それは,例えば,処分した売却代金債権でもいいですし,不法行為に基づく損害賠償債権でもいいですし,保険金請求権でもいいのですが,それについて担保を設定できるというふうにしたら,別段,物上代位は要らないのではないかということを示唆されている御見解なのでしょうか,それとも,そういうのもあるから,それとの関係を考えなければいけないよねというお話なのでしょうか。

○亀井幹事 ありがとうございます。前者か後者か,もちろん広い範囲で担保を設定できるようになれば,物上代位をするシチュエーションというのが想定されにくくなるということを申し上げたつもりですけれども,担保の設定の仕方によっては物上代位という場面も想定され得るとは思いますので,広く担保を設定できる制度を採ったから物上代位について検討する必要はないと申し上げたつもりはありません。

○道垣内部会長 分かりました。今,お手がもう一人上がっていたのですが,どなたでしたっけ,御発言いただければと思います。いや見間違いかもしれませんので,他の方でも御自由にお願いします。

○沖野委員 物上代位について3点を申し上げます。一つ目は,物上代位を認めるということ自体は,基本的にそれで結構だと思っております。二つ目ですけれども,(3)に関しまして,競合する場合に二つの考え方があり,いずれの考え方もあると思うのですけれども,さらに,その元物についての公示制度,特に登記ですとかファイリングということを想定したときに,それと債権を対象とする登記制度なりファイリングなり,あるいは優先関係の決定なりが同じもので行われるのか,それとも別の登記なりの制度になるのかということによっても違ってくるのではないかと考えられるように思います。

  両者がそれぞれ別であるときは,やはり公示力が抵当権の登記ほどにはないというのは,ここに書かれているとおりですし,そうしたときに自衛すればいいのだと考えるとすると,元の動産を取っているものが,それが代わりの債権になったときにそれにも及ぶという合意をし,それについて対抗要件等を備えるということと,これに対して,債権を取る者が,その債権の原因に遡って,その原因になり得るような関係を想定しつつ元の方も取っておくということと,どちらが期待できるのかということを考えると,前者の方ではないかと考えられますことから,格別の登記制度などであれば,【案2.2.5.1】の形がよろしいのではないかと考えておるのですけれども,これが同一の登記等の制度であるならば,債権を取ろうとする者はいずれにせよチェックする,もちろん取引前には自身では詳細までは分からないわけですが,譲渡を受けようというような場合については当然,設定者や債務者から具体的な情報を出してもらうことになりますので,それを通して詳細をチェックしてから,競合するものがないかというのを確認して取るということでしょうから,そうすると当然,その前にあるものが出てきますので,後から来る人は登記等でチェックできるはずだと考えれば,【案2.2.5.2】ということも十分あり得るのではないかと思ったところです。

  もう1点なのですけれども,これは細かいことですけれども,賃料について,賃料や収益にも掛かっていけるということで,これもよろしいのではないかと思っておるのですけれども,22ページのところに,本文(1)の賃貸というのが墨付きパーレンで入っている点についてです。これは賃料なり収益なりに掛かっていける,その根拠規定をいずれと考えるかによって違ってくるからだとされております。その限りではそうかなと思うのですけれども,最終的な形態を考えると,304条型の規律で,具体的には(2)の規律なども入ってくるとしますと,結局(2)の規律を導くためには,それに賃貸が入ってくるというようなことは書かざるを得ないのではないかと,そういう意味では(1)の,このような表現の中には結局,賃貸も入れることになるのではないかと思ったところです。

○道垣内部会長 ありがとうございました。最初におっしゃったのは,結局,同一のファイリングないしは登記のシステムだったならば,債務者を基準にして検索を掛けたら,こういったタイプの動産が担保に取られているというのが分かるので,それの売却代金債権についても及ぶのだということがわかる,つまり,債務者から検索をすれば分かるだろうと思われるが,それに対して,債権を担保に取ろうとか譲渡を受けようという人に対して,債権とは別個の動産のファイリングシステムまで検索しろというのには,多少やはり無理があるのではないかと,そういう話ですね。

○沖野委員 はい,そういうことです。

○道垣内部会長 ありがとうございました。ほかには何か御意見はございますでしょうか。

○片山委員 片山でございます。貴重な時間をお与えいただいてありがとうございます。前回のときもお話ししたことと関係するのかもしれませんが,目的債権の処分との優劣関係の問題で,(3)の【案2.2.5.1】か【案2.2.5.2】かという話で,対抗要件具備といいますか,登記時が基準になるということなのですけれども,これは賃料債権への物上代位の平成10年判決が示しているものでありまして,原則として物上代位をすること自体は,差押えを要求しておりますので,その差押えが基準になると考えるべきではないかと私自身は思っております。要するに,物と違う債権について効力が及ぶというのは,これは物上代位をして始めて効力が及ぶということで,そのためには差押えが要件となっているということなのだと思います。

  それと反対に,賃料債権については,平成10年判決の段階ではまだ改正はなされていなかったわけですけれども,それを正当化できるとしたら,やはり371条が平成15年改正で導入されて,賃料にも抵当権の効力が及ぶということが大前提となるので,それが登記されているということであるならば,その登記時が基準になるということなのかと思っています。そういう意味で,物上代位が物以外の権利に広く及ぶということについて,公示がなされているので全て登記時基準にしてよいということにはならないのかなと考えているところでございます。

  仮にその果実について,賃料については担保権の効力が及ぶということが,明確に別な規定を設けて認められるということであるならば,それはまた別に考慮することができるかもしれないのですけれども,それでもなお差押えを基準とすべきだという考え方は十分に成り立つかとは思いますので,直ちに【案2.2.5.2】になる,対抗要件具備時を基準にできるということにはならないのではないかと考えている次第でございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。片山さんの話を私の理解したところでまとめますと,例えば動産について担保権が設定されていると,それが公示されているというのが,それを売られたときの債権についても及んでいますよねという公示を直接に示していると考える,債権についても同一の登録制度にそれが載っているということになるならば,そういうふうに考える余地もあるということなのだろうと思うのですが,他方で,そうではなくて,これは飽くまで物上代位で,動産について設定されている担保権の効力が別のところにも及んでいくのだと考えたら,それはやはり差押えによって効力が,公示がなされるといいますか,ということになるので,差押えを基準に優劣を考えなければいけないということになるのだろうと思います。つまり,言い換えると,ここにいう物上代位というのが,いわゆる抵当権の物上代位と同じ話なのか,それとも,動産の担保権の効力がどこまで及ぶというふうなものとして構想していくという話なのかということにも関わっているのかなという気がいたしましたが,いずれにしても,それは議論のあるところだと思います。

○大澤委員 大澤でございます。先ほど沖野先生から,賃料の物上代位のお話が少し出ましたので,その観点で少しと思いました。

  担保法のレベルでいえば,収益との関係で賃料にも物上代位が及ぶというのは十分理解はできるかなと思っておるのですが,実際に今度は包括執行になった倒産の場面では,また別途の考え方が必要かなとも考えております。というのは,破産管財人等が担保権に基づく,抵当権その他ですけれども,物上代位で,賃料なり何なり,その収益を吸い上げられてしまっている一方で,一般債権者の負担において管理をしなければいけないというのは問題が生じるというのは,随分前から言われていることでございまして,この点は多分,別途,倒産法のお話が大分後ろで出てきますけれども,その際にその費用の問題として語られる場面でもあるかなと思ってはおるのですが,その費用の問題だけではなくて,そもそもそういった物上代位をいつまで認めるのかと,倒産法との関係で少し考えるべきではないかというふうに,今この資料の方を読んで,感じております。

  簡単ではございますが,以上です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  いろいろな方からも御意見いただきたいと思いますので,青木則幸さん,お願いいたします。

○青木(則)幹事 ありがとうございます。1点気になっていることなのですが,こちらは物上代位の目的,客体なるものであっても,別途,将来債権の譲渡担保という形で取ることはでき,そのときの将来債権の譲渡担保の特定の中身が動産の物上代位の客体と全くかぶっていても,それは差し支えないということでよろしいのでしょうか。というのは,物上代位であれば差押えが必要だけれども,恐らく将来債権の譲渡担保であれば私的実行も可能ということになるのかと思いますので,この2つは両立する別の制度だということでよろしいのでしょうか。そうだとすると,包括担保というものが認められるということになった場合には,包括的な目的物なのだから,その将来債権の譲渡担保の部分を優先するという形に整理されていくことになるのでしょうか。この関係についてお伺いしたいと思います。

○道垣内部会長 お伺いしたいというよりは,青木さんがどのように考えるのかの方が重要だろうと思うのですけれども,先ほど私が申し上げた事柄になるのだろうと思うのですけれども,ここでいうかぎ括弧付きの物上代位の対象となる債権であっても,それについて譲渡をしたり,あるいは担保権をそれについて設定したりすることを禁ずるということはできないのだと思うのです。そうすると,後から担保に取ったり,後から譲渡を受けたりした人が負けるというのはあり得るだろうと思うので,それは,どちらですかというよりは,勝ち負けをどちらにしますかという問題に収斂されるのではないかと思いながら伺っていたのですが,それは青木さん,私の理解の誤りでしょうか。

○青木(則)幹事 すみません,「手を挙げる」のボタンを押したタイミングの問題でお話と重なってしまったように存じます。申し訳ありません。整理していただいたとおりかと存じます。ありがとうございます。

○道垣内部会長 どうお考えになりますか。

○青木(則)幹事 基本的には,包括担保の目的物の問題だと考えるべきではないかと思っておりました。物上代位の規定を強行法的な形で広げていくと,そちらに飲み込まれてしまうといいますか,一種の競合が生ずるのかなと思っております。個人的には,なるべく物上代位の方に飲み込まれない方向,特に売却代金債権については飲み込まれない方向が望ましいのではないかと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。ほかに御意見はございますでしょうか。

○藤澤幹事 前回の会議のときに,設定者の処分を取り上げた方がいいのではないですかとか言ってしまったような気がして,それで,すごく緻密な資料を頂いて,すごく申し訳ない気分になっております。すみませんでした。せっかく頂いたので,その資料2-2についてコメントを二つ考えてきました。

  物上代位とは関係なくなってしまうかもしれないのですが,一つ目が,設定者による処分行為の効力についてです。資料は,担保設定者が目的物を処分した場合には,処分の相手方に設定者留保権的なものが承継取得されることを前提にしているように読めましたが,その前提を確認しておく必要はないでしょうか。

  第1の確認事項は,処分行為の解釈です。担保目的物の完全な所有権を移転する目的で処分行為が行われた場合に,本当は完全な所有権がないにもかかわらず,設定者留保権的なものだけが当然に移転することになるのかという疑問を感じました。自分がどのように考えるか固まっているわけではないのですが,単なる無権限の処分行為であるとして,何も移転しないという考え方はあり得ると感じました。

  第2の確認事項は,今度は設定者留保権的なものだけを移転するという合意があった場合についてです。担保権者と設定者との間で,設定者留保権的なものを移転してはいけないという合意があった場合には,その合意に反した処分が無効なのか,それとも,その合意は債権的な効力しか持たず,処分が有効なのかというところをもう少し考えてみたいと思いました。

  それから,二つ目のコメントは物権的請求権についてです。資料2-2の3ページのところで,物権的請求権がどちらに帰属するのかという問題が提起されていまして,もちろんそれは重要な論点であると思ったのですが,所有権についても,それ以外の制限物権についても,民法には物権的請求権の規定はなくて,解釈に委ねられている状態だと思います。そうすると,今時の立法についてだけ物権的請求権を明文化するということは難しいような気がしました。

  他方で,賃貸借については債権法改正に際して605条の4の規定が設けられていて,賃借人として何ができるかということがはっきり書かれるようになりました。担保取引規律型を採る場合には,その権利の性質が物権なのか,どちらが所有権を持っているのかということに立ち入らないで,このように設定者ができること,つまり,結論だけを書いてしまうというのが,その立法の姿勢とも整合して,分かりやすいのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○阿部幹事 私も,藤澤先生の第1のコメントと少し関わるところで疑問を持ったのですけれども,資料2-2の1(2)の冒頭のところで,担保目的取引規律型を採るとしても,設定者が目的物の真正譲渡をする必要がある場合もあると考えられ,その余地を残しておくのが妥当であるように思われると書いてあるのですけれども,これが具体的にどういう場合なのかというのが私にはよく分かりませんでした。取り分け,ここで念頭に置かれているのは,はっきりとは書かれていないですけれども,設定者が担保権者に無断で目的物の真正譲渡をする必要がある場合だと思うのです。つまり,担保権者の合意を取った上で目的物を真正譲渡することができるというのは当たり前で,その場合に担保権が残るか残らないかというのも合意次第だと思うのですけれども,ここで念頭に置いているのは,そういう担保権者の合意を得て目的物を真正譲渡する場合ではなくて,設定者が自分の一存で何ができるか,そういう議論だと思うのですけれども,そのときに果たして無断譲渡する権限を設定者に認める必要があるのでしょうか。確かに抵当権の場合には,抵当不動産の言わば無断譲渡をする権限が設定者に認められているわけなのですけれども,こと動産の担保権設定者にそこまで認める必要が本当にあるのかどうか,実際にあるとすれば,それはどのような場合なのかを伺いたいと思いました。

○道垣内部会長 いや,結構なのですが,それについて,それは認めるべきではないというお考えならば,そう言っていただければ。

○阿部幹事 そうなのですけれども,ただ,資料ではその必要がある場合もあると書かれているので,それはどういう場合を念頭に置いているのかを伺いたく思いました。

○道垣内部会長 阿部さんはそれに反対だけれども,必要がある場合もあるというのはどういうことなのだろうということですね。

○阿部幹事 はい,そういうことです。

○道垣内部会長 事務局から何かありますか。

○笹井幹事 まず,阿部先生の御質問につきましては,例えば,非常に高価なもので,いろいろ資金繰りも悪くなってきたので,担保価値の余力がある部分に関してはお金に換えたいと,そういう場面があるのではないかとか,事業全体も譲渡することになったが,譲渡される財産の中に譲渡担保権が設定されていたものがあって,しかしもう自分としてはその事業から手を引くので,事業の譲受人に完全に譲り渡してしまいたい,ただ,担保権の負担はくっついていく形で譲り渡してしまいたいというような,そういうケースがあり得るのではないかと思った次第です。

  それから,藤澤先生の一つ目のコメントですけれども,完全な所有権として譲渡したつもりだったのだけれども,そのときに実は完全な所有権でなかった場合に,どの部分で移転するかというのは,これは結局,最終的にはその契約の解釈によってくるのかなと思いました。あるいは,所有権そのものと設定者留保権と呼ばれているものの同質性というか,それを全く違うものとして捉えるのかというところとも関わってくるかもしれません。いずれにしても,契約としては成立しているのだとした場合に,どういう契約が成立したかというと,それは完全な所有権を移転するという契約が成立していたのだと見た上で,しかし,譲渡した側がその履行をできなかった場合には,それは債務不履行として処理されていくのではないかと思います。それ以前の問題として,そもそもそれは契約として成立していないのだという立場もあるかもしれませんが,差し当たりは債務不履行として処理されていくのではないかと考えておりました。

  それから,二つ目の,設定者留保権を移転してはいけないという合意が仮にされていた場合のことですけれども,これは,今ここで考えたことですけれども,それは恐らく債権的な合意で,物権的なものとして設定者留保権を捉えるならば,その移転を禁ずることは債権的には有効であるとしても,それが第三者に譲渡されて対抗要件が具備された場合には,譲り受けた人に対しては対抗できないということになるのではないかと思います。

  全体の二つ目としてのコメントで,物権的請求権を明文化するのは難しいのではないかというのは,これは御指摘のとおりだと思います。2-2は設定者が何ができるかということを検討するに当たって全体的に考えてみたということで,そういう意味では頭の整理ということで,必ずしも明文化を意図してこれを作ったというわけではございません。

○道垣内部会長 よろしいでしょうか。

○佐久間委員 ありがとうございます。今,阿部さん,藤澤さんがおっしゃったことと,笹井さんがお答えになったことに関してなのですけれども,まず,阿部さんがおっしゃった2-2の1ページの(2)のところなのですけれども,私はこれは素朴に3行目の,設定者が担保所有権の負担のあるものとして目的物の真正譲渡をした場合というのは,担保所有権の負担のあるものとしての譲渡だから,今でいう,いわゆる設定者留保権をそれとして譲渡し,結局,この譲受人は第三取得者になっているという場面が想定されているのかなと思いました。そうだとすると,阿部さんは認める必要はないとおっしゃったのですけれども,どのぐらいニーズがあるのか私も分かりませんが,譲渡担保を例えば念頭に置きますと,譲渡担保権者は優先弁済の権能さえ確保されていればよろしいはずで,そうであるときに,誰の下に占有があるかとか,誰がどのように物を使うかということに関してまで介入できるようにする必要はないのではないかと思ったものですから,私は別にこれ自体としては認められてもよいのかな,繰り返しですけれども,担保所有権の負担のあるものとして譲渡しましたというときは,それはそれでいいのかなと思っておりました。

  しかし,そうではなくて,ここからが藤澤さんがおっしゃったことに笹井さんがお答えになったことに移るのですけれども,単純にこれは私が完全な所有者ですという形で物の譲渡が行われたというときには,それで本当に何か権利が移るのか,移らないのかというのは,いろいろな立場がやはりあり得るのだろうと思いました。そのときに,私は,それがいいと思っているわけではないのですけれども,立場によっては,藤澤さんがおっしゃったように何も権利は移らないということはやはりあり得るのではないかと。少し例は違いますけれども,地上権者が自分が所有者として土地を売買したというときに,では地上権だけ当然に相手方に移りますかというと,多分そうは考えていないのではないかと思うのです。所有権に負担が付いているというときに,所有権は取得できるけれども,負担がくっついていますということはありますけれども,全く別の権利が,所有権でない権利が売買によって相手方に取得されるということは考えられていないのではないかと思うのです。そうだとすると,ここの設定者留保権と今まで呼ばれてきたものが,例えば所有権の一種であると捉えようということになったのであれば,真正の売買の場合には,所有権自体が移り,しかし担保権の負担が付いていると整理はできると思うのですが,そういう整理をしないということになると,売買をしたって何の権利も移らないと考えることになるのではないかと。そうすると,笹井さんがおっしゃったことに関連するのですが,債務不履行の問題はもちろん起こるのですけれども,債務不履行の問題が起こるという前に,そもそも物権が何がしか相手方に移っているものがあるのかどうかということを考えなければいけなくて,それは結局のところ,譲渡担保が例えば設定された場合に,その設定者が持っている権利を,所有権と呼ぶかどうかはともかくとして,所有権と同じような権利を持っているのだと最終的に見るか見ないかというところで,結局変わってくるのかなと,そこを決めないといけないのではないかと思いました。

  もう1点ありまして,戻って申し訳ないですけれども,物上代位のところで,前回いろいろ発言したので,同じことを言おうとは思わないのですが,本日の物上代位に関して出てきた意見では,18ページの(3)のところで,【案2.2.5.1】と【案2.2.5.2】があるところ,どちらかというと【案2.2.5.1】の方が優先なのではないか,取り分け物の売却代金債権について,同じ債権を担保に取った人がいた場合には,シチュエーションを分けて御発言もありましたけれども,債権の譲渡の方が勝ってもいいのではないかという話がありました。飽くまでこれは登記の制度とかファイリングの制度がある程度できるということを前提としてなのですけれども,そのような制度ができた場合には,物の売却代金債権を担保に取ろうという人は,何が価値の源であるかということは認識しているはずであるので,その自分の債権の価値を生み出す元になる物に関して誰かが先に優先弁済の権能を押さえていないかどうかということを,登記とかファイリングを通して確認すべきだということは,私はあってもいいのではないかと,そのような立場を採ることがあってもいいのではないかと思っています。それでないと,先ほど道垣内先生がおっしゃったことですけれども,物を担保にせっかく取ったのに,債権を担保に取るという形で現れた人がいたら,結局物を担保に取ったということの意味がほとんどなくなってしまうおそれがあるのではないか。それが嫌ならば債権の方も一緒に取っておきなさいというのは,それは言うのは簡単ですけれども,全ての債権者にそこまでのことを簡単に期待できるかというと,なかなか難しい局面もあるのかなと思いましたので,私はそのように考えております。

  以上です。長くなりまして申し訳ありません。

○道垣内部会長 いえ,どうもありがとうございました。佐久間さんの話に一言だけ申し上げますと,占有がどこにあるのであっても優先弁済を確保できればいいと,それは違うのではないかと思います。抵当権の場合には占有が動かないですから,不動産登記簿提出して実行できるわけですけれども,動産の担保を実行するときに,所在がどこにあるのかというのが重要になり,所在場所が動いても実現できるということにはならないのではないかなと思います。そして,そうなると,阿部さんがおっしゃったように,処分自体がそもそも駄目だというのはあり得るのではないかなと思いながら伺いました。それと,そのときに後順位というものを認めるというのは多分に話が違って,後順位というのは占有が移っていかなくて,債務者にそのままある,設定者にそのままあるというのが前提になるので,処分と大分性格が違うのではないかという気がしましたが,そういう反対論もあり得るというだけで,別に私が今ここでそうだよと決め付けているつもりではありません。それでは,次に,阪口さん,お願いします。

○阪口幹事 阪口です。先ほど来出ている部会資料2-2のところに関して,設定者の権利については,設定者留保権とかいろいろな法律構成が言われているわけですけれども,実務的に考えると,やはりそれは,一言で言うと,申し訳ないけれども,所有権なのだと思うのです。譲渡担保権が最初から,担保構成なのか所有権構成なのかでずっと議論がされているわけですけれども,今回,担保目的取引規律型という法律構成で大きなスキームを立てるというのは,飽くまでキャッチオールするためであって,やはりそこは担保であるという性質は,どこまで行っても残っている筈です。ただ,その担保のために形式上の所有権が移っている。所有権は確かに移っているのだけれども,日弁連のバックアップ会議で出た表現だと,機能としての所有権は一部残っているということです。端的に言うと所有権は分属しているのだというのが実務的な感覚なのだと思うのです。

  ここは,担保権のことを考えているから,担保権者が何ができるかの局面を考えているけれども,譲渡担保って別に実行されなければ,対象物はずっとそのまま設定者に本来どおり残っているだけの話です。だから,設定者留保権とか,いろいろな議論はあるけれども,やはり設定者は所有権者でもある,その形式は移転しているのだけれども,実質としては所有権者であるというところは否定できないのではないかなと思います。そこを否定してしまうと,もう,まず実態に合わないというのが正直な感覚ですし,法律構成的にもかなりいろいろ難しくなってくるのではないのかと思っています。その結果,設定者は一切動かしては駄目ですよみたいな合意は,僕は債権的合意にすぎないだろうと思いますし,所有権者が真正譲渡したときに譲受人に何も移らないということは,法律論としてはあり得るかも分からないけれども,実態には合わないのではないのかなというのが実務家の感覚です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○井上委員 ありがとうございます。今,阪口幹事のおっしゃったことと余り変わらないのかもしれないのですけれども,2-2についてですが,担保目的取引規律型を考えるときは,担保目的で所有権を移転した場合には,その目的の限度で所有権が移転するというのでしたっけ,そういう発想になりますので,結局のところ,所有権の中に担保目的で移転する部分,これをA部分として,担保目的では移転できない,あるいはしない部分,設定者留保権と呼ばれたりする部分かもしれませんが,これをB部分とすると,1ページ目に書いてある,「設定者が担保所有権の負担のあるものとして目的物の真正譲渡をした場合」というのは,B部分の譲渡と考えるということだと思います。B部分も一種の所有権,負担付きの所有権であって,「場所を動かしてはいけないよ」とかいうのは,債権的には当然,担保権者として要求することだけれども,物権としては,設定者は所有権の一部分を持っていると考えるのかなという感じがします。

他方で,後順位の担保権の設定が2ページに書いてあって,2ページの下の方に,設定者留保権というのですか,設定者に残されたものが後順位担保権者に移転すると考える場合の難しさが書いてあるのですけれども,私はむしろ,先ほどのB部分(設定者留保権)は担保目的で移転しない部分なのですから,後順位担保権者にもそこは移転しないものと,そこはずっと設定者に残って,むしろ担保目的で移転する部分ですね,担保の性格をまとった部分,すなわちA部分こそが,担保的な性格を持つわけですから,二重,三重に移転されると考えるのではないでしょうか。A部分は,担保的な性格をまとっているわけですから,最初に対抗要件を備えた人が全取りするのではなくて,対抗要件具備の順に順位が決まっていくという説明の方が分かりやすい気がします。つまり,第1順位の人に移転した残りの部分を第2順位の人に移転するというよりは,基本的には担保目的で移転できる部分が担保権者に行き,それが後順位担保権者にも二重,三重に担保目的で移転され,担保ですから,その対抗要件なり担保ファイリングの順に順位が決まると説明し,逆に,B部分,設定者留保権は,A部分に担保を何重に設定しても設定者が持ち続けて,それも一種の所有権であって,ただ担保の負担付で真正譲渡されることもあり得るというような,そんなイメージの方が分かりやすいように思いました。

  単なる説明の問題かもしれませんが,以上です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。佐久間さんからもう一度御意見いただいておりますので,お願いします。

○佐久間委員 度々すみません。今,阪口先生,井上先生がおっしゃって,私も実はそのように考えています。というのは,2-2の2ページのところで,担保目的取引規律型の場合に,例えば,実質的には第1順位の担保権者,第2順位の担保権者,第3順位の担保権者というようなものを,まず認めるか,認めるときにどういう理屈を採るかという話が出ているのですけれども,理屈は分かりません,分かりませんが,私は第1順位,第2順位,第3順位は,これは認める方がもう絶対いいと思っており,その認める際には,先ほど井上先生がおっしゃった,設定者留保権と呼んでいるけれども,実質上はやはりそれは所有権であって,担保目的の所有権として債権者に与えられるのは,担保目的取引規律型を採ると,所有権を移転する形式を採った契約をしていてということだから,所有権が移っているように見えるのだけれども,実際は担保権にすぎないという,そういう考え方で規定を設けていく方がいいのではないかと思います。

  そうすると,新たな担保物権を創設するのとどこが違うのだという話に,ひょっとしたら,なるかもしれないとは思うのですが,担保物権を新たに作って,債権者が取得するのはその担保ですというふうにやると,何度も繰り返し出てきている話ですけれども,それとは違う形式で契約をされたときに規律が及ばないということが起こり得るので,担保目的取引規律型を採りつつ,しかし,そこで移ることになると言われている担保目的の所有権は,やはり実質的には担保として処遇すれば十分なものなのであると。担保の目的でそれを処遇すれば十分なのだとすると,その所有権に当たる権利は,突き詰めて言えば,誰が持っているようにして制度を組んでいくのかというと,設定者がなお持っているということで制度を組んでいくということが,私はいいのではないかと思っています。

○道垣内部会長 ありがとうございました。物上代位の問題の前提として2-2というのをお配りしたつもりなのですが,2-2プロパーのことに議論が盛り上がってしまっております。ただ,片山さんからは既に挙手を頂いておりますので,片山さん,お願いいたします。

○片山委員 すみません,と言われながらも2-2の話で申し訳ないのですけれども,担保目的取引規律の基本的な考え方ということなのでしょうけれども,やはり新たな制限物権を作るということではなくして,所有権の移転を前提とする担保権を考えていくということですので,そこのやはり違いというものがあっていいのではないかとは思っています。というのは,やはり担保目的取引規律の場合は,当事者が所有権を移転させるという合意をしていることが大前提となっていて,それを前提として,どれだけ担保目的で規律できるかということですので,やはりその実際のニーズがきちんとあるということが大前提になるのだと思います。ですから,例えば後順位担保権の設定は認める必要があるということであるならば,それは法律構成の如何にかかわらずそれを認めていくという立法をすべきだということになると思います。ただ,担保目的ということによって全て制限物権と同じような効果が認められるということではなくして,やはり担保目的取引規律の出発点にあるのは,所有権を移転させるという当事者の合意が大前提としてあるということで,それを出発点として,制度設計化していくかということを議論していくということではないかと思っております。

○道垣内部会長 水津さん,手が挙がっておりますが,物上代位の話であるということを祈りながら,水津さんを当てたいと思います。水津さん,お願いいたします。

○水津幹事 物上代位の話です。これまでの議論で述べられた意見のうち,2点について意見を申し上げます。

  第1に,担保権者は,代位目的債権そのものについて,担保権の設定を受けることができる以上,物上代位の効力は,弱めてもよいという視点が示されました。しかし,これと同じことは,約定担保物権に基づく物上代位すべてについて,あてはまります。そのため,上述の視点を強調して,新たな担保権について物上代位の効力を弱めるルールを設けるときは,現行の約定担保物権に基づく物上代位の解釈についても,その影響が及ぶこととなりそうですので,注意をしたほうがよいように思いました。

  第2に,平成10年判決は,抵当権に基づく物上代位と債権譲渡との優劣について,代位目的債権が賃料債権であることに着目して,抵当権設定登記がされた時を基準としてその優劣を判断する考え方をとったものであるという理解が示されました。この理解によると,抵当権に基づく物上代位と債権譲渡との優劣について,代位目的債権が損害賠償請求権や保険金債権であるときは,物上代位による差押えがされた時を基準としてその優劣を判断する考え方がとられることとなりそうです。しかし,この考え方は,あまり一般的なものではないように思います。そのため,上述の理解を基礎として,新たな担保権に基づく物上代位についてルールを設けることには,慎重になったほうがよい気がいたしました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。ほかに御意見はございますでしょうか。

  いろいろ御意見いただきましたが,物上代位は否定すべきであるという意見そのものはなかったような気がいたします。ただ,事業担保との関係において,事業担保というものを重要であると考える,亀井さん,青木さんはそうなのかもしれませんが,そのような見解からしますと,事業担保として債権まで取得した人が物上代位の権利者に勝つというふうにしなければ,なかなか事業担保の方がうまくいかないのではないかという御意見が出されるとともに,他方では,取り分け同一のファイリングシステムにおいて公示されているということになれば,動産担保が先に設定され,対抗要件が具備されているならば,そちらの方が,例えば売却代金債権に対しても勝つということもあり得るだろうというのも一つの考え方として示されたかと思います。さらには,そのときに,動産担保の効力が当然に及んでいくのだとして,効力の当然拡大として物上代位目的債権についての効力を捉えるのか,それとも,やはり飽くまでそれは物上代位という特殊な,本来の目的物ではないものに対して特別に効力が及んでいると考えるのかという分かれ道があり,片山さんは,物上代位は物上代位だという前提の下に,やはり差押えがあって初めて地位が確保されるということではないかという御意見だったかと思います。これらを踏まえて更に整理をする必要があるのだと思いますけれども,何か本日のところで更に御発言がありましたらと思いますが。

  よろしいでしょうか。それでは,若干時間も超過しておりますので,続きまして,被担保債権の範囲について,何か御発言がありましたら,お願いします。

○鈴木委員 ありがとうございます。被担保債権の範囲で,少し事務局さんに確認をさせていただければと思うのですが,23ページの35行目,保存費用を被担保債権に含めないという提案について確認させていただきたいと思います。ここでの議論は飽くまで個別動産を対象としているケースであって,集合動産については別の提案があるのかという点です。担保研究会の報告書では,集合動産についての被担保債権の範囲という見出しは見当たりませんでしたので,少し確認させていただければと思います。というのも,在庫担保などの集合動産においては,実務の中で保存費用のようなものが,立替えが発生したりするケースがしばしばあるように思いますので,債権者としては保存費用は被担保債権に含めたいということになります。民法上の保存費用がどこまで入るのかというのも含めてなのですが,例えば冷凍マグロを担保としている場合であれば,冷蔵倉庫の賃料とか電気代を立て替えて担保物権の価値を維持する,そんなケースもあるようには思うのですが,その辺りはいかがでございましょうか。

○道垣内部会長 笹井さんから何かお返事があれば。

○笹井幹事 実務的にどういったものがあるか教えていただければと思いますけれども,今おっしゃったような冷凍マグロの冷蔵庫の費用ということであれば,基本的には想定しておりましたのは,冷凍マグロは設定者がずっと保管していると,その際に,基本的にはその冷凍マグロの冷蔵庫の費用についても設定者が支出しているので,そういう意味で,債権債務関係が生ずることがあまりないのではないかと考えておりました。ただ,それが違っている,むしろ担保権者といいますか,譲渡を受けた側が費用を負担していることも結構あるということであれば,またそういった実務につきまして教えていただければと思います。

○道垣内部会長 これは抵当権の場合には,抵当権の目的物である土地が崩れそうで,したがって抵当権者の権利がそれによって台無しになる可能性があるということで,しかし債務者にはお金がない,そこで抵当権者がお金を払って土地の崩落を何とか防ぐという工事をしたとします。このとき,その費用は抵当権の被担保債権には入ってこないのですね。入るとするならば,それは保存費用の先取特権が別個にあるかという問題であって,しかるに,同じく非占有担保という形式のときに,こちらの方にはそれを含めるということが,実務的にそういう状況があるというのは分かりますけれども,どこまで正当化できるかということを更に考える必要があるのかなと思いますが,それは実務の状況も十分にお教えいただきながら,更に検討させていただければと思います。

○阪口幹事 阪口です。6番は被担保債権の範囲と書いてありますが,根担保の問題,被担保債権の根ですね,が書かれていないのです。第1回のときに配られた参考資料1-1のいわゆる研究会報告書では,この被担保債権の範囲の次の項目として,その他という形で根担保の問題が書かれていました。根担保の,特に確定のところは,特に集合動産をイメージした場合にはかなり重要な規定になるのだろうと思っています。ただ,それは多分,対抗要件制度とかとの兼ね合いがあるので,今の段階では,具体的に根担保,被担保債権の範囲が根になった場合の処理のことまでなかなか議論しにくいのだとは思うのだけれども,二読の段階では少しずつでも出していただかないと,そこが決まらないと,またほかのことも決まりにくいということもあるのではないかと思っていますので,よろしくお願いします。

○道垣内部会長 そういうふうな方向だろうと思います。ほかに御意見はございますでしょうか。それでは,申し訳ございませんが,先に進めさせていただきまして,部会資料2の「第3 債権を目的とする担保の実体的効力」というところの議論をお願いしたいと思います。事務局におきまして部会資料の説明をお願いいたします。

○笹井幹事 部会資料2の24ページを御覧ください。債権を目的とする担保の実体的効力の部分ですけれども,前回,動産につきまして御議論いただいたものと同じように,設定者の債権者が目的債権を差し押さえた場合にどういったことができるかという問題ですとか,担保権者が目的債権を処分することができるかといったような問題があるのではないかと思いましたので,そういった部分について言及をしております。ほかに,債権についてどういう規定を設ける必要があるのかを含めて御議論いただければと思っております。

○道垣内部会長 この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

○山本委員 設定者の債権者が差し押さえた場合とかにどういう対応をとるかというところで,基本的には今回は動産の担保と同じような規律,つまり第三者異議ができる,配当要求ができるということが提案されているのではないかと思います。そのこと自体,私は特に,それでもいいのではないかとは思っているのですが,一つ考えないといけないのは,債権質との関係だろうと思っておりまして,御承知のように債権質については現在,配当要求はできないという考え方だと思います。それは,質権については直接取立権が認められているので,配当要求,要するに質権者には差押えされても影響しないというところから,特段配当要求を認める必要はないという考え方に立っているのだと思うのですが,今回の新たな担保もその点においては同様のような気もするのですけれども,ここで配当要求を認めるということが債権質にどういう影響を及ぼすのか,債権質と何らかの形でディスティンギッシュできるのか,あるいは債権質にも配当要求を認めるという形で転換するのかといった辺りは問題になりそうな気がします。

  第三者異議については,現在も通説は,第三者異議を認めると,直接取立権に一定のやはり制約が掛かるので,第三者異議ができるという立場が多いのかなと思いますが,しかし,それについても最近,有力な疑問を唱える見解も出されているように思いますので,そういう意味では,債権質との関係を整理して,立法するのであれば立法するというふうに考えるのがいいのかなと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。検討しなければならない課題を的確に御指摘いただいたと思います。ほかに何か,こういう点も考えておくべきであるということはございますでしょうか。

○阪口幹事 何度もすみません。先ほど山本先生がおっしゃられた問題の大前提として,債権譲渡がされた後に一般債権者の差押えがあったときも,それは一応,ヒットしているというのが前提にあるということなのですか。第三債務者からしたら,債権譲渡がされていると思っているわけだから,裁判所に対して外れという答えをしてしまうと思うのですけれども,それでも,それは第三債務者の答えが間違っているだけで,差押えはヒットしているのだというのがまず大前提なのですか。観念的には当たっているような気もするのですけれども,真正譲渡と担保としての譲渡は第三債務者からは区別付かないので,そこはヒットしているのかどうか,まずそこが若干疑問ではあるのですけれども。

○道垣内部会長 なるほどと思いますが,山本さん,何か御意見ありますか。

○山本委員 今のあれは,真正譲渡の場合は当然,第三者異議もできるのだから,譲渡担保というか,今回の新しい担保でも第三者異議ができても当然ではないかというような御趣旨なのでしょうか。

○阪口幹事 阪口ですけれども,第三者異議ができるかできないかのもう一つ手前に,差押えが当たっているかどうかという質問です。

○山本委員 だから,設定者のところで差押えがそもそも,設定者を債務者として差押えができるのかという。

○阪口幹事 発令はもちろんできますけれども,発令しても実は空振っていないかということなのですけれども。

○山本委員 ですから,第三債務者は結局,差押債権者に支払っても二重に支払わなければいけないということですよね。

○阪口幹事 第三債務者は裁判所の陳述催告に対して,そんな債権はありませんと答えますよね,債権譲渡された後だったら。それでも,その答えが間違っているだけで,実は差押えが当たっているということになるのかどうかが,実は分かっていないのですけれども。

○山本委員 当たっているという言葉の意味が正確によく分からないのですが。

○阪口幹事 第三債務者の答えがどうあれ,差押えの効力は当該債権に発生しているのかという,例えば,取立権が本当にあるのですかとか。

○山本委員 差押えが有効であれば取立権はあるのではないでしょうか。

○阪口幹事 空振っていたら,ないですよね。

○山本委員 空振っているということの意味。空振っているということはないのではないでしょうか。第三債務者は支払う必要はないのではないですか。それは対抗要件優先しているわけですから,譲受けの担保権者が,そちらに本来は払うべきだというのはそのとおりだと思いますけれども。だから,第三者異議の必要もないといえばないというのは,そうなのだと思いますけれども。

○阪口幹事 理論的な説明ができないので,どなたか助けていただいたらという気がしますけれども,すみません。僕のイメージだと,第三債務者は,裁判所に対して,そもそも差押えは当たっていませんと答える。だから,例えば差押債権者が取立権を行使してきても,いや,元々そんな差押えの対象となった債権は移転して存在しないのだから,払うつもりは一切ありませんと答えることになります。しかし,それでも差押債権者があるに違いないと思って,仮に取立訴訟を起こしたという場面で,第三債務者は,債権譲渡がもうされているよということだけ抗弁として言えば,もう一切払わなくていいというのが,空振りの意味であり,他方,いやいや,差押えの後にでも譲渡担保の被担保債権が弁済されたら,復帰的に戻るのだ,その限度では差押えが当たっているのだ,だから何か一定の条件付か何か分かりませんけれども,取立権も本当はあるのだということなのかが,分からないということです。

○山本委員 転付命令とかが出た場合は,あれですよね,今,質権と同じだと考えれば,質権付きで転付命令がされたのと同じ状態になるというのが判例だと思うのですが,それと同じような状態になるのではないですか。

○阪口幹事 質権の場合は帰属は元の債権者にあって,質権という負担が付いているだけですよね。他方,債権譲渡がされていたら,もうそれは債権自身が元の債権者との関係ではないと,第三債務者から見れば,ないというふうに考えて,だから,転付命令をされたって結局,何もないということにならないかということなのです。

○山本委員 おっしゃるとおり,だからそれは真正譲渡に引き付けて考えるのか,質権に引き付けてこの担保を考えるのかという問題なのではないですか。

○阪口幹事 はい。それで,ここの第3,24ページの問題は,まずそこがはっきりしないと実は答えが出ないのではないのか,答えというのか,在るべきものが出てこないのではないのかと。動産の場合には占有は設定者のところにあります。したがって,設定者の一般債権者から差押えができます。だからこそ第三者異議とか配当要求とか,次の制度を考えなければいけない。他方,債権の場合は外れとなれば,そもそも何の手続も要らないということだってあり得るわけです。それはなぜかというと,債権の場合には,第三債務者という,動産の場合と違うプレーヤーが1人いるからです。しかも第三債務者の目から見て,いろいろなことを処理していくというのが現在の債権執行手続なので,そこが根本的に動産執行の場合と債権執行の場合で違うので,当たっているか当たっていないか問題を,どなたかが,回答はこれだよというのを言っていただいた上で議論していった方がいいのかなと思ったのです。

○道垣内部会長 青木さんから手が挙がりましたけれども,何かそれについて御発言がございますか。

○青木(哲)幹事 神戸大学の青木です。阪口幹事がおっしゃっている,当たっているかどうかというのは,恐らく,御説明されたとおり,担保目的取引規律型において,法形式ですよね,担保権者の方に既に移転していると考えるのか,そうすると,もう当たっていないということになるのだと思いますし,そうではなくて,担保の実質を重視して,担保権であると,だから形式的には移っているかもしれないけれども,まだ設定者に残っているということを前提に考えていくのかというところのお話かなと思いました。

  ただ,当たっているかどうかということについて,もう一つ申し上げると,動産執行では,いわゆる執行官が外形に基づいてその帰属を判断するということとの関係で,債務者が占有しているということで,その債務者への帰属を判断するということになるのに対して,債権執行においては,申立てにおいて債務者に帰属するという主張がされていれば,手続としては適法に差押え命令が発令されるということになり,しかし,実際には対象債権が設定者ではなくて担保権者に帰属しているのであれば,それは結局,阪口幹事がおっしゃったように,空振りに終わるということになるということ,その意味で空振りという言葉をお使いになったのではないかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  結局,差押債権者が第三債務者に対して弁済を求めていくということをしたときの手続をどういうふうに考え,仕組んでいくのかということですね。第三債務者としては,いや,ほかの人に既に譲渡されているという通知を受けていますと言ったとき,何を差押債権者が主張立証していくことになるのか,そして,どこまでの実体的な権利があるということになるのかということを,そういうふうなことをプロセスの中で詰めていかなければいけないだろうとは思います。その辺はもっと丁寧にやっていく必要があろうかと思います。

○片山委員 貴重な時間,ありがとうございます。今,各委員の御発言と若干関連するのかもしれませんが,今回,担保目的取引規律型ということで,動産と債権を同じように取り扱っていくということのようなのですけれども,基本的に動産と債権でかなり違うとは感じております。動産に関しましては,これまでの議論からもありますとおり,後順位の担保権の設定もやはり広く認めるべきであるという意見が多数で,基本的には制限物権の担保とそれほど変わらない担保の設計を考えておられるように感じました。けれども,他方,やはり債権に関しては,排他的な効力を,より強く認めていく必要性が高いようにも思っております。それは特に,今の判例法でも,集合債権譲渡担保に取るということになりますと,対抗要件を具備してしまうと,事実上その債権者だけが独占してしまえるという状態になっているわけですね。これを,担保目的規律という形になると,そうはいっても,やはり後順位担保権の設定も可能になるというような形の議論をしていくということになると,今の実務でも認められている債権担保の排他的な効力を否定してしまうということにつながりかねないと思っております。そういう意味では,債権担保に関しては債権質という典型担保はあるのですけれども,それと違う効力が認められる所有権担保といいますか,債権譲渡担保の効力をきちんと区別をして,動産担保と差別化を図りながら議論していく必要があるのではないかと感じております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。先ほど来の対象債権の差押えの空振りの議論との関係で前提的な問題になるのかなと理解していた一方で,譲渡担保権の効力をどう捉えるのかにも関連するのかなというのを,今の片山委員のお話をお伺いして改めて感じたのですけれども,債権を目的とする担保の実体的な効力という論点について,先ほど山本委員も債権質について触れていらっしゃいましたが,債権質との比較において,譲渡担保権の設定によって,対象債権の第三債務者や設定者に対する制限的な効力を生じさせることについても,規律を明確化する必要がありそうなのかなと思っています。債権質の場合ですと,民法481条1項の類推とか,それから,民事執行法145条1項の類推とかという形で説明がされていると思うのですが,基本的に第三債務者は,設定者に対する弁済等を質権者に対抗できなくなるとされ,設定者は,放棄,免除,相殺,更改等対象債権を消滅,変更させる行為ができなくなるとされています。

譲渡担保権が設定された債権についても,差押えの対象が何なのかというところもあると思うのですが,設定者が持っている対象債権に係る権利について対抗力ある譲渡担保権が設定された後に,当該対象債権に差押えがなされたということなのであれば,第三債務者として差押債権者に弁済することができなくなり,また,債権執行手続においても差押債権者は劣後することとなって,結局事実上空振りという帰結になりそうなのかなと思いました。

  申し上げたかったのは,譲渡担保権の効力の問題として,第三債務者についての弁済制限効というのが明確にされる必要がありそうなのかなという点と,併せまして,設定者の担保価値維持義務というふうに最高裁平成18年12月21日判決において述べられていますとおり,設定者に担保価値を維持する義務が生じ,その結果として対象債権の放棄だったり,免除だったり,相殺だったり,更改であったりという対象債権を消滅,変更させる行為ができなくなるという規律を明確化する必要がありそうなのかなと考えておりまして,その考えを述べさせていただきました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかに何か,差し当たって債権の担保化について,こういうところは注意して今後やらなければいけないよという御指摘はございませんでしょうか。

○加藤幹事 ありがとうございます。必ずしも債権の担保化の話ではないのですけれども,担保目的取引規律型の担保の実体的効力に関する規定が,信託受益権や株式を担保とする取引に与える影響が気になります。例えば信託受益権や株式などは既に譲渡担保の対象とされておりますけれども,動産か債権かという類型に当てはまるわけではないと思います。こういった財産権も,担保目的取引規律型の担保の対象になると思うのですけれども,その場合の実体的効力をどのように考えればいいかということです。株式の譲渡担保については,株式質の効力を定める会社法151条が準用されるという解釈が有力ではないかと思うのですけれども,仮に担保目的取引規律型の担保として株式や信託受益権なども対象となると考える場合には,この信託法97条や会社法151条に相当する規定を新設する必要があるか等を整理する必要があるのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。整理しなければいけないところが多いような気もいたしますが,ほかに何か今の時点で御教示,御指摘がございますでしょうか。

  それでは,債権の方についてはまた包括的に検討しなければいけないと思いますので,今後も,その機会が回ってくるまでの間に,こんなこともきちんと考えなければいけないのではないかということがございましたら,事務局に,あるいは私にでも結構でございますけれども,いつでも頂ければと思いますので,よろしくお願いいたします。

  それでは,そういうことで,急ぐようで申し訳ございませんけれども,次の部会資料に入っていきたいと思います。

  今回新たに送付されました部会資料3に基づく議論でございますが,まず「第1 集合動産・集合債権の担保化」の「1 集合動産の担保目的での譲渡(集合動産に対する担保権の設定)の可能性」について御議論いただければと思います。

  事務当局において,部会資料の説明をまずお願いいたします。

○淺野関係官 それでは,部会資料3の「第1 集合動産・集合債権の担保化」のうち「1 集合動産の担保目的での譲渡(集合動産に対する担保権の設定)の可能性」の部分について,御説明いたします。

  現行法の集合動産譲渡担保について,判例は,いわゆる集合物論を採ることによって,個々の動産が集合物の範囲に流入した時期を当該動産についての担保設定時期とするのではなく,当初の担保設定時の集合物に担保が設定され,あとは集合物の内容が変動しているだけであるという評価を導いています。この点に関しましては,動産譲渡登記制度が導入されたことを契機として,集合物概念を介する必要はないという見解なども存在するところですが,将来動産を含め,設定時に何らかの形で対抗要件を具備することを可能とするための議論が蓄積されており,これが可能であることについての異論は少ないように思われます。

  そこで,本文は,集合動産の担保目的での譲渡が可能であり,ひいては将来動産を含む集合動産全体について対抗要件を具備することができることについて,明文上明らかにすることを御提案しております。【案2.1.3.2】に従って新たな担保物権を創設する場合にも,ただいま御説明しました議論が参考になるように思われまして,いずれにしましても,集合動産を目的財産として担保権を設定することができるということを明らかにしておくことが考えられます。

  その上で,集合動産として担保権の目的とするための要件についてですが,3ページの2にありますとおり,まず,担保の目的物の範囲が特定されているということが必要です。特定されているかどうかが問題になる場面として,「在庫一切」が担保の目的物とされていた場合が挙げられます。現行の動産・債権譲渡登記におきましては,対抗要件を具備するため,動産の特質によって特定をすることができない場合には所在場所を特定する必要がございます。しかし,在庫という文言から,いかなる動産が担保の目的物であるかということを理解することができるとも考えられまして,担保の効力の及ぶ客観的な範囲の特定としましては,在庫一切でも足りるようにも思われるところです。

  さらに,「設定者の所有に属する」という限定が付されている場合の取扱いにつきましても議論がございます。

 ここでは担保権の及ぶ客観的範囲の特定の問題を取り上げましたけれども,このような方法により特定された担保権について対抗要件を具備できるかという問題も別途ございますので,この点は対抗要件制度を検討する箇所でも検討が必要と考えております。

  4ページの3ですが,本文のようなルールを設ける場合に,個別動産と集合動産をどのように区別するかという点も問題になります。この点に関して,本文は,将来新たな構成部分がその範囲に加入する可能性があるかどうかで区別することとしております。

 また,それに加えて,5ページの4にありますように,伝統的には経済的一体性や取引上の一体性が必要であると考えられてまいりましたが,どのような場合に一体性があるのかは明確といえず,取引の不安定さをもたらすという批判もございます。

  そこで,本文においては経済的一体性等の要件を明示的には設けない提案としておりますが,集合物として扱われるために何らかの要件が必要であるという御見解もあると思いますので,御意見を賜りたいと思います。

  実務上,集合動産を目的とする担保としては譲渡担保が用いられることが多いかと思いますが,集合動産を目的とする所有権留保があり得るかどうかも問題になるように思われます。5ページの5で検討しております。例えば,Aという人が継続的にBという人に商品を売却している場合において,BがAから購入した物を含む在庫全体につきまして,金融機関Cのために譲渡担保を設定しようとしているとすれば,Cは集合動産譲渡担保の設定後,直ちに対抗要件の具備等を行うことができますが,集合動産所有権留保が認められないとすると,Cの対抗要件具備等の後にAがBに譲渡した動産については,AがCに優先する方法はなくなってしまうという問題が想定されるところです。仮に集合動産所有権留保を認めることができるとすれば,Aは所有権留保の合意時点において対抗要件の具備等を行うことにより,他の担保に優先することができるということになります。

  最後に,現在及び将来の債権を一括として担保の目的とする場合についてです。債権につきましては,未発生の債権を譲渡したり担保の目的財産にしたりすることが明文で可能とされておりますから,動産についての本文と同様の規定を置く必要性は乏しいと考えました。そのため,本文は複数の債権を一括して担保の目的とする場合についての規定を置くことを提案しておりません。

  私からは以上でございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を頂ければと思います。

○山崎委員 どうも,山崎です。私からは,意見なのですけれども,3ページの20行目以降に述べられている在庫一切に関してなのですけれども,現行の手法に加えて追加的に,在庫一切を担保の目的物にすることを認めてもよいと思います。理由としましては二つございます。一つ目は,登記に記載されていない種類の在庫を仕入れたり保管場所を変更したりするたびに契約書や登記を変更することは,コストと手間が掛かると思われるからです。二つ目は,場所を移すことで担保権を外そうとする動機を設定者に与える可能性があるからです。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○井上委員 井上です。ありがとうございます。

  「設定者の所有に属する」というところですけれども,資料でいえば4ページですが,この限定は付されていようがいまいが同じことを意味するのではないかというのは,この資料に書いてあるとおりではないかと思います。集合動産の譲渡担保契約において,例えば「A倉庫内の在庫に担保を設定する」という合意をした場合も,その中に他人のものが交じっていれば,当然それは担保目的の範囲に入っていないはずなので,「設定者の所有に属する」というのは言わば枕詞のようなもので,常に付されているということと理解しております。ですから,そういう限定が付されていても特定されていると思いますし,逆にそういう限定が付されていない場合に,X倉庫内に他人のものが交じっていると,それで突然,特定が失われて担保の効力に悪影響が生ずることはないということを確認したいと思います。

  例えばですけれども,他人のものが少し交じっているということではなくて,狭義の所有権留保がなされた在庫が倉庫の中に相当程度交じっているというときもあり得ると思うのですが,そういう場合は,現在の判例によると,狭義の所有権留保の目的物は譲渡担保の目的には入っていないと考えるのではないかと思うのですが,この場合も,だからといって譲渡担保の目的物の特定が失われるというわけではないだろうと思います。ここで関心があるのは,その先の問題でして,所有権留保が狭義でなされている場合に,その所有権留保売主との特約で,代金を払うまで買主は目的物を一切転売するなという合意がなされ,それが守られていれば,問題が起こる場合は少ないのかもしれないですけれども,そうではなくて,通常の販売行為が認められている状況で,狭義の所有権留保ではあるけれども,売却したらそこで及ばなくなるという所有権留保合意がある場合に,所有権留保の目的となっている部品と,そうではない全く同一の部品が,同一の倉庫内に存在している場合の問題です。例えばAという所有権留保売主からX倉庫に搬入されるものと,Bという留保特約のない売主からX倉庫に搬入されるものがあり,きちんと物理的に区別されてX倉庫内にあれば問題は起きないのかもしれないですけれども,そうなっていない状況で,通常の販売行為がなされて,Aから買ったものかBから買ったものかを区別せずに随時搬出され処分されていく状況になっているときに,集合動産譲渡担保の対象がどういうふうに特定されるのかは,気になっているところです。それについてはどう考えるのでしょうか。

  例えば,民法の混和の規定の適用が仮にあるとして,主従の区別ができないと考えるならば,そのぐしゃぐしゃに混じっている同一の部品について共有状態が生ずるということかもしれないのですが,ではどういう割合で共有を考えるのかという問題が出てくるように思いまして,そういう場合には,どういうふうに実行するのかという問題も出てくるかもしれないと思います。他方で,先ほど申し上げたような状況にあるときに,そういう考え方ではなくて,例の乾燥ネギに関する判例のような問題として捉えるとすると,これは特定が失われるということになりかねず,それは大変困ったことになるし,結論としては妥当ではないように思われるので,今申し上げたような,つまり全く同一のものなのだけれども,設定者の所有に属するものと属さないものが集合動産の範囲の中で一緒になっている,典型的には一部に狭義の所有権留保が付されているというような場合に,譲渡担保の効力,あるいはその範囲をきちんとワークするように解するには,どういうルールがあるといいのだろうかと疑問に思っています。結論としては,できればそのときの事業サイクルに応じて,仕入れの状況に応じて按分するとか,何らかのルールを設けて割合的に物権的な効力を認められるようにした方がいいのではないかと考えます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。たくさんの手が挙がっているのですが,少し確認したいことがあります。今現在,例えば単純な所有権留保の目的物1個が,債務者といいますか,買主の財産の中に紛れ込んで,どれが所有権留保目的物か分からなくなったら,これはどうなのですか。これは主従があるので,混和してしまうということで,所有権留保の効力はなくなるのですか。

○井上委員 そうなのですか。

○道垣内部会長 なくならないですか。100対1だったときに。

○井上委員 その場合も,主従の区別ができると考えて,主の方に飲み込まれてしまうという結論はよくないように思っていて,そういう場合も,これはコシヒカリとササニシキが交じった場合ではないので,主従の区別はできないと考えて,割合的な共有状態になると考える方が結論としてはいいと思っているのですけれども,いずれにしても,集合物については,その応用問題ということになるのかも分からない。

○道垣内部会長 私も,井上さんのように考えることはあり得るのだろうとは思いながらも,しかし,それは今回発生する問題なのか,混和一般に存在している問題なのかというのが少し分からなくなったものですから,確認をいたしました。

○鈴木委員 ありがとうございます。千葉銀行の鈴木でございます。山崎委員に続きまして,在庫一切という捉え方につきましては,中小企業にとってもスムーズに,より大きなボリュームの資金を引き出しやすくなるものと考えられますので,我々としても歓迎したい議論でございます。金融機関はバランスシートの実績値から運転資金のサイズを把握していますけれども,店舗や倉庫が拡大されるような成長局面,右肩上がりの局面では,過去の実績値では十分でない場面が出てきます。現行の動産譲渡登記の枠組みですと,成長に伴う拠点の増加で店舗や倉庫が追加されますと,在庫の保管場所を都度登記しなければいけません。一方で,在庫一切と前広に捉えておけば,新たな登記等の手当てが不要なので,機動的な融資増額に応じやすくなるのではないかと考えられます。成長資金の出し手を後押しする,そういった設計として,在庫一切という考え方は取り入れられればと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○青木(則)幹事 ありがとうございます。こちらの第1の1の規定でございますけれども,こちらは恐らく中心的なところは,集合動産を含む流動動産を譲渡担保の目的物にすることができて,ひいてはその時点で対抗要件を具備できるという点にあるかと思うのですが,問題はこれを集合物という考え方で説明するかどうかということなのかと思います。もし集合物という考え方を使って説明するのであれば,やはり定義が必要なのではないかということを感じており,そのとき考えなければいけないのは,同じ流動動産だけれども,集合動産として特定した場合とそれ以外の記述の方法で特定した場合で効力が違ってくる可能性があるかどうかということで,この点をかなり明確にしなければ,危ないのではないかと思っております。というのは,御承知のように集合動産譲渡担保と言ったときには,やはり集合動産のみと考える見解も有力でございますので,そういうふうなものとして捉えられる可能性がある。そうなってくると,単なる集合動産及びその構成部分に及ぶというような意味での流動動産とは違ってくるという可能性も出てまいります。これはひいては,ファイリングや何かのときの登記事項にも関わってくるようにも思いますので,その辺りの整理が必要かと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。そこら辺は難しいところなのですけれども,結局,集合物というのをどういうふうなものとして捉えるか,定義をどういうふうにするかということなのだろうと思いますが,続けて冨高さんの方からお願いいたします。

○冨高委員 ありがとうございます。先ほど何人かの方から,在庫一切という特定を認めるべきであるとの御発言もあったのですが,私としましては,冒頭申し上げたとおり,一般債権者の保護が十分に図られていない現状においては,広範な担保権の設定を認めるような考え方は極めて慎重で在るべきではないかと思いますので,御意見として申し上げます。

○道垣内部会長 ありがとうございます。恐らく,在庫一切という特定の仕方が認められるかというのは,理論的にそれで特定しているのかという問題と,例えば公序良俗の観点からそのような包括的な特定の仕方を認めていいのかという問題と二つあるのだろうと思うのです。特定できますかということからすると,まあ特定できるのかなという気もするわけですけれども,後者の観点も結構重要だろうと思いますので,今御指摘いただいたと理解しております。

○佐久間委員 ありがとうございます。3点ございまして,一つは単なる言葉の問題なのですが,この3の資料では担保権と担保権者という言葉が出てきていて,担保所有権,担保所有権者という言葉にはなっていないのです。これは意味があるのかどうかということを確認で,あるのだったらどういう意味かということを,この集合動産の場合はそういうのだということなのかどうなのかというのは,後で教えてくださいというのが1点です。

  2点目は,特定の話でして,所有権が設定者の下にある,設定者が所有しているもの,設定者の所有に属するという限定が付いていた場合なのですけれども,担保の効力が及ぶ,及ばないという点では結論は一緒ではないかというのはそのとおりだと思うのです。つまり,設定者が所有していないものに担保の効力が及ぶなんていうことはないということなのですけれども,だから結論も一緒ですよねということでいいとは思うのですが,理屈としては多分これまではこうだったのではないかと思うのです。つまり,まずは契約において,その契約が何を客体としているか,目的物としているかということが決まり,その決まった中で,しかし,例えば設定者に権利がないから担保の効力が契約によっては及ばないということがあったのではないかと思うのです。そうだとすると,設定者の所有に属するものという限定を付けたら,これには及ぶのですか,及ばないのですかと言われたら,客観的,外形的にはそこは分からないという状態になってしまい,そうすると,当該契約の目的物はどれですか,特定されていますかという点において,それは特定できていませんということから,判例は契約成立自体が認められないのだということを多分,言っていたのではないかと思います。それを維持すべきだということでは全然ないのですけれども,結果一緒だからということだけでは済まないのかなと思いました。

  私の中ではそこからつながってくるのではないかと思うのですが,集合動産所有権留保のところについて,6ページに例として,当該売買基本契約に基づいて甲から乙に譲渡される商品のうちのうんぬんという部分については,こういう限定が付くと結局,客観的,外形的には,当該契約に基づいてその中の一つ一つの物が当該担保の目的となっているかどうかが外形的,客観的には分からないということになってしまう観点から,これは特定されていないということになってくるのだと思うのです。それが3点目です。ですから,2点目に申し上げたのは単に理屈の問題なので,そこはいちいち条文に,こういう限定が付いていたら駄目ですよなんていうことだとか,特定の方法についていちいち細かく書き込むことはないと思うのですが,3番目に申し上げた集合動産所有権留保について検討する必要があるかというと,この資料に書いてある限りでは,これは特定がおよそされているということにはならないので,有効なものとして認められることはないだろうと思いますし,ほかの特定の仕方で何かうまくいくということもなかなか思い付かないのではないか,だからそれは考える必要がないのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。佐久間さんのお話の前提は,例えばここに三つの時計があって,そのうちの1個が私の所有物であるというときに,佐久間さんと私との間で,この三つの時計のうちの道垣内所有のものを売却しますという契約を結んでも,いろいろ調べてみないとどれが道垣内の所有か分からないというふうなものであるときには,目的物が特定された形での売買契約というのは成立しているとはいえない。こういう考え方が前提になっているわけですか。

○佐久間委員 それはそうだと思いますけれども,特定物というか,一つ一つの物の売買の場合は,後で定まれば別にそれでよろしいという前提が採られているのに対し,今後も維持するかどうかはともかくとして,これまで集合物ということでくくってきたものについては,後から分かりますというのは排除しようという考え方が採られてきたのではないのかと思っているのです。今の道垣内先生の御質問に対するお答えになっているかどうか分かりませんけれども。

○道垣内部会長 いえ,集合物の特殊性として捉えるのか,それとも,およそ一般に三つのうちの一つというときに,しかしそれは客観的な指標で,選択債権ではなくて定まっている,だけれども外形的には分からないというときにどうなるのかという一般論と同じであるという話なのか,どうなのかというのを確認したかったというだけで,考えなければいけない問題だろうと思います。すみませんでした。

○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。先ほどの在庫一切の議論に関連してなのですけれども,山崎委員,それから鈴木委員がおっしゃったように,ファイナンスをさせていただく立場から,コストだったり手続だったりというものが低廉,簡便になるとか,それから,物の所在場所が移転してしまった結果として担保から外れてしまうことを回避できるという点等において利点があるというのは,御指摘のとおりなのかなと思っています。なお,現状も,例えば買収ファイナンスという企業を買収する場合における支援をさせていただくファイナンス等に際しまして,全資産担保を設定させていただいているという実務がございまして,そういうものへの利用可能性がありそうなのかなと感じているところはございます。

  一方で,冨高委員が一般債権者との間における調整の必要性を御指摘されたのですけれども,ファイナンスを行う与信者間においても調整が図られないといけない事象を生じさせやすくする可能性があるかもしれなくて,念のために幾つかの事例を御案内させていただければと思っています。まず,例えば甲,乙,丙という担保権者がおり,一方で担保対象としてA倉庫,B倉庫,C倉庫に所在する在庫がある,といった事例を想定した場合に,担保権者甲はA倉庫に所在する在庫一切を担保に取って,一方で担保権者乙は,その後に在庫一切を担保に取って,更にその後,担保権者丙がB倉庫に所在する在庫一切を担保に取りましたという場合に,A倉庫内にある在庫に関しては甲が第1順位で,仮に後順位譲渡担保権を認めるのであれば,乙が第2順位で譲渡担保権の設定を受けることになりそうです。一方でB倉庫にある在庫に関しましては,乙が第1順位,それから丙が第2順位という形になりそうです。一方でC倉庫内にある在庫に関しては,乙のみが担保権を有しているという状況になるのだと思うのですけれども,ここで担保権者間の競合が生じやすくなっているということと,それに伴いまして,この競合状態の取扱いに関するルールをどうやって整備していくのかということをきちんと考えないといけない度合いというのが広がりそうなのかなと考えております。

  また,別の例に関しまして,例えば信用状取引において,信用状発行銀行が輸入商品である付帯荷物に個別の動産譲渡担保権を設定させていただいているのですけれども,仮に商品一切について譲渡担保権が別途設定された場合に,信用状取引約定書に基づく輸入商品についての個別の動産譲渡担保権と商品一切を目的物とする集合動産譲渡担保権の設定の先後によって勝ち負けが決まりそうなのですけれども,実務にどのような影響が生じることになるか,どうやって実務的に調整を図るようにするのかというのは考えないといけないところがありそうかなと思っています。

  さらに,また別の例として,例えば財産抵当が設定されていて,その財団に属する機械設備等が財団抵当の目的物になっていた場合に,別途機械設備一切について集合動産譲渡担保権を設定する担保権者が現れた場合に,どういう競合関係,それから優先劣後等のルール設計をしていくことになりそうなのかということについても議論が必要になりそうなのかなと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○亀井幹事 ありがとうございます。中小企業庁としても意見を表明しておきたいと思います。

  まず,1の集合動産の担保目的での譲渡の規定を置くということについては賛成をしたいと思います。その上で,在庫一切というのも,私たちの研究会を開催したときには,そういう在庫一切という特定の仕方だと非常に融資が受けやすい,お金が借りやすいという御意見がございましたので,この線で考えていただけたらと思います。

  また,第1のタイトルが集合動産・集合債権の担保化ということで,この集合というのは動産と債権,それぞれの集合ということなのですけれども,例えば事業みたいなものを考えた場合には,動産債権が集合している財産ということは考えられないのでしょうか。ここでの検討の対象は,やはり集合物というのは,動産は動産の集合,債権は債権の集合というように,動産単位,債権単位ということを前提とされているのでしょうか。動産であったり債権であったり,そういったものが交ざった集合というのは考えられないのかということは,一つ問題提起をしていきたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。あとまだ何人かに御発言いただきたいのですが,「在庫一切」というのは認めるべきだという人がほとんどでございますので,亀井さんに代表していただいて,幾つか私の方から疑問を提起したいのですけれども,では「機械一切」でもいいのですか,皆さんは,「在庫」だからいいのですか,それとも「機械」でもいいのですか,さらには「動産」でもいいのですか。今,債権でもいいということになったら,「動産・債権一切」でもいいということでしょうか。「在庫」だからいいのかということなのですが,亀井さんは多分,何でもいいのですね。

○亀井幹事 おっしゃるとおりです。もちろん何らかの特定があるだろうというのは,そういうことだと思いますけれども,在庫だから特別に一切が認められるべきだということではないと私は考えています。

○道垣内部会長 ほかの在庫一切肯定派の方も同じようなお考えで,それは特定ができているのだからいいではないかということなのでしょうか。そういう感じですかね。いや,別にそれに反対するとかいう話ではなくて,少し確認をしておきたいと思っただけで。よろしゅうございますか。

○大澤委員 大澤でございます。今の在庫一切のところのお話でして,先ほど部会長がおっしゃられた,特定としていいのかという問題と,公序良俗違反等の二つに分かれますよねというようなお話がございました。部会資料4ページの冒頭の方にもありますけれども,公序良俗違反の方の懸念を考えた上で,在庫一切というのが認められるかどうかということもなお慎重に考えた方がよいのではないかと考えております。というのは,過剰担保になり得る土壌にはなるのだと思っております。一切,それが在庫一切なのか,機械一切なのか,動産一切なのかは別として,一切といった取り方で過剰担保にならないのか,あるいは,優越的地位の濫用ではないですけれども,そのような形で担保が過剰に取られてしまうというようなことを多少懸念しておりまして,そういった点についての検討を踏まえた上,なお在庫一切というものを特定として適切かどうかということを考えてはいかがかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○井上委員 今の点については,私はそもそも特定の問題を条文化するという観点でいうと,在庫一切はいいとか,いけないとかという条文にはなかなかならないと思うので,結局のところ何をもって特定として認めるかという議論としては,識別可能性の有無で切るということが分かりやすくてよいのではないか,そうするとかなり広く特定できるという結論になってもよいのではないかと考えています。その上で,一般債権者,あるいは取引債権者,あるいは労働債権者に残されるものが少なくなりすぎるかどうかという問題は,別の観点で規律するべきで,それは例えば公序良俗の問題もありますけれども,そこまで行かなくても,リファイナンスをしやすくする,あるいは後順位担保権を設定しやすくするといったような方法で過剰担保の問題を解消するとか,いろいろほかの手当てで考慮しなければいけないことはあると思うのですけれども,特定の問題としては,広くといいますか,識別可能かどうかで判断してもよいのではないかと思います。

  ところで,元々私が手を挙げていたのは,実は先ほどの「設定者の所有に属する」というところの関係なのですけれども,特定を比較的広く認めるとした場合でも,先ほどの「設定者の所有に属する」というのは書いても書かなくても当然に枕詞として常に入っているということだと思います。佐久間先生が先ほどおっしゃったことを私が誤解しているのかもしれませんけれども,「X倉庫内の在庫」に加えて,「設定者の所有に属する」という語句を加えると特定が失われてしまう,加えないと全体として特定されるということが本当にいいのかは,やや疑問に感じました。当事者の間で仮にそういう語句を担保設定契約に入れたとしても,やはりX倉庫内の在庫という範囲では特定していて,その中に他人物が交じっているという状況で,ぱっと見,どれが他人物か分からないという理由で特定性が失われることにはならないのではないかと思います。

  先ほど私は同一の部品について他人物が交じっている例を挙げて,混和のことを申し上げたのですけれども,これは(ぱっと見ではなく)どれだけ調べても区別できなくなる場合の問題なのですが,そうではなくて,もう少しシンプルに,α部品とβ部品があって,α部品は狭義の所有権留保が付いていない,でもβ部品は狭義の所有権留保が付いているという状況で,「X倉庫内の在庫」を対象に集合動産譲渡担保を設定した場合は,これはα部品全体について譲渡担保が有効に成立しているのではないか,所有権留保の付いたβ部品がX倉庫内に入っているという,それも在庫ではあるのですけれども,そういう理由で譲渡担保の特定性が失われると考える必要はないのではないかと考えます。

  そう考えると,今度は集合動産所有権留保の話になりますけれども,AとBの間で継続的売買が行われて,それで,留保売主であるAがBとの約定の中で,AがBに販売した在庫であって倉庫Xに保管されているものについて所有権を留保すると定めた場合に,AがBに販売する在庫部品を,A以外の人はBに売っていない,その倉庫の中においては混和の問題が生じないシンプルな例を考えると,その時々で,その倉庫内にある,かつ残っている部品について所有権留保ができるという規律自体はあってもおかしくなくて,あっていいかどうかという観点で言うと,集合動産譲渡担保について対抗要件が備えられてしまった後に,AとBの間で売買がなされて倉庫内に持ち込まれたものについて,所有権留保が集合動産譲渡担保に先立って合意されているにもかかわらず,狭義の所有権留保ではない場合,拡大された所有権留保の場合には,およそ後に設定された譲渡担保に負けてしまうという結論で本当にいいのかやや疑問に思っています。所有権留保についてどういう対抗要件制度を設けるかというのは,拡大された所有権留保について対抗要件が必要だという立場に立った場合には,考えなければいけない問題ですが,そういう対抗要件制度ができた場合,あるいは所有権留保についても譲渡登記制度を利用できることになった場合に,中身が将来入れ替わる集合動産について所有権留保を合意した段階でそれを備えて,その後の譲渡担保権者との関係で勝てるポジションを作ることが認められてもよいのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○亀井幹事 ありがとうございます。一つだけ,包括的な特定を認めると,濫用だとか過剰担保の問題があって心配だという御意見がございました。我々もその点は検討すべき課題だと思っています。ただ,一つ一つ財産を押さえていく形式にしておけば,過剰担保とか濫用といった問題が起きないかというと,それはそうではなく,制度を使いやすくすることと,それが濫用的に使われることというのは別の問題として考えていくべきだと考えております。過剰担保だったり乗っ取りだったり,そういった問題は,それはそれとして考えていくべき,検討すべき大事な課題だと考えておりますけれども,それとともに,制度はなるべく使いやすくというふうに考えているということを申し上げたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○大西委員 大西です。よろしくお願いします。いろいろ議論に挙がっている在庫一切につきまして,私も賛成でございます。やはり,先ほどお話もありましたとおり,買収ファイナンスで全資産担保というのもございますし,本項のテーマではないのかもしれませんが,いわゆる事業の担保というのも正に,在庫一切が特定できないのであれば事業はどうなのかという議論もあることからすると,やはり社会通念上,若しくは取引上,関係者が確認できるような内容であれば,これをもって特定できるものと取り扱ってよろしいのかなと思います。

  一方,御意見がありました過剰担保ですが,これは特定の問題ではなく評価の問題なのかと思います。要は,在庫をいろいろ担保として取得したにもかかわらず,それをほとんど担保として評価しないようなことがあると,やはり過剰担保の懸念があると思います。個別の動産や債権は比較的評価がしやすいのかもしれませんが,集合物動産若しくは今後議論になる事業については,きちんとした評価をして担保として取るという実務が定着することが重要だと思った次第でございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○片山委員 片山です。貴重な時間,ありがとうございます。集合物とか集合動産という概念をどう考えるかということについて,定義を置くというのはなかなか難しいかもしれませんけれども,今回このペーパーを拝読しておりまして,従前のイメージですと,いわゆる在庫,流動資産の担保ということだけが念頭に置かれているのかと思っていたのですけれども,他方,4ページを見ますと什器備品一切というような例も出てきまして,決して流動資産に限らず,固定資産についても集合動産として把握することも想定されているのだなと思いました。さらに,8ページ,工場における設備機械というような記載もございました。そうしますと,単に流動資産ということだけではなくて,固定資産の集合ということもその集合動産の概念の中で把握できるということであるのならば,事業全体ということはなかなか難しいのかもしれません,動産以外のものも含まれるでしょうから。しかし,それに近いような収益を生み出すような固定資産の集合体,そういったものを集合動産,集合物として担保客体にできるということが示唆されているのかなとも思いました。

  そうしますと,一方では,流動資産の場合に関して言いますと,集合物概念の把握は,設定段階だけ把握していればいいということになるのかもしれません。実行段階では,固定化を前提として,個々の構成部分たる動産の売却を考えていくということで十分なのかもしれませんが,他方では,事業担保の実行のような形で丸ごと全ての財産を処分するという実行の仕方を想定しますと,実は集合物というものに関する権利変動関する一般のルール設定も必要になってくるのではないかという気もいたしました。ただ,そこまで議論する必要はない,それは事業担保の話で別にやればいいのだということになるのかも知れません。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  まだ1の問題については御議論があろうかと思います。経済的一体性というもの,皆さんの御意見全体としては不要であるという方向だろうと思うのですけれども,直接的にはまだ議論しておりませんし,集合動産の所有権留保についてももう少し議論をすべきなのかもしれないと思います。

  ただ,開始をいたしまして2時間20分を既に経過しておりますので,少し中途半端ではございますけれども,ここで一旦少し休憩を取らせていただければと思います。16時5分までですかね。

  ただし,休憩前に事務局の方から,質問にわたった事項については答えておきたいということでございますので,それを先にお願いいたします。

○笹井幹事 まず,「担保権」と「担保所有権」が使い分けられているのかという点ですけれども,一応の意図としては,担保目的での所有権の移転とか留保とかというタイプで行くのか,それとも新しい担保権を作るのかにかかわらず,妥当する記載については「担保権」というふうに記載しております。それに対して担保目的取引規律型を前提とした記載については,「担保所有権」というふうに書き分けたつもりです。そういうふうにしたつもりですが,もしかするときちんとそうなっていないところがあったら申し訳ありません。

  もう一つ,集合動産・集合債権というところで,それぞれ集合というのは動産ごとか債権ごとかという御質問がありましたけれども,部会資料3の中では動産は動産,債権は債権という形で分けております。これは,第1回目のときに少し御説明した中にもありますけれども,例えば実行するとかというときに,一つの担保権が債権も動産も入っているということになると,どう実行するのかという問題も出てきますし,対抗要件をどういうふうに具備するのかということについても,全部登記に一元化するとかという形にしなければ,別々に対抗要件を具備しないといけないので,そういったことを考えて,別途,取りあえずは動産は動産,債権は債権で考えていこうということです。

  ただ,何人かの方が言及されましたけれども,事業全体について担保化するというようなことを考えた場合には,それはまた別途,全体についての実行方法をどうするのか,あるいは対抗要件を全体としてどうするのか,また別の制度として考えていく余地はあるのかなと思っております。そういったものを含めて,全体を担保化するというニーズがあるとすれば,そちらの方で対応するということが考えられるのではないかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  休憩時間の実質は短くなったのですが,ただ,少し押しておりますので,4時5分再開というのは動かさないままで,暫時休憩に入りたいと思います。4時5分にお戻りくださいませ。

          (休     憩)

○道垣内部会長 それでは,予定した時間になりましたので,再開をしたいと思います。

  先ほど,部会資料3の第1の1というのを扱っておりまして,いろいろ御意見を既に頂いておりますけれども,なおどこまで集合物として対抗要件の具備というのを最初の段階でできるという特典を与えるのかと,4の経済的一体性等の要否というのは,特典を与えるのに特定性以外の一定のハードルがないと,要件が具備されないと特典が与えられないというものだと思いますが,そういうふうに考えるべきなのか,さらには,集合動産所有権留保についてもなお考えるべき点があるということなのかもしれません。もちろん1から3までの間で,まだ御発言いただくべきことがあれば,御発言いただければよろしいのですけれども,取り分け残っている4,5の辺りも含めまして,いましばらくこの問題について御意見を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。

○藤澤幹事 藤澤です。よろしくお願いいたします。これまでの最高裁判例や下級審裁判例との関係で幾つかお伺いしたいことがあります。

  これまで最高裁判例や下級審裁判例は,動産譲渡担保の目的物の範囲について,特定性の要件と,それから集合物性の要件で一定の絞りというか,歯止めを掛けてきたと思います。特定性の要件に関しては,家財一切という特定をした場合について,何が家財か分からないから特定性がないと言って譲渡担保の成立を否定したものがあったと思います。集合物性に関しては,少し古い判例ですけれども,プロパンガスボンベが点在しているような場面について,これは集合物性がないから,やはり譲渡担保の対象にはならないとした下級審裁判例があったと思います。もし現状の判例のルールを明文化するというか,一定の特定性がある場合に限って集合物を担保の対象とすることができる,というふうに書いた場合には,こうした判例を参考に条文が解釈されることになるかとも思うのですけれども,これらをオーバーライドする趣旨なのかどうかということや,もしそれをオーバーライドするのだとすれば,何か別の文言を入れる必要はないのかということが気になりました。

  それから,佐久間先生が先ほど御発言された件と関わるのですけれども,これまで学説は,設定契約の時点で物がはっきり特定されているということを重視して特定性の要件を考えてきたと思うのですけれども,下級審裁判例の中には,単に「製品」と書かれた設定契約について,債務者の業態からすれば,その製品というのは時計や宝飾品に限られるから特定性が認められるとか,明細書を毎月差し入れていて,その明細書の中に物が書いてあるのだから特定性があるというようなことを認めたものもあります。そうすると,設定契約における特定と,その後,実行する時点で目的物が特定されているという評価とは,ずれていることもあって,ここでいう特定がどの時点のものを指しているのかということも少し検討する必要があると思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。前半の問題については,藤澤さんはどのようにお考えですか。

○藤澤幹事 私自身は,在庫一切とか家財一切といったものでも,実行の時点で何が対象になっているのか分かるのであれば,特定性ありとしてよいと考えました。下級審裁判例にあるように,事後的な資料も含めて,実行の時点で目的物を特定できるのであれば,担保設定契約だけを取り上げて,それを無効とする必要はなくて,実行対象の問題として捉えればいいと考えております。そうであるとすると,設定契約における特定性の要件は,現在の判例のルールよりは少し緩やかになるので,それが明らかになるような文言で条文を書く必要があると思います。集合物性についても,当事者が何らかの範囲の財産を担保の対象にするということであれば,それ以上の制限が必要である理由が良く分からないので,集合物という言葉は使わない方がいいのではないかと思っています。

○道垣内部会長 実行までにというときには,どの段階で設定されたと考えなのですか。どの段階で当該動産に効力が及んだとお考えなのですか。例えば,明細書を出すということをしたときに,それ以前の段階で,当該明細書に記載された動産について担保権の効力が及んでいるというのはとても考えにくいような気がするのですが,それはどういうふうにお考えですか。

○藤澤幹事 ある動産に担保の効力が及んでいるかどうかが問題になる段階というのは,第三者に譲渡される場合や,第三者が差押えをする場面や,それから,実行する場面だと思うので,その時点で第三者と争うとか,実行をするということになったときに,「この資料からこの動産には私の担保権が及んでいます」ということが証明できれば,それで足りると考えています。

○道垣内部会長 ありがとうございました。そうすると,詐害行為とかいう話はまた別に出てくるかもしれないですね。

  ほかの方,どうぞ。

○片山委員 すみません,今,集合という概念も不要であるというお話があったのですけれども,どこまで認めるかという問題はあるかもしれませんが,例えば動産一切という形の集合動産が認められるのかというと,なかなか難しいかと思いまして,やはり経済的一体性というつもりはありませんけれども,集合というときには,今まで,やはり何らかの制約が含意されていたのだと思います。それは,在庫という意味では流動資産に限りますということでしょうし,その他,固定資産までということになると,何らかの形での経済的一体性が,例えば事業という形で要求されるのではないかと考えます。動産一切ということで,確かに特定性は確保されるわけですが,それを認めてよいかは議論が必要なのではないでしょうか。そういう意味で,集合という概念によって,何らかの制約はおのずとあるのではないかというふうな印象は持っております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかに何か御意見はございますでしょうか。もちろん,それには既に反対の御意見も出ているわけですので,そのような意見でまとまったということは全く意味しておりませんけれども。

  もう一つ,集合動産所有権留保について,佐久間さんの方から,ここに書かれている例は特定性がないことが明らかなのでというふうなことをおっしゃったような気がしたのですが,その意味がよく分からなかったのですが。

○佐久間委員 特定性の意味を,外部的,客観的に識別可能であるということを,そのような意味でとった場合は,当該売買基本契約に基づいて甲から乙に譲渡される商品というのは,ある商品というか,A倉庫内にある1個の商品に当たるものを見たところで,それが売買契約に基づいてそもそも甲から乙に譲渡されたものであるかどうかは,当事者には分かるのでしょうけれども,他の人には分からないということから,これでは特定されていないのではないか。一つの動産について,それが集合動産譲渡担保の対象になりますか,なりませんかということについて,例えば契約内容に書き込まれたことを突き詰めて調べていけば,最終的にこれは属しますね,これは属しませんねという仕分ができることをもって識別可能というふうにこれから言いましょうというのだったら,それはもう,まあそうですかと私は申し上げますけれども,これまではそのような,仕分ければ分かりますよねということでは特定があったとは見てこなかったのではないかと思いましたので,先ほどそのような発言をいたしました。

○道垣内部会長 それは,個別の所有権留保が単発的に行われた場合とどう違うのですか。

○佐久間委員 それは,個別の場合については1個の物について,初めからこれが客体ですということが対象になっているのに対し,包括的に認めるということになる場合には,1つ1つの物についてそもそも支配が及んでいる,及んでいないということが,まずもって問題と今までされてきたのではないか。個々物についての取引の場合と集合体についての取引の場合とでは,そのように異なる考え方が採られてきたのではないでしょうかというのが私の認識です。

○道垣内部会長 分かりました。

  ほかには。さらに,6の集合債権担保のところについても余り御意見を頂いておりませんけれども,そこも含めまして,1のところはそろそろまとめに入りたいと思いますけれども,御意見はございませんでしょうか。

○阿部幹事 債権の方ではなくて,集合動産所有権留保の話なのですけれども,資料では,集合動産所有権留保を認めなければ,譲渡担保権者に所有権留保売主が優先する方法はない,と書かれていますけれども,これは必ずしもそうではないような気がします。個別のといいますか,目的物と被担保債権との間に一定の対応関係がある所有権留保であっても,将来にわたって包括的に所有権留保合意をすることによって,譲渡担保権者に優先するという余地は認められていて,実際,平成30年12月7日判決はそういう事案だったように思います。ただ,問題はその平成30年の事案の射程をどこまで拡張できるかという話でありますけれども,あの事件だと,1か月ごとに代金を決済するという話になっていて,その1回の決済ごとに目的物と被担保債権の対応を認め,集合動産所有権留保ではなくて,言わば特定動産所有権留保の延長として,しかも狭義の所有権留保としての効力が認められておりましたけれども,そういう形で譲渡担保権者に優先していくということは,集合動産所有権留保を設定するという以外にもあり得るのではないかということを思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  何か,優先する方法はないというふうなことについての事務局からの弁明ないし解説というのはありますか。

○笹井幹事 今,阿部先生がおっしゃったことにつきましては,そのとおりだと思います。私の理解としては,平成30年判決というのは,若干その対応関係というのが緩やかにはなっていますけれども,ただ,月の範囲内で対応しているという限度では被担保債権と目的物の対応を図っている,言わば狭義の所有権留保をやや広げてその枠内で取り扱ったものだと理解をしております。この判決のように,被担保債権と目的物の対応関係を若干緩めることによって実務上のニーズに対応することができれば,それは問題ないと思うのですけれども,ここではさらに,狭義の所有権留保とは到底いえないような拡大された所有権留保については譲渡担保との優劣関係が問題になってきて,その場合には,譲渡担保と所有権留保とで同じような扱いにしておく必要性があるのではないかということを検討したということです。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

○青木(則)幹事 ありがとうございます。債権担保の目的という機能で担保権概念を作るのに,あえて所有権留保という留保型のものを残すことの意味というのは,一定の場合に,優先することがあるということに尽きるのかなと個人的には思っております。現状の御提案ですと,狭義のものでないものは結局,優先できないわけですよね。そうすると,譲渡担保に吸収させてしまった方がすっきりするのではないかと思います。留保売主が,狭義なのか,それとも拡大された所有権留保なのか,どちらか区別が付きづらい状況で複数回の所有権留保売買をするということももちろんあるのだと思いますけれども,そのときも,全体を所有権留保で処理するとしても,所有権留保を複数契約することになるのか,それとも,拡大された所有権留保で契約しておけば,そのうちの牽連性が高いものについては狭義と認められて,それ以外のものについては拡大されたものということになるのかというようないろいろな問題が出てまいります。拡大された所有権留保を譲渡担保として構成しうること自体については,留保売主からの譲渡のような構成になるかと思いますけれども,現在でもコンセンサスがあるかと思いますので,そのような取引については,集合動産譲渡担保を取りつつ,なおかつ優先を期待できる場合には留保売買をするという方がすっきりするのではないかと思った次第です。

○道垣内部会長 同一債権者が,最初は所有権留保売主として売り,それが,例えば第1倉庫に搬入されて,その後もずっと継続的にそれをほかの債権,売買代金債権以外の担保にも使おうと思うならば,第1倉庫内にあるある一定のものについての集合動産譲渡担保を取得するというふうに,所有権留保に加えて別の担保設定を行うと考えた方がスムーズだよねということですね。分かりました。

  ほかに何か御意見はございませんでしょうか。

  集合債権はもう別に,将来債権の譲渡が民法上認められて,対抗要件の具備というのも,あらかじめ具備するということが,どの時点で発効するのかよく分かりませんが,認められているということであるならば,特に担保に関する条文は,もちろんそれを担保権だと見るという条文は必要かもしれませんが,集合債権としての条文が必要になるわけではないということで,それは皆さんよろしゅうございましょうか。

  もちろん本日の段階で全てが決まるわけではございませんので,いろいろな問題がございますので,少し先を急ぐようで申し訳ございませんけれども,いろいろなところについての最初の御意見を伺うという趣旨もありますものですから,先に進めさせていただければと思います。

  それでは,部会資料3の第1の2について,御説明を頂ければと思います。第1の2と3について,併せて御説明いただきまして,議論をさせていただければと思います。それでは,事務局からお願いいたします。

○淺野関係官 それでは,部会資料3の「第1 集合動産・集合債権の担保化」のうち,2及び3の部分について御説明をいたします。

  まず,7ページの「2 集合動産を目的とする担保を設定した設定者の権限」についてです。

 集合動産譲渡担保については,集合物の内容が設定者の活動により変動することが予定されております。判例も,このような譲渡担保権の設定者には,その通常の営業の範囲内で,譲渡担保の目的である集合物を構成する個別財産を処分する権限が付与されており,その権限内でされた処分の相手方は,当該個別動産について,譲渡担保の拘束を受けることのない完全な所有権を取得することができるとしております。

  在庫など,一定の範囲での入れ替わりが予定されている動産については,設定者に一定の範囲で個別動産の処分権が与えられているというルールが合理的であり,本文(1)では,このようなルールを,「担保権の目的物が範囲によって特定され,特定範囲に,設定者の所有に将来属すべきものを含む場合」と表現しています。また,判例では「通常の営業の範囲」という表現が用いられている設定者の権限の範囲につきましては,事業のために用いられない動産を担保の目的とする場合や,設定者が商人ではない場合などに適切ではないという批判があり得ます。そこで,本文(1)アでは,より一般化した表現として,「譲渡の対象の構成について通常の過程で生じ得る変動の範囲内において」という代案を示しております。

  また,判例が「通常の営業の範囲内」で設定者に処分権限が与えられるとした根拠は,担保権者がその範囲内での処分を設定者に許諾していることにあると考えられ,そうだとすれば,設定者の処分権限について当事者間で異なる合意がされていた場合には,その合意に基づく処分権限が与えられると考えられます。ただし書はこの点を明示したものです。このような合意については,設定者に倒産手続を開始したときに,当該合意が管財人や再生債務者に対してどのような効力を有するのかという問題もあるところです。

  次に,設定者の有する処分権限を越えて個別動産が処分・逸失されるおそれがあるが,まだ現実にはそれが生じていない場合について,本文(1)イでは,個別動産が担保の目的の範囲にいまだ含まれていることから,担保権に基づく物権的請求として,その差止めを請求することができることとしております。さらに,本文(2)は,設定者の有する処分権限を越える個別動産の処分・逸失がされた場合についてでございます。11ページの3以降に記載をしておりますが,この場合の法律関係については,権限範囲を超えた処分,すなわち個別動産に関する権利変動を生じさせる法律行為,がされた場合にどのような権利変動が生ずるのか,そして,個別動産が特定範囲から逸失した場合に担保権やその対抗力がどうなるのか,の組合せによって検討することが考えられます。

  まず,権限範囲を超えた処分の効果については,三つの考え方ができるのではないかと思います。一つ目として,権限範囲を超えた処分であることから,相手方は何らの権利を取得しないというもの,二つ目として,相手方は言わば物上保証人としての地位に立つとするもの,三つ目として,相手方は負担のない所有権を取得するというものです。

  次に,事実行為として個別動産が特定範囲から逸失する場合についても,三つの考え方ができるのではないかと思います。一つ目として,実体法上も担保権の効力は及ばなくなるという考え方,二つ目として,実体法上の担保権は存続するが,対抗力はなくなるという考え方,三つ目として,即時取得がされるまでは実体法上の担保権も対抗力も存続するという考え方です。

  資料では,以上の考え方を踏まえ,処分がされたが物理的には特定範囲にとどまっている場合,処分がされその後逸失した場合,逸失の後処分がされた場合について場合分けして分析をしておりますが,このような分析方法の当否を含め,御議論いただきたいと考えております。

  また,以上では処分権限を越える個別動産の処分・逸出がされた場合等について,担保権者がとり得る手段について御説明をいたしましたが,14ページの4にもございますとおり,個別動産の処分が行われた場合の相手方など,第三者の保護も問題となります。この第三者の保護についてどのように考えるかも,権限範囲を超えた処分の効果について,先ほど御説明したうちいずれの考え方を採るのかに関係するところですが,現行の即時取得制度によって保護を図ることができると考えるかどうかが問題になると考えられます。

  次に,14ページの「3 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限」についてです。集合債権譲渡担保におきましても,設定者は,その構成部分である債権を回収し,回収した金銭をその後の営業等に使用することができます。もっとも,動産と異なり,通常の営業の範囲内であるかどうかを問わず,履行期が到来した債権の取立権限が付与されているとの考え方もあり得ます。

  他方で,取立てのみではなく,金銭を対価とした債権譲渡,和解や免除等が行われる可能性もあり,そのような処分について,動産と同様,権限範囲が問題になると考えられることから,本文では,設定者が権限範囲内において特定範囲に含まれる債権を処分し,弁済又は対価として受けた金銭等を利用する権限を有するとすることを提案しております。

  私からの御説明は以上です。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  それでは,どなたからでも結構でございますので,今の範囲で御意見を頂ければと存じます。よろしくお願いいたします。

○横山委員 京都大学の横山です。非常に初歩的なことで申し訳ないのですけれども,今の一番最初の2(1)のアというところで,設定行為に別段の定めがない限りは,通常の営業の範囲内で処分することができることが前提となっているのですけれども,集合物が目的であるということから直ちに処分権があるということが導かれるのだろうかというところが少し,分からなかったというところがあります。どういうことかといいますと,集合物の譲渡担保というのは何かというと,構成物が変更するものだと考えられていて,理論的には,例えば旅館のニシキゴイのように,ニシキゴイが生まれたり死んだりして内容物は変わるかもしれないけれども,そこにいるニシキゴイに譲渡担保を付けていると,そういう場合もあると思います。もちろん,現実に,ここで問題になっているのは,集合物の内容について設定者が処分することが予定されている場合がほとんどだと思うのですけれども,理論的には,構成部分の変動する集合動産譲渡担保は,そのような処分権が与えられたからこそ,処分できるのではないのかと思いまして。そうだとすると,書き方としては,別段の定めがない場合には常に集合物を目的とするときには処分ができますよとまで言い切ってしてしまうのか,それとも,特に何らの定めがなければ,通常の営業の範囲内で処分する権限を与えた合意があるものとみなす,あるいは推定するという方法もあるかと思います。そのようにすべきだというところまで申すつもりはないのですけれども,集合物であるというところから直ちに,通常の営業の範囲内について処分権があるとすることには,何か少し論理的に飛んでいる感じがしましたので,もう少し丁寧な説明は要らないのか,あるいはこれでもいいのかは,お考えいただければと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございます。それは多分,1のところから問題になっていることと密接に関係しているのだと思います。つまり,今までの議論が,通常の営業の範囲,さしあたって営業の範囲といいますが,その範囲で処分して内容が変わっていくようなものを念頭に置いていて,それを集合物と呼んでいたわけです。しかし,1のところでの議論で,特定があれば足りるだろうという話で,2の(1)のような書き方,これは非常に正確な書き方だと思いますけれども,こういうふうな書き方で,別段集合物概念は採らないとか,経済的一体性などというふうな話とか,流動性みたいなことは必ずしもそこでは書かなくて,特定という形での譲渡担保の設定の話ですと考えると,それは別に処分権限とは結び付かないでしょうという話に多分なるのだろうと思うのです。だから,そこはこの制度をどういうふうなものとして仕組んでいくのかというところと非常に密接に関係している重要な御指摘だろうと思います。旅館のニシキゴイという,久しぶりに聞く古典的な例が出てきまして,私も懐かしく感じましたけれども,青木さんお願いいたします。

○青木(則)幹事 同じく7ページの2(1)のアの,ただし設定行為に別段の定めがあるときは,その定めに従うという点について,全く違う観点から一点発言させていただきます。設定行為に別段の定めがあるときは,処分授権の推定が働かず,別段の定めのとおりになるということで,例えば権限外の処分になってしまうというときには,その処分の相手方である買主が保護される余地というのは,192条の要件を満たすときだけということになるのでしょうか。

  この点については,違和感を感じております。と申しますのは,営業ないし事業の通常の過程における買主保護に関しましては,アメリカ法にも類似の規定があるわけですが,アメリカ法の場合は,正に権限外の処分からの買主の保護の規定の一つの態様であって,権限外の処分の相手方の保護を,事業の通常の過程の場合(§9-320)と,そうでない場合(§9-317)に分けてあります。これと比較すると,営業をしている債務者からの買主の保護という意味では大分厳しくなってしまう。少なくとも,完全な所有権を取得するには192条の要件を全て満たすというのではかなり厳しいような気もいたしますので,それで足りるのかどうかということについて御検討いただければと思います。

○道垣内部会長 日本法の話をしますと,14ページのところに第三者の保護という話が書いてありまして,即時取得といっても,何を信頼するのが即時取得なのかという話で,例えば,通常の営業の範囲であると信じた場合には,即時取得の要件が,処分権限があると見るわけですから,それで即時取得が成立すると考えることもできるのではないかと話したのですが,こういうふうに考えても,やはり即時取得では足りないと考えるということなのでしょうか。これが,青木さんのお考えをもう少し明らかにするために伺いたいことの1点目です。2点目は,最初に事務局からお話があったときに,処分をするという法律行為の問題と搬出するという話を分けて考えると申し上げたのですが,搬出してしまうと,もはやもう及ばないというふうに搬出行為の方を捉えてしまいますと,処分が無権限処分であっても,搬出によって効力が及ばなくなるというのもあり得るという作りになっているのだと思うのです。そこは少し確認なのですが,前者の,即時取得ではすごく狭くなってしまう,アメリカよりも狭くなってしまうということについて,少し補足的に御説明いただければと思うのですが。

○青木(則)幹事 まず,御指摘いただきました2つ目の点とも関係するのかもしれませんが,特定の範囲からの搬出ということでも,即時取得でも,基本的に現実の引渡しを要件としているということになるかと思いますけれども,権限外の処分の相手方の保護の狭さという点では,そこが1点目の違いになるかと思っております。アメリカ法の場合は,事業の通常の過程でない権限外の処分のときには,現実の引渡しプラス善意が必要という要件があって,事業の通常の過程であるということになれば,その二つの要件は両方とも要りません。2点目の違いは,その善意要件の要否です。おっしゃるとおり,事業の通常の過程とは何かということで考えていくと,権限があると信じるのが一般的だという状況だろうと思いますので,そういう意味では,アメリカ法でも,通常人から見た主観みたいな話は要件に入っていると考えてもいいのかもしれませんけれども,いずれにしましても,当該相手方の主観,善意や過失は問わないということになっております。

○井上委員 ありがとうございます。井上です。3点ほど申し上げたいと思います。

  一つ目は,細かな点ですけれども,債権の方,14ページの3のところでは,設定者の権限として,特定範囲に含まれる債権を処分し,弁済又は対価として受けた金銭その他のものを利用する権限という書き方がしてあるのに対して,動産の方は7ページで,特定範囲に存する動産を処分し,その特定範囲から逸失させる権限とだけしか書いていないのですけれども,これは当然のこととお考えなのだろうとは思いますが,担保権者の代理人として処分したり逸失させる権限ではなくて,処分したり逸失した結果得られた,典型的には代金たる金銭を自分のものとして事業に利用できることを含意しているのだと思うので,集合債権について14ページに書かれたような表現をするのであれば,集合動産についても同じように,その対価を利用できることまで明らかにする方がバランスがとれているように思いました。どう書けばいいのかよく分かりませんけれども,一番短く,取りあえずの思い付きで言うと,この墨括弧の後に,「自らのために」というような言葉を入れてもいいのかなと思います。ここは,自らのために特定範囲に存する動産を処分し,特定範囲から逸失させる権限という意味合いだと理解しているということが1点目です。

  2点目は,この「通常の営業の範囲内で」あるいは「譲渡の対象の構成について通常の過程で生じ得る変動の範囲内において」というところですけれども,これは設定者の処分,逸失あるいは搬出の基準として理解されているのだと思うのですが,判例法理上も恐らくそういうことだと思うのですけれども,本来はこの基準は,集合動産からの流出だけを見る基準ではないのではないかと考えています。むしろ流入と併せて,設定者の権限と義務の内容,担保権の内容を画する基準と考えるべきではないかと考えます。

  したがって,通常の販売行為で売れた分だけを搬出するのであれば常に設定者の権限範囲内と言えるわけではなくて,通常の販売行為で売れた分を搬出しているだけだけれども,一方で仕入れについて,X倉庫とは別に新たにY倉庫を借りて,新規仕入れ分はY倉庫に入れていくという場合は,通常の販売行為で売れた分だけの搬出行為自体も正当化されないのではないかと思っております。そういう状況を,補充義務の問題,担保価値維持義務の問題と評価して解決するという解決の仕方もあると思うのですけれども,「通常の営業の範囲」として設定者の権限に入るかどうかという問題としても捉えられるのではないかと思います。いずれにしても,この「通常の営業の範囲内」という基準が,流出といいますか,出るところだけを捉えると考えるのが本当にいいのだろうか,むしろ通常の営業の範囲でぐるぐる出入りすることが担保権の内容として了解され,そういうものとして担保権者は担保価値を把握していると考えると,当然一定の増減は許されるわけですけれども,その増減の範囲で代わりに入ってくることとセットになって出すことが許容されていると考えるべきではないかと思いました。

  この基準は,先ほどの経済的一体性の議論に少し近いのかもしれませんけれども,道垣内先生が先ほど特典とおっしゃいましたが,現時点の担保設定行為,処分行為と現時点の対抗要件具備によって,どうして将来の動産にまで担保権を及ぼせるのか,それは特典というよりはむしろ,その代わりに担保が及んでいるはずのものを設定者が担保の範囲から出してしまって,かつ,それを処分した代金を自分の懐に入れられることとセットになっているからこそ,将来の動産にも及ぶというのがバランスしているのではないかと思いましたので,そういう意味で,「通常の営業の範囲内」を入りと出を両方含めた概念として捉えて,まだ御説明いただいていないのですけれども,15ページの4とも併せて本来考えるべきことと理解してはどうかと考えております。

  そして,そのように考えるとすると,先ほどの横山委員の御発言にも関わってくるわけですけれども,やはり原則は,通常の営業の範囲内で出せる権限ありと考えるべきではないか,だからこそ入ったものに及ぶという,こちらがむしろ原則と考える,事務局の提案でいいのではないかと思います。池のコイは,通常の営業という言葉にはうまくフィットしないのですが,「譲渡の対象の構成について通常の過程で生じ得る変動」という意味でいうと,池のニシキゴイはどのぐらいの変動が通常なのか,私にはよく分かりませんが,余りにも減ってきたら足すかというような話なのかもしれず,元々の担保設定合意において,担保の目的は「今あるコイ」ではなくて,「入れ替わればそれは含めるよ」という合意がなされているとすれば,その合意の評価として「通常の変動」をどのぶれで解釈するかによりますけれども,そのぶれの範囲で,やはり入替えが許容されているのが原則になるのかなと思いました。

  これが2点目ですが,3点目は,そうすると,このただし書をどう捉えるかですけれども,今のように考えると,当事者が合意すれば何でもできると考えていいかというのが,実はまだ考えがまとまっておりませんが,資料の説明にもあったかもしれませんが,極論すれば,処分をおよそ許さないことができるかが問題となります。処分をおよそ許さないというのは,在庫については事業活動として考えられないので,その意味するところは,在庫を処分した代金は全部担保権者に渡すということを意味するのだと思いますけれども,そういったことが単なる債権的合意ではなくて担保権の内容になり,第三者に対抗できるのかは,悩ましいといいますか,累積的な譲渡担保を許容することにつながり得ると思っているところですが,少なくともはっきりしているのは,それはさすがに倒産手続においては制約すべきであろうということです。平場で許容するかどうかについては考えが完全にはまとまっておりませんけれども,倒産手続になっても,ただし書のような合意に基づく担保権の内容をそのまま物権的に認めることは難しいでしょうから,やはりそこには制約原理を設けるべきであろうと思います。その制約原理の中身については,また倒産のところで議論するということかと思いますが,三つ目として,このただし書の意味について思ったところを申し上げました。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。事務局ないしは私の方で答えなくてはいけないこともあるのかもしれないのですが,多くのお手を頂いておりますので,いろいろな方の御意見をまずは伺うということにしたいと思います。

○尾﨑幹事 私の方は青木先生と具体的な内容は近いというか,ほぼ一緒ではないかと思うのですけれども,発言させていただきます。金融庁として,これまで様々な意見を申し上げておりますが,これまで一貫して軸に据えて考えております「事業を成長させる」という観点から,2点申し上げたいと思います。

  1点目は,9ページの20行目あたりで紹介されている判例にあるような,当事者間での別段の定めについてです。「事業を成長させる」という観点からは,こうした当事者間での別段の定めが,場合によっては足かせになり得るように思いますので,その指摘です。ある実務家の方から聞いた話ですが,売掛金を除いて在庫だけを担保にして融資をするときは,担保価値を維持してもらうために在庫を一定量確保してもらわないといけないそうで,そのせいで事業者が在庫の売り時を逃してしまうといったようなことが実際にあるということでした。これは,事業の一部を切り取って担保権が設定された場合に,設定者にとって,事業の成長のための合理的な行動を妨げられてしまうような定めがなされるおそれがあるということだと思います。これは,設定者だけでなく,取引の相手方にとっても問題です。在庫の売り時で,合理的な条件で,設定者にとってもよい取引だろうと思って契約をしても,後からその効力を否定される可能性があるということであれば,取引をとりやめるといった判断につながり得ると思います。事業の一部を切り取って担保権が設定される場合の問題点として,この点指摘させていただきます。

  2点目は,提案になりますが,こうした不都合を回避して事業の成長を促す制度とするためには,資料14ページの24行目で示唆されておりますような,第三者保護の規定が求められるべきはないかと考えております。

 この資料では,14ページで,3(1)②として,相手方が設定者としての地位を引き継ぎ,言わば物上保証人としての地位に立つという考え方を採ることで,善意無過失の商取引先を保護するという選択肢と,3(1)の③として,相手方は負担のない所有権を取得するという考え方を採ることで,悪意であっても保護する,という二つの選択肢が示されております。しかし,それぞれの選択肢について疑問がございます。

  まず,②の善意無過失の商取引先を保護するとの考え方を採った場合の帰結については,善意「有」過失の商取引先でも,「事業を成長させる」のであれば保護すべきではないか,ということです。資料には,結局のところ権限について無過失を求めるということが書かれておりますが,「事業を成長させる」商取引先であれば,権限を知ることについて過失が仮にあったとしても,保護するべきではないか,過失がないことを求めると商取引が萎縮してしまうのではないかと考えます。また,③の考え方を採った場合の帰結については,例えば,非常に低い価格で買い取るような詐害的な第三者についても保護することになってしまい得ますので,これでよいのか疑問を感じます。いずれの選択肢についても「帯に短し襷に長し」という感想を持ちました。

  そこで,むしろ保護に値する第三者,商取引先というのは何者であるのかということを正面から考えて,それに見合った保護規定を設けるべきではないかと考えております。特に,「事業を成長させる」という観点から考えますと,例えば,第三者が事業者の通常の商品を通常の取引条件で購入してくれるのであれば,恐らくその取引は「事業を成長させる」ものですので,保護すべきではないかと思います。仮にその担保権者と設定者の間に別段の定めがあったとしても,そして第三者にそれを知るべき過失があったとしても,「事業を成長させる」取引をするものとして,保護すべきであることは変わらないのではないかと考えております。青木先生も仰っておられましたが,アメリカでBuyers in the ordinary course of businessが保護されているのは,そのような趣旨があるのではないかと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○佐久間委員 ありがとうございます。私も7ページの2(1)のアについてなのですけれども,結論として井上さんがおっしゃったのと,この原案でいいのではないかということでは賛成です。どうしてかと申しますと,先ほど個別の譲渡担保のところで,所有権が担保のために利用されるということであっても,例えば実質は担保権にすぎないのではないかと見てもいいのではないかと私は申し上げたのですが,それを前提としたら当然,前提としなくても,集合動産の場合に,特にまだ現に設定者が所有するに至っていないものについても,最終的にその債権者が権利を得るとしても,それは所有権に近いというか,所有権に類する個々のものについて権利を有しているとまで考える必要はないのではないか。設定者の方に元々,結局,所有権そのものか,所有権に極めて近い権利がやはりまだ個々のものについては帰属しているというふうに考えることが適当ではないか。ただ,では全面的に何でもしていいのですかというと,井上さんがおっしゃったことだと思うのですけれども,担保権者を害するような行為,これはしてはいけなくて,だからこそ井上さんは,出だけではなくて入りも一緒に判断すればとおっしゃったのだと思うのです。そのような担保権者,債権者を害するような行為はできないということになるにしても,そうでない行為については特段の制限はないとすることが出発点であっていいのではないかと思っています。したがって,この本文ただし書はこの順でいいのではないかと思っています。

  その際に,井上さんがおっしゃったことについて次に申し上げたいのですが,出だけではなくて入りも見るべきだというのは,設定者の義務として見ればそうなのだろうと思うのです。しかし,権限として見た場合は,そもそも出た瞬間に,権限があって,法的に効力を妨げられることのない行為なのか,それとも,そもそも効力を認められるべきでないものなのかということが判断できないといけないと考えられるので,入ってくることが予定されているからこの出はオーケーですとか,入ってくることが予定されていなかったら,これは濫用的だということにはなるのだと思うのですけれども,後に補充があるかないかによって,既に出ている,先に行われている出の行為について権限を画するということは,適当ではないのではないかと思います。ただ,全体として義務に反する行為であるかどうかの判断は,出だけではなくて入りも含めて考慮するということは,それはまあそうなのかなと思っています。

  その上で,2(1)のアのただし書のところの別段の定めがあるときの,その別段の定めによる制約は,基本的には権限そのものを,これは広げたり,狭めたり,物権的にといいますか,権限そのものについて効力があるということで考えられるのだろうとは思いますけれども,所詮債権的な効力しかありませんという作りもおよそあり得ないわけではないのではないか,債権というか,義務レベルで従わなければいけませんという作りもあり得るのではないかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。多岐にわたっておりますが,もう少し皆さんの御意見を伺ってとしたいと思いますが,片山さん,続けてお願いします。

○片山委員 片山でございます。どうもありがとうございます。通常の営業の範囲かどうかという話なのですけれども,これは流動資産か固定資産かで全然違っておりまして,流動資産ですと売却を前提としている財産ですから,処分権があるのが当たり前ですけれども,固定資産に関して言いますと,処分できないというか,処分するのは基本的には担保権侵害になるというのが大原則ということになるかと思います。ですから,先ほどのコイの例も,庭の観賞用のコイということであれば,処分権は認められないのでしょうが,コイ屋さんでコイを商っているということであれば,通常の営業の範囲の処分権限が与えられているということになるのだと思います。ただ,そう考えた上で,固定資産に関してはやはり売れないのが大原則だということになるのでしたら,通常の営業の範囲ということで基準にはなっているかとは思います。

  ただ,通常の営業の範囲というときに,どちらがそれを主張立証するのかという話になりますと,流動資産に関して言いますと,やはり処分権限があることが前提で,売れるに越したことがないということですので,権限の範囲を超えたような一種の濫用的な処分であるということを担保権者の方で主張できなければ,基本的には有効な処分というふうに考えざるを得ないのではないかと思っております。その際に,井上委員からの指摘もございましたとおり,入替えの余地もありますので,補充義務はぜひ法定をしていただいて,均衡を図っていただければと思っております。

  それから,もう1点なのですけれども,権限外処分の効力の問題は,これは難問中の難問だと思いますので,果たして立法的な解決がどこまでできるのかというのは分からないところですけれども,11ページに挙がっている①,②,③ですが,これは通常の制限物権的に構成するということであれば,当然,所有権が残っているという前提ですので,少なくとも担保権の負担があっても,担保権負担付きのもので譲渡はできて,そして,ただ追及効を観念していくということになりますから,②ということになるのでしょうけれども,所有権担保であるということを大原則として考えますと,基本的に処分権は,もう所有権自体が移転していることを前提としますと,通常の営業範囲で処分権が与えられているときにだけ処分できるということですので,権限のない処分というのは,全く無権利者の処分ということにもなってしまうという整理になるように思われます。それを②の立場でここで考えるということになりますと,それは制限物権に近いものにならざるを得ないのではないかという気はいたしました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  いろいろな見解がありますが,大西さん,続けてお願いします。

○大西委員 大西です。よろしくお願いします。まず,通常の営業の範囲内と,スラッシュで,譲渡の対象の構成について通常の過程で生じ得る変動の範囲内においてという文言があるのですが,これはやはり通常の営業の範囲内というのが一般取引上よく使われているので,こちらの方がよろしいのかなと思っております。担保設定をしたとしても,設定者のビジネスは通常どおり行っていいのだということは,やはり明確にすべきということから,この文言がいいのかなと思います。

  それから,2点目は,権限の範囲の中で動産を処分し,また,特定範囲から逸失させるうんぬんという記述についてです。この中で,動産の処分については,在庫を売って,売掛金になって,回収してというサイクルになるので当然問題はないのですが,場所で特定されている集合物動産の場合に,場所を動かす方は問題があると思います。動産を動かす場合もいろいろあるかと思いますが,新しい倉庫を造る際に動かす場合もあれば,倉庫に雨漏りが生じて移さざるを得ないというようなケースもあります。こういう場合に,設定者の権限から外れてしまうのか,即ち,これが通常の営業の範囲内なのかどうかが問題となるのですが,この判断は多少ファジーなのかなと思っております。だからといって通常の営業の範囲内という文言がよろしくないという意味ではなくて,そこは何らかの形で通常の営業の範囲内での逸失にあたるのか否か判断基準を明確にした方がいいかなと思います。

  このように担保対象となる集合物動産の設置場所を移すものについては,担保対象から外れるのですが,先ほどの流動資産のサイクルからは外れるので,担保価値の維持の点から問題があると思います。一方で,在庫でも長期滞留在庫のように価値がないものであれば,これを廃棄する行為は価値が変わらないわけですから,そこは許されるものと思います。このように,価値がある在庫をそこの場所から何らかの形で移動させるということは,これを担保設定者の権限という視点でどのように捉えるのかについては,私も分からない点で多分にございます。

  3点目は,第三者であるいわゆる取引先からすると,やはり今のような不明確な部分もある点と,先ほどのただし書のように設定行為に別段の定めがあるというようなケースもあるので,第三者を保護するための条件として,即時取得における善意無過失まで求めることは厳しすぎるのではないかと思います。ここにおいては,無過失までを求めるべきではないと思っております。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  多々挙がっておりますが,阪口さん,続けてお願いします。

○阪口幹事 阪口です。大体議論が出ていると思いますけれども,通常の営業の範囲のところについては,まず,対抗要件制度とか公示制度の作り方によっても当然,ここの状況は変わるのだろうと思っています。例えば,先ほどの在庫一切で場所限定がなくなってしまえば,逸出という問題がかなりなくなってくるということになります。けれども,仮にここで現行法のスキームを前提にしたときに考えたときには,私はどちらかというと,集合動産というものについては,古典的によくいわれる集合動産というものが明確にあって,それは設定者が一定の範囲で処分できるということがもうデフォルトとして決まっているという,それが先に考えるべきことではないのかと思っていますので,別段の定めについても,一番端的には,債権的合意にすぎないとすべきですし,債権的合意でないとするのだったら第三者保護規定を別に設けて,善意無過失でない形で,単に善意であればいいとか,何かそんなのかも分かりませんけれども,そうしていかないとうまく回らないと思います。やはり商売というのは,後から文句を言われるのではないかと思っただけで商売が止まってしまう,やはりそこのファクターは大きいと思いますので,過失があったと後から言われるのではないか,きちんと調べないといけなかったと言われるのではないかと思ってしまうこと自身が,もう商売自身を毀損すると思います。

  あと,細かいことで,表現ですが,通常の営業の範囲内という言葉について,日弁連では通常の事業の範囲内という言葉が出たのと,大阪弁護士会では常務に属する範囲,よく倒産手続で監督委員の同意の要否などで常務に属するという言葉が使われることがあるので,そちらの方がいいのではないかという意見があったことを付言します。

○道垣内部会長 ありがとうございました。藤澤さん,お願いいたします。

○藤澤幹事 やはり同じところについてなのですけれども,大勢の先生方が御提案に賛成する中,あえて反対意見を言ってみようかなと思いました。先ほどの個別動産についての設定者による処分のところで,事務局からの御説明では,基本的には処分することができるのだけれども,担保権に追及効があるという御説明でした。これに対して,この集合動産の場面では,一定の場面では追及効がないのがデフォルトルールで,それを合意によってひっくり返すことができるというふうな御説明になっていて,追及効の有無について,個別動産なのか集合動産なのかによってルールが変わってくるということかと思います。

  しかし,従来,個別動産の譲渡担保として行われているものであっても,例えば信用状取引のように大量かつ債務者が将来取得する物を目的とする取引というのもありまして,一体どちらなのかでデフォルトルールが変わってくるというのは,線引きの問題を生じさせて面倒なのではないかと思いました。そこで,集合動産の場合でも,デフォルトは追及効ありで,処分権限がある場合には追及することができなくなるというルールでいいのではないかと思いました。

  他方,そうすると,取得者,第三者の保護が問題となってきますけれども,それについては青木則幸先生がおっしゃったことに賛成で,第三者保護のルールとして,通常の営業の範囲内で取得した第三者については,その主観を問わず,目的物を原始取得することができる,完全な所有権を取得することができるというルールを設ければいいのかなと思いました。

○道垣内部会長 何で原始取得なのですか。

○藤澤幹事 処分権限がないので,原始取得になると考えました。

○道垣内部会長 細かい点に突っ込んで申し訳ありませんが,承継取得だと思いますけれども,分かりませんが,沖野さん,お願いします。

○沖野委員 3項目について申し上げたいと思います。

  一つ目は,一番最初の横山委員から御指摘のあった処分権限そのものについてなのですけれども,個々の財産として特定してこの取引をするという場合と,範囲で特定するということでは,やはり類型が違うと見るということではないかと思います。更に言うと,ここでの処分権限というのは担保権を消すものですので入れ替わりと補充が想定される場合のことだと思います。これに通常の営業の範囲内でということが掛かってきますので,既に何人かの先生が繰り返しおっしゃっておられますように,旅館の鯉の,あるいは什器備品一切というときも,壊れたら入れ替えるわけですので,それをどんどん売ってしまうというのは,やはり通常の営業の範囲ではないということになりますので,これによって実は絞り込みが働いているのではないかと。ただ,通常ではない形で,例えばより慎重を期したい債権者が同意を必要とするというような範囲を絞り込むとか,それぞれ作り込むということは考えられていいのだろうと考えますので,したがいまして,(1)の規律の構成というのはこういう形でいいのではないかと思っております。

  その場合の第三者保護なのですけれども,当該取引類型といいますか,そこから当然にというか,デフォルトというか,本来こういうものであれば許されるであろうという客観的な性格から出てくるものと,それに対して作り込みの方は内部的な制約という形をとりますので,債権的効力かどうかという問題もありましたけれども,例えばですけれども,ただし書による場合には相手方の保護要件というのを無過失までは要らないと,善意で足りるというような形で段階を付けるということは考えられるのではないかと思いました。それに対して,別に善意かどうかも問わないという考え方も出されていたかとは思いますけれども,本文の場合とただし書の場合とで第三者保護の在り方が違うというのは,それは更にこれに組み合わせるということができるのではないかと思います。

  なお,通常の営業については,阪口委員が御指摘になりましたように,ここで書かれている問題点は主として営利性と結び付けられる2点の問題ということであるならば,事業といった表現に変えるということは十分考えられるのではないかと思います。

  最後に,権限外の処分がされたときの効力ですが,いずれの説明の仕方というか,考え方もあり得ると思いましたけれども,これはここに限定されるものではないのですが,これより前のところでも言われた片山委員のお考えが非常に私は気になっておりまして,すなわち所有権なり権利移転を使った取引なのであるということを非常に重く見,それがスタート点になるべきだというお考えですけれども,私は,担保目的で権利を移転しているということで,確かに権利移転という構成や所有権移転という構成を現在は使っていますけれども,そこではやはり担保のためにそれを使っている,そういう形式をとっているだけのことではないかと,私は個人的にはむしろ正面から担保権構成にしてしまって,担保だというふうに作り込んだ上で,それに対して,それと同様の取引,担保目的でされる権利移転の構成をとるような場合もそれに服するというような在り方も十分考えられると思っておりまして,仮に,担保権的に構成した,あるいは新しい担保物権なりで構成した場合と違わないではないかという疑問というか指摘に対しては,それで全く問題ないという,むしろそちらのスタンスで考えております。今回お伺いしていて,ここは非常に大きなスタンスの違いかなと思われ,それはいろいろなところに出てくるという気がいたしましたので,少しそのことを申し上げたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  最後の沖野さんのおっしゃったことに関連して申しますと,担保目的取引規律型の規律を結構説明していますが,なお担保権であるというふうな形で全体を作るという選択肢は全く排除されておりませんので,それは今後の議論だろうと思います。それで,そのときに,所有権移転だというふうに言った人のことをどうするのかという問題が先ほど沖野さんから,その場合も同様にするというふうな話で乗り切ることも可能だろうとおっしゃったのですが,それもそうかなと思います。とにもかくにも,そのところに関しまして,所有権移転をするというふうなものがもう今後の議論の前提になるとは考えないでいただければと思います。ただ,その可能性もあるわけですので,所有権移転の契約であって,それの効力を規律するのだというふうになったときには,考え方としてこうはなり得ないのではないかというふうな議論というのも十分にする必要があると思いますので,今後も両方とも並行してしばらくの間は進んでいきたいと思います。

○倉部委員 ありがとうございます。法政大学の倉部です。よろしくお願いいたします。

  10ページの(5)の別段の定めがある場合の倒産手続上の取扱いについてですけれども,この点もそうですし,あとは,今日はもう触れられないのかもしれませんけれども,後半の担保価値維持義務についてもそうなのですが,やはり倒産手続が開始して固定化が生ずるのかどうかというところが固まらないと,議論がなかなかしにくいなと感じております。

  本日扱われている10ページの(5)のところで申しますと,固定化が仮に生じて設定者の処分権が失われると考えるのであれば,あとはもう別除権協定の問題になってくるのだろうと考えています。従前の合意内容がそのまま手続開始後も維持されるのかどうかということを別除権者と再生債務者等との間で交渉して,維持するかどうかが判断される,あるいはもちろん合意内容によっては調整がされる可能性があるのかもしれませんけれども,そうなりますと,別除権協定が仮に担保権の目的である財産の受戻しという民事再生法の監督委員の同意事項だと考えられるのであれば,監督委員のモニタリングによってその内容がチェックされるということになるのかなと考えております。

  逆に,固定化が生じないと考えますと,設定者に処分権が残るわけですけれども,その場合も,従前の別段の定めの内容が,仮に事業の継続に大いに支障があるような内容で,それがどういう内容か今はぱっと浮かびませんけれども,民事再生の目的が実現できないと言われるような内容だということになれば,倒産法上の公序という話が出てくるのかなと今のところは少し思い付いておりますけれども,この点は後ほど詰めて考えていきたいと思っております。

  それから,10ページの20行目のところで,別段の定めの例で挙げられている内容が2点ほどありますけれども,例えば集合動産が一定量又は一定額を下回らないような範囲内で処分することができる,それから,一定の金額以上で処分しなければならないというのは,裏を返せば一定量又は一定額の集合動産を維持しておかなくてはならないということだと思いますし,一定金額以上で処分しなければならないということは,一定金額の流入も確保しなければならないということだと思いますので,こういった仮に別段の定めを検討するのであれば,やはり担保価値維持義務を倒産の場面でどう考えるのかというところも検討しないと,結論がなかなか導きにくいかなと今のところは考えております。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  なお一言申しますと,先ほど藤澤さんに,どうして原始取得なのかと申し上げましたが,藤澤さんの趣旨はその後,よく分かりました。すみませんでした。

  ほかに何かございませんでしょうか。

  議論はかなり分かれておりますが,今までの中で幾つか質問にわたる,質問にわたるところがあったかどうかも微妙なのですが,事務局の方で何かございましたら御発言いただければと思います。特にない。

○笹井幹事 様々な観点からの御指摘を頂きましたので,またよく咀嚼して考えてみたいと思います。

  幾つか申し上げるとすると,井上先生から,集合物への補充も検討すべきではないかという御指摘があり,そこは全く異存はありません。処分する場面についてはゴシックの2で扱い,補充のところをゴシックの4で扱いましたのは,これが全く別の問題であるという趣旨ではございませんで,それはもちろん表裏一体の関係にあるものだと理解はしておりましたけれども,ただ,局面として,処分それ自体が有効なのかどうかという問題と,補充の義務を負うかという問題は分けられるということなので,別々に議論したということです。ただ,それが相互に関連しているということはおっしゃるとおりだと思いますので,そういった点については全く異存はございません。

  あとは,通常の営業の範囲と呼ぶのか,事業の範囲と呼ぶのかと,あるいは全く別の発想で文言を作るのかというところはありますけれども,いずれにしましてもそういう評価的な要件は入れていかないといけないと思います。片山先生あるいは横山先生がおっしゃったような,比較的固定的な,余り日常的に変動していくというものではないのか,あるいは在庫のように毎日売られていくというものであるのかという違いについては,その評価的な要件への当てはめの範囲内である程度対応できるのかなとは思っておりましたけれども,その点につきましても本日様々な御議論を頂きましたので,またよく考えてみたいと思います。

○道垣内部会長 私の方からも一言申しますと,今日の前半からの皆様の御意見を総括いたしますと,集合物というものに対して何かの制約を課すというのではなくて,基本的に特定の仕方として,範囲とか場所とか,そういうところで特定が可能であるならば,別に全ての在庫商品であっても何でも,それは構わないのではないかという意見が強かったように思います。その上で,そういうふうな特定の方法にすぎないと見ると,それは個別動産の場合だって,あるいは個別債権の場合だって,特定の仕方というものはいろいろあり得るわけであって,そうなると,個別動産の場合は,例えば製品番号で特定するけれども,場合によっては場所と何とかで特定するという場合もあるものであって,それほど根本的に変わらないという話になってくる。そして,根本的に変わらないという話になってくると,特定動産の場合には処分が禁止されるというのだから,それ以外の範囲で特定した場合も処分が禁止されるというのがデフォルトになるはずである。しかし,それではもちろんその目的に反してきますので,相手方が通常の営業の範囲で取得をするということになると,それはその後の主観的な要件なんていうのを訴訟において自分で立証していかなければ保護されないというのではなくて,通常の営業の範囲だよねということさえ言えれば取得ができるというふうにすることによって,流動性というものを事実上持たせるということになるというのが,一つの極端な絵としては出てきたのかなという気がいたします。

  そのことを,最後の方のところを引っ張ってこられた青木さんと藤澤さんに伺いたいのですが,そうすると,個別動産のときも同じですか。つまり,買主としては分からないわけですよね,それが個別動産という形での譲渡担保に供されたのか,範囲の指定によって譲渡担保に供されたのかは分からない。ただ,その目的物を購入するというのが通常の営業の過程で普通の行為だよねという話になれば保護されるということになるので,別に集合物の問題ではないということになるということで,それでよろしいのでしょうか。

○青木(則)幹事 せっかくですので,一言よろしいでしょうか,すみません。おっしゃるとおりでけっこうかと思います。アメリカの教科書的な議論でも,レンタカー屋を兼ねた中古車ショップの在庫商品の担保化の事例みたいなものを出して,どう分けるのかみたいな議論がありますが,事業類型で分けることができるけれども,物としては区別していないという考え方をとっています。わが国でも同じように考えていけるのではないかと思っております。

○道垣内部会長 藤澤さんも異論はございませんが。

○藤澤幹事 はい,そのように考えます。

○道垣内部会長 分かりました。それを通常の営業の範囲とか,事業の範囲とか,常務だとかいうか,それとも契約条件というものを中心にして見るのか,尾﨑さんは,契約条件というものがオーディナリーなものであったらば,それはそれでいいのではないのかというふうな御意見を出されたと思いますが,それはいろいろな見解があろうかと思いますけれども,まあそういうところですかね,今のところの一つの案は。

  もう3もやらないということで,2のところまでなのですが,2のところまでで何か御発言はございませんでしょうか。

  それでは,ないようですので,本日の議論はこの辺りにさせていただければと思います。司会の不手際もございまして,なかなか予定したことは進みませんでしたが,私としては,非常に活発な御議論を頂いたので大変よかったと思っております。先に進めることが,それ自体が目的なわけではございませんので,今後とも様々に御議論いただければと思います。

  次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。

○笹井幹事 次回は令和3年7月13日火曜日,午後1時30分から午後5時30分までを予定しております。

○道垣内部会長 これで第3回の担保法制部会の会議を閉会にさせていただきます。

  どうも本日も熱心に御議論いただきましてありがとうございました。では,7月によろしくお願いいたします。

-了-

日本登記法学会第6 回研究大会note

令和3 年1 1 月2 7 日( 土)日本登記法学会、日本司法書士会連合会、日本土地家屋調査士会連合会 後援: 法務省

小塚荘一郎氏( 学習院大学教授)「登記のD X とD X 時代の登記」

早川将和( 司法書士)テーマ「デジタル社会と登記- 商業登記」

総括 北村雅史( 京都大学大学院法学研究科教授)

研究報告1 小西飛鳥( 平成国際大学法学部教授)https://researchmap.jp/read0190967/misc

研究報告2 陰山克典( 司法書士)「デジタル社会と登記- 不動産登記」

研究報告3 今瀬勉( 土地家屋調査士)「リモートセンシングデータの登記利用について」土地家屋調査士 今瀬勉

コーディネーター 石田剛( 一橋大学大学院法学研究科教授)

総括 日本登記法学会顧問 道垣内弘人( 専修大学法科大学院教授)

閉会挨拶 日本登記法学会理事長 七戸克彦( 九州大学大学院法学研究院教授)

「登記のD X とD X 時代の登記」小塚荘一郎氏( 学習院大学教授)

1.登記システムのデジタル化

国際的な担保法改革と登記制度• ユニドロワ(私法統一国際協会)

• ケープタウン条約:可動物件(高額の動産。航空機物件、鉄道車両、宇宙資産、鉱業物件、農業物件及び建設業物件)に対する担保法ルール)

参考:小塚荘一郎「ケープタウン条約宇宙資産議定書の意義と残された課題」

• 物件ごとに、国際登録簿(担保権の登記簿)を設立。国際登録簿は電子的なシステム(本体条約17条2項(i))。

Aircraft RegistrationThe Cape Town Treaty

https://www.faa.gov/licenses_certificates/aircraft_certification/aircraft_registry/cape_town_treaty/

• 航空機物件に関する国際登録簿(Aviareto)および鉄道車両に関する国際登録簿(Regulis)が設立済み

• UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)国際連合センター 国際商取引法

https://www.unic.or.jp/activities/international_law/intl_trade_law/

• 「担保取引立法ガイド」(2007):コンピュータ化され、オンラインでアクセス可能な登記簿の設立を推奨(Ch. VI, para.41)

UNCITRAL Legislative Guide on Secured Transactions (2007)

https://uncitral.un.org/en/texts/securityinterests/legislativeguides/secured_transactions

• 「担保権登記簿実施ガイド」(2013):コンピュータ化された登記簿(「立法ガイド」の確認) (Ch. I, paras. 82-89):運用者(Registrar)の任命(Ch.I, para.74)=民間主体による運営を前提

UNCITRAL Guide on the Implementation of a Security Rights Registry (2013)

https://uncitral.un.org/en/texts/securityinterests/legislativeguides/security_rights_registry

私法統一(国際的な私法改革)の主体

• ユニドロワ(UNIDROIT: International Institute for the Unification of Private Law)

• 日本も加盟する国際機関:歴史的には国際連盟の付属機関

• 民商事法に関する統一法の策定が任務• UNCITRAL• 国連総会(第6委員会)の下に置かれた委員会:60か国を構成国として選出、日本は設立以来継続的に構成国に選出• 国際取引に関する法制度の調和化・現代化が任務

• 登記制度に対する信頼――情報の改竄、過誤登記等の排除:過誤登記の場合、担保=金融取引の当事者の損害大

• ただし、ケープタウン条約、UNCITRAL立法ガイドとも、通知登録(noticefiling)システム(Guide, Ch. IV, para.12):大陸法の不動産登記(権原登記簿)とはコンセプトが異なる:登記システムは申請された内容の真正性・正確性を担保しない(Guide, Ch. IV, para.59)

• 登記制度運用者の責任:UNCITRAL立法ガイド「システムの責任は誤作動の場合に限定」(Ch. IV, Pec.56):ケープタウン条約:厳格責任。ただし、best practicesに従っていても防止できなかった誤作動を除く(本体条約28条)

ユニドロワ財団『電子的担保登記制度のbest practices』

BEST PRACTICES IN THE FIELD OF ELECTRONIC REGISTRY DESIGN AND OPERATION

• 17の重要な運用指標(CPF: Critical Performance Factors):ケープタウン条約28条にもとづく免責条件の明確化Article 28 — Liability and financial assurances

https://www.unidroit.org/instruments/security-interests/cape-town-convention/

• ユニドロワ財団::ユニドロワの活動を支援するため設立された財団:資金拠出者:AWG, Aviareto, Sir Roy Goode

アクセスコントロール、利用可能性、利用者の認証、登記簿の可用性、データの機密性、サービスの継続性、データ処理の適正性、データの完全性、相互運用可能性、登記簿の法的根拠、運用者による処分の法的根拠、システムの信頼性、データ保存、登記の即時性、システムの信用性、ユーザー中心のデザイン、データの認証。

• 日本での文脈• 動産抵当登記の電子化• 動産抵当登記(航空機抵当、船舶抵当、農業用動産抵当、建設機械抵当など)を権原登記簿とする必要性。• 電子化した登記の運営主体(民間委託の可否)• Best practicesに照らした実務の改善• 国際的な文脈• ユニドロワ財団では、best practicesの法人登記簿への展開を検討中• UNCITRAL立法ガイド、それに準拠した担保法改革との連動?

2.スマートコントラクトと登記

• ブロックチェーン(分散型台帳)をプラットフォームとして,その上に記録され,そのコード(アルゴリズム)を用いて自動執行される取引:If …, then … という命題(プログラム)による記述:広義のスマートコントラクト:システムによって自動的に執行される契約(高頻度証券取引、自動販売機?)

• 事例:暗号資産(ブロックチェーン上で完結=自生的なデジタル資産):現実資産に対する権利(不動産の利用権、高級ワインの持分権など):保険契約(航空機の遅延データにより旅客に対して自動的に補償金支払い(Fizzy)):スマート冷蔵庫:センサーが不足している商品を検知して自動発注

• 取引当事者の認証:ブロックチェーン上における認証――公開鍵暗号等の利用:匿名・仮名による取引=現実の法的主体との紐づけが欠如:対価の支払いもブロックチェーン上で行われる場合(暗号資産を対価とする場合)、現実との紐づけは不要。

• 現実との紐づけの欠如が持つ意味

紛争の発生:相手方の住所地・所在地不詳=(国際)裁判管轄が定まらず、送達も不能:システム内でのオンライン紛争解決(Computer ADR = CDR)のみが現実的?

トークンの善意取得:取得者の注意義務(cf. 民法520条の5):入手経路の不自然さ――現実との紐づけがなければ想定できない?

◇2018 マルタ• 「バーチャル金融資産法(VFA Act)」

https://www.grantthornton.com.mt/industry/fintech-and-innovation/The-Malta-Virtual-Financial-Asset-Act/

• 「マルタデジタル革新当局法(MDIA Act)」

https://mdia.gov.mt/legislation/

• 「革新的技術アレンジメント・サービス法(ITAS Act)」:マルタデジタル革新技術当局(MDIA)によるブロックチェーンの確認(recognition)(ITAS Act 5条):確認を受けたブロックチェーンの登録(ITAS Act 6条)

https://gonzi.com.mt/investment-services-fintech-capital-markets/blockchain-icos/itas-act/

◇2019 リヒテンシュタイン• 「トークン及び信頼技術提供者に関する法律」(TVTG)」:信頼技術を用いたトークンの私法的規律(有価証券法に準拠):信頼技術サービス提供者の監督(金融市場監督庁(FMA)への届出)

「Liechtenstein: Parliament Adopts Blockchain Act」

https://www.loc.gov/item/global-legal-monitor/2019-10-30/liechtenstein-parliament-adopts-blockchain-act/

◇2020 スイス

• 「分散型台帳証券」(DLT-Effekten)の規定(金融市場インフラ法2条b bis)

• 「分散型台帳取引施設」(DLT-Hendelssysteme)の規制(金融市場インフラ法73a条~ 73f条)

The new Swiss blockchain/DLT laws have been finalized and presumably, enter into force in early 2021

https://www.cms-lawnow.com/ealerts/2020/10/the-new-swiss-blockchain-laws-have-been-finalised-and-presumably-enter-into-force-early-2021

• 台帳証券の私法的規律(債務法973e条~ 973i条)DIGITAL ASSETS AND PRIVATE LAW

https://www.unidroit.org/work-in-progress/digital-assets-and-private-law/

• M2M (machine to machine)のコントラクト――法的な「契約」か?:スマート冷蔵庫の事例:機械による自動発注=契約当事者となる「人」の不在:スマート書棚(電子書籍の自動発注)の場合、物理的な配送もない:発注者としての機械の認証?

• UNCITRAL「アイデンティティ管理及びトラストサービスの使用及び国際的承認」プロジェクト:「物のアイデンティティ管理」を対象とすることの可否を議論:現時点までに対象としない方向が決定。

John Gregory「Identity Management and Trust Services at UNCITRAL」

http://www.slaw.ca/2019/03/20/identity-management-and-trust-services-at-uncitral/

• 「プラットフォームサービスに関する研究会・トラストサービス検討ワーキンググループ」(総務省):「IoT機器等のモノの正当性を確認できる仕組み」に言及

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/platform_service/index.html

3.データ取引と法人登記

• 信頼性のある自由なデータ流通(DFFT: Data free flow with trust):2019年1月、安倍首相(当時)が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で提唱:同年6月、G20大阪サミットの首脳共同宣言。

• 信頼=処分権者の意思にもとづく流通:データの処分権の所在は?:EUのGDPR(一般データ保護規則):「データ主体」=データを収集された対象者:データ利用の実態:データの保有者――データを収集したデバイスの管理者など一種の「二面市場」、主体の拒否権・同意権、主体の対価請求権、保有者の契約(契約しない自由)、保有者の知的財産権、データの収集・利用の自由、(DFFT)データ主体によるコントロール、データ保有者によるコントロール。

情報法の基本構造

データの内容に対する信頼• データのバイアス――データの品質の問題:データ収集プロセスの信頼性:個人情報の保護(データ主体の同意)とは別の問題。

• AI利活用原則「適正学習の原則」:機械学習は「教師データ」が前提―→教師データに偏りがある場合、学習の結果にも偏りが発生。※例:米国テック企業の顔認証:白人男性以外の認識精度が低いという課題。

• 偏りの有無を確認するためには「データの出所」の記録(トレーサビリティ)が必要:機械の認証が必要とされる第二の局面。

プラットフォームの役割• ビッグデータの解析はプラットフォーム上で行うことが主流:解析ツールを提供:データの取引市場としても機能。

• データの信頼性における役割は?⇔プラットフォームはデータ内容の信頼性を保証しない(「場」としての役割):データ主体の同意の有無:データのバイアス(データ内容の真正性)おそらく、利用規約の免責条項等により規律• データ収集・加工過程のトレーサビリティを表示する機能を実装できないか?

登記制度の将来展望

• 登記システム自体の電子化・デジタル化・DX:デジタル・システムとしてのベンチマークが重要(公営である必要はない)。• 取引のDX(とくにブロックチェーンの利用拡大):新しい取引形態を法的に規律するための認証・登記。• データ取引の特殊性(「二面市場」性):データのトレーサビリティの必要性。• いずれの問題についても、法律家とエンジニアの対話の重要性:放置しておくと、「法の領域」が次第に縮小。

司法書士 早川将和「IT 社会において商業登記が担うべき役割とその課題」

1.商業登記制度が担うべき役割

(1)エンフォースメント機能 商業登記の公示機能が相対的に低下しているとの指摘⇒ 現実には商業・法人登記事項証明書等の取得件数は顕著に増加(法務省登記統計「種類別 登記事項証明書の交付等の件数」より抜粋)。企業情報が増えた現在においても、登記事項証明書等がみられている⇒ 背景にあるのは、確かな情報(エンフォースメント機能)への期待では。

(2)基礎的な法人情報の連携元としての機能

IT 行政の進展(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律/官民データ活用推進基本法)情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414AC0000000151

2016年:行政機関内での登記情報の連携による添付省略が決定(2016年10月31日各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議第68 回会合決定)。

2021 年:本年度中に地方自治体における事務についての登記情報連携の仕組みを検討(2020年12月25日閣議決定「デジタル・ガバメント実行計画」)⇒照会に対して自動で連携されるような利用を想定。商業登記に基づく電子認証制度による電子署名・証明書の利用拡大…登記情報はIT 社会に不可欠なデジタル企業情報基盤へ。

2.現在の課題

(1)登記期間 システム上の相互連携≒「今」の情報の連携⇒「発行から3か月内の登記事項証明書」が通用することを前提とした運用は困難に(登記記録が閉鎖される前に、登記事項証明書を取得しておく)Cf.商業登記電子証明書(登記中は有効性確認に「保留」の回答がなされる。)…実体法上の効力発生から登記への反映までのスピードアップが肝要。130年間変わらない2週間という「登記期間」、登記記録に現時点の情報を反映する時間を短縮すべきニーズの増大。会社法第九百十五条等

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086

(2)審査期間と審査期間中の登記記録の取り扱い等

審査期間(地域や時期による差がある)≒1週間から繁忙期には2週間程度⇒ 審査期間中の登記記録の閉鎖(登記情報の取得が不可能)により、参照不可。閉鎖する区の限定が必要…登記の事由(商業登記法17 条2 項3 号)に対応した登記記録上の区のみを閉鎖などの対応(ただし、補正の運用も変更が必要)、補正がある場合の却下の取り扱い。

本来:・申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申請人が補正したときに限り却下されない(商業登記法24 条)・登記官から申請人に補正期限と当該期限までに補正がなされなければ却下する旨が通知されなければならず、補正がなされないまま期間を経過した場合には却下される(商業登記手続準則50 条1 項・3 項)。

現状:現実には期日の設定があいまいで、申請人が補正の意思を表示している限り却下がなされない。⇒ 結果として1 か月以上にわたり登記情報が閉鎖される事例も散見される…適正な運用が必要。

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私が認識している現状と反対でした。東京都など他の都道府県の現状はそうなのでしょうか。

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(3)登記がなされない事例・休眠会社のみなし解散⇒ 活動実体がない会社が大半、法人悪用の懸念。⇒ 登記懈怠は、単に情報開示がなされていないのではなく、法執行の観点からも問題。。

(4)エンフォースメントの向上・登記官の添付書面により事実認定し、法律要件を満たしているかを審査する形式⇒ 形式的法的要件の審査が中心であったことから、人の実在や意思確認が課題に。

主な改正の変遷

昭和42年商業登記規則改正:取締役会議事録の偽造による虚偽の代表取締役の変更登記を防ぐために取締役会議事録の押印についての印鑑証明書の添付を要するとする改正。

昭和47年商業登記規則改正:架空の人物が取締役となっていることが社会問題となったことによる代表取締役の就任承諾書の押印についての印鑑証明書の添付を要するとする改正。

平成27 年商業登記規則改正:虚無人が平取締役等として登記され悪用される恐れが内閣府消費者委員会により取り上げられ、取締役および監査役等についての本人確認証明書の添付を要するとする改正、代表取締役の辞任届の押印についての印鑑証明書の添付を要するとする改正。

エンフォースメントに関する課題-各種無効や取消の訴えなどにより、登記された事項についての無効が争われる事例。インターネットの発達により、「書式」としての記載例を探すことが容易に。AI商業登記サービスの出現⇒作成した“だけ”の書類を添付した登記申請につながる恐れ。

3.課題に対する現状と今後の方向性

IT技術を利用した登記期間および審査期間の短縮、オンライン申請の促進と完全オンライン化(法務省「オンライン利用率引上げに係る基本計画(令和3年9 月24日)」https://www.moj.go.jp/content/001357344.pdf (2021.11.1)、法務省「商業・法人登記のオンライン申請について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html (2021.11.1)・メリット・・・XML形式のファイルを送信=入力作業が不要に。

・課題・・・いわゆる別送方式(商業登記規則102 条2 項但書)が大半⇒オンラインで申請された申請情報と後日郵送されてきた書面の仕分け作業が必要。

電子署名の普及、商業登記手続に利用することができる電子署名(商業登記規則102 条3~5 項)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=339M50000010023_20210301_503M60000010002

課題 ⅰ)普及している電子署名と登記において利用できる電子署名の違いなど・会社法上の要件:電子署名に要件はない(上記A~E いずれでも可、会社規225条)。

会社法施行規則 

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010012

・普及している電子署名:立会人型電子署名・商業登記手続において利用できる電子署名:上記表のとおり⇒ このような違いがわかりづらいこと、複数の電子署名をする場合の前後関係などの技術的な知識が必要になることもあり、登記添付書面の電子署名にはハードル。

ⅱ)電子署名の運用 代行押印が一般的な会社実印をベースにした実務運用が、本人操作が大前提の電子署名に対応していない。(代表取締役が操作しなければいけない運用に、実務部門が躊躇)。Cf.契約実務においても、代表取締役名義の契約について、立会人型電子署名を代表取締役以外の操作により行うのが一般的。

③ 役所間のデータ連携・商業登記申請において必要となる代表的な官公署作成書面。官庁の許可書 商業登記法19 条 不可、戸籍謄本 商業登記法54条4項不可、登記事項証明書 商業登記法47条2項等 可(平成27 年改正)、裁判所の許可書等 商業登記法73条、商業登記規則61 条1項等不可、印鑑証明書 商業登記規則61条6項 書面の場合不可、一定の電子署名の利用の場合、添付不要(平成27 年改正)、本人確認証明書(住民票等) 商業登記規則61条7項。

・データ形式が定式化していないと確認作業の自動化を図ることは困難⇒「ワンスオンリー」の達成は難しいCf.マイナンバー制度(一元的なデータベースではない)

(2)代理人の活用・登記官のみが登記審査を受け持つシステムでは、審査期間の短縮に限界⇒全国に存在する司法書士の活用。

・司法書士が本来担う役割:「登記に関する手続を代理し、法務局に提出する書類を作成する」(司法書士法3 条)⇒現実には、商業登記手続において代理人司法書士の名で作成する書類は申請書のみ(依頼者が作成した書類に基づいた申請書だけを作成したような外観)、AI登記サービスと司法書士が関与した登記申請との違いはどこに?Ex.辞任届の内容はどの程度確かなのか。議事録に記載された株主総会は確かに行われたのか。・司法書士倫理⇒ 実際に行っていることと、申請書類に現れる外観に差異。・現に資格者代理人が行っている実体法上の確認を、制度化して登記手続に活かす⇒ 方法は様々。・資格者代理人が申請した登記については、登記官の実体法に関する審査を省略。・資格者代理人が認証する旨を表示した申請については、添付書類を一切不要とする。

以上

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「・資格者代理人が申請した登記については、登記官の実体法に関する審査を省略。・資格者代理人が認証する旨を表示した申請については、添付書類を一切不要とする。」私は1番目に関しては賛成ですが、2番目に関しては、分かりませんでした。

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「デジタル社会における不動産登記簿の公開」小西飛鳥氏(平成国際大学法学部教授)

1 はじめに  

 不動産登記簿には、個人情報やプライバシーにかかわる情報が含まれているが、公開の原則が採られ、誰もがその情報を手に入れることができる。これに対して、戸籍については、当初は公開の原則が採られていたものの、現在では非公開が原則となっている(個人情報保護の観点から、戸籍制度は公開の原則から大幅な見直しが行われ、他人の戸籍謄本等の請求は制限されている。しかし、それでもなお不正取得の問題が指摘されている。二宮周平「個人情報の保護と戸籍公開原則の検討」立命館法学 304 号 238 頁-266頁、同「2007 年改正戸籍法の検討課題と本人通知制度の展望」部落解放研究 199号77頁-84頁参照。)。不動産登記簿は個人の氏名、住所、担保権の設定などから資産状況も把握できプライバシーとして保護される必要性の高い情報を有するデータであり、戸籍における個人情報と同様にその保護の必要性は高いが、そのデータにアクセスするについては何ら制限が設けられていない。さらに、不動産登記簿が紙の登記簿・窓口申請から、電子化・オンライン化に変わることにより、以前よりデータへのアクセスが容易となっており、世界中から誰もが我が国の不動産登記簿の情報を取得することが可能となっている。

 今回の民法・不動産登記法改正においても、不動産登記簿の公開に関し、DV 被害者等の保護のための対策が取られたが、それ以上に踏み込んだ対策は取られなかった。しかし、DV 被害者等の保護だけで十分と言えるのであろうか。デジタル化が進んでいない時代においては、わざわざ法務局に行くなどしない限り他人の資産状況を知る(閲覧する)ことはできなかったが、現在ではオンラインでの閲覧が可能になり、誰もが容易にアクセスできてしまうため、プライバシーの侵害となり得る(吉田克己「不動産登記と個人情報・プライバシー」ジュリスト 1502 号 40 頁-45 頁において、DV 被害者等の保護の観点から出された 2013 年 12 月 12 日付け法務省民事局第二課長からの通知が出されたことをきっかけに不動産登記簿の情報開示の制限についての正当性及び制限の程度について論じている。)。

本稿では、不動産登記簿の公開について再検討し、公開すべき情報及び公開方法について以下で検討する。

2 不動産登記簿の公開

不動産登記簿の公開の原則

 不動産登記制度の目的は、不動産登記法第 1 条に「この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するため」でありこれにより「国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資すること」であると定められている。同条は平成16年の不動産登記法の全面改正の際に新設された規定であるが、新設される以前から「実体的権利変動を正確かつ迅速に公示することにより不動産取引の安全と円滑とに奉仕すること」(幾代通『不動産登記法[第 4 版]』(有斐閣、1994年)13 頁。)。にあるとされてきた。

 このように不動産登記制度は、不動産の表示および権利を公示することにより、不動産取引の安全と円滑化のための制度であることから、第1条に定める目的に従い、登記簿は、不動産取引に関与する者に対してこれを公開しなければならないが、さらに誰に対してでも無制限に公開しなければならないかについては検討の余地がある。なぜなら、公開されることにより、登記されている者のプライバシーを侵害する可能性があるからである。

 不動産とその物権関係を登記するかどうかが、まったく当事者の任意にゆだねられている制度のもとであるならば、当事者は自らの意思に基づき、自己の財産関係および権利関係について公開されることをあらかじめ想定して登記をすべきといえるが、公法上・私法上の公示強制(七戸克彦『不動産登記法案内』(勁草書房、2014 年)15 頁-16 頁。)。がはたらく不動産登記制度の下では、当事者の想定外またはその意思に反して、みだりに第三者から、財産関係および権利関係が「のぞき見」されることは、当事者にとって事実上だけでなく法的にも不利益を被るといえるからである。隣の家に住む者の財布の中身や銀行の預金高を知ることがないのは当然であるのと同様に、隣人の不動産登記簿上の乙区の抵当権から銀行からの借金を知ることがあってはならないのではないだろうか。

2.不動産登記簿の公開の方法、範囲及び請求権者(閲覧権者)

(1)公開の方法 1)    登記事項証明書の交付

 現行の不動産登記法では、誰でも手数料を納付することにより登記記録に記録されている事項の全部または一部を証明した書面(登記事項証明書)の交付を請求することができる(現不登法119条1項)。今回の改正でも同項の変更はない。 証明力のある登記事項証明書の交付については、書面請求、証明書発行機による請求、オンライン請求が認められている 。

2)  登記簿の閲覧

  登記事項証明書の交付と同様に、誰でも手数料を納付することにより、登記記録に記録されている事項の概要を記載した書面(登記事項要約書)を交付する方式で行われている(現不登法規則 27 条 1 項 2 号)。登記事項要約書については、閲覧制度の代替的制度であるという理由から、登記所に直接出向いて請求書を提出し、その場で交付を受ける方法しか認められていない(七戸・前掲注 4)270 頁-271 頁6。)。

旭川地方法務局 【証明書関係】登記事項証明書(登記簿謄本)と登記事項要約書の違いはなんですか。

https://houmukyoku.moj.go.jp/asahikawa/page000001_00091.html

3)登記情報提供サービス

 登記情報提供サービスは、オンラインで電子化された地図・図面情報を含む不動産登記情報を取得できるサービスであり、平成12年4月1日に開始され現在に至っている(七戸・前掲注 4)271 頁-272 頁。「登記情報提供サービス」https://www1.touki.or.jp/ 7。)。登記事項証明書と同じ内容であるが、登記所ではなく、一般社団法人が行っているものであり、証明力はない。平成 27 年からは、地番と住居表示の対応地図の利用も可能となった(小柳春一郎「土地の公示制度の課題-取引安全円滑と情報基盤」ジュリスト 2015 年秋号(No.15)91 頁。)。

(2)公開される範囲

 不動産登記簿の公開の範囲は、明治32年旧不動産登記法の規定では謄抄本の交付については登記簿のみ、閲覧については登記簿と付属書類に限られていた。 戦後、昭和35年の「登記・台帳一元化」改正の際に、交付・閲覧の両方について地図・建物所在図が加わり、平成 5 年の改正では、同改正によって法定化された地図に準ずる図面も加わった(旧不登法 24 条の 3第 3 項)。さらに平成 11年旧法改正の際に、交付については登記簿の付属書類のうち地籍測量図・建物図面・その他の図面(土地所在図・地役権図面・各階平面図など)の全部または一部の写しの交付も認められることになった(七戸・前掲注 4)263 頁。)。

  閲覧については、登記簿・付属書類の利害関係のある部分に限り認められていた(明治 32 年旧不登法 21 条 1 項)。昭和 63 年磁気ディスク登記簿導入の際に、登記簿の閲覧に関して登記事項要約書の制度に置き換えられたが、登記事項要約書で閲覧できない地積測量図等以外の登記簿の付属書類については、従来通り、利害関係のある部分に限るとされた。

 さらに現行不動産登記法第 121 条 2 項ただし書においても、登記簿の付属書類のうち土地所在図等以外のものについては利害関係者のみが閲覧できるとされている。これは改ざん防止が主な目的であるとされる(七戸・前掲注 4)263 頁-264 頁。)。

(3)請求権者(閲覧権者)

  登記簿の謄抄本の交付に関しては、明治32年旧不動産登記法の原始規定において、誰でも請求できると定められていたのに対し、閲覧については利害関係のある部分に限りとされていた。これは、紙の帳簿・図面に関しては、原本それ自体を閲覧させることになるため、原本が閲覧者によって破損・改ざんされる危険があったからとされる(七戸・前掲注 4)263 頁-264 頁。)。

Ⅲ 不動産登記簿の公開に関する不動産登記法の立法過程及び改正の経緯

1.不動産登記法の制定及び改正

  現行の不動産登記法は、明治19年旧不動産登記法までさかのぼることができる。その後、明治32年旧不動産登記法が制定され、何度かの改正を経て現在に至っている。 以下では、不動産登記簿の公開に関する改正をたどることにする。

2.明治 19 年旧不動産登記法(明治 19 年 8 月 13 日公布 明治 20 年 2 月 1 日施行)

  明治 19年旧不動産登記法は、不動産の権利関係を表すために法律第 1号としてドイツ法及びフランス法を参考に制定された(七戸克彦「日本における登記制度と公証制度(の機能不全)」法学研究(慶応義塾大学)72 巻 12 号(1999 年)255 頁-256 頁。)。不動産登記簿の公開に関して、同法第 11 条は「登記ノ謄本又ハ抜書又ハ一覧ヲ要スル者ハ其登記所ニ出頭シテ之ヲ請求スルコトヲ得」と定め、登記簿の公開の範囲及び閲覧権者について特に制限は設けていない。

 明治 23 年には司法省令で「登記法取扱規則」(明治 23 年 10 月 29 日公布)により詳しく手続きが定められた。登記簿の公開に関し、同取扱規則38条は「登記簿ノ閲覧ヲ請フ者アルトキハ官吏ノ職務ヲ以テ閲覧スルノ外吏員ノ面前ニ於テ之ヲ閲覧セシム可シ」、同 39 条は「登記簿ノ謄本若クハ抜書ヲ請フ者アルトキハ其用紙ニ謄寫シ謄本下付帳ト割印シテ之ヲ下付ス可シ但手數料ヲ領収セサル前ニ謄本又ハ抜書ヲ下付スルコトヲ得ス」、同 40 条は「謄本ハ登記簿用紙ノ全部ヲ遺漏ナク謄寫シテ之ヲ作ル可シ抜書ハ請求アル部分ノミ登記簿ヨリ摘寫シテ之ヲ作ル可シ」同41条では、郵送料を別に納めれば登記所に出頭せずとも送付することが定められている。同取扱規則の下でも特に制限は設けられていない。

3.明治 32 年旧不動産登記法

  当初の草案では、ドイツ土地登記法草案 15 条の規定を参考にして第 9 条、「登記所ハ何人ト雖モ法律上ノ利害関係ヲ説明シテ申請ヲナシタルトキハ其関係アル部分ニ限リ登記簿若クハ其附属書類ノ一覧ヲ許シ又ハ登記簿ノ謄本若クハ抜書ヲ交付スへシ」として、法律上の利害関係を疎明することを要件としていた。これに対して修正案では、第 9 条「登記所ハ何人ニモ登記簿若クハ其附属書類ノ一覧ヲ許シ又ハ其請求ニ應シ登記簿ノ謄本若クハ抄本ヲ交付スルコトヲ要ス」が示された。原案については、梅謙次郎がフランス法では誰でも抄本を取得できること、利害関係人である書面を要求することは実際には容易ではないといったことを理由に反対した。これに対し、磯部四郎は、原案に賛成の立場を示した。

 その理由として、登記法は公示方法であるとは言うものの利害関係を有する者が初めて登記書類を見る必要があるのであり、商業帳簿のように秘密にするべきものと述べている。そして、フランス法の規定はフランス法の制度によってのみ妥当するのであり、公証人制度が関係しているのであり、日本も将来制度が整えば、公示に制限をする必要はなくなるかもしれないが、現状においては疎明を要件とすべきと主張した。続いて田部芳は、何人に対しても制限なく認めると、登記管理は非常に煩わしくなり、他の登記業務に差し支えることを理由に反対した。井上正一は利害関係人である書面を要求し、最終的には抗告の手続きをもって対応できるのであり、真の利害関係人が閲覧できない事態には至らないと主張した。長谷川喬が抗告をもって利害関係人であるか否かを判断するという制度については弊害が生ずる可能性があることを理由に折衷案を示し、閲覧のみは利害関係人に許し、謄抄本は誰にでも認めるとの案が、賛成多数で可決された(不動産登記法第 4 回議事速記(明治 29 年 2 月 24 日)『日本近代立法資料叢書26法典調査会不動産登記法案議事速記 他収録』(商事法務昭和61年)31頁-33頁13。)。

  その後、明治 32 年 1 月 21 日の衆議院(第13回帝国議会)(https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001313242X02118990125&spkNum=63#s63)に提出された条文では、第21条「何人ト雖モ手数料ヲ納付シテ登記簿ノ謄本又ハ抄本ノ交付ヲ請求シ又利害ノ関係アル部分ニ限リ登記簿又ハ其附属書類ノ閲覧ヲ請求スルコトヲ得但登記簿又ハ其附属書類ノ閲覧ヲ請求スルニハ利害ノ関係ヲ疎明スルコトヲ要ス」とされていた。

  ところが、その後に開催された衆議院不動産登記法審査特別委員会において同条ただし書の閲覧については利害関係者の疎明を要するか否かについて議論された 。明治 32 年 1 月27日の会議では、平岡萬次郎が閲覧について利害関係者の疎明を要するとすると役所の取り扱いが不便であるとの不満が生じるであろうとの意見が述べられた。これに対し政府委員の田部芳から、「随分餘リ必要ノナイモノガ、唯物好キニ見ルト云フヨウナ者モ餘リ餘計ハ無イカモ知レマセヌケレドモ、無イトモ限ラヌ」とし、さらに閲覧については登記所の人間が見張っていなければならず、制限がないとむやみに見たいといってこられても事務の取り扱い上も問題があるとの説明がなされた。これに対して、平岡萬次郎が中には悪いことを企んで閲覧する者がいるかもしれないが、それは本当にわずかであり大方は必要があって閲覧しに来るのであり、疎明を聞くほうがかえって難儀であるから事務方の取り扱いとして閲覧時間に制限をするなどすれば十分であろうと述べている。政府委員の倉富勇三郎が事務手続きの煩雑さを理由に閲覧制限を行う旨を述べたところ、小山久之助から公務員の仕事として当然のことであり制限を設ける理由としては間違っているとの指摘がされた。これに対し田部芳からは、決して手数という意味ではなく、登記申請手続きに差支えが生じないようにするためとの釈明があった。さらに西原清東から利害関係について、取引を開始するか検討中の相手方についてその財産状況を知るために閲覧請求をする場合は、現在は利害関係は生じていないが、この場合も広く利害関係ありとするのかについての疑問が示された。これに対し、倉富勇三郎からは、西原清東が示した事例は当然に利害関係ありと解釈できる場合であり、また購入を検討している者が真の所有者が誰であるかを確認する場合に閲覧請求する場合も利害関係ありと判断されるとしたうえで、結局のところ、利害関係がないのに閲覧しようとする人はあまりおらず、その様な規定をおいても実際は不都合は生じないのではとの意見が述べられた。そして、田部芳から、利害関係者に限るとの規定をおいても、緩やかな制限であり不都合は生じないであろうとして閲覧については制限ありとの意見でまとめられた。

  翌日の明治 32 年 1 月 28 日の委員会で一通り条文ごとの検討が終了したとのことで、条文の修正案の決議を行われることになった。ここで平岡萬次郎から修正案が示された。すなわち、「何人ト雖モ手數料ヲ納付シテ登記簿ノ謄本又ハ抄本ノ交付ヲ請求シ又登記簿又ハ其附属書類ノ閲覧ヲ請求スルコトヲ得」として、いずれの場合も利害関係を要しないとされた。これに対し、倉富勇三郎からは利害関係者に限るとの規定をおいても閲覧に不便は生じない、裁判における疎明とは異なり、登記官吏が尤もであると感ずればそれで済む話であり原案通りにすべきと反対した。関直彦は、一般市民は簡便なほうがよく、利害関係者に限るとの文言を加えると困難を感じるようになるので反対と述べた。さらに平岡萬次郎から、登記官の判断で利害関係のあるなしが決まることになると登記事務の多さや登記官の疲れ具合により、ある日は認めたりある日は認めないといった弊害が生ずるのではないかといったことも付け加えられた。このような議論を経て最終的には原案から但し書きを削除するという修正案でまとめられ可決された。

  明治 32 年2月3日に開催された第 13 回帝国議会衆議院本会議において、利害関係の疎明を要しないとする修正案が不動産登記法案特別委員会の経過報告として提案され可決した 。その後、明治 32 年 2 月 7 日 及び 2 月 14 日 に開催された貴族院(第 13 回帝国議会)においても同様に可決し不動産登記法が成立した。

  明治 32年旧不動産登記法 21条第1項は、「何人ト雖モ手数料ヲ納付シテ登記簿ノ謄本又ハ抄本ノ交付ヲ請求シ又利害ノ関係アル部分ニ限リ登記簿又ハ其附属書類ノ閲覧ヲ請求スルコトヲ得」とされ、登記簿の謄抄本の交付については何ら制限を設けず、閲覧については申請人の範囲については制限を設けず、利害関係ある部分に限って認められることとなった。

  ところがその後、明治 32年 5月 12日司法省令第 11号として「不動産登記法施行細則」が定められ、同第30条の但書において「閲覧ヲ請求スル申請書ニハ利害ノ関係アル事由ヲ記載シ又ハ其事由ヲ記載シタル書面ヲ添付スヘシ」とされ、法律の規定を裏面から覆してしまったことを吉野衛は明らかにしている。とはいっても、この利害関係の事由は疎明ではなく、登記実務上も単に申請書に「賃借権登記の取調」などと書くだけで足りるとされ、第30条但書も弊害はなく、それならば、このような無意味な制限規定は削除するのが相当であるとの見解を述べている。登記実務上も、この運用はルーズに行われており、必ずしも利害関係の記載を要しないとされていたとの指摘がある。

4.平成 16 年までの改正

  明治 32 年旧不動産登記法はその後、明治 38 年の改正を皮切りに数度の改正を経て平成 16 年に全部改正されるにいたるが、その間に、磁気ディスク登記簿導入というコンピュータ化に伴い謄抄本の交付及び閲覧に関し昭和63年に不動産登記法の一部改正が行われた。昭和63年の改正により、磁気ディスク登記簿の公開方法として、従来の謄抄本の交付・閲覧に代えて、登記事項証明書と登記事項要約書の交付の制度が設けられた(旧不登法第 151 条の 3 第 1 項及び第 5 項)。登記事項証明書は、従来の謄抄本に相当するものである。登記事項要約書は、磁気ディスク登記簿に記録されている事項を記載した書面であり、登記簿の閲覧に代わる制度である。従来と同様に磁気ディスク登記簿について閲覧の制度を認めようとすると、閲覧のための端末機を用意しなければならず、その整備のための予算、場所の確保の問題を考えると現実的ではないことから、その代替手段として設けられた(房村精一「登記情報の公開」鎌田薫ほか編『新不動産登記講座①総論Ⅰ』(日本評論社、1997 年)所収 188 頁。)。

5.平成 16 年不動産登記法

  不動産登記簿の公開について、旧不動産登記法第 119 条は、旧不動産登記法第 151 条の 3 における登記事項証明書および登記事項の概要を記載した書面の交付に一本化し、登記簿謄本および抄本の交付および閲覧(旧不登法 21 条)は廃止された。登記簿の付属書類の閲覧については、旧不動産登記法第21条の趣旨に基づいて、電子化されている場合にはその写しの交付、電子化されていない場合についてはその閲覧を請求することができる旨が定められている(旧不登法121条 1項及び2項)。付属書類の閲覧については、誰でも登記官に請求することができるが、旧不動産登記法第 121 条第 1 項に定める土地所在図等の図面以外の付属書類の閲覧については、利害関係を有する者のみが請求人となることができ、利害関係を有する部分のみを閲覧することができる(旧不登法 121 条 2 項ただし書)。閲覧請求の手続きについて、利害関係を有する理由及び閲覧する部分を情報として提供し(不動産登記規則 193条 2項 4号)、利害関係がある理由を証する書面を提供しなければならず(不動産登記規則193条3項)、その具体例として訴状の写し等が該当するとされる(七戸克彦監修『条解不動産登記法』(弘文堂、2013 年)717 頁(武川幸嗣)。)。

  平成16年の改正においては、不動産登記簿の公開の是非については、特に議論されなかったようである(登記研究編集室編『平成 16 年改正不動産登記法と登記実務(資料編)』(テイハン、平成 17 年)295 頁。平成 16 年 6 月 3 日開催の参議院法務委員会で木庭委員から公開に関して若干の懸念が示されたのに対し、房村政府参考人からは登記情報の公開に関して、オンライン化されることで、将来的にはオンラインで証明書の発給を請求できる仕組みを導入することを検討しているとの答弁がなされている。)。

6.令和 3 年民法・不動産登記法

 各条文ごとの立法の経緯については七戸克彦『新旧対照解説 改正民法・不動産登記法』(ぎょうせい、2021 年)を参照した。今回の民法・不動産登記法の改正においては、不動産登記簿の公開についても検討された。平成 31年 2月に「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」の報告書「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究報告書~所有者不明土地問題の解決に向けて~」の中で、登記名義人等が DV 被害者であり、登記名義人等の現住所を公開することが相当でない場合にその現住所を公開しないものとする方向で,引き続き検討すべきであるとの提案がなされた 。

(1)不動産登記簿の公開

1)    法制審議会民法・不動産登記法部会 部会資料 9

 登記名義人等が DV 被害者等である場合の現住所の非公開の場合を除き、部会資料 9 では、より一般的に住所情報を非公開とすることの是非について,広く登記名義人等本人から自己の住所情報を秘匿したい旨の申出があった場合には,住所情報を公開しないものとし,利害関係を有する場合に限って当該住所情報を閲覧することができる考え方もあり得るが、例外的に住所情報の閲覧を許容する要件をどのように定めるべきかについて慎重な検討が必要になるものと考えられるとされた。例えば,「利害関係を有する者」に住所情報の閲覧を認めるという制度とすることが考えられるが,「不動産の買受けを検討している」という程度でも利害関係があるとすると,原則として住所情報を公開するものとすることと変わりがないことにもなりかねない。他方で,これをより厳格に解釈した場合には,閲覧を過度に制約し,不動産登記による公示制度の目的が達成されない事態を生み出しかねないとの指摘が考えられる。また,利害関係の有無について,登記官による判断が困難なものとなった場合には,迅速な公開が妨げられるといった弊害も問題となり得るとして、

住所情報についてより広く公開を制限することについては,慎重に検討をする必要があると考えられると説明されている 。

2)    法制審議会民法・不動産登記法部会第6回会議(令和元年7月30日開催) 

https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_00302.html

 第 6 回会議において、部会資料 9 に基づき、各委員から登記簿の公開に関し様々な意見が出された。道垣内委員からは不動産登記法の目的に関して「民間の取引をアクセスしやすくするため」なのかという部会資料 9 の記載についての指摘から始まり、松尾幹事からは利害関係の線引きについて取引に入ろうとする者について「こういう人たちも使えるように、不動産登記簿には住所が載っているんだというふうに考えるべきなのか、ぎりぎりのところはどこかを明確にする必要がある」、「この土地を誰が所有しているか、その者の住所を知りたい、その者にアクセスしたいということが、どういう範囲の人たちに許されていて、情報提供すべきなのか、登記所自体はマーケットそのものではありませんが、登記が取引を促進するというときに、登記がどういう機能を果たすべきなのかということは、しっかり考えるべきである」との発言があった。

 これを受けて蓑毛幹事からは、住所情報の公開を維持したほうがよいとの立場に立ちつつ、「登記所が土地所有者の現住所をバックデータとして持つのか、あるいは登記事項とするけれども公開でないという類型を作るのか、いずれにせよ、登記所が土地所有者個人の特定に資する情報は持ち続けるけれども、公開する範囲は何らかの形で限定するという方法で、土地の適切な管理を図ることはできるのではないか、という議論もあり得」るとの発言があった。

 また、山本幹事からは、個人情報の取り扱いには3段階あり、「ここでいう不動産の買い受けを検討している事業者等について、アクセスしやすいようにするという目的を立てるのかどうかということがあり、さらに、目的を実現するために、一体どういった情報が必要なのか、あるいは、どこまでの情報を出すのが相当なのかという問題があろうと思います」との発言があった。会議ではこの論点については、DV 被害者等のケースについては、提案する方向で進めるが、一般的な登記簿の公開に関しては、引き続き、検討を続けるということにせざるを得ないとして山野目部会長がまとめて終わった 。

3)    法制審議会民法・不動産登記法部会 部会資料12

  第 6 回会議での論点は部会資料12にまとめられた 。すなわち、登記名義人等の住所が明らかとなることにより当該登記名義人等に対して加害行為がされるおそれがあるものとして法務省令で定める場合には,当該登記名義人等の申出により,その住所を公開しないことができるものとする規律を設けることについて,現住所を非公開とする方法が検討されたことがまとめられている。

4)法制審議会民法・不動産登記法部会第 7 回会議(令和元年 9 月 24 日開催)

 第 7回会議では、部会資料 12をもとに、被害者の住所を非公開にするという点について詳細な検討がなされたが、登記簿の公開についての一般的な議論はなされなかった 。これ以降の会議において、登記簿の公開をめぐる一般的な議論はなされず要綱案、要綱とまとめられ、法律案(閣法第 55 号)として提出された。その後、第 204 回国会衆議院法務委員会、参議院法務委員会においての質疑があり、参議院法務委員会(令和 3 年 4 月 15 日開催)において、参考人の阿部健太郎(全国青年司法書士協議会会長)から、インターネットを使った技術の革新から、自宅から誰でも、全国どこの情報も閲覧できることについての問題についての指摘があるにとどまった。

(2)附属書類の閲覧制度の見直し

1)法制審議会民法・不動産登記法部会 部会資料 9

  附属書類の閲覧制度の見直しについては、登記簿の附属書類のうち,図面以外のものについては,請求人が利害関係を有する部分に限って閲覧することが認められている現行の規律(不登法第 121 条第 2 項)について,見直すべき点はないかも検討事項としてとりあげられた。附属書類のうち図面以外のものの閲覧の請求をするときは,利害関係を有する理由及び閲覧する部分を請求情報の内容とした上で,利害関係がある理由を証する書面を提示しなければならないこととされている(不動産登記規則第193条第2項第4号,第3項)。登記簿の附属書類の閲覧については,他の書類とは異なり,利害関係のあることが要求されているが,この「利害関係」が具体的にどのような範囲のものを指すのかについては,法律の趣旨目的を踏まえた解釈に委ねられており,実務においては,事例ごとに登記官が個別に判断することとなっている。このことを所有者不明土地問題との関係で考えると,登記記録を見ても直ちに所有者又はその所在が判明しない場合等には,附属書類を閲覧して所有者探索のための端緒を見つけることが考えられるものの,この「利害関係」が過度に厳格なものと解釈されるとすれば,簡単には附属書類の閲覧をすることができなくなり,所有者探索が更に難航することが想定される。そこで,近時,上記のような観点からの考慮も必要になってきていると考えられることも踏まえ,利害関係を有する部分について閲覧が認められている現行の規律について,見直すべき点がないか,検討する必要がある。加えて,近時の所有者不明土地問題を背景とした社会的要請としては,附属書類から所有者探索の端緒を見つけるというものがあると考えられる。閲覧の範囲を画する基準として,「利害関係を有する部分」との規律を維持することが相当であるかどうか,又は,例えば,「閲覧する正当な理由がある部分」などの規律とすることの方がむしろこれまでの解釈や近時の社会的要請にも応えられるものとなるのかどうかなどについて,検討する余地があるものと考えられるとされた(前掲注 26)30 頁-35 頁。)。

2)法制審議会民法・不動産登記法部会第 7 回会議(令和元年 9 月 24 日開催)

  第 7 回会議において、部会資料 9 に基づき、各委員から附属書類の閲覧に関し様々な意見が出された。 表示の登記に関しては、例えば隣地の分筆の際の土地の境界の立ち会いについての経緯などが附属書類に含まれているため閲覧をする必要があるといった指摘が國吉委員から、権利の登記に関しては、委任の有無について委任状を見て確認する、原因証明情報について正当に作成されたかどうかの確認をする要請があるといった指摘が今川委員からなされた。 これを受けて、山野目部会長より、現行法の法文の文言を利害関係がある部分に限るから、正当な理由がある部分に限りするという意見があったこと、附属書類のうち戸籍謄本は個人情報が多く含まれており、戸籍法の現行の規律や個人情報保護に関する規制を実質的に潜脱する結果とならないよう慎重な取り扱いがあってよいとの発言があった。道垣内委員からは、一般的に附属書類を見ることができるということになった場合には、附属書類を見なかった場合には過失があると評価され、高い注意義務水準が求められるといった可能性もあるのではとの発言があった 。

3)法制審議会民法・不動産登記法部会 部会資料19

  第 7 回会議での議論を受けて、部会資料19に以下のようにまとめられた 。「登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第2項に規定する政令で定める図面を除く。以下同じ。)の閲覧制度に関し,閲覧の可否の基準を明確化する観点等から,次のような規律を設けることにつき,引き続き検討する。・何人も,登記官に対し,手数料を納付して,自己を申請人とする登記に係る登記簿の附属書類の閲覧を請求することができる。

・特定の不動産の登記簿の附属書類を利用する正当な理由がある者は,登記官に対し,手数料を納付して,当該附属書類のうち必要であると認められる部分に限り,閲覧を請求することができる。(注)登記簿の附属書類のうち,不動産登記法第121条第2項に規定する政令で定める図面(土地所在図,地積測量図等)については,何人も閲覧の請求をすることができるとする現行法の規律を維持するものとする。」 さらに、「附属書類には,例えば,申請書,嘱託書,委任状,印鑑証明書,戸籍謄本,住民票の写し,資格者代理人作成の本人確認情報,法人の登記事項証明書,相続関係説明図,法定相続情報一覧図,遺言書,遺産分割協議書,相続放棄申述受理証明書,売買契約書等の各種契約書,裁判書,和解・調停調書,不動産登記規則第93条ただし書に規定されている不動産の調査に関する報告書,立会証明書,固定資産評価証明書等の様々なものが含まれている。」「特定の不動産の登記簿の附属書類を利用する正当な理由がある者であったとしても,他人の個人情報も含まれた様々な附属書類を全て限定なく閲覧することができるとすることには問題があると考えられ,請求人の属性や利用目的等により,閲覧を認める必要性があり,かつ,閲覧が相当である附属書類は個別の書類ごとに分けて検討すべきものと考えられる。」

・法制審議会民法・不動産登記法部会第10回会議(令和元年11月19日開催)

 第 10 回会議では、部会資料 19 について、必要であると認められる部分に限りという点について平成27年の民事第二課長通知に基づいて、行われている厳重な取り扱いが今後も基本的に維持されるということで了承された 。・法制審議会民法・不動産登記法部会 部会資料 26  部会資料 19 からの変更はない 。・法制審議会民法・不動産登記法部会第 11 回会議(令和元年 12 月 3 日開催)] 平川委員から住民基本台帳法や戸籍法のように、かつて原則公開であったのが閲覧の制限をかけるという内容で法改正がされていることとの整合性について、整合性が取れるように何らかの形で記載すべきとの発言があった 。

・民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案「試案第 10 の3「附属書類の閲覧制度の見直し」

 登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項に規定する政令で定める図面を除く。以下同じ。)の閲覧制度に関し、閲覧の可否の基準を合理化する観点等から、次のような規律を設けることにつき、引き続き検討する。・何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自己を申請人とする登記に係る登記簿の附属書類の閲覧を請求することができる。・特定の不動産の登記簿の附属書類を利用する正当な理由がある者は、登記官に対し、手数料を納付して、当該附属書類のうち必要であると認められる部分に限り、閲覧を請求することができる。(注)登記簿の附属書類のうち、不動産登記法第121条第1項に規定する政令で定める図面(土地所在図、地積測量図等)については、何人も閲覧の請求をすることができるとする現行法の規律を維持するものとする。」 

・法制審議会民法・不動産登記法部会 部会資料 35

  パブリック・コメントの結果、試案①については賛成する意見が多数であったことが報告されている。②については「個人情報保護の要請を踏まえると、附属書類の閲覧が認められる基準を明確化する必要があること」は指摘されたものの、賛成する意見が多数であったことが報告された。

・法制審議会民法・不動産登記法部会第15回会議(令和2年7月14日開催]

  特に反対意見はなく、今川委員より「正当な理由について、法務省のほうで通達や通知等で運用上の指針を示していただくということですので、是非これは期待をして」いる旨の発言があった 。

・法制審議会民法・不動産登記法部会 部会資料 53

 要綱案のたたき台として、以下の案が示された。「3 附属書類の閲覧制度の見直し登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面を除く。)の閲覧制度に関し、閲覧の可否の基準を合理化する観点等から、次のような規律を設けるものとする。・何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面を除く。)(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。後記②において同じ。)の閲覧を請求することができる。・登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面及び前記①に規定する登記簿の附属書類を除く。)(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの)の閲覧につき正当な理由があると認められる者は、登記官に対し、法務省令で定めるところにより、手数料を納付して、その全部又は一部(その正当な理由があると認められる部分に限る。)の閲覧を請求することができる。」この案については、部会資料35と基本的に同じとする補足説明がなされている(https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00040.html[法制審議会民法・不動産登記法部会第23回会議(令和2年12月15日開催)]部会資料 53(21頁-22 頁)。)。

・法制審議会民法・不動産登記法部会第23回会議(令和2年12月15日開催)  賛成とする意見以外は出されなかった(https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00040.html[法制審議会民法・不動産登記法部会第23回会議(令和2年12月15日開催)]議事録 39 頁-46 頁。)。

・法制審議会民法・不動産登記法部会第24回会議(令和3年1月12日開催) 部会資料 53 と同じ案のもと、部会資料 57 に基づいて審議されたが、橋本幹事から「閲覧についての正当理由の判断について、現状で認められている閲覧よりも過度な制限がされるのは少し困るという意見がある一方で、本人確認手続は厳格にやるべきだという意見」があったことが紹介された(https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00044.html[法制審議会民法・不動産登記法部会第24回会議(令和3年1月12日開催)]議事録 35-38 頁。)。 これ以降の部会資料及び部会の会議録では特にコメントはなされていない。部会資料 53 から変更されず、要綱案、要綱とまとめられ、法律案(閣法第55号)として提出された。その後、第 204 回国会衆議院法務委員会第 6 号(令和 3 年 3 月 23 日開催)において、附属書類の閲覧について大口委員と池田(真)委員から、DV 被害者等の保護に関して、正当な理由の運用及びその運用の適切さについての質疑がなされた。これに対して、小出政府参考人から、DV 被害者等の保護の観点から、法務省として、正当な理由の内容について、できる限りこれを具体化、類型化して、通達等において明確化することを予定しており、これにより、適切な実務運用、これが安定的に行われるものと考えているとの回答がなされた(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000420420210323006.htm[第 204 回国会 法務委員会 第 6 号]。)。参議院法務委員会においては特に指摘はされなかったようである。

  以上のように、不動産登記簿の公開については、第 6 回の会議において不動産登記簿の公開についてのそもそもの制度趣旨、また公開の範囲及び方法についての意見が各委員から出されたものの、その後の会議においては議論されることなく終わっている。そして、DV 被害者等の保護の観点から今回の改正では、不動産登記上の住所情報を非公開とする措置がとられることとされた。すなわち、登記記録に記録されている自然人の住所が明らかにされることにより、その人の生命若しくは身体に危害を及ぼす恐れがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合、その者からの申し出があったときは、法務省令で定めるところより、登記事項証明書等に当該住所に変わる事項を記載するという規定が設けられた(改正後不登法 119 条 6 項)(荒井達也『Q&A 令和 3 年民法・不動産登記法 改正の要点と実務への影響』(日本加除出版、2021 年)273 頁。)。

  しかし、これはあくまでも DV 被害者等に対処するためだけの限定的な対応であり、本来は記載されることが予定されている自然人を特定するための情報が欠けることになる。このような対応ではなく、もっと普遍的な対応を検討すべきではないかと思われる。 附属書類の閲覧については、「利害関係を有する部分」から「正当な理由があると認められる部分」へと文言上は広げられたが、その詳細は法務省令で定めるが、平成27年の民事第二課長通知に基づいて行われている厳重な取り扱いが今後も基本的に維持されるとのことで、閲覧をするについてはその対象者は広がる可能性はあるが、概ね現行法が維持された。

Ⅲ ドイツにおける土地登記簿の公開Internet-Grundbucheinsicht

http://www.grundbuch-portal.de/

1.土地登記簿の公開の原則

  ドイツ土地登記法(GBO)12 条 1 項において、「登記簿の閲覧は、正当な利益を申述する者には、だれにでも許される。登記を補完するために登記簿において引用されている証書ならびに未処理の登記申請書についても同様とする」とし、さらに第 2 項において「登記簿、第 1 項に規定されている証書および未処理の登記申請書の閲覧が許される場合にはその写しを請求することができる。この写しは請求により認証される」と規定し、登記簿の公開は無制限ではないことが明らかにされている(石川清/小西飛鳥『ドイツ土地登記法』(三省堂、2011 年)34 頁。)。

2.土地登記簿閲覧の要件

  登記簿の閲覧について正当な利益を有する者は、登記簿のみならず、登記簿の記載の煩雑化を避けるために、登記簿において引用されている、登記の根拠となる証書(登記許諾証書、アウフラッスング公正証書等)および未処理の登記申請書を閲覧することができる。また、登記簿の閲覧が認められる限り、これらの謄本または抄本の交付を請求することができる。したがって、不動産登記簿は、商業登記簿のように一般に誰にでも、閲覧および謄抄本の交付が許されているわけではない。登記簿の閲覧についての正当な利益は、これを証明しなければならないのではなく、単にこれを申述すれば足りる(石川清/小西飛鳥『ドイツ土地登記法』(三省堂、2011 年)34 頁―35頁。)。

3.正当な利益

(1)正当な利益の意義

  ドイツにおいて登記簿を公開することに制限が認められるのは、不当な目的による第三者からの、登記されている権利者の財産関係および権利関係ののぞき見から登記されている者の個人的な秘密を保護するためのものであるから、正当な利益の範囲についてもこの観点から判断されなければならない。 正当な利益とは、「法律上の利害関係」よりも包括的な概念であるとされる。登記簿閲覧の申請人がその者の立場から、登記簿の閲覧によって求めるものが社会的通念に照らして是認しうるものであればそれで足りる、と解されている。また、正当な利益があることの証明を要するのではなく、不当な目的または単なる好奇心から閲覧をするものではないことをうかがわせる程度の事実をわかりやすく、登記官が納得できるように申述することで十分である。しかし、申請者の正当な利益の申述について合理的な疑念が生じる場合には、登記所は必要な書類の提出、事情によっては疎明あるいはそれどころか証明を要求することができる44。

(2)正当な利益を有するとみなされる者

1)    法律上当然に正当な利益を有するとみなされる者 登記簿を閲覧することについて、法律上当然に正当な利益を有するものとみなされる者は、閲覧についての正当な利益を申述することなく、関係する土地の登記簿の閲覧をすることができる。土地所有者、不動産物権者および不動産物権上に設定されている権利の権利者はすべてこれに該当するほか、土地所有権移転請求権、不動産物権の設定請求権を有する者もこれに含まれる。これらの権利が登記されているか否かは問われない。例えば、未登記の相続人、証券抵当債権者または未だ仮登記されていない所有権移転請求権者である。これらの者は、第三者というよりもむしろ当事者として、関係する土地の登記簿を閲覧して、不動産の状況及び権利関係をいつでも調査、確認する利益があるからである。

2)    公証人、官公署の職員または公務員たる身分を有する測量士 公証人、官公署の職員または公務員たる身分を有する測量士も、登記簿の閲覧について法律上正当な利益を有する者とみなされ、閲覧についての正当な利益を申述することなく、閲覧することができる(ドイツ土地施行規則 GBV43 条)。これらの者は職務執行に関連して閲覧をするものであるからである。とくに公証人は、登記に必要な意思表示の証書を作成する場合には、当事者に登記簿の内容を告知する義務がある(証書作成法 BeurkG21 条)。したがって、これらの者が公務上の理由により、登記簿を閲覧する場合には、登記簿の閲覧の手続きの軽減と簡素化のために、正当な利益の申述の義務を免除している。しかし、この場合にも官公署等は正当な利益を有していなければならないのであって、ただ、登記所によってそれが審査されないだけである。したがって、登記所が、具体的事件において、正当な利益が存在しない、ということを確実な根拠に基づき、知っている場合には、登記簿の閲覧または謄抄本の交付を拒否すべきである。弁護士が職務上登記簿を閲覧する場合には、その正当な利益について申述すべきであるが、ただ、弁護士が、公証人から登記簿の閲覧について委託された場合には、その閲覧についての正当な利益の申述の義務が免除される。公証人からの委託については、これを証明することは要せず、委託があった旨の、当番弁護士の確約で足りる。

(3)正当な利益を申述した者(GBO12 条 1 項)  不動産の取引をする者に、登記簿の閲覧権が認められるかは争いがある。売買契約の交渉に入っている者は、土地所有者の代理人として登記簿を閲覧し得るから、それで十分であるとする。隣地の所有者に閲覧権が認められるかは、具体的でありかつ、距離的に理由づけられる状況において正当な理由が導かれる場合にのみ、認められるとされる46。土地所有者に対する与信者または与信をもくろむ者、また、登記簿の閲覧についての正当な利益は、もちろん取引関係だけに限られるわけではなく、土地所有者または登記されている権利者の債権者、それもすでに執行名義を取得しているか否かを問わずすべての債権者にも、それぞれの立場において正当な利益を有していると解されるから、それぞれの立場からの事実関係を申述して、登記簿を閲覧することができる。また、公益は登記簿の閲覧を正当化することができる。しかし、それでも登記簿の閲覧を要求する者は、公共の利害関係を代表することの権限を有していることを申述すべきである。とくにジャーナリストについては、基本法上(GG5 条)保護されている新聞雑誌の情報伝達とチェック機能は、また別な観点から考慮されるべきである。新聞雑誌の登記簿閲覧については公共的な利害関係が成立すると考えられるから、これと登記されている者の私的秘密保持との均衡(比例)法の原則に照らして個別的に判断されるべきであろう。したがって、ジャーナリストも、少なくとも、公共利害関係からの正当な利益について申述すべきである47。

(4)  正当な利益を有しない者  閲覧が単なる好奇心または不当な目的のためになされるべきときには、登記所はその閲覧を拒否すべきである(GBO12 条 1 項)。また、興信所及び不動産業者も一般的には固有の閲覧権を有していないと解せられるから、不動産業者は土地所有者の代理人として閲覧をすることができるだけである48。

(5)  その他の利害関係  学術上若しくは研究を目的とする登記簿の閲覧は、GBO12 条において法的請求権が与えられていない。しかし、これは司法行政上の方法で認められることが可能である。研究を目的とする登記簿(附属基本書類を含めて)の閲覧については地方裁判所または区裁判所の所長が決定をする49。

4.閲覧の対象

  閲覧権を有する者は、登記簿及び閉鎖登記簿の他、登記において引用されている、登記のために必要な意思表示を公証または認証した証書および未処理の登記申請書を閲覧することができる(GBO12 条 1 項)。未処理の登記申請書の閲覧は、たしかに登記所の登記事件の処理について支障をきたすものであるが、一方、不動産取引をする者にとってはその閲覧は欠かすことのできないものである。というのは、登記事件は、登記申請書の受理の順番に従って処理されるものであり(GBO17 条)、それは権利の順位について重要であるばかりでなく、ときには受理された登記申請が実行されないことがあるからである。たとえば、抵当権設定登記申請は、先に受理されたアウフラッスングに基づき土地が新所有者に移転された場合には、もはや実行することができないからである。したがって、登記所側の業務処理の迅速性よりも、取引当事者の権利保護の利益を優先させるべきである、という考えに基づき、未処理の登記申請書の閲覧が認められた理由がある。

  登記所の登記簿の管理上調製された、所有者目録および土地目録は GBO12 条 1 項には含まれないから、原則として、それらの目録の閲覧、謄抄本の交付またはそれらの目録からの情報の交付を請求することはできない。 閲覧権は、正当な利益の申述の範囲において与えられるから、登記簿(閉鎖登記簿)、証書および未処理の登記申請書も関係する部分についてだけに限られる。 したがって、登記所は閲覧権者の正当な利益の申述の内容によっては、登記簿の一部、たとえば、ある区欄用紙の特定の登記または表題部用紙と第 1 区欄用紙、または附属基本書類を除外して、登記簿だけを、または閉鎖登記簿だけを閲覧させることもでき、その逆も同様である。

5.閲覧に関する権限

  登記簿の閲覧の請求があった場合、登記所は正当な利益の存否についての審査によって閲覧の可否を決定すべきである。登記簿(必要な場合には、登記所で調製した目録を含めて)の閲覧、謄抄本の交付の認容については登記課の書記官が決定をする(GBO12c 条 1 項)。したがって、正当な利益の存否についても登記課の書記官が決定をすることになる。登記所は、登記簿の閲覧、謄抄本の交付の前に、あらかじめ土地所有者からその可否についての聴聞をする必要はない。 登記課の書記官の決定に対する不服申し立てについては、登記判事が決定をする。登記判事の決定に対してさらに不服がある場合に、初めて抗告が許される(GBO12c 条 4 項および司法補助官法 4 条 2 項 3 号)。

6.閲覧の実行

  閲覧権は申述された範囲内において、本人または代理人によって行使されることができる。代理人による閲覧の場合には、その代理権の証明は GBO29 条 1 項の証書によることを要しないが、委任状の提出が必要である。委任状の署名の真正について合理的な疑問がある場合には、登記所は署名の認証を要求することができる(FamFG1 条)。閲覧の正当な利益については、もちろん本人のそれが基準となる。しかし、代理人が本人の正当な利益に代えて、代理人自身の不当な利益または第三者の利益のために閲覧をするものである、

 ・ドイツの場合

登記課の書記官は、次の各号につき決定する。

1.登記簿の閲覧または第 12 条に規定する書類および申請書の閲覧の許可ならびにそれらの写しの交付。ただし、学術的または研究上の目的のためのものを除く。

2.第 12a 条による情報の提供または同条に規定する目録の閲覧の許可

3.その他法律上規定されている場合における情報の提供

4.証書の返還および付属基本書類の送付についての国内の裁判所または官庁に対する申請という合理的な根拠のある疑念が生じる場合には、登記所はその代理人の閲覧を拒否すべきである。合理的な根拠のない、たんなる疑念だけでは、登記所は閲覧を拒否すべきではない。閲覧は、登記所の執務室において、勤務時間内に、かつ登記所の職員の面前でなすべきである。

  なお、コンピュータ式登記簿においては、当該登記簿を管轄する登記所以外の登記所からも閲覧することができる(GBO132 条(閲覧) コンピュータ管理の登記簿の閲覧は、当該登記所以外の登記所においても認めることができる。閲覧の許可に関しては、閲覧が請求された登記所が、決定する。)。さらには、インターネットを通して登記所外部からアクセスすることも可能である(http://www.grundbuch-portal.de/stufe1-ni.htm )。GBO133 条 1 項に、あらかじめ許可を得た後は個別に許可を得る必要のない者として、裁判所、官庁、公証人、公に任命された測量技術者等が示されている(GBO133 条(自動化された手続の開設の要件、許可)。

7.謄抄本

  閲覧権を有する限り、登記簿および付属基本書類の謄本、それも認証された謄本または認証のされない写しの交付を要求することができる(GBV43 条、46 条 3 項)。また、登記簿の一部、たとえば一部の区欄用紙だけの、または一定の登記だけの認証された抄本の交付を請求することもできる(GBV45 条 1 項、2 項。)。 コンピュータ式登記簿については、公式の出力された印刷物が、認証された謄本または認証されない写しといった区別をすることなく、認証された写し(謄本)と同一の効力を有する(GBO131 条、139 条、GBV78 条、99 条)56。

Ⅴ おわりに

  以上のように、我が国の不動産登記法は、ドイツ土地登記法を参照して規定されたものの、その公開に関しては制定当初から特に運用面においては隔たりが大きいことは明らかであった。そして、その後の改正においても、特に不動産登記制度の公開の理念から特に制限する必要性については、論じられてこなかったことがわかる。 今回の法改正においても DV 被害者等の保護の観点及び戸籍や住民票などの附属書類についての公開についての議論はあったが、一般論として不動産登記簿の公開に関して踏み込んだ議論はなされずに終わってしまっている。

・ 第1 項の規定による自動化された請求手続の開設には、ラントの司法行政当局による許可を要する。この許可は裁判所、官庁、公証人、公に任命された測量技術者、その土地について物権を有する者、物権者から委任を受けた者、官公署またはベルリン国立銀行のほか、情報請求の機械処理(第 4 項)の目的のために限ってする公法上の金融機関に対してのみ、与えることができる。(以下略)。 不動産登記法第 1 条に定めるように権利の保全及び取引の安全のための制度であるならば、権利の保全及び取引の安全のために必要な範囲に限定して公開すれば足りると思われる。また、今回の民法・不動産登記法改正のきっかけとなった登記が土地情報の基盤としての役割を果たすことを求めるのであれば、そのための情報公開の範囲を検討すればよいのではないだろうか。

・請求権者の範: 第1の目的である権利の保全及び取引の安全の観点からの公示については、閲覧を望む者の範囲は取引に必要な範囲に限られることになる。この場合、登記簿の附属書類の閲覧において一定の基準がすでに作られていることから、同様の基準で「正当な理由」がある者にのみ公開されていれば足りると思われる。不動産登記簿の登記事項証明書の交付及び閲覧に関し、正当な理由を有するか否かについて、すべての申請に対し登記官が判断するのは量的にも困難であることが予想される。また、現行のオンライン情報システムへの対応についても検討する必要が生じる。一つの考え方として、ドイツのように不動産取引に関して閲覧する必要のある専門職等からの申請はあらかじめ正当な理由があるものとして許可しておき、そうでない場合には登記官がその正当性について個別に判断するという方法もあるのではないだろうか。さらに、ある不動産の購入や与信を望む者については、権利者から代理権を授与してもらい、閲覧する方法もあり得よう。

 第2の目的である土地情報の基盤の観点からの公示については、所有権の登記がない不動産(現不登法27条3号)を除き、個人情報に関わる部分はほぼないと言えることから、権利の登記がなされている不動産については、公開を制限する必要はないであろう。 本稿では、我が国の不動産登記簿の公開の現状と改正の経緯及びドイツ法における登記簿の公開について述べてきた。最後に、不動産登記簿の公開すべき範囲及び請求権者の範囲について若干の検討を試みたがまだまだ不十分な検討であり、次の機会にはドイツ法とも比較してさらに具体的な検討を試みたい。

研究報告2陰山克典( 司法書士)「デジタル社会と登記- 不動産登記」

 法令上は、完全オンライン申請が可能。登記原因証明情報(公的個人認証による電子署名)登記識別情報印鑑証明書(公的個人認証による電子署名)住所証明情報(公的個人認証による電子署名)代理権限情報(公的個人認証による電子署名)、登記義務者    登記権利者、法令上は、完全オンライン申請が可能。登記原因証明情報(公的個人認証による電子署名)登記識別情報印鑑証明書(公的個人認証による電子署名)住所証明情報(公的個人認証による電子署名)代理権限情報(公的個人認証による電子署名)、登記義務者    登記権利者。

 公的個人認証による電子署名が今後も維持されるか、法令の改正や法務大臣の指定等も考えられる※ 資格者代理人による実体確認がなされたのち、当該資格者代理人の電子署名を付与することで、オンライン申請における登記原因証明情報としての適格性を満たす等公的個人認証(マイナンバーカード)の普及や使用が隘路にマイナンバーカードの普及とともに、マイナンバーカードによる電子署名を行うことができる環境が不可欠。

 現状、マイナンバーカードによる電子署名を行い、それを登記申請の際の添付情報とするためには、有料のソフトやICカードリーダーが必要。電子署名を行う環境を整えることが、依頼者の負担になっているのではないか・・・マイナンバーカードの機能(電子証明書)のスマートフォンへの搭載の実現

・マイナンバーカードの機能(電子証明書)のスマートフォンへの搭載については、令和3年度(2021年度)末までに技術検証・システム設計を行い、令和4年度(2022年度)中の実現を目指す。公的個人認証だけでなく、券面入力補助機能など、マイナンバーカードの持つ他の機能についても、優れたUI・UXを目指し、スマートフォンへの搭載方法を検討する。デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和3年6月18日閣議決定)。司法や行政が発行する証明書等のデジタル化が不可欠。民間のみではなく、司法や行政のデジタル化が実現しなければ、完全オンライン申請は困難。

➢     相続登記の際の戸籍・除籍・改製原戸籍

➢     農地法の許可書

➢     相続放棄を行った者がいる際の相続放棄申述受理証明書

➢     判決等に基づく登記の際の判決正本、和解調書、調停調書など

cf 成年後見人であることを証するための後見登記事項証明書はデジタル化されている。

相続登記の義務化を前に、何ができるのか

➢     現時点では、戸籍・除籍・改製原戸籍のデジタル交付は想定されていないものと思われる。 

不動産登記令(電子署名)

第十二条 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請するときは、申請人又はその代表者若しくは代理人は、申請情報に電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子署名をいう。以下同じ。)を行わなければならない。

2 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請する場合における添付情報は、作成者による電子署名が行われているものでなければならない。

(電子証明書の送信)第十四条 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請する場合において、電子署名が行われている情報を送信するときは、電子証明書(電子署名を行った者を確認するために用いられる事項が当該者に係るものであることを証明するために作成された電磁的記録をいう。)であって法務省令で定めるものを併せて送信しなければならない。

不動産登記規則

(電子証明書)第四十三条 電子証明書は、第四十七条第三号イからニまでに掲げる者に該当する申請人又はその代表者若しくは代理人が申請情報又は委任による代理人の権限を証する情報に電子署名を行った場合にあっては、次に掲げる電子証明書とする。ただし、第三号に掲げる電子証明書については、第一号及び第二号に掲げる電子証明書を取得することができない場合に限る。

一 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成十四年法律第百五十三号)第三条第一項の規定に基づき作成された署名用電子証明書(マイナンバーカードによる電子署名、電子証明書)二 電子署名を行った者が商業登記法第十二条の二(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する印鑑提出者であるときは、商業登記規則(昭和三十九年法務省令第二十三号)第三十三条の八第二項(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する電子証明書(商業登記に基づく電子署名、電子証明書)三 電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第八条に規定する認定認証事業者が作成した電子証明書その他の電子証明書であって、氏名、住所、出生の年月日その他の事項により電子署名を行った者を確認することができるものとして法務大臣の定めるもの四 官庁又は公署が嘱託する場合にあっては、官庁又は公署が作成した電子証明書であって、登記官が電子署名を行った者を確認することができるもの

2 前項本文に規定する場合以外の場合にあっては、令第十四条の法務省令で定める電子証明書は、同項各号に掲げる電子証明書又はこれに準ずる電子証明書として法務大臣の定めるものとする。

➢一定の要件を満たせば、犯罪収益移転防止法上の本人確認と認められる。

➢不動産登記規則72条「面談した日時、場所及びその状況」の解釈によっては、司法書士事務所を場所とするウェブ面談の実施でも良いという結論も導き得る。→ 面談・・・狭義の面談は「対面」、広義の面談は「ウェブ等」も含むという解釈(cf 日司連「債務整理に関する指針」第5「依頼者又はその法定代理人と直接面談」)。

→場所・・・経済産業省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

Q2「設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能」第14回投資等ワーキンググループ(令和3年4月13日開催https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/toushi/20210413/agenda.html)の議論は引き続き注視が必要・新経済連盟(小木曽政策部長)「意思を確認することは別にオンラインでもできると思いますので、ここは答えになっていないなと思います。要するに、定款認証やほかのこともオンラインでやっているということがありますので、ここのところについて、ほかのところに同席している方に何か影響を与えてしまうかもしれない、影響を受けてしまうかもしれないというところについては、別にいろいろな防止処置があると思いますし、意思の確認の仕方だと思うのです。なので、その手段を限る必要は全くないと思います。」・法務省(堂薗審議官)「平成12年の電子公証制度の創設時には公正証書についても電子化が議論されておりますが、私署証書などと比較すると、公正証書は法律行為などの私人間の権利関係について作成されるものであり、本人の意思の確認がより重要になるものでございます。そのため、当時のIT技術では、当事者の意思確認が必ずしも容易ではないのではないかといった意見がございます。」・法務省(堂薗審議官)「嘱託人の意思確認を十分に確認することができるよう、現在、面前で行われている手続を電子の世界でどのように実現していくのかといった点も検討していくことが必要になると思われます。」・新経済連盟(小木曽政策部長)「意思表示が電子だとできないということはなく、その手段の在り方の問題にすぎないと思っていまして、意思表示がちゃんとされているかどうか、どのように確認するかということは、リアルでも、ネットでも別に差異があるわけではなくて、公証人の専門的な能力として、それぞれの手段を活用しながらやっていくということだろうと思っております。なので、丁寧な議論をすることで、リアルしかできないということは何一つ存在しないと思います。」髙橋委員「意思確認の話ですが、丁寧にやれば、多分、テレビ電話と対面の意思確認の精度はほとんど変わらないと思います。端末の先で何らかの影響力があるかどうかを確認できるかどうかの話だと思うのですけれども、これは例えば弁護士とか司法書士が同席して、自由に2人でやっていますと宣言させて、もしそれが虚偽であれば、弁護士や司法書士を刑罰にかける。」法務省(堂薗審議官)「意思確認の点につきましても、確かに御指摘のように、こちらとしても、特に例えば保証意思の宣明公正証書とかそういったものについて、どのような形で第三者の影響力を排除するかという辺りが課題になろうとは思っておりますけれども、その点につきましても、先生から御指摘いただいたように、様々な方策が考えられると思いますので、この点についても検討してまいりたいと考えております。」高橋座長「ここは電子化と関係ないお話かと思いますので、検討していただければ、答えはすぐに出せるのだと思うのですけれども、いつでしょうか。検討を進めるではなくて、いつまでにということを伺いたいのです。」・新経済連盟(小木曽政策部長)「意思確認のところですが、例えば不動産のIT重説が始まっていますけれども、不動産は極めて重要な財産ですが、要するに、これについてもテレビ電話を解禁して、意思表示を確認していると思います。このような事例を考えますと、別にデジタルの方法について非常に違うものとして理解する必要はないと思っております。」売買における完全オンライン申請 、規制改革実施計画(令和3年6月18日閣議決定https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/p_index.html)18頁。

・犯罪収益移転防止法との関係

日司連公的個人認証有効性確認システムは、犯罪収益移転防止法施行規則https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420M60000f5a0016条1項1号ワ 当該顧客等から、電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成十四年法律第百五十三号。以下この号において「公的個人認証法」という。)第三条第六項の規定に基づき地方公共団体情報システム機構が発行した署名用電子証明書及び当該署名用電子証明書により確認される公的個人認証法第二条第一項に規定する電子署名が行われた特定取引等に関する情報の送信を受ける方法(特定事業者が公的個人認証法第十七条第四項に規定する署名検証者である場合に限る。)。)に定める方法と同様の方法を採用している。特定取引の際の本人確認について、法令に適合した体制を構築。デジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月25日閣議決定)19頁。不動産の引渡し及び登記手続、代金の支払い。完全オンラインの世界で、いかにして同時履行を確保するか。実務上、どのようにして的確な意思確認を行うか。登記義務者が登記識別情報(権利証)を有していない場合、本人確認情報を提供することが通例であるが、不動産登記規則72条の解釈が変更される余地はあるか。

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・法定相続証明情報・遺産分割協議情報・誰がログインているのか、どのようにデータを保存するのか。・本人の特定(マイナンバーカードの偽造と暗証番号の取得に対する対応。)。・リモート署名などの解釈の変化の可能性。・eKYCで本人確認は可能、とするのか。

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「リモートセンシングデータの登記利用について」土地家屋調査士 今瀬勉

第1章 要約

 日本の地籍は,筆界によって囲まれた土地区画(一筆)を空間基盤単位としている。しかし,現状では,土地区画(一筆)の位置情報は不明確なものが未だ存在し,特に山林においては,土地所有者の高齢化により,土地筆界の明確化が困難となっている。日本の不動産登記制度において, 土地区画(一筆) を構成する筆界は,「 当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう。」(不動産登記法第 123 条第 1 号)と定義されている。すなわち,一筆は,新たに創設をされるものではなく,すでに過去において登記により区画された一筆を調査,探索することになる。そのため,その土地区画を含めた地域の過去の情報が極めて重要となるが,それらの情報は,未整理,散逸,不明なものが少なくない。

 一方で,デジタル庁の発足にみられるように,オープンデータ化の潮流はここにきて加速の状況と見受けられる。後でも述べるように,利用できるデータは多く存在していて,これらのいわゆる公共財データを利活用して,様々な合理的な組合せとその後の解析を行うことで充分に目的を達成できると考えられる。

 そこで,特に山林地域におけるリモートセンシングデータを利用した登記を前提とした効率的かつ合理的な手法による筆界調査を提言することにより,少子高齢化による山林の放置(物理的かつ登記も含む),荒廃問題,土地所有者不明問題の解決につなげると共に,森林経営管理法による森林資源の適切な管理及び山林資源の有効活用につながるベース・レジストリを構築して,持続可能な社会の実現に貢献したいと考えている。

 具体的には,リモートセンシングデータである航空レーザーデータを基に,3D 地形モデルを生成し,その地形モデルを様々な視点から解析をして,そこに,これもリモートセンシングデータである空中写真(過去のものも含む),登記所備付の「地図に準ずる図面」,明治期作成「更正図」(例として岐阜県の場合)

明治前期福島県作成の更正地図

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/35/suzuki/hajimeni.htm

官公署管理の「林班図」https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/kokuyu_rin_map.html

を重ねて表示させ,現地筆界状況精通者の証言を参考に,推定される土地の筆界線を表現する。そして,いわば物証と書証を融合して作成したといえる 3D 推定筆界線により,土地所有者及び関係者への土地境界調査検討結果による合理的な根拠,説明により,実際に危険な山林地域に入ることなく,また,時には遠隔地の人証を得る事が出来得ると考えられる。ただし,実際に現地にて確認することは,人証を得るための基本的な事項であるから,これを安易に省略することが本研究の目的ではない。この手法を用いるにしても,当然に,必要に応じて現地立会いを行わなければならない。

第2章 序論  本研究の目的

 本研究では,既に世に存在しているリモートセンシングデータを利活用して,登記の筆界の調査に合理的に利用するため,登記所備付け地図,官公署作成の地形図,空中写真などの空間情報を公共座標系で表現し,特に山林地域の原始筆界調査の方法を研究するとともに,日本における地籍に関する空間情報を取り巻く問題を見いだすことである。

リモートセンシング基礎知識・学習

https://www.restec.or.jp/knowledge/

第3章 本論

第1節 資料収集についてリモートセンシングデータ航空レーザーデータ(グラウンドデータ,オリジナルデータ等),基盤地図情報 5mDEM(10mDEM),自治体備付 DEM,微小地形図

DEM(数値標高モデル)

https://www.gsi.go.jp/KIDS/KIDS16.html

(2) 空中写真,衛星画像

古い年代の空中写真から収集していくことになるが,森林境界の観点からは,1940 年代から 1950 年代など,森林需要が高まった時期で植樹も少なかった時期のものは,森林が伐採された裸地の状態であり,山の地表面が直接撮影されている。

(3) 登記所備付地図:公図,閉鎖地図(和紙公図),地積測量図,地図 XML データ等

(4) 森林基本図デジタルデータ,林班図,林相図等

第2節 地図資料の画像データ化

 スキャニングした画像データの合成,集合図の作成を行う。ここでは,画像編集ソフト,CAD を使用して,基盤地図を基に世界測地系座標位置で合成を行った。ここでは,概算の位置で配置しながら,不整合に配慮してデータの連続性を重視して作業を行った。

第3節  既撮の空中写真の画像データ化 

 空中写真は,最新のものはオルソ画像を入手して行ったが,オルソ画像のデータはデジタルデータで入手すれば配置作業も容易である。基盤地図との整合性を確認した。過去の空中写真については,オルソ化の作業も試みたが,この点については,別に考察を試みたい。ここでは,精度レベルも考慮してスキャニングした空中写真画像データの位置合わせを試みた。

第4節  3D モデル作成  点群データ,標高メッシュデータにより,3DCAD を用いて地形 surface 作成した。

サーフェスとは

https://www.esrij.com/gis-guide/spatial/surface-analysis/

第5節  3D データの評価 

 ここで,3D データの評価のため,0.5mDEM ,2.0mDEM, 5.0mDEM を例に見てみた。 0.5mDEM ,2.0mDEM, 5.0mDEM で同位置の画像で比較する。 5.0mDEM については,全体的にのっぺりとした感じで,概ねの尾根・谷線は判別できる。 2.0mDEM になると,やや複雑な地形となり,尾根・谷線の中の起伏が判別できるようになる。 0.5mDEM では,尾根谷線は明確になり,山道のような道路も判別ができるようになり,極めて詳細な地形まで把握することが可能になっている。 このように,より詳細なデータのほうが有意なのは明らかである。しかし,例えば 0.5m と 5.0m では,データ量に約 100 倍の違いがあることになり,解析をする PC にも負荷がかかるので,スペックの対応が必要となり,ストレージも大容量が必要となるなど追加的な投資が必要となる。

第6節 数値化閉鎖地図(和紙公図)の 3D モデル化

  3DCAD で閉鎖地図(和紙公図)を公共座標系で配置する。尾根・谷線と公図筆界との整合性が確認できる。世界測地系で配置することにより,任意の点で X,Y,H を表示することができるので,再現性があり,現地での検証も可能となる。ここで,従来の 2D での復元と異なることは,高さ(標高)データが 1 次元加わったということである。これは,現地においての作業性及び正確度の検証に大きなプラス効果を与えると考えられる。

第7節 地形解析及び評価

    高度解析は高度に応じて識別するもので,最も一般的でよく見受けられ   る解析画像である。 傾斜度に応じて識別するもので,平地の部分では赤に着色されているの   が良くわかる。ただし,尾根山頂部は平地に解析されている。また傾斜方   向をベクトルで表示することで,より視覚的に受け入れやすいものになる   のではないか。一部の専門家が理解できるものでは無く,一般の方が容   易に受け入れやすいものを表現していかなければならない。そこで,傾斜   度の識別像度は 6 段により,東西南北,方角により斜面を解析した。   また,同じく方向解析であるが,識別解像度を 20 段階として解析したが, 山の地形に合わせてより有効な識別解像度で解析する必要がある。

第8節 地形解析による筆界調査

https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/koufukin/attach/pdf/index-72.pdf

  地形 surface モデルから,地形解析することにより,視覚的に地形を把握することを補完する。たとえば,傾斜解析で,青色に着色してより視覚的に捉え易いものができないか試みて,地形の傾斜解析により独自にブレンドした地形解析を行った。 このような地図の彩色には様々な独自様式があり,特許申請されているものもある。

   地形 surface と森林 surface を組み合わせることにより,地形と主に林相  を判断する情報として利用することができる。一般的に密な針葉樹のエリアでは,レーザーが地上まで届き難いため,断面図では縦の線が少ない疎の状態である。また,樹木の高さを計測できるため,現地での整合性を確 認することができる。

 次に DSM モデルに空中写真(オルソ画像)をドレープすることで,より視覚的にリアリティの効果を増すことができる。また,実際にこのモデルをプレビューして判明したことは,林相の把握に役立つことである。樹木の高さ,種類などが空中写真と surface モデルと組み合わされることにより,誰にでもより一層その区域界を認識し易くなる。

  このことから,視覚的にとらえる展開が考えられ,地形 surface に 1960 年代の空中写真をドレープしたものに,さらに,3次元公図をドレープする。ここからは,当時の山の樹木の状態,例えば,伐採をされた区域,植林を始めた区域,そのまま放置されている状態,あるいは,伐採途中の作業状態などが,地形データ,境界データとの一致からその整合性を確認できる。

  そこで,さらに傾斜解析したものを透過して重ねることにより,尾根・谷など地形状態をより強調した視覚効果が得られるため,先の地形 surface に 1960 年代の空中写真をドレープして,さらに3次元公図をドレープしたものを補完したものとなり得ると考えられる。ただし,ここから情報を解析的に読み取るには,読み取り側の技術的なトレーニングが必要と考えられる。情報量が多くなればなるほど,一般的に読み取る能力も高次元になるのは否めないのである。したがって,地権者・関係者など一般の方にプレゼンテーションとして使用するにはややハードルは高いのではないだろうか。プレゼンテーター自身が解析に使用するのが適当と考えられる。

第9節 プレゼンテーションの手法について

   土地所有者など関係者は,高齢者が多く実際に山に入ることが非常に困難な状況が多い。その場合,立会いに先立って事前に現地調査・解析の状況を説明するためのツールとして使用することができる。3Dであるため,平面的な位置はもちろんのこと,標高情報をもっているので,情報がより多いといえる。 また,一番の特徴は,どの位置,視点からも任意で閲覧可能である。さらに,時の次元情報(過去の空中写真)も重ねているので,時代別の情報でさらに記憶,人証を得ることができるのではないだろうか。その点では,四次元調査図といえる。

第4章 結論

 山林の土地区画(1 筆)の境界を調査するのに本手法は,人口減少・高齢化社会において,山林地域での土地の表示の登記のための境界の調査に,合理的な資料(書証+物証)と現地立会(人証)の負担軽減化において,非常に有益であると考えられる。日本における地籍に関する空間情報の課題は,今回使用した空間データの一つ一つが,異なる場所に保存されており,ほとんどが紙による情報であり,統一された空間座標系ではなかった。また,官公署においては,デジタル化されたデータを分割した上,紙による提供を行っていることも多く見受けられた。そのため,再度デジタル化して合成する作業が必要になり,そこでは,歪みによる精度の劣化など課題も多く,このような制度上の問題により,極めて非効率な作業が強いられるという不合理な現状がある。

 また,「埋もれた情報」をアーカイブとして構築し,オープンデータ化して,さらに,これらの空間情報基盤(ベース・レジストリ)に登記情報を横断的にリンクして,公開することにより,国民全体の英知を活用して(クラウドソーシング),3D シュミレーションによる都市計画,公共サービスの高度化,合理化を実現できれば,効果的に日本の少子高齢化,災害に強い街づくりが可能となり,持続可能な社会の実現に寄与できるのではないだろうか。

不動産IDルール検討会

国土交通省

https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/tochi_fudousan_kensetsugyo_tk5_000001_00006.html

【第2回不動産IDルール検討会】(令和3年11月10日開催)の資料が、第1回と方向性が変わってきたような気がしたので、少しみてみます。

【第1回不動産IDルール検討会】(令和3年9月24日開催)

資料5 不動産IDに使用する番号について

資料6 不動産IDのルールについて

• 不動産の類型にかかわらず、不動産番号を不動産IDとして使用。

• 例外として、非区分所有のうち居住用建物は、部屋ごとに特定するため、建物全体の不動産番号に部屋番号を追加した文字列を、商業用建物は、階数まで特定するため、建物全体の不動産番号に階数を追加した文字列をIDとして使用 。また、区分所有建物の建物全体のIDについては、対応する不動産番号が存在しないため、その建物が建つ土地の不動産番号をIDとして使用。

(案) ・一般的には部屋ごとに賃貸等が行われることを踏まえて、部屋番号まで特定するルールとするため、建物の不動産番号13桁に加えて、部屋番号4桁を記載する。

・部屋番号部分については、アラビア数字のほか英文字(大文字)が使用されている事例も少なくないこと及び一意に部屋を特定し、表記ぶれをなくすという観点から、アラビア数字及び英文字(大文字)のみを記載する。

・部屋番号に、棟番号を表す表記がある場合は当該表記は省略する。

(案) ・オフィスや商業施設などでは、利用形態に応じて賃貸するフロアの広さ、形状等を変更することも多くあることから、部屋ごとに特定するのではなく、当該建物の何階部分であるかまでを特定するルールとするため、建物の不動産番号13桁に加えて、階数2桁を記載する。

・階数が「地下○階」である場合は「B○」と記載する。

 区分所有建物については、データベースにおける情報管理の便宜性や、修繕情報等の蓄積の観点から、建物単位でのID付与にニーズがあると考えられるところ、建物全体のIDとして、対応する不動産番号が存在しないため、その建物が建つ土地の不動産番号をIDとして使用してはどうか。

資料7 不動産IDの利用拡大に向けた方策について

参考資料1 地番・不動産番号・住所等のデータの整備・オープン化の状況

法人番号と会社法人等番号の関係のように、あくまでも登記記録における不動産番号を基礎として、プラスするとしても1桁の符号ぐらいだと思っていたのですが、私の読み間違いでした。

【第2回不動産IDルール検討会】(令和3年11月10日開催)

資料2不動産IDのルールについて (案)

・不動産IDは17桁の案

・基本的に登記された土地・戸建て建物は不動産番号+0000。

・区分建物ではない建物(商業用建物等、1階・2階など切り離して取引可能な建物など)は、不動産番号は同じだが、フロアごとに新しい不動産IDを付けようとする試み。

・区分所有建物の建物全体(例えば1階と2階全て)を表す不動産IDについて、新しい不動産IDを付けようとする試み。

(案) ・オフィスや商業施設などでは、利用形態に応じて賃貸するフロアの広さ、形状等を変更することも多くあることから、部屋ごとに特定するのではなく、当該建物の何階部分であるかまでを特定するルールとするため、建物の不動産番号13桁に加えて、特定コードとして階層コード2桁+階数2桁の計4桁を記載する。

 売買の他、賃貸も含めた取引ベースで設計が始まっているようにみえます。契約の際に、特定出来れば良い、ということでしょうか。

建物であることを示す特定コード「000B」

○同一筆の土地に複数の区分所有建物が存在するケース:複数の区分所有建物が同一筆に存在する場合、異なる建物間でIDが同一となる。

こうしたケースとして、団地型マンションの存在があるが、こうした形態の大半は一括管理であり、区分所有建物全体に係る情報は取引情報ではなく管理情報が中心となると考えれば、支障は生じにくいと考えられるが、何か具体的な支障は考えられるか。

・・・団地型マンションに関しては、売買契約を中心に考えていて賃貸借契約は考えないということでしょうか。

○建物が複数筆にまたがって存在するケース:字界に跨っている場合や敷地が所有権及び賃借権で構成されているなどの理由で合筆できないなど、1つの建物が複数の筆の土地に渡って建てられている場合が一定程度存在すると想定されるが、こうした場合に建物の不動産登記簿の所在欄の先頭に示されている地番(※)の土地に係る不動産番号をIDとする取扱いにすることで何か課題はあるか。

・・・IDとして唯一であればよく、細かいことは登記記録を読んで下さい、ということでしょうか。

○建物の建て替えを行ったケース:土地の不動産番号は変わらないため、建て替え前後で、新旧の建物のIDが同一となるが、建替自体が数十年に一度程度しか行われないことを鑑みれば、これによる支障は生じにくいのではないか。

・・・どうなんでしょうか。私は、IDというものは世界に1つしかないものだと思っていました。

適用される不動産IDのルール

非区分建物全体・居住用建物・商業用建物等のフロア毎のルールをそれぞれ適用する。

・・・不動産IDは用途で変わるとすると、建物が取り壊される(滅失)する前に、何度か不動産IDが変わる可能性が高いと感じます。不動産IDというより、建物取引IDとした方が実態に合っているような気がします。

資料3 不動産IDの利用拡大に向けた方策について(提案)

⇒ 会員向け(=事業者間)の情報提供等にあたっては、現行の不動産取引実務を踏まえつつも、IDの表示によって物件を特定できることで、円滑な取引に資するメリットも踏まえて、取扱の検討が必要。

・・・不動産の買主にとっても、修繕履歴などが分かればメリットになるのでしょうか。

2 水害・土砂災害リスクについて

3 飲用水・電気・ガスの供給設備及び排水施設の整備状況等

2,3などを推していけば、望んでいてもいなくても、近く(資料中の記載によれば2022年中にも)実現します。

20220118メモ

コスト
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三つ出てくることがある?
住所から地番、目視(登記情報システム)
地番から建物謄本を取るためには代表地番が必要

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