登記研究917号(令和6年7月号)、テイハン
https://www.teihan.co.jp/book/b10086597.html
【論説・解説】新連載 ポイント解説
■基礎から考える商業登記実務(第1回)
横浜地方法務局法人登記部門首席登記官 山 森 航 太
ポイント:株式会社の取締役の就任承諾書について
本連載について
実体法である会社法と手続法である商業登記法その他の関連法令との関係性の理解が必要。・・・記事に記載の通り、実体法上、登記申請で添付情報が求められる理由、添付情報として成立するための要件について整理出来ると理解が深まると感じます。
1 はじめに
商業登記法54条1項
(取締役等の変更の登記)
第五十四条 取締役、監査役、代表取締役又は特別取締役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役、代表取締役又は特別取締役、指名委員会等設置会社にあっては取締役、委員(指名委員会、監査委員会又は報酬委員会の委員をいう。)、執行役又は代表執行役)の就任による変更の登記の申請書には、就任を承諾したことを証する書面を添付しなければならない。
2 取締役の就任承諾書が必要とされる理由
会社との委任関係(会社法330条、民法643条)。株式会社での取締役選任決議(会社法329条1項)が委託、選任された者が承諾することにより、委任契約の成立。任期満了が契約の消滅、辞任・解任が契約の一方当事者からの解除、自然人の死亡・破産手続の開始は委任の終了事由に該当(民法135条2項、540条、651条、653条、会社法339条1項)。
3 就任承諾書の態様と基本的な要件
誰が、いつ、どの会社の取締役に就任することを承諾したかが明らかにされていることが必要・・・就任承諾書に、令和〇年〇月〇日開催の貴社株主総会において、という記載も、必須の記載事項なのか、分かりませんでした。
4 取締役に就任する時期(日付)
選任決議で、取締役に就任する日を決めた場合は、取締役の就任承諾があれば、選任決議で決めた日から取締役に就任する。
取締役に選任された者が、就任する日を定めて承諾した場合は、その日に取締役に就任する。
ある人が、株主総会で取締役に選任された場合、就任承諾すると意思表示していた場合、株主総会決議の日に取締役に就任する。
5 商業登記手続における就任承諾書の要件の加重
商業登記規則61条4項、7項
(添付書面)第六十一条
4 設立(合併及び組織変更による設立を除く。)の登記の申請書には、設立時取締役が就任を承諾したこと(成年後見人又は保佐人が本人に代わって承諾する場合にあっては、当該成年後見人又は保佐人が本人に代わって就任を承諾したこと。以下この項において同じ。)を証する書面に押印した印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付しなければならない。取締役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書に添付すべき取締役が就任を承諾したことを証する書面に押印した印鑑についても、同様とする。
7 設立の登記又は取締役、監査役若しくは執行役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書には、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、監査役又は執行役(以下この項及び第百三条において「取締役等」という。)が就任を承諾したこと(成年後見人又は保佐人が本人に代わって承諾する場合にあっては、当該成年後見人又は保佐人が本人に代わって就任を承諾したこと)を証する書面に記載した取締役等の氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該取締役等(その者の成年後見人又は保佐人が本人に代わって就任を承諾した場合にあっては、当該成年後見人又は保佐人)が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)を添付しなければならない。ただし、登記の申請書に第四項(第五項において読み替えて適用される場合を含む。)又は前項の規定により当該取締役等の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付する場合は、この限りでない。
6 就任承諾書として株主総会の議事録の記載を援用する場合と出席した取締役の氏名の記載
新たに取締役に就任する場合と、現在の取締役が辞任する場合の後任の取締役に就任する場合は、分けて考える。
株主総会で席上就任承諾した新任取締役がいる場合で、株主総会議事録に出席取締役(会社法施行規則72条4項)として記名しないときは、取締役の就任時期が株主総会終結後であることを、株主総会議事録に記載することが必要との見解。
7 おわりに
記事を鵜呑みにしないこと。
・ご本人に確認していないのですが、この記事に対してなのかな、と思った金子先生の記事。
2024.07.22(月)【登記所と実業界との感覚差】(金子登志雄)
http://www.esg-hp.com/
■民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続登記等の申請義務化関係)
法務省民事局付 森 下 宏 輝、法務省民事局民事第二課補佐官 河 瀬 貴 之、法務省民事局民事第二課補佐官 太 田 裕 介
1 はじめに
令和5年9月12日法務省民二第927号通達「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続登記等の申請義務化関係)」について
2 解 説
条文では義務として規定されていますが(不動産登記法76条の2、76条の3)、相続人に対する特定承継遺言がある場合で相続人申告登記の申出をする必要があるときは、どのような場合が想定されるのか、気になりました。
通達3の2、登記官が相続登記などの申請義務に違反したと認められる者があることを職務上知ったとき、について。登記官は、相続登記申請のチェックの際、遺言書や遺産分割協議書などに登記申請しない不動産があった場合は、その不動産について相続登記がなされているかどうかを調べていることになります。相続登記がなされていない場合、遺産分割協議書の日付なども3年以内か確認しているのかなと思われます。仕事が1つ増えたのだなと思いました。
■Q&A不動産表示登記(93)
(一社)テミス総合支援センター理事、都城市代表監査委員 新 井 克 美
第四章 建物(区分建物)
第一節 登記事項 Q262 区分建物とは何か。
壁やシャッターで仕切られている場合(登記研究249号、昭和40年3月1日民事三発第307号民事局第三課長回答「区分所有建物について」)。
■商業登記の変遷(63)
司法書士 鈴 木 龍 介(司法書士法人鈴木事務所)
印鑑証明書の交付請求手数料の計算方法について、大工の工賃と白米小売価格の相乗平均値をもとに換算、企業物価指数と消費者物価指数の相乗平均値をもとに換算、などの方法が1998年(平成10年)までは導入されていたと初めて知りました。
■民事信託の登記の諸問題(34)
渋 谷 陽一郎
第240 本解説のポイント3──みなし受益者の登記
不動産登記法103条記載の、受託者の義務について確認。
第241 本解説のポイント4──受益者変更登記の要否
不動産登記法103条により受託者が受益者変更登記申請をしない場合の、信託財産を固有財産とする旨の登記申請の登記義務者の確認。
第242 本解説のポイント5──信託変更登記申請における登記原因証明情報
不動産登記法、不動産登記令の構造上、受託者が単独で報告登記原因証明情報を作成することが出来る。もし、受益者の変更原因がないことを利害関係人が争う場合、別途争うことになる。
第243 本解説のポイント6──共同申請構造と登記義務者・権利者の同一人性
第244 本解説のポイント7──受託者=帰属権利者における利益相反の許容
不動産登記法104条の2第2項の信託財産を固有財産とする旨の登記申請を行う場合は、利益相反行為に該当する。よって、信託目録か登記原因証明情報において、信託法31条2項但し書きの記録・記載が必要とされる。
第245 本解説のポイント8──変更登記であるが実質的な移転登記
実質的な権利変動が登録免許税法7条2項の要件を満たしている限り、適用される。
本解説の表現は、やや微妙であるが、直截的に、変更登記申請の登記原因を「委付」にすることが許容される、としていると解すべきではないだろうか。について・・・登記研究624号P126は、「委付」とは,自己の所有物又は権利を相手方に交付し,自己と相手方との間の法律関係を消滅させるとの意味であり,昭和50年法律第94号による改正前の商法691条1項に おいて,船舶所有者は海産を債権者に「委付」して責任を免れることができることを規定していたことから,受託者の固有財産とした場合にも,「委付」という登記原因が用いられるようになった、としています。相手方を受託者兼残余財産の帰属権利者、信託財産を固有財産とする旨の登記及び信託登記抹消登記申請を、法律関係を消滅させ、清算受託者が信託債権者への責任を免れる行為だと考えることが出来るのであれば、登記原因を委付とすることは認められると思います。
【資 料】会社法施行下で使える登記先例──実務の便覧──(10)
登記研究46号P30、昭和26年10月3日民事甲第1940号民事局長回答 「商業登記事務取扱について」
会社法298条、299条の株主総会招集通知に記載する株主総会の目的である事項について、どこまで具体的に記載する必要があるか。
登記研究251号P51、昭和43年8月30日民事甲第2770号民事局長通達「株式会社役員の変更登記申請の受否について(商通第七十三号)」
株主総会の招集者と出席者について。昭和31年12月18日民事甲第2822号民事局長回答「商業登記事務取扱について」の変更。
登記研究152号P43、昭和35年6月3日民事四発第107号民事局第四課長心得電報回答「株主総会における議決権の行使について」
登記研究495号P33、柳田幸三:法務省民事局第四課長、渋佐愼吾:法務省民事局局付、山田紘:法務省民事局第四課補佐官、門田稔永:法務省民事局第四課補佐官、浅野克男:法務省民事局第四課係長、藤部富美男:法務省民事局第四課係長 【第一部 論説・解説】「株式会社に関する先例をめぐって(22)」
株主総会決議の要件を軽減するような、議決権に定めないという解釈は、法令上議決権が認められない種類株式などを除いて、行うことは出来ない。
登記研究666号P195、平成14年6月10日法務省民商第1408号民事局商事課長通知「基準日後に発行された新株の株主の議決権について〔解説付〕」
基準日(会社法124条)を定めた場合の効力について。
登記研究495号P56、昭和44年3月6日民事甲第381号民事局長通達 「議決権行使の代理人資格を株主に制限する定款の定めの効力について(商通第七〇号)」
登記研究164号P36、昭和36年5月1日民事甲第949号民事局長通達 「議決権行使の代理人の資格を制限する定款の定めについて」の変更。議決権行使の代理人資格を株主に制限することは、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき合理的な理由のうちに入る。
最高裁判所第二小法廷判決昭和43年11月1日昭和40(オ)1206 株主総会決議無効確認請求
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54982
登記研究884号P131、令和3年6月16日法務省民商第103号法務省民事局商事課長通知「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律等の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて【解説付】」
株主総会議事録における開催場所の記載(会社法298条)と定款添付の要否について。
登記研究896号P126、令和4年8月3日法務省民商第378号法務省民事局長通達「会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて」
社債、株式等の振替に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413AC0000000075_20240522_506AC0000000032
(電子提供措置に関する会社法の特例)第百五十九条の二第1項 振替株式を発行する会社は、電子提供措置(会社法第三百二十五条の二に規定する電子提供措置をいう。)をとる旨を定款で定めなければならない。
会社法911条3項12号の2、915条1項。登記研究896号P19、村上裕貴:法務省民事局商事課法規係長【論説・解説】「会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(通達)」の解説。
登記研究493号P43、昭和38年10月9日民事甲第2817号民事局長電報回答「株主総会の議事録等について」
株主総会特別決議(会社法309条2項)の要件について、株主総会議事録の記載方法。
登記研究 223号、昭和41年3月22日民事甲第982号民事局長回答「取締役、監査役変更登記申請の受否について」
役員変更登記申請の前提として、新株発行に伴う変更登記が必要。登記研究 496号、柳田 幸三:法務省民事局第四課長、渋佐 愼吾:法務省民事局局付、山田 紘:富山地方法務局総務課長(前法務省民事局第四課補佐官)、門田 稔永:法務省民事局第四課補佐官、浅野 克男:人事院公平局調整課審理官(前法務省民事局第四課係長)、藤部 富美男:法務省民事 【第一部 論説・解説】 株式会社に関する先例をめぐって(23)・
登記研究452号、昭和60年7月8日法務省民四第3952号民事局第四課長回答「外国文字をもって作成された株主総会議事録を添付した登記申請の受否について」
日本の会社法に基づいて設立された株式会社の株主総会議事録は、日本語で記載されていることを要する。外国語を併記することは禁止されていない。
登記研究698号、平成18年3月31日民商第782号民事局長通達「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて」
株主総会議事録の議長及び出席した取締役の記名押印について、原則と例外。
登記研究496号、昭和38年12月18日民事四発第313号民事局第四課回答「株主総会議事録と出席取締役の署名拒否について」
登記研究496号、柳田 幸三:法務省民事局第四課長、渋佐 愼吾:法務省民事局局付、山田 紘:富山地方法務局総務課長(前法務省民事局第四課補佐官)、門田 稔永:法務省民事局第四課補佐官、浅野 克男:人事院公平局調整課審理官(前法務省民事局第四課係長)、藤部 富美男:法務省民事【第一部 論説・解説】「株式会社に関する先例をめぐって(23)」
株主総会議事録に、出席取締役の署名または記名押印が必要な場合についての処理。
登記研究164号昭和36年5月1日民事四発第81号民事局第四課長事務代理回答「株主総会等の議事録の作成に関する件について」
議事録全般について。1通の議事録で完成したものである必要がある。登記研究463号、神崎満治郎:東京法務局総務部職員課長(前法務省民事局第一課補佐官)【先例漫歩】商業・法人登記の実務(10)。
登記研究698号、民商第782号民事局長通達「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて」
会社法319条、325条、会社法施行規則72条、95条について。
登記研究823号P165、平成28年6月23日法務省民商第98号民事局長通達「商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて」
株主総会において登記すべき事項を議決している場合、登記すべき事項ごとに株主リストの要否と株主の変動を考慮する。登記研究832号、辻 雄介:法務省民事局付、大西 勇:法務省民事局商事課係長(商業法人登記第一係担当)【論説・解説】株主リストに関する一考察。
【法 令】
国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(令和6年3月25日政令第63号)
施行期日は2024年(令和6年)4月1日。
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の一部を改正する政令(令和6年3月25日政令64号)
改正附則4条(旧法確認及び目的等相当確認を行っている顧客等との取引に準ずる取引等)
会社法施行規則の一部を改正する省令(令和6年3月27日法務省令第11号)
公開会社が株式・新株予約券の募集事項の決定を取締役会により定めた場合、株主への通知に代えて、誰でも閲覧できる状態にしておく情報の中から、四半期報告書などを削除。
【訓令・通達・回答】
▽不動産登記関係
〔6233〕被相続人の同一性の証明に関する不動産登記事務の取扱いについて【解説付】(令和5年12月18日付け法務省民二第1620号法務局民事行政部長(東京を除く。)、地方法務局長宛て法務省民事局民事第二課長通知)
・固定資産税の納税証明書・評価証明書・不在籍証明書・不在住証明書を提供
・登記記録上の不動産の表示・所有者の氏名が、提供された情報と一致。
・提供された情報に記載された納税義務者の住所・氏名が、住民票の写し等に記載された被相続人の住所・氏名と一致。
・住民票の写し等に記載された被相続人の本籍及び氏名が、戸籍等の謄本に記載された本籍・氏名と一致。
3つが揃っている場合は、所有権の登記名義人と戸籍上の被相続人とは同一である旨の相続人全員の上申書は不要。
・遺言公正証書が登記原因証明情報の一部として提供された場合に、固定資産税の納税証明書・評価証明書・不在籍証明書・不在住証明書を提供。
・登記記録上の不動産の表示・所有者の氏名が、提供された情報と一致。
・提供された情報に記載された納税義務者の住所・氏名が、遺言公正証書に記載された被相続人の住所・氏名と一致。
・遺言公正証書に記載された遺言者・相続人の氏名・生年月日が戸籍等の謄本に記載された被相続人・相続人の氏名及び生年月日と一致
3つが揃っている場合は、所有権の登記名義人と戸籍上の被相続人とは同一である旨の相続人全員の上申書は不要。
登記研究831号、平成29年3月23日法務省民二第175号民事局民事第二課長通知「被相続人の同一性を証する情報として住民票の写し等が提供された場合における相続による所有権の移転の登記の可否について」が適用されない場合の補充的措置。