「行政サービスにおけるデジタル格差に関する調査研究 報告書について」

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https://www.iais.or.jp/reports/labreport/20210615/divide2020/

DIGITALDIVIDE

令和 3 年 3月31日一般社団法人 行政情報システム研究所

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CONTENTS

はじめに —本調査研究の背景と目的—

  1. 調査研究の全体像と調査方法
    1. 調査研究の流れ
  1. 課題類型の導出

1 – 3 – 1 課題類型の導出プロセス

1 – 3 – 2 課題類型の仮説設定

1 – 3 – 3 イギリスの事例からの課題抽出

1 – 3 – 4 デンマークの事例からの課題抽出

1 – 3 – 5 日本の事例からの課題抽出

1 – 3 – 6 課題類型の検証結果

1 調査研究のすすめ方

 2-1 自治体基礎調査から導出した課題認識

2 – 1 – 1 分析方法

2 – 1 – 2 分析結果

● 2-2 自治体首長の課題認識

2 – 2 – 1 調査対象・方法

2 – 2 – 2 調査結果

● 2-3 自治体職員の課題認識

2 – 3 – 1 調査対象・方法

2 – 3 – 2 インタビュー結果

● 2-4 まとめー自治体の課題認識

2 自治体の課題認識

CONTENTS

3 デジタル格差の課題の実態

 3-1 住民の課題認識

3 – 1 – 1 調査対象・方法

3 – 1 – 2 インタビュー結果

 3-2 専門家の課題認識

3 – 2 – 1 調査対象・方法

3 – 2 – 2 インタビュー結果

3-3 デンマーク政府の課題認識

3 – 3 – 1 調査対象・方法

3 – 3 – 2 インタビュー結果

3-4 自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態とのギャップ

 3-5 本章のまとめ

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-1 自治体で実施済の施策(a)

4-2 自治体で未実施の施策(b)

4 – 2 – 1 未実施施策に係る課題の整理

4 – 2 – 2 未実施施策に係る課題のケース導出

4 – 2 – 3 未実施施策に係る課題の解決策の導出

4-3 自治体が未認識の課題に係る施策(c)

4 – 3 – 1 未認識課題に係るケースの導出

4 – 3 – 2 未認識課題に係る解決策の導出

4-4 まとめ ― 自治体が講ずるべき施策

5 おわりに

調査協力先

はじめに

   はじめに ―本調査研究の背景と目的―

ー略ーそこで本調査研究では、我が国がこれからデジタル化を進めるうえで直面していくデジタル格差の課題を把握・整理し、それぞれの課題に対して講じるべき対策の方向性を導出することを目的とする。なお、本調査研究は、ソシオメディア株式会社の協力を得つつ当研究所において実施した。

ー略ー

一般社団法人 行政情報システム研究所

主席研究員 狩野英司

主任研究員 平野隆朗

主任研究員 増田睦子

研究員 種田桂介

[協力]

ソシオメディア株式会社代表取締役 篠原稔和

田附克巳

白澤洋一

株式会社デジタル・アド・サービス代表取締役 村田尚武

COLOGUE 川田朋史

COLOGUE 明間隆

調査研究のすすめ方

1-2|調査研究の流れ

デジタル格差は目に見えない、捉えにくい課題である。本調査研究では、可能な限り具体的な事実に基づいて分析を行い、証拠に基づく推論を積み重ねることによって、自治体にとってのデジタル格差の課題を整理し、有効な対応策を導出していく。

1-3-1 課題類型の導出プロセス

本節では、デジタル格差の課題を性質に応じて分類するための課題類型を導出する。

まず、自治体基礎調査を通じて、自治体にどのような格差課題が存在するのかを洗い出して整理し、課題類型を仮説として導出する。次に、行政デジタル化の先進国であるイギリスおよびデンマークと日本において、政府のデジタル格差に関する課題認識が示唆されている文献(以下「各国文献」)から格差課題を抽出し、上記の課題類型へのマッピングを行い、課題類型の過不足を検証する。これにより、デジタル格差として共通の課題類型を導出する。

[調査対象文献]イギリスの事例

Government Digital Inclusion Strategy(英国政府のデジタルインクルージョン戦略)、英国内閣府、2014

https://www.gov.uk/government/publications/government-digital-inclusion-strategy/government-digitalinclusion-strategy

デンマークの事例

デンマーク政府におけるデジタルデバイドへの取り組み、行政情報システム研究所、行政&情報システム 2020年6月号

日本の事例

デジタル・ガバメント実行計画 2020年12月25日改定(閣議決定)(10.デジタルデバイド対策)

https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/2020_dg_all.pdf

デジタル活用支援推進事業、2021年2月17日 総務省 情報流通行政局

https://www.soumu.go.jp/main_content/000734080.pdf

1-3-2 課題類型の仮説設定

自治体の格差課題に関する課題認識を把握し、課題類型の仮説を導出するため、以下の手順により「自治体基礎調査」を実施した。

[調査対象]

ヒアリング対象自治体は、格差課題への認識が高い自治体から低い自治体まで偏りなく含まれるよう、図表1-9の考え方に基づいて選定を行った。また、選定結果を図表1-10に示す。

自治体名 人口規模

(ア)デジタル格差に対する課題認識が高い自治体

(イ)デジタル格差による課題が顕在化している自治体

(ウ)デジタル格差による課題が顕在化していない自治体

(エ)島しょ自治体

D市 中核市(50万人台) ◯

H市 都市(10万人台) ◯

C村 町村(約3千人) - 〇(高齢者が多い)

E市 都市(約1万人) - 〇(所得額が低い)

F村 町村(約2千人) - 〇(所得額が低い)

A市 都市(10万人台) - ◯

B市 都市(10万人台) - ◯

G村 町村(1千人未満) ◯

[ 図表1-10 ヒアリング対象自治体 ]

※1 日本の高齢者(65歳以上)人口の割合は、2020年9月15日現在で28.7%

https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics126.pdf

・各自治体が制定している情報化推進計画等を確認し、デジタルデバイドに係る課題や施策について記載している自治体を「デジタル格差に対する課題意識が高い」とみなした。該当自治体のうち、ヒアリングに協力のあった2自治体を調査対象とした。→D市、H市

(イ)デジタル格差に対する課題認識が高いと認められない自治体については、デジタル格差による問題が顕在化している/していない自治体の両方を含めるようにした。デジタル格差による課題が顕在化している自治体は、以下の方法で分類した。・平均所得額が低い、もしくは高齢者率が高い地域はスマートフォンやPCの利用率も低い傾向にあることに着目し、上記いずれかの傾向が強い自治体を「デジタル格差による問題が顕在化している」とみなした。該当自治体のうち、ヒアリングに協力のあった3自治体を調査対象とした。→C村、E市、F村

(a)確認された格差課題への認識(抜粋) (b)導出された課題類型

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

 絶対的困難(深刻な身体障害)

中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感(B市)

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

 デジタル利用環境の不足(経済的、地理的制約)

高齢者がデジタルを使えない(B市)

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

 身体/認知的ハンディキャップ(視覚障害、高齢、日本語が苦手)

使い方の格差、リテラシーの差(A市)

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

 デジタルへの抵抗感(例:スマホ・PC・インターネット利用のリテラシー不足)

能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人を分けて考えること(B市)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

 行政プロセスへの抵抗感・無関心(例:マイナポータルを理解できない、 知らない、興味がない)

[調査方法]

・対象自治体に関する基礎情報をデスクトップ調査で入手

・対象自治体の職員に対して、オンライン会議によるヒアリングを実施

・補足情報の入手や事実確認等のフォローアップ調査をメールなどで実施

[導出された課題類型の仮説]

1-3-3 イギリスの事例からの課題抽出

「各国文献」のうち、イギリス政府のデジタル格差に対する課題認識を示唆した文献「Government Digital Inclusion Strategy」から格差課題の抽出を試みた。

本書は、2014年に策定された英国政府によるデジタルインクルージョン(社会的包摂)実践のための指針である。同指針ではユーザー調査とコンサルテーションを通じて、人々がオンラインにアクセスする際に直面する以下の4つの主な課題を特定することとされている。

・アクセス不全:様々な理由により自宅からインターネットに接続できないこと

・ スキル不足:インターネットを利用するためのスキルがないこと

・モチベーション不足:インターネットを利用することがなぜ良いことかを知らないこと

・ 不安:犯罪への不安や、どこから始めればいいのかわからないこと

同書で抽出された課題認識を、上記の分類に当てはめると[図表1-12]のとおり。

[ 図表1-12 英国政府の認識:オンラインにアクセスする際に直面する課題 ]

英国政府による課題認識

アクセス不全 スキル不足 モチベーション不足 不安

課題の詳細内容

アクセシビリティ不全:誰もが利用可能である状態でない

リテラシーに関するスキル不足:識字能力など読解に関わる能力不足

リスクへの恐れ:デジタル利用を恐れ、失敗することを心配する

認証の不安:個人情報の盗難を心配する

アクセス場所がない:インターネットにアクセスするために移動しなければならない

基本的なデジタルに関するスキル不足:ブラウジング、検索エンジンの使用、電子メールの使用など基本的なデジタル使用能力不足

必要性への疑問:デジタルでの手続きを「押し付けられた」と感じる

セキュリティ知識不足:自分の情報がオンライン上で安全かどうかを心配する

コスト負担できない:機器が高価格であり設置費用、接続費用、継続的なネットワーク費用などが必要

セキュリティに関するスキル不足:安全なオンライン利用の方法を知らない

金銭的なメリットへの理解不足:インターネットを利用することで、お金を節約することができると理解されていない

拠り所不足:どこで助けを得られるのかわからない

技術習得不足:インターネット技術は急速に変化しており、最新技術に対応することが必要

自信がない:複雑すぎると思われるテクノロジーの利用に自信を持てない

社会的利益への理解不足:インターネットが自分の特定の状況でどのように役立つかが理解されていない

信頼不足:どの情報源やウェブサイトが信頼できるかわからない

インフラ不足:インターネットに接続できない家庭や、速度が遅い家庭がいまだに存在する

健康や幸福のベネフィットへの理解不足:健康に関する情報を得たり、医療サービスを受けられることが理解されていない

説明言語が難解:インターネットにまつわる言葉が誰でもわかりやすいものになっていない

調査研究のすすめ方

1-3-4 デンマークの事例からの課題抽出

「各国文献」のうち、デンマークのデジタル格差に対する課題認識を示唆した文献「デンマーク政府におけるデジタルデバイドへの取り組み」から格差課題の抽出を試みた。

デンマーク政府デジタル化庁によれば、デジタル化が浸透していない人々のセグメントとしては[図表1-13]左列が挙げられる。これらのセグメントの特徴やその出自背景に基づき同図右列のとおり格差課題を導出した。

[ 図表1-13 デジタル化が浸透していないセグメントから導出された格差課題 ]

デジタル化が浸透していないセグメント 導出された格差課題

デジタルにあまり精通していない高齢者 高齢者などによるデジタル技術への不慣れや操作知識の不足

行政から来る情報の重要性を理解していない若年層 若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足

西欧諸国以外から来る移民 移民などによる公用語を理解できない言葉の問題

さまざまな社会的に不利な条件を持っている人 肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在

調査研究のすすめ方

1-3-5 日本の事例からの課題抽出

「各国文献」のうち、日本のデジタル格差に関する課題認識を示唆した文献「デジタル・ガバメント

実行計画」および「デジタル活用支援推進事業」で示された施策から[図表1-14]のとおり格差課題の抽出を試みた。

コスト負担できない:機器が高価格、設置費用、接続費用、継続的なネットワーク費用などが必要

インフラ不足:インターネットに接続できない家庭や、速度が遅い家庭がいまだに存在する

各課題の詳細

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

イギリス

セキュリティ知識不足:自分の情報がオンライン上で安全かどうかを心配する◯

拠り所不足:どこで助けを得られるのかわからない ◯ ◯

信頼不足:どの情報源やウェブサイトが信頼できるかわからない◯

デン マーク

高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 ◯

若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足 ◯

移民などによる自国語を理解しない言葉の問題 ◯

肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在 ◯ ◯

日本

デジタル機器に不慣れだと操作が困難 ◯

電子申請の使い方が複雑 ◯

外国人の中には申請画面の日本語が読めない方がいる ◯

視覚障がいなどのハンディキャップの存在 ◯

電子申請でできること自体を知らない ◯

以上の検証の結果を踏まえ、[図表1-16]に示した5つの項目をデジタル格差の「課題類型」として整理した。

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

2 自治体の課題認識

本章では、自治体基礎調査ならびに自治体の首長および職員へのインタビュー結果をもとに、自治体が認識している格差課題を抽出・整理する。

[分析プロセス]

1. 1章の自治体基礎調査の結果から抽出された格差課題を課題類型ごとに分類・整理し、傾向や特徴を分析する。

2. 首長の課題認識を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の市長にインタビューを行い、格差課題を抽出し、課題類型によって分類・整理する。

3. 自治体職員の課題認識を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の職員にインタビューを行い、格差課題を抽出し、課題類型によって分類・整理する。

4. 以上を踏まえ、自治体全体としてのデジタル格差に関する課題認識の傾向や特徴を分析する。

(2)自治体による格差認識の差異の分析

自治体ごとの格差課題の認識を、①明示的に認識している、②黙示的に認識している、③認識していない、という3つに分類する。なお、分類は以下の方法で行う。

① 自治体の情報化推進計画やデータ活用推進計画等に「デジタル格差」の記載がある場合、明示的に認識しているものとする。

② 上記①の記載はないものの、自治体基礎調査の中で実施したヒアリングの内容に格差課題に関する回答がある場合、黙示的に認識しているものとする。

③ 上記①および②のいずれの記載もない場合に、認識していないものとする。

自治体の課題認識

2-1-2 分析結果

(1)自治体における課題類型の分析

分析の結果、各自治体について、図表2-2のとおり格差課題を示唆する内容とそれに対応する課題類型が導出された。

抽出された格差課題は、幅広い分野にわたり認識されているが、特に以下の点が特徴として挙げられる。

・「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に分類されたものが12件中8件と最も多かった。特に高齢者の苦手意識が大きな課題として認識されている。

・ ただし、リテラシーは、若年層も含め、利用できる/できない住民間での個人差が大きいのが実態。

・ ICTインフラの不備も依然として格差課題として認識されている。

・ 一部の住民に行政サービスが行き届かないことも課題として認識されている。その点、行政職員にも課題があると認識されている。

[ 図表2-2 自治体基礎調査で確認された課題認識 ]

自治体 人口 格差課題を示唆する内容 課題認識度合 課題類型

D市 中核市(50万人台)

  1. 高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である

 ①明示的に認識

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

住民のソフトウェア利用に対する不安、便利さに付随するリスクがある(セキュリティなど)

①明示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 都市(10万人台)

a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性(市がサービスを提供するだけでは足りない)

①明示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

A市 都市(10万人台)

使い方の格差、リテラシーの差が存在する

 ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)若年層は得意・不得意がはっきりしている ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある

 ②黙示的に認識 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない

 ②黙示的に認識 Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

B市 都市(10万人台)

a)高齢者がデジタルを使えない ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある

 ②黙示的に認識 Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

②黙示的に認識

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

d)デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタルサービスをスタートする機会を逸することは損失

②黙示的に認識

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

C村 町村(約3千人) a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある

②黙示的に認識

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

E市 都市(約1万人) ③認識なし

F村 町村(約2千人) ③認識なし

G村 町村(1千人未満) ③認識なし

自治体の課題認識

(2)自治体による格差認識の差異の分析

格差課題への認識は、自治体の規模によって図表2-3のように分類された。概ね、

・ 大規模自治体:明示的に格差課題を認識している

・ 中規模自治体:黙示的に格差課題を認識している

・ 小規模自治体:格差課題を認識していない

という傾向がみられた。一般的に、大規模自治体ほどデジタル化が進んでいることから、この結果は、デジタル化が進展するほど格差課題への認識が高まる一方、デジタル化が進展していなければ格差課題は認識されにくいことを示唆する。

[ 図表2-3 自治体規模ごとの格差課題への認識の状況 ]

ヒアリング対象自治体 課題認識度合

D市:中核市(50万人台)

H市:都市(10万人台)

①明示的に認識

A市:都市(10万人台)

B市:都市(10万人台)

C村:町村(約3千人)

②黙示的に認識

E市:都市(約1万人)

F村:町村(約2千人)

G村:町村(1千人未満)

③認識なし

自治体の課題認識

2-2|自治体首長の課題認識

2-2-1 調査対象・方法

自治体首長の立場からのデジタル格差への課題認識およびその解消に向けた考え方を把握するた

め、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の市長にインタビューを行う。

豊橋市 長岡市

a)デジタル化への意欲が高い自治体であること(デジタル格差は一定程度のデジタル化への認識がなければ顕在化しないため)

「市区町村の電子化推進度ランキング」(総務省、2020)にて10位にランクインしている「長岡版イノベーション」を全庁を挙げて推進している

b)産業構造として農業と工業が共存していること(デジタル格差の課題認識の多様性を確保するため、中山間地域なども含まれるようににした)

農業全国9位(産出額、2016年)・工業全国19位(出荷額、2016年)であり、山間部や沿岸部の防災に関する研究も行っている

農業全国78位(産出額、2016年)・工業全国105位(出荷額、2016年)、中山間地域住民への支援に取り組んでいる

c)自治体間の学際的交流関係が存在すること(学生とデジタル格差の関連を探るため) 豊橋技術科学大学を持ち、官学の交流がある 長岡技術科学大学を持ち、官学の交流がある

d)多国籍コミュニティが存在すること(外国人住民とデジタル格差の関係を探るため) 全体の5%にあたる18,000人の外国人が居住 「多文化共生」を目指した国際交流センター「地球広場」を設置している

[インタビュー実施時期]・2021年3月

[インタビュー方法]・オンラインもしくは対面によるインタビュー調査

[インタビュー項目]

(1)市におけるデジタル化の現状と、将来のデジタル化のビジョンについて

・貴市における行政のデジタル化で行なっている取り組みについて教えてください。

・将来(例えば5年後)に向けての貴市のデジタル化へのビジョンについて教えてください。

(2)現在、認識されているデジタル格差と、その対策について

・現在、住民のデジタル格差について問題と捉えていることを教えてください。

・上記の質問に関して、この対策について取り組んでいることを教えてください。

・将来(例えば5年後)に向けて、デジタル格差は、どのような状況になると予想されますか?

これに向けての対策について教えてください。

「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に分類された格差課題が5件中3件と最も多い。特に、地域にとってのソーシャルインクルージョンの重要性の観点から、高齢化や外国人の増加など社会の変化に伴い発生する社会的弱者への配慮が重視されているとみられる。

自治体 格差課題を示唆すると認識している内容 課題類型豊橋市 市長

a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である。

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない。

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない。

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

長岡市 市長

a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車を運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある。

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることができない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる。

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

豊橋市および長岡市の職員へのインタビューの結果、図表2-6のとおり格差課題を示唆する回答内容が得られた。

職員の格差課題に対する課題認識としては15件中「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する内容が6件、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に属する内容が10件を占めた。

既にデジタル化への取組みを進めている両市では、行政サービス提供や情報提供のデジタル化に関わる部分に課題認識の重点がシフトしていると考えられる。

内訳をみると、現場で住民と接する職員は、より先鋭に行政プロセスへの抵抗感や無関心を強く感じていることがうかがえる。特に、高齢者一般が感じている苦手意識を認識しつつも、個人間で格差があること、UIやUXもやはり重要であることなどが現場目線の課題として認識されている。また、職員の間での格差も課題として認識されている。

また、件数としては少ないが、長岡市職員のインタビュー回答「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」にあるように、デジタル化を進めていくにあたっては、「家族同様に相談できるスタッフによる支援体制を作っていくことの必要性」が指摘されている点は注目される。

豊橋市 職員

a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である III 身体的・認知的ハンディキャップ

b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者にどのように使うのかを考えさせてしまう状況である

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

長岡市 職員

そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少なくないと感じた

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

g)みまもりのプロジェクトにおいて、スマートフォンを使い慣れている人でもインストールの障壁はあった。30~40代のユーザーであっても障壁があった。全体説明だけでは十分でなく、個別説明によりフォローしたり、職員が代わりにインストールしたりするケースもあった。

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援スタッフの不足が懸念される

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

自治体の課題認識

2-4|まとめ―自治体の課題認識

2-2および2-3で導出した自治体首長および職員の課題認識とその課題類型の全体を整理したのが図表2-7である。同図表に基づき、(1)自治体全体としての課題認識の傾向と特徴を整理・分析する。また、首長と職員の間での課題認識の差異を分析する。

課題類型

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

豊橋市 市長 a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である ○豊橋市 市長

b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない○豊橋市 市長

c)若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない○長岡市 市長

a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車を運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある

b)デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることができない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる○

豊橋市 職員 a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である

b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

豊橋市 職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる

豊橋市 職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者にどのように使うのかを考えさせてしまう状況である

豊橋市 職員 e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる

豊橋市 職員f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない

長岡市 職員 a)そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある

長岡市 職員b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない○

長岡市 職員

c)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事○

長岡市 職員 d)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない ○

長岡市 職員

e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる○

長岡市 職員

f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少なくないと感じた○

長岡市 職員

にインストールしたりするケースもあった○

長岡市 職員 h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた ○

長岡市 職員 i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援スタッフの不足が懸念される

自治体の課題認識

(1)自治体全体としての課題認識の傾向

調査対象自治体では、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」の3類型が自治体の格差課題への課題認識の主要な位置を占めている。

インタビュー対象の自治体のハードウエア環境の整備については、かつて大きな課題と認識されていたインターネット自体が全く使えないといった根本的課題についてはある程度解決されつつあるが、現在実施しようとしている情報提供やオンライン手続きなどのデジタルサービス提供に必要な環境については、いまだ課題が残っていると考えられる。

さらに、自治体のなかでも首長と職員の間には、課題をどのように解決していくかのアプローチについての視点差がみられた。すなわち首長は「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」を、職員は「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に主要な視点を置いていると考えられる。

地域全体のソーシャルインクルージョンの視点で社会的弱者の格差課題を捉える首長と、業務の現場で行政のデジタル化推進にあたっての格差課題のハードルに直面している職員との間での視点の差異が反映されていると考えられる。

3 デジタル格差の課題の実態

第2章では、自治体におけるデジタル格差に対する課題認識を分析した。本章では、住民が実際に感じているデジタル格差の実態を把握するため、住民、デジタル格差に関連する分野の専門家および海外政府でデジタル格差の課題に取り組む機関(以下「住民・専門家等」という)が認識している格差課題を把握する。

具体的にはこれらの人々へのインタビューを通じて格差課題を抽出・整理し、課題類型によって分類することで、デジタル格差の実態を明らかにする。また、自治体が認識している格差課題と住民が実際に感じている格差課題の間のギャップを分析することで、自治体にとって未認識となっている格差課題(以下「未認識課題」という)を明らかにする。

自治体の課題認識と課題の実態のギャップ

(未認識課題)

3-1|住民の課題認識

3-1-1 調査対象・方法

豊橋市および長岡市在住の以下の属性をもつ住民を対象に、格差課題に関するインタビュー調査

を行なった。なお、各項目の末尾の括弧内の数値は、インタビュー実施件数である。

・【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)(4件)

・【属性②】三世代世帯(日本人)(4件)

・【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)(5件)

・【属性④】外国人(4件)

・【属性⑤】大学生(留学生含む)(6件)

属性ごとのインタビューの狙いは次のとおりである。

・【属性①】標準的な家族構成の住民が行政のデジタルサービスを活用する上での課題認識を把

握する。

・【属性②】【属性③】高齢者が行政のデジタルサービスを活用する上での障壁を探る。

・【属性④】外国人が日本の行政のデジタルサービスを活用する上での障壁を探る。

・【属性⑤】大学生が今後、ソーシャルインクルージョンに向けてデジタル格差解消に資する社会活動に参加する可能性を探る。

また、以下の2点は、行政のデジタルサービスの利用状況およびデジタル格差の状況を把握するために、属性を問わずインタビューの狙いとした。

・ デジタル化の取組が始まっている自治体の住民が、デジタル格差に関して、どのような課題認識を有しているのか把握する。

・ 行政のデジタルサービス利用への意欲の度合いを探る。

[ インタビュー実施時期 ]・2021年3月~4月

[ インタビュー方法 ]・オンラインまたは対面インタビュー

[ 写真1 住民へのインタビューの様子(1)] [ 写真2 住民へのインタビューの様子(2)]

デジタル格差の課題の実態

3-1-2 インタビュー結果

住民へのインタビュー結果から、住民が認識している格差課題を抽出・整理し、属性①~⑤ごとに課題類型によって図表3-2のように分類した。また、各格差課題の分布を課題類型ごとに集計すると図表3-3のとおりとなった。

[ 図表3-2 住民の課題認識 ]

属性 格差課題と認識している内容 課題類型

【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

  1. デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

【属性②】三世代世帯(日本人)

  1. パソコンの字が小さいため、目が疲れる

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしてもデータが消失している)) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

e)自分が住む自治体への帰属意識が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

f)手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

【属性④】外国人世帯

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

居住者の可能性大)

a)英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自分が住む自治体の活動、行政などに興味が薄い

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

[ 図表3-3 住民が認識する格差課題の課題類型ごとの分布 ]

課題類型

Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ行政プロセスへの抵抗感・無関心

ここから次の傾向が明らかになった。

・ 属性①~属性⑤いずれにおいても、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題が含まれており、格差課題全22項目中13項目を占めている(太字箇所を参照)。

・【属性②】三世代世帯(日本人)および【属性④】外国人世帯では、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関わる格差課題を認識している。

・ 高齢者が属する【属性②】三世代世帯(日本人)および【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)でのみ、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」の格差課題を認識している。

デジタル格差の課題の実態

3-2 専門家の課題認識

3-2-1 調査対象・方法

前節で抽出された格差課題は、あくまで限定されたサンプルの範囲内で認識されたものであり、実際には、様々な限界事例や、住民自身も認識していないような格差課題も存在する可能性がある。そこで、格差課題に関わるアクセシビリティやソーシャルインクルージョンなどの分野で専門的な知見を持つ団体に、こうした格差課題についてのインタビューを行った。インタビューを実施した団体名、およびインタビューの狙いおよびインタビュー項目の概要を図表3-4に示す。

社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)Good Job!センター香芝/森下静香 氏

障がい者との共創型のインクルーシブデザインアプローチの実践を行なっている団体から、インクルージョンも含めた共創を進める上での課題を聴取するとともに、高齢者や障害者の方達の声も反映したデジタル格差の解決策のヒントを探る

・ 障がいのある方とIoTやITなどのデジタル機器との関わりについて

・ Good Job! Projectの取り組みとデジタル格差やインクルージョンとの関わりについて

ウェブアクセシビリティ推進協会

(NTTクラルティ株式会社:ウェブアクセシビリティ推進協会 正会員)/田中章仁 氏

ウェブアクセシビリティの課題解決に専門的に取り組んでいる団体によるデジタル格差への対応事例などを聞くことで、デジタル格差の課題を把握するとともに、アクセシビリティ改善のヒントを探る

・ 視覚障がいや聴覚障がいの方にとってのウェブアクセシビリティの重要性について

・ 行政のデジタルサービスに関して、アクセシビリティ改善のためのアプローチについて

名古屋市 経済局イノベーション推進部スタートアップ支援室/小野寺光弘 氏

日本語の読めない外国人を対象とした行政窓口業務の改善の試みの事例を伺うことで、デジタル格差の課題の把握とともに、デジタル化に伴う来庁時の住民(外国人)・職員双方の窓口手続き時の負担軽減のヒントを探る

・ 実証実験における窓口での利用者の反応について

・ 実証実験を通じて、どのような課題解決のための改善の取り組みがあったのかについて

長岡市 地域振興戦略部中山間地域集落支援班

中山間地域に居住する高齢者を対象としたデジタル機器を用いた見守り事業の事例を伺うことで、デジタル格差の課題の把握とともに、デジタル格差を解消するための寄り添い方のヒントを探る

・ 中山間地域に居住する高齢者を対象としたデジタル機器を用いた見守り事業の事例について

デジタル格差の課題の実態

3-2-2インタビュー結果

インタビュー結果から、専門家が認識している格差課題を抽出・整理し、課題類型ごとに[ 図表3-5 ]のとおり分類を行なった。

この結果、住民へのインタビューでは抽出できなかった様々な格差課題が抽出された。これらは大部分が「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」および「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」の課題類型に分類されるものであった。なお、これらの専門家が認識している格差課題は、一般論としてのものであり、特定の自治体に向けてのものではない。

[ 図表3-5 専門家の課題認識 ]

団体 格差課題と認識している内容 課題類型

社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)

  1. 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ウェブアクセシビリティ推進協会

a)視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない

c)視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない

d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している

e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない

f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない

も沢山居る Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

h)行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない

イノベーション推進部

a)日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

長岡市 地域振興戦略部

  1. 自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

デジタル格差の課題の実態

3-3 デンマーク政府の課題認識

3-3-1 調査対象・方法

デジタル格差は、デジタル化が進展してはじめて顕在化してくる課題である。しかしながら現状、日本の多くの自治体では、行政サービスのデジタル化は十分に進んでおらず、その結果、格差課題の存在自体認知していない自治体も多い。そこで、今後、デジタル化が進展した場合に発生し得る格差課題を把握するため、行政のデジタル化が日本と比較し先行しているデンマークにおいて、デジタル格差の課題に取り組むデジタル化庁の職員にインタビューを行なった。

インタビューは、2021年4月に、オンライン会議システム(Zoom)にてインタビューを行なった。また、2020年に別の目的で実施されたインタビュー結果(「行政&情報システム 2020年6月号」、行政情報システム研究所、2020)も参照している。2020年と2021年のインタビューの観点はそれぞれ次の通り。

・2020年:デジタル格差解消のための取り組み全般について

・2021年:デジタル格差解消に取り組む関連団体との協力状況について

[ インタビュー対象者 ]

・デンマーク政府デジタル化庁 デジタルインクルージョン部門 リーダー スザンヌ・ドゥース 氏

[ インタビュー実施時期 ]・2021年4月

[ インタビュー方法 ]・オンラインインタビュー

デジタル格差の課題の実態

3-3-2 インタビュー結果

デンマーク政府デジタル化庁職員へのインタビューの結果、明らかとなった格差課題を図表3-6に示す。課題類型「Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「Ⅲ 身体的・認知的

ハンディキャップ」、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」および「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」にまたがる広範囲の課題への取り組みが行なわれている。

[ 図表3-6 デンマーク政府 デジタル化庁職員の課題認識 ]

格差課題 課題類型

a)若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足 V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)移民などによる公用語を理解しない言葉の問題 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

d)肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在 Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

e)市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

f)職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない

g)行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル格差の課題の実態

3-4|自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態とのギャップ

本節では、第2章で抽出・整理した自治体による課題認識と、本章で抽出・整理した住民にとっての課題の実態の間のギャップを分析する。

まず、前節までで行った住民・専門家等インタビューの結果、すなわち図表3-2 住民の課題認識、図表3-5 専門家の課題認識、および図表3-6 デンマーク政府 デジタル化庁職員の課題認識で示された格差課題を一つの表に再整理する。そのうえで、2章で整理した自治体の格差課題の認識([図表2-2 自治体基礎調査で確認された課題認識および図表2-7 自治体首長および職員の課題認識])と前述の住民にとっての課題の実態を図表3-7のように 突き合わせ、両者の差分から、住民にとっての課題の実態として存在しているにもかかわらず、自治体で認識されていない格差課題(未認識課題)を図表3-8のとおり抽出した。なお、インタビュー後に別途、自治体で認識している旨が確認された項目については認識していると判断した。

自治体 人口 格差課題を示唆させる内容 課題類型

D市 中核市(50万人台)

  1. 高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

(セキュリティなど)

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 都市(10万人台)

a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性

(市がサービスを提供するだけでは足りない)

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

A市 都市(10万人台)

  1. 使い方の格差、リテラシーの差が存在する

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)若年層は得意・不得意がはっきりしている Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

B市 都市(10万人台)

  1. 高齢者がデジタルを使えない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

c)環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足、Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ、Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

  • デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタルサービスをスタートする機会を逸することは損失

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足、Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

C村 町村(約3千人)

a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある Ⅴ行政プロセスへの抵抗感・無関心

E市 都市(約1万人)

F村 町村(約2千人)

G村 町村(1千人未満)

自治体首長および職員の課題認識 自治体 役割 格差課題として認識している内容

豊橋市

市長 a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である

○豊橋市

市長 b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない

○豊橋市

市長c)若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない

○長岡市

市長a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車も運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある

○長岡市

市長b)デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに、技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることできない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる

○豊橋市

職員 a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である

○豊橋市

職員 b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

○豊橋市

職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる ○

豊橋市

職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である

 ○ 豊橋市

職員 e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる

○ 豊橋市

職員 f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない。

○ 長岡市

職員 a)そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある

○長岡市

職員 b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない

○長岡市

職員c)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事

○長岡市

職員 d)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない

○長岡市

職員 e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる

○長岡市

職員f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分ではなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少ないないと感じた

○長岡市

職員g)みまもりのプロジェクトにおいて、スマートフォンを使い慣れている人でもインストールの障壁はあった。30~40代のユーザーであっても障壁があった。全体説明だけでは十分ではなく、個別説明によりフォローしたり、職員が代わりにインストールしたりするケースもあった

○長岡市

職員 h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた

○長岡市

職員 i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援の不足が懸念される ○住民・専門家等の課題認識のまとめ

[ 図表3-7 自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態の対応関係 ]

対象 格差課題と認識している内容 課題類型

住民:

【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

  1. デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

住民:【属性②】三世代世帯(日本人)

a)パソコンの字が小さいため、目が疲れる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしたい際にデータが消失している))

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 自分が住む自治体への帰属意識が薄い

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性④】外国人世帯

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自分が住む自治体の活動、行政等に興味が薄い

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

専門家:たんぽぽの家

  1. 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会

  1. 視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 障がい者だけでなく、行政のデジタルサービスで何が出来るのか知らない人も沢山居る

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

専門家:名古屋市イノベーション推進部

  1. 日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

専門家:長岡市地域振興戦略部

a)自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

  • 高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

デンマーク政府デジタル化庁

  1. 若年層による行政プロセスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

c)移民などによる自国語を理解しない言葉の問題 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

d)肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在

Ⅰ 貧困や深刻な障害によるデジタル

利用の前提条件欠如

  • 市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル格差の課題の実態

[ 図表3-8 自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態のギャップ ]

対象 格差課題と認識している内容 課題類型

本調査における自治体の認識状況

住民:【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

  1. デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

  • Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識

c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

住民:【属性②】三世代世帯(日本人)

a)パソコンの字が小さいため、目が疲れる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしたい際にデータが消失している))

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

  • デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

  • 自分が住む自治体への帰属意識が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識f)手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

住民:【属性④】外国人世帯

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない)

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

c)自分が住む自治体の活動、行政等に興味が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

専門家:社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)

  1. 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会

a)視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

c)視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

g)障がい者だけでなく、行政のデジタルサービスで何が出来るのか知らない人も沢山居る Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

h)行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

専門家:名古屋市イノベーション推進部

 a)日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

専門家:長岡市 地域振興戦略部

a)自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

b)高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

デンマーク政府デジタル化庁

a)若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

b)高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

c)移民などによる公用語を理解しない言葉の問題 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

d)肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在 Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如 認識

e)市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

f)職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

g)行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

デジタル格差の課題の実態

以上の結果より、自治体にとっての未認識課題が7件抽出された。

このうち3件は課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属するものだった。

また、障がい者への連絡手段や方法について配慮が不足しているといった、課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属する課題も4件確認された。例えば、ウェブアクセシビリティ推進協会から挙げられた「公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している」および「視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない」といったものである。

デジタル格差の課題の実態

3-5|本章のまとめ

本章では、住民にとっての格差課題の実態を明らかにするため、住民、専門家等にインタビューを行い、デジタル格差の課題の実態を抽出・整理した[ 前掲図表3-8 ]。

その結果、以下のような傾向や特徴が明らかとなった。

(1)住民・専門家等における課題認識

〈住民〉

・ 住民全体としては、「V 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題が多い。

・ 外国人世帯や留学生は、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関わる格差課題を認識している。

・ 高齢者には「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関わる格差課題を認識している人が多い。高齢者の中でもデジタル利用の必要性が低い方の場合には、この傾向が顕著だった。

〈デジタル格差に関連する分野の専門家〉

・ウェブアクセシビリティ専門家などは、住民への情報提供手段の問題など「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関する様々な格差課題を認識している。

・ ウェブアクセシビリティ、高齢者対策、福祉などの専門家は「V 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題を認識している。

・ 高齢者対策に携わる職員は、高齢者にとっての「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関する格差課題を認識している。また、デジタル利用への対応が困難な方のためのアプローチの必要性についても認識している。

〈海外政府でデジタル格差の課題に取り組む機関〉

・ 課題類型「Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」といった広範囲の格差課題を認識している。

・とくに、「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関する格差課題に関して、市民の立場の視点に立つための活動の必要性を強く認識している。

(2)自治体の未認識課題の抽出

前節で行った自治体の課題認識と住民にとっての格差課題の実態のギャップから、自治体の未認識課題を抽出したのが図表3-9である。この結果から未認識課題について次の傾向が確認された。

〈住民が認識している未認識課題〉

・ 未認識課題全4件の内、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題が3件であり、大宗を占めた。

・ 外国人世帯から課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属するウェブアクセシビリティに関する格差課題が挙げられた。

〈専門家が認識している未認識課題〉

・ 障がい者へのアクセシリビリティ配慮不足に関する格差課題が3件指摘された。

デジタル格差の課題の実態

[ 図表3-9 自治体の未認識課題 ]

対象 自治体の未認識課題 課題類型

住民:【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

b)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)

b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会

d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

デジタル格差に関する施策の充足状況

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

本章では、前章までで抽出・整理した格差課題に対し、自治体による格差解消のための施策がどの程度実施されているかを明らかにする。このため、前章までで抽出・整理した格差課題に対し求められる施策と、自治体で実際に実施されている施策とのギャップを分析する。その上で、既に調査対象自治体で実施されている施策も含め、今後他の自治体でも一般的に実施すべき施策を整理する。

こうした施策のなかには、

(a)調査対象の自治体で既に自治体で実施済みの施策(実施済施策)

(b)課題は認識されているものの未実施の施策(未実施施策)

(c)自治体で課題自体が認識されていない格差課題に対する施策(未認識施策)

が含まれる。

[分析プロセス]

1. 1章および2章のヒアリングを通じて確認された、調査対象の自治体によって実施済(予定含む)の格差課題を抽出・整理する。(「(a)実施済施策」)

2. 2章で抽出・整理した、自治体が認識している格差課題に対して実施すべき施策のうち、まだ実施されていない施策を抽出・整理する(「(b)未実施施策」)。

3. 3章で抽出・整理した、住民にとっての格差課題のうち、自治体がまだ認識していない格差課題(第3章の「未認識課題」)に対して実施すべき施策を抽出・整理する。(「(c)未認識施策」)4. 最後に、(a)~(c)をとりまとめ、今後他の自治体でも一般的に実施すべき施策を整理する。

[ 図表4-1 本章の対象範囲 ]

(第4章) (第2章) (第3章)自治体の課題認識と課題の実態のギャップ

(未認識課題)

本来講ずるべき施策((c)未認識課題)自治体の施策と課題認識のギャップ

((b)未実施施策)(a)自治体の実施済施策

自治体の課題認識

首長の課題認識

職員の課題認識

デジタル格差の実態

住民の課題認識

専門家の課題認識

デンマーク政府の課題認識

赤字:本章の調査研究範囲

デジタル格差に関する施策の充足状況

4

4-1|自治体で実施済の施策(a)

1章の自治体基礎調査および2章の自治体インタビューの結果から、同章で対象とした自治体が格差課題に対して実施済または実施予定の施策を抽出・整理した[図表4-2]。

自治体 格差課題と認識している事項 課題類型 デジタル格差の解消施策(計画や将来目標を含む)

豊橋市

a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である Ⅲ 身体的、認知的ハンディキャップ ・Facebookでの外国人住民向けの情報

配信

e)庁内でも職員感のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 ・行政職員のデジタル格差解消に向けたデジタルリテラシー向上

長岡市

b)デジタル機器等が、デザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーから出てきた場合、人間が常にそのテクノロジーに合わせることになる。そうすると、高齢者は合わせることができない、使いこなせない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 ・職員への「デザイン思考」教育の実施

h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、機械に対する苦手意識がある。抵抗感を覚える高齢者もいる

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・集落支援員による高齢者のデジタル機器への苦手意識解消の取り組み

i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。スタッフの不足が懸念される Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

・タブレットによる外国人生徒向けサポート(ワンタッチで通訳オペレータ)の実証実験実施

D市

a)高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

・子どもに対する教育分野を通じたデジタル・リテラシー/モラルの向上

・スマートフォン利用講座(LINE等のアプリ含む)の実施

・ユニバーサルデザインの重視

b)住民のソフトウェア利用に対する不安、便利さに付随するリスクがある(セキュリティなど) Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・個人情報がどのように保護されているかを丁寧に説明

A市 a)使い方の格差、リテラシーの差が存在する Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・LINEやインスタグラム等の講習

・スマートフォン操作講習

B市

b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足 ・主に山間部に対して、移動通信用鉄塔施設の整備

[ 図表4-2 自治体が施策を実施済の格差課題(予定を含む)]

デジタル格差に関する施策の充足状況

4

4-2|自治体で未実施の施策(b)

本節では、調査対象の自治体において、自治体で格差課題は認識しているものの、それに対して未実施の施策を導出する。具体的には、以下の手順で分析を行う。

[分析プロセス]

1. 格差課題は認識しているものの、それに対する解決策が未実施の課題を抽出・整理する。(4-2-1)

2. 上記により導出された課題に対して実施すべき施策を検討するため、具体的なケースを想定する。

(4-2-2)

3. 上記の各ケースに対して実施すべき施策を検討する。(4-2-3)

4-2-1 未実施施策に係る課題の整理

2章で整理した自治体の格差課題のうち、それに対する施策が未実施となっている課題を図表4-3に示す。なお、調査対象のいずれか1自治体でも未実施の場合、未実施として整理した。

自治体 格差課題と認識している事項 課題類型

豊橋市

a)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

長岡市

f)みまもりのプロヘクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマートフォンの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な思念が必要となることが少なくないと感じた

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性(市がサービスを提供するだけでは足りない) Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足A市b)若年層は得意・不得意がはっきりしている Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足B市

a)高齢者がデジタルを使えない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

d)デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタル

サービスをスタートする機会を逸することは損失

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

C村 a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

[ 図表4-3 自治体が施策を未実施の格差課題 ]

デジタル格差に関する施策の充足状況

4-2-2 未実施施策に係る課題のケース導出

前節で示した、調査対象の自治体が格差課題と認識しているが、それに対する施策は未実施の格差課題について、求められる施策を検討するため、対象となる格差課題を、具体的な施策実施の場面を想定して図表4-4のとおりケースとして整理した。

課題類型 格差課題 導出したケース

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足 ・A市 d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない

① 自治体職員が住民のデジタルへの障壁の実態を把握できていない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

・豊橋市職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる

・長岡市職員 f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマートフォンの設定→ 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な思念が必要となることが少なくないと感じた

・B市 a)高齢者がデジタルを使えない

② デジタル機器利用が難しく、サポートを必要とする住民がいる

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

・A市 c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある

・C村 a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある

・豊橋市職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である

③ 行政情報に触れる機会がない・届かない住民がいる

④ 行政のデジタルサービスが利用者の特性や状況を考慮できていない

[ 図表4-4 未実施施策に係る格差課題のケース ]

デジタル格差に関する施策の充足状況

4-2-3 未実施施策に係る課題の解決策の導出

前項で導出した未実施施策に係る課題のケースに対する解決策を、住民・専門家等インタビューの発言内容に基づき図表4-5のとおり導出した。また、解決のための具体的なアプローチの例を検討した。

[ 図表4-5 未実施課題に係る解決策とアプローチの具体例 ]

課題類型 ケース 解決策 アプローチの具体例

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル

利用環境不足

ケース①:住民のデジタルへの障壁の実態を把握できていない

解決策①:住民の状況を知るところから始める

・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)による住民への個別インタビューやグループでのインタビューを実施し、住民の声を聞く

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

ケース②:デジタル機器利用が難しく、サポートを必要とする住民がいる

解決策②:デジタル活用支援員の仕組みを活用する。その際、信頼感が低いと話を聞いてもらうことが難しいため住民と信頼関係を構築した上で、デジタル機 器の利点を伝え興味を持ってもらう

・職員が直接ではなく、住民が参加している各コミュニティ(例えば、外国人世帯の場合、出身国のコミュニティ)の代表者の方を介して関係を構築する

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ケース③:行政情報に触れられない・届かない住民がいる

解決策③:行政情報の配信方法 を見 直 す 。住民の 状 況 によって 、LINE、Facebook、電子メール、手紙等の利用状況が異なるため配信方法は考慮する

・日本に在住する外国人のコミュニティによっては、Facebookグループが活用されているため、Facebookグループ内でシェアを行われることを想定した情報配信を行う

・視覚障がい者への手続きのための通知や情報配信は紙面ではなく電子メールで行う(電子メールであればテキスト読み上げツール等を活用して読み上げることができ、返信も音声によるテキスト入力ツール等を活用して対応可能であるため)

ケース④:行政のデジタルサービスが利用者の特性や状況を考慮できていない

解決策④:住民の状況を知るところから始める。提供する行政のデジタルサービスの利 用者になるであろう属性の住人へのインタビューや、普段使っているデジタルサービスの利用している様子を見せてもらう

・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)を踏まえ、行政のデジタルサービスの利用者である住民がどのような状況で、提供サービスを利用するであろうか把握する

・上記の方法論や考え方として、人間中心デザイン、サービスデザイン、デザイン思考という名称で体系化されているため、必要に応じて参考にする

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-3 自治体が未認識の課題に係る施策

4-3-1 未認識課題に係るケースの導出

3章の図表3-9では、自治体が未認識の格差課題を整理した。これらの格差課題は、インタビュー対象2自治体以外においても認識されていない場合が多いと考えられる。自治体にあっては、まずこうした課題の存在自体を、第3章で実施したような住民や専門家へのインタビューを通じて認識することが求められる。そのうえで、次に、抽出・整理した課題に対して解決策を検討することが必要となる。

本項では、インタビュー対象2自治体を例にとり、未認識の課題に対して求められる施策を導出する。対象となる格差課題は、具体的な施策実施の場面を想定して図表4-6のとおりケースとして整理した。

[ 図表4-6 未認識課題に係る格差課題のケース ]

格差課題類型 格差課題 導出したケース

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

・専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会 d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している

・専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会 e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない

・専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会 f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない

⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮が足りない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

・住民:【属性2】 g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある

⑥:住民は行政サービスを知らず、手続きについての知識を持っていない

・住民:【属性3】 c)行政手続きで間違ってしまってはいけないと捉えているため、PCで行政サービスを利用しない

⑦:住民は自身の手続きの間違いを恐れ、デジタル行政サービスを利用しない

・住民:【属性1】 a)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

⑧:デジタル行政サービスを利用しても住民が不満に感じ、メリットも伝わっていない

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-3-2 未認識課題に係る解決策の導出

前項で導出した未認識課題のケースに対する解決策を、住民・専門家等インタビューの発言内容に基づき図表4-7のとおり導出した。また、そのためのアプローチの具体例を検討した。

[ 図表4-7 未認識課題に係る解決策とアプローチの具体例 ]

格差課題類型 ケース 解決策 アプローチの具体例

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

ケース⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮が足りない

解決策⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮する

・障がい者への自治体のお知らせ:

・自治体Webサイトにて、お知らせの文書は、PDFをできるだけ使用せずに、テキスト読み上げツールが対応可能なHTMLで記載する

・Webサイトにおける画像の扱い:

・自治体Webサイトで用いられる画像の内容が、視覚障がいのある方に理解できるようにする。

・障がい者のデジタル機器やサービスの利用状況をインタビューの実施等を通じ把握した上で、上記を含めたアプローチを検討する

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ケース⑥:住民は行政サービスを知らず、手続きについての知識を持っていない

解決策⑥:住民が行政サービスの手続きイメージが得やすい環境をつくる

・住民が行政のデジタルサービスを利用する際、行政サービスの手続きイメージを持てるように、動画や図などで手続きイメージを伝える

・その際、住民に、このような情報が自治体Webサイトに掲載されていることを予め知ってもらうため、SNS(LINE、Facebook、Twitter等)で、自治体Webサイトに役立つ情報があることを日頃から伝えていく

・デジタル行政サービスを使用している様子を撮影した動画を動画共有サイト(YouTube等)で公開し、使い方について動画で実感できるようにする

ケース⑦:住民は自身の手続きの間違いを恐れ、デジタル行政サービスを利用しない

解決策⑦:住民がデジタル手続きを行う際、何か失敗しても問題はない感覚を持てるようにする

・デジタル行政サービスでは、住民が一人で手続きするため、入力やデータの間違いなどがあっても問題が発生しないようにフェールセーフ(誤操作があっても安全に制御すること)の仕組み、またはそもそも間違えようがないようなナビゲーションを用意する

・それでも、なにか問題が発生した際には、電話やメール等で対応できる仕組みを用意する

・その存在を住民に日頃からSNS等で伝えていく

ケース⑧:デジタル行政サービスを利用しても住民が不満に感じ、メリットも伝わっていない

解決策⑧:住民がメリットが感じられるように、利用者の視点に立ってデジタル行政サービスを開発・改善した上で、住民にメリットを提示する

・   住民がデジタル行政サービスを使用する際、よりメリットを感じていただけるように、利用者の視点でデジタル行政サービスの開発・改善を継続的に行う

・ 職員自身がデジタル格差を解消した上で、提供するデジタル行政サービスに触れ、改善が必要な点とアピールすべきメリットを認識できるようにする

・ さらに、デジタル行政サービス利用のメリットを、より具体的に伝えていく(物品と交換可能なポイント取得や、自宅等で手続き可能等)

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-4 まとめ―自治体が講ずるべき施策

本章では、自治体のデジタル格差に対する施策の充足状況を明らかにするため、自治体が講じるべき施策を次の区分で明らかにしてきた。

(a)調査対象の自治体で既に自治体で実施済みの施策(実施済施策)

(b)課題は認識されているものの未実施の施策(未実施施策)

(c)自治体で課題自体が認識されていない格差課題に対する施策(未認識施策)

前節までの分析の結果を、抽出・整理された施策を住民に対して講じるべき施策/職員に対して講じるべき施策に区分して整理すると図表4-8ないし4-10のとおりとなる。

[ 図表4-8 (a)実施済施策 ]

住民向け 職員向け

・SNS(Facebook等)での外国人住民向けの情報配信

・タブレットによる外国人生徒向けサポート(ワンタッチで通訳オペレータ)の実証実験実施

・集落支援員による高齢者のデジタル機器への苦手意識解消の取り組み

・個人情報に対するセキュリティの確保(個人情報の取り扱いをより慎重にし、個人情報の保護に万全を期す)

・子どもに対する教育分野を通じたデジタル・リテラシー/モラルの向上

・スマートフォン利用講座(LINE等のアプリ含む)の実施

・ユニバーサルデザインの重視

・主に山間部に対して、移動通信用鉄塔施設の整備

・行政職員のデジタル格差の解消

・職員への「デザイン思考」教育の実施

(a)実施済施策

[ 図表4-9 (b)未実施施策 ]

住民向け 職員向け

・住民と信頼関係を構築した上で、デジタル機器の利点を提示

・デジタル利用支援員の仕組みの活用

・行政情報の配信方法の再確認

・住民のLINE、Facebook、電子メール等の利用状況を考慮した配信

・住民のデジタル利用状況の把握

・住民へのアンケート、インタビューの実施

・デジタル活用支援員によるデジタル機器・サービスの

利用状況把握

(b)未実施施策

[ 図表4-10 (c)未認識施策 ]

住民向け 職員向け

・障がい者への連絡手段や方法への配慮

・自治体Webサイトのお知らせ文書について、テキスト読み上げツールが対応可能な形式

(HTML等)での掲載

・自治体Webサイトで用いられる画像の代替えテキストの用意

・住民が行政サービスの手続きについて知識を持てるように配慮

・自治体Webサイトで、行政サービスの手続きイメージを動画や図を公開

・デジタル行政サービスの利用している様子の動画を動画共有サイトで公開

・SNSで、自治体Webサイトに役立つ情報が掲載されていることを日頃から住民に伝達

・住民がデジタル手続きを行う際に、何か失敗しても問題はない感覚を持てるように配慮

・デジタル行政サービスで、入力やデータの間違い等があっても問題が発生しないようにフェールセーフの仕組みを用意

・上記でも、問題が発生した際には、電話やメール等で対応できる仕組みを用意

・これらの存在を日頃からSNSで住民に伝達

・職員間のデジタル格差の解消

・職員がデジタルへの苦手意識を無くす取り組みの実施

・職員自らによるデジタル化された手続きの積極的利用推進

・職員たちによる自発的なデジタル格差解消のためのコミュニティづくり

・利用者の視点でのデジタル行政サービスの開発・改善

・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)でのデジタル行政サービスの開発・改善の実施

(c)未認識施策

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

以上から、自治体が実施すべき施策のうち、インタビュー対象2自治体における充足状況としては、

(a)が既に充足されている施策

(b)は格差課題は認識されているが、まだ充足されていない施策

(c)は格差課題自体が認識されていない施策

と整理できる。

これらは対象2自治体を前提とした区分であり、他の自治体で必ずしも当てはまるものではない。ただし、これらの区分にかかわらず、本章で挙げた施策は、今後遅かれ早かれ、自治体での取り組みが求められることになってゆく。その際、4-2-3および4-3-2に示した「アプローチの具体例」は施策の立案・実践にあたっての直接的なヒントになると考えられる。

おわりに

5 おわりに

本調査研究は、我が国政府・自治体がこれからデジタル化を進めていくうえでのデジタル格差の課題を把握・整理し、それぞれの課題に対して講じるべき施策の方向性を導出することを目的として実施した。その結果、以下が明らかになった。

〈2 章:自治体の課題認識〉

自治体が認識している格差課題を、自治体首長および職員の課題認識をもとに抽出した。また、その傾向や特徴を、自治体間や首長-職員間の比較等を通じて分析した。

格差課題の分布を課題類型ごとに分類したところ、「身体的・認知的ハンディキャップ」、「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」が自治体の格差課題への課題認識の主要な位置を占めていることがわかった。インタビュー対象の自治体のハードウエア環境の整備については、かつて大きな課題と認識されていたインターネット自体が全く使えないといった根本的課題についてはある程度解決されつつあるが、現在実施しようとしている情報提供やオンライン手続きなどのデジタルサービス提供に必要な環境については、いまだ課題が残っていると考えられる。

さらに、自治体のなかでも首長と職員の間には、課題をどのように解決していくかのアプローチについての視点差がみられた。すなわち首長は「身体的・認知的ハンディキャップ」を、職員は「行政プロセスへの抵抗感・無関心」「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に主要な視点を置いていると考えられる。地域全体としてのソーシャルインクルージョンの視点で社会的弱者の格差課題を捉える首長と、業務の現場で行政のデジタル化推進にあたっての格差課題のハードルに直面している職員との間での視点の差異が反映されていると考えられる。

〈3 章:デジタル格差の課題の実態〉

住民が実際に感じているデジタル格差の課題の実態を把握するため、住民、デジタル格差に関連する分野の専門家および海外でデジタル格差解消に取り組む機関が認識している格差課題の把握を行った。その結果、住民・専門家等は、自治体が認識していない未認識課題を認識していることが明らかとなった。具体的には、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題、および課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属する格差課題だった。

住民は一般に、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題を多く認識している。また、外国人世帯や留学生は、「身体的・認知的ハンディキャップ」を、高齢者は「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関わる格差課題を認識している人が多い。

専門家は、住民への情報提供手段の問題など「身体的・認知的ハンディキャップ」に関する様々な格差課題を認識しているほか、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題も重要と認識している。

また、デンマーク政府デジタル化庁は、課題類型「貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「身体的・認知的ハンディキャップ」、「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」といった広範囲の格差課題を認識しており、特に、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関する格差課題に関して、市民の立場の視点に立つための活動の必要性を強調している。

おわりに

〈4 章:デジタル格差に関する施策の充足状況〉

自治体で認識されている格差課題に対し、格差解消のための施策がどの程度実施されているかを明らかにするため、格差課題に対し求められる施策と、自治体で実際に実施されている施策とのギャップを次の観点で分析し、今後他の自治体でも一般的に実施すべき施策を住民向けと職員向けに分けて、次のように整理した。

(a)調査対象の自治体で既に自治体で実施済みの施策(実施済施策)

(b)課題は認識されているものの未実施の施策(未実施施策)

(c)自治体で課題自体が認識されていない格差課題に対する施策(未認識施策)

これらは調査対象自治体を前提とした区分であり、他の自治体で必ずしも当てはまるものではないが、少なくとも、これらの区分にかかわらず、本章での施策は、今後遅かれ早かれ、自治体での取り組みが求められることになる可能性が高い。

本調査研究を通じて明らかになったことのひとつが、住民のデジタル格差の課題に取り組むためには、行政自らが組織内のデジタル格差に取り組む必要があることである。このため、本章では、自治体が実施すべき施策を住民向けと職員向けに分けて整理している。

また、(b)と(c)の施策については、まだ具体的な施策が講じられていないことから、インタビューを通じて得られた知見をもとに、具体的なケースの想定を立て、実践的な施策を「アプローチの具体例」として提案している。これらは今後の施策の立案・実践にあたっての直接的なヒントになると考えられる。

〈まとめ〉

本調査研究の結果、行政サービスにおけるデジタル格差に関して、次のような新たな知見が得られた。

・デジタル格差への課題認識は、自治体によってかなりの差がある。一般的には、デジタル化の進展に伴って課題認識は高まる。

・デジタル格差には様々な態様があり、それぞれ講ずべき施策も異なってくる。

・自治体職員には認識できないデジタル格差の課題が存在している。

・デジタル格差は、住民と職員の両方に存在しており、どちらも対応が必要である。

また、自治体のデジタル格差として、具体的にどのような格差課題が存在するのかを洗い出して体系的に整理するとともに、それぞれに対して講ずべき施策を明らかにすることができた。

現状、デジタル格差はまだ多くの行政職員や住民にとって実感を伴う課題とは認識されていない。

しかし、今後、行政サービスのデジタル化が本格化していく中で、それによる便益を享受できる住民と享受できない住民の間の格差は顕在化していくと予想される。

デジタル格差の解消は、一朝一夕ではできない課題も多い。デジタル化に取り組む行政機関にあっては、施策立案の段階から、デジタル格差への考慮を中長期的視点に立って検討に組み込んでいくことが重要になる。

本調査研究で得られた知見は、そうした検討に直接・間接に寄与することになると考える。

調査協力先

 本調査報研究の実施にあたっては、以下の方々をはじめ多くの方々にご協力いただいた。

〈自治体インタビュー:愛知県豊橋市〉

・ 豊橋市 浅井由崇市長

・ 豊橋市 情報企画課

・ 国立大学法人 豊橋技術科学大学

・ 豊橋市 住民の皆さま

〈自治体インタビュー:新潟県長岡市〉

・ 長岡市 磯田達伸市長

・ 長岡市 イノベーション推進課

・ 長岡市 地域振興戦略部 中山間地域集落支援班

・ 国立大学法人 長岡技術科学大学

・ 長岡市 住民の皆さま

〈専門家インタビュー〉

・ 愛知県名古屋市 経済局イノベーション推進部 スタートアップ支援室

・ 特定非営利活動法人 ウェブアクセシビリティ推進協会

・ 社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家) Good Job!センター香芝

・ デンマーク政府デジタル化庁

〈自治体基礎調査〉

・インタビューにご協力いただいた全国8自治体

初版:2021年3月31日

一般社団法人 行政情報システム研究所

本冊子の利用ルールは「政府標準利用規約(第2.0版)」に準じるものとします。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/kettei/gl2_betten_1.pdf

「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」について

厚生労働省

改訂 平成30年3月

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197721.pdf

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

1 人生の最終段階における医療・ケアの在り方

① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。

また、本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われ、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。

さらに、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。この話し合いに先立ち、本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要である。

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 「本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要」は、法律上の明示的な行為でなくても良いのだと思います。法律上の行為としては、任意代理契約、任意後見契約が挙げられます。

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② 人生の最終段階における医療・ケアについて、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。

③ 医療・ケアチームにより、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うことが必要である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 尊厳死宣言公正証書を作成するという方法があります。作成しない場合に比べて、本人の意思が尊重されると考えられます。

しかし、必ず全てが望んだ通りになるかは分かりません。医療・ケアチームや家族の判断が通る場合もあるのだと思います。一度点滴も拒否、注射も拒否などと記載する尊厳死宣言公正証書の案を作成したことがあります。私は内心やり過ぎじゃないかなと思っていました。点滴や注射が一切出来ない状況は難しいのかなと感じたりします。

たとえ望んだ通りにならなくても、御本人は元気なうちに意思表示出来たということでとても満足そうでした。それは確かに大事だなと、私も考えを少し改めました。

「尊厳死宣言公正証書」という名前はもう少し柔らかい名前に代えても良いのかなとも思います。

参考

日本公証人連合会

尊厳死宣言公正証書について

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④ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない。

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 議論しない、という選択は有りだと思います。

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2 人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続

人生の最終段階における医療・ケアの方針決定は次によるものとする。

(1)本人の意思の確認ができる場合

① 方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医

療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。

そのうえで、本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ケアチームとして方針の決定を行う。

②時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が

変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供

と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるよう

な支援が行われることが必要である。

この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である。

③ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくも

のとする。

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 「多専門職種」の中に、任意後見人、成年後見人、保佐人、補助人が入ってくる場合があるのかもしれません。

「話し合いが繰り返し」というような表現が何度も出てきます。色々な家族があるので、繰り返し話し合える家族は限られてくるのかなと思います。私の家族は難しいような感じがします。

「文書」に関しては、テキスト、音声を含むデジタルデータが多くなっていくのかなと思います。

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(2)本人の意思の確認ができない場合

本人の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要がある。

① 家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

② 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。

③ 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

④ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

(3)複数の専門家からなる話し合いの場の設置

上記(1)及び(2)の場合において、方針の決定に際し、・医療・ケアチームの中で心身の状態等により医療・ケアの内容の決定が困難な場合

・本人と医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合

・家族等の中で意見がまとまらない場合や、医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合

等については、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置し、医療・ケアチーム以外の者を加えて、方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。

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 こういう場面が年間どのくらいの件数あるのか、気になります。私の仕事であれば、断るということが出来ます。しかし医療関係は報酬が保証されている代わりに断れない場合が多いんだろうなと思います。

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人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

解説編

人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会

改訂 平成30年3月

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197722.pdf

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン解説編

【平成19年版ガイドライン作成の経緯】

人生の最終段階における治療の開始・不開始及び中止等の医療のあり方の問題は、従来から医療現場で重要な課題となってきました。厚生労働省においても、人生の最終段階における医療のあり方については、昭和62年以来4回にわたって検討会を開催し、継続的に検討を重ねてきたところです。その中で行ってきた意識調査などにより、人生の最終段階における医療に関する国民の意識にも変化が見られることと、誰でもが迎える人生の最終段階とはいいながらその態様や患者を取り巻く環境もさまざまなものがあることから、国が人生の最終段階における医療の内容について一律の定めを示すことが望ましいか否かについては慎重な態度がとられてきました。

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 私は慎重な態度がとられることに賛成です。

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しかしながら、人生の最終段階における医療のあり方について、患者・医療従事者ともに広くコンセンサスが得られる基本的な点について確認をし、それをガイドラインとして示すことが、よりよき人生の最終段階における医療の実現に資するとして、厚生労働省において、初めてガイドラインが策定されました。

本解説編は、厚生労働省において策定されたガイドラインを、より広く国民、患者及び医療従事者に理解いただけるよう、「終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検討会」において議論された内容をとりまとめたものです。

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  どちらかというと、高齢社会における医療費(医療ケアにかかる時間)や介護サービス費(介護にかかる時間)を削減したいという目的が大きいのかなと思います。良い悪いは措きます。ガイドラインは指針にもなり、裁判手続きなどでもガイドラインに従ったかという点が評価される場面も出てくるのではないでしょうか。

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国に対しては、本ガイドラインの普及を図るとともに、緩和ケアの充実など人生の最終段階を迎える患者及び家族を支えるため、その体制整備に積極的に取り組むことを要望します。

【平成30年版ガイドライン改訂の経緯】

平成27年3月には、「終末期医療に関する意識調査等検討会」において、最期まで本人の生き方(=人生)を尊重し、医療・ケアの提供について検討することが重要であることから、「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」へ名称の変更を行いました。

今回の改訂は、ガイドライン策定から約10年の歳月を経た平成30年3月には、近年の高齢多死社会の進行に伴う在宅や施設における療養や看取りの需要の増大を背景に、地域包括ケアシステムの構築が進められていることを踏まえ、また、近年、諸外国で普及しつつあるACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス)の概念を盛り込み、医療・介護の現場における普及を図ることを目的に「人生の最終段階における医療の普及・啓発に関する検討会」において、次の1)から3)までの観点から、文言変更や解釈の追加を行いました。

1)本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針についての話し合いは繰り返すことが重要であることを強調すること。

2)本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、その場合に本人の意思を推定しうる者となる家族等の信頼できる者も含めて、事前に繰り返し話し合っておくことが重要であること。

3)病院だけでなく介護施設・在宅の現場も想定したガイドラインとなるよう、配慮すること。

加えて、本ガイドラインについて、人生の最終段階における医療・ケアに従事する医療・介護従事者が、人生の最終段階を迎える本人及び家族等を支えるために活用するものであるという位置づけや、本人・家族等の意見を繰り返し聞きながら、本人の尊厳を追求し、自分らしく最期まで生き、より良い最期を迎えるために人生の最終段階における医療・ケアを進めていくことが重要であることを改めて確認しました。

国に対しては、医療・介護従事者が、丁寧に本人・家族等の意思をくみ取り、関係者と共有する取組が進むよう、また年齢や心身の状態にかかわらず、家族等との繰り返しの話し合いを通じて本人の意思を確認しておくことの重要性が、広く国民、本人、医療・介護従事者に理解されるよう、改訂された本ガイドラインの普及を図ることを要望します。

【基本的な考え方】

  • このガイドラインは、人生の最終段階を迎えた本人・家族等と医師をはじ

めとする医療・介護従事者が、最善の医療・ケアを作り上げるプロセスを示すガイドラインです。

2)そのためには担当の医師ばかりでなく、看護師やソーシャルワーカー、介護支援専門員等の介護従事者などの、医療・ケアチームで本人・家族等を支える体制を作ることが必要です。このことはいうまでもありませんが、特に人生の最終段階における医療・ケアにおいて重要なことです。

3)人生の最終段階における医療・ケアにおいては、できる限り早期から肉体的な苦痛等を緩和するためのケアが行われることが重要です。緩和が十分に行われた上で、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケアの内容の変更、医療・ケア行為の中止等については、最も重要な本人の意思を確認する必要があります。確認にあたっては、適切な情報に基づく本人による意思決定 (インフォームド・コンセント)が大切です。

4)人生の最終段階における医療・ケアの提供にあたって、医療・ケアチームは、本人の意思を尊重するため、本人のこれまでの人生観や価値観、どのような生き方を望むかを含め、できる限り把握することが必要です。また、本人の意思は変化しうるものであることや、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、本人が家族等の信頼できる者を含めて話し合いが繰り返し行われることが重要です。

5)本人の意思が明確でない場合には、家族等の役割がいっそう重要になります。特に、本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合に備えて、特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めている場合は、その者から十分な情報を得たうえで、本人が何を望むか、本人にとって何が最善かを、医療・ケアチームとの間で話し合う必要があります。

6)本人、家族等、医療・ケアチームが合意に至るなら、それはその本人にとって最もよい人生の最終段階における医療・ケアだと考えられます。医療・ケアチームは、合意に基づく医療・ケアを実施しつつも、合意の根拠となった事実や状態の変化に応じて、本人の意思が変化しうるものであることを踏まえて、柔軟な姿勢で人生の最終段階における医療・ケアを継続すべきです。

7)本人、家族等、医療・ケアチームの間で、話し合いを繰り返し行った場合においても、合意に至らない場合には、複数の専門家からなる話し合いの場を設置し、その助言により医療・ケアのあり方を見直し、合意形成に努めることが必要です。

8)このプロセスにおいて、話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくことが必要です。

1 人生の最終段階における医療・ケアの在り方

① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。

また、本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われ、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。

さらに、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。

この話し合いに先立ち、本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要である。

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 複数の専門家を交えても合意形成が出来ない場合は、どうするのか気になりました。

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*注1 よりよい人生の最終段階における医療・ケアには、第一に十分な情報と説明(本人の心身の状態や社会的背景に鑑み、受ける医療・ケア、今後の心身の状態の変化の見通し、生活上の留意点等)を得たうえでの本人の決定こそが重要です。ただし、②で述べるように、人生の最終段階における医療・ケアとしての医学的妥当性・適切性が確保される必要のあることは当然です。

*注2 医療・ケアチームとはどのようなものかは、医療機関等の規模や人員によって変わり得るものです。一般的には、担当の医師と看護師及びそれ以外の医療・介護従事者というのが基本形ですが、例えばソーシャルワーカーなど社会的な側面に配慮する人が参加することも想定されます。また、在宅や施設においては、担当の医師と看護師のほか、本人の心身の状態や社会的背景に応じて、ケアに関わる介護支援専門員、介護福祉士等の介護従事者のほか、他の関係者が加わることも想定されます。

*注3 医療・ケアチームは、丁寧に、本人の意思をくみ取り、関係者と共有する取組を進めることが重要です。また、本人の意思は、時間の経過や心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、大きく変化する可能性があることから、繰り返し話し合いを行うことが、本人の意思の尊重につながります。

② 人生の最終段階における医療・ケアについて、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。

*注4 人生の最終段階には、がんの末期のように、予後が数日から長くとも2-3ヶ月と予測が出来る場合、慢性疾患の急性増悪を繰り返し予後不良に陥る場合、脳血管疾患の後遺症や老衰など数ヶ月から数年にかけ死を迎える場合があります。どのような状態が人生の最終段階かは、本人の状態を踏まえて、医療・ケアチームの適切かつ妥当な判断によるべき事柄です。

また、チームを形成する時間のない緊急時には、生命の尊重を基本として、医師が医学的妥当性と適切性を基に判断するほかありませんが、その後、医療・ケアチームによって改めてそれ以後の適切な医療・ケアの検討がなされることになります。

*注5 医療・ケアチームについては2つの懸念が想定されます。1つは、結局、強い医師の考えを追認するだけのものになるという懸念、もう1つは、逆に、責任の所在が曖昧になるという懸念です。

しかし、前者に対しては、医療・介護従事者の協力関係のあり方が変化し、医師以外の医療・介護従事者がそれぞれの専門家として貢献することが認められるようになってきた現実をむしろ重視すること、後者に対しては、このガイドラインは、あくまでも人生の最終段階の本人に対し医療・ケアを行う立場から配慮するためのチーム形成を支援するためのものであり、それぞれが専門家としての責任を持って協力して支援する体制を作るためのものであることを理解してもらいたいと考えています。

特に刑事責任や医療従事者間の法的責任のあり方などの法的側面については、ガイドライン策定以降、このような側面から大きく報道されるような事態は生じていませんが、引き続き検討していく必要があります。

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 「強い医師の考えを追認するだけのものになるという懸念」は、文面だけではなく、何となくそういう風になった感じがする、くらいの経験を持つ方は多いのかなと思います。ただ、介護専門職に対して敬意を持って接する医師が増えたというのは個人的な感触です。

「特に刑事責任や医療従事者間の法的責任のあり方などの法的側面」については、リスクを取らない方向にいくのは普通だと思います。

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③ 医療・ケアチームにより、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うことが必要である。

*注6 緩和ケアの重要性に鑑み、2007年2月、厚生労働省は緩和ケアのための麻薬等の使用を従来よりも認める措置を行いました。

*注7 人が人生の最終段階を迎える際には、疼痛緩和ばかりでなく、他の種類の精神的・社会的問題も発生します。可能であれば、医療・ケアチームには、ソーシャルワーカーなど、社会的な側面に配慮する人やケアに関わる介護支援専門員などが参加することが望まれます。

④ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない。

*注8 疾患に伴う耐え難い苦痛は緩和ケアによって解決すべき課題です。積極的安楽死は判例その他で、きわめて限られた条件下で認めうる場合があるとされています。しかし、その前提には耐え難い肉体的苦痛が要件とされており、本ガイドラインでは、肉体的苦痛を緩和するケアの重要性を強調し、医療的な見地からは緩和ケアをいっそう充実させることが何よりも必要であるという立場をとっています。そのため、積極的安楽死とは何か、それが適法となる要件は何かという問題を、このガイドラインで明確にすることを目的としていません。

2 人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続

人生の最終段階における医療・ケアの方針決定は次によるものとする。

(1)本人の意思の確認ができる場合

① 方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。

そのうえで、本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを踏

まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ケアチームとして方針の決定を行う。

② 時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような支援が行われることが必要である。この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である。

③ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

*注9 話し合った内容を文書にまとめるにあたっては、医療・介護従事者からの押しつけにならないように配慮し、医療・ケアについての本人の意思が十分に示された上で、話し合われた内容を文書として残しておくことが大切です。

*注10 よりよき人生の最終段階における医療・ケアの実現のためには、まず本人の意思が確認できる場合には本人の意思決定を基本とすべきこと、その際には十分な情報と説明が必要なこと、それが医療・ケアチームによる医学的妥当性・適切性の判断と一致したものであることが望ましく、そのためのプロセスを経ること、また合意が得られた場合でも、本人の意思が変化しうることを踏まえ、さらにそれを繰り返し行うことが重要だと考えられます。

*注11 話し合った内容については、文書にまとめておき、家族等と医療・ケアチームとの間で共有しておくことが、本人にとっての最善の医療・ケアの提供のためには重要です。

(2)本人の意思の確認ができない場合

本人の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要がある。

  •  家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

② 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。

③ 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

④ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

*注12 家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます(このガイドラインの他の箇所で使われている意味も同様です)。

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 「親しい友人」も入ることは初めて知りました。

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*注13 本人の意思決定が確認できない場合には家族等の役割がいっそう重要になります。特に、本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合に備えて、特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定め、その者を含めてこれまでの人生観や価値観、どのような生き方や医療・ケアを望むかを含め、日頃から繰り返し話し合っておくことにより、本人の意思が推定しやすくなります。その場合にも、本人が何を望むかを基本とし、それがどうしてもわからない場合には、本人の最善の利益が何であるかについて、家族等と医療・ケアチームが十分に話し合い、合意を形成することが必要です。

*注14 家族等がいない場合及び家族等が判断せず、決定を医療・ケアチームに委ねる場合には、医療・ケアチームが医療・ケアの妥当性・適切性を判断して、その本人にとって最善の医療・ケアを実施する必要があります。なお家族等が判断を委ねる場合にも、その決定内容を説明し十分に理解してもらうよう努める必要があります。

*注15 本人の意思が確認できない場合についても、本人の意思の推定や医療・ケアチームによる方針の決定がどのように行われたかのプロセスを文書にまとめておき、家族等と医療・ケアチームとの間で共有しておくことが、本人にとっての最善の医療・ケアの提供のためには重要です。

(3)複数の専門家からなる話し合いの場の設置

上記(1)及び(2)の場合において、方針の決定に際し、・医療・ケアチームの中で心身の状態等により医療・ケアの内容の決定が困難な場合

・本人と医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合

・家族の中で意見がまとまらない場合や、医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合

等については、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置し、医療・ケアチーム以外の者を加えて、方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。

*注16 別途設置される話し合いの場は、あくまでも、本人、家族等、医療・ケアチームの間で、人生の最終段階における医療・ケアのためのプロセスを経ても合意に至らない場合、例外的に必要とされるものです。第三者である専門家からの検討・助言を受けて、あらためて本人、家族等、医療・ケアチームにおいて、ケア方法などを改善することを通じて、合意形成に至る努力をすることが必要です。第三者である専門家とは、例えば、医療倫理に精通した専門家や、国が行う「本人の意向を尊重した意思決定のための研修会」の修了者が想定されますが、本人の心身の状態や社会的背景に応じて、担当の医師や看護師以外の医療・介護従事者によるカンファレンス等を活用することも考えられます。

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 調停委員のような役割を果たすのでしょうか。それとも話し合いを促すような役割(ファシリテーター?)を求められるのでしょうか。

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成年後見制度利用促進専門家会議第1回成年後見制度の運用改善等に関するワーキング・グループ議事録

https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000796413.pdf

成年後見制度利用促進専門家会議

第1回成年後見制度の運用改善等に関するワーキング・グループ議事録

厚生労働省社会・援護局地域福祉課成年後見制度利用促進室

成 年 後 見 制 度 利 用 促 進 専 門 家 会 議第 1 回 成 年 後 見 制 度 の 運 用 改 善 等 に 関 す るワ ー キ ン グ ・ グ ル ー プ

議事次第 日 時:令和3年6月2日(水)14:00~16:00 場 所:オンライン会議

1.開会 2.議事

①有識者等による報告「意思決定支援ガイドライン」②意見交換

3.閉会

2021-6-2 成年後見制度利用促進専門家会議 第1回成年後見制度の運用改善等に関するワーキング・グループ

○新井主査 それでは、定刻となりましたので、ただいまから成年後見制度利用促進専門家会議 第1回「成年後見制度の運用改善等に関するワーキング・グループ」を開催いたします。

委員の皆様方におかれましては、大変お忙しいところをお集まりいただいて、誠にありがとうございます。

これまでのワーキングの司会をされていた上山先生からバトンタッチを受けまして、本日は新井が担当いたしますので、よろしくお願いします。少しPCに不慣れなところがありますけれども、一生懸命やりますので、よろしくお願いします。

なお、今日は、障害者権利条約の理念を尊重して、全員「さん」とお呼びしますので、あらかじめ御了承ください。

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 「障害者権利条約の理念を尊重して、全員「さん」とお呼びしますので」こういうところまで議事録に残るのは、面白いなと感じます。

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このワーキング・グループは、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、ウェブ会議システムを活用しての実施としております。

また、傍聴席は設けず、動画配信システムでのライブ配信により、一般公開する形としております。

まず、本日の委員の皆様の出席状況について、事務局から報告をお願いいたします。

○成年後見制度利用促進室長 厚生労働省成年後見制度利用促進室長の松﨑でございます。

それでは、本日の出席者等について、確認します。現在、御覧のとおりの出席となっています。なお、瀬戸委員に関しましては、先ほど欠席との御連絡がありましたので、この点、申し添えます。

続きまして、ウェブ会議における発言方法を確認します。発言される場合は、zoomの「手を挙げる」機能を使用ください。発言者は、主査から指名しますので、指名に基づき御発言をお願いします。

「手を挙げる」機能を使用しているにもかかわらず、発言希望の意思が会場に伝わっていないと思われる場合には、ウェブ会議システムの「チャット」機能等で会場へ御意思をお伝えいただくことも可能です。ただし、原則としては、zoomの「手を挙げる」機能の使用をお願いします。

なお、チャット機能等で御記入いただいた内容は、ウェブの画面及び配信画面においても表示されます。この点、御承知おきください。

よろしくお願いいたします。

○新井主査 ありがとうございました。

報道関係者の皆様におかれましては、カメラ撮りはここまでとさせていただきます。

それでは、議題1「有識者等による報告」に入りたいと思います。

本日は「意思決定支援ガイドライン」に関して、3件の報告と質疑応答をして、その後に全体を通しての意見交換を行います。

本日の議題に入る前、事務局から、本日のワーキング・グループに関連する基本計画等の資料等の説明をお願いいたします。

○成年後見制度利用促進室長 事務局です。今回は、意思決定支援ガイドラインということで資料をまとめています。こちら、現行の基本計画のKPIということでございまして、意思決定支援に関係しましては、こちらに御覧のとおり、医療に係る意思決定が困難な人への円滑な医療・介護等の提供といった項目が掲げられているということです。

意思決定支援、実は今、御覧いただいたもの以外にも幾つかあります。1つ目が「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」です。こちらのガイドラインの趣旨ですけれども、障害者総合支援法においては、障害者が「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保」される旨を規定し、指定事業者や指定相談支援事業者に対し、「意思決定支援」を重要な取組として位置づけている。こういったことも受けまして、意思決定支援の定義や意義、標準的なプロセスや留意点をまとめたガイドラインを作成したということです。

内容としては、こちらの基本原則でまとめています。

1つ目は、本人への支援は、自己決定の尊重に基づき行うこと。

2つ目、職員等の価値観においては不合理と思われる決定でも、他者への権利を侵害しないのであれば、その選択を尊重するように努める姿勢が求められるということ。

そして、3つ目が、本人の自己決定や意思確認がどうしても困難な場合は、本人をよく知る関係者が集まって、様々な情報を把握し、根拠を明確にしながら意思及び選好を推定するといったことが原則として掲げられておりまして、こちらのガイドラインは平成28年にできたものですけれども、各種職員研修等でも活用されているということです。

次が高齢者ということでございまして、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」です。こちらのガイドラインの趣旨は、上に掲げております。

認知症の人に関わる人において行われる意思決定支援の基本的考え方や姿勢、方法、配慮すべき事柄等を整理して示して、これによって、認知症の人が、自らの意思に基づいた日常生活・社会生活を送れることを目指すものということです。

基本原則を書いております。認知症の人が、意思決定が困難と思われる場合であっても、意思決定しながら尊厳をもって暮らしていくことの重要性について認識することが必要。

そして、本人の示した意思は、それが他者を害する場合や本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずる場合でない限り尊重される。また、意思決定支援に当たっては、身近な信頼できる関係者等がチームとなって必要な支援を行う体制(意思決定支援チーム)が必要であるといったことが基本原則です。

30年にできたガイドラインで、こちらも障害と同様に各種研修につなげられているということです。

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 おそらくガイドラインについて、見直しが行われるのだと思います。

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次が、最初に御紹介いたしました医療関係で、身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインということです。

背景は、実は成年後見以外にももう一つありまして、こちらです。「身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議」で、病院・福祉施設等が身元保証人等に求める役割等の実態を把握するということになります。

成年後見におきましても、被後見人に関連しまして、医療・介護等を受けるに当たり意思を決定することが困難な人が、円滑に必要な医療・介護等を受けられるようにするための支援の在り方と、その中における成年後見人等の事務の範囲について、具体的な検討を進め、必要な措置が講じられる必要があるといった記載があるということで、医療の現場における「身元保証・身元引受等」の役割や成年後見制度について、実態を把握する必要性があるといった流れがございまして、概要に入ります。

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おそらく身元保証についても、実体把握からガイドライン作成まで進むのではないかと思います。

沖縄県でも、徐々に体制が出来つつあります。

参考

主体は東京本社の企業ですが、運営は(株)琉球新報開発という新聞社関連の企業なので、一定の信頼はおけるのではないかと思います。http://pluslifesupport.or.jp/archives/2759

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これでガイドラインができたということでございまして、読み手は、当然医療機関に勤務する方々です。対象者が、身寄りがない人に加えまして、家族・親族に連絡がつかない人や、家族の支援が得られない人です。

医療機関が現行、どういったことを求めているかということですけれども、御覧のとおり、緊急の連絡先、入院計画書、入院中に必要な物品の準備等、ここに掲げられているものがございます。

ここで※印に書いていますけれども、「身元保証・身元引受等」に対して医療行為の同意をする役割を期待している事例もあるけれども、医療行為の同意については、本人の一身専属性が極めて強いものであって、「身元保証人・身元引受人等」の第三者に同意の権限はないと考えられるといった記載があります。

具体的には、こちらですけれども、判断能力が十分な方や、不十分で成年後見を利用している場合、利用していない場合に具体事例を示した上で、実際、こういった意思決定が困難な場合には、こちらにある、意思決定が求められる時点で本人の意思が確認できない場合には、関係者や医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要があるということです。

このときの考え方ですけれども、家族等が本人の意思を推定できる場合には、推定意思を尊重して、本人にとっての最善の方針を取ることを基本とする。

そして、家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し、本人にとっての最善の方針を取ることを基本とする。そして、時間の経過、心身の状態で変わり得るもので、このプロセスを繰り返し行っていくということです。

成年後見人等に期待される役割ということですけれども、本人の意思決定が困難な場合において、成年後見人等が以下の役割を果たすことで、円滑に必要な医療を受けられるようにすることが重要。契約の締結、身上保護、本人の意思の尊重、ここで掲げているような取組です。

次が、成年後見に関連いたしまして、意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインというものです。これは、本日のプレゼンテーションでもまた触れられますので、私のほうでごくごく簡単に触れておきたいと思います。

ガイドラインの趣旨ですけれども、ちょっと見にくくて申し訳ございません。後見人等を含め、本人に関わる支援者らが常に、全ての人には、自分のことを決める力があるといった前提に立って、後見人等に就任した者が、意思決定支援を踏まえた後見事務等を適切に行うことができるように、何が後見人等に求められているかの具体的なイメージを示すといったガイドラインです。

どういったときに後見人として意思決定支援を行うかということですけれども、本人にとって重大な影響を与えるような法律行為、それに付随した事実行為です。

プロセスとしては、支援チームによる対応ということで、意思決定支援のための環境を整備していきましょう。そして、関係するチームを支援して、本人を交えたミーティングをして、意思が表明された場合にどうやって対応していくかといった所々で、後見人として必要なチェックを行っていくということです。

こちらが難しい場合には、代行決定のプロセスということです。ここに掲げておりますように、本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くさなければ、代行決定に移ってはならないということで、極めて限定的な運用にされています。

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 後見等、後見人、成年後見人などの用語が使用されていますが、補助人、保佐人、任意後見人についても同じような考え方で良いのかなと思いました。

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こちらに掲げているのが具体的にということですけれども、そもそも意思決定や意思確認が困難と見られる局面と、本人にとって見過ごすことができない重大な影響が懸念される局面というところで、限定的にというお話です。

それ以降の資料は、今、紹介いたしました各ガイドラインを比較したものということです。

あと1点、資料を共有します。基本計画の関係です。実は、今回の資料はほとんど意思決定支援に関係するものばかりということで、重要となる1つのコアとなる概念だけ共有できればと思っています。意思決定に関係してですけれども、後見人は、本人の自己決定権の尊重を図りつつ、身上に配慮した後見事務を行うことが求められており、後見人が本人に代理して法律行為をする場合にも、本人の意思決定支援の観点から、できる限り本人の意思を尊重し、法律行為の内容にそれを反映させることが求められるといったことが掲げられているということです。

私からの説明は以上です。よろしくお願いいたします。

○新井主査 ありがとうございました。

それでは、有識者の報告に移ります。まずは、豊田市の加藤さんからお願いいたします。

よろしくお願いします。

○加藤参考人 それでは、豊田市の取組を発表させていただきます。

本日の話の内容ですが、意思決定支援に関することとしまして、特に3番にある豊田市意思決定支援ポイント集の作成を中心的に話していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

こちらのスライドは、豊田市の概要を示しております。面積がとても広くて、都市部と山間部との間で社会資源とかも違っていたり、私が日々支援の中で感じていることとしては、産業都市ということもあって、県外出身の方が多くいるというのも、うちの市の特徴ではないかなと感じています。

こちらのスライドは、豊田市の市全体の総合計画のスライドになります。豊田市全体として課題共有、施策推進を図っていくために、総合計画にも位置づけ、権利擁護の取組等を載せています。こうしたことをすることによって、企画政策部門とか財政部局といったところとも連携・合意が図りやすいという体制づくりを取っています。

続いてのスライドですけれども、ここから意思決定支援に関する部分に入っていきたいと思います。豊田市が意思決定支援に関する取組を進めるに至った背景についてのスライドになります。まずは、成年後見支援センターの実践からの気づきが1点目になります。

センターが中核機関として広報などに取り組んでいく中で、多くの方たちから、エンディングノートに絡めて出前講座をやってくれないかといった声を多くいただく形になりました。

また、後見支援センターは、法人後見の業務も行っております。その中で、余命宣告された方の在宅生活の支援に携わり、チームの一員としてサポートに加わっていきました。

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 法人後見については、収支をみたいと思います。

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在宅で亡くなることに不安を感じる大家さんといった方たちとの調整もずっと図りながら進めてきました。そういった大家さんであったり、チームのみんなといろいろと意見交換していく中でも、在宅、ここで住みたい、ここでみとりを受けたいといった意思決定支援はとても大事だねという意見がやり取りの中で共有され、その大切さから豊田市の成年後見制度利用促進計画にも事業として位置づけるという動きになっていきました。

こちらは、意思決定支援の取組を進めるに至った経緯の2つ目になります。医療や福祉の多職種の方と合同で、ACPのテーマで研修会を開催しております。その研修を通じて、自分とは違う職種の、ほかの職種の方を意識して、体制整備、環境づくり等をやっていく必要があるのではないかといった意見であったり、専門家も含めて、市民の方々にまだまだこの意思決定支援が知られていないねといった広報・啓発の大切さも、認識させていただきました。

今、触れた後見センターの実践を踏まえた形と、医療等の研修の場といった2つの背景を基に、豊田市で行う意思決定支援に関する取組の柱は、左にあります環境整備と普及啓発の2本にしていく形になりました。具体的な取組として、今日、中心的にお話ししていく意思決定支援ポイント集の作成であったり、その他、いろいろな事業に取り組んでいくことになりました。

先ほどのスライドに幾つかの取組の掲載がされていましたが、取組を進めていくに当たり、検討を行う場が必要ということで、ワーキング・グループを設置しました。メンバーは、こちらのスライドに載っているとおりですが、福祉だけでなく、在宅医療の関係者と一緒に考えていく体制というのを、ワーキングの中でも整えたというのが1つポイントかなと考えています。

また、意思決定支援をする役割を担う立場として、中核機関である成年後見支援センターであったり、市の総合相談課も、このワーキングには関わりを持って参加していくという形になりました。

ここから、先ほどのワーキングの取組の一つである意思決定支援ポイント集についての説明をさせていただきます。このスライドには、ポイント集の全体概要等が載せてあります。それから、事前に参考資料としても提示させていただきましたので、また詳しくはそちらのほうを見ていただければと思います。

まずは、このポイント集をつくるに至った背景を説明させていただきたいと思います。

1つは、先ほどの説明にもありましたけれども、厚労省から各種ガイドラインが出されているけれども、1人の人として考えたときに、どのガイドラインを使ったらいいのかというのが分からないといった現場の声。もう一つは、豊田市の考え方の基盤が、対象や世代を問わないという包括的支援を目指すものであり、この意思決定支援においても同様の取組をしていくといった考え方がベースになっています。

検討の結果、ポイント集は、意思決定支援をする上での心がけという形でまとめることになりました。こうしなさいというルールにしてしまうと、こういうときはどうすればいいのという声が挙がってしまうだろう。その声に個別に対応していくというのは、ちょっとしんどいなということで、どこに気をつけてほしいかという、職種が違ったとしても共通して押さえておいていただきたいポイントをまとめる。これが駄目ですといったような行動を制限したいというわけではなくて、本人の意思がしっかりと反映されて、こうしたいという思いの実現に近づけていくという市民サービスの向上といった面からも、ポイント集という形でまとめるのがいいのではないかということになりました。

ポイント集の作成では、多職種参加型でワークショップを実施しています。スライドにあるみたいに、非常に多くの職種の方に参加していただきながら、いろいろな意見を交わしました。そこで気づいたことになるのですけれども、意思決定支援と一言で言っても、それぞれの立場によって捉え方とかイメージするものが違っているというところです。

高齢者の支援とか医療の立場の人からは、人生の最期といったところもイメージするというのが非常に強く打ち出されてくるのですが、ふだんから知的障害、精神障害者などを支援している方たちになってくると、今日何が食べたい、今どうしたいという、今をイメージした捉え方になります。こういった捉え方の違いがあるのだとか、どうしても答えが欲しくなってしまうところだけれども、答えは出さないということも一つの選択で、これも支援のポイントじゃないか、答えを出さないということもあるという意見。こういったいろいろな意見が出て、ポイント集をまとめる上でのヒントとして、こうした多職種で一緒に話す場というのが非常に有効的であったと考えています。

このスライドには、取組を通じた気づきから、ポイント集の果たす役割をまとめてみました。

1つは、スキルを身につけるとともに、支援者自身が苦手とすることへの気づき。ここから人材育成につなげるといった質の向上。

2点目は、参考書として活用することで、本人や家族の意思を引き出す。そして、支援者同士が、何がいいのかといった検討を介してつながっていく。こういったきっかけの役割があるのではないか。そのために、ポイント集には、手にした人が発想を広げていけるように、事例紹介のページもたくさん取っていて、そこでは、こうした、その結果こうなったということだけではなくて、こういうところで苦労したということも掲載するようにしています。

3つ目の役割は、引き出せた意思を記録して、次の展開へとしっかりとつなぎ止めていくこと。この積み重ねるといったことが非常に大切なことなのではないかと考えています。

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 記録の方法が知りたいと思います。

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本人の意思は、時間の経過や、そのとき置かれている状況によって変わっていくものですし、その移り変わりの足跡もきっちりと共有していくことが大切なのではないかなと思います。そうしたことを繰り返していくことによって、単純に支援する側とされる側という関係だけじゃなくて、1人の人として、本人に興味がわくといったことから、知りたいと思う気持ちもわいてくるでしょうし、知ることができたということにもつながって、そのことがうれしいというお互いの関係性づくりにも役に立つのではないかという面でも、このポイント集の役割があるのかなと考えています。

取組のまとめになります。

まず、1人の人として見ていくのだから、共通の考え方が必要ではないかといったこと。

2つ目、これだといったルールを決めるのではなく、いろいろな発想につながるものが求められているのではないかということ。先ほども話したとおり、考え方や意思というのは人それぞれで変わっていくものだからこそ、ルールよりも自由な広がりといった捉え方のほうがしっくりくると思います。個別支援の場面において、こうしなければならないといった正解はなかなかないのかなと思いますし、原則がイコール正解でもない。こういったところは、しっかりと押さえておく必要があるのかなと思います。

3つ目、チームとして関わっていくからこそ、共通認識を持つこと。それぞれがしっかりと学んでいく機会が得られることが重要だと思います。先ほど、職種によって意思決定支援といったときのイメージ、今のことなのかとか、終末期のことなのかという話もしましたけれども、どちらが正解というわけでもなく、それぞれがそれぞれに合ったことをしっかりと学んでいく。そして、相手のことも知る、お互いを尊重していくといったところが大事だなと感じています。

4つ目、プロとしての支援者だけではなく、地域住民の巻き込みも行っていくところが大事ではないかなと考えています。これによって、支援に厚みも生まれてくると思いますし、支援が必要な人も含めて、あらゆる人の社会参加の糸口、つながりになってくるのではないかと考えています。

豊田市のポイント集作成の過程において、マニュアルではないですよということは繰り返し伝えてきました。それを繰り返し伝えてきたこと自体に意味があったのかなと思っています。この繰り返し伝えていくという中で、意思決定支援というものがメンバーみんなの中にしみわたっていくといったことが得られたのではないかということで、繰り返しの発信というのがとても大事だなと感じています。

では、最後に、今後について少し触れていきたいと思います。スライドのほうには、4点ほど記載してあります。記述のとおりですけれども、今後、取組を進めていく上で特に気にかけているのが、本人の参加、本人も交えてどう進めていくかという点になります。

昨年度、豊田市では、成年後見制度の利用促進計画、それから後見制度のパンフレットの分かりやすい版の作成をしました。

この作成の過程において、知的障害の当事者の方たちとワークショップをしながら作成したのですけれども、このときに成年後見のことを話すと、お金の管理って何というストレートな意見であったり、豊田市と分かるようなイラスト、豊田スタジアムをイラストとして書いてよ。そのほうが見たくなるというような意見を出してもらいました。なるほど、自分のこととして捉えるときに、そういったイラストを入れたりということもあるのだなとか、本当に素直な意見、捉え方も直接交えて聞けたということ自体に非常に意味があったと考えていますし、これからもこうした機会というのは、折を見ながら設けていけたら

なと考えております。

もう一つとして、4点目にも書いた、市民による意思決定支援といった部分になります。

ふだん、私自身も支援者側というか、市役所の職員として本人と対面しているのですけれども、この間、大勢の支援者に囲まれた本人がどんな気持ちなのかなというのを、ふと考えさせられるような場面がありました。もしかしたら、プロというか、専門家と言われる方たちに囲まれて、どきどきしてしまったり、自分はこんなことを思っているのだけれども、こんなことを言っていいのかなということを感じることはあるのではないかなと思います。

そんなときに、専門家と言われる人たちじゃなくて、普通の市民と言われるような、それに近い人たちが隣にいてくれると、それだけで安心するとか、あなた、自分の意見を言ってもいいんだよとか、ちょっと背を押してくれるといったことがあると、こういった意思決定支援がもう少しスムーズにいくのかなと。そういったところは、市民だからこそできることだと思うのですね。これから、市民だからこそというところにもう少し注目しながら、取組の検討とかが必要なのではないかというのを感じています。

ここまで、豊田市の取組のことを説明させていただきました。意思決定支援に関しては、取組を進めていく上でも正解というのが見つかったという形ではない。ただ、その分繰り返し学んでいく、みんなと意見を交わしていく、そのことが大事なのだというのが本当に身にしみるような感覚が持てたというところは、ほかの市町に発信していったり、これからも仲間と共有していきたいところかと思います。

豊田市の報告は以上になります。

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 良い事例集のような自治体の取組みを参考にしてガイドライン、ポイント集などが策定されていくのかもしれません。自治体によってかなり状況が違うので、計画を一切作っていない自治体の人を呼んでも良いのかなと思います。

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○新井主査 加藤さん、どうもありがとうございました。とりわけ、時間をきちんと守っていただいたことについては、感謝申し上げます。

それでは、質疑応答に移ります。質疑応答の時間は10分を予定しておりまして、画面にタイマーをセットします。また、できるだけ多くの方から質問をいただけるように、簡にして要を得た質問と回答をお願いいたします。

それでは、ただいまの報告に質問がある場合、zoomの「手を挙げる」機能で挙手をお願いいたします。いかがでしょうか。

では、青木さん、お願いします。

○青木委員 ありがとうございました。

このポイント集ですけれども、具体的にこれからどんな場面で活用されていくとか、あるいは配布、どれぐらい印刷するのか、データ上なのか分かりませんが、どのように普及していくか。実際、活用して好事例みたいなものがあったか、何かそういったことを御紹介いただければと思います。

○加藤参考人 実際に作成した冊子のほうは、昨年度はコロナの影響等もあって、思うように発信というよりは、中をもう一度見つめ直すという作業を進めていった形になるのですけれども、今年度からしっかり啓発や、周知というところで、研修会というのも考えています。そういうときには、先ほど触れたこともありますけれども、多職種参加型で、いろいろな人と交わりながらやっていくというところも大事だと思っています。

それから、これがルールブックでもないので、いろいろな使い方があるのかなと。意思決定支援に関わってきた人たちの経験値によって、まだまだこれからという人に関しては、先ほど言っていました研修みたいなものも有効になるでしょうし、経験豊富な方だと、自分がやった取組の振り返りで、より高めていってもらうというセルフチェックみたいな使い方もできるのかなと思っています。なので、ホームページとかにも掲載して、このことは広くお知らせしていって、各自入手しながら波及していっていただくといったことを想定しています。

○新井主査 ありがとうございました。

続いて、星野さん、お願いします。

○星野委員 社会福祉士会の星野です。本日は、ありがとうございました。

とりわけ専門職だけではなくて、市民の方が意思決定支援について深めていくということは、非常にすばらしい取組だなと思って聞いていました。御説明の中でも、市民後見人の養成講座の中で意思決定支援を学ぶ科目があるということだったのですが、具体的にどんな内容でやっていらっしゃるか。さらに、受任されない方でも市民目線で意思決定支援について理解していくために、具体的にどんなことをこれからやられるのか、教えていただければと思います。

以上です。

○加藤参考人 市民後見人の養成講座の中で話しているのは、まさにポイント集に書かれているようなことがメインなのですけれども、まずは、どんな方にでも意思というのがあるのだ。それをすっ飛ばして、第三者である誰か、ましてや後見人が決めていいことじゃ

ないのだということを、そこをまずしっかりと押さえていくこと。誰にでも意思があるのだといったところをしっかり押さえるというところは、講座の中でポイントとしてやっています。

市民後見人の活用というところは、まだ組織として具体的な話ができているわけではないので、個人的な意見にもなってしまうのですけれども、研修を修了しても受任待ちというか、実際に後見人として動いている人はまだごく一部で、そうでない方たちも大勢見えるのですね。そういった方たちに、訪問のときに一緒についてきてもらうとか、場合によっては、さっき言ったみたいに、この方たちだけがいて、市民感覚で触れ合うような場みたいなものを積み重ねていくというのは大事じゃないのかなと思っていまして、そういったところをちょっと考えていきたいなと思っております。

○新井主査 星野さん、よろしいですか。はい。

それでは、ほかに質問はいかがでしょうか。大丈夫ですか。

それでは、後の意見交換のところで時間を取るために、ここで第1の報告については終了といたします。加藤さん、どうもありがとうございました。

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 市民後見人については、養成講座にかかる費用と時間、市民後見人と後見センターとの関わり、市民後見人の報酬について知りたいと思いました。

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では、次に、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社の高橋さんから報告をお願いいたします。

○高橋参考人 よろしくお願いいたします。

それでは、後見人等への意思決定支援研修の取組ということで、みずほリサーチ&テクノロジーズの高橋のほうから御報告させていただきたいと思います。

まず、弊社、4月1日に合併いたしまして、ちょっと長い名前に変わりましたので、まだ慣れていないところがありますが、変わったのだなということだけお見知りおきいただければと思います。

では、早速報告のほうをさせていただきたいと思います。

まず、背景及びこれまでの弊社取組ということで、背景につきましては、先生方、よく御承知のとおり、何よりも利用者がメリットを実感できるような制度・運用としていくことで、その中でも意思決定支援というものが大事だということが言われていると思います。

このような流れを受けまして、弊社では令和元年度に、下のほうになりますが、社会福祉推進事業「後見人等への意思決定支援研修の在り方検討」ということで、調査研究事業をさせていただきました。

また、同年、令和元年度、最高裁判所、厚生労働省及び専門職団体の皆様が集まられた、意思決定支援のガイドラインをつくるワーキング・グループへもオブザーバーということで参加させていただいて、上の調査研究事業の内容をワーキング・グループのほうに報告させていただきながら、ガイドラインの策定のほうにも少し関わらせていただきました。

それで、令和2年度には、厚生労働省の委託事業としまして、「後見人等への意思決定支援研修」を実施してまいりました。

今日は、こちらの一番上の社会福祉推進事業、調査研究事業のほうで、どんなことを課題として皆さんで議論してきたのかとか、また、昨年度、令和2年度、意思決定支援研修を実際やってきて、今、どんな課題があるのかについて、進捗を併せまして皆様に御報告させていただきたいと思ってございます。

では、次のスライドですが、まず、社会福祉推進事業で行いました在り方検討の調査研究事業のほうについて説明させていただきます。こちらは、検討委員会及びワーキングというものを立ち上げさせていただきまして、3つほど会議体をつくって、たくさんの有識者の方に集まっていただいて検討を行いました。また、専門職への全国的なアンケート調査であったり、ヒアリング調査といったものを行いながら、どのような研修をしていったらいいのかという研修プログラムを、皆様と知恵を絞りながらつくるといったことをやらせていただきました。

それで、検討委員会のほうは、本日主査を務められております新井先生のほうに、取りまとめの座長をお願いさせていただきまして、研修プログラムの検討及び承認の全体的なところを検討していただいております。

また、この検討委員会の下に後見事務ワーキングを設置させていただきまして、意思決定支援を踏まえた後見事務全般に関するワーキングということで、意思決定支援であったり、身上保護の側面を通して、どうやったら利用者がメリットを実感できる運用にいかにしていけるのか。そのためには、どういった研修が必要なのかということを、こちらのほうでは検討していただきました。こちらの取りまとめは上山先生にしていただいてございます。

もう一つが、財産管理ワーキングということで、本人の意思を尊重して、本人らしい生活を送るための財産活用。財産管理をどうしていくのか。身上保護以外の財産管理を、福祉的なところも重視した財産管理の運用ということについても検討させていただきました。

こちらのほうは、小賀野先生に座長、取りまとめをお願いしまして検討してきました。

では、ワーキングの中でどのような検討を行ってきたのかということを少し御紹介していきたいと思います。

まず、1つ目は、後見事務ワーキングというものでございます。これは、全5回開催しました。一番最初に、研修のあるべき姿、どういう問題意識があるのかというものを委員の先生から出していただきまして、前半の2回で研修の骨格について議論して、後半のほうには、研修の内容の具体化、どういったものを伝えていくべきなのかといったものについて検討した。こんな形でワーキングを進めさせていただきました。

特に、ワーキングの中で議論があった点を報告させていただきますと、意思決定支援に対する気づきというものが一番重要ではないかということで、意思決定支援の面白み、また、やりがいといったものを感じられるような研修内容にしたらいいのではないかといった御意見を先生方からいただきました。

一方で、意思決定支援というのは、実践ということが一番重要になりますので、座学ではなかなか伝わり切れないという御指摘。なので、こういったものを補っていくためにも、ビデオの活用とか参加型のワークショップみたいなものに取り組んで、研修を続けていったほうがいいといった御意見をいただきました。この辺りは、後半で御説明させていただくのですが、ビデオ教材というものを作ってワークショップをしていこうという先生方の御意見を取り入れて作ってきました。

あと、下のほうに、研修を行っていったときの目的に関係するところですが、この意思決定支援というのを地域で盛り上げていくためには、地域で担っていただけるリーダーを人材育成していく必要があるのではないかといった御意見がありました。あと、共通のガイドラインができるということもありまして、共通知識、きちんとした基礎を皆様で共有していくといった両方があるという議論がございました。

今回、国でやっていく事業もありますので、どちらかといえば②の共通知識の共有のところに集中していって、それをベースに、各専門職団体であったり、中核機関における研修事業のほうにつなげていくベースのものをつくり上げていこうといった議論が、後見事務ワーキングの中でございました。

こういった議論を踏まえて、シラバスというものを作成させていただきまして、研修の目的であったり、研修の目標、どういった内容をどういったスケジュールでやっていくのかということを決めさせていただきまして、ワーキングの中で、教材の中身であったり、そういったものも議論させていただきまして、調査研究の成果として検討委員会のほうでも承認したという経緯でございました。

もう一つ、財産管理ワーキングをさせていただいたのですが、こちらは全部で2回行いました。まず、財産管理というのは多種多様でございますので、第1回目では、どんな取組があるのかという全国的な取組事例を持ち寄って、先駆的な取組を皆で共有させていただきました。それを踏まえて、財産管理について、研修プログラムの中でメッセージをどのように発信していったらいいのかということを、各先生方からいろいろな御意見をいただいたといった形で、財産活用ワーキングのほうを行わせていただきました。

それで、10ページ目に財産活用ワーキングにおける研修に向けた議論の結果を載せておるのですが、実際には、ワーキングの中で、これが財産管理だといったものの結論が出たわけではございません。ただし、後見事務を行っていくに当たって、財産管理というのも本人の望む生活というものをいかに実現させていけるか。本人の状態であったり、本人の意思をしっかり酌み取って、本人の財産や資産状況に応じた後見事務を行っていくことが必要だろう。そのためには、どういった注意点があるのかといったものを各先生方から議論をいただきました。

ちょっとだけ御紹介させていただきますと、単年度の収支で考えがちなところではあるのですが、中長期の視点が一番大事であって、本人の状態が移り変わっていくというのも考慮しながら、中長期的に計画を立てていくことが一番重要じゃないか。

あと、その人の特徴に応じた財産管理というのをしていく必要があるだろう。

あと、そのためにはコミュニケーションというものが一番重要であったり、コミュニケーションをしながら、特に自由に使えるお金みたいなものを、本人といろいろ話し合っていくことも大事なのではないかといった議論をいたしました。

あと、生活基盤を支えるために最低限度のものは確保するなど、財産管理の意思決定支援では、メリットとリスクについてきちんと説明するというものが必要であるだろうということを、様々な御意見とか御指摘をいただきまして、こういったものをベースにしまして、エッセンスを研修の教材のほうに織り込んでいくという形で進めさせていただきました。今のような財産管理のところも結論が出ないままですが、注意点を少し教材に織り込ませていただいております。

それで、令和2年度の実際の後見人等への意思決定支援研修というものをどのようにやったのかというのを、ここから御説明させていただきたいと思います。こちらは、チームによる意思決定支援の下で後見事務を進めるための研修というものを、全国15か所で実施させていただきました。こちらの事業の進め方としまして、検討委員会、及び映像コンテンツを作るということがございましたので、作業部会というものをつくらせていただきまして、こちらのほうで映像コンテンツを作成させていただきまして、関係者へヒアリングを行い、内容を確認しながら、各委員会に承認いただいて研修をしたということでございます。

検討委員会のほうは、同じく新井先生に座長、取りまとめをお願いいたしまして、研修の事業全体の確認であったり、教材のチェック。最後に、事業の全体の評価と今後への課題の検討ということをしていただきました。

あと、作業部会のほうは、4回ありましたが、取りまとめを上山先生にお願いいたしまして、特に研修で使う映像教材について、ディスカッションしながら作り上げていきました。撮影のほうは、協働プラットフォーム様のほうにかなり御尽力いただいたので、感謝申し上げたいと思います。

では、実際の研修の実施内容について紹介したいと思います。

研修のプログラムですが、朝10時から始まって、夕方5時までということで、大変長い研修でございます。第1章は、意思決定支援と代行決定ということで講義形式。第2章は、後見事務における意思決定支援研修ということで、こちらも30分の講義形式でさせていただきまして、1時40分から第3章 意思決定ガイドラインということで、こちらが映像教材を使った演習でグループワークをしていただくという形で、講義と演習の丸1日で意思決定支援というものを学んでいただくプログラムになってございます。

次の15ページ目に移りますと、こちらの研修の教材ですが、調査研究等の御意見を踏まえて、参加者が気づきを得られるように、理論ではなくて、少し感覚的に意思決定支援というものを理解していただこうということで、イラストとかを多用しまして、内容について感覚的に分かるものを目指して資料を作らせていただきました。

次のページから6ページほど、演習教材の実際のスライドを入れさせていただいております。実際には、その中の第1章にあります、意思決定支援及び代行決定のプロセスの原則ということで、原則、一番中心となるところでございます。こういったものを、説明のほうは省略させていただきたいのですが、感覚的に分かるように、1つ目は、意思決定能力というのは、個人の能力、プラス支援者の支援力で構成される。法律的な意思能力とは、また別の概念ですよみたいなことを御紹介させていただきながら、原則、本人に決める力があるという形の、ガイドラインに書かれている表記、プラスどんな内容なのかというのを、イラストと分かりやすい解説みたいなもので御紹介していくという形で、教材のほうをつくらせていただいてございます。

こちらは、後見事務のガイドラインに即したというよりも、ある程度一般的な意思決定支援に即した形に、それが理解できるように配慮して作らせていただいたものでございます。

少し説明のほうは割愛させていただきます。

25ページ目に進みまして、こちらの教材とビデオ教材のほうを御用意させていただきました。1つ目は、ロールプレイ教材としまして、受講者に、後見人に一方的に決めつけられたり、勝手に決められたらどんな気持ちになるのかというものを擬似体験していただこうといったプログラムを、1分、2分の簡単な教材を見て、自分が勝手に決められたら、こんな気持ちになるんだ、勝手に決められたら嫌だなということを感じていただく、まずトライアルして擬似体験していただく教材をつくってございます。

2つ目は、一方でよい事例ですが、ドラマ教材ということで、ドラマ仕立てでケースを取り上げさせていただきまして、どうやったら意思決定支援ができるのかというプロセスをドラマにして、受講者の皆様はそれを追体験しながらプロセスを学んでいただくという工夫をしまして、これを実際に演習の中で見ていただきながら、グループでディスカッションしていただいて、プロセスについて、より理解していただくという研修をいたしました。

特に意思決定支援で大事となる場面を抽出して、グループワークをしていただいたという形になってございます。

あと、今回、全国で15か所やりましたので、30名ぐらいの講師の先生方に御協力いただきました。ですので、講師の先生方には説明会に御参加いただきまして、どのように講習していったらいいかということも共有させていただいて、全国で講義・演習ができるようにということで支援させていただきました。

また、こちらは、全国の研修専用ホームページを作って、皆様のほうから申請していただいて、参加者を募集したということでございます。オンラインのグループワークの実習のために、定員がありましたので、上限を設定させていただきました。

こちらのほうが、昨年度、研修を実際行わせていただいた箇所でございますが、全国を15ブロックに分ける形になってございますので、各ブロックから幾つか都道府県を設定させていただきまして、昨年度は15か所、行わせていただいてございます。

あと、新型コロナによる緊急事態宣言も出されておりましたため、集合研修は中止させていただきまして、オンライン研修のみで実施したということでございます。実際には2800名ぐらい申込みをいただきまして、抽せんの結果とかもございましたので、2300名から2400名の方に受講していただきました。

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2300名は多いと感じます。

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結果ですが、参加者にこちらの研修の満足度及び研修の理解度というものをアンケートの中で取っているのですが、90%を超える参加者が「とても満足」プラス「まあまあ満足」というところでございますが、こういったものを合わせますと、90%を超える方に満足できた、研修内容を理解できたという御意見をいただくことができました。

あと、今後自らの後見活動に役立てたいことということで、いろいろな御意見もいただいておりまして、一番最後だけ御紹介させていただきますと、「『私のことは私とともに決めてほしい』、この当たり前のことだけれども、意外とできていないことを常に頭において活動したい」といった受講生の方の御意見をいただきまして、先生方からも好評いただいたところでございます。

あと、報告書や今回作りました教材、ビデオも含めまして、全て著作権とかは厚生労働省様に帰属のものでございますので、印刷して皆様に配布したり。あと、厚労省様の成年後見制度のポータルサイトというものがございますので、こちらのほうに全て公表させていただいておりますので、皆様に積極的に活用いただければと思ってございます。

最後ですが、今後の課題としまして、リモート研修であったため、長時間でかなり詰め込んでしまったということで、参加しやすさを工夫してほしいという御意見をいただきました。あと、できれば集合研修もしていただきたいということもいただいています。

あと、満足度が90%と大変高かったのですが、意思決定支援に関心のある方とか好意的な方が研修に参加されてしまっている傾向があるかもしれないということで、もっといろいろな方に周知して積極的に参加してもらうような工夫が必要ではないかという御指摘をいただいております。

あと、全体を通じて、1人で決めない、周りに聞いてみるということだけでも気づいてもらえるように、研修をブラッシュアップして継続してほしいというお声であったり、ちまたでは、共同決定や代行決定がベースであるにもかかわらず、意思決定支援と言っている間違ったものも少し散見される。なので、いたずらに本人が言っているからという誘導みたいなことで巧妙に悪用されてしまうのではないかということも危惧されるので、きちんとした意思決定支援を伝えていくことが必要ではないかという、今後の対策みたいなこともいただいていて、今後の課題かなと思ってございます。

以上、後見人等への意思決定支援の研修について発表とさせていただければと思います。

○新井主査 高橋さん、どうもありがとうございました。

ただいまの高橋さんの報告に質問があれば、zoomの「手を挙げる」機能で挙手をお願いします。質問と回答はできるだけ簡潔にお願いいたします。いかがでしょうか。どなたも手が挙がっていませんが、いかがですか。今まで手が挙がらなかったということはなかったのですが。先へ進んでよろしいですか。それとも私のほうで指名したほうがいいか、様子を見ているのですが。

そうしたら、後ほど意見表明のところでまとめてあれば、出していただくことにして、次の報告に移りたいと思います。高橋さん、ありがとうございました。

次の報告は、立教大学講師で弁護士の水島さんからお願いしたいと思います。では、水島さん、よろしくお願いいたします。

○水島委員 水島でございます。

今日は、委員の立場もございますけれども、研究者の立場ということで報告させていただきます。こちら、皆様御覧いただけますでしょうか。障害のある人の意思決定支援ということで、南オーストラリア、英国の事例について、かなり短時間ではございますけれども、御説明させていただきます。

最初に、国連の障害者権利条約12条について確認しておきたいと思います。特に、12条2項では、障害のある人が生活のあらゆる局面において、他の者との平等を基礎として法的能力を享有していくということが規定されています。

そのために、第3項において、必要とする支援にアクセスすることができるようにするための適切な措置を取ることが規定されています。これには意思決定支援も含みます。

そして、4項において、意思決定支援も含めて濫用を防止するための適切かつ効果的な保護を行う必要があり、かつ、その保護には障害のある人の権利、意思及び選好を尊重することが求められる、ということを確認しておきたいと思います。

私は、2014年から15年にかけて1年間、英国に客員研究員ということで留学いたしまして、その折に、南オーストラリアの支援付き意思決定のプロジェクトについても関与いたしました。その点についての御報告をさせていただきたいと思います。

まず、支援つき意思決定を最大化するためのチームモデルについて。先ほどの障害者権利条約が求めている意思決定支援あるいは支援付き意思決定を、実務上、どのように最大化していけるのかを検証するため、南オーストラリアでは、実践的意思決定支援ファシリテーター養成に関するパイロットプロジェクトが行われておりました。

こちらに書かれておりますとおり、ファシリテーターがこのチームを基本的にコーディネートしていくことになりますが、意思決定者である御本人、その御本人が選んだサポーター、そして様々な意思決定に関与する非公式ネットワーク、あるいはサービス提供事業者、あるいは地域でつながりのある人々、こういった人たちが少しずつ大きなチームとなっていって御本人の心からの希望を引き出し、また、御本人の意思決定を支えていくことになります。このようなチームを作る理由は、意思決定の過程においては、周囲がよかれと思って、最善の利益の観点から御本人を説得して自分たちの方に引っ張っていくことがどうしても行われがちですので、御本人の立場にとことん立つSDMチームを作ることで、両

者のバランスを取っていくことが重要であるから、だと理解しています。

詳細は省きますけれども、コアメンバーの一員であるファシリテーターは、トレーナーからの指導を受けながら御本人のチームをコーディネートしていくことになります。自ら希望し、自分のSDMチームをつくってみたいと希望された御本人が、意思決定者です。

御本人が選んだ、無償で御本人に寄り添うサポーターについては、御本人がどんな人に自分のサポーターとして協力してもらいたいかということを基点に選んでいくことになります。もちろん御本人、サポーターともに、合意が必要になります。特に親しい人がいない場合には、ボランティアなどが対応することもあります。

それ以外のメンバーは、このような形になっております。特に地域でつながりのある人々について御覧いただきますと、御本人が生活していく場面で、このようにいろいろな人に会う可能性があります。御本人の心からの希望を起点として、メンバーが個別にファシリテーター等から声をかけられ、可能な方にはチームミーティングに出席いただくことになります。御本人の行動範囲が広がっていけばいくほど、チームメンバーは増加していきますが、毎回全員が集うわけではなく、本人の心からの希望に基づく意思決定、希望に即した形で、メンバーをその都度編成していくという形になります。

ここでは、マイケルさんのSDMジャーニーと題して、お一人のケースを御紹介させていただきます。こちらはチーム・マイケルということで、マイケルさんが意思決定者、つまり障害のある御本人です。下の写真を見ていただきますと、いろいろな方がメンバーとして集まっています。

まず、マイケルさん御本人については、脳性まひがあって車椅子を利用しており、知的障害もある方です。とても明るい男性ですが、以前は怒りっぽい性格とも言われておりました。このマイケルさん、私もじかにお会いしてお話しをさせていただくわけですが、言葉としては非常に聞き取りづらいことはあるけれども、表情で豊かに語る方かなという印象がございました。御本人がSDMを経験して、「行き詰まっていた6か月前までの状況を変えることができた。」ということをお話しされておられます。

サポーターは、リチャードさん。マイケルさんのお父さんでございます。本人がお父さんを選んだということになります。これまではマイケルのお母さんが彼のお金を管理し、彼の生活や意思決定に非常に大きな影響を与えていたわけですね。お母さんは、このSDMへの参加については、危ないからやめておきなさいということで大反対されたようです。

しかしながら、リチャードさん、お父さんは、新しい試みだからやってみようということで、このプログラムに参加いたしました。「私は、いつも息子にとって一番よいと思われることを考え、行動してきたけれども、このSDMを経験して、私の期待ではなく、彼がやりたいことをやらせてみようというふうに考え方が変わってきた。今やビジネスパートナーだ。」とおっしゃっています。

ファシリテーターはデビーさんで、40年以上、障害者福祉に携われた方です。このプログラムに興味を持って参加されて、トレーニングを受けてファシリテーターになられた方でございます。SDMモデルへの評価としては、「意思決定者本人を解放する力を持っている。」とのことでした。

マイケルさんのSDMジャーニーの内容について少し御紹介しましょう。ここでは、何かサービスありきで物事が決まるということではなく、御本人が一体何を望んでいるのか、どんな夢があり、どんな暮らしをしていきたいのかということを、時間をかけて聞き取っていきます。その中で、彼はこのような希望を話されていました。①インターネットを使ってキャンドルを売るビジネスを始めたい。②障害のない人とももっと交流したい。③休日の旅行を楽しみたい。などの希望が出されたわけです。このような希望がファシリテーター、意思決定者、サポーター、サポーター間の合意文書にまとめられて、その後、チームをさらに大きくしていくことになります。

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参考

SDMジャーニーについて

https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000790686.pdf

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チームメンバーとしては、これまでの彼のミーティングに関わった人を挙げれば、例えば「ビッグイシュー」という雑誌を売っていた障害のある若者が、そのビジネスの資金を確保したいという彼の希望について、例えば雑誌を販売するという方法があるよと自己の経験を語る。あるいは、インディペンダント・ホリデーの経験のある障害のある当事者の女性は、自分がどんなふうに余暇を計画し、楽しんだのかについての自己の経験を語る。

このような様々な情報がミーティングにおいて提供され、御本人がさらに関心を持てば、次のステップに進んでいきます。

このような形で、ミーティングは一、二週間に1回ほど定期的に開催されるのですが、写真にもあるように、和気あいあいな雰囲気で進んでいくという印象がございました。

その後、どのようにマイケルさんの生活が変わってきたかということですが、マイケルさんはもともとビジネスを始めたいと言っていた。このSDMジャーニーが始まる前は、彼の希望は一笑に付されていたといいますか、こんなことできるわけないと周りの人が言っていたわけですね。しかしながら、彼自身にはビジネスの才能があったのか、「ビッグイシュー」の販売を始めた折には、週に1000ドルを売り上げるトップセラーとなりまして、今は車も持たれているということです。

それから、キャンドルビジネスについても具体的な準備に入りまして、様々な仕組みの確保、自宅の改装や銀行口座の管理、名刺の作成といったことを一つ一つ、メンバーの皆さんの支援を受けながら、進めていったということになります。

さらに、パブに行ったり、フットボールクラブのサポーターになったりすることで、障害のない人との付き合いも増えました。いずれもSDMジャーニー以前には経験したことがなかった活動を、彼は行うことができたわけです。

さて、マイケルさんのSDMジャーニーを紹介させていただきましたが、全て順調だったわけではございません。大変だったこともあります。ただ、大変だったからこそこともあるということは、逆に言えば、チームメンバーの人たちに適切に意思決定支援、SDMの重要性等を学んでもらうことで、そのSDMのプログラムの後も関与したい、手伝いたいというメンバーが出てきたという意味では、よかったのかもしれません。

もちろん、うまくいかなかったこともあります。私たちも彼と同じように希望を全て実現できるということは通常はないと思います。しかしながら、それでもなお重要なことは、SDMチームは、障害のあるご本人が、自らの希望の実現に向けてチャレンジするための機会を提供していたということです。

このようなSDMの強みを生かし、最後のまとめの段階でもお話ししたいと思いますけれども、日本でも少しずつSDMの実践が始まっています。

それでは、次に、第2章英国の意思決定能力法についてのお話しをいたします。法律はこうですと申し上げるよりも、少しストーリーをお話ししたほうがよいかと思いまして、認知症80代後半の女性のケースからお話をさせていただきます。なお、このケース、一見すると日本のケースかなとも思われますが、これは英国のケースを取り上げております。

もっとも、日本でもよくありそうなケースでしたので、日本でもしこのMさんの支援を検討するとすれば、実際にはどうなるのだろうかということを知り合いのケースワーカーさん、ソーシャルワーカーさんと一緒に考えてみたことがありました。おそらく、こんな感じになるのではないでしょうか、ということです。

認知症で80代、家はごみ屋敷ということだと、家にいることは賢明な判断ではない。なので、空いている施設を探しましょう。判断能力もないということであれば、成年後見の申立をしましょう。お医者さんの診断書を取ればできますよ。分かりました。近所の人も本人が出すごみがすごく迷惑だったようなのです。では類型をどうしましょうか。後見人が動きやすいように「後見」類型で進められないでしょうか。ということで、最終的に入所契約を成年後見人が取り交わし、本人は施設に行った。これで穏やかに過ごせる・・・

例えば、このような流れになるのではないか、ということを話していました。

では、英国の場合ではどのようになるのだろうかということについて、お伝えしたいと思います。英国では、MCA2005(メンタルキャパシティアクト2005、意思決定能力法)という法律があります。なお、日本の各種意思決定支援ガイドラインは、基本的な考え方としてMCA2005を参考に作られているともいわれています。

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MCA2005

https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2005/9/contents

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この法律は、2005年4月に成立し、イングランド、ウェールズ地方に住む16歳以上の全ての人に適用されています。人口規模からすると、英国は日本の約半分くらいのイメージを持っていただければと思います。この法律の特色としては、いわゆる本人の意思決定を支えるという意思決定支援の部分と、第三者が本人に代わって意思決定を行うという代行決定についての枠組みが両方含まれた形になっている点です。

さて、このMCA2005に基づく意思決定の枠組みということで、5大原則というものがございます。ここでは、本人自身が意思決定を行うに際しての支援者としての基本的な考え方、すなわち、どんな人でも意思決定能力があることが推定されるという第一原則から始まります。そして、本人による意思決定のために実行可能なあらゆる支援を尽くすという第二原則。そして、賢明でない判断であっても、それだけで意思決定能力に欠けているということは必ずしもいえないといった第三原則がございます。

意思決定支援における基本視点は、パーソンセンタード、本人中心主義ということで、支援者、被支援者というような何かの上下関係があるような関係性ではなく、対等なパートナーだということ。そして、意思決定の中心には、常に本人がいるということ。そして、支援者としては、本人が自分で意思を決定するための最適な環境を、下にあるような様々なことを考慮して提供していくことが求められていくということが、重要であると共有されています。

さて、次に進めていきましょう。御本人による意思決定だけで全て完結することができればよいのですが、どうしても決めなければならないときにおいても御本人の意思決定が困難な局面というものは存在します。そのような局面では、支援者により意思決定能力アセスメント及び代行決定への移行が検討されることになります。

ここでケースに戻ってみましょう。先ほどお伝えしたように、Mさんの意思決定がなかなか難しいのではないかという局面においては、意思決定能力アセスメントがなされます。

そして本人の意思決定がどうしても難しいということになれば、最終手段として最善の利益に基づく代行決定を行うために、最善の利益会議が開かれることがあります。このような会議の場面では、次のように、本人の意向を調査し、必要に応じて本人の意思を代弁する活動をおこなう法律上のアドボケイトであるIMCA(イムカ)が、MCA2005の原則に従って、関係者に次のような問いかけや注意喚起を行うような仕組みもあります。

ちょっと待ってください。今回の転居についてのMさんの意思決定能力が本当に欠けているのか、きちんとアセスメントしたのでしょうか。もし、明確な根拠をもってその意思決定能力を否定することができないのであれば、周りから見て賢明でない判断であったとしても、Mさん自身の意思決定が優先されるべきではないでしょうか。

ちなみに、アセスメントというと、従来は医師の診断書でその能力が判定されることが多かったかもしれません。いわゆる診断的アプローチと呼ばれています。しかし、英国の意思決定能力アセスメントは機能面、すなわち、本人が意思決定を行うための関連情報の理解、記憶、比較検討、表現といった要素(機能面)についてもアセスメントを行います。

さらには、Mさん自身が機能面の要素を満たすことができるように、様々な支援者ができる限りの支援を提供できたのかどうか、そのようなエビデンスも求められることになります。

英国ではこのような診断的アプローチ、機能的アプローチに基づく二重の意思決定能力アセスメントが行われ、御本人が決めなければならない時点において、特定の意思決定についての意思決定能力があると言えるかどうかが吟味されます。そして、意思決定能力が欠けると判断せざるを得ない場合には、最終手段として、このMCA2005では、本人にとっての最善の利益に基づく代行決定へのステージへと移行することになるわけです。

代行決定の場面では、本人にとっての最善の利益に基づく代行決定について定める第4原則、より制限的でない方法での実施を求める第5原則が存在します。

ここでIMCAに再登場してもらいましょう。仮にMさんがこの時点で当該意思決定能力が欠けていたとしても、Mさんの希望や価値観が最大限考慮された代行決定でなければならないのではないでしょうか。過去の看護・ケア記録や本人面談の結果、その他の証拠からは、Mさんは亡き夫と暮らしていた自宅を死んでも離れたくないとの確固たる意思をお持ちであるという事実が導かれます。このMさんの気持ちは、どこまで代行決定者が行う代行決定の内容に反映されていますか、といったことを指摘しています。

加えて、今回の代行決定が許容されるのは、あくまでもMさんの希望・価値観等を最も重要な要素として位置づけた上での、Mさんにとっての最善の利益にかなうときのみです。

第三者の意向に専ら影響されての施設移行は、MCAでは許容されません、ということも注意喚起しています。

この「最善の利益」に基づく代行決定については、2005MCAではあえて定義づけられていません。最善の利益の内容は、たとえ同じシチュエーションであっても、人ごとに変わるからです。したがって、「本人にとって」の最善の利益を追求していくことが必要です。

最後にIMCAは次のように指摘します。より制限的でない選択肢として、他の権利擁護支援を活用できる可能性も十分あるのではないでしょうか。さらに、Mさんの望む自宅での生活というものを試しに行う可能性はないでしょうか。保護裁判所の審判例を見ても、このような状況であれば、実際は自宅生活のトライアルを許容すべきであるという判断もあります、ということで、自宅生活を試してみることの提案をしているわけです。

最善の利益会議で検討した結果、英国では、日本での検討とは異なり、Mさんには自宅生活のトライアルが行われることになりました。ある日、支援者がMさんを訪問しますと「自宅で過ごせて満足している。死ぬまで自宅を離れたくない。」ということをおっしゃっていたとのことです。しかしながら、5か月後には本人が重度の貧血になって倒れてしまい、再度病院に搬送されてしまいました。最初から施設に行っておいた方がよかったのではないかと思われるかもしれませんが、私は、それでもなお、Mさんが自宅で過ごした5か月間は、Mさんにとって大きな意味があったのではないかと考えています。

さて、IMCAについて少し説明をします。IMCA(インディペンデント・メンタル・キャパシティ・アドボケイト、第三者意向代弁人)というのは、いわゆる法律上のアドボカシー、アドボケイトと言われており、一定の重大な意思決定について意思決定能力を欠くと判断された本人に適切な相談者がいない場合に、無償で本人の希望や価値観を代弁するための独立アドボケイトです。いわゆる有資格者で、City&Guilds(シティ・アンド・ギルズ)という民間資格付与団体が取りまとめた一定のカリキュラムを修了された方が、IMCAになれるということでございます。

このIMCAの特徴としては、あくまでもアドボケイトという立ち位置ですから、本人に代わって何かを決定するという権限はございません。あくまでも本人の声を届けるということを仕事としています。しかしながら、そのために必要とされる本人と1対1で会う権利や様々な情報へのアクセス権、あるいは、IMCAが提出した報告書の内容が最終決定において必ず考慮される権利、あるいは、MCAの趣旨に反する内容の決定がなされた場合の異議申立てとか、このようなことが法律上の権利としてMCA2005には明記されています。

加えて、2015年には、ケア法におけるアドボケイトの仕組みが新設され、その独立アドボカシーの範囲はますます拡大しているという状況でございます。

独立アドボカシーの立ち位置については、英国においては、こちらのメガホンのような役割をする人という位置づけになっています。すなわち、本人が自分で声が出せたとしても相手に届かない、あるいは取り上げてもらえないといった場面において、きちんとそれが取り上げてもらえるように働きかける役割。さらに、御本人が自ら声を出すことが難しい状況の場合には、声なき声を本人と一緒に届けていく役割を果たすと言われています。

独立アドボカシーに関しては、独立、本人中心、守秘義務、エンパワーメントといった要素があるとされております。独立アドボケイト、IMCAもそうですし、ケア法のアドボケイトもそうですが、基本的には本人の声を届ける、新たな選択肢がないのかを模索することが重要とされています。なんとなく支援者が誘導し、流れで決められていきそうな場面に待ったをかけて、もう一度適切な手続にのっとっているのかどうか、疑問提起をしていくことが重要となっています。もう一度強調しますが、本人に代わって意思決定を代行するという立場は、独立アドボケイトの役割とは異なるということは確認しておきましょう。

そして、英国の後見制度・監督の仕組みについても触れておきます。MCA2005に基づく仕組みとしては、後見庁がいわゆる後見の監督を行っており、後見人等から提出された報告書の確認をはじめ、心配なケースについては後見人等に連絡を取り、追加の書類等を求めていくことになります。そして、不正等が発覚した場合には、後見庁が保護裁判所に現在の後見人等の解任と新たな後見人等の選任を求めることになります。保護裁判所は、家庭裁判所の附属機関で、いわゆる決定機関となりますので、後見庁からの申立てを受けた上で審理を行い、例えば現在の後見人を解任して新たな後見人等を選任するなどの決定を行っていく。このような形で、いわゆる監督機関と決定機関が分離されているというのが英

国の特徴でございます。

最後のスライドは、私が考える課題と意見ということですので、簡単に御説明して終わりたいと思います。MCA・SDMから見た日本の成年後見制度の課題については、例えばチーム支援やコミュニケーションツールの活用、あるいは本人の意思・選好が最大限反映されるような仕組みができているのかどうか。さらには、支援者の免責規定が重要です。支援者が萎縮せずに、真摯に意思決定支援あるいは代行決定のプロセスを踏まえられるような環境が整備されているかどうかが意思決定支援の普及にとってはとても重要です。

代行決定の場面においても同じ話として申し上げられます。MCA2005の場合には、5条免責規定ということで、これは本来、代行決定の規定でもございますが、MCA2005の規定に沿って検討したということであれば、代行決定者はいわゆる決定責任の免責がなされることが明記されています。MCA2005に基づく実践行うことが、自分たちの身を守ることにもつながるため、支援のモチベーションにもなっているのではないかと思われます。

さて、次は日本でのSDMの活用可能性ということでございます。先ほどのSDMジャーニー、では、専門職以外にも様々な人たちがチームに関わっていました。日本でも、市民後見人の方や地域ボランティアの方、その他の方々がしっかりとSDMチームに関与していくことが必要ではないかなと思います。

さらに、IMCAの可能性ということも含めて考えますと、独立した第三者の立場で、必要に応じて、当事者団体や独立の専門職がアドボカシーを提供していくことが考えられます。

また、いわゆる後見庁のような外部機関をきちんと設けていく。このような取組が必要ではないかと思われますし、監督のための新たな権限付与といった法改正の観点も必要ではないかと思います。

長くなりましたが、以上でございます。

○新井主査 水島さん、ありがとうございました。

ただいまの報告に質問がある場合には、zoomの「手を挙げる」機能で挙手をお願いします。質問と回答は、できるだけ簡潔にお願いいたします。いかがでしょうか。

最初に、上山さん、お願いします。

○上山委員 ありがとうございました。

スライドの42、最後の部分の日本版IMCAの構想について、2つほどお伺いしたいと思います。

まず、大前提として、私としてもIMCAが持っている機能を日本に導入することは必須だと考えています。その上で2つお伺いしたいのですけれども、まず1点目として、IMCAの役割上、本人の機微情報、本人が最も知られたくない情報を詳細に取得する必要性があると思われます。この点について、現在の日本の個人情報保護法制の運用のレベルで対応できるか、それとも何らかの一定の法整備が必要なのかどうかという点について御意見を伺いたいと思います。

2点目ですけれども、日本の場合に、監督機関としての家庭裁判所と、後見人の支援機関としての中核機関という2つの公的な組織が既にあって、それに加えてIMCAという独立の機関を設けるというのは、予算面、人的な側面でもなかなか難しいところがあるかなという気もいたします。そうした中で、恐らく水島先生のお考えでは、当事者団体などが直接IMCAの役割を果たすということも想定されていると思うのですが、それと併せて、中核機関にIMCAの役割を担わせるという可能性があるのかということについて教えていただきたいと思います。

よろしくお願いします。

○水島委員 ありがとうございます。

まず、個人情報保護の関係についてのお話としては、個人的な見解ではございますけれども、現行の個人情報保護法制、特に個人情報の第三者への提供についての例外規定は、どうしても緊急的な対応が必要な場面において限定的に許容されていくという観点で構成されているように感じております。

しかしながら、英国では、IMCAには独立の調査権限があると法定されておりますし、かつ、本人の意思あるいは選好、価値観といったものを推定するための情報を提供するためには、より積極的かつ広範囲の情報収集というものを行っていく必要があります。そう考えますと、どうしても現行の個人情報保護法制だけでは限界があるのではないか。適切な調査権限、アドボカシー活動にとって必要不可欠な情報へのアクセス権を付与するための法整備が必要ではないかと考えております。

2番目の点に関して申し上げますと、後見人の活動をモニタリングするような独立の機関を新たに設置するというのは、予算の面からも非常に困難が予想されます。しかしながら、今回、成年後見制度のみならず、権利擁護支援全般を促進していく観点で捉えるならば、IMCAに限らず、ケア法におけるアドボケイトのような独立アドボカシーについて、高齢、障害、子ども、生活困窮者、様々な分野において活用できる体制を整えておくことが国民一人一人にとって必要ではないかと考えます。

なお、参考までに、英国においては、2015年の調査で、IMCAの予算はおよそ700万ポンド。

1ポンド155円であれば約11億円との説明を受けました。また、ケア法におけるアドボケイトの予算は1450万ポンド、すなわち約22.5億円の予算を計上しており、独立アドボカシーの充実が図られています。英国の人口が日本の人口の約半分ということを加味すると、英国では独立アドボカシーに対する国民的な理解を背景に、多くの予算が投入されていることがうかがわれます。

さらに、中核機関が一定程度、アドボカシーを担うという観点もあり得るのではないかと思われます。ただ、全ての中核機関において担えるのかどうかというと、地域の実情によって異なるのではないかと思われます。そのため、中核機関をさらに支援をするための仕組み、例えば都道府県あるいは国においてこのようなアドボカシー提供等について調整をする役割を持つ機関が必要とされるのではないかと思います。

以上です。

○新井主査 ありがとうございました。

西川さん、お願いします。

○西川委員 西川です。よろしくお願いします。

私から3点ほど質問させていただきたいと思います。

最初の1点はIMCAに関してですけれども、IMCAは独立の調査権限を持つという話もお聞きしまして、そうしますと、かなり高度な訓練・トレーニングを受けているというのが英国のIMCAのイメージだと思います。私の調べたところでは、IMCAの関与が必須の場合と任意の場合があるということのようですけれども、日本にIMCAのような存在を導入する場合に、その関与が必須の事項、任意の事項みたいな、制度のデザインあるいは期待する役割の範囲について、水島先生の中ではどんなイメージなのでしょうか。英国では、医療の同意のような場面でよく使われるとも聞いています。それが必須なのか、任意なのか、分か

りませんけれども、本人の活動に全般的に関与するというのはちょっとイメージしにくいので、どんな場面で関与するというイメージなのか、水島先生の考え方をお聞きしたいというのが1点目です。

2点目ですけれども、お聞きしていますと、IMCAは成年後見制度の利用を前提としない仕組みであるかのように思えるのですけれども、実際には、成年後見制度を利用している場合でもIMCAの関与がある場合があるのか、あるとしてどの程度あるのか、その場合、どんな関与の仕方をしているのかという点が2点目です。

3点目は、権限監督が裁判所と後見庁に分かれている点について、それぞれの権限は法律レベルで定められていることなのか、どんな形ですみ分けといいますか、権限が分かれているのかということが分かれば教えてください。

よろしくお願いします。

○水島委員 御質問ありがとうございます。

まず、1点目についてです。IMCAを要請するのが必須である場合と任意の場合がございます。要請が必須の場合というのは、長期の居所移転、例えば、施設等への移転の場面です。また、重大な医療に関する意思決定の場面でも必須とされております。他方で、必要に応じて要請できるという任意的な場面としては、ケアプランの変更や虐待が絡むケースにおいて、地方自治体等が必要と判断した場合とされています。

IMCAをどのように導入していくかという点については、なかなか悩ましいところです。

予算と人員の関係等もあるかと思いますので、なかなか悩ましいところです。しかしながら、IMCA制度にしろ、ケア法のアドボケイトの制度にしろ、独立アドボカシーを拡大している英国の手法に倣うならば、特に重要な意思決定の場面、いったん決まってしまうと取り返しがつきにくい意思決定の場面、すなわち不可逆的な意思決定の場面や、当該意思決定が本人にとって非常に大きな影響を与えるような場面においては、法律上の独立アドボカシーの提供ができる体制を構築していく必要があるのではないかと感じます。

それから、2点目成年後見制度等の利用がある場合にIMCAの関与があり得るのかということでございます。こちらに関しては、英国ではdeputyとかLPAと言われますが、そういった人が関与している場合には、IMCAは原則としては関与しないとされています。なぜならば、適切に相談できる人がいるということに通常なるからですね。

しかしながら、2015年、英国で成立したいわゆるケア法においては、このような場合であっても、その者が本人に対してアドボカシーを提供する意思や能力が十分とはいえない場合には、ケア法におけるアドボケイトを、別途要請する義務があると規定されています。

例えば、本人に家族等がいる場合には、通常は相談できる者がいることになりますが、遠方にいて具体的な支援ができないとか、十分な意思決定支援を行うことが期待できないとか、利益相反性が強いような場面では、たとえ家族等がいたとしてもケア法におけるアドボケイトが要請されることもあります。任意後見人あるいは法定後見人がいる場合にどの程度、独立アドボケイトが要請されているかについての情報は持ち合わせておりませんが、アドボケイトの関与の余地はあり得るのではないかと思います。

最後に、監督機関である後見庁や決定機関である保護裁判所については、具体的にはMCA2005の45条以下に規定されております。また、先ほど申し上げたIMCAについてはMCA2005の35条から41条に規定されています。

後見庁の具体的な役割に関しては、一例としてモニタリングがございます。後見人等が報告書を遅延したり、内容に気になる点があったり、本人や家族からの苦情があるような場合には、後見人等に電話して詳細を聞き取る。あるいは保護裁判所の調査官に協力してもらい、直接面談してもらう。また、後見人支援として報告書の書き方をはじめとしたさまざまな問い合わせに応じていると聞いております。

以上でございます。

○新井主査 ありがとうございました。

それでは、質問に関して、手が挙がっている方がいらっしゃいませんので、議題2「意見交換」に移りたいと思います。本日は、意思決定支援ガイドラインに関する有識者からの報告や質疑応答の全体を通じて、委員の皆様全員から発言をいただきたいと思います。

時間の都合がありますので、お一人3分以内でお願いいたします。画面に残りの持ち時間が分かるタイマーをセットしています。これを確認いただきながら発言をお願いいたします。いかがでしょうか。全員にお願いしていますので、順番はあるかもしれませんけれど

も、どなたからでもよろしくお願いいたします。座長としては、指名ではなくて、手を挙げていただくのが大変うれしいのですが、いかがでしょうか。

上山さん、お願いします。

○上山委員 場つなぎに簡単なコメントをさせていただきたいと思います。

私からは、各種ガイドラインの整合性の担保について、お願いしたいと思います。意思決定支援については、関連する複数のガイドラインが並立するという現状があり、このことが現場に混乱を招いていることは、本日の御報告にもあったとおりです。既にこの対応として、厚生労働省から「意思決定支援等に係る各種ガイドラインの比較について」という文書が出されており、一定の改善は見られるわけですけれども、私としては、混乱を避けるために、もう一歩踏み込んだ対応を御検討願いたいと思います。具体的には、少なくとも全てのガイドラインの定義について、意思決定支援と代行決定による支援の区別を明確にすべきではないかと考えます。

各種ガイドラインは、支援の当事者や場面が異なりますので、完全に統一化することは難しいと思いますが、障害者権利条約の要請などを踏まえれば、意思決定支援と代行決定は峻別すべきですので、少なくともこの区別についてはそれぞれのガイドラインの定義の中で明らかに示すべきだと思います。必要に応じてガイドラインの改定を行ったり、あるいは少なくとも2つの概念の峻別について、付記・追記等を行うなど、何らかのご対応について御検討をいただければありがたく存じます。

私からは以上です。

○新井主査 貴重な御意見ありがとうございました。

続きまして、中村さん、お願いします。

○中村委員 今日は、3人の先生方、大変ありがとうございました。意思決定支援は、現場においても大変重要で、その前提・現状等々についても理解ができて、大変感謝したいと思います。現場としては、今回の意思決定支援に関わる現状と、それについてのお願い等を含めて発言させていただきたいと思います。

各市町村において、中核機関の設置や権利擁護体制の構築においては、担い手である専門職との連携というのは言うまでもないのですが、身上保護の重視を考えると、被後見人等への寄り添い支援や身近な住民相互の助け合いというのが、今後またポイントとなってくると思います。これはこの前までの地域連携ネットワークの中でもお話がありましたが、現状としては、法人後見の受任体制整備の状況とか、市民後見人の養成が十分でないという現状があります。

北海道においても、昨年度の道社協調べで、法人後見受任機関というのが各市町村で4割弱の整備。それと、市民後見人の養成が行われた市町村も3割弱という現状で、整備がまだまだという状況になっています。その中で、道社協としても、担い手の整備については道庁や家裁等と協力しなから取り組んできていますが、市民後見人の養成や法人後見受任体制整備については、手引きや研修会程度の実施です。

そして、市民後見人の養成研修については、道社協としては、国で示されている養成カリキュラムを参考に作成・実施していますが、今年度からは、意思決定支援についても科目として取り入れて実施しようということで今、進めていますが、意思決定支援については、重要なテーマとなりますので、養成研修以外にも別に研修会等を実施したいと検討しています。

もう一つですが、各市町村における法人後見受任体制については、国として法人後見実施機関のための養成カリキュラムが示されていないと思っていますので、道社協としても、先行事例や手引き等の提供程度となっていますので、都道府県において法人後見を進める上でも、国としての養成カリキュラム等をぜひ示していただいて、その中に意思決定支援というのも明確に入れ込んでいただきたいなと思います。

最後になりますが、北海道においても法人後見実施機関が整備されている市町村は4割弱という現状ですので、国において法人後見の実施状況について把握を進めていただいて、情報提供いただければ大変ありがたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

○新井主査 ありがとうございました。

次の御意見はいかがですか。

それでは、星野さん、住田さん、久保さんの順番でお願いします。星野さん。

○星野委員 今日は、ありがとうございました。

2点ほど、意見として申し上げたいと思います。

まず、1点目です。今日、豊田市のほうからの報告でありましたように、地域の方に意思決定支援ということについて啓発していくということは、非常に重要だと改めて思いました。市民後見人のなり手だけではなく、市民の方に意思決定支援を分かっていただくということにおいては、取りかかりとしては、市民後見人育成研修などが有効だと思います。

そういったところでは、先進的な取組をしている自治体も多いと思います。

東京都なども早い段階からやっておりますが、今、重要だと言われている身上保護とか意思決定支援についての内容が十分にプログラムに入っているのかというところに疑問があります。そういったところでは、カリキュラムの平準化というのが必要になるかなと思いますし、ブラッシュアップしていくために基準を示していくことが必要ではないかなと思います。

さらに、市民後見人の選任状況というのは、各家庭裁判所の運用に大分差があるように思います。そういったところでは、実態調査というか、市民後見人がどのように選任されているのか。それは、例えば単独なのか、専門職との複数なのか、監督人が選任されているのかなど、そういったところの実態を知ることで、どのような内容で研修していくことが必要なのかというところにもつながるのかなと思います。

それから、もう一点です。みずほの高橋さんの御報告がありましたけれども、国の研修は確かに関心のある人しか受講されていなかったのではないかと思うところが多々あります。特に社会福祉士は多く参加されたと報告を聞いたのですが、本当は聞いてほしいという方がなかなか受講できていない実態があり、そこを専門職団体として、これからどのように研修を組み立てていくかということが課題としてあると思っています。国研修の資料等は、公表されましたので、それを活用させていただいて、東京においては5月に国研修未受講の方を対象に約130名の方が申込みをされて、意思決定支援の研修を行うことができました。そういったところでは、今後さらに取組を進めていきたいなと改めて思った次第です。

以上です。今日は、ありがとうございました。

○新井主査 ありがとうございました。

続いて、住田さん、お願いします。

○住田委員 ありがとうございます。

意思決定支援に関連する、先ほどの第三者機関という点での意見を述べさせていただきます。中核機関として、候補者の調整では、意思決定支援の入り口として、本人と候補者との事前面談という形で行っています。制度利用のスタート時における、この取組は、本人や候補者の双方の安心感につながるという意見をいただいています。

しかしながら、後見活動の経過の中では、後見人に対する苦情が発生し、その後の対応が必要になっています。令和2年度は、専門職後見人に対する苦情は延べ166件、実人数としては7名でした。内容として、後見等による金銭管理や日常の後見業務の中で、本人とコミュニケーションがうまくいかずに、信頼関係が崩れて修復が難しいというケースや、後見人等がサービス事業所を独断で変更してしまうということがありました。これらの苦情に対して、中核機関としては、本人や関係機関、後見人からも聴き取りを行って、コミ

ュニケーション不足から生じていた誤解やそごの解消によるものは、役割分担などにより解決できる場合もあります。

しかし、居所の選択など重大な意思決定の場合には、ガイドラインに基づいて意思決定支援ミーティングを開催して対応する場合もありました。また、本人との関係においてどうしても修復不可能な場合には、後見人の交代の支援を行うこともあり、これらの課題への対応力や調整力が求められます。このような対応は、中核機関としても非常に困難であり、ヒアリングの訪問や会議の調整・開催などに時間もかかります。専門職の場合は、帰属団体に相談してバックアップしていただくこともありますし、家裁への報告や相談も行っています。しかし、今後、法人後見実施団体への苦情については、帰属する団体がなく、協力が得られないので、中核機関が調整を図るのはさらに難しいと考えられます。

また、苦情を調整する際に専門職後見人に聞き取りをすると、介入することに苦情を言われる場合もあり、その説明ややり取りでこちらがダメージを受けることもあります。最終的には裁判所の判断によりますけれども、介護保険制度のように苦情対応などを行う第三者による機関が設置されると、中核機関による負担が軽減されると思われます。その際、苦情の内容の根底には意思決定支援の課題があるため、第三者機関においても意思決定支援を踏まえた対応の考慮も必要と思っています。以上です。

○新井主査 ありがとうございました。

次は、久保さんにお願いいたします。

○久保委員 ありがとうございます。

3人の方の御説明どうもありがとうございました。

私のほうからは、ちょっと感想のようなことになってしまいますけれども、豊田市の方の御説明は、家族としてはとてもよく理解できる、分かりやすいという感覚を持っておりましたけれども、意思決定支援ガイドラインというのがいろいろなところから出ているというのは、実際そうでして、家族としても、どれがどうなのというのがいろいろなところから聞こえてくる意見でございますので、少し整理していただく必要があるかなと思っています。

それと、意思決定支援の研修を繰り返しやることは大事だということもおっしゃいました。それはそうだろうなと思います。そして、意思決定支援の研修を受けても、実際に関与するときに、ちゃんと研修を生かしているかどうかということも重要になってくるので、こが分かるような方法というのはないのかなと。私たち家族としては、虐待防止の研修もたくさん受けていただくのですけれども、実際に虐待はたくさん起こっていて、どなたがというと、研修も受けている人がしているということが結果的にあることもあります。

そういう意味では、研修をどんどんやっていって、繰り返し受けていただくことは必要ですけれども、それを実際に活用していただくことをどうしていったらいいのかなということも、今、私自身が疑問に思っているところです。

それと、本人の意思を記録するツールというのは大切だと思っています。私ども育成会のほうでは、母子手帳の続きをずっと書いていくという手帳を、各育成会、それぞれで作っているというのがあるのですけれども、そこに本人の意思も書き加えていけるようなものをつけ加えて、1つのものにしていくのも必要かなと思っていますし、親が関与できなくなった後の成年後見を意識したツールみたいなものも必要かなと思っております。

それから、みずほさんのいろいろな試みをしていただいて、動画も作っていただいて、ありがとうございました。ただ、動画は知的障害の御本人にはまだまだ難しい。ですから、もう少し知的障害の方にも分かるような動画を、さらにもう一歩進めていただけたらありがたいなと思っています。親も後見人になっていくわけですので、私たちも研修を積み重ねていきたいと感じました。

ありがとうございました。

○新井主査 ありがとうございました。

続きまして、花俣さん、お願いします。

○花俣委員 ありがとうございます。

私も3つの報告を受けての感想ということになってしまいますけれども、今日の3つのお話を伺いまして、本人の意思決定支援というテーマというよりも、成年後見制度利用促進のためというところにとどまらない、人が人として生きる上で、意思の表出が難しい方を社会がどう支えるのかという大きな視点を、今日持つことができたかなと感じています。

個別に申し上げますと、豊田市さんの発表に関しましては、大変きめ細やかな当事者目線というのが随所に配慮されていて、たくさん同感できるところがありました。まさに、これが認知症になっても安心して暮らせる社会の実現につながる一助かなと感じました。

それから、みずほの高橋様のほうは、意思決定支援に関して、より理解しやすい様々な研修教材をお作りいただきまして、コロナ禍にもかかわらず研修を実施されたというのは大変ありがたいなと思っています。

水島先生のお話は、本当に初めて聞くような専門性の高いお話でした。SDMとかMCA、IMCAの取組、意思決定支援のための支援というよりも、意思決定と、そしてその意思実現の支援ということ、よく学ばせていただきました。

今日は、本当にありがとうございました。以上になります。

○新井主査 続きまして、新保さん、お願いします。

○新保委員 今日は、皆さん、どうもありがとうございました。とても貴重な意見で、参考になりました。私のほうも感想みたいになると思いますので、よろしくお願いします。

意思決定支援は、特に私たち、発達障害の子どもを持っていますと、とても悩ましくて、本人が「はい」と言うのは単なる「はい」であって、意思決定ではないし、意味を理解しながら次のステップへ行くということ。あと、それぞれの能力の幅が物すごく激し過ぎまして、そこをどうしようか。1つ気になったのは、IMCAの御説明がとても印象に残っていて、日本の場合、すぐ後見庁ができることはないと思うのですけれども、当事者団体がこの辺を少し担ってもいいのではないかなと思いました。

なので、コロナ禍で当事者団体がどういうふうに専門職の皆さんと参加できるかというのを考えていく必要を痛感したし、また、そういう部隊を我々の会の中でもつくって、いつでも参加できるようにしなければいけないかな、準備しようかなという心構えになったと思いますので、その辺、具体的にどう落とし込めるかというのをこれから考えていけたらいいかなと思っています。

あと、全てのことに言えると思うのですけれども、1回つくってからアップデートが必要なはずなので、そこを検証できるシステムを残していければ。今はここまでが精いっぱいということはあるのでしょうけれども、そこで決して終わることなく、ぜひアップデートすることをぜひ心がけて、これからこの会をやっていただければいいかなと思っていますので、感想みたいになりましたけれども、私のほうからはそんなことでお願いいたします。

今日は、お三方の先生、どうもありがとうございました。

○新井主査 大変ありがとうございました。

続きまして、櫻田さん、お願いします。

○櫻田委員 櫻田です。

私のほうも本当に感想のようなものになってしまうのですが、ちょっと意見を述べさせていただけたらと思います。

意思決定支援についてですけれども、皆さんおっしゃっていただいているとおり、御本人の意思をどこで、どのような形で示すかというのがすごく大事かなと思っておりまして、今回御報告にありました豊田市さんの「わたしのノート」の形は、すごくいいなと思いました。精神障害をお持ちの方とかは、言葉で自分の意思を話すことがちょっと苦手な方とかもいるので、こういうツールがあると、支援者の方と一緒に作成もできますし、御自分で書ける方とかも自分の意思を表明できる、しかも振り返ることができるツールとしては、すごくいいのかなと思いました。

今回、豊田市さんの例を御報告いただきましたけれども、形はどのような形でもいいのですが、御本人の意思が何か目に見える形で残せるようなツールが全国的に広がっていくといいのかなと、今回の御報告を聞いてすごく感じたところでありますので、ぜひこのような事例、全国的にいいなと思う事例をたくさんこれからもいろいろ教えていただけたらと思ったりしています。

研修に関しましても、続けていくことが大事ということをおっしゃっている委員の方もいらっしゃいましたけれども、それはすごく私も同意見でして、続けていくことによって研修を受ける人も増えていきますし、その同じ研修を受けた方たちが、逆に後見人になられた方が実際関わられたときに、困ったこととかを共有できるような何かがあるといいのかなと思っていました。事例という形になると思うのですけれども、こういうふうに自分が困っていて、何かいい方法はありませんかというつながりができるようなツールがある

と、より研修の内容とかも生きてくると思いますし、そういうものができてくると、支援者同士のつながりというところでも、よりいいのではないかと思いました。

すみません、以上になります。

○新井主査 ありがとうございました。

続きまして、青木さん、お願いいたします。

○青木委員 今日は、ありがとうございました。

全体的な感想というか、意思決定支援を今後、権利擁護のネットワークの中でどうしていくかという観点でお話ししたいと思いますけれども、権利擁護の中核になるのは、本人中心や意思決定支援だと思いますので、地域の連携ネットワークの中でも、全ての担い手が意思決定支援ということをしっかり意識しながら展開できる地域づくり、都市づくりということになるのではないかなと思っています。そういった意味で、1つは、今日の豊田市さんのような報告というのは、大変参考になるなと感想を持ちましたし、こういったことが全国的にも様々な形で展開できるような仕掛けづくりとかがどうしても必要になってくるのではないかと思っています。

また、その中でも非常に中心になる障害や医療、高齢の支援者の皆さんへの浸透というのが大きな課題だと思いますけれども、今の老健局ないしは障害福祉の関係の予定されているものが十分かという点は、抜本的な対応を研修も含めてお願いしたいなと思っているところです。

また、障害に関しては、障害福祉サービスに関わるガイドラインとなっている点が、果たしてそれでいいのか。障害の方は、高齢の方以上に生活範囲が広いわけですから、障害福祉サービスに限定したようなガイドラインは取りあえずおつくりになったと思いますが、今後はそれをさらに拡大していくという視点も必要でしょうし、上山先生が言ったような調整というのも必要かなと思っているところです。

また、現場の皆さんからすると、時間のかかる取組である中で、現場に対する様々なインセンティブとか人的配慮がない中で、ガイドラインを頑張ってくれと言うだけでは、実際上、難しいのではないかという声も聞きますので、医療・福祉関係の様々なインセンティブの検討というものが必要なのではないかと考えています。

次に、後見に限定して、さらにお話しをしますと、地域福祉と権利擁護という観点で言いますと、市民後見人の実践が意思決定支援においても非常に大きな役割を果たしているというのを、大阪の二百何十人の市民後見人の活動を見ていると非常に痛感します。今までも、職員の皆さんが1年も2年も一言も声を聞いたことがない人に、毎週訪問して関わりを続ける中で、半年後にようやく声が出て、1年後にコーヒーが好きだということが分かって、1年半後に一緒にコーヒーを飲みながら、いろいろな話ができるようになったという実践が少なからず報告されていますが、それは専門職後見人にできる話ではとてもなくて、まさに市民後見人が後見人という立場を超えてでも御本人の意思を引き出すという

実践を、本当に市民感覚でしていく。

それは、専門職の皆さんにもできない視点での関わりということで、これを見ている市民・地域の皆さんは、これから意思決定支援のときに学んで、それが地域福祉の中にさらに展開される大きなきっかけになると考えています。そういう意味で言いますと、市民後見人が老人福祉法にも規定されたのは平成24年でありますが、なお4分の1の自治体しか養成できていないという現状は、いろいろな方が申し上げていますが、非常に大きな課題だと思いまして、この点を抜本的に進めるというのを、老健局の皆さんには24年にもう一度立ち返っていただきたいなと思いますし、障害福祉のほうも、法人後見の中で市民後見人を活用していくということもうたわれています。

また、障害の方々は非常に息が長い支援ですから、法人後見を担う皆さんに意思決定支援を中心に活動するということも期待されていますので、こちらの法人後見の支援のほうも、先ほども御指摘があったように、抜本的な強化というのが望まれるのではないかと思っています。もちろん、専門職団体もこれから強化していきますが、さらにIMCA的な役割かどうかはともかく、様々な苦情の中で意思決定支援が中核になるときに、裁判所がそれについてしっかり関わって、裁判所が一定の方向性を出すということも、運用改善という意味では非常に大事だと思っていますので、裁判所の意思決定支援に関する機能強化もぜひ今後検討していきたいと思っています。

長くなりましたが、以上でございます。

○新井主査 ありがとうございました。

引き続きまして、西川さん、お願いします。

○西川委員 今日のお話は、意思決定支援という非常に重要なテーマについて、地域で、あるいは中核機関でどう取り入れていくのか、意識を共有していくのかということに関して、非常に重要な示唆をいただいたと思っております。

ちょっと感想めいたことをお話しさせていただければ、IMCAのお話をお聞きしたときに、市民後見人というより、むしろ日常生活自立支援事業の生活支援員が、かなり高度な訓練を受けて活動しているというイメージを受けました。そういったことを考えたときに、市民後見人の選任権限は裁判所にあるという前提で、現状ではどういった市民後見人像が求められているかということがはっきりしない状態のまま、市民後見人育成事業が各地で進んで、せっかく時間とお金をかけて候補者の育成をしても、十分に活動の場が与えられていないという状況になっているわけです。ですから、IMCAに相当するようなものを導入す

るとしても、もう少しその位置付けなり期待する役割なりについて焦点を絞るようにしないと、各地でいろいろな取組をしているけれども、なかなか実績が出ないことになってしまわないのかなという危惧も抱いたという次第です。

それから、IMCAの活動は、必ずしも後見制度を前提としないとのことでした。また、豊田市さんの御報告でも、後見制度を前提とせずに、意思決定支援について地域で意識を共有していくというお話でした。そうしますと、我々司法書士は、どうしても後見人としての本人の意思決定支援ということからまず入っていったわけですけれども、そうではない場面で、でも、多分我々専門職にもできることは何かあるだろうと思います。中核機関あるいは地域で後見制度を前提としない意思決定支援の実践が課題になってきたときに、専門職として、司法書士としてどんな活動ができるだろうか。まだ漠然としたものしか分からないのですけれども、何かあるはずなのではないかと感じました。

最後に、意思決定支援のガイドラインについて、いろいろなガイドラインを統一していくという方向は必要なのだろうなと、話を聞いていて思いました。ただ、逆に、先ほどの話とも関連するのですけれども、一後見人として後見事務と被後見人の意思決定支援に関わっている立場からすると、後見事務のガイドラインから入るから、まだ理解がしやすいのですけれども、これが後見事務に限らない一般的な本人の意思決定支援をテーマとして突きつけられると、ピンと来ない、よく分からないなということになってしまったかもしれない。という意味では、自身にとって身近な課題から入っていくということも必要なのだろうと思います。それが浸透したときに意思決定支援の統一的な概念がおのずとできていくという部分はあるのだろうなと、これは感想めいたものですけれども、思いました。

以上です。

○新井主査 ありがとうございました。

続きまして、手嶋さん、お願いいたします。

○手嶋委員 最高裁家庭局の手嶋でございます。

今日は、3人の方のいずれも大変示唆に富む有益な御報告をどうもありがとうございました。

今、西川委員のお話にもありましたけれども、裁判所としてまず考えるのは、どうしても成年後見関係の意思決定支援ですが、花俣委員も御指摘されていたとおり、成年後見制度を超えて広がりのあるものなのだなと、そういった関連する取組の共通基盤になるようなものなのだなということを非常に強く感じながら、御報告を伺っておりました。また同時に、今、西川委員から御指摘がありましたけれども、視点の往復と申しましょうか、まずは身近なところからというのも大事かとも思いながら伺っていたところです。

まず、その身近なところ、裁判所として運用に関わります成年後見に関して申し上げたいと思っております。

まず、監督の関係でございます。裁判所としても、意思決定支援を踏まえた後見事務が広く実践されて実務に定着することが非常に重要であると考えているところですが、この具体的な在り方について、今後、今日の御報告や各専門職団体等の研修なども踏まえて、実務での積み重ね、意見交換の積み重ね、そうした蓄積を通じて、その在り方について具体的に共通認識が形成されていくことが重要だなと思っております。

裁判所としては、後見人等を監督する立場で意思決定支援を踏まえた後見事務をどう監督するかということが問題となりますが、この裁判所による監督というのは、基本的には後見人の裁量を前提としまして、その裁量権の行使に逸脱・濫用がないかというのを確認する観点から行われるべきものということになります。

その前提として、意思決定支援の標準的な在り方について、イメージが共有されていることが重要で、それがありませんと、裁判所の監督の視点もうまく定まりませんし、後見人において適切な意思決定支援を行うインセンティブを弱めることにもなってしまうと思っているところでございます。今後、専門職を中心に具体的な実践が積み重ねられて、共通認識が広く形成されていくことが期待されていると考えております。

なお、これがある意味表裏のところがございますが、裁判所では、裁判所の監督の前提となる定期報告に関しまして、身上保護や意思尊重義務の履行、意思決定支援を意識した報告書式の改訂作業を行っているところです。それも含めて、裁判所内部でも意思決定支援の実践の在り方に対する理解を深めながら検討を進めていく必要があると思っているところです。

もう一つは、報酬と意思決定支援の評価の在り方、報酬との関連でございますが、後見人等の報酬については、現在、裁判所において後見事務の内容や負担などを考慮して、報酬を算定する方向で検討を進めているところでございます。意思決定支援を踏まえた後見事務というものについても、併せて、その評価の在り方、その前提となる報告の在り方を検討しているところでございまして、先ほど申し上げました共通認識の形成に関する状況も踏まえながら、裁判所でも引き続き検討を進めることになるなと考えているところです。

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社の高橋様から御報告のありました研修の取組については、検討段階に最高裁としてもオブ参加させていただいたのですけれども、これがガイドラインの策定と並行して検討されたということもよかったのかなと思いまして、実務的にかゆいところに手が届く内容になっているのではないかと思っております。

裁判所では、監督という立場で関わるわけですけれども、運用に関わる裁判所職員が意思決定支援についても実質的に理解していることが大変重要と思っておりまして、この研修に関しては、家裁のみならず、高裁も含めて、大多数の庁で運用に携わる職員が傍聴させていただいております。各家裁内では、それを踏まえて、さらにそれを広く共有するという取組も行っているところと承知しておりまして、家庭局としても必要な支援をしていきたいと思っております。

○新井主査 多岐にわたって有益な論点を述べていただいて、ありがとうございました。

続きまして、山下さん、お願いします。

○山下委員 今日は、大変有益な御報告を3件聞かせていただいて、私も大変勉強になりました。

特に、最後の水島先生に事例を紹介していただいて、オーストラリアで障害のある方が自ら取引にも積極的に乗り出されるといったものは、まさにこういった意思決定支援の在り方の理想ではないかと感じた次第です。

他方で、そういった事例を見ていて非常に思ったのは、意思決定支援の問題というのは、取引が絡むと途端に難しくなる部分があるのではないかということでございます。取引というのは、どうしてもある程度のスパンを持って拘束力が発生するわけですし、当然長期の予測なども必要になってくる。また、取引相手にしてみると、こういった障害のある方とかと取引することに対して懸念を持たれる方もいるのではないかと思います。

そういった意味で、みずほの高橋さんが御紹介になっていますけれども、財産管理のときというのは中長期的な視点がどうしても必要になってくる。中長期的な視点が大事だということは、ある意味、その場、その場での意思決定というものを尊重するということとは相反する部分もございまして、その辺の調整というものが非常に難しいかなということを考えながら、今日の御報告を伺っておりました。

今、私に特に妙案があるわけではないのですが、取引の入り口での取引相手との十分な折衝とか、あるいは御本人の意思確認というものを十分しなければならず、そういう意味でも専門性のある方の関与というものが必須になってくるのではないか。場合によっては、金融機関等に意見を聞くといったことも含めた問題が関わってきて、意思決定支援に関わっている方以外の方にも、この意思決定支援の理念というものを十分生かしていただく必要が出てくるのではないかと思いまして、今日、皆様が取り組まれている、豊田市のガイドラインとかポイント集といったお話も含めて、社会全体が意思決定支援の理念を理解するための取組というものがさらに進むことが必要ではないかと感じた次第です。

以上です。

○新井主査 ありがとうございました。

オブザーバーではありますけれども、永田さんにも発言をお願いいたします。

○永田オブザーバー ありがとうございます。

今日はオブザーバーで参加させていただいているのですけれども、これまでのワーキング・グループとの関連を踏まえて感じることがございましたので、簡潔に2点だけ発言させていただければと思います。

まず、1点目ですけれども、今日のお話をお伺いして、改めて意思決定支援の重要性について学び、包括的な相談支援と権利擁護支援の関係を考えたときに、包括的な相談支援体制の基盤となる高齢者、障害者、子ども、生活困窮、それぞれに権利擁護支援の共通基盤である意思決定支援の考え方を位置づけていく必要があることを感じました。

御案内のとおり、成人の高齢者、障害者の方については、それぞれ意思決定支援のガイドラインがあるわけですけれども、生活困窮の部分でも、様々な背景や御事情から、御自身で思いを伝えることが難しかったり、伝え方が弱い方もいらっしゃいます。生活困窮者の支援においても、水島先生やみずほさんから今日御紹介いただいたような、意思決定支援に関する考え方を学ぶ機会や研修、それからガイドラインのようなものが必要ではないかと感じた次第です。

もちろん、上山先生や豊田市さんの御提起にあったように、それぞればらばらにつくっていくだけではなくて、共通の原則を示すということも並行して行うことで、相談支援の共通基盤に意思決定支援を位置づけていくことが重要だということを感じましたので、発言させていただきました。

2点目ですけれども、豊田市さんの意思決定支援への市民後見人の方への関与の御提起ですけれども、まだ具体的ではないと思いますし、軽々には申し上げられませんけれども、水島先生のIMCAの取組に通底するところがあって、これも市民後見人もしくはその候補者の方の活躍の場として、おもしろい御提案ではないかなと感じました。

あと、青木先生が述べられた市民後見人の意思決定支援への取組については、私も京都で市民後見人の方の支援に関わらせていただいて、強く感じているところです。共感しましたので、つけ加えさせていただきます。

以上になります。どうもありがとうございました。

○新井主査 ありがとうございました。

最後になりますか、山野目さん、お願いします。

○山野目委員 ありがとうございます。

本日は、3人の方の御報告を頂戴しまして大変勉強になりました。ありがとうございます。

大きく分けて2点申し上げます。

1点目は、本人と支援者の概念の相対化とでも申し上げたらよろしいでしょうか。当面、行政や司法における用語概念として、本人、支援者という言葉を用いていくということはあり得るとしても、実践の感覚において、本人と支援者というものを切り分けて考える発想を転換していくということが、意思決定支援の一つの大きな柱になるであろうと感じます。

豊田市のお話にあった、専門家というよりは、むしろ普通の市民として伴走する。水島委員の御報告にあった、マイケルさんのお父さんですけれども、サポーターというよりはビジネスパートナーというのは、良い意味でショックを受けてお話を伺いましたし、みずほリサーチ&テクノロジーの方のおっしゃった、勝手に決められたら嫌という、あの言葉もまた耳に残ります。

勝手に決められたら嫌ということは、考えてみると、別に成年後見の本人ではなくて、我々であってもいろいろな日常生活の場面で勝手に決められて、少しかちんときたという場面があるものでありまして、そのような通常の人の感覚をどういうふうに成年後見の場で活かしていくかということを、司法と福祉の連携のワーキングにおいても考えていかなければならないと感じました。

既に青木委員、西川委員からお話があったとおり、裁判所がどう受け止めるか、意思決定支援ないしその研修、それから報酬を関連させた側面について、裁判所にぜひ考えてほしいというお話はごもっとものことでございますし、先ほど手嶋委員からもそのような問題意識を持っているというお話もありましたから、それに勇気づけられつつ、司法と福祉のワーキングのことも考えていきたいと決意いたします。

もう一つは、中核機関という言葉ですが、何と言えばよいでしょうか。中核機関に、恐らく普通名詞の中核機関と固有名詞の中核機関があるのだろうという予感を抱きます。水島委員の最後の画面において、モニタリングする外部機関というものがイングランドにあって、良い働きをしているという例を御紹介いただき、これは日本にも要るぞというお話は、もう異論のないところであろうと考えます。こういったところを含めて、そういった様々な機能を公のミッションとして政府ないし関係機関が引き受けなければならないということは異論がないであろうと考えますけれども、それをリアルに存在している固有名詞としての中核機関に引き受けさせようと言っていくと、各地に様々な事情があり、まだ立

ち上がったばかりというところもあります。

むしろここでは、普通名詞としての中核機関というのがもう一つ概念として用意されてよいでしょう。それに当たるものというものは、まだ存在していない制度もあるかもしれません。そこを埋めていくものとして、どのようなアイデアとか仕組みとか制度を考えていったらいいかという点も、これも実は司法と福祉の連携のワーキングの宿題になってくるであろうと予想します。

手嶋委員から、監督に向き合っての裁判所の姿勢のお話をいただきましたけれども、裁判所の監督と中核機関の営みとの間の隙間の空間をどういう仕組みで埋めていくかという大きな宿題を、今日は最後の画面とともに頂戴したと感じています。

どうもありがとうございました。

○新井主査 ありがとうございました。

出席された方全員に発言いただきまして、時間的にもちょうどいいということで、進行に協力いただいたことに感謝いたします。

私、主査として、まとめる必要もないのですが、少し感じたことを申し上げたいと思います。

豊田市については、地域共生社会の実現に向けた包括的支援体制整備のための重層的支援体制整備事業を、成年後見制度利用促進と連携させている点は、高く評価できるものです。成年後見制度利用促進は、地域連携ネットワークの場において、行政、司法、裁判所、民間が協働していくことが必要なわけですが、行政が重層的支援体制を充実させ、民間が新しい担い手を生み出している中で、司法、裁判所のそれらの動向に呼応した対応が期待されると思います。

意思決定支援研修については、海外においてもこれだけの規模で研修を行ったことは、ほとんどないと私は思います。大きな成果であったと考えています。今後は、受講者の意見等も踏まえて内容をさらに充実させていくことが期待されます。生活困窮者と終末期医療を受けている患者の意思決定支援が充実することを期待します。現在の状況下では、生活困窮者支援でも意思決定支援のガイドラインや研修をしていくことが必要であることは、永田さんの指摘したとおりであります。

地域共生社会において、地域住民が広く理解し合える意思決定支援の基本的考え方を周知していくということも、大きな課題ではないでしょうか。そのことを考えると、家庭裁判所等、司法機関も広く意思決定支援を踏まえた後見を学ぶ、ガイドラインを学ぶことがより強く求められるというのは、青木さんの指摘したとおりではないかと思います。

本日は、いずれにしても、多様かつ有益な論点をいろいろ出していただきまして、今後のまとめにも大変有益ではなかったかと思います。皆様の御協力に感謝したいと思います。

それでは、本日の議事はここまでとします。

事務局から今後の予定等について連絡をお願いいたします。

○成年後見制度利用促進室長 事務局です。

本日御議論いただきました皆様の意見につきましては、事前に御連絡しておりましたと

おり、新井主査から次回の専門家会議に報告いたします。

次回は、ワーキング・グループではありませんで、専門家会議ということで、6月28日午後1時からの開催を予定しております。

また、本日の議事録につきましては、速記ができてきた後に、委員の皆様に御確認いただいた上で、ホームページに掲載いたします。

本日も積極的な御議論、ありがとうございました。

○新井主査 それでは、本日の議論は以上とさせていただきます。御多忙の中、参加いただいて、本当にどうもありがとうございました。

内閣官房法案誤り等再発防止プロジェクトチーム取りまとめ 

令和3年6月29日内閣官房法案誤り等再発防止プロジェクトチーム取りまとめ 

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/houan_ayamaribousi_pt/index.html

・改め文とは

参議院法制局「改め文」―法令の一部改正方式―

https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column050.htm

例「第○条中「△△△」を「×××」に改める。」

・新旧対照表の方式とは

平成28年3月25日 事務連絡 内閣官房行政改革推進本部事務局

「新旧対照表の方式による府省令等の改正について」

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f9/%E5%B9%B3%E6%88%9028%E5%B9%B43%E6%9C%8825%E6%97%A5%E4%BB%98%E3%81%91%E3%80%8C%E6%96%B0%E6%97%A7%E5%AF%BE%E7%85%A7%E8%A1%A8%E3%81%AE%E6%96%B9%E5%BC%8F%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%BA%9C%E7%9C%81%E4%BB%A4%E7%AD%89%E3%81%AE%E6%94%B9%E6%AD%A3%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%80%8D.pdf

新旧対照表ドットコム(株)マカビ―カタガイ

新旧対照表の書き方(Excel編)

http://shinkyutaishohyo.com/

 Excelから新規作成を開きAとBの列を選択。右クリックで『列の幅』を選択し数値を入力。1行目を選択して右クリックで『行の高さ』を選択し数値を入力。同様に2行目以降も高さを調整。対象範囲のセルを選択して右クリックから『セルの書式設定』を選択し罫線をいれる。セルA1、A2を選択して結合。中央揃えをクリック。左側に改定前のテキストを、右側に改定後のテキスト。修正ルール(下線、削除、(略)、(新設)など。)に従い修正内容を記入。テキストサイズ、揃えを調整し、『セルの書式設定』(右クリック)からインデントで体裁。

参照条文とは

参議院法制局「法律の構成」

https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column044.htm

要綱とは

参議院法制局「職務」

https://houseikyoku.sangiin.go.jp/introduction/bureau/job.htm

誤りの内容

・ 案文

条文番号・文言等の誤りや、条文の欠落・重複が 12件

インデントの様式面での不備が 2 件

・ 新旧対照表

法改正に関わる箇所(新旧で改正内容を示している箇所)のうち、文言等の誤りが 6 件

上記以外の箇所(改正されていない箇所)のうち、電子データからの転記や手入力によるミス等による単純な誤記が 21 件

インデント、見出しや注記の欠落等の様式面での不備が 12 件

・ 参照条文について

電子データからの転記や手入力によるミス等による単純な誤記が 90 件

インデント、見出しやルビの欠落等の様式面での不備が 21 件

・ 要綱について、送り仮名や数字記載の誤記を含め、誤字・脱字等による誤りが 17 件

総務省において開発した法制執務業務支援システム(e-LAWS)

・法令データについては、データ更新が遅れがちであるほか、法令を所管する府省庁の認証が行われないまま掲載されている法令も多いことから、現時点では、法令案作成の基礎資料として用いることが難しく、法制局審査で使用が認められていない。e-LAWS を活用して作成される新旧対照表は、一部の文字(環境依存文字、数字、英字等)や表・別表が適切に表示できず、様式面で問題があるほか、法制執務で広く利用されている一太郎への出力機能がないこと。

 新旧対照表からの案文作成等の機能が限定的であるほか、法令作成過程において多数生ずる改め文の修正を反映できないなど、操作性や編集機能に限界があること。

 e-LAWS と、内閣法制局の法令審査支援システムや国立印刷局の編集・印刷システム等が連携していないこと。

日本の法令

・例えば、条番号の前に見出しがある、第1項の項番号が付されない、号番号等が付されずに並列で規定される例があるなど、視覚的には認識できるが、システムでは判読しづらい構造となっている。AI技術を活用し、表記揺れやインデントの乱れ、条項ズレなどを自動的に検出・補正するようなサービスが提供されている。

具体的方策

案文(改め文)について

・平成16年12月 内閣法制局

法令案における誤りの防止について(手引き)(増補版)

https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2020/04/%E6%B3%95%E4%BB%A4%E6%A1%88%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%AA%A4%E3%82%8A%E3%81%AE%E9%98%B2%E6%AD%A2%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%EF%BC%88%E6%89%8B%E5%BC%95%E3%81%8D%EF%BC%89%EF%BC%88%E5%A2%97%E8%A3%9C%E7%89%88%EF%BC%89%EF%BC%88%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%91%EF%BC%96%E5%B9%B4%EF%BC%91%EF%BC%92%E6%9C%88%E3%81%AE%E5%86%85%E9%96%A3%E6%B3%95%E5%88%B6%E5%B1%80%E3%81%AE%E6%96%87%E6%9B%B8%EF%BC%89.pdf

新旧対照表について

・過去の法案資料ではなく、基本的には、法務省が編纂している法規集や官報を用いて、正確に、「現行」部分を作成すること。

・法規集の法令データは、電子的にも提供されており、法案提出省庁において、これを活用し、手入力を極力減らすことが、誤り防止につながると考えられるが、電子データの特徴(改正履歴の残存、レイアウトの違い等)に留意して作業することが重要。

・法制執務業務支援システム(e-LAWS)の法令データが法務省により整備された後には、e-LAWS を新旧対照表の「現行」部分の作成に活用する。

・ページを跨ぐ修正を行う場合や、最終段階での内閣法制局による職権修正が行われる場合には、案文とともに、誤りが生じやすいことに十分留意して、作業・確認する。

・誤り防止のため、法令名・法律番号・条項番号などの正確な記載は当然であるが、法案提出省庁の作成方法等も踏まえ、形式面を含め、最低限確認すべき項目や誤りやすいポイントを整理する必要。

参照条文について

・電子データからの転記や手入力によるミス等による誤記を防ぐため、基本的には、正確な電子データの活用を始めとして、新旧対照表と同様の対応が必要。

要綱

・案文や新旧対照表の内容が決まってきた段階で、法案を取りまとめている担当部局において、文言や条文番号等に誤記がないかに加え、改正内容や案文等に整合的であるかなど、横断的に確認。要綱は法案を作るために最初に出来るものと、成立した後にまとめるために作られるものがある。

読み合わせ

・法案担当経験者の参加、確認すべき資料の的確な分担、余裕のある日程管理をしながら何度も実施。職員による読み合わせ等に加え、音声の自動読み上げ、文書ソフトの校閲機能、民間事業者による校正サービス等を活用。法案誤り等再発防止プロジェクトチームが、府省庁横断的に確認すべきと考えられる事項をとりまとめ、2021年夏を目途に作成。

法制執務業務支援システム(e-LAWS)

・データ更新の業務フローを見直し、法令編纂を所管する法務省が、各府省庁や法令の専門業者の協力を得て、効率的に法令データを整備することとし、法律は、公布後速やかに(原則として、公布と同日を目指し、国会修正等があった場合も、できる限り速やかに)e-LAWS に掲載する。また、この法令データから、参照条文を自動的に作成する機能を整備する。e-LAWS について、出力時の体裁不備の解消、システムの操作性の向上や案文及び新旧対照表等の自動作成機能をはじめとする編集機能の改善。

  こうした法令データの整備等については、IT室、総務省、法務省が連携し、各府省庁の協力を得て、次期通常国会における法案提出に間に合うよう取り組む。

その他

・法案提出に先立ち、官房部局や第三者によるチェックを含め、複層的なチェック。

法令審査支援システムの活用

(操作マニュアル)

https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2021/01/%E5%86%85%E9%96%A3%E6%B3%95%E5%88%B6%E5%B1%80%E3%81%AE%E6%B3%95%E4%BB%A4%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E6%94%AF%E6%8F%B4%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E6%93%8D%E4%BD%9C%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%EF%BC%88%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%92%EF%BC%97%E5%B9%B4%EF%BC%98%E6%9C%88%E3%81%AE%E9%96%8B%E7%A4%BA%E6%96%87%E6%9B%B8%EF%BC%89.pdf

(配字・禁則処理)

・ワープロソフトでの1ページあたりの文字数と行数は、1行48字、1ページ13行詰めの設定とする。また、ワープロソフトで設定可能な禁則処理(追い込み)を行い、句読点のぶら下げは行わない設定とする。

相続人イギリス籍の日本の不動産の相続とイギリスにある銀行預金

20210703渉外司法書士協会令和3年度・東京定例会中級編メモ

被相続人イギリス籍の日本の不動産の相続とイギリスにある銀行預金

不動産の相続

・相続関係図

・宣誓供述書(イギリスの公証人)

銀行預金

上の二つに加えて

・日本民法意見書

被相続人フランス籍の日本にある不動産の相続

・非訟事案判決の通知(夫婦財産制の変更書を認証)

・フランス公証人宛照会書

・フランス公証人の回答、証明書(翻訳に規制)

・遺産相続に関する宣誓供述書

被相続人日本籍のロシアに所在する遺産相続

・宣誓供述書

相続の準拠法

ロシアの相続法

弟による宣誓供述書の日本での認証

地方の公証人の認証についての宣誓供述書

ロシアはハーグ条約加盟国

被相続人が韓国籍で、朝鮮民事法令を適用する相続

・遺産分割協議書

・上申書(準拠法は日本)法の適用に関する通則36条、朝鮮民主主義人民共和国対外民事関係法45条1項但書き

・外国人登録原票のコピー

法の適用に関する通則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000078_20150801_000000000000000

(本国法)

第三十八条 当事者が二以上の国籍を有する場合には、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるときはその国の法を、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国がないときは当事者に最も密接な関係がある国の法を当事者の本国法とする。ただし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法とする。

2 当事者の本国法によるべき場合において、当事者が国籍を有しないときは、その常居所地法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)及び第三十二条の規定の適用については、この限りでない。

3 当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。

朝鮮民主主義人民共和国の対外民事関係法に関する若干の考察

木棚照一

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/96-5/kitana.htm

山北英仁『渉外不動産登記の法律と実務』日本加除出版、2014

P515~イギリス国籍の相続

『家庭裁判月報』29巻6(1977.6)千種秀夫の「イギリスにおける相続法の改正について」P157~P186

「・相続を証する書面

イギリスには、公証人がほとんどおらず、通常はSolicitorが認証業務をしている。

P206~海外の認証―イギリスのソリシター(Solicitor)の認証について

Legal Services Act 2007 Chapter29」

https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2007/29/contents

「 イ ソリシター(Solicitor)には、結局のところ認証権限があるのか

 1801年の公証人法(Public Notaries Act 1801(c.79))は、1990年の裁判所及び法的サービス法によって、ほとんどの条項が廃止されており、同法は機能していない状態である。そこで、ソリシター団体であるローソサエティを含めたすべての承認規律団体が指定法律業務としての宣誓執行業務ができることが法的サービス法(2007年)で確認されたことにより、ソリシターはもちろんのこと指定法律資格者団体の全ては認証業務ができることになることがわかった。 」

Births, deaths, marriages and care. 駐日英国大使館

https://www.gov.uk/browse/births-deaths-marriages

意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン

2020年(令和2年)10月30日

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2021/20201030guideline.pdf

意思決定支援ワーキング・グループ

目 次

第1 はじめに

 1 ガイドライン策定の背景 …………………………………. 1

2 ガイドラインの趣旨・目的等 ……………………………… 2

 第2 基本的な考え方

1 本ガイドラインにおける意思決定支援の定義 …………………. 2

 2 本ガイドラインにおける意思決定能力の定義 …………………. 3

3 本ガイドラインにおける意思決定支援及び代行決定のプロセスの原則 3

(1) 意思決定支援の基本原則 ……………………………….. 3

 (2) 代行決定への移行場面・代行決定の基本原則 ……………….. 3

 4 後見人等として意思決定支援を行う局面 …………………….. 4

 第3 意思決定支援における後見人等の役割

1 関連する基本原則の確認 …………………………………. 5

2 意思決定支援のための環境整備(事前準備) …………………. 5

環境整備の必要性・目的 ……………………………….. 5

  • 本人のエンパワメント ……………………………….. 5

② 支援者側の共通認識・基本的姿勢 ………………………. 5

(2) 環境整備の手順、環境整備に対する後見人等の関与の仕方・役割 ..

 6 (3) 本人と後見人等の信頼関係の構築 ………………………… 6

 3 後見人等の関与する意思決定支援の具体的なプロセス(個別課題が生じ た後の対応) …………………………………………….. 7

 (1) 本人にとって重大な影響を与えるような意思決定について …….. 7

 (2) 支援チームの編成と支援環境の調整 ………………………. 7

① 支援チームの編成 …………………………………… 7

② 支援環境の調整・開催方法等の検討 …………………….. 8

(3) 本人への趣旨説明とミーティング参加のための準備 ………… 10

(4) ミーティングの招集 …………………………………. 10

(5) 本人を交えたミーティング ……………………………. 10

 ① 進行方法の工夫 …………………………………… 10

  •  意思形成支援におけるポイント ………………………. 11

 ③ 意思表明支援におけるポイント ………………………. 12

 (6) 意思が表明された場合 ……………………………….. 12

(7) アセスメントシートへの記録 ………………………….. 13

第4 意思決定や意思確認が困難とみられる局面における後見人等の役割

 1 関連する基本原則の確認 ……………………………….. 13

2 意思決定や意思確認が困難とみられる局面とは ……………… 13

3 意思決定能力アセスメントの方法 ………………………… 13

(1) 意思決定能力アセスメント ……………………………. 13

(2) アセスメントシートへの記録 ………………………….. 14

4 本人の意思推定(意思と選好に基づく最善の解釈)アプローチ …. 14

 (1) 基本的な考え方 …………………………………….. 14

(2) 検討結果に基づく後見人等としての行動原則 ……………… 15

 (3) アセスメントシートへの記録 ………………………….. 15

 第5 本人にとって見過ごすことができない重大な影響が懸念される局面等にお ける後見人等の役割

1 関連する基本原則の確認 ……………………………….. 16

 2 本人にとって見過ごすことができない重大な影響が生じる場合等 .. 16

(1) 基本的な考え方 …………………………………….. 16

 (2) 検討方法 ………………………………………….. 16

 (3) 検討結果に基づく後見人等としての行動原則 ……………… 17

 (4) アセスメントシートへの記録 ………………………….. 17

第6 本人にとっての最善の利益に基づく代行決定

1 関連する基本原則の確認 ……………………………….. 17

 2 本ガイドラインにおける「最善の利益」に基づく代行決定 …….. 18

 3 本人にとっての「最善」を検討するための方法 ……………… 18

(1) 最後の手段としての位置付け ………………………….. 18

 (2) 本人にとっての最善の利益を検討するための前提条件 ………. 18

 (3) 本人にとっての最善の利益を検討する際の協議事項 ………… 19

4 検討結果に基づく後見人等としての行動原則 ……………….. 20

5 アセスメントシートへの記録 ……………………………. 21

第1 はじめに

1 ガイドライン策定の背景

2017年(平成29年)3月24日に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画(以下「基本計画」という。)では、成年後見制度の利用者がメリットを実感できる制度・運用へ改善を進めることが目標とされ、後見人等が本人の特性に応じた適切な配慮を行うことができるよう、意思決定支援の在り方についての指針の策定に向けた検討が進められるべきであるとされている。このような背景には、2000年(平成12年)の成年後見制度発足以来、財産保全の観点のみが重視され、本人の意思尊重の視点が十分でないなどの課題が指摘されてきたことがある。

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「財産保全の観点のみが重視され」については、私の感覚とは違いました。私が司法書士として、成年後見に関わった2009年以来、実務上重視してきたのは身上監護です。財産保全の観点が重視され始めたのは、専門職後見人の横領事件が発覚し始めてからだと考えます。

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そのため、今後、成年後見制度の利用促進を図っていくためには、本人の意思決定支援や身上保護等の福祉的な観点も重視した運用とする必要がある。民法858条、876条の5第1項、876条の10第1項においても、後見人等が本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮することが求められている。しかし、実務においては、本人の判断能力が低下していることを理由に、本人の意思や希望への配慮や支援者等との接触のないまま後見人等自身の価値観に基づき権限を行使するなどといった反省すべき実例があったことは 否定できない1。 後見人等を含め、本人に関わる支援者らが常に、「意思決定の中心に本人を置く」という本人中心主義を実現するためには、意思決定支援についての共通理解が必要である。そこで、意思決定支援を踏まえた後見事務についての理解が深まるよう、最高裁判所、厚生労働省、日本弁護士連合会、成年後見センター・リーガルサポート及び日本社会福祉士会により構成される意思決定支援ワーキング・ グループにおいて検討を重ね、成年後見制度の利用者の立場にある団体からのヒアリング等の結果を踏まえつつ、本ガイドラインを策定した。ガイドラインに記載されていることが意思決定支援の全てではないことは 言うまでもなく、意思決定支援については他にも多数のガイドラインやテキストが存在するものの、本ガイドラインが、専門職後見人、親族後見人、市民後見人等のいずれにとっても、本人の意思決定支援を踏まえた後見事務を行う上で参考にされ、活用されることを期待するものであり、そのためには、今後、関係各団体等において、それぞれの後見人等の属性に合わせた普及・啓発方法が展開されることが望ましい。また、本ガイドラインは意思決定支援を踏まえた後見事務の実現に向けた一つの出発点にすぎず、完成形ではない。

認知症や精神障害、知的障害、発達障害等の内容や程度には個人差があるが、適切な意思決定支援は本人の権利擁護につながるものであることからすれば、今後、専門職団体における本ガイドラインに基づく意思決定支援の経験の蓄積を経て、本人の属性や特性に応じた更なる深化・ 発展が期待されるところである。

2 ガイドラインの趣旨・目的等

本ガイドラインは、専門職後見人はもとより、親族後見人や市民後見人を含め て、後見人、保佐人、補助人(以下「後見人等」という。)に就任した者が、意思決定支援を踏まえた後見事務、保佐事務、補助事務を適切に行うことができるように、また、中核機関や自治体の職員等の執務の参考2となるよう、後見人等に求められている役割の具体的なイメージ(通常行うことが期待されること、行うことが望ましいこと)を示すものである3。なお、本ガイドラインには、意思決定支援及び代行決定の場面で使用できるアセスメントシートを5種類添付している(様式1~5)。後見人等がそれぞれのプロセスごとにアセスメントシートへの記録を行うことで、意思決定支援を踏まえた後見事務を適切に実践できているかを省みることができると考えられる4。

第2基本的な考え方

 1 ガイドラインにおける意思決定支援の定義意思決定支援とは、特定の行為に関し本人の判断能力に課題のある局面において、本人に必要な情報を提供し、本人の意思や考えを引き出すなど、後見人等を含めた本人に関わる支援者らによって行われる、本人が自らの価値観や選好に基 づく意思決定をするための活動をいう。

本ガイドラインにおける意思決定支援は、本人の意思決定をプロセスとして支援するものであり、通常、そのプロセスは、本人が意思を形成することの支援(意思形成支援)と、本人が意思を表明することの支援(意思表明支援)を中心とする(なお、形成・表明された意思をどのように実現するかという意思実現支援は、本ガイドラインにいう意思決定支援には直接には含まれないが、後見人等による身上保護の一環として実践されることが期待される。)5。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本人に関わる人(医療、福祉、生活、法律など)でチームを作って、意思形成と意思表明の支援をする、ということは以前から言われていたような気がしますし、実務上も行っていました。5種類のアセスメントシートを作成したことが、基準となり得て、新しいことだと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 3 本ガイドラインにおける意思決定支援は、後見人等による「代行決定」とは明確に区別される。すなわち、①意思決定支援が尽くされても本人による意思決定や意思確認が困難な場合、又は②本人により表明された意思等が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる可能性が高い場合のいずれかにおいて、最後の手段として、後見人等が法定代理権に基づき本人に代わって行う決定 (代行決定)とは区別されるものである。

2 本ガイドラインにおける意思決定能力の定義

意思決定能力6とは、支援を受けて自らの意思を自分で決定することのできる能力であるが、意思決定を行う場面では通常次の4つの要素が必要と考えられる。 (1)意思決定に必要な情報を理解すること(情報の理解) (2)意思決定に必要な情報を記憶として保持すること(記憶保持) (3)意思決定に必要な情報を選択肢の中で比べて考えることができること(比較検討) (4)自分の意思決定を口頭又は手話その他の手段を用いて表現すること(意思の表現)

 3 本ガイドラインにおける意思決定支援及び代行決定のプロセスの原則 (1) 意思決定支援の基本原則

第1 全ての人は意思決定能力があることが推定される。

第2 本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くさ なければ、代行決定に移ってはならない。

第3 一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能力がないと判断してはならない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 本人にとっても意思決定支援に関わるチームにとっても(特に固定給で働いていない人にとっては)負担が大きいと感じます。負担の分はどのように反映されるのか、気になります。以前、後見事務にかかった時間と報酬を割ってみましたが、200円を切っていました。

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(2) 代行決定への移行場面・代行決定の基本原則

第4 意思決定支援が尽くされても、どうしても本人の意思決定や意思確 認が困難な場合には、代行決定に移行するが、その場合であっても、 後見人等は、まずは、明確な根拠に基づき合理的に推定される本人の意思(推定意思)に基づき行動することを基本とする7 。

 第5 ①本人の意思推定すら困難な場合、又は②本人により表明された意思等が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる場合 には、後見人等は本人の信条・価値観・選好を最大限尊重した、本人にとっての最善の利益に基づく方針を採らなければならない。

第6本人にとっての最善の利益に基づく代行決定は、法的保護の観点からこれ以上意思決定を先延ばしにできず、かつ、他に採ることのできる手段がない場合に限り、必要最小限度の範囲で行われなければならない。

第7 一度代行決定が行われた場合であっても、次の意思決定の場面では、第1原則に戻り、意思決定能力の推定から始めなければならな い。

4 後見人等として意思決定支援を行う局面

 後見人等による意思決定支援は、飽くまで後見事務の一環として行われるものである以上、後見人等が直接関与して意思決定支援を行うことが求められる場 は、原則として、本人にとって重大な影響を与えるような法律行為及びそれに 随した事実行為の場面8 に限られる。

本人の特性を踏まえ、ケース・バイ・ケースで判断する必要があるが、一般的 な例としては、①施設への入所契約など本人の居所に関する重要な決定を行う場合、②自宅の売却、高額な資産の売却等、法的に重要な決定をする場合、③特定の親族に対する贈与・経済的援助を行う場合など、直接的には本人のためとは言い難い支出をする場合などが挙げられる9。

ただし、それ以外の局面における意思決定支援に関しても、後見人等として、 後記第3の2(2)に記載した関与が求められる10。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 2について、本人が信仰している宗教に基づく場合、バランスのとり方が必要だと思います。親族を無視するわけにはいかない場合があるのではないかと思います。
  • 3について、以前から毎年贈与を行っていた場合などは考慮したいと思います。

第3 意思決定支援における後見人等の役割

*本項に対応するアセスメントシート:様式1

1 関連する基本原則の確認

第1 全ての人は意思決定能力があることが推定される。

第2 本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くさなけ れば、代行決定に移ってはならない。

第3 一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能 力がないと判断してはならない。

2 意思決定支援のための環境整備(事前準備)

  • 環境整備の必要性・目的 後見人等が直接関わる意思決定支援の事務としては、本人に重大な影響を与える法律行為及びそれに付随する事実行為が主である。しかしながら、そのような課題が生じてからいきなり意思決定支援をしようとしても容易ではなく、日頃から日常的な事柄について、本人が自ら意思決定 をすることができるような支援がされ、そのような意思決定をした経験が蓄積 されるという環境が整備されている必要がある。
  •  本人のエンパワメント

特に、本人が自信を持って意思決定を行うことができるためには、本人の 自尊心や達成感が日頃から満たされていることが重要である。したがって、日常的に、本人が自ら意思決定を行う機会に接し、成功・失敗に至る過程を経ながら、「自らの意思決定が他者に尊重された」という経験を本人が得られるよう、後見人等も含めた本人に関わる支援者らが協力して支援をする(エンパワメント)環境が整備されることが求められる1112。

  •  支援者側の共通認識・基本的姿勢

 本人の意思決定に向けた支援は、これを支援する者の態度や本人との信頼関係、立ち会う人との関係性や環境による影響を受ける。また、意思決定支援をする支援者側の共通理解が乏しい場合、本人の意思決定や意思表明を引き出す支援が十分に行われなかったり、本人の意思を都合よく解釈した事実上の代行決定が行われたりするおそれもある。さらに、職業倫理や価値観の違いから、本人と支援者間、支援者相互の対立を招くことも懸念される13。

 したがって、意思決定支援を行うに際しては、後見人等を含めた本人に関わる各支援者が、本人の意思決定を尊重する基本的姿勢を身につけておく必要がある。そこで、本ガイドラインないし関連する他の意思決定支援ガイドライン14をあらかじめ読み合わせておく、又は研修等に参加するなど、意思決定支援を行うに当たっての共通認識を得ておくことも重要である。

  • 環境整備の手順、環境整備に対する後見人等の関与の仕方・役割

 後見人等が就任した時点では、既に本人は、親族や介護サービス、障害者福祉サービス事業者のスタッフや医療従事者等による支援を受けていることが 多い(潜在的なチームの存在)。後見人等としては、本人が日常生活を送るに当たって、これらの支援者によって、本人の意思決定が適切に支援され、表明された意思が十分に尊重されているかどうかを把握しつつ、以下の点に留意して 活動を進める必要がある。

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法定後見などが想定され、任意後見は想定されていないような記載だと感じました。

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 <留意するポイント>

 ▶ 後見人等に就任した後、なるべく早期に本人や支援者らと接触すること15

 ▶ 本人の状況や支援状況を把握し、支援者らの輪に参加すること

▶ 本人の意思が周囲の支援者らから十分に尊重されていないとみられる場合には、環境の改善を試みること

 特に専門職後見人の場合は、選任された時点では本人に関する情報量が親族や介護サービス事業者と比べて圧倒的に少ないことを自覚し、意識的に本人と話をしたり、本人のことを知ろうと努めることが重要である。なお、意思決定を支援するチームが編成されていないような場合や、チーム の編成を変更する必要があるような場合には、地域包括支援センターや障害者基幹相談支援センター、発達障害者支援センターがチーム支援の起点となるよう、中核機関のサポートを受けながら働きかけを行うことが望ましい。

  • 本人と後見人等の信頼関係の構築

 後見人等としては、本人と定期的な面談、日常生活の観察や支援者らからの情報収集、生活歴の把握等を通じて積極的にコミュニケーションを図ることにより、本人が安心して自分の意思を伝えることができ、後見人等とともに意思決定支援のプロセスに参加することに意欲を持つことができるような信頼関係を構築しておくことも重要と考えられる。後見人等が本人にとってどのような存在であるのかを本人自身に正しく認識してもらうことにより、本人としても安心して支援を受けることができるようになるはずである。

3 後見人等の関与する意思決定支援の具体的なプロセス(個別課題が生じた後の対応)

  • 本人にとって重大な影響を与えるような意思決定について

 本人にとって重大な影響を与えるような法律行為及びそれに付随する事実行為に関して意思決定を行う場面において、後見人等に求められるのは、本人の意思決定のプロセスを丁寧に踏むという意識及びそのプロセスに積極的に関わるということである。

具体的には、後見人等は、基本的に以下の場面で一 定の重要な役割を担うことになる。

  •  支援チームの編成と支援環境の調整
  •  本人を交えたミーティング

もっとも、本人にとって重大な影響を与えるような法律行為及びそれに付随する事実行為に関して意思決定を行う場合においても、本人の意思が明らかであり、支援者においても本人の意思に沿うことで異論がないような場合には、本ガイドラインのプロセスを必ずしも全て経る必要があるわけではない。

  • 支援チームの編成と支援環境の調整
  •  支援チームの編成

支援チームの編成は、本来は福祉関係者において責任を持って行うことが想定された事柄ではあるが、後見人等も、日頃から本人の意思決定支援のた めの環境整備がなされていることを前提に、ミーティング主催者とともに意思決定を支援するメンバーの選定に主体性を持って関わっていくことが望ましい。一般的には、親族、介護支援専門員、相談支援専門員、施設長・施設ケア マネジャー等相談支援専門職・相談員、地域包括支援センター等行政機関の担当者、主治医・看護師・臨床心理士、医療ソーシャルワーカー・精神保健福祉士などが支援メンバー候補者であるが、これらの者に限るわけではなく、 本人が希望する場合には、本人が信頼する友人やボランティア、当事者団体のメンバーなどが加わることもあり得る。第三者的な立場のメンバーが加わることで、支援者らが無意識のうちに自分達の価値観に基づきプロセスを進めることを防ぐという効果も期待される。

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 第三者を入れることが薦められる場合と、入れない方が良い場合があると思います。その基準は曖昧ですが、周りの人の関係性から見極め、最後は決定権を持っている人が決めることになるのかなと感じます。

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本人の思いや意思が反映されやす いチームとすることを意識しつつ、課題に応じて適切なメンバーを選ぶことが重要である16。

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 課題に応じて、メンバーの心情や都合に応じて、選ぶことが重要だと思います。

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 基本的には、本人との日常のコミュニケーションの方法をよく知る者、専門的見地から発言ができる者、その課題について本人に適切な選択肢を示す ことができる者などがバランス良くメンバーに加わることが望ましい。メンバーには、本人の意思が明確に表明されない場合であっても本人の意思自体は存在するということを十分に理解し、その意思を汲もうとする姿勢が求められる。

 一方で、当該事案において本人と利害が明らかに対立する者、本人の意思決定に不当な影響を与える可能性のある者の参加は好ましくなく、慎重な判 断が求められる。

  •  支援環境の調整・開催方法等の検討

 本人を交えたミーティングに先立ち、支援チームのメンバー間において、 ミーティングの趣旨やミーティングにおける留意点をお互いに理解するように努め、また本人にとってどのような形でミーティングを開催するのが適 切であるかを、以下の点に留意して慎重に検討することが望ましい。

 チームが機能しているような場合、後見人等は、コーディネーターとして 振る舞う必要はなく、以下の留意事項も踏まえ、他の支援者らが本人の意思や特性を尊重しながら適切に準備を進めているのかをチェックし、問題がある場合には改善を促すという形での関与をしていくことが求められる17。

また、後見人等のみならず、他の支援者においても、意思決定支援が適切なプロセスをたどっているかについて、相互にチェックし合うような環境が整備できると更に望ましい。他方で、後見人等は、他の支援者らとは異なり、最終的な決定権限(法定代理権)を有しているが、自分の価値観が最終的な決 定に影響しないよう、意思決定支援の準備につき他の支援者らの意向を尊重するという意識を持つことも重要である。

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相互にチェックし合う、とう言葉は、何か別の言葉が使えないかなと思います。私なら、お互いに意見を言っても否定しない場づくりを心掛ける、くらいにしておきます。

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 これに対し、チームがうまく機能していないような場合には、後見人等は、中核機関等からの支援を受けて他の支援者らに働きかけを行い、支援者らの意識の改善を図った上で検討を進めたり、チームの再編成を試みたり(上記 2⑵参照)するなど、支援環境の調整段階から主体的に関与することが望ましい。

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働きかけ自体は出来ると思いますが、負担が大きいと感じます。

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 <ミーティング開催に当たっての留意事項>

▶ 本人は、いつ、どこで、どのような方法であれば安心して参加できるか。 また、誰に意思決定支援のチームに参加してほしいか。

 本人の特性・生活スタイルから避けた方がよい時間帯がないか、本人が一番安心して意思を表明できる場所はどこか、本人が安心して話をすることができる支援者が誰かについて十分に配慮すべきである。必ずしも「ケース検討会議」のような場面がいつも適切とは限らず、たとえば本人との少人数でのミーティングを行い本人の意思を十分に引き出した上で、本人意思の確認・ 共有のために支援メンバーが揃う場を設けるなど、段階的にミーティングを行っていく ことが望ましいケースもあり得る。

▶ 本人は、どのようなコミュニケーションの方法を望んでいるか。また、本人の意思決定を支援するために必要な調整・コミュニケーション手段について意識されているか。 本人がミーティングにおいて適切に意思形成・表明ができるよう、本人が意思決定を行う場合の課題を整理し(関連する情報の理解・記憶・比較・表現等の各要素に留意し て)、支援者らが本人の意思の形成を促し、引き出していくための手段を検討する18。

また、本人が課題を理解し、自分なりの意思決定を行うためには、ミーティングの進行における工夫や本人の特性に合わせたコミュニケーションスキル(意思疎通の技術)が必要である。そのため、誰が進行役(ファシリテーター)を務め、本人との意思疎通を誰 がどのように図り、本人が実質的にミーティングに参加できるようにどのように工夫す るか等、支援チーム全体で予め検討しておくべきである。

▶ 意思決定支援に関するミーティングであることが参加者により理解され ているかどうか。ミーティングの呼びかけ方によっては、参加者が会議の趣旨について抱くイメージが 変容してしまう危険性がある。支援者らの価値観に基づく結論が先にありき(いわゆる 「落としどころ」を決めて臨む)での本人を説得するために集まる場では決してないことを予め留意事項として認識させることが重要である。

 ▶ ミーティングにおけるメンバーの役割やルールが参加者により理解されているか。

ミーティングの参加者がすることは「本人の意見、考えを引き出す」こと、「支援者ら の価値観を押し付けない」ことであり、避けなければならないことは参加者が望ましいと考えることを押しつけたり、その方向に誘導・説得したりしないこと、本人の話を頭ごなしに否定・批判をしないことである。なお、検討のための手段としては、支援チームのメンバーが直接会って事 前の打合せをするほか、電話、メール、ファックス等で確認・意見交換する など、支援チームの構成や従来の支援実績、対象となる課題、本人の状況等 により、その方法は様々であってよい。

  • 本人への趣旨説明とミーティング参加のための準備 支援チームのメンバー、環境整備、開催方法を検討していく過程において、本人が信頼している意思決定支援のキーパーソンによって、本人にあらかじめミーティングの趣旨を説明しておくことが必要である。たとえば、支援メンバーの情報やミーティングの予定日時、場所のほか、自分で自分のことを決めていくことが大切であること、意思を決めていくためにメンバーができる限り協力すること、本人の意思を尊重し、受け止めてくれるメンバーがいるので安心 して意見を述べてよいことなどを丁寧に説明する。

その際、本人としては、課題についての自分の思いを聞いてもらうことが会議に向けた心の準備になることもあるため、本人が何か課題について思いを伝えようとしている場合には、 本人の話に耳を傾けることも重要である1920。

  • ミーティングの招集

進行管理に責任を持つ者において、関係者を招集する。その際、必要な資料の準備も行う21。

  • 本人を交えたミーティング

 ① 進行方法の工夫 ミーティングでは、主催者等(後見人等が兼ねることもある)は、事前の 環境調整を踏まえて設定されたテーマ及びミーティングのルールに沿って以下②・③の支援プロセスが展開されているかに注意しながら、会議を適切 に進行する必要がある。ミーティングは必ずしも1回とは限らず、複数回開 催したり22、本人の意思形成の状況によっては、その間に見学や体験を導入 したりすることが有効な場合もある。

 事前の環境調整で確認したことなどを踏まえ、本人の置かれている状況を、本人の特性を踏まえつつ分かりやすく説明するとともに、課題となる意思決 定事項に関連する本人の意思や考えを引き出すことができるよう最大限努力する。加えて、本人の意思や考えを踏まえつつ、現在の本人が採り得る選択肢を分かりやすく示す。選択肢については、それぞれのメリット・デメリットなどを説明する必要がある場合もあるが、その際には、殊更誘導や本人の選択を意図的に狭めるような説明、プレッシャーを与える言動のないよう配慮する必要がある。説明方法は、言葉によるものに限らず、タブレット端末、パ ンフレット、写真、絵カード等の視覚的な資料を用いるなどの工夫も考えられる。

このような本人の意思形成支援を行った上で、他者の不当な影響が及ばない状態において、本人が自らの意思を表明できるよう支援する。適切なコミ ュニケーション手段の選択はもちろん、表明を直接受け取る支援者、場所、 時間、雰囲気などにも配慮すべきである。

後見人等は、本人の権利擁護者として、本人が意思決定の主体として実質的にミーティングに参加できるよう、本人のペースに合わせた進行を主催 者・参加者に促していくことが期待される。ただし、後見人等だけで一連の意思決定支援を全て提供できるものではないため、主催者、参加者と適宜役 割分担をし、以下のポイントに留意しながら、チーム全体として意思決定支 援のプロセスを展開できるようにすることが大切である。

2 意思形成支援におけるポイント

 □支援者らの価値判断が先行していないか?

 ▶ 判断の前に本人の希望に着目し、できる限り「開かれた質問」23で尋 ねる。 □本人の「理解」と支援者らの「理解」に相違はないか?

▶ 本人に説明してもらう。同じ趣旨の質問を、時間をおいて、違う角度 から行ってみる。

 ▶ 説明された内容を忘れてしまうことがあるため、その都度説明する。

 ▶ 本人に体験してもらうことによって本人の理解を深める。 □選択肢を提示する際の工夫ができているか?

 ▶ 比較のポイント、重要なポイントを分かりやすく示す。

 ▶ 文字にする。図や表を使う。ホワイトボードなども活用する。 □他者からの「不当な影響」はないか? ③ 意思表明支援におけるポイント □決断を迫るあまり、本人を焦らせていないか?

▶ 時間をかけてコミュニケーションを取る。

▶ 重要な意思決定の場合には、時間をおいて、再度、意思を確認する。

 ▶ 時間の経過や置かれた状況、同席者の影響によって意思は変わり得る ことを許容する。

 ▶ 本人の意思決定を強いるものではない(本人がむしろ支援者らに判断 を任せたいという意思を持つこともあり得る。)。 □本人の表明した意思が、これまでの本人の生活歴や価値観等から見て整合 性があるか?

 ▶ これまでと異なる判断の場合には、より慎重に本人の意思を吟味する。

 ▶ 表面上の言葉にとらわれず、本人の心からの希望を探求する。 □意思を表明しにくい要因や他者からの「不当な影響」はないか? ▶ 支援者らの態度、人的・物的環境に配慮する。時には、いつものメン バーとは異なる支援者が意思を確認してみることも必要。

  • 意思が表明された場合

第1原則において、全ての人は意思決定能力があることが推定されている。 したがって、本人及び支援者らにおいて意思決定能力について特段疑問を持 たない限り、後見人等は、本人の意思決定に沿った支援を展開することが通常 である(なお、意思実現支援は本ガイドラインにおける意思決定支援には直接 含まれないものの、後見人等としては、身上保護の一環として、後見人等が本 人の意思の実現に向けて適切に行動することが期待される。)。 もっとも、表明された意思が本人の意思であるかは慎重に確認する必要があ り、支援者らによる意思決定支援が適切にされていないおそれがある場合24や、 本人の表明された意思に関し、支援者らの評価・解釈に齟齬や対立がみられる 場合には、再度意思決定支援を行う必要がある。

 また、本人の意思に揺らぎがみられるような場合には、一旦本人が意思を表明した場合であっても、直ちにその実現に移るのではなく、一定期間見守り、 表明された意思が最終的なものであるかを確認する必要がある。

  • アセスメントシートへの記録

後見人等は、(1)~(6)における意思決定支援のプロセスについて、アセスメ ントシート様式1に随時記録する。

 第4 意思決定や意思確認が困難とみられる局面における後見人等の役割

*本項に対応するアセスメントシート:様式2・様式3 1 関連する基本原則の確認

第2 本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くさなければ、代行決定に移ってはならない。

第4 意思決定支援が尽くされても、どうしても本人の意思決定や意思確認が困難な場合には、代行決定に移行するが、その場合であっても、後見人等は、まずは、明確な根拠に基づき合理的に推定される本人の意思(推定意 思)に基づき行動することを基本とする。

2 意思決定や意思確認が困難とみられる局面とは

特定の意思決定について、意思決定支援を尽くしたにもかかわらず、本人の意思や意向を把握することが困難であり(本人とのコミュニケーションが困難である場合や、本人の意思の揺らぎが大きい場合など)、かつ、法的保護の観点から決 定を先延ばしにすることができない場合もある。その場合には、下記3のとおり、 本人の意思決定能力のアセスメント(評価)を行った上で、意思決定をすること が困難であると判断された場合には、代行決定のプロセスに移行することになる。 なお、決定を先延ばしにすることができる場合には、改めて意思決定支援を行うことになる。

3 意思決定能力アセスメントの方法

  • 意思決定能力アセスメント

本ガイドラインにおける意思決定能力の定義からすれば(第2の2)、意 思決定能力アセスメントは、本人が独力で特定の意思決定ができるか否かを 評価するものではなく、支援者ら自身が意思決定支援を尽くしたにもかかわ らず、意思決定を行う場面で通常必要と考えられる4要素につき満たされな いものがあるかを評価することとなる。

 理解 :与えられた情報を理解する力

 ▶ 支援者側が実践上可能な工夫・努力を尽くしたにもかかわら ず、本人が意思決定に関連する情報を理解することができな かったかを評価する。

記憶保持:決定するためにその情報を十分に保持する力 ▶ 支援者側が実践上可能な工夫・努力を尽くしたにもかかわら ず、本人が情報を必要な時間、頭の中に保持することができな かったかを評価する。

比較検討:決定するためにその情報を検討する力 ▶ 支援者側が実践上可能な工夫・努力を尽くしたにもかかわら ず、本人がその情報に基づく選択肢を比較検討することがで きなかったかを評価する。

 表現 :決定について他者に伝える力 ▶ 支援者側が実践上可能な工夫・努力を尽くしたにもかかわら ず、本人が意思決定の内容を他者に伝えることができなかっ たかを評価する。

ここで重要なことは、意思決定能力は、あるかないかという二者択一的な ものではなく、支援の有無や程度によって変動するものであることから25、本人に意思決定能力がないと決めつけることなく、4要素を満たすことができるように、後見人等を含めたチーム全体で支援をすることが必要であるとい うことである。このように、意思決定能力アセスメントは本人の能力の有無のみを判定するアプローチではなく、支援を尽くしたといえるかどうかについても、チー ム内で適切に検討することが求められる。

  • アセスメントシートへの記録 意思決定能力アセスメントの検討プロセスについては、アセスメントシート様式2に記録する。

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おそらく、アセスメントシートその他の情報共有ツールが必要だと思います。パソコンなどから入力出来るような。情報漏洩が起きる危険があるので、ガイドライン作成が必要だと思います。

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 4 本人の意思推定(意思と選好に基づく最善の解釈)アプローチ

  • 基本的な考え方

意思決定能力アセスメントを実施した結果、本人の意思決定や意思確認 が、その時点ではどうしても困難と評価された場合、代行決定が検討される ことになる。もっとも、その場合であっても、後見人等が直ちに自らの価値判断に従って何が本人にとって最善であるかを決定することは避けるべきで ある。

後見人等を含めた支援チームが集まって、本人の日常生活の場面や事 業者のサービス提供場面における表情や感情、行動に関する記録などの情報 に加え、これまでの生活史、人間関係等様々な情報を把握し、根拠を明確に しながら本人の意思及び選好を推定することを試みることが必要である26。

すなわち、本人が自ら意思決定をすることができたとすれば、本人はどのような意思決定をしていたのかをまずは推定する必要がある。 収集された事実については、一見すると矛盾していたり、古すぎる情報、 又聞き情報といったものも存在したりするため、信頼できる情報を適切に選 別していく必要もある。さらに整理された事実に基づいて、本人の意思や価 値観を合理的に推定していくために関係者による評価が行われる。後見人等は、本人の権利擁護の代弁者であるという意識を持ち、十分な根拠に基づいて本人の意思推定が行われているか、関係者による恣意的な本人の意思推定が行われていないかどうか等を注視していくことが求められる。

 このような整理や評価は、単独で行うことは通常困難であり、意思決定支 援の場面で構築されたチームを活用し、複合的な視点から検討する必要がある。意思推定は、本人に意思決定能力があればどのような決断をしていたのかを第三者が推定し、判断するものである。支援チームがいかに努力したとしても本人の意思そのものとは異なって解釈される可能性があることから、慎重な取扱いが求められる。

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 本人も時間や状況によって意思は変わると思うので、支援チームが割く時間を予め決めておかないと、疲弊が起きると感じます。

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  • 検討結果に基づく後見人等としての行動原則

 ミーティングの結果、本人の意思が推定できる場合には、第5原則「本人にとって見過ごすことのできない重大な影響」に該当しない限り、後見人等も含めた支援者らは、本人の信条・価値観・選好に基づいて支援を展開する こととなる。他方、意思推定すら困難な場面では、第5原則及び第6原則に沿って行動することが検討される(最善の利益に基づくアプローチ。第5参照)。

  • アセスメントシートへの記録

 後見人等は、上記4(1)の本人の意思推定に基づく代行決定の検討プロセス について、アセスメントシート様式3に記録する。

第5 本人にとって見過ごすことができない重大な影響が懸念される局面等における後見人等の役割

*本項に対応するアセスメントシート:様式4 1 関連する基本原則の確認 第3 一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能 力がないと判断してはならない。

第5 ①本人の意思推定すら困難な場合、又は②本人により表明された意思等 が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる場合等には、 後見人等は本人の信条・価値観・選好を最大限尊重した、本人にとっての 最善の利益に基づく方針を採らなければならない。

 第6 本人にとっての最善の利益に基づく代行決定は、法的保護の観点からこ れ以上意思決定を先延ばしにできず、かつ、他に採ることのできる手段がない場合に限り、必要最小限度の範囲で行われなければならない。

 2 本人にとって見過ごすことができない重大な影響が生じる場合等 (1) 基本的な考え方 意思決定支援の結果として、本人が意思を示した場合や、第4のプロセスを踏むことにより本人の意思が推定できた場合であっても、その意思をそのまま実現させてしまうと、本人にとって見過ごすことができない重大な影響が生じるような場合がある。その場合、当該意思をそのまま実現することは 適切ではないため、法的保護の観点から、「最善の利益」に基づいた代行決 定を行うことが許容される。

 また、本人の意思を実現すると、権利侵害を第三者に生じさせるような場面においても、個別具体的な事情に応じて、「最善の利益」に基づく代行決定を検討すべき場合がある。

検討方法 「重大な影響」といえるかどうかについては、以下の要素から判断する。

 ① 本人が他に採り得る選択肢と比較して、明らかに本人にとって不利益な 選択肢といえるか

2 一旦発生してしまえば、回復困難なほど重大な影響を生ずるといえるか

  •  その発生の可能性に確実性があるか

 例として、自宅での生活では本人が基本的な日常生活すら維持できない場合や、本人が現在有する財産の処分の結果、基本的な日常生活すら維持でき ないような場合が挙げられる。

 意思推定の場面と同様、このような整理や評価は、単独で行うことは通常困難であり、意思決定支援の場面で構築されたチームを活用し、複合的な視点から、明確な根拠を示して検討する必要がある。

(3)検討結果に基づく後見人等としての行動原則

 ミーティングを踏まえて、「本人にとって見過ごすことができない重大な影響」が発生する可能性が高いと評価される場合等には、後見人等は、本人が示した意思決定(推定意思の場合には、本人に意思決定能力があれば示したであろう意思決定)であったとしても、法的保護の観点から、同意しない(同意権・代理権の不行使)又は本人の示した意思とは異なる形での代行決定(代理権、取消権の行使)を行うことがある27。

他方、第三者からみれば必ずしも合理的でない意思決定であったとしても、「本人にとって見過ごすことができない重大な影響」が発生する可能性が高いとまでは評価できない場合には、本人なりの価値判断に基づく意思決定であることを踏まえ、後見人等も含めた支援者らは、本人の信条・価値 観・選好に基づいて支援を展開することが期待される。

  • アセスメントシートへの記録

後見人等は、本人にとって見過ごすことができない重大な影響が生じるかどうかの検討プロセスについて、アセスメントシート様式4に記録する。

 第6 本人にとっての最善の利益に基づく代行決定

 *本項に対応するアセスメントシート:様式5

1 関連する基本原則の確認 第5 ①本人の意思推定すら困難な場合、又は②本人により表明された意思等が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる場合には、後見人等は本人の信条・価値観・選好を最大限尊重した、本人にとっての最 善の利益に基づく方針を採らなければならない。

 第6 本人にとっての最善の利益に基づく代行決定は、法的保護の観点からこれ以上意思決定を先延ばしにできず、かつ、他に採ることのできる手段がない場合に限り、必要最小限度の範囲で行われなければならない。

 第7 一度代行決定が行われた場合であっても、次の意思決定の場面では、第 1原則に戻り、意思決定能力の推定から始めなければならない。

2 本ガイドラインにおける「最善の利益」に基づく代行決定 これまで述べてきたとおり、①意思決定支援を尽くしても本人の意思が明確 ではなく、かつ、本人の意思を推定することさえできない場合や、②本人が表 明した意思や推定される本人の意思を実現すると本人にとって見過ごすことが できない重大な影響が生じてしまう場合には、後見人等は、「最善の利益」に基づく代行決定を行うことになる。

 本ガイドラインで採用されている最善の利益は「本人にとっての最善の利益」、すなわち、本人の意向・感情・価値観を最大限尊重することを前提に他の要素も考慮するという考え方である。この点、「自分ならこうする。この方が本人のためだ。この人はこういうふうに行動すべきだ。」と、第三者の価値観で決めるという客観的・社会的利益を重視した考え方は採用していないことに注意が必要である

 3 本人にとっての「最善」を検討するための方法

  • 最後の手段としての位置付け

本人にとっての最善の利益に基づく代行決定は、意思推定の場面とは異なり、 本人の意思よりも他者の判断が優越し得る場合がある(本人の意思や推定意思 とは異なる他者決定があり得る)ということに留意する必要がある。したがっ て、使い方を誤るとかえって本人の自己決定権の侵害となる可能性もあるため、 最後の手段として慎重に検討されるべきものである。 特に後見人等としては、付与された代理権、取消権をどのように行使すべき かを検討する上で、第6原則を踏まえて、下記(2)のように検討すべきである。

 (2) 本人にとっての最善の利益を検討するための前提条件

 □ 意思決定能力アセスメントが実施されているか?当該意思決定について、 意思決定支援が尽くされているか否かを吟味する過程があったか? □ その結果、意思決定支援の限界場面と評価できるか? ▶ 意思決定支援が尽くされたにもかかわらず、本人の意思決定や意思確認 がどうしても困難であり、かつ、意思推定すら困難といえるか?

 ▶ 本人にとって見過ごすことができない重大な影響に該当するといえる か? □ これ以上決定を先延ばしできない場面と評価できるか?

 ▶ 意思決定をしないこと(思うようにさせておくこと)もまた決定であり、 行動しないことが本人に与える結果についても念頭におく必要がある。 □ 後見人等による代行決定が及ぶ意思決定か? 後見人等が代行決定することができない意思決定(身分関係の変動、身体への侵襲を伴う医療に関する意思決定等)には当たらないことの確認が必要 である。 また、他の法律による介入が必要と判断される場合(例えば虐待防止法に おける「やむを得ない事由による措置」の発動など)には、所管する関係機 関に対して会議への同席を求めることも検討する。 □課題とされている意思決定に関与する本人の支援者らから、本人の選好・価値観その他本人にとって重要な情報が十分に得られているか? □ 本人が最善の利益の検討過程に参加・関与できる機会が考慮されているか? 後見人等は、本人にとっての最善の利益の判断に至る過程が適切に議論されているかどうかを確認する必要があるが、このような議論の整理や評価は、後見人等や支援者らが単独で行うことは通常困難である。

 したがって、緊急判断が求められる場面でない限り、意思決定支援の場面で構築されたチームを活用し、複合的な視点から検討する必要があるが、その際 には、無意識のうちに支援のしやすさを優先していないか、最初から結論を決めており、代行決定を後付けの根拠としようとしていないかといった点に注意しなければならない。

 (3) 本人にとっての最善の利益を検討する際の協議事項28

 ① 本人の立場に立って考えられるメリット、デメリット(本人の主観的利益・ 損失を含む)を可能な限り挙げた上で、比較検討する。表(バランスシート) に記録することが望ましい。

2相反する選択肢の両立可能性があるかどうかを検討する。 二者択一の選択が求められる場合においても、一見相反する選択肢を両立 させることができないか考える。

  •  本人にとっての最善の利益を実現するに当たり、本人の自由の制約が可能 な限り最小化できるような選択肢はどれかを検討する。 例えば、住まいの場を選択する場合、選択可能な中から、本人にとって自由の制限がより少ない方を選択する。また、本人の生命又は身体の安全を守るために、本人の最善の利益の観点からやむを得ず行動の自由を制限しなくてはならない場合は、行動の自由を制限するより他に選択肢がないか、制限せざるを得ない場合でも、その程度がより少なくて済むような方法が他にないか慎重に検討し、自由の制限を最小化する。その場合、本人が理解できるように説明し、本人の納得と同意が得られるように、最大限の努力をすることが求められる。

 4 検討結果に基づく後見人等としての行動原則

後見人等は、最善の利益に関する協議結果を踏まえて、与えられた裁量・権 限の範囲において、代行決定を行う。 最善の利益に関する協議が、後見人等及び関連する支援者らにおいて真摯に行われることによって、当該代行決定が合理的かつ適切な情報に基づいて行われたことが推定される。将来的には、後見人等による権限行使・不行使が適切 であったことを担保するための根拠資料となることも想定される。重要なことは、第1原則である。特定の意思決定についてこれ以上先延ばしができない場面において、後見人等による代行決定がされたとしても、将来にわたり本人が当該意思決定をすることができないと評価されることはないし、ましてやそれ以外の意思決定を行う能力がないと評価されることもない。

なぜならば、意思決定能力アセスメントや代行決定は、意思決定をする・しないといった判断が迫られている限定的な場面の中で行われる本人の意思決定プロセスに対するその場限りの介入であり、異なる時点・場面においては、同じ意思 決定に関する課題に対しても、本人(及び支援者らの意思決定支援力の総体と して)の意思決定能力は変化し得るからである。

 例えば、生命・身体の具体的危機に直面しているセルフ・ネグレクト状態に 置かれた本人に対する介入の場面では、本人の意思決定支援を十分に行う余裕 がない中で検討が進み、限られた時間の中での支援では本人自身の意思決定・ 意思確認がどうしても困難、又は意思が推定できても「見過ごすことのできな い重大な影響」が既に発生している場面として評価され、自宅から施設へ本人 の住まいの変更に関する諸契約について、後見人等が代行決定せざるを得ない 場面も考えられる。

しかし、一旦本人が安全な環境に置かれ、意思決定支援を行う時間的余裕が確保でき、再び意思決定支援のプロセスを丁寧に経ることが可能となった段階においては、本人の住まいや生活に関わる意思決定を本人自身が行うことのできる可能性も十分考えられる。本人の自由の制約を可能な限り最小化する観点からも、一旦代行決定がなされたからといって、本人が今後意思決定することのできる機会を取り上げるのではなく、再編成された意思決定支援チームによって、本人による意思決定の機会が最大限提供され、本人自身の意向・身上・価値観を踏まえた今後の住まいや生活を可能な限り保障していくことが求められる。

 したがって、再び何らかの意思決定が課題となる場面が生じた場合には、改めて意思決定支援のプロセスに立ち戻って支援が展開される必要がある。

5 アセスメントシートへの記録

後見人等は、本人にとっての最善の利益に基づく代行決定の検討プロセスにつ いて、アセスメントシート様式5に記録する。

以上

1 典型的には、本人が在宅での地域生活を希望しているのに十分な検討をせずに施設等の利用を支援者らが選択し、本人の保護という名目の下、本人に説得をしてしまう例などが挙げられる。

2 後述のとおり、本ガイドラインはチームによる意思決定支援を前提とするものである。そのため、チーム形成やチームの連携に向けて中核機関がサポートを行う際や、中核機関、地域包括支援センター、基幹相談支援センター等と後見人等を含めたチームが連携する際の参考として活用されることも期待される。

3 後見監督人は直接、意思決定支援に関与する者ではないが、意思決定支援を踏まえた後見事務を監督する立場 にあることからすれば、後見監督人においても意思決定支援について理解をしておくことが望ましい。

 4 既に実践において活用されている他のアセスメントシート等を使用することでも問題ない。

5 意思実現支援としては、例えば、生活の本拠について検討する場面において、本ガイドラインのプロセスに沿って意思形成支援・意思表明支援が行われた結果、自宅をリフォームした上で在宅での生活を継続する旨の本人 意思が示されたのであれば、後見人等としては、身上保護活動の一環として、自宅のリフォームのための契約締 結など必要な後見事務を適切に行うことが求められる。

 6 意思決定能力は法律で定められた概念ではなく、意思能力や行為能力とは異なるものである。本ガイドラインでは、意思決定能力は、あるかないかという二者択一的なものではなく、支援の有無や程度によって変動するも のであるという考え方を採用している。

7 成年後見人等の権限の広さや本人の生活に与える影響の大きさに鑑み、意思決定支援のプロセスを踏まえない安易な推定に基づく法定代理権の行使・不行使を戒めるという趣旨から、本ガイドラインでは、意思推定を代行 決定と捉え、濫用を防止するための慎重な検討を求めるという立場を採用している。

8 一般的には日常的と評価される行為でも、本人にとっては日常的とは言えない場合もあり得る。そのような場 面では、本人にとっての重要性に鑑みて、後見人等がその意思決定支援に関与することが求められていると考え られることから(例えば、これまで携帯電話やスマートフォンを所有していなかった本人が初めてこれらを購入 することになったため、機種や料金プランを選択する場合など)、本ガイドラインでは、「本人にとっての影響の 大小」を基準としている。

9 「成人した本人の人生周期(ライフサイクル、ライフステージ)」においては本人にとっていくつかの重大な意 思決定を求められる場面が考えられる(就職、転居、転職、サービスの契約と利用、入院、施設入所、相続 等)。これらの課題は、本人からの相談や家族や支援者らからの情報提供だけではなく、後見人等が本人の生活 状況を確認することからも発見される。

10 後見人等は医療行為に関する同意権は有していないが、医療の局面における後見人等の関与の在り方について は、厚生労働省 2018 年度厚生労働行政推進調査事業費補助地域医療基盤開発推進研究事業「身寄りがない人の 入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(2019年5月)を参照されたい。

11 従前、本人が自ら意思決定をしたという経験の少ない人については、日常生活において何を食べるか、今日何 を着るかなどの身近な決定を支援者らの支援によって繰り返すことにより、自身の意思を尊重される体験を積む ことができ、自信を持って意思を表明することができるようになる。

 12 本人がエンパワメントを受けて変化した結果、支援者らがそのような本人の姿に感化され、支援活動に一層前向きになることもある。

13 他方で、それぞれの立場や考え方が異なることを認識し、多角的な視点から検討することによって本人の多面 的な生活を支援することができるという認識を持つことが重要である。

 14 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(2 017年3月)、厚生労働省医政局地域医療計画課「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関す るガイドライン」(2018年3月)、厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室「認知症の人の日常生活・社会 生活における意思決定支援ガイドライン」(2018年6月)、厚生労働省 2018 年度厚生労働行政推進調査事業 費補助地域医療基盤開発推進研究事業「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関 するガイドライン」(2019年5月)。

15 本人との信頼関係が構築されていない段階では、本人から直接得られる情報は限定的になりがちであるため、 親族等の周囲の支援者らからの情報収集に努めることが有益な場合も多い。

16 毎回、メンバー全員が形式的に集まる必要はない。

17 支援環境の調整段階で他の支援者らが中心となって検討を行うことも少なくなく、後見人等が必ずしも検討の 場に常に同席を求められるとは限らない。

18 例えば、本人の状況によっては、支援メンバーの些細な言葉や態度に敏感に反応し、影響されることもあり得 るため、何気ない感想やコメント(例えば「○○だと大変そうだね」という言葉で当該選択肢は避けるべきと考 えてしまう)にも気を遣う必要があるかもしれない。また、質問の仕方によっては、本人へのプレッシャーにな ることもあるかもしれない(例えば「どうして〇〇しないの?」「〇〇したいと思わない?」など)。さらに、本 人の意思疎通手段が限られている場合には、本人にとって最も意思が表出しやすいコミュニケーション手段が何 かを考え、適切な通訳者の確保、タブレット端末、絵カード、写真等の準備等が必要になるかもしれない。

19 この確認に当たっては、例えば、本人が「はい」等と了解するような言葉を述べていても、本人の表情や動作等を観察しながら本人の意思を確認することが望ましい場合もある。

20 支援メンバーを通じて本人の思いを聞き出し、後見人等に伝えてもらうこともあり得る。

21 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(2 017年3月)、厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決 定支援ガイドライン」(2018年6月)等参照。

22 本人の反応や意見次第では、支援チームのメンバーや開催方法等を再検討することも考えられる。

23 「開かれた質問」とは、「はい」「いいえ」では答えられない自由な答えを求める質問のこと。「どうして?」「どんな点が?」など。

24 例えば、過剰な誘導や、周りの思惑に基づき本人を説得するようなアプローチを繰り返し、本人が「同意」せざるを得ないような状況に追い込んだ上で、それが本人の意思決定と取り扱われているような場面などが考えられる。

25 意思決定能力に関する基本的な考え方については、厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室「認知症の人の 日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(2018年6月)4 頁脚注 ix を参照

26 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(2 017年3月)参照。

27 この場合、本人の意思とは異なる結果を招くことになるため、それによって本人に生じる負担等に対し、継続 的な支援が必要となり得ることに留意する必要がある。

28 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(2 017年3月)参照。

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