法制審議会信託法部会 第45回会議 議事録


法制審議会信託法部会 第45回会議 議事録 第1 日 時  平成29年10月10日(火)   自 午後1時29分                          至 午後5時16分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題 公益信託法の見直しに関する中間試案のたたき台の検討 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第45回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,小幡委員,神田委員,岡田幹事,松下幹事が御欠席です。   まず,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。 ○中辻幹事 本日の御審議は,前回配布の部会資料43を使用して行うことを予定しておりますが,当日配布資料として,吉谷委員から頂いた「公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任に関する意見書」を机上にお配りしております。   これらの資料がお手元にない方がいらっしゃいましたら,お申し付けください。よろしいでしょうか。 ○中田部会長 それでは,前回から引き続き,部会資料43の第12以降について御審議を頂きます。   前回申し上げました進行予定のとおり,本日は「中間試案のたたき台(1)」の審議の2回目ということで,この資料の最後,第19まで審議を進めることを予定しております。大部でございますけれども,御協力をお願いいたします。   途中,3時半頃,切りのよいところで休憩を挟むことを考えています。   それでは,本日の審議に入りますが,まずは,前回,途中で終わりました第12から第14までの審議を行いたいと思います。   事務当局からの説明は前回既にされておりますので,本日は引き続いての意見交換に入ります。御自由に御発言をお願いいたします。 ○吉谷委員 私の方でお配りさせていただいておりますのは,第13につきましての代案という形で,甲案,乙案を作りましたものでございます。前回の発言内容が明確にお伝えできなかったかもしれないと思いまして,信託協会でも協議した上で,文書の形にしてお示ししたものでございます。要旨のみお話しいたします。   辞任と解任ともに,甲案が信託協会の考え方をお示ししたもので,2ページ目の下のところに,1,2の「甲案の要点」というふうに記載しておりますとおり,受託者の辞任・解任に行政庁の認可を必要とすること,委託者の権利を原則なしとする任意規定とすることの,この2点を盛り込んだものが甲案でございます。対しまして乙案は,法務省提案をベースにいたしまして,委託者の権利は原則なしとした場合にはこのようになるのではないかということで作りましたものでございます。   この提案の理由につきましては,3ページ目の冒頭に要旨として御説明しているとおりでございますけれども,更に補足させていただきますと,要旨の更に下に書いてありますとおり,法務省提案では事実上,当事者の合意による信託の終了というのを認めていることと等しくなるのではないかと考えておりまして,この点につきましては,39回会議でも,問題となり得ることについては,ある程度ほかの方からの御意見があったのではないかと考えており,また,要旨あるいは4ページに記載のとおり,税制との整合性の問題もあると考えているところです。   委託者につきましては,4ページに記載しておるのですけれども,元々の提案ですと,第14の信託管理人のところと合わせますと,委託者が単独で人事権を握るに等しいことになってしまいまして,公益信託の在り方や税制との関係で論点となるのではないかと考えております。それで,デフォルトでは権利なしとすることがよいと考えているというところでございます。   もし,今のような委託者の権利を,デフォルトでありとする提案とされる場合には,任意規定の意味であるとか,どういう論点があるとかというところを示していただければと思っております。   あと,意見書からは離れますが,御提案の一番最後の(注)があるのですけれども,(注)の内容について,まだ御意見,御議論があったのかどうかというのが分かりませんで,3の(注)は不要なのではないかというふうにも思ったところでございますので,そういうところについても,ほかの委員,幹事の方の御意見を教えていただければと考えております。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ただ今頂きました資料の甲案,乙案というのは,これは吉谷委員の方で新たな御提案として甲案を出しておられるというわけで,部会資料43の甲案とは別のものだということでよろしゅうございますね。   御意見の骨格としては,第13について,受託者の辞任についての同意ないし合意だけではなくて行政庁の認可が必要である,あるいは裁判所の許可だけではなくて行政庁の認可が必要であるということが一つ。もう一つは,委託者を原則として掲げるのではなくて,むしろ例外的に,追加的に含めることができるようにすべきであると。この2点が主な御意見かと伺いましたが,そういうことでよろしいでしょうか。   それから,最後におっしゃった(注)といいますのは,部会資料43の第13の3の最後にある(注),行政庁に意見を聴くという考え方についてのコメントであったということでよろしいでしょうか。   今の吉谷委員の御意見について,更に御意見,御質問を頂きたいと思いますが,その前に,深山委員からお願いいたします。 ○深山委員 それでは,第12の点について申し上げようと思ったのですが,その前に,第13の話が出ましたので,その点に関連したところから申し上げたいと思います。   今議論しているこの資料は,パブコメに付するための資料ということだと理解しておりますので,基本的にはそれなりに議論が分かれたといいますか,意見の対立のあるところについては,幅広く取上げて,国民一般,社会一般の意見を求めるという姿勢が大事だろうと思います。   そのような意味で,今,吉谷委員からの新たな提案も併せてパブコメに付すということも,そうあってしかるべきだと思いますが,そういう基本的な考え方に従いますと,最後に吉谷委員から指摘のあった第13の3の(注)の考え方,この考え方についても,弁護士会で議論をしたところでは,十分な合理性がある考え方として,(注)ではなくて,例えば本文が甲案であれば,これを乙案という形で,もう少しクローズアップした形で取り上げてもいいのではないかという議論をしました。   それに関連して,補足説明の中では,更に届出制にする考え方もあるというようなことも書かれております。これも,確かに一理あるなと思います。余りこの場で議論がなかったという意味では,全く同格ではないのかもしれませんが,それこそ(注)ぐらいには上げて,ゴチックの方にも届出制という考え方についても言及をしていただき,現在の(注)はむしろ乙案というような形で,もうワンランクアップしていただくと良いと思います。さらには,本日の吉谷委員の提案も含めると,かなり選択肢が増えてしまって,法務省としては余り議論を拡散するのは好ましくないというお考えもあるのかもしれませんけれども,やはり重要なところについては,この段階ではまだ複数案をパブコメに付するという基本姿勢を重視するべきではないかなと考えます。   以上が第13についての意見です。   一つ戻りまして,第12のところについて,全体として異論はないのですけれども,第12の1の「行政庁の権限」の(4)と,それからその後の(注)がございます。(4)のところは,正当な理由なく行政庁の命令に従わなかったときに取り消さなければならないという,必要的な取消しについての規律を提案しており,(注)のところでは,認可基準のいずれかに適合しなかったときに,任意的に取り消すことができるという考え方を御紹介していただいております。   これは,もちろん場面が違う問題であるので,対立するといいますか,考え方の違いというよりは,場面の違うものとして(注)を記載していただいていると思うのですが,そういう意味でいいますと,必要的取消事由というべきものと,任意的取消事由というものはそれぞれ分けて考えるべきです。公益法人認定法29条でも,その1項で必要的取消事由が掲げられ,その2項で任意的取消事由が規定されていることに鑑みますと,基本的には,公益社団法人,公益財団法人と同じような規律として,必要的取消事由と任意的取消事由を分けて,なおかつ併記をし,それぞれ規定をするということでよろしいのではないかと考えておりますので,そこは御検討いただければと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 吉谷委員に,いや吉谷委員ではなくても,深山委員でも他の方でもよいのですけれども,少し伺いたいことがあります。第13で議論があったときに,行政庁の許可にするのか,裁判所の許可にするのかという議論が最初にありましたね。それで,第13に関しては,別に公益認定とかの問題ではなくて,私法上の法律関係というか,そこから離脱をするときに,やむを得ない事由があるいは正当な理由があるかどうかというのを判断するのは裁判所なのではないかという話になり,裁判所とされたわけですね。   さて,このたび,行政庁の認可というのをそこに加えるべきであるという提案がされるとき,行政庁の認可の基準は何なのか,行政庁はそこで何を判断するという前提で,このような提案があるのか,そこをはっきりさせないと,二重に許可が必要なのかという疑問が出てくると思うのです。あるいは,行政庁の認可だけでいいのではないかという話も出るかもしれませんけれども,仮に二重であるならば,また,当事者の合意による離脱のときには,当事者の合意というのは何を行っていて,それに対して,行政庁というのはどのような観点から認可あるいは不認可とするのかという問題があるような気がするのですが,その点についてはどういうつくりとしてお考えなのでしょうか。 ○吉谷委員 私の方でお示しした提案では,行政庁の場合も,やむを得ない事由,正当な理由というような形で書いておるのですけれども,それは今の御指摘からすると,やや手抜きで,コピペをしただけなのかもしれません。ですので,もう少し正確に申し上げますと,行政庁の判断基準は,やはり公益の認可の判断基準によるということになると思います。それは,受託者については,能力要件というものもあると思いますし,実際にこの受託者ではその他の認可基準を満たすことができないというような場合というのも考えられると思っております。 ○道垣内委員 例えばある受託者が,こういう事由があるので辞任したいと言っているときに行政庁により判断されるのは,新受託者候補者の適格性であるというお考えですか。生身の人間が受託者になるというのは余りないかもしれませんけれども,教科書的には,やむを得ない事由の例として,病気によって受託者の任務が遂行できなくなったといった例が書いてあったりするわけですよね。そうすると,病気によってできないと言っている人に対して,何かもう少しやれと言われるのは,かわいそうな感じがするのですけれども,新受託者の適格性について判断をして,新受託者についてきちんと候補を出していかないと駄目ですよというのならばわからないではないような気もします。そういったつくりにするというお考えなのだろうかということをお伺いしたいのです。 ○吉谷委員 資料の方では,甲案の注書きとして,①,②,③というのをお示しさせていただいておりまして,そこに③で「新たな受託者の選任に関する意見を記載した書類」というのを付けているところです。これは,現行の公益認定の基準のところをそのまま引き写したような形で持ってきておるのですけれども,ただ,辞任の場合に,必ずしも新たな候補がもう大体決まっているというようなことまで求めているわけではありませんで,辞任しなければいけない理由として,①の理由だけでも辞任を認めるべき場合というのはあるのではないかと考えております。   ただ,辞任の場合には,後任の受託者が任命されるまでは,引き続き信託事務処理はするという前提になっていると思いますが,多分,辞任が認められたら,受託者の不存在で1年間たてば,そこで終了になってしまうと思いますので,新たな受託者のめどが立っていなくても辞任すべきであるというような場合ということになるのではないかと考えております。 ○沖野幹事 今の吉谷委員の御提案についてなのですけれども,行政庁として認可をするというのは,この受託者でやっていけるのかということが一番主眼になるということで,新受託者の選任の方にはそれが関わってくることになりますので,辞任や解任によって別の受託者が立つ場合は,これでいいのかというチェックはそちらで掛けるようになっているのが今回の40ページの3であると考えております。   そうしたときに,辞任や解任というのは,基本的には信託法の規律に則しており,ただ,公益信託への特殊性がどこまであるのかということで規律が立っているのだと思うのですけれども,そうした場合に,取り分け,問題として指摘されているところで気になりますのは,終了の合意の潜脱にならないかという点でございまして,辞任によって新しい受託者が選任されて,信託を続けていくという場合については,そこはチェックが掛かるのですけれども,同意によって辞任して,そのまま1年たつと終了してしまうということがあります。しかも,辞任の場合ですと,今,吉谷委員がおっしゃいましたように,同意による辞任の場合には,元々の受託者がそのまま権利義務を継続するということになっていて,保管ですとか引継ぎに限られるということでもないですので,ずっと受託者をやっていて,あるときぱっと終わるということになるのが,合意による終了のところには行政庁のチェックを受けるということになっている50ページの第16の2の規律との関係で,問題がなくはないかという点は,確かに御懸念が当てはまるのではないかと思います。そのときに,およそ一般的に辞任・解任について,行政庁の認可を掛けるという考え方により,幅広く網を掛けるような形がよろしいのかどうかというのは,なお気になるところでして,考え方を問うとしても,せいぜい注記ではないかと思います。   もう一つは,そこが取り分け問題であるならば,合意による終了のところで,今の同意を得て辞任して1年たって,ずっと継続はしているのだけれども,新しい受託者も選任できませんでしたということで終わるという場合についても,行政庁のチェックを掛けるということは考えられるのではないかと思っております。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。ただ今の吉谷委員の御提案に限らず,原資料の第12から第14のいずれでも結構でございます。 ○平川委員 第12につきましては前回申し上げたとおりで,第13の点につきまして,吉谷委員の行政庁の認可というお話がございましたけれども,私の意見といたしましては,私的自治の尊重の観点から,当事者の同意を得て辞任することができるということに,むしろ賛成いたします。   この場合,当事者には委託者,信託管理人のほか,また申し上げますと,運営委員会が含まれるべきであると考えておりますが,このことは第13の2及び3の場合も同様の趣旨でございます。   更に申しますと,運営委員会必置論というのは大勢の意見とはならず,パブコメ案では,ないという前提で構成されると考えるとすれば,ここで是非確認していただきたいことは,運営委員会的機関が個別の信託行為で設置し得るということ。その場合,その権限内容等についても,強行法規として,受託者,信託管理人,委託者に付与された権限を奪うことにならない範囲内で,受託者の辞任・解任,新選任に係る合意について権限を有するよう自由に設計できることを,ここで確認していただきたいと思います。    例えば,受託者の解任について,委託者及び信託管理人の合意に加えて,運営委員も合意当事者として,これら3者の合意が得られなければ裁判所の権限とするというようなこと。また,この確認は,次の第14についても同じとするほか,当事者の合意による委任終了の場合も同様と考えます。   受託者の辞任の話に戻しますと,当事者の同意が得られなかった場合に,第三者機関の許可を得て辞任することができるとしますが,第三者機関としては裁判所がふさわしく,その場合,辞任には正当な理由があれば足り,やむを得ない事由を必要としないというふうにするのがよいと思います。   第13の2につきましては,委託者及び信託管理人の合意による解任については,一般的には後任の受託者を予定している場合も考えられることから,広く正当な事由があるときで足りると考えます。合意がない場合の解任については,当事者に争いがあることが予想されることから,重要な事由を必要とする法務省案に賛成いたします。   委託者については,出捐以後は受益者のある民事信託と比べ,極力その権限を縮小すべきであることから,信託行為において,受託者の解任の申立権を有しない旨を定めることができることに賛成します。ただし,委託者の権限縮小の観点から,そもそもその権限を持たないとする考えも検討していただきたいと思います。   第13の3につきまして,新受託者の選任について,信託行為に定めがある場合並びにない場合のいずれの選任についても,法務省案に賛成します。   新受託者が行政庁による選任の認可を受ける必要があるかどうかについては,公益法人制度において,役員等の変更の場合と同様,行政庁への届出,必要により事前届出ということになると思いますが,行政庁への届出で足り,形式要件を備えているかどうかについて,届出受付けの際,チェックすることで足りると考えます。   新受託者が非適格であることが後に判明すれば,それは公益認可の取消しの問題として処理するということになると思います。   また,裁判所が新受託者を選任した場合においても届出で足り,新受託者が行政庁の選任の認可を受けたりする必要はなく,不適格の場合は認可後の取消しの問題として処理すれば十分であると考えます。   また,裁判所が選任する前に行政庁の意見を聴くということは,実務的にもなかなか難しいのではないかと考えますので,不適格の選任であれば,行政庁の上記対応,すなわち不適格の場合は,認可後の取消しの問題として処理すればよいと考えます。 ○棚橋幹事 第13の3について2点申し上げます。まず,先ほど深山委員からお話のあった第13の3の(2)の下の(注)を本文に移動させる点についてです。以前の部会でも変更命令の部分で少し述べましたが,裁判所が事前に意見を聴取するということにした場合に,先ほど道垣内委員も近いことをおっしゃったのかもしれないのですが,行政庁が意見を述べる対象は認可基準の充足性の点であり,裁判所が判断するのは必要性の点であるため,判断事項は別々になると思います。注を本文に移動させるには,それぞれが別々の事項を判断するにもかかわらず裁判所から行政庁に一つの手続内で求意見をする必要があるのか,行政庁の判断部分に不服がある場合にはどうするのかなどの疑問をクリアする必要があるのではないかというのが1点目です。   2点目は,質問なのですが,まず少し前置きのようなことを申し上げると,今回,第13の3の(2)で,合意がないときは,裁判所が私法的な合意に代わって新受託者を選任するという案を御提案されています。当初から述べていたことの繰り返しになりますが,元々公益信託は,目的が公益であるという点や,単なる契約ではなく公益法人にも類似する機能を有する点で,私益信託とはかなり異なるものかと思っており,裁判所が私益の調整という観点から,どこまで監督ができるのかという点は疑問があります。特に新受託者の選任については,一時評議員を選任するというような保全的な場面とは違い,常任の機関である新受託者を選任することになりますので,裁判所が私益の調整という観点から,合意に係る協議の状況その他の事情に照らして必要があると認めた場合には,常任の受託者を選任するということが,公益信託の目的や,公益信託の運営に支障を生じさせないのかについて,懸念がないわけではないと考えております。以上が前置きで,1点質問がございまして,以前,変更命令に関して申し上げたことですが,裁判所が新受託者を選任するという案を採った場合に,新受託者を選任した後,今回の提案では行政庁による認可を受けることになりますので,新受託者選任から認可までの間の行為の効力はどのようになるのか,また,認可を受けられなかったときには効力はどのようになるのかという点は,どこかの段階で教えていただければと思っております。 ○中田部会長 2点とおっしゃいましたのは,私が聞き漏らしたのだと思いますけれども,裁判所が新受託者を選任する際に,選任から認可までの間の法律関係がどうかということと,それから--それが1点目ですか。 ○棚橋幹事 申し上げたかった2点のうちの1点目は,最初に申し上げた行政庁の意見を聴くという案に関して,疑問をクリアする必要があるのではないかという点で,2点目が,効力がどうなるのかという点でございます。 ○中田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,今,棚橋幹事からの御質問がございましたし,それまで他の委員,幹事からの御意見も出ておりますので,この辺りで幾つかコメントをお願いしたいと思います。 ○中辻幹事 では,棚橋幹事の御質問からお答えします。   棚橋幹事がおっしゃられたように,この御質問は以前にも頂いておりまして,裁判所による受託者の新選任から行政庁の認可までのタイムラグの間に受託者が行った行為の法的効力については,引き続き整理したいと思いますけれども,第13の3(2)のゴチックでは「新受託者になろうとする者」という表現を使っており,新受託者になろうとする者は,裁判所の決定があり,かつ,行政庁による新選任の認可を受けて初めて新受託者になると考えております。もっとも,裁判所の決定があった時点で新受託者が選任されるのだけれども,新受託者としての事務処理を始める前に行政庁の認可を受けなければならないという考え方もあろうかと思います。   いずれにせよ,行政庁から新選任の認可を受けるまでに公益信託の受託者が行った行為については,無効ないし取消しの対象となると現時点では考えているところでございます。   次に,平川委員から御確認の要望がありました運営委員会ですけれども,運営委員会を個別の信託行為で設置することはできますし,その権限については強行法規に反しない限度で当事者が自由に決められるということでございます。   それから,吉谷委員から頂いた新たな御提案について,道垣内委員,沖野幹事から関連の御指摘がございました。事務局としては,新受託者の選任の場面では,新たな公益信託の認可基準となる受託者の資格を満たしているか否かを行政庁に御判断頂く必要があるのですが,受託者の辞任・解任の場面では,対象となる受託者の辞任・解任に理由があるか否かまで行政庁が判断するというのは,主務官庁制を廃止して信託内部のガバナンスを充実し,新たに認可・監督を行う行政庁には公益性を確保するために必要な範囲内の権限を付与するという立て付けからすると,受託者の辞任・解任に行政庁の認可を必要とするのでは主務官庁制への先祖返りのような印象を持たれるおそれがあるようにも感じます。   確かに,吉谷委員の意見書のとおり,また,沖野幹事からも御指摘ありましたように当事者による受託者の辞任・解任がされただけの状態が1年間続くと公益信託の終了事由になってしまうという懸念はあると思います。ただし,その解決方法として,例えば沖野幹事の御提案のように受託者不在期間の1年超過を理由に公益信託の終了をする場合には行政庁のチェックをかけるという方法もあるかもしれませんし,1年間の間に利害関係人が新受託者の選任を裁判所に対する申し立てることにより対処できるのではないかとも感じました。 ○道垣内委員 先ほどの吉谷委員の案に対する中辻幹事の御回答なのですが,理論的にはそのとおりだろうと思います。ただ,ある人が辞めるといったときに,それがやむを得ないか,あるいは正当な事由があるかというふうなことについて,次の人がいるかどうかというのは結構重要な考慮要素になるのだろうと思うのです。もちろん,それはやむを得ない事由の判断についてであって,合意による辞任において,次の人の適格性を判断の中に位置付けるというのはなかなか難しいのかもしれないのですが,合意のある種の正当性,つまり,沖野幹事もおっしゃったような,脱法行為として,合意によって終了させようとしているのではない,ということを判断するためには,新受託者の候補がいるかどうか,また,その人は行政庁によって認められ得るのかということが考慮要素になることはあり得るような気がします。   それをどういうふうに法文として作るのかというのはなかなか難しいのかもしれませんけれども,そういう論点があるということは,何らかの形で認識をするということはあり得るのかなと思います。 ○長谷川幹事 議論の当初から申し上げておりますとおり,税制上の優遇が確保できるかどうかというのは極めて重要だと思っております。今回の吉谷委員の御提案の中で,税の優遇の観点からもということで書かれておりますとおり,行政庁が関与した方が,あるいは私的自治の範囲を一定程度制限した方が,公益性が維持され,税制上の優遇が確保しやすいということであれば,深山委員もおっしゃられたように,今回,広く国民の意見を聴くということでございますので,どちらを甲案,どちらを乙案とするかは別にいたしまして,中間試案には載せておいていただければと思っております。   その上で,先ほど道垣内委員,あるいは沖野幹事,あるいは事務局から御指摘がございました問題点も,補足説明の中で,国民に分かりやすい形で提示していただくということでいかがでしょうか。以上,意見でございます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○林幹事 今の論点と離れますが,第13の1と2では,やむを得ない事由と正当な理由とにブラケットが付いていますが,パブコメのときはどういう形で聞かれるのか質問させてください。このままでパブコメに付すのか,本日なりの法制審の議論で絞るのか。弁護士会ではいろいろ議論もありましたけれども,少なくとも広く国民の意見を聴くという意味では,両案あることを聞かれるのもパブコメとしてはいいと思ったので,質問させてください。 ○中田部会長 いかがでしょうか。 ○中辻幹事 この部会での皆様の御意見の分布を踏まえてと考えております。すなわち,今回あるいは次回までに,やむを得ない事由の方が正当な理由よりも良いという御意見が多数であれば,やむを得ない事由にゴチックの提案を一本化してパブコメで意見を聴きますし,やむを得ない事由を支持する意見と正当な理由を支持する意見が拮抗するような状況なのであれば,現在のブラケットを付した形のままパブコメで意見を聴くということでございます。 ○林幹事 その趣旨であれば,弁護士会の議論を踏まえた意見を簡単に申し上げます。辞任については,両案あるというものの,正当な理由の意見が多かったところです。特に,先ほどもあったのですが,後任の候補がある場合については,辞任も若干緩やかに認めてもいいのではないかと考えられ,やむを得ない事由と正当な理由を比べたとき,正当な理由の方がベターだという意見の方が多かったところです。   それに対して,解任については,受託者の意に反して解任するというところもあって,要件を厳しくした方がよいとの考えから,正当な理由より,受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由とした方がよいという意見が多かったところです。 ○道垣内委員 私の立場をはっきりさせるためにだけ申し上げるのですが,私は先ほど,後任の人がどういう人かというのが正当事由の判断において組み入れられることは十分にあり得るのではないかと申しましたが,かといって,吉谷委員ご提出の甲案,乙案を出すというのは,私は必ずしも賛成できません。中辻幹事がおっしゃったような,理屈上の問題点が余りに大きいという気がいたします。   したがって,そのような考慮要素をどう位置付けるのかというのが問題となるということを(注)に書くということは十分にあり得るのですけれども,裁判所の話と行政庁の話が並行して存在しているという形の案というのは,理屈上は成り立ち得ないのではないかなという気がします。 ○中田部会長 第12から第14まで,ほかにいかがでしょうか。   本日,吉谷委員から新たな御提案を頂きまして,幅広くパブリックコメントでは意見を聴取した方がいいという御指摘を複数の委員,幹事から頂きました。他方で,余りにも拡散しますと,かえってまた意見の集約が難しくなるかもしれませんので,本日の部会資料第43を基本といたしまして,そこに吉谷委員の御提案をどういう形で反映することができるのか,本日の皆様の御意見に基づいて,事務局の方で練っていただこうかと思っておりますが,そういう取扱いでよろしいでしょうか。   それでは,そのようにさせていただきます。   ほかにもしございませんようでしたら,先に進みたいと思います。 ○吉谷委員 第14について,まだ意見を述べておりませんでしたので,一言だけ述べさせていただきます。   元々第13で甲案というのを出しているというところはあるのですけれども,甲案のような立場に立った場合でも,受託者と信託管理人の位置付けが異なるのではないかというような意見があるということを,(注)なのか,解説なのか,どこかに入れていただければと思います。   そのような考え方が,信託管理人の1年の不存在を信託終了事由とするべきではないというような考え方にもつながっていると考えております。公益信託を安易に終了できるようにすべきではないという考え方でございます。   あと,御提案につきまして,信託管理人の解任につきましては,委託者以外の者ができるような制度になっておりませんと,委託者の不存在であるとか,委託者のところを起点にしてしまうとかというようなことによって,事実上解任できなくなってしまうというような場合があると思います。ですので,受託者のような関係者も,一定の場合には信託管理人を解任できるようにはするべきだと考えておりまして,今回の御提案は,恐らくそのようなことも踏まえた上で,「同様の規律とするものとする。」というような書き方にされていると思うのですけれども,その同様というところが,合意であるとか,行政庁,裁判所の関わり方については同様という趣旨ではないかと理解をしているのですけれども,そのような解釈でよろしいのかということと。そうであれば,御説明のところでは何か,中間試案を出す場合には補足説明していただければなと思っていますというところです。 ○中田部会長 今の点いかがでしょうか。 ○中辻幹事 吉谷委員の御理解のとおり,公益信託の信託管理人の解任の規律を受託者と同様の規律とするという書き方は,信託管理人の解任と受託者の解任を全く同じ規律とするのではなく,多少違いを持たせるということの含みを持たせた表現ということでございます。   特に,信託管理人の解任については,以前の部会資料39などでも提示させていただいたとおり,公益信託の受託者に裁判所に対する信託管理人の解任申立権を与えるか否かという論点がございます。事務局としては,公益信託の適正な監督のために不適切な信託管理人を交代させなくてはならないけれども委託者も他の信託管理人も存在しないという局面が想定できないわけではないことからすると,公益信託の受託者には信託管理人の解任申立権を付与することが良いのではないかと考えております。ただし,分かりやすい例えを使えば,監督される側の受託者が監督する側の信託管理人の解任申立権を持つのはおかしいという考え方もございますので,その点も含め引き続き詰めて検討していきたいと思います。 ○中田部会長 ほかに,第14についてございますでしょうか,よろしいでしょうか。   それでは,先に進むことにいたします。   続きまして,第15から第17までについて御審議いただきます。   事務当局から説明してもらいます。 ○舘野関係官 それでは,御説明申し上げます。   今回も,本文を中間試案として掲げるに当たって,検討を要する事項を中心に御説明させていただきます。   まず,「第15 公益信託の変更,併合及び分割」について御説明いたします。   第15の「1 公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更」の本文は,(1)として,「ア,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更は,委託者,受託者及び信託管理人の合意等がある場合には,行政庁による変更の認可を受けることによってすることができるものとする。」   「イ,裁判所は,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして公益信託の目的の達成に支障になるに至ったときは,委託者,受託者又は信託管理人の申立てにより,信託の変更を命ずることができるものとする。   委託者については,信託行為について変更命令の申立権を有しない旨を定めることができるものとする。」   「ウ,受託者は,イの変更命令の後,行政庁による変更の認可を受けるものとする。」   (2)として,「(1)アの例外として,信託行為の定めの軽微な変更をするときは,受託者は,その旨を行政庁に届け出るとともに,当該変更について受託者及び信託管理人の同意を得ていない場合には,遅滞なく,委託者及び信託管理人に対し,変更後の信託行為の定めの内容を通知しなければならないものとする」との提案をするものです。   第15の「2 公益信託事務の処理の方法以外の信託行為の定めの変更」の本文は,(1)として,「現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,公益信託事務の処理の方法以外の信託行為の定めの変更は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,行政庁による変更の認可を受けることによってすることができるものとする。」   (2)として,「現行公益信託法第9条を改正し,公益信託の目的の達成又は不達成の場合において,残余財産が存在するが帰属権利者が定まらないときは,受託者及び信託管理人(委託者が現に存する場合にあっては,委託者,受託者及び信託管理人)の合意がある場合には,公益信託の目的を類似の目的に変更し,行政庁による変更の認可を受けることによって公益信託を継続できるものとする」との提案をするものです。   第15の「3 公益信託の併合・分割」の本文は,「現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,公益信託の併合・分割は,委託者,受託者及び信託管理人の合意等がある場合には,行政庁による併合・分割の認可を受けることによってすることができるものとする」との提案をするものです。   第15の1の本文について,部会資料42の第1の1(2)アの提案に対しては,第43回会議において賛成の意見が多数ありましたが,委託者,受託者及び信託管理人の変更,合意等について行政庁が認可するという構造の方がいい旨の意見もあったことから,それらを踏まえ,部会資料42の第1の1(2)アの提案の実質は維持した上で,変更の主体は信託の当事者であり,行政庁の関与は補充的なものであることを明らかにする旨の表現の修正をしております。   また,公益信託の場合,公益信託の目的と公益信託事務がほぼ同一とされている契約書も多く見受けられ,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更であっても,それが公益信託の目的の変更に相当する場合はあり得ることからすると,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更は,変更後の信託行為の定めが公益信託の成立の認可基準を充足することが行政庁の関与により担保されなければ許容されるべきではないと考えられます。   そして,部会資料42の第1のように「公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更」と表現する場合には,公益信託事務の変更がこれに含まれるか否か不明確になることから,第15の1(1)アの本文の提案では,その表現を「公益信託事務の処理の方法にかかる信託行為の定めの変更」に修正しております。   次に,第15の2の本文について,部会資料42の第1の2の提案に対して,第43回会議では,これに賛成する意見が多かったことから,その実質を維持しております。   また,部会資料の42の第1の2(3)の「行政庁が当該信託を継続させることができる」という表現について,行政庁の役割との関係で検討すべきである旨の意見があったことを踏まえ,第15の2(2)本文の提案については,「公益信託事務の処理の方法以外の信託行為の定めの変更」の場面であることを明示した上で,第15の1(1)本文と同様の表現の修正をしております。   なお,公益信託事務の処理の方法以外の信託行為の定めの変更の具体例としては,公益信託の目的の変更や,公益信託事務の範囲の変更が挙げられます。   第15の3の本文の提案については,部会資料42の第2の2(1)の提案から実質的な変更はありません。   その上で,裁判所が公益信託の併合・分割を命ずることができる旨の規律を設けるものとするとしていた部会資料42の第2の(2)の提案は,第15の3本文の(注)として示しております。   この点,部会資料42の第2の2(2)の提案に対して,第43回会議ではこれに賛成する意見がありましたが,裁判所が併合・分割命令を行うことについては慎重に検討すべき旨の意見もありました。   信託の併合・分割は,いわゆる会社の組織変更に類似するものであると言え,委託者等の信託の関係人に対し信託目的の変更よりも重大な影響をもたらす可能性があり,裁判所が信託の併合・分割を命令できるということになると,当該信託の関係人の意思に反して組織変更を命令することになり,私的自治への介入の程度が大きいと考えられます。そして,裁判所の命令による信託の併合・分割については,信託法上複数の解釈が存在することからしても,新公益信託法に明文の規定を設けるべきではなく,この点は新公益信託法の解釈に委ねることが相当であると考えられます。   したがって,部会資料42の第2の(2)の提案は,本文の提案とせず,本文3の(注)に記載するにとどめることにいたしました。この点については,御意見等がございましたらお願いできればと存じます。   また,裁判所による変更命令に行政庁が関与する仕組みについては,第43回会議において,変更命令の後に行政庁の変更の認可を必要とすることは,屋上屋を重ねるものである旨の意見等もありましたが,裁判所による変更命令は,委託者,受託者及び信託管理人の合意等が整わない場合に,当該合意等の代替として活用されるものであり,認可基準充足性の判断を予定しているものではないため,変更後の信託行為の定めの認可基準充足性について,行政庁の関与により担保することが相当であると考えられます。   したがって,第15の本文1(1)ウの提案をしておりますが,この点についても御意見等を頂ければと存じます。   次に,「第16 公益信託の終了」について御説明いたします。   第16の「1 公益信託の存続期間」の本文は,「公益信託の存続期間については,制限を設けないものとする」との提案をするものです。   第16の「2 委託者,受託者及び信託管理人の合意による終了」の本文は,「公益信託の終了は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,行政庁による公益信託の終了の認可又は成立の認可の取消しを受けることによってすることができるものとする」との提案をするものです。   第16の「3 公益信託の終了命令」の本文は,「信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,公益信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当になるに至ったことが明らかであるときは,裁判所は,委託者,受託者又は信託管理人の申立てにより,信託の終了を命ずることができるものとする。委託者については,信託行為において公益信託の終了命令の申立権を有しない旨を定めることができるものとする」との提案をするものです。   第16の「4 公益信託の成立の認可の取消しによる終了」の本文は,「公益信託の成立の認可を取り消された公益信託は,終了するものとする」との提案をするものです。   第16の1の本文の提案については,部会資料37の第1の2の提案からの変更はありません。   第16の2の本文の提案については,部会資料40の第1の1の提案に対する第40回会議での御意見や御指摘を踏まえ,「原則として,信託関係人の合意等による終了を禁止するが,例外として,公益信託の委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合に,公益信託を終了することについてやむを得ない事由があるときは,行政庁の許可を受けて公益信託を終了することができるものとする」との提案をしていた部会資料40の第1の1の乙案を修正し,公益信託の委託者,受託者及び信託管理人の合意による信託の終了はできるが,その場合には受託者が行政庁による公益信託の終了の認可を受けることを必要とする考え方を示しています。   また,公益法人認定法第29条第1項第4号では,公益法人の認定の必要的取消事由として,公益法人から公益認定の取消申請があったときが規定されていることなどを参考として,受託者が公益信託の成立の認可の取消しを受けることを必要とする考え方もあることから,上記二つの考え方を角括弧内に並列して表現しております。   第16の2の提案に関しては,委託者が現に存しない場合における受託者及び信託管理人の合意による公益信託の終了の可否及び行政庁による残余財産の分配の適正性担保の方法について検討する必要があると思われることから,それらの点についても御意見等を頂ければと存じます。   第16の3の本文の提案については,第40回会議での御意見等を踏まえ,終了命令の主体は裁判所とすることが相当であると考えられることから,その旨の提案をしております。   また,委託者がその意思により公益信託を支配することは許されるべきではありませんが,その終了時に委託者及びその関係者に信託財産が帰属することが禁止されている前提であれば,終了命令の申立権者に委託者が原則として入っていることが不適切であるとは言い難いと考えられるため,第16の3の本文の提案では,部会資料40の第1の2(2)ただし書の提案を維持しております。   第16の4の本文の提案については,第42回会議での御意見等を踏まえ,公益信託の成立の認可の取消しによって一律に信託が終了するものとする部会資料41の第2の甲案は,制度の簡明さの点で優れていること,公益法人と異なり,公益信託の成立の認可の取消しによって,公益信託の成立の認可を失った受益者の定めのない信託に信託財産を帰属させることに格別の意味を見いだすことはできないこと,公益信託の成立の認可が取り消されるような場合には,委託者及び受託者の通常の意思は,その時点で信託を終了させることになるものと考えられることから,第16の4の本文の提案では,部会資料41の第2の甲案と同一の提案をしております。   次に,「第17 公益信託の終了時の残余財産の処理」について御説明いたします。   第17の「1 残余財産の帰属権利者の指定」の本文は,まず「(1)公益信託の信託行為には,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利者」という。)の指定に関する定めを置かなければならないものとする」との提案をした上で,(2),(1)の定めの内容は,甲案として,「信託終了時の全ての残余財産が,国若しくは地方公共団体に帰属し,又は当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託に寄附することを定めたものでなければならないものとする。」   乙案として,「信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは類似の目的を有する公益法人等(公益法人認定法第5条第17号イないしトに掲げる法人を含む。)又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする」との提案をするものです。   第17の「2 最終的な残余財産の帰属」の本文は,帰属権利者の指定に関する信託行為の定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄した場合の残余財産は,甲案として,「清算受託者に帰属するものとする」。乙案として,「国庫に帰属するものとする」との提案をするものです。   第17の1(1)の本文の提案については,部会資料40の第1の3(1)の提案から変更はありません。   第17の1(2)の本文の提案のうち,甲案は,現行の税法及び現在の公益信託の契約書に記載されている条項等を参考として,今回,新たに提案するものです。   他方,乙案は,公益法人認定法第5条第17号を参考にした部会資料40の第1の3(2)の甲案の表現を修正して提案するものです。   乙案の(注)は,部会資料40の第1の3(2)の乙案の表現を修正しているものです。   第17の2の本文の提案については,部会資料40の第1の3(3)の甲案及び乙案から変更点はありません。   第17の1(2)の本文の提案については,第40回会議の御意見,御指摘等を踏まえると,残余財産を私人に帰属させることを許容した場合には,現行の税法の規定からかなり離れたものとなり,公益信託が税制優遇を受けることが非常に難しくなること。また,信託設定当初の信託財産と追加された信託財産とを厳格に区別する運用を確保した上で,公益信託の終了時に公益法人と同様の非常に複雑な計算処理を行う必要があり,さらに,公益信託のガバナンス体制もより規制が強められることも想定されることから,このような公益信託が篤志家による公益実現の手段として選択されるかには疑問が残ります。むしろ,公益信託としての適切な帰属先が定められ,その信頼性が確保されることの効果を重視すべきであると考えられることから,残余財産を私人に帰属させることを許容するとの考え方は,第17の1(2)の本文の(注)に示すにとどめております。   これらの点について,御意見を頂ければと存じます。   また,第17の2の本文の提案については,第40回会議で帰属先が定まらない残余財産については,国に帰属するものとする案を支持する意見が多かったことに加え,現行税法が残余財産の帰属先を国又は地方公共団体等に限定している趣旨に鑑みると,負担を伴う残余財産の帰属についてはなお検討を要しますが,基本的には第17の2の乙案を採用することが相当であると考えられます。   なお,地方公共団体を最終的な残余財産の帰属先とすることは,信託法及び民法第239条第2項との整合性の観点からすると,現時点においてそれを提案することは相当でないと考えられます。   これらの点についても,御意見を頂ければと存じます。 ○中田部会長 それでは,第15から第17まで,併せて御意見を頂きたいと思います。 ○能見委員 第15の2(1)と(2)の関係,さらには,これらと第17の帰属権利者の問題との関係が,少し私にはよく分からない部分があります。少なくともパブリックコメントを求める際に,もう少し説明が必要なのではないかというのが第1点であります。あわせて,私が十分理解できなかったことから来る私の疑問についてもお答えいただければと思います。  そこで私の疑問の第1は,信託終了事由発生前の変更と信託終了事由発生後の変更との関係についてです。第15の2(1)の公益信託事務の処理方法以外の信託行為の定めの変更ということで,公益信託事務の処理の方法に係るような目的の変更は,第15の1(1)によることになり,それに係らない目的の変更は第15の2(1)に含まれるという前提で理解しておりますが,あるいは,信託目的の変更は全て第15の1なのかもしれませんが,この点は私の質問にとってはどちらでもよいので,要は,第15の1や第15の2の(1)は信託終了事由発生前の変更を考えていると思いますが,それと(2)の関係についてです。第15の2の(1)は,一般的に公益信託の事務処理に係らない目的変更もこういう行政庁の認可を受ければできるということが書いてあるというふうに理解できますが,(2)は,信託終了事由が発生した後は,(1)で処理するのではなく,(2)によって処理する。公益信託の場合に,国や自治体以外の者が帰属権利者として定められているのかわかりませんが,また,その場合に帰属権利者にどの程度権利性があるのか分かりませんけれども,帰属権利者の定めがあるが,その定めでは具体的な帰属権利者が定まらないときに,(2)で公益信託の目的を類似の目的に変更して,行政庁の認可を受けて目的の変更された公益信託として継続できるという処理ができる。(2)も信託の変更なのですが,信託終了事由発生前には使えないが,信託終了事由が発生した後は,(2)が使える。そういう振り分けになっているというふうに理解したのですが,そういう理解でよろしいのでしょうかというのが第1であります。   その上で,今の第15の2の(2)の意味なのですが,ここでは帰属権利者が定まらないときは当該公益信託の目的を類似の目的に変更できるということが書いてあるわけですが,信託終了事由発生前は,第15の1(1)なのか第15の2(1)なのかはともかく,委託者,受託者,信託管理人の合意があり,行政庁の認可があれば,ある意味ではどのようにでもできるというのと比較すると,第15の2の(2)はかなり制約されているというふうに思いました。   (2)はシプレー原則の考え方を具体化しているのだと思いますが,現在の公益信託法の9条ですと,帰属権利者の定めない場合についてのシプレー原則であり,それと(2)は余り中身としては違わないのだと思いますが,ただ,第17で必ず帰属権利者に関する定めを置かなければならないとなっていますので,それとの関係でいえば,今の第15の2の(2)というのは,帰属権利者の定めはあるが,帰属権利者が定まらない場合に適用される規律ということになりますが,具体的にどういう場合に(2)が使われるのかわかりにくいと思いました。   そこで,第17の方に話が飛ぶのですが,第17の方で帰属権利者に関する定めを置くというときに,これは,以前に議論したかもしれませんので繰り返しになるかもしれませんが, 例えば,特定の団体に帰属させるとか,国に帰属させるとか,そういうふうに,具体的に決めなくてはいけないのか,もう少し抽象的に,国又は地方団体,又は同種の目的の公益信託ないし公益法人に帰属させるというような,抽象的な定めでもいいのかという質問が一つまずあります。   ここで抽象的な定めでよいとすると,終了事由が発生した後,いざ帰属権利者を具体的に決めようと思ったときに,受託者がいろいろ考えて,どうもどれもしっくりこないので,結局選べないという状態が生じるのかどうか問題ですけれども,それもありうるとすると,第15の2の(2)のところに戻ってきて,帰属権利者が定まらないという場面が一つ考えられると思います。受託者からすると,一定の範囲の中から帰属権利者を選ぶという定めがあるが,受託者の考えではどうも適当な者がいないということで帰属権利者が定まらないということになり,当該公益信託の目的を類似目的に変更して,行政庁の認可を得て存続するということを認めるのか。それとも,この場合には,帰属権利者の定めがあり,かつ,それによって帰属権利者は定まるから,第15の2(2)の問題にはならないと考えるのか,どちらの考え方をするのかという問題が2番目です。   このようなことは認めないとすると,帰属権利者の定めがあるが,帰属権利者が定まらないというのはどういう場合かというと,一番考えられるのは,具体的に特定の帰属権利者が定まっているが,それらの帰属権利者が権利を放棄したときに,第15の2(2)のところに戻って来て,シプレ原則的な解決がされるのだと思います。そこら辺の関係が,すなわち第15と第17の関係ですけれども,これが少し分かりにくいように思いましたので,今述べた点についてどういう立場を採るにせよ,少し説明が必要であろうと思います。   私は,個人的には,実はこれを意見としては申し上げたいと思い,前提の理解となる部分をくどくど述べたのですが,第15の2の(2)のようなシプレー原則的処理がもう少し広く使えていいのではないかと考えています。第17で帰属権利者の定めを置かなくてはいけないというので,取りあえず国と地方自治体を帰属権利者として定めた。しかし,国と地方自治体に残余財産が行くよりは,類似の目的に公益信託の目的を変更して存続した方が,当初設定された公益信託の趣旨に合うと受託者が考えたときに,第15の2の(2)でそれができるとよいと思います。といいますのも,国や自治体は,帰属権利者として受け取る財産について必ずしも関心があるわけではなく,当該公益信託の公益目的と同じような目的で使うことは全く保障されてない。おそらくそのようには使わないでしょう。このように考えると,国や自治体が帰属権利者として定められていても,なお第15の2の(2)のルールが使えるとよいのではないかと思います。しかし,現在ここに書いてある第17,第15の案ですと,先ほど言いましたように,帰属権利者が定まらないということの解釈にもよりますが,国や自治体が帰属権利者として定められていると第15の2(2)は使えないことになりそうですが,私としては,第15の2(2)がもう少し緩い使い方ができるとよいと思います。   私の発言がいろいろな点,多岐にわたって分かりにくかったかもしれませんけれども,以上です。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ただ今,第15の2の(1)と(2)の関係についてが第1点,それから第15と第17との関係について,これが第2点,について御意見を頂きました。関連した御発言がございましたらお出しいただいた上で,事務当局の方からコメントを頂きたいと思います。 ○中辻幹事 それでは,事務局の方からお答えさせていただきます。   まず,能見委員の御質問,第15の2(1)と(2)の関係でございますけれども,ここは能見委員の御理解のとおり,時系列で整理しておりまして,公益信託の目的達成又は不達成の前は(1)の規律を適用し,目的達成又は不達成の後は(2)の規律を適用するという趣旨で御提案しているものでございます。   それから,2点目,第17で挙げている当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託を帰属権利者とする場合の信託行為の定めにつきまして,具体的な類似目的の信託名の定めを置くことも,抽象的に「類似の目的を有する他の公益信託」という定めを置くことも,両方許容されるという整理をしておりますが,実務においては後者の記載が多いようでございます。そして,信託行為の定めが抽象的な場合には,能見委員がおっしゃられたように受託者の側で類似目的の公益信託を探したが見つからなかった,というケースもあり得ると考えていて,その場合にいつまでも探し続ける義務を受託者に負わせることは酷である,そのような場合も第15の2の(2)「帰属権利者が定まらないとき」に該当するという整理をしています。ただ,第17で帰属権利者として国又は地方公共団体を入れているので,結局これらの者が帰属権利者と定められていた場合には国や地方公共団体が残余財産の受領を拒否というのか放棄しなければ第15のシプレー原則は発動しないというのが現在の部会資料の作りです。私どもとしては,特に公益信託の当初の目的が達成されたような場合には,その信託を設定した委託者の意思は実現されているので,基本的には当該公益信託は終了させるべきものであり,シプレー原則については限定的に適用すべきであると考えておりました。   さはさりながら,能見委員のように,シプレー原則の間口を広くとり社会のために公益信託が生き残る可能性を増やす方が良いという考え方にも十分合理性はあると思いますので,また事務局としても再度検討し,皆様の御意見を伺いたいと思います。 ○沖野幹事 ありがとうございました。   一つは,第17の(2)の甲案,乙案について,その意味なのですけれども,乙案には(注)が付いているということなのかと理解したのですけれども,甲案の方は,甲乙比べますと,「類似の目的を有する公益法人等」というのが甲案には入っていないのですけれども,これはあえて除外した案と入れた案という対比なのでしょうか。それにどのくらいの理由があるのか,入れてもいいのではないかと思うものですから。   もう一つは,甲案では「寄附することを定めた」と書かれており,国等の場合は帰属しないのですけれども,乙案の方は全てが帰属になっていまして,ここであえてこの部分だけ寄附という言葉を使っていることには意味があって,甲案と乙案の対比はそのように,(注)のところを置きますと,その他の公益法人等を入れていいのかということと,帰属ではなく,寄附という構成として扱うというところにあるのでしょうか,よく分からなかったものですから,おうかがいします。それは純粋に甲案,乙案の意味についてです。   それから,能見委員の御指摘を伺いまして--能見委員の御指摘を伺う前に気になっていたことなのですが,一つは,(2)の定めについてです。まず(1)で定めを置かなければならないと,その定めの内容としてこういうものでなければならないというときに,変更の規定によって,この(2)の定めを変更することができるかということです。   恐らく,(2)は,これは全部外延というか外枠というか,それ以外のものについては,(注)の点はありますけれども,帰属権利者として指定ができないということだと思うのですが,具体的に書いてしまったのだけれども,例えば地方公共団体が引き受けてくれそうだというようなときに,それなら信託行為の定めを変更して,地方公共団体を指定に入れて,そちらにお願いするということができるのかどうかです。   それから,次が,能見委員の御指摘を伺ってということなのですけれども,今申し上げたような形での変更などができないとなりますと,最初のときにきちんと書いておくか,それとも最初のときに,これはもうその他条項的に,国や地方公共団体は必ず入れておくようにしましょうというような指定の仕方になる可能性があるように思います。   いずれにしてもですが,そのようにしておいたときに,今度,能見委員が御指摘になった点なのですけれども,国や地方公共団体はそれほど関心を寄せていないのだけれども,46ページの2の(2)です。帰属権利者は一応いるし,放棄してもらえばいいのかもしれませんけれども,そう簡単に国や地方公共団体が放棄できるのかというのは少しよく分からないところもありますけれども,そういう場合に,すなわち帰属権利者が同意しているという場合に,この目的を変更する形でそのまま続けてもらったらいいと言っているような場合は受けなくていいのだろうかというのが,今の御指摘を伺っていて気になりました。   ただ,そのときも,もう実体的には信託終了して,帰属権利者に帰属すべき財産が残っているという状態だと思われますので,帰属権利者が定まっていないときはこのルートによれるということで,帰属権利者が定まっているならば,帰属権利者が新たに信託設定をすればいいということになるかと思います。ただ,そのときには,帰属権利者が委託者としての地位を得てしまうことになりますので,そういった地位は望まないという場合も考えられますそのときは,その信託行為に委託者としての地位を有しないと書くことで対応できそうにも思いますので,対応可能ではあるとは思います。   もう一つ,どのくらい手間が掛かるのかということで,新規にといっても,今までの受託者で,今までの信託管理人で,今までと全く同じ形でやるのだけれども,目的は違うものを立てるのだというときに,それほど大して手数等が掛からないのであれば,新たな設定でもいいのではないかとも思うのですけれども,そこは少し飛ばしてといいますか,このルートによってもいいのではないかということはあり得るようにも思いました。そうしますと,もしそういう考え方を入れるとすると,(2)のところに帰属権利者が定まらないときにはこの3者でなのだけれども,帰属権利者の同意を得て,さらに,あるときには帰属権利者の同意を得るときは同じルートでいけるというようなことを考える余地もあるのかと思ったところです。 ○中田部会長 3点,御質問あるいは御意見を頂戴しましたが,事務当局の方からお願いします。 ○中辻幹事 それでは,沖野幹事の御質問にお答えしますと,第17の(2)の甲案,乙案の違いは,社会福祉法人なども含めた公益法人等を入れるか入れないかというところが大きな違いであることはそのとおりでございます。その上で,現行税法は,特定公益信託の要件として,当該信託終了の場合においてその信託財産が国若しくは地方公共団体に帰属し,又は類似の目的の公益信託として継続するものであることを求める,シプレー原則の含みを持たせた表現となっており,そのことを踏まえて現在の公益信託契約書では類似の公益信託への「寄附」という表現が使われていることから,甲案ではその表現を用いたということになります。ただし,類似の目的の公益信託への残余財産の「寄附」が可能なのであれば,類似の目的の公益信託への残余財産の「帰属」も可能ではないかと考えております。   なお,現在の公益法人認定法には,公益法人の残余財産の帰属先に類似目的の公益信託は入っていないので,仮に乙案を採るのであればイーブンの関係ということで,公益法人の残余財産の帰属先にも類似目的の公益信託を入れてもらうということを想定しております。   2点目,第17の帰属権利者の指定の定めの変更について,御質問を受けるまで,それほど深く考えていたわけではないのですが,帰属権利者の指定の定めを第15の公益信託の変更に関する手続を経て変更することは可能ではないかと感じました。けれども,例に挙げられたケースでは既に終了事由が発生していますので,そこからあわてて変更できるかはもっと考えた方が良いのだろうと思います。   それから,沖野幹事がおっしゃられたように,帰属権利者が定まらないとき以外にも例えば帰属権利者が公益信託の継続に同意しているようなケースであればすこしシプレー原則の間口を広く採って適用するという仕組みはあり得るのかなと感じました。 ○樋口委員 2点,発言させていただきます。2点目は質問なのですけれども,1点目は今のシプレーの話ですね。それで,先ほどはっきり,シプレーについては限定的にという趣旨で,この46ページの(2)というところは書いてあるのだというお話で,それについては,本当はこういう条項が働く場面てどれくらいあるかというと,それは英米でもものすごく少ないのです,実際にはね。しかし,やはり真理は--真実は細部に宿るというのでしたか,こういう細かい点で,やはり私は立法政策上何か問題があるような気がするのです。   つまり,先ほどの説明だと,とにかく達成ないし不達成だからもう終了すればいいではないかというとどうなるかというと,公益信託は一つなくなるのですね。数が減るのですね,簡単に言うと。やはり,これは数を増やそうと思ってやっているのではないのだろうかという,そういう気持ちがなくて,できるだけ限定的にするというのが法政策上どうなのだろうかという気がするのです。   もう一つ,それは前にも少し発言したのですけれども,確かに英米でも公益信託の初めの設定目的というのを非常に厳格に解して,シプレーの適用を限定する傾向が歴史的にはあったのですね。しかし,もうアメリカでははっきりその態度を変えて,それはやはり,その当時,委託者が考えたものとは,類似なものであればというか,ジェネラル・チャリタブル・パーパスという,やはり公益のためにというぐらいに広く解釈して--広く解釈しようという話に,私が知っている限りはそうなっているのに,ここで,いやいやそれは採りませんというのがですね。別にアメリカに追随することだけがいいことではないと思いますけれども,どうしてなのだろうと。先ほどの法政策的な発想からしても,少しよく分からない。   更に言えば,先ほどの沖野幹事からの話を何とか類推すれば,どうするかというと,私は実務家でもないので,そんなこと言うのは本当に実務を知らないからだと思いますが,実際には,46ページです。(1)(2)を見ると,信託目的の達成又は不達成ということが見込める時点で,受託者として,樋口が受託者なら何をするかというと,(1)をやりますね。だから,信託行為の定めの変更,(1)によってという部分,まだ達成又は不達成とならない時点で,受託者及び信託管理人の合意があって,行政庁によって変更の認可をもらえば,実際にはシプレーはできる。本当にできるのかどうか,少し分かりませんけれども,組み合わせればそんなことだって考えられると,私は少し今の議論で思ったりしました。   二つ目は,少し質問で,これは教えていただきたいのですよ。帰属先ってどこでしたっけか,最後の帰属先,54ページです。   最終的に残余財産の帰属というのは国庫で,このときに地方公共団体というのはできないのですよというのが,私なんか,つまり法律を知らないからだと思いますが--理解できないのは,だって,その上の17の,54ページの上のところでは,指定はできるのですね,地方公共団体って。指定された場合には帰属されて,何にも書いていなくて,みんなが断った場合には,地方公共団体に行くことができない。そうすると,どうなるかというと,これは少し時間があれば,後で1回だけまた余計なことで発言させてもらおうと思っているのですけれども,今の仕組みは,47都道府県に認定委員会を作ろうとしていますよね。行政庁というのは,47都道府県の委員会も入っているわけですよ。   そうすると,そこのところで,いいですか,何とか県でとにかく勝手に終了--勝手に終了というのかな,終了の認可だか何だかさせておいて,それでそのツケが国に来ることになるのですね,それは。それは大体おかしいような気がするのですけれどもね。だから,しかし,そもそも日本の法理上,国庫以外に最終的な帰属先はないのだということを,もう少しかみ砕いて教えていただきたい。   しかし,帰属先として地方公共団体の指定はできる。指定がない場合には国庫には行くが地方公共団体には行けない。このような不条理のようなことがあっても,それは仕方がない,それは日本の法がそうなっているからだというようなことを,少し御教示願えれば幸いです。 ○中田部会長 関連する御意見ございますでしょうか。 ○能見委員 関連するというか,先ほど沖野幹事が,そもそもの問題として,帰属権利者の定めがあるときに,その定めの変更できないかということに言及されましたが,私も少しその問題を考えていたのですけれども,それと関連して,さらにこの問題の前提問題として,公益信託における帰属権利者というのは一体何なのかというところがはっきりしていないという問題があるように思います。   まず,第17の1(2)甲案にあるような残余財産を帰属権利者に「寄附する」というような意味での帰属権利者という考え方は,一般信託法の方にはないと思います。そこでは,帰属権利者というのは,終了事由が発生すると同時にある種の権利が発生して,私益信託の場合であれば,受益者とみなされて,受益者と同様な地位を取得します。しかし,公益信託の帰属権利者は,公益信託には受益者がいない以上,受益者とみなされないのは当然ですが,何らかの意味での権利性,期待権も恐らくないのではないかと思うのです。   そうだとすると,公益信託で帰属権利者という同じ言葉を使っていますけれども,やはり私益信託の場合と違う。国や自治体が帰属権利者として定められていても,私益信託の帰属権利者とは違う。先ほどの議論につないでしまいますけれども,公益信託で帰属権利者が定められていても,シプレー原則的な法理で,信託財産のより適切な処分,より近似する目的の公益法人や公益信託に寄付もできるし,類似目的に信託目的を変更して存続することもできる。何かそういうふう方向にもつながるかもしれませんので,帰属権利者というのは何なのかということについて,改めて少し詰めておいた方がいいという感じがしました。 ○中田部会長 それでは,事務当局の方からコメントを頂きたいと思います。 ○中辻幹事 樋口委員が先に意見として言われた方からコメントしますと,樋口委員のおっしゃるとおり,信託目的の達成又は不達成が見込まれるような場合にそれを当事者が認識し,変更が必要だと考えた場合には,第15の2(1)の方法で変更できるので,(2)の方法の適用場面は限定的にしても良いのではないかと事務局としては考えておりました。   御質問へのお答えですが,私が民法にとらわれすぎているのかもしれませんけれども,無主物の国庫帰属という条文,不動産の場合ですけれども民法第239条第2項にございまして,その帰属先に地方公共団体は含まれておりません。フランスでは地方公共団体が帰属先になり得るということは知識としては持っておりますし,樋口委員御指摘のように,新たな公益信託の認可は,公益法人の認定と同じく地方公共団体を行政庁として行われるケースもあるので,そのことも踏まえて引き続き考えを巡らしてみたいと思います。 ○中田部会長 能見委員の御指摘で,帰属権利者が公益信託の場合少し違うのではないかということを,具体的にこのゴチックの部分に反映するとすれば,どういう方法がございますでしょうか。もし今すぐでなくても,後でも結構ですけれども。 ○能見委員 そういう文章の作成は私は余り得意ではないので,むしろ沖野幹事など,そのほう方面の能力の長けた方にお願いしたいと思います。 ○道垣内委員 沖野幹事ではないので申し訳ないのですが,簡単に言うと,帰属権利者という言葉をここで使うとミスリーディングといいますか,概念の混合が起こってしまうので,使わないということではないですかね。「残余財産が移転する者」として,「帰属」と書いてしまいますと同じになってしまうので,少し変えるべきだということかなと思います。 ○中田部会長 具体的なヒントを頂きまして,ありがとうございました。最終的に中間試案でどうなるかはともかくとして,今の御指摘を何らかの,例えば補足説明の中になるのか,どこか分かりませんけれども,更に検討していただこうと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○沖野幹事 念のため,能見委員と道垣内委員の御指摘を確認したいだけなのです。つまり,この第17で残余財産の処理の2の最終的な残余財産の帰属の方は,もう最後にここに帰属するだけで,帰属権利者ではないというような処理にすることが考えられるかと思うのですけれども,その前の指定されているものも,信託法上の帰属権利者ではないという形にすることが適切であるという御意見で,したがって,終了事由が発生して,清算段階になったときには,各所の受益者としての権利が与えられることになる,報告を求めるとか。あと,最終計算の報告先としてどうなるかというような話も,帰属権利者で出てくるのですけれども,そういった地位は一切与えないことが適切であるという御意見なのでしょうか。念のため確認させていただきたいと思います。 ○能見委員 私は,むしろ信託法第182条とか第183条で使っている帰属権利者とは違うというふうに捉えた方がいいのだろうと思います。特に,信託法第183条第6項のように,「帰属権利者は,信託の清算中は,受益者とみなす。」というような地位は与えることはきでませんので,公益信託の帰属権利者は権利性の弱い,もっと軽いものとして考えるべきだという意見です。 ○山田委員 第16について,2点ないし3点発言させていただきます。   一つは,中間試案発表時の補足説明についての希望からお話しさせてください。   第16は「公益信託の終了」というタイトルで始まっているのですが,私の理解するところでは,公益信託の終了に関するルールを広く取り上げていなくて,重要なところをピックアップしているように思われました。何が足りないかなと考えると,終了事由の一部しか上がっていないように思います。   ですから,終了事由の例えば目的の達成・不達成の確定というのは,ほかのところでは終了事由として取り上げられているように思いますので,第16のところでゴチックで表現する必要はないようにも思いますが,補足説明の比較的頭の辺りにそういう位置付けを示していただけると有り難いと思います。   そして,同じ性質のものですが,少し細かくなりますけれども,第16の4の「公益信託の成立の認可の取消し」というところですが,これも恐らく取消事由というルールがあって,そしてそれに当たるかどうかを行政庁が判断して,公益信託の成立の認可の取消しというところに進むと思います。   先ほどは,公益法人認定法の,公益法人から公益認定の取消しの申請があったときは,必要的取消事由ですということが,関係官の方の口頭の説明にあったと思いますので,しかし,それを生かすかどうかというのも一つの問題ですが,公益信託の成立の認可の取消しに関するルールの大まかなところというのがあった方が,第16の4について具体的なイメージを持ちやすいように思います。   二つ目が具体的な意見で,中間試案には,第16の2について少し手直しをしていただけないかということです。   それは,ここには公益信託の[終了の認可/成立の認可の取消し],これはどちらでもいいのですが,これを介在させて,公益信託を終了させるという考え方が一つ示されています。   このような御意見もあろうかと思いますが,これに並べて,あるいは乙案でなくて,(注)で考え方があるというのでも結構ですが,行政庁の関与なしに公益信託は終了するというものはあってよいと思います。それで,意見を聞いていただきたいと思います。   一つ目の話と少し関連するのですが,目的の達成で終了するときに,行政庁による公益信託の終了の認可又は成立の認可の取消しというのも想定しているのかな,していないのかなというのがよく分からなかったのですが,多分していないのだろうなと考えました。そこで,もし想定していないのであれば,目的の達成がなくても,要するに信託を支えている当事者全員が,もうこれは終了させようというのであれば,行政庁の介在なしに終了させて私はよいと思いますので,それについても意見を聴く対象に加えていただければと思います。   御説明の中にあったか,なかったか,よく分からないのですが,ここに一つに集約した理由として考えられるのは,事務当局のお考えとして私が推測するのは,このようにして公益信託の公益性というものを確実にしようとされているところかと思います。勝手に辞められたら困るのだということかもしれませんが,私は,基本は,その前に話がありました残余財産の行き先をどうするかというところをしっかりすれば,行政庁の関与なく公益信託の終了というのがあってよい,当事者の合意があれば,あってよいと思います。 ○中田部会長 第16についての御意見,ほかにも頂けるようですので,その後で事務当局の方から御説明いただこうと思います。 ○沖野幹事 先ほど,ちょうど吉谷委員からの問題の指摘を受けて,第16の2の合意による終了のところで,辞任プラス1年,しかも同意による辞任プラス1年というところにも同じようにチェックを掛けなくていいかという点を申し上げたところなのですが,そういうことを考えていきますと,他の終了事由は放置していいのだろうかという問題がありまして,間違いなくそういう判断がされているのか。経済的に立ち行かなくなって,信託法52条による終了の申入れをして終了させるとか,目的の達成・不達成についてもそのとおりなのかといった辺りは,行政庁のお話としては気にしなくていいのかどうかというのが気になりまして,それで実は,山田委員とは逆の方向を考えたものですから。認可になるのか,それとも何か届出などのチェックなのか,チェックのかけかたは必ずしも認可に限らないと思いますけれども,そういうことは掛けなくていいのだろうかというのが気になったものですので,申し上げたいと思います。 ○中田部会長 それでは,対照的な御意見を二つ頂いたわけですが,関連ですか。 ○山本委員 第16の2が少し理解しにくかったので,このついでに確認させていただければと思うのですが,合意がある場合に,終了認可ないし成立認可の取消しを受けることによって終了するとされているわけですけれども,この認可の際に何をどう考慮するのでしょうか。目的の達成,不達成等を考慮するということなのかどうか,あるいはその他のことも含めて考慮するのか。そこで何を考慮するのかという点を少し明示していただかないと,この案をどう受け止めていいかが分かりにくいと思いますので,お聞かせいただければと思います。 ○深山委員 第16の2のところで,私も,鍵括弧で「終了の認可」と「成立認可の取消し」というのが並んでいて,これは中身として違うものなのかなと思ってはいるのですが,単に言葉の問題ではなくて,内容的に違っているのかなと思いながら,ただ,どこがどう違うのかということを考えておりました。   その関連で第16の4のところの本文で,認可を取り消された公益信託は終了するという提案があって,それとの関係もよく分からないのですね。というのは,第16の2のところは,もちろん合意による終了の規律として書かれているということは分かるのですが,その場合に,例えばこの鍵括弧の中の「成立の認可の取消しをすることによって」という要件を課するのだとすると,ある意味,合意があろうとなかろうと,取り消されたときには終了するということと同じことを言っているのであって,逆に言えば,合意があっても取り消されなければ終了しないということですから,結局,2と4というのは論理的には同じ規律,要件になりはせんかと思います。   ただ,そこで,2の「成立の認可の取消し」,あるいはその手前に書いてある「終了の認可」というものが,4のところとは違う場面を想定していて,つまり認可の取消事由があって,行政庁が取り消しますという場面ももちろんあるでしょうが,そうではなくて,当事者がもうこれやめたいのですと言ってきたときに,それを認めてあげましょうという認可について,それを終了の認可というのか,かつて行った認可の取消しというのかは,言い方としては両方あると思うのですが,必ずしも取消事由ではない,当事者の意思によるといいますか,その意味では合意による終了というような,そういう場面を想定しているのだとしたら,2と4というのは別のルールとしてあり得るのかなと,こんなことを感じたので,少しその辺の整理も含めて御検討いただければと思います。 ○中田部会長 取りあえず今,第16について御意見が相当出ておりますので,もし第16について更にございましたら頂いて,事務当局の方から説明してもらおうと思います。 ○平川委員 第16につきまして,2の終了の認可を受けることによって終了するというのはいいとして,「成立の認可の取消し」という言葉だけから来る印象かもしれないのですけれども,目的信託の前置を前提とした考えにつながっているようで,結局,認可によって成立するはずですが,この言葉遣いからは,認可を取り消すと,何か別の信託が生まれて,普通の目的信託になり,それが4の(注)の考え方,目的信託を前置とする考え方につながっているものと思うのですけれども,目的信託の前置を前提とした考えでは必ずしもないということを御確認いただきたいと思います。   「成立の」という言葉が何で必要なのかということも,少しよく分かりません。 ○吉谷委員 第16の3なのですが,これが少しよく分からなくて,信託法165条というのがそもそも何のためにあるのかがよく分からないというところがあるのですけれども,16の3の御提案を読んだときに,どうしてここでは行政庁の認可が不必要なのだろうかというところがよく分からなかった。   変更のところは,裁判所の後に行政庁の認可があるのに,終了の方は裁判所で終わると。これは,目的の達成がされたということだけを裁判所が判断するということであれば,別にこの仕組みを使わなくても,別の確認訴訟とかのやり方とかでもあるのかしらと思いながら読んでおりました。なので,整合性というところからすると,第16の3についても,行政庁の認可を要するとした方がよろしいのではないか。そうでなければ,終了事由とここの各項目の御説明のところについて,何か整合性があった方がいいのではないかと思われました。   そして,実務的な観点からいいますと,やはり信託目的が終了しているのかどうかということに少し自信がないというようなときに,行政庁の認可を受けて終了ということにしたいという,人情のようなものがありまして,そういう役割というのも行政庁に果たしていただくことを期待すると。先ほどの受託者の辞任・解任でもそうなのですけれども,というような実務的な,やはり自分たちで決めていいのかという悩みがあるというところについても御配慮いただけると有り難いと思うわけであります。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○明渡関係官 すみません。今,山田委員がおっしゃられた認可を介在せずに終了させるというような仕組みを設けた場合に,34ページに戻りますけれども,公益信託の情報公開,こちらの方は認可をしたら公示するということを想定しています。ここの部分との整合性,つまり今まで全て認可が掛かってくると,なくなったものが公示されるけれども,何もなく終了できるというふうなことであるのだったら,そこがどういうふうにして,なくなったというふうなことが明らかになるのだろうかという点の整理は必要となってくるのではないかと思います。 ○深山委員 第16の4のところに(注)が付いておるので,この(注)について申し上げます。   先ほども同じようなことで,(注)を格上げしたらどうかということを言って,ここでも結論的に言えば,同じような意見を申したいと思います。   念のために言いますと,決して(注)を全部格上げしろという趣旨ではなくて,重要なものに限ってという趣旨で,ここは格上げをすべきではないかという意見を申し上げます。   これは,以前どこかで議論した記憶があるのですが,一旦成立した公益信託の認可が事後的に取り消されて終了した場面をここでは念頭に置いていると思うのですが,その場合に(注)の考え方というのは,信託行為に定めがあるときを前提にしていますが,単純な終了ではなくて,受益者の定めのない信託として存続する余地を認める考え方です。   似たような議論として,最初の公益信託を創設する段階で認可申請をしたところ,不認可になってしまったときにどうなるかという議論を前回しました。第3の公益信託の効力の発生のところだったと思いますが,ここでは,甲案,乙案という形で,細かい規律についてといいますか,具体的な規律について案が述べられています。少なくとも,当然に効力がなくなるわけではなくて,一定の効力があり得るということをむしろ前提に,では,その不認可になった信託はどういう信託なのか。単純な目的信託なのか,それとはまた違った,言わば第3類型的なものなのかという議論を前回しました。そことの整合性といいますか,平仄を考えたときに,もちろん入口の場面で不認可になったときと,後から不認可になった場合は違うという考え方も,論理的にはあり得ると思います。ですから,そこと全く同じにしなければならないという論理的な必然性はないのですが,しかし,素直に考えれば,不認可といってもいろいろな不認可があるでしょうから,事後的に不認可になった場合であっても,やはり必ず当然終了しかないということではなくて,委託者の意思として,公益信託ではないけれども,公益的な信託として残してもらいたいという意向があり,行政庁から見ても,それが不合理ではないと考えられるときには当然終了にならないという道を残すべきではないかなという気がしております。   そういう観点から,ここは意見が分かれるのかもしれませんが,少なくとも(注)を乙案という形にして,本文を甲案にして,乙案という形でランクアップをして,パブコメに付していただくのがよろしいのではないかということを申し上げたいと思います。 ○中田部会長 第16について様々な御意見を頂きました。行政庁の関与の仕方について,異なった観点からの御指摘を頂きました。また,いずれにしても,認可基準を明らかにすべきである,あるいは取消事由を明らかにして,それとの関係を明確にすべきである。さらに,ただ今取消しの効果について御意見を頂きました。   これらについて,事務当局の方からコメントいただきたいと思います。 ○中辻幹事 では,順にお答えしていきますと,まず山田委員の方から終了事由について御指摘がありました。深山委員からも前回同様の御指摘がありましたけれども,この部会資料43では信託の終了事由をゴチックでは網羅的に上げておりませんので,その点もう少し分かりやすくなるよう工夫したいと思います。   次に,山本委員の御質問について,山田委員と沖野幹事でお考えが二つに分かれたところに関連しますが,事務局としては,信託目的の達成又は不達成という終了事由の有無を行政庁が判断するということは想定しておりません。信託関係人の合意による終了と,信託の目的達成又は不達成による終了とは飽くまで別のものであり,目的達成又は不達成を行政庁が判断することは困難であるし相当でもないという整理をしています。   では,信託関係人の合意による終了の場合に行政庁が何を判断するかということになりますが,補足説明に少し書きましたとおり,残余財産の分配がその信託行為の定めに従って適切に行われているどうかということを想定しているものでございます。公益信託の終了の時点では新たな公益信託が成立することはないので,新受託者の選任の論点でも申し上げているように,公益信託の認可基準を満たしているか否かの判断と直接関係しないのであれば,信託内部のガバナンスを優先し,行政庁は一歩引くべきであるという現在の事務局の考え方は,山田委員の御意見と親和性があるように感じました。   それから,深山委員から御指摘いただいた,終了の認可と成立の認可の取消しをブラケットで囲ってある部分ですけれども,事務局としては,公益信託の成立の時点で最初にされた認可の行政処分がある以上当該信託の終了時にはその取消処分が必要であるという考え方と,取消処分は必須ではなく別に当該信託の終了時に終了の認可という行政処分がされれば自動的に成立の認可は効力を失うという考え方を2つ並べているものでございます。   もう一つ,深山委員から第16の2と4の関係について御指摘を受けました。仮に第16の2のブラケットの部分が成立の認可の取消しということになるのであれば,それも含めた形で第16の4の終了で受けられます。ただし,第16の2が終了の認可ということになったときには,2と4は別の整理ということになると思います。   それから,平川委員から御指摘ありました目的信託の前置との懸念につきましては,この部会の結論として,公益信託の成立のために目的信託の前置を不可欠なものとしないということははっきりさせておきたいと思います。なお,成立の認可という表現を使ったのは,変更の認可や終了の認可など場面ごとで分けるという趣旨でございます。   さらに,吉谷委員の御意見について,実務上という話であればそれは人情も含めて尊重すべきであると感じますし,公益目的の達成又は不達成について当事者の方で自信が持てないという場面は想定できるようにも思います。ただ,信託内部のガバナンスを充実させ,公益信託の認可基準適合性の確保に必要な範囲で行政庁が関与するという建て付けからすると,この場面において行政庁の関与が必要であるとするのは少し過剰な関与であるように思いました。   長くなり恐縮です。最後,明渡関係官から御指摘ありました認可の公示との関係ですけれども,公益信託の成立の認可が公示されるのであれば,公益信託の終了も公示されるのが筋ということになります。おそらく公益法人認定法の仕組みからいえば認可の取消しの公示がしっくりくるのかもしれませんけれども,仮に終了の認可ということになった場合にも,行政庁は終了の公示をすることになるのではないかと考えます。 ○中田部会長 頂いた御意見に今,全てお答えいただいたかどうか,もし確認を求める委員,幹事いらっしゃいましたらどうぞ。一応今のお答えでよろしいですか。   もちろん,本日の御発言については,更に議事録で精査いたしまして,今後の作業に反映していただくことになると思います。   ほかにもしございませんようでしたら,お待ちいただいておりました小野委員にお願いします。 ○小野委員 まず,第15についてコメントといいますか,お願いしたい点を申し述べます。   今,この辺りはずっとこれまで議論してきたところで,「目的」という言葉が「公益信託事務の処理」という言葉に変わったという経緯は,もちろん重々承知しておりますけれども,この中で対立する概念といいますか,「軽微」という表現になっておりまして,目的と軽微の間というのはどうしてもいろいろグラデーションが掛かるという,グラデーションという言葉を使うまでもなく,いろいろな幅があるかと思います。   公益法人認定法との比較とか整合性とを検討することが,絶えずといいますか,要所要所において必要があるかと思うのですけれども,公益法人認定法の方は届出も限定列挙で,なおかつ認可が必要なものは3つに限っているようで,大分立て付けが異なっております。信託と法人ですから,全ての面で必ずしも同じである必要はないと思いますけれども,同じ行政庁が同じような公益事業を扱うときに,行政庁の負担としても発想の仕方としても違う扱いをする必要があるのかと思うところがあります。   何点かお願いしたいところは,「軽微」という言葉をある意味ではもう少し拡大解釈できるような表現を考えていただけないかと。逆に,軽微であれば届出すら要らないという議論もあるかと思います。公益法人認定法の方は,届出すら限定列挙であるということを踏まえると,信託目的の変更に匹敵するような事務処理の変更と,あと「てにをは」のような意味においての軽微といったところと,その間のものがいろいろあるかと思うので,その辺について何か配慮していただけるような記述を考えていただければと思います。   また,パブコメを求める際に,一般の市民の方がどういうふうに考えていいかということの取っ掛かりとして,公益法人認定法においてはこういうような形になっていますというものを要所要所で述べていただきたいと思います。特に,この観点からすると,もし今の表現が変わらないとすると,大分違うということも認識の上で,これでいいのだという議論もあるかもしれませんし,よりもう少し細かい,今2分類ですけれども,3つとか,場合によっては4つとか,間を採るような分類もあるかと思うので,そういうような意見も喚起するという意味において,そういうような配慮も補足説明のところでしていただければと思います。 ○中田部会長 ただ今の小野委員の御発言なのですけれども,第15の1の(1)と(2)についての御発言だったかと承ったのですが。 ○小野委員 そうです。 ○中田部会長 さらに,第15については2の規律もございます。2の規律というのは,目的変更については2の規律があり,第15の1というのは,それ以外のと申しますか,一般的な公益信託事務の処理の方法についての変更で,その中に(1)と(2)があるので,私は3段階あるのかなと思っていたのですけれども。 ○小野委員 その意味においてはそうです。 ○中田部会長 2の(1)が,信託目的の変更や公益信託事務の範囲の変更などを想定しているのが事務局の考えかと理解しておりました。ですので,そうしますと,今の小野委員の御指摘というのは,ある程度は盛り込まれていて,更にきめ細かくするということなのか,あるいは少し分かりにくいところがありますので,それは補足説明等で,場合によっては公益法人認定法の規律も参照しながら分かりやすくするというようなことでも対応することができますでしょうか。 ○小野委員 補足説明等でていねいに公益法人認定法の規律を参照するという点はぜひお願いしたいところです。たださらに軽微基準をもう少し,軽微という言葉ではないものにしていただき届出の対象とし,一方,「てにをは」的なものは軽微基準にも該当しないという扱いにしていただければと思います。4分類と言っておいてよかったと思うのですけれども,届出とするものを,公益法人認定法とのバランスとの関係で,もう少し幅広く捉えてもいいのではないか,それは行政庁の負担からその方がよいではないかということでございます。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。 ○平川委員 今の第15の点なのですけれども,そもそもこの分類の公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更というのと,公益信託事務の処理の方法以外の信託行為の定めの変更という,二つの変更の相違というのがどこにあるのか,我々でも分かりにくく,さらに,一般人にはより分かりにくい表現の仕方で,そもそも分ける必要があるのかも疑問があるように思うのですけれども,分けるとしたら,パブコメの際は両者の相違を一般人でも理解できるように,明確にしていただきたいと思います。   また,公益法人認定法第11条1項においては,行政庁の認定を必要とするものは,公益目的事業の実施区域や事務所の変更並びに収益事業等の内容の変更を除けば,公益目的事業の種類又は内容の変更のみとなっております。それと対比した場合に,公益信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めの変更というのは,公益法人認定法上の公益目的事業の内容の変更に当たり,その種類の変更ではないと解してよろしいのか,御確認いただきたいと思います。   また,処理の方法以外に係る信託行為の定めの変更の例示として,たたき台48ページにある「公益信託の目的の変更や公益信託事務の範囲の変更」は,公益法人認定法と対比してどの変更に当たるのか,必ずしも明確ではないように思いますが,公益信託事務の処理の方法を内包するものが公益信託事務の種類の変更も含むのか,それは公益信託の目的の変更とどう違うのかについて,分かるようにしていただきたいと思います。   また,公益信託の目的の達成に支障となるに至ったときに,関係人の申立てにより,裁判所が信託の変更を命ずることができることについては,賛成いたします。   裁判所が信託の変更を命じる前に行政庁の意見を聴くという考え方については,手続が複雑となり,遅延も考えられることから,その必要はないと考えます。   信託行為の定めの軽微な変更をするときには,受託者がその旨を行政庁への届出で足りることについては,公益法人の場合と同一であり,賛成いたします。   何が軽微かということについて,より明確にした方がよいのではないかという小野委員の御意見には賛成いたします。   公益信託の目的の達成又は不達成の場合において,一定の場合に公益信託を継続することができることについては,賛成いたします。   第15の3の「公益信託の併合・分割」についてですが,これは信託関係人の合意により,行政庁の認可により行うことができることについては,賛成いたします。   裁判所が関与するルートについては,併合・分割は私的自治の問題であることから,必要がないと考えます。   ちなみに,公益法人制度においては,合併事業の全部又は一部の譲渡について,公益法人認定法第11条1項に該当する場合は行政庁の認定を必要といたしますが,それに該当しない場合は事前の届出をすればよいことになっています。 ○小野委員 細かい質問で恐縮ですが,「合意等」の「等」が何を意味するかというのと,第15の2の(1)とか「合意」だけになっていますが,意図的に区別したのかどうなのか,確認をさせてください。 ○林幹事 まず,1点は,他の方々の繰り返しかもしれませんけれども,先ほどおっしゃられたように,第15の変更について3段階になっていることは理解して,この御提案自体がいろいろ配慮されてできたものだとは理解しているつもりです。ただし,その3段階の相互の間の境界線が若干不明確ですので,何とか具体化できないのかと思います。特に,「軽微」というのも分かりにくいので,この点どう考えられているのかということがあって,公益法人認定法のように,もっと何らか具体的に事由を書くのかなどを御検討いただけたらというのがまず1点です。   それから,(注)の関係の話ばかりしてしまうのですが,弁護士会で議論であったところとしては,まず第15の1の(1)のウのところです。行政庁による変更の認可を受ける点に関して,(注)で,事前に行政庁の意見を聴くことについて,これも考えられる意見なので,(注)ではなくて,格上げをした形でパブコメにしたらどうかと考えます。   それから,第15の3の併合・分割については,裁判所による併合・分割についてです。確かにこれを現実にやろうとすると,それなりに深く関わるということは理解できるのですが,可能性もあるところなので,これも格上げしてはどうかという意見が弁護士会でもあったので申し上げます。 ○新井委員 私の発言は,第15の公益信託の変更について,パブリックコメントに付す際の要望です。   まず,公益信託事務の処理の方法というのと,公益信託事務の処理の方法以外というのと二つに分けたのは,一般の方には分かりにくい点があるかもしれませんけれども,これまでの議論の到達点ですので,これはいいとして,その上でパブリックコメントに付す際に,是非分かりやすい説明をしていただければと思います。   その上で,前者については,行政庁による変更の認可プラス裁判所の信託の変更というのが出てきております。それに対して,後者については行政庁による変更の認可だけで,裁判所の信託の変更を命ずるということはないことになっておりますが,これは一般の方にパブリックコメントで意見を聴くときに,これだけ出されてもなかなか答えようがないのではないでしょうか。なぜ両者が違うかということを,しっかりと理由を述べていただいた上で意見を求めることが必要だと思いますので,そのようにお願いいたしたいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○吉谷委員 従来述べておりました意見の繰り返しではあるのですけれども,認可当初の信託目的や公益事業の内容を度々変更するとか,委託者の意向によって変更するというような,濫用的なものは行政庁の認可が得られないようにすべきではないかと考えておりまして,このような考え方について,(注)なのか何なのか,何らかの形で示していただければと考えております。 ○棚橋幹事 (注)の格上げについて2点申し上げます。まず1点目は,第15の1の(1)のウの(注)の部分ですけれども,先ほど申し上げた意見と同様で,裁判所の判断対象でない点について意見を聴く理屈の整理がないまま注から本文に格上げすることには難しい面があると考えます。   2点目は,第15の3の「公益信託の併合・分割」の(注)の裁判所による併合・分割命令という点について,部会資料にも記載がありますが,組織変更のように思われますし,信託の目的の変更よりも重大な変更のように思われますので,合意がないのに裁判所が命令できることにすると,私人間の契約関係について,裁判所が新たな契約関係を創造してしまうということになり,監督の域を超えているのではないかと思われますので,その正当化根拠も含めて慎重に検討していただきたいと思います。   また,信託法150条はそのまま併合・分割命令ということの要件には使えないと思いますので,要件が煮詰まっていない段階で中間試案本文に上げることにも難しい面があるように思います。 ○中田部会長 棚橋幹事の御意見は,第15の1(1)ウの(注)については,乙案という形で格上げするのではなくて,(注)にとどめておくべきであると。3の(注),併合・分割命令については,むしろこれは(注)からも落とすべきであるということでございましょうか。 ○棚橋幹事 実際,部会で議論があった点ですので,(注)から落とすことまで申し上げているわけではないですが,こちらの考え方を述べさせていただいたということです。 ○沖野幹事 第15の小野委員の御質問に関してなのですけれども,今回,区分を信託目的の変更とそれ以外というところから,公益信託事務の処理の方法を基準としてそれ以外というふうに分けられたところなのですけれども,それで,合意等の話ですが,元々は目的とそれ以外で分かれていたときには,変更自体は信託法149条2項以下の規律によりまして,信託目的に反しないことが明らかであるようなときには,受託者と受益者の合意でできるといったような規律がベースにあるので,必ずしも3者合意に限らないということで「等」が入っていたのではないかと理解していたのですが,まずそれでよろしいかというのが1点なのです。   それで,そういう理解であればということなのですけれども,そうしましたときに,目的の変更については,それぞれの,いわば主体省略の要件を満たさないので,3者の合意でしかできないということになるのではないかと思うのですけれども,事務処理の範囲の変更などになりますと,目的には反しないことが明らかであるといったような場合が出てくるようにも思われまして,そうすると,元々使い分けていた「合意等」と「合意」というのが必ずしも当てはまらないように思われました。   そうしますと,しかし,2の(1)を「合意等」に改めますと,結局,1の(1)の後が同じになるのではないかと思われまして,あえて分けている意味があるのかと。2の(2)の方は「類似の目的」に変更しますので,目的変更ですから,ここは違ってくると思うのですけれども,少し混乱を招くようにも思いました。元々の「合意等」の理解が間違っていれば,それは前提が違っていますので,確認させていただければと思います。 ○中田部会長 この辺りで事務局の方からコメントを頂きたいと思います。 ○中辻幹事 小野委員,林幹事及び新井委員からは,パブコメにかける中間試案はできる限り分かりやすく作るようにという御指示を頂いたものと受け止めました。   小野委員から御質問のあった「合意等」の意味についてお答えいたしますと,沖野幹事のご理解のとおりですが,少し今回の部会資料では説明をしょってしまったきらいがあって,以前の部会資料42の第1の(注2)では,委託者,受託者及び信託管理人の「合意等」について,委託者,受託者及び信託管理人の合意という,信託法149条1項の場面だけではなく,149条2項以降の,3者合意ではなくて2者合意や信託の目的に反しないことが明らかであるとき等の受託者単独の意思表示も含めた概念を想定していたものでございます。   その上で,沖野幹事がおっしゃられたとおり,第15の2で「委託者,受託者及び信託管理人の合意」と書き,「等」を付けていない理由は,もともとこの項目は公益信託の目的の定めの変更という表題を付け,目的の変更の場合は今申し上げた,信託の目的に反しないことが明らかであるときというような場面は想定できないことから,基本的には3者合意,委託者がいない場合は2者合意で受託者単独の意思表示による変更は認められないという整理をして,あえて「等」を外しているということでございます。   なお,現時点の部会資料は,前と違い公益信託の目的以外の変更か目的の変更かで区別していないこともあり,第15の1と第15の2の違いが分かりにくくなっているというのはそのとおりですし,2(1)についての沖野幹事の御指摘もそのとおりかと思いますので,更に分かりやすくなるよう工夫したいと思います。 ○中田部会長 ほかに御意見も頂いておりますけれども,それも更に検討して,できるだけ次回か,次々回かには何らかの形で応答できるようになるかと存じます。   大分遅くなっておりますけれども,更に第15から第17までについて御意見ございますでしょうか。   ほかにございませんでしたら,では,深山委員と平川委員から御意見を頂いて,そこで休憩に入ることにいたします。 ○深山委員 第17についてですが,また三度(注)の格上げの話で大変恐縮なのですが,先ほども言いましたように,決して全ての(注)を格上げすべきと言っているのではなくて,今回の第17の1の(注)の格上げについては,最も格上げしていただきたいということを申し上げます。   残余財産の帰属先として,委託者等の私人を認めるかどうかということについて,(注)の考え方というのは,一定の場合には認めるという考え方を示すものです。   甲案,乙案というふうにありますので,言わばこれは丙案として並べていただきたいと思います。もちろん,ここの議論も,パブコメの意見も踏まえて,最終的には決まってくるわけですが,私がここで,言わばこの(仮称)丙案にこだわる実質的な趣旨は,これも度々申し上げているように,言わば期間限定の公益信託というものを認めるべきではないか,例えば,10年という確定期限でもいいですし,あるいは委託者が死亡したときという不確定期限でもいいのですが,例えば10年なら10年という期間を限定して,この期間に限って公益信託を設定し,公益に供したいという委託者の意思というものを認めることによって,この制度をそれならば使いたいという人が少なからずいるのではないか,それを認めるニーズはあるのではないかと考えています。   もちろん,いろいろな批判もあるところですが,補足説明には,言わば批判的なことをずらずらっと書いて,従って(注)ですとされています。こういうことで一応(注)に残してはいただいているものの,前回も申し上げたように,もう少しメリット・デメリットみたいなことをニュートラルに書いていただいて,こういうメリットもあるけれども,こういうデメリットもあるというようなニュートラルな書き方をして,意見を取っていただきたいと思います。   この場の議論なりパブコメで,いや,期間限定信託なんていうものは必要ないという意見が大勢であれば,これはいたし方ないのですが,この(注)の書き方あるいは補足説明だけですと,私が言うところの丙案が意図しているところが,恐らく分からないまま葬り去られるのではないかという気がします。それは,やはり私としては納得し難いので,そういう期間限定信託を認める必要があるか,ないかということを土俵にのせた上で,それは要らないというのであれば,それはそれで一つの判断なのだと思います。是非そういう観点で,丙案に格上げするだけではなくて,補足説明の中でも,これを認めればこういうことが可能になるというメリットもありますということを御紹介いただいた上で,他方でデメリットといいますか,問題点があるということももちろん書いていただいて結構なので,例えば税制優遇との関係のことを説明してもらえればと思います。   それから,もう一つ申し上げたいのは,ここでの議論において,信託の設定時に供された財産と,その後入ってきた財産とを会計上も分けなければならないという煩瑣な問題があるという指摘があって,そのこと自体はもっともだと思うのですが,私が想定しているこの場合の例というのは,補足説明に記載されているような,金銭をぼんと信託をして,一定期間それを公益信託において,たとえば10億のうち7億使ってという場合ではなくて,特定の不動産,あるいは動産でもいいと思うのですが,特定の財物を一定の期間,10年なら10年,30年なら30年,公益信託に付するというものです。例えば,アパートのようなものを留学生の学生寮として使うというもので,そのものが終了時に,10年なり30年たったときに,そのままの形で残っている場合に,それを委託者なり第三者に戻すという,そういうことを念頭に置いていて,金銭のような会計上の分別が必ずしも容易でないものとか,あるいは管理上容易でないものまで手間を掛けて区分しておいて,最終的に帰属を分けるということを想定しているわけでもないのです。   ですから,そこは仕組みを仮に作るとしたら,それなりの手当てといいますか工夫をする必要があるのでしょうが,念頭に置いているのは,そういう特定のものが形を変えずに最後まで残っていて,そのまま返すというようなものを想定しております。そのような信託財産を念頭に置いた期間限定公益信託というものについて,あってもいいかどうかということを問題提起した上で,是非を問うていただきたいという意味での格上げ案を御検討いただきたいと思います。 ○平川委員 第17につきまして,甲案を大いに推進したいと考えるものですけれども,先ほど中辻幹事が冒頭で言及されましたように,今後,公益法人認定法改正の際には,公益法人の残余財産を類似の目的を有する公益信託に帰属させることとする条項をリシプロカルに入れる可能性の基となるものですから,公益にささげられた財産の公益な活用が可能となることから,この乙案を推進すべきであると考えます。   ただし,今,深山委員が格上げすべきであるとおっしゃっている(注)の考え方,すなわち公益信託成立後,増殖した財産のみ公益帰属とし,元々の財産は私益に戻り得るという考え方については,制度として複雑化し,公益財産の信託設定後の公益活用を担保できるか否かの問題があることから,(注)に書く程度はよいとしても,格上げすることには反対いたします。 ○中田部会長 ありがとうございました。   更に第17について。 ○道垣内委員 深山委員がおっしゃることはよく分かるのですが,深山委員がおっしゃるとおりに書いたら,それはとてもいいことだというふうに皆さんお考えになると思うのです。しかし,それはキャピタルゲイン課税との関係では,かなり難しい問題が生じると思いますところ,ただ単に税制優遇を伴うことはまず期待できなくなるということだけ書くのではなく,どのような理由でどれだけ難しくなるかということをきちんと書いた方がいいですね。 ○小野委員 今の深山委員の発言を補足するだけなのですけれども,弁護士会での議論でも,米国でも利用例はあって,それで税務上の取扱いも米国ならではの取扱いかもしれませんけれども,信託財産の最低金額を設定するとかのやり方で行われており,決して珍しい,また,あってはならない制度ではないということも付加して,補足説明していただければと思います。 ○吉谷委員 こう申し上げては何なのですけれども,深山委員のおっしゃったような例は,別に不動産を信託しなくても,別のやり方を考えればできるような気が私はしましたので,信託という非常にいろいろな使い方ができる道具ですので,別の工夫をして,同じ目的を実現できれば,別に制度自体を複雑にする必要はないのかなというふうに少し思いましたという感想でございます。 ○渕幹事 私からは二点ございます。一つは今,吉谷委員がおっしゃったことと同じでございます。定期借地権を信託する等のほかの方法を使えば,それほど複雑な制度にせずに,同じことが達成できるのではないかと思う次第です。   もう一つは,第17のところで説明されている,税制優遇のことです。所得税法施行令217条の2を参照して,「税制優遇は期待できなくなる」とはっきり書かれています。先日,藤谷前関係官が雑誌「信託」載せた論文で,税制優遇を公益信託に対して与える前提として,制度の立て付けとしては,まず,公益信託を税法でいう「法人課税信託」という器にのせて,その上で優遇する,というようにしないとうまくいかないだろうということを書いていらっしゃいます。要するに,委託者に帰属したままの財産ではなくて,財産が一旦独立して宙に浮いているのだという状態がまずあって,そのことを前提に,それに対して税制優遇を与えるのだという説明になるのだと思います。   このため,今回,税制優遇が期待できなくなるというのは,程度問題という面ではなく,むしろ,税制優遇の前提となる制度設計の前提が崩れるというような,かなり大きな問題になるかもしれません。   私個人としては,深山委員がおっしゃったような制度設計もありだと思いますし,それで税制優遇が伴わない公益信託というものがあってもいいのかもしれないとは思います。しかし,もしこの補足説明で書かれているように,税制優遇ということを重く見るのであり,かつ整合的な税制ということを仕組もうということを考えるのであれば,やはり以上述べた点は非常に大きいと考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   大体それぞれのお立場からのポイントというのは,今までも御議論いただきましたし,また,本日,よりそれぞれのお立場が明確になったと存じます。   ほかにないようでしたら,この辺りで,大分遅くなってしまいましたけれども,15分間の休憩を挟みたいと……。 ○小野委員 今の渕幹事の発言に質問があるのですけれども。 ○中田部会長 これはまだ続きそうですから,休憩後にいたしましょう。申し訳ございません。4時15分まで休憩いたします。           (休     憩) ○中田部会長 それでは,時間が来ましたので,再開いたします。   ただ今,部会資料43の第17について御意見いただいていたわけですが,更に小野委員から御発言がおありかと存じますので,お願いいたします。 ○小野委員 先ほど渕幹事のお話を聞いて,今まで目的信託前置の是非の議論とか,公益目的の目的信託の議論とか,あと目的信託と公益信託の違いとか類似の議論をしたときに,誰もが頭にあったのは,現行の目的信託の信託法上の要件の厳格さということのほか,もう一つ,利用されない最大の理由の一つとして,法人課税信託であるということもあったと思います。   これまでこの微妙な論点を避けるべく部会では議論をしてきたと思います。ところが,税法の世界で,公益信託は目的信託の特例であるという扱いをする可能性,また,それが論理的な整合性があるというような趣旨が,多分,先ほどの渕幹事のお話であったと思うのですけれども,それは今までの部会での公益信託は目的信託とは違うのだという議論と大分方向が違うと思います。   ですから,せっかくこれまでの議論が反映されるような形での税制上の扱いをしていただきたいと。そういう観点から今後議論していただければと思いますし,また,部会長を始め事務局の方もその辺を十分留意していただければと思います。 ○渕幹事 先ほど申し上げた話は,「法人課税信託」なので課税が重いというような話ではございません。税制優遇を与えるとした場合に,どういう仕組みで与えるかという話です。特定の個人に帰属したままの財産であるけれども,それを税法上優遇するというロジックは,なかなか実際問題難しいわけです。本当にその人が公益目的に使うかどうか,なかなか分からないわけです。このため,委託者とは離れた財産であるということを前提に,それは良い目的に使われるので,税制優遇を与える価値がある,というロジックの方が,税制優遇を与えるにしても,制度の設計の仕方としてスマートであろう,合理的であろうと,そういうような話でございます。「法人課税信託」なので常に課税が重いということにはならないと思います。 ○小野委員 原則と例外をひっくり返して,例外を原則まで広げれば確かに同じになりますけれども,今,法人課税信託が導入された時点で,公益信託課税が変更にならなかったという現実,また,当然そういうことは一定の理屈があって変更にならなかったと思うのですけれども,それは公益信託が目的信託とは違うのだということが制度の立て付けだったと思うのです。だからこそ,部会での議論も,従前のものをすっかり変えましょうという議論は,もちろん論点としてはありましたけれども,そうはしないというのが,先ほども事務局の中辻幹事から発言ありましたけれども,部会のほぼ一致した意見であり,また目的信託前置とはしないという議論であり,それが部会でのこれまでの議論だったのですね。   ですから,そういう事実も片やあるということ,また,現行の税法上の取扱いにロジックが当然あったはずだということも重く受け止めていただければと思うのです。 ○渕幹事 私,研究者として個人としては,できるだけあらゆる財産を個人に帰属させて考えた方がよいと思っております。しかし,法人課税信託が入ったときもそうですけれども,ここ15年,20年ぐらいの法人税や所得税の制度設計に当たっては,納税義務者の単位に割と簡単に認めてしまって,それから事を考えようというような発想が出てきております。法人税の納税義務者というのが何なのかということについて,非常に深く考えるというよりは,技術的に課税を受ける単位の一つであるというぐらいに軽く考えているというふうな感じになってきております。要するに,法技術的に財産を個人に寄せて考えるのか,個人と独立の団体に帰属する財産として考えるのかという対立軸において,後者が優勢になってきているわけです。   そうすると,今回の公益信託の課税についても,後者の枠組み,すなわち個人とは独立した財産の固まりであるということを受け入れた上で,それに対して税制優遇を与えるという仕組みにした方がいいのではないかというのが,藤谷論文を読んだ私の理解でございまして,そして,それは非常に合理的なのではないかと思います。   要するに,最終的に税制優遇がどのぐらいの程度認められればいいかということが問題なのであって,個人に寄せて考えて税制優遇が余りない場合と,独立した主体と税法上考えて税制優遇がたくさんあるのであれば,恐らく小野委員も後者の方がいいと考えられるのではないかと思います。 ○中田部会長 ありがとうございます。   ここで税制をどうこうすることはできないわけですが,現在の客観的な情勢について今御説明いただいたかと存じます。   ほかにございませんようでしたら,第17までについては以上といたしまして,続きまして,部会資料43の第18及び第19について御審議いただきたいと思います。   事務当局から説明してもらいます。 ○舘野関係官 それでは,御説明いたします。   まず,「第18 公益信託と受益者の定めのある信託等の相互変更等」について御説明いたします。   第18の「1 公益先行信託」の本文は,「公益先行信託について,行政庁が成立の認可を行う制度は設けないものとする」との提案をするものです。   また,本文の提案の括弧内に記載しておりますが,公益先行信託とは,「信託設定当初の一定期間は信託財産の一部を公益目的のために供するが,一定期間経過後は,残りの信託財産を私益目的のために供する信託」と定義しております。   部会資料40の第2の1の提案では,公益先行信託について規律は設けないとしておりましたが,その意味をより明確にするため,第18の1の本文では「行政庁が成立の認可を行う制度は設けない」とする表現に変更しております。   部会資料40の第2の1の提案に対して,第41回会議では,ニーズが不明であること,税制上の問題,法律関係の複雑化等の理由から,公益先行信託を許容すべきでないという意見があった一方,公益先行信託の先行部分については公益信託の実態を有するものであることや,規律を設けないと行政庁の認可を受けない信託が悪用される可能性があることから,規律を設けるべきである旨の意見や指摘もありました。   それらの御意見等を踏まえて再度検討したところ,現在の法制度の下でも受益者の定めのある信託の仕組みを活用して,公益先行信託の趣旨を実現することが可能であることを示すことには大きな意味がありますが,議論の整理のため,公益先行信託の定義を明確にし,その成立を行政庁が認可する制度を設けるか否かを検討することが適切であると考えられます。したがって,第18の1の本文の括弧内のように,公益先行信託を定義しております。   民間による公益活動を促進するための方法の多様化という観点からは,公益先行信託に関する新たな制度を設けることも一つの考え方ではありますが,特に税制優遇を得て私財の蓄積がされる等の濫用を防止するための規定等の複雑な規定を新公益信託法の中に設ける必要があると考えられるほか,「公益先行信託」という名称の下に,委託者以外の第三者から寄附が集まるとは想定し難いですし,行政庁による監督のコスト等に見合った利用がされるかは疑問が残ります。さらに,税法の観点から見ても,私的利用が見込まれる信託が公益信託と同等の税制優遇を受けることは期待できないものとも考えられます。   したがって,第18の1の本文のような提案をするとともに,先ほど申し上げましたように,現時点では,現在の法制度の下でも受益者の定めのある信託の仕組みを活用して,公益先行信託の趣旨を実現することが可能であることを一般に周知することの方が,より適切かつ現実的な方策であると考えられます。   これらの点について,御意見等を頂ければと存じます。   次に,第18の「2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更」ですが,部会資料40の第2の2の提案に対して,第41回会議では,これに賛成する御意見が大多数であったことから,細かな表現の修正のみを行い,当該提案の実質を維持した提案をしております。   次に,第18の「3 残余公益信託」の本文は,「残余公益信託について,行政庁が成立の認可を行う制度は設けないものとする」との提案をするものです。   また,本文の提案の括弧内に記載しておりますが,残余公益信託とは,「信託設定当初の一定期間は信託財産の一部を私的目的のために供するが,一定期間経過後は,残りの信託財産を公益目的のために供する信託」と定義しております。   第18の3の本文の提案については,先ほど御説明いたしました第18の1と同様の観点から,部会資料40の第2の3の提案を変更しているのみであり,当該提案の実質は維持しております。   部会資料40の第2の3の提案に対して,第41回会議ではこれに賛成する意見が多数でありましたが,残余公益信託については,後続の公益目的の信託開始時に存在する信託財産の金額が不確定である上,当初の信託設定時に行政庁が認可基準を満たしているか判断することは困難であるとも考えられます。また,後続の信託が公益目的となる以上,先行する私益選択にも一定の監督がされるべきであると考えられますが,そのような監督を行うことは容易ではありませんし,税制優遇を受けることも期待できません。   また,現在の法制度の下でも受益者の定めのある信託の仕組みを活用して,残余公益信託の趣旨を実現することも可能であることから,公益先行信託と同様に,現時点ではそのことを一般に周知することの方が,より適切かつ現実的な方策であると考えられます。   これらの点について,御意見を頂ければと存じます。   次に,第18の「4 受益者の定めのある信託から公益信託への変更」の本文は,まず甲案として,「受益者の定めのある信託について,信託の変更によって受益者の定めを廃止して,公益信託とすることはできないものとする」。乙案として,「受益者の定めのある信託について,信託の変更によって受益者の定めを廃止して,公益信託とすることができるものとする」との提案をするものです。   部会資料40の第2の4の提案について,第41回会議では,甲案,乙案の両案を支持する意見がありましたが,乙案を支持する意見として,会社法上の組織変更に相当するような仕組みが必要となる可能性がある旨の指摘がありました。信託法上は,受益者の定めのある信託と受益者の定めのない信託とは,基本的な点において大きく異なり,信託の変更によってこの両者の間を言わばまたぐようにすることは相当でないと考えられていることから,第18の4の本文の甲案の提案をしておりますが,甲案に対しては,受益者の定めのある信託から公益信託への変更は,政策的な観点から認める余地があるとの指摘が考えられます。   一方,第18の4の本文の乙案は,本部会資料に記載いたしましたような活用事例も考えられる上,税制優遇の観点からも問題はないと考えられます。ただし,乙案を採用した場合,先行する受益者の定めのある信託の受益者の定めを廃止することにより,当該信託の受益権が消滅することになるため,受益者全員の同意が必要であるほか,受益者の債権者を保護するための規定などを設けることを含め,会社の組織変更のように複雑な制度になる可能性があるという指摘があり得ますので,その点に留意して検討する必要があります。   これらの点について,御意見を頂ければと存じます。   最後に,「第19 その他」の論点について御説明いたします。   まず,第19の「1 信託法第3条第3号に規定する方法による公益信託」について御説明いたします。   第19の1の本文は,甲案として,「信託法第3条第3号に規定する方法により,公益信託をすることはできないものとする」。乙案として,「信託法第3条第3号に規定する方法により,公益信託をすることはできるものとする」との提案をするものです。   これらの提案については,部会資料37の第5の1の提案から実質的な変更はありませんが,第37回会議において,委託者が公益信託を支配しないという基本的な考え方に自己信託は合わず,税制優遇も伴わない可能性があるとの御指摘があったことを踏まえ,甲案の理由として,その旨の懸念を付加することが考えられます。   次に,第19の「2 新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い」について御説明いたします。   第19の2の本文は,新公益信託法施行時に存在する既存の公益信託について,甲案として,「新公益信託法の施行日から一定の期間内に新公益信託法に基づく公益信託への移行の認可を行政庁から受けることを必要とし,移行の認可を受けなかった信託は上記の期間経過後に終了するものとする」。乙案として,「新公益信託法の施行日後に新公益信託法に基づく公益信託の移行の認可を行政庁から受けることを必要とせず,移行の認可を行政庁から受けなかった信託も存続するものとする」との提案をするものです。   部会資料37の第5の3の甲案及び乙案に対しては,第38回会議において,両案を支持する意見が複数ありました。   そこで,第19の2の本文の提案では,部会資料37の第5の3の提案において「認定」としていた箇所を「移行の認可」とするなどの表現の変更をした上で,実質を維持しております。   新公益信託法に基づく移行の認可について,公益信託の受託者の事務負担や,当該事務負担に起因する信託財産の減少を看過すべきでないことは当然ではありますが,本部会資料の第9などで提案をしておりますとおり,新たな公益信託においては,内部ガバナンス体制も大きく変わることが想定されていることから,新公益信託法の施行後には,既存の公益信託にも新公益信託法を適用することが相当であると考えられます。   その点も踏まえ,既存の公益信託に与える影響について慎重に検討した上で,第19の2の本文の甲案を採用する,あるいは特定公益信託の要件を満たしている既存の公益信託について,施行日後に新たに成立する公益信託よりも簡易な手続等により,新たな公益信託の移行の認可を受けることを可能とするような案を検討することも考えられます。   これらの点について,御意見を頂ければと存じます。   次に,第19の「3 罰則」について御説明いたします。   第19の3の本文は,「現行公益信託法第12条の規律を改め,罰則について所要の措置を講ずるものとする」との提案をするものです。   平成18年信託法改正時に本規定が設けられた趣旨及び本部会資料において,現行公益信託法第4条第2項,第6条及び第7条などは,廃止又は改正が検討されていることを踏まえると,公益信託に係る科料について定めている同法第12条も改正する必要があるものと考えられます。   そして,新たな公益信託において,仮に受託者による公告を不要とするのであれば同条第1号の規定は不要となりますが,同条第2号及び第3号の規定については,これと同趣旨の罰則が必要になるとも考えられます。   さらに,公益法人認定法第62条から第66条までの規定を参考として,偽りその他不正の手段により公益信託の成立の認可を受けた受託者に対する罰則などを新設することが考えられます。   なお,現行公益信託法第12条は,平成18年の新信託法制定の際に新設された規定であり,公益法人認定法の罰則規定も平成18年に新設されたものであって,その後10年が経過した現時点において,物価や貨幣価値の変動は大きなものでないことからすると,罰金及び科料の金額は,現状の金額を維持することが相当であると考えられます。   これらの点について,御意見を頂ければと存じます。   また,第19の4において,その他所要の規定を整備するものとすることとしております。 ○中田部会長 それでは,まず「第18 公益信託と受益者の定めのある信託等の相互変更等」について,御審議いただきたいと思います。   いかがでしょうか。 ○平川委員 第18の1,2,3の法務省の提案には賛成いたします。   3の「残余公益信託」について,実際上,残余財産が公益帰属された時点で認可要件を充足するなら,その時点で申請・認可を受ければよいのであって,当初,私益信託の段階で,あらかじめ残余公益信託という形の認可を行う必要はないと考えます。   4につきましては,乙案を推進したいと考えます。これを排除する必要のないことから乙案に賛成するのですが,当初受益者への受益が不要となり,信託行為を変更し,その時点で公益信託の認可をとるという理解を前提としまして,特段これを排除する必要はないと考えます。 ○林幹事 まず,第18の「1 公益先行信託」につきましては,弁護士会の中でもいろいろ議論はあって,この御提案に賛成の意見もあるのですが,何らか規定すべきだという意見もありました。   これについては,従来の部会資料40第1の3の乙案,今回の部会資料43で言えば第17の1(2)の(注)の考え方とも関連して,そちらが認められれば,こちらの方はこの御提案でもよいという意見もありました。そういう意味においては,パブリックコメントの際にどう書くかがありますが,そういう考え方もあり得ることは,何らかパブリックコメントにおいて示していただけたらと思います。   それから,3の「残余公益信託」と,それから4の「受益者の定めのある信託から公益信託への変更」の点ですが,4において,乙案に賛成します。そして,それが認められる限度においては,3の「残余公益信託」は御提案のとおりでもよいというようなことが弁護士会の議論では大勢であったところです。   残余公益信託で言われるように,当初から私益の段階から認可を受ける必要はないというのはそのとおりだと思います。私益から公益に変わるときに認可を受ければ足りるので,そういう意味においては4で十分かとは思います。   補足説明の60ページの下のところで,現行法でも実質的には同じようにできると,私益信託が終了してから公益信託を設定し直せばいいという,そういう趣旨で書かれていて,それはそのとおりだと思うのですけれども,信託として同一性を持ったまま私益信託から公益信託に移行することはあってもいいと思います。   それから,個人的な疑問でもあるのですが,途中で公益信託に変わろうと考えるに至ったときに変更手続するのはいいのですが,当初から,後には公益信託に変わるということを想定して信託設定するということがあり得て,それは恐らく信託として一体性を持って私益信託から公益信託となるのだと思いますし,それにおいては,公益信託に変わるときに認定を受ければいいのですが,そのときに必ず変更手続をとらないといけないのかという点が,若干分からなくて,疑問でもあります。事案によりますし,こういう変更手続もいろいろなパターンがありますから,そこを整理し切れていませんけれども,そういう問題意識は持っています。ただ,取りあえずそれは置いて,4の乙案が認められる限りで,3の御提案も賛成と考えます。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかに。   内容については,これまで御議論を重ねていただいたところでございまして,さらに,本日頂いた御意見を説明の中に更に加えることはできるかどうかを検討していただくということでよろしいでしょうか。   事務局の方から何かありますでしょうか。   それでは次に,「第19 その他」1から3までございますけれども,どこからでも結構でございます。御意見をお願いいたします。 ○新井委員 1ですけれども,自己信託によって公益信託は設定できるかという点については,甲案を支持したいと思います。   それで,「今回検討すべき事項」のところの説明に,台湾信託法の話が書いてあります。どうして台湾信託法はこういうふうにしたかというと,自己信託の導入をめぐって,非常に激しい対立があったのですね。特に,英米法系の学者は自己信託を導入すべきだと主張して,そうでない学系の学者と非常に抜き差しならない対立があって,その妥協策として,公益法人が自己信託の方法によって公益信託を設定できると条文は作られたのですが,利用例は1件もないと理解しております。公益法人がそういうことをやるのであれば,公益法人自体の活動として行えばいいということで,ほとんど実際には機能していないようです。   甲案支持の理由としては,ここに書いてあるとおりで,委託者が公益信託を支配しないという基本的な考え方に自己信託は合わず,税制優遇も伴わない可能性があるという指摘に全面的に賛成です。   それで,そもそも自己信託ですけれども,相当濫用されているようです。信託協会では多分把握していないと思いますけれども,いわゆる民事信託と言われる分野において,執行免脱とか財産隠匿という形で利用されているという実態があります。ですから,そういう実態を踏まえて,そういう自己信託によって公益信託が設定できるということについては,私は賛成できません。   63ページにその説明がありまして,2行目からこう書いてあります。「本文の甲案の理由としては,自己信託は委託者と受託者が同一であることから,公益信託の信託財産について委託者からの分離が確保されていないとして税制優遇は受けられないことが懸念される」ということなのですが,ここの書きぶりは少しあるいは修正した方がいいように思われます。   私はこの理解でいいと思っているのですが,今回,信託法によって自己信託が導入されました。そこでの考え方は,自己信託であっても,委託者の財産と受託者の財産は分離されているという前提に立って自己信託を導入したのではないかと思います。それをこういうふうに「公益信託の信託財産について」はということで書くと,自己信託一般については分離されていないのかというような解釈もできますから,自己信託というのは財産の分離が明確でないと私自身は思っているのですが,ただ,法務省の立場としては,オフィシャルにはこういう書き方は少し注意した方がよろしいのではないかと思います。   結論としては,私は甲案を支持したいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○小野委員 全く真逆のことをきちんと申し上げなければいけないのですが,今,新井委員は新井委員のご意見として,自己信託そのものが問題であるから,ましてやといいますか,公益信託で利用することについての問題点という形で指摘されたのではないかと思います。しかし,自己信託制度は十分議論されて,正に法制度として存在しているということは重く受け止める必要があると思います。   濫用事例というのは,具体的事例を取り上げないと分かりませんけれども,それが法律違反的な趣旨での濫用であれば法的な問題があるわけでして,法律に違反している方がいるからといって制度そのものが問題だということになれば,ありとあらゆる制度において同じことが議論されてしまいます。   自己信託制度は制度として存在し,なおかつ詐害信託防止など通常の信託より既にいろいろな措置が講じられており,自己信託はけしからんから,公益信託での利用は許容できないという議論は議論としてふさわしくないと思います。   また,以上の議論とは別として,この補足説明のところで,委託者が信託財産を支配しているという表現が使われていますが,自己信託において一旦設定された後は,受託者は信託財産を受託しているのであって決して支配しておりません。だからこそ信託財産としての法的な独立性が認められる扱いがされるわけでございます。   あたかも自己信託制度そのものがけしからんという前提だと,この支配という概念は当てはまるのかもしれませんけれども,自己信託制度というのは法制度として厳として存在しており,法制度としてはニュートラルであって,そういう観点から,公益信託において利用することのさらに留意すべき点があるや否やということで考えればいいと思います。認定制度を採るわけでして,認定のところで,濫用の危険のあるような自己信託がなされるということになれば,そこでチェックすればよく,誰もが認めるような立派な企業や金融機関が,自ら自己信託によって奨学金制度を作りますといったとき,あなたは悪いことをするのでしょうとか,何か執行免脱の目的でしょうと,そういう議論は当てはまらないと思うのです。   ですから,ここでの議論は,また,新井委員の先ほどの議論もそうですけれども,自己信託というのはけしからん,また,自己信託というのは絶えず何か問題を抱えているのだという議論が出発点になっていますけれども,やはりもう少しニュートラルに書いて,また,ニュートラルな議論をしていただきたいと思います。   私自身としては,ニュートラルな議論をすれば,今の信託制度の中に自己信託は厳として存在する立派な制度でございますから,それを利用して何がいけないのだろうかと。支配するようなことをする受託者がいるとしたら,それは認定のところで排除すべきであってと思います。ということで,是非,書きぶりにおいても,自己信託悪しきという書き方ではなくて,是非ニュートラルの補足説明にしていただければと思います。 ○平川委員 第19の1のただ今の自己信託の点ですけれども,公益信託の法形式として,自己信託を特に排除すべき特段の理由はないものと考えますので,そういう意味では乙案に賛成します。   ただし,無条件に自己信託を認めるというのではなく,やはりガバナンス体制がきちんとしているかとか,そういう点を考慮に入れなければならないと思いますので,イギリスのチャリティのように信託宣言の場合には,不当な管理を回避するために受託者を複数にするとか,私どもがこの部会でずっと言っておりますように,運営委員会を要件にするとか,そういうような,自己信託を認める場合のガバナンス体制についての要件を付加していくべきだと考えます。 ○中田部会長 第19の1について,ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。   ゴチックの部分,甲案,乙案,両論あるということは,今の御議論からも維持するということになろうかと存じます。頂きました御意見を,更に補足説明,これは今回の補足説明が必ずしも中間試案の補足説明になるわけではありませんですし,中間試案の補足説明は参事官室でお書きいただくということになりますけれども,今の御議論を踏まえて,また御検討いただくということになろうかと存じます。   それでは,1について,よろしければ先に進みたいと思います。 ○平川委員 それでは,第19の2につきましては,甲案に賛成するものですが,新公益信託がどのようなスキームとなるかにもよるのですが,新しい形となった場合には,公益法人制度における移行と同様,移行期間を定め,その期間終了後は既存の公益信託を終了する整備方式に賛成いたします。   その理由としましては,新公益信託の認可要件を満たしていない既存公益信託も新公益信託と併存するということは,社会的混乱を惹起するおそれがあると考えるからです。現在の信託銀行受託の公益信託は,全てが助成型であり,信託事務も単一で,財産的にも金銭,その運用対象も金融資産を含んでおりますが,単一であり,特例民法法人の移行と異なり,移行申請手続に過大な事務負担を要するとは考えられないと思うからです。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかに,既存の公益信託の取扱いについていかがでしょうか。 ○山田委員 中間試案としては,63ページのゴチックの甲案,乙案,両方示して意見を聴くということが,私,積極的によいと思います。乙案を採ってほしいという意見が世の中にどれぐらいあるかということは,考慮したらよいだろうと思います。私自身は甲案がよいと思いますけれども,乙案について意見を言っていただく機会というのを設けるのがいいだろうと思います。   その上で,これはやはり分かりにくいと思うのです。2点あると思います。一つは,乙案の方ですが,移行の認可を行政庁から受けなかった信託も存続するものとすると,全くそのとおりだと思うのですが,結局,現公益信託法に基づく主務官庁による監督が続くと,そして期限なしで続くということになると思います。新たに法律を,今回やろうとしている立法の次にもう一回作って,初めて終わるということになるのかなと思うのです。   乙案が駄目だ,駄目だと言うのはフェアではないと思うのですが,少し乙案の現実的な姿というのをですね。書かれているかもしれませんが,もう少し書いていただくといいかなというふうに思います。   他方で,甲案に関するし,乙案にも関係するのだと思うんですが,移行の認可というのがここで取り上げられています。移行の認可を行政庁が行うという,新たに公益信託について一元的に認可と監督を行政庁がやるというところはそれでよいと思うのですが,補足説明の中に書いてあって,方向が少し別なのですけれども,移行の認可を受けるために信託の変更が必要であるということが問題になると思います。そういう場合がもしあったときにどうするかで,私の理解では,信託の変更の方が論理的に先行しますので,信託の変更は現在の公益信託法に基づいて,主務官庁の許可を得て信託の変更をすることが,何も手当てがないと必要に思われます。その辺りは,行き先が決まっているわけですから,ここでいう行政庁に一元化できるのであれば一元化することが望ましく,そういったことも,それはゴチックではないのですが,中間試案をパブリックコメントに付すときの補足説明に触れていただけると,今の公益信託の受託者は,皆さん,兼営銀行だとするとすぐに分かるのだと思いますが,委託者とか委託者の相続人とかの方々は,もう少しこの問題をよく理解していただけるかなと思います。 ○吉谷委員 山田委員に御指摘いただいた問題意識については,まず共有をしておりましたのですけれども,私が見るところでは,この甲案,乙案には二つの論点があって,認可が必要かどうかということと,旧法適用の公益信託を残すのかどうかという,この2点があると思います。   この提案の問い掛けは,認可の要・不要だけを問うているように見えますので,私どもは今まで,認可は不要であるというふうに申し上げていたのですけれども,その上で,旧法適用ではない,新法適用をするという道もあるのではないかというふうにも考えているところでございます。ですので,二つ論点があると考えてよければ,そのようなことが分かりやすいように,甲案,乙案の解説なのか,何かで示していただければと思います。   認可は不要ということの意味なのですけれども,例えば既存の公益信託は,新法の認可をみなし認可で受けることができるというようなやり方も考えられるのではないかと思っておりまして,それは一体甲案なのだろうか,乙案なのだろうか,どっちなのかというところがよく分からないと思っております。ですので,私は,全て新法に移行していいですとまで,今はまだ言ってはいないのですけれども,そのような二つの論点があるという形で認識しておりまして,それを反映していただければと思います。 ○中田部会長 今の御発言は,乙案の記載の仕方を修正すべきであるということになるのでしょうか。これはこのままで,説明でよろしいでしょうか。 ○吉谷委員 乙案,少し書き方を考えると,また自分でも考えないと,よく整理できないのですけれども,何といいますか,みなし認可で新法適用という道が許されてもいいのではないかということを,意見を募って,それにこたえられるような形の内容になっていればよろしいかと思います。 ○中田部会長 分かりました。 ○長谷川幹事 山田委員がおっしゃられたように,甲案,乙案を両方,中間試案に載せていただくということに賛成でございます。なおかつ,吉谷委員がおっしゃられたように,認可の問題と旧法適用の問題があるというのはそのとおりかと思っておりまして,その点も分かりやすく,補足説明の中でもいいのですけれども,書いていただければと思っております。   あと,恐らく派生的な問題としては,旧法適用を残す場合は,名称を新法適用と異なるものとするかなど,整理が必要な問題もあり得るかと思っております。 ○中田部会長 ありがとうございました。 ○小野委員 事務局への質問となるのですけれども,公益信託は監督とか認可とか,そういう観点からすると,正に規制法というのでしょうか。ですから,その時々の規律に従えばいいと思うのですけれども,ただ,組織法たる会社と違って,元々信託行為,信託契約,私法の範囲でありまして,そうすると,私法のところは,そう易々とこの契約は新法上駄目だよというわけにはいかないと思うのです。そういう観点から見ると,甲案の中で終了するというような規定になっておりますが,本来,有効だった私法上の信託契約をこうやって終了させるというための私法という観点からのロジックに,何となく全体は公益法人法という組織法的な議論をここではしているという観点なのですけれども必要と思います。何か課税では信託を組織法として捉えるという流れがあるようと思われますが,この部会では決してそうではない形で議論してきましたから,そういう観点から,何かきちんと私法上のロジックを考えていただき,そういう説明も補足説明の中でしていただければと思います。 ○中田部会長 御質問ございましたが,樋口委員の御発言いただいてからでよろしいでしょうか。 ○樋口委員 今の御発言で,なかなか甲案,乙案の読み方もいろいろあるのだなと。旧法で,旧法上の何とかっていう発想が私なんかなかったものだから。だって,公益信託というのは,名称独占では別に決まっているわけでしょう。そうすると,旧法公益信託というのが残るという発想は,なかなかユニークでいいですね。それは面白いですね,それが乙案だとするのかなという。   普通は--普通というのは,私が普通でないかもしれないのであれですが,64ページの真ん中にあるように,移行のために,つまり今までやってきた信託よりも簡易な手続で,それを吉谷委員みたいに思い切ってみなしまでいくかどうかはともかくね。簡易な手続で移行させてあげるというのが普通のやり方かなと思うので,普通のやり方ってどうしてかと,ここを言いたいのですけれども。   今回の公益信託法の改正は,やはり私も数だけにこだわっているわけではないけれども,公益信託活動を推進するためのものでないといけない。これは一旦ゼロにするということですよね,基本的に,もし新たに全部という話になるとね。ゼロを472まで本当に戻せるのでしょうか。   我々,先例を持っていますね。公益法人制度というのは,64ページに,2万4,000あった。今,幾つになっていると思いますか。これはきっとここの人たちは御存じなのでしょうけれども,9,400です。4割ぐらいになってしまっているわけですよ,でも公益信託はそもそも472しかないのです。しかし,公益法人は,もしかしたら少しトラの尾を踏んでしまうのかもしれないけれども,本当は2万4,000あるべきではなかったものも一杯あるのかもしれない。だから,9,400は適正な数なのかもしれないけれども,私は,吉谷委員に補足してもらいたいけれども,私らが知っている限りは,公益信託で不祥事があってという話は余り聞いたことがなくて,470というのは先ほどのほとんど助成型で,やはり資産を投げ打って,それを誰かに,とにかく基金として分け与えているというようなものがほとんどで,それを今更もう1回,ここにあるように,この移行の過程を,認可を受けることに伴う事務負担や,当該事務負担に起因する信託財産の減少だって,しかも公益信託って小規模で,それでなくたって財産がないということは分かっているのではないですか。   それで,470しかないということも分かっていて,470しかないから面倒掛けさせようという逆の,2万4,000だから5年も掛かったけれども,つまり発想が,470を減らそうと思っているのですかという,これね,公益信託潰しみたいな感じがするのですよね。それはやはりどうなのかというのは,少しついでに言うと,多分,公益信託も,今どんな法律もあるから,3年間だか5年間で見直し規定というのが入るのでしょう,多分。入らないのかな,こういう特別な立派な法律は。普通の業法は全部入るわけですよね。そうすると,3年ないし5年たったところで,470が幾つになっているかという話。もし,こんな仰々しく条文を一杯並べた挙げ句に3分の1になりました。これは,やはり立法者の失敗ではないでしょうか。そんなふうな方向で物事を考えるのがどうなのかなという気がするということです。   特に今,だから,もう1回繰り返しますけれども,そこにきちんと書いてあるように,特定公益信託ということかもしれないのですけれども,要件を満たしている既存の公益信託については,施行日後に簡易な手続で移行する。とにかく余りコストも掛からないというようなことで,これを470を出発点にしてどうやって増やしていくかということを考えていくのがいいのではないかなと考えました。 ○中田部会長 それでは,ただ今の小野委員の御質問,そのほかの委員,幹事の御発言について,事務当局の方からコメントを頂きます。 ○中辻幹事 小野委員から,公益信託は公益法人の組織法と違い私法上の契約の面があり,既存の公益信託を終了させる方向での議論は避けるべきであるという御指摘があり,また,樋口委員から,できるだけ既存の公益信託を生かしていくべきではないか,増やしていくべきではないかというお言葉をいただきました。事務局としてはいずれもそのとおりであると考えておりますし,特に,立案担当者としては公益信託がより皆様に活用されるものになって欲しいという想いを強く持っているのでありまして,新たに認可を受けることでそれが減少してしまうというのは本末転倒の事態であると思います。   その上で,旧主務官庁から許可を受けた公益信託がなんらの手続なしに新制度の下で存在し続けるというのは,あまり望ましくないのではないかとも考えていて,樋口委員のおっしゃったとおり,公益法人制度改革のときには,不適格な公益法人を振り落とそうという面があり,それは公益信託であってもしかるべきだと思いますが,現状を捉まえれば,現在の公益信託はほとんど信託銀行が受託者となっていることもあり,昔の公益法人に比べれば不祥事みたいのはごくわずかというかあまり聞いたことがございませんので,そのことや先ほどの山田委員のご示唆も踏まえて,届出など簡易な手続も含めて既存の公益信託から新たな公益信託への移行の方法については引き続き検討してまいりたいと思います。 ○道垣内委員 「みなし」というか,何もしなくても自動的に新法公益信託になるというのは,ほとんどの場合それでよろしいのでしょうけれども,私,現状をよく知らなくて恐縮なのですけれども,現在の公益信託においては,信託管理人の定め,あるいは残余財産の帰属すべき者の定めというのは存在しているのですか。 ○中田部会長 もし御存知の方がいらっしゃいましたら,吉谷委員,よろしいでしょうか。 ○吉谷委員 信託管理人は,私の知る限りでは全てに存在していますし,残余財産についても何らかの定めを置いてあると思います。 ○道垣内委員 そのときには,国又は地方公共団体,あるいは当該公益信託と--それは甲案,乙案あるのですが--類似の目的を有する他の公益法人とか,そういう形になっているのですね。はい,分かりました。 ○中田部会長 道垣内委員の御指摘は,現在どうかということについてですが,理屈の上では新法の基準に合致していない公益信託もあるかもしれない,それについて仮に乙案のような考え方を採った場合に,何らかの手当てが必要ないだろうかと,こういう御指摘だということでしょうか。 ○道垣内委員 そのとおりですね。チェックを何らかの形で掛けると,申請手続を同じようにして,何かいろいろしなければいけないというのではなくて,簡易にするということは十分に考えられるのですが,強行法規の基準を満たしているかというチェックのシステムというのは,どこかに置かないと多分駄目なのではないかなという気がします。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○深山委員 既に議論されているところの確認なのですけれども,乙案で想定している特段の移行の認可を受けなくとも存続する信託というのは,先ほど話の出た旧法に基づく信託としてという意味ではないというふうに理解をして読んでいたのですね。そこが旧法信託として残るという考え方と,当然に新法信託になって残るというものが,もし両案あるのであれば,そこは乙案が更に二つに分かれるということだと思うのですが,旧法信託として残るという案はないのだとすれば,そのことは少し説明した方がいいと思うのです。   他方で,先ほどの小野委員の指摘であったのですが,法人格の問題である法人の議論と違って,契約ですから,旧法下で成立した契約というのは,法律が新たになったからといって,当然に新法下での契約にはならないというのが一般論としてはあると思うのですね。そうだとすると,何らかの法的手当てで,旧法下の信託契約であっても新法が適用されるということは,立法技術的には何か手当てをしないと,既存の信託が新法下で新法の適用を受けるということにならないような気がしたものですから,少しそこの整理をお願いしたいと思います。 ○中田部会長 甲案について,これを支持される御意見があった一方,乙案については,このままだと分かりにくいということをいろいろな角度から御指摘いただいたのだと思います。乙案自身の表現,あるいはその説明について,更に検討していただくということになろうかと存じますけれども,この2について,ほかに御意見ございますでしょうか。 ○道垣内委員 乙案が言葉が分かりにくいというのは,甲案に言葉をそろえたからだろうと思います。したがって,無理のないところもあるのですけれども,乙案自体は旧法信託として存続するという案なわけでしょう。違うのですか。必要とせず,そのまま信託が存続するということではないのですか。 ○中田部会長 今のような御指摘が出ること自体が,乙案について不明確な点が多分あるのだろうと思います。それで,補足説明の中でも,旧制度と新制度のというようなこともありますので,いずれにしても,ここはもう少し明確にする必要があるということが今日の御審議で出てきたと思いますので,それは検討していただこうと思います。   ほかに,第19の2について,よろしいでしょうか。   それでは,また戻っていただいても結構ですけれども,残りが第19の「3 罰則」と「4 その他」の全体を通しての御意見を頂ければと存じますが。 ○吉谷委員 第19の4の意見なのかどうかは少し分からないのですけれども,中間試案として世に出されるときに,公益信託が税法上の優遇措置が適用になるとか,税の認可と一体になっているとか,そういうことを視野に入れるべきだということで最初,資料の第1回のときで言っていただいていたと思います。その考え方というのはやはり変わらないと思いますので,仮にこの4でいうのだとしたら,公益法人認定法58条のような,「所要の税制上の措置を講ずる」というようなものを入れるということになりますし,ここではなくて,あるいは前書きみたいなところで,何かそういうベースの考え方があるのだということを書いていただくというようなことが分かりやすいのではないかなと思います。 ○中田部会長 ほかにございますでしょうか。 ○小野委員 私の記憶ですと,公益認定はとっているのだけれども,税制上の特定はとっていないものが幾つか,何十件かあったかと思うのです。ですから,今の吉谷委員の恐らく発言されたことの延長だと思うのですけれども,そういうものが不利にならないような形で,何かきちんと対応する。新制度ですということで,今までオーケーだったものがオーケーではなくなるというものは,特にそれが問題になっているわけではないので,不合理かと思いますので,その辺も配慮していただければと思います。 ○中田部会長 審議の進め方の問題と部会の中間試案という形での決定で,どの辺を書くかというのとまた少しずれがあるかもしれませんで,いろいろ難しいことがあろうかと思います。ただ今のお二人の御意見を承ったということにさせていただきます。   ほかに。   ここまでのところで,事務局の方から何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。   以上で予定した審議は全て終えたわけですが,部会資料43の全体を通じて,もし言い残したような点がございましたらお出しいただければと思いますが,特によろしいでしょうか。   よろしければ,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の日程等について,事務当局から説明してもらいます。 ○中辻幹事 次回の日程ですけれども,11月7日(火曜日)午後1時半から午後5時半まで,場所は,法務省15階の第1531会議室を予定しております。   次回は,部会資料43「中間試案のたたき台(1)」について前回と今回にかけて頂きました皆様の御意見をできるだけ反映する形で,事務局の方で「公益信託法の見直しに関する中間試案のたたき台(2)」と題する部会資料44を用意いたしまして,皆様に御審議いただくことを予定しております。 ○中田部会長 ほかにございませんでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-

法制審議会信託法部会 第44回会議 議事録

平成29年9月12日(火)  自 午後1時32分
                       至 午後5時27分

第2 場 所  法務省大会議室

第3 議 題    公益信託法の見直しに関する中間試案のたたき台の検討

第4 議 事 (次のとおり)

議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第44回会議を開会いたします。本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
  初めに,前回の会議から今回の会議までの間に,委員等の交代がありましたので御紹介いたします。
  まず,法務省の小野瀬民事局長が委員として参加されることになったほか,従前,幹事であった筒井官房審議官が委員として参加されることになりました。また,民事局の堂薗民事法制管理官が幹事として,溜箭調査員及び福崎局付が関係官として参加されることになっています。
  それでは,新たに部会に参加することになった方々のみ,簡単な自己紹介をその場でお願いいたします。
○小野瀬委員 法務省民事局長の小野瀬でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○溜箭関係官 法務省民事局調査員の溜箭でございます。立教大学で英米法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○福崎関係官 法務省民事局付として参りました福崎と申します。よろしくお願いします。
○中田部会長 堂薗幹事は後ほどお見えになるかと存じますので,そのときにまた御挨拶いただこうと思います。
  本日は,筒井委員,道垣内委員,岡田幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席です。
  では,本日の会議資料の確認等を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について確認いただければと存じます。
  事前に,部会資料43「公益信託法の見直しに関する中間試案のたたき台(1)」を送付いたしました。また,当日配付資料として,吉谷委員から提供いただいた「信託主要法令資料」平成29年9月版を机上にお配りしております。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたら,お申し付けください。よろしいでしょうか。
  引き続きまして,部会資料43「中間試案のたたき台(1)」の趣旨について御説明いたします。これまでの民事法系の法制審部会の慣例に従いまして,本日の部会からは,ゴシックで記載した部会資料の本文について,このようなゴシック本文の提案内容を中間試案とし,パブリックコメントの手続に付してよいか,修正すべき点があればどのように修正すべきかという観点から御審議いただければと考えております。
  ゴシック本文の提案は,これまでの部会の御審議を踏まえ,概ねの合意が得られそうなものについては一本化しておりますが,意見が分かれているものは甲案及び乙案の両論併記としております。甲案は現行制度に近いというだけで,甲案か乙案かで優劣はありません。(注)としてゴシックに記載した考え方は,本文の提案に対する反対意見や別の考え方でございます。
  このたたき台は大部のものですので,本日1回では最後までの検討が終わらない可能性があります。したがいまして,本日の部会と次回10月の部会の2回に分けて御審議いただくことを事務局としては考えております。
  また,これも従前の慣例によりますと,部会で決定いただいた中間試案については,民事局参事官室の責任において補足説明を別途作成し,中間試案をパブリックコメントの手続に付す際に,その補足説明も併せて公表することが多うございます。もっとも,今回の部会資料43に記載した補足説明は,飽くまでたたき台についての補足説明であり,これがそのまま中間試案の補足説明になるわけではありません。中間試案の補足説明は,現行の公益信託制度からどのような点をどのように見直すことが必要であるのか,その内容及び理由を簡潔に分かりやすく説明するものにしたいと考えております。
○中田部会長 ただいま事務当局から説明がありましたとおり,本日の部会から中間試案の取りまとめに向けた審議というステージに入ります。部会としての案を中間試案としてパブリックコメントの手続に付し,意見をお聞きする際,どのような記載の仕方にすべきかという観点から御審議いただければ幸いです。
  したがいまして,部会資料43で挙げられているそれぞれの論点について,ゴシック体で記載された本文の案のうち,どの案を支持するのかということではなくて,パブリックコメントの手続に当たって,ゴシック体の本文の記載の仕方が適切かどうかを中心に御発言をお願いできればと存じます。
  その上でなのですけれども,補足説明の中で,今回検討すべき事項とされている部分がございます。この部分につきましては,ゴシック体の本文の記載の仕方に関連して,現段階で議論を詰めておく必要があるものが掲げられているものと思いますので,併せて御意見を頂ければと存じます。いずれもこれまでの審議を踏まえてのものだと思いますので,それを前提としまして,本日は詰めの御検討をいただけますとありがたく存じます。
  なお,補足説明には,この部会資料を作成するに当たっての事務当局の認識や問題意識を示すものもあります。その点についての御意見を頂くことはもちろん結構なのですけれども,中心となりますのは飽くまでゴシック体の部分ですので,その旨御理解,御協力をお願いいたします。
  審議の進め方ですが,先ほどの中辻幹事の御発言にもありましたように,このたたき台(1)を今回と次回の2回に分けて審議してはどうかと思います。そこで,本日は,部会資料43の第1から「第11 公益信託の情報公開」までを行い,もしも余裕があれば,更に第12から第14までについて御審議をお願いしたいと考えております。途中,午後3時半頃,切りのよいところで休憩を挟むことを考えています。
  以上のような審議の進め方でよろしいでしょうか。
  ありがとうございます。それではそのように進めさせていただきます。
  では,本日の審議に入りますが,まず,部会資料43の第1から第3までについて,御審議をお願いします。
  事務当局から説明してもらいます。
○舘野関係官 それでは,部会資料43に記載の論点について御説明申し上げます。
  今回は,ゴシックの本文を中間試案をとして掲げるに当たって,検討を要する事項等を中心に御説明させていただきます。
  それでは,まず「第1 新公益信託法の目的」について御説明いたします。
  第1の本文は,「新公益信託法は,公益信託の成立の認可を行う制度を設けるとともに,受託者による公益信託事務の適正な処理を確保するための措置等を定めることにより,[公益の増進への寄与を目的とする他の法律と相まって,]民間による公益活動の健全な発展を促進し,もって公益の増進及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とするものとする」との提案をするものです。
  第1の本文では,部会資料38の第1において「公益信託事務を適正に処理し得る公益信託」としていた表現を,「受託者による公益信託事務の適正な処理を確保する」という表現に修正するとともに,「民間による公益活動の健全な発展を促進し」という表現を追加しております。
  その上で,今回検討すべき事項に記載しましたように,新公益信託法と公益の増進に寄与することを目的とする他の法律との相乗効果により,公益の増進が図られることは望ましいものと言えることから,社会福祉法の表現を参考に「公益の増進への寄与を目的とする他の法律と相まって」という表現を入れることも考えられますが,公益法人認定法やNPO法にはそのような表現が用いられていないこともあり,中間試案にこの表現を入れるか否かについて御意見を頂ければと存じます。
  なお,(前注3)に記載のとおり,本部会では,従前,公益信託の成立時に行政庁が行う行政行為について,公益信託の認定という用語を暫定的に使用しておりましたが,山本隆司参考人の御意見等を踏まえ,本部会資料では公益信託の成立の「認可」という用語を用いることとしております。
  次に,「第2 公益信託の定義等」について御説明いたします。
  第2の「1 公益信託の定義」の本文は,「公益信託は,受益者の定めのない信託のうち学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とするものとして,行政庁から公益信託の成立の認可を受けたものとする」との提案をするものです。
  第2の1の本文では,部会資料38の第2の1の提案から,「信託法第258条第1項に規定する。」という部分を削除するとともに,新たな公益信託の成立の認可を行う主体を「行政庁」と特定した表現に修正しています。
  その上で,今回検討すべき事項に記載しましたように,信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託と公益信託の異同について改めて検討しましたが,両者の共通点は「受益者の定めのない」という点程度しか見当たりません。他方,信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託は,委託者及び受託者の合意のみによってその効力を生じ,同法第259条で20年の存続期間の制限が課され,同法第260条のように委託者の権限が強化された上で,行政庁による成立の認可や監督を受けないものとされていますが,現時点で想定される新たな公益信託は,委託者及び受託者の合意に加えて,行政庁の成立の認可を受けることによりその効力を生じ,成立後も行政庁の監督を受けるほか,委託者が公益信託に過度に関与するような事態を回避することが予定されているものであって,信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託と公益信託は重要な部分で相違点があり,性質上,大きく異なるものと言えます。
  そうすると,公益信託を受益者の定めのない信託のうちの一つとして定義した上で,公益信託について信託法第1章から第10章までの規定とは異なる特例を設ける場合には,新公益信託法の中に信託法第11章とは別の特例を設けることが相当であると考えられます。なお,その際には,信託法施行令第3条に定める受益者の定めのない信託の受託者要件の適用範囲について,「受益者の定めのない信託(学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的とするものを除く)」として,主務官庁の許可を受けた公益信託を除外している信託法附則第3項も改正する必要があるものと考えられます。
  これらの点について,御意見を頂ければと存じます。
  第2の「2 公益信託事務の定義」の本文は,「公益信託事務は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益に関する具体的な種類の信託事務であって,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものとする」との提案をするものです。
  第2の2の項目名については,公益信託の目的と公益信託事務は截然と二分できるわけではないと考えられることに加え,公益信託の認可を行う行政庁は,申請書類に記載された公益信託の目的が新公益信託法の定義する公益信託事務に該当するか否かを判断することになると想定されることから,部会資料38の第2の2,「公益信託の目的」から「公益信託事務の定義」に変更しています。
  また,第2の2の本文の「不特定かつ多数」の表現については,現在の公益法人の認定実務において「不特定かつ多数」であるか否かについて柔軟な判断が行われているように,新たな公益信託の成立の認可を行う行政庁により,「不特定かつ多数」の要件について柔軟な判断が行われるのであれば,あえて公益に関する他の法律と異なる公益性判断の仕組みを構築するまでの必要性は認め難いことから,従前の提案同様に「不特定かつ多数」という表現を用いることとしています。
  第2の2の本文の公益信託事務の内容については,公益法人認定法第2条第4号の別表第1号から第22号までの公益目的事業と同様に,新公益信託法の別表に列挙した上で,公益法人認定法別表第23号と同様に政令で定めるものとすることを予定しております。
  第2の「3 現行公益信託法第2条第1項の削除」については,従前の部会で異論はなかったことから変更点はありません。
  次に,「第3 公益信託の効力の発生」について御説明いたします。
  本文1は,「公益信託は,当事者が信託行為をし,かつ,行政庁による公益信託の成立の認可を受けることによってその効力を生ずるものとする」との提案をするものです。
  本文2前段は,「行政庁から不認可処分を受けた場合であっても,当該信託を[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として有効に成立させる旨の信託行為の定めがあるときは,当該信託は,不認可処分を受けた時から[公益を目的とする]受益者の定めのない信託としてその効力を生ずる」との提案をするものです。
  本文2後段の甲案は,本文2前段により効力を生ずる信託について,信託法第258条第1項の受益者の定めのない信託に関する信託法第11章の規定を適用するもの,本文2後段の乙案は,信託法第258条第1項の受益者の定めのない信託に関する信託法第11章の規定を適用せず,別の規定を適用するものです。
  本文3は,「当事者が本文1の認可の申請を予定していない[公益を目的とする]受益者の定めのない信託については,行政庁から不認可処分を受けた[公益を目的とする]受益者の定めのない信託と同様の規律を適用するものとする」との提案をするものです。
  本文1の提案は,部会資料41の第1の甲案及び丙案をベースとしつつ,公益信託は,委託者及び受託者が信託行為をすること及び行政庁による公益信託の成立の認可を受けることの両方の要素を備えることにより,公益信託としての各種の効力が生じるものであるということを論理的に表現した形に修正したものです。
  また,本文2前段の提案については,特に本文2後段の甲案を採用する場合には,新公益信託法の中に,本文2前段のような規定を設けるのではなく,解釈に委ねるべきであるという考え方があることから,その考え方を(注)に示しています。
  その上で,今回検討すべき事項の(1)及び(2)に記載しましたように,行政庁から不認可処分を受けた場合でも,[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として有効とする旨の信託行為の定めがあることにより効力を生ずる信託について,信託法第11章の規定を適用すべきとする本文2後段の甲案を採用するほか,信託法第11章の規定を適用せず,別の規定を適用する乙案を採用するかの論点は,中間試案のゴシック本文に甲乙両案を併記するか,甲案のみを記載するかに関わる重要な部分ですので,特に御意見を頂ければと存じます。
  なお,その際には,信託法附則第3項及び信託法施行令第3条に定める受益者の定めのない信託の受託者要件との関係も踏まえた上での検討が必要となるものと考えられます。
○中田部会長 ただいま説明のありました第1から第3までについて,まとめて御審議いただきたいと思います。
  御自由に御発言をお願いいたします。
○深山委員 順に簡潔に申し上げたいと思います。
  第1については,ゴシックのようにすることについて特段異存はございません。角括弧のところは,二つの考え方を示して意見を問うという意味でしょうから,そういう意味ではこれを,個人的にはなくてもいいかなと思いつつも,残すことについて特に異存はありません。
  公益信託の定義の第2の1についても,結論的には特に異論はございません。第2の1のところは,従前の部会資料38の第2の1では,信託法258条1項に規定するというものがあったところを削除しておりますが,ここは公益信託の性質ないしは目的信託との関係について,目的信託の一種という位置付けをするのか,別類型というふうにするのかは,説明の仕方としては両方あり得ると思います。目的信託の一種だとした上でもろもろの特則を設けるという規定の仕方もあると思いますし,もはや違う類型というのも,どちらもあると思うので,そこは解釈に委ねるという趣旨で,あえてそこは何も書かずにゴシックのような形でよろしいのではないかというふうに考えております。
  第2の2については,ゴシックの本文について特段異存はないんですけれども,タイトルが従来は「公益信託の目的」としてこの内容が記述されていたものが,「公益信託事務の定義」というタイトルになっているところをどう理解するかということについて,申し上げます。定義として書いたときに,条文になったときに,公益信託事務という言葉が用いられて,それについて何らかの規律が設けられるんだろうと思うんですが,どういう規律が設けられるのかが,必ずしも今の段階では分からないので,定義だけ見て,これを定義としていいのかどうかというのがやや判断に苦しむなというふうに,個人的には印象を持っております。ただ,本文に関して言えば異存がないので,その問題意識といいますか,印象だけをお伝えしておきたいと思います。
  第2の3については異存ありません。
  少し意見を申し上げたいのは,第3のところです。第3の1については異存がありません。それから第3の2の前段についても異存ありませんが,甲案,乙案,分かれているところについて意見を申し上げます。
  ここは,更に(注)の考え方も入れれば三つの考え方が併記されておりますので,それはそれでパブコメに付す仕方としては,特段の規定を設けない(注)も含めて並べておくということについては異存はないんですが,甲案と乙案のところで,乙案の表現が信託法11章の規定を適用せず,別の規定を適用するというところが,ここで言う別の規定がどういうものなのか,やや分かりにくいのではないかなと思います。
  考え方として,認定を受けられなかった公益を目的とする信託は,信託法258条1項の目的信託そのもので,同じルールでいいんだという甲案に立つのであれば悩みはないんですけれども,乙案のようにそれとは何らかの点で違った規律をすべきだという考え方を採る,あるいは採るかどうかということを考えるときには,ではどこが目的信託と違う規律にすべきなのかという問題になります。正にこの別の規定の中身が問題になって,私が考えるに,例えば目的信託の20年という存続期間の定めをそのまま適用するのがいいのかどうかとか,あるいは258条4項で,信託管理人について,ここでは遺言で行った場合は必置となっておりますが,そのルールのままでいいのか,むしろ公益信託と同様に,契約でやった場合でも必置とすべきだというような考え方もあり得るような気がいたします。
  そのように,別の規定としてどういうものが考えられるのかということが少し例示されたほうが,乙案にすべきか甲案でいいのかというようなことを考える上では,考えやすいのではないかと思います。もちろん補足説明の中に書けばいいのかもしれないんですが,ゴシックだけを見たときに,別の規定のところがイメージしにくいという点がやや検討をすべきではないかということを感じました。
  あと,第3の3については異存ございません。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 ただいまの意見とも重なるところがあるんですが,ただ,ちょっと私が今発言したいのは,第2の1「公益信託の定義」のところです。先ほど説明がありましたように,「受益者の定めのない信託のうち」というふうに書いたことによって,ここでは目的信託の一種であるという考え方を必ずしも採らない,採るということも考えられるけれども,採らないという考え方もありうる,そういう表現に変えたわけですね。この表現自体は私はこれでいいと思うんですが,この定義のところと,先ほど深山委員が問題にされた第3の2の甲案,乙案のところとの関係が気になりました。すなわち,第2の1の定義を是としても,第3の2のところで乙案につながるというものではないこと,甲案と乙案の選択肢はありうるということです。両者の関係について補足説明では特に言及していませんが,第2の1の定義の補足説明では,公益信託は目的信託の一種ではないというニュアンスが出ているようでもあり,そうすると第3の2では乙案につながりやすい。しかし,定義の問題は,第3の2の甲案,乙案とは別の問題であり,定義のところの説明によって,おのずと甲案,乙案のどっちかに流れていくというような,そういう内容にはしないようにすべきだと思います。第3の2の問題は,飽くまでもオープンな,どちらにもなり得るというふうにしておいたほうがいいのではないかということでございます。個人的には,私,甲案に賛成ですけれども。それはともかく,ここの二つの表現,説明の仕方について御注意いただければと思います。
○中田部会長 新井委員,その後,平川委員。
○新井委員 まず,第1については,「公益の増進への寄与を目的とする他の法律と相まって」という文言を追加するということに賛成いたします。積極的賛成です。信託は,これからは信託のみで機能するのではなくて,ネットワークの中で機能することに意味があると言われています。日本の例で言えば,例えば後見制度支援信託があって,成年後見と信託が連携して機能を発揮するというようなことがありますし,それから海外ですと,最近はスペシャル・ニーズ・トラストと言われて,信託と福祉制度が連携しているものがあります。これはシンガポールではもう機能していますし,今度,香港もそういう制度を導入するということが考えられます。したがって,この「他の法律と相まって」というのは非常に意味のあることではないかと思います。もっと広く言うと,最近,信託受託者のアンバンドリングということが言われていますので,受託者は一つの機能を行って,それがほかの社会的機能と連携するということが重要だと思いますので,こういう表現を入れるということは,私は大変いいことではないかと思って積極的に賛成いたします。
  それから,第2「公益信託の定義等」についてです。
  第2の1「公益信託の定義」自体については,これで結構かと思います。
  それで,問題となるのが,信託法の附則との関係です。私としては,目的信託については現在の信託の受託者要件を存置すべきだと考えております。そして,公益信託には,この附則の適用はないわけです。どうしてそう考えるかというと,この附則の意義というのは,目的信託の濫用が心配されるということで,こういう規制を設けたということだと思います。この信託法の濫用ということについて考えてみると,委員・幹事の方々は御存知のように,自己信託が,特に民事信託の分野において相当濫用されているということが言われています。そういう状況の中で,目的信託の現状がどうかということについて必ずしも十分な審議を経ることなくして,この受託者要件を外してしまうことは,やや軽率のようにも思うわけです。他方,公益信託の設定には認可という客観的な縛りがあります。ですから,附則第3条は存置していただきたいと思います。
  その次が,第3「公益信託の効力の発生」についてです。
  ここについては,まず,私は甲案に賛成したいと思います。その上で,第3の2及び第3の3のところで「公益を目的とする」という表現がありますけれども,これは削除したほうが良いのではないでしょうか。「公益信託」と「公益を目的とする目的信託」の区別が非常に分かりにくいので,「公益を目的とする」という文言は全て削除すべきではないかと考えます。
○中田部会長 平川委員の御発言の前に,今,堂薗幹事がお見えになりましたので,一言御挨拶をお願いいたします。
○堂薗幹事 遅参いたしまして,失礼いたしました。民事法制管理官の堂薗でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○中田部会長 それでは,平川委員お願いします。
○平川委員 まず,第1「新公益信託法の目的」のところですけれども,基本的に賛成いたします。
  認定か,認可かということの検討をされておりましたけれども,認可という言葉はやや大時代的な用語ではありますが,学問的検証を経たものであって,容認できるものであると思いますし,この認可という定義を入れることによって,公益信託は目的信託の前置を必要とせず,公益信託そのものを認可するということで成立することが明確になっているということ,そして,公益信託事務の執行の主体が受託者であることが明記されていること,また,公益信託が民間による公益活動であり,この法律はその健全な発展を促進するためのものであることが明確に規定されていることから,この公益信託法の目的についての規定に,基本的に賛成します。
  先ほど,新井委員から御指摘のあった「公益の増進への寄与を目的とする他の法律と相まって」という文言については,積極的に反対するものではありませんが,あえてそのような表現を加える必要はないと思いました。社会福祉法第1条の目的に同じ表現が使われているということですが,去年の社会福祉法の改正で新たに加わった表現というわけでもなく,従前から記載があったところを見ると,新しいトレンドとして異なった法律制度に基づく公益増進の相乗効果をうたうべきという方針があるわけでもなさそうなので,公益法人認定法やNPO法と同じように,特にこのような表現を使うこともないのではないかと考えました。
  第2「公益信託の定義等」について,賛成いたします。
  現行公益信託法において,公益信託を信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託のうち,と定義していたことが,たたき台5ページ記載のとおり,目的信託を規定する信託法第258条第1項への言及が削除され,是正されたことは大いに好ましいことであると考えます。特に,現行法と同様に信託法第258条1項と関連付けた場合には,元々実例のほとんどない目的信託をベースに公益信託が構成され,法技術的にもそれが準用される場合には,一般の人が分かりにくく,公益信託を親しみにくくさせるおそれがあったことから,この解消が図られたことに賛成いたします。
  ただ,「受益者の定めのない信託のうち」というたたき台の記載の仕方が妥当かどうか,検討の要があると思います。公益信託という別の類型の信託であるということをはっきりさせるためには,公益信託は公益を目的とするというだけで公益信託の定義は語り尽くされているので,「受益者の定めのない」という文言は不要であると言えます。先ほど新井委員からは,「公益を目的とする」というのは削除すべきなのではないかというお話がありましたが,むしろよりどころをこの「公益を目的とする」という点に置きたいと考えます。「受益者の定めのない」という文言をもし入れるのであれば「公益信託は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とした受益者の定めのない信託として」というように「受益者の定めのない」という文言を入れる場所を後ろの方に持って行ったほうがよいと思います。
  また,「受益者の定めのない」という文言を入れる場合には,受益者の定めがあるが,その背後には不特定多数の地域の団体や,不特定多数の受益する人を抱えた公益法人等がある場合について,公益性の認定の中で受益者の定めのない信託と同視され,受益者の定めのない信託として扱われるということなどの議論を行っておく必要があると思います。また,現行信託法の受益者の定めのない信託の特例である第11章を除外して別の特例の規定を設ける場合には,新公益信託にふさわしい条項とする必要があり,今までの第11章の準用や読み替えで対応することのないようにしていただきたいと考えます。また,信託法附則第3項については,公益信託への言及部分である括弧部分は当然不要となると考えます。
  第2の2「公益信託事務の定義」については賛成いたします。
  第2の3「現行信託法第2条第1項の削除」についても賛成します。さきの第1の4,公益信託の定義において,「信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託」から,単に「受益者の定めのない信託」に変更したことの意義が,信託法第11章の受益者の定めのない信託の特例全部を適用しないことを意味するのであれば,現行公益信託法第2条第2項も削除することになると理解しておりますが,それでよろしいでしょうか。信託法第2条第2項は,公益信託の存続期間については信託法第259条の規定はこれを適用せずという存続期間に関する規定です。
  また,第3「公益信託の効力の発生」につきまして,第3の1については賛成いたします。
  第3の2については甲案に賛成し,乙案は不要であると考えます。公益認定を得られない信託については,公益を目的とする信託を標榜させるべきではなく,存続するとしても,単に目的信託となるとすべきです。飽くまでも公益信託と目的信託を峻別する思想からは,乙案のような中途半端な非適格公益信託とも言うべき公益を目的とする信託の新たな創造は,百害あって一利なしと考え,公益信託法に特にこれを書く必要もないように思われます。信託行為の中で,認定が受けられなかった場合は終了すること,又は目的信託として存続すること,などが定められるべきもので,信託行為の解釈に委ねてよい問題なのではないかと思います。
  第3の3につきまして,記載のとおりの考え方に賛成します。行政庁から不認可処分を受けた公益を目的とする信託であろうと,その認可の申請を予定していない信託であろうと,同一の規律を適用すべきであると考えます。
○中田部会長 ほかに。
  沖野幹事,林幹事の順にお願いします。
○沖野幹事 ありがとうございます。
  本当に今確認するのは恥ずかしいことで,どこかで確定的に決まったんじゃないかと思うんですけれども,第1「新公益信託法の目的」ということですが,今回の作業としましては,現在のいわゆる公益信託法を改正するなり,新設するなりして,信託法とは別の立法を行うということが当然の前提であるということで進んでいるのではないかと思うんですけれども,念のため,これが最後の機会かと思いますので確認させていただきたいという趣旨です。
  と申しますのは,この説明の中で,第2に関連して5ページに,今回検討すべき事項の中に,信託法11章とは別の特例を設けるということで,それは新公益信託法の中にということですから,別途の特別法ということが想定されていると思います。しかし,可能性としては,新しい12章とか,そういう可能性もあるように思われますし,それから元々信託法は一本であったところを切り分けた,それは作業が間に合わなかったということが非常に大きな要因であったように思われます。さらには,一般の信託法の規定する受託者の義務等ということが基本的には公益信託にも妥当するというようなことを考えると,規定の在り方自体は特別法は維持するということでよろしいのかどうか。もし信託法に入れてしまうならば,もちろん第1の目的規定などは要らないんじゃないかということにもなりますので,念のため,そこは確認させていただいて,という趣旨です。
  それが1点目ですけれども,個別の中身としましては,第1につきましては,現在,角括弧に入っております内容というのは,個人的には不要だと考えております。言わずもがなであろうと思っておりますけれども,しかし,広く意見を聞くということであれば,飽くまでこのような括弧に入れる形で聞いていただくというのがよろしいのではないか,その意味では原案がよろしいのではないかと考えております。
  次に,第2の2「公益信託事務の定義」ということなんですけれども,これはゴシックにどうこうということではなく,ゴシックになったときにこのような考え方でよろしいのかということが2点あります。
  一つは,別表方式で,かつ公益法人認定法の中身のものを公益信託法の別表に列挙するということなんですけれども,その列挙の文言のイメージなんですが,例えば,今別表を見ますと,1号が学術及び科学技術の振興を目的とする事業となっておりますが,この事業を事務に置き換えると,そういう文言になるのかどうかです。そうしたときになんですけれども,一方で,信託事務という文言は信託法に出てまいりますので,例えば信託法の29条が受託者の注意義務という規定ですけれども,受託者は信託の本旨に従い,信託事務を処理しなければならない。また29条2項の方が,いわゆる善管注意義務ということで,信託事務を処理するに当たってはという形になっておるんですが,これが公益信託事務の定義というのが入ったときに,29条などは,信託の本旨に従い,公益信託事務を処理しなければならないというような読み方になっていくのかどうか。そうすると,例えば,それが学術及び科学技術の振興を目的とする事務を処理しなければならないというような読み方になっていくのかどうかというのがちょっと気になりまして,それとは違う,具体化のレベルも違う話なので,事務という言葉,あるいは信託事務という言葉を使っても,それは違う概念として立てていくんだということになるのかどうか,ちょっとこの下でどうなるのかというのがイメージが湧かなかったものですから,もし御説明いただければ,よりはっきりとしたイメージがつかめるのかと思いました。
  それから,第3の2のところですけれども,これも甲案,乙案とございまして,私は個人的には,特別に規定を設けないという考え方に賛成はしておりますけれども,しかし,いろいろな考え方はなおあり得るところで,現在でも十分に一本化はされていないところですので,パブリックコメントということでは,甲案,乙案という2案で聞いていただいたらいいのではないかと思います。
  ただ,乙案の内容がはっきりしないように思われました。と申しますのは,乙案は信託法11章の規定は適用せず,別の規定を設けるとなっております。これは深山委員からも御指摘のあった点ですけれども,別の規定という,そのあり方として,これですと,11章は排除してしまって違うものをたてるということだと,言わば第3類型というんでしょうか,定義された公益信託,つまり認可を受けた公益信託,それから一般的な目的信託があってそれと,公益を目的とする信託の特例のようなものがもう一つあるようなイメージも受けます。それは非常に大掛かりであって,そこまで果たして本当に,この場であってもそこまでの主張があったのかというのはやや疑問に思うのですが。それに対しまして,基本的には11章であっても,幾つかは特則を設けてはどうか。例えば,その例として,深山委員がおっしゃったようなものがあるかと思いますけれども,信託管理人の置き方をどうするかとか,それから受託者の要件を,経過措置等の関係もあってどうするかとか,幾つかの特例を置くという可能性があるのかと思います。
  乙案はどちらを意味しているのか,あるいは両方もあり得ることだとしているのかという点が気になりまして,もし後の,やはり特例が幾つかは必要じゃないですかということであるならば,今の書き方だと全面的に信託法第11章は適用しないという形になるように思われますので,例えば,第11章に対してさらなる特則を設けるとか,そのような表現の方が分かりやすいかもしれません。
  ただ,更に別の規定というときどのようなものが別の規定なのかというのがよく分からないところで,この中でも若干は議論されていると思いますけれども,そこが余り詰まっていないようには思われます。意見を求めるためには,別の規定についてどういうものかのイメージぐらいは例示として挙げる必要があると思われ,それは補足説明のところでよろしいと思うんですけれども,ただ,別の規定というのが確固としてここで固まっているわけではないとすると,置くとするとどのような規定が考えられるかと,別の規定としてどういうものがあるのかということも問うたほうがよろしいのではないかと思われまして,もし今申し上げたようなことが共有されるならば,この聞き方の表現は,特に乙案については少し考え直したほうがいいのではないかと思います。
○林幹事 先ほど深山委員がおっしゃられたこととほぼ同じなのですが,ポイントだけ申し上げますと,第2「公益信託の定義」の今回検討すべき事項のところで,附則3項の改正ということも触れられていまして,これについては賛成しますし,了解ですので,整理としてはこのようにしていただいたらと思います。
  それから,公益信託事務の定義に関してですが,公益信託の目的から公益信託事務の定義へ変更した点について,弁護士会でも賛成の意見もそれなりに多かったのですが,目的のままの方がよかったではないかという意見もあって,それはそう言われると,それも一理あるなと思いました。
  それで,改めて考えるに,公益信託の目的というのは,信託の具体的な要素のうちの重要なポイントなので,立法の中にそのことが分かるように出てこないといけないのではないのかという気がします。それから,公益信託の目的と,その下にある公益信託事務というのが2段階であるということも間違いないので,立法になったとき,そのことが分かりやすく出るべきなのではないかと思いました。
  それから,沖野幹事もおっしゃられましたが,別表方式でいくとしたとき,何とかの事業じゃなくて何とかの事務と書き換えるのでしょうけれども,そことの関連も考えるときに,目的との区別が分かりにくいという補足説明に書かれた記載内容そのものは全くそのとおりだと思うのですが,整理としては目的のままの方がよかったのではないかというふうにも感じたものですから,申し上げたいと思います。
○中田部会長 これまで頂いた御意見の中に幾つか御質問もありましたので,この辺りで事務局の方から少し御発言をお願いできますでしょうか。
○中辻幹事 まず,平川幹事から,公益信託法2条2項を削除するのかという御質問がございました。公益信託の存続期間について目的信託の20年の期間制限は適用しないという実質を維持することには部会で異論がなかったものと理解しておりまして,その上で,公益信託法2条2項を削除するのか改正するのかは法制上の技術的な問題ですので,条文化の際にこちらで検討させていただきたいと思います。
  次に,沖野幹事からの1つめの御質問にお答えします。今回の公益信託法の見直しに当たっては,現在の公益信託法のように信託法の特別法の形式を維持するのか,それとも公益信託についての条文を含んでいた旧信託法と同様に,信託法の中に第12章「公益信託」のような章を設けるのかという問題はたしかにございまして,旧信託法と同様の形式を採るのであれば私も目的規定は不要であると考えておりますし,以前の部会で道垣内委員が発言されていたのもそれに近いのではないかと思います。その上で,事務局としては,新たな公益信託でも現在の信託法の特別法の形式を維持する可能性が高いという見立てを持って第1の提案をしております。その理由を申しますと,公益信託の主務官庁による許可制を廃止し新たな公益信託の認可は国の行政機関のいずれかにおいて一元的に行うということがこの部会の大勢となっていますが,主務官庁制を先に廃止した公益法人の世界では,旧民法から独立した一般法人法及びその特別法としての公益法人認定法が存在しておりまして,それと公益信託も平仄の取れた形にすることが分かりやすいと考えているからでございます。そして,仮に公益信託の認可を行う行政機関が法務省以外の省庁になるのであれば,新たな公益信託法はその役所と法務省の共管になる可能性があると考えております。
  それから,沖野幹事からの2つめの御質問,今回の部会資料で用いている公益信託事務という用語と,公益法人認定法及びその別表における公益目的事業という用語との関係ですが,事務局としてはほぼ同一の内容を意味するものとして使っています。現在の公益信託契約書でも受託者が行う「事業」という表現が使われているものがあるのですが,そのような実務とは別に現行公益信託法4条で使われている「公益信託事務」という法令用語を生かせるのではないかと考えておりました。一方で,信託法29条などで使われている「信託事務」という用語は,受託者が行う個々の信託事務を想定しているものであり,それらを束ねたものを「公益信託事務」として整理しているものでございます。
  沖野幹事の3つめの御指摘は,深山委員からも御指摘ありましたけれども,第3の2の乙案で出てくる別の規定のイメージですが,遺言でなく契約により成立する公益目的の目的信託でも信託管理人を必置とする,公益信託の目的信託には信託法259条の20年の期間制限や附則3項の5000万の受託者要件をかけない,目的信託の委託者の権限を強めている信託法260条の規定を適用しないなどの特例が思い付くところでございまして,それらの規定を念頭に置きながら乙案の表現ぶりについては更に検討してみたいと思います。
  第3の論点については,今回御欠席の道垣内委員から事前にメールを頂いておりますので御紹介いたします。メールの文章を少し順番を変えて読み上げますと,「全体として謙抑的でよい。目的の話がなくなったのはうれしい。」とされた上で,「第3の2は当然甲案でしょうね。また,第3の3については不要な気がします。というのは,僕が全く申請の気持ちがなく,単に受益者の定めのない信託を設定したつもりであったときに,それが後発的に,かつ外部から,いや,これは公益目的ですねと言われ,不認可処分のときと同様となるとしますと,後で述べる不認可のときの処理にも関係するのですが,通常の場合にも制約が掛かるとするとおかしいのではないでしょうか」という御意見をいただいております。
○神田委員 質問のような形で3点申し上げたいと思います。
  今,事務当局からの御説明で明らかになってはいるとは思うのですけれども,1点目は,第2の2の公益信託事務という概念なのですけれども,公益信託事務とは別に,当然信託事務という概念があって,その信託事務をすることは妨げられないというか,ということです。公益信託事務という概念を使うことによって信託事務ができるか,できないかという問題が出てくるのか。それは先ほどの御説明で言えば,受託者の個々の権限というのですか,行為をする権限の問題として整理されるのかといったあたりが分かるように書いていただければという希望です。これは中間試案でパブリックコメントを求めると思いますので,ちょっと聞き方の問題になるとは思いますけれども,表現にもう少し工夫できるような気がします。ひょっとすると補足説明でそこを書いていただければ済むことかもしれません。
  それから,2点目と3点目は第3に関わるものです。実は今の道垣内委員の御意見と若干かぶるのですけれども。第2点目としては,第3の2で「有効に成立させる」とか,あるいは「信託としてその効力を生ずる」という表現があり,補足説明では「公益信託の準備状態」という言葉が使われていますけれども,例えば信託行為をして,もう信託財産というか,財産を移転して,認可を待つという状態で認可がされた場合には,認可がされて初めて有効に成立させるという選択肢しかないのか,先に,言わば信託を成立させておいて認可を待つというのはありなのかということを聞いたほうがいいと思います。それはパブリックコメントでという意味です。と申しますのは,いろいろなパターンがあると思うのですけれども,認可された後で,何らかの法律問題が信託一般について生じた場合に,認可される前から信託関係は成立していたといったほうがいい場合があるように思いますし,それから,例えば認可が受けられるかどうか分からないというのでいろいろ準備して,駄目そうだというのでまた新たな工夫をしてといってやっているうちに,半年,1年掛かると。それで,半年,1年後に認可が得られましたということもあり得ると思うのですけれども,その場合でも,認可があるまで有効に成立しないというふうに定めておかないといけないというのはちょっと強過ぎるように思います。少なくともパブリックコメントではもうちょっと中立的にというんでしょうか,聞いていいように思います。
  それから3点目は,道垣内委員がおっしゃったこととほぼ同じなのですが,3に関してです。この部会資料を拝見すると,認可の申請を予定している信託と,予定していない信託と,二つに分けられているのですけれども,それがいいのかどうかということです。といいますのは,予定していない信託だと分類されても,1年,2年たっているうちに認可申請しようということになると,その時点から予定する信託になるというふうに,この部会資料ですと整理せざるを得ないと思うのですけれども,その二分法というのは,必ずしも不要というか,適切かどうか疑義があります。少なくとも中間試案としてパブリックコメントに付すには,ちょっとそこは論理的に整理して聞いていただいたほうがいいように思います。
○中辻幹事 少しさかのぼって申し訳ありません。第2の2「公益信託事務の定義」のところの項目名について,従前の「公益信託の目的」という項目名のままでもよかったのではないかと,林幹事から御指摘をいただきました。そこで,もう少し丁寧に説明いたしますと,部会資料43の26ページの第9の1「公益信託の目的に関する基準」では公益信託事務を行うことを目的とするものであることを認可の要件としているところ,ここは,公益法人認定法5条1号が,公益法人は収益事業を行うことができるので,「公益目的事業を行うことを主たる目的とする」という規定になっていることに対応させているのですが,今回の部会資料を作る過程で,公益信託事務については公益法人認定法の「公益目的事業」と同様に定義した上で,「公益信託の目的」は認可の要件の項目名に使った方が分かりやすいと考えたものでございます。
○中田部会長 第9の1については,またそこで御審議いただきますけれども,取りあえずその両者の結び付きということだけ,今御説明いただきました。
○山本委員 今の点について確認をさせていただきたいのですが,定義は,4ページで,「受益者の定めのない信託のうち学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とするものとして,行政庁から公益信託の成立の認可を受けたものとする。」とされています。これは,これまでの議論の延長線上にあるものでして,それ自体非常に分かりやすいのですが,先ほどのように変えられた結果,後ろの方で出てくる認可の基準では,「公益信託事務を行うことを目的とするものであること」が認可の基準になっています。そうしますと,微妙な差なのですが,「公益を目的とするもの」として認可を受けているわけではなくて,「公益信託事務を行うことを目的とするもの」して認可を受けているという関係になりまして,何か定義とその後の部分とがぴったり一致していないような印象があります。その意味で,定義の部分は,分かりやすさを優先するとこういうことなのですけれども,むしろ公益法人法がそうなっていると思うのですが,定義自体は「何条の認可を受けたもの」というような形で定義せざるを得なくなっていくのではないかと思いました。その点,今後,文言を詰めていく中で検討していただければと思いますけれども,このような変更をすると,そうした問題が生じてくるのかなということです。
○中田部会長 第1から第3までは,御意見は大体よろしいでしょうか。
○山本委員 先ほどから議論になっている第3の2と3なのですが,3に関しては私も同じような印象を持っていまして,「公益を目的とする」という部分がどうなるかによるとはいえ,このままでは実際に条文にするときには規定できないのではないかと思いました。特に2で甲案を採り,3についてもそれと同様の規律にするとなりますと,規定のしようがなくなっていくのではないかと思いました。
  その上で,更に2の意味についてですが,乙案を採る場合は,別の規定の内容がどうなるかということがもちろん大問題であるというのは先ほどのとおりです。その上で,2のような規定を定めることには,「別の規定を適用する」ための要件を定めるという意味があるのだろうと思うのですけれども,甲案を採用する場合には,2のような規定を定める意味はどこにあるかということが問題になるように思います。つまり,行政庁から不認可処分を受けた場合でも,当該信託を受益者の定めのない信託として有効に成立させる旨の信託行為の定めがあるときは,不認可処分を受けた時からその効力を生ずるというのは,それ自体としては分かるような気がするのですが,受益者の定めのない信託として,どういう時から成立させるかということは,信託行為である程度自由に定められる部分があるのではないかと思います。行政庁から不認可処分を受けた場合でも,当該信託を受益者の定めのない信託として有効に成立させる旨の定めがある場合は,当該信託はその効力を生ずるというのは,ある意味では原則どおりかもしれません。そうすると,このような規定を置けるのかという先ほどと同じような問題が生じてくるのですけれども,そこは,疑義を避けるため,このような定めをしていれば効力が認められるということを定めるところに意味があるのではないかと思ったということです。
  少し技術的な問題になって恐縮ですけれども,以上です。
○小野委員 先ほどの事務局の沖野委員からの質問に対する回答で,今後検討されるということの中に含まれることかとも思いますけれども,附則の3項と4項について,今後,仮に,私は甲案ではないんですが,甲案だとしても,3項,4項の関係については,やはり一つの方向性,結論を導くべきではないのかと思います。特にこれまでの審議の中で,公益信託でない公益を目的とする目的信託において,法人要件の適用ありや否やという論点について,普通の読み方からして,ないのではないかという議論であったと思いますが,違う読み方もあり得るかと思います。ということも含めて,私は甲案ではなく乙案で,別の規定を楽しみにしている立場ではあるんですけれども,この3項と4項の関係をどう理解していくかということについては,今後議論をしていただければと思います。
○中田部会長 第3の2について幾つか御意見頂いているんですけれども,伺っていますと,自分は甲案なんだけれども,あるいは(注)の立場なんだけれどもという御意見が多くて,積極的に乙案をお採りになっているというお立場の方から,もし別の規定についてのお考えなどございましたら,お聞かせいただければと思うんですけれども。
○小野委員 先ほどの事務局からの説明は乙案の説明だったと思うので,別の規定というのは,今の目的信託,受益者の定めのない信託について,委託者の権利の見直しとか,又信託管理人の設置義務を強制化するとか,期間制限を場合によっては廃止するとか,それによって別のものを作っていこうというのが乙案であると,私は先ほどの事務局の説明で理解しています。他方において,(注)というのは,そういうことはもう一切触れずに,今後どうぞ解釈論に委ねましょう,要するに,附則も含めて今のままですというのが(注)の趣旨と思っています。そういう意味においては,沖野委員も含めて,乙案が支持されたような気はするんですけれども,いかがでしょうか。
○深山委員 今日以降の議論は,パブコメに付す形としてはどうかということを中心にということだったので,自説はあえて控え目に申し上げたんですけれども,私もやはり乙案のように,11章をそのまま適用するのではない規定がよろしいだろうと思いますし,既に出ているように,20年の期間制限の問題,それから信託管理人の問題,受託者要件の問題,あるいは先ほど中辻幹事がおっしゃったように,委託者の権限のところも,全く11章そのものという考え方はむしろ少数説なのかなと思っていたぐらいです。それをもう全く別の第3類型というふうにするのか,あるいは特則というぐらいにとどめるのかという問題は,もちろん沖野幹事がおっしゃるようにあると思うんですが,少なくとも一定の特則は必要ではないかと思います。
  さらに,もう一つ言うと,解釈に委ねるという考え方もあり得るのかもしれませんけれども,やはり現行の解釈では主務官庁の認可がない公益を目的とするものは無効という考え方が主流のように思えますので,この部会の議論としては,そうはしないで,信託行為に一定の定めがあれば有効になるということについてはコンセンサスがあるので,この第3の2の前段をはっきりさせる意味合いは十分あるので,そうなると,そこから先はどうしても議論が分かれてしまえば書かないで解釈に委ねるというのもあり得るんでしょうけれども,もし一定の規律についてコンセンサスが得られるんであれば設けたほうがいいし,その点については11章そのものではなくて,その特則が必要とする乙案というのを,私は個人的に支持しております。
○中田部会長 ありがとうございました。
  それでは,大体御意見を承りましたので,御意見を踏まえて更に事務当局の方で検討していただこうと思います。かなりの部分はゴシックの部分については御賛成を頂いているかと思いますので,幾つかの点について更に詰めをしてみるということになろうかと存じます。
  それでは,続きまして,第4から第7まで御審議いただきたいと思います。
  事務当局から説明をしてもらいます。
○舘野関係官 それでは,御説明いたします。
  まず,「第4 公益信託の受託者」について御説明いたします。
  本文1は,「公益信託の受託者の資格」について提案するものであり,本文1(1)の甲案は,「受託者が公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する法人であることを必要とするもの」,本文1(1)の乙案は,「受託者が公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する者(法人又は自然人)であることを必要とするもの」です。
  本文1(2)は,受託者が自然人である場合の欠格事由を,「ア 信託法第7条に掲げる者に該当しないこと,イ 禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行を終わり,又は刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者に該当しないこと,ウ 信託法その他の法律の規定に違反したことにより,罰金の刑に処せられ,その執行を終わり又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者に該当しないこと,エ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者に該当しないこと,オ 公益信託の成立の認可を取り消されたことに責任を負う公益信託の受託者又は信託管理人でその取消しの日から5年を経過しない者に該当しないこととすること」を提案するものです。
  本文1(3)は,受託者が法人である場合の欠格事由を,「業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しくはその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,(2)アないしオのいずれに該当する者がないこととすること」を提案するものです。
  本文2は,「公益信託の受託者の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある信託の受託者の権限,義務及び責任と同一であるとした上で,受託者の善管注意義務については,軽減することはできないものとする」との提案をするものです。
  本文1(1)の提案では,部会資料38の第4の甲案及び乙案と同様に,公益信託の受託者の資格を公益信託事務の適正な処理をなし得る法人に限定する甲案と,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する者であれば,法人に加え自然人も許容するとする乙案の両案を掲げています。税制優遇を受けることを視野に入れる観点から,特定公益信託の要件を定めた所得税法施行令第217条の2の規定等を参考として,受託者がその信託財産の処分を行う場合には,当該公益信託の目的に関し,学識経験を有する者又は組織の意見を聴くことを必要とするべきであるという考え方もありますが,そのような仕組みを委託者及び受託者に強制することは相当でないと考えられることから,(注1)で示すにとどめています。
  なお,公益信託の委託者及び受託者が任意で(注1)のような仕組みを採用することを妨げるものではありません。また,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する法人との共同受託であれば,自然人を受託者として許容するものとする部会資料の38の第4の丙案は,(注2)に示すことにしております。
  本文2の提案では,先ほど御説明しましたとおり,公益信託は信託法第258条1項に規定する受益者の定めのない信託と,その性質上,大きく異なるものであることから,部会資料39の第1の「目的信託の受託者の権限,義務及び責任と同一とする」という提案を「受益者の定めのある信託の受託者の権限,義務及び責任と同一であるとし」という提案に改めています。また,公益目的のために拠出された公益信託の信託財産の管理処分を行う受託者については,一定の資格が要求された上で,より信託財産の保全に重きが置かれるべきであるため,善管注意義務の軽減を許さない旨の強行規定を設けるものとする提案に修正しております。
  その上で,今回検討すべき事項の(1)に記載しましたように,公益信託の受託者の資格として,法人であることの要件を設けるか否かについては,公益信託の社会的信用を維持するために信託法第40条の損失填補責任を果たせるだけの資力を受託者が有していることが必要となること,自然人受託者の場合には,複層的な組織による業務の執行,監督の仕組みを備えている法人におけるようなチェック機能が働かず,そのために複雑で費用の掛かる仕組みを公益信託に持ち込むということになりかねないこと,現在の税法において,信託会社以外の者が受託者となったときには,各種の優遇措置を与えられていないことからすると,受託者の資格を法人に限定しないこととした場合には,公益認定を受けることにより,税法上の優遇措置が与えられている公益法人制度と新たな公益信託制度が整合しない制度となる可能性もあることなどを踏まえると,将来的には公益信託の受託者として自然人を許容することが望ましいとしても,今般の見直しに際しては公益信託の受託者の資格を一定の固有資産を有する法人に限定するなどを本文1(1)の甲案に類似する案を採用することが相当ではないかと考えられるとしております。
  公益信託の受託者の資格として,法人であることの要件を設けるか否かの検討は,中間試案に本文1(1)の甲案及び乙案の両案を併記するか,本文1(1)の甲案のみを掲げるかに関わる重要な部分ですので,特に御意見を頂ければと存じます。
  なお,今回検討すべき事項の(2)及び(3)において,公益信託の受託者要件として公序良俗要件,学識経験及び信用等の要件は不要とする提案をしておりますので,御意見があれば頂きたく存じます。
  次に,「第5 公益信託の信託管理人」について御説明いたします。
  本文1は,「公益信託の信託行為には,信託管理人を指定する旨の定めを設けなければならないものとする」との提案をするものです。
  本文2は,「公益信託の信託管理人の資格」について提案するものであり,「(1)委託者又は受託者若しくはこれらの者の親族,使用人等の委託者又は受託者と特別の関係を有する者に該当しないこと,(2)信託法第124条に掲げる者に該当しないこと」の2点を信託管理人が自然人であるか,法人であるかにかかわらず必要とした上で,「(3)信託管理人が自然人である場合には,先ほど受託者の欠格事由として述べました第4の1(2)に掲げる者に該当しないこと」,「(4)信託管理人が法人である場合には,業務を執行する社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しくはその職務を行うべき社員又は監事若しくは監査役のうちに,(3)のいずれかに該当する者がないこと」を必要とするものとしています。
  本文3は,「公益信託の信託管理人の権限,義務及び責任は,受益者の定めのある信託の信託管理人の権限,義務及び責任と同一とした上で,信託管理人の権限は,信託行為の定めによって原則として制限することはできないものとする」との提案をするものです。
  本文1の提案については,従前の提案から変更点はありません。
  なお,第43回会議における佐久間参考人の意見を踏まえ,公益信託事務の規模等によって公益信託に事務処理及び会計の監査権限を有する者を設置しなければならないとの考え方を本文1の(注)として示しております。
  本文2(1)の提案では,先ほどの公益信託の受託者と同じく,学識経験及び信用等を信託管理人が有することを新たな公益信託の成立の認可基準としておりませんが,受託者と信託管理人とで異なる扱いをする可能性もありますので,これらを信託管理人の資格とする考え方を本文2(1)の(注)として示しております。
  本文3の提案については,先ほどの公益信託の受託者の権限,義務及び責任と同様に,部会資料39の第2の2(1)で,「目的信託の信託管理人の権限,義務及び責任と同等のものとする」という提案をしていたものを,「受益者の定めのある信託の信託管理人の権限,義務及び責任と同一とし」という提案に変更しておりますが,信託行為の定めによる信託管理人の権限を制限することは,原則としてできないとしている部会資料39の第2の(2)の提案は変更しておりません。
  その上で,今回検討すべき事項の(1)に記載しましたように,公益信託の信託管理人が1年間不在となったことを公益信託の終了事由とするとの考え方を改めて示しましたほか,今回検討すべき事項の(2)では,新たな公益信託の信託管理人の権限を別表1のとおり整理しておりますので,これらについても御意見があれば頂きたく存じます。
  次に,「第6 公益信託の委託者」について御説明いたします。
  本文1は,「公益信託の委託者の行使できる権限は,受益者の定めのある信託の委託者の権限と同一とした上で,委託者の権限は信託行為により増減できるものとする」との提案をするものです。
  本文2は,「公益信託がされた場合には,委託者の相続人は,委託者の地位を相続により承継しないものとする」との提案をするものです。
  本文1の提案は,部会資料39の第3の乙案をベースに(注)の記載を統合した提案としています。
  なお,信託法第260条第1項において,同法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託の委託者は,受託者の行為の差止請求権等を有し,それを変更することはできないと規定されていることを参考に,公益信託の委託者に対し,受託者の行為の差止請求権等の権限を強行規定として付与することも検討しましたが,公益信託について公益性を確保する観点からすると,委託者の権限を大きなものと位置付けている同法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託の委託者の権限を公益信託の委託者に付与することは相当ではなく,同法第260条第1項のような規定を公益信託に設ける必要なはいと考えられます。
  その上で,今回検討すべき事項の(1)に記載しましたとおり,本文2の提案では,委託者死亡の場合の委託者の地位の承継について,公益信託の委託者が設定した公益目的と委託者の相続人との間では利益相反的な面があることから,設定の方法が契約か遺言かを問わず,委託者の地位の相続を禁止するものとしておりますが,本文2の(注)のように,信託法第147条ただし書を参考にして,信託行為で別段の定めがあるときは,相続人による委託者の地位の承継を認めるとの考え方もあり,この点は,今回新たに明示的な論点として取り上げたものですので,特に御意見を頂ければと存じます。
  また,今回検討すべき事項(2)の委託者の権限を別表2のとおり整理しておりますので,御意見があれば頂きたく存じます。
  次に,「第7 行政庁」について御説明いたします。
  本文1は,「現行公益信託法第2条第1項及び第3条の規律を廃止し,公益信託の成立の認可・監督は,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,特定の行政庁が行うものとする」との提案をするものです。
  本文2は,「現行公益信託法第10条及び第11条の規律を改め,公益信託事務が行われる範囲が1の都道府県の区域内に限られる公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁は都道府県知事とし,公益信託事務が行われる範囲が2以上の都道府県の区域内である公益信託の成立の認可・監督を行う行政庁は国の行政庁とするものとする」との提案をするものです。
  部会資料38の第5の1の提案に対して,第39回会議で異論はなかったことから,本文1の提案に実質的な変更はありませんが,現行公益信託法第2条第1項及び第3条の規律を廃止し,主務官庁による許可制を廃止することが前提であることを明示しております。
  また,部会資料38の第5の2の提案から本文2の提案に実質的な変更はありませんが,現行公益信託法第10条及び第11条の規律を改めることが前提であることを明示しております。
○中田部会長 ただいま説明のありました第4から第7のうち,まず,第4と第5について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○吉谷委員 第4の1の(1)につきまして,2点発言させていただきます。
  後ろの検討すべき事項として挙げられているところですけれども,これについては特に加える必要はなく,御提案のとおりでよろしいかというふうに考えております。
  その理由のうち,資料16ページの(3)について更に述べさせていただきますと,ここについては少し議論がございましたが,この要件というのは,結論として,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力という要件に吸収されているというふうに理解しました。なので,ちょっと御説明の仕方ではあると思うんですけれども,学識や経験や信用等も含めた受託者の能力を行政庁と有識者委員会で判断するということなのではないかというふうに理解して,今回の提案でよろしいかと考えたところでございます。
  2点目ですけれども,(注1)のところで,運営委員会等について御説明がされております。私が理解いたしましたところでは,ここの(注1)の内容というのは,受託者の資格についての議論そのものではなくて,運営委員会などの受託者あるいは信託管理人といったもの以外の機関を置くべきかどうかという議論であるというふうに理解いたしました。ですので,場所としてここにあるというのにはちょっと違和感がありまして,むしろ第9「公益信託の成立の認可基準」の議論ではないかというふうに考えております。
  若干補足しますと,私どもとしては,公益信託事務処理や監督についての体制が整備されているべきというようなことを前から言っておりましたので,もし移されるのであれば,第9のところに(注)なのか案なのかはともかくといたしまして,もう少し一般的な書き方にした上で,この内容を盛り込んでいただくのがよろしいと考えております。
○中田部会長 ほかに。
  能見委員,それから川島委員,深山委員の順にお願いいたします。
○能見委員 取りあえず第4についてだけ申し上げます。受託者の資格でございます。
  一つは,まだ私の頭の中でもうまく整理できていないんですが,受託者の資格が問題となる場面は何かという観点からの発言です。これには2つあると思います。1つは,公益信託の認可を受けるときに,受託者としての必要な要件を備えているかどうかという観点からの問題と,もう1つは,いったん公益信託が成立した後,その後,受託者の資格という観点からの要件が満たされなくなって,それでその信託はどうなるかというときの問題です。両者はかなりオーバーラップするとは思いますけれども,完全には同じではないような気がしました。
  そういう意味で,まず,問題点を今のように二つに分けたほうが分かりやすいのではないかと思うわけです。まず,認可の段階での問題というのは,受託者の資格の一部ではもちろんあるんですけれども,正にここに書いてある1の(1)のところの甲案,乙案に書いてありますように,公益信託事務の適正な処理をなしうる能力を有する法人であるとか,自然人を許容するのであれば,そのような能力を有する自然人であるとか,こういうのがある意味で一番上位というか基本となる資格の基準だと思いますが,この基準に基づいて,適切な受託者であるかどうかというのを判断する,これが恐らく認可の段階の問題だろうと思います。もちろん,そのほかに受託者の欠格事由に該当する事実があれば,それも公益認定の際にその受託者では駄目だということになるとは思いますが,1の(2)や(3)の問題は,認可の申請をする際に注意していれば避けられますので,あまり認可の段階で問題になることはないだろうと思います。これに対して,いったん公益信託が成立した後は,1の(1)で書かれている能力の問題ではなく,今度は,1の(2)や(3)が問題となるのではないかと思います。自然人である受託者が(2)で書かれている事由に該当することになった場合,例えば成年後見や保佐の審判を受けたりした場合に,公益信託はどうなるか,ということですが,この場合には,公益信託の認可が取り消されるのではなくて,適切な受託者への交替の問題になるのだと思います。法人受託者についての(3)についても同様です。
  このように,受託者の資格が問題となる局面が2つあり,二つの問題というのを分けてパブコメにかけたほうがいいのかなというのが第1点でございます。
  それから第2点目は,1の(3)についてです。これは受託者が法人である場合にこういうことに該当するような理事であるとか取締役などがいると,それは法人全体が受託者として欠格であるということになりますという話なわけですが,この点については以前に,この部会でも疑問の意見として申し上げました。改めてこういう形で中間試案として出てきたときに,違和感を感じます。現在の典型的な受託者である信託銀行について言えば,信託を受託しているのは法的には信託銀行という法人ですが,受託者としての業務はその全体の業務の中の一部でしかない。銀行そのものとしては,いろいろな業務を行っている。そういう銀行の取締役の一人が,信託の業務に関与していない取締役が,例えば金融犯罪を犯したというようなことは,当然に受託者の資格というものを失わせることになるのだろうか。正に吉谷委員が言われたように,そういうことがあったことも考慮して,銀行全体としての受託者の能力がなくなるのかどうかという判断がされるべきなのだろうと思います。
  ですから,ちょっとこの(3)の書き方は,これは受託者が自然人の場合とある意味でパラレルに書かれていて,これもおかしいと思いますけれども,もう少し今述べたような趣旨が伝わるような形の問いかけ方にしたほうがいいのではないかということでございます。
○川島委員 ありがとうございます。
  第4の1「受託者の資格」について賛成であることを前提に,16ページの(2)公序良俗要件について一言申し上げます。
  私は第38回会議で,公益信託の受託者が社会的信用を維持する上でふさわしくない,又は公の秩序や善良の風俗を害するおそれのある事業を行っていることを不適格事由とすべきとの意見を申し上げました。公益信託の社会的信用を維持するためにも,このような規律が望ましいという考えに変わりはありませんが,他の委員や幹事の御意見にありました公序良俗を害するおそれがあることを認定の段階では判断できないのではないのか,また過剰な規制となる可能性があるとの指摘も否定し難いと考えました。
  そこで,(2)の最後に記載されている公序良俗に反する事業を行っていることを受託者の法律上の不適格事由とするまでの必要はないとの考えについては,部会におけるこれまでの議論の積み重ねを踏まえた中間試案の内容として受け止め,異存ないことを申し上げます。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
○深山委員 第4の1のゴシックのところで甲案,乙案という形で自然人の受託者の余地を認めるかどうかということを両論併記をしていただいておりますので,これについて,このとおりパブコメに付していただきたいと思います。
  先ほどの事務局の説明で,乙案を残すかどうか意見が欲しいということでしたので,ストレートに答えるとしたら,是非とも残していただきたい,残すべきだと私は思います。私が乙案論者だということは今さら申し上げるまでもないですけれども,必ずしも私一人の意見でもないというふうに私は理解しております。この場で多数かどうかはともかくとして,パブコメに付して,国民一般の意見を是非尋ねたいと思います。そういう意味で,是非乙案を残して聞いていただきたいと思うんです。その上でというか,その延長線上の問題なんですけれども,補足説明が,これはパブコメに付されるときにどういう形で,このとおりの補足説明になるのかどうかは,必ずしもそうじゃないのかもしれませんが,少なくとも今日頂いたたたき台⑴の資料を見ると,ゴシックではニュートラルに甲案,乙案を並べていただいていますが,この補足説明は明らかに甲案を推薦しております。同じぐらいの量で乙案の根拠も挙げていただくんであれば,ニュートラルで公平だと思いますが,このような形で書かれると,素直に読んだ人は甲案でいいですよねというふうに聞かれているというふうに考えてしまうと思います。
  しかし,そこは最終的にはもちろん総意で決めるべきことなので,最後の最後までこだわるというふうには申し上げませんけれども,少なくとも聞き方としてはもう少しニュートラルに,例えばガバナンス一つとっても,こういう考え方はもちろんあるでしょうが,いやいや,法人だからといって常に個人よりもガバナンスが利いているという保証はないじゃないかという意見だってあるでしょうし,一つ一つ挙げれば,同じような反論は乙案からもできると思っていますので,この説明についてはもう少し公平,ニュートラルにお願いしたいということであります。
  それから,もう1点,第5について,内容的には異存はないんですけれども,1年間,信託管理人が不在になったときのことについて補足説明の中で問われていまして,やはり1年間,必置の機関が不在というのはよろしくないと思うので,終了事由とすることによって,そういう事態を避けるような仕組みにしたほうがいいと思うんですけれども,従前の議論ですと,信託の終了事由というような形で項目が上がって,そこの一つとして取り上げられていたかと思うんです。このたたき台⑴の第1から19までの中には,終了事由というのをストレートに取り上げていない関係で,ここで取り上げるのであれば,もう少しゴシックのところに格上げというか,何らかの形で明示していただいて,それについて異論がないかどうかをパブコメに付していただいたほうがいいのかなということをちょっと申し上げたいと思います。
○中田部会長 樋口委員,平川委員,林幹事の順に御意見を頂きたいと思いますけれども,今までのところでも幾つか御提言,御質問が出ておりますので,いったん事務局の方から御発言いただきたいと思います。
  吉谷委員,あるいは能見委員,そして今,深山委員から幾つかの御質問と申しますか,御提言があったかと存じます。
○中辻幹事 能見委員がおっしゃられたように,第4の1(3)では,受託者が法人である場合について,社員,理事若しくは取締役,執行役,会計参与若しくはその職務を行うべき社員と規定しているところ,この中の一人でも金融犯罪を行ったときに受託者の任務終了事由になるのは少し厳し過ぎるのではないかということは従前の部会でも御指摘されており,一つの合理的な考え方であると思います。ただし,私どもが主に参考にしている公益法人認定法なりその他の法律を見渡しますと,信託銀行を特別扱いしていないことはもちろんですし,法人について今のような例を除く規定を設けているものが見当たらなかったことから,ゴシック本文では一般的な書き方をしているということでございます。
○中田部会長 あとは認可を受けるときの要件と,それから事後的な要件の欠如とを分けたほうがいいのではないかとか,あるいは終了事由について,今のと関係しますけれども,もう少しまとめて明確にしたほうがいいんじゃないかというような御提言も頂いておりますが,それは更に検討するということになりましょうか。
○中辻幹事 そうですね。能見委員から御指摘ありましたとおり,受託者の資格については,その信託の受託者が資格を欠くことによって信託の設定自体が無効になる場面と,信託の設定後に受託者が資格を欠いたことにより受託者の任務終了事由となるけれども信託自体は有効に維持される場面の二つに分けて考える必要がございます。
  その上で,第4の1にあるような公益信託の受託者の資格要件については,受託者が行政庁に対する認可申請のときにこれらを欠いていれば認可を受けられないし,仮に認可を受けたとしてもその公益信託は無効になる,公益信託の成立後にこれらを欠いた場合には受託者の任務終了事由になると事務局として一応の整理をしてはおりましたが,能見委員の御意見をもう少し詳しく伺えれば有難いと思います。
  もう1点,深山委員から公益信託の終了事由についてゴシックに掲げるべきであるという御意見を頂きました。事務局としては,公益信託の終了事由について基本的には信託法163条の規定を同条2号以外は適用するのだけれども,同条9号の信託行為において定めた事由も終了事由とするかどうかについては詰めて検討したいというスタンスで変わっておりませんが,いずれにせよ公益信託の終了事由のような重要論点についてはゴシックに掲げることは十分あり得ると感じましたので,更に検討させていただきます。
○能見委員 一つは,あんまりこれはここでこだわるつもりはないのですけれども,公益法人の方の法制と,公益信託といいますか,信託の仕組みというのはやはり違うところがあると思います。信託銀行などの大きな法人が受託者である場合は特にそうだと思いますけれども,法人の全人格を使って信託の受託をしているわけではなくて,法人組織全体の一部で信託をやっているだけだと思いますので,たしかに取締役は全ての業務を監督していなくてはいけないということは言えますけれども,公益法人の中の理事などが欠格事由に該当した場合に,その公益法人の解散事由になるというのとはちょっと違う構造になっているのだろうというのが一つです。
  それから,成立の段階ないし認可の段階とその後というのを分けるというのは,先ほど言い忘れたのですけれども,深山委員が言われたので,それも追加したいと思います。すなわち,認可の段階で一番重要な問題は,やはり公益信託の受託者として自然人も許容するかどうかという問題だと思います。これは正に認可の段階の受託者の資格の問題として検討すべき課題です。この問題について,どちらかの立場をとった上で,次の段階で,公益信託として認可された際の受託者が,その後何かをしたときにどうなるかということが問題となります。ここでも受託者の資格が問題とはありますが,問題の性質がかなり違うので,中間試案でパブリック・コメントを求める場合に,この点をよく理解してもらうために分けたほうがいいのではないかというのが一番私の言いたかったことの中心部分です。
○中田部会長 ありがとうございました。
  それでは,先ほど挙手を頂いておりました順に樋口委員からお願いします。
○樋口委員 私は第4について,二つ,三つ,ちょっと考えを申し述べますけれども,前提として,これでパブリックコメントに付すためにどういうやり方がいいかというので,議論をそこへ集中してくれというお話なんです。これだけの労作だと思いますけれども,これはパブリックの一人として読んで,これでどう判断すればよいか理解しにくい部分があります。今まで出てきた中で最もわかりにくい,例えば私が分かりにくいのは,第3の先ほどの公益信託の信託法258条うんぬんをどうするこうするという甲案,これなんかはパブリックは分からないですね。だから,どういう形で提示したらいいのかというのを考えていたんですけれども,私はパブリックコメントのとり方も知らないから,ちょっとこれから無知をさらけ出しますけれども,とにかく目的は設定されたという点を強調することが大事だと思います。この目的についてもパブリックコメントの対象になるんでしょうけれども,とにかく民間による公益活動の健全な発展を促進しという話ですね。そうすると,そのためにはどうしたらいいのかなという話で,例えば第4のところだけ申し上げますけれども,これはやはり,まず,受託者は法人にしておいたほうがいいよねというのか,そうじゃなくて,自然人もまじえたほうがいいのかなということでパブリックコメントをとるというのがいいんじゃないかと思うんですね。
  そうすると,深山委員がおっしゃってくださったように,私なんかは,法人だから信頼できるというエビデンスはない,ガバナンスという形だけはあるけれども,しかし,信託の方だって一種のガバナンスをとろうと思えばとれるわけで,たとえば複数の自然人という形とか,法人との共同受託とか。だから,やはり受託者のところは広い選択肢を広げておいて,それは健全な発展につながるということが望みなんですけれども,そのほうが今後公益信託が発展する方向にはいくんじゃないかな,増やそうと思うんだったら,ここで狭めることはないんじゃないかなというような気が本当はします。これが第1点です。
  同じように,部会資料43の13ページの一番上にある部分です。ここなんかは問題にならないみたいなんですけれども,受託者の権限,義務及び責任というので,受託者の善管注意義務については軽減することはできないものとする,これなんかも,考え方によっては公益信託を広げるためには,公益信託の受託者になる人には重い責任を課さないほうがいい場合もあるんですね,本当を言えば。それは考え方です。私がそれを採るかどうかは別としてですけれども。それで,まさかここは,この善管注意義務については軽減することはできないが,責任を軽減することはできるというふうに読んでいいんですか,それはそうじゃないですよね。だから,義務はきちんとしたもので,義務違反はきちんと問うのだけれども,最終的な責任は,あなたが一生懸命やっていたというんだったら問わないというか,そういうことができるというようなことではないと思うんですけれども,そういうのはもっとはっきりしたほうがいい。だから,先ほどの健全な発展という意味では,受託者の権限,義務及び責任を簡単に任意規定にしてしまうわけにはいかんのかなというふうに,私も何だか急に保守的に考えているんですけれども,その上で2点目は,忠実義務はどこに行ったんだろうということなんですね。受益者その他についての忠実義務と信託法に書いてあって,公益信託には受益者はいないんだから忠実義務が働かないなんていう理屈は,私にはちょっと考えられない,本当は。それとも,ただ忘れているだけなのか,あるいは善管注意義務の中に,ここは忠実義務も含めるという話なのか,ちょっとここは質問なんです。
  三つ目は,この受託者の資格でネガティブなことが書かれてありますよね。結局,こんな悪いやつはなっちゃいかんよという。何かやはり健全な発展というので,健全にだからこういうことを書かんといかんのでしょうけれども,それよりも,ごく普通の人が公益信託というのが,あんたを信頼してとにかくやってみようと言われたときに,すごく困ると思うんですね。受託者になったらどんなことになるんだろうというので,これはちょっと別のところにも書いたんですけれども,イギリスの話だけれども,例えば年金の受託者というのになった場合には,やはり研修義務なんかがあるんです。一体,受託者になるということはどういうことなのかというような話を公益信託で,こういうところで書くのがいいのかどうか分からないんですけれども,受託者というのはこういうことがあるんだよと,いわんや,ここで強行規定にするとか言っているんだったら,紙の上で強行規定にするというだけではなくて,強行規定になるということはどういうことなのかという,その善管注意義務。ただ,あんまりおびえさせると誰も受託者になりようがなくなるから,ごくリーズナブルな話にしてもらいたいと思うんですけれどもね。それで,こういうリーズナブルなことだけきちんとやっていれば,それは善管注意義務に違反することもないし,本当に自分の利益を図るみたいなことをやらなければ,ごく普通にきちんと,先ほどの公益的な事務というのを普通にというかな,果たしておいてくれればいいんです,こういうのはアウトですというような研修を義務付けるようなことは,むしろ公益信託だから必要なんじゃないかなというふうに思って,今日聞いていました。
○平川委員 第4「公益信託の受託者」につきましては,乙案に賛成します。
  ただし,自然人のみの場合,少なくとも3名の受託者を要するという要件を唱えた人がいたというのを注記していただきたいんですけれども,自然人を排除するという考えにつきましては,信託先進諸国でも英米でも個人というのは認められており,特に弁護士は,他人から信託を受けることはそもそもの職務の内容と密接な関連性と親和性があり,弁護士が受託者資格を有さないとすることは,職能的に不条理であると思います。また,不祥事が生じた場合に,自主規制団体である弁護士会も懲戒権を有しております。したがって,弁護士ではなくても,このように信託を受けることについて親和性があるような職業につき,また自主規制団体,懲戒権があるような団体に属している者も可能性はあると思います。
  ただし,自然人であることから,複数人数で受けることを要件とすべきことは必須であると考えます。突然死のことなどを考えれば,1名で受任ということは無責任であり,あり得ないと思います。また3人いれば,損害賠償責任を受ける場合にも連帯債務を負うと思いますので,何とかやっていけるのではないかと思います。
  次に,受託者の公序良俗要件につきまして,先ほど川島委員より,入れないことについて納得したという御意見がございましたけれども,やはり公益認定法第5条第5号の要件と同じような公序良俗要件を資格要件とすべきであると考えます。仮に資格要件とすることに無理があるというのであれば,何らかのほかの方法でもよいから規制の中に入れていただきたいと思います。
  学識経験,信用等の条件を規定しないことには賛成します。
  また,たたき台の第4の1の(注1)において,運営委員会の設置について,必置とすることはここで不要としておりますが,私どもが従前より述べておりますのは,財産処分の場面のみならず,受託者と信託関係人の選解任など,信託のガバナンスを保つ上で必須の機関とすべきことにつき申し上げておりますので,ここで再度申し上げたいと思いますし,また,第9のところで十分に議論していただくのであれば,大変有り難いと思います。
  次に,第4の2の受託者の権限,義務,責任ですけれども,これには賛成いたします。
  権限,義務,責任は,私益信託のそれと同一とした上で,かつ善管注意義務の軽減は認めないとする考え方に賛成します。信託法第258条1項に規定する受益者の定めのない信託,いわゆる目的信託との関係が絶たれたことから,受益者の定めのある信託の受託者の権限,義務及び責任と同一とされたことは好ましいことであると考えます。
  その上で,公益信託の受託者の善管注意義務は,公益目的のために拠出された公益信託の信託財産を預かり,それをもとにして公益信託事務を行う権限と義務があることから,非常に大きいものと言えます。したがって,公益信託の受託者に対しては,信託業法の適用を受ける受託者や会社法上の取締役等と同様に善管注意義務の軽減は認められるべきではなく,法律上もそれを強行規定とすることに賛成します。
  第5「公益信託の信託管理人」の1について,本文について賛成します。(注)につきましては,公益信託法で規定すべき事項ではなく,公益法人制度の場合と同様に公益認定あるいは認可申請のガイドライン等で示すべき事項ではないかと考えます。
  第5の2につきまして,公益法人制度の法律及び経験から考えまして,1から4の資格要件で十分であり,(注)に記載された積極要件は必要ではないと考えています。
  第5の3につきましては,基本的に賛成します。
  信託管理人の権限,義務,責任を受益者の定める信託管理人と同一とし,原則として制限不可とすることについては,個別の権限を更にチェックすることを前提として賛成します。本文には記載されていませんが,たたき台19ページから20ページに記載の信託管理人の不在が1年間継続した場合において,それを強制的取消事由とすることには反対です。公益法人制度と同様に,その不在はしかるべき期間に治癒すれば足り,その意味では行政庁による任意的取消事由であるべきと考えます。
  また,信託管理人の権限に関して,別表1の△記載の欄は×とすべきではないかと考えます。利益相反行為,信託財産の状況に関する書類の報告,受託者の任務終了,併合・分割による一定事由,これらは信託管理人が受託者を監督する上で重要な事項であり,これらの通知受領権は信託行為で任意に定められるようにすべき事項ではないと考えますので,×として提示すべきと考えます。
○林幹事 第4と第5につきましては,御提案について,中間試案をパブリックコメントに付するという,そういう趣旨においては基本的には賛成いたします。
  主として第4の1の乙案のことを申し上げたいのですが,その前に細かい点について申し上げます。第5の今回検討すべき事項となっているところで,信託管理人が1年間不在でどうなるかということについては,1年で終了であったり,取消しであったり,1年とするべきではないなど,考えはいろいろあると思うので,これは中間試案に格上げすることを検討していただければと思います。
  それから,第5の補足説明(2)の別表1のことについては,弁護士会で議論した中では,△のところは,△ではなく×とすべきだという意見もそれなりに出たので,そのことについてもパブリックコメントでも△か×かを聞いていただくような形に,中間試案に格上げしてもよいのではないかと思います。
  それから,問題の受託者の資格の第4の1(1)の乙案についてなのですが,パブリックコメントとしてこのように聞いていただくことは理解します。ただ,乙案を残すかどうかという形でおっしゃられたので,それはもう必ず残していただいて,パブリックコメントに付していただきたいです。もちろん乙案に賛成だからということではあるのですが,先ほど深山委員が言われたのと同じで,今回の補足説明は理解するとして,パブリックコメントではニュートラルに是非書いてくださいということです。
  それで,今回の補足説明にこう書かれているので,反論しないといけないことになりますが,例えば不特定多数を対象とするから信託事務遂行に社会的影響が大きく,自然人が受託者として何かがあって損失が填補されないような事態となったら,公益信託の社会的信用性が失われるという御指摘もありますが,結局,公益信託もいろいろな規模のものを想定しているので,その影響というのも大小様々ですし,そういった弊害を考えるのであれば,その自然人に合った規模の公益信託を考えるとか,あるいはガバナンスを更に適正に利かせるような工夫をするとか,特に今回は信託管理人を設置しているわけですから,そういう観点からの対応も可能だと思います。
  自然人において,その信託財産の規模を一定程度制限するとかいうのもあり得るのかという気はしますが,ただ,一律に自然人は排除するということは,公益信託の拡大や,広く利用してもらおうとする点に反すると思います。法人であれば不正な目的での利用を制御できるかという点については,必ずしもそうではないということは深山委員や樋口委員がおっしゃるとおりだと思います。
  それから,自然人を受託者にするから逆に複雑にしてしまうのではないかという,そういう類いの指摘もあるのですけれども,それは規模によるし,状況にもよります。今回,助成型と事業型で収支相償原則の適用等について異なるものとする提案もされています。いずれにせよ,自然人に見合ったものというのを受託していくということは間違いないように思います。とすれば,それをどう取り込んでいくのか,法の外で考えるのか,その点はいろいろ工夫ができそうな気がします。また,コストにおいてもそうで,自然人が複数であったり,自然人と法人の組み合わせというのを考えたときに,法人と比較して,どちらがどうコストが高いかどうかというのは,それはやってみないと分からないことではないかと思います。
  あとは,現在の公益信託の受託者がほとんど信託会社であるとか,あるいは税法上のことや,優遇措置のことが書かれていて,それなら法人でなければ,自然人では難しいのではないかという御指摘もありますが,繰り返しになりますが,今回この法改正で公益信託をより広く利用してもらえるものにしようということをやっているわけですから,自然人に広げないと今と変わらないものとなる可能性もあります。それで,法人と言っていても,結局,信託会社,信託銀行に限られてしまう可能性はあります。特に,ここで乙案を否定するという理由で指摘されているものは,公益法人にもそれなりに妥当するものもあるわけで,そういう観点から言うと,現状と変わらない可能性があります。やはりこの法制審で目指していること,軽量軽装備の公益信託をもっと利用してもらおうという精神に反してしまうのではないかと思います。
  ですから,少なくとも乙案も掲げてパブリックコメントには付していただいて,乙案もニュートラルにきちんと平等に書いていただいて,中間試案を作っていただきたいと思います。やってみないと分かりませんが,個人的に言うと,民事信託自体に,それなりに世の中的にも注目が集まってきているので,公益信託についてもそれなりにリアクションがある可能性があるので,そういう中でやはり公益信託の利用を広げるために,個人も受託者となったほうがいいんだという意見がパブリックコメントでそれなりに出てくる可能性は,私はあると思います。
  もう1点は,現行法と比較して考えたとき,認可基準の問題はありますが,現行法においても自然人は受託者になれるのであり,業法のことも気にしますけれども,少なくとも,例えば無償で一回的なものとか,反復継続ではなければ今でも受託者になれるわけですから,現行法上可能なことをここで遮断してしまうというのはおかしいし,もったいないと思います。将来の可能,広がりというものを遮断してしまうのはよろしくないと思います。
  最後に,こういう場合は公益信託を使えそうだという事例があったので申し上げますと,最近,遺言とかの場面で,子供さんがいらっしゃらないような場合は,寄附とかをしたいという方がそれなりにいらっしゃるようです。寄附はいろいろタイプはあるし,額にもよるし,奨学金をやりたいという方もいらっしゃるようなのですけれども,今はそれは多分,公益法人等に依頼していろいろやっているんでしょうけれども,正に公益信託であれば絶対使えると思います。規模によってはそれは受託者が自然人であれば,より簡便にできるのではないかと思います。
  テレビとかの情報ですけれども,相続の資産の規模は50兆円ぐらいあるけれども,そのうち寄付をしたいシニアは2割程度はいるようで,現在はそのうち現実に寄付されるのは数%程度にとどまるとの指摘もあるようです。そういうものに公益信託がなお使えるようになれば,社会にとっていろいろな意味でプラスになるので,[HK3]パブリックコメントでは乙案はきちんと残していただいて,補足説明もニュートラルに書いていただきたいと思います。
○中田部会長 それでは,まだ御発言のない小幡委員,そして新井委員,小野委員,そして平川委員の順にお願いします。
○小幡委員 今,林幹事の話にもあったのですが,第4のところ,16ページの3行目のところで税法との関係が書いてありますが,税法のことは後でついてくるものだろうと思われるので,なかなかどちらを先に,どういう議論をするかは非常に難しいところです。今の書き方ですと,現状は信託会社に限定されていて,それ以外に税制優遇を取るのはなかなか難しいことを前提にしているようですが,いずれにしても,新しい公益信託になったときに,税法上は働き掛けをして,優遇をとれるようにということをしなければいけないと思うので,そこはその制度が固まった後,どのようにやっていくかという話になると思います。現実的にはよく分かるのですが,しかし,そうはいっても,林幹事がおっしゃったように,公益法人とは違うものができているわけなので,自然人は全く駄目というようにするのも,同じようなものが並ぶことになり余りよくないという感じはしますので,余りここで,多分税法が駄目なので法人しかできないと書いてしまうのは,これから先,もっと頑張って税の優遇をとるように,これからやらなければいけないという面がありますので,多少引き過ぎかなという感じがします。
○新井委員 受託者の資格ですけれども,私は甲案を支持いたします。
  ただ,甲案を支持するといっても,その法人を現行のように信託銀行と信託会社に限定するということではなくて,やはり受託者は拡大していくべきであり,どういう法人が職務遂行に耐えられるのかということを考えてみる必要があると思います。例えば弁護士法人なり,司法書士法人なり,税理士法人というものが受託者になった場合,受託は恐らく1回だけではないでしょうから,反復継続することになりますので,当然,信託業法の規制が掛かってくるわけですね。ですから,ここで甲案を支持するといって,信託銀行と信託会社よりも拡大するときに,どういう法人が新たに登場するのか,そのときの法的対応をどうするのかということをきちんと考えておくべきだと思います。
  それから,乙案の自然人については,弁護士の委員・幹事の方々が「自然人でも構わない」と言われると,これは弁護士を受託者にすることを推奨している主張ではないかと考えてしまうのですが,前にも議論がありました能力担保はどうするのでしょうか。司法書士,税理士はどうなのかという問題も出てくると思います。
  先ほど民事信託の話がありましたが,民事信託では委託者,受託者,受益者の三当事者が全て親族ですね。そういう公益信託が行われた場合に,一体適正な処理ということがそもそも可能なのかということで,ここでも能力担保ということがあると思います。ですから,私は甲案を支持しますけれども,パブリックコメントとしては甲案,乙案,両方提示していただいて結構です。
  ただし,それぞれどちらが採用されても,現行の受託者を拡大する場合の具体的な対応については,あらかじめきちんと準備しておいたほうがいいと思います。
  それと,信託法7条の欠格事由が挙がっていますけれども,これは今,内閣府の方で成年後見制度の利用促進が検討されており,成年被後見人等の欠格事由の見直しが議論されていることとの関係で,パブリックコメントを出すときには御留意いただきたいと思います。
○小野委員 第4の乙案についてお話ししたいと思います。今ほどの皆さんの意見と重複しないように,なるべく簡潔に意見を言いたいと思います。
  まず,法人がふさわしいケース,自然人がふさわしいケース,自然人の中でもより専門,一般の人というよりも,弁護士とかの専門家がふさわしいケース,いろいろあるかと思います。従来の議論では,正確に把握しているわけではありませんけれども,事業型の場合に,美術館と学生会館がよく取り上げられてきたような気がするんですけれども,特に美術館といったとき,我々は何か根津美術館とかブリヂストン美術館みたいなものをつい想像してしまいます。しかし,仮に弁護士又は美術の専門家が自然人として受託者になるような場合というのは,別に信託財産として建物としての美術館を運営するとかいうことではなくて,1枚又は複数枚の著名な絵画あるいは鑑賞する価値のある絵画を信託財産として受託し,それをどこかの美術館に貸すとかいう形で多分行われることになると思います。ですから,是非事業型の受託者として自然人がふさわしいような事例も書いていただかないと,先ほどの樋口委員のお話のように,一般の方が見たときに,美術館は法人だろうみたいに思われてしまうと,ちょっと議論の前提が違ってしまうと思います。それぞれ適性があるという観点からは,当然乙案であるべきだと思います。
  それから,今の新井委員のお話とも関連するんですけれども,学識経験及び信用等の要件については,今回は要求しないという話なんですが,やはり法人にしろ,特に自然人の場合は,定性的要件が必要だと思うんですね。誰でもいいから,犯罪者じゃなければどうぞというわけにはいかないと思います。学識経験,信用という言葉は,他の法律等で使われている用語ですから,この用語を使いつつ定性要件を,ある意味では申請する側が立証していくと,疎明していくということで,行政庁に納得してもらうということもあっていいと思います。このように,自然人で誰でもいいというのではとんでもないことになるじゃないかという議論もありますし,先ほどの深山委員の話にもありましたとおり,乙案を否定する意見があった後に反論する機会が与えられていないので,それぞれについてこういう議論もあるということで,今まで他の委員幹事の方々がおっしゃったようなことも,是非含めていただきたいと思います。
  特に,契約を守るということを損害賠償の支払資力の観点からのみ議論していまして,それで法人はふさわしいんだというのもかなり論理の飛躍があります。契約を守る,善管注意義務を果たす,受託者としての義務を果たすという観点からは,損害賠償の支払資力の問題は一部にすぎず,本当に契約を守るかどうかということが重要ですし,その他いろいろ反論は可能と思います。
  受託者としてやはり弁護士はふさわしいと思うし,それは他の専門家でもいいと思う状況もあります。今後,公益信託は日本全国津々浦々に広がるものだと思うんですね。その場合に法人が津々浦々に存在するかというと,東京とか大都市を前提とすれば,いろいろあるじゃないかということかもしれませんけれども,それぞれの地域のそれぞれの公益信託にふさわしい受託者というものが,場合によっては法人であるかもしれませんけれども,自然人として適切な専門家がいる可能性は,自然人ですから,日本各地に広がっていますし,そういう方が公益信託の受託者としてふさわしいと思います。そういうロケーションとか,人の分布とか,今後の利用可能性という観点も,是非この乙案のもつプラスの意味という観点で加えていただければと思います。
○平川委員 小野委員が言ってくださいましたので結構です。
○中田部会長 乙案についての補足説明は,冒頭にもございましたように,これは必ずしも中間試案の補足説明ではなくて,今日議論を詰めていただくということで,従来,乙案のメリットが強調されていたわけですけれども,検討すべき点を更に今回出していただいたということかと思います。それについて,本日様々な御意見を頂いたということを踏まえて,中間試案に向けて練り上げていくということになろうかと存じます。
  ほかに,第4,第5について。
  山田委員,その次に吉谷委員,お願いします。
○山田委員 第4と第5について,共通することを一言お話ししたいと思います。
  中間試案になったときの補足説明を御検討いただきたいという趣旨のことです。受託者の権限,義務及び責任というのが第4にあります。それから,信託管理人の権限,義務,責任というのが第5の3にございます。そこで受益者の定めのある信託の受託者又は信託管理人と「同一とした上で」と説明されているのですが,信託法について十分な知識,理解を持っていらっしゃる方はここで意味しているところが分かりますが,そうでない人たちも名宛人になり得ると思いますので,全部補足説明で書き切るというのは難しいのかもしれませんが,もう少し手掛かりというか,条数を分けるとか,何かそういう工夫をしていただけるといいように思います。
  信託管理人の権限については,別表があって詳細な検討が加わっておりますが,それ以外のところは知っているということを前提に進めていただかないようにお願いをしたいと思います。
○吉谷委員 第5の信託管理人について,3点申し上げます。
  1点目は,もう深山委員がおっしゃっていただいたことで,信託管理人の1年間の不在によることを公益信託の終了の強行事由としないという意見があることについてはゴシックのところで何らかの形で出していただければということを,それに賛成する側の意見として申し上げたいと思います。
  2点目は,第5の2(1)の(注)について,不要ではないかという御意見がございました。ここについては,このような表現である必要はなく,むしろ受託者の能力要件のところと同じような記載であるほうがよろしいと思いますが,信託管理人について能力要件が必要であると考えておりますので,そのような趣旨で残していただけたらと思います。
  最後,3点目です。別表1のところにつきまして,×と△がございまして,×ばかりでいいのではないかという御意見もありました,ここは△を残したほうがいいと考えております。△の付いている事項については別段の定めを信託行為に許す余地があると思いますので,そのような内容でパブリックコメントで意見を出していただければよろしいのではないかと思います。×ばかりになってしまいますと,何が違うのかというところが分かりませんので,△を出すことによって意見が出てくるというようにも考えております。
○中田部会長 ただいまの2点目ですけれども,第5の2の学識要件について,受託者と同じだけれども,信託管理人は必要だということでしょうか。私の誤解かもしれませんが,もう少し補足をお願いできますでしょうか。
○吉谷委員 第4の1のところだと,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有することというのがありまして,信託管理人の方には,それに対応する項目がありませんで,公益信託事務の適正な監督をなし得る能力を有することでも何でもいいと思うんですけれども,何かそういうような能力要件についての記載が必要ではないかというふうに考えました。
○中田部会長 分かりました。
○神田委員 てにをは的なことで恐縮ですけれども,1点だけ。
  第4の1(3)ですけれども,業務を執行するという言葉が社員にだけ掛かるのか,理事,取締役にも掛かるのか。「若しくは」というので明らかだという趣旨かとは思いますけれども,重要な点なので明確にしていただければと思います。
○中田部会長 それでは,その点,検討していただきます。
  ほかに。
○小野委員 別表1に関連して,大分以前にも議論したところなんですけれども,限定責任信託におけるという表現がありまして,私の理解としては,限定責任型の公益信託というものも認められるべきであり,その場合には,限定責任信託に関連する条文の中で受益者という言葉が出てくる条文もあるように見受けられなくもないので,それに対応する改正も必要かなと思います。先ほどの樋口委員の発言でもありましたけれども,善管注意義務とは少し側面は違いますけれども,個人が全資力を損害賠償義務に向けて,賠償義務の担保として受託者となるという必要も,逆に有限責任の法人と比べると個人は随分不利な状況に置かれてしまいますから,限定責任型の公益信託というものも認めていただきたく,この表でそういうことが書かれていることでほっとしたんですけれども,今後とも維持していただければと思います。
○中田部会長 第4,第5については大体よろしいでしょうか。
  ここまでのところで,もしございましたら。
○中辻幹事 樋口委員からは,国民一般に分かりやすい中間試案とするようにというご指示を頂いたものと受け止めましたけれども,その中に御質問も含まれておりましたので,それだけお答えしようと思います。
  まず,善管注意義務の軽減は認めないが責任の軽減を認めるということはありません。義務と責任はセットとして捉えております。また,この部会資料では公益信託の受託者の忠実義務について明示的に触れておりませんが,樋口委員と同様に,事務局としても,公益信託の受託者は信託目的の達成のための忠実義務を負うという理解をしています。その上で,従前は忠実義務及び善管注意義務のいずれも任意規定とする旨の提案をしていたのですが,第39回会議で沖野幹事から新信託法を制定するときに受託者の忠実義務と善管注意義務を任意規定としたのは別の理由に基づくという指摘があり,神作幹事からは会社法の取締役等の善管注意義務は強行法規だと解されていることについての紹介もされ,それらを踏まえて今回の部会資料では,公益信託の受託者の善管注意義務を強行規定とする提案に改め,受託者の忠実義務は任意規定とすることを維持しているものでございます。
  あと,道垣内委員から事前にこの論点についてメールで質問を頂いています。これも該当部分を読み上げますと,「第4の2につき,不認可となったときには,このルールは適用されるのでしょうか。不認可だと全く本法と関係がなく,制約をかける理由がないように思います。第5の1についても同様。3についても。」というものです。これにお答えすると,事務局としては,申請された公益信託が不認可の処分を受けた場合には,第4の2や第5の1及び3のルールは適用されないという整理をしているということでございます。
○中田部会長 第4,第5について,よろしいでしょうか。
  それでは,まだ第6,7は残っておりますけれども,時間が大分たっておりますので,ここで15分間休憩を挟みたいと思います。4時10分まで休憩したいと思います。

          (休     憩)

○中田部会長 それでは,時間が来ましたので再開したいと思います。
  第6と第7について,併せて御審議お願いいたします。御自由に御発言ください。
○吉谷委員 第6について発言させていただきます。
  第6の1の提案でございますが,提案としては,前回の甲案の方がよろしいのではないか,利害関係人の方がよろしいのではないか。あるいは,甲案か乙案かということが,あえてパブコメするような内容でないということであれば,委託者の権限は任意規定で,信託行為の定めによって受託者の定めのある信託の委託者の権限と同一まですることができるというような趣旨の内容にしていただいたほうが良いと思います。
  その理由は,一般の信託というのは,委託者がいて,信託の仕組みの変更について判断する,判断に関わるというのが確かに原則なんですけれども,公益信託の場合は,内部ガバナンスの担い手として,委託者が存在しないでも成り立つような仕組みでないといけないと考えています。ですので,パブコメのときには,委託者がいなくても機能します,でも,委託者を加えることもできますという形の提案にしていただいたほうが良いと考えているので,このような提案をさせていただいているというところです。
  そのところは,個別には,後半の第12以降のとこら辺で出てまいりますので,またそこで述べさせていただきます。
○中田部会長 ほかに,第6,第7についていかがでしょうか。
○小幡委員 第7はこのとおりでよろしいかと思います。
  都道府県か国かというその区分は,結局公益信託事務が行われる範囲,公益法人の場合は事務所とかがあるわけですが,公益信託の場合,その公益信託事務がどこまで及ぶかということで区分しているので,それが全国的に及ぶ可能性があれば国にしておいたらよいというような,比較的柔軟な扱いができれば,特に問題ないのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにございませんでしょうか。
○平川委員 公益信託の委託者の第6の1についてですけれども,私は,部会資料39の第3の甲案のとおり,公益信託の委託者は,信託の利害関係人が有する権限のみを行使できるものとするという見解をとっております。委託者が,受益者の定めのある信託の委託者と同一の権限を保有し,公益信託に介入することができるということは,基本的には信託財産が公益のために出捐されたものであり,それに伴って各種の税法上の優遇が得られることからすると,考え難いと思います。
  委託者の権限には,信託に関する意思決定に係る権利と,受託者の監督に係る権利の双方が含まれるという説に従うとすれば,少なくとも,前者についてはできるだけ公益法人における寄付者同様に少なくする一方で,後者については運営委員会が存在しない場合を前提とすると,受託者が不適切な行為をする場合の対応策として委託者に一定の権限を与えることはやむを得ないと考えます。たたき台の別表2では,大部分△とされておりますが,○とされている信託行為で制限可能という点も含め,今後慎重に検討すべきであると考えます。
  第6の2につきまして,ゴシック本文の提案に賛成いたします。(注)の信託行為に別段の定めがあるときに相続人への承継を認めるとする考えは採るべきでないと考えます。
  第7「行政庁」につきまして,ゴシック本文の提案に賛成します。公益法人制度と同様,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,特定の行政庁が行うことが好ましく,行政庁の区分については,公益信託の出捐者の申請等の便宜並びに,行政庁において公益信託の認定の扱いと平仄をとって扱える可能性が高いことから,国の行政庁と都道府県知事に分ける法務省案に賛成いたします。
○中田部会長 第6の1については,お二方から,この案と別の案を何らかの形で示すべきではないかというご意見を頂戴いたしました。また,これは事務当局に検討していただきます。
  第6の2の(注)なんですけれども,これは,信託行為に別段の定めがあるときの除外というのはなくていいのではないかということを平川委員から御提案いただきました。これについて,検討すべき事項として掲げているわけですが,この(注)をやはりパブリックコメントにおいては残したほうがよいという御意見はございますでしょうか。
○吉谷委員 この(注)は残してよろしいかと思います。相続人を念頭に置いている委託者もいらっしゃるんではないかと思うところです。
  ついでにちょっと申し上げておきますと,別表2の△は要らない,すべて○かなと思っています。
○深山委員 第6の2の(注)については,今の吉谷委員と同じような意味で,被相続人にも自分の意思を継いでといいますか,自分が公益信託を設定しようとしたその意思を相続人に委託者として受け継いでもらいたいという人もいてもおかしくはないので,そういう委託者の意思も尊重すべきだという観点から,別の定めについて,私自身あっていいと思いますし,少なくともそれはパブコメに付して意見を求めたらよろしいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  それでは,第6と第7については,第6の1について,御提案があった部分をどういうふうにするかということを検討していただき,その他については今回の案で,少なくともゴシックの部分については,大体これでいいのではないかというように伺いました。
  よろしければ,次に進みたいと思います。
  部会資料43の第8から第11までについて,事務当局から説明してもらいます。
○舘野関係官 それでは御説明いたします。
  まず,「第8 公益信託の成立の認可」について御説明いたします。
  本文1は,「公益信託の受託者になろうとする者は,当該信託について行政庁による公益信託の成立の認可を受けることができるものとする。」との提案をするものです。本文2は,「公益信託の成立の認可の申請は,必要事項を記載した申請書等を行政庁に提出してしなければならないものとする。」との提案をするものです。
  本文1の提案は,第39回会議において,新たな公益信託制度の下では,公益法人制度を参考に,民間の有識者により構成される委員会の意見に基づいて行政庁が公益信託の成立の認可を行うものとすることについて異論がなく,その申請を行う者は,受託者になろうとする者が想定されることに基づき提案をするものです。
  また,公益信託の成立の認可を申請する際には,必要事項を記載した申請書等が必要になると考えられることから,本文2の提案をしております。その種類,内容等については,公益法人認定法第7条に掲げられている書類等々を参考にして,引き続き検討を要しますが,具体的には補足説明2のアからクまでのような書類が考えられます。
  次に,「第9 公益信託の成立の認可基準」について御説明いたします。
  まず,第9の「1 公益信託の目的に関する基準」の本文は,公益信託は,公益信託事務を行うことを目的とするものでなければならず,収益事業を目的としてはならないものとすることを提案するものです。
  第9の「2 信託財産に関する基準」の本文は,(1)「公益信託の信託財産は,金銭に限定しないものとすること」を前提に,(2)は,「公益信託事務を遂行することができる見込みがあること」に関する基準,(3)は,「信託財産に他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財産が原則として含まれないこと」を必要とする旨の基準,またその例外を提案するものです。
  それから,第9の「3 信託行為の定めに関する基準」の本文は,(1)は「委託者,受託者又は信託管理人若しくはその関係者に対して特別の利益を供与するものでないこと」,(2)は「特定の個人又は団体に対して寄附その他の特別の利益を供与するものでないこと」,(3)は「公益信託の信託財産の投資運用について」の基準でございます。(4)は「受託者及び信託管理人の報酬について」,(5)は「公益信託の会計について」でございまして,アは収支相償,イは遊休財産の保有制限,ウは公益目的事業比率に関する基準でございます。なお,本文3の柱書に記載しましたとおり,公益信託事務が金銭の助成等に限定されているものについては,本文3(5)の認可基準は適用しないことを前提としております。
  第9の1の提案については,部会資料38の第3の1では「公益信託事務の範囲」として提案をしていましたが,公益信託事務の範囲は,信託法第26条に定める信託の目的に拘束されるものであり,新たな公益信託の認可基準としては,公益信託の目的に関する基準として掲げることが相当であると考えられることから,その旨の提案に変更しております。また,従前の部会においては,新たな公益信託の受託者が収益事業を行う可能性も含めて検討を行ってきましたが,新たな公益信託の受託者が収益事業を行うことを許容すると,当該受託者が日常的に公益法人並びの非常に複雑な会計処理を行わなければならなくなるほか,公益信託の成立の認可基準の複雑化を招くおそれがあり,公益信託の軽量軽装備のメリットが維持できない可能性が否定できないことから,第9の1の提案では,公益信託の目的に関する認可基準を公益信託事務を行うことを目的とするものであることとし,公益信託は収益事業を目的としてはならないとしております。
  第9の2(1)及び(2)の提案は,従前の部会資料における提案から変更はございません。
  第9の2(3)の提案は,他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止を,新たな公益信託の認可基準とする部会資料38の第4の3の甲案と同様の提案をしているもので,これを認可基準としない部会資料38の第4の3の乙案は,(注)に示すにとどめております。
  第9の3(1)及び(2)の提案については,公益信託の信託行為の内容が公益信託の関係者への特別の利益を許容するものでないことを必要とする部会資料38の第4の2の甲案を支持する意見が大多数であったことから,関係者の範囲を修正した上で,当該提案と同様の提案としています。
  第9の3(3)の甲案は,公益信託の信託財産の運用対象を預貯金等に限定することを強行規定として提案していた部会資料38の第3の甲案を,任意規定という形に修正して提案しているものです。第9の3(3)の乙案は,部会資料38の第3の乙案から変更点はありません。
  第9の3(4)の提案は,部会資料38の第4の5の提案及び部会資料39の第2の2(3)の提案等に対し,従前の部会で異論がなかったことから,それらの提案をまとめたものです。
  第9の3(5)ア及びイの提案は,新たな公益信託の下で信託財産が不当に蓄積する事態を,会計的な認可基準によって防止する必要があると考えられることから,収支相償及び遊休財産額の保有制限を認可基準とするものです。なお,収支相償の基準については,第9の3(3)で,信託財産の運用対象を拡大する乙案を採用した場合には,金銭の助成を公益信託事務としている場合であっても,多額の運用益等の収入が信託財産に帰属することも想定されるため,認可基準として必要であるとの考え方もあり得ます。第9の3(5)ウの提案は,公益信託の受託者が収益事業を行わないことを前提とした場合でも,当該公益信託の運営に必要な経常的経費の発生は観念し得ることから,公益信託事務の実施に係る費用と経常的経費を合わせた額の中で後者が占める割合について,公益法人認定法第15条の公益目的事業比率と同じ50%よりも低い一定の割合以下であることを認可基準とするものです。
  なお,公益信託の経常的経費の大部分を占めると考えられる受託者等の報酬について,第9の3(4)の提案で,「不当に高額とならない」ことが担保されていることからすると,第9の3(5)ウを認可基準とすることは不要であるという考え方を,(注)に示しています。その上で,特に今回検討すべき事項の(2)公益信託の受託者が行う信託事務の範囲と信託財産の運用との関係については,公益信託の受託者が行う信託事務の範囲を目的達成のために必要な範囲に限定した上で,受託者による信託財産の運用対象については,リーガル・リスト方式のような限定を課さないという方向性を示しておりますので,ご意見があれば頂きたく存じます。
  「第10 公益信託の名称」については,部会資料37の第5の2の提案から変更点はございません。
  最後に,「第11 公益信託の情報公開」について御説明いたします。
  本文1は,「現行公益信託法第4条第2項を廃止又は改正し,新たな公益信託の情報公開の対象,方法については,公益財団法人と同等の仕組みとするものとする。」との提案をするものです。また,本文2は,「行政庁は,公益信託の成立の認可やその取消し,公益信託の変更,併合・分割の認可をしたときは,その旨を公示しなければならないものとする。」との提案をするものです。
  本文1の提案では,新たな公益信託の情報公開の対象,方法について,公益財団法人と同等の仕組みとする旨を明らかにした上で,信託行為については,それ自体ではなく信託行為の内容を示す書類を受託者及び行政庁において閲覧又は謄写するなどの仕組みを想定しております。また,本文2の提案では,部会資料39の第8の2の提案を実質的に維持しつつ,公益法人認定法の各規定との整合性も踏まえて,行政庁の公示が必要な事項を再度整理し,公益信託の成立の認可やその取消し,公益信託の変更,併合・分割の認可をしたときは,その旨を行政庁が公示しなければならないものとすることを明記しております。
○中田部会長 ただいま御説明のありました第8から第11につきまして,まとめて御審議いただきたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。
○吉谷委員 まず,第9について意見を申し上げます。
  第4の受託者のところで述べたところでございますので,何度も繰り返すようで恐縮ですけれども,公益信託の内部で信託事務処理の実施体制,監督体制,有価証券の運用体制などの体制整備がされているということを,認可基準とするのがよろしいのではないかと思います。記載の仕方はいろいろあるかと思いますが,お願いいたします。
  あと,第9の3(3)の甲案でございますが,こちらの方は,前回の提案に別段の定めがない場合と加えられております。私は,先ほど述べましたような信託事務処理の実施体制の中に,有価証券の運用体制なども含むと考えておりますので,そういった体制整備がされている公益信託として認可されるということを前提として,甲案,乙案の両論併記ということでよろしいのではないかと考えております。
○深山委員 これは,質問と受け取っていただいてもと思うんですが,第9の1の「公益信託の目的に関する基準」のところで,2行目で,「公益信託は,収益事業を目的としてはならないものとする」といって,(注)で違う考え方も示されていますが,この本文の「収益事業を目的としてはならないものとする」ということの意味合いが,正にそれを目的としてはいけないという意味合いなのか,より端的に,収益事業を行ってはならないという意味なのか,分かりにくいという気がします。
  補足説明には,これまでの議論の経過がある程度書かれていますけれども,正に収益をストレートに目的とするものは駄目だというのが大方の,余り異論のないところだと思いますが,他方で,主たる目的は当然公益目的なんだけれども,それに付随するような収益事業,密接に関連するような事業については,収益事業を行うことも許容されるというような議論をしてきたような気がします。その中で,どこまでできるかということは,かなり線を引くのは難しいですねというような議論をしてきたと認識しているんですが,今回の整理は,その線の引き方が難しいということもあって,一切収益事業を行ってはいけないということを提案しているのか,いや,そうではないと,正に収益を目的とするようなものはいかんと言っているに過ぎないのか,この辺がちょっと分かりにくい。私が今読んでも,どっちなのかなと思うぐらいですから,一般の人が見たときに,その趣旨が正しく伝わらないといけないので,そもそもどういう趣旨なのかということもありますし,そこをもう少し,読んだ人が分かるような形で問い掛けたらどうかなという気がいたします。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○山田委員 第9の3の(3)「公益信託の信託財産の投資運用について」です。
  甲案のような考え方と乙案のような考え方がこれまで議論されてきて,どちらを良いと考えるか,パブリックコメントで意見を聞くという,その実質は異存ございません。しかし,それが信託行為の定めに関する基準で,認可基準に関わるのかどうかがよく分かりません。乙案ならば,それは認可基準にしないということだと思うんですが,甲案もとっても,認可基準にこれを,落とし込むんでしょうか。そこがよく分かりませんで,信託行為に別段の定めがない場合,これこれに限られるものとするという,信託行為の定めがあることが認可基準になるということでしょうか。それでは,論理的に困難があるように思います。御検討いただければと思います。
○中田部会長 平川委員の御発言をいただいてから,まとめてお答えいただくことにします。
○平川委員 第8につきましては,特に異論はございません。
  第9の1「公益信託の目的に関する基準」について,基本的に賛成いたしますが,(注)の収益事業の許容については,公益信託事務を促進,財政的支援をする目的であれば可能としたほうが,使い勝手がよいというようにも思いますが,一方,濫用的な制度使用を防ぐための施策が必要となり,公益信託制度と税制規制が複雑化し,かえって使い勝手が悪くなる懸念がありますので,また,公益信託は,真に公益を目指しピュアであるべきことから,収益事業の許容に対しては反対の立場をとります。
  第9の2「信託財産に関する基準」の(1)から(3)までいずれも賛成いたしますが,(注)の株式等の財産が含まれるか否かを成立の認可基準としないということには反対します。公益法人制度と異なることとなり,合理性もないと考えます。
  第9の3「信託行為の定めに関する基準」のうち(1),(2),(4)については賛成します。(3)については,公益信託の自治に任せるべきものであることから,乙案に賛成し,受託者は善管注意義務,忠実義務が課せられているのですから,その範囲内で責任を持って行うということでよいと思います。(5)のウについては,公益信託事務が金銭の助成等に限定されているものにも,公益法人制度との均衡から適用されるべきであると考えます。また,アの収支相償要件については,公益法人制度においても問題のある制度とされており,慎重に決定すべき問題だと考えます。収支相償基準は,公益法人でも行き過ぎた規制との声が強く,遊休財産規制と公益目的事業比率さえあれば,儲け過ぎで内部蓄積を図る,管理費用に無駄遣いするなどの弊害は十分に避けられるのではないかと考えます。
○中田部会長 それでは,ここまでのところについて,事務局の方からコメントを,もしございましたら。
○中辻幹事 深山委員からは,公益信託の目的とすることができる公益信託事務と,目的としてはならない収益事業の関係について,収益を伴う信託事務を受託者が行うことが否定されるものではないという基本的な考え方を含めてもう少し分かりやすく説明したほうが良いという御指摘を頂いたものと受け止めました。
  事務局としては,これまでの部会での御審議の状況からしても,公益信託では,公益法人と異なり,明らかに収益事業に該当する信託事務を受託者が行うことは許容しない方が良いという方向性に概ねの支持が得られていると認識しています。一方,公益信託事務と収益事業等を截然と区別することは難しく,これまでの部会資料では,公益信託事務に付随する信託事務とか,公益信託の目的の達成のために直接又は間接的にとかという表現で公益信託の受託者が行える信託事務の範囲を検討してきましたが,どこまで公益信託事務として認められるかは結局のところ認定行政庁が個別具体の事案に応じて柔軟に判断するしかないと考えています。その上で,以前の部会資料で例として挙げておりました,公益信託の受託者がその運営する美術館の館内で絵葉書等の物品販売を行うことや,海外からの留学生の学生寮の運営において金銭の借入れとかファイナンスを公益信託の受託者が行うことについては公益信託事務の範囲内として許容されるべき場合があり,公益信託の目的に関する認可基準を適用する場面では,収益事業が認められる公益法人と異なった取扱いがあり得るものと考えておりますので,その点はより分かりやすく説明していきたいと思います。
  それから,山田委員から投資運用の論点について御指摘がありました。
  乙案であれば認可基準にしないことになるが,甲案になったときに認可基準になり得るのかという御指摘は,そのとおりであると感じました。甲案について事務局が考えておりましたのは,信託法の実体的な規律として,デフォルトの運用方法を書いておき,当事者がそれと異なる運用方法を信託行為の別段の定めとした場合にはそれを許容するというものですので,認可基準との関係は,改めて検討させていただこうと思います。
○中田部会長 山田委員,今のお答えでよろしいでしょうか。
○山田委員 はい。
  いいですか,一言。別段の定めにしたときに,それを認可庁が審査するということにはならないほうがいいように思うので,切り離す方向で考えたらいいのではないかなと思います。
○中辻幹事 山田委員のおっしゃるとおりでして,別段の定めが合理性があるかどうかということを,認可行政庁の方で判断してもらおうと考えているわけではございません。
○山田委員 分かりました,はい。安心しました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 今,事務局から説明を受けた収益事業のところですけれども,税法上使われる用語でもあるので,少し表現を変えるか,今のお話を,説明というよりも定義の中で明確にしていただかないと,金銭を取ると,やはりそれは収益事業ですという議論になり得ると思います。受託者は重い責任を負いますから,なるべく少しでも何か問題がありそうな行為をしないことになって,結局美術品であれば無償での貸出しだけになってしまうということもあるかと思います。その辺は既に議論された点ですので,よろしくお願いします。
  また,今事務局から説明を受けておりますけれども,投資運用というのは,信託目的に沿って資金を使うことは当然入らないという理解でいるということで,今説明受けたとおりなんですけれども,更に確認したいと思います。
  あと,収支相償制なんですけれども,弁護士会の議論で,ある一定の年度に多額の寄附とかがあったときに,なかなかその年度内に使うというわけにもいかないのではないかとか,柔軟性という観点から収支相償制というものを余り厳しく見ないほうがいいのではないかという議論もあったんですけれども,収支相償制が信託期間を通じてということであれば,その辺についてどんなふうに,かつて議論した論点でもありますけれども,どの程度厳格に考えるかというあたりを教えていただければと思います。
○中田部会長 今の最後の部分は,第9の3(5)のアの書き方をもう少し工夫したほうがよいということでしょうか。
○小野委員 書き方だけからすると,それほど厳格ではないかもしれませんけれども,年単位で見るんではないかというようなコメントも。
○中田部会長 そうすると,このゴシック体はともかくとして,その説明ないし理解を容易にするようにというのが必要ではないのかという。
○小野委員 はい,という趣旨でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにございますでしょうか。
○神田委員 すみません,2点,簡単に。
  第9の2,3あたりです。一つは株式等の財産ですけれども,例えば,美術館を資産管理会社のような形で持っている人がいて,それを公益信託設定したいという場合に,その資産管理会社の株式を信託財産にすることはできないということでしょうか。これまでも議論になったのかもしれませんけれども,そして(注)は別の立場かもしれませんけれども,ややフレキシブルを欠くと感じます。本来公益法人なんかで禁止しているのは,もっと全然違う団体とか会社の,ここの言葉でいう事業活動を実質的に支配することはいけませんよというお話だったような気がするものですから。聞き方の問題かとは思いますけれども,それが1点です。
  もう1点は,余りにも細かくて恐縮ですけれども,3(3)の後半のてにをはです。最後,「合同運用信託の信託」って書いてあるんですけれども,その前との並びでいえば,合同運用信託の受益権の取得とか何かになるような気がちょっとします。
○中田部会長 前半のご意見は,第9の2の(3)との関係ということでよろしゅうございますね。
○神田委員 はい。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小幡委員 一言だけ。
  先ほど,収益事業について事務局から御説明があって分かったのですが,したがって,ここで書くのは,およそ公益を目的するのが公益信託であって,収益自体を目的とするものは,これには当たらないということを意味するくらいだと思うのですが,確かに,そうはいっても,実際上附帯的なものが沢山あるので分かりにくいので,それをどのぐらいここに書いてパブコメするかというのは,そこは考え方だと思います。
  ただ,部会資料の30ページのところに,本文1の提案では,「収益事業」という表現を用いて,「収益事業等」という表現を用いていないというところがあって,ここに表れているのかと思うのですが,公益法人の収益事業というのも結構団体によって,附帯事業も収益事業といっているところは結構あるので,そもそも公益法人制度においても,収益事業か公益目的事業かという区分けについては,自動販売機など,こういうのは当然附帯しているから,別に収益事業にしなくてもよいのではないかというのも,収益事業として申請で上がってきたりするのですね。ですから,なかなかはっきりできない部分があって,公益法人の収益事業は駄目ですよと言ってしまうと,×という部分が広がり過ぎるのかもしれないので,そのあたり,どう表現するか難しいのですが,例えば,美術館をやっていて,利用者の利便のためのものも置けないという話ではないと思うので,そこを分かるようにしてもらえばよいかなと思いますが。
○中辻幹事 確認や御質問,何点かございましたので,事務局からお答えいたします。
  まず,小野委員からの1点目の御質問,公益信託の受託者が信託目的に沿った形で資金を運用することはできると考えております。
  小野委員からは,2点目として収支相償についての御指摘もございました。事務局としては,公益法人の世界でも,単年度での収支相償を要求しているわけではなくて,超過収入があっても複数年をかけて計画的に解消していけばよいという柔軟な仕組みが採られていると認識しており,公益信託でもそれと同じような仕組みが望ましいと考えております。
  それから,神田委員から御指摘のありました,美術館の資産管理会社の株式を公益信託の信託財産にすることを全く否定するつもりはありません。公益法人認定法と同じように,他の法人とか他の信託を実質的に支配するような不正なものを防ぐための認可基準を提案させていただいているものでございます。
  最後に,小幡委員からの御指摘について,以前の部会でも小幡委員から,公益法人では公益目的事業と収益事業の振り分けは申請主義になっていて,申請する側でこれは収益事業だと申請すれば,認定する側は収益事業として扱うという御説明がありました。公益法人の世界で収益事業とされているものがそのまま公益信託の収益事業とされてしまうと,こちらの本意とは齟齬することになってしまいますので,そのようなことにならないように注意したいと思います。
○中田部会長 今御発言いただいた3人の委員の方,よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,ほかに御意見いただきたく存じます。
○川島委員 第9以外でもよろしいでしょうか。
○中田部会長 ええ,もちろん。
○川島委員 第11「公益信託の情報公開」の1,2について,事務局案に賛成をいたします。
  特に,1において,情報公開の対象,方法について,公益財団法人と同等の仕組みとするとの内容は,分かりやすく,かつ妥当なものであると考えております。今後,この考え方に基づき,細部について検討が深まることを期待しております。その中で,できれば部会資料36の別表5,これは,新たな公益信託の情報公開の内容とその開示等について整理したものですけれども,これをメンテした上で,中間試案に掲載をするということについて,事務局での検討をお願いいたします。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 では,第11について発言させていただきます。
  御提案の内容でよろしいのではないかとは考えておりますけれども,35ページの2の今回検討すべき事項の(1)のところで,部会資料36の別表5のところは,原則,基本的に全て情報公開というように書かれていますので,ここについては,もう資料にも書いてあると思いますが,個別の開示項目についてはプライバシーであるとか,事務上の負担などについて配慮して,個別に検討した上で,別表として付ける場合には振り分けていただければと思います。
  というのは,別表5の中には,信託設定時,信託運営時に,備置する資料であるとか提示する資料であるとかいうのが出ておるのですけれども,例えば,信託設定時のところで,信託行為の内容を示す書類というようなものがございます。これについては,信託行為そのものではなくてもいいというような議論をさせていただいたところだと思いますけれども,実態としては,申請のときには信託行為というものをそのまま添付資料として申請しているわけですね。ですので,ここで書いていることは,信託行為の内容を示す書類として,信託設定のときに申請した書類を,そのままを開示するという趣旨ではなく,信託行為の内容,信託の内容が分かるべきだというような趣旨であると理解しております。信託設定趣意書というのも同じような類いのものでございまして,これは,委託者が信託を設定するときの思いみたいなものを書いているものですので,これをそのまま開示していいのかどうかというところもございます。ですので,恐らく信託の内容が分かるようなものはきちんと示しましょうというのが,そこら辺の意図であろうと思います。
  あと,信託運営時の資料として書いているものは,受託者として備え置いておいて,行政庁が見に来たときに見せられるようにしておくようなものも多数入っていて,例えば,帳簿であるとか事務の細かな書類みたいなものまでを,全て情報公開という形でインターネットであるとか新聞であるとか,そういったもので開示するというものではないと思われますので,ちょっとそこら辺の振り分けについては,個別に確認をしながら進めていたただければと考えているところです。
○中田部会長 第11のゴシックの部分は,これはこれでよろしいという上で,さらに,実施に当たって詰めていくべき点を御指摘いただいたということでよろしいでしょうか。
  ありがとうございました。
  ほかに。
○林幹事 おおむねその内容においても,あるいは中間試案としての整理においても,賛成するところが多いのですが,ポイントだけ申し上げますと,第9の2の(3)の他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財産は含まれないこととする点は,この内容について賛成の意見もあったのですが,その(注)の考え方に賛成で,認可基準としないという意見もありました。これについては,結局どの程度,何%持っていれば団体の意思決定に関与できるとするか,そういう悩ましい問題もあったところですので,(注)の考え方を乙案か何かにして,甲案,乙案でパブリックコメントに付することもあり得ると思いました。
  投資運用については,今までの経緯があって,そういう中でこういう案を作っていただいているのは理解をしています。ですので,取りあえずパブリックコメントとしてはこれでいいと思いますが,弁護士会の中で議論したときは,甲案も乙案も,あるいは,甲案でも別段の定めに関するところは削除してしまったほうが良いとか,いろいろな議論がありましたので,そういう意味においても,取りあえず中間試案としてはこれで良いのではないかと思っています。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 すみません,先ほどちょっと申し上げるの忘れて。
  神田委員がおっしゃっていたことに関連するし,今,林幹事がおっしゃったこととも関連するんですけれども,支配権の株式を行使するというと,いかにもいろいろと紛争が背後にありそうなイメージがありますけれども,会社制度があって,そこに株式があって,議決権を行使するということは当然の営みであって,その行使の仕方が何かはたで見て,不規則な,又よからぬ形で,行使されることが問題ではないかと思うんですね。ですから,きちんと議決権行使について適正な考え方が取られているとか,スチュワードシップ・コードにのっとるみたいな,又ISSですとか,いろいろ議決権行使の基準を出しているところもありますから,そういうふうに議決権行使が適正になされれば,それは善管注意義務に反していないということになりますし,不適正に行使されれば,過半数だろうが少数だろうが,それ自体は善管注意義務違反だと思うので,繰り返しになりますけれども,議決権行使について適正な措置がなされていればという例外措置を設けるということも考えてよろしいのかなと思います。
○中田部会長 そうしますと,(3)の例外の記載の部分について,もう少し表現を工夫したほうがよいという趣旨でしょうか。
○小野委員 はい,そういうことです。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにはございませんでしょうか。
○平川委員 第10「公益信託の名称」について,ゴシックの提案に賛成します。公益法人の名称と同一の扱いである(1)から(3)に加え,(4)として名称又は称号の侵害に対し,侵害の停止又は予防請求可となっていることから賛成します。
  先ほどの議論で,信託法258条1項の目的信託でもなく,公益信託でもない,公益を目的とする信託という,第3のカテゴリーの信託を認める場合には,認可済み公益信託ではないことを表示することを要件とすべきです。公益という言葉を使うことによって非常に紛らわしくなり,悪用される可能性があるので,認可済みの公益信託ではない,公益を目的とする信託ということをはっきり表示しなければならないという規制を設けるべきだと思います。
  第11「公益信託の情報公開」について,ゴシックの提案に賛成いたします。
  受託者による公益信託の情報公開方法について公益財団法人と同等の仕組みとするものであり,行政庁において公益法人認定法と同一の公示を行うことにより,公益信託の情報公開の水準が大幅に上昇することから,賛成いたします。
○中田部会長 ほかにはございませんでしょうか。
  第9のうち,1の収益事業について,説明なりが更に必要ではないかという御意見を頂きました。それから,2の(3)について,この例外を認めるその例外の書き方,あるいは(注)の部分をもう少し格上げすべきではないかといった御意見も頂きました。
  第9の3(3)については,そもそもこれが認可基準になるのかどうかということも含めて,書き方をどうするかという検討課題を頂きました。(5)については,むしろ中身についての問題点の御指摘があったかと思いますが,パブリックコメントにかける際に,このような記載をすること自体をやめろとまでの御意見はなかったのではないかと承りました。
  第10については,ただいまの平川委員の御発言ございましたけれども,平川委員も,全体としてはこれでよいというような御意見と承りました。
  第11についてもこれでいいということで,ただ,部会資料36の別表5のようなものを書き改めた形で,別表とするのか,説明にするのかはともかくとして,何らかの形で示したほうがいいのではないかという川島委員の御提言を頂いたわけですが,基本的には,このゴシックについてはこれでよかろうという御意見が多かったかと存じます。
  ほかにございませんようでしたら,まだ時間がございますので,部会資料43の第12から第14まで,途中になるかもしれませんけれども御審議に入っていただければと存じます。
  事務当局から説明をお願いします。
○舘野関係官 それでは,御説明いたします。
  まず,「第12 公益信託の監督」について御説明いたします。
  第12の1の本文は,「現行公益信託法第4条第1項の規律を改め,行政庁は,次の権限を行使するものとする。」との提案をするものです。本文1の(1)から(4)の内容をそのまま読み上げることはいたしませんが,第39回会議において,部会資料39の第5の1の提案に多数の支持が得られたことから,当該提案と同様の提案をしております。
  第12の2の本文は,裁判所の権限について,「裁判所は,信託法が裁判所の権限としている権限を原則として有するものとすることに加え,現行公益信託法第8条が裁判所の権限としている権限を有するものとする。」との提案をするものです。本文2については,第39回会議において,部会資料39の第5の2の提案に対して特段の反対意見はございませんでしたので,当該提案の実質を維持しております。
  部会資料39の第5の提案からの変更点といたしましては,裁判所の権限の中に公益信託に関する検査役の選任権限を含めている点がございます。第39回会議において,検査役の選任権限は行政庁が有するものとする甲案と,裁判所が有するものとする乙案のそれぞれを支持する意見が多数出されたところ,行政庁の行う検査は公益信託の認可基準に関するものである一方で,検査役の行う検査は公益信託の成立の認可基準充足性の判断とは直接には関連しないものであるため,公益信託における検査役の選任権限は裁判所に付与するとする乙案を採用した提案をしております。その上で,今回検討すべき事項に記載しましたとおり,検査役の選任権限は裁判所が有するとした場合においても,行政庁が行う検査と検査役を通じた検査の性質を考慮した上で,選任の結果や検査結果について,必要に応じて行政庁に通知することも含めて検討する必要がございます。
  また,別表3に裁判所の有する信託の監督に関する権限を整理いたしましたが,これらの権限への行政庁の関与の有無及びその方法については,各権限の性質を踏まえ,引き続き個別に検討する必要がございます。これらについて御意見があれば頂きたく存じます。
  次に,「第13 公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任」について御説明いたします。
  第13の「1 公益信託の受託者の辞任」の本文は,「現行公益信託法第7条の規律を改め,受託者は,委託者及び信託管理人の同意を得て辞任することができるほか,[やむを得ない事由/正当な理由]があるときは裁判所の許可を得て辞任することができるものとする。」との提案をするものです。
  第13の「2 公益信託の受託者の解任」の本文は,まず(1),「委託者及び信託管理人は,[受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるとき/正当な理由があるとき]は,その合意により受託者を解任することができるものとする。」,(2)は,「委託者及び信託管理人の合意がない場合において,受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは,裁判所は,委託者又は信託管理人の申立てにより,受託者を解任することができるものとする。委託者については信託行為において受託者の解任の申立権を有しない旨を定めることができるものとする。」という提案をするものです。
  第13の「3 公益信託の新受託者の選任」の本文は,(1)「委託者及び信託管理人は,信託行為に新受託者に関する定めがある場合は,当該定めに従い,信託行為に新受託者に関する定めがない場合は,信託法第62条第1項の方法により新受託者を選任することができるものとした上で,新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるものとする。」,(2)「信託法第62条第1項の場合において,同項の合意に係る協議の状況その他の事情に照らして必要があると認めるときは,裁判所は,利害関係人の申立てにより,新受託者を選任することができるものとした上で,新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるものとする。」との提案をするものです。
  これらの提案は,部会資料39の第6の提案で多数の支持があった提案を統合したものであり,当事者間の合意がない場合等において,受託者の辞任・解任等の要件を満たしているかは裁判所の判断事項とした上で,新受託者の選任のように,公益信託の成立の認可基準充足性が問題となる場合には,行政庁が認可基準を満たしているか否かを判断するという形で整理したものです。
  今回検討すべき事項の(1)では,公益信託の受託者が裁判所の許可を得て辞任する場合の要件を,信託法第57条第2項の「やむを得ない事由」とする考え方と,「正当な理由」とする考え方があり,これを表現するため,本文1の提案でブラケットを付しております。この点について御意見を頂ければと存じます。
  また,今回検討すべき事項の(2)では,委託者及び信託管理人の合意による公益信託の受託者の解任事由として,信託法第58条第4項の「受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたこと,その他重要な事由があるとき」とする考え方と,「正当な理由があるとき」とする考え方があり,これらを表現するため,本文2(1)の提案でブラケットを付しております。また,裁判所に公益信託の受託者の解任を申し立てる権限を有する者を,委託者又は信託管理人とした上で,委託者については信託行為において受託者の解任の申立権者としない旨を定めることができるものとしておりますので,これらの点について御意見を頂ければと存じます。
  さらに,今回検討すべき事項の(3)では,裁判所に新受託者の選任が申し立てられた場合における行政庁の関与の方法として,本文3(2)の(注)に記載したような,裁判所が認可基準充足性について行政庁に意見を聴取する方法等も考えられますが,現在の公益法人の実務に照らすと,裁判所が意見を聴くこととした場合に,裁判所から提供される情報のみでは行政庁が認可基準の充足制を判断できないことも想定されます。そうすると,新受託者の選任が遅延し,公益信託事務の遂行に支障が出る恐れがあり,結果的には公益信託の当事者に再申請などの負担を強いるおそれもあると考えられることから,裁判所が認可基準充足性について行政庁に意見を聴取する方法を採用するのではなく,新受託者になろうとする者が行政庁による新選任の認可を受ける方法を採用することとしておりますので,この点について御意見を頂ければと存じます。
  次に,「第14 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」について御説明いたします。
  本文は,「公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律は,公益信託の受託者の辞任・解任,新受託者の選任と同様の規律とするものとする。」との提案をするものです。
  本文の提案については,部会資料39の第7の提案からの変更点はありません。新たな公益信託における信託管理人の役割の重要性に鑑みると,あえて信託管理人について受託者と異なる規律を設ける必要性はより小さくなると考えられることから,部会資料39の第7の提案を維持しております。
○中田部会長 それでは,残された時間で,この三つの項目について御審議をお願いしたいと思います。もし時間が足りなければ,次回に続行することとしたいと思います。三つまとめて御意見を頂ければと存じます。
○吉谷委員 個別に言うと,すごく長くなるものですから,全体の方向を踏まえて,第12について意見を申し上げたいと思います。
  前回まで,第12に相当する提案については特に異論を述べておりませんでしたけれども,これは,もともと第13以降において検討するべき事項であると考えていたというところでございます。ですので,第12について,先にこれでいい,悪いという意見については,今回は差し控えさせていただきたいと考えております。
  ただ,その方向感として考えておりますのは,従来この部会におきまして,認可に係る判断については行政庁が行い,意見の不一致のある場合については裁判所が合意に代わる判断を行うということである枠組で合意形成が図られていると理解しておりまして,その枠組に従って今後の意見は申し上げようと考えておりますが,なお,ちょっとまた納得のいかないところもありますので,最後にまた12について意見表明したいと思っております。
  第13,第14につきまして,1点だけお話をしたいと思います。
  それは,第13のところで,委託者がデフォルトとして入っていること,これについては,むしろ委託者が存在しない場合を前提として提案をしていただいたほうがいいのではないかと考えております。というのは,パブリックコメントの形で委託者が存在するということを前提で意見を述べますと,やはり委託者がいるから大丈夫だろうというようなことを前提で,聞かれた方は考えると思います。ですので,例えば,信託の受託者の辞任や解任,選任におきまして,信託管理人が単独でもやっていいのかどうかという観点からの検討が必要であり,それに更に加えて,委託者が加わってもいいのかと。例えば,解任についても,信託管理人が単独で解任を判断していいのか,あるいは,それとも行政庁なりが判断しないといけないのかということを検討していかないといけないのではないかと思っております。
  第13の2の(1)については,私どもの方は,(1)と(2)のところは,むしろ行政庁が受託者の解任について認可することが必要なのか,そうではないのかというような形で,パブリックコメントをしていただくのがよろしいんではないかと考えているところです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 すみません。第13のところのやむを得ない事由か,正当な事由かというところですけれども,いずれにつきましても,正当な理由の方がよりふさわしいと思います。補足説明にありますように,正当な事由の場合には,全体的な総合判断ということになって,よりふさわしい受託者がいる場合とかいうように,裁判所が公益信託目的に沿った形で総合的な判断を下せる余地が十分あるかと思いますけれども,やむを得ない事由ですと,場合によっては,不可能かどうかで判断するとか,かなり判断者による主観的な価値観が反映するような恐れもあるかと思われますので,一般的な言葉ですから,どちらでも同じだという議論もあるのかもしれませんけれども,いずれにつきましても,正当な理由の方がふさわしいと思います。
○中田部会長 ただいまの御発言は,第13の1のブラケットの中のやむを得ない事由というのは,むしろ落とすべきであるということでしょうか。
○小野委員 そうですね。パブコメというのにおいては落とさなくていい,個人的には落としてもいいと思うんですけれども,正当な理由の方が意味があるんですよということを,どちらかというと,今も述べていますけれども,より説明されたかと思います。落としてくれれば,よりふさわしいかと思いますけれども。
○中田部会長 分かりました。
○平川委員 第12「公益信託の監督」の1「行政庁の権限」については,ゴシックの提案は公益認定法と同様であり,賛成いたします。第12の2「裁判所の権限」について,別表3の権限を裁判所が有するとすることについて賛成します。また,裁判所の職権行使は認めないとする×印をいずれも付けておられることにも賛成します。
  別表3の行政庁の関与の有無欄で,受託者,信託管理人,検査役等の選任について,認可を行うとありますが,これは認可要件の資格を確認し,抵触する場合にのみ認可しない,適合していれば必ず認可するという意味であるということであれば,賛成いたします。
  第13「受託者の辞任・解任,新受託者の選任」及び第14「信託管理人の辞任・解任,選任」ですけれども,従来より述べておりますように,信託関係人の選任,辞任・解任について,ガバナンスを保つ意味で運営委員会あるいは運営委員,複数の運営委員を必置機関とし,ここでは委託者の権限を認めておりますけれども,それはないということを前提にして,運営委員会に選解任及び辞任の権限を全体的に持たせるガバナンスを認めるべきだと考えておりまして,少なくともそういう意見があるということを記載していただきたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○山田委員 質問です。第13のところについて,このゴシックが意味しているところを質問させてください。
  複数あると思いますが,3の公益信託の新受託者の選任のところを例として取り上げます。(1)の最後の2行ですが,「新受託者になろうとする者は,行政庁による新選任の認可を受けるものとする。」となっています。これは,新受託者になった者が認可を受けるのではなくて,「新受託者になろうとする者」というところに意味があるのでしょうかというお尋ねです。すなわち,就任の効力が発生するのは,認可を条件にしているとお考えになっているのでしょうか。それはそうかなとも思うのですが,受託者がいない状態が更に続くという点について,難点はないのだろうかと,実質的には思います。ですが,それはパブリックコメントで意見を聞けばいいところだと思いますので,ここでは,「なろうとする者は」というのは,そういう趣旨ですかという質問です。
○中辻幹事 今,山田委員が例に取られた第13の3(1)で,「新受託者になろうとする者」というふうな表現をしている理由は,山田委員の御理解のとおりです。ただし,道垣内委員が以前おっしゃられていたように,取りあえず信託関係人の合意によって,新受託者は選任されたことにする。その上で,行政庁の認可を停止条件として,新受託者が受託者としての実質的な行為を行うことができるようにするという選択肢もあろうかとは思います。ただ,どちらにせよ,行政庁の認可を受けない以上,公益信託の新受託者としての行為はできませんので,実質は同じになるのかなというぐらいの理解で,今は考えています。
○山田委員 はい,分かりました。
○中田部会長 先ほど吉谷委員から幾つか御意見が出ていましたけれども,それについては。
○中辻幹事 そうですね。吉谷委員が今でも納得されていないというのは,吉谷委員の中で,現在の公益信託法7条のように,受託者の辞任や解任についてやはり行政庁の関与を必要としたほうが望ましいというようなことがあるんでしょうか。私の誤解であれば申し訳ありません。
○吉谷委員 行政庁の関与の方を問題にしているわけではなくて,裁判所の権限の書きぶりが,後ろの方の提案の内容と一致するようにならないと,ここで賛成してはいけないと思っているので,後ろのところの提案の議論を見てからでないと賛成できないですということを言っているだけです。すみません,まだ,要するに,検討ができていませんということを申し上げているだけです。
○中田部会長 後ろとおっしゃいますのは,第13,第14についてということですね。
○吉谷委員 そうです。
○中辻幹事 もう少しだけ吉谷委員に確認させていただきますけれども,第13の1のゴシックでは,受託者は委託者及び信託管理人の同意を得て辞任するという提案をしています。すなわち,受託者は委託者及び信託管理人が現に存する場合はその2人の同意を取り付けない限り辞任できないとしているのですけれども,公益信託に対する委託者の影響力を弱めるという観点からは,このゴシックを,例えば,受託者は信託管理人の同意を得て辞任する,ただし,信託行為に別段の定めをすることができるとし,その定めでは信託管理人及び委託者の同意を必要とするというようななどの仕組みを採用する考え方もあり得ると思っておりまして,この点について吉谷委員のお考えを御教示いただければと存じます。
○吉谷委員 第13の1につきまして更に申し上げますと,前回論点となったのが,公益信託の当事者が終了したいと思えば終了してしまうような制度でいいのかと。受託者が辞任しますというのは,1年たったら信託が終了する可能性がすごく高まるということですので,そのような制度にしていいのかどうかというところが前回論点になったと,私は理解しておりまして,それについてはいろいろな御意見があったと,賛同する御意見もあったと考えておるんです。
  なので,先ほど申し上げていたのは,行政庁の認可があって,初めて終了できるという案と,行政庁の認可がなくても辞任できるという案との両論ではないでしょうかというのが,まず今回申し上げたい意見でありまして,その両論にするに当たっては,委託者と信託管理人が合意をしないと,行政庁の認可なしには受託者の辞任はできないのかというところでありまして,ここの書きぶりとしては,第13の1には,委託者の権限はなくすことができるとは書いていませんので,これだけ読むと,合意がない場合には,行政庁が認可しようができないと書いているように思えます。
  ですけれども,私は,信託管理人が単独で辞任を認めるようなケースがあってもいいと思っていまして,ただ,私の立場は,常に行政庁の認可があれば認めていいというものです。なので,書き方としては,両論で,信託管理人が辞任に同意すれば,受託者は辞任できるというものと,信託管理人が辞任に同意した上で,行政庁が認可をすれば辞任できるという,この両論ですと。ただ,委託者にも信託管理人と同様の権利は与えることができるのか,信託管理人と合意がないとできないと信託行為に書くのは,ちょっとそこの任意規定かどうかというところとの関係が,ここではよく分からなくなっているというところもあります。
○中田部会長 委託者をどうするのかということと,それから,行政庁か裁判所かという,二つの論点について御指摘いただきまして,これは,これまでの部会の御意見を踏まえて,多数の意見を集約するとこういうことになるのではないかというのが,今回の御提案だろうと思いますが,それに対して,反対のお立場から,何らかの形で反対意見を分かるようにしてほしいと,こういうことかと承りました。
  吉谷委員は,さらに第13,第14については,なおご意見を次回に御提示くださるという予定と伺ってよろしいでしょうか。
  それでは,今日,もし御発言がありましたら,あと時間は限られておりますけれども頂きまして,また次回にも継続いたします。
○棚橋幹事 先ほど小野委員が御指摘されていた点ですが,第13の1の辞任の項目で,やむを得ない事由と正当な理由の両方を中間試案として提示することについては,正当な理由にどのような事由が含まれるかという点次第で意見が変わってくるように思いますし,やむを得ない事由と正当な理由の両方を提示するということであれば,中間試案の取りまとめ段階までの間又は中間試案の補足説明の中で,信託法の条文と異なる辞任許可事由とする理由や,正当な理由とは何を意味するのかという点についても明らかにする必要があるのではないかと考えております。
  今回の部会資料43によれば,正当な理由の中には,やむを得ない事由にプラスして,新しい受託者がいることが考慮される可能性があるということかと考えていましたが,小野委員の御発言の中では,目的との関係でも判断するというお話や,やむを得ない事由の方がむしろ主観が入りやすいのではないかというお話もありましたので,その点のイメージは一致した上で議論を進めたほうがよいのではないかと考えました。
○中田部会長 ありがとうございました。
  本日のところはよろしいでしょうか。
  それでは,次回に第12から第14までを継続した上で,その後の部分に入っていきたいと思います。
  本日たくさん御意見いただきまして,中には,ゴシックに格上げすべき点があるとか,あるいは補足説明などで説明を更に工夫すべきであるとか,あるいは全体を通じてですけれども,質問が出やすいような形にし,理解してもらいやすいような工夫をより必要とするというような御指摘を頂きましたので,それを踏まえて,今後また検討していただきたいと思います。
  それでは,本日はこの程度にいたしまして,最後に次回の日程などにつきまして,事務当局から説明をしていただきます。
○中辻幹事 次回の日程は,平成29年10月10日の火曜日,午後1時半から午後5時半まで,場所は,法務省20階の第1会議室を予定しております。次回は,本日の審議に引き続き,部会資料43の残りの部分を用いまして,中間試案のたたき台について,引き続き皆様に御審議いただくことを予定しております。
○中田部会長 ほかに御意見などございますでしょうか。
  それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。
-了-



法制審議会信託法部会 第43回会議 議事録

 

第1 日 時  平成29年7月4日(火)

   自 午後1時30分
                      

 至 午後5時12分

第2 場 所  法務省赤れんが棟第6教室

第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討


第4 議 事 (次のとおり)

議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第43回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
  本日は,神田委員,能見委員,山本委員,渕幹事,松下幹事が御欠席です。
  まず,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について確認いただければと存じます。
  事前に,部会資料42「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(5)」を送付させていただきました。
  また,参考人としての御説明を本日予定しております同志社大学の佐久間毅教授から,本日の御説明に用いられる資料を御用意いただきましたほか,吉谷委員から,平成29年3月末時点における公益信託の受託状況の資料を提供していただきましたので,当日配布資料として皆様の机上に置かせていただいております。
  これらの資料がもしお手元にない方がおられましたらお申し付けください。よろしいでしょうか。
○中田部会長 本日は参考人として,同志社大学で民法及び信託法の研究・教育に従事されていらっしゃいます佐久間毅教授にお越しいただいています。
  佐久間教授には,お手元の「公益信託法の改正における幾つかの論点について」と題する資料を御用意いただいています。この資料に基づいて御説明を頂きまして,その後,若干の質疑応答の時間を設けることにしたいと思います。その後,部会資料42の第1「公益信託の信託行為の定めの変更」と第2「公益信託の併合・分割」について御審議いただく予定です。途中で休憩を挟む予定でおります。
  佐久間教授におかれましては,御厚意で,本日の審議の方にも御同席いただけるものと承っております。
  それでは,早速ですけれども,佐久間参考人,よろしくお願いいたします。
○佐久間参考人 佐久間でございます。本日は,このような機会をくださり,誠にありがとうございます。恐れ多く,また,少しは意味のある話ができるのか,大変心もとなく思っております。
  もっとも,遠慮していては,かえって失礼になると存じますので,部会資料や議事録を拝見しまして,関心を持ちましたことについて,率直に考えを述べさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
  座りながらお話をさせていただきます。
  初めに,本日全ての前提とすることを申し上げます。四つ申し上げます。
  第1に,公益信託を,公益を目的とすることにより法的に何らかの優遇がされる信託と捉えること。その優遇のため,何が必要になるかが問題となることです。
  第2に,公益信託は,受益者の定めのない信託の一つであることです。
  第3に,公益信託の成立に関し,主務官庁による許可制を廃止すること。その代わりに,公益法人と同様の行政庁による認定という仕組みが想定されることです。
  第4に,公益信託に対する外部的監督の制度を設けること。その監督は,認定行政庁が行うと想定されることです。
  それでは,公益信託法の改正に関し,私が考えるところを申し述べてまいります。
  まず,私の基本的立場を述べさせていただきます。公益信託が,公益を目的とすることにより,法的に優遇される信託であるために備えるよう求められるべきこと,とりわけ内部の牽制・監督体制についてです。これは,さきに信託法学会で私の報告をお聞きくださった方には重複になります。この点,おわびいたします。
  公益信託とは,公益を目的とすることにより,法的優遇がされる信託であるとする場合,そこには二つの優遇が含まれていると考えています。一つは,信託として効力が認められること,もう一つは,信託の中で,ほかの信託にない有利な取扱いがされることです。
  信託であることにより,定められた目的のために,財産の独立性が認められます。委託者と受託者の固有財産の状態に影響を受けずに,その目的のための活動のみの責任財産とすることができるわけです。これは,一般には認められない効果であり,一つの優遇と言えます。
  この優遇が認められるには条件があります。その財産を誰も,自分のもののごとく扱うことができないようにするということです。この点で,公益信託もその一つであるところの受益者の定めのない信託には,目的財産化を安定して認めるのに足りない面があると見ています。これを,目的財産化が認められる点で共通する財団法人及び信託の中で受益者の定めのある信託と比較することを通して述べます。
  まず,財団法人との比較です。財団法人は,目的財産化を法人格の付与により認めるものである点で,信託と異なります。もっとも,関係者の誰も,財産を自分のもののごとく扱うことができないようにするための仕組みが用意されていることでは共通しています。財団法人においては,その機関構成がこの仕組みに当たります。
  外部からの監督を受けない一般財団法人を例に採れば,3人以上の理事から成る理事会,3人以上の全評議員から成る評議員会が設けられる必要があり,かつ監事が必置となっています。
  理事は,理事会の決定に基づいて業務執行をするため,業務執行者が互いに牽制・監督することになります。そして,法人の基本的事項を決議する機関として,評議員会が設けられ,評議員会が理事の解任権,新理事の選任権を有することが,牽制・監督体制の要となっています。その上で,評議員会の力が強くなり過ぎないよう,解任事由が限定されています。
  さらに,監事が業務及び会計の監査権限を与えられ,理事の日常の業務執行を監督します。そして,監事によるこの監督がおろそかになる事態に備えて,評議員会に監事の解任権も与えられています。
  このように,一般財団法人では,その内部で複層的な牽制・監督体制が敷かれます。とはいえ,この体制が機能する保証はありません。そこで,公益財団法人となる場合には,理事及び監事に関し,親族規制,同一団体規制が上乗せされ,資産規模が非常に大きな法人につき,会計監査人が必置とされるとともに,行政庁による監督がされることになります。
  次に,受益者の定めのある信託です。信託の場合,受託者が財産を有し,事務を処理するため,まずは受託者による財産の私物化を防ぐ必要があります。そこで,委託者と受益者に牽制・監督のための権利が与えられています。また,委託者と受益者は,その合意により,受託者を解任することができます。
  このように,受益者の定めのある信託では,受託者に対する牽制・監督が複線的にされることが標準となっています。もっとも,これは,飽くまで標準にとどまります。例えば,委託者が受託者又は受益者を兼ねる場合,受託者を監督する者は1人だけになります。それどころか,委託者が欠け,受益者は現に存せず,信託管理人も置かれていないことがあります。また,特に自益信託では,委託者が実質的に財産を支配する事態も起こり得ます。
  ただ,受益者の定めのある信託では,信託財産からの利益を受託者以外の者が受けることから,単線的な牽制・監督体制となっても,財産を支配する者に対する牽制・監督の実効性を一般的には期待することができます。そして,財産が実質的に誰かの自由になる状態である場合には,信託の設定そのものが無効,あるいは倒産隔離効が否定されるなど,目的財産化が否定されることがあります。
  つまり,受益者の定めのある信託は,複線的な牽制・監督体制を標準とするが,それが機能しない場合には,目的財産化が否定されることもある。その意味で,目的財産化の承認に少し不安定なところがあるということです。
  これらに対し,受益者の定めのない信託では,単線的な牽制・監督体制が原則となっています。受託者に対する監督権を当然に有するのは,委託者又は信託管理人だけです。また,監督権を有する者が誰もいない事態となることもあります。
  さらに,遺言信託の場合,信託行為に定めがなければ,信託管理人だけでは受託者を選任・解任することができず,内部での選任・解任を通じて,受託者を牽制・監督する体制が標準とされているとも言えません。反対に,契約信託の場合には,委託者が受託者の自由な解任権を有する点で,委託者の財産からの実質的な分離を危うくする面があります。
  このように,受益者の定めのない信託は,一般財団法人,受益者の定めのある信託と比べて,内部の牽制・監督体制に対する不安が大きいと言えます。そのため,一般財団法人や受益者の定めのある信託と同様に目的財産化が認められてよいかが問題になります。
  実際,受益者の定めのない目的信託の有効性については議論がありました。現信託法も,この信託については,存続期間と受託者の資格を制限しています。その制限は,内容の当否はさておき,牽制・監督体制の弱さに由来する目的財産化の承認への疑念から来るものと考えられます。
  これは,何も手当てをしなければ,公益信託でも同じです。信託の効力が争われる余地が大きく,また,効力も限定されるべきことになるということです。だからこそ,公益信託には,外部的監督を用意するのだという考えもあるかと思います。しかし,公益財団法人は,内部で複層的な牽制・監督体制を採り,加えて行政庁の監督を受けています。
  ところが,特に評議員会が機能しているか疑われ,ガバナンスが懸念される例がなくはありません。行政庁の監督に過度の期待をすべきではないということです。また,公益信託を民間公益活動を担う主要な存在にしようとするなら,できる限り自律的に運営させるべきです。行政庁の監督は,内部の牽制・監督体制が機能不全に陥っていないかを監視し,必要ならば,その機能の回復を促すという補助的な役割にとどまるべきであると思います。
  では,公益信託内部の牽制・監督体制をどのように強めるかですが,次のように考えます。
  まず,遺言信託でない場合も,信託管理人を必置とすることは不可欠です。しかし,それで十分とは思えません。信託管理人しか受託者を牽制・監督する者がなければ,受託者に対し,何らかの措置を講じようとするときに,二者対立となり,混乱を生ずるおそれもあると思います。
  また,信託法上,信託管理人に各種の報告,書類の閲覧等を通じて,情報を収集する権利があることは分かります。しかし,それを越えて,どこまで調査をすることができるのか,よく分かりません。本格的な調査は,裁判所に検査役の選任を求め,その検査役がすることになっているのではないかと思います。
  私益の信託では,それでよいと思います。しかし,公益信託では,受託者に対する具体的な措置の前提となる調査を裁判所の関与がなければできないとすることが適当かに疑問を持っています。
  また,不正行為など重大な事実の存在の疑いが検査役選任の要件とされていますが,これは公益信託では,行政庁から強制的な措置を受け得る事態であり,そこまでの事態にならなければ本格的な調査ができないというのもいかがと思います。むしろ,信託内部で調査が定期的にされることが,信託の自律的運営の点から望ましいと考えます。
  その場合,信託管理人に調査権も与えることが適当とは思いません。理由は三つあります。
  第1に,そこまでの権限を信託管理人に与えると,信託管理人の負担が重くなり過ぎます。
  第2に,信託管理人が自らした調査に基づいて判断を下すことは,判断の客観性をめぐる争いの元になります。
  第3に,信託管理人の力が強大化し,事務処理がその影響を受けること,受託者と信託管理人が結び付くことで,牽制・監督体制が骨抜きになることも懸念されます。
  そのため,私は,信託管理人のほかに,事務処理と会計につき監査をする権利のみを有する者を,必置とすることがよいと考えています。
  以上に申し述べたことが,ほかの信託と比べての有利な取扱いにもつながります。公益信託と認定されることで,信託の効力が安定して認められることは,受益者の定めのない信託の中での有利な扱いと言えます。また,存続期間及び受託者資格の制限が撤廃又は緩和されるならば,それも受益者の定めのない信託の中での有利な扱いです。
  このほか,税優遇や名称規制を通じて,公益信託への信頼感を生み,信託への資金提供を促す契機とすることも,信託の中での優遇です。ただ,これらのためには,公益信託という制度が社会から高い評価を得られる状況を整えておくべきであり,そのためには,公益信託認定を受けた信託が不祥事を起こさないこと,不祥事が起きたときに,制度的欠陥も一因であるとされることがないようにしておく必要があると思います。
  このような発想に立つと,公益信託の制度設計において,保守的になるでしょう。しかし,かつて公益法人に対してされた批判,その批判が公益法人制度改革の理由の一つになったことを思えば,これから育てていく公益信託の制度が同じ轍を踏まないようにすることは重要であると私は考えています。
  こういったことを前提に,続いて,幾つかの論点につき,考えを述べさせていただきます。
  まず,受託者に関する問題についてです。公益信託は,信託銀行等が受託者となり,助成事務を行う者にほぼ限られている現状であるところ,受託者となり得る者及び信託事務の範囲の拡大が目指されていると承知しています。民間公益活動の活性化のために,それが望ましいと思います。
  しかし,他方で,公益信託制度への信用が損なわれることがあってはなりません。この点に,受益者の定めのない信託の効力制限には,牽制・監督体制への不安という理由があることを重ね合わせますと,適切な措置を加えなければ,受託者の範囲も信託事務の範囲も拡大の基礎が整わないことになります。
  外部的監督には余り意味がありません。主務官庁制をやめ,より緩やかな外部的監督とするのですから,信託内部の牽制・監督体制に厚みと安定度を増すことが求められるはずです。そして,これは,法人と異なる信託の特徴である軽量・軽装備をいかすこととは次元の異なる話であると思っています。
  その上で,受託者となり得る者の範囲を拡大するとして,どのような者が受託者となることを認めるかについて,気になることを述べます。
  受託者を法人に限るか,自然人にも広げるかが論点の一つとされていますが,いずれにせよ,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有することが必要とされています。
  ところで,一般法人が公益認定を受けるには,公益目的事業を遂行するための経理的基礎と技術的能力が必要とされます。目的事業を遂行するために必要な財産を備え,あるいはその見込みがあり,その財産を適切に管理・運用することができること。及び,目的事業を遂行するための技術,人的・物的資源を有し,それを維持・活用することができることです。これは,公益目的を担う存在として求められる要件であり,公益信託にも同様の経理的基礎及び技術的能力が求められるはずです。
  しかも,公益信託の場合には,この基礎・能力が,仕組みとしての信託と受託者のそれぞれに,意味はやや異なるけれども,求められると見ています。
 仕組みとしての信託に,目的の達成を図るための信託財産が必要となることは明らかです。
  では,信託財産さえあればよいかといえば,そうではないと思います。信託事務処理により生ずる債務について,受託者は固有財産で責任を負います。また,義務違反により信託財産に損失を生じさせた場合には,その填補の責任を負います。こういったことのため,公益信託制度への信用維持,そのための個々の信託の健全な運営の保障という観点から,受託者は当該の信託事務に照らし,あり得べき責任を負うに足る財産を有することが求められると考えます。
  技術的能力については,信託において,内部の牽制・監督体制も含めて,その目的とする事務を適切に行う人的・物的体制が整っていること,受託者がその体制を適切につかさどることができることが,それぞれ求められます。
  以上のことから,自然人を受託者とすることに,私は消極的です。受託者としての経理的基礎と技術的能力を備えているかが問題になることが多かろうと思うからです。
  自然人を受託者とするのであれば,信託事務の範囲を相当限定する必要があると考えます。信託ごとに公益認定に際し,行政庁が適否を判断すればよいとする立場はあり得ます。しかし,認定の場面で,特定の個人の能力を判断対象にすることは,かなり難しいと思われること,自然人受託者の固有財産の不足のために,公益信託が立ち行かなくなった場合に起こるかもしれない制度に対する批判を考えると,個々の認定に委ねることが得策であるとは思いません。
  次に,法人受託者の有力候補であろう公益法人に関し,気に掛かることを申し上げます。もっとも,いずれも公益信託法の問題ではなく,法人の公益認定に係る問題かと思います。
  第1に,公益法人にとって,公益信託の受託は目的事業の追加に当たると思います。そのため,これには行政庁の変更認定が必要です。
  その際,公益目的事業として受託するのであれば,少なくとも形式的に,法人の規模・体制によっては実際に,その追加の可否が,経理的基礎と技術的能力に照らして判断されることになるはずです。これは,公益法人が,その目的の範囲内にある公益信託の受託者に,当然になり得るとは限らないということを意味しています。
  第2に,公益法人は,固有の事業のために必要な財産を備えていることを求められています。そこに公益信託の受託が加わる場合,信託財産は固有の事業による法人の固有債務につき責任を負わないのに対し,ほかの公益目的事業のためにあるはずの固有財産は,公益信託の債務につき責任を負うことになります。これが認められてよいのかに疑問を持っています。
  一律に不可とされないまでも,責任が現実化するおそれのある事務は認められない,つまり信託事務の範囲の限定が必要ではないかと思います。
  第3に,公益目的事業として受託するのであれば,受託者として受ける報酬について,公益法人認定上の収支相償原則の制限が掛かるはずです。そうすると,信託銀行と同じ水準の報酬を得ることは難しいように思います。
  信託銀行等への適正な報酬額は,費用の額を上回るはずです。それと同じ水準の報酬を公益法人が取ると,公益目的事業と認められない可能性があると思います。収益事業として受託するか,報酬額を下げればよいのですが,先に述べたことを含めて,公益法人が公益信託の受託者となるにも,クリアすべき問題があるかもしれないことを示すものとして,触れることにいたしました。
  次に,信託事務の範囲の拡大に関してです。美術館の経営など,事業型の公益信託を認めることに一致があると承知しており,事務範囲の拡大に異論はありません。ただ,法人がする事業を,信託事務として同じようにすることができるとすべきかに疑問を持っています。
  ある事業を営む場合,それが奨学金の給付であれ,美術館の運営であれ,法人がするか,信託により営むかで,必要となる人的・物的設備が変わるものではないと思います。そうすると,法人が営む事業を全部信託でも可能にすることを目指す場合,公益信託に対してされるべき規制は,法人の組成と信託の設定との違いを除き,公益法人に対する規制と同程度にならざるを得ないと思います。
  特に,本格的な美術館の運営のように,大規模な施設を保有し,広範に及び得る事業を永続的に営むことも信託で可能にすることを目指すならば,信託に求めるべき経理的基礎・技術的能力は,法人と同水準のものとなり,受託者には,相当高い水準の経理的基礎・技術的能力が求められる。信託内部で,公益法人と同程度の牽制・監督体制が構築されていることが必要になると考えます。
  このようなことを避けるために,その営む事務により,規律を分けることが考えられます。その切り分けがうまくできるのであれば,それがよいと思います。ただ,切り分けは,そう簡単ではないように思います。
  仮にそうであれば,公益信託事務を広げるとしても,本格的な美術館の運営のように,法人形式ですることが適するものを信託でしようとするのは,得策にならないような規律とすることも考えられると思います。例えば,公益信託において,収益事務を営むことを認めない,公益目的事務により利益を上げることについて制限を掛ける,公益目的事務とそれ以外の事務の切り分けに融通を余り利かせない,信託財産の運用について,今では評判のよくないリーガルリスト方式を,運用対象を広げることはあるにしても,あえて維持するといったこともあり得るのではないかと思います。
  こう申し上げますと,信託の利点を理解していないとの批判を受けるかと存じます。しかし,我が国には,公益活動を営む者として,既に非常に多くの公益法人が存在し,かつ社会に根付いています。そのため,営む事業に照らして,法人と信託のいずれを選択することが合理的かを意識させるように公益信託法を組み,法人で営むことに余り適さない公益活動,例えば小規模・短期の公益活動を信託で営むよう誘導することも,信託の活かし方の一つと考えます。また,そうすることで,軽量・軽装備での公益活動の実現,受託者となり得る者の拡大も容易になるのではないかと思います。
  受託者に関して,次に,信託行為の定めにより,受託者の善管注意義務を軽減することは認めるべきではないということを申し上げます。
  信託財産が適切に維持され,公益目的のために利用されることは,公益信託に対し,法的優遇を与えるための前提であると思います。また,公益信託の受託者には,その目的事務を遂行する技術的能力が求められるところ,そこには信託財産の適切な維持・利用の能力が含まれるはずです。
  そして,善管注意義務は,当該地位にある者として標準的な注意を用いて事務を処理する義務であり,公益信託の受託者の場合,公益目的事務を処理する者として,標準的な注意を用いることも意味するはずですが,それは,公益信託の受託者として備えるべき技術的能力を現実にいかすことを意味します。そうすると,善管注意義務軽減の定めを認めることは,公益認定の前提との間にそごを来すことになります。
  信託行為に善管注意義務に関する定めが置かれている場合,その定めが義務の内容を具体化するものか,義務を軽減するものかの判断は容易でないことがあります。そのため,ある定めが義務を軽減するものかは,認定行政庁の判断にならざるを得ません。そうであっても,公益信託について,信託法212条1項と同様の規定を設けるべきであると思います。
  続いて,受託者の交代についてです。まず,受託者の辞任について,信託関係人の同意があれば,やむを得ない事由がなくても,辞任を認めてよいと考えています。意欲をなくした者を職に縛り付けるのはどうかと思うことと,辞任後も新受託者が事務処理をすることができるに至るまで,前受託者が引き続き受託者としての権利義務を有するため,信託にとって支障もないと思うからです。
  次に,解任については,委託者があるときは,委託者と信託管理人の合意により,委託者がないときは,信託管理人が受託者を解任することができる。ただし,そのためには,解任を正当とする事由が必要である,とするのがよいと思っています。
  公益信託といえども,信託の運営は自律的にされるべきであり,外部機関の関与がなければ不適任者を解任することができず,事務処理を継続させなければならないとするのは,適当とは思えません。ただ,無理由の解任を認めると,解任権者の力が強くなり過ぎ,その者による公益信託の支配のおそれがあるため,解任にはそれを正当とする事由を求めるべきです。
  辞任・解任とも,信託内部での手続による場合に,外部第三者機関の許可は不要であると考えます。受託者の任務の終了の場合,新受託者による事務処理の速やかな開始こそが重要であり,その開始には行政庁の承認が必要となるはずですので,一連の手続の適切性はそこで担保されると思うからです。
  なお,辞任・解任とも,外部第三者機関,具体的には裁判所の許可を得て辞任あるいは解任するという方法も認めるべきです。やむを得ない事由があるのに,信託関係人が同意しない場合の辞任,正当な事由の存否をめぐって当事者が争う場合の解任を可能にするためです。
  新受託者の選任については,何よりも,信託内部ですることができるようにすべきであると考えます。公益信託であっても,規制が掛かる部分を除いて,信託は自律的に運営されるべきです。そうであるのに,信託を正に動かす受託者を信託内部で新たに選ぶことを法的に認めないのは,適切でないと考えます。そのため,信託行為に新受託者選任の方法の定めがされていることを公益信託認定の要件とすべきであると考えます。その場合も,その定めに基づく選任がされない場合に備え,利害関係人の申立てに基づく,裁判所による選任を認める必要があります。
  新受託者が信託事務の処理を開始するには,行政庁による新受託者の承認が必要と考えます。公益信託は,公益目的の達成を図るため,経理的基礎と技術的能力を備えていることを求められるところ,その基礎・能力は,受託者の属性に大きく依存します。また,受託者についても,経理的基礎・技術的能力が求められます。このため,新受託者が選任された場合,当該信託が引き続き認定要件を満たすことを確認するため,行政庁による承認が必須であると思います。
  裁判所による選任の場合も,理屈はこれと変わりません。しかし,裁判所が選んだ者を行政庁が不適任とすると,混乱の極みになりますので,選任の裁判の中に行政庁の意見を聞く手続を組み込むことがよいと考えます。
  受託者について,最後に,受託者の不在と受託者の資格喪失に触れます。受託者が欠けた場合,特段の規定を設けなければ,その状態が1年間続いたときは,信託が終了することになります。これは,公益信託であってもやむを得ませんが,新受託者が信託事務を開始するまでの間について,気になることがあります。信託関係人の合意による受託者の辞任の場合を除き,信託事務が止まることは仕方がないとしても,その間の信託財産の保管,信託事務の引継ぎについて,措置を講ずる必要はないかという点です。
  例えば,自然人受託者を認める場合,受託者が死亡したときは,相続人が信託財産の保管等の義務を負うことになります。しかしこれは,相続人にとって,相当重い負担であると思います。また,義務が適切に利用されるかが懸念され,公益信託にとっても好ましくありません。法人受託者についても,解任の場合は,その後の義務の履行に不安が残ります。
  これらは,公益信託に限った問題ではありませんが,公益信託は受託者の属性を含めて公益認定を受けているので,受託者以外の者が信託財産を保管することは,適法な第三者委託の場合を除けば,本来あるべきでないと思います。このため,受託者の任務終了に備える措置を公益信託に限り法定する,あるいは,信託行為にその場合に関する定めのあることを公益信託の認定要件とすることを考えてもよいのではないかと思います。
  次に,公益信託の認定要件として,公益法人認定法6条1項が法人役員につき定めるのと同様の資格が受託者について設けられた場合において,受託者がその資格を喪失したときは,公益法人と同様に認定が取り消されるべきかについてお話します。ここでは,受託者が反社会的勢力に該当する者となった場合を例にとります。
  公益法人の場合と異なり,受託者の資格喪失は,受託者の解任理由になり得るだけとすることでもよいかと思います。法人の場合,役員はその機関であることから,役員の属性により法人の属性が決まるという考え方が採られているものと思います。実質的にも,役員の一部に反社会的勢力に該当する者がある場合,その役員さえ交代させれば,法人からその勢力の影響が一掃されるのか,何とも言えません。
  それに対し,信託では,信託のその時々の属性は,受託者の属性に大きく依存しますが,受託者は信託の機関ではありません。また,受託者を交代させれば,別人の下で信託事務が営まれることになるため,体制が一新されると言えそうにも思います。
  もっともこれは,形式的な理屈にすぎません。反社に一度支配された公益信託が社会からどう見られるか。その状況の下で,新受託者の選任可能性は現実にどの程度あるか。受託者の交代は本当に体制一新になるのか,こういった点の考慮が必要と思います。
  続いて,信託管理人に関して,1点のみ申し上げます。
  公益信託において,内部の牽制・監督体制を充実させる必要があると申し上げました。その体制の要になるのは信託管理人です。このことから,私は,信託管理人が容易に不在になる,しかも,その状態の解消に時間がかかることは,公益信託において,本来あってはならないと考えています。ところが,特に自然人が信託管理人となる場合,信託管理人がいつ欠けることになるか分かりません。
  そこで,公益信託については,新信託管理人の選任が速やかにされるよう,特別の措置を講ずべきであると思います。そうすると,外部第三者機関による選任には時間がかかることから,信託行為の定めによる新信託管理人の選任を認め,かつ,その選任に関する定めがあることを公益信託認定の要件とすべきであると思います。
  もっとも,その場合,標準的に誰を選任権者とするかは難しい問題です。この点からは,信託管理人を複数とし,現存する信託管理人に選任権を与えることもあり得るかと思っています。
  信託行為に新信託管理人の選任に関する定めを設けても,信託管理人が欠けることもあります。それに備えて,信託関係人の申立てに基づく裁判所による選任を認めるともに,信託管理人の不在が一定期間続いたときは,公益信託は終了するとすべきであると思います。
  次に,委託者に関することを2点申し上げます。
  まず,信託の運営への関与について,私は,委託者は信託の設定者であることから,一方で,信託行為の定めに表された委託者の意思は最大限尊重されるべきである。他方で,それを超える関与は限定的なものにとどめるべきである,と考えています。
  信託行為の定めに表された委託者の意思の尊重は,とりわけ信託行為の変更,中でも信託の目的の変更につき,重要な意味を持ちます。信託行為の定めの変更は,委託者の意思に反しない限りで認められるべきであり,信託の目的の変更は,その変更を許容する信託行為の定めがなければ,事情変更の原則が妥当するような場合を除き,認められるべきでないということ考えます。
  信託行為に許容の定めがないため,目的の変更ができないということには,目的の達成又は達成不能により,目的の変更をしなければ公益信託が終了する場合も含まれます。類似の公益目的に変更して信託を継続することも,それを許容する旨の信託行為の定めがなければ,例外的な場合を除き,認めるべきではないと考えています。これを認めることは,通常,そのときの受託者の意思を委託者の意思に優先させることになるからです。
  やはり,公益信託の何たるかを分かっていないと思われるかもしれませんので,加えて3点申し上げます。
  第1に,信託行為の定め次第とすることは,ほかの公益目的で信託を継続するかどうかを,受託者ではなく,委託者に判断させるということであり,その継続を阻もうとするものではありません。
  第2に,公益信託において,信託の目的と目的事務とは,事実として同一であることもあり得ますが,概念的には区別されるものです。信託行為において定められた目的事務は,信託の目的の達成のための例示であることがあり,その場合,目的事務の変更は信託の目的の変更に当たらず,委託者の意思に反しなければ認められます。
  第3に,財団法人の目的の変更は,原則として定款にその変更を許容する定めがあるときにすることができるとされており,それは公益財団法人でも同じです。公益信託の目的は,信託行為に許容の定めがあるときに変更することができるとすることは,これに対応します。
  続いて,委託者の地位の相続について,手短に述べます。
  委託者の相続人が委託者と同じように,当該信託に関心を持つとは限りません。相続が何代も続くと,ますますもってそうです。そうすると,委託者の地位の相続を認めても,信託によい影響は余りなさそうです。
  反対に,時を経ると,相続人の把握が難しくなることも考えられ,委託者の同意を要するとする事由を設ける場合,委託者の地位の相続を認めることは,公益信託の円滑な運営の妨げとなることがあります。このため,公益信託の委託者の地位の相続は認められないとすべきであると思います。
  最後に,公益信託における行政庁と裁判所の役割について述べます。
  受託者や信託管理人の辞任・解任・選任,信託行為の定めの変更などについて,外部第三者機関が決めるとされる場合があり,その場合に,外部第三者機関とは裁判所か行政庁かが論点となっています。
  私は,それらのほぼ全部について,裁判所がその任を担うべきであると考えます。理由は三つあります。
  第1の,そして最大の理由は,行政庁が担うとするのでは,主務官庁制廃止の意味が大きく損なわれることです。監督官庁の裁量を排した運営の実現が,公益法人であれ,公益信託であれ,主務官庁制廃止の大きな意味です。そうであるのに,解任手続において,例えば受託者の事務処理の当否を行政庁に判断させる,後任は誰がよいかを行政庁に決めさせる,公益信託が行う事務すら変更命令の形で行政庁の判断に委ねるというのでは,何のための主務官庁制の廃止なのかと思います。
  また,行政庁とは,内閣総理大臣又は都道府県知事であり,その事務を担うのは内閣府又は都道府県の総務部など,特定の部局が想定されていると思います。この想定でよいのは,行政庁は申請を受けた事柄について,法律に定められた基準に照らして,認否だけを判断するからであると思います。
  もし事務の実質と,それに照らした運営体制の適否を行政庁に判断させ,適切な体制の構築にまで行政庁を関与させるのなら,旧来のように,当該信託事務に精通する官庁を行政庁とすべきであると思います。
  第2に,公益法人に係る規定との整合性です。法人について,外部第三者機関による役員の辞任許可,解任・選任はそれほどありません。法人自治に基本的に委ねられており,信託について,同様の考え方で望むべきことを本日申し上げたつもりです。しかし,法人についても,例えば,役員に欠員が生じたときには,利害関係人の申立てに基づき,裁判所が一時役員を選任することがあります。
  また,一般財団法人の目的は,その変更を許容する定款の定めがなくても,例外的な場合には,評議員会の決議によって変更することができますが,その際に,変更の許可を与えるのは裁判所です。そして,これらのことが,法人が公益認定を受けたことによって変わることはありません。
  第3に,信託法の規定との整合性です。受益者の定めのある信託や,公益信託ではない受益者の定めのない信託についても,外部第三者機関の関与による受託者や信託管理人の辞任等,あるいは信託行為の定めの変更等が定められています。ここでは,行政庁の出る幕はそもそもなく,外部第三者機関とは全て裁判所です。
  公益信託の場合,公益認定の手続のため,行政庁が信託に関与することになります。しかし,そのことで,信託法の規定と異なる扱いをすべきことにならないことは,第1,第2の理由が示していると思います。
  以上,意見を申し上げました。このような機会を頂きましたことに,改めてお礼を申し上げます。誠にありがとうございました。
○中田部会長 佐久間参考人,どうもありがとうございました。
  公益信託の法的優遇についての分析を踏まえて,具体的な規律の在り方について,非常に幅広く有益なお話を頂戴いたしました。
  ただいまのお話につきまして,御質問などございましたら,御自由にお出しいただければと存じます。
○吉谷委員 1点,御質問をさせていただきます。
  6月の信託法学会でした質問と少しかぶってしまうところがございますけれども,参考人の御説明では,新しい信託法制というものを念頭に置かれて,公益信託の事業の範囲が拡大し,受託者も拡大するということの前提において,ガバナンスの体制について,御意見を頂戴したというふうに認識しております。
  ただ,一方で,現在行われている公益信託というものにも,同様のガバナンスが必要なんだろうかというところについては疑問がありまして,現在のものがそのまま,新法に適用されるのかどうかというのは,また別の議論でございますので,現在とほぼ同様の仕組みの公益信託,つまり,信託銀行が受託者となり,奨学金などの助成のみを行う,受託者は1人で,信託管理人も自然人の方が1人でやるというものにつきまして,信託銀行の場合は,まず金融庁の監督の下にあり,それを前提として,信託銀行の内部において,二重,三重の牽制体制が敷かれていると。
  そのような受託者と,信託事務の内容が非常に明快,簡便で,年に一度,信託銀行が,例えば奨学金などの募集をして,その結果を運営委員会という組織をもって,受給者が適正であるかどうかという判断についての助言を仰ぎ,その結果をもって受給すると。信託管理人は,その内容を精査するというような単純な仕組みのものについても,ここでおっしゃっているような仕組みが必要ではないかというような御意見であるのか,それとも,事業型を前提とすると,やはり厳しいものが必要である,つまり,段階的な基準というものを設けることが許容されるというふうなお考えなのか,それとも,そういうことがそもそも難しいのではないかというお考えなのかという,ここをちょっとお教えいただけたらと思います。
○佐久間参考人 私,実務に詳しいわけではございませんので,何とも申し上げようがないところがありますが,報告の中で申し上げたことに関わって言いますと,切り分けができるならば,それがいいのではないかというふうに申し上げたつもりです。
  今の吉谷委員のお話ですと,例えば,現在の公益信託をほぼそのまま移行させるということだとすると,別段,今の法制に何か大きく付け加えることが必要かというと,そうは思っておりません。しかし,私が理解したところでは,そうではなくて,どの範囲かは分かりませんが,事務の範囲も受託者の範囲も広げようということであるとすると,当然,今とは異質なものが入ってくるわけでございますので,そこの切り分けが仮にうまくできなかったならば,それはもう,一律に適用すべき法ということになりますので,軽いというとおかしいですけれども,問題がそれほどなさそうなところに合わせるのではなくて,問題があり得るかもしれない方に合わせることにならざるを得ないではないかということで,お話をさせていただきました。
  飽くまで一般的な考え方を申し上げただけでございますので,どの程度の事務をするならば,どれほどの内部牽制・監督体制の強化を図らなければならないのかと言われますと,ちょっとよく分からないところはございますが,受託者の範囲を広げる,そして,それは恐らく他からの監督,他の金融庁,おっしゃった信託銀行なり,他からの監督もないような,一般的には公益信託としての監督しか受けないで済む,そういう受託者が入ってくる。それで,事業型の信託を行うということであれば,それなりの構えが必要なのではないかという,そういう趣旨でお話をさせていただきました。
○中田部会長 吉谷委員,よろしいでしょうか。
○吉谷委員 ありがとうございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 ありがとうございました。
  せっかくの機会なので,ちょっと何点か質問させていただきたいと思いますが,まずその前提として,3ページ目から4ページ目,一番初めから書かれているんですけれども,公益信託というのは,何らかの形で法的な優遇が行われるようなものであるから,やはり,それに対応するような体制作りというのがないといかんと述べられています。4ページ目の一番上では,個々の公益信託が不祥事を起こすようなことがないようにという,そういう配慮をした上で制度構築をという,方向性としては全く私もそのとおりだと思っているんですが,結論のところで,6ページ目の4のところですけれども,公益法人制度と公益信託制度というのを並べて,公益法人制度が社会に根付いているではないかと,だから,公益信託というのは,短期で小規模の活動等に限られるので十分だというのは,ちょっとそちらの方向性は私は残念ですが採ることができません。
  それは私だけの勝手な意見ですから,そういうことだけは申し上げた上で,幾つか質問とコメントになると思いますが,第1点は,ちょっと分からなかったのは,これは私の理解が本当に不十分なんだと思いますが,2ページ目の,結局,内部統制,内部牽制みたいな話なんですけれども,受益者の定めのある通常の信託だったら複線的な内部牽制があるが,受益者の定めがないときには単線的な,つまり受益者によるコントロールがないんだから,1本線は引かれないだろうという単純な意味なんでしょうか。この複線,単線というのがちょっと分からなくて,これが第1点です。
  それから,第2点は,結局,公益法人制度がある中で,公益信託制度をどう位置付けるかというのは難問で,私はやはり,このような小さな補完的な立場でというのではないものを,何とか考えてみたらどうかと思っているんですけれども,そのときに,内部統制の制度みたいなところで,やはり基本的には,ガバナンスの点で信託には問題あるからというところが,一つあるのかなと思っているんですけれども,一方で,2ページ目の上から7行目ぐらいのとおり,公益法人だって,実際には内部牽制・監督の実効性に対する不安,実際に不安が現実化している例は何年にもわたってありますよね,実際はね。
  全ての公益法人が駄目だなんていうことは絶対なくて,多数の公益法人は立派にやっていると思いますけれども,それでも公益法人の不祥事というのは,昭和40年代であれ,平成になってからだって実際にあって,それに対して矢印で,こういう公益法人についてはこういうようなことがあるからというのだけで,本当に公益信託と比べて,実質的な話として,こういう,少なくとも制度的な批判は出てこなくて,何というんですか,公益法人については,たまたまそれに関与した人間が悪かったんだというだけの話に,本当になるのだろうかという気がするんですね。
  ちょっと今の質問がどこに関係していくかというと,先ほどの6ページ目の結論のところで,公益法人制度の方が主体であって,こちらの方は,とにかく法人により行うことが合理的とは言えないようなものに限るべきだというのは,ちょっと,何というんですかね,結論への行き方というのが,私にはどうも得心がいかないという。むしろ,ある種の競争関係,つまり公益法人ではやれないようなことを行う,そこから,公益法人により行うことが合理的とは言えないことだけ行うという話ではなくて,公益法人により行っていいんですけれども,しかし,公益信託というのでやってみたらいいではないかというようなものは幾らでも考えられるような気がするというのが第2点です。これは,ある種,結論みたいな意味なので,コメントだと聞き流してもらえばいいかもしれません。
  あと二つぐらいでやめますけれども,三つ目は,自然人を受託者とすることについて,5ページ,これも否定的な話で,今の吉谷委員の話と関係するんですけれども,これもやはり,一般的に今度,公益信託制度を広げようとするときに,自然人はもう,やはり駄目ですよと言ってしまっていいかというのがあって,例えば,今までの助成型で典型的なものだけ考えますと,今は三菱UFJ信託銀行がやっておられるかもしれないけれども,例えば,そんなことなかなかないんですけれども,どこかのお金持ちが,やはり信託という考え方を広めたい。それで,信託の研究をするような研究者であれ,あるいは大学院生であれ,そういう人たちに助成金を出そうと,一定のお金を出す。それはもちろん,吉谷委員のところへ出すということだってあるんです。
  しかし,たまたま信託というのをずっとやっている樋口というのがいるではないか,樋口だけではすぐ死ぬかもしれないというので,そうすると,死んでも大丈夫なように複数にしておきます,例えば神作幹事とかね。それで,どちらかが倒れた場合には,神作幹事に,先ほども話がありましたけれども,補充的な受託者を常に,でも,2人で一緒に死んでしまうこともあるから,やはり3人にしておいて,もう1人,道垣内委員も入れましょうね。これ,3人で一緒に死ぬことはないと思うからというようなことをしておいて,それで,それら受託者がきちんと助成していくだけなんですね,選んで。だから,そういうときになった場合に,経理的基盤を備えているかが問題になるという話はないであろうし,そのお金だけでやっていくわけですしね。
  自然人受託者の固有財産の不足のために公益信託が立ち行かなくなるという話も,余り考えなくていいような場合もあるのに,ここで一律に,だからそれは,信託によって切り分けというのがうまくできるんだったら,そこにはこだわりませんよということでおっしゃってくださるのなら,それはそれでいいんですけれども,一律に,自然人を受託者とすることは今はもうやめた方がいいよという話はどうなのかなという感じがします。
  最後は,この審議会でも,最後の行政庁と裁判所の役割の分担というのは,やはり難問の一つで,私もうまく発言ができていない。しかし,今日の参考人のお話は,私には極めて説得力のあるようなことに聞こえました。だから,これについて,そうではなくて,やはり行政庁が,認定行政庁を作るんだから,認定行政庁の方で相当部分をやるべきだという方は,せっかくだから,ちょっと佐久間参考人,違いますよという御発言をされたらよろしいのではないでしょうかという,これは勝手な意見です。
○佐久間参考人 最後の点は,特段の御発言がなければよいなと,思います。
  複線・単線というのは,これは単純な意味でございまして,受益者の定めのある信託については委託者と受益者が2人で受託者の事務処理を監督するということであるのに対し,受益者の定めのない信託については,委託者又は信託管理人という1人だけだという,それだけのものでございます。
  受益者の定めのある信託につきましても,随分不安はあってというふうなことは申し上げたつもりですので,そこにすごく大きな差があるとは思いません。しかし,構えとして,違うことは違いますねという確認をいたしました。
  残る2点,大きな問題でございますが,確かにはっきりとした意見を申しました。性分もあると思いますし,はっきり言わないと何となく,本日せっかくこちらに伺ったことに意味がないと思いましたので,はっきり申し上げましたが,こうでないといけないというふうには思っておりません。私のように見る人間からすると,今御審議なさっているところで,こういうことを考えていただいた方がいいのではないかということを申し上げたくて,発言をさせていただきました。
  そのうえで,まず,公益法人制度がある中で,信託をどう位置付けるかということですけれども,これは樋口委員がお話しになったような考え方があることは,もちろん承知しておりまして,私の考え,今日述べました考えのほうが優れているなんていうことを言うつもりはございません。
  ただ,樋口委員がお考えになっているような,つまり公益法人制度と信託でできることを同じようにしてというか,競争関係で並び立ててということは,あり得るとは思いますが,そうしようと思うと,規律が大変なのではないですかと。それで,公益信託だから,公益法人と違う公益信託だから,随分違ってもいいよね,軽くてもいいよね,というふうにはなりにくいのではないかと思っています。
  途中で申しましたけれども,同じ事業,事務をするのであれば,法人でしようと信託でしようと,必要となることは大して変わらない。ただ,例えばですけれども,樋口委員が例に出されましたような,助成だけをとにかくするんですと。しかも,今あるお金を助成し切ったら終わりですというのですと,これは法人を作ってまでするのは,むしろ大変なのではないか,信託の方が向くのではないか,そういうものもあるよねということが,はっきり意識されればいいと思っております。
  それで,切り分けをできれば理想的だと思いますのは,この部分については法人ではなくて,信託でやるのがはっきりいいよねというのがあり,事業型の方でも,本格的な美術館のようになると,これはもう法人の方がいいよねというふうになり,比喩的な話で申し訳ないですけれども,中間的なものについては,それこそ,両にらみでというふうになればいいなと思っております。しかし,仮に,それがなかなか難しいということになった場合には,重いものを二つ作るよりは,法人の方は一応あるんだから,法人制度ではなかなか,何というか,合理性がないというんですかね,費用対効果の点で得策ではないというようなものについて,信託がどんどん使われるような,そういうことができればいいのではないかなというふうに思っておるところです。
  それと,公益法人についても批判があるということですね。公益財団法人ですけれども,評議員会の機能がというのは,それはもうそのとおりというか,たくさんあるという意味ではなくて,そういうものだってあるということなんですが,私が申し上げたかったのは,公益信託の方で同じような事象が仮に起こった場合に,軽い仕組みにしておくというか,法人の方はこういう仕組みになっていますと。それに比べれば,内部の牽制・監督体制が軽いというか,それほど幾重にも重なっているものではないということになると,非常に短絡的な批判かもしれませんけれども,それだったら,もっときちんとした構えにしておけばよかったのに,というような批判が出てきやすくなるのではないか。
  法人の方が大丈夫だというわけではなくて,恐らくこんなものは幾ら作り込んでも不祥事というのは起こるときは起こるでしょうし,切りがないということではあると思うんですけれども,もう少しちょっと見直した方がいいのではないでしょうかと。私が今日具体的に申し上げたことでいいますと,信託管理人を置くのは当然として,あともう少しというようなところは考えた方がいいのではないでしょうかという,そういう趣旨で申し上げたつもりでございます。
  それから,自然人受託者についてでございますけれども,自然人受託者について否定的なのは,結局やはり事業型,あるいは非常に長期にわたるというようなことを念頭に置く場合ということに,典型的にはなります。自然人受託者に否定的だという申し方をしましたのは,経理的基礎・技術的能力のところでございますけれども,例えば死亡,後見開始によって,急に受託者が欠けるという状態も,自然人の場合はやはり起こり得ますので,法人に対してだったら,そういうことは絶対ないかと,それはそうではありませんけれども,やはり不確実性は高いということです。自然人受託者には消極的といいますのは,認めるなということではございませんで,自然人受託者を認めるというのであれば,作り込まなければいけないところが,法に,幾つも出てくるのではないかということを申し上げたかったということでございます。
○中田部会長 樋口委員,よろしいでしょうか。
○樋口委員 はい。
○中田部会長 時間も押しておりますけれども,もうお一方ぐらい……
○新井委員 大変示唆的な御報告,どうもありがとうございました。
  必ずしも御報告の範囲内でないかもしれませんけれども,2点質問させていただきたいと思います。
  1点目は,信託から利益を受ける者についてです。受益者というべきか,受給者というべきか,あるいは受給権者というべきか,いろいろな言い方があると思いますけれども,公益信託において,信託から利益を受ける者については,受益者とはいわないということでスタートしているのですが,そうすると,今日佐久間参考人のおっしゃった法的な優遇を与えるという面からは,やや問題になるのではないかと思います。
  具体的には,実務上は全てのケースについて,受託者と受給者が贈与契約を結ぶ必要がありますが,現行はやっていないと思います。しかし,それはガバナンスの点で,きちんとするということなら,全部贈与契約を結ばなければいけないということですが,それでは,かえって手間暇が増えてしまう。それはむしろ,実務上マイナスではないかという点が第1点です。
  さらには,信託の非常にいいところ,つまり信託財産から利益を受ける者は,利益享受の意思表示なくして利益を受けることができるというのが,信託法88条で明記されているわけです。しかし,受益者ではないと規定してしまうと,これから福祉型の信託で,意思能力はないけれども,公益信託の経済的利益を受けさせる人たちに対する対応が不十分になるのではないかと考えるわけです。ですから,実務上の手間暇という面で,事務負担が増大するということ,そして,本来信託の特徴であったところの,受益者として指定された者は当然信託の利益を享受するというメリット,それを放棄してしまうのではないかという二つの点が重要ではないか考えています。
  これは,この前の信託法学会で質問させていただきましたけれども,佐久間参考人の御回答は,それはもう全部民法の枠内でやるんだということで,そういう割り切り方はあると思うんですけれども,それは法的優遇ということを考えると,ちょっと私としては割り切れないものがあるので,その点,もうちょっと突っ込ませて,参考人の御意見をお伺いできればと思います。これが第1点です。
  2点目は,信託としての安定した効力を認めることが重要だと説明されました。その安定した効力というのは何かというと,結局,目的財産化,それをもっと端的に言えば,信託財産独立性ということだと思います。あるいは,倒産隔離機能といってもいいのかもしれません。
  そうすると,信託法で,信託に基づいて信託を設定しましたという,そういう中でも,目的財産化が成立しているものと成立していないものがないと考えた上で性質決定すべきだというのが,佐久間参考人のお考えでしょうか。むしろ私は,そういうふうな考え方に近いわけですね。
  例えば,佐久間参考人がおっしゃったのは,目的信託は目的財産化を認めるには不十分であるというふうにおっしゃいました。私もその意見に賛成ですけれども,現行信託法の考え方はそうではなくて,目的信託というものを設定して,それが信託法の要件に合致していれば,目的財産化を認めるということではないのでしょうか。あるいは,自己信託もそうです。自己信託という制度を作った以上は,要件に合致していれば目的財産化を認めるという立場で作られていると思います。ですから,ちょっとこれは公益信託の議論とは離れるのですが,信託法の基本的な理解として,その辺りはどんなふうにお考えになっているか,お教えいただければと思います。
○佐久間参考人 まず,第1点でございますけれども,信託から利益を受ける者を受益者でなく受給者とすると,例えば金銭の寄附をするときに,贈与契約をしなければいけないのではないかという点は,分析すればそうなのかと思います。ただ,ちょっとお答えにならないようにも思うんですが,あえて申し上げますと,公益法人でも同じことは起こっていて,そこで受給者に金銭給付しているときに,給付をしましょう,受け取りましょうということで済んでいる話ではないかと思うんですね。
  それは,こういうことを言うと,法でないと言われるかもしれませんが,実際にそういう事実が起こりますと,法律上これを無効だと言う人がいなければ,意思能力者側からですかね,無効にはならなくて,そこに問題が起こることは余りないのではないかと。少なくとも,意思能力を欠く保護を要する方に対する金銭給付については,そうではないかと思うんです。
  紛争が起こることもないとは言えないかもしれませんが,一応給付の対象者を決定し,そこに一定の手続を経て給付をする,金銭が受け取られているというふうになりますと,それでもって特段,後から無効だというふうな主張をする利益のある人がいないのではないかというふうに思いますので,分析をすれば,新井委員のおっしゃるとおり,いろいろあるのかもしれませんが,実際に問題として出てくることはないのではないかなと思っております。
  それから,2点目の安定した効力うんぬんの話でございますけれども,私は,まず目的信託について,これは,安定した効力を認めるに足りないというふうに申し上げたつもりはございませんで,不安定なところがあると。そこはやはり認識されているのではないかと思い,その認識されているのがどこに表れているかというと,存続期間の制限と受託者資格のところであると思います。
  公益信託におきましても,そういう制限をすること自体はあり得ると思うんですが,そのようなことは適切ではないと思います。存続期間の限定,あるいは受託者資格も,現状,信託銀行にほぼ限られているかもしれませんが,それらを広げていこうということには賛成でございます。ただ,そうしていくには,信託法上の受益者の定めのない信託よりも,内部のガバナンスを強化して,差別化を図るというんでしょうか,違うものだというふうにしていくことが適当ではないかと思い,意見を申し上げた次第です。
○中田部会長 ありがとうございます。
  まだ,御質問,御意見もあろうかと存じますけれども,予定した時間になっております。また,吉谷委員,樋口委員,新井委員から,主要な点について幅広く御質問いただきました。さらに,この後の審議の中で御意見を頂くことも可能かと存じますので,申し訳ございませんですけれども,取りあえずこの辺りで,佐久間参考人に対する御質問は,この程度にさせていただきたいと存じます。
  佐久間参考人には,貴重なお話を頂きまして,また質問にも丁寧にお答えくださいまして,大変ありがとうございました。本日頂戴しました御指摘,御意見を今後の審議の参考にさせていただきたく存じます。どうもありがとうございました。
  それでは,本日の審議に入ります。本日は,部会資料42について御審議いただく予定です。
  この資料は,第1「公益信託の信託行為の定めの変更」及び第2「公益信託の併合・分割」に分かれておりますが,相互に関連いたしますので,事務当局からは一括して説明してもらいまして,その後,審議は順次行うことにしたいと思います。
○舘野関係官 それでは,御説明いたします。
  まず,部会資料42,第1「公益信託の信託行為の定めの変更」について御説明いたします。
  まず,「1 公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更」について御説明します。
  本文では,(1)として,「委託者,受託者及び信託管理人の合意等(以下この部会資料において,「信託関係人の合意等」という)のみによる公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更はできないものとすることでどうか。」との提案をしています。
  また,(2)として,「現行公益信託法第5条及び第6条を廃止又は改正し,新たな公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更は」,次の「ア及びイのいずれかの方法によりできるものとすることでどうか。」とした上で,「ア 信託関係人の合意等がある場合には,受託者からの申請を受けた行政庁が,変更の[認可/認定]を行う。」,「イ 信託関係人の合意等がない場合には,信託法第150条を適用し,特別の事情があるときに,委託者,受託者又は信託管理人の申立てを受けた裁判所が変更命令を行う。その際,委託者については信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとする。」との提案をしています。
  さらに,(3)として,「(2)アの例外として,公益信託の目的以外の信託行為の定めの軽微な変更をするときは,受託者は,その旨を行政庁に届け出るとともに,当該変更について委託者及び信託管理人の同意を得ていない場合には,遅滞なく,委託者及び信託管理人に対し,変更後の信託行為の定めの内容を通知しなければならないものとすることでどうか。」との提案をしています。
  新たな公益信託において,委託者,受託者及び信託管理人による信託に関する意思決定を重視する観点からは,信託関係人の合意等による信託行為の定めの変更の手続を定めた信託法第149条を適用することが相当であると考えられます。しかし,信託関係人の合意等がある場合であっても,変更後の信託行為の定めの内容によっては,新たな公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があることからすると,これを全く委託者,受託者及び信託管理人の自由に委ねてしまうことは適切でないと考えられることから,本文1の(1)のような提案をしています。
  このように,信託関係人の合意等のみによる公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更を認めないものとする場合でも,外部の第三者機関を関与させる形で,信託行為の定めの変更を可能とすることが考えられます。
  まず,公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更について,信託関係人の合意等がある場合には,変更後の信託行為の定めの内容によっては,新たな公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があるため,受託者からの申請を受けた行政庁が変更の[認可/認定]を行うことにより,公益信託の目的以外の信託行為の変更をできるものとすることが相当であると考えられることから,本文1の(2)のアのような提案をしています。
  次に,公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更について,信託関係人の合意等がない場合は,信託法第150条の趣旨が妥当するため,同法第261条第1項による読替え後の同法第150条を適用し,特別の事情があるときには,委託者,受託者又は信託管理人の申立てを受けた裁判所が変更命令を行うものとすることが相当であると考えられることから,本文1の(2)のイのような提案をしています。
  この提案に関しては,部会資料40の第1の5では,変更命令の主体を行政庁とするか,裁判所とするか,両案を併記しておりました。しかし,第41回会議における審議を踏まえ,検討しましたところ,変更命令の主体を行政庁としたとしても,その適法性は,最終的には取消訴訟等の司法判断に委ねられるものですし,変更命令の判断は,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情の有無を踏まえた上で,変更について意見対立がある信託関係人の利害を考慮して行われるものであることからすると,変更命令の主体は裁判所の方がより適切であるものと考えられることから,本部会資料では,変更命令の主体を裁判所とする案のみを提案しています。
  以上のとおり,今回は,信託行為の定めの変更について,信託関係人の合意等がある場合には,行政庁が[認可/認定]基準の充足性の観点から変更の当否を審査し,信託関係人の合意等がない場合には,裁判所が変更命令の変更の当否を審査するものとして,それぞれの役割分担を明確にする形で提案をしております。
  なお,本文第1の1の補足説明6で現行公益信託法第5条について,本文第2の補足説明5で現行公益信託法第6条について,それぞれ記載しておりますが,これまでの部会での審議においては,主務官庁の監督権限について規定する現行公益信託法第3条を廃止する点について異論はなかったところ,現行公益信託法第3条の主務官庁による包括的な監督を前提に,主務官庁が職権で信託の目的以外の信託行為の定めの変更を命じることができる旨規定する現行公益信託法第5条及び公益信託の信託行為の定めの変更に際しては主務官庁の許可を受けることを要する旨規定する現行公益信託法第6条の規律は,それぞれ廃止又は改正することが相当であると考えられることから,本文1の(2)の冒頭においては,その旨も併せて提案しております。
  次に,本文1の(3)についてですが,信託行為の定めの軽微な変更も含めて,全ての公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更について,行政庁の変更の[認可/認定]を受けなければならないとした場合には,それに要する受託者等の事務手続の負担が過大なものとなるおそれがあります。また,主務官庁による許可制を廃止した後の行政庁による関与としては,行き過ぎとされる可能性も考えられることから,本文1の(3)のような提案をしています。
  なお,軽微な変更であっても,受託者が当該変更について,委託者及び信託管理人の同意を得ていない場合には,変更後の信託行為の内容は,委託者及び信託管理人に対しても通知されるべきであると考えられます。そこで,信託法第149条第2項第2号の規定を参考として,新たな制度を設けること等が考えられることから,その旨も併せて,本文1の(3)において提案しています。新たな制度を検討するに当たっては,公益法人認定法第11条第1項及び同法施行規則第7条の規定等も参考になるものと考えられます。
  次に,「2 公益信託の目的の変更」について御説明いたします。
  本文では,(1)として,「信託関係人の合意等のみによる公益信託の目的の変更はできないものとすることでどうか。」,(2)として,「現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,新たな公益信託の目的の変更は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合に,受託者からの申請を受けた行政庁が,公益信託の目的の変更の[認可/認定]を行うことによりできるものとすることでどうか。」,(3)として,「現行公益信託法第9条を改正し,公益信託の目的の達成又は不達成の場合において,残余財産があるが帰属権利者が定まらないときは,行政庁は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために当該信託を継続させることができるものとすることでどうか。」との提案をしています。
  公益信託の目的は,当該信託を設定した委託者の意思の表れとして尊重されるべきであり,安易な変更を認めるべきではないと考えられます。また,一旦公益信託として設定された後に信託の目的の変更を認めると,特定の公益目的のために設定された信託であることを前提として,当該信託に寄附をした者の期待が害されるおそれもあることからすると,公益信託の目的の変更を信託関係人の合意等のみによって行うことができるようにすることは望ましくないと考えられます。
  しかし,時代の変化とともに,公益信託の当初の目的が時代のニーズに合わなくなり,公益信託の目的を変更する必要性が生じるケースは想定し得ることから,そのような場合には,類似の目的の公益信託として継続させることが公益に資するものといえ,それが委託者の意思の尊重にもつながると考えられます。したがって,本文2の(1)のような提案をしています。
  また,公益信託の目的の変更については,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合であっても,その変更後の信託の目的の内容によっては,公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があります。したがって,公益信託の目的の変更は,委託者,受託者及び信託管理人の合意がある場合には,受託者からの申請を受けた行政庁が変更の[認可/認定]を行うことによりできるものとすることが相当であると考えられることから,本文2の(2)のような提案をしています。
  なお,公益信託の目的の変更は,信託法第261条第1項による読替え後の信託法第149条第1項の合意による方法のみ可能であり,同条第2項及び第3項による方法による目的の変更はできないと考えられることから,ここでは「信託関係人の合意等」とはせずに,単に「委託者,受託者及び信託管理人の合意」という表現をしております。
  さらに,公益信託の目的が達成又は不達成となった場合に,当該信託は終了するのが原則であって,その際,信託行為で残余財産の帰属権利者が定められているにもかかわらず,あえて類似の目的として信託を継続させるためには,十分な理由が必要となると考えられます。そうすると,例えば,受託者において,類似の公益信託を探したものの,それが見付からなかった場合や,帰属権利者の全てがその権利を放棄したような場合に限定して,公益信託の継続は認められるべきであると言えます。
  そこで,本部会資料では,信託の目的の達成又は不達成の場合において,残余財産があるが帰属権利者が定まらないときに,類似の公益信託としての継続を認めることが相当であるという考え方の下に,部会資料40の第1の4の乙案を修正し,本文2の(3)の提案をしています。
  また,第40回会議において,部会資料40の第1の4の乙案の意図するところは,信託の変更によって実現できるのではないかとの指摘があったことを踏まえ,本部会資料では,信託の目的の達成又は不達成よりも前の時点では,信託の変更によって対処し,信託の目的の達成又は不達成よりも後の時点では,類似目的の公益信託としての継続によって対処するという整理に基づき,本文2の(3)の提案をしています。
  次に,「第2 公益信託の併合・分割」について御説明いたします。
  本文では,「1 信託関係人の合意等のみによる公益信託の併合・分割はできないものとすることでどうか。」との提案をしており,また,「2 現行公益信託法第6条を廃止又は改正し,新たな公益信託の併合・分割は,以下のいずれかの方法によるものとすることでどうか。」とした上で,「(1)信託関係人の合意等がある場合には,受託者からの申請を受けた行政庁が,併合・分割の[認可/認定]を行う。」,「(2)信託関係人の合意等がない場合には,特別の事情があるときに,委託者,受託者又は信託関係人の申立てを受けた裁判所が,併合・分割命令を行う。その際,委託者については信託行為において申立権を有しない旨を定めることができるものとする。」との提案をしています。
  新たな公益信託において,委託者,受託者及び信託管理人による信託に関する意思決定を重視する観点からは,信託関係人の合意等による信託の併合・分割の手続を定めている信託法第151条,第155条及び第159条を適用することが相当であると考えられます。そして,新たな公益信託についても,同法第151条,第155条,第159条が適用されることを前提としつつ,受益者の定めのある信託と同様に,信託関係人の合意等のみにより併合・分割を可能とすべきであるという考え方もあり得ないわけではありません。
  また,現行公益信託法第6条の趣旨は,主務官庁制を前提とした上で,公益信託の変更,併合及び分割について,委託者,受託者及び信託管理人の自由に委ねないものとすることにあるため,新たな公益信託に直ちに適合するものではないと考えられます。
  しかし,信託関係人の合意等がある場合にも,併合・分割後の信託行為の定めの内容によっては,公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があることからすると,これを全く委託者,受託者及び信託管理人の自由に委ねてしまうことは適切でないと考えられます。
  また,仮に目的を異にする二つの公益信託を併合する場合には,いずれかの目的が変更される場合と同様の効果が発生することになります。そうすると,信託関係人の合意等のみによる公益信託の併合・分割はできないものとすることが相当であると考えられることから,本文1の提案をしています。
  このように,信託関係人の合意等のみによる公益信託の併合・分割を認めない場合でも,外部の第三者機関を関与させる形で,公益信託の併合・分割を可能とすることが考えられます。
  まず,併合・分割について,信託関係人の合意等がある場合には,併合・分割後の信託行為の定めの内容によっては,公益信託の[認可/認定]基準の充足性に問題が生じる可能性があるため,受託者からの申請を受けた行政庁が併合・分割の[認可/認定]を行うことにより,公益信託の併合・分割をできるものとすることが相当であると考えられることから,本文2の(1)のような提案をしています。
  次に,併合・分割について,信託関係人の合意等がない場合には,信託法第150条の趣旨が妥当すると考えられるため,同法第261条第1項による読替え後の同法第150条を適用し,あるいは同条と同様の規律を新公益信託法に設けることにより,特別の事情があるときには委託者,受託者又は信託管理人の申立てを受けた裁判所が併合・分割命令を行うものとすることが相当であると考えられることから,本文2の(2)のような提案をしています。
  本文2の(2)の提案は,行政庁と裁判所の役割分担を明確にする形で提案したものである点は,先ほどの本文第1の1(2)の提案について述べたところと同様でございます。
  なお,本文第2の補足説明1に記載しましたとおり,受益者の定めのある信託の併合・分割について,信託法第150条が適用されるか否かについては見解が分かれております。そして,受益者の定めのある信託の併合・分割に信託法第150条は適用されないとの見解を採用しつつ,裁判所による公益信託の併合・分割命令を可能とする場合には,新公益信託法の中に,裁判所が公益信託の併合・分割命令を行う旨の規律を設けることになります。その規律は,命令に対する不服申立手続の方法等を含め,信託法第150条と同様の内容となることが想定されます。
  他方,信託の併合・分割も広義の信託の変更であり,信託法第150条は適用されるとの見解を採用しつつ,裁判所による公益信託の併合・分割命令を可能とする場合には,新公益信託法の中に規律は設けないということになります。もっとも,公益信託における併合・分割命令の仕組みを明確化するために規律を設けるという考え方もあり得ます。そして,新公益信託法の中に規律を設けるか設けないかによって,受益者の定めのある信託の併合・分割について,信託法第150条が適用されるとの解釈,あるいは適用されないとの解釈を固定化することになる可能性がある点に留意する必要がございます。
  なお,これまでの部会での審議においては,主務官庁の監督権限について規定する現行公益信託法第3条を廃止する点について異論はないところ,現行公益信託法第3条の主務官庁による包括的な監督を前提に,公益信託の併合・分割をするに際しては,主務官庁の許可を受けることを要する旨規定している現行公益信託法第6条の規律は廃止又は改正することが相当であると考えられることから,本文2においては,その旨も併せて提案しております。
  以上でございます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分のうち,まず第1「公益信託の信託行為の定めの変更」について御審議いただきたいと思います。
  第1には1と2がありますが,相互に関係しておりますので,特に区分はいたしません。御自由に御発言をお願いいたします。
○深山委員 提案に賛成をいたしたいと思います。
  1点だけ,ちょっと気になった点を申し上げたいと思います。それは,第1の1の注5であります。注5というのが,裁判所の判断と行政庁の判断の調整を図るためということで,二つの提案といいますか,考えられる仕組みが記載されておりまして,1番目は,変更命令の前に裁判所が行政庁の意見を聴取するという仕組み,2番目は,変更命令の後に行政庁の認可・認定を受けるという仕組みが掲げられております。
  これについて,まず,はっきり言えることは,2番目の方のような考え方というか仕組みを採用するということになると,目的以外の信託行為の定めの変更をするためには,アのように信託関係人の合意がある場合はいいんですけれども,イの場合,信託関係人の合意がない場合には,まずは裁判所に判断を求めて,変更命令を出してもらって,さらに,その後に行政庁の認可を受けると。つまり,両方の判断を受けて,初めて変更が成立すると読めます。
  もしそういう理解で間違いないんだとすると,これは,手続的にも非常に,屋上屋を重ねるという意味もありますし,今の御説明でも,従来ここは,変更命令の権限を裁判所にするか,行政庁にするかというのを皆さんで議論してきて,それで,裁判所の方を採用したという御説明を頂いたところですが,そこに更に重ねて行政庁もということになると,結局両方という案になってしまって,これは相当でないというふうに思います。裁判所の判断で十分だというふうに思います。なので,注5のところが,そういうことをも考えているんだとしたら,そこは反対したいと思います。
  二つあるうちの前段の,裁判所の判断を下す前に行政庁の意見を聞くということは,それよりはマイルドというか,一応意見を聞いた上で,総合的に判断して,裁判所が結論を出すという意味では,裁判所の判断に委ねているというふうに言えると思うんですが,ただそれも,必ずしも意見を聞かなければならないというふうに要件にしてしまうことについては,その必要はないのではないかと思います。
  もちろん,要件にしないで,聞くことができるぐらいなことであれば,よいのかなという気もしますが,他方で意見聴取することができるぐらいのことだったら,何も規定を設けなくてもできるのではないかなという気もしますので,そういう意味では,できる規定も必要性は乏しいという気がいたします。
  したがって,注5のところは,いずれにしても,このような行政庁の判断との調整を図るための措置,仕組みというものを付け加える必要はないというのが私の意見です。
  念のため申し上げると,そのように,ここの変更の要件として,行政庁の認定・認可を要件に加えなくても,余り考えにくいと思いますが,裁判所の変更命令後に,行政庁の立場から見て,これは公益性に問題があるとかいう判断があれば,一般的な行政庁の権限に基づいて,調査をしたり,勧告をしたり,場合によっては取消しをするという,その仕組み自体が別に排除されるわけではないので,変更の要件に行政庁の関与を加えなかったからといって,一切何も行政庁が言えなくなるわけではないということは,念のため確認しておきたいと思いますが,そういうことも勘案して,ここでは注5のような仕組みは要らないというのが私の意見です。
○道垣内委員 全く逆の意見なんですが,例えば,信託行為の定めの変更のときに,行政庁がやるのか,裁判所がやるのかという話について,裁判所という意見が多かったと思いますし,私も裁判所だと申し上げたんですが,問題はその理由なんだと思うのです。
  クリアにおっしゃったのは,山本敬三委員ではなかったかと記憶しておりますが,私人の法律行為を行政庁が創設的,形成的に変更するということが認められていいのかという問題があり,やはり,それは裁判所でないとできないのではないかなという,そういう理由を彼は言ったと記憶しています。私も同じ理由で,裁判所だろうと思うのです。
  そうなると,裁判所が行うというとき,(2)のイというのは,アにおける合意等があるというところを代替しているということにしかならないのではないかと思います。そうすると,本当は裁判所が行政庁に申請してもいいのですけれども,それは面倒であり,何か変であるということになりますと,齟齬がないように,注5のいずれかの方法を明示に採るということが必要なのではないかと思います。
○棚橋幹事 今の点に関連して,前提として確認させていただきたいのですが,ここで裁判所が判断する事項は150条に定められた特別の事情の有無と,261条で読み替えた後の信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況等に照らして,信託の目的の達成の支障になるに至ったかという2点であって,認定基準を充足するかという点は,今回の御提案では,裁判所が判断する対象ではないという前提でよろしいでしょうか。
○中辻幹事 棚橋幹事の御理解のとおり,ここでは信託法150条の仕組み,同条2項も含めてですけれども,変更後の信託行為の定めを明らかにした変更命令の申立てというのがあって,それを受けた裁判所の方で150条1項に掲げられている要件の有無について御判断いただくと。行政庁の認定基準適合性の判断については,注5で掲げましたような仕組みを設けることがあり得ると考えておりますし,深山委員から御指摘ありましたように,変更命令のルート以外で不具合が見つかった場合には,別途,行政庁が監督権限を行使して公益信託の認定を取り消すということもあり得ると考えています。
○棚橋幹事 今の点を前提に,疑問や意見があるのですが,注5の部分や7ページのイの部分には,変更命令の前に裁判所が行政庁の意見を聴取する,変更命令後に受託者が行政庁の認定を受けるという部分がございます。まず,仮に事前に意見を聴取するということになった場合,行政庁が意見を述べる対象は認定基準充足性の部分であり,裁判所は先ほど述べた二つの要件について判断するということとなって,裁判所と行政庁が判断することは,それぞれ別々の事項になるということかと思いますが,これを変更命令という一つの手続の中で,裁判所から行政庁に求意見をするという形で行う必要があるのかという点については疑問を持っております。
  先日の部会では,吉谷委員から,公益信託の設立時には事前に行政庁の許可を得ているというお話があったかと思います。この部分でも,例えば,事前に行政庁において,変更後の内容について,認定基準の充足性の判断を受けた上で,裁判所に,合意ができない部分について変更命令の申立てをする制度もあり得るのではないかと考えております。
  また,事前に意見を聞くアイデア自体は信託法168条を参考にされているものかと思います。公益信託についても全くこれと同じ構造を採用する必要があるのかについては議論があり得ると思いますが,仮に事前に意見を聴取することにした場合で,行政庁としてはこの変更内容は認定基準を充足しないという意見であった場合には,裁判所はどのように判断すべきなのかという点は疑問に思っております。
  例えば,裁判所は,先ほど述べた二つの要件を充足していると判断したものの,行政庁は認定基準を充足していないと判断した場合でも,裁判所は,信託法150条と同じ要件ということであれば,変更命令を出すほかないように思いますが,そういった結論でよいのか疑問に思っております。
  また,変更命令に不服がある場合,不服の理由は,裁判所が判断する二つの要件に限られるのかについても疑問に思っております。例えば,行政庁の判断した認定基準充足性の部分に不服がある場合はどういった手続をとればよいのかについては,疑問に思っております。
  次に,注5の後半に書いてある,事後に認定を受けるという場面についてですけれども,この場面に関しては,例えば,裁判所が変更命令を出した後,行政庁の認定を受けるまでの間にタイムラグが生じているような場合,認定を受けるまでの間に受託者が行った行為の私法上の効力はどうなるのかという点には疑問があります。また,裁判所が変更命令を出したものの,行政庁において認定基準を満たしていないと判断し,認定を受けられなかった場合には,認定までの間の受託者の行為は遡って無効になるのかという点や,変更命令を出して,裁判所が私法上の契約内容を変更した部分の効力は,認定を受けられなかったことによって,どうなるのかという点についても疑問を持っております。
  今いろいろ申し上げたとおり,今回の提案ですと,事前か事後か分かりませんけれども,行政庁による認定基準充足性を通じた監督という観点からは,整理や工夫が要るのではないかと思っております。この点について,中間試案でも裁判所が判断するという案のみを提案されるということであれば,取りまとめられる段階までに,今いろいろ申し上げたような,裁判所の判断する部分と行政庁の判断する部分の関係を整理していただきたいと考えておりまして,整理した結果,複雑な制度となるのであれば,裁判所が判断するという提案自体についても,御検討いただければと考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 先ほどの私の発言にも関連するし,今の棚橋幹事の指摘にも関係するんですけれども,信託法150条の適用をこの場面でするときには,現行法を当てはめたときに,読替え規定で,信託の目的達成のために必要であることというのが裁判所の判断の対象になるということに,文言としてはなると思います。
  実は,今御指摘のあったように,裁判所の,信託法150条適用の場面での判断事項というのと行政庁の判断事項というのは,私も当初,それは別なものなのかなと考えました。別なものだとしたら,別のフィルターを掛けるということも論理的にあるのかなというふうに当初は考えていたんですが,この場面というのは,信託の目的は,2のところで区別して検討していますが,ここでの場面というのは,目的以外の変更の場面に限られているわけですね。そうなると,公益信託でやろうとしていることが,目的の点で認定基準を満たすかどうかというところは,ここでは問題にならなくて,目的は当然,元々認定を受けているとして,目的を達成するためのいろいろな仕組みだったり,その他の点について,一旦は認定を受けているわけですが,何らかの事情で変更が必要だというときに問題になるわけです。
  信託法150条の判断の中で,既に認定を受けている信託の目的を達成するために,こういう変更が必要だということがテーマになったときに,何か抽象的には,裁判所の判断事項と,行政庁の認定の判断とは別のものだというふうに,観念的には分けて考えられるけれども,実質的に,そこがそんなに違うものなのかなと思います。結局,この場面で問題になることは,どちらが判断するかというのは従来から論点になりましたけれども,判断する対象がそんなに違うものなのかなという気がだんだん私もしてきて,そうだからこそ,今までの議論は,裁判所なのか行政庁なのかということで,これまでの資料も甲案,乙案が並べられていたんだと思うんですね。
  先ほど道垣内委員からは,それは,裁判所の判断は合意が欠けているところを埋めるだけのことであってというお話があって,もしそうだとすると,裁判所の判断を入れたとしても,行政庁の認定はいずれにしても必要なんだということになると,従来の議論の仕方そのものが違ったのではないかということになってきます。でも私は,今言ったように,ここで信託法150条が問題になって,裁判所の判断する事項と,行政庁が認定基準を満たすかどうかという見地から行う判断事項とが,そんなに実質的に違うものに思えないんですね。だからこそ,どちらにやらせるんだという話で,先ほどの意見は,両方にさせるというのは屋上屋ではないかというのが私の意見です。
  観念的に考えるのではなくて,実質的に考えたときに,そんなに違うことをそれぞれが判断しようとしているのかなというところを,正に整理していただいて,その上で,私は裁判所が,意見を聞くかどうかはともかくとして,一元的に判断をするということがいいのではないかというふうに考えております。
○小幡委員 行政庁と裁判所の役割分担のお話だと思うので,先ほどの佐久間参考人からのお話の最後の論点のところですが,私も基本的に,役員の辞任・解任・選任等々全部,このようなものは裁判所がやるべきであると思います。
  唯一,多少迷いがあるのが,今の話で,当事者間で同意,合意が得られないときに,そこの調整をするのは,裁判所だと。これはほぼ,そうであるべきだと思うのですが,問題は,変更後のものが公益信託としてまた存続するということになったときに,通常であれば認定があるので,それをこの場合にだけ,いきなり裁判所が初めからやるという仕組みにしてよいかどうかという,そこに尽きるかと思いますね。
  前回も少し申し上げましたけれども,公益信託を認可なり認定,どういう言葉を使うかはともかく,そうなったときに,恐らく今の公益法人の認定などであるような第三者機関に委ね,民間の第三者機関が認定について判断をするというような仕組みになったときに,この場合だけそこを飛ばすという,そういう仕組みになるのがよいのかということで,そこで注5のようにするかということなのですが,先ほどのお話にありましたように,なかなかタイムラグといいますか,どちらを先にするかといっても,多少複雑になってくるし,当事者にとってみれば,1回では済まなくなると不便さがあるかということはあります。
  先ほど事務局からあったように,裁判所がやることは,公益信託としての認定基準に適合しているかどうか以外のことであるという整理をすれば,どうしても二回になるわけで,深山委員のおっしゃるのももっともだとは思いますが,他方,確かに,いきなりそれを裁判所がやるというのは,通常ルーチンに公益信託の認定をするのは,そういう第三者機関がやっているという,普通のやり方を,この場合だけ違うようにするということになるという問題があります。それでも,かなり特殊な場合なので,こういう場合は,認定基準に適合しているかどうかということを,裁判所がそもそも判断してしまうという仕組みにしてしまっても構わないのではないかというのも,一つの選択肢としてあり得るとは思います。そうすると,注5は要らないということになるわけです。
  ただ,そこの辺りは,本当に賛否両論あるところで,通常は,民間の第三者機関が普通にやっているという,そういうルーチンでないことまで,裁判所が最初からやらなければいけないことになるので,そこは裁判所も少し負担かなと思います。ここのところが,先ほどの,佐久間参考人のおっしゃるところでいうと,1点だけ残るところで,役割分担として,そこの場面だけ行政の認定というか,第三者機関の認定を飛ばしてよいかどうかということです。
  ただ,これは割り切りの問題で,どちらでも可能ではないかと思いますが,裁判所がやってしまうというのも,認定基準に合っているかどうかという判断について,万一行政が間違った認定をしたときには,裁判所にいずれ行くからよいのだという割り切りもないわけではないということを一応申し述べておきますが,ルーチンのやり方として丁寧であるのは,注5のような処理かというふうには思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 1の公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更について,(1)から(3)なんですけれども,法務省案では,公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更は,信託関係人の合意のみによる変更はできないということを原則としつつ,例外的に軽微なものは,受託者が行政庁に届出をすることにより変更できるとするような,形だけかもしれないんですけれども,そういう条文立てでの御提案なんですけれども,書き方の問題だけなのかもしれないんですが,考え方としては,公益信託の私的自治を原則とまずすべきであり,公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更は,公益法人において定款自治が尊重されているのと平仄を合わせ,公益信託においても原則,信託関係人の合意で信託条項を変更できるということを,まず原則にすべきだと考えます。
  この変更の議論の中で,公益信託の目的の変更という場合に,目的を達成するための公益目的事業をも含む意味で用いられていると思われますけれども,この場合の取扱いは違い得るのではないかと思うので,一応議論するときに,公益目的の変更という言葉の中に,公益目的事業の変更も含んでいる意味で使っているということを,意識的に議論した方がいいのかなと思います。
  というのは,例えば,公益財団法人においては,目的の変更は,一般法人法200条1項ただし書及び2項の規定によって,評議員会の決議により変更できる旨の定款の定めがある場合のみ,できるものとされています。この場合の目的というときには,目標や使命を指すもので,公益目的事業は目的の範ちゅうに含まれていませんので,定款に変更可能との定めがなくても,公益目的事業については,評議員会の決議によって変更が可能となっております。ここで,そういうわけで,二つを一応峻別して考えた方がいいのではないかとは思いますが,ここでいう公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更という場合には,公益目的事業についての変更も含めて除外した上で,そういう,それ以外の信託行為の定めの変更を意味するものとして理解して意見を申します。
  公益信託の目的以外の変更については,新公益信託制度においては,基本的には信託関係人の自主的な判断により,自由に行われるべきですけれども,信託関係人全員の合意を必要としない軽微な変更もあるということは認められますので,全ての事項について,全信託関係人の合意を前提とする必要はないと思います。
  また,信託関係人のうちには,出捐者である委託者は,財団法人制度との対比からいっても,原則として,これを含めるべきではないと考えます。一方,受託者と信託管理人に加え,公益信託のガバナンス強化の観点から,運営委員会又は運営委員を設置し,それを入れるべきであると考えますので,再度申し上げたいと思います。
  言い換えますと,原則として,公益信託の目的以外の変更は,受託者,信託管理人及び運営委員の合意ででき,行政庁への変更の届出を行うことで可能とするけれども,今後の公益信託認定要件の内容如何によっては,その要件に関わる信託条項の変更は,行政庁の変更認定を必要とする場合も想定されますので,そのような場合には,合意と変更認定が必要になるということはあり得ると思います。
  (2)の御提案については,公益信託法第5条の廃止又は改正に賛成しまして,信託関係人の合意がある場合の取扱いについては,今述べたとおりですけれども,信託変更の合意がない場合の信託の変更は,裁判所への申立てによるということにして,申立権者には,原則として委託者を含めるべきではなく,受託者と信託管理人並びに運営委員会又は少なくとも運営委員とすべきであると考えます。
  裁判所が変更命令を行うことについては,事情,内容について熟知していない裁判所が関与することから,この部会資料3ページ記載の注5のような行政庁の関与が必要と考えます。この場合に,裁判の中で,行政庁からの鑑定意見のような形で,認定基準についての意見を聴取して,裁判の中で一括して,これを解決することが可能になるのだと思います。
○吉谷委員 第1の1について,意見を述べさせていただきます。
  (2)のイにつきましては,行政庁というところに行き着くのでありますけれども,順を追ってお話ししたいと思います。
  まず,1の(1)につきましては,賛成なのですけれども,まず前提として,行政庁による認可・認定がされる場合に,信託行為の定めの内容をどの程度見るのかというところが,余り明らかになっていないのではないかというふうに思います。
  信託の目的については,当然記載されて,それを確認されると思いますけれども,信託事務処理の方法についても当然,信託行為の中には記載されるのだと思います。その信託事務処理の内容が,受託者の能力要件との関係で判断されることになると思います。ですので,行政庁は当然,認可・認定の段階で,信託事務処理の方法についても,内容を精査されるのであろうというふうに考えております。
  まず,そういうところからしますと,1の(2)のアにつきましては,やはり行政庁が変更の認可・認定を行うということがよろしいというふうに考えます。
  そして,(2)のアにつきましては,注2というものが非常に,今回提案していただいた中で重要であるというふうに考えております。というのは,信託法149条2項1号についても,公益信託には適用があるというふうに書いていると理解しておりまして,そうなりますと,受託者と信託管理人の合意によりまして,ほとんどの信託目的以外の信託行為の定めの変更については,できてしまうのではないかというふうに考えます。つまり,信託の目的の達成,目的に反しないということが,まず前提になると思いますので……信託目的の達成に必要である場合には,さらに,受託者単独でもできるというのが2号ですけれども,必要でないことにつきましても1号で,受託者と信託管理人の合意によってできるということが説明されております。
  それを前提として,私どもはまず,この(2)の案に賛成するわけでありますけれども,一方で,149条の3項というのが残っていると。ここは別に,信託事務処理の方法について,特に限定されているわけでもありませんけれども,委託者と信託管理人の合意あるいは信託管理人の意思表示で,信託事務処理の方法の変更までしてしまうということになりますと,これは行政庁としては,それが受託者ができることなのかどうかということを判断することになりますので,受託者が反対しているような信託事務処理の方法の変更を149条3項によってできるということであるとすれば,それはちょっと問題であろうというふうには考えます。ただ,そこまで細かく法律に定める必要はないかもしれないというふうに思います。
  もし,信託事務処理の方法の変更を信託管理人が一人でできるようになってしまうということになりますと,公益信託においては,受託者が執行を担当して,信託管理人は監督をするという枠組みから外れてしまうのではないかというふうに思うところです。
  (2)のイにつきましては,行政庁の方がよいというふうに考えておるのですけれども,御説明の中で,7ページにおいて,変更について意見の対立のある信託関係人の利害を考慮して行うのだから,150条なのだという説明には,やや違和感を感じております。というのは,これは必ずしもそうではなくて,一つの典型的な事例としては,委託者の不存在,能力の欠如であるとか,あるいは信託管理人が複数であるような場合に,定員が不足しているとかいうような形で,合意が規定どおりできないというような場合が,十分にあり得るというふうに思うわけです。そういうような意見の対立というのが,元々存在しないような場合について,裁判所が判断するということが必要なのかということが,まず疑問としてあります。
  その次に,信託管理人と受託者で意見の対立のある場合というのを考えてみますと,150条ですので,信託事務処理の方法の変更です。受託者がまず,信託事務処理については考えるということになりますでしょうから,普通の場合ですと,受託者が方法の変更案というのを申し出て,それが公益認可の認定の基準に合致しているのであれば,行政庁について,行政庁はそれが,変更しても構わないという判断が当然できるということになります。信託関係人の利害といっても,せいぜい報酬の妥当性が問題になるということぐらいですので,裁判所でないと判断できないということはないのではないかというふうに考えます。
  意見の対立というのは,信託事務処理の方法が,もっといい方法にしてくださいとかいうようなことを信託管理人の方で受託者に要求していると,それで意見がまとまりませんよというような場合なのであれば,これは行政庁でも裁判所でも,もっといいかどうか,方法があるのだから,認めませんなどということまで判断できるのかというと,これはできないのではないかと思います。ですので,行政庁でよろしいと思います。
  一方で,信託管理人が信託事務処理の方法の変更について申し出ると,案を添えて申し出るということにつきましては,これは更に違和感があるわけでありまして,信託管理人の役割というのは,受託者に対して,信託行為の定める事務処理の方法では信託目的が達成できませんと,ですので,ほかの方法がないか検討しなさいというのが,信託管理人の役割なのでありまして,受託者がその期待に応えられないのであれば,新たな受託者候補を持ってくると。つまり解任と選任ということをすればよいのでありまして,信託管理人というのが自ら信託事務処理の方法を提案するということが,ここに,公益信託において想定されるようなものなのかということについては疑問があります。信託管理人は,現在の能力要件でも,信託事務処理についての能力についても要求されておりませんので,そういうところとも,また整合しないというふうに思います。
  そうしますと,信託管理人側で受託者の信託事務処理に不満があるという場合につきましては,これは受託者の辞任・解任・選任とセットに考えないと,解決できない問題だということになります。この点,ですので,それをセットにした場合に,どういうふうな流れになるかということをまとめて御提案いただかなければ,判断できないのではないかというふうに思うのですけれども,私どもは元々,受託者の辞任・解任・選任につきましても,行政庁の側の判断であるというふうに考えておりますので,整合するのですけれども,この点についての意見の対立があるというふうに承知しておりますので,是非とも一体で議論をするようにしていただければというふうに思います。
○中田部会長 御発言,少し長く続いておりますので,どこかで区切っていただけますでしょうか。
○吉谷委員 すみません。委託者が信託事務処理の方法の変更を提案するということについても,更に疑問があります。役割が監督だからということです。
  ですので,信託法150条というのは,受託者が提案する,申し出るという形に,行政庁に対して申し出るという形にしていただくのが,むしろ整合するのではないかというふうに考えます。
○中田部会長 申し訳ありませんでした。
  それでは,沖野幹事。
○沖野幹事 結論を一言で言えば,原案に賛成で,注5も含めて原案に賛成だということで終わるんですけれども,少しお時間を頂きたいと思います。
  幾つか御指摘があったところなんですが,一つは,深山委員から御指摘のあった判断内容の問題です。従来の議論の中では,実は認可の問題と変更の問題での判断事項はオーバーラップするというか,だからこそ,どちらが判断すべきかということを論じてきたのではないかという御指摘なんですが,私は違う理解をしておりまして,判断内容としては,認可・認定との関係で適合するかという問題と,関係当事者の合意によらない場合の信託法150条の要件を満たすかという問題は,一応別の判断の問題であって,しかし,その両方を同じ機関ができるかという,判断能力といいますか,それは従来公益信託の認定等の仕組みの中で,どちらがやるのが効率的か,あるいは過誤が少ないかということも含めて,どちらの機関ができるかという問題だったのではないかと思います。
  そういう観点からしますと,やはり判断内容は,別のものが二つあるのではないかというふうに,従来からもそう考えていたところを,今回は,関係者の合意プラス認可・認定上問題がないかは,行政庁が正に,基本的な枠組みの中で行政庁がそこを担うわけですので,それをチェックし,当事者の合意が作れないというところは,裁判所が事情変更の要件を満たすかということをチェックしていくという形で整理がされたので,このような原案になっているということだと理解をしております。
  ですから,吉谷委員がおっしゃった150条の点ですが,吉谷委員がおっしゃっていることが,ちょっとよく分からないところもあるんですけれども,第1の1の(2)のイというのは,150条とは関係ないということをおっしゃっているのか,飽くまで150条の問題だというふうに考えておられるのならば,それは公益信託にとどまらず,一般の信託においても,事情変更に基づく信託の事務処理の方法の変更は,受託者がイニシアチブをとるべきだという理解になるのではないかと思うんですけれども,現行は必ずしもそうはなっていないのではないだろかと思っておりまして,150条にのる限りは,受託者のみがということには,やはりならないのではないだろうかと。それぞれ観点は違うかもしれませんけれども,申立人は,この原案のような規定になってくるのではないかということです。
  また,そのときの判断事項として,とりわけ事情変更という点からの要件を満たすかということを,行政庁に任せるべきなのかというと,それは任せるべき事項では,やはりないのではないかと思いますので,可能性としては,これは小幡委員がおっしゃったことですけれども,この局面だけは両方裁判所にやってもらうか,それともやはり,役割分担をより徹底するかということではないかというふうに考えております。
  そのときに,役割分担をそれなりに徹底するといいますか,そう考えるなら,注5のような形で,自分が勝手に前者をA,後者をBと付けていますが,変更命令の前に裁判所が行政庁の意見を聴取するというのは,裁判所が最終的にはその部分も判断するんだけれども,意見聴取の形で考慮に入れていきますと。ただ,実際に意見聴取において,これは認可には到底適合しないという意見が出たら,それに反して,裁判所がそういう判断をするというのは,なかなか考えにくいことだとは思います。それに対して,Bの方は,ここは役割をきれいに分けていくということで,いずれもあり得るかと思います。ただ,Aの方になりますと,確かに不服の申立てで,認可は本来これでは得られないはずではないかということで,不服を考えているようなところが,一体どういう不服を誰に持って行くのかという問題は,確かにあるのかなとうかがっていて思われました。
  一方,棚橋幹事がおっしゃった,事前に認証を受けた上で,あるいは認定を受けた上でというのは,変更命令の前に裁判所が行政庁の意見を聴取するというところを,例えば,行政庁から認可上は,そのような変更になっても問題がないというような書面が提出されることを要求するなどすれば,そこの要件はクリアできるように思われまして,もし事前にということであれば,聴取するというよりは,そういう書面が出るとか,そういう意見が出されることを要件にというような形にすれば,事前になるか事後になるかという形はありますけれども,可能性としては考えられるのではないか。
  そうした場合には,確かに手続は重くなることは重くなるんですが,他方で,軽微な変更については,より簡易な方法を認めていますので,そういうものではなく,かつ関係当事者が合意をしていない局面ですので,関係当事者の中で,そういう変更はやはり適切ではないのではないかという意見が,どういう観点からであれ,ある場面ですので,それなりに手続が重くなるということは仕方がないですし,やはり公益信託の信頼性等を確保するためには,入り口は通ったけれども,あとは変更して,確かに裁判所はチェックしているけれどもというよりは,その認可の関係の部分は,行政庁がきちんとチェックするという仕組みがずっと一貫してあるということの方が,信頼性という点でも,よいのではないかというように考えております。
  もう一つ,タイムラグの問題を指摘されまして,タイムラグの問題は確かに考えておく必要があると思いますので,効力が発生するのはいつかということを明確にしていく必要があるのかなと思いました。もっともそれは,イだけの問題であるのか,アの問題におきましても,関係者の合意はできていると。しかし,その後の認可・認定までの間があって,その間,受託者としては,どうしたらいいのかという問題が同じようにあります。裁判所になりますと,不服申立てとの関係で,いつ確定するのかとか,その辺りが,より問題としては出てくるように思いますけれども,構造としては,アについてもあるのではないかと思いますので,共通する問題として考えておくということでいかがでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございました。
  まだ御議論あるかと存じますし,さらに,2の継続についての御意見も承りたいと思います。まだ御議論が続きそうに思いますので,この辺りで一旦休憩を入れさせていただきまして,それで,4時に再開するということにしたいと思います。

          (休     憩)

○中田部会長 それでは,再開いたします。
  第1の1について御意見を頂いておりますけれども,引き続き御意見を頂戴したいと思います。また,2についても,御自由に御意見をお出しいただければと存じます。
○林幹事 まず第1の1については,結論としては,御提案に賛成ですが,結局,私法上の信託契約に関する変更と,公益の認定と両立てになるというところから問題意識が出て,沖野幹事もおっしゃったところなのですが,第1の1の(2)のアのところでも,合意してから認定を受けるまでのタイムラグがどうしてもあるので,そのタイムラグの間をどう考えるのかという問題意識を弁護士会では議論しました。ただそれは,実際上は,ある種の停止条件付の合意のようにも考えられるところですが,要するに,認可を受けてから私法上の効力も生じるというところです。
  それから,(2)のイにつきましては,注5のところですけれども,基本的には,変更命令の前に行政庁の意見を聴取するという方向を支持する意見が弁護士会では多かったところです。事前に認可・認定を受けるとか,事後に認可・認定を受けるでもいいのではないのかとの意見もあったのですけれども,多くは,変更命令の前に行政庁の意見を聞くというところです。
  信託法168条を参考にしているものの,168条と微妙に違うというところもあるのですが,そこは分かった上で,行政庁の意見を事前に聞くということが,意見としては多かったと思います。
  ただ,もう一つの問題意識は,先ほどの議論でもあるところですが,裁判所が信託法150条の要件に従って変更を認める判断をしたんだけれども,行政庁の方がそれは違うと考えたときにどうなるのかです。そこを突き詰めると,行政庁は認定取消しをするのでしょうから,それに対して,行政手続,行政訴訟の中で争って決することだと割り切って言えば,それに尽きてしまうところと思います。
 ただ,私自身としては,実質的に判断する対象,すなわち150条の読み替えた後の判断の対象と認定の対象は,そんなに大きくは違わないのではないかと思います。事前に行政庁の意見を聞いた上で裁判所がやるので,そんなに大きな問題は,現実には起こらないのではないのかと思っています。
  ですから,ほぼ両方が一致したところで,裁判所が変更の命令を出すのでしょうし,実務的には,そんな変なことは起こらないと思っています。判断の対象はおおむね重なっているので,要するに,裁判所が変更命令を出したけれども,行政庁が違うことを言うというのは,非常にまれなことだと思うので,そこについて,そんなに議論しなくてもいいのではないかという気はしています。
  もう1点は,ここでは,新たに別に認可を受けるというよりは,認定の取消しの問題なのではないかと思っていますので,それは,行政庁がそういうアクションを起こしてから考えればいいと思います。
  あとは,注4については,例えば,1のアとの関係でいいますと,行政庁の変更の認定というか,そのプロセス自体は絶対必要だと思うので,それは変えるべきではないのでしょうけれども,それ以外のところは,別段の定めを定めてもよいと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 すみません,確認をしたい点なんですけれども,先ほど平川委員のお話の中で,信託目的と事業というふうに,一応,中身を分けて議論があったと思いますし,あと,吉谷委員の発言の中でも,信託事務ということでの話がありましたけれども,今回の議論といいますか,検討資料,検討課題を見ると,そういう事業についても,信託事務の細目についても,全て信託行為の中に,信託契約の中に記載するという前提での議かと思うんですけれども,そうであれば,全て信託契約の変更ということで,議論としては収れんすることにはなるかとは思いますが,一方において,公益法人との比較の議論も,いろいろな場面で出てきたと思いますが,その場合の定款というのは,そんな細則まで書かれるものではないかと思います。とすると,両者が同じである必要はないかとは思いますが,とは言っても,全て信託行為の中に,そこまで果たして書くべきなのかということになると,ちょっと違うのかな,また,特に私的自治を重んじれば,公益信託それぞれにおいて規定の仕方というものに違いがあってもよいのではないかと思います。
  そうすると,信託契約の変更,信託行為の変更だけで,この全ての議論が果たして済むのであろうかと思いまして,事務局としての考えをお聞かせいただければと思います。また,公益信託の目的についてですが,弁護士会の議論でも,目的といったとき,普通の信託契約を見ると,非常に目的というのは,すっきりさっぱり書いてあるんですけれども,その目的を具体化することまでのどこまでが目的の範囲内なのか,グラデーションが掛かると思うので,目的といったとき,事業のどこまでが目的なんだろうかという点について事務局の考えをお聞かせいただければと思います。契約に,信託目的に書いてあれば目的の変更になるし,書いてないと目的の変更にならないような議論なのかどうかとか。事務局として,信託契約,信託行為の中の目的に事業の細目まで含めて考えるのか。事務の細目まで含めて信託契約の中に書くという前提で,信託契約の変更の議論をしているのか。そうではないこともあり得るという場合には,それについて,どういうふうに考えたらいいのかという辺りも,教えていただければというふうに思います。
○中田部会長 小野委員の御質問は,第1の1の規律と第1の2の規律と,2種類あるということは前提とした上で……
○小野委員 そうです,はい。
○中田部会長 その上で,その切り分けをどう考えるのかという……
○小野委員 そうです,はい。グラデーション掛かったりとか,契約以外に合意することもあるかと思うので。
○中田部会長 関連ですか。
○平川委員 はい。御質問があったので。
○中田部会長 それでは,平川委員。
○平川委員 私のイメージしている信託目的と,信託目的,公益事業というのは,両方とも信託契約の中に当然記載するものだという前提で申し上げていたんですけれども,今までは助成型しかなかったので,特にどんな事業とは書かなくてもよかったと思うんですが,これからは,いろいろな形があるという前提なので,助成型でなくても,研究所を設立するとか,寮を作るとか,何かそういうのもあると思うので,例えば,信託目的がエイズ撲滅のためというふうに設定したとして,そうすると,それを達成するための公益目的事業としては,助成,奨学金を与えることというのが,一つ事業とあると思うんですけれども,それとは別に,研究所,そういうエイズ撲滅のための研究所の設立・運営とか,そういうことは当然,非常に重要な,信託目的達成のための事業のパターンを書くので,信託契約の中に規定するものだというふうにイメージで言っておりました。
○小野委員 それが目的になるのか,ならないのかというところで,この資料では大きく区別して議論されていますけれども,どうしてもグラデーションが掛かる部分が出てくるのではないのかということもあります。
○中辻幹事 御質問をありがとうございます。
  目的という日本語の意味なんですけれども,英語と違って,二つの若干異なる意味が含まれています。パーパスという,到達すべき地点というのが一つ,それから,物事の対象というオブジェクト,この二つの意味で,日本語として使われることがあるのですが,両者はおおむね一致するので,ふだん使う分にはその違いをあまり意識しなくても困らないという理解をしています。
  そのような理解を前提に,公益信託の契約書のひな形みたいのようなものが手元にありますので,それを見てみると,公益信託契約書を作るときに,その信託の目的と,公益信託の受託者が行う事業は書き分けている,パーパスとオブジェクトは分けて記載しているようでございます。
  例えば,信託目的の条項に「この公益信託は広く科学技術に関する研究を助成し,かつ理工系学部大学院に在学する有為の人材に対する奨学金の給付を行い,もって我が国の学術及び文化の発展に寄与し,国民福祉の向上を図ることを目的とする」と記載され,受託者の行う事業の条項には「前条の目的を達成するために科学技術の研究に関わる学者,技術者に対する研究金,助成金の給付,その他,前条の目的を達成するために必要な事業」を受託者が行うという記載例がありまして,今後もこのような書き方で公益信託の契約書が作られていくことが多いのではないかと思います。
  その上で,第2の2で論じている公益信託の目的の変更の「目的」は,信託契約書の信託目的の条項に掲げられているパーパスを想定している一方,信託契約書の受託者の行う事業の条項に掲げられているオブジェクトである公益信託事務の内容,外縁の変更や,それを遂行するための信託事務処理の方法の変更については,第1の1で論じている公益信託の目的以外の信託行為の定めの変更になるということになるのですが,両者は截然と分けられるものではなくて,重なりあう部分がある,小野委員のお言葉を借りればグラデーションがかかる部分はあるように感じます。
  なお,本当に細目的な事項の変更,例えば今回の部会資料の8ページの一番下の方に書きました,公益信託の受託者の名称の変更とか受託者法人の場合の代表者の変更などというのは,信託契約書に書かれている事項ではあるけれども,信託契約,信託行為の定めには入らないと考えておりますので,そんな細かい事項の変更まで突っ込んで規律していこうと考えているわけではございません。
○小野委員 確認ですが,オブジェクト,事業のところは,ここでの議論の目的には一応入らないということですね。先ほど,日本語の目的には二つあるという話で,また信託契約の中には,狭義の目的と事業,二つの項目を分けて規定されるのが,一つのひな形上も存在するということだったんですけれども,ここでの議論の目的は,先ほどの崇高な目的だけが目的であって,その事業のところは,それ以外,目的以外の変更という理解での説明かと思ったんですが,その辺も確認できればと思うんですが。
○中辻幹事 そうですね。今回の部会資料で使っている「信託の目的」というのは,基本的には,信託法149条,150条に出てくる「信託の目的」というものと同義で捉えておりまして,ここは,私の理解としてはパーパスです。
  ただし,公益信託のパーパスとオブジェクトについては,先ほども申し上げましたが,重なる部分が多うございます。ですから,公益信託契約書に記載された受託者が行う公益信託事務の内容を変更する場合には,公益信託の目的の変更に該当するとして,第1の2の規律が適用されることも想定されるように思います。
○小野委員 分かりました。
○棚橋幹事 第1の1の変更命令の部分について補足させていただきたいのですが,どの機関が何を判断すべきかについては,どの機関にどのような監督や役割が求められているかということによって決まってくるものなのではないかと考えております。
  これまでの部会の中では,行政庁の監督の在り方について,認定基準の充足性のチェックを通じた監督という考え方も示されていましたが,裁判所が変更命令の中で第一次的に認定基準充足性を判断するという考えを採った場合には,このような行政庁の監督の在り方との関係で整理できるのかという点に疑問があります。また,裁判所が第一次的に認定基準充足性を判断し,それに対して行政庁が,それが正しいかどうかを認定の段階で判断し,その認定に関する判断にもし不服があった場合には,その判断に対して更に取消訴訟という形で裁判所に戻ってくるという構造は,裁判所,行政庁,裁判所と行ったり来たりしているように思われ,直感的には違和感があるということを補足させていただきたいと思います。
○神作幹事 ちょっと戻って恐縮ですけれども,先ほどの小野委員と中辻幹事のやり取りに関連して,会社法について発言させてください。会社法でも目的という言葉が,いろいろな意味に使われていると言われております。恐らくパーパスに当たるのは,営利目的と言われていると思いますけれども,これが会社に共通する究極的な目的です。それを実現するため,定款に記載するのは普通,事業目的と言われていて,パーパスを実現するための手段として具体的に何をするかが記載されます。例えば,車の製造販売など,営利を獲得するための手段として行うことが事業目的と言われており,これが恐らくオブジェクトに相当すると思うのですけれども,一言申し上げたいことは,公益信託の場合は,正に小野委員が指摘されたように,パーパスとオブジェクトというのが非常に接近する場合があるといいますか,ある目的のためにある事業をするという場合に,当該目的を達成するためにはいろいろな手段があり得るのでしょうけれども,公益信託や公益法人の場合は,当該目的を達成するために,ある特定の手段でやることが重要なのであると考えられているケースが少なくないということだと思います。目的を追求するための手段であるオブジェクトが,公益目的の場合には,究極の目的であるパーパスと非常に結び付く可能性が高いという特徴があります。おそらく,小野委員が御指摘されたとおり,グラデーションが微妙なケースというのは,公益信託の場合には非常に多くなってくると考えます。その点はやはり,公益信託の議論をするときに,よく考えていく必要があるのではないかと感じました。
○中田部会長 ありがとうございました。
○道垣内委員 前回か前々回か忘れましたけれども,公益信託の目的を登記事項にするという話のときに,どうして登記事項にできるんですかという話を私がしたと思うのですが,それがこの話と同じ話なんだろうと思うのです。つまり,先ほどエイズの話などが出ていましたけれども,例えば目的として,つまり信託契約の目的と題する第1条に,「不治の病だとされているものについての研究をやって,もって人類の何とかかんとか」というふうに書いて,具体的に何をするかというと,エイズの研究者に対して助成するというふうに書いているときに,それを結核の研究者に助成するというふうに変えてしまったら,それは事実として,根本的に信託を変更しているわけですから,目的の変更なんだろうと思うのですね。
  そうすると,そのときの目的と,変更のときの目的というのは,そういうふうに実質的に判断して,グラデーションあるという話でしたけれども,信託の根本を変えるものになるのかどうなのかというふうな観点で判断するのだということになりましたら,登記のところにおける目的は形式的な書き方にならざるを得ませんから,そこには不一致が出てきます。もちろん,認可のときの行政庁の実務運用として,もっと当該信託の本質を明らかにするようなことを,信託契約における「目的」という条に書かなければならないとするのであれば,一致してくるのかもしれませんけれども,そうはならないであろうと思います。いや,私が登記のときにお話したときには,ほとんど誰からも賛同がなかったのに,私からすると全く同じ話が,ここでみんな,そうだよねというふうに言っているので,悲しい思いをしているということを一言。
○中田部会長 今,目的についての御意見が続いておりますが,これに関連する御意見は更にございますでしょうか。
○吉谷委員 恐らく今の実務でも,目的の書き方って非常に様々で,結構,どういう形で奨学金を出しなさいということを限定している場合もあれば,目的についてはもっと抽象的に,学術の振興とか,簡単なものもあって,ですので,具体的な事業についてまで,目的であるというふうに,その事業をやることが目的だというふうに言及すれば,それはまず目的なんだろうというふうに思います。
  一方で,信託目的とはっきり書かれていないところまで目的が及ぶのかというのは,非常に難しくて,それはちょっと,契約なり遺言なりの解釈の問題になってしまうのかなというふうには思いました。ですけれども,結局のところ,やはり委託者が事後的に変えられては困るものについて,目的として,きっちりと書いていただくというふうに運営されるのがよろしいのではないかなというふうに思います。
○中田部会長 目的については,幾つか御意見を頂きましたが,二つ規律を置くということ自体に反対されるというわけではなくて,グラデーションがあるということを踏まえて,その切り分けをどういう観点で考えたらよいのかということについての御注意だったかと伺いました。
  さらに,ほかの点も含めて,いかがでしょうか。
○明渡関係官 念のためでございますけれども,3ページ目の注5の部分ですけれども,前段のような形を採った場合には,この行政庁と有識者から成る委員会との関係を,改めて整理しておく必要があるのかと思います。諮問,答申が必要なのかという点,意見以外の関与があった場合に,そこをどのようにするのかという点があろうかと思います。
  また,前段のような形の場合で,変更命令の前に裁判所が行政庁に聴取する意見が,後の変更の認定,変更認可と同様の効果をもたらすというようなことであるのであれば,その書類,申請書類に--申請書類という言い方でいいのかどうか分かりませんけれども,それについて,変更認定等と同じようなものを提出してもらうと。それは裁判所経由になるのかもしれませんけれども,そういうふうな手続の方に影響してくるんだろうと思います。一応,念のために申し上げておきます。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 少し前の話ですが,意見を申し上げたいと思います。
  第1の1,注5に関することですが,第1,1の(1),(2)にも,少し遡る話になると思います。信託関係人の合意等がある場合に,(2)のアは,行政庁が変更の認可・認定を行うと書いてあって,これに私は異論ないのですが,アとイを比べると,信託関係人の合意等があって変更が行われ,そして,その変更に対して,行政庁が認可・認定するという構造の方が,私としてはよく理解できるところです。そうすると,少し(1)と抵触してしまいます。したがって,(1)に遡っての発言で申し訳ありませんが,抵触する部分には少し手直しを加える必要があると思います。
  そして,(2)のイですが,信託関係人の合意等がない場合については,私の意見は,裁判所が変更命令を行うというものです。
  これに対して,アとの関係でいうと,行政庁の変更の認可・認定,あるいは,それに代わるものは必要だろうと思います。裁判所がここだけ突然認定庁になって,あるいは認定又は認可庁になって,有識者による第三者委員会の意見を聞いて,又は意見を聞かずに,行うということは,裁判所の変更命令のときには,行政庁の変更に認可・認定を省略することができるというのは,基本的には適切ではないと思います。
  しかし,公益信託を担っている受託者とか関係の人たちが,一方で裁判所に行って,他方で認定・認可行政庁に行って,両方からオーケーをもらわないといけないと思うのですが,しかし,裁判所と認定・認可行政庁の間に,基本的には連絡がないものとすると,たらい回しではないものの,一方で良いとされ,しかし,他方が駄目な場合,前者の方で一生懸命努力したことが水の泡になってしまうということになるように思われ,そういう手続には,できればしない方がいいのだろうと思います。
  ただ,基本は,認定基準・認可基準に当たるものは認定・認可行政庁が行い,そして,信託法150条に当たるかどうかの解釈は裁判所がすると。この仕分けはできるだけ維持して,しかし手続の上で,それがやはり,二つの窓口にそれぞれ,どういう順番でもいい,あるいは,こういう順番で行かなくてはならないとするのではなく,できればそこを一本化,あるいは一本化に近い形にできるといいのではないかと考えます。どちらに一本化するかといえば,(2)のアのところで申し上げましたように,変更はやはり信託関係人の合意で変更すると私は考えますので,そうすると,やはり裁判所の方が主たる第三者機関になるのだろうと思います。
  ですが,不服申立ての問題とか,今日大分いろいろ,具体的な話に展開していきましたので,それはやはり,それぞれに対する不服申立て,それぞれの手続で行うというのが基本だろうと思います。
○道垣内委員 山田委員がおっしゃった前半に係る話なんですが,合意によって変更されるのか,それとも,合意によっての変更というのが,行政庁の認可が停止条件として付いているのかという問題は,多分まだあるんだろうと思います。そして,恐らく停止条件とした方がスムーズだろうと思います。しかしながら,山田委員がおっしゃっていることにほとんど賛成で,この間からもそうなんですけれども,例えば9ページも,その前のページも一緒なんですが,2のところで,1,2となりますと,びっくりしてしまうんですね,最初の段階で。ああ,できないのかとかいう感じなんですが,次見ると,ああ,できるのかといった感じで,それで,それがますますびっくりしたのが,12ページのところで,これずっと読んでいると,目的も変更しなければならないことがあって,それを認めることが大切だと思われるとしながら,最後になると,したがって,合意による目的の変更はできないようにするのが妥当であるとなっておりまして,これは,絶対,「したがって」になっていないのではないでしょうか。まあ,山田委員のような論理構造で考えるのか,この案の論理構造で考えるのかという違いになっているんだと思うんですが,これを,中間試案とか,そういうふうなことを出していくということになったときには,論理的な気持ちも分からないではないんですが,もう少し分かりやすくした方がいいのではないかなと思います。
○中田部会長 今の点につきましては,認可・認定をブラケットで囲っていて,両方あり得るというところでも,そこはまだはっきり固まっていないからという含みがあるのだろうと思います。ただ,(1)で断言しているのが,非常に強い印象を与えたということなのかもしれません。
  ほかにいかがでしょうか。特に2の目的の変更について,現在の公益信託法9条を改めるという案が出ておりますけれども,この点いかがでしょうか。
○平川委員 2につきまして,(1),(2)について賛成いたします。先ほど述べた公益信託の目的と,その目的事業,両方とも含めた意味での目的の変更ということについては,信託関係人の合意に加え,行政庁の認定を必要とするということに賛成します。
  公益信託の目的の変更は,財団法人の目的の変更に類似するものであり,目的の重要性から,その変更は公益信託の場合も,信託関係人の合意等のみによる変更は不可とすべきと考えます。
  御参考なんですけれども,公益財団法人の目的の変更の場合の要件は,定款に変更可能の規定があることを必要としておりまして,この目的というのは,狭義の目的について,定款に変更可能の規定があることを必要としておりまして,その変更には評議員会の3分の2の多数の議決によらなければならず,また,さらに,公益目的事業の方の種類又は内容の変更については,行政庁の認定を要するとされています。
  賛成というふうに申し上げましたけれども,多少修正の意見がございまして,先ほど,今までも何度も述べておりますように,合意の当事者のうち,委託者を除外するとともに,当事者に運営委員会又は運営委員を加える修正を行っていただきたいと思います。
  本日の佐久間参考人の発表の中で,公益信託の信託としての安定した効力を認めるための前提として,そのガバナンスを確保するために,事務処理及び会計の監査権限を有する者の設置という御意見を頂戴いたしましたけれども,この事務処理及び会計の監査権限のみならず,信託関係人の選解任の権限というものも必要だというふうに考えておりまして,私どものいう運営委員は,例えば信託管理人の選解任について,解任を受託者がやるということは考えられず,運営委員がやるということがここで考えられますので,選解任についての権限もあるべきなのではないかというふうに考えました。
  そこで,運営委員を加えるという修正を行っていただきたいということと,狭義の目的の変更は,公益財団法人においては,定款の定めにより変更できる旨の規定がない限り,評議員会の決議によっては変更できないものとされていることの平仄をとる意味で,公益信託の場合も,信託行為に信託目的変更可能条項が規定されていれば,信託関係人の合意と行政庁の認定で信託目的変更が行えるけれども,かかる規定がない場合には,合意では変更できず,申立権者の申立てにより裁判所の命令が必要というふうにすべきであると考えます。
  一方,公益目的事業の変更については,信託関係人の合意により,行政庁に認定申請を行えるというふうに考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論ですけれども,基本的には第1の2につきまして,賛成でした。
  特に付け加えるべきとすれば,委託者の意思を排除しないという立て付けであるべきだというところです。例えば(3)などについても,部会資料の中にも,従前の審議において,委託者の意思を考慮するというか,委託者が継続を排除していないと,そういうような前提の場合に,これを認めるというような記述もありまして,委託者の意思を考慮した上でということでした。
  個別に委託者の同意というのを取るのか,あるいは信託行為上で排除していないというか,そういうことであるのか,在り方はいろいろ,議論としてあったところですが,一応そのようなところでした。
  それで,1点だけ。ただし,個人的には,要するに,2の目的の変更のところでも,いわゆる信託法150条のようなものがあってもいいと考えられるのではないかとも思います。ただ,この部会資料の整理の中では,それは排除されたという整理だというのは分かっていまして,弁護士会としては,この整理で取りあえず賛成だったというところです。
○吉谷委員 (1)は賛成でございますが,(2)につきましては,変更がここまで自由にできていいのだろうかという点については,疑問を持っているというところです。
  (3)のように,信託目的達成であるとか不達成であるとかいうような場合に,信託の目的を変更するという,これはよく分かるのですけれども,そういう前提なしに,自由に公益信託の目的を変更してしまうことがいいのかということは疑問です。ですので,(2)につきましては,信託目的の達成に支障がある場合で,信託事務処理の方法の変更では解決できないような場合は目的の変更ができると,それも類似の信託目的に変更できるという形にするのがよろしいのではないかと思います。
  今の提案のままですと,寄附者が存在する場合には,寄附者の意図に反するような目的で財産が使われてしまうということにもなってしまいます。また,自由に変えることができるということでしたら,毎年信託目的を変えるということもできてしまうわけでありまして,最初に認可・認定申請をしたときに,3年,5年の計画を出していたのに,途中でやはりやめますということで,変えてしまうということもできてしまうわけです。
  信託目的の変更ですので,委託者の合意が必要であるというところは理解できるわけですけれども,逆に言いますと,委託者の発言力が強いような場合ですと,委託者が自由に信託目的の変更を受託者に進言して,受託者と信託管理人が,そういうことでしたら変えましょうということで応じてしまうというようなことが起きるということになりますと,委託者が事実上,信託を支配するということになってしまうのではないかということについては,ちょっとおそれを持っているということであります。
  その上で,(3)につきましては,(2)の合意に比べまして,受託者単独の申請というところになっているというような,もし(2)につきましても,制限的に運用するということでありましたら,(2)と(3)については,連続した形で作るのがいいのではないかと。つまり,(2)は信託の終了前,(3)は終了後のことについて書くというような形ではないかというふうに思われます。
○中田部会長 今,(3)については,単独で見たときには,一応このような規律でよくて,これにむしろ合わせる形で,(2)を更に修正した方がよいというふうに承ってよろしいでしょうか。あるいは,(3)自体についても,何か修正点がおありでしょうか。
○吉谷委員 (3)については,修正というよりは,若干疑問で,委託者,信託管理人の合意がなくていいんだろうかというのは,ちょっと疑問点としてあるというところと,例えば,国や地方公共団体を帰属権利者としているような場合でも,類似の目的への変更はできないということになるのだろうかとかいうような形での,ちょっと疑問があるというところですね。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに……
○平川委員 この(3)については,賛成しまして,これは,やはり英米の公益信託において存在するシプレー原則と同様の原則なので,これは是非表明していただきたいというふうに積極的に考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○沖野幹事 表現だけなんですけれども,(3)について,以前も問題になったのかもしれません。行政庁は継続させることができるという表現が,果たして現在考えられている行政庁の役割との関係で,いいのかどうかということだけ,念のため,御検討いただければと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。第1について,ほかにございませんでしょうか。 
○吉谷委員 第1の1の(3)についてだけ,ちょっと意見と確認なんですが,この提案には賛成させていただこうと思っておるんですけれども,ここの御提案の中で,通知のことが書かれているんですね。これは別に,信託法149条の原則どおりの受託者だけ,あるいは,受託者と信託管理人の合意による場合は委託者に通知するというようなことについて御説明されている,現行どおりの内容を御説明されているということであって,(3)には,委託者への通知は省略できると信託行為で定めることができるというようなことは特に書かれていないんですけれども,別に通知を強行規定化しようとか,そこまでの意図はないんだというふうに理解しておりますが,それでよろしいでしょうか。
○中辻幹事 第1の1の注4に書かせていただいたとおりでございまして,信託法149条4項で,信託行為について,別に定めを置いた場合には,デフォルトルールと違ったことができるというふうに信託法上はなっている。さはさりながら,この149条4項,これを全面的に公益信託について適用するかどうかというのは,なお考え込む必要があると思っておりまして,そういう意味で引き続き検討なんですが,(2)の場合でも,(3)の場合でも,そこは注4の考えが適用されるという御指摘と受け止めました。事務局としても,吉谷委員のお考えのとおり理解しております。
○道垣内委員 第1の2の(1),(2)につきまして,吉谷委員が御発言された内容は,かなり説得的であるという感じを持ったということをまず第1点に申し上げます。これは吉谷委員の単独意見ではないことを明らかにするための発言です。
  より申し上げたいことは別にありまして,(1),(2)で基本的にはいいだろうとなったときに,(2)の書き方が若干微妙な感じがするんですね。つまり,先ほどの山田委員がおっしゃった整理を前提とすると,これは目的変更後の信託を公益信託として認可するないしは認定するということなんだろうと思うのです。ところが,公益信託の目的の変更の認可というふうになりますと,目的を変更することがよいのかという話になってきます。もっとも,逆にそう読んでしまうと,吉谷委員の疑問というか,問題が払拭されてしまうのかもしれないんですが,しかしながら,12ページのところの4の(1)のところの説明のところでは,目的の変更によって,公益信託の認定基準を満たさなくなる事態を防止するということになっていますので,これはやはり,目的変更後の信託について,それが公益信託に該当することの認可であろうと思います。若干誤解を招く書き方になっており,説明とこの文章が,必ずしもクリアに対応していない感じがしますので,お気を付けいただければと思います。
○中田部会長 ほかに,第1についてございませんでしょうか。
○山田委員 第1の2の(3)ですけれども,2行目とか3行目の「行政庁は」というところは,私は裁判所ではないかなと思います。
  しかし,裁判所とすると,信託法の中に,ちょっとそれを受ける規定が,先ほどの信託変更命令は信託法150条があったのですが,ないのかもしれないように思います。そうすると,少しハードルは高いかもしれないと思うのですが,先ほど私が申し上げた,私の基本的な考え方からすれば,ここは行政庁ではなくて裁判所であると思います。それで,しかし,ハードルは高いので,裁判所を主語とするのは成り立たないというときに,次善の策として行政庁を入れた方がいいのか,諦めるかということになるかと思うんですが,これを諦めたら恥ずかしいだろうというのが,2回か3回前の樋口委員の御意見でしたので,次善の策として,行政庁が残ると思います。しかし,第一は裁判所だろうと思います。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。今お名前出ましたけれども,樋口委員,何かございますでしょうか。よろしいですか。
 第1について,非常に多くの御意見頂きまして,ありがとうございました。1の(1)については,おおむね賛成が多かったかと存じますけれども,しかし,認定・認可との関係を考慮すべきであって,できないというふうに最初から言い切ってしまうのは,どんなものかという御注意を頂いたと思います。1の(2)のイについては,裁判所というのが多数であったと思いますけれども,しかし,それを前提とした上で,注5の内容の詰めが更に必要であろうということで,いろいろな具体的な御提案,御意見を頂戴いたしました。
  2につきましても,(1)は,1の(1)と同様でございますが,2の(2)については,御意見が様々であったかと存じます。(3)については,恐らく全体としては,賛成が多いのではないかとは思いますけれども,更にその内容について,幾つかの御指摘を頂戴したかと存じます。さらに,第1の1と第1の2との区別について,とりわけ目的の概念をどのように考えるのかについて,御検討いただきました。
  これらを踏まえて,さらに,中間試案のたたき台に向けて検討していただきたいと思っております。
  第1について,今の段階で,佐久間参考人から何かございますか。
○佐久間参考人 後で結構です。
○中田部会長 では,後ほどということで。
  では,続きまして,第2の併合・分割について,御意見を頂戴できればと思います。
○小野委員 結論に対してではなくて,注1についてなんですけれども,前も発言いたしましたが,公益信託と私益信託,又は公益信託を公益目的目的信託に分けるとか,やはりそういうような多彩なメニューを提示するということは,今後の社会を考えたとき,必要ではないかと思います。ですから,ここでの注1の前提自体,いろいろな意見があると思いますので是非検討していただけたらと思います。
  繰り返しになりますけれども,私益信託といっても,特定の研究者に対する公益目的の私益信託ということも当然考えられますし,あと,不特定多数要件において疑義がある場合に,公益目的目的信託として分割するということもあるかと思います。分割の場合が主な前提かと思いますけれども。ということで,議論は,まだオープンにしていただけたらと思います。
  ついでに一言だけ,そのときに,元々委託者の意思とか,場合によっては,寄附をした方の意思と違った形で財産が使われるかもしれないということを補足説明で書かれていましたけれども,先ほどのパーパスとオブジェクトを分ける発想からすると,そのパーパスにおいては異ならないという前提を置けば,オブジェクトまで明確にして寄附した人の意思とはちょっと違うかもしれませんけれども,パーパスという観点に置いては,違うことはないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 公益信託の合併・分割自体については,行政庁の認定は不要であると考えます。ただし,合併や分割により信託目的や信託事業目的に変更をきたしたり,認定要件に関わる事項に変更を来すような場合には,変更認定を受ける必要があると考えます。
  合併・分割によって公益信託の質的な点は変わらず,量的変更に尽きるのであれば,軽微な変更であるとして,当事者の合意のみで可能として,行政庁への届出でできるというふうにすべきであると考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論としては,第1の1と同じように考えている面もあって,そういう意味において,第2の方は,基本的には賛成でした。確かに,命令の前に行政庁の意見聴取すべきだとか,あとは,裁判所の結論と行政庁との意見が食い違ったときどうするかという問題意識があり,そこの議論は第1の1のときと同様であったので,繰り返しませんが,一応そういう意見でした。
○棚橋幹事 裁判所による併合・分割命令の点ですが,一番率直な疑問としては,この場面で,裁判所にどういった役割が求められているのかという点に疑問があります。信託法150条の要件で判断するという御提案ではありますが,二つの信託を併合する,又は一つの信託を分割するというのは,言わば会社の合併や会社分割にも似ているもののように思えます。そういった場面で,信託行為の定めが信託目的,財産の状況等に照らして,信託の目的の達成の支障になるに至ったかという要件をどのように判断するのか疑問があります。裁判所は,どういった役割で,なぜ関与が必要であって,何を判断すべきなのかというところが判然としないので,教えていただければと思います。
○中辻幹事 事務局の方で想定していた例としては,また遡ってしまい恐縮ですけれども,第1読会で議論していただいた部会資料37の24ページに具体的な例を挙げております。そこで,併合の例としては,同一の受託者が奨学金支給の信託事務を行う2本の公益信託があり,片方の奨学金支給を行っている公益信託の方の信託財産が減少して,その信託財産だけだと受託者報酬に充てるのがせいぜいの状態になった場合に,もう1本の公益信託の方に併合すれば,その分,公益の方にお金が回せるというような事例を考えておりました。
  また,分割の方では,これは事業型を前提としてしまうことになりますが,美術館の運営に加えて,美術を学ぶ学生への奨学金支給を行っている公益信託というものがあった場合に,その奨学金支給に関する部分について,吸収信託分割の方法により,奨学金支給を行っている他の公益信託の方に移転していくというような事例を考えていたものです。
  裁判所に判断していただく事項ですけれども,先ほどの説明と重なりますが,基本的には信託法150条の事情変更の要件を満たしているかどうかというところに絞って判断していただくということを考えておりまして,ここでも公益認定の基準の判断までは,どういう手続に最終的にするかによりますけれども,認定基準充足性の有無について裁判所に丸投げしてご判断頂こうとは考えてはいないというのが,今回の部会資料の趣旨でございます。
○棚橋幹事 
  信託の併合・分割命令という制度自体は,信託法には明文では定められてはいないと思いますが,先ほども申し上げたように,併合・分割は,例えば,信託を一旦終了させて,もう1回作るという手続は採らずに,併合や分割という形で存続できるというもののように思いますが,信託関係人が合意できていない場面であるにもかかわらず,なぜ裁判所が命令すれば,併合・分割により存続していけるのかが,よく分からないところです。併合・分割は,目的の変更にも近い重要な変更を伴うもののように思いますので,関係人の権利,関係人の意思や,法的安定性などへの配慮は必要だと思いますし,裁判所が当事者の合意がない場面で,これを命令できるということになると,私人間の契約関係について,裁判所が新たな契約関係を創造するということにもなります。第三者機関に求められているのは,監督作用だと思いますが,関係人の合意がないのに併合・分割命令ができるという制度は,もはや監督の域を超えた作用になってしまうのではないかと考えますので,関係人の合意がないのに命令ができるという制度を設けることについては,慎重に検討していただきたいと考えております。
○吉谷委員 基本的に,変更の場合と同じような意見になっておりますけれども,第2の1につきましては提案に賛成で,2の(1)につきましては基本的には賛成で,(2)につきましては行政庁の申立てというふうに考えているというところです。
  (1)につきましては,第2で注2が入っていたんですけれども,それに相当するものが,この第2の方には入っておりません。ですけれども,恐らく御趣旨としては,第1の御提案と同じように,信託目的に反しない場合は,受託者と信託管理人の合意で併合や分割ができるのだというような御提案であるというふうに理解しております。そういう前提の下に,まず賛成させていただきます。
  そうしますと,もう一つの委託者と信託管理人の合意だけで併合・分割ができるということにつきましては,これはちょっと,受託者が分割できないとか,併合できないとかいうふうに考えている場合に,行政庁がそれを認可してしまうということがもしあるんだとすれば,それはちょっと問題だろうというふうに思いますので,そういう認可されない前提で賛成,あるいは,それは認められないという規律の方がいいのではないかというふうには考えます。
  その上で,(2)につきましても,併合・分割について,受託者が反対するような分割・併合命令というものがなされるのかということについては疑問でありまして,やはり受託者の解任・選任と一体で,手続としては検討されないといけないのではないかというふうに思いまして,そういう意味で,やはり行政庁の関与が必ず必要であるというふうに思うところです。
  信託の変更のところで,信託管理人の提案ができないというのは,信託一般と公益信託で何が違うのかという御意見もありましたんですけれども,やはり公益信託の場合は,執行と監督という役割分担がはっきり分かれているというところが,ちょっと違うのではないかなというふうに思います。それが変更においても,分割・併合においても当てはまって,信託管理人が信託事務処理の方法をがらっと変えてしまうようなことについて提案できるということについては,非常に抵抗があり,そのようなことが受託者の承諾なく行われるんだとすると,かなり問題があるのではないかというふうに考えております。
○中田部会長 ただいまの御発言の中の御質問の部分がありましたけれども,つまり,注が共通しているのかどうかという確認的な御質問ですが。
○中辻幹事 注は共通しているという理解のもとで,今回の部会資料は作っております。
○新井委員 信託関係人の合意がある場合の公益信託の併合・分割についての質問です。
  まず,併合の場合については,これは,Aという公益信託とBという公益信託の両方の申請がないとできないのでしょうか。それとも,Aという公益信託だけの申請で可能でしょうか。
  分割の場合については,受託者が分割された後,受託者が同一である必要があるのでしょうか。つまり,Aという公益信託が分割された場合に,Bもできて,そのBもAと同一の受託者である必要があるのでしょうか。それとも,全く別の受託者を持ってくるということも想定されているのでしょうか。これが第1の質問です。
  第2の質問は,委託者については,信託行為において,申立権を有しないという表現がありますけれども,この趣旨ですけれども,これは,委託者の権限を一定程度制約するという趣旨と理解してよろしいのでしょうか。つまり,公益信託における財産の拠出は,一度公益目的に出したのだから,申立権をある程度制限しますというような趣旨でしょうか。
  もしそうだとすると,第1のところでも,委託者というのが出てきまして,委託者の合意,信託関係人の合意等ですけれども,平川委員は,この委託者については削除すべきではないかという意見の表明がありました。ですから,それとの関係で,委託者の申立権についての趣旨を,ちょっと御説明していただきたいと思います。
○中辻幹事 まず,質問の1点目についてでございますが,先ほど棚橋幹事の御質問に対しては,同一の受託者とする場合に限定してお答えしましたし,実際上考えられるのは,そのような場合が多いというふうに理解しております。ただし,公益信託の併合・分割を受託者が別である信託の間で行うということも論理的にはあり得ると思います。
  それから,質問の2点目ですけれども,最近の部会資料では,デフォルトルールとしては,申立権は委託者にも含めて与えますよと,ただし,信託行為で別段の定めがある場合には,委託者の申立権限は外せますよということで,そろえて提案しておりまして,そのような趣旨での提案ということでございます。
  委託者については,二つの考え方があり,いったん公益のために財産を拠出した後は,公益信託に委託者があまり口出しすべきではないという考え方がある一方で,公益のために財産を支出した委託者の意思というのは,公益信託設定後もある程度尊重されるべきであるし,受託者の監督の観点からも,そのトリガーはできるだけ多い方がいいという考え方もあるので,それらのバランスをとる意味で,委託者にはデフォルトで申立権を与えるが,信託関係人の中で委託者は外すという合意があれば,むしろそれを尊重するということで,この部会資料は作っております。
○中田部会長 第1の御質問の中で,二つの信託の併合の際に,両方からの申請が必要かどうかという点については……
○中辻幹事 失礼いたしました。そこについては,一般の信託と同様に考えておりまして,Aという信託とBという信託がある場合に,そのAという信託の申請だけで併合できるわけではなくて,Bという信託の関係者の合意も得た上で,それぞれについて,合意を取り付けた上で併合するというような立て付けになっていくと思います。
○中田部会長 新井委員,よろしいでしょうか。
○沖野幹事 念のためですが,受託者は同一でない可能性もあるという御説明でしたでしょうか。
○中辻幹事 事務局としては,公益信託の併合・分割の場面では,受託者が同一である例を念頭に置いて考えていたわけですけれども,論理的には受託者が同一でない公益信託間の併合・分割ということもあり得ないではないのかなと思ったのですが,すみません,私の理解が違っていれば,御指摘いただければ有難いです。
○沖野幹事 私が誤解しているのかもしれませんが,信託法の定義の2条の10項,11項では,いずれも受託者を同一とするというものに類型が限られていて,会社法とは少し違うと理解しておったものですから,それを前提にしているのではなかろうかと思われまして……。
○中辻幹事 沖野幹事の御指摘のとおりです。私の説明が不十分でした。信託法2条の併合・分割は受託者を同一とする信託の間で行うことが前提とされています。併合・分割の前に一方の信託の受託者を変更して他方の受託者と同一にすれば,受託者の異なる信託間における信託財産の移転を行うことは可能と言えますが,特に信託法の原則と違った取扱いを,公益信託の併合・分割について取り入れようと考えているわけではございません。
○中田部会長 ほかに何かございますでしょうか。
  また御意見あれば頂戴したいと思いますけれども,そろそろ,前にお願いしました佐久間参考人から,これまでの審議をお聞きになられまして,何かコメントございましたら。
○佐久間参考人 私,これまでの部会資料と議事録をざっと拝見いたしましたけれども,何というんでしょうか,相場観みたいなのを必ずしも承知しておりませんので,本日申し上げた意見との関係で,このように思いましたということだけ申し上げさせていただきます。
  既に,どなたかがおっしゃった意見ばかりでございますが,まず第1の1につきましては,合意による変更と裁判所の命令による変更は,段階としては同一であって,その後に,本来はいずれも,行政庁による認可・認定が控えているべきところだと私は思っております。しかし,本来であればというのは,裁判所が命令をするというときにつきまして,その2段階をそのまま維持するというのには,必ずしも合理性があるとは思えないからです。初めに意見を述べさせていただいた際には,受託者のところで申しましたけれども,裁判の中で,行政庁の認定・認可についての意見が表明されるという機会が設けられればいいのではないかと思っております。
  それから,公益信託の目的の変更とそれ以外の変更につきましては,目的と目的事務というのは,一応概念的には区別されるものであると思います。ただ,信託行為の定めに目的として書かれているものが,目的事務を抜きにして解釈できるかというと,それは難しいところがございます。そこで,その目的事務に書かれているところも含めた目的の解釈で定まったところが変わるのでなければ,それは第1の1であり,変わるのであれば,第2の2だというふうに考えております。
  それから,第1の2に関しましては,構造としては同じですので,第1の1について今申し上げたことで尽きるのだろうと思いますけれども,先ほど申し上げた意見との関係では,私は,委託者が信託行為の定めにおいて許容している,許容というのは,積極的に許容しているか,あるいは反対しないということか,それはどちらでもあり得ると思うんですけれども,それがあって初めて,目的の変更というのは,事情変更のような場合は別にいたしまして,許されていいものになるのではないかと思っております。
○中田部会長 ありがとうございました。
  そのほか,第2について御意見ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。
  最後に,次回の日程等について,事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回の日程ですけれども,少し間があきまして,9月12日(火曜日)ということになります。時間はいつもどおり,午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省ですが,まだ具体的な場所は決まっておりませんので,決まり次第,改めて御連絡いたします。
  9月12日の部会では,事務局の方で,公益信託法改正の中間試案のたたき台となる部会資料を御用意いたしまして,皆様に御審議いただくことを予定しております。
○中田部会長 それでは,ほかにございませんようでしたら,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会 第42回会議 議事録




第1 日 時  平成29年6月6日(火)    自 午後1時30分
                        至 午後5時26分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題    公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討

第4 議 事 (次のとおり)

議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第42回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,能見委員,岡田幹事,島村幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席です。
  では,本日の会議資料の確認等を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。
  事前に部会資料41,「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(4)」を送付させていただきました。また,参考人としての御説明を本日予定しております東京大学の山本隆司教授から,御説明に用いられる資料を頂いておりますので,当日配布資料として机上に置かせていただいています。
  これらの資料がお手元にない方がいらっしゃいましたら,お申し付けください。よろしいでしょうか。
  それから,次回7月4日の部会には,同志社大学の佐久間毅教授を参考人としてお招きすることになっておりますが,秋以降は,公益信託法の見直しに関する中間試案のたたき台についての検討に入っていきたいと考えておりまして,今年9月から12月までの日程を確保させていただきました。7月4日の部会が終了した後,8月はいったんお休みで,9月から従前どおり月1回のペースで今年の12月まで部会を開催します。来年,平成30年1月以降の日程につきましては,もう少し先の時点で調整させていただければと存じます。
  皆様には,御多忙のところ誠に恐縮ですが,何とぞよろしくお願いいたします。
○中田部会長 本日は,参考人として東京大学で行政法の研究,教育をしていらっしゃいます山本隆司教授にお越しいただいています。山本教授には,お手元の「公益信託を成立させる行政行為について」と題する資料を御用意いただいています。この資料に基づいて,40分程度お話を頂き,その後,若干の質疑応答の時間を設けることにしたいと思います。
  その後,少し短めの休憩を挟みまして,休憩後に部会資料41について御審議いただく予定です。
  山本教授におかれましては,御厚意によりまして,本日の御審議の方にも御同席いただけるものと伺っています。
  それでは,山本参考人,どうぞよろしくお願いいたします。
○山本参考人 ただ今紹介を頂きました山本と申します。
  私は信託法の専門家ではありませんし,ましてや公益信託について知っているというわけでもございません。それから,この場の審議につきましても,この間の経緯を存じ上げているわけではございません。したがいまして,今日はお話をいたしますけれども,かなり的外れな話になってしまうのではないかということを恐れております。その点は,何とぞ御容赦を頂きたいと思います。
  それでは,お手元の資料に,ほぼ今日お話しすることを全て書いてございますので,これに沿ってお話をしてまいります。
  私に与えられました課題は,立法論として,公益信託の成立要件として,どのような法的性質の行政行為を考えることができるかと,そして,公益信託がそのような行政行為によって成立しなかった場合であるとか,あるいは行政行為が事後的に取り消された場合に,それぞれどのような法的効果が生じるのかと,具体的には,信託法により受益者の定めのない信託が成立するかという点でございます。これを考えるに当たりまして,まず伝統的に行政行為の分類論,類型論とされてきたものについて,1のところで大まかにお話をしたいと思います。
  この行政行為の分類学というのは,当時の法律行為論にならいまして,美濃部達吉教授という戦前の大学教授が言ったものを,戦後の田中二郎教授が一部モディファイした上で継承した分類論でして,下の表に書いてあるのがその概要です。これは学問上の名前でして,法令上こういう言葉が使われているとは限りません。例えば,ここで命令的行為として挙がっている許可が法令上は認可であったり,逆に,ここで認可と挙がっているものが法令上は許可と表現されているというようなこともありますので,これは法令上どういう名称を使うかということと直接の関係はないということを,まずお断りしておきます。以下の話も,そういうものだと御理解ください。ただ,この分類論については,既に強い批判が存在するところでございます。
  2ページにお移りいただきまして,実際上,今からお話をすることと関係のある批判について申し上げれば,第一にこの分類学においては,多様であって組み合せることが可能な複数の分類の軸が含まれているにもかかわらず,それらが整理されないで,それぞれ異なる観点から定義された諸類型が単純に列挙されていると。例えば,一番大きな分類項目である法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為という枠なのですが,例えば,前者はどのような内容,性質の私人の法的地位を対象として規律するかという基準で分類されているのに対しまして,準法律行為的行政行為というのは,私人の法的地位に対してどのような影響,強い効果,弱い効果を持つかという基準で分類されております。けれども,これは,本来は,縦軸,横軸のように同時に適用されるべきではないかといったような批判でございます。要は,いろいろな分類の軸が混ぜこぜになっているということでございます。それから,第二に,こういった行政行為の各類型が,必ずしも行政作用とかその対象となる私人の法的地位の実体的な性質を反映していないという批判でございます。
  こういうことがありますので,現在では,学説上,この分類学というのは余り重視されておりません。例えば,ここに挙げました宇賀克也教授の本などにも,行政行為の分類という形でこういったものは挙がっておりません。しかし,具体的な法制度を設計する際の手掛かりにはなるということがありますので,実務上は今でも使われることがあると承知しております。
  ただ,これを使うといたしましても,以上のような批判があるということを踏まえて,一体この分類がどういう基準を前提にしているのか,こういった基準が行政過程においてどのような意味を持つかということを明確にしないと,何か分類をすれば,そこからあらゆる効果,あらゆる答えが出てくるかのような誤解が生じる可能性がありますので,その点はよく注意をして,この分類を使わなくてはいけないということでございます。
  ここで手掛かりにしたいのは,その次にあります認可と,それから確認という概念でございます。
  まず,認可の方なのですけれども,これは,学問上の定義としては,行政庁が「第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成せしめる行為」ということで,例えば,一番典型的に挙げられるものが,農地法3条による農地等の権利移転の許可,それから,実はかつての,昔の民法の公益法人設立許可が学問上の認可の例として挙げられてまいりました。
  こういった認可の中には,学問上の許可の性質を併有するものがあるということが,従来から指摘をされてきました。この許可というのは,「一般的な禁止を特定の場合に解除し,適法に一定の行為をすることをえせしめる行為」というものを指しまして,この農地法上の許可がその例です。つまり,この農地法上の許可を得なければ,農地の売買等をしてはならない,しかし,許可を受ければ売買をすることができるようになるというのが許可の効果でして,学問上の許可としての効果ですし,その許可を得なければ法律行為としての効力が発生をしないと,売買契約の一番本体に当たる部分の効果は発生をしないというのが,これが認可としての効果ということになります。
  この場合の許可と認可の関係を考えますと,認可制というのは,許可制の趣旨を徹底させるという意味の制度と言えます。つまり,許可の対象行為を一般的に禁止し,要件を満たす場合にだけそれを許すという点は,認可制の性質を併有しない単純な許可制においても同じなのですが,しかし,単純な許可制の場合には,許可を得ていない行為に対して,不利益処分とか刑罰などの制裁を課す可能性が定められることがあるわけですが,許可制の性質を併有する認可制の場合には,更に法律行為としての効力が一律に否定をされるということがございます。許可制,単純な許可制の場合ですと,法律行為としての効力が場合によっては否定をされることがあると,例えば,民法90条違反であるというふうな形で否定をされることが場合によってはあるわけですけれども,一律に画一的に否定をされるわけではないのに対して,ここでいうところの認可制がとられていると,その法律行為としての効果は画一的に,認可を得ていなければ一律に否定をされるということになります。
  ここでは,このように許可制の性質を併有する認可制が,認可の対象行為を規律する効果を行為規制効と呼んでおきたいと思います。要は,許可とくっ付いた認可制の効果ということです。
  ただ,実は,先ほどの公益法人設立許可のように,認可制には,今申し上げた行為規制効を趣旨目的にするとは言えないものがあります。かつて公益法人設立許可を受けていない団体については,公益目的で活動することを禁じられていて,それで,それが許可を得ることによって初めてそれができるようになるというように理解されてきたわけではありませんで,むしろ,いわゆる権利能力なき社団,財団として設立許可を受けた公益法人に近づけた法的な取扱いがされてきたところです。
  ですから,こういった場合に,認可制の意味は一体どこにあるのかと申しますと,一定の要件を満たして認可を受けた主体に,社会で活動するための一定の法的な地位を定型的に認めると,つまり,一定の権利を定型的に認め,同時に義務を課すということにあろうかと思います。これを,以下では認可の地位設定効ということにいたします。
  その次の段落は飛ばしまして,この認可によって成立する法的地位は,法律行為に基づく民事法上の地位に限られません。例えば,伝統的な行政行為の分類論で申しますと,公共組合の設立認可というものが認可の例として挙げられることがあるわけですが,その効果の中心は,民事法上の地位の成立というわけではなくて,組合に公権力を認めるということにあります。土地区画整理組合とか土地改良区といったものが公共組合の例ですけれども,そういうことでございます。
  かつての公益法人設立許可も,法人格の成立という民事法上の効果と監督関係の成立という行政法上の効果とを併有しておりました。ただ,最近の教科書では,その点,認可は法律行為の法的効果を完成させると限定をする定義も見られますけれども,これは,先ほど申し上げた行為規制効を持つ認可を想定したものなのであって,認可一般に妥当するというわけではなかろうと思います。認可一般に妥当するものは,むしろこの認可の地位設定効の方であろうと思われます。
  そこで,公益信託の話にようやく入るわけですが,公益信託を成立させる行政行為は,少なくとも民事法上は当該信託について信託法上の受益者の定めのない信託に係る存続期間の制限が適用されなくなるという効果,それから,行政法上は,限定された範囲ではありますが,行政庁による監督関係を発生させる効果を持つことが想定されております。このことを考えますと,以下で検討する公益信託を成立させる行政行為は,こういった地位設定効を有するという意味で,認可の性質を持っているということになろうかと思います。ただ,行為規制効を持つかどうかというのは別の問題でして,これは後で述べたいと思います。認可が地位設定効を持つということを確認しておきたいと思います。
  逆に申しますと,行為規制効を持たない認可については,地位設定効に反しない限りは,認可を受けていない行為に法律行為としての効果を認めるということも考えられます。公益信託を成立させる行政行為が地位設定効を持つ認可であるとしても,認可を受けていない信託に公益信託法上の効果ではなく,信託法による受益者の定めのない信託としての効果を認めることは,これはあり得るということになります。こうした効果を認めるべきか否かという点は,したがって,その地位設定効を持つ認可の性質を更に別の角度から考えることによって決めなくてはいけないということでございます。
  今日の話は,全体的に,結局行政法上はいろいろな制度ができますと,いろいろな選択肢がありますという結論で,その点では余り長々とお話しても仕方がないところがあるのですけれども,大枠として,この枠はなかなか超えるのが難しいけれども,その枠の中でいろいろな制度の選択肢を考えることができると,こんなような話になろうかと思います。
  次に,もう1点,確認についてでございますが,これは,「特定の事実又は法律行為に関し疑い又は争いがある場合に,公の権威をもってその存否又は真否を確認する行為」と定義をされておりまして,恩給権の裁定とか発明の特許とか,こういったようなものが例示をされております。これらは,既に成立をしている私人等の法的地位を対象とし,その意味で,私人の実体法上の法的地位を変動させない行政庁の行為,あるいは,私人等の法的地位を対象にするのですが,当該法的地位について決定し規律する効果までは持たない,言わば弱い効果しか持たないというものとして括ることができます。ただ,では,どういう効果を持つかという点は,実は法律によってばらばらでして,統一的に定義をすることはできません。
  以上のような性質があるので,この確認という行為には,行政庁に裁量が基本的にないということになります。公益信託を成立させる行政行為につきましても,統一的な行政庁が所管をして,当該行政庁は法令上の基準に従って判断をする,裁量はないという制度にすることが想定をされているのではないかと思いますので,以下でもその点は前提にしたいと思います。行政庁に裁量が認められない行政行為を確認的行為と表現することがありますが,その意味で申し上げれば,以下で検討する行政行為は,その意味の確認的行為ということになろうかと思います。これも,以下の話で前提にいたします。
  ただ,実は,確認でない行為だから,逆に行政裁量が常にあるかというと,そういうことはありませんで,現在では,行政裁量が認められるか否かという点については,行政行為の分類学から独立の基準によって判断をされますので,先ほどの認可の性質を持つものについて裁量がないということも,これはあり得るということになります。したがいまして,公益信託を成立させる行政行為の効果は,以上のことから,次の2の方に入りますけれども,地位設定効を持つという意味で認可の性質を持つと。基本的に裁量が認められないという意味で,確認的行為であると考えられます。それで,以下で更に詳細にこの公益信託を成立させる行政行為の法的性質として考えられるものの選択肢を示していきたいと思います。
  まず,一つ考えられますのは,地位設定効だけでなく行為規制効も持たせるという選択肢です。言わば,強い効果を持つ認可として考えるという考え方です。つまり,受益者の定めのない公益目的の信託は,認可を受けなければ行ってはいけないと,信託としての法的効果を持たないという考え方です。
  これは,現行の公益信託法の1条及び2条1項の体裁に合うようにも見えるわけですが,ただ,この考え方は,行為規制効を正当化する公益上の理由があるということを前提にいたします。認可を受けなければ,受益者の定めのない公益目的の信託を行ってはならないという,これは規制ですので,それを正当化するだけの公益上の理由がなければ,財産権の過度な制限に当たるのではないかという問題が生じます。公益目的事業を行う団体は,公益認定を受けなくても一般社団法人として活動ができるのに,公益目的の信託について,これだけ強い禁止をするというのはなぜなのかということの説明が求められることになります。
  ここでの議論も,ここまで強い効果を持たせるということは,恐らく想定されていないのではないかと思います。そこで,公益信託を成立させる行政行為に,こういった行為規制効は認めないで,地位設定効だけを持たせるということが考えられます。この場合には,受益者の定めのない公益目的の信託は,こうした行政行為を受けていなければ,公益信託法上の効果は生じないわけですが,信託法上の受益者の定めのない信託としての効果は持つ可能性があります。そこで,こういった考え方を採る場合なのですが,更に,何を行政行為の対象にするかによって,制度の選択肢が分かれます。
  一つには,信託法に基づいて設定をされ,効力を持っている受益者の定めのない信託に対して行政行為を行い,公益信託としての効果を発生させるということが考えられます。言わば,信託法上の受益者の定めのない信託に上乗せをするような形で認定をするものです。これは,ちょうど一般法人法によって設立された一般社団法人,一般財団法人が公益認定を受けるという仕組みとパラレルな考え方ということになります。以下では,これを認定と便宜的に呼ぶことにいたします。
  ただ,信託の制度と法人の制度には違いがありますので,公益認定に相当する行政行為について,これをパラレルにそのまま持ってくるということが本当にできるかどうかという点は,検討を要する点です。つまり,設立時社員らが,一般社団法人又は一般財団法人を設立するプロセスと,当該法人が公益認定を受けるために意思決定を行うプロセスというのは,一応区別が可能です。したがいまして,設立された一般社団法人又は一般財団法人を対象にして,2段階目に公益認定を行うという制度は,これは関係者が取る行動のプロセスに適合すると解することができるわけですが,受託者が公益認定を受けるために取る行動は,その信託行為に基づいて行われると考えられますので,信託行為によって信託を設定すると,まずそのプロセスが第1段階としてあって,そして,受託者が公益認定を受けるために行動を取るというプロセスが第2段階であるという,はっきりとした区別ができないということがあります。
  したがいまして,この両者の区別を前提にして,信託法によって設立をされて効力を持っている信託に対して,言わば第2段階として公益認定を行うという制度は,必ずしも関係者が取る行動のプロセスに適合しないものがあるのではないかと。具体的に申し上げれば,公益信託としての効果が生じる前に,とにかく信託法に基づいて受益者の定めのない信託が有効に成立をするという期間が必ず必要になるわけですが,こういったことが関係者の不利益にならないかどうかということを検討する必要があろうかと思います。
  特に問題になるのは,委託者が公益信託の認定を受けられない場合には,信託を有効に成立させないという意思の場合です。この場合に,信託行為において公益信託の認定を受けられないことが確定することを解除条件として,一旦とにかく信託を成立させるという方策も考えられるわけですけれども,しかし,こういうことを絶対にやらなくてはいけなくなるということが合理的なのかという点は,考える必要があろうかと思います。
  そこで,もっと簡単に考えるという選択肢があろうかと思います。つまり,公益信託を設立させる行政行為の行為規制効を否定して,地位設定効だけを認めるという場合にも,単純に公益信託を準備する受託者の状態に対して行政行為を行うと,公益信託を成立させるという制度が考えられます。こういたしますと,信託法による受益者の定めのない信託としての効力の有無から,ニュートラルに公益信託を成立させる行政行為の制度が考えられることになります。これを,以下では,弱い効力を持つ認可ということにいたします。(2)の先ほどの認定との違いは,行政行為の効力そのものというよりは,行政行為を行う前の,言わば初期状態をどういうものとして想定するのかということによるということになります。
  こうした認可の制度,今申し上げた弱い効力を持つ認可の制度におきましては,公益信託の認可を受ける前に,信託法上の受益者の定めのない信託の効力を認めるか否か,あるいは,受託者が認可を申請したものの認可を受けることができなかったという場合に,信託法上の受益者の定めのない信託が成立するか否かという点は,基本的には信託行為の解釈によるということになろうかと思います。これは,この制度の直接の枠の中の話ではなく,基本的に信託行為の解釈によって決まるということかと思います。公益信託の認可を受けることを停止条件として信託を成立させる旨,あるいは,逆に公益信託の認可がない限り,信託法上の受益者の定めのない信託とするという定めが信託行為にあれば,それぞれに従うということになります。
  ただ,これがないときには,結局,信託行為の解釈に困難が生じる可能性があるので,そこで,その次のところですが,一種のデフォルト規定を法律に定めておくということが考えられようかと思います。つまり,受益者の定めのない公益目的の信託を設定する信託行為に,信託法上の受益者の定めのない信託の成否について定めが置かれていない場合に,どちらにするかということを法律に定めてしまうということで,一方で,公益信託の認可を受けることを停止条件として信託を成立させる旨の定めが信託行為になければ,信託法上の受益者の定めのない信託としての効力が認められるということを法定する選択肢,言わば,信託法上の受益者の定めのない信託の成立を原則とするというデフォルトの規定,他方で,逆に,公益信託の認可がない限り,信託法上の受益者の定めのない信託とする旨の定めが信託行為にない場合には,信託法上の受益者の定めのない信託は成立しないという,逆のデフォルトを設けるということが考えられます。それぞれ,以下では単に信託成立原則規定,信託不成立原則規定と申し上げます。
  私はこれ以上の判断はできませんので,どちらにするかということは,ここでの議論かと思います。結論的にといいますか,後での議論との関係で申しますと,今日お配りを頂いているこの補充的な検討という資料がございますが,この第1のところに,公益信託の効力の発生時期ということで,甲案,乙案,丙案と並んでございますが,おおむね,今私が申し上げたこととの対応関係で申しますと,6ページの(1),一番最初に申し上げた認可,強い効力を持つ認可が甲案に相当すると思われます。次の6ページに認定と書いた部分ですが,これは乙案の出発点に対応するかと思います。ただ,内容的には本当に乙案なのかということが若干問題になりまして,内容的には,先ほどの乙案は,むしろ私の書いたものの7ページの(4)の信託成立原則規定をデフォルトとして設けるというのに近い見方になっているのではないかと。それに対して丙案が,7ページのデフォルトとして信託が成立をしないという信託不成立原則規定という考え方に対応するのではないかと思われます。
  そこで,次ですが,それでは,この公益信託の認可ないし認定が取り消された場合に,どのような法的効果が生じるのかという,次の話に移ります。8ページです。
  具体的には,信託法上の要件を充足する限り,同法による受益者の定めのない信託として信託の効力がなお存続をするのか,それとも存続しないのかということでございますが,これは,先ほどの公益信託を成立させる行政行為をどういう性質を持つものとして制度設計するかによって,答えは変わってくるだろうと思われます。
  以下では,非常に極端な場合,公益信託の認可ないし認定が信託法166条1項の定めるような事由によって取り消されるといった場合には,これはもう信託法による信託を存続させる余地はないと考えますので,これはちょっと除いて考えます。もっと普通の場合を考えたいと思います。
  まず,先ほどの2で述べたことと全く同じようにパラレルに考えるということが考えられます。すなわち,まず,強い効力を持つ認可の制度を採る場合には,受益者の定めのない公益目的の信託が信託法によって効力を持つことが否定されますので,結局,公益信託の認可が取り消されれば信託は終了すると,これは一切効力を持たないということになります。
  逆に,(2)の認定の制度を採る場合は,公益信託の認定が取り消されますと,信託法により受益者の定めのない信託が復活をするということになります。ただ,特段の定めがある場合,公益信託の認定を受けられないことが確定することを解除条件として信託を設定する旨が信託行為に定められている場合は,これは別でありますが,原則としては,信託は復活をすると。信託法により受益者の定めのない信託が復活する,こういうことになりますので,先ほどの二つの選択肢を採ると,制度としては,終了時も同じように考えることになります。
  それに対して,2の(3)で申し上げた弱い効力を持つ認可の制度を採る場合は,少し話が複雑になります。まずは,同じように考えるということも,もちろん可能です。すなわち,公益信託の認可が取り消された場合に,信託法による受益者の定めのない信託として,信託の効果が存続するか否かは,基本的に信託行為の解釈による。その判断は,公益信託の認可を受ける前及び認可を受けられなかった場合に,信託法による受益者の定めのない信託が有効に成立するか否かの判断と基本的に同じということになりますので,先ほどの信託成立原則規定はそのまま信託の終了時にも妥当すると,あるいは信託不成立原則規定は終了時にも同じように妥当するという考え方です。
  ただ,次の8ページから9ページの方ですけれども,今のこの認可の制度は,実は,信託法による信託の成否からニュートラルな制度ですので,今申し上げたのとは別の選択肢として,公益信託の設定時と終了時との間で,信託法による受益者の定めのない信託の成否について,別の考え方を採るという可能性も排除していないのではないかと思われます。
  ここの部分は,私はよく分からないので,ちょっと間違いかもしれませんが,弱い効力を持つ認可の制度によりますと,公益信託の認可を受ける前及び認可を受けられなかった場合に,信託法によって受益者の定めのない信託としての効力を認めるか否かを決定するに当たっては,信託を設定する当事者の意思が主な考慮要素になるだろうと。これに対して,終了時ですけれども,この場合には,公益信託の終了までに信託財産が公益信託として運用されているということが,やはり考慮要素となろうと思われます。つまり,具体的には,公益信託の終了後も,信託法による受益者の定めのない信託を存続させる場合には,財産を計算して分けるという必要が出てくるようです。受託者は,公益社団法人,公益財団法人の場合の公益目的取得財産残額に相当する額を算定し,他の類似目的の公益信託の信託財産としたり,類似事業を目的とする他の公益法人等に贈与するといったような措置を採ることによって,財産を分ける必要があると。これは,かなり複雑な計算措置になり,当事者にとっても制度を運営する国や都道府県にとってもかなりのコストが掛かると。
  それから,公益信託の終了後にこのように複雑な計算及び措置を経て分けられた財産によって信託法による信託が存続することが,公益信託が社会的に高い信認を得て第三者から寄附等を受ける上で,若干のマイナスにならないかどうかという点も検討する必要があろうかと思います。
  以上,申し上げたここの段落のところは,私は全く素人でよく分からないので,むしろ皆さんで御議論いただきたいと思っております。
  そこで,とにかく,公益信託の認可がない状態で,受益者の定めのない公益目的の信託に信託法上の効力を認めるか否かを信託行為の解釈によって判断するに当たって,公益信託の終了時には,設定時に比べて効力を否定するという方向で解釈,判断をするということが考えられるのではないかと思われます。つまり,デフォルト規定を法律に定めるとすれば,むしろ終了時には信託不成立ということにすると。つまり,公益信託の設定時について,信託法上の受益者の定めのない信託の成立を原則とするデフォルト規定を置くという場合であっても,公益信託の終了時については,信託法上の受益者の定めのない信託の不成立を原則とするというデフォルト規定を法律に定めるというわけです。すなわち,公益信託の認可を受けることを停止条件として信託を成立させる旨の定めが信託行為にない限り,信託法上の受益者の定めのない信託としての効力が認められるということを法定する場合にも,一旦成立をした公益信託は,公益信託の認可がなければ信託法上の受益者の定めのない信託とする旨が信託行為に定められていなければ,終了時には信託法上の信託としては存続しないということになります。
  更に進んで,一切信託の存続を認めないということも考えられます。ただ,こういう制度が正当化されるのは,かなり強い理由がある場合で,先ほど申し上げたように公益信託終了後に信託を存続させないことの要請が当事者の意思の自由を制限する理由になるほど強いという場合に限られますので,ここまで強い理由があるかどうかという問題になろうかと思います。
  やはり,今日配られている先ほどの補充的な検討の資料で申しますと,甲案は,これは先ほどの甲案,あるいは私の資料で申し上げれば,6ページの(1)に述べた強い効力を持つ認可の場合を想定しているか,あるいは私の資料の9ページの(3)のところに書いた,いわゆる弱い効力を持つ認可の制度においても,一切信託の存続を認めないという考え方かと思われます。
  それに対して,乙案の方ですけれども,こちらは,私の資料で申しますと8ページから9ページにかけて,(2)という形で信託の成立可能性を縮小すると,具体的に言えば,終了時には信託の不成立をデフォルト規定とするという考え方に対応しているのではないかと思われます。乙案は8ページから9ページの(2)の考え方におおむね対応していると見られます。
  最後に,これはほんの付け足しですけれども,認可ないしは認定を受けた公益信託に対して,行政庁及び裁判所がどのような権限を持つ制度が考えられるかという点でございます。これは,今日のテーマから少し外れますので,飽くまで参考程度ということでございますが,述べたいと思います。
  公益信託の認可ないし認定を行った行政庁は,信託が認可ないし認定の基準に適合しなくなったという場合や,あるいはその他法令違反があるといったような場合には,認可ないし認定を取り消すことができます。これを行政行為の撤回と申します。公益信託法には,この公益信託の認可の取消しを根拠付ける規定が実は現在置かれておりませんが,しかし,最高裁判所の判例によりますと,一般に法律上の明文の根拠規定がなくても,許認可等を行った行政庁が許認可を取り消すことは可能であると考えられておりますので,現行法の下でもこれは可能なのだろうと思います。
  近時の法律においては,しかし,この取消しについては明確に法令上の規定を設けておくというのが普通かと思われます。実際,法人に関する公益認定法にもそういう規定がございます。そういたしますと,更にこれに加えてもっと前の段階で,言わば違反状態の是正を求める勧告とか命令という制度も,これに付随をしてくるということになろうかと思います。
  それから,更に,公益信託の認可ないし認定を一旦受けた事項を関係人が変更するというときに,認可ないし認定の基準がなお満たされているかどうかということをチェックするために,行政庁による変更の認可ないし認定の制度を置くことが考えられます。これに加えて,重大な変更でなければ,関係人が行政庁に届出をするだけでオーケーであるという制度も考えられます。行政庁の方がそれでは基準に適合しないと判断をする場合には,先ほどの勧告とか命令という制度を使っていくということになります。
  以上の制度を設けることは,恐らく認可ないし認定の制度を採る以上は,必然的についてくることであろうと。ここまでは,ほぼ必然なのではないか。これと違う制度も考えられないことはありませんが,かなり強い理由が必要になるのではないかと思います。要は,一旦とにかく許認可をするときには行政庁が判断するのだけれども,あとは知りませんという制度になりますので,それは,なかなか考え難いのではないかということでございます。
  ただ,ここから先の部分でございますが,現行の公益信託法は,今申し上げた権限のほかに,いろいろ行政庁の権限を認めております。これは,主務官庁がそれぞれの公益信託によって公益が実現されるようにという目的で,それぞれの公益信託を積極的に方向付ける権限を包括的に持つという考え方の現れであろうかと思いますが,しかし,ここで考えている新たな公益信託制度においては,そうではなくて,統一的な行政庁が公益信託が法令上の基準を満たすように監視をする権限を持つにとどめるということであろうと思われます。これが,考え方のベースラインであろうと思われますので,したがって,公益信託の認可ないし認定及びその変更の認可ないし認定については,基本的に行政庁に裁量が認められないということは先ほど申し上げたとおりですし,関係人の申出に基づかないで,職権でいろいろなことをやるということを正当化するのも難しいだろうと。
  ただ,問題になりますのは,信託法が現在裁判所の権限としている関係人の一部からの申立てによるもろもろの処分,例えば,受託者の辞任の許可とか新受託者の選任とか,あるいは信託の終了命令等といったように,関係人の一部から申出があったときに裁判所が処分をするという,こういう制度でございます。これらは,先ほど述べました法令適合性を審査する趣旨にとどまらず,信託の利害関係人の諸利益を調整して保護するという目的の制度と解することができます。こういった権限が,現行法上は,先ほどの(2)で述べましたように,公益信託によって公益を実現させる包括的な行政庁の権限があるというところに,言わば隠されていたというか,そこに全部含まれていたということであろうかと思いますが,しかし,新たな公益信託制度においてはベースラインがもっと下がりますので,そうすると,こういった権限をどういうふうに,どこに持たせるかという問題が浮上してくるということでございます。
  これについても二つの考え方があり得て,一つは,公益信託についても信託の関係人の諸利益を調整し保護する趣旨の処分を行うというのであれば,これは裁判所がやるのにふさわしいであろうという考え方です。この点で,信託法上の信託と変わらないという考え方が一つにはあり得ようかと思います。こう考える場合には,裁判所が公益信託の認可ないし認定の審査対象を直接規律することになりますが,認可ないし認定とは別の切り口から規律を行うということですから,別にこれが法制度としておかしいということはないであろうと思います。矛盾,抵触はないだろうと。裁判所は,公益信託の認可ないし認定の基準の範囲内で処分をすべきことになり,制度としては,処分をした場合には,公益信託の認可ないし認定を行う行政庁に通知をするといったような制度を設けておけば足りるのではないかと思われます。
  ただ,もちろん別の選択肢もあり得ます。つまり,公益信託及びその変更の認可ないし認定を行うのは行政庁ですし,その基準が守られるように監視を行うのも行政庁です。したがいまして,それぞれの公益信託に関する情報を持っていて,公益信託の関係人と接触をしているのは行政庁だと考えますと,それから,もう一つは,他の行政機関から必要な情報を迅速に集めることができるのも行政庁であると考えますと,こういった利点を生かして,公益信託の認可ないし認定を行う行政庁がいろいろな処分を行うということも考えられるのではないか。あるいは,こちらの方が窓口がとにかく1本になりますので,関係人にとって分かりやすいということもあるかもしれません。ただ,この場合には,具体的な手続をどうするか,行政手続法とか行政不服審査法とか行政事件訴訟法とか,この辺の標準的な手続をそのまま全部使うのかといったようなことは,検討しなくてはいけないであろうと思います。
  それでは,おおむね時間ですので,これで終わります。
○中田部会長 山本参考人,どうもありがとうございました。非常に有益な御説明を頂きました。
  ただ今のお話につきまして,御質問などございましたら,御自由にお出しいただければと存じます。
○深山委員 ありがとうございます。非常に分かりやすく整理していただいて,勉強になりました。
  お話の中で,いわゆる公益認定なり認可のない公益を目的とする受益者の定めのない信託の位置付けについて,その設定時と終了時をパラレルに考えるということが一つ考えられる,しかしながら,必ずしもパラレルには考えない,設定時の規律と一旦なされた認可,認定が取り消されたときの終了時の規律をそろえないという可能性もあるのだということを御指摘いただいて,なるほど,そのとおりだなと思った次第なのですが,その延長線で,設定時と異なるときに,設定時よりも信託成立の可能性を縮小する可能性があるという御指摘があって,それはそれで分かるのですが,逆に,設定時よりも信託不成立の可能性を縮小する可能性,逆のねじれという可能性も,少なくとも論理的にはあるのではないかということを感じました。
  単に論理的な可能性だけではなくて,設定時と終了時の違いというのは,設定時はまだこれから信託を設定しようという段階で,まだ何も起きていないわけですが,終了時の方は既に,どのぐらいの期間かはともかくとして,公益信託としての実績といいますか,運用がなされているという既成事実なるものがあります。その違いをどう見るかで,それはどちらにも振れるのではないか。つまり,もう既にその信託の運用がなされているので,認定が,それなりの理由があって取り消されるのでしょうが,取り消されたからといって,いきなり終わりにしてしまうと,やはり不都合が生じる場合もあるのではないかと思います。
  少しそこはソフトランディングを考えて,未来永劫とは言わないまでも,一定期間はむしろ受益者の定めのない信託としてでも残しておいてソフトランディングを図るというような,これは理屈というよりは実務的なニーズがあるような気もいたしまして質問させていただく次第ですが,そのような方向での,今の御説明と逆の方向での違いを作るということもあり得ることでしょうか。
○山本参考人 ええ,私もちょっとそういうことは考えたのですけれども,まず,論理的にはあり得ると思います。私が申し上げたのは,ここでいう弱い効力を持つ認可の制度から,成立時と終了時の間をそろえなくてはいけないといったような論理的な帰結は生じないだろうと,そこは変える可能性があるだろうということを申し上げましたので,そうだとすれば,逆に,なるべく信託をそのまま残すということもあり得るだろうと思います。
  問題は,したがって,実質的にそういう選択をするかどうかというところで,そこが余り自信がなかったものですから今日は申し上げなかったのですけれども,一つ,今,正に深山委員が言われたようなことが考えられるかと思います。一定期間存続をしている状態をすぐになくしてしまうのは社会的な損失が大きいだろうということで,むしろ一旦成立したものはなるべく残した方が,社会的にむしろ有益であろうと考えると,逆の選択肢もあり得るかと思います。
○中田部会長 深山委員,よろしいでしょうか。
○深山委員 はい。
○吉谷委員 信託協会から来ております三菱UFJ信託の吉谷でございます。
  レジュメを拝見して,いろいろと疑問な点がございまして,大きく3点ほどございましたのですが,まず,1番目の中心的なところについて御質問させていただきたいと思います。
  私どもは,元々立場としては,公益信託の前に目的信託を設定しなければならないという規律になっていると実務上は弊害があるので反対するという立場を採っておりまして,その立場からの質問という形になります。
  まず,内容の確認なのでございますが,御説明からしますと,私どもがやりたくないと思っているような目的信託を事前に設定するというやり方が認定というものになり,事前に設定しなければよいというものであれば認可の方になると,まず理解しております。ただ,その認可につきましては,事前に目的信託を設定して,それを公益信託に変えると,そういう変更の段階を認可するという方法もあり得るのでしょうかというところが一つでございまして,もう一つは,認可の御説明として,2ページ目のところに,「第三者の行為を補充してその法律上の行為を完成せしめる行為」というふうな御説明のくだりがございます。これを普通にイメージとして受け取ったところでは,例えば,認可を受託者となるべきものが得ようとするというときには,委託者との間で信託契約をまず締結して,その状態で認可を申請して,認可がおりたところで信託が成立するというふうなイメージを抱くところであります。
  ただ,実務で実際に行われているところは,現行法を基にした許可の制度の下でありますけれども,この場合は,まず許可を得て,その後に信託契約を締結するという手順を踏んでおります。このような手順というのが,ここで御説明の認可においても否定されることはないのだということでよろしいかどうかと,ここは実務上非常に気になるところでございます。
  もし契約は認可の後で行うということになりますと,そもそも認可がない場合には目的信託が成立するのかどうかという論点も出てきません。ですので,私どもとしては,それが認められるのであれば,今後もそのような手順でやるということが想定されるわけであります。
○中田部会長 3点とおっしゃいましたけれども,今のでよろしいですか。
○吉谷委員 一つずつお尋ねしようかと思ったのですが。
○中田部会長 今のが第1点でございますか。
○吉谷委員 今のが1個目なのです。
○中田部会長 分かりました。では,一つずつ。
  では,山本参考人,お願いできますでしょうか。
○山本参考人 第1点と最初に言われたのは何でしたか。
○吉谷委員 目的信託を事前に設定する場合は認定になって,目的信託を事前に設定しない方式であれば認可になるという理解でよろしいでしょうか。
○山本参考人 ここで,まず名前として付けている認定とか認可というのは,非常に便宜的なものでございますので,法令上の用語であるとか,あるいは学問上の用語とぴったりと当てはまっているという意味で,1対1の対応関係にあるわけではございませんが,7ページのところで,(3)として弱い効力を持つ認可と書きましたのは,今お話のあった,まず目的信託を設定しなければいけないかどうか,あるいは目的信託を設定しているか否かということから,いわばニュートラルに制度を作るという話でございますので,6ページの(2)の方で認定と書いたのは,まず目的信託を設定するという制度なのですが,(3)の方は,そこのところはこだわらないと。したがって,目的信託を設定していない,目的信託がない状態で認可を求めるということもあり得る,もちろん,目的信託を設定した後に認可を求めるということもあり得ると,そういうことでございますし,認可が得られなかった場合にどうなるかについても,いろいろな制度設計の仕方があるだろうということでございます。
  それから,2ページの(2)で,認可というときに,第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成せしめるというわけなので,まず,第三者の行為がなければならない。それが言わば目的信託の設定ということになってしまうのではないかと。この認可という概念の中に,まず目的信託を設定することが必要であるという含意があるのではないかと,そういうことですよね。
  その点に関して申し上げれば,実は,ここで言う第三者の行為が一体どういうものなのかということがございまして,行為規制効という形で一番強い認可の制度を考える場合には,何か法律行為があって,それを補充することになるのですが,認可と言われているものが全部そうかというと,必ずしもそうではないということがありまして,例えば,先ほどのように一定の準備行為があると。それで認可を受けて効力が発生するということも,認可の制度に含めて構わないのではないかと。
  典型的に強い認可を思い浮かべると,まず何か法律行為があって,それを補充するということなのですが,実は,ここでいう定義のところも,法律行為という限定はしていないのですね。法律上の行為というような表現が使われていて,本によっては法律行為と,例えば藤田宙靖教授の本などには書いてあるのですが,そこは今までは余り限定をしてこなかったので,したがって,今のお話でいうと,別に認可だから必ずまず目的信託の設定があって認可をするとしなければいけないというわけではないだろうと思います。
○吉谷委員 ありがとうございます。
  事実上の準備行為が先行する形でもいいのではないかと理解いたしました。
○山本参考人 はい,そういう制度を作ることもあり得るのではないかと思います。公共組合の設立認可などは,むしろそうなのではないかと思いますが。
○吉谷委員 ありがとうございます。
  続きまして,2点目を質問させていただきます。
  こちらは,まず,5ページのところで,「裁量をもたない制度とする」という御説明がされてありまして,裁量をもたない制度というのが後ろの方でも出てくるわけなのですが,ここの意味について確認させていただきたいと思っておりまして,その前に,「当該行政庁は法令上の基準に従って判断をし」となっております。「裁量をもたない」というのは,法令上の基準に従って判断をするということとほぼ同義なのではないかなと私は理解しまして,そのような理解でよろしいのでしょうかというところが疑問です。
  実務的な感覚からいうと,何ら裁量がないというふうな御説明だとすると,ちょっとよく分からないというところの実感があるのですけれども,例えば現在,本部会では認定あるいは認可の基準の受託者の資格として,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有するというような基準を設けるという提案があります。この能力の有無というのを客観的に評価するというのは,かなり難しいように思うのですけれども,そのような判断をこの基準に従ってするというのは,裁量という評価ではないということなのかなと理解をしております。
  そのような理解で仮に正しいとして,ここからが実は本題なのですけれども,11ページの4行目の辺りで「裁量が認められず」の後,「また」以下に,職権は「正当化することが難しくなる」と記載されています。この職権が正当化されないという理由のところなのですけれども,これが,私が先ほど理解したように,裁量を認めるべきではないのだということが法令上の基準に従うということとほぼ同義なのであるとすると,確かにその受託者を職権で選任するということは受託者を探索するようなことになりますので,法令上の基準に単に従うだけでは難しいことになるのだろうと思います。一方で,その認可,認定の取消しについては法令上の基準に従うということで,職権でできるのだと理解をいたしました。
  ただ,ここに記載されている中でも,受託者の解任というのがあります。受託者の資格要件については,認定基準のところにも記載されていますので,受託者の認定基準に従って判断するということであれば,裁量ではなくなって,職権の行為というのは行使が難しくないのではないかと考えるわけであります。
  元々なぜこのようなことを問題意識として持っているかというと,公益信託の場合は,受託者と信託管理人という2人の機関によって成り立ってしまうというところがありますので,その監督をする行政庁の役割が結構重いのでは,大きくなるのではないかなと考えているところがあるというわけでございます。
○山本参考人 最初の点でございますけれども,5ページの「法令上の基準に従って」というフレーズと「裁量をもたない」というフレーズが同義かということでございますが,おおむね同じように考えていただければよろしいかと思います。
  厳密に申し上げると,法令でどれだけ細かく決めているかということと別に,裁判所に行ったときに,行政庁の判断を裁判所が一定程度尊重して,やや控えた審査をするのか,それとも裁判所が完全に行政庁の行った判断を見直すのかという点で,裁量がある,ないということも言いますし,一般に裁量という場合は,むしろこちらの,裁判所と行政機関との関係を考えていることがむしろ多いのですが,恐らくここで議論する際には,余りそこのところは細かく考える必要はないかと思いますので,ほぼ,基準を定めていて,それに従って行政庁が動くということと,ここでいう裁量はほぼ同義と考えていただいて結構かと思います。
  ただ,厳密に申し上げれば,行政庁と裁判所との関係と,行政庁と立法機関との関係とは若干異なるところがあるということでございます。
  それから,後の方の11ページの受託者の解任の部分の話でございますが,これは,私も個々に厳密に検討した上で自信を持って書いたところではございません。個別に,それぞれ検討する必要があろうかと思います。
  ただ,考え方としては,例えば,受託者が非常に不適任であるというようなときには,まずは先ほど述べましたように,基準に適合していないということであれば,それでもって是正を命令すると。それにも従わず,一切改善がないということであれば,究極的には認可ないし認定を取り消すという手段を,まず行政庁は持っていますので,それに加えて,更にこういう解任という特別な権限を持たせる必要があるかどうかという問題であろうと思います。
  本当に今述べた認可,認定の取消しとか,あるいは是正命令というだけでは足りず,更にそれを補うような意味で解任の制度が必要ということであれば,そうした権限を行政庁に持たせることも考えられるのではないかと思いますが,問題は,認可に関わる制度で間に合わないのかどうか,それでは十分でないのかどうかということだろうと思います。
○中田部会長 よろしいですか。では,吉谷委員,3点目お願いします。
○吉谷委員 3点目は,これは11ページのところで,「行政庁が,公益信託が法令上の基準を満たすように監視する」と記載されていて,監視の対象は公益信託となっておるのですね。その監視の対象というのは,機関である受託者と信託管理人の両方を含むと考えるのが素直なのではないかと私は理解しておるのですけれども,そこについて何か御見解がありましたら,お願いいたします。
○山本参考人 私は細かいことまでは承知しておりませんが,そのようなことになるのではないでしょうか。つまり,基準が満たされているかどうかを監視するということであれば,それに必要な範囲の人を対象にしなくてはいけないですから,細かいことまで分かりませんけれども,直感的に申し上げれば,両方やはり対象になるのではないでしょうか。
○中田部会長 吉谷委員,よろしいでしょうか。
○吉谷委員 はい。
○小野委員 大変勉強させていただきまして,ありがとうございます。
  今までの議論にちょっと重複するところあるかもしれませんけれども,これまでの部会でも,裁判所と行政庁の権限分配の議論がいろいろなされてきまして,今,理論的な幾つかの考え方を教えていただいたこととやや重なる質問になりますけれども,手続法をかなり充足することによって,最後のくだりですけれども,行政庁の判断,すなわち行政処分と裁判所の許可というものがかなり同質的になるというような趣旨にもとれるところもありましたが,対象によるのかもしれませんけれども,やはり行政処分であるという観点とか手続法という観点,もちろん立法論まで含めての議論ですから,非訟事件手続法と同じような行政手続がということになれば同じになってしまうところもあるのかもしれませんけれども,やはりどうしても行政処分では超えられないところがあるのではないのかというような議論も,私も含めてこの部会でもしてきております。
  その関係で2点ほど,今までの議論との関連で質問させていただきますと,取消しのところで,先ほどの深山委員からの質問とも関連しますけれども,既に公益信託として継続しているものが取消しになって,終了としての効果が発生する。他方において,当事者は,公益性ありということで争って裁判所に行って,最終的に取消処分が有効ではないということが確定するということになったときに,既に終了手続が開始,場合によっては終了してしまっているという状況は,必ずしも適切ではない。
  もちろん行政処分でも執行停止がとれればいいのかもしれませんけれども,やはり行政処分と裁判所の判断とは違うところがあると肌感覚で思うところがあるので,その辺についての山本参考人のお考えをお聞きしたいという点と,次に,先ほどの吉谷委員からの質問にも関連するのですけれども,やむを得ない事由というものを要件としましょうということが随所で議論されているのですが,私は弁護士ということもあって,裁判所に対してやむを得ない事由を,過去の先例等とか含めて主張していくということは,非常に分かりやすい手続かと思うのです。他方において,行政庁の場合法文として非常に抽象的な要件が書かれることを現実的に判断することになり,これまでの信託法の条文の規定の仕方からしてやむを得ない事由ということが規定されたときに,果たして行政庁としてどう判断するのか,手続法をどうするのかとか,それについてどんな考えでいるかという辺りを,御見解を頂ければと思います。
○山本参考人 最初の方の御質問は,私,ここでの議論の流れを把握していないので,正確に理解できるかどうか分からないのですけれども,例えば,取消しの場面を想定されているわけですね。公益信託の認定ないし認可が取り消されて,それが確定した後のことをお話されているのか,手続の進行中の,例えば認可ないし認定の取消しに対して取消訴訟が提起されて争っていると,その場面で,もう認可,認定の取消しの効力が発生しているから駄目ということになってしまうので,それが問題ではないかということをおっしゃっているのか,どちらのことでしょうか。
○小野委員 行政処分なので,行政処分として認定の取消しということが行われれば,取りあえず効力として発生するということを前提としております。
○山本参考人 手続中の,つまり,公益信託の認可,認定が取り消されて,しかし,それについて適法性を争っているという場面を想定しているわけですね。
○小野委員 はい。
○山本参考人 それについては,確かに,行政事件訴訟法上の原則は,訴訟提起したとしても執行停止をしないと。特別な場合に,先ほどお話がありましたように,執行停止の申立てをして,それが認められれば執行停止が行われるということですので,現行法を前提にする限りは,まず執行停止の手段で十分かどうかということかと思います。更に,立法論として申し上げると,不服申立て等の手続を取ったときに,一旦処分の効力が停止をするという制度が日本法にもないわけではありませんので,もし本当に必要であれば,そういう制度を考えることも可能であろうと思います。つまり,不服申立て等を行って争っている最中は,認可等の効力はなお存続をするといった制度を考えることもできるのではないかと思います。
  それから,やむを得ない事由等のことですね。これについては,私もそれほど存じ上げているわけではございませんので,中身によると思います。行政処分の要件として,やむを得ない事由とか公益上の理由といったような抽象的な概念は,かなり実際使われていますので,そういう要件を定めているから行政機関では難しいということにはならないと思います。むしろやむを得ない事由というときに,実際に,具体的に何を判断することになって,それについて行政庁が判断するのは難しいかどうかということを検討する必要があるのではないかと思います。
  抽象的な概念という点で言えば,行政機関がそれを具体化する基準をある程度定めて,基準といっても,いわゆる法令のように例外を一切認めないような基準ではなくて,大まかな原則的な基準を定めておいて判断をするといったような手法もありますので,抽象的な概念を定めるから行政機関では難しいということにはならないかと思いますけれども。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小幡委員 私も行政法をやっている者として,この認定と認可というのは,どこかでしっかり時間を掛けて討議しなければいけないのではないかと思っていましたので,本日,山本参考人が大変クリアに整理してくださったので,大変よかったと思っています。
  ただ,このタイミングで法形式を討議するというのは,やはり実体をどのようなものにするかというのが,まずは優先すべきでありまして,その上で,行政法の概念にどのように落とし込めるかという,それは後の,最後の話だと思いますので,かなり議論が大体煮詰まったところでのタイミングで,認定,認可という法形式を議論するのはよかったと思います。
  山本参考人のレジュメに,行政法の概念を整理してまとめていただいています。ご説明を非常に簡明にしていただいたので皆さんも分かりやすかったと思うのですが,その中で,恐らくこの弱い効力を持つ認可というのが多分少し分かりにくいかもしれません。強い効力を持つ認可と認定というのは非常にはっきりしていて,甲案,乙案,丙案と論点の方でありますが,結局,認定とした場合,しっかり2階建てにしなければいけないという構造で組むと,先ほど吉谷委員がおっしゃったような実務と不具合なところが出てくるという問題があるので,弱い効力を持つ認可という概念が出てくると思うのですが,認定をもう少しアレンジというか,変容させればよいのではないかとも思われます。完全な2階建てにすると,まず,受益者の定めのない公益目的の信託というのができている必要があって,その上で公益信託という肩書というか資格をもらうのが認定だという仕組みになると,確かに必ず公益信託でない信託が前になければいけないという問題があると思うのですが,説明の仕方ですが,認定のところで,例えば7ページの(3)のすぐ上の「しかし」というところで,「公益信託の認定を受けることを停止条件として信託を成立させる旨の信託行為は,認定の制度のために,実現できないことになる。」と書かれていますが,それは,認定の要件をどのように作るかということによりますねという,確認です。
  つまり,その認定をするための要件として,前にそういう信託行為がなければいけないとしていれば,そうなりますが,ここは多分,認定というものをどう作るかで柔軟になりうると思うので,そのことの確認が1点です。山本参考人の御報告で,要望に応じていろいろな形を行政法の概念で実現することは可能だということが明らかになったかと思います。
  それから,2点目ですが,11ページのところで,裁判所との権限配分の話です。私もやや迷うところですが,最後の関係人の一部からの申立てによる処分権限で,一つの考え方と別の考え方というのがあります。確かに信託の関係人の諸利益の調整というのは,いかにも裁判所にふさわしいという感じがしているのですが,他方で,またそれを公益信託として機能させなければいけないときに,通知すれば足りるのではないかという御見解でしたが,一方で,最終的に争いになると,確かに裁判所に行けば裁判所が判断するわけですから,それでもよいかとも思いつつ,他方では,今の公益法人の認定のように,民間委員の入った第三者機関を介して,そこが公益認定をする,公益信託の場でも,そのような第三者委員会が公益信託の認定なり認可をするという仕組みになるとすれば,この場合だけ裁判所がやって,それを行政庁に通知でよいかという,多少私自身は迷いがあるのですが,念のために,その点を御確認できればと思います。
○山本参考人 まず,第1点につきましては,6ページから7ページにかけてのところで,公益信託の認定を受けることを停止条件として信託を成立させる旨の信託行為は,この認定の制度を採ると難しいのではないかと書いた部分ですが,これにつきましては,ここで想定している認定が非常に固い制度として想定されているということがありまして,必ずまず一旦,目的信託が成立していなければいけないという制度を想定すると,こうなりますということですので,今,小幡委員が言われたことは,私の報告で申しますと,むしろ弱い効力を持つ認可というところで,公益信託を準備する受託者の状態という,一定の状態があれば認可を与えるという制度の,そちらの方で私は考えました。ですから,今の御質問について申し上げれば,認定というところは,あえて図式的に分かりやすく,非常に固いものをまず想定してみたということでございます。
  この認可とか認定という言葉は,先ほどもちょっと話が出ましたけれども,最終的に法令上どういうふうに表現するかという問題になりますので,ここでは飽くまで便宜的に使ったものにすぎません。やはり,まず実体としてどういう効果を持たせる制度にするのか,どういう状態に対して認可ないし認定を出す制度にするのかという,まず実体についての議論があって,そういった制度を法律上表現するときに,どういう言葉を使うのが適切かという議論の順序になりますので,ここでは,飽くまで名前を便宜的に使っているということでございます。若干,ミスリーディングというか,分かりにくい表現もある点はお詫びをしたいと思いますけれども,飽くまでこれは便宜的なものであって,重要なのは正に中身であるということは,小幡委員から御指摘のあったとおりでございます。
  それから,11ページの裁判所か行政機関かという問題については,11ページの最後のところで,どういう手続にするかということはブランクにしたところがあります。実は,行政機関が判断をするといっても,小幡委員が言われましたように,第三者機関がここで登場することが想定されていますので,その点がまず普通の行政手続ないし行政組織とは異なっているということがありますし,こういった事項を審議するために,特別な手続を考えていくことも考えられるかと思いますので,最終的に裁判所と行政庁との間の関係を考えるときには,実際,裁判所の手続という場合はそれほど違いが出てこないかと思うのですが,行政機関,行政庁というときに,一体どういう手続を想定するかということを詰めておかないと,議論が進まない可能性があるかと思いました。
  ここでは,通知で足りるというような形で割り切って書いておりますけれども,これは,かなり割り切った場合の話で,そこまで裁判所に徹底的に任せるというのであれば,そういう制度もないわけではないということでございまして,しかし,小幡委員が今言われましたし,ここにも若干書きましたけれども,実際公益信託の認可とか認定とか,あるいは監督的な処分とかをやるのは行政庁であり,その行政庁には第三者機関も入っているということがありますので,言わばそちらを除いておいて裁判所でということが適切かどうかという問題があろうかと思います。
  ですから,私もここのところは決め切っておりませんで,二つ,若干極端な選択肢を挙げれば,こういうことになるのではないかと御理解を頂ければと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○山本委員 民法を専門にしております山本敬三と申します。
  今日は,非常にクリアなお話をして頂きましてありがとうございます。非常に分かりやすかったのですけれども,その分かりやすかったと思ったのが誤解ではいけませんので,これで本当にこのような理解でよいのかということを確認させていただいた上で,最後に一つだけ質問をさせていただければと思います。
  今日お話を伺って,認定や認可等の概念があるわけですけれども,重要なのは,その下で行われる規制の実質がどのようなものかということではないかと思いました。したがって,問題は,公益信託の成立に関する規制,特に公益信託の成立要件が認められない場合の効果をどうするかということなのだろうと思いました。
  その際に,御指摘によると二つ問題があり,一つは,認可の対象行為を規制する効果として,どこまでの効果を認めることが許されるのか。特に行為規制効として,信託としての私法上の効力を否定するという効果を認めるべきかどうかがポイントではないかと思いました。
強い効力を持つ認可とおっしゃったのは,この信託としての私法上の効力を否定するというものではないかと思います。 次の認定は,私法上の効力は肯定するものだと理解しました。
 その次の弱い効力を持つ認可とは,信託としての私法上の効力は認めるかどうかを私的自治に委ねるというもので,デフォルト規定を付け加えるのは,私的自治を前提として,そこにデフォルトルールを設定する,要するに変更可能な緩やかな規制を行うものではないかと理解しました。
  では,どこまでの規制が許されるかは,行政法上は,今日はおっしゃいませんでしたけれども,恐らく比例原則ないしはそれに類する基準ではないかと思います。おっしゃっていたのは,強い効力を持つ認可は,この比例原則によると正当化できないのではないかということではないかと思いました。
  認定については,当事者が取る行動のプロセスに適合しない可能性があるとおっしゃっておられました。これは,この方法では規制目的を適切に実現できない可能性があるので,やはり問題があるのではないかという指摘をされたのではないかと思いました。
 それに対して,弱い効力を持つ認可について,デフォルトをどのように設定するかは,比例原則からすると全て正当化可能であり,したがって立法裁量の問題であって,この場で議論して決めてくださいとおっしゃったのか,あるいは,そこに何らかの指針が行政法の観点から出てくるのかということをお伺いできればと思います。
  もう一つは,地位設定効というもので,一定の要件を満たしたものに一定の権利を定型的に認めて,同時に義務を課すという効果であるとおっしゃいました。この要件の設定の当否について判断するための行政法上の基準はあるのでしょうか。比例原則はここでも妥当するのか,それとも,そうではなくて,立法裁量に委ねられる,したがって自由に考えればよいというものなのでしょうか。これが最後の質問です。
  少し長くなってしまい,申し訳ありません。
○山本参考人 大変分かりやすく私のごちゃごちゃした話を整理していただいて,ありがとうございます。
  比例原則という点から整理をしていただきましたけれども,私のお話をしたことと適合しておりますので,そのような趣旨で私も申し上げたつもりです。
  最後の地位設定効については,これは,結局,そこで問題となっている地位の法的な性質によって,行政機関が,どういう地位をまず設定して,そのためにどういう要件を設定して,それをどういう手続で判断するかという問題になりますので,恐らく比例原則そのものの問題というよりは,今申し上げたような,もう少し広い制度設計の在り方の問題,今の山本委員のお言葉によれば立法裁量といいますか,立法上の考慮で決めていく問題であると理解をしております。
  それから,デフォルト規定として何を選択するかというところについてですけれども,これも特に比例原則からということは恐らくなく,ここに書きましたように,行政法の観点から答えを出すことはちょっとできない問題で,むしろ信託の法的な性質等に照らして判断をしていただくことになるのではないかと思います。
○山本委員 分かりました。
○中田部会長 ありがとうございました。
  まだ御質問があろうかと存じますけれども,当初,山本参考人にお願いしていました時間を相当超過しております。また後の審議の中でも御議論いただけるかと存じますので,もしどうしても,この機会に是非お伺いしたいということがございましたら,お一人ぐらいであればとは思いますが,よろしいでしょうか。
  それでは,山本参考人には貴重なお話を頂きまして,また,質問にも丁寧にお答えくださいまして,大変ありがとうございました。頂戴しました御説明をよく咀嚼して,今後の審議の参考にさせていただきたく存じます。どうもありがとうございました。
  それでは,いつもより少し早いのですけれども,ここで一旦休憩にいたします。15分後の3時15分に再開いたします。その時間になりましたら御参集くださいますよう,お願いいたします。

          (休     憩)

○中田部会長 再開します。
  ここから,本日の審議に入ります。
  本日は,部会資料41について御審議いただきます。
  部会資料41の「第1 公益信託の効力の発生時期」及び「第2 公益信託の[認可/認定]の取消しによる終了」について,事務当局から説明してもらいます。
○舘野関係官 では,御説明いたします。
  まず,「第1 公益信託の効力の発生時期」について御説明いたします。
  本文では,甲案として「公益信託の認可(私法上の法律行為の行政庁による補充)があった時とする。」,乙案として「[公益を目的とする]受益者の定めのない信託の信託行為の効力が生じた後,公益信託の認定(行政庁による確認行為)があった時とする。」,丙案として「原則として,公益信託の認可があった時とし,公益信託の認可を受けられなかった場合には,その効力を生じないものとするが,例外として,当該信託の信託行為に公益信託の認可を受けられなかった場合でも当該信託を無効とはしない旨の定めがあるときは,当該信託は,[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として,信託行為の効力が生じた時にその効力を生ずるものとする。」との提案をしています。
  これまでの部会での審議においては,現在の主務官庁による許可制の廃止について検討を行うとともに,新たな公益信託の仕組みを検討するに当たり便宜的に認定という用語を使用してきましたが,第38回会議までに新たな公益信託制度においては,現在の主務官庁による許可制を廃止し,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,課税庁を除く特定の行政庁が公益信託の認定を行う仕組みを採用することで意見が一致しました。
  そこで,これまで暫定的に使用してきた認定の内容について,更に詳細な検討を行う必要が生じています。新たな公益信託において採り得る制度としては,現行制度に比較的近い「認可」,公益信託類似の制度である公益法人制度にて採用されている「認定」,NPO法人制度にて採用されている「認証」等が考えられます。
  各用語の一般的な定義は部会資料の3ページに記載のとおりですが,NPO法人制度にて採用されている認証制度は,所轄庁の認証を経て法人格を付与する制度ですが,公益信託はそれ自体の法主体性を認めるような制度ではないことから,これを参考にして認証制度を採用することは相当でないと考えられます。
  また,公益信託の法的効力は,委託者,受託者及び信託管理人等の信託関係人の権利義務を生じさせる私法上の効力と,公益信託の名称保護等の公法上の効力に分けて整理することが可能であると考えられます。したがって,新たな公益信託における行政処分の法的性質を認可とするのか,認定とするのかについて,公益信託の効力発生時期との関係及び行政との処分と結び付けられる法的効力との関係で検討することが有益であると考えられます。
  現在の公益信託の実務においては,公益信託の受託を予定している信託会社が公益信託の引受けの許可を受けた後に,受託者として公益信託事務を行っています。このような現在の実務との連続性を尊重する観点からすると,私人である委託者及び受託者が行う法律行為が行政庁による公益信託の認可によって補充され,当該信託が行政庁の認可を受けた時点で公益信託としての私法上の効力及び公法上の効力が同時に発生するものとすべきであるとの考え方があり得ることから,このような考え方を本文の甲案として提案しています。
  なお,甲案によれば,公益信託の認可を受けられない場合には,公益信託としての私法上の効力及び公法上の効力がともに発生しないことになるため,当該信託は[公益を目的とする]受益者の定めのない信託としても無効となります。そうすると,甲案に対しては,行政庁による公益信託としての適格性審査を受けず,行政庁の監督に服さない[公益を目的とする]受益者の定めのない信託を一律に無効とはしないとする本部会の方向性に整合しないという指摘があり得ます。
  一方,現在の公益法人制度との平仄の観点に加え,実際の公益信託設定時の法律行為としても,委託者と受託者との間の合意がされた後に行政庁の処分が行われることを重視するのであれば,公益信託の認定より前に委託者と受託者との間では,その信託契約の締結等により[公益を目的とする]受益者の定めのない信託としての私法上の効力が発生し,その後,当該信託について公益信託としての適格性を審査した行政庁が認定をすることにより,公法上の効力が追加的に発生することとなるとの考え方があり得ることから,このような考え方を乙案として提案しています。
  なお,乙案においては,公益信託の認定以前に信託契約の締結等を想定しているものの,停止条件付きの信託契約等,公益信託の認定後に信託行為の効力を発生させる方法を一律に否定するものではありません。ただし,そのような方法によることが可能か否かについては,実務的な検討を要すると考えられます。
  乙案を採用する場合,行政庁の認定を受けない受益者の定めのない信託について,それを有効とするか無効とするかについての検討が必要となりますが,従前の部会での審議においては,そのような信託を一律には無効とはしないということで意見が一致しております。また,そのような信託を一律には無効とはしない場合,信託法附則第3項との関係で,受益者要件の検討等が必要となることから,乙案においては「公益を目的とする」の箇所にブラケットを付し,留保を付す形でその旨を表現しております。これは,この第1の丙案及びこの後御説明いたします第2の乙案についても同様です。
  さらに,原則として,公益信託の認可を受けられなかった信託については,私法上の効力も公法上の効力も発生しないものとするが,公益信託の認可を申請したが不認可の処分を受けた場合等について,当事者の意思を尊重して,信託行為にその旨の定めがある場合には,例外的に[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として,信託行為の効力が生じたときに私法上の効力が発生し,存続するものとするとの考え方があり得ることから,このような考え方を丙案として提案しています。もっとも,信託行為にその旨の定めが明記されていないと,当事者の意思が不明確になり,事後的に当該信託の有効性について紛争が生じる可能性があることから,上記のような当事者の意思が存在する場合には,それを信託行為として契約書や遺言書等に明記しておくことが望ましいと考えられます。
  丙案に対しては,公益を目的とするが,行政庁の認可を受けていない受益者の定めのない信託が有効な場合と無効な場合が信託行為の定めの有無によって生じることから,既存の実務よりも法的仕組みが複雑になり,利用者にとって分かりにくい制度となる可能性があるとの指摘があり得ます。
  次に,「第2 公益信託の[認可/認定]の取消しによる終了」について御説明いたします。
  本文では,公益信託の[認可/認定]を取り消された信託について,甲案として「当該信託は終了するものとする。」,乙案として「原則として,当該信託は終了するものとする。ただし,信託行為に公益信託の[認可/認定]の取消後は[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として存続するものとする。」との提案をしています。
  まず,本文の提案について,冒頭の公益信託の[認可/認定]を取り消された信託の部分は,部会資料37の第1の3では「公益信託の認定を取り消された信託」と表現していましたが,今回は,先ほどの第1のとおり,行政庁が公益信託について行う処分は認可あるいは認定とすることが考えられることから,ここでもブラケットを付し,留保を付す形でその旨を表現しています。
  本文の甲案は,部会資料37の第1の3の甲案と同一の提案であり,その内容及び理由に実質的な変更はありません。仮に甲案を採用する場合には,その取消事由の如何を問わず,行政庁による公益信託の取消処分によって当該公益信託が終了することになりますが,取消事由によっては[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として継続させる方が社会的に有益である事例も想定されることなどの指摘を付加することが考えられます。
  本文の乙案は,部会資料37の第1の3の乙案をベースに,公益信託の[認可/認定]を取り消された信託の信託行為に,当該信託を[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として無効とはしない旨の信託行為の定めがあるときは,当該信託は[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として存続することとしたものです。先ほどの第1の丙案と同様,公益信託の[認可/認定]を取り消された場合に,当該信託を[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として無効としないためには,信託行為にその旨の定めが存在することを必要とする考え方があり得ることから,その旨を付加した上で提案しています。
  仮に乙案を採用する場合,公益法人認定法第30条の規定等を参考に,公益信託の[認可/認定]が取り消された後,受託者が速やかに公益目的取得財産残額を算定し,その額を他の類似目的の公益信託の信託財産とすることや,他の類似目的の公益法人,NPO法人等,若しくは国又は地方公共団体に贈与しなければならないとする規律を設ける等の方策を採ることが想定されますが,その場合には,公益信託に当初拠出された信託財産の価額の変動や,公益信託の運営期間中の信託財産の増加や減少に対応した規律を設けることになる結果,制度設計が複雑になり,公益信託の軽量・軽装備の利点を損なう懸念があることなどの指摘を付加することが考えられます。
  また,部会資料38の第3の1においては,新たな公益信託の受託者が行うことができる公益信託事務の範囲を当該公益目的の達成のために[直接又は間接的]に必要な信託事務とすることを提案しており,その前提に立つ場合には,公益信託においては全ての財産が公益目的の達成のために取得した財産と言え,公益法人制度でいうところの公益目的事業財産に相当する財産に該当すると考えられます。したがって,そのことを前提として乙案を採用し,公益信託の認定を取り消された信託を,その後も[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として存続させる場合には,当該信託の受託者に全ての信託財産を公益目的に使用することを義務付け,それを行政庁が一定の範囲で引き続き監督するなどの仕組みを設ける必要が生じる可能性があり,その点でも制度として複雑になる懸念があることなどの指摘があり得ます。
  最後に,第1の論点と第2の論点の関係についてですが,第1の甲案のように,行政庁の認可によって公益信託の私法上の効力及び公法上の効力が発生するとする考え方は,第2の甲案のように行政庁の認可が取り消された場合には公益信託が終了し,私法上の効力及び公法上の効力が消滅するという考え方と親和性を有するものと考えられます。一方で,第1において甲案を採用しつつ,第2において乙案を採用するとした場合,公益信託の[認可/認定]時と終了時とで取扱いに差異が生じ,利用者にとって分かりにくく,混乱を招く可能性は否定できないと考えられます。
  また,第1の乙案及び丙案のように,公益信託の[認可/認定]を受けられなくても,[公益を目的とする]受益者の定めのない信託として無効とはしないとする提案は,第2の乙案と親和性を有するものと考えられます。
  以上でございます。
○中田部会長 ただ今説明のありました「第1 公益信託の効力の発生時期」及び「第2 公益信託の[認可/認定]の取消しによる終了」について御審議いただきます。
  まずは第1からお願いしますが,第1と第2は相互の関係も問題になりますので,併せて御発言いただいても結構です。
  なお,先ほどの山本参考人の御説明と,部会資料41の用語とには少しずれがあるかもしれませんし,また制定法上の用語がどうなるかという問題も別途ありますけれども,ここでは規律の実質について,御検討いただければと存じます。また,山本参考人におかれましても,適宜コメントを頂ければ幸いに存じます。
  それでは,御自由に御発言をお願いします。
○道垣内委員 以前も発言させていただいて,繰り返しになるのですけれども,公益信託とは何かというのが分からないままに,公益信託の認可があったときに公益信託の効力が発生するとなっているような気がするのですね。と申しますのは,例えば私が東京大学に所属している行政法の教授の研究のために金銭を交付するという信託を作ったときには,恐らくは東京大学の行政法の教授に金銭を交付しても,公益目的ではないというふうなことになるのだろうと思います。しかし,私自身は公益目的だと思ってそういう信託を設定したわけであり,そのときに,認可申請をしても断られるわけですけれども,どういうふうになるのか。結論から言えば,本来は,公益信託というものは,行政庁によって公益信託であるとの認可があったものを指す概念なのではないかということです。
  ただ,例えばこれから申し上げるような内容の条文を作るというのならば,この第1の問題の意味というのは分かってくるわけで,例えば「公益信託の設定は,特定の者との間で,当該特定の者に対し財産の譲渡,担保権の設定,その他の財産の処分をする旨,並びに当該特定の者が裁判所又は行政庁に対し,公益信託としての認可--認定かもしれませんが--の申請をするとともに,一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下,「公益信託契約」という。)を締結する方法によってする」というわけです。例えば,このように,公益信託という言葉を,その受託者が--受託者とは限らないかもしれませんけれども--行政庁なら行政庁に対して,公益信託としての認可の申請をするという義務を負わせられている契約によって設定されるものと定義をすれば,第1の甲案,乙案,丙案というのは成り立ち得ると思います。しかし,そこの定義というものをしないままに,公益信託というのが,あたかも神の目によってあらかじめ決まっているというふうな形で条文とかルールとか作れるのかというと,私は作れないのではないかと思うのですが。
○中田部会長 という御意見を頂きました。何かありますか。
○中辻幹事 私どもとしては,公益信託は,行政庁の認可あるいは認定を受けるという形で,一定の基準を満たしているか否かの審査をクリアした信託であるという定義付けをしております。ですので,道垣内委員がおっしゃられた公益信託の認可/認定の申請を前提としているものかと問われれば,そのとおりでございますというお答えになります。
○道垣内委員 そうすると,公益信託の認定が得られなかったときの話というのは,どういう場合を指しているのかということにならないでしょうか。論理的には,申請をしなかった,あるいは,申請したが認められなかったということになると,それは公益信託ではなかったのだという話になるということになりますでしょうか。
○中辻幹事 行政庁が基準を満たしていないという判断をすることによって公益信託の認定が得られなかった場合には,今,私どもが考えている公益信託の定義には当たらない信託になるということになります。
○道垣内委員 では,その要件を満たしていると考えるときには,要件を満たしていると必ず認可申請をしなければいけないでしょうか。そんなことないですよね。そうすると,それは要件を満たしていようが,申請をしなければ,公益信託ではないということになりますね。そうなりますと,同じく客観的に見れば公益の認定基準を満たしている信託なのだけれども,申請して認められるという場合と,申請して断られるという場合と,申請しない場合というのがあるということになりますが,1の第1のところで書いてあるのは,申請して認められたときにどうなるかという話ですよ。申請しなかった場合は,それではどうなるのですか。
○中辻幹事 事務局としては,これまでの部会での御審議の状況からすると,公益信託の要件を満たしている信託を設定する場合に,その受託者が行政庁に対し公益信託の認可申請を必ずしなければならない,認可申請が義務付けられるというような制度を作ることにはならないと考えております。
  その上で,今回の部会資料41の第1では,公益信託としての認可申請がされた信託の効力の発生時期について,どのように考えるかという論点の設定をしていますので,そもそも認可申請をする気が信託契約の当事者に無くて申請をしなかった公益を目的とする受益者の定めのない信託の効力の発生時期はどのように考えるか,ということが別途問題になるという御指摘をいただいたものと受け止めました。
○中田部会長 取りあえずよろしいでしょうか。
○小幡委員 私も同じようなことを考えましたが,要するに,公益信託をどう定義するかによるので,ここは公益信託というのは認可あるいは認定を受けたものという定義をしたら意味がなくなってしまいますね,効力の発生時期の話は。およそただ,抽象的にそういう性質を帯びたものを公益信託と広く呼ぶとすれば,広い公益信託があって,その中に申請によって認定/認可されたものがある,したがって,それだけを公益信託と呼ぶことにするかどうかという問題かと思うのです。
  山本参考人の話も含め,行政法的な技術的な器をどうするかとか考えている中で,一番実は重要なのは,公益信託というものの認可あるいは認定を受けたことにより,一体どういうメリットがあるかということだと思うのです。公益法人の制度であれば,あれは2階建てですが,公益法人となった途端に,特に税務当局からの別途の審査もなく,そこで税法上の優遇は付いてくると,そういう仕組みになっています。ただ,それでも実際には同じような公益事業をしながら公益認定を受けないという選択をしている一般法人は沢山あります。それはなぜかというと,監督を受けることもありますが,多分いろいろ揃えるべき書類が非常にたくさんあって,事務的にやっていくのが大変だという,ほとんどがそういう理由だろうと思うのです。公益認定を受けるためのハードルを高くして全部税務上の優遇が得られるという仕組みに作っているのが公益法人の制度です。
  それに対して,今回考えている公益信託の場合は,もちろん申請主義で,申請しなくてもよいわけです。ただ,その申請によって,そこで実際公益信託とされるために,申請が認められるためには何が必要とされるか,どのぐらい大変なのかということと,受けるメリット,例えば,その公益信託の認定あるいは認可を受ければ税務上の全ての優遇が得られるということであるのか。税法上の優遇は,後で付いてくるので,多分ここでは決め切れないと思うのですが,それは逆から言いますと,公益信託がきちんとしたものである,そして行政庁が認定あるいは認可し,監督をするというようなものを公益信託としたから税法上の優遇を付けるべきという話にはなってくるので,そこも制度設計の問題かと思います。現状公益信託の中で税法上の優遇が付いているところがありますが,それが今回どのようになっていくかということがあろうかと思います。それによってメリットがなければ,別に申請はしなくてよいわけで,申請しなくても,実際上同じようなことをやることは可能なように作った方がよいだろう,したがって甲案でないのです。結局は,強い認可ではない,そういう行為規制はしない,実際上,公益目的の受益者の定めのない信託ができることになる。ただ,プラスして,申請すれば公益信託を受けられる,そこで名称の独占があれば世の中の利用者が安心できるとか,そういうものは得られます。ただ,税法上は全部特典が付くことになるかどうかは,ここは全く分かりませんが,そういうふうに仕組めれば本当はよいと思います。
  いろいろ申しましたが,そもそもどういう効果が実際上,得られるかということが大事でして,ここで甲案,乙案,丙案とありますが,それによって決まってくる話でありましょうし,強い認可ということは概念としてやや考えにくいと思います。実際には同様なことはできる。しかし,公益信託と認められれば何かのメリットはあるのですが,それは何のメリットがあるかということと,逆にどのぐらい大変なものかということ,両方を勘案する必要がある,釣り合いを取らせる必要があると考えております。
○新井委員 第1については甲案に賛成します。乙案には賛成できません。
  その理由は,乙案においては,公益を目的とするという部分と受益者の定めのない信託,つまり目的信託を連結させている点にあります。目的信託,すなわち受益者の定めのない信託というのは,その立案担当者の解説書によりますと,私益,共益,公益,全てを含むと解説がなされておりますので,それによると公益を目的とするという部分と目的信託を結合させることは可能だとは思いますけれども,現行信託法によると,目的信託というのは委託者が非常に強い権限を持っています。これは260条の規定で強行規定になっております。そして公益信託においては,やはりその委託者の権限というのは限定されるべきではないかと考えます。この部会の議論では,一定の委託者の権限は残していいという議論があることは十分承知しております。しかし,260条の規定は,はるかにそれを超えて,委託者に強大な権限を持たせていると私は考えるわけです。ですから,委託者に強大な権限を持たせながら,それを公益だというのは非常に難しい。
  したがって,乙案は,公益を目的とするという部分と公益信託を結び付けるということです。公益を目的とする目的信託と公益信託を結び付けるというのは,ちょっときつい言葉を用いれば,概念矛盾のように私は思います。したがって,乙案には賛成いたしません。
  丙案ですけれども,丙案も一つの可能性としてはあると思うのですが,ただ,この場合でも,公益を目的とするという部分は削除すべきではないか。削除すれば,丙案の可能性もあると思います。
  それから,第2については甲案に賛成です。
○沖野幹事 私もちょっと,ここの第1の問題がよく分からないと感じております。タイトルが「公益信託の効力の発生時期」となっておるのですけれども,甲案,乙案,丙案,いずれも公益信託は認可があったときに効力を生ずる,公益信託として効力を生ずるという点では同じではなかろうかと思われるわけです。とりわけ,今のやり取りを聞いた中では,公益信託というのは認可を受けた信託であって,公益信託の名称を使うことを許されるものだということになると,認可を受けたときということになるのではないかと思われるからです。
  ただ,ここで問われているのは,そういう公益信託がいつ効力を発生するのかということではなくて,認可を受ける前に何らかの信託としての効力が既に発生しているのか,例えば受託者は忠実義務を負っているのかといった問題と,もう一つは,認可を申請したのだけれども,それが受けられなかった,不認可であったときに,公益信託の名称の下で公益信託としての各種の規律や効果は生じない。その中の一つとしては名称を使うとか,あるいは20年以上を超える期間でも構わないとか,そういうことが出てくるのですけれども。それ以外の一般信託における目的信託としての存続の余地があるのかという,その問題ではないのかと思われるわけです。それは別に効力の発生時期の問題ではないのではないかと,あるいはそういう定式をすることは適切ではないのではないかと思われまして,それらの効力を持っているかどうかということが,それに対してどういう回答をするかということが,あるいは行政庁が行う何らかの認定行為というか,それをどのような性質として法性決定をし,どのような法律上の表現を与えることが適切なのかということに関わってくるという話ではないのだろうかと考えます。
  それから,そのおおもとには,これは道垣内委員がおっしゃったことですけれども,あるいは新井委員の御示唆もそれに含まれるのかと思いますけれども,そもそもその公益の認定なり認可なりの申請をせずに,公益の目的のために目的信託を使うことは許されるのかということで,現行法は,信託法は少なく本則は許していると思うのですけれども,公益信託法がそれを制限しているように思われるわけで,そこをどうするのかということではないかと思われ,新井委員のお考えによりますと,公益を目的とする信託を使った活動は,現在の目的信託を使う限りは委託者に強大な権限を与えすぎるので,許されるべきではないということではないかと伺いました。そうだとすると,認可を申請しなくても,そのような目的信託はそもそも認められないという考え方を含意しているのだと思います。
  私自身は,そしてこの部会では,むしろ,そのお考えではない方が,より数の上では多数ではなかったかと思われます。かつ,委託者に強大な権限を与えることがなぜ駄目なのかと,自分の財産を公益の目的で使いたい,細々と,というような人がやる分には構わないのではなかろうか。ただ,公益信託だという名称は使えないし,あるいは税法上の特典がどのくらい与えられるかというのは,それは税法上の問題であるので,それにどういうものを与えるかというのは税法で,そういう目的信託には余り与えられない,あるいは全然与えられないというような話になるだけのことではなかろうかと思われますので,したがって,前提としては,公益信託としての認可を受けず,したがって公益信託という名称にはならないけれども,公益のために目的信託を使うということは,それは許容されてしかるべきであるということが適切ではないかと思います。その前提の下であるならば,認可の申請をしたときに,その前に既に効力が生じているのかという問題と,認可の申請をしたけれども,不認可であったときにその後どうなるのかという問題として,この問題を考えた方がいいのではないでしょうか。
  そうしますと,甲案の位置付けというのはよく分からないところもありますけれども,甲案の含意としては,別途目的信託としてやることは構わないのだけれども,ただ,認可の申請までしたようなときには,認可がなければそれはもう諦めてもらって,別途目的信託としては改めて設定してやればいいのだという考え方なのかなと思われます。
  乙案の方は,既に通常信託としての効果は生じさせるという前提で,各種の信託の効果は発生するのだけれども,認可によって更にプラスアルファで加わる部分があるという考え方だと思われますが,丙案は,ただ,丙案が扱っているのは認可が受けられなかったときにどうなるかという問題の方なので,乙案とは若干次元が違うことを扱っているのではないかと思われまして,そこを委託者の意思にかけるかどうかという話ではないかと考えております。
  誤解をしておりましたら,訂正をしていただければと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○深山委員 95%ぐらい,今,沖野幹事がおっしゃったことを私も申し上げようと思ったので,重ならない限度でお話したいと思います。
  公益信託の効力の発生時期は,沖野幹事がおっしゃるとおり,私も,甲,乙,丙,全部同じことを言っていて,要するに認可ないし認定があったときということを言っているので,このタイトルの議論というのはほとんど議論する必要もないことだろうと思います。
  その上で,これも沖野幹事が御指摘のとおり,ここで議論しようとしているのは認可/認定のない公益を目的とする受益者の定めのない信託の位置付けの問題で,これは三つのパターンがあると思います。既に何人かの方から出ているものの整理のような形になりますけれども,1番目は,元々,公益目的の受益者の定めのない信託なのだけれども,公益認定を受ける意思のない場合,それから2番目は,認定なり認可の申請をしたのだけれども,認められなかった場合,それから3番目は,認可/認定が一旦は認められて公益信託になったのだけれども,後日,何らかの理由で認可/認定が取り消されてしまった場合で,それぞれ共通する側面と違う面があろうかと思います。
  まず,1番目の元々その中身は全く公益信託的な公益目的の信託なのだけれども,認可/認定を受ける意思がない場合,これはどのぐらい実務にあるかどうかというのは疑問ですけれども,まず,その制度の整理としては,これはこれで有効なのだということをやはり明文で明らかにすべきだろうと思います。沖野幹事御指摘のとおり,信託法にはネガティブな規定はないと読めるのですけれども,公益信託法の方はそれに対してネガティブな表現があるので,そこは新たな公益信託法では,できるということを何らかの形で明文化をする,これが出発点になるのだと思います。その上で,認可/認定の申請をしたけれども認められなかった場合,あるいは,認められたけれども後日取り消されてしまった場合に,どのような信託としての効力が認められるのかどうか。
  これは,前半の山本参考人のお話でもいろいろ言及されたところに関係するかと思いますけれども,やはり委託者の意思はそれなりに尊重すべきで,およそ公益認定を求めて認められない場合には,もうやる気がないという場合には,それはそれで,それでも私益信託としてやりなさい,私益とは言わないでしょうけれども,公益信託ではない信託としてやりなさいというのはふさわしくないと思います。先ほど私が質問したように,その設定時の問題と後日取り消された場合とではちょっと考慮すべきことが違うと思いますが,一般的に言えば,委託者の意思に反してまで信託を続けさせるというのは,基本的には好ましくないという方向で考えるべきなのかなと思います。
  したがって,そこでは委託者が,認可が認められなかった場合,あるいは取り消された場合に,その後の信託をどのようにしたいかということを,その意思を基本的には尊重すべきだろうと思います。デフォルトルールとして,どちらを原則にしてどちらを例外にするかというのは,両方あり得るのだろうと思います。そこはまだ,決め打ちは私の頭の中でもしていないですが,信託行為の意思解釈を補助する意味でどちらかのデフォルトルールを置いて,あとは個々の信託行為の解釈に委ねるという規律になるのではないかなと,そうすべきではないかなと考えている次第です。
○小野委員 2点ほど質問といいますか,確認みたいなことをちょっとさせていただきます。
  税の扱いと一致すべきという議論は,正にそのとおりの考え方だと思います。ただ,現行の公益信託と違いまして,今後いろいろ事業型の公益信託等も認めていこうと,また受託者が個人とか又は株式会社でない受託者も登場してくる,信託銀行,信託会社ではない受託者も登場していくだろうという前提に立って,それに税の特定,認定が追い付けばいいのですけれども,そこに齟齬があるかもしれません。
  ですから,公益認定と税との間には,どうしてもそこで時間的な問題,場合によっては,公益は取れたけれども税法上の特定は取れない,また,そのために時間を要すると,こういう問題があるかと思うのです。その公益信託の特定が取れるまでの公益信託税制の議論は今までもこの部会でしてきたかと思いますが,いずれにしてもそういう問題があり得る。もっとも信託行為の中で効力発生の前提条件とするのかも知れず別に問題視するほどのことではなく理屈上の問題かもしれません。
  とは言っても今の深山委員が話したように,デフォルトルールを明確にしなくてはいけないと思います。もちろん信託行為の中にしっかりと書いていくということである意味では十分でそれ以上にデフォルトルール的に目的信託になるうんぬんというところまで明確に規定する必要は必ずしもないとも感じます。
  今述べたことは,今までの私の部会での発言とちょっと矛盾するのですけれども,税法上の扱いで,公益目的ということを今までも随分議論していますけれども,実際にこれまでの部会での議論でも,単に目的が公益であればいいだけではなくて,公益信託として認められるためにはガバナンスとか全体を含めて公益信託として機能するかどうかということで公益認定が取れるという理解だったと思います。
  他方において,目的信託の公益目的というのは,別にガバナンスうんぬんではなくて公益目的,ある意味では,条文上の規定にならってそれを目的とすれば,取りあえず目的信託としての公益目的目的信託にはなると思います。法人要件が適用されないとしても他方において法人課税信託の対象になりますから,恐らく信託行為の作り方としては,そのときにあえて法人課税される信託ではなくて,単純に委任型とか,信託ではない形を採ることにするのかもしれません。そもそもそういうことならばやめようという議論かもしれませんし,それでも構わないという議論になるのかもしれません。いずれにしてもそういう信託行為における自由度をできる限り認めるということが,やはり税の適用関係もありますから,必要ではないのかなと思います。
○神田委員 第1のほうを例にとって意見というか,感想を申し述べたいと思います。
  それは前半でのやり取りにも関係するのですけれども,意見としては,論理的な順序と時間的な順序とは必ずしも同じでないので,それを整理した上で考えた方がいいでしょうということです。第1の方で言いますと,認可が受けられた場合に,いつから公益信託としての効力が発生するのかというのは,もちろんその認可があった時からでもいいですけれども,それより後に信託契約の効力を発生させるような形態もあり得ると思いますので,その場合には,それより後に信託契約の効力が発生した時から公益信託としての効力が発生するということだと思います。
  それから,既に存在している公益信託でない信託について公益信託としての申請が行われて,そういうことがあり得るとしてですけれども,認可された場合には,これは認可があった時から公益信託になるというのが時間的順番だと思います。
  これに対し,認可が受けられなかった場合ですけれども,丙案の最後の語尾がちょっと分かりにくいです。信託行為の効力が生じた時にその効力を生ずると書いてあるのですけれども,認可が得られなかった場合には,私の理解では,時間的な順序としては,その時又はそれ以降の時点であって駄目だった場合にもという,この例外的な場合の規定がある場合には,その信託契約が効力を生じた時から,ここの言葉で言う受益者の定めのない信託としての効力が生じるという意味だと理解します。ただ,時間的順番ということで言いますと,既に受益者の定めのない信託が存在していて,それについて公益信託の認可を求めて,そしてその認可が得られなかった場合には,ある意味元へ戻るだけというか,既に受益者の定めのない信託は存在しているわけですから,それは何もなかったかのごとく元へ戻るということではないかと思います。
  いずれにしても,文言で言うと,丙案の最後に言う「生じた時に」というのは,認可があった時又はそれ以降を信託契約で定めるということを想定していると私は理解します。より一般的に言うと,第2についても同じ問題があって,論理的にどういう順番に物事が起きるかという話と,時間的にどういう順番に物事が起きるかというのは必ずしもイコールでないので,それを分かりやすく整理していただきたいというのが意見です。
○平川委員 第1について,丁案を提案します。
  丁案というのは,信託行為の効力発生を前置を必要とすることなく,公益信託の認可ではなく認定があったときとするという説です。ですから,認可でなくても,その信託行為が認定であっても,信託行為の前置を必ず必要とするということにはならないのではないかという問題点の指摘です。
  理由としましては,甲案についてですけれども,公益信託の成立時期を行政庁の行政処分のあったときと同時に成立させるためには,講学上の概念である認可でなければならないという理由に基づいているようです。そして,講学上の認定というものは行政庁による確認行為であり,公益法人制度において,まず一般社団法人や一般財団法人を設立して,それに対して公益性の確認を行う行政行為を認定とした前例をもって,まずは第1段階として私人の信託行為があり,それに対して公益認定を下すという2階建て方式が必然であるという考え方を採っています。
  しかし,認定と2階建て方式というのは,必ずしも必然であるとする必要はないと考えます。この考え方は,山本参考人のレジュメ7ページにある,弱い効力を持つ認可と実質的に似通っているとも言えますし,山本参考人も認定という言葉にどういう意味を込めるかというのは,立法上,柔軟に考えてよいとおっしゃっていたと理解しています。すなわち,公益信託を準備する受託者の状態に対して行政行為を行い,公益信託であることを認定して公益信託を有効にするという山本参考人のレジュメからの引用によれば,そういう形になります。
  ただ,弱い意味による認可とか,何しろ認可という言葉を使った場合には,一般人の考え方としては,国が公益活動を認可するという許可制度を連想し,公益活動を民間の手で促進するという新しい公益信託制度の促進の意図が伝わらないと考えます。新しい公益信託制度は,法務省の補足説明3にありますように,公益信託自体を法主体と認めることではないこと,また,旧民法の公益法人の設立のように,私人間の法人の設立行為に対し行政庁がそれを補完して効果を与えるということでもないこと,また,新公益法人制度においては,一般法人に対する公益法人への移行については認定とされており,同じ言葉を使った方が一般の人々にも分かりやすいということなどを理由として認定とし,しかしながら,信託行為を前置し,それに認定を与えるのではなく,認定をもって公益信託が発効するのが相当であると考えます。
  繰り返しになりますけれども,認定が行政庁による確認行為であるとしますと,乙案のように受益者の定めのない信託行為の効力が生じた後に行政庁による確認行為が行われるという時間的な差を設けなければならないとする必要はないと考えています。すなわち,信託行為の効力とその効力の発生の結果,公益活動がそれを受けて行われる可能性を行政庁が確認する行為は同時に行われても一向に構わないと考えます。上記に述べたとおり,認可による効果の一つであるとされる法主体を認めるということでないのであれば,なおさらのことであると思います。
  乙案による事前に目的信託を設定する案に対しては,そもそも公益信託を目的信託の一類型とする考え方には反対であること,また,前置した目的信託については,補足説明6のとおり,設定段階においてみなし法人課税の問題等,固有の問題を抱えていることなどから反対です。
  また,丙案については,公益信託の認定が得られなかった場合には一定の条件の下に目的信託の効力を認めるとするものですけれども,認定が得られない場合には,信託行為に受託者の定めのない信託として効力を生ずる旨の明確な意思表明がなされていない限り信託の効力を否定する信託不成立原則を法に規定し,明確にすべきであると考えます。元々公益目的信託を目指していたのですから,当事者の意思解釈として認定が得られない場合には,信託としても効力を生じないと法に明記することが法律関係を簡便にすると考えます。
○林幹事 確かに,委員・幹事の方々の問題点の捉え方はそのとおりであり,沖野幹事の整理のとおりだと思っています。それを踏まえて,少なくともこれは動かないというか,こうで在るべきだと思う点を,理屈は通らないかもしれないのですけれども申し上げたいと思います。恐らく,それを後から翻って評価して,どういう制度になるかとか,認定という言葉なのか認可なのか,そういうふうに考えるのだろうと思います。ですので,まず,こうであるべきだと思う点をちょっと,一つ一つ申し上げたいと思います。
  1点は,認定を受けなくても公益的な目的信託というものが残る,それを一律に否定しないという前提だと思いますので,まずそれを確認したいのが1点です。申請をしない場合とか,申請したけれども駄目だった場合,あるいは取り消されたような場合はそこの類型に入っていくので,そういう類型があるという点は疑いないところとして議論していただいたらと思います。
  それから,その上で,結局,申請をすることについて,申請する前と,申請して認定が受けられなかったときの二つの問題があって,認定を受けられなかった場合については,目的信託として残りたいというときはその意思が尊重されるべきだと思いますので,目的信託に戻るというか,移行できるルートを設けるべきだと思います。確かにゼロから目的信託を作り直せばいいではないのかとの意見もあるかもしれないのですが,手続的にそういうステップを踏んでいるのであれば,それは尊重していいと思いますので,そうすべきだと思います。
  ただ,そのときに当事者の意思のデフォルトをどう考えるかについては,私もまだ決めかねているところです。信託行為に書かれないときに,そういう意思がある前提でいくのか,ない前提でいくのか,そこは決めかねているのですが,少なくとも可能な限り意思を尊重すべきです。この提案で,例えば丙案の例外のような,こういう留保がなくても,黙示の意思を尊重してそちらのルートに持って行くべきではないかという議論もあったぐらいです。少なくとも意思を尊重して目的信託として残りたいときはそちらのルートに行けるようにという制度にしていただきたいのが1点です。
  それから,申請の時点の段階のことで言いますと,神田委員がおっしゃったとおりと思っていまして,確かに思考の中では信託行為があって,その後,認定を受けるとあるのだけれども,吉谷委員が言われたように,信託契約が後の場合もあり得るわけで,それが前か後かによって,その効果が違うように考えるのは,この場合にはそぐわないと思っています。
  これまでの議論だと,軽量・軽装備だから,設立や認定のときは比較的軽微に考えるべきだから,そこにおいては2階建て的には考えないというのは一応,議論としては一致していたと思います。ただ,その中でも,思考の中では信託行為というものと認定というものと2段階にあると考えるのはそのとおりなのですけれども,ただ,プロセス的には信託契約は必ず前だというのではないと思います。山本参考人の整理でも,行政的な効力の面と私法的な効力の面が両方あって公益信託になるという理解だと思ったのですけれども,どちらかが前で,どちらかが後という問題ではなく,恐らく両方そろったときに公益信託としての効力が生じるのだと思いました。
  そうしたときに,信託契約なり行為が前だったときに,恐らく認定を受けるのとタイムラグが生じます。そのタイムラグがあるがために税が課せられるという議論があったと思うのですけれども,そこで税が課せられるというのが私自身はすごくナンセンスだと思います。典型的に想定しているのは申請して認定を受ける期間がそれなりに短いもの,あるいは頭の中で一体的に手続としてやっている場合なのに,そこで税が課せられるなんていうのがおかしくて,それは税が課せられるということ自体がおかしいのかもしれません。そういう前提で心配してしまうのかもしれないのですが,実務的には,そういう状況であれば,恐らく信託行為の中に停止条件を付けて,認定を受けたときに私法的な効力が生じると書くことになると思われ,だから,それで手当てできるという面もあります。それだったら,その面においても法なりにそこをしっかり書き込めば,それで十分ではないのかと思います。
○中田部会長 ほかに。
○樋口委員 私はちょっと政策論的な話をしようと思っています。うまく三つにまとめられるといいと思っていますけれども。まず一つは,山本参考人のお話を聞いて,私が最も感銘を受けたのは10ページから11ページ,山本参考人の資料なのですけれどもね。それで,行政庁の権限の縮小という話になっていて,題名が,そもそもそういうことが書いてあるのですけれども,今まで主務官庁制を採ってきたのだというわけですね。それはどういうことかというと,それぞれの主務官庁で勝手にとは言わないのですけれども,それぞれやはり何が公益であるかをそれぞれの主務官庁で判断して,しかも権限が相当にありますから,今までの旧信託法では,こういうものだということであえていえばそれぞれの判断で介入もできたということです。いや,それは今度やめたのですよという話になっているわけですよね。
  統一的な行政庁が新たな公益信託制度においては法令上の基準を満たすかどうかだけを監督するのだと,こういうようになったのだというのは,基本的に行政庁の裁量が縮小したことが,うまく私が言うような話につながるかどうかは何とも言えないのだけれども,実は正直に言うと,やはり公益の判断が,各主務官庁で極めて狭くそれぞれのところで考えていたものが一つのところで,一つの大きな抽象的な基準ですから,これも公益だという形で,広げられるはずだということです。つまり政策目的は,今度の公益信託法改正は絶対に公益信託を広げようとするものでないといけないと初めから私は思っているわけです。
  そういう観点から見て,行政法の教授がというか,山本参考人がこんなふうに制度の改正で,こういうふうに道が広がるというか,そういうことを含意してくださるような,なるほど,主務官庁制を廃止するというのはそういう意味もあるのかということを感じたのが1点。
  その上でなのですけれども,今日の第1の効力の発生時期という,まず問題の捉え方が,沖野幹事が言うようにちょっとずれているのではないでしょうかというのはそのとおりだと思いますけれども,その上で,これでこの議論を,今までの方と違って細かな議論ではなくて申し訳ないのですけれども,公益信託を広げるという観点から見てどう考えるのかというと,次のように見える。いいですか,公益信託が認可されなくても,実は公益概念はもっと広いものである。
  私にとっては,例えば,私は公益信託の申請は駄目だと言われたのだけれども,これは公益を目的とする受益者の定めのない信託です,そっちはきちんと存在していますよといえるという議論が今なされているわけです。そのうち公益概念も変わってきますから,時代とともに,だから,こういうような準公益信託みたいなものを認める方向で全体としての公益信託,公益信託というのは認可/認定されたものだけかもしれないけれども,そうではない,単なる目的信託でもなくて「公益を目的とする受益者の定めのない信託」というのをここで作ろうとしているわけですから,乙案,丙案では。そちらの方が従来の意見では多数だというわけなので,そういう発想でこれはできているのかなと思います。しかし,事務局は,私が思っているように考えていないはずなのですよ。そんなことは,私もそれほど楽観的ではないので。でも,そういうように見えるということなのですよね。
  第3点は,だから,そういう意味では乙案でも丙案でも,私はそういうふうに,つまり公益概念をある行政庁が独占して勝手に解釈するのではなくて,実はもう少し広がりのあるものですよというふうに広げていって,将来にいろいろな種を残す布石を打つというのだったら非常にいい話だと思いますけれども,ただ,1点心配なのは,公益を目的とする受益者の定めのない信託で,公益信託という名前は名称独占で使わせないでしょうけれども,長くても何でもいいのでしょうから,「公益を目的とする受益者の定めのない信託」をたとえば樋口が作りましたといって本当にいいのかなというのはあるのですよ。
  それで,それを私がある程度の財産を出して,それをこのために使っていきましょうという話だけだったら,いいではないのと,それでいいのですけれども,普通は私が考えるのは,これに,山本参考人,是非とも私の考えに賛同してください,500円でもいいです,1,000円でもいいですという,同じような,何しろ公益を目的とする,しかし,どうしてか分からないけれども認定を受けられなかった信託,今のところは認定を受けていないかもしれないけれどもという信託を始めますね。私は詐欺師ではないので真面目にやります。しかし,この公益を目的とする受益者の定めのない信託というのを簡単にやはり認めていいのかなというのは,先ほど言ったこととちょうど反対になるのですけれども,公益概念をもう少し柔軟に考えていく政策論的な話はあるけれども,もしこういう議論をするのだったら,やはり少し注意を,何らかの,やはり普通の目的信託ではないものを認めようみたいに見えますので,これはどういうことなのかと多少の危惧も覚えます。それに関しては,少なくとも初めの信託財産がずっと動かない,それを費消していくだけだったらいいと思います,別に関係ないから。でも,それに追加の信託財産を受けるようなものについてだけは,やはり何らかの,余り私は規制とは好きではないのだけれども,何らかの注意は当然必要になるのではないだろうかというふうに,今日の議論を通して,ちょっとピント外れだけれども感じました。
○中田部会長 ありがとうございました。
○新井委員 質問です。あるいは,私だけが分かっていないのかもしれませんけれども,質問をさせていただきます。
  受益者の定めのない信託というのは,現行法上,二つの制約があります。一つは課税は信託財産課税であることと,もう一つは受託者要件が厳格に定められているという二つの制約があると理解しております。それで,公益を目的とする受益者の定めのない信託についても,当然その制約は掛かってきているわけです。この場では公益を目的とする受益者の定めのない信託を認めるという意見が大勢であるということは十分承知しております。
  その上での質問なのですけれども,今まで目的信託,受益者の定めのない信託というのは一件も設定例がないわけですね。それは今言った二つの制約のせいだと思っています。そうすると,そういう類型を認めて,これを拡張しようとする意見の方は,現行法の二つの制約というのを廃止しろという主張なのでしょうか,あるいは存置した場合は,ほとんど現行法と変わらないような,使い勝手がないと思うのですが,その辺りはどのようにお考えになるのか,これは質問というか,御意見をお伺いしたいと思います。
○中田部会長 今回,「[公益を目的とする]受益者の定めのない信託」という概念を仮に置いていて,その中身について更に詰めていこうということだろうと思いますが,新井委員は,仮にそのようなものを置くとしても,その中身をもっと明確にする必要があるのではないかと。とりわけご指摘の2点について,今の段階でこのような類型の信託を認める方の御意見があれば伺いたいということだと存じます。
  どなたでも結構ですけれども,もしございましたら。
○林幹事 その点は,私としてはずっと申し上げてきたつもりなのですが,新井委員の問題意識はそのとおりだと思うので,本来的には目的信託がなお使われるようにという意味においては,公益にかかわらずその要件は緩和されるべきであり,そこを工夫すべきだと思っています。ただし,少なくとも公益的なものに絞ったとき,現行法の解釈だと附則も公益目的のものを除くとなっているので,附則を読めば,受託者要件は公益には掛からないという考えもあるかもしれないのですが,いずれにしても,公益目的の目的信託で認定を受けないものというのを考えるときは,その受託者要件は外れる形で何か類型を考え,ガバナンスなりを考えるというか,そういうものを作っていかなければそこは機能していかないのだろうと思いますので,そこを何らか変えていくべきだと思います。
  今の法務省の御提案だと,ちょっとそこはブランクというか,まだこれから考えましょうというか,そういう形で問題提起していただいていると理解しているので,これから議論していくのかなと思っています。
○沖野幹事 個人的な意見を聞かれたと思いますので,申し上げたいと思います。もちろん全て個人的な意見なのですけれども。私は現在の税法の話は,やはり税法としてはどういうものを認めるかということではないのかと思っております。どういう要件があれば,どういうところが認められるのかはそちらの方の問題で,それをにらみつつ,それをクリアするような制度を整えるということはもちろんあるかと思いますが。ですので,信託法の問題としては,受託者要件の問題が大きいのではないかと思っております。
  この附則については,一定期間の実際の運用等々を見て目的信託の乱用などがないのかということを見ながら,適切な時期に見直すということであるとすると,附則自体の見直しという問題はあるのだと思います。ただ,これがそのまま存置されるならば,目的信託の場合に,公益信託の場合には受託者要件の限定が除かれるということが,公益目的であれば除かれるのか,それとも,公益目的で行われる場合には,公益信託法による各種のきっちりした制度が作られているので受託者要件で絞る必要はないということなのかで,私は後者だと思います。ですから,公益目的であるならば,この要件はもう外してもいいということにはならないだろうと考えます。
  可能性としては,そうすると,公益信託とは別に,公益を目的とする目的信託について更に特有の規律を置くのか。受託者要件を外してもいいけれども,公益信託というほどではないというタイプのものを置くのか。そのことは委託者の権限の問題に関わったり,あるいはその中にも,他者から寄附等を含めて財産を得るようなタイプのものをするときには,更に一定の要件がなければいけないというような形とし,ですので,他者から財産を得ないときにはもう構わないのだということにして,ただ,財産の管理処分先は,きちんとした受託者にお願いすると,そこは要チェックですねという話をするかどうかという問題なのだと思います。
  目的信託の中に更にそういうものを作り込むというのは,その方が公益活動を拡大するにはいいのかもしれないのですが,やや大仰ではなかろうかという気がしていまして,附則自体の受託者要件の見直しは,目的信託一般について見直されるならば,それはそれでいいのですけれども,公益を目的とする,しかし,公益信託とはならない目的信託のためだけに,何かを用意するということは必要ないのではないかと考えております。
○中田部会長 確認ですけれども,そうしますと,仮に現在の附則3項があるとすると,目的信託の受託者要件から公益を目的とするものは除くという規定になっているわけですけれども,そうすると,認定ないし認可を受けていない公益信託については結論としてはどうなりますでしょうか。
○沖野幹事 附則自体は公益信託としての認可を受けたものを除くとか,そういうような形になるのではないかと思います。
○中田部会長 つまり,その限りで附則は書き換える必要があるという。
○沖野幹事 そうです,その意味ではそうなると思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○吉谷委員 新井委員の御確認の趣旨にはきちんと答えられるかどうか分からないのですけれども,議論をお聞きしていたところで,元々発言しようとしていた項目でありますので,併せて発言させていただきます。
  まず,目的信託で公益的な目的を信託行為に記載するというような類型を認めてよいのかどうかということについては,これは認めてよいというのが従来からの立場でございます。
  ただ,その上で,新井委員がおっしゃった,あるいは樋口委員がおっしゃったように,その委託者がただ公益だと思っているだけで,実は公益ではないことをするかもしれない信託というのに,信託行為に公益目的でというようなことが書かれているということに対しての懸念はやはりあります。ありますが,私はこれは名称使用の問題のところで解決すべきなのではないかと考えております。ということは,公益的目的信託という新たな目的信託の類型というのを作るのはやはり屋上屋を重ねるということになりますので,やるべきではないと考えております。
○中辻幹事 今回の部会資料41の「第1 公益信託の効力の発生時期」で挙げた3つの案のまとめ方については沖野幹事の御指摘のとおりでして,認可でも認定でもその行政行為がされた時点から効力が発生することになりますし,仮に信託契約の準備段階で行政庁の認可を受けたなら信託契約のときから効力が発生するということになると考えています。
  その上で,ちょっと前の資料に立ち戻ってしまいますし,その資料が今お手元にない方がいらっしゃると思うので申し訳ないのですが,部会資料38の第2の3のゴシックでは,公益信託法第2条1項の削除という提案をしておりました。そこでは,公益信託の認定を受けていない目的信託の効力を認めるかどうかは,信託法附則3項で公益信託法に任されている部分であり,現行の公益信託法2条1項からは,主務官庁の許可を受けない限り許可申請の有無を問わずそのような信託を設定しても無効である,山本参考人の表現をお借りすれば一般的禁止を伴う「強い認可」であるように読めるのだけれども,2条1項を削除することにより,そうはならないということが明確になるということを御説明し,皆様の了承を得られたと理解しております。
  その上で,今回の部会資料41は,信託契約の当事者が公益信託として認可/認定の申請を予定しているものを取り出して効力の発生時期を議論していただくために作成したものですので,認可/認定の申請を予定していない信託はひとまず枠の外に措いてお考え頂ければと存じます。
○吉谷委員 第1の論点につきましても,既に同様の御意見も出たところではございますが,意見を述べさせていただきます。
  まず,公益信託の効力の発生時期につきましては,先ほど申し上げましたように,認可の後に信託契約を結ぶという場合もありますので,認可のときではなくて認可のとき,あるいはそれ以降という形でしていただければと思います。そして,先ほど申し上げたとおりで,山本参考人の御説明の認定という形には反対ということでございます。
  それでは,弱い認可の場合に,デフォルトルールをどのように置くのかということにつきましては,認可がされなかった公益信託が目的信託として成立するということをデフォルトとする規定を置く,これには反対いたします。理由は2点です。
  1点目は,私が元々イメージしておりますのは,公益信託を設定するに当たって,新たな信託を設定するというような場面を専ら想定しているところです。その場合に,委託者は,公益信託の認可が得られない場合に,普通はどのように修正をすれば公益信託として認可が得られるのでしょうかというふうに受託者になろうとしている人に対して確認するわけです。そのような検討もせずに目的信託を成立させてしまうというのはいかがなものかと,本末転倒なのではないかと思います。
  また,その認可が得られなかった,認可を受けられなかった場合に効力が生じるとなっておるのですけれども,認可が受けられなかったというのが一体いつ決まるのかということになるかと思います。そうすると,あらかじめこの信託契約で認可を受けますと,これが受けられなかった場合には目的信託になりますよというようなことをあらかじめ委託者と受託者との間で考えておくというようなことになるわけです。
  そこで,理由の二つ目にまいりますけれども,先ほど,公益信託になるから税の恩典が得られるとは限らないのではないかというお話もございましたが,私どもとしては,公益信託の認定が受けられることによって,どのタイプのものも一律に税の恩典が得られるかどうかというのは分からないのかもしれないと思っておりますけれども,公益信託の認可が得られた場合には,セットになって何らかの税の恩典があると,一定のパターンのものには一定の税の恩典があるというような形で,今まで2段階に分かれていたものが1段階で済むということを望んでいるわけであります。
  ちょっとそのような形になるといいなという話ではあるのですけれども,現状のものを考えてみましても,公益信託と目的信託では課税の違いがあります。課税が違いますと,当初信託財産であるとか,事業を始めてから得られる信託財産について,当然キャッシュフローが違ってくるわけです。このキャッシュフローが変わるわけですから,当初の信託財産額も変わるわけですし,事業計画も変わるということになります。そのようなことを織り込んで,初めから目的信託と公益信託でこういうふうになりますからということを検討した上で公益信託の認可を受けようというのですから,これは余り現実的ではないだろうと思っているのです。というわけで,デフォルトルールとしては,目的信託としては成立しないとすべきだと思います。
  目的信託から公益信託に変更するパターンのときにどうなのかという議論もあると思いますけれども,これについては,私は元々そのような変更というのを,複雑な制度になるので認めるべきではないという立場でありますので,省略させていただきます。
○中田部会長 ただ今の御発言は,甲案を前提とした上で,その認可の時ではなくて,認可の時あるいはそれ以降とすべきだということなのか,それとも丙案について,デフォルトルールを逆にするというものであれば許容するという御趣旨なのか,いかがでしょうか。
○吉谷委員 丙案でデフォルトルールを逆にするのであれば許容できるとは思っているのですけれども,余り使われることがないだろうと思っているので,わざわざそのようなデフォルトルールを設ける必要があるのか,それとも,解釈に任せるのかというところは考えようかなと思いました。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○沖野幹事 度々申し訳ありません。場面設定がどうかということを詳細に説明をしてくださいまして,ありがとうございました。中辻幹事から最後,明確にしていただいたと思うのですけれども,念のためなのですが,神田委員あるいは吉谷委員のお話などをお伺いしまして,あるいは林幹事のお話をお伺いしまして,ここでは申請がされたときの問題であるということはもう明確になったと思うのですが,その申請が新しく公益信託をゼロからといいますか,作ろうという場合の申請と,既に例えば1年ぐらい,目的信託でもできるということだということが前提ですが,やってみて,これはやはり公益信託の名称で続けよう,いったん終了させてもう一回作り直すというよりは,今のままで申請しようという場合もあり得るということが指摘され,そういう場合がそもそもあり得るか,認められるかということと,それをも射程にして,この話をするのかということですが,そこを多分,整理はした方がいいのではないかと思います。
  それから,効力発生時期ということに関連しましては,例の2段階論の話ということがあり,それは最終的には林幹事がおっしゃったように,信託行為と認可の両方がそろったときに効力は発生するというところでまとめられ,信託行為というのが常に先行しなければいけないかというと,必ずしもそうではないと,現在の実務もそうであると,何らかの前提の予備的行為で認可を申請しても足りるというところになるのではないかと思われます。それで,あとの認可を受けられなかったときにどうなるかというのは,どちらをデフォルトにするかということであり,先ほどのやりとりですが,丙案はデフォルトはおよそ効力を生じないのだけれども,信託行為で別の定めがあったときには有効にするというものですよね。吉谷委員のお考えとしては,許容可能なのはその範囲だということでしたよね。という理解かと思いましたが,これは念のため確認です。
○中田部会長 すみません,最後の御指摘については,ちょっと私の整理が混乱したかもしれませんけれども,今の沖野幹事のような御指摘の趣旨と承ってよろしいでしょうか。
○吉谷委員 結構です,はい。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○中辻幹事 先ほど吉谷委員が少し触れられました目的信託から公益信託への変更のような,途中まで目的信託として遂行し,ある時点で公益信託の認定を受けることにしました,というものは,最初から公益信託の認可/認定を受けるつもりがある基本形とは違いますので,これも今回は枠の外としてお考えいただければと思います。
○中田部会長 山本参考人,これまでの御議論をお聞きになられまして,もし何かコメントなどございましたら。
○山本参考人 やや法技術的に言えば,私の理解するところ,甲案ないしは私が強い効力を持つ認可というふうに表現したものは,先ほどの道垣内委員の話にもありましたけれども,まず,現在の公益信託法の2条1項のように,公益目的の信託という定義がまずあって,それについては,とにかく認可を受けなくてはいけないと,逆に言えば,認可を受けないと効力は発生しませんという形にした上で認可の基準を定めるという形で,まず,認可の対象をはっきりと決めて,その上で認可基準を決める形になるかと思います。私の理解するところ,若干このようなシステムに賛成という委員もいらっしゃいましたけれども,反対であるという委員が多かったのではないかと思います。
  ちなみに申しますと,余り議論を混乱させても仕方がないのですけれども,行為規制効をもつ認可を狭い範囲で法定して,公益目的の中でも,一部については認可を受けなければ信託を行ってはならないとするような制度も中間的には考えられますけれども,果たしてそこまで複雑な制度を作る必要があるかどうかということかと思います。
  あと,丙案ないし私が弱い効力を持つ認可と表現をしたものは,結局,受益者の定めのない信託として効力を持つかどうかは信託行為の解釈により,当事者の意思によるというのがベースで,その上で,では,どちらをデフォルトにするかということですので,細かく言えば,何もデフォルトを設けない,とにかく意思解釈に全部任せるやり方もあるという前提で書いておりますが,ただ,実際上はデフォルトを設けた方が恐らく動きやすいだろうということで,そういうふうに表現をいたしました。
  ですから,この場合には恐らく,法律において,先ほど道垣内委員が言われた公益信託契約みたいなものを定義して,そこにおいて,契約にこういう定めがない限り,受益者の定めのない信託として効力を持つとか,持たないというような形で表現をしていくことになると思いますので,特に丙案ないし私が弱い効力を持つ認可と書いたものは,公益信託契約のような表現を多分使って定義をした上で,契約に定めがあるかないかで場合を分けて,デフォルトルールを作っていく形になるのではないかと思います。
  樋口委員から言われた点ですけれども,そのような御指摘を頂くのは大変有り難く思います。恐らく樋口委員の懸念に関しては,先ほどほかの委員からも御指摘がありましたように,まず,名称独占といいますか,名称の使用の規制をある程度厳しくする,つまり,公益と信託という二つの言葉をくっ付けたような形で名乗ってはいけないとか,そういった形でまずは対応できるかと思います。もしも,それでは対応し切れないということですと,先ほどちょっと申しましたけれども,公益目的の中でも部分的にこういうものを目的に信託をする場合には認可を受けなくてはいけないというふうに,ここで言う強い効力を持たせる認可を,範囲を限定した上で残すことも考えられなくはないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにございますでしょうか。
  主として第1について御意見を承りながら,第2についても言及していただくということでございましたけれども,第2について,更に御意見などございましたらお出しいただきたいと存じます。
○平川委員 第2につきましては,第1の公益信託の効力の発生時期について,公益信託の認定があったときとする丁案を妥当と考えますけれども,それの関連から,認定の取消しがあった場合には私法上の効果と公益性の認定は同時に効力を失うというのが私どもの丁案との親和性もあり,妥当であると考えます。
  乙案の取消しがあった場合に,信託行為に事前の定めがある場合に,公益を目的とする目的信託として存続するという案については,そもそも公益信託として出捐された財産を,公益を目的とすると言いながらも私益信託として引き継ぐことは,制度としても税法上の優遇の観点からもあり得ないと考えます。もっとも,それを認めるとするならば,残された信託財産について,公益法人制度におけるように公益目的支出計画を提出し実行させるとするか,優遇を受けた税金の還元を何らかの形で行う等の議論が必要となり,大変複雑な制度となりますので,そのような形で信託を存続させる必要性もメリットもないと考えております。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 従来同様で,甲案に賛成いたします。
  乙案の場合は,資料の9ページの6よりちょっと上の辺りにも説明してありますように,公益信託では全ての財産が公益目的の達成のために取得する財産であるという前提ですので,公益目的事業財産に相当する財産だと。そうしますと,公益法人と同様の立て付けで考えると,ほとんど全てを寄附等してしまわないといけないということになるのではないかと,まず考えております。そうすると,乙案というのは寄附とかはしないで公益的目的信託として残しましょうという提案であると思います。先ほども申し上げましたけれども,公益を目的とする目的信託の規律というのを新たに設けるのは,まず屋上屋を重ねることになりますので反対というところが一つでございます。
  そしてもう一つは,終了時に目的信託に戻りますということが書かれている信託行為については,これは恐らく税の控除の適用というのはないだろうと思われます。すると,認定取消しがあっても公益を目的とする目的信託として存続させたい場合には,税控除の適用はありませんけれども,そのような公益信託にしたいですかということを委託者の方に我々受託者は確認をするということになるのですけれども,余りそういうニーズはないのではないかと。まず,税控除の適用があった方がいいと思う人にはそういうニーズはないと思いますし,一方で,税控除の適用がなくてもいいのだ,とにかく公益をやりたいのだという人にとっては,公益のお墨付きが得られないような信託として残すことを望みますかという問いには,これは公益ではないから,いや,それはもうそのときは要らないよと,何とか公益信託のままで残してくれと,そのために工夫をしてほしいという反応になるのではないかと思います。ですので,乙案というのは事実上は,ほとんど使われないのではないかと考える次第です。
○林幹事 前回の部会資料40の2の5のときにも申し上げたのですが,それと引き続き同じですが,今のところは乙案に賛成致します。
  確かに,部会資料にも書かれているような,公益として支出された資産なのだからという部分について,問題点というか,悩ましさがあることは承知しているつもりなのですが,とはいうものの,取消しがされる場面というのはいろいろあって,取消しはされたけれども,公益的な目的として残る可能性がある場合もあると思います。吉谷委員はニーズはないとおっしゃられたのですけれども,必ずしもそうではないのではないかと,場合によってはあるのではないかとは思います。ですから,そういう意味においては,今のところは少なくとも乙案のようなことで残していただいて,あの中間試案なりでもう少し議論していただいて,ニーズの有無であるとかをパブリックコメントを経て見ていただいたらいいのではないかと思います。
  ですから,認定のない公益的な目的信託は否定しない前提ですから,その中の一つのものとしてあり得るものと思いますし,その前提で,そういうものも制度で組めないのかをもう少し議論していただいたらと思います。
  確かに,山本参考人は設立とか申請の時点と,その取消しの時点と,考え方が違う場合とおっしゃられて,そこにも引っ掛かってはいるのですが,問題点は分かった上で,今としては乙案を支持して,もう少し議論の対象としていただきたいというところです。
○中田部会長 ありがとうございました。
  部会資料41の9ページに,乙案を採る場合の問題点が指摘されていますけれども,これについては何かお考えはございますでしょうか。
○林幹事 個別にこうであればというのは,まだ答えを出し切れていない面もあるので,今直ちには答えられず申し訳ありませんが,ただ,その時点まで公益信託として実績があって,ガバナンス等の制度も一応設けられたものとしてそこまで来たわけですから,そういう意味においては,公益認定が取消されてその認定機関からの監督はないのですが,一定監督もあるわけで,公益目的としての余地があるのなら残せばいいのではないか,というのが今のところの意見です。そういう点も含め,もうちょっと詰めないといけないことは理解していますが,今のところはこうした意見にとどまりますが申し上げたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかに。
○神田委員 ちょっと細かい点で,前に出たのかもしれませんし,本筋でなかったら申し訳ないのですけれども,現在,現行法のもとで存在している公益信託というものは,この新しい改正の下では永遠に適用除外で行き続けるのか,一定の時期にこの新法というか,改正後のルールに言う公益認定を受けなければいけないのか。もし後者だとして,受けられなかった場合に,そういうものについては,一般論としては例えば甲案でいく場合であっても,乙案で処理をするのかという問題があるように思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  経過措置については,前に少し事務局の方からの御提案,御議論があったかと存じますが,重要な点だと思いますので,引き続き検討することになろうかと存じます。
  ほかには。
○藤谷関係官 申し訳ありません,お時間が限られているところ,恐れ入ります。
  一つ,山本参考人が問題提起してくださったところでまだ議論されていないと思われる点として,公益上の理由がないと財産権の過度の制約に当たるのではないかという論点がございます。
  この論点は,強い効力を持つ認可というのと甲案とが連動するのではないかという話で,まず資料の6ページで出てきて,もう一回,資料の9から10ページにかけて,終了のところでももう一回出てくるというかたちになっております。
  確かに,財産権の過度の制限に当たるのではないかというのは非常に重要なポイントだと思います。しかし,その点については,既に先ほど中辻幹事から御説明ありましたとおり,現在の案でも,現行法の2条1項を削除するという形で,公益認定を受けないルートで私人が,自由にやるということは否定しないということで,一応そこは認められていると。そうすると,現在の第1の甲案及び第2の方の甲案を採った場合,若しくはデフォルトルールで,甲案というか,認めないというルールを採った場合には何が問題になるかというと,公益認定を目指してやったけれども失敗した人に全然それ例外の救済がなくて,奈落の底まで落ちてしまうというような制度の立て付けが問題になるということなのだろうと思いますが,果たして,その場合にもやはり財産権の過度の制約ということは考えた方がよいのか否か。つまり,山本参考人の御説明の中で,この論点が一つ甲案と丙案デフォルトの原則としては整理させないという考え方との分水嶺になっているような気がしましたものですから,それは民事基本法制を考える方からすると,余りそういう財産権の規制に当たるのではないかということは,それほど正面から議論してこなかったように思いますので,とても重要なポイントではないかと思いましたので,その点について改めてお考えをお聞かせいただけると大変勉強になるのではないかと思いまして,よろしくお願いいたします。
○中田部会長 山本参考人,よろしいでしょうか。
○山本参考人 財産権と書きましたけれども,民事法の研究者の方々の前でこんなことを言うのは恐縮なのですが,私的自治と申しますか,意思の自由の問題ではないかと思います。
  丙案,あるいは私が弱い効力を持つ認可と申し上げたものは,私的自治ないし意思の自由を基礎にしており,それと比べたときに,甲案ないし私が強い効力を持つ認可と言ったものは,当事者がどのように考えていようとも終了をさせるという制度であって,ということは,始めようというときにも,認可を受けない限りやはりやってはいけないということに必然的になるわけですね。当事者が受益者の定めのない信託として続けようと思っても,もうそれは駄目です,どう考えていようとおしまいですということは,当事者の意思が否定されることになり,それはなぜか,それだけの実質的な公益上の理由が,必要だろうと思うのですね。
  そうすると,それと同じ理由でもって,結局,信託を始めようというときにも,一定の類型の信託については,やはり認可を受けなくては駄目だということになってくる。そうすると,全面的に,当事者の意思如何にかかわらず,とにかくそれは駄目ですと,信託としての効力を発生させませんということに,公益上の理由があるかどうかということになろうかと思います。ですから,財産権というよりも,むしろそのような私的自治,意思の自由の制約ということかもしれません。
○藤谷関係官 ありがとうございます。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにございますでしょうか。
○深山委員 先ほど沖野幹事が御指摘をされたとおり,全く新たに公益信託を作ろうという場合と,既に公益的な信託設定があって,それをある段階で,これをいっそ公益信託にしようという場合があり,場面を分けて議論なり整理すべきだという御指摘だったとお聞きしたのですが,それにごもっともだと思って,その先を私なりに考えていました。既に公益的な受益者の定めのない信託をしているときに,例えば1年やって,では,これはもう公益信託に言わば格上げをして税制優遇も受けようとか,名称も使わせてもらおうということになって申請をしたけれども,何らかの理由で認められなかったという場合,その場合には公益信託にはもちろんならないわけですが,全く何もなくなるわけではなくて,元の状態に戻るといいますか,元の公益信託ではない公益的な受益者の定めのない信託に戻るといいますか,そのままということだと思うのですね。
  他方,全く新たに信託そのものを作ろうというときを考えると,それは元々何もない状態なので,公益の認定なり認可を申請したけれども,おりなかった場合には,戻るものがないという意味では全く何もなくなってしまうというのも一つの割り切りとしてはあると思うのです。しかし,観念的にはそういうふうに,場合が違うから結果が違ってもいいと言えるのでしょうけれども,しかし実際には,そういう認められない場合もおもんぱかって取りあえず作っておこうと。極端に言えば,1か月でも作って,それからやれば全くゼロにはならないということになるのも,またおかしな話だという気がするのですね。ですから,もちろんどういう理由でその認定が受けられないかということにもよるのかもしれませんけれども,新たに作る場合,あるいはそれに近い場合であっても,現行法の2条1項を削除する以上,もはや,藤谷関係官の言い方を借りるとすれば,奈落の底まで落ちてしまうしか道がないというのはどうもやはりしっくりこないので,2条1項を削除する以上は,主位的な意思が通らなくても予備的な意思が,無条件ではもちろんないわけですが,一定の要件さえ満たせば生かされる余地というのは,やはり認められるような仕組み作りが必要なのではないかなという気がいたしました。
○山本委員 先ほどの山本参考人からの答えに引き続いて,少し怖いのですけれども,質問させていただければと思います。
  9ページの真ん中ぐらいの段で,本論点で乙案を採用する場合にはとあって,公益信託の認可ないし認定が取り消された後,公益目的取得財産残額を算定し,その額を他の類似目的の公益信託の信託財産とすることなどというのが方策として挙げられています。
  このようなことを本当にしないといけないとなると,信託としての存続は事実上,考えられなくなるだろうということがあるわけですけれども,このような規制を課すこと自体,私的自治に対する過剰な制約になるかという問題はあるのでしょうか。それとも,これは確かに一見すると過剰な制約のように見えるけれども,やはり合理的な理由があるのであって,それは正当化されると考えるのでしょうか。これはかなり重大な問題ですし,それを直接おうかがいできるまれな機会ですので,お聞きかせいただければと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか,お願いします。
○山本参考人 これは私が最終的な判断はできないのですけれども,観念的にはあり得ると思います。やはり私的自治等の制約として観念的には考えられると。ただ,問題は,先ほど言われましたように,要するに合理的な理由があるのかどうかということで,全く新規に公益信託を始めるときよりは,ずっと公益信託をやってきて,その結果として問題が出てくるという場面ですので,私は感じとしては,合理的な理由がこちらの方が付けやすいかと思います。
  ですから,私の案の中でも,一応考えられるとしました。それにも更に段階があって,デフォルトルールとしてどちらを設けるかということと,更に一切,甲案のように排除するというやり方があると思いますが,可能性としては合理的な理由が立つかと思います。
  ついでに,資料を事前に読んで分からなかったのが,今の9ページの6と書いてあるところの直前に,乙案を採用して公益信託は終了するのだけれども,引き続き行政庁が一定の範囲で監督する仕組みを設けるとありまして,これは公益信託における行政庁の監督等の仕組みとはまた違う監督の仕組みを設けるということなのですが,何かこれが,いささか中途半端な感じがして,なぜ公益信託はおしまいなのに,まだ行政庁の監督が続くのだろうかと。公益信託の場合よりは弱い監督を考えているのかもしれないのですが,そういう中間的な監督の制度というものが成り立つかどうかということがよく分からなかったというのが質問というか,単に感想ですけれども,ついででしたので申し上げます。
○中田部会長 何か。
○中辻幹事 部会資料の9ページで表現したかったことは,公益信託の認定を取り消された後の信託への行政庁の監督の仕組みとしては,当然のことながら公益信託の認定を受けているときと同じ形で監督する必要も理由も無くなるものの,認定中の監督よりも弱い形で,公益への拠出が予定されていた信託財産が私益に流れないようにするために必要な範囲での監督が考えられるのではないかということなのですが。
○中田部会長 私が伺うのはよくないかもしれませんけれども,公益目的財産額について,公益目的支出計画を立てて,何年かに分けてそれを実行するというときの,それを監督というのかどうか分かりませんけれども,一定の関与があり得ると思うのですけれども,その話とは別のことですか,それとも,そのことでしょうか。
○中辻幹事 旧公益法人のうち新制度の下での公益認定を受けない法人が一般法人に移行していく局面では,今,中田部会長に御紹介していただいたように,旧公益法人の財産を一般法人が公益目的支出計画に従って支出していくことを行政庁が監督するという仕組みがございました。それと同じような仕組みをイメージしていただくのが分かりやすいように思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○山本参考人 ええ,分かりました。そういうイメージで了解いたしました。
○吉谷委員 何を聞こうとしていたのか,ちょっとすぐによみがえってこないですけれども,深山委員の御発言に対する御質問の趣旨だったのですけれども,深山委員の御発言は,その第1の方の論点をお話されたのかなというふうに聞いていたときは理解していまして,その第1のところで公益の認可がされなかったときに奈落の底に落ちるということは多分なくて,認可されなかったら,そのときもう一回受託者と委託者で合意をし直せばいいのではないかなとちょっと考えましたので,そこの御確認というか,意見なのですけれども。
○深山委員 おっしゃるように,まだ何も信託としての実態がなくて,これから作ろうというときを想定すれば,確かに公益信託で作ろうと思って契約を結んで認可/認定の申請をしたけれども,駄目だったというときに,では,もう一回,一からやり直せばいいというのは,それ自体はそのとおりなのでしょう。
  私が申し上げたかったのは,その場合に,先ほど契約が必ずしも先行するとは限らないという御指摘もあって,確かにそうかなと思うのですが,契約が先行をして,なおかつ是非公益信託を新たに作りたいけれども,万が一,認定が通らなかったときには,次善の策として公益的な目的信託にしようという意図で契約を結んでいた場合には,改めて契約を結び直すまでもなく,従前の契約を生かすということがあるというようなことをイメージして申し上げました。
○中田部会長 大体よろしいでしょうか。
○藤谷関係官 すみません,一つだけ。テクニカルなのですけれども,公益からもう一回目的におりてくるときに,目的信託の20年の期間制限の潜脱にならないか,どういうふうに考えたらいいのかという問題はあるかなと思いました。
○中田部会長 今のような問題点があるという御指摘を頂きました。
  ほかにはよろしいでしょうか。
○中辻幹事 沖野幹事がさきほど仰っていたことに関連して,少し御質問させていただければと存じます。
  沖野幹事からは,新たな公益信託制度の下では,信託法附則3項も改正の必要があり,3項のうち,現在公益を目的とするものを除くとしているところが,公益認定を受けたものを除くという形になるのではなかろうかと,その上で,公益を目的とする受益者の定めのない信託について敢えて特段の規律を設ける必要性はない,すなわち現在の目的信託と同一の規律を適用すれば良く,2類型で足りるというお考えが提示されたものと受け止めました。
  事務局としては,そのようなお考えを前提とした場合には,今回の部会資料で用いている[公益を目的とする]受益者の定めのない信託の角括弧でくくった部分を取り外し「受益者の定めない信託」とすることが合理的な選択肢になると考えています。その場合,行政庁の認可を受けられなかった,あるいは行政庁の認可を受けるつもりのない公益目的の目的信託が有効に成立するためには,現在の目的信託の受託者要件を満たしていることが必要になると思います。
  他方で,公益信託法2条1項を廃止した場合には,山本参考人のお言葉を借りるなら,公益認定を受けることに伴う地位設定効が生じない,公益目的の目的信託の設定が現実味を帯びてきて,3類型目といいますか,角括弧でくくった部分を取り入れた「公益目的の受益者の定めのない信託」について現在の目的信託とは別の規律を設けるという選択肢もあると考えています。そして,その場合,考え方はさらに2つに分かれて,そのような信託をわりと緩やかに認めていくべきだと,信託法附則3項のような受託者要件は要求しないし,ガバナンスも緩やかなものでいいという考え方がある一方で,いやそれは違うのだと,委託者の私益を実現するための目的信託ですら厳しい受託者要件が設けられているのに,公益目的の目的信託の受託者要件が緩和されるのはおかしいし,ガバナンスも厳格なものにすべきであるという考え方もあると思います。後者の考え方を採ると,最終的には2類型論と同じ仕組みに落ち着くことになりそうです。
  今回の部会資料は,これらの点をひとまず措いて作っておりますし,本当は事務局がもう少し詰めて検討すべきなのですけれども,少しなりとも前に進みたいので,もしこの点について沖野幹事に更にお考えがあれば,御教授いただきたいと思います。
○沖野幹事 機会を与えていただきましてありがとうございます。
  私はそこまでの必要はないのではないかと申し上げました。現時点で立法をすることを前提にすると,目的信託に更に2類型目のというか,そういう制度を用意するまでのことは,今のところはないのではないかという趣旨です。それは,そのような制度を作ることそのものについて,およそ否定的な立場を採っているわけではなく,公益活動というのを幅広く認めていくということであれば,目的信託だけれども,特殊な目的信託としての制度を用意するということは,それは考えられることは考えられるのではないかとは思います。ただ,そこまでしなくても今の時点ではいいのではないかという程度の感触ではあります。
  考え方としては,元々が制度として公益信託という,あるいは現在ですと公益信託法による信託ですが,それと目的信託というのがあり,それが公益目的であるということによっていずれか分けられるというよりは,こちらの制度を利用するタイプのものはこちらの制度で,目的信託を利用するならば目的信託の規律でと,そういう区分けになるのではないかと考えているということです。
  事務局としては間のものを考えることも十分余地があって,そのときには受託者要件が掛からないということですよね。受託者についての附則の限定が外れるけれども,それを埋める形のそれ以外の一定の規律が入ってくる,あるいはその中に他から財産を集めるときにはというような話が入ってくるかもしれませんが,そういうような,特別な規定を更に設けて,公益信託とは別に目的信託の両方で公益目的に信託を使えるということを正面から明らかにし,類型としても3類型用意するということをするだけの用意があるということであれば,それに対しておよそ否定的な姿勢だということではありません。抽象的な言い方で申し訳ありません。
○小野委員 すみません,触発されまして,是非やりましょうということで。
  この部会の初めの頃に,一般財団法人,一般社団法人,それに対して公益認定をもらうという形での法人制度の2階建ての方は,税制的にも,またガバナンス的にも非常に明確で分かりやすく,また使いやすいものであるにもかかわらず,この信託制度に関しては,目的信託の中に,もちろん法人要件とかそっちの要件もありますし,法人課税信託という,ある意味では使い勝手が悪いという観点もございますし,先ほど新井委員がおっしゃったように,委託者の権利が非常に強いという観点もありますけれども,デフォルトルールとしてといいますか,2階建てとしてとか,いろいろな言い方あるかもしれませんけれども,公益目的の目的信託というものが今後登場してくる場面というのは非常に今回の議論でも多いわけですが,そうすると,やはりそこでは通常の目的信託よりガバナンス機能というのはもっと強化して,一般的に割と批判的に言われるような,今までの類型としての公益目的ではない,目的信託とは違うものというものを,しっかりとガバナンス制度も整えた上で,制度として用意することによって,仮に公益信託認定は必要でない公益目的目的信託であっても,社会一般的にはきちっとしたガバナンスがされている。また,そうすることによって,税制上の扱いも違ってくるかもしれないというような可能性を秘めるものとして,せっかくの機会ですし,決して当部会の枠を,のりを越えているとも思えませんので検討してみてはいかがでしょうか。ガバナンスの制度をしっかりというのは,ある意味では公益信託と同様に信託管理人必置にするし,委託者の権利をその分だけなるべく後退させるとか,そういう観点だと思います。それに対して行政庁はどういうふうな監督機能を果たすかというのは別の議論ですし,ガバナンス機能だけ十分果たせれば,私的自治に任せるという観点もあるかと思います。
○沖野幹事 小野委員に趣旨を確認させていただきたいのですが,例えばガバナンスの方を信託管理人を必置にすることによって,附則の受託者の限定を外すというようなことですよね。それは,やはり公益目的だということがあるからなのでしょうか。それとも,そういうのにすれば,公益目的かどうかということをぎりぎり言わなくても目的信託でできるということなのか。つまり,やはり公益目的だと,目的がそこだと,その制度として特殊なものが許されるということなのか,ガバナンスがしっかりそこで対応できるならば,受託者による絞りによらなくてもよく,それは公益ではなくても制度としてはもう十分いろいろなものに使えるのですということも考えられるのかと思ったのですが,飽くまでやはり公益目的だからということなのですね。
○小野委員 沖野幹事が私にいいきっかけを作っていただいて,いや,そういうものと必ずしも限らないと,我々が想定したり想像する以外の形での公益目的以外の社会に有用な目的信託というのも十分あり得ると思うところもありますから,ガバナンス機能をより強化することによって広げるというのは,総論としてはもちろん賛成です。
  ただ,他方において,当部会における議論とか,先ほどから議論しているように公益信託でない場合に何かが残るだろうと,残るべきではないか,また,私的自治は認めるべきではないかという議論の観点からすると,公益目的目的信託に当面は,別にそれを広げるという議論を反対するわけでも何もないですけれども,当部会の今日の議論,今日の延長としては,公益目的の目的信託においてはということでいいかと思います。特にこれまでの議論,今日でなくてこれまでの部会での議論でも,受託者として担い手というものが個人の場合,場合によっては法人とか,それは別に資産規模ではなくて受託者の能力という観点から考えましょうということを議論してきたわけですから,そうすると,附則の要件というものは必ずしも適用がない,そぐわない状況ではないのかなと思います。
  ただ,沖野幹事がおっしゃるように,より広げるということはいろいろな意味で必要かと思います。どういう状況ということを今後,議論できるかと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。そろそろ時間が近づいてまいりました。
○吉谷委員 元々公益的目的信託という制度を作ることに反対なのですけれども,公益的目的信託という制度を作る場合に,それは公益だからなのか目的だからなのか,目的信託だからガバナンスを厳しくしないといけないのか,公益だからガバナンスを厳しくしないといけないのかが,どういう理由なのだろうというのはちょっとまだよく分かっていないということと,以前から,公益的な一般の信託というのはできるのであって,それを活用するというのがいいのではないかということを申し上げてきました関係からすると,公益的目的信託という類型を立てるとしたら,公益的一般信託,これについて何らの規律もなくていいのか。そういう制度を作ることは元々不要だという立場なので,要らないという結論になるべきだと思っているのですけれども,一応,概念整理としてはそういうことも視野に入れる必要があるかもしれないというところまで言及させていただきました。
○中辻幹事 ありがとうございました。事務局として2分類にするのか,3分類にするのか,必ずどちらがいいということまで考えているわけではございません。今回の部会資料で,角括弧を用いて[公益を目的とする]受益者の定めのない信託という表現をしているのは,どちらの選択肢もあり得ると考えているからでございます。
  一見すると,3類型にした方が類型が増えるので公益を目的とする信託の利用を促進するようにも見えるのですが,2類型とした方が公益信託本体の信頼性が高まるし,制度としても分かりやすく,公益信託本体の利用を促進するようにも思います。この点については,現時点では,事務局として固定的に考えているわけではないということを付け加えさせていただければと存じます。
○中田部会長 大体よろしいでしょうか。
  第1の論点につきましては,タイトルが「公益信託の効力の発生時期」ということで,分かりにくいという御指摘を頂きました。恐らくこれは発生時期というよりも,発生の仕方とかメカニズムとか,そういう趣旨でありまして,それに伴って,認定ないし認可を受けていない公益目的の信託をどういうふうに呼ぶのかという概念整理の問題であったと思います。その上で,その概念について,神田委員から御指摘を頂きました時間的な関係と論理的な関係を検討すべきであるとか,あるいは今日,山本参考人からるる御説明いただきました行政上の概念との関係であるとかということで,更に整理していく必要があると思います。
  その上で,実質論としていただきました御意見は,結局は認定ないし認可のない公益を目的とする信託,受益者の定めのない信託をどう考えるのかということで,本日は,場合分けをして考えるべきであるという御指摘をいただきました。すなわち,申請しない場合と,申請したが不認可である場合と,認定ないし認可が取り消された場合という三つある,あるいは,新たに申請する場合と,既にあるものについての認定ないし認可の申請をする場合という二つのケースがある,というようなことだったと思います。それぞれについて認めるかどうか,あるいは認めるとして,その規律の具体的な在り方をどうするのか,更に,受益者の定めのない信託一般との関係,あるいは認定ないし認可の前置を必ず要求するべきかどうかといった点についての御指摘があったかと思います。
  本日の山本参考人のお話から始まり,御審議によりまして,問題点が非常に明確になってきたと思います。その上で,公益を目的とする受益者の定めのない信託を仮に認めるとしたら,その具体的な規律の在り方はどうなのかということが検討課題だということが浮かび上がってきたのではないかと思います。
  第2につきましては,当然に終了するということに賛成の御意見の方が多かったかと存じますが,いや,これは残してもいいのだという御指摘もいただきました。ただ,残すにしても,何らかの規制ないし注意が必要ではないかという御指摘を複数の委員からいただきまして,仮に残すとすれば,その規制ないし注意の具体的な在り方,あるいはそれに要するコストとの関係というのが検討課題であろうということが浮かび上がってきたのではないかと思います。
  以上の御指摘を踏まえまして,更にこの部会で検討をお進めいただければと存じます。
  ほかに御意見などございませんでしょうか。
  ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。
  最後に,次回の日程等について,事務当局から説明をしていただきます。
○中辻幹事 次回の日程としては,7月4日(火曜日)午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は,現時点未定ですので,決まり次第,また御連絡いたします。
  当日は,参考人としてこの部会にお招きする同志社大学の佐久間毅教授から,新たな公益信託制度を設計する際の民法,信託法上の論点についてお話していただいた後,今日と同じような形で質疑応答を行う予定です。
  また,次回は,公益信託設定後の信託の変更等の論点について,信託の目的以外の変更と信託の目的の変更,信託の併合・分割の三つに分けて整理した部会資料を事務局の方で用意し,それを踏まえて御審議いただくことも予定しております。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  それでは,これで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-







法制審議会信託法部会 第41回会議 議事録

第1 日 時  平成29年5月9日(火)   自 午後1時31分                        至 午後4時44分

第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室

第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討

第4 議 事 (次のとおり)

議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第41回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
  本日は,小川委員,神田委員,岡田幹事が御欠席です。
  まず,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いいたします。
○中辻幹事 今回の部会では,特に新たに事務局の方から配布する資料はございません。本日の御審議は,前回配布の部会資料40を使用して行うことを予定しておりますので,部会資料40がお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。よろしいでしょうか。
○中田部会長 それでは,積み残しの分ですが,部会資料40の第1の「5 公益信託の変更命令」及び「第2 公益信託と私益信託等の相互転換」について御審議を頂きます。前回の残りということで,審議事項は多くありませんので,続けて御審議いただきまして,もし必要があれば,適宜,休憩を入れることもあり得るということで進めさせていただきたいと存じます。
  それでは,早速ですけれども,第1の「5 公益信託の変更命令」について御審議いただきたいと思います。事務当局からの説明は,前回,既にされておりますので,最初から意見交換に入ります。御自由に御発言をお願いいたします。
○松下幹事 12ページの5についてですけれども,ここでは(2)である権限を裁判所と行政庁のいずれに属せしめるかということが問題になっています。もっと早い段階で発言すべきだったようにも思うのですが,第二読会で裁判所と行政庁の権限分配が出てくる最後の箇所なので,一言,発言させていただきます。
  以前の部会資料36で公益信託法8条について議論をいたしました。一般の信託では,裁判所の権限になっているものを主務官庁に移している規定ですけれども,そこで,部会資料では権限分配について,このような整理がされていました。受益者その他の信託関係者の保護とか,利害調整を通じて信託目的の達成を図るための権限は,公益信託の目的の達成を図るために,公益信託を監督する機関である公益信託の主務官庁の権限とする。信託関係者以外の利害関係人,例えば信託債権者などですが,の保護のための権限は司法裁量なので裁判所の権限とすると,こういう整理がされました。公益信託法8条をどうするかということについては,新しい公益信託法制でもこの趣旨を基本的に維持するという方向で議論がされたと記憶しております。ただし,主務官庁による包括的な監督は廃止されますので,信託の一般原則によれば裁判所の権限になるものが,公益信託であるがゆえに主務官庁の権限とされていたものを裁判所の権限に戻すということがあり得るということかと思います。
  先ほど述べた誰のための権限かという区別は,ほかの論点にも当てはまるだろうと思います。そういう観点から,部会資料40の第1の5の「公益信託の変更命令」というのを見てみますと,信託の変更命令という制度は信託目的の達成のために,あるいは受益者の保護のためにする仕組みではないかと思いますので,その観点からすると行政庁の権限とするというのが落ち着きがよさそうな気がしますが,私,この辺は詳しくはありませんので,この点については御教授いただければと思います。
  もう三つ,問題があると思うんですけれども,一つは理論的な問題として行政庁に対する申立権,(3)に出てきますけれども,申立権というのは観念できるのかどうかです。つまり,裁判所に対する申立権という観念は,我々はなじんでいる言葉ですけれども,行政庁に対する申立権というのが同じように観念できるのかどうかということが理論的には気になります。
  それから,二つ目の問題として,裁判所の非訟手続であれば決定に対する不服申立ては即時抗告になりますが,行政庁の権限とする場合に不服申立てがどういう手続になるのか,これは行政不服審判になるのでしょうか,あるいは行政訴訟にいきなりなるのでしょうか,分かりませんが,それが公益信託の目的の達成という手続構造と適合的かどうかということが問題になるわけです。
  それから,三つ目,最後の問題として,時間的にはその決定より前になりますけれども,判断資料の収集を始めとして,どのような手続で判断がされるのか。つまり,非訟手続と行政手続の違いというのでしょうか,そういうものを異同という観点から検討すべきであるという気がいたします。
  今,申し上げた三つの問題は既にある問題で,別に新しく出てきた問題ではないんですけれども,私が不勉強のせいだと思いますが,余り物の本を見ても書いていないような気がしますので,検討する必要があろうかと思います。
  最後にもう一言,検討の仕方なんですが,部会資料36には別表1というのが付いていて公益信託の監督における第三者機関,つまり,裁判所と行政庁の権限の一覧表というのがありますけれども,一通り議論したら,この別表に議論の成果を落とし込んで横串で刺してみて,相互に均衡を失しないように考える必要があろうかと思います。
○中田部会長 どうもありがとうございました。あちこちで出てくる問題ですけれども,それについての観点と申しますか,検討の仕方について御教示いただきました。ありがとうございました。
  この点について何かございますでしょうか。
  それでは,今の点も含めまして他の点でも結構でございます。変更命令についていかがでしょうか。
○深山委員 5の(1)については賛成いたします。
  今,松下幹事から御指摘のあった(2)についてなんですけれども,ここが実際に機能する場面というのを実務的に推測すると,信託の事務処理の変更が必要になる場面が生じたときには,通常は信託関係者内部で信託の変更をする。しかし,それが何らかの事情で合意が得られないような場合に,(3)の申立権者の誰かが裁判所なり行政庁に申立てをして変更を求めると,こういう場面が想定できます。そういう意味では,以前の同様の論点でも申し上げたかと思いますが,信託関係者内部の意見の対立があって,そこに一種の紛争性がある場面ではないかという気がいたします。そういう紛争性のある場面での判断機関としては,行政庁よりは裁判所の方がふさわしいのではないかというのが以前も申し上げた私の意見でございます。そういう意味で乙案を支持したいと思います。
  松下幹事が指摘された裁判所の権限一般について,信託法全体の理解の仕方というのは御指摘いただいたとおりだと思うんですが,この変更命令あるいは終了命令もそうかもしれませんが,この場面を具体的に考えると,裁判所の方がいいのではないかというのが私の意見です。
  (3)については,申立権者に委託者を入れるかどうか,入れるとして,それをデフォルトルールにするかどうかというところですが,デフォルトルールとして委託者を入れるという,この提案に賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私は裁判所ではなく,行政庁が公益信託について専門性を有するという点では,行政庁がこの変更についての権限を持つべきだと思うんですけれども,変更命令ではなく,申請又は請求による信託関係人の請求による認可をすると,命令ではなく認可とするとすべきだと思います。それは行政庁の関与をなるべく小さくして私的自治を重んずると,民間による公益信託の促進という意味で,自治に任せるということを原則にすべきであると考えるからです。信託の変更については,原則,信託関係人の合意によりできるということをデフォルトルールとしつつ,例外的に事業目的や事業地域の変更などをする場合において,公益財団法人における定款変更における行政庁の関与と同等にすることが望ましいのではないかと考えます。
  (3)については,委託者に申立権を与えるべきではないと考えます。また,従来より申しておりますように,運営委員会を重要な意思決定機関と位置付けることから,申立権者に運営委員会を加えるべきであると考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  委託者に与えるべきでないという御意見でございますけれども,これは(3)を逆にして,信託行為で定めれば可能ということでしょうか。それも駄目だということでしょうか。
○平川委員 結局,公益信託においては委託者の権限というのは,極力,制限されているという構造を持つべきであると考えますので,信託行為において定めるということもできないと考えます。
○中田部会長 分かりました。
  ほかにいかがでしょうか。
○棚橋幹事 第1の5の(2)については甲案に賛成します。まず,変更命令自体は認定基準に沿って認定したものを事後的に一部変更するというものですので,認定作用に類似する実質を有するものと思えますし,また,行政庁が判断するということになれば,変更後の公益信託が認定基準に適合しているかどうかということも併せて判断することができますので,変更後の公益信託が認定基準に適合することが制度的に担保されることになると考えます。部会資料には,裁判所が認定基準に違反するような公益信託への変更命令を行うことは適切ではないということも記載されていますけれども,そのような御懸念があるということであれば,行政庁が判断主体となる方が適切と考えております。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。関連ですか。
○道垣内委員 1つ前の話題に関連する事柄でして,平川委員の御発言についてです。考慮すべき要素というのを明らかにするために,あえて反対するというところもあるのですが,平川委員の方から,変更が申し立てられて,それを認可するというシステムではないかということが出てきたわけですが,そのことと委託者を申立権者から外すというのがどういう関係にあるのかがよく分かりませんでした。
  この制度を,合意による変更というのとは別途の制度であると考えたときには,合意が成立しないというのが前提になりますが,変更の申立てと認可という構造であると理解しますと,誰かが自分の案を認可してくれと申し立てるという話になります。しかし,それはおかしくて,飽くまで認可ではなくて,その提案内容について,裁判所なり,行政庁なりが判断して,変更を命令するというふうな枠組みにせざるを得ないのではないかと思います。手続の具体的な内容が変わってくるわけではないのかもしれませんが,構造の問題として,一言,申し上げておきたいと思います。
○吉谷委員 まず,(1)につきましては提案に賛成でございます。
  (2)については甲案に賛成いたします。これは元が信託法第150条であるということですので,何らかの事情で信託事務処理の方法の変更を行う必要があると例えば受託者が考えるというわけです。それについては,公益目的の達成のためにはどのような方法がいいのかということを考えるというわけですから,公益事業の運営計画について公益目的に沿っているから,公益目的に対していい方法に変わっているのかどうかということを判断するということでありますので,これはほぼ認定のやり直しに等しいというようなことであると思われます。そうしますと,最初に認定する行政庁が行うべきであると考えるわけです。
  確かに意見対立がある場合を想定しているかと思いますので,受託者が変更の申立てをしますと,信託管理人はそれに反対すると。もし,反対するのであれば,よりよい方法を提案する受託者へ変更を申し立てるとか,そういう形になっていくと。ですので,変更命令と受託者の更迭が,一体的に判断されるということになってくるのではないかと思われます。そういう点で,全て行政庁が行うというのが整合すると考えております。
  その次の委託者にデフォルトで申立権を与えるかどうかということにつきましては,これはデフォルトで与える必要はないと考えております。信託行為で追加することは可能であると思います。これも以前から申し上げておりますとおり,委託者をデフォルトの公益信託の機関であると考えて,委託者がいるから,委託者がいいと言ったからということを前提として,いろいろな合意形成であるとかいったことをするという仕組みは必ずしも機能しないと。委託者がデフォルトでは入っていても,除くこともできるわけですから,それを前提とした制度設計をするというのは余りよろしくないと。追加した場合には,こういう機能を委託者に期待できるということを前提にして認定を行うべきであると思います。ですので,委託者はデフォルトで与えない方がいいのだと考えている次第です。
  あと,1点,補足させていただきます。前回で,信託の終了命令のところで私の方からは信託行為の当時,予見することのできなかった特別の事情という要件があることは厳しすぎるのではないか,この要件は不要ではないかという趣旨の意見を申し上げました。例えば信託目的の達成,不達成により終了するべきであると受託者が考えているような場合だけれども,信託管理人は同意しませんというような場合に,信託行為の当時に予見する可能性がないというような要件がないと,申立てができないということですと,厳しすぎると想定していたわけです。
  今回,信託の変更命令について,信託行為の当時,予見することのできなかった特別の事情という要件は,どうすべきかということについて触れさせていただきますと,結論としては,この要件はなくてもいいけれども,残っていても,それほど支障はないと考えています。信託終了の場合ですと,信託行為に予見できる終了事由を全て記載するというのは非現実的だと思うんですけれども,変更については一読のときの資料の考え方によりますと,簡易な変更は信託法の原則どおり,当事者が可能ということを前提とした提案であると考えております。そうしますと,それ以外のものについてはある程度,予見可能なことは信託行為に書いておけばいいので,そうすると,信託行為の当時,予見することのできなかった特別の事情という要件が変更命令に残っていても,特に問題になることはないかなと考えたということです。終了の方はない方がいいということとの関連で申し上げさせていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○能見委員 恐らく以前に私が述べたことの繰り返しになると思いますが,いろいろな意見が出てきたので,それとのバランスをとる意味で発言させていただきたいと思います。先ほどどなたか,この変更命令で何が変更できるかという変更の対象について,私の聞き間違いかもしれませんけれども,信託目的等の変更というものも入っているかのように聞き取れたのですけれども,現行の信託法150条を公益信託にも適用するというときにも,この規定によって信託目的自体の変更まではやらないというのが基本的な理解だったと思います。飽くまでこの規定は信託行為で設定された信託目的を前提にしながら,その下で信託財産を管理する方法が適切でなくなったときに,それを信託目的等に沿って変更する,そういうときに使われる規定だと考えるべきだと思います。
  公益目的の変更ということであれば,設立認可のときに公益性を判断する行政庁がここでも権限を有するということでもよいと思いますけれども,信託の事務処理の方法についての変更命令であれば,これは別に行政庁である必要はない。例えば助成型の信託において,こんなことが実際にあるかどうか分かりませんが,財産運用の方法が今まで信託行為で定めていたのではうまくいかなくなったので,別の方法を考えなくてはいけないとかいうような場合に,その変更命令の主体が行政庁でなければならないということはない。裁判所でも構わない。
  では,どちらもあり得るというときに,どっちがいいかということになると,先ほどどなたか,委員がおっしゃいましたが,この規定を使って変更命令で対処しなければならない場面というのは,当事者間に意見の対立があった合意による信託行為の変更ができない。そういう意味で関係者間に争いがある,争訟性があるということですので,そういうときの処理は裁判所に扱ってもらうというのがいいのではないかと,私も考えております。
  それから,申立権者については,委託者が今,一番問題になっているかと思いますけれども,今のように信託目的を変更するのではなくて,単に事務処理の方法について変更が必要であるという状況で,それを変更するための申立てということであれば,申立権者を余り狭く限定する必要はなく,委託者であっても構わない。委託者も信託目的の下で信託事務が適切に行われていくことに利害関係を持っていますので,そういう委託者も申立権者に含めて構わないと考えます。委託者を申立権者の中に含めるという(3)の立場が適当であると思います。
○小野委員 前も発言しましたけれども,150条の立て付け,また,理屈からして信託契約そのものを変更するという観点からすると,裁判所以外にはあり得ないのではないかと思います。どっちかを選ぶということではなくて,150条の条文を見ても,申立てのときに変更後の信託契約の内容を明らかにするとか,又は即時抗告の議論も出てきます。では,認定機関たる行政庁は何もできないかというと,行政庁として業務改善命令とか,契約の内容ではなくて受託者の行為とか,信託業務そのものについて行政命令,行政上の措置はとることができるので,それによって別に問題はないと思います。飽くまで信託契約である以上,また,150条という立て付けからしても,150条の適用がある以上は,裁判所以外は理屈上もあり得ないと思います。
○林幹事 この点の弁護士会の議論を簡単に御紹介すると,(1)については当然,賛成だったのですが,(2)については行政庁も裁判所も両意見があったものの,裁判所の意見の方が強かったと思います。その根拠としては,争訟性もあるところですので,要件からしても裁判所の方がいいのではないかという議論でした。ただ,裁判所とした場合は,行政庁との兼ね合いというのを検討せざるを得なくなり,補足説明の中にも信託法168条と同様の規定を考える必要があるとありましたが,それはそのとおりであり,その手当てはすべきと思います。
  一方,行政庁とすることについては,先ほど松下幹事からも御指摘があったように,不服申立ての手続をどうするかを書き込む必要があり,150条にも即時抗告の規定はあるわけですから,その辺りの手当てをしないといけないと思います。それから,変更の範囲につきましては,信託目的に及ばないとの御指摘もありましたが,弁護士会の議論では,変更の範囲に制限を加えなくてもいいのではないかという意見もありました。
  それから,(3)については,これについても委託者の捉え方でいろいろ意見もあったのですが,(3)の御提案のとおりで賛成という結論が多かったところです。
○小幡委員 変更命令ですが,今の5条は削除するということですから,職権というのはなくなるわけですね。全部,申請によるということになります。そうすると,(2)の甲案,乙案のどちらかということですが,いろいろ,お話を聞いていて両論があると思うのですが,どこまで変更するのをイメージするかという話だと思いますが,変更した後も公益信託であり続けるための変更ということになりますね。
  公益信託を変更して,また,公益信託で存続し続けるということになるので,そうすると,行政が関与してもよいと思うのですが,ただ,変更命令という名前が150条なので,これを行政庁がするというのは,やや違和感があるという感じはいたしますが,名前の問題です。松下幹事がおっしゃったことですが,もちろん,行政上のこういう行為でも,申請は誰々に限るということは幾らでもありますので,職権ではできなくて必ず申請により行政庁が審査して,命令というと強いのですが,こういう形の方がよりよいだろうという形の変更の申請に応じて審査して,それを行政庁が認定するというイメージだと思うのです。
  そうであれば,別に行政庁がやるのでもよくて,公益信託としてきちんと変更した後も,機能するということを行政庁が審査するというのはあると思います。150条のところの変更命令という名前があるので,何か非常に強権的な感じがするということです。委託者を含むかどうかという議論はまたあるとは思いますけれども,イメージとしては私はあってもよいのではないかと思うのですが,ともかく,限られた申請者からの申請に応じて行政庁が審査するということは,おかしくはないという感じがしております。
○中田部会長 もし,変更命令という言葉を使わないとすると,何か適当な言葉はございますでしょうか。
○小幡委員 公益法人の公益目的事業であれば,いろいろな変更に対して出てきたものを認可とか認定でしたか,名前はいろいろあり得ると思いますが,同じような仕組みで,変更したいという申請に対して,軽微なものについては届出で足りるということになっているのですが,軽微なものでない場合は第三者機関にかけて変更認定するということになります。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
○道垣内委員 今の小幡委員のお話が私にはよく分かりませんでした。例えば公益法人を考えますと,変更の主体は公益法人であるわけですね。そうすると,公益法人が自らの何かを変えたいと申し出て,それが認可されるというシステムは,それなりによく分かります。しかし,信託の変更は,公益信託の設定をもたらした契約の変更,信託行為の変更手続であって,そのような信託行為の変更の手続が認可であるというのはよく分かりません。例えば委託者でも受託者でも信託管理人でもいいですが,誰か特定の人が単独で変更権限を実体法上有し,その権限行使が認可されるということになるのでしょうか。私はそれは理屈上はあり得ないのではないかと思うのですが。
○小幡委員 命令と認可のどちらがきついと考えるかというのは,もしかすると行き違いがあるのかもしれませんが,私人間で決めたことについて,その効力発生を補完する形での認可というのがあります。命令というのは,その行為そのものを命じるという通常は,第一的な権限行使なのです。あくまで私人がやったことについて,補充的に行政庁が確認して効力を発生させるというのが認可という意味です。
○道垣内委員 その点では別に小幡委員のおっしゃったことを誤解しているわけではなくて,そうであるならば,作りとしては,委託者,受託者,信託管理人は,信託目的その他に照らして,うまく目的が遂行できなくなったときには,その合意により信託行為を変更する権限を有するということが前提とされ,その合意による変更の権限の行使の結果を認可するという形になるはずですよね。
  そのような形にするというのであれば,それでも全然構わないのですけれども,ここで,今,問題にしているのはそうではなくて,例えば三人が信託関係者だとするならば,そのうちの一人がこうせざるを得ないと思うんですと言って申し出て,それに対して行政庁なり,裁判所なりが何らかの行為をするわけですから,その前提としての合意による変更というのが生じていないのだと思うのです。もちろん,合意による変更も自由に認めるわけにはいかないので,両方ともについて手続を作らなければいけない,というのであれば,それはそれで分かります。しかし,合意が調達できない場合について,それを裁判所なりが認可とするというのは,私はあり得ないことだろうと思います。
○小幡委員 その場合,そうすると150条を作り直さないと形がおかしい,ということですね。
○道垣内委員 そうですね。
○中田部会長 ありがとうございました。
  今のやり取りで,命令,認可,それぞれの概念について認識の整理がかなりされてきたと思います。認定,認可については次回にも引き続き御検討いただくことを予定しておりますので,本日の今のやり取りも踏まえて,また,次回に御審議いただければと思います。
○山田委員 12ページの5の「公益信託の変更命令」の特に(2)について発言します。結論は,私は乙案が適当だと思います。理由は,いろいろな方々がそれぞれ御発言されましたが,小野委員のおっしゃっていることが多分,一番,私の考えに近いと思います。ですが,私なりの理由をこれから述べたいと思います。
  参照したらよいと思いますのは,信託法149条と150条の両方を見て考えたらいいと思います。そして,受益者の定めのない信託というものを今回の公益信託にどれぐらい参考にするかという点については,当部会においても複数の意見があるということは承知しておりますが,一方では,261条1項の149条の読替規定を参考にするとよいと思います。
  他方で,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律を見ますと,認定に関する規定が4条にありますが,11条で変更の認定というのがあります。軽微なものについては13条で変更の届出で足りるという規定があります。法人と信託とをどこまで同じにすべきか,違いをどうするかというのはなお残されている問題だと思いますが,法人についての2階建て構造というのでしょうか,一般社団法人,一般財団法人で法人格を取得した上で公的認定を受ける,それによって税制上の各種の優遇を受けるという,この仕組みを私は信託においても,個別に考えて別の手当てをすべきところはあるとしても,基本的には同じ発想で臨むとよいのではないかと思っております。
  そうしますと,公益信託の変更命令の話ですが,何人かの方が既におっしゃっていますが,149条に対応する関係者の合意,信託当事者の合意と言ったらいいのでしょうか,公益信託における関係者又は当事者の合意で信託の変更はできるというのがベースに置かれるべきだと思います。しかし,公益信託については公益認定を受けていますから,一旦公益認定を受けた後,信託を変更して,公益信託であることを濫用するのはもちろん認められるべきではありませんので,そうすると,信託が変更されたら変更の認定ですか,公益法人認定法の11条のこれに類するような手続を定めればよいのではないかと思います。話が細かくなるかもしれませんが,軽微なものであれば,そこまでも必要ないだろうというので,変更の届出についての13条に当たるようなものを用意すると。
  その上で,しかし,149条に対応する公益信託の変更に必要な信託当事者の合意がそろわない場合があると,そろわないから,これは行き倒れになるのがよいだろうという考え方もあるかもしれませんが,信託法上の信託では,そこはそうではなくて裁判所の変更を命ずる裁判という方法で,合意が存在しない場合を補うことができるという規定になっていると,私は制度の趣旨を理解します。そして,公益信託においても,この信託法150条が用意している道筋は,あってよいだろうと思います。こう考えると裁判所が変更命令をするということになる。小野委員がおっしゃった結論に私も同じだというのはそのとおりです。
  しかし,ここでも当初の信託は公益認定を受けて,税制上の各種の優遇措置を受けているということは,考慮する必要があります。しかし,関係当事者の合意ではなくて,変更命令という裁判所が関与する方法で行ったときに,変更の認定に係るものが不要になるのかというと,それは不要ではないのだろうと思います。裁判所の変更命令というのは,当事者の合意がそろっていないことを補うためのものですから,公益認定をして各種の税制上の優遇措置を取得すると,その後の変更には,軽微かどうかに応じますが,原則は変更の認定が必要だと思います。
  こうなりますと,手続が二重になるのではないかというのが最後,解決すべきところかもしれません。裁判所で変更命令を受けた後,更にまた,変更の認定を受け直さなければいけないということになりそうです。その場合,例外的かもしれませんが,裁判所の変更命令に対して認定が得られなかったという例も出てくるかもしれないと思います。しかし,それについては,私は,あっても仕方のないことであり,手続の上で何らかのそうならないような仕組み,あるいは,問題を緩和する仕組みを,追加的に設ければいいのではないかと思います。
  追加的な手続については,司法と行政をどう折り合わせるかというような問題で難しい問題であり,私は分からないのですが,変更命令の非訟事件がスタートするときには誰かが申立てをします。非訟事件の手続が継続している段階で,裁判所が,変更命令という決定をする前に,認定行政庁から意見を聴くということが考えられ,あるいは行政庁でなくて,認定行政庁の認定に対して意見を言う公益認定等委員会,それになるかどうか,まだ,決まっていないのかもしれませんが,仮に公益認定等委員会が公益法人における手続と同様に関与するのであれば,そこから,直接,裁判所が意見を聴いてもいいのかもしれないと考えます。認定をする行政庁を通す必要もないのかもしれないなと思うからです。そういう手続を設ければ,完全に一本の手続では終わらないのかもしれませんが,その意見を聴くというところで,しかし,二度手間になって判断が食い違うというようなことは避けて,もう少し手前のところで調整ができるというようなことが考えられるのではないかと思います。長くなり,申し訳ありません。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○小幡委員 先ほど認可か認定と申し上げましたが,公益法人の場合は,認定ということです。今,正に山田委員がおっしゃった認定です。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○棚橋幹事 先ほど乙案を前提に,168条又は行政庁の意見を聴くという方向の御意見があったかと思いますが,仮にそういう方向で議論を進められるのであれば,行政庁は,どのような事項について,どのような観点で,どういった意見を述べる枠組みとなるのか,行政庁の意見に拘束力があるのか,裁判所と行政庁の権限の違いなどについて整理していただいた上で,慎重に検討していただければと思います。
○吉谷委員 山田委員の御意見を聴いて,頭の中が非常に整理された気がするんですけれども,実務的な立場から直感的に思うところでは,行政庁が最初からやるという手続を採った方が多分,時間的にも労力の面でも低いコストで済むのではないかと思われるので,そうでないということが分かれば,また,違う意見になるかもしれないんですけれども,今のところ,直感の方を踏まえて先ほどの意見を維持したいと思います。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○道垣内委員 実は,私も小野委員が御発言になる前に,小野委員とほぼ同じことを申し上げようと思っておりまして,それに山田委員が根本的な理念としては近いという発言をされました。私は両委員がおっしゃったことに賛成で,コストが掛かるか,掛からないかという問題からすると,確かにコストは掛かるのかもしれませんが,理屈上は行政庁が勝手には変えることはできないだろうと思います。
○平川委員 先ほど多分,私の発言で信託の目的の変更というような言い方をしてしまったかもしれないんですけれども,目的事業の変更というのを想定しておりました。例えば公益信託の目的というのがエイズ撲滅のためというような目的であった場合に,それを達成するための事業として例えば研究団体に助成するというようなことをやっていたんだけれども,信託の規定の中にもそれを目的達成のための事業としていたんだけれども,さっぱりらちが明かないので,自分たちも資金が潤沢にあるので,自分たちで研究所を立ち上げようと,エイズ撲滅の研究施設を立ち上げるということになったというような目的事業の変更という意味で申し上げておりましたので,訂正させていただきます。
○中田部会長 大体,御意見はよろしいでしょうか。
  5の(1)につきましては,特に反対という御意見はなくて,御意見を頂いた方は,皆さん,賛成ということであったと思います。
  (2)については,甲案,乙案それぞれの御支持がありました。議論の中で変更命令が出るのはどんな場面なのかという問題や,あるいは対象となる変更の範囲は一体,何を想定しているのかという問題について,人によって若干違いがあったようですけれども,それがだんだん明確になってきたと思います。更に第三者機関が関与する目的は何なのか,何を保護しようとしているのか,それから,更に制度設計の在り方としてどうするのがより効率的か,例えば裁判所が判断するとすれば行政庁が関与する,その仕組みを練り上げる必要があるでしょうし,行政庁がするとすれば,不服申立てをする手続をどう考えるのかを検討する必要がある,こういった御指摘も頂いたかと存じます。
  それから,(3)につきましては,原案でよいという御意見が比較的多くあったかと存じますが,原案に反対されて,信託行為で定めれば委託者も申立権者にし得るという御意見と,それから,信託行為に定めたとしても委託者は申立権者にすべきでないという御意見と,それぞれ,頂いたと思います。
  以上の御意見を踏まえて,更に中間試案に向けて検討を進めていただくことにしようと思います。
  次に進んでよろしいでしょうか。
  それでは,次について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○舘野関係官 それでは,「第2 公益信託と私益信託等との相互転換」について御説明いたします。
  まず,「1 公益先行信託」について御説明します。本文では,公益先行信託について規律は設けないものとすることでどうかとの提案をしています。
  公益先行信託は,受益者の定めのある信託を設定し,信託行為において一定期間は信託財産又はそこからの収益を公益目的のために利用した上で,一定期間の経過後は残りの信託財産を委託者が指定する私人のために利用する内容の定めを置く等の方法によって実現することができます。そこで,部会資料37の第4の1の提案のうち,「許容しない」としていた部分の表現を「規律を設けない」という表現に改めた提案をしているものです。なお,アメリカにおいては,公益先行信託は受益者の定めのある信託の一類型であることを前提として,税法上の優遇措置の観点から議論されていることに留意する必要があります。
  次に,「2 公益信託から受益者の定めのある信託への転換」について御説明します。本文では,信託法第258条第2項の規律を維持する(公益信託を含む受益者の定めのない信託においては,信託の変更によって受益者の定めを設けることはできない)ものとすることでどうかとの提案をしています。
  本文の提案は,部会資料37の第4の2の提案の表現を信託法第258条第2項に即した直截的な表現に改めたのみで,実質的な内容及びその理由に変更はありません。また,公益信託において事後的な信託の変更により,受益者の定めを設けることを許容すると,その信託が継続している間に,公益活動に使われることを期待して,自らの財産を拠出した寄附者等の意思に反するし,その公益信託により利益を受けていた者の期待権を害するおそれがあり,公益性を理由に税制優遇を受けていた場合には,その公益信託の委託者等に不当な利益を与える可能性があることを本文の提案の理由として追加することが考えられます。
  次に,「3 残余公益信託」について御説明いたします。本文では,残余公益信託についての規律は設けないものとすることでどうかとの提案をしています。
  本文の提案は,部会資料37の第4の3の提案の内容を実質的に維持するものであり,その理由に変更はありません。残余公益信託の目的とするところは,公益信託法の中に特別の規律を設けなくとも,最初に私益信託を設定する際に,その信託行為において受託者に対し,一定期間後に公益信託の認定申請を行うことを義務付け,その期間経過後に受託者の申請により,公益信託の認定を受けることにより実現可能であること等から,そのような趣旨で部会資料37の第4の3の提案のうち,「許容しない」としていた部分の表現を「規律を設けない」という表現に改めた提案をしているものです。
  次に,「4 受益者の定めのある信託から公益信託への転換」について御説明いたします。本文では,甲案として信託法第258条第3項の規律を維持し,受益者の定めのある信託から公益信託への転換を許容しないものとする,乙案として信託法第258条第3項の規律の例外として,受益者の定めのある信託から公益信託へ転換する場合には,信託の変更によって受益者の定めを廃止することができるものとするとの提案をしています。
  本文の甲案は,部会資料34の第4の4の丁案と実質的に同一の提案であり,その内容及び理由に変更はありません。本文の甲案は,部会資料34の第4の4の丁案をベースに,その内容を直截的に表現して提案しているものです。本文の乙案は,部会資料34の第4の4の乙案のうち,実質的に公益を目的とするとの要件の内容が不明確であり,このような要件を設けても,それを行政庁が公益信託の認定時に判断することは実際には困難であることから,その部分を削除して提案しているものです。
  次に,「5 公益信託から目的信託への転換」について御説明いたします。本文では,公益信託の認定を取り消された信託について,甲案として当該信託は終了するものとする,乙案として原則として当該信託は終了するものとする,ただし,信託行為に公益信託の認定の取消し後は(公益目的の)目的信託として存続させる旨の定めがあるときは,当該信託は(公益目的の)目的信託として存続するものとするとの提案をしています。
  本文の甲案は,部会資料37の第1の3の甲案と同一であり,その内容及び理由に変更はありません。本文の乙案は,部会資料37の第1の3の乙案をベースに,原則として公益信託の認定を取り消された信託は終了するものの,例外として信託行為に,公益信託の認定の取消し後は(公益目的の)目的信託として存続させる旨の定めがあるときは,その信託は(公益目的の)目的信託として存続するものとすることを提案するものです。乙案を採用する場合には,公益目的取得財産残額の算定や公益信託の認定取消し後の(公益目的の)目的信託について監督する仕組み等を設けて,規律の実効性を確保する必要があり,制度として複雑になる等の問題点の指摘があり得ます。なお,本論点と関連して,「公益目的の目的信託」を新たな類型の信託として位置付け,その要件等について規律を整備するか否かも問題となり得ます。
  最後に,「6 目的信託から公益信託への転換」について御説明いたします。本文では,甲案として目的信託から公益信託への転換を許容しないものとする,乙案として目的信託から公益信託への転換を許容するものとするとの提案をしています。
  本文の甲案は,既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容しないとする部会資料34の第4の4の丁案の内容を,受益者の定めのある信託と目的信託に場合分けし,後者について目的信託から公益信託への転換を許容しないものとすることを提案しているものであり,その内容及び理由に実質的な変更はありません。本文の乙案は,既存の公益を目的とする目的信託が公益信託の認定を受けることを許容する部会資料34の第4の4の甲案と実質的に同一の案であり,その内容及び理由に変更はありません。部会資料34の第4の4の甲案の既存の公益を目的とするとの要件は,認定の際に転換後の当該信託における公益目的の有無を行政庁が判断すれば足り,このような要件を設ける意義は乏しいことから,その部分を削除して提案しているものです。
○中田部会長 ただ今説明のありました部分につきまして御審議を頂きます。六つのパターンが示されておりますが,三つに分けて御審議をお願いしたいと思います。すなわち,まず,公益信託から私益信託への転換に関する1と2,次に私益信託から公益信託への転換に関する3と4,その後,公益信託と目的信託との相互転換に関する5と6について,順次,御審議をお願いします。
  まず,第2の「1 公益先行信託」及び第2の「2 公益信託から受益者の定めのある信託への転換」について御意見をお願いします。御自由に御発言をお願いします。
○吉谷委員 1,2ともに提案に賛成いたします。1につきましては,公益先行信託というのは私益信託として現状でも可能なものでありまして,公益信託としてわざわざ位置付けるというニーズは不明であると思います。また,税制上の措置の観点からも問題があると思っております。2番につきましては補足説明のとおりで,特に付け加えるところはありません。
○深山委員 提案について結論を先に申し上げれば賛成をしたいと思います。1の公益先行信託,それから,2の部分の両方とも提案に賛成したいと思います。ただ,1について賛成の趣旨は,従前,許容しないものとするということを改めて規定を設けないとなったということを,許容されるという余地を認めたと理解した上でのことであります。補足説明を拝見しても,公益先行信託というべきものは実現可能であるということが記述してあります。
  もっとも,そこでは二つの意味で実現可能と書いてあって,一つは私益信託の一つの定め方として,後日,公益認定を受けるということを受託者に義務付けるということで,これ自体は別にそういうことがあってもしかるべきだと思いますが,しかしながら,これは正に私益信託そのものでございます。もう一つの実現の例としては,「残余財産の帰属」の論点で乙案を採用した場合には実現可能であるということです。私は残余財産の帰属について乙案を主張しておりますので,そういう立場からすると確かにその延長線上の問題として,ここで許容しないというようなネガティブな規定がなければ実現できると思います。したがって,言ってみれば残余財産帰属の問題で,乙案を採ることを前提に賛成というような趣旨になろうかと思います。なので,吉谷委員とはニュアンスが違いますが,結論については一緒ということでございます。
○小野委員 前にも発言しましたけれども,私益というのを公益信託の真逆の意味で捉え,私の利益のための信託のように理解すると,適切ではないという議論に結び付きやすいと思いますけれども,私益信託をもっと単純に,公益目的の私益信託,要するに受益者がいる,受益者がいることで既に公益信託になりえない,あるいは,不特定多数要件は満たさないが目的から見たら明らかに公益である,がん撲滅のため,初めは何か不特定多数の方々に支援するけれども,ある一定の理由になったときにはがんセンターとか,特定の研究機関宛て受益者として支援するとか,私が想像する範囲というのは乏しいものしかありませんけれども,軽装備,柔軟,また,将来のいろいろな社会の状況にそぐうようなものにしようとしたときに,この部会の我々だけの創造力の範囲内で,これはけしからんというのはよろしくないのではないかと思います。
  繰り返しになりますけれども,公益的私益信託というものは明らかに観念できる話だと思います。先々の別の機会でも,私益という言葉をくれぐれも私の利益と捉えない議論が必要と思います。要するに,受益者がいる信託に変えることは何がいけないのかという観点かと思います。
○中田部会長 取りあえず,1と2につきましては,そうしますと結論的にはどうなるんでしょうか。
○小野委員 当初の信託行為に規定する場合も,後に信託の変更による場合も,いずれも許容されるべきということです。
○中田部会長 1については,特に規律は設けないということが今回の提案でありまして。
○小野委員 元々許容しないとしていたのが,規律を設けないで果たして許容されることになるのか,明確ではないことになりませんか。
○中田部会長 先ほどおっしゃった公益的私益信託というのは,恐らくこれの制度の外で考えていて,それを禁止するわけではないということだろうと思うんですけれども。
○小野委員 公益的私益信託は別に議論をする機会があるということでしょうか。
○中田部会長 そうではなくて,公益先行信託についての独自の規律は特に設けないという,そういう提案でありますけれども。
○小野委員 すみません,できるという前提での提案であるとのことであれば,賛成ということになります。
○中田部会長 16ページの3というところに,公益先行信託という形でなくても同様の機能を実現することができるという代替方法が存在するということが,今回の提案の理由として示されているわけですけれども,そうしますと,小野委員のお考えになっていることと,それほど遠くないのかなと思ったんですが。
○小野委員 公益信託が終了したときに,何らかの規律を設けないでそれを私益信託に自動的にそれほどスムーズに移行できるのかなと。公益信託の終了の議論からしたら,公益信託を終了したときには類似目的の公益信託や公益法人に信託財産を移管するとか,いろいろな議論がありました。できるという大前提を置かれての御質問であれば,特に規定は置かないでいいですということになると思いますけれども,そうではない可能性もあり得る。要するに,ここに書いてあることが本当に実現できるのかなと思う素朴な疑問からの発言です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 1番目の公益先行信託については,規律を設けないということに賛成したいと思います。ただし,規律を設けないということの意味については,少し検討が必要だろうと思います。つまり,説明によりますと規律を設けないということは,規定がなくても実務的な対応が可能なので,あえて条文で許容するというようなことを言わなくていいという趣旨のように理解しました。ただし,一般の方にとってみて,公益先行信託について規律がないということが,一体,どういう意味を与えるのかということは,少し慎重に検討した方がいいのではないでしょうか。つまり,公益先行信託というものの信託法の中における位置付けです。こういうものを少し促進しようということなのか,それとも抑制的であっても仕方がないような趣旨なのか,その辺を少し明確にした方がいいように思います。
  それから,2点目については,1点目と2点目,第1の類型と第2の類型の違いは何かというと,第1の方は当初から予定されていた,第2の方は事後的に変更するということの違いだと思います。第2類型については258条2項の規律を維持するということですが,果たして,これだけの理由で第1の類型は実務的に対応できるとして,2番目の方は認めないということの理屈として十分なのかという疑問があります。というのは,258条2項の規律というのは,公益信託を加味しなくても理解できる条文だと思いますので,一つの可能性としては,1,2とも許容するというのでしょうか,規律は設けないというのでしょうか,認める方向での考え方もあり得るのではないかと思います。
  ですから,結論的に言いますと,1番目については賛成,ただし,規律を設けないことの意味についてはもう少し検討する必要がある。それから,2番目についても事後的な変更と当初から予定で,それほど本質的な違いがあるのだろうか。つまり,事後的な変更であっても実務的に対応が可能な場合もあるので,そうすると,利益状況は第1の類型と異ならないようにも思うので,その辺りの検討も更に必要のように思われます。
○樋口委員 三つのことを申し上げたいと思いますけれども,まず,第2という部分には転換という言葉が入っていて,しかし,中身を読むと変更という言葉も出てきて,変更と転換とどう違うのかというのが普通に読んでいくとよく分からない。普通は先ほど能見委員がおっしゃったように,信託の変更というのは,英語でいうとdeviationとかchangeでもいいんですけれども,特に裁判所が関与して行う信託の変更という話は,英語でいえばadministrative provisionsについての変更を認める,状況の変更に応じてということなので,信託の事務的な部分の変更をいうので,目的を変えるという話はないんです,そもそも。
  だから,事務処理の方法で具体的には投資先で今までのようなことをやっていたのでは,すぐになくなってしまうではないかというような事例がそれに当たります。だから,もっと新しい投資先を開拓したらいいとか,何でもいいんですけれども,そういうようなことを考えた受託者が通常は裁判所のところへ行って,こういうことは信託条項には書いてないんだけれども,是非ともやらないといけないと自分は思っている,それに対して許可してくれる,それを認定というか,どうであろうが,裁判所の許可というのがあるというのが英米法の考え方です。だから,今,資料の1と2ですから,2というような大転換の話はどこにもない。だから,世界で初めてというのを作ろうという感じがするということです。パラダイム転換みたいな気がするということです,実は。
  それで,二つ目は,私自身は1の公益先行信託とか,後で出てくる残余公益信託というんですか,そういうハイブリッド型というのも,アメリカでもやっているのだし,日本では特に今回の公益信託法の改正の正に目的としては,公益信託を拡大するという話にしないといけないと思っているんです。この法律を改正することによって,法律だけではできないことなのかもしれませんけれども,法律としてもとにかくもっと広げていくんだという,法改正はそのための手段だと。そのための手段として,現実的な策として,こういうハイブリッド型というのもやってみたらいいのではないかというのがまず私の結論としてはあるということです。
  その上で,何も規定しないというのは危ない,逆に。16ページのところに,公益先行信託は,受益者の定めのある信託を設定し,信託行為において,一定期間は信託財産,それを公益目的のために初めのうちは利用した上で,一定期間の経過後は今度は私人のために,その私人というのはきちんと受益者として初めから指定しておくというので,そういう形でできるではないかというのはおっしゃるとおりだと思いますけれども,その前提としては公益先行信託はまず認定しないんでしょうね,公益信託とは。
  しかし,二つ目の問題として,そういっても例えば樋口が,公益先行信託というのを始めました,10年間は公益のためにやるんです,是非とも協力してくださいというのまで禁ずるのでしょうか。公益信託については名称独占が認められると思いますけれども,公益先行信託になれば大丈夫なんでしょうか。何も規定しないのでは,かえってそれを悪用することも考えられます。それについてどうするか,分からないけれども,こういうのもきちんと,この部分については公益だというのだったら,日本のように認定しないと気が済まないという,とにかく認定制度ありきというところでは,責任を持って何もしないでどうぞというのではなくて,きちんと,この部分については公益性があるんですよという形の認定制度を採る方が日本的な感じがするんですけれども,私は。そこまでにします。
○中田部会長 3点あるとおっしゃいませんでしたか。
○樋口委員 名称独占との関係で,公益先行信託というのも名乗らせないというところまでやらないと,不十分です。しかし,そういう方向性は,結局,公益信託拡大について完全にネガティブなんです,本当を言うと。先ほどどなたかがおっしゃった,どういう方向性を採るかというと,だから,それはまた,どうなのかという気がします。そうすると,そういう悪用の事態も想定されるのに,何かあったときに何も規定しておかないという意識的判断をしたんですよといえば,立法担当者はその責任を問われると思います。こういう脅し的な言い方もよくないんです。申し訳ない,言いすぎたと思いますけれども。
○中田部会長 ありがとうございました。確認ですけれども,2番目の事後的な変更については,これを認めるのはパラダイムの転換のような大きなことであるというのは,結論的には慎重であるべきだという御意見ですね。
○樋口委員 ええ。
○中田部会長 1番目の当初から予定しているものについては,認めるのだとすると中途半端にするのではなくて位置付けが必要で,受益者のいる公益を目的とする信託についても,例えば名称との関係を詰めておくべきだと,こう伺ってよろしいでしょうか。
○樋口委員 そうです。
○中田部会長 ありがとうございました。
○林幹事 まず,1の方につきましては,弁護士会の議論では両論がありました。御提案に賛成で,認めないという意見も,それなりに強かったのですが,バリエーションという意味においては,認めてもいいのではないかという意見もあり,私個人としては後者の意見で今はおります。
  今回の提案で,「許容しない」ではなくて「規律は設けない」に変わったこととか,私益信託においても実質的にできるとか,そういう御指摘の限りにおいては前向きに進んでいると思っているので,それは評価したいですし,少なくともその限りではできるようにと思うところです。ただし,規定があるか,ないかが大きくて,ないとできないという方向に働くかもしれません。税制の問題は悩ましいのですが,端的に受益者のいない公益信託として認めるということで税制のメリットも出てくるかもしれません。規定がなくてもできるではないかというような御指摘であれば,そこから,規定は要らないという方向もあるかもしれませんが,規定を設けてもよいという方向も考えていいのではないのかと思います。
  「残余財産の帰属」のところで私も乙案なのですが,そちらで乙案だから,本論点の公益先行信託もあってよいという立場もあり得て,期間限定の公益信託的な考え方からすると,1についてはあってもよいのではないのかと思います。ですから,ここでは特に当初の信託行為において,委託者の意思として,そういうものを希望すると,そこが明確に出るわけですから,その意思を契約として尊重するということはあってもいいと思いました。
  ただ,2の場合,つまり設定当初は全く想定せずに,後に信託の変更で対応するかについては,ハードルが高いように思いましたし,弁護士会の意見でもこれは認めないという意見で一致していたところだと思います。バリエーション的にはあってもいいという気はするのですが,なかなか,難しいかと思います。
○山本委員 分かっていないので質問をさせていただければと思うのですが,1について規律を設けないとしても,実質的に意図するところは実現可能であるという指摘があります。例えば10年間は公益目的で行い,その後は私益信託とするということですが,先ほどの御発言の中にもありましたけれども,このようなものを申請しても恐らく公益認定はされないのだろうと思いました。少なくとも,公益認定と税制優遇を一致させるという考え方からすると,認定はされないだろう。そうすると,認定されない場合において,最初の10年間,公益目的で信託をしているという場合のこの10年間には,どの規律がどう適用されることになるのでしょうか。それがよく分かりません。
  公益認定を受けていないので,公益信託に関する規定が直接適用されることはないでしょう。ただ,性質に応じて準用なり,類推なり,何かが行われるのか。私益信託といいましても,10年間は受益者がいないわけですので,どのような規律がどう適用されるのかということがよく分かりませんので,御説明頂ければと思います。
○中辻幹事 事務局としては,最初の10年間は公益目的のために信託財産が使われるということを前提としても,その後は公益目的とは違う目的のために信託財産が使われるのであれば,全体としては受益者の定めのある私益信託としての性質を有する信託を設定したと言える場合があり,その場合には,最初の10年間についても受益者の定めのある私益信託の規律が適用されることになると考えておりました。
  なお,先ほど小野委員から御指摘ありましたけれども,公益目的の受益者の定めのある信託という言葉を使っておりますが,公益認定を受けた公益信託とは別の類型として,受益者の定めのある信託が利用されて公益目的が実現されることは,むしろ望ましいと事務局としては考えております。余計なことまで付け加えましたが,質問に対してお答えになりましたでしょうか。
○山本委員 まだ,分かっていないのですけれども,受益者が少なくとも法律上はいないはずの最初の10年間において,何らかの法的な対応をしないといけないはずなのですけれども,そこで私益信託の規定がそのまま適用されるというのは,どうもうまく実情にそぐわないような気もするのですが,それでも基本的には私益信託の規定によるということなのでしょうか。
○中田部会長 前提を整理したいんですが,事務局の方の提案というのは16ページの3に書いてあるところだと思うんですが,これは受益者の定めのある信託を設定して,その収益を公益目的のために利用するということですので,ひょっとしたら少しイメージが違うのかもしれません。
○山本委員 先ほど来の議論からしますと,10年間は公益目的である,そして,それが終われば受益者をあらかじめ指定してあって,その受益者が受益するという仕組みではないかと思っていましたので,先ほどのような質問になりましたが,最初から受益者は法的にも存在する,ただ,収益を公益目的に充てるというだけであるというものであれば,名称としても公益先行信託と言えるのかどうか怪しいところがあるように思いました。
○中辻幹事 もう一つだけ付け加えさせていただきますと,深山委員が最初の方で御発言されましたが,代替案としては2パターンがございます。一つは中田部会長がおっしゃった受益者の定めのある信託を設定する方法,もう一つは公益信託の残余財産の帰属先の論点で解決する方法であり,後者であれば公益信託を当初の10年間行っている間はその信託には公益信託の規定が適用されることになりますので,受益者の定めのある信託の規定が適用されるパターン,適用されないパターンの2パターンがあるのだろうと思います。
○中田部会長 失礼しました。今御説明のあったとおりです。
○山本委員 分かりました。
○能見委員 先ほど小野委員が最初に言い出されて,その問題が先ほどから私も気になっていて,どこかで発言しようと思っていたわけですけれども,いろいろな観点があるのですが,まず,事実上の公益信託というのでしょうか,私益信託の枠組みを使っているけれども,そういう意味では受益者もいるし,受益者がガバナンスに関与する,そういう意味で完全な私益信託であるけれども,公益的な活動をするというのは,多くの方は全く問題はないと考えられていると思います。私もそれは問題ないと思っています。しかし,これについても解釈の争いが若干はあるかもしれないので,本当はどこかで,この議事録だけでもいいのかもしれませんけれども,あるいは要綱などではっきりと,それができるということを明記した方がいいだろうと思います。
  ただ,ここの書き方ですが,1の公益先行信託のところで,規律を設けないとある。設けないけれども,私益信託を設定し,そこで信託財産を公益目的のために使うなどでして,事実上公益先行信託はできる。だから,それでいいだろうという説明の部分は余り理由になっていない。公益先行信託を認めることを主張する側は,公益を行う信託を先行させるわけですが,そこでは公益信託としての実態が欲しい,これは税制優遇も含めてですけれども,そういうことを公益先行信託では考えていると思いますので,アメリカの議論は必ずしも私は正確に理解していませんけれども,少なくとも今までの日本での議論は,そういうことを考えていると思いますので,事実上の公益活動ができればいいだろうというのは,十分な理由になっていないと思います。
  ですから,本当は公益先行信託ができるとする規定を設けた方がいい。事実上の公益信託ではなくて,きちんとした公益信託を先行させて,その後,私益信託に変わっていくというのを実現するためには規定が必要です。私は規定を設けるべきだという意見ですけれども,もし,それができなければ,そういう規定がなかなか難しいというのであれば,次善の策として,事実上の公益信託というのを使うことになると思いますけれども,事実上の公益信託についても本当に大丈夫かどうか解釈のレベルで争われる恐れがありますので,できるということをどこかで明確にしておいてほしいというのが一つです。
  それから,山本委員が言われたことは私も重く受け止めております。事実上の公益信託を先行させる,たとえば最初の10年間,幾らそれは私益信託であるからといって,受益者が全ての普通の私益信託と全く同じようにガバナンスに関与することでいいのだろうかという問題は確かにあるような気がいたします。ただ,事実上の公益信託であるから公益の認定は受けないけれども,公益信託と同様のガバナンスなどの仕組みは使わなくてはいけないということは,私益信託に与えられる基本的な自律性というのでしょうか,自由な自律という部分を大きく阻害することになると思います。痛しかゆしの点はありますけれども,結論としては,私益信託の枠組みを使うのであれば,私益信託の枠組みでやるしかない,公益信託の枠組みを押し付けないのがよいという感じがしております。
  2の方については,本当はこれを可能にするのがいいと思いますけれども,この点については特に新しい意見といいますか,理由があるわけではありませんので,省略したいと思います。
○渕幹事 1の「公益先行信託」について,小野委員,それから,林幹事等が規律を設けるべきである,むしろ,積極的にカテゴリーとして認めるべきではないかと発言されました。その趣旨については御説明があったとおり,柔軟にいろいろな種類のカテゴリーの公益信託を認めた方がいいのではないかというようなことではなかったかと伺っておりました。確かに,委託者の立場から見るといろいろな選択肢があった方が,委託者にとってはいろいろな手段で公益を実現できるというような意味で,委託者にとっての私的自治といいますか,柔軟な選択が可能になるということなのだと思います。
  しかし,前回か,前々回か,小野委員の御発言で非常に印象に残っておりますのが,信託の存続中に信託関係人の柔軟な意思決定で物事を決めていくべきではないかという,そういう方向での御発言です。そうだとすると,信託の設定の段階での柔軟さというか,いろいろなカテゴリーを認めるということと,その後の信託存続中における柔軟な運営というものは,当然,衝突する関係にあるわけです。その辺りについての小野委員のお考えを伺いたく思います。
○小野委員 いろいろなことを発言しているので,どういうコンテクストで発言したかなと思うところがあって,御質問に沿った内容となるか分かりませんけれども,公益信託は継続して運営されますから,その意味においては善管注意義務という観点からも柔軟性はどなたも認めることかと思います。ということと,公益目的とか終了時における残余財産の帰属のような大きい枠組みに従うということは衝突するということはないと思います。もっとも,今,渕幹事がおっしゃられたこととの関係で,当初の委託者の意思をそれほど尊重する必要がなく,柔軟に考えてもよい事例としては,例えば種銭公益信託のように,取りあえず,一定の財産は当然,必要ですけれども,公益信託を設定し,実際の運営は今後,寄附等によって公益信託を賄っていきましょうみたいなスキームの場合,これも,一つの公益信託の在り方と思うのですが,信託設定行為の内容と運営上の柔軟性が衝突することもあるかもしれません。もっとも,信託行為でそれを認めるという趣旨なので,衝突する状況ではないとも思います。回答になっていないのかも知れませんが。
○渕幹事 小野委員のお考えを正すという印象になってしまって恐縮でありますが,そのつもりではございません。もし,先日おっしゃったように柔軟な信託存続中の信託関係人による意思決定を尊重したいということであれば,むしろ,こういう委託者にとっての選択肢を広げる規律を設けないというか,むしろ,認めないという方向の結論になるのが筋ではないかなと疑問に思ったので発言させていただいた次第です。特に矛盾はないということであれば,それで結構です。
○中田部会長 最初にカテゴリーをたくさん作って,その代わり,そのカテゴリーに当てはまった以上は,後は最後までそれを貫くという考え方と,入り口は広くしておいて,後は柔軟にするという二つの方向があるのではないかという御指摘だったと思いますが,必ずしも対立するわけではないというのが小野委員の御理解,御説明だったかと存じます。ほかに。
○新井委員 第1類型の公益先行信託の意味が議論になっていると思いますけれども,それについて少し私の意見というか,質問をしたいと思います。16ページの3ですけれども,公益先行信託は,受益者の定めのある信託を設定し,信託行為において,一定期間は信託財産又はそこからの収益を公益目的のために利用した上で,一定期間の経過後は,残りの信託財産を委託者が指定する私人のために利用する内容の定めを置くことで実現することができるということが書いてありまして,中辻幹事もそういう趣旨のことをおっしゃったと思います。
  ただ,ここでの議論の前提となっている公益信託というのは,公益認定を取ったものを一応の前提としていると思います。16ページに書いてあるような多様なもの,これを公益信託に含めるという考え方はもちろんあると思います。それはそれでいいと思いますけれども,ただ,両者を一緒にして議論する,正に第1類型がそうなんですけれども,そういうやり方をするといろいろなバラエティが出てきて,本当に議論の仕方として妥当なのでしょうか。私は第1類型というのは,公益認定を取った公益信託が正に先行している,そういうことで考えるのが一番ピュアな理解だと思うんですけれども,すごく外縁を広げるということでもいいのでしょうかというのが私の質問です。
○中辻幹事 もっと検討の対象を絞った方が議論の前提が浮き彫りになるという御指摘であると受け止めましたので,それは今後の検討に生かさせていただきたいと思います。事務局としては,公益目的の受益者の定めのある私益信託の活用について触れないまま,公益信託にだけ特化して検討するよりは,少し間口を広げて検討してみようというくらいで考えていたものでございます。
○平川委員 1の点については,公益信託として認定を受けられるような公益信託としては,法律関係の複雑化や税制優遇の観点から,許容しないとすることが妥当だと思います。公益的な私益信託というのは,許されてもいいと思いますけれども,その場合には公益信託という言葉や,それと紛らわしい言葉は使ってはならないとしなければならないと思いまして,準公益信託とか,公益類似信託とか,公益的信託とか,そんなような公益先行信託というだけでは,認定を受けた公益信託と混同して,不当な詐欺まがいのことが起きる可能性があると思いますので,そこのところは厳密にすべきだと思います。
  2の方につきましては,公益信託を受益者の定めのない信託の類型とすることには,公益信託を目的信託の一類型とすることには反対するという意味で,信託法第258条第2項の規律を維持するという観点からではなく,公益性を担保する根幹を揺るがすこととなるという観点から,受益者の定めのある信託への変更を不可とする案に賛成します。ただし,受益者が公益法人等であり,その背後に不特定多数の受益者が存在して,公益性を認定できるような場合もあり得ると思いますので,そういう場合には例外的に認めるということはあり得ると思います。
○深山委員 ここの議論は,何人かの方から御指摘があったように,やや整理というか,前提を確認する必要があると思うんですが,先ほど新井委員が御指摘になったとおり,私もここで議論すべきことは公益認定を受けた公益信託が先行して,それがその後に,例えば補足説明の例でいえば,10年後は私益信託に転換することを認めるかどうかということを念頭において規定を設けるかどうかと,こういう議論です。したがって,補足説明16ページのところの実現できる例として二つある前段のところと後段のところは,先ほど中辻幹事に御説明いただきましたけれども,前段の方の例というのは純粋な私益信託の話ですから,参考までに書いておくことには意味があるかもしれませんけれども,ここの議論の例にはならないし,ましてや,こういうことを私益信託として実現できるからということを理由に,ここでの議論をするということもふさわしくない。
  後段の方の例というのは,残余財産の私人への帰属を認めることを前提に,その私人に帰属させるときに単純に戻すのではなくて,私益信託に転換するということができるということで,これは正にここでの議論を検討する上で想定されている場面なんだと思います。そういう理解で,私は残余財産の帰属の論点については乙案を採ることを前提に,そうであれば,重ねて何かここで公益先行信託ができるということを書かなくても実現できるので,この提案に賛成すると申し上げました。
  先ほどはそこまでで止めたんですが,仮に残余財産の帰属の論点で甲案ということになった場合には,そういう意味では何も規定を置かなければ,自然の理解としてはできないという解釈が出てくる,それが自然な解釈だと思います。それは私は反対したいと思いますので,先ほどの意見を別に変える気はないんですけれども,仮に残余財産の帰属の論点で甲案が採用される場合には,仮にそれを前提にしても,公益先行信託という形で後に単純に私人に戻るのではなくて,私益信託に転換するという限度では認めるという意味で,積極的に認めるという趣旨の規定を置くべきだという意見を付け加えたいと思います。残余財産の帰属の論点について諦めたと思われたくなかったので,先ほどは言わなかったんですが,予備的な主張としては,そういうことを主張したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 繰り返し出ていることかもしれませんが,事務当局がこの資料をどういう趣旨で作られたかということを教えていただきたいという質問をさせてください。15ページのゴシックのところですが,「1 公益先行信託」,公益先行信託(注)で(注)に飛びますが,委託者が信託を設定し,一定の期間,公益目的のために用いるがうんぬんとあります。これは,設定したときに公益認定を受ける場合もあり,受けない場合もあり,広くオープンで考えよう,そして,一定期間の間に,公益認定を受ければですが,税制優遇はあるという場合もあるし,ない場合もある。そこをオープンで考えようということで,公益先行信託について考え方を一定の整理をした,これでどうかというお尋ねになっているのでしょうか。
○中辻幹事 御質問に端的にお答えしますと,オープンに考えているということでございます。補足説明の1行目に書きました「公益先行信託は,委託者が信託を設定し」という部分の「信託」の前には何も修飾語を付けていないわけですが,それは受益者の定めのある私益信託と,公益認定を受けた受益者の定めのない信託の両方を考えているという意味を込めています。
○山田委員 分かりました。ありがとうございます。
○道垣内委員 山田委員の質問に対して,中辻幹事は,そうですとお答えになったのですが,本当にそうなのですか。と申しますのは,ここに書いてあることはメカニズムが二つあって,公益認定を受けるかどうかだけの話ではないと私は理解していたのです。
 どういうことかというと,まず1つめのものとして,例えばある特定の者を受益者にする信託を設定するが,その人には10年後から受益させればよいと考えられるため,10年の間は,運用益は赤十字だとか,そういうところに寄附をするという形にしているとします。これは,私が普通に信託を設定して,10年間の間の資金の運用方法とか,資金の使い道とかをそう定めているというだけであって,それだけの話ですよね。そして,そのときに,最初の10年間の部分について公益認定を受けられるかというと,それは受けられないのだろうと思います。
 それに対して,例えば10年間という期限が付いた信託を作り,その間の信託目的は公益目的であるのですが,しかし,10年経った段階で,元からあった財産の額については,帰属権利者はそれをもって新たに私益信託を設定するという義務を負っているというメカニズムも考えられます。このときは,前半部分と後半部分というのは信託が違うわけですよね。したがって,前半部分の信託について公益認定を受けるということは可能になると思います。
 すべてがオープンになっていて,いろいろなやり方がある,認定を受けるか否かであるというのではなく,公益認定を受け得るかたちで公益信託先行型の信託を設定しようとしますと,それは後ろの信託は別の信託であるというふうな法律構成をするということが前提になっているのではないかでしょうか。
○中辻幹事 事務局としては,公益先行信託として,信託の存続期間全体を通じて受益者の定めのある私益信託の形を採るパターンと,公益信託が10年存続した後に公益信託を一旦終了させた上で私益信託を設定するパターンの2つを想定し,後者では信託設定当初に10年後の信託終了を前提として公益認定を受けることを前提としているわけですが,その信託が10年経過後に終了するのではなく私益信託に変更して同一性を維持したまま継続することを前提として当初の公益認定を受けるというパターンも論理的にはあり得ると思います。そのような御指摘であるとするならば,その点についても,また別途考えていこうと思います。
○道垣内委員 私はそれが可能だと言ったわけではありません。公益信託が終了して,それがそのまま,同一性を保った形で私益信託に転換していくというものについて認めるのならば,特別な規定がないと認められないと思います。しかし,同一性がなく,帰属権利者がそのような公益信託の設定義務を負っているというものは,特段の規定がなくてもできるのではないかと思いますし,更には10年の間は受益者には受益させないで,運用益は公の利益のために使うという定めをするというのは当然に可能です。その二つは規定がなくてもできる。これに対して,同一性を保って性質を変えるというのは規定がなければできないと思います。
○藤谷関係官 今,道垣内委員がおっしゃったところで,かなりクリアになったと思っていまして,ここは多分,抽象的に,公益,私益と連続すると考えると難しくなってしまうのですが,小野委員がちょっと遡ったところで具体的に最初はがんの撲滅,小野委員だったと理解しますけれども,ある段階で特定の研究所みたいなところに割り付けるというような話だったと思うんですが,恐らくこの問題というのは正に今,道垣内委員が言われたように一回,公益認定を受けてしまうと,それが本当にどんな私益のところにもいくというようなものは,残余財産の帰属のところでの議論との平仄上,あり得ないんだと思うんです。
  ただ,そこで行き先が特定の公益法人ないし,それに類するもの,そこをどこまで広げるかというのは,そちらの論点ですが,先ほど小野委員が挙げられた例というのは,正にそういう例だったのではないかと。ただ,特定の公益法人を受益者とするような形で財産がいくというのは,これ自体は公益信託ではないので,公益目的のための私益信託ということになりますが,それであれば,残余財産の帰属のところのハードルもクリアできそうであると。そう考えていくと,恐らく今,道垣内委員がおっしゃったように,二つは別の世界の話ではないのかということも平仄が合うような気がいたします。
  それから,税の観点から一つだけ付け加えておきますと,今の現行法上,特段の規定がなくてもできると整理してくださったようなものであっても,全く税制優遇がないわけではありません。そのようなものであっても,10年間先行している間,公益的なものにいっているのですから,行き先が適切な寄附控除の要件を満たすものであればという条件付きですけれども,寄附控除は取れますし,その結果として,一回,法人税,所得税みたいのは掛かるかもしれないけれども,それを打ち消すというようなことも不可能ではないと。細かく言い出すといろいろあるんですが,決して認定が取れれば100%の税制優遇,認定がなければ全く税制優遇がないというような世界ではないのだということは,一つ述べておく価値があるかと思いました。ありがとうございます。
○樋口委員 私も深山委員と道垣内委員の話を聞きながら,残念ながら深山委員の意見に賛成できないんですけれども,公益信託で最後のところの帰属権利者を私人にというのは,無理なのではないかなと思うんです。前にも紹介したように,例えば日本で病院なんかは公益信託とか,公益法人のところから全部外してしまって,医療法人という別の法律になっているんですけれども,医療法人も今までは,代々,病院というか,経営者のものだという意識が強くて,結局,それが廃業になったときも自分のところへという話が最近の法改正で駄目になっているわけですよね,新設のものは。
  だから,それまで相当の税制上の優遇を受けているわけですから,医療法人であれ,何であれですけれども,だから,そういうようなものが結局,最後,帰属権利者という私人にいくというのは,大体,理屈の上でも受託者にとっては,日本では帰属権利者と言っているかもしれないんだけれども,結局,受益者ですから,最終的な,だから,利益相反の典型になるんです,それまでは別のもののために。だから,受託者は一体誰のために行動するのかという話になって,収拾が付かなくなるような話になるので,公益目的で一貫しないといけない。
  しかし,深山委員がおっしゃるようなことが可能であれば,実はこういう何とか何とか信託なんて言わないで,取りあえず,認定も受けて10年間,それで10年間が終わったところで財産が帰属権利者のところへいって,帰属権利者が新たにまた私益信託を,つまり,ここで終了して新たに私益信託をというのをやればいいではないかというんですが,本当はそんなことをやるのだったら,続けさせていいのではないかという気もします。わざわざ,ここで一旦,切るというのは信託登記であれ,何であれ,無駄な話を,同じことを結局やっているのだったら,帰属権利者が私人になれるということを仮に前提としても,それができるのだったら,ここで初めから認めたっていいではないかという,中身としては同じで,かつスムーズに移行する。それから,一番初めの委託者の意思がそのまま貫徹するという意味でも,それを否定するような話にならないような気がするということです。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
○神作幹事 1と2について御議論を聞いていて,大分,理解できたところもあるのですが,まだ,少し不明な点もありますので,その点について御確認をさせていただきたいと思いますけれども,私は1で基本的に書いてあるのは公益信託ではなくて,公益的だけれども,公益認定を受けるということは前提としていないと。それで,公益信託からいわゆる受益者の定めのある私益信託に移るというのが2で書いてあって,それで,一旦,ワインドアップして,それで,帰属先を私人にというのが16ページの3の「また」のところで書いてあると理解したのですけれども,それまでの話というのは,基本的には公益信託とは違う話ではないかと理解しておりました。
  それで,私が申し上げたいのは,信託の場合は利他的に利用するということができると,そういう制度になっておりまして,委託者以外の者を受益者にすると,その受益者の採り方によっては非常に利他的なことが私益信託でもできるということだと理解しております。そういう意味では,公益という言葉の使い方に気を付ける必要があって,私益信託の中にも利他的な他人を受益者にしてあげるということで,私益信託の枠の中で利他的なことというのは幾らでもできるわけで,そこに信託の非常に大きなメリットがあると思いますので,利他的な信託というのと,それから,誰かが認定するところの公益というのとが,1の公益先行信託というときにお話を伺っていると,イメージが発言されている方によって公益の捉え方が違っているのではないかと思ったのです。要するに,公益信託というときは,誰かが認定した公益だという前提で整理した方が,話がすっきりするのではないかと思いました。
  そこでまた,御質問ですけれども,1の公益先行信託というのは16の3の「また」より上の部分は,今,申し上げたような利他的なものではあるけれども,公益認定は受けていないという前提で理解してよろしいでしょうかという,また,すみません,山田委員の御質問に戻る感がありますけれども,いま一度,御確認させていただければと思います。
○中辻幹事 「また」よりも上のところで言っている信託ですけれども,ここは飽くまで受益者の定めのある信託で公益認定は受けていないものを意図しております。公益信託であれば不特定多数の利益,すなわち,公益が必要とされるわけですが,ここでは神作幹事がおっしゃったように,私益信託ですと間口がより広いので,不特定多数にこだわらず,利他的なもの,それも含めて公益と表現できるようにも感じておりまして,御指摘も含めて今後整理していきたいと思います。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
  言葉の整理がまだ十分でなかったかもしれませんので,若干,議論が出ましたけれども,15ページの1の「公益先行信託」というのは,最終的には規律を設けないというネガティブな意味ですので,広く対象にして,そういったものを包摂するような一般的な規律を設けないという,その程度のことであり,いろいろなものが入っているのだろうと思います。そのことと16ページの3に出ている二つの例との関係が若干入り組んだので,少し御議論があったと思いますけれども,最後の方で大体収束してきたかと存じます。
  その上で御意見を伺っていますと,1の「公益先行信託」については原案に賛成といいますか,規律は設けないということに賛成という方が比較的多くいらっしゃったように伺いましたけれども,ただ,それが皆,同じ意見というわけではなくて,積極的にこういうものは置くべきではないという方と,残余財産の帰属権利者について乙案を採ることを前提とした上でという留保付きで認めるという方と,それから,事実上,できるのだから,これでいいかなという方と,幾つかあったと思います。そうしますと,事実上,できるということの意味をより明確にする必要があるだろうということになりそうです。
  そこで出てきた御意見ですと,名称ですとか,適用法規だとかということをよりはっきりさせて,一体,何ができるのか,できないのかということを明らかにし,疑義のないようにする必要があるのではないかということが,原案に賛成される方からも頂いたと思います。他方で,反対だという御意見も複数の方から頂戴いたしました。
  2については,賛成の御意見が大多数であったと思いますけれども,その中でも結論は賛成なんだけれども,理由が違うという平川委員の御指摘であるとか,結論的には反対であるという御意見も頂いたと存じます。ということで,もう少し概念を整理した上で,次の段階まで検討を続けたいと存じます。
  当初は全部,一気にと考えていたのですが,まだ,幾つかございますので,一旦,ここで休憩を挟ませていただきたいと存じます。3時40分まで休憩いたします。

          (休     憩)

○中田部会長 それでは,再開いたします。
  続きまして,部会資料40,第2の「3 残余公益信託」及び第2の「4 受益者の定めのある信託から公益信託への転換」について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○吉谷委員 まず,3番でございますが,提案に賛成です。これは補足説明のように特段の規律を設けなくても,実務上,対応可能なものであると考えます。
  4番ですが,3に賛成したという立場からすると,甲案に賛成ということになるのではないかと考えております。実務上は一般的な受益者の定めのある信託を信託の変更によって,3で説明されているような信託に変更するということを一回,手続を踏めば,公益信託の設定ができるということになりますので,甲案でよろしいのではないかと思われます。特に信託の変更によって転換する,形式的に同一の信託のままで転換するという必要性はないと考えます。
○深山委員 まず,3の「残余公益信託」については,結論としては提案に賛成したいと思います。理由については,補足説明の中の,特別な規律がなくても実現可能であるので設けないという趣旨において賛成いたしますが,気になるのは18ページの補足説明3の1文目を見ますと,「部会資料第37の第4の3の提案の内容を実質的に維持するものであり,その理由に変更はない」と書いてあるんです。37の第4の3は上の四角で囲ってあるように,これは許容しないと書いてあるわけです。それを維持するもので理由も変わらないというところを見ると,これはとても賛成できないんですが,その後を読むと実現可能であるからとあり,これは説明としてどうも整合性がないと私は思うんですが,従前の提案を改めて許容するという趣旨で設けないという提案と理解した上で賛成したいと思います。
  次の4については乙案に賛成したいと思います。一般論としては258条3項という規律があるわけですけれども,甲案のように単純にそれをそのまま公益信託の転換へ適用しなければならないかというと,実質的に考えると,従前の信託につき公益認定をきちんと受けた上で,そして,認定を受けられた場合に,以後,公益信託として認めることを否定する必要はないのではないかと思います。どういう経緯なり,事情で,こういうことが現実に行われるかというのは,必ずしもイメージはしにくいところもあるんですが,一定の段階で公益認定を受ける,そして,認定が得られた場合に公益信託に転換するということを否定しないという意味では,乙案に賛成したいと思います。
  ただ,この場合に,今までの議論もそうですけれども,「転換」ということが法律的に何を意味するのか,つまり,従前の信託と転換後の信託というのがどこまで同一性があるのか,ないのかということについてはいろいろ議論の余地もあると思います。そういう問題があるとは思いますが,それはさておいて,およそ公益信託への転換を認めないとする必要はないという意味で,乙案に賛成したいと思います。
○道垣内委員 3のところについて,これでいいと思うんですが,以前の議論をいろいろ忘れておりますので確認したいのですが,公益信託は信託宣言でできることにするのだったでしょうか。自己信託ですね。
○中辻幹事 現在の法律ではできないと思います。以前の部会資料では,新たな公益信託法の規律として自己信託を認める案と認めない案の両案を出していました。
○道垣内委員 両案は現在でも並存しているという状況なのかもしれませんが,3について,既存の仕組みでできますよねというためには,恐らく信託銀行が当該信託銀行を受託者とする公益信託を設定するということを認めないと,うまくいかないのではないかなという気がします。受託者が公益信託の設定義務を負うというとき,A信託銀行が公益信託の設定義務を負うわけだけれども,そのときにA信託銀行を受託者にできないとすると,実務上,面倒になるのかなという気がしますので,御検討いただければと思います。
○能見委員 私も同じことを考えていたのですけれども,3のところで正式な意味での残余公益信託は設けないけれども,事実上できますよというときに,どういうことが実際に行われるのか,という点です。私益信託を設定して,その受託者が一定の段階で公益信託の認定申請を行うと書いてありますけれども,まず,ここで認定審査を行うというのは,私益信託がそのまま,公益信託に変わるということではなくて,この段階で元の私益信託の信託財産を使って受託者が新たに公益信託を申請する,新たに公益信託を設立するということで,前の方の私益信託と後の方の公益信託は,別であるという前提なのか,あるいは同一という場合も考えているのかということが問題となります。同一になりますと恐らく4の問題になるので,別に公益信託を設定するということを恐らく考えているのでしょうね。
  別のものだとすると,別の公益信託を設定するときに二つぐらい方法があり,一つは道垣内委員が今,言われたように現在の私益信託の受託者がその信託財産を使って,新たに公益信託を設立する方法です。その際,最初の私益信託の受託者が公益信託の受託者にもなるとすると,最初の私益信託の受託者が委託者になり,自分が公益信託を受託するという形になる。そこで自己信託が生じるので,それができるかどうかというのが,今,道垣内委員の言われたことだと思います。
  それから,もう一つの方法は,私益信託の受託者が信託財産を使って公益信託の申請を受けるわけですけれども,もともと残余公益信託は最初の私益信託の委託者に意思に基づいて後の公益信託を設定するので,元の委託者の言わば代わりにというんでしょうか,元の委託者が相変わらず後の公益信託の委託者だというような方法も,もしかしたらあり得るのかもしれません。公益信託の財産は先行する私益信託の財産で,その受託者が処分するわけですが,実質的には元の委託者が公益信託の委託者であると考えることで,自己信託ではないという考え方もあるかもしれないということです。いずれにしても,幾つかの方法があり得るので,ここで18ページに書いてある,事実上,できるから我慢してくださいというときの事実上できるというのが何なのかというのを,明らかにしておいた方がいいだろうという感じがいたしました。
○中田部会長 ありがとうございました。
○樋口委員 私もお二人の意見に並んで,18ページの3というところで,それで,2点だけ申し上げますけれども,今度はきちんと二つということを数えて,自分の頭の中で,つまり,これは事実上,できるではないかと。本当に同じことができるのかどうかを今,お二人は問題にしているので,しかし,仮にできるのだったら,規定を設けたっていいではないかという気がするんです。同じことなのだったら,何で規定を設けないのだろうと。
  それで,なぜ,規定を設けた方がいいと考えるかというと,私のはもちろん政策論なんですけれども,結局,PRなんですよ。今度,公益信託法が改正されました。それで,それは公益法人法の改正に並べて,今度,公益信託法も改正されましたというんですけれども,そのときに,当然,一つ問題になるのは公益法人法と公益信託法と全部が同じなのだったら,本当に要るのかという話すらあるんですよ。これは何か違いもあった方がいいという気がしているんです。残余公益信託とか,先ほどの公益先行信託みたいなハイブリッド型は多分,公益法人ではもちろん今はないのだし,今後もきっと考えられないのではないかなと思うんですよ,分からないんだけれども。法人法を知っているわけではないから。
  しかし,信託というのは本当に融通無碍なので,受益者をいろいろな形で交代させ,だから,私益の中に公益を入れる,かつてのヨーロッパなら収益の10分の1は教会にとにかく上げるとかいうようなことだってずっと昔からしてきたわけですから,しかし,正に信託だから,公益信託というのも公益法人でできないことができるんですというPR材料としては,同じことができるというのだったら,同じことをきちんとはっきりできますよと,書いてあげた方がいいのではないかというのが一つ。
  二つ目ですけれども,ここに認定申請を義務付けと書いてあります。この段階で義務付けというのを一応,義務はあるけれども,誰がエンフォースするのでしょうかという疑問があります。一番初めから信託が設定されていれば,もちろん,アトーニージェネラルだか何だか,いろいろな関係者という話になるんだと思うんですけれども,ここで一定期間後に公益信託の認定申請を行うことを義務付けとすると,義務と書くのはいいんですけれども,一体,それは誰が,どういうインセンティブで,だから,誰も知らないんですから,これは,私益信託しかなかったんですから,だから,それが本当に実現するのだろうかと,義務ですよというだけで,という疑問が湧きました。
○中辻幹事 最後の義務付けですけれども,事務局としては信託行為で受託者に義務付けられた債務を,受託者が委託者に対し負うものと考えておりました。したがって,受託者が信託行為に違反した場合に,どのような信託法上のサンクションが用意されているのかということは,また,別なのでしょうけれども,少なくとも委託者が裁判所に受託者を民法上の債務不履行で訴えることは可能であるように思います。
○樋口委員 いやいや,委託者は大体,亡くなっているものなんです。
○中辻幹事 確かに遺言による信託設定の場合には,委託者が不存在のときがあり,受託者の債務不履行責任を追及する主体が存在しないという事態はあり得ますので,その点も含めて更に検討したいと思います。
○能見委員 今の樋口委員の言われたことについて,最初の方は普通の私益信託ですから,私益信託の信託行為の中で受託者の義務として一定の時期に公益信託を設立して,当初の財産は公益信託に移すということを義務付けているのだろうと思います。ですから,そういう受託者の私益信託における義務を誰が履行を請求できるかというのは確かに難しい問題がありますが,それをしないと受託者としての義務違反が生じ,そのことによる損失補填責任については受益者が追及できることは問題がない。厳密な意味での履行請求とは異なりますが,義務違反をすると責任を追及するということを主張することで,間接的に義務の履行を求めることができるのではないかと思います。
  私益信託の後の公益信託に関連しては,今,アメリカで議論されている信託のデカンティングというものがありますが。これが参考になります。この制度自体は,公益信託を設定するということに使うものではありませんが,ワインを別の容器に移すデカンティングというのがありますが,この考え方を信託の場合に応用して,1つの私益信託があるときに,別の新しい私益信託の器を作って,そこに元の信託の財産を移すというものです。このときに最初の信託の受託者が,これは普通,裁量信託になっており,その裁量権の範囲でもって新しい信託を作って財産を移すわけです。最初の私益信託が裁量信託になっていると,受託者の義務違反ということは問題にならないのでしょうけれども,仮に裁量信託ではなく受託者に新しい信託を設定する義務があるとすると,最初の信託の受託者の義務を追及できる人が追及するという形をとるのではないかと思います,
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 バックアップチームの議論の中で,特に座長の矢吹弁護士より具体的例をもう少し議論すべきではないかという指摘を頂きました。私益先行で後,公益信託という残余公益信託についてですけれども,生涯独身率が増え,子どもがいない場合,兄弟,姪に財産がいくより,公益に使いたいが,生前は特に認知症になるかも知れない自らのために財産を使い,その死後については国庫にいくよりも自分が指定した公益のために使ってほしいと,こういうような公益に自分の財産を使うということを,もっと積極的にPRしたらどうかというようなことを座長も言っております。
  ということで,繰り返しになりますけれども,今の状況からすると,生涯独身の方が増える,その財産を国庫ではなくて,また,遠い相続人ではなくて,自ら考える公益のために使うというニーズはかなりあるのではないかと思います。規定を設ける,設けないについては,先ほど樋口委員がおっしゃったように,PRという観点からも,こういう目的のために使えますよということは,十分,意味があることですし,積極的に認めていくということになると思うので,是非,規定をしていただきたいと思います。
  あと,転換うんぬんという議論ですが,私としては単純な法的発想で,当初信託設定行為によって信託財産が受託者に移れば,それで一つの信託が成立しているわけで,それが目的信託から受益者のいる信託になろうが,その逆であろうが,契約レベルにおいては単なる信託契約の変更,又は元々の信託行為中の契約の規定に従った推移にしかすぎないと思います。税法上は税独自の世界があるかもしれませんけれども。公益認定が取れるかどうかという別の問題はありますが,基本は信託行為レベルの議論と思います。
○中田部会長 最後の4についての御意見は,そうしますと,可能にすべきではあるのではあるのだけれども,それが信託の変更という,この概念に狭い,広いがあるのだろうと思いますけれども,その方法を更に検討すべきであるということでしょうか。
○小野委員 はい,そうです。信託行為の変更が認め難い状況があるとしたら,積極的に認めるような規定も必要かと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○平川委員 3の「残余公益信託」につきましては,これを認めるという規律を設けるということになると,その設定をしたときに事前に公益認定を受けておくということだと思うんですけれども,まず,規律を設けないとすることで賛成します。私益信託の終了時点で公益信託への転換を図り,その時点で公益信託設定の認定を取るということが法律関係を簡素化するものであり,私益信託の設定の当初の段階で,将来の時点での公益信託となることについて事前に公益認定をするということは,実務的にも将来の事情変更ということもありますし,困難が伴うのではないかと思いますので,これも許容する必要も実益もないと私は考えます。したがって,規律を特に設けることは必要がない。
  4につきましては乙案に賛成しまして,理由としては受益者の定めを廃止する信託の変更をする時点で新たに公益信託としての認定を受け,公益信託の要件を満たすものを公益信託に転換するということを可とすることについては,公益の増進に資すると考えますし,何ら弊害はないと考えます。
○吉谷委員 先ほど御議論がありました3の「残余公益信託」の18ページの3番の事例のところでございますが,このような類型については,自己信託の規定の適用がないと考えて行われているスキームというのが存在するのではないかなと考えております。ただ,その上で,それはある種の解釈の問題であるということかもしれません。ここに出ている事例以外にも,私益信託の帰属権利者に対して再度,信託を設定するということを義務付けた上で,帰属権利者とするというやり方がありますので,そちらの方は特に解釈の疑問はそれほどないのかなと思いますので,どういうものを実務上の例として載せるのかというところは,いろいろ,考えるところはあるかと思いますが,お話させていただきました。
○林幹事 まず,3の「残余公益信託」の方は,弁護士会の議論ではこの御提案で賛成という意見が多かったと思います。ここでは,一応,当初,事前に公益認定を受けるということを想定して検討しましたが,あえてそこまで必要はなく,あるいは信託行為の中に書き込めば,事後的には実現できるとも考えられるので,その前提では,御提案の通り残余公益信託の規定は設けないことに賛成という意見も多かったところです。ただ,そうではありながら,信託設定の段階で当初から意思が固くて,どのタイミングで公益認定をするかは,それぞれに判断するという,この御提案の中でもそうなるのかなと。だから,それは比較的早く出したかったら出せばいいのか,認定がおりるかどうかはその場面というか,認定する側の問題なのかもしれませんけれども,そんなふうには理解しました。
  4については,弁護士会としても乙案の意見で一致していたところです。前回の議論の際も申し上げたのですが,当初は私益信託で,特定の病気の子どものための信託ではあるが,一定のときから同じ病気の人たちのために,広く公益信託にするというようなニーズが十分あり得ると思っています。その点で,実質的に公益という要件を落とした形で提案いただいていることは評価しているところです。
  信託の変更によってという点を乙案で付け加えられていると思うのですが,それは関係者の利益に配慮してということでもあって,評価できる部分でもあります。ただ一方,要件としてそれだけに限定するというのか,あるいはそれこそ信託行為に書いてあったら,その辺はもう少し緩く考えてもいいかもしれない,という議論もあったところです。基本的には乙案ですし,信託の変更の手続をとることによって,関係者の意思を確認した上で対応するというところは評価しているところです。
○道垣内委員 林幹事の御意見は,3について事前に公益認定を取るというものだったのか,どうなのかというのが,少しよく分からなかったんですけれども,3について私益信託の設定の段階で将来の公益信託について公益認定を取得するというのは,システム上,不可能だと思います。つまり,財産が幾らあるか分からないですよね。公益認定の場合には,示された公益目的を達成できるだけの安定的な資産があるかどうかということも,考慮の対象になってきます。しかるに,公益信託開始時にはどれだけの資産があるかはわかりませんが,残っている資産で公益目的の信託をしますから,今の時点で公益認定をしてください,というのは,あり得ない話だろうと思います。
  仮にもしそれがあり得るとしますと,今度はそのような認定を受けたときには,先行する私益信託においての資産の運用方法とか,受益者への給付についての制限的な規律を定めなければならないということになりますが,それは無理だと思います。したがって,これは終了した段階で公益信託を設定するのであり,その時点で公益認定を受けるのだということなのだろうと思います。
 しかし,そのときに本当は,樋口委員がおっしゃった問題があり,それは非常に重要なものです。理論的には受益者ができるということなのでしょうが,受益者はどちらかといえば公益信託の設定について利益相反の地位にいるのですね。だらだらと続けてくれた方が自分はたくさんの受益ができるわけであり,期間が来ましたので,公益信託にしてくださいということを,一定の手続を用いて受託者に強制することは,受益者に余り期待できることではありません。そこに,問題は残っているのだろうと思います。
  更にもう一言,付け加えますと,能見委員がおっしゃったことで微妙なところがあったような気がするのですが,公益信託を設定するというのが私益信託の終了時の帰属権利者としての受託者の役割なのか,それとも,ある一定の段階が来たときに,残余財産について公益信託を設定することが受託者の役割として求められるのかというのは,理論的には詰めておいた方がよい問題ではないかと思います。恐らく後者の方が作りとしてはスムーズなのではないかなという気がします。樋口委員が指摘された問題点は解決されていませんが。
○山田委員 これまでの各委員・幹事の御発言とうまく絡むかどうか分からないのですが,3と4を併せて発言させていただきたいと思います。公益信託でない信託があって,それがその後,認定を受けて公益信託になるという道は,是非,作ってほしいというのが私の一番強い意見です。最初から公益認定を受けるということで,厳密な意味での前後関係はよく分からないのですが,最初から公益信託として出来上がるというものも,もちろん,あってよいのですが,そうではなくて,公益信託でない信託が公益認定を受けて公益信託になるという道は作ってほしいというものです。
  その上で,信託の個数という話をさせてください。厳密にこれを定義することができるのかどうか分かりませんが,信託法3条に定められている三通りの方法のいずれかで,今,信託行為と呼ばれているもので成立し,そして,信託法163条以下の規定に基づいて終了する,こういう時間的な幅のある,人間に例えるならば生まれて亡くなるまで,この例えがいいかどうか分かりませんが,これを一つと考えるとしますと,その一つの信託で前半は公益信託ではない信託だけれども,ある時期から公益認定を受けて公益信託になるということです。その公益認定を受けた時点から税制上の公益信託に与えられている優遇を受けられるようになるということです。それ以降は,残余財産の扱いなどは,全部,公益信託の規律に置かれるべきであると思います。そういうものを是非,作ってほしいと思います。それが公益信託を増やす道にもなるでしょうし,今,幾つか御発言に出てきたように,具体的な例としても,それはありそうだなということで,何とか使い道が広がるのではないかと思います。
  ただ,そのときに3と4が,ざっくり言うと両方が認められればいいのですが,問題の性格が3と4で違うのではないかという感じを今,持ち始めております。といいますのは,4の方は信託法258条第3項という規律があるので,それを除くとすればいいのかもしれませんが,何で公益信託の場合には除外できて,公益信託でない受益者の定めのない信託の場合は駄目だとされているのかというところが今,私は十分に258条第3項の現存のルールを乗り越えられるだけの理由を持ち合わせておりません。ですから,もし適当な理由があれば乙案でいいと思うのですが,甲案にならざるを得ないところがあるのかもしれないなと感じております。
  そうすると,ぱっと見ると4の方が実現可能性が高いと思える面もあるんですが,3のように,要するに受益者というのは当初の信託行為の中で定められているときまでしか受益権を持っていないんだと,したがって,信託の変更という手続を経ずにできるんだという考え方に,3の方です,となり得るように思われ,少なくとも3は残してほしいと思います。ただ,3については受託者の義務,1個の信託ということですから,残余権利者がうんぬんではなくて,受託者が,自分が受託者である信託が公益認定を受けるということをしてもらうわけですが,そのエンフォースの方法というのは先ほど中辻幹事が考えますとおっしゃっていただいたところですが,是非,考えていただきたいなと思います。委託者は死亡している場合が遺言信託に限らず,あろうかと思いますので,現実的なエンフォースの方法を考えることができるといいと思っています。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○道垣内委員 エンフォースの方法について一言だけ申しますと,受託者が何らかの義務を履行しないときについて,エンフォースの方法は信託法上,定めがないですよね。信託法上,何が定められているのかというと,結局,受託者の解任及び損失填補請求しか定められていないのだろうと思います。3について帰属権利者としての義務というよりは,受託者としての義務だと考えた方がスムーズだろうと申し上げたのは,強いて言えば,解任という方法があるというためなんですが,ただ,それも本当は誰が解任申立てをするのかという問題は,先ほど申し上げましたように誰も利益を得ませんので,残ったままです。
○小野委員 今の点で思い付きなんですけれども,これを積極的に法文上認めて,この残余公益信託の場合には信託管理人を必置とするとして当事者を設ければ,受託者がサボっても信託管理人が善管注意義務を尽くせばチェックできるのではないかと思います。そういう意味においても規定があれば,より実効性のあるものになるのではないかと思いました。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
○神作幹事 19ページの4について申し上げたいと思います。「受益者の定めのある信託から公益信託への転換」ということで,これは私は弊害は余り考えられず,むしろ,方向としては非常に望ましい方向なのではないかと思います。例えば乙案を拝見しますと,私益信託が信託の変更を経て公益信託の認定を受けると。この前提としては,258条3項の例外を設けるということが考えられるわけですけれども,気になりますのが4の表題は「転換」と書いてあって,今日のこの会議でも樋口委員から御指摘があったと思いますけれども,乙案は単なる変更ということになっております。
  私は率直なこれも直感的なことなのですけれども,私益信託から公益信託に変わるときに組織の実質や実態,少なくともガバナンスの構造は相当大きく変わると思いますし,かなり実質的な変更があるのではないかと。そうすると,単に258条3項の規律の例外を設けるだけで済むのかというのがございまして,例えばもう少し変更について,会社でいえば組織変更に類似したような規律を検討すると,例えば利害関係人の利益調整等は必要がないのかどうか,私は一種の信託という組織におけるファンダメンタルチェンジズが起こるのではないかという気がいたしまして,そうすると,単なる信託行為の変更で移るというだけではなくて,もうちょっと考えなければいけないことがあるような気がいたします。
  そのときのポイントというのは,本来であれば,一旦,清算して終了して,それで新しく作ると,その手間を省かせてやるということでありますので,清算とか終了についての規律,それから,新しく公益信託を新設するときの規律のうち,どれが省いてもいいものなのかという観点から,検討する必要があるのではないかと思いますけれども,しかし,方向としては,私は4については乙案の方向で,しかし,今,申し上げたように乙案も恐らく簡単ではなくて,先ほどの実質的な信託のファンダメンタルチェンジズに当たるという前提の下で,規律を整備するということが考えられるように思われます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかによろしいでしょうか。
  3については,賛成される御意見の方が多数であったと思いますが,事実上,できるということの意味が,一体,何なのか,その内容を更に詰める必要があるのではないかという点,あるいはエンフォースが期待できないというのは,一般的には他の信託でも同じだけれども,とりわけ,この場面ではインセンティブのある人がいないではないかというような御指摘を頂いたと思います。また,同一性を維持しながら,形態を変えるということの持つ意味を更に詰めるべきであるということがあったと思います。
  4については,乙案に賛成される方の方が多くいらっしゃったと思います。ただ,その上で,258条3項との違いをどのように説明するのか,もっと言うと,信託の変更と言うけれども,最後に神作幹事から御指摘いただきましたように,一種の組織変更のようなことで,かなり大掛かりな検討が必要になるのではないかというような御指摘も頂いたかと存じます。こういったことを踏まえて,更に中間試案に向けて検討していただきたいと思いますが。
○平川委員 今の大きな組織変更にもつながってしまうという話のところで,登録免許税が掛かるような財産の場合には,同じ受託者でも新たな登録免許税が掛かることになると,公益信託への変換というのが実務的には費用の問題が障壁になりますので,論理的にはそうかもしれないけれども,何とか同一性が保たれた同じ信託勘定だという理論を築けると,実務的にはいいと思いました。
○中田部会長 御指摘,ありがとうございました。
  それでは,次に進んでよろしいでしょうか。
  それでは,最後になりますけれども,第2の「5 公益信託から目的信託への転換」,第2の「6 目的信託から公益信託への転換」について御審議をお願いします。御自由に御発言ください。
○深山委員 5の「公益信託から目的信託への転換」について,まず,この議論の立て方について少し留意すべきと思うのは,タイトルはともかくとして中身を見ると,認定が取り消された場合の処理といいますか,その後のことを甲案,乙案で単純に終了するのか,あるいはただし書が付いて,一定の信託行為の定めがあれば目的信託として残るかというような議論になっております。
  こういう場面も考えておかなければいけないとは思うんですが,タイトルにあるように公益信託から目的信託への転換,恐らくこれは事後的なといいますか,当初から想定されているわけではないけれども,ということが前提なのかなと思うんですが,それは何も認定取消しの場合に限られないのだろうと思うんです。認定が取り消された場合というのは,何らかの取消事由があるという場面なので,そういう場面に限定していえば,甲案でいいという気もするんですが,しかし,今,申し上げたように公益信託から目的信託への転換ということを議論するのであれば,認定取消しの場合でない場合も視野に入れるべきです。そこの議論がここから抜けて落ちているような気がするということを一応,指摘したいと思います。
  6については,目的信託から公益信託への転換ですが,これは許容するという乙案を支持したいと思います。これは先ほどの4にもやや似たような場面だと思うんですが,当初は目的信託からスタートしたものであっても,どこかの段階で公益認定を得て公益信託に転換していくということについては,あえてこれを否定する必要はないと思いますので,乙案を支持したいと思います。
○中田部会長 5について認定取消しの場合には甲案でよいけれども,より広く検討すべきだという御意見を頂戴しましたけれども,例えばどのような場合に転換を認めるべきだというお考えがもしありましたら,お願いいたします。あるいは一般的にということで,更に検討せよということであれば,そう承りますが。
○深山委員 認定取消しのような場合ではなくて,一定の意図なり目的,もちろん合理的な意図なり目的に基づいて,当初,公益信託であったものをある段階から目的信託に変えるということは,一般論としては私は認めていいと思っています。これは,何度か同じような議論が出てくる期間限定の公益信託を認めるかどうかということにつながる議論だと思っているんですが,そういう意味でいうと,一定の期間,例えば10年間は公益信託として財産を供するんだけれども,当初,定められた時期にはそれが目的信託に変わるという意味では,期間限定の公益信託ということを許容することになります。
  ただ,どういう具体的なニーズがあるのかというのは,私も実は余りイメージができていなくて,観念的にいうと,そういう期間限定の公益信託で,その後は目的信託という一種の私益信託に変わるというものがメニューとしてあってもいいのではないかなという抽象的な考え方です。一切それを否定してしまう必要はないと。ただ,ここに提案があるように認定が取り消されたような場合,何かしら問題があると判断されたものについて,その後,目的信託への転換を認めるというのは,普通に考えると望ましくないのだろうなという意味で意見を申し上げましたが,一般化すると期間限定信託という意味での転換はあっていいのというのが私の考え方です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 深山委員のおっしゃったことと実質的に共通すると思うのですが,具体的には5については乙案が望ましいだろうということを申し上げます。公益認定の取消しについても,どういうイメージを持つかという点についてはまだ開かれているのかもしれませんが,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の29条というものを手掛かりにしますと,1項の4号に公益法人から公益認定の取消しの申請があったときというものがあります。要するに,何か不祥事があったときに取り消されるというのが1号から3号までの例ですが,4号としては別にそういうのがなくても,当該法人が公益認定を取り消してくれと申請したら,認定行政庁が認定を取り消すという仕組みになっているように思います。公益信託においても,こういう考え方は大いに重要参考例になるのではないかと思います。
  そうしますと,深山委員のおっしゃった実質は公益認定の取消しに流れ込んでくるように思います。したがって,公益認定の取消しを柱書きにしたこの表現で乙案につなげることで私はよいと思いますし,私が理解するところでは,深山委員のおっしゃっていることも,ここに対応するのではないかなと思います。
  あとは補足説明の中に書いてあることですが,公益法人認定法30条の公益目的取得財産残額に関する,あるいはその前提となる公益認定の取消し等に伴う贈与,これは残余財産の行き先に関するルールに平仄を合わせるべきですが,私の意見としては公益法人認定法30条のようなルールが伴わざるを得ないだろうと思い,それでよいのだろうと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○平川委員 5について甲案に賛成します。乙案というのは,公益信託というのは目的信託の一類型であるとか,あるいはそれであるために目的信託を前置するというような,公益信託を設定する前に目的信託が前置されているかのごとくの考え方から来るのではないかと思うのですが,こういう考え方については信託関係が複雑化することから反対の立場を採ります。公益信託と目的信託は,前者が後者に包括されるのではなく,並列的関係に立つと整理することから,公益信託が終了した場合には,目的信託として残存するということはあり得ないという立場を採ります。
  公益法人制度において,一般法人と公益法人の2階建てとしたことから,各種の法律関係において複雑化,煩雑化を招いておりまして,例えば公益認定を取り消された場合,当該一般法人は1か月以内に公益目的残存財産を他の同類の公益法人や地方公共団体に寄附しなければならないなどの縛りが設けられているとか,安易に同様の制度とすべきではないと考えます。
  6につきましては乙案に賛成します。元の素性が目的信託であろうと,通常の私益信託であろうと,信託の転換というか,変更というかは別として,変更する時点で新たに公益信託としての認定を受け,公益信託の要件を満たすものを公益信託として認定するということを可とすることに何ら弊害はなく,公益増進に資するものであると考えます。
○吉谷委員 まず,今,平川委員が発言されたところで,公益信託が目的信託の一類型なのかどうかというところに関連してなんですけれども,私どもの方は以前から意見として,公益信託は目的信託の一類型というような形でよろしいのではないかという意見を申し上げていたと思います。ただ,その趣旨というのは,立法技術として公益信託の法律を作るのに,目的信託の規定を読み替えるというやり方を採るということについては,異論がありませんということで申し上げていたわけでありまして,少なくとも公益信託というのが目的信託の一類型でなければならないと,積極的に考えていたわけではないということをまずお伝えしておきたいと思います。
  公益信託と目的信託との間には,非常に大きな断絶というのがあるんだと考えているところであります。公益信託は公に拠出されたものであって,それゆえに税制上の取扱いもその他の信託と区別されるとかいうもの,あるいはその認定も必要であってということがあります。つまり,公益信託のブランドであるとか,信頼性であるとかというものを確立するためには,目的信託との間には一線を画すると考えた方がよろしいのではないかとまず思います。
  その上で,5番と6番につきましては,5番については甲案に賛成です。委託者の当初の意思であるとか,税制上の措置とかの関係からしますと,目的信託として存続を認めるべきではないと考えます。
  6番につきましては甲案に賛成です。これは3や4と同じ理由でありまして,実務上は新たな公益信託として始めればよいというだけでありまして,信託としての同一性を保って転換しなければならないというニーズは,特にないのではないかと思います。制度を余り複雑化するよりは,シンプルな形で対応できるのであれば,その方が分かりやすいと思われます。
  そのバリエーションを増やすことによって,利用が促進されるのではないか,今度,こういうふうなことができるようになりましたと,宣伝しやすいのではないかというお話が先ほどありましたけれども,それは公益信託法が変わりましたと,公益信託というのは,こういう使い方ができますということを宣伝することによってなされるのであって,法制がどうなっているかということを見て,一般の方々が,こんな法律がこんなふうに変わったので,こんなことができるようになったのだと思われることはまずないのだろうと思うんです。なので,同じことが実質的にできるのであれば,あえて複雑な制度を設ける必要というのはないと思われます。
○林幹事 まず,5の「公益信託から目的信託への転換」ですが,弁護士会の議論では,甲案で当然終了という意見もそれなりにあったのですが,私はここでは乙案に賛成と申し上げたいと思います。
 ここでは公益認定が取り消されたという前提になっていて,取消しに関してはいろいろ論点があり得るのですが,取消事由はもとよりですが,一旦,取り消された後,その後,手続的にどうなるのかは問題です。
  特に取消しに対して争っている場合,結局,行政訴訟なのか,分かりませんけれども,取り消されたら,一旦,終了してしまい,争った後,取消しの命令なりが否定され,取消しではない状態になったときには,公益信託に戻るのだと思います。そうすると,その間の存在はどういうものになるのか問題です。あるいは手続上,保全なりの方法で何らか利益を確保される方法が残されるのか,そういう心配がありますし,その間の存在が何なのかということになって,それを公益的な目的信託的に理解するのか。そういうところが気になった問題点です。
  それから,もう1点は補足説明にあったかと思いますが,認定が取り消されてしまうと,公益目的の資産ははき出さないといけないから,結局,それが残らないのでという議論があったかと思います。ただ,必ずしもそうでないのではないのかという気はします。取消しを想定したとき,何をもって取り消されるのかがあって,公益性がなくなったから取消しというのだったら理解はできるのですけれども,公益性は残したままだけれども,別の事由で取り消されるという場合があり得て,それは実質的な存在としては公益性を持ったまま,公益認定のない信託になって,それは公益的目的信託になるのでしょうから,その限りでは,私個人の意見としては,資産をはき出すという前提で議論する必要は無く,同一性を持ったまま,公益認定のない公益的な目的信託として残ってもいいのではないのかと思いました。その辺りをどう規律するかということがあって,乙案で信託行為に定めがあればという御提案は,一つ傾聴に値すると考えました。
  それで,6については先ほどの3とか4とかと同じような議論で考えます。ですから,バリエーションを認めるという意味においても乙案に賛成ですし,これであっても信託契約なり,信託行為に書いてあることであれば,その点を私的自治的な観点からも重視していいのではないのかと考えました。ですから,6については弁護士会の意見は乙案で一致だったので,その前提の意見になります。
○中田部会長 ありがとうございました。
  5について認定の取消しがあって,公益目的取得財産を引き継ぐこともあり得るんだということでございましたけれども,その場合には,しかし,公益信託としての規律は受けない,監督も受けないという理解でよろしいでしょうか。
○林幹事 その場合の規律としては,補足説明にもあったのですけれども,公益目的の目的信託という新たな類型なりを設けて,規律するというものがあっていいと思います。目的信託につきましては,私は,これまで,現行法よりも,もう少し広く活用されるようにするにはどうするのか,そこを考えるべきだと申し上げていたところですので,その前提ですと,公益的な目的信託という新たな類型に対する規律を積極的に考えていただけたらと思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。ほかに。
○新井委員 5類型については認定取消しの場合ですけれども,これについては甲案に賛成したいと思います。
  それで,6番目についてですけれども,私が繰り返し,ここで発言してきたように目的信託と公益信託というのは全く別の類型の信託ですので,両者がお互い,相互に入れ替わるようなことは認めるべきではないと思っております。そして,ここで申し上げたいのは,先ほどファンダメンタルチェンジという話がありました。それで,日本の目的信託の場合には委託者の権限が非常に強いわけです。そして,更に信託法施行令3条で受託者の要件が限定されているというようなことも加味すると,同一性を持ってチェンジするということは,まず,難しいのではないかと考えます。したがって,6については甲案,許容しないという説に賛成します。
  そして,その上で,今,問題になっていませんけれども,7,8というのがありまして,これは公益信託から目的信託,目的信託から公益信託への変更ということですけれども,これについても認めないということでよろしいのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  大体,御意見を頂戴したということでよろしいでしょうか。
  5については,少なくとも認定取消しの場合については,終了するという甲案に賛成される方の方が多くいらっしゃったと思います。ただ,その上で,より広く考えるべきであるという御指摘も頂きました。また,乙案でいいのではないかという複数の御意見も頂きました。
  6については,それぞれの御支持があったと思います。この6の問題というのは,多分,より広い問題につながっていくことで,従来から2階建てというような制度にするかどうかというような御議論もありましたし,公益信託の効力が一体,いつ,発生するのかというようなこととも関係すると思いますので,今後,更に検討を進めていきたいと存じます。
  ほかに御意見などはございませんでしょうか。ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。
  今後のことでございますけれども,前回,事務当局から御案内があり,皆様から御賛同いただきましたとおり,第二読会が終わるこの時点で,民法,信託法及び行政法関係の有識者をこの部会に参考人としてお呼びすることを予定しております。具体的な人選は,前回,私に御一任いただいておりましたけれども,このたび,行政法の研究者であります東京大学の山本隆司教授及び民法,信託法の研究者である同志社大学の佐久間毅教授を参考人として部会にお招きするということで,両教授から御内諾を頂くことができました。そこで,次回,6月6日(火曜日)の部会では山本隆司教授を,次々回,7月4日(火曜日)の部会では佐久間毅教授に参考人として御出席いただき,ヒアリングを実施したいと存じます。
  この点も含めて次回の日程等について事務当局から更に説明してもらいます。
○中辻幹事 次回の日程は,6月6日(火曜日),午後1時半から午後5時半までということになります。当日は,今,中田部会長から御紹介ありました山本隆司教授から,新たな公益信託制度を設計する際の行政法上の論点についてお話ししていただいた後,若干の質疑応答を行う予定です。また,行政庁が公益信託の認可を行うのか,認定を行うのか等の論点について事務局で部会資料を用意いたしますので,ヒアリングが終わった後,山本教授御同席の上で,それらの論点について皆様に御審議いただくことも予定しております。
○中田部会長 ほかに何かございますでしょうか。
  ないようでしたら,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

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