東京地裁平30・9・12判決 所有財産 死因贈与契約書 遺言書
東京地裁平30・9・12判決 相続関係図
東京地裁平30・9・12判決
争点に対する裁判所の判断
1、Eの「意思能力」について
Eについて、本件死因贈与及び本件信託の時点において、意思能力を欠く常況にあったとは認められない。
2、平成10年遺言について
平成10年遺言は本件信託又は本件死因贈与と抵触する。
3、本件信託は公序良俗に反するかについて
本件信託のうち、原告(次男)に対して、経済的利益の分配が想定されない不動産を目的財産に含めた部分は、遺留分制度を替脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効。
原告(次男)に対して、経済的利益の分配が可能な不動産を目的財産に含めた部分は有効。
4、遺留分減殺の対象は信託財産か受益権か
受益権が対象
その他
本件信託及び本件死因贈与の減殺率、不動産以外の遺産に係る価額弁償額
売却済み不動産の売却代金の精算金額
反対債権の有無、相殺の可否
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東京地裁平30・9・12判決
1 信託設定が遺留分制度を潜脱する意図でなされたものであり公序良俗に反
して無効であるとされた事例
2 信託における遺留分減殺請求は受益権を対象とすべきであるとされた事例
東京地裁平30・9・12民事第17部判決請求一部認容〔控訴〕
平成27年(ワ)第24934号、共有権確認等請求事件
〔判決要旨〕
l 本件信託のうち経済的利益の分配が想定されない不動産を信託財産とした部分は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって公序良俗に反して無効である。
2 信託契約による信託財産の移転は形式的な所有権移転にすぎないため、信託においては受益権を遺留分減殺の対象とすべきである。
<参照条文> 信託法91条 民法1031条
1 事案の骨子
本件は、A(平成27年2月18日)の長男である原告Xが、二男である被告yに対し、Aが死亡13日前にした信託契約(以下「本件信託」という)が意思無能力又は公序良俗違反により無効である等の主張に基づき、本件信託に基づ
き行われた不動産l~ 16 (以下「本件不動産」という)の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続等の請求をする事案である。
2 事案の概要
(1) 当事者等
当事者等に関し、Aは、平成27年2月18日に死亡しその相続人は、長男であるX、二女であるB及び二男であるYの3名である。
Aは、平成27年2月1日及び同月5日時点に、本件不動産と不動産17~22 (以下「売却済み不動産」といい、本件不動産と併せて「A所有不動産」という)を有しており、同月1日に、Bとの間で、Aの全財産の3分の1に相当する財
産についての死因贈与契約(以下「本件死因贈」という)を、Yとの間で、Aの全財産の3分の2に相当する財産についての死因贈与契約を締結した。
(2) 本件信託の内容
Aは、平成27年2月5日、Yとの間で、Aを委託者、Yを受託者とし、次の内容の信託契約を締結した。
信託目的:A死亡後も、その財産を受託者が管理・運用することによって、Y及びその直系血族がいわゆるA家を継ぎ、お墓・仏壇を守っていってほしいとのAの意思を反映した財産管理を継続すること。なお、Aは祭祀を承継するYにおいて、その子孫を中心として管理、運用することにより、末永くA家が繁栄していくことを望む旨が記載されている。
信託財産:A所有不動産及び300万円(以下「信託金銭」という)。
信託事務:受託者は、信託金銭を用い、信託不動産に関する公租公課・修繕費その他信託不動産の維持管理に必要な一切の費用の支払のために使い、信託金銭を、受益者の身上監護のために使うことができる。
委託者の権利:委託者の死亡により消滅する。
受益者:当初受益者をAとし、A死亡後の受益者につき、第1順位としてXに受益権割合6分の1、Bに受益権割合6分の1、Yに受益権割合6分の4、第2順位としてYの子供らが均等に取得する。
受益者連続:受益権を有する者が死亡した場合には、その者の有する受益権は消滅し、次順位の者が新たな受益権を取得する。
受益者の意思決定:信託法105条の規定にかかわらずBが行う。
受益者の権利:信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産より発生する経済的利益を受けることができる。
受益権の取得請求:受益者が複数となった場合は、受益者のl人は他の受益者に対して受益権持分の取得を請求できる(取得する受益権の価格は、最新の固定資産税評価額をもって計算した額とする)。
(3) 不動産の内容
本件不動産のうち不動産2~5の土地、7及び8の建物は、Aが居住していた居宅及び物置とそれらの敷地(固定資産税評価額合計3億5241万5200円)であり、そのうち一部を駐車場として第三者に賃貸(賃料収入は年間100万円
~ 180万円程度)している。また、不動産1の土地及び6の建物、9の土地及び10の建物は、賃貸物件である共同住宅とその敷地(固定資産税評価額合計l億2274万9240円、賃料収入は年間950万円ないし1070万円程度)、不動産11~15の土地(非課税)は葬儀社に無償で貸与している倉庫敷地とその付近の私道敷地であり、不動産16は栃木県の山林である(固定資産税評価額2万4874円)。
(4) 本件信託に基づく登記
Yは、本件信託に基づき、平成27年3月10日、本件不動産及び売却済み不動産について、それぞれ同年2月5日に信託を原因とし、受託者をYとする所有権移転登記及び信託登記を了した。
(5) 遺留分減殺請求権の行使
Aは平成27年2月18日に死亡し、Xは、Yに対し、平成28年l月23日、本件死因贈与又は本件信託による譲渡について遺留分減殺請求権を行使した。
また、X、Y及びBは、相続税納付のため、売却代金を本件信託の受益権割合に従って分配することを合意の上、Yにおいて、売却済み不動産を合計2億2431万8619円(譲渡費用控除後)で売却した。
3 本判決の要旨
(1) 本判決の争点と判断の骨子
本件の争点は多岐にわたるが、信託に関する主なものは、①本件信託におけるAの意思能力の有無、②本件信託は公序良俗に反するか、①本件信託が有効である場合の遺留分減殺請求の対象は信託財産か受益権かである。
上記について、本判決では、①Aが意思能力を欠く常況にあったとは認められないとした上で、②本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない不動産2~ 5・7・8・11~ 16 (以下「対象不動産」という)を信託財産とした部分は、遺留分制度を替脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効であるとし、対象不動産について、所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続をすること、これらについて、平成28年1月23日遺留分減殺請求を原因とする持分一部移転登記手続をすること等を命じた。
- 遺留分減殺請求の対象は信託財産か受益権かについては、信託契約による信託財産の移転は形式的な所有権移転にすぎないため、受益権を遺留分減殺請求の対象とすべきであるとしている。
(2) 裁判所の判断
争点のうち、まず、①本件信託及び本件死因贈与におけるAの意思能力の有無について、本判決では、Aが平成27年1月25日に入院した時点において、意思龍力に欠ける点はなく、その後も同年2月2日には、自ら呼んだ信託銀行の担当者からも遺言について説明を聞くなどして自発的に検討をしており、他方、本件死因贈与及び本件信託を行うまで、意識障害が生じるなどして意思能力を欠く状態になったことをうかがわせる事情は見当たらないとし、本件死因贈与及び本件信託の時点において、Aが意思能力を欠く常況にあったとは認められないと判断した。
次に、②本件信託は公序良俗に反するかについて、本判決では以下のように判断している。すなわち、まず、Aは、本件信託において、A所有不動産を信託財産とし、発生する経済的利益を受益者に受益機割合に従って分配するものとした。しかし、A所有不動産のうち、不動産11~16は、これを売却しあるいは賃貸して収益を上げることが現実的に不可能な物件であり、不動産2~ 5・7・8についても、駐車場部分の賃料収入は同不動産全体の価値に見合わないものであり、これを売却することも、あるいは全体を賃貸してその価値に見合う収益を上げることもできていない。これらは本件信託当時より想定された事態であるといえることからすると、Aは、これらの各不動産から得られる経済的利益を分配することを本件信託当時より想定していなかった。
加えて、本件ではXが遺留分減殺請求権を行使することが予想されるところ、仮に、Xが遺留分減殺請求権を行使し、本件信託におけるXの受益権割合が増加したとしても、対象不動産により発生する経済的利益がない限り、Xがその増加した受益権割合に相応する経済的利益を得ることは不可能である。そして、本件信託では、受話権の取得請求によっても、取得する受益権の価格は、最新の固定資産税評価額をもって計算した額とするとしていることからは、対象不動産の価値に見合う経済的利益を得ることはできない。そうすると、Aが対象不動産を本件信託の目的財産に含めたのは、むしろ、外形上、Xに対して遺留分割合に柑当する割合の受益権を与えることにより、これらの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であったと解さざるを得ない。
したがって、本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない対象不動産を目的財産に含めた部分は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効で、あるというべきである。
他方、本件信託のうち、対象不動産以外の目的財産に係る部分については、Xは信託不動産により発生する経済的利益を享受することができるのであり、また、信託金銭300万円についても信託不動産の維持管理に必要な費用等に充てるものとして合理的であり、本件全証拠によっても同部分を無効とすべき事情は認められない。
以上によれば、本件信託のうち、対象不動産に関する部分は公序良俗に反して無効であり、その余の不動産及び信託金銭300万円に関する部分は有効で、ある。
そして、①遺留分滅殺請求の対象は信託財産か受益権かについて、本判決では、信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため、実質的に権利として移転される受益権を遺留分減殺請求の対象とすべきであるとしている。よって、対象不動産以外の本件不動産について、信託財産引継を原因とする所有権移転登記手続及び信託財産引継を原因とする信託登記抹消登記手続請求は、理由がないとされた。
なお、本件信託の遺留分減殺請求に係る減殺率、不動産以外の遺産に係る価額弁償額の算定について、本件信託は、信託契約自体は生前に締結され、Aが死亡した時点でX、B、Yが受益権の持分を取得するものであるから、死因贈与に類似するものとして、遺留分を計算するものとされている。
4 解説等
信託銀行や信託会社を受託者としない、親族間などで行われる信託は民事信託とも呼ばれ、ここ数年で急増している。その件数の急増とともに当事者間で紛争となる事態も生じており、本判決も、この民事信託に関して生じた紛争に係るものである。争点としては①委託者の意思能力の存否、②信託契約に関する公序良俗違反の有無、①遺留分減殺請求の対象が信託財産か受益権かというものであり、とくに① については、従来、信託財産を対象とすると考える信託設定行為説と、受話権を対象とすると考える受益権説で考え方が分かれていたところである。
両説では、遺留分減殺請求の相手方(受託者か受益者か)、請求が可能となる時期(信託設定時か受益権取得時か)などで相違があり、本判決では、理由は一言述べるにとどまっているが、受益権説に立って判断がなされたものである。一方で、本判決では、事案の性質上、遺留分減殺請求により受益権を原告が取得したとしても実質的な解決が図られない点について、公序良俗違反により信託契約の一部を無効とする方法で解決を図っている点でも注目される。本判決は現在控訴審に係属しており、その判断も待たれるが、本判決自体についても、これ
までに例がない信託と遺留分減殺請求に関する判断という点で有意義なものと思われ、ここに紹介した次第である。
[当事者](一部仮名)
原告X
同訴訟代理人弁護士 千賀修一
同訴訟復代理人弁護士 稲田龍樹・西村志乃
被告Y
同訴訟代理人弁護士 渡造恭子・太田勝久・小幡朋弘・京谷周
[主文]
1 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載2ないし5、11ないし13及び15の各不動産について、東京法務局A出張所平成27年3月10日受付第〈略〉号の所有権移転登記及び信託登記同目録記載7、8及び14の各不動産について、同
出張所同日受付第〈略〉号の所有権移転登記及び信託登記、並びに、同目録記載16の不動産について、B地方法務局C支局同日受付略
号の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続をせよ。
2 原告のその余の主位的請求をいずれも棄却する。
3 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産について、それぞれ平成28年l月23日遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を590万0886分の80万6861とする持分一部移転登記手続をせよ。
4 被告は、原告に対し、1246万4862円及びこれに対する平成30年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は、原告に対し、1131万5759円を支払え。
6 原告のその余の予備的請求及びその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、これを10分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
8 この判決は、第4項及び第5項に限り、仮に執行することができる。
.事実及び理由・
第1 請求
1 (主位的請求)
(1) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載lないし6、9ないし13及び15の各不動産について、東京法務局A出張所平成27年3月10日受付第〈略〉号の所有権移転登記及び信託登記、同目録記載7、8及び14の各不動産について、同出張所同日受付第く略〉号の所有権移転登記及び信託登記、並びに、同目録記載16の不動産について、B法務局C支局同日受付第〈略〉号の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続をせよ。
(2) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載lないし10の各不動産について、それぞれ平成28年1月23日遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を287万4481分の7万0588とする所有権一部移転登記手続をせよ。
(3) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載11ないし16の各不動産について、原告が7456万5262分の3779万2631の共有持分権(遺産共有)を有することを確認する。
(4) 被告は、原告に対し、7082万6037円及びこれに対する平成29年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 (上記1(2)ないし(4)に対する予備的請求)(1) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載lないし16の各不動産について、それぞれ平成28年1月23日遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を723万4649分の136万0471とする持分一部移転登記手続をせよ。
(2) 被告は、原告に対し、2627万8113円及びこれに対する平成29年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 (上記 1(1) に対する予備的請求)
被告は、原告及びDに対し、別紙物件目録記載lないし16の各不動産について、平成28年l月23日信託財産引継を原因として、原告の持分割合を873万2245分の152万5772、被告の持分割合を873万2245分の576万5178、Dの持分割合を873万2245分の144万1295とする所有権一部移転登記手続及び信託財産引継を原因とする信託登記抹消登記手続をそれぞれせよ。
4 被告は、原告に対し、7619万6328円を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、E (平成27年2月18日死亡。以下「E」という。) の長男である原告が、二男である被告に対し、次の請求をする事案である。
(1) Eが死亡13日前にした信託契約が意思無能力又は公序良俗違反により無効であると主張して、①上記信託契約に基づき行われた別紙物件目録記載lないし16の各不動産の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続(請求 1(1))
を求めるとともに、Eがその4日前にした死因贈与契約も意思無能力により無効であると主張して、②Eが平成10年にした被告に対する同目録記載lないし10の各不動産の遺贈につき減殺請求権を行使し、遺留分減殺を原因とする所有
権一部移転登記手続(請求1(2)) を、①未分割遺産である同目録記載11ないし16の各不動産について原告の共有持分権の確認(請求1(3)) を、④不動産以外の未分割遺産を被告が費消し、原告の共有持分権を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還(請求1(4)を求め、(2) 請求1(2)ないし(4)の予備的請求として、仮に上記死因贈与契約が有効である場合、同契
約による被告に対する死因贈与につき減殺請求権を行使し、①別紙物件目録記載lないし16の各不動産について遺留分減殺を原因とする持分一部移転登記手続(請求2(1)) を、②不動産以外の遺産について価額弁償(請求2(2)) を求め、(3) 請求1(1)の予備的請求として、仮に上記信託契約が有効である場合、信託設定行為につき遺留分減殺請求権を行使し、別紙物件目録記載lないし16の各不動産につき、原告及びEの二女であるD (以下「D」という。) に対する
信託財産引継を原因とする所有権移転登記手続及び信託財産引継を原因とする信託登記抹消登記手続(請求3)を求め、(4) 以上に加え、相続人間の合意により売却した不動産の売却代金の精算金の支払(請求4)を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実のほかは、後掲証拠により容易に認められる。)
(1) 当事者等
アEは、平成27年2月18日、死亡した。
Eの相続人は、長男である原告、二女であるD及び二男である被告の3名である。
イEは、平成27年2月l日及び同月5日時点において、別紙物件目録記載1ないし16の各不動産(以下「本件不動産jという。) 、別紙売却済み物件目録記載lないし6の各不動産(以下「売却済み不動産Jといい、本件不動産と併
せて「E所有不動産jという。) を有していた。
ウEは、その相続開始時において、別紙基礎となる財産一覧表記載の有価証券及び現金・預貯金、家庭用財産、その他保険金等の財産を有し、公租公課その他債務を負担していた。
また、Eは、原告、被告及びDに対し、同別紙記載の生前贈与を行った。
(2) 公正証書遺言(以下「平成10年遺言」という。)
Eは、平成10年1月23日、次の内容の公正証書遺言をした。
ア別紙物件目録記載lないし10の各不動産及び別紙売却済み物件目録記載lないし4の各不動産を、妻であるF (以下「FJという。)に相続させる。
イFがEより先に死亡したときは、上記各不動産を被告に相続させる。
(3) Fは、平成15年9月23日、死亡した。
(4) Eは、平成27年1月25日、腰痛で動けなくなり、G病院に精査目的で入院し、同月31日までに、胃がんの末期状態であると診断された。
(5) 死因贈与契約の締結(以下「本件死因贈与」という。)
アEは、平成27年2月1日、Dとの間で、Eの全財産の3分のlに相当する財産を贈与し、贈与財産の所有権はEの死亡によって当然Dに移転する旨の死因贈与契約を締結した。
イEは、同日、被告との間で、Eの全財産の3分の2に相当する財産を贈与し、贈与財産の所有権はEの死亡によって当然被告に移転する旨の死因贈与契約を締結した。
(6) 信託契約の締結(甲8。以下「本件信託」という。)Eは、平成27年2月5日、被告との間で、Eを委託者、被告を受託者とし、次の内容の信託契約を締結した。
ア本件信託の目的は、Eの死亡後も、その財産を受託者が管理・運用することによって、被告及びその直系血族がいわゆるE家を継ぎ、お墓・仏壇を守っていってほしいとのEの意思を反映した財産管理を継続することにあるとされ、Eは、祭杷を承継する被告において、その子孫を中心として管理、運用することにより、
末永くE家が繁栄していくことを望む旨が信託契約書に記載された。
イ本件信託契約の締結日における信託の目的財産は、E所有の全ての不動産(以下「信託不動産」という。) 及び300万円(以下「信託金銭Jという。) とする。また、将来において、信託不動産の売却・賃貸その他、運用により得られた金銭、信託財産たる金銭を用いて受託者が新たに建築・取得する不動産の全て等も目的財産とする。
ウ受託者は、信託不動産の維持・保全・修繕又は改良を、自らの裁量で行う。受託者は、信託不動産の管理事務の全部又は一部について第三者に委託することができる。受託者は、信託不動産を無償で使用することができる。
受託者は、信託金銭を用い、信託不動産に関する公租公謀・修繕費その他信託不動産の維持管理に必要な一切の費用の支払のために使うことができる。
信託金銭を、受益者の身上監護のために使うことができる。
エ委託者の死亡により、委託者の権利は消滅するものとする。
オ本件信託の当初受益者は、Eとする。
カE死亡後の受益者につき、次のとおり定める。
(ア) 受益権の取得の順位及び割合
第一順位
原告に受益権割合6分のl
Dに受益権割合6分のl
被告に受益権割合6分の4
第二順位
被告の子供らが均等に取得する。
(イ) 受益権を有する者が死亡した場合には、その者の有する受益権は消滅し、順位の者が新たな受益権を取得する。
(ウ) 受益者の意思決定は、信託法105条の規定にかかわらず、Dが行うものとする。
キ受益者は、信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産より発生する経済的利益を受けることができる。
ク受益者が複数となった場合は、受益者の一人は他の受益者に対して当該受益者の有する受益権持分の一部若しくは全部の取得を請求することができる。なお、取得する受益権の価格は、最新の固定資産税評価額をもって計算した額とする。
(7) 本件信託に基づく登記
被告は、本件信託に基づき、平成27年3月10日、別紙物件目録記載1ないし6、9ないし13及び15の各不動産につき東京法務局A出張所同日受付第〈略〉号をもって、同目録記載7、8及び14の各不動産につき同出張所同日受付第
〈略〉号をもって、並びに、同目録記載16の不動産につきB法務局C支局同日受付第〈略〉号をもって、それぞれ同年2月5日信託を原因とし、受託者を被告とする所有権移転登記及び信託登記を了した。
また、売却済み不動産についても、同様に所有権移転登記及び信託登記を了した。
(8) 遺留分減殺の意思表示
ア原告は、被告に対し、平成27年7月24日に到達した書面をもって、平成10年遺言により遺留分を侵害されたとして、遺留分減殺の意思表示をした。
イ原告は、被告に対し、平成28年1月23日本件死因贈与又は本件信託により遺留分を侵害されたとして、遺留分減殺の意思表示をした。
(弁論の全趣旨)
(9) 合意による不動産の売却等
原告、被告及びDは、相続税の納付資金を捻出するため、売却代金を本件信託の受益権割合に従って分配することを合意の上、被告において、別紙売却済み物件目録記載1の土地を3722万4702円、同目録記載2ないし4の土地建物をI億3491万5463円、同目録記載5及び6の土地を5217万8454円の合計2億2431万8619円(いずれも譲渡費用の控除後の金額)で売却した。
原告、被告及びDは、本件訴訟が終了した後に必要な修正申告を行う旨を合意の上、Eの相続に係る相続税申告を行い、原告が納付すべき相続税は、4649万7300円とされた。
上記売却代金の6分のlに相当する3738万6437円が、原告の上記相続税の納付金に充当された。
(10) 相殺の意思表示
被告は、平成29年12月6日の本件弁論準備手続期日において、原告に対し、被告の原告に対する立替金支払請求債権975万2024円(相続税立替金911万0863円、生花代等立替金5万4000円、カタログギフト代立替金58万7161円)をもって、本訴金銭請求債権(ただし、相殺の順序を、①売却済み不動産の精算金、②遺留分の価額弁償金の元金、① その遅延損害金の順とする。)とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。
(11) 価額弁償の意思表示
ア原告は、平成29年4月25日の本件弁論準備手続期日において、Eの相続財産のうち不動産以外に関する部分の遺留分減殺請求については、価額弁賞を請求する権利を行使する旨の意思表示をした。
イ被告は、平成30年l月15日の本件口頭弁論期日において、原告の遺留分減殺請求のうち、不動産以外に関する請求に対して、価額による弁償を行う旨の意思表示をした。
3 争点
(1) 本件信託及び本件死因贈与における Eの意思能力の有無
(2) 本件信託は公序良俗に反するか
(3) (本件信託及び本件死因贈与がいずれも無効である場合)
①平成10年遺言による遺贈の減殺率、②未分割遺産の原告の共有持分割合、①被告による未分割遺産の費消による損害又は不当利得の額
(4) (本件信託が無効、本件死因贈与が有効である場合)
①本件死因贈与の減殺率、②不動産以外の遺産に係る価額弁償額
(5) (本件信託が有効である場合)
①減殺の対象は信託財産か受益様か、②本件信託の減殺率、①不動産以外の遺産に係る価額弁償額
(6) 売却済み不動産の売却代金の精算金額
(7) 反対債権の有無、相殺の可否
4 争点に関する当事者の主張
- 本件信託及び本件死因贈与におけるEの意思能力の有無
(原告の主張)
Eは、本件信託及び本件死因贈与当時、法律行為の意味内容を理解する能力を欠く常況にあった。したがって、本件信託及び本件死因贈与は、Eの意思無能力により、無効である。
すなわち、Eは、本件信託及び本件死因贈与の直前である平成27年l月25日からG病院に入院し、同月31日には末期がんにより数日中にも死亡する可能性があると診断されるなど、重篤な状況にあったほか、意識障害やせん妄、幻覚等の精神神経系の副作用が生じ得る薬剤の投与を受けていた。
現に、原告がEを見舞った際、Eは、目はうつろで、意識がもうろうとしていた。
また、Eは、入院直前まで、財産をおおむね法定相続分に沿って分けようと考えていたのであり、本件信託及び本件死因贈与の内容は、その意向から大きくかけ離れている。
加えて、本件信託及び本件死因贈与は、いずれも被告やDが主導して契約書面を作成しており、その内容は、いずれもDや被告にのみ有利なものとなっている。
したがって、本件信託及び本件死因贈与は、Eが法律行為の意味内容を理解する
能力を欠く常況下でされたと考えるほかない。
(被告の主張)
本件信託及び本件死因贈与は、Eの入院時の状況及びこれらの契約書の作成経緯から、Eが意思能力を有しない状況で締結したものでない
ことは明らかである。
すなわち、Eは、平成27年l月25日、精査目的で入院したが、入院時の看護記録には「見当識障害」、「理解力」、「痴呆」等について全く問題ないとされており、末期がんであると宣告された同月31日の患者診療記録にも、看護師とのコミュニケーションについて「返答良好」と記載されている。Eは、同年2月1日、Dが連絡をして病室を訪れた司法書士であるH氏(以下「H司法書士」という。) から、民事信託契約書、死因贈与契約書の案を示されて説明を受け、取り急ぎ、死因贈与契約書に署名押印し、翌日、自身で呼んでいたT信託銀行株式会社(以下「信託銀行」という。) の担当者及びH司法書士の各説明を聞き、両者の提案を比較検討した上で、最終的にH司法書士の提案を採用し、同月5日、公証人の面前で、本件信託及び本件死因贈与についての宣誓供述書に氏名を自署し、公証人もその宣誓を認証した。
同年1月31日から同年218日までのEの患者診療記録を見ても、原告)主張する副作用が生じたこと、その他Eの意識レベルの低下をうかがわせるような記載は存在しない。
(2) 本件信託は公序良俗に反するか
(原告の主張)
ア利益相反
本件信託は、被告が信託目的に従うことが、必然的に第一順位の受益者の利益に反するという利益相反状況に陥る構造となっており、公序良俗に反し、無効である。
すなわち、本件信託において、受託者である被告は、その信託目的に従い、信託財産を被告あるいはその直系卑属に限定して引き継ぎ、もってE家を繁栄させることがその義務となっているところ、第二順位の受益者は被告の子供らとされているため、被告としては、第一順位の受益者が死亡するまで時が経つのを待てば、信託目的どおりに被告の直系卑属にE所有不動産が全て引き継がれることになり、E所有不産主の最低限の維持・管理以外の運用をしないことも正当化されることになりかねない。
しかも、被告はE所有不動産を無償で使用することができることも合わせ考えると、その売却が適切と考えられる場面においてもこれを売却することはまず考えられない。
したがって、本件信託は、利益相反を禁じ、受益者本位を理念とする信託法の理念に明らかに反するものである。
イ信託制度の濫用、相続秩序の侵害
本件信託は、信託法の諸規定から導かれる信託法の法意・精神に反して信託制度を濫用し、原告が潜在的に有していた遺留分の減殺請求を不当に免れ、もって遺留分制度を中心とする現行相続法秩序を破壊するものであり、公序良俗に反し、無効である。
すなわち、本件信託は、被告に信託不動産の無償使用権が与えられ、形式的に原告に6分のlの受益権が与えられているものの、それによる利益発生の保証はなく、受益権の取得請求をしても固定資産税評価額による買取りに限定されている。
また、受益者の意思表示は、E死亡後はDが単独で、行うことができるとされ、原告は、新受託者の選任に関する意思表示もできず、信託金銭の払渡請求も単独ではできず、解約に関する意思表示もできないなど、原告の受益権の内容が異様に限定されている。
このような限定された受益権では、仮に造留分減殺により原告の受益権割合が増えたとしても、結局原告の遺留分を確保できないことに帰結する。
本件信託は、いわゆる後継ぎ遺贈型受益者連続信託であるが、受益者連続型信託をもってしでも、遺留分についての潜脱は認められなし、遺留分減殺請求規定の適用関係については、民法規定の解釈適用に委ねられているところ、受益権を減殺の対象とする受益権説に立った場合、受益権の総計が遺留分算定の基礎財産となり、信託がされていない場合の財産の総計よりも原告に不利な遺留分割合が算定される。
他方で、信託財産を減殺の対象とするとする信託財産説や折衷説に立った場合であっても、受益者連続型信託である本件信託においては、原告の遺留分から控除される受益権は、実際には原告の生存時にしか存立し得ない終期付き債権にすぎず、原告の相続人には相続されないものである。
受益者連続型信託であっても、信託財産を限定することにより信託財産について遺留分侵害の問題が生じないようにすることや、遺留分割合に相当する価額の全額弁償をすることなどにより、遺留分規定に配慮した内容とすることも可能であったのであり、このような配慮がされていない本件信託は、原告を差別し排除することを意図した、遺留分逃れのための信託契約である。
ウ憲法違反
本件信託は、いわゆる「家」制度の骨格に極めて近似した「家」の在り方の実現を目指し、推定相続人のうち男系子孫優先の考えを徹底させ、祭杷主宰者である男子に主要な財産を永続的に移転させようとして、信託法の諸規定を濫用するものであり、民法90条、憲法13条、14条、24条に反し、無効である。
(被告の主張)
ア本件信託の目的は、①経済的価値に加え、E家の墓や仏壇を護っていくという観点からも重要な土地の一体的な保有、管理を実現し、もって将来の世代への当該不動産の承継を可能なものとする点、②相続対策の観点からその他の不動産につき処分を含む適切な管理を実現する点から、Eの所有していた不動産を全て信託対象とすることで一体的な不動産管理を実現することにあり、その管理者として最も適任な被告が受託者として選任され、信託法が正面から認める後継ぎ遺贈型受益者連続信託が活用されたものであり、何ら公序良俗に反する点はない。
イ利益相反の主張に対して
信託法31条は、利益相反行為を類型化し(1項)、利益相反行為の一部を無効とする(4項)が、受読者が望めばそれを追認して有効とすることができるものとされていること(5項)等からすると、信託契約全体が公序良俗に違反して無効とされるためには、信託法31条の規定では救済し得ないほどの不法性が要求されるというべきである。
本件信託において、原告は、一部の不動産の売却による利益を得たほか、賃料収入も得ており、被告は、自身も本件信託の受益者であり、被告が受託者として不適切に信託財産を管理運用することは被告自身の経済的利益を失わせることにもなるのであって、原告と被告との聞に、原告の主張するような利益相反的な関係はない。
今後、実家の余剰敷地には、賃料収入を増やすべく賃貸物件を建設する計画も立てている。
また、原告と同じ立場に立つDは、本件信託に何ら異議を述べていない。したがって、本件信託は、受託者と受益者の利益相反状況を生じさせる内容ではない。
ウ信託制度の濫用、相続秩序の侵害の主張に対して
本件信託の目的は、上記アのとおりであり、原告には6分のlの割合による受益権が付与されている上、実際にも上記割合による売却代金の分配や不動産収入の分配を受けている。
本件信託は、原告の遺留分を侵害する目的で組成されたものではない。
また、本件信託は、Eの生前中にその効力が発生し、Eの下に当初帰属した受益権が、同人の死亡により原告に6分のlの割合で帰属しているのであるから、民法の遺留分制度を破壊するような不平等状態を招来するものではない。
仮に原告の遺留分を侵害するものであったと仮定しでも、そのことをもって公序良俗に違反して無効とされることはないし、ある時点での財産承継を考えるに当たって、未来永劫にわたり推定相続人の遺留分を配慮することは要しない。したがって、本件信託が公序良俗違反に該当する余地はない。
エ憲法違反の主張に対して
本件信託に、男子相続になるような内容の記載は一切存在せず、原告による根拠のない一方的な解釈にすぎない。
(3) (本件信託及び本件死因贈与がいずれも無効である場合)
①平成10年遺言による遺贈の減殺率、②未分割遺産の原告の共有持分割合、①被告による未分割遺産の費消による損害又は不当利得の額
(原告の主張)
本件信託及び本件死因贈与がいずれも無効の場合、平成10年遺言により、別紙物件目録記載lないし10の各不動産は、被告に遺贈され、同目録記載11ないし16の各不動産は、未分割状態となる。
ア平成10年遺言による遺贈の減殺率
別紙I及び2のとおり、遺留分算定の基礎となる財産は、合計12倍、5797万8044円であり、その6分のlの2億0966万3007円が原告の個別的遺留分額となる。
そして、同額に原告の債務負担額である613万9417円を加算し、原告への生前贈与分530万円を控除した上で、未分割遺産の原告の具体的相続分l億8896万3155円(後記イ) を控除すると、原告の遺留分侵害額は、2153万9269円となり、被告に対する遺贈の減殺率は、287万4481分の7万0588となる。
したがって、原告は、平成10年遺言により被告に遺贈された別紙物件目録記載lないし10の各不動産につき、287万4481分の7万0588の共有持分を取得する。
イ未分割遺産の原告の共有持分割合
未分割である別紙物件目録記載11ないし16の各不動産の遺産共有持分割合については、被告は、平成10年遺言により遺贈を受けた額が、総遺産12億7639万6293円の3分のlを超過する8億7749万3983円であるから、未分割遺産を取得することはできず、原告とDが取得することとなり、原告とDの各生前贈与額を持ち戻した後の未分割遺産額3億8852万6310円の2分のlに相当するH意9426万3155円が原告の相続分となり、そのうち原告の生前贈与額530万円を引いたl億8896万3155円が原告の具体的相続分である。
したがって、原告は、別紙物件目録記載11ないし16の各不動産につき、総額3億7282万6310に対するl億8896万3155の割合、すなわち7456万5262分の3779万2631の共有持分権(遺産共有)を有する。
ウ被告による未分割遺産の費消による損害又は不当利得の額
未分割である有価証券、現金・預貯金、家庭用財産、その他保険金の合計l億3974万0523円のうち、原告の具体的相続分(上記イ)7456万5262分の3779万2631に相当する7082万6037円は、原告の取得分であり、これを被告が費消し
たことは、不法行為ないし不当利得となる。
(被告の主張)
否認ないし争う。
(4) (本件信託が無効、本件死因贈与が有効である場合)
①被告に対する本件死因贈与の減殺率、②不動産以外の遺産に係る価額弁償額
(原告の主張)
ア被告に対する本件死因贈与の減殺率
本件死因贈与により、Eの財産の3分のlに相当する財産がDに、Eの財産の3分の2に相当する財産が被告に、それぞれ贈与されたことになるから、原告の遺留分侵害額は、別紙3及び4のとおり、基礎となる財産12億5797万8044
円の6分のlである2億0966万3007円に、原告の債務負担額613万9417円を加算し、原告への生前贈与分530万円を控除した、2億1050万2424円となる。これを、被告とDの受けた死因贈与額のうち、遺留分を超過する部分の割合で
割り付けると、被告に対する死因贈与の減殺額はl億5674万7941円であり、被告の受けた死因贈与の滅殺率は、723万4649分の136万0471となる。
そうすると、原告は、本件不動産につき723万4649分の136万0471の共有持分権を取得する。
イ不動産以外の遺産に係る価額弁償額
原告は、被告に対し、不動産以外の遺産の合計l億3974万0523円の723万4649分の136万0471に相当する、2627万8113円の価額弁償請求権を有する。
(被告の主張)
否認ないし争う。
(5) (本件信託が有効である場合)
①減殺の対象は信託財産か受益権か、⑦本件信託の減殺率、①不動産以外の遺産に係る価額弁償額。
(原告の主張)
ア減殺の対象は信託財産であること
本件信託は、被告自身が信託財産を無償使用することができる旨定められていることから、被告としては、信託財産を運用したり売却したりしてその利益を受益権に分配する必要もないし、その受益権すらも時の経過により必ず被告の家系に承継されることとなっていること、他方、受読者の意思決定はDがこれを行うこととされており、原告の意思決定権限は奪われている上、受益権の買取価額が最新の固定資産税評価額に限定されており、原告は、受益権の行使はおろか、処分すらも著しく制限されていること、このような本件信託は、明らかに遺留分制度の潜脱を狙ったものであり、許されるものではないことからすると、その実質は、受託者への所有権移転行為、つまり受託者への死因贈与に類似するものというべきであり、信託財産の移転行為をもって、遺留分減殺請求の対象となるものと解すべきである。
イ本件信託の減殺率
原告の遺留分侵害額は、上記(4)(原告の主張)アと同様に、2億1050万2424円となるところ、別紙5及び6のとおり、Dの取得分は遺留分を超えていないため、その全額につき被告に対する本件信託及び本件死因贈与が減殺され、その
減殺率は、873万2245分の152万5772となる。
ウ本件不動産に係る抹消登記手続請求
本件信託は、原告の遺留分減殺請求権の行使により、信託不動産の持分の一部が当然に原告に移転することで、不動産全体を信託の目的とした本件信託は、その目的を達成することができなくなり、信託契約全体が終了することとなる。
これに伴い、現金300万円のみの信託も無意味となり、結局、本件信託は、その全体が失効する。
その結果、本件不動産は、受益者である原告、被告及びDに引き継がれることになるところ、原告の持分割合は、上記イのとおり、873万2245分の152万5772であるから、残部は被告とDの受話機割合の比率4・1で割り振られ、873万2245分の576万5178につき被告が、873万2245分の144万1295につきDがそれぞれ持分を引き継ぐことになる。
この場合、原告は、その共有持分権に基づく保存行為(民法252条ただし書)として、本件不動産につき、信託財産引継を原因として、原告及びDの各持分割合を上記のとおりとする所有権移転登記手続及び信託登記抹消登記手続を求めることができる。
エ不動産以外の造産に係る価額弁償額
また、原告は、被告に対し、不動産以外の遺産の合計l億3974万0523円の873万2245分の152万5772に相当する、2441万6650円の価額弁償請求権を有する。
オ受益権が減殺の対象となる場合
仮に受益権が減殺の対象となる場合、本件信託においては、受益権の売却時の価額が固定資産税評価額に限定されているから、本件信託により原告が取得した受益機は、7919万8219円にとどまるというべきである。
そうすると、原告の遺留分侵害額は、別紙7及び8のとおり、l億3130万4205円となり、減殺率は、410万4572分の日万5077となる。したがって、被告の受益権6分の4にこの減殺率を乗じた615万6858分の51万5077の割合で、原告の受益権割合が増えることとなる(なお、当審においては、本件不動産について、この主張に基づく請求はしない。)
(被告の主張)
ア減殺の対象は受益債権であること
減殺の対象となり得るのは受益債権であり、信託財産説に依拠した遺留分減殺請求を認める余地はない。
原告は、本件信託において、受託者が信託不動産を無償で使用することができるとの規定が存在することから、所有権の実質的な財産価値そのものの移転があるなどと主張するが、受託者である被告は、信託不動産である実家が荒れ果てないように管理や手入れをしている一方で、無償使用など全くしていない。
むしろ、被告は、受益者のために、実家敷地の一部を利用して新たな収益物件を建築することを計画しており、運用が開始されれば、財産的価値・利益を生み出し、受益者に分配されることになる。
原告は、実際に、一部の信託不動産の売却代金の分配や不動産収入の分配を受けているのであり、かかる顕在化した利益は、結局のところ原告の相続人に相続されることになるのであっ、被告が自身及び自身の子孫だけが利益を得られるように本件信託を用いるおそれは存在し得ない。
また、原告は、本件信託において、受益者の意思決定をDが行うこととされていることから、原告の意思決定権限が奪われているなどと主張するが、信託法は、受託者の責任を不当に免じる決定を除き、信託の具体的状況に応じて受益者の意思決定方法を決定することを法律上当然に予定しており、ある受益者が意思決定をう旨を信託行為で定めることをもって、他の受益者の意思決定権限を奪うと評価することはできない。
被告が受託者としての任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたなど重要な事由が存在するときは、信託法58条4項により、原告は、裁判所に対し、受託者の解任を申し立てることができるのである。
さらに、原告は、受益権の買取価額が最新の聞定資産税評価額に限定されていることを問題とするが、これは受託者であるDや被告にとっても同条件であり、買取価額が時価の7割程度になる場合があるとしても、社会通念上不当な基準ではあるとはいえない。Eに遺留分潜脱の意図などないことは、上記(2) (被告の主張)記載のとおりであり、原告の指摘する本件信託の特徴等を踏まえても、信託財産説に依拠した遺留分減殺請求を認める余地はない。
イ受益維が減殺の対象となる場合
原告には6分のlの割合に相当する受益権が付与されているので、本件信託による遺留分侵害は生じていない。
原告は、原告、D及び被告に分属した受益権相互の価値が等価で、はないと主張するが、無償使用条項が存在したとしても、被告が自己の受益権のためだけに信託不動産を使用することなどないことは、上述のとおりであり、管理運用権限についても全受益者のために認められているものであって、被告は、実際にも忠実義務や公平義務を遵守して受託者の職務を遂行している。
したがって、遺留分の基礎となる財産の計算上、Eが有していた受益権は、原告、D、被告に等価で分属しているのであって、そのうち6分のlの割合による受主主権を取得した原告は、自己の遺留分を確保している。
ウ評価額について
原告主張の不動産の評価額につき、否認ないし争う。
相続債務に、Eの葬儀費用は算入されない。
(6) 売却済み不動産の売却代金の精算金額
(原告の主張)
ア本件信託及び本件死因贈与が無効の場合
原告は、売却消み不動産について、上記(3)(原告の主張)イのとおり、7456万5262分の3779万2631の具体的相続分を取得していたことになる。したがって、被告が原告に対して支払うべき精算金額は、売却代金合計2億2399万2891円
のうち、上記割合に相当するl億1352万8477円から、既に受領した3733万2148円を控除した、7619万6328円となる。
イ本件信託が無効、本件死因贈与が有効である場合
原告は、売却済み不動産について、上記(4)(原告の主張) アのとおり、723万4649分の136万0471の共有持分権を有していたことになる。
したがって、被告が原告に対して支払うべき精算金額は、売却代金合計2倍、2399万2891円のうち、上記割合に相当する4212万1716円から、既に受
領した3733万2148円を控除した、478万9568円となる。
ウ本件信託及び本件死因贈与が有効で、ある場合
原告は、売却済み不動産について、上記(5) (原告の主張) イのとおり、873万2245分の152万5772の共有持分権を有していたことになる。したがって、被告が原告に対して支払うべき精算金額は、売却代金合計2億2399万2891円のうち、上記割合に相当する3913万7940円から、既に受領した3733万2148円を控除した、180万5792円となる。
(被告の主張)
本件信託及び本件死因贈与は有効であり、本件信託による遺留分侵害はないから、売却代金の6分のl相当額である3733万2148円を受領した原告に対し、支払うべき精算金はない。
(7) 反対債権の有無、相殺の可否
(被告の主張)
被告は、原告に対し、次のアないしウの立替金合計4713万8461円から、売却済み不動産の売却代金の分配金による充当額を控除した975万2024円の債権を有している。
ア被告は、Eの相続に関して原告が納付すべき相続税につき、平成27年12月15日に3200万円、同月16日に1449万7300円、合計4649万7300円を、原告のために立て替えて納付した。
イ被告は、平成27年2月22日、原告が支払うべきEの葬儀での生花代等5万4000円を立て替えて支払った。
ウ被告は、平成27年4月28日、原告が喪主として支払うべき香典返しのカタログギフト代金247万9550円のうち、香典等では不足した58万7161円を立て替えて支払った。
(原告の主張)
上記(被告の主張)のうち、アの1449万7300円を被告が立て替えたことは認め、その余は否認する。
また、相続税の立替金については、本件訴訟の判決又は和解の結果に従って必要な相続税の修正申告がされることが予定されていることからすると、自働債権としての適格性を欠くというべきである。
第3 争点に対する判断
1 争点(1) (本件信託及び本件死因贈与におけるEの意思能力の有無)について
(1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
アEは、平成27年1月25日、腰痛で動けなくなり、G病院に精査目的で入院した。その際、見当識障害はなく、理解力は良好であり、痴呆の症状は見られなかった。( 甲13)
イ同月31日、医師より原告、被告及びDに対し、Eが胃がんの末期状態であり数日中にも死亡する可能性があるとの説明がされ、以後は、終痛を緩和する医療方針とされた。( 申12のl、乙35、42)
ウ上記説明を受けたDは、夫を通じてH司法書士に相続の対応を依頼し、翌2月l目、H司法書士が原告の病室に訪れた。
同日、E、被告及びDは、H司法書士が持参した死因贈与契約書に署名をし、本件死因贈与が締結された。(甲6、7、乙35、42、証人D、被告本人)
エ翌2月2日、Eは、以前から相続について相談をしていた信託銀行の担当者を病室に呼び、遺産の分割案等について説明を受けた。
なお、Eは、遅くとも同年l月7日の時点では信託銀行に相続に関する相談をしていた。
同2月2日、H司法書士もEの病室を訪れ、信託に関する説明を行った。
H司法書士と信託銀行担当者双方の説明を聞いたEは、H司法書士が説明をした信託の方法により自身の死後の財産の処遇を決めることとした。( 乙11ないし14、35、42、証人D、被告本人)
オ同月5日、E及び被告は、H司法書士が持参した「民事信託契約書」に署名をし、本件信託が締結された。
同日、公証人がEの病室を訪れ、Eは、公証人の面前において、自身の意思で本件死因贈与及び本件信託をしたことを宣誓し、公証人はこれを認証した。(乙4ないし6)
(2) 上記認定事実によれば、Eは、平成27年1月25日に入院した時点において、意思能力に欠ける点はなく、その後も同年2月2日には、自ら呼んだ信託銀行の担当者からも遺言について説明を聞くなどして自発的に検討をしており、他方、本件死因贈与及び本件信託を行うまで、意識障害が生じるなどして意思能力を欠く状態になったことをうかがわせる事情は見当たらない。
したがって、本件死因贈与及び本件信託の時点において、Eが意思能力を欠く常況にあったとは認められない。
(3)アこれに対し原告は、Eが、意識障害やせん妄、幻覚等の精神神経系の副作用が生じ得る薬剤の投与を受けていたこと、現に、原告が見舞った際にEの目はうつろであったこと等から、Eは意思能力を欠く常況にあった旨主張し、原告本人尋問において、Eを見舞った際の様子について、ぼそぼそとした感じで話しており、目はうつろで、意識はもうろうとしているような感じであったと供述する。
しかし原告の主張する薬剤の副作用は、抽象的な可能性を指摘するにすぎないものである上、Eに意識障害やせん妄等の症状が発症したのであれば当然に診療記録に記載されるものであるところ、平成27年2月8日までの患者診療記録(甲12のlないし6)には、原告に意識障害等の症状が生じたことは何ら記載されていないことからすれば、薬剤の副作用等によって、原告が意思能力を欠く常況にあったとは認められない。
イまた、原告は、Eは入院直前まで財産をおおむね法定相続分に沿ってわけようと考えていたのであり、本件信託及び本件死因贈与の内容はその意向から大きくかけ離れていること、本件信託及び本件死因贈与はDや被告が主導して契約書面を作成したもので、その内容はDや被告のみに有利なものとなっていたことから、Eは法律行為の意味内容を理解する常況下ではなかった旨主張し、原告は、Eは信託銀行に依頼をして遺産を3等分することを考えていたと供述する。
しかし、信託銀行の担当者が示した「財産目録と分割案の試算」(乙12の1)は各相続人の法定相続割合を示しているものにすぎず、また、遺言公正証書の案(乙12の3)も、どの不動産をだれに取得させるかを具体的に定めず、単に各相続人に法定相続分である3分のlずつ権利を取得させる旨が記載されており、遺言として特段の意味をなさないものであって作成段階のものである。
むしろ、証拠(甲10)によれば、Eは、生前に毎年、子らに対して金銭を贈与し
「いたところ、原告に対する贈与額は、D及び被告に対する各贈与額の半分程度であったことが認められる。
したがって、上記分割案や遺言公正証書の案から、Eが遺産を3等分しようと考えていたと推認することはできず、その他、本件信託及び本件死因贈与の内容がEの意思とかけ離れていたと認めるべき証拠はない。
(4) 以上のとおり、本件信託及び本件死因贈与当時、Eが意思無能力であったとは認められない。
そうすると、争点(2)(本件信託が公序良俗に反するか)において本件信託が無効とされるか否かにかかわらず、本件信託又は本件死因贈与と抵触する平成10年遺言は撤回されたものとみなされ(民法1023条)、また、未分割の遺産も存在しない(本件信託が無効とされれば本件死因贈与がそのまま有効で、あり、本件信託が有効であれば、本件死因贈与のうちこれと抵触する部分は撤回されたとみなされるが、いずれにしろ平成10年遺言は本件信託又は本件死因贈与と抵触する。)。
したがって、平成10年遺言による遺贈の遺留分減殺請求(請求1(2)) 、未分割不動産の共有持分権の確認請求(請求1(3)) 、不動産以外の未分割遺産について共有持分権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の
返還請求(請求1(4)) は、いずれも理由がない。
2 争点(2)( 本件信託は公序良俗に反するか)について
- 前提事実に加え、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
アEは、本件死因贈与及び、本件信託を行った当時、以下の不動産を有していた。
① Eが居住していた居宅及び物置とそれらの敷地(別紙物件目録記載2ないし5の土地、7及び8の建物、固定資産税評価額(平成27年度のもの。以下同じ。) 合計3億5241万5200円)。
上記敷地は、4筆合わせて約538坪のほぼ成形地であり、そのうち道路沿いの一部分を舗装して駐車場(車両10台分ほど) として第三者に賃貸している。その賃料収入は、年間100万円ないし180万円程度である。
② 賃貸物件である共同住宅とその敷地(別紙物件目録記載lの土地及び6の建物(J)、固定資産税評価額合計5933万2510円。別紙物件目録記載9の土地及び10の建物(K)、固定資産税評価額合計6341万6730円)。
その賃料収入は、Jが年間450万円ないし470万円、Kが年間500万円ないし600万円程度である。
- 売却済み不動産(固定資産税評価額合計l倍、2508万5460円)
- 葬儀社に無償で貸与している倉庫敷地とその付近の私道敷地(別紙物件目録記載11ないし15の土地。非課税。)
- 栃木県〈略〉の山林(別紙物件目録記載16の土地。固定資産税評価額2万4874円)
またEは、上記不動産のほかに、l億3000円の預貯金、有価証券等の財産を有していた(甲10、乙23、24、30、35、48の1・2、49の1ないし5、被告本人)。
イ Eは平成27年2月1日、Eの全財産の3の1に相当するする財産をDに、3分の2に相当する財産を被告に、それぞれ死因贈与する旨の本件死因贈与を行った。
ウしかし、Eは、被告及びその直系血族がE家を継ぎ、墓・仏壇を護っていってほしいという気持ちを有しており、また、相続税納付のためには一部の不動産を売却せざるを得ず、相続人間で協議が調わないために売却ができなくなることを危倶していたことから、同月5日、E所有の全ての不動産と300万円を目的財産として、被告を受託者とする本件信託を行った。
本件信託は、受益者は信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産により発生する経済的利益を受けることができるとするものであり、当初の受益者をE、E死亡後の受益者を法定相続人である原告、D及び被告とし、原告及びDの受益権割合を遺留分割合と同割合とするものであった。
また、第一順位の受話者が死亡した場合の受益権取得者となる第2順位の受益者を被告の子らと定め、受益者が複数の場合、受益者の一人は、他の受益者に対して受益権持分の一部若しくは全部の取得を請求することができるが、その受益権の価格は最新の固定資産税評価額をもって計算した額とするものであった。なお、被告が死亡等により受託者としての任務を果たすことができない場合、被告の長男を新受託者にするものとされていた。( 甲8、乙35、42)
エ被告は、E死亡後、原告及びDと合意の上、E所有不動産のうち売却済み不動産を売却しその売却代金を相続税の納付金に充てた。
また、E所有不動産のうち賃貸物件(売却済み不動産の一部、上記②の各不動産、上記① の駐車場部分)の賃料を収受し、経費を控除した金額を、受益権割合に従い、原告、被告及びDに分配している。
他方、被告は、上記① の各土地については、E家が先祖代々守ってきた土地であることから、これを売却したり賃貸したりする意思はなく、Eの意思に従い、Eの居宅であった建物に置かれている仏壇を護り、庭の手入れをするなどしてこれを管理している。
また、上記④及び⑤の各土地は、ほほ無価値の土地であり、これを売却することも賃貸して収益を上げることも現実的に不可能である。(甲10、22、乙25、30、
31、47、被告本人)
(2) 上記認定事実によれば、Eは、本件信託において、E所有の全ての不動産を目的財産とし、信託財産により発生する経済的利益を受益者に受益権割合に従って分配するものとしたが、E所有不動産のうち、上記④及び①の各不動産は、これを売却しあるいは賃貸して収益を上げることが現実的に不可能な物件であること、また、上記①の不動産についても、駐車場部分の賃料収入は同不動産全体の価値に見合わないものであり、上記①の不動産を売却することも、あるいは全体を賃貸してその価値に見合う収益を上げることもできていないことが認め
られ、これらは本件信託当時より想定された事態であるといえることからすると、Eは、上記①、④及び⑤の各不動産から得られる経済的利益を分配することを本件信託当時より想定していなかったものと認めるのが相当である。
加えて、上記認定のとおり、Eが本件信託前に行った本件死因贈与は、Eの全財産の3分のを被告に、3分のlをDにそれぞれ死因贈与するという、原告の遺留分を侵害する内容のものであったこと、本件信託は、Eの全財産のうち全ての不動産と300万円を目的財産とし、原告に遺留分割合と同じ割合の受益権を与えるにとどまるものであったことからすると、原告が遺留分滅殺請求権を行使することが予想されるところ、仮に、原告が遺留分減殺請求権を行使、本件信託における原告の受主主権割合が増加したとしても(なお、遺留分減殺の対象を受益
権とみるべきことは、後記3のとおりである。) 、上記①、④及び①の各不動産により発生する経済的利益がない限り、原告がその増加した受益権割合に相応する経済的利益を得ることは不可能である。
そして、本件信託においては、受益者は他の受益者に対して受益権の取得を請求することがきるとされているものの、その取得価格は最新の固定資産税評価額をもって計算した額とするものと定められていることからすると、受益権の取得請求によっても上記各不動産の価値に見合う経済的利益を得ることはできない。
そうすると、Eが上記①、④及び⑦の各不動産を本件信託の目的財産に含めたのは、むしろ、外形上、原告に対して遺留分割合に相当する割合の受議権を与えることにより、これらの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であった
と解さざるを得ない。
したがって、本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない上記①、@及び①の各不動産を目的財産に含めた部分は、遺留分制度を替脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効であるというべきである。
(3) 上記認定に対し、被告は、Eの自宅の余剰敷地に賃貸物件を建てる計画があった旨主張し、証拠(乙32、33、被告本人)によれば、平成28年7月頃、不動産業者が上記敷地に賃貸物件を新築する場合の見積りを提示したことが認められる。
しかし、上記見積りに係る計画がその後具体的に進められたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、被告は、本人尋問において、Eの自宅敷地を売却したり賃貸したりする意思はなく、それはEの意思でもあると述べていることからすると、少なくとも、Eが本件信託を行った時点において、上記①の不動産の
売却、運用を予定していたとは解されない。
また、被告は、本件信託の目的は、経済的価値のみならず、①E家の墓や仏壇を護っていくという観点からも重要な土地の一体的な保有、管理を実現し、もって将来の世代への当該不動産の承継を可能なものとする点、②相続対策の観点からその他の不動産につき処分を含む適切な管理を実現する点から、Eの所有していた不動産を全て信託対象とすることで一体的な不動産管理を実現することにあり、その管理者として最も適任な被告が受託者として選任され、信託法が正面から認める後継ぎ遺贈型受益者連続信託が活用されたものであり、何ら公序良俗に反する点はないと主張する。
しかし、土地の一体的な管理を被告に行わせることは、信託によらずとも遺贈等によっても可能であって、本件信託が信託法上認められた後継ぎ追贈型受益者連続信託であるとしても、民法上認められた遺留分減殺請求権の行使を妨げる内容の信託が許されることになるものではない。
また、相続税の支払の観点からE所有不動産の円滑な処分を実現しようとしたものであったとしても、それは売却の予定されていない不動産を本件信託の目的財産とすることを正当化する理由にはならない。
したがって、被告の主張にはいずれも理由がない。
(4) 他方、本件信託のうち、上記①、④及び①の各不動産以外の目的財産に係る部分については、原告は信託不動産により発生する経済的利益を享受することができるのであり、また、信託金銭300万円についても信託不動産の維持管理に必要な費用等に充てるものとして合理的であり、本件全証拠によっても同部分を無効とすべき事情は認められない。
これに対し、原告は、本件信託は被告が信託目的に従うことが必然的に第一順位の受益者の利益に反するという利益相反状態に陥る構造になっているとして、本件信託全体が公序良俗に違反すると主張する。
しかし本件信託のうち、少なくとも上記①、④及び①の各不動産以外の目的財産に係る部分については、受託者である被告が、第一順位の受益者のために信託財産の処分・運用をしてその経済的利授の分配をしつつ、第一順位の受益者が死亡したときには第二位の受益者に受益権を取得させることができるのであり、本件信託に原告が主張するような構造的な利益相反があるということはできない。
また、原告は、被告に信託不動産の無償使用権が与えられていること、受益者の意思表示はDが単独で行うことができるとされていること等から、本件信託が遺留分逃れのための信託契約であると主張する。
しかし、本件信託のうち上記①、@及び①の各不動産を目的財産とした部分を除くならば、原告は、その死亡により受益権を喪失するまでの問、信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産から得られる経済的利益の分配を受益権割合に応じて受けることができるのであり、仮に遺留分が侵害されているならばそれを行使して利益の回復を図ることができるのであるから、原告が主張する上記の事情があるからといって、本件信託が遺留分逃れのものであるということはできない。
さらに、原告は、憲法13条、14条、24条違反等を主張するが、本件信託の目的にE家の墓・仏壇を被告及びその直系血族において護っていってほしいという意思が示され、受託者が被告さらにその長男と定められているからといって、男系子孫優先の「家」制度の実現を目指したものとみることはできず、原告の主張は採用することができない。
(5) 以上によれば、本件信託のうち、上記①、④及び①の各不動産(別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産)に関する部分は公序良俗に反して無効であり、その余の不動産(別紙物件目録記載l、6、9、10の各不動産及び売却済み不動産)及び信託金銭300万円に関する部分は有効である。
したがって、本件信託に基づき行われた所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続請求(請求1(1))は、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続を求める限度で理由があり、同目録記載し6、9及び10の各不動産の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続を求める点は、理由がない。
そこで、次に、同目録記載し6、9及び10の各不動産につき、請求 1(1)の予備的請求である請求3について、次項で検討する。
3争点(5)(減殺の対象は信託財産か受益権か)について
(1) 信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため、実質的に権利として移転される受益権を対象に遺留分減殺の対象とすべきである。
原告は、この点を前提としつつ、本件信託においては、明らかに遺留分制度の潜脱を狙ったものであることからして、その実質は、受託者への所有権移転行為、つまり受託者への死因贈与に類似するものというべきであり、信託財産の移転行為が遺留分減殺請求の対象となると解すべきであると主張する。
しかし、上記2で述べたとおり、本件信託のうち売却、運用の予定されている不動産に関する部分については、受益者たる原告に信託財産より発生する経済的利益を与えるものであるし、遺留分制度の潜脱とは認められないため、原告の主張は採用することができない。
(2) したがって、別紙物件目録記載し6、9及び10の各不動産について、信託財産引継を原因とする所有権移転登記手続及び信託財産引継を原因とする信託登記抹消登記手続請求(請求3)は、理由がない。
4 争点、(4)及び(5)(本件信託及び本件死因贈与の減殺率、不動産以外の遺産に係る価額弁償額)について
(1) 本件信託のうち、有効であると認められる別紙物件目録記載し6、9及び10の各不動産、売却済み不動産並びに信託金銭300万円については、減殺の対象となる受益権の価額をもってこれを評価し、原告、D及び被告が各受益権割合に従ってこれを取得したものとして、遺留分を計算することになる。本件信託は、信託契約自体は生前に締結され、Eが死亡した時点で、原告、D、被告が受益権の持分を取得するものであるから、死因贈与に類似するものとして、遺留分を計算する。
また、本件信託のうち、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産に関する部分については、上記のとおり無効で、あるから、本件死因贈与により、これらの不動産の3分の2に持分を被告が、3分のlの持分をDがそれぞれ取得したものとして、遺留分を計算することになる。
これらを前提とし、本件信託及び本件死因贈与の減殺率を計算すると、別紙基礎となる財産一覧表及び遺留分減殺計算表のとおりとなる。
各自が取得した財産の評価等は、以下のとおり引ある。
ア受益権
- 別紙物件目録記載lの土地及び6の建物
(J) 本件信託における受益権は、信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産により発生する経済的利益を受けることができるものであるところ、証拠(甲21、乙25、30)及び弁論の全趣旨によれば、①R株式会社は、上記不動産につき収益価格を8720万円ないし9470万円とする試算をしていること、②上記不動産の固定資産税評価額は合計5933万2510円であること、③別紙売却済み物件目録記載2ないし4の不動産(L)の固定資産税評価額は実際の売却代金の約7割であったこと、また、④Lの売却代金はI億3491万5463円であったところ、Jの平成27年における賃料収益は、Lの約7割であったことが認められ、これらを総合すると、その愛益権の価額を上記試算の下限である8720万円と評価するのが相当である。
(イ) 別紙物件目録記載9の土地及び10の建物
(K )証拠(申23、乙25、30)及び弁論の全趣旨によれば、①R株式会社は、上記不動産につき収益価格を9400万円ないしl億0300万円とする試算をしていること、②上記不動産の固定資産税評価額は合計6341万6730円であること、③平成27年における賃料収益は、売却済み不動産であるLの約8割であったことが認められ、その他上記(ア)認定の事実を総合すると、その受益権の価額を上記試算の下限である9400万円と評価するのが相当である。
上記(ア)及び(イ)に関し、被告は、上記各試算(甲21、23)において前提とされた年間収誌が実際の年間収益と異なることを指摘するところ、確かに、これらの試算は簡易な価格試算をしたものであり、レントロール記載の賃料等も実際の賃料ではなく周辺事例に基づく査定賃料が記載されている。
しかしながら、収益還元法は将来に予想される収益から物件価格を評価するものであるから、上記指摘を考慮しでも、上記試算に格別不合理があるということはできない。
また、原告は、上記((ア)及び(イ)につき、受益権売却時の受益権の価格が固定資産税評価額に限定されていることから、固定資産税評価額をもってこれを評価すべきである旨主張するが、本件信託における受益権者は、上記各信託不動産の売却や運用による経済的利益の分配を受けることができるのであるから、上記原告の主張は採用することができない。
(ゥ) 売却済み不動産
売却済み不動産は、いずれも売却代金(譲渡費用を控除した額)をもって受益権の価額と解するのが相当である。
(エ) 信託金銭
本件信託の目的財産とされた300万円については、同価額をもって受益権の価額と解するのが相当である。
イ不動産
(ア) 別紙物件目録記載2ないし5の土地(Eの自宅敷地)及び同記載7、8の建物(Eの自宅建物、物置)証拠(甲山、22)及び弁論の全趣旨によれば、①上記土地につき、R株式会社は、近隣の取引事例との比較等により、成約予想価格を6億4715万円ないしH事t1527万円と算出し、売却価格を6億8120万円とする提案をしていること、②上記価格の算出においては、上記土地を更地として評価していること、③上記不動産の固定資産税評価額は、土地が合計3億5054万4400円、建物が353万4000円、@上記不動産の相続税申告時の評価額は、土地が合計約4億6740万円、建物が合計187万0800円であることが認められ、
これらを総合すると、上記成約予想価格のほぼ中間値である6億8000万円をもって、上記不動の評価額と認めるのが相当である。
- 別紙物件目録記載11ないし15の土地(私道、葬儀社倉庫敷地)
証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、①上記土地は、いずれも現況公衆用道路として非謀税とされており、通路として使用され、あるいは一部が葬儀社の倉庫敷地として無償で使用されていること、②上記土地の相続税申告時の評価額はO円とされていることが認められ、これらを総合すると、その評価額はO円と認めるのが相当である。
原告は、上記土地について、近傍土地の100分の30の価値がある旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない(なお、原告は訴額算定における評価額の計算方法をもって根拠としていることがうかがわれるが、訴額算定における評価額と、土地の評価額が争われた際の認定が異なることは当然である。)。
(ウ) 別紙物件目録記載16の土地(山林)
証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、相続税申告時の評価額である29万8488円をもってこれを許価するのが相当である。
ウその他の積極財産
Eがその相続開始時に有していた有価証券、現金・預貯金、家庭用財産、その他保険金等の財産は、別紙基礎となる財産一覧表記載のとおりである(前提事実(1)ウ)。
エ生前贈与
Eは、原告、被告及びDに対し、同別紙記載の生前贈与を行った(前提事実(1)ウ)。
オ債務
Eは、その相続開始時に、同別紙記載の公租公課その他債務を負担していた(前提事実(1)ウ)。
なお、原告は、相続税申告の際に債務とされた葬儀費用326万1001円もEの債務であるとして遺留分減殺額の計算をしているが、葬儀費用を支払った被告が原告に負担を求めないのであればEの債務としないことを争わないとし、被告は、平成30年5月14日の本件口頭弁論期日において、当該葬儀費用分については原告に負担を求めない旨明らかにしている。そのため、葬儀費用がEの債務でないことにつき、当事者間に争いはない。
(2) 以上によれば、別紙遺留分減殺計算表のとおり、原告の遺留分侵害額は、基礎となる財産12億3647万6382円の6分のlである2億0607万9397円に、原告の{責務負担額505万2416円を加算し、原告への生前贈与分530万円及び本件信託による死因贈与額6808万6437円を控除した、l億3774万5377円となり、これを被告とDの各遺留分超過死因贈与額の割合で割り付けると、原告が被告に対して遺留分減殺請求権を行使したことによる本件信託及び本件死因贈与の減殺率は、590万0886分の80万6861となる。
したがって、本件死因贈与に対する遺留分減殺請求として不動産の持分一部移転登記手続を求める点(請求2(1)) については、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産につき、本件死因贈与の遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を590万0886分の80万6861とする持分一部移転登記手続を求める限度で理由がある。( なお、本件では、信託が有効とされた各不動産についての、遺留分減殺請求に基づく受益権割合の確認は求められていない。)
また、原告は、不動産以外の財産について価額弁償を求める(請求2(2))ところ、別紙基礎となる財産一覧表のとおり、被告は、本件死因贈与により、不動産以外の財産として9116万0350円(同別紙の本件死因贈与の番号10ないし16の被告取得額の合計)を得ており、その評価額が本件口頭弁論終結時において同額であることにつき当事者間に争いはない。
したがって、以下の計算式により、被告は、原告に対し、遺留分減殺に対する価額弁償として、1246万4862円及びこれに対する被告の価額弁償の意思表示の日の翌日である平成30年l月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
(計算式)91.160.350×806.861÷5,900.886 =12,464,862
5 争点(6)(売却済み不動産の売却代金の精算金額)について
被告は、本件信託に基づき、売却済み不動産の売却代金のうちl億4954万5746円(別紙基礎となる財産一覧表の本件信託の番号3ないし5の被告取得額の合計)の分配金を得ているところ、上記4のとおり、本件信託における被告の受益権は、590万0886分の80万6861の割合で減殺されることから、以下の計算式により、このうち2044万8222円を原告に対して支払う義務を負う。
(計算式)149.545.746 X 806.861-c-5.900.886 =20.448.222
6 争点(7)(反対債権の有無、相殺の可否)について
(1) 相続税の納付金について
ア証拠(乙37、38、45の1・ 2)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成27年12月15日に養母Mから3200万円を借り入れ、同月16日、これに自己資金1449万7300円を合わせて、上記原告が納付すべき相続税4649万7300円を全額支払い、後にMに対して上記借入金を全額返済したことが認められ、売却済み不動産の売却代金のうち原告に対する分配金3738万6437円が原告の相続税の納付金に充当されたことは当事者間に争いがない(前提事実(9)。
そうすると、原告が納付すべき相続税4649万7300円のうち、上記分配金を除いた911万0863円については、被告が原告に代わってこれを立て替えたものと認められ、被告は、平成27年12月16日時点において、原告に対し、原告に代わって支払った相続税911万0863円の立替金支払請求債権を取得したと認められる。
イなお、原告は、上記相続税は、判決又は和解の結果に従って必要な修正申告がされることが予定されているものであって、納税義務や納税額も仮のものにすぎないため、自働債権としての適格性を欠くと主張するが、事後的に修正申告をすることがあるとしても、申告した相続財産に係る相続税の納付義務は確定的に発生しているものであり、また、後に修正がなされた場合には精算をすれば足りるものであって、自働責権としての適格性を欠くものでない。
(2) 生花代、香典返しについて
ア証拠(乙39のlないし3、40、41、43)及び弁論の全趣旨によれば、①Eの葬儀について、当初、原告が喪主を務めることが予定されていたものの、その後、被告がこれを務めることとなったこと、②被告は、葬儀において喪主を務め、参列者等から受け取った香典を管理し、葬儀代金を支払ったほか、平成27年2月22日、原告が喪主として注文していた生花代3万2400円を支払ったこと、また、③被告は、「子供一同」として注文した生花代3万2400円及び「孫一同」として注文した生花代3万2400円についても、これを支払ったこと、さらに、④同年4月28日、香典返しのカタログギフト代金247万9550円を支払ったことが認められる。
イ被告は、原告が喪主として支払うべき香典返しのカタログギフト代金のうち、香典等では不足した58万7161円、生花代のうち喪主として注文した生花代3万2400円、並びに「子供一同」及び「孫一同」として注文した生花代の3分のlである2万1600円を原告が支払うべきものであると主張する。
しかし、喪主を務めたのは被告であるから、香典返しのカタログギフト代及び喪主として注文した生花代は、被告が負担すべきである。
他方、「子供一同」及び「孫一同Jとして注文した生花代の3分のlについては、原告、被告及びDがこれを3分のlずつ負担するとの黙示の合意があったものと推認するのが相当であるから、被告は、原告に対し、2万1600円の立替金支払請求債権を取得するものと認められ。
(3) 上記(1)及び(2)によれば、被告は、原告に対し、相続税の立替金911万0863円(上記(1))及び生花代2万1600円(上記(2)) の合計913万2463円の立替金支払請求債権を有しているところ、被告は、前提事実(10)のとおり、同立替金支払請求債権をもって、原告の本訴金銭請求債権(これらについては、遺留分減殺に対する価額弁償金1246万4862円及びこれに対する平成30年月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(上記4(2)) 及び売却済み不動産の売却代金の精算金2044万8222円(上記5)の各支払請求債権があるものと認められる。) と対当額で相殺する旨の意思表示をしており、売却済み不動産の売却代金の精算金からまず相殺することにつき、当事者聞に争いはない。
したがって、上記相殺により、被告が原告に対して負う売却済み不動産の売却代金の精算金の残額は、以下の計算式により、1131万5759円となる。
(計算式)20,448.222-9.132.463 = 11,315,759
(4) そうすると、原告の被告に対する価額弁者金請求(請求2(2)) は、1246万4862円及びこ1に対する被告の価額弁償の意思表示がされた日の翌日である平成30年l月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を、売却済み不動産の売却代金の精算金支払請求(請求4)は、1131万5759円の支払を、それぞれ求める限度で理由がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第4 結論
以上によれば、原告の主位的請求(請求1)は、本件信託に基づき行われた所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続請求(請求1(1))につき、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとする。
原告の予備的請求(請求2及び3)は、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産につき、本件死因贈与の遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を590万0886分の80万6861とする持分一部移転登記手続、及び、価額弁償金1246万4862円及びこれに対する平成30年l月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとす
る。
また、売却済み不動産の売却代金の精算金支払請求(請求4)は、1131万5759円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
[別紙]
裁判長裁判官中村さとみ
裁判官寺内康介
裁判官吉原裕貴
物件目録く略〉
売却済み物件目録〈略〉
基礎となる財産一覧表〈略〉
遺留分減殺計算表〈略〉
基礎となる財産一覧表(主位的請求)〈略〉
遺留分減殺計算表(主位的請求)〈略〉
基礎となる財産一覧表(予備的請求1)<略〉
遺留分減殺計算表(予備的請求1)<略〉
基礎となる財産一覧表(予備的請求2)<略〉
遺留分減殺計算表(予備的請求2)〈略〉
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