民事信託手続準則案 1

民事信託手続準則案[1]

(1)信託契約書の作成

司法書士は、委任された信託登記代理およびその付随業務等として民事信託支援業務を行う場合、当該登記代理の登記原因たる信託行為の実体確認として、また、当該登記代理の登記原因証明情報として、各信託条項に関する信託当事者の真意を確認することで、手続書面としての信託契約書作成を行う。なお、簡裁訴訟代理等関係業務としての信託契約書作成については、これに限定されない。

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司法書士が民事信託支援業務を行うことが可能な場合

原則

・登記の代理申請の前提となる信託行為(登記原因)の実体確認としての信託契約書(登記原因証明情報)作成

例外

・簡裁訴訟代理等関係業務。信託行為について、上限の金額以外に制限がないから。

司法書士法3条[2]を基にした準則案だと思います。3条1項1号、2号の規定通りであり、司法書士が職務を行うには十分な根拠規定となり得ます。

この規定の特徴は、司法書士法施行規則31条に関連することを入れていない、というところにあると考えます。

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(2)信託業法の法令順守

司法書士は、信託登記代理委任およびその付随業務として民事信託支援を行う場合、信託業法違反または同法の溜脱という違法状態を生じうるような地位を引き受け、報酬を得て業務を行ってはならない。

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信託業法2条[3]1項を始めとした信託業法の適用を受ける法人と、司法書士との違いを明らかにしておくという趣旨なのかなと考えました。

信託業法の適用を受ける法人は、内閣総理大臣の免許を受けたあと、金融庁の監督を継続的に受け、事前届け出が必要な場合もあるなど、司法書士とは業務の性質が異なる。

 どちらが優れているか、というわけでもなくて、利用者の個別状況に応じて信託銀行や信託会社の利用が適切な場合がある。そのような際に司法書士が主体的に業務を受けることは、信託業法違反ということになる可能性があり、注意しようと思います。

司法書士として、受託者になることが出来ないことは明らかになっているが、受託者法人の理事は信託契約書には名前が出てこない。受益者指定権者なども信託契約公正証書とは別に定めたり、私文書で作成する場合は契約書、不動産登記記録に名前を出さないことも可能となり得ます。

 形式的な判断は比較的容易だと思います。

 実質的に関わっている場合は、最初は判断が難しいかもしれませんが、後に発覚した場合は、外部からは、分かっていてやったと判断される可能性が高いように感じます。

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(3)組成コンサルティング

司法書士が民事信託組成コソサルティングを行う場合、当該司法書士は、司法書士法3条1項5号または7号の相談規定・規律に即して行うことを要し、関連法令の遵守に留意する必要がある。

(4)信託契約書の鑑定

他人が作成した信託契約書の内容に対する鑑定を報酬を得て行う業務を依頼された場合、依頼された司法書士の当該業務は、司法書士法上、正当業務として許容される範囲で行う。なお、当該司法書士が、その善管注意義務(法令実務精通義務)を怠り、当該業務の方法や内容等に過誤を生じることで、信託契約書を作成した他人その他の利害関係人に対して損害を与えた場合、当該司法書士は、同損害を回復するため誠実に対応しなければならない。

(5)報酬算定方法

委任を受けた信託登記代理の付随業務または簡裁訴訟代理等関係業務としての民事信託支援業務を行う場合、その業務の報酬算定方法は、司法書士法上の業務規定を法令遵守し、受任方法の法的性格に即した合理的なものであることを、依頼者に対して書面を交付して十分に説明したうえ、依頼者から承諾を得ることを要する。

(6)双方受任と利益相反の回避

司法書士が信託登記代理の登記原因証明情報として民事信託契約書の作成の受任を行う場合、司法書士は、双方受任の利益相反回避措置を行い、信託当事者に対して双方受任のリス?クを説明し、信託当事者の双方から承諾を得なければならない。

2022.

週末、飛び入り受講したらいかがでしょう?裁判例特集やりますよ。 ついでに規則31条も否定します。



[1] 渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

[2] (業務)

第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。

一 登記又は供託に関する手続について代理すること。

二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第四号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。

三 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。

四 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第六章第二節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第八号において同じ。)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。

五 前各号の事務について相談に応ずること。

六 簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。ただし、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを除く。)、再審及び強制執行に関する事項(ホに掲げる手続を除く。)については、代理することができない。

イ 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定による手続(ロに規定する手続及び訴えの提起前における証拠保全手続を除く。)であつて、訴訟の目的の価額が裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの

ロ 民事訴訟法第二百七十五条の規定による和解の手続又は同法第七編の規定による支払督促の手続であつて、請求の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの

ハ 民事訴訟法第二編第四章第七節の規定による訴えの提起前における証拠保全手続又は民事保全法(平成元年法律第九十一号)の規定による手続であつて、本案の訴訟の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの

ニ 民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)の規定による手続であつて、調停を求める事項の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの

ホ 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第二章第二節第四款第二目の規定による少額訴訟債権執行の手続であつて、請求の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの

七 民事に関する紛争(簡易裁判所における民事訴訟法の規定による訴訟手続の対象となるものに限る。)であつて紛争の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は仲裁事件の手続若しくは裁判外の和解について代理すること。

八 筆界特定の手続であつて対象土地(不動産登記法第百二十三条第三号に規定する対象土地をいう。)の価額として法務省令で定める方法により算定される額の合計額の二分の一に相当する額に筆界特定によつて通常得られることとなる利益の割合として法務省令で定める割合を乗じて得た額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は代理すること。

2 前項第六号から第八号までに規定する業務(以下「簡裁訴訟代理等関係業務」という。)は、次のいずれにも該当する司法書士に限り、行うことができる。

一 簡裁訴訟代理等関係業務について法務省令で定める法人が実施する研修であつて法務大臣が指定するものの課程を修了した者であること。

二 前号に規定する者の申請に基づき法務大臣が簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力を有すると認定した者であること。

三 司法書士会の会員であること。

3 法務大臣は、次のいずれにも該当するものと認められる研修についてのみ前項第一号の指定をするものとする。

一 研修の内容が、簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力の習得に十分なものとして法務省令で定める基準を満たすものであること。

二 研修の実施に関する計画が、その適正かつ確実な実施のために適切なものであること。

三 研修を実施する法人が、前号の計画を適正かつ確実に遂行するに足りる専門的能力及び経理的基礎を有するものであること。

4 法務大臣は、第二項第一号の研修の適正かつ確実な実施を確保するために必要な限度において、当該研修を実施する法人に対し、当該研修に関して、必要な報告若しくは資料の提出を求め、又は必要な命令をすることができる。

5 司法書士は、第二項第二号の規定による認定を受けようとするときは、政令で定めるところにより、手数料を納めなければならない。

6 第二項に規定する司法書士は、民事訴訟法第五十四条第一項本文(民事保全法第七条又は民事執行法第二十条において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、第一項第六号イからハまで又はホに掲げる手続における訴訟代理人又は代理人となることができる。

7 第二項に規定する司法書士であつて第一項第六号イ及びロに掲げる手続において訴訟代理人になつたものは、民事訴訟法第五十五条第一項の規定にかかわらず、委任を受けた事件について、強制執行に関する訴訟行為をすることができない。ただし、第二項に規定する司法書士であつて第一項第六号イに掲げる手続のうち少額訴訟の手続において訴訟代理人になつたものが同号ホに掲げる手続についてする訴訟行為については、この限りでない。

8 司法書士は、第一項に規定する業務であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、これを行うことができない。

[3] 信託業法第二条 この法律において「信託業」とは、信託の引受け(他の取引に係る費用に充てるべき金銭の預託を受けるものその他他の取引に付随して行われるものであって、その内容等を勘案し、委託者及び受益者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。以下同じ。)を行う営業をいう。

2019年11月現在のリーガルテック関連企業

・他にありましたら、教えてください。

弁護士ドットコム株式会社Bengo4.com,Inc.

サービス

・CLOUDSIGN(クラウドサイン)、クラウドサインNOW(対面型)

https://www.cloudsign.jp/

PDFの契約書(雇用契約書、申込書(注文書)、秘密保持契約書、業務委託契約書、基本契約書、売買契約書など一定程度定式化されている契約書から、徐々に範囲を広げている)を紙に印刷しないで、タブレット等へのタッチペンでの署名、タイムスタンプによって契約締結としています。

サーバーを自前で持っているのか借りているのか分かりません。

サーバーにデータを保管し、独自のセキュリティ強化によって、利用者が紙で保管するコストを下げています。

スピード、印紙税を含むコスト削減

 

業種

インターネット業(秘密保持契約書、業務委託契約書など)

人材業

コンサルティング業

建設・建築業

不動産業(現在はアパート管理業者などと、借主との賃貸借契約書)

飲食業

2019年9月末現在、導入企業50,000社以上・累計100万件以上の契約締結(会社発表)。

 

 

株式会社Hubble(ハブル)

https://corporate.hubble-docs.com/

弁護士を中心に事業

リーガルテック企業の1つ

クラウドサインと業務提携、

・利用者が使い慣れている、マイクロソフトのワードで作成した契約書(利用規約修正に関する覚書、 就業規則など)の作成、過程の履歴を自動的に整理・管理してくれることができる。

その情報に関連するやりとりをHubbluのサービス上に集約して管理できる(メールやSlackの参照が不要になる)。Office2013とoffice2002などのバージョンが違う文書も是正してくれる。

リーガルサインとの連携により、契約書PDF化、作成後の電子署名、タイムスタンプを利用することが可能になる。

 

業種

・主に弁護士事務所、大企業の法務部

・ITベンチャーやスタートアップ

利用者数:不明

 

 

GVA TECH株式会社

https://gvatech.co.jp/

弁護士による事業

 

AI-CON

https://ai-con.lawyer/

AIによる契約書チェック(リスク要因を判例などを基に指摘してくれる)

2019年10月21日 500円で秘密保持契約書のチェックを行うことが出来る、ワンコインサービスを導入。

AI-CON登記

対応している登記種類

・株式会社の本店移転登記:10,000円

・株式会社の募集株式発行(増資)登記:10,000円

・代表取締役の住所変更登記:3,000円

・株式会社の商号変更登記:10,000円

 

 

ローイット株式会社

https://lawit.jp/

行政書士、司法書士が事業

 

AI行政書士マルット

https://marutto.work/login_form.php

宅地建物取引士の変更届の自動作成機能

業種

建設業

宅建業

建築士事務所

利用者数:不明

 

LegalScript(リーガルスクリプト)

https://legal-script.com/lp/board_replace

株式会社の設立登記、代表者住所変更登記、本店移転登記(株式会社、合同会社、有限会社)株式会社の商号変更登記、株式会社の目的変更登記、の申請に係る書類作成、定款の再作成のオンライン支援

利用者数:不明

 

 

株式会社ZWEISPACE JAPAN

不動産関連業

ブロックチェーン

HPを読んだ限り、難しくて理解できませんでした。

利用者数:不明

 

 

株式会社グラファー

https://graffer.jp/

役員は士業ではないという点が特徴

法人の履歴事項全部証明書や代表者事項証明書、印鑑証明書が郵送やPDFで取得支援

法人の電子証明書を オンラインから取得支援

戸籍謄・抄本、住民票、独身証明書、課税証明書、転出届について、郵送手続き代行

いくつかの自治体・官公庁と既に提携している。

利用者数:不明

設定者兼受託者の委任状

委  任  状

The power of attorney

       沖縄県中頭郡西原町字桃原85番地

85 Toubaru, Nishihara-cho, Nakagami-gun, Okinawa, Japan.

       宮 城  直

私は、上記の者を代理人と定め、下記の権限を委任する。

I designate the above persons as agents and delegate the following authority.

The record.

  • 令和1年10月29日付登記原因証明情報に基づく2番抵当権抹消登記申請に関する一切の件

The all matters relating to application for registration of mortgage. based on registration cause certification information as of October 29, 2019

1.登記識別情報の暗号化に関する一切の権限

The any authority regarding encryption of registration identification information.

  • 登記識別情報受領に関する一切の件

The all matters concerning receipt of registration identification information.

  • 復代理人選任に関する一切の件

The all matters concerning appointment of sub-agent.

  • 原本還付請求受領に関する一切の件

The all matters relating to receipt of original refund request.

  • 登記が完了した後に通知される登記完了証を受領すること

Receive a certificate of completion of registration.

  • 登記の申請に不備がある場合に、当該登記の申請を取下げ、又は補正すること

If applicant application for registration is incomplete, Withdraw the application or to correct.

1.登記に係る登録免許税の還付金を受領すること、又は再使用証明申出の請求受領に関する一切の件

Receive a refund for registration license tax.

Receipt of request for proof of reuse of registration license tax

1.登記申請の取下に関する一切の件

Withdrawal of registration application.

【令和〇年〇月〇日】The date.

     設定者 The setter

受託者The trustee     【本店】The head office address.

                            【商号】The company name

代表取締役【氏名】

The name of representative.(The company seal)会社印

四谷 司法書士総合研究所 面談

11月8日、東京まで日帰りで行ってきました。

羽田空港からいつも通り電車でおろおろした後に四ツ谷駅で降りて、

司法書士会館で面談です。

面談を受けると、登録研究員という者になることができます。

去年は地域ごとにやるということで福岡でした。今年は東京だったので何故なんだろうと聞いたら、西日本で立候補する人がいなかった、ということでした。

納得。

研究テーマは、プログラミングを勉強して司法書士業務に関するアプリケーションを作成する、というようなものです。

研究所の人「具体的にどんなものを作るのですか。」

僕「まだ決まっていないのですが、法定後見の申立て書・財産目録の作成、任意後見契約書の作成など、ある程度様式が決まっている書類の作成を考えています。」

研究所の人「プログラミングの素養とかはあるのですか。」

僕「ないです。7月から勉強を始めました。」

研究所の人「来年の3月末までに報告をお願いします。」

僕「はい。」

研究所の人「なぜやろうと思ったのですか。」

僕「司法書士自身がやっているのは、僕が知る限りいないからです。大きい法人だとエンジニアを入れてやっているところもあると思います。期限を切って進めて、駄目だったら止めようと思います。」

ということで、概ね応援されているような雰囲気で終わりました。

研究所の人も司法書士です。恐らく先輩です。自信の業務もある中、面談などに時間を割いていただき、ありがとうございました。

緊急ではない投稿が流れてきました。

このような文章が流れてきました。以下、全文です。気になるところは私が下線を引いています。

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-緊急寄稿-信託に関わる裁判判例について

信託法が改正されて12年、商事信託ではない信託いわゆる「民事信託、家族信託®、親愛信託®」と呼ばれるものの普及が広がってきています。認知症対策や事業承継の手段や不動産管理や売買の場面などで、これまでの民法のしくみでは解決できなかったものを解決できる素晴らしい仕組みとして活用されています。

そのような素晴らしい仕組みであるにもかかわらず、普及が遅いのにはいくつか理由がありますが、その一つに判例が少ないということと、裁判所がどのような判断をするのかがわからないということで、敬遠している専門家が多くいるということだと思います。

信託法は、民法などの大陸法とは違い英米法に基づいて作られたものです。日本人にはあまりなじみのないもので、改正後の信託法の解釈についても定まっていない部分も多くあるのも事実です。

英米法は、法律では最低限のことが決められており、あとはその法律を使って、事案に応じて判例を重ねていき自分達の使いやすい法律に一般市民が作っていくような形になります。昨年の9月に裁判があり、判決が出ました。その後に控訴されているにもかかわらずいろいろな噂が飛び交い、当事者ではない方がその判決を解説するセミナーが行われるようなこともあり、誤解も多くあるようで、金融機関や専門家などに影響を与えていました。

実際その判決が出たのちに、「やはり信託は不安定なので、関わるのは辞めよう」という専門家の声も聞かれました。この度、この裁判は和解により終結したとの情報を、この件に関係していた司法書士の河合保弘氏から得ましたので、早い段階で皆さんに正しい情報を知ってもらうために緊急情報として寄稿することになりました。

そもそも今回の訴訟は「遺留分減殺請求訴訟」と思っている方もいらっしゃるようですが、そのこと自体が間違いで、そうではなく「信託契約及び死因贈与契約無効確認訴訟」だということです。

一審判決では、信託契約及び死因贈与契約は全て有効、ただし信託契約の対象財産の一部分(収益を生まないと判断された自宅不動産)に限り、「遺留分潜脱目的で民法90条により公序良俗違反」との理由で、自宅不動産を対象とした部分のみの信託契約を無効と判断しました。

そしてこの判決には、原告、被告の双方が、納得がいかずに、双方控訴しています。原告は信託契約自体を無効にしたかったわけですし、被告はすべて有効と主張しており、当たり前のことですが、自宅部分のみ無効とするのは当事者ではなくてもしっくり納得できませんので、当事者としてはなおさらです。自宅も十分不動産としての価値はあり、当然売却すれば金銭に変わりますし、通常の相続でも自宅を含めて遺産分割協議をするわけですので、自宅だけが収益を生まないという理由のみで無効になるのは非常に理解に苦しむところです。

そのあとに高等裁判所にて、原告被告共に信託及び死因贈与契約を有効と認めた上で、原告に割り当てられた信託受益権割合につき、被告が時価で買い取り、信託財産以外の財産については死因贈与契約に対応する遺留分相当割合の金銭を被告が原告に支払う、と概ねこのような内容で和解となったようです。

また、この判決では、一審判決では公序良俗違反を理由としたものの、控訴審では一審判決の維持は困難と考えられることもあったのではないかと思われます。高裁は信託に関する判断を回避し、当事者双方も実利を取る選択をしたものだとも言える結果になったと思います。

この判決で、わかることは信託契約自体が無効にすることは非常に難しいということです。

そして、表面上で「遺留分侵害」をしている信託契約だったとしてもその契約自体が無効になるわけではなく、受益権に対しての遺留分請求の可否が今後の裁判で判断されることになるということです。

今回の裁判の内容を、解説用に大きくデフォルメして以下に示します。

・家族関係→父(信託委託者)、長男(原告)、次男(被告)、長女

父の世話は全て次男と長女がしており、自宅及び収益不動産の管理等も全て「跡継ぎ」である次男が担当し、長男は次男と長女に対して決して協力的ではなかった。

・財産→広大な自宅(仮に時価2億円とする)、収益不動産(同、4億円とする)、その他の財産(同、6000万円とする)。

・契約の経緯→父は胃癌の末期状態であると診断され、遺言書の作成を考えた際、信託銀行による遺言書作成と司法書士法人による信託契約を比較検討した上で信託契約を選択、その際に司法書士より信託財産以外に関しての死因贈与契約を合わせて薦められる。

信託及び死因贈与契約書は面談当日に私文書にて作成、数日後に公証人に病床に出張してもらい、宣誓認証を実施。

信託契約(不動産など主要財産が対象)→父(委託者兼当初受益者)、次男(受託者)、二次受益者は次男6分の4、長女及び長男各6分の1、三次受益者は次男の子が全部取得。

・死因贈与契約→不動産部分については信託と同様の取得割合(信託契約と内容重複)、

その他財産部分については次男3分の2、長女3分の1の割合で取得

・一審判決

→自宅不動産部分の信託契約のみ無効で、他の契約は全て有効。

自宅不動産部分については死因贈与契約の有効性を認め、信託登記を抹消し、長男の共有持分登記を求める。

収益不動産部分については信託契約を有効と認め、特に変更を求めない。

その他財産の部分については遺留分相当の金銭給付を求める。

・判決への疑問

1、全体として有効に成立した契約の一部分を「公序良俗無効」と断定する理論が構築されていない。

→民法90条の適用については相当に限定されており、「遺留分潜脱目的」を公序良俗違反と判断することには無理があり、一般的な遺言制度との比較(遺留分権者を完全に外した遺言も無効とはならない)からも、解釈の濫用と考える法律家が多かった。

2、自宅不動産は直ちに直接的な収益を生まないものの、不動産自体の価値は高く、かつ換価性もあり、「無価値な財産」とは言えない。

→実際に自宅を取り壊して有効活用する予定が以前からあったが、信託無効判決により、かえって受託者である次男が有効活用の判断をすることができなくなった。

3、原告にとっても信託無効部分の共有持分登記名義を得るだけで、直接的な利益が何もなく、かつ信託有効部分については原告死亡によって受益権が次男の子に移動することになり、訴訟した意味を為さない。

→死因贈与契約有効により、結果的に原告は遺留分相当割合を超える財産の取得が確定的に不可能となった。

・和解内容

→信託契約、死因贈与契約有効により、全ての不動産の受益権は次男6分の4、長女及び長男各6分の1を取得、その他財産は次男3分の2(4000万円)、長女3分の1(2000万円)の割合で取得。

和解により、長男の受益権6分の1相当を時価1億円で次男が買い取り、遺留分給付として次男が長男に1000万円支払う。

結局のところ、信託と遺留分の関係については一切判断の対象とされず、結論は今後の訴訟に委ねられたということです。

この裁判の他にも信託契約についての訴訟を2件ほど紹介します。

※東京地裁H30.10.23判決(控訴なく確定)

【信託契約無効確認訴訟】→親子間で締結された信託契約につき、錯誤無効、詐欺取消、目的不達成による信託終了、委託者及び受益者による終了を受託者が容認した等の主張をもって無きものにすべく親側が提訴。

・原告側の事情→当初は被告であり受託者である子を信頼していたが、他の子(養子2名)からの突き上げがあったのか、被告を信頼できないと考えるようになり、契約の無効や取消を図ったものと考えられる。

また、被告も養子の一人と暴力沙汰を引き起こして逮捕勾留されたことがあるなど、性格的に多少の問題がある人物であった。

・判決→原告の主張を全て認めず、信託契約は有効であると判断。

すなわち、一度有効に締結された信託契約は、事後に各種の事情変更や委託者側の変心、受託者の個人的非行等があったとしても、容易には覆せないことが証明された判決と言える。

※東京地裁H31.1.25判決(未確定)

・株式管理処分信託契約有効確認訴訟

→委託者被告妹、受託者原告兄の間で締結された、香港所在の外国会社株式を対象とする信託契約につき、兄が妹に対して信託契約の有効性を確認する訴訟を提起し、妹側は錯誤無効、別段の定めに関しての公序良俗違反による無効や合意管轄違反等を主張して対立している事案。

・判決

→被告の主張を全て認めず、信託契約は有効であると判断。

裁判所は、信託法において別段の定めが許されている部分などを明確に有効であると判示し、信託契約の効力が強力であることが、改めて証明された判決と言える。

・評価

→信託契約を死因贈与契約(民法554条により遺贈と見做される)と類似と見て、信託を相続と同等と考える学説があったが、一連の判決によって、信託契約は一方的には取り消すことができず、一方的な取消が可能な死因贈与契約と類似ではない(=相続ではない)との考えが明確になった。

今後も判決が相次ぐことが予想されますが、少なくとも信託契約が遺言や死因贈与とは異なり、片方の当事者から一方的に解除できるものではない、極めて強い効力を持つ契約であるということを裁判所が保証したということになるのではないかと思われ、今後ますます信託の普及が進むことは間違いないでしょう。

協同組合親愛トラスト

   代表 松尾陽子

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以上、全文です。

私見

1、判決文について

・一般の方向けなのかもしれませんが、もし専門家向けなら判決全文を掲載した方が良いのではないかと感じます。

2、「民事信託、家族信託®、親愛信託®」と呼ばれるものの普及が広がってきています。 について

・親愛信託という言葉は、少なくとも実務で私は聞いたことがありません。

3、そもそも今回の訴訟は「遺留分減殺請求訴訟」と思っている方もいらっしゃるようですが、そのこと自体が間違いで、そうではなく「信託契約及び死因贈与契約無効確認訴訟」だということです。

共有権確認等請求事件と記載があります(登記情報687号、P64)。

4、原告は信託契約自体を無効にしたかったわけですし、被告はすべて有効と主張しており、当たり前のことですが、自宅部分のみ無効とするのは当事者ではなくてもしっくり納得できませんので、当事者としてはなおさらです。自宅も十分不動産としての価値はあり、当然売却すれば金銭に変わりますし、通常の相続でも自宅を含めて遺産分割協議をするわけですので、自宅だけが収益を生まないという理由のみで無効になるのは非常に理解に苦しむところです。

自宅部分の受益権を無効にしたのは、理由付けは裁判官それぞれだと思いますが、自由心証(民事訴訟法247条)の範囲だと感じました。結果に対しては妥当だと感じました。

5、この判決で、わかることは信託契約自体が無効にすることは非常に難しいということです。

私には分かりませんでした。信託契約の一部取り消しというのは、判決文としては、結果的にそう書かざるを得ないのではないか、と思いました。何故かというと、不動産登記の問題があるからです。不動産登記は信託契約につき1度の登記ではなくて、不動産1個につき1件の登記です。1つの信託契約について13件の不動産登記を申請することもあります。よって、実質は一部の受益権について無効と判断しても、信託契約の一部取り消しと読めてしまうような判決文になるのではないかと考えます。

6、そして、表面上で「遺留分侵害」をしている信託契約だったとしてもその契約自体が無効になるわけではなく、受益権に対しての遺留分請求の可否が今後の裁判で判断されることになるということです。

同意です。ただし、書籍などで以前から受益権説の方が優位だったのではないかと思います。今回の訴訟で明らかになったのは、受益権説で判断する裁判官がいる、という事実が1つ積みあがった、ということだと思います。

7、・和解内容

妥当だと感じます。

8.→信託契約を死因贈与契約(民法554条により遺贈と見做される)と類似と見て、信託を相続と同等と考える学説があったが、一連の判決によって、信託契約は一方的には取り消すことができず、一方的な取消が可能な死因贈与契約と類似ではない(=相続ではない)との考えが明確になった。

今後も判決が相次ぐことが予想されますが、少なくとも信託契約が遺言や死因贈与とは異なり、片方の当事者から一方的に解除できるものではない、極めて強い効力を持つ契約であるということを裁判所が保証したということになるのではないかと思われ、今後ますます信託の普及が進むことは間違いないでしょう。

一連の判決によって、信託契約は一方的には取り消すことができず、一方的な取消が可能な死因贈与契約と類似ではない(=相続ではない)との考えが明確になった、とはいえないと思います。また裁判所が保証したということにはならないと思います。

信託法上(163条から166条)でも信託契約の中に一方的な終了を認めることが保証されています。どちらかというと、今後受託者の損害補償などが争いになるような気がします。

以上

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