受託者の所有者責任を、依頼者へ説明するとき

 

(条項例)

□ 受託者は、土地への工作物などの設置により他人に損害を与えることのないように管理する

私が作成する民事信託契約書には、このような条項が入ります(民法717条)。
契約書を依頼者と一緒に読み合わせるときは、下のような説明をしています。

 「信託契約の後は、○○(委託者)さんが1人で住んでいる家で火の不始末とかで火事になって、他の家とかに延焼したら、○○(受託者)さんの責任ですよ。(火災保険に入ってなかったら加入してくださいね。)」

「信託すると、○○(委託者)さんの建物の壁が落ちて、繁華街を歩いている人に当たって怪我した場合は、○○(受託者)さんの責任になりますよ。(修繕する箇所がないか業者にチェックしてもらいませんか。)」

「信託の後は、○○(委託者)さんの敷地のセメントのブロック塀が欠けて、道向かいにある小学校の子供に当たって怪我させた場合は、○○さんの責任になります。(対策をちょっと考えますしょう。)」

他にも色々な説明の仕方がありそうです。

(一社)民事信託推進センターへの意見・要望

要望事項・意見
いつもお世話になります。
お願いばかりで申し訳ないですが、要望・意見を記載させていただきます。
個人的希望なので、難しいようであれば無視して下さい。

1、平成30年度事業計画書について
(1)民事信託実務入門講座
前半4回の初級編につき、期限を決めて講師への事前質問を受付していただきたいと思います。どの質問に回答するか否かは講師の判断により、質問は回答されなかった部分も含めて公開するという形は如何でしょうか。

2、収支予算書について
(1)テーマ別民事信託研究会の会場費
テーマ別民事信託研究会の会場費は、決算書の会場費に入っているのでしょうか。入っている場合は東京都内以外でも、同様に自主開催をしても良いでしょうか。
(2)事務委託費について
 感覚的なことですみません。事務局の負担が大きい割に予算が少ないように思います。今後ますます負担が大きくなると考えます。外部に委託した場合と比較して、東京都内における事務職の平均的な年収1人分は確保する必要があるのではないでしょうか。

3、企画書

(一社)民事信託推進センター 御中
平成30年2月21日
〒903-0114
沖縄県中頭郡西原町字桃原85番地
司法書士宮城事務所
司法書士 宮城 直(みやぎ すなお)
TEL (098)945-9268
FAX (098)963-9775
shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp
開催希望
一般市民向けのセミナー、シンポジウムまたは他の形の催し

目的
・信託制度の幅広い活用
・信託制度の適正な活用普及
・民事信託が必要か不要の気付く機会、必要な人は終わった後に行動できる機会とする

対象
一般市民(無料)

開催日
次年度(9月~12月)

場所
西原町さわふじ未来ホール(沖縄県中頭郡 西原町字与那城140番地の1)

開催費用
(一社)民事信託推進センター様の負担により、講師派遣の予算組み入れを検討お願い致します。

備考
・来場者へ民事信託推進センターの書籍販売、沖縄県内の民事信託及び成年後見関係事業者のパンフレット等の配布。


以上

任意補助人 試論

 

1、 任意補助人はどんなものか

 任意補助人という用語は現在のところ、私の知る限りでは利用されていない。任意後見制度の代理権目録を利用して、民法上の補助人と同じような役割が出来ると考える 。利用者本人が、自身の症状に合わせながら任意保佐人、任意後見人と段階を経て同意権、代理権を受任者に与えていくことが可能となる。また民事信託の受託者や信託監督人、受益者代理人との連携を考えることができる。民法上は最も本人の意思を尊重できる補助制度が、後見制度に比べて20分の1以下の利用件数しかない事実 には様々な理由を考えることができる(法定後見をやむを得ず申立てたなど。)。本人が決めた者に受任者が確定される任意後見制度の中で、実質的に補助類型の仕組みを作ることが出来れば使い勝手の良い制度になると考える。

2、 先行研究
 夫婦の任意後見人となる者が中心となり、受託者である信託銀行に指示を出して財産管理の負担を軽くし、任意後見人は身上監護の割合を多くしていく、というものがある 。
 任意後見契約における代理権目録において、民事信託との調整を図ることが可能か、消極的内容を記載することは可能か、という問題提起がなされている 。
 本稿では任意後見人と民事信託の受託者は同一人であっても構わないという立場を採るが、同一人である場合の利害関係・利益相反関係を整理するものがある 。
 また任意後見支援型信託の文例も研究されている 。この研究での契約書例は、任意後見監督人の選任の申立て等を停止条件として信託契約が発効するため、信託専用口座を作成する際に金融機関との事前調整を要する場合があると考える。金融機関には、信託専用口座を作成する際に委託者の本人確認及び意思確認を行うところがあり、任意後見人が信託契約書を持って行ってすぐに受け付けてくれるとは限らない。

3、 方法

 任意後見契約締結後に任意後見監督人の選任の申立てを行う要件として、本人が補助・保佐・後見の各要件に該当する精神の状況にある者全てとしていることから 、補助類型に該当した時点で任意後見監督人の選任申立てを行うことを前提とする。最初に代理権又は同意権を与えるのは、年金受取口座の管理や要介護認定の申請等の一部の事務に限る。よって、任意後見契約締結後に直ちに任意後見監督人の選任申立てをすることも妨げられない。その後に本人の心身の状態に応じて同意権、代理権を付与、または同意権から代理権への変更が順次行われるように最初の任意後見契約の中で仕組みを作っておくことが望ましい 。何故なら任意後見契約における代理権目録には変更に関する規定がなく、任意後見人の同意権や代理権を徐々に増やしていこうとすると、その度に任意後見契約を締結する必要がある。又は法定後見へ移行 する選択肢もある。

(1)本人または任意後見監督人の同意又は承認
(2)本人または民事信託の受託者、信託監督人、受益者代理人の同意又は承認
(1)または(2)、もしくは(1)と(2)の併用による。
例えば、身上監護事務に関しては任意後見監督人による同意を、財産管理に関する事務については信託監督人による同意を要件とすることが考えられる。この同意は民法上の補助・保佐制度において家庭裁判所が行う同意権付与・代理権付与の審判に該当する 。

4、 議論
任意後見監督人は、家庭裁判所によって選任され 公的な役割を担う。上記の例で財産管理に関する事務について、信託監督人による同意によって任意後見人に代理権が付与された場合、信託財産ではない財産について監督を行うのは任意後見監督人である。信託監督人と任意後見人の連絡体制を整えるか、信託監督人は信託財産及び民事信託の受託者のみを監督し、その他の財産に関する事務の同意は任意後見監督人に同意権を与えるなど後に利害が対立する可能性が少なくなるようにする必要がある。
任意後見監督人を承認権者、同意権者とするには、任意後見契約締結時にその住所及び氏名が特定されていなければならない 。任意後見監督人は、家庭裁判所が選任するので任意後見契約締結時は特定することが出来ない。よって任意後見監督人を承認権者、同意権者とすることは、現状において不可能である。


5、今後に向けて
 任意後見人の代理権目録が一定の手続きを経て変更可能となることが望まれる。また任意後見監督人、家庭裁判所による監督を、本当に必要な方に必要な限度で行う、監督の方法を面談中心にして、事務(通帳を全部コピーして報告)などを簡易に(例えば写真に撮ってメールする、銀行が提供するアプリを利用する等)して親族の負担を減らさなければ、一部の横領と呼ばれることをやっている方のために、利用を考える人の拒絶反応が今後も強くなっていくのではないかと考える。

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任意後見契約に関する法律第三条の規定による証書の様式に関する省令附録第1号様式の注4及び第2号様式の注3
民法15条から19条まで、民法876条の6から876条の10まで。
最高裁判所事務総局家庭局平成28年の実情調査では、後見開始申立て26,836件に対して、補助開始申立ては1297件。
新井誠ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版「信託制度と成年後見制度の融合」P147~P153
渋谷陽一郎「民事信託と任意後見の交錯と協働」『信託フォーラムvol.9』P39~P45
山中眞人、山﨑芳乃「事例から考える民事信託と任意後見の併用」『信託フォーラムvol.9』P46~P53
遠藤英嗣『新しい家族信託』2016日本加除出版P444~P451。

司法書士試験(案)民事信託・家族信託

 


参考

日本司法書士連合会財産管理業務対策部民事信託業務モデル策定ワーキングチーム『民事信託業務モデル「民事信託の実務―高齢者の財産管理―」』2017年3月

別紙1の登記がされている土地(以下「甲土地」という。)について、司法書士法務直子は、平成30年3月1日、甲野花子から後記【事実関係】〇から〇までの事実を聴取し、後記【事実関係】〇及び〇のとおり登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」という)となる信託契約書の起案をしたほか、当該聴取に係る関係当事者全員から今回の登記の申請手続に必要な全ての書類を受領し、登記の申請手続について代理することの依頼を受けた。

 平成30年5月1日、司法書士法務花子は、依頼を受けた信託契約書を作成し、必要な登記の申請手続を行った。

【事実関係】

第1 Bの親族関係は図1の通りである。

第2 司法書士がBからの聴き取りを行った内容は次の通りである。

1、Aの妻は10年前に他界した。

2、Aは妻が他界した後、北海道に1人で暮らしていた。

3、3年程前から、Aの体力や気力に衰えがみられ、日常生活や財産管理を1人で行うことが難しくなってきた。

4、Aは、福岡県にあるB夫婦の家で一緒に暮らすことになった。

5、Aは当初、慣れない土地での生活に多少戸惑っていたが、転居して半年が経ち、現在は趣味のカラオケのレッスンに励むなど充実した生活を送っている。

第3 司法書士がAから聞き取りを行った内容は次の通りである。

1、妻が他界し、しばらくは1人暮らしをしていたが、足を悪くして遠出ができなくなった。また、一度財布を失くしてしまい財産管理に不安を覚えるようになった。

2、そんな時、福岡に住む子のB夫婦から申し出があり、同居してみることにした。

3、最初は慣れない土地で不安だったが、現在はここでの生活も慣れてB夫婦も何かと手助けしてくれるので頼りにしている。

4、1つ心配なのは、残してきた北海道の土地と建物である。自分が築いてきた土地建物には愛着があり、管理放棄地にはしたくない。親類で誰も使う者がいなければ、誰かに貸したり、売って利用して欲しい。

問1 A及びBに対して、司法書士としてどのような方法を提示することができますか。(1)方法と(2)その効果(3)他の方法との違いを挙げて下さい(複数回答可)。

問2 AとBが、Aを委託者兼当初受益者、Bを受託者とする民事信託を利用すると決定した場合、他に確認することはありますか。あればその理由と共に記載してください(複数回答可)。

問3 AとBの民事信託契約書を作成することになった場合、司法書士法上、留意する点は何でしょうか。あれば理由と共に記載してください(複数回答可)。

問4 AとBの民事信託契約について、不動産登記を依頼されました。司法書士として、信託目録に記録が必要だと考える事項をその理由と共に記載してください(複数回答可)。なおAとBは、必要な事項は記録することを希望している。

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