家族信託の融資について、受託者(債務者)が亡くなって新受託者が就任した場合、受益者にも債務履行を請求できるのか。

(1)信託行為後の融資

(2)受託者は信託財産のためにする意思で融資を受けた

(3)融資は受託者の権限内の行為

(4)融資された金銭は信託財産責任負担債務となる

(5)信託口口座へ入金がされている

(6)限定責任信託ではなく、責任財産限定特約もされていない

(7)受益者は連帯債務者、連帯保証人、担保設定者ではない

(1)から(6)の事実を前提とします。

1、受託者(債務者)が死亡した場合、後任の受託者が就任を承諾すると、債務はその時点で自動的に後継受託者には移らないと考えることができます。後継受託者は、自らが債務者となって債務を負ったわけではないからです。

2、債務は死亡した受託者の相続人に及びます(信託法76条、民法896条)。

3、債権者は、死亡した受託者の相続人に対して債務の履行を請求することができます。

4、また相続人が債権者に対して債務の履行を行った場合、新受託者や信託財産法人管理人に償還を請求することができます(信託法75条6項)。

・ただし、受益債権など、信託財産に属する財産のみを持って履行する責任を負う債務については、前受託者は履行責任を負いません。

5、したがって、受益者が亡くなった受託者の相続人でない限り、受託者(債務者)が亡くなって新受託者が就任したという理由において、債権者は受益者に対して債務の履行を請求することはできないと考えます。

受益権の譲渡を他の人にも証明するには

1、受益権の譲渡と制限

受益権は、原則としてあげたり売ったりと譲渡することができます(信託法93条)。

例外は、

(1)受益権の性質が譲渡を許さないとき

(2)信託行為に譲渡制限の定めがあるとき

です。

(1)の例として、特別障害者扶養信託が設定されているときが挙げられます[1]。守りたい受益者として、「この人!」と決まっているので、これを譲渡することは出来ません。

(2)の例として、「受益権を譲渡することはできない。」などの定めが信託契約書に記載されているとき。なお、定めがあるのに譲渡した場合、譲り受けた人をどこまで保護するかに関して、今後少し改正があります。

【現行】

(受益権の譲渡性)

第九十三条 受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2 前項の規定は、信託行為に別段の定めがあるときは、適用しない。ただし、その定めは、善意の第三者に対抗することができない。

【改正後】

(受益権の譲渡性)

第九十三条   受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2 前項の規定にかかわらず、受益権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の信託行為の定め(以下この項において「譲渡制限の定め」という。)は、その譲渡制限の定めがされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。

【解説】

2項は、1項全体の例外規定へ。

2、受益権の譲渡を他の人にも証明するには

(1)受益者が受託者に通知書を送る、渡す

(2)受益者が受託者の承諾書を得る

(1)、(2)のいずれかを文書にして、確定日付を公証人役場でもらわなければなりません。

方法の例として、通知書を送るなら、通知書を作って内容証明郵便にして送る。

 承諾書を得るなら、承諾書を作って受託者に住所と名前を書いて印鑑を押してもらい、確定日付をもらいにいく。

3、登記との関係

受益権が譲渡されて受益者が変わり、信託目録に受益者の住所と氏名が登記されている場合、変更登記が必要となります(不動産登記法97条、103条)。

 1、2、で示した通り、受益権の売買と同時に買主へ融資が行われる場合、受託者への通知書や承諾書で決済ができるはずです。しかしそれに加えて登記を必要とする場合も多いようです。

その理由としては、取引関係者は、受益権の売買と買主への融資は、所有権の売買と買主への融資と実質的に同じと考える。取引関係者は、信託登記を完了することで、1、2、をはじめ信託の実体まで含めて有効な取引が成立したと考える、などが挙げられます。

4、会社の株式譲渡との比較

(1)「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を受けなければならない[2]」という譲渡制限の定めがある場合

(1)の定めがある場合に、承認を受けないで譲渡した場合の効果はどうなるのでしょうか。

譲渡そのものは有効であるが、会社が承認するかは会社の自由であり、承認する場合は、譲受人を株主として扱い株主名簿の書き換えを行わなければならないと考えます。譲渡を承認しない場合は、今まで通り譲渡人を株主として扱うか、会社が株式を買い取る(会社法140条)ことになると考えます。

譲受人が譲渡制限を過失なく知らなかった場合でも保護されないという面では、会社法の方が譲受人にとっては厳しい処置を採って、その分株式の買取りで対応するという規律になっています。

【条項例】

(受益権の譲渡等)

第○条 受益者は、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることはできない。

・金融機関が受益者の場合など

(受益権の譲渡等)

 受益者は、受託者に事前に通知を行い、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることができる。

・受益権の内容に含める例

(受益権)

第○条

1~4略

5 受益者が、受益権を譲渡、質入れ、分割及び担保設定その他の処分をする場合、受託者の事前承諾を必要とする。


[1] 新井誠監修『コンメンタール信託法』P300

[2] 法務省HP 2017年6月22日閲覧

家族信託・民事信託の不動産取得税

・非課税の場合

1、信託設定のとき、委託者から受託者へ所有権移転(新築建物は、受託者に課税されますが、住むための建物の場合は軽減、控除、免税点措置などがあります。)した場合の受託者(地方税法第73条の7、3号)

2、信託継続中に受託者が変更になった場合の新受託者(地方税法第73条の7、5号)

3、受益権を譲渡した場合の譲受人

3、の受益権を譲渡した場合は、なぜ不動産取得税がかからないのでしょうか。不動産取得税は、不動産の所有権が流通した場合にかかる税です。受益権を譲渡したことで、実質的には流通していると考えることもできるように思えます。

私見ですが、不動産取得税の考え方は、

(1)受益権を譲渡した際には、受益権という地位の移転があったものとして、不動産取得税の対象から外れる。

(2)ただし、譲受人が受託者と合意して信託を終了させたときは、不動産の所有権が流通したものとして課税する。

(3)例外として、ア、信託終了時に受託者が、委託者に所有権を移転する場合、イ、委託者が死亡することによって信託が終了し、受託者がその相続人に所有権を移転する場合は、形式的な所有権の移転なので非課税(地方税法第73条の7、4号)

・受託者が他の人から土地を購入した場合の受託者

→課税

・受託者が建物を新築した場合の受託者

→課税

・委託者が信託契約をする前に、所有者として土地を購入した場合や建物を新築した場合も同じように所有者に課税されるので、変わらないと考えて良いと思います。納税も信託財産から行い、その信託財産は委託者の財産から出したものです。軽減、控除、免税点措置なども受託者が利用することができます。

なお、詳細はお近くの税理士へご相談ください。

地方税法

(形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)

第73条の7 道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。

1 相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得

2号(略)

3 委託者から受託者に信託財産を移す場合における不動産の取得(当該信託財産の移転が第73条の2第2項本文の規定に該当する場合における不動産の取得を除く。)

4 信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託により受託者から当該受益者(次のいずれかに該当する者に限る。)に信託財産を移す場合における不動産の取得

イ 当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者である者

ロ 当該信託の効力が生じた時における委託者から第1号に規定する相続をした者

ハ、ニ(略)

5 信託の受託者の変更があつた場合における新たな受託者による不動産の取得

(不動産取得税の納税義務者等)

第73条の2 不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の道府県において、当該不動産の取得者に課する。

2  家屋が新築された場合においては、当該家屋について最初の使用又は譲渡(独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社又は家屋を新築して譲渡することを業とする者で政令で定めるものが注文者である家屋の新築に係る請負契約に基づく当該注文者に対する請負人からの譲渡が当該家屋の新築後最初に行われた場合は、当該譲渡の後最初に行われた使用又は譲渡。以下この項において同じ。)が行われた日において家屋の取得がなされたものとみなし、当該家屋の所有者又は譲受人を取得者とみなして、これに対して不動産取得税を課する。

但し書き、3項以下(略)

信託業法の「営業」

営業って何でしょう。営業に当たるか当たらないかによって、家族信託・民事信託における、受託者資格が決まります。

考え方1[1]

1、営利の目的を持って

2、一定の計画に従い反復継続すること

3、対公衆性すなわち不特定多数の者を相手方とすること

このうち、1つでも欠けている場合は、信託業法の許可を得ないで済む、個人間で信託行為をして問題ない。利益を上げる目的でない場合や、特定多数の委託者、不特定少数の委託者の場合など。

多数、少数ってどのくらいでしょうか。多数は特定されていれば1000名でも良いのでしょうか。委託者が1人でも誰だか分からないと、受託者は不安で信託を引き受けるのは怖いと考えるのではないでしょうか。

考え方2

受託者が、反復継続して信託の引き受けを行う意思をもっている場合、営利の目的を持っていなくても「営業」にあたり、信託業法の許可が必要になる[2]

なぜ許可が必要なのでしょうか。反復継続して信託の引き受けを行う業者と顧客との間に情報量や交渉力の格差が生じうること、受託者が預かった信託財産を自己名義で管理運用するという大きな権限を有することから受託者の義務を加重する必要がある等の理由があるようです[3]

 情報量や交渉力の格差が生じると信用できるということにはならないのか、と少し疑問です。大きな権限を持つから義務も加重する必要がある、というのは納得できます。

自己信託

自己信託については、これを「営業」として行ったとしても、信託業に該当することはなく、信託会社としての免許・登録は不要[4]であるが、多数(50名上)の者が受益権を取得できる場合には、自己信託会社としての登録が必要となる(信託業法50の2条、信託業法施行令15条の2)。

 なぜ、40名ぐらいだと可能なのでしょうか。権限が大きくなるからでしょうか。

よく分からないことが分かった、というくらいしか言えませんが、受託者をみて無理そうだなと思ったら信託銀行にお願いしたり、途中から変更したりすることが必要だと考えます。

食堂入り口のドアに「営業中」の札が下がっていれば、営業していることが分かります。

「営業終了」の札が下がっていると、今日の営業は終了したことと、明日は定休日でない限り営業するということが分かります。

「都合により休業中」の札が下がっていると、今は休業していることと、今後、都合が許せば営業するということが分かります。

「○月○日をもって閉店」などの札が下がっていると、閉店して営業をしないということが分かります。

食堂を持ち出すのは安易かもしれません。しかし、受託者の主観は相手から見えない以上、客観的な基準が必要だと考えます。

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信託業法第2条第1項

(定義)

第二条  この法律において「信託業」とは、信託の引受け(他の取引に係る費用に充てるべき金銭の預託を受けるものその他他の取引に付随して行われるものであって、その内容等を勘案し、委託者及び受益者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。以下同じ。)を行う営業をいう。

商法第502条第13号

(営業的商行為)

第五百二条  次に掲げる行為は、営業としてするときは、商行為とする。ただし、専ら賃金を得る目的で物を製造し、又は労務に従事する者の行為は、この限りでない。

十三  信託の引受け


[1]弁護士山中眞人『信託フォーラムvol.6』P92

[2]小出卓也『逐条解説 信託業法』 2008 (株)清文社P17

[3]小出卓也『逐条解説 信託業法』 2008 (株)清文社P17

[4] 平成19年信託業法パブリックコメント「その他」

信託の利益相反

1、受託者が2番目の受益者となるべき者になっている。

2、残余財産受益者または残余財産の帰属権利者が信託終了時の受益者となっている。

1、2の定めがある信託行為では、例えば長男が受託者となり父親が亡くなったときは、信託の変更や途中での終了がない限り、長男に財産が帰属することになります。

このような定めは、利益相反にあたる、忠実義務違反にあたるという考えがあります[1][2]

忠実義務は、信託法に定めがあります(30条)が、利益相反についてはどの部分に当たるのか指摘がなく、民法上の利益相反行為(108条など)なのか、信託法31条の利益相反行為の制限なのか判明しません。

信託法上の利益相反行為の制限である信託法31条について考えてみたいと思います。

(利益相反行為の制限)

第三十一条   受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

一   信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。

二   信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。

三   第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの

四   信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

2   前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第二号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

一   信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。

二   受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

三   相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。

四   受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。

3   受託者は、第一項各号に掲げる行為をしたときは、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4   第一項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされた場合には、これらの行為は、無効とする。

5   前項の行為は、受益者の追認により、当該行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

6   第四項に規定する場合において、受託者が第三者との間において第一項第一号又は第二号の財産について処分その他の行為をしたときは、当該第三者が同項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされたことを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該処分その他の行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

7   第一項及び第二項の規定に違反して第一項第三号又は第四号に掲げる行為がされた場合には、当該第三者がこれを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

利益相反行為は行為時を基準とし、

(1)信託行為のときと、

(2)受託者が受益権を取得し、信託を終了、清算結了した後に残余財産の帰属権利者として所有権を取得するときで分けて考えます。

まず、1項1号の信託財産に属する財産を固有財産に帰属させること、には(1)、(2)ともあたると考えることができます。信託が途中で変更、終了しない限りは、受託者が受益権を取得し、信託を終了することで信託財産に属する財産を固有財産に帰属させることができるからです。1項2号、3号、4号にはあたりません。

次に、第2項1号により信託行為に利益相反行為を許容する定めがある場合はどのように考えることができるでしょうか。

委託者兼当初受益者と受託者が合意の上で定めているので、許容する定めがある場合は、(1)、(2)共にできることになります。

第2項2号は、(1)の場合はまだ受託者にはなっていませんが、信託行為のときに委託者兼受益者の承認が得られていると考えることができます。(2)の場合は、受託者イコール受益者となっているので、承認を考えることはできません。

第2項3号の「相続その他の包括承継」に受益権の取得は入るのでしょうか。受益権は受益債権とこれを確保するための権利である受益者の地位を表すものです。(1)、(2)ともその他の包括承継にあたる可能性があると考えます。

第2項4号は、(1)の際はまだ受託者になっていないので当てはまりません。

(2)の際は、正当理由があるのかが判断のポイントとなります。

第3項は、受託者から受益者への利益相反行為をしたことの通知、第4項は、受託者と受益者間の利益相反行為は無効となること、第5項は、第4項の場合、受益者が承認すると有効になることを定めています。

第6項、第7項は、受益者が利益相反行為を取り消すことができる場合を挙げています。

 以上から考えてみると、

1、信託行為のときには、

(1)受託者が信託財産の帰属権利者となることの定めを許容する定めがあれば、利益相反行為にはあたらず、行為をすることが出来る

(2)委託者兼受益者の承認が得られていると考えると、利益相反行為にはあたるが、行為をすることが出来る

(3)信託の清算手続きが終了し、信託財産が所有権となって帰属権利者に引き渡す定めが、相続その他の包括承継にあたる場合は、利益相反行為にはあたるが、行為をすることが出来る

2、受託者が受益権を取得し、信託を終了、清算結了した後に残余財産の帰属権利者として所有権を取得するときには、

(1)受託者が信託財産の帰属権利者となることの定めを許容する定めがあれば、利益相反行為にはあたらず、行為をすることが出来る

(2)信託の清算手続きが終了し、信託財産が所有権となって帰属権利者に引き渡すことが、相続その他の包括承継にあたる場合は、利益相反行為にはあたるが、行為をすることが出来る

となります。

信託期間中に、受託者が、現在の受益者の利益を保護するのではなく、自分のために信託財産を保全しようという気持ちとなり、信託事務を行った場合、利益相反となることの指摘があります[3]。受託者が受益者に対して、信託行為で定められた金銭より少なく給付して、受託者に多くの金銭を残すような信託事務を行った場合、利益相反行為にあたるでしょうか。これは一方のマイナスが一方のプラスになるという関係にあり、利益相反行為にあたるといえます。あたるとしたうえで、許容範囲の2項各号に当てはめられるかを判断していくことになります。

なお、利益相反関係には今まで挙げた状況の全てが当てはまり、信認義務という観点からはさらに議論が必要になります。

忠実義務違反について

 前述の金銭の給付に関する信託事務は、忠実義務違反で問われることが妥当と考えることができます。利益相反行為にあたらない場合、あたるが許容される場合であっても、忠実義務違反に問うことはできます。

受託者は、すでに第2次受益者として制限付きの受益権を持っており、第3次受益者の定めもなく、受託者が残余財産の帰属権利者となっている信託では、受託者の信託事務は、現在の受益者の犠牲のもとに自己の利益を図る意思があると推定することができます。


[1]渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』2017 日本加除出版(株)P269「利益相反となってしまい」と記載。利益相反関係または利益相反行為の結果であるかは明らかではない。

[2] 公益財産法人トラスト未来フォーラム家族信託の実態把握と課題の整理に関する研究会「家族信託の現状と課題」『信託フォーラムvol.6」日本加除出版(株)P17「事実上の利益相反関係が生じるケースがあり得る。」と記載。利益相反行為ではない。

[3]渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』2017 日本加除出版(株)P269

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