成年後見関係者と家族信託・民事信託関係者の役割整理

1、前提

(1)家族信託・民事信託関係者

・委託者 信託法2条

・受託者 信託法2条

・受益者 信託法2条

・受益者代理人 信託法138条

(2)成年後見関係者

・成年後見人(法定後見人)民法7条、843条

・任意後見人 任意後見契約に関する法律4条

・成年後見監督人 民法849条

・任意後見監督人 任意後見契約に関する法律4条

・家庭裁判所 民法863条、任意後見契約に関する法律7条

(3)信託行為に定めが必要な行為に関しては、定めがあるものとします。

2、委託者

(1)委託者の成年後見人

ア 民法103条の適用を受けるか

   民法103条は、任意代理人に関する規定であり適用はないと考えます。法定代理人である成年後見人の権限は、後見の事務として民法853条以下で法律として定められており、事務ができる行為は、代理権があると考えることができます。事務が出来るか迷う場合には、民法858条の解釈で対応することになると考えます。

現在の実務上、成年後見人が103条の規定を超えるような行為をするときには、家庭裁判所や成年後見監督人への事前伺いが必要となっていますが、運用上の扱いであり、適用を受けるかどうかとは別の問題になります。

イ 成年後見人として信託契約が可能か

   民法858条の解釈によると考えます。信託契約が本人のためになるのであれば、家庭裁判所も不可能と回答するときは、その理由を説明する必要があるのではないかと考えます。

ウ 成年後見監督人(民法864条)

   成年後見監督人は、信託契約が本人のためになるのであれば、同意を与えない場合にはその根拠を示す必要があると考えます。

エ 成年後見人が、信託銀行と成年後見制度支援信託契約を締結できる根拠

 成年被後見人のためだと最高裁判所が思っているから、だと考えられます[1]

(2)任意後見人

ア 任意後見人と成年後見人で異なる場合はあるか。

 任意後見人は、本人との任意後見契約によって代理権を与えられています。任意後見監督人が選任されて、初めて代理権を行使することができる所が民法上の委任契約とは違う部分です。任意後見人には代理権が定められており、民法103条の適用はないと考えます。代理行為について迷う場合は、任意後見契約に関する法律6条の解釈によります。

信託契約について具体的な設計が代理権目録に定められていない場合は、任意後見契約に関する法律6条の解釈によります。代理権目録に「不動産、動産及びすべての財産の保存、管理に関する事項」と定められ、「処分」が入っていない場合は、信託契約は財産の処分であり、信託契約の締結は不可能と考えます。

また成年後見人が信託契約を締結するのと比較し、平成19年9月1日以降に締結された任意後見契約については、厳しい解釈をすることになると考えます。

平成19年9月1日以降であれば、本人は信託契約を自ら締結することができました。また任意後見契約締結時に代理権目録に記載することもできました。それらをあえてしなかったのは、本人の意思であり、尊重することが求められると解釈することが出来るからです。

本人のためになるということをより明確に示すことが出来なければ、任意後見監督人の同意を得ることは難しいと考えます(任意後見契約に関する法律7条)。

イ 遺言と信託契約

成年後見人、任意後見人ともに本人の代理で遺言をすることはできません(民法973条、)。成年被後見人が遺言をするには制限があり、本人が遺言をするには、制限はありませんが、後日の紛争に備え成年被後見人と同様の対策をしておく必要があるという考えがあります(民法973条、[2])。

遺言は禁止、制限があることから、信託契約についても制限がかかると考えることが出来るでしょうか。

 遺言との関係で信託契約を観ると、遺言代用信託の場合その効果は遺言に近いものがあります(信託法90条)。

遺言は単独行為であるのに対して、信託契約は契約です。遺言は本人が亡くなった後に効力が発生するのに対し、信託契約は通常、契約締結日から効力が生じます(民法985条、信託法4条)。

 以上、遺言と信託契約はその効力において類似点があります。また信託契約は相手方との合意で成り立つ点、本人の生前に効力が生じる点において相違します。このことから、信託契約は本人の意思を生前から尊重することに加え、相手方(受託者)の意思とも合致することを求められることになり、効果の面で遺言と同じ様な面があっても、当然に制限されるべきではなく、本人の置かれた状況によって利用することが可能な場合もあると考えます。

(3)委託者の成年後見人

ア 追加信託が可能か

 委託者の成年後見人は追加信託が可能でしょうか。信託は、委託者の判断能力の低下や死亡によりストップすることがないように認められた法律であり、法律の趣旨から委託者に成年後見人が就任しても、成年後見人による追加信託は可能となります。

 どの程度可能か、という問題に関しては、成年後見人には成年被後見人の身上監護の事務があるので、その妨げにならない範囲に限られることになります。

イ 信託の変更が可能か

 委託者の成年後見人が信託の変更を行えるとしたら、どのような場合になるのでしょうか。まず、単独で信託の変更を行えるという定めがあったとしたら、信託の目的が変わったり、受託者の負担が急に増えたり、受益者の利益が急に変更になったりするため、この定めは信託法149条4項によっても定めることは出来ないと考えます。仮に変更されても委託者の成年後見人に対して不法行為による損害賠償請求(民法709条)が可能と考えます。またこのような定めがなされても受託者単独で、又は受託者と受益者の合意で信託の変更の定めを変更することになると考えます(信託法149条2項、3項、150条)。

 次に、受託者と合意して信託の変更を行うことが出来るでしょうか。信託法149条2項2号を参考に、信託の目的に反しないこと、受益者の利益に適合することが明らかであるとき、の要件を満たせば成年後見人と受託者の合意で信託の変更はできると考えます。アと同じく成年後見人の身上監護の事務に妨げにならないことも前提要件と考えます。

 受益者と合意して信託の変更をする場合は、受託者の利益を害することが明らかであるときは、変更することができると考えます(信託法149条3項1号)。成年後見人の要件は、ア、イと同様です。

ウ 信託の終了が可能か

 信託法163条1項2号から8号については、委託者の成年後見人が関与することが出来ないので考慮しないこととします。

 信託の目的が達成されたとき、信託の目的を達成することができなくなったときは、信託の終了事由とされています(信託法163条1項1号)。信託目的が客観的に判断できないような場合(例:受益者の安定した生活)、委託者の成年後見人が信託を終了させることは難しいと考えます。

委託者のみで信託の終了を行うことができ、委託者が残余財産の受益者又は残余財産の帰属権利者という定めがある場合は、信託財産の独立性が疑われ、信託とみなされない可能性があります[3]。委託者の成年後見人は、成年被後見人の保護になる場合は、そのことを指摘できると考えます。

 受託者と合意して信託を終了させることが出来るでしょうか。信託目的に反することがなく、受益者の不利益にならなければ、終了することが出来ると考えてもおかしくないようなに思えます。他に信託財産の状況も検討状況に入れて、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件(信託法165条)を準用するという考え方も採ることができます。この場合には、委託者の成年後見人を監督する家庭裁判所に対する説得もしやすいのではないかと考えます。

エ 成年後見人が委託者の推定相続人で、信託行為時における残余財産の帰属権利者の場合は、イ、ウの行為は可能か

 これは、成年後見人が自ら財産を取得するために信託を変更、終了することができるのか、ということです。イ、ウで検討した定めることができない場合、信託とみなされてない可能性がある場合は、エについても同様と考えます。

 成年後見人が残余財産の帰属権利者の場合であっても、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件を準用する場合、信託の変更、信託の終了は可能と考えます。

 成年後見人が残余財産の帰属権利者となるのは、信託行為時であり、その際、成年後見人は誰がなるのか分かりません。家庭裁判所は、必ずしも申立人が推薦する候補者を成年後見人に選任するとは限りません。成年後見人になるのは推定相続人の意思だけでは決めることが出来ないことであり、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件を準用する場合には、ある程度の範囲に限られるかもしれませんが、客観的な要件も満たすことから可能と考えます。

オ 成年後見人は、信託の残余財産の帰属権利者を定めることができるか。

 成年後見人が信託の残余財産の帰属権利者を定めることは、不可能だと考えます。なぜなら残余財産の帰属権利者が定められている時は、それが委託者の意思であり、定められていないときは、信託法により残余財産の帰属権利者が法定されているからです(信託法182条)。

カ 成年後見人は、信託の受益者の変更、受益権の割合の変更が可能か

 成年後見人が、信託の受益者の変更、受益権の割合の変更が可能でしょうか。当初から変更について明確な基準があれば可能と考えます(例:孫が20歳になったら、受益者に加える。子が住宅を購入したら受益権の割合を減らすなど)。

そうでなければ、信託の終了と同じように裁判所へ特別の事情により信託の変更を命ずる申立ての要件を準用することが考えられます(信託法150条)。 

キ 成年後見人は自身を指図権者とすることは可能か

 不可能と考えます。信託行為において委託者が指図権者と定められている場合、委託者は自身の財産に関する権限を一定程度留保したものとして自身の意思が信託に反映されることを考えて信託設定したと推定されます。これを成年後見人が行使することは難しいと考えます。

ク 成年後見人が委託者の推定相続人で、信託契約における残余財産の帰属権利者の場合は、カ、キの行為は可能か

 上記ウと同様の結論になると考えます。

ケ 委託者の推定相続人(成年後見人以外)が信託契約における残余財産の帰属権利者の場合、成年後見人はオ、カの行為は可能か

 上記ウと同様の結論になると考えます。委託者の推定相続人が残余財産の帰属権利者であったとしても、異なることはないのではないかと考えます。

コ 受託者は、委託者の成年後見人と信託報酬について協議することは可能か。

 信託法54条では、委託者は原則として受託者の信託報酬には関わらないので、受益者又は受益者代理人と協議することで足りるのではないかと考えます。

信託行為に、委託者と協議して受託者の信託報酬を定めるという定めがあったとしても、結論は同じだと考えます。

サ 受託者と成年後見人は、「信託報酬は協議して定める」と信託契約を変更することは可能か。

 上記カ、コと同様の結論になると考えます。

(4)(3)で後見監督人が就任している場合、結論は変わりうるか。

 後見監督人の職務に制限はあるか。

(3)において後見監督人が就任している場合、原則として結論は変わりませんが、後見監督人の職務は個々の見解に左右されることもあり、良く言えば画一的ではなく、案件によって方針が変わることもありうるので、結論は変わりうると考えて良いと思われます。

民事信託・家族信託が設定されていたからといって、後見監督人の職務が変わるということは基本的にはありません。なお、後見監督人に信託行為の契約書などを閲覧する権利があると考えた場合、信託設定時に委託者の能力などに疑いがある場合などは信託設定について調査などを行うことが考えられます。

(5)委託者の任意後見人

 任意後見人の場合、ア~サの結論は変わるか。任意後見監督人の職務に制限はあるか。

 任意後見契約締結時の代理権目録に記載がない場合、ア~コの職務を行うことは難しいのではないかと考えます。裁判所への申立てができる事項に関しては、その要件を準用して任意後見監督人の同意を求めていくことになると考えます。

本人のためになるということをより明確に示すことが出来なければ、任意後見監督人の同意を得ることは難しいと考えます(任意後見契約に関する法律7条)。平成19年9月1日以降の任意後見契約については、上記1の(2)の通りです。

3、受益者

(1)受益者と成年後見人

(ア)委託者の場合との違いはあるか

  受益者は受益権を持っています。

(イ)受益者代理人が選任されている場合の成年後見人の権限は、制限されるか。

   原則として制限されないと考えます。管理する財産が分かれているからです。

(ウ)受益者の成年後見人は、追加信託をすることが可能か。

    成年後見人の身上監護の事務に支障がない限り、追加信託をすることが可能であり、必要とされると考えます。

(エ)(ウ)の場合、受益者代理人が就任しているときは結論が変わるか。

   受益者代理人が就任していても、結論は変わらないと考えます。管理している財産が分かれているからです。

(オ)受益者の成年後見人は、後任の受託者を指定することができるか。

    受益者の成年後見人は、後任の受託者を指定することはできないと考えます。成年後見人の事務には財産管理もありますが、信託財産は別扱いとされており、受益者の財産ではないからです。

    受益者の成年後見人は、身上監護の事務に支障が出るようであれば、利害関係人として裁判所に対して新受託者選任の申立てをすることが可能と考えます(信託法62条)。     

(カ)受益者代理人は、(オ)の行為が可能か。

    受益者代理人は、自らが代理する受益者のために、受益者の権利に関する一切の行為をする権限を持っているので、(オ)の受託者を指定することも可能と考えます。

(キ)受益者の成年後見人は受益権の譲渡が可能か。

    受益者の成年後見人が受益権の譲渡を行うことは、不可能だと考えます。受益権は成年後見人が管理する財産ではないからです。成年後見人が身上監護の事務をするために不動産の受益権を譲渡する必要があるのであれば、受託者とともに信託の変更及び受益者代理人を選任し、受益者代理人が受益権の譲渡を行うことが適切な事務だと考えます。    

(ク)受益者代理人は(キ)の行為が可能か。

  受益者代理人が受益権の譲渡を行うことは可能だと考えます(信託法139条)。

(ケ)受益者の成年後見人は、受益者代理人へ就任することが可能か。

  可能と考えます。成年後見人と受益者代理人は、扱う財産が違うからです。適切な人が見つからない場合など、受益者代理人を成年後見人候補者として申立てをせざるをえないケースもあるかもしれません。

 家庭裁判所が、適切な人を見つけることが可能であれば、第3者が成年後見人

に選任されると受益者代理人の負担も重くならずに済むと考えます。

(コ)受益者の成年後見人は、信託の情報開示請求がどこまで可能か。信託行為の受益権の内容に関して、受託者に意見を言うことが可能か。

 受益者の成年後見人は、信託に関して情報開示請求が可能でしょうか。請求することは可能であると考えます。

信託関係者、主に受託者が請求に応じる義務はあるのでしょうか。家庭裁判所で要求されている報告に必要な限りの義務があるのか、別扱いの財産なので義務はないのか、今のところ私には分かりません。

(サ)受託者の信託財産の処分行為に関して、受益者の成年後見人は同意権者となることが可能か。

 信託行為に、受益者の同意が必要である。受益者に成年後見人が就任している場合は、成年後見人が同意賢者となる、というような定めがない限り、受益者の成年後見人が同意権者となることは不可能だと考えます。

(シ)(サ)の場合、受益者代理人が就任しているときでも受益者の成年後見人が同意することは可能か。

 (サ)について定めがある場合でも、受益者代理人が就任しているときは、受益者の成年後見人が同意権者となることは不可能だと考えます。

(ス)受益者の成年後見人は、受託者と合意して信託の変更、信託の終了を行うことが可能か。

  (サ)の結論と同じになると考えます。

(セ)(ス)の場合、受益者代理人が就任している場合に結論は異なるか。

  (シ)の結論と同じになると考えます。

(2)(1)で後見監督人が就任している場合、結論は変わりうるか。

 後見監督人の職務に制限はあるか。

  後見監督人に就任している場合でも結論は変わらないのではないかと考えます。民事信託・家族信託が設定されているからといって後見監督人の職務に制限はないのではないかと考えます。

(3)受益者の任意後見人

(ア)受益者の任意後見人は、受益者代理人に就任することが可能か。

  可能と考えます。任意後見人は任意後見契約により、受益者代理人は信託行為により、扱う財産が異なるからです。

(イ)任意後見人の場合、(1)のア~セの結論は変わりうるか。

  任意後見人の場合、原則として任意後見契約に記載のある事項のみの代理権に限られます。よって、任意後見契約又は信託行為にその旨の記載があれば、結論においては(オ)に関して受託者の指定も可能、(キ)について受益権の譲渡が可能、(シ)については、受益者代理人と同順位で受益権の譲渡が可能になると考えます。

(ウ)任意後見監督人の職務に制限はあるか。

 任意後見契約、信託契約に明確な定めがない行為に対して任意後見人が迷う事務について同意の相談を受けた場合、信託目的や、裁判所へ申立てができる行為に関してはその要件に準じて同意の判断を行うことになると考えます。

4、信託制度と成年後見制度

(1) 受託者と成年後見人の意見が対立した場合の優先順位

 成年後見人は、身上監護の事務に関し支障がない限りは、受託者の意見を尊重する必要があると考えます。信託財産に関しては、信託行為によって受託者に託されており、原則として意見は対立する関係にないと考えます。従って優先順位の関係にもないと考えます。

(2) 受託者と任意後見人の意見が対立した場合の、任意後見契約に関する法律10条の準用の可否

  弁護士遠藤英嗣先生の問題提起であり、どういう趣旨なのか、誤って理解しているかもしれませんが、法律10条の請求(法定後見への変更)は利用可能だと考えます。

家庭裁判所の変更請求に対する判断基準は、本人の利益のためというよりは現状では不利益になることが明らかである場合に限られるのではないかと考えます。

遠藤弁護士の準用の趣旨が、信託の終了・変更請求を指すのであれば、それは信託法150条、166条によって請求することが妥当だと考えます。

(3) 受益者代理人と成年後見人の意見の対立

 上記(1)と同様の考え方、結論になると考えます。

4 受益者代理人と任意後見人の意見の対立

 上記(2)と同様の考え方、結論になると考えます。

5 信託行為に優劣を定めることが可能か。

 信託行為に優劣を定めることは契約自由の原則からして可能だと考えますが、個々の事案において、成年後見人、受託者が権利義務を果たすために優劣が空振りになることもあると考えます。

6受益者の任意後見人が、受託者を兼務することは可能か。

 受益者の任意後見人は、受益者の身上監護を主として仕事をします。受託者は主として受益者の財産管理の仕事をします。受益者に任意後見人が就任しているということは、受益者の判断能力が衰えていることが考えられます。その場合、受託者の監督を行う者がいないので、任意後見人としては、受益者代理人が就任してから受託者を兼務することは差し支えないと考えます。

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参考

(権限の定めのない代理人の権限)

民法103条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。

1 保存行為

2 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)

民法858条   成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

(本人の意思の尊重等)

任意後見契約に関する法律6条  任意後見人は、第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。


[1] 詳細な検討は、小林徹「家族信託と成年後見制度」新井誠ほか編著『民事信託の理論と実務』2016 日本加除出版 P31~

[2] (公社)成年後見センター・リーガルサポート『任意後見実務マニュアル』2007 新日本法規 P210

[3] 道垣内弘人『信託法』P409

家族信託で信託登記は義務か。

 家族信託・民事信託をするとき、不動産(農地を除きます。)がある場合は、登記が義務でしょうか。

信託契約を結び、委託者と受託者が所有権移転登記の申請をします。同時に受託者が1人で信託登記を申請するとします。

 登記の効果は、

1、所有権の名義は受託者になっているけれど、これは信託財産ですよと他の人に証明できること

2、登記をすることによって信託財産の独立性を保ち、信託を機能させること

3、登記をみると分別して管理がされていることが公表されており、受託者、受益者に自覚を持ってもらうことです(信託法14条、34条)。

 受託者として信託登記をすることは、法律で義務とされています所有権移転登記は義務でしょうか。信託法に義務とは書かれていません。

信託設定の流れからみると、委託者から所有権が移転して信託財産になる、という一連の流れ、または所有権の移転と同時に信託財産になる、と行為は1つだという感覚があります。

登記が「所有権信託登記」のように1つに出来れば良いのでしょうが、それが現在の技術上出来ないので、所有権移転の登記+信託の登記の2つになっているのだと考えます(不動産登記法98条)。

現に自己信託だと登記は1つで足ります。

以上から、信託の登記が義務付けられているので、その前提となる所有権移転登記も義務だと考えることができます。

義務だとしてもいつまでに、という期限はあるのでしょうか。法律に期限は書いてありません。例えば登記に必要な登録免許税が用意できないので、登録免許税が貯まってから登記する、ということは出来るでしょうか。

信託される金銭が登録免許税よりも多い場合には、登記の留保を認めることは難しいのではないかと考えられます。

そして信託される金銭が登録免許税よりも少ない場合の他、一般的にも登記の留保を認めるのは難しいのではないかと考えます。信託財産が独立していてこそ信託といえるからです。不動産については、登録免許税がもったいなければ、立て看板などで信託不動産です、と分けることも認められると良いのですが、現在のところ不動産については登記をしろ、となっています。

また、あえて信託登記をしないで、それぞれの不動産について、売却等の必要が生じたタイミングで所有権移転の登記+信託の登記をして、あるいは信託契約を合意解除して信託の登記を経ずに売却する[1]という考えはどうでしょうか。委託者であり最初の受益者の人が、認知症になったら登記をして受託者が売却する、というような信託です。

そうであれば、信託契約の中で、売却等の必要が生じたタイミングで信託自体の効力を発生させることにすれば良いと考えます。

また認知症になったら、などの停止条件を付けると法人税課税になるので、売却の日程まで決まってから始期付きの信託契約を締結する、という方法もあると考えます。


[1] 宮田浩志『家族信託まるわかり読本』2017近代セールス社 P128~

成年被後見人等になると、借入行為などができないのか

 

成年被後見人等になると、借入行為、借入れの更新・契約変更等ができないのでしょうか。
民事信託・家族信託をする理由として、挙げられることが多いようです 。

私が書くのであれば、成年後見開始の審判が下りると、原則として借入行為などは家庭裁判所の承認が必要です、となります。
また、居住用不動産に関しては家庭裁判所の許可、親族が関わっていると特別代理人の選任申立が必要となり、時間と手間がかかります。

また、成年後見制度の実務は遺言をないがしろにし、本来の制度理念からかけ離れた使い方が始まっているとの指摘もあります 。
 しかし、法定の成年後見人が就任して、遺言を見つけた、見つけられる状態にあったのに、それを無視して遺言と異なる事務行為をしたのが何件あったのか、については記載がありません。
 本来の制度理念からかけ離れた使い方が始まっているということに関しても、それは何件ほどあるのか、いつ頃から始まっているのか、許容範囲か、許容できないとすればどの程度か、後見制度支援信託の導入以外に何か対応はしたのか、その結果で改善は出来たのか、さらに別の方法で改善が必要なのか、ということには触れられていません。
 家族信託・民事信託でも同じですが、どの制度でも完璧はありません。どの程度のリスクを考えて運用していくことかを考えるのが専門家だと思います。そして与えられている条件を使って、失敗しながらも致命傷となる失敗を避けるべく実務をこなしていくのが実務家だと考えます。

そして私が違和感を覚えるのは、著者が成年後見人に1度でも就任したことがないのではないかということです。それでかわいそうなくらい頑張っている人もいるのに(私の近くにいます。)、一括りにして上から目線で批判するのがどうなものだろうと思ってしまいます。

検察、公証人出身の弁護士ということで、司法書士などから信頼が厚いのではないかと思いますが、肩書に関係なく1年半の間に3冊も同じ題名の本を出版したり、遺言信託が信託の本質だと言っていたのが、2~3年で信託契約が本当の信託だと言ったりころころ変わるなというのが印象です。

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琉球新報かふうVoil.611 よくわかる不動産相続Q&AFile.5

 

1、相談者は会社を定年退職して、10年。
2、妻は他界し、長男の一郎家族と一緒に暮らしている。
3、子は、一郎の他に、次男の次郎、三男の三郎がいる。
4、財産は、住宅ローン完済済みの自宅である土地、建物(時価3000万円)
と1500万円の預金
5、相談者の意思は、長男の一郎にはトートーメと仏壇を継いでもらうために自宅をあげようと考えている。
6、次郎は三郎が、何か言ってくることはないと思うのですが、円満に一郎に自宅を譲るにはどのようにしたらいいか。

何もしなかった場合
一郎、次郎、三郎の3人が相続人。
相続分は3分の1ずつ。
一郎が自宅を取得するには、預金を含めて遺産分割協議が必要。
遺産分割協議がまとまらない場合は、自宅は共有の可能性。または、少しお金を払って納得してもらう。
仏壇は?


公正証書遺言を作る前に
(1)実際に遺言書を作成する人は多いか
縁起が悪い、子供たちがちゃんとやってくれる、実際に作ったとしても他の人には言わない、などがありあまり多くもなく、広まりにくいのではないかと思います。
(2)遺言書を作成するタイミング
 作れる時、作りたい時、だと考えます。自筆証書遺言でも良いと思います。変更、撤回可能ですし、認知症などになると作成することが出来なくなります。

公正証書遺言を作成した場合
自宅は一郎に
預金は次郎と三郎で均等に

家族信託・民事信託を利用した場合
信託する財産 自宅、預金、仏壇
受託者 一郎
受益者 相談者
次の受益者 自宅と仏壇に関しては一郎、残った預金は次郎と三郎に均等に

公正証書遺言と違うところ
仏壇を継ぐ人を法的に決めることができる。
自宅のリフォームが必要になった場合、相談者が認知症などであっても、一郎が契約することができる。

アパートの所有権と、その賃貸人たる地位を分離して相続

子ども2人の夫婦で、夫が亡くなり将来は子ども2人へ適切に引き継いでもらいたい、配偶者が元気なうちは、生活に必要な分を確保したい、というような事例です。

アパートに関して、アパートの所有権と、賃貸人の地位を分離して相続することを検討しても良い、二次相続を考慮すると節税にもつながると思われます、というような考えがあって、初めて知りました。たしかに不動産の所有権と、賃貸借契約の賃貸人の地位は別に考えることができます。

この場合、固定資産税などの支払いは所有者である子ども(2人か1人)が行い、修繕、賃料の受取り、ローン返済を配偶者が行うことになるのかなと思いました。
配偶者が亡くなったときは、賃貸人の地位とローンが残っている場合は、債務者の地位を子どもが話し合いで決める、ということになるのでしょうか。


家族信託をもし使うのであれば、配偶者が亡くなった場合でも相続税がかからないように(この場合だと約4200万円)遺産分割協議をします。

その後、子の1人を受託者にして、配偶者を委託者&最初の受益者にする信託契約を締結します。信託する財産には自宅も含めることができます。残っているローンは、信託することができません。
子2人がアパートの共有持ち分を持っている場合は、それを信託するかはケースによります。
配偶者の生活費は、アパートの持分に応じた賃料から、金融機関から連帯債務が認められれば、持分に応じた債務返済分と修繕引当金を差し引いた額を充てます。
配偶者が亡くなった場合は、子2人で残った財産と債務を分けます。分けたあと、信託を終了するということができます。


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参考
かふうVol.604
「よくわかる不動産相続Q&A」

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