受益権の放棄に制限を付けることができるか。

例えば、信託契約書にこのような定めがあった場合

受益者は、受託者の書面による承諾を得た場合に限り、その受益権の分割、放棄、譲渡その他の担保設定を行うことができる。

受益権は、受益債権+受益者としての地位です。

委託者が、最初の受益者となる場合、その受益者は信託法に基づいて受益権を放棄することが出来ません。委託者は信託行為の当事者で、自らの意思で受益者になったからです。

委託者、受託者以外の人が受益者として指定された場合、受益権の放棄は自由です。

この場合の受益者は、自分で進んで受益権を取得したわけではないので、もらう権利もあれば、もらわない権利もあります。

ただし、信託法に基づく受益権の放棄は、さかのぼって効力を発生させる、最初からなかったことになるので、受益権が放棄されて困る人がいる場合は、受益権の放棄は出来ません。困る人がいる場合というと受益者として受益権に担保を設定した後、受益権を放棄すると、担保設定者は困るので出来ません。

それでも放棄した場合、詐害行為取消しの対象になるかは、見解が分かれています。

ということで、受益権の放棄に、「受託者の書面による承諾を得た場合に限り」などの制限を付けることはできません。

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参考

寺本昌広「逐条解説 新しい信託法」

能見善久他「信託法セミナー3」

民事信託・家族信託契約をするときに、委託者の能力はどのくらい必要か。

委託者が3つの認識ができること必要です。

1、信託する財産がどれか、特定されている。

2、信託すると、信託した財産の所有者ではなくなるが、所有者とほぼ同じ権利持ち、その権利が侵されたときの救済を求めることが出来る。

3、信託すると、信託した財産は受託者が、受託者自身の財産とは別扱いで管理する。

民法上

権利能力

 生まれたときから持っている、とされる権利です(民法3条)。

行為能力

意思能力が取引成立の前提であるとすれば、行為能力は、その取引が自身にどのような意味を持つのか、土地を1億円で売ると決めたが、相手が値下げして欲しいと言ってきた場合、100万円値下げすると決めるか、これからもっと土地の値段は上がるかもしれない、下がるかもしれない、自身にとって値下げは有利か、不利か、といったことをある程度判断する能力。プロでも100%正確な判断は出来ないと思いますので、ある程度、です(民法7条など)。

また、社会状況によって行為能力が衰えた人を保護するための法律や判例も変わってきます。(高齢化社会、多様な取引形態、本人の自己決定権の尊重と保護のバランスなど)。

行為能力の有無や衰えの程度は、法定後見等の開始の審判がされる基準になります。事理を弁識する能力(民法7条等)は、行為能力のことを指しているといえます。

契約書に住所と名前を書くように、権利能力+行為能力+住所で契約をすることが出来ると考えることができます。

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その他、色々な名前の能力

意思能力

 この本を2,000円で買おう、この土地を1億円で売ろう、などの意思を表示することができる知識と能力。本を買う、という取引と土地を売るという取引では、土地を売るという取引の方がより高い意思能力が必要とされます。考えることが多いからです。この土地は売った方が良いのか、貸した方が良いのか、いくらなら買い手がつくか、仲介業者はどこにしようか、売った後の税金はいくらか、など。

1、意思能力があるとはいえない事例

2歳の幼児がジュースを飲みたい、お菓子を食べたいという意思表示。

→ジュースを100円で買おう、お菓子をお母さんから貰おうという意思の表示が必要。

2、意思能力がなかった場合の効果

意思能力を欠く人の意思表示は、明治時代から無効のようです(大判明治38年5月11日)。

任意後見契約を締結するとき

判断能力が必要とされています。

ここでいう判断能力とは、自身の判断能力が衰えたときに行われる後見事務の内容を認識していること、後見事務を行う任意後見人を自らの意思で決めることだといえます。

公正証書遺言を作成するとき

15歳になると、遺言を作成することができます。

また遺言者は、遺言を作成するときにおいて、遺言能力を持つことが必要とされています。遺言能力とは、意思能力のことを指します。

金融機関との取引

預金

複数の行職員による、意思能力と行為能力の確認。

本人から自署・捺印を受け、同居の家族や医師の確認をとったり、推定相続人の同意をとる。

借入れ

預金と同様の確認。

借入れの必要性の検討

返済

記述なし。

意思能力がなくても金融機関は、返済を受け続けることは出来るのでしょうか。よく分かりませんでした。

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参考

信託法1条、34条

一般社団法人金融財政事情研究会編著「CSのための金融実務必携」(株)きんざい P52-P55、P122-P126

新井誠他編「信託法制の展望」(株)日本評論社 P21-P30

任意後見契約に関する法律第2条

(社)成年後見センター・リーガルサポート「任意後見実務マニュアル

Q&Aと契約条項例」新日本法規出版(株)P14-P15

東京地判平成17年9月29日

民法961条、963条

内田貴「民法4」(財)東京大学出版会 P471-P473、「民法1」P91-P121

信託の終了事由

条文の読み方、間違っていました。

司法書士谷口毅先生の研修資料に、ご自身が作成された信託契約書を研修用にみせていただきました。

(信託の終了)の条項に、「ただし、信託法164条1項は適用しない」の記載がありました。

最初はこの記載はなくても良いだろう、と考えていました。信託行為によって別のことを定めることで、回避できると理解していたからです。

谷口先生も契約書に、信託が終了する別のことを記載していました。

あとで条文を読んでみると、

信託行為に他の終了の方法を定めたら、「その定めるところによる」とあって、「除く(他の終了方法は無くなる)」とはなっていません。

立法担当者解説も、信託行為によって、他の終了方法を排除することも「選択できる」、というような記載があります。

ということで、私の条文読み間違い。

「ただし、信託法164条1項は適用しない」は信託行為に記載した方がよい条項です。理由は現在の税制だと、委託者と最初の受益者は同じ人が多いので、実質1人で信託を終了することが出来るからです。

金融機関など、第3者との関係でも必要だと考えられます。

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参考

(委託者及び受益者の合意等による信託の終了)

第百六十四条   委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。

2   委託者及び受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは、委託者及び受益者は、受託者の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

3   前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4   委託者が現に存しない場合には、第一項及び第二項の規定は、適用しない。

・寺本昌弘『逐条解説 新しい信託法』商事法務 P366

(株)沖縄銀行の民事信託研修

 


(株)沖縄銀行は、銀行主催により(一社)民事信託協会のセミナーで勉強中のようです。(一社)民事信託協会の代表は、福岡の島田司法書士。

2016年セミナーがある前、私が、民事信託・家族信託を(株)沖縄銀行に提案しに行きました。スレンチボードA1版に説明図を貼って、契約書を貼って。対応してくださった行員には、信託の説明をしながら、「民事信託・家族信託契約の標準化を日本で一番早く沖縄でやりたいです。」と伝えました。
行員さんは、「紙の資料なら頂きたいです。」とおっしゃったので、帰ってから紙の資料をレターパック一杯にして送りました。


その後は何も連絡ありません。
福岡から呼んで勉強しようとしていたのですね。沖縄では他の司法書士もやっていると思いますが、大都市とか大きな法人に弱い、というか好きですね。やっぱり。

講師の報酬は、銀行が出して、そのお金はどこから来ているんだろうと思います。

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出典:(一社)民事信託協会HP 2017年5月6日閲覧

2016/08/02 「家族信託・民事信託を活用した融資マーケットの創出」

主催:沖縄銀行 本部 行員様約30名
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かふうvol.603 定期借家契約

 

成立要件
定期借家契約と従来型の借家契約との比較


1.契約方法



定期借家契約
(1) 公正証書等の書面による契約に限る

(2)さらに、「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを契約書とは別に、あらかじめ書面を交付して説明しなければならない

備考:
賃貸人の仲介をしている宅地建物取引業者が、「重要事項説明」として、「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」と同様の説明を行った場合は、賃貸人から賃借人への説明が行われたことになるか。

「重要事項説明」は 仲介者としての宅地建物取引業者が行うものですが、これに対して、「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」は賃貸人自らが行うものですので、それぞれ説明すべき方が異なります。したがって、「重要事項説明」を行っただけでは、「定期借家契約を結ぶ前に書面 を交付して行う説明」をしたことにはなりません。
なお、仲介者が賃貸人の代理人として「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」をする権限を有する場合でも、宅地建物取引業者として行う「重要事項説明」とは説明すべき方が異なることに変わりはありませんから、仲介者は、それぞれの立場で、それぞれの説明を行う必要があります。

従来型の借家契約
書面でも口頭でも可


2.更新の有無
定期借家契約
期間満了により終了し、更新はない


従来型の借家契約
正当事由がない限り更新

3.建物の賃貸借期間の上限

定期借家契約
無制限

従来型の借家契約
2000年3月1日より前の契約・・・20年
2000年3月1日以降の契約・・・無制限

4.期間を1年未満とする建物賃貸借の効力

定期借家契約
1年未満の契約も可能


従来型の借家契約
期間の定めのない賃貸借とみなされる


終了要件
定期建物賃貸借契約においては、契約期間が1年以上の場合は、貸主は期間満了
の1年前から6か月前までの間(「通知期間」といわれています。)に、借り主に契約が終了することを通知する必要があります。

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定期借地契約の更新に備えた民事信託・家族信託の活用

貸主が高齢の際、数年後に定期借地契約の再契約を控える場合に。

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参考

・かふうvol.603「Q&A不動産相談所」
・国土交通省HP

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