信託財産の債務

Q:信託財産の債務は相続時の控除になりますか?

この質問は、不動産会社・お客様からもよく聞かれます。

A:原則として、債務控除の対象です。
 例外はありますのでご注意を。

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土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて 別紙|信託関係 個別通達目次|国税庁

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昭和61年7月9日

(共通)

4-1 個人(相続税法(昭和25年法律第73号)第66条((人格のない社団又は財団等に対する課税))の規定により個人とみなされる人格のない社団等を含む。以下同じ。)が相続、遺贈(死因贈与を含む。以下同じ。)又は贈与(死因贈与を除く。以下同じ。)により信託受益権を取得した場合(相続税法の規定により遺贈又は贈与により取得したものとみなされる場合を含む。以下同じ。)には、当該個人が当該信託受益権の取得をした時において、当該信託受益権の目的となっている信託財産の各構成物を取得したものとして相続税又は贈与税の課税価格等の計算をする。
 この場合において、取得した信託受益権が割合をもって表示されているものであるときは、当該個人は、当該信託受益権の目的となっている信託財産の各構成物につき当該信託受益権の割合に相当する部分の取得をしたものとする。

(信託財産に帰属する債務がある場合)

4-2 信託受益権を相続税法第13条第1項((債務控除))に規定する相続又は遺贈により取得した場合において、当該信託受益権の目的となっている信託財産に帰属する債務があるときは、当該債務は、当該信託受益権を取得した者の相続税の課税価格の計算上、同項第1号又は第2項に掲げる債務に該当するものとして同法第13条及び第14条((控除すべき債務))の規定を適用するのであるが、この場合における相続税の課税価格の計算上控除すべき債務の範囲については、次の

(1)  信託財産に帰属する債務とは、その信託財産の取得、管理、運用又は処分に関して受託者が負担した債務(公租公課を含む。)及び受益者が支払うべき信託報酬(同法第13条第2項に該当する者が信託受益権を取得した場合にあっては、同項第1号から第3号までに掲げるものに限る。)をいうこと。

(2)  信託財産に帰属する債務が同法第14条第1項の「確実と認められるもの」であるかどうかは、その信託受益権を相続又は遺贈により取得した時の現況によって判定すること。

(3)  取得した信託受益権が割合をもって表示されているものであるときは、控除すべき債務は、当該信託受益権の目的となっている信託財産に帰属する債務のうち当該信託受益権の割合に相当する部分に限られること。

平成19年6月22日

「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」及び「信託受益権が分割される土地信託に関する所得税、法人税、消費税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」の廃止について(法令解釈通達)

 昭和61年7月9日付直審5-6ほか4課共同「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(法令解釈通達)

及び平成10年3月13日付課審5-1ほか5課共同「信託受益権が分割される土地信託に関する所得税、法人税、消費税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(法令解釈通達)を、

信託法(平成18年法律第108号)の施行の日をもって廃止する。


 なお、所得税法等の一部を改正する法律(平成19年法律第6号)の附則の規定により、旧制度が適用されるものについては、なお従前の例による。

(趣旨)
 所得税法等の一部を改正する法律、所得税法施行令の一部を改正する政令(平成19年政令第82号)等及び所得税法施行規則の一部を改正する省令(平成19年財務省令第12号)等により、信託法の制定に伴う信託税制が整備されたため、既往の通達を廃止するものである。

所得税法

最終改正:平成二八年一一月二八日法律第八九号

(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)

第十三条  信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する。ただし、集団投資信託、退職年金等信託又は法人課税信託の信託財産に属する資産及び負債並びに当該信託財産に帰せられる収益及び費用については、この限りでない。

 信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として政令で定めるものを除く。)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)は、前項に規定する受益者とみなして、同項の規定を適用する。

 第一項において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 集団投資信託 合同運用信託、投資信託(法人税法第二条第二十九号 ロ(定義)に掲げる信託に限る。)及び特定受益証券発行信託をいう。

 退職年金等信託 法人税法第八十四条第一項 (退職年金等積立金の額の計算)に規定する確定給付年金資産管理運用契約、確定給付年金基金資産運用契約、確定拠出年金資産管理契約、勤労者財産形成給付契約若しくは勤労者財産形成基金給付契約、国民年金基金若しくは国民年金基金連合会の締結した国民年金法第百二十八条第三項 (基金の業務)若しくは第百三十七条の十五第四項 (連合会の業務)に規定する契約又はこれらに類する退職年金に関する契約で政令で定めるものに係る信託をいう。

 受益者が二以上ある場合における第一項の規定の適用、第二項に規定する信託財産の給付を受けることとされている者に該当するかどうかの判定その他第一項及び第二項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

所得税法施行令

最終改正:平成二八年一一月二八日政令第三六〇号

第三章 所得の帰属に関する通則

(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)

第五十二条  法第十三条第二項 (信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)に規定する政令で定める権限は、信託の目的に反しないことが明らかである場合に限り信託の変更をすることができる権限とする。

 法第十三条第二項 に規定する信託の変更をする権限には、他の者との合意により信託の変更をすることができる権限を含むものとする。

 停止条件が付された信託財産の給付を受ける権利を有する者は、法第十三条第二項 に規定する信託財産の給付を受けることとされている者に該当するものとする。

 法第十三条第一項 に規定する受益者(同条第二項 の規定により同条第一項 に規定する受益者とみなされる者を含む。以下この項において同じ。)が二以上ある場合における同条第一項 の規定の適用については、同項 の信託の信託財産に属する資産及び負債の全部をそれぞれの受益者がその有する権利の内容に応じて有するものとし、当該信託財産に帰せられる収益及び費用の全部がそれぞれの受益者にその有する権利の内容に応じて帰せられるものとする。

 法第十三条第三項第二号 に規定する退職年金に関する契約で政令で定めるものは、次に掲げる契約とする。

 法人税法施行令第百五十六条の二第十号 (用語の意義)に規定する厚生年金基金契約

 国家公務員共済組合法第二十一条第二項第二号 (設立及び業務)に掲げる業務に係る国家公務員共済組合法施行令 (昭和三十三年政令第二百七号)第九条の四第一号 (厚生年金保険給付積立金等及び退職等年金給付積立金等の管理及び運用に関する契約)に掲げる契約

 地方公務員等共済組合法第三条の二第一項第三号 (組合の業務)に規定する退職等年金給付組合積立金の積立ての業務に係る地方公務員等共済組合法施行令 (昭和三十七年政令第三百五十二号)第十六条の三第一号 (資金の運用に関する契約)(同令第二十条 (準用規定)において準用する場合を含む。)に掲げる契約

 地方公務員等共済組合法第三十八条の二第二項第四号 (地方公務員共済組合連合会)に規定する退職等年金給付調整積立金の管理及び運用に関する事務に係る業務に係る地方公務員等共済組合法施行令第二十一条の三 (準用規定)において準用する同令第十六条の三第一号 に掲げる契約

 日本私立学校振興・共済事業団法 (平成九年法律第四十八号)第二十三条第一項第八号 (業務)に掲げる業務に係る信託の契約

相続税法

最終改正:平成二八年三月三一日法律第一五号

(債務控除)

第十三条  相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。

 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)

 被相続人に係る葬式費用

 相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条の三第一項第三号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものについては、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。

 その財産に係る公租公課

 その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務

 前二号に掲げる債務を除くほか、その財産の取得、維持又は管理のために生じた債務

 その財産に関する贈与の義務

 前各号に掲げる債務を除くほか、被相続人が死亡の際この法律の施行地に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の債務

 前条第一項第二号又は第三号に掲げる財産の取得、維持又は管理のために生じた債務の金額は、前二項の規定による控除金額に算入しない。ただし、同条第二項の規定により同号に掲げる財産の価額を課税価格に算入した場合においては、この限りでない。

第十四条  前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る。

 前条の規定によりその金額を控除すべき公租公課の金額は、被相続人の死亡の際債務の確定しているものの金額のほか、被相続人に係る所得税、相続税、贈与税、地価税、再評価税、登録免許税、自動車重量税、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、航空機燃料税、石油石炭税及び印紙税その他の公租公課の額で政令で定めるものを含むものとする。

 前項の債務の確定している公租公課の金額には、被相続人が、所得税法第百三十七条の二第一項 (国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)(同条第二項 の規定により適用する場合を含む。第三十二条第一項第九号イにおいて同じ。)の規定の適用を受けていた場合における同法第百三十七条の二第一項 に規定する納税猶予分の所得税額並びに同法第百三十七条の三第一項 及び第二項 (贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)(これらの規定を同条第三項 の規定により適用する場合を含む。)の規定の適用を受けていた場合における同条第四項 に規定する納税猶予分の所得税額を含まない。ただし、同法第百三十七条の二第十三項 の規定により当該被相続人の納付の義務を承継した当該被相続人の相続人(包括受遺者を含む。以下この項及び同号において同じ。)が納付することとなつた同条第一項 に規定する納税猶予分の所得税額及び当該納税猶予分の所得税額に係る利子税の額(当該納税猶予分の所得税額に係る所得税の同法第百二十八条 (確定申告による納付)又は第百二十九条 (死亡の場合の確定申告による納付)の規定による納付の期限の翌日から当該被相続人の死亡の日までの間に係るものに限る。)並びに同法第百三十七条の三第十五項 の規定により当該被相続人の納付の義務を承継した当該被相続人の相続人が納付することとなつた同条第四項 に規定する納税猶予分の所得税額及び当該納税猶予分の所得税額に係る利子税の額(当該納税猶予分の所得税額に係る所得税の同法第二編第五章第二節第三款 (納付)の規定による納付の期限の翌日から当該被相続人の死亡の日までの間に係るものに限る。)については、この限りでない。

お金を追加で信託するのは、委託者だけの権利か

家族信託を始めたあと、追加で別の通帳からお金を引き出して信託したい、と思った場合。

契約書には、どのように定めておけば良いのでしょうか。

委託者しか追加でお金を信託できないと考えた場合(「家族信託まるわかり読本」P132~P133)

・委託者の地位は相続により承継せず、受益者の地位と共に移動するものとする。

というように定めるようです。

信託銀行の実務などでよく利用されているようです(「信託法セミナー3」P264)。

 信託法に委託者だけが追加信託できるとは書いていないので、受益者が追加信託できるようにする場合

・受益者により追加信託された財産

というように私は定めます。そして委託者の地位は、ケース毎に

1、亡くなると共に消滅

2、権利を少なくする

3、受益者の地位と共に移動する

などと定めます。

(株)琉球銀行のリバースモーゲージ「ゆうゆう人生60」と自己信託の比較

(株)琉球銀行のリバースモーゲージ

契約

1(株)琉球銀行と融資契約を締結。融資額の上限の設定。

2(株)琉球銀行と、自宅の土地・建物に担保権(根抵当権)を設定する契約を締結、登記。

3(株)朝日信託とリバースモーゲージ信託契約の締結。

契約後

4 必要に応じて借入れ

終了方法

5 生前に手元資金や自宅の売却で返済したとき

ご自身が亡くなった後に自宅を売却

自己信託

契約

1、ご自身で自己信託を設定。

契約内容

信託財産・・・自宅の土地建物

信託財産責任負担債務・・・将来の借入れ債務

当初受益者・・・貸主(金融機関)

残余財産の帰属権利者(借主)

 後任受託者・・・家族

2、ご自身で信託登記

契約後

3、・必要に応じて借入れ。

終了方法

4 生前に手元資金や自宅の売却で返済したとき。

ご自身が亡くなった後に自宅を売却。

  ご自身が亡くなった後に、引き続き自宅に住む家族が借入れを返済してい

  く。

参考

・新井誠、大垣尚司「民事信託の理論と実務」2016  日本加徐出版(株)

・(株)琉球銀行HP(2017年3月29日閲覧)

自己信託設定公正証書

(目的)

第○条 本信託は、第○条記載の財産を信託財産として受益者の保護を図り、もって自らとその家族の生活の安定に資することを目的とする。

(信託財産)

第○条

1 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。

(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)

(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)

(3) 受益者から追加信託を受けた財産

(4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)

第〇条 自己信託を設定する者の住所及び氏名は、次のとおりである。

 住所                       

 氏名 甲

(後任受託者)

第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。

住所                     

氏名 A(甲の連帯保証人である相続人など)

生年月日

(信託財産責任負担債務)

第○条 本信託における信託財産責任負担債務は、次のとおりとする。

(1) 甲が受益者から借り入れる金銭債務

(信託不動産の管理方法)

第○条 

1 受託者は、信託不動産に関し所有権の権利の変更登記と信託登記の申請を行う。

2 受託者は、信託財産責任負担債務の返済をするために、信託不動産を処分することができる。

(信託金銭の管理方法)

第○条 受託者は、信託金銭について、信託に必要な表示または記録等を行い、受託者個人の財産と分けて性質を変えずに管理する。

(計算期間)

第○条 この信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は契約をした日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(信託財産に関する報告)

第○条 受託者は、計算期間に行った計算を、受益者へ報告する。

(受益者)

第〇条 本信託の受益者は、次の者とする。

本店                    

商号○○銀行        

取扱店                   

(受益権)

第○条 受益者は、信託財産から発生した利益その他の信託財産から発生する経済的利益を受けることができる。

(信託の変更)

第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)

第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)

第○条 本信託は、受託者が亡くなったときに終了する。

(清算受託者)

第○条 この信託が終了したときの受託者は、引き続き清算の事務を行う。

(残余財産の引渡し方法)

第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の帰属権利者)

第○条 

1 本信託における残余財産の帰属権利者は、甲とする。

2 甲が亡くなっていたときはAとする。

(契約に定めのない事項)

第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。

別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産

(1)土地

所在      

地番      

地目      

地積

(2)建物      

所在 

家屋番号 

種類 

構造 

床面積㎡

第2 信託金銭 

金○○万円

以上

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

出典:株 式 会 社 琉 球 銀 行HP2017年5月11日閲覧

(株)琉球銀行のリバースモーゲージは利用しやすくなったようです。

主な変更点

1、契約時の手数料が一律10万円

2、対象物件に賃貸併用住宅を含める

平成14年1月17日  最高裁判所第一小法廷 判決

平成12(受)1671  預金払戻等請求事件
平成14年1月17日  最高裁判所第一小法廷 判決  棄却  名古屋高等裁判所

・信託契約ではなく、請負契約と保証契約が締結された。

・前払い金は、請負契約専用の口座に振り込まれ、請け負った工事の費用以外を目的として引き落して使うことはできない。

・保証契約を締結した保証事業会社は、相手の請負工事を行う建設会社を監督する権利を持っている。

・工事の途中で建設会社は、破産手続きに入った。

・裁判所は、請負契約専用の口座に入っているお金は、建設会社の財産ではなく、信託財産だと判断した。

私見です。

なぜ、信託契約を認めることができるのか。他の方法はないのか。

私見です。

分別管理されている。(現信託法14条、34条)

目的が特定されている。(現信託2条本文)

制度上、受託者が自由に払い出しをすることができない。

(信託法2条3号、26条、27条、本事案では保証事業法による前払金保証約款)

(出典:最高裁判所HP、2017年4月9日閲覧)

平成12(受)1671  預金払戻等請求事件
平成14年1月17日  最高裁判所第一小法廷  判決  棄却  名古屋高等裁判所

 主    文

      本件上告を棄却する。                    

      上告費用は上告人の負担とする。

         理    由

 上告人の上告受理申立て理由第二について

 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 地方公共団体は,その発注する土木建築に関する工事について,公共工

事の前払金保証事業に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの。

以下「保証事業法」という。)5条の規定に基づき建設大臣の登録を受けた保証事

業会社により前払金の保証がされた場合には,請負者に対し,その工事に要する経

費につき前金払をすることができるとされているところ(地方自治法232条の5

第2項,同法施行令附則7条),愛知県公共工事請負契約約款によれば,前払金の

額は請負代金の10分の4の範囲内とし,前払金の支払を請求するためには,あら

かじめ保証事業法2条5項に規定する保証契約を締結し,その保証証書を発注者に

寄託しなければならず,請負者は前払金を当該工事の必要経費以外に支出してはな

らないとされていた。 

 (2) A建設株式会社(以下「A建設」という。)は,平成10年3月27日

,愛知県との間で,愛知県公共工事請負契約約款に基づき,平成9年度国庫債務負

担行為・水源森林総合整備事業第2号工事に関する請負契約(以下「本件請負契約」

という。)を締結した。

 (3) A建設は,平成10年4月2日,建設大臣の登録を受けて前払金保証事

業を営む被上告人B1建設業保証株式会社(以下「被上告人保証会社」という。)

との間で,保証事業法及びB1建設業保証株式会社前払金保証約款(以下「本件保

証約款」という。)に基づき,愛知県のために,本件請負契約がA建設の責めに帰

すべき事由によって解除された場合にA建設が愛知県に対して負担する前払金から

工事の既済部分に対する代価に相当する額を控除した額の返還債務について,被上

告人保証会社が保証する旨の契約(以下「本件保証契約」という。)を締結した。

 本件保証約款によれば,①請負者は,前払金を受領したときは,これを被上告人

保証会社があらかじめ業務委託契約を締結している金融機関の中から請負者が選定

した金融機関に,別口普通預金として預け入れなければならない,②請負者は,前

払金を保証申込書に記載した目的に従い,適正に使用する責めを負い,預託金融機

関に適正な使途に関する資料を提出して,その確認を受けなければ,別口普通預金

の払出しを受けることができない,③被上告人保証会社は,前払金の使途を監査す

るために,請負契約に関する書類及び請負者の事務所,工事現場等を調査し,請負

者及び発注者に対して報告,説明又は証明を求めることができる,④被上告人保証

会社は,前払金が適正に使用されていないと認められるときには,預託金融機関に

対し別口普通預金の払出しの中止その他の処置を依頼することができるなどとされ

ていた。本件保証約款は,建設省建設経済局建設業課長から各都道府県主管部長に

通知されていた。

 A建設は,前払金の預託金融機関として被上告人保証会社があらかじめ業務委託

契約を締結していた被上告人B2信用金庫(以下「被上告人信用金庫」という。)

a支店を選定した。

 (4) A建設は,平成10年4月7日,本件保証契約の保証証書を愛知県に寄

託した上,前払金の支払を請求し,同月20日,愛知県から前払金として,A建設

が被上告人信用金庫a支店に開設した別口普通預金口座(以下「本件預金口座」と

いう。)に1696万8000円の振込みを受けて,預金(以下「本件預金」とい

う。)をした。これにより,愛知県は,保証事業法13条1項により,本件保証契

約の利益を享受する旨の意思表示をしたものとみなされた。

 (5) 愛知県は,A建設の営業停止により工事の続行が不能になったため,平

成10年6月29日,本件請負契約を解除した。

 (6) A建設は,愛知県に対し本件前払金から解除時までの工事の既済部分に

対する代価に相当する額を控除した残金を返還しなかったため,被上告人保証会社

は,平成10年7月31日,愛知県に対し,保証債務の履行として残金相当額を支

払った。

 (7) A建設は,平成10年8月7日,破産宣告を受け,上告人が破産管財人

に選任された。

 2 本件は,上告人が,被上告人保証会社に対し,本件預金について上告人が債

権者であること等の確認を求めるとともに,被上告人信用金庫に対し,本件預金の

残額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

 3 本件請負契約を直接規律する愛知県公共工事請負契約約款は,前払金を当該

工事の必要経費以外に支出してはならないことを定めるのみで,前払金の保管方法

,管理・監査方法等については定めていない。しかし,前払金の支払は保証事業法

の規定する前払金返還債務の保証がされたことを前提としているところ,保証事業

法によれば,保証契約を締結した保証事業会社は当該請負者が前払金を適正に使用

しているかどうかについて厳正な監査を行うよう義務付けられており(27条),

保証事業会社は前払金返還債務の保証契約を締結しようとするときは前払金保証約

款に基づかなければならないとされ(12条1項),この前払金保証約款である本

件保証約款は,建設省から各都道府県に通知されていた。そして,本件保証約款に

よれば,前記1(3)記載のとおり,前払金の保管,払出しの方法,被上告人保証

会社による前払金の使途についての監査,使途が適正でないときの払出し中止の措

置等が規定されているのである。したがって,A建設はもちろん愛知県も,本件保

証約款の定めるところを合意内容とした上で本件前払金の授受をしたものというべ

きである。【要旨】このような合意内容に照らせば,本件前払金が本件預金口座に

振り込まれた時点で,愛知県とA建設との間で,愛知県を委託者,A建設を受託者

,本件前払金を信託財産とし,これを当該工事の必要経費の支払に充てることを目

的とした信託契約が成立したと解するのが相当であり,したがって,本件前払金が

本件預金口座に振り込まれただけでは請負代金の支払があったとはいえず,本件預

金口座からA建設に払い出されることによって,当該金員は請負代金の支払として

A建設の固有財産に帰属することになるというべきである。

 また,この信託内容は本件前払金を当該工事の必要経費のみに支出することであ

り,受託事務の履行の結果は委託者である愛知県に帰属すべき出来高に反映される

のであるから,信託の受益者は委託者である愛知県であるというべきである。

 そして,本件預金は,A建設の一般財産から分別管理され,特定性をもって保管

されており,これにつき登記,登録の方法がないから,委託者である愛知県は,第

三者に対しても,本件預金が信託財産であることを対抗することができるのであっ

て(信託法3条1項参照),信託が終了して同法63条のいわゆる法定信託が成立

した場合も同様であるから,信託財産である本件預金はA建設の破産財団に組み入

れられることはないものということができる(同法16条参照)。

 したがって,本件事実関係の下において被上告人保証会社がA建設から本件預金

につき債権質等の担保の設定を受けたものとした原審の判断は相当ではないが,上

告人の請求を棄却すべきものとした結論は是認することができる。論旨は,原判決

の結論に影響を及ぼさない事項についての違法を主張するものにすぎないから,採

用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

    最高裁判所第一小法廷

(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤

武久)

公共工事標準請負契約約款(抜粋)

(前金払)

第三十四条 乙は、公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和二十七年法律第一八四

号)第二条第四項に規定する保証事業会社(以下「保証事業会社」という。)と、

契約書記載の工事完成の時期を保証期限とする同条第五項に規定する保証契約(以

下「保証契約」という。)を締結し、その保証証書を甲に寄託して、請負代金額の

一〇分の〇以内の前払金の支払を甲に請求することができる。

2 甲は、前項の規定による請求があったときは、請求を受けた日から一四日以内に

前払金を支払わなければならない。

3 乙は、請負代金額が著しく増額された場合においては、その増額後の請負代金額

の一〇分の〇から受領済みの前払金額を差し引いた額に相当する額の範囲内で前払

金の支払を請求することができる。この場合においては、前項の規定を準用する。

4 乙は、請負代金額が著しく減額された場合において、受領済みの前払金額が減額

後の請負代金額の一〇分の〇を超えるときは、乙は、請負代金額が減額された日か

ら三十日以内にその超過額を返還しなければならない。

5 前項の超過額が相当の額に達し、返還することが前払金の使用状況からみて著し

く不適当であると認められるときは、甲乙協議して返還すべき超過額を定める。た

だし、請負代金額が減額された日から〇日以内に協議が整わない場合には、甲が定

め、乙に通知する。

注 〇の部分には、三〇未満の数字を記入する。

6 甲は、乙が第四項の期間内に超過額を返還しなかったときは、その未返還額につ

き、同項の期間を経過した日から返還をする日までの期間について、その日数に応

じ、年〇パーセントの割合で計算した額の遅延利息の支払を請求することができる。

注 〇の部分には、たとえば、政府契約の支払遅延防止等に関する法律第八条の率

を記入する。

(保証契約の変更)

第三十五条 乙は、前条第三項の規定により受領済みの前払金に追加してさらに前払金の

支払を請求する場合には、あらかじめ、保証契約を変更し、変更後の保証証書を甲

に寄託しなければならない。

2 乙は、前項に定める場合のほか、請負代金額が減額された場合において、保証契

約を変更したときは、変更後の保証証書を直ちに甲に寄託しなければならない。

3 乙は、前払金額の変更を伴わない工期の変更が行われた場合には、甲に代わりそ

の旨を保証事業会社に直ちに通知するものとする。

注 第三項は、甲が保証事業会社に対する工期変更の通知を乙に代理させる場合に

使用する。

(前払金の使用等)

第三十六条 乙は、前払金をこの工事の材料費、労務費、機械器具の賃借料、機械購入費

(この工事において償却される割合に相当する額に限る。)、動力費、支払運賃、

修繕費、仮設費、労働者災害補償保険料及び保証料に相当する額として必要な経費

以外の支払に充当してはならない。__

とうけん587号

とうけんは、登記研究という雑誌の略で法務局の人から教えてもらいました。

電話中、「とうけん持ってます?」と聞かれ、一瞬考えたあと、「持っています。」と答えました。

とうけんで確認したことは、次の先例です。

登記研究587号 質疑応答【7585】

住宅用家屋証明書を添付して、所有権保存の登記をした後、所有者を2人の共有に直す登記をするとき。登録免許税は1000円でいいか?

所有者が2人記載されている住宅用家屋証明書を付けた場合は1000円。付けなかったら、新たに所有者になった人の分は通常通りの金額。例えば最初に所有権保存登記に10,000円支払っていたら、直す登記に13,300円支払う必要があります。

ということで、私は住宅用家屋証明書を付けていなかったので、翌日役場でもらって法務局に出してきました。

最初の所有権保存登記も私が申請しています。なぜ間違ったかというと、表題部所有者が一人、建物の施主も一人だったことで所有者を一人として登記を完了しました。土地の所有者も一人だったこともあります。

この新築建物は、以前の土地建物が道路計画にかかり、市町村が買い取ったものでした。以前の土地は所有者一人、建物は二人でした。

以前の建物の売却代金が半分ずつ入ってきたので、新築建物の代金も半分ずつ払ったということでした。そして登記の所有者を一人とすると贈与税がかかるということで直すことになりました。ミスです。

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