当然に受託者を辞任するものとする。

ある書籍で、自己信託の文例の中に、

当初受託者○○につき後見開始、保佐開始の「申立て」がなされ、または任意後見監督人選任の審判がなされた場合は、委託者及び受益者の承諾なくして、

「当然に当初受託者は受託者を辞任するものとする。」

というような文言がありました。

1、まず、受託者の辞任については、簡単に出来ないようになっています。

  辞任できる場合として、(信託法57条)

  (1)委託者と受益者の同意を得た場合

  (2)信託行為に別段の定めがある場合

  (3)やむを得ない事由があるときに、裁判所の許可を得る場合

 が挙げられます。

上の文言は、(2)の定めがある場合に該当します。後見開始、保佐開始の申立てなので、信託行為に別段の定めがなければ、受託者の任務終了事由にもなりません(信託法第56条)。

 自己信託だし、別段の定めは原則自由に記載していいと思うのですが、日本語として少し引っかかります。

 文中に、○○の場合、○○した時、○○なされたとき、の後の「当然に」は、当初受託者○○につき後見開始、保佐開始の「申立て」がなされ、または任意後見監督人選任の審判がなされれば、条件がそろう、

 その結果、(1)に関係なく、結果が生じる(辞任する)、という意味だと思います。

ただ、「当然に」の後に続く、辞任「するものとする」というのは、一般的な原則あるいは方針と示す規定の述語(「ワークブック法制執務」より)として使われるようです。

すると、条件がそろえば、辞任という結果が生じる、一般的にはね、ということになってよく分かりませんでした。

違和感を覚えたのは私だけかも。

民事信託とは


当事務所では、次の3つのいずれかに当てはまるものとします。
1 委託者以外の者が受託者となる信託行為のうち、信託(受託)の引受けが営業としてなされる結果商行為となる信託行為以外のもの
2 委託者が受託者となる信託行為のうち、信託業法に基づく登録が不要のもの
3 営業としてする信託の引受けにあたるが、信託業法に基づく免許・登録が不要のもの

(出典:新井誠、大垣尚司「民事信託の理論と実務」)

受益者とは

 

受益者は,受託者が信託目的を実現することで生まれる法的あるいは経済的利益を享受し,また,これを受託者に対し要求する権利(受益債権)を有する信託行為の直接当事者ではなく,また,権利(受益権)を享受するだけでなんら義務を負担するものではない。特定の受益者が信託行為で指定されている場合,その者は特段の受益の意思表示をしないでも当然に受益権を取得する。
受益者の資格 この結果,受益者となるために意思能力や行為能力その他特段の資格は不要であり, 設定時点で受益者が現に存在している必要もない。さらに,受益者にそもそも権利能力がないので、法的には受益者がいない「受益者の定めのない信託」も許される。ただし,何らかのかたちで信託の利益を受ける対象が全くないために,受託者がもっぱら利益を受けることになる信託は無効。

(信託法2条、88条)

受託者とは

 
受託者は,信託設定後,他の当事者の信頼を一身に背負って信託の運営にあたる最も重要な主体。
受託者の資格 こうした重責に配慮して,信託法は受託者となるための資格要件を加重している。まず,未成年者・成年被後見人,被保佐人は受託者となることができず,これらを受託者 とする信託は無効である(取り消しうる行為とならない)。また,営業として信託の引受けを行うには,信託業法に基づき信託会社としての免許・登録が必要 となる。ただし,金融機関は内閣総理大臣(金融庁)の認可を受ければ信託業を兼営することができる。後者のうち,金銭信託の引受けを主業とする銀行のことを俗に「信託銀行」という。また,主務官庁の監督のある公益信託の場合を除き,受益者の定めのない信託(目的信託)の受託者 になるには,信託事務を適正に処理するに足りる財産的基礎(純資産5000万円超)と人的構成(前科等の規制)を有する法人(自然人は不可)でなければならない。

(信託法7条、26条。信託業法3条・7条。金融機関の信託業務の兼営等に関する法律1条)

成年後見人

Q1 成年後見制度って何ですか?

A  本人の判断能力が精神上の障がいにより不十分な場合(認知症、知的障がい、精神障がい、疾病・事故による脳機能障がいなど)に、本人を法律的に保護し支えるための制度。身体の障がいや、浪費の傾向がある場合は、原則として利用することができない。例外あり。

Q2 家族後見人が就くと、本人が自由にできないことはありますか?

A 居住用の不動産の処分(家庭裁判所の許可が必要)。印鑑証明書の登録が抹消される。預金の引き落としなどです。

Q3 居住用不動産の「処分」ってなんでしょうか?

A 売却、賃貸、抵当権設定、取り壊しなど。

Q4 家族後見人のしごとは何でしょうか?

A おおまかに、本人の身体・財産を守ることです。

Q5 後見申立ての、標準的な流れはどうなっていますか?

A 期間は1~2ヶ月。

①必要書類を集める

②申立書類の作成

③申し立て日の予約をする

④家庭裁判所による申立書類の審査

⑤即日面接

⑥家庭裁判所調査官の調査、家族への問い合わせ、鑑定など

⑥後見開始、後見人を誰にするかを裁判官が判断

⑦家族後見人のしごとが始まる

⑧家庭裁判所が、後見の登記。

Q6 家庭裁判所による申立書類の審査ってどこをみるのでしょうか?

A 本人の身体の状態と財産。家族関係。誰を後見人にするか。

Q7 後見申立てに必要な書類はなんでしょうか?

A 診断書など身体に関する情報と、通帳の写しなど財産に関する情報。

  戸籍謄本など公的な書類。他は東京家庭裁判所の後見サイトに載っている。

Q8 鑑定が不要な場合もあるそうですが?

A 本人が発語も、意思の疎通も、体を動かすこともできないような事案では、鑑定するまでもなく後見の必要性が明らかであるとして、省略されます。植物状態でないものの相当重度で回復が見込めない場合も、それに準ずる扱いがされるようです。

Q9 成年後見の登記制度って?

A 東京法務局に登録されている公的な情報管理の仕組みです。

東京法務局へ郵送やインターネットで申し込みして自宅に送ってもらったり、

那覇地方法務局に行って取ることができる。

本人や、後見人の住所が変わった場合は、登録された情報を変える必要がある。

Q10 任意後見制度って何ですか?

A あらかじめ公正証書で具体的な代理権を定めて任意後見契約をしておき、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から効力が生じる制度です。

  知り合いの弁護士・司法書士は、任意後見監督人になるとは限りません。

Q11 後見人には申立人である私を専任して欲しいと思っていましたが、家庭裁判所からは、専門職を関与させる予定であると聞きました。どういうことでしょうか?

A 後見制度は公的な制度であるため、家庭裁判所の判断で専門職を関与させる場合があります。理由の例:家族内の争い。本人と他の人との争い。本人に賃料収入などの事業収入がある場合。本人の財産が多い場合。

Q12 後見人が私ではなく、専門職だったので後見開始の申立てを取り下げたいのですができますか?

A 家庭裁判所の許可がないと取り下げることはできません。

Q13 後見開始の審判書は誰に郵送されるのでしょうか?

A 申立人・後見人・本人です。

Q14 家庭裁判所から、後見事務の報告と財産目録及び収支計算書を提出するよう求められました。注意する点はどこですか?

A 本人の治療や介護、財産管理の現状はどのようになっているかの説明(記録や領収書の保管)が必要です。書類の提出は郵送でも可能です。

Q15 本人の通帳を銀行に持っていって後見人の届け出をしたいと思います。キャッシュカードを作ることはできますか?

A 現在のところ、琉球銀行、沖縄銀行ではキャッシュカードを作ることができます。

Q16 本人は遺言することができますか?

A 遺言能力があれば遺言できます。ただし、遺言能力があることを判定するために、自筆証書遺言作成時に、①医師二人以上の立会い、②その医師による遺言能力があった旨の遺言書への付記・署名・押印が必要です。公正証書遺言の場合も公証人が①を求め②を記載させます。

Q17 忙しくて、私自身で全ての後見事務を行うことはできません。他の家族に後見事務を手伝ってもらうことはできないのでしょうか?

A 後見人が自分でやることが原則です。通帳の記帳を他の家族に手伝ってもらうことはできます。

Q18 後見人のしごとで問題のあるものとしては、どのようなものがありますか?

A ①本人のお金を後見人が借りる。他の家族へ貸す。②本人のお金を後見人がもらう、他の家族へあげる。などです。

Q19 利益相反とは?

A 後見の場合、本人が不利益を負う反面、後見人が得をする場合です。例えば、本人の所有している物を後見人が買う場合や、本人と後見人が兄弟で亡父の遺産分割をする場合、後見人のローンのために本人の不動産に担保を付けるような場合です。このような場合は特別代理人か後見監督人が本人を代理します。

Q20 後見人が本人との面会や銀行に行くときにかかるガソリン代は後見人の負担ですか?

A 後見人のガソリン代は、本人の財産から負担することができます。その他にコピー代などの後見人の職務を行うための必要経費。本人に配偶者や未成年の子がおり、その者らには収入がない場合のその者らの生活費。親しい者への慶弔費などが支出できます。しかし、すべて必要性があり、本人の収入・資産から適当と認められる額に限られます。

Q21 家族の中で相続が起きた場合、どのように対応したら良いですか?

A 本人が相続人の場合、本人の法定相続分を確保することが基本となります。事前に家庭裁判所へ遺産分割協議書の案を提出してください。

Q22 後見のしごとをしていて、家庭裁判所との連絡はどのようにしたら良いですか

A 書類で、しごとの内容が分かるような内容が望ましいです。通帳へメモ書きや、金額の大きい支出は、領収書のコピーを提出することで分かりやすくなります。

Q23 後見人は、本人の財産の相続税対策や資産運用をすることができますか?

A 後見人は本人の生活と財産を守るために選ばれます。将来を見越しての相続税対策は、本人の利益のためではなく相続人の利益のために行うものです。原則的に相続税対策はできないと考えてください。
また、元本が保証されない投資信託や株式などの金融商品を新たに購入することは、本人にリスクを伴うため認められません。

Q24 体調を崩して、後見人のしごとを続けることが難しくなった場合は?

A 家庭裁判所へ、後見人をやめる申し立てをします。

Q25 しごとの関係で県外に転居することになったため、後見人のしごとを続けることが難しくなってしまいました。

A 家庭裁判所へ、後見人をやめる申し立てをします。

Q26 日本国内に在住する外国人の場合は?

A 日本に住所などがあれば、日本の法律で後見の申立てをします。

Q27 報酬の申し立てはできますか?

A できます。書類に収入印紙を貼って、家庭裁判所へ提出します。

Q28 任意後見人は、報酬の申し立てができますか?

A 「甲は乙に対し、この契約の効力発生後、本件後見事務処理に対する報酬として1か月につき金○万円を、毎月末日限り支払う」などと決めます。
契約中で決めていないと任意後見人は報酬を請求できません。親族が後見人なら無報酬とし、かわりに遺言の中で遺産の分配を多くすることもあるようです。

Q29 本人が亡くなった時には?

A 家庭裁判所へ電話。書類で報告。東京法務局へ後見終了の登記。財産の引き継ぎなどを行います。

Q30 見守り契約とは?

A  任意後見では、本人が衰えてきたら、任意後見契約を発効させなくてはなりません。任意後見受任者が本人の同居者でない場合は、定期的に本人と面接をして、本人の生活・健康の状況を把握し、いよいよとなったら受任者が任意後見監督人の選任を家裁に申立てます。
将来型の任意後見契約として契約中にこの業務を含めることもありますし、別立ての契約とすることもあります。

Q31 死後事務の委任契約とは?

A 任意後見契約も法定後見も、本人が死亡すると後見人らは代理人の資格を失い、業務ができなくなります。
本人死亡後の入院費の清算、葬儀・納骨、家や施設の部屋の片付けなどの身辺整理については、身寄りがいなかったり、いても頼めないなら、任意後見とは別に、これを頼む委任契約を結んでおく必要があります。

  ただし、法律上認められている制度ではなく、判例によるのでその効力は不安定なものとなります。

参考「別冊判例タイムズ36 後見の実務」 判例タイムズ社 2013

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