民事信託の登記の諸問題12

 登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(12)」からです。記事の中で民事信託実務、組成などの用語が使われていますが、ここでは司法書士が行う民事信託支援業務を利用します。

信託目録に記録すべき情報は、信託契約書の信託条項をそのまま引き写したような冗長な文章ではなく、客観性ある箇条書きとして要約して提供されるべきことは言うまでもない(それが登記事項に対する情報の当てはめの作法である。)。

 信託行為の設定書類を、特に信託目録に記録する部分においては箇条書き形式で作成することが必要だと思います。

むしろ、ここでは、「財産の管理」という信託の定義を構成する基礎概念それ自体が、「信託の目的」という公示に価するのか、という問題の延長で考えるべき論点である。

 記事の下の文章と同じく、受託者は受益者のために事務を行うので不要だと考えます(信託法2条1項など。)。

受託者も親族(委託者の推定相続人)として、中立な財産管理者でない場合が少なくない。

 中立な財産管理者は委託者の推定相続人でない者、とすると受託者が見つかるのか、と感じます。また中立な財産管理者が、事業として行う信託会社などの立ち位置を想定しているとすると、司法書士は民事信託支援業務に不要なケースなのかなと思いました。

やむにやまれぬ目的(認知症対策や介護施設入所に備えて)で、信託を行うわけである。

 保険や預貯金の種類が色々とあるように、他にも理由はあると思いますが、福祉型信託というと、この2つが代表的な目的だと執筆者は考えられているかもしれません。

4 信託の条項

1 信託の目的

   相続税対策を継続するための財産管理

相続税対策とは、委託者が認知症となった以降も、当該信託財産に関して、相続税の負担を少なくするために活動を続けることであり、例えば、金融資産の少ない地主の場合、相続税支払いを想定しての売却活動の継続や資産の組み替えなども含まれる、と言われる場合がある。―中略―かような文言が信託目的の公示対象となしうるか否か、適法か違法か、適切か不適切か、これから議論が必要となろう。

 相続税支払いを想定しての売却活動の継続や資産の組み替えなどは、信託行為(信託契約の場合)を作成する過程で、委託者と受託者が合意するものであり、受託者の事務となります。受託者の財産管理・処分の方針であり、信託の目的としては、円滑な承継で足りるのではないかと考えます。適法か違法かでいうと適法だと考えますが、その前に不要だと思います。適切か不適切かについては、信託の目的としては不適切、受託者の権限の範囲(信託法26条)としては適切、と考えます。

しかし、逆説的ではあるが、「信託の目的」こそが信託登記の土台であり、基礎工事であるから(信託とは、そもそも信託の目的の実現の手段である。)、その部分が曖昧であれば、信託登記の機能それ自体が曖昧となってしまう。

 信託の目的が、信託目録欄の信託の目的のみで判断される、ということはないのではないかと思います。具体的な財産の管理方法その他の記録から総合的に判断されるものだと考えます[2]

信託法26条は、「又は」や「及び」の接続詞の係り方を読み解くのが難しいが、後段の「信託の目的の達成のために必要な」という修飾句(限定句)は、後段の「行為」だけではなく、前段の「処分」にも係るはずだ。

 後段の「信託の目的の達成のために必要な」という修飾句(限定句)は、後段の「行為」だけではなく、前段の「処分」は信託法2条5項の信託行為の定めに従い、に係るのだと思います。

4 信託の条項

1 信託の目的

   高齢者の生活支援

   安定した住居の無償の提供

2 信託財産の管理方法

 受託者の権限 信託財産の管理に限る

このような信託目録に記録すべき情報が提供されている場合、形式的には却下事由に該当するという判断もありうる。

 受託者の権限が信託財産の管理に限る、と記録されている場合にこの不動産の売買による所有権移転登記申請が却下事由に該当する可能性はあると思います。

 信託の目的違反で却下事由になることは、ないのではないかと思います。住居がこの不動産を指しているとは限らないからです。

4 信託の条項

2 信託財産の管理方法

 信託法26条但書の定め 信託財産の処分を禁止する

このような信託条項の場合、受託者の権限に対する一般的な制約であるが、かような信託法26条但書による包括的な定めで、信託法49条2項の費用償還に基づく処分も禁止されるのであろうか。

 信託法49条2項については、信託法52条で対応することになると考えます[3][4]

信託法52条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(信託財産が費用等の償還等に不足している場合の措置)

第五十二条 受託者は、第四十八条第一項又は第二項の規定により信託財産から費用等の償還又は費用の前払を受けるのに信託財産(第四十九条第二項の規定により処分することができないものを除く。第一号及び第四項において同じ。)が不足している場合において、委託者及び受益者に対し次に掲げる事項を通知し、第二号の相当の期間を経過しても委託者又は受益者から費用等の償還又は費用の前払を受けなかったときは、信託を終了させることができる。

一 信託財産が不足しているため費用等の償還又は費用の前払を受けることができない旨

二 受託者の定める相当の期間内に委託者又は受益者から費用等の償還又は費用の前払を受けないときは、信託を終了させる旨

2 委託者が現に存しない場合における前項の規定の適用については、同項中「委託者及び受益者」とあり、及び「委託者又は受益者」とあるのは、「受益者」とする。

3 受益者が現に存しない場合における第一項の規定の適用については、同項中「委託者及び受益者」とあり、及び「委託者又は受益者」とあるのは、「委託者」とする。

4 第四十八条第一項又は第二項の規定により信託財産から費用等の償還又は費用の前払を受けるのに信託財産が不足している場合において、委託者及び受益者が現に存しないときは、受託者は、信託を終了させることができる。

4 信託の条項

2 信託財産の管理方法

 信託法178条1項但書の定め

 清算受託者は信託財産を売却処分し、残余財産受益者に対して金銭を分配する。

 私は清算受託者の職務について、具体的な職務の記録申請をしたことがありませんが、確定している場合には公示として必要だと感じました。


[1] 894号、令和4年8月、テイハン、P41~

[2] 道垣内弘人編著『条解信託法』2017年、弘文堂、P18~

[3] 金森健一『民事信託の別段の定め実務の理論と条項例』2022年、日本加除出版、P108~

[4] 村松秀樹ほか『概説新信託法』、2008年、金融財政事情研究会P156~

信託目録の記録事項について

 金融機関と提携している士業が作成した信託目録を観てみたいと思います。不動産登記法第97条3項 

委託者に関する事項です。不動産登記法第97条1項1号

 当初委託者が登記され、1か月ほど期間をおいて、委託者変更の登記がされています。当初委託者に加えて、配偶者が追加となっています。

受託者に関する事項です。不動産登記法第97条1項1号

 受託者は法人であり、株式会社となっています。代表取締役は変更後の委託者の子であり、第二次受益者の一人でもあります。

受益者に関する事項です。不動産登記法第97条1項1号

 変更の形態は、委託者と同じです。1か月ほど期間をおいて、委託者変更の登記と同時にされています。当初受益者に加えて、配偶者を追加しています。委託者に関する事項と違うのは、受益権割合2分の1が登記されていることです。最終判断は税理士になりますが、私の推測です。下の税控除を行うための登記だと思います。

 登記する必要があるかに関しては、私は消極です。税務署には信託契約書を提出することで足りると考えるからです。

No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm

信託条項の欄です。

信託の目的

・信託財産に属する財産は、信託契約公正証書の援用。

・判断能力の低下に備える

・共有を回避

・円滑な相続

受託者の権限

・信託不動産について、信託を原因とする所有権移転登記及び信託の登記手続をする。

・・・この登記記録のことなので、信託目録に記録する必要があるかといえば、私は不要だと思います。登記、登記手続は、登記申請、登記申請手続きに修正が必要だと思います。不動産登記法11条

・信託不動産の維持、保全、修繕、改良は、受託者又は受託者及び受益者代理人が適当と認める方法、時期、範囲において行う。

・・・この条項が必要かどうかは、維持、保全、修繕、改良について後続登記(担保設定など)が必要かどうかだと思います。受託者又は受託者及び受益者代理人という記録は、受益者代理人が就任している場合は、受益者代理人と受託者が協議して判断するのか、分かりませんでした。

・受託者は、必要に応じて、次の行為を行うことができる。

ア 建物の建設、不動産の購入、信託不動産の売却、賃貸、解体

・・・建物の建設、不動産の購入に関しては、信託金銭に関する条項なので信託目録に記録する必要があるのか分かりませんでした。

イ 受託者による資金の借り入れ及びこの借入れのための信託不動産に担保権を設定すること

ウ 受益者による借入れのために信託不動産に担保権を設定すること

・受託者による第三者委託(信託法28条)

・委託者から受託者への賃貸人の地位の承継(民法605条の2第3項、第4項、同法605条の3)

・信託の終了事由

・受託者及び受益者又は受益者代理人が合意したとき(信託法164条3項)

・その他信託法に定める事由が生じたとき(信託法163条ほか)

・・・当初委託者兼受益者による単独で信託の終了することを、許容している条項だと考えます[1]

・その他の信託条項

・善管注義務(信託法29条)・・・信託目録に記録する必要があるのか、判断が分かれるのかなと思います。

・受益権の譲渡、質入れ(信託法93条、同法96条)・・・対抗要件は登記ではありませんが、受益者変更登記が必要となったとき、金融機関の承諾が必要という制限があるので、信託目録に記録する必要はあると思います。融資金融機関と記録されていますが、担保権者として登記されている金融機関、などへの修正が必要なのかなと感じます。

・信託契約の変更(信託法149条4項)・・・信託の終了と違い、その他信託法に定める事由が生じたとき、という記録がありません[2]。受益者(受益者代理人)と受託者の書面合意(融資を受けている場合、金融機関の同意書添付)以外の方法では、信託の変更は出来ないことになると考えられます。

・受益権の内容、受益者代理人、帰属権利者・・・信託契約公正証書の援用。


[1] 金森健一『民事信託の別段の定め実務の理論と条項例』2022年、日本加除出版P226~


[2] 金森健一『民事信託の別段の定め実務の理論と条項例』2022年、日本加除出版P259~

「疑わしい取引」と司法書士39

登記情報[1]の記事、末光祐一司法書士「「疑わしい取引」と司法書士(39)」からです。

参考

金融庁

「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」

「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」

https://www.fsa.go.jp/policy/amlcftcpt/index.html

デジタル庁

トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ

https://www.digital.go.jp/councils/

そこで、定期的な確認の頻度についても依頼者のリスクに応じて判断することになるが、金融庁「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下、「金融庁ガイドライン」という)を参考にすると、次のような頻度で情報を更新することが想定され、この期間を延ばす場合には、合理的かつ相当な理由が必要になる。

・高リスク先:1年に1度

・中程度のリスク先:2年に1度

・低リスク先:3年に1度

ただ、これらの頻度は司法書士が自ら事務所の規模や特性、依頼者のリスクなどに応じて、個別具体的に決定するものであり、例えば、高リスクではない依頼者で自然人にあっては3年、法人にあっては2年を目安にすることも考えられ、さらに低リスクと判断した上場会社等にあっては信頼できる公開情報をもとに更新することもあり得ようが、他方、高リスクの依頼者については、リスク低減措置として、依頼の拒否や辞任を検討せざるを得ないことも見込まれる。

定期的な情報の更新によることはもちろん、定期的な情報の更新のタイミング以外であっても、新たな依頼があった際や、依頼者あるいは外部から取得した情報によって依頼者のリスクに影響するようなときには、リスク評価を見直すことになる。いずれにしても、見直し後(上方遷移、下方遷移もあり、リスクの評価に変更がない場合もある。)のリスクに応じ、その評価に適切に連動した逓減措置が求められる。

 リスクの低減措置が求められる(リスクが大きくなったことや変化がないことの記録の措置も求められる。)、という趣旨だと思います。

 自動化出来ると良いのですが。例えば、事件記録などに新規追加、追加、削除した場合に赤に変わるなど。抱えている案件1つずつに対して、年に1度であればそこまでの負担はないと思いますが、急に状況が変わる場合(新たな依頼があった際や、依頼者あるいは外部から取得した情報によって依頼者のリスクに影響するようなとき)に毎回見直すのは負担が大きくならないのか、継続的に可能なのか、私には分かりませんでした。司法書士報酬に反映させても良いのかもわかりませんでした。

今は、持っている知識や経験に頼る場面が多いです。

一見の依頼と継続の依頼

マネー・ロンダリング及びテロ資金供与のリスクの低減措置は、すべての依頼者について、すべての依頼について実施されなければならない。それは、全ての依頼者の依頼の際から依頼の終了までの間、継続的顧客管理を実施することを意味している。

そこで、―中略―とくに次の3点が重要であると考えられている。

・法令等の対応を適切に実施すること

・リスクベースの対応を適切に実施すること

・説明を丁寧に実施すること

 説明を丁寧に実施すること、に関して依頼の際から依頼の終了までの範囲を、明確にすることが求められる、と理解しました。ただ、登記が予定通り終わってくれれば良い、お金は払う、という依頼者も多いので時間や手間を取る最初の説明をどこまでやるのか、今までとどこを変えていくのか、分かりませんでした。

 司法書士への依頼は、一見の依頼者によるほか、既存の依頼者による依頼もあり、そして、依頼の性質としては1回的な依頼(業務)と継続的な依頼(業務)がある。継続的顧客管理は、依頼(業務)に関して、開始時、継続時、終了時に行われるが、それらの依頼の組合せによる業務の性質に応じて、具体的に実行されなければならない。

 継続時に関して、未だ私の中で整理できていません。また紹介の場合、紹介元が士業、以前の依頼者その他など複数あるのですが、紹介者の属性でリスクの大小を決めても良いのか、現時点で私には分からないので決めないことにします。

例えば、初めての依頼者による登記手続の依頼に基づいて行う当該登記手続が、その依頼から長期間の経過後に実行されることが想定されるようなときは、依頼の以後、登記手続が完了するまでの間、継続的顧客管理を行って依頼者のリスクの変化を注視しなければならない場合もあろう。なお、当初に見込まれた完了までの期間が、依頼者の都合で延長されるときは、合理的な事情が認められない場合、リスクの上昇について検討を要することになろう。

 例えば、売買契約に基づく所有権移転登記申請の依頼を受けて、手続実行のために書類を預かったり、取得していた場合で当初予定より登記申請が遅れていつ申請するのか分からない場合、一旦依頼者に書類を返却し、書類の取得費用等は清算する、ということは行います。

 登記手続が完了するまでの間には、登記後の書類、情報を関係者が確認するまでを含む趣旨だと理解しました。

(d)一見の依頼者による1回的な業務の依頼であっても、継続的に依頼を受けるような場合には、継続的顧客管理が必要となる。―中略―

(f)他方、一見の依頼者による1回的な業務の継続的な依頼であっても、以後の依頼を、すべて一見の依頼者として取り扱う場合は、継続的顧客管理の対象とならない。

 どちらが良いのか、各司法書士の判断になると思いますが、法人の場合は(d)、個人の場合は(f)にする方が負担が少ないのかなと感じました。

依頼に当たって、リスクが高いと判断されるときは、リスク低減措置として、犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認及び司法書士会の会則に基づく本人確認(職責に基づく本人確認)によって本人確認の義務を確実に履行することは大前提として、取引時確認及び本人確認において取得した情報以外の情報であって、リスク判断するうえで有益な情報を信頼に足る証跡をもって取得するなど―中略―このような場合には、依頼に応ずる業務、負わない業務の区別なく、依頼を受けてはならないといえる。

 考え方自体には同感です。犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認及び司法書士会の会則に基づく本人確認(職責に基づく本人確認)によって本人確認の義務を確実に履行したうえで、残るリスクというのが、マネー・ロンダリングという点からはどのようなものがあるのか、分かりませんでした。

参考

国家公安委員会

犯罪収益移転危険度調査書 令和3年12 月

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/nenzihokoku.htm


[1] 729号、2022年8月、(一社)金融財政事情研究会P108~

イメージ

現在

20221116追記

参考

市民と法No.1372022年10月民事法研究会、浅野知則司法書士「司法書士業務のデジタル化に備えて」

信託組成のアドバイスを行う専門職のための職業倫理

市民と法[1]の記事、髙橋倫彦「信託組成のアドバイスを行う専門職のための職業倫理」からです。

一方、民事信託(家族信託を含む)組成のアドバイスを行う専門職は当局の監督を受けていない。また、その団体は一般社団法人信託協会に加盟していない。

一般社団法人信託協会の組織体制について、当局の監督を受けているのか分かりませんでした。

一般社団法人 信託協会 協会概要、事業内容、組織図

https://www.shintaku-kyokai.or.jp/

昨年(2021年)、日本政府は、FATFの指摘を受けて民事信託に関する実質的支配者情報を利用可能とし、その正確性を確保する方策を検討すること、また、すべての指定非金融業者および職業専門家を実質的支配者情報の確認を含む顧客管理業務の対象とすることを検討し、本年(2022年)秋までに、所要の措置を講じることにした。

財務省「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」を決定しました(令和4年5月19日)

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/aml_cft_policy/20220519.html

3.我が国を取り巻くリスク

(1)我が国におけるリスクの現状

各商品・サービスの危険度

(ウ)その他の特定事業者

・その他

犯罪収益の帰属先を不透明にすることが可能な郵便物受取サービスや、電話受付代行、電話転送サービスといったものも危険度がある。

また、法律・会計専門家は、法律、会計等に関する高度な専門的知識を有するとともに、社会的信用が高いことから、その職務や関連する事務を通じた取引等はマネロン等の有効な手段となり得る。法律・会計専門家が、「宅地又は建物の売買に関する行為又は手続」、「会社等の設立又は合併等に関する行為又は手続」、「現金、預金、有価証券その他の財産の管理又は処分」といった行為の代理又は代行を行うに当たっては、マネロン等に悪用される危険性がある。

5.具体的な対策

(3)DNFBPs20(特定非金融業者及び職業専門家)の監督の強化、及び当該事業者による未然防止措置の強化

DNFBPsについては、「犯罪収益移転危険度調査書」にて危険度が認められる商品・サービスを扱い、その中には、危険度の高い取引形態や顧客との取引も含まれることがある。そのため、金融機関等と同様に、危険度に応じた措置が講じられる必要がある。

このため、すべてのDNFBPsを顧客管理義務の対象とするために必要な措置を検討・実施するとともに、各所管行政庁は、事業者がマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の観点から対応すべき事項を示したガイドラインの整備、事業者向けのアウトリーチやリスクベースのモニタリングを実施し、そのための体制強化を図っていく。その中で、業界団体等とも連携し、各事業者が必要な措置に取り組むための支援を行う。

20 Designated Non-Financial Businesses and Professions の略称で、FATFの定義では、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、電話転送サービス事業者等の事業者や、弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士等の職業専門家を指す。

(5)法人及び信託の透明性向上

近年のG7/G20等における国際的な議論において、マネロン・テロ資金供与・拡散

金融対策のみならず、腐敗等の不正な活動に実態が不透明な法人が利用されていることに強い危機感が示されている。そのため、各国に対しては、法人の透明性を向上させ、法人の悪用を防止する観点から、法人の実質的支配者情報を把握・管理する制度の構築が求められている。

我が国にとっても、実質的支配者情報を把握・管理するための取組は、開かれた国際金融センターの実現をはじめ、国際基準に合致したビジネス環境を整備するためにも重要である。

このような認識のもと、2022 年1月に運用が開始された実質的支配者リスト制度の利用促進とともに、法人の実質的支配者情報の一元的かつ継続的・正確な把握を可能とする枠組みに関する制度整備に向けた検討を進める。

このほか、FATFにおける議論も踏まえながら、信託会社に設定・管理されていない民事信託及び外国信託についても、その実質的支配者情報を利用可能とし、その正確性を確保するための方策を検討し、実施する。

一般社団法人民事信託活用支援機構

倫理綱領

http://shintaku-shien.jp/ethics

1は司法書士法2条に該当すると思います。

2は司法書士法1条、2条に該当すると思いますが、改正司法書士倫理を含めて明確に定められている条項を見つけることが出来ませんでした。また委託者の希望の実現のため、という文言が印象に残ります。

3は司法書士法24条に該当すると思います。

4は司法書士法3条に該当すると思います。

5は司法書士倫理29条、30条、31条に該当すると思います。一般社団法人民事信託活用支援機構の開示対象が顧客、となっていますが、どの人までを指すのか分かりませんでした。

7、8は司法書士倫理12条に該当すると思います。一般社団法人民事信託活用支援機構の8については、紹介料の支払い・受取りが法令で可能な場合、顧客に開示することを努力義務としている箇所が印象に残りました。

行動指針

1について、家族の構成員の福祉を図り、―中略―家族の幸福、という部分がよく分かりませんでした。

2について、推定相続人などの要求にとらわれることなく、という努力義務が印象に残りました。

4について、民事法、公示制度、資産税、金融制度に関する法務、税務、取引等に関する知識を深め、技術を習得し、経験を積むことにより、について、業法があるので、各々の業務分野で経験を積むことにより、と私ならすると思いました。

5について、司法書士倫理3条、25条が該当すると思います。

6は、司法書士倫理28条に該当すると思います。

7の業務従事者に対する指導・監督義務については、独自だと思います。

8は、司法書士倫理24条に該当すると思います。期限を明確にしているところは、依頼者に安心感があると思います。また、依頼事項が終了した場合に、顧客の記録の原本を適時に返還、という記載があり、どのような方法で原本を返還するのか、どのような記録のことを指しているのか、印象に残りました。

業務実施基準

1 設定前

  • (1)の他の制度との比較、依頼者への説明は必要な条項だと思いました。司法書士倫理にあえて当てはめるとしたら10条だと思います。
  • (2)に関して、リスク説明義務が委託者に対してのみであることが印象に残りました。
  • (3)親族が受託者である場合の適格性について、どのように判断基準が定められているのか、印象に残りました。
  • (4)について、遺留分を侵害する信託設定について、推定相続人の同意を得ることが努力義務であることが印象に残りました。
  • (5)は受託者に対して信託業法等の業規制の注意喚起義務が課されています。初めて観る条項でした。

(8)は司法書士倫理22条に該当すると思います。

2 設定時

(1)遺言による信託についての記載がありますが、自筆証書遺言も含めての記載であるのかなと思いました。

(2)信託口口座の開設を促していますが、信託アドバイザーが金融機関に対して行うのか、信託アドバイザーが委託者・受託者に対して行うのか、両方を行うのか、分かりませんでした。

3 信託期中及び終了後

 委託者、受託者に対しては定期的に、受益者に対しては必要に応じてフォローアップを行う義務が課されています。改正司法書士倫理81条に該当すると思います。受益者に対しては必要に応じてという部分と、どのようにフォローアップを行うのか、気になりました。

参考

一般社団法人家族信託普及協会 会員倫理規定

一般社団法人民事推進センター

民事信託士倫理綱領

民事信託士執務規則

https://civiltrust.com/shintakushi/kitei/index.html


[1] 136号、2022年8月、民事法研究会P87~

民事信託支援業務の次なる議論に向けて

市民と法[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託支援業務の次なる議論に向けて」からです。

ちなみに、2006年~2007年の当時、信託銀行の法務担当者の少なからずが、毎週、小澤司法書士のブログをチェックすることで、貸金業債権の信託をめぐる司法書士集団の動向を把握していたという、嘘のような本当の話がある。

 小澤司法書士のブログから、信託に関する記述を探すことが出来ませんでしたが、債務整理に関する業務から信託に関する実務・研究があったことは初めて知りました。

司法書士小澤吉徳の雑感と雑観

http://yoshinori.cocolog-nifty.com/zakkan/

家族信託紛争は、結局、信託設定前から潜む親族間の不信、そして、相続財産をめぐる親族間の警戒心、信託設定後における親族間の感情の拗れなどから生じており、親族内の心の問題であり、経済環境などの外的要因もあって、紛争発生が予測可能な場合もあろう(司法書士にとっては、受任しうるか否かの紛争性の有無の判断にかかわる)。

 「信託設定前から潜む親族間の不信、そして、相続財産をめぐる親族間の警戒心、信託設定後における親族間の感情の拗れなどから生じており、」は他の制度を利用しても起こり得ることだと思います。

 「親族内の心の問題」に、司法書士が単独で業務として取り組むのかは個々の司法書士の判断になると思います。

 「経済環境などの外的要因もあって、紛争発生が予測可能な場合」というのが、信託設定前において、どのような場合を指すのか分かりませんでした。司法書士の受任の有無の判断に関わることは同意です。

信託を組成することで、関係者は引くに引けなくなってしまう。家族信託の組成に関与する不動産事業者の思惑なども微妙に、当事者や司法書士とは異なる場合があるかもしれない。司法書士が組成支援した家族信託が、1年後には司法書士が知らぬ間に、すっかり内容が中身が変わっていたなどという事例もある。組成支援者として、どこまで、組成した信託の帰趨を見守っていくべきか。

 信託行為の作成支援に関する委任契約の内容によります。

 司法書士倫理は、努力義務として、受託者の義務が適正に履行され、かつ、受益者の利益が図られるよう、必要に応じて、継続的な支援を求めていくようです。

組成支援後、放置してしまい、その後、信託にトラブルを生じた場合、事前に、「司法書士は免責される」と念書をとっていても、司法書士の信認義務として、当初の契約起案者の責任が追及されよう。かような念書の実務の存在(その可否)とその法的効果という問題は、司法書士会で論じられる必要がある。

 「組成支援後、放置してしまい、その後、信託にトラブルを生じた場合、事前に、「司法書士は免責される」と念書をとっていても、司法書士の信認義務として、当初の契約起案者の責任が追及されよう。」について・・・放置してしまい、という記述から、信託設定後も継続的に支援を行う委任契約が締結されていると仮定します。その場合は、責任が追及されると考えます。どのような責任かというと、民法の委任契約における受任者の義務(善管注意義務、報告義務、)が考えられます。次に司法書士法1条の権利擁護義務、2条の誠実に業務を行う義務、23条の会則順守義務、25条の研修受講の努力義務を果たすことを求められると考えます。司法書士倫理からは、第10条の意思の尊重義務、第21条の受任の際の説明義務などを果たす必要がある可能性を考えることが出来ます。

 「司法書士は免責される」という念書についての実務の存在については、知りませんでした。記事の文言では、どのようなトラブルなのか明示されていないため、念書の法的効果は生じないと思います。

信託関係者からの連絡がない場合、容易に連絡が取れない場合はどうするか。「その後、信託は順調でしょうか」程度の手紙を出すので足りるのか。それでも、最後、事故や紛争を生じた場合、司法書士に契約起案者として責任のお鉢が回ってくるかもしれない。司法書士としては用心したいところであろう。

 容易に連絡が(取りたくても)取れない場合、との記述があることから、信託設定後も継続的に支援を行う委任契約が締結されていると仮定します。

 司法書士の契約起案者としての責任は、前記民法、司法書士法、会則、司法書士倫理に加えて、蓄積されていく判例に示される責任だと思います。

(3)東京地判平30.9.12の総括

(A)エクイティとしての信託の意味

日本の法制度上、決して信託は自由なものではない、という事実を明らかにした。家族信託に対する裁判所・裁判官の感覚がよく分かる判決である。公序良俗違反の認定は、弁論主義にかかわらない裁判官専属の公序であることに注目されたい(それが強行法規であることの意味の一つである)。

今の日本の状況では、民事信託も、契約優位の思想が強いように感じられるが、本来のエクイティとしての信託は、契約とは異なり(信託は、近代的な契約理論よりも古いといわれる場合がある)、橋谷総一郎教授が指摘するような(橋谷総一郎「民事信託支援業務と司法書士の責任」本誌135号(2022年)22項以下)、受託者のフィデューシャリーデューティー(信認義務)のあり方にもかかわるように思われる基本問題であり、日本での議論はこれからである(本邦における民事信託の理論は、まだ定まっていないのだ)。要するに、信託であることの意味という基本問題が議論されるのは、個人による個人のための信託が普及しつつあることで、ようやく、日本では、これから行われるのだ。家族信託の現場を支える司法書士による実務実態を対外的に報告していくことが、一層、重要となろう。

 記事の趣旨と合っているか分かりませんが、エクイティとしての信託とは、信託法2条に限らない信託当事者の関係性・やり取りから生成される信託と理解しています[2]

 受託者のフィデューシャリーデューティー(信認義務)は、信託行為の文言のみではなく、委託者と受託者、受益者の関係性から導かれる受託者の義務、と捉えています。

 「家族信託の現場を支える司法書士による実務実態を対外的に報告していくことが、一層、重要となろう。」に関しては、記事の著者もご存知のはずですが、司法書士による司法書士へのオンラインサロンのようなビジネスになっているので、私には分かりません。また批評を行うと除名され、権威があるとされる方々には何も言えない状況なので、そのことを知っていて記事にしている著者の記事の内容、予想には同意できません。

この判決の教訓としては、家族信託における信託の仕組みが過剰となってしまうことがある危険があげられる。信託の後進国である日本においては、元来、信託制度の射程とその効果は限定的である。信託の歴史が長い英米法下における米国の仕組みとは、現段階では異なる。信託を勉強して、信託に対する思い入れが強くなりすぎると、信託に対する誤解(信託幻想)を生じる逆説を生む。どこまで依頼者の要望を聞いていいのか(そもそも依頼者となるべき者は誰か)、という問題にかかわる(信託の自由度ゆえ、その限界の見定めが難しい)。

 信託当事者、関係者間の内部に関する内容だと思います。現在のところ、当地では金融機関、公証人役場、登記制度など各種の縛りがかかっており、他の専門家の目に触れることもあるので、一切機能しない信託を設定することは、難しいのではないかと感じます。

要するに、委託者兼受益者による信託の自由な撤回行為を拘束して、受託者の合意を要する、とする信託条項である。ある意味では、財産保有者である高齢者の自由意思を拘束する恐ろしい信託条項である。

 他に信託の終了事由はあるので、恐ろしいとまでいえるかは分かりませんでした。

信託法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(信託の終了事由)

第百六十三条 信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。

一 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。

二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。

三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。

四 受託者が第五十二条(第五十三条第二項及び第五十四条第四項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。

五 信託の併合がされたとき。

六 第百六十五条又は第百六十六条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。

七 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。

八 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産法第五十三条第一項、民事再生法第四十九条第一項又は会社更生法第六十一条第一項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第四十一条第一項及び第二百六条第一項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。

(特別の事情による信託の終了を命ずる裁判)

第百六十五条 信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により、信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるときは、裁判所は、委託者、受託者又は受益者の申立てにより、信託の終了を命ずることができる。

(公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判)

第百六十六条 裁判所は、次に掲げる場合において、公益を確保するため信託の存立を許すことができないと認めるときは、法務大臣又は委託者、受益者、信託債権者その他の利害関係人の申立てにより、信託の終了を命ずることができる。

一 不法な目的に基づいて信託がされたとき。

二 受託者が、法令若しくは信託行為で定めるその権限を逸脱し若しくは濫用する行為又は刑罰法令に触れる行為をした場合において、法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらず、なお継続的に又は反覆して当該行為をしたとき。

民法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

(公序良俗)第九十条

(錯誤)第九十五条

(催告によらない解除)第五百四十二条

私個人は、当初自己信託が撤回可能信託に近い役割を果たすことが出来ると考えています。

参考

金森健一「民事信託の別段の定め 実務の理論と条項例」 2022年日本加除出版P259~P274


[1] 136号、2022年8月、民事法研究会

[2] タマール・フランケル (著), 溜箭 将之 (翻訳), 三菱UFJ信託銀行 Fiduciary Law研究会 (翻訳)「フィデューシャリー ―「託される人」の法理論」2014年弘文堂P262~P266

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