受益証券

受益証券

1、 民事信託・家族信託における動向
 一般書などに現れ、いつの間にか消えた条項があります。「本信託については、受益権証書は発行しない 」という受益証券発行信託(信託法207条~。)ではないことを示す条項です。理由としては、この条項をもって、信託契約は信託業法の適用がない民事信託・家族信託であることを証明することが出来る、というような説明が2015年~2017年頃まで行われていました。
 引いた参考文献は弁護士の著作ですが、個人的には司法書士に多かったような感覚を持っています。
 当初、この説明を聞いたとき、信託法では、受益証券が発行されない信託が原則で、例外として受益証券を発行する場合は、信託行為に定める(信託法207条)。だから、受益証券については、原則として何も記載しないのが民事信託の契約書ではないかな、と一回も契約書を作成していないのに思っていました。
 私の実務では受益証券に関する条項はありませんが、なぜこのような条項が出てくるのか、ということについては私なりの仮説があります。

2、司法書士に特有の認識
平成18年に会社法が改正されました。司法書士が主に業務で扱う株式会社は、株式の譲渡制限があり、株券を発行しない会社です。
定款に、全ての株式に譲渡制限の定めがある会社は、公開会社ではない株式会社となりました(会社法2条1項5号)。
改正前は、株式会社が株券を発行しない場合は、定款にその旨を記載する必要がありました(改正前商法第206条の2)。
改正後は、考えが逆になり、株券を発行する場合は定款に記載する必要があることになりました(会社法214条)。

株式の譲渡制限の定めを定款に記載=公開会社ではない株式会社(通常の司法書士業務)
株券を発行する場合は定款に記載=株券発行会社(通常の司法書士業務では、数は多くない)

この2つの考えがごっちゃになって、
「本信託については、受益権証書を発行しない。」=民事信託・家族信託
という記載がみられるようになったのではないか、というのが私の仮説です。
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遠藤英嗣『新しい家族信託』2016日本加除出版P455など。

受託者の所有者責任を、依頼者へ説明するとき

 

(条項例)

□ 受託者は、土地への工作物などの設置により他人に損害を与えることのないように管理する

私が作成する民事信託契約書には、このような条項が入ります(民法717条)。
契約書を依頼者と一緒に読み合わせるときは、下のような説明をしています。

 「信託契約の後は、○○(委託者)さんが1人で住んでいる家で火の不始末とかで火事になって、他の家とかに延焼したら、○○(受託者)さんの責任ですよ。(火災保険に入ってなかったら加入してくださいね。)」

「信託すると、○○(委託者)さんの建物の壁が落ちて、繁華街を歩いている人に当たって怪我した場合は、○○(受託者)さんの責任になりますよ。(修繕する箇所がないか業者にチェックしてもらいませんか。)」

「信託の後は、○○(委託者)さんの敷地のセメントのブロック塀が欠けて、道向かいにある小学校の子供に当たって怪我させた場合は、○○さんの責任になります。(対策をちょっと考えますしょう。)」

他にも色々な説明の仕方がありそうです。

(一社)民事信託推進センターへの意見・要望

要望事項・意見
いつもお世話になります。
お願いばかりで申し訳ないですが、要望・意見を記載させていただきます。
個人的希望なので、難しいようであれば無視して下さい。

1、平成30年度事業計画書について
(1)民事信託実務入門講座
前半4回の初級編につき、期限を決めて講師への事前質問を受付していただきたいと思います。どの質問に回答するか否かは講師の判断により、質問は回答されなかった部分も含めて公開するという形は如何でしょうか。

2、収支予算書について
(1)テーマ別民事信託研究会の会場費
テーマ別民事信託研究会の会場費は、決算書の会場費に入っているのでしょうか。入っている場合は東京都内以外でも、同様に自主開催をしても良いでしょうか。
(2)事務委託費について
 感覚的なことですみません。事務局の負担が大きい割に予算が少ないように思います。今後ますます負担が大きくなると考えます。外部に委託した場合と比較して、東京都内における事務職の平均的な年収1人分は確保する必要があるのではないでしょうか。

3、企画書

(一社)民事信託推進センター 御中
平成30年2月21日
〒903-0114
沖縄県中頭郡西原町字桃原85番地
司法書士宮城事務所
司法書士 宮城 直(みやぎ すなお)
TEL (098)945-9268
FAX (098)963-9775
shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp
開催希望
一般市民向けのセミナー、シンポジウムまたは他の形の催し

目的
・信託制度の幅広い活用
・信託制度の適正な活用普及
・民事信託が必要か不要の気付く機会、必要な人は終わった後に行動できる機会とする

対象
一般市民(無料)

開催日
次年度(9月~12月)

場所
西原町さわふじ未来ホール(沖縄県中頭郡 西原町字与那城140番地の1)

開催費用
(一社)民事信託推進センター様の負担により、講師派遣の予算組み入れを検討お願い致します。

備考
・来場者へ民事信託推進センターの書籍販売、沖縄県内の民事信託及び成年後見関係事業者のパンフレット等の配布。


以上

任意補助人 試論

 

1、 任意補助人はどんなものか

 任意補助人という用語は現在のところ、私の知る限りでは利用されていない。任意後見制度の代理権目録を利用して、民法上の補助人と同じような役割が出来ると考える 。利用者本人が、自身の症状に合わせながら任意保佐人、任意後見人と段階を経て同意権、代理権を受任者に与えていくことが可能となる。また民事信託の受託者や信託監督人、受益者代理人との連携を考えることができる。民法上は最も本人の意思を尊重できる補助制度が、後見制度に比べて20分の1以下の利用件数しかない事実 には様々な理由を考えることができる(法定後見をやむを得ず申立てたなど。)。本人が決めた者に受任者が確定される任意後見制度の中で、実質的に補助類型の仕組みを作ることが出来れば使い勝手の良い制度になると考える。

2、 先行研究
 夫婦の任意後見人となる者が中心となり、受託者である信託銀行に指示を出して財産管理の負担を軽くし、任意後見人は身上監護の割合を多くしていく、というものがある 。
 任意後見契約における代理権目録において、民事信託との調整を図ることが可能か、消極的内容を記載することは可能か、という問題提起がなされている 。
 本稿では任意後見人と民事信託の受託者は同一人であっても構わないという立場を採るが、同一人である場合の利害関係・利益相反関係を整理するものがある 。
 また任意後見支援型信託の文例も研究されている 。この研究での契約書例は、任意後見監督人の選任の申立て等を停止条件として信託契約が発効するため、信託専用口座を作成する際に金融機関との事前調整を要する場合があると考える。金融機関には、信託専用口座を作成する際に委託者の本人確認及び意思確認を行うところがあり、任意後見人が信託契約書を持って行ってすぐに受け付けてくれるとは限らない。

3、 方法

 任意後見契約締結後に任意後見監督人の選任の申立てを行う要件として、本人が補助・保佐・後見の各要件に該当する精神の状況にある者全てとしていることから 、補助類型に該当した時点で任意後見監督人の選任申立てを行うことを前提とする。最初に代理権又は同意権を与えるのは、年金受取口座の管理や要介護認定の申請等の一部の事務に限る。よって、任意後見契約締結後に直ちに任意後見監督人の選任申立てをすることも妨げられない。その後に本人の心身の状態に応じて同意権、代理権を付与、または同意権から代理権への変更が順次行われるように最初の任意後見契約の中で仕組みを作っておくことが望ましい 。何故なら任意後見契約における代理権目録には変更に関する規定がなく、任意後見人の同意権や代理権を徐々に増やしていこうとすると、その度に任意後見契約を締結する必要がある。又は法定後見へ移行 する選択肢もある。

(1)本人または任意後見監督人の同意又は承認
(2)本人または民事信託の受託者、信託監督人、受益者代理人の同意又は承認
(1)または(2)、もしくは(1)と(2)の併用による。
例えば、身上監護事務に関しては任意後見監督人による同意を、財産管理に関する事務については信託監督人による同意を要件とすることが考えられる。この同意は民法上の補助・保佐制度において家庭裁判所が行う同意権付与・代理権付与の審判に該当する 。

4、 議論
任意後見監督人は、家庭裁判所によって選任され 公的な役割を担う。上記の例で財産管理に関する事務について、信託監督人による同意によって任意後見人に代理権が付与された場合、信託財産ではない財産について監督を行うのは任意後見監督人である。信託監督人と任意後見人の連絡体制を整えるか、信託監督人は信託財産及び民事信託の受託者のみを監督し、その他の財産に関する事務の同意は任意後見監督人に同意権を与えるなど後に利害が対立する可能性が少なくなるようにする必要がある。
任意後見監督人を承認権者、同意権者とするには、任意後見契約締結時にその住所及び氏名が特定されていなければならない 。任意後見監督人は、家庭裁判所が選任するので任意後見契約締結時は特定することが出来ない。よって任意後見監督人を承認権者、同意権者とすることは、現状において不可能である。


5、今後に向けて
 任意後見人の代理権目録が一定の手続きを経て変更可能となることが望まれる。また任意後見監督人、家庭裁判所による監督を、本当に必要な方に必要な限度で行う、監督の方法を面談中心にして、事務(通帳を全部コピーして報告)などを簡易に(例えば写真に撮ってメールする、銀行が提供するアプリを利用する等)して親族の負担を減らさなければ、一部の横領と呼ばれることをやっている方のために、利用を考える人の拒絶反応が今後も強くなっていくのではないかと考える。

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任意後見契約に関する法律第三条の規定による証書の様式に関する省令附録第1号様式の注4及び第2号様式の注3
民法15条から19条まで、民法876条の6から876条の10まで。
最高裁判所事務総局家庭局平成28年の実情調査では、後見開始申立て26,836件に対して、補助開始申立ては1297件。
新井誠ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版「信託制度と成年後見制度の融合」P147~P153
渋谷陽一郎「民事信託と任意後見の交錯と協働」『信託フォーラムvol.9』P39~P45
山中眞人、山﨑芳乃「事例から考える民事信託と任意後見の併用」『信託フォーラムvol.9』P46~P53
遠藤英嗣『新しい家族信託』2016日本加除出版P444~P451。

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