2017年5月14日琉球新報 (株)沖縄銀行若松支店 金城寧支店長

けいざい風水「注目される「家族信託」」について

読者に分かりやすく説明することが目的であれば良いと思うのですが、使われている言葉が誤解を与えるのではないかと思い、指摘させていただきます。

「預かる」という言葉を使ってしまうと、法律上寄託(民法657~)となるのではないでしょうか。預金が消費寄託であるように、馴染みがある言葉で良いのかもしれませんが、所有権が移転するという点や受託者の責任などにおいて、「預ける」と「信託する」では違ってくるので、安易に使ってしまうと銀行預金と同じような感覚で信託を利用する方が出てくるのではないでしょうか。

※で、所有権は受託者に移転することが明記されていますので、これが税務上の説明のためだけでなければ良いと思います。

 「例えば」で、子が「受益者」となっていますが、「父親の次の受益者」または「父親とともに受益者」ではないでしょうか。分かりやすいように省いているのであれば良いと思うのですが、「例えば」の通りにやると、信託行為時に子が受益権にお金を払わない限り、贈与税がかかります(相続税法9条の2)ので、実際に利用する方はあまりいらっしゃらないのではないかと思います。

「原則として財産処分などができず」は、「原則として財産処分には、本人のためになることを示して、家庭裁判所の許可を得ることが必要」または「原則として相続人のための財産処分はできず」ではないでしょうか。

「家族信託は本人の判断能力がある状態でも」は、「家族信託は本人の判断能力があるときのみ」ではないでしょうか。

3月末時点で(株)沖縄銀行では信託口口座が開設できないのですが、今は開設

することが出来るから記事にも記載しているのでしょうか。

相続の相談を受けている人への意見をいう前に

―事例検討について―

相続に関係のある異業種(士業、保険、不動産関係の方など)と事例検討会に参加しました。

自身が相談を受けている相続の事案について紹介し、他の方が意見を言う、というような進め方です。自分の意見を言う前提として事実関係を確認しながら進めていきます。

ここで意見の言い方にそれぞれ人によって違いが出てきます。「私だったら~」派、「○○すべき。なぜなら○○」派、「○○した方が良いですよ。」派など。

 私もそうならないように気を付けているのですが、2番目、3番目は言わないようにしています。

専門家などが、「○○すべき。なぜなら○○」と言った瞬間、他の人が何も言えなくなってしまうことがあります。これではそこから先がありません。それに相続の相談をしている人と一度も会っていない、話していないのに、そこまで自信のある言い方は無理があると考えてしまいます。

「○○した方が良いですよ。」と言われても、それをするかどうかは実際に相談を受けている方なので、「○○する方法があります。」くらいにしておかないと、この人責任取れるのかなと思ってしまいます。

こういうのがあるので事例検討やディスカッション、議論などは、「言うべからず集」でも作ってからやった方が効率いいのじゃないかと思っています。

それか、「議論」に対する考えに共通認識がある人同士だと、考え方が違っていても前に進んでいきます。

信託したアパートの賃料

1、賃貸不動産であるアパートを信託しました。委託者兼受益者はA、受託者はAの子です。

2、所有権移転及び信託の登記を済ませました。なお、信託目録の信託財産の管理方法として、「賃料の受取および回収」の記載があります。

3、アパート家賃の振り込み先口座となる信託口口座も開設しました。

4、AとAの子は、アパートの住人に対して、「所有者」がAからAの子に変わったので、今後はこの口座への振り込みをお願いします、と信託口口座が記載された書類を渡して一戸一戸挨拶をして回りました。

5、アパートの住民は、所有者が変わったのだと理解して賃料を信託口口座へ振り込みました。

・この場合、振り込まれた賃料は、信託財産になるのでしょうか。

原則として、信託財産であるアパートの住人から振り込まれた賃料は、信託財産となります。

AとAの子がアパートの住民に対して、信託財産であるアパートの賃料を、信託口口座へ振り込みをお願いする行為は、信託のためにする意思があると推定されます。

Aも一緒に挨拶に回っていることから、信託目的に反することはなく、Aの子の権限の範囲内と推定されます。

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ベストプラクティス

4、の説明で所有者が変わったとの説明は、間違いではないと考えますが、誤解を招く可能性もあるかもしれません。賃貸人が変わったと説明し、登記記録のコピーも一緒に渡す方法もあるのではないでしょうか。

渡す時には、所有権移転にマーカーをひき、登記の際、信託目録には受託者の権限として賃料の受取りを明記して、そこにもマーカーをひくと良いのではないかと考えます。

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アパートの賃料は、当然に信託財産になるのか。

賃料は、信託財産であるアパートの管理により得た財産であるため、当然に信託財産になると考えます(信託法21条1項3号)。

受託者から受益者へ賃料の給付を行い、受益者の手元、口座にお金が入ったとき、このお金のことを難しい言葉にすると、何と呼べばいいでしょうか。条文の言葉を借りれば、「受益権を有する受益者が受託者から信託財産に係る給付として受けた金銭」

となります。

民法上の法定果実は、出てこないのではないかと考えます。

なお異なる説として、渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』日本加除出版(株)2017 P254

「なお、賃料は信託不動産の法定果実(民法88条2項)であるが、信託行為の定めによって信託財産としている。」

私がこの文章を書くなら、

「賃料は、大きな枠で捉えると不動産の使用の対価として受け取る法定果実(民法88条2項)です。ただし信託不動産に関しては、信託行為が効力を生じることにより信託法が適用され、16条により当然に信託財産に属する財産となります。信託が終了すると、賃料は法定果実に戻ります。」

となります。

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参考:

信託法16条、21条、26条、27条、32条4項、97条

民法88条

信託すると、アパートの敷金はどうなる。

1、賃貸不動産であるアパートを信託しました。委託者兼受益者はA、受託者はAの子です。

2、所有権移転及び信託の登記を済ませました。

3、Aの子は、金融機関に行ってAが預かっている敷金を入金するために、信託口口座を作りました。

アパートを貸している人からすると、敷金は預り金であり、借りている人が部屋を出る際には返すのが原則なので債務となります。

債務は信託できないのですが、信託法のどの部分によってこの預かっているお金を信託口口座へ入金することができるのでしょうか。

信託行為によって、賃貸人の地位は当然に受託者に移転し、賃貸人の地位と一緒に敷金返還債務も当然に受託者に移転する、と考えることができます(信託法21条1項2号)。

異なる考え方

・「信託行為とは別に、アパートの住民の承諾を得て、敷金を返すという債務を引き受けることが必要。」現実的に厳しいのではないかと考えられます。

・「受託者が信託財産のためにした権限内の行為によって生じた権利として、預かっている敷金をいずれ返すために信託口口座へ入金することができる。」

受託者Aの子は、信託行為のほかに敷金を移転させるような行為をしていません。

受託者が信託財産のために、権限内の行為でアパートを取得した場合には、受託者の行為によって、アパートの所有権、賃貸人の地位の移転、預かっている敷金を移転する権利が生じるので、当てはまると考えられます。

 なお、入金後はアパートの住民に対しても、明細を作るなどして預けた敷金が保全されていることを通知することも考えることができます。信託したことの報告を、戸別訪問ではなく通知によるのであれば、併せて行う方が分かりやすいのではないでしょうか。

参考

信託法21条1項

琉球新報かふう よくわかる不動産相続Q&A FiLe.3

亡くなった方

被相続人A(会社社長)

1、相続人

長男の子F

長女B(相談者)

長女の夫C(普通養子)、会社専務

2、相続財産

マンション(Gと数年前から同居、Gもローンを一部支払い)

自宅(土地・建物)

会社事務所(土地・建物)

会社株式

預金2000万円

備考:

Aと内縁関係だったGはAが経営していた会社の経理を担当しています。

離婚した妻は存命です。

長男Dは、5年前に亡くなり妻と長男Fがいます。

亡くなったDの妻と長男Fが相続する権利を主張しています。

Gはマンションのローンを一部支払っていたことを根拠に、マンションを取得したいと考えています。

考え方

1、相続人は決まっています。分け方はまだ決まっていません。

2、価格が決まっていない相続財産が一部あります。マンションについては1,500万円、自宅を4,000万円(土地300㎡)、会社事務所を3000万円(土地200㎡)、会社株式を3,500万円(全て亡きA所有)として考えてみます。

3、債務、連帯保証については記載がないので、ないものと考えます。

4、自宅にはDの妻とFが同居していると考えます。

5、上の事実だけから考えて、私なら下のような提案です。

 (1)自宅は長男F

 (2)会社株式はC

 (3)会社事務所はC

 (4)マンションはBが取得しGに売却します。

 (5)預金は相続税を支払った残額をBとFで均等に分けます。

もし、Aの生前に家族信託を提案することが出来るとしたら、

(1)生命保険加入の検討

(2)A及び関係者の意向の聞き取り

(3)マンション及び税金を払うためのお金について信託の検討(当初受益者A及びG、受託者G、Aが亡くなった後の受益者G、残余財産の帰属権利者は信託終了時の受益者)

(4)会社株式、会社事務所について信託の検討(受託者C、Aが亡くなった後の受益者C、残余財産の帰属権利者は信託終了時の受益者)

(5)自宅について信託の検討(受託者F、Aが亡くなった後の受益者F、残余財産の帰属権利者は信託終了時の受益者)

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参考:琉球新報かふう 2017年5月19日

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