照会事例から見る信託の登記実務(17)

登記情報[1]の記事、横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(17)」からです。セキュリティトラストのうち、根抵当権に関する事例を扱っています。

登記原因証明情報が報告式・差入れ方式になっていますが、このような方法で申請してもよいのだなと思いました。登記官が登記情報で掲載しているということは、受託者が信託銀行・信託会社ではない場合の信託契約書を作成した司法書士に向けての見本として示しているのだと思います。実例があるかは分かりません[2]

参考:(一社)信託協会 担保権の信託(セキュリティ・トラスト)

https://www.shintaku-kyokai.or.jp/products/corporation/security_trust.html

受益者の氏名・住所は、原則としてそれぞれ登記しなければならず、この場合において、受益者の氏名・住所に変更が生じたときは、その都度、登記をしなければなりませんが、受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法などが登記されていれば、個別の登記が不要とされています(不動産登記法97条1項2号、2項)。

不動産登記法97条1項2号、2項によって受益者の表示を行う方法が良いのか、分かりませんでした。[3]


[1] P53~、720号2021年11月金融財政事情研究会

[2] P600~七戸克彦監修「条解不動産登記法」2013弘文堂

[3] 財団法人トラスト60「セキュリティトラスト研究会報告書」平成19年1月P9~p13など。

マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議

財務省 マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議 令和3年8月19日開催

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/aml_cft_policy/index.html

・マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(令和3年8月30日)

P2、4.法人、信託の悪用防止

(1) 法人・信託の悪用防止

 法人及び信託がマネロン・テロ資金供与に悪用されることを防ぐため、法人及び信託に関する適切なリスク評価を実施し、リスクの理解を向上させる。

期限・令和 4 年春 担当府庁等 法務省、警察庁

(2) 実質的支配者情報の透明性向上

全ての特定事業者が、期限を設定して、既存顧客の実質的支配者情報を確認するなど、実質的支配者に関する情報源を強化する。

期限・令和 6 年春 担当府庁等 法務省、警察庁、特定事業者、所管行政庁

・株式会社の申出により、商業登記所が実質的支配者情報を保管し、その旨を証明する制度を今年度中に開始するとともに、実質的支配者情報を一元的に管理する仕組みの構築に向け、関係省庁が連携して利用の促進等の取組みを進める。

期限・令和 4 年秋 担当府庁等 法務省、警察庁、特定事業者、所管行政庁

実質的支配者リストについて

実質的支配者リスト制度の創設(令和4年1月31日運用開始)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00116.html

(3) 民事信託・外国信託に関する実質的支配者情報の利用・正確性確保

信託会社に設定・管理されていない民事信託及び外国信託に関する実質的支配者情報を利用可能とし、その正確性を確保するための方策を検討し、実施する。

期限・令和 4 年秋 担当府庁等 法務省、その他関係省庁

 実質的支配者リストの対象法人は、株式会社(特例有限会社を含む。)となっています。民事信託における実質的支配者とは誰なのでしょうか。対策を読む限り、信託会社に設定管理されていない、とあるので一般社団法人が受託者の場合の民事信託について、受益者が一般社団法人の場合で指図権を持っている場合、などが思い浮かびましたが、実質的に信託を支配する者の判断は、信託行為により変わり得るのかなと思います。

(4) 法人・信託に関するガイダンス作成

道府県警や国税庁等の法執行機関向けに、法人及び信託の実質的支配者情報に適時にアクセスするためのガイダンスを作成する。

期限・令和 4 年秋 担当府庁等 警察庁、財務省及びその他関係省庁

FATF(金融活動作業部会)対日相互審査報告書令和3年8月30日財務省

概要部分の日本語版

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/fatf/fatfhoudou_20210830_1.html

P3

日本は、リスクのある非営利団体(以下、NPO 等)についての理解が十分ではなく、そのため、NPO 等の テロ資金供与対策のための予防的措置を強化するために、当局がターゲットを絞ったアウトリーチを行うことができない。このため、日本の NPO 等は、知らず知らずのうちに、テロ資金供与の活動に巻き込まれる危険性がある。

P8 大規模銀行(より高いリスクを有するとされている GSIB 等)を含む一定数の金融機関及び資金移動業者は、マネロン・テロ資金供与リスクについて適切な理解を有している。その他の金融機関は、自らのマネロン・テロ資金供与リスクの理解がまだ限定的である。一定数の金融機関は、自らのリスク評価を開始しているが、その他の金融機関はリスクに基づいた低減措置を適用していない。これらの金融機関は、継続的顧客管理、取引モニタリング、実質的支配者の確認・検証等の、最近導入・変更された義務について、十分な理解を有していない。

P10

日本は、法人が悪用される可能性についてある程度理解しているが、この理解は深度を欠いており、様々な種類の法人に関連する脆弱性についての十分な理解が示されていない。法的取極めの悪用に関連するリスクについての理解はない。法執行機関の間では、捜査に役立つ基本情報や実質的支配者情報の情報源について、ある程度の理解が不足しているようである。

司法書士として

駿河台法学第34巻2号 司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論について : (続)民事信託業務の覚書 : 「民事信託」実務の諸問題⑸

https://surugadai.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=2275&item_no=1&page_id=13&block_id=21

11月相談会のご案内ー家族信託の相談会その38ー

お気軽にどうぞ。
家族信託の相談会その38
2021年11月26日(金)14時~17時
□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え
1組様 5000円

場所 司法書士宮城事務所(西原町)
要予約   司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp
後援  (株)ラジオ沖縄

民事信託実務入門―業務の始まり―

信託フォーラム[1]の金森健一弁護士「第1回民事信託実務入門―業務の始まり―」からです。

そこで、民事信託の利用の入り口となる、民事信託契約書とこれに付随する業務(以下「民事信託セッティング業務」という。)を担う者もフィデュ―シャリーに他ならないとの認識の下に、その実務について論じることとしたい。

この記事では、民事信託セッティング業務という言葉が使われています。同じ信託フォーラムで記事を掲載している渋谷陽一郎先生は、司法書士が民事信託に関する業務を行う場合の名称を、民事信託支援業務[2]としています。この記事と同じ信託フォーラム16号「特集2民事信託をめぐる裁判例の動向」の座談会で、春口剛寛司法書士は「民事信託支援業務」としています。山﨑芳乃司法書士は、「民事信託支援業務」、「信託組成」という用語を使用しています。同じく信託フォーラム16号の高橋宏治「民事信託士協会と地域金融機関との連携について」では、「民事信託に関する業務」としています。また司法書士が民事信託に関する業務を行うことが可能である根拠を、司法書士法施行規則31条第1項第2号としています。

信託が欲しい(さらに、その信託で目的や希望を叶えたい)のであって、信託契約書そのものが欲しいわけではない。契約書を作って登記名義だけを移したいという者も稀にいる(それに呼応するように、名義変更のための登記代理のみを業務内容と考える者もいる)。

個人的な意見ですが、信託が欲しい、というよりは信託をしないことによって被るかもしれない不利益を避けたい、というのが大きいような気がします。そこも信託の目的や希望に入るのかもしれません。「契約書を作って登記名義だけを移したいという者も稀にいる(それに呼応するように、名義変更のための登記代理のみを業務内容と考える者もいる)。」に関しては、初めて知りました。

信託は、他の制度よりも、当事者において高度な意思能力を要求される。

初めて知りました。個別具体的な事案に拠るのだと思います。例えば子が親の依頼に応えて、収益不動産を適切に分別管理してきた場合などは、他の制度、任意後見制度などと同程度の意思能力で足りるのではないかなと思います。

参考:厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000197665.html

民事信託契約書の作成業務が「法律事務」(弁護士法3条)に当たることは争いの余地がない。弁護士であれば、依頼者との間で委任契約を締結する。

この文章には、注釈も付いていて、弁護士法72条との関係については検討しないとしています。司法書士は可能でしょうか(司法書士法1条、3条)。

現在の法制上、日本の民事信託の推進及び普及のトップランナーがマネーロンダリング・テロ資金供与リスク対策のループホールとなっている。

犯罪による収益移転防止法4条1項、別表・同法施行規令8条3項9号・同4項6号イロハ、についての言及です。私はこの指摘に関しては、受け止めて早めの対策が必要だと思います。個人として関係省庁に要望は提出しました。ループホールとは、抜け穴・逃げ道のことのようです。

真の、正確、不正確、異なる特殊性、複雑なプロセス、


[1] 16号,2021年10月日本加除出版P97~。

[2] 「民事信託支援業務のための執務指針案100条(8)」市民と法2021年8月130号,民事法研究会,p21~

信託財産を受託者の固有財産とする変更登記の議論に潜む陥穽(かんせい)

信託フォーラム[1]の渋谷陽一郎「信託財産を受託者の固有財産とする変更登記の議論に潜む陥穽(かんせい)」から考えてみたいと思います。

その一方で、次のような声を聴く機会も増えた。司法書士の読者からの声だ。それは本誌「信託フォーラム」の記事及び執筆陣が、弁護士中心となりつつあり、かつ、司法書士関係の記事が減ってきたので、興味を持てる記事が少なくなってきた、という不満だ。

 

 司法書士の読者、という場合、不満を言っている司法書士が何名位いて、どのような地域に多いのかまでは、出しても良いのかなと思いました。民事信託の記事に関しては、主語の大きさや、ある士業が、という表現が大きいんじゃないかなと感じました。

 信託フォーラムの記事及び執筆陣が弁護士中心となりつつあるのは、著者が本記事で福祉型信託の提唱者とされている新井誠編集代表、編集委員に入っている大貫正男司法書士、佐藤純通司法書士の意向でもあると考えられます。

 司法書士自身が信託フォーラムの構成を決めている側面があるので、不満があったとしても、説得力があるかというと少し難しいような印象を受けます。著者についても、方向性の違う家族信託実務ガイドにも寄稿されており、市民と法・家族信託実務ガイド・登記研究・民事信託フォーム・金融法務事情では、それぞれ内容の根幹を替えているように感じます。司法書士のための、という場合、一番に提出する必要があるのは、下の紀要に関する受け止め方だと思います。そうでなければ、司法書士は民事信託に関する業務を行い得ないことになります。

司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論について : (続)民事信託業務の覚書 : 「民事信託」実務の諸問題⑸

https://surugadai.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=2275&item_no=1&page_id=13&block_id=21

 また信託の学校に関しても、電話では民事信託推進センターや日本司法書士会連合会民事信託推進委員の文句を言いながら、信託の学校にとって邪魔だとなると、一転して陰で組織的に除名などしてくるのもどうなのかなと思います。

 リプが何なのか分かりませんが、事実を提出しているのみです。証拠が残らない電話で連絡してきて、除名した後は知らない顔というのは、法律上は上手い方法だと思います。

信託法改正の直後、司法書士の人々に対して信託に取り組む勇気を与え、信託熱に火をつけ、その後の民事信託普及の端緒を与えたのは、福祉型信託の提唱者の新井誠教授である。2007年から2010年まで、全国各地の司法書士会によって、度々、新井教授を講師に招いた信託研修会が催されたが、その頃の、新井教授の信託法の講義を聴く司法書士の人々の表情の真剣さと熱気は忘れられない。

 私にとって、民事信託に取り組むきっかけとなり、現在も尊敬しているのは大垣尚司教授です。大垣尚司教授を研修に招いたのは新井誠教授だと聴きました。その面に関しては感謝したいと思います。また2012年段階で大垣尚司教授は士業毎の出来ること、出来ないことについて具体的にコメントがありましたが、新井誠教授から司法書士法、弁護士法についてのコメントを聴いたことがありません。ここは私が知らないだけかもしれません。

不動産登記法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000123

(権利の変更の登記等の特則)

第百四条の二 

2 信託財産に属する不動産についてする次の表の上欄に掲げる場合における権利の変更の登記(第九十八条第三項の登記を除く。)については、同表の中欄に掲げる者を登記権利者とし、同表の下欄に掲げる者を登記義務者とする。この場合において、受益者(信託管理人がある場合にあっては、信託管理人。以下この項において同じ。)については、第二十二条本文の規定は、適用しない。

一 不動産に関する権利が固有財産に属する財産から信託財産に属する財産となった場合

受益者

受託者

二 不動産に関する権利が信託財産に属する財産から固有財産に属する財産となった場合

受託者

受益者

三 不動産に関する権利が一の信託の信託財産に属する財産から他の信託の信託財産に属する財産となった場合

当該他の信託の受益者及び受託者

当該一の信託の受益者及び受託者

テーマ13 信託法183条6項の「みなし受益者」は、不動産登記法104条の2第2項の登記義務者としての「受益者」となり得るか。

信託法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(帰属権利者)第百八十三条

6 帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす。

不動産登記法(信託の登記の登記事項)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000123

第九十七条 信託の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。

一 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所

二 受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め

2 前項第二号から第六号までに掲げる事項のいずれかを登記したときは、同項第一号の受益者(同項第四号に掲げる事項を登記した場合にあっては、当該受益者代理人が代理する受益者に限る。)の氏名又は名称及び住所を登記することを要しない。

104条の2第2項の「受託者の固有財産となった旨の登記及び信託登記抹消」の申請書には、「登記義務者として、受益者を記載する」として、その受益者の表示が「登記原因証明情報の表示及び信託目録に記録された受益者の表示に符合していることを要する」としている。要するに、同書では、104条の2第2項で規定する登記義務者としての受益者とは、不動産登記法97条1項1号で登記された受益者のことである旨、断言している。

 信託法上、183条の解釈として清算が終了することで、残余財産の帰属権利者は受益者となります。不動産登記法上、商業登記法のように信託の清算の登記がないため、登記記録上、手続の連続性が失われます。指摘されてみると、そうかもしれないと思いました。不動産登記法104条の2第2項で規定する受益者は、解釈が定まらない限り狭く範囲を取る必要があると思います。よって信託法上も不動産登記法上も受益者である必要があると思います。

今後、信託の終了の場合、

1 信託目録の受益者欄を残余財産の受益者または残余財産の帰属権利者に変更登記申請。

2 受託者の固有財産となった旨の変更登記及び信託登記の抹消登記申請。登記権利者は信託目録の受益者欄に表示されている者、登記義務者は受託者。

2件を連件申請する、という流れになるのかなと思います。


[1] 16号、2021年10月、P120~

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