民事信託に関する問いかけ

・帳簿と財産状況開示資料(信託法37条)は違うのか?

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

信託法(帳簿等の作成等、報告及び保存の義務)

第三十七条 受託者は、信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

2 受託者は、毎年一回、一定の時期に、法務省令で定めるところにより、貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

3 受託者は、前項の書類又は電磁的記録を作成したときは、その内容について受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)に報告しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4 受託者は、第一項の書類又は電磁的記録を作成した場合には、その作成の日から十年間(当該期間内に信託の清算の結了があったときは、その日までの間。次項において同じ。)、当該書類(当該書類に代えて電磁的記録を法務省令で定める方法により作成した場合にあっては、当該電磁的記録)又は電磁的記録(当該電磁的記録に代えて書面を作成した場合にあっては、当該書面)を保存しなければならない。ただし、受益者(二人以上の受益者が現に存する場合にあってはそのすべての受益者、信託管理人が現に存する場合にあっては信託管理人。第六項ただし書において同じ。)に対し、当該書類若しくはその写しを交付し、又は当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供したときは、この限りでない。

5 受託者は、信託財産に属する財産の処分に係る契約書その他の信託事務の処理に関する書類又は電磁的記録を作成し、又は取得した場合には、その作成又は取得の日から十年間、当該書類(当該書類に代えて電磁的記録を法務省令で定める方法により作成した場合にあっては、当該電磁的記録)又は電磁的記録(当該電磁的記録に代えて書面を作成した場合にあっては、当該書面)を保存しなければならない。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。

6 受託者は、第二項の書類又は電磁的記録を作成した場合には、信託の清算の結了の日までの間、当該書類(当該書類に代えて電磁的記録を法務省令で定める方法により作成した場合にあっては、当該電磁的記録)又は電磁的記録(当該電磁的記録に代えて書面を作成した場合にあっては、当該書面)を保存しなければならない。ただし、その作成の日から十年間を経過した後において、受益者に対し、当該書類若しくはその写しを交付し、又は当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供したときは、この限りでない。

信託法施行規則

第八章 計算

第三十三条 次に掲げる規定に規定する法務省令で定めるべき事項は、信託計算規則の定めるところによる。

一 法第三十七条第一項及び第二項

二 法第二百二十二条第二項、第三項及び第四項

三 法第二百二十五条

四 法第二百五十二条第一項

信託計算規則

(信託帳簿等の作成)

第四条 法第三十七条第一項の規定による信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録(以下この条及び次条において「信託帳簿」という。)の作成及び法第三十七条第二項の規定による同項の書類又は電磁的記録の作成については、この条に定めるところによる。

2 信託帳簿は、一の書面その他の資料として作成することを要せず、他の目的で作成された書類又は電磁的記録をもって信託帳簿とすることができる。

3 法第三十七条第二項に規定する法務省令で定める書類又は電磁的記録は、この条の規定により作成される財産状況開示資料とする。

4 財産状況開示資料は、信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の概況を明らかにするものでなければならない。

5 財産状況開示資料は、信託帳簿に基づいて作成しなければならない。

6 信託帳簿又は財産状況開示資料の作成に当たっては、信託行為の趣旨をしん酌しなければならない。

(会計帳簿等を作成すべき信託の特例)

第五条 前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する信託については、法第二百二十二条第二項の会計帳簿を受託者が作成すべき信託帳簿とし、同条第四項の規定により作成すべき書類又は電磁的記録を受託者が作成すべき財産状況開示資料とする。

一 当該信託の受益権(二以上の受益権がある場合にあっては、そのすべての受益権)について法第九十三条第一項ただし書の規定の適用がなく、かつ、当該受益権について譲渡の制限がないこと。

二 第三者の同意又は承諾を得ることなく信託財産に属する財産のうち主要なものの売却若しくは信託財産に属する財産の全部若しくは大部分の売却又はこれらに準ずる行為を行う権限を当該信託の受託者が信託行為によって有していること。

2 前条の規定にかかわらず、前項に規定する信託においては、信託帳簿及び財産状況開示資料の作成は、次章(第二十条及び第三節を除く。)の規定に従って行わなければならない。

以前受けた質問と回答を再掲します。この回答に関しての質問です。

・一般社団法人が解散した場合の、保留利益は社員や設立者に帰属しないので相続税の対象外になるとは?

相続税の関係については、最終的に税理士の判断を仰ぎます。一般社団法人が解散した後の残余財産の帰属先については、非営利型でない限り、解散後に清算法人の社員総会で定めることが出来ます。

・他の専門家に聞いたが、一般社団法人の設立は、法改正によって相続税対策にならないし、税理士が必要になり、かえって費用がかかるか?

 上の質問のうち、「法改正によって相続税対策にならないし」の部分は、一般社団法人が財産の所有者になった場合に関してです。信託の受託者になる場合とは関係がありません。「税理士が必要になり、かえって費用がかかるか」については、一般社団法人を設立するか、信託を設定するかと税理士が必要かとは関係がありません。税について安心して業務を行いたい場合は、専門家である税理士に依頼するのが良いと思います。反対に自分でやるという場合は、法人を設立しても信託を設定しても、税務署に聞いたり調べたりしながら自分でやれば良いと思います。

国税庁 No.4143 特定の一般社団法人等に対する課税

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4143.htm

・(受託者の信託事務)として、「信託不動産の売却代金を管理し、受益者の生活費、医療費及び介護費用等に充てるために支出すること」は可能か。

 上の記載だと、信託不動産の売却が前提となっています。私なら信託不動産の売却が確実な場合以外は、このような記載はしません。受託者の信託事務として、信託不動産の管理方法に売却することが出来る、信託金銭の管理方法に受益者の生活費、医療費及び介護費用と分けて書くと思います。

・信託監督人・受益者代理人に、受託者の配偶者、子、兄弟姉妹が就任することに問題はないか。

 民法850条、任意後見契約に関する法律5条が根拠として考えられているようです。私は少し分かりませんでした。各信託ごとに構成出来るのか良いのかなと思います。士業の考え方に近すぎないかなというのが正直な感想です。信託監督人、受益者代理人という言葉は堅いので、士業など専門家が就任してもらうと安心出来る、という側面もあると思うのでそれは否定しません。ただ、多くの民事信託において、信託監督人が必要か、受益者代理人が必要かは少し考える必要があると思います。私は、信託監督人・受益者代理人を置くことが出来ることと、具体的な選任方法は信託行為に記載しますが、信託設定時にはほとんど置いていません。

民法

(後見監督人の欠格事由)

第八百五十条 後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。

任意後見契約に関する法律

(任意後見監督人の欠格事由)

第五条 任意後見受任者又は任意後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、任意後見監督人となることができない。

・受託者に法律上、会計上、税法上の義務を理解させるとは、どの程度のことをいうのか?

 民事信託を支援する専門家には、受託者に法律上、会計上、税法上の義務を理解させなければならない、と言われましたが、どの程度なのでしょうか。完全に理解することはおそらく専門家でも出来ません。少なくとも私はそのような専門家を知りません。

 受託者の義務について、どんな時に義務が発生するか、そのとき何処に、誰に頼めば良いのかの窓口になることが必要だと思います。そして、それは信託設定時に全て出来ることではなく、受託者としての事務をこなしながらじゃないと出来ないのではないかと思います。

「家族信託で出来ないこと」について

あるメールマガジンを少し加工しています。読みながら考えてみたいと思います。

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意外と間違いやすい。信託契約でできないことがあるので、今日は紹介していきます!

家族信託でできないこと

(1)親名義の預金は下ろせない

(2)親名義の不動産も動かせない

(3)老人ホーム入居の契約はできない

(1)親名義の預金は下ろせない

「えっ、どういうこと!?」「親の預貯金を使えるように家族信託したいのに・・」

と思われた方もいるかもしれません!しっかり説明しますね(^^)家族信託で「親のお金を使える」ようにできます!しかし、「親の名義の預金は下ろせません」。大切なことは、「信託契約だけではダメ!」ということです。例えば、家族信託契約書を持って銀行に行き、親名義の預金を下ろしたいと言っても、銀行員は対応できません。親名義の口座からお金を下ろせるのは、親だけだからです!そのため、家族信託契約を結んだお客様には契約後に信託用の子供名義の口座を開設いただきます。そして、信託したお金を移動させるのです。子供名義の口座なので、子供の裁量で下ろしたり、振り込んだりできるのです。親の口座から、信託用の口座にお金を移すのは普通の銀行振込になります!そのため注意すべきは、親がまだ契約能力がある間でないとお金を移すことができないのです。

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 「契約後に信託用の子供名義の口座を開設いただきます。」は、おそらく「委託者【親氏名】受託者【子供氏名】信託口」というような名義の口座か信託専用の子供名義の口座を指しているのだと思います(信託法34条)。

 「子供名義の口座なので、子供の裁量で下ろしたり、振り込んだりできるのです。」は、信託行為の内容によります(信託法26条、29条、30条など)。

 「親の口座から、信託用の口座にお金を移すのは普通の銀行振込になります!そのため注意すべきは、親がまだ契約能力がある間でないとお金を移すことができないのです。」。もし信託契約を締結した後、金融機関で信託用の口座を作る前に親の契約能力というものが無くなった場合、お金を移すことは出来ないのでしょうか。私は経験がないのですが、金融機関で事前に信託契約書の内容について調整していることを前提として、お金を移すことは債務の履行のように構成出来ないのかなと考えています。また0円で信託用の口座を開設出来る場合、自益信託の信託契約書に、受益者代理人の定めがあるときは資金の移動が出来ると思われます。

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(2)親名義の不動産も動かせない

こちらも驚いたかもしれませんが、お金の場合とよく似ています!不動産も信託をしただけでは足りず、不動産の登記簿に信託した旨を載せる手続きをして、不動産の名義を子供に変更しないといけません!!不動産の登記簿を子供名義に変えるためにも親の契約能力が必要になります!そのため、信託契約だけしておいて後日に不動産の名義を変える場合に、注意が必要です。もしも、親の契約能力が無くなっていた場合には、成年後見制度を利用しないと不動産を動かすことができません。

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この部分に関しては、信託契約公正証書を作成する際に信託財産に属する財産となる不動産に関して登記申請の委任状にも一緒に署名押印しておけば、不動産登記申請自体は行うことが出来ます(不動産登記法17条)。ただし、印鑑証明書について3か月の有効期限があるので、その期間内の登記申請が必要です。

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(3)老人ホーム入居の契約はできない

家族信託契約をしていても、親に代わって老人ホームなどの入居契約をする権限は子供にはありません。家族信託契約は、信託された財産についての財産管理の契約になります!そのため、施設入居時に親の契約能力が無くなっていて、施設より後見人の利用を求められた場合、成年後見人の手続きをしないと入居契約は出来ません!!!そのため、信託契約と一緒に任意後見契約をして、子供が後見人なれるようにしておくことも合わせて提案をしています!

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 「施設入居時に親の契約能力が無くなっていて、施設より後見人の利用を求められた場合、成年後見人の手続きをしないと入居契約は出来ません。」の部分は契約能力というのがどのようなものか分からないのですが、その通りだと思います。

特例有限会社の取締役を変更する場合

 母が有限会社の取締役をしていました。会社の取締役は母1人です。事業は母が病気がちになってからしていません。母が亡くなりました。役所と有限会社との間で、土地に関する契約が残っていたため、長男が会社の株式を相続して取締役に就任する登記を行いました。役所との契約が終わった後、将来的に事業を行いたいという次男に取締役を変更することになりました。

法務省のホームページから様式を取り出す場合は、上の手順を取りました。

オンラインで登記申請書を提出する場合

https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/

受付番号票貼付欄

特例有限会社変更登記申請書

 1.会社法人等番号   3600-02-010614

・分からない場合

経済産業省     gBizINFOで検索して、左端の番号を抜いた12桁が会社法人等番号。

https://info.gbiz.go.jp/hojin/ichiran?hojinBango=9360002010614

   フリガナ        ナントカカントカ

 1.商 号         なんとかかんとか有限会社

 1.本 店        沖縄県那覇市那覇一丁目1番1号

 1.登記の事由    取締役の変更

 1.登記すべき事項  別紙のとおり

 1.登録免許税        金10,000円

登録免許税法別表第一カ

 1.添付書類

株主総会議事録                    1通

株主の氏名又は名称,住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト) 1通

辞任届                        1通

就任承諾書                      1通

印鑑証明書                      1通

 上記のとおり,登記の申請をします。      

       令和3年3月1日

                       沖縄県那覇市那覇一丁目1番1号

申請人 なんとかかんとか有限会社

             取締役 次男(     )会社印か商業電子証明書による署名

                 連絡先の電話番号 1100-1234

           那覇地方法務局  御中

  収入印紙貼付台紙

1万円  (登録免許税法別表一 カ)

臨時株主総会議事録

    令和3年2月15日当会社の本店において,臨時株主総会を開催した。

  株主の総数                          1名

 発行済株式の総数                     200株

   (自己株式の数 0株)

議決権を行使することができる株主の数            1名

議決権を行使することができる株主の議決権の数      200個

出席株主数(委任状による者を含む。)            1名

出席株主の議決権の数                   200個

出席取締役 【長男氏名】(議長兼議事録作成者)取締役候補者 【次男氏名】

 以上のとおり株主の出席があったので,定款の定めにより取締役【長男氏名】  は議長席につき,本臨時株主総会は適法に成立したので開会する旨を宣言し,直   ちに,議事に入った。

  議案   取締役の辞任に伴う取締役選任に関する件

 議長は取締役【長男氏名】から辞任の申出があったため,後任者の選任の必要がある旨を述べ,その選任方法を諮ったところ,出席株主中から議長の指名に一任したいとの発言があり,一同これを承認したので,議長は下記の者を後任者に指名し,この者につきその可否を諮ったところ,満場異議なくこれに賛成したので,下記のとおり就任することに可決確定した。

取締役 【次男住所】【次男氏名】

なお,被選任者は,席上その就任を承諾した。

 議長は,以上をもって本日の議事を終了した旨を述べ,閉会した。上記の決議を明確にするため,この議事録を作成し,議長及び出席取締役がこれに記名する。

 令和3年2月15日             なんとかかんとか有限会社臨時株主総会

  議事録作成者(議長) 【長男氏名】(    )会社印か商業電子証明書による署名 

 取締役  【次男氏名】(    )実印か電子署名 

 株主の氏名又は名称,住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)

証 明 書

 次の対象に関する商業登記規則61条2項又は3項の株主は次のとおりであることを証明する。

 令和3年2月15日付け株主定時総会の全ての議案につき、総議決権数(当該議案につき、議決権を行使することができる全ての株主の有する議決権の数の合計をいう。以下同じ。)に対する株主の有する議決権(当該議案につき議決権を行使できるものに限る。以下同じ。)の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であって、次の①と②の人数のうち少ない方の人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株主総会の決議を要する場合にあっては、その種類の株式の数)及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権の数に係る当該割合は、次のとおりであることを証明します。

 氏名又は名称住所株式数  (株)議決権数議決権数
の割合
1 長男氏名長男住所 200 200 100パーセント 
2     
3    
 合計 200100.0%
総議決権数 200 

なんとかかんとか有限会社

取締役【次男氏名】(    )会社印か電子署名

辞任届の例

辞 任 届

  私は,このたび一身上の都合により,貴社の取締役を辞任いたしたく,お届けいたします。

 令和○年○月○日

              ○県○市○町○丁目○番○号【長男住所】

              長男氏名    ㊞ 実印か電子署名

なんとかかんとか有限会社御中

死亡届の例

死 亡 届

  取締役【長男氏名】は,令和○年○月○日死亡いたしましたので,お届けいたします。

  令和○年○月○日(死亡届を作成した日)

                 ○県○市○町○丁目○番○号【次男住所】

                       【次男氏名】    

なんとかかんとか有限会社 御中

 就任承諾書の例

就 任 承 諾 書

  私は,令和3年2月15日開催の貴社株主総会において,貴社の取締役に

 選任されたので,その就任を承諾します。

 令和○年○月○日(就任承諾をした日)

               ○県○市○町○丁目○番○号【次男住所】

           ○○ ○○【次男氏名】    ㊞実印か電子署名

なんとかかんとか有限会社 御中 

新保さゆり「株主名簿を整備しましょう!定款を見直しましょう!第1回株主名簿の記載事項とその変更手続」

 月報司法書士[1]の記事からです。株主名簿を整備しましょう、定款を見直しましょう、ということは、私が司法書士になった10年以上前から言われていました。司法書士の営業面からいっても、これをきっかけに法人との仕事を増やすことが出来る、というお話や研修もありました。ただ、私の場合ですが、こちらから株主名簿を整備しませんか?、定款を見直しませんか?とそれとなく言ったり小冊子を配って、実際に着手したことがありません。有償・無償を問わずです。

(2016年頃に作った小冊子です。)

 全て登記の依頼から始まって、定款が設立時のまま、平成18年施行の会社法改正前から代わっていない、株主名簿はない、株主は多分あの人とあの人と、という感じで作っていきます。そして登記完了後、定款と株主名簿(または社員名簿)を紙とデータで渡します。その後の登記や株主の変更の際、以前渡した物を持っていますか、と聴いて持っていますと答えてもらえる場合が半分くらい、という感覚です。

 会社設立は1日で完了、スピード感のある事業を、など定款や株主名簿に時間を割くのは正直なところ法人の利益になったりするわけではないので、お金がかかるし面倒くさいんだろうなと思います。私が法人の立場でも、そのように考えるかもしれません。

参考 内閣府マイナポータル「法人設立ワンストップサービスについて」

https://www.cao.go.jp/bangouseido/myna/index.html#houjinoss

 ただ、株主名簿については2016年から株式会社・投資法人・特定目的会社が登記申請を行う場合に株主リストという情報が必要となり、2018年から定款認証時に実質的支配者となるべき者の申告制度が始まりました。そのため株主名簿を作成する機会は少し増えたのかなとは思います。

日本公証人連合会「実質的支配者となるべき者の申告制度が2018年11月30日よりスタート」

https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=324M50000001009_20190701_501M60000010015

第十三条の四 公証人は、会社法(平成十七年法律第八十六号)第三十条第一項並びに一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)第十三条及び第百五十五条の規定による定款の認証を行う場合には、嘱託人に、次の各号に掲げる事項を申告させるものとする。

一 法人の成立の時にその実質的支配者(犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成十九年法律第二十二号)第四条第一項第四号に規定する者をいう。)となるべき者の氏名、住居及び生年月日

二 前号に規定する実質的支配者となるべき者が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員(次項において「暴力団員」という。)又は国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十四号)第三条第一項の規定により公告されている者(現に同項に規定する名簿に記載されている者に限る。)若しくは同法第四条第一項の規定による指定を受けている者(次項において「国際テロリスト」という。)に該当するか否か

2 公証人は、前項の定款の認証を行う場合において、同項第一号に規定する実質的支配者となるべき者が、暴力団員又は国際テロリストに該当し、又は該当するおそれがあると認めるときは、嘱託人又は当該実質的支配者となるべき者に必要な説明をさせなければならない。

法務省「「株主リスト」が登記の添付書面となりました」

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00095.html

商業登記規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=339M50000010023

第六十一条 (添付書面)

1項 (略)

2 登記すべき事項につき次の各号に掲げる者全員の同意を要する場合には、申請書に、当該各号に定める事項を証する書面を添付しなければならない。

一 株主 株主全員の氏名又は名称及び住所並びに各株主が有する株式の数(種類株式発行会社にあつては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。次項において同じ。)及び議決権の数

二 種類株主 当該種類株主全員の氏名又は名称及び住所並びに当該種類株主のそれぞれが有する当該種類の株式の数及び当該種類の株式に係る議決権の数

3 登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の総株主)の議決権(当該決議(会社法第三百十九条第一項(同法第三百二十五条において準用する場合を含む。)の規定により当該決議があつたものとみなされる場合を含む。)において行使することができるものに限る。以下この項において同じ。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であつて、次に掲げる人数のうちいずれか少ない人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の数)及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面を添付しなければならない。

一 十名

二 その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が三分の二に達するまでの人数

他に株券発行会社(会社法214条)の場合には、相続税の納税猶予の適用を受ける場合等、株券の担保提供が条件となっています(株券不発行会社の場合は、株式に税務署長が質権を設定することについて承諾した旨を記載した書類)。

国税庁「(問9)担保提供に関する書類等はいつまでに提出しなければならないのでしょうか。」

https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/enno-butsuno/qa/qa_6/q09.htm

 株券不発行会社においては、株主名簿への記載・記録は第三者対抗要件(会社法130条)とされており、不動産登記と同じ位置付けを持つと考えると、自分たちで頑張って稼いだお金に関して名義変更などを疎かにしておくのは、少し怖い気もします。株主名簿は、株式会社の本店に備え置く必要があります(会社法121条、125条)。株主総会議事録を10年間ちゃんと保存している会社を初めて知ったことがありましたが、その会社も株主名簿は作成していませんでした。

 株主名簿の記載事項は法定されています(会社法121条、148条、154条の2、217条、)。いつかは株主名簿も株主情報、株主記録などと名称が変わるような気がします。株式所得日、1人の株主が複数回にわたり株式を所得している場合、株主が法人の場合などはそれぞれ記載の方法が解説されています。

 会社法132条により会社が株主名簿記載事項を株主名簿に記載・記録しなければならない場合でも、そのために株主から情報提供を受ける必要があるというのは、なるほど言われてみれば私が経験した実務では、全て情報提供を受ける形になっているなぁと思い、会社法はその辺を前提としているのだろうか、などと考えました。株主が印鑑を届け出るのは、私はやっていませんでした。株主総会で議決権を行使する場合、委任状を利用するとき(会社法310条)に押す印鑑と照合して本人かどうかを調べるためだそうです。そのようなやり方もあるのだなと思いました。株主に相続が起きた場合、株式譲渡があった場合、更新日の記載など意外と気付きにくいけれど、記録してあると後で助かる、という事柄はたしかにあります。気を付けないと。

 私自身は、定款附則を株主名簿にしておけば良いと考えています。保存・管理が難しいのではないかと考えるからです。ですが、株主リストなどを提出することを考えると難しいのかなとも思います。もしくは税務上毎年提出するような書類などと一体化出来ないか、少なくとも年に一回、定款と株主名簿(社員名簿)を見直す機会を作れないかなと思うところです。


[1] 2021.2№588 日本司法書士会連合会P64~

20221116追記

参考

登記研究896号(令和4年10月号)2022/10テイハン■商業登記倶楽部の実務相談室から見た商業・法人登記実務上の諸問題(第103回)

         一般社団法人商業登記倶楽部代表理事・主宰者

公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート理事

一般社団法人日本財産管理協会顧問

                  日本司法書士会連合会顧問 神﨑満治郎 

民事信託・家族信託に関する質問―時々作成―

・建築費の負債があっても小規模な「一般社団法人」(=受託者)設立が可能?

 負債(金融機関からの借り入れ)、法人の規模に関わらず、信託の効力発生要件、法人の成立要件を満たしている場合は可能です。

・第一次受益者(委託者本人)第二次受益者(妻70%、長男・次男・三男各10%)の遺言代用信託を設定することも有りか?

 税務上問題がないか、税理士の確認を取ってからになりますが、設定自体は可能です。

・委託者は所有権を失うことになる。固定資産税は?

 固定資産税は、固定資産の所有者である受託者の住所に納付書が届きます。信託財産に課された固定資産税は、信託財産に属するお金から払うことになります。

参考

地方税法(固定資産税の納税義務者等)

第三百四十三条1項

 固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。

・一般社団法人が解散した場合の、保留利益は社員や設立者に帰属しないので相続税の対象外になるとは?

 相続税の関係については、最終的に税理士の判断を仰ぎます。一般社団法人が解散した後の残余財産の帰属先については、非営利型でない限り、解散後に清算法人の社員総会で定めることが出来ます。

参考  一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(定款の記載又は記録事項)

第十一条 一般社団法人の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。

一 ~七(略)

2 社員に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めは、その効力を有しない。

第二百三十九条 残余財産の帰属は、定款で定めるところによる。

2 前項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、その帰属は、清算法人の社員総会又は評議員会の決議によって定める。

3 前二項の規定により帰属が定まらない残余財産は、国庫に帰属する。

・推定相続人全員が一般社団法人の理事になると、経費の発生が抑えられる。

 最終的には税理士の判断を仰ぎます。経費の発生は法人の活動次第で、理事の数とはあまり関係がないと思います。

・多額の借金(建築費)を含む複数不動産を信託財産とすることができる?

 1つの信託行為を設定するのか、不動産ごとに信託行為を設定するのかなど色々な方法がありますが、借入先が可能だと判断した場合は、複数不動産を信託財産に属する財産とすることができます。

・返済を計画的に行うための内容は誰が決め何かに記載する必要がある?

 不動産に担保権が設定されている場合、信託契約書の信託財産責任負担債務目録に記載する必要があります。今まで計画的に行ってきた返済を、信託口通帳で行うだけなので、あまり気にする必要はないのかなと思います。計画的に返済が出来ていない場合、金融機関も信託の設定に前向きな判断を行いにくいのではないかと思います。

参考 信託法(信託財産責任負担債務の範囲)

第二十一条 次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。

一 略

二 信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利

三 信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの

・子の1人が大阪にいるが、一般社団法人の理事は、どのような会議にも参加する?

 理事会を設置する場合、参加することが望ましいです。物理的に集まる必要はないので、可能だと思います。

参考  一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(業務の執行)

第七十六条 理事は、定款に別段の定めがある場合を除き、一般社団法人(理事会設置一般社団法人を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する。

(忠実義務)

第八十三条 理事は、法令及び定款並びに社員総会の決議を遵守し、一般社団法人のため忠実にその職務を行わなければならない。

理事会については、第90条から第98条まで。

・理事や社員の意思が合わない際の意思決定権は誰がするか。定款で定めることが出来るか。

 定款でどのような事柄を理事の決定(理事会の決議)、社員総会の決議に分けているのかによると思います。定足数などを別に定めない限り、原則として過半数で決めると考えて良いと思います。

・遺留分に抵触するような信託受益権の設定は、信託財産からの清算が必要になる可能性があるとはどういうことか。当人が遺留分を請求しなければ清算しなくても良い?

 遺留分がある場合は、金銭債務として、信託財産を含む被相続人の財産の中から支払う必要があります。当人が遺留分を1年または10年請求しなかった場合は、遺留分を請求する権利が失われます。

民法(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

・信託期間は30年の制限があるとのこと?

 2021年1月1日に信託設定。2051年1月1月を経過。その後に子どもか孫かひ孫かが受益権を取得した場合は、その人が亡くなったら(または受益権が消滅したら)、信託は終了する、という意味です。

・信託財産の帰属者に名義変更がおこなわれた場合には、移転登録免許税、不動産所得税が課税されるとは?

 信託が終了した後の移転の登録免許税については、移転について原則2%、信託の登記の抹消が不動産1個につき1,000円となります。不動産取得税は、沖縄県では原則として3%です。

参考

登録免許税法7条、別表第一1(二)、(十)、(十五)。租税特別措置法第七十二条。

沖縄県「不動産取得税」

https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/somu/zeimu/kazei/5880.html

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