金森健一「第4回民事信託実務入門―民事信託の標準仕様を備える―公正証書と信託口口座(上)―」

信託フォーラム[1]の記事、金森健一弁護士「第4回民事信託実務入門―民事信託の標準仕様を備える―公正証書と信託口口座(上)―」からです。

信託は受託者が受託者責任を負うこと(信託内のフィデューシャリー。)でその目的を図るものであるが、民事信託の受託者は「生身の素人」であるがゆえに民事信託を設定「専門家」がその受託者による信託事務処理を容易にするための措置を講ずるべき義務を負っているというべきである(信託外のフィデューシャリー。)。これは、依頼者に対する「専門家」の善管注意義務(民法644条)、少なくとも信義則上の義務(民法1条2項)をなすのではあるまいか。これが筆者の考える二重のフィデュ―シャリー論である。

 フィデューシャリー、という用語が、どのような意味で使われているのか、分かりませんでした。カッコの使い方から推測して、託された者・委任された者の信認関係に基づく責任としておきます。

 信託法2条1項、2項5号、8条、9条、26条から37条までなど、信託内で、受託者が信認義務を負うことに同意です。

 専門家が依頼者である委託者に対して、受託者による信託事務処理を容易にするための措置を講ずるべき義務を負うことに同意です。

 これが二重のフィディ―シャリーというのであれば、任意後見契約案の作成の依頼を受けた場合も、同じように二重のフィディ―シャリーというものが働くのではないかと思いました。

公正証書により信託契約を締結することも信託口口座を利用することも受託者による信託事務の処理をより容易にするための措置である。

 少し違和感を持ちます。公正証書により信託契約を締結する理由は、記事にも記載されていますが、信託口口座を開設する金融機関の要請があるからです。信託口口座を開設する理由は、信託法23条(信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等)、34条(分別管理義務)に拠ります。金銭として銀行の貸金庫に入れる可能性も考えられます。

 金融機関の要請(判断能力の低下した状態での信託契約締結リスクの低減、公証人による違法無効のチェックを得ることでのリスク低減)がなくなって、信託口口座への強制執行等の制限の運用が、実務上確立してくると、信託契約を公正証書にするのは、必要に応じて、という実務に変わるのが信託当事者の負担も減ると思われます。また専門家責任という意味でも、無条件で公証人にリスクの一部を引き受てもらうことを排除することで、果たされる部分があるのではないかと思います。

参考

タマール・フランケル 著『フィデューシャリー「託される人」の法理論』2014、弘文堂

https://www.koubundou.co.jp/book/b172115.html


[1] 19号、2023年4月、日本加除出版、P121~

渋谷陽一郎「民事信託と登記―昭和43年先例、香川判事と相馬司法書士(追悼)―」

信託フォーラム[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託と登記―昭和43年先例、香川判事と相馬司法書士(追悼)―」からです。

昭和43年4月12日付け民事甲664号民事局長回答

 客年6月21日付登第429号をもって紹介のあった標記の件については、前段、後段とも貴見のとおりと考える。ただし、後段の場合は、不動産登記法第49条第4号の規定により却下するのが相当である。

―中略―

照会文

 登記されている信託条項が、別記のように表示されている場合、受託者から、委託者又は受益者以外の者に対し、信託期間終了後であっても、信託期間終了後の日付でなされた売買その他の有償行為を原因として所有権移転登記の申請があったときは、受理すべきものと考えますが、贈与その他の無償行為を原因として所有権移転登記の申請があった場合は、登記されている信託条項に反するので、不動産登記法第49条第2号又は同条第4号の規定により却下してさしつかえないと考えますが、いささか疑義もあるので、お回示を願います。

登記研究246号昭和43年4月12日 民事甲第664号 民事局長回答

信託財産の所有権移転登記の取扱いについて

1、信託の目的

信託財産の管理及び処分

1、信託財産の管理方法

信託財産の管理方法(処分行為を含む)はすべて受託者に一任する。

  • 信託終了の事由

 本信託の期間は五カ年とし期間満了による外、受託者が信託財産を他に売却したるとき及び委託者が信託財産を委付したときはこれにより信託は終了する。

  • 其他信託の条項

 本信託は委託者が大阪市内に家屋を建築するための資金を得るため且委託者が現在第三者より負担する金銭債務を返済するための資金を得るために受託者をして信託財産を売却せしめんとするものにして現在借家人の立退要求、其他売却条件の困難のため売買が進捗しない場合に於ても委託者の要求あるときは受託者は自己の資金を委託者に融通し、又その金融のためには自己の責任に於て信託財産を担保に供することができる。

 前記による金融のため委託者が受託者に対し金銭債務を負うに至った場合に於てその返済をすることが困難と思料するときには、信託財産を委付してその債務を免れることができる。

 前項委付により委託者は受益権並びに元本帰属権(信託財産の返還請求権)を失うものとする。

 委託者及び受託者の死亡は本信託に影響を及ぼさないものとする。

 委託者と受託者との合意により何時でも信託条項を追加又は変更することができる。前記以外の事項に付てはすべて信託法の定めるところによる。

・返済期限を5年とした金銭消費貸借契約の、担保としての信託と思われます。

なお、信託原簿時代の本先例では触れていないが、信託の登記の記録欄の振り分けという問題がある。本照会分でいうならば、「委託者の資金調達のための信託財産の売却」という定めは、信託の目的の領域なのか(不動産登記法97条1項8号)、あるいは、受託者の権限の領域なのか(同行9号の信託財産の管理方法)、という実務論点である。

 記事記載の通り、受託者が委託者のために行う、受託者による信託財産の管理方法であり、広義の信託の目的でもある、と考えられます。どちらか一つに振り分ける必要はないと思います。信託目録への記録申請は、後続登記との連続性を考えると、信託財産の管理方法に記録が必須、信託の目的には要約(例として、委託者の資金調達など。)になると思われます。


[1] 19号、2023年4月、日本加除出版、P114~

家族信託の相談会その55

お気軽にどうぞ。

2023年5月26日(金)14時~17時

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円

場所

司法書士宮城事務所(西原町)

要予約

司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

渋谷陽一郎「信託契約書から学ぶ民事信託支援業務(2)日弁連ガイドラインの概要と依頼者は誰かという問題(2)」

市民と法[1]の記事「渋谷陽一郎「信託契約書から学ぶ民事信託支援業務(2)日弁連ガイドラインの概要と依頼者は誰かという問題(2)」からです。

この点、遺産分割協議の場合と同様、司法書士は、どこまで、それらの関係者の利害の調整者となりうるのか(なることは可能なのか)、中立調整という役割を担うことは可能なのか(中立調整の定義は何か)、などのクリティカルな問題を生じる。

 司法書士がどこまで、関係者の利害の調整者となりうるか、について、選択肢を全て示して、利害関係者の一人が反対の意思を表示した場合、賛成の意思を表示しなかった場合、意思表示をしなかった場合、だと思います。

 中立調整の定義は、分かりませんでした。よって中立調整という役割を担うことが出来るかどうかも分かりません。法律整序事務と中立調整とは異なることを前提としています。

この点、家族信託をめぐって事後的に紛争が生じた場合でも、信託契約案の作成が原因であると主張されれば、それはさかのぼって組成時から潜在的紛争性を秘めていた事件であると評価されるリスクを生じうる。

公正証書遺言案の作成においても、同じようなリスクはあるので、作成する司法書士はそのリスクを許容する必要があると感じました。

信託の場合、そうはいっても、法律整序的な関与といえども、信託の素人である信託当事者の信託行為の意思形成過程に対して、事実上、影響を与えてしまうリスクがある。

 任意後見契約書(案)の作成など他の業務についても、法律行為を行う当事者の意思形成過程に対して影響を与えます。登記申請においても、法的効果などを説明して署名や押印をもらい、その過程で意思形成に影響を与えていると考えられます。影響を与えない業務というのが思い浮かびませんでした。

注意すべきは、司法書士は、選択肢の一部を提示するのではなく、すべての選択肢を提示する必要があることである。

同意です。すべて、というと難しく感じますが、依頼者に提示する時点で司法書士が知っている選択肢(施行日が確定している法改正も含みます。)、という範囲だと理解しています。

それでは、信託契約書案の作成において、司法書士が、信託当事者や利害関係者(委託者の推定相続人等)に対して、調整型の関与を行うことは可能であろうか。

 すべての利害関係者に対して、調整型の関与を行うことは難しいと思います。利害関係人を把握することが難しい場面があるからです。信託契約書案作成の委任契約書において、利害関係人の範囲は特定してもよいのではないかと思います。

仮に、中立調整を称しつつ、―中略―中立義務違反で訴えられたら、当該司法書士は、どのように抗弁するのだろうか―略―

中立義務が、司法書士業務の関係法令にあるのか分かりませんでした。

さらにいえば、関係者の利害が一致して友好的であればよいが、少しでも利害が対立している場合あるいは利害が事後的に対立した場合には、結局、中立調整者を標榜した司法書士がその責任を問われることになるという意味では、重い業務となる。

最初から依頼を受けないか、委任契約を辞任することで対応可能だと感じます。


[1] 140号、2023年4月、民事法研究会、P88

『任意後見と民事信託を中心とした財産管理業務対応の手引き 各制度の横断的なポイント整理とケース・スタディ』

著者:日本司法書士会連合会 民事信託等財産管理業務対策部/編『任意後見と民事信託を中心とした財産管理業務対応の手引き 各制度の横断的なポイント整理とケース・スタディ』2023年3月、日本加除出版

https://www.kajo.co.jp/c/book/05/0503/40939000001

・位置付け

日本司法書士会連合会が、2023年3月現在の民事信託支援業務を含めた財産管理業務の実務について、指針を示したものとして位置づけられる。他の書籍と違い、この書籍に従った実務を行った場合、日本司法書士会連合会の指針に従って行ったことを説明することができる。

 司法書士が民事信託支援業務を行うことが出来る法令上の根拠(司法書士法、司法書士法施行規則)は、記載がない(はじめに、において司法書士法1条について記載がある。)。犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令8条4項6号、日本司法書士会連合会における犯罪による収益の移転防止に関する執務指針、各都道府県の司法書士会の会則における本人確認に関する規定についても記載がありません。

 記載がない、ということは、司法書士であれば当然出来る業務で他士業の独占業務と抵触することはない、と考えられているのか、司法書士という資格がなくても誰でもできる業務について、市民が自ら使う場合や企業が事業として行う場合を想定しているのだと考えられます。

・特徴

P4 任意後見契約に関する作成支援業務を、任意後見支援業務としている。任意後見監督人選任審判の申立書作成などは、含まない。

P17

 

遺言代用信託について、死亡後に財産を承継させたい者について、当初から受益者として指定しておきつつ、給付を受けることができるのは委託者の死亡後に限るという定め方をすることもできるが、実務上、このような定め方をする例は多くない。

遺言信託(信託法2条2項2号)に似ている方法だと思われます。実務上、多く利用されていない、というのはどのような情報を基にしているのか、分かりませんでした。後継ぎ遺贈型の受益者連続信託についても同じような記載があります。

P19~信託に適していない財産として、担保付きの不動産が挙げられていること。

P20~民事信託支援業務の依頼者は、委託者、委託者と受託者双方が認められると記載されていること。委託者と受託者双方と委任契約を締結する場合には、基準を設けている。費用負担について、基準では委託者と受託者が平等に負担とされているが、委託者負担が望ましいと考えている?

P24~金銭の分別管理について

狭義の信託口口座が開設出来ない場合、委託者と受託者の確認書で対応。

P31~ 感情的に対立している親族の有無を把握しても、民事信託支援業務を進めることを妨げていない。

P33~司法書士が受益者代理人に就任することは可能と記載。

P36 

一般的に、法律専門家は、信託業法3条により、受託者に就任することはできないと解されている。この規制が、清算受託者にまで及ぶか否かについては、公式な見解等はないももの、

条文の通りだと思います。信託法177条1項本文で、信託が終了した時以後の受託者(以下「清算受託者」という。)は、次に掲げる職務を行う、とされ、清算受託者は受託者であると記載があります。

P39 信託の目的は、財産ごとに定めることが合理的な場合もある。運用方法が違う不動産(例えば自宅と原野と収益不動産など。)ごとに別信託にするか、信託を設定しないかの判断もあり。

P40 受益者に義務を課したり、その権利を制限したりすることはできない。

信託法、民法その他の法令で許容されていない限り、という前提が必要だと思います。例として信託法163条1項9号など。

P124 任意後見契約の同意を必要する特約と、民事信託との関係について記載なし。

P128 任意後見人の同意権・取消権により(制限行為能力者制度の取消権によって)本人保護はできない、の記載について、代理人・同意権者として権利行使可能なのに、なぜ本人保護にならないのか、分かりませんでした。

P134

委託者の地位の承継について、その原因を問わず、という文言が必要なのか分かりませんでした。P180について同じ。

P135 受託者が自宅を売却する。の部分は、清算受託者が自宅を売却する、に変更が必要だと思います(信託法177条。)。

P136

条項例、2清算受託者は、前項第1号の規定にかかわらず、信託不動産を売却換価した上で、前記第2号の方法により引渡すことができる。

この条項例だと、

P135(b)記載の遺産分割によって受益権を取得したものが現金での引継ぎを希望する場合

のうち受益者の希望が入らず、受託者の裁量で信託不動産を売却しても良い、しなくても良い、ことが可能になると考えられます。帰属権利者が書面などで希望する場合、という文言を入れる必要があると考えられます。P145について同じ。

P136

信託の設定により相続財産ではなくなり、相続登記の義務化の対象とはならない。

 私なら、相続開始から10年を経過すると主張できなくなる権利もあり、民法904条の3について説明や注釈を加えると思います。

 P139 信託契約の名前に、不動産及び金銭管理処分、などと付ける必要性が分かりませんでした。

P141 (信託不動産の換価等の処分)第10条―中略―その他信託不動産の処分を要する事情が生じた場合において、自らの裁量において、信託不動産の売却、取壊し等の処分を行うことができる。

について、私なら、処分を要する事情が生じた場合の売却・取壊しについては、受託者の裁量とせず、受益者の同意を得る、とすると思います。P176について同じ。

P143 (受託者の解任)第16条(4)について、受託者として信託事務を遂行し難い重大な事由が発生したとき、の基準が分かりませんでした。私なら、法定の受益者への事務報告を怠ったとき、など具体的に定めると思います。

P156

(受益権の譲渡禁止及び質権の設定)

第●条 受益者は、受益権を譲渡することができない。

→私なら、受益者は、受益権を譲渡・質入れをすることができない、に変更します。また、(新受託者の選任)の条項には、生年月日を付け加えます。

P164~第3章障がいのある子を持つ親からの相談、において負担付き遺贈の利用がプラン例1の選択肢として挙げられていること。

P172 民事信託と任意後見を利用する場合に、受託者兼受任者となるとき、受託者に対する監督が空洞化するとして司法書士を信託監督人としている。任意後見監督人が選任された場合も、司法書士の信託監督人が就任し続けるのか、受益者(委任者・本人)にとってどのような利益があるのか、分かりませんでした。P182によると、任意後見監督人選任後も司法書士が信託監督人として就任し続けるプランです。法律専門家を受益者代理人と信託監督人に選任するプランも提示されています。その場合、受益者代理人、信託監督人、任意後見監督人が、受託者を監督(任意後見監督人は任意後見任を通して間接的に。)することになるのですが、ここまで監督を重くする必要性が分かりませんでした。

P177(受益債権)第●条の(2)第二次受益者の受益債権、がどのような意味を持つのか分かりませんでした。当初受益者の受益債権が抑制される、という意味なのでしょうか。

P175~(信託の目的)、(信託不動産の管理)条項で、受益者が施設入所・入院などにより信託不動産に居住しなくなった場合は、受託者の裁量で信託不動産を売却してもよい、とあります。最期は自宅で迎えたい、という方はそんなに多くないのか、分かりませんでした。P141、P178について同じ。

P210(4)株式の受益権を受託者に暦年贈与することについて、当初忠実義務違反、善管注意義務違反のリスクを挙げている。その解決策として、年間110万円ずつ贈与すること、としているが、解決策になっているのか、分かりませんでした。

P215 株式の信託における指図権の内容について、指図の内容が信託の目的又は受益者の利益に明白に反する場合は、受託者は指図に従う必要がない、と定められていますが、どのように判断すれば良いのか分かりませんでした。

・条項例と信託目録の関係について

本書中、様々な条項例が掲載されています。長文になる条項や他の条項を援用する条項もあります。信託財産に属する財産の中に不動産がある場合、これらをどのように信託目録に記録するのか、分かりませんでした。

P246、252

民事信託支援業務について、着手金を徴収することは可能の記載。計算方法に指針がないので、委任者が納得すれば、どのような方法でも良い。

P248

民事信託支援業務におけるリスク説明義務について、重要事項説明書ではなく、委任契約書の免責事項としている。

PAGE TOP