法制審議会信託法部会第37回会議 議事録



法制審議会信託法部会
第37回会議 議事録







第1 日 時  平成29年1月17日(火)   自 午後1時29分
                        至 午後5時33分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  公益信託法の見直しに関する論点の検討

第4 議 事 (次のとおり)

議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第37回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,神田委員,岡田幹事,沖野幹事,渕幹事が御欠席です。
  最初に,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いいたします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。前回,部回資料36「公益信託法の見直しに関する論点の検討(5)」を配布しております。また,部会資料37「公益信託法の見直しに関する論点の検討(6)」を事前に送付させていただきました。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたら,お申し付けください。
  さて,再開後第1回となりました昨年6月の部会でも御説明しましたが,皆様のおかげをもちまして,いわゆる一読,第1読会は当初の予定どおり,おおむね本日で終えることができそうですので,来月からは第2読会に入っていくことになります。そして,二読の後,まだ確たる時期をお示しすることはできませんが,公益信託法改正の中間試案を作成し,その案をパブリックコメントにかけていくことを予定しております。取りあえずはこれまでの月1回火曜の午後に開催というペースを維持しまして,今年4月から7月までの日程を確保させていただきました。これら以降の日程につきましては,もう少し先に調整させていただきます。皆様には御多忙のところ,誠に恐縮ですが,どうぞよろしくお願いいたします。
○中田部会長 本日は,前回,積み残しになりました部会資料36の残りの部分を御審議いただいた後,部会資料37について御審議いただく予定です。具体的には,まず部会資料36の「第4 公益信託における情報公開」を御審議いただきました後,部会資料37のうち,「第1 公益信託の終了事由等」と「第2 公益信託の終了時の処理」あるいは「第3 公益信託の変更,併合及び分割」まで御審議いただいて,区切りのよいところで適宜,休憩を入れることを予定しています。その後,部会資料37の残り部分を御審議いただきたいと思っております。
  それでは,審議に入ります。まず,部会資料36の「第4 公益信託における情報公開」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○立川関係官 部会資料36の「第4 公益信託における情報公開」について御説明します。本文では,「公益信託における情報公開の内容は,公益財団法人と同等のものとする(信託と法人の相違により導入できないものを除く。)ことでどうか。」との提案をしています。公益法人制度において,情報公開の規定が整備されている趣旨は公益信託にも当てはまることなどから,法人と信託の制度間の相違により導入できないものは除くとしても,基本的には公益信託における情報公開は,公益財団法人と同等のものとするのが相当であると考えられるため,このような提案をしています。
  なお,第4の論点の検討に当たりましては,公益信託及び公益財団法人における情報公開に関する規律を比較しました別表4,新たな公益信託における情報公開の内容を検討した結果を整理した別表5を参照していただければと存じます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言をお願いします。
○川島委員 事務局から提案されております,公益信託における情報公開の内容は公益財団法人と同等のものとするということについては異存ありません。その上で2点,確認のために質問をさせていただきます。
  まず,1点目は信託行為の扱いについてです。27ページ目の2番目の第2段落のところの1行目に,「公益法人における定款は,公益信託における信託行為に相当する」と記述があります。また,研究会報告書でも定款を信託行為に関する書類と読み替えるといった記述もございました。その上で別表5を見ますと,信託設定時の信託行為の内容を示す書類について,また,信託運営時の信託行為の欄について,受託者における公表義務又は行政庁等における公表義務のところが×印になっておりまして,見る前は○か△かなと思っておりました。この点について,このような扱いで提案されたという理由についてもう少し詳しく御説明いただけたらと思います。
  次に,2点目でございます。研究会報告書の中で情報公開の方法に関して,インターネットを利用した情報公開を許容すべきとの意見もあったとの記載がございました。この点については,この審議会の中でどのような取扱いをされるのか,この点についても事務局の考えをお聞きしたいと思います。
○中田部会長 以上の2点について御説明をお願いいたします。
○中辻幹事 第1点目,信託行為について受託者の公表義務又は行政庁等の公表義務が×印となっているのは,公益法人の定款が公表されていることと均衡を欠くのではないか,という問題意識からの御質問と理解しました。まず,現在の仕組みを御説明しますと,公益信託法第4条は「公益信託ノ受託者ハ毎年一回一定ノ時期ニ於テ信託事務及財産ノ状況ヲ公告スルコトヲ要ス」と規定し,受託者に信託事務の処理とその結果としての財産状況について公告する義務を負わせていますが,その直接の対象に信託行為は含まれておりません。そして,受託者が主務官庁に対し公益信託の許可を申請する際にも,信託行為の内容を示す書類の提出義務はありますが,それを公表する義務は課されておりません。その理由として,定款と違い,信託行為には契約当事者間のプライベートな内容が条項として定められる可能性がある一方で,公益信託への社会の信頼を高めるという観点からは公益信託の事務処理や信託財産の状況が公開されることで足りるという考え方に基づくものであり,今後,これらについての情報公開がより積極的にされていくのが望ましいとしても,信託行為については一般に公開しないとする取扱いを維持する方が合理的ではないかと事務局としては考えております。ただし,全面的に信託行為の公表を×とするのでなく,例えばその一部や信託行為の内容によっては公開すべきものもあり得るのではないかという御指摘と受け止めましたので,もう少し検討を深めてまいりたいと思います。
  もう1点,インターネットの活用についての御質問がございました。事務局としても,現在の情報化社会を前提とすれば,インターネットによる公益信託の情報公開は,当然あってしかるべきであると捉えておりますし,本部会の御審議の対象となるものと考えております。
○川島委員 ありがとうございました。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○道垣内委員 同じ点について理論的な観点から,一言,お話をしたいのですけれども,法人において定款が定められ,その定款が公表されるということは,民法34条との関係で,法人というのは定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するという形になっていることと関係しており,その範囲でしか法人というのは存在していないという形になっているからこそ,明確な定款を定め,公開しなければならないわけです。
  それに対して信託においては,別に権利能力が信託行為によって制約されるというわけではありません。受託者の権限が制約されるということはありますが,権利能力が限定されるわけではなく,定款と信託行為というのは理論的にはかなり性格が違うものであることを指摘しておきたいと思います。更に言えば,信託行為というのは場合によっては書面として信託行為というふうな形として作られたもの以外というものも含めて解釈されます。法律行為に対応する概念ですから,法律行為の解釈方法として,契約書面だけで解釈されるわけではない,ということと同じです。したがって,定款とはかなり性格が違うのであって,×になっているというふうな理論的な正当化もあり得るということです。まあ,その背後には,後になって○にするといったら私は反対するということも意味しているわけですが,一言,申し上げておきたいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小幡委員 基本的には情報公開というのは大変重要なことですので,開いていくという,こういう方針でよろしいと思うのですが,今の信託行為もそうですが,27ページの最後に,公益法人では認定行政庁等に対する提出書類の作成等の事務が負担となっているとの指摘があることにも留意する必要があると書いてありまして,それが結果,別表5にどうつながるのかと思ってみてみましたら,基本的には提出義務のところは随分,○,というような扱いですかね。
  これは結局,自ら作成して保存義務があるので,そのまま提出義務を負ってもよいという話かと思いますのが,そうすると留意する必要があるというのがどういう留意になるのかという質問です。そのような指摘があるというのは確かなのですが,それは,公益法人の中にもなかなか事務処理のための事務体制が十分できていないところもあって,そういう法人は確かに年度ごとの提出を求められると大変だという,そういうことはあるのですが,この中には,一回出せば提出義務は終わっているというタイプもたくさんありますよね。すみません,留意するというのがどういう趣旨かなということをお伺いしたいと思います。
○中辻幹事 留意するという趣旨ですけれども,別表5に書いたものは,現在の公益信託の中で保存義務なり,行政庁への提出義務があるものですので,これを新たな公益信託でも保存義務や提出義務があることにしても問題はないと考えています。ただし,公益信託の情報公開を,信託と法人の異同に留意せず,形式的に公益法人の情報公開と横並びにしようとすると,別表5では挙げられていない公益信託に関する書類の保存,提出義務がプラスアルファで相当数出てきます。そうすると,公益信託の受託者にとって過剰な負担を強いる可能性もあることから,現在の公益法人に保存,提出義務が課されている書類について,特段の吟味なく公益信託の受託者に保存,提出義務を課すことは適切でないという趣旨でございます。
○小幡委員 ここの部分は今でも作成保存しているものなので,それをただ提出すればよいから問題ないという,そういう趣旨ですか。
○中辻幹事 そのとおりです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 法務省案に基本的に賛成します。公益信託の透明性を確保して,税制優遇措置を得られるということを視野に入れるため,公益法人制度におけると同等程度の情報公開を行うという,そういう基本的な考え方に賛成します。制度の違いからくる修正を加えつつ,行っていくということに賛成します。
○吉谷委員 法務省案におおむね賛成でありますが,その具体的な運用については少し意見を申し上げておきたいと思います。別表5にあります受託者による公表欄でございますけれども,これについては○が付いているものとすることでよろしいのではないかなと考えておるところです。それで公益法人との平仄がとれていないというわけでもないと思いますし,軽量軽装備の公益信託が公益法人よりも重い情報公開をする必要はないと考えております。また,公益法人と公益信託では元々の財産の拠出の在り方はかなり違っていると考えております。
  公益信託は委託者が信託した財産を元にして,以降,運営するということであるかと思いますけれども,公益法人は寄附というものが重視されていると思います。現在の公益信託でも寄附を受けることを前提に運営しているものというのはごく少なくなっております。ですので,情報を広く公開するという意味については,公益法人ほどは高くないと考えております。ですので,寄附を受けたいという公益信託は,自主的により広く公開していけばいいのではないかと考えております。
  あと,公表の方法でございますけれども,別表5の(注)のところに幾つか出ているわけですけれども,現実には○の項目を開示するのに,官報とか日刊新聞というのは費用負担が重いと考えます。ですので,ホームページによる公表か,公益信託の事務を行う事業所での備置のどちらかを公益信託の事情により,選択できるようにすればよいと思われます。行政庁による開示は,寄附による支援を受けるという観点であると仮にするならば,余り意味はないのではないかなとは考えます。積極的に宣伝したければ,ホームページというのを選択するのではないかなと考えているところです。
○中田部会長 ありがとうございました。今の吉谷委員の御意見は,別表5の受託者における公表については,ここに○印が付されているものだけでいいではないか,それから,行政庁等における公表についても○印だけでよいと,こういう御趣旨でございましょうか。
○吉谷委員 ○が付いているところに特に反対するという意図はないのですけれども,行政庁による公表というのがなぜ必要なのかというところの趣旨は,明らかにされた方がいいのかなとは思います。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 受託者にしろ,信託管理人にしろ,個人が就任することも恐らく十分あり得ると思いますので,場合によっては個人情報的なものをどこまで開示するかというのも,どう在るべきかまで意見は持ちあわせてはいませんが,検討していただいた方がよろしいかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。別表5の中に履歴書という言葉が出てきまして,その中に,氏名,住所,略歴などがあるけれども,それについて今おっしゃった観点から検討すべきだということでございましょうか。ありがとうございました。
  ほかに別表5の△のところについて御意見を頂ければと思いますが,特にございませんでしょうか。それでは,基本的な方針としては原案でよいということで,その上で若干の点について御指摘を頂きましたので,それらについて更に検討の上,進めたいと思います。
  次に,部会資料37の「第1 公益信託の終了事由等」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,部会資料37「第1 公益信託の終了事由等」のうち,「1 信託法第163条各号の終了事由」について御説明いたします。本文では,「信託法第163条各号の終了事由は,原則として,公益信託の終了事由となるものとすることでどうか。」という提案をしております。受益者の定めのある信託の終了事由について定めた信託法第163条の規定は,公益信託についても原則として適用されると考えられております。補足説明に記載のとおり,適用が問題となり得る終了事由もありますけれども,新たな公益信託においても信託法第163条各号の終了事由は,原則として公益信託の終了事由となるものとすることが相当であると考えられ,このような提案をしております。
  続いて,第1の「2 公益信託の存続期間」について御説明いたします。本文では,「公益信託の存続期間については,期間制限を設けないものとする(公益信託法第2条第2項の規律を維持する)ことでどうか。」という提案をしております。公益信託法第2条第2項は,公益信託の存続期間については,目的信託の存続期間は20年を超えることができないと定めた信託法第259条の規定を適用しない旨規定しておりますけれども,新たな公益信託においても目的信託に関して存続期間を20年間に制限する信託法第259条の趣旨は,公益信託には妥当しないと考えられることから,このような提案をしております。
  第1の「3 公益信託の認定の取消しによる終了」について御説明いたします。本文では,公益信託の認定を取り消された信託について,甲案として「当該信託は終了するものとする。」,乙案として「当該信託が目的信託の要件を満たすときは,目的信託として存続し,目的信託の要件を満たさないときは,当該信託自体が終了するものとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託と公益信託以外の目的信託の関係について,両者が横並びの並列的な関係にあると整理した場合,一旦成立した公益信託がその後に認定を取り消された場合には,それを公益信託以外の目的信託として存続させる必要はないと考えられ,法律関係の簡明化という観点からも当該信託は終了させるべきであるとの考え方があり得ることから,これを甲案として提案しております。
  これに対し,公益信託は公益信託以外の目的信託と縦並びの2階建ての構造にあると整理すると,一旦成立した公益信託がその後に認定を取り消された場合には,当該信託が公益信託以外の目的信託の要件を満たすときは,公益信託以外の目的信託として存続するものとし,公益信託以外の目的信託の要件を満たさないときに,当該信託は終了させるべきであるとの考え方があり得ることから,これを乙案として提案しております。
  第1の「4 委託者,受託者又は信託管理人の合意等による終了の可否」について御説明いたします。本文では,「公益信託の委託者,受託者又は信託管理人その他の第三者による合意又は単独の意思表示によって公益信託を終了することはできないものとすることでどうか。」という提案をしております。公益に寄与するために存在する公益信託が,委託者及び受託者等の合意等により,いつでも終了させることになることは相当ではなく,公益信託の運営の継続性,安定性及び確実性を確保することなどから,このような提案をしております。
  第1の「5 信託管理人が就任しない状態の継続による終了」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人が欠けた場合であって,信託管理人が就任しない状態が1年間継続したときは,当該信託は終了するものとすることでどうか。」という提案をしております。新たな公益信託制度においては,信託管理人を必置とし,その権限行使を通じて,受託者の信託事務遂行の適正を図ることが望ましいと考えられます。そのような信託管理人の役割の重要性からすれば,信託管理人が欠けた状態が1年間継続した場合を当該信託の終了事由とした信託法第258条第8項の趣旨は,全ての公益信託に妥当するものと考えられることから,このような提案をしております。
  第1の「6 公益信託の終了命令」について御説明いたします。(1)の本文では,公益信託における信託法第165条第1項の権限,すなわち,公益信託の信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当となるに至ったことが明らかであるときに信託の終了を命ずる権限は,甲案として「公益信託の認定・監督を行う行政庁等が有するものとする。」,乙案として「裁判所が有するものとする。」という提案をしております。
  公益信託法第8条本文は,公益信託における信託法第165条第1項の権限が主務官庁に属するものとしております。新たな公益信託においても,特別の事情により公益信託を終了することが信託の目的等に照らして相当であるか否かは,公益信託の認定及び監督を行う行政庁等の判断に委ねるべきであるとの考え方があり得ることから,これを甲案として提示しております。これに対し,特別の事情により公益信託を終了することが信託の目的に照らして相当であるか否かは,裁判所にも判断することが可能であるとして,信託法第165条と同様に,終了命令の判断主体としては,裁判所が適当であるという考え方もあり得ることから,これを乙案として提示しております。
  次に,(2)の本文では,上記(1)の公益信託の終了命令の申立てを行う者は,甲案として「受託者又は信託管理人とする。」,乙案として「委託者,受託者又は信託管理人とする。」という提案をしております。
  委託者については,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだけ排除することが望ましいとの観点から,委託者を終了命令の申立権者とすべきではないと考えられることから,これを甲案として提案しております。これに対し,委託者も信託財産を拠出したものとして,その信託の行く末に大きな関心を持っている場合が多いことなどから,委託者についても信託の終了命令の申立権者とすべきであるとの考え方もあり得,これを乙案として提案しております。なお,いずれの案もデフォルトルールとして御提案させていただいているところでございまして,信託行為による委託者の権限の増減は認められることを想定しております。
  以上の点について御審議いただければと存じます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。1から6までございますので,便宜,半分ずつに区切って御審議いただこうと思います。まず,1から3までについて御発言をお願いいたします。
○小野委員 まず,1について,信託法163条8号,破産法53条1項の適用関係ですけれども,せっかく公益信託ということで信託を設定したにもかかわらず,僅かな委託者の義務を見付けて双方未履行双務契約ということで解約されその有効性が争われる等,紛争状態になることは望ましくないと思います。とはいっても,それは解釈論であるという議論かと思うんですけれども,補足説明の中で委託者の義務として残っているものは,引渡し未了の財産という記述がありますが,そのほかに委託者が受託者の報酬や費用を払うとか,そういうこともあり得るかと思います。そういう場合に解釈論とは言いながらも,公益信託自体が破産法53条1項の適用があるというのは望ましくはないのではないかと思っております。
  あまりあり得ないのではないかというのが全体的な記述なものですから,必ずしもそうではないし,恐らく管財人になった方は財団を少しでも増殖させようとして,僅かな義務を見いだすという行為が行われると思うので,それについては十分,留意をしていただきたいと考えております。
○中田部会長 そうしますと,小野委員は。
○小野委員 本日の後の方の論点として取り上げられているように,公益信託と法律上名乗ることを要請され,公益のために行うわけですから,それが私益信託と同様に安易に信託法163条8号,破産法53条1項の適用があると論じることには疑問を感じます。では,どうすればいいかについて明確な考え方は現在持ち合わせていませんけれども,全体的に記述がそんなに心配は要らないのではないかというふうな感じで書かれているのがちょっと心配に感じての発言でございます。適用があるべきではないという方向で議論していただければと考えております。
○能見委員 今の破産法の関係ですが,結論としてはわざわざ条文を変えたりしないで,解釈論でいいのだと思いますけれども,そもそもどの程度信託法163条8号で信託が終了することがあるのか,実は疑問があります。余りここで一般論をしてもしようがないのかもしれませんが,信託の場合に委託者の義務と双務的な対価的な関係にあるのは何かというのが余りはっきりしません。私の理解では委託者の最初の信託財産の拠出にしても,追加信託で財産を拠出する義務にしても,これに対する対価的関係にある受託者の義務というのは,公益信託の場合にはないのではないかという感じがするのです。
  受託者が信託目的に従って信託財産を管理しなければならない義務というのは,むしろ,信託報酬と対価的な関係になっているのであって,信託財産の拠出と対価的な関係になっているわけではないと思います。ただ,私益信託の場合には受益者がいますので,対価的な関係を認めるとすれば,受託者が受益者に給付する義務と,委託者の給付義務が対価的な関係になっているのだと思います。これに対して,公益信託の場合には受益者がいないので,どこに対価的な関係が生じるのか,明らかでありません。報酬と受託者の信託事務遂行義務とは対価的な関係になりますけれども,それ以外は基本的には対価的・双務的な関係は本当は生じないと思うので,公益信託の場合には,この条文は削除してもいいかとは思うのですが,余りはっきりしないところもありますので,8号も残した上で解釈論で対応するというので,結論としてはいいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 全体としては信託法163条各号の終了事由を公益信託の終了事由とするという,この提案に賛成です。その上で2号について少し意見があります。というのは,2ページの説明を読みますと,「したがって」というところから始まるパラグラフです。新たな公益信託についても163条第2号の適用はされないものと解釈すべきであると述べた上で,ただ,目的信託に163条2号が適用されないことは解釈に委ねられているにもかかわらず,公益信託にのみ同号を適用除外とする規律を設けることは,目的信託の場合との均衡を欠き,妥当ではないと考えられるという説明があるのですが,ここの説明は工夫を要するのではないでしょうか。
  どういうことかというと,ここで挙がっている例は,例えば受託者が受益権者を1年間,選定しなかったという例が挙がっています。しかし,もっと端的に受託者は受給権者を選定したけれども,本来,受益権者に給付すべき金銭なり,奨学金なりを受託者が手元に留保して,それが1年以上続いたということも考えられるわけです。そうすると,これは直接的に受益権を受託者が留保していたということで,極めて利益状況が類似するということがあるので,この説明は少し工夫を要するかなという気がします。
○中田部会長 ほかに。
○道垣内委員 同じく信託法163条第2号についてなんですが,これは立法の技術との関係がすごく密接なところがあって,仮に公益信託というのを単行法にするとしても,信託法163条を準用するという形になるのならば,あえて2号を抜いて解釈論としてあり得ないわけではない考え方を潰すという必要はないだろうと思います。しかしながら,仮に公益信託法というのを新たに書き起こす,基本的に全部,書き起こすという立法態度をとった場合には,2号と同様の規定を入れると,それは,公益信託においても受益権というものの存在を前提にしているということにならざるを得ないと思います。そのような見解があるということも重々,承知しているわけですけれども,私は必ずしもそれには賛成でありません。そうしますと,準用するということに対しては,何ら私に異存はないのですけれども,書き起こすのならば2号を入れるということには反対です。
○中田部会長 ただいま立法のスタイルについて出ましたけれども,まだ,確定はしていないと思いますが,もし今の段階で何かございましたら。
○中辻幹事 事務局としては,今のところ,新たな公益信託についても信託法の規定が原則として準用されると,そして,そのことを踏まえた上で,新たな公益信託について信託法の規定と異なる特則を設ける場合には,公益信託法の中に何らかの規定を設けるという立法のスタイルを想定しております。道垣内委員の御懸念はよく分かりましたので,注意して今後の作業を進めてまいりたいと思います。
○中田部会長 今,準用とおっしゃいましたけれども,適用ではなくて準用ですか。
○中辻幹事 適用の可能性は十分あると思います。わざわざ準用と言いますと,準用規定を公益信託法の中に設けなくてはいけないので,公益信託法の中には準用規定を設けずに,信託法の規定をそのまま新たな公益信託に適用するという考え方は十分あり得ると思いますし,むしろ事務局としては準用よりは適用の方向で考えております。失礼しました。
○道垣内委員 私が準用と申しましたのも,深い意味があって申したわけではございませんので,確認までに一言,申します。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 終了事由につきましては提案に賛成でございます。1点だけ先ほどの小野委員の御発言で気になったところが,委託者が報酬を支払うところなんですけれども,委託者が報酬を支払うということを公益信託で認めると,どうしても委託者の影響力が受託者に対して強く働くので,そういうものを認めてしまっていいのかなというところの疑問を少し感じました。ですので,それを前提として議論をされるのがいいのかどうかというところについて疑問を呈させていただきます。
○平川委員 第1の1の終了事由につきまして,私どもは第2号については解釈論で適用されないのだからというのではなく,適用除外とはっきりとその部分を明確に規定するべきだと考えます。法務省補足説明の2の(1)では,信託法163条第2号は新たな公益信託についても適用されないと解釈すべきだが,これを明文化する必要はないとの理由付けとして,目的信託に信託法第163条2号が適用されないことは解釈に委ねられているにもかかわらず,公益信託にのみ同号を適用除外とする規律を設けるということは,目的信託との場合との均衡を欠き,妥当ではないという理由なんですけれども,しかし,現在まで実例のない目的信託と,既に多くの活用例があり,かつ,改正後更に普及が期待される公益信託を同列に置き,解釈論で補うという考え方には違和感がございます。多くの国民が関係し得る公益信託について誤解が生じないよう解釈ではなく,明確に規定すべきであると考えます。
  また,信託法163条9号に信託行為において定めた事由が生じたときという終了事由がございますが,果たして公益信託の終了原因として,そのまま適切なのかどうか,当事者が定めれば何でもありなのか,一定の縛りが必要なのではないかという議論が,考察が必要なのではないか,法務省のお考えや,また,法制審各委員の御意見も伺いたいところです。
  これで1と2と3を一緒に言ってしまっていいんですか。
○中田部会長 結構です。
○平川委員 1の2につきまして,公益信託の存続期間ですけれども,期間制限を設けないものとするという御提案に賛成します。英米においても公益信託は,ルールアゲインストパーペチュティの適用除外とされていると理解しております。
  1の3の公益信託の認定の取消しによる終了ですけれども,甲案に賛成します。すなわち,信託は終了するものとすると。公益信託を設定する前に目的信託を前置するということに対しては,信託関係が複雑化することから反対の立場をとっておるところですが,公益信託と目的信託は並列的関係に立つと整理することから,公益信託が終了した場合には目的信託として残存することはあり得ないという立場をとるものです。また,公益法人制度におきまして,一般法人と公益法人の2階建てとしたことから,各種の法律関係において複雑化,煩雑化を招いておりまして,安易に同様の制度とするべきではないと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 2と3のそれぞれについて一言ずつ。
  2につきましては期間制限を設けないものとするということ,それ自体は当然のことかと思うんですけれども,後の相互転換の議論との関連で,そっちの議論を今,するわけではないんですが,目的信託への転換を認めるという前提に立った場合には,そのときから20年というようなデフォルトルールとでもいうのでしょうか,公益信託契約中に明文に書かれなくても,デフォルトルールとして,そう理解していいのかというところが,相互転換のところの議論かもしれませんけれども,関連するのではないかと思います。
  3についてなんですけれども,当事者が争った場合,行政処分なものですから,処分が取消されるまで,執行停止にならない限りは,有効な処分として存続するので,そうすると,当事者が争っているのに甲案で終了する,また,乙案でも目的信託に移行してしまうということであるとすると,割り切れないところがございます。当事者が争って最終的に裁判で勝つかもしれません。そのときにも公益信託は終了してしまっているということになるのか,その辺をどう考えるのか,教えていただきたいと思います。
  それと,乙案の場合,乙案がふさわしいと私は思うんですけれども,これまでの審議でも目的信託というものを二つか,三つか,分かりませんけれども,少なくとも異なる幾つかの分類があり得るのではないかと議論されたと思います。例えば,公益信託の要件は満たしているけれども,認定はとらないような公益目的信託また特定の高校の学生や卒業生に対する奨学金の公益性に関する議論が以前ありましたけれども,公益性について見解が分かれるということもあるかと思います。その他,準公益的信託,準公益的目的信託とか,そういうのもあるかと思います。ですから,既存の目的信託というと,特に要件のところで純資産が5,000万円を超える法人の要件とかの問題がありますけれども,そういう違う形の目的信託として残るという選択肢もあり得るのではないかと思います。もちろん,そうではなくて単純に目的信託として残るといってもいいんですけれども,その場合,要件のところで残ることが難しくなる可能性もあるのではないかと思います。
○能見委員 3についてだけ取りあえず発言したいと思います。今の小野委員とほぼ同じことになるのだろうと思いますけれども,これまでの議論において,目的信託の形をとりつつ,実際上,公益的な活動をすることは認められると,それから,認定を受けようと思えば公益信託になり得るけれども,認定を受けないで目的信託のまま,公益活動をするというのも認められるという前提で考えてきたのではないかと思います。そうすると,目的信託と公益信託というのが並列なのか,直列で2階建てなのかというのは,そう簡単には言えないことで,むしろ,目的信託の方が非常に広い範囲で存在しうるものであって,その一部については公益信託とは大分違うのでそれと並列的な関係になるのかもしれませんが,公益的な活動をするような目的信託については,両者は2階建ての関係になると見ることもできます。要するに,並列か,そうでないかというのは比喩的な表現なので,余りそれによって結論が決まるというような形で議論はすべきではないのではないかと思います。
  実質的に考えた場合に,先ほどの繰り返しですけれども,目的信託でもって公益活動ができるのであれば,公益信託の認定が取り消されて,いろいろな理由で取り消されることがあるとしても,一番厳しい場合としては公益性が結局認められないという理由で取り消される場合も含めてですが,その場合でも,もともと目的信託のままでも公益的な活動はできるわけですから,公益信託が取り消された場合も,目的信託として存続させることは十分考えられる。そういう意味では,ここでは甲案ではなくて乙案の方がよろしいのではないかと思います。
○深山委員 まず,1の終了事由については既にいろいろ御意見がありますが,結論としては2号を除いて各号を終了事由にするということに賛成したいと思います。9号について平川委員から問題提起がございました。信託行為に定める終了事由というものを残すかどうかで,結論は今,申し上げたように残していいと私は思います。ここは公益信託という制度の基本的な考え方に結び付く問題だと思うんですが,私は委託者を中心とした当該公益信託を創設しようとする信託当事者の意思というものをそれなりに尊重すべきだろうと思います。
  これはいろいろな場面で出てくるわけですけれども,その一つの場面として,終了事由を法定の事由以外に当該公益信託にとって必要な事由として当事者が定めたのであれば,それはそれで基本的には尊重してしかるべきだろうと思います。もちろん,公益信託にふさわしくないような終了事由を仮に定めていたということになれば,認定のところでチェックがかかって,そういう終了事由を含む公益信託であれば,認定しないというような判断もあり得るとは思いますが,基本は自由な意思で自由な設計を許すということからスタートすべきだという意味で,そこはそのままでいいだろうと思います。
  2のところは,期間については特段の意見はありません。提案どおりでいいと思います。
  3については,既に出た能見委員等の意見と共通しますが,いろいろな自由な設計といいますか,バリエーションを増やす,メニューを増やすという観点からは,常に終了しかないというよりは乙案を検討してもいいのかなとは思います。ただ,これも当事者の意思が公益信託が取り消されたら,それ以上,やる気がないというのであれば,その意思は尊重すべきですし,逆に公益認定が取り消されても目的信託として公益的なことをしたいという意思があり,なおかつ,法定の要件を満たすのであれば,残り得るというような道を残す意味で,乙案というのも検討してもいいのではないかと考えます。
○林幹事 まず,1については基本的には法務省の御提案に賛成ですが,1点,確認です。信託法166条については当然,終了事由になるという理解なのですが,問題意識としては,公益認定の取消しと近いというか,場合によっては重なるとも考えられるからですが,今の御提案のままだとこのまま166条も残るというのでよいでしょうか。公益信託法8条の関係では,現行法でも裁判所の権限によるものなので,そういうものとして今後も残るという前提において議論されているのだと思いましたが,その点,確認させてください。
  それから,2については特に私も賛成です。
  3についてですが,先生方と重なる部分もあるのですが,確かに甲案でもよいという考えもあるだろうとは思うのですが,バリエーションを広くするために,今の時点では乙案に賛成しますし,まだ,乙案も残して検討していくべきと思っています。ただ,ここで問題は,目的信託の要件を満たせば存続するというのはそのとおりですが,現行法の目的信託では,受託者には信託法附則3項の問題があってハードルが高いことから,目的信託の要件を満たさない場合には,事実上,存続が難しいことになると思いますから,乙案の立場に立って,目的信託の要件等について,なお,改めて検討すべきと考えます。
○中田部会長 今,166条とおっしゃいましたのは,公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判についてでございますか。
○林幹事 そうです。
○中辻幹事 信託法166条については,新たな公益信託についてもそのまま適用され,裁判所が公益の確保のために公益信託の終了を命ずる裁判を行うことはできる,すなわち,現在の公益信託法8条により裁判所の権限とされている公益確保のための終了命令の権限が新たな公益信託においても裁判所の権限とされることを事務局としては前提としております。
  もう1点,目的信託の要件のお話が何度か出ておりました。信託法附則3項の存在により,政令で定める法人以外の者を受託者とすることはできないとされ,政令で純資産額を5,000万を超えるなどの要件を見たしていなければ,流動化スキームの構築などを目的とする目的信託の受託者になることはできないとされているわけですが,附則3項には「受益者の定めのない信託(学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的とするものを除く。)」と書かれていますので,附則3項の対象からは,公益を目的とする信託はすべて除外されているということになります。そうしますと,仮に公益信託法2条1項を廃止し,公益を目的とする目的信託,あるいは公益を目的とする受益者の定めのある信託を有効とする場合でも,それらに5,000万円の受託者要件が適用されることにはなりません。それとは別に,公益を目的とするが公益信託としての認定を受けていない目的信託や私益信託に何らかの受託者要件が必要か否か,仮に必要であるとするならばどのような要件を設けるべきかという整理で,現在事務局としては検討を進めているということを付け加えさせていただきます。
○山田委員 意見としては,これまで出ているものに対して新味はないのですが,申し上げておきたいと思いましたので発言させていただきます。3について,公益信託の認定の取消しによる終了でございます。これは私は乙案を強く支持したいと思います。信託という法律関係が維持されると,すなわち,委託者から受託者に対して財産が移転し,受託者の下で信託目的に従って財産の管理・処分が行われることになります。そして,受託者の下では受託者の倒産から隔離されていることになります。そういう法律関係,これが信託の私は基本だろうと思うのですが,これは公益信託の認定が取り消されても維持されるのが原則であるべきだろうと思います。ただ,例外として信託行為の中に,信託行為が取り消された場合には信託を終了するというような旨が定められているようなことがありましたら,それは尊重してもよいのではないかなと思うのですが,そこは十分に詰めて考えておりませんので,原則として申し上げた通り,乙案を是非,実現していただきたいと思います。
  そして,6でございますが,公益信託の終了命令であります。
○中田部会長 すみません,6は後ほど。
○山田委員 そうですか。これはまだ入っていませんか。
○中田部会長 1から3まで。
○山田委員 失礼しました。では,3についてのみの発言とさせていただきます。
○新井委員 3について私は甲案を支持したいと思います。現行法では,公益信託は目的信託の一類型とされています。つまり,公益信託と目的信託というのは連続性があるという,そういう立て付けになっているわけです。しかし,私の意見では公益信託と目的信託というのは連続性はないと考えています。公益信託というのは委託者が自らの財産を公益のために出えんするというのであるのに対して,目的信託の場合の現行法の規定では,委託者が非常に強大な権限を持っているわけです。ですから,それを公益信託との連続性で捉えるということは,私は賛成できません。ですから,私は甲案を強く支持したいと思います。
○中田部会長 1から3についてほかに。
○吉谷委員 まず,2ですけれども,公益信託の存続期間については期間制限を設けないという提案に賛成いたします。現在でも期間制限というのは設けられておりませんで,ほぼ期限のない公益信託ばかりであると考えていただいてよろしいのではないかと思われますので,それを維持するべきであると考えます。期限を設けてはいけないのかというと,期限を設けるというニーズもあるかもしれないと思っておりまして,例えば東京オリンピックのために信託を設定すると,オリンピックが終わって1年後には終了するというような定め方もあっていいのではないかと思われます。そうしますと,信託法163条9号についてはなければ困るということにはなると思います。ただ,何でも定めていいかというと,それはまた違う問題なんだろうなと思いますし,それは認定の判断のところでなされればいいのではないかと考えます。
  次に,3番でございますけれども,公益認定の取消しの場合には甲案の信託は終了するを支持いたします。大きく二つ理由があります。一つは公益信託の財産というのは,公益のために用いられるべきものであるということ,そして,もう1点は税制との関係です。公益信託の委託者は,公益目的のために利用されることを前提に金銭を出捐するわけであります。この委託者の意思は尊重されるべきであって,一旦,公益のために出えんされた金銭が公益目的以外のために利用されることは,制度設計としては問題があると考えます。しかし,公益信託が目的信託に変わるということを許してしまうと,公益信託の規律はその後はもはや適用されないわけでありまして,行政庁の監督の対象外でもありますし,信託目的を公益以外のものに変更することも可能となると思います。そのため,公益認定を取り消された公益信託を目的信託として存続することは適切でないと考えます。
  新しい公益信託は,信託財産が委託者の支配から切り離されて,委託者など公益とは無関係の主体を帰属権利者とはできないということを前提にすると考えておりますけれども,そのような前提で会計や税務上も委託者から切り離されるというものであると考えております。公益信託から目的信託への転換を認めるのであれば,公益目的で拠出された財産というのは目的信託に帰属しないような仕組みが必要になると思います。公益法人でも同じような仕組みがあると思います。しかし,公益信託では公益目的以外の目的で財産を拠出するということは余り前提とされていないと思います。すると,目的信託に帰属する財産も存在しないということになりますので,このようなニーズはそもそもないのではないかと思います。
  税制との関係でいいますと,公益信託から目的信託への転換を認めると,公益信託財産が私益のために利用される道も開かれる,ということになりますと,税の優遇であるとか,公益認定と税の認定の一体化という観点でも,実現できるかということに懸念を持っております。新しい公益信託では,信託財産の公益信託事務の範囲の拡大など,従来の公益信託になかった要素が様々取り入れられているところですので,これに加えて私益の利用の道を残すということになりますと,税制優遇が措置されるハードルが更に高くなるのではないかと懸念しているというところです。
  1点,質問がございます。取消事由として公益法人の場合ですと,認定法29条1項4号ので取消しの申請というのがあると思うんです。それと同様に,信託においても受託者又は信託管理人から,公益認定の取消しの申請の取消しがあったということを取消事由とすることがあるのでしょうか,というのが疑問です。仮に乙案を採るのならば,受託者や信託管理人が目的信託への転換をしたいがために,認定取消しを申請するというようなことも出てきかねないと思っておりまして,そういうことは適切ではないと考えます。もし,また甲案であれば後で出てきます終了命令との関係というのが問題になって,制度としては一体的にした方がいいのではないかなと考えて質問させていただきます。
○中辻幹事 先ほど山田委員が終了命令についても御発言されようとしたこととも関連すると思うのですが,公益信託の認定の取消しによる公益信託の終了の論点は,信託法165条の公益信託の終了命令の論点と関連するので,その関係を整理しておく必要がございます。
  一つの考え方は,信託法165条の受託者等からの申立てを受けて裁判所が行う特別の事情による信託の終了命令の裁判の規定は,公益信託にも適用されるとするものです。特に,新たな公益信託において信託法165条の申立先を認定行政庁等とする場合には,公益法人認定法には信託法165条のような規定がないことから,公益法人認定法29条1項4号は,公益法人から認定取消しの申請があったことを公益認定の取消事由としているが,公益信託の受託者は信託法165条による公益信託の終了ができることになるので,公益信託の受託者から認定取消しの申請があったことを公益信託の取消事由とする必要はないという整理があり得ると思います。
  それとは別に,公益信託の受託者が特別の事情により信託を終了する必要がある場合に信託法165条による公益信託の終了ルートが存在するとしても,受託者からの申立てを受けた認定行政庁等による認定取消しのルートは別途併存させておいて差し支えないという整理も,特に第1の3の論点で乙案を採るのであれば,あり得ると思います。ただし,その場合にも,認定行政庁等による認定取消事由をどのように定めるのかが問題となり,信託法165条が信託設定時に予見することのできなかった特別の事情を要求して終了事由を限定しているのと同様に,認定行政庁等による認定取消事由を限定するならば,例えば受託者が公益信託を目的信託に変えたいという理由のみで認定取消しの申請をしてもそれだけは公益信託の認定取消しは認められないことになると考えます。
○中田部会長 1から3については。
○山本委員 今の3の点についてなのですが,先ほどの議論の中でも少し顔を出していたことですけれども,甲案,乙案のそれぞれについて,これが強行的なルールとして提案されているのか,任意法規的なルールとして提案されているのかという問題があるように思います。新井委員や吉谷委員の甲案の御主張は,これを強行的なルールとして想定すべきであるというものだったと思いますが,甲案であっても,論理的には少なくとも任意法規的なルールとして提案するという可能性もあり,そうなりますと,乙案との違いは相対的なものになる可能性もありそうです。この辺りは部会資料には明示されていなかったと思うのですが,そのような問題があることがわかってきたように思うのですけれども,この点はいかがなのでしょうか。
○中辻幹事 事務局としてこの部会資料を作っている段階では,任意規定というよりは強行規定と考えて作っておりました。ただ,いろいろ御指摘いただきましたので,それを踏まえてまた考えていこうと思います。
○長谷川幹事 3につきまして,後ほどご議論が予定されている終了時の処理のところにも関わるかと思いますけれども,私も税の観点から,仮に乙案としたときに現行の税制上の優遇が受け入れられにくくなるということであるとすると,慎重に考えた方がよいのではないかと考えている次第でございます。
○道垣内委員 吉谷委員がおっしゃったことはほぼ理解できたのですが,1点だけ分からなかったのでお伺いします。つまり,公益信託において公益目的に給付することが求められているところ,目的信託に拠出することはできないはずであるということをおっしゃいましたか。
○吉谷委員 私の理解では,公益法人から一般法人になるときには,公益目的で出えんされていた財産について一般法人にある程度は入れないという仕組みがあると理解しておりまして,もし,それが間違っていれば教えていただきたいんですけれども,公益信託の場合ですと,元々,委託者が信託する財産というのは全て公益目的で使うということが前提になっていると思いましたので,それを目的信託にするということは,目的信託にいく財産と国や地方体などに帰属させてしまう財産とより分けるんだろうなと考えました。それが税の考え方とも整合するのだろうというふうな理解だったんですが。
○道垣内委員 税との関係ということについては,吉谷委員のおっしゃることはよく分かるのですけれども,一般法人と公益法人の場合はともかく,例えばある信託銀行が公益信託の受託者となっているというときに,その信託自体が目的信託に変容するということになる際,そこにおいて財産の移転があるとは思えないものですから,おっしゃっていることの趣旨がよく分かりませんでした。公益法人法制と平仄を合わせ,そこにおける公益認定の仕組みないしは考え方というのを参考にして考えると,そうなるということであるならば話は分かります。ただ,拠出というか,移転がないというのが多分,乙案の前提でしょうから,余りそこを重んずる必要はないのではないかという気が致しました。
○中田部会長 1から3については。
○平川委員 公益法人の場合は,公益認定を取り消された場合には一般法人になりますけれども,その場合には1か月以内に公益目的残余財産を他の同類の公益法人や地方公共団体に寄附しなければならないという縛りがあるので,多分,こういう公益信託の認定が取り消されて目的信託になるという法制になった場合には,同じような縛りが入ってきて,公益信託で使っていた財産は,公益目的に全部,拠出してなくしてしまわなければならないというような規制になるのだろうと想定され,そうなると複雑・煩雑化して,公益信託にすることがディスカレッジされていくようなことにならないか,というのが懸念されると思います。
○道垣内委員 今の議論のよく分からないんですが,今,平川委員がおっしゃったように,公益信託のために拠出された財産を全部,ほかの公益信託に移すと財産がなくなりますから,目的信託に変わるわけがないですよね,財産がないのですから。ですから,乙案を採るということの前提として,残余財産を他の公益信託等に移さなければならないとはしないということになっているわけですので,どうも議論がその点はかみ合っていないような気がするんですが。
○平川委員 微々たるものが残っている……。
○道垣内委員 それは公益目的の財産のはずですから,微々たるものが残っても駄目だと思います。
○中田部会長 まだ,続くと思うんですけれども,そろそろ,次のところにも進みたいと思います。
○吉谷委員 私が最初に公益目的で委託者が出した財産は,公益目的に使われるべきだと。なので,目的信託になった後に目的がどんどん変容してしまう可能性があるので,それは目的信託に変わるべきではないと申し上げました。今の道垣内委員の御指摘のところを受けると,仮に目的信託になるんだとしたら,その後,縛りの強い目的信託というのと現行の目的信託というのと2種類を作らないと,元々の委託者の公益目的をずっと維持するということが難しくなるのではないかなとも思っていまして,どんどん,仕組みを複雑化していくのではないかということを懸念するところだったんです。
○中田部会長 御議論があると思うんですけれども,後ほど転換のところで,また,この論点が出てくると思います。それから,先ほど山田委員が言及しようとされました6の終了命令とも関係してくるところでございますので,先に進ませていただきたいと思います。
  今,1から3までについては,1については2号と8号と9号について御意見を頂きまして,それを踏まえて更に検討ということになろうかと思います。2についてはこれでよいという御意見であり,転換との関係についての御指摘がありましたけれども,基本はこれでよいということと承りました。3については両論があるということで,更に御検討いただくということになろうかと思います。
  それでは,4から6について御意見をお願いいたします。
○深山委員 取りあえず4についてまず意見を申し上げたいと思います。提案では,信託関係者等の合意による終了を一切できないという割り切り方を提案しておりますが,先ほどの私の発言とも関連するんですが,多くの場合,信託契約で信託が作られるときに,契約当事者全員が何らかの理由でやめようというときにやめられないというのは,契約としてはかなりイレギュラーな話だろうと思います。
  そういう意味で,一切,その道を封ずるというのは少し行き過ぎで,委託者,受託者,信託管理人ぐらいでいいと思うんですけれども,委託者が存在する場合には,その三者の合意で終了を認め,ただ,この考え方の背景として恣意的な終了というものは好ましくないという価値判断があると思うので,それにプラスして,三者の合意による終了を行政庁等になるのかなとは思いますが,認可等のお墨付きを与えるということを要件に加えて終了を認めるという,そのような道を認めるべきではないかと考えます。その意味で,提案そのものには反対して,行政庁等の関与を含めて認めるような方向を検討すべきではないかと考えます。
○小野委員 結論においては深山委員と同じなんですけれども,理由付けのところを,1,2点,追加いたしますと,これまでは給付型でしたけれども,今後は事業型の公益信託を期待しているわけですが,そうすると,事業の成り行きというものがあると思うので,今までとは状況が違うのではないかと思います。したがって当事者の意思ではそもそも終了できないということは問題があるように思います。それから,もう1点は公益法人制度との比較なんですけれども,公益法人制度の場合でも終了することは大変かもしれませんけれども,それでも財団を終了することは可能なので,そういう観点からも一定の枠組みとか制約は必要だと思いますけれども,終了できないというような規律を設けることには反対です。
○吉谷委員 4番につきましては,合意では終了することができないという提案に賛成いたします。信託が終了してしまいますと,公益目的で財産を使うという当初の公益目的に使われることは期待できないわけでありますので,信託目的のために利用できる間は,当事者によって公益信託は継続されるべきであって,当事者の合意で終了されるべきではないと思います。目的達成あるいは不達成で終了ということがあるわけですけれども,恐らく当事者間で目的が不達成になったということに自信がないとかいうときには,合意で終了ということにしようかということが考えられるわけですけれども,自信がないのであれば行政庁によってチェックしていただくというのがよろしいのではないかと思います。
○平川委員 4につきましては,合意によって終了することができないという提案に賛成します。英米においても公益信託の信託契約は,取消不能であるということが公益性を担保するものとして,その要件となっているものと理解しておりますし,ただ,先ほどの信託法163条の終了事由の9号で,信託行為において定めた事由が生じたときとありますが,例えばここで期間を定めるとか,そういうことは可能なのではないかと思いますけれども,任意に合意で解除できるということには反対します。
  5につきましては,信託管理人が就任しない状態が継続することによる終了ですが,終了事由ではなく,認定取消事由とすべきであると考えます。ただし,不在期間は1年以上と限定せず,行政庁の判断に委ねられてよいと考えます。その理由は,公益信託においては信託管理人を必置機関と考えますし,その存在及び資格要件は公益信託認定基準の一つであり,信託管理人の不存在は重要な基準違反であると考えます。したがって,不在期間の長短にかかわらず,その不在は取消原因となる状況にあると考えるものですが,やむを得ない事情により一時的に不在となったけれども,早期に回復が可能な場合も想定されますので,それらの状況を行政庁が判断し,公益認定取消しをするということが妥当と思われます。
  なお,新たな公益信託では公益法人同様,行政庁へ各種報告の提出義務が課せられるということになると思いますので,行政庁は信託管理人の不存在についても知り得る立場にあります。また,公益法人制度においては監事の不存在は一般法人法違反として,行政庁にある公益認定の任意的取消事由となっていることに鑑みますと,公益信託の場合に直ちに絶対的な終了事由とすることは,信託関係人に混乱と過大な負担を与えると思われます。また,前任の信託管理人の恣意的な辞任等により,公益信託の終了を招くおそれもあると思います。
  6につきましては,甲案に賛成します。その理由は,公益信託の認定及び監督を行う行政庁等が事情を一番よく知っていると思われることから,行政庁が公益信託の終了命令を発するのが妥当であると考えます。行政庁等は認定要件につき,監督する立場にありますので,かかる行政権に基づいて信託終了を命ずる権限を有することは,適切な行政手続の分配にかなっていると考えます。
○中田部会長 6の(2)についても御意見を。
○平川委員 6の(2)は甲案に賛成します。その理由は,委託者は財産の拠出設定等後は公益信託に対し,影響を持つべきではないと考えますので乙案には反対します。
○中田部会長 ほかに。
○能見委員 4と6について意見を述べたいと思いますが,4は悩ましいところで,私もこれがベストだという意見は必ずしもないのですけれども,少なくとも結論としては委託者と受託者と,そしてプラス,信託管理人の3人の合意があれば,終了させることができるというのならいいのかなと感じています。その理由としては,一つは委託者と受託者が合意するという部分は,両者は信託行為の当事者であり,事前に信託行為のところでいろいろな終了事由が書ける立場にある。もちろん,公益信託の場合にはどんな終了事由でもいいというわけではありませんけれども,しかし,一般的には終了事由を信託行為で書こうと思えばできる立場にある,そういう者の合意がそこにある。ただ,公益信託として許容されるような状況下での終了であることが必要なので,両者の合意だけで簡単に事後的に終了させるというのは軽すぎるかもしれないので,信託管理人も加えて3者が合意するのであれば,終了させることを認めるというところでどうかと思います。
  4の問題は6とも関係するのですが,6の手続,これは予見できなかった特別な事情などが必要ですけれども,恐らく三者が信託を終了させたいと考えるのは,いろいろな特別な事情がある場合で,信託法165条でいけなくはないかもしれないが,その要件を満たしているかはっきりしない。そのようなときに,言ってみれば信託法165条の代替的な機能を4のところで認めるということがあるのではないかと思います。
  6に関しては,165条の終了命令ですけれども,これが公益信託についてはどういう場合に問題になるのか,ということがあります。公益性がなくなるというのはここの問題ではなく,ここでは公益目的自体は別に問題はない,当該信託が遂行している事務が公益性を有しなくなったということではなくて,むしろ,公益目的ないし公益性自体はきちんとある,だけれども,その公益目的を遂行する上で,どうも今の状態で信託を続行するのはまずい。こういう場合に,165条の終了命令がなされるのではないかと思います。
  適切な例かどうかわかりませんが,例えば公益目的は遂行しているが,非常にコストが掛かって信託財産がどんどんなくなってしまう。これは財産の効率的な利用という観点からは無駄が多くてよくないというような,そんな場合なのではないかと思うのです。公益性がなくなった場合と違って当然に終了させなければならないわけではない。そこで,このような状況のもとでは,終了させたいと考える関係者と,終了させたくないと考える関係者がそこで対立する可能性がある。一つのパターンとしては,受託者あるいは信託管理人の方はどうもこのままでは効率的ではないので終了させたいと考える。だけれども,委託者は公益信託を設定して,その目的を飽くまで追求してもらいたいと考えている。ここではある種,争訟的というと正確ではないかもしれませんが,やはり争いがある。そういう構造の中で165条というのが使われるのではないかと思います。
  そうなると,誰が終了を命ずるかというところの問題ですけれども,行政庁ではなくて裁判所の方が望ましいという感じが致します。現在の165条でも即時抗告ができるようになっていると思いますが,一旦,なされた裁判所の判断に対して委託者であるとか,受託者のことも書いてありますけれども,これらの者が争うことができる。そういう形で争いがそこで生じることがいろいろ考えられますので,そういう意味で,ここで終了命令を出すのは裁判所の方が望ましいと思います。
○中田部会長 申立権者についても御意見はおありでしょうか。終了命令について申立権者について。
○能見委員 申立権者は一応論理的に必ずこうでなければいけないということはありませんけれども,委託者も含めて申立権者は三者ができるということでいいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○林幹事 4につきましては,小野委員,深山委員と同じです。4の基本的な枠組みは部会資料をざっと一読したときには賛成だと思ったのですが,継続が難しく終了させるべき場合にどうするのか考えたときに,信託法165条で対応できるのか,あるいは目的不達成で対応できるのかというと,明確ではない場合もあるのではと考えます。その事由を柔軟に解釈すればいいとの考え方もあるかもしれませんが,逆に柔軟に解釈することがよくなかろうということもあります。そういう意味においては,行政庁なりの関与もあった上で,何らか委託者,受託者,信託管理人なりの合意による終了というものが,例外的なものとしてあってもよいと思いました。
  次,5につきましては,弁護士会の議論の中では賛成という意見も多かったのですが,大阪弁護士会では(注)の意見に賛成でした。というのは,1年継続したときについては,1年について固定的に考えるべきではないというものです。事案によっては1年未満でも終了させた方がよいものもあれば,新たな信託管理人を選任しようとして,きちんと候補者はいるけれども,1年では間に合わず,もう少し時間が掛かるというような場合にまで強制的に終了させるのはどうかというような意見もあり,1年間というのに固定的にすべきではないという意味において,(注)のように取消事由のような形で行政庁に柔軟に判断してもらえばいいのではないのかという意見でした。
  6の終了命令につきましては,これも両方の考え方があるところかと思いますけれども,そういう特別の事情は裁判所の判断になじむのではないかというのが,弁護士会の大方の意見でした。
  それから,(2)申立権者につきましては従前と同様ですが,弁護士会の意見としては,委託者にも一定の関与の余地を残すべきであり,それは,委託者が関心を持っているからというところで,乙案の方が多かったです。それで1点,確認させていただきたいのですが,これについてはデフォルトルールということも補足説明に記載があったのですが,委託者についてのみデフォルトルールであって,受託者,信託管理人については奪うことのできない申立権だと,そう理解していますので,その点確認させてください。
○中田部会長 今の最後の点はいかがですか。
○中辻幹事 林幹事の御理解のとおりです。
○中田部会長 ほかに。
○棚橋幹事 6の(1)についての意見と質問です。まず,質問は先ほど能見委員の御意見の中にもありましたけれども,そもそも,御提案されている信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして相当となるに至ったことが明らかであるときという要件は,公益信託においては,どういった場合が想定されているのかということを質問したいと思います。信託法261条1項で想定されている場合と内容ですとか,判断する観点といったところに違いがあるのかを教えていただきたいと思います。
  先ほど能見委員の意見の中では,公益目的に反しているのかどうかということは,ここでは関係ないのではないかというような御趣旨の御指摘があったかと思いますけれども,裁判所としては,前回と同様に,何が公益なのかというような判断が必要ということであれば,難しいだろうと考えておるところでして,そうであれば行政庁の方が望ましいと考えているための御質問ということになります。
  また,先ほども少し出てきたところですけれども,取消事由や,認定基準との関係についても疑問に思っているところがあります。提案されているのがどういった場面かということにも関わってくるのですけれども,例えば特別の事情によって事業の継続,目的の達成ができないというようなことになった場合には,正に認定基準の裏返しの判断が必要になってくるところかとは思いますし,認定法上の取消事由の一部として定められているものに当たり得るような場面のようにも思えました。また,信託財産の状況に照らして終了が相当という場面も,認定法上の取消事由として捉えることもできるようにも思いましたので,認定法との重複があったり,認定取消しと重複するということであれば,特別の事情による場合を裁判所が行うよりは,認定基準について判断を行い,認定取消しについて判断を行う行政庁等が行う方が適切なのではないかと考えております。
○中辻幹事 棚橋幹事の御質問についてお答えします。信託法165条に挙げられた信託の終了命令についての考慮要素について,受益者の定めのない信託に関する信託法261条の読替え表を使うと,信託法165条の「受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるとき」は,「相当となるに至ったことが明らかであるとき」と読み替えられます。ただし,信託法165条の「信託の目的」という判断要素は,信託法261条の読替えの対象ではありませんので,仮に公益信託の終了命令の要否を裁判所で審理される場合には,当該公益信託で定められている目的がどのようなものであるかも踏まえて御判断されることになるのだろうと考えております。
○中田部会長 棚橋幹事,よろしいでしょうか。
○棚橋幹事 そうしますと,判断の内容ですとか,判断する観点というものは,基本的には信託法で定められている現行の終了命令と同じということになるのか,公益信託については違う部分があるのかについては,違いはないという理解でよろしいのでしょうか。
○中辻幹事 受益者の利益を考えるか,考えないかというところに違いはありますが,その他の部分については違いはないという理解です。
○深山委員 今の6の終了命令の点ですが,結論としては乙案がよろしいと思います。先ほど発言しました4のところで,合意による終了を認めるかどうかという点は,この提案では否定的ですし,認めてもいいのではないかという私の意見が残るかどうか定かではありませんが,仮に残るとすれば,関係者全員が終了すべきと考える何らかの事情が発生して,みんなでやめましょうという場合もあるのでしょうが,先ほど能見委員も例を出されましたけれども,やめましょうという人と続けましょうという意見が分かれるということも,当然,あると思います。あるいは4の論点は論点なので外して,終了事由一般としても,目的を達成したから終わるべきだ,まだ,達成していないではないかと,そういったところで関係者の意見が分かれるとか,あるいは目的達成不能かどうかで意見が分かれるとか,いろいろな場面があって,関係者間で続けるべきか,続けるべきではないのかということが問題になったときに,そこで判断を下すのは裁判所がふさわしいだろうと思います。
  ここでは,そもそもの公益性があるかないかというのは,既に立ち上がりのところで判断がされていて,恐らくいろいろなケースがあるとは思いますが,終了させるのが公益にかなうのか,続けるのが公益にかなうのか,そういう観点でいろいろな事実認定等が問題になると思います。そこを判断するのが裁判所の役割だろうと思います。
  (2)の申立権者については,関係者がそれぞれ発議できるといいますか,申立てができるのが望ましいという観点から,乙案を支持したいと思います。
○樋口委員 2点だけ,これまでの議論で感じたことがありましたので申し上げます。
  一つは,6の行政庁がいいのか,裁判所がいいのかというので,裁判所を代表する方もそれなりの発言をされているんですが,私が英米の信託の考えに,結局,染まっているからだと思うんですけれども,例えば行政庁が終了命令を出すというのはよほどのことです。このときに受託者は,公益信託の受託者であれ,私益信託の受託者であれ,何であれだと思いますけれども,とにかく公益信託の話ですけれども,受託者はどういう立場にあるかというと,必ずそれに反抗しなければなりません。受託者は信託を守る義務があるからです。つまり,公益信託として終了させてくれるなという形で必ずあらがうことになります。
  だから,一種,行政裁判になるんです。行政手続と実体的判断を争うことになると思いますけれども,最後まで頑張るような話になって,最後はそうすると裁判所のところへ行って判断せざるを得なくなるので,裁判所が公益判断はできませんといって最後まで逃げ回るということはできないのではないかと思うのです。つまり,議論のあり方として,裁判所の関与を妨げることが,日本ではできるのかなと錯覚しそうな感じになるんですが,錯覚ですよね。そうであるとしたら,もしかしたら手続的にはこういう終了というのは本当に異常な事態なので,そんなにたくさんあるわけがないときに,ぽんと行政庁は行政庁の言い分で裁判所の前で弁ずればいいわけです。これはおかしいんだ,終了すべきだと,この公益信託なるものが何らかの理由でだと思いますけれども,そういう話にした方が一回で済むというのか,そういう感じがするんです。それは私の誤解かもしれないので,しかし,誤解であれ,何であれ,申し上げたくなったので申し上げます。
  二つ目は,全体としての話なんですけれども,今日はとにかく情報公開はいい話だと思うんですが,終了させる話から始まっていて,そのときに私のイメージかもしれないんだけれども,公益信託に対するイメージが違うような感じがするんです,人によってだと思うんですけれども,でも,共通しているのは公益信託という形で何らかの公益活動を広くやってもらいたいというのはきっと一緒だと思うんですが,その次が違っていて,そういう公益活動に携わろうとする人たちがグループとして存在する,受託者になる人と委託者になる人と信託管理人になる人がいて,その人たちが公益のために頑張っているんだなというイメージです。だから,それはこっち側とは遠くの,つまり,そこである種の合意がなされていて一生懸命やってくれよという話になる。そういう話だとすると,場合によってはその人たちがいろいろ頑張ったんだけれども,嫌になった。では,みんなでやめようじゃないかということもあり得ます。ここまで頑張ったからよしとしようという話だっていいわけです,そういう話になれば。そうすると,信託法163条の先ほど平川委員もおっしゃっていたように,信託行為において定めた事由が生じたときというので,信託行為において定めておけば,当事者がですよ,それでやめていいんだという話になりかねないんです。
  もう一つの別のイメージがあります。その公益信託のイメージは,そういう人たちが始めたんだけれども,始まったからには一種,公益的な何か特別な存在になっていて,そう簡単にはやめられない,つまり,もっと公的なものであるということです。受託者も公的サービスに使えるような一種,公務と言ってはいけないのかもしれませんが,そういうようなものになっているのだとしたら,終了事由についてはそう簡単には終了しないで頑張ってくれという話になります。例えば信託管理人が就任しない状態ができたからやめてしまおうとか,それから,信託法自体にも書いてあるわけだからしようがないんですけれども,受託者が欠けた場合であって新受託者が就任しない状態が1年間継続したときにはやめていいというのはおかしいことになります。信託法の定めの対象は私益信託ですけれども,これを公益信託にも適用だか準用だか何だかするという話なので,公益信託もそれでやろうということなんですが,英米の信託では受託者が欠けたからやめるという話はまずない。
  信託管理人というのは必置のものではないと思いますけれども,そういうものは何とか裁判所のところで手続で見付けるという。そうすると,広いそれぞれの国で,国柄だと思いますけれども,誰かは見付かる。だって,公益団体だっていろいろあるわけですし,ノンプロフィットコーポレーションであれ,弁護士であれ,誰かはやろうではないかという話に普通はなる。しかし,こうやって諦めがいいということを見ると,先ほどの二つのイメージの中の公益信託も,公益で頑張っているんだけれども,それは結局,私人の発意,私人の発意は大事なんですけれども,そういうものでいいんだと,その人たちが嫌になれば,それでおしまいという,そういう感じなのか。私が言うようにもう少し公的な,税制的なものとも結び付いているのだったら,そんな無責任な話はできないという話に,私としては後の方に近い方が制度設計としてはいいのではないかなと考えております。
○中田部会長 ありがとうございました。
○山田委員 6について申し上げます。6の(1)でございます。意見は乙案が私はよいと思います。使う理屈は代わり映えがしないのでございますが,信託という枠組みを終了させるかどうかという観点から考えると裁判所が望ましいだろうと考えます。認定基準の観点から公益信託として一定の税制の優遇を与えるという観点は,認定,そして,監督する行政庁等が行えばよいわけですが,それは先ほどの3に戻りますけれども,公益信託の認定の取消しについては,事後的な認定基準に不充足が生じたような場合には,それで対応すればよく,それに対して,信託という枠組みを外部から終了させてしまうという,そういう場合には裁判所を使って公益信託でない,そして,目的信託を含むのかもしれませんが,目的信託にとどまらない様々な信託と同じ扱いで裁判所が行うと,終了命令を出すという考え方がよいだろうと思います。
○中田部会長 ほかに。
○新井委員 5番についてですが,樋口委員の発言を私なりに少し補足させていただきたいと思います。5に書いてあるこういう考え方に私は基本的に賛成です。ただし,立法論として考えたときに,信託管理人の給源をどうするかというのは非常に大きな課題だと思うのです。今度は給付型,助成型だけではなくて,事業型の公益信託も考えていくということがあります。そして,信託管理人というのはほとんど無報酬であるというときに,たくさんの有能な信託管理人をどう確保していくかということが課題で,信託管理人が存在しなければ,公益信託は成り立たないということがあるわけです。ですから,一方ではこういう考え方を採用して,信託管理人が欠けた場合は終了あるいは認定取消しでもいいのですけれども,こうした上で,他方では信託管理人を確保するという,そういう観点もあっていいのではないか。
  そのためにはどうするかというと,例えば行政庁が信託管理人を任命するようなシステムもあっていいのではないか。英米法では確かに信託は受託者が欠けても失効しないという考え方があるわけです。長期的な財産管理制度ですので,そうしないといけない。しかも公益信託ですから,公益目的を維持するということに鑑みて,5の規定は存置するとしても,立法論的に公益信託の普及のために信託管理人をきちんと確保するような,そういう仕組みもあってもいいのではないかということを提言したいと思います。
  4については原案賛成,6については(1)(2)とも甲案に賛成です。
○道垣内委員 まだ自分の申し上げたい内容がまだまとまっていない状態で発言し始めることを自分自身危惧しておりますが,能見委員,深山委員がおっしゃったことが気になっております。6に関して,予見できなかった特別の事情による場合だけが6の(1)になるわけですよね。しかし,より問題なのは先ほど深山委員とかが例に出されたように,財産が減るなどして効率的な公益を果たすということができなくなった場合に,ごく僅かな財産の管理のために大変な手間を掛けて信託事務を執行し,ほとんどが信託報酬で消えてしまうといった状況で信託を継続するのが適切なのかが問題になるけれども,それは普通の物価の変動,株価の変動等の結果だと考えるならば,6の(1)に当たるというのは,かなり言いにくいので終了できないという点にあるのではないかと思うのです。
  その場合には信託法163条1号の信託目的を達成することができなくなったときというのに当たるとして,信託の終了ということにするのでしょうけれども,これは結構,受託者にとっては危ない話です。実は,信託法本体のほうにも存在する問題なのですが,受託者が信託が終了したと思って信託終了の手続をとっていたけれども,後発的に目的達成不能にはなっていないと判断されますと,その行為の正当性が問われることになるわけで,結構,危ない橋を渡るということになります。私個人としては,善良な管理者の注意に基づいて,163条1号に該当すると判断したのならば,受託者はそれで責任は問われないと考えるべきだと思いますけれども,結構,危なくて,どうしてもティミッドになりがちなことになろうと思います。おそらくは,法164条1項によって合意による終了というのが委託者と受益者でございますけれども,多くの場合には合意による終了とかが認められるだろうと,そうなるだろうということによっているのではないかなという気がします。
  さて,以上のような認識を前提にして,4に関連して,私もこれで終了させるというのはどうかなという感じがしますが,そうしたとき,信託財産が少なくなったときにどうするのだろうかと,どういうふうにして受託者は,安心して信託を終了させることができるのだろうかというのが大変気になるところです。一つの方法としては,6のところを終了命令にしなくて,終了自体を裁判所に申し立てることができるという制度設計にするというのがあり得ると思いますし,5は残して,誰から見ても目的達成不能の状態のときには,合意で終了するというのがもう一つの道かなと思います。そして,後者の方が現実的なのかなという気がします。
  いろいろ申しまして話がまとまらないのですが,つまり4についてはそれだけを独立して考えることは多分できなくて,みんなが終了させるのがこれは普通だよねと,経済的に見て普通だよねと考えているときに,どういうふうにすれば,安心して終了に持ち込むことができるのか,その手続をどうするのかということなのだろうと思います。感想めいた話で大変申し訳ございません。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 最初に樋口委員が先ほどおっしゃられたイメージ的には,一旦,受けたら,そうやすやすとは終了することが受託者はできないんだというイメージを我々信託銀行の人間は持っていると思います。そういうことも踏まえまして,5につきましては信託管理人が就任しない状況が継続した場合には,任意的な認定取消事由とする方が柔軟でよろしいのではないかと思います。
  公益信託の終了命令につきましては,先ほど認定取消しを信託終了事由とするという案に賛成しておりますので,これを分けて別の信託終了命令というものを作る必要はそもそもないのではないかと。統一した条項として定めるのがよいと思います。もし,残すのであれば甲案の行政庁等ということになると思います。
  更に3のところで,当事者から認定取消しについて申請できるのかという御質問もさせていただいたのですけれども,認定取消しによって終了するという前提であれば,逆に受託者,信託管理人によって認定取消しを申請するという枠組みがあった方がいいと考えておりまして,信託を続ける意味がどうもないのではないかと当事者が考えているときでも,目的達成あるいは不達成と言い切ってしまっていいのかどうかというところに迷いが生じますというような場合は,行政庁に認定取消しをしていただいた方がいいと思っているなら申請して,それで終了するというのがよいのではないかなと考えています。そうしますと,6の(2)につきましては,委託者が認定取消しや信託終了を申し立てるという実益は余りないのではないかなと考えますので甲案に賛成です。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  それぞれについて御意見が分かれたようでございますが,しかし,それぞれ単独で取り上げるのではなくて組み合わせながら,一定の事由が生じたときに適切に終了させ得る道を考えていくという方向を示していただいたかと存じます。
  それでは,時間が3時を過ぎておりますけれども,もう一つ進めたいと思います。「第2 公益信託の終了時の処理」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,御説明いたします。
  「第2 公益信託の終了時の処理」のうち,「1 残余財産の帰属」について御説明いたします。(1)の本文では,「信託行為における残余財産の帰属権利者の指定に関する定めの必置とその定めの内容」について,「公益信託は,その信託行為において,残余財産の帰属すべき者(以下「帰属権利者」という。)の指定に関する定めを置かなければならないものとし,その内容は」,甲1案として「信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする。」,甲2案として,「信託終了時の全ての残余財産を当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託若しくは他の公益法人等(公益法人認定法第5条第17号イないしトに掲げる法人を含む。)又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとする。」,乙案として,「信託終了時の残余財産のうち,公益信託の認定時における信託財産については私人に帰属させるとの定めとすることを許容するが,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については私人に帰属させるとの定めとすることを許容せず,【甲1案】又は【甲2案】のいずれかとしなければならないものとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託が終了した場合にその残余財産が誰に帰属するかは,信託財産を出えんする委託者や公益活動に使われることを期待して公益信託に寄附する者にとってその意思を担保するために重要な事項であることなどから,公益信託は,その信託行為において残余財産の帰属権利者の指定に関する定めを置かなければならないものとすることが相当であると考えられます。
  次に,その帰属先につきましては,公益信託終了時の残余財産について,公益目的のために利用されることを目的としていた信託財産である以上,公益信託の認定の時点で拠出された財産であっても,公益信託の認定後の運用や寄附により増加した信託財産であっても,それらは公益信託終了後も公益目的のために用いられるべきであり,私人に帰属させるべきではないと考えられます。そして,税法上の要件も参考にしますと,公益信託は,信託終了時の全ての残余財産の帰属権利者の指定に関する定めの内容を,当該公益信託と類似の目的を有する他の公益信託又は国若しくは地方公共団体に帰属させることを定めたものでなければならないものとすべきであるという考え方があり得ることから,このような考え方を甲1案として提案しております。
  もっとも,類似の目的の公益信託に寄附する場合には,寄附先の選択肢が限定されてしまいます。公益的な活動を行い,法人内部で残余財産を分配しないことなどが制度的に担保されているものとして,類似の事業を営む公益法人や学校法人,社会福祉法人,更生保護法人,独立行政法人,国立大学法人,大学共同利用機関法人,地方独立行政法人等の法人も,公益法人の残余財産の帰属先として適格性を有するものとされていることからしますと,これらの法人を公益信託の残余財産の帰属権利者として認めることも,信託財産を公益目的のために使用するという観点からは相当であると考えられ,このような考え方を甲2案として提案しております。
  これに対しまして,公益信託において,公益信託の認定後に取得した財産には,公益活動に使われることを期待した国民からの寄附等によって形成されたものが含まれることから,そのような財産が私人に帰属することは,寄附者等の意思に反し不当である一方,公益信託の認定時に委託者が拠出した財産については,委託者又はその指定する者に返還されてもよいという考え方もあり得ます。そこで,信託終了時の残余財産のうち,公益信託の認定時における信託財産については私人に帰属させるとの定めとすることを許容するが,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については,私人に帰属させるとの定めとすることを許容せず,甲1案又は甲2案のいずれかとすべきであるという考え方があり得ますので,このような考え方を乙案として提案しております。
  続きまして,(2)の本文では,信託行為における帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄した場合の残余財産は,甲案として「清算受託者に帰属するものとする。」,乙案として「国庫に帰属するものとする。」という提案をしております。信託法第182条第3項の趣旨が公益信託にも妥当することなどを理由として,公益信託においても同項を適用し,帰属が定まらない残余財産は清算受託者に帰属するものとすべきであるという考え方を甲案として提案しております。これに対し,一旦公益目的のために出えんされた財産を清算受託者に帰属させることは,清算受託者に不当な利益を与える可能性がある上,引き取り手のない信託財産を清算受託者に帰属させることは酷であるということを理由として,公益信託においては,信託法第182条第3項は適用せず,帰属が定まらない残余財産は国庫に帰属するものとすべきであるという考え方がありますので,これを乙案として提案しております。
  第2の「2 類似目的の公益信託としての継続」について御説明いたします。本文では,甲案として「公益信託法第9条を改正し,公益信託の終了事由が生じた場合において,帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄したときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとする。」,乙案として「公益信託法第9条を廃止する。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度において,公益信託を民間による公益活動の手段として積極的に位置付け,主務官庁による裁量的・包括的な許可・監督制を廃止する場合には,信託関係人による監督・ガバナンスを確保することが重要であり,主務官庁が公益信託の継続を職権で判断する公益信託法第9条の規律をそのまま維持することは相当でないものと考えられます。ただし,シ・プレ原則の趣旨は,新たな公益信託制度においても妥当することから,ある公益信託について終了事由が発生したとしても,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続することを可能とする仕組み自体は,存続させるべきであるとも考えられます。
  そこで,公益信託が終了した場合において,信託行為における帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄したときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等は,受託者の申立てにより,その信託の本旨に従い,類似の目的のために公益信託を継続させることができるものとすべきであるという考え方を甲案として提案しております。これに対し,信託法第163条各号の終了事由は,当該信託が確定的に終了する場合を規定したものであり,そのような事由が発生する場合には,当該信託を類似の目的の公益信託として継続させる余地はないとして,終了事由が発生する前の時点における信託目的の変更の可否の論点を検討すれば足りるとの考え方もあり得ることなどから,端的に公益信託法第9条を廃止すべきであるという考え方がありますので,このような考え方を乙案として提案しております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○林幹事 まず,1の(1)につきましては,まず,残余財産の定めをすることを義務付けるということ自体は賛成です。その定めがないような状態において信託法182条2項などで相続人に関わる制度が入ってくるのもおかしいと思いますので,その点では,賛成です。
  その上で,甲案か,乙案かというところですが,乙案に賛成したいと思います。ここにもいろいろ考え方はあると思うのですが,当初,認定時において給付した財産の限りで委託者に戻るという制度があってもいいと思いますし,それは公益信託を促進するという意味において,プラスになるのではないかと思います。この点,税の問題とか,いろいろ悩ましいところはあるのですけれども,それはさておき,乙案でということです。
  乙案においても,甲1案か,甲2案かという問題が出てくるのですが,甲1と甲2の比較においては甲2の方がよいと考えます。要するに,そこでの選択を広げた方がよいという観点からです。ただ,大阪弁護士会での議論としては,類似の目的となっているのですけれども,類似の目的に限定せずとも公益信託や公益法人であればよいのではないかという意見もありました。もう一つの考えは類似の目的を多少柔軟に考えるというのもあるかと思います。要するに帰属先を何とか広く捉えたいとすると,そのようになると思っております。
  それから,1の(2)については国庫に帰属することで賛成です。
  2の「類似目的の公益信託としての継続」のところですが,ここでは日弁連の意見では基本的には乙案でした。その手前の制度でしっかり組んであるので,この段で更にシ・プレ原則のように考える必要はないのではないかという意見の方が強かったかと思います。個人的な意見としては,甲案もあってもよいようには思うのですけれども,あえてここまで制度を用意するかというのに,若干引っ掛かりがありそうに思います。結局,ここの論点というのは当初の帰属権利者がみんな放棄した財産で,要するに誰も受けたくないような財産なのかもしれなくて,それを国庫が最後には受け取るという制度になれば,そこで完結するように思いますが,国に帰属する手前にもう少し考えるべきだという,そういう要請というかが積極的にあるのであれば,甲案もあるのかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 1の(1)につきまして,公益信託はその信託行為において,残余財産の帰属すべき者の指定に関する定めを置かなければならないとすることに賛成します。また,その定めの内容は甲2案に賛成します。その理由は,現在の公益信託においても既に各主務官庁の行政指導及び税法上も私人への残余財産帰属は認めていないと認識しております。また,実際の公益信託設定事例においても,私人帰属を規定する信託条項というのはないのではないかと思っております。このような状況で,新公益信託において私人帰属を認め得る考え方を採るということは難しいのではないかと考えます。帰属権利者の対象は公益信託だけでなく,広く公益法人認定法第5条18号並みに拡大すべきと考えています。
  乙案というのは,チャリタブルリードトラスト的な考え方と共通するのではないかと思うのですが,そのような後で私的な信託になるというようなものを,それも普及させていくべきだと考えますけれども,これと公益信託というのは別物と考えてよいのではないかと思います。だから,例えば特定寄附信託とかに例を見るように,公益信託の実現と,信託制度を用いた公益への寄附優遇税制というものを別物として進めていくこともできると思います。なお,公益法人認定法においては,公益法人の残余財産を類似の公益信託に帰属させることを認めていませんが,公益信託法の本改正に伴って公益法人認定法を改正し,リシプロカルにすべきであると考えます。
  1の(2)につきましては乙案に賛成します。理由は,公のために拠出された財産が受託者に帰属するということは考えられず,当然,国庫に帰属するものと考えます。
  2につきましては甲案の変形なんですけれども,丙案を提言します。現公益信託法9条は,信託終了の場合においてと規定しておりますが,新公益信託法においてはさきに議論したとおり,信託の終了原因について信託法163条2号は除いて,信託法163条を適用するということにしました。そうしますと,163条各号のうち,1号は信託の目的が達成したとき又は信託の目的を達成することができなくなったときであり,正に英米公益信託法のシ・プレ原則が適用され得る場面です。例えばエイズ治療の研究助成を目的としていたが,エイズが地球上から消滅したので,それに代わる重大な感染症に信託基金を振り向けるべく,目的を変更するというようなのが例かと思いますが,このような場合を想定して信託法163条1号の終了の場合に限り,受託者等の形式的判断に任せず,行政庁等が類似目的の公益信託として存続され得る権限を付与させてよいと考えます。
  なお,このように限定しなくても1号以外の終了事由では,継続させることは事実上,困難であり,あえて1号だけを区分する必要はないという考えが有力なのであれば,甲案に賛成ということになります。以上の理由としまして,シ・プレ原則は英米の公益信託の特色を表す象徴的な原則で,飽くまで委託者の公益目的を実現させようとする意図が明確に示された規定であります。その意味からは,日本の公益信託制度において,この規定を欠くということは考えられないと言えます。ただし,アメリカの判例においても,その適用条件は厳しく決められているというようなことが樋口委員の「アメリカ信託法ノート」275ページから282ページにも記載されておりますので,日本法においても,それらを参考にする必要があると考えます。
○能見委員 まず,1の残余財産の帰属ですけれども,結論としては乙案に賛成ですが,なかなか,いろいろな諸般の状況からこれを採用することは難しいかもしれないという認識を持っております。しかし,本来は乙案が望ましい。この問題は,公益信託がどのような理由で終了したかという点も少し関係するのかもしれませんが,その意味で今の平川委員のご指摘とも関係しますが,とはいえ平川委員と同じ結論をとるわけではないのですけれども,終了事由が例えば信託目的を達成したというので終了するが,まだ,財産が残っている。こういうときには,委託者からすれば,本来の信託を設定した目的が達成したのであるから,その後のことは自由に決めさせてほしい。私人も含めて自由に帰属権者を決めることができるということがあっておかしくないと思うのです。ほかの終了事由にも今の議論が当てはまるかどうかは分からないのですが,少なくとも目的達成などについてはそう言えるのではないかと思います。
  それはそれとして,私がむしろ問題にしたいのは,残余財産の帰属に関する1の問題と,2のシ・プレ原則との関係です。仮に甲1案,甲2案などの案を採ったときの話なんですが,これらの案のもとで帰属権利者が定められているとしますと,これら帰属権利者が全て放棄しないと2のシプレの問題に移れないというのは,おかしいのではないかと思います。むしろ,甲1案,甲2案で許容される帰属権利者よりも前に2のシプレの処理がくるべきだろうと思います。これら帰属権利者が決められていても類似の目的のために公益信託を存続させることはできる,そういうルールとして2を捉えるべきではないかと思います。ですから,2の甲案ですけれども,そこに書いてある要件は見直しが必要だろうと思います。
○樋口委員 短く2点だけ。今,能見委員がおっしゃったことに全く賛成です。15ページのところにあるところへ,帰属権利者の指定に関する定めに掲げられた者の全てがその権利を放棄したときはと限定した上で,シ・プレ原則ということになると,先ほど林幹事がおっしゃったように,絶対にとんでもない負担のあるような,つまり,よほどのことですね,これは。だから,実際には甲案を採ってもこういう形でシ・プレが残ることはないだろう。類似の目的について,先ほどの平川委員がおっしゃってくださったというか,私の本まで,引用されたのは本当に有り難いことなんですが,その後のアメリカの動きを見ると,公益概念をシ・プレでは少し類似というのを広げて解釈するようにという方向性は出ているんです。そのことだけは申し上げますけれども,できるだけ公益信託を残そうという話は重要だと考えます。
  だから,放棄したときに限るという話だと,実際には甲案を残したところでまずあり得ないような話になるので,本当にまず類似の公益目的を探す,こちらがまずあって,どうしようもないといえば,最初の方でほかのところへ財産を預けて何とかしてもらうという,そういう順番になるのが普通なのかなと私も考えます。
○道垣内委員 林幹事がおっしゃったことで,大阪弁護士会の意見だったという話に関係します。私は第2の1の(1)について特に甲案でなければならないという強い見解は持っておりません。持っておりませんが,他の類似の目的を有するという要件が加わる理由がよく分からないのです。と申しますのは,シ・プレのそもそもの考え方をどう考えるかというのは,いろいろ考え方があると思いますけれども,一種の当事者意思の推定の問題であると考えるならば,1(1)は,当事者が定めているわけですよね。一定期間はスポーツ振興,その後は,学術振興と委託者が考えているときに,あなたは本当はこういう気持ちでしょう,学術よりもスポーツが好きでしょう,といって,他の類似であるということを要件とするというのは私にはよく分かりません。当事者が,次はここを目的にすると,そのために,そこに全部,財産を与えるとしているのならば,それはそれでいいのではないかという気が致します。さらに,もう1点,加えますと,国若しくは地方公共団体というのは,終了する公益信託の目的とは類似していないんですよね。それと比べるというのはすごく違和感があります。
  乙案とどちらがいいかということにつきましては,私は特に強い意見はございませんけれども,甲1案にせよ,甲2案にせよ,類似目的を要求するのはおかしい。
  もう一つ,先ほどの15ページの2のところの,これが放棄したときの話なのかという問題なんですけれども,当事者の意思でほかの目的に使うということになっていれば,そちらになるわけでしょうから,そうすると,結局は,第2の1について,どこまでの当事者の意思を考えるのかという問題なのだろうと思います。こういうふうなことになったらば,次はこうするんだよと当事者が決めていたならば,そちらの方を重んじるというのならば,それが達成できないときに限って,2のルールが発動するということは,理論的にはそれほどおかしいことではないだろうと思います。ただ,私自体としては2はなくてもいいと思いますが,論理の問題としてはそうではないかなという気が致します。
○中田部会長 最後の2はなくてもよいとおっしゃったのは。
○道垣内委員 類似目的の公益信託としての継続。
○中田部会長 ということは,乙案ということですね。
○道垣内委員 そうです。
○中田部会長 分かりました。ほかに。
○深山委員 残余財産の帰属権利者については乙案を強く支持したいと思います。甲案との違いはもちろん,私人への終了後の帰属を認めるかどうかという考え方の違いですが,これまでも折に触れて申し上げてきたように,一旦,公益目的のために拠出した財産は,もはや公益の色をとることはできないという硬直的な考え方を採る必要はないし,採るべきでもないと思います。例えば一定の目的を達成するまで,公益に拠出して目的を達成したら委託者に戻るにしろ,委託者の指定するものに帰属させるにしろ,公益目的の財産から外すような制度設計というのを頭から否定すべきではないと思います。
  正に当事者の意思でそうしたいというときに,しかし,それが全体として見て公益信託としてふさわしくないという評価が加えられて,認定が受けられないということはあり得るかもしれませんけれども,それなりに合理的な制度設計で最終的に目的達成後に私人に帰属するとしても,その間,公益に拠出して公益に資するということに社会的な価値があると評価されれば,それはそれで認められてしかるべきだと思います。そうしないと,非常に制度が利用されにくいものとして出来上がってしまうだろうという気が致します。
  もちろん,税制優遇との兼ね合いが常にここでは問題になりますが,それはそれで,それにふさわしい税制を財務省の方で考えていただければよくて,そこは税制の方で工夫すべき問題だろうと考えておりますので,そもそも論からいえば,合理的で適正妥当な信託関係者の意思というものを可能な限り尊重すべきだという観点から,乙案を支持したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 第2の1(1)について申し上げます。一つ質問を先にして,しかし,お答えいただくのを待たずに意見を申し上げたいと思います。第2の1の(1)は,公益社団法人,公益財団法人の認定等に関する法律で,この問題がどこで扱われているかといいますと,補足説明の中にもありますが,同法の5条18号だろうと思います。そうだとすると,公益認定の基準の一つになっておりますが,公益信託においても,この問題を公益認定の基準として位置付けようとされているのか,それともまた,別の仕掛けでこの問題を扱おうとされているのかは,すみません,私の発言の後に事務当局としてお考えがあったらお教えください,あるいはどこかに書いてあるのかもしれません。申し訳ありません。
  その上ですが,結論としては私は甲案でやむなしと思います。乙案については,公益法人改革が行われる前の民法上の公益法人のときに,例えば財団法人に寄附行為によって出えんされた財産を残余財産として元の人,寄附行為者ですか,に返してよいかどうかという問題がありました。それについては,私のその問題についての意見は法律が変わっていますので,意見を言っても仕方のないことですが,例えば不動産を公益目的に使ってもらって使用してもらうとします。そして,10年とか,50年とかがたった後,その不動産は寄附行為者に残余財産分配として返すということがここでの問題です。しかし,10年でも50年でもいいですけれども,その間,不動産を利用する利益というものを公益に使うという,そういうタイプの公益法人というのはあってよいと考えておりました。
  しかし,旧民法下において,古い時代のものはどうなっていたか分かりませんけれども,登記に関する行政先例に,残余財産を各社員の出資額を限度に払戻しをすることができるとの定款の定めは,公益法人の性質上妥当ではないというものがあったように思います。それが公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の5条18号に,私は具体化しているものと思います。もちろん,二枚腰というのでしょうか,まずは第2の1,乙案で考えた上で,それで税制優遇が得られるような仕組みが得られないならば,甲案に退却するというようなこともあり得るのかもしれませんが,どうも公益法人改革の公益法人三法ができるときの様子を見ていますと,この5条18号というのは,結構,重要なポイントになるのではないかなと思います。そうしますと,甲1案又は甲2案でやむなしと考えます。そのいずれかというならば,公益信託,国又は地方公共団体だけではなく,公益法人を含めることは全く構わないと思いますので,甲2案でやむなしと思います。
○中田部会長 御質問の部分についていかがでしょうか。
○中辻幹事 事務局としましては,残余財産の帰属に関する定めについては公益信託の認定基準とすることも十分あり得べしと考えておりました。
○山田委員 あり得べしですね。分かりました。
○中田部会長 ほかに。
○山本委員 すでに多くの方がおっしゃっていることなので,繰り返し申し上げる意味は余りないのかもしれませんが,意見表明だけはしておいた方がよいと思いますので,発言させていただきます。
  第2の1の(1)についてですけれども,結論からいいますと,私も乙案を強く支持したいと思います。委託者の意思うんぬん以前に,これは政策の問題だと思うのですけれども,世の中にある財産が公益目的のために使われることが望ましいとするならば,公益目的のために使われる財産が多くなれば多くなるほどよいはずです。そうすると,リジットな考え方を採るのではなく,例えば乙案のように,公益信託終了後については私人に戻るというような選択肢を与えるならば,少なくとも公益信託に提供される財産は減ることはなく,むしろ増えることになるだろうと予想されます。そうしますと,このような手段をとらない理由は理論的にはないはずであり,積極的に認めていくべきではないかと考えられます。
  もちろん,公益法人の改革のときの議論については,山田委員から御紹介のあったとおり,難しい問題があることは分かるのですけれども,公益目的の推進ということを考えるならば,見直すことができるならばその必要があるのではないかと従来から思っていました。この審議会での御意見を聞いていても,その点についてはやはり考え直す必要があるのではないかと考えられます。したがって,この第2の1については,乙案を支持したいと思います。
  その上で,公益信託の認定後に信託財産に加わった財産については,この考え方からしますと,甲1案か甲2案かという問いを立てられれば,甲2案に従って,類似の目的を有する公益法人も選択肢として認めるべきだろうと思います。
○神作幹事 第2の1について私の意見を述べさせていただきます。甲案か,乙案かというのは,私も,山本委員が言われたように政策的な問題であると思いますけれども,乙案について一つ考えておくべき視点があるのではないかと思っております。それはどのような視点かと申しますと,確かに拠出を促進するという面からいうと,乙案は多くの先生が御指摘のとおり,非常にメリットがあると思いますが,しかしながら,中長期的な視点から見たときに,そのようにして誕生した公益的な信託とか,公益的な存在を周囲がサポートするということを考えると,それこそ例えば寄附とか取引とか,いろいろな関係で支持していき公益信託や公益的な存在が成長し発展していくことを想定すると,最後は私的領域に財産が戻るんだと,あるいは少なくも財産の一部が最終的には私人に戻るとすると,そのような存在に対し,サポートが得られやすいのかという観点があると思います。公益信託の誕生を最初の時点で増やすというのはよく分かるのですけれども,公的存在の成長と発展につながるための制度設計という視点は重要で,私はそういう意味では,一旦,公にしたらば,そう簡単には私的領域には戻らないんだという制度設計は,十分,理由のある考え方であると思いますので,一言,申し上げさせていただきます。
○能見委員 1と2との関係について,1については私は個人的には乙案なものですから,余り甲1案,甲2案をそう詳しく見なかったんですが,例えば甲1案でいきますと,類似の目的というのがどこに係るのかということなんです。「類似の目的の・・・公益信託」というように公益信託のところまでなんでしょうね。国や自治体にはかからない,これは関係ないんですね。元々の公益法人の規定も大体,そうなっていると思いますが,そうなると,道垣内委員はここにある意味でシ・プレ原則が入っているので,2の方は要らないという,甲1案にせよ,甲2案にせよ,そこには委託者の意図が出ているわけだから,後の2の方の問題,シ・プレ原則の方は要らないという御意見だったと思いますけれども,そうではないのではないかと思います。例えば国だとか自治体を帰属権利者にするときに,委託者としては信託の設定の時点では,すぐに適切な帰属権利者を思い付かなかったので,取りあえず国や自治体を帰属権利者として決めているということもあると思うのですが,そういうときの委託者の意思というのはそれほど確固たるものではない。従って,信託が終了することになったときに,今の述べたような意味で定められた帰属権利者がいても,それを乗り越えるようなシプレ原則の適用はありうると思います。シプレ原則の適用では受託者が申立てをするのでしたっけね。いずれにせよ,主務官庁に申立てをして類似の目的の公益信託として存続させてもらうということは十分あり得るし,合理的だと思いますので,1で甲案を採っても2の方はシ・プレ原則を認めるということの意味はあるんだろうと思います。
  もう一歩,踏み込むと,1の甲1案において先ほど道垣内委員が言われたように,類似の目的というのをそれほど厳格にここで考える必要はなくて,もっと広い,そういう意味で,シ・プレ原則よりは広いといっていいのかどうかはっきりしませんけれども,甲1案のところでは,相当,広いものを類似の公益信託として当初から帰属権利者として指定することはあり得ると思います。こういうときは,委託者の明確な意思があるということで,2のシプレ原則に行かなくてよいのかもしれません。しかし,その場合も含めて,一般的には最初の信託設定の段階では,十分に信託終了時のことまで考えられないこともあるので,委託者としては取りあえず,こんなものを帰属権利者にして指定しておこうという程度のことが多いと思いますので,後で実際に終了する段階で委託者の意思も忖度しながら考えるとよりふさわしい財産の使い方がある,その目的のために公益信託を継続させることが可能だというときには,そちらを優先するということは十分あり得るのだろうと思います。
  それから,もう一つの観点は,仮に甲1案,甲2案のような帰属権利者を定めるという方式で類似の団体,公益信託や,甲2案の場合には公益法人も含めてですが,そういうものに財産が承継されるということはあると思うのですが,その場合には信託財産を帰属権利者に承継させますので,公益信託自体は清算するのだろうと思います。公益信託を完全に清算してから,帰属権利者に財産だけを移転するということになります。これに対して2のシ・プレ原則の方は清算をしないで,そのまま公益信託として存続させることになります。そういうことのメリットが2の方にはありますので,その点でも,2のところでシ・プレ原則を採用する甲案というものの意味があるのではないかと思います。
○吉谷委員 まず,1の(1)の帰属権利者の定めを必置とすることは賛成です。帰属権利者の範囲については甲2案に賛成します。ただ,検討の段階で類似の目的を有するという部分が必要かどうかについては,未検討であるということも申し上げておきます。乙案につきましては最も懸念しておりますのは,公益信託に対する税制の優遇措置や公益認定と税の認定の一体化の実現という観点から,懸念を持つというところであります。制度を余り複雑なものにすることは,避けるべきではないかという考えも持っておりまして,税の恩典を享受しないということを前提にできるのであれば,私益信託や目的信託を用いて残余財産受益者や帰属権利者を私人に指定する,それで,公益活動を行うということはできるわけでありまして,一部,そういう形で寄附などを行っている信託も実際にあるわけであります。
  続きまして,1の(2)の指定帰属権利者の権利の放棄のところですが,ここにつきましては乙案の国庫に帰属でよいと考えます。受託者に帰属させる理由は特にないと考えております。
  2の類似目的の公益信託としての継続につきましては,どちらかといえば甲案なんですが,これも余りニーズがあるとは考えておりませんので,むしろ,後で出てきます公益信託の変更において,信託目的の変更を認めるのであれば,それによることができると考えますので,乙案賛成ということになります。信託目的の変更を認めることができる場合につきましては,帰属権利者による権利の放棄以外の場合にまで,もう少し広げて考えてもよいのではないかと考えております。
○中田部会長 ほかに。
○長谷川幹事 先ほどと同じ意見ですけれども,残余財産の帰属のところの(1)につきましては,当事者の意思の尊重という観点から,乙案も大変魅力的ではございますけれども,現実的に考えたときに,乙案だと税制優遇が仮にとれないということであるとすると,最初から甲案でいくというのも1つの考え方かと思っております。
○藤谷関係官 1点だけ,租税の観点からの情報提供ということでお話をさせていただければと思います。発言をお許しくださり,ありがとうございます。公益信託法の私法の問題として,先ほど来,問題になっております第2の1について乙案あり得るべしというのは全くそのとおりだろうと思いますし,税法については別途考えるのであり,この場では飽くまでも信託法の問題として議論するのだ,というのも,本来,あるべき考え方の道筋であろうと私も思います。
  ただ,現在の税法が,現行の公益信託法において財産が私人に戻る可能性が必ずしも排除されないということを踏まえて,税法独自に特定公益信託という仕組みを作っているということがまず1点ございます。さらには,公益信託の財産が何らかの私人に戻るならば,戻った段階でまた別途課税関係を考えればいい,ということには,税法の観点からはならないということは,申し上げておかなければならないだろうと思います。
  今年度,例えば100万円の財産を出えんして,そこから得た利子とか何とかは全部,きちんと公益目的に使ったと。最後に残った100万円なり,50万円なりが戻ってくる,その可能性がある限りは,最初の100万円について寄附税制の適用が与えられる可能性はゼロと言っていいと思います。なぜならば,それを認めてしまうと,今年,たくさん所得があって高い累進税率が掛かるときには寄附で税金を減らしておいて,後で適用税率が低いときに公益信託から手元に財産を戻すことで,それに税金が課されたとしてもトータルで税負担を減らすことができてしまいます。ですので,寄附したら税制優遇,戻ってきたらその時に課税すればいいではないかという考え方には,残念ながらならないということは,単に情報提供として申し上げておく必要があるかと思いました。その上で,それはそれとして,私法の問題として財産帰属のあるべき姿を考えるというのは,本来の道筋だろうと思いますので,それについて私が特に申し上げるべきことはございません。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○長谷川幹事 すみません,せっかくなので教えていただきたいのですが,資料でも基本的には拠出時の税制優遇のことを念頭に書いておられて,その前提で乙案を採った場合に,例えばA,B,Cという拠出者がいて,最終的にAさんには残余財産が返ってきますといった場合,Aさんの税制優遇だけを拠出時に考えればいいということにはならないのでしょうか。要するにAさんに残余財産が返ってくるということであれば,Aさんだけ税制優遇しないということもあり得るような気もしていたのですが,そのような理解は成り立たないのでしょうか。別途,果実についてどう考えるかということはあると思いますが。
○藤谷関係官 今,おっしゃっているのは帰属権者の話だと思うんですが,例えば私が100万円の財産をAさん,Bさん,Cさんのうち,どなたかに財産を上げたとしたとしたら,私の税金は減らないんです。公益目的に行ったきりでいずれの私人にも帰属しないからこそ寄附税制が適用されるのです。私が申し上げているのは徹頭徹尾,拠出時の寄附税制がとれるかという話であって,財産が残余財産として帰属した場合に,その人が課税されるのは当然の話であります。ここで申しておりますのは,私が誰か別の人に財産をあげた場合,その人には贈与税が掛かるのは当然として,私についても寄附控除というか,税金が減ることがない,というのと同じ理屈です。最終的に誰か私人の手元に帰属してしまうようでは入口のところで寄附税制はとれませんと,確かに私の財産は減っているけれども,寄附税制はとれません,ということになります。財産が終局的に公益目的に帰属しているからこその寄附税制です,というのが現在の説明になっております。したがいまして,今,長谷川幹事がおっしゃったように,当然,財産の返還を受けたAさんが課税されるのですけれども,それに加えて,全ての人についての寄附税制がおぼつかなくなるということを申し上げたつもりでございます。
○長谷川幹事 例えば私が信託に拠出するとして,当該信託における残余財産は私に帰属することになっているとします。ほかにも信託を構成するときにB,Cさんも拠出しているのですが,このB,Cさんには残余財産は戻ってこないことになっているというような想定です。このときに,私の拠出時の税制優遇については,残余財産が戻ってきてしまうので,優遇しないこととする一方,ほかのBさん,Cさんについては残余財産が戻ってこないので,優遇してもいいのではないかというのが拠出時の問題としてはあり得るかというのが御質問です。果実の問題もあると思うので,なかなか,難しいような気もしますが。
○藤谷関係官 それに関しても,Bさん,Cさんも税制優遇はもらえないとなると思います。なぜならば,B,CがAに間接的に財産をあげているのと同じことと考えるからです。
○長谷川幹事 ありがとうございました。
○中田部会長 ほかに。
○山田委員 先ほど申し上げたことには直接関わらない,しかし,第2の1の(1)について,もう一言,申し上げたいと思います。(注1)でございます。公益信託の認定の取消しによる終了の論点において乙案を採る場合にはというので,乙案を先ほど私は私の意見として申し上げたところですが,このときは信託終了時の残余財産ではなく,公益信託認定取消時の信託財産と表現することになるものと考えられるということです。これを第2の1の(1)に当てはめた場合に,私はやむなしということではありますが,甲2案が私の意見であると申し上げましたが,信託終了時にはこのとおりでいいと思うのですが,取消時はよく理解をしていないのですが,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の5条17号が類似するルールではないかと思います。
  そうすると,少し違った規律になっておりますので,何が違うかというのはうまく説明できないのですけれども,全てか,全てではなくて一部かという違いだろうと思います。その一部かというところが第2の1の(1)でいうと,乙案に対応するのかどうかというのが今,見極めきれていないのですが,同じであれ,同じでないにせよ,取消しの場合は類似目的の公益信託,公益法人,国又は地方公共団体というのに帰属させる部分について,一定の制約を掛けるという考え方は,公益法人法の中では採られているところでありますので,それと同等のものは公益信託においても可能ではないかと思いますし,可能であればそのようにするのがよいと思います。
○中田部会長 ほかに。大体,よろしいでしょうか。
  第2については,残余財産の帰属権利者の指定に関する定めを必置とするということについてはほぼ御異論がなかったと思いますが,その後,甲案か,乙案かについて御意見が対立したと思います。その上で,類似の目的という要件の要否あるいはその内容について検討すべきだという御意見も頂戴いたしました。それから,1の(2)については国庫に帰属するという御意見が出たと思います。清算受託者に帰属するという御意見はなかったように伺いました。2の類似目的の公益信託としての継続というのは,1との関係をよく考えるべきだという前提の御指摘があったかと思います。その上で,甲案,乙案の両論の御意見があったと思います。
  それでは,時間が来ておりますので,ここで,一旦,休憩にしたいと思います。15分後の4時25分に再開いたしますので,その時間になりましたら御参集ください。

          (休     憩)

○中田部会長 それでは,再開いたします。
  部会資料37の「第3 公益信託の変更,併合及び分割」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,「第3 公益信託の変更,併合及び分割」のうち,「1 公益信託の変更命令」について御説明いたします。(1)の本文では,公益信託法第5条を廃止又は改正する。その上で,公益信託についても,信託法第150条を適用することとし,同条に基づく変更命令を権限,すなわち,信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により,信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況に照らして信託の目的の達成の支障になるに至ったときに信託の変更を命ずる権限は,甲案として「公益信託の認定・監督を行う行政庁等が有するものとする。」,乙案として「裁判所が有するものとする。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度において,公益信託を民間による公益活動の手段として積極的に位置付け,主務官庁の裁量的・包括的な許可・監督制を廃止するのであれば,信託の変更についても公益信託の信託関係人の私的自治に任せることが適切であることから,公益信託法第5条の規律は廃止又は改正するのが相当であると考えられます。その上で,公益信託についても信託法第150条の趣旨が妥当することから,同条を適用することが相当であると考えられます。そして,同条による変更命令は,変更後の公益信託が認定基準に合致していることを確認した上で行う必要がある上,公益信託の監督とも関連する権限であることから,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の権限とする考え方を甲案として提案しております。他方,信託設定の当時予見することのできなかった特別の事情の有無等の判断は,裁判所においても可能であるとして,信託法第150条と同様に,変更命令の主体を裁判所とする考え方もあり得ますので,これを乙案として提案しております。
  (2)の本文では,(1)の公益信託の変更命令の申立てを行う者は,甲案として「受託者又は信託管理人とする。」,乙案として「委託者,受託者又は信託管理人とする。」という提案をしております。
  委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだけ排除することが望ましいとの観点から,委託者を変更命令の申立権者とすべきではないと考えられ,これを甲案として提案しております。これに対し,委託者も信託財産を拠出した者として,その信託の行く末に大きな関心を持っている場合が多いことなどから,委託者についても,信託の変更命令の申立権者とすべきであるとの考え方もあり得,これを乙案として提案しております。もっとも,いずれの案もデフォルトルールとして考えておりまして,信託行為により委託者の権限の増減は認められることを想定しております。
  第3の「2 公益信託における信託の変更」について御説明いたします。本文では,「公益信託について信託の変更(信託法第149条)をするときは,原則として,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の変更の認定を受けなければならないものとし,例外的に軽微な変更の場合には,公益信託の認定・監督を行う行政庁等に対し事後の届出を行うことで足りるものとすることでどうか。」という提案をしております。
  公益信託が一旦設定された後は,その公益信託は公益のために存在するものですので,これを委託者や受託者等の合意によって自由な信託の変更を認めるべきではないと考えられる上,信託の変更内容によっては公益信託の認定基準の充足性に問題が生じる可能性があることからすると,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の認定を必要とするのが相当であると考えられます。もっとも,信託行為の軽微な変更も含めて全ての信託の変更について公益信託の認定・監督を行う行政庁等の認定を得ることとするのは,受託者等の事務手続の負担が課題となることなどから,信託の軽微な変更については公益信託の認定・監督を行う行政庁等に対する事後の届出で足りるものとすべきと考えられます。そこで,本文のような提案をしております。
  第3の「3 公益信託における信託の併合及び分割」について御説明いたします。本文では,「公益信託について信託の併合・分割をするときは,公益信託の認定・監督を行う行政庁等から併合・分割の認定を受けなければならないものとすることでどうか。」という提案をしております。
  公益信託が一旦設定された後は,その信託財産は公益のために存在するものであり,当該信託を委託者や受託者等の合意等による併合・分割を行った結果,その信託財産に変動が生じるのは不適当な場合があり得ます。また,信託の併合又は分割の内容によっては,公益信託の認定基準の充足性に問題が生じる可能性もあります。そこで,公益信託について信託の併合・分割をするときには,公益信託の認定・監督を行う行政庁等の認定を受けなければならないものとすることを提案しております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言ください。
○平川委員 まず,3の1につきましては甲案に賛成します。理由は,当該公益信託を実質,よく知る行政庁等の権限とするのが妥当であると考えます。行政庁等は認定・監督権を有しており,公益信託の変更命令を発令する権限は,かかる監督権を行政庁として妥当な行政権の行使の範囲内であると考えます。
  1の(2)につきましては甲案に賛成します。理由は,委託者の権限は極力,限定的に考えるべきであるという立場を採ります。
  2につきましては法務省には反対します。法務省案は,一旦,全ての変更を原則,行政庁の認定を必要とした上で,軽微な変更はこの例外として事後届出とするものです。しかし,公益法人の場合と同様に原則的に信託の変更は届出にとどめ,例外的に公益目的事業の変更,監督行政庁の変更を伴う活動地域の変更など,公益信託認定の根幹に関わる事項については変更認定を必要とすることとし,逆の規定の書きぶりとすべきであると考えます。例えば公益法人の場合,定款変更のときには届出によることを原則としており,認定が必要な場合としては地域の変更,公益事業目的の変更,収益事業の変更を例外として設けています。
  3につきましては基本的に賛成します。ただし,行政庁等の認定に委ねるとしても,認定ガイドライン等を設けるのだと思いますけれども,これに公益信託が私益信託に吸収合併される場合等,場合に分けて要件が検討されるべきであると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 まず,1(1)につきましては甲案に賛成いたします。変更命令は認定を行う行政庁によるというのが認定制度と整合すると考えます。裁判所による変更命令は,更に行政庁の認定基準と整合させるための仕組みが必要であって制度を複雑にします。それを上回るようなメリットが乙案にあるとは感じられませんでした。
  次に(2)ですが,これも甲案に賛成です。デフォルトルールとして甲案でよいと考えます。委託者に内部的なガバナンスの機能をデフォルトで期待するということはできないと考えます。
  次に2番ですが,これは提案に賛成です。その中で,信託の目的の変更については先ほども申し上げましたが,委託者が最初に意図したもの以外に信託目的を変更することは,容易には認められるべきではないと考えます。しかし,委託者の意図を余りに狭く解することで信託が終了してしまったり,利用されなくなったりするというよりは,若干,拡大して解釈して変更を認めるのがよいのではないかと。ただ,行政庁による変更認定の際に必要な認定審査をしていただくべきと考えます。
  最後に3番ですが,信託の併合・分割については効率化等が認められるのであれば認めてよいと考え,行政庁の関与があるということで,提案でよろしいのではないかと考えます。その上で,私益信託と目的信託が公益信託の併合・分割の対象になるのかということについては,認める必要はないと考えます。まず,公益信託の財産を私益信託や目的信託の財産とするような併合・分割につきましては,一度,公益目的のために拠出された財産を公益目的以外に用いることを許すものでありますので,先ほども申し上げたとおりの理由ですが,反対です。
  次に,私益信託,目的信託の財産を公益信託の財産にするような併合・分割ですが,これは追加信託であるとか,寄附とかいう形で代替ができるので,特段,法制化する意味合いはないと考えました。
○深山委員 変更命令について意見を申し上げたいと思います。結論として私は乙案,裁判所が有するということが妥当だと考えます。その理由は,先ほど似たような議論を終了命令のところでもしましたけれども,より分かりやすいのは変更命令であると思います。つまり,信託関係者が変更しようと皆が思っていれば変更の手続をとる。その場合に,もちろん,2の論点である行政庁等の認定等の問題は更に出てくるわけですが,いずれにしても,そちらのルートをとるのが一般的で,そうではなくて変更命令が発せられる場面というのは,内部的に意見の対立がある場合というのが一つ想定されるように思います。そういう意味で,関係者間で意見の対立があるときに,どちらが妥当かという判断をする機関として裁判所がふさわしいと考えるのは先ほどと同様であります。
  (2)の申立権者については,ここはデフォルトルールなので余り強くこだわる必要はないのかもしれませんが,考え方としては,委託者も含め関係者にそれぞれ申立てができる地位を与えた上で,最終的には,いずれにしろ裁判所が判断するということで,そういう仕組みにするのがよろしいと考えますので,ここも乙案ということでございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 1の(1)ですけれども,結論としては深山委員と同じなんですが,恐らく理屈としても信託契約という私法上の効果を伴う変更ですから,信託法の本来の原則,信託法にのっとって裁判所が私法的な効果を伴う変更命令を出すということだと思います。仮に行政庁たる認定機関にもそういう権限を与えるとしたら,それは私法上の効果を伴わない形での何か違うものとして認識するということになるのではないかと思います。どっちがいいかというよりも,私法上の効果という観点からすると,裁判所以外には考えられないのではないのかと考えます。
○棚橋幹事 まず,裁判所としてやりたくないということは全くないということは,はっきり申し上げたいところでございます。
  その上で,意見を述べさせていただくのは1の(1)の点のみですけれども,私法上の効力というお話ですとか,争いの有無ですとか,様々な考慮要素はあるかと思いますが,裁判所としては,基本的には認定基準に関わる部分については,認定機関が一番その判断に適しているのではないかという観点から,裁判所か行政庁等のどちらが判断するのがより適切かという点については行政庁等なのではないかという趣旨で意見を申し上げてきたということでございます。
  ここの1の(1)については,もちろん,これは事情変更の場合ということではあるんですけれども,変更ということと,一旦,終了又は認定取消しなりがあった上で,また,新しく作るということとの違いが若干,分からないというところもあるんですけれども,基本的にはここでは認定基準の判断が行われるということのように思いましたので,より適切なのは行政庁等ではないかという意見となります。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 第3の1の(1)でございますが,乙案で裁判所による変更命令が望ましいと思います。理由は,小野委員,深山委員がおっしゃったのと重なりますので繰り返しません。その上でですが,分からないところもあります。それは,裁判所が変更命令を信託法150条に基づいて出すとした場合に,認定基準周りの問題をどうするかということです。棚橋幹事の御発言に少し関連するかもしれませんが,認定基準周りそのものは認定・監督をする行政庁の問題であろうと思います。したがって,2のところの軽微な場合にどうする,そうでない場合にどうするというのが基本的には係ってくるのかなと思います。
  しかし,一方で,裁判所に変更命令を申し立て,変更命令が出た後ですかね,軽微でないと,今度は行政庁等に変更の認定を受けるということになるとすると,少し工夫をする余地があるのではないかなと思います。一般的に裁判所が関わる,これは非訟ですかね,信託の非訟についてできるのかどうか分かりませんが,第3の1の(1),公益信託の変更命令は裁判所が有するものとした上で,認定・監督をする行政庁等の意見を聴くみたいな仕組みを設けることによって,ワンストップでというのでしょうか,一つの手続で行うというようなことができるならば,考えたらいいのではないかなと思います。
○樋口委員 3点,申し上げますが,いずれも短く,一つは質問なんですけれども,あるいは確認なんですが,ここの19ページに例えば委託者というのが出てきます。こういう場合に,我々はまず共通理解として委託者というのは一身専属の委託者,委託者の相続人であれ,何であれなんていうと,どんどん,ネズミ算式には増えていかないと思いますけれども,そういうことを考えていなくて,単純に委託者が生きていて,その人がという,そういうことだけを想定して我々は議論しているのだろうかということを確認しておきたいと思いますが,1点目,ごく簡単なことなので。
○中田部会長 では,先にそれを。
○中辻幹事 私どもとしては,公益信託を委託した委託者本人について考えておりまして,相続人については……。
○樋口委員 亡くなってしまえばおしまいと。
○中辻幹事 はい,ということを考えておりました。
○樋口委員 分かりました。ありがとうございます。
  二つ目は,私も逃げ回ってしまうなんていう表現をしたのは非常に穏当でないと思っておるので,つまり,この国で認定制度をやるわけですよね,とにかく公益信託について。それについて,認定制度は当然のことだという話になっているわけで,認定する行政庁がいて,行政庁がいるところと,それから,裁判所というところでの役割分担がどう在るべきかというのは,なかなか,難しい課題であるということは単純な私でも認識しております。その点は補足したいと思います。
  三つ目ですけれども,変更ということなんですけれども,信託の変更というのは何なのだろうというのが,幾つかのここの説明の中では文章として出てくる部分があるので,推測ももちろんしているんですけれども,普通に例えば英語ではデビエーションとかいうような法理があって,これは私的信託の話,私益信託の話ですけれども,信託の変更で当初の信託から変更されるときに大きく分けて二つあるということです。
  一つは,信託というのは,結局,財産管理で,それを財産管理して運用して,収益を可能であれば上げて,それを今回の場合は公益目的のために配分していくということなので,初めの運用の部分と,それから,配分の部分があって,どちらも変更はあり得るわけです。もちろん,公益目的という大きな目的の中で配分先を重点化して,こちら,今年はこういうところにとかいうことが元々の文章では例えば平等にみたいな話でやっていたのが,いやいや,そうではないでしょうという配分のところだって変更はあり得るんですね。運用のやり方について今までの運用のやり方では,これでは先細りして,全部,駄目になってしまうから,何らかの形で変更しないといけないと,運用手段をというのもあると思うんですけれども,そのいずれも考えながら,こういう話なのか,そうでないのかということが必ずしも十分に分からなかったものだからということで発言しました。
○中辻幹事 三つ目も御質問と捉えましたのでお答えしますと,信託の変更の定義につきましては,部回資料37の18ページ補足説明の冒頭に書いてあるとおりです。ここでは抽象的な書き方になっておりますので,もう少し具体的にという御趣旨だと思いますけれども,既存の信託行為の定めについて改廃を加えることは信託の変更に当たると言うことができます。そうしますと,信託行為の中に先ほど樋口委員が言われた運用の方法あるいは配分の方法が定めがあるのであれば,それらの定めを変えることは両方とも信託の変更に当たることになりますし,そもそも運用の方法や配分の方法が信託行為の中に規定されていなければ,信託の変更には当たらないという整理になるものと考えます。
○中田部会長 樋口委員,よろしいでしょうか。
○樋口委員 はい。
○神作幹事 23ページの3についてでございますけれども,よろしいでしょうか。公益信託における信託の併合・分割についてでありますが,24ページの2の理由付けからすると,これは必ずしも併合・分割だけではなくて,事業の移転だとか,事業の取得のような場合にも同じ理由付けが当てはまるようにも思われます。23ページの記載は併合・分割に限定する趣旨なのか,それとも機能的に同等のものがあれば,それらについても基本的に同様の規律を適用するという前提なのか,御質問させていただければと思います。
○中辻幹事 御指摘をありがとうございます。事業の移転についてまでは考えを及ぼしておりませんでした。公益信託における事業の移転や取得について,信託の併合や分割の規律が適用されるか否か,御指摘の点も含めて,この論点を考えていこうと思います。
○新井委員 信託の併合と分割についてです。(注)がありまして,併合・分割前の信託がいずれも公益信託の場合に限らないと,公益信託,私益信託又は目的信託との併合や,公益信託から私益信託又は目的信託への吸収信託分割の場合も含めて検討する必要があると記述されています。この検討をする必要があるという意味なんですが,つまり,ここでいう併合・分割というのは,そういう多様な種類の信託との併合・分割ということを必然的に意味すると。したがって,必ず検討するという趣旨なのか,それとも,もう少し軽い意味で一応,検討しておく必要があるという趣旨なんでしょうか。私はここでの併合・分割というのは,公益信託相互に限るべきだと考えます。したがって,そういう質問をしたわけです。
  それと関連して,今の神作幹事等の発言とも関連しますが,併合・分割というのと信託の変更,この辺の差異というかが必ずしも明確ではないような気がするんです。もう少し,この辺りを少し整理してみる必要というのはないでしょうか。どちらが大きい概念かといえば,何となく信託の変更のほうが大きい概念で,併合・分割も全て,その中に含み得るような感じもするんですが,その辺り,もし何かお考えがあれば事務局の方からお答えいただきたいんですが,いかがでしょうか。
○中辻幹事 まず,1点目につきましては軽い意味で考えておりました。物事を検討する際には,できるだけ広い視野から検討すべきであるというくらいの趣旨でございます。
  また,信託の変更と,信託の併合・分割の関係を整理してみる必要があるという御指摘も頂きましたので,それも含めて,再度,事務局の方で検討させていただきます。
○中田部会長 信託法自体で,変更と併合と分割と規定を分けているということを踏まえて御提案されたのだと思いますけれども,更に神作幹事の御指摘も含めて検討を進めるということになろうかと存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 まずは,2の公益信託における信託の変更について,法務省の御提案では原則として認定を受けなければならないが,例外的に軽微な変更のときは届出で足りるという,こういう書きぶりですが,原則と例外は逆であるべきで,事後的な届出で足りるというのが原則で,変更認定を受けなければならないのを例外として捉えるべきではないかという議論が,日弁連ではありました。ただ,そうしたときにどこまでが届出で足りる軽微なもので,どこからが認定を受けるべきものなのか,もちろん,それに関わって1の変更命令の対象はどこまでかという議論にもなってくるんだろうと思います。私自身は,それらの境界線について具体的なイメージは持ち切れていないので,問題点を指摘するところまでにとどまってしまうところです。
  併合・分割に関しましては,取りあえず,御提案としては賛成なのですけれども,(注)のところというか,それはほかの論点とも絡むところで,それ次第と思っています。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  1については御意見が分かれました。2につきましては,平川委員と林幹事と恐らく共通しているのかと思いますけれども,原則と例外を逆にすべきではないかという御指摘を頂きました。それに対して,これに賛成だという委員からの御発言もございました。それから,3については公益信託相互間に限るべきだという御意見がお二方から出たかと思いますが,更に変更,併合・分割に加えて事業の移転・取得も含めて,更に検討すべきであると,こういった御意見を頂きました。
  それでは,続きまして部会資料37の「第4 公益信託と私益信託の相互転換」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,御説明いたします。
  「第4 公益信託と私益信託の相互転換」については,(前注)に記載しておりますとおり,①公益信託の認定を受ける当初から一定期間後に公益信託を私益信託に転換させることを予定している場合,②公益信託の認定を受けた段階では私益信託に転換させる意図はなかったが,その後の状況の変化により,信託の変更により公益信託を私益信託に転換させる場合,③私益信託を設定する当初から一定期間後に公益信託に転換することを予定している場合,④私益信託を設定した段階では公益信託に転換させる意図はなかったが,その後の状況の変化により,信託の変更により私益信託を公益信託に転換させる場合の大きく4類型に整理することができるかと思います。ここでは,このうち,①から③までの類型について検討するということにしております。
  それでは,第4の「1 公益先行信託の可否」について御説明いたします。本文では,「公益先行信託は許容しないものとすることでどうか。」という提案をしております。
  ここでいう公益先行信託とは,公益信託の認定申請を受ける際において,一定期間経過後に私益信託に転換することを予定しているものを対象としております。公益先行信託は,当初から公益のために供する期間が一定期間に限定されており,公益信託としての認定手続などの社会的コストを掛けるまでの必要性について疑問があることや,税制優遇を受ける観点などから,これを許容しないとの提案をしております。
  第4の「2 公益信託から受益者の定めのある信託への変更の可否」について御説明いたします。本文では,「いったん設定された公益信託について,信託の変更によって受益者の定めを設けることはできないものすることでどうか。」という提案をしております。
  公益信託の委託者は,特定の公益目的に財産を拠出するという意図で,その財産を信託する事例が大半であることに加え,公益性を理由に税制優遇を受けていた公益信託を受益者の定めを設けて私益信託にすることは,公益信託の関係者に不当な利益を与えることになり,相当ではないことなどから,一旦設定された公益信託については,信託の変更によって受益者の定めを設けることはできないものとすることを提案しております。
  第4の「3 残余公益信託の可否」について御説明いたします。本文では,「残余公益信託は許容しないものとすることでどうか。」という提案をしております。ただし,ここでいう残余公益信託は,残余公益信託の設定時において,将来公益信託に移行した場合の認定基準該当性を含めて,公益信託の認定・監督を行う行政庁等が判断することを前提としております。
  当初の私益信託の設定の段階で,例えば30年後の公益信託としての適格性や認定基準該当性の判断を新たな公益信託の認定を行う行政庁等が行うことは困難であると考えられることなどから,このような考え方を提案しております。なお,このような考え方を採用した場合であっても,私益信託を設定する際に,その信託行為において,受託者に対し一定期間後に公益信託の認定申請を行うことを義務付け,その期間経過後に受託者が公益信託の認定申請を行い,公益信託を設定することが禁止されるものではないと考えられます。
○中田部会長 ただいま御説明のありました部分について御審議いただきます。資料25ページの表のうちの④につきましては,昨年11月の部会で御審議いただきました。その際,①から③についても関連する御意見を頂いております。本日はその①から③について特に御審議を頂きたいと思います。それが第4の項目の1から3に対応しております。どこからでも結構ですので御自由に御発言をお願いいたします。
○小野委員 すみません,気になったことで私益という法律用語なんですけれども,その法律用語が本当に私の利益と理解されて,議論されているような感じがするんですが,公益的私益信託というんでしょうか,また,学説では公益信託であっても,受益者がいてもいいのではないかという考えもあり,海外ではそういうのもあるかと思います。ですから,私益だから,また,受益者がいるのはよろしくないというようなニュアンスにとられないように議論する必要があると思います。公益的私益信託もあってもしかるべきですし,前にも議論しましたように,不特定多数という公益性の要件において争いがあり得る特定の高校の学生や卒業学生に対する奨学金のように,場合によっては公益的私益信託を用いる,公益的目的信託もあり得るかもしれませんけれども,その辺の設計の自由度というのは認めてもよろしいかと思います。また,事業型の場合,事業が継続しなくなった段階で違う公益的又は準公益的私益信託のような形で継続することもあるかと思うので,そういう前提での議論でないと私益を個人的利益ととらえ,それはよろしくないという議論だと,恐らく転換は認めにくいという議論に近付いてしまうと思います。しかしながら,事業型の場合,公益的な私益信託また公益的目的信託という前提とすれば,自由度というものはよりなるべく認めてメニューを豊富にした方がよろしいのではないかという議論に近付くのではないかと思います。
○平川委員 1の公益先行信託の可否については,許容しないものとするという法務省案に賛成します。理由は,法律関係が複雑化しますし,また,税制優遇の観点から許容しないことが妥当であると考えます。
  2番の公益信託から受益者の定めのある信託への変更の可否についても,できないものとするという法務省案に賛成します。公益性を担保する根幹を揺るがすことから,受益者の定めのある信託への変更は不可と考えます。ただし,ただいま小野委員がおっしゃいましたように例外もあり得ると考えられ,例えば新受益者が公益法人等であり,その背後に不特定多数の受益者が存在して,公益性を認定できるような場合には,例外的に認められるということはあると考えます。
  3につきましても,残余公益信託は許容しないという法務省案に賛成します。理由は,私益信託の終了時点で公益信託への転換を図り,その時点で公益信託認定を取ることが法律関係を簡素化するものでありまして,私益信託の設定の当初の段階で,将来の時点で公益信託となることにつき,事前に公益認定をするということは実務的にも困難が伴いますし,これを許容する必要性も実益もないと考えます。
○中田部会長 ほかに。
○深山委員 第4の公益信託と私益信託の相互転換については,①,②,③と整理されたいずれも提案としては許容しないという提案ですが,私はいずれも許容するということを検討すべきだと思います。もちろん,いろいろなメニューを増やして使える可能性を広げるという総論的な観点もありますが,もう少し各論的に見ていったときに,税制の問題はさておいて,ここでは度外視して,仕組みとして先に公益信託を設定して,それが事後に私益信託になるという場合であれ,逆の場合であれ,最初から一定の設計がなされている①と③の場合には,全体として見て,公益信託として許容するかどうかということを判断して,それで,駄目だということもあるかもしれません。後ろに私益信託が予定されていることによって,前段の公益信託についても公益認定を認め難いという場合もあるかもしれません。しかし,そうでない場合もあるかもしれない。
  その逆もそうでして,私益信託が先行していたからといって,これが何十年後に公益信託になりますというのでは判断できないということが指摘されていますが,しかし,比較的短期間,私益信託が先行して近い将来に公益信託に移行するというような設計であれば,必ずしも当初の段階で公益認定の判断ができないとは限らないだろうと思います。ですから,そこはケース・バイ・ケースで,常に転換を認めるということではもちろんなくて,転換が認められる余地を残すというか,その可能性を制度として残した上で,あとはケース・バイ・ケースで許容できるかどうかを判断するということでよくて,最初から全て駄目ということはないだろうと思います。あえて例外的に認める場合だったら,最初から認めた上で駄目な場合もありますよという仕組みの方が素直だろうという気が致します。
  ②の事後的に変更する場合は,正に変更する時点での妥当性が判断されるのだろうと思いますが,いずれにしろ,制度としてはいろいろな可能性を残した上で,必要な要件ですとか,認定とかできちっとした規律にする必要は当然あり,そのことを当然の前提にしていますが,制度として否定する必要はないというのが私の意見であります。
○林幹事 ①と②の公益先行の方についてのみ申し上げますが,そこについて結論としては,こういうのもあってよいではないかという意味において深山委員と同じです。弁護士会の議論の中でも両論があるところですが,公益信託の促進という観点でメニューを増やすという意味において,公益先行信託の可能性も認めるべきではと思います。少なくとも今後のパブコメなりを考えたときに,両論があるという形でパブコメをやって,その上で,今後,議論を詰めればいいのではないかと思います。
  それから,一つは残余財産の帰属のところでは私自身は乙案で,一定の財産は当初の信託財産の額の限度で委託者に戻ってよいという意見なのですが,それとの対比で見たときに,ここと先ほどの残余財産の論点とは連動はしないはずですので,残余財産の論点では認めて,ここは否定するというのもあり得るので,公益から私益へという目的を残余財産を戻すというところにおいて実現するという考え方もあると思いました。また,逆に,残余財産について委託者に戻ることが認められるのだったら,こちらで認められてもいいという議論もあり得るところと思います。ですから,両論点は,連動はしていないのですけれども,それを制度としてどう組むかという問題であると考えます。
  それから,それとの関連では,①と②は,これもまた,実は連動しないと考えられて,①は認めるけれども,事後的な場合の②は否定するというのも論理的にありうるとも思います。この点は,制度としてどう組むかというところとは思いますので,指摘させていただきます。
○吉谷委員 残余財産につきまして私人に帰属させることは不適当だという意見との整合性から,①,②については反対でございます。①につきましては帰属権利者だけでなくて,私益信託に転換させるということで,更に何か,このような制度で公益信託をやろうと思う人が増えるとは余り思えないと思いました。公益認定を受ける手間が増えるだけですので,私益信託と一体,どこが違うのだろうと思いますし,公益事業をさせている受託者に,今度は私益のために何かをさせるというのは相容れないような気も致します。受託者も代えるのだろうかとか,いろいろ,考えてしまいますけれども,このような複雑な制度を導入する必要性というのは余り感じられないなと思います。もちろん,税制の問題のところは非常に大きな懸念点というところであります。
  ②につきましては税の問題に加えまして,当初の委託者の意図と全くかけ離れたものに変更するということを許容することはできないと思います。
  ③につきましては,これは信託設定時に公益認定できるかというと,認定の制度を作る上で技術的に非常に難しいのではないかなと考えました。そうすると,④も含めまして私益信託の終了時点で公益認定を受けるということになろうかと思われます。もし,そうするということでありましたら,信託の変更という方法をとる必要はなくて,そのような転換の制度を作らなくても,公益信託と私益信託という制度を組み合わせるということを実務的に工夫すれば,解決するのではないかなと思っております。
○能見委員 私の個人的な意見としては,全ての類型を認めるべきだと思いますけれども,先ほど税法の専門家から,税法の観点からはそれは駄目ですよと言われたので,余りこれ以上,議論してもしようがないところはあるのですが,ただ,先ほどどなたかが言われましたけれども,選択肢としてこういうのを提示して,パブリックコメントを募るということは,それなりに意味のあることだと思いますので,一応,原案としては残したらと思います。
  ①と②は,先ほどの残余財産の帰属権利者とある意味で共通する問題なので,そこで乙案を採って,こちらでも認めるというのが一番整合的だろうと思っております。それでもって,また,①,②に関して公益信託の期間というのが非常に短いようなものというのを当初から予定して,①ですかね,そういうのはまずいではないかということが書いてあったと思いますけれども,ここは単なる私法ルールではなくて,もうちょっと大きな政策的な考え方が問題になっていると思いますので,そういうルールとして一定期間以上,公益信託というものを行って,そういう意味で,社会に貢献しなくてはいけないというような規律にすることも考えられるかと思いました。
  それから,③は,私益信託の設定の当初から後で公益信託になることを予定しているからということで,当初の段階で公益の認定を受ける,税の優遇を受けるというのは,なかなか実際上は難しいかもしれないと思います。それに対して私としては,特にこれはという対案があるわけではありません。ただ,③は難しいにしても,ある意味ではハンブルな希望ですが,せめて④ぐらいは何とかできないかということを考えています。なんとか,私益信託を終了させないで公益信託につなげる方法はないだろうかということです。先ほども言いましたけれども,一旦,終了させて公益信託を設定することはもちろん可能なわけですが,一度終了させるというのと,そのまま継続するのでは,清算の有無などの点で大分違います。継続させるということのメリットは大きいものがありますので,そういう方法として,せめて④が認められるといいのではないかと思います。
  私益信託を公益信託につなげる方法としては,いろいろなことが考えられ,1つには私益信託で目的変更して,目的信託を介することなく,いきなり公益信託にするという方法,これが④かもしれませんが,私としては考えられるのだろうと思うわけです。もう一つ,私益信託から一度目的信託にする。その後に,公益信託に変わるということも,本当は考えられるのだと思いますが,私益信託と目的信託の関係については,現在の信託法の規律で相互の転換はできないとされておりますので,個人的にはこの規律も修正してできるようにすべきだと思います。しかし,そこはいじらいないんだとすると,私益信託からある意味で目的信託を飛び越えて,いきなり公益信託にするというのを目的変更を伴ってできるとする方法があるとよろしいのではないかと思います。
○中田部会長 ほかに。
○新井委員 1番目と2番目については,委託者が公益に財産を出えんしているわけですので,これは不可としたいと思います。そして,3番目については,税法上あるいは実務上の観点から法律関係を非常に複雑にするので,これも不可としたいと思います。それで,④の私益信託から公益信託だけ生きるわけですが,これを生かした上で,その後のことを少し検討したらどうでしょうか。というのはどういうことかというと,私益から公益へ転換というやり方はいろいろあるわけです。例えば私益の受託者は甲,公益の受託者は甲というやり方もあれば,私益の受託者が甲で公益の受託者は乙という,そういうやり方もあると思います。あるいは,同一性を保ったのにするのか,全く別の信託にするのか,継続性の問題もあると思うのです。あるいは吸収合併という,そういうようなやり方もあると思うのです。ですから,むしろ,④に限定した上でどういうことが実務的に可能なのかという辺りを詰めていくことが生産的ではないかなと思っています。
○中田部会長 ありがとうございました。④につきましては昨年11月の部会で御議論いただきまして,更に本日,能見委員,新井委員から,その方向についてもっと詰めろという御指摘を頂きましたので,部会資料34と併せて更に検討していただきますが,本日,それもさりながら,①から③について特にお願いできればと思います。
○樋口委員 私も藤谷関係官が代表している税の壁というので,何を言ってもという感じもなくはないんですが,しかし,藤谷関係官が言ったように,ここでは私法上のルールを決めているんだということです。つまり,今は私法的な法改革をやっているわけですよね。それで,現状をどうやっていい方向に変えていくかというので,一挙にはできないでしょうということではあります。しかし,後で出てくる名称のところで,つまり,公益という名称を使える,公益信託とはそのまま言えなくて公益先行信託でいいと思うんですけれども,そのままなんですから,しかし,残余公益信託とか,そういうものもある,それで,取りあえずは税制上の恩典はないかもしれない。しかし,そういうものが一つでも二つでも実際に税制上の問題ではなくて公益信託で,しかし,自分の利益も自分だけではなくて孫だか何だか分からないんですけれども,そういう人たちのことも両方を考えないといかんという,そういうようなものもあり得る,しかも,公益性もあるんだという名称もあって,そういうものが幾つか出てこないと,仕組みや何かは変わらない。
  だから,取りあえず税の壁は壁として,こういうものがあっても,本当にそういう人がどれだけ出てくるかというのを見てみようではないかという,出てきたら,しかも,藤谷関係官が危惧しているように単純に脱税だか何だかのためにうまく使うというだけの話ではない使い方をしている人がいて,そういう人には税法上の恩典だってあってもいいのではないかという話にまで進むこともあるかもしれない。私が死んでからだと思いますけれども,何であれ,何か一歩は記すというのはあってもいいかもしれない。その一歩の本当の小さな一歩として,パブリックコメントでこういうようなアイデアも,例えばアメリカなんかではあるんだよと,これは日本では受け入れられないんでしょうかというようなことを聞いてみる等があっていいではないかと感じました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  それでは,それぞれの論点について両方のお立場から御意見を頂いたかと存じます。あと,残り時間は僅かでございますが,できるところまで進めたいと思いますので,続きまして部会資料37の「第5 その他の論点」について御審議をお願いいたします。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,御説明いたします。
  「第5 その他の論点」のうち,「1 自己信託の方法(信託法第3条第3号)による公益信託の設定の可否」について御説明いたします。本文では,甲案として「自己信託の方法により公益信託をすることを可能とする。」,乙案として「自己信託の方法により公益信託をすることを可能としない。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度においては信託管理人を必置とするなど,信託管理人による監督の充実が図られる一方,委託者の監督権限は,目的信託の委託者の監督権限よりも限定される可能性があることから,信託法第258条第1項の趣旨は,公益信託については必ずしも妥当しないなどとして,自己信託の方法により公益信託をすることを可能とする考え方を甲案として提案しております。他方,公益信託の委託者があえて自らを受託者として公益信託を運営するニーズは多くないと考えられることなどから,これを否定する考え方を乙案として提案しております。
  第5の「2 公益信託の名称」について御説明いたします。本文では,「公益信託の名称に関して以下のような規律を設けることでどうか。(1)公益信託には,その名称中に公益信託という文字を用いなければならない。(2)何人も,公益信託でないものについて,その名称又は商号中に,公益信託である誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。(3)何人も,不正の目的をもって他の公益信託であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。(4)(3)に違反する名称又は商号の使用によって事業に係る利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある公益信託の受託者は,その利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度において,公益信託に対する国民の信頼の確保や税法上の優遇措置を視野に入れて検討する観点からは,その活動の透明性を確保することが重要であり,そのために公益信託の認定等の処分が公益信託に関して行われることを国民が理解できるように,公益信託の名称を付すことは有用であると言えることから,公益法人認定法及び一般法人法などを参考にして本文のような提案をしております。
  第5の「3 新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い」について御説明いたします。本文では,新法施行時に存在する既存の公益信託について,甲案として「新法の施行日から一定の期間内に新法の公益信託として認定を受けることを必要とし,その認定を受けなかった信託は上記の期間経過後に終了するものとする。」,乙案として「新法の施行日後に新法の公益信託として認定を受けることを必要とせず,その認定を受けなかった信託も存続するものとする。」という提案をしております。
  新たな公益信託制度の下で,旧法の規定の適用を受けて主務官庁の監督に属する公益信託と,新法の適用を受けて新たな公益信託の認定・監督を行う行政庁等の監督に属する公益信託が併存するのは望ましくないことなどから,甲案を提案しております。他方,新法施行時に存在する既存の公益信託は,これまで特段の支障なく運営されてきたことなどからすれば,新たな公益信託の認定を受けることを必要とせず,その認定を受けなかったものも存続するものとすべきであるとの考え方もあり得るため,これを乙案として提案しております。
○中田部会長 三つ,それぞれ別の論点でございますので,できるところまで進みたいと思います。まず,「1 自己信託の方法による公益信託の設定の可否」についていかがでしょうか。
○吉谷委員 乙案に賛成いたします。委託者が公益信託を支配しないという基本的な考え方に甲案は合っていないと思います。税制も伴わないと思われますし,委託者の会計からオフバランスされるかというところでも疑問です。自己信託ではなくて,自分の財産を使って自らの計算で公益事業をすればいいというだけでありまして,そのようなものを公益信託とするニーズがあるとは思えないです。
○新井委員 私は個人的には乙案で可能としないということでよろしいのではないかと思います。ただ,それだけだとそっけないので参考までに申し上げたいことがあります。それは台湾信託法が参考になると思います。自己信託を導入すべきかどうか,台湾でも問題になりました。それで,結論はどうなったかというと,公益法人が委託者兼受託者で公益信託を設定する場合については自己信託を許容するとしました。ですから,一般的に自己信託は認めなかったのですけれども,公益信託の設定について公益法人が関与するときには可能であるという法制を作りました。ですから,事務局の方でその辺りの経緯を調べてもらい,結論がどうであるにせよ,そういう比較法的な検討をされることは大切なことかなと思います。
○中田部会長 ほかに1についていかがでしょうか。
○深山委員 ここでも甲案を考えていきたいと思います。根本的な考え方として,いろいろなところで出てくる委託者の立場をどう理解するかという点は,関与させるべきでないという考え方と,いやいや,公益信託の創設者として関与を一定限度で認めてもいい,あるいはむしろ認めるべきであるという根本的な考え方の違いがあろうかと思います。そこは一つの対立点なんですが,少なくともニーズがないかといったら,そんなことは全然ないと思います。委託者がこういう信託を作りたいと考えた際に,自らそれを受託者として運営したいと思う人は恐らくいると思います。
  ですから,そのことをそれはよろしくないことなんだというのは価値観の問題ですけれども,ニーズがあるかないかといったら,ニーズは間違いなくあると思います。そういう意味で,それが誰から見ても,どこから見ても正しい公益的活動だという評価がなされるのであれば,それを否定する理由はないと思います。実は公益信託と称して何か私的な利益を図るとか,脱税をするとかということが見えてくれば,もちろん,それは否定するという個別の判断をするということを前提に,仕組みとしては残していいのではないかなと考えます。
○平川委員 自己信託については甲案に賛成し,自己信託の方法により公益信託をすることを可能とすることに賛成します。理由は,民間による公益活動を促進する観点から,様々な多様なメニューを用意することが望ましいこと,及び公益法人が受託者になれるということになった場合において,ただいま新井委員がおっしゃいましたように実際的なニーズもあると思われます。想定されるのは寄附者から公益法人が使途を指定された寄附金を受け入れた場合に,このような指定寄附金について寄附者が委託者,公益法人が受託者という形態のほかに,寄附金を受け入れた公益法人が委託者兼受託者となる形態が考えられます。
  このような自己信託の場合の形態のメリットとしては,寄附者から資産が分離されることが明確になるとともに,寄附者は指定寄附の意思表示のみで事務手続は終了し,その後の信託関係を成立させることに伴う事務負担や成立後の権利義務関係から離脱することができます。英米においては,募金型公益信託が多いと理解しておりますが,これらはほとんど宣言信託による設定であると認識しています。今後,募金型が増えるということを想定しますと,自己信託は是非,実現していただきたいと思います。
○小野委員 深山委員,平川委員がおっしゃったことと重複するところもありますけれども,今,ESG投資ということで,非財務的な投資を推進していこうと,また,そういうのが企業評価につながっていくという大きな流れがございます。もちろん,好調な企業がESG投資を自らやればいいのではないかという吉谷委員のおっしゃっていることは,今現在,行われていることそのものですけれども,公益信託を自己信託の形で利用し,そこで倒産隔離,ですから,企業の業績がよくなくなったとしても,倒産隔離された資産をESG投資として公益目的のために利用できることを可能にする制度が導入されれば,恐らく非常に喝采を受けることと思います。
  受託者を探していく手間ひまとか,諸々のことを考えると,自己信託は大変有効なルールと思います。自己信託型に対して,制度設計の当初から何かよからぬことをするという前提で議論すると,がんじがらめになるおそれがありますが,今はそういう議論をすべきではありません。企業がそういう社会的貢献をしたいと思ったときに,それを倒産隔離した資産として明確になるような制度を提供するという姿勢こそが,非常に意味のあることだと思います。という観点から,平川委員もおっしゃったと思いますけれども,是非,甲案を提案していただくということは,公益信託を広める意味においても非常に有用と思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  この論点につきましては,意見が分かれておりまして,ただ,平川委員と新井委員の結論はそれぞれ違いますけれども,折衷的なものを御示唆いただいたかと存じますので,それも含めて更に検討を続けるということにしたいと思います。
  あと,二つあるんですけれども,既に時間が来ておりますので,司会の不手際で申し訳ございませんが,この2点については次回に持ち越しということにさせていただきたいと存じます。
  最後に,次回の議事,日程等について事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回は,本日積み残しになりました「公益信託の名称」と「新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い」の論点を御審議いただいた後,いよいよ,第二読会に入ります。そして,「公益信託法の改正に関する補充的な検討(1)」と題しまして,公益信託の定義や,公益信託の具体的な認定基準,これはできれば一まとめにして御審議いただくのが有用ではないかと考えまして,今,一生懸命,資料を作っているところです。
  次回の日程は,2月21日(火曜日)午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は,合同庁舎6号館のB棟4階の東京地検公判部会議室です。法務省の隣の検察庁の建物の更に横,公正取引委員会などが入っている建物になりますので,御注意ください。詳細については後日,開催通知と共にお知らせいたします。
○中田部会長 ほかに御意見等は。
○深山委員 質問なんですけれども,いわゆる二読というのをどのくらい,会議の数でいって何回ぐらいとかというイメージをお持ちなのか,あるいは資料との関係もあるとは思うんですけれども,今,答えられる範囲でイメージをお伝えいただければ有り難いんですが。
○中辻幹事 私どもが考えている理想的な展開としては,次回,公益信託の認定基準までまとめて御審議いただき,3月は公益信託の監督・ガバナンスについて,これもまとめて御審議いただく,そして,4月に残りの論点を御審議いただくというイメージでおります。
○深山委員 ありがとうございます。
○中田部会長 ほかに御意見等はございますでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,本日の審議はこれで終了と致します。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会第36回会議 議事録





 
第1 日 時  平成28年12月6日(火)   自 午後1時30分
                        至 午後5時31分
 
第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室
 
第3 議 題    公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第36回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,小川委員,稲垣幹事,岡田幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席です。
  本日の部会より,三菱UFJ信託銀行から法務省に調査員として出向されています舘野豪さんが関係官として参加されることになりました。舘野調査員,簡単に自己紹介をお願いいたします。
○舘野関係官 法務省民事局調査員の舘野と申します。よろしくお願いいたします。
○中田部会長 よろしくお願いします。
  それでは,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。部会資料36,「公益信託法の見直しに関する論点の検討(5)」を事前に送付させていただきました。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 本日は,部会資料36について御審議いただく予定です。具体的には途中休憩の前までに部会資料36のうち,「第1 公益信託外部の第三者機関による監督」と「第2 受託者の辞任・解任,新受託者の選任」まで御審議いただきまして,午後3時半頃をめどに適宜,休憩を入れることを予定しています。その後,「第3 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」と「第4 公益信託における情報公開」を御審議いただきたいと思います。
  それでは,本日の審議に入ります。
  まず,「第1 公益信託外部の第三者機関による監督」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。
○立川関係官 「第1 公益信託外部の第三者機関による監督」について御説明します。
  まず,「1 公益信託の認定を行う行政庁等の権限」について御説明します。本文では,公益信託の認定を行う行政庁等は,公益信託事務の処理についての検査,勧告・命令,公益信託の認定取消しの各権限を有するものとすることでどうかという提案をしています。
  公益信託法第3条は,公益信託は主務官庁の監督に属すと規定し,公益信託の許可を行う主務官庁に包括的な監督権限を与えています。もっとも,主務官庁制を廃止して公益信託を民間による自律的な公益活動と位置付けて,これを促進しようとする観点から,公益信託の認定を行う行政庁等の外部の第三者機関が行う監督は,公益信託の認定基準への適合性を確保するために必要な範囲で行われるべきものと言えます。そこで,同様の観点から,行政庁の権限を規定しています公益法人認定法を参考にして,公益信託の認定を行う行政庁等は公益信託事務の処理についての検査,勧告・命令,公益信託の認定取消しの各権限を有するものとすることが相当であると言えることから,このような提案をしています。また,公益信託法第4条第1項は,主務官庁が公益信託の受託者に対し,財産の供託を求める命令権限を規定していますところ,新たに公益信託の認定を行う行政庁等にもこの権限を付与すべきか否かに関しても併せて御意見を頂ければと存じます。
  次に,「2 裁判所の権限」について御説明します。本文では,裁判所は,公益信託法第8条が裁判所の権限として規定している権限を有するものとすることでどうかという提案をしています。
  公益信託法第8条は,目的信託における裁判所の権限は原則として主務官庁に属するとした上で,その例外として一定の権限に関し,裁判所に属するものとしています。公益信託法第8条が裁判所の権限として規定しているものは,本質的に司法作用に適合する事項と考えられることから,新たな公益信託においてもこの規律を維持するのが相当と言え,このような提案をしています。
  次に,「3 検査役の選任に関する権限」について御説明します。本文では,検査役の選任に関する権限につき,甲案として公益信託の認定を行う行政庁等が有するものとする,乙案として裁判所が有するものとするという提案をしています。
  主務官庁制の廃止に伴い,信託法上は裁判所の権限とされているものでありながら,公益信託においては主務官庁の権限とされていたものをどのように扱うかが問題となります。別表1は信託の監督に関する権限につき,新たな公益信託において裁判所の権限とすべきか,公益信託の認定を行う行政庁等の権限とすべきかの検討結果などを整理したものです。
  ここでは,この表に記載した権限のうち,信託法第46条及び第47条が規定する検査役の選任に関する権限について,どの機関の権限として扱うかを特出しで検討しています。この点に関しまして,主務官庁制を廃止した後も公益信託の認定を行う行政庁等に公益信託事務の処理についての検査権限を付与することに伴い,その権限に付随する性格を持つ検査役の選任に関する権限については,公益信託の認定を行う行政庁等が有するとすることが相当であるとの考え方があり得るため,このような考え方を甲案として示しています。他方,検査役の選任に関する権限は,信託法上は裁判所の権限とされていますことから,主務官庁制の廃止に伴い,これを裁判所の権限とすることが相当であるとの考え方があり得るため,このような考え方を乙案として示しています。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。3点ございますので,一つずつ区切ってお願いいたします。まず,「1 公益信託の認定を行う行政庁等の権限」についていかがでしょうか。
○小野委員 一般論というか,そもそも論のところで確認したいといいますか,御議論いただきたいところがありまして発言させていただきます。司法作用という観点からの裁判所と主務官庁の権限の分配についてです。既に公益信託法8条により分配がなされていますが,その根拠として,補足説明5ページによりますと信託関係人以外の利害関係人,信託債権者等の関係については司法作用であり裁判所の権限とされ,一方においてガバナンスに関してはそうではないという立て付けになっているように読めます。しかしながら,ガバナンスという言葉そのものが必ずしも法律用語ではなくて,内部関係においても,信託関係人の関係と同様,当事者間において紛争関係がある状況というのは,個々の事例によるかと思いますけれども,あるかと思います。従いまして,利便性とか効率性からどちらがいいかという議論の前の議論として,そもそも,司法作用,裁判所法3条1項ですか,憲法まで遡るのかもしれませんけれども,裁判所の本来的な権限に属するものについて裁判所の権限であり,それがどこまでかという議論もあってしかるべきかと思います。この点についてはさほど御異論はないかと思うんですけれども,それの区別の仕方がガバナンスと信託債権者ということでは必ずしもないのではないかと感じまして,発言させていただきました。
○中田部会長 今の御発言に関連いたしまして何かございますでしょうか。
  それでは,今の点でも結構ですし,ほかの点でも結構ですが。
○林幹事 この検討事項は,抽象的である部分もあるものの,それ自体に特に反対というわけではありません。ただし,大きな制度の中で特に認定の取消しを見据えたときに,監督権限なりをどう位置付けるのかによって,後の辞任なり,解任なりでどう位置付けるのかが違ってくると思っています。そのときにどうすべきかというのはまだ私も明確に持ち切れてはいないのですが,基本的には,自律的なガバナンスがあって,軽量軽装備の公益信託というところから考えて,特に第三者機関による監督は認定と取消しを中心に据えた形での監督権限ということになるのだと思います。それから,小野委員も言われたように,一面では紛争性がある場合にどう権限を振るのかという観点があると思いますので,そういう観点から検討すべきと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 この第1点につきましては法務省案に賛成いたします。公益信託制度において主務官庁による許可制を廃し,行政庁による認定制度を取り入れるということを前提にすれば,公益信託の信託関係人による自律的監督やガバナンスの仕組みを確保した上で,認定を行った行政庁が第三者機関として公益信託事務の処理については,公益信託を監督していくことがふさわしいと考えます。そのため,当該行政庁等に検査,勧告・命令,認定取消しの権限を与えられるべきと考えます。財産の供託命令の権限についての言及がございましたけれども,公益法人制度にもない権限であり,改正された信託法の規定からも消失していることから,これらのバランスからいっても不要とであると考えますし,そこまでの強大な権限を行政庁等に与える必要性も実益もないと考えます。
  頂戴した36回信託法部会資料2ページ,第3項にも記載されておりますように,行政庁等の行う監督は飽くまで信託関係人による自律的ガバナンスを補充し,認定基準が継続して充足されているかをチェックするという補充的機能と捉える観点に賛成するものですので,受託者に対する財産の供託命令権限はかかる考え方にそぐわないと考えます。
○吉谷委員 提案の公益信託の認定を行う行政庁等の権限について,提案の権限を持つということには賛成いたします。ただ,行政庁の権限の範囲については少し議論したいと考えております。
  その前に質問を3点ほどさせていただきたいと思っておりますが,まず,公益法人認定法では事業活動の報告徴求,事業活動の状況等についての質問の権限というのが挙げられておりますけれども,今回の提案には特に記載がありません。これは検査の中にこれらの権限も含めて考えているという形での御提案なのでしょうかというのが質問の一つ目です。
  二つ目ですが,勧告・命令というのは公益法人認定法28条をモデルにしていると思われますが,認定取消事由がある場合に必要な措置をとるというために,勧告・命令をするということになっているのだと理解しました。ただ,認定取消事由の中に受託者や信託管理人に問題がある場合は,受託者や信託管理人の交代ということが考えられるわけですけれども,受託者の交代あるいは信託管理人の交代というのを勧告・命令するというようなことも,その中には入っているのでしょうか。受託者の交代という場合でいいますと,受託者に対する辞任勧告であるとか,信託管理人に対する受託者選任申立ての監督というようなことも考えられると思いました。
  そうしますと,質問の3番目なんですけれども,信託管理人という者も勧告・命令の対象になるのだろうというところが疑問に思われました。現行の公益信託法の3条は,公益信託の監督となっておりますけれども,これが受託者に対する監督と変わったとも読めますので,質問をさせていただきたいと思います。
○中田部会長 ただいま,その範囲について御議論があるとおっしゃったのが今の3点ということでございますか。
○吉谷委員 質問をお聞きした後で,続けてそこの点についてもお話ししようと思っていたんですが。
○中田部会長 分かりました。それでは,先に。
○中辻幹事 まず,御質問の1点目についてお答えします。公益法人認定法では事業活動の報告徴求,事業活動の状況等についての質問の権限が挙げられているけれども,今回の部会資料には記載がないと,これらの権限も含めて公益信託の監督を行う第三者機関の検査権限に入るのか,入らないのか,趣旨を確認したいという御質問と承りましたけれども,基本的にこれらの権限は第三者機関の検査権限の中に入る前提で御提案しております。
  2点目,勧告・命令について,認定取消事由があるような場合に必要な措置をとるために勧告・命令を行うというのは吉谷委員の御理解のとおりです。それを踏まえて受託者や信託管理人に問題がある場合に,受託者や信託管理人の交代を勧告・命令することはできるのか否かにつきましては,正にこの後,御議論していただく受託者や信託管理人の辞任・解任の論点と関連するところであって,そこで仮に第三者機関の職権行使を認めるということであるならば,この論点でいう第三者機関の権限にも入ってくるのだろうと考えます。ここは区別して考えた方が良いように思います。
  3点目,勧告・命令の対象が受託者のみなのか,それとも信託管理人も対象になるのか,公益信託法3条との関係での御質問ですが,認定・監督の対象として信託事務に着目するのか,あるいは受託者に着目するのか,いずれの立場に立つにせよ,公益信託事務の業務を遂行するのは受託者ですので,勧告・命令の対象は原則として受託者になると考えます。例外的に信託管理人が勧告・命令の対象になる可能性が全くないとまでは言えませんけれども,部会資料は勧告・命令の対象が受託者である場合をイメージして作成しております。
○吉谷委員 それで,権限の範囲について議論したいと申し上げましたのは,認定取消事由がある場合で受託者の交代で解決することが望ましいような場合に,受託者あるいは信託管理人についての職権の解任というのもあった方がいいのではないかなと,今回の提案の中には入っておりませんでしたので,それを議論させていただけたらと思ったところです。これは第1で議論すべき点であれば,続けてお話ししますし,第2,第3でということでしたら,受託者の職権のところは受託者の解任のところでお話ししたいと思います。
○中田部会長 この後,受託者と信託管理人についてそれぞれ御検討いただきますので,その際にお願いできますでしょうか。
  ほかに。
○小幡委員 今の質問の第1のところに絡むのですが,検査の権限のことですが,公益法人の方をやっていますと,今,公益法人認定法27条で報告徴求と,それから,立入検査というのが書き込まれていて,現実に3年に1回,立入検査をしているという実情がございます。今までの公益信託法にも検査というのはあるのですが,実態が分からないのでどのようにされていたかということを伺いたいのと,今度,新たに第三者機関としての取消しということに絡んで,調査をするという権限を書き込むという場合に,どこまで,例えば立入検査というのをきちんと何年に1回やっていくという,そういう作り,検査という一言だけで,その中身は詰めないということもあり得るのかもしれませんが,今の公益法人法の方では,そこは報告徴求と立入検査権と明確に書いてございますので,その辺りをどうしていくのかという質問です。
  実際に3年の立入検査というのは,結構,効いているといいますか,法人にとってみれば3年に1回,立入りが来るというのはかなりの負担でもありますし,制度をきちんと担保していくという上での必要性というのは,公益法人の方があるかと思いますが,今回,公益信託の方では,そこまで必要なのかということを今までの実態もふまえて議論しておいた方がよいのかと思いまして。
○深山委員 認定を行う行政庁等の権限について,ゴシック体で示された提案自体については賛成をしております。その上で,何人かの方からも御発言があったように,権限の具体的な行使の有様といいますか,あるいは運用の問題なのかもしれませんが,認定等を行う機関の役割をどう公益信託制度全体の中で位置付けるかというイメージを少し議論しておく必要があると思うんです。
  といいますのは,主務官庁制を廃止したということがまずスタートとしてあるわけですが,しかしながら,従前の主務官庁の役割をそっくりそのまま認定機関に求めるということを,それは必ずしも意味していないということは,余り異論はないと思います。他方で,公益法人の方の認定機関と同じような機能を期待されている面ももちろんあるんでしょうが,信託と法人の違いもあり,今の小幡委員の御発言にも関連しますけれども,公益法人における認定機関とそっくり同じ権限なり,役割を担わせるべきかどうかについては,また違うのではないかなという気がいたします。
  その違いの一つのポイントはガバナンスの構造であり,これまで議論もしてきましたように,公益信託においては,まずは内部的なガバナンスということで,信託管理人という機関を必置の機関とすることについて大方の賛同は得られていると思います。それに加えて,外部の第三者機関ということで,二重の構造にしようという方向で議論されていると思いますが,私のイメージは,言わば一次的には内部的なガバナンスに期待するものとし,更にそれをフォローするという意味で,二次的な監督機関として第三者機関は位置付けられてしかるべきではないかと考えております。
  この後,各論のところでも,同じ外部機関であってある種の監督的な機能を果たす存在としての裁判所との役割分担も問題になりますが,いずれにしろ,外部的な機関というのは制度全体から見れば,二次的なものという位置付けでいいのではないかと思います。別の言い方をしますと,公益信託が生み出される入口のところで正に認定という形で言わばお墨付きを与えるわけですが,その認定機関が,公益信託が出来上がった後,その後の事情の変更により認定した事情について何か危ぶまれるような事態が生じた場合には,認定の言わば延長線上の権限行使として,最も極端な場合には認定の取消しという強い権限も行使するし,監督命令という一つ前の段階の権限行使もあり,更に勧告・命令をするための前提として調査をするというような一連の権限を,言わば最終的な押さえとして与えておく必要があろうかと思います。繰り返しになりますが,飽くまでもそれは最終的なところでの言わば伝家の宝刀的な使われ方を期待しているものであり,そこに至る前に内部的なガバナンスにまずは期待するという制度のイメージを是非,御理解いただきたいなと私自身は考えておるところであります。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○樋口委員 基本的なことでお伺いしたいと思いますけれども,私は専門は英米法ということにしているので,そうすると,そういうバイアスが入った上での発言だと思っていただきたいんですが,どういうバイアスかというと,信託というのは公益信託を含めてですけれども,結局,英米の世界では裁判所が育ててきたものなんです。それを何らかの形で日本では国情が異なるわけですから,何でもかんでも裁判所というわけにはいかないだろう。そのときの裁判所の役割とはまさにリーガル・サービスで,例えば公益信託の受託者が今度,こういうことをやりたいけれども,これは公益信託の目的の範囲内なのだろうかということを例えば指導してもらうということだってできるんです,裁判所に。つまり,とにかく何らか困ったときには裁判所へという体制が一応整っていてずっとやってきたという国柄と,しかし,ここで,つまり,日本においてはそういう話にはならない。
  そもそも,今までの公益信託法の8条だってそうだったのだからと言われてしまうとそうなんですけれども,そこで,質問が二つです。ここに,つまり,第三者機関,行政庁等に権限が委ねられて,それは裁判所ではないんだよと,裁判所には限られた権限しかないんだよという意味なんですけれども,第1問は非常に基礎的なことで申し訳ないんだけれども,行政庁等が第三者機関であれ,何であれ,行政庁等なんですから,勧告・命令,認定取消し,これは行政処分ですから,結局のところは,勧告が処分なのかどうか,私はよく分かりませんけれども,そうすると,そもそも,行政手続法や行政不服審査法の範疇には入るんでしょうね。そうすると,行政法上の不服申立ての対象となる処分手続はあって,それは私は最終的には裁判所にいけるものではないのかと思っているんですけれども,その理解で正しいのかどうか。これが一つ。
  二つ目は,5ページ目に出てくる,2か所しかないのかもしれませんが,本質的に司法作用に適合する事項だからという表現の意味です。この本質的に司法作用というものと,本質的に司法作用でないものとはっきりどう区別しているのが実際には明確に書いていないような気がするんです,私の読み落しかもしれないんだけれども,それとも皆さんにとっては本質的に司法作用というのは自明のことなのかどうか,これが第2点で本当に教えていただければ有り難い。
○中田部会長 ありがとうございました。
  それでは,小幡委員,深山委員,樋口委員から,それぞれ,御意見,御質問がございましたので,併せてお答えいただけますでしょうか。
○中辻幹事 小幡委員から御質問がありました主務官庁による検査の現在の実態について,これまでは公益信託の受託者の範囲が基本的に信託銀行に限られていたということもあり,主務官庁による定期的な検査は行われていないと承知しております。
  次に,深山委員から御指摘いただきました点について,私どもも,公益信託の認定・監督を行う行政庁等にどこまでの権限を与えるかは,受託者の範囲,信託事務の範囲,内部のガバナンスの在り方など,公益信託制度の全体的な枠組みの中で位置付け,考えていくべき論点であるという理解でおります。
  それから,樋口委員のおっしゃったとおり,そもそも信託は英米法系の制度で,裁判所の関与が英米ではかなり強うございます。逆に,日本では,10年前の新信託法制定時に,非営業信託に関する裁判所の監督について定めた旧信託法41条1項が削除されるなど,裁判所の権限は控えめにされています。公益信託について,英米で行政庁等がどのように公益信託に関与しているかといいますと,アメリカでは州のアトニージェネラル,司法長官のような機関が公益信託の監督に関与するほか,連邦のIRS,内国歳入庁という税を所管する機関が公益信託の税制に関与し,イギリスではチャリティ・コミッションが公益活動の登録や監督に関与するという立て付けになっているということで,旧民法の公益法人と合わせるような形で主務官庁制が採られている日本とは異なった仕組みが採られています。
  このように,各国それぞれ信託が発展してきた経緯や実情には違いがあり,それに応じた制度設計をすべきことは当然ですけれども,日本の公益法人認定法は,イギリスのチャリティ・コミッションを参考にして制定されたものでありますし,海外の制度が,新たなわが国の公益信託を作っていく上でも参考になると考えていることは,以前申し上げたときと変わっておりません。
  それから,処分性の関係について,公益信託の認定の取消しは間違いなく行政処分に当たりますし,受託者に対する命令も処分性はあると考えます。受託者に対する勧告は行政指導的な面があり,平成17年の最高裁判決や,勧告後の公表が公益法人認定法に規定されていることを踏まえても,公益信託の認定の取消しや受託者に対する命令と違い直ちに処分性があると判断することはできないという感覚を持ちますけれども,勧告の後の,認定の取消しや受託者に対する命令,これらの行政処分を受託者が不服とする場合には,行政訴訟において裁判所の御判断を仰ぐことが可能であると考えます。
  もう一つ,本質的な司法作用と,それ以外との区別ですけれども,今回の部会資料では,本質的な司法作用とは,具体的な争訟性があるもの,すなわち,双方当事者が対立構造にあって,その間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否を中立的に裁判所が判断するものを想定しています。ただし,裁判所が争訟性のある事件だけしか判断しないかといえば,そうではなく,非訟事件手続法というのがあって,争訟性を前提とせずに裁判所が権限を行使することもあるわけで,一般の私益信託でも信託法262条から264条までにより裁判所が非訟事件として関与することはありますし,その前提で部会資料は作成しております。
○能見委員 現在の公益信託法3条には公益信託は主務官庁の監督に属すると書いてありますけれども,ここで言う監督は広狭二つの意味があるといいますか,いろいろな範囲を持ち得る概念であるように思います。現在の公益信託法では,3条の監督というのが基本にあり,これを受けての4条などの規定があるようで,裁判所に権限が委ねられている場合も,3条の基本原則がかぶっていて,しかし,個別的に,この権限は裁判所に与えた方がいいだろうということで例外的に裁判所の権限として規定されている方に出ているのか,その意味で主務官庁の広い監督権限という考えがあるのか。必ずしもそうではないのか,そこら辺の考え方が現在の公益信託法ではどうもはっきりしないという感じがいたします。
  私も主務官庁の権限をむやみに広げるべきではなくて,裁判所の本来,監督に服すべきものも相当あると思います。そういう考え方からすると,例えば今までの議論と少し違う観点ですけれども,今後,新しい公益信託法というのを作るときには,現行3条のような非常に包括的な権限を主務官庁ではなくて主務官庁等,第三者委員会かもしれませんが,に与えるという規定の仕方は適当ではないのではないかと思います。先ほど来議論されていますように,具体的に検査,勧告・命令,それから,認定取消しに関連する権限,これらは主務官庁等といいますか,第三者の機関等に与えるというような形で権限の範囲を限定しておいて,ここに入ってこないものについては第三者委員会に包括的な監督権限があるという考え方からではなく,個別に検討するのがよいのではないかと思います。その結果として,裁判所になる場合もあるかもしれないし,第三者委員会になるかもしれませんが,こういう形で整理していくのがいいのではないかと思いました。
○道垣内委員 主務官庁制を廃止した後の官庁の役割というのが,公益をプロモートするものだと考えられているのか,それとも,税の問題その他で公益認定をするかどうかを決めるために存在していると考えているのか。この二つのいずれと考えるかは,微妙な違いがあると思うのです。
  例えば現行の公益信託に関する法律8条に掲げられている裁判所の権限のうち,受託者がいなくなった場合に新たな受託者を選任するというのは,ある種のプロモートなのかもしれませんけれども,解任したりするというのは,このままのこの人ですと公益の認定を取り消さざるを得ないということがあって,解任するのだろうと思うんです。これに対して,4条における検査というものの性格は,今一歩よく分かりませんで,例えば,そこにおける「必要ナル処分」というものが,当該信託の定める公益目的をプロモートするためには,こういうふうにしなければ駄目ですよ,といって指図するというのが「必要ナル処分」なのか,それとも,現在行っていることをそのまま続けるのだったら,認定は取消しですねといったことをチェックするというのが,そこにいう「検査」であり,改善しなければ取消しですよ,改善しなさい,というのが「必要ナル処分」なのか,よく分からないままでいるのです。
  そして,主務官庁制を廃止するというとき,最終的な公益認定の取消しはもちろんのこと,受託者の解任などは誰かがやらなければいけないわけであって,それを行政庁がやるというのは別に構わないと思うのです。また,行政庁に検査役の選任を申し立てる,ということもありえないではありません。しかし,善管注意義務違反などがあり,目的とした公益が十分に実現されていないというときに,それを何とかよい方向に持っていこうということを,行政庁が直接行うという仕組みにするならば,それはもはや,当該行政庁が監督をすることによって公益を実現していくという仕組みであって,話の出発点に話しているような気がいたします。
  8条の問題はともかく,4条については,検査権限を認めますよといっても,その検査とは何ですかと,担保を積むということ自体は平川委員がおっしゃったように削るとしても,必要な処分とは何ですかと,何のための必要な処分ですか,ということになり,そういったことを不明確なままにして議論をすることは難しいのではないかという気がしています。
○能見委員 今,道垣内委員は私が言いたかったこととほぼ同じことを理論的におっしゃってくださったと思うのですけれども,もしかしたら私の誤解で違っているかもしれませんが,それはともかく,私も今,道垣内委員が公益をプロモートするというのですか,あるいは公益信託が日常的な信託事務遂行の状況でより適切な形で行われることをプロモートする,あるいは「監督する」権限を主務官庁等あるいは第三者機関に与えるのは適切ではないのではないかと思います。先ほど現在の3条との関係で言いましたけれども,監督する機関に与えられる権限は,公益の認定との関係で必要最小限の範囲に限られるべきで,例えば検査についても公益信託の事務遂行が公益の認定基準を害するといいますか,満たさなくなっているかもしれないような問題についての検査であり,それについてのまた必要な勧告であり,処分であると限定して考えるべきなのだろうと思います。
  それ以外の権限は,当然には第三者機関にいくものではなくて,裁判所であったり,場合によっては,やはり第三者機関の方がいいということで,そこにいくことはあるかもしれませんけれども,そういうふうに権限の範囲を少なくとも従来とは違った発想で限定する,第三者委員会などによる監督は認定の取消しに関連するものだけが原則であるというのを考え方の出発点にすべきではないか。そういうことが先ほど述べたかったことです。そういう観点からすると,先ほども言いましたけれども,現在の3条のような規定は望ましくないということになる。仮に規定を置くならば,第三者委員会などの監督機関にどういう観点からどういう権限が与えられるかというのをもっと具体的に規定すべきであると思いました。
○中田部会長 ほかに関連した御発言はございますでしょうか。
○小野委員 大きな議論とは関連しないんですが,補足説明のところで,公益信託法4条1項の財産の供託というところで,松本崇さんの信託法コンメンタールを参考として,担保提供義務と解釈しておりますが,条文上は必ずしも担保と書いてあるわけではなくて,信託財産そのものの供託ということもあり得ると思うんですけれども,新しい制度の立て付けとして,担保であれば担保供託ということを明確にする必要がありますし,もともと,信託財産そのものが危機に瀕している状況で,信託財産とは別に同価値の担保を供託するというのも実効性が考えられないと思い,論点提示として発言しました。
○道垣内委員 少し分からないのですけれども,信託財産を預かってもらう,信託財産を供託することですか。
○小野委員 要するに信託財産を手元に置いて,それと同額の担保を提供するというのは,それだけのゆとりがある受託者であればいいですけれども,恐らくそういう状況ではないと思うので,信託財産そのものということも考え方としてはあり得るのではないか。財産の分別をより明確にするということなのかもしれません。いずれにしても条文上は明確ではないというコメントでございます。
○道垣内委員 私は制度としてはあり得ないと思います。
○中田部会長 小野委員は,場合によってはこのような制度を設けた方がよいということでございましょうか。それとも,いずれにしても設けない方がよいということになるんでしょうか。
○小野委員 強い主張ではなくて,松本さんが書いた特別法コンメンタールが根拠のようですし,その辺を議論しているものというのは恐らくほとんどないのではと思われ,条文上も必ずしも明確ではないのではないかと。解釈論として道垣内委員はそういう解釈論はあり得ないということだと思うんですけれども。
○中田部会長 現行法の解釈についてはいろいろ御議論があるかもしれませんが,今度の制度において,このようなものを設けた方がよいという。
○小野委員 そういう可能性もあるかもしれません。受託者が不適切で解任する他,それ以外に信託財産を分別するという考えです。
○中田部会長 先ほど平川委員からは,その制度は要らないのではないかということがありましたが,また,小野委員の方でより具体的な御意見をお示しいただけるかもしれませんけれども。
○棚橋幹事 少し全体的な議論が出てきておりますので,今回の部会資料のうち,裁判所に関わる部分全体に対して意見を言いたいと思います。今後,個別の規律の文言や,検査権限の範囲など,全体像との関係もあるので,その点が未定という留保付きではありますけれども,公益信託は公益の実現を目的にしている点と認定を行う行政庁等が当初,認定を行うという点で信託法上のほかの類型のものとは大きく異なるように思えます。信託法を参考にできる部分ももちろんあると思いますし,違いを考慮して検討する必要ももちろんあると考えておるところでございます。
  外部の第三者機関による監督については,規律や全体像がどうなるか次第ですけれども,信託法で想定されているような監督にとどまらず,先ほど少し出てきたような公益をどうプロモートしていくかですとか,何が公益に当たるのかですとか,そういった公益性に関わるような観点についても,考慮して判断する必要が出てくる場面もあるように考えております。裁判所の作用は,規範に対して認定した事実を当てはめていくという作用ですので,そもそも規範が何であるのか分からない場合や,規範がない状態で判断することになると,そういった判断を裁判所が行うのが本当に適切なのかどうか疑問があります。むしろ,認定を行い,検査権限,認定取消権限を有する可能性がある行政庁等が判断する方が適切な場面があるのではないかと考えております。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○吉谷委員 財産供託命令につきましては,余り明確にこうでなければというところまでは,議論は私どもでは煮詰まっておりませんが,それはあってもいいかもしれないというような意見があります。監督の勧告や命令の内容というのが余り具体的にまだ分かっていないので,その内容によっては,そういうこともあっていいのではないのかと。どちらかというと,受託者の固有財産から供託をさせるような場面というのがあるのであれば,例えば信託財産に対する補てんではなくて,供託の方が有効な場面というのがあって,それが勧告などの範囲に入るのであれば,そういう制度はあってもいいのではないかと考えました。
○新井委員 先ほどの能見委員の発言について質問があります。能見委員の発言の趣旨は,第三者機関による監督は,認定取消し辺りに限定した方がいいと理解しました。その上で,例えば公益目的というのを積極的にプロモートする必要というのは,第三者機関の任務ではないと思いますけれども,プロモートまではいかないけれども,公益目的をサボタージュすると,意図的な違反ではないけれども,サボタージュするというような場合,第三者機関としては適宜,勧告などをするということはあってもいいのではないかという気がするのです。ですから,私はこの原案のとおりでいいと思いますが,その辺りの違いというのでしょうか,その辺りのところをもう少し能見委員の説明をお聞きしたいと思うのですが,いかがでしょうか。
○能見委員 余り具体的な場面というのは考えておりませんけれども,サボタージュしているというのは公益信託の受託者が全体としてグルになってというか,受託者がサボタージュしているということですか。
○新井委員 例えば年間に行うべき公益事業というのがほとんど行われていないような場合です。
○能見委員 分かりました。恐らくそういうものは本来,公益信託のガバナンスで解決すべき問題で,信託管理人がいれば,その信託管理人が行動を起こして受託者に適切な公益の信託の運営をさせるようにする,そういう意味では,基本的にはガバナンスでまず対応するということだと思います。ガバナンスが全然効かなくなってしまうと,これはどこから公益認定の問題に移行するか,難しいところはありますけれども,この信託はガバナンスも効かない,公益信託として機能しないということになれば,恐らくそれは取消しの直前の問題なのではないかと考えます。
○新井委員 分かりました。ただ,私としては信託管理人の役割はそこにもあるのでしょうけれども,ただ,第三者機関による監督の中にそういうものも含めていいのではないか,それを一切,排斥する必要はないのではないかという意見を持っておりますので,原案のとおりで賛成したいと思います。
○中田部会長 能見委員も一切,排斥するというのではなくて具体的に示すべきであって,包括的に委ねるべきではないという御意見かと承りました。
○能見委員 具体的なという意味は,特に現在の3条のような包括的な規定というのは望ましくないので,今日も議論になっていますけれども,検査,それから,勧告,処分,認定取消しに関しては,それ自体についても広狭はいろいろありますけれども,そういうものについて,監督権限を必要な範囲で規定することは構わないという意味です。その中の具体的にどういう権限が入ってくるかというのは,例えば検査の範囲について,条文としてなかなか書きにくい場合もあると思いますけれども,その場合には解釈として限定すればよいのかもしれません。いずれにせよ,公益信託における監督機関の本来の役割との関係での監督の範囲は何かということから決まってくるのだろうと思います。これは先ほど道垣内委員が言われたのと同じです。
○中田部会長 ありがとうございました。
○神田委員 私,議論を正しく理解していないかもしれませんが,1点確認していただければと思います。監督とか検査というものが,認定基準をも満たさなくなっているのかとか,あるいは認定取消しの基準ということになると思うのですけれども,そういうことが生じていないかということを見るというのは当然のことだと思うのですけれども,他方,先ほどサボっているというお話がありましたけれども,積極的に公益目的をプロモートするということがありえて,これらは両極端であると思います。私は真ん中があると思うのです。真ん中というのは,一般にコンプライアンスと呼んでいる法令違反です。
  法令違反のようなことが行われているかどうかというのは,監督の対象になると私は思っています。資料を読むとそうでもなくて,ここではより狭く認定基準あるいは取消基準の方をメインに書いておられるかなと感じました。私は真ん中の部分というのを明確にしておく必要があるように思いました。
○中田部会長 ありがとうございました。
  皆様の御意見を伺いますと,内部的なガバナンスをまず先にして,外部的なものはそれを補充的といいますか,二次的にするという,その構成についてはおおむね御異論はないように承りました。その上,外部の第三者機関の監督の在り方が現実にどこまでなのかを考えるのかということと,それから,規定をする上でどの程度,具体的に書き込むかというのと二段階があると思うんですけれども,それは現在の実態をも踏まえた上で,更に明らかにして具体的に検討する。その中には,最後に神田委員がおっしゃってくださったような真ん中の部分を含めて,どこまでを対象とするのかということをより明確にしていくべきだというように伺ったと思います。
  それから,財産供託命令については要らないという御意見と,あってもいいかもしれないという御意見,更にはより具体的なものを検討したいという御意見も頂いたと思います。この1の論点は,既に出ておりますけれども,2の「裁判所の権限」とも関係しておりますので,引き続き「裁判所の権限」についても御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。既に1についての御意見の中で,2についても相当,お出しいただいてはおりますが,更にございましたら頂きたいと思います。
○深山委員 正に1の議論と関連するわけですが,裁判所の権限を公益信託法8条に規定しているものについて認めるという提案自体に賛成いたします。更に各論的には,この後の議論で,より具体的なことが裁判所の権限として議論されると思うので,そこに譲りたいと思いますが,元々,公益信託についても信託法がベースにあるということからすれば,主務官庁制を廃止するということの意味合いからしても,本来,信託法全体が想定している裁判所に期待している役割については,基本的には公益信託においても全て妥当すると考えますので,そういう観点から,まずは総論的に裁判所の権限を積極的に認めるということについて賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私も公益信託法8条の裁判所の権限については法務省案に賛成で,これを原則どおり,司法に委ねるという考え方に賛成します。そのほかの論点についてはまた後で出てくると思いますので,そのときに随時,述べさせていただきます。
○中田部会長 ほかに。
○山本委員 質問なのですけれども,先ほど裁判所の権限として認める一つの基準として,本質的に司法作用に適合する事項ということが挙げられていました。その意味を確認するためなのですが,現在の公益信託法8条の1号に挙がっているもの,つまり公益確保のための信託終了命令等,これが今の基準と結び付いているのかどうか,何となく分からないわけではないのですけれども,どう結び付いているのかということを御説明いただけるでしょうか。それで理解が深まるのではないかと思いますので,お願いいたします。
○中辻幹事 公益信託法8条は,その各号で,これらは主務官庁制の下でも裁判所の権限として全て留保していると言えると良いのですが,8条の1号,これは非常に分かりにくい規定ぶりになっていて,信託法150条1項の規定による信託の変更を命ずる裁判については,一見,この条文だけを見ると信託法上の原則に則り裁判所の権限に留保されているようにも思えます。けれども,公益信託法8条1号は,同法5条及び6条で主務官庁が職権で信託の変更権限を行使することができると規定されていることから,職権により判断するのではなく信託関係人からの申立てに基づき判断する裁判所の権限規定である信託法150条1項が公益信託には適用されないことを示すために設けられている規定であり,1号の信託の変更を命ずる裁判については結局公益信託では主務官庁の権限となっているということになります。1号と異なり,公益信託法8条の2号から5号までについては公益信託でも裁判所の権限として留保されているわけですが,これらは各号の権限が非訟的な性格を有することを前提として裁判所の権限と整理されていると私は理解しています。
○山本委員 そうすると,現在の公益信託法8条が裁判所の権限として規定している趣旨と説明の中で述べられている趣旨とは,必ずしも一致していないということなのでしょうか。
○中田部会長 本質的に司法作用に適合する事項ということの解釈の問題だと思いますけれども,実際,先ほどおっしゃったような内容で,主としては争訟性を基準としつつ,非訟的なものも含むという御説明だったと思いますけれども。
○中辻幹事 私が本質的に司法作用と申し上げたかったのは,正に詐害行為の取消しとか,部会資料のなお書きの部分に書いてある部分で,資料が誤解を招くようなものであったかもしれません。すみません。
○山本委員 ただ,4ページの太字で書かれているのは,公益信託法8条が裁判所の権限として規定している権限を裁判所は有するものとしてはどうかという提案でしたので,全てについて説明で書かれている趣旨が当てはまるのかなと思って聞いていたということでして,それが誤解であればよく分かりました。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
○小野委員 既にきちんと出来上がった法律として,公益信託法8条が法制度上も問題ないという前提での議論と思うんですけれども,具体的に公益信託の個々の場面に当てはめていくと,信託契約の変更といっても,行政作用的な変更もあり得るかもしれませんけれども,当事者の争いのある中での変更ということもあるかと思います。今まで実際に使われなかったということもありますし,裁判になっていないということもありますけれども,また,事務局も公益信託法8条にのっとって全てを整理するとは,必ずしも言っていないかと思うので,具体的に当てはめていった段階で争訟性がある場合,争訟性というのは非訟事件であっても争訟性のあるものがあり得ると思うので,紛争性があるものについては裁判所の権限とし,一方,それと決して相対立するものではない認定機関の権限というのもあるかと思うんです。受託者の変更においては,公益信託とは関係なしに,信託法にのっとって必要な場合には裁判所がするとか,そういうような立て付けもあるかと思います。
○中田部会長 ほかに。1と2について,それぞれ,出発点として事務局案のようなものは理解できるという御意見が多かったと思いますが,しかし,より具体的に明らかにすべきであると,あるいは切り分けの基準についてもっとはっきりさせるべきであると,こういった御指摘を頂いたかと思います。どこかを出発点に置いて検討していくということにならざるを得ないわけで,その出発点として,取りあえず,今回,1と2というのが出たわけですが,更にそれを具体化し,あるいはその基準を明確にするということを検討していくのが次の課題かと理解いたしました。1と2についてほかに。
○樋口委員 現行の公益信託に関する法律にこうやって,3条であれ,4条であれ,8条であれ,こういう形で書いてあるわけだから,これから申し上げるのも今更という感じなんですけれども,まず,今日の資料の4ページ目のところに,この条文の中では五つがあるんだけれども,そのうちの第1号については,1号は本当に5条との関係でいうとどうやって理解するのか,本当に理解し難い,明らかな矛盾に満ちているような感じがしますけれども,改めて私は条文で読んだことがないから本当に驚きですけれども,ともかく,それを除いた四つをこうやって書いてありますね。そもそもの疑問は,この四つを書いていないと裁判所はできないのかということなんですよ。今日の議論なんかでも,結局,主務官庁は廃止するから行政官庁等かな,何ですか,適当な言葉は,第三者委員会のほうがいいかな,行政庁等ですか,新しい行政庁等がやれることというのを書いておくのはいいんですけれども,これは条文の形で明記しておく必要がある。
  それで,質問の形にしますけれども,行政庁等ができることをとにかく明確にする,一方で,裁判所ができることも明確にして,あらかじめ全部を書き分けるなんていうことができるとお考えなんだろうかというのが一つ。それで,かつ,しかし,行政庁等に取りあえず第一次的な何らかの権限を認めても,結局のところ,最終的には先ほど言ったような通路を通って裁判所に行くことはできるはずと思っていてよろしいんでしょうか。そうではなくて,事案によっては完全に裁判所には行かないで,これだけで終わりという話にするのかどうか,基本的には立て付けの話なんです。
○中辻幹事 御質問にお答えしますと,今の公益信託法8条の書きぶりというのは,立法技術の問題だと思うんですが,公益信託法3条が主務官庁に包括的な権限を与えるような書きぶりになっている関係で,裁判所の権限について特出しして置いておけば,あとは主務官庁の権限になりますよという整理だと思います。行政庁等の権限と裁判所の権限を截然として区別をすることが可能かどうか,また,主務官庁の権限になったら裁判所は手出しできないということになるのか否かについては,新たな公益信託における権限分配の論点に関する問題として,また考え込んでいくべき性質のことだと思いますし,今のところ,私どもは公益信託において行政庁の権限とした権限について,行政庁の権限だから裁判所は踏み込めない,その当否を判断できないということを考えているわけではありません。行政庁の処分の当否は裁判所が判断すべきであるように思います。
○中田部会長 1と2についてまだおありかもしれませんが,より具体的なテーマとして3の「検査役の選任に関する権限」がございますので,これについて御意見を頂きたいと思います。
○山田委員 2の最後について伺います。公益信託法8条の1号のことが少し話題になりましたが,ここに掲げられている信託の変更を命ずることができるのは,公益信託の認定を行う行政庁とするか,あるいは裁判所とするかという話は,また,どこかでもう一度,やるということでしょうか。
○中辻幹事 そのとおりです。信託の変更に関する論点は,次回で,併合・分割の辺りの論点とまとめて取り扱う予定にしております。
○山田委員 そうすると,2の「裁判所の権限」で公益信託法8条が裁判所の権限と規定している権限というのは,具体的に何を指すのかということですが,4ページの下から6行目から上にある①から④について,ここでは裁判所の権限としてはどうかということを諮っていると理解したらよろしいですか。
○中辻幹事 それと,先ほど山本委員からも御指摘がありましたけれども,詐害行為取消し等の権限についても事務局としては本質的な司法作用であって裁判所の権限のままでよいのではないかと考えておりました。
○山田委員 分かりました。
○中田部会長 それでは,2についてでも結構ですけれども,3の検査役の選任についてはいかがでしょうか。
○深山委員 結論として私は乙案に賛成したいと思います。これまでの議論とも関連しますけれども,元々,裁判所の権限であると,信託法上は位置付けられているものであるということが,やや形式的といえば形式的な理由です。実質的な理由としては,先ほども1のところで行政庁等の役割について議論がありましたように,私も能見委員のお考えと同じで,いわゆるプロモート的な,積極的にリードするような存在にはしない方がいいと考えておりまして,先ほど言いましたようにまずは内部的なガバナンスということもありますが,この場面でいえば,ここは裁判所が本来の職務として検査役の選任をするということで足りるし,むしろ,検査役の選任についてあえて行政庁等の権限として規定する必要はないだろうと思っています。
  ただ,1のところで検査というのが公益信託の認定機関の方にも権限の一部として出てきますので,そことの関係がやや問題にはなるんですが,ここで問題にしている検査役というのは,一般の信託でいえば信託法46条が規定しているような,受託者の行為に何か不正等が疑われるような場合を想定しているのでしょうから,46条でいうところの検査役の選任については,原則どおり,裁判所とする。もっとも,受益者はいませんので申立てをするのは信託管理人なのかなとイメージしています。信託管理人が裁判所に申立てをして,裁判所が選任するというのが一番素直な条文解釈でもあるし,実質的にもそれでいいだろうと思います。
  更に言えば,ここで裁判所の権限にしたからといって,行政庁が,認定等の維持の観点から,当初認定したときに前提にしたような事実関係が変わっているかどうかといったことを検査する権限が別に否定されるわけではないので,そこはそこで不都合もないだろうと考えているということを付け加えたいと思います。
○平川委員 私も深山委員と同説で,乙案の裁判所が検査役の選任に関する権限を有するということに賛成いたします。理由は,検査役の選任は行政庁等の信託事務の処理に関する監督権限の一環ということでは必ずしもないことから,司法の原則に戻り,裁判所が有するべきとすべきと考えます。ちなみに,一般法人法では同法46条,187条で社員総会や評議員会の招集手続に関する検査役の選任は,裁判所の権限とされているということを付言させていただきます。
○中田部会長 ほかに。
○棚橋幹事 基本的には先ほど述べたのと同趣旨ですけれども,検査役に即して申し上げますと,最終的には具体的な規律次第ですけれども,乙案で裁判所が選任するということになった場合,裁判所が,選任要件や検査役の人選を判断し,検査役から報告を受けることになると思いますし,その上で更に報告が必要かどうかを判断することになるとは思いますが信託法と仮に同じ文言の規律となった場合,信託法と同じ要素だけを考慮すればよいのか,公益信託については別の要素,つまり先ほど述べたような公益性に関わる判断が必要となるのかどうかという点は疑問に思っております。そういったことも考慮する必要があるということでしたら,認定機関ではない裁判所が行うよりも,認定や,特に検査権限を持っている行政庁等が行う方がより適切ではないか考えております。信託法には検査機関はないと思いますので,その辺りは信託法との違いがあると考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 私も乙案に賛成したいと思います。ただ,問題は請求権者を誰にするかだと思います。現行信託法では受益者となっておりますが,今度の理論構成では受益者はいないということになっているので,誰にするかが問題になります。先ほど深山委員の方から信託管理人ではどうかということでしたけれども,信託管理人も本来,検査役的な機能を持っていると思うのです。それがうまくいかないから検査役が必要ということになるわけで,そのときに信託管理人が自ら請求するというのも,どう考えていいのかなということがあると思います。そこで,私は乙案に賛成ですけれども,請求権者をどう具体的に規定するかというのが一つ課題かと思っています。
○中田部会長 もし,今の時点で具体的な御提案がおありでしたらお出しいただければと思いますが,更に検討するということにとどまりますでしょうか。
○新井委員 信託管理人に限定しなくてもいいのかなと思っています。受託者でもいいでしょうし,それから,場合によっては,委託者,受託者,信託管理人とするか,あるいは第三者機関を入れるのも一つの考えかもしれません。皆さんの御意見をお伺いできれば幸いです。
○平川委員 この後の議論ともつながるんですけれども,前回,35回で申し述べましたように,信託関係人の機関設計として運営委員会というものを必置とすべきであるという意見を述べましたけれども,その流れで,それを必置として運営委員会が検査役選任の申立権者となるのが妥当だと思います。
○中田部会長 ほかに。
○深山委員 今の新井委員の御質問というか問題提起について補足します。先ほど受益者に代わる存在として信託管理人が考えられるということを申し上げましたが,それは信託管理人に限るという趣旨ではなくて,委託者にも,認めて良いと思います。更に利害関係人にまで広げていいかどうかというのは,もう少し考えたいと思うんですが,最終的に裁判所が判断する解任の問題ともやや似たようなところがありますけれども,申立てをする必要があると感じて申立てをする人を余り絞る必要もなくて,そこは裁判所の方に判断を委ねればいいので,申立権者は少し広目に考えていいと考えております。
○新井委員 平川委員がおっしゃった運営委員会を請求権者にするという案については私も賛成です。ただ,前回の議論の流れからすると,運営委員会は設置しない,必置としないということが大勢と私は理解しましたので,あえてそれは申し上げませんでした。ですから,もし,運営委員会ということを置くとすれば,それがもちろん請求権者になってしかるべきだと思います。
○中田部会長 甲案,乙案の分布について乙案の方が多く意見がございますけれども,ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 私も結論としては乙案です。甲案については行政庁なり,第三者機関の方がよく分かっていて判断できるという考えもあるかもしれないのですが,結局,そもそも,検査権限なり,そうした権限が何かによって決まってくるはずと思います。それから,現行法においても公益信託法8条によって主務官庁の権限となっていますが,信託法46条を見ますと,後半の規定には即時抗告の手続等申立てのことが書いてあるので,これが8条によって主務官庁となったときに,どういう手続で動いていくのかというのはよく分からないところです。全てにおいて行政処分だから,行政不服審査法なりの手続に乗ればよいとの考えもあるとは思いますが,分かりにくいところです。そういう不服申立てのこと等も考えたときには,信託法46条を基本的にそのまま使い,裁判所の権限になった方が分かりやすいと思います。
  先ほども言いましたけれども,第三者機関にどの程度の権限を与えるかにも関連して,ここの検査役の意味があるのは第三者機関の権限とは違うところ,第三者機関にできないところであって,それを検査役にやらせるという発想でないといけないと思います。そうなったとき,少なくとも46条があるわけですから,その範囲のことであれば要件もある程度,明確です。特に行政庁がうまく調査や処理できない場合や,行政庁において調査に積極的でない場合もあり得るかと思いますので,そういうときのために裁判所による調査という意味においての検査役という制度があってもよいと思いました。
○神田委員 検査役が何をするかということだと思います。私が先ほど発言していただいたこととも関係するのですけれども,行政庁等がどういう権限を有するかということと関係せざるを得ないと思います。現在の信託法46条は,どういう場合に検査役の選任を裁判所がするかというと,不正の行為又は法令若しくは信託行為の定めに違反する重大な事実があることを疑うに足る事由があるときと,こうなっているわけです。それから,検査役が何をするかは読み上げませんけれども,その次に書いてあるとおりです。
  それで,検査役が調査した結果はどのように先へ進んでいくかというと,47条に書いてあって,裁判所に報告するわけですけれども,仮に不正の行為があったという報告があった場合に,その後,どうするかというと,47条の範囲でいいますとその6項と,読み上げませんけれども,公益信託の場合は行政庁等があるので仮に不正の行為があるかどうかというのは先ほどの行政庁の監督権限に含まれて,かつ,それを是正させるということもある程度と申し上げますけれども,行政庁の権限だとしますと,検査役をもし裁判所が選任して信託法46条・47条の線でいくとすると,調整というか,協力をしないと複線化されてしまうと思います。
  ですから,やや抽象的に今ある制度を出発点にすれば,裁判所が自然だとは思うものの,公益信託における行政庁等の権限というものがとりわけ私の先ほどの表現を繰り返させていただくと,真ん中部分,すなわちコンプライアンス,46条の言葉でいえば不正の行為又は法令・信託行為違反,これを是正するというか,改めていくものをどう制度設計するかということで決まってくる問題だと思いますので,その辺のバランスも考慮していただけると有り難いと思います。
○道垣内委員 神田委員がおっしゃったこととほぼ同じなので繰り返さなくてもよいのですが,先ほど裁判所が選任したら裁判所が報告を受けるのかと,それで,是正をするのかと,それは裁判所には無理なのではないかという話がありましたが,それは必然的ではないと思うんです。裁判所が選任するのだけれども,その検査結果は権限がある人に対して報告されるべきであって,そうなると,誰がどの権限を持つのか,どれだけの権限を持つのかというのと切り離して,ここは論じられないのではないか。神田委員がおっしゃったことと同じことを申し上げようと思っていました。
○小野委員 皆さんとほぼ同じことを言うことになるかもしれませんけれども,恐らく行政庁等が監督しているにもかかわらず,状況からして検査役選任が必要というのが一つの典型的な事例なのかもしれません。とすると,結論としては,甲案,乙案でいえば乙案なんですけれども,権限分配の議論としても裁判所が出ていく場面かと思いますし,場合によっては行政庁としての監督権限だけではどうしても踏み込めない第三者的な立場からの検査が必要であるということで,行政庁自体も検査役の申立権限を持つということもあると思います。
  信託管理人についても,信託管理人の守備範囲でどうしても情報が入手できないということで裁判所に申し立てて,場合によっては行政庁が問題なしとしているにもかかわらず,第三者的な目からすると受託者の行為とか内容については問題があるということで検査役の選任が必要となる,こんな紛争状況とかを考えると裁判所ということになりますし,申立権者というのは受託者に問題がある場合,信託管理人に問題がある場合又は認定機関自体の問題といいますか,そういう状況を考えると,なるべく幅広く申立権者を認めるというのがよろしいかと思います。
○吉谷委員 次の議題になってしまうんですけれども,私どもは受託者の選・解任については行政庁が関与すべきであるという立場に立っておりまして,それからしますと検査役についても行政庁ということになろうかと思いましたので,甲案賛成とさせていただきます。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
○道垣内委員 制度の作り付けとして,行政庁が最終的に解任権限を持って検査権限を持つのだったら,検査役制度は要らないですよね,行政庁が行けばいいのから。だから,全部の作りとすごく密接に関係していて,この部分は行政庁が選任しますか,裁判所が選任しますかとはなかなか決まらないと問題だろうと思います。行政庁が検査権限を持つのだったらば,検査役という制度はない方がいいと思います。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。確かに第三者機関の権限を決めないと,後が決まらないという御指摘はそのとおりなんですけれども,他方で,それを抽象的に決めるというのもなかなか難しくて,具体的な問題ごとに詰めていくという,両方から検討していただいていると思います。その上で,全体としては乙案の御支持の方が多く御発言いただきましたが,甲案の方がよいという御意見も複数頂きました。さらに検査役選任の効果との関係も考えていくべきだという御指摘があり,また,それと関連しますが,申立権者をどの範囲にするかということも御指摘いただきました。結局は第三者機関の権限ということに戻ってくるわけなんですけれども,それを更に具体的に,今日,御検討いただいたかと存じます。大体,第1についてはこの程度でよろしいでしょうか。
  それでは,第2に進みます。事務当局の方から御説明をお願いします。
○立川関係官 「第2 受託者の辞任・解任,新受託者の選任」について御説明します。
  第2の論点の検討に際しましては,受託者の辞任等に関する信託法及び公益信託法の規定を一覧にしました別表2を御参照いただければと存じます。
  それでは,1の「公益信託の受託者の辞任」について御説明します。受託者の辞任については二つの論点を提示しておりますが,まず,1点目の受託者が委託者及び信託管理人の同意を得て辞任することを可能とするか否かについて御説明します。本文では,甲案として受託者が委託者及び信託管理人の同意を得て(外部の第三者機関の許可なく)辞任することを可能とする,乙案として受託者が外部の第三者機関の許可なく辞任することを可能としないという提案をしております。
  公益信託法第7条は,公益信託の受託者はやむを得ない事由がある場合に限り,主務官庁の許可を得て辞任することができる旨を規定しており,公益信託の受託者は委託者及び信託管理人の同意を得て辞任することはできないと解されます。もっとも,新たな公益信託において公益信託内部の自律的な監督,ガバナンスを確保する観点などからは,委託者及び信託管理人の同意を得て受託者が辞任することを可能とすべきとの考え方があり得るため,このような考え方を甲案として示しています。他方,公益信託が公益の実現を目的とするものであり,受託者によって公益信託事務が継続的,安定的に運用されるようにすることが望ましいことなどから,新たな公益信託においても公益信託の受託者が委託者及び信託管理人の同意を得て辞任することを可能とすべきではないとの考え方があり得るため,このような考え方を乙案として示しています。
  2点目の公益信託の受託者が外部の第三者機関の許可を得て辞任することを可能とするか否か,また,許可を行う外部の第三者機関を公益信託の認定を行う行政庁等とするか,裁判所とするかについて御説明します。本文では,公益信託の受託者はやむを得ない事由がある場合に限り,甲案として公益信託の認定を行う行政庁等の許可を得て辞任することができるものとする,乙案として裁判所の許可を得て辞任することができるものとするとの提案をしています。
  公益信託法第7条は,公益信託事務の継続性,安定性に配慮してやむを得ない事由がある場合に限り,かつ,主務官庁の許可を得た場合に公益信託の受託者が辞任することを認めています。主務官庁制を廃止した場合,主務官庁の許可を要するとしているという点については改める必要があるものの,同条の趣旨自体は新たな公益信託においても妥当すると言え,公益信託の受託者はやむを得ない事由がある場合に限り,外部の第三者機関の許可を得た上で辞任することができるとすべきと考えられます。
  その上で,検討すべきは許可の主体となる外部の第三者機関をどのように考えるかですが,公益信託の受託者の資格要件該当性の審査を行った公益信託の認定を行う行政庁等が許可主体となることが合理的であるとの考え方があり得るため,このような考え方を甲案として示しています。他方,受託者の辞任にやむを得ない事由があるか否かは裁判所が判断することも可能であることから,裁判所を許可の主体とすべきとの考え方があり得るため,このような考え方を乙案として示しています。
  次に,「公益信託の受託者の解任」について御説明します。ここでは全部で四つの論点を提示しています。
  まず,1点目の受託者を委託者及び信託管理人の合意により解任することを可能とするか否かについて御説明します。本文では,甲案として受託者を委託者及び信託管理人の合意により(外部の第三者機関の許可なく)解任することを可能とする,乙案として受託者を外部の第三者機関の許可なく解任することを可能としないという提案をしています。
  新たな公益信託において公益信託の自律的な監督,ガバナンスを確保する観点からは,不適格な受託者を公益信託内部の信託関係人の合意により解任できるようにすべきとの考え方があり得るため,これを甲案として示しています。他方,公益信託事務が継続的,安定的に運営されるようにすべきとの観点から,公益信託内部の信託関係人の合意による公益信託の受託者の解任を認めるべきではなく,解任には公益信託外部の第三者機関の許可を要するものとすべきとの考え方があり得るため,これを乙案として示しています。
  次に,2点目の「公益信託の受託者の解任申立権」について御説明します。本文では,甲案として公益信託の信託管理人及び委託者に受託者の解任申立権を付与するものとする,乙案として公益信託の信託管理人に受託者の解任申立権を付与するものとするとの提案をしています。
  公益信託の信託管理人は,公益信託の受託者の信託事務を監督する立場にあることから,一定の事由がある場合に不適格な受託者の解任を外部の第三者機関に申し立てる主体とすべきと考えられ,この点は甲案と乙案とで異なるところはありません。他方,委託者に解任申立権を与えるか否かについては検討の余地があり,信託管理人が解任申立権を適切に行使しない場合が想定されることなどから,信託財産の拠出者であり,公益信託の運営の適正性に関心を有している委託者にも受託者の解任申立権を付与すべきとの考え方があり得るため,これを甲案として示しています。これに対して公益信託の公平な運営を確保する観点から,委託者の関与はできるだけ排除することが望ましく,委託者に受託者の解任申立権を付与すべきではないとの考え方があり得るため,これを乙案として示しています。
  次に,3点目の「公益信託の受託者の解任事由」について御説明します。本文では,公益信託の受託者の解任事由は,受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときとすることでどうかとの提案をしています。
  公益信託が公益の実現を目的とするものであり,受託者による公益信託事務が継続的,安定的に運営されることが望ましいことなどから,公益信託の受託者の解任事由は,受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときとすることが相当と考えられるため,このような提案をしています。
  最後に,4点目の「公益信託の受託者の解任権」について御説明します。本文では,受託者に解任事由があるときは,甲案として公益信託の認定を行う行政庁等が解任申立てに基づき,受託者を解任することができるものとする,乙案として裁判所が解任申立てに基づき,受託者を解任することができるものとするとの提案をしています。
  新たな公益信託において,公益信託の認定を行う行政庁等が受託者の資格要件該当性を判断し,当該行政庁等が新受託者の選任にも関与するものとした場合には,選任と表裏の関係にある解任に関しましても,行政庁等において解任事由の有無を判断するのが合理的であることなどから,公益信託の認定を行う行政庁等に受託者の解任権を付与すべきとの考え方があり得るため,これを甲案として示しています。他方,公益信託の受託者の解任事由があるか否かについては,裁判所において判断することも可能であることなどから,裁判所に受託者の解任権を付与すべきとの考え方があり得るため,これを乙案として示しています。
  次に,「公益信託の新受託者の選任」について御説明します。本文では,公益信託の認定を行う行政庁等が利害関係人の申立てに基づき,新受託者を選任することができるものとすることでどうかとの提案をしています。
  新たな公益信託において,公益信託の認定を行う行政庁等が受託者の資格要件該当性を判断するものとした上で,新受託者の選任については関与しないこととした場合,認定時の判断の意義が失われることから,公益信託の新受託者の選任についても,公益信託の認定を行う行政庁等が関与することが合理的であると言えます。また,公益信託の受託者の不在により,公益信託事務の運営が中断する状況はできるだけ回避されるべきでありますから,信託法第62条第4項の規定を参考に,広く公益信託の利害関係人に新受託者選任の申立権を付与すべきと考えられます。このようなことから本文のような提案をしています。
○中田部会長 それでは,今,説明のありました部分について御審議いただきます。辞任・解任,新受託者の選任は相互に関連しておりますけれども,幾つか論点がありますので,取りあえず,1,2,3を区切って御審議いただきたいと思います。もちろん,先ほどの議論でも出てきましたように,第三者機関の権限をどうするのかという大きな見通しが必要であるということはそのとおりなんですが,先ほどもお示しがありましたが,別表1というところにリストがありまして,その具体的なものを検討していくという中で,受託者についてどうするのかということも含まれているということになろうかと思います。そこで,受託者の辞任についていかがでしょうか。
○小野委員 すみません,また,一般的な質問といいますか,確認なんですけれども,受託者の資格要件等を当初,審査した認定機関がふさわしいという議論がよく出てきますが,以前の資料を確認していないので誤解があるかもしれませんけれども,議論のすう勢として定性的なことを資格要件としないような議論が,これまで資格要件を議論する際にあったかと思います。特に信託管理人がそうだったと記憶しています。という観点からすると,私は定性的な要件は必要という立場なので,私自身においてはずれはないんですけれども,これまでの部会での議論とずれがあるように感じます。もう一点,当初,この受託者だからこの信託については公益認定するというのが実質的な判断として下される制度の立て付けかどうかについてはいかがでしょうか。
  公益認定がどういう形で出るのかということにもよりますし,そこまで詳しく議論していなかったということかもしれませんけれども,その点について考え方の整理として教えていただければと思います。
○中辻幹事 すみません。今,小野委員がおっしゃられていた定性的ということの意味が今一つよく分からなかったので,少し補充していただければと思います。
○小野委員 信託管理人の前回の議論を覚えているんですが,能力,信用性という定性的な要件を加えるかという議論があったと思います。過去に刑罰を受けていないとか,そういう最低限の要件ではなくて。ここで議論している受託者の資格と言っているのは,恐らくそういう過去の前科うんぬんの話ではなくて,当該受託者が当該公益信託を遂行するにふさわしい受託者かどうかという観点だと思うんですけれども,そういうような基準が受託者の資格要件のところであったかという確認です。信託管理人の議論からすると,両説があったと思うんですけれども,そこでは議論のすう勢としては必ずしも多数が定性的な要件を支持する議論では余りなかったかと思うんです。すみません,間違っていたら余り時間をとらせてしまうので申し訳ないんですけれども。
○中辻幹事 いいえ,とんでもないです。分かりました。欠格事由のような形式的な消極要件と対比する意味で,受託者が公益信託事務を適正に遂行する能力とか,ある程度の財産的規模を有するという積極要件を定性的要件と表現するという前提で御質問を頂いたということで理解いたしましたけれども,私どもとしては,新たな公益信託の認定を行う行政庁等が,受託者の解任等の権限を行使する場合において,認定基準のうちの受託者の資格要件該当性も含めて判断する場合があり,その資格要件該当性には,形式的な欠格事由だけではなく,公益信託の受託者として相応しい能力を備えているという実質的要件,小野委員のお言葉を借りれば定性的な要件も含まれることも有り得べしと考えて,受託者等の辞任・解任の論点についての今回の部会資料は作成しております。
○中田部会長 また,その御議論はあろうかと思いますが,辞任に絞っていかがでしょうか。
○平川委員 先ほど少し頭出しさせていただいたんですけれども,前回,運営委員会を必置にするというのは主流から外れ,ほとんどフォローされなかった案なのかもしれないんですけれども,受託者の辞任の論点,これ以降,ずっと人事権に関するものなんですけれども,全てにおきまして丙案として運営委員会というものを必置とするという案を元に考えておりますので,その点を申し上げ,この件については丙案として信託管理人及び運営委員会の同意を得て辞任することを可能という丙案を提案します。すなわち,委託者と行政庁等を,受託者の辞任を含め信託関係人の人事に関与させるということに反対し,信託関係人による自律的ガバナンスの仕組みを確保した上で,人事については自主的に決める方法を採るべきであると考えます。行政庁に対しては受託者の辞任につき,届出を行うということにすればよいと思います。
  以下の関係箇所に共通する,以上の意見についての理由なんですけれども,今回の公益信託法改正の根本思想として,公益信託内部関係者による自律的なガバナンスを確保した上で,補完的に認定を行う行政庁等の監督に付されるような機関設計を念頭に置いてきているということは部会資料でも確認され,周知のとおりだと思います。それで,基本的な考え方として,まず,第1に主務官庁に代わる行政庁等は飽くまで補完的にガバナンスの維持を確保するための役割を担うものであり,人事に関する権限を与えるべきではないということ,また,第2に公共性の観点から,財産を拠出した利害関係人である委託者に人事を含む諸権限を極力与えないこと,以上の2原則は今回の公益信託法改正の根本思想として重要であるということを再度,強調したいと思います。この両者を両立させるために,前回の部会において運営委員会を必置機関としてガバナンスの一翼を担わせることを提言いたしましたが,今回,再度,この点を本論点に関連して申し上げます。
  およそ民間非営利組織の一つである公益信託において,官が関係者の選・解任,辞任了承など人事に一定の権限を持つような制度は絶対に構築するべきではないと考えます。また,出捐者である委託者が人事を含む支配権を保持するような制度も考えるべきではないと考えております。財団法人においては旧法人制度にはなかった評議員制度を導入した際,あえて当時の有識者会議の非営利法人法制ワーキンググループが理事会の諮問機関ではなく,意思決定機関,役員等選・解任機関として必置とした経緯も想起すべきであります。このことは平成16年9月15日,第19回有識者会議非営利法人制度の創設に関する試案その3に記載されております。
  今回の第36回信託法部会資料では,運営機関を必置機関として設計しないことを前提として,人事に関する各案を作成しているため,いずれの案についても公益法人協会として反対いたしまして,運営委員会を絡ませた案を独自案として提出するものです。運営委員会を公益信託の必置の信託関係人とすることは,これまでになかった制度ですので,又は機関設計を複雑にするなどの理由で受け入れられないとの考えが主流なのであれば,代替としては,信託管理人を複数人の機関とすることによって自律的ガバナンスを強化した上で,信託管理人の同意を得て辞任をするということを可能にする方法も採り得るかもしれません。
  しかし,機関設計をより明確にし,例えば信託管理人の選・解任の担い手が必要という意味でも,前回の部会で述べたとおり,運営委員会を信託関係人として必置機関として係る機関に人事決定権の一翼を担わせることにより,自律ある内部ガバナンスを確立する方法を提案します。結局,行政庁等と委託者を排除してしまいますと,選・解任,人事権を担うどこかの必置機関が必要になるという必然的な流れが運営委員会を必置機関とするという結論になると思います。
○中田部会長 ありがとうございました。今後,ほかの論点についても同じスタンスで臨まれるということで,今,基本的なお考えを承りました。
○深山委員 提案について,甲案か乙案かについては甲案に賛成したいと思います。乙案に賛成しない理由は,これまでも述べてきたことと共通しますが,外部の第三者機関の許可がなければ辞任ができないというのは素朴に納得感がないということもありますし,そこまでの強い権限を,先ほどの議論でいえば,積極的に公益信託の有様をリードするような役割を,外部機関に持たせるということについても反対するという観点から,乙案は採り難いと考えています。
  甲案について付言しますと,委託者と信託管理人が同意の当事者として挙がっていまして,これはもちろん遺言でなされることもあるかもしれませんが,契約でなされることを想定すれば,正に契約当事者がそろって同意していれば,その契約から外れるということを認めていいだろうという観点からもこの規律でいいだろうと考えます。もちろん,委託者がいない場合には信託管理人の同意ということになると思いますし,信託管理人が複数いれば,それぞれの各信託管理人の同意ということになるんでしょうが,要は他の契約当事者の同意を得て辞任するというのは,契約の規律として素直に理解できるところではないかと考えています。
○吉谷委員 受託者の辞任につきましては,1の(1)につきましては乙案賛成,(2)につきましては甲案賛成,ただし,検討事項を一つ御提案したいと考えております。公益信託におきましては,受託者の任務終了ということで,それで新たな受託者が選任されないまま,1年間経過することによって信託が終了となってしまうと。これを考えましたら受託者の辞任と解任は慎重であるべきで,新任と併せて行政庁が判断すべきであると考えます。そのため,辞任についても行政庁の許可が必要であると考えております。ただ,1点,検討事項として挙げさせていただきましたのは,(2)の甲案の上のところに,やむを得ない事由がある場合に限り,辞任することができるとなっておるんですけれども,これは後任に具体的な受託者候補というのがいて,それが選任されることが確実であるか,選任の認可を得たということでありましたら,別にやむを得ない事由というのがなくても交代していいのではないかと思われますので,これについては不要であると考えます。
○深山委員 先ほどの発言で(2)のことについて言及し損ねたので補足させていただきます。1の(2)のところの,やむを得ない事由がある場合に限りという点について,ここについては乙案でよろしいと思います。辞任をしたいと受託者が考えた場合,もちろん,いろいろな理由があり得るでしょうが,まずは(1)のところで委託者なり,信託管理人の同意を得て辞任するということができれば,そうするのではないかなと思います。したがって,(2)が問題になる場面というのは同意が得られない場合なのだろうなと。そういう意味では,同意が得られない場合にもいろいろな場合があるんでしょうが,何かしら委託者や信託管理人との間での見解の対立,考え方の対立がある場合に,それを適正に判断する中立的な機関として,甲案,乙案のどちらがいいかと考えると,それは裁判所がふさわしいのではないかという意味で,ここは乙案に賛成したいと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 深山委員と重なりますが,ポイントだけ簡単に申し上げますと,(1)については甲案で,要するに信託契約をベースにする場合もあるし,軽量軽装備で自律的ガバナンスをするという公益信託を考えたとき,第三者機関の関与がなくても,関係者の了解があれば辞任できるという制度を残すべきと思います。そのときに委託者の関与を認めるかということについて,それはそもそも委託者の権限についてどう考えるのか,極力,減らすという方向なのかという方向性によるところです。ここは個人的には非常に悩みもあるのですが,今のところは,公益信託について委託者も一定の関心を持っていることから,委託者による関与が何らかあってもよいという観点からは,辞任という受託者の選択場面において委託者の関与があってもよいと考えますので,甲案に賛成したいと思います。
  この論点に関しましては,甲案を採用したとき,信託行為の別段の定めを置くことも認めるかという論点が書かれています。ここも非常に個人的には悩むところですが,確かに自律的ガバナンスの観点や,契約ベースという観点からは,こういうことがあってもいいとなると思っています。
  それから,(2)につきましては辞任ということで,解任と若干ニュアンスが違うことは承知していますものの,受託者の地位がなくなるという場面であることと,要件がやむを得ない事由だということであるので,争訟性は多少低いかもしれませんが,やむを得ない事由については裁判所の判断に一応なじむのだろうと考えています。
  あとはやむを得ない事由の解釈ですが,吉谷委員も仰られたのですが,既に候補者がいる場合はやむを得ない事由を緩やかに考えてもいいのではないかと考えられることと,(1)で合意による辞任を否定すると,ここのやむを得ない事由を幾らか緩やかに解さないと,不都合が生じるのではないかと考えられる点を申し上げます。
  それから,この後の論点全般ですけれども,吉谷委員も触れられたように,受託者が1年間いないと終了するという,そういう規律があって,公益信託にもそれの適用があるのかというのがあって,当然,あるのだろうという前提で議論はしています。そこを見たときに,そういう受託者不在の状態になってはいけないから,第三者機関にコントロールさせるという考えもあれば,自律的ガバナンスによるべきであって,1年間受託者不在の状況があるかないかというのは自律的ガバナンスの範囲であるから,一定の段階で公益信託は終了する規律もあるわけで,そこに委ねるという考え方もあると思っています。そういう意味において,行政庁ではなくて自律的ガバナンスに委ね,一定の場合は裁判所の関与によってコントロールする,そういう考えでおります。
○棚橋幹事 受託者の辞任に関しての意見ですけれども,この後の受託者の解任ですとか,信託管理人の辞任,解任,新選任にも関わってくる共通の意見になりますが,基本的には,公益信託と,信託法上の信託とは違うだろうと考えています。まず,先ほど小野委員の方から受託者の認定要件のお話がありました。この点について,第32回の部会資料の16ページ,第3の受託者の範囲の部分は,認定要件の議論であるという御説明があったかと思いますけれども,この議論の際には,公益目的の信託事務を行うのに必要な経理基礎及び技術的能力を有する法人であることを要するという丙案に賛成する意見もあったかと記憶しております。こういった実質的な要件について認定を経ているという点で公益信託と信託法上の信託には違いがあります。ですので,認定機関が辞任などについて判断するのが適切であると考えております。
  また,仮に信託法と同じ文言の規律となった場合に,判断する内容が信託法と同じ内容なのかについても疑問があります。認定要件が先ほど述べたような実質的なものとなる可能性もありますが,その関係でやむを得ない事由が,信託法と同じように病気などといったことのみを意味するのか,そうではないのかという点には疑問があります。こういった点について信託法とは異なる要素,公益性などについても判断する必要があるということになるのであれば,裁判所よりは認定を行う行政庁等が判断する方が適切であると考えております。
○中田部会長 ただいまの御発言は,1の(2)については甲案がよいという御発言かと承りましたが,1の(1)についてもし御意見がございましたら。
○棚橋幹事 (1)については特段意見はございません。
○中田部会長 ほかに。
○小野委員 関連する質問なんですけれども,当初,認定のところに受託者が誰かということも特定された内容での認定となるんでしょうか。公益法人の理事の場合にはそうではないのではと思いますけれども,先ほどの回答からしても,恐らくこの受託者であるがゆえに,この公益信託は認定されるという流れなのかなと思いつつ,そうだとすると,ある特定の受託者が認定の対象であるということになれば,その受託者でなくなるということは,認定の要件自体が欠如していくような考えもあり得るのかなと。
  結論としては甲案なんですけれども,そうすると,乙案も出てきてしまうのかなと思うんですけれども,私は甲案なんですけれども,仮に乙案を支持する方もいらっしゃると思うので,甲案としたときの許可のときの要件,先ほど樋口委員も行政処分に問題があれば不服申立てはできるんですねと,行政手続法にのっとるんですねということだったと思うんですが,許可の要件というのはやむを得ない事由があることを疎明すれば,当然,許可されるということなのか,やむを得ない事由があったとしても,元々の認定上はあなただったのだから許可できませんということで終わることもあるのではないか。裁判所の許可も基準を規定していないではないかと言われてしまうと,そのとおりなんですけれども,裁判所に対する大きな信頼関係があるということで,それは一応脇に置いて,行政庁の場合,許可する,しないというのはどういう判断に基づくのか,ということも仮に乙案の場合に,疑問に思ったりしたので,その辺りについても教えていただければと思います。
○中辻幹事 1の(1)の乙案ということでお答えしますと,ここは1の(2)のやむを得ない事由がある場合に限りということとセットで考えております。このやむを得ない事由について,一般の信託では,受託者が天災とか病気によって,その職責を果たせなくなった場合ということであると解釈されていて,そのような事由があるか否かについて認定行政庁等の方で御判断いただくということを考えておりました。先ほど吉谷委員のお話に出てきた新たな後任の受託者候補が見付かっているような場合については,やむを得ない事由というのを柔軟に解釈して,その考慮要素の一つになる可能性はあるように思う一方,後任の受託者の存在は,天災や病気との事由とは質的に異なりますので,考慮要素とすべきではないという考え方もあり得るように思います。
○吉谷委員 私も1点,言い忘れておりましたので,受託者が後任を見付けて交代したいということで行政庁に対して辞任の申出をするときには,信託管理人の同意は不要なのではないかと考えております。逆にそうあるべきだと思います。受託者が誰かというのは,公益信託において重要な要件でありますので,行政庁が関与して判断して,その上で辞任と選任とセットで認めるべきであると思うのですけれども,その際に信託管理人の同意がなければならないということはないのではないかと思います。
○中田部会長 今は1の(1)の乙案を採ることを前提のお話ですね。その乙案においては,必ずしも信託管理人の同意が前提になっているかどうかは明示していないと思うんですけれども,今のお話は仮に信託管理人の同意,プラス,許可が必要だという場合にということでございますね。
○吉谷委員 そうです。
○中田部会長 そこは多分,同意がなくても許可があればという考え方もあり得るのだろうと思います。
○新井委員 先ほど平川委員から運営委員会の導入について改めて提案があって,そして,受託者の辞任について運営委員会を媒介項にするというような動議が提出されまして,私もそれをセコンドしたいと思います。その上で,もし,それが大勢にならなければ乙案を支持したいと思います。丙案というのは委託者がかむことによって,いろいろな問題が生じてくると思います。公益信託というのは委託者が公益のために財産を出捐して,委託者の支配権が及びませんという制度ではないかと考えるわけです。委託者というのは公益信託の関係者の中で非常に大きな権限を持って,事実上の影響力を行使できるわけです。ですから,そのアンデューインフルエンスということを考えると甲案には大きな懸念があります。したがって,乙案を支持しますが,これは予備的主張です。それから,(2)の方はやはり乙案,裁判所の許可を得て辞任することができるということを支持したいと思います。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○山本委員 特に(2)を判断する前提として,先ほどから「やむを得ない事由」を要件とするかどうか,するとして,その内容がどのような考慮によって決まってくるのかという問題があることが指摘されていました。この点を詰めないまま,答えを出すのは難しいのではないかと思うのですけれども,どのような理解を前提にして考えていけばよいかということを確認させていただきたいのですが,その点はいかがでしょうか。先ほど中辻幹事からは,一般に言われているやむを得ない事由,特に病気その他の遂行を困難にする事由があるということがどうしても要件になってくるのではないかという御意見でしたけれども,本当にそうなのか,そうでないのかという点は,結局,どう考えればよいのかという質問です。問題提起というべきかもしれませんが。
○中田部会長 恐らく現行法の7条にやむを得ない事由というのが出てきて,それを前提としたときにどうなるのかという一つの案だと思います。その上で,やむを得ない事由という概念を明確にする,あるいはこの概念を使わないということを含めて御意見を頂ければと考えております。
○山本委員 先ほどからの議論の中で私が理解したところによりますと,(1)で乙案を採用するならば,(2)は柔軟に解する必要がどうしても出てくる。そのときに,やむを得ない事由を柔軟に解釈する,とりわけ,公益信託の維持という観点から果たしてやむを得ない事由かどうかということを考えるということが出てきやすい。そうすると,本当に「やむを得ない事由」という文言で縛るのがよいのかどうかということが,吉谷委員からも問題提起があったところではないかと思います。その点を整理しないと,(1)で乙案を採用し,(2)を考えるというのはうまく機能しないのではないかと思います。
  それに対して,(1)で甲案を採用するのであれば,そこは必然的ではなくなると思いますが,委託者を入れるかどうかは別として,信託管理人の同意が得られる場合は問題なく辞任することができる。しかし,同意が得られない場合は,やむを得ない事由があるときには(2)で許可を得て辞任することができるという流れになるのではないか。それらによって,やむを得ない事由を要件とするかどうか,するとしても,その意味をどう考えるかということがかなり大きく違ってくるのではないかという印象で,決めかねるところがあるというのが先ほどの問題提起の趣旨でした。
○中田部会長 もちろん,議論の整理をする必要がありますし,今のような御整理でよろしいと思うんですけれども,それを前提として,もし,御意見があればお出しいただければと思いますけれども。
○山本委員 意見としては,(1)においては甲案を採用すべきではないかと考えます。そうしますと,先ほどのように,やむを得ない事由を柔軟に解する必要があるかどうかという点については,少し簡単に考える可能性が出てきます。しかし,それでも,つまり,(1)で甲案を採用するとしても,(2)でなおやむを得ない事由を要件とすべきかという点は,なお,問題が残るだろうと思います。公益信託であり,その維持をはかるという観点に照らしてやむを得ないかどうか,ないしは辞任を適当とすることができるかどうかいうような判断がどうして行われていくのではないかと思います。そのときに,やむを得ない事由という文言を使うことが本当によいのかどうかは,疑問が残るように思いました。ただ,答えは簡単に出ない問題だろうとも思いました。
○中田部会長 ありがとうございました。答えを何とか取りまとめていく必要がありますので,いろいろ,御意見を頂ければと思います。
  ほかに。大体,よろしいでしょうか。
  本来,休憩を予定していた時間に来ておりますけれども,途中ですので続けさせていただきたいと思います。次に解任についていかがでしょうか。

  

  平川委員,先ほど運営委員会についての一般論は伺っていますので,それを前提とした。
○平川委員 具体的に当てはめますと,解任につきましても信託管理人及び運営委員会の合意により解任することを可能とするというのが(1),(2)につきましては,これが解任権者の合意が得られない場合を想定しているというのであれば,信託管理人及び運営委員会に受託者の解任申立権を付与するという提案になります。委託者に先ほどの辞任の同意権とか,解任申立権を与えるということは,信託財産を出捐して信託に移転して,その支配権を放棄するということになると思うので,税法上も器に対して支配があるということで問題なのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 先ほどの辞任の流れからいきますと,解任に関する2の(1)は甲案でして,委託者及び信託管理人の合意により解任を許すという意見です。自律的ガバナンスの観点からです。それから,委託者の関与も先ほどと同じで,一定,認めるという観点から,解任についても委託者の関与も認める意見になります。(2)の解任申立権においても,委託者の関与を一定,認めるということで甲案と考えています。(3)の解任事由につきましては,取りあえず,この提案には賛成です。最後の(4)の解任権というか,解任する主体,これについては先ほどと同じで辞任よりも解任の方がなお争訟性が強いと思いますので,裁判所の関与を認めるべきと考えます。その判断の対象となる事由を何と捉えるかという問題もここでも出てくるのかもしれませんが,任務違反であったりとか,信託財産に一時損害を与えたというような事情があることは,裁判所でも十分判断いただけることだと考えます。
○深山委員 結論は私も同じなんですが,やや補足的に申し上げますと,(1)のところについては甲案に賛成で,乙案のような形で第三者機関がこの場で主導的な解任権限を持つというのは妥当でない,言い方を変えれば,まずは内部的なガバナンスが正に発揮される場面ですし,信託管理人が監督権限を行使する後ろ盾として解任権を信託管理人に与えるということに意味があるのだろうと思います。ここはある意味,新しい公益信託制度の中心的な役割といいますか,重要な役割を信託管理人に与えるということを支える実質的な仕組みとして,解任権を与えるということに意味があるのだろうと思います。
  (2)のところについては,申立権については,ここは問題提起をするべき人は広目でいいと,先ほども検査役のところでも申し上げましたが,そのような観点から甲案に賛成したいと思います。これは(3)の解任事由がある場合に解任が認められるということでしょうから,そういう意味では,(4)のところで乙案に賛成して,最終的には裁判所がしかるべき解任事由の有無を判断するという仕組みを前提に,申立権は広目に認めるということを支持したいと思います。
  解任事由については,表現としてはこのような表現になるのかなと思いますが,典型的な例示として「任務に違反して信託財産に著しい損害を与えた場合」というのを挙げて,あとは「その他重要な事由」と,いきなり,ものすごく抽象的になってしまうのがやや気になっています。包括条項にするにしても,例えばですけれども,就任を認め難い重要な事由とか,もう少し何か言葉を補足してもいいような気がいたしますが,いずれにしても趣旨には賛同いたします。(4)は先ほど言いましたように,正にここは裁判所が判断すべき問題だろうと思いますので,乙案を支持したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 まず,(1)につきましては乙案に賛成です。理由は先ほど述べましたところと同じということになります。そして,(2)なんですけれども,信託管理人の解任申立権につきましては,制限をするべきではないと考えておりますが,委託者の申立権につきましては信託行為により付与可能という形がいいのではないのではないかと思います。そうしますと乙案で,ただし,委託者の申立権は信託行為により付与可能ということで,乙案の説明とは違う形になりますけれども。委託者の中には関与を望まれない方もいらっしゃいますので,それをあえてデフォルトで付けることはないのではないかと考えております。第35回の第4の論点で甲案として出されたものに賛成ということでございます。
  (3)の解任事由につきましては趣旨に賛成でございます。そして,(4)につきましては甲案に賛成で,更に職権による解任権を認めるべきであると考えます。元々,行政庁の職権として認定取消しがあるとしても,受託者が交代すれば認定取消しを行わなくてもよい場合にまで認定取消しということをしてしまうのは本末転倒であると思います。ですので,認定取消しよりもより手前の柔軟な対応として,職権による解任というものを認めることが適切であると思います。受託者に問題があって,解任によってしか問題が解決しないような場合があるときに,信託管理人が受託者の解任を申し立てなければ,行政庁が職権で解任するよりほかに方法がないと考えますので,公益信託が適正に運用されるためには,伝家の宝刀として行政庁による解任というものがあってしかるべきなのではないかと考えます。
○棚橋幹事 意見があるのは(4)の点のみですが,先ほどと同様に,認定要件として実質的なものを採用するということになりますと,認定機関ではない裁判所よりも行政庁の方が適切ではないかと考えます。また,解任事由のその他重要な事由というところにどういったものが入ってくるのか疑問があり,ここに何が公益なのかというような要素が入ってくるのだとすれば,認定を行う行政庁等の方が適切ではあると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。先ほど(1)と(2)についてはお伺いしました。
○平川委員 (3)(4)を申し上げていないので申し上げますと,(3)につきましては法務省案に賛成いたします。受託者に責めに帰すべき事由がないような場合にでも,信託関係人が任意に受託者を解任することができるとすると,公益信託事務の継続性,安定性を確保するのに支障があると考えるからです。(4)につきましては乙案に賛成します。さきに述べましたとおり,行政庁の権限は特に人事権については主務官庁制度によったときよりも減縮することが望ましく,受託者の解任に行政庁等が関与することが必須でもないことから,受託者に解任事由があるかどうかについては司法の手に委ね,裁判所が判断することが公平妥当な結論であると考えます。
○能見委員 解任のところの全体の仕組みを柔軟に理解したいという立場から,少しその導入論的な話をしたいと思います。ここで問題となる解任というのは大きく分けると,(1)のところの任意の解任というんでしょうか,それから,(2)(3)(4)はセットになった,これは解任事由がある場合の解任と,そう分けて考えるべきなのだろうと思います。(1)のところは委任なんかでいうと,任意の解約権と言われているものに相当するわけですが,信託の場合にも委託者は受託者との信頼関係を基礎にしてその受託者に信託財産を頼んでいるので,その信頼関係が損なわれたというような場合には,別に解任事由がなくても自由に解任できると,そういう解任なのだろうと思います。
  そこで,(1)の結論としては甲案でいいと思っているんですが,普通の私益信託の場合には確かに委託者ないし受益者ですけれども,その者と受託者の間の信頼関係がなくなれば自由に解約できるという形を設けていいのだと思います。けれども,公益信託になると,本当にそこまで自由でいいのか,委託者と信託管理人の合意によって解約するなら,解任事由なく自由に解任できるというのでいいのかというのは気になるところであります。ただ,考え方としては,本来は解任事由があって解任されるべきですけれども,解任事由にきちんと相当するような事由があるわけではない,しかし,どうも不適切だ,そういう場合にも,(1)のところでは解任できるとしているという理解するのがいいのではないかという考え方を致しました。
  (2)(3)(4)の方は,これも皆さんが言われているとおりですけれども,ここでは解任事由があることを最終的には裁判所等に判断してもらって解任することになると思いますので,申立権者自体は,そういう意味では広くとらえて信託管理人のほかに委託者も含めて構わないだろうということで甲案がよいのかと思います。解任事由について定める(3)はこのとおりでよいと思います。そして,申し立てを受けてどこで解任事由の有無を判断するかについての(4)では,私の考えでは裁判所が判断するということでよいと思いますので,乙案ということになります。受託者の解任の仕組みについてはそういう立て付けになっているという理解の下で選択肢を選べばよい。私の意見は,先ほど申し上げましたが,(1)については甲,(4)については乙ということです。こういう理解でよいのかと思いました。
○中田部会長 ありがとうございました。(1)と(2)以下との理解について,今の能見委員の御理解でよろしいんでしょうか。
○能見委員 違うのかもしれませんが,私としてはそう理解すべきではないかと思ったのですが。
○中田部会長 一応,事務局の方から。
○中辻幹事 能見委員の御理解と私どもが今回の部会資料を作っていたときとの認識とにはそごがあるように感じておりまして,すみません。私どもとしては,部会資料第2の2(1)と,(2)から(4)までの論点,これを任意解任と強制解任のような形で分けて論じているわけではなくて,(3)の解任事由は任意解任のときにも当てはまるものであり,任意解任でも(3)のような限定的な解任事由とすることが新たな公益信託では適切なのではないかと考えておりました。ただし,能見委員の御指摘のように,信託法58条1項では受益者及び委託者の信頼が失われれば,いつでも,また事由を問わず受託者を解任できることになっていますので,(1)の任意解任の場合に解任事由を限定しないという考え方もあり得るとは思います。もっとも,能見委員も,いつでも,どのような事由でも信託関係人の合意で解任できるようにすべきであるとはおっしゃっておらず,(3)の限定的な解任事由を合意による解任の場合には多少膨らみを持たせるべきという御意見を頂いたものと理解しましたが,違いますでしょうか。
○能見委員 先ほど述べましたように,私も解任事由を全く不要とする任意の自由な解約権というのは,公益信託の場合には,私益信託と同じように全面的に認められるのは適当ではないかもしれないという疑念もありますので,少し,そこは制限しなくてはいけないのだろうという認識をもっていました。しかし,解任事由を(1)と(2)以下で同じに解すべきだというのではなく,(1)と(2)以下は別なものとして理解した方がいいという趣旨で申し上げました。部会資料を丁寧に読まないで,その趣旨を誤解した点は申し訳ありません。この資料を作られたときの趣旨は,(1)の場合にも解任事由としては(3)がそのまま当てはまるということなのですか。
○中辻幹事 部会資料を作ったときにはそのようなことで考えておりました。ただ,別の考え方があり得るとは思います。
○中田部会長 一応,事務局の方の資料を作ったときのお考えは以上のようなことでして,そうすると。
○能見委員 ごめんなさい,そうすると(1)の(2)の関係ですけれども,(2)のところは解約の申立権ということで,最終的には解任事由があって,最後の(4)のところで甲案と乙案で違いますけれども,事由があるかどうかを判断して解任が認められると,そういう構造ですね。(2)以外に積極的に(1)が意味を持つのは,ごめんなさい,どういう場合になるんですか。
○中辻幹事 (1),(2)に続いて(3),(4)とありますけれども,(3)の解任事由があると信託管理人や委託者が判断した場合に,それらの者が受託者解任の申立てを(4)の認定行政庁又は裁判所に対して行い,その申立てに基づいて,認定行政庁又は裁判所が(3)の解任事由の有無を客観的に判断して一定の結論を出すということになります。
○能見委員 ただ,裁判所が自ら動くわけではなくて,申立権者がいて申立権者の申立てがあって裁判所なり,行政機関が解任事由があるかどうか判断して,それで解任を認める。
○中辻幹事 そのとおりです。解任の申立てに当たっては,例えば信託管理人と委託者の合意があって申し立てる場合もあるでしょうし,そうではなく,信託管理人あるいは委託者が単独で解任を申し立てるということもあり得ると考えています。例えば,(2)公益信託の受託者の解任申立権の論点においては,信託管理人及び委託者のどちらにも受託者の解任申立権があるとするのが甲案で,委託者をそこから外して信託管理人だけに受託者の解任申立権があるとするのが乙案なのですが,この論点で乙案を採る場合に,信託管理人が委託者の同意を得て受託者の解任を申し立てることができないかといったら,そのようなことはないという理解で資料は作成しております。
○能見委員 例えば(1)の甲案というのは,委託者及び信託管理人の合意によって解任することを可能とするというのは,合意によって申立てをするということですか。
○中辻幹事 (1)の甲案は,別に行政庁又は裁判所への申立てをすることを前提にしているわけではなくて,委託者及び信託管理人の合意によって,認定行政庁又は裁判所の関与なく受託者を解任することを可能とするというのが(1)の甲案の趣旨です。
○能見委員 それだけの違い。
○中辻幹事 そうです。
○能見委員 解任事由はどっちにもかかると,同じ解任事由が。
○中辻幹事 私どもはそう考えて資料を作成しておりました。
○能見委員 ごめんなさい。私としては少し誤解していたのかもしれませんが,元々の信託法の作りというのが一種の任意に解約できるという解約権と,それから,裁判所が解約するタイプというのがあって,それに相応するものがここで二つ設けられているのかと思ったんですけれども,それと違うんですね,発想が。
○中辻幹事 そもそもの信託法の構造として,信託法58条1項の委託者と受益者の合意による受託者の解任があり,それとは別に信託法58条4項では受託者が任務違反をして信託財産に著しい損害を与えたときのような限定した場合に委託者又は受益者の申立てを受けた裁判所による受託者の解任が認められることになっています。そのような仕組みをそのまま公益信託に持ち込めば,信託関係人の合意による受託者の解任は,解任事由がいかなるものであるかを問わず,また,時期を問わず,信託関係人の合意により受託者を解任することができることになろうかと思いますけれども,税制優遇も視野に入れた上で,公益信託の継続性・安定性を大事にしようとする観点からは,信託法58条の規律をそのまま公益信託に持ってくるのは疑問であり,信託法上の原則とは異なる仕組みにすべきではないかというのがこの部会資料の発想です。
○能見委員 もう一回,確認です。解任事由は同じなんですか,違うんですか。
○中辻幹事 解任事由は同じです。
○中田部会長 少し資料が分かりにくくて申し訳ありませんでした。最終的は職権による解任はないということが前提になっております。能見委員,取りあえず,よろしいでしょうか。
○能見委員 (1)と(2)というのが両方あるということの意味がどうなのかなというのが気にはなりますけれども,(1)の方でいけば解任事由が必要だけれども,裁判所まではいかなくていい。そういうことですね。
○中辻幹事 はい,そういうことです。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○能見委員 取りあえずは原案というのは分かりましたけれども,二つがうまく整合的に理解できるのかなというので,留保といいますか。
○中田部会長 合意のみで解任できるのか,合意,プラス,許可が必要なのか,合意なく許可だけでいいのかという,そういうように整理して,その上で解任事由はどれも同じだという理由で,最終的に職権解任はなし。この辺りだと思います。少し混乱してしまって申し訳ありませんでしたが,以上のような整理で,それでは,お待ちいただきましたが,道垣内委員。
○道垣内委員 待っているうちに大変なことになってしまいまして,非常に困惑しているのですが,私が言おうとしたのは,棚橋幹事の意見についてです。(3)のところの任務違反というのは,公益の許可基準とは関係ないだから,裁判所がやるべき話であって,行政庁がやるべき話ではないでしょう,ということだったのです。ところが,能見委員と事務局との会話の中で明らかになったのが原案の意味だと仮定しますと,私が分からなかったのは,委託者とか信託管理人が合意をして申し立てる場合もありますよねと中辻幹事がおっしゃったことです。つまり,合意したのであれば,申立てをしないで,合意に基づいて解任すればよいではないかという気がするのですね。そのとき,あえて申立てを認めるというのは,その申立ては,自分たちの合意はきちんとした解任事由に基づくものだということを裁判所に認めてもらうという手続になるわけですが,果たして解任の効果はいつ発生するのだろうか,とか,いろいろな悩みが発生してきて,合意して申し立てるというのがよく分からなくなってしまいました。実は,私も,合意のときには別に解任事由がなくてもよいということになっていると思っており,しかし,能見委員や中辻幹事と同じように,それは本当は問題ではないですかということも言おうとしたのですが,その前提が崩れてしまいました。もう少し考えたいと思います。
○林幹事 それにも関わりますが,私の理解を申し上げたいのですが,結局,(1)のところにも(3)の解任事由が適用されるのだと理解をしています。(3)の中には,いつでも任意に解任できるというような制度は設けない,要するに不利な時期の解任について損害賠償請求というような制度を設けないというポリシーの下に提案が書かれていると思いましたので,その点からすると(1)の方にも(3)の解任事由の適用があるのだと理解しました。そのときに(1)がどうなるかというと,結局,合意して,解任事由があって解任だといえば実体的に解任の効果がそのときに生じるという制度だと理解しています。
  それから,吉谷委員が仰られた職権による解任については,私もこの案には職権の解任はないものだと理解して,それについては賛成です。ただ,委託者,信託管理人が解任すべきときに解任しない場合,そういうワークしない場合があるかもしれないとも思われて,解任申立権者を広く認めるというのも一つの考えではないかとも思いました。その際,債権者というのも考えましたが,自律的ガバナンスという発想から債権者は外してあると思いましたので,そこは賛成です。ただ,私の,後の論点で裁判所に対して解任申立てをするという立場からすると,第三者機関に申立権を与えるというのも選択肢としてはあるかもしれないと思いました。
  それから,先ほども申し上げたのですが,解任権について行政庁がというときには,結局,行政不服審査法の問題なのか,不服申立ての手続についてきちんと検討しないといけないことだと思っていますので,申し上げます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○長谷川幹事 前段の1のところにも絡むのですが,2の解任のところの(1)の例えば乙案を支持される御意見の中で,後任の選任とセットでなければならないという御議論があり,関連して,信託の継続性という御議論があったかと思います。しかし,後任の選任とセットだからといって,必ずしも乙案というわけでもないような気がしています。例えば,会社法の規定のように,後任が選任されるまでは現任の人がそのまま継続して権利義務を負うといった立て付けもあり得るという気がしておりまして,価値観としてできるだけ行政等の第三者機関の関与を少なくし,信託の継続性も併せて考えていくという中で,そういう制度も考えられないのかなという気がいたしましたので,一言,申し上げます。
○中田部会長 ほかに。
○新井委員 まず,(1)から(4)の全体的な理解は,私がこれを読ませていただいて事務局の考えている理論構成と同じように理解しました。それで,平川委員の提案のあった運営委員会のことについては前提となりますから,ここでは繰り返しません。その上で結論だけを申し上げますと,(1)については乙案,それから,(2)についても乙案,それから,(3)についてはこの文言でよろしいと思います。そして,(4)についても乙案ということでよろしいのではないかと思います。
  そのことを申し上げた上で小さな質問ですが,気になることなので質問を致します。それは,(1)の甲案は受託者を委託者及び信託管理人の合意によりということで,委託者及び信託管理人という順番になっています。それに対して(2)の方は甲案ですけれども,公益信託の信託管理人及び委託者と順番が逆になっているのです。これは何かニュアンスが違うのでしょうか。それとも単なる技術的な問題なのでしょうか。そこのところを教えていただければ有り難いです。
○中辻幹事 御指摘をありがとうございます。(1)の方は委託者及び信託管理人となっておりますところ,こちらは,信託法58条1項の文言が委託者及び受益者となっていて,受益者については同法125条で受益者の権利に関する一切の権限を信託管理人ができるとされていますので,受益者に代えて信託管理人を入れたということになります。では,(2)の方で信託管理人と委託者を逆にしているのは何故かという御質問については,ここはそれほど強い意味を込めているわけではなく,信託管理人は甲案でも乙案でも解任申立権を有することから先に挙げただけでありまして,信託法58条4項においては,裁判所は委託者又は受益者の申立てにより受託者を解任することができるという文言が使われておりますので,条文に即するならば,委託者の方を先に書いた方がよかったと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○山本委員 (3)について確認をさせていただきたいのですが,重大な事由があるときというのは,信託法58条4項の文言をそのまま持ってくるという趣旨だと思います。ただ,一般の信託の場合は,1項があって,先ほどから出ていますように,委託者及び受益者が合意によっていつでも任意に理由なく解除できる。しかし,その合意が得られない場合の例外なのでしょうけれども,4項で重大な事由があるときは,どちらかの申立てによって裁判所は解任をすることができるという仕組みになっています。
  ということは,恐らくですけれども,解任事由としての重大な事由というのは,受託者が任務に違反していることが前提になりそうに感じられます。それと同じ解釈が,公益信託で合意による場合もそうでない場合も含めて解任事由として挙げられるときにも行われることになると理解すればよろしいのですか。つまり,重大な事由というのは,受託者の側の何らかの任務懈怠があって,それを理由としている。それ以外の考慮は入ってこないというような趣旨で理解すればよろしいのでしょうか。それが質問の趣旨です。
○中辻幹事 私どもとしては,信託法58条4項の文言を(3)の公益信託の解任事由として持ってくる場合に,私益信託と異なる解釈をする必要はないと考えておりました。特に裁判所に解任権限を与えることにする場合には,棚橋幹事からも御指摘ありましたけれども,例えば公益性の観点とか,信託法上の立て付けと違う形で58条4項の文言を規定し,それを解釈するということになると,そのような解任事由の有無について裁判所が判断することは難しいということにもなりかねませんので,基本的には信託法の文言と一致させるのが望ましいのではないかと考えます。ただし,公益信託の特殊性に鑑みて,受託者の解任事由についてもう少し考え込んでみる余地はあろうかと思います。
○山本委員 ただ,その場合,全く同じ文言でそれを示すことができるかという問題は残りそうな気がします。例えば,社会情勢の変化その他の考慮から,この受託者では適切な任務の遂行が難しくなってくるだろうと考えられる。そこで,より適切に任務遂行ができる者が現にいるときに,解任ができるのかできないのか。このような場合に,任務懈怠がないと解任はできないというような縛りがかかってくるのかこないのかという形で問題になるのではないか。それが質問の趣旨でした。
○山田委員 (1)から(4)までざっと申し上げますが,第三者機関としての関与あるいは第三者機関として裁判所であるか,認定行政庁かという筋の問題に関していいますと,(1)については第三者機関の許可なく解任の可能性ありということが私の意見でございます。そして,(4)についても,これは裁判所が解任することができるという乙案がよいと思います。
  その上で,ところどころで御発言があったのですが,少し私の意見としてまとめて申し上げさせていただきたいことがあります。それは,委託者がこの問題でどれだけ関与すべきか,すべきでないかということであります。具体的には(2)のところで解任申立権をどちらも信託管理人に与え,甲案だけが委託者にも与えるということになっています。確かに公益信託で委託者をできるだけ遠ざけるということが,公益性が社会的に承認を受けるためには必要なポイントであろうと思います。
  ただ,前回か,前々回かにもどなたかから御発言があったかもしれませんし,私もそう思うのですが,委託者が一番,この信託がうまく当初の目的のように運営され,活動していくかということについては関心を持つというのも,また,否定し難いように思います。したがって,(2)については委託者にも解任申立権を与え,委託者も少し遠くからのコントロールというんでしょうか,そういうものは残しておくべきだろうと思います。
  しかし,そのようにやや議論をきちんと丁寧にした上でですが,委託者にある程度の地位を認めるとした場合に,委託者も相続人をどうするかという問題があるのかもしれないと思います。一般的に,ここでの議論は全部,委託者と書いてあるのは委託者の相続人を除くとすることであれば,私はそれで賛成なのですが,そうでないとすると,こういう問題のところで正にコントロールというか,ガバナンスの根幹を少し遠くからですが,握っているところに委託者の相続人が出てくるのは認めるべきではないだろうと思います。
  補足説明のどこかに書いてあるかもしれませんが,もし,それに触れていないようでしたら,信託法にもそれに関わることはあるのかもしれませんが,公益信託においては特に遺言信託の場合,あるいは生前信託契約であっても比較的,高齢になって自分の死後もその信託が残るというようなことを考えると,相続人とのある種の利害の対立という事態が信託した財産が相続財産から抜けるという意味でありますので,相続人はここでの受託者の解任に関する,あるいはその前の辞任のところも同じですが,辞任,選・解任ですか,そこには委託者の相続人は除くかどうかを検討していただきたいと思いますし,私の意見は除くとするのがいいだろうと思います。
○中田部会長 ほかに。
○能見委員 もう一度,確認ですけれども,申し訳ない,別に私の意見にこだわるわけではないんだけれども,(1)でもって乙案を採った場合,第三者機関というのは公益の認定をする機関を考えるんだと思いますけれども,その場合に(4)というのは意味が何かあるんでしょうか。甲案というのはまた行政庁がやるということで余り意味がないと思いますし,乙案にするとなぜ(1)のときは第三者機関の方の許可で,例えば委託者だけが申し立てた場合は裁判所になるのかというのも余り整合的な感じがしないんですけれども,私の理解の仕方が間違っているのかもしれませんが。
○中辻幹事 (1)の乙案で,ここで外部の第三者機関と書いているのは,認定行政庁と裁判所のいずれの選択肢もあるという意味でございます。その上で,(4)の論点では,(1)の外部の第三者機関は,認定行政庁と裁判所のどちらが適切でしょうかということをお聞きしているということになります。
○能見委員 (1)で乙案というのは例えば甲案からすると,委託者及び信託管理人という,そういう意味で信託の関係者が合意しているけれども,それだけでは足りないと。それ,プラス,第三者機関の許可が必要だろうと,それが乙案ですよね,ここでは。
○中辻幹事 部会資料の作りが分かりづらくて恐縮なのですが,(1)の乙案では,委託者と信託管理人が合意している場合もあるし,合意していない場合もあります。
○能見委員 合意していないのはむしろ(2)でいくのではないですか,申立権者という。
○中田部会長 整理が分かりにくくて申し訳ないんですが,先ほど私の方で整理したのは合意だけでよいというのと,合意,プラス,許可が必要なのと,それから,許可でよいというのと三つがあるだろうということです。後二者についていうと,許可はどこの許可なのかという問題が出てくるという,そういうことになろうかと思います。後二者について(4)であるように,行政庁なのか,裁判所なのかという,こういう選択になろうかと思います。あるいは別の整理でも結構なんですけれども,それらの中でこれがいいとか,悪いとかというのがもしあれば。
○能見委員 今の整理でも,そうすると(1)と(2)の関係がよく分からなくなってくるんですが,(2)の方はそういう関係者が全員,合意しなくても申立てという形でもってできると。例えば申し立てて第三者機関である行政庁というか,例えば認定機関あるいは裁判所が判断するわけですよね。それも(1)と(2)が重なってしまうような。
○中田部会長 この資料の作り方をもう少しきちんと整理した方がよかったと思いますけれども,仮に今のように整理したとして,どれがいいかというのをもしお出しいただければと思います。資料の作り方については,また今後,改善することになると思います。
○能見委員 私の理想からすると,一つは関係者が合意しているのであれば,全く自由にとはしなくていいかもしれないけれども,解任事由はここまで厳しいものでなくても,解任ができるというようなルールができるといいのではないかと思います,理想は。ですけれども,解任事由がもし同じであれば,(3)にしか解任事由がないのだとすると(1)の要するに信託関係者が合意している必要はないと,合意していてもいいけれども,合意していなくてもいい。
○中田部会長 いろいろな選択肢があると思いますけれども,その中でどの方向がよいかということがございましたら。
○能見委員 だから,解任事由が限定されていて……。
○中田部会長 それでは,整理していただいて,その間,沖野委員から頂いてよろしいでしょうか。
○沖野幹事 ただ,関連する事項かと思うんですけれども,まず,解任事由の点なんですけれども,先ほど山本委員から,これ自体は現行法の信託法と全く同じ概念であると,事務局からもそういう説明があったかと思います。かつ,任務違背がなければおよそ該当しないという理解が示されたと思います。それが確認されたということなんですけれども,果たしてそうなのかということです。文言だけから見ると任務違背その他重要な事由ということですので,任務違背でないタイプの重要な事由というのもあり得るというものだと解釈されます。そして,実際にも任務違背の判断次第ですけれども,山本委員がおっしゃったような不適任であるという場合のほか,執務不能ではないかと考えられるにもかかわらず,しかし,辞任の申出はない場合であるとか,あるいは当該受託者というのではなくて,受託者が複数あって意見の対立が非常に激しくて,なかなか方針が決まらないため,これらの受託者には任せておけないという場合,そういうようなこともあり得るのではないかと考えられます。そういったことをおよそ現行法が排除しているのかというと,そう言い切ることはできないのではないかと思います。
  それから,その他重要な事由というのが,どういう信託のタイプであるのかということを抜きにして語れるのかというのも疑問に思います。公益信託である場合であることを勘案したときや,あるいはより具体的な信託の内容からして,この受託者には任せておけないという判断を残しているのではないかと思います。ですから,任務違反であることが多いだろうというくらいであって,およそ任務違反がないと駄目だというのは,現行法の解釈としても行き過ぎではないのかなと思います。
  それから,(3)につきまして,私も実は能見委員と同じような理解をしており,ただ,その後,改めて見ますと14ページの説明の記載などは,上の方の2の内部の合意により理由を問わず,解任できるような仕組みは不適当であると言えるということが,実は(1)にも係ってくるという含意だったのだなというのがこの場で分かったようなことなんですけれども,そうだとしますと,その他重要な事由があるときの判断要素の一つとして,他の関係者といいますか,とりわけ,重要な信託管理人や委託者が一致して,この者では駄目だと言っているというようなことも,考慮要素に入ってくるのではないだろうかと思われるんですけども,どうでしょうか。
  ですから,現行法は合意によって無理由で任意解除ができるということとは別に任意解除はできない,したがって,合意がとれないような場合の事由としてこれを置いているわけで,そうではなくて全てに係ってくるとすると,その中身も変わってこざるを得ないのではないか,あるいは判断要素として合意があることというようなものは,現行法では入ってこないわけですけれども,入ってこざるを得ないのではないかと考えられますし,明確にするならば,その点も勘案してとかいう表現を加えるなどを考えることもできますし,更には意見の聴き方とか,そういうこともあるのかもしれないと思います。
  それが一つです。あと,2点あります。既に御指摘があった点なんですけれども,行政庁等の位置付けで,行政庁等が第1の1の下で何をするのかというのがこの後,更に具体的に明らかにされていき,また,変更や終了については次回ないし次回以降であるということですので,それを見ながらということになるかと思うんですけれども,例えば検査をし,これでは適切ではないというときに信託の終了に持っていくのか,適切に受託者を代えてやっていけばいいということなのか,そういうような判断が求められるような場合において,必要な措置として何ができるのか。
  解任申立てについて事由があるかというのは,裁判所で判断するという立場を採った場合に,行政庁としては適切ではないということが判明したときも,そのときには信託管理人になるべく申立てを促すようにとか,そういうことをするのか,それとも自ら申立てができるのか,それは解任だけではなくて,ほかの事項についても出てくるかと思いますので,裁判所で判断するということになったときに,行政庁等がその場合に更にどういう役割を担うのか,特に申立てとの関係で,というのは考えておく必要があるのではないだろうかと思います。個人的には行政庁等を申立権者に加えてもいいのではないかという感覚を持っておるものですから,そういうことを申し上げました。
  それから,3点目は,先ほど来,能見委員が問題提起をされていることなんですけれども,多少なりとも,合意による場合と合意なくして申立てができる場合というのを設けることに違いがあるかもしれないと思いますのは,合意によって解任していれば実体的な事由が存在しているならば,そこで効果が発生している。これは先ほど林幹事がおっしゃったことでもあると思いますけれども,それでうまくいかないのは受託者が争っているというような場合だと思われます。
  そのときに合意があるならば,直ちに解任を前提に一定の行為を要求していくと,受託者が争っているなら,そこから訴訟なりになるという形になるのに対して,合意がないということだとすると,解任申立てを経て解任のステップをとらなければいけないと,あるいは合意による解任が認められると受託者の方が争うという場合であれば,受託者が地位確認などを請求するのでしょうか,そういう話になってくるということですので,その後の争いの仕方ですとか,そういうのは多少の違いは出てくるのではないかと考えられます。したがって,そういうルートを認めるのかということではないかと考えます。
  ただ,そうはいいましても,その場合に最後に能見委員が御指摘になった点ですが,(1)の乙案を用意するということは,甲案を否定する以上の意味があるのかどうかというと,(1)の乙案でいく場合というのは,要するに甲案を否定するという趣旨で,乙案を採って,その上で申立てによって解任という手法を別途用意するということは,余り意味がないのではないか,中辻幹事は合意によって申し立てることもできるとおっしゃいましたけれども,もちろん,連名で申し立てていいのかもしれませんけれども,それは事実上の話で,制度として並立させる必要はないのではないかと思っております。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
○林幹事 非常に細かい話で条文の確認に尽きてしまうのですが,先ほど長谷川幹事がおっしゃった解任等がされた後,どうなるのかということなんですけれども,現行の信託法だと59条の3項,4項があるので,新受託者が選任されるまで義務を負うとか,業務を継続しないといけない,引き継がないといけない規定があるのが1点と,それでも足らない場合は信託財産管理者という一時的な受託者を選任する制度がありますので,一般の信託法だと1年の間にそれによって対応するということになっているかと理解しています。特段,ここで明示的な議論をしなければ,公益信託にもその規定が適用されることになろうかと思うので,一応,その前提で理解しているということを申し上げます。
  それから,先ほど来の解任事由の件と(1)の件なのですけれども,私としては沖野幹事が指摘されたところで,要するに任意解任のときの不利な時期の損害賠償請求という制度をここに持ってこないという価値観が前提として含意されていると思っていて,その考え方自体は悪くないと思います。不利な時期に解任されると損害賠償請求ができるという信託法一般の規定をここに持ってきてしまうと,制度として重くなってしまうという配慮があるように思ったので,その点の判断次第と思います。
○中田部会長 今回の資料の作り方が分かりづらくて申し訳なかったのですが,(1)について純粋の任意解任を認めるという御意見は恐らく出ていなくて,(3)と同じにするのか,それとも,(3)ほどではないものも含めるのかという両論があったと思いますが,それも(3)の基準をどのように理解するかということにも依存しているのだと思います。それから,(4)についていえば,これも両論がございましたけれども,職権による解任というのを認めるという御意見はなかったと承りました。ということで,余り十分には確定はしていないんですけれども,大体,問題点を御指摘いただいたかと思いますが,ほかに。
○吉谷委員 (1)の甲案について問題提起をしておきたいと思うんですけれども,委託者と信託管理人の合意ですので,委託者が機能しない場合,先ほどの相続もあれば,高齢化の問題などもありますので,そのような場合には甲案が機能しないというのは弱みではないかとまず考えております。その上で信託法の原則でいうと,これは任意規定であるということになると思うんですが,仮に信託管理人が単独で解約できると信託契約に書いておけば,それはできてしまうものということに,次に甲案を更に考えていったときにはなるのだろうかというところが疑問です。あるいはそれ以外の任意のガバナンスの仕組みを設けて,そのガバナンス機関が合意した場合には,受託者が解任できるというような定めを信託行為に置くということもまた考えられるのではないかと思います。
  これは,要は受託者が公益に資さないであるとか,もっと悪いことをしているとかいう場合を想定した規定だとは思いますけれども,また,逆の場合もあって,委託者や信託管理人の方が余り公益のことを考えていないということもあるわけでありますが,そういうことも考えて乙案というのを支持していたわけなんですけれども,仮に甲案でいくとした場合には,信託の中にしっかりしたガバナンスの制度がないと成り立たないのではないかと思いますし,仮に任意規定であるとして,信託契約に受託者の解任方法について規定するのであれば,その内容についても認定段階でしっかりと審査しなければならないのではないかと思いました。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
○道垣内委員 複雑な議論を中田部会長が適切にまとめてくださってありがたく存じます。ただ,2の(1)について実体的な理由がないときは認められないという見解がほとんどであったという話ですが,そうであれば,9ページに戻ったときの受託者の方もやむを得ない事由がある場合に限りということを外す理由はないだろうと思います。そこでバランスがとれるという仕組みになるのだろうという気がするということを一言,申し上げておきます。
○中田部会長 ありがとうございました。
○山本委員 何度も(3)についてくどいのですけれども,仮に(1)について乙案を採り,これについては信託契約で別段の定めをしても,その効力は生じないと考えるとするのであればですけれども,信託契約において解任事由を明記しているような場合には,それも全く意味を持たなくなるのか,それとも,それは(3)の重大な事由を判断するときに考慮の余地があるのか。このような問題が恐らく生じてくるだろうと思うのですけれども,今,すぐ答えが出る問題ではないかもしれませんが,検討事項の一つではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。甲案を採ったときに,信託行為による別段の定めを置くことの当否については11ページの下の方に指摘がありますが,乙案を採っても,今,御指摘のような問題を更に検討する必要があるということかと存じます。取りあえず,よろしいでしょうか。
  長くなっておりますので,まだ,途中ではありますけれども,新受託者の選任に入る直前ですが,ここで少しだけ休憩を入れさせていただきます。短目になりますが,50分まで。
 
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,再開いたします。
  再開前の私の発言について2点,補足させていただきます。
  一つは,合意による解任と第三者機関による解任との関係について3種類あると申し上げたんですが,もう一つあるということです。つまり,合意による解任のみという制度と,第三者機関による解任のみという制度と,合意を前提とする第三者機関による解任という制度と,合意による解任又は第三者機関による解任を設けるという制度,その4種類が多分,あるのだろうと思います。その上で,解任事由を一つにするのか,一つにした上で各場合に応じて解釈の中に合意があるか,ないかを織り込んでいくというのか,それとも,解任事由を別の表現にするのかという辺りの整理になると思います。
  それから,もう一つは訂正でして,先ほど第三者機関による職権解任を支持される御意見はなかったと申し上げましたが,大変失礼しました,吉谷委員の御意見がございましたので,その点は訂正させていただきます。失礼いたしました。
  それでは,続きまして「3 公益信託の新受託者の選任」について御意見を頂きたいと思います。
○平川委員 先ほどの運営委員会を設けるという説の流れで,この場合には公益信託の新受託者は,運営委員会が信託管理人との審議を経た上で,これを選任することができるという案を提案します。前述のとおり,公益信託の自律的ガバナンス体制を人事面で徹底する趣旨です。運営委員会と信託管理人とは,新受託者の選任について合意があることが想定されますけれども,合意に至らなかった場合でも運営委員会に主導権を持たせることで,受託者の席が空席であることを回避することができますし,また,信託管理人は受託者の信託事務を監督する立場にあり,利害関係に立つことから,選任の判断について運営委員会と意見を異にする場合には,運営委員会に主導権を持たせるのが妥当であると考えます。
  行政庁等との関わりとしては,公益信託の受託者に係る欠格事由や,また,積極要件を有するか否かという判断が行政庁等で必要なため,公益法人と同様,重要な人事の変更に該当する受託者変更届は必要で,行政庁等は係る届出を通じ,要件審査を行うことができるものと考えます。行政庁等は係る要件審査において継続的な公益信託の要件の適合性をチェックすることができます。
○深山委員 今までの議論の延長という面もあるんですが,信託関係者の1人である受託者の選任をいきなり行政庁等が行うということについては,妥当ではないと思います。今までの論点では,第三者機関というときには,行政庁等と裁判所が甲案,乙案で併記されていたのに,ここでは裁判所案がないんですが,私はあえて裁判所案をここでも提案したいと思います。
  従前の受託者がその地位を失う場面というのはいろいろな場面がもちろんあるんでしょうが,新受託者の選任を利害関係人が申し立てるときに,誰かを選んでくださいということではなくて,候補者を挙げるのだろうと思いますし,それがふさわしいということの理由も添えるのだろうと思います。また,旧受託者の辞任や解任の延長線上で,新受託者というのが連続的に選任される手続に入るということもあると思います。そういう意味では,手前の手続との兼ね合いもあり,手前の手続についても裁判所の関与が望ましいという意見であるということもありますが,仮にそれをひとまず置くとしても,新受託者としてこの人がふさわしいか否かという判断は,裁判所で判断するにふさわしい事項であろうと考えます。ということで,新たな提案をしたいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 選任につきましては提案に賛成いたします。公益認定時と同じように受託者が交代する場合であっても,資格要件については行政庁の関与が必要であると考えます。
○棚橋幹事 先ほど深山委員から裁判所が新受託者を選任するという御提案がございましたけれども,正にこの点については資格要件の認定の場面ですので,認定機関が行うべきであると思いますので,認定機関でない裁判所よりも行政庁等が適切ということかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 深山委員と同じで,裁判所案というのを提案するのに賛成なのです。1点,先ほどから不服申立ての方法がどうなるのかにこだわっているようなところもあるのですが,行政庁が新受託者を選任した場合に,誰がどう不服申立てするのかという点があります。要するに行政処分だとしたら,本来は処分を受けて不利益を受ける者が不服申立てをするのでしょうけれども,この場面においては新受託者がやるのではなくて,それ以外の関係者が選ばれた人は不適格だという形で争うことになると思うので,私も詳しくなくて恐縮ですが,それにふさわしい不服申立ての制度を考える必要があるのではないかと思いました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。弁護士会からは裁判所案という新しい御提案を頂いておりますが,原案でよいという複数の御意見,あるいは運営委員会を必置とすることを前提とする御意見などが出ておりますけれども,ほかにはよろしいでしょうか。
  それでは,今のような御意見の分布を伺いました上で次に進みます。次は「第3 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○立川関係官 「第3 公益信託の信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任」について御説明します。第3の論点の検討に際しましては,信託管理人の辞任等に関する信託法及び公益信託法の規定を一覧にしました別表3を御参照いただければと存じます。
  まず,「1 公益信託の信託管理人の辞任」について御説明します。信託管理人の辞任については二つの論点を提示しておりますが,まず,1点目の信託管理人が委託者及び他の信託管理人の同意を得て辞任することを可能とするか否かについて御説明します。本文では,甲案として信託管理人が委託者及び他の信託管理人の同意を得て(外部の第三者機関の許可なく)辞任することを可能とする,乙案として信託管理人が外部の第三者機関の許可なく辞任することを可能としないという提案をしています。
  新たな公益信託において,公益信託内部の自律的な監督,ガバナンスを確保する観点などからは,委託者及び他の信託管理人の同意を得て信託管理人が辞任することを可能とすべきとの考え方あり得るため,このような考え方を甲案として示しています。他方,公益信託が公益の実現を目的とするものであり,信託管理人による公益信託事務の監督が継続的,安定的にされるようにすることが望ましいことなどから,新たな公益信託においても公益信託の信託管理人が委託者及び他の信託管理人の同意を得て辞任することを可能とすべきではないとの考え方があり得るため,このような考え方を乙案として示しています。
  2点目の公益信託の委託者及び他の信託管理人の同意を得て外部の第三者機関の許可を得て辞任することを可能とするか否か,また,許可を行う外部の第三者機関を公益信託の認定を行う行政庁とするか,裁判所とするかの論点ですが,本文では公益信託の信託管理人は,やむを得ない事由がある場合に限り,甲案として公益信託の認定を行う行政庁等の許可を得て辞任することができるものとする,乙案として裁判所の許可を得て辞任することができるものとするとの提案をしています。
  公益信託においては,信託管理人による公益信託事務の監督が継続的,安定的にされることが望ましいことなどから,公益信託の信託管理人の辞任を認めるとしても,やむを得ない事由があり,かつ,外部の第三者機関の許可を得た場合に限定すべきと考えられます。その上で検討すべきは,許可の主体となる外部の第三者機関をどのように考えるかですが,公益信託の信託管理人の資格要件該当性の審査を行いました公益信託の認定を行う行政庁等が許可の主体となることが合理的であるとの考え方があり得るため,このような考え方を甲案として示しています。他方,信託管理人の辞任にやむを得ない事由があるか否かは,裁判所が判断することも可能であることから,裁判所を許可の主体とすべきとの考え方があり得るため,このような考え方を乙案として示しています。
  次に,公益信託の信託管理人の解任について御説明します。
  まず,1点目の信託管理人を委託者及び他の信託管理人の合意により解任することを可能とするか否かの論点について御説明します。本文では,甲案として信託管理人を委託者及び他の信託管理人の合意により(外部の第三者機関の許可なく)解任することを可能とする,乙案として信託管理人を外部の第三者機関の許可なく解任することを可能としないという提案をしています。
  新たな公益信託において,公益信託の自律的な監督,ガバナンスを確保する観点からは,不適格な信託管理人を公益信託内部の信託関係人の合意により解任できるようにすべきとの考え方があり得るため,これを甲案として示しています。他方,信託管理人による公益信託事務の監督が継続,安定的に運営されるようにすべきとの観点から,公益信託内部の信託関係人の合意による公益信託の信託管理人の解任を認めるべきではなく,解任には公益信託外部の第三者機関の許可を要するものとすべきとの考え方があり得るため,これを乙案として示しています。
  次に,2点目の公益信託の信託管理人の解任申立権について御説明します。本文では,甲案として公益信託の他の信託管理人,委託者及び受託者に信託管理人の解任申立権を付与するものとする,乙案として公益信託の信託管理人及び委託者に信託管理人の解任申立権を付与するものとするとの提案をしています。
  公益信託の信託管理人が複数選任されている場合に,一方の信託管理人が信託財産に損害を与えた際,他の信託管理人が不適格な信託管理人の解任申立てを行うことは,他の信託管理人の監督権限として予定されたものであると考えられるため,他の信託管理人に解任申立権を与えるべきと言えます。また,他の信託管理人が解任申立権を適切に行使しない場合が想定されることなどから,信託財産の拠出者であり,公益信託の運営の適正性に関心を有しています委託者にも,信託管理人の解任申立権を付与すべきとも考えられます。さらに信託法が信託管理人の解任について,委託者が現に存在せず,かつ,信託管理人が1人である場合に,当該信託管理人の解任を申し立てる主体やその手続について規定していないことなどから,受託者にも解任申立権を認めるべきとも考えられます。そこで,以上のような考え方を甲案として示しています。これに対して他の信託管理人及び委託者には,信託管理人の解任申立権を認めるべきであるが,信託管理人の監督の対象となっている受託者に信託管理人の解任申立権を認めるのは適当でないとの考え方があり得るため,これを乙案として示しています。
  次に,3点目の公益信託の信託管理人の解任事由について御説明します。本文では,公益信託の信託管理人の解任事由は,信託管理人がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときとすることでどうかとの提案をしています。
  公益信託が公益の実現を目的とするものであり,信託管理人による公益信託事務の監督が継続的,安定的に運営されることが望ましいことから,公益信託の信託管理人の解任事由は,本文で提案したようなものとするのが相当であると考えられるところであります。
  最後に,4点目の公益信託の信託管理人の解任権について御説明します。本文では,信託管理人に解任事由があるときは,甲案として公益信託の認定を行う行政庁等が解任申立てに基づき,信託管理人を解任することができるものとする,乙案として裁判所が解任申立てに基づき,信託管理人を解任することができるものとするとの提案をしています。
  新たな公益信託において,公益信託の認定を行う行政庁等が信託管理人の資格要件該当性を判断し,当該行政庁等が信託管理人の選任にも関与するものとした場合には,選任と表裏の関係にある解任に関しても行政庁等において,解任事由の有無を判断するのが合理的であることなどから,公益信託の認定を行う行政庁等に信託管理人の解任権を付与すべきとの考え方があり得るため,これを甲案として示しています。他方,公益信託の信託管理人の解任事由があるか否かについては,裁判所において判断することも可能であることなどから,裁判所に信託管理人の解任権を付与すべきとの考え方があり得るため,これを乙案として示しています。
  次に,公益信託の新信託管理人の選任について御説明します。本文では,甲案として公益信託の認定を行う行政庁等が利害関係人の申立てに基づき,新信託管理人を選任することができるものとする,乙案として裁判所が利害関係人の申立てに基づき,新信託管理人を選任することができるものとするとの提案をしています。
  新たな公益信託において,公益信託の認定を行う行政庁等が信託管理人の資格要件該当性を判断するものとした上で,新信託管理人の選任については関与しないこととした場合,認定時の判断の意義が失われることから,公益信託の新信託管理人の選任についても公益信託の認定を行う行政庁等が関与することが合理的であると言えます。また,公益信託の信託管理人の不在により公益信託事務の運営が中断する状況は,できるだけ回避されるべきでありますから,信託法第129条第1項で準用する第62条第4項の規定を参考に,広く公益信託の利害関係人に新信託管理人選任の申立権を付与すべきと考えられ,このような考え方を甲案として示しています。他方,公益信託の受託者と信託管理人の立場の相違に加え,信託管理人の資格要件が客観的,形式的なものになるのであれば,裁判所が利害関係人の申立てに基づいて新信託管理人を選任できるものとすべきとの考え方もあり得るため,これを乙案として示しています。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。信託法は信託管理人の辞任・解任,新信託管理人の選任の規律について,受託者に関する規律を準用するなど,両者をパラレルに取り扱っておりますけれども,公益信託においても同じように考えてよいかどうかいうことかと存じます。先ほど御審議いただきました受託者についての規律と重なるところも相当あろうかと思いますので,特に信託管理人に特有の御指摘を頂きつつ,御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。1から3まで一括してお伺いいたします。
○吉谷委員 信託管理人につきましては,公益信託に必置の機関であるということになるかと理解しておりますが,その位置付けについては受託者とは異なると考えております。受託者は信託財産の所有者であり,不存在となると信託事務処理は停止します。また,公益事業の実施が可能な者を選任する必要がある。その一方で,信託管理人につきましては不存在でも信託事務処理は停止しませんし,信託管理人の一時的な不存在であるとか,複数信託管理人の定員が欠けるというようなことが認められないわけではないと考えております。そのため,信託管理人の辞任,選・解任につきましては私的自治に任せ,各公益信託で定めたルールに基づいて運営すればよい。行政庁の監督は事後的なものではないかと考えまして,先ほどの受託者の場合と信託管理人は異なるという意見でございます。
  その上で,実際問題について少しお話ししますと,法改正後でも現行の信託銀行がやっているような助成型のものにつきましては,信託管理人が無報酬であったり,低報酬であったり,そういうボランティア的な方が想定されます。それにもかかわらず,辞任するということが難しいような制度になると,なり手が少し限られてくるかもしれないということを懸念しております。公益法人や会社でも辞任が制限されていないのに,公益信託だけが辞任を制限するという立て付けになることには違和感を感じております。
  そのため,1の(1)につきましては原則として辞任を制限する規定自体が不要であると考えます。辞任に関する内規や信託行為の定めを設ければ,それに従えばよいという意味で任意規定とすることを提案いたします。その上で,1の(2)につきましては外部の許可は不要であるとは考えますが,もし,許可が必要であるとしてもやむを得ない事由がある場合という要件を付けることには強く反対いたします。甲・乙のどちらかといえば甲案ということになります。
  2の(1)につきましては外部の第三者の許可なく解任することを可能とすることには賛成ですが,解任権限については内部の規定に従えばいいというところでございます。これは甲案ということになります。2の(2)につきましては,これも委託者につきましては信託行為の定めがある場合に申立権を付与するということで,デフォルトとしては委託者はなしで,受託者にも解任申立権を付与するということにつきましては,受託者1名,信託管理人1名という場合が十分に考えられますので,受託者を入れることは必要であると考えます。そうですので,甲案に変更を付けるという形になると思います。(3)につきましては趣旨に賛成でありまして,(4)につきましては甲案の行政庁に賛成した上で,これも行政庁の職権による解任を認めるべきであると思います。信託管理人に対する勧告・命令ということも考えられるということであれば,なおさら,信託管理人の職権による解任を認めるということと整合性があると考えます。
  3につきましては甲案賛成です。選任も公益信託の組織の実態に従って選任方法に関する内規や信託行為を定めて,それに従えば,行政庁による選任は不要であると。報告をすれば足りるのではないかと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○棚橋幹事 1の(2)の辞任と2の(2)に解任については,先ほども受託者のところで述べたとおり,どういった要素を判断する必要があるのかということですので,繰り返しはしないですけれども,3の公益信託の新信託管理人の選任については,前回の部会資料の中で信託管理人の資格要件の議論があったかと思いますけれども,前回の部会資料16ページには客観的に判断可能なように思える甲案,つまり信託法124条の欠格事由に該当しない案に対する賛成意見もございましたし,乙3案,つまり欠格事由だけではなくて,公益信託の目的に照らしてこれにふさわしい学識,経験及び信用を有する者であることとするという案に対する賛成意見も複数あったように記憶しております。
  今回,3で乙案が提案されておりますが,これは信託管理人の資格要件該当性の判断が受託者の資格要件該当性の判断よりも客観的,形式的に判断されるのであれば,裁判所でもできるのではないかという御趣旨かと思います。この点については正に認定の問題ですので,資格要件がどのように定められるか次第ですが,資格要件が乙3案のようなものになった場合には,認定機関が判断するのがふさわしいと考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 先ほどの受託者に関する選・解任の規律と,信託管理人についての選・解任の規律は基本的には同じパラレルでよろしいと思います。私益信託について,条文を準用してパラレルにしているということとの平仄という形式的な理由もありますし,実質的に考えても,もちろん,細かく見ていくと少しずつやっていることは違うから,全く同じかというと違う部分はあるんですが,しかし,選・解任の規律として条文を考える上では,あえて変えるまでの必要はないのではないかと思いますので,先ほど受託者について述べた意見と同様ということでございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 信託管理人の辞任につきましては,信託管理人が自らの意思で,他の信託管理人がいる場合にはその同意を得て,辞任することを可能とするという案,即ち,他の信託関係人や第三者機関の同意を得たり許可を得たりしないで,自由に辞任できるという案を提案します。吉谷委員と趣旨をその点では同じくいたします。また,新たな公益信託においては,信託内部の自律的な監督やガバナンスを行うことを基本とするために,信託管理人が自らの意思で辞任するということは可能であるべきだと思います。甲案については委託者の同意を要する点において,委託者の権限をできるだけ減少させるべきという観点から賛成できないと考えます。ちなみに,公益財団法人における監事は,自らの意思で自由に辞任することができるとされております。
  1の(2)につきましては同じく,公益信託の認定を行う行政庁や裁判所の許可を必要としないで,信託管理人が自らの意思で他の信託管理人がいる場合には,その同意を得て辞任することができるという案を提案いたします。その理由は,先ほどの(1)と同様です。
  2の(1)につきましては,これも運営委員会絡みなんですけれども,信託管理人を運営委員会及び他の信託管理人の合意により解任することを可能とするという案を提唱します。これは受託者の解任の項で述べたとおりと同じ理由によります。
  2の(2)につきましては,内部的に選・解任を完結させるべく考えておりますので,申立権というのは本来,あり得ないと考えているんですけれども,ただし,解任権者同士で合意が得られない場合を想定し,うち1人に申立権を付与するという事態の想定であれば,公益信託の他の信託管理人及び運営委員会に信託管理人の解任申立権を付与するという案を提案いたします。理由は,委託者に他の信託管理人の解任申立権を認めるべきではないということは前述のとおりであります。また,受託者の信託事務の監督をする立場にある信託管理人に対する解任権を認めるということは論理矛盾であり,許容されないと思います。結局,自律的ガバナンス確保の観点から,他の信託管理人及び運営委員会が申立権を持つべきであるという結論に達します。
  (3)につきましては法務省案に賛成いたします。任務懈怠等の解任事由があるときのみ,解任申立てを可能として,受託者を監督する立場にある信託管理人の地位を保全するべきであると考えます。
  (4)につきましては乙案に賛成します。これは信託受託者の解任申立てに関して述べた理由と同じ理由によります。
   3の「公益信託の新信託管理人の選任」につきましては,これも丙案として他の信託管理人及び運営委員会の合意により新信託管理人を選任することができるものとするというのを提案します。ただし,運営委員会と他の信託管理人の合意が整わないとき,又は他の信託管理人がいない場合には,運営委員会が単独で新信託管理人を選任することができるという案を提案いたします。理由は,人事面での自律的ガバナンス確立を目指すべきということは前述のとおりです。ただし,行政庁等は新信託管理人に係る欠格事由に該当するかどうかの判断をする必要がありますので,行政庁等は信託管理人変更届を受け,要件適合性のチェックを行うものとする,係る要件審査を通じて公益信託の継続的なガバナンスの保持を補完的立場で補充することができると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 今までの意見と大分重なるんですけれども,辞任のところは自由に辞任を認めていいと思います。
  2の(1)のルールなんですが,ここは受託者の場合と微妙に考え方を,こういうルールがなぜ正当化されるかという考え方が受託者の場合と違うのではないかと思うんですが,先ほどの受託者の場合には委託者と信託管理人が合意してということだと思いますけれども,信託管理人は受託者を監督する立場にありますので,特に信託管理人の合意が,委託者も加わっていますけれども,信託管理人のそういう意向がはっきりしているということが受託者を解任する正当化の根拠になるんだろうと思います。
  ところが,信託管理人を解任するということになると,私の最終的な結論はまだないんですけれども,委託者の合意というのが果たして正当化の理由になるんだろうかというのが気になるのと,それから,他の信託管理人というのも,これもどういう場合に機能するのかよく分からないんですが,信託管理人が1人しかいない場合には,そもそも,これは機能しないと考えるんだと思いますけれども,仮に2人いたとして,1人の信託管理人を解任しようというので委託者ともう1人の信託管理人が合意すれば,それで解任ができるのかというと,信託管理人自体は1対1で対立しているし,そういう場合にまで使えるのかというのが気になります。
  財団法人の場合には,これもいろいろなルールがあるのかもしれませんけれども,評議委員会という委員会があるので,そこで解任するという形になるんだと思いますけれども,信託管理人はそういう委員会があるわけではなくて,本当に1対1で対立する場合にももし適用されるとすると,信託管理人が2人しかいないという場合に適用されると,それはまずいので,このルールがどういう場合に適用可能なのか,あるいはそれを正当化できるのかというのはもうちょっと詰めた方がいいだろうという感じがいたしました。
  あと,申立権の方は,これもまだ今の問題と関係して今一つどうしたらいいか,分からないところはあるんですが,受託者から申し立てるというのも嫌な感じがするので,申し訳ありません,これは決めかねています。ということで,(3)(4)も申し訳ない,まだ,十分に意見がまとまっていませんので,取りあえず,私が言いたかったのは2の(1)のところについてということです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 この点,日弁連での議論を踏まえた意見は深山委員が述べたところですが,解任の申立権者については,委託者についてはあえて必要はないという考えもあるし,そこはいろいろな意見もあったというところです。それから,受託者についても,認める考えと,それに対して躊躇のある考えもありましたが,日弁連の結論としては受託者にも認めるという結論でした。
  それから,新信託管理人の選任については裁判所ということで乙案です。信託管理人と受託者の違いもあるのでしょうけれども,弁護士会としては両方がそろった方がいいということが1点と,先ほど申し上げた不服申立てのことを考えると裁判所の方がやりやすいのではないかと思っています。
○中田部会長 ほかに。
○山田委員 新信託管理人の選任についてのみ申し上げます。甲案か,乙案かについては裁判所が利害関係人の申立てに基づき,信託管理人を選任することができるものとするという乙案がよいと思います。その点で,深山委員,林幹事と意見を同じくします。その理由は,信託管理人は,当初は委託者が受託者との信託契約で決めるものであり,しかし,受託者を牽制する機能を持つ者と位置付けられるのだと思います。委託者と受託者の信託契約の中で決められ,受託者を牽制する機能を持つ者と思います。
  途中で交代することによって新信託管理人をどういう手続で選ぶかということですが,公益を目的とする信託で牽制機能を持つ相手方というのでしょうか,牽制の対象の受託者がそこに関わるのはおかしいだろうと思いますし,それから,委託者に自由に認めるのもおかしいだろうと考えられ,そういった考え方から裁判所が関わるべきであると思います。認定行政庁は,当初の公益信託の設定のとき,設定に伴う認定のときですか,そのときも私人が作った信託の仕組み,それが公益性にかなうかどうかという観点から認定をし,あるいは認定をしないということが認定行政庁の立場ですので,ここで新信託管理人の選任というところでは,自ら選任をするという立場に出てくるのは,過剰な役割をそこに期待することになるのではないかと思います。
  しかし,その上で乙案を採った上で,もしかすると平川委員がおっしゃったのかもしれませんが,当初の公益認定のときには受託者もそうですが,信託管理人についても適格要件というのを定め,それも認定をするための作業の中で判断をしていることであれば,中途で代わる場合に認定行政庁が何もそこについて意見を言うことができず,自由に誰でもが新信託管理人になれるというのはおかしいだろうと思いますので,補充的なというのですか,あるいは二次的なというか,裁判所の選任によって認められた新信託管理人が要件を満たしているか,あるいは欠格事由に当たらないかということは認定行政庁が判断する,そのプロセスは付随させるべきなのだろうと思います。そうすると,甲案であれば,それを一つでできるからいいではないかということなのかなと思うのですが,しかし,誰が決めるべきかというところの位置付けからすると,甲案というのは当初のときの役割分担と違った形の役割を,認定行政庁に求めるということになるのではないかなと思います。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
  論点は大体お示しいただけたかと思いますので,受託者についてのものと併せて本日の御審議の結果を事務当局の方で整理いたしまして,次の第二読会のところで,また,御検討いただきたいと思います。
  司会の不手際で,本日,更にもう1項目があるんですけれども,時間が来ておりますので,「第4 公益信託における情報公開」については,次回に御審議いただくということでお願いいたします。
  それでは,次回の議事,日程等について事務当局から説明してもらいます
○中辻幹事 次回は,本日,積み残しになりました「公益信託における情報公開」を御審議いただいた後,公益信託の終了,変更,名称,その他の論点について御審議いただくことを予定しております。次回に予定している論点の最後まで御審議いただければ,第一読会は終了ということになります。
  次回の日程は,平成29年1月17日(火曜日),午後1時半から午後5時半までです。場所は,法務省20階第1会議室で開催します。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会第35回会議 議事録





 
 
第1 日 時  平成28年11月1日(火)   自 午後1時30分
                        至 午後5時08分
 
第2 場 所  法務省第1会議室
 
第3 議 題    公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第35回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,小川委員,稲垣幹事,岡田幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席でいらっしゃいます。
  まず,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。前回,部会資料34「公益信託法の見直しに関する論点の検討(3)」を配布しておりますが,本日はそれを用いて,前回積み残しとなった部会資料34の21ページ「公益信託の設定前に目的信託の設定の前置を必要とするか否か」の項目以降について御審議いただくことを予定しております。
  それから,今回新たに配布する資料として,部会資料35「公益信託法の見直しに関する論点の検討(4)」を事前に送付させていただきました。
  また,本日は,内閣府の明渡関係官から,公益法人制度における不可欠特定財産の認定基準の認定基準の運用状況について御説明を頂けるということで,そのための資料を机上配布しております。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  本日は,前回積み残しになりました部会資料34の第4の3及び4,並びに部会資料35について御審議いただく予定です。まず,部会資料34のうちの第4の3と4を御審議いただき,続いて部会資料35の第1から順に御審議いただきまして,午後3時頃をめどに,適宜休憩をとることを予定しています。その後,部会資料35の残りの部分を御審議いただきたいと思います。
  そこで,本日の審議に入りますが,前回御審議いただきました部会資料34の第1の4の「不可欠特定信託財産の処分制限等」に関しまして,ただいま御紹介のありましたように,明渡関係官から公益法人制度における不可欠特定財産の認定基準の運用状況について御説明していただけると伺っています。明渡関係官,お願いいたします。
○明渡関係官 お手元にお配りしております横紙,青が入っている紙でございます。「公益法人制度における不可欠特定財産について」というペーパーに基づきまして簡潔に説明いたします。
  改めてでございますけれども,上段の青枠に公益法人制度における不可欠特定財産について記載しております。認定基準の一つとして掲載しておりまして,具体的な例としては,美術品,文化的価値がある建造物等がこれに当たるという形になっております。
  中段の左側でございますけれども,目的といたしまして,設立者・寄附者の意思を尊重する観点から,公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産の安易な処分を防止するためのものになっております。下に字の大きさを変えて書いておりますけれども,目的は安易な処分の防止というようなことでありますので,必要な手続を踏めば,不可欠特定財産の方から外すことは可能という形になっております。
  1ページおめくりいただきますと,「定款における不可欠特定財産の定め(例)」という資料を付けております。こちらの方は典型的な例として,定款を挙げているものでありますけれども,2項の一番最後の部分,「基本財産から除外しようとする時は,あらかじめ理事会及び評議員会の承認を要する。」と,こういうふうな規定が設けられているというのが一般的なものかと考えております。
  お戻りいたしまして,1ページ目の中段の右側,効果というところでございます。不可欠特定財産の効果の大きなものとしては,公益認定が取り消された場合に影響してくるものでございます。公益認定が取り消された場合には,公益目的取得財産残額に相当する財産を他の公益法人等に贈与する必要があるというような規定になっております。しかしながら,この財産残額を計算する際には公益認定前に取得した不可欠特定財産については除外するという形になっておりますので,例えば一般財団法人○○美術館という時代に取得した財産については,その後,公益認定を受けて,しばらくたってから取り消されるというようなことがあっても,当該財産を残せる可能性は高いというような形になるのだろうと思っております。
  一番最後,下のところですけれども,認定審査時の現状ということでありますけれども,一般に審査するのは,本当に不可欠特定財産に当たるのか,そちらの方に記載されているものが不可欠特定財産に当たるのかというのを確認するというのが基本となっているかと思います。時たま,ただのという言い方は変ですけれども,通常の土地等がこちらの方に掲載されていたりすると,これが本当に不可欠特定財産に当たるのかというのを見ていくというふうなことが中心になっていると認識しております。この問題につきまして,内閣府の公益認定等委員会における審査であったり,各都道府県の審議会がございますけれども,そういった中での議論においても,大きな問題となっているというようなことはあまり耳にしてはおりません。
  実際に書類上どうなっているのかというのが3枚目でございます。こちらの方は財産目録というような書類がありまして,そちらの方に載ってくるというふうなことになっています。不可欠特定財産という場合は,固定資産の基本財産というところに掲載されるのが通常であります。美術品だからといって,全てをこちらの方に計上しなくてはいけないというようにはなっておりません。それ以外の美術品については下の特定資産というところにもありまして,こちらの方に分類されているというようなものも多数ございます。
  実際の法人の方を見てみますと,よく名前を聞く有名な法人ですけれども,美術品の点数でいいますと,基本財産として挙げているものよりも特定資産の方に挙げているものが圧倒的に多いというような形で,二,三,例を見ますとなっておりました。ある法人においては基本財産になっているものが200点程度,特定資産になっているものは7,000点程度ございました。もう一つ見ますと,基本財産は80点程度,特定資産の方は1,200点程度というような形でなっておりまして,美術品だからといって全てを基本財産,不可欠特定財産の方に入れるというような運用にもなっていないというような現状でございます。
  私からの報告は以上でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  引き続いての御審議の参考にしていただければと存じます。今の時点で御質問などはございますでしょうか。
○沖野幹事 御説明をありがとうございます。
  十分な基礎知識がないものですから教えていただきたいということがあります。審査時の現状として不可欠特定財産として記載されたものが本当にそれに当たるのかの確認が基本的に問題になるということなんですけれども,逆のことはないのでしょうか。ここに記載されていない,例えば特定資産の方に分類されているんだけれども,これは不可欠特定財産の方に入るべきではないのかというような形で問題になることはないのかというのが一つ目です。
  二つ目ですけれども,効果のところで公益認定前に取得した,ですので,一般法人の段階で取得したような不可欠特定財産は,他の公益法人等に贈与する算定額から外すことができると理解したのですけれども,としますと,特定資産の方はこの残額に入ってき,それに相当するものは他の公益法人に贈与等をする必要があるということになるのでしょうか。そうだとしますと,考え方ですけれども,不可欠特定財産というイメージからは公益目的事業を行うために不可欠な財産であると考え,認定が取り消された場合に公益事業のためにはそれが不可欠な財産であると考えられるものは手元に置いておけて,そうでない財産は他の法人への贈与の額に入ってくるという扱いになりそうなんですけれども,そういうことなのでしょうか。以上です。
○明渡関係官 まず,1点目でございますけれども,逆の方はないのか,こちらの方の特定資産に入っているものを不可欠特定財産の方に入れるべきではないかというふうな議論がないのかといいますと,それは聞いたことがないというのが正確なところです。全国47都道府県に審議会がありますので,こういった観点について押しなべて調べているというふうなデータがありませんので,そういった意味では正確なものではないんですけれども,特定資産の方に変えるというふうなことで問題になったり,困っているというような話を聞いたことはないというのが現状でございます。
  後者ですが,残りの二つの点につきましては,特定資産というような形の方に計上されますと,計算上は公益目的財産残額から除外することにはならないということですので,そこの部分というのは金額としては残るといいますか,移さなければいけない金額の方に計算されるというような形になります。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○道垣内委員 同じ質問なのですが,公益法人のときの『一問一答』とかを見ますと,そこには不可欠特定財産がある場合に,その安易な処分を認めると当該事業の実施に支障が生じるおそれがある,だから,不可欠特定財産という制度を制定するのだと説明されているわけですが,運用の方としては,どちらかというと,当該公益目的の実施に不可欠であるというよりも,終了時の処理等の観点から考えるという運用がされているということでしょうか。
○明渡関係官 どちらかというと,その財産を不可欠特定財産に含めるのかどうかというのはむしろ法人側がどうしたいのかというのが実態だろうと思います。どこまでが本当に当該法人の事業の運営に不可欠かというふうなものを,なかなか,行政の方で,こうしろ,ああしろというふうな形にはなっていないだろうと思います。ただ,元々の趣旨からいうと,いかにもこれを不可欠特定財産として入れておくのはいかがかというふうなものが見受けられた場合に,それはどうなのでしょうかと審査しているというようなことになっているのだろうと考えております。
○中田部会長 まだ,御質問等があるかもしれませんけれども,今日の審議がたくさんありますので,この程度で先に進めさせていただいてよろしいでしょうか。
  それでは,部会資料34の「第4 公益信託と目的信託との関係」の3と4につきまして御審議をお願いいたします。前回,事務当局からの御説明を伺っていますので,直接御意見を頂くことにしたいと思います。まず,「3 公益信託の設定前に目的信託の設定の前置を必要とするか否か」について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○平川委員 前回申し上げましたとおり,公益信託は目的信託の一類型ではないという整理の論理的帰結としても,目的信託の前置は不必要であると考えます。
○道垣内委員 私は,公益信託は目的信託の一類型であるという理解の下で,前置は不要だと思います。
○林幹事 弁護士会の議論では,理解の仕方はさておき,前置を不要というのに賛成でした。専ら一類型だという前提の下に議論したとは思いますけれども,いずれにせよということです。
○中田部会長 ありがとうございました。
  いずれも前置は不要だという御意見が続きましたが,前置が必要だという方はいらっしゃいますでしょうか。
  それでは,この点につきましては前置不要ということで取りまとめさせていただきます。
  続きまして,「4 既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容するかどうか」についてはいかがでしょうか。
○沖野幹事 質問ですけれども,この問題なんですけれども,既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容するかどうかというのは,仮に新しい立法になったときのその後の問題として,まず,公益信託以外で作っておいて,それを更に公益信託にする,あるいは最初は別のもので作っておいて,ある段階から認定を受けるようにすることを最初から組み込んでおくという,新しい規律の中で切り替えを可能にするというもの,最初は目的信託でその後に公益信託にするとか,最初は私益で後に公益にするとか,そういう一種,ハイブリッド的なものを認めるかどうかが問われているのか,それとも,経過措置的に,今いろいろあるものがあって,それについて認定を受けることを認めるかということが問われているのかというのが気になりまして,これは前者なのでしょうか。
○中辻幹事 事務局としては前者で考えておりました。現在は,公益信託法2条1項が存在することにより,公益を目的とする信託は,主務官庁の許可を受けなければ無効であるという解釈があり得るのですが,部会資料34のこの部分では,仮に公益信託法2条1項を廃止した場合において,新たな制度の下で設定された,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする他の信託が公益信託成りすることを可能とするか否かという観点から主に検討しております。もっとも,後者のように,現在ある既存の信託について経過措置的に公益信託の認定を受けられるようにすることも検討していく必要はあると思います。
○能見委員 今の沖野幹事の御意見を誤解しているかもしれませんけれども,私も二つの場合があると思うのですが,一つは最初から計画的に当初は私益信託を設定して,一定の段階から公益信託に変えるというもので,そういう計画の下で私益信託が公益信託に変わるというタイプと,それから,もう一つは,そういう計画的なものではなくて,ずっと私益信託で実質的に公益的な活動をすることをしてきたけれども,今度,公益信託に変えたいと考えるようになって,いわば偶発的な契機で公益信託に変更したいというタイプです。この二つは大分違う問題なんだと思うのです。この部分に関する部会資料の説明を前回は読んできたんですが,今回は読んでこなかったので,内容を詳しく覚えていませんけれども,最初から計画的に私益信託から公益信託に変更するという問題は,逆のパターン,公益信託から私益信託へ変更するというパターンもあるでしょうし,これらはもう1つのタイプとは区別して別の問題として考えるのがよいと思います。
  そこで,ここでは,そういう計画的な変更で公益信託に変える場合ではなくて,偶発的な事情で公益信託に変えたいという場合に,このような変更を認めることができるかという場合を考えるべきかと思います。このような問題として考えたときにどうするかということですけれども,私としてはいろいろ手当は必要なんでしょうけれども,甲・乙いずれも認めるということになると,丙になるのでしょうか,この立場がよろしいのではないかと思います。
  それから,どんな手当を設ける必要があるかという点については,これを認めるという方針が決まってからいろいろ考えればよいと思います。それから,公益信託への移行という点についてもう一つ述べておきたいことがあります。話がいろいろとごちゃごちゃしますけれども,現在,ここで議論しているのは,既存の私益信託あるいは目的信託が,ある意味で同一の信託であることを継続しながら,公益信託の認定を受けて公益信託に変わるというタイプを考えていると思いますが,これと異なり,現在ある私益信託などが公益信託に変わろうと考えた段階で,この私益信託を残したままで,別に公益信託を作ってしまい,今までの私益信託から別に設立された公益信託に,信託財産を移転し,その上で私益信託は終了させるという方法が考えられます。アメリカで検討されているデカンタと言う方法です。これを私益信託から公益信託への移行にも応用するわけです。このように既存の信託からの公益信託への移行にはいろいろなタイプのものがあるので,どういうタイプをここで検討するのかということを整理した方がいいだろうと思います。その上で,私としてはできれば移行は認めるという方針でいくのがいいのではないかと思います。
○深山委員 私も,移行については柔軟に可能性を認める,ゴシックの提案の中でいえば丙案を支持したいと思います。既に能見委員あるいは沖野幹事が御指摘のように,いろいろな場面があって,確かに多少,考慮すべきことが違う要素もあるような気は私もするんですが,しかし,途中から公益信託への移行の可能性を認めるという立場を採るのであれば,結論としては同じような一つの規律で整理できるのではないかと基本的には考えています。能見委員が御指摘のように,最初から計画的なものと後にその気になった場合があり得るというのはそのとおりだと思うんですが,しかし,その限界というのは非常に微妙でして,当初から可能性としてはあり得るけれども,当面は考えていないというような,その中間的なものもあろうかと思いますので,最初から計画していたかどうかによってまるっきり区別する必要はないのではないか,あるいはそれは難しいのではないかと思います。
  途中から変えることを制限的に考えるのであれば,最初から計画していたときだけは切り替えを認めるというようなルールもあるのでしょうけれども,私はそこまで厳しくする必要はなくて,計画的な場合であれ,その後その気になった場合であれ,今回,ここで議論している公益認定の要件ないし認定基準を満たすのであれば,いずれにしても移行を認めていいだろうと考えます。沖野幹事が御指摘の,現行法の信託からの移行はどうかという点は,これも,要は新しい公益信託の規律における公益認定の要件を満たすのであれば,それは認められるということだろうと思います。
  更に残る問題を考えるとしたら,既存の公益信託と新しいルールの下での公益信託とが,認定要件がずれてきたときに,既存の公益信託はどうなるのかという問題は残るような気がいたします。これを同じように新しいルールができたのだから,新しいルールで認定を受けなければいけないとすると厳しいところが出てくるのかもしれない。そこは経過措置的に何か手当をする必要があるのかもしれないなと思っております。
○樋口委員 今の議論を聞いていて,アメリカで認められている信託について考えました。私益と公益をミックスしたタイプの信託のことですが,こういうものはアメリカでは認められていても,日本ではそもそも議論になることはないんだなと勝手に思っていたのがそうでないのかもしれない。それは私の誤解かもしれないということなんですけれども,アメリカではチャリタブル・リード・トラストというのとチャリタブル・リメインダー・トラストというのがあるわけです。
  チャリタブル・リード・トラストというのはチャリタブルの方が先にくるというわけなので,例えば私が大きい空地を持っていて,私自身はその空地を今のところ,使う予定もないから,それを公園で,あるいは遊び場で誰にでもとにかく使ってもらいたいという形で,しかし,ずっとというわけにはいかない。だから,10年とか20年はそういう形で公益的に使ってもらいたいけれども,20年がたったらまた元へ戻って私の子どもか孫か何かがそれを使って何とかというようなこと,これは一番初めから計画してやるタイプのチャリタブル・リード・トラストというものなんですけれども,逆にチャリタブル・リメインダー・トラストというのは,初めに私益信託で10年間だけはここから自分の子どものために実益を上げておきたい,しかし,子どもも10年たてば大きくなるので,その後はこの財産を公益のために使うというようなものが認められているわけです。
  それで,税法上は公益に充てられた部分だけ税法上の効果を付けてあげようということになります。それによって,そういうインセンティブを,つまり,そんな中途半端なことはやるなよと言われそうなんですけれども,私的な利益というのと公的な利益と両方をとにかく実現したいという人もいるという話で,今日の今の話はどうも何かそういうことが日本でももしかしたら可能性があるのかなという感じがしたんですけれども,誤解でなければいいと思っているんです。
○新井委員 結論的には丙案を支持したいと思います。公益を目的とする目的信託というのは,今回は無効にはしない,有効という扱いになりますので,そういう公益を目的とする目的信託が公益信託の要件を満たすのであれば,それは公益信託として承認していいだろうと思います。それで,私益信託であっても公益の要件を満たした場合には公益と認定するというのは私益信託から公益信託の転換が非常に重要であろうという意味もありますので,これもいいだろうということで丙案を支持したいと思います。
  それで,一度,公益信託になったものが再び目的信託なり,私益信託に転換できるか。今,正に樋口委員の御指摘になった点ですが,私はこれは認めない方がいいと思います。なぜかというと,一度,公益信託になった以上は社会全体に出えんしたと考えた方がいいでしょうし,更に公益信託がまた目的信託になったり,公益信託が私益信託になったときの法律関係が非常に複雑になるということで,目的信託から公益信託への転換,それから,私益信託から目的信託への転換は可能ですけれども,一度,公益信託になったものは更なる転換は認めないと私は考えたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○林幹事 弁護士会の意見としては,深山委員が述べたように丙案ですが,参考までに,弁護士会の議論で出た具体例として,特定の病気に罹患しているAさんのために私益信託を設定していたけれども,一定の時期以後には,Aさんだけではなくて,ほかの同じ病気の人たちに対する信託としたいので,公益信託に移行するというものがありました。こうした事例はこの論点に適した事案だと思います。
  それから,ここでは私益信託から公益信託への場合を専ら議論していますけれども,その逆はどうなるのかという議論が弁護士会でもありました。それで質問ですが,その論点は,後に別のところで議論するという前提なのか,確認させていただければと思います。
○中辻幹事 公益から私益への転換というのは,別にまた議論させていただければと思っております。
○中田部会長 24ページの下の方にあるのがそれですかね。
○中辻幹事 そうです。
○吉谷委員 私益信託や目的信託から公益信託に転換するということに異議を唱えるつもりはないのですけれども,結論としては丁案であるということです。今,お話を聞いておりましても,どうして信託を終了して再度,公益信託を設定しないといけないのかという理由が私には全く分からなかったんです。実務的な考え方からいうと,変更手続というものをするよりも終了して新規のものを作ることに,何かプラスアルファの手間があるとは余り思えなく,制度にいろいろな道を設けるということが利便性を向上させるかというと,必ずしもそんなことはなくて,逆に使う側はどれを使うんだろうと迷ってしまうと思うんです。ですので,終了して新規という方法を採ることができないような類型があるのであれば,それのためにこのような制度を認めてあげてもいいのかも知れないんですけれども,そのような例を思い付きませんでしたので,丁案賛成とさせていただきます。
○道垣内委員 どれに賛成というわけではありませんが,乙案について一言だけ申し上げたいと思います。信託目的の変更というものは,委託者,受託者,受益者の合意があればできるわけですよね。そうすると,それが「実質的に公益」というのは本当はよく分かりませんで,特定の受益者がいるのに,なぜ,実質的に公益になり得るのかというのがよく分からないんですけれども,技術的には,どんな私益信託であっても公益に目的を変更するとともに,信託法258条3項に関わらず,受益者の定めというものを廃止でき,かつ公益認定の申請ができるという制度を考えることになるのかなという気がしております。したがって,乙案が実質的に公益を目的とするということの意味もよく分かりませんし,また,公益信託の認定を受けることと同時に,受益者の定めを廃止するということが258条3項の例外として認められると,技術的には整理されるのではないかと思います。乙案だけですと具体的にどういう手続なのかが分かりにくいかなと思いました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私も深山委員とほぼ同じで丙案に賛成します。公益信託法は多様な公益への取組を許容して柔軟に対応することにより,公益活動の促進を図ることが望ましいと考えますので,入口は自由で,甲案のような公益を目的として設定された認定を受けていない公益信託や,乙案のような実質的公益目的の私益信託も,信託行為の変更と公益認定基準を満たす信託とした上で公益信託認定を受けることを許容するのが,柔軟な公益活動の促進につながると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほどの吉谷委員の終了すればよいという点ですが,終了することがふさわしい場合もあるかもしれませんが,また敢えて私が申し上げる必要もないのかもしれませんけれども,当初信託設定の目的が,先ほど幾つか林幹事が挙げた事例の中には,当初私益といいますか,ある特定のがん患者のためで,その後,公益という事例がありましたが,それは気持ちが変ったというよりも,当初から信託設定の目的だったと思います。またその後,委託者たるその方が亡くなっているということも考えられ,そのときは再度信託を設定することは難しく,さらに委託者が存命しているか,していないかということにかかわらず,そういう信託というのはあり得ると思います。
○神田委員 確認的というか,今の点とも関連するのですが,先ほど樋口委員がおっしゃった例というか,能見委員が最初におっしゃった言葉でいうと偶発的でないというか,当初,委託者が10年間私益で,あと,10年たったら公益,あるいは逆に先に10年間公益で,あと,私益というものは,一番最初に設定するときに認定してもらわないと困るのではないでしょうか。10年たってから認定を求めなさいと言われたって生きている保証はありませんし,逆に公益から入った場合も10年たってやめればいいでしょうといっても,やめるときに自分はいないかもしれないわけですから。そういうことでいうと,入口で全部一括して一部公益というのですかね,何というのかよく分かりませんけれども,設定する時点で認定をしてもらわないと困ると思います。そういうものも認めないということなのか,何らかの条件の下で認めるのかということは,はっきりさせた方がいいと思います。
○樋口委員 吉谷委員の言う実務的な観点というのは,私も理解できるところなんですけれども,2点あって,一番初めに,結局,決めておくということが,ある場合に重要なことがあるわけです。変更あるいは終了で対処すればいいではないかといったって,10年先には先ほど小野委員も言っておられたように,自分は生きているかどうかも分からないわけです。この時点でこういう仕組みを作っておきたい。これは現時点で確定するわけです,その意味では。10年間の公益とか,あるいは10年間の私益とか,その後はという形で,そういうものを認めるかどうかというのは一つの考え,どういう態度をとるのかということで,そういうのはアメリカでは認められているという紹介を申し上げただけです。
  それから,終了すればいいかというのは,つまり,10年後に生きているかどうかは分からないというのと,もう一つ,終了するというのはすごく私はコストが掛かると思うんです。信託財産をその段階で何らかの形で処分せざるを得ないかもしれないし,今まで運用していたものを何かでやめないといけないのかもしれないから,実務的に考えても,そうではなくて運用はそのまま流しておいて,目的が今度は変わったんですよという形のものにするという実務的利益はあるんじゃないかなと,終了すればいいではないかということではないのではないかと,実務家でない私が言うのも説得力がないんですけれども,そう感じました。
○能見委員 今,樋口委員が言われたことを私も言いたかったのですが,私の言葉で言い換えますと,既存の信託がそのまま公益信託に変わる場合と,一旦,終了させて新たに公益信託を立ち上げる場合とで一番違うのは信託を清算するかどうかというところだと思います。今までの信託,助成型の公益信託の場合には債務を負っているということは余りないでしょうけれども,事業型の公益信託というのが出てくるとなると,英米などで現実にどの程度,そういうものがあるか分かりませんけれども,事業を行う上でいろいろ債務を負担している場合もあるのではないかという気がいたします。行政機関等による監督がある公益信託の場合には債務超過になることはあまりなく,債務はあっても積極財産の方も多いのでしょうけれども,他のタイプの信託に変更するためには,一旦,これを清算しろということになると,今,樋口委員が言われたように積極財産を処分しなければいけないことになる。これをしなくても既存の信託を公益信託に,あるいはその逆に変えられるという方法があるということは非常に重要なメリットではないかと思います。
○吉谷委員 樋口委員がおっしゃった事例というのは,そういうこともあるのかなとは思ったんですけれども,そうすると,逆に10年先の公益認定を今のうちにできるのかというような問題が出てくるのではないかなと,まず,思いました。ですので,そういう問題をクリアする必要があるということかと思いました。あと,清算の手続のところなんですけれども,必ずしも資産とか債務とかを処分したりする必要もないのではないかなとは思っております。そういうものは私どもの経験では,それほどにはないのではないかと思っておりますので,実際に事業型でどういう場合にはそういうことが必要なんだということをもうちょっと突き詰めて検討した方がいいのではないかなと思います。ですので,私どもの考え方は余り必要でない制度を作ってしまうことは無駄なので,法的に同じ信託でないとできないということなのであれば許容すべきかもしれないけれども,そういうニーズが本当にあるんだろうかということをお聞きしているということでございます。
○中田部会長 関連する御意見がもしないようでしたら,山本委員,お願いしたいと思います。
○山本委員 少し戻って,道垣内委員がおっしゃられたことでおそらく示されているのだろうと思うのですが,乙案の内容について確認させていただければと思います。この考え方に従って規定を設ける場合に,実質的に公益を目的とする私益信託であることが,信託の変更を経て公益信託の認定を受けることの要件になるように見えるわけなのですけれども,そのような意図でこれは書かれているのか。それとも,信託の変更を経て公益信託の認定を受けることができるようなものは,元々,実質的に公益を目的とする私益信託だったのだろうということを表現しているだけなのか。この点が少し分からなかったものですので,確認をさせていただければと思います。
○中田部会長 先ほど道垣内委員から御指摘いただいた点,信託法258条3項の例外規定を設けることになるのかどうかという点も併せて御説明いただけますでしょうか。
○中辻幹事 事務局としましては,乙案を採る場合には信託法258条3項の例外規定を公益信託について設けた上で,受益者の定めはあるが実質的に公益を目的とする私益信託を受益者の定めのない信託に変更すると同時に,その時点で公益信託の認定を受けることを可能にするということを考えておりました。実質的に公益を目的とするという言葉の外縁は不明確で認定時における判断が難しいかもしれませんので,道垣内委員と山本委員の御指摘を踏まえて,引き続き検討したいと思います。なお,私どもとしては,全ての私益信託が公益信託成りできるようにすることまでは想定しておりませんでした。先ほど林幹事が例として挙げられた一人の患者の方のために私益信託を設定したような場合は,公益に近いケースもあるのでしょうけれども,純粋私益の信託が公益信託の認定を受けることを可能とすることまでは想定していなかったということです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 今の山本委員の質問と中辻幹事の最後の説明は,何となくずれを生じたような気がするんですが。結局,実際問題としては全ての私益信託が公益信託になり得るわけではないということを言っているだけで,最初から実質的な公益信託であることを言わば要件として,そのようなものについての転換のことだけを想定しているわけではないということでいいのだろうと私は思っているんです。お答えの趣旨なんですけれども,結果としてそうなるということであって,元々,実質的に公益を目的としたということを要件にはしていないということでよろしいんですよね。多分,そういう御質問だったと思うんですけれども。
○中辻幹事 そのような理解もありうるとは思いますけれども,私どもが事前に検討している段階では純粋私益の信託が公益信託成りすることまでを認めるニーズというのはないが,実質的に公益を目的とする私益信託が公益信託成りするニーズはあるかもしれないと,そうであるならば,実質的に公益を目的とするか否かまでを含めて,公益信託の認定の段階で認定機関が判断して公益信託成りを許容することもあり得るのかなと考えておりました。ただし,なかなか,そこまで含めて公益信託の認定機関が判断を行うのは現実的には難しいということであれば,信託の変更を経て公益信託の認定を受けられた信託が,結果的に見れば,後戻りしてもともと実質的に公益を目的とする私益信託だったということになり,実質的に公益を目的としていたか否かは転換の要件としては不要になるという理解もあり得るということなのだろうかと思います。
○深山委員 しつこくてすみません。例えば先ほど林幹事が言ったように,最初は自分の息子,がんにかかった息子のために使うために財産を拠出し,それを例えば亡くなった後はがん患者一般のために使うというのは,元々は確かに純粋に私益といえば私益なんだと思います。そういう純粋私益のものであっても,今までは私益でしたけれども,明日からは純粋公益にしますというような,そういう移行を考えたときには,元々が私益であったとしても,明日から純粋公益になるということでその要件を満たすのであれば,狭き門かどうかはともかくとして,理論的には純粋私益から純粋公益への転換もあり得るという制度でいいのではないかなと私は思っていますので,要件ではないですよねという確認をしたかったんです。
○中辻幹事 深山委員の御意見はよく分かりました。ただ,事務局で乙案を事前に検討していた段階では,部会資料34の24ページの中ほどにも例として挙げておりますけれども,委託者が受益者を兼ねている歴史的建造物の保存を目的とする私益信託,例えば京町屋の保存を目的とする私益信託が公益信託成りすることを想定しており,林幹事が例として挙げられた一人の患者の方のための私益信託が公益信託成りすることまでは考えていなかったということです。ですから,林幹事と深山委員の御意見を否定しようとは全く思っておりませんけれども,実質的に公益を目的としていた私益信託であることを公益信託への転換の要件とするかも含めて引き続き検討させていただければと思います。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。では,この点につきましては様々な御意見を頂きました。また,乙案の言う公益的私益信託よりももっと広げるという案も出たところですけれども,それらも含めて更に検討を進めたいと思います。
  それでは,部会資料35に進みます。第1の「公益信託の監督・ガバナンスの全体像」と「第2 公益信託の受託者」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私の方から御説明いたします。
  まず,「第1 公益信託の監督・ガバナンスの全体像」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託関係人による自立的な監督・ガバナンスの仕組みを確保した上で,それを公益信託の認定を行う行政庁等の外部の第三者機関が監督するものとすることでどうか。」という提案をしております。
  公益信託の監督について,公益法人制度改革の趣旨を踏まえて公益信託を民間による自律的な公益活動と位置付けてこれを促進しようとするのであれば,まずは公益信託内部の信託関係人による自律的な監督・ガバナンスの仕組みを確保することになると考えられます。他方で,公益信託の認定の実効性を確保するためには,公益信託の認定を行う外部の第三者機関が認定後引き続き公益信託の監督を行う必要性が認められることから,現在の公益法人の仕組みも参考として,公益信託の監督に関する権限を公益信託の認定を行う行政庁等の外部の第三者機関に持たせることを提案しております。
  続いて,「第2 公益信託の受託者」について御説明いたします。本文では,「公益信託の受託者の権限・義務・責任は,目的信託の受託者の権限・義務・責任と同一とすることでどうか。」という提案をしております。
  受託者は,信託の定義上必須の信託関係人に位置付けられるところ,その位置付けは受益者の定めの有無により異なるものではございませんので,受益者の定めのある信託に関する信託法の規律は,基本的には公益信託の受託者にも適用されるべきであると考えられます。また,信託法第260条第1項は,目的信託の受託者の義務を受益者の定めのある信託よりも加重しておりますが,公益信託を目的信託の一類型として位置付けるか否かにかかわらず,受益者が存在しないために受託者に対する監督が十分に機能しないおそれがあるという点では,公益信託と目的信託とで共通するところがございますので,目的信託の受託者に関する信託法第260条第1項の特例も,公益信託の受託者に適用すべきであると考えまして,このような提案をしております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきたいと思います。まず,第1,これは概要のようなものですけれども,これについていかがでしょうか。
○平川委員 基本的に賛成いたします。すなわち,民間による公益活動の受け皿とするために公益信託制度を活用するという観点から,信託関係人による自律的な監督やガバナンスの仕組みを構築しつつ,公益信託の立上げにおいて認定を行う外部の第三者機関が補足的に公益信託の監督の一部を担うということにより,公益信託のガバナンスを揺るぎないものにするという考え方に賛成するものです。特に公益法人同様の税制整備を目指す観点から,税制に耐えられるような自律的な規律を念頭に置くべきであると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 公益信託の関係による内部的,自律的なガバナンスの仕組みを確保するという提案に賛成いたします。更に今回の全体の議論にも係るところかとは思っておるんですけれども,資料でいいますと3ページの(注)のところに,助成型と事業型の区別あるいは受託者の属性によって認定や監督の取扱いが区別される可能性があると書かれているところについて,まず,コメントしたいと思います。現状の公益信託では信託銀行が受託者となることによりまして,主務官庁の強い監督権限が現実には行使されていなくても成り立っているということがございますので,それをまず改めて御認識いただければと思います。
  その上で,信託兼営法という金融規制の枠組みにより活動している信託銀行が受託者であると,信託目的に沿った運営であることが受託者の内部で重層的にチェックをされている。それによって運営委員会の助言によって助成を実施し,信託管理人が事後的な検証をするということで十分であると主務官庁からも考えられているんだと理解しております。ですので,今後も助成型の公益信託を信託銀行が行う場合には,同様の体制で十分であると考えております。これがいたずらに重装備になることは望ましくないと考えておりますので,(注)の考え方というのはあり得るものだと考えております。
  この後の議論で,信託協会としては,信託管理人が監督を行い,委託者の監督は任意のものであって,運営委員会は助言機関として任意に設置するということを主張していくつもりでありますけれども,気になっておりますのは,本日議論されていることがガバナンスとして最低限の必要な枠組みでありまして,受託者の属性や公益事業の内容によっては信託管理人などが財産の使用や管理の状況を厳しくチェックするということが必要な場合もあるだろうと考えます。そのような場合には,例えば現状のようにボランティア的な信託管理人が一人というようなもので足りるのかどうかということも問題になってくると思います。ですので,それぞれの公益信託の受託者が自律的なガバナンス体制というのを構築して,それが機能するということを証明して,第三者機関が納得できるようにしていくという必要があるのではないかと考える次第です。
○中田部会長 個別的な論点についてはまた御検討いただくことにしまして,第1につきましてはこの程度でよろしいでしょうか。
  それでは,第2に進ませていただきます。「第2 公益信託の受託者」について御意見を頂きたいと思います。
○小野委員 細かい各論の前の議論として,専門家たる個人が受託者になるという場合を考えてのことでありますが,限定責任信託の場合ということも考慮してよろしいのかと思います。とはいっても,信託法上,限定責任信託における受託者の義務はそうでない一般の信託と異なる義務になっているという趣旨ではありませんけれども,今までの論点にはなかったような気がしましたので,一言,添えたということです。
  また,専門家が受託者になるうんぬんという議論から離れますけれども,今の目的信託は自己信託の目的信託というのは制度上,法律上できませんけれども,公益信託の場合ですと自己信託の目的信託を排除する理由はないと思います。これも立法論ですけれども,その場合の受託者の義務,自己信託だからといって受託者の義務は違うところがないと理解しておりますけれども,そういう意味においても,論点としてそういう観点もあるということを申し添えたいと思います。あと,前も発言したことですけれども,受託者の義務は任意法規化されておりますけれども,ここでいう受託者の義務が同じということは,そこも含めてなのか,そういうような議論はまた別途するという趣旨なのかというような制度の立て付けの議論もあるかとも思います。
○平川委員 公益信託の受託者の権限・義務・責任については,目的信託の受託者の権限・義務・責任と同一とするという考え方に対しては,結果的に公益信託の受託者の権限・義務・責任が目的信託の受託者のそれと信託法に定められているものと同様,類似のものになるという意味においては賛成しますけれども,しかし,目的信託の信託法261条1項の読み替えを経て公益信託の受託者にも適用されるとした上で,それゆえ,信託法260条1項の特例も公益信託の受託者に適用されるという考え方には反対します。目的信託からスタートして公益信託の受託者の権限・義務・責任を考えるべきではなく,信託法の一般規定における受託者の権限・義務・責任をそれぞれ検討して,公益信託における受託者の権限・義務・責任を検討し,適宜,必要な読み替えをすべきであると考えます。
  その理由は,そもそも,第34回会議で述べましたとおり,公益信託は目的信託の一類型であると位置付けることに反対であり,目的信託において定められた受託者の権限・義務・責任を出発点として,公益信託の受託者の権限・義務・責任を議論するといたずらに議論を複雑にします。なぜなら,さきの項目でも論じられましたとおり,公益信託には公益信託内部の受託者を含めた信託関係人による自律的な監督やガバナンスの仕組みが欠かせないのに対して,必ずしも公益を目的としない目的信託,例えば永代供養とか,ペットや植物の世話などの信託においては,受託者に対する他の信託関係人の監督の在り方や関わり方も異なってきますので,目的信託に適用のある条文からスタートして,公益信託への適用や読み替えを考える必要も実益もなく,かえって事を複雑にすると思います。
  一例を挙げますと,信託法260条の目的信託においては,委託者に受託者に対する一定の監督機能を与えて一般規定を強化していますけれども,公益信託では委託者の権能は極力制限すべきであると考えます。委託者の権利を公益信託において強化することは,公益法人制度において,財団法人において,出えん者の権利がほとんどないことに比較しますと,その均衡を失します。また,公益信託の期間は永久であることもある一方,自然人である委託者については永久存続はあり得ませんし,また,その相続人に権限が相続されたりすることを考えますと,委託者を前提とした制度は実務的に実行が不可能であると考えます。
  具体的には,4ページの1の(2)の直前にあります委託者と信託管理人の合意による信託終了のうち,例えば委託者を外すべきで,特に相続人に承継されると解する場合には問題が多いと思います。また,1の(2),同じ4ページですけれども,委託者に対する通知・報告義務等,これも一般規定の信託法145条4項各号を読み替えるものですけれども,これも相続人にまで適用されると解する場合には,事実上,非常に実務的に不可能であると考えます。そういうふうなものですから,目的信託の規定の読み替えをもって受託者の権限・義務・責任を考えるという考え方には反対いたします。
○中田部会長 ありがとうございました。
  必ずしもここでの提案は読み替えをしようということではなくて,最初に平川委員がおっしゃったように結果として同様のものになるということが今回の太字で書いていることだと思います。それから,委託者の権限や義務につきましてはまた後ほど別途,項目がございますので,そこで議論いただければと存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 7ページに公平義務についての言及があります。それで,ここではそこのパラグラフの一番最後,公平義務と類似の義務を観念すべきかどうかが問題となるのですが,利益を受ける人を受給権者というかどうかは別にして,同時に複数の受給権者がいる場合は,当然,公平義務が働くわけです。目的信託と同一の義務と考えるから,こういう問題が出てくるので,実質的なアプローチをすべきだと思いますので,今,中田部会長がおっしゃいましたけれども,目的信託の受託者の権限・義務・責任と同一とするということよりも,公益信託の実質を捉えて受託者のいろいろな権限を規定していくというアプローチの方がいいと思います。その一つの例として公平義務の問題を捉えたらどうかなと思います。
○道垣内委員 ゴシックのところを主に議論するんでしょうから,別に解説のところにいろいろ言及する必要はないのかもしれませんが,先ほどの公平義務なんですけれども,なぜ,わざわざ,公平義務は忠実義務違反ではないとこの部分に書かなければいけないのかがよく分かりません。こういう解釈論にわたる問題に言及すべきではないと思います。
○中田部会長 公平義務を忠実義務と関連付けるのか,善管注意義務とするのか,これは一つの解釈論にすぎないではないか,一つの立場を前提とすべきではないのではないかという御指摘だったと思います。
○道垣内委員 前提にもなっていないような気がするんですよね。新井委員がおっしゃるような問題が実質論としてはあるわけであって,それが何義務の範囲なのかということは,余りここでは関係ない話ではないかという気がします。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 先ほど小野委員がおっしゃった最後の点だと思うんですが,一番気になるのは公益信託の受託者で権限・義務・責任の話,特に義務のところなんですけれども,今,ここで言っているのは,その義務について信託法は一般に任意規定だという話にしているのが公益信託ではどうなのかというのは,ここで正に議論すべきことなのではないかなと思うんですが,いかがなものなんでしょうか。
○中田部会長 それについて更にもし御意見があれば。今の点を含めて御議論いただければと思いますけれども。
○小野委員 法律論としてお伺いしたいんですけれども,目的信託において既に存在している問題ですが,受益者がいない場合に受託者の義務,すなわち債務の相手方たる債権者というものをどう観念するか,いずれ,信託管理人の議論が出てきて,これが必置になれば信託管理人と考えることが可能で,その点,後の議論かもしれません。しかし,現在の目的信託ですと必置ではないので,多分,委託者に対する債務として認識して,とは言っても,履行対象は信託財産ということになるのではないかと思います。この点について,公益信託において,果たして目的信託とパラレルに考えることができるのか。理屈っぽい議論で申し訳ないんですけれども,債権者は誰なのかという辺りも,せっかく研究者の方が多くいる場なので議論の対象としていただければと思います。
○中田部会長 今の点について。
○道垣内委員 今の点ではなくて,1個戻って樋口委員のおっしゃったことに関係するんですが,非常に重要な御指摘だろうと思います。つまり,例えば受託者の利益相反行為というものがあって,そして,それは信託行為の定めで許容されていればよい。受託者だって受益者の一人になれるわけだし,そういうふうなスキームとして出来上がって,受託者の関係会社を使ってもよいとなっているのならば,それはそういうふうな信託として存在し得るというのはわかります。
  しかし,受託者が現実に一定の利益を得られるような仕組みが,利益相反行為の例えば信託行為における定めという中で出来上がってしまっていれば,それは公益認定できないのだろうと思うんです。そうなると,もし,認定基準と同時に規定するという前提を採りますと,かなり丁寧に一つ一つを検討していかなければ,やっていかなければならないと思いますし,善管注意義務の話だってそうかもしれません。受託者が大変だから下げてもいいよという場合も一般にはあるでしょうけれども,公益信託はそれでいいんですかという問題はあります。原則形態として目的信託の受託者と大体一緒だよねというのは分からないではないんですけれども,1個1個についてはかなり丁寧な検討が必要だろうと思います。
○能見委員 小野委員が前から言われていた,公益信託におけるいろいろな受託者の義務の強行規定化は考えられないのかという問題については,私も前からその問題提起を受けて気にはなっていたところなんですけれども,ただ,非常に簡単に割り切って,公益信託では受託者の善管注意義務と忠実義務を強行規定にするということは考えられるかもしれませんけれども,公益目的の信託だからという理由だけでこれら義務の強行規定化を正当化することが私の内部ではしっくりきません。公益信託だからという点を強調すればするほど,道垣内委員の観点に近くなるかもしれませんけれども,何か公法的な規制が加わってくることはわかりますが,それを信託の,ここは公益信託といっても恐らく信託の私法的な仕組みのところを問題にしていると思いますので,そこに持ち込むのがなかなか難しいかなと思っています。そういうことでどう考えるべきか悩んでいるのですが,公益認定の際に,今の点も含めて,つまり,信託法上は任意規定であるということで善管注意義務や忠実義務を信託行為で変えてしまった場合には,変えられた状態を対象として公益認定の判断をするという形で対処するのが一番落ち付き所としてはいいのかなという感じを持っております。
○小野委員 強行法規化すべきという意見を持っているわけではありません。イメージとしては恐らく信託法と信託業法の関係に近いものがあって,信託法上,任意法規化されていても,信託業法上は強行法規化されています。信託業法上の規定が私法的効果のあるものが中にはあるのかどうかというと,その辺は解釈論に委ねられているかと思います。ですから,今,能見委員がおっしゃられたように認定基準の方で幾つかきちんと義務を立てていくということで,私法的な規律は本来の信託法の姿で考える。ということで,強行法規化が必要という議論ではなくて,論点として必要な議論かなと思って申し上げたわけでございます。
○小幡委員 議論の順番がよく分からないのですが,今の強行法規化の議論は,違反した場合の私法上の効力がどうなるかといった話の文脈ですよね。
○小野委員 そうでございます。
○小幡委員 ここにいろいろ書いてあるのですが,7ページの(7)の仮に公益信託の認定基準というところですが,ここも私法上の効力がどうなるかという話があって,これについてもおっしゃるように丁寧に見ていく必要があると思いますので,直ちにそれが強行法規化という話ではないと思うのですが,第1のところで「公益信託の監督・ガバナンスの全体像」というところについては,後でまたゆっくり議論しますからという話でしたが,そこでは,公益信託の制度の中での自律的なガバナンスをまずしっかりと仕組んで,更に,それでも必要であれば,第三者機関が監督するというのはよろしいですねという話なのかと思っていたのですが,そのときに第三者の監督というのは,一体,どのぐらいのイメージなのかということです。この点については,これから更に議論すればよいのかなと思っていたのですが,今の(7)のところでもある程度出てきています。ここで認定基準だけなのか,はっきりしませんが,監督権限についても,もしその機関が認定権限を持っていれば取り消すということになるのですが,例えば7ページのところに検査,勧告,命令等の措置を採り,そのような措置で足りない場合は,最終的に取り消すことができるという監督の内容が書かれていますが,これはまた後で議論するという理解ですね。
  というのは,どの程度のことを監督としてやるか。最終的には認定の取消しというのはあり得ると思うのですが,それ以外に,どのぐらい第三者機関が監督としての措置をとることを考えるのかというのが,例えば差止めのようなこと,あるいは立入検査をどのぐらいするかとか,その辺りは制度設計でとして,結構大変かと思います。後での議論ですねという確認ですが。
○中辻幹事 今回の部会資料では,公益信託内部の信託関係人の権限や義務について取り上げておりますが,次回の部会資料では,公益信託外部の第三者機関の監督権限,すなわち,新たな公益信託の認定を行う行政庁等や,裁判所の監督権限を具体的な権限の内容を含めて取り上げる予定です。なお,受託者と信託管理人の辞任・解任・新選任や情報公開についても次回の部会資料の項目として取り上げようと思っています。
○小幡委員 分かりました。
○平川委員 受託者の義務についての各論的な質問というか,確認なんですけれども,忠実義務について6ページの(4)にあるんですが,自己取引又は信託財産間取引をした場合に無効という信託法31条4項については,信託法31条2項2号に,受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たときは,自己取引や信託財産間取引ができるとしていることから,公益信託においても受益者の承認を信託管理人の承認などと読み替えるなどして,可能とすべきなのではないか,無効とまでしないで信託管理人の承認があったときには可能とすべきではないかと思いました。公益法人の場合は理事会承認で可能としていることの均衡からもそのように考えます。
  また,7ページの(6)で信託事務の処理を第三者に委託した受託者の責任についての確認なんですけれども,第三者への委託に当たり,選任,監督につき,善管注意義務違反や忠実義務違反があり,信託財産が損失が生じた場合には,受託者に信託法40条で損失填補義務や原状回復義務があると理解しますけれども,それで正しいでしょうか。例えば美術展示を目的とする公益信託で,受託者が展示等,事務委託された美術館が第三者の管理の失当により,美術品に損害を与えたような場合で,監督責任を問われるような場合です。それからまた,委託先の支出とか,受託者と特定関係のある者ではないとか,そういうような委託先の要件等については,別途,今後,検討する機会があると考えてよろしいでしょうか。
○中辻幹事 道垣内委員からも御指摘がありましたが,部会資料34で記載しました,公益信託の受託者の具体的な義務についての解釈論をこの場で議論していただくことは考えておりませんでした。ゴシックの部分で公益信託の受託者の権限・義務・責任を目的信託の受託者のそれと同一とすることを提案した上で,敢えて5頁以降に個別の権限・義務等の具体的な内容まで記載した趣旨は,これから受託者以外の信託関係人の権限・義務等を議論していただく前に,まずは実際に公益信託事務を行う主体である受託者がどのような権限・義務等を有しているかのイメージを共有していただいた方が良いと考えたことによるものですので,条文の解釈論に深入りしていただく必要はないのかなと考えています。そういうことでよろしいでしょうか。
○平川委員 了解しました。委託先の資格とか,そういうのはまた今後の項目に出てくるということでよろしいですか。
○中辻幹事 受託者から第三者への信託事務の委託について,委託先の資格などを今後の項目として取り上げるべきであるという御指摘として承りました。事務局としては受託者から第三者への委託について,一般の私益信託と公益信託とで異なる規律を設ける必要性があるとまでは考えておりませんが,御指摘は引き取って検討させていただければと存じます。
○平川委員 分かりました。
○中田部会長 目的信託との関係をどうするかということですが,最終的にどういう義務を設定するのが適当かを考える際には,どうしても既にある規律を参考にして検討するのが効率的だということで,ここに検討の結果が出ていると思います。これらの義務について個別に今,御指摘いただいたようなことも含めまして,こういう点にもっと注意すべきだということがもしあればお出しいただいて,更に検討を進めることにしたいと思います。今までも幾つか出していただいておりますけれども,ほかにございますでしょうか。
  それでは,もし更にお気付きの点があったら御指摘いただくことにいたしまして,今日,お出しいただきましたような指摘を踏まえて,一つ一つの義務について更に詰めて検討するということを進めたいと思います。
  ほかに,「第2 受託者」についてはございませんでしょうか。
  それでは,予定よりも早いですけれども,次の信託管理人についてはかなりボリュームがありますので,ここで一旦,休憩にさせていただきます。3時5分まで休憩にいたします。
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,再開します。
  部会資料35の「第3 公益信託の信託管理人」と「第4 公益信託の委託者」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私の方から御説明いたします。
  第3の「1 公益信託における信託管理人の必置」について御説明いたします。本文では,「公益信託をするときは,信託管理人を指定する定めを設けなければならないとすることでどうか。」という提案をしております。現行法では,遺言による目的信託の場合には信託管理人が必置とされている一方,信託契約による目的信託の設定時には信託管理人は必置とされておりません。しかし,公益信託については,許可審査基準において,いずれの方法による場合でも信託管理人が必置とされています。新たな公益信託制度においては,目的信託よりも委託者の監督権限が狭められ,かつ,従前の主務官庁による監督権限よりも外部の第三者機関による監督権限が縮小される可能性があり,その場合,公益信託の受託者の監督機能を期待される信託管理人の重要性は現在よりも高くなると考えられます。そうすると,信託契約による場合と遺言による場合とを区別せずに信託管理人を必置とすべきであると考えまして,このような提案をしております。
  第3の「2 公益信託の信託管理人の権限」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人は,目的信託の信託管理人が有している権限と同等の権限を有するとすることでどうか。」という提案をしております。まず,公益信託を目的信託の一類型と位置付け,公益信託において受益者及び受益権は存在しないとの前提を採用する場合において,信託法第125条第1項に基づく信託管理人の権限のうち,受益者又は受益権の存在を前提とする権限については,目的信託の信託管理人と同じく,公益信託の信託管理人の権限とする必要はないと考えられます。
  ただし,そのような受益者の定めのない信託の性質上除外される権限を除いては,信託法第125条第1項に基づく信託管理人の権限は,裁判所に対する申立権限を含め,原則として公益信託の信託管理人にも与えることが相当であると考えられます。もっとも,公益信託の受託者の辞任の同意権や受託者の解任の合意,信託の変更,信託の終了などについては,外部の第三者機関の関与の方法を含めて,目的信託とは異なった仕組みとする可能性もあり得ると考えております。
  第3の「3 信託行為の定めによる権限の制限の可否」について御説明いたします。本文では,甲案として,「信託行為の定めによって公益信託の信託管理人の権限のうち信託法第145条第2項各号の権限を制限することはできないものとする。」,乙案として,「信託行為の定めによって公益信託の信託管理人の権限を制限することは全てできないものとする。」という提案をしております。
  信託法第125条第1項ただし書は,信託管理人の権限を信託行為の定めによって制限することを認めております。しかし,新たな公益信託の監督・ガバナンスにおいては,先ほど述べたとおり,信託管理人の果たす役割が重要であることに鑑みると,遺言による目的信託の信託管理人の権限について,同法第258条第4項が同法第145条第2項各号(第6号を除く。)に掲げられた権限の制限を認めないことを参考として,これらの権限を信託行為で制限することはできないものとすべきであるとの考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。他方,新たな公益信託の監督・ガバナンスにおいて,公益信託の信託管理人が果たす役割を更に重視する観点から,信託行為の定めによって信託管理人の権限を制限することは全て禁止すべきであるとの考え方があり得ることから,これを乙案として提示しております。
  第3の「4 公益信託の信託管理人の義務」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人の義務は,目的信託の信託管理人の義務と同一のものとすることでどうか。」という提案をしております。公益信託の信託管理人は,信託目的の達成のためにその役割を果たすことが期待されているという点では,目的信託の信託管理人と共通します。そして,公益信託の監督・ガバナンスにおける信託管理人の役割の重要性に鑑みますと,公益信託の信託管理人も信託法第126条第1項の善管注意義務及び第2項の誠実・公平義務を負うものとすべきと考えられることから,このような提案をしております。なお,公益信託の信託管理人について,信託法第59条第4項のような規定を設けるべきか否か,また,信託法第40条第1項の損失填補責任を負うものとすべきか否かについては,これらを否定する提案をしておりますが,これらの点についても併せて御意見を頂ければと存じます。
  第3の「5 公益信託の信託管理人の資格要件」について御説明いたします。本文では,甲案として,「信託法第124条の信託管理人の欠格事由に該当しないこととする。」,乙1案として,「【甲案】の欠格事由に加え,公益法人認定法第6条第1号と同様の欠格事由に該当しないこととする。」,乙2案として,「【甲案】の欠格事由に加え,委託者又は受託者及びこれらの者の親族,使用人等の委託者又は受託者と特別の関係を有する者に該当しないこととする。」,乙3案として,「【甲案】の欠格事由に加え,当該公益信託の目的に照らして,これにふさわしい学識,経験及び信用を有する者であることとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託の信託管理人も信託行為で適切な者を選任することで足り,公益信託の信託管理人について信託法第124条の信託管理人の欠格事由のほかに資格要件を法律上加重することは不要であるとの考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。
  他方,公益性の確保の観点から,公益信託の信託管理人については信託法第124条の欠格事由よりも資格要件を加重すべきであるとの考え方があり得ることから,これを乙案として示しています。
  乙案としましては,乙1案から乙3案まで三つの案を御提案させていただいております。具体的には,公益法人認定法第6条第1号と同様の欠格事由に該当しないことを公益信託の信託管理人の資格要件とします乙1案,現行の許可審査基準6(2)イ②と同様に,委託者又は受託者及びこれらの者の親族,使用人等の特別の関係を有する者に該当しないことを信託管理人の資格要件とします乙2案,許可審査基準6(2)イ①と同様に,公益信託の目的に照らして,これにふさわしい学識,経験及び信用を有することを信託管理人の資格要件とします乙3案の3案を提案しております。
  なお,部会資料16ページの(注1)に記載しておりますが,これらのうちの複数を資格要件とすることもあり得ると考えております。また,(注2)に記載しておりますとおり,これらは公益信託の認定基準とすることも含めて検討する可能性があるものです。他方で,現行の許可審査基準6(2)イ③には,「公益信託の信託管理人が原則として個人であること」という資格要件がございますけれども,信託管理人に法人が就任すること自体は信託法上許容されておりますし,公益信託の信託管理人に法人が就任することにより効果的な監督が期待できる場合もあり得ると考えられますことから,信託管理人が原則として個人であることを資格要件とすることは,提案からは外しております。
  なお,公益信託の信託管理人が事後的に資格要件を喪失した場合には,当該信託が無効となるのではなく信託管理人の任務終了事由とすること,また,公益信託の信託管理人について任期制を法律上義務付けることはしないことも提案しておりますので,併せて御意見を頂ければと存じます。
  第3の「6 公益信託の信託管理人の報酬」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人の報酬について,当該信託管理事務の内容,当該信託の経理の状況等を考慮して,不当に高額とならない範囲の額又は算定方法が信託行為で明確に定められていることを必要とするものとすることでどうか。」という提案をしております。公益信託の信託管理人の報酬は,公益信託の信託財産から支出されますから,その報酬が不当に高額になることは適切ではない一方,信託管理人が実効的にその監督権限を行使することを確保するためには,報酬面でのインセンティブを与えることも必要であると考えられますことから,このような提案をしている次第でございます。
  第4の「公益信託の委託者」について御説明いたします。本文では,甲案として,「信託の利害関係人が有する権限のみを行使できるものとする。」,乙案として,「【甲案】の権限に加えて,受益者の定めのある信託の委託者が有する権限を行使できるものとする。」,丙案として,「【甲案】及び【乙案】の権限に加えて,目的信託の委託者が有する権限を行使できるものとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託の公平な運営を確保する見地から,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだけ排除することが望ましいことに加え,現行信託法は原則として委託者が信託に関する各種の権利義務を有しないとの前提を採っていることを理由として,公益信託の委託者には,原則として信託の利害関係人が有する権限の行使を認めれば足りるとの考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。他方,公益信託の委託者が一定の監督権限を行使することはむしろ望ましいという観点に立った上で,信託管理人との重複を避ける観点から,原則として受益者の定めのある信託の委託者が有する権限の行使を認めれば足りるとの考え方もあり得ることから,これを乙案として示しております。さらに,乙案の基本的な考え方を採用しつつ,公益信託の信託管理人に契約による目的信託の委託者が有している監督権限を持たせるとしても,それと重複する形で公益信託の委託者が契約による目的信託の委託者が有する権限を行使することを認めるべきであるとの考え方もあり得ることから,これを丙案として示しております。
  以上の点について御審議いただければと思います。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。
  まず,「第3 公益信託の信託管理人」ですが,これは大部のものですので幾つかに分けて御審議いただければと思います。まず,1,信託管理人の必置について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論は異論なく賛成でございました。自律的なガバナンスという観点からも,信託管理人を設置して,それにしかるべき権限を与えガバナンスを行っていくということについて異論はありませんでした。
○中田部会長 ほかに。
○平川委員 私も賛成します。公益信託の自律的ガバナンスを確立する上で,受託者に対する監督の担い手として欠かせない信託関係人であると思います。資産の拠出者である委託者は,信託が設定された後の関与は極力避けるべきと考えておりますので,この意味でも受託者の監督者として信託管理人の存在は欠かせないものと思います。
○中田部会長 今,お二人から必置に賛成という御意見を頂きましたが。
○山田委員 必置に私も賛成ですが,発言したい点はその点ではなくて,ゴシックでないところについて発言したいんですが,9ページの第3の1の補足説明の中の下から二つ目の段落ですが,ここに書いてあるのは信託法258条4項前段の規定の仕方を拡張して,認定基準とはしないという考え方を示されていると思います。ゴシックではないので,事務当局としては,今,こういうことで準備していますという性格のものかと思いますが,なぜ,認定基準にしないのかなというところがよく分からないというのが発言の趣旨です。
  少し敷衍します。遺言信託で受益者の定めのない信託をした場合には,信託管理人を置かなければならないと。確かに258条4項はそう定めているのですが,これは認定という手続がその後にないので,そこで止まってしまっていて,そして,もし遺言の中に信託管理人の定めがなかった場合にはどうしたらいいかということが5項と6項で補足的なというか,補充的な手続が定められているものと思います。それに対して,ここで考えている公益信託は遺言の場合もあるでしょうが,契約の場合もあって,そうすると,信託管理人を指定する定めを設けなければならないというのを契約に基づいて成立する公益信託について考えると,もし信託管理人について定めがなかったらどうなるのかということを考えました。
  しかし,それだけでその信託契約を無効にするというのはやや効果が大きすぎるなと思います。認定基準のところでそれを備えていなければ,あるいは信託管理人を置くための信託契約の中に定めを置いていなければ,認定するための要件を満たさないと,そういう仕組みにしてよいのではないかなと思うのですが,積極的に認定基準にはしないという理由があるようであれば教えていただきたいと思います。今,御説明いただいた後ろの方には,ゴシックのところの(注)として認定基準に含めることも可能性として考えるというのが複数ありまして,それと同じような性格のものではないかなと考えたところであります。
○中田部会長 関連する御意見はございますでしょうか。
○中辻幹事 山田委員におかれては,御指摘をありがとうございました。私どもとしては,部会資料35の9ページに書いてあるとおり,信託法258条4項には遺言による目的信託における実体法上の規律として信託管理人の必置が定められていることからすると,信託法の方から実体法的に規律するというのが素直な選択肢ではないかと考えておりました。ただ,遺言による目的信託ではその後の5項とか6項の手続があるのと異なり,公益信託は契約により設定されるものもあるので,少し異なる観点からこの問題を見た場合には,信託管理人の必置を公益信託の認定基準とする選択肢もあり得るのではないかという御指摘であると受けとめましたので,引き取って検討させていただきます。
○山田委員 信託法に書く方がより大きい,強いという,そういうイメージがあるのでしょうか,あるいは必ずしもそうではないんでしょうかね。
○中辻幹事 恐らく受託者が欠格事由に該当した場合と似ている話なのかもしれませんけれども,信託管理人が存在しない場合に実体法上公益信託が直ちに無効になるとするまでの必要はなくて,信託管理人が辞任などで存在しなくなったときには,新たな信託管理人を選任するなどの方法により対処し,公益信託自体は存続させるという考え方が十分あり得ると思います。それが信託管理人の必置を実体法上の規律とするか,認定基準とするかにより変わるものかどうかというのはまた考え込む必要があるように感じております。
○山田委員 分かりました。ありがとうございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  それでは,1につきましては必置とするということについては御異論がございませんので,その方向で取りまとめさせていただき,それを信託法の中で書くのか,それとも認定基準とするのかについては御指摘を踏まえて,更に検討するということにしたいと存じます。
  続きまして,第3の2から4,これは信託管理人の権限と義務に関するもので相互に関連いたしますので,この三つについて併せて御意見を頂きたいと思います。
○能見委員 権限と義務と両方に関係する問題なんですが,基本的にはここに書いてありますように,権限に関しては目的信託の信託管理人が有している権限と同等ということでよろしいと思いますけれども,先ほど平川委員から言及がありましたけれども,例えば利益相反行為があるときに,受益者がそれを承諾すれば,受益者は信託の利益を受ける人間ですから,それ以上の問題は生じないと思いますけれども,信託管理人がそれをする場合は少し異なるように思います。信託管理人も信託法125条によってですかね,受益者に代わって利益相反行為を同意するということができるのだと思いますが,信託管理人の同意は,私益信託において受益者自身が同意したときとは違う点があるように思います。
  公益信託の財産の管理は受託者が基本的にやっていますけれども,信託管理人は,その受託者を更に監督するという立場から,いろいろの権限が与えられていますので,利益相反行為への同意について言えば,その同意が不適切であったというときには,信託管理人の責任が生じる。恐らく善管注意義務違反ということになるのだと思います。先ほど言いましたように,それが受益者自身の同意であれば,それが不適当であったとしても,受益者自身の利益に影響するだけで,それ以上の問題は生じない。このように信託管理人の権限は,受益者の権限と同じもののように見えますが,それが持つ意味などは全く同じではないということをきちっと押さえておくことが必要であろうと思います。
  このように考えますと,信託管理人の行為が責任につながってきたときに,その責任というものもそれなりにきちんとした責任でなくてはいけない。例えば,善管注意義務違反の責任,その効果は何なのかが,一般の信託の信託管理人のところの規定でも余りはっきりしていません。恐らく信託財産に対する損害賠償義務は,最低限,認められるでしょう。それが更に信託法40条の責任に結び付くのかどうかというところは,難しい問題があると思いますけれども,私としては,信託管理人というものが公益信託の健全さを担保する上で重要な役割を果たすことを考えると,他方において委託者の権限が比較的制限されている,そういう中で,信託管理人の重要性というものが大きいことを考えますと,信託管理人の義務違反による責任については,むしろ40条の責任につなげた方がいいのではないかという感じを持っております。
 ○平川委員 これもまた,目的信託との関係の話が関連するんですけれども,目的信託との関連を断ち,公益信託における信託管理人の在り方から議論をすべきであると考えます。そして,結論的には配っていただきました別表に,信託管理人の権限として丸で示された権限のみならず,三角で示された権限についても信託管理人に認めるべきであると考えます。
  具体的には別表に丸で示されたものは,検査役の選任申立権,受託者の解任申立権,新受託者の選任申立権,信託財産管理命令の申立権,信託財産管理者の選任申立権については,公益信託の信託管理人の権限とすべきであることに異論はありません。別表に三角で示されました受託者の辞任の同意権,受託者の解任の合意,新受託者の選任の合意についても,公益信託の信託管理人の権限とすべきであると考えます。信託管理人は信託財産のガバナンスの重要な担い手と位置付けるからであります。また,信託の変更,合併,分割についてですけれども,これは受託者と信託管理人の合意によるとすべきであり,目的信託の場合のように合意の当事者に委託者を入れるべきではないと思います。
  これは各論の話になって,ここで議論すべきではないと言われるのかもしれないんですけれども,述べさせていただきますと,信託財産の拠出者である委託者は,一旦,財産を託した後は私益的利害をもって関与し得る利害関係人とも言えますので,委託者としての権限は極力制限されるべきで,委託者及び受託者の合意とすることには反対です。また,永久的であり得る公益信託の場合は,委託者が自然人である場合,委託者死亡で不存在とするか,又は相続するとして関係が複雑になるか,いずれにしても不都合が生じ,妥当ではないと考えます。そして,その上で信託の変更,合併,分割のように公益信託の認定条件に該当すると思料される事項についての変更は,外部の第三者機関の許可や承認が必要とすべきであると考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  三角についても含めるべきだという御意見をいただきましたが,最後の信託の終了の合意については言及がありませんでしたが,それも含めるということでよろしいでしょうか。
○平川委員 はい。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論を踏まえて申し上げますと,信託管理人の権限については目的信託の管理人と同様にということで賛成です。補足説明の中に書かれているとおりでして,受益者又は受益権の存在を前提とするものは除外し,検査役等の,丸の部分は認め,三角の部分についても平川委員と同様で,これも信託管理人の権限とした方がいいという意見が占めていたと思います。ただ,三角の論点につきましては,どちらかというと第三者機関であったり,委託者あるいは裁判所の関わり方の方に論点として目がいっているところでしたので,後に議論させていただけたらと思います。
  それから,信託行為の定める権限の制限につきましては乙案が賛成です。信託法145条2項以外の権限でも重要なものはそれなりに多いと思っていますので,乙案のとおり,信託行為の定めによっては制限できないとする意見が大半でありました。
  それから,信託管理人の義務につきましても,目的信託と同一ということには賛成で,補足説明の中にあった論点につきましては,信託管理人の任務が終了した場合には,前信託管理人には,新信託管理人が選任されるまでの間には権利義務を有するとする必要はないとの点も賛成ですし,信託法40条の関係の損失填補責任については,弁護士会の議論としては,それを必ずしも負わせる必要はなく,善管注意義務違反による損害賠償で足りるのではないかという議論でした。
○中田部会長 ありがとうございました。
○深山委員 これまでの御発言と基本的には同じ立場ですが,信託管理人の権限も,それから義務も,基本的には目的信託の信託管理人と同一とするものでどうかというゴシックの提案に賛成いたします。基本的に公益信託の内部的なガバナンスの中心的な機関といいますか存在として,信託管理人の立場を位置付け,これに重要な権限と義務を与えるということが,制度全体の設計の基本的な考え方として,それがよろしいと思うところです。そういう観点からしますと,3の信託行為の定めによる権限の制限について,甲案,乙案と二つが提案されていますが,乙案を支持したいと思います。基本的には十分な権限を信託管理人に与えることによって,ガバナンスの中心的役割を果たしてもらうという仕組みがよろしいという趣旨です。
  その上でということなんですが,先ほど能見委員の御発言の中で信託法40条の責任,すなわち,損失填補責任まで結び付けてもいいのではないかという御趣旨の発言をされました。私は,ここについてだけは40条の責任をストレートに当てはめるのは行きすぎなのかなと思います。つまり,受託者は正に直接,事務を行う言わばプレーヤーですから,そこに何か問題があれば損失を填補させるという責任が付いて回るわけですが,信託管理人は重要なガバナンスの役割を負っているとはいえ,あくまで監督責任ですから,プレーヤーと同じ責任をストレートに当てはめるのは行きすぎのような気がして,40条の責任については及ぼさないという方がよろしいと思います。もちろん,著しい判断の誤りとか,監督の懈怠とかがあって損害が発生したということになれば,善管注意義務違反という規律を通じて損害賠償という問題にはなるので,それで,そういう例外的な場合には対応できるので,40条の責任は外してもいいだろうということでございます。
○平川委員 先ほど3と4について意見を述べなかったので,それについて述べたいと思います。
  3については乙案に賛成します。その理由は,ガバナンスにおいては私的自治の観点もさることながら,制度的な担保が必要であり,公益信託においては信託管理人がその中心の一つを占めるべきと考えるため,信託管理人の権限を制限するべきではないと思います。甲案では別表左欄に記載されているもの以外の丸印,三角印のものは信託行為により制限可能となってしまいます。これらの権利のない信託管理人は,受託者を監督する機能が著しく減殺されてしまうことになると思います。したがって,乙案に賛成します。
  4番の「公益信託の信託管理人の義務」についてですが,基本的は賛成しますけれども,再び目的信託の信託管理人の義務と同一とするものとするという必要はなく,公益信託の独自性を検討した結果,信託管理人の義務を検討していただきたいと思います。15ページの3にある信託管理人の任務終了の事態となった場合,旧信託管理人は新信託管理人就任のときまで事務を遂行すべき権利義務があるとすべきであると考えます。その理由は,信託管理人を必ず置くべき信託関係人とし,受託者監督の重要な担い手であると位置付ける以上,係る任務を遂行する者が不存在となる期間があることは不適当であるからです。
  16ページ,4の信託管理人に財産補填義務を負わせるかについてですけれども,私も深山委員と同意見で,信託管理人に損害補填義務まで負わせる必要はないと考えます。善管注意義務違反に基づき信託財産に損害が生じた場合には,義務違反と損害に因果関係があるのであれば,その範囲で信託管理人に債務不履行責任に基づく損害賠償責任が生じますので,信託財産を受託し,信託事務を遂行すべき受託者の場合には,別途,補償義務を負うことは妥当性があると考えますけれども,監督責任にとどまる信託管理人にまで補償責任まで負わせる必要はなく,引き受け手確保の意味からも一般的な義務違反に基づく損害賠償責任で十分であると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 まず,2番につきましては総論賛成です。3番につきましては条件付きで乙案に賛成,4番につきましては賛成です。
  話すことが多くて一遍にしゃべれるかどうか分からないんですけれども,まず,委託者との関係については平川委員と近い立場であると考えました。委託者は財産を出えんする方ですので,興味を持たれるというのはある程度,あってしかるべきかなとは思いますが,過度の介入があると公益性について疑義を持たれる場合があると思いますので,余り過度な権限を持たせるべきではないのではないかと考えております。そうしますと,信託管理人が乙案のような全面的な権限を持つべきであろうと考えます。
  ただ,例えば11ページ辺りから始まる辞任,解任,変更,終了等のところ,後ろの別表でいいますと三角が付いている項目については,全て信託管理人の同意を要件とすると,実務の障害になる可能性があると思われますので,ここについてはまた次回以降に検討されるとは思いますけれども,信託管理人の権限を弱めることがあってもいいのではないかと考えております。例えば変更につきましては,元々,一般的な信託あるいは目的信託におきましても,信託管理人の同意がなくても受託者の意思表示によって変更できる場合というのがございます。目的信託では信託管理人の権限が狭まっておるんですけれども,軽微な事務手続などの変更に係るようなものについては,受託者単独でできるような仕組みを残しておいた方が事務的な手間という点でも軽減できるのではないかと考えております。重要なものについては主務官庁の許可,最も軽微なものについては受託者の意思表示という三つの段階があっていいのではないかと思います。
  それ以外のところで,まず,信託管理人の信託財産のてん補の義務でございますけれども,これは損害賠償請求で足りるのではないかと考えております。受託者,同じ受託者ではなく,資料にありますとおり,後任の受託者ということになると思いますが,後任の受託者が請求するとしたら,別に信託財産へのてん補請求でなくて,損害賠償請求で足りると思いますので,損失てん補をするような場合としては,仮に考えるとしたら後任の信託管理人による請求ぐらいしかないのではないかと思うんですが,そのような場合まで考えて重たい責任にする必要はないのではないかと考えております。
  あと,任務の終了のときに継続すべきかどうかという点につきましては,すべきではないと考えております。そこまでやると,信託管理人にとっては重すぎるのではないかと。なり手の問題もあると思います。ですので,不存在にならないような体制を整備していただく方がむしろいいのではないかと思うところです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  2については三角も含めるという御意見が多かったように思いますが,今,吉谷委員から全てをそうするのではなくて,主務官庁の許可などとの関係で検討すべきだという御指摘を頂きました。それから,3については乙案が多数であったと思います。吉谷委員は条件付きで乙案とおっしゃいましたでしょうか。
○吉谷委員 変更などの場合には弱められるということも定めることはできると。
○中田部会長 分かりました。
  それから,4については任務終了後の継続は不要とされる方が多数でいらっしゃいましたが,必要という平川委員の御意見もありました。それから,信託法40条1項の損失填補責任については,加重はしないという御意見が多くありましたが,能見委員から,これは考えてもいいのではないかという御指摘を頂いたかと存じます。ほかによろしいでしょうか。
  それでは,次に進んでよろしいでしょうか。続きまして,第3の5,信託管理人の資格要件について御意見をお願いいたします。
○平川委員 私は乙1案に乙2案を足したものを信託管理人の資格要件とすべきと考えます。すなわち,信託法124条の信託管理人の欠格事由に該当しないこと及び公益法人認定法第6条第1号と同様の欠格事由に該当しないこと並びに委託者,受託者,これには受託者から信託事務の委任を受けた第三者を含みますけれども,又はその他の信託関係人,後に議論されます運営委員を置く場合など,これらの信託関係人及びこれらの者の関連会社,親族,使用人等の特定関係者に該当しないことを複合的に要件にするという趣旨です。
  理由は,公益法人認定法6条1号の要件をいれることについては,公益法人制度との均衡を図る意味で同様の資格要件を置くことが妥当であると考えますし,また,公益信託のガバナンス確保の観点から,委託者や受託者等の信託関係人及びその特定関係者から独立的地位を確保した者が信託管理人であるべきと考えるからです。
  また,法人が信託管理人になり得るかについては,法人であることも妨げないと考えますが,この場合は特に乙3案に記載されるような役員,重要な使用人に信託事務の管理監督をするにふさわしい経験と信用を有するものを要しているか否かについて,許可又は認定審査基準の一要件として定めるべきであると考えます。信託管理人は受託者の監督,公益性の担保のためのガバナンスの保持という重要な役割を担う者ですが,当該法人が信任を置くにふさわしい法人であるか否かは,結局,その法人内部に信任に置くにふさわしい人物がいるか否かに掛かってきますので,法人が信託管理人となった場合には継続性がある点は利点であるとしても,継続的に経験値,能力,信用が保たれているかは外からは計り知れず,このような実質要件を審査基準に置き,役員や重要な使用人について係る要件が継続的に保たれることを担保することが望ましいと考えます。
  一方,信託管理人が個人である場合については,さきに述べた資格要件が備わってさえいれば,個人という個性に着目して個人的信任により選ばれるものですから,特に審査要件として経験値や能力,信用といった判断に難しい要件を付加する必要はないと考えます。
  次に,公益信託の信託管理人が事後的に資格要件を喪失した場合ですけれども,信託を無効とするのではなく,信託管理人の任務終了事由が生じたとすることに賛成します。また,信託管理人の任期については,任期を4年ないし6年で定めるべきであると考えます。現状ですけれども,本人から辞任を申し出ない限り,言わば永代任期となっています。実際,ほとんど判断能力がなくなっている人に対して辞任を要請したり,又は資格要件を失っているということを告げることが事実上できないため,そのまま職にあるという事例が散見されます。これまでの実務の現状を検討に置きますと,4年から6年程度の任期があった方がよいと思います。
○新井委員 私も平川委員と同じに乙1案と乙2案を合体したような案に賛成します。乙3案ですけれども,学識,経験及び信用を有するものというのは,これは後で議論する運営委員会の任務ではないかと私は考えますので,こちらの機能は運営委員会に譲ったらよろしいのではないでしょうか。乙2案のここに掲げられているものについては,最近,ライフ協会の問題があって,公益認定されていても一定の親族の関与が非常に問題になったということもありますので,ここのところは欠かせないという気がします。
  それと,法人が信託管理人になれるかということですけれども,法人が信託管理人になった場合の意思決定がスムーズにできるのかというところが少し心配です。緊急に対応しなければならないいろいろなことがあったときに,法人の内部で意思決定するというようなことを考えると,その辺りをどう考えたらいいかというのが一つポイントで,質問ですけれども,現行の公益信託の運用の中で法人が信託管理人になっているという例はあるのでしょうか。
○中田部会長 吉谷委員,御存じでしたら。
○吉谷委員 私どもではそういう例は捉えておりません。
○能見委員 信託管理人の資格要件のところですけれども,委託者の問題とも関連するんですが,結論としては私は乙2案でいいと思いますけれども,私自身は委託者についてそれほど否定的なイメージを持っているわけではありませんで,むしろ,委託者は信託管理人以上に信託の目的に関しては,それが遂行されることについて一番利害関係を持っていて,いろいろ,公益信託のガバナンスにおいて役割を果たすことができるのだろうと思うのです。そういう意味で,否定的なイメージを持っているわけではありませんけれども,信託管理人を何人置くかという問題とも関係がありますけれども,場合によっては一人ということもあるかもしれません。そういうときに,委託者が一人の信託管理人になるというのは余り適当ではないとも言えますので,結論としては乙2案でいいのだろうと思います。
  ただ,今も言いましたように委託者についてそれほど否定的なイメージを持つべきでないと思います。公益財団法人では財産を拠出した者が理事になるのは構わないとされていると思うんです。理事の一人として,理事会を構成するメンバーの一人として,公益財団法人が設立目的どおり運営されることについて,意見を述べたり,決議に関わることはむしろ望ましいと思っています,けれども,先ほど言いましたように,信託の場合には信託管理人が一人という場合があるかもしれませんので,人数をどうするかの問題はありますけれども,そういう意味で,結論としては乙2というのでいいのではないかということでございます。
○中田部会長 乙2というのは,委託者,受託者等は除くという案ですね。
○能見委員 そういうことです。
○中田部会長 乙1はいかがですか。有罪判決を受けた人ですとか。
○能見委員 これも同じ並びで。
○中田部会長 そうしますと,今まで出た乙1プラス乙2案というのと大体同じ。
○能見委員 結論は同じなんだと思いますけれども,今,言いましたように委託者が除かれるということの意味について,ほかの方とは違いますということを強調したいと思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会での議論としては,乙1,2,3といずれも資格要件としてよいという結論であったと思います。乙1については当然ですし,2については委託者は信託管理人には含めるべきではないということでした。乙3に関しては曖昧さという点もあるのでしょうけれども,この理念というか,内容としては当然のことだとは思いますので,そういう認識においては賛成をします。信託管理人に法人がなれるかというのについても賛成ですし,事後的に資格を失ったときは任務終了事由とする点にも賛成でした。補足説明にもある任期制については,不要という意見でした。
○深山委員 今の意見とほぼ重なってしまいますけれども,資格要件としては乙1案プラス乙2案という何人かの方が発言された消極要件といいますか,欠格事由としてこれを定めることに賛成します。乙3のところも結論としてはあっていいだろうと思いますが,ここは言わば積極要件ですので,性質が違うといえば違う問題だと思います。積極要件として,学識,経験,信用というものを掲げても,どれほど実質的に機能するかと考えると,あるいはどう判断するのかということになると問題なしとはしないんですけれども,考え方,理念としては,そういう学識,経験,信用のある人に資格を与えるという考え方は当然といえば当然ですが,要件として課してよいと思います。
  法人であっても実質的には役員を見ながら,こういうことを判断するということもできますし,法人が信託管理人になることも排除する必要は全くないとは考えていますので,その場合も含めて乙3の要件も積極要件としてあっていいだろうと思います。先ほど新井委員は,そこは運営委員会等の役割ではないかという御意見でしたが,私は運営委員会自体の存在に消極だということもあり,学識,経験,信用というものも信託管理人に期待すべきだと考えております。
○道垣内委員 私は先ほどの深山委員の意見とは違って,新井委員の見解の方が妥当なのではないかと乙3に関して思います。
○中田部会長 運営委員会に委ねる方がよいということで。
○道垣内委員 だから,信託管理人の役目をどう考えるかという話として,こちらよりもこちらに助成すべきだったよねという判断について,信託管理人が受託者を監督すべき立場にはいないのだろうと思います。そこで,乙3は除いた方がいいのではないかと思います。
○中田部会長 乙1と2はあった方がよいという御意見ですか。
○道垣内委員 はい。それは言ってなかっただけです。乙3についてだけ申し上げたわけで,あえて言えとおっしゃられれば,乙1プラス乙2でよろしいのではないでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 私は皆さんが乙3を強く支持されるのかなと思って発言しなかったんですけれども,必ずしもそうではないようなので,発言致します。ただいま道垣内委員が信託管理人の役割という話をされていましたけれども,既に本日の議論のところで必置ということになり,受益者はいませんから,立て付けにおいて信託管理人というのは非常に重要なガバナンスの役割を果たすわけです。その中で犯罪を犯していないとか,ある意味では,それ以外はその辺の人を連れてくればいいという議論で制度を立て付けるよりも,学識,経験,信用というような定性的な要件を加えて,それぞれの信託の公益目的に沿って判断していくと考えるのがふさわしいのではないかと思います。
  立法例でも既に同じような基準として,こういう定性的な要件が入っていると補足説明で書かれておりますし,サービサー法上,同じ文言が扱われております。決してこの表現があるからといって,またこうした規定があるからといって判断が難しいというようなことはないはずです。
  それともう1点,委託者が信託管理人になれるか,なれないか。これも一概にノーというわけではなくて,乙3の要件が入って,委託者が学識,経験,信用においてふさわしいということであれば,委託者はいつまでも口を挟む良からぬ人と性悪説に立つ必要はなくて,この定性的要件に沿って委託者が信託管理人になれるかどうかを判断すればよいわけでして,その意味において乙2が委託者を初めから排除しているというのは必ずしもそうではないのではと。要するに乙3が最も重要な要件であって,それに付随して乙1の部分が加わっていくのではないのかなと考えております。
○山田委員 乙2について発言させてください。能見委員がおっしゃった前半まで私は同意見であります。委託者というのは,その財産がどう公益のために使われるかということについて,ある意味では最も関心のあるものだと思います。ただ,ここで委託者を信託管理人から外すという考え方の背後にあるだろうと私が考えるのは,委託者は外形上,形式的には自分の財産から外に出したけれども,実質的に委託者あるいはその家族の利益のために,信託管理人を通してコントロールしているのではないかという疑いがあるということかなと思います。ただ,そこは受託者がそうしない義務を負っているのかなと思います。
  そうしますと,能見委員がおっしゃった一人しか信託管理人がいないときに,委託者とか,委託者の親族が信託管理人をしていると,受託者も重要なことについては,信託管理人の承諾とか承認とかを経なくてはいけないというところで問題がありそうだというようにも思います。そうすると,制度が細かくなって恐縮なんですが,信託管理人を複数置くときには,そのうちの一部は委託者又は委託者の親族,使用人等,委託者と特別の関係を有する者であっても構わないと,そういうルールがあるといいなと思いました。ただ,信託管理人を複数置いたときに,その意思決定方法をどうするのかという問題が出てきて,まだ,準備をしていないところであるとすると,作業を増やしてしまって申し訳なく,それほど大きな問題ではないかなと思うのですが,一番のスタートライン,ここが能見委員がおっしゃったところですが,委託者が一番,その財産がどう使われるかということについては関心があるだろうなというところは少し重く見たいと思います。
○新井委員 今,山田委員がおっしゃったことを私も言いたかったのです。つまり,信託管理人は複数でも可能なのかということです。実務では私の知っている限り,これは単数だと思います。しかし,ここの議論で複数が可能だとするということになったときに,正に意思決定の問題をどうするのかということがあります。更に法人も可能だとすると,複数の法人になったときの意思決定はもっと複雑になるということで,法律に書く必要はないかもしれませんけれども,何となくある程度の合意みたいなものがこの解釈の背後にはあった方がよろしいのではないかと思います。私は信託管理人は単数でいくべきだと思います。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 乙1,2,3に賛成でございます。根拠は余り付け加えるところはないように思われました。法人を信託管理人にすることについては,認める方が実務上の利益が大きいのではないかと考えました。信託管理人の交代という問題が起きにくいので,能力が維持されるかどうかというような議論はあるのかもしれないですけれども,利益の方が大きいように思われます。あと,資料の中で乙1案,乙3案を信託管理人の任務終了事由とする,信託の終了事由にはしないというようなことが書かれていたと思いますが,その考え方には賛成いたします。
  あと,任期を設けるべきかとどうかというところですが,これもむしろ信託管理人が不適格になったら,今でも解任できるとは思っているんですけれども,それを明確にさえしておけば,任期は設けなくてもよいのではないかと思います。むしろ,ボランティア的な方なのか,職業的な方なのかというところでインセンティブの違いはあるのかもしれないんですけれども,ボランティア的な方に引き続き信託管理人の任務をお願いするという点においては,任期は特に設けない方が引き続きやっていただけるのではないかと考えております。
○中田部会長 ほかにありますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○小野委員 単なる質問なんですけれども,イメージとしては当初の信託契約の中で信託管理人の恐らく特定の名前が挙がって,認定のときにこの特定された方が信託管理人としてふわしいかという辺りを審査するのかなと思うんですけれども,いかがでしょうか。その場合,公益信託がどの程度,継続するものかという議論にもよりますし,千差万別かもしれませんけれども,恐らく一つのイメージとしては軽装備のものということで,比較的,数年で終了するというようなものが多いということであれば,それ以上に信託管理人を交代し新たな信託管理人を選任する手続等まで考える必要までないのではないかと思います。何人かの委員の方の御意見で任期を設けるとか,そういう議論もございましたが,その場合に,どういう形で新たな信託管理人を,信託行為から離れて,選任していくのか,どんなイメージでいらっしゃるのか。そこも含めて信託行為の中で,任期満了においてはどうこうするところまで書くというようなイメージなんでしょうか。その辺を教えていただきたいと思います。
○中辻幹事 新たな信託管理人の選任につきまして,現在の主務官庁制のもとでは,継続中の公益信託で信託管理人が欠ける場合には,新たな信託管理人の候補者を,利害関係人,実際には公益信託を運営する受託者の側で探してきて,その新たな信託管理人の選任を主務官庁に請求するという立て付けになっていますが,それが新たな公益信託制度でどのようになるべきであるのかは,次回の部会で本格的に御審議いただくことを予定しております。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
  乙1案はこれでいいだろうという御意見が多かったように思います。乙2案についても結論としてはこれでいいだろうけれども,しかし,委託者の位置付けについて両様の御意見を頂きました。更に委託者については,乙2から排除すべきであるという御意見も頂きました。乙3については御意見が分かれたと存じます。それから,法人については法人もなり得るという御意見が多くありましたが,法人の場合には意思決定に時間が掛かるという御指摘も頂きました。それから,信託管理人の資格要件の喪失が任務終了事由になるということについては,御意見を頂いた方全て,それに賛成だということでございました。信託管理人の任期制については,平川委員から任期制を設けるべきであるという御意見を頂きましたが,それに対し,不要であるという御意見を複数頂いたと存じます。なお,新しい信託管理人の選任については,次回にまた御審議いただくということでございます。
  それでは,続きまして第3の6,信託管理人の報酬について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○小野委員 この規定の趣旨で賛成なんですけれども,確認をしたい点としまして信託法は費用と報酬ということを明確に分けております。ただ,一般的な言葉の使い方として費用といったときに報酬も入っていることがありますけれども,飽くまで信託法の議論ですから,ここで言っている報酬というものは報酬であって,費用は別途という理解でよろしいかと思うんですけれども,その辺の確認をさせていただきたいと思います。
○中辻幹事 この部会資料では,費用と報酬の概念について信託法上の概念をそのまま用いております。
○中田部会長 信託法127条に費用と報酬と書いていて,それの使い分けが前提となっているということですね。
○中辻幹事 そのとおりです。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 基本的に賛成します。公益信託の透明性あるガバナンスを確保するという観点から,信託管理人に報酬を支払う場合には,信託行為に報酬の額又は報酬額を算定し得る算定方法を明示すべきであると考えます。認定基準としては,係る報酬の基準が信託行為に定められていることを要件とすればよく,これが不当に高額かどうかの判断を行政庁に委ねる必要はないものと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,基本的にはこういうことでよいと承ってよろしいでしょうか。それでは,そのようにさせていただきます。
  続きまして,「第4 公益信託の委託者」について御意見を頂きたいと思います。既に何人かの方から御発言いただいておりますけれども,ここでまとめて御議論いただければと存じます。
○平川委員 甲案に賛成します。その理由は,公益財団法人における出えん者との均衡等から考えて,委託者に特別の権限を与えるべきではないと考えるからです。委託者の出えんした信託金は,税法上,寄附金として公益法人への寄附金同様の取扱いをするよう要望するものです。かかる観点からすれば,信託設定後,委託者が信託運営への発言権を保有することは認められないと考えます。公益信託の公平かつ公益的運営を確保する観点から,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される事態はできるだけ排除すべきであると考えます。したがって,別表3の利害関係人としての権利のうち,丸印にとどめるべきです。三角印の権利は付与しないという立場を採ります。この点,公益信託は委託者の権利権能を信託法260条1項でむしろ強化している目的信託とは根本的に軸を異にするものであり,この点からも公益信託が目的信託の一類型であるという考え方から決別すべきであると考えます。
○中田部会長 別表3につきまして,甲案のところで三角が付いている部分もありますけれども,先ほど甲案を御支持とおっしゃいましたが,その甲案の中の三角については外すという御意見でございましょうか。
○平川委員 利害関係人としての権利だけ持っているということにするんだけれども,その利害関係人としての権利のうち,三角印の付いているものも与えないという考え方です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 委託者の権限については基本的に乙案がよろしいと思います。公益信託における委託者の立場をどのように捉えるかというのは,既にいろいろ議論が出ておるところで,一方では財産拠出者でもあり,そもそも,公益信託を作る言わば創設者でもある人に,創設後も一定の権限を認めるべきだという考えにも理解ができます。ただ,他方で,目的信託においては,受益者がいないということで,それを補充する意味もあって委託者の権限を強めていますが,普通の目的信託とは違って公益信託の場合に委託者の権限を通常よりも強めるのはふさわしくないだろうと思います。その結果,消去法というわけではないんですが,通常の受益者の定めのある信託の委託者と同様という乙案をベースに考えたらよろしいのではないかなと思います。
  なお,乙案を採った場合でも三角のところが幾つかありますが,ここは一つ一つ個別に考えていく必要があると思います。基本的に裁判所に対する申立権については認めてもいいのかなと思います。それ以外のことについてはなお慎重に考えたらいいかなと考えます。どちらかといえばやや消極に考えてもいいのかなと思っております。
○能見委員 基本的な考え方は先ほど申し上げたとおり,信託財産を拠出した者として,その信託が信託目的どおり,公益の目的ですが,信託が行われることについて一番の利害関係を持っているだろう委託者に,それなりに役割を与えるべきだという考え方に基づいて,こういう問題も考えるべきだと思います。そういう観点からは,甲案のところの利害関係人としてのいろいろな権限,これは最低限,認められるということのようで,それはあえて反対いたしません。
  乙案のところが争点になっているようですけれども,私もここに書いてある乙案で基本的にいいと思いますが,ただ,私の考え方からすると委託者が信託の運営について,それほど細かいことについていろいろな権限を持っている必要は本来ないのだろうと思います。大きなところといいますか,信託の目的のところに関連する,目的が遂行されると全てが関係するのかもしれませんが,目的が遂行される大きなところについての権限があればいいということになるのだろうと思うのです。そういう観点から乙案のところを見ますと,十分,検討していませんけれども,三角のところの信託の併合とか終了とか,そういうところについてはそれなりに財産を拠出した出えんしたものとしての利害関係が大きいだろうと思いますので,こういうところの権限というのは認められるべきかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論としては,要するに委託者は財産を拠出したのだから,それ以上は関与すべきではないというような観点から,甲案に賛成する意見もあったのですが,一方で,公益信託においては,公益信託に最も関心を有する委託者の考え方や意思も一定,反映してさせたほうがよいという観点から,乙案に親和性のある意見もありました。ただ,結局,乙案的に考えるとしても,深山委員も述べたように,結局,個々の条文ごとに一つ一つ検討してどうなるかによるところと思います。辞任とか解任についてはこの後でも議論されるようですので,ここの論点の在り方に従って辞任解任を議論していくのかと思いました。
○中田部会長 ほかに。
○道垣内委員 私は信託管理人の適格性に関しましては,能見委員の意見に同調しないのですが,この委託者の権利ということに関しては,私は乙案でも丙案でもいいのではないかという気がいたします。と申しますのは,私が前半部分で能見委員の意見に同調しないのは,委託者が,個々の受託者の行為とか,そういうものに対して目を光らせる権限を有しているということにしますと,逆に受託者の権限行使に対して委託者の意向が個々的に反映してしまう可能性があって,それはよくないと思うからです。
  それに対して,今回,問題となっている委託者の権限という問題は,例えば委託者がこのような目的で公益信託を設定したいと考えたときに,その目的を変えてほかのものと併合してしまうのかとか,あるいは分割してしまうのかといった,そういうふうな話であって,委託者がどのような内容の信託を作るかという,その実現に掛かっている問題だろうと思うからです。したがって,能見委員の意見は一体化しているんですが,こっちは分割可能であると考えておりまして,この問題につきましては能見委員がおっしゃったところに賛成いたします。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 委託者の役割として,余り大きなものを期待するべきではないとまず考えます。個人の委託者の方であったりすると限界があると思いますので,そういう意味では,受託者と信託管理人による内部ガバナンスというものを重視すべきであって,委託者の権限は重視すべきではないと考えます。その上で,甲,乙,丙案につきましては甲案に賛成です。ただ,これは任意規定であると書いてありますので,任意規定であるということについて賛成いたします。ただ,委託者の意向が個々に反映されるようなことは望ましくないと思いますので,任意規定であるとしても過度に強い権限を与えることはよくないと思います。
  甲案と乙案の違いの中で,甲案の方が新任のほうの申立てがあって,乙案の方には解任の方の申立ての権限があるということになっておりますので,甲案だけだと新任はできるけれども,解任はできないということになりますので,解任と新任の申立てはセットになっていてもおかしくはないのかなと思いましたので,そこら辺は甲案と乙案のどちらがいいのかというところの考慮材料になるのではないかと考えました。ただ,一方で様々な合意をするというところの権限を与えるということには疑問を持っておりまして,委託者の合意がないと何らかの変更の認可申請ができないというような事態は避けるべきであると考えております。
○小野委員 先ほど信託管理人の議論がございましたけれども,そのときに次回の審議の課題ということではありますが,関連するので一言述べたいと思います。任期制のときにですが,信託管理人は受託者を監督する立場ですから,先ほど深山委員もおっしゃられたように,裁判所が介在する,裁判所を通して信託管理人の新たな選任とか,そういうことをするときの大事なステークホルダーとして,委託者というものは必要ではないかと思います。結論としては乙案ということになるかと思うんですけれども,ステークホルダーが非常に限られている中で,特に受託者と信託管理人というところで,一応,ガバナンスが成り立つ。その二者が機能しないときに,又はその交代が必要なときに,もう一人,ステークホルダーが必要かと思いますし,そこで委託者が自分が出したお金だからといって何か必要以上に介入するという意味ではなくて,裁判所の発動を促すという意味においては,委託者がいて何ら問題はないのではないかと思います。
○神田委員 何人かの先生方がおっしゃったことと同じ趣旨だとは思うのですけれども,委託者の権利という場合に,機能に応じて考えるべきだと思います。すなわち,信託の運営に参加,参与する権利なのか,それとも受託者を監督する権利なのかで全然違うので。確かに出えんをして財産を拠出したわけですから,前者の運営に参与,参加していくという権利はなくていいと思うのですけれども,受託者を監督する権利というのは専ら信託管理人だけが有するということでいいのかということになれば,委託者も一緒に監督しますということはあっていいように思います。そういうことからいうと,表をきちんと見ていませんけれども,別表1にある信託管理人に与えられる受託者の監督に係る権利というものは,委託者にも付与されてもいいのではないかと思います。
○新井委員 私は甲案を支持します。公益信託というのは委託者が財産を公益目的のために出えんして,自分のコントロールから離れるということがポイントだと思いますので,利害関係人が有する権限を持っていれば,それで十分だと思います。公益信託の場合にも場合によっては税法上の優遇もあるということも考えると,委託者に余り強い権限が与えられるというのは少し問題ではないかと思います。それで,乙案は,公益信託が目的信託だということを非常に強調していながら,ここで受益者の定めのある信託を持ってくるのは私には非常に違和感があるので,これは甲案でいったらいいと私は考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  甲案と乙案とそれぞれ支持される御意見がありました。特に委託者の位置付けについて両様の御意見を頂いたと思いますが,更に一般的に決めるよりも,幾つかの切り口をお示しいただきましたけれども,どういう権能あるいは機能に即して考えるのかという分析がより必要ではないかというご指摘も頂きました。これらを踏まえて更に検討を続けたいと思います。
  ほかに。
○山田委員 甲,乙,丙の具体的にどれを指し示すという意見にならないのですが,第4で委託者の権利を認めますと,相続をするのではないかと思います。公益信託においては公益目的と委託者の相続人というのは,利害が反する場合が想定できるかなと思います。遺産の中から出ていってしまうということです。そうしますと,公益信託の委託者に与えた権限,権利が相続されるということを,すみません,私の理解が十分ではないんですが,仮に前提にすると,余り委託者に与える権利,権限は大きくすべきではないのではないかと思います。そうすると,先ほどの私の信託管理人についての発言とどういう関係になるのかということになりますが,仮に委託者を信託管理人にできるとした場合にも,それは一身専属であって相続はしないだろうと思いますので,今の問題は生じないかと考えるところであります。第4にまた戻りますが,22ページで,そうすると,私が今,考えていることは甲案に近いのかなと思うのですが,そこを十分には点検せずに,今,発言させていただいております。
○中田部会長 ほかに第4,委託者についてありますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○能見委員 今の山田委員のご指摘の点が,私も同じことが気にはなっているのですけれども,委託者に与えられる権限の意味,なぜ,委託者に一定の権限が与えられるかという理由から考えると,それは公益信託のための財産を出えんした者として最も利害関係があるということですから,相続人は委託者と必ずしも同じ立場ではないことになります。そこで,私はむしろ委託者にいろいろな権限を認めても,相続人まではいかないように考えるべきだと思います。委託者限りで,そこで切れてしまうというのも一つの考え方かと思います。乙案をとった上で,以上のように考えたいと思います。
○山田委員 実質的には私も同じになります。どう仕組むかというところはよく分かっておりません。
○中田部会長 ありがとうございました。それでは,先に進んでよろしいでしょうか。
  では,続きまして部会資料35の第5と第6について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私の方から御説明いたします。
  「第5 受給権者」について御説明いたします。本文では,「受給権者による監督・ガバナンスに関する規律は設けないものとすることでどうか。」という提案をしております。受益者の定めのある信託における受益者は,当該信託の設定当初から受益権を有することが予定されているのに対し,公益信託の受給権者は,現在の助成型を前提としても,当該信託の設定段階では助成金を支給する権利を有することは確定していないこと,公益信託には様々な類型があり得るのであって,例えば助成型における受託者から一定の期間,奨学金の支給を受けることが確定した学生と事業型における美術館の利用者とでは,その信託への利害の強弱,関心の程度には大きな違いがあると言えますので,これらを受給権者として一律に扱うことは困難ではないかということで,そういった理由から,このような提案をしている次第でございます。
  最後に,「第6 運営委員会等」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益信託をするときは,受託者に対する助言的な役割を果たす運営委員会を設けることを信託行為で定めなければならないとする規律を設ける。」,乙案として,「公益信託をするときは,受託者に対する監督の役割を果たす信託管理人以外の主体を設けることを信託行為で定めなければならないとする規律を設ける。」,丙案として,「上記の各規律を設けない。」との提案をしております。
  現行の許可審査基準と同様に,新たな公益信託においても,公益信託の受託者に対する助言的な役割を果たす諮問機関として運営委員会を必置とすべきであるという考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。また,新たな公益信託において公益信託内部の監督・ガバナンスを強化するためには,信託管理人以外の新たな監督の主体の設置を義務付けるべきであるとの考え方もあり得ることから,これを乙案として示しております。他方,公益信託において一般の信託と異なる機関の設置を一律に義務付けることは柔軟性を欠き,利用者にとって使いづらい制度となる可能性があること,公益法人制度に比べ,軽量・軽装備であるという公益信託のメリットを生かすのであれば,複数の構成員の選任に伴う時間,費用等のコストを要する会議体の信託管理人を新たに諮問機関又は監督機関として設けることは避けるべきであるという理由から,甲案や乙案のような規律を設けるべきではないという考え方があり得ますので,これを丙案として示しております。これらの点について御審議いただければと存じます。
○中田部会長 ただいま御説明のありました部分について御審議いただきます。まず,第5,公益信託の受給権者について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○小野委員 意見を申し上げる前に確認なんですけれども,第4のところで脚注のところで信託法上の利害関係人ということで,典型的には信託債権者であるという記載がございましたけれども,ということは,受給権者という概念からのガバナンス規律は設けないけれども,第4のところでいう信託の利害関係人には含まれるということになるのかなと思います。その場合,先ほどの第4の補足説明を見ますと閲覧謄写権とか,信託財産管理命令申立権とか,結構,強い権限を持っているようにも思うんですけれども,ということで確認ですが,受給権者は信託債権者ではあるけれども,第4で議論したような権限を持つようなものではないという理解なんでしょうか。飽くまで債権者になる前の受給権者は何も権限を持っていない。とはいっても,恐らく将来債権の債権者であるような気もするんですけれども,何か権限はないと言いながらも,結構,第4のところの甲案ではそれなりの権限があるのがバランスを欠いているのかなと感じたものですから,それについて確認させていただければと思います。
○中辻幹事 私どもとしては,受給権者が全て信託法上の利害関係人に当たるとは考えておりません。受給権者の中にも具体的な受給権が発生している信託債権者のような方と,まだ,研究助成費とか奨学金の支給の対象となっていない不特定多数の段階にある方々も含めて,ここでは受給権者と表現しておりまして,いわゆる事業型における美術館の利用者のような方も受給権者と捉えているわけですけれども,それらが全て公益信託の利害関係人になるというわけではなくて,飽くまで受給権者が信託債権者の地位を取得したような場合に利害関係人に該当するということを考えております。
○小野委員 説明としては理解しましたけれども,受給権者という言葉そのものからして恐らく将来債権的な権利は持っている特定又は場合によっては不特定,不特定だと本人は行使できませんけれども,今の将来債権の非常に幅広い理解からすると該当してしまうのは,それはそれで,整理としてはそういうものだという理解ですか。債権者になれば民法的に,私法的に債権者として観念できれば,それは利害関係者としての権利を持ち得るという理解でよろしいんでしょうか。
○中辻幹事 将来債権を有する者が公益信託の利害関係人としての権利を持ち得るとは余り考えておりませんでした。部会資料では受給権者と表現しておりますが,物の本では「権」を抜かして受給者と表現しているものもございます。後者の表現を採ることも考えたのですが,研究会段階からの継続性ということで受給権者という表現を部会資料で使っているだけで,事務局としては,受託者に対する債権が現実に発生した受給権者が信託債権者になり,その結果公益信託の利害関係人に入ってくるという理解でおります。
○新井委員 今の小野委員の発言と関連します。26ページの説明の中に私としては気になる点があります。下から大体10行目ぐらいでしょうか。「そもそも,助成金の支給先に選定されたことが通知された受給権者と受託者との間の法律関係が贈与契約であるか否かは措くとしても」と書いてあるのですけれども,私としてはこの点は曖昧にしておくことはできません。ここははっきりしてもらわないと困ると思っておりまして,私の見るところ,文献上,贈与契約以外の説明はありません。そうだとすれば,これは受給権者ではなくて受贈者と明確にすべきではないかと思います。
  それで,私の問題意識としては,これからの信託というのは福祉型の公益信託というのが増えてくると思うのです。そうすると,受給者でも受益権者でも意思能力のない方が受益権といいますか,受給するということがあるわけです。何が問題かというと,88条で一般の他益信託であれば受益者と指定されると,当然に受益権が発生するわけです。しかし,こういう構成を採ると,それが全くできなくなるという大きなデメリットを負うわけです。そうすると障害者の権利条約とか,差別解消法の合理的配慮ということを考えると,立法上,合理的配慮を欠いたことになるのではないかという気がします。
  ですから,私は今まですごく精緻な議論をしながら,ここはぽかっと何か理論的な空白状態みたいになっている気がします。もう少しここのところは詰めてきっちりした理論構築をされた方がいいのではないかと私は思います。それで,私は受益債権と考えたらどうかと提案します。共益権的なものがなくても信託法上の受益債権と考えたらどうかと思っていますけれども,それはいろいろな御意見があるので,私の問題意識からすると,ここのところの説明は何か非常に偏っているような感じがします。
○中田部会長 法律関係の契約の性質決定という問題と,それから,更に債権者になるという問題があり,債権者となった場合にどのような監督・ガバナンスに関する規律を与えるのかというのは,最終的な論点であるわけですけれども,最終的な論点について一般に利害関係人に認められているような権能に加えて,更に何かを設けるべきだということも含むのでしょうか。
○新井委員 私は特に規律は必要ないと思います。それ以前のまず性質決定の問題と理論的な中身,そこのところをきっちりしていただきたい。だから,前提の議論かもしれませんけれども。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 受給権者による監督・ガバナンスに関する規律というのは,特に設ける必要はないと思います。公益信託の受給権者は,受給権があると確定して初めて受給を受ける権利を有することとなり,公益信託に対して受給請求債権を行使することができると理解しますが,特に監督・ガバナンスに関する規律は設けなくても,受給権を得た時点以降,信託法上は利害関係として権利,民法上は債権者としての権利を認められれば,それでよいと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○道垣内委員 結論として全く異存はないのですけれども,中辻幹事がおっしゃったことで若干,気になっていることがございまして,つまり,受給権者という言葉は広い意味で使っているとおっしゃったような気がしまして,つまり,ポテンシャルに受給権を取得する可能性がある人と,確定的に選任されて受給権を債権として取得した人の両方を含んでいるとおっしゃったんですが,私が資料を読んだときにはポテンシャルな人を含んでいるとは読めませんでしたし,それはかなり性質の違う者ですので,もし仮に両方を含んでいるということで書いていらっしゃるのならば,それは言葉を変えられた方がいいのではないかという気がいたします。
○中辻幹事 御指摘ありがとうございます。
○中田部会長 
  それでは,今の御指摘も踏まえまして,更にその概念を明確にしていくということを検討したいと思います。結論的には特別の監督やガバナンスに関する規律は設けないという御意見を頂いたと理解いたしました。
  それでは,最後になりますが,「第6 運営委員会等」についてはいかがでしょうか。
○深山委員 先ほども少し触れましたけれども,甲案は助言的な役割を果たす運営委員会というものを提案し,乙案は監督の役割を果たす主体ということなので,その意味するところは違うんだろうと思いますが,いずれにしろ,いずれも,つまり助言的な役割を果たす主体にしろ,監督の役割を果たす主体にしろ,必置の機関として置く必要はないし,むしろ置くべきではないだろうと考えています。そういう意味で丙案に賛成いたします。
  もちろん,言わずもがなですけれども,必置の機関であることに反対しているのであって,個々の公益信託において必要なときに助言的な役割を果たす機関,それを運営委員会と呼ぶかどうかはともかくとして,そういう主体を設けることや,あるいは監督の役割を果たす信託管理人以外の主体を設けることを否定するつもりは全くございません。それは必要に応じて定めればいいことであって,あくまで必置の機関としては必要ないということです。新しい公益信託制度を,いわゆる軽量・軽装備で,ローコストで可能にするという趣旨からも,最低限必要な機関ではないだろうと考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私は運営委員会は,委託者の関与を排除して,そこで信託関係人が一人いなくて,受託者と信託管理人しかいない状態では,受託者,信託管理人の選・解任の場面で最低,第三者の信託関係者が必要になるという意味で,運営委員会を,甲案と乙案の複合型として必須の機関とすべきであると考えます。つまり,運営委員会の役割としては受託者に対する助言的な役割を果たすとともに,委託者の関与を排除した結果,権限を行使するものが漏れた権限について,最低,運営委員会に委ねるべきであると考えますので,便宜的に運営委員会と呼びますけれども,名称は実態に合わせて別の名称も考えられると思います。
  運営委員会に与える権能としては,具体的に別表3に記載の利害関係人としての委託者の権能として列記された権能のうち,先ほど三角で記載されたものについて委託者の利害関係人としての関与を排除すべきであると申しましたけれども,その権限については運営委員会に係る権能を与えるということが妥当であると考えます。また,別表3に記載される委託者としての権利の中で,このうち,最低,受託者,信託管理人の選任・解任の合意や同意権が与えられないと,係る事項について公益信託の自律的ガバナンスが保てないことになってしまいます。
  具体的には別表3に挙げる事項のうち,受託者の辞任に対する同意権,受託者の解任の合意,新受託者の選任の合意,信託管理人の辞任に対する同意権,信託管理人の解任,別表3では信託管理人の解任の合意とありますけれども,信託管理人に監督される受託者が信託管理人の解任を申し出ることはできないと考えますので,ここは信託管理人の解任と読み替えます,新受託者の選任の合意,新信託管理人の選任,これらが該当すると考えます。
  また,これらの権利の前提として,運営委員会は信託法36条の信託事務の処理の状況等に関する報告請求権,38条1項の信託財産に係る帳簿等及び信託事務の処理に関する書類等の閲覧謄写請求権,38条6項の財産目録の閲覧等請求権,172条の信託財産の保全処分に関する資料の閲覧等請求権を有するとすることも必要であると考えます。これらの権利は,運営委員会が有する権能の最低ラインとして必要であると考えますが,それ以外にも運営委員会に税制優遇を受けるにふさわしい自律的ガバナンスの確保の観点から,定款変更,信託終了,財産帰属など信託事務の根幹に関わる事項についても,運営委員会の関与が必要と考えますので,何らかの関与を考えていただきたいと考えます。
○能見委員 結論としては深山委員が言われた案に賛成ですが,まず,甲案というのは内容的に矛盾とまでは言いませんけれども,運営委員会が助言的な役割を担うのだとすると,そういう役割の機関を必置とするというのは,十分な説明ができないだろうと思います。そういう揚げ足取りはともかく,助言的な機関というものを必須にするということは,実質的に考えても適当ではないと思います。乙案は,ガバナンスの観点から考えると,この案の前提には,受託者を監督するものとしては信託管理人というものを設けるが,それだけでは不十分であるということを言っていることになると思います。しかし,それならば,信託管理人の制度のところで,ガバナンスの観点から十分となるように,その形を変えるべきなのだろうと思います。
  それは,具体的には先ほどから議論にも出ていますけれども,信託管理人というのは一人ではなくて,複数,設けるという形でガバナンスを強化するというのが一つであります。そうすれば,複数の信託管理人の間で相互の監督ということが生じます。これに対して,信託管理人とは別の機関を設けて,受託者,信託管理人及び第三の機関の間の,ある意味で三つどもえの形にするというのは適当ではないだろうと思います。ガバナンスに関しては,委託者ということも考えられますけれども,私は,財産を拠出した委託者がいるときには,それなりに役割をある程度,求めてもいいと思いますけれども,先ほど言いましたように,委託者が死亡した後に相続人が監督に関わるというのは適当ではないと思いますので,委託者では十分なガバナンスという意味では限度があります。そこで,信託管理人を複数化する形で対応するのがいいのではないかと思います。
○新井委員 深山委員,能見委員のおっしゃったことは,公益信託は軽装備の方が望ましいだろうという観点からはよく分かります。ただ,現実の公益信託の実務を見ていると,信託銀行がいろいろな種類の公益信託を受託しているわけです。公益信託としては信託目的に沿った受給権者を選定しなければいけない。信託銀行は財産管理のプロですけれども,ある特定の公益信託の目的に沿った受給権者を選ぶということのプロではないのです。例えばある特殊な医学研究という目的を達成するための受給権者を選ぶということになったら,信託銀行にノウハウはないと思います。今後,受託者の担い手を拡大して,信託銀行以外の担い手が反復継続して公益信託を行うということを考えても同じだと思います。
  それで,今までの実務の中で運営委員会というのがあって,受給権者を選定するという役割を果たしてきたというのも事実ですので,これをどう位置付けるかは別にして,能見委員の案のように信託管理人という形で機能を与えるというのも一つの案かとは思いますけれども,私としては運営委員会的なものがないと多分,現実の公益信託は機能しないのではないかと思っておりますので,甲案を主体に少し内容を精査していただく辺りが実務的な対応としても妥当ではないかなと考えます。
○能見委員 新井委員のおっしゃることはよく分かるんですが,私の考え方が必ずしも正確に伝わっていなかったので,その点だけ補足したいと思います。甲案というのは,正に新井委員が言われたように,誰に受給するかと,そういうようなところで助言をするために運営委員会が役割を担うということですが,これはガバナンスという意味で関わるというのとは違うのだと思うのです。乙案は正にガバナンスを問題にしていまして,甲と乙というのは全然違う観点に基づく案ということになります。私が複数化など信託管理人の制度自体を強化すべきだというのは,ガバナンスの観点からの話でして,乙案における具体的な対応として,そういう形で対応すべきだと思います。そして,以上は,運営委員会という制度にガバナンスを期待するのは適当ではないだろうという考えに基づいています。助言的な役割についての運営委員会であっても,実際上いろいろ付加的な機能を果たしているし,そういうことがあっていいとは思います。ただ,やはり運営委員会は監督機関としては向いていないし,助言的な機関である運営委員会を必置にすべきかというと,それは適当でない。この点が新井委員と違うんだと思います。
○吉谷委員 結論としては丙案賛成です。運営委員会の位置付けとして,まず,助言をする機関であると考えております。その上で,甲案か,丙案かというところでいいますと,信託銀行が従来,同様の助成を行う場合においては,間違いなく運営委員会というものを設置するということになると思います。しかしながら,信託銀行以外の主体がされる場合,あるいは信託銀行が助成でないことをする場合におきまして,運営委員会が必要でない場合というのも想定できるのではないかなと考えております。そのために丙案がいいと思っております。ただ,本日の冒頭に申し上げましたように,受託者がどのように公益事務というのを運営できるのかと,そして監督してもらえるのかという,このガバナンスの問題については受託者が申請をするときに証明をしなければならないと思いますので,運営委員会というものがないのであれば,運営委員会がなくてもできる能力があるということを証明するべきであると考えます。
○林幹事 先生方と同じになりますが,基本的には丙案です。甲案につきましては,助言的な役割については,確かに実務的にはそういうこともあるのでしょうけれども,これは必ずしもパラレルの論点ではないかもしれませんが,私益信託で指図権者を法に取り込むかという論点があり,今のところは別に必ずしも法に取り込む必要はないという前提だと思いますので,公益信託において,誰にどう助成するのか決められないという場面はありえても,それにおいては必ずしも法に取り込む必要はないと考えます。乙案に関しては,結局,屋上屋のようになって,また,その次の人を誰が監督するのかのような議論をしても意味がないように思いますし,能見委員がおっしゃったように,信託管理人についてしっかり権限を与えてガバナンスできればいいのではないかと考えますので,丙案が妥当と考えます。
○沖野幹事 運営委員会については私も丙案が妥当ではないかと思っております。信託の類型によって例えば環境保全のために土地を保有するとか,そういうようなタイプなども考えられ,助言のための運営委員会を必ずしも必要としないものもあるのではないかと思っています。それはそれとして,むしろ確認させていただきたいんですけれども,ここでの「運営委員会等」というタイトルは,飽くまでガバナンスの問題として,受託者に対して助言をする機関を設けることもある意味,受託者がきちんとやるかということを間接的に適正化するという意味もあるのかと思われますが,そのような観点から,これを取り上げるということなのでしょうか。
  考えておりますのは,必置にする必要はないと思うんですけれども,任意的に置くことができるときのモデルとして用意するということは考えられないのかということです。信託法ですと例えば受益者集会などの規律は,用意はしてあるけれども,使うかどうかはそれぞれ次第というものであり,そのようなものもあり得るかと思います。そういうような規律を置くことは,別途,考えられるのでしょうか。それとも,ここで置かないというのは,およそ何ら規定もどの観点からも置かないということなのでしょうか。
○中辻幹事 事務局の方で部会資料を作っていたときには,受益者集会みたいな制度を作ることまでは考えておりませんで,丙案を採るのであれば,モデルとしても法律には規定を設けないとことになるのかなと考えておりました。もっとも,公益信託の個別の必要に応じて信託行為の中で運営委員会を任意で設置することまで不可能にすべきであるとは全く考えておりません。そして,受益者集会のようにモデル的なものを法律で定めるのか,ガイドラインのような形で定めるのか,いろいろやりようはあると思いますので,御指摘も踏まえて検討させていただきます。
○沖野幹事 ご検討いただければと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。沖野幹事は法律の中で定めるというところまでおっしゃっているわけではない。
○沖野幹事 ガイドラインということは余り念頭には置いていませんでした。選択できるモデルとしてあった方がいいのではないかという感覚を持っていたものですから,申し上げました。更に言えば,甲案で設けることを信託行為で定めなければならないという場合の法律の規定の内容について,設けることだけを定めるのか,それとも法律に運営委員会とはこういうものだというより詳細が示されて,それを定めなければいけないのかという点も甲案については検討課題としてあると思うのですが,任意の機関として設けるというようなときに,法律にある程度,モデルとなる制度の中身を書くのか,それともガイドラインで書くのかというのは,可能性としてはいろいろあるのだろうと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほども議論しました信託法上の利害関係人,私は丙案に賛成なんですが,運営委員会を設けること自体は反対しません。そこでいずれにしても設けた場合には利害関係人に該当するというような立て付けまで考えていらっしゃるのかどうか。そこまでガバナンスに運営委員会が踏み込む必要はないのではないかというのが私の考えなんですけれども,事務局としてはその辺の,甲案,乙案を採れば利害関係人なんでしょうけれども,という点を確認できればと思います。
○中辻幹事 乙案を採るのであれば,運営委員会の委員は公益信託内部の監督・ガバナンスに直接権利義務を有するという意味で,公益信託の利害関係人に入ってくると思います。甲案を採る場合には,運営委員会の委員は受託者に対し奨学金の支給等について助言的な役割を果たすことになりますが,それを前提として委員が利害関係人に当たる場合もあるかもしれませんし,信託事務の内容に応じて異なってくる場合もあるように思います。
○中田部会長 御質問は,丙案を採ったとして,それで任意に設けた場合に運営委員会に利害関係人としての役割も付与することを考えているかということも含んでいたかと。
○中辻幹事 丙案を採った場合について,任意に設けた場合の運営委員会の委員であれば,基本的には公益信託事務について直接に利害関係を有する利害関係人には入ってこないように思いますが,ガイドラインのように公的な立て付けのもとで運営委員会が設定されるのであれば,それぞれの信託における運営委員会の役割にもよりますが,甲案と同様に運営委員会の委員が公益信託の利害関係人に入ってくる可能性はあり得るように思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  丙案を支持される方がかなり多くいらっしゃいまして,あとは甲案あるいは甲プラス乙案という方がお一人ずついらしたと思います。ただ,丙案にしたとしても任意的な機関である運営委員会というものを何らかの形で位置付けることはできないだろうかという御指摘を頂いたと理解いたしました。
  ほかに第6について。
○平川委員 能見委員のように信託管理人を複数置くという案であれば,例えば信託管理人の選・解任を自薦でやるということが考えられるんですけれども,単独である場合で運営委員会を設けないで選・解任の権限を与えないとすると,誰が信託管理人の選・解任をするということになるのか,何かお考えをお持ちの方がおられたら教えていただきたい。
○中辻幹事 信託管理人の辞任,解任,新選任につきましては,受託者のそれと合わせて次回に御審議いただく予定にしております。
○平川委員 分かりました。了解しました。
○中田部会長 ほかにございませんでしょうか。
  ございませんようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。
  最後に,次回の議事,日程等について事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回は公益信託の監督・ガバナンスの残りの部分,公益信託外部の第三者機関として公益信託の認定を行う行政庁や裁判所による監督について御審議いただくほか,受託者及び信託管理人の辞任・解任・新選任,情報公開を御審議いただく予定です。
  次回の日程は,12月6日(火曜日)午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は現時点では未定ですので,後日,開催通知と共にお知らせいたします。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了いたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会第34回会議 議事録





 
第1 日 時  平成28年10月4日(火)   自 午後1時30分
                        至 午後5時27分
 
第2 場 所  法務省第1会議室
 
第3 議 題    公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第34回会議を開催いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,小川委員,小幡委員,松下幹事,岡田幹事,明渡関係官,藤谷関係官が御欠席です。また,多少遅参される方がおられるようです。
  では,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。事前に,部会資料34「公益信託法の見直しに関する論点の検討(3)」を送付させていただきました。また,当日配布資料として,参考人としての御説明を本日予定しております財務省主税局の田原税制第三課長から,本日の説明に用いられる資料をいただきましたので机上配布しております。
  これらの資料がお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 ただいま,お話がありましたように,本日は参考人として財務省主税局税制第三課の田原芳幸課長にお越しいただいています。第31回会議の際に事務当局から触れられていたところですが,公益信託制度の見直しに当たっては税法の知見を踏まえた上で,検討することが有益であると考えられますことからお越しいただきました。公益信託税制の基礎的な概要について御教示いただけると承っています。
  事務当局から何か補足はありますでしょうか。
○中辻幹事 主税局は現在,大変お忙しい状況にあると聞いており,臨時国会も既に始まっているにもかかわらず,田原課長に本日御説明をいただくことがかないまして,誠に幸いに思っております。田原課長の税制に関する御説明に要する時間は,大体15分程度を目安とされている旨お聞きしておりますが,田原課長には次の所用があることから,今回,質疑応答の時間は特段設けないということになっております。更に税法に関して御関心があるという委員・幹事の方がいらっしゃる場合には,後日,私ども事務当局の方にお伝えいただければ,税法の専門家である渕幹事や藤谷関係官,また,主税局のお力も借りて調査するなどの対応をとらせていただきます。
○中田部会長 ただいまのような事情ですので,本日は御説明を伺うということにさせていただきたいと思います。
  それでは,田原参考人,お願いします。
○田原参考人 ただいま御紹介にあずかりました主税局税制第三課長をしております田原と申します。よろしくお願いいたします。
  本日はお手元の資料に沿って御説明させていただきますが,内容の説明に入る前に税制改正について一言,申し上げたいと思います。毎年の税制改正でございますが,皆さん,御案内かと思いますが,税制改正のプロセスで決定されていくということでございます。新しい制度を税制上,どのように取り扱っていくかということに関しましては,現行税制の考え方を踏まえつつ,政府全体の政策の優先順位でありますとか,あるいは財源でありますとか,そうしたものを総合勘案しつつ,与党等における御議論なども踏まえた上で決定されていくものでございます。そうした意味におきまして,今回の御説明は,今後の税制改正におきます公益信託の税制上の取扱いに何らかの予断を与えるというものではございませんで,あくまで現行の信託税制の解説をさせていただくというものでありますことを御理解いただければと思います。
  早速でございますが,資料の表紙をおめくりいただきまして1ページ目,信託税制の全体像から御説明させていただきます。現行の信託税制でございますが,平成19年度の税制改正におきまして整備されたものでございます。平成18年の新信託法の制定によりまして信託制度が見直されまして,多様な信託の類型を設定することが可能となりました。信託の利用機会が大幅に拡大されることになることを契機といたしまして,平成19年度の税制改正におきまして,一つ目は課税の公平・中立の確保,二つ目は多様な信託の類型への課税上の対応,三つ目は法人税・相続税等の租税回避の防止,こうした観点から信託税制につきまして既存制度の取扱いも含めて見直しを行いまして,信託の性質に応じた課税方法が定められたところでございます。
  現行の信託の課税方法でございますが,こちらの1ページ目にございますように,一つ目は受益者段階で信託収益の発生時に受益者等に課税されるもの,発生時課税をするものでございます。二つ目の類型が受益者段階課税で,受益者が信託収益を現実に受領した段階で課税される受領時課税のもの,三つ目が信託段階法人課税で,信託段階におきまして受託者を納税義務者として法人税が課税されるもの,こうした三つに分類されるわけでございます。
  現行の信託税制におきましては,平成19年度税制改正前の受益者が不特定又は不存在の信託に採られておりました委託者に対する課税につきましては,原則として行われておりません。こうした受益者が不特定又は不存在の信託の取扱いにつきましては,基本的に二つに分かれてございます。
  まず,一つは受益者等に対して課税されるものであります。受益者等課税信託におきます受益者等とは,受益者としての権利を現に有する受益者のみならず,税制上のみなし受益者を含むものでございます。みなし受益者とは,実質的に受益者と同等の地位を有する者をいい,具体的には信託の変更権限を現に有し,かつ,信託財産の給付を受けることとされている者をいうとしております。
  次に,そうしたみなし受益者も存在しないものにつきましては,受益者等が存しない信託といたしまして法人課税信託となります。これには遺言により設定された目的信託などが該当するわけでございます。この類型を法人課税信託として位置付けまして受託者に課税することとしておりますのは,信託の収益の帰属者たる受益者が存在しないため受益者段階で課税できないものの,信託から所得は生じておりますので,これに課税しないことは適当ではないため,一義的な所得の帰属主体であります受託者に課税することとされているものでございます。
  しかしながら,平成19年度税制改正におきましては,一般の公益信託につきましては法人課税信託に該当せず,従前の委託者課税の取扱いを維持することとされてございます。これは新信託法の法案の附帯決議におきまして,公益信託制度については公益法人と社会的に同様の機能を営むものであることに鑑み,先行して行われた公益法人制度改革の趣旨を踏まえつつ,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点から,遅滞なく所要の見直しを行うこととされたことから,当分の間の措置といたしまして法人税法の附則において手当てされたものでございます。
  資料の2ページ目を御覧ください。こちらは(認定)特定公益信託制度の概要でございます。現状の公益信託につきましては,税制上,一般の公益信託,特定公益信託,そして,認定特定公益信託の三つに分類されております。一般の公益信託につきましては,公益信託法に基づきまして主務官庁の許可を受けて設定するものであります。
  一般の公益信託のうち,信託終了時に信託財産が国又は地方公共団体に帰属すること,又は同種の公益信託として継続すること,受託者が信託会社等であること,受託者が受け入れる信託財産が金銭に限られることなどが信託行為において定められていることといった税制上の要件を満たすことにつきまして,主務大臣の証明を受けたものが特定公益信託とされるわけでございます。
  さらに,特定公益信託のうち,公益の増進に著しく寄与するものとして,こちらの資料の右の下に①から⑫までございますが,このように列挙されております事務をその目的とする特定公益信託で,相当と認められる業績が持続できることにつきまして,主務大臣の認定を受けたもの,こちらが認定特定公益信託とされるわけでございます。こうした証明あるいは認定の際には,主務大臣は財務大臣と協議することが必要となってございます。
  以降,公益信託の今申し上げました三つの分類ごとに,それぞれ,信託財産の委託時に委託者の所得の計算上どのように取り扱われるか,信託財産の運用により所得が生じた場合に誰にどのように課税されるのかについて御説明させていただきまして,その後に公益信託から給付を受けた場合についての受給者の課税関係,最後に委託者の死亡時に公益信託に関する権利が相続税法上どのように取り扱われるかについて,順次御説明させていただければと思います。
  3ページ目を御覧ください。まず,委託時の取扱いについて御説明する前に,関連する制度といたしまして寄附金税制につきまして簡単に御説明させていただきます。寄附金につきましては,この表は複雑な表ですが,ざっくりと申し上げますと,一つ目は国や地方公共団体などに対する寄附,二つ目が特定公益増進法人などに対する寄附,三つ目が一般の寄附と,このように分類できるわけでございます。原則論で申しますと,法人の支出した寄附金につきましては,事業に関連するものと,要は費用性のあるものとそうでないものがあるわけでございますけれども,そうしたことから一定の基準を定めまして,それによって限度額を定めた上で,その限度額の範囲内の支出額に限り,損金算入を認めるというのが原則論になってございます。
  その上で,一つは国や地方公共団体等,更には特定公益増進法人等に対して寄附金を支出した場合につきましては,法人税法上も所得税法上も公共性などに鑑みまして,一定の税制優遇が行われておると,法人税のところで申しますと,国や地方公共団体についていえば,全額損金算入と,特定公益増進法人につきましては一般の寄附金の損金算入の枠とは別枠で損金算入を認めておると,そういった優遇措置が与えられているところでございます。
  その上で,公益信託に関しまして御説明させていただきます。4ページ目を御覧ください。公益信託に係る税制の概要でございます。まず,①は委託者が個人の場合,②は委託者が法人の場合でそれぞれ表を分けさせていただいた上で,その表の中で横軸が拠出段階と運用段階の2ディメンションになっていて,縦軸が,公益信託,特定公益信託,認定特定公益信託と三つの信託ごとに分けておるわけでございます。
  まず,委託段階,拠出の段階の課税関係について申し上げますと,①と②の表の左側でございますけれども,まず,一般の公益信託について申し上げます。一般の公益信託の委託段階,これにつきましては委託者が個人の場合も法人の場合も寄附金扱いはされないと,すなわち,所得税におきましては寄附金控除の対象とはなりません。また,法人税におきましても損金不算入の扱いとなってございます。
  次に,同じく一般の公益信託の運用段階でございますが,まず,下の②の方でございますけれども,法人税の取扱いにおきましては現行法上,信託財産に属する資産負債を委託者が保有するものとみなしまして,その信託財産に帰せられる収益費用は委託者に帰属するものとして,課税することとしてございます。なお,所得税法上は上の表でございますが,一般の公益信託についても信託財産につき,生ずる所得については所得税を課さないこととされてございます。
  次に,特定公益信託の取扱いでございます。①,②の表の縦軸の真ん中でございますけれども,特定公益信託につきましては,公益信託の信託財産が実質的には委託者の手を離れたものであること,その運営が公正に行われること及び運営の確実性を担保することなどの観点から,税制上の各要件が定められてございます。こうした要件をクリアする公益信託に限りまして,法人税法上は信託財産として拠出された金銭を寄附金とみなすこと,②の表でございますけれども,これは一般寄附金と同じ扱いをすると,かつ委託者課税を運用段階でもしないこととされております。これらの要件を備えました特定公益信託につきましては,委託者が利益を享受することは実際上余り考えられないことなどに鑑みまして,実態に合った取扱いをすることが適当と判断することとされたものでございます。
  また,公益信託の運用時におきます課税に関して御説明することとの関係で,公益法人等の課税対象事業について簡単に御説明させていただきます。5ページ目を御覧ください。法人税法上の公益法人の取扱いでございますが,その行います事業を収益事業とそれ以外に分類いたしまして,営利法人の営む事業と競合関係にある事業であります収益事業を行う場合におきましては,課税の公平性,中立性の確保の観点から,収益事業から生じます所得に対してのみ法人税を課税すると,これを収益事業課税方式と申しておりますが,そうした方式が採られておるところでございます。
  また,4ページに戻っていただきますと,特定公益信託におきましては,そもそも,公益信託は許可審査基準におきまして,その内容は原則として助成金,奨学金,奨励金,寄附金等の支給又は物品の配布であることとされてございます。更に税制上の要件におきまして,受入れ財産が金銭のみであること,更には運用方法も預貯金,公社債などに限定されておりますということでありますことから,収益事業に該当するような信託財産の運用は行われないと,こういう整理になっておるということでございまして,こうしたことを踏まえまして,収益事業課税方式は採られておりませんで,運用時の課税は生じないと,こういう扱いになっておるわけでございます。
  最後に,4ページ目の資料の中で認定特定公益信託の課税関係でございますが,認定特定公益信託につきましては,運用時の課税につきましては特定公益信託と同じ扱いになってございます。他方,委託時につきましては特定公益信託よりも上乗せの優遇措置が講じられております。信託財産として拠出された金銭をまず寄附金とみなした上で,①の表ですが,所得税につきましては寄附金控除の対象となってございます。②の表ですが,法人税につきましては別枠の損金算入の優遇が与えられておるわけでございます。なお,認定特定公益信託の要件は,寄附優遇を認めるには公益目的を限定するとともに,継続性等を担保することが必要となるという考え方から定められているものでございます。
  次に,4ページの2.でございます。受給者の課税関係でございます。公益信託は当初,信託された財産やその運用益などから給付を行うこととなりますが,給付の対象となった者が受けた金銭等につきまして,その者が個人か,法人かによって課税方法が分かれるわけでございます。受給者が個人の場合でございますが,一般の公益信託からの金銭等の受給時に,委託者が個人の場合は贈与税の課税対象となります。委託者が法人の場合,こちらにつきましては一時所得として所得税が課税されることになります。なお,所得税法,相続税法ともに例えば学資に充てるための給付でありますとか,そういった一定の場合には非課税の規定があるわけでございます。
  受給者が法人の場合でございますが,法人の場合は受け取る金額が確定した事業年度の所得として,法人税が課税されることとなると,これが原則でございます。ただ,アスタリスクに書いてございますが,公益信託の給付先につきましては,公益法人等がなることが多いということも考えられるわけでございますが,公益法人等が受給者である場合は,給付された金銭等は通常は公益法人等の課税の対象となります,先ほど申し上げました収益事業から生じた所得には該当しないということでございますので,その場合は非課税となるわけでございます。
  最後になりますが,公益信託につきまして,委託者が死亡した場合の相続税の課税関係について御説明いたします。相続税法におきましても,一般の公益信託につきましては従前の委託者課税の取扱いを維持することとされているところでございます。委託者が死亡した場合には,その相続人等が公益信託に関する権利を委託者から遺贈により取得したものとみなされまして,その権利は相続税の課税対象となるわけでございます。ただしでございますが,公益信託が特定公益信託の要件を満たすものである場合,4ページの表上,①の下の二つ目のアスタリスクに書いてございますが,特定公益信託の要件を満たす公益信託につきましては,その信託に関する権利の価額はゼロとして取り扱うと,このように定められておるわけでございます。
  簡単でございますが,私からの説明は以上でございます。
○中田部会長 田原参考人,どうもありがとうございました。
  頂戴しました御説明をそしゃくして今後の審議の参考にさせていただきます。
  それでは,本日の審議に入ります。本日は部会資料34について御審議いただく予定です。具体的には途中休憩の前までに部会資料34のうち,「第3 公益信託の認定の主体」まで御審議いただき,午後3時半頃をめどに適宜,休憩を入れることを予定しています。休憩後,「第4 公益信託と目的信託の関係」について御審議いただきたいと思います。
  部会資料34の第1と第2は,前回の審議で受託者に関する認定基準と信託事務に関する認定基準について御審議いただいたのに続くものです。まず,「第1 信託財産に関する認定基準」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私から御説明させていただきます。
  まず,「第1 信託財産に関する認定基準」のうち,1の「公益目的の信託事務の遂行見込み」について御説明します。本文では「公益信託の信託財産の運用,追加信託及び寄附金等の計画の内容に照らし,その公益目的の達成に必要な信託事務を遂行できることが見込みがあること(信託財産の取崩しを内容とする場合にはその存続期間を通して信託事務を遂行することができる見込みであること)を認定基準とする規律を設けることでどうか。」という提案をしています。
  公益目的の信託事務を遂行できる見込みがないような信託を公益信託として認定する必要性は認め難いことから,信託財産に関する認定基準として,このような認定基準を設けることを提案しています。なお,信託事務の遂行可能性を検討するに当たっては,設定当初の信託財産に限定することは相当ではないことから,このような限定は付さず,信託財産の運用のほか,追加信託や寄附金等の計画の内容も考慮して判断することとしています。もっとも,信託財産の運用の概念及びその許容される範囲については,特段異論のないものと思われる預貯金や国債などの安定的な運用を超えて,どこまで許容されるか否かなどの論点があります。公益目的の信託事務の範囲の論点とも関連しますが,本論点においても御意見等を頂ければと存じます。
  続いて,第1の「2 遊休財産の保有制限」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益目的の信託事務のために現に使用されておらず,かつ,引き続きそのために使用される見込みのない遊休財産の額が一定の額を上回るものでないことを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,「公益目的の信託事務のために使用しない財産を受託者が当該公益信託の信託財産として保有することを禁止する規律を設ける。」,丙案として,「受託者の遊休財産の保有制限に関する規律は設けない。」という提案としております。
  公益信託の受託者が,委託者から受領した信託財産等を自らの下で蓄積し,長期にわたり公益目的の信託事務の遂行に使用しないと,本来公益目的に使用されるべき財産の死蔵につながり,資金拠出者の意思にも反するため,公益法人認定法の規律を参考に,甲案のような提案をしております。
  これに対し,公益信託の受託者が,公益目的の信託事務のみを行い,それ以外の信託事務を行わないとした場合には,そもそも公益目的の信託事務のために現に使用しない財産を保有する必要はないことから,そのような信託財産の保有を禁止するとの考え方があり得るため,このような考え方を乙案として示しています。もっとも,乙案に対しては,公益信託の事務の円滑な運営・遂行を阻害するとの批判があり得ます。
  以上に対し,そもそも受託者の遊休財産の保有制限に関する認定基準を設けることは不要であるとの考え方があり得るため,丙案を示しております。もっとも,丙案に対しては,収支相償又はペイアウトルールなどのこれに代わる認定基準についての規律や,監督機関等による事後チェックが適切に機能しない限り,信託財産が公益のために使用されず,死蔵されるおそれが残るとの批判があり得るところです。
  なお,公益法人制度における収支相償と遊休財産規制の相違点について補足いたします。部会資料5ページの(注)に記載しておりますが,収支相償はフローの面からの規制であり,遊休財産規制はストックの面からの規制となっているといった違いがあるほか,収支相償については公益目的事業のみが対象となりますが,遊休財産規制については法人全体を対象とするなどの違いがございます。
  また,前回の部会において議論させていただきましたペイアウトルールにつきまして,部会資料7ページ以下にアメリカにおけるペイアウトルールの説明を補足いたしましたので,参考にしていただければと存じます。
  第1の「3 他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益信託の信託財産に他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財産が原則として含まれないこと(例外として,当該株式等の財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合は当該株式等の財産が含まれることを許容する)を認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような規律は設けないという提案をしております。
  まず,公益信託の受託者が,信託財産に含まれる株式等を用いて実質的に営利事業を行うことを防止する必要がある一方,公益信託の信託財産として株式を全く保有できなくなることは相当ではないことから,公益法人認定法の規律を参考にして甲案を提案しております。もっとも,甲案を採用する場合には,公益法人制度とは異なり,受託者は複数の信託を受託できる上,受託者自らの固有財産も保有していることから,例外要件の「実質的に支配するおそれ」の有無の判断に当たり,当該公益信託の信託財産に着目すべきか,あるいは受託者に着目すべきかについて検討する必要があります。この点についても併せて御審議いただければと存じます。
  これに対し,公益信託の信託事務を公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務は行わないとする場合には,収益事業等を行うことが可能な公益法人に比べて,公益信託の受託者が信託財産である株式の議決権を行使するなどして営利法人等を実質的に支配するような事態が生じる可能性は相対的に低くなると考えられることから,甲案のような認定基準は不要であるとの考え方があり得ますので,それを乙案として示しております。
  第1の「4 不可欠特定信託財産の処分制限等」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益信託の受託者が公益目的の信託事務を行うために不可欠な特定の信託財産があるときはその旨並びにその維持及び処分の制限について必要な事項を信託行為で定めているものであることを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような規律は設けないという提案をしております。
  公益目的の信託事務を行うために不可欠な特定の信託財産がある場合,その信託財産を受託者が処分してしまうと,公益信託の信託事務の遂行に支障が生じるおそれがある一方,処分を一切禁止するなどの必要以上の規制を及ぼすことは,受託者の行う信託事務を過度に制約することになる懸念もあることから,公益法人認定法の規律を参考に不可欠特定信託財産がある場合には,信託行為にその旨並びにその維持及び処分について必要な事項を定めておくことを認定基準とする規律を設けることを甲案として示しております。
  これに対し,信託法の解釈として公益目的の信託事務の遂行に必要な不可欠特定信託財産を受託者が処分できないことは当然である上,公益信託の認定基準が煩雑になるという懸念から,甲案のような認定基準は不要であるという考え方があり得ますので,乙案のような考え方を示しております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきたいと思います。4点ありますので順にお願いいたします。まず,「1 公益目的の信託事務の遂行見込み」,これについていかがでしょうか。
○道垣内委員 重要な議論がなされる前に形式的な話をしておきたいのですが,これから申し上げること自体は,実は公益信託法改正研究会報告書の中でも同じ言葉が使われており,かつ私もメンバーでありましたので,本当は若干申し上げにくいのですが,追加信託という言葉を用いるとき,その意味について信託法の中で定義されていないことが気になります。恐らくここで書いていらっしゃるのは,信託の設定当時から例えば1年後,半年後にはこういうお金が入ってくるとか,更にこういうふうなことをするとかといった計画がされているという場合を念頭に置かれているのではないかと思うのですが,信託法の実務において追加信託という言葉が用いられるときは,予定されていなくても信託財産を追加的に支出するということを広く含めていますよね。
  そのような財産の追加的支出がどのような法的性質を有しているのかは,実はよく分からないところであり,いろいろ,議論もあり得るところだと思います。したがって,要綱において,財産の追加を意味する言葉を用いなければならないときは,例えば信託設定後における信託財産たる財産の追加予定とか,まあ,この例も「追加」と言ってしまっているので問題があるかもしれませんけれども,少なくとも「追加信託」という言葉を使うことは避けた方がよいのではないかと思います。細かい点なので最初に発言させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。
  表現については最終的にまた御検討いただくことにいたしまして,今日,この場では取りあえず,追加信託という言葉もお使いいただいても,最終的にまた調整させていただくということになろうかと存じます。いかがでしょうか。
○小野委員 先ほど運用の話がございましたけれども,前も同じような発言をしましたが,運用という言葉自体が信託業法の適用とか,金商法上も使われている用語でもありますから,後半の金銭を特定の信託財産に変更する場合も,運用という広いくくりの中で議論しない方が,言葉だけの問題ですみませんけれども,よろしいかと思います。業法規制等をかけない場合の弊害等を懸念する議論があるのかも知れませんが,信託行為の中で金銭の使途等明示しておくということで対応できると思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 1の提案には賛成でございますが,ここで公益目的の達成に必要な信託事務を遂行することができる見込みがあると書いてある部分の解釈について,少し確認的に議論させていただきたいんですけれども,従来の助成型の公益信託は当初信託財産がほとんど金銭であったというところ,今回の改正で当初の信託財産を株式とするような助成型の公益信託ができるようにしたいと考えていることを従来から申し上げておりました。
  その株式などを当初の信託財産にした場合には,恐らく二つぐらいパターンがあって,株式を売却して助成資金にするという場合と,配当を助成に使うという場合があると考えています。後者の配当を使う場合なんですけれども,株式の配当ですので,当然,0%ということもあると思います。そうすると,その場合には事務遂行の見込みがあると言えるためには,配当のみを原資にするというような形で最初に決めてしまう,事業計画をそういうふうに作ってしまうと,助成できないということが考えられるわけですので,配当が0なのであれば,株式を売却して助成を行うというような事業計画である必要があるのではないかなと考えております。そうでなくて,0のときは助成しなくていいですよとしてしまうと,株式の内容によりましては全く助成をしないままに期間が経過してしまうということもあり得るわけでして,そうしますと,次の遊休財産との関係でも財産が死蔵されてしまうのを認めるようなことにもなりかねないと思いますので,そのように考えた方がいいのではないかと思っております。
  あと,資料の3ページ目の下から3行目辺りのところで,存続期間について記載されております。ここで書いていますように10年未満を予定している公益信託であっても,これを排除する必要はないという点には賛成でございます。その次の「もっとも」以下に書いている部分ですけれども,ここも重要ではないかと考えておりまして,余りその期間が短かすぎるであるとか,財産の金額なのか,あるいは配当が小さすぎるのかですが,公益のために供される信託財産の規模が余りにも小さいというようなものを認めるというようなことがありますと,公益認定自体に社会的なコストが相当掛かるということを考えますと,余り小さなものまで認めてしまうのはいかがなものかとも考えているところです。金額の規模が幾らだったら適切なのかというのは,なかなか,この場で申し上げにくいのですけれども,そういうことも配慮が必要ではないかと考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 これから事業型の信託も認められていくということで,例えば美術館だとか,博物館みたいなのを念頭に置いたときに,こういう基準の下でどう判断するのかという点について述べたいと思います。結論を申し上げますと,そういう事業型の場合には恐らく永久に続くといいますか,特に年限を決めないで博物館なんかでしたら続くということを予定するのが一般的だと思いますので,そういう下で信託事務が遂行できることの見込みというのを余り厳格に判断すると,なかなか,クリアするのが厳しいのだろうという観点からの発言です。
  事業型の博物館,美術館なんかを考えますと,恐らく建物であるとか,あるいは絵であるとか,それから,一番問題はそれを運営していく資金というのをどうやって調達するかというところの計画なのだと思います。当初に相当まとまった金額が信託財産として確保できればいいわけですけれども,そう簡単ではないでしょう。博物館とか美術館が年間どのくらいの経費が掛かるのか分かりませんけれども,1億円だとか,そのぐらい掛かるとすると,それを確保していく,そういう仕組みを作れということを要求するのだと思いますけれども,基本財産の運用利益だけでやっていくというのはなかなか難しいでしょう。寄附とかも当てにしなくてはいけない。美術館に関連するものを売ってもその収入はたかが知れている。そういう下で「公益目的の信託事務の遂行見込み」というのをどう判断するのかということが問題です。恐らく寄附というのは相当多く見積もらないとうまくいかないのではないか。
  寄附は,それほど確実に入るものではないわけですけれども,そういうものを当てにして大体年間の運用経費はこんな方法でもって調達することを予定していますというような計画でいいというのであれば,事業型は成り立つと思いますけれども,そうではないと,なかなか,厳しい。従って,事業型も可能なように,そこら辺の運用をそれほど厳しくしないようにするのがいいのではないかと考えます。
○林幹事 日弁連の議論では,この要件については見込みがあることではなくて,消極的要件にして,見込みがない場合に認定から排除すべきというのが一致した意見でした。先ほどの御説明では,見込みがないものは排除すべきであるという趣旨であったと思いますが,端的にその旨を規定した方がいいのではないかと思います。見込みがあることを要件としてしまうと,運用や扱いによっては見込みの精度が相当高くないと,認めない方向に働いてしまうのではないのかと考えられます。先ほどの先生方からの厳格にすぎるとうまくいかないのではないかとの御指摘と問題意識は同じで,排除したいのは明らかに見込みがない場合と考えますので,端的にその旨を規定すべきと考えます。
  この点,民事再生法第25条3号は,民事再生手続の開始申立に対する棄却の要件として,再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるときを棄却事由としていますので,そのような規定の仕方がベターであると思います。この規定は明らかなときという消極的要件としており,弁護士会では,見込みがないことが明らかなときに排除したらよいとの議論でした。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほど吉谷委員が発言された信託財産の規模と期間ですけれども,公益信託の目的によって判断すべき事柄であって,一概に小さいからいけないとか,短いから問題だという話では,もちろん,信託銀行が受託者となるときには,営業信託として小さい金額を受託することはできないかもしれませんけれども,それは担い手とかにもよると思います。例えばということで例を挙げると,何か災害だったりすると当初の半年,1年という期間が一番重要で,それが数年たってくると,だんだん,違ってくる状況になりますから,その間に集中して公益信託的な目的で何かをするというのは,誰もが想像し得ることと思います。
○平川委員 御提案の公益信託目的の達成に必要な信託事務を遂行することができる見込みがあることを要件にすることには,基本的には賛成なんですけれども,林委員と軸を同じにするところがあるんですけれども,当初信託財産や信託財産の運用については,基本的には受託者の責任として,受託者の自由な判断に委ねられるべき問題ではないかと思いますので,規律は必要最低限にするというスタンスで臨むべきだと思います。ですから,信託事務を遂行することができないということが,余りにも明らかなものを排除するという程度の規制であるべきだと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 存続期間ということにつきましては,現行の公益信託でも向こう3年とか5年とかの計画をお示ししているとは思うんですけれども,必ずしも何年とか,永久に続くとか,初めから決めているわけではないので,事業型だから永久に続かなければならないということもないと思いますので,ここの期間を通してというところが何か厳密に読まれるので,今のような御議論になっているのではないかなと思いました。当初,数年分の計画を出して,それはまずできるんだというようなことが確認できれば,それでよろしいのではないかなと思います。
○中田部会長 最初の方に道垣内委員から追加信託という用語について,そして,小野委員から運用という概念について,それぞれ,御指摘いただいたわけでございますが,これらについてもしお考えがございましたら,お示しいただければと存じますけれども,いかがでしょうか。
○吉谷委員 運用の考え方については,以前も申し上げたのと同じ内容ではございますが,当初の信託財産を別のものにどんどん変更していくというようなものにつきましては,株式のような投資商品であっても,あるいは不動産のようなものであっても,かなりリスクを伴うことになると思いますので,そのようなリスク判断の難しさというものがあるということを認定においてどう考えるのかということがあるかと思います。専門家の関与というものも必要になってくるかと思いますし,そのような専門家が関与することによって,報酬もかなり上がってくるということもあるかと思いますので,信託協会の議論では余りこのような財産の変更をどんどん行っていくというような運用については,慎重に考えた方がいいのではないかなというような議論が出ておりました。信託銀行自身は運用の専門家ではあるわけですけれども,一方で,業として行う場合には一定程度の財産がなければできないというような問題もあると考えております。
○能見委員 中田部会長の言われた用語についてですが,まず,「追加信託」という用語に関しては道垣内委員のおっしゃるとおりだと思いますけれども,ここで問題となっているのは公益信託における追加信託で,新たに信託財産が追加されても受益者が出てくるわけではないので,問題は比較的単純なのだと思います。要するに信託財産として増えるということなので,したがって追加信託が定義されておらず問題であるというならば,この表現を避けて,信託財産の増加というような言葉に変えればいいのではないかと思います。これが受益者がいるような信託ですと,単に財産が増えるのか,追加信託ということで委託者がいて,また,受益者がいるとかいうことになると,信託の関係当事者が影響を受けますので,追加信託の意味を厳密にしなくてはいけないと思いますけれども,公益信託の場合には,そのような問題がないので,先ほど言いましたようにちょっと言葉を直すことでいいと思います。
  それから,「運用」に関してですが,今議論しているのは,認定の際の基準として考えていると思いますので,その意味では,先ほど吉谷委員が言われたように,公益認定を申請する際には,計画を作るだけなので,公益信託が成立した後に次から次へと財産が変わっていくという意味での運用,そしてどのような運用が許容されるかといったことは,少なくとも最初の段階では問題にする必要がない。ただ,認定の基準だといっても,その後に監督するときの基準でもあるというお話でしたので,ただ,両者は本来,分けて考えるべきだと思いますが,そういう運用の段階での基準として考えたときには,運用という概念についてもう少し厳密に議論し,規制するのかしないのか,そこら辺を検討する必要があるのではないかと考えます。
○小野委員 私の先ほどの発言に関連して,先ほど吉谷委員がおっしゃられた金銭を株式に変えることはいわゆる運用であって,あと,金銭の運用として,例えば,あり得るかどうか分かりませんけれども,不動産投資として,アパートを建てるとか,不動産の賃貸業をする,それも一つの運用だと思いますけれども,私が申し上げた趣旨での信託財産を別のものに変更するというのは,例えば福祉絡みといいますか,社会的な弱者絡みでいえば,子ども食堂とか,例えば運転資金として給与を払うとか,また,場合によっては新たな備品を買う,場合によっては子ども食堂のため新たに不動産を買うとか,いずれにしても当初の公益信託の目的の範囲内において,資金使途がある程度,明確になっているような形での,だから,運用ではないはずですけれども,資金の利用を指しています。ただ,多分,ここでのくくりとしては,そういうのも含めて当初金銭が他の財産に変更することを変更と呼んで運用に含めており,金銭運用業みたいな運用と,資金使途を明確にした形での資金の利用をどちらも変更という形で記述されているのかと私なりに理解して先ほど発言しました。ですから,吉谷委員のおっしゃっていることはちょっとずれがあるかと思います。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 私の発言も誤解を招くかもしれないと思いましたので,私の方はむしろ計画を立てる段階で株式であるとか,不動産とかに変えることによって,そこから収益を大きく得ることを前提としたような計画を立てることには,慎重であるべきではないかというふうな趣旨で申し上げたところです。
○新井委員 追加信託及び寄附金等という用語ですけれども,まず,追加信託という言葉については道垣内委員の指摘があったとおり,私もこれは避けた方がいいのではないかと思います。というのは,追加信託ということになると,特に委託者の地位をどう扱うのか,当初の委託者と追加信託の委託者の地位をどう扱うのかという,また,難しい問題も出てきてしまうからです。両者とも信託目的を設定したものですが,そこに微妙な差異があったらどうするかというようなこともあると思います。寄附というのは,実際の公益信託でも使われて,結構,たくさん例もありますので,せいぜい,寄附金という用語にしておくのが妥当ではないかと考えます。
○中田部会長 この1については様々な御意見を頂きましたが,大体の方向はこういうもので良かろう,しかし,認定基準の設定に当たって過度に厳格なものにならないようにという御意見を何人かの委員・幹事から頂戴しました。また,用語については追加信託という言葉は適切ではないだろうという御指摘,それから,運用という言葉は概念が幾つかあるようですので,今回の部会資料でもかなり整理されてはおりますけれども,更にそれを詰めていく。それから,寄附という言葉についても今,新井委員から御指摘いただいたようなことがあろうかと存じます。1については,大体,この辺りでよろしいでしょうか。
○道垣内委員 運用について概念を詰めるということでおまとめいただいたので,それで結構なのですが,ここの第1の1で出てきているこの文は,公益目的の信託事務を遂行するために必要な資金をどうやって得るか,それが十分にあるかという視点から書かれているわけですよね。そうすると,ここでの運用というのは,恐らくは吉谷委員がおっしゃったように,必要な信託事務を遂行するための原資が十分にありますかという話なのだろうと思います。運用という言葉を詰めるということも必要ですが,第1回目からの審議との関係で申しますと,運用という概念が多義的になる可能性があるのだろう,規律の目的との関係で,活動を制限する,あるいは認めるという意味で運用という言葉を用いることもあるわけで,その規律における意義との関係と意識しながら,概念を整理していただければと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 手短に言います。追加信託に関して法律上の概念の問題とか,委託者の地位の扱いとか問題点の指摘があり,とすると,信託は1回限りであとは信託財産で取引すればよいという議論かもしれませんけれども,そうすると課税関係も異なる可能性もあるかと思いますし,あと,当初の信託設定行為で足りないものがある,また,委託者が何か当初信託財産である不動産のほかにもう一つ追加するとか,そのときに追加信託が認められたら,メニューとしてはふさわしいように思うので,そういう趣旨で部会長は発言されたと思います。追加信託そのものを法律上の不明確性から排除するということにはならないように,多彩なメニューで対応できるように,なおかつ,税法上もそれで対応できるようにというのが,より公益信託を活性化するために必要ではないかと思います。
○道垣内委員 例えば私が公益信託を設定するが,私の余剰資金は1年間に1億円あるので,10年間,1億円ずつ拠出しますと最初に定まっているということになりますと,10億円の拠出義務を設定したところの信託契約というのが最初から存在していて,それが分割給付になっているわけですよね。追加信託というのが,そのことを指しているのか,それとも,小野委員がおっしゃったような,その後にどうも足りないねとか,あるいはもっとこの公益信託を大きくしたいよねといって追加するというふうな場合を含んでいるのか。後者を含むと,実は公益認定の段階で判断できるような事柄ではないだろうと思います。
  したがって,ここを読んだときには,それは前者の分割給付のようなものだけを含んでいるのだろうと理解した上で,そうならば,それを追加信託と本当に呼ぶことがこれまでの用語法に合っているのでしょうかという問題を立てたわけです。どういったものまで認めるか,そして,認めることと,それを公益認定において考慮するというのはまた別問題です。仮に,今議論している規律において,考慮されないということになったときには,およそ,この公益信託をより大きくしようとするための追加拠出が認められないことになるのか,というと,そうではない。そういったことを踏まえて概念整理をしていただければと思います。
○中田部会長 それでは,今,頂いた御注意を参考にしながら更に詰めていきたいと思います。
 では,続きまして「2 遊休財産の保有制限」について御審議をお願いいたします。
○渕幹事 ここで「使用」ということはどう定義されているのでしょうか。例えば不動産があって,その不動産を学生寮として使うというようなことで,例えば普通に借りたら,毎月10万円ぐらいの学生寮に,学生をただで住まわせるというようなことをした場合,多分,それは不動産自体を「使用」しているということになるというような気がします。他方,10億円ぐらいを普通預金に預けていて,その利子を奨学金にするというような場合,それは10億円を「使用」しているということになるのかというと何か違うような気もいたします。この辺りについて御説明いただければと思います。
○中辻幹事 渕幹事が例として挙げられた信託財産である不動産を学生寮としてそこに学生を無料で住まわせている場合には,信託財産を公益のために使用していますので,遊休財産規制には該当しないことになります。また,奨学金給付のために信託財産として預けた金銭が1億円あって,それが信託設定の段階で手つかずに残っていたからといって直ちに遊休財産の保有制限に違反するということはなく,事業計画に沿って奨学金が配られるのであれば,その信託財産は公益のために使用される見込みがあることから,遊休財産規制には該当しないことになります。
○渕幹事 分かりました。1億円が減っていって,最終的にゼロになるということであれば,もちろん,使用されるということなのかなと思いますが,例えば,1億円の元本が減らないで利子だけをひたすら使っていくというようなことでも,使用されているということになるという理解ですね。
○中辻幹事 1億円の利子を使って公益目的が実現できるのであれば,その1億円は遊んでいるわけではありませんから,遊休財産規制には該当しないということになります。
○渕幹事 どうもありがとうございました。
○深山委員 甲案,乙案,丙案とありますので,まず,結論から申し上げると,乙案の言葉の使い方はともかくとして,考え方としては乙案のような考え方をベースにしてよろしいのではないかと思います。前回の議論で収支相償の基準を設けるかどうかという議論の際に,その必要はないということを申し上げ,なおかつ,公益のために提供された財産がいわゆる死蔵されたような状態になることは避けるということについては,別途,遊休財産の保有制限のような規律でということを申し上げました。そういう意味では,前回の発言の延長として,およそ公益目的に使われないような財産を公益信託財産として存在させ続けるのは,考え方としてよろしくないだろうという意味で,乙案のような考え方は一つの認定基準になり得るのかなと思っております。
  ただ,使用という言葉の議論などにも関連するかと思うんですが,何をもって使用している,していないを判断するのか,あるいは遊休財産という評価を与えるのかどうかという,そこが正に重要でありまして,現に使っている場合は問題ないわけですが,現に積極的に使われていないように見えるものであっても,将来,使うことが予定されているとか,そういうものであれば,ここでいう遊休という評価には当たらないのだろうと思います。
  先ほど出た例でいえば,1億の財産のうち,年に1,000万円ずつ使うのだとしたら,残りの9,000万は最初の1年目は使われていない財産ですということは誰も言わないと思うんですが,そういうことから始まって,例えば積極的に今,使っていない不動産があると,土地があるというときに,それはいずれ何らかの目的で使う予定があるとか,あるいはそれを換価して金銭にした上で使う予定があるとか,いろいろな計画がそこに存在すれば,よほど荒唐無稽なものでなければ,直ちに使っていなくても,それは使う予定の財産という意味で遊休財産という評価は与えられないと,こういうような運用といいますか,実務になるのであれば,さほど,規制を設けたからといって不都合はないのではないか。むしろ,公益信託という制度の趣旨,理念からすれば,一つの考え方としてあっていい基準ではないかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 本件の遊休資産の保有制限等のいわゆる財務基準につきましては,基準の全体並びに基準間の相互の関係が問題となり得ることから,その是非の判断をいずれかの段階でトータルに検討すべき問題ではないかと思いますが,本件の遊休財産の保有制限については,公益信託であれば,まずは自由で在るべき丙案に賛成します。また,公益信託につきましては,受託者は公益信託事務のみを行い,他の信託事務は行わない構成とすべきと考えておりますので,他の信託事務からは遊休財産の発生が想定されないため,この点からも遊休財産の保有制限に関する規制は必要がないと考えています。
  ただし,先ほどトータルに検討すべきと最初に申し上げましたけれども,収支相償について第33回検討案中,第3の「信託事務に関する認定基準」の「4 収支相償」についての規制は入れないという場合を採用する場合には,内部留保を不当に積み立てる弊害を排除するために,収支相償に代わって遊休財産の上限を,例えば年間の公益信託事務の費用の3年分程度を上限とするという規制を設けるということが考えられると思います。公益法人制度の場合には1年分となっておりますが,もう少し融通性を持たせて3年分程度が考えられるのではないかと思います。
  収支相償規制は事業を行っていれば,収支がとんとんでいくということを維持するということは,非常に実務的に難しいところ,これを要求している点で実務的対応がなかなか苦慮しているところなんですけれども,その縛りをなくして内部留保をどの程度規制していくかということについて,その限度は一定程度設けるということは考えられると思います。遊休財産をいたずらに内部留保してはいけないということ自体は分かるんですけれども,公益法人の場合のように遊休財産の1年分というのは余りにも少ないですし,アメリカなんかでは内部留保がある方が信用力のある公益団体であるとも認められているわけですので,そういう点を考慮しても内部留保は全然駄目だとかいうことではなく,収支相償との関係で一定限度の上限を設けるということも考えられるけれども,基本は丙案で自由で在るべきというスタンスをキープするような規制にしていただきたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○能見委員 収支相償の話が出たので,前回,一応議論したわけですが,もう1度確認しておきたいと思います。収支相償は,今回の部会資料の説明の中にも出てきますけれども,公益法人の場合には公益目的事業の会計のところでの収支相償であって,収益事業の方については要求されません。収益事業の方については,その50%以上は公益目的事業の方に使わなくてはいけないけれども,その残りは使わなくて良くて,ただ,そこは法人課税が適用される,というものです。
  ただ,この収益事業会計の部分には収支相償原則が掛かりませんので,公益法人の場合には,理論的には財産が増えていく可能性がある。そういう構造に公益法人の場合はなっているわけです。したがって,公益目的事業についての費用が足りないときには,収益事業の方でたまっているものを使えばいいわけですが,公益信託の場合には収益事業は行わない,公益目的事業しかやらない,そういう構図の下で収支相償というルールをかけると,継続的な公益信託を行っていく上でこのルールは,非常に大きな制約となります。非常に公益目的の事務を遂行することを困難にするだろうと思います。そういうことになるということを前回,申し上げました。
  そういう考え方から,収支相償の原則は採用しないのが望ましいと思います。そのうえで,今,平川委員が言われたように,収支相償原則がないことで公益信託の財産が内部留保という形で増えていくことを認めるのも適当でないので,それについては別途何らかの規制が必要なのではないかということであります。私も何か規制があった方がいいと思いますけれども,これも余り厳しい規制ではないのが望ましい。アメリカのペイアウトルールを見ますと,これも厳しいかなという感じがしますので,日本の公益信託にふさわしい何かルールを考えればいいのかと思いました。以上が収支相償との関係での発言です。
  次に,遊休財産の保有制限についての甲,乙,丙案ですが,今の考え方からすると,甲案に類するもので何か緩いものを考えるということなのかもしれません。乙案は,確かに公益目的事業に関係ない財産を保有するということは望ましくないということは一般的には言えます。例えば助成型の公益信託で絵を保有するとか,そんなようなことなんだと思いますけれども,しかし,これも認定基準のところで規制する必要は必ずしもないと思います。不要な財産を保有しているということ自体が恐らく公益信託の受託者にとっての善管注意義務なのか,何かの義務違反になる可能性もありますし,内部的なガバナンスで対応すればいいのであろうと思います。これは駄目で,これはいい財産だということを認定の段階で区分けをすること自体もなかなか難しいと思いますので,内部的なガバナンスで対応すべきなのではないかという感じがいたしました。
  それから,もう1点は,これで最後にしますけれども,ここでの規制といいますか,基準を認定段階での基準として考えるべきなのか,あるいは運用段階の基準にすべきなのかという点を検討した方がいいだろうと思います。遊休財産の保有規制はむしろ公益信託成立後の運営段階の問題ではないかという感じがいたします。そして,公益信託成立後の問題であるとして,そこで仮に何らかの基準を設けて監督するとしても,それに違反した場合に認定取消しになるような問題ではないのではないか。基準を超える財産については,それを使わせればいいことなので,そういう緩い効果を持った基準として考えるべきではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論では,単位会レベルでは丙案の意見がそれなりに多かったかと思いますが,資産を無用にため込んだり,死蔵させることは避けるべきであるので,そのためにはどういうルールがいいのかということと,収支相償については余りよろしくないと考えるので,それに代わるルールは何かとの観点からを考えることになると思います。また,設定当初に,この資産は信託目的に使わないというものを明らかに持っているようなものは認める必要はないので,そうしたものは当然排除するのでしょうけれども,この乙案でも,信託設定後に信託を動かしているときにどう規制するというのも含めたものになると,やや厳しいという気もします。
  それから,一番問題と考えるのは遊休財産というのの概念がそれなりに曖昧である点です。不動産を事実上持っているとか,預金を置いているという,それだけで遊休とされてはならないところであり,そうした認識は一致しているようですが,それを適切に規定することができるかという問題点はあります。
  この論点では,本質的には公益信託の活動をいかに活発にするかというところにもあると考えられるので,その点何らか工夫できないのかということはあります。そう考えたときに,緩やかなペイアウトルール的なものというのは,個人的には考えられるかと思いました。ただ,まだ,具体的な規定のイメージは持てておりません。いずれにしても,これに違反したから取消しではなくて,そこを是正すれば公益信託を続けられるものにすべきだという,能見委員もおっしゃった点は,私も同じ意見です。
  部会資料の7ページ等にアメリカの例とかも頂いていますけれども,ため込みすぎるとペナルティがかかるとかいうようなこともあるかもしれません。場合によっては,そこは課税するというペナルティもあるかもしれません。
○吉谷委員 甲,乙,丙でいいますと甲案には反対です。その趣旨としましては,甲案というのは公益目的の信託事務に使用しない財産を持つということを認めるルールであると理解しました。全ての信託財産を公益目的の信託事務を行うために,使用するのであるということを前提にすべきではないかと考えました。使用するの定義はまた難しいのですが,計画の中で何らかの使用をするということが分かっているかどうかということではないかと理解しております。恐らく助成型と事業型に分けて考えた方が分かりやすいのではないかと思いました。
  まず,助成型は,元々,一時的に金銭が増えることは,それほど問題視されないのではないかとは思うのですが,信託契約や事業計画で計画外に試算の増加が生じた場合には,速やかに換金をして年間の助成額を増加するであるとか,あるいは,元々,10年ぐらいで財産がなくなる予定であったところを信託期間の延長をするとか定めておいて,資産の増加への対応方法をあらかじめ決めておくということとしておけば,資産が増加しても,それは一時的なものにとどまるわけでありまして,余り問題にならないだろうと考えました。
  一方で,事業型につきましては,計画外の資産の増加が生じた場合には,その資産をどのように使うかというのは明らかではないわけですので,その解消のためには事業計画の変更をしなければならないのだということだと思います。そのため,一定の期間内に事業計画を変更して,増加した資産の処分方法を決定するというプロセスが必要なのではないかと。そのような計画が立てられないのであれば,同様の目的の公益法人や国であるとか地方公共団体に寄附をしても,別に構わないのではないかなと思います。
  乙案というのがそのような計画の変更等で対応する,あるいは当初に決めておくことで対応するというような趣旨であるとしましたら,乙案に賛成であるということです。ただ,乙案の場合は計画外の資産の増加があり得るということを認めてないかのようにも読めなくはないので,そこは明確にした方がいいのではないかと。
  それで,丙案につきましては,趣旨としては同じなのですけれども,例えば信託財産の範囲の規律の中で,信託財産は公益目的の信託事務に全て使用するというような趣旨の規律が設けられて対応できるとか,あるいは事後的な監督段階での規律が設けられるということであれば,乙案でなくても丙案でもいいのではないかと考えております。
○小野委員 控除対象財産というものがどういうものかということの質問なんですけれども,財団であれば基本財産が当然ありますし,また,それ自体,存在すること自体に意義があると思います。最終的には公益目的のために利用することになるでしょうが,財団継続中には実質的な意味においての会社における資本金みたいなものであって,取引の安全性とか,また,例えば,そこで働く方々,給与債権とかの引当てに最終的になるわけで,そういう意味において遊休資産がそもそも駄目というのは適切ではないと思います。恐らく私の勝手な想像ですけれども,この規定が入ったのは既存の財団法人の中で,そういう遊休財産を非常にため込んでいるものがあったりして,それが公益認定を受ける際に吐き出すような仕組みを採りましょうという観点から,ある意味では特定の一般法人の公益認定の移行における特殊性から出てきた議論のように感じます。そういう観点も控除対象財産の中に,そういう広い意味での公益目的というんですか,信託自体がよって立つ財産という意味において,そういうのもあってしかるべきではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 先ほど平川委員がおっしゃったことと関連して,3年ぐらいの遊休資産というものがいいのではないだろうかというので,いろいろな例を考えていたんですけれども,例えば私が,パラリンピックで頑張った人にとにかく報奨金を出すというようなものを公益信託で作りたい,きっと誰も反対はしないと思うんですけれども,パラリンピックは4年に1度なんだから,3年の間はきっとそのための資産を積み上げということになりますよね,何らかの形で。それを運用というのか,何だか分からないけれども,とにかく,その間は支出しないということになると思うんですけれども,そういう例を考えてもいいかどうかということを思い付いたものだから確かめたいと思いますが。
○中辻幹事 樋口委員御指摘のように,パラリンピックの報奨金の積み上げを3年単位とするということは考え方としてあり得ると思います。公益法人では遊休財産と比較する公益目的事業の費用額を1年分と少な目にしているが,柔軟性を持って3年分程度とすべきではないかという平川委員の意見を,樋口委員も支持されるということで理解しましたけれども,よろしいでしょうか。
○樋口委員 そういうことです。ありがとうございます。
○中田部会長 これは遊休財産あるいは控除対象財産をどのように定義するのかということと,その結果として出た遊休財産を1年分までとするのか,3年分までなのかということの両方の問題があるのだろうと思います。その概念整理が5ページの表で一応されていると思いますけれども,この点も含めて更に検討するということになろうかと存じます。
○新井委員 甲案には認定基準とする規律という文言がありますが,乙案と丙案には認定基準とする規律という文言はないわけですけれども,乙案,丙案もともに認定基準の問題として理解しました。その上で申し上げると,甲案,乙案は事前の認定基準としては厳しすぎるのではないか,結論としては丙案を支持したいと思います。吉谷委員の言葉ですと,計画外の支出ということもあるし,公益信託の内容としては例えば災害に関するような公益信託の場合には,災害が起きたときに突発的な支出,そのためにある程度の蓄えを持っておくということもあるでしょうから,事前の認定のところで,甲案,乙案のように縛るのではなくて,むしろ,これは事後的な監督のレベルで縛ればいいのではないかということで,認定基準としては丙案に賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  様々な御意見を頂戴しました。甲案,乙案,丙案,それぞれ支持される御意見がありました。いずれにしても収支相償との関係をどうするのかということ,当初の認定基準の問題と事後的な監督の問題と2段階あるのではないかということ,そして,遊休財産あるいは控除対象財産というものの概念について検討する必要があること,という辺りかと存じます。ということでよろしければ先に進ませて……。
○道垣内委員 いつも,議論が終わってから発言して申し訳ないんですが,平川委員がおっしゃったことと樋口委員がおっしゃったことは,結局,同じですねというまとめがされたことが気になっております。樋口委員がおっしゃったのは,1年間ということに着目しない方がよい場合があるということなんだろうと思うんです。例えば4年間が1事業単位みたいになっているときには,4年ということだってあり得るということですね。それに対して,平川委員がおっしゃったのは,1年間という単位は仕方がないよねと前提の下で,それを3年ぐらい認めてもよいではないかという話であり,かなり性格の違う話です。両方とも非常に私は重要な発言だろうと思いますので,気になりましたので一言だけ。
○中田部会長 ありがとうございます。先ほど申し上げた遊休財産あるいは控除対象財産をどのように理解するのかという問題と,それから,結果的に遊休財産とされたものについて,どのくらいを認めるのかという2種類の問題があると申し上げたのはそういうつもりでしたが,今の御指摘も踏まえて更に検討していきたいと存じます。
○能見委員 遊休財産という概念が本当にどういう場面で問題となるか,そこら辺の認識が私自身も曖昧なんですが,1年分,3年分という点も関係しますけれども,仮に1年分の遊休財産を保有するところまで許すという場合に,そもそも,公益信託なので余り収入が予定されていなくて,今,たまっているものを来年とかあるいは2年後とか3年後に使うというのは,そもそも,使用計画の中での使い方の問題であって,そういう場合には貯まっている財産は遊休財産にはならないと考えるべきではないかと思います。したがって,遊休財産になるのは,公益信託でいえば,例えば,普通の事業運営によって来年分も一応,収入がそれなりにあってやっていける,だけれども,それ以外に当面,使う必要はないけれども,事業費1年分に相当するような財産が余っている,こういうときに,初めてこれを遊休財産というのだと思いますが,そういう理解でよろしいのでしょうね。
○中田部会長 恐らくそうだと思います。例えば寄附についても特定の目的を定めた場合と,一般的な場合とで,現行法の基準は違ってきている。その適否ということは,当然,議論の対象になると思うんですけれども,将来の公益目的事業のための基金というのは控除される側に入りますから,そこは遊休財産の方には入らないという整理だと思います。よろしいでしょうか。
  それでは,続きまして「3 他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止」についていかがでしょうか。
○深山委員 ここの規律については,規律を設けないという乙案の方が妥当だろうと考えます。甲案が意図する,その趣旨について全く理解できなくはないんですが,一つは,ここは一応,認定の段階での基準ということですので,なおかつ,信託財産についての認定基準ということですので,およそ株式のようなものが信託財産になること,そのものから直ちにこれを排除しなければならないということにはならないのではないかと思います。要は他の団体の支配権を持つことによって,正に株式であれば株主権を行使して,他の団体を支配するという行為というか,活動が公益信託として望ましくないということであって,そういう使われ方をする可能性はもちろんあり得るので,およそ持たせないことによってそれを封ずるというのは,一つの手段ではあるんでしょうけれども,必ずしもそういう使い方,要するに懸念される使い方がなされるとは限らない。したがって,株式等を保有した瞬間にもうアウトという評価を下すのは,いささか過剰にすぎるだろうと思うのが一つの理由です。
  もう一つは,括弧書きで例外として実質的に支配するおそれがない場合は除くというようなことも書いてありますが,果たしてどの程度の数量といいますか,シェアを保有したら実質的な支配に当たるのか,当たらないのかというのは極めて決め難い問題だろうと思います。団体の性質にもよるでしょう,会社でいえば上場企業なのか,そうでないのかとか,その他,ケース・バイ・ケースであって,過半数を持つ場合であれば比較的明確ですけれども,そこに至らなくても重要な支配を及ぼす場合というのも容易に想定できるということを考えると,この基準は基準として抽象的には立てることはできても,当てはめるところで非常に苦労するような基準にならざるを得ない。そういうやや技術的な観点からも賛成し難いと考える次第であります。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 今,深山委員が言われたことと同じなんですが,仮に設けるとしたら原則と例外が逆になっていた方がいいのだろうと思います。ですから,株式等を持っていても一応,構わないけれども,実質的な支配を及ぼすような場合であれば駄目だとなる。それを証明するのは恐らく受託者の方ではない。また,実質的な支配というのがどのような場合をいうのか,過半数を持っていなければ実質的な支配はないというようなことが,部会資料の中に説明としてありますけれども,それでいいのかどうかも深山委員が言われるように明解でない。そういう概念の曖昧さということもありまして,仮にルールを設けるのであれば,原則と例外を逆にするのがよいと思います。
○小野委員 バックアップチームでの議論を追加しますと,中小企業等の事業承継のときに,こういう公益信託を利用するということは十分考えられます。実質的に過半数を持つこと,それを行使することは性悪的な議論になっていますが,そうではないという考え方もあるのではないかと思います。信託の受託者として善管注意義務を尽くして株主権を行使すればよくて,それは過半数であろうが,少数株式であろうが当然であるというような議論をしました。特に中小企業の事業承継という観点から,公益信託を利用するということもありますね,みたいな議論が結構盛り上がったりしたということがあります。
  それと,金融という観点から参考になるかどうか分かりませんけれども,海外のチャリタブル・トラストの例ですと,株主権を行使するときには,どういう観点で,どういうふうに行使するというようなことを信託契約が規定しております。ですから,それも受託者の義務,責任の範囲内において行使すれば良いのであって,一概に株主権を持つことがどうのという問題ではなく,財産の運用の話なので,適正に行使するということで尽きるのではないかと思います。
○道垣内委員 小野委員にお伺いしたいのですが,中小企業の事業承継のために公益信託を用いるということは,どういうふうなスキームを想定されていらっしゃるのですか。
○小野委員 そこで議論になったのは,余り詰めた議論ではありませんけれども,例えば配当等については公益目的に使ってもよいと,ただし,事業承継に関しては,代々,引き継いでいくというような状況をあえて排斥する必要はないのではないかみたいな議論でした。
○道垣内委員 あえて振興する必要もないのではないかという気が伺っていてするんですが。
○小野委員 事業承継で株がばらばらになったりとか,そういう状況があり得ると思うんです。昨今の議論として中小企業の事業承継の問題としてそういう観点からの議論もあったように思います。詰めた議論ではないので,事業承継にどういう形で使われるかということをもっと検討すべきということであれば,また,持ち帰って検討したいと思います。
○道垣内委員 誤解のないように申し上げておきますと,中小企業の事業承継をスムーズに行うということ自体に私は反対しているわけではもちろんありません。公益信託を使って,その間の配当を公益目的に使うというだけで,いろいろな形の便宜を与える必要があるのかということが私には理解できなかったものですから伺った次第で,中小企業の事業承継自体のスキームの必要性について反対しているわけではございません。
○小野委員 配当が公益目的に利用できる程度あれば,それはそれであり得ると思うんです。中小企業の配当がどの程度かという現実的な議論はあるかもしれませんけれども。
○能見委員 すみません,今の議論に割り込む形になりますが,私も小野委員が想定されているような場面というのは考えていたことがあるのですけれども,中小企業の創業者などが持っている株を公益信託にしたいという話を実際に聞いたことがあります。ただ,そのときに聞いた話では配当は確かに公益に使うとしても,株式がそこで安定的に公益信託によって保有されることで,会社としても安定的に事業を行えると,そういう狙いがあったように感じました。しかし,これは公益目的と言えるか問題です。同様に,公益信託が会社の事業承継に使われている場合には,果たして本当に公益と言えるのか吟味する必要があるというような問題もありそうです。それから,そういう公益信託の使い方の場合には,信託契約の中で基本財産的な株式は売却しないとか,そんな条項が入っていたりします。話がずれてきますけれども,とにかく事業承継の場面での公益信託の利用が適当かどうかは,公益目的といえるかどうか疑問があり,どうも適当ではないのではないかという感じがしました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 甲案か,乙案かという点につきましては甲案に賛成いたします。更に他の団体の意思決定に関与することができるかどうかということの判断につきましては,一つの公益信託で考えるのではなくて,受託者単位で考えるというのがよいのではないかと思われます。受託者が複数の信託であったり,固有財産で株式を持つことも想定されると思いますので,そのように考えます。事例で書いてあるような場合は,該当するのではないかと思います。信託銀行で株式の信託をオーナー企業からお預かりすることが多いのですけれども,それは会社の支配権の安定的な確保目的で使われることが一般的なんです。なので,公益信託で支配的な株を持ったときに,それが公益が目的なのか,株式の支配権の確保が目的なのかというのが疑われるようでは,公益と言っていいのだろうかというところは疑問がありますので,ここの甲案の括弧書きにあるように,例外として当該株式等の財産の保有によって,他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合はいいと思うんですけれども,そうでなければいかがなものかと考える次第です。
○林幹事 私は乙案に賛成です。甲案については,その趣旨は一応理解でき,隠れ蓑的に公益信託を使うということは排除されるべきではありますが,結局,甲案であっても実質的な抽象的な基準しか残せないということがあります。確かに,これは絶対に駄目だというような場合を規則か何かに設けるという方法も考えてはみたのですが,パーセンテージを具体的に設定したときに何%がいいのかというのは決められないところです。上場,非上場でも違うし,会社の規模でも違うので,こういうことを考えると,規定するのは難しいと考えます。
  逆に言えば,一定の規模だったら別に議決権を行使するのも問題ないというところでもあるとは思います。ですから,深山委員の意見と同じですが,結局,それは持っていることが問題なのではなくて,どう行動すべきかが問題だと思うので,それは公益目的とか信託目的から自然と限定されていって,それに反すると善管注意義務違反になる,そういう形で規律できるのではないか,というのが弁護士会でも出たところだったと思います。
○中田部会長 ほかに商法の先生はよろしいでしょうか。
○神作幹事 期待されていることとは違う発言かもしれませんけれども,前提として私的団体を支配することを目的とすることは,そもそも,公益目的ではないから,当然,そのようなことは公益信託の目的を超えており,行うことができないという前提でよろしいでしょうか。そのような前提であるとしますと,その上で,ここの規律で問題となっているのは,実質的に私的団体を支配することは不可であるけれども,実質的に支配するおそれがある場合も認めることは適切でなく,おそれがある場合をどのように画するかという議論が現在なされているという理解でよろしいでしょうか。初めに御質問をさせていただきます。
○中辻幹事 神作幹事の御理解のとおり,まず,公益信託の受託者が株式を過半数以上保有して私的団体を支配する目的を有しているのであれば,その場合には信託の公益性が失われると考えています。そして,そのように公益信託の受託者が私的団体を実質的に支配するおそれが生じることを防ぐために,どのような認定基準が適切かということで,取りあえずここでは公益法人認定法の認定基準を参考として挙げています。
○神作幹事 ありがとうございました。もしそのような前提から出発すると,すなわち公益信託が私的団体を現実に実質的に支配することになったら,これは公益目的を外れてしまうと思いますので,そのような制約は当然かかってくるという前提の下だとすると,私は実質的に支配するおそれというのは,これまでに多くの委員が御指摘されたように,形式的に切るのはなかなか難しい点がありますので,それが反対に過剰な規制となって,むしろ,運用目的で株式を保有することが妨げられたり,株式で運用してその価値を上げるために議決権を行使することが妨げられるというのは,適切ではなく,また,そのような考え方は日本がここ数年,政策として打ち出しているところであると思います。したがって,支配権を行使して実質的に私的法人を支配するという目的ではなくて,正に投資した財産の価値を増やすという目的のために議決権を行使するというのは,むしろ望ましいということのように思われますので,それと実質的支配のおそれがある場合とをどう線引きするのは大変難問だとは思いますけれども,議決権の行使を一律に悪物視しない,そのような基本的な考え方で,しかしながら実際に支配することになったら公益目的からは離れるということを確認した上で,ではどのような規律の在り方が望ましいかを議論していくのがよろしいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○平川委員 甲案の方に賛成します。それは公益法人が他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の内閣府令で定める財産を保有していないことを,公益法人の認定基準と定めていることとのバランスからも言えることですし,あと,潜脱的に公益信託事務以外の事務を間接的に当該株式保有による実質的支配によって,間接的に行うということを防ぐためには,必要な規制なのではないかと思うんですけれども,今,おっしゃったように株式支配を通じて,その株式を発行している会社の事業を運営するということが公益信託の財産の運用に資するものであるから,それは公益なのであるという議論は,公益信託事務以外の事務を間接的に行っているということになってしまうのではないかと思い,疑問に思いました。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
○小野委員 他のところで海外の事例が先ほどの論点でも議論されていたと思うんですけれども,ここでは特に米国の事例が紹介されていなくて,米国でも私の認識だと株式を所有するというのはチャリタブル・トラストの一つの社会的機能として存在しているような気がします。論点によって,時に海外の事例を参考にし,時に公益法人の移行のときの議論を参考にするというのはしようがないと思いますが,この議論は議決権行使は公益ではないという一つの価値判断に基づくもので,そうでない考え方もあり得るので,なかなか,理屈では割り切れず,そういう意味において,もし事務局又は専門家であられる樋口委員とか,米国の事例とかを紹介していただければ参考になるかと思います。
○中田部会長 今後,御指摘を踏まえまして,また,小野委員からももし情報提供を頂ければと思います。
○神田委員 私,全然,貢献するような発言ができないのですけれども,何か話が難しくなっているのではないかと思いまして,一言,感想を申し上げたいです。他の団体の意思決定に関与することができるとか,できないというのがなぜいけないというか,公益信託の認定基準に入ってくるべきかという話だと思います。ほかの先生方の御発言はそのとおりだと思うのですけれども,ただ,これがこういう基準で切れるかということがあると思うのです。つまり,例を挙げますと,不動産を信託財産で保有していますと,それを賃貸に出して入ってくる収入で助成事業をしますとかというのは当然ありだと思います。そうだとしますと,例えば株式会社の株式を保有していますと,入ってくる配当金で助成事業をしますというときに,配当を決めるのは株主総会決議ですので,その意思決定に参加できないと配当が決まらないかもしれないわけですよね。
  そういう場合には,画一的に他の意思決定に関与することができるから駄目とはなかなか言いにくい場合が少なくともあり得ると,抽象的には思うわけです。それで,もうちょっと違う言い方をすれば,また,違った局面では団体というのが何をしているかということでして,先ほど御指摘がありましたけれども,その団体が非常に公益的でないことをしているような場合には,先ほど潜脱という言葉がありましたが,そういうことが生じるようなパターンもあるでしょう。
  逆にその団体が非常に公益に近いというか,公益信託との関係でいえば,公益信託と相乗効果が上げられるような,公益信託にとってプラスになるような活動をしている場合には,その団体がしている活動自体は仮に営利活動だとしても,そこの意思決定に参加したとしても,それによって公益信託が公益活動を進めていくことにプラスになる場合もあると思うのです。ですから,物事は実質的に見なければいけないということなのですけれども,他方,認定基準はある程度,形式的に作らないといけないでしょうから,ある程度,形式的に作って外すものを例外とするのかという辺りが悩ましい問題であると思います。多少,先ほどからの御議論とは違う側面で気を付けた方がいいかなと思いましたので発言させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。
○新井委員 先ほど吉谷委員の発言がありまして,甲案を支持したいと述べられました。それは信託銀行の立場としては極めてよく分かります。そういう利益状況だろうということは理解できますが,ここでは今後,公益信託の担い手を拡大していこうということも非常に重要な論点だと思います。そうした場合に,ある委託者がいて,株式を公益信託に拠出して公益活動をやろうというようなときに,信託銀行とまた違った利益状況がありますので,私は乙案の方に少し傾いています。その上で,議決権の行使は受託者が善管注意義務を持って行い,そして,信託管理もチェックするということで,甲案で懸念しているような問題点がクリアできるのではないかと考えています。ですから,委託者が中小企業のオーナーであるかどうかは別にして,もう少し,そこは幅広く,かつ新しい担い手のことも少し考えていいのではないかという感想を持ちました。
○吉谷委員 私どもは信託銀行ですので,銀行法上の株式の保有制限もありますので,支配権うんぬんというようなことに関与できるかどうかというと,そこはむしろ関与できない立場でありまして,新しい担い手の方がこういう信託を受託されることを想定するんだと思うんですけれども,平川委員が先ほどおっしゃったように,潜脱的な使われ方はされるべきではなかろうと思いますので,何らかの形で,そういうような基準というものがあった方がいいのではないかなと考えております。
○中辻幹事 小野委員が先ほど取り上げられた海外のチャリタブル・トラストについて,私どもも,海外の事例は参考になると考えております。チャリタブル・トラストを日本語に訳すと,慈善信託あるいは公益信託になるのかもしれませんが,チャリタブル・トラストと言ってもいろいろな形態の信託があって,その中には資産流動化のためのスキームとして株式を信託財産として目的信託を設定するという私益のスキームに近いものもあると理解しておりまして,そのような違いも含めて,今後も引き続き検討していきたいと思います。
○中田部会長 様々な御意見を頂きました。結局は他の団体の意思決定に関与することがなぜいけないのかという,その本質の問題であり,意思決定に関与することがいけないのか,実質的支配がいけないのかということを突き止めて,その上で,いけないことを防ぐためにはどうするのか,何らかの基準あるいは証明責任というんでしょうか,どちらが証明するか,原則と例外はどうするかという設定,あるいは内部ガバナンスに委ねることで足りるのかどうか,そういった段階に分けて検討すべきだという御指摘を頂いたのではないかと存じます。
  次に進んでよろしいでしょうか。それでは,「4 不可欠特定信託財産の処分制限等」についていかがでしょうか。
○山本委員 議論の前提として教えていただきたいことがあるのですが,甲案は公益法人認定法第5条第16号を参考にした提案になっていると思います。そこでは,「不可欠な特定の信託財産があるときに,その旨並びにその維持及び処分の制限について必要な事項を信託行為で定めているものである」こととされていますが,このうちの「処分の制限について必要な事項を定める」というのは,一体,何を想定しているのか,どのような場合を考えているのか,そして,特に公益法人の認定において,この規定の内容についてどのような運用がされているのかということを,議論の前提としてお教えいただければと思います。
○中辻幹事 公益法人の認定における運用については後で内閣府に確認してお答えしたいと思いますけれども,私どもが甲案で想定している必要な事項の定めといいますのは,例えば芸術文化の振興を目的とし,美術品や美術館の建物を信託財産とする公益信託であれば,再収集が困難な貴重な美術品や文化財的美術館の建物が処分されるとその美術館の運営が不可能になってしまいますので,それらの信託財産は処分してはいけませんよという条項を信託行為の中に入れておくことを意図しているものです。
○山本委員 例えば運用ということでお聞きしたのは,どのような形で内容について介入が行われているかということを確認したかったということですが,それ以外にも,例えば原則として処分をしてはいけないとしても,ただし,やむを得ない事由があるときはこの限りでないとか,あるいは公益目的を達成する上でもはや必要でないと判断されたときにはこの限りでないというような包括的な定め方を許容し,そして,その種の定めを入れるような指導等がされているのかどうかということをお聞きしたかったという趣旨です。
○中辻幹事 わかりました。では,その点を後日内閣府に確認いたします。
○能見委員 結論的には,この規制は設けない方がいいのではないかと思っています。私も余りいろいろな知見があるわけではないのですが,アメリカの美術館の例なのですけれども,美術館として絵を集めてきているわけですが,今,山本委員が言われたのと関係しますけれども,その美術館にとってかなり貴重な絵なのですけれども,もう1ランク上げるというんでしょうか,もう少し別のいい絵が売りに出ていて,それを買いたいので今まで持っていた絵を美術館としては売りたいと考えた,それは適当なのか,法律的に可能なのかが議論されていました。これをどう考えるべきかですが,当初,公益信託を設定した際には,その美術館にとってその絵は必要であると判断されていたとしても,後で売りたいという場合が出てくる可能性があるし,そういうことを許容して柔軟な運営ができるようにしておいた方がいいだろうと思います。そういうことで,それぞれの信託の判断に委ねるのがよく,甲案でない乙案の方がよろしいのではないかということでございます。
○林幹事 弁護士会の議論でも乙案に賛成というのが大半だったと思います。不可欠なものと思っても,状況によっては売却することも選択しないといけない場合があり得るというのは,先ほど能見委員が御指摘されたのと同じです。また,そういう場面ではなくても,処分してしまったら,それこそ信託目的自体が達成できなくなって,信託自体が終了するから,規律としてはそちらに委ねるので足り,あえてこういう硬直的になる可能性のあるルールは設けなくていいという議論でした。
○沖野幹事 重なる点ではあるのですけれども,今,既に御指摘にありましたように,不可欠な財産ですと,そもそも,信託行為に明示しなくても当然処分制限がかかる,あるいは黙示の信託行為の定めというようなことも考えられます。ここでは恐らく定めるというのは明示するということだと思いますけれども,確かに明確にするという意味はありますが,補足説明で書かれておりますように,不可欠の財産を処分してしまえば,目的不達成で信託自体が終わってしまうということにもなります。ですから,それと別に定める必要がどのくらいあるかです。明確にするとか,監督のときのチェックポイントとして,明示するということになりますが,そのことにどのくらいの意義を認めるかということではないのかなと思います。
  それから,最初に現在の運用でしょうか,運営状況についてお尋ねがありましたけれども,例えば例に出ました美術館の絵のような場合,当初は絵が1枚もないと美術館運営はなかなかできませから,建物だけではなくて絵自体も必要であり,例えばこの絵があるということがいわば目玉商品となっているような場合は,当初は不可欠であるけれども,その後の変更によって入れ替えたいというときには,この下で信託行為を変更して不可欠財産の特定のところの記載を変えて,そして別のものにしてやっていくというようなことがこの規律の下で想定されるのでしょうか。民事実体法としての信託法としては,信託行為に明示で書くと,そういうことになるんだと思います。処分できないというような規定になっているところを処分できるようにした上で,運営を続けていくというようなことをすると思うのです。認可の基準においても,そういう対応が可能というか,されているのかどうか,そういうことも運営というか,運用として明らかにしていただければと思いますが。
○中辻幹事 内閣府に確認した上でお答えした方がいいのかもしれませんけれども,今の私どもの理解ですと,公益法人では,定款で法人のこの財産は不可欠特定財産ですよという目録を作ります。美術館を運営する公益法人の所有する美術品であれば,不可欠特定財産が何十点にも及ぶのかもしれませんけれども,それらの目録を定款に定める。その後,状況が変化して不可欠特定財産とする必要がない美術品が出てきた場合には,定款の変更手続によって,その美術品を不可欠特定財産の目録から除外するということになりますので,沖野幹事がおっしゃったとおり,これを公益信託法に持ち込むのであれば,信託行為で不可欠特定財産を定め,その後は,信託の変更手続により増やしたり,減らしたりしていくことになるものと考えておりました。
○沖野幹事 分かりました。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○吉谷委員 どちらかといえば乙案というふうな意見になっております。その理由は何をしなければならないのかがよく分からないというところにあるように思われました。信託目的との関係がよく分からないところもありまして,例えば特定の財産を保存することを信託目的とした場合は,不可欠特定資産として何かをまた定めなければならないのだろうかと,具体的に信託行為に売却してはならないと,仮に債務超過になるような場合には,それよりも前に信託を終了して特定資産は寄附するとか,そういうようなことをしないと信託目的が達成できないのではないかと,売却してしまったのでは信託目的が達成できないのではないかというようなことで,信託行為に何を更に定めるということなんだろうというような疑問が湧いてくるというようなことでした。それと,事後的に計画が変更可能なのかというところもよく分からなかったという意見がありました。
○樋口委員 時間が来ているのでできるだけ短く申し上げます。先ほど来の御意見と重複するんですけれども,これは認定基準であるということです。だから,こういうものを定めておいて,これがなくなったら終了だという話なんですけれども,先回も重ねて申し上げているんですが,とにかく公益信託にするかどうかという話は,結局,公益信託にどういう効果が与えられるかという話で,その効果を悪用することがあるから,認定基準のところを考えているんだと思うんですけれども,とにかく通常の信託と違う効果が与えられるものとして,日本でも多分,そういうのは認められていると思いますが,いわゆるシープレットか,サイプレットというものがあって,初めにこういうような公益目的を設定して,あるいはこの美術品を守るであるとかなんとかというんですけれども,それが達成不可能になったとして,台風で壊れるなり,何でもいいんですけれども,それで終了するかというと,そうではなくて,それと類似の目的で存続させる,公益目的の信託というのは,結局,設定したらできるだけ長く維持するという話に持っていかないといけないので,その話との関係がここでは重要なのかなと感じました。
○小野委員 信託法との関連で,48条の受託者の費用弁済で信託財産を処分して費用を捻出する可能になっていますが,その辺はこの規定を変更するというようなことも含んでいるんでしょうか。終了するにしても費用は受託者持ち切りなのかというと,それはちょっと気の毒のような気もしますし,もちろん,それを悪用するのであれば,それは別の議論ですけれども,この点について信託法との整理も教えていただければと思います。
○中辻幹事 信託法48条については検討をしていませんでしたが,公益信託も受益者の定めのない信託として信託法の規定が原則適用されますので,その例外に当たらないのであれば,48条も適用されるのではないかと思います。
○平川委員 基本的に乙案に賛成で,上記の規律は設けないと。この問題は,基本的に信託行為をする委託者と受託者の間で自由に定めることができる事項であると考えますので,規律は不要と考えます。
○新井委員 なぜ,これが問題になるかというと,従来,助成型が中心であったものを事業型に変えていこうということで,特に事業型の場合には不可欠特定信託財産の処分を認めないようにする必要があると思います。新しい公益信託法において,事業型が全面的に拡大するかというと,私の予想としては拡大してほしいですけれども,基本は助成型にとどまると思います。そうすると,甲案の規定は少し規制が過剰ではないかということで,基本的には乙案でいいのではないか,そして,ここでの論点については事後的な監督の中でチェックしていけば足りるのではないかということで,結論としては乙案を支持したいと思います。
○道垣内委員 先ほど小野委員から御発言があり,中辻幹事がお答えになった点について一言だけ申し上げたいのですが,信託法48条が適用されましても,受託者がその権利を行使するために信託財産を売却するときには49条2項の制限がかかってきて,そこに括弧書きで当該財産を処分することにより,信託の目的を達成することができないこととなるものを除くとなっていますので,48条の権利の行使のために,そういう不可欠特定財産を処分することはできないのだろうと思います。そして,不可欠特定財産しかないがゆえに,48条の権利が実現できないというときには,52条に入って信託を終了させるしかないというのが現在の信託法の立て付けであろうと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 いろいろな御意見が出て,私もほぼ同感なのですけれども,ここでの問題は当該公益信託を設定するときに,受託者,委託者等が任意にこの財産は必要不可欠だから処分しないようにしようというので,信託行為に書けば,あとは信託法の解釈といいますか,今,道垣内委員が言われたのもそうですけれども,それに従っていくわけですよね。ところが,ここで要求しているのは,そういうものを必ず書かなくてはいけない,それが認定基準だという考え方で,それは行きすぎだと考えるかどうかです。私は行きすぎだと思いますけれども,以上の点がポイントなんだということだけ確認でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  よろしいでしょうか。
○長谷川幹事 確認ですけれども,2ページにございます1の「信託事務の遂行見込み」の話と,今,御議論されている11ページの「不可欠特定信託財産の処分制限等」との関係というのは,どう理解すればよろしいのでしょうか。
○中辻幹事 私どもとしては,これらは両立し得る認定基準であると考えておりますが,認定基準としてだぶってくる可能性があるのではないかという御指摘でしょうか。
○長谷川幹事 2ページの1だけあればいいのではないかという考え方が一つと,もう一つは,両者は両立し得ると考えて,1は財産の規模に着目した規制で,4は財産の質及び信託事務の中身に着目した規制と考えるかということではないかと思います。
○中辻幹事 そのような理解は十分あり得るように思います。第1の1の「信託事務の遂行見込み」は,現在の公益信託の許可審査基準から取ってきたもの,第1の4の「不可欠特定信託財産の処分制限等」は,公益法人認定法から取ってきたものですので,少し整合性がとれていないのかもしれません。
○長谷川幹事 いずれにしても,規制の趣旨等も含めて整理が必要かどうかも含めて整理しておいた方がいいような気がいたします。
○中辻幹事 承知いたしました。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
  当初,第3まで休憩の前にという予定でいましたが,熱心な御議論を頂きましたので遅れてしまいました。ここで15分間の休憩を挟みたいと思います。再開はあの時計で3時59分ということでお願いします。
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,再開します。
  部会資料34の「第2 受託者の信託報酬に関する認定基準」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,私から第2の「受託者の信託報酬に関する認定基準」について御説明させていただきます。
  本文では,「公益信託の受託者に対する信託報酬について,当該信託事務の内容,当該信託の経理の状況等を考慮して,不当に高額なものとならない範囲の額又は算定方法が信託行為で明確に定められていることを認定基準とすることでどうか。」との提案をしております。
  現在の許可審査基準では,公益信託の受託者の信託報酬を制限する規定が置かれていますが,これに対しては,①主務官庁及びその担当者によって適用の基準が異なる,②信託事務の難易度や事務負荷等が勘案されない,③人件費以外の物件費等が認められず,採算確保が極めて困難であるなどの問題点が指摘されております。公益信託の受託者に対して正当な報酬額を支給することは,公益信託の担い手となる受託者にインセンティブを与えることとなり,受託者の確保,ひいては民間による公益活動の促進につながるものと考えられます。他方で,公益信託の受託者に対する信託報酬の適正な水準を確保することも必要であると考えられることから,このような提案をしている次第でございます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○小野委員 まず,不当という実定法上,よく使われる表現ですけれども,信託法の前回の改正のときも不当な利益という議論をしたときに,それは公序良俗で賄えるという議論だったと思います。そうすると,ここでの議論も本来,既に実定法上,組み込まれている概念であるとも言えますが,ただ,部会資料を読むと,そこまでの不当ではなくて少し多いぐらいの議論でもあるようにも思います。不当という言葉が本来の意味ではない議論をするとしたら,受託者にとって持ち出しで何かをするというわけにもいかないところもあるので,その使われ方が気になったという点と,もう1点,受託者の信託報酬の額の制限規定はないと,補足説明の最初のパラグラフで説明されていますけれども,もちろん,不当が元々組み込まれている趣旨であれば,不当ではいけないというのが入っていると思いますし,なおかつ,善管注意義務もありますし,忠実義務的な観点もありますから,ある意味では,元々,信託法には組み込まれていると思うので,直接的に明文の規定はないかもしれませんけれども,これもやや言いすぎかと思いました。
  あと,もう一つ,表現の中で一定のパーセントならよく,100万が逓減していったら信託報酬も逓減化しなければいけないというような説明もありますが,信託財産が最終的にどんどん減っていった段階で,それが適切かということもあります。いずれにしても結論としては本来の不当という意味において不当が使われているのであれば,それは当然だと思いますけれども,そうではないとすると,人によって判断する基準が違ってくるところがあり,ただ,繰り返しになって申し訳ありませんけれども,受託者が持ち出して何かをしなければいけないというような制度というのは,制度の普及という意味において適切ではないと思います。正当な報酬は本来あってしかるべきだと思います。
○中田部会長 不当という言葉の中身が多義的である,曖昧であるので,基準としては適当ではないという御指摘かと存じますが,そうしますと,実質的な基準を示すという方向なのか,あるいは最後におっしゃった正当なというような概念を使うことを御推奨なのか,どっちなんでしょうか。
○小野委員 認定のところで当然,報酬規定も出てくるかと思うので,そういう全体の中で判断すればよろしいのかなと思います。少なくとも実定法上,やや混乱するような表現ぶりは,留意した方がよろしいかなということで,それ以上に規定が不要とまで断言するほどではないんですけれども。
○中田部会長 適切な言葉が見つかるかどうか分かりませんけれども,更に検討するということになろうかと存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 信託報酬は受託者のガバナンス確保及び開示の観点から,信託行為に明示すべきであると考えます。必ずしもただ額や料率についての規制は必要ないと考えておりまして,不当に高額かどうかの判断ができるような算定基準が信託行為に定められているということで足ると思います。
○林幹事 弁護士会の議論では賛成という単位会が多かったと思います。現在の実務における認識では,信託報酬が実費ベースで,かなり低いというようであり,そうすると受託者が安心して受託できないというようなことにもなるかもしれないところです。先ほど御説明があったように公益信託促進,あるいは受託者の担い手も広げるというところであれば,きちんとしたインセンティブが働くような形で規定すべきだというのは,そうだと思います。そういう前提においては賛成です。「不当」という言葉がいいのかどうかも微妙なところでもありますし,問題点としてはあるのでしょうけれども,適正な額を確保されるべきだというところはそのとおりです。適正と条文に書くかどうかもまた問題ですが,取りあえず,そのような議論でした。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 2点,申し上げますけれども,私は前に法曹倫理というアメリカのケースブックを学生と一緒に読んでいたことがあって,弁護士報酬の定め方というところでびっくりしたことがあります。報酬の定め方として,普通は係争額というんですかね,係争額に対して何%という話はアメリカでは駄目なんです。どれだけの,つまり,仕事をしたかで報酬が定まってくるのが当たり前で,係争額が高ければ2日間で和解にいったら,それでも何%か取るなんていうのは法曹倫理に反しているわけです。
  それで,法曹というのはフィデュシャリーであって,本当は受託者もそういう同じような考え方,でも,ただ,日本的なやり方の方が結局,信託財産額の何%かというような話の方が分かりやすくて,しかも,すぐ決まるんです。実際にどれだけの仕事をしたかというのをはかるのは大変なので,だから,正論に持っていくのは大変かもしれませんけれども,そういうことで驚いたことがあるというか,驚いたというか,本当はこっちの方が本筋なんだなと私は感じたというのが一つ。
  二つ目ですけれども,先回もそうなんですけれども,ずっと認定基準でこれだけのことをやっていますね。それで,第2のところも「公益」という言葉を外して,「信託の受託者に対する信託報酬について当該信託事務の内容,当該信託の経理の状況等を考慮して,不当に高額のものとならない範囲の額又は算定方法が信託行為で明確に定められている必要がある」というように述べても間違いない。つまり,通常の信託だったとしてもこれは当たり前のことなんです,別に公益信託でなくたって。
  ただ,認定基準にしているところに意味があって,逆に言うと,我々がこういう議論を重ねているというのは,規制当局としては,結局,入口のところでしか規制ができなくて,いったん認定された後からは実際上できない,つまり,入口だけ厳しくてあとはざると言ってはいかんのですけれども,そういうことなのかと感じたりします。今後の議論のところで出てくる公益信託の中身の条項について一定のマニュアルというか,スタンダードが決められるんだと私は思っていますけれども,こういう義務を負うとか,しかし,認定のところでここまでというのは,逆に認定のところしか実は規制しないんだという,憶測で申し上げたので,いやいや,そうではないんですよとおっしゃっていただければ,それはそれで有り難いという2点です。
○中辻幹事 樋口委員が御指摘された,入り口の認定基準だけを規制するのでは不十分というのは,私どももそのとおりと考えておりまして,その後の監督や信託内部のガバナンスの場面でも手当ては必要であると思っています。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 現在の許可基準が信託報酬を信託銀行にとって利益の出ない水準とすることを求めておりますが,この改正によって受託者が適正な報酬を受けることも可能になるということはいいことだと考えておりますので,提案に賛成でございます。そして,長期の信託がありますので,今,信託期間中で高すぎるのではないかという話もありましたけれども,逆に受託者側から報酬の水準の変更を求めるようなことも,可能な仕組みにしていただきたいと考えております。ほかにも今回,有価証券であるとか,不動産の管理,売却といったものを行うことを想定しているのであれば,それについては一般の信託と同水準であれば,不当に高額ではないということではないかなと,私どもとしては理解しているところです。
  少し分かりにくいところは,経理の状況等というのが書いてあるところなんですけれども,ここは御説明の中では定率を求める趣旨ではないということであると理解しておりますけれども,逆に言うと,信託報酬の金額が信託財産に対して余りにも大きなものになるような場合は,経理の状況からすると認められないということはあっていいのかなと思います。これは信託財産がすごく小さい場合には,信託報酬の割合が大きくなりすぎてしまうことは余りよろしくないのではないかなという趣旨です。
○深山委員 信託報酬に関する定めを設けることについて,私は結論としては認定基準とすることに一定の意味があるのかなと肯定的に考えております。もちろん,本来はある程度,私的自治というか,委託者の意思に委ねて,あるいは受託者との協議に委ねて決められるべきものだという側面はありますけれども,そこは公益信託という制度の趣旨に照らしてある程度,透明性というか,公正性を表に出して認定を受けると,そこも含めて公益性を判断してもらうという意味合いはあるのかなと。そういう意味で,あってもいい基準だと思います。
  問題は不当に高額なという辺りをどう理解するか。その表現の問題もそうで,恐らく,もちろん,公序良俗に反するようなものは当然に認められないということはありますが,公序良俗と同じようなレベルまで求めないんだとすると,どの辺までが正当で,それを超えると不当なのかというのは確かに難しい。といいますのも,正に当該信託の中身といいますか,あるいは受託者の役割,業務によって,高いか,安いかということを考えなければならないので,それは必ずしも信託財産の規模と,業務の業務量や困難性が正比例するわけでもないので,直ちに信託財産に連動するのがいいということでもないといえます。
  先ほどは樋口委員から弁護士報酬のことについて御指摘を受けましたが,我々の弁護士業務もやってみないとどのぐらい手間が掛かるか分からなかったりして,何が適正な報酬かというのは常に日常的に悩んでいるところですけれども,正に信託業務もそれと比べればまだ定型性があるのかなと,予測可能性が高いかなと思いますが,やってみると想定した以上に手間が掛かるというようなこととかもあるでしょうし,そう簡単に決められないので,認定の基準として考えるのだったら,明らかに公序良俗違反とまでは言えないまでも,明らかに公益性の名にふさわしくないと評価されるほど,高すぎるというようなものだけを排除するという規律として置いておくということで,これが過度の規制になってしまったら,公益の増進に逆行することになって元も子もないので,その定め方は神経を使う必要があると思いますが,基準として設けること自体はあっていいのではないかと思います。
○道垣内委員 ゴシックで書かれた内容自体には,それほどには異論はないのですけれども,何のための認定基準なのかということをもう少し突き詰めて,本来は考えるべきではないかという気がします。と申しますのは,仮に受託者が非常に高額な報酬を受けるということになりましても,高額な報酬を受けるということに対しては課税がされるわけであり,そして,その残りの部分が公益に用いられるのならば,別段,差し支えはないだろうという考え方は十分に可能だろうと思うのです。
  しかし,そうではなくて例えば先ほど税制について御説明いただきましたが,委託者の側が損金算入できるとか,寄附金控除ができるというふうなことを前提とすると,例えば私が10億円の収入を得ているというときに,それをある人に実質的にはあげたいというときに,私のところで10億円の課税がなされた上で,そこからまた取得をした人が収入として課税をされるというのではなくて,私が10億を全部,公益信託の信託財産に属する財産とすることによって,私の方は損金ないしは寄附金として控除を受け,他方,受け取った側にだけ課税がなされるということになると,本来は2回,課税がされるはずだったのに,1回になるのはおかしいではないかというふうな見方というのができるのかもしれません。私はそこら辺がよく分からなくて,何のためにこの規制はあるのだろうかということについて,もう少し突き詰めて考える必要があるのではないかなという気が先ほどからしているのですが。
○新井委員 公益信託の受託件数というのは減ってきています。その理由の一つは,ほとんどの受託例を担っている信託銀行が受託者として適正な報酬を得ることができない,つまり,受託者にインセンティブがないということがあると思います。ですから,現在のようにほとんど利益が上がらないという状況を改善して,ある程度の利益を上げることができるようにすべきだと思います。そして,非常に難易度の高い公益信託については,他の公益信託よりも報酬を取っていいのではないかと考えていますので,そういう形の文言にしていただければと思います。
  それと,もう一つ非常に大きいと思うのは,13ページの補足説明の2に現行の許可審査基準が出ておりまして,その問題点として三つ挙げられています。この3番目です。人件費以外の物件費等が認められず,採算確保が極めて困難であるということですけれども,信託事務に要した費用というのは信託財産から取れるわけです。しかし,なかなか,どこまで取れるかというところが非常に難しくて,実際には信託銀行のインフラの持ち出しになっているという面もあるので,ここのところも報酬の問題と一体としてきちんと解決するということが必要ではないかなと考えています。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○渕幹事 道垣内委員が税法について適確な説明をしてくださったので,付け加えることはないのですけれども,もう少し敷衍して申し上げます。恐らく,例えば委託者が個人の場合であれば,委託者に対して相続税ないし贈与税が一旦掛かった上で,その上で更に所得税が掛からなくてはいけないと判断されるような局面があります。そういうときに公益信託の受託者の報酬というような形で所得税の課税はあるものの,相続税ないし贈与税の課税の部分がないことになってしまうというような問題があり得ます。
  それから,法人の場合でいうと,法人の役員の報酬については,法人税法で正に12ページにあるような不当に高額なものは駄目であるというような規律があるわけですけれども,その脱法というような形がありえます。法人から直接,役員報酬を払ったとしたら,法人税法上,損金算入が認められないのだけれども,一旦,公益信託の資金にして,公益信託の受託者の報酬ということにしてしまうと,法人税法の損金算入制限が回避できてしまうというような問題があり得ます。ただ,そういう税法の脱法について税法でなくて信託法で規制していくことが妥当なのかという問題は別途あろうかと思います。
○山田委員 私は受託者の信託報酬に関する認定基準については,積極で考えたらいいだろうと思います。現在,議論しているのは,信託が公益信託という性格を帯びるためにはどういう要件を満たさなければならないかと,その入口のところで認定という行政行為を経て,公益信託になるということは想定されている一つの主要な例だと思います。そうすると,認定をするための基準というのが,今議論されていて,今日も,それから,前回も認定基準をずっと一つずつ議論してきたわけですが,私が考えるに公益でありますと認めてくださいというときの唯一ではないものの,一つの重要なポイントは受託者が公益信託からたくさんの報酬を得ていないということだと思います。特に税制に関する一番シンプルなものであっても,公益信託で個人が委託者ですと運用段階で信託財産から生ずる所得は非課税という,これはメリットだと思うんですが,これが得られるという扱いを受けるために,この信託は公益ですと,そのためには受託者報酬のところで一定の制約を設けることによって,認定基準段階でそれをクリアするということは重要なポイントではないかなと思います。
  そして,それに加えて一般的なことを申し上げますと,できるだけ信託が公益信託であっても自由な委託者と受託者の合意によって柔軟で創意工夫が凝らされたものが望ましいと思うのですが,収支相償とか,遊休財産規制とか,それらをもう一度,信託報酬の認定基準が認定基準としては最後かもしれませんので,どこかの段階で全体を示していただいて,そして,どの程度の公益であるための要件を課すことによって,この部会としては公益性ありと認め,税制上の,単純に言うと,一番シンプルな今日の財務省の課長の方の御説明だと,4ページの公益信託のところの扱いを受けるに足りるのかというところの議論というか,こちら側からは,この扱いは受けることができると考えるというところをまとめられるといいのではないかなと思います。
  私は,言う場所が違うかもしれませんが,収支相償についてもない方がいいと思いますし,遊休財産の規制もない方がいいなと思っているのですが,それを全部並べていくと,とても公益信託ですと,租税法上の優遇をこれで認めてくれというのは難しいなということになるかもしれないなと感じています。したがって,全体を見た上で考えなければいけないなと私自身,思っているところであります。しかし,最初の話に戻りますが,受託者報酬はその中でもまずはここは基準を設けて取り組んでいいところではないかなと思いますし,一番分かりやすいところではないかなと思います。
  そして,最後に言葉の問題ですので付け加えにすぎませんが,不当に高額がいいか悪いかということですが,私は適正でなければならないよりも不当に高額が駄目だという方がよほどいいのではないかなと思います。基本は受託者と委託者の間の合意でアレンジされるというところから出発すると,適正でなければならないというレンジを決めて,その中に入ってくることを求めるよりは,ここから上は駄目ですよというようなルールの方が望ましいのではないかと思います。
○道垣内委員 私も結論として第2の提案に反対しているわけではないので,これ以上,言う必要もないのですけれども,私が気になったのは受託者の報酬を委託者が信託財産以外から支払うとなっていたならば,それは幾ら高額であったっておかしくないだろうと思うのです。そうすると,つまり,何となくイメージとして,およそ公益信託なんだから,みんな身ぎれいでいようねという感じになりますと,信託財産以外から支払われるときであったって規制が掛かるということになりそうなんですが,そうではなくて,信託財産から支払われるということに対してのみ規制が掛かるということになると,それは身ぎれいでいましょうという話ではなくて,なぜ,公益信託の信託財産に属する財産から報酬が支払われる場合には問題が生じるのだろうかという問題が立ってくるのだろうという気がします。その結論として,公益信託の信託財産であるとされたものの中から非常に多額の報酬を得るというのは妥当でないということになるのは,全然,私も反対するところではないのですけれども,イメージで語るべき問題ではないような気がするということでございます。
○沖野幹事 伺っていて幾つか分からないところもありましたものですから,確認をさせていただきたいという趣旨です。今,最後の道垣内委員の御発言との関係で,受託者に対する信託報酬について,これは信託財産から受け取れる信託報酬のみを考えていたのですが,委託者から払われるというようなものも想定しているのでしょうか。それが1点目です。
  もう1点は,一つ前の項目もそうなんですが,気になっておりますのは,今の実体法としての信託法に何かを付け加えるのか,付け加えないのか,あるいは信託法でいけるのかということです。ここの報酬の規定は明らかに信託法とは違う話になっており,信託法の規律ですと営業信託だと定めがなくても報酬が取れる,また報酬について取れるということさえ信託行為に書いておけば,具体的にどうかというのは書かなくてもよくて,受益者に通知するなどの要件が課されますが,相当な額を取れるという規律になります。ですので,実体法にプラスアルファとして付け加えるということになるかと思います。
  明確性の確保という点から,その点でも意味のあることではないかなと思うんですけれども,先ほど平川委員から範囲の額又は算定方法を定めるというのはやや重すぎて,不当に高額とならない基準でいいのではないかということを言われたかと思います。その額や算定方法と何が違うのかというのが気になっておりまして,信託法の54条ですと額又は算定方法を定めておけば,受益者に通知するという規律が外れるのではないかと思われるのですが,違う定め方の場合には,信託行為の定め方はもうちょっと緩やかというのでしょうか,漠とした形で書けるけれども,そのときは受益者に逐一通知する,この場合は受益者はいないから何かどこか別のところに通知するというような,そんな規律が考えられることになるのかどうか,54条との関係ではどうなるのかというのが一つです。
  三つ目は,この問題について最初から問題になっております不当に高額なものとならないということに関してです。これ以上はアウトだという規律の掛け方は十分あり得ることだと思うんですけれども,他方で,不当に高額とか,不相当に高額だという表現から直ちに連想されますのは消費者契約法などでの更新料とか,敷引きとかで言われるものです。それらの場合は何か,それに名を借りたというような場合に,そのような表現が使われるように思われまして,ここで報酬に名を借りたようなものは駄目だというような基準でよろしいのか,もう少し内容を厳格にしているのかという疑問が生じます。その概念のところは,他で使われる場合からの連想などもありますので,それも勘案しながら言葉遣いがこれでよいのか,他には適切な表現がなくこれしかないということはあるかと思いますが,どの辺りのラインなのかというのは考え方を示す必要があると思っております。
○中辻幹事 沖野幹事の1点目の御質問にお答えしますと,私は,現在の信託法や公益信託の実務を前提として,公益信託の受託者の報酬は原則として委託者が拠出した信託財産の中から支払われることを念頭に置いておりました。例外的に,信託行為の定めにより,信託財産の中からではなく,それとは別に委託者が受託者の報酬を支払うようにすることも信託法の解釈としては可能のように思いますが,実務上,特に公益信託の場合には,委託者がいったん信託財産をまとめて拠出した後の段階で,信託財産とは別途自らの負担で受託者に対し報酬を支払うということはあまり想定されないようにも思います。
  2点目について,信託法54条で商事信託の受託者及び信託報酬の定めのある信託の受託者は報酬を得ることは可能とされており,その額は信託行為の定めに委ねられているので,受託者の報酬を公益信託の認定基準とすることは実体法の規律に上乗せがされることになるのではないかというのは結果的にそのとおりかもしれません。信託法上,先ほど小野委員の指摘された受託者の忠実義務などもあり,その枠組みの中で受託者の報酬が適正な水準となるということもあり得るようにも思いますので,信託報酬の額及びその算定根拠の通知の点も含めて更に検討を深めていきたいと存じます。
  3点目,「不当に高額」という表現に対しては色々な御意見をいただきましたので,その表現が意味するところの具体的な内容についても含めてこちらで引き取って考えてさせていただきます。
  平川委員の御発言に関する部分は,そちらにお譲りいたします。
○平川委員 私が申し上げましたのは,額ということについての規制は開示の観点で,要するに報酬というのは委託者と受託者の間の信託行為で決められることなので,どういう基準で決めたのかという算定方式が開示されて報酬が計算できて,これは高すぎるから,そんなのでは嫌だと自由な契約の自治の範囲で交渉ができたりとか,一方的にこういう金額であるとか,あるいは規制上,こうでなければならないというものではなく,高すぎだろうが低すぎだろうが,自由に決められるべきだと思うというのが基本にあって,でも,どうやって決めるんですかということが信託行為ではっきりされていることというのが認定基準になれば良いという,そういう発言だったんですけれども。
○沖野幹事 そうすると,このゴシックでよろしいという,ゴシックとは違うということなんでしょうか,額又は算定方法というところですが。
○平川委員 額又は算定方法が信託行為で明確に定められていると,不当に高額なものとならないというのは,算定方法にも係っているんですかね。
○沖野幹事 係っていると理解しておりましたが。
○平川委員 不当に高額なものとならないというのは要らなくて,単に算定方法が信託行為で明確になっていればよいという意見です。
○沖野幹事 分かりました。御趣旨を確認したかったということですので,ありがとうございます。
○中田部会長 この点については大体よろしいでしょうか。
  この論点につきましては,何らかの認定基準は置いた方がいいだろうという御意見が多かったように伺いました。その上で,原案のようにするのかどうか,あるいは表現がこれで適切か,更に具体的基準をどのように考えるのか,あるいは認定基準としてだけではなくて,監督基準という面も検討すべきではないかと,こういった御意見を頂いたかと存じます。また,全体を通じまして,一つ一つについてここまで御意見を賜ったわけでございますけれども,平川委員からも前に御指摘がありましたし,それから,山田委員からも御意見を頂きましたように,相関的なところがあるから全体を見回した検討が必要だろうというので,これは恐らく第2ラウンドで,また,その機会があろうかと存じます。その際には,全体のバランスあるいはそれぞれの根拠,表現,具体的基準ということで更に課題はあると思いますが,御議論の結果,問題点が明らかになってきたと思いますので,次の機会にまた御審議いただければと思います。
  それでは,引き続きまして部会資料34の「第3 公益信託の認定の主体」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私から御説明させていただきます。
  「第3 公益信託の認定の主体」のうち,「1 主務官庁による許可制の廃止」について御説明いたします。本文では,「主務官庁による許可制については,廃止することでどうか。」との提案をしております。現行の公益信託の審査実務に対しても,主務官庁による許可制を採用していた旧公益法人に対して指摘されていた問題点と同様の指摘がありますことから,これらの問題点を解消し,公益信託の適正な利用を促進するために,公益法人と同様に主務官庁による許可制を廃止することが相当であるとして,このような提案をしている次第でございます。
  続いて,第3の「2 新たな公益信託の認定主体」について御説明いたします。本文では,「公益信託の認定を行う手続(認定主体を含む)は,次のいずれかとする。」として,甲1案,「特定の行政庁(課税庁を除く)が公益信託の認定を行う。」,甲2案,「民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,特定の行政庁(課税庁を除く)が公益信託の認定を行う。」,乙案,「民間団体が公益信託の認定を行う。」との提案をしております。
  公益信託について主務官庁による許可制を廃止する場合には,新たな公益信託に認定主体を検討する必要があります。まず,公益信託の認定の効果として,公益法人と同様の税法上の優遇措置を受けられることを視野に入れた場合には,公益法人と同様に,行政庁が公益性の認定に関与し,一定の監督を受けることが必要になると考えられます。また,現行の公益信託の申請事務において,特に複数の主務官庁にまたがる共同所管の場合に,主務官庁による許可制が障害になっているなどの問題点が指摘されていることからすれば,単一の行政庁が一元的に公益信託の認定を行うことが相当と考えられ,甲1案を提案した次第でございます。もっとも,特定の行政庁が認定を行うこととした場合であっても,不当な裁量権の行使を防止し,判断の客観性や透明性を確保するという観点から,公益法人認定法と同様に民間の有識者から構成される合議制の第三者機関を諮問機関として,特定の行政庁が公益信託を認定する仕組みが考えられ,甲2案を提案しております。
  なお,甲1案及び甲2案を採用する場合であっても,地方分権における国と都道府県の役割分担などを踏まえると,特定の行政庁については国だけでなく,都道府県を含めることが相当と考えられます。ただし,部会資料17ページの3段落目以降に記載しておりますとおり,都道府県知事だけでなく,現在,認められている都道府県の教育委員会を含めるべきか否かや,国と都道府県の所管をどのように分担するかなどについては議論があり得るところですので,併せて御審議いただければと存じます。
  以上に対し,公益信託の認定は民間団体が行うべきであると考えもあり得るところですので,乙案を提示している次第です。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。2は1が前提となっている論点ですので,まず,1について御審議いただきまして,その上で2に進みたいと思います。1についていかがでしょうか。
○平川委員 主務官庁による許可制の廃止に賛成します。主務官庁の所管が異なることにより,公益信託法制の一律的な運用が難しいという弊害が見られたことから,認定主体の一元化が望ましいと考えます。旧公益信託の最大の問題点であったと考えておりまして,所管がまたがった場合に調整ができないなどの問題点があったと理解しております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論でも,主務官庁制は廃止に賛成でした。理由は御説明いただいたところとか,平川委員とも同じですので結論だけ申し上げます。
○中田部会長 今の廃止に賛成の御意見をお二方から頂きましたが,ほかに。特に異論はございませんでしょうか。それでは,1については廃止するということが御意見と承りました。
  では,それを前提といたしまして「2 新たな公益信託の認定主体」について御意見を頂きたいと存じます。
○林幹事 弁護士会の議論では,基本的には甲2案でした。民間の意見を反映させるためという観点からは,甲2案の意見が多かったです。一方,民間団体というのも捨て難いという意見もありまして,甲2案と乙案と併用というような意見もそれなりにありました。ルートとしては複数あっても良いのではということです。例えば建築確認の例もありますし,行政が本来やるべきものも民間に委託する形で開放するというやり方もあります。民間が行うときの規定の仕方も,直接行うというのか,行政から委託を受けるのか,いろいろな形もあり得ると思います。
  それから,現在,公益法人の認定は都道府県単位で行われており,ある県では認められて,ある県では認められないということが実務的に起こり得るところです。そういうことを想定したときに,ルートが複数あれば,結果として平準化されるということもあるのでは,という意見もありましたので,今の時点では,まだ,民間の可能性も残した上で,中間試案なりに向かっていけば良いのではと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 認定基準と運用の一元化の観点から,特定の行政庁のみの所管とし,それを補うものとして民間有識者から構成される合議体の第三者諮問機関を設けることが必要だと考えまして甲2案に賛成します。これは公益法人の公益認定と同様の制度をイメージしておりまして,税制優遇の問題から考えますと,民間だけに委ねるというのも課税庁の方からすると,なかなか,難しいのかなと思いまして甲2案に賛成します。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山本委員 林幹事が言われたことと関係するのですが,甲2案によるとしましても,特に現在の公益法人については,公益認定の基準について都道府県によってばらつきがかなり見られるのではないかと思います。許可制時代と変わらない運用を前提にしているかのように見えるところもあるとしますと,地域によって非常に不公平が生じる可能性が生じているのではないかと思います。その意味では,林幹事のおっしゃるような併用案がよいのかどうかは別としまして,運用基準の平準化を考える必要がある。そして,そのためにどのような方策を採るべきかということも併せて検討しないと,なかなか実際の実務が変わっていかないのではないかとも思います。その点は,今後の課題として指摘させていただきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございます。
○渕幹事 若干,抽象的な議論で申し訳ないのですが,甲2案で民間の有識者から構成される合議体の第三者機関を諮問機関としてとあるのはどういう趣旨だと理解すればよいのでしょうか。特定の行政庁が恣意的な判断をしないという客観性を確保するため,正しい判断をするためというような面に重きを置いて理解するのでしょうか。それとも,税制優遇を受けた財産が適切に管理され,使われることに対する民主的コントロールないし民主的な参加,すなわち,国民がその判断に参加しているのだというところに重きを置いて理解するという考え方も可能かと思うのですが,どう考えれば良いのでしょうか。
○中辻幹事 甲2案で目的としておりますのは,民間の有識者から構成される合議体の意見を踏まえた行政庁の判断には客観性や透明性が確保されるということで,これが第一次的,本来的な目的です。甲2案を採った結果,税制優遇を受けた財産が適切に管理処分されることを否定するつもりは全くないのですが,甲2案のまずもって意図するところは,公益信託の認定業務を担う行政庁の判断の客観化,明確化にあります。
○渕幹事 どうもありがとうございました。
○長谷川幹事 甲2案はいいようにも思うのですが,私の経験では,公益法人の認定に関して,委員会の下で働いておられる職員の方といろいろ申請に当たって調整する中で,「公益認定等委員会の事務局としてはこう考えますけれども,公益認定等委員会の委員の方がどう判断されるか分かりません」ということを言われてしまうことがありました。要するに,行政庁としては,ある程度独立した機関からのアドバイスをしっかり踏まえてやらなければいけないという判断で,そのような対応をされるのだと思うのですけれども,申請する側からすると予見可能性が非常に低い形になってしまう可能性があるということでございます。その点,今は平準化されているのかもしれないので,知見がある方がいらっしゃれば補足していただければと思いますけれども,申請する側の予測可能性を確保しつつ,行政庁の判断の客観性を確保するのであれば,事後に不服制度等を設けるということでも理屈としては可能であると思いますので,甲2案が絶対的にいいものということでもないかもしれないと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  甲1案の御支持はないようで,甲2案をベースにすることに賛成の方が多いようですが,しかし,このままというわけではなくて,客観性を高める,予見可能性を高める,あるいは地域によるばらつきのないようにするというような御指摘を頂いたかと思います。また,その方法として弁護士会からは甲2案もいいけれども,乙案も捨て難いので,当面は両方を残しておいてはどうかというような御指摘を頂きました。
  ほかにございますでしょうか。
○新井委員 林幹事に質問ですけれども,乙案で考えている民間団体は,具体的にはどういうものをイメージされているか,御説明いただけると大変有り難い。
○林幹事 これといってきちんとイメージしているものではないのですが,一つの具体例としては建築確認について民間に開放されているという例があるというところです。また,弁護士会の議論の中では,これもきちんとしたものかどうか分からないのですが,例えばロースクールの認定は法務研究財団もやっていますから,そういう形で,民間で認定能力のあるところに出していくことはあってもいいのではないかというところです。この件で法務研究財団がやるかどうかは全く分からないのですが,そういう形で民間に出していくことはあってもいいのではないか,という議論でした。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかはございませんでしょうか。
○山田委員 三つある案の中では私も甲2案がよいと思います。独自の理由は特にありませんので,補足説明に書いてある甲2案の説明のようなことを考えます。その上でですが,17ページの中ほどに教育委員会のことが書かれておりますが,ここについては甲2案の方向で議論が進んでいくならば,教育委員会は独立のものとして扱わず,知事部局の下で一元的に扱うというのが良いだろうと思います。それは,今,出てきたお話に便乗するような形になってしまうかもしれませんが,教育という分野についてのみ,認定基準を専門化させるという必要性は大きくなく,かえって基準の違いというんでしょうか,それを生じさせかねないというようなことが考えられると思います。したがって,太字にはなっていないところではございますが,教育委員会を独自のものとはしないということがよいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  それでは,第3についてはよろしいでしょうか。
○吉谷委員 2については甲2案に賛成で,特に付け足す理由もないのですけれども,判断の客観性,透明性,統一性について保たれるような仕組みにしていただけたらと考えております。それで,1番で主務官庁の許可制廃止で新たな公益信託の認定主体を設けられるわけなんですけれども,2のところでは認定と監督については,監督は別途,検討する必要があると書いている。認定と監督が一体化されるかもしれないということを踏まえて,一言だけ付言させていただきますと,現行の実務の主務官庁というのは,その後の監督のところについてはほとんど別に3年ごとの立入りとか,そういうことはございませんので,強い権限はお持ちなのかもしれないんですけれども,それを行使されることは余りなかったのです。
  その背景について少し考えたのですけれども,恐らく二つほどあって,公益性の確保という点では,今,信託銀行は助成型しかやっておりませんので,公益事業の認定をしておけば,その後,公益性の確保について,それほど心配する必要はないのだろうと思われているのかなと。もう一つ,信託財産の管理の適切性あるいは不正な使用がなされていないかということにつきましては,信託銀行あるいは信託会社というのは,信託業法の下で規制されているという枠組みがありますので,そういう点についても主務官庁から御信頼いただいているのかなと考えているわけなんですけれども,今後の認定主体あるいは監督される主体というのが認定をする,あるいは監督をするに当たって,公益性という点と信託財産の管理の適切性の確保という両面を見られるのだろうと思うわけです。
  現在の信託業法の下で行う信託会社あるいは信託銀行というのは,今後,信託財産の範囲であるとか,信託事務の範囲が拡大されても,信託財産の管理の適切性は確保されると思うのですけれども,一方で,公益信託の引受けが営業でなくされた場合には,信託業法の適用はないわけでありまして,認定あるいは監督について公益事業の適切性だけではなくて,信託財産の管理の適切性についても認定あるいは監督していただく必要があるということになりますので,それを担う主体として,一体,どういうことを具体的にされるのかということを検討する必要があるのかなと。逆に言えば,新たな公益認定主体や監督主体に誰がなるかによって,また,受託者の範囲というところをどうするかというところにも考えが及ぶのかなと考えましたので,付言をさせていただきます。
○中田部会長 ありがとうございました。今の背景を踏まえて,冒頭におっしゃったところでは,その上で甲2案に賛成するということでございますね。ありがとうございました。
  よろしいでしょうか。それでは,時間があと30分でございますが,第4に入りまして,ひょっとしたら御審議は途中までになるかもしれませんけれども,できるところまでお願いしたいと存じます。「第4 公益信託と目的信託との関係」について事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私から御説明させていただきます。
  「第4 公益信託と目的信託との関係」のうち,「1 公益信託を目的信託の一類型とするか」について御説明いたします。本文では,「公益信託を目的信託の一類型とする現行信託法及び公益信託法の構造は維持することでどうか。」との提案をしております。現行の信託法及び公益信託法は,公益信託を目的信託の一類型とする構造を採用しておりますが,現時点においてこの整理を不当とするまでの事情の変動は見当たりませんので,本文のような提案をしている次第です。もっとも,表に記載しておりますとおり,公益信託と目的信託については,範囲や効果には相違点がありますので,必要に応じて公益信託について目的信託に関する規律の特則を設けることを考えております。
  続いて,第4の「2 公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託の効力」について御説明いたします。本文では,「公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託の効力について,これを無効とする旨の規律は設けないことでどうか。」との提案をしております。現行の公益信託法第2条第1項の解釈として,主務官庁の許可を受けていない公益を目的とする目的信託は,公益信託としても目的としても無効であると考え方があり得ます。しかし,民間の公益活動の一環として公益信託の適正な利用を促進していくという基本的な方向性からすると,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託であっても,目的信託の要件を満たしている限り,有効とするのが適切と考えられますので,本文のような提案をしております。
  第4の「3 公益信託の設定前に目的信託の設定の前置を必要とするか否か」について御説明いたします。本文では,「公益信託の設定前に目的信託の設定を前置することは不要とする。」との提案をしております。公益法人制度では法人格の取得と公益性の認定が制度的に分離されており,一般社団法人又は一般財団法人を設立した上で公益認定を受けることとなっております。しかし,信託においては公益法人制度のように信託の設定と公益性の認定の分離の要請はなく,また,ある信託が目的信託として事前に設定された上でなければ,公益信託の認定を受けられないとするまでの必要もないことなどから,本文のような提案をしております。
  最後に,第4の「4 既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容するかどうか」について御説明いたします。本文では,甲案として,「既存の公益を目的とする目的信託が公益信託の認定を受けることを許容する。」,乙案として,「実質的に公益を目的とする私益信託-ここではこれを公益的私益信託を呼びます-が,信託の変更を経て公益信託の認定を受けることを許容する。」,丙案として,「甲案及び乙案に掲げた場合をいずれも許容する。」,丁案として,「既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容しない。」との提案をしております。
  まず,公益信託を目的信託の一類型とし,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託を有効とする場合には,既に設定されている公益を目的とする目的信託について,公益信託の認定を申請するケースも想定し得ることから,甲案のような提案をしております。次に,実質的には公益を目的としながらも目的信託として設定せずに残余財産受益者を定めるなどして,公益的私益信託として設定する場合も想定できます。このような公益的私益信託について,信託の変更により受益者の定めをなくした上で公益信託の認定を申請するニーズもあり得ると考えられますので,乙案のような提案をしています。更に甲案と乙案は論理的に両立し得ることから,いずれの場合も許容すべきとの考えもあり得るため,丙案を提案しております。
  以上に対し,従来の公益信託は設定時に受託者が引受けの許可を受けることにより成立してきたものであり,この取扱いを変更する必要はないとして,既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容しないとの考え方もあり得るため,丁案のような提案をしている次第です。
○中田部会長 ただいま御説明いただきました部分について御審議いただきたいと思います。4項目がございますが,1と2は公益信託と目的信託との関係の全体的な論点であるのに対しまして,3と4はやや具体的な制度設計に関する論点かと存じます。もちろん,相互に関連しておりますので,きっちりと区別できるわけではありませんけれども,まず,1と2について御審議いただきまして,その後,3,そして,4というように進めていきたいと思います。ということで,まず,1と2について御意見を賜りたいと存じます。
○小野委員 では,口火を切らせていただきます。受益者の定めがないという観点からすると,同じ類型であるということにはなる。そこは理屈上の話ですけれども,他方,今まで議論してきたことで公益財団と一般財団,それから,公益信託と目的信託,こういう比較も必要である。なぜ,必要かというと特に課税上の扱いにおいても,デフォルトルールといいますか,その一類型としたときに分類される目的信託と公益信託が余りにも違いすぎるという点です。その観点からすると,後段の方の議論に近付いてしまいますけれども,公益を目的とする目的信託を認めるという議論が出てきますが,目的信託を二つの類型に分けるときに,一般的な目的信託と公益を目的とする目的信託という分類だけでは足りずに,以前の議論ですけれども,非営利型の目的信託というものも観念して,その上で公益信託と非営利型の目的信託が同じ類型であるというような議論をしていかないと,万一,公益信託であったものが認定を取り消され目的信託に落ちたときに制度上のひずみから生ずるいろいろな問題があり,例えば受託者に問題があって認定が取り消されたときに,本来の公益からベネフィットを受ける受給権者も課税上の影響を受けることにもなり得るなど,いろいろなひずみが生じてしまうということもあると思います。また,だからといって,目的信託一般について非営利型の一般財団法人と同じ扱いをするということ自体,適切ではないと思われますので,分類としても,1,2の議論についても公益信託と目的信託という議論は一つの理屈では当てはまりますけれども,更に突っ込んでいくと,目的信託を更に二つに分けるときに,公益目的の目的信託ではない,もうちょっと幅広の非営利型の一般財団法人に匹敵するような非営利型の目的信託というような分類の仕方もあり得るのではないかというのがバックアップチームでの議論でもあり,私の意見でもございます。
○深山委員 1番目の公益信託を目的信託の一類型とするかということについては,結論的には,そのようにした上で公益信託についての特則を設けていけば,法制度としては成り立つのかなと思ってはいます。ただ,これは,これから定まっていく公益信託の規律として,どういう各論的な規律が入って,それが目的信託という土俵の上に乗っかって,その上での特則というような仕組みで説明できるものなのかという問題であり,ここまでいったら,そもそも類型を違うものとして捉えた方が整理としては分かりやすいのではないかということになれば,一類型としない,別類型という選択肢もあり得るようには思うんです。なので,最もここが一番総論的なことなので,最終的にもう少し議論を進めて,公益信託の具体的な各則的なものが定まってきたところを踏まえて,最終的に類型の整理をすればいいのかなとも思います。
  2について申し上げますと,結論としては,現行法の通説的な考え方とは違って,公益を目的とする目的信託は認定を受けていなくても認めるという考え方について賛成をいたします。ただ,ゴシックで書かれているのは,これを無効とする規律は設けないということなので,つまり,規定としては何も置かないということだと思うんです。
  もちろん,現行の公益信託法2条1項がなくなるという意味合いはあるものの,なくなるものの,それ以上に何も有効とも無効とも書かないということになると,なお,解釈に委ねられるという理解も可能なような気がします。今の補足説明なり,事務局の説明によれば,有効なものと考える余地が十分あるので提案しているということからすると,意図しているところは有効だという趣旨なんでしょうが,単に規定を置かないということになると,そこまでいかずに,それが有効か無効かは解釈問題だというような整理をされる懸念があります。もちろん,これは条文ではないので,条文のときにどうなるかというのはまた別なのかもしれませんが,より積極的に公益認定を受けない公益を目的とする,あるいは公益的なと言ってもいいかもしれませんが,そのような目的信託というものの有効性を積極的に肯定する規律を何らかの形で表現すべきではないかという気がいたします。
○中田部会長 ほかに。
○林幹事 小野委員と深山委員に連なるところでもあるんですが,ここで私が気にしているのは,現行の信託法の附則3項と施行令の点です。2であえて無効とはしないということであれば,積極的に有効とすればいいのではないのかと考えられ,公益認定を受けないけれども,公益的な目的信託というのが残っていくということを考えるべきであるのはそのとおりと思います。しかしながら,今の御説明でも現在の目的信託の条文に合致していればというご指摘もありましたから,それは結局,附則3項なり施行令が今のままであれば,その条件に合わない目的信託は目的信託としては生き残れないことになってしまいます。ですから,附則も併せて改正するなり,修正することをここで議論すべきだと思います。先ほどの非営利的な目的信託というのを考えたとき,附則3項以下の制約があるとこうした非営利的な目的信託は残っていかないと思いますから,それも併せて議論すべきところだと思います。
○道垣内委員 深山委員がおっしゃったことで,第4の1については具体的に公益信託というのをどういう規律にするのかが決まらないと,決まらないというのはおっしゃるとおりだろうと思います。しかし,条文の規定の技術として現行信託法258条以下のものを準用する形にするのか,それとも新たにいろいろな内容を書き起こすのかという問題というのはもちろんあろうかと思うのですけれども,しかしながら,2のところで公益を目的とする目的信託の効力について,これを無効とする旨の規定を設けない,ないしはそれを積極的に有効とするというお立場を採られる限りにおいては,それは実は公益信託は目的信託の一類型であると言っているにほかならないのではないかという気がするのです。したがって,私は2のことについて規律を設けないということにすべきなのか,有効だと言うべきなのかはよく分かりません。まあ,本当は有効であるとわざわざ書く必要はないと思いますが,少なくとも有効であるということは全く賛成するところであり,賛成するならば,概念的には目的信託の一類型であるということになるのではないかという気がいたします。
○新井委員 目的信託の考え方については,私の考え方は既に複数回,申し上げてきましたので,余り詳しくは申し上げませんけれども,日本の目的信託というのは非常に幅が広くて,私益,共益,公益の全てを含むものであり,かつ受益者がいないために事実上,委託者が監督するという私益的な側面が非常に強いということで,日本独特の信託制度ではないかと私は考えております。目的信託と公益信託の共通点は,唯一,受益者が存在しないということだけです。ですから,私は公益信託を目的信託の一類型とすることについては反対です。
  しかしながら,前の信託法部会において全会一致で目的信託の導入が決定され,しかも現在においてはそれが実定法化されているという状況の中では,私としては私の意見を申し上げた上で,1の考え方,つまり,公益信託を目的信託の一類型とする現行信託法及び公益信託法の構造は維持するということに反対はしないという立場を採りたいと思います。でも,私の個人的な意見としては先ほど申し上げたとおりです。
  その上で,今度,2ですけれども,そうすると当然の理論的帰結として,許可又は認定を受けていない公益を目的とする目的信託というのは,当然,有効になることは当然の論理的帰結だと私は考えます。これは価値判断の問題ではなくて,1の結論を採れば,当然,そういうことになるかと思います。それを規定するか,有効と書くかどうかは別として,当然に有効だという立場になるので,そこは規定を設けないことでいいと私は思います。
○能見委員 3点ほど申し上げたいのですが,一つは小野委員のおっしゃっていたことと少し重なりますけれども,この資料の中でも公益を目的とする目的信託という言葉が出てきますけれども,こういうコンセプトがあるものではなくて,目的信託というのは公益もできるし,それから,後でいろいろな転換といいますか,公益を目的とする目的信託で公益認定を受けていないで後で公益信託に移行するような場合のことを考えますと,ここでいう公益を目的とする目的信託の公益というのは,必ずしも厳密な意味で後で公益認定を受ける公益そのものではなくて,もうちょっと広いぼやっとしたものだと思います。いずれにせよ,言葉としては注意した方がいいだろうというのが一つです。
  それから,皆さん,おっしゃっていたことと共通しますけれども,そういう意味の言葉遣いを注意した上で,いわゆる公益を目的としている目的信託について,これを無効にするという解釈は封じておいた方がいいということですが,そのためにどの程度の手当をすればいいのかは私もまだよく検討していませんけれども,最低限,これを無効にするという公益信託法2条1項のような規定は,廃止するということなのだろうと思います。
  それから,3点目は今回,公益信託のいろいろな問題をまだこれから検討していくわけですけれども,目的信託の,あるいは本来の目的信託と言ったらいいんでしょうか,そちらの規定にいろいろ影響するところが出てくるかもしれない。それは公益信託における特則だという形で,目的信託の規定に影響させることなく,公益信託だけの規定を作れば,形としては様になるのかもしれませんけれども,目的信託のところの規定もいじった方がいいのが本当はあるのではないかという気がいたします。これは先ほど林幹事が言われた附則3項のところの目的信託の受託者を制限している規定であるとか,あるいは私の個人的な意見ですけれども,信託の変更という形でもって私益信託と目的信託の間の変更を認めるということも,本当はあっていいのかと思います。最後の点はともかく,公益信託の法制を考えていく中で,目的信託の規定の方を修正するということがあってもいいということを申し上げたいと思います。
○平川委員 公益信託を目的信託の一類型とすることには反対します。目的信託は,信託法第258条1項の受益者の定めのない信託のこととされていますけれども,信託銀行等においての受託実績はゼロと理解しておりますし,一般の人の認識も薄く,公益信託をその一部と説明する実益がないと考えます。目的信託という概念自体が浸透していないのに,あえてその一類型と整理する意味はなく,単に公益信託といえばよいのではないかと考えます。仮に公益信託において公益の認定ないし取消しに目的信託を前置するとか,目的信託として存続させる構造を採るならば格別ですけれども,それらに対してはいずれも消極的な意見を持っておりますので,そういう意味でも,目的信託の一類型であるという必要はないと考えます。
  また,新公益信託において受益者の定めのある信託であっても,その背後に不特定多数の受益者の存在が予定されるということもあると思います。例えば公益法人が受益者であるという場合において,その背後に不特定多数の公益的な受益を受ける受益者が存在している場合には,実質的に不特定多数の受益者が存在するものとして,公益認定が得られる場合があるのではないかと思いますので,そういう意味でも,目的信託の一類型とする構造は矛盾することになると考えます。
○新井委員 公益信託を目的信託の一類型としないという平川委員の意見をお聞きしまして,私の意見は必ずしも孤立無援ではないということを感じました。先ほど白旗を上げましたけれども,今の意見がありましたので,一応,白旗を撤回してもう少し,ここのところはきちんと議論していただきたいと思います。
○平川委員 2の方も一緒に述べたほうがよろしいでしょうか。
○中田部会長 是非。
○平川委員 2の方につきましては,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託の効力については,これを無効とする旨の規律を設けないということに賛成します。公益を目的とする目的信託が公益信託の認定を受けないで存在することは,私益信託の問題ですけれども,それを否定する理由に乏しいということから,無効とする旨の規定まで必要はないと考えます。公益信託と公益的目的信託,私益目的信託というんですか,そういうものとの入り繰りの話なんですけれども,結局,入口は自由,公益的目的信託から公益信託に要件を満たせば移行するということは自由で,出口は一旦,公益信託の認定を受ければ,それで生命を全うして,もし要件を欠くことになればシ・プレ原則により,他の公益信託と移行することもあるし,そうでなければ国有財産に召し上げられるという運命をたどるというのが簡潔で,非常に整理ができているのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○島村幹事 先ほども吉谷委員からも御指摘のあった点でございますし,先ほど林幹事の方からも目的信託の附則3項の話でございますとか,信託の受託者の範囲についても幾つか御議論を頂いております。この点につきましては,当然のことながら,現行信託業法では営業目的での信託の受託者については,受益者の保護などの観点から一定の制約を置いておりまして,ここについては現行の制度では少なくとも信託業法での免許なども必要になるというようなことも御留意いただいた上で,御議論いただければと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 1番,2番ともに賛成というのが結論でございます。御議論をお聞きしていまして,1点,疑問に感じましたのは,公益的目的信託というのは多分,委託者や受託者の方は,これは公益的なんだと思われているのだろうけれども,公益認定は受けていないというものを指しているんだと思うんですけれども,1点,疑問なのはまだ議論されていない公益という名称を使っていいのかどうかというところとの関係で,公益的目的信託は自らを公益的目的信託と名乗っていいのだろうか,そう名乗ると非常に分かりにくくて混乱するのではないかなという危惧を抱きましたというのが御議論をお聞きした感想で,非営利型目的信託と名乗るのはいいのかもしれないけれども,公益的目的信託というのはいかがなものなのだろうと思いました。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。この論点2については原案でよいという御意見を頂戴したかと存じます。1につきましては,理論的な問題と,立法技術の問題と,それから,平川委員から御指摘いただいた実際面での問題と,様々,あろうかと存じますが,1については原案賛成の方が多くいらっしゃったとは思います。新井委員が白旗を撤回とおっしゃいましたが,勝ち負けではありませんので,いろいろな御意見を引き続きお出しいただければと存じます。
  それで,時間が参りましたので,申し訳ございませんが,3と4につきましては次回に積み残しということにさせていただきます。司会の不手際で申し訳ございません。
  それでは,本日の審議はこの程度にいたしまして,次回の議事日程等について事務当局から御説明をお願いします。
○中辻幹事 次回は,本日積み残しになりました第4「公益信託と目的信託の関係」の3と4を御審議いただいた後,公益信託の監督・ガバナンスについて御審議いただくことを予定しております。監督・ガバナンスについての御審議は,まとまりとして次回11月と,次々回12月の2回を予定しております。
  次回の日程は,平成28年11月1日(火曜日),午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省で開催します。具体的な部屋につきましては,事務当局で確保でき次第皆様にお伝えいたします。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会第33回会議 議事録









 
第1 日 時  平成28年9月6日(火)   自 午後1時29分
                       至 午後4時49分
 
第2 場 所  法務省第1会議室
 
第3 議 題  公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第33回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,平川委員と岡田幹事が御欠席です。また,多少遅参される方がいらっしゃるということです。
  前回まで関係官でおられた溜箭調査員が在外研究に出られまして,交代で本日の部会から東京大学の藤谷准教授が加わることになりました。藤谷調査員,簡単に自己紹介をお願いいたします。
○藤谷関係官 法務省民事局調査員の藤谷でございます。租税法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○中田部会長 よろしくお願いします。
  それでは,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。部会資料33「公益信託法の見直しに関する論点の検討(2)」を事前に送付させていただきました。また,当日配布資料として,今回御欠席の平川委員から「『公益信託法の見直しに関する論点の検討(2)』に対する意見書」を頂いております。その内容をご紹介しますと,部会資料33で提案している事項についておおむね賛成とされている部分が多いのですが,何点か御指摘ないし別の御提案をされている部分もありますので,この後の部会資料の説明や御審議の段階で当方から補充の説明を行うことを予定しております。さらに,吉谷委員提供の「信託主要法令資料」平成28年9月版を席上にお配りしております。前回配布したものは平成27年9月版であり,今回改めて最新版をお配りしたということになります。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  それでは,ただいまの部会資料33について御審議を頂きます。具体的には,このうちの「第1 公益目的の信託事務の定義等」と「第2 受託者に関する認定基準」をまず御審議いただきまして,午後3時頃を目途に適宜休憩を入れることを予定しております。その後,「第3 信託事務に関する認定基準」について御審議いただきたいと思います。
  それでは早速ですが,「第1 公益目的の信託事務の定義等」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○立川関係官 部会資料33のうち,まず冒頭の(前注)部分について説明いたします。
  (前注)部分では,公益法人制度において,公益法人認定法が規定する各種の認定基準が,公益認定の取消し等の監督上の措置を行う基準となっていることを参考にしまして,今後,公益信託の認定基準を検討するに当たりましては,それが単に公益信託の認定基準となるにとどまらず,認定取消事由となり得ることを前提にすることとしています。
  続きまして,第1の「公益目的の信託事務の定義等」のうち,1の「公益目的の信託事務の定義」について説明いたします。
  まず本文では,公益目的の信託事務の定義に関し,「公益目的の信託事務は,学術,技芸,慈善その他の公益を目的とするものであって,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものとして,具体的に列挙されたものであるとすることでどうか。」という提案をしています。
  その提案の理由としましては,公益というものの概念につきまして,公益信託と公益法人とで異なるものとする理由はなく,公益目的の信託事務を定義するに際しても,公益目的事業の定義を参考にすべきと考えられることなどを挙げています。
  なお,公益目的の信託事務を提案どおりに定義した場合,不特定かつ多数の利益の増進に寄与するものであるか否かにつきまして,例えば,受給権者が特定の範囲の者に限られる信託について公益性がないとされるなど,認定実務におきまして形式的な判断がされる懸念があるかと思われます。しかし,公益法人の認定実務においては,受益の機会が特定の者に限定される事業であっても,公益目的の実現に直接貢献するといった合理的な理由がある場合には,不特定かつ多数の利益の増進に寄与するものであるとの認定をしているとされているところであります。こうした公益法人の認定実務を踏まえますと,公益目的の信託事務の定義を提案どおりとした場合でも,公益性について形式的な判断がされる懸念はないものと考えております。
  また,提案部分の(注)書きにも記載しましたが,本論点では,これまで説明したとおり,公益性の有無の観点から,公益目的の信託事務の外縁を画する定義について検討することとしております。
  前回第32回部会では,公益信託の受託者が助成事務以外の事務を行うことを許容するかなどといった論点を検討したところですが,これとは別に,公益性の有無の観点から,公益目的の信託事務の定義に関して御議論いただければと存じます。
  なお,平川委員御提出の意見書では,この定義に関しまして,公益法人認定法第2条第4号の定義と比較して,定義の順序が異なることに意味があるのか明かされたいとの指摘がされています。
  確かに,両者の記載内容は多少異なりますが,第1の1は,公益目的の信託事務の定義に関しまして,公益法人認定法第2条第4号の規定を参考に記載したものであり,両者に実質的な差異はなく,表現ぶりの違いがあるにすぎないとお考えいただければと存じます。
  続きまして,第1の2,公益目的の信託事務の種類について説明いたします。
  本文では,「公益目的の信託事務の種類として具体的に列挙するものは,公益法人認定法別表の掲げる公益目的事業の種類と同一とすることでどうか。」という提案をしています。
  第1の1の論点でも説明しましたとおり,公益の概念について,公益信託と公益法人とで別に解すべき理由はないことから,公益信託の公益の概念の明確化に当たっては,公益法人と同様の手法をとることが自然であると考えられることを根拠として,このような提案をしているところであります。
○中田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。1と2は関連いたしますので,特に順番は付けません。どこからでも御自由に御発言をお願いいたします。
○小野委員 それでは,ちょっと口火を切らせていただきます。取りあえず2点申し上げたいと思います。
  一つは,限定列挙といいますか,限定列挙して政令指定という形になっていますけれども,公益という概念は,今現在の想像力を超えるところが将来的にもあると思うので,政令となりますと,各関係省庁の合意ということが必要となりますから,やはり限定列挙ではなくてオープンといいますか例示規定という形がふさわしいのではないかと思いますし,そういう形で日弁連のバックアップチームにおいても議論いたしました。
  では,具体的に今現在何が欠けているのかというような観点で検討しましたが,例えば,基本的人権も一部表現の自由とか入っていますけれども,基本的人権絡みのものが決して全部列挙されているわけではないし,例示ということであればここで列挙をわざわざする必要があるのかという議論もあるかと思います。また,仮に9条改正反対とか何か平和運動とかについても,22項目に入っていないのではないかという議論もございました。ですから,そういう項目を入れてほしいというよりも,やはり公益性ということの広がりからすると,限定列挙ではない方がよりふさわしいと思います。また,公益法人改革のときは,既存の公益法人という枠組みといいますか,既存のものがあってその上での改革ということでしたけれども,公益信託の場合は既存のものがあるといっても,今は金銭給付型ですけれども,今後違う形で展開をしようとしているわけですから,新たに制度を構築するという観点から,やはり背景が異なるのではないかと思います。
  2点目は,不特定多数の議論でございまして,補足説明に書かれていることにもちろん賛同いたします。不特定多数については,従前の民法の議論とは違った意味で捉えられるということでふさわしいと思いますけれども,片や,実定法としての信託法を考えたときに,従前の民法の議論と異なる解釈ということをここで議論し,また将来的に一問一答等に入れていただくとかいろいろ進め方はあるかもしれませんけれども,解釈としてそれが将来またかなり限定的になるという懸念もあるのではないかという議論もございまして,ですから,できる限り条文に反映できるようにしていただくか,その他何らかの明文の規定に落としていただくことにより,不特定多数を限定的に解釈しない公益法人法と同じような方向性にしていただきたいと思います。
○能見委員 今の小野委員の御意見と重なるのですが,限定列挙のところについて一言述べたいと思います。
  この限定列挙について,一つは理論的な観点からの問題なのですが,なぜここで限定列挙されているかということの理由が,この文章,説明の中にもありまして,公益法人のときにも言われたことだと思いますけれども,公益性の認定をスムーズというのでしょうか,こういうものは大丈夫だということで明確化するということにあるのだろうと思います。しかし,ここに書いてあるものは,もちろんこれだけでは判断できませんけど,ここに書いてあるものは大丈夫だとしても,それ以外のもので公益性があるものは幾らでも社会の変化に応じて出てくるわけで,限定列挙という考え方がそういうものを排除するという趣旨でないのであれば,ここのは限定列挙ではなくて,先ほどオープンと言われましたが,オープンな形にすべきなのではないかと思います。政令で指定できるとはなっていますけれども,実際に政令指定があるのかどうか知りませんけれども,恐らくなかなか使いにくいのだろうと思うのです。
  もう一つは具体的な運用のレベルの問題ですが,私が前から気になっていたものに,動物愛護という活動があるのですが,動物病院とか,あるいは猫を去勢するとかいろいろな活動をしていると思いますが,これが現在の公益法人のところで限定列挙されている目的の中にうまく入らないのですね。私のうろ覚えですけれども,公益法人の新制度への移行期に,それまでは動物愛護目的が公益法人として認められていたのが,移行する際に公益性認定が難しそうだというので一般法人に移行してしまったものもあったと思います。しかし,他方で実際には動物愛護目的の公益法人もあるのだと思うのです。その場合に,公益性がどういうふうに認定されているか余り詳しく知りませんけれども,恐らく限定列挙されている目的の中のどれかに結びつけるような表現を定款の目的か事業のところに書いているのだと思うのです。それは非常に姑息なやり方だし,本来,望ましくないと思います。そういった意味で,先ほど言った理論的な観点からもおかしいし,また,実際にも不都合もあるので,ここはやはりオープンにいくべきではないかと思います。
  それから,これはむしろ樋口委員の方が詳しいと思いますけど,たしかイギリスのチャリティ法は公益目的として認められる目的を幾つか列挙していますが,イギリスでも何を公益目的とするかについて歴史的に大問題があったわけですが,最終的に2011年のチャリティ法では公益目的を列挙はしていますけれども,その他の目的でも公益目的と認められるようにオープンな形の規定になっていて,このような方式がこれからのあるべき公益信託の在り方ではないかと思います。ただ,公益法人と変わってしまっていいのかというところはやはり気になりますので,この信託法部会で限定列挙方式について問題提起をして,できれば公益法人の方も変えていただけると一番有り難いのですが,最後は余計なことかもしれません。以上です。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 具体的にどのような事業を追加すべきかどうかという議論ではないのですが,ここに書かれていることから少し外れることについてもし御検討されていたら,そこをお伺いしたいということであります。
  「学術,技芸,慈善その他の公益」ということでこのゴシックのところに書かれていまして,それが公益法人認定法に倣っているものであるという御説明はよく分かりました。それは,私は結論としてはそれでいいのだろうと思います。ただ,民法の33条2項というのを見ますと,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益になっています。現在の公益信託法も学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益になっていて,この両者は符合しているのです。そうすると,現在の民法と公益法人認定法との関係では,明確に除外しているかどうかはともかく,祭祀と宗教を民法から公益法人認定法に移すときに落としているのですね。そして,では,信託をどちらで公益を考えたらいいかということが問題になるのだろうと思います。
  そのときに,宗教,祭祀については宗教法人法というのがあるのだろうと思うのです。したがって,公益法人認定法でどういう議論がされたか私調べておりませんし,関与していませんのでよく分かりませんが,個別の法人法があるものについては,排除するかどうかはともかく,正面からは取り込みにいかないというような判断があった可能性があると思うのです。それは恐らく社会福祉法に基づく社会福祉法人とか,更生保護事業法に基づく更生保護法人とか,そういったものについても似たような問題があるかもしれない。あるいは,この別表に社会福祉法人とか更生保護法人は当たるものもあるのかもしれませんが,別表には宗教,祭祀は正面からこれだろうというのがなさそうです。
  そうすると,信託の話ですが,信託については,社会福祉法人とか更生保護法人とか,あるいは宗教法人とかという特別法で法人格を与える分野というか領域がありませんので,法人と並びで考えていいかどうかというところは,やはり実質的に考えないといけないのかなという感じがします。
  そこで,よく分からないのですが,信託で公益信託のものというのは,期間を限って公益事業をすることを限定するわけではありませんが,そういうものができるスキームと考えると,民法33条2項から出発しましたから,そのうちの一定のものについてはそういう期間を限ってのスキームでの公益事業には必ずしもふさわしくない,あるいは,ふさわしくないとまで言うとまたいろいろ語弊があるかもしれませんので,ちょっと言い方は工夫しないといけないのですが,少し距離があるというふうなことで宗教,祭祀というのを今回外すというような議論を一度した方がいいのではないかなと思います。御準備のときにそのことを御検討されていたならば御紹介,御披露いただけると幸いです。
○中田部会長 関連する御意見ございますでしょうか。
○林幹事 基本的には御提案の方向付けには賛成ですが,問題意識として,現在の公益信託においては,公益性の認定が厳しくてなかなか成立し難いというところがあることから,少なくとも公益法人のような柔軟な形で公益性を認定してもらいたいという点があります。それは第1回の法制審でも出たところですので,そういう方向付けで御提案いただいていることには賛成したいですが,部会資料の中でも御説明いただいていることや,公益法人の実務で柔軟に解釈していることについて,そのとおり公益信託法の方で持ってこられるのかという問題があります。御説明では可能であろうとのことでしたが,そうできるか心配はしています。それについて何らか条文に取り込めればいいのですが,そうでなければ何らかの方法でそれを明確にするようにしていただきたいと考えます。公益法人の場合でも一問一答には入っていたようなので,少なくともその程度のそういうことはしていただきたいですし,ここでも議論に残していただきたいというのが1点です。
  それから,先ほど来の2の限定列挙のところです。既に22項目でも,それなりに広くカバーされているという認識もあるものの,先ほどの限定列挙でなくて例示列挙で進むべきだという議論のもそうですが,さらに改めて何かプラスできないのか,すべきものはないのか,あるいは特に今日的な問題についてきちんと22項目でカバーされているのかというのを考えていただけたらと思います。個人的には,例えば,災害の問題は,予防というのはあるのですけれども,災害が起こった後のことについては入っていないようにも,入っているようにも思えます。また,弁護士会の中ではLGBTの問題なども指摘がありましたが,こうした今日的な問題はたくさんあるはずで,そういうものが改めてカバーされているかどうか検討した方がいいと思います。これより狭める必要はないのでしょうけれども,プラスアルファするということを考えたらいいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小幡委員 公益法人の方の認定に関わっている立場からすると,現在,公益法人の場合には,どこかに引っかかる,引っかける形で非常に広く「公益」を捉えているというのが実態ではないかと思います。
  ここの1回目の議論のところで,むしろ公益信託の方は対象の範囲などで,むしろ狭いような御様子がございましたので,そうであれば,公益法人の方の,せめてそこの広い「公益」とあわせるというのは一つの姿ではないかと思います。
  ただ,やはり公益というのは,確かに本来限定するようなものではなくて,何が公益かというのは画一的に決まってこないし,時代,社会環境等に応じて当然変わるものですので,余り限定列挙にはなじまない,典型的なものの列挙ということはできるとしても,完全な限定列挙というのは実は難しいはずです。先般,内閣府の公益認定の方でも一つ,公益と言えるかどうか難しいということで,排除した例がたしかあったと思いますが,最終的にはここのどこかに引っかけるとしても,本当にそれが公益かという実質的な議論というのは必ず必要になるので,そうすると,結局は公益というものの内容,実質については常に考える必要があると思います。
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  あとはどのように書いていくかということだろうと思いますが,少なくとも今の公益信託の実態よりは公益法人制度の方が広い公益ですので,特に不特定多数のところがある意味広くなっている,柔軟になっているという実態があるということです。
○樋口委員 ちょっとこれまでの議論を伺っていて感じたことを三つ,できるだけ手短にしますけれども。
  まず,一番最初に,やはり限定列挙にするかどうかというのは非常に大きな問題だと思います。それで,例えばアメリカの場合,最後のところで,そこの例えば地方自治体というのかな,地方自治体が行うようなものをとにかく代わって行おうとするものは,だから税金でやらないといけないようなものを代わって自分が私的な資金を出してやろうというわけですから,そういうものはそれに当たるというような,これは相当に,つまり概念が広いのですね。だから,その他というのでそういう概念規定をしておくと,例えば一例ですけれども,ほかに書き方はあると思うのです。この23号の書き方で,わざわざ政令と書いてあるものだから,非常に限定という感じがするので,これを何とかするかという課題があると考えます。
  そのときに,私も一方では,公益法人法制というのがあるわけですから,これと並べて一緒にするのが当然かなというようなことにもすごい説得力を感じるのです。しかし,一方で,他方で制度間競争というのか,とにかく,やはり少し変えておくというのが制度的な知恵で,これで何か公益信託の方でこんな話が出てきたよという話が何か見えるような可能性を残しておくと,やはり後で,ああ,それは公益法人だって同じじゃないのという話が出てくるかもしれない。だから,わざとちょっと曖昧な形で,何も全く一緒にするという話にすると,やはり発展性が非常に乏しくなるので,やはり限定列挙ではなくて,これはあえて一つ何か緩めの条項を入れておくというのは一つの考え方として有力なのではないかなと思うのです,わざわざ二つ別の公益のための制度を作るためには。
  二つ目ですけれども,2点目は,今,小幡委員もおっしゃってくれて,ああ,そうだったのかとか,今日の説明でもあった,つまり日本の公益概念の中身のなさです。定義すると必ず,不特定かつ多数の者に利益を与えられるとかというので,この不特定かつ多数の者に,「かつ」ですからね,しかも。これをものすごく厳密に考えると本当に大変なことになって駄目になるわけです。
  昔からの例で言うと,私が知っているのでは,昔だと,例えば会津高校の卒業生に対して,自分は会津高校の出身者なのだという人がいて,会津高校の卒業生が大学へ行くときに,やはり貧しい人もいるから,とにかく奨学金を出したいと言えば,昔は公益性が認められたのです。ところが後になって,これでは「不特定かつ多数」とはいえないという議論が出てきてだめになったのです。ただ,それは完全に教育資金のための援助なので,英米ではそれが公益に反するとか,公益に当たらないなんて,これは誰も言わないのだけれども,日本ではそういう形になっている。そこまで今の公益の法人の方で緩やかにしているのかどうかは分かりませんけれども,先ほど林幹事がおっしゃったように,不特定かつ多数の者の利益と書いてあるけれども,柔軟に解しているのだよということをもう少し強調して明確な形として何とか残せないものかということが第2点です。
  3点目はこの別表,私は,公益法人法制は本当に知らないで言っているからあれなのですけど,3ページ目から4ページ目にかけて,23項目挙がっていますね。これ,公益法人法の解説本というのをきちんと読んでみると,これ一つ一つに例えば具体例があるものなのでしょうか。つまり,例えば21号,これは何でもいいのですけど,国民生活に不可欠な物資,エネルギー等の安定供給の確保を目的とする事業というので公益法人として何かこういうことはあり得るのだよということはきっとあるのだと思うのですけれども,こう書いてあるからには。どんなものがあるのだろうというのが一つ一つについて,ある意味では,抽象的だから,こんなもの本当にあるのだろうかという。しかし,ないようだったら別表にする意味はないわけですよね。何かのイメージ,典型的な例というのはあるはずなので,それは私が知らないだけでこういうのが一つ一つぐらいはみんな挙げられているのですよということなのか,それから,そのときに,やはり先ほどの動物愛護なんかがどうしてもどこにも入ってこないではないかというのでいえば,例えば,私なんかでもすぐ思い付くのは医療の関係で,医療もいろいろな話があって,例えば私ががん患者で,しかし,たまたま大金持ちだったとしますよね。公益信託を作って,同じがん患者のための何とかするというのがどこに入るのだろう。公衆衛生の向上にはちょっと,これががんの研究なら学術とか,もしかしたら公衆衛生の方にも入るかもしれないけれども。いやいや,見落としなのかもしれませんけれども,それは第1点の限定列挙のところへかかってきて,やはりちょっとそういうのだと,どうしても入ってきてしかるべきなのに入ってこないというのがやはり幾つでも出てくるのではないかなという気がしました。結局長くなって申し訳ありません。
○中田部会長 ありがとうございました。まだあると存じますけれども,大分御発言が続きましたので,事務局の方から少しコメントを頂きたいと思います。大きく分けて二つありました。一つは,小野委員,能見委員,林幹事,小幡委員,樋口委員からの御指摘ありました,別表で列挙するという方式をもっと緩めるべきではないか,とりわけ第23号に政令で定めるものとあるのは何とかならないかということ。また,不特定多数というのが現在の公益法人認定の実務では緩やかになっているのだけれども,それを何らかの形で明文に取り込めないだろうか,こういうことがあったと存じます。そのほか,最後に樋口委員から御発言のあった,具体的な例がどんなものがあるのだろうかということもございます。
  それからもう一つは,山田委員から御指摘いただきました点でして,祭祀,宗教をどのように取り扱うのか,規定においてどのように取り扱うのか,こういう御指摘がございました。以上について,今の段階で御説明いただけるところがあったらお願いします。
○中辻幹事 では,部会長におまとめいただいた順番でお答えします。
  1点目の限定列挙か例示列挙かというお話について,基本的には既に旧民法からの改正時に議論された上で出来上がった公益法人認定法における公益性認定の枠組みというのがあるわけで,仮に公益信託についてそれと異なる枠組みにする場合には十分な理由付けが必要であるように思います。ただし,それでは公益信託が利用者にとって使いにくくなる可能性がある,公益目的の信託事務の定義については例示列挙にすることも含めて考えるべきだという御意見をいただきましたので,これまで公益法人認定法2条4号別表23号に基づく政令は制定されていないことも踏まえ,こちらで引き取って検討させていただきます。
  2点目,不特定多数の要件ですけれども,皆様おっしゃっていたとおり,現行の公益法人の認定の実務では,不特定多数の要件について硬直的な運用はされていないと,私どもも理解しており,柔軟な運用が公益信託の認定においても望ましいと考えています。部会資料33における公益目的の信託事務の定義において,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものという表現を使っておりますが,ここでは寄与するという言葉にポイントがあり,公益信託においても,不特定かつ多数の者が受給権者でなければならないということではなく,特定少数の受給権者を通して不特定多数の人々の利益の増進に寄与するものであっても許容される可能性があるということを含意しています。
  3点目,山田委員の御質問について,公益法人認定法における公益の意味は,旧民法における公益の意味と変わっておらず,公益法人認定法2条4号の別表では,認定基準の明確化という要請から,公益法人が行う公益に関する活動を具体的に整理したものが掲げられているものの,旧民法における公益の概念を狭めているというわけではないという説明が公益法人認定法の一問一答に立案担当者の見解として記載されています。したがって,旧民法の公益法人の規定の書きぶりと異なり,公益法人認定法における公益目的事業の定義から祭祀,宗教という文言が外れたことによって,それらが公益の概念から直ちに外れるということにはならないのだろうと思います。ただ,山田委員御指摘のとおり,法人の方では,宗教法人とか社会福祉法人などの別の入れ物が用意されているわけで,それがあるから大丈夫だというふうな説明がつきますが,信託の方ではそのような入れ物がありません。ただし,公益信託の枠組みを使って祭祀,宗教を目的とする信託事務を行うニーズがどれだけあるのかは疑問符が付くところで,あえて公益法人認定法と書きぶりを変える必要はないのかなと考えておりました。
○明渡関係官 この22項目につきまして,具体的な事例があるのかどうかというようなことで御質問がありましたけれども,具体的にどういうものをやっているのかというのは今手元にはございませんが,各公益認定の申請の際には,これのどれに当たるのかというのをお出しいただいております。今手元に件数がありますが,この1号から22号までに該当する法人は全てにございます。非常に多くなっているのは19号の「地域社会の健全な発展を目的とする事業」,あと7号の「児童又は青少年の健全な育成を目的とする事業」,あと1号の「学術及び科学技術の振興を目的とする事業」等の運営法人が多くなってございます。
  なお,動物愛護の話も出ましたけれども,動物愛護を目的とするような法人というのはございまして,具体的にどれに当たっているのかというのはもう一度申請資料を見れば分かりますけれども,恐らく16号の「自然環境の保護」のところ等で読んでいるのではないかなという気はいたしております。
○中田部会長 ほかに。
○新井委員 まず最初に,限定列挙か例示列挙かということについて発言をさせていただきます。
  私は,公益法人認定法と同じような形の限定列挙でよろしいのではないかと思います。私が現に今関係している公益信託で,成年後見の分野なのですが,成年後見人とか保佐人とか補助人が専門職であった場合,本人の財産から報酬を払えない場合に,公益信託から報酬を払うというものが公益信託として認可されています。この公益信託では毎年受託件数も増えています。これをどこで読むかというのは非常に難しいのですけど,既にそれが認められて動いているということがあるので,一応限定列挙であっても解釈を柔軟にすればいろいろなものに対応できると思います。例えば,先ほど宗教の問題がありましたけど,これは13の信教の自由というようなことでも読めると思いますので,私はやはり公益法人と公益信託との平仄を合わせるということで限定列挙にした上で,公益認定の解釈は柔軟にしていくということがよろしいのではないかと思いますので,原案を支持いたします。
  それから,不特定多数の問題ですが,これは5ページの一番最後に書いてあるのですが,「不特定多数とするけれども,特定の範囲の少数者に限られていても不特定多数の場合がある」という理解については私は賛成でして,前回,前々回に私なりの受益者の考え方を申し上げましたが,そういう立場からしてもこれは非常に親和的ではないかと思いますので,ここのところも賛成したいと思います。
○小幡委員 今の補足になりますが,新井委員がおっしゃいましたように,要するに,今の公益認定の別表は抽象的な文言がかなり多いので,そのどこかには当てはめられるというところが実態ではないかと思います。そうすると,あえて限定というほどでもないので,書き方が23号があるので逆にそう見えるのですが,実際上は,それほどの限定ではない,ということですね。ただ,最初に申し上げましたように,確かに限定というのは,余り良くないと私自身も思っています。ただ,現実にはほぼ限定ではない形で運用されています。
  それから,樋口委員の御質問にありましたように,例えば病院でも,今公益法人でもやっています。では,医療法人でやればよいのに,なぜ公益法人かということですが,多少特徴づけて,地域の医療に特化したとか,特に何かの専門が強いとか何か理由を付けては申請してきて,公益法人という形で実際上は病院もやっているということはありますし,幼稚園なども学校法人でなくて公益法人の形でやることもあるという実態があります。それから,大学の奨学金をあげるのが不特定かということですが,理屈としては,大学に入るのは誰でも機会は開かれている。したがって,そこに入った人だけに奨学金を与えても,それは不特定多数だというのが理屈かと思います。そこは正確ではありませんが,いずれにしても,奨学金の対象はかなり広く運用されているということだと思います。
○中田部会長 ほかに。
○深山委員 もう議論が尽きているような感じはするのですけど,皆さんおっしゃっている限定列挙かどうかということについては,私もやはり例示列挙という方がいいと思うのですが,若干見られた限定列挙でも不都合はないのではないかという御意見に対しては,むしろ限定列挙にしなければならない積極的な理由であるとか,あるいは逆に例示列挙にすることによる不都合というのがあるのかお聞きしたい。もしそういうことがないのであれば,何とかなるからという消極的な理由で限定列挙にする必要はなかろうというふうな印象を持ちました。
○中田部会長 大体この点についてはよろしいでしょうか。
○長谷川幹事 先ほど樋口委員の方から,この23項目にそれぞれ具体的な例があるのかというご指摘がございました。たしかガイドラインのようなものと公益目的事業のチェックポイントというようなものが作成されていて,それに基づいて実務が動いているのではないかと思っております。もっとお詳しい方おられると思いますので,その点は事実を踏まえて補足していただければと思います。
  その上でなのですけれども,私も深山委員と近い考えを持っておりまして,今でもできているからいいのではないかという消極的な理由というのはいまひとつ説得力がないと思っています。今でもできているのは,多分そういった具体的なマニュアルの蓄積があって,また,それを作る人的な蓄積があって初めて動いているということが実情であると思いますので,それも踏まえて御議論いただければと思います。
○山本委員 すでにほとんど御意見が出ていますので,一言だけ考慮すべき点を申し上げたいと思います。
  公益法人についても,現在のこの別表で問題なく全て対応できているという御意見に対しては,多分それで実際には対応できるのだろうと思いますが,やはりどれかに当てはめないといけないために,申請の際に,本来考えていたものに少し修正を加えたり補正を加えたりして,できる限りそれに近づくような工夫をせざるを得なくなっているのではないかと思います。それは実際に事業を行おうとする人たちからしますと,本来の意図とは少し違うものになってくる面もあるのではないかと思います。広い公益概念からすると,そういったものも当然カバーされるということになりますと,何か余計な工夫を要求していることになっているのではないかという気もします。その意味では,例示列挙の考え方は,そうした余計なコストを削減するという意味合いも持っているのではないかと思いました。考慮すべき点の一つになるかもしれませんので,申し上げておきます。
○吉谷委員 信託協会の議論では特に提案に反対するという意見はなかったのですけれども,今回議論で考慮するに当たって,実際に申請などの事務の余分なコストがかからないようにした方がいいという意見が総論でございました。ですので,ここに列挙されているような項目があるということによって,申請がやりやすくなるのであれば,それは列挙していただくべきだと思いますし,それが限定ではない方が早く審査や書面ができるとかいうような事情があるならば,そういうふうにした方がいいのかなとも思います。もし当てはめにすごく時間がかかって無駄な時間を費やすということであれば,限定されない方がいいと思うのですけれども,そこにそれほど時間がかからないということであれば,別に限定されていてもいいのかなと考えます。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○道垣内委員 もしこのテーマが終わっているのならば発言したいのですが。
○中田部会長 今,まとめようかなと思っていたのですけれども。
○道垣内委員 まとめた後でも結構です。
○中田部会長 それでは,今頂きました御意見ですが,限定列挙か例示列挙かというと,ちょっと言葉の方が独り歩きしてしまうかもしれません。もう少し中身を言うと,列挙方式とすることのメリットと課題がテーマだと思います。とりわけ23号にありますようなバスケットクローズを置くということはどうしても必要になると思いますが,その在り方として,政令指定がいいのか,そうでない方がいいのか,それぞれ得失があると思いますので,更に検討するということになると思います。
  それから,それとは別に,22項目について具体的に不足があるのかどうか。もしあるのであれば,またそれも御指摘いただくということになろうかと思います。
  このほか不特定多数の点と祭祀,宗教については,先ほど中辻幹事からお答えいただいたようなことでございますけれども,更に検討を進めるということにしたいと思います。
○道垣内委員 すみません,議論の進め方について一言意見を申し上げたいのですが,先ほども小野委員,林幹事の方から,『一問一答』にこう書いてくれという話がありました。民法(債権関係)部会のときから,私はすごく気になっているのですが,『一問一答』に書かれたからといって,それが法制審議会の部会のコンセンサスであるということにはなりませんし,その叙述がその後の解釈等について拘束力を有しないことはもちろんだろうと思います。したがって,議論をまとめる際に『一問一答』に書くのであればよい,というまとめ方はおかしいのではないかと思います。ただ,たしかに,公益認定といった種類の問題は,裁判所で常に訴訟事件として争われるという性質のものではございませんので,『一問一答』に書かれているガイドラインが非常に強い意味を持つというのはよく分かります。したがって,この論点に関しては,『一問一答』でいかに補足するかが重要であると考えることは,さほどおかしくないのかもしれません。ただ,やはり最終的な要綱の文言として,どのような内容でみんなが納得をするのかということが重要であって,それについて,「これはこういう意味ですよ」と補足すれば納得するというのはおかしいということを,私としては,是非この段階で申し上げておきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。よろしいでしょうか。
  それでは,次に進ませていただきます。「第2 受託者に関する認定基準」につきまして御審議いただきたいと思います。事務当局から説明していただきます。
○立川関係官 第2の「受託者に関する認定基準」について説明します。
  本論点では,受託者の欠格事由について検討しておりますところ,本文では,「公益信託の受託者につき,公益法人認定法第6条第1号から第6号までと同様の事由を欠格事由とする規律を設けることでどうか(ただし,信託と法人の相違に応じて必要な修正を加えるものとする。)。」との提案をしております。
  公益法人認定法第6条は,公益認定に伴う法律上の効果を付与するにふさわしくない事由を欠格事由として規定し,これに該当する者を理事等から排除することとしています。このような公益法人認定法の趣旨は,公益信託の受託者にも妥当することから,基本的な考え方として,公益法人認定法第6条所定の事由を,公益信託の受託者の欠格事由とすべきとしています。
  もっとも,信託と法人の制度的な相違から適当な修正が必要なものがあったり,公益信託への援用が困難なものがあったりするため,検討に当たりましては,公益法人認定法上の欠格事由ごとに,公益信託の受託者の欠格事由とすべきか否かなどの判断が必要と考えられます。
  そうした個別の判断をした結果につき,本部会資料の末尾に,別表という形で提示いたしました。
  なお,別表の作成に当たりましては,受託者が自然人となる場合,法人となる場合に分けて欠格事由とすべきかを考え,さらに,法人が受託者となる場合に,当該法人の役員の欠格事由とすべきか否かについても検討し,それぞれ欄を分けてまとめております。別表を参考にされまして,公益法人認定法第6条所定の欠格事由を,公益信託の受託者の欠格事由とすべきか,また,欠格事由とすべきとして,別表記載の修正が適切か否か,更には,別表記載の事由以外に公益信託の受託者の欠格事由とすべき事由がないか否か等について御議論いただければと存じます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議をお願いいたします。御自由に御発言ください。
○吉谷委員 提案に対して基本的な方向感は賛成ですが,細かな点につきまして幾つかコメントをさせていただきます。
  まず,冒頭の(前注)との関係なのですけれども,信託法では,7条で受託者の欠格事由とされている成年後見,保佐の開始の審判というのが,受託者の任務終了事由になっている。ですので,公益信託でも受託者の欠格事由というのは,まずは受託者の交代事由と考えるべきではないか。交代で解決しない場合については,公益認定の取消し又は信託の終了と進んでいくという考え方がよろしいのではないかと考えております。
  あと,別表に関してでございます。別表の1号のイの(注1)のところで,イの公益信託の認定の取消し日から5年未満というのを受託者の欠格事由とするのであれば,受託者に帰責性のある取消しに限定すべきであると書かれておりますけど,少なくとも私どもも受託者に帰責性のある取消しに限定するべきであると考えます。ですので,認定の取消し事由のところについてコンセンサスが得られたところで,またこの論点に戻るということになるのではないかと考えました。信託銀行は,多くの公益信託を受託しておりますので,形式的にこの基準に該当してしまうということを懸念しているという次第です。
  あと(注4)の,別表でいいますと左側の2号の関係ですけれども,ここは(注4)に信託の欠格事由であると記載されておりますが,そうすると,ここの表に出ている受託者の欠格事由に当てはまらない場合や,受託者が交代した場合であるとかに,なお5年以内に公益認定の取消しがされた信託を認めるべきではないというふうな考え方になるのだろうと思います。そういう限定的な場合であることに加えて,信託は法人と異なりまして,清算して再設定するということは容易にできるものでありますので,実務上の意味というのは設けてもちょっと低いのかなとは考えました。これも受託者の欠格事由のところがまとまって,後でまた再度確認すべき事由かなと考えました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 前回も議論させていただきましたように,弁護士,その他専門家たる個人が受託者になる場合の要件と法人が受託者となる場合の役員の要件と一緒に議論することがふさわしいかどうか,もちろん最低限の要件としては,こういう欠格事由に該当する方が受託者となるのはふさわしくはないと思いますが,それ以上に,この補足説明でも議論されているように,個人が受託者になる場合の受託者としての能力,適格性という項目を入れる必要があるのではないだろうか,そうでないと個人は誰でも欠格事由がなければなれますよといったところで,果たしてそれでいいのだろうかという議論につながっていってその結果,個人が受託者となる道が閉ざされてしまうことになるのではないか。今後引き続き検討する必要があると補足説明では述べておりますけれども,議論する余地のない欠格事由の他,個人が受託者の場合には,どういう適格性が必要なのかという辺りも,ここで積極的に議論してもよろしいのではないか,その場合には,別に弁護士に限る必要はありませんけれども,能力,信用力という要件もここで加えておく必要はないか,法人ならば,法人の個々の役員については定期的に変更されていくでしょうからその都度判断すればいいのであって,また,法人の場合には法人としての形とか在り方とか,そういう形の議論になるかと思うのですけど,個人受託者の場合は,積極的要件についても本来ここで議論するのはふさわしいのではないのか,という意見でございます。
○中田部会長 御指摘ありがとうございます。確かに,適格性についても関連するのはおっしゃるとおりだと思いますが,一応,部会資料32の「第3 公益信託の受託者」の範囲のところでその御議論は頂いておりまして,その上で受託者に法人だけではなくて個人も加えるか,あるいは個人だけでもいいのか,こんな議論がありまして,一応そこで御議論いただきました。また御議論いただく機会があろうかと思いますが,今日は欠格事由について取り分け御議論いただければと思います。もちろん排除する趣旨ではございませんけれども。
  ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 細かい資料を丹念に読んでいないので,もしかしたら誤解している点があるかもしれませんけれども,法人が受託者になった場合に,その法人の役員が,公益法人認定法でいえば,禁錮以上の刑に処されるうんぬんとあるわけですが,こういう欠格事由に該当すると,公益法人の場合はもちろんそれでその法人は公益法人としては駄目だということになるのでしょうけど,公益信託の受託者の場合は,法人である受託者の役員の個々のそういう犯罪と,その法人受託者が実際に事務を行っている信託との関連性が公益法人の場合とはちょっと違う感じがするのです。公益法人ではその理事といいますか役員が全面的に責任を持って法人の事業を執行していくわけですけれども,信託の受託者,例えば信託銀行を考えた場合に,信託銀行の取締役などの役員が,公益信託事務と関係のない企業犯罪とかに関わりそれでもって刑に処せられたというときに,信託の事務自体はその役員とは関係なく実際には行われているのだと思います。そこら辺が,何か,公益法人の規律を公益信託に持ってくるときのちょっと違和感を感じるところでして,うまく理論的には説明できないのですけれども,とにかく違和感を感じるところがあります。そういう意味で,基本的な方向は公益法人とそろえるということでいいと思いますけれども,この本文の中にもありますけれども,実際に信託に持ってくるときに本当に同じになるのかどうかというところをもうちょっと詰めていただければと思います。
○樋口委員 今のお二人の意見に関連してですけれども,どこから話せばいいかな。いやいや,もう簡単にするべきですね。これは,つまり,この欠格事由に当たるということに,だから,それが当初の要件成就の話と,それから実際に公益信託が走り出した後で何らかの役員の交代であれ何であれですけれども,自然人の場合だったら,自然人が後で犯罪を犯すことだってあり得るわけだから,欠格事由に当たるということになった場合にどうなるのでしょうという話がやはり問題になると思うのです。
  それで,信託は公益信託に限らない話で,一般的な信託法理ですけれども,受託者は死亡することもあるし,思いがけず亡くなって,そのときに,受託者がいなくなったから信託は終わりですねという話はそもそもないのですね,英米では。裁判所に行ってかわりのきちんとした受託者を任命してもらって,その信託をできるだけ続けていきましょう。いわんや公益信託については,できるだけ永続させようという話になります。永久拘束禁止則も外して,とにかくできるだけ本当に公益信託ならですけれども,長く続けるというのが趣旨なので,その点を確認しておきたい。欠格事由というのに途中で当たるなり何なりというような場合に,それで,無効になってもう信託終わりという話ではない方がいいと思うのです。そういうようなことも考えた上でのここでの議論をしていただけないものかということです。
○中田部会長 それでは,ここら辺でちょっと切りまして,吉谷委員,小野委員,能見委員から頂戴しました御指摘について,もしコメント,御回答があればお願いします。
○中辻幹事 吉谷委員の御指摘は樋口委員の御発言とも共通するように感じておりまして,受託者が認定の後に欠格事由に該当した場合において,公益信託の終了や認定取消しの前に受託者の交代ないし変更によって対処する方法があり得るということは御指摘のとおりかと思います。それを踏まえて,更に詰めた検討をしていきたいと思います。
  それから,能見委員がおっしゃっていた,法人と信託との違いということですが,ここは私どもも悩ましいところだと思っておりまして,仮に公益法人認定法の仕組みを公益信託に持ち込むとしても,信託と法人の相違に応じて必要な修正を加えた上で持ち込むことが肝要であると考えています。
  公益信託の認定基準を検討する上で何が一番大きい違いかといいますと,公益法人の場合には,認定を申請した法人全体にフォーカスを当てて公益法人としての適格性を判断することになるのですが,公益信託の場合には,受託者にフォーカスを当てるのか,それとも信託自体にフォーカスを当てるのかというところで考え方の相違が出てきます。例えば,受託者が信託銀行という法人であれば,信託銀行は公益信託以外にも多様な業務を行っているわけであって,公益信託以外の私益目的の信託事務,銀行業務,さらにはこれら以外の業務まで含めて信託銀行という法人全体を見て公益信託としての適格性を判断すべきであるという考え方が存在し得る一方で,公益信託の信託事務を見て公益信託としての適格性を判断すれば良く,仮に受託者が不適格になればその任務を終了させて新たな受託者のもとで公益信託を継続させるという考え方もあろうかと思います。この点については今後も意識して検討していくつもりです。
○中田部会長 ほかに,この点についていかがでしょうか。
○樋口委員 これに関連して思うのですが,受託者に関する認定基準というときに,私が忘れてしまったのかもしれないのだけれども,やはり単独受託者しか考えていないのですか,公益信託について。例えば,共同受託者という形をとっておいて,片方が欠格事由に急に当たることになった。どうするかというと,普通は,先ほども言ったように,できるだけ公益信託を長く続けたいというのであれば,残りの受託者はいるわけですから,だから,その受託者でとにかく続けていってもらうという話になるので,そういう話なのですけれども,そういう理解でいいのかということです。共同受託ということももちろんあり得るし,だから,そうすると,同じようなことで,単独であっても,後継の受託者を誰かが作るような仕組みを作っておけばいいのですね,欠格事由に当たったとしても。受託者ではなくて,今,中辻幹事がおっしゃったことなのかもしれないのですけど,「公益」信託のところに正に焦点が当たるということであれば,受託者が交代したって構わないわけですから,欠格事由に当たるという話で議論する必要が少なくなるかもしれません。それとの連携で共同受託というような話のこともあるのかどうかみたいなことです。
○中辻幹事 おっしゃるとおり,単独受託者が欠格事由に該当した場合に受託者の交代という形で新たな受託者が引き継ぐという選択肢もあれば,共同受託者の一人が欠格事由に該当した場合に欠格事由に該当しない他の共同受託者が引き継ぐというような選択肢もあってしかるべきだと思います。
○中田部会長 いずれにしましても,当初の認定基準と,それから事後的にそれに当たるようになったときの対応と,この2段階あるのだということは御議論で明確になってきたのだと存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○明渡関係官 すみません,非常に細かな話で恐縮なのですけれども,別表の(注1)3行目以降に,公益信託の受託者から公益信託の,これは認定の取消しの申請がなされたと思うのですが,それに基づいて公益認定が取り消されたときはうんぬんというような記述がございます。実際公益法人に対する認定の場合に起こっている事例ではあるのですけれども,まず,認定を取り消すべきという勧告が8条機関の方から行政庁の方に出されたというようなことがございました。それから,不利益処分という形になりますので,聴聞等の手続を経なければいけない。その間に法人の方から認定取消しの申請が出てくるというようなことがございます。この場合,形式的に見ると,取消しの申請に基づいて取り消すというような形にはなろうかと思うのですけれども,実態としてはかなり問題のある法人であるということはあり得るかと思います。ここで認定取消しの申請がされて取り消された場合は,除外する必要はないという場合に,こういったケースは割り切ってもう除外とするべきなのか,それとも,何らかの対応を,別途の対応が必要なのかというのが論点の一つとしてあるのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。また公益法人の例なども伺いながら詰めていく論点かと存じます。
  ほかにはいかがでしょうか。この「第2」についてほかにもしございませんようでしたら,予定した休憩時間までまだございますので,先に進ませていただきたいと存じます。具体的には,次の「第3 信託事務に関する認定基準」についてですが,まず御説明をしていただきまして,そこで休憩に入りたいと存じます。お願いします。
○立川関係官 それでは,第3の1,「当該公益信託の受託者等の関係者に対する特別の利益の供与禁止」について説明します。
  本文では,甲案として,「公益信託の受託者が,信託事務を行うに当たり,当該公益信託の受託者等の関係者に対し特別の利益を与えないものであることを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような基準に関する規律を設けないとの提案をしています。
  公益法人制度においては,公益法人の理事などが自らの地位を利用して不当な利益を得,又は与えるおそれを防止するため,このような基準が設けられていますところ,甲案は,その趣旨が公益信託にも妥当しますことから,同様の認定基準に関する規律を設けるとする案でございます。
  なお,甲案の外縁についてですが,適正な選考をした上で,公益信託の受託者が当該公益信託の関係者に助成する場合などは,この認定基準に反するものではないと考えられます。また,甲案を採用した場合,特別の利益の供与が禁止される関係者の範囲を画する必要がありますが,当然のことながら,公益信託の受託者が関係者として規定されたもの以外の者に対して特別の利益を供与した場合でも,受託者の善管注意義務違反などの問題は生じると考えられるところです。このように,甲案を採用した場合でも,利益供与が禁止される範囲が不当に広がったり,狭まったりすることがないと考えられることに留意した上で御議論いただければと存じます。
  これに対して,公益信託の受託者が関係者に対して特別の利益を供与した場合は,受託者の善管注意義務違反や損失填補責任の追及等により,すなわち公益信託内部の監督,ガバナンスにより対処すれば足り,これを禁止する旨の認定基準は不要という考え方があり,これを乙案として提示しています。
  なお,乙案を採用した場合,公益信託の受託者が関係者に対して特別の利益を供与した場合でも,そのことだけを理由として公益信託の認定監督機関がその監督権限を行使できないことになる可能性があり,この点について留意が必要と考えられます。
  続いて,第3の2,「営利事業を営む者等に対する特別の利益の供与禁止」について御説明いたします。
  本文では,甲案として,「公益信託の受託者が,信託事務を行うに当たり,株式会社その他の営利事業を営む者等に対し特別の利益を与えないことを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような基準に関する規律を設けないとの提案をしています。
  公益法人制度におきましては,公益法人の財産が営利事業等を行う者のために使用されることが適当でないことなどから,このような基準が設けられていますところ,甲案は,その趣旨が公益信託に妥当するとして同様の認定基準に関する規律を設けるとする案でございます。
  他方,そのような事態に対しては,公益信託内部の監督,ガバナンスによって対処すれば足るとの考えから,このような認定基準を不要とする考え方があり得るところで,これを乙案として提示しています。
  なお,甲案,乙案を採用する場合のそれぞれの留意点は,第3の1の論点で説明したところと同様でございます。
  続いて,第3の3,「社会的信用を維持する上でふさわしくない信託事務及び公の秩序若しくは善良の風俗を害するおそれのある信託事務の禁止」について説明します。
  本文では,甲案として,「公益信託の受託者が,社会的信用を維持する上でふさわしくない信託事務や,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある信託事務を行わないものであることを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような基準に関する規律を設けないとの提案をしています。
  公益法人制度においては,公益法人が社会通念上明らかに不適当な事業を行い,公益法人制度全体の信用が失墜するのを防止する観点から,そのような事業を行うのを禁止する旨の認定基準が設けられていますところ,甲案は,この趣旨が公益信託にも妥当することから,同様の認定基準に関する規律を設けるとする案です。
  他方,公益信託の受託者が行う信託事務を公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務を除外するのであれば,収益事業等を行う公益法人と異なり,公益信託の受託者が社会通念上明らかに不適当な信託事務を行うことは想定しがたいことから,このような認定基準は不要とする考え方があり得,これを乙案として提示しております。
  続いて,第3の4,「収支相償」について説明します。
  本文では,甲案として,収支相償を認定基準とする規律を設ける,乙案として,収支相償や信託費用の支出に関する認定基準を設けない,丙案として,収支相償を認定基準とする規律は設けないが,公益目的の信託事務による収益の一定割合以上を信託費用として支出すると見込まれること等を認定基準とする規律を設けるとの提案をしています。
  公益法人制度においては,実費弁償を定めることで,公益法人が行う事業によって利益を享受する者の範囲を可能な限り拡大することを意図して収支相償を認定基準として設けていますところ,甲案は,その考え方が公益信託にも妥当することから,同様の認定基準に関する規律を設けるとする案です。
  なお,甲案を採用した場合,公益目的の信託事務に係る収支として,ゼロか損失を計上しなければならず,公益目的の信託事務を継続的に実施できなくなってしまうのではないかとの懸念があるところと思われます。しかし,収支相償を認定基準とする公益法人の実務では,単年度で必ず収支が均衡することまで求められているわけではなく,例えば,将来の事業の拡充等に充てるためのものとして,一定の要件を満たした資金への積立てをもって費用とみなすことなどにより,中長期では収支が均衡することが確認されれば,収支相償の基準を満たすと解されています。
  甲案を採用した場合でも,公益法人制度においてされているような柔軟な運用がされるのであれば,先ほど説明したような懸念は必ずしも妥当しないのではないかと考えています。
  他方,乙案は,収支相償を認定基準とした場合,公益信託の受託者が数値基準を満たすことのみを考えた結果,信託財産や寄附の受入れを謝絶するなどといった不当な事態が招来されることへの懸念から,収支相償を認定基準とせず,かつ軽量・軽装備であるとの公益信託のメリットをいかすべく,信託費用の支出に関する基準を設けないとする考え方です。もっとも,乙案を採用した場合,信託財産が不当に蓄積されることを防止する規律がなくなります。そのようなものを公益信託として存続させてよいのか,また,そのようなものに税法上の優遇措置が与えられるべきかという問題があるものと考えられます。
  最後に,丙案は,収支相償を認定基準としない一方,信託財産が不当に蓄積されることを防止するため,米国の税法で公益的な組織等に対して適用されているペイアウトルールを認定基準とすべきとの考え方です。
  なお,丙案の検討に当たりましては,ペイアウトルールを採用する米国において,その運用が硬直的になりすぎるなどの批判がされていることに留意すべきと考えられます。
  本論点につきましては,平川委員提出の意見書では,「19頁(注)の米国におけるペイアウトルールの説明中,ペイアウトルールの適用があるのは,Public Charity以外のPrivate Foundationとされているので,特定少数者に支配されている家族財団のみならず,それ以外のものも指すとされているので,それを補足説明されたい。」との指摘がされています。これは,部会資料の該当部分の記載がペイアウトルールの適用があるのは,特定少数者に支配されている家族財団に限定されているかのように読めるが,実際はこれに限定されるわけではないので,その趣旨を明らかにすべきとの指摘であったようです。もっとも部会資料では,ペイアウトルールが適用される飽くまで一例として,家族財団のように特定少数者に支配されているようなものを挙げておるところでございまして,これ以外にもペイアウトルールの適用があることは当然の前提としていますので,平川委員の認識と必ずしも齟齬はないのではないかと考えております。
  続いて,第3の5,「公益目的の信託事務以外の信託事務による公益目的の信託事務の実施への支障がないこと」について御説明いたします。
  本文では,「公益信託の受託者が公益目的の信託事務以外の信託事務を行うことによって公益目的の信託事務の実施に支障を及ぼすおそれがないことを認定基準とする規律は設けないことでどうか。」との提案をしております。
  公益法人制度においては,公益法人が収益事業等を行うことを前提にこのような認定基準が設けられています。そのため,公益信託の受託者が行う信託事務を公益目的の信託事務に限定するのであれば,こうした基準を設ける必要はないと考えられますので,本文のような考え方を提示しているところでございます。
  最後に,第3の6,「公益目的の信託事務の比率」について御説明します。
  本文では,「公益法人認定法の公益目的事業比率に相当する規律は設けないことでどうか。」との提案をしています。
  公益法人制度においては,公益法人が収益事業等を行うことを前提にこのような認定基準が設けられています。そのため,公益信託の受託者が行う信託事務を公益目的の信託事務に限定するのであれば,公益目的事業比率の趣旨は,公益信託には当然には妥当しないと考えられますので,本文のような考え方を提示しておるところでございます。
  なお,公益目的事業比率に関する認定基準を設けないとしても,公益信託の信託財産が公益信託の運営に必要な経常的経費のために過大に使用されることが望ましくないとの考慮から,経常的経費の比率が一定割合以下となると見込まれることを認定基準とする考え方があり得るかと思います。もっともこのような考え方に対しては,経常的経費のうち高額となる懸念があるのは受託者,信託管理人等に対する報酬だけであり,これに対しては別途報酬額が過大にならないような規律を設ければ足りるのではないかとの批判があり得るところでありまして,経常的経費としてどのようなものが想定できるかとの点に留意しながら,その採否を検討すべきと考えられます。
○中田部会長 少し早いのですけれども,この後議論に入りますとまた区切りがつきにくいかもしれませんので,一旦ここで休憩を挟ませていただきます。15分間の休憩を挟みまして,3時3分に再開いたします。
 
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,時間が来ましたので再開いたします。
  部会資料33の「第3 信託事務に関する認定基準」について御審議いただきます。先ほど御説明を頂きましたので,1から6まで一つずつ検討したいと思います。
  まず1,「受託者等の関係者に対する特別の利益の供与禁止」について御審議をお願いいたします。
○小野委員 そもそも論のところでちょっとお伺いしたいのですけれども,今日の部会資料の一番初めの(前注)のところで,認定基準のところにも監督の趣旨も入っているのですという前提で議論してほしいというふうに書かれておりますけど,欠格事由,具体的な認定プロセスにおける認定事由,それから監督プロセスにおける監督基準,それから実際に退席を求めるまでのイエローカードを何枚切った後にレッドカードになるのかとか,大分局面は違うように思われますが,やはり今回のこの議論も認定基準イコール監督基準ということでの議論なのかどうかということと,次に認定基準イコール監督基準でも,項目としては少ないというか,特定されすぎているように感じます。恐らく公益法人の認定過程においても,もっといろいろな要素を見て認定し,なおかつ監督する際も,いろいろなポイントから監督をし,いきなり退席ではなくて,いろいろな指導をしたりとか業務改善命令があるか分かりませんけれども,そういうのを発したりとかするのではないかと思います。認定基準としてこれだけの議論なのか,今後ともいろいろな観点から議論していくのか,あともう一つ,法人の場合ですと定款,財団であれば寄附行為ということがあって,それに見合うというか,公益信託ですから信託契約がございます。信託契約に受託者は拘束され信託目的に沿って行動することが求められますが,受託者における信託契約違反の行為を監督上どう対応するのかということもあると思います。ですから,利益相反行為うんぬんというのは,信託法上の忠実義務とか,善管注意義務違反の問題ということで,認定というよりも実際に認定された後の問題なのかと思います。
  また,認定する際に信託契約だけではなくて,恐らく事業計画とかも提出することになるのではと勝手に想像しているところもあるのですが,恐らく公益法人においてもそういう規律があるかと思うのですけれども,認定するときに,その辺も含めて何をもって認定基準としているのかということも検討する必要があるかもしれませんし,あるいは公益信託ということで信託契約に絞って認定をしていくのかどうか,そのあたりについて考え方を教えていただければと思います。
○中辻幹事 今回の部会資料2頁の(前注)の,公益信託の認定基準は監督上の基準として認定取消し等の事由となり得ることを含意するという部分の記載は,仮に認定基準に違反した場合にイエローカードに当たる監督機関による勧告・命令等の事由となり得ることも意味しておりますが,今回の部会資料で取り上げた認定基準に違反したことをもって一発レッドで必ず公益信託の認定が取消されるわけではなくて,認定の取消しは任意とされる可能性もあるほか,その手前の段階で勧告・命令等の措置がされるにとどまる場合もあるでしょうし,そこはグラデーションがついていく話なのだろうと考えています。
○中田部会長 今回6項目挙げられているわけですが,ほかにもあるのではないかということでございますけれども,今の段階で例えばというのがございますか。最後におっしゃった信託契約違反の場合にどうなのか,これは認定基準の問題であり,内部でのコントロールの問題でもあり,そのどちらに振り分けるかということかもしれないのですけれども,ほかに認定基準として特に取り上げるべき項目というのがもしあるようでしたら。
○小野委員 あまり具体性はないのですが,この資料の中に,法人の場合には事業計画書を出すというようなことが書かれていたので,やはり公益法人のときは定款,寄附行為だけではなくて事業計画も出すのだなと,当たり前の議論かもしれませんけど思った次第でして,となると,公益信託の場合も,信託契約書1枚の議論ではなくて,もう少し詳細な内容のものが提出されるのではないかと思った次第です。ですから,認定基準のときには,それを利益相反という切り口だけでチェックしていくのではなくて,また公益という観点もありますけれども,何かもうちょっと幅広であったり,また逆に細かい議論をしていくのかなと思った次第です。特に利益相反だけであれば,信託では受託者に特に忠実義務という重い義務が課せられておりますから,ある意味では初めから利益相反行為はできない立て付けで,それだけではない議論をされようとしているのかなと思ったりしているところでございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
○道垣内委員 第3の1からなのですが,どういうふうにして働くのかなということが気になるのです。監督基準ないしは取消基準として働くときの働き方というのは比較的イメージしやすくて,例えば忠実義務違反となり,監督権限が行使されたり取消権が行使されたりするということになるのだと思うのですが,認定基準として働くときに,例えば,信託財産から関係者に対して非常に多額なお金が渡るという仕組みが作られているというときに,それは公益性が否定され,信託の成立が否定されるのでしょうが,関係者の概念に入らない,第三者たる企業に丸投げをして,それに対して不当に多額な報酬を支払うという仕組みになっていても,それは公益性を認定してよいのかというと,それはよくないだろうと思います。それでは,その場合には,どこで話を切るのだろうか。つまり,公益認定はできないということになるのだろうかというのが,公益認定に関する法律の解釈というものに対しての私の無理解が背後にあるのかもしれませんけれども,よくわかりません。この基準の働き方について御教示いただければと思う次第です。
○中田部会長 今の御指摘は,例えば善管注意義務だとか損失填補責任というレベルにとどめないで,むしろ認定基準の方で論ずるべきではないかという御示唆も含まれているのでしょうか。
○道垣内委員 含めるべきか,含めざるべきかの判断がつかないのです。どうしてかというと,認定基準においては具体的にどういう働き方をするのだろうかということのイメージがわかないからなのです。
○中田部会長 では,今の点も含めていかがでしょうか。
○中辻幹事 認定基準についての働き方としては,第3の1のような要件を満たさない信託は公益信託としての適格性が否定されるということになりますけれども,その効果については先ほど述べたのと同様にグラデーションを付けていくことを考えています。
  なお,公益法人認定法5条には「公益認定の基準」という表題が付けられておりまして,その基準を満たさない場合には,公益性が否定されると読めるように思います。ただし,5条に違反して公益性が否定されるというのと,公益法人としての適格性が否定されるというのは同じことを意味していて表現の違いに過ぎないような気もします。そうすると,第3の1の要件を満たさない関係者への利益供与を行う信託についても,公益信託としての適格性が否定されるのではなく,公益性が否定されるということもでき,関係者の概念に入らない第三者への利益供与の場合には第3の1の要件は満たすが不特定多数の利益の増進に寄与するものではないとして公益性が否定されるのと同じになるのかもしれません。
  それから,小野委員のお話に出てきた事業計画書について少し補足して説明しますと,現在の主務官庁制の下における公益信託の許可及び監督の手続は,許可審査基準のほかに,主務省庁それぞれの府省令で定められています。府省令はどれも同じような内容になっていて,それによれば公益信託の許可を申請する受託者が事業計画書等の書類を主務官庁に提出することが求められており,新たな公益信託の認定主体に対しても,おそらく事業計画書は提出していただくことになると考えています。
○道垣内委員 十分には理解できていないのですが,公益認定のときに働くということになったときに,例えば,当該公益信託の信託行為において,こういった業務はどこそこに委託すると書いているとします。そして,それが受託者の関係企業であり,それに対して支払われる報酬が非常に多額に設定されているとなりますと,これは受託者の関係者に対して特別な利益を与えるということになって,駄目だというのはよく分かります。しかしながら,私は個人的に全く無関係なのだけど,ある企業の窮境を救いたいと思っているところ,ある公益信託を設定する際に,当該企業に対して多額の報酬を与えるという仕組みの信託行為を定めて公益認定申請をしてきたとしますと,やはりこれも駄目なのだろうと思うのです。そうなると,問題は,信託の収入として上がってくるもの,当該信託の信託財産に属する財産の利用の仕方が,公益ではない形に大幅に利用されるという形になっているときには駄目ですよということだけなのであって,ここに関係者概念というものが出てくることの理由がよく分からないのです。
○中田部会長 公益法人の方では,悪い前例があったということを踏まえてそういう規律が設けられているのだと思いますけれども,純粋に理論的に考えた場合に,関係者であろうと第三者であろうと,信託財産の利用の仕方としては適当ではないのではないか,こういう御指摘かと思います。そうしますと,方向としては,公益法人とそろえるような形で第3の1についての規律を置くのか,それとももっと抽象化した形にするのか,あるいは第3の1を置くのに加えて一般的な認定基準を置くのか,こういった選択肢があろうかと思いますけれども,もし道垣内委員の方でこういうのがいいのではないかというのがあれば。
○道垣内委員 例えば監督基準として,悪質性が強い場合に公益認定の取消しを行うのであり,ほかの場合には,例えば損害賠償義務などにとどめる,という効果を措定して,悪質性が強い場合というのはどういう場合なのかというと,関係者に対して利益を流した場合は悪性の度合いが強く,ある企業の利益を図った,ある個人の利益を図ったというときに,その利益享受主体が関係者でないときは,それはいけないことではあるけれども,関係者への利益供与の場合に比べると,悪質性の程度が低いのであり,だから,その場合には公益認定の取消しにまでは至らず,損害賠償に留めるというのは,1つの判断としては理解ができるような気がします。したがって,監督基準ないしは公益認定の取消基準として受託者等の関係者という言葉を使うことには,一定の意味があるのだろうと思います。それに対して,当初の認定基準に関しては,この両者を区別することには基本的には意味がないように思います。したがって,当初の認定基準と後発的な監督基準ないしは取消基準というものとで働き方が随分違うので,統一にすることが本当にできるのだろうかというのが私の根本的な疑問です。
○中田部会長 ありがとうございました。小野委員,道垣内委員とも共通する御指摘があったかと思いますが,その上でそれぞれになるのか,あるいは別々になるか分かりませんけれども,この認定基準として,あるいは監督や取消しの基準として,関係者に対する特別の利益について更に御意見を頂ければと思います。
○林幹事 先生方と疑問は共通していますが,確かに一見当たり前のことのようであって,認定基準にあれば監督の根拠ともできるということは分かるものの,信託と公益法人の違い,特に公益法人認定法の場合は,一般社団法人・一般財団法人として動いているものについて公益認定するというものなので,その違いを理解した上で議論すべきでないかと思います。
  それで,この公益法人認定法の条文を見ますと,「その事業を」としているだけです。だから,「当該公益事業を」とは限定していないように思えます。社団なり財団法人は,いろいろな事業をしていて,公益事業になりたい事業もあれば,それ以外の事業,収益事業もいろいろあります。それの全体を見たときに,これこれこういうような事情があればと読めます。要するに,公益事業以外のところで,この後だと公序良俗とかもありますし,特定の者に利益を与えている,そういう場合はだめだというところまでも読めるはずなのですよね。中辻幹事も先ほど言われたとおり,公益法人の場合は,公益法人全体を見ているから,公益事業以外の部分も見ているはずと思います。これに対して,公益信託の場合は,そもそも委託者と受託者が分かれていて,信託行為があって,信託目的なり公益目的というものがあり,利益相反なりいろいろな制度があるという前提があります。そして,前回の議論で事業の範囲をどこまでと見るかにも関連するのでしょうけれども,公益に関連するものにある程度限定した形で見るとすれば,それ以外のところで何かあるということは基本的には余り想定していないはずです。対象としては公益信託というか公益事業的なものだけを見たときに,これらの提案がどう働くかというのを考えるのだと思います。ですから,そういう観点で見たとき,私としても,これがどう働くのか分かりにくいと思われ,この規定がなくても処理できるものではないか,あるいは当初の認定でなくても事後的な取消し等で対応できるのではないのかと思います。
  それから,公益信託は軽量・軽装備なものを考えていますから,入口に規制が多いと使いにくくなるのではないのかという懸念もあります。また,どの程度のものだったら公益認定を認めて,どの程度のものだったら否定するのかの問題もあり,若干怪しいというのだけで公益認定が否定されてしまうと,やはり入口は狭くなります。そう考えると,この規定がなくても,ほかのところで対応できるのではないのかなという考えに至ります。あえて特別の利益を与えないという基準を設けて,実務的にどういうふうに動くのかというのを考えると,申請のときにこれがためにいろいろなことがあって面倒くさくなると,やはり障害になるだろうと思います。弁護士会で出た意見・議論としては,念書か確認書みたいなもので関係ありませんと一言言えば足りるとか,申請書のどこかにチェックすれば足りるとすることも考えられるとすれば,そういうものであれば設けてもいいという考え方もあるのですが,それであれば意味がないという議論もありました。ですから,公益信託に対するものと理解したときに,この基準が認定の段階で必要なのか検討すべきだし,そうすると,必ずしも必要ではない,ほかのところで手当てすることにして,酷いものは,道垣内委員がご発言されたように,損害賠償だったり取消しであったり,そういうことで対応しても足りるのではないかと考えました。
○小野委員 先ほど信託契約とか信託法の忠実義務では十分賄えるのではないかと申し上げたのですけれども,考えてみれば,任意規定化されているので,信託契約の中で受託者の責任が軽減あるいは免責されていれば,ここでの議論が強行法規的に生きてくるのでは,その意味でもやはり必要なのでは,と思ったのですけれども,他方において,今の信託法は商事,民事,公益,全ての信託が賄える形で出来上がっておりますけれども,今回,公益信託を議論する際に,現在の信託法における任意規定をどこまで許容していいのかという別の議論もあるかと思います。先ほど中田部会長から,ほかに何がありますかという質問がありましたけれども,具体的項目としては,恐らく,信託法に書かれている受託者の義務それぞれについてどれだけ任意規定化が許容されるか,それが契約上そう規定されていれば,それ自体が認定基準としては特に引っかかることはないというような議論でよいかどうか。
  片や,信託業法の適用があれば,信託契約で任意規定化したところで,信託業法が強行法規として適用になりますけれども,一応今までの議論からも,信託業法が適用されない受託者も考えられ,その場合は信託業法の適用がないという前提ですから,そうすると,信託法の受託者の義務の緩和の是非というところに行き着く議論であるのか,任意規定化が許容されて,契約として許容されていても,認定基準でどこまでチェックするのか,認定基準が強行法規として適用されるという議論に行き着くのかなと思った次第です。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに第3の1について。
○樋口委員 この認定基準ということなのですね。今のここでの議論は,きっとそういうのが大半なのだろうと思いますけれども,委託者と受託者が結託して公益信託というツールを使って何かをという,それは認定基準のところで何とかしないといかんねという話を考えていると思うのですけど,シナリオとしては別のものも考えられます。原則として,委託者と受託者は別ですから,委託者は何しろこういう公益のために何とかしたいのだという,それで一族の中でも孤立しているわけですよ。それで,実は反対している人の中の誰か別の人が受託者になって,こういう関係者に利益相反的なことをすると,これがパアになるというのは,何だかやはり筋がおかしいような気がするのです。公益信託として認定しておいて,受託者の罪は罪,罪というのかな,犯罪ではないかもしれないけれども,それについての義務違反とその制裁というのはあってしかるべきなので,別のところで対処すべきものを,認定基準という話にしてしまうというのが何だかおかしいという感じがするということです,そもそも。
  それから,ついでにちょっとあれですが,11ページ目真ん中のところへ,認定基準とすることは,これによって「公益信託の認定・監督を行う外部の第三者機関がこれに違反した公益信託の受託者に対してその監督権限を行使できることを含意する。」。これは認定にしないと監督,つまり監督権限がある第三者機関が何もできないということになるのかというのがちょっと,私のこの文章が本当はよく分からないのですけれども,第三者機関は,もしそういうものがあるとしたら,認定基準にしなくとも,やはり何かはできるのではないだろうか,こういう受託者がいた場合に,と思うのです。
○深山委員 今の樋口委員の話にも通ずるように思うのですが,認定基準としてどういう基準にするのかということと,認定を受けた後の事後的な監督基準なり取消基準というのは,既に何人かから御指摘のあるように,働き方が違うと思います。認定基準違反に抵触することが事後的に発生したときに,当然,取り消したり監督の対象になるというところはいいのですが,その逆は必ずしも言えなくて,やはり分けて考えるべきだろうと思います。認定基準というのは,そもそもそういう構造の公益信託は認めるべきではないというような評価を与えられる場合であって,他方,構造的には必ずしも問題はないのだけど,実際の運用上よろしくないことがあったときに,それをチェックするということが必要になってくるのだと思うのです。そういう意味でも,認定の基準の問題と事後的な監督の対象になるかどうかというのとはやはり区別すべきだろうと思います。そういう目で,ほかの基準にも共通することですけど,今問題にしている1の特別な利益の禁止のところを考えると,実際に公益信託の認定をするときに,どこまで具体的な仕組みを説明するのか,どういう実務になるのか分かりませんが,最初から特定の人に,それが受託者等の関係者であれ,第三者であれ,こういう人に実はこうして,こういう利益を与えるのですと,具体的な利益の中身まで説明をして初めて審査を受けるなどということになるのだろうかと思います。そうではなくて,ある程度のところは説明するとしても,実際にどういうお金のやりとりがあるのかというのは,必ずしも最初の段階でチェックしないのであれば,余り認定基準として特別の利益というものを問題にすること自体が意味がないと思うのです。逆に言えば,最初から不当だと見えるような申請の仕方をする人は多分いないでしょうから。
  そういうふうに考えると,やはり認定基準をそういう意味で設けるのだとしたら,それは構造的に公益信託にふさわしくないというようなものが類型的に括り出せるのであれば,それはそれで基準として立てればいいのでしょうけど,恐らく多くは事後的な監督のところでチェックをきかせるべき事由で,それはやはり別のところで何らかのチェック項目として規定を設ける必要があるのかなという気がします。そこでは先ほど小野委員も指摘したように,一般的な受託者の行為規範的な規定を設けるかどうかとか,それは一般の信託法と違って強行法規にするとか,そういうところでむしろ中心的に議論すべきことなのかなという気がいたしました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 本論に入ります前に,(前注)との関連ですけど,やはり信託事務に関する認定基準に違反した場合も認定の取消しとか受託者の解任とか信託の終了とか,そういう対処がありますということをまず確認しておきたいと思います。
  そして本論なのですけれども,この第3の1の提案に対しては,私どもとしては乙案賛成で,もし入れるのであれば,むしろ異なる基準を入れるべきではないかと思います。認定基準とその後の監督の基準が何らかのリンクをするということ自体は別におかしくないですし,その認定基準のところである程度判断されるということはあってもいいのかなと思います。
  そして,結論に至るまでのこの過程のところについて,ちょっと総論的なものになるのですけれども,お話ししたいと思うのですが,今回は信託事務に関する認定基準として,従来の公益信託よりも様々な規範を設けるという提案がされているということなわけですけれども,公益信託の認定基準が厳格で制限されたものになるということについてはそうなのだろうなと思いますけれども,なぜ厳格にしなければならないのかというところについてもう少し理由を考えた方がいいのかなと考えているところです。
  恐らく二つぐらいの理由がありまして,一つは,公益信託という看板を掲げる。そうすると,財産を拠出する人も安心して公益に貢献しているのだなということが分かるということだと思います。二つ目は,公益認定によって税制上の優遇が与えられているということで,不適切なものを優遇することがないようにと,税制の優遇という社会的なコストを払うだけの価値のあるものなのかというものを検討するということであります。
  ここの認定基準においては,結構税制上の優遇というのが大きな考え方の根拠を示しているのではないかと思いますし,私どもとしては,公益信託という類型を作るのは,やはり税制上の優遇があるというのが大きな要因であろうと考えているというところです。もちろん公益信託法の認定基準と税制上の基準をぴったり合わせることは法制審議会のテーマではないと思っておりますけれども,税の優遇のある制度ですから,範囲を厳格にしなければならないと思っております。
  ただ,もう一ついえるのは,範囲を厳格にすべきということは分かるのですが,軽量・軽装備という信託の特徴は維持するべきであろう。特に公益信託のモデルをどう考えるかというところがあると思うのですけれども,助成型モデルを念頭に置いて考える必要があるのではないかなと思います。
  その上で,この1番のところについて,乙案賛成でありまして,甲案については,公益法人で実際どのような実務が行われているかということがよく分かっておりませんので,その実態を教えていただけたらなと思うのですけれども,甲案の実質というのは,受託者等の関係者に助成し,取引関係に入ることは,受託者が適正な選考をしていれば可能ですということで,原則は禁止ではなくて,原則は可能なのだけれども,適正な選考が行われなくて特別な利益を与えるということになるのは不可というルールですと,これを実現するためには,公益認定監督を行う第三者機関が監督権限もこのルールに基づいて行使するのだという趣旨であると思います。
  よく分からないのは,このルールを具体的に当てはめると一体何をするのかというところでありまして,三つぐらい考えられると思うのですけれども,もっとも穏やかな方法というのは,受託者が申請の際に,信託契約や事業計画で特別の利益は提供しませんというものを記載して宣言して,第三者機関が公益認定のときに受託者が宣言しているということを確認するということです。これは非常に簡単で,どれぐらい抑制効果があるのかよく分からないということだと思うのですけれども,もう少し実効性のあるものを考えるとすると,受託者が信託契約や事業計画で適正な選考が行われるのであるということを証明して,第三者機関が公益認定時に選考方法の適正性を確認して,その後は監督時に選考状況というのを確認するということであろうと思われます。
  更に厳しい基準というのが考えられて,受託者が関係者に対して助成や取引をというのを行うときに,それが関係者に該当するのかどうかというのを逐一洗い出して,個別に,この人は関係者だけれども,特別の利益を与えていないですねということを一個一個確認するというプロセスを導入する。そのようなプロセスというのを第三者機関がまた事後的に行われていることを確認すると,そういう三つぐらいの厳しさの程度があると思うのです。
  何でこんなことを申し上げるかといいますと,信託銀行というのは信託業法の適用があるわけです。資料の12ページにも記載がありますけれども,利害関係人との取引は原則禁止です。まず,信託契約で利害関係人との取引を認めるという説明をして,利害関係人と取引を行うときは,それを洗い出して適正な条件であるかを確認して,実行して,その後でどういう利害関係人との取引があるかということを一覧にして,受益者に,公益信託の場合であれば信託管理人に対して報告を行うというようなことを行うわけです。このようなプロセスを特別の利益の供与の禁止においても行うということが果たして想定されているのかどうかというところが私どもの方の疑問であります。
  これは,恐らく関係者の範囲によって左右されると思うのですけれども,11ページの中段で書かれているような関係者の範囲であるとすると,これはかなり広いのではないか。明確にこれだとされているわけではないのかもしれませんが,委託者であるとか受託者,信託管理人,運営委員の三親等の親族や生計を同じくする者というのがその対象で,それらが法人の場合には,それぞれの役員の三親等の親族の生計を同じくする者というところまで確認をするのか,禁止の対象に入るのかということです。
  私ども信託銀行のような立場から考えると,役員の三親等内の親族が公益信託の助成対象にたまたまなっていたか,なかったかというところまでいちいちチェックするというのはなかなか難しいということなので,そういう点で,もしこれが行為規制というものにもなるということであれば,確認のための事務負荷というのがかなり大変なものになってしまうということでありますので,そこまでいくのであれば,まず賛同はしかねるというところがあります。
  ただ,一方で公益信託の担い手拡大の議論というのが今されているということを考えますと,関係者の数が限定されているものであるとか,委託者と受託者が親密な関係にあるような公益信託であるとか,そういったものが今後認められる可能性があるのであれば,むしろ今お話ししたような三親等の親族とかまで一覧にして洗い出しをするというようなことをしていただいた方がいいのではないかなとも考える次第です。
  そのときには,利害関係人への助成,利害関係人との何らかの取引というものは,むしろ原則禁止というようなルールにして,それを信託契約の中で書いている場合には認定するというようなルールにするということも考えられるのではないかなとも思います。ただ,現時点では,そういう様々な受託者に応じたルールが作れるかどうかということがちょっと疑問でありますので,甲案ではなく乙案賛成で,直ちにこういうルールという特定まではできないというのが現状でございます。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。当初の認定の問題と,それからその後の監督の問題と2段階あるのではないかという御指摘は何人かの方から頂きました。最終的な規律がどうなるかというのはともかくとしまして,というのは,両者リンクしているのだという御発言もあったと思いますけれども,検討段階では一応両方それぞれ考えていくということになるのだろうと思います。
  それを前提としたときに,この第3の1については,当初の段階でこのような規律を基準とすべきかどうかについては実効性がないのではないかという御意見が多かったと思いますが,しかし,後発的なといいますか事後的な段階ではやはりこれは考慮すべきではないかという御意見が多かったように承りました。
  当初の段階で,そうすると乙案にするというのか,あるいはもう少し抽象化したような形で,つまり関係者に限らず,その信託財産の使い道についてこういうふうにしてはいけないというようなことを書くべきなのか,これは両方の御意見があったかと思います。
  それから,監督基準の在り方については,特に今,吉谷委員からるる御説明がありましたけれども,公益法人の場合と公益信託の場合とでは,受託者はほかの仕事でもしているではないか,だから,違いをもっと詰めて考えるべきではないかとの御指摘だったかと存じます。ということで,この第3の1については大体御意見いただけたかと思いますが。どうぞ。
○新井委員 信託の立ち上げのときの認定基準と,信託が動き出した後の監督の場面をきっちり分けるというのはそのとおりでいいと思うのですが,これ見ていると,議論が錯綜しているところがあるので,以後そういうところをきちんと分けて整理していただければ大変有り難いと思います。
  例えば,12ページで信託管理人による差止請求権の行使とありますが,これは事後的な監督の話になるので,やはり認定基準のところとは少し分けた方がいいのではないでしょうか。
  それと,これもやはり12ページでしょうか,なお書きのところで,信託業法29条2項によって,信託会社が利害関係人と信託財産との間における取引を行うということがあります。これはもちろん信託財産との取引,受託者と第三者が信託財産に関して取引を行うことがあるわけですが,もう一つ信託で重要なのは,本来の信託の給付として不当に利益を与えるということもあるので,この取引の場面と助成の対象とする場面とをやはりきっちり分けた方がいいような気がするのです。そこのところも注意していただきたいと思います。
  それで,結論のところで,立ち上げのときの認定基準として入れることかどうかということなのですが,私は甲,乙,丙を設けてもう少し抽象化した形で,やはり立ち上げのときの認定基準があってもいいのではないか。認定基準が事後の監督のところにも影響を及ぼしていくという考え方もあっていいのではないかと考えています。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 すみません,今までの議論の方向は賛成なのですが,ただ,唯一懸念として残るのが,どなたかも言われましたけど,やはり当初の申請の段階で,その信託の仕組みとして,あるいはその信託において構造的に信託財産が特定の関係者の利益として行くような仕組みになっているときどうするかという点が認定基準の段階ではやはり問題になるのだろうと思いました。なかなか私もうまい,これはという解決が思い付かないのですが,ただ,私がそのとき懸念したのは,ここに書いてある基準が適当でないので,もっと抽象的な基準を設けたらどうかという案は必ず出てくるだろうと思ったのですが,それはそれでまた問題がある。抽象的な基準だと,認定の段階で裁量性を多く与えることになって,余り適当ではないということを私は感じていました。そういう意味で,いい代替案がないのですけれども,ただ,抽象的な基準の案を設けることについては,やはり慎重に検討しなくてはいけないということだけ言っておきたいと思います。
○長谷川幹事 改めて申し上げるまでもないのかもしれませんが,認定基準と監督基準で分けて考えるということには賛成です。
  その上で,これを監督基準的なものとして考えるにしても,関係者概念がなぜ出てくるかということについては,道垣内委員が言われた悪質性に加えて,そういう変なことが起こりやすいからという予防的な観点が多分あるのではないかと思っています。吉谷委員のご議論を伺っていると,もう前提のような気はするのですが,そこは明示的に議論されていなかったものですから確認的に申し上げたいと思います。
○中辻幹事 少し遡ってしまって恐縮ですが,道垣内委員からさきほど問題提起いただいた部分について,私自身の理解を整理したいという意味で質問させていただきます。
  道垣内委員が例として挙げられた,受託者等の関係者に対しての利益供与の場合と,関係者に当たらない全くの第三者に対しての利益供与の場合について,それぞれを区別して考えるべきだというのは分かりました。ただ,私の理解では,第3の1の認定基準は,公益信託の適格性に関する基準であると同時に,正に公益性があるか否かということに関する基準で,利益供与の相手方が関係者でも,それが全くの第三者であっても,公益性が失われるということでは一緒です。そうすると,監督の場面に絞って言いますけれども,そのとき採られるべき措置は同じであるべきだと考えられるのではないでしょうか。公益法人認定法29条では,公益法人が同法5条1号や4号の基準に適合しなくなったときには行政庁による任意的取消しの事由になると規定されており,両者の取扱いは変わらないと思われるのですが,そうではなくて,関係者への利益供与の方が第三者への利益供与よりも悪質であって,その場合は絶対的取消し事由として一発退場させるべきであると,他方,全くの第三者への利益供与というのは現実に起こる可能性は低いし,公益性の失われる度合いも少ないから,そこについては取扱いを区別して考えるべきであるとお考えなのか,お聞かせいただければと存じます。
○道垣内委員 私の発言に不文明なところがあったのをお詫びします。まず,次の12ページからの2との関係で,先ほど新井委員がおっしゃったように,取引というのと給付というものとをどこで分けるのかという問題があることとも関係してきまして,1のところに第三者という話を入れ込んでいいのかという問題は前提としてありますから,関係者については1,第三者については2という区分も合理性があります。もっとも,これは適用される条文というか,適用が予定される要綱項目といいますか,そういった問題です。その上で,中辻幹事のお話ですが,私が申し上げたのは,第3の1のように,関係者というのを特に括り出すということに正当化根拠を与えようとするならば,ということです。そして,後発的な場合においても,少なくとも取消しというのは不穏当で,受託者の解任ではないかというような樋口委員のおっしゃるとおりだと私も思いますけれども,いずれにせよ関係者と第三者を区別する必要はないのではないかということにつきましては,そうだろうと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○小幡委員 1点だけ。先ほどから監督という話がよく出てくるのですが,後でまた議論するのですかね,監督というのは誰がどういう形でするのかということにもよると思うので,要するに,事後的にそのように本来の公益信託にそぐわないような場面が出てきたときに,どう監督するか。今の公益法人の監督は,かなりしっかりしたイメージで,3年に1回きちんと立入りを行って,まずいところをピックアップして指摘してと,こういう話になるわけですが,恐らくここではそんなことは考えていない,もっと軽装備と思われます。そうすると,事後的に何か不具合があったときには,ここの内部のガバナンスといいますか信託管理人とかそういうものが出てきて,善管注意義務違反などの話のチェックになるのかと初めは思っていたのですが。先ほどから監督でという話がよく出てくるのですが,イメージとして,どういう形で第三者機関が監督に出てくるのかという疑問があります。私は乙案あるいは基本的にもう少し非常に抽象化した形で,本来こうあるべきだということを示しておく方が良いと思うのですが,余り監督というところに,誰がどのようにするかというのはこれから詰める話だと思いますが,それほど重点を置きすぎない方がよいのではないかと思っています。
○中田部会長 ありがとうございました。監督についてはまた改めて御審議いただくことになろうかと思いますが,その実効性ということもよく考えておくべきだということの御注意をいただいたかと存じます。
  この第3の1についてはよろしいでしょうか。
○山田委員 第3の1も含むのですが,認定基準の位置付けについてお伺いしたいのですが,本日の部会資料33では,第2が「受託者に関する認定基準」で,これは公益法人の公益認定法でいうと欠格事由に当たるような議論でした。第3が「信託事務に関する認定基準」ですが,この後に,何々に関する認定基準というのが更に続くのかどうかというのが質問であります。ここまでで認定基準が終わってしまうと,乙案をずっととっていって,後ろの方は認定基準としないことでどうかというのがありまして,そうすると,公益性認定というのがどうなのかなというのを考え,そうしますと,今ちょっと旗色が悪いけれども,第3の1のところに立ち戻って,やはりこういうところで公益性を確保していくのかなというようなことも思いましたので,更に認定基準というのが法人の方の,公益認定法ではもう少しいろいろありまして,それが法人だから出てきているのか,信託事務に関する認定基準という形でスライドしなかったのか,その辺りの方針というのでしょうか,教えていただければと思います。
○中辻幹事 私どもの方で全体像を先にお示ししておくべきであり,申し訳ありませんでした。
  公益信託の認定基準については,参考資料の公益信託法改正研究会報告書の記載の順で御議論していただくことを予定しており,概ね四つの類型に分けています。一つ目が受託者に関する認定基準,二つ目が信託事務に関する認定基準であり,そこまでを本日の部会資料で取り上げています。さらに,三つ目として信託財産に関する認定基準,四つ目として受託者の報酬に関する認定基準もありまして,それらについては次回の部会資料で取り上げて御審議いただこうと考えています。現在の公益信託の認定基準である許可審査基準の内容を踏まえつつ,公益法人認定法の認定基準も眺めた上で,どのような認定基準が新たな公益信託において適切かを考える上で,この四つの区分けで整理するのが最も分かりやすいのではないかと判断し,このような区分けにしております。
○山田委員 大変よく分かりました。ありがとうございます。
○能見委員 今のことと関係することです。先ほどの発言もそういうことを意図していたのですが,山田委員が言われたように,場合によっては,信託事務に関する認定のところの基準というものは設けないという選択肢もあり得るわけですよね,この後の議論次第では。私は,それはもちろんあり得ると思っていましたけれども,先ほど発言しましたように,最初の申請の段階で,どうもこの信託の仕組みはちょっとおかしいのではないかというときに,それをはねるための基準というのはやはりどこかに必要なのかもしれないと考えます。その場合に,余り抽象的な基準にしておくのはどうも適当ではない。そこで,山田委員が言われたように,私は先ほど余りはっきり言いませんでしたけれども,場合によっては第3の1だけを残すというようなこともあるのかもしれないということを思っていましたので,ここで補足しておきたいと思います。
○中田部会長 それでは,ほかとも関係しますので,またこの第3の1に戻るかもしれませんが,次の2に進みたいと思います。「営利事業を営む者等に対する特別の利益の供与禁止」,これについていかがでしょうか。
○深山委員 今まで大分時間をとって1のところで議論した問題と2の問題というのは,ある意味共通するもので,つまり,公益信託において関係者かどうかはともかく,特定の人に特別の利益を与えることがよろしくないという,そのこと自体は余り異論がないのではないかと思いますけど,そのことを認定基準として設けるかどうかという意味で,同じ土俵の問題ではないかなと思います。なので,今までこの1時間ぐらい議論してきたことも踏まえて,1と2と併せて,幾つか出たように,やや抽象的な何らかの基準を設けるかどうかを中心に今後検討したらいかがかなと思います。
○中田部会長 ほかに。
○小野委員 全体の趣旨としては賛成といいますか,深山委員がおっしゃったことと同じなのですけど,株式会社に対する特別の利益という点については,特別であれば株式会社でなくても問題で,同じ目的の何か給付であっても,相手が株式会社であるといけないというのはなぜか,会社制度の選択というのは法人格の選択の問題であって,公益的目的のために活動していれば問題ないのではないか,会社制度のみをクローズアップしすぎているのではと思いました。ただ,深山委員が発言したように,1と2を含めて特別な利益というところが問題なのですよということにおいては,そのとおりだと思います。
○長谷川幹事 先ほど1のところで発言させていただいたことと共通するのですけれども,特定の人に特別な利益を与える行為というのは問題なのですが,それを特定の類型の人だけ取り上げて何か特別に規制するには多分何か理由が必要なのだと思います。関係者の場合には,多分そういったことが起こりやすいということが理由になるのではないかと思っていますが,それとの並びで,適当なものかどうか,あるいは別に特別な集団を類型化して何か規制する必要があるということを考えるのであれば,それは理由があった方がいいと思います。そういう観点から見ると,1と2が同じ並びで同じように規制されるべきかというのは,小野委員がおっしゃったように,少し疑問を感じます。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 特別の利益の供与をしてはいけないというのは当たり前のことなので,それ自体に反対するということはないのですけれども,そういう認定基準を置いたときに,一体何が起こるのかということが分からなくて,多分助成型であれば助成先を選定するプロセスがきちんとできていますということを認定のときに御説明するのだろうと思うのですけれども,それ以外の場合に一体何をするのだろうということが分からないので,そういうルールを設けることの意味がよく分からないなというのが現時点での印象です。そういう理由で元々協会では乙案ではないかなと思っていたところです。先ほど1のところについては,むしろ積極的に利害関係のある人に対する助成とか利益の供与とかは,直接禁止をするというふうな形であれば実効性があるのかなと思ったのですけれども,この2については,そういうこともできないのかなと思いますので,ルールを設ける意味がよく分からないというところです。
○中田部会長 ほかに,第3の2についてよろしいでしょうか。
  それでは,次に進みたいと思います。次が3,「社会的信用を維持する上でふさわしくない信託事務あるいは公序良俗を害するおそれのある信託事務の禁止」でございます。
○川島委員 1点意見を申し上げます。
  まず,公益信託は,広く社会全体の利益につながるような事業でなくてはならないという観点から,今回示されている中では甲案の方が良いというように考えます。その上で,受託者は信託事務のほかに何かしらの事業や副業を行っていることも想定されます。これらの事業が公の秩序などを害するようなものであってはならないというように考えておりまして,公益信託の受託者としてはふさわしくないと考えます。
  以上のことから,この点について検討する際には,信託事務に限るのではなく,受託者が行っているほかの事業も含めた規律を設けるべきだと考えます。
  今日欠席されていますけれども,平川委員の意見書に記載されております丙案というのが,今申し上げたようなことと問題意識も共通すると思いますので,その点について御検討いただければと思いますし,また,ここの部分で検討するべきものなのか,一つ前の受託者に関する認定基準の中であるいは検討いただけたらというように思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 この3につきましては,信託事務の範囲に関する規定だと思うのですけれども,元々公益で限定するのであれば,乙案ということになろうかと思われます。
○能見委員 私も,今の吉谷委員の御意見と同じですけれども,別な意見が出たので,ちょっとそれに反対するという意味で発言をしておきたいと思います。
  受託者が何をやっているかというのは,また別に受託者の資格のところで考えればいい問題で,ここはやはり信託事務に関する認定要件としてこういう規定を設けるかどうかに限定して考えるべきだろうと思います。そうだとすれば,公益信託としては公益事業しかやらないということにするのであれば,もうその段階で,そこでもって,ここで心配している事態については判断されますので,わざわざ甲案のような規律を設ける必要はなく,乙案でよろしいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○明渡関係官 川島委員の方からお話がありましたが,実務をやっていく上で,確かにここの議論でするのか,ほかのところで議論するのかというところはありますけれども,この社会的信用というようなことを考えた場合に,受託者が行っているほかの事務をどのように見ていくのかということは検討しておいていただいた方が良いかと思います。
  変な例かもしれませんけれども,ここに挙がっているような性風俗関連特殊営業を行っている事業者が,例えば特定の病気に対する啓発事業を行うというような公益信託を受託するというのは,実際にあるかどうか分かりませんけれども,そこの事業ということで見ていかないと,こういうものを認めるのか,認めないのかというような問題は出てくるのかなと思います。もちろん能見委員おっしゃるように,ここで議論するのかどうかというような点ではありますけれども,論点として整理しておく方が良いのではないかと思います。
○小幡委員 ここの論点は,公益法人の場合は,公益事業ではない事業をやるので,収益事業をやるときに問題となるのです。そもそもこういうものは公益事業にはなり得ないわけですから,公益事業ではなくてほかの事業をやるときに問題になる話なので,したがって,ここでは信託事務としてこういう縛りをつける必要はないのではないかと思います。したがって,乙案ということになろうかと思います。ここは公益法人の場合と違うのではないかと思います。
○中田部会長 そうしますと,社会的信用の維持あるいは公序良俗というのを信託事務のところで規律する必要はないのではないかという御意見は,むしろ受託者の要件として考えるべきだという方向になっていくのだろうと思います。他方で,受託者の方は,欠格事由あるいは適格性というところで議論した上で,信託事務としてこれを置いておくという御意見と両方出てきたかと思いますが。どうぞ。
○川島委員 先ほど私が発言させていただいた中で,まずはここで挙げられているような課題について議論することが必要だという前提のもとで,そのことを正に今,部会長がおっしゃられたように,信託事務の認定基準で扱うべきなのか,最後に申し上げたのですけれども,そうではなくて受託者の認定基準のところで扱うべきなのか,私自身はこだわっておりませんので,全体の中でひとつ御検討いただけたらという趣旨で発言をさせていただきました。
○道垣内委員 信託事務の話としてここは論ずるべきだというのはおっしゃるとおりだろうと思います。ただ,受託者の資格要件のところではまた別途検討すべきであるという意見が大勢を占めているようですので,1点だけ申し上げますと,私個人としては,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する性風俗関連特殊営業を行っていても,合法的なものである限りにおいて,そのことを公序良俗に反すると言って受託者の資格要件で外すことに納得がいきません。
○林幹事 こういう内容のものが信託事務としては当然認められないということと,公益信託の受託者についてどう考えるかとの問題があるのはそのとおりなのですが,一方で,甲案では善良の風俗を害する「おそれ」となっています。明確に公序良俗違反でなくても,それに近いと疑うものである場合と規定するという趣旨にも読めます。そうすると,「おそれ」というものをどの程度捉えるかによって違ってくるところで,恣意的な運用がなされてはいけないですし,過剰な規制となってはならないので,こうした問題があることは指摘しておきたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○小野委員 ほぼ同意見なのですけれども,信託銀行なら引っ掛かることはないでしょうけれども,それ以外の受託者の候補について公序良俗に反しているとか,そのおそれがあるということを,そもそもどうやって認定の段階で判断するのか,後に社会的問題が生じたときに,監督していけばよいように思います。先ほどの欠格事由の方で何か分かりやすいものを提案するということがふさわしいと思います。
○中田部会長 今の御意見は,信託事務として規律することはいいということになりましょうか,それとも,それも良くないという。
○小野委員 そもそも規律しなくても受託者の信託契約違反の問題になると思いますけれども,でも,確認的にそういうことを入れることは問題ないと思います。一方,欠格事由のところで公序良俗に反するおそれがある行為をする受託者はだめですというような一般的な規定の仕方というのは,ちょっと過剰な規制かもしれないし,監督不能,立証不能かもしれませんので,特別な配慮が必要と思います。
○中田部会長 ありがとうございました。信託事務の規律とするか,受託者の規律とするか,それぞれについての注意点を御指摘いただいたかと思います。それを踏まえて更に検討を進めるということにしたいと思います。
  ほかに,第3の3についてよろしいでしょうか。
○中辻幹事 川島委員に御紹介いただきました平川委員の意見書の丙案について若干コメントさせていただこうと思います。
  恐らく丙案の目指すところは,部会資料33の甲案と基本的には同一であるのだろうと思います。そして,先ほど申し上げました公益信託の信託事務に着目するのか,受託者に着目するのかということにも絡みますが,公益法人認定法5条5号は公益法人全体に着目して公序良俗に反する事業をその公益法人が行わないことを認定基準としておりますので,平川委員の丙案は,公益法人認定法の考え方に近いように感じます。もっとも,仮に新たな公益信託の認定機関を設ける場合において,その認定機関が受託者の行っている信託事務以外の業務についてまで審査することが現実的に可能なのか,またそれが仮に可能であるとしても本来的に適切であるか否かということが問題になると思われます。そうすると,甲案が妥当だと言うつもりは全くないのですが,甲案のように,公益信託の受託者が公序良俗に反する信託事務を行なわないことを認定基準とすることで足りるという考え方にもそれなりの合理性はあるようにも思います。この点は,まさに信託と法人の制度的な違いを踏まえて考え込まなければならない問題であり,貴重な御意見ですので,引き取って検討させていただきます。
○小野委員 公益信託事務と捉えて検討する場合ですが,いわゆる受託者による信託取引の議論になって,信託法の適用関係になり,もちろん公序良俗違反であれば無効ですけれども,おそれになると,無効にならなくて,相手方が善意無過失であれば,信託法上は保護されると思います。そうあるべきという議論ではなくて,そういうような信託取引についても今度の制度の中で公益信託の受託者と取引する第三者は,より注意義務を果たすべき,また,そういう取引をすべきではないという観点から検討するというような方向なのでしょうか。
○中辻幹事 第三者にそのような注意義務を課すことが必ず適切であるとまではいえないと思いますが,そこも含めて考えてみたいと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  それでは,4,「収支相償」に進みたいと思います。御意見をお願いいたします。
○小野委員 収支相償という表現については,弁護士会には過剰反応なところがございまして,なぜかといいますと,信託業法で,信託業法の適用対象になる要件として,反復継続性と収支相償性というのが今まで議論されてきて,弁護士など個人が受託者になる場合,少しでも報酬を得れば,それは収支相償性に該当するということで,2回目になると反復継続性に該当しアウトですよという議論であったかと思います。今回は,この収支相償という言葉の甲案の中の定義といいますか捉え方が,そういう趣旨では捉えていないのですけれども,割と頻繁に使われる表現,法律上の概念であるということもありまして,この収支相償という言葉が,二つの意味で信託業法とは違う意味で使われているのだという趣旨を,当たり前ですけれども,確認したいことと,恐らく公益法人認定法でこういう表現を使われたから使っているのかと思うのですけれども,信託業法との整理もしていただければと思います。
○中辻幹事 御指摘を踏まえて検討させていただきます。
○深山委員 議論の前提として,この資料で挙げている収支相償の意味合いを確認したいのですけれども,ゴシックのところの表現は,公益目的の信託事務に係る収入がうんぬんということで,その信託事務による,言わば信託財産の運用収益的なものを表現しているようにも読めるのですけれども,補足説明を見ますと,18ページ辺りなどでも,収支相償を満たすために収入が増えるのを回避するようになって,その例として信託財産への寄附を拒むみたいなことが挙がっているところを見ると,いわゆる運用益的な収入ではなくて,寄附のような信託財産そのものを受け入れるようなものもここの収入に入っているようにも補足説明の方から読めるわけです。そうすると,同じく収入という言葉でも,運用益的な収入と,正に信託財産の受入れのようなものとは大分意味合いが違うと思います。立派な公益信託を作って賛同する人がどんどん現れて,私もそこに寄附という形で信託財産として拠出したいとなったという話は,これは大いに結構なことで,それを収支相償があるので受けられないなどというのはおかしな話だというのは誰も異論がないと思うのです。しかし,そういうことではなくて,ここで収支相償というのはもうちょっと違う意味なのかなという気もします。
  支出の方も同じなのですけれども,運用上の事務コスト的な費用,経費だけを指しているのか,助成型でいうところの助成金のような支出もこの支出に入るのかによって大分意味合いが違ってくるので,収支相償というものが,この場面で,収入の方も支出の方も,どの範囲を意味して問題にしているのか自体が非常に分かりにくいし,そこが分からないまま,あるいは共通認識のないまま議論すると,議論自体がかみ合わなくなるおそれがあるので,まず冒頭,その辺を整理していただければなと思います。
○中辻幹事 公益法人の認定実務については,明渡関係官の方がお詳しいでしょうが,私どもなりの公益法人制度の理解を前提として,それを公益信託に置き換えた場合の収支相償の認定基準における収入の意味内容について言えば,深山委員がおっしゃったように,公益信託の信託財産の運用益に限られるものではなく,寄附金や追加信託なども含めて収入としてとらえることになるものと考えています。
  また,支出の方についても,受託者が公益目的の信託事務を遂行するのに必要なコストだけではなく,公益目的の信託事務本体である助成金や奨学金の支給に充てられる費用も,収支相償の認定基準における支出に入るという考え方のもとに今回の部会資料は作成しております。
○能見委員 これは,今御説明がありましたように,公益法人のところで行っている収支相償の考え方を信託に当てはめていますので,今おっしゃったようになるのだろうと思います。ただ,いろいろな論点たくさん絡んでいますけど,まず寄附金をどう扱うべきかということに限定して話をしますと,信託だけ別扱いできるのかどうか分かりませんが,公益信託の場合の寄附金については,追加信託みたいな考え方も恐らくできるのだろうと思うのです。いわゆる収入としての寄附ではなくて,追加信託という形で信託財産が増える。したがって,信託においては収支相償のところでは寄附は別扱いにするというような扱い方もできるのではないかと思っています。
  それから,収支相償全体について言いますと,このルールが何を目的としているのかについても微妙に異なるいろいろな考え方があるのかもしれませんが,大ざっぱな言い方をすれば,公益法人なり公益信託なり,その財産がただ増えていくというのは適当ではないから,収入があったら公益目的のためにそれを使っていきなさいという考え方なのだろうと思います。それ自体はそれほどおかしくない考え方なので,何かの形でルール化するとすれば,丙案がいいのかなと思っています。けれども,これに対しては,収支相償原則のもとで単年度扱いではなくて数年度にわたって使うということもできると考えれば,甲案の収支相償の原則でいいではないかという考え方もあり得るとは思いますけれども,単年度ではなくて何年かにわたって使うことを許容するというルールは一方であっていいと思いますけど,やはりこれだけでは根本的な解決にはならない。根本的な解決というのは,やはり公益信託において継続的な事業,継続的な信託を行っていく上で,収支相償原則のもとで収入は寄附も含めて全部基本的に使いなさいというようなことでは,恐らく継続的な事業はできないのだろうと思うのです。単年度扱いではなくて何年かわたって計画を立てればいいというルールを設けたとしても,恐らく非常に苦しい。公益法人で何とかうまくいっているのは,収益事業がもう一方にあるからだと思います。収益事業の収入の半分は公益目的事業に当てる必要があるので,入ってきた分については収支相償原則のルールがかぶっていますが,残りの半分については,これは課税されるということなのですか,ちょっとよく理解していない部分もありますが,収益事業でもって公益事業に使わなかった部分はそのまま普通の収入として法人税がかかるのでしょうね。ただ,その分は,一応収益事業の収入として残りますので,公益法人の場合には,そういう意味では収益事業をうまく使っていくことで継続的に公益事業を行っていく収入を確保することができる。しかし,収益事業をやらない公益信託になりますとその道がないので,ここで収支相償という原則を強く守らなくてはいけないということになると,継続的な公益信託の事務の遂行というのは非常に難しい。どんどん資産が減っていくような公益信託にしかならない。今までの助成型のやり方というのはそれで構わないわけですが,これからは継続的な公益信託の事務として美術館だとか博物館とかそういうものも含めて事業型の公益信託をやっていくということも認めていこうというのであれば,やはりこの原則は適当でないと思います。そういう意味で収支相償原則は外した方がよい。ただ,このルールを外して,むやみに財産が増えるのを防ぐためにどうしたらいいかという問題がありますので,この部分は別の方策を検討した方がいいと思いますが,基本的には,この資料の中であれば丙案がよろしいのかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○明渡関係官 公益法人の例で申し上げますと,能見委員は収益事業というふうなことをおっしゃいましたけど,これに加えて公益法人の会計につきましては法人会計という,いわゆる管理費部分というようなものを立てているのが普通でございます。この収支相償と言われるものがかかってくるのは,公益事業会計の部分についてのみということで,それ以外の会計が立っているというのが実態でございます。
  それに加えまして,毎年の収支を単に数字だけで出すというようなものではなくて,特定費用準備資金であったり,資産取得資金というような法人の中に積み立てておくようなものはその年において差し引くというようなこともありますので,単純に支出,収入だけの計算だけではないという形で見ているというものでございます。
○深山委員 先ほど質問させていただいたことを前提に申し上げると,この収支相償の基準を設けるかどうかについては,基本的には設けない方がよろしいのではないかと思います。基本的な考え方は,能見委員が先ほどおっしゃったのと同じような考え方で,継続的に公益信託を維持する場面を考えると,単年度でないにしても,継続的な信託を維持するためには,かえってこれが障害になるという懸念をいたします。
  唯一能見委員も懸念されていた,全く何もなくていいのかという部分について言えば,確かに,せっかく公益のために拠出された財産が当該公益の目的のために支出されずにため込まれてしまってはもちろんよろしくないわけですが,それは,この収支相償という基準ではなくて,後々提案があるかどうかは判りませんけど,遊休財産を持ってはいけないというような,そういう切り口での規制を別のところで設けることによって図る,すなわち,ため込んではいけないというのは,それはそれで別のところで規律を設ける必要もあるのだろうと思います。どうしても支出する方も,収入もそうですけれども,定期的に入ってくるものばかりではないし,支出する方も定期的に支出できるものばかりではないと思いますので,単年度ではなく数年度にしたところで,全て吐き出すというような考え方を強く出すことは,継続的な信託にとっての阻害事由になるのではないかという考え方であります。
○新井委員 前回の部会で議論したところですが,今までの公益信託の在り方というのは助成型ということでした。部会の議論としては,これからは事業型ということに拡張していったらどうかとの見解があります。例えば美術館の運営とか,外国人留学生のための寮を運営しようという議論がありました。それで,従来型の給付助成型については,これは信託財産を受け入れて給付していくだけなので,収支相償という考え方は私は当てはまらない,外していいと思うのです。
  問題は,部会で議論したような事業型の公益信託ということになったときに,これ,収益事業も一部含むということもあり得るので,そうしたときにこの収支相償をどうするかという議論があると思うのです。ですから,事業型の公益信託を入れたときにどうするのか。同じ公益信託であっても,収支相償原則の適用のあるものとないものというのも,いかがなものかという気もします。しかし,類型によって分けるということもあるので,その辺り更に検討していただいたらどうでしょうか。私は,基本的には収支相償を外す,そして,ここにある案でいいますと,丙案に賛成したいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○吉谷委員 収支相償はやはり年度単位の収支というものを原則にしておりますので,やはり毎年一定の収入があるような事業というのを前提にしているのだろうと思います。新井委員がおっしゃられたように,少なくとも長期にわたって財産を取り崩していたり,助成型であったりというようなものについては,まず当てはまらないのだろうなと思いますし,原則としては,どちらかというと長期的な資金計画というのを今も作って認定していただいているわけでありまして,その資金計画の中で信託財産が信託目的に沿って利用されているということが分かれば,それでいいのではないかなと思います。事業型の方についていろいろな類型が出てくるかもしれないのですけれども,毎年一定の収入があるということは必ずしも言えないのではないのかなと思います。
  また,収支相償原則が採用された場合に,会計や資金計画上の事務手続として申請の段階であるとか信託成立後の事務にどのような負荷が加わるのかというのも明らかでありませんので,そういうことも単年度単位でなくても何らかの新たな事務負荷が加わるのであれば,それは提案されるときには教えていただきたいなと思います。
  事務負荷がかかるとどうしてもそれを回避しようとして,資料で記載されていますような数値基準を満たすために寄附の受入れを謝絶するであるとか,相当性に疑義のある費用に計上するとか,そういうことを誘発する懸念があるということは避けられないと思いますので,合理的な事務に限るべきだと思います。
  では,ペイアウトルールの方はどうかといいますと,これも取り崩し型の公益信託にはまず当てはまらないのだろうなと思いますし,様々な信託の類型に対応するような数値基準というものができるのかどうかということは現時点では疑問であります。ですので,乙案賛成です。
○中田部会長 ほかはいかがでしょうか。
○小幡委員 公益法人においても,収益をやっているようなところはよいのですが,この収支相償原則をなかなか満たしにくい業態があるので,なかなか厳しいところもありますし,今回,収益事業をやる形の公益信託を認めるのかどうか,そこはどうなったのか分かりませんけれども,大体は収益事業ではないと思われますので,不要ではないか。
  丙案は,要するに,余り財産が蓄積されないようにという,遊休財産規制のような感じですかね。もし,縛りがあった方が良いということであれば,丙案があっても良いのかなという程度で,収支相償自身は要らないのではないかと思います。
○中田部会長 一定の公益目的のための信託で,ただ漫然と財産をため込んでいくのは良くないというのは,これは共通の認識で,その上で,それをどうやって規律するか,収支相償原則プラス特定費用準備資金を活用するなどの方法で柔軟に対応するという公益法人と同じようにするのか,あるいは公益信託の特性を考えて,他の方法を考えるのかということだったと思います。他の方法として丙案,あるいは先ほど遊休財産についての御意見もございました。この遊休財産については次回にまた御審議いただくことになります。さらに,取り崩し型の場合には,この基準は及ばないのではないかと,こんな御指摘も頂いたかと存じます。これらを踏まえて更に検討するということで進めたいと思います。
  ほかに,この収支相償についてはよろしいでしょうか。
  それでは,次に進みます。5番,「公益目的の信託事務以外の信託事務による公益目的の信託事務の実施への支障がないこと」,これについて御意見を頂きたいと存じます。
  原案は,規律を設けないということでどうかということですが,むしろ規律を設けた方が良いという御意見があればお出しいただければと思いますけれども。
  特にないということは,設けないということでよろしいでしょうか。それでは,そのようなことで取りまとめたいと思います。
  それでは,最後6番です。公益目的の信託事務の比率について,公益目的事業比率に相当するような基準は設けないということですが,いかがでしょうか。
  これについても特に御意見がないということは,原案のようにこのような規律を設けないということでよろしいと承ってよろしいでしょうか。
○林幹事 原案に賛成ですが,一応,ここでいう信託事務に係る費用に,受益者に対し給付する金銭の支出などは含んでいないと読むのかどうか,確認させてください。この基準は,基本的には公益法人では公益事業とそうではない事業の話をしているのであって,ですから公益信託では不要だと考えていますが,議論の想定というか何と何を比較して50%以下ということを考えていらっしゃるのか,確認させてください。
○中辻幹事 公益法人認定法の仕組みを部会資料33の21ページの上の方に記載しておりますが,公益法人の支出としては,公益目的事業の実施に係る費用,収益事業等の実施に係る費用,公益法人の運営に必要な経常的経費の3つが存在します。これを仮に公益信託の方に置き換えた場合,公益信託の支出としては,公益目的の信託事務の実施に係る費用と公益目的の信託事務の運営に必要な経常的経費が入ってきます。ただし,公益信託の受託者が行う信託事務から収益事務を除いた場合には,公益信託の支出に収益事務の実施に係る費用は入ってきませんので,公益目的の信託事務の実施に係る費用の比率が50%以下となるような不適切な事態は起こらないであろうというのが私どもの考えでございまして,公益目的の信託事務の比率に関する認定基準は不要というご提案をしております。
○林幹事 そのような御説明でしたら,その上で賛成の立場です。
○中田部会長 ほかに,この第3の6について御意見はございますでしょうか。
  それでは,林幹事も含めて,この原案に賛成ということで取りまとめさせていただきます。
  冒頭,小野委員から御指摘がございましたが,信託事務に関する認定基準について,ほかにこういう点を考慮しておくべきではないかということがございましたら,お出しいただければと存じます。ただ,先ほど中辻幹事からお話のございましたように,認定基準というのは,これだけではなくて,また次回に続きますので,どこで取り扱うのが良いかという問題があろうかと思いますが,この段階でこういう点も考えたらどうかということがございましたら,御指摘いただければと存じます。
  特にございませんか。またございましたら,次に,ほかの認定基準のところでもまたお気付きの点がありましたらお出しいただければと存じます。
  ほかに本日の審議事項について補足的な御意見等はございますでしょうか。どうぞ。
○能見委員 まとめで結構なのですけれども,先ほど私は,3の1とか2に関して,余り抽象的な基準で認定の際の規律を設けるのは適当ではないということは申し上げたのですけれども,そして,1を残してもいいとは申し上げましたが,2も深山委員が言われたように同じような問題なので,1と2をまとめた上で,その程度で余り抽象的ではないような規制の認定基準ができるのであれば,御検討いただきたいと思います。これは第2ラウンドになるのでしょうか,それともこの後引き続き議論するのか,それはおまかせいたしますけれども,お願いしたい。
○中田部会長 恐らく第二読会になろうかと思いますが,今の御指摘も踏まえて更に検討することにいたします。
○山田委員 今の御発言にちょっと関連するのですが,今日は前半の方,認定基準とその後の監督あるいは取消しも含めた監督基準とは分けるという話がかなり大勢を占めたかと思います。ですが,それに対してやや慎重に考えたらどうかという発言をさせていただきたいと思います。
  公益法人認定法は全く同じ基準で,前の方に6条に認定基準がずっと並んでいて,そして後半の方に監督のところでそれを引用しながらしています。しかし,今日の議論のようなものは,恐らく公益法人のところにも当てはまるのだと思うのです。公益認定の申請をしたときには,これからどうしますということを事業計画とか,定款とか,収支予算案みたいなものを示して,実際に動き始めたら,現実何をやっているかというのを見て監督する場合によっては認定取消しというのに進むのではないかなと思います。そうだとすると,同じ基準で,同じ文言を使っても,実際に使うのは入口のところと走り始めてからとでは使い方というのでしょうかね,それが違うというか,それぞれの応じた形になっている可能性があろうと思います。ただ,それはやはりやや作為的な工夫をしてそうなっているのであって,そこは公益信託についてはきちんと違うのだから違うふうな書き方をした方がいいだろうという考え方はあろうと思うのですが,公益法人についての今の経験というのでしょうか,それを適切な形で教えていただいて,認定基準のところに書かれているものは,入口のところでどういうふうに,どういう書類でどういうふうに判断されているのかというのが,それぞれ認定庁は分かれていますけれども,国の認定の例などをお話しいただけると,あるいは今日の前半の認定と監督とは分けた方がいいだろうという議論に対して,いやいやそこまでしなくてもいいだろうという議論も出てくるのではないかなと思います。
○中田部会長 認定と監督を分けるということについては,最終的にそれが多数だったかどうかはよく分からないのですが,検討する上でまずは分けて考えた上で,しかし,両者はリンクするのだから,どのようにリンクさせていくかというのは,次の段階で問題になるだろう。山田委員はそれを踏まえた上で,やはり最終的な姿としても,結合した方がいいのではないかということでしょうか。
○山田委員 結合した方がいいと考えるという意見をより確実にするために,現在認定と監督のそれぞれのところでどういうふうにやっているのかということが分かると役に立つのではないかなと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○山本委員 今日お話の全般に関わることですので,最後に一言申し上げたいと思います。
  今日の議論で何か決まったというわけではないですけれども,全般について,公益法人認定法で定められているものと少し基準で考えてはどうかということが出ていました。これを仮に実際に法律にしていこうとしますと,公益法人認定法は現状ではこのままになっていますので,両者やはり性格が違うというような説明をどうしても付け加えていくことになりがちではないかと思います。そして,実際に両者の性格は違うので,区別をすべき場合があるのは確かかもしれませんが,今も少し出ていましたように,実は,公益法人認定法の側もこのままで本当に良いのか,ここで議論していることが同様に当てはまるのではないかという面もかなりあるように思われます。ですので,過度に両者の性格の違いを強調して,今回の法律に関する提案を基礎付けるのは,慎重に,よく考えた上でないと問題が残るかもしれないということのみ申し上げておきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○吉谷委員 先ほど認定の基準と監督の基準はリンクさせるということはあり得るのではないかということを申し上げたのですけれども,特に,今回,事業型の公益信託みたいなものも考えられているとは思うのですけれども,従来型の簡単な仕組みの信託というものを念頭に置くと,認定のときにこういう形で計画でやりますと言われたものについて,そのとおりにやっているということであれば,監督の段階でそれほど精査する事項もないと思いますので,そこは信託で行う事業によって監督のところについてはまた軽重があってしかるべきなのではないかなと考えます。
○小野委員 吉谷委員が監督の話をされたので,思ったことなのですけれども,信託銀行の場合には公益信託を今現在でも今後行う場合でも銀行法上,兼営法上,金融庁の監督下にあって,それ以外の場合とで区別して考えていくと,こういう理解で私自身いるので,そういうことでよろしいのかどうかということを確認したいと思います。信託銀行が公益信託を行う場合,認定のところは認定機関が行うのかもしれませんけど,監督の方は認定機関から離れて現在の立て付けどおり,金融庁が行っていくということなのかどうかという辺りです。
○中田部会長 監督,ガバナンスについてはまた改めて,どこがどういうふうにするかということは御審議いただく機会があろうかと存じます。今日の段階では認定基準ということで御理解いただいた,今日はそこまでということにさせていただければと思います。
  ほかにはよろしいでしょうか。
  それでは,本日は少し早いですけれども,審議はこの程度にさせていただきます。
  最後に,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明していただきます。
○中辻幹事 次回は,公益信託の具体的な認定基準のうち,信託財産に関する基準及び受託者の報酬に関する基準を御審議いただくほか,公益信託の認定主体や,公益信託と目的信託の関係について御審議いただくことも予定しております。
  次回の日程は,平成28年10月4日(火曜日)午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省20階第1会議室で開催します。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-
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