叔父さんが生まれてから、亡くなるまでの戸籍を辿ってみます。

(注)一般的な方法なので、分からない場合、役所(役場)に請求して該当がないと言われた場合は、役所(役場)の担当者か専門家に相談をお願いします。

  • 亡くなった後、死亡診断書を提出後、少し落ち着いたら叔父さんの本籍の役所(役場)で、除籍(戸籍)謄本を取得。本籍が分からない場合、住所がある役所で本籍記載の住民票を取得して、本籍を確認。住民票がある住所が分からない場合、親の戸籍謄本を辿ると、分かる場合もある。

参考

厚生労働省 令和3年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル

https://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/

参考 法務省 死亡届について

http://www.moj.go.jp/ONLINE/FAMILYREGISTER/5-4.html

・手続対象者 親族,同居者,家主,地主,家屋管理人,土地管理人等,後見人,保佐人,補助人,任意後見人,任意後見受任者

・提出時期 死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡したときは,その事実を知った日から3か月以内)

・提出方法     届書を作成し,死亡者の死亡地・本籍地又は届出人の所在地の市役所,区役所又は町村役場に届け出

・除籍について・・・除籍謄本は、戸籍に入っている方全員が除籍になっている場合に発効されます。もし叔父さんが亡くなっても、叔母さんが元気であれば、除籍謄本を請求しても、「除籍謄本はありません、戸籍謄本で良いですか?」と言われたりすることになります。

戸籍法第二十三条 

第十六条乃至第二十一条の規定によつて、「新戸籍を編製され、又は他の戸籍に入る者は、従前の戸籍から除籍」される。「死亡」し、失踪の宣告を受け、又は国籍を失つた者も、同様である。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000224

除籍謄本の確認箇所

・本籍地・・・〇〇県〇〇郡〇〇町〇〇番地

・生年月日・・・昭和29年〇月〇日

・亡くなった年月日・・・令和2年〇月〇日

・除籍謄本が作成された日

生年月日~亡くなった年月日までが記載されている戸籍を集めていきます。

 上が除籍(戸籍)謄本が新しい様式に作り変えられた日、平成13年3月3日です。

平成6年法務省令第51号附則第2条第1項、戸籍のコンピュータ化によって代えるという規則に拠ります。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000010094

附 則 (平成六年一〇月二一日法務省令第五一号)

(施行期日)

第一条 この省令は、平成六年十二月一日から施行する。ただし、第五十八条及び付録第十一号様式から付録第十四号様式までの各改正規定は、平成七年一月一日から施行する。

(戸籍の改製)

第二条 戸籍法第百十八条第一項の市町村長は、電子情報処理組織によって取り扱うべき事務に係る戸籍を戸籍法第百十九条第一項の戸籍に改製しなければならない。ただし、電子情報処理組織による取扱いに適合しないものは、この限りでない。

2 前項の規定による戸籍の改製は、戸籍に記載されている事項を磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。)をもって調製する戸籍に移記してするものとする。この場合においては、この省令による改正後の戸籍法施行規則第三十七条ただし書に掲げる事項を省略することができる。

3 第一項の規定により戸籍を改製する場合には、従前の戸籍にする戸籍の改製に関する事項の記載は、その初葉の欄外にすることができる。

4 市町村長は、第一項の規定により戸籍を改製したときは、当該改製に係る全ての戸籍の副本(電磁的記録に限る。次項において同じ。)を電気通信回線を通じて管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局の使用に係る電子計算機に送信しなければならない。

5 戸籍法施行規則の一部を改正する省令(平成二十五年法務省令第一号)による改正後の戸籍法施行規則第七十五条の二第一項前段の規定は、管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局が前項の規定によってその使用に係る電子計算機に戸籍の副本の送信を受けた場合に準用する。

6 第一項の規定により戸籍を改製して従前の戸籍の全部を消除したときは、その除かれた戸籍及びその副本の保存期間は、改製の日から百五十年とする。

第三条 この省令による改正後の戸籍法施行規則第八十三条の規定は、前条の戸籍の改製に関する事務について準用する。

次に、平成13年3月3日より前の戸籍を集めていきます。除籍(戸籍)謄本で確認した本籍が変わっていなければ、同じ役所(役場)で取得することが出来ます。

 今回は、本籍が変わっていなかったので、同じ役所(役場)で取得することが出来ました。

平成十六年法務省令第五十一号附則第二条第一項による改製につき平成壱参年参月参日消除、という記載は、除籍謄本と繋がっているよ、ということを表しています。

 昭和六拾弐年八月参日編製、と記載があり、この戸籍が、昭和62年8月3日から、平成13年3月3日までの期間の出来事が記載されている戸籍である、ということが出来ます。

改製原戸籍・・・作り変えられる前の元の戸籍。

平成13年3月3日以降に本籍が変わっている場合は、次のような記載があります。

 このような場合は、従前の記録の本籍地の役所(役場)で除籍(戸籍)謄本を取得することになります。

 戻ります。叔父さんの本籍は未だ変わっていないようなので、引き続き同じ役所(役場)で、昭和62年8月3日以前の除籍(戸籍)謄本を集めていきます。

 左側に昭和、除籍の文字がみえます。 除籍した後の本籍地の除籍(戸籍)謄本を取得してみます。

 昭和23年10月18日に作られた(編製)ことが分かります。叔父さんはこの戸籍が作られてから、作り変えられる(改製)前に生まれています。よって、叔父さんの生年月日から、亡くなった年月日までが記載されている戸籍が集まった、ということが出来ます。

「民事信託における利益相反と受託者の対応」について

会報信託[1]の記事からです。

遺言信託

委託者A 受託者 Aの子 受益者 Aの後妻B(Aの死亡時点で70歳)、Aの子

残余財産給付者 Aの子

信託目的

・Bが、亡くなるまで、今住んでいるA名義の土地建物に、希望する限り住むこと。

・信託財産の価値の維持。

信託財産

・自宅の土地建物

・アパートとして管理している土地建物(管理費用毎年500万円)。

・お金1億円

 想定事例として遺言信託を選んだのは、信託契約で第1次受益者が亡くなった時点から検討を始めることが出来るからなのかなと思いました。

受託者の権限

・自宅の土地建物を売却することが出来ない。

・アパートは受託者の裁量で売却することが出来る。

後妻Bの受益権

・アパートの賃料を、毎月全額受け取ることが出来る。アパートが売却された場合は、毎年500万円の給付を受け取ることが出来る。

・希望する限り自宅に住み続けることが出来る。

・・・・・・・・

受益者として指定されているAの子の受益権については、記載を見つけることが出来ませんでした。

・受託者Aの子が、アパートの土地建物を売却することは、受託者の善管注意義務、公平義務に反するか?

 原則として反しないと考えます。反するとすれば、取引相場より低額で売却した場合など、不合理な理由がある場合に限られると思います。

 生涯受益者・・・残余財産の受益者、残余財産の帰属権利者に対する用語だと思いますが、初めてみました。

 受託者がアパートを売却した場合について、権限外行為とされた場合の攻撃防御方法が展開されていますが、原則として権限内なので、どのような場合に権限外行為と認定されるのか、よく分かりませんでした。

・Bの受益権である、毎年500万円の給付を受ける、というのは、最低保障としての500万円なのか、生活出来る程度の金額としての500万円なのか?・・・文章を読む限り、生活出来る程度の金額としてだと考えます。

・アメリカの事案

受託者が、買主や仲介業者の利益を重視して、信託財産の売却を行った場合、忠実義務違反に認定され、損害分と売却しなければ値段が上がっていた分も、損害として賠償を命じられたケース。

 共同受託者で、遺言信託発効時に裁判所に解釈を求める訴えがされたケース・・・財産の売却をしてから揉める、など時間と費用がかかる訴訟を回避することが出来た。示唆として、受託者が利益相反の影響を受け得る場合、法律面や資金面で助言者を立てておく、裁判所の指示を早めに受けるなど。

後見・遺産管理への広がり

・意思能力、判断能力が衰える前については、何らかの繋がりを持っている方が大半で、そのときには、多少なりともお互いに扶けあって生きていた方の方が多いと思います。これが後見制度、信託制度に載ると構造的利益相反、潜在的な利益相反、問答無用ルールにさらされることになる。ただし、法律を前面に出すよりは、今までの生活を極力尊重する方が結果として上手く行く、という箇所は同意です。


[1] 286巻2021年季刊第Ⅱ号P19~信託協会

「行政サービスにおけるデジタル格差に関する調査研究 報告書について」

close up photo of painting
close up photo of painting

https://www.iais.or.jp/reports/labreport/20210615/divide2020/

DIGITALDIVIDE

令和 3 年 3月31日一般社団法人 行政情報システム研究所

加工

CONTENTS

はじめに —本調査研究の背景と目的—

  1. 調査研究の全体像と調査方法
    1. 調査研究の流れ
  1. 課題類型の導出

1 – 3 – 1 課題類型の導出プロセス

1 – 3 – 2 課題類型の仮説設定

1 – 3 – 3 イギリスの事例からの課題抽出

1 – 3 – 4 デンマークの事例からの課題抽出

1 – 3 – 5 日本の事例からの課題抽出

1 – 3 – 6 課題類型の検証結果

1 調査研究のすすめ方

 2-1 自治体基礎調査から導出した課題認識

2 – 1 – 1 分析方法

2 – 1 – 2 分析結果

● 2-2 自治体首長の課題認識

2 – 2 – 1 調査対象・方法

2 – 2 – 2 調査結果

● 2-3 自治体職員の課題認識

2 – 3 – 1 調査対象・方法

2 – 3 – 2 インタビュー結果

● 2-4 まとめー自治体の課題認識

2 自治体の課題認識

CONTENTS

3 デジタル格差の課題の実態

 3-1 住民の課題認識

3 – 1 – 1 調査対象・方法

3 – 1 – 2 インタビュー結果

 3-2 専門家の課題認識

3 – 2 – 1 調査対象・方法

3 – 2 – 2 インタビュー結果

3-3 デンマーク政府の課題認識

3 – 3 – 1 調査対象・方法

3 – 3 – 2 インタビュー結果

3-4 自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態とのギャップ

 3-5 本章のまとめ

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-1 自治体で実施済の施策(a)

4-2 自治体で未実施の施策(b)

4 – 2 – 1 未実施施策に係る課題の整理

4 – 2 – 2 未実施施策に係る課題のケース導出

4 – 2 – 3 未実施施策に係る課題の解決策の導出

4-3 自治体が未認識の課題に係る施策(c)

4 – 3 – 1 未認識課題に係るケースの導出

4 – 3 – 2 未認識課題に係る解決策の導出

4-4 まとめ ― 自治体が講ずるべき施策

5 おわりに

調査協力先

はじめに

   はじめに ―本調査研究の背景と目的―

ー略ーそこで本調査研究では、我が国がこれからデジタル化を進めるうえで直面していくデジタル格差の課題を把握・整理し、それぞれの課題に対して講じるべき対策の方向性を導出することを目的とする。なお、本調査研究は、ソシオメディア株式会社の協力を得つつ当研究所において実施した。

ー略ー

一般社団法人 行政情報システム研究所

主席研究員 狩野英司

主任研究員 平野隆朗

主任研究員 増田睦子

研究員 種田桂介

[協力]

ソシオメディア株式会社代表取締役 篠原稔和

田附克巳

白澤洋一

株式会社デジタル・アド・サービス代表取締役 村田尚武

COLOGUE 川田朋史

COLOGUE 明間隆

調査研究のすすめ方

1-2|調査研究の流れ

デジタル格差は目に見えない、捉えにくい課題である。本調査研究では、可能な限り具体的な事実に基づいて分析を行い、証拠に基づく推論を積み重ねることによって、自治体にとってのデジタル格差の課題を整理し、有効な対応策を導出していく。

1-3-1 課題類型の導出プロセス

本節では、デジタル格差の課題を性質に応じて分類するための課題類型を導出する。

まず、自治体基礎調査を通じて、自治体にどのような格差課題が存在するのかを洗い出して整理し、課題類型を仮説として導出する。次に、行政デジタル化の先進国であるイギリスおよびデンマークと日本において、政府のデジタル格差に関する課題認識が示唆されている文献(以下「各国文献」)から格差課題を抽出し、上記の課題類型へのマッピングを行い、課題類型の過不足を検証する。これにより、デジタル格差として共通の課題類型を導出する。

[調査対象文献]イギリスの事例

Government Digital Inclusion Strategy(英国政府のデジタルインクルージョン戦略)、英国内閣府、2014

https://www.gov.uk/government/publications/government-digital-inclusion-strategy/government-digitalinclusion-strategy

デンマークの事例

デンマーク政府におけるデジタルデバイドへの取り組み、行政情報システム研究所、行政&情報システム 2020年6月号

日本の事例

デジタル・ガバメント実行計画 2020年12月25日改定(閣議決定)(10.デジタルデバイド対策)

https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/2020_dg_all.pdf

デジタル活用支援推進事業、2021年2月17日 総務省 情報流通行政局

https://www.soumu.go.jp/main_content/000734080.pdf

1-3-2 課題類型の仮説設定

自治体の格差課題に関する課題認識を把握し、課題類型の仮説を導出するため、以下の手順により「自治体基礎調査」を実施した。

[調査対象]

ヒアリング対象自治体は、格差課題への認識が高い自治体から低い自治体まで偏りなく含まれるよう、図表1-9の考え方に基づいて選定を行った。また、選定結果を図表1-10に示す。

自治体名 人口規模

(ア)デジタル格差に対する課題認識が高い自治体

(イ)デジタル格差による課題が顕在化している自治体

(ウ)デジタル格差による課題が顕在化していない自治体

(エ)島しょ自治体

D市 中核市(50万人台) ◯

H市 都市(10万人台) ◯

C村 町村(約3千人) - 〇(高齢者が多い)

E市 都市(約1万人) - 〇(所得額が低い)

F村 町村(約2千人) - 〇(所得額が低い)

A市 都市(10万人台) - ◯

B市 都市(10万人台) - ◯

G村 町村(1千人未満) ◯

[ 図表1-10 ヒアリング対象自治体 ]

※1 日本の高齢者(65歳以上)人口の割合は、2020年9月15日現在で28.7%

https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics126.pdf

・各自治体が制定している情報化推進計画等を確認し、デジタルデバイドに係る課題や施策について記載している自治体を「デジタル格差に対する課題意識が高い」とみなした。該当自治体のうち、ヒアリングに協力のあった2自治体を調査対象とした。→D市、H市

(イ)デジタル格差に対する課題認識が高いと認められない自治体については、デジタル格差による問題が顕在化している/していない自治体の両方を含めるようにした。デジタル格差による課題が顕在化している自治体は、以下の方法で分類した。・平均所得額が低い、もしくは高齢者率が高い地域はスマートフォンやPCの利用率も低い傾向にあることに着目し、上記いずれかの傾向が強い自治体を「デジタル格差による問題が顕在化している」とみなした。該当自治体のうち、ヒアリングに協力のあった3自治体を調査対象とした。→C村、E市、F村

(a)確認された格差課題への認識(抜粋) (b)導出された課題類型

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

 絶対的困難(深刻な身体障害)

中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感(B市)

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

 デジタル利用環境の不足(経済的、地理的制約)

高齢者がデジタルを使えない(B市)

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

 身体/認知的ハンディキャップ(視覚障害、高齢、日本語が苦手)

使い方の格差、リテラシーの差(A市)

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

 デジタルへの抵抗感(例:スマホ・PC・インターネット利用のリテラシー不足)

能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人を分けて考えること(B市)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

 行政プロセスへの抵抗感・無関心(例:マイナポータルを理解できない、 知らない、興味がない)

[調査方法]

・対象自治体に関する基礎情報をデスクトップ調査で入手

・対象自治体の職員に対して、オンライン会議によるヒアリングを実施

・補足情報の入手や事実確認等のフォローアップ調査をメールなどで実施

[導出された課題類型の仮説]

1-3-3 イギリスの事例からの課題抽出

「各国文献」のうち、イギリス政府のデジタル格差に対する課題認識を示唆した文献「Government Digital Inclusion Strategy」から格差課題の抽出を試みた。

本書は、2014年に策定された英国政府によるデジタルインクルージョン(社会的包摂)実践のための指針である。同指針ではユーザー調査とコンサルテーションを通じて、人々がオンラインにアクセスする際に直面する以下の4つの主な課題を特定することとされている。

・アクセス不全:様々な理由により自宅からインターネットに接続できないこと

・ スキル不足:インターネットを利用するためのスキルがないこと

・モチベーション不足:インターネットを利用することがなぜ良いことかを知らないこと

・ 不安:犯罪への不安や、どこから始めればいいのかわからないこと

同書で抽出された課題認識を、上記の分類に当てはめると[図表1-12]のとおり。

[ 図表1-12 英国政府の認識:オンラインにアクセスする際に直面する課題 ]

英国政府による課題認識

アクセス不全 スキル不足 モチベーション不足 不安

課題の詳細内容

アクセシビリティ不全:誰もが利用可能である状態でない

リテラシーに関するスキル不足:識字能力など読解に関わる能力不足

リスクへの恐れ:デジタル利用を恐れ、失敗することを心配する

認証の不安:個人情報の盗難を心配する

アクセス場所がない:インターネットにアクセスするために移動しなければならない

基本的なデジタルに関するスキル不足:ブラウジング、検索エンジンの使用、電子メールの使用など基本的なデジタル使用能力不足

必要性への疑問:デジタルでの手続きを「押し付けられた」と感じる

セキュリティ知識不足:自分の情報がオンライン上で安全かどうかを心配する

コスト負担できない:機器が高価格であり設置費用、接続費用、継続的なネットワーク費用などが必要

セキュリティに関するスキル不足:安全なオンライン利用の方法を知らない

金銭的なメリットへの理解不足:インターネットを利用することで、お金を節約することができると理解されていない

拠り所不足:どこで助けを得られるのかわからない

技術習得不足:インターネット技術は急速に変化しており、最新技術に対応することが必要

自信がない:複雑すぎると思われるテクノロジーの利用に自信を持てない

社会的利益への理解不足:インターネットが自分の特定の状況でどのように役立つかが理解されていない

信頼不足:どの情報源やウェブサイトが信頼できるかわからない

インフラ不足:インターネットに接続できない家庭や、速度が遅い家庭がいまだに存在する

健康や幸福のベネフィットへの理解不足:健康に関する情報を得たり、医療サービスを受けられることが理解されていない

説明言語が難解:インターネットにまつわる言葉が誰でもわかりやすいものになっていない

調査研究のすすめ方

1-3-4 デンマークの事例からの課題抽出

「各国文献」のうち、デンマークのデジタル格差に対する課題認識を示唆した文献「デンマーク政府におけるデジタルデバイドへの取り組み」から格差課題の抽出を試みた。

デンマーク政府デジタル化庁によれば、デジタル化が浸透していない人々のセグメントとしては[図表1-13]左列が挙げられる。これらのセグメントの特徴やその出自背景に基づき同図右列のとおり格差課題を導出した。

[ 図表1-13 デジタル化が浸透していないセグメントから導出された格差課題 ]

デジタル化が浸透していないセグメント 導出された格差課題

デジタルにあまり精通していない高齢者 高齢者などによるデジタル技術への不慣れや操作知識の不足

行政から来る情報の重要性を理解していない若年層 若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足

西欧諸国以外から来る移民 移民などによる公用語を理解できない言葉の問題

さまざまな社会的に不利な条件を持っている人 肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在

調査研究のすすめ方

1-3-5 日本の事例からの課題抽出

「各国文献」のうち、日本のデジタル格差に関する課題認識を示唆した文献「デジタル・ガバメント

実行計画」および「デジタル活用支援推進事業」で示された施策から[図表1-14]のとおり格差課題の抽出を試みた。

コスト負担できない:機器が高価格、設置費用、接続費用、継続的なネットワーク費用などが必要

インフラ不足:インターネットに接続できない家庭や、速度が遅い家庭がいまだに存在する

各課題の詳細

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

イギリス

セキュリティ知識不足:自分の情報がオンライン上で安全かどうかを心配する◯

拠り所不足:どこで助けを得られるのかわからない ◯ ◯

信頼不足:どの情報源やウェブサイトが信頼できるかわからない◯

デン マーク

高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 ◯

若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足 ◯

移民などによる自国語を理解しない言葉の問題 ◯

肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在 ◯ ◯

日本

デジタル機器に不慣れだと操作が困難 ◯

電子申請の使い方が複雑 ◯

外国人の中には申請画面の日本語が読めない方がいる ◯

視覚障がいなどのハンディキャップの存在 ◯

電子申請でできること自体を知らない ◯

以上の検証の結果を踏まえ、[図表1-16]に示した5つの項目をデジタル格差の「課題類型」として整理した。

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

2 自治体の課題認識

本章では、自治体基礎調査ならびに自治体の首長および職員へのインタビュー結果をもとに、自治体が認識している格差課題を抽出・整理する。

[分析プロセス]

1. 1章の自治体基礎調査の結果から抽出された格差課題を課題類型ごとに分類・整理し、傾向や特徴を分析する。

2. 首長の課題認識を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の市長にインタビューを行い、格差課題を抽出し、課題類型によって分類・整理する。

3. 自治体職員の課題認識を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の職員にインタビューを行い、格差課題を抽出し、課題類型によって分類・整理する。

4. 以上を踏まえ、自治体全体としてのデジタル格差に関する課題認識の傾向や特徴を分析する。

(2)自治体による格差認識の差異の分析

自治体ごとの格差課題の認識を、①明示的に認識している、②黙示的に認識している、③認識していない、という3つに分類する。なお、分類は以下の方法で行う。

① 自治体の情報化推進計画やデータ活用推進計画等に「デジタル格差」の記載がある場合、明示的に認識しているものとする。

② 上記①の記載はないものの、自治体基礎調査の中で実施したヒアリングの内容に格差課題に関する回答がある場合、黙示的に認識しているものとする。

③ 上記①および②のいずれの記載もない場合に、認識していないものとする。

自治体の課題認識

2-1-2 分析結果

(1)自治体における課題類型の分析

分析の結果、各自治体について、図表2-2のとおり格差課題を示唆する内容とそれに対応する課題類型が導出された。

抽出された格差課題は、幅広い分野にわたり認識されているが、特に以下の点が特徴として挙げられる。

・「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に分類されたものが12件中8件と最も多かった。特に高齢者の苦手意識が大きな課題として認識されている。

・ ただし、リテラシーは、若年層も含め、利用できる/できない住民間での個人差が大きいのが実態。

・ ICTインフラの不備も依然として格差課題として認識されている。

・ 一部の住民に行政サービスが行き届かないことも課題として認識されている。その点、行政職員にも課題があると認識されている。

[ 図表2-2 自治体基礎調査で確認された課題認識 ]

自治体 人口 格差課題を示唆する内容 課題認識度合 課題類型

D市 中核市(50万人台)

  1. 高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である

 ①明示的に認識

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

住民のソフトウェア利用に対する不安、便利さに付随するリスクがある(セキュリティなど)

①明示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 都市(10万人台)

a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性(市がサービスを提供するだけでは足りない)

①明示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

A市 都市(10万人台)

使い方の格差、リテラシーの差が存在する

 ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)若年層は得意・不得意がはっきりしている ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある

 ②黙示的に認識 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない

 ②黙示的に認識 Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

B市 都市(10万人台)

a)高齢者がデジタルを使えない ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある

 ②黙示的に認識 Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

②黙示的に認識

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

d)デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタルサービスをスタートする機会を逸することは損失

②黙示的に認識

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

C村 町村(約3千人) a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある

②黙示的に認識

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

E市 都市(約1万人) ③認識なし

F村 町村(約2千人) ③認識なし

G村 町村(1千人未満) ③認識なし

自治体の課題認識

(2)自治体による格差認識の差異の分析

格差課題への認識は、自治体の規模によって図表2-3のように分類された。概ね、

・ 大規模自治体:明示的に格差課題を認識している

・ 中規模自治体:黙示的に格差課題を認識している

・ 小規模自治体:格差課題を認識していない

という傾向がみられた。一般的に、大規模自治体ほどデジタル化が進んでいることから、この結果は、デジタル化が進展するほど格差課題への認識が高まる一方、デジタル化が進展していなければ格差課題は認識されにくいことを示唆する。

[ 図表2-3 自治体規模ごとの格差課題への認識の状況 ]

ヒアリング対象自治体 課題認識度合

D市:中核市(50万人台)

H市:都市(10万人台)

①明示的に認識

A市:都市(10万人台)

B市:都市(10万人台)

C村:町村(約3千人)

②黙示的に認識

E市:都市(約1万人)

F村:町村(約2千人)

G村:町村(1千人未満)

③認識なし

自治体の課題認識

2-2|自治体首長の課題認識

2-2-1 調査対象・方法

自治体首長の立場からのデジタル格差への課題認識およびその解消に向けた考え方を把握するた

め、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の市長にインタビューを行う。

豊橋市 長岡市

a)デジタル化への意欲が高い自治体であること(デジタル格差は一定程度のデジタル化への認識がなければ顕在化しないため)

「市区町村の電子化推進度ランキング」(総務省、2020)にて10位にランクインしている「長岡版イノベーション」を全庁を挙げて推進している

b)産業構造として農業と工業が共存していること(デジタル格差の課題認識の多様性を確保するため、中山間地域なども含まれるようににした)

農業全国9位(産出額、2016年)・工業全国19位(出荷額、2016年)であり、山間部や沿岸部の防災に関する研究も行っている

農業全国78位(産出額、2016年)・工業全国105位(出荷額、2016年)、中山間地域住民への支援に取り組んでいる

c)自治体間の学際的交流関係が存在すること(学生とデジタル格差の関連を探るため) 豊橋技術科学大学を持ち、官学の交流がある 長岡技術科学大学を持ち、官学の交流がある

d)多国籍コミュニティが存在すること(外国人住民とデジタル格差の関係を探るため) 全体の5%にあたる18,000人の外国人が居住 「多文化共生」を目指した国際交流センター「地球広場」を設置している

[インタビュー実施時期]・2021年3月

[インタビュー方法]・オンラインもしくは対面によるインタビュー調査

[インタビュー項目]

(1)市におけるデジタル化の現状と、将来のデジタル化のビジョンについて

・貴市における行政のデジタル化で行なっている取り組みについて教えてください。

・将来(例えば5年後)に向けての貴市のデジタル化へのビジョンについて教えてください。

(2)現在、認識されているデジタル格差と、その対策について

・現在、住民のデジタル格差について問題と捉えていることを教えてください。

・上記の質問に関して、この対策について取り組んでいることを教えてください。

・将来(例えば5年後)に向けて、デジタル格差は、どのような状況になると予想されますか?

これに向けての対策について教えてください。

「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に分類された格差課題が5件中3件と最も多い。特に、地域にとってのソーシャルインクルージョンの重要性の観点から、高齢化や外国人の増加など社会の変化に伴い発生する社会的弱者への配慮が重視されているとみられる。

自治体 格差課題を示唆すると認識している内容 課題類型豊橋市 市長

a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である。

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない。

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない。

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

長岡市 市長

a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車を運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある。

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることができない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる。

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

豊橋市および長岡市の職員へのインタビューの結果、図表2-6のとおり格差課題を示唆する回答内容が得られた。

職員の格差課題に対する課題認識としては15件中「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する内容が6件、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に属する内容が10件を占めた。

既にデジタル化への取組みを進めている両市では、行政サービス提供や情報提供のデジタル化に関わる部分に課題認識の重点がシフトしていると考えられる。

内訳をみると、現場で住民と接する職員は、より先鋭に行政プロセスへの抵抗感や無関心を強く感じていることがうかがえる。特に、高齢者一般が感じている苦手意識を認識しつつも、個人間で格差があること、UIやUXもやはり重要であることなどが現場目線の課題として認識されている。また、職員の間での格差も課題として認識されている。

また、件数としては少ないが、長岡市職員のインタビュー回答「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」にあるように、デジタル化を進めていくにあたっては、「家族同様に相談できるスタッフによる支援体制を作っていくことの必要性」が指摘されている点は注目される。

豊橋市 職員

a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である III 身体的・認知的ハンディキャップ

b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者にどのように使うのかを考えさせてしまう状況である

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

長岡市 職員

そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少なくないと感じた

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

g)みまもりのプロジェクトにおいて、スマートフォンを使い慣れている人でもインストールの障壁はあった。30~40代のユーザーであっても障壁があった。全体説明だけでは十分でなく、個別説明によりフォローしたり、職員が代わりにインストールしたりするケースもあった。

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援スタッフの不足が懸念される

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

自治体の課題認識

2-4|まとめ―自治体の課題認識

2-2および2-3で導出した自治体首長および職員の課題認識とその課題類型の全体を整理したのが図表2-7である。同図表に基づき、(1)自治体全体としての課題認識の傾向と特徴を整理・分析する。また、首長と職員の間での課題認識の差異を分析する。

課題類型

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

豊橋市 市長 a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である ○豊橋市 市長

b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない○豊橋市 市長

c)若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない○長岡市 市長

a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車を運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある

b)デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることができない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる○

豊橋市 職員 a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である

b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

豊橋市 職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる

豊橋市 職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者にどのように使うのかを考えさせてしまう状況である

豊橋市 職員 e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる

豊橋市 職員f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない

長岡市 職員 a)そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある

長岡市 職員b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない○

長岡市 職員

c)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事○

長岡市 職員 d)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない ○

長岡市 職員

e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる○

長岡市 職員

f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少なくないと感じた○

長岡市 職員

にインストールしたりするケースもあった○

長岡市 職員 h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた ○

長岡市 職員 i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援スタッフの不足が懸念される

自治体の課題認識

(1)自治体全体としての課題認識の傾向

調査対象自治体では、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」の3類型が自治体の格差課題への課題認識の主要な位置を占めている。

インタビュー対象の自治体のハードウエア環境の整備については、かつて大きな課題と認識されていたインターネット自体が全く使えないといった根本的課題についてはある程度解決されつつあるが、現在実施しようとしている情報提供やオンライン手続きなどのデジタルサービス提供に必要な環境については、いまだ課題が残っていると考えられる。

さらに、自治体のなかでも首長と職員の間には、課題をどのように解決していくかのアプローチについての視点差がみられた。すなわち首長は「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」を、職員は「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に主要な視点を置いていると考えられる。

地域全体のソーシャルインクルージョンの視点で社会的弱者の格差課題を捉える首長と、業務の現場で行政のデジタル化推進にあたっての格差課題のハードルに直面している職員との間での視点の差異が反映されていると考えられる。

3 デジタル格差の課題の実態

第2章では、自治体におけるデジタル格差に対する課題認識を分析した。本章では、住民が実際に感じているデジタル格差の実態を把握するため、住民、デジタル格差に関連する分野の専門家および海外政府でデジタル格差の課題に取り組む機関(以下「住民・専門家等」という)が認識している格差課題を把握する。

具体的にはこれらの人々へのインタビューを通じて格差課題を抽出・整理し、課題類型によって分類することで、デジタル格差の実態を明らかにする。また、自治体が認識している格差課題と住民が実際に感じている格差課題の間のギャップを分析することで、自治体にとって未認識となっている格差課題(以下「未認識課題」という)を明らかにする。

自治体の課題認識と課題の実態のギャップ

(未認識課題)

3-1|住民の課題認識

3-1-1 調査対象・方法

豊橋市および長岡市在住の以下の属性をもつ住民を対象に、格差課題に関するインタビュー調査

を行なった。なお、各項目の末尾の括弧内の数値は、インタビュー実施件数である。

・【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)(4件)

・【属性②】三世代世帯(日本人)(4件)

・【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)(5件)

・【属性④】外国人(4件)

・【属性⑤】大学生(留学生含む)(6件)

属性ごとのインタビューの狙いは次のとおりである。

・【属性①】標準的な家族構成の住民が行政のデジタルサービスを活用する上での課題認識を把

握する。

・【属性②】【属性③】高齢者が行政のデジタルサービスを活用する上での障壁を探る。

・【属性④】外国人が日本の行政のデジタルサービスを活用する上での障壁を探る。

・【属性⑤】大学生が今後、ソーシャルインクルージョンに向けてデジタル格差解消に資する社会活動に参加する可能性を探る。

また、以下の2点は、行政のデジタルサービスの利用状況およびデジタル格差の状況を把握するために、属性を問わずインタビューの狙いとした。

・ デジタル化の取組が始まっている自治体の住民が、デジタル格差に関して、どのような課題認識を有しているのか把握する。

・ 行政のデジタルサービス利用への意欲の度合いを探る。

[ インタビュー実施時期 ]・2021年3月~4月

[ インタビュー方法 ]・オンラインまたは対面インタビュー

[ 写真1 住民へのインタビューの様子(1)] [ 写真2 住民へのインタビューの様子(2)]

デジタル格差の課題の実態

3-1-2 インタビュー結果

住民へのインタビュー結果から、住民が認識している格差課題を抽出・整理し、属性①~⑤ごとに課題類型によって図表3-2のように分類した。また、各格差課題の分布を課題類型ごとに集計すると図表3-3のとおりとなった。

[ 図表3-2 住民の課題認識 ]

属性 格差課題と認識している内容 課題類型

【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

  1. デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

【属性②】三世代世帯(日本人)

  1. パソコンの字が小さいため、目が疲れる

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしてもデータが消失している)) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

e)自分が住む自治体への帰属意識が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

f)手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

【属性④】外国人世帯

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

居住者の可能性大)

a)英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自分が住む自治体の活動、行政などに興味が薄い

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

[ 図表3-3 住民が認識する格差課題の課題類型ごとの分布 ]

課題類型

Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ行政プロセスへの抵抗感・無関心

ここから次の傾向が明らかになった。

・ 属性①~属性⑤いずれにおいても、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題が含まれており、格差課題全22項目中13項目を占めている(太字箇所を参照)。

・【属性②】三世代世帯(日本人)および【属性④】外国人世帯では、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関わる格差課題を認識している。

・ 高齢者が属する【属性②】三世代世帯(日本人)および【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)でのみ、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」の格差課題を認識している。

デジタル格差の課題の実態

3-2 専門家の課題認識

3-2-1 調査対象・方法

前節で抽出された格差課題は、あくまで限定されたサンプルの範囲内で認識されたものであり、実際には、様々な限界事例や、住民自身も認識していないような格差課題も存在する可能性がある。そこで、格差課題に関わるアクセシビリティやソーシャルインクルージョンなどの分野で専門的な知見を持つ団体に、こうした格差課題についてのインタビューを行った。インタビューを実施した団体名、およびインタビューの狙いおよびインタビュー項目の概要を図表3-4に示す。

社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)Good Job!センター香芝/森下静香 氏

障がい者との共創型のインクルーシブデザインアプローチの実践を行なっている団体から、インクルージョンも含めた共創を進める上での課題を聴取するとともに、高齢者や障害者の方達の声も反映したデジタル格差の解決策のヒントを探る

・ 障がいのある方とIoTやITなどのデジタル機器との関わりについて

・ Good Job! Projectの取り組みとデジタル格差やインクルージョンとの関わりについて

ウェブアクセシビリティ推進協会

(NTTクラルティ株式会社:ウェブアクセシビリティ推進協会 正会員)/田中章仁 氏

ウェブアクセシビリティの課題解決に専門的に取り組んでいる団体によるデジタル格差への対応事例などを聞くことで、デジタル格差の課題を把握するとともに、アクセシビリティ改善のヒントを探る

・ 視覚障がいや聴覚障がいの方にとってのウェブアクセシビリティの重要性について

・ 行政のデジタルサービスに関して、アクセシビリティ改善のためのアプローチについて

名古屋市 経済局イノベーション推進部スタートアップ支援室/小野寺光弘 氏

日本語の読めない外国人を対象とした行政窓口業務の改善の試みの事例を伺うことで、デジタル格差の課題の把握とともに、デジタル化に伴う来庁時の住民(外国人)・職員双方の窓口手続き時の負担軽減のヒントを探る

・ 実証実験における窓口での利用者の反応について

・ 実証実験を通じて、どのような課題解決のための改善の取り組みがあったのかについて

長岡市 地域振興戦略部中山間地域集落支援班

中山間地域に居住する高齢者を対象としたデジタル機器を用いた見守り事業の事例を伺うことで、デジタル格差の課題の把握とともに、デジタル格差を解消するための寄り添い方のヒントを探る

・ 中山間地域に居住する高齢者を対象としたデジタル機器を用いた見守り事業の事例について

デジタル格差の課題の実態

3-2-2インタビュー結果

インタビュー結果から、専門家が認識している格差課題を抽出・整理し、課題類型ごとに[ 図表3-5 ]のとおり分類を行なった。

この結果、住民へのインタビューでは抽出できなかった様々な格差課題が抽出された。これらは大部分が「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」および「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」の課題類型に分類されるものであった。なお、これらの専門家が認識している格差課題は、一般論としてのものであり、特定の自治体に向けてのものではない。

[ 図表3-5 専門家の課題認識 ]

団体 格差課題と認識している内容 課題類型

社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)

  1. 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ウェブアクセシビリティ推進協会

a)視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない

c)視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない

d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している

e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない

f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない

も沢山居る Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

h)行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない

イノベーション推進部

a)日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

長岡市 地域振興戦略部

  1. 自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

デジタル格差の課題の実態

3-3 デンマーク政府の課題認識

3-3-1 調査対象・方法

デジタル格差は、デジタル化が進展してはじめて顕在化してくる課題である。しかしながら現状、日本の多くの自治体では、行政サービスのデジタル化は十分に進んでおらず、その結果、格差課題の存在自体認知していない自治体も多い。そこで、今後、デジタル化が進展した場合に発生し得る格差課題を把握するため、行政のデジタル化が日本と比較し先行しているデンマークにおいて、デジタル格差の課題に取り組むデジタル化庁の職員にインタビューを行なった。

インタビューは、2021年4月に、オンライン会議システム(Zoom)にてインタビューを行なった。また、2020年に別の目的で実施されたインタビュー結果(「行政&情報システム 2020年6月号」、行政情報システム研究所、2020)も参照している。2020年と2021年のインタビューの観点はそれぞれ次の通り。

・2020年:デジタル格差解消のための取り組み全般について

・2021年:デジタル格差解消に取り組む関連団体との協力状況について

[ インタビュー対象者 ]

・デンマーク政府デジタル化庁 デジタルインクルージョン部門 リーダー スザンヌ・ドゥース 氏

[ インタビュー実施時期 ]・2021年4月

[ インタビュー方法 ]・オンラインインタビュー

デジタル格差の課題の実態

3-3-2 インタビュー結果

デンマーク政府デジタル化庁職員へのインタビューの結果、明らかとなった格差課題を図表3-6に示す。課題類型「Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「Ⅲ 身体的・認知的

ハンディキャップ」、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」および「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」にまたがる広範囲の課題への取り組みが行なわれている。

[ 図表3-6 デンマーク政府 デジタル化庁職員の課題認識 ]

格差課題 課題類型

a)若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足 V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)移民などによる公用語を理解しない言葉の問題 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

d)肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在 Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

e)市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

f)職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない

g)行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル格差の課題の実態

3-4|自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態とのギャップ

本節では、第2章で抽出・整理した自治体による課題認識と、本章で抽出・整理した住民にとっての課題の実態の間のギャップを分析する。

まず、前節までで行った住民・専門家等インタビューの結果、すなわち図表3-2 住民の課題認識、図表3-5 専門家の課題認識、および図表3-6 デンマーク政府 デジタル化庁職員の課題認識で示された格差課題を一つの表に再整理する。そのうえで、2章で整理した自治体の格差課題の認識([図表2-2 自治体基礎調査で確認された課題認識および図表2-7 自治体首長および職員の課題認識])と前述の住民にとっての課題の実態を図表3-7のように 突き合わせ、両者の差分から、住民にとっての課題の実態として存在しているにもかかわらず、自治体で認識されていない格差課題(未認識課題)を図表3-8のとおり抽出した。なお、インタビュー後に別途、自治体で認識している旨が確認された項目については認識していると判断した。

自治体 人口 格差課題を示唆させる内容 課題類型

D市 中核市(50万人台)

  1. 高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

(セキュリティなど)

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 都市(10万人台)

a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性

(市がサービスを提供するだけでは足りない)

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

A市 都市(10万人台)

  1. 使い方の格差、リテラシーの差が存在する

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)若年層は得意・不得意がはっきりしている Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

B市 都市(10万人台)

  1. 高齢者がデジタルを使えない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

c)環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足、Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ、Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

  • デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタルサービスをスタートする機会を逸することは損失

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足、Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

C村 町村(約3千人)

a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある Ⅴ行政プロセスへの抵抗感・無関心

E市 都市(約1万人)

F村 町村(約2千人)

G村 町村(1千人未満)

自治体首長および職員の課題認識 自治体 役割 格差課題として認識している内容

豊橋市

市長 a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である

○豊橋市

市長 b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない

○豊橋市

市長c)若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない

○長岡市

市長a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車も運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある

○長岡市

市長b)デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに、技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることできない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる

○豊橋市

職員 a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である

○豊橋市

職員 b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

○豊橋市

職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる ○

豊橋市

職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である

 ○ 豊橋市

職員 e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる

○ 豊橋市

職員 f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない。

○ 長岡市

職員 a)そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある

○長岡市

職員 b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない

○長岡市

職員c)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事

○長岡市

職員 d)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない

○長岡市

職員 e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる

○長岡市

職員f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分ではなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少ないないと感じた

○長岡市

職員g)みまもりのプロジェクトにおいて、スマートフォンを使い慣れている人でもインストールの障壁はあった。30~40代のユーザーであっても障壁があった。全体説明だけでは十分ではなく、個別説明によりフォローしたり、職員が代わりにインストールしたりするケースもあった

○長岡市

職員 h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた

○長岡市

職員 i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援の不足が懸念される ○住民・専門家等の課題認識のまとめ

[ 図表3-7 自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態の対応関係 ]

対象 格差課題と認識している内容 課題類型

住民:

【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

  1. デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

住民:【属性②】三世代世帯(日本人)

a)パソコンの字が小さいため、目が疲れる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしたい際にデータが消失している))

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 自分が住む自治体への帰属意識が薄い

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性④】外国人世帯

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自分が住む自治体の活動、行政等に興味が薄い

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

専門家:たんぽぽの家

  1. 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会

  1. 視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 障がい者だけでなく、行政のデジタルサービスで何が出来るのか知らない人も沢山居る

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

専門家:名古屋市イノベーション推進部

  1. 日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

専門家:長岡市地域振興戦略部

a)自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

  • 高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

デンマーク政府デジタル化庁

  1. 若年層による行政プロセスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

c)移民などによる自国語を理解しない言葉の問題 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

d)肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在

Ⅰ 貧困や深刻な障害によるデジタル

利用の前提条件欠如

  • 市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル格差の課題の実態

[ 図表3-8 自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態のギャップ ]

対象 格差課題と認識している内容 課題類型

本調査における自治体の認識状況

住民:【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

  1. デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

  • Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識

c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

住民:【属性②】三世代世帯(日本人)

a)パソコンの字が小さいため、目が疲れる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしたい際にデータが消失している))

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

  • デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

  • 自分が住む自治体への帰属意識が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識f)手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

住民:【属性④】外国人世帯

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない)

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

c)自分が住む自治体の活動、行政等に興味が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

専門家:社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)

  1. 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会

a)視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

c)視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

g)障がい者だけでなく、行政のデジタルサービスで何が出来るのか知らない人も沢山居る Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

h)行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

専門家:名古屋市イノベーション推進部

 a)日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

専門家:長岡市 地域振興戦略部

a)自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

b)高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

デンマーク政府デジタル化庁

a)若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

b)高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

c)移民などによる公用語を理解しない言葉の問題 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

d)肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在 Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如 認識

e)市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

f)職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

g)行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

デジタル格差の課題の実態

以上の結果より、自治体にとっての未認識課題が7件抽出された。

このうち3件は課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属するものだった。

また、障がい者への連絡手段や方法について配慮が不足しているといった、課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属する課題も4件確認された。例えば、ウェブアクセシビリティ推進協会から挙げられた「公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している」および「視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない」といったものである。

デジタル格差の課題の実態

3-5|本章のまとめ

本章では、住民にとっての格差課題の実態を明らかにするため、住民、専門家等にインタビューを行い、デジタル格差の課題の実態を抽出・整理した[ 前掲図表3-8 ]。

その結果、以下のような傾向や特徴が明らかとなった。

(1)住民・専門家等における課題認識

〈住民〉

・ 住民全体としては、「V 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題が多い。

・ 外国人世帯や留学生は、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関わる格差課題を認識している。

・ 高齢者には「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関わる格差課題を認識している人が多い。高齢者の中でもデジタル利用の必要性が低い方の場合には、この傾向が顕著だった。

〈デジタル格差に関連する分野の専門家〉

・ウェブアクセシビリティ専門家などは、住民への情報提供手段の問題など「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関する様々な格差課題を認識している。

・ ウェブアクセシビリティ、高齢者対策、福祉などの専門家は「V 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題を認識している。

・ 高齢者対策に携わる職員は、高齢者にとっての「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関する格差課題を認識している。また、デジタル利用への対応が困難な方のためのアプローチの必要性についても認識している。

〈海外政府でデジタル格差の課題に取り組む機関〉

・ 課題類型「Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」といった広範囲の格差課題を認識している。

・とくに、「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関する格差課題に関して、市民の立場の視点に立つための活動の必要性を強く認識している。

(2)自治体の未認識課題の抽出

前節で行った自治体の課題認識と住民にとっての格差課題の実態のギャップから、自治体の未認識課題を抽出したのが図表3-9である。この結果から未認識課題について次の傾向が確認された。

〈住民が認識している未認識課題〉

・ 未認識課題全4件の内、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題が3件であり、大宗を占めた。

・ 外国人世帯から課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属するウェブアクセシビリティに関する格差課題が挙げられた。

〈専門家が認識している未認識課題〉

・ 障がい者へのアクセシリビリティ配慮不足に関する格差課題が3件指摘された。

デジタル格差の課題の実態

[ 図表3-9 自治体の未認識課題 ]

対象 自治体の未認識課題 課題類型

住民:【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

b)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)

b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会

d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

デジタル格差に関する施策の充足状況

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

本章では、前章までで抽出・整理した格差課題に対し、自治体による格差解消のための施策がどの程度実施されているかを明らかにする。このため、前章までで抽出・整理した格差課題に対し求められる施策と、自治体で実際に実施されている施策とのギャップを分析する。その上で、既に調査対象自治体で実施されている施策も含め、今後他の自治体でも一般的に実施すべき施策を整理する。

こうした施策のなかには、

(a)調査対象の自治体で既に自治体で実施済みの施策(実施済施策)

(b)課題は認識されているものの未実施の施策(未実施施策)

(c)自治体で課題自体が認識されていない格差課題に対する施策(未認識施策)

が含まれる。

[分析プロセス]

1. 1章および2章のヒアリングを通じて確認された、調査対象の自治体によって実施済(予定含む)の格差課題を抽出・整理する。(「(a)実施済施策」)

2. 2章で抽出・整理した、自治体が認識している格差課題に対して実施すべき施策のうち、まだ実施されていない施策を抽出・整理する(「(b)未実施施策」)。

3. 3章で抽出・整理した、住民にとっての格差課題のうち、自治体がまだ認識していない格差課題(第3章の「未認識課題」)に対して実施すべき施策を抽出・整理する。(「(c)未認識施策」)4. 最後に、(a)~(c)をとりまとめ、今後他の自治体でも一般的に実施すべき施策を整理する。

[ 図表4-1 本章の対象範囲 ]

(第4章) (第2章) (第3章)自治体の課題認識と課題の実態のギャップ

(未認識課題)

本来講ずるべき施策((c)未認識課題)自治体の施策と課題認識のギャップ

((b)未実施施策)(a)自治体の実施済施策

自治体の課題認識

首長の課題認識

職員の課題認識

デジタル格差の実態

住民の課題認識

専門家の課題認識

デンマーク政府の課題認識

赤字:本章の調査研究範囲

デジタル格差に関する施策の充足状況

4

4-1|自治体で実施済の施策(a)

1章の自治体基礎調査および2章の自治体インタビューの結果から、同章で対象とした自治体が格差課題に対して実施済または実施予定の施策を抽出・整理した[図表4-2]。

自治体 格差課題と認識している事項 課題類型 デジタル格差の解消施策(計画や将来目標を含む)

豊橋市

a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である Ⅲ 身体的、認知的ハンディキャップ ・Facebookでの外国人住民向けの情報

配信

e)庁内でも職員感のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 ・行政職員のデジタル格差解消に向けたデジタルリテラシー向上

長岡市

b)デジタル機器等が、デザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーから出てきた場合、人間が常にそのテクノロジーに合わせることになる。そうすると、高齢者は合わせることができない、使いこなせない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 ・職員への「デザイン思考」教育の実施

h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、機械に対する苦手意識がある。抵抗感を覚える高齢者もいる

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・集落支援員による高齢者のデジタル機器への苦手意識解消の取り組み

i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。スタッフの不足が懸念される Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

・タブレットによる外国人生徒向けサポート(ワンタッチで通訳オペレータ)の実証実験実施

D市

a)高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

・子どもに対する教育分野を通じたデジタル・リテラシー/モラルの向上

・スマートフォン利用講座(LINE等のアプリ含む)の実施

・ユニバーサルデザインの重視

b)住民のソフトウェア利用に対する不安、便利さに付随するリスクがある(セキュリティなど) Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・個人情報がどのように保護されているかを丁寧に説明

A市 a)使い方の格差、リテラシーの差が存在する Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・LINEやインスタグラム等の講習

・スマートフォン操作講習

B市

b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足 ・主に山間部に対して、移動通信用鉄塔施設の整備

[ 図表4-2 自治体が施策を実施済の格差課題(予定を含む)]

デジタル格差に関する施策の充足状況

4

4-2|自治体で未実施の施策(b)

本節では、調査対象の自治体において、自治体で格差課題は認識しているものの、それに対して未実施の施策を導出する。具体的には、以下の手順で分析を行う。

[分析プロセス]

1. 格差課題は認識しているものの、それに対する解決策が未実施の課題を抽出・整理する。(4-2-1)

2. 上記により導出された課題に対して実施すべき施策を検討するため、具体的なケースを想定する。

(4-2-2)

3. 上記の各ケースに対して実施すべき施策を検討する。(4-2-3)

4-2-1 未実施施策に係る課題の整理

2章で整理した自治体の格差課題のうち、それに対する施策が未実施となっている課題を図表4-3に示す。なお、調査対象のいずれか1自治体でも未実施の場合、未実施として整理した。

自治体 格差課題と認識している事項 課題類型

豊橋市

a)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

長岡市

f)みまもりのプロヘクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマートフォンの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な思念が必要となることが少なくないと感じた

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性(市がサービスを提供するだけでは足りない) Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足A市b)若年層は得意・不得意がはっきりしている Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足B市

a)高齢者がデジタルを使えない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

d)デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタル

サービスをスタートする機会を逸することは損失

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

C村 a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

[ 図表4-3 自治体が施策を未実施の格差課題 ]

デジタル格差に関する施策の充足状況

4-2-2 未実施施策に係る課題のケース導出

前節で示した、調査対象の自治体が格差課題と認識しているが、それに対する施策は未実施の格差課題について、求められる施策を検討するため、対象となる格差課題を、具体的な施策実施の場面を想定して図表4-4のとおりケースとして整理した。

課題類型 格差課題 導出したケース

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足 ・A市 d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない

① 自治体職員が住民のデジタルへの障壁の実態を把握できていない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

・豊橋市職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる

・長岡市職員 f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマートフォンの設定→ 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な思念が必要となることが少なくないと感じた

・B市 a)高齢者がデジタルを使えない

② デジタル機器利用が難しく、サポートを必要とする住民がいる

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

・A市 c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある

・C村 a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある

・豊橋市職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である

③ 行政情報に触れる機会がない・届かない住民がいる

④ 行政のデジタルサービスが利用者の特性や状況を考慮できていない

[ 図表4-4 未実施施策に係る格差課題のケース ]

デジタル格差に関する施策の充足状況

4-2-3 未実施施策に係る課題の解決策の導出

前項で導出した未実施施策に係る課題のケースに対する解決策を、住民・専門家等インタビューの発言内容に基づき図表4-5のとおり導出した。また、解決のための具体的なアプローチの例を検討した。

[ 図表4-5 未実施課題に係る解決策とアプローチの具体例 ]

課題類型 ケース 解決策 アプローチの具体例

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル

利用環境不足

ケース①:住民のデジタルへの障壁の実態を把握できていない

解決策①:住民の状況を知るところから始める

・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)による住民への個別インタビューやグループでのインタビューを実施し、住民の声を聞く

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

ケース②:デジタル機器利用が難しく、サポートを必要とする住民がいる

解決策②:デジタル活用支援員の仕組みを活用する。その際、信頼感が低いと話を聞いてもらうことが難しいため住民と信頼関係を構築した上で、デジタル機 器の利点を伝え興味を持ってもらう

・職員が直接ではなく、住民が参加している各コミュニティ(例えば、外国人世帯の場合、出身国のコミュニティ)の代表者の方を介して関係を構築する

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ケース③:行政情報に触れられない・届かない住民がいる

解決策③:行政情報の配信方法 を見 直 す 。住民の 状 況 によって 、LINE、Facebook、電子メール、手紙等の利用状況が異なるため配信方法は考慮する

・日本に在住する外国人のコミュニティによっては、Facebookグループが活用されているため、Facebookグループ内でシェアを行われることを想定した情報配信を行う

・視覚障がい者への手続きのための通知や情報配信は紙面ではなく電子メールで行う(電子メールであればテキスト読み上げツール等を活用して読み上げることができ、返信も音声によるテキスト入力ツール等を活用して対応可能であるため)

ケース④:行政のデジタルサービスが利用者の特性や状況を考慮できていない

解決策④:住民の状況を知るところから始める。提供する行政のデジタルサービスの利 用者になるであろう属性の住人へのインタビューや、普段使っているデジタルサービスの利用している様子を見せてもらう

・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)を踏まえ、行政のデジタルサービスの利用者である住民がどのような状況で、提供サービスを利用するであろうか把握する

・上記の方法論や考え方として、人間中心デザイン、サービスデザイン、デザイン思考という名称で体系化されているため、必要に応じて参考にする

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-3 自治体が未認識の課題に係る施策

4-3-1 未認識課題に係るケースの導出

3章の図表3-9では、自治体が未認識の格差課題を整理した。これらの格差課題は、インタビュー対象2自治体以外においても認識されていない場合が多いと考えられる。自治体にあっては、まずこうした課題の存在自体を、第3章で実施したような住民や専門家へのインタビューを通じて認識することが求められる。そのうえで、次に、抽出・整理した課題に対して解決策を検討することが必要となる。

本項では、インタビュー対象2自治体を例にとり、未認識の課題に対して求められる施策を導出する。対象となる格差課題は、具体的な施策実施の場面を想定して図表4-6のとおりケースとして整理した。

[ 図表4-6 未認識課題に係る格差課題のケース ]

格差課題類型 格差課題 導出したケース

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

・専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会 d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している

・専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会 e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない

・専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会 f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない

⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮が足りない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

・住民:【属性2】 g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある

⑥:住民は行政サービスを知らず、手続きについての知識を持っていない

・住民:【属性3】 c)行政手続きで間違ってしまってはいけないと捉えているため、PCで行政サービスを利用しない

⑦:住民は自身の手続きの間違いを恐れ、デジタル行政サービスを利用しない

・住民:【属性1】 a)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

⑧:デジタル行政サービスを利用しても住民が不満に感じ、メリットも伝わっていない

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-3-2 未認識課題に係る解決策の導出

前項で導出した未認識課題のケースに対する解決策を、住民・専門家等インタビューの発言内容に基づき図表4-7のとおり導出した。また、そのためのアプローチの具体例を検討した。

[ 図表4-7 未認識課題に係る解決策とアプローチの具体例 ]

格差課題類型 ケース 解決策 アプローチの具体例

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

ケース⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮が足りない

解決策⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮する

・障がい者への自治体のお知らせ:

・自治体Webサイトにて、お知らせの文書は、PDFをできるだけ使用せずに、テキスト読み上げツールが対応可能なHTMLで記載する

・Webサイトにおける画像の扱い:

・自治体Webサイトで用いられる画像の内容が、視覚障がいのある方に理解できるようにする。

・障がい者のデジタル機器やサービスの利用状況をインタビューの実施等を通じ把握した上で、上記を含めたアプローチを検討する

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ケース⑥:住民は行政サービスを知らず、手続きについての知識を持っていない

解決策⑥:住民が行政サービスの手続きイメージが得やすい環境をつくる

・住民が行政のデジタルサービスを利用する際、行政サービスの手続きイメージを持てるように、動画や図などで手続きイメージを伝える

・その際、住民に、このような情報が自治体Webサイトに掲載されていることを予め知ってもらうため、SNS(LINE、Facebook、Twitter等)で、自治体Webサイトに役立つ情報があることを日頃から伝えていく

・デジタル行政サービスを使用している様子を撮影した動画を動画共有サイト(YouTube等)で公開し、使い方について動画で実感できるようにする

ケース⑦:住民は自身の手続きの間違いを恐れ、デジタル行政サービスを利用しない

解決策⑦:住民がデジタル手続きを行う際、何か失敗しても問題はない感覚を持てるようにする

・デジタル行政サービスでは、住民が一人で手続きするため、入力やデータの間違いなどがあっても問題が発生しないようにフェールセーフ(誤操作があっても安全に制御すること)の仕組み、またはそもそも間違えようがないようなナビゲーションを用意する

・それでも、なにか問題が発生した際には、電話やメール等で対応できる仕組みを用意する

・その存在を住民に日頃からSNS等で伝えていく

ケース⑧:デジタル行政サービスを利用しても住民が不満に感じ、メリットも伝わっていない

解決策⑧:住民がメリットが感じられるように、利用者の視点に立ってデジタル行政サービスを開発・改善した上で、住民にメリットを提示する

・   住民がデジタル行政サービスを使用する際、よりメリットを感じていただけるように、利用者の視点でデジタル行政サービスの開発・改善を継続的に行う

・ 職員自身がデジタル格差を解消した上で、提供するデジタル行政サービスに触れ、改善が必要な点とアピールすべきメリットを認識できるようにする

・ さらに、デジタル行政サービス利用のメリットを、より具体的に伝えていく(物品と交換可能なポイント取得や、自宅等で手続き可能等)

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-4 まとめ―自治体が講ずるべき施策

本章では、自治体のデジタル格差に対する施策の充足状況を明らかにするため、自治体が講じるべき施策を次の区分で明らかにしてきた。

(a)調査対象の自治体で既に自治体で実施済みの施策(実施済施策)

(b)課題は認識されているものの未実施の施策(未実施施策)

(c)自治体で課題自体が認識されていない格差課題に対する施策(未認識施策)

前節までの分析の結果を、抽出・整理された施策を住民に対して講じるべき施策/職員に対して講じるべき施策に区分して整理すると図表4-8ないし4-10のとおりとなる。

[ 図表4-8 (a)実施済施策 ]

住民向け 職員向け

・SNS(Facebook等)での外国人住民向けの情報配信

・タブレットによる外国人生徒向けサポート(ワンタッチで通訳オペレータ)の実証実験実施

・集落支援員による高齢者のデジタル機器への苦手意識解消の取り組み

・個人情報に対するセキュリティの確保(個人情報の取り扱いをより慎重にし、個人情報の保護に万全を期す)

・子どもに対する教育分野を通じたデジタル・リテラシー/モラルの向上

・スマートフォン利用講座(LINE等のアプリ含む)の実施

・ユニバーサルデザインの重視

・主に山間部に対して、移動通信用鉄塔施設の整備

・行政職員のデジタル格差の解消

・職員への「デザイン思考」教育の実施

(a)実施済施策

[ 図表4-9 (b)未実施施策 ]

住民向け 職員向け

・住民と信頼関係を構築した上で、デジタル機器の利点を提示

・デジタル利用支援員の仕組みの活用

・行政情報の配信方法の再確認

・住民のLINE、Facebook、電子メール等の利用状況を考慮した配信

・住民のデジタル利用状況の把握

・住民へのアンケート、インタビューの実施

・デジタル活用支援員によるデジタル機器・サービスの

利用状況把握

(b)未実施施策

[ 図表4-10 (c)未認識施策 ]

住民向け 職員向け

・障がい者への連絡手段や方法への配慮

・自治体Webサイトのお知らせ文書について、テキスト読み上げツールが対応可能な形式

(HTML等)での掲載

・自治体Webサイトで用いられる画像の代替えテキストの用意

・住民が行政サービスの手続きについて知識を持てるように配慮

・自治体Webサイトで、行政サービスの手続きイメージを動画や図を公開

・デジタル行政サービスの利用している様子の動画を動画共有サイトで公開

・SNSで、自治体Webサイトに役立つ情報が掲載されていることを日頃から住民に伝達

・住民がデジタル手続きを行う際に、何か失敗しても問題はない感覚を持てるように配慮

・デジタル行政サービスで、入力やデータの間違い等があっても問題が発生しないようにフェールセーフの仕組みを用意

・上記でも、問題が発生した際には、電話やメール等で対応できる仕組みを用意

・これらの存在を日頃からSNSで住民に伝達

・職員間のデジタル格差の解消

・職員がデジタルへの苦手意識を無くす取り組みの実施

・職員自らによるデジタル化された手続きの積極的利用推進

・職員たちによる自発的なデジタル格差解消のためのコミュニティづくり

・利用者の視点でのデジタル行政サービスの開発・改善

・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)でのデジタル行政サービスの開発・改善の実施

(c)未認識施策

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

以上から、自治体が実施すべき施策のうち、インタビュー対象2自治体における充足状況としては、

(a)が既に充足されている施策

(b)は格差課題は認識されているが、まだ充足されていない施策

(c)は格差課題自体が認識されていない施策

と整理できる。

これらは対象2自治体を前提とした区分であり、他の自治体で必ずしも当てはまるものではない。ただし、これらの区分にかかわらず、本章で挙げた施策は、今後遅かれ早かれ、自治体での取り組みが求められることになってゆく。その際、4-2-3および4-3-2に示した「アプローチの具体例」は施策の立案・実践にあたっての直接的なヒントになると考えられる。

おわりに

5 おわりに

本調査研究は、我が国政府・自治体がこれからデジタル化を進めていくうえでのデジタル格差の課題を把握・整理し、それぞれの課題に対して講じるべき施策の方向性を導出することを目的として実施した。その結果、以下が明らかになった。

〈2 章:自治体の課題認識〉

自治体が認識している格差課題を、自治体首長および職員の課題認識をもとに抽出した。また、その傾向や特徴を、自治体間や首長-職員間の比較等を通じて分析した。

格差課題の分布を課題類型ごとに分類したところ、「身体的・認知的ハンディキャップ」、「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」が自治体の格差課題への課題認識の主要な位置を占めていることがわかった。インタビュー対象の自治体のハードウエア環境の整備については、かつて大きな課題と認識されていたインターネット自体が全く使えないといった根本的課題についてはある程度解決されつつあるが、現在実施しようとしている情報提供やオンライン手続きなどのデジタルサービス提供に必要な環境については、いまだ課題が残っていると考えられる。

さらに、自治体のなかでも首長と職員の間には、課題をどのように解決していくかのアプローチについての視点差がみられた。すなわち首長は「身体的・認知的ハンディキャップ」を、職員は「行政プロセスへの抵抗感・無関心」「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に主要な視点を置いていると考えられる。地域全体としてのソーシャルインクルージョンの視点で社会的弱者の格差課題を捉える首長と、業務の現場で行政のデジタル化推進にあたっての格差課題のハードルに直面している職員との間での視点の差異が反映されていると考えられる。

〈3 章:デジタル格差の課題の実態〉

住民が実際に感じているデジタル格差の課題の実態を把握するため、住民、デジタル格差に関連する分野の専門家および海外でデジタル格差解消に取り組む機関が認識している格差課題の把握を行った。その結果、住民・専門家等は、自治体が認識していない未認識課題を認識していることが明らかとなった。具体的には、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題、および課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属する格差課題だった。

住民は一般に、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題を多く認識している。また、外国人世帯や留学生は、「身体的・認知的ハンディキャップ」を、高齢者は「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関わる格差課題を認識している人が多い。

専門家は、住民への情報提供手段の問題など「身体的・認知的ハンディキャップ」に関する様々な格差課題を認識しているほか、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題も重要と認識している。

また、デンマーク政府デジタル化庁は、課題類型「貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「身体的・認知的ハンディキャップ」、「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」といった広範囲の格差課題を認識しており、特に、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関する格差課題に関して、市民の立場の視点に立つための活動の必要性を強調している。

おわりに

〈4 章:デジタル格差に関する施策の充足状況〉

自治体で認識されている格差課題に対し、格差解消のための施策がどの程度実施されているかを明らかにするため、格差課題に対し求められる施策と、自治体で実際に実施されている施策とのギャップを次の観点で分析し、今後他の自治体でも一般的に実施すべき施策を住民向けと職員向けに分けて、次のように整理した。

(a)調査対象の自治体で既に自治体で実施済みの施策(実施済施策)

(b)課題は認識されているものの未実施の施策(未実施施策)

(c)自治体で課題自体が認識されていない格差課題に対する施策(未認識施策)

これらは調査対象自治体を前提とした区分であり、他の自治体で必ずしも当てはまるものではないが、少なくとも、これらの区分にかかわらず、本章での施策は、今後遅かれ早かれ、自治体での取り組みが求められることになる可能性が高い。

本調査研究を通じて明らかになったことのひとつが、住民のデジタル格差の課題に取り組むためには、行政自らが組織内のデジタル格差に取り組む必要があることである。このため、本章では、自治体が実施すべき施策を住民向けと職員向けに分けて整理している。

また、(b)と(c)の施策については、まだ具体的な施策が講じられていないことから、インタビューを通じて得られた知見をもとに、具体的なケースの想定を立て、実践的な施策を「アプローチの具体例」として提案している。これらは今後の施策の立案・実践にあたっての直接的なヒントになると考えられる。

〈まとめ〉

本調査研究の結果、行政サービスにおけるデジタル格差に関して、次のような新たな知見が得られた。

・デジタル格差への課題認識は、自治体によってかなりの差がある。一般的には、デジタル化の進展に伴って課題認識は高まる。

・デジタル格差には様々な態様があり、それぞれ講ずべき施策も異なってくる。

・自治体職員には認識できないデジタル格差の課題が存在している。

・デジタル格差は、住民と職員の両方に存在しており、どちらも対応が必要である。

また、自治体のデジタル格差として、具体的にどのような格差課題が存在するのかを洗い出して体系的に整理するとともに、それぞれに対して講ずべき施策を明らかにすることができた。

現状、デジタル格差はまだ多くの行政職員や住民にとって実感を伴う課題とは認識されていない。

しかし、今後、行政サービスのデジタル化が本格化していく中で、それによる便益を享受できる住民と享受できない住民の間の格差は顕在化していくと予想される。

デジタル格差の解消は、一朝一夕ではできない課題も多い。デジタル化に取り組む行政機関にあっては、施策立案の段階から、デジタル格差への考慮を中長期的視点に立って検討に組み込んでいくことが重要になる。

本調査研究で得られた知見は、そうした検討に直接・間接に寄与することになると考える。

調査協力先

 本調査報研究の実施にあたっては、以下の方々をはじめ多くの方々にご協力いただいた。

〈自治体インタビュー:愛知県豊橋市〉

・ 豊橋市 浅井由崇市長

・ 豊橋市 情報企画課

・ 国立大学法人 豊橋技術科学大学

・ 豊橋市 住民の皆さま

〈自治体インタビュー:新潟県長岡市〉

・ 長岡市 磯田達伸市長

・ 長岡市 イノベーション推進課

・ 長岡市 地域振興戦略部 中山間地域集落支援班

・ 国立大学法人 長岡技術科学大学

・ 長岡市 住民の皆さま

〈専門家インタビュー〉

・ 愛知県名古屋市 経済局イノベーション推進部 スタートアップ支援室

・ 特定非営利活動法人 ウェブアクセシビリティ推進協会

・ 社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家) Good Job!センター香芝

・ デンマーク政府デジタル化庁

〈自治体基礎調査〉

・インタビューにご協力いただいた全国8自治体

初版:2021年3月31日

一般社団法人 行政情報システム研究所

本冊子の利用ルールは「政府標準利用規約(第2.0版)」に準じるものとします。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/kettei/gl2_betten_1.pdf

宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)について

宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)について

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=155210315&Mode=0

令和3年○月 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課

i

1 目 次

2 1.本ガイドライン制定の趣旨・背景 ……………………………….. 1

3 (1)本ガイドライン制定の背景 ………………………………….. 1

4 ① 不動産取引におけるいわゆる心理的瑕疵の取扱い ………………… 1

5 ② 不動産取引における心理的瑕疵に係る課題 ……………………… 1

6 ③ ガイドライン制定の必要性 ………………………………….. 2

7 (2)本ガイドラインの位置づけ ………………………………….. 2

8 ① 宅地建物取引業者の責務の判断基準としての位置づけ …………….. 2

9 ② 民事上の責任の位置づけ ……………………………………. 3

10 2.本ガイドラインの適用範囲 …………………………………….. 3

11 (1)対象とする事案 …………………………………………… 3

12 (2)対象とする不動産の範囲 ……………………………………. 3

13 3.告げるべき事案について ………………………………………. 4

14 (1)他殺、自死、事故死その他原因が明らかでない死亡が発生した場合  4

15 (2)自然死又は日常生活の中での不慮の死が発生した場合 …………….. 5

16 4.調査について ……………………………………………….. 5

17 (1)調査の対象・方法 …………………………………………. 5

18 (2)調査に当たっての留意事項 ………………………………….. 6

19 5.告知について ……………………………………………….. 7

20 (1)賃貸借契約について ……………………………………….. 7

21 ① 告げるべき内容 …………………………………………… 7

22 ② 告げるべき範囲 …………………………………………… 7

23 (2)売買契約について …………………………………………. 8

24 ① 告げるべき内容 …………………………………………… 8

25 ② 告げるべき範囲 …………………………………………… 8

26 (3)留意事項………………………………………………… 8

27 6.結び ………………………………………………………. 9

28

1

1 1.本ガイドライン制定の趣旨・背景

2 (1)本ガイドライン制定の背景

3 ① 不動産取引におけるいわゆる心理的瑕疵の取扱い

4 不動産取引においては、取引の対象となる不動産にまつわる嫌悪すべき歴史的

5 背景1がある場合に、いわゆる心理的瑕疵があるといわれ、とりわけ住宅として用

6 いられる不動産において、過去に他殺、自死、事故死など、人の死が発生した場

7 合、当該不動産が心理的瑕疵を有するか問題となる。

8 こうした事案は、買主・借主にとって不動産取引において契約を締結するか否

9 かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があることから、売主・貸主は、把握して

10 いる事実について、取引の相手方である買主・借主に対して告知する必要があり、

11 過去の判例に照らせば、取引目的、事案の内容、事案発生からの時間の経過、近

12 隣住民の周知の程度等を考慮して、信義則上、これを取引の相手方に告知すべき

13 義務の有無が判断されている。

14 また、売主である宅地建物取引業者や、媒介又は代理を行う宅地建物取引業者

15 は、宅地建物取引業法上、取引条件に関する事項であって、宅地建物取引業者の

16 相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについて、故意に事実を告

17 げず、又は不実のことを告げる行為が禁じられており、こうした事案の存在が宅

18 地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、

19 宅地建物取引業者は、宅地建物取引業法上、当該事案の存在について事実を告げ

20 る必要がある。

21 ② 不動産取引における心理的瑕疵に係る課題

22 不動産取引における心理的瑕疵については、買主や借主の個々人の内心に関わ

23 る事項であり、他殺、自死、事故死などの人の死に関する事案をどの程度嫌悪し、

24 それが取引の判断にどの程度の影響を与えるかについては、当事者ごとに異なる

25 ものである。しかし、どの程度の心理的瑕疵を当該不動産取引において許容する

26 かということについて、契約当事者間で明文をもって合意することは、通常行わ

27 れているとは言えない。

28 このため、個々の不動産取引に際し、心理的瑕疵に該当する事案の存在が疑わ

29 れる場合において、それが買主や借主に対して告知すべき事案に該当するか否か

30 が明確でなく、告知の要否、告知の内容についての判断が困難なケースがある。

31 不動産取引の実務においては、取引の対象となる不動産において過去に人の死が

32 発生した場合に、取り扱う宅地建物取引業者によって対応が異なり、中には、人

33 の死に関する事案の全てを買主・借主に告げているようなケースもあり、心理的

34 瑕疵に係る対応の負担が過大であると指摘されることもある。

35 また、不動産取引に際し、買主・借主に対し、当該不動産において過去に生じ

36 た人の死に関する事案の全てを告げる対応を行うことによって、賃貸住宅の入居

1 の場面において、貸主が、入居者が亡くなった場合、亡くなった理由の如何を問

2 わずその事実を告知対象にしなければならないと思い、特に単身高齢者の入居を

3 敬遠する傾向があるとの指摘もある。

4 ③ ガイドライン制定の必要性

5 上記のような背景の下、不動産取引に際して、当該不動産において過去に人の

6 死が発生した場合における対応の判断に資するよう、一定の考え方を示すことが

7 求められている。

8 これを踏まえ、令和2年2月より、国土交通省において「不動産取引における

9 心理的瑕疵に関する検討会」(座長:中城康彦 明海大学不動産学部長)を開催し、

10 不動産において過去に人の死が生じた場合において、当該不動産の取引に際して

11 宅地建物取引業者がとるべき対応に関し、宅地建物取引業者が宅地建物取引業法

12 上負うべき責務の解釈について、学識経験者による議論を行い、その結果を本ガ

13 イドラインとして取りまとめたものである。

14

15 (2)本ガイドラインの位置づけ

16 ① 宅地建物取引業者の責務の判断基準としての位置づけ

17 不動産取引に際し、当該不動産における心理的瑕疵の存在については、買主・

18 借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事案につ

19 いて、売主・貸主による告知が適切に行われることが重要である。

20 しかしながら、実際の取引においては、不動産取引の専門家である宅地建物取

21 引業者が売主となる、又は媒介3をするケースが多数であり、買主・借主は、契約

22 を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事項について、宅地

23 建物取引業者を通じて告げられることが多数を占める。

24 宅地建物取引業者が自ら売主・貸主となる場合はもちろんのこと、宅地建物取

25 引業者が媒介を行う場合には、契約の成立に向けて総合的に調整を行う立場とし

26 て、不動産取引の実務において極めて大きな役割を果たしており、売主・貸主が

27 把握している情報が買主・借主に適切に告げられるかは、宅地建物取引業者によ

28 るところが大きい。

29 一方で、既に述べたとおり、不動産取引の実務においては、告知の要否、告知

30 の内容についての判断が困難なケースがあるため、取り扱う宅地建物取引業者に

31 よって対応が異なる状況があり、不動産の適正な取引や居住の安定の確保を図る

32 上での課題となっている。

33 このような点を踏まえ、本ガイドラインは、不動産において過去に人の死が生

34 じた場合において、当該不動産の取引に際して宅地建物取引業者がとるべき対応

35 に関し、宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上負うべき責務の解釈について、

36 トラブルの未然防止の観点から、現時点において判例や取引実務に照らし、一般

37 的に妥当と考えられるものを整理し、とりまとめたものである。

3

1 不動産取引に際し、当該不動産において過去に人の死が生じた場合における対

2 応については、人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引の取扱いや、

3 隣接住戸や前面道路で生じた事案の取扱い、搬送先の病院で死亡した場合の取扱

4 いなど、一般的に妥当と整理できるだけの判例や不動産取引の実務の蓄積がない

5 ものも数多くあるが、これらについては本ガイドラインの対象とせず、今後の事

6 例の蓄積を踏まえ、適時にガイドラインへの採用を検討するものとする4。

7 過去に人の死が生じた不動産の取引に際し、宅地建物取引業者が本ガイドライ

8 ンで示した対応を行わなかった場合、そのことだけをもって直ちに宅地建物取引

9 業法違反となるものではないが、宅地建物取引業者の対応を巡ってトラブルとな

10 った場合には、行政庁における監督に当たって、本ガイドラインが考慮されるこ

11 ととなる。

12 ② 民事上の責任の位置づけ

13 個々の不動産取引において、心理的瑕疵の存在に関し紛争が生じた場合の民事

14 上の責任については、取引当事者からの依頼内容、締結される契約の内容等によ

15 って個別に判断されるべきものであり、宅地建物取引業者が本ガイドラインに基

16 づく対応を行った場合であっても、当該宅地建物取引業者が民事上の責任を回避

17 できるものではないことに留意する必要がある。

18 しかしながら、宅地建物取引業者が、一般的な基準として本ガイドラインを参

19 照し、適切に対応することを通じて、不動産取引に際し、当該不動産において過

20 去に生じた人の死に関する事案について、買主・借主が十分な情報を得た上で契

21 約できるようにすることにより、取引当事者間のトラブルの未然防止とともに、

22 取引に関与する宅地建物取引業者との間のトラブルの未然防止が期待される。

23 また、本ガイドラインは、宅地建物取引業者のみならず、取引当事者の判断に

24 おいても参考にされ、トラブルの未然防止につながることが期待される。

25

26 2.本ガイドラインの適用範囲

27 (1)対象とする事案

28 心理的瑕疵については、他殺、自死、事故死などの人の死に関する事案以外にも、

29 周辺環境や過去の使用用途等が該当することが考えられるが、特に人の死に関する

30 事案をめぐって、取引上の課題となるケースが多いことから、本ガイドラインにお

31 いては、取引の対象となる不動産において生じた人の死に関する事案を取り扱うこ

32 ととする。

33

34 (2)対象とする不動産の範囲

35 住宅として用いられる不動産(居住用不動産)とオフィス等として用いられる不

36 動産を比較した場合、居住用不動産は、人が継続的に生活する場(生活の本拠)と

4

1 して用いられるものであり、買主・借主は、居住の快適性、住み心地の良さなどを

2 期待して購入又は賃借し、入居するため、他殺、自死、事故死など、人の死に関す

3 る事案は、その取引の判断に影響を及ぼす度合いが高いと考えられることから、本

4 ガイドラインにおいては、居住用不動産を取り扱うこととする。

5 なお、隣接住戸や前面道路など、取引の対象となる不動産以外において発生した

6 事案については、本ガイドラインの対象外とするが、集合住宅の取引においては、

7 買主・借主が居住の用に供する専有部分・貸室に加え、買主・借主が日常生活にお

8 いて通常使用する必要があり、集合住宅内の当該箇所において事案が生じていた場

9 合において買主・借主の住み心地の良さに影響を与えると考えられる部分をも対象

10 に含むものとする。

11

12 3.告げるべき事案について

13 宅地建物取引業者は、媒介活動又は販売活動に伴う通常の情報収集等の業務の中で、

14 売主・貸主や管理業者から人の死に関する事案の存在を知らされた場合や、自らこれ

15 らの事案の存在を認識した場合(例えば、売主である宅地建物取引業者が物件を取得

16 する際に事案の存在を把握した場合等)には、当該事案の存在を買主・借主に告げる

17 必要があるかを判断しなければならない。宅地建物取引業者が業務の中で人の死に関

18 する事案を認識した場合において、その存在を買主・借主に告げるべき事案は、以下

19 のとおりとする。

20 なお、告げるべき内容及び範囲については、後記5.に示すとおりである。

21 (1)他殺、自死、事故死その他原因が明らかでない死亡が発生した場合

22 不動産取引に際し、当該不動産において、過去に他殺、自死、事故死が生じた場

23 合には、買主が売主に対して説明義務違反等を理由とする損害賠償責任を巡る多く

24 の紛争がみられる。

25 このため、前記2.(2)の対象となる不動産において、過去に他殺、自死、事故

26 死(後記(2)に該当するものを除く。)が生じた場合には、買主・借主が契約を締

27 結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられるため、原

28 則として、これを告げるものとする。

29 なお、対象となる不動産において、過去に原因が明らかでない死が生じた場合(例

30 えば、事故死か自然死か明らかでない場合等)においても、買主・借主の判断に重

31 要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられるため、原則として、これを告げる

32 ものとする。

33

5

1 (2)自然死又は日常生活の中での不慮の死が発生した場合

2 老衰、持病による病死など、いわゆる自然死については、そのような死が発生す

3 ることは当然に予想されるものであり、統計においても、自宅における死因割合の

4 うち、老衰や病死による死亡が9割8を占める一般的なものである。

5 また、判例においても、自然死について、心理的瑕疵への該当を否定したもの9が

6 存在することから、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いものと考

7 えられ、2.(2)の対象となる不動産において過去に自然死が生じた場合には、原

8 則として、これを告げる必要はないものとする。

9 このほか、事故死に相当するものであっても、自宅の階段からの転落や、入浴中

10 の転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故による死につい

11 ては、そのような死が生ずることは当然に予想されるものであり、これが買主・借

12 主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられることから、自然死と同様

13 に、原則として、これを告げる必要はないものとする。

14 ただし、自然死や日常生活の中での不慮の死が発生した場合であっても、取引の

15 対象となる不動産において、過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置さ

16 れたこと等に伴い、室内外に臭気・害虫等が発生し、いわゆる特殊清掃等が行わ

17 れた場合においては、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及

18 ぼす可能性があるものと考えられるため、原則として、これを告げるものとする。

19

20 4.調査について

21 (1)調査の対象・方法

22 宅地建物取引業者は、販売活動・媒介活動に伴う通常の情報収集を行うべき業務

23 上の一般的な義務を負っている。ただし、前記3.に掲げる事案が生じたことを疑

24 わせる特段の事情がないのであれば、前記3.に掲げる事案が発生したか否かを自

25 発的に調査すべき義務までは宅地建物取引業法上は認められない。他方で、販売活

26 動・媒介活動に伴う通常の情報収集等の調査過程において、売主・貸主や管理業者

27 11から、過去に、前記3.に掲げる事案が発生したことを知らされた場合や自らこ

28 れらの事案が発生したことを認識した場合(例えば、売主である宅地建物取引業者

29 が物件を取得する際に事案の存在を把握した場合等)には、宅地建物取引業者は、

30 後記5.に示すところにより、買主・借主に対してこれを告げなければならない。

31 なお、媒介を行う宅地建物取引業者においては、売主・貸主に対して、告知書(物

32 件状況等報告書)その他の書面(以下「告知書等」という。)に過去に生じた事案に

33 ついての記載を求めることにより、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義

6

1 務を果たしたものとする。この場合において、告知書等に記載されなかった事案の

2 存在が後日に判明しても、当該宅地建物取引業者に重大な過失がない限り、前記3.

3 に掲げる事案に関する調査は適正になされたものとする。

4 調査の過程において、照会先の売主・貸主あるいは管理業者より、事案の有無及

5 び内容について、不明であると回答された場合、あるいは回答がなかった場合であ

6 っても、宅地建物取引業者に重大な過失がない限り、照会を行った事実をもって調

7 査はなされたものと解する。

8 前述のとおり、取引の対象となる不動産における事案の有無に関し、宅地建物取

9 引業者は、原則として、売主・貸主・管理業者以外に自ら周辺住民に聞き込みを行

10 ったり、インターネットサイトを調査するなどの自発的な調査を行ったりする義務

11 はないと考えられる。仮に調査を行う場合であっても、近隣住民等の第三者に対す

12 る調査や、インターネットサイトや過去の報道等に掲載されている事項に係る調査

13 については、正確性の確認が難しいことや、遺族のプライバシーに対する配慮が必

14 要であることから、特に慎重な対応を要することに留意が必要である。

15

16 (2)調査に当たっての留意事項

17 媒介を行う宅地建物取引業者においては、売主・貸主から確認した事実関係を明

18 確にし、トラブルの未然防止を図るため、心理的瑕疵が疑われる事案の存在につい

19 ては、告知書等への記載を求めることにより照会を行うことが望ましい。

20 この際、媒介を行う宅地建物取引業者は、売主・貸主による告知書等への記載が

21 適切に行われるよう必要に応じて助言するとともに、売主・貸主に対し、事案の

22 存在について故意に告知しなかった場合等には、民事上の責任を問われる可能性が

23 ある旨をあらかじめ伝えることが望ましい。

24 また、告知書等により、売主・貸主からの告知がない場合であっても、前記3.

25 に掲げる事案の存在を疑う事情があるときは、売主・貸主に確認して、買主・借主

26 に情報提供する必要がある。

27 なお、取引の対象となる不動産において過去に人の死が生じた事実について、媒

28 介を行う宅地建物取引業者は、契約後、引渡しまでに知った場合についても告知義

29 務があるとする判例があることに留意すべきである。

30 後日トラブルとなり、訴訟等に発展した場合でも証拠資料になり得るため、媒介

31 を行う宅地建物取引業者は、売主・貸主に対して告知書等への適切な記載を求め、

32 これを買主・借主に交付することが、トラブルの未然防止とトラブルの迅速な解決

33 のためにも有効であると考えられる。また、媒介を行う宅地建物取引業者が、買主・

34 借主から、「売主・貸主が宅地建物取引業者に告知した事案について、宅地建物取引

35 業者が買主・借主に告げなかった」等と指摘され、トラブルに発展することの未然

7

1 防止にも繋がるものと考えられる。

2

3 5.告知について

4 不動産取引の中でも、売買契約と賃貸借契約とでは、一般に、賃貸借契約に比べて

5 売買契約は取引金額やトラブルが生じた場合の損害が高額になり、買主が被る損害は

6 借主に比し多大なものとなりやすいなど、双方の契約に係る事情が異なる。双方の事

7 情に応じ、宅地建物取引業者が買主・借主に告げるべき内容・範囲は、以下のとおり

8 とする。

9 なお、以下で示す点については、前記4.の調査を通じて判明した点について実施

10 すれば足り、売主・貸主から不明であると回答された場合、あるいは無回答の場合に

11 は、その旨を告げれば足りるものとする。

12 (1)賃貸借契約について

13 ① 告げるべき内容

14 取引の対象となる不動産において、過去に、前記3.(1)に掲げる事案が発生

15 している場合には、これを認識している宅地建物取引業者が媒介を行う際には、

16 事案の発生時期、場所及び死因(不明である場合にはその旨)について、借主に

17 対してこれを告げるものとする。

18 ここでいう事案の発生時期、場所及び死因については、前記4.で示す調査に

19 おいて貸主・管理業者に照会した内容をそのまま告げるべきである。

20 ② 告げるべき範囲

21 事案が発生してから期間を経過している場合、いつまで事案の存在を告げるべ

22 きかについては、その事件性、周知性、社会に与えた影響等により変化するもの

23 と考えられるが、過去の判例においても、

24 ・ 住み心地の良さへの影響は自死等の後に第三者である別の賃借人が居住した

25 事実によって希薄化すると考えられるとされている事例(東京地裁平成 19.8.10

26 判決、東京地裁平成 25.7.3 判決)

27 ・ 賃貸住宅の貸室において自死が起きた後には、賃貸不可期間が1年、賃料に

28 影響が出る期間が2年あると判断されている事例(東京地裁平成19.8.10判決、

29 東京地裁平成 22.9.2 判決等)

30 等の事例があるほか、公的賃貸住宅においても、事案発生後の最初の入居者が退

31 去した後には、通常の住戸として募集する運用が長らく行われているところであ

32 る。

33 これらを踏まえ、前記3.(1)に掲げる事案が発生している場合には、特段の

34 事情がない限り、これを認識している宅地建物取引業者が媒介を行う際には、上

35 記①に掲げる事項について、事案の発生から概ね3年間は、借主に対してこれを

36 告げるものとする

8

1 なお、取引の対象となる不動産において、前記3.(2)に掲げる事案が発生し

2 ている場合には原則としてこれを告げる必要はないが、人が死亡し、長期間放置

3 されたこと等に伴い、特殊清掃等が行われた場合においては、これを認識してい

4 る宅地建物取引業者が媒介を行う際には、上記①に掲げる事項並びに発見時期及

5 び臭気・害虫等が発生した旨について、前記3.(1)と同様に、特段の事情がな

6 い限り、事案の発生から概ね3年間は、借主に対してこれを告げるものとする。

7

8 (2)売買契約について

9 ① 告げるべき内容

10 取引の対象となる不動産において、過去に、前記3.(1)に掲げる事案が発生

11 している場合には、これを認識している宅地建物取引業者は、事案の発生時期、

12 場所及び死因(不明である場合にはその旨)について、買主に対してこれを告げ

13 るものとする。

14 ここでいう事案の発生時期、場所及び死因については、前記4.で示す調査に

15 おいて売主・管理業者に照会した内容をそのまま告げるべきである。

16 ② 告げるべき範囲

17 売買契約の場合、事案の発生後、当該事案の存在を告げるべき範囲について、

18 一定の考え方を整理するうえで参照すべき判例や取引実務等が、現時点において

19 は十分に蓄積されていない。

20 このような状況を鑑み、当面の間、過去に前記3.(1)に掲げる事案が発生し

21 ている場合には、宅地建物取引業者は、上記①に掲げる事項について、前記4.

22 の調査を通じて判明した範囲で、買主に対してこれを告げるものとする。

23 なお、取引の対象となる不動産において、前記3.(2)に掲げる事案が発生し

24 ている場合には原則としてこれを告げる必要はないが、人が死亡し、長期間放置

25 されたこと等に伴い特殊清掃等が行われた場合においては、これを認識している

26 宅地建物取引業者は、上記①に掲げる事項並びに発見時期及び臭気・害虫等が発

27 生した旨について、前記3.(1)の場合と同様に、前記4.の調査を通じて判明

28 した範囲で、買主に対してこれを告げるものとする。

29

30 (3)留意事項

31 上記(1)(2)が原則的な対応となるが、これにかかわらず、取引の対象となる

32 不動産における事案の存在に関し、買主・借主からの依頼に応じて追加的な調査を

33 行った場合や、その社会的影響の大きさから買主・借主において特別に把握してお

34 くべき事案があると認識した場合等には、宅地建物取引業者は、前記4.の調査を

35 通じて判明した点を告げる必要がある。この場合においても、調査先の売主・貸主

36 や管理業者から不明であると回答されたとき、あるいは無回答のときには、その旨

37 を告げれば足りるものとする。

9

1 なお、亡くなった方の遺族等、関係者のプライバシーに配慮する必要があること

2 から、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死亡原因、発見状況等を告げる必要

3 はない。

4 また、買主・借主に事案の存在を告げる際には、後日のトラブル防止の観点から、

5 書面の交付等によることが望ましい。

6

7 6.結び

8 前記のとおり、本ガイドラインは、近時の判例や取引実務等を考慮の上、不動産に

9 おいて過去に人の死が生じた場合における当該不動産の取引に際して宅地建物取引

10 業者が果たすべき責務について、トラブルの未然防止の観点から、現時点において妥

11 当と考えられる一般的な基準をとりまとめたものである。

12 一方、個々の不動産取引においては、買主・借主が納得して判断したうえで取引が

13 行われることが重要であり、宅地建物取引業者においては、トラブルの未然防止の観

14 点から、取引に当たって、買主・借主の意向を事前に十分把握し、いわゆる心理的瑕

15 疵の存在を重要視することを認識した場合には特に慎重に対応することが望ましい。

16 また、本ガイドラインは、あくまで宅地建物取引業者が果たすべき責務について整

17 理したものであるが、宅地建物取引業者のみならず、消費者、賃貸事業者等の取引当

18 事者の判断においても参考にされ、トラブルの未然防止につながることが期待される。

19 なお、本ガイドラインはあくまで、現時点で妥当と考えられる一般的な基準であり、

20 将来においては、本ガイドラインで示した基準が妥当しなくなる可能性も想定される。

21 本ガイドラインは、新たな判例や取引実務の変化を踏まえるとともに、社会情勢や

22 人々の意識の変化に応じて、適時に見直しを行うこととする。

1 横浜地判平成元年9月7日判時 1352 号 126 頁

2 高松高判平成 26 年6月 19 日判時 2236 号 101 頁、東京地判平成 22 年3月8日WJ、大阪高判平成 26 年9月18 日判時 2245 号 22 頁等

3 代理についても、本ガイドライン上、媒介に準じて取り扱うものとする。

4 現時点において、これらの不動産を取引する際には、取引当事者の意向を踏まえつつ、適切に対処する必要がある。

5 オフィス等として用いられる不動産において発生した事案については、それが契約締結の判断に与える影響が一様でないことから本ガイドラインの対象外としているものであり、これらの不動産の取引においては、取引当事者の意向を踏まえつつ、適切に対処する必要がある。

6 例えば、ベランダ等の専用使用が可能な部分のほか、共用の玄関・エレベーター・廊下・階段のうち、買主・借主が日常生活において通常使用すると考えられる部分が該当するものと考えられる。

7 また、地震等の大規模な災害により、対象となる不動産において人の死が生じたか明らかでないような場合には、その旨を告げれば足りるものとする。

8 人口動態統計(令和元年)における「自宅での死亡者数(188,191 人)」から、「傷病及び死亡の外因(16,174人)」を控除した死亡者数が占める割合。

9 東京地判平成 18 年 12 月6日WJほか。

10 自死や孤独死などが発生した住居において、原状回復のために消臭・消毒や清掃を行うサービス(「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書」(令和 2 年 3 月 総務省行政評価局)))

11 管理業者から提供される情報の範囲については、管理業者と管理組合との間で締結された管理受託契約や、分譲マンションの管理規約等により定められている。

12 売買契約については、主要な不動産関係団体の提供する告知書(物件状況等報告書)において、既に、事件・事故・自死等の事案に係る項目が含まれている。

13 告知書(物件状況等報告書)においても、適切な記載例が分かりやすく示されていることが望ましい。

14 高松高判平成 26 年6月 19 日判時 2236 号 101 頁

15 本ガイドラインにおいては、他殺・自死・事故死の別を指すものとする。

16 例えば、(独)都市再生機構では、入居者が物件内等で死亡した住宅を特別募集住宅として募集している。(https://www.ur-net.go.jp/chintai/tokubetsu)

17 交換契約においても、本ガイドライン上、売買契約に準じた扱いとする。

相続等により取得した不動産の登記義務などについての民法の改正について

 相続等により取得した不動産の登記義務などについての民法の改正について

民法等の一部を改正する法律

可決成立日 令和3年4月21日

公布日    令和3年4月28日

官報掲載日 令和3年4月28日

施行日    原則として公布の日から2年以内

第204回国会 衆議院 法務委員会 第6号 令和3年3月23日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120405206X00620210323&spkNum=3&single

・持分の過半数の共有者の所在が分からない場合の管理行為

 共有者の一部が不特定又は所在不明である場合に、裁判所においてそのことを確認し、かつ公告を実施するなどの手続を取った上で、管理人の選任を経ることなく、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、又はその持分の過半数の決定によって共有物の変更又は管理を可能とする仕組みを創設。

・共有者の一部の所在等が不明である場合の変更・処分行為について

 共有物分割訴訟には、共有者全員を当事者としなければならないなどの手続上の負担があることも踏まえまして、共有者の一部の所在等が不明である場合に、訴訟手続ではなく非訟手続の下で、共有者全員を当事者とすることなく、他の共有者が適正な代価を支払った上で所在等不明共有者の持分を取得したり譲渡したりすることができる仕組みを創設。

・所在不明な共有者、相続人の探索方法について

 一般論として、例えば共有者の所在を知ることができないと認められるときには、登記簿や住民票といった公的記録を調査し、その住所に当該共有者が居住しているのかを調査してその所在が不明であることを立証。共有者が死亡して相続が開始しているケースでは、相続人やその所在を確認するため、戸籍や相続人の住民票などの調査が必要となるほか、当該不動産の利用状況を確認したり、他に連絡を取ることができる相続人がいればその相続人に確認してみるなど。

・誰々ほか十六名のような不動産登記記録の表題部記載について

 表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律に基づいて対応することが可能・登記官において探索等を行ってもその共有者が不明なケースでは、裁判所が管理命令を発し、その選任した管理人がその共有持分の管理、処分を行うことができる。

 所有者等不明共有者の持分の取得、譲渡の制度も表題部所有者不明土地について適用することが可能。申立人が、表題部所有者不明土地の共有者が不明であることを立証し、裁判所が命ずる金銭を供託するなど所要の手続を取れば、管理人の選任を経ることなく持分の取得、譲渡をすることができる。

・登記名義人が五十年以上前に死亡している土地について、子供の兄弟が三人いることが分かっている、二人についてはやっと連絡が取れました、でも、残り一人についてはどうも外国で亡くなっているらしい、相続人がどれだけいるかも分からない。この土地を譲り受けたい、あるいは処分したいという場合

 制度を利用し、遺産分割を経ることなく、他の相続人が当該土地の持分を取得するなどして譲渡することも可能。

・ごみ屋敷への管理不全建物管理命の適用可能性について

 ごみ屋敷についても、他人の権利利益の侵害の状況等によっては管理不全建物管理命の要件を満たす場合はある。

・相続人申告登記がされた後に遺産分割があったケースについて

遺産分割成立の日から三年以内に遺産分割の内容を踏まえた登記申請をする義務を負う。

・遺言が作成されていた場合

 遺言により不動産を取得すると定められた者は、所有権を取得したことを知った日から三年以内にその旨の所有権の移転の登記の申請か、相続人申告登記の申出をする義務を負う。

・相続人申告登記の添付書面について

 申出をする相続人が、被相続人の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本を提出。

・相続登記申請をするための登録免許税(現行は不動産の固定資産税評価額の0.4%)について

令和四年度税制改正において必要な措置を検討。

・住所等の変更登記に当たって、他の公的機関との情報連携について

自然人・・・所有権の登記名義人から、その氏名、住所のほか、生年月日等の情報を提供してもらい、これを検索キーとして法務局側で定期的に住基ネットに照会して情報の提供を受けることにより、住所等の変更の有無を確認。

法人・・・省内のシステム間連携による対応が可能。法人の住所等に変更が生じた場合には、不動産登記システム側からの定期的な照会を要さずに、商業・法人登記のシステムから不動産登記システムにその変更情報を通知することにより、住所等の変更があったことを把握。登記官が職権的に住所等の変更の登記を行うことになる。

・改正法の施行日前に相続の開始等があった場合

 原則として適用。施行日前に既に相続が開始した場合又は住所等の変更があった場合であっても、登記の申請に必要な期間を確保する観点から、少なくとも施行日から三年間又は二年間の猶予期間を置く。

 施行日前に相続が開始した遺産の分割について、長期間が経過している場合には、法定相続分等の割合により分割を行うことを可能とすべく、改正法を適用。施行日前に生じた相続について、改正後の規定を適用することとしつつ、少なくとも施行日から五年間は具体的相続分による遺産分割の請求を求めることができる。

・管理不全土地管理の制度について地方公共団体の長などを請求権者としなかった理由

 管理不全土地管理制度について権利利益を侵害されるなどの利害関係の有無に関係なく地方公共団体に申立て権を付与することは、現行の所有者不明土地特措法で定められた目的の範囲を超えており、その是非については、同法の趣旨、目的や、同法における管理不全土地対策の位置づけも踏まえ、国土管理の観点から、別途検討すべき課題と整理された。

・管理不全土地、管理不全建物管理命令の申立て権者である利害関係人について

例えば公共事業の実施者などの土地の利用、取得を希望する者。隣地に擁壁が設置されている場合、劣化して倒壊して、それによる土砂崩れが生ずるおそれがあるというようなケースで、そのことを主張するその隣地の所有者など。

 ごみ屋敷状態で、草が生えて獣が入って悪臭が漂うとか、具体的な意味での隣地に対する影響が出ていればこれに該当する可能性はあるが、町内会あるいは自治体も含めて申立て権を認めるかどうか、利害関係に含めるかどうかは、引き続き議論をして検討。

・相続登記申請と住所変更登記申請義務について、過料の制裁を科さない正当な理由がある場合

 相続が数次にわたって何度も発生して、相続人が数十人を超えるなど極めて多数に上る場合。戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に時間を要するケース。遺言の有効性、遺産の範囲等が争われているケース。

 申請義務を行う相続人自身が病気で入院している場合。登記費用を負担する能力がないケースについては、その財産状況や具体的な生活環境にもより、正当な理由があるとされる場合もある。

・DV被害者等の住所等の情報に係る部分について

 課長通知に基づく実務運用として、既に本人以外の者に対しては閲覧を制限する措置が取られているが、今回法制化。

20211004追記 改正後不登法第76条の6関係

Q 改正後に所有権を取得した人は、全員が検索用情報を提供するか。

A 現在、登録のある人は全員提供している。法務局が住民基本台帳ネットワークシステムに照会する基準をどのように設けるのかの問題。住民基本台帳法別表第一(三十一) 

Q改正前に所有権を取得して検索用情報を提供していない人は過料の対象となるか。

A 施行日前に既に住所等の変更があった場合であっても、少なくとも施行日から三年間又は二年間の猶予期間を置く。

Q 住所変更登記申請義務について、過料の制裁を科さない正当な理由がある場合とは

A 申請義務を行う相続人自身が病気で入院している場合。登記費用を負担する能力がないケースについては、その財産状況や具体的な生活環境にもより、正当な理由があるとされる場合もある。

Q 他の公的機関との情報連携について(自然人の場合)

A 所有権の登記名義人から、その氏名、住所のほか、生年月日等の情報を提供してもらい、これを検索キーとして法務局側で定期的に住基ネットに照会して情報の提供を受けることにより、住所等の変更の有無を確認。

第204回国会 衆議院 法務委員会 第7号 令和3年3月24日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120405206X00720210324&spkNum=5&single

・登記官が他の公的機関から所有権の登記名義人の死亡情報を取得をして、これに基づいて不動産登記にその旨を符号によって表示する制度の情報源

 住民基本台帳、また固定資産課税台帳のほか、長期相続登記等未了土地や表題部所有者不明土地の解消事業、また登記所備付け地図作成事業など。

・所有者不明土地、所有者不明建物管理人が、裁判所の許可を得て土地、建物を売却等した場合の不服申し立てについて

 借地借家人等の利害関係者を含めて、不服を申し立てることができない。

・沖縄県の大戦によって不動産登記とか公図とか戸籍が全て焼失してしまっている場合。今まで、その焼失等によって生じた沖縄の所有者不明土地について、沖縄の復帰に伴う特別措置法に基づき沖縄県又は市町村が管理するという便宜的な対応をしている。この不動産について、相続人があることが明らかでないときは相続財産法人となるが、その近隣に居住する者は戸籍謄本を確認することができないので、それが相続財産法人となっているかどうかすら確認ができないが、所有者不明土地管理の制度を利用することについて

 利用可能。

・沖縄県にある不動産登記簿にについて、表題部の所有者欄に所有者名の記載がない空欄、又は不明地と記載されていて、便宜的に県とか市町村の名前が記載されている。本来の所有者は不明であるが、その管理を地方自治体が行えることが沖縄の特別措置法によって担保されている。管理をしている地方自治体が利害関係人に含まれ、申立てをすることができるのか。

 沖縄県又はその市町村が管理している不動産について、所有者が不特定又は所在不明なものであることから、個別の事案における裁判所の判断に委ねられる。裁判所が選任する管理人による管理の必要性が認められる場合には、所有者不明土地管理命令が発令されるケースもあり得る。

 沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律第六十二条に基づいて現に土地の管理を行っている地方公共団体が、利害関係人として所有者不明土地管理命令を請求することができるかについては、個別の事案ごとの判断による。事案によっては利害関係が認められるケースもあり得る。

・外国籍の方の遺族年金等の請求について

 請求者との婚姻や親子関係などを明らかにすることができる書類として、戸籍謄本又は抄本の提出。外国籍の方の場合は、戸籍に代えて、請求者等の属する国の公的機関の発行した出生証明書や婚姻証明書などを提出。

 請求者等の属する国の公的機関が発行した証明書で、いつから婚姻されていたかなどの必要な確認ができない場合は、外国人登録原票を提出するケースもある。

第204回国会 衆議院 法務委員会 第8号 令和3年3月30日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120405206X00820210330&spkNum=3&single

・居住者がいる建物がごみ屋敷となった場合

 居住者が、発令後に管理不全建物管理人の管理を妨げる行為をすることが見込まれるときは、管理人を選任したとしても、結局、訴訟を起こさざるを得ず、実効的な管理をすることが困難となる可能性が高いことから、権利利益を侵害されている者としては、この管理不全建物管理命令を求めるよりも、訴訟を提起して物権的請求権等を行使することが適当である場合もある。

 建物がいわゆるごみ屋敷状態となった場合、その居住者が管理人による管理を妨げる行為をすることが見込まれているケースでは、利用することが難しい。

 建物所有者が建物をごみ屋敷状態としたまま遠方に移住しており、建物を放置し居住者もいない、は居住者がいても管理人の求めに応じて任意に退出することが見込まれるようなケースでは、この制度の利用が想定される。

・利害関係人があらかじめ費用や報酬に見込まれる予納金を支払った場合

 管理人はその予納金から費用や報酬を受け取ることになり利害関係人は、別途、最終的な費用の負担者である土地の所有者に対して求償することになると考えられる。

・相続開始後、遺言がなく遺産分割も直ぐには調わない場合の最初の登記について

 法務省としては、法定相続分での相続登記ではなく、より簡易な手続である相続人申告登記が利用されて相続登記の申請義務が履行されるようになることを想定。

・管理人による共有持分の処分、共有物の分割協議、持分の全部を取得

 裁判所の許可を得て、所在が明らかな共同相続人との間で可能。

・選任される管理人の要件について

 専門職という縛りはない。

・所有者不明建物管理人が自ら建物を取り壊すことについて

 基本的には許されない。建物の管理を続けるのが困難なケースにおいて、所有者の出現可能性や建物の所有者に生ずる不利益の程度などを考慮した上で、建必要かつ相当と認められる場合には、管理人が、裁判所の許可を得た上で、建物を取り壊すことも可能。

・遺言がある場合で、2つの不動産のうち1つの不動産について相続登記を申請した場合の3年以内の起算日

 相続人が遺言書を添付して特定の不動産についての登記の申請をした際に、遺言書が他の不動産の所有権についても当該申請人に移転する旨を内容とするものであった場合に登記官が通知したとき。

・相続登記等の申請期間の最初の日

 原則として、当事者の主観。

・相続登記等の申請期間について

 相続人申告登記の申出が可能。

 遺産分割がされたケースについては、遺産分割が相続開始に伴う登記申請義務の三年以内にされた場合には、登記の申請をすることになります。

 遺産分割が三年以内にされないケースは、相続人申告登記をすることで義務の履行。その後、遺産分割が現に調ったケースは、遺産分割の日から三年以内に登記の申請。

 遺言が作成されていた場合、遺言により不動産を取得する者は、所有権を取得したことを知った日から三年以内。

・隣の土地を所有している人、住んでいる人が不明な場合に立ち入る際の事前通知について

 立ち入る際に隣地の所有者等の所在が不明な場合、事前の通知は不要。立ち入って隣地を使用した後に所有者の所在が明らかになった場合、所在が明らかになった所有者に対して事後的に通知する必要がある。

第204回国会 参議院 法務委員会 第7号 令和3年4月13日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120415206X00720210413&spkNum=4&single

・相続人申告登記の申出をした後、遺産分割が調わない場合

  遺産分割が調うまで、申告登記のままで可能。期間は問わない。

・数次相続がある場合の相続登記等の申請期間について

 相続開始時から十年を経過するまでに家庭裁判所に遺産分割の請求をしなかった場合には、原則として具体的相続分による遺産分割を求めることができない。遺産分割は法定相続分又は指定相続分によりする。

 数次相続のケースは、個々の相続ごとにこの十年の期間の経過が問題となり、その開始時から十年を経過した遺産の分割については、原則として具体的相続分による遺産分割を求めることはできなくなる。改正法の七十六条の二は、二次相続、三次相続の場合も含む。

 家庭裁判所は、相続開始時から十年を経過した後に遺産分割の申立てがされた場合には、特別受益や寄与分については考慮せずに法定相続分又は指定相続分によって遺産の分割をすることになる。

・申告登記をした相続人が亡くなった場合、この場合には二次相続人は申告登記できるか。

 可能。

第204回国会 参議院 法務委員会 第9号 令和3年4月20日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120415206X00920210420&spkNum=4&single

・自己に相続があったことを知ったことについて

相続人において、相続が開始した事実を知らないケース、不動産の存在自体を知らないケース、具体的な土地の地番等までは把握していないなどといったケースは、この要件を満たすことはなく、相続登記の申請義務は生じない。

20210906追記 民法・不動産登記法部会資料 57

民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案 (案) (2)

https://www.moj.go.jp/content/001339375.pdf

所有不動産記録証明書(仮称)の代理交付請求について

 郵送による本人申請請求の場合・・・本人確認書類の写しを送付させた上で、対象不動産の登記に記録された本人の住所地(所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人による交付請求の場合にはその本人の住所証明書類の原本に記載された住所地)宛てに送付するなどして、請求者本人が確実にその書類を取得するように配慮することが考えられる。

 代理申請の場合・・・委任者の実印が押印された委任状及び印鑑登録証明書(例えば、3か月以内に取得したものに限定する。)の提供がある場合には、受任者宛ての送付を可能とするといった手法を併用することも考えられる。

・相続放棄で遡及的に持分を失った人も、持分を取得した人が登記申請を行うまでは申請義務は免れないか・・・免れる。
民法・不動産登記法部会資料 60民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案 (案) (5)p2
https://www.moj.go.jp/content/001340118.pdf

民法 第209条(隣地の使用)

 同条第1項中「境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕する」を「次に掲げる目的の」に、「の使用を請求する」を「を使用する」に改め、同項ただし書中「隣人」を「住家については、その居住者」に改め、「その住家に」を削り、同項に次の各号を加える。

  1 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕

  2 境界標の調査又は境界に関する測量

  3 第233条第3項の規定による枝の切取り

 第2項中「前項」を「第1項」に、「隣人」を「隣地の所有者又は隣地使用者」に改め、同項を同条第4項とし、同条第1項の次に次の2項を加える。

 2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

 3 第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。

 第213条の2(継続的給付を受けるための設備の設置権等)

 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第1項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。

 2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

 3 第1項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。

 4 第1項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第209条第1項ただし書及び第2項から第4項までの規定を準用する。

 5 第1項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第209条第4項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、1年ごとにその償金を支払うことができる。

 6 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。

 7 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

 第213条の3

 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、前条第5項の規定は、適用しない。

 2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

 第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)

 第1項中「隣地」を「土地の所有者は、隣地」に改め、同条第2項を同条第4項とし、同条第1項の次に次の2項を加える。

 2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。

 3 第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。

 1 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。

 2 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

 3 急迫の事情があるとき。

 第249条(共有物の使用)

 次の2項を加える。

 2 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。

 3 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。

 第251条(共有物の変更)

 中「変更」の下に「(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)」を加え、同条に次の1項を加える。

 2 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

 第252条(共有物の管理)

 中「は、前条の場合を除き」を「(次条第1項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第1項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は」に改め、同条ただし書を削り、同条に後段として次のように加える。

 共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

 2 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。

 1 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

 2 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。

 3 前2項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

 4 共有者は、前3項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。

  1 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年

  2 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 5年

  3 建物の賃借権等 3年

  4 動産の賃借権等 6箇月

 5 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

 第252条の2(共有物の管理者)

 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

 2 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

 3 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。

 4 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

 第258条(裁判による共有物の分割)

 同条第1項中「とき」の下に「、又は協議をすることができないとき」を加え、同条第2項中「の場合において、」を「に規定する方法により」に改め、「の現物」を削り、同項を同条第3項とし、同条第1項の次に次の1項を加える。

 2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。

 1 共有物の現物を分割する方法

 2 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法

 4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。

 第258条の2

 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。

 2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。

 3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第1項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

 第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)

 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。

 2 前項の請求があった持分に係る不動産について第258条第1項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。

 3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。

 4 第1項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。

 5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

 第262条の3(所在等不明共有者の持分の譲渡)

 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。

 2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。

 3 第1項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。

 4 前3項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

 第264条(準共有)

 中「この節」の下に「(第262条の二及び第262条の3を除く。)」を加える。

 第264条(準共有)

 中「この節」の下に「(第262条の二及び第262条の3を除く。)」を加える。

 第264条の3(所有者不明土地管理人の権限)

 前条第4項の規定により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。

 2 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。

 1 保存行為

 2 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

 第264条の4(所有者不明土地等に関する訴えの取扱い)

 所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。

 第264条の5(所有者不明土地管理人の義務)

 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。

 2 数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。

 第264条の6(所有者不明土地管理人の解任及び辞任)

 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。

 2 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。

 第264条の7(所有者不明土地管理人の報酬等)

 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。

 2 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用及び報酬は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)の負担とする。

 第264条の8(所有者不明建物管理命令)

 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(第4項に規定する所有者不明建物管理人をいう。以下この条において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。

 2 所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有し、又は当該建物の共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。

 3 所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物管理命令が発せられた後に当該所有者不明建物管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分並びに当該所有者不明建物管理命令の効力が及ぶ動産及び建物の敷地に関する権利の管理、処分その他の事由により所有者不明建物管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。

 4 裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、当該所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。

 5 第264条の3から前条までの規定は、所有者不明建物管理命令及び所有者不明建物管理人について準用する。

 第264条の9(管理不全土地管理命令)

 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(第3項に規定する管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。

 2 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。

 3 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。

 第264条の10(管理不全土地管理人の権限)

 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。

 2 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。

 1 保存行為

 2 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

 3 管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可をするには、その所有者の同意がなければならない。

 第264条の11(管理不全土地管理人の義務)

 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。

 2 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。

 第264条の12(管理不全土地管理人の解任及び辞任)

 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。

 2 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。

 第264条の13(管理不全土地管理人の報酬等)

 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。

 2 管理不全土地管理人による管理不全土地等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全土地等の所有者の負担とする。

 第264条の14(管理不全建物管理命令)

 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(第3項に規定する管理不全建物管理人をいう。第4項において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。

 2 管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。

 3 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。

 4 第264条の10から前条までの規定は、管理不全建物管理命令及び管理不全建物管理人について準用する。

 第392条(共同抵当における代価の配当)第1項中

 「按分する」を「按分する」に改める。

 第897条の2(相続財産の保存)

 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が1人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第952条第1項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。

 2 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

 第898条(共同相続の効力)

 に次の1項を加える。

 2 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。

 第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)

 前3条の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

 1 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

 2 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

 第907条(遺産の分割の協議又は審判等)

 の見出し中「審判等」を「審判」に改め、同条第1項中「次条」を「次条第1項」に改め、「場合」の下に「又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合」を加え、同条第3項を削る。

 第908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)

 に次の4項を加える。

 2 共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

 3 前項の契約は、5年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

 4 前条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

 5 家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

 第918条(相続人による管理)」

 同条第2項及び第3項を削る。

 第926条(限定承認者による管理)

 第2項中「、第650条第1項」を「並びに第650条第1項」に改め、「並びに第918条第2項及び第3項」を削る。

 第936条(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)

 (見出しを含む。)中「管理人」を「清算人」に改める。

 第940条(相続の放棄をした者による管理)

 第1項中「によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」を「の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間」に、「の管理を継続しなければ」を「を保存しなければ」に改め、同条第2項中「、第650条第1項」を「並びに第650条第1項」に改め、「並びに第918条第2項及び第3項」を削る。

 第952条(相続財産の管理人の選任)

 の見出し及び同条第1項中「管理人」を「清算人」に改め、同条第2項中「管理人」を「清算人」に、「これ」を「、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨」に改め、同項に後段として次のように加える。

   この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。

 第953条(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)

 第954条(見出しを含む。)及び第955条ただし書中「相続財産の管理人」を「相続財産の清算人」に改める。

 第956条(相続財産の管理人の代理権の消滅)

 の見出し及び同条第1項中「相続財産の管理人」を「相続財産の清算人」に改め、同条第2項中「相続財産の管理人」を「相続財産の清算人」に、「管理の」を「清算に係る」に改める。

 第957条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)

 第1項中「後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかった」を削り、「相続財産の管理人は、遅滞なく、すべて」を「相続財産の清算人は、全て」に、「一定の」を「2箇月以上の期間を定めて、その」に、「2箇月を下ることができない」を「同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない」に改める。

 第958条を削る。

 第958条の2(権利を主張する者がない場合)

 中「前条」を「第952条第2項」に、「相続財産の管理人」を「相続財産の清算人」に改め、同条を第958条とする。

 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)

 第2項中「第958条」を「第952条第2項」に改め、同条を第958条の二とする。

二不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)(第二条関係)

改正案

現行

目第次四章(略)

第一節・第二節(略)

第三節(略)

第一款(略)

第二款 所有権に関する登記(第七十三条の二―第七十七条)

第三款~第八款(略)

(登記することができる権利等)

第三条(略)

一~九(略)

十採石権(採石法(昭和二十五年法律第二百九十一号)に規定する採石権をいう。第五十条、第七十条第二項及び第八十二条において同じ。)

(当事者の申請又は嘱託による登記)

第十六条(略)

2第二条第十四号、第五条、第六条第三項、第十条及びこの章(この条、第二十七条、第二十八条、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第四十一条、第四十三条から第四十六条まで、第五十一条第五項及び第六項、第五十三条第二項、第五十六条、第五十八条第一項及び第四項、第五十九条第一号、第三号から第六号まで及び第八号、第六十六条、第六十七条、第七十一条、第七十三条第一項第二号から第四号まで、第二項及び第三項、第七十六条から第七十六条の四まで、第七十六条の六、第七十八条から第八十六条まで、第八十八条、第九十条から第九十二条まで、第九十四条、第九十五条第一項、第九十六条、第九十七条、第九十八条第二項、第百一条、第百二条、第百六条、第百八条、第百十二条、第百十四条から第百十七条まで並びに第百十八条第二項、第五項及び第六項を除く。)の規定は、官庁又は公署の嘱託による登記の手続について準用する。

(申請の却下)

第二十五条(略)

一~六(略)

七申請情報の内容である登記義務者(第六十五条、第七十六条の五、第七十七条、第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)、第九十三条(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)又は第百十条前段の場合にあっては、登記名義人)の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。

八~十三(略)

(権利に関する登記の登記事項)

第五十九条権利に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。

一~五(略)

六 共有物分割禁止の定め(共有物若しくは所有権以外の財産権について民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百五十六条第一項ただし書(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)若しくは第九百八条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合若しくは同条第一項の規定により被相続人が遺言で共有物若しくは所有権以外の財産権について分割を禁止した場合における共有物若しくは所有権以外の財産権の分割を禁止する定め又は同条第四項の規定により家庭裁判所が遺産である共有物若しくは所有権以外の財産権についてした分割を禁止する審判をいう。第六十五条において同じ。)があるときは、その定め

七・八(略)

(判決による登記等)

第六十三条(略)

2(略)

3遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。

(買戻しの特約に関する登記の抹消)

第六十九条の二買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から十年を経過したときは、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。

(除権決定による登記の抹消等)

第七十条登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が知れないためその者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第九十九条に規定する公示催告の申立てをすることができる。

2前項の登記が地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり、かつ、登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合において、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは、その者の所在が知れないものとみなして、同項の規定を適用する。

3前二項の場合において、非訟事件手続法第百六条第一項に規定する除権決定があったときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独で第一項の登記の抹消を申請することができる。

4(略)

(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)

第七十条の二 登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第二項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から三十年を経過し、かつ、その法人の解散の日から三十年を経過したときは、第六十条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。

第二款 所有権に関する登記

(所有権の登記の登記事項)

第七十三条の二 所有権の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。

一 所有権の登記名義人が法人であるときは、会社法人等番号(商業登記法(昭和三十八年法律第百二十五号)第七条(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する会社法人等番号をいう。)その他の特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるもの

二 所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるもの

2 前項各号に掲げる登記事項についての登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。

(相続等による所有権の移転の登記の申請)

第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

2 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

3前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、適用しない。

(相続人である旨の申出等)

第七十六条の三 前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。

2 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。 

3 登記官は、第一項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。

4 第一項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第一項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

5 前項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、同項の規定による登記がされた場合には、適用しない。

6 第一項の規定による申出の手続及び第三項の規定による登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。

(所有権の登記名義人についての符号の表示)

第七十六条の四 登記官は、所有権の登記名義人(法務省令で定めるものに限る。)が権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、当該所有権の登記名義人についてその旨を示す符号を表示することができる。

(所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請)

第七十六条の五 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。

(職権による氏名等の変更の登記)

第七十六条の六 登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。

(登記事項証明書の交付等)

第百十九条(略)

2~5(略)

6 登記官は、第一項及び第二項の規定にかかわらず、登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合において、その者からの申出があったときは、法務省令で定めるところにより、第一項及び第二項に規定する各書面に当該住所に代わるものとして法務省令で定める事項を記載しなければならない。

(所有不動産記録証明書の交付等)

第百十九条の二何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。

2 相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。

3 前二項の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。

4 前条第三項及び第四項の規定は、所有不動産記録証明書の手数料について準用する。

(地図の写しの交付等)

第百二十条(略)

2(略)

3 第百十九条第三項から第五項までの規定は、地図等について準用する。

(登記簿の附属書類の写しの交付等)

第百二十一条(略)

2何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記簿の附属書類のうち前項の図面(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。次項において同じ。)の閲覧を請求することができる。

3何人も、正当な理由があるときは、登記官に対し、法務省令で定めるところにより、手数料を納付して、登記簿の附属書類(第一項の図面を除き、電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。次項において同じ。)の全部又は一部(その正当な理由があると認められる部分に限る。)の閲覧を請求することができる。

4前項の規定にかかわらず、登記を申請した者は、登記官に対し、法務省令で定めるところにより、手数料を納付して、自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類の閲覧を請求することができる。

5(略)

(法務省令への委任)

第百二十二条この法律に定めるもののほか、登記簿、地図、建物所在図及び地図に準ずる図面並びに登記簿の附属書類(第百五十四条及び第百五十五条において「登記簿等」という。)公開に関し必要な事項は、法務省令で定める。

(筆界特定の申請)

第百三十一条(略)

2~4(略)

5 第十八条の規定は、筆界特定の申請について準用する。この場合において、同条中「不動産を識別するために必要な事項、申請人の氏名又は名称、登記の目的その他の登記の申請に必要な事項として政令で定める情報(以下「申請情報」という。)」とあるのは「第百三十一条第三項各号に掲げる事項に係る情報(第二号、第百三十二条第一項第四号及び第百五十条において「筆界特定申請情報」という。)」と、「登記所」とあるのは「法務局又は地方法務局」と、同条第二号中「申請情報」とあるのは「筆界特定申請情報」と読み替えるものとする。

(筆界特定書等の写しの交付等)

第百四十九条 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、筆界特定手続記録のうち筆界特定書又は政令で定める図面の全部又は一部(以下この条及び第百五十四条において「筆界特定書等」という。)の写し(筆界特定書等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該記録された情報の内容を証明した書面)の交付を請求することができる。

2・3(略)

第七章 雑則

(情報の提供の求め)

第百五十一条 登記官は、職権による登記をし、又は第十四条第一項の地図を作成するために必要な限度で、関係地方公共団体の長その他の者に対し、その対象となる不動産の所有者等(所有権が帰属し、又は帰属していた自然人又は法人(法人でない社団又は財団を含む。)をいう。)に関する情報の提供を求めることができる。

(登記識別情報の安全確保)

第百五十二条(略)

2(略)

(行政手続法の適用除外)

第百五十三条(略)

(行政機関の保有する情報の公開に関する法律の適用除外)

第百五十四条(略)

(削る)

(秘密を漏らした罪)

第百五十九条 第百五十二条第二項の規定に違反して登記識別情報の作成又は管理に関する秘密を漏らした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

(虚偽の登記名義人確認情報を提供した罪)

第百六十条 第二十三条第四項第一号(第十六条第二項において準用する場合を含む。)の規定による情報の提供をする場合において、虚偽の情報を提供したときは、当該違反行為をした者は、二年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(検査の妨害等の罪)

第百六十二条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。

一 第二十九条第二項(第十六条第二項において準用する場合を含む。次号において同じ。)の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避したとき。

二 第二十九条第二項の規定による文書若しくは電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの提示をせず、若しくは虚偽の文書若しくは電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものを提示し、又は質問に対し陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をしたとき。三 第百三十七条第五項の規定に違反して、同条第一項の規定による立入りを拒み、又は妨げたとき。

(過料)

第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条、第五十八条第六項若しくは第七項、第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。

2第七十六条の五の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、五万円以下の過料に処する。

三 非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号) (第三条関係)

目次

第三編(略)

第一章 共有に関する事件(第八十五条―第八十九条)

第二章土地等の管理に関する事件(第九十条―第九十二条)

第三章供託等に関する事件(第九十三条―第九十八条)

第一章共有に関する事件

第一章(共有物の管理に係る決定)

第八十五条 次に掲げる裁判に係る事件は、当該裁判に係る共有物又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百六十四条に規定する数人で所有権以外の財産権を有する場合における当該財産権(以下この条において単に「共有物」という。)の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

一 民法 第二百五十一条第二項、第二百五十二条第二項第一号及び第二百五十二条の二第二項(これらの規定を同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)の規定による裁判

二 民法第二百五十二条第二項第二号(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。第三項において同じ。)の規定による裁判

2 前項第一号の裁判については、裁判所が次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号の期間が経過した後でなければ、することができない。この場合において、同号の期間は、一箇月を下ってはならない。

一 当該共有物について前項第一号の裁判の申立てがあったこと。

二 裁判所が前項第一号の裁判をすることについて異議があるときは、当該他の共有者等(民法第二百五十一条第二項(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)に規定する当該他の共有者、同法第二百五十二条第二項第一号(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)に規定する他の共有者又は同法第二百五十二条の二第二項(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)に規定する当該共有者をいう。第六項において同じ。)は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。

三 前号の届出がないときは、前項第一号の裁判がされること。

3 第一項第二号の裁判については、裁判所が次に掲げる事項を当該他の共有者(民法第二百五十二条第二項第二号に規定する45当該他の共有者をいう。以下この項及び次項において同じ。)に通知し、かつ、第二号の期間が経過した後でなければ、することができない。この場合において、同号の期間は、一箇月を下ってはならない。

一 当該共有物について第一項第二号の裁判の申立てがあったこと。

二 当該他の共有者は裁判所に対し一定の期間内に共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべきこと。

三 前号の期間内に当該他の共有者が裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしないときは、第一項第二号の裁判がされること。

4前項第二号の期間内に裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにした当該他の共有者があるときは、裁判所は、その者に係る第一項第二号の裁判をすることができない。

5第一項各号の裁判は、確定しなければその効力を生じない。

6第一項第一号の裁判は、当該他の共有者等に告知することを要しない。

(共有物分割の証書の保存者の指定)

第八十六条 民法第二百六十二条第三項の規定による証書の保存者の指定の事件は、共有物の分割がされた地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 裁判所は、前項の指定の裁判をするには、分割者(申立人を除く。)の陳述を聴かなければならない。

3 裁判所が前項の裁判をする場合における手続費用は、分割者の全員が等しい割合で負担する。

4 第二項の裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

(所在等不明共有者の持分の取得)

第八十七条 所在等不明共有者の持分の取得の裁判(民法第二百六十二条の二第一項(同条第五項において準用する場合を含む。次項第一号において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分の取得の裁判をいう。以下この条において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号、第三号及び第五号の期間が経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることができない。この場合において、第二号、第三号及び第五号の期間は、いずれも三箇月を下ってはならない。

一 所在等不明共有者(民法第二百六十二条の二第一項に規定する所在等不明共有者をいう。以下この条において同じ。)の持分について所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあったこと。

二 裁判所が所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。

三 民法第二百六十二条の二第二項(同条第五項において準用する場合を含む。)の異議の届出は、一定の期間内にすべきこと。

四 前二号の届出がないときは、所在等不明共有者の持分の取得の裁判がされること。

五 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。

3 裁判所は、前項の規定による公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、同項各号(第二号を除く。)の規定により公告した事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。

4 裁判所は、第二項第三号の異議の届出が同号の期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。

5 裁判所は、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。

6 裁判所は、前項の規定による決定をした後所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするまでの間に、事情の変更により同項の規定による決定で定めた額を不当と認めるに至ったときは、同項の規定により供託すべき金銭の額を変更しなければならない。

7 前二項の規定による裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

8 裁判所は、申立人が第五項の規定による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。

9 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、確定しなければその効力を生じない。

10 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、所在等不明共有者に告知することを要しない。

11 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを受けた裁判所が第二項の規定による公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が同項第五号の期間が経過した後に所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、当該申立人以外の共有者による所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを却下しなければならない。

(所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与)

第八十八条 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判(民法第二百六十二条の三第一項(同条第四項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判をいう。第三項において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 前条第二項第一号、第二号及び第四号並びに第五項から第十項までの規定は、前項の事件について準用する。

3所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後二箇月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者(民法第二百六十二条の三第一項に規定する所在等不明共有者をいう。)の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。

(検察官の不関与)

第八十九条 第四十条の規定は、この章の規定による非訟事件の手続には、適用しない。

第二章 土地等の管理に関する事件

(所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令)

第九十条 民法第二編第三章第四節の規定による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号の期間が経過した後でなければ、所有者不明土地管理命令(民法第二百六十四条の二第一項に規定する所有者不明土地管理命令をいう。以下この条において同じ。)をすることができない。この場合において、同号の期間は、一箇月を下ってはならない。 

一 所有者不明土地管理命令の申立てがその対象となるべき土地又は共有持分についてあったこと。

二 所有者不明土地管理命令をすることについて異議があるときは、所有者不明土地管理命令の対象となるべき土地又は共有持分を有する者は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。

三 前号の届出がないときは、所有者不明土地管理命令がされること。

3 民法第二百六十四条の三第二項又は第二百六十四条の六第二項の許可の申立てをする場合には、その許可を求める理由を疎明しなければならない。

4 裁判所は、民法第二百六十四条の六第一項の規定による解任の裁判又は同法第二百六十四条の七第一項の規定による費用若しくは報酬の額を定める裁判をする場合には、所有者不明土地管理人(同法第二百六十四条の二第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下この条において同じ。)の陳述を聴かなければならない。

5 次に掲げる裁判には、理由を付さなければならない。

一 所有者不明土地管理命令の申立てを却下する裁判

二 民法第二百六十四条の三第二項又は第二百六十四条の六第二項の許可の申立てを却下する裁判

三 民法第二百六十四条の六第一項の規定による解任の申立てについての裁判

6 所有者不明土地管理命令があった場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分について、所有者不明土地管理命令の登記を嘱託しなければならない。

7 所有者不明土地管理命令を取り消す裁判があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の登記の抹消を嘱託しなければならない。

8 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その土地の所有者又はその共有持分を有する者のために、当該金銭を所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である土地)の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。

9 裁判所は、所有者不明土地管理命令を変更し、又は取り消すことができる。

10 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。

11 所有者不明土地等(民法第二百六十四条の三第一項に規定する所有者不明土地等をいう。以下この条において同じ。)の所有者(その共有持分を有する者を含む。以下この条において同じ。)が所有者不明土地等の所有権(その共有持分を含む。)が自己に帰属することを証明したときは、裁判所は、当該所有者の申立てにより、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。この場合において、所有者不明土地管理命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者に対し、その事務の経過及び結果を報告し、当該所有者に帰属することが証明された財産を引き渡さなければならない。

12 所有者不明土地管理命令及びその変更の裁判は、所有者不明土地等の所有者に告知することを要しない。

13 所有者不明土地管理命令の取消しの裁判は、事件の記録上所有者不明土地等の所有者及びその所在が判明している場合に限り、その所有者に告知すれば足りる。

14 次の各号に掲げる裁判に対しては、当該各号に定める者に限り、即時抗告をすることができる。

一 所有者不明土地管理命令利害関係人

二 民法第二百六十四条の六第一項の規定による解任の裁判利害関係人

三 民法第二百六十四条の七第一項の規定による費用又は報酬の額を定める裁判所有者不明土地管理人

四 第九項から第十一項までの規定による変更又は取消しの裁判利害関係人

15 次に掲げる裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

一 民法第二百六十四条の二第四項の規定による所有者不明土地管理人の選任の裁判

二 民法第二百六十四条の三第二項又は第二百六十四条の六第二項の許可の裁判

16 第二項から前項までの規定は、民法第二百六十四条の八第一項に規定する所有者不明建物管理命令及び同条第四項に規定する所有者不明建物管理人について準用する。

(管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令)

第九十一条 民法第二編第三章第五節の規定による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 民法第二百六十四条の十第二項又は第二百六十四条の十二第二項の許可の申立てをする場合には、その許可を求める理由を疎明しなければならない。

3 裁判所は、次の各号に掲げる裁判をする場合には、当該各号に定める者の陳述を聴かなければならない。ただし、第一号に掲げる裁判をする場合において、その陳述を聴く手続を経ることにより当該裁判の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

一 管理不全土地管理命令(民法第二百六十四条の九第一項に規定する管理不全土地管理命令をいう。以下この条において同じ。)管理不全土地管理命令の対象となるべき土地の所有者

二 民法第二百六十四条の十第二項の許可の裁判管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者

三 民法第二百六十四条の十二第一項の規定による解任の裁判管理不全土地管理人(同法第二百六十四条の九第三項に規定する管理不全土地管理人をいう。以下この条において同じ。)

四 民法第二百六十四条の十三第一項の規定による費用の額を定める裁判管理不全土地管理人

五 民法第二百六十四条の十三第一項の規定による報酬の額を定める裁判管理不全土地管理人及び管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者

4 次に掲げる裁判には、理由を付さなければならない。

一 管理不全土地管理命令の申立てについての裁判

二 民法第二百六十四条の十第二項の許可の申立てについての裁判

三 民法第二百六十四条の十二第一項の規定による解任の申立てについての裁判

四 民法第二百六十四条の十二第二項の許可の申立てを却下する裁判

5 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その土地の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、当該金銭を管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。

6 裁判所は、管理不全土地管理命令を変更し、又は取り消すことができる。

7 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、管理不全土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、管理不全土地管理命令を取り消さなければならない。

8 次の各号に掲げる裁判に対しては、当該各号に定める者に限り、即時抗告をすることができる。

一 管理不全土地管理命令利害関係人

二 民法第二百六十四条の十第二項の許可の裁判管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者

三 民法第二百六十四条の十二第一項の規定による解任の裁判利害関係人

四 民法第二百六十四条の十三第一項の規定による費用の額を定める裁判管理不全土地管理人

五 民法第二百六十四条の十三第一項の規定による報酬の額を定める裁判管理不全土地管理人及び管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者

六 前二項の規定による変更又は取消しの裁判利害関係人

9 次に掲げる裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

一 民法第二百六十四条の九第三項の規定による管理不全土地管理人の選任の裁判

二 民法第二百六十四条の十二第二項の許可の裁判

10 第二項から前項までの規定は、民法第二百六十四条の十四第一項に規定する管理不全建物管理命令及び同条第三項に規定する管理不全建物管理人について準用する。

(削る)

供託等に関する事件(適用除外)

第九十二条 第四十条及び第五十七条第二項第二号の規定は、この章の規定による非訟事件の手続には、適用しない。

第三章 供託等に関する事件

四 家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)(第四条関係)

改正案

目次

第二編(略)

第二章(略)

第十二節 相続の場合における祭具等の所有権の承継者の指定の審判事件(第百九十条)

第十二節の二 相続財産の保存に関する処分の審判事件(第百九十条の二)

(相続に関する審判事件の管轄権)

第三条の十一(略)

2(略)

3 裁判所は、第一項に規定する場合のほか、推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件(別表第一の八十八の項の事項についての審判事件をいう。第百八十九条第一項及び第二項において同じ。及び相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分の審判事件(同表の九十九の項の事項についての審判事件をいう。以下同じ。)について、相続財産に属する財産が日本国内にあるときは、管轄権を有する。

4・5(略)

(家事審判の申立ての取下げ)

第八十二条(略)

2(略)

3 前項ただし書、第百五十三条(第百九十九条第一項において準用する場合を含む。)及び第百九十九条第二項の規定により申立ての取下げについて相手方の同意を要する場合においては、家庭裁判所は、相手方に対し、申立ての取下げがあったことを通知しなければならない。ただし、申立ての取下げが家事審判の手続の期日において口頭でされた場合において、相手方がその期日に出頭したときは、この限りでない。

4・5(略)

(家事審判の申立ての取下げの擬制)

第八十三条 家事審判の申立人(第百五十三条(第百九十九条第一項において準用する場合を含む。)及び第百九十九条第二項の規定により申立ての取下げについて相手方の同意を要する場合にあっては、当事者双方)が、連続して二回、呼出しを受けた家事審判の手続の期日に出頭せず、又は呼出しを受けた家事審判の手続の期日において陳述をしないで退席をしたときは、家庭裁判所は、申立ての取下げがあったものとみなすことができる。

(管理人の改任等)

第百四十六条(略)

2家庭裁判所は、民法第二十五条第一項の規定により選任し、又は同法第二十六条の規定により改任した管理人及び前項の規定により改任した管理人(第四項及び第六項、次条並びに第百四十七条において「家庭裁判所が選任した管理人」という。)に対し、財産の状況の報告及び管理の計算を命ずることができる。同法第二十七条第二項の場合においては、不在者が置いた管理人に対しても、同様とする。

3(略)

4 家庭裁判所は、管理人(家庭裁判所が選任した管理人及び不在者が置いた管理人をいう。次項及び第百四十七条において同じ。)に対し、その提供した担保の増減、変更又は免除を命ずることができる。

5・6(略)

(供託等)

第百四十六条の二 家庭裁判所が選任した管理人は、不在者の財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、不在者のために、当該金銭を不在者の財産の管理に関する処分を命じた裁判所の所在地を管轄する家庭裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。

2 家庭裁判所が選任した管理人は、前項の規定による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。

(処分の取消し)

第百四十七条 家庭裁判所は、不在者が財産を管理することができるようになったとき、管理すべき財産がなくなったとき(家庭裁判所が選任した管理人が管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、不在者、管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、民法第二十五条第一項の規定による管理人の選任その他の不在者の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならない。

第十二節の二

相続財産の保存に関する処分の審判事件

第百九十条の二 相続財産の保存に関する処分の審判事件は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

2 第百二十五条第一項から第六項まで、第百四十六条の二及び第百四十七条の規定は、相続財産の保存に関する処分の審判事件について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「相続財産」と読み替えるものとする。

(申立ての取下げの制限)

第百九十九条(略)

2 第八十二条第二項の規定にかかわらず、遺産の分割の審判の申立ての取下げは、相続開始の時から十年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。

第二百一条 相続の承認及び放棄に関する審判事件(別表第一の九十の項から九十五の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

2(略)

3 家庭裁判所(抗告裁判所が限定承認の申述を受理した場合にあっては、その裁判所)は、相続人が数人ある場合において、限定承認の申述を受理したときは、職権で、民法第九百三十六条第一項の規定により相続財産の清算人を選任しなければならない。

4~9(略)

(管轄)

第二百三条

次の各号に掲げる審判事件は、当該各号に定める家庭裁判所の管轄に属する。

一 相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分の審判事件相続が開始した地を管轄する家庭裁判所

二 相続人の不存在の場合における鑑定人の選任の審判事件(別表第一の百の項の事項についての審判事件をいう。)相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分の審判事件において相続財産の清算人の選任の審判をした家庭裁判所

三(略)

(特別縁故者に対する相続財産の分与の審判)

第二百四条 特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てについての審判は、民法第九百五十二条第二項の期間の満了後三月を経過した後にしなければならない。

2(略)

(意見の聴取)

第二百五条 家庭裁判所は、特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てについての審判をする場合には、民法第九百五十二条第一項の規定により選任し、又は第二百八条において準用する第百二十五条第一項の規定により改任した相続財産の清算人(次条及び第二百七条において単に「相続財産の清算人」という。)の意見を聴かなければならない。

(即時抗告)

第二百六条 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。

一 特別縁故者に対する相続財産の分与の審判申立人及び相続財産の清算人

二(略)

2 第二百四条第二項の規定により審判が併合してされたときは、申立人の一人又は相続財産の清算人がした即時抗告は、申立人の全員に対してその効力を生ずる。

(相続財産の換価を命ずる裁判)

第二百七条 第百九十四条第一項、第二項本文、第三項から第五項まで及び第七項の規定は、特別縁故者に対する相続財産の分与の審判事件について準用する。この場合において、同条第一項及び第七項中「相続人」とあり、並びに同条第二項中「相続人の意見を聴き、相続人」とあるのは「相続財産の清算人」と、同条第三項中「相続人」とあるのは「特別縁故者に対する相続財産の分与の申立人若しくは相続財産の清算人」と、同条第四項中「当事者」とあるのは「申立人」と、同条第五項中「相続人」とあるのは「特別縁故者に対する相続財産の分与の申立人及び相続財産の清算人」と読み替えるものとする。

(管理者の改任等に関する規定の準用)

第二百八条 第百二十五条の規定は、相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分の審判事件について準用する。この場合において、同条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「相続財産」と読み替えるものとする。

(家事調停の申立ての取下げ)

第二百七十三条 家事調停の申立ては、家事調停事件が終了するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。

2 前項の規定にかかわらず、遺産の分割の調停の申立ての取下げは、相続開始の時から十年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。

3 第八十二条第三項及び第四項並びに民事訴訟法第二百六十一条第三項及び第二百六十二条第一項の規定は、家事調停の申立ての取下げについて準用する。この場合において、第八十二条第三項中「前項ただし書、第百五十三条(第百九十九条第一項において準用する場合を含む。)及び第百九十九条第二項」とあるのは「第二百七十三条第二項」と、同法第二百六十一条第三項ただし書中「口頭弁論、弁論準備手続又は和解の期日(以下この章において「口頭弁論等の期日」という。)」とあるのは「家事調停の手続の期日」と読み替えるものとする。

別表第一(略)

事項

根拠となる法律の規定

(略)

相続財産の保存

八十九

相続財産の保存に関する処分

民法第八百九十七条の二第一項及び第二項

相続の承認及び放棄

九十

相続の承認又は放棄をすべき期間の伸長

民法第九百十五条第一項ただし書

(略)

九十四

限定承認を受理した場合における相続財産の清算人の選任

民法第九百三十六条第一項

(略)

九十九

相続人の不存在の場合における相続財産の清算に関する処分

民法第九百五十二条及び第九百五十三条

百一

特別縁故者に対する相続財産の分与

民法第九百五十八条の二第一項

(略)

別表第二(略)

事項

根拠となる法律の規定

(略)

十三

遺産の分割の禁止

民法第九百八条第四項及び第五項

(略)

(不動産登記法の準用)

第八条 不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第七条から第十一条まで、第十三条、第十六条第一項、第十八条、第二十四条、第二十五条第一号から第九号まで及び第十二号、第六十七条第一項から第三項まで、第七十一条、第百十九条(第六項を除く。)、第百二十一条第三項から第五項まで、第百五十三条から第百五十六条まで、第百五十七条第一項から第三項まで、第五項及び第六項並びに第百五十八条の規定は、夫婦財産契約に関する登記について準用する。この場合において、同法第十八条中「政令」とあるのは、「法務省令」と読み替えるものとする。

附 則

  (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

 一 第二条中不動産登記法第百三十一条第五項の改正規定及び附則第三十四条の規定 公布の日

 二 第二条中不動産登記法の目次の改正規定、同法第十六条第二項の改正規定、同法第四章第三節第二款中第七十四条の前に一条を加える改正規定、同法第七十六条の次に五条を加える改正規定(第七十六条の二及び第七十六条の三に係る部分に限る。)、同法第百十九条の改正規定及び同法第百六十四条の改正規定(同条に一項を加える部分を除く。)並びに附則第五条第四項から第六項まで、第六条、第二十二条及び第二十三条の規定 公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日

 三 第二条中不動産登記法第二十五条第七号の改正規定、同法第七十六条の次に五条を加える改正規定(第七十六条の四から第七十六条の六までに係る部分に限る。)、同法第百十九条の次に一条を加える改正規定、同法第百二十条第三項の改正規定及び同法第百六十四条の改正規定(同条に一項を加える部分に限る。)並びに附則第五条第七項の規定 公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日

 (相続財産の保存に必要な処分に関する経過措置)

第二条 この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に第一条の規定による改正前の民法(以下「旧民法」という。)第九百十八条第二項(旧民法第九百二十六条第二項(旧民法第九百三十六条第三項において準用する場合を含む。)及び第九百四十条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定によりされた相続財産の保存に必要な処分は、施行日以後は、第一条の規定による改正後の民法(以下「新民法」という。)第八百九十七条の二の規定によりされた相続財産の保存に必要な処分とみなす。

2 施行日前に旧民法第九百十八条第二項の規定によりされた相続財産の保存に必要な処分の請求(施行日前に当該請求に係る審判が確定したものを除く。)は、施行日以後は、新民法第八百九十七条の二の規定によりされた相続財産の保存に必要な処分の請求とみなす。

 (遺産の分割に関する経過措置)

第三条 新民法第九百四条の三及び第九百八条第二項から第五項までの規定は、施行日前に相続が開始した遺産の分割についても、適用する。この場合において、新民法第九百四条の三第一号中「相続開始の時から十年を経過する前」とあるのは「相続開始の時から十年を経過する時又は民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第24号)の施行の時から五年を経過する時のいずれか遅い時まで」と、同条第二号中「十年の期間」とあるのは「十年の期間(相続開始の時から始まる十年の期間の満了後に民法等の一部を改正する法律の施行の時から始まる五年の期間が満了する場合にあっては、同法の施行の時から始まる五年の期間)」と、新民法第九百八条第二項ただし書、第三項ただし書、第四項ただし書及び第五項ただし書中「相続開始の時から十年」とあるのは「相続開始の時から十年を経過する時又は民法等の一部を改正する法律の施行の時から五年を経過する時のいずれか遅い時」とする。

 (相続財産の清算に関する経過措置)

第四条 施行日前に旧民法第九百三十六条第一項の規定により選任された相続財産の管理人は、施行日以後は、新民法第九百三十六条第一項の規定により選任された相続財産の清算人とみなす。

2 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により選任された相続財産の管理人は、新民法第九百四十条第一項及び第九百五十三条から第九百五十六条までの規定の適用については、新民法第九百五十二条第一項の規定により選任された相続財産の清算人とみなす。

3 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定によりされた相続財産の管理人の選任の請求(施行日前に当該請求に係る審判が確定したものを除く。)は、施行日以後は、新民法第九百五十二条第一項の規定によりされた相続財産の清算人の選任の請求とみなす。

4 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により相続財産の管理人が選任された場合における当該相続財産の管理人の選任の公告、相続債権者及び受遺者に対する請求の申出をすべき旨の公告及び催告、相続債権者及び受遺者に対する弁済並びにその弁済のための相続財産の換価、相続債権者及び受遺者の換価手続への参加、不当な弁済をした相続財産の管理人の責任、相続人の捜索の公告、公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者の権利並びに相続人としての権利を主張する者がない場合における相続人、相続債権者及び受遺者の権利については、なお従前の例による。

5 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により相続財産の管理人が選任された場合における特別縁故者に対する相続財産の分与については、新民法第九百五十八条の二第二項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

 (不動産登記法の一部改正に伴う経過措置)

第五条 第二条の規定(附則第一条各号に掲げる改正規定を除く。)による改正後の不動産登記法(以下「新不動産登記法」という。)第六十三条第三項、第六十九条の二及び第七十条の二の規定は、施行日以後にされる登記の申請について適用する。

2 新不動産登記法第七十条第二項の規定は、施行日以後に申し立てられる公示催告の申立てに係る事件について適用する。

3 新不動産登記法第百二十一条第二項から第五項までの規定は、施行日以後にされる登記簿の附属書類の閲覧請求について適用し、施行日前にされた登記簿の附属書類の閲覧請求については、なお従前の例による。

4 第二条の規定(附則第一条第二号に掲げる改正規定に限る。)による改正後の不動産登記法(以下「第二号新不動産登記法」という。)第七十三条の二の規定は、同号に掲げる規定の施行の日(以下「第二号施行日」という。)以後に登記の申請がされる所有権の登記の登記事項について適用する。

5 登記官は、第二号施行日において現に法人が所有権の登記名義人として記録されている不動産について、法務省令で定めるところにより、職権で、第二号新不動産登記法第七十三条の二第一項第一号に規定する登記事項に関する変更の登記をすることができる。

6 第二号新不動産登記法第七十六条の二の規定は、第二号施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合についても、適用する。この場合において、同条第一項中「所有権の登記名義人」とあるのは「民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第24号)附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日(以下この条において「第二号施行日」という。)前に所有権の登記名義人」と、「知った日」とあるのは「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」と、同条第二項中「分割の日」とあるのは「分割の日又は第二号施行日のいずれか遅い日」とする。

7 第二条の規定(附則第一条第三号に掲げる改正規定に限る。)による改正後の不動産登記法(以下この項において「第三号新不動産登記法」という。)第七十六条の五の規定は、同号に掲げる規定の施行の日(以下「第三号施行日」という。)前に所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があった場合についても、適用する。この場合において、第三号新不動産登記法第七十六条の五中「所有権の登記名義人の」とあるのは「民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第24号)附則第一条第三号に掲げる規定の施行の日(以下この条において「第三号施行日」という。)前に所有権の登記名義人となった者の」と、「あった日」とあるのは「あった日又は第三号施行日のいずれか遅い日」とする。

 (第三号施行日の前日までの間の読替え)

第六条 第二号施行日から第三号施行日の前日までの間における第二号新不動産登記法第十六条第二項の規定の適用については、同項中「第七十六条の四まで、第七十六条の六」とあるのは、「第七十六条の三まで」とする。

 (家事事件手続法の一部改正に伴う経過措置)

第七条 第四条の規定による改正後の家事事件手続法(以下この条において「新家事事件手続法」という。)第百九十九条第二項及び第二百七十三条第二項の規定は、施行日前に相続が開始した遺産の分割についても、適用する。この場合において、新家事事件手続法第百九十九条第二項中「十年を経過した後」とあるのは「十年を経過した後(相続開始の時から始まる十年の期間の満了後に民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第24号)の施行の時から始まる五年の期間が満了する場合にあっては、同法の施行の時から五年を経過した後)」と、新家事事件手続法第二百七十三条第二項中「十年を経過した後」とあるのは「十年を経過した後(相続開始の時から始まる十年の期間の満了後に民法等の一部を改正する法律の施行の時から始まる五年の期間が満了する場合にあっては、同法の施行の時から五年を経過した後)」とする。

2 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により相続財産の管理人が選任された場合における特別縁故者に対する相続財産の分与の審判については、新家事事件手続法第二百四条第一項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

3 施行日前に旧民法第九百五十二条第一項の規定により選任された相続財産の管理人は、新家事事件手続法第二百五条から第二百八条までの規定の適用については、新民法第九百五十二条第一項の規定により選任された相続財産の清算人とみなす。

20220502追記

『登記研究』886号、887号、888号、889号、890号(株)テイハン

法務省民事局総務課長 村松秀樹、法務大臣官房参事官 大谷太、法務省民事局参事官脇村真治、東京地方検察庁検事 川畑憲司、法務省民事局付 芳賀朝哉、法務省民事局付 宮崎文康、東京地方裁判所判事 渡辺みどり、弁護士 小田智典、法務省民事局付 中丸隆之、法務省民事局付 福田宏晃「令和3年民法・不動産登記法等改正及び相続土地国庫帰属法の解説1~5」

PAGE TOP